自分でバトルストーリーを書いてみようVol.22

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252魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA
☆☆ 魔装竜外伝第八話「裏切りの戦士」 ☆☆

【前回まで】

 不可解な理由でゾイドウォリアーへの道を閉ざされた少年、ギルガメス(ギル)。再起
の旅の途中、伝説の魔装竜ジェノブレイカーと一太刀交えたことが切っ掛けで、額に得体
の知れぬ「刻印」が浮かぶようになった。謎の美女エステルを加え、二人と一匹で旅を再
開する。
 アンチブルに向かうチーム・ギルガメス。その途中、謎の美少年フェイに出会う。一方
銃神ブロンコは「狼機小隊」を召還。ギル達を窮地に陥れるが、フェイの援護に助けられ
る。しかし彼の正体がシュバルツセイバー獣勇士の一人だとは、ギル達も知らないこと…。

 夢破れた少年がいた。愛を亡くした魔女がいた。友に飢えた竜がいた。
 大事なものを取り戻すため、結集した彼らの名はチーム・ギルガメス!

【第一章】

 辺り一面見渡す限りの深緑色を、長年赤土を見ることに慣らされたZi人が見れば誰も
が羨むだろう。樹海と形容して良い規模ながら、いささか奇異な印象を受けるのは縦横に
巡らされた細い路地で一帯が区画されている所為だ。空高くから見下ろせば田んぼのよう
に見えるかも知れない。さてこの樹海を覆う漆黒には少しずつ白絵の具が混入され、薄い
ねずみ色へと徐々に染め上げられていく。パレットは地平線の彼方。暁は真実を晒すと言
われるものの、実際には橙色に依っていることを誰もが忘れ勝ちだ。
 樹海の間から、路地にひょっこり、現われた者が一人。それなりに若者の持ち得る立派
な体格。しかし出立ちの奇妙なこと。服装こそブラウスにジーンズというごく一般的な学
生のそれだが、口には手拭い、目はゴーグルで覆い、頭部にはゾイド操縦用のヘルメット
を被っている。彼が何者なのかこの状態で見極めるためには体格と肌の色、そして声色位
しか手掛かりがない。
 若者が不意に、手を上げる。握られていた懐中電灯の明滅を合図に、樹海のそこかしこ
から現われ、集まってきた者が数名。格好・背丈に差異あれど、共通しているのは口にし
た手拭いやマスク。一目には何者か判別できぬ格好の彼らが、お互いを即座に認知したの
だ。そうするためには事前に綿密なる打ち合わせをしなければ不可能である。
253魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA :2006/06/12(月) 03:19:14 ID:sIpQVxyQ
(首尾は…?)
(上々)
 囁き合う若者達。口を隠したおかげで一様にくぐもった声。
(ヴォルケンを、呼ばなくて良かったのかな…)
 一人が心細げに呟くが、他の若者達は皆一様に舌打ちし、鼻を鳴らした。
(彼奴は、腑抜けだ)
(そうだそうだ。始終、回りに女を侍らしていやがるし、授業がなければ旅行三昧、放蕩
三昧と来た)
(おまけに今回の作戦なんざ、やる前から無駄骨とか決めつけやがる。あんなのが由緒正
しきシュバルツ家のお坊ちゃんだなんて世も末だぜ)
(でも彼奴、かなり『切れる』ぜ。レヴニアのテロも顛末までピタリと当てたし…)
 そう言い掛けた別の一人の胸ぐらを掴んだのは、先程の懐中電灯を翳した若者だ。
(じゃあこの作戦、降りるか!? 彼奴みたいに遊び呆けてそれでも留学生を気取るか!)
 静まり返る一同。手拭いの下からでも十分に響き渡る怒声が、辺りの空気をたちまち張
り詰めさせる。
(俺達が立ち上がるのは、留学生でなければできないことだからだ。
 見てろよ糞教師共、洗脳教育など無意味だって教えてやる!)
 そうこう話している内にも、細い路地のあちこちから人が湧いてくる。いずれも前述の
若者達同様、口や頭部を隠した出立ち。無言の内にも彼らは合流していく。行く先に見え
るは大通り。本編の主役ゾイドであるやんちゃな竜が陣取るには少々狭苦しいが、若者達
の群れが膨れ上がり、太い幹を作るには十分だ。
 彼らの中心には巨大なゾイドの張りぼてが十数体、置かれている。ビークル二台程度の
大きさを備えたそれらの形状は、いずれも都会では中々見掛けない珍しいゾイドを模した
ものばかりだ。そしてこれらの側面にはスローガンが公用ヘリック語で書かれている。
《ゾイド貿易自由化反対!》
《アカデミーは政府に手を貸すな!》
 今、同様のスローガンを書いた幟(のぼり)やプラカードが立ち上がる。垂れ幕が複数
の手によって掲げられる。
 そしてスローガン通りの歓声が辺りに鳴り響いた時、目覚めた鳥達は羽ばたき逃げ去っ
ていく。彼らに道を拓くがごとく陽が昇った時が作戦開始の合図だ。
254魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA :2006/06/12(月) 03:20:25 ID:sIpQVxyQ
 薄暗い一室にも陽と、怒声は届いた。窓ガラスとサッシと、カーテンの三重装甲をも貫
いたそれは見事に部屋の主人を目覚めさせたのである。まだ皺も寄らぬパジャマを着用し
た、栗色髪の若者だ。噂の青年ヴォルケンは、如何にも眠り足りなげにベットから起き上
がるとくしゃみを数発。
「放蕩とか野次られるけど、寄ってくるのは僕の家柄目当ての娘ばかりなんですよね。ま
あ仕方ないか…」
 しばらくうつらうつらして陽や怒声に嬲られた後、諸手上げて背伸びする。ベットの右
方、絨毯一枚分程先には使い込まれた机と手垢にまみれた本棚、そして本棚の最下段には
小型のテレビが設置されている。枕元のリモコンを手に取ると電源を入れ、ベットの上で
胡座を掻く。
 こんな時間帯にテレビ番組など何も放送されていないのは、彼も承知の上だ。…テレビ
のモニターに延々流れ続けているのは退屈な風景映像。その下には字幕が流れていた。記
事の内容に似合わぬ穏やかなペースだ。

《政府議会は各自治政府にゾイド関税大幅引き下げを求める『ゾイド貿易自由化法案』を
 満場一致で可決。自治政府の反発必至》

「本当、唐突に決まったよね。皆が怒り出すのは無理もない。ゾイドは商品である前に、
民族の誇りだというのに。でも…」
 呟きながら手元のリモコンを弄ぶ。ガイロス公国の飛竜紋章があしらわれたものだ。
「もう少し、穏便にできなかったものかな」

 膨れ上がった群衆が進む大通りの先に、やがて立ち塞がった鉄格子の門。城壁のごとく
そびえ立ち、左右を殺風景なコンクリート塀の連なりで固め、地平線を覆い隠すさまはま
さしく鉄壁の守り。門柱に掲げられた表札は人の背丈程もあり、公用ヘリック語で「国立
ゾイドアカデミー西方第三校舎正門」としたためられている。
 さて門柱の下部に見えるのは警備員の詰め所だ。まだ夜も明け切らぬ時間、受付に座る
中年の警備員はそれが日課とばかりにうつらうつらしていたが、ふと寝ぼけ眼で気付いた
目前の異変に慌てて飛び起きるに至った。すぐさま手元のスイッチを叩けば一帯に鳴り響
くサイレン。
255魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA :2006/06/12(月) 03:21:43 ID:sIpQVxyQ
「正面大通りにデモ隊! 正面大通りにデモ隊! 至急、警察部隊に出動要請を…」
 そう、マイクで怒鳴る警備員を吹き飛ばした爆風。
『ゾイド貿易自由化、反対!』
『アカデミーは政府に、手を貸すな!』
 張りぼてに掲げられたスローガンを叫びながら突進する群衆。二度、三度とこだました
号砲の発信源は張りぼての先端、左右に目のごとく開けられたマンホール大の穴の中から。
火花弾け、硝煙が後方へと流れていく。間違い無い、張りぼての中には武装した何かが潜
んでいる。
 かくて水を得た魚のごとく勢いを増す群衆。しかし張りぼてに遅れまいと追随する若者
達がふと、朝焼けに垣間見た異変。
 空より走った亀裂、数度。余りに規則的な発光・軌跡は気象現象とは全く相容れない代
物だ。と、それを群衆が疑問に思うまでには、既に彼らの足下に投擲(とうてき)されて
いた数個の球体。林檎程の大きさに、スポンジのごとく無数の穴が開いた表面。と、突如
その穴から噴出した煙。たちまちの蔓延に皆ゴーグルや手拭い、マスクを押さえ、苦しみ
を訴える。変装用の小道具程度では全く役に立たない、この毒性は異常だ。辛うじて空を
仰いだ者達は、彼らの足下を見事に掬ってみせた悪魔の正体をそこに見た。
 再度、朝焼けに走った亀裂。円形の影が徐々に浮かび上がる様子は、それが光学迷彩に
よって先程まで潜伏していた証だ。
「た、タートルカイザー!? 水の軍団か!」
「いや、ちょっと待て! 幾ら水の軍団だと言っても到着するのは速過ぎ…まさか!?」
 悶え苦しむ若者達の間に突如、浮かんだ疑念。彼らが恐慌状態に陥って潰走するのは時
間の問題だ。

「密告通り、だったな」
 プラネタリウム程の広さはあるドーム内。外周には無数のモニターとコントロールパネ
ル、そしてそれらを操作し、或いは注意深く見守る乗組員達がひしめき合う。部屋の中央、
小山程も盛り上がった円錐の頂点に主人は着席していた。馬面に痩けた頬、落ち窪んだ上
に守宮のごとく大きな瞳。水色の軍帽・軍服を折り目正しく着こなした風格十分の男。左
手には鞘に収められたサーベルが握られている。
256魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA :2006/06/12(月) 03:23:00 ID:sIpQVxyQ
 異相の男は視線を上方に向けている。天井付近に映し出された映像はまさしく地上の地
獄絵図だが、その上に被さるように映し出されたのは士官の姿。もうそろそろ中年の域に
差し掛かろうかという雰囲気は、あと少しの経験次第で立派な軍人と称せられる素質が感
じられてならない。そしてそれを裏付けるように軍服の胸元・首元には勲章と思しき装飾
を幾つか施してある。
「御協力、感謝致します」
 スクリーン越しに深々と一礼する士官に対し、異相の男は片手を翳し、制止した。
「チーム・ギルガメスを始末できぬ現状、B計画に少しでも歯止めをかけるため、我々の
作戦参加は当然だ。
 それより、作戦地域に複数の巨大な生体反応を感知している」
 その一言に、顔色を変える士官。「巨大な生体反応」が何を指し示すのか、本編読者な
らばおわかりの事であろう。
「わかりました、引き続き作戦遂行、よろしくお願いします」
 彼が再度敬礼すると、途切れた映像。再び地上に繰り広げられる地獄絵図を映し出す。
と、今度は又別の映像が拡大される。…鳥瞰図だ。緑線で規則正しく並べられた長方形の
群れこそが「ゾイドアカデミー西方第三校舎」なる地域を表し、その南端に巨大な水色の
光点と無数の小さな赤い光点が確認できる。そして辺り一帯に着々と包囲網を完成しつつ
あるのが白の光点だ。
「第二方面軍司令官、か。中々実直な手腕だが、少々緊張が足りんな」
 そう呟くとすぐさま右腕を水平に広げて大喝。
「ロブノル、降下!」
 合図には室内の誰もが咄嗟に反応した。室内外周の乗組員達が、円錐中腹の座席に付く
高官達が、速やかに機械を操作し、指令を出す。
「『ロブノル』乗組員に告ぐ! 『ロブノル』乗組員に告ぐ!
 本機は午前5時00分、交戦開始。これより攻略地点上空百メートル以内に降下する。
 すぐに着席し、手摺に掴まること。繰り返す…」
「『ロブノル』、降下しつつ口部ハッチを開け! ゴドス部隊、出撃準備は良いな!?」
 高官がつく座席のコンソールに、早速描かれた映像はゾイドのものと思しき狭いコクピ
ット内だ。
「第一陣五機、いつでも行けます!」
257魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA :2006/06/12(月) 03:25:17 ID:sIpQVxyQ
 覇気ある声で宣言した若きパイロット達の返事に高官は満足し、円錐上部に着席する彼
らの長に無言で指示を仰いだ。こうなれば阿吽の呼吸だ。サーベルを引き抜いた異相の男。
「出撃開始! 惑星Ziの!」
「平和のために!」

 樹海に次々と飛び込んだ銀色の二足竜。着地の瞬間、人のようにしゃがみ込めばへし折
れる木々が悲鳴を上げ、たちまち水柱のように木の葉が舞い上がる。本来の直立姿勢に戻
した竜達は人の姿にも似るが、何しろ二?三階建ての建物にも匹敵する巨体だ。おまけに
頭部の半分を占める橙色のキャノピー部分は異常発達した一つ眼のごとく、ギロリと視線
を周囲に投げかける。目の当たりにした群衆は蜘蛛の子を散らすように逃亡せざるを得な
い。これぞヘリック共和国軍が生んだ名機中の名機「小暴君」ゴドスが醸し出す威圧感と
いうもの。
 ゴドス部隊は差し当たり、攻撃を一切仕掛けるつもりは無い。只、周囲を睨みつつじっ
くり歩を進めれば良いのだ。それだけで烏合の衆との力の差は歴然である。
「馬鹿野郎! こんなところまで来て逃げるな! 校舎に乗り込め!」
「仕方が無い、ガーニナル隊をここで使う」
 正門付近にまで接近していた張りぼて達がたちまち、脱皮する幼虫のごとく真っ二つに
なる。と、中から姿を表すよりも前に放たれた閃光。しかし異変にはゴドス部隊の面々も
咄嗟に反応していた。軽いステップで躱す二足竜達の動きにはもう一拍の余裕すらある。
だが閃光の破壊力は恐れるに足りた。数条の光の刃はたちまち森を焦がし、進んだ道を業
火で包み込む。
 戦況を見つめていた異相の男が刮目し、関心を寄せる。
「ほお、ガーニナルか。珍しいものを」
 張りぼての中から現われた箱型の鉄塊は樹海に溶け込む深緑色。人の身長に毛が生えた
程度の体高ながら、その後方(ゴドス部隊に向けた部分)には尻尾のような長い大砲が備
え付けられており、それらを考慮すればゴドスすら上回る体格の持ち主だ。おまけに前方
部分には頑丈そうな兜と幾つもの銃器を備えた、攻守に渡って安定した能力を伺わせるこ
の鉄塊こそ「鎧砲虫(がいほうちゅう)」ガーニナル。分類上は元々完全人工のゾイドコ
アをベースに生み出された「ブロックスゾイド」の一種だ。その数、十か、二十か。
258魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA :2006/06/12(月) 03:28:15 ID:sIpQVxyQ
「ゴドス部隊は接近戦を展開せよ。連中の切り札は自ずと絞り込まれる」
 指示を確認した二足竜達は次々と前傾姿勢をとり、尻尾を地表と平行に伸ばすが速いか
怒濤の蹴り込み。木片が、土が高々と舞う。所謂T字バランスの態勢で疾走、開始。背中
に搭載した銃器で威嚇射撃しつつ一気に間合いを詰めていく。だが周囲で逃げまどう群衆
からすればこの世の地獄だ。どうにかゾイドの移動ライン中から外れたとしても折れ砕け
た木々がたちどころに襲い掛かってくる。ゾイド達の足下はまさに地獄絵図の様相を呈し
つつある。
 尻尾の大砲を次々と連射するガーニナル達。しかし命中率の差は歴然だ。二足竜達は疾
走しながらの威嚇射撃でさえ敵機に対し正確に命中させていくが、ガーニナル達は強力な
光の刃を放ちつつも尽く、照準を反らす始末。両者の間合いが数メートル以内に縮まるま
で、何ら攻防を差し挟む余地が無い。
「ええいっ、奥の手を使う!」
 深緑色した鉄塊のパイロットが言い放つ。狭いコクピット内で両手のレバーを思い切り
良く引けば、ふわり浮遊、上昇を始めた鉄塊。その底部には足と称するのが適当かどうか
すら疑わしい無数の突起が二列に渡って生えている。これらが見せる有機的な波打ちと共
にこのブロックスゾイドが浮遊を開始し、バランスさえ取っているのは間違いない。
「いいぞ、餌は…向こうだ!」
 鉄塊のパイロットが大喝すれば、地表に平行に浮かんでいた筈のこのブロックスゾイド
が突如、見せた行動。次々とバネのごとく飛び跳ね、ゴドス部隊にのしかかろうとする。
その底部、前述の突起と一緒に見えるのは橙色にぼんやり輝く不気味な明滅の繰り返しだ。
 しかし思わぬ奇襲も歴戦の勇者揃いである水の軍団の前では大して効果を為さなかった。
透かさず片足を軸に半回転するゴドス。背中を見せたかと思えばその時にはもう伸び切っ
ていた残る片足で渾身の後ろ蹴り。所謂ゴドスキックの正確な一撃は呆気無くガーニナル
達を吹き飛ばした。地表に叩き付けられ、勢いで木々が折れ重なっていく。仰向けに昏倒
したこの鉄塊の、露になった底部は突起群が懸命にもがき、その中央、例の橙色した明滅
の正体が明らかになった。
259魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA :2006/06/12(月) 03:31:05 ID:sIpQVxyQ
 黒い球体の、露出。所々、穴が開いてあってそこから輝きが漏れている。間違い無い、
これはこのブロックスゾイドのコアブロック。ゾイドの中には体の一部を他のゾイドに接
触させて養分を吸収し、あまつさえゾイドコアを支配しようとする種類が少なからずいる。
このガーニナルも同様に、ゴドス部隊に心臓部ごと無理矢理接触してエネルギーを吸収し
ようとしたのに違い無い。
 折角の切り札をいとも簡単に封じられては、さしものガーニナル達も後退を試みるより
他ない。しかし退路にはゾイドアカデミーの長大な塀が控えている。最早進退は極まった。
「よし、敵は怯んだ。第二陣、第三陣、続け!」
 異相の男が放つ号令と共に、タートルカイザー「ロブノル」の口部ハッチから出撃を開
始するゴドス部隊。彼らの背中には箱のようなものが括りつけられ、そこに五、六名程の
兵士が乗り込んでいる。いずれも白と青で彩られた鋼鉄の鎧で身を固めており、降下完了
と共に次々と地上に降り立つ。目標は言わずもがな、今や集団の維持に失敗し、散り散り
になった若者達を押さえ込むこと。
 ゴドスの頭部・コクピット内ならば地平線の彼方に見える朝焼けの眩しさも良く見える。
作戦終了は時間の問題だ。

 依然、寝ぼけ眼(まなこ)のヴォルケン。だが眠りから冷めて少々時間が経つというの
に、却って憮然とした表情。…彼を目覚めさせた筈の怒号は随分小さくなってきている。
声質の変化も著しい上に、破裂音の方が圧倒的に多くなった。
「密告の成果だね。そうでなければ神出鬼没のロブノルでも不可能な作戦だ」
 現実問題として「国立ゾイドアカデミー西方第三校舎正門」なる地形の上空で、ロブノ
ルは相当な長時間待機し続けていた。本来ならば水の軍団の旗艦にそこまでの行為を、ア
カデミーも共和国政府も許可しないだろう(かような事件が発生しなければ水の軍団の住
居不法侵入は明らかだ。前話までを御覧の通り彼らには超法規的な側面があるが、それで
も権限の見直しが生まれるのは必然と言える)。電撃的な掃討作戦を実現させるためには
やはりそれなりの支援者が必要なのだ。
260魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA :2006/06/12(月) 03:34:58 ID:Juc9Odg8
 やおらリモコンを拾い上げると、彼はテレビの電源を落とした。そのまま、大の字に横
たわる。…数秒か、数分か、意識が飛びそうな時間を経た後、ばねのように上半身を跳ね
起こす。
「スーパーゾォィドッ、ターイムッ!」
 おどけた表情で再度リモコンのスイッチを押せば、お目見えした映像はまさに子供向け
に作られたヒーロー番組だ。
『ゴジュラースッ!』
 共和国軍の制服を着た若者が怪しげな道具を天に翳すと、光の中から現われてきた巨大
な銀色の二足竜。リモコンのスイッチを再度押し、チャンネルを変えるヴォルケン。
『ライガー、変身!』
 こちらはゾイドのコクピット内にいると思われる若者の声を合図に、青い四脚獣が疾走
を始める。すると神秘的な描写で瞬く間に外装を変化させていく。ニコニコしながらチャ
ンネルを変えるヴォルケンだが、その瞳の奥には確かに映っていた。映像の端に、入った
テロップ。

《ゾイド貿易自由化法案撤回を求め、国立ゾイドアカデミーの学生が各地で暴動》
《ゾ大暴動は五時未明、共和国軍により鎮圧。死亡者多数》

 ひとしきりチャンネルを変え続けたヴォルケンは、ふと肩で溜め息をついた。そのまま再
度、ゴロリとベットに横たわる。
(凄い洗脳振りだよね。あんなに凶暴なゾイドが今や子供のヒーローなんだから。
 近い将来、嫌でも各自治区が共和国政府に頭を下げざるを得なくなるだろう。それだけの
政策を連中は着々と積み上げてきた。なのに何故、今になってゾイド貿易自由化法案など強
行したのだろう?)
 流石の彼も、にわかには閃かない。やむを得ず身を捻り、掛け布団を引っ掛ける。疑問が
解決しないのも、二度寝するのも実のところ、予定の内だ。数時間後には共和国軍の連中に
叩き起こされるだろう。アリバイがあろうがなかろうが、先程の事件について取り調べを受
けるのは確実だ。それがシュバルツ家に生まれた者の宿命なのだ。
(もうしばらくは、馬鹿を演じなければ駄目だろうね。はぁ…)
261魔装竜外伝第八話 ◆.X9.4WzziA :2006/06/12(月) 03:36:31 ID:Juc9Odg8
「成る程、『時』が来たのですな…?」
 周囲の大半を占めるキャノピー。外に見える映像は双児の月に照らされた夜更けの川原。
周囲には所謂地球で言うところの「狼」に姿・形が良く似たゾイドが占めて、五匹。
「『刻印の少年』が現れたのは望外の幸運。手詰まりに陥っていたB計画だが、これで一
気に実現の目処が立った」
 キャノピーに映像は表示されない。代わってスピーカーから聞こえる声の印象は実に、
落ち着いたもの。かといって老いを感じさせるものでもない。例えるなら「老成」。元か
らの聡明さと若くして積み上げた数多の経験とが融合することで初めて発せられる声色。
「先立って決定した『ゾイド貿易自由化法案』も全ては『時』を無効なものとするため。
 しかし、そうは行かぬ。既に本隊はもう一つの『B』について、在り処を突き止めてあ
る。無事これを発掘すればあとは『刻印の少年』を引き合わせれば万事、上手く行く。そ
のために我々は長年、研究を続けてきたのだ。
 指令を与える。一つ、水の軍団を内部から突き崩せ。差し当たり、君が所属する部隊を
全滅させよ。二つ、シュバルツセイバーに『刻印の少年』を渡すな。既に獣勇士が彼に近
付いている。
 君は漁夫の利を得るのだ。二つの使命が達せられれば、あとは本隊がやってくれる」
「わかり申した…」
 映像すらないにも関わらず、聞き手は恭しく一礼した。
「目先の平和にばかり気を取られ、真なる惑星Ziの繁栄を理解できぬ愚か者は地獄に落
ちるが良いのだ。それでは君の吉報に期待している」
 声は、ここで途切れた。
 聞き手だった者はキャノピー越しに周囲を伺う。恐るべきことだ。陣型を維持しながら
疾走を続ける五匹の狼が彼らのやり取りに何ら関心を示してはいない。これはつまり、機
上の主のみが確保する通信手段があることを意味する。水の軍団は内通者を得て留学生の
暴動を未然に防いだが、彼らの中にも内通者が潜んでいた。しかも今や「刻印を持った少
年」抹殺の最前線に立つ者達の中にだ。
 彼を含めた六匹の狼は月夜を掛ける。その月夜を描いた漆黒のキャンパスにも下方から
紺の彩りが添えられ始めていた。夜明けの、そして作戦開始が近付く印だ。
                                (第一章ここまで)