大月スレ2 大月隆寛はこれからどうなっちゃうの?

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178朝日新聞7月12日私の視点
朝日新聞 2003年(平成15年)7月12日 土曜日

私の視点 ウイークエンド

◆ネット社会「悪意むき出し」嘆く前に
大月 隆寛(おおつき たかひろ) 民俗学者

 オールスターのファン投票で中日の川崎憲次郎投手が、インターネット経由の大量投票で1位になりまし
た。本人は辞退しましたが、FAで高額の年俸をもらいながら故障で活躍できない選手をわざと1位にす
るのはネットの「悪意」を感じる、といった意見も出ているようです。
 けれども、そんな組織票は以前からありました。そこにネットが介在していたというだけで一方的に「悪
意」と解釈しでしまうのはいささか了見が狭い。
 ならぱ、アメリカのオールスタ、投票でヤンキースの松井選手が3位に食い込んだのはどうでしよう。日
本からの「悪意」が介在した結果でしようか。韓国人大リーガーが上位に食い込んでいたことも、やはりネ
ットを介した国際的な「悪意」のしわざでしようか。 川崎投手に投票した気分は基本的にシャレであり、
いたずらです。その限りで無責任なのは言うまでもない。けれども、それは川崎投手個人に対するだけでな
く、そんな投票方式をこれまで維持してきた主催者側に対する側面もあります。また、あの数十万票には
「川崎、頑張って給料分働けよ」という叱喀(しった)激励も込められでいたはずです。
179朝日新聞7月12日私の視点:03/07/12 15:59
 インターネットが普及し始めた頃、理想の民主主義がこれで実現できる、選挙もネットを介してやればい
い、といった意見がよくありました。俗に「リベラル」民主的」と言われるような立場に多かった。ネット
を介して「本当の世論」が動けぱ、いまの自民党政権も倒せるし「民意」を反映した政治ができる――そん
なことも言われました。
 けれども、ネットを介した「民意」はそんな都合のよいだけのものではないことがだんだんわかってき
た。反戦を当て込み、石原都知事批判を期待して行われるネットの世論調査がことごとく主催者の期待に反
した結巣になるのは、すでにお約束です。明らかに示されている民意(でしよう、やはり)を「反動的」「右
傾化一とレッテル貼(は)りし「悪意」とだけとらえるのは、自分たちの思惑通りに世間が動かないことへのい
らだちでしかありません。
 予断を持った調査や投票にたいして、ネットの世論はいまやまっとうに敏感です。声なき多数のメディア
リテラシーは、ネツトの普及によって間違いなく高まっています。
180朝日新聞7月12日私の視点:03/07/12 16:00
 それを「悪意」と言うなら、世間にそのような悪意は平然と存在する、それだけのことです。悪意も恨み
も、ひがみもねたみもやっかみもあたりまえにある。それをむやみに表沙汰(おもてざた)にせず、うまくいなしてゆく
仕掛けがあって世間は成り立っていますが、どうやらインターネットという装置はそれをうっかりと表沙汰
にし、増幅さえしてしまうところがある。世間とはそういうもの、という前向きなあきらめがうまくできな
い人にとっては、それはただ「悪意」にしか見えない。
 長崎の12歳少年による殺人事件でも、容疑者の実名がネットに複数、早くから流れていました。ネットの
モうルのなさを批判し、「悪意」を嘆くのは簡単です。ただ、マスコミや警察だけが特権的に情報を入手
できるわけでもない環境に、すでにあたしたちは生きている。そのことの意味を特権にあぐらをかく側ほ
どよくわかっていません。
 「悪意」の中に「善意」もまた見ようとする器量。放っておけはすさむばかりにも見えるネット時代の世
間に、新たな制御の知恵が宿り得るとしたら、そんな器量をそれぞれが持とうとすることからのはずです。
「民意」はますます、ひとすじ縄ではいかないものになっています。