あぼーん
ドスグロイ空の下鉄屑の雨が降りここから見下ろす人々は顕微鏡の中プランクトン雲の動きさえも今だけは静止画の様にモノクロだけの
シャープが鮮明を増してゆく街の雑踏の隙間から死ね死ね死ねと声がする私はここから飛び降りてコンクリの地を突き抜けて
焼けた野原に辿り着き観覧車に乗りながら黒い林檎にかじりつく事でしょう現実が未だ側にあるうちに自分が自分であるうちに
灼熱の鼓動は決意の時を待ち理性という名の氷細工を溶かしてゆく最後の固形が液体に変わるその瞬間
私の全ては透明になる何処にも行きたくないから何処に辿り着いても構わないせめて最期だけは何も残したくないのだが
木馬が揺れて軋む音ゆらゆらと揺れて誰かが揺らしているのか自分で揺れているのか逆さまになった砂時計の砂が
指の隙間をすり抜けてゆく様に今まで綴られた時間が粒子となって脳内に降り注いでいる絡まってはすべり落ちる粒子のひとつひとつを
愛しくも感じ憎くも感じる幾千もの細かい時間のひとつひとつに細かく変わってゆく
自分の顔が最期に笑う己の見開いた眼球から流れ落ちる大量の血液が全ての視界を奪い去り真紅の世界を刻んだ時
車のクラクションが遠くで鳴いた時私の背中を悪魔が押して反転した内臓が口の中から飛び出してアドレナリンをぶちまけた
頭の中が53562951413色構成に変わり幼い頃食べた砂糖菓子の味が口の中一杯に広がっていた釣銭でもらった十円玉の錆びた匂い
オレンジ色の階段で出会った老婆が頭を撫でながらあの時言った言葉「どうかこの子が死にませんように。」
怖くて泣き崩れた私は大きな声を上げながら街を全力で走っていた言葉の意味も分からないまま風だけが涙を乾かしていた
向かい風突風の中ネオン光の帯が音を立てながら全身を包みながら後ろに消えてゆく無重力抵抗の無い唯一の速度徐々に加速する
叫びと疾走の中剥がれてゆく皮膚細胞剥がれてゆく肉体剥がれてゆく生命剥がれてゆく記憶剥がれてゆく景色
視界の全てが細かい粒子粒子に溶けて痙攣する全身全身に溶けて躍動する粒子血管を泳ぐ風風の中を泳ぐ血管
自分の顔自分の顔自分の顔自分の顔自分の顔自分の顔
あぼーん