1 :
◆3L4RhulvqU :
全ての始まりは、マハンダの第11代皇帝チューニーの横暴であった、というべきか。
2 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/14(木) 09:13:05 O
マハレ大陸の東側、巨大な連邦国家マハンダ。その絶対的な盟主であるチューニーは721年、13歳で(父親であるチューワの奇怪な死によって)世襲を受け継ぐと共に、各地城主に代々直属の臣下である君族や自らの血族たる王族と、軍隊を派遣した。
最下層であり国の労働力の基盤でもある奴族を「汚物」「浄化」と称し、徹底的に男は捕獲して殺戮、若い女は首都マハレスクにある宮城の高宮に入れ、わずか1年余りで奴族のほぼ完全な殲滅に成功した。
民には重税と厳しすぎる徴兵制度を課し、その上の中流階級である貴族からも、「貴族は着替えが一着あれば僥倖」と人々に言われるまでに、トコトンまで搾取をした。
それまでもマハンダは十分に中央集権的ではあったが、マハレスク以外では、30にも及ぶ地方政権が独自の統治を行うのが通例であった。
チューニーは、722年までに30の国のうち、なんと19にも及ぶ国に対し、恫喝的外交で、或いは武力で、政権の譲渡・返還を要求し、これを成功させている。
マハンダの、マハレ大陸の暗黒期、動乱がここに始まった。
3 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/14(木) 09:47:52 O
マハンダの首都マハレスク近郊やや東に位置する地方国家、バルツ。ここは以前から、首都に程近いという地理的条件にも恵まれ、経済面での利を多分に受けていた経済都市である。
バルツの首都、バルセルは、暴君チューニーが本拠を置くマハレスクには、クビナル山脈を挟んでいるものの、程近い。
軍事力では到底マハンダ本国に敵う訳がないバルツの国王ワラビは、721年に皇帝チューニーが就任し、間者より、その粗暴さを伝え聞いた直後に、重臣や参謀を、緊急に召集した。
防御手段として、首都バルセルの西にあるクビナル山脈に挟まれた峠に、クビン砦という防衛拠点を築いた。
この基地は典型的な山岳を利用した組織的な砦であり、高台には見張り塔や狼煙台、山間の道は細くし、勿論その中途で城壁で防いだ。路地の脇には弓隊や伏兵が隠れる側溝が、地下においても、各小陣地同士の行き来が自由に出来る連絡通路を張り巡らせた。
この大要塞を僅か1ヵ月で(中途ながら)完成させるやいなや国王ワラビは、バルセルの軍学校において、驚異的な知謀と謳われた天才少女カンサイを、建設に携わり、防衛を任された老将軍ボンゴウの軍師としてクビン砦へ派遣した。
4 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/14(木) 10:21:08 O
722年になると、バルツの天才少女軍師、カンサイの耳にも、各国が次々とチューニーの圧力に負け、全ての統治権と利権を中央から来た王族や君族に奪われたという、物騒な話が入って来た。
「カンサイ、何か悩みごとかね」
見張り台に上り、マハレスク方面を観ていたカンサイが振り向く。声を掛けて来たのは、将軍であり、クビン砦防衛隊長のボンゴウだった。
「ボンゴウ様、何か御用でもおありで?」
カンサイはにっこりとボンゴウに微笑みかけた。
「いや、ワシも様子を観に、な」
ボンゴウは威厳溢れる白髪と白髭に、寝る時以外は常に鉄の鎧姿がトレードマークの紳士である。
「カンサイ、君もかね?」
「はい。このような世の中になりますと、いつの世も苦しむのは民や奴、それに戦いで傷つく兵士達ですわ。マハレスクをここから眺め、少し憂いてましたの」
カンサイは緑の黒髪で長さは肩までであり、容姿もぱっちりとした目にまだ子供っぽく愛らしい輪郭、細い体格といった感じである。
貴族出身の彼女は軍師という事もあり、陣中でも鎧兜の類は身に着けず、茶色い長袖の麻シャツに、ベージュの細めのズボンを着ていた。
「全くだね。戦乱になってしまうと、君のような可愛らしい子までもが、戦いに名を連ねなければならなくなるのだからね」
「あら、それは違いますわ。私は平和な時に兵学を極めると志したのですよ?」
カンサイは、先程とは明らかに違う類いの不敵な笑みを浮かべた。
5 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/14(木) 11:15:46 O
所変わって、こちらはマハレスクからは遥かに北に位置するサイミール王国の、最北端にある首都ムクーである。
東と北は海、西は大城壁を経て異民族の支配するドリスク国と隣接、南な位置する地方政権の国々は全てチューニーの威圧に対して服従してしまったという、まさに袋の鼠を体現してしまったような国だ。
「だから、マハンダ軍と戦ったとして万が一にも勝ち目はない、降伏だ降伏、使者は丁重に扱い、軍が来たら即開城!」
初老のチョビ髭重鎮、ギャノンが机を叩いてまくし立てる。
「すぐ南のミュンメルを観よ、我が国よりも遥かに強大な軍備を持ちながら、チューニーの前では一瞬に・・・ってアンタら、聞いてるのか!!?」
ギャノンが半端な髭を揺らしながらブチ切れた。
「はい、聞いてますよ」
と、その容姿端麗な少年は、ギャノンを見据えて、真摯に答えた。
「ギャノンさん、降伏降伏っていうけどさ、降伏した国の国王や政府関係者がどうなってるか、情報入ってます?」
と、その少女は、机に両膝をついて、ついでに頬杖まで突きながら言った。
「つーかトランピーしようぜ、トランピー」
と、その粗暴で幼い少年は、懐からカードゲームを出し、皆に観せた。
「シロウ、さすがにそれはやめとけ、ギャノンさんブチ切れるぞ」
その少年は、トランピーを持った少年を眼鏡越しにたしなめた。
「どうすんだ、こんな餓鬼らを政権中枢部に連れてきて!」
と、ギャノンが頭を抱えながら喚いた。
「おいアンタ、餓鬼っていう事はないだろ、失礼だな」
マハンダの庶民には人気のトランピーを持った、シロウと呼ばれる少年がギャノンを睨んで続けた。
「何を隠そう、俺達はムクー王立軍学校のベスト4なんだぜ?」
「宣伝不足で生徒がアンタら四人しか入学しなかっただけだ!!!」
「ギャノンや、そう怒るでないぽー」
6 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/14(木) 11:41:59 O
よぼよぼの老人が、安楽椅子を揺らしながらギャノンに言った。
ギャノンは地団駄を踏みながら激高した。
「国王が呼んだんでしょうが!どうにかして下さい、コイツら!」
「彼ら若い力は国の宝ぽー、コイツら扱いはいけないぽー」
「ダメだ、この国・・・」
ギャノンはガクリと椅子に座り、机に臥せてしまった。
「まあ、落ち着きましょう、ギャノンさん」
見目優れた、先程は真っ先に発言した少年が、ギャノンに対して口を開いた。
「コウ宰相、アンタなら話が判りそうだな」
と、ギャノンが顔をあげた。
コウと呼ばれた少年はニッコリと笑い、こう言った。
「僕の決戦、以上です」
「ちょいとまてーい!何も聞いとらんのか宰相は!?」
ギャノンがテーブルを、まるでレストランテにおいて料理が一時間出ないで切れた客のように、連続して平手でペチペチと叩いた。
コウは左の人差し指を立て、ギャノンに静かにするように要請するような仕草を見せた。「我々もとことん考えております、カイエン、頼む」
「はい」
カイエンと呼ばれた少女が、書類を持って立ち上がる。
「えっとですね、まず、間者によって降伏した国々を徹底的に調べあげました、それはもう、先程コウも言いましたが、トコトンです」
ギャノンは渋い顔をしながらも、カイエンを見据え、話を聞いた。カイエンが続ける。
「それでですねー、なんていうか、為政者や官僚は、一族皆殺し?みたいな、んで奴族は女は首都に連行、男は皆殺し?みたいな」
カイエンの話に、ギャノンは少し顔色を変えた。
「んで、ご存じの通り、我々は二方が海、もう一方は野蛮なドリスク国と、完全に袋小路のさきっちょです。仮にドリスク軍を領内に入れてしまいますと、そりゃもう、違う占領軍を招き入れるだけですねー」
カイエンは話を終え、座った。
コウが満を持して、黙るギャノンに言った。
「死地にはすなわち戦え、有無は言わせません、ただちにギャノンさんも準備にとりかかって頂きます」
7 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/14(木) 12:34:30 O
場所は戻ってクビン峠の砦の司令部。
若い兵士達が数名、斥候から帰って来た。
「将軍様、マハンダの間者らしき者を捕らえました!」
「うむ、こちらへ連れてきなさい」
と、椅子に座ったボンゴウは兵士に催促した。間者と呼ばれた顔の左側の怪我がやや痛々しい男は、一見民間人にも見える。
ボンゴウの左隣に立っているカンサイは、間者の顔、服装、雰囲気を見て取り、己の思考を最大限に巡らせた。
(これは間違いなく付近の郷人だわ、恐らく教養もなく、とても高度な諜報を任されるような器ではない・・・)
カンサイは、両手の自由を奪われ怯え切った間者と疑わしき男を見てそう悟り、ボンゴウに耳打ちした。
「ボンゴウ様、あの者は恐らく砦近くの郷人でございまして、金で買われているだけでございます、宿舎と食事、それに女を与えて逆用しましょう」
「女か・・・君は見掛けによらず、凄い事を言うな」
と、これまた小声でボンゴウが苦笑しながら、カンサイに耳打ちした。
カンサイは、
「恐らく教養の低い民でありながら間として雇われるのは、簡単な情報収集、要するにこの男に求めているのは、おおまかな砦の地形や兵士の数、装備の情報だけですわ」
と呟いた。
「わかった・・・」
ボンゴウは若き女軍師にそう言い、続けて兵士に言った。
「おい、彼に空いている中で、一番いい宿舎を一戸あてがいなさい。それから傷の手当てもしてやってくれ、料理も皆と同等に振る舞いなさい」
「しゅ、宿舎っすか?コイツに宿舎一戸?」
と、折角スパイを捕らえた兵士は、残念がるような、不思議がるような反応を見せながら、男を指差した。
「直ちに行う事」
「は、はい、ほら、来い!」
ボンゴウの威圧に負け、兵士が男を引っ張る。
「彼は客人だ、丁重に扱え!縄も解いてあげなさい」
ボンゴウは更に注文をつけ、兵士達が消えると、ふーっと息を吐いた。
「肝心の女だが、この砦には君しかいないぞ?」
「な、バルセルから呼んで下さい!」
カンサイは顔を真っ赤にして怒鳴った。
8 :
夢見る名無しさん:2005/04/14(木) 15:09:07 O
8
9 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/15(金) 00:24:59 O
またまた場所は変わり、ムクー。
「あ、言っておきますけどね、ギャノンさん」
カイエンが付け加える為に続けた。
「賄賂を贈ったりしてマハンダに取り入った人、マハンダ軍入城の便宜をはかった者、これら全員、真っ先に殺されてます、はい、間違いないです」
「そ、そんな事をする訳がないだろう!」
図星を突かれたかのように、ギャノンは血相を変えて否定した。
その様子を観たコウは、ギャノンを落ち着かせるように、悠然と話しかけた。
「ご存じの通り、我々は非常に有利な地に位置しております」
「どこが有利か、大軍を食い止めるものは何もなく、八方塞がりではないか!」
と、ギャノンが反論した。
コウは左手を小さくあげ、ギャノンを制した。
「ミツグ、説明を頼む」
「はい」
眼鏡を掛けたミツグと呼ばれる少年が立上がった。
「我々は確かに逃げ場はありませんが、古来より『兵は、これを行く所なきに投ずれば、死すとも逃げず。死せばいずくんぞ得ざらん』といいまして、これ以上逃げ場の無い場所にある、覚悟を決めた軍は、意外と強いものです」
「そんなの、単なる精神論ではないか!乗せられんぞ」
ギャノンが鼻で笑う。
「ギャノンさん、最後まで聞いて下さい。確かに精神論に近い部分もありますが
我々の間者によりますと、ミュンメルは実際にはマハンダの北伐軍に一か月は抗するだけの大軍と、強固な城、大量の兵糧を持ちながらも、一瞬にしてマハンダの前に屈した」ミツグは咳払いを一度した。
「我々やドリスク国が背後にあるのを頼みにしていた部分が相当あったようです」
ミツグが続ける。
「またミュンメルは国王以下の首脳陣も、我が国の名君、シャルロ様とは違い優柔不断。直前まで、マハンダに対する態度を決め兼ねていたようです
事実、我々の援軍による側撃の依頼の使者は来てませんし、ドリスクに実際に使節団を送ったという情報もありません」
「要は、敵以前に内部に問題あったって事だな」
と、トランピー占いをしながらシロウが言った。
10 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/15(金) 00:57:33 O
満を持して、コウが立ち上がった。
「我々はそういう意味では有利です、ご存じの通り、我が国とドリスクの友好関係は劣悪、あの国境の大城壁が示す通り、頼る訳にはいきません。
残りの北と東は海です。こうなると最早、城で待つにしろ、ゲリラ的戦法を採るにしろ、南から来たる憎き大軍を待ち受けるしか無い訳です」
「ならば、どちらにせよ滅亡ではないか!こんなカード遊びしてる奴が軍事責任者のような国が、マハンダの大軍を相手にどうしようというのだ!」
と、ギャノンが立ち上がってシロウを指差し、唾を飛ばしながら叫んだ。
「失敬だな、あんたは」
そう言ったシロウはトランピーを組んで、ビルを建てようと頑張っている。
「何をぬかすか、実戦経験などこれっぽっちもないクソ餓鬼が!南のミュンメルを観ろ、名将軍のウィルダがいながら、一瞬で壊滅したのだぞ?」
「ギャノンさん、その点は心配いりません」 と、コウがギャノンを制した。
「失礼致します」
部屋に少女が入って来た。
「何者だ、貴様は!」
ギャノンが少女を指差しながらまくし立てた。
「ギャノンさん、この者は我々の間者です。丁度いいとこに来た、首尾はどうだ?ユウリン」
「万事が上手く行きました、今お連れします」
コウに尋ねられたユウリンと呼ばれる少女は、もう一度部屋の外へ行き、誰かを呼び寄せた。
顔も身体もごつい、威容な男が入ってきた。ギャノンはその男の顔を観ると、驚きを隠せなかった。
「え?ウィ、ウィルダ将軍?ミュンメルの大将軍のウィルダ!?」
「元、です」
ギャノンにウィルダと呼ばれた男は、頭を下げながら答えた。
「どうなっているのだこれは?!」
ギャノンが少年将軍達と大将軍達に説明を求める。
コウが口を開いた。
「ミュンメルの国王以下の政府首脳に決断力なし、必敗というのは判っておりましたので、予めユウリンを放って、ウィルダ大将軍の保護に全力を尽くしました」
「元、です」
「あ、今任命しますから元じゃなくなります、あなたは今からサイミールの大将軍です」
と、コウがウィルダに言った。
11 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/15(金) 10:14:28 O
ウィルダは頷いた。
「ここに来た時点で、既に腹は決めております」
「僕は宰相のコウです、よろしく。こちらが我が国王のシャルロ様です」
「よろしくぽー」
「あたしはカイエン、諜報担当でーす」
「私は参謀担当のミツグです、従軍時には軍師になります、一つお見知り置きを」
「そして俺が軍事最高責任者のシロウだ、よろしく頼むぜ、ウィルダ大将軍」
「こちらこそ」
「ちょっとまてーい!」
唐突にギャノンが異論を挟む。
「普通は実戦経験豊富なウィルダ将軍が軍事を取り仕切るだろ!何故にこのガキの下に置く!?」
コウは落ち着きなさいと言わんがばかりに、皆に席に着くように促した。
「ユウリン、ご苦労だったな、また例の仕事に取り掛かってくれ」
「わかりました、失礼しました」
コウに言われると、ユウリンはドアの向こうへと姿を消した。
「例の仕事?」
「先に、何故ウィルダ将軍をシロウの下に置くか、理由を説明します。これはウィルダ将軍からの頼みでした」
「馬鹿な!?」
ギャノンがウィルダに答えを求め、ウィルダが口を開いた。
「私は現場で指揮を執るのは得意であり、兵を鍛練し、士気を高めることも出来ます。しかし、大局を見極め、国の命運を掛けた作戦の指揮を執るような器ではありません。
我が祖国、ミュンメルの今回の敗戦も、軍事において最高責任者であった私の度量の低さに起因する部分が、かなりありました」
ウィルダはそういい終わると、コウを観た。コウが受け継ぐように言った。
「シロウには見てわかる通り、肝っ玉の座った所があり、ミツグを始めとする参謀スタッフの提案を飲む度量があります。
彼は細かい事を気にしないので、ウィルダ将軍がその現場においての統率能力を発揮するには、この形しかないと思います」
「全くおっしゃる通りです」
また、ウィルダが頷いた。ギャノンは黙るしかない。
カイエンが発言する。
「んでですね、ユウリン始めとする間者'sには、各地方政府に対して、一斉に蜂起するように檄を飛ばす役目を任せてまーす。ナイマ国が参戦してくれれば美味しいんですけどね〜」
ここまでの登場人物まとめ
※マハンダ
チューニー・・・第11代マハンダ皇帝 粗暴で残虐
チューワ・・・第10代マハンダ皇帝 謎の死を遂げる
※バルツ
ワラビ・・・バルツ国王
カンサイ・・・バルツの天才少女軍師 ボンゴウの下に就く
ボンゴウ・・・バルツの老将 要害クビン砦を任される
※サイミール
シャルロ・・・サイミール国王 おおらか
ギャノン・・・サイミールの古参重鎮 口やかましい
ウィルダ・・・亡国ミュンメルの元大将軍 コウらの手により保護され、現サイミール軍所属
※コウ一味
コウ・・・サイミールの宰相 容姿端麗、沈着冷静な少年
カイエン・・・サイミールの諜報責任者 喋りは軽いが分析は確かな少女
シロウ・・・サイミールの軍事責任者 細かい事は気にしない豪放な少年
ミツグ・・・コウ直属の参謀 戦時にはシロウの軍師も担当予定 頭がキレる眼鏡少年
続き
ユウリン・・・サイミールの間者 コウらの信頼厚い
14 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/15(金) 16:16:54 O
マハンダの西の果て、地方政権としては最大のナイマ国。西と南はナイマス山脈とマムル川を挟んで異民族のマルサル族に、北はまだ健在な小地方政権のジャルノ国に囲まれている。
そして東にあったセザン国はチューニーに統治を明け渡し、その旧首都であった商業都市ノムールにはマハンダ軍の大軍が駐屯している。
北にあるジャルノ国とナイマ国は古くから非常に親密な関係を築いており、しかもナイマはサイミールの10倍の軍事力を持っているが、チューニーに追い詰められているという状況は、サイミールと似ていた。
場所はそのナイマの南端にある、マムル川のほとりにある首都ワチャハラのとある邸宅だ。
「しかしまあ、参ったもんだなぁ」
こちらの白い髪の少年は「ショウチェ」と呼ばれる伝統的なボードゲームをしながら、愚痴た。
「オレが勝ちそうだからか?」
対局しているこちらの少年は、見て分かる程に太っていて、髪は黒い。
白髪の少年が溜め息を吐きながら言う。
「わが国王の日和見ぶりには参ったよ」
「オレの国も大差ねえよ、次やられんのは間違いなくジャルノだな」
「そうなったら、我がナイマが潰れるのも時間の問題だな」
と、白髪の少年が苦笑した。
「なあソンリン、ケイル将軍をけしかけて、チダル国王に進言してもらえねえかな?」
「駄目だ、我が国王は進言を聞き入れるほどの度量はない。ゴの方こそ、バルカ将軍に頼めないか?」
ソンリンと呼ばれた白髪の少年が、ゴと呼んだデブの少年に訊いた。
「うちも無理無理、国王、いつやられるかってチビっちゃってるよ」
「失礼します、ソンリン様、お客様がお見えになってますが」
召使らしき女がドアを開け、用件を告げた。
「はて、どなたかな?」
「サイミールの者だと申しておりますが」
「サイミール!早く通して差し上げなさい」
ソンリンは話を聞くや否や、ショウチェの盤を部屋の端に押した。
「おいおい、オレに負けそうだからってよお」
ゴは目の前の碁盤がなくなった事を、不満げにぶつぶつと言った。
「すまんな、しかし、ようやく好機来たる、か」
「まったくだな」
15 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/17(日) 00:37:23 O
※ナイマ
チダル・・・ナイマ国王 マハンダに追い詰められながらも、いまだ静観
ケイル・・・ナイマの将軍
ソンリン・・・将軍ケイル直属の白髪の少年軍師 日和見な国王に苛立つ
※ジャルノ
ヤヌーセン・・・ジャルノ国王
バルカ・・・ジャルノの将軍
ゴ・・・バルカ直属の小太りな少年軍師 隣国ナイマの軍師ソンリンとは親友
16 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/17(日) 01:01:01 O
これまでの用語まとめ
マハレ大陸・・・マハンダがある大陸
マハンダ国・・・30にも及ぶ地方に分権して統治する、巨大な連邦国家
マハレスク・・・マハンダの中央に位置する巨大な首都
ドリスク国・・・マハンダの北西にある、ドリスク族が統治する国
マルサル国・・・マハンダの南西にある、マルサル族が統治する国家
バルツ国・・・マハンダ連邦の地方政権で、マハレスクのやや東にある
バルセル・・・バルツの西側にある首都
クビン砦・・・バルセルの西、マハンダ中央政府との国境付近のクビナル山脈のクビン峠に、突貫で築かれた要塞
クビナル山脈・・・マハレスクの東、バルセルの西にある、険しい山脈
サイミール国・・・マハンダの北端に位置する小地方政権 北と東は海、西は城壁を挟んでドリスク国、南はミュンメル地方
ムクー・・・サイミールの北端に位置する首都
サイミール城壁・・・野蛮なドリスク族からサイミールを守る為の長城
ミュンメル国・・・サイミールの南にあった、地方政権としては有力だった国 国家がまとまらず、マハンダに一瞬にして占領される
ナイマ国・・・マハンダ連邦の最西端に位置する、地方政府としては最大の国力を有する国 西と南は異民族のマルサル国、北は親密な地方政権のジャルノ国、東はセザン地方
ワチャハラ・・・ナイマ国の南端、やや東寄りにある首都 大河マムル川のほとりにある
ナイマス山脈・・・ナイマ国内の北西にある山脈
マムル川・・・ナイマとマルサルの国境にある巨大な河
ジャルノ国・・・ナイマ国の北にある小国で、ナイマ国とは非常に縁が深い
コリムタ・・・ジャルノ国の北端にある首都
17 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/17(日) 05:24:17 O
「お連れしました」
召使の女はそう言うと下がって行った。
代わりに入って来たのは、緑掛かった茶色い上下を着た少年だ。
「失礼します、拙者はゼンホと申します。サイミール国の宰相コウ様の命を受け、正式な使者として参りました」
「私はナイマ国将軍ケイルの軍師、ソンリンと申します、宜しく。そしてこちらが私の友人、ジャルノ国将軍バルカの軍師、ゴです」「よろしく」
3人がそれぞれ頭を下げる。
3人とも座り、落ち着いた所でゼンホと名乗った少年が口を開いた。
「用件から言います、ナイマ軍によってノムールを攻撃、占領して下さい。
我々サイミールを始め、残された11の地方政権が窮地に立っているのはご存じかと思います。
大国ミュンメルが屈した今、最大の地方国、ナイマに腰を上げてもらい、他9ヶ国がチューニーに対して反抗する勇気を与えて戴く他、打つ手が無いのです我々は当然、他9ヶ国にも使者を派遣しています。
拙者は、ナイマ国とジャルノ国の説得を任されました」
ゼンホの主張は終わった。
ノムールとは、ナイマの東にあったセザン国の首都で、セザン政府は一瞬で倒された為、現在はマハンダ軍がナイマ攻略への前進基地として占拠している。
「確かにノムールの経済力を得れば、ナイマはより一層、チューニーにより長く対抗できる国力を得られますな」
と、ソンリンが言う。
続いてゴが口を開く。
「ジャルノも参戦したいのは山々なんだがなあ、ヤヌーセン国王がてんでやる気ないもんでさぁ」
「バルカ将軍がゴの力を用い、メシュライを狙えば、兵糧にも不自由せず面白いんだが・・・」
農耕都市メシュライとはジャルノ国の東にある、旧ランバルト国の首都だった街だ。
ランバルトはサイミールやジャルノ並の小国で、なんとチューニーの使者が来る以前に、あっという間にこちらから白旗を上げてしまったような国だ。
しかし、この国の魅力は農業で、狭い国土ながらも、農作物や畜産物の輸出により、ある程度の利を得ていた地方政権だ。
18 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/17(日) 14:18:50 O
「さすがは両人、ジャルノ国がメシュライを攻略すれば、西方においてはマハンダもさぞ苦労するはずです。
拙者の調べた両都市の兵力ですが、ノムールには7万、メシュライには2万の兵が、それぞれ駐屯しているようです」
と、ゼンホが諜報によって手に入れた数字を、二人の軍師に話した。
「7万か・・・我がナイマ軍は総勢5万だ、これ以上の召集は無理だ」
「うちは1万が精々だな・・・」
二人がやや険しい顔をした。
ゼンホは悩む二人を見てとり、励ます。
「マハンダ南端のジャンバル国、東端のゴバレシュク地方5国、中央に近いバルツ国、そして我がサイミール。
この4方面が連携すれば必ずや、強大なマハンダ中央軍と言えど、苦戦するはずです。その為にも、御両国の協力が必要なのです、何卒、両国王に御上奏下さいませ!」
と、ゼンホは土下座した。
「頭をお上げ下さい。私はケイル将軍と共に、必ずやチダル様に出兵の許可を戴いて参ります」
「俺んとこも、バルカ将軍ならわかってくれる、問題は国王なんだよな」
「ゼンホさんも来て下さいますね?」
と、ソンリンが訊いた。
ゼンホが答える。
「勿論です、拙者に課せられた命は御両国が西マハンダ地区において、憎き中央政府に対抗しうる国力をつける為にも動いて貰う、という事です。
それがサイミールの、引いてはマハンダの全土の為でもあります。
その為には何事も惜しみません」
「大した使者さんだな、ソンリン」
「全くだ、サイミールが羨ましくなるね、ゼンホさんそのコウ宰相とはかなりの人物ではないかね?」
訊かれたゼンホが答える。
「コウ様には、互いが幼少の頃から、私の生活や学問の面倒をみていただきました。それだけしか申し上げられません」
「益々大したもんだな」
「意外と、サイミールの未来は明るいのかもしれませんな。ゼンホさん、あなたが知る限りのサイミールの、コウ宰相の今後採る戦略をお教え下さい」
ソンリンにまた訊かれ、ゼンホはしばらく考え、口を開く。
「コウ様は、北伐軍を凌いだ後、ウィルダ将軍の息がかかったミュンメルの民衆ゲリラ軍を吸収し、ミュンメルを解放する戦略を描いております」
19 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/17(日) 14:35:47 O
これまでの位置関係
※マハレ大陸東側
サイミール国
ドリスク国(異民族)
旧ミュンメル国
ジャルノ国 旧ランバルト国
マハレスク バルカ国
マルサル国(異民族) ゴバレシュク5国
ナイマ国 旧セザン国
ジャンバル国
20 :
喧嘩王 ◆t0NbGWURj6 :2005/04/17(日) 14:36:32 0
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.レレ ̄
21 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/17(日) 14:40:41 O
※マハレスク周辺
クビナル山脈
マハレスク(中央政府首都) バルセル
クビン砦
クビナル山脈
22 :
喧嘩王 ◆t0NbGWURj6 :2005/04/17(日) 14:44:39 0
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γ .' ' ' . ヽ
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ゝ__ _ノ
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.レレ ̄
23 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/17(日) 14:45:13 O
※サイミール周辺
サ
イ ムクー(サイミール首都)
ミ
ドリスク国 |
ル
城
壁
旧ミュンメル国
24 :
喧嘩王 ◆t0NbGWURj6 :2005/04/17(日) 14:46:17 0
∧__∧
γ .' ' ' . ヽ
キ 、人 , キプ━( ´,_ゝ`)━( ´,_ゝ)━( ´,_)━( ´,)━( )━m9( ゚,_ゝ゚)9mプッ!!
ゝ__ _ノ
/| |ゝΦ
.レレ ̄
25 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/17(日) 14:51:31 O
※ナイマ周辺
コリムタ(ジャルノ国首都)
メシュライ(旧ランバルト国首都)
マ ナイマス山脈 マ
ル ム
サ ル
ル 川
国
ノムール(旧セザン国首都)
ワチャハラ(ナイマ首都)
マ ム ル 川
26 :
喧嘩王 ◆t0NbGWURj6 :2005/04/17(日) 14:52:13 0
∧__∧
γ .' ' ' . ヽ
キ 、人 , キプ━( ´,_ゝ`)━( ´,_ゝ)━( ´,_)━( ´,)━( )━m9( ゚,_ゝ゚)9mプッ!!
ゝ__ _ノ
/| |ゝΦ
.レレ ̄
27 :
◆3L4RhulvqU :2005/04/17(日) 14:56:34 O
28 :
喧嘩王 ◆t0NbGWURj6 :2005/04/17(日) 14:59:52 0
∧__∧
γ .' ' ' . ヽ
キ 、人 , キプ━( ´,_ゝ`)━( ´,_ゝ)━( ´,_)━( ´,)━( )━m9( ゚,_ゝ゚)9mプッ!!
ゝ__ _ノ
/| |ゝΦ
.レレ ̄
29 :
夢見る名無しさん:2005/04/17(日) 15:02:39 O
昨日はホリエモン役、お疲れ。
読む気しねえスレ
とりあえずこっちは気晴らしに書き続けるとか如何?
いや、冗談抜きでこのままじゃ死に兼ねないので、こっちもやめときます
こっちは書いてて、ただただ楽しかったです
多分つまんないっすけどね(笑)
またどこかで逢いましょう
>>32 まさしく寸止めオナ状態の終わりだけど、
まぁ先生らしくていいや。
またいつか楽しい話頼む。
ま。
>>32 ここも読んでました
なんか純粋に楽しんで書いてるみたいだったのでごめーんねってリンク貼るのよしたけど
お体が元気になる事と、またどこかで逢える事を願っています。・・ありがとね、先生。
[箱]д゚)ムァタァーリ
ここは、かの有名なおぱんちゅ先生のもうひとつのスレである
あったというべきか・・
全然知らんかった
38 :
夢見る名無しさん:2005/04/19(火) 10:28:06 0
先生がんばれ〜
39 :
夢見る名無しさん:2005/04/19(火) 10:32:16 0
なるべく 週末は来てね。
伝えたいから内容知る。
で 落ち込む。。
40 :
夢見る名無しさん:2005/04/19(火) 10:49:22 0
呼んでは駄目なのは知ってるが
なぜ 冷たいのか解らない。。
いや こちらも嫌がらせ多くて疲れてました。
体力回復したら、PC買って戦国史でゲームにします(笑)
最初からそのつもりだったんで
戦 知 政
コウ 7 8 8
カンサイ 3 9 7
チューニー 7 9 7
ウィルダ 9 4 3
ユウリン 1 6 7
とか、登場予定だった数百人の能力値や、おおまかな国データをノートへ最初に書きました
設定は先に作っておりますので、ここがDAT落ちしても大丈夫ですyo
って、戦国史、いつの間にかシェアになっとる・・・orz
計画頓挫!(笑)
窓は色々遊べていいですね・・・今の経済状況ではとてもハードの買い増しなんてできないからなぁ(T^T)
でも先生がゲーム作るってんなら買わざるを得まい。
>>43 俺がプログラム書いちゃるから頑張れ
だがその前に体の調子を何とか汁
先生多趣味すぎー
趣味は少ないっすよ〜
公言できるのは音楽だけですし
公言できない趣味はまぁそのなんだ、アレだな
序奏は先生にとって趣味でなく
きっと在りのままの姿なのね!
女装ってより今は下着だけっすけど、空気?(笑)
この手の戦記ものって、普通は最初に登場人物一覧とか地図がありますね
ただでさえとっかかり悪いっすもんね、こういう話って
カンサイタンが女装子だったら・・・
カンサイは真女子ですが、他で色々考えてたんすけどねえ(笑)
体調回復したら真っ先にこれをゼロから書き直したいなあ
昔好きで読んでた「アルスラーン戦記」を思い出しました
自分以外の携帯さん初めてみました、なんか嬉しい(笑)
あちらではお騒がせしましたm(_ _)m
しばらく書けないのは事実なので(書ける状態だったらこっちを張り切って書いてます)もうあっちのスレは終了でいいかなって気はします。
名残惜しいから雑談くらいはしようと思ったんですが、僕が手を引くのが遅すぎましたね(本編をやめたタイミングも遅かったなあ)。
尤も、ここもそのうち嗅ぎつかれるか、もうお気に入りに入ってるでしょうが。
そしたらこっちも潔く消えて、皆様のみえない所で頑張ります。
兎にも角にも身体を治します。それだけです。
連載前半20日は必死、後半20日は苦悩、連載終わった後の10日はただただ楽しかったですねえ、僕は。
なんか知らないけど荒れてた今日ですら楽しかったです。
避難所も画像掲示板もお気に入りから消しました。あると入り浸る事になりそうだから。
今まで本当にありがとう。ショボさん、絵師さん、BARの人をはじめ読んでくれた読者さん。
Blogやニュースで紹介してくれた皆さん。
なんだかんだ最後まで盛り上げて構ってくれたアンチの野郎ども。
みんなみんな大好きでした。
一回しか言いませんけど(笑)心から思いますもん。
後はここが沈んだらお終いっす。
って、なんかスレ立ってるぢゃん(笑)
タイトル爆笑しちゃった
まあ最後はオチが決まったので、おやすみなさい〜
スレ終わってて慌てて来ました!そしてまたスレ立ってるの確認。
えーと・・先生・・・(泣)
今はおやすみなさい
あちらに新スレ記念にちょっとだけ書きました
3で止まってて話題なさそうで、しかしやめときゃよかったかorz
ドッキリサービスのつもりが引かれたみたいですねえ、まあ久々に書くの楽しかったからいいですけど
>>59 まぁいんじゃね?
これだけ長く続いてるのに居続けるアンチってのは、
ほら、アレだ、好きな子に素直になれずいじわるするタイプ?w
ちなみに俺はアンチではないが、ドッキリにしては微妙だった気も
ドッキリしたというか何が起きてるのか分からなくて一瞬止まった
先生の体も心配だったせいで落ち着いて素直に楽しめなかった
ってのが正直なとこです
さようなら〜(ToT)本当に楽しかった1か月半でした
以下、僕(このスレ立てた人間)の書き込みはありませんので注意
#nissen
トリまで・・
マニックスの腕に刻んだ「4REAL」みたいで好きだったんですが
切ないです・・
さよならです
んじゃ、またいつかね
ジークおぱんちゅ!
さて・・
トリ借りて、あの人がいつか帰ってくるまで待ちますか・・・
ジークおぱんちゅ!
今がバーゲンの半額コーナーの中だ
拾い上げる物好きは確かにいる
携帯の香具師がいると、ちょとドキドキする・・・・・・
日本で携帯持ってる人間はいくらでもいるから、心配ご無用
71 :
69:2005/05/06(金) 00:40:16 0
でも普通のスレはこんなに携帯率高くないぞ。
>>64 以降は3、4人しかいないのかもしれんけど。
j3いいや・・・る
それでも2、3人は見てる方いるなんて驚きです。
・・・と敬語を使ってそれっぽく
バルツ国
クビン峠で捕らえられたマハンダの間者はボンゴウの指示通り、一番の宿舎があてがわれ、
捕虜とは思えぬ厚遇を受けていた。しかし、捕虜は捕虜であり、彼に完全な自由はなく、
宿舎の窓は板で頑丈に釘付けされていた。外へと繋がるドアも外から鍵がかけられ、
更に、3人の兵が24時間交代体制で見張りを行っていた。
この宿舎は本来バルツ国の首都であるバルセルからの要人のために用意されたものであった。
要塞を形作っている建物に隣接するように建っている。そして、その建物3階に間者は捕らえられていた。
今、まさに一人の青年兵士が間者が軟禁されている部屋の前に立っていた。
見張りは8時間交代制で一人が見張りに立ち、一人が脇の兵の為に用意されたベッドで休眠し、
一人が自由行動となる。それを、8時間交代で行うのだが、ベッドで休眠している兵はそこから動いてはならない。
寝ても寝ていなくても、ベッドから離れてはいけないのだ。これは万が一捕虜が脱走を
試みようとしたとき、兵一人では心もとないためである。何か自体が起きたときはドアにいる
見張りが大声をあげて、ベッドの兵を呼びつけ、対応にあたる。これで、実質、二人対一人
の状況で脱走者に応じることができるうえ、万が一逃げられたときも、一方の兵士が脱走者を追い、
もう一方の兵士が応援の兵を呼ぶことができた。
バルツ国2
青年兵士は欠伸をした。
8時間交代制とは言え、見張りという任務は厳しい。退屈との戦いである。しかも、常に緊張していなければ
ならない。ドアのすぐ後ろには、敵がいるのだ。油断はならない。
見張りを始めてから5回目の欠伸をしたとき、階段を登る音がした。
(誰かがくる)
瞬時に青年兵士は体を硬直させ、いつでも攻撃体制がとれるように、剣の柄に手を当てた。狭い屋内で
用いる武器は刀剣が有効である。長槍は戦場では有利であるが室内では長い間合いが不利となる。
「こんにちは」
階段を登り、緊張した青年兵士の前に現れたのは、バルツの生んだ奇跡、カンサイ軍師であった。
カンサイは軍師という肩書きに全く不似合いな美しさを持って青年兵士の前に現れた。
「捕虜の様子はどうですか」
カンサイは青年兵士に聞いた。
青年兵士は一瞬、カンサイの容姿に見とれた。ほっそりとした体をまとう、
茶色い長袖の麻シャツに、ベージュの細めのズボン。そして、緑がかった黒髪がなんとも云えない美しさを
かもし出していた。
青年兵士はあわてて、答えた。
「は、はい、捕虜はずいぶんおとなしくしております。ご指示通り食べ物も要求されれば、
与えていますし、近隣の比較的大きな街からその・・・・・・」
青年兵士はことばを濁らせた。美しい少女に話すにはためらわれる内容だったからだ。
カンサイは青年兵士の心中を察した。
「女をとりよせたんですね。捕虜に女をあてがうよう、ボンゴウ様に進言したのはこのわたくしです」
「そうなのですか」
青年兵士は驚きを隠せなかった。
この一見純情な少女からそんな戦略がでるとは思ってみなかったからだ。てっきり、老将ボンゴウ
の案だと思っていたのだ。
75 :
夢見る名無しさん:2005/05/08(日) 03:23:40 0
バルツ国3
その時、「ギチギチ」という奇妙な音が聞こえた。音は廊下の脇に置かれたベッドから
聞こえる。ベッドで眠っている兵士の歯軋りだ。不快な音だった。
青年兵士は慌てて、ベッドに駆け寄ると、寝ている兵士の布団を叩いた。
「おい、カンサイ軍師がおみえだぞ。起きろ!」
カンサイは青年兵士の手を取ると「おやめなさい。疲れているのです。寝かしておやりなさい」
とたしなめた。
「しかし・・・」
青年兵士が云いかけた言葉をさえぎるようにカンサイは口を開いた。
「本来、捕虜の見張りは4人交代体制で行うのがこの国の慣例です。
しかし、この要塞は突貫的に作られたために、人員がまだ完全に整っていません。
ですから、あなた達には肉体的、精神的につらい思いをするでしょうが、
バルセルから増援がくるまで、辛抱ください」
青年兵士は心打たれて、言葉がでなかった。
通常、下級兵士と上級将校が接触することはまずない。情報伝達は上から下へ
流され、下っ端がこうして軍師とお目見えするということは珍しいことである。
「先ほども云ったように、この砦は急ごしらえのため、戦略的穴がいくつかあります。
情報は戦場における一つの大砲に匹敵するとわたしくしは考えています。
あの捕虜は絶対に逃してはなりません。ですから、警備のほう、よろしくお願いします」
そう云うと、カンサイは階段をおり、去っていった。
青年兵士は胸に熱いものが湧き上がるのを感じた。
もう、欠伸はでなかった。
(;゚ Д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
_, ._
(;゚ Д゚) …!?
胸に熱いものが沸き上がるのを感じた。
胸に熱いものが沸き上がるのを感じた。
胸に熱いものが沸き上がるのを感じた。
((((;´Д`))))
信じて・・・・いいのか?
工エエェェ(´д`)ェェエエ工
この寸止めは・・・
バルツ国4
カンサイは砦内の自室で机に向かい書簡を読んでいた。バルツ国首都バルセルの近況
を知らせるものだ。彼女の部屋は質素だ。砦内ということもあり手狭だが、軍師という肩書
きを持つ身とするなら、不釣合いなほど装飾品がない。しかし、部屋に備え付けられた書棚
には沢山の書物と書簡などがぎっしりつまっている。
カンサイは情報を第一とする軍事戦略家であった。
書簡を読み終えると、カンサイは一息ついた。その時、微かにカンサイの耳に金属のこすれ
合う音が聞こえた。始めは小さかったガシャン、ガシャンという金属音は次第に大きくなっている。
音を発するものがこの部屋に近づいているのだ。
カンサイにはその音の主が誰であるかよく知っていた。
ガシャン、ガシャンという金属音がカンサイの部屋の前に止まると同時にドアが無遠慮に開け放たれた。
ノックもない。
「カンサイ、捕虜が口を割ったぞ」
そこに立つのは老将ボンゴウであった。やはり、彼は今日も歳に似合わぬ屈強な体を鉄の
鎧で覆っている。
「女性の部屋に入るときは、ノックをするのが礼儀ですよ」
カンサイは微笑むと、言葉を続けた。「しかし、ボンゴウ様、直々に私の部屋においでくだ
さるとは嬉しい限りです」
「すまないね。なにぶん、ワシは根っからの軍人でね」
ボンゴウは大きな口をあけて笑った。
おそらく、砦内でこの老練の戦士に部屋をノックせよ、などと云えるのはカンサイただ一人であろう。
直属の部下であるカンサイではあるが、他の軍人がボンゴウについたのであれば、こうはいくまい。
バルツ国5
「それで、捕虜はなんと云ってるんですか」
「大方、君の予想した通りだよ。捕虜はここらに住む郷人だった。やはり、金で買われて、
動いていたようだ。兵歴はないし、訓練を受けた様子もない。まあ、斥候に捕まるくらいだから
大した人間ではないな」
笑うボンゴウにカンサイは首を傾げた。
「しかし、郷人たった一人に簡単とは云え地形を探らせるとは思えませんね。まだ、他にも雇われた
人間がいるかもしれません」
「大方、たったひと月で建ち上がったこの砦を見て、あわてて間者を寄こしたんだろう。それだけ
マハンダが慌てているということさ」
「そうだといいのですが、安心はできません。以前も進言しましたが、未熟な私からみてもこの砦には
戦略的な『穴』があると思います」
「そんな穴なぞ、わが兵士の気合で埋めてしまうさ」
ボンゴウは鎧をガシャガシャと音を立てながら笑った。
笑うボンゴウをみて、カンサイはどうしてもボンゴウとの間に世代の隔たりを感じてしまう。「古い人間」
というレッテルをカンサイはこの老人に付けずにはいられない。
今、軍学校で学ぶことは体の訓練は勿論、戦術的な講義もある。ボンゴウが青年だった頃にも軍事戦略
の講義はあったが今とは全くレベルが違う。ボンゴウが軍学校で学んだ事柄は戦争における精神論が
主であり、完全なスパルタ教育が実施されていた。
「戦争は士気が一番重要であり、気合で勝れば数において不利でも勝てる」と本気で信じているボンゴウを
古い人間と見てしまうことはカンサイにとって仕方のないことであった。
しかし、この古い老錬な戦士をカンサイは尊敬していたし、慕っていた。
このスレはおぱんちゅ先生スレとはまた別なものだから、好きな事書いてもらえばいいし、レスのやりとりは必要ないかもね。
本物で元気ならなによりです。
まぁアレだ。
夜はしっかり寝てくれよ名無しタソ。
名無したん頑張れ!マジで
バルツ国6
カンサイの部屋を後にするボンゴウは苦笑した。軍師とはいえ部下
の部屋に直接赴くということをするのはカンサイがはじめての人間だ
ったからだ。
祖父と孫の年齢ほど歳が離れているのにも関わらずボンゴウは
カンサイを信頼していた。
カンサイの人間性がそうさせるのか、それとも、カンサイが軍には異色
の「女」という存在であるからなのか、ボンゴウには分からなかった。
ボンゴウはいまの軍学校がどいう教育をしているのか皆目知らなかった。
そもそも、女性が軍学校にいるというのも、カンサイの存在を知って初めて
わかったことなのだ。
ただ、ボンゴウが持っていないものをカンサイが持っているということは
ボンゴウ自信もわかっていた。それは、カンサイが最も重要とする情報
というものだ。ボンゴウは大量の資料や書簡を読んで一つの情報を
得るよりは肉体を鍛えていた方が有意義と考える人間であった。
(信頼できる人間なのだからそれでいい)
ボンゴウは深く考える人間ではない。思考より行動を第一とする。
まさに、軍人らしい軍人といえた。
つд^)゜・。 続きが読めて、マジ嬉しいっす!
ありがとう、名無しサン つC
バルツ国7
ボンゴウがカンサイの部屋を後にし、司令部に戻ろうとするとカンサイが後を追ってき
た。
「ボンゴウ様、やはりあの捕虜が気になります。今、ふと思ったのですがあの捕虜は郷人
ではないかもしれません」
まじめな顔でカンサイは云った。ボンゴウはまたも苦笑せざるを得なかった。
「おいおい、郷人だと判断したのは君だぞ。それに、捕虜本人が認めているんだ。間違い
ないだろう」
「ええ、私もやはりそう思うのですが、万が一、彼が郷人になりすました優秀な間者だと
したら、事です」
やはり、カンサイはにこりともせずに云った。
「考えすぎだと思うが」
「裏を取りたいのです。あれが本当に郷人なのか…」
「わかった。あの間者が住んでいたという村に兵をやって聞き込みをさせよう。それで、
満足するかい?」
「申し訳ありません。確証がないとどうにも落ち着かない質なもので…」
ボンゴウとしては一人でも砦から人員を離したくなかった。急ごしらえの砦にはまだ完
全に兵が揃っていない。一応、首都のバルセルから増援がくる予定ではあるが、なにがあ
るかわからない。来るはずの兵が来ない。そういう体験をボンゴウは何度かしてきた。援
軍が予定通り来ないと砦の兵士達の士気にも関わる。兵の増減が士気に影響を及ぼすとい
うこともボンゴウの経験に基づくものであった。
バルツ国8
司令室に戻ったボンゴウは早速、郷人が住んでいたと自供した村へ兵を派遣することに
した。ボンゴウはレディフ大佐を召喚した。レディフ大佐はボンゴウの直属の部下であり、
砦の全兵士の指揮権も持っている。砦の権力の構図をボンゴウが頂点とすれば、レディフ
大佐がナンバー2であると兵士からは見られていた。そして、レディフ自身もそうである
と確信していた。
「レディフ大佐、砦近くのイワレンという村に数名の兵を送って調べてもらいたいことが
あるのだが」
ボンゴウが命じるとレディフ大佐は恭しく頭を下げた。
「捕まった間者がそのイワレンという村に住んでいると自白した。どうも、マハンダに金
で雇われたそうなのだが、本人の自白のみで確たる証拠がない。それで、そのイワレンの
村へ行って裏を取ってきて欲しい」
ボンゴウの命令に対しレディフは頭を上げると口を開いた。
「お言葉ですが、私もその捕虜と面会しましたが、裏づけをするまでもなく、ここらに住
む郷人だと思われます。それでも、兵を派遣せよとおっしゃられますか。現在、わが砦は
…」
レディフの言葉をボンゴウがさえぎった。
「わかっておる。一人でも兵が欠けるのはこの砦にとってよいことではない。それでも、
行って欲しいのだ」
「カンサイ軍師…ですか」
「発案者がだれでもかまわん。判断し、命令を下すのはわしだ」
「失礼しました」
レディフは再び先ほどより低く頭を下げた。
ボンゴウの視線はレディフ大佐の顔を捉えることができなかった。
バルツ国9
レディフ大佐は一礼をすると司令部を後にした。これから、イワンレの村に兵を派遣し
なければならない。
レディフ大佐は自室へ戻った。彼の部屋はカンサイの部屋と全く対極にあるといってい
いだろう。部屋には絵画や壷、刀剣といったものが並べられている。しかも、どれも値
のはるものだということが一目でわかる。レディフ大佐は高級な物に囲まれることで、
自分も高級な存在になったと思うことができる人間であった。
レディフ大佐は部下を呼んだ。イワンレの村に兵を派遣するために人選をしなくてはな
らない。
「イワンレへ捕虜の証言が正しいかどうか証明するために兵をやる。誰か適切な人間を
選んで、裏を取って来い」
命じられた者はレディフ大佐の下で兵の管理を行う人間でデルバという名である。デル
バが兵の配置や人員の裁量をし、それらをレディフ大佐が最終決定する。そして、配置が
行われた後、ボンゴウに最終報告があがる。デルバは軍服こそ着ているがその性格は事務
官に近い。デルバはいつも片手にファイルを持っていた。そのファイルには細かい文字が
びっしりと書き込まれている。内容は兵士たちの経歴や配置図であった。デルバがこの砦
の人員配置を行っているといっても過言ではない。
「はい。わかりました。すぐに、イワンレへ人を送りましょう」
デルバは、上官に向かって口答えをしない。疑問形を滅多に使わない。ただ命じられる
ままに判断し行動する。
「これはボンゴウ様から直々に下った命令だ。失敗するなよ」
傲慢な態度でレディフ大佐は云った。ボンゴウと接していたときとは天と地ほどの隔た
りがある。上のものにはへつらい、下のものには突き放した態度で接する。こういう類の
人間は世の中に多い。レディフ大佐にとって、自分より階級が下の者は昇級のための駒に
しか見えないのであろう。
「はい」
デルバはただうなずいた。
バルツ国10
デルバは廊下を歩きながらファイルをめくった。ファイルに書き込まれた文字は驚くほ
ど小さい。文字の細かさがデルバの性格をよく表していた。
デルバは兵士達の勤務時間の表の項をめくると、くるくると目を動かし適当な人間を探
した。探し終えると、ファイルを閉じ、早足になって廊下を進んだ。これから、捕虜の証
言をまとめた資料を取りに行かなくてはならない。本来ならば、命令を下した時にレディ
フ大佐から受け取らなくてはならないのだが、レディフ大佐は何も彼に渡さなかった。レ
ディフ大佐のことだ、資料を取り寄せるのを忘れたのだろう。
デルバはため息をついた。
(確か、捕虜は要人を受け入れるほうの建物にいたな)
デルバは砦から間者が捕らえられている建物へ向かった。
バルツ国11
デルバは間者が捕らえられている建物の三階に着いた。
ドアの前には見張りが一人立ち、脇に置かれた簡易ベッドには兵士がトランピーで一人
遊びをしている。占いだろうか。
「捕虜の資料はどこにある?」
デルバは見張りの兵に聞いた。
「ここにはありません」
見張りの兵は答えた。自分より階級が上のデルバに対してだが、兵の言葉に尊敬の念は
感じられなかった。ベッドで待機中の兵もそのままトランピー遊びに興じている。本来、
自分より階級が上の人間がいるときは直立の姿勢をとらなければならないのがバルツ国軍
の慣例だ。
「では、どこに?」
デルバはベッドの上のトランピーに視線を落として聞いた。
「先ほど、カンサイ軍師殿がもっていかれました」
やはり、兵の応対はよそよそしかった。
「わかった」
デルバはそれだけ云うと、その場から去った。
次はカンサイ軍師の部屋に行かなくてはならない。
バルツ国12
デルバはカンサイの部屋の前にいた。デルバは兵の対応には慣れていた。デルバは
兵たちが自分をを見下していることを知っていた。それが、デルバに戦いの能力が皆無
であるという事実から由来していることも知っていた。
自分より上級であろうと下級の兵であろうとも、どう接すればいいのか心得ているデル
バであったがカンサイだけは別だった。彼女と接するときデルバが己の中に築いてきた法
則が狂う。だから、デルバはカンサイとどのように接すればいいのかわからなくなるのだ
った。
意を決し、目の前のドアをデルバはノックした。
「どうぞ」
ノックの直後カンサイの声がした。
デルバは顔を引きつらせながら、ドアを押した。
「失礼します」
装飾品がない質素な部屋にデルバは足を踏み入れた。カンサイは机に向かいペンを走ら
せていた。
「どうかなさいました?」
カンサイが紙から目線を上げ、デルバの顔を見ると微笑んで云った。緑がかった黒髪が
美しい。デルバは思わず視線をそらした。
「ほ、捕虜の資料がこちらにあると聞いたのですが」
「ああ、あれですか。ちょっと待ってくださいね」
そういうとカンサイは再びペンを走らせた。
しばしの沈黙が続く。聞こえる音はペンが紙と擦れあう音のみである。
バルツ国13
デルバは普段、沈黙になれていた。が、カンサイの前では違う。彼はなにかしゃべりた
くて仕方なかった。カンサイの前ではデルバは普段のデルバではいられなくなる。デルバ
はついに口を開いてしまった。
「カンサイ軍師、あなたは前日も捕虜が監禁されている部屋に行ってい
ますね。その時は今、警備している兵とは違う三人が捕虜を見張っていたようですが、軍師という
立場の人間が下っ端の兵と会うというのもどうかと思います。そうでなくても、あなたは
軍にとって女性という異色の存在ですからね。兵も困惑するのではないですか。そもそも、
その資料も誰か他の人間を使って取りに行かせればよかったのではないですか」
「……」
カンサイの耳にデルバの声は届いているのだろうか。書き物に集中して聞こえないのか、
あえて無視しているのかデルバにはわかなかったが、カンサイは沈黙を守った。
そのまま、互いに一言も発せずに三分が過ぎた。
「はい、お持ちください」
唐突にカンサイが資料を差し出した。
「すみません、今、それを書き写していたんです」
デルバが机を見ると、デルバの手元にある文章がそっくり、カンサイの机の上の紙に写さ
れていた。その文字は美しく、小さくもなく大きくもない読みやすい字で書かれていた。
「…ありがとうございます」
一言礼を述べるとデルバはカンサイの部屋から出て行った。
バルツ国14
再び砦に戻ったデルバはやはり早足で廊下を進んだ。
デルバは窓に目をやる。
(まだ、日は落ちていない。勤務から外れた奴らは食堂にいるな)
デルバは自ら任務を言い渡すべく、食堂へ向かった。
食堂では何人かの兵士が食事を摂っていた。今、彼らは非番なのだ。
デルバはあたりを見回し、目的の人間を探した。もし、ここにいなかったらそれぞれの
宿舎を回らなければならない。それは面倒だ。
(いた)
デルバは目的の兵を見つけた。運のいいことに対象の二人とも揃っている。二人は四人が
けのテーブルに向かい合って座ってトランピーで遊んでいた。兵のあいだでトランピーが
流行っているのだろうか。
デルバが彼らの座っている一番奥のテーブルへ向かうために足を進めたときトランピー
で遊んでいる片方の兵が突然叫んだ。
「いま何時!」
彼の名はラキア。
捕虜が監禁されている部屋にカンサイが訪れたとき、ギチギチと歯軋りをし、堂々と眠
っていた男である。
>>80 訂正
バルツ国4
翌日。
カンサイは砦内の自室で机に向かい書簡を読んでいた。バルツ国首都バルセルの近況
を知らせるものだ。彼女の部屋は質素だ。砦内ということもあり手狭だが、軍師という肩書
きを持つ身とするなら、不釣合いなほど装飾品がない。しかし、部屋に備え付けられた書棚
には沢山の書物と書簡などがぎっしりつまっている。
カンサイは情報を第一とする軍事戦略家であった。
(以下同じ)
バルツ国14
突然のラキアの叫びに向かい合っているもう一人の兵が驚きのあまり、トランピーのカ
ードを手から落とした。ハラハラとカードが床へ舞う。
「なんだよ、ラキアいきなり叫ぶなよ」
床のカードを一枚一枚広いながら彼は云った。
彼の名前はジーフという。
床に落ちてしまったトランピーは絵柄が見えてしまっているカードもある。これでは手
の内が丸見えだ。勝負にならない。
「もう一回最初からだな」
そういうとジーフは手札を山に戻した。
「それより、いま何時だよ」
相変わらずラキアは時間を聞く。何か約束でもあるのだろうか。
「知るかよ。日はまだ落ちてないから6時くらいじゃないか」
ジーフはラキアの手からカードを奪うと云った。ラキアのカードも山に加え、シャッフ
ルを始める。慣れた手つきだ。
「さあ、もう一勝負だ」
ジーフがカードを配ろうとしたときだ。彼らの机へ一人の男がやってきた。
デルバだ。
ラキアとジーフは緊張した。彼らにとってデルバはあまり好ましくない存在だ。できれ
ば砦の中でくつろげる唯一の場所、食堂には来て欲しくない人間だ。
ラキアとジーフは起立をすると、直立の姿勢をとった。食堂は上級の人間が来ても直立
の姿勢をとらなくても良い場所とされていた。公私を分けることを好むバルツ国の風潮が
よく表れている制度である。他国の軍ではこうはいくまい。
しかし、いくら私の場所である食堂で直立の姿勢をとらないことが許されていても、ジ
ーフとラキアは立ち上がらずにはいられなかった。デルバは明らかにジーフかラキアある
いは、双方に用事があるようだったからだ。
へんなもん書いてるんじゃねぇよ、ボケが。
ブログでやれや。
>>98 そういういい方ないでしょう
好意でやってくれてるんだから
●〜*°゜°。。ヾ(≧∇≦o) エイッ!!
バルツ国16
「ジーフ君とラキア君ですね」
そういうと、デルバはファイルをめくった。デルバの表情に変化はない。
(こいつバカにしてやがる)
ラキアが胸の中で悪態をついた。ラキアの変化を察したのか、ジーフはわざと声を大き
くして返事をした。
「はい、そうです」
少し声が大きかっただろうか。食堂にいる人間の注目を集めてしまった。しかし、その
まま、何事もなかったように食事を続けるものや、こっちを注視しているもの、明らかに
睨んでいるものなど、反応は様々だ。何故か、急に食堂から出て行ってしまうものもい
た。
「あなたがたに新たに任務があります。ここからほど近いところにイワンレという村があ
ります。そこで…」
デルバは言葉を切り、資料をジーフに渡した。
「この人物について調べてきて欲しいのです」
ジーフは渡された資料に目を落とした。調べる人間の姓名、簡単な経歴とともに、人相
書きが書かれている。顔に見覚えがあった。昨日、警備した捕虜だ。ラキアもジーフの手
元に視線をやると気がついたのか、声を出した。
「こいつ、昨日、俺たちが見張ってた野郎じゃねえか」
ラキアは上官に対する口の聞き方が全くなっていない。相手が普通の上官ならば張り手
が飛んでいることであろう。
デルバはラキアの声が聞こえなかった、とでもいうように説明を続けた。
「この人物について調べることはただ一点、本当にその村の出身者か否かということです。
期限は一日。明日の朝出発して、その日の夜には帰ってきてください」
デルバは云い終えると、さっさと食堂を出て行ってしまった。まるで、自分の任務以上
のことは受け付けない、という態度である。
「ちっ」
微かにラキアが舌を鳴らした。
ジーフ君=藤井君
ラキア君=アキラ君???
キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・*�!!!!!
バルツ国17
任務を言い渡されたジーフは一度、宿舎の部屋に戻ることにした。ラキアと一緒に食堂
から出たのだが、ラキアは宿舎の方向とは反対の廊下を進んでいってしまった。ジーフが
「どこへ行くんだ?」
と声を掛けたが、
「…ちょっと」
と、そっけのない返事をしてどこかへ行ってしまった。聞かれたくないのだろう、と判
断したジーフはそれ以上、追及せず食堂の前から離れた。
軍学校からの付き合いであるジーフとラキアであるが、時々何を考えているのかわから
ない面がラキアにはあった。
続きまだぁ?
バルツ国18
こうしてカンサイが発した捕虜の経歴を調べる、という案はボンゴウ、レディフ大佐、
デルバに流れ、実行するジーフとラキアに下った。
組織の中での命令はこうして上から下へ流れ、また、末端が拾った情報は、同じ経路を
辿り、下から上へ登る。
ジーフは砦内の宿舎の部屋へ戻った。兵の部屋は狭い。小さな部屋に二段ベッドが両端
に2つ置かれ、一つの部屋を四人で共有する。
兵のプライベートな空間はこの狭い部屋のベッドの上だけであるといっても過言ではな
い。
同室の兵は任務の最中か、食堂にいるのか、部屋にはいなかった。
ジーフは二段ベッドと床の間に作られた引き出しを開けた。兵の私用なものは全てここ
にしまうことになっている。二段ベッドは部屋に二つ。つまり、引き出しも二つで、引き
出しの半分の面積がジーフのものだ。
ジーフは部屋の隅に置かれた、リュックを引き出しの前に持ってきた。そして、引き出
しからものをつめようとしたとき、部屋のドアが開け放たれた。
「いくぞ」
ラキアだった。
ほっす
(σ´□`)σ・・・・…━━━━☆ズキューン!!
ふぉっしゅ
バルツ国19
突然、部屋に侵入したラキアに、ジーフは驚いた。
「なんだよ、突然」
「ちょっと、来て欲しいんだ」
ラキアは頭をかきながら云った。照れている。
(ラキアが照れる?)
ジーフは驚いた。ラキアが照れる、などという表情を見せるのは初めてかもしれない。
「行くって、どこへ?」
「ちょっと」
それだけ云うと、ラキアは部屋から出て行く。背中がついて来い、と云っている。
ジーフは黙ってついて行くことにした。
ラキアは部屋を出、廊下を進んでいく。その後をジーフがついて行く。
向かう方向は、食堂のほうだ。
ラキアは食堂を抜け廊下の突き当たりで止まった。ここは丁度、食堂の裏口に
あたるところだ。食堂の調理場と直接つながっており、食堂で働く人間は普段ここ
から出入りする。
「ちょっと、待ってろ」
ラキアはぶっきらぼうに云うと、裏口から調理場へ入ってしまった。
バルツ国20
ラキアが裏口から食堂の調理場に入って間もなく、ドア越しから男女の
声が聞こえてきた。
「嫌だ。恥ずかしい」
「頼むって、軍学校の頃からの友達なんだ、一分でいいから、付き合ってくれよ」
「恥ずかしい」
男の声はラキアだとわかる。「恥ずかしい」と云っているのは女の声であるが
誰だ?ジーフは食堂の調理場で働く女性を頭に思い浮かべたが、声と顔が一致
しなかった。
「ちょっと、だけだって、お願いだよ」
「恥ずかしい」
どうも、ラキアが女性の方に必死で何かを頼み込んでいるらしい。しかし、女性の
方は「恥ずかしい」と拒んでいる。
「頼むよ。どうせ、いつかはバレるんだから」
「・・・・・・」
しばらくして、声が聞こえなくなった。それから30秒ほどして、唐突に扉が開いた。
ラキアがドアから出てきた。
「紹介するよ、俺の彼女」
バルツ国21
扉からラキアができて信じられないことを云った。
(ラキアに恋人?何かの冗談だろ)
ジーフが信じられないと云った顔を、照れながらラキアが見返した。
(本気なのか)
もし、冗談だったら笑いながらラキア紹介するだろう。しかし、彼は照れている。
普段、照れという感情をあらわさないラキアである。真実なのだ。
「じゃあ、紹介するぞ。カユだ」
ラキアがいうと、ラキアの後ろからおずおずと一人の女が出てきた。女というよりは少女
と云ったほうが正しいだろうか。年齢は見た目、17歳くらいである。
(ラキアのやろう、こんなかわいい娘を・・・)
ジーフの心に一番最初に湧いたのは嫉妬と悔しさだった。勿論、祝福の気持ちが
ないではないが、やはり、羨ましい、という気持ちと、先を越された、という思いが先行して
しまう。ジーフは若い男だ。仕方のないことである。
しかし、かわいい人だな、とジーフは思った。
極度の恥ずかしがり屋なのか、伏せ目がちにして顔をはっきりとは見えないが
彼女が美貌の持ち主ということは、よく分かった。
黒髪に、二重の瞼。鼻は筋が通っていて、肌が綺麗だ。
調理場という職業だからだろうか、髪は頭のてっぺんで紐で縛られている。
縛られた髪の長さから察するに、紐を解けば、肩まで髪は届くだろう。
兎に角美人である。
「・・・はじめまして」
カユはお辞儀をした。慌てて、ジーフもお辞儀をする。
「こちら、こそはじめまして。ラキア君とは軍学校からの知り合いなんです」
「おい、なに言葉遣い変わってるんだよ」
ラキアがジーフを笑った。
人の恋人だというのに、ジーフは相手の器量のよさに戸惑ってしまっていた。
( ゚д゚)
ラ キ ア と カ ユ
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
ユ カ と ア キ ラ
_, ._
(;゚ Д゚) …?!
業務連絡。
避難所くらいには顔出してみません?
バルツ国22
「もう、戻ってもいい?」
しばしの沈黙の後、カユが口を開いた。
ラキアはカユとジーフの顔をそれぞれ見た。ジーフは何も云えなかった。
「悪かったな。戻っていいぞ」
ラキアがそう云うと、カユは再びドアの向こうへ戻っていった。頭頂部で一つに
結ばれた、ゆれる髪が印象的だった。
「美人だろう」
ラキアがはじめて笑っていった。
「正直・・・ショックだ」
ジーフは素直に云った。
「それは酷いだろう。どういう意味だよ」
「俺のほうが先だと思ってた。恋人ができるのが・・・」
「なんだ、先を越されて悔しいのか?」
「ラキアには恋人ができないと思っていたから・・・」
「酷いな」
ラキアは豪快に笑った。なんだか、勝ち誇ったような笑いにジーフには聞こえた。
バルツ国23
結局、ジーフとカユが顔を合わせたのは2分ほどだった。しかも、
言葉は交わしていない。結局、宿舎のほうへ戻りながら、ラキアが
カユとの経緯を話すことになった。
ラキアはカユを紹介する前の照れの顔から、にやけた顔になっていた。
笑いながら口を開く。
「あいつ、臆病でさ。俺が好きな女のタイプと少し違うんだけど、
まあ、好きになってしまったものは仕方がないというか」
ジーフは歩きながらラキアを睨んだ。
「のろけ話は聞きたくない」
「すまん、すまん」
ラキアは笑いながら云った。幸せの真っ只中にいると笑いが止まらないのだろう。
「見てのとおりの恥ずかしがりやなんだよ、カユは。俺が何度、あいつに告白したことか。
告白するたびに、振られ、翌日また、告白してやった。それを何度も繰り返して、落とした」
ラキアのこういう度胸があるとことがジーフには羨ましかった。
「しかし、ラキアに好きな女性ができた、なんて話、一度も聞いたことないぞ。
ましてや、告白なんて・・・」
「彼女になってから紹介するつもりだったんだよ。絶対、俺の恋人にする自信があった。
俺があいつを一番好きだったからな」
ラキアは声を出して笑った。
(こいつ・・・)
ジーフはラキアの度胸のよさとその自信に改めて感服した。
バルツ国24
ラキアに恋人ができたという、ジーフにとってショッキングな事実を
知った後、二人はそれぞれの宿舎の部屋へ戻った。
明日の準備のために、ジーフは2段ベッドの引き出しからリュックに
荷物をつめていたが、なんだが急にやる気がなくなってしまった。中途
半端に荷物を突っ込んだリュックを隅へ追いやると、ジーフは自分のベッド
に潜り込んだ。ジーフのベッドは下の段になる。
ジーフは横になり、目を閉じた。
(かわいかったな、カユってこ)
暗闇に、カユの横顔が浮かんだ。
かわいらしい。どうして、こんなかわいい女の子が、ラキアなんかと・・・
とつい、考えてしまう。
しばらく、笑顔を見せると、ジーフの妄想のカユは頭頂部で結んだ髪を揺らしながら、どこかへ
去っていってしまった。
ジーフは眠くなってきてしまった。眠るにはまだ時間が早い。
しかし、睡魔に勝てずに、ジーフは眠りの泥沼にずぶずぶと沈んでいってしまった。
ほっしゅ
バルツ国25
どこか街のような場所でカユとラキアが二人で手を繋いで、歩いていた。
二人はまるで周りの人間に見せびらかすように寄り添って歩いている。二人とも
笑顔だ。
ジーフは二人を俯瞰図のように上から彼らを見ていた。
幸せそうな二人の笑顔はジーフの心を温かくした。
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>>73-
>>122 ここまでが「マハンダの興亡」 作 おぱんちゅ先生(下着男)◆3L4RhulvqUの
パラレルワールド若しくは同人誌です。
100%確証は得られないが、◆3L4RhulvqUが別鳥で活躍を
再開したので、このスレでの同人誌は終了します。
本編は
>>18の物語を最後にしており、そこから物語が再開すると予想されます。
先生が作成したまとめは
>>27にあります。
先生には許可もなく勝手にパレルワールドを構築してしまったことを深くお詫び申し上げます。
また、今回、現れた先生が本物であるならば、先生の活躍と健康をただただ祈るばかりです。
>>123 今まで乙かれでした♪
ほんとに、先生が戻ってくるといいですなぁ(;´Д`)ハァハァ
乙!
長い間お疲れ様でした。
展開にハラハラドキドキしてました。楽しかったです。
本心は続きが読みたいけれど...。
ところで先生って??