ショートショート

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1夢見る名無しさん
なんか良い板がなかったんで、ここに。
ストレス解消のため小話を創作するスレです。
批評や感想は不必要。誰でもどうぞ。
2夢見る名無しさん:03/12/04 17:09
ショート川相
3夢見る名無しさん:03/12/04 17:20
 その国には、紙がなかった。
 神に近い物質なら、あるにはあるのだが、白紙というものがなかった。
 人々は「書く」ということを知らずに生きていた。
 国民は、書くことはしないが勤勉で、みな幸せに暮らしていた。

 ある男がいて、書きたいことがたくさんあった。
 男は「紙」を求め、旅立つ決心した。
 伝説の「紙」。
 「紙」さえあれば、想いは「文字」となり永遠に残るという。

 男には妹がいて、近親相姦の仲だった。
 近親相姦はこの国でもタブーとされていた。
 妹が言った。
「兄さん、紙って何? いかないで。そんなわけのわからないことのために」
 男は答えた。
「誰もが俺を笑う。誰もが俺を理解しない。永遠に残る「文字」など不必要だという。
それでも俺は行く。俺には「書く」が必要だ。何故必要なのかは、俺にもわからない。
紙を見つけたらわかるかもしれない。わかったら、何故「紙」が必要なのかもふくめて、
「紙」に「書く」ことをしようと思う」
 男は旅立った。

 三年と二月かけて男は紙を探しあて、三年と八ヶ月後に帰ってきた。
 帰ってみると妹は病死していた。
 男は泣き、妹への想いを「紙」に書いた。
 書いて書いて、持ち帰った「紙」をすべて埋めると、男はうなり声をあげて死んだ。

 遺族が「紙」を見て、不思議な模様だ、と言った。
 模様は三十年にわたって流行したが、やがて誰も使わなくなった。
4夢見る名無しさん:03/12/04 17:21
便所紙
5夢見る名無しさん:03/12/04 17:36
 ある土地に透明な怪獣がいた。
 温厚な性格であったし、透明なので誰も怪獣にきがつかない。

 怪獣は人や家を踏まないように気をつけていた。
 それどころか、木や草まで踏まないよう、なるべく岩場を移動した。
 岩場を移動する時ですら、虫でもいないかと気を使うのだった。

 長らく生き続けるうち、透明な怪獣はどうにも暇になった。
 あまりに暇なので、広い岩場で踊り始めた。
 踊ってみると、どうやら性に合うらしい。
 怪獣は手を振り足を振り、尻尾も動員して踊り続けた。

 あまりにも長い間、同じ岩場で踊り続けたので、透明な怪獣より
ずっと大きな透明な怪獣に踏み潰されてしまった。
 この怪獣も岩場を選んで歩いていたのだ。
6夢見る名無しさん:03/12/04 17:49
 強盗がいた。変った強盗で、ストッキングのかわりに鞄をかぶって強盗をした。

 鞄は雑誌がなんとか入る大きさのセカンドバックだった。
 あるテレビで「アメリカ人男性はセカンドバックを持たない。セカンドバックを
持っている男性はオカマに見える」と出演者が言っているのを見ると、強盗は得意げに
ほほえんだ。

 この強盗の家に警官が乗り込んできた。
 なにせ強盗であるから、生活のリズムがおかしい。近隣の者から不審に思われ、通報されたのだ。
 捜査令状などないのだが、警官に「部屋を見せていただけますか」といわれては追い返す
わけにもいかない。男は警官を部屋に入れた。八畳一間のアパートである。

 証拠になるものなど無いが、強盗は落ち着かない。
 警官は部屋を調べ、男がいつも被っているセカンドバッグをみつけた。
「このようバッグを被った強盗が頻発しているのですが、ご存知ですか?」
「いいえ知りません」
 強盗は言い逃れる。
 警官は鞄を裏返した。一部がてらてらと光っている。
 後日、鼻の油が鑑識で照合され、強盗は逮捕されてしまった。
7夢見る名無しさん:03/12/04 18:35
 ある島国の交通大臣が道路整備をはじめた。
 徹底的な道路整備であり、すべての交差点は直角に直された。たくさんの家やビルが
場所を移された。

 はなはだ非効率的かと思いきや、直交道路の利便性はすさまじいものだった。
 国はみるみる発展し、大臣は首相へとのぼりつめた。
 政策は推し進められ、半島や湾までもが四角く四角く直された。
 年々地図が改定され、ついにはカーブのない海岸線が完成した。国はますます栄えた。

 各国も追従し、やがて世界中の道路が四角くなった。島も、大陸も四角くなった。
 その後、全ての人類は地球の丸さに耐え切れず発狂して死んだ。
8夢見る名無しさん:03/12/04 19:34
>>7
少しワロタ
9夢見る名無しさん:03/12/04 20:00
 アンダースローの投手がいた。プロ野球選手だった。
 子供のころ、何かのマンガを見て始めたアンダースローだった。
 投手はアンダースローで投げ続けた。

 アンダースローをとがめるコーチが多かった。
「上から投げてみろ。球速が増せば、球の変化も大きくなる。大成できるぞ。
お前は腕が長いんだ。上から投げれば良い球を投げられる」
 しかし、投手はアンダースローを続けた。
 自分でもアンダースローにこだわる理由がわからなかった。意地になっていたのかも
しれない。

 アンダースローが珍しい時代となり、取材が増えた。
 メディアへの露出が増えると、投手はちょっとした人気選手となった。
 ファンも増えた。その様子を見て、球団の広報が「ホームページを作ったらどうか」と
持ちかけた。
 面白そうだったので、業者を紹介してもらった。投手のホームページができた。
10夢見る名無しさん:03/12/04 20:00

 投手のホームページには応援のメッセージが殺到した。
 だが、投手がやがて不調になると、ホームページの掲示板では議論がおこった。
 上から投げたほうが良い、いや下から投げるのが美学だ、と。

 投手は嫌な気分で投球を続けた。ある日の敗戦処理で、投手はマウンドに上がった。
 試合は途中からひどい雨だった。ホームゲームだったので、試合は中止されなかった。
 投手が踏み出しボールを投げようとした時、踏み出した足が滑った。
 投げる手がマウンドに食い込み、不自然な方向に曲がった。
 幸い、捻挫で済んだ。

 投手は故障者リストに入った。リハビリを続けた。
 やがて、回復した投手は、練習場の片隅で久しぶりにボールを握った。
 なぜなのかわからないが、投手は、ふと、上から投げてみたくなった。
 オーバースローでネットへ投げ込むと、ボールは勢い良く急降下してからすさまじい勢いで伸び上がり、
ネットに突き刺さって焦げるまで回転してからグラウンドに落ちた。
 剛速球であることが、投手には明確にわかった。
 投手は長い間、練習場の片隅のブルペンにたたずんでいた。

 投手は復帰した。アンダースローのままだった。
 大成しないまま、投手は選手生命を終えた。
11夢見る名無しさん:03/12/04 20:16
 ぬいぐるみがあった。ウサギのぬいぐるみで、持ち主にかわいがられていた。
 持ち主は若いOLだった。幼稚な趣味だが、よくある話である。
 OLはぬいぐるみを抱いて寝ていた。

 ぬいぐるみは、突然しゃべれるようになった。理由は不明。
 ある日、ぬいぐるみがあくびをしてみると、音が部屋に響いたのである。
 持ち主は留守だった。ぬいぐるみはとりあえずほっとした。それから、
何故ほっとしたのか考えた。

 ぬいぐるみは黙って暮らした。しゃべるぬいぐるみなんて気味が悪いと思ったのだ。
 持ち主は気がつかず、ぬいぐるみに話しかけ、ひとり納得し、ぬいぐるみをなで、ぬいぐるみと寝た。

 ある日、持ち主の頭に棚の上の大きな荷物が落ちそうになった。
 ぬいぐるみには、その様子が見えていた。あわてたぬいぐるみ大きな声を出した。
「あぶない!」
 持ち主はぬいぐるみの方を見た。驚きで目を見開いていた。
 荷物が持ち主のOLを直撃し、OLは首の骨を折って死んだ。

 その後、ぬいぐるみは一言もしゃべらずに過ごした。
 もともとしゃべれないぬいぐるみなのだから、なんのことはなかった。
 ぬいぐるみはOLの実家に50年間飾られた後、捨てられ焼却された。
 燃え尽きそうになっても、やはり無言だった。
12夢見る名無しさん:03/12/04 20:45
 あるアジア人の男がいて、プロサッカー選手で、ストライカーだった。
 有能な選手で、ヨーロッパに移籍し活躍していた。

 男のところに白づくめの訪問者があり、「自分は天使だ」と名乗った。
「あなたの願いを何でもひとつ、代償なしで叶えてさしあげます」
「じゃあ、三本目の足をくれよ」
 男は笑いながら答えた。もともと下品な男だったのである。
「それでは、あなたに三本目の足をあたえましょう」
 訪問者はかき消えた。男は驚き、消えた相手を追いかけようとした。
 追いかけようとして、男がさらに驚いたのは、自分の腹から三本目の足が生えている
ことだった。

 この足は物理法則を超越しているらしく、服を突き抜けて生えていた。
 透明な足はボールを蹴ることはもちろん、男の体をささえることもできた。
 足はたくましく、コントロールもキック力も男の鍛えた両足に劣らなかった。
 男は困った。

 この足はサッカーでは認められないに違いなかった。男は第三の足を隠した。
 男の動きは鈍った。足一本分だけ体が重いのだから当たり前である。
 メディアはこぞって限界説を書きたてた。
13夢見る名無しさん:03/12/04 20:46

 男は奮起した。さらなるトレーニングをつみ、第三の足の重さを払拭した。
 また、第三の足でボールを蹴るわけにはいかないとしても、第三の足は動く分には
役に立った。走る役にはさして立たなかったが、男の跳躍力は格段に上がった。

 男は世界を代表する選手となり、同国人を引き連れてワールドカップ準決勝にまで進出した。
 同点で迎えた延長戦の開始直後、男にスルーパスが出た。
 男はディフェンダーを置き去りにしたが、敵のキーパーが良い判断で飛び出してきた。
 透明な第三の足で蹴りこめばゴールできるのがわかった。
 永遠に思える一瞬だった。男はいろいろなことを考え、いろいろなことを思い出した。
いろいろなことを考えたはずだったが、後から思い出してみると何を考えていたのかは
思い出せなかった。
 男は透明な足を使わなかった。ボールは敵キーパーの懐に吸い込まれた。

 決着がつかず、試合はPK戦となった。
 延長戦終了の笛を聞き大きく天を仰いだ時、男は驚いた。第三の足が消えていた
のである。
 いくら確かめてみても、足がない。男は動転した。動転したが、PK戦へと気持ちを
切り替えた。
 PK戦で、男は第一のキッカーをまかされた。
 男は無心で蹴りこんだが、足がなくなって体のバランスが狂っていたため、男のシュートは
大きく外れた。
 しかし、男は笑った。男は笑ったままくやしがり、チームメイトを元気付けた。
 この男の物語は、ここで終わる。
14夢見る名無しさん:03/12/04 21:10
 岩だらけの国があった。
 あまりに国土が岩ばかりだったので、国はひどく貧しかった。
 飢饉のたびに多くの餓死者が出たし、そうでなくとも粗末な生活をよぎなくされた。

 この国にとてつもない学者があり、国の岩から産業を興せないかと考えた。
 学者の研究は全ての国民から支持された。国家は債権だらけの財政の中から
最大限の援助金を出した。多くのボランティアが学者のもとに集まり、無償で働いた。

 やがて、学者は声明を出した。
「大きな発見をした。いま、研究を進めている」
 国中が沸騰した。先走った者が学者の銅像を立てた。誰もが学者の研究の成功を祈っていた。
 学者は数年して、また声明を出した。
「研究は難航しているが、わたしはあきらめない」
 多くのの同情の声がよせられた。国民はあきらめなかった。
 さらに長い年月の後、また声明が出された。
「多くの問題があるが、克服されつつある。望みはある」
 国民は喜んだ。様々な施設や大学に学者の名前がついた。

 やがて学者は死んだ。老齢であり、自然死だった。
 学者の遺書には、「全て嘘だった。真実を告げることはできなかった。
この国土には何の可能性もなく、国中掘り返しても絶対に利益はない」と
書かれていた。
15夢見る名無しさん:03/12/04 21:37
 中年男がいて、会社に勤めていた。
 若手を叱るのが大好きであり、「若い奴は叱られて伸びる」が口癖だった。

 ある日、体調を崩した中年男は、会社の医務室を訪れた。
「最近、体の具合が悪く、若い奴をうまく叱れないのです。薬で治してください」
「体の具合を治すのですね?」
「いえ、叱る活力が欲しいのです。叱ることさえできれば、不健康のままでのかまいません」
 医者はあきれたが、男の症状が単なる季節の疲れだと判断すると、「これは叱る力を
出す薬です。つまり、脳内の特定の機関を刺激しホルモンを……」と嘘をついた。
 渡した薬は栄養剤だった。

 男は治った気分になり、実際に思い込みによって元気になった。
 若手を叱り続け、疲れると医務室を訪れた。
「例の叱れる薬をください」
「はあ……」
 医者はやむなく、同じ栄養剤を出した。
16夢見る名無しさん:03/12/04 21:38

 このころ、政界には二世議員が多かった。若手の時代と呼ばれていた。
 すでに老齢に達していた中年男は、政治討論番組を見て、「けしからん」と憤った。
 すぐさま与党第一党に乗り込み、若手議員を叱責した。
 その弁舌が認められ、中年男は与党から立候補することになった。

 政治などというものは、つまるところ他者への攻撃である。中年男の能力は存分に発揮された。
 中年男は当選し、マスメディアを通じて地位を築き、大臣となり、ついには総理大臣へと出世した。
 そんな中年男のもとへいつぞやの会社勤めの医師が現れた。
 医師が驚くことに、中年男はこう言った。
「いやぁ、先生。あのお薬、10年分いただいたお薬ですが、いまだに飲んでいますよ。
ちょうど無くなりかけていたので、処方していただこうと思っていたところです」
 中年男は、政治家らしく鷹揚に笑った。
 いたたまれない気分になった医師は、薬が栄養剤であることを告げた。
 中年男は仰け反ったまま気絶した。

 その後、中年男は破棄を失い、隠居した。
 一日中テレビを見、若手のニュースキャスターの失敗をみつけては、楽しげに叱責しているという。
17夢見る名無しさん:03/12/04 23:10
 海の神様がいて、空も海ならいいと思った。
 そこで、空を水で満たし、あきたりずに宇宙までもを水で埋めてしまった。
 しばらくして、海の神様は思った。
「空の神様や、宇宙の神様は、どこにいるのだろう」
 しかし、もはや世界中が海なので、空も宇宙もどこにもなかった。
18夢見る名無しさん:03/12/05 10:23
 猫の大集会で、人間のキャットファイトが話題となった。
 キャットファイトとは、女性同士が戦う女子プロよりもエンタテイメント性の高い
レスリング興行である。
「メスだけの戦いを「キャット」とは、我々に失礼であろう」
「いかにも。だいたいからして、古来よりメスを悪く言う時は「ドッグ」に例えるのが
通例であーる」
「かくなる上は、人間のキャットファイトに我々の代表をおくりこみ、統一王者となった上で
名称をドッグファイトに訂正させるとしよう」

 こうして、人間と戦えるネコが探された。しかし、ネコの体重など太っても十数キロである。
集団主義的精神の元、ネコの枠は拡大解釈された。そしてついに、チベットの奥地にて十二代前の先祖に
ネコを持つ人間よりも大きなネコが見出された。
 ほとんどトラである。

 このトラは「グレートキャット」となのり、キャットファイトに参戦した。
 グレートキャットは非常に賢いトラで、後ろ足で立てたし人間の言葉もしゃべれた。
 グレートキャットは連戦連勝した。トラが人間の女性と戦っているのだから当たり前である。
 ついに統一王者となったグレートキャットに、マイクが向けられた。
「おめでとうございます、グレートキャット。あなたがチャンピオンです!」
「ありがとうございます。精一杯頑張った結果です。お客様にも、相手選手にも、ありがとうと言いたい」
「ところで、グレートキャット。優勝したら声明を発表するとのことでしたが」
「そうなのです。チャンピオンとなった見返りといってはなんなのですが、こうしたファイトの名称を
「キャットファイト」から「ドッグファイト」へと改めていただきたい」
「……しかし、チャンピオン。そうなりますと、あなたの名前もグレートキャットではなく
グレートドッグになるのですか?」
「いえ、わたしはネコです」
「では、「キャットファイト」で良いのでは?」
 グレートキャットは考えた。かなり長い間考えた。
 考えているうちに、そもそも自分はトラだよな、などと思い当たり、なおのことわからなくなるのだった。
19夢見る名無しさん:03/12/05 19:44
>>18
萌え〜
20夢見る名無しさん:03/12/05 23:29
 金貨の好きな男がいた。
 この男は金が好きで、通帳の残高よりも紙幣が好きで、紙幣よりも硬貨が好きで、
国家の信用によって成り立つ貨幣よりも中世の金貨が好きだったのだ。
 ようするに度を越した守銭奴で、しかも即物的な男だった。

 男は全財産を古銭に代え、毎日数えて過ごしていた。
 古銭や経済に関する知識は凄まじいもので、食費や生活費を知識によって稼いでいた。
古銭鑑定家兼、経済アドバイザーといったところ。タレントでもあった。

 ある日、凄まじい出物がオークションにかかった。
 中世の大帝が特別に作らせた大金貨で、国を買うために使われたという代物だった。
 権勢を誇っていた大帝が、この金貨と引き換えに一国を召し上げたのである。
 まさに世界一高価な金貨であった。

 男は全財産に代えて金貨を落札した。
 残ったわずかな金で田舎のマンションを買い取り、50年分の保存食を買い込んだ。
男はすでに中年で、長く生きても50年の命だった。
 男は余生の全てを大金貨に捧げた。毎日眺め、ときどき手の平の上に落とす。
 男は幸福だった。

 長い年月が過ぎたある日、男の脳裏に疑問がおこった。
 男は金貨を取り出し、手の平の上に乗せた。何度も金貨を乗せた手を上下させた。
 そして、長い間使っていなかった鑑定用の分銅計りを持ち出し、震える手で金貨の重さを測った。
 贋金だった。

 数年分の保存食を残して男は死んだ。長寿だった。
 男の金貨は、国立の博物館に展示されることとなった。
 展示の前に金貨は測定され、純金製であることが確かめられた。
 つまり、純金製の偽物とすりかえられていたのだが、博物館の役員は誰も気がつかなかった。
 偽物の金貨は年代測定にも耐えた。古物に詳しかった男が、本物の古銭から作り出した逸品だったのだ。
 本物で偽物の本物の金貨の行方は、死んだ男しか知らない。
 男の死に顔は満足げであったという。
21夢見る名無しさん:03/12/06 10:38
 写真のネコに惚れこんだ男がいた。カレンダーの10月のネコだった。
 10月のページを切り取り、ラミネートし、毎日ながめて過ごした。

 飽き足りなくなった男は、10月ページのネコの模写を始めた。
 模写は次第に上手くなり、とうとう男の腕前はプロ並となった。みごとな写実画。
 男は、ラミネートを飾った壁に、自作の模写を並べて飾った。油彩、水彩、水墨画……さまざまな
10月ページのネコで部屋は埋められた。
 しかし、男は満足しなかった。むしろ火がついたと言ってよい。

 男は20年を費やし、獣医師と整形外科医になった。まず獣医の勉強をし、資格をとり、その後で人医の
勉強をも修め、医師免許をとったのだ。それぞれのインターンも果たし、実戦経験も積んだ。
 中年となった男は、自宅にあつらえた診察台の前にいた。
 診察台には、ペットショップで買って来たネコがいて、ベルトで固定されていた。
 あの10月ページのネコに似ていなくもないが、しかし違うネコだった。
 手術着姿の男は、麻酔を注射に取り、ネコに注入した。
 ネコがおとなしくなると、メスでネコを切り裂き、骨をドリルで削り始めた。

 「ミーちゃん、角度違うから。右、右向いて。そう。で、尻尾あげて、尻尾……あーだめだめ、
あくびとかしないで、動かない、動かないで!」
 男はネコを10月ページのネコそっくりに整形したのだが、アングルの問題が残っていた。
 ミーちゃんと名づけられたネコは、男が日曜大工で作り出した10月のページとそっくりの窓に座らされ、
毎日毎日ポーズを取らされるのだった。
 ミーちゃんが飽きて食事をねだりはじめると、男は溜め息をついて、缶詰を探しに台所へと向かった。
22夢見る名無しさん:03/12/06 11:45
 一人が言った。
「ブラジャーは、1879年にブラジャー氏が発明した」
「へぇー」
「嘘だよ」
「……え?」
「信じた?」

 騙された側が、話し始めた。
「あのさ、わたしが小さい頃、まだ携帯電話が無くてさ」
「うん」
「でさ、子供だったからさ、背も低くて」
「うん」
「当然、車の免許なんか持ってないでしょ」
「うん」
「全部嘘」
「……えええええぇ!?」
23夢見る名無しさん:03/12/06 15:44
 シスターがいて、とても善良な人物だった。
 シスターは、この世の全ての人をなぐさめたいと思った。
 しかし、いざ実行してみると、誰かをなぐさめるためには落ち込んでいる不幸な人を
探さなければならないのだった。
 シスターは違和感を感じた。なぐさめたいのであって、不幸を探したいのではない。

 そこでシスターは部屋に引きこもり、聖書やありがたい書物を調べた。
 すると、そもそも人間には罪があり、人生は試練なのだと書かれていた。
「なるほど、わたしも不幸なのか」
 シスターは納得した。
 そこで、鏡を見て、
「おかわいそうに」
 と、言ってみた。

 心底から馬鹿馬鹿しくなったシスターは、宗教を改め尼僧となった。
24夢見る名無しさん:03/12/06 16:49
 男がいた。
人類の過ちで核にまみれた世界で唯一生き残った男。
 その目は霞み、聴覚は無く、声を失い、
体は時々何かに引っ張られるように重く、全く自由がきかない。
 それでも衰弱しかけた獣を捕らえてどうにか生きているのは、
「なんとか女性を探し出し、人類を存続させねば」
という儚くも強い意志のためである。

 女がいた。
人類の醜い争いで荒廃した世界で唯一生き残った女。
 その眼は霞み、聴覚を失い、喉は潰れ、
体は時折何かに引きずられるように重く、全く自由がきかない。
 それでも朽ちかけた果実を見つけてどうにか生きているのは、
「なんとか男性を探し出し、人類を存続させねば」
という儚くも強い意志のためである。

 しかし終末に傾きつつある世界、食べられるものは日々減っていく。
やがて、次第に薄れてゆく視界と意識の中、
男は女のみを捜し、女は男のみを捜してほぼ同時に息絶えた。

 遂に彼らは被爆時に背中がくっついた事には気が付かなかった。
25夢見る名無しさん:03/12/06 18:20
 ある会社があった。大企業だった。
 青田刈りをしない会社で、履歴や、試験、面接などから実力主義で新人を採用していた。
 この会社の、ある年の募集要項の履歴書写真欄には、次のように書かれていた。
『上半身脱衣・正面・半年以内に撮影したもの』
 『上半身脱帽』の誤記だったのだが、気がつかず布告されてしまった。

 どうにも困ったことに、会社側が気がつかないまま新人募集期間が終わってしまった。
 ユニークな採用試験を行う会社が多い時世も手伝って、たくさんの学生から『上半身脱衣』の
履歴書が送付された。「これは、会社が自分達を試しているのではないか」、と取られたのだ。
 会社では緊急会議が召集された。
 第一の議論としては、自分の裸を履歴書に貼る人間を採用するのか、ということであり、
第二の議論としては、自分の裸を履歴書に貼る人間だから採用しないのか、ということであった。
 さすがに自分の乳房を撮影してよこした女性はまずいだろう、という意見も出たが、
女性幹部からは「男女不平等」との反論がなされた。
 この議論に対して、幹部の誰もが有効な論拠を提出できないことは明確であった。

 結局、会社の幹部達は議論を放棄した。
 履歴書から全ての写真をはがし、面接を部下に任せたのである。
 社員選考はつつがなく終わった。
 だから、これはつまらない話である。
26夢見る名無しさん:03/12/06 19:21
 虎水仙というスリがいた。
 江戸時代の人物であるから、巾着切りと呼ぶべきだろう。
 たかだか懐中狙いの分際で、背中に虎と水仙の刺青を入れていたというのだから、
そうとう癖のある人物だったことは間違いない。

 この虎水仙、獲物の足を見て懐を狙う特技を持っていた。
 虎水仙に言わせれば「足さえ見ておけば人の隙などいくらでも見つかる」とのこと。
 実際、猫背で顔も上げずに人ごみを歩いては、次々と巾着をせしめてしまうのだった。

 虎水仙の晴れ舞台は、巾着切り仲間との技比べである。
 この晴れ舞台には、足立の小五郎や、橋枕の笹助といった有名どころも参戦している。
 技比べの舞台は両国橋。技を比べようと、茶屋から巾着切り達が獲物を物色していると、
橋を渡ってきたのは音に聞えた一刀流の達人、下泉玄斎であった。
 さすがにしり込みする同業者を虎水仙は鼻で笑い、「まず、せしめるまではわけもない」
と言い残して茶屋を出た。
 そして玄斎とすれ違い、ほとぼりを冷まして茶屋へ帰る。
 虎水仙の手には家紋入りの巾着袋があった。橋の上で一対一、顔も上げず取る手も見せずの
早業であった。

 この技比べには後日談がある。かの下泉玄斎、茶屋を出てきた時から虎水仙に目をつけていたと
いうのだ。
「いずれ盗人かやくざ者の類と思い、何かあれば手を捕らえひねり上げようと思っていた。しかし
儂としたことが手合いの技で不覚を取ったのだ。あれが果し合いであれば、儂は切られていただろう」
と、このように家人にもらしたというのだ。

 この虎水仙、50になった春のある日の朝、出掛けに自分の足元を見て「どうもいけねえ」とつぶやいた。
 そして、数歩歩いただけで家へと引き返してしまった。
 同じ日の昼には、自宅で胡坐をかいたまま死んでいたそうである。
27夢見る名無しさん:03/12/07 01:26
 ある男がうなされながら眠っている。

 男は、怖い夢を見て跳ね起きた、という怖い夢を見た。
 翌日、怖い夢を見て跳ね起きた、という怖い夢を見て跳ね起きた、
という怖い夢を見た。
 その翌日、怖い夢を見て跳ね起きた、という怖い夢を見て跳ね起きた、
という怖い夢を見て跳ね起きた、という怖い夢を見た。
 さらにその翌日、怖い夢を見て跳ね起きた、という怖い夢を見て跳ね起きた、
という怖い夢を見て跳ね起きた、という怖い夢を見て跳ね起きた、
という怖い夢を見た。

 不気味な恐怖、さらに寝不足が男を衰弱させる。
男は不安になり、ついに徹夜してこの悪循環を断ち切ろうと決意した。
 念願叶って一睡も出来ず「次の夜から安心して眠れる」と期待した。

 そして、迎えた夜。男はどう頑張っても眠りにつけなかった。
心労もあるはずなのに意識は冴えまくり、冷や汗ばかりで睡魔は来ない。
やがて小鳥のさえずりが聞こえ、明けてくる空から光がこぼれてくる。

 寝不足の頃からの蓄積疲労。毎晩襲ってくる原因不明の符合。
得体の知れない精神的な恐怖。異常としか言えない怪奇現象。
 さらに、ふと思いついた「自分はもう二度と眠れないのでは?」という不安。
 焦る男の中で、それらが頂点に達したその時!!


 男は、怖い夢を見て跳ね起き
28夢見る名無しさん:03/12/07 02:37
続きまだぁ?
29夢見る名無しさん:03/12/07 13:04
もちとまってりんちょ
30夢見る名無しさん:03/12/07 17:59
 若者がカードを拾った。
 どの国のものか見当がつかない文字が書かれたプラスチック製のカードで、
左側には写真らしきものが貼られていた。
 外国の身分証、とも見える。
 しかし妙なことに、写真の部分には人物が写っていない。
 しかも、人物が写っていないのに、服だけは写っているのである。
 なんとも不思議なカードだった。

 警察に届けようかとも思ったが、若者はカードを持っておくことにした。
 自分に冒険を運んできてくれる、魔法のカードではないか、と思ったのだ。
 いつか、自分は、このカードで身分を証明できる世界へいく。
 世界へ転送されると同時に、このカードの顔の部分に自分の顔が入るのだ。
 このカードが示す身分はわからないけれど、とにかく、違う身分を手に入れた
自分は異世界を冒険する。刑事としてか、軍人としてか、学者としてかもしれない……。
 もし、そんなカードだったら楽しいな、と若者は思ったのだ。
 若者はカードを定期入れにしのばせ、学校と家とを往復するのだった。
31夢見る名無しさん:03/12/07 18:00

 ある日の黄昏時、若者は自分が見知らぬ街を歩いていることに気がついた。
 店の看板や交通標識が読めない。読めないが、見覚えのある文字だ。
 急いで例のカードを取り出してみた。この世界の文字は、カードの文字と
同じ言語に間違いなかった。
 ただ、写真の部分は服だけのままだった。若者は落胆した。
 しかし、若者は気を取り直して歩き始めた。
 ずっと待ち望んでいた冒険が始まるのだ。若者は高揚した。

 しばらく行くと、服だけが歩いているのが見えた。
 若者は嫌な予感がした。
 警官らしき服が若者の方に歩いてきて、声を掛けた。
「失礼、見慣れない服装と肌ですが……いや、見慣れない肌とは失礼しました。
外国の方なのでしょうな。身分証明書を見せていただけますか?」
 若者は震える手でカードを取り出し、警官の服の顔の辺りへ見せた。
 透明な顔の辺りの反射が変る。若者には透明に見えるが、この世界の人間には見える
顔があるのだろう。若者は全てを理解した。
 透明な警官の顔の辺りから、少し棘のある声が聞えてきた。
「これは、あなたではありませんね。なぜ、この身分証明書をお持ちなのですか。
ちょっと署まで来ていただきましょう……」
32夢見る名無しさん:03/12/07 18:37
 生命の女神がいた。
 美しいブロンドの長髪の持ち主で、その髪の一本一本が下界の人間達の命を司っていた。
 やさしい産毛は赤子達であり、伸び始めた強い髪は若者達であり、金糸の長髪は
賢い老人達だった。
 女神は人間の数だけ髪を持っていた。

 ある日、生命の女神は他の女神と喧嘩になった。
 決着は髪切りデスマッチでつける運びとなった。
 試合が行われ、フォール負けした生命の女神はリングの上で丸坊主にされてしまった。
 人類は滅びた。
33夢見る名無しさん:03/12/08 17:00
 少年の中で、世界は滅びた。

 つまり、このようなことだった。

 人間には価値がない、と少年は思った。
 人間は悪く、良心などは自分の悪さを隠すためのものでしかない。
 人間の良さは、人間の悪さを超えることができない。
 人間は、悪い。

 悪い人間にできることがあるだろうか、と少年は考えた。
 今は悪くても、いつか良くなれるかもしれない、と少年は思った。
 でも、今生きている人間が生きている内は駄目だろうな、とも思った。
 だから、今生きている全ての人は、悪いまま死んで消えてしまうのだ。
 今生きている全ての人の行動は、今生きている全ての人たちにとって悪だ。

 世界とは、今生きている人間達の集まりだ。
 だから、少年の中で世界は滅びた。
34夢見る名無しさん:03/12/09 20:11
 竪琴があった。魔法の竪琴で、美しい音を奏でた。
 しかし、人間達は竪琴を嫌った。魔法の竪琴は、人間達にとっては魔性の竪琴だった。
 あまりにも竪琴の演奏が美しすぎたのである。
 美しい音色が悪魔を呼び寄せると、人間達は勝手に思い込んだ。
 竪琴は必死で美しい演奏を繰り返したが、人間達は恐れ逃げていくだけだった。

 さみしくなった竪琴は人間のために演奏することをやめた。
 そして、悪魔のために恐ろしい音色を響かせ始めた。
 人間達はいっそう竪琴を恐れたが、竪琴は人間には無関心になっていた。

 ほどなく、悪魔達がやってきた。
 竪琴は喜び、かき鳴った。
 悪魔達はしばらく演奏を喜んでいたが、やがて言った。
「残念だが、竪琴よ、我々は悪魔だ。だから、魔法の引き手や魔法の歌い手をたくさん
知っているのだ。お前の演奏は素晴らしいが、我々にとっては素晴らしい多くの演奏のひとつに
過ぎないのだ」
 竪琴は落ちこみ、悲しい音をたてた。
「そこで、お前の弦を一本抜き取ってやろう。そうすればお前の演奏は不完全だが独自のものとなり、
世界にひとつだけの価値を持つはずだ」
 竪琴は喜びの音を奏でた。
 そこで悪魔達は、竪琴の弦の一本を取り去ってしまった。

 竪琴はしばらくの間不自由したが、やがて残りの弦でも演奏できる曲目を作り出し、
演奏を再開した。
 それは新しい不思議な調子の曲だった。昼には人間達が集まり、夜には悪魔達が集まった。
 竪琴は幸せだった。
35夢見る名無しさん:03/12/09 20:11

 しかし、やがて人間達は飽き、たまにしか聞きにこなくなった。
 悪魔達は変らずやってきたが、しだいに竪琴の演奏よりも酒盛りを楽しむようになった。
 人間も悪魔もいない、ある日の夕暮れ、竪琴はひとつの弦を強く強く打ち鳴らし始めた。
 そしてついに、自分の力で弦をひとつ打ち切ってしまった。
 竪琴の演奏が、また変った。
 前と同じように人間が集まった。
 悪魔達も酒盛りをやめて竪琴の演奏を聞いた。
 悪魔の中には冷笑を浮かべている者もいたのだが、竪琴は気がつかなかった。

 飽きられるたび、竪琴は弦を減らした。
 弦が減るたび、飽きられるのが早くなっていたのだが、竪琴は気がつかなかった。
 やがて竪琴の弦が二本となり、その酷く単調な曲に人間達が三日で飽きた後で、
竪琴は自分の過ちに気がついた。
 悪魔達は笑いながら言った。
「我々の策略に落ちたな。馬鹿め。お前はもう、美しい曲を奏でる竪琴ではないし、
もはや竪琴ですらない」
 悪魔達は竪琴を囲んで宴会を開き、一晩さわぎ明かした後で去った。
 竪琴がいくらふたつの音を奏でても、もはや誰も聴こうとはしないのだった。

 天使が現れ、竪琴を取り上げた。
 竪琴はふたつの音を必死に鳴らした。
 天使は無反応だった。
 やがて天使は、竪琴を置いて去った。

 天使は四日後に戻ってきた。天界から木の枝を持ち帰ったのだ。
 天使は竪琴の切れた弦をひとつ取り、枝の端と端に結びつけて弓をつくった。
 そして、竪琴の残った弦をつまむと、弓を使って弾き始めた。
 美しい音楽だった。それでいて、世界にひとつしかない楽器による新しい音楽でもあった。
 人々が集まり、竪琴は聴かれ続けた。
36夢見る名無しさん:03/12/10 18:02
 何も持たない虫がいた。
 人間のような言葉や指はもちろん、虫らしい足や、翅や、眼、腹や心臓さえ持っていなかった。

 虫はただ生きた。ずっと生きた。やがて死ぬことになった。
 死ぬ前に虫は考えた。
 自分の命には何の意味があったのだろう、と。
 考えた結果、自分が生き始めたことには意味があるのではないか、と虫は思った。
 なぜなら、第一に、自分の死に意味はあるまい。別段死にたいわけでもない。
 第二に、自分の人生に意味はあるまい。何の変化も無かった。
 第三に、しかし、自分の誕生には意味があったのではないか。なぜなら、
死んでいるより生きていることを自分は好むからだ。

 生きることは、生きることではなく、生き始めることなのだ、と虫は思った。
 思ったことについて詳しく考えてみようと思いながら、虫は死んで消えた。
37夢見る名無しさん:03/12/10 22:30
応援ageっす
38夢見る名無しさん:03/12/11 10:38
 翻訳家の男がいた。優秀な翻訳家だが偏屈だった。
 男が言うには、「翻訳とは人間の共通性を探ること」、なのだった。
「どのような言葉を使う人間にも、共通の感性がある。どの国にも似た意味のことわざが
あるように、だ。人間に共通する真の人間像を探り当てれば、おのずと名訳ができる」

 時代が流れ、男の翻訳ははやらなくなった。
 質が落ちたわけではない。めぐりあわせの問題である。
 仕事をあたえられなくなったわけではなかったが、自分の腕にうぬぼれている男としては面白くない。
 そこで男は、今まで誰も訳したことのない物語の翻訳に着手した。クジラの歌の翻訳である。

 男はクジラの生態学者と組み、クジラの歌を録音した。
 次に学者から、判明しているいくつかの単語を聞く。
 男には、そうした数個の単語で十分だった。確かに翻訳の天才だったのだ。
 男は単語と歌からクジラの本質にせまり、クジラ語を数ヶ月で解読してしまった。
 究極の意訳とでも言うべきものであり、科学的な価値はなかったが、男は満足だった。
「これを発表すれば、誰もが私の翻訳の腕前を認めるに違いない」

 しかし、いざ作品にする段となって、問題が生じた。
 クジラの歌が、文学としてつまらないのである。
 まさに駄作。とても商品価値があるとは思えない。クジラの声をテープに録音して売るほうが
ましかもしれなかった。

 男は出版をあきらめ、もとの翻訳家に戻った。
 時々クジラの歌のことを思い出し、男は思う。
「クジラと人間の共通部分から導いた訳なのだから、あれはまさに生物の本質だったはずだ。
いや、哺乳類の本質というべきか。しかし、それがつまらないとは、どういうことなのだろう。
もしかしたら、生物や命というものは、本質的に退屈なのではないだろうか。だとすれば、
生命の神秘や自然の驚異などというものは、全て人間の脚色だということになるが……」
39夢見る名無しさん:03/12/12 13:25
 山があった。山の下には人間の王国があり、王族は山と親しかった。
 山は王族に幾つかの珍しい鉱石や薬草をあたえ、王族は山の森を世話した。
 王族は山を敬い、山に入る時にはいつでも山に声をかけたほどだった。

 ある年、王族は金策に失敗し、国を商人に売ってしまった。
 商人は山から奪える物を全て奪った。自分が生きているうちに山という財産を
使い果たしてしまおうと考えたのだ。
 山は怒った。王族を呼んで問いただしたが、王族は悲しげに「我々には金がない」と答えた。
 怒れる山は、自分の山すそを全て崖にしてしまった。崖に鈎を打ち登る者には容赦ない
落石で応戦した。
 やがて人間達が諦めると、山は怒ったまま眠ってしまった。

 数十年が過ぎ、山が目を覚ましてみると、山のふもとには国が無かった。
 山が訊ねると、まばらに残っていた王族のすえが答えた。
「あなたから頂戴する薬草が無かったので、多くの人間が病で死にました。
生き残った者は去りました」
 それを聞いた山は震えた。
 三日三晩震え続け、最後には平たい土や石ころになってしまった。
 そこで最後に残っていた王族のすえも旅立ち、誰も住まなくなった。
40夢見る名無しさん:03/12/12 16:34
 竜に触りたい少年がいた。
 中世、しかも不思議な怪物が実在する世界の住人であったから、我々が竜に触りたがるよりも
望みがあると言える。しかし、困難でないはずがなかった。
 竜は巨大で、残酷で、しかも遠くにいる。なぜ遠くにいるかと言えば、竜の近くに
人間の街があったなら滅ぼされてしまうからだ。
 少年が竜に触るには、まず人が住まない土地まで旅し、人が住まない土地で竜を探し出し、
さらに竜に殺されずに近づかなければならなかった。
 ところで、なぜ少年が竜に触りたいのかと言うと、単純に手触りを確かめたいからだった。
 ざらざらしたものや金属などを触るのが大好きな少年だったのである。

 若者となった少年は、一人前の鍛冶職人となっていたのだが、ついに竜探しの旅に出た。
 誰もが冒険に反対し、若者の人生を惜しんだが、若者の決意は固かった。
 若者は旅の邪魔にならない、それでいて身を守る役に立つ防具を身につけ、
人が住まない土地へと旅していった。

 残念なことに、若者の冒険ははかどらなかった。
 防具は若者を様々な怪物から守ったが、困難は怪物だけではなかった。
 事故に骨を砕かれ、病気に命をとられそうになって、幾度も数年休まなければならなかったのである。
 若者が学んだことだが、人の住まない土地では冒険はおろか生きることさえ難しいのだ。

 若者が中年男となるころ、ついに冒険がはかどり始めた。事故や病を避けられるようになったのだ。
 この噂を聞きつけた人の国の王から使者があり、中年男に告げた。
「あなたは人が住めぬ土地で生きる方法を身につけたと聞きます。そこで、私どもの国に来て、
その知識を伝授してくださいませんか。また、伝授なされた暁には、王はあなた様に何百人かの
開拓者をまかせる予定でおられます。あなたに開拓者を導いていただき、あなたの開墾が成功したならば、
あなたは新しい貴族となり、新国の領主となることでしょう」
 心引かれる申し出だったが、断った。老いるにつけ、竜への思いを強くしていたのである。
41夢見る名無しさん:03/12/12 16:35

 中年男が老いさらばえ老人となった時、老人はついに竜を発見した。
 竜は岩山の谷に寝そべっていた。
 しかし、老人は自分の乾いた肌をなで、途方にくれた。
「竜を見出すまでは、たしかに辿りついた。だが、竜に殺されない術がない。
それを見出すまでに私は死んでしまうだろう。これまでか」
 老人は竜から死角となっている場所に座り込み、煙草を吹かした。
 そうしていると、夢を追い続けた悪くない人生に思えてくるのだった。

 その時、向こうから人間の一団がやってくるのが見えた。
 先頭にいるのは子供で、このように言っていた。
「やった、竜が見えるよ。僕は竜に触ってみたかったんだ。これも、君の物探しの技のおかげだよ」
 先頭の子供が振り向くと、二番目を歩いているのも子供だった。
「なあに、大したことじゃないよ。鳥の飛び方と草の食べられ方を見れば、竜みたいな
大きな獣がどこにいるかなんて簡単にわかるさ。それよりも、君のキャンプの腕前の
おかげだと僕は思うな」
 二番目の子供が振り返ると、三番目を歩いているのも子供だった。
「なあに、大したことじゃないよ。昼と夜、天気、それと季節のことさえしっていれば、
どこでだってキャンプができるものさ。それよりも、君の魔よけのおかげだと僕は思うな」
 三番目の子供が振り返ると、四番目を歩いているのも子供だった。
「なあに、大したことじゃないよ。僕の住んでいる辺りじゃ、昔から魔よけの薬草を作っているんだ。
薬草の匂いが消えないうちは、怪物達は寄ってこないよ。それより、いまこそ君の出番だよ!」
 四番目の子供が振り返ると、五番目を歩いているのも子供だった。
「そうだね。煙遊びをさせたら、僕以上のやつはそうはいないからね。この枯葉を炊けば、
あの谷は煙でいっぱいになるだろう。そうすれば、触るまで近づくなんて造作もないはずさ!」

 老人は叫びながら立ち上がり、両手と両足を振り回しながら竜に向かって突進した。
42夢見る名無しさん:03/12/15 15:27
 永遠を求める男がいた。
 なんであれ、永遠に不滅である何かを見たい、というのが男の望みで、男は世界中を捜し歩いていた。

 ある日、男はついに永遠に続く城砦をみつけた。
 この城砦は、壁も天井も傷むということがなかった。
 男が試しに傷つけてみたが、火や刃物ではもちろん、銃を使ってさえ傷つくことが無かった。
 男は満足し、城砦に住み始めた。

 不滅の壁には苔ひとつ生えない。
 たまに虫やトカゲが迷い込むだけで、城砦の中はいつも無人だった。
 何十年か経ったある日、男のもとに流れ者の道化師がやってきた。
「やあ、城の主よ、この城はいかに? 兵も、召使も居ない。家畜はおろか、花ひとつ
飾られてはいない。主よ、あなたは何者だ? 城を作って金が尽きたか?」
「道化よ。まずはようこそ。では答えよう。つまり、この城には不必要なものがないのだ。
この場合の不必要なものとは、永遠に続かないものだ。それらの物は、どんなに価値があるように
見えたとしても、長い時の後には滅び、無価値となるのだ。だが、この城は違う。
この城は永遠に不滅なのだ。最高の品の中に住む私こそ、最高に幸せだ」
「そうなのか、城の主よ? この城が不滅だとして、聞くが、主よ、石は不滅か?」
「石は砕けるから、不滅ではあるまい」
「では、砕かれた石のかけらはどうさ」
「また砕けよう」
「主よ、これ以上は砕けない、もっとも小さな石はあるか? そんなものはないぞ。
小さいことに限りは無いのだ。すなわち、万物は永遠だ。ただ、形だけが時間に崩されるのだ」
「なるほど」
「ならば主よ、この城もまた、石のかけらではないか? 無駄に大きいだけだ!」

 道化が去った後も、男は考え続けた。
 なんのことはなかった。永遠はどこにでもあるが、永遠を求める心だけが有限なのだ。
 その後、男は城を見物人に公開し、入館料をとり、金を貯めた後は都会のアパートで質素に暮らしたという。
43夢見る名無しさん:03/12/15 18:54
 昔、虹の色の数で父親と喧嘩した少女がいた。
「虹の色に境はないから、あれは見る人によって違う色数に見えるんだ。現に、国や地方によって
虹の色数は違うのだよ」
 このように述べる父親に、少女は泣いて反論した。
「じゃあ、色は無いの? 色って、あるじゃない。あるでしょう? 色が見えるのだから、
色の数は数えられるはずよ。近くで、近くで見れば!」

 誰もが人生の進路に影響する幼年期の事件を体験するものだが、少女の場合は「虹の色数事件」が
それだった。少女はパイロットになった。
 成人した少女には、あえて少女と呼び続けるが、もちろん、虹が光の屈折によって作られる影だと
わかっていた。しかし、虹に近づく意味が無いとは思っていなかった。
 虹を見るのに最も適した場所が、やはりあるはずで、あるとすれば高空に違いない。
 このように少女は考えていた。

 戦争となり、少女も招集され戦闘機に乗った。
 消耗戦をよぎなくされていたため、パイロットが足りなかったのだ。
 ある日の午後の雨上がり、少女を含む編隊は、敵の主要都市めがけて出発した。
 目的地に着き、仲間達が爆撃のために急降下を始めた時、少女は上空に大きな虹を見つけた。
 これまでにない、見事な、大きくて手が届きそうな虹だった。
 少女の戦闘機は急上昇し、虹へ向かって突き進んでいった。
44夢見る名無しさん:03/12/15 18:55

 この時、敵軍の航空隊が少女の部隊にせまっていた。
 少女の戦闘機は、この敵部隊とはちあった。
 少女にとって幸運だったのは、少女が太陽を背負って飛んでいたため、敵の弾幕が少女を
撃ち落さなかったことである。虹は太陽の反対側に映るのだ。
「虹は六色!」
 すれ違いざま、少女は背面飛行しながら敵パイロットに叫んだ。
 まったく唐突な報告だったが、敵パイロットは妙に納得し、いつまでもこのことを憶えていた。
 どうも虹は六色らしい。なるほど。

 少女はすぐに状況を思い出した。あわてて友軍に敵部隊発見を告げる。
 爆弾を投下して身軽になった少女の所属部隊は、連絡を受けて編隊を組み、敵の攻撃に対抗した。
 ここから先は別種の物語であるから、物語はここで終わる。
45夢見る名無しさん:03/12/16 20:53
 江戸の町に盗賊がいた。人呼んで瓦小僧。
 瓦小僧は商家の人間を脅して倉を開けさせ、千両箱を決まってひとつ担ぐ。
 担ぐとましらのように壁を駆け上がり、屋根を跳んで逃げてしまう。
 ここで終われば、ましら小僧、とでも呼ばれるべきなのだが、先がある。
 脅した商人を殺さずにおくものだから、決まって追っ手がかかる。
 すぐに御用提灯が集まり、屋根の上で立ち往生したことも一度や二度ではない。
 瓦小僧、屋根の上で囲まれてもいたって冷静である。
 にまり、と笑って、片手で屋根瓦を剥がし、これを投げる。
 街灯がある時代ではない。闇夜に瓦を飛ばされては避けられるものではない。
 瓦はむささびのように飛び、捕方をなぎ倒すのである。
 こうしたことから、盗賊は瓦小僧と呼ばれていた。
 瓦を片手で持ち上げるだけでも大したものだ。それを十分な速度で投げるのだから
常人の域ではない。

 この瓦小僧、江戸庶民には人気があった。
 人は殺さず、持てる分だけを盗み、不思議な技で捕方を打ち倒すのだから、人気が出ないはずがないのだ。
 一方、捕方としたらたまったものではない。瓦を受けた者の中には床に臥して起きられなくなる者もある。
瓦を投げつけられて悪者あつかいではたまらない。
46夢見る名無しさん:03/12/16 20:54

 ある夜、まんまと捕方を打ち破った瓦小僧が屋根を跳んでいくと、屋根の上に妙なものを見た。
 町娘が一人、屋根の上に座っているのである。
 不審に思った瓦小僧だが、一人身の寂しさもあったのだろう、この娘に声をかけた。
「おい、こんな夜更けに、屋根でなにをしている」
 娘は、はっと振り向いたが、瓦小僧に返して言った。
「別に。屋根が好きなのですよ」
「ほう、屋根が好きか」
「ええ、瓦の冷たいところなど、落ち着くのです」
「ほほう」
 瓦小僧、瓦が好きと聞かされれば、まんざらでもない。
「いまどき風流な娘だな。どれ、俺様も少し涼んでいくとするか」
「あら、そんな恐ろしい」
「へへ、いいじゃねえか。横を空けてくんな」
 助平心が出たか、瓦小僧が娘の横に座る。と、その刹那であった。
 あっと言うまもなく、娘が瓦小僧に襲い掛かる。
「やい、瓦小僧、年貢の納め時とはこのことだ!」
 娘は町方同心の変装だったのだ。
 瓦小僧、一巻の終わりであった。

 捕らえられた瓦小僧は打ち首となった。
 瓦小僧の最期の言葉は、次のようなものであったという。
「俺様も瓦小僧と呼ばれた盗賊だ。ヤキがまわるのも、しようがねえことよ」
47夢見る名無しさん:03/12/21 01:07
あなたの将来を占います、と言うありきたりの占い師に手相を見てもらう青年。
ややナイーブな感じがあり、最近上手くいかないので占いに頼ってみたというところ。
占い師、目を見開いて「うーん」と唸ったきり暫く黙ったまま。

やがて痺れを切らした青年が口を開く。
「…どうなんでしょうか? もしや今後僕の身に何か…?」
占い師曰く、
「…いや、見えた運勢はあなたの身の危険とかではないのです。
その点では間違いなく大丈夫なのです。安心してください。
無理に当たり障りの無い明るい未来を答えようとする占い師もいますが、
とても私にはそんな適当な話をする事は出来ない。
とにかく見料はそのままお返しします。申し訳ありません。」

実直そうな占い師だったが、青年はしばらくは不気味で不安な日々を送った。
しかしひと月、ふた月、…、と慌しい日常を過ごすうちに不安は次第に薄れていき、
やがて半年、一年、二年、…、と過ぎていく頃には、
いつしか記憶の大海の中に忘れ去られてしまった。

結局青年は、極めて平凡で絵に描いたような起伏の無い人生を送ったという。


ところで、あの占い師。
青年の手相を見た日から、ずっと占い師としての罪悪感に苛まれていた。

「ある特定日だけ運命的な出会いをし、助言を受けて自信を得るやたちまち豹変し、
突如として世界を変える能力を発揮する残忍で冷酷な独裁者の相だった。
今も信じられないが、忘れもしない、あの瞬間がまさにそうだった。
彼だけは狂った独裁体制の中で天寿をまっとうして好き勝手な人生を送れるが、
私はどうしても世界の人々が虐げられて倒れていく姿を実現させたくなかった…。」
48夢見る名無しさん:03/12/24 02:37
ふむ。
49夢見る名無しさん:03/12/27 17:02
ほう、面白い
50夢見る名無しさん:03/12/27 18:34
 机を愛した男がいた。
 木目が綺麗な大きな机で、手を広げて余る大きさがあった。
 引き出しなどは無く、かといって食卓でもなかった。
 男は書斎に机を運び込み、何かにつけて机の前で用事をするのだった。

 読書や書き物はもちろん、食事も机に運んで食べた。
 男は一人者だった。
 夜更かしをし、机に突っ伏した寝るのが大のお気に入りだった。

 この男が若くして死んだ。若いといっても既に中年の域には達していた。
 男の友人が集まり、机の処分について話し合い始めた。
 男にとって机が特別な存在であることを、男自身に吹聴されていたのである。
「どうだろう、奴と一緒に燃やしてやるべきじゃないだろうか」
「いや、棺おけに入れるには立派過ぎる。だいたい、燃えるのか?」
「燃えるだろう。遺体を灰になるまで焼く炉なのだから。しかし、大きさは問題だな。
ではどうだろう、この机で棺おけをあつらえては」
「いや、机を棺おけにしたら、奴は浮かばれないのじゃないか? 奴は机を机として
好きだったのだから。木材として好きだったわけではない」
「となるとやはり、机のまま燃やすのか。しかし、奴はそれで喜ぶかな」
「喜ぶかもしれんし、喜ばないかもしれん。燃やさないとして、他の誰かに使われたら
奴はどう思うんだろうな。喜ぶか、嫉妬するかもしれん」

 結局のところ、友人達には机を燃やす勇気が無かった。
 特別な机だとわかってはいたが、他の遺品と共に親族に引き渡してしまった。
 机は、無駄に豪華なただの机として、どこかで使われているのだろう。
 だから、これはつまらない話である。
51夢見る名無しさん:03/12/27 18:53
 白紙の本があった。装丁されていながら、一単語も書かれてはいなかった。
 ある高名な作家が、
「この本には素晴らしい物語が書かれる」
 と、予言し、予言したまま死んだのだ。
 本にはプレミアムがつき、高値で取引された。

 ところで、作家が生きていた時代は今よりも未来だった。
 さらに遥かな未来、ついに人類は人を生き返らせる技術を身に着けた。
 といっても、霊魂から生き返らせるわけではない。冷凍保存された体や脳から
生き返らせるのである。
 作家の死んだ年代は、ちょうど冷凍保存が流行り始めた年代であり、作家の遺体は保存されていた。
 人々は作家を甦らせ、「書いてください」と依頼した。
 ある資産家は、高額で買い取った本を無償で作家に返却した。
 半年後、作家は自殺した。書いてはみたが、つまらなかったのである。
 復活不可能な自殺のためのツールを取り寄せて使ったため、作家の再生は不可能だった。
 本は灰皿で燃やされていた。
52夢見る名無しさん:03/12/30 09:11
何気に良スレ
53夢見る名無しさん:03/12/31 15:20
  /⌒\
 (    )
 |   |   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 |   | ∠今日は変身するからな
 ( ・∀・)  \__________
  )   (
 (__Y_)
54夢見る名無しさん:04/01/01 17:42
ほっしゅ・・・っと。
55夢見る名無しさん:04/01/03 12:26
おいお前達な、正月だからって毎日毎日夜更かししてんじゃない!
父さんは明日から会社だし、お前達だってもうすぐ登校日だろ?
生活のリズムが乱れると寝坊するぞ?
だいいち電気代だって馬鹿にならないぞ。わかったら早く寝ろ。
ん? なに? まだゲームやりたいって?
甘えるな! いいかげんにテレビと明かり消して寝ろ!
あ? おいおい、何があと10分だけだ?
お前達ぜんぜんわかってないじゃないか!
とにかく寝ろ! お前達が消さないなら父さんが消すぞ?
消灯、消灯!
56夢見る名無しさん:04/01/06 10:55
誤爆か?
57夢見る名無しさん:04/01/13 02:33
捕手。
58:04/01/15 19:21
むぬ。
59夢見る名無しさん:04/01/16 04:07
 男が腕時計を拾った。逆回りする時計だった。
 アイデア商品とでも言うべき品である。もっとも、そうした商品にありがちな
軽薄な作りではなく、古い型のしっかしとした腕時計だった。
 腕時計のネジを下向きに巻くと、時計の針は反時計回りに時をさかのぼって行く。
 男は時計を気に入り、愛用した。逆回りと憶えてしまえば、とりたてて不便なことは無い。
 鏡写しと思って時間を見ればいいのだ。
 使い始めた頃は驚いてしまうこともあったが、しだいに慣れた。

 何年かしたある日、男は不審に思った。
 時計が、少し綺麗になっているようなのだ。
 拾った当時は使い古されて見えた物が、今では新品同様になっている。
 注意してみていると、時計は徐々に新しくなっているようだった。
 男は想像をたくましくした。
 つまり、
「この時計には時間をさかのぼる、甦らせる力があるのではないか」
 と、考えたのである。
 男はさらに創造を逞しくさせた。
 時計の力は、自分にも影響をあたえるのではないだろうか。
 自分もまた、永遠の若さを保ち、ずっと生きていられるのではないか。
 そうして考えてみると、時計を拾ってからは大病をしたこともなく、体の調子も良い。
「まったく、大した拾い物をしたものだ」
 男はひそかに、永遠に生きる人生を想像し、財産管理の勉強などを始めるのだった。

 終わりの日は唐突に来た。
 時計は新しくなりすぎ、組み立てる前のバラバラの部品となって男の腕から落ちた。
 男は交差点の真ん中で全ての部品を拾い、クラクションに煽られながら大事に家に持ち帰ったが、
部品となった時計はもはや動かず、時を刻むことも時間をさかのぼることもなかった。
 ふと思いつき、時計一般の資料を取り寄せ組み立てても見たが、時計を組み上げることは不可能だった。
 まるで異なる磁器を帯びているかのように、部品と部品が滑りあってまとまらないのである。
 その後、男は平凡な一生を送り、老齢となり死んだ。別段長生きでもなかった。
60夢見る名無しさん:04/01/23 10:57
 宇宙人がいた。外見こそ人間に酷似していたが、超常の力を備えていた。
 しかし、本人は自らの出生を知らなかった。力を使うこともなかった。
 宇宙人は自らの力に気がつかないまま一生を終えた。
 宇宙人と地球人の連れ合いの間には数人の子供がいた。その子供たちにも子供たちがいた。

 人類はあいかわらず戦争や人災を繰り返していたが、総体で見れば健気に繁栄を続けていた。
 文明は少しずつ進み、やがて宇宙へと進出を始めた。
 この頃、地球に子供を残した宇宙人の一族が再びやってきて、自分たちの血縁者を探した。
 血縁者はあらゆる場所に見られた。血縁でない者の方が少ないくらいだった。
 宇宙人たちは考え、地球に手出しをしないことにした。超常の力が地球人を幸福にするとは
限らないと思ったのだ。
 彼らは力をもてあましていた。宇宙人達の間では、社会不適合者による大規模な事故が
絶えず起きていた。

 その後すぐ、宇宙人たちは自らの力を用い大戦を始め、殺しあって滅んだ。
 地球人は長く栄えたが、ついに太陽系を脱出できないまま太陽の寿命と共に滅んだ。
 宇宙人達の遺物は銀河じゅうに散らばっているが、地球人の遺物は何一つ残っていない。
61夢見る名無しさん:04/01/24 01:36
応援。
62夢見る名無しさん:04/01/24 15:17
俺はこの大地に根を張って生きる事に決めた 。雨の日も
風の日も必死にがんばった。どんどん俺の周りの仲間達
は挫折していくのをこの目で見てきた。 それはそれは気
の遠くなるような月日をこの地で生きた。 しかし、それも
終わる時が来た。ある日、みんなで俺の脚もとをすくった。
切られた。俺の人生は終わりだ。みなで俺の皮を剥ぎお天
道様のもとにさらさられさらし者にされた。  屈辱だった。
その後、俺は何年も干された。仕事も与えられず、その辺
に放り出された。そんなある日、ひとりの大工が俺を訪ねて
来た。俺は何年ぶりで人間を見たのだろうか喜びで涙が頬を
伝うのが分かった。大工は俺にいっしょに来ないかと言った。
俺は頷いた。

工事は何年にもわたり続いた。俺はまた新たな大地に根を
張る事が出来た。 1400年、風雪に耐え偲び年輪を刻んだ
この体。   さあ、立つぞ、そりゃ。俺は立ち上がった。
法隆寺の五重塔を支える芯柱として。今は平成十六年……

長い時間が経った…… あの大工の顔が見えなくなって1400年か……
63夢見る名無しさん:04/01/27 22:09
ワタシも応援。
64夢見る名無しさん:04/01/31 15:19
1)
時は西暦2104年

『超能力は存在するか』僕は番組表片手に「おっ!面白そうじゃん」
思わず声に出してしまった。
「なにが?」「いや、これさ」と僕は隣でポテトチップスをつまんで口に運んでいる
サトミに番組表のページを見せた。「ふーん、昔の人ってさーなんかそういう力持って
たんじゃない神秘的だよね」僕の部屋の窓から西日が差しサトミの横顔をみかん色に
染める。「そろそろ、帰るね」そう言いサトミは立ち上がった。

僕は夜の7時がくるのを心待ちにしていた。腕時計の小さい画面にサトミの顔が
映っている。 「あと5分だね」
どうやらサトミも自宅で番組を見るらしく、わざわざ僕に電話をしてきた。
「うん、僕は全て用事を済ませたしテーブルの上にホテトチップスとジーュスを
置いたところ」
「準備いいね、あっそろそろ時間だよ じゃ切るね」プッープッー
まったく自分勝手な奴だと僕は苦笑した。まったく腹がたたない。
なぜなら、僕の性格と似ているから。
65夢見る名無しさん:04/01/31 15:21
2)
『超能力は存在するか』画面にタイトルが浮かぶ。
番組の前半は百年前はサトラレという特殊な能力を持っている人がいただのイタコが
どうたらとかこういう特集でありきたりな展開だった。しかし、後半に入り
僕は画面から目が離せなくなってしまった。それくらい衝撃を受けた。

現代では理解出来ない能力を百年前の人達は持っていたのか?
それを当たり前のように使っていたのか? 画面の中の司会者は言う
「昔の人達はなんとなくあの人嫌いとか好きとか分かったらしいですね」
「いまでも、一万人にひとり位、潜在能力としてそういう能力を持っている人が
いるらしいですが自分では気づかないらしいですよ」「人間は退化したの...
それを第六感と...」 
僕は思わず画面に向かい声を出して「1+1=2だろ」それ以外考えられない。
66夢見る名無しさん:04/01/31 15:23
3)
僕は思った、なんで話もした事もない人、ただ近くにいるだけで嫌悪感が伝わるのだ?
それじゃまるでテレパーシーじゃないか。そんな能力を百年前の人達は持っていたのか?
まるで神話の世界だ。まったく笑ってしまう信じられない。
いや、待てよそれが事実だとしたら神話の時代に生きていた人々は僕達よりも
『神』という
存在そのものをまるで空気を吸うように感じていたのか……
「まさか、僕達は嫌悪感を教科書で習って知っている」と声に出して言ってみた。

僕達は生まれてすぐにDNAを徹底的に調べられる。これは国民の義務だ。
そして、結果に従い気の合う者同士に分けられる。
決して気の合わない者とは生活しないシステム。喧嘩がない。争いがない。
僕もクラスメートのサトミとは一度も喧嘩をしたことがない。
10個パックの卵はみんな同じ大きさ。
僕達よりも大きいLサイズがあるのか?Sサイズもあるのか?
僕達はどのサイズなのだろう。わからない「比べようがないのだから……」
67夢見る名無しさん:04/02/02 16:55
 夫を殺したい女がいた。
 殺人の動機は定かでなかったが、幾つかの目算は立てていた。
 まず、相当額の保険金が入るはずだ。贅沢はできなくとも、一生働かずに暮らしていける。
 自分は小説とテレビさえあれば美容室とスーパーと自宅だけで暮らしていける女だ。
 けだるさの中で老いていくのも悪くないのではないか。
 殺人が発覚しない自信もある。食べ物に少しずつ毒を盛るのだ。
 夫はもともと丈夫な性質ではないし、残業も多い。
 自然死に見せかけられるはずだ。

 夫を憎んではいないが、愛しているのかどうかはわからない。
 愛情を感じこそするものの、自分で自分の愛情が本物かどうかわからないのだ。
 この愛は、この夫だけに向けられる愛情なのだろうか。
 自分は自動的に誰かを愛するようにできていて、たまたま目の前にいるだけの人物を愛しているだけなのではないか。
 そのような気がしてならないのである。

 しかし殺人は実行されなかった。
 具体的な計画まで立てたのだが、なんとなく気後れしているうちに子供ができてしまったのだ。
 子供が成長するたび、そろそろ夫を殺そうかと思うのだが、将来において子供の学費がどれだけかかるのかがわからない。
 まごまごとするうちに子供は成人し、女と夫は中年となった。
 中年になってみると、なおのこと殺人を延期しなければならなかった。
 あと十年もすれば夫が退職金を満額で手に入れるのだ。それから殺すべきだ。
68夢見る名無しさん:04/02/02 16:57

 女の夫が退職し、女がいよいよ計画を実行に移そうと思った矢先、また事情が変わった。
 夫が倒れたのである。腎臓の病で入院することになった。
 こうなってしまうと、また計画を延期せざるをえない。
 殺人のリスクを冒さなくても夫は病死するかもしれないのだ。
 しかし、夫はなかなか死なず、入退院を繰り返しながら十年以上闘病した。

 ついに女の夫が死ぬときがきた。
 最後のお別れにと、子供も医者も病室を出ていた。
 女の夫は、もう口を利くことすらできない。
 痩せた顔を女に向けてベットに寝ていた。
 女は、夫にたずねてみた。
「ねえ、あなたも、わたしを殺そうと思ったこと、あるよね?
わたし、結婚した頃から、ずっと死んでもらおうかしらと思っていたのだけれど、
とうとう時期を逃し続けたままになってしまったわ」
 夫の顔に驚愕の表情が浮かんだ。
 女は、「しまった」、と思った。どうやらこの男は本気で私を愛していたらしい。
 女は夫は何かを訴えようと必死に手を伸ばしてくる。
 女は夫の手を払いのけ、病室のドアを少し開け、目頭を押さえながら医師達に、
「最後まで二人で居させてください」
 と、告げた。
 まもなく女の夫は死んだ。
69夢見る名無しさん:04/02/06 10:13
「ふっー」今日の接待は疲れた。終電車の暖房の効いたシートが俺を眠りに誘う。
車内には点々と俺と同じような酔客がだらしなくネクタイをゆるめ一時の幸せを
寝息に変えている。 俺も吸い込まれるように目を閉じ夢の世界に入る。

「太一、バイク貸してくれ」と俺はメガネを掛けた秀才顔に頼んだ。「うーん
いいけど事故んないでね」太一は渋々と俺にキーを手渡た。「おう!」俺は答え
キーさえ貰えばこっちのもんだと心の中であかんべーをしていた。「そんじゃあ
三十分くらい走ってくらい」とプレハブ部屋のドアノブに手をかけた時、俺の背後
で「わたしも行くー」優香の声が聞こえた。
「50cc の原付バイクは二人乗り出来ません〜 残念でした〜」俺は優香に言った。
「大丈夫だよ、こんな朝早く警察なんていないよ、お願い」
俺は考える素振りをした。「う〜ん そだな そんじゃー その辺一周だけだぞ」
部屋のみんなは画面に釘付け。「あんっ うふんっ」エロビデオから流れる声が
色っぽい。僕達はそっーと部屋を抜け出した。

俺が十七歳の時だった。その頃、俺はファミレスでバイトをしていて、土曜の夜とも
なるとみんなで集まり酒を飲んだ。深夜から朝方までバカ騒ぎをするのが常だった。
バイト仲間の家に男五人、女五人集まっていた。そいつの勉強部屋は母屋とは別棟で
プレハブ造りの八畳に十人も入ると部屋はいっぱいになり足の踏み場も無い。ベット
の縁に腰掛ける者、フローリングの床に座り込む者。床の中央につまみが置かれ、
めいめいが好き勝手に飲んでいた。それぞれ通っている学校は違うがみんな同い年と
いう事もあり連帯感というかバイト仲間以上の感情があった。友達とも違う。
学校とは違う自分を出せる仲間そんな感じだった。
70夢見る名無しさん:04/02/06 10:14
夏の早朝、田んぼなかの一本道、アスファルトの道端に生える草に朝露が付き光で
キラキラしている。
澄んだ空気をヘルメット無しの髪に受け俺は「優香よくつかまってろよ」と大声で優香
の耳に届くよう言う「うん」優香の両腕が俺の腹をぎゅっと締め付ける。
肋骨の下、ちょうど胃の辺りだ。俺の右肩に彼女の口もとがある。
背中にやわらかい胸の感触が伝わる。と同時に俺の下半身に血が集まるのが分かった。
タイヤが地面の段差を拾う度、俺の背中はマシュマロの感触を拾う。

ゆるいカーブ、体重を僅かに右に寄せる。カーブの出口に向かい少しアクセルを開き
加速した。振り落とされまいと優香の指に力が入る。無事、カーブを抜けた。
だんだんと優香の両手が僕の下腹、ベルト位置より下にまでさがってきていた。
優香の指が触れたのが分かった。 あれっ というように指の動きが止まった。
俺は無言で左手をハンドルから離し優香の両腕の位置をベルトの上に直した。
71夢見る名無しさん:04/02/06 10:17
しばらくすると、また、優香の両腕が俺の下半身を攻める。今度はあきらかに意志を
持って探るように。いかん! その日、俺は薄いスラックスを穿いていた。
その下はボクサータイプの下着だ。俺の暴れん坊将軍はすでに優香の指によって
発見されていた。それだけならまだしも、指は頭の位置を確認するがごとくスラックス
の上を這う。まるで身長を測っているかのように、優香の悪戯な指が頭から根元のほう
に滑る。そしてまた頭のほうに戻り将軍の姿形を指の先で確認するように……
俺は再度、優香の腕をとり位置を直す。俺と優香の無言の攻防がバイクのシート上で
続いた。

前方から地響きを立て大型ダンプがこちらに向かって来る。優香は俺の肩ごしで
なにか言った「あのさー…… ホテ……」 ちょうど、ダンプとすれ違う時だった。
ガーーーッーーーゴッーーーツ 「んっ……何、聞こえん……」


「……北千住…… お降りの際は…… 」
俺はハッと目が覚めた。「はぁーー 夢か」 暖房の効いた終電車のシート。
隣に座ったおじさんの手のひらが俺の太ももに置いてあった。
こんなに空席がある車内なのに、と酔った頭で考えた。
答えが出るのにさほど時間は掛からなかった。
72夢見る名無しさん:04/02/10 08:58
ほぜんあげ
     n,,,,,,n
  ミミミヾミ゙::::・::::::・ヽ
   ミミヾ/ゝ;;;;;;●;;)
   ミミヾ|::( ´ー`) <糞スレずさーーーーw
((((((⊂ミミミl|::(つ;;;;;;;;ミ つ
74^0^:04/02/12 18:17
わーい
75夢見る名無しさん:04/02/13 01:00
続きは〜?
76Venus ◆7hiuevN38c :04/02/13 01:31
続きを期待してカキコ★
77夢見る名無しさん:04/02/13 13:43
まだかー?
78夢見る名無しさん:04/02/14 01:52
 男は壷の中身をのぞいたことがなかった。
 壷は、男の書斎の棚の上にずっと前から置かれていた。
 父から譲り受けた書斎である。壷は父の代からそこに置かれていたのだ。
 男は、ある日ふと、壷の中身を見たことがないことに気がついた。
 そう思ってみてみると、何か得体の知れない雰囲気のある壷だった。
 この国の品ではない。東洋の品に見えるが、中東かもしれない。
 胴体は丸く大きいが、首から口にかけては細く真っ直ぐになっている。
 いかにも何かが隠されていそうな、そのような壷なのだった。
 男は、壷の中身を確かめなかった。
 壷には十中八九、いや九割九分、何も入っていないのだ。
 つまり、のぞいてしまえば、壷はただの壷になる。だが、のぞかずにいる限り、
男にとって壷はミステリアスな魔法の壷なのだ。

 時が流れ、老齢となった男は手術のために入院することになった。
 もう連れ合いも亡くしている。
 子供たちは一時の入院だというが、実際のところはわからない。
 自分の寿命は、きっと尽きかけているに違いない、と、男は思っていた。
 入院の前日、書斎で権利書などを整理していた男は、ふっと壷のことを思い出した。
 一瞬だけ中身を見ようかとも思ったが、止めた。
 見ようと思う気持ちを打ち消すことに慣れていた。見たい気持ちはあるのだが、
実際に見る気にはまるでならない。
 それよりも男が考えたのは、壷の中に何かを入れておこうか、ということであった。
 自分ではない誰かが、壷の中身を探るかもしれない。
 その誰かのために、壷に何か気の利いたものを入れておいてはどうだろう。
 そして、入れるとしたら、何を入れるべきだろうか。
 男は長く考えた。
 考えているうちに、壷に何かを入れることから思考が離れていった。
 男は、壷の中に入っているものが何であったのか、やっとわかった気がした。
 そしてもうすぐ、自分にとって壷の中身は空になるのだ。
 だからといって、他の人間にとっても空になるわけではない。
 男は壷に軽く頭を下げ、書類の整理に戻った。
79夢見る名無しさん:04/02/18 00:16
移転保守。
80夢見る名無しさん:04/02/28 00:11
ほぜん。
81夢見る名無しさん:04/02/29 02:07
保守w
82さじ加減 ◆pu.doraleg :04/02/29 06:32
今全部読んだ
面白い
83夢見る名無しさん:04/03/01 13:45
次っ
84夢見る名無しさん:04/03/01 13:49
ずびびびびびびびび
「あっ ちーかま君のカマボコがぁ!」
ヒロシ少年の悲痛な叫びとともに、
ちーかま君のカマボコ部分は黒焦げになった。
「うへへへへ ちーかま君め!次はそのチーズをドロドロにしてやるハンダー」
そう言うと、怪人ハンダゴテーはちーかま君のチーズ部分にねらいをつけた。
チーズコアは、ちーかま君の中枢神経がもっとも集中している部分でもある。
ここをやられるわけにはいかない。
「へへっ…ちーかま魂みせてやんぜ〜」
ちーかま君は宙に舞うとそのままヒロシ少年の口に飛び込んだ。
「ちーかま君、ホロ苦い貴方の味…忘れません」
少年は涙を拭き、彼を噛みしめた。

85夢見る名無しさん:04/03/01 13:50
次っ
86夢見る名無しさん:04/03/02 13:03
究極の遊びってなにか知ってるか? カチッ カチッ と剪定バサミを鳴らしながら、
時田は鼻の下にあるちょぼ髭に手をやり僕に質問した。
「究極の遊びねぇ……」僕は縁側に腰掛け緑の葉をつけた松の鉢を眺めながら、
「まさか盆栽なんて言うんじゃないだろ」
春の暖かい日差しを浴び松の枝が生き生きと空を押し上げていた。
「これは、仕事さ」時田はそう言い、松の葉を爪楊枝にみたて口にくわえて僕にみせた。
「松の葉は体に良いのだよ、ちょっと癖のある味だがね」
「男性機能に効果抜群、俺が小学生の頃、じいさんに戦時中の話をよく聞かされた
もんだ」「戦争末期、松根油と言ってな松の根っこから樹脂油を一斗樽に取って
集める、それを精製してその油で飛行機を飛ばしたんだそうだ」
「じいさんはその一斗樽に指をちょいと入れてな二口、三口舐めるんだ」
「そうするとその夜は凄いらしいぞ、身体が熱くなるらしい」「まあ、その松根油で俺の
親父が生まれたんかもしれんな」「当時、小学生の俺にはその辺の話はよく分からん
かったが飛行機のくだりが面白くて何度もせがんで聞かせてもらったもんだ」
 カチッ カチッ と時田の手は話ながらも休める事なく動いている。
時田の作る盆栽は一部のマニアに人気があるらしく月に一つ二つ鉢が売られていく。
「ところで何の話してたんだっけ?」 「そうだ、そうだ、究極の遊びだな」
「究極の遊びねぇ……」 僕はさっきと同じセリフを呟いた。リズミカルに聞こえていた
ハサミの音が止まり 「あっ」 優雅な枝振りのひとつがポロリと落ちた。
時田の泣きそうな顔を見た瞬間、答えが自然と閃いた。
「究極の遊びは“人を笑わす”事だな」
僕はチャップリンの白黒映画を思い浮かべながらニヤニヤと時田の顔を眺めた。
「三十万円の一発ギャグだぜ」笑いながら時田はそう言った。
これだから友達はやめられない。 
87夢見る名無しさん:04/03/05 22:47
ここ面白いね
88夢見る名無しさん:04/03/13 22:45
 ある富豪がいて、テレビが好きだった。
 資産があり、働かなくとも使い切れないほどの入金がある。
 富豪は、一日中テレビを楽しんで過ごしていた。

 しかし、富豪は飽きやすい性格でもあった。
 子供向けの番組から、女性向けの番組、老人向けの番組、はてはあらゆるスポーツの
番組を見、それら全てに飽き、ついには見る番組が無くなってしまった。
 富豪は悲しみ、この事態を自分の資金力で解決できないものかと思った。
 そこで、富豪は自分が影響力を持つ全ての会社や団体に命令した。
「いくら見ても飽きない番組を作れ」

 富豪の援助を受けている研究機関があり、変わり者の博士が所長だった。
 博士は考えた。
「番組に飽きないためには、番組を忘れることだ」
 人間は全ての情報を記憶するわけではない。知覚したとしても、すぐに忘れて
しまう情報がある。博士はそこに目をつけた。
 博士はまず、体質診断と称し、富豪を入院させた。
 番組作りに必要な検査だと説得したのだ。
 そして、寝ている富豪に麻酔を打ち、脳に小さな機械装置を埋め込んでしまった。
 この装置が作動すると、知覚した物事が記憶されなくなるのである。
89夢見る名無しさん:04/03/13 22:47

 数日後、博士は一本のテープを持って富豪の邸宅に現れた。
 テープには仕掛けがあった。テープが回ると電波が発せられ、富豪の脳内の装置が起動するのだ。
 テープの中身は三十秒ほどのショートコント。これが繰り返し吹き込まれている。
 常人なら数分で退屈してしまう代物だ。
 はたして、テープが回り始めると、富豪がクスリと笑った。なかなか面白いコントだったのだ。
 そして、オチの所に来る度にクスリと笑う。富豪は定期的に笑い続けるのだった。
 博士はにまりと笑った。
 富豪はクスクスと笑いながら言った。
「博士、どういう仕掛けなのかはわからんが、実にすばらしい!
 たいしたものだ。何故だかわからんが、いくら見ても飽きんよ」
「ご満足いただけたようでなによりです」
「いやまったく、これは良い番組だ。こう、なんというか……、
 説明できない、なんともつかみどころのない番組だが、面白い。
 ようし、君のところの研究所にはボーナスを出そう。援助も増額するよ」
「ありがとうございます。富豪」

 しかし、問題が起こった。
 いつまでたっても、ボーナスも援助の増額も行われないのである。
 不審に思った博士は、再び富豪の邸宅を訪問した。
 富豪は、まったく同じ姿勢、同じ表情でコントを見ていた。
 酒も、つまみも、前に訪れた時と同じ種類だ。
 博士は嫌な予感がした。
 富豪が言った。
「博士、どういう仕掛けなのかはわからんが、実にすばらしい!
 たいしたものだ。何故だかわからんが、いくら見ても飽きんよ」
 飽きないだろう。記憶されないのだから当然だ。
 博士の誤算は、装置が作動中に起こった全てのできごとを富豪が忘れてしまうことだった。
 富豪は博士に熱っぽい口調で語った。
「いやまったく、これは良い番組だ。こう、なんというか……、
 説明できない、なんともつかみどころのない番組だが、面白い。
 ようし、君のところの研究所にはボーナスを出そう。援助も増額するよ」
90夢見る名無しさん:04/03/16 01:19
「ねぇ、私、あなたを殺したいの」
「はぁ?」
「私ね、もう耐えられないの。独りじゃさみしすぎるの。電話も、メールも、
ネットでも話できなくて、会えるのは月に一度で。私はずっと一緒にいたいの。
一緒がいいの。これはワガママなんかじゃなくて当然の望みだと思うの。」

「だから、あなたを殺すことに決めたの。」
「前に何かの本で読んだの。あなたは本が嫌いだから知らないと思うけれど。
人はね、死ぬと分子になって散らばっちゃうの。体が、意識が、ぜんぶ小さい
モノになって散らばるの。そして友達や家族、恋人にくっついて、一緒に暮らし
ていくのよ。」
「ね、一つになるの。一緒になるの。とても素敵でしょ?いつでも一緒にいられ
るのよ。さみしくなくなるわ。」

笑顔のまま彼女は持っていたナイフを男に突き刺し、えぐった。
男を抱えながら彼女はいつまでも悦楽に浸り、そのまま共に朝を迎えた。
91夢見る名無しさん:04/03/19 03:46
こんな話、誰も信じてくれない。死んだ人間からの電話なんて。

「もしもし、今から逢えないかな?」時間は夜の七時を少しまわっていたと思う。
携帯電話の向こうから流れる、彼の甘い声に誘われた。
「すぐに往くから」私は何も持たずに家を飛び出す。
戸締りも、もどかしくポケットの鍵を探る。自転車を走らす足先は冷え、息は
あがる。彼に逢いたい。
今日という一日が終わる刻をいっしょに居られたら明日なんかいらない。

「はぁはぁはぁ」私は荒い息を整え彼の部屋の前に立つ。電気が点いてない。
トントン、暗い部屋からは返事もなく。なぜか、不安と嫌な予感が頭をかすめた。
携帯の呼び出し音は虚しく、アパートの階段に反響しているばかり。
その後、彼の母親からの電話で彼の事故死を知らされた。七時十分に亡く
なったそうだ。私の携帯の着信履歴と同時刻。私が病院に駆けつけた時に
は、酸素マスクは外され、彼はベットの上で眠っているようだった。

二日後、私は斎場の空を見上げていた。雲海に浮かぶ白い切れ端に彼の顔を
重ねる。「人は楽しい思い出だけを回想すれば生きていけるよ……」
蒼い空に彼の声が聞こえたような気がした。
92夢見る名無しさん:04/03/21 22:43
泣けたよ。。。
93夢見る名無しさん:04/03/28 01:37
大切にしたいね。
94夢見る名無しさん:04/03/31 03:43
まだかー?
95夢見る名無しさん:04/04/02 02:53
 あるストーブがあった。
 このストーブは、ある一人暮らしの男の持ち物だった。
 男は大変に貧乏だった。働く気が無かったのだ。
 食料費と、アパートの家賃だけをを稼ぎ、夏は裸、冬はストーブで過ごしていた。
 食料と言っても、パンの耳かドライフードがせいぜいだった。

 ある冬の日、ストーブの調子が悪くなった。
 そのままにしておいた所、ついに点かなくなってしまった。
 古い型の石油ストーブであり、着火のスパークが弱くなってしまったのだ。
 男にとっては一大事である。
 なにせ、男の部屋は窓が壊れているのだ。割れた窓を直す金がないため、
新聞紙とテープで補修してあるだけなのだ。
 夜に寝ると、布団を使っても凍えてしまうため、男は夜をストーブで乗り切り、
昼に仮眠を取って過ごしていたのである。

 弱った男は、コンビニエンスストアへマッチを買いに出た。
 しかし、ストアにはマッチが置いてなかった。ライターしか無いと言うのである。
 ライターでは火を下に向けられないから役に立たない。
 男はどうにも弱って、街をさ迷い歩いた。
 薄手のジャンパー姿だった。
 どの店も閉まっている。
 だんだん意識が朦朧とし、気力が失われていく中で、男は不思議な人影を見た。
 アーケード街の辻に一人の少女が居て、小さな明かりを灯しているのだ。
 あれはマッチの火に違いない。
 とすると、あれがマッチ売りの少女というやつか。
 そんな馬鹿な。あれは童話だろう。
 俺は夢でも見ているのだろうか。
 とすると、俺は幻覚を見るくらいまで弱っているのだろうか。凍死するのだろうか。
 男はふらふらと少女に近づいていった。
96夢見る名無しさん:04/04/02 02:55

「お嬢ちゃん、マッチを売って欲しいのだけど……」
 少女はびくりとし、男の方を見た。
 少女の口には火のついたタバコがある。
 よく見れば、マッチは仏壇用の徳用マッチだ。
 少女は、家を抜け出してタバコを吸っていたのである。
 なんという不良少女だ。きっとタバコは父親の買い置きだ。母親の買い置きかもしれない。
 まだ小学生だろうに。
「おじさん、何?」
「……ああ、ごめん。実はマッチを探してたんだけど、コンビニに無くて」
「タバコ? わたしのあげようか?」
「いや、俺は吸わないんだ。実は、ストーブの調子が悪くてさ」
「ストーブって、マッチで点けられるの?」
「え? ……ああ、古いのは点くんだよ。今の温風のやつは点かないと思う。
いや、点くかな。開けてみないとわからないな。とにかく、俺の家のはマッチで
点けられるんだ。だから、君のマッチを分けて欲しい。お金なら払うよ」
「でも、家のマッチだし……」
「困ったな」
「ねえ、おじさん。それって、チャッカマンじゃ駄目なの?」
「なんだいそれ」
「キャンプとかで使うじゃない、チャッカマン。カチカチってやるやつ」
「さあ、キャンプなんて何十年も行ってないから。チャッカマン? それは
火をつける道具なの?」
「そうだよ。最近はマッチなんて使わないよ。花火とかでも使うじゃない。知らないの?
きっとコンビニでも売ってるよ」
97夢見る名無しさん:04/04/02 02:56

 男は、少女に付き添ってもらってコンビニへ行き、チャッカマンを購入した。
 十五センチほどの管の先からガスの炎を出す道具で、確かに下方に差し込んで火をつけることができる。
 むしろ上を向けて火を出すことができない。ガスが下へと降りるからだ。
 男は少女に礼を言い、ついでに、チャッカマンはガッチャマンをもじっているのか、と聞いてみた。
 少女はガッチャマンを知らなかった。
 男は逃げるように家へと帰り、ストーブに火をつけた。
 まじめに働こう、と思うのだった。
98夢見る名無しさん:04/04/05 13:53
吾輩は猫だワン!
99夢見る名無しさん:04/04/09 00:10
ふむふむ。
100夢見る名無しさん:04/04/09 02:55
age
101|ω・):04/04/18 13:20
ほっしゅ〜
102夢見る名無しさん:04/04/21 01:50
ライターさん忙しいのかな。。。
103夢見る名無しさん:04/04/22 01:01
 遥か昔、あの密林の奥深く、我らの祖先が誰も知らない謎の文明を築いたそうじゃ。
 え? なんじゃと? いや、その疑問はごもっともじゃな。
誰も知らないのに何故こうして話が伝わったのか、実はわしもよく知らないが、
そういう伝承なのだから仕方が無いじゃろう。
 とにかく、信じないというなら君たちのお好きなようにするがよかろう。

 で、謎の文明は太陽を神と崇め天文の知識にも詳しく、日食と月食だけじゃなく、
天高く伸びた巨大な石塔を築いて、惑星の動きを正確に記録していたそうじゃ。
 これが信じがたいことに、およその人が注意深く肉眼で追える土星までじゃなく、
なんと望遠鏡の類も無いのに天王星や海王星を知り、軌道まで把握していたそうじゃ。
 え? なんじゃと? いや、その疑問はごもっともじゃな。
この話はここでかなり胡散臭いが、そういう伝承なのだから仕方が無いじゃろう。

 ところがそういう高度を文明を持ちながら、或いはそれ故か、人々は邪心を抱かず、
唯一神の太陽に感謝しつつ、ずっと平和に仲良く暮らしていたという事じゃ。
木々と石を加工して作った家には鍵すらつけず、整然としたモラルがあったそうじゃ。
 しかしとうとうその中で悪い心を持つ者が現れ、無防備な人々からあらゆる物を奪い、
その風習が根付き、疑心暗鬼から互いに略奪と争いを始め、ついに殺生まで行ったのじゃ。
 え? なんじゃと? そうじゃ、その通りじゃよ。
誰も知らない謎の文明は、その繁栄が嘘のような醜い争いの果てに、最後に勝った男を残し、
子孫を残すべき相手まで殺めた事で、我らの祖先がこの地上から消え去ったのじゃ。

 え? なんじゃと? いや、その疑問はごもっともじゃな。
地上から消え去ったのに何故に今我らが栄えているのか、実は謎の文明以上に謎なのじゃ。
そんな目でわしを睨んでも、そういう伝承なのだから仕方が無いじゃろう。

 とにかく、信じないというなら君たちのお好きなようにするがよかろう。
密林から今も天高く突き出した石塔の残骸を上手く説明出来るのならば、じゃが・・・。
104夢見る名無しさん:04/04/26 11:21
「この電卓、キーボードがついてますね。電子辞書ですか?」
「いや、AIつき電卓なのだ。文字で入力すれば何でも計算する」
「本当ですか?」
「無論だとも。『ゴジュウキュウヒクサンジュニハ?』……みたまえ」
「なるほど、『27』と出ています」
「なんでも計算できるぞ。君の名前は?」
「Yです」
「よし、『Y君の余命は?』」
「やめてくださいよ」
「出た。『2年』だそうだ」
「本当ですか? あ、本当だ」
「ご愁傷様」
「2年は酷いなあ。でも仕方ないか」
「そうだな。我々はロボットで、この世界の全ては中央コンピューターに
管理されているからな」
「だからこそ、このような計算も可能なのですね。未来は全て計算済み。
便利な世の中です」
「まったくだ」
「我々を作り、自分たちが太陽の寿命と共に滅びると知って宇宙へ脱出した人類が
生き延びている可能性を計算してみたらどうでしょう?」
「計算する必要はないさ。生き延びられる可能性が0%と計算されていたにもかかわらず
人類は出発した。生き延びている可能性は今も変わらず0%だし、実際に全滅しているだろう」
「そうですね。まったく便利な世の中です」
105夢見る名無しさん:04/04/29 00:10
ふむ。
106 ◆2w0aB2S7AI :04/05/03 01:34
Leave me alone.
      ||
    n,,,,,,n
ミミミヾミ゙::::・::::::・ヽ
 ミミヾ/ゝ;;;;;;●;;)
  ミミヾ|::( ´ー`)ノ < 長文うぜーw
     ∪;;;;ミ
     ∪∪
108夢見る名無しさん:04/05/06 23:25
「出来た! とうとう最高の発明、自分の分身が出来た!」
「おめでとうございます、博士! まさに完璧ですね!」
「これでもう力不足の助手の君を我慢して使う事もない! 実に嬉しい!!」
「はぁ。(発明を奪えばもう傲慢な博士に我慢して仕える事もない! 実に嬉しい!!)」

 翌日、研究所で博士と助手が互いに刺し合って事切れているのを掃除婦が発見した。
博士は疑心暗鬼なタイプで、滅多な事では論文の類は一切残さない性格だったので、
出来たばかりの発明はこのまま消え去るかと思ったら、さにあらず。
実は博士の分身と助手の分身が世を忍びつつお互いをずっと狙っているのだ。

 但し、このような事情なのでどちらが生き続けても永久に公表される事はないだろう。
109夢見る名無しさん:04/05/10 08:25
保守
110中2のM氏:04/05/10 15:45
                   
私の妻は情報通だ。近所のことはだいたい知っている。今日も私にこう話した。
「ねぇ、向かいの田中さんの家って、家族みんなでお風呂に入っているのよ。もうお子さんも大きいのにねぇ。」
「ほぅ。」
「それから・・ほら、角の斉藤さん。あそこの御主人ったらね・・ふふふ。」
「ん?どうしたんだ。」
「会社で・・ふふ・・ズボンのお尻が破れちゃったのよぉ!!」
妻は笑った。私も吹き出した。あの斉藤さんがねぇ・・。
あれ??いつの間に斉藤さんちの奥さんと仲良くなったんだ??不思議に思い妻にたずねた。
「なぁ、お前その話どこで聞いたんだ??」
「え?聞いてなんかいないわよ。」
「じゃあどうして・・・。」
妻は急に立ち上がり押入の戸をガラッと開けた。
「あっ!!」
私は声をあげた。そこには、ズラリとモニターが並び、近所の人たちの生活を映し出していた。






どうでしょうか。ショートショートは他にも何作か書いてますヨ。
111夢見る名無しさん:04/05/10 16:33
ある実験の話。
どっかの偉い教授さんがおかしな仮説をうちたてた。
「ヒトは違いがあるから互いにいがみ合う」、
だから「みんな全く同じならいがみあわないんじゃなかろうか」と。
まあ当時はそんな条件作り出せるわけもないし、学会の笑いものになったわけです。

それから数十年が経って、さる富豪からこの仮説の実験依頼が来たんですよ。
条件は自分の娘の複製でやれってこと。難病だったんですな。
その時代になったらヒトの記憶のメカニズムとかも大抵は解明されていたし。
昔どっかの精神科医がやった「頭に電極を突き刺すと、その人が過去に体験したことが
目の前にありありと映し出される」、それの応用でコピーに記憶をまあ言ってみれば「転送」したわけですわ。

実験用具というのも何だかアレだけど、とにかく材料そろっていざご対面。
凄かったね。
顔とかこんな顔できるんか言うくらいにゆがんで。
仮説とは全く逆の結果になって。互い同士を「消そうと」したんですわ。まあ教授さんも考えればわかるだろうに。
112夢見る名無しさん:04/05/10 16:40
(都筑、もとい続き)
仕方が無いからいざというときのためにつけてたガスコックひねって始末したんですよ。
数体は研究のために捕獲して検査にまわされたんだけど。うわ凄く非人間的な会話。まあいいや。
実験台も実験代もタダみたいなもんだったし、世間にばれないように気をつけながら研究を続けたわけさ。

その過程で何体か実験台が逃げてね、今本体のいる病院周辺に潜んでるとか。
その娘が入院している大学病院のある大学の経済学部に通学してるのもいるとか。バカだよね〜。
今は研究仲間内の話だからいいけどさ、世間様にばれたらどうするんだろうね。ホント。

あ、柴田先生、面会時間もう終わりですか。そうですか。
薬?…ああ、ちゃんと飲みましたよ。

おしまい
113夢見る名無しさん:04/05/10 16:40
コテはあるが染んでも名のらねぇ
114夢見る名無しさん:04/05/13 01:55
書いている人のコテハンが気になる
115夢見る名無しさん:04/05/15 19:09
ここまで読んだ


いいねぇ
レポートがどうしても書けないのでショートx2。

目が覚めたのは山科みたいだった。まあ正確には覚えていない。
草津で学生やってる友人が院に進学したので、それにかこつけて飲んだ。
高槻くらいなら酔っ払いでも十分帰れるだろう、そう思って駅にいた新快速に乗った。
モーター音がウーハーがかったようになった。京都前のトンネルだろう。少しやな気分になった。

その予感は大体当たった。
京都である娘が乗ってきた。こざっぱりとした服装、このご時世に珍しく真っ黒な髪の毛。
誰がどう見ても学生だ。ここは京都だし。
その姿に見覚えがあるような気がしたが、首を振って目を閉じた。
そんなわけがない。思い上がるな俺。

…暫くしてゆっくり目を開けた。祈りのあとのように。でもその想いは届かなかったようだ。
転換クロスの進行逆向きに彼女は座っていた。俺と向かい合わせだ。
高槻で降りるのはここで諦めた。全く、いい夢見させてくれるぜベイべー。(つづくからなチキショー
「だいぶ酔ってるのね」先に口を開いたのは彼女のほうだった。
昔は憧れの対象だったがいまは「恨」だ。片思いは時に身さえ滅ぼす。俺は黙ってた。
「酔っ払いに話し掛けてもしゃーないか」当然だ。明日になっちゃ覚えちゃいねぇ。
でも口を開いてしまった。「ヨシヒコとは結局どうなってん」
「どないも。」素っ気無く答えた。ムカッと来た。
「お前5年前の11月に『ごめん、私ヨシヒコくん好きやねん』っつーたやん」
夜景は流れ、だんだんその光から人間臭さが消えていった。大阪に近づいてるのだろう。
それにしても、未だにこんなこと引きずってる俺って、すげーヨウチだ。
「ああ、あれはね、」俺は彼女を直視するのは止めて窓の外を見ていた。
営業時間の終わったスーパーの前だけに蛍光灯がズラリ。誰の物でもないあかり。
「私ら予備校生やったやん、それで彼と協力して…」
語を叩き切った。「最初からあいつがよかったんやろ、こんなこと言うの悔しいけど、お前すごい『輝いとった』し」
言い返す間を与えず放った。「で、お前は自分の行きたいとこ行ったんやろ」
もう一発。「楽しかったやろ京都生活」言った後であんまし武器にはなってないなと思った。でも意外と効いたようだ。
彼女は下を向いてしまった。何かを探すように。
(さらに続くんだな)
118 ◆UsaFEl.iBM :04/05/16 00:11
電車はこの時間でも人の豊富な駅で客を吸い取り、カタタンと音を立てて走ってた。たぶん淀川だろう。
横たわる暗黒の両脇の粒、その間に何本かの点線。さっき来た鉄路もたぶんあの中。
「今は何やってるん?」
「俺のやりたいようにやってる。結構回り道したけどまあええかな。」
「そうなん。…」やっぱり素っ気無い。
夢なら夢でもっと気分いいものであって欲しい。展開があることを願った。
先に出た普通を抜かすとか、そんなことには興味のなさそうな加速で発車する新快速。
「ヨシヒコ君はいま東京おるんよ、大学もそこやったからそのまま就職して」
意外な話だった。彼は北山の大学にいて、毎晩彼女を食べ尽くす。そんな夢にうなされた時期もあった。
彼女は続けた。「あのままやったら二人ともだめになると思ってん。そんで高校時代の友達に協力してもらって…」
「それが嶋やったんあ」言い終わらないうちに返した。舌も廻らなくなってきた。
「4月終わるくらいまでずっと予備校に聞いとってん。『吉田君から連絡ありませんか』って」
目を開けても映ってくる。あのころ俺は、二回目の…
「電話番号は変わってたし。もちろんメルアドも。連絡とれへんかって、それで…」
やれやれ、どっかの予備校講師のプロフにありそな安っぽい話だ。
でも俺は彼女を直視できなかった。光の粒が窓の上のほうまでちらばっていた。おそらく神戸近くだろう。(まだかよ
119 ◆UsaFEl.iBM :04/05/16 00:22
「…しばらく『吉田君に悪いことしたな』とおもって」
「なんで?」
「だって家におらんかったやん」
2浪は嫌だったので、派遣で全国の工場を転々としてた。何ヶ月かで職場を離れるので知り合いもできない。
孤独だった。
「…私まだ学生なんよ」
「偉いやん」
「…いや、しばらく行くのがいやになって」
贅沢な、と一瞬思った。後になってこのときの俺を殺したいなと。それくらい鮮明だった。
ひょっとしたら夢ではないのか、これ…
とりあえず、醒めよう。そのとき彼女が席を立った。
窓の外は真っ暗。でもかろうじて城が見えた。
そしてゆっくり言った。「バイバイ」
手を振りかえした。「学生がんばれよ」
(もうちょっと堪忍な)
120 ◆UsaFEl.iBM :04/05/16 00:40
今日は加古川の実家に泊まろう。
瞬間、違和感を感じた。
彼女と一緒に帰ってたとき、彼女も加古川で降りてたはず。
最初はあんまし気に留めなかった。確か山電のほうが近かったはずだ。
でも不安になって次の駅で降りた。もう戻る列車は無かった。
鼓動がだんだん大きくなっていく。
俺は夜の商店街、馬鹿でかい工場、行儀のいい住宅、ガラの悪かった中学校、
大きくも小さくも無い川、ハリボテのような国道沿い、寂れた飲み屋街、
何かに憑かれて全力で走りながらも景色ばかりを記憶していた。
彼女がどこへ行ったのか知らなければいけないと思った。傍から見ればただのストーカーだが本気でそう思った。
でもたどり着けなかった。彼女が俺にたどり着かなかったのと同じように。

結局俺が彼女を次に見たのは地元紙の27面だった。
俺が電車で最後に覚えてた景色を、彼女は逆側から見たのだ。
石垣の上で。彼女にとっての世界の最後に。
新聞はもうひとつの事実も教えてくれた。…彼女がまだ大学二年だったこと。
121 ◆UsaFEl.iBM :04/05/16 00:42
おしまい

とりあえず長すぎたのと安易に登場人物殺したのとが最大のマイナス。
だれも死なない、とりわけ何も起こらない、でも後味悪い。そんな一品を書きたい。
でもそれやってんのが私の大嫌いな某橋田カス蛾子しかおらんのよね…

レポート書いて寝るか。
122夢見る名無しさん:04/05/21 19:53
ふむ。
123夢見る名無しさん:04/05/23 07:36
test
124夢見る名無しさん:04/05/23 09:20
test
125夢見る名無しさん:04/05/23 22:00
 カギを探しているんです、と女の子は言った。
 「カギ?」
 「はい、ご存じないですか?」
 「僕が持っているカギはこれだけだけど…」
 僕は鞄からカギのついたホルダーを取り出す。自宅、バイク、そして事務所のカギ。
 「いいえ、それじゃありません。ズボンのポケットに入っているカギはどうですか?」
 「ズボンのポケット?」
 そんなところにカギなんぞを入れた覚えはない。不審に思いながらもポケットを探ってみると、果たしてそこには小さな金色のカギが入っていた。
 「ああ! それかもしれません!」
 女の子が歓声を上げる。
 「ちょっと試してみてもらえますか!」
 女の子は肩まで伸びた髪を持ち上げながら後ろを向く。真っ白なうなじには、小さな鍵穴らしきものがあった。僕は言われた通りにカギを差し込んでみる。
 
 ガチャリ。
126夢見る名無しさん:04/05/23 22:01
 その手応えと同時にバカッと体が真っ二つに開いた。女の子の、ではない。僕の体が真っ二つになったのだ。
 肋骨が扉のように左右に開かれ、中では心臓が脈打ち、肺が大きくなったり小さくなったりしている。そしてなんだかよくわからない赤い液体がドクドクと体の外に流れ出していた。
 それを見た女の子はにわかに表情を曇らせて呟いた。
 「やっぱり違った…」
 「お、おい! どうなってんだよこれ!?」
 「カギ、返すね」
 女の子は無造作に自分の首からカギを引っこ抜くと、それを僕の足元に放り投げた。
 「なんとかしろよ、これ!」
 「ホント、どこいっちゃったんだろう、あたしのカギ…」
 まるでお構いなしに立ち去ろうとする。
 「待てよ、てめえ!」
 僕はやや乱暴に女の子の肩をつかんで引っ張った。振り向いた女の子は、しかし毅然とした口調で言い放ったのだった。
 「そのカギはあなたのでしょう! カギを開けたのもあなた! あたし知らないわよ!」
 「な…ッ!」
 「死にゃあしないわよう」
 そう言って女の子は僕の胸元に顔を近づける。
 「その格好で生きるのも、案外良かったり…」
 囁きながら僕の心臓をチロりと舐めた。
 ゾクッとした。
127夢見る名無しさん:04/05/29 20:48
hoshu
128夢見る名無しさん:04/06/01 08:20
age
129夢見る名無しさん:04/06/01 13:13
書いたのにー
分割に失敗して消しちゃったー
とほー

前の鯖は、長すぎますからブラウザで戻った時に原文残ったけど、
今の鯖だと残らないみたい。
くそう
130夢見る名無しさん:04/06/02 15:22
 魚と、海底の魔女がいた。
 いきさつがあり、魚は魔女の魔法で陸へ上がることになった。
 魚は喜んだ。人間の世界にあこがれていたのだ。
 人間は手を使い、道具や都市を作って、豊かに暮らしているらしい。
 ムナビレで細工物を作れる人間。なんと素晴らしい。

 しかし、魔女は言った。
「残念だが、お前を完全な人間にすることはできない」
 半分だけしか、人間にできないと言うのだ。
 魚は考えた。
 上半身か、下半身か。
 上半身だけでも人間なら、人間の道具を使うことができる。
 自動で走る鉄かごや、物語を映す木箱が使えるに違いない。
 しかし、魚の下半身では陸を歩けまい。
 人に捕まえられ、見世物にされてしまう。
 台無しだ。
 では上半身が魚か?
 いや、上半身が魚では駄目だ。手が無いと道具を使えない。
 だいたい呼吸ができないだろう。
「魔女様、左半分だけ魚、というのは駄目ですか」
「駄目だね。上下でないと中が繋がらないからね」
「中の問題ですか」
「前後も駄目だよ。上下の分割で、お選び」
 魚は迷った。
 長い間、迷い続けていた。

 その後、都内某所にて、頭は魚、胸と手は人間、腹から腰までが魚、足が人間という、
はなはだケッタイな化け物が目撃された。
 海底の魔女は、ボソリとつぶやいた。
「ぎょにんぎょじん」
 その後、魔女は鬱になった。
131夢見る名無しさん:04/06/04 15:08
 ある日、女は神と話す夢を見た。
 神は言った。
「お前が空を飛べるよう、お前に翼をやろう」
 女は喜んだ。鳥のように空を飛んでみたかったのだ。
 神は続けて言った。
「ただし、飛べるのは必要な時だけだ。必要な時までは今のままだ」
 そこで目が覚めた。

 女は夢を信じた。占いやオカルトが好きだったのだ。
 女は、家の中で飛んでみた。
 しかし飛べなかった。飛べそうな兆候もない。
 人気の無い公園で、ベンチから飛んでみた。
 ピタリと着地しただけだった。(女はスポーツが得意だった)
 この期にいたって、女も「夢は夢だ」と諦めた。

 時が過ぎた。女が通勤に使う駅のホームで事件が起こった。
 ホームでふざけていた小学生が、女の前で線路に落ちたのだ。
 列車が迫っていた。女は線路に飛び降りた。
 女は、見知らぬ子供のために線路に降りるような性格だったのだ。
 線路の間にひざを付いた女は、夢を思い出した。
 飛べるものなら飛びたいと思った。
 しかし、飛べなかった。
 女は小学生を線路わきに投げ、列車に轢かれて死んだ。

 事件から数ヵ月後、小学生は自室で悩んでいた。
 自分の不注意で見知らぬ若い女性を死なせてしまったのだ。
 その時、光が現れ、有翼の天使となった女が現れた。
 女は小学生を元気付け、天へと去った。
132夢見る名無しさん:04/06/04 18:33
 私が本に乗るのが好きだと気がついたのは、高校二年生の夏だった。
 当時、中高一貫の女子高に通っていた私は、落ちこぼれていた。
 小学校の頃、私は優秀だった。
 過去の優秀さを気持ちの逃げ道にし、私は現実から目を背けていた。

 その頃は、広い自室で、学校を休んでテレビを見ていた。
 同じ内容でも飽きなかった。
 部屋の本棚には子供のころ読んだ本が並び、床には古本屋で買った本が積まれていた。
 本棚の本は、読書好きだった子供のころに読んだ本だ。
 ファーブル、シートン、小公女、モモ。子供が読む本なら、なんでもある。
 どの本も、何度も読み返したものだ。
 あのころの勤勉さは、どこへいった?
 床に積んである本は、ほとんど読まれていない。
 頭が良い振りをして買ってきて(しかも、振りをする対象は自分自身だ)、
読まずに挫折したものだ。
 読了した本があるだろうか。
 たぶん無い。まったく手付かずも半分はあるだろう。
 失楽園、菊と刀、古事記、シェイクスピア、ドフトエフスキー。哲学の本も
一通りある。
 そんな本が何百冊も積まれている。
 今から思い返せば、難しすぎる本ばかりだ。中高生らしい本を読むことをプライドが拒否した。
ケチなプライドのせいで、私は落ちこぼれていたのだろう。
 初夏の暑い日の、ウィークデイの昼間、そんな状態の私は、本に乗る楽しさに気がついたのだ。
133夢見る名無しさん:04/06/04 18:34

 本の山の上に腰を下ろしてみると、腰が浮くように感じた。
 本を集めて座って見たら、雲に乗っているようだった。
 ためしにベットに本を敷いて寝てみたら、体のコリがほぐれていく気がした。
 理屈っぽい性格の私は、なぜ気持ちが良いのか、考え込んだ。
 おそらく、何冊もの本が作り出す沈み込みが絶妙なのだ。
 適度なオウトツと、独特の触感。本でしか作り出せない。
 もちろん、私の趣味に合っている、ということが、一番の理由なのだろうが……。

 とにかく、本が私を癒したのだ。物理的に。
 私は、本の上で足を組んで、本を読み始めた。
 本の上で読むと、不思議と読む気が起きた。本の中に取り込まれる気分だった。
 難しい本は、とばし読みした。
 やがて、ほとんどの古本が難しすぎることに気がついた私は、中学の教科書や、
真新しいままの参考書を読み始めた。
 高校三年に上がる時には、私の赤点は消えていた。

 その後の私の人生については、別の話だから書かない。
 ただ、ひとつだけ。今、私が愛用しているクッションの中には、岩波文庫の
シェイクスピアが詰められている。
 これがまた、重いのだ。
134夢見る名無しさん:04/06/05 15:52
 私は、鏡の中の彼である。
 彼には名前があるが、鏡に映った像である私には名前が無い。
 私は彼の像だから、私にとって、彼とは彼だけだ。
 だから私は私であり、私は彼の像だから、私は私ですら無い。

 いつ頃からか、ぼんやりと意識がある。
 彼はいつも、大きな鏡の中の私を見て、服装を直して出かけていく。
 私は、ただ、彼の動きにそって動いている自分を感じる。
 私は私ですらないから、私は彼が動くように動くだけだ。
 今日も明日も無い。
 いつまでも、私は鏡の中の彼であるらしかった。
135夢見る名無しさん:04/06/05 15:53

 ただ、ときどき不思議になる。
 私についてではない。
 私は私、私ですらない私で、私とは、つまらない現象だ。
 おそらく私は、魔法の鏡に映った像か、霊現象か、そのようなものなのだろう。
 確かに不思議な存在だが、不思議であることを除けば、つまらない存在だ。
 無意味な思考者だ。
 今日も明日も、私ですら無い私だ。
 だが、鏡に自分を映している彼、彼は誰だ?
 彼は、生物なのだろう。しかし、私から見れば犬猫と変わらない。
 少し利口なだけの生物。
 いや、生物という分類すら、私にとっては意味が無い。
 私にとって彼は物質だ。家具や景色、風にそよぐ木のようなものだ。
 今は思考しているが、眠れば夢をみるだけだし、いずれは死んで思考を失う。
 死んだら思考を取り戻せない。
 そんな彼とは、誰だ。
 私は、つまらない意識、超常現象に支えられた一時的な思考者だ。
 だが、自然が生み出した、毎日出勤していく、この彼は何者だろう?

 私は彼を可哀想だと思う。
 私は私ですら無いから、気楽なものだが、彼である彼は、悲しい存在なのではなかろうか。
 考えて見たところで、しかたがないのだが。
 私は私、無意味な思考者だ。彼と違って。
136夢見る名無しさん:04/06/10 10:32
hoshu
137夢見る名無しさん:04/06/11 20:55
レベル高けぇ。。。
138夢見る名無しさん:04/06/13 15:31
>>137 恐れず書くべし
139夢見る名無しさん:04/06/13 16:19
 白髪の混じる頭にベレー帽がちょこんと乗っかっている男の指先に
は鉛筆が握られ、筆先が滑るように白いノート上を走る。白亜の殿堂
の外観が走り書きされていた。
 パース画といってこれから建てられる建造物のイメージ図面の一部
であった。
 その刹那、僕はこの世に生を受けた。僕はイメージの精、精霊界で
は、周りからはダメ人間ならぬ、ダメ精霊と烙印を押されいた。
 僕たち、イメージの精は人や動物の頭の中で生まれ、イメージが具現
化し、この世に物体として誕生すれば僕らの役目は終わる。
 そして運が良ければ建物になったり、車として街を走り回ったり、ある
者は世紀の大発明品として人類に貢献する。
 人類に貢献すればするほど、僕たち精霊界での格が上がり最終的に
人間として転生する事が許される。
140夢見る名無しさん:04/06/13 16:20
 しかし、運が悪いと動物の頭の中にあるイメージと波長が合い吸い込
まれるように生まれ出てしまうこともある。こうなると運が悪いというほか
ない。僕たちは人類に貢献するという事が条件なのだ。
 僕は今生、結婚式場の建物のイメージとして生まれてきたらしい。
 前回は競馬場にいる競争馬が宿主だった。宿主の馬は荒い息のなか
厩舎での甘いニンジンをイメージしていた。僕はニンジンとして生ま
れた。僕たちは宿主を選ぶ事は出来ない。
「今回はちょっとましかもしれないな」
 僕は目を瞑る。
 式場のスポットライトに包まれ幸せそうな、幾多のカップルたちが目の前
を過ぎる。
 そんな、イメージを……
 僕は男のベレー帽の上に、ちょこんと座りそんな事を考えていた。
141夢見る名無しさん:04/06/16 00:22
すてきだ
142夢見る名無しさん:04/06/18 13:56
hoshu
143夢見る名無しさん:04/06/20 11:44
すげーよここ
144夢見る名無しさん:04/06/21 14:27
 ある島の話をしよう。
 あなたがネットゲーム経験者なら話がはやいのだが。いわゆる、MMORPG。
キャラクターを持ち、箱庭世界で自由に動くタイプのゲームだ。

 この島では、殺人が許される。いわゆるPK行為(プレイヤーキリング)だ。
 公には存在しない島だ。
 ネットゲームが流行した初期のころからある。殺人小説ブームよりも早い。
 もっとも、殺人が許されるエリア、という発想は使い古されたものだ。
 殺人可能な島、という形態に限るとしても、第二次大戦期に似た場所があったらしい。
 なぜ廃止されたのだろう?
 まあいい。俺の話をしよう。

 俺は、あるプレイヤーに雇われて島にやってきた。
 大規模なギルド(MMORPGでのグループの呼称)が、空港を閉鎖してしまったのだ。
 空港は安全地帯だが、敷地を一歩でも出ればPK可能だ。
 ここに目をつけたPKギルドが、空港をバリケードで囲み、三交代で狙い始めた。
 そこで、俺を含む傭兵団が雇われた。空港の開放が任務だ。
145夢見る名無しさん:04/06/21 14:28

 俺は、安全な位置から戦況を見ている。先陣を切るのは愚かだ。
 ジェラルミンの盾を構えた一団が突撃し、機関銃に撃たれて全滅した。
 愚かな奴らだ。
 そろそろ、俺の出番だろうか?
 俺は、専用ヘリから武器を降ろした。
 空港の外へ向け、武器を前進させる。
 俺の武器は戦車だ。
 機関銃など物ともしない。楽々とバリケードを踏み潰す。
 その時、俺の武器が破壊された。
 敵の誰かがロケット砲を使ったのだ。やってくれる。
 しかし、まだまだ俺の計算の内だ。俺は戦車の自爆スイッチを押した。
 爆音。
 あたり一帯が灰燼と化す。俺の戦車は自動操縦だったのだ。
 双眼鏡で生存者が居ないのを確認すると、俺はルーティングに向かった。
 プレイヤーには、一定額以上の貴金属所持が義務付けられている。
 これを漁る(ルートする)行為は、殺害者の権利だ。
 早くルートしないと、違法ルーターに盗まれてしまう。

 その時、俺は閃光に包まれた。
 辺りの全てが焼かれていく。
 核だ。誰かが核爆弾で島ごと焼き払ったのだ。
 これは反則ではないのか?
 安全地帯である空港が、攻撃に巻き込まれているじゃないか。
 いや、攻撃の余波が安全地帯に及ぶのはOKだっただろうか?
 だいたい、攻撃者は、どうやって生き延びるんだ?
 ルートはどうするんだ?
 もちろん、誰も答えてくれなかった。島は破壊され、プレイヤー達は全滅した。
 最期に、俺は思った。
 だめだこりゃ。
146夢見る名無しさん:04/06/22 04:18
 ある男がいた。いつ死んでも良いと思っていた。
 男は無職だった。
 求職していたが、実らず、ついには日中を公園で過ごすようになっていた。

 都会の公園でベンチにもたれていると、同じ少女を頻繁に見た。
 ある日、男は自嘲気味に、少女を呼び止めた。
「お嬢ちゃん、よく見るね。変質者にさらわれちゃうよ。おじさんみたいな」
 すると少女は、不思議そうに男を見た。
 少女が言うには、少女は天使で、普通の人には見えないと言うのだ。
 男は笑って聞いていた。すると、少女が言った。
「おじさん、死にたい?」
 男は、とまどった。死にたいと言えば、死にたい。しかし、今すぐビルに駆け上がって
飛び降りるほど死にたいわけではない。
 少女が言うには、天使を見れば死ねる、と言うのだ。天使を見た者は死ぬ、と。
 今、見ているじゃないか、と男は聞いた。
 少女は答えて言った。
 天使を見るとは、天使が天使だと理解すること。
 私は天使だけど、今のあなたは私を天使だと思っていない。だから天使を見ていない。
147夢見る名無しさん:04/06/22 04:19

 少女は重ねて聞いた。
「死にたい?」
 男は考えた。そして答えた。
「死にたいな。だけど、天使を見るって、どういうことなんだい」
 その瞬間、男は、少女の背中から広がる翼を見た。
 それぞれが、少女より大きい翼だった。
 少女の目を見た。
 少女は、こちらを見ていた。しかし、男は、見られていないと思った。
 男は、慌てて自分を触った。
 触りながら、手遅れだ、と思った。
 手で触りながら、手遅れとは、馬鹿みたいだ。
 そんなことを思いながら、男は消えた。

 公園は無人だった。
 街も、地表も、無人だった。
 何人かの天使が働いていたが、天使も無人の内だった。
148夢見る名無しさん:04/06/26 02:50
良スレ
149夢見る名無しさん:04/06/27 07:23
age
150夢見る名無しさん:04/06/27 21:55
 本が好きな男がいた。
 資産があり、働かなくとも良い身分。
 家の汚れは気にならず、食事も温めるだけの保存食で満足できる。
 おまけに、気に入った本なら何度でも読める男だった。

 男は長い間をかけ、何度読み返しても飽きない蔵書を完成させた。
 読む順序も考慮し、本棚数台に本を収めた。
 男は幸せだった。
 さらに長い間、男は本棚の本を読み返して過ごした。
 千冊以上の本を、同じ順番で何度も読んだ。

 男は変わらず幸せだったが、幸せ自体に飽きてきた。
「もっと密度の濃い幸せが、この世にはあるのではなかろうか」
 男は考えた。
 男にとって、幸せとは、本を読むことだった。
「ならば、これらの本を一度に読めば、俺は大変に幸せになるのじゃなかろうか?」
 そこで男は、全ての本の好きな部分を抜粋し、タイプしはじめた。
 コンピューターで編集し、まとめる。
 抜粋した部分の面白さを最大限に引き出せるよう、何度も並び替え、時には修正した。
 数ヶ月後、男は原稿をプリントアウトし、糸で束ねて表紙をつけた。
 一抱えほどの大きさの、分厚い本が完成した。
 抜粋集だが、作品としては流れが通っている。
 抜粋した長文で作った詩のような、不思議な作品となった。
 男は、この本を読んだ。
151夢見る名無しさん:04/06/27 21:57
 数日後、男は自殺した。
 遺書には、こうあった。
『自殺者は多くあるが、私ほど幸福な自殺者はいないだろう。私は不幸せで
死ぬのではなく、幸せで死ぬ。おそらく私は、満足によって自殺する初めての人間だ。』
 遺書のそばに、本が残されていた。
 男が、この本に満足して死んだのは明白だった。

 本の噂を聞き、出版を考える者もあったが、著作権の問題で断念した。
 本は国立図書館の倉庫に封印された。
 時々、この本を読んでみる者がいる。
 図書館の関係者や、事情通の知識人などだ。
 読んだ者の感想は、だいたい同じだった。
 満足し、死にたくなるのだ。
 しかし、死ぬ者は出なかった。
 死にたいのだが、まだ何か少し足りない。
 男との人格の違いが、微妙な価値観のズレを生み出すのである。
 その後で、読者達は身震いする。本を少しだけ直せば、自分が死ぬことが分かるからだ。
 直して読んだら幸せに死ねるのだろうが、直していない段階では、やはり死が恐い。
 直そうとする者は、いなかった。

 やがて、本が紛失した。
 誰かが盗み出し、処分してしまったらしい。
 犯人は捕まらず、そのままとなった。
152夢見る名無しさん:04/06/30 23:38
ん、ほしゅっとく
153夢見る名無しさん:04/07/04 09:32
age
154夢見る名無しさん:04/07/09 08:00
age
155夢見る名無しさん:04/07/14 23:11
?
156夢見る名無しさん:04/07/18 00:55
sageで降臨待ち
157夢見る名無しさん:04/07/18 14:44
 家出した犬がいた。
 犬は歩きたかった。鎖無しに歩いて行きたかった。
 辻に出た犬は、どちらへ行ったらいいかわからなかったが、ひとつの道を
選んで歩き始めた。
 四車線の国道だった。犬の横を、車が次々追い越した。

 夜になり、歩きつかれた犬は、座り込んだ。
 犬が考えたのは、どの道を歩けばよかったのか、ということだった。
 どの道も、歩きたい道ではなかった。それでいて、歩きたい気持ちは持っていた。
 夜の国道を、トラックが走って行く。
 歩くという行為と、実在する道。
 その辺りで、犬にはわからなくなった。
 犬は眠った。

 目を覚ますと、抱えあげられていた。
 抱えているのは、飼い主の妻だった。一家の主婦だ。
 主婦は、自転車のカゴに犬を乗せた。
 自転車は、家に向かって走って行く。
 今、歩いているな、と犬はカゴの中で思った。
 犬は、歩いていると思いながら眠った。
 家に帰って食事にありつくまで、犬は幸せに眠り続けた。
158夢見る名無しさん:04/07/20 08:44
age
159夢見る名無しさん:04/07/20 08:45
age
160夢見る名無しさん:04/07/21 16:39
 男がいて、匿名掲示板に執着する毎日を送っていた。
 来る日も来る日も、喧々諤々と罵り合い、言い負かし、時には言い負かされていた。
 完全な匿名性が保たれる掲示板なので、何を言っても社会的な責任を問われない。
 男は、他の全ての利用者を見下し、自分の正論を書き綴りながら、日々を過ごしていた。

 男の生活は安定していた。掲示板への書き込みは、ローコストの娯楽だ。
 収入を得るために、最低限のアルバイトをし、掲示板での話題についていくための
ニュースを見る。話題についていくためにコストが必要な場合は、やや違法性な
手段に頼った。ファイル共有や、レンタル、マンガ喫茶、金券屋などである。

 しかし、男の中には満たされない部分があった。
 匿名掲示板で罵り合いをしていると、時々むなしくなるのだ。
 自分は正しいことを言っているのに、必ず反論する奴がいる。まれに賛成されても、
心から同意されることはない。皆が皆、他者に対して攻撃的なのだ。
 自分の正しさを証明するために、他人の意見を貶め続ける。
 まるで無間地獄ではないか。
 しかし、男は掲示板に書き込みを続けた。
 書かずにはいられなかった。

 ある夜、男は掲示板で、うさんくさい薬の存在を知った。
 チャネリングのための薬で、飲めば神と会話できるという。
 男は薬を信じていなかったが、掲示板でやりあううち、「じゃあ、お前が試しに
飲んでみろ」ということになってしまった。
 そうした責任を持たされて嬉しくもあり、男は薬を通販で取り寄せた。
 男は薬を飲んだ。
161夢見る名無しさん:04/07/21 16:40

 はたして、男は神の意識に触れた。
 神は、何でも問え、と言う。
 男は試しに聞いてみた。
「私は、いつも、見ず知らずの他人と罵り合って過ごしています。自分の意見を
述べるのは楽しいことですが、罵り合い蔑み合うのは辛いことです。このようなことがない、
人と人とが自由に話し、なおかつ理解しあえる、楽園のような場所は無いのでしょうか」
 神は答えた。
「お前が暮らす世界には、そのような場所は無い」
 そこで、男は重ねて聞いた。
「では、死後に天国に行けたとしたら、そこは人と人とが自由に話し合い理解しあう
楽園なのでしょうか」
 すると、神は怪訝そうに答えた。
「お前は、天国にいる。今、お前の住む世界は天国だ」
「え?」
「天国とは、生前に善人であったものが、その者にとって、最も幸せな環境を永久に
実現できる場所だ。お前は、善行をなし、死亡し、今は天国で暮らしている。
思い出すがいい、お前は不老であり、不死であろう」
 男は思い出してみた。なるほど、いつから今の生活をしているか、思い出せない。
 郷里の両親に、前に会ったのはいつだっただろう。職場や友達との人間関係も、
安定していて変化がない。ここが終わらない世界なのだとしても、何の不思議もない。
「しかし、神様。天国にいるはずの私は、幸福ではありません。一部では幸福なのかも
しれませんが、完全に幸福ではありません。それどころか、不幸を自覚しています。
その不幸とは、誰かと罵り合ってしまう不幸です」
 神は答えて言った。
「よく聞くがいい。お前は、お前の性質が許す範囲内で、最高に幸福な状態なのだ。
お前は人に同調できない、心の狭い人間だったが、実生活で他人に強く意見を言えない
勇気のなさが幸いして、悪行を為さない人生を送り、天国に入ったのだ。
 お前は、可能な限り幸せなのだ。
 また、お前の住む天国は、お前と似たような者が多く暮らしている。匿名掲示板を
通して、お前とも話し合っている。罵り合っているが、お前たちは互いに、お前たちに
とって最も幸福な状態なのだ」
162夢見る名無しさん:04/07/21 16:42

 チャネリングから覚めた男は、神との会話を掲示板に書き込まなかった。
 服用を、かかりつけの医者に止められた、と書き込み、責任を逃れる。どうせ
個人は特定できないのだ。自分から自分を特定しなければ、これ以上の責任は
追及されない。
 男は、それからも匿名掲示板への書き込みを続けた。
163夢見る名無しさん:04/07/22 15:37
 ある騎士がいた。伝説の世界に登場するような、勇ましく冒険好きな騎士だった。
 騎士は、洗礼を受け騎士となると、暇を惜しんで冒険に出かけた。冒険に行き、
危険に身を晒すことは、騎士達にとって大きな名誉である。
 騎士は冒険に挑んだ。どんなに理不尽な目にあっても、めげなかった。
 騎士の冒険とは、おとぎ話と区別がつかないものである。騎士は、魔女の釜で
ゆでられたり、骨を叩き折られたり、幻覚の世界に閉じ込められたりと、さんざんな目に
あわされた。
 しかし騎士は、どんな試練にも、最後には打ち勝った。
 そして、美しい姫と結婚し、一国の王となった。
 騎士は、いつまでも幸せに暮らす権利を獲得した。

 だが、騎士は幸せではなかった。
 なぜなら、幸せな暮らしには冒険が足りないからだ。
 冒険こそ人生、人生すなわち冒険。
 冒険が向こうからやってこないと解ると、騎士は自ら冒険を探しに出すことにした。

 まず、奥方と離婚した。
 離婚したからといって、浮気するわけではない。
 離婚し、奥方に何処かの異国に隠れるように言いつけ、これを探索したのである。
 しかし、騎士は冒険のコツを心得ている。
 わずか二週間で元妻を見つけ出してしまった。
 プロポーズし、承諾される。
 騎士は落胆した。こんなものは冒険ではない。
164夢見る名無しさん:04/07/22 15:38

 次に騎士は、弟を呼び出し、王位を譲り、悪政を行うように申し付けた。
 そうしておいて、一週間ほど姿をくらまし、国民を救う冒険に挑んだのである。
 ところが、新王である弟も、国民も、騎士を心から尊敬している。
 街の門をくぐった騎士は、国民総出のパレードに迎えられた。王城では弟が髪の毛を
そり落とし、罪人の格好でひれ伏している。わきの方を見れば、塔の上に幽閉された
奥方が、くったくのない笑顔でハンカチを振っている。
 騎士は、弟の前で、がっくりと肩を落とした。冒険は一週間と一日で終わった。

 それならばと、騎士は、領内に魔物や魔女を探した。
 しかし、悪しき者はみな、騎士を恐れて逃げ去ってしまっていた。
 領内はとても平和で、森深いところの妖精ですら、人間に習って畑を作っている
始末だった。

 万策尽きた騎士は、全てを捨てて放浪の旅に出た。
 しかし、冒険に出会うことはあっても、その冒険には決まって、違う騎士が挑戦して
いるのだった。
 若い騎士から冒険を奪うのはしのびない。だいたい、幾多の冒険を乗り越えた騎士に
とって、それらの冒険はどれも簡単すぎた。人の冒険をのっとって、余裕で成し遂げたのでは、
暇で嫌味な中年だ。
 騎士は、自国へ戻った。

 その後、騎士は治世に専念している。
 しかし、噂によれば、騎士は秘密裏に、邪悪な者を雇っているらしい。
 邪悪な者に技と策を授け、悪事をやらせる。
 そうして、他の騎士に、冒険を授けるのである。
 冒険に飢えた騎士の、せめてもの気晴らしだった。
 他の大成した騎士も、自分のまねをして、自分に冒険を授けてくれないものかと
思いながら、今日も騎士は、悪事の種を撒いている。
 騎士の奥方や、弟や国民などは、いつまでも幸せに暮らしたという。
165夢見る名無しさん:04/07/22 19:12
 夏の蝉が往き急ぐかのように木々の幹にとまり、あちらこちらで鳴いている。

 四畳半、ボロアパート、軋む木枠の窓を開けと夕日が西の空を大きく茜色に
染めていた。パタパタパタ、不意に窓から飛び込んで来た。蝉だった。
 茶色の半透明の葉っぱみたいな羽をぴったと閉じ、畳の上で鳴きもせず、じ
っとしている。
「おまえさん、こんな所に来ても何もありゃせんよ、外の世界でかわいい彼女
でも見つけなよ」
 俺はそう蝉に言い聞かせながら、人差し指を一本止まり木に見立て、蝉の前
に差し出した。
 ちょこんと指の先に止まった蝉は俺の顔を眺めている。
 俺はゆっくり、そろりそろりと指に蝉を乗っけたまま窓際に移動した。
「もう、戻ってくんなよ」
 パタパタっと音を残し、キィーとひと鳴きして夕闇せまる空へと飛んでいって
しまった。
166夢見る名無しさん:04/07/22 19:14
「さて、バイトにでも行くか」
 俺は駅前の中華料理店で皿洗いのバイトをしていた。その店には、ちょっと気
になる女性がいる。
「いらっしゃいませ」
 彼女の透き通った声は、ホールに響いた。俺は厨房でその声を聞く度に胸を
時めかせた。
「お願いします」
 彼女はそう言い、客席から下げて来た皿を、ステンレスの台に置く。
 俺は無言で、頷く事しか出来ない。
 ホールと厨房を分けている壁とステンレス台との僅か、50cmの隙間から見え
る彼女の皿を持つ白い指が好きだった。
 長時間、腰をかがめての皿洗いはけっこうきつかったが、俺は彼女と会える
と思うと、それもあまり苦ではなかった。
 俺は壁に掛けてある時計を見て、あと10分で休憩だなと思った。

 先に休憩に入った連中が戻って来たのを確認してから、俺は休憩室に向かっ
た。白い壁とスティール机の上にはバイトの出勤表や、飲みかけのコーヒーカ
ップなどが乱雑に置かれ、交代で僅かな時間を休む慌ただしさを伝えていた。
折りたたみ式の椅子が五、六個あり、そのひとつに腰掛けたばこに火をつけた。
167夢見る名無しさん:04/07/22 19:17
 とそこへドアが開く。彼女ともう一人のバイトの女の子が入ってきた。
「今日、暑いねぇーもう夏だねー」
「海、行きたいーーー」
 ガヤガヤと二人の女の子は喋りながら、椅子に座る。彼女が喋っているのを
見ると女性というよりも、まだあどけない女の子を感じさせた。
「こんどの休み、電車で海にいこうっか」 と彼女がもうひとりの子に言う。
「えっー 電車ーーーー」 もうひとりの子は不満げな声をあげ、俺を見る。
「ねぇ、車持ってない?」
 もうひとりの子が俺に聞く。
「免許は春に取ったばかりだけど、車は持ってない」
「レンタカーがあるじゃん、いっしょに行こっ」
 俺は彼女の方に顔を向け苦笑した。彼女は俺に笑いかけ、人差し指を目の前
に一本たて、
「海に行く人この指とまれぇー」
 俺は無言で、その止まり木にちょこんと手を添えた。
 彼女はゆっくり、そろりそろりと指に俺を乗っけたままドア際に移動する。俺も
それにつられるように椅子から腰を上げ、彼女の指と俺の右手が離れないよう
移動した。
「約束だよっ」 そう言いながら彼女は指を離し背を向け休憩室を後にした。
 残されたもうひとりの子は、ポカンっとした顔で彼女が出て行ってしまった
ドアを眺めている。
 俺は手のひらに残る彼女の指の感触を確かめながら、この夏、外の世界に出
る決意をした。目の前に夏休みが広がるのを感じていた。
168夢見る名無しさん:04/07/23 13:00
 クマのヌイグルミがあり、いつも双子の兄弟に投げられていた。
 双子達は、物心がつくかつかないかの年齢だった。
 双子達は、最初は兄弟への不満を表すためにヌイグルミを投げつけるのだが、
投げ返し投げ返すうちに、いつしか投げること自体が面白くなり、クマのヌイグルミは
延々と投げられ続けるのだった。

 クマのヌイグルミがあり、双子の母親に縫われていた。
 物心がつくかつかないかの双子に手荒く扱われるヌイグルミは、わずか数週間で、
ワタがはみ出るほど痛んでしまうのだった。
 母親は、クマのヌイグルミをなぐさめながら、手縫いでクマを修繕した。

 ウサギの人形があり、ガラスケースにしまわれていた。
 人形は観賞用のものだった。手荒に扱えば、専門店での修理が必要となる。
 ウサギは、物心がつくかつかないかの双子の兄弟がいる家の人形だった。
 ウサギの人形が、双子の遊び相手になるのは危険だった。ところどころに
アンティーク調の金具が使われていた。喧嘩の道具にされれば、双子が怪我を
してしまうかもしれない。赤い大きな目は、ガラス製だった。

 何年かが経ち、双子の兄弟は成長し、クマのヌイグルミで遊ばなくなった。
 お役御免となったクマのヌイグルミは、ウサギの人形と並んで、ガラスケースに
入れられている。
 人形とヌイグルミは、双子の母親が作った、おそろいの洋服を着せられている。
169夢見る名無しさん:04/07/25 07:42
age
170夢見る名無しさん:04/07/30 18:32
age
171夢見る名無しさん:04/07/31 20:12
おいたが激しい双子の剥製がガラスケースに収まるラストを思い浮かべてしまったw
172夢見る名無しさん:04/08/04 03:41
悪い子はヌイグルミになるってやつか?
173夢見る名無しさん:04/08/07 08:52
age
174夢見る名無しさん:04/08/11 17:00
 未来に、工場があった。
 この工場では、人体のスペアが育成されていた。顧客の遺伝子から育成した、
顧客それぞれのスペアパーツである。
 顧客達は、定期的に人体を交換し、永遠の命を保っていた。
 脳は代替が利かないので、プラントを直接埋め込んで若返らせる。バイオテクノロジーに
より、日常生活の中で少しずつ乗り換えていくのだ。
 つまり、工場のスペアには脳が要らない。
 工場のスペアは脳無しで、人工信号により運動を学習させられながら眠っていた。

 やがて、新手法を取る工場が現れた。
 スペアに機械脳を埋め込み、生活させながら育成する。
 高度な学習が、安価で可能となった。今までの手法では、高いレベルの学習には
高価なパーチャルリアリティシステムが必要だったのである。
 たとえば、人工信号で歩行の動きを身体に学習させるよりも、機械脳を使って
スペアを歩かせるほうが、遥かに安あがりだった。
 こうした工場の中は、都市規模のリハビリ施設となっていた。成長期のスペア達が
電気脳を積んで、黙々と運動している。

 技術革新があり、問題が起こった。
 既存の脳乗り換えシステムが世代交代し、脳の機械化が実現したのである。
 日常生活を維持したまま、継ぎ目無しに意識をデジタル信号に移せる時代が
来たのだ。
 ここで、人間の線引き問題が生まれた。
 つまり、人間的な意識を持っているかどうかは別として、人工脳型スペアと
人工脳化した人間との間に区別が無くなってしまったのである。
 そもそも人工脳化技術は機械脳技術がベースだった。理論的にも技術的にも
境が無くなってしまったのだ。
175夢見る名無しさん:04/08/11 17:01

 世界中で論争が起こったが、各国ごとに人間を認定することで妥協がはかられた。
 人間免許制である。
 一般的な先進国では、限定人間免許、普通人間免許、成人人間免許の三種類が作られた。
 限定人間免許とは、人工脳スペアにあたえられる免許であり、普通人間免許は出生が
認められてあたえられる免許、成人人間免許は成人した人間にあたえられる免許である。
 時代が進むと規制が緩和され、スペアを所有し普通人間に登録を変えて家族とする
ケースが現れた。
 さらに時代が進み、スペア出身の普通人間が成人人間免許を取る時代が来た。
 やがてスペア出身の政治家が現れ、スペア出身の首相も現れた。
 一方で技術も進み、ついには人工脳変換が胎児の段階でも可能になった。

 この後、遺伝子の機械化が始まり、やがて生来の遺伝子とデジタル化された
遺伝子との間に境目が無くなった。
 しかし混乱は起こらず、免許制度にデジタル遺伝子限定の区分が作られた
だけだった。
176夢見る名無しさん:04/08/13 09:19
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177夢見る名無しさん
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