1 :
夢見る名無しさん:03/09/13 01:52
それはむせ返るような晩夏の想い出。
あの山里での出会いが、全ての始まりだった・・・。
老人「よう、若いの。こんな辺鄙なところによくぞおいでなすった。」
「い、いえ・・・。馬が怪我をしてしまいまして・・・。」
馬「ぶひひん。」
老人「もう日暮れも近い。泊まっていきなされ。」
「ありがとうございます。助かります。」
僕はふと、老人の影に物怖じして佇んでいる少女を見かけた。
都会でも見かけないくらいの美人で、清楚で、なにより可愛い少女だった。
年の頃は16〜17歳といった所だろうか?
食事の時間。
僕は馬のヒルデガルドを納屋に置いてくると、食卓を飾る数々の食材に舌鼓を打った。
「うわぁ〜!こ、これ孫娘さんが?」
老人「そうじゃよ。彼女は村の唯一の若娘で、よう働いてくれるのじゃ。」
「え?村に一人?」
老人「そうじゃ、もうこの村には老人しか住んでおらん。働き盛りの男もな。」
「そうだったんですか・・・。」
テーブルにセッティングされたローソクがゆらゆらと揺れる。
老人「わしゃ、あの娘が不憫でのう・・・。」
「・・・あの、孫娘さんは。」
老人「なぁに、身支度に忙しいのじゃよ。」
「身支度?」
老人「そうじゃ。なんせ、今日は特別な日だからのう・・ふぉふぉふぉ。」
老人の含み笑いが引っ掛かったが、僕は考えないようにして汁の滴るラムステーキを
口一杯に頬張る。すぐに違和感なんて忘れてしまった。
「そういえば、娘さんの名前聞いてなかったな・・・。」
太陽が沈んで暗い蒼に覆われ始めた空、僕は画材用具を取り出して
長閑と言うのにもかけ離れた廃村のような風景をスケッチしはじめた。
ふと、あの子のことが頭をよぎる。一目会っただけなのに、
僕の心はすっかり彼女に奪われてしまったようだ。
(声が聞きたい・・・)
ほとんどが木材で構築されたこの家、村長の館にしては質素な佇まいだったが、
風呂は思ったよりまともだった。僕は旅の疲れを文字通り溶かすべく、
ゆうに五、六人は漬かれそうな風呂桶に大の字に沈んだ。
「はぁ〜!この為に生きてるよなぁ〜。」
カタッ
戸口の方で物音がしたので振りかえる。
少女「あ、あの・・・」
あの娘さんが恥ずかしそうに戸口の隙間を背に話しかけてくる。
(まじかよ!綺麗な声・・・)
少女「お、お湯加減・・・どうですか?熱くないですか?」
「え?全然!丁度いいですよ!!」
少女「そ、そうですか、あっ、あの・・・」
「なに?背中でも流してくれるの?」
少女「!?」
少し覗いていた少女の横顔が突然赤面すると、彼女は少し声を乱して応えた。
少女「か、からかわないで下さい!ここにタオル置いておきますから。他にご用があればどうぞ!」
「ありがと。」
(ふ〜ん。なかなか性格も良さそうだな。)
夜。
僕はベッドの上に身を放り投げながら日記を結び終えると、
再び画材を取り出して、徐に手を動かし始めた。
どこか心もとないランプの温かい光が、僕には最高に贅沢な環境を与えてくれた。
ゆらゆらと琥珀色に揺れる光の中に描き出されたそれは、紛れも無くあの少女。
「かわいいな・・・。」
窓の外の宝石を散りばめたかのような星光に目を向ける。
(こんな村にたった一人・・・。あんな子が・・・。)
トントン。
背後でまたノック音。僕は声に少し期待を潜ませて尋ねる。
「どなた?」
少女「わたしです・・・。」
彼女の声は何処と無く緊張しているようだ。
僕はその時、これから何が起ころうとしているのか予測できたわけでは無かった。
ただ、その甘美な胸の高まりに、心の内壁にふつふつとにじみ出るある種の愛情に、盲目になっていた。
僕と少女は、何故か二人並んでベッドに腰掛けたまま、静寂を守っていた。
少女の憂いに満ちた、しかしどこまでも純粋で何よりも美しいその顔立ちに、
僕は語り掛けることを少し忘れてしまっていた。
「な、何か用なのかな?」
少女は少し俯いて顔を赤くしながら何かを呟いた。
少女「・・ぃ・・ちゃんが・・・。」
「へ?」
少女「おじいちゃんが・・・ここで寝なさい・・・って・・・。」
「は?」
僕は半ば期待通り、半ば予測不可能な事態に一瞬我を失った。
「ど、どうして君にそんなことを?!」
特に聞きたくないが、必然的な質問はしておかなくてはなるまい。
少女「聞いたでしょ?この村に若い女はわたしだけ・・・。」
「・・・。」
少女の瞳が少し虚ろになったような気がして、胸に棘を刺す。
少女「おじいちゃんね、私のことが心配なのよ。」
「でも、男なら他にもいるだろ?世界に出てみろよ。」
少女「ううん。わたしはこの村を出ていけないよ・・・。」
「どうして・・・」
少女「ここでは皆わたしを必要してくれるの。ここは何よりも大切な故郷なの。」
少し警戒心が薄れたのか、声の調子が段々と柔らかになっていくようだった。
少女「ねえ、外の世界の話、色々聞かせてくれないな!」
関心を逸らすためか、単なる時間稼ぎか、ちょっと無理矢理な気がしたが
彼女は元気を奮い起こそうとしているようだ。
(やれやれ・・・。まぁ、行きずりってのはひでぇ話だよな。)
心の奥にグッと情念を抑えると、とりあえずは目の前の好奇心旺盛な少女に付き合うことにした。
戦争の話、行商の話、旅先で描いた数々のスケッチ。
彼女はまるで自分が旅するかの如く、すべての話に目を輝かせて魅入られているようだ。
さっきまでの翳りは何処にも見当たらなかった。
そして僕には、ますますこの子が不憫に思えた。
話もひとしきり終わったところで、僕は一番聞きたかった用件を思い出した。
「なぁ、今更だけど、君、名前は?」
少女「わ、わたし?ごめんなさい。自己紹介忘れてたね。」
彼女は気恥ずかしそうな表情を作る。その仕草が堪らない。
少女「わたしはね、ファルマ。この国の言葉で"空"って意味なの。」
「ふーん。」
少女「あなたのお名前は?」
「リオ・・・。」
ファルマ「リオ、・・・よろしく、リオくん・・・。」
彼女は白くて儚い手を目の前に突き出した。
「?」
ファルマ「お話ありがとう。こんなに面白かったの久しぶり。」
僕は思わず手を握り返す。
ファルマ「リオ、最初の友達・・・。」
僕は疚しいことを考えていた自分を恥じた。
すっかり夜も更け、話題も尽きたところで、
彼女は大きく欠伸をして、うとうととし始めていた。
その無用心な様子からは、とても夕暮れの働きぶりには容易に想像が及ばない。
ファルマ「うん・・・眠い・・・。」
「なぁ、自分の部屋で寝ろよ。」
ファルマ「え、、、」
(え、、って何だよ!え、、、ってー!)
僕はまた邪な想いが脳裏を掠めるのを自覚すると、必死に自制心を奮う。
「あのなぁ、男の部屋に泊まるってことはだなぁ、つまり・・・ん?」
ファルマはベッドの上で既に寝息を立てている。
「ったく!」
僕は失笑しながら、溜息をつくと、彼女の天使のような寝顔を覗きこみながら、シーツを被せてやった。
ふと、彼女の手首に不思議な紋様が小さく描かれているのに気付いた。
僕はそれには大して気を止めることも無く、キャンパスを取り出して
彼女の寝姿を写し取ることにした。こんな外界から隔離された辺境で、
宝玉のような天使がその翼を繋ぎとめられている・・・。
スケッチのイメージもそんな風にまとまり、彼女の背中に大きな翼を書き加えてやった。
そして右隅に「清廉と解放の天使、ファルマ」と筆を入れキャンパスを閉じ、
彼女の寝顔が見えるようにと長椅子に持たれかかると、その心をまとわりつくような甘い夢想に委ねた
朝。瞼に優しい暁光が降り注ぎ、その思い夢の扉を押し開こうとする。
目を醒ましたその先には、この世のものとは思えない、白いシルクの帯を
纏った異国の天上の乙姫が、右肩から玉のような肌を露わにしていた。
ファルマ「う・・・ん・・・あ、おはよ・・・」
「お、おはよう!」
僕は何故か悪いことを咎められたかのように、その肢体に注いでいた視線を他所へずらした。
その隙に彼女が床に放り出されたキャンパスを手に取る。
「なに?また何か描いたの?」
「あっ!」
彼女は容赦無くペラペラとページを捲っていく。このままでは昨日隠しておいた絵も一緒に見つかってしまう。
僕は慌てて彼女からノートを奪い取ろうと詰め寄った。
「キャッ、ちょっと何よ!そんな強引に!」
「いいから返せって!」
「あっ!」
二人はバランスを崩して、そのままベッドに転げ込んだ。
僕が上になって彼女に覆い被さる形になってしまった。
「ご、ごめん・・・。」
ファルマ「・・・。」
ファルマ「え?これって・・・。」
彼女の斜め上に開かれたノートには、2ページに渡って僕がスケッチしたファルマの肖像があった。
彼女はそれを凝視しながら体勢を直し、じっと視線をノートに落としている。
「はは・・・、下手クソだろ?出発前には完成させて見せたかったんだけどな・・・。」
ファルマは黙ったままだった。気分を損ねてしまったのだろうか。
勝手に姿を写し取ったから?僕は少なくとも、自分の画力には自信があった。
彼女が傷付くはずは無いという確信もあった。
だけど振り向いた彼女の瞳には、涙がいっぱいに浮かんでいた。
15 :
夢見る名無しさん:03/09/13 15:36
彼女は大粒の涙をポロポロと零しながら、僕の胸に飛び込んできた。
「うわぁぁ〜ん!」
「な、何だよ。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ・・・。」
「そ、そんなに絵が酷かったのか?謝るよ。」
するとファルマはスッと身を引いて、じっと目を見詰めた。
お互いの視線が繋がる。彼女の瞳の中に吸い込まれるような感覚を憶えた。
「ううん。そんなんじゃないの。」
「え・・・。」
「嬉しかったの。驚かせちゃった?」
彼女は恥ずかしそうに舌を出す。
僕は思わず指を差し出して、彼女の頬を伝う涙を掬い取ってしまった。
「・・・!」
流れる沈黙。瞳から目が離せない。
16 :
夢見る名無しさん:03/09/13 15:57
ファルマ「わたし、あなたみたいに若い男の人はじめてだから・・・。」
なんだこの童貞のザーメンの臭いがプンプンする話は。
18 :
火兎 ◆rQkkzN8jeQ :03/09/13 21:21
さ、左右に同じ・・・。
でも、いいかも。
19 :
ジョヴァンニ・ジョースター ◆dZRCft90gY :03/09/13 21:22
ファルマとブルマって似てない?
僕は彼女の前髪をそっとたくし上げ、唇を近づけた。
彼女も目を閉じる。その時だった。
コケコッコー
ファルマ「いけない!朝御飯の時間!!」
僕は呆気なく突き飛ばされた。
保守
続きまだ?
待ってるよ・・・
保守sage
>>21-24thanks・゚・(ノД`)・゚・
近日中に続きを書きます。
ぼんやりと構想中。
ganngare
近日公開!
mada?
第一章 〜Take My Hand〜
あーぁ!
31 :
(^・ω・^):03/10/11 22:52
第一回 「まったり大賞」 受賞おめでとう!!!。
俺が書くぞw
あの日ぼくは・・・
γ
γ
∧∧ _,,,,,,,,,_ ......................................
(::::::: ) (::::::::: = .::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::::........
〜.::::: )(o;;:::::: ) ...:::::;;;'' ';;;:::::.......
'"""゛~"''"""゛"゛""''・、 ...::::;;;'' '';;;::::::........
"”゛""''""“”゛゛""''' "j' ....::::::;; '';;::::::::::.......
:::::ヘ :::::....ヽ :::;;;ノ ::( ......:::::::::;; ';;;;:::::::::.........
:: ゝ :::::......ノ:;;../ ~~^^ ~~~~~^^^~ ~~^^ ~~^^ ~~~~~^^^~ ~~^^~~~^ ~~~^^~~~~
あの日ぼくは・・・
世界の運命を握る天使を・・・
この腕に抱いていたんだ・・・・・。
そう、あの日…
ファルマ「もう行ってしまうの?」
リオ「あぁ・・・。」
僕は馬のヒルデガルドに跨ると、寂れた村を後にした。
彼女を振り返る。彼女も何処か淋しそうな表情で佇んでいた。
これから目指すのは西の都。
燦燦と煌くあの太陽を追って、旅を続けなければならない・・・。
呪われしかの地に辿りつくために。
彼女の編んでくれた布マフラーをギュッと握り締める。
麻色の布地に何か不思議な黒い幾何学紋様が描かれていた。
突然、後ろからファルマの声が響く。
「また、また会えるよね!」
「あぁ、必ず戻るよ!!」
そう心に誓った。
・・・・必ず また 逢える。
保守
喪主
接収