雷神機 ライジンガー

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日刊小説 「SOMA ソーマ」

その日、その夜、そこには僕を含めた13人の男女が集まった。
インターネットの掲示板を介して知り合った人達だったが、実際に顔を合わせるのはこれが始めての事だった。
年齢や職業はばらばらである。
共通している事と言ったら、皆一様にどこにでもいそうな人間である、という事くらいなものだ。
正直、僕にとってはこれが一番意外だった。
「それでは、皆さんにはこれからバスに乗り込んでいただきます。
 なお、途中にサービスエリアはございませんので、おトイレの方はお早めに、覚悟がまだの方はここで下車してください」
そうおどけた調子で言ったのは幹事を務める「きらきら」さんだ。
本名はわからない。
僕達が出会った「そのページ」では一番の古株で、明るいキャラで場を盛り上がるリーダー的な女性だ。
こうして生身の姿を見てみると、以前に思い描いていた人物像とはいくつかの違いが見られた。
失礼な話だが、大雑把でよく喋る性格からもっとがさつな女性を想像していた。
現実の彼女の姿は、どこかの令嬢を思わせるような気品漂う物腰と、色白の肌にそれなり以上のルックスを備えた、一見すると病弱なお姫様のように見えた。
年齢は僕と同じか、少し上くらいだろうか。
「よろしいですね、皆さん?自己紹介は車内でお願いします」
彼女が乗車すると、続いてぞろぞろと後に続く。
僕は最後尾から二番目に乗車し、入り口に最も近い席に腰掛けた。
自動扉が間の抜けた音を出しながら静かに閉じた。
バスの窓から見える見覚えの無い景色が何故かとても懐かしく、それでいて手放したくないような残念な気持ちに襲われる。
ただ、高台の上から街のまばらな電灯を見下ろしているだけなのに、僕の中では抑えがたい焦燥感が芽生えつつあった。
しかしそれを顔や言葉には出さない。
これは僕の最も得意な事の一つだ。
思った事を口には出さない。
悲しい時には笑い、嬉しい時には泣いている、「ちぐはぐ」さ、この世との不和が僕の個性だったに違いない。
親父が死んだ時だって、ちゃんと涙を流していた。
いつだってちゃんとできていたんだ。
原動機の小刻みな振動が体に伝わると、僕の迷いを置き去りにしてバスが動き始めた。