この板の名物(迷惑?)コテハン莉子 。
実は今の彼女は三代目なんじゃ。
一代目はそりゃあギコペが好きな元気な娘じゃった・・
あの事件が起きるまでは・・・・・・・
あの事件とはそう、ハッカーK事件じゃ。
みながネタと思いこんでしまったようじゃがのぅ。
ところが実際はちと違ったんじゃ・・・
ハッカーKは完全に莉子をハックしてたんじゃ。
彼のスキルの前では莉子の住所なんぞ簡単に割れてしもうたそうな。
そしてある夜中に莉子宅の前に立つハッカーKの姿があったそうじゃ・・・
その晩以来、本当の莉子を見た者はおらんそうじゃ。
そして時間がたち、ハッカーKは少年犯罪板に莉子のHNで再デビューしたそうじゃ。
罪の意識にさいなまれてか、最初からそれを狙ってたのか、はたまたサービス精神か・・・
その後、このハッカーKの莉子も美咲というネカマにのっとられるんじゃが、これは
また別の機会に・・・
ん?なんでワシがそんなことを知ってるかって?
ワシこそ、初代り・・・いやいや、やめておこう・・今となっては昔の話じゃ・・・
夜中に笛を吹くとくそ餓鬼が出るらしい
たべものの話をすると ななこがあらわれるらしい。
私は一人の少女と共に暮らしている。
少女の名は莉子。
少女は心を病み、自らの世界に閉じこもったまま。
今日も部屋の片隅でひざを抱え、幸せな夢を見ている。
彼女は時折、夢の中の出来事を私に話してくれる。
少女が自分の見た夢について話す。よくある話だ。
違うといえば、少女に夢と現実の区別がついていないことだけ…。
そして私は今日も夢の話を聞き続ける。
私にできることはそれだけなのだから…。
シチューをのせたトレイを左手に持ち、ドアを軽くノックする。
「………」
中から返事が聞こえてくることはない。いつものことだ。
「莉子ちゃん、入るよ」
しばらく待ってから、そっとドアを開ける。
部屋は薄暗く、静かだった。そこにパジャマを着た少女の姿が見えた。
少女は部屋の隅にあるベッドに腰掛けていた。
少し俯きがちになり、無表情のまま、床の一点を見つめている。
「ほら、今日のごはんはシチューだよ」
そう言って、トレイを差し出してみる。しかし反応はない。
私は溜め息をつくと、トレイを机の上に置いた。
部屋には机と箪笥、そしてベッドが置いてある。
これらは皆、この少女の為に用意されたものだ。
しかしベッド以外の物を少女が積極的に利用することはほとんどない。
私は少女の目の前にしゃがみ込み、少女の瞳をのぞき込む。
私が目の前にいるのにも関わらず、その視線が私に合わさる様子はない。
「莉子ちゃん…?」
少女の痩せた肩を軽く揺すりながら、優しく呼びかける。
「さあ、莉子ちゃん。今日もお話を聞かせてもらえるかな…」
これはいつも行っている儀式。
この儀式を行わないと、彼女はこちらの世界に帰ってこない。
「今日は何のスレについて話してくれるのかな…?」
「スレ…」
スレという言葉に反応し、少女の表情に徐々に変化が現れる。
「そう、またサカキバラのお話を聞かせてくれないかな」
少女がようやく私を認識し、嬉しそうに微笑む。
「うん、いいよ…。えっとね、今日はね…」
そして少女は今夜も語り出す。
それはネットワーク上に存在するという匿名掲示板上で、
一人の少女が一生懸命自分を探していくという物語。
それは一人の少女が作り出した空想の物語。
少女は時には口の悪い名無しさんに囲まれ苦しむこともあるが、
優しいコテハンと共に逝き、そしてほのかな恋をしている…。
皆が明るく、前向きに、そして幸せに生きている。
そこは決してネガティブな感情が生まれることのない、優しく暖かな世界。
それが少女の望んだ世界だった。
そこにいる限り、少女は幸せでいることができる。
そこにいる限り、少女は過酷な現実を直視せずに済むことができる。
「そしたらクソちゃんがね…」
シチューをゆっくりと食べながら、少女は自ら作り上げた世界について嬉しそうに語り続ける。
私はそんな少女の笑顔にどうしようもない痛々しさを感じながらも、少女の語る架空の物語に耳を傾けていた…。