退屈な授業が終わって、やっと給食の時間になった。
わたしは教室で給食の乗ったお盆を自分の机の上に置いた。
そして机の横に掛けてあったランドセルから、お箸を取り出した。
そして椅子を引いて、席に着こうとしたら
「ミタ・・・ミタってば・・・・」って、わたしを(あだ名で)呼ぶか細い声がした。
振りむいたら、繭菜(まゆな)が、すごい恐い顔して立ってた。
わたしは繭菜に、超ムカついてた。
*
―――前は仲が良かった。一番の親友だって思ってた。
わたしは気の弱い繭菜をいつもフォローしてあげてた。
繭菜もわたしになついてくれてると思ってた。
だから、わたしも親に言えない好きな男の子のコトとか、交換日記に書いたりした。
二人でパソコンクラブにも入った。
パソコン覚えて、一緒に相談しあって、お互いのホームページ作ったりした。
少し前まで、ネットでも仲良くしてた。
けど、だんだんイヤになった。繭菜は、ミニバスケットチームを止めたころから
感じ悪くなった。授業中に居眠りしたり、汚い言葉でつっかかってくるようになったりしてた。
男子を蹴っ飛ばしてるトコを見たこともあった。
繭菜が自分のホームページに書いてる文章も、なんだろ・・・クラスの子をありえないくらい
けなしてたりする。(「自己満で高慢なデブス」とか「愚民ども」とか
「怒るとすぐにあやまるヘタレ」とか・・・・・・)
繭菜、キャラ変わって、(ふだんブリっこだけど)時々、ちょっと、恐い感じになるから
友達がどんどん、減ってってる。
だいだい、繭菜はおとなしそうにしてるけど、何考えてるんか分んない子だ。
好きな本が「バトルロワイヤル」と「ボイス」って言うんだから。
夏目漱石とか芥川竜之介とか読まないで、ヤバイもんバッカし読んでる。
(繭菜はホームページに、自分で作ったバトルロワイヤルのパロディーとか、
クマの顔が血まみれになるアニメなんかも、作ってupしてる・・・はっきし言ってキモイ)
そのくせ「作家になりたい」なんて言って、2ちゃんねるの創作文芸板なんかに
自分の書いた小説投稿したりしてる。(ていうか小説になってなかったと思う)
つーか、一番ゆるせないのは、(ぶりっ子デブのくせに!)私の好きな佐藤大樹くんと
繭菜が付き合ったってこと!
(わたしが繭菜に相談したときに、繭菜は「応援してるよ」って
優しい良い人っぽい顔して言ってくせに!
わたしが大樹くんのこと、どんなに好きか、知ってたくせに!)
しかも、繭菜はホームページに公開してる日記で、(はずかしかったのか、背景の黒に
溶け込ませるように黒い字で)自慢っぽく、ラブラブなデートのこととか書いてて
めっちゃ調子にのってた!
次の日には、もうクラスのウワサになってた。男子が大樹くんから聞き出したって
言ってた話じゃ、もうエッチもしたって話だった。わたしは超くやしかった。
わたしは放課後、繭菜を呼んで繭菜に一気にまくしたてて、文句を言った。
そして、言い訳したそうな顔をしてる繭菜を、放って、急いで学校を出た。
帰り道、河原で石の上に座って泣いた。目が真っ赤になるまで泣きまくった。
思いっきり泣いて、少し気分が落ち着いたから、わたしは家に帰った。
ところが、家に帰って繭菜のホームページ見たら、公開してる日記に今度は
「ラブラブなわたしたちにヤキモチ焼く人がいて困ってる」なんて書いてた。
わたしはトドメを刺された感じがした。マジむかついて、キレた。
それから繭菜のホームページのチャットで、ケンカみたいなことするようになった。
わたしのホームページの掲示板の書き込みが消されて荒らされたりしてた。
交換日記の内容もおんなじように、けなし合いになった。
学校ではほとんど必要なときしか、話さなくなった。
でも、先週、びっくりすることがあった。繭菜が大樹くんフラれたんだ。
・・・へへへっ、繭菜のヤツ、けっきょくモテアソバレテ捨てられてたんだ。
ざまあみろ。あんなヘンな子、大樹くんが本気で好きになるわけなかったんだ。
次の日、繭菜はベタな失恋少女になってた。長かった髪をバッサリ切って来てた。
わたしは、その髪を見たとき、おかしくてマジで噴き出しそうになった。
その日、家に帰って、繭菜のホームページのチャットや掲示板に、たまった怒りを
むちゃくちゃ、ぶつけてやった。
「フラれたからって『あたしは不幸な女の子〜♪』って自分に酔ってんの?(w」
「ていうか、マジでその髪、似合ってるつもり?ありえなーい(w」
「イマドキおかっぱ?ワカメちゃんかよ(w」
「デブは女じゃないよ(w」
「だいたいアンタぶりっ子でキモイよ(w」
「小学生なのにキズモノかぁ・・・スゴーイ!(w」
繭菜は「やめてよ!」って言ってたけど、もともと裏切った繭菜がわるいんだ。
わたしは、、気がすむまで、チャットでからかってやった。
次の日、運動会があった。わたしも繭菜もチアリーダだ。
そこでも、ネットのコトでケンカになった。私もイロイロムカついてたから言い返した。―――
*
「ミタ・・・ちょっといい?・・・話があるから付き合って」って、繭菜は
暗い顔して、わたしを呼んだ。
わたしは言いたいコトがいっぱいあったし、ランドセルから取り出したお箸を
机の上に置いて、繭菜についてって教室をでてった。
そして二人で空き教室に入った。
「ほかの人に見られたくないから、カーテンしめよ」って繭菜がいうから
わたしは繭菜といっしょにカーテンを閉めた。教室が薄暗くなった。
「ネットで書いたこと、謝ってよ。あやまれ!」繭菜は恐い顔して叫ぶみたいに言った。
わたしはムカついていた。
わたしは「謝るのはそっちだろ!わたしを裏切ったくせに!」って言って
そして、煽るみたいな感じで笑いながら、さらに、
「へっ、フラれてやんの。友達を裏切ったりするから、バチがあたったんだ。
だいたいオマエみたいなデブでと、本気で付き合う男なんていないってぇの。
ぶりっ子がキモイしぃ。フラれ記念に切った髪型もヘンだしぃ。
きゃははっ!てゆうか、あんた、もー、エッチしちゃったんだよねぇ?
えんがちょ、日本一ばっちぃ小学生決定!きゃははっ!
あーコレ、あんたの親が聞いたら泣くだろうねぇ・・・いくら恋愛は自由っつても
小学生でキズモノってさあ・・・・・・」って、トコまで言ったトコで、繭菜がうつむいてて
握ってた拳がプルプル震えてたのに気づいた。
わたしはちょっと、言いすぎたかなと思ったけど、繭菜があやまるまで
あやまるもんかと思った。
「座って話そうか」と言いながら繭菜はテーブルのトコへ行って椅子を引いて
「どうぞ、座って」って言った。
わたしは言われたとおりに、椅子にすわった。
そしたら、後ろから、ぬっってタオルを持った手が出てきた。
「な、何?」わたし振り向こうとしたら、タオルがわたしの目を覆った。
「ちょっと、何すんの!」と言って、わたしはタオルを振り払った。
そしたらこんどは、うしろから繭菜の左手が出てきて、わたしの両目を覆った。
わたしは「いい加減にして」と言おうとしたけど、そのとき
なにか冷たいものがノドのところをスーって横に走った感じがした。
そして、冷たい感じと一緒に激しい痛みがして、わたしは
跳び上がるように、立ち上がった。
目はふさがれて見えなかった。トツゼンの痛みが何なのかわかんない。
痛みといっしょに、ノドのところから、なんか水のようなものがドバドバ
出てくる感じがした。水みたいなものがわたしの服をぬらしていた。
頭の中はパニックだ。何?この痛み。なんなのこの水?
そのとき、わたしの目を覆っていた繭菜の手が、ずれた。目の前に真っ赤な汁が
べっとりついたカッターナイフを握った繭菜の右手が見えた。
(真っ赤な汁・・・ああ、これはわたしの血だ・・・。首の痛みは・・・?切られた・・・・・・?
ああっ!イヤダ・・・いやだ・・・やだ・・・死にたくない!こわい!お父さん助けて!)
声はでなかった。もがいて抵抗した。バタつかせた手の、手の甲を切られた。
もう一度、首に激しい痛みがした。って思ったら、一度じゃなかった、二度・・・三度・・・
四度・・・わたしの首が切り裂かれる。首に強烈な痛みが襲うたびに、あふれ出る血の
勢いが増した。その血で繭菜の手が、どんどん紅く染まっていってた。
ああっ、首から、どくどくと、水・・・じゃなくて血がでてくる・・・・・・。
あたまが・・・ぼーっとしてくるよ・・・目の前が暗くなってくるよ・・・・・・
手足の先っぽがしびれてきたよ・・・痛いよ・・・恐いよ・・・死にたくない・・・
・・・・・・死にたくないよ・・・・・・死ぬのやだ・・・・・死にた・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。