【貴志祐介/及川徹】新世界より 神栖3町【別冊少年マガジン
だとすればこの男は……。
「貴方様は……、「神」でございましょうか……?」
町の人間達に対する憎しみも、怒りも忘れ去ってしまう程に玉座の男の放つ圧倒的なまでの存在感。自分に掛かる重力が何倍にもなったかのような感覚。
間違いなく今の自分は玉座の男を恐れている。自分の体に存在する全細胞が目の前の男には逆らうなという警告を発していた。
この男が「神」というのならばスクィーラ自身も納得がいく。
無意識の内に玉座の男に向けて深々と頭を垂れるスクィーラ。
違う、余りにも違う。この男は自分とは何もかもが違いすぎる。
「ふっ……、そう見ても構わぬが。卿の魂、中々に面白いのでな。カールが拾ってきてくれたそうだ」
「魂……?」
男の言葉にスクィーラは自分が本当に死んだのではないだろうか?という疑念が生まれる。
この玉座の間にいること、自分が五体満足であることなど、捕らえられて拷問を受けていた状況から考えれば説明が付かない。
「卿は「戦い」を望むか?」
「……はい」
玉座の男の言葉に、スクィーラは答える。
自分が拷問を受けている時に語りかけて来た言葉はこういう意味だったのだろうか? スクィーラ人間達の勝利に終わるという「結末」を認めなかった。
語りかけてきた言葉の中の問いかけにスクィーラは「戦う」ことを望むと答えた。
「卿は「人間」として認めて貰いたかったのだろう?」
「ええ、私達バケネズミの現状を打破する為に町の人間達に戦いを挑みました……、しかし結果は敗れました! 私は悔しい! 我等バケネズミはこのまま永遠に人間達に酷使されることを! 我等は同じ人間である筈なのに!!」
スクィーラの中に溜まっていた町の人間達に対する嫌悪、憎悪、憤怒の感情と戦いに敗れた後悔の念と合わさり、一気に爆発する。
「私は総てを愛している。無論卿もだ、スクィーラ。我が愛は破壊の慕情、そこに例外などない。卿も我が総軍の一つとなるがいい、卿の部下達の魂も全て回収済みだ」
スクィーラは玉座の男の言葉に胸を打った。この男の言葉に嘘などないとスクィーラは確信した。根拠至々の話ではない、真実玉座の男は心からそう言っているのだと直感で理解できたからだ。
「戦わせて下さい……! 我等の……我等バケネズミの誇りを守るために……!」
玉座の男は町の人間達のような「偽りの神」ではなかった。神として敬うならば、従うならばこの男を迷わず選ぶ。
男が自分を見つめる眼は町の人間達のように蔑みの目ではなかった。
「いいだろうスクィーラ。グラズヘイムは間もなく卿のいた町に顕現する。卿も我が総軍の一つ、獅子の鬣の一本となりて戦いに参ぜよ」
「喜んで……!」
自分達の未来が変わるのなら……、例え悪魔にだろうが魂を売る。自分達は「人間」なのだ。ただ、その思いを胸に戦うとスクィーラは誓った。