【貴志祐介/及川徹】新世界より 神栖3町【別冊少年マガジン
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作者:
せっかくなんで理想郷に投稿してあるもう一つの作品、「スクィーラがグラズヘイム入り」を投下する。
今日もまた苦痛と回復のサイクルが繰り返される。無限地獄の刑を言い渡されたスクィーラは自分の身体に襲い掛かる想像を絶するレベルの激痛と苦痛に苛まれていた。
バケネズミの隠されてきた真実を知り、神の名を騙って自分達を虐げる町の人間達に戦いを挑んだ。
が、結果は敗れた。切り札であった少年の愧死機構は自分達バケネズミに大して働き、それを察知され、奇狼丸の捨て身の作戦により少年は命を落とした。
裁判の傍聴席の人間達の自分を嘲笑う声が頭から離れない、自分達バケネズミに対する人間達の蔑みの視線が目に焼きついている。
スクィーラの抱く無念、悔しさ、怒り、憎悪が呪力によって蝕まれ、破壊されていく過程で受け続ける苦しみと痛みを幾らか和らげていた。
最後まで自分達バケネズミをケダモノとしか見れない渡辺早季、朝比奈覚。
特にこの二人に対する怒りは日に日に激しさを増していく。
この刑を受けて数日の間はただひたすらに襲いかかる苦痛の嵐に叫び声を上げ、涙を流していたスクィーラ。
だが日が経つにつれて自分の中に宿る人間達に対する憎悪、憤怒が受ける苦痛を少しづつではあるが上回りはじめたのだ。
呪力により受け続ける苦しみと激痛を町の連中に対する怨念に変換している。
自分の全細胞、全神経を呪力によって蹂躙され続けるスクィーラの精神は憎しみと怒りによって保たれている。
並みのバケネズミであればとうの昔に発狂して精神が崩壊しているに違いない。
「この世のいかなる生物も味わったことのない苦痛と恐怖の刑」とはよく言ったものだ。
スクィーラは心の中で、町の人間達に対して嘲笑していた。
スクィーラにとって、町の人間達が自分に与えるのは「この世のいかなる生物も味わったことのない苦痛と恐怖の刑」などという大それた刑罰などではない。
現に今のスクィーラの精神は崩壊してもいないし、発狂もしていない。
スクィーラに呪力を送り続けている拷問官はスクィーラの目が死んでいない、恐怖に怯えていないことが腹立たしいのか、呪力を強め、スクィーラの身体中の細胞を暴走させる。
自分の身体がグロテスクに変形していく過程での激痛と苦しみは今までよりも一層激しくなる。
しかしそれと同時に人間達に対する怨念、怨嗟、憤り、憎しみは増していく。
例え自分が今とは違う生物にされようと、どんなに拷問しようと、絶対に自分は折れたりはしない。
スクィーラ胸には神栖66町の者達に対する地獄の業火の如く燃え広がる赫怒の念が確かにあった。
休む間もなく続けられる拷問であるが、スクィーラは自分の身体に奏でられる蹂躙と激痛の協奏曲が暴走している時に不可思議な言葉が聞こえてきた。
それはここ数日の間に続けられている言葉だった。
最初は何を言っているのかが聞こえなかったが、今はハッキリを何を話しているのかが分かった、そしてこの言葉は自分に語りかけていることも知った。
例えば、己の一生がすべて定められていたとしたらどうだろう
人生におけるあらゆる選択、些細なものから大事なものまで、選んでいるのではなく、選ばされているとしたらどうだろう。
無限の可能性などというものは幻想であり人はどれだけ足掻こうとも、定められた道の上から降りられない。
富める者は富めるように。貧しき者は飢えるように。善人は善人として、悪人は悪人として。
美しき者醜き者、強き者弱き者、幸福な者不幸な者
――――そして、勝つ者負ける者。
すべて初めからそうなるように……それ以外のモノにはなれぬように定められていたとしたらどうだろう。
ならばどのような咎人にも罪はなく、聖人にも徳などない。
何事も己の意思で決めたのではなく、そうさせられているのだとしたら?
ただ流されているだけだとしたら?
問うが、諸君らそれで良しとするのか?
持てる者らは、ただ与えられただけにすぎない虚構の玉座に満足か?
持たざる者らは、一片の罪咎なしに虐げられて許せるか?
否、断じて否。
それを知った上で笑えるものなど、生きるということの意味を忘れた劣等種。人とは呼べぬ奴隷だろう。
気の抜けた勝利の酒ほど、興の削げるものはない。運命とやらに舐めさせられる敗北ほど、耐え難い苦汁はない。
このような屈辱を、このような茶番劇を、ただ繰り返し続けるのが人生ならよろしい、私は足掻き抜こう。
どこまでも、どこまでも、道が終わるまで歩き続ける。遥か果てに至った場所で、私は私だけのオペラを作る。ゆえに、諸君らの力を借りたい。
虐げられ、踏み潰され、今まさに殺されんとしている君ら、一時同胞だった者たちよ。
諸君らは敗北者として生まれ、敗北者として死に続ける。その運命を呪うのならば、私のもとに来るがいい。
百度繰り返して勝てぬのならば、千度繰り返し戦えばよい。千度繰り返して勝てぬのならば、万度繰り返し戦えばよい。
未来永劫、永遠に、勝つまで戦い続けることを誓えばよい。
それが出来るというのならば、諸君らが"術"の一部となることを許可しよう。
永劫に勝つために。獣のたてがみ――その一本一本が、諸君らの血肉で編まれることを祝福しよう。
今はまだ私も君らも、そして彼も……忌々しい環の内ではあるものの。
これから先、ここでの"選択"が真に意味あるものであったと思えるように
いつかまたこの無限に続く環を壊せるように
さあ、どうする。諸君ら、この時代の敗北者たちよ。私に答えを聞かせてくれ。
戦うか、否か――。