【2次】漫画SS総合スレへようこそpart71【創作】

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214金鹿:2012/01/09(月) 01:23:54.45 ID:jC1jnYQ30
>>ふら〜りさん
毎度感想ありがとうございます 感想もらえると 嬉しいし励みになります
だから気絶で済んでるんですよw
…というのは嘘で骨伝導のことは思いもしませんでした 確かにぶつかり合えば中和されるかもしれませんね〜
思いっきり真面目に考えた考察をツイッターに垂れて見ましたが…垢晒しっておk?
215汝は罪人なりや?【発】【いちにちめ】:2012/01/18(水) 23:18:10.53 ID:DwciSg1LO
弥子が起きたのは翌朝の早い時間だった さっきから部屋に備え付けられた電話の音が飽きもせずに鳴っている
弥子は無視して寝ようとしたがいっこうに鳴り止まない電話に諦めて受話器を取った
「はいもしもし」
弥子は眠そうに不機嫌な声で答えるとよく知った声が応じた
「先生おはようございます やっとお目覚めになりましたk」
思わずガチャ切りした電話がまた鳴り響く
「貴様我が輩からの電話を切ったな…誰が主人なのか分かっていないようだな」
電話越しに威圧感を感じる声でネウロが言った…もしかして機嫌悪い?
「だっていきなり敬語で怖かっ…ごめんなさい」
「まあよかろう…謎が発生した 貴様のリュックに入れてある捜査用具を持って我が輩の部屋に来い」
ネウロはそれだけ言うと電話を切ってしまった
「はいはい分かりましたよ…」
全く人使いが荒いんだから…そんなの魔界能力(どうぐ)使えば済むじゃん…でも探さなかったら私の身が危ないんだよね…諦めた私は大きなリュックの中身から入れた覚えのない物を探し始めた
「最終日用お菓子のリュックの奥底にあるなんて…絶対嫌がらせだ」
私はお菓子の山をかき分けつつ食べて減らし
やっと見つけた袋を持って部屋を出た
216汝は罪人なりや?【発】【いちにちめ】:2012/01/18(水) 23:42:38.68 ID:DwciSg1LO
しかし下を向いていたせいで前に居た誰かに気づかずぶつかった
「へぶッ…ああごめんなさい」
前に居た人は驚いたように振り返ってこっちをみた
「おやおやドラム缶さんお早いお目覚めですね」
「…Gさん…」
私は何とか言葉を絞り出すとまるで体がコンクリートで固められた様に動かなくなってしまった
「朝食の用意が出来たので皆様を起こしに来たのですが…どうしました?顔色が悪いですよ」
その時弥子の後ろから黒手袋の手が伸び彼女の顔を覆うように包むと自らのそばに引き寄せた
「お気遣いなく!先生はいつもこんな顔なので」助かった…私はやっと自由が戻ってきた体に力を入れ ネウロの服をつかみしっかりと立った
「…ネウロ」
「全く…あまりに遅いから来てみれば…見た目が似ているだけの事で恐れる理由にはならん…理解できん」
私の大変さもいざ知らず軽口を叩くネウロにムッとして言った
「…アンタにはわからないよ」
私たちはそのままみんなと一緒に食堂に向かいシェフの料理に舌つづみを打ち始めた
「おいしーやっぱり一流店のシェフが作ると違いますね」
私は近くで料理を盛り付けてくれているシロタシェフに話しかけた
ネウロは隣で誰かと話しながら 時々料理を私の皿に投げて来る
217汝は罪人なりや?【発】【いちにちめ】:2012/01/19(木) 00:04:14.51 ID:dClpQnarO
「ははは 誉めて頂けるのは光栄なのですが…恥ずかしながら ほとんど冷凍物なのですよ」
その一言に周りから驚きの声が上がった
「こんなに美味しいのに冷凍?」
「こんな場所ですから使う時と使わない時の差が大きくてね…
冷凍物のほうが無駄無く美味しく食べられるという訳です」
「ほとんどってことは…全部では無いんですか?」
「ああスープだけは私が一晩かけて1から作っている お客様には少しでも美味しい物を食べさせたいと思ってね」
その言葉に私はあの事件を思い出した
「シロタさんも…オーナーの…おいしくつくろうという情熱を受け継いでるんですね」
その言葉を聞いたシロタはうつむいて言った
「あの事件…あの人は悪い人じゃないんです…ただ情熱を向ける先をほんの少し間違ってしまっただけで…」

その時 食堂の扉が開きGさんが飛び込んできた。キョロキョロと落ち着き無く周りを見ている彼はかなり慌てている様子だ
「どなたかやられやくさんの行方を知っていらっしゃいますか?」
「見てないわ」
「俺も…昨日の夜から見ないよなあ」
「墓地部屋に朝食をお持ちしても返事が無く…もしやお帰りになられたかもと玄関に来てみたのですが…靴が残っていまして」
218汝は罪人なりや?【発】【いちにちめ】:2012/01/19(木) 00:31:56.83 ID:dClpQnarO
それを聞いたネウロはおもむろに立ち上がって言った
「鍵はどこに?」
「GM部屋の中です」
ネウロは私にウインクすると腕を鷲掴んで言った「行きましょうか…先生」
…正直言うとアンタが人間くさい時の方が普段より怖い…のは言わないでおこう
私たち三人は急いで二階にあるGM部屋へと向かった ノックをしてみても返事が無くドアノブをひねるとなんと…鍵が掛かっていない
「GM部屋がもぬけの殻ですね…おや この映像は監視カメラですか?」
壁に埋め込まれた二つのモニターに目をやって聞いた
「はい墓地部屋と食堂にそれぞれ配置しています…そんなバカな…墓地部屋に居ないなら一体どこへ…まさかまだ客室に!」
動揺しているGさんとは対照的にネウロは冷静に言った
「行ってみましょう…鍵はどこです?」
Gさんは無言で鍵をつかむと奥の部屋に走りドアを開けた
「ああそんな…どうして」
「やられやくさん…死んでるの?」
彼はアイマスクをした姿で扉の前に横たわっていた…変わり果てた姿で
「可能性が現実となり…謎が生まれた…この謎は美味か…否か…人狼たちのお手並み拝見と行こう」

〜〜今日はここまで〜〜
ふう…サブタイ決まらなくて悩んだけど何とか書けた…おやすみzzz
219作者の都合により名無しです:2012/01/19(木) 14:12:54.64 ID:7SMLDwvl0
カイカイです。

のび太&ピクルがインドの密林へ行く部分、どんな展開になると面白いでしょうか。
220ふら〜り:2012/01/20(金) 19:33:31.70 ID:vHto7ZGw0
>>金鹿さん
>私はお菓子の山をかき分けつつ食べて減らし
こういう、ナナメ読みしていたらうっかり見過ごしてしまいそうな、だからこそ見過ごさ
なかった時に気持ちよく笑えるネタは、文字媒体ならではですね。漫画・アニメにゃできない
こと。あとこの事件は設定上、最初からヤコもターゲットの内な可能性が高いのが特徴かも。

>>カイカイさん
ピクルは原始人なんですから、ゴンやドテチンと絡んでマンモス肉を食べるという
展開を誰かやってくれないものかと前々から妄想はしているのですが。いかがか?
221作者の都合により名無しです:2012/01/20(金) 20:25:42.53 ID:vycnnSyd0
ギャートルズは知らないです。
確か最後は、主人公の原始人たちが稲作文明のクニで奴婢をしてるところで
今まで狩りの対象でしかなかったマンモスたちに助けられるんですよね。

ゴンやドテチンは知りませんが、この形でいくと
ピクルが22世紀の自然派の団体にサッ処分されそうなところを
バキキャラたち&のび太が助け出す展開でもよさげですね。

大長編の恐竜ハンターが、更正して慈善活動家になって再び過去の世界を攻める話でいきましょう。
もう一捻りするためのヒントください。
222作者の都合により名無しです:2012/01/21(土) 04:23:55.22 ID:tNsQAdhu0
踵を返すペイン博士。両手に提げたバケツはそれぞれ、10kg近い肉塊が入っている。
20%を超える比率で、培養した肉を含んでいる。
のび太の方へ振り向いた形になるペイン。壁にフラフープをフチとする空洞が開いており、そこから蒼い狸がのそのそ出てくる。

両手を前へ投げ出し、ピクルの元へ駆け寄ろうとする。
しかし、バケツを手放した反動は結果的にペインに尻もちを搗かせる。
のび太が遠慮なく、ペイン氏の腹に前蹴りを入れた。

22世紀帝愛の時間貯金箱が無ければ、ノビスケの成長まで待たないと
発現しないはずだった、のび太が秘める蛮勇。

ドッと音を立てて倒れたペインにはもう、足を引っかけられないか否かの興味しかない。
バケツ一つを両手で持ち、ピクルの元へ駆け寄る。

「やめろ!」。背中から響く声を振り切り、砂埃を立ててバケツをボソッと置く。
「好きなだけ食べて!!」。「パイズニアス!」。「?」。
ペインが慌てて言い直す。「毒入りだぞ!」。「!!」。

ピクルがバケツの取っ手を掴み、豪快に投げ捨てる。
客席の一部が壊れ、中身が舞い散る。毒物は、化学毒ではなかった。
味沢さんがオランダで末期がんの人に出した、フグ料理の素材と同じ物が客席に散乱してる。
223作者の都合により名無しです:2012/01/21(土) 05:00:45.46 ID:tNsQAdhu0
「熟成の始まった肉から、培養を始めるなんて『この世界軸』じゃ2012年の産物じゃありません」。
客席でペインと並んで座り、ドラえもんが語り始める。
23世紀末に一人の鮨メーカー・オーナーがグルメ・テーブル掛けのセーブデータを弄って作るはずの産物。
そして、大富豪ノルマンスタンがその鮨を食べたのがキッカケで、のび太たちは初めて命や人生を懸けた戦いに参じてしまう。

「ピクルは、ノルマンスタン氏が作った。他に麒麟と龍も作ったが、『リリース』は済んでる」。
押し黙るのび太。犬一匹、延命するしないで長く葛藤したのと同じ年、ヒカリ族に与して戦ったのと同じ年に
聞くべきでない未来世界の生命倫理。

花道に影が差す。「烈さん・・・・・・・」。
「麒麟と龍は、拳法に殉じた。そこな野人と同じく、わたしと試合をしたッ!!」。
武の神様に全てを捧げる21世紀人に、諌められたみたいな態度をしつつドラえもんは冷静に考えた。

(ピクルを処分するとき、ヤツはこちらの人間に手を下させる気だ・・・)
(ノルマンスタンが、24世紀を離れられない?)

「ピクルを中国に逃がせないか?」。
ペインが烈を見上げて問いかける。フグ肝が徳川の包丁人の提供なら、頼みのヘリコプタも使えない。
「『どこでもドア』を使うと、未来の世界で密航になってしまうんです」。
ドラえもんが、暗に「ピクルを中国には逃がせない」と言う。

「じゃあ、三輪飛行機だね。あの大きさなら、海沿いをインドまで飛べる」。
「なんてこと言うんだのび太!(郵便ロケットと)速度だって違うんだぞ」。
「ピクルも、三輪飛行機で行くんだよ」。いつになく真摯なまなざし。

見開きでテーマソング:「蝋の翼」(鬼束ちひろ)
東京湾から発つ3機の機影。
224ふら〜り:2012/01/21(土) 23:05:27.46 ID:c8cWaQtL0
>>カイカイさん
中国だインドだと言ってますが。ならば! もうちょっと(?)足を伸ばして、アフリカに
行きましょう。そして、ベッカンコーで木の葉が沈んで石が泳ぐんです。烈やピクルはともかく
のび太ならば血族(??)なんですし、話が通じるかもしれない。通じた後どうなるかはさておき。
225作者の都合により名無しです:2012/01/23(月) 09:44:12.57 ID:PPaZb0GG0
カイカイ界でそれだとむしろ、呪術士がターちゃんファミリーとまともに戦う展開になるし
それはそれで面白いですね。検討しておきます。
しかし三輪飛行機でソマリア入りはきついなあ・・・。
ザイールかボツワナへ渡航できる「券」をのび太が手に入れて、どこでもドアの使用を解禁にするしか。
とりあえずピクルを匿うのは、呪術士に任せます。
ついでに、ターちゃんズの来日のキッカケにもします。
226汝は罪人なりや?【抜】【いちにちめ】:2012/01/26(木) 21:45:09.68 ID:94k76GH2O
(カイカイさん初めまして金鹿と申します バキ知らなかった新参者ですがどうぞよろしくお願いします)

本編


驚いている私たちの後ろから助手ネウロの悲鳴が上がった
「なんということでしょう!」
振り向くとネウロが目を見開いて顔を手で覆っている…うわぁ胡散臭い
「Gさんここは先生に任せて警察と消防に連絡を!」
あまりの事に呆然としていたGさんは その一言で弾かれた様に駆け出し残ったのは私とネウロと出来立ての死体だけになった
「さてヤコよ…捜査を始めるとしよう」
「えっまだ食堂のフレンチが私を待って…」
逃げようとする私にネウロは子犬の様な目と声で言った
「イヤか?」
(戻ったら…殺す気だ!)
「と言っても」
ネウロは携帯を取り出すとアイマスクを着けて床に転がっている遺体と窓枠の一部の映像を撮った
「この状況を見れば犯人の目星は付くがな」
「つまり…犯人が分かったの?」
ネウロは一瞬驚いた表情をしたけど、すぐいつもの余裕たっぷりの意地悪い顔に戻って言った
「やはり貴様には分からんか…アカネに聞け」
「まあアンタが素直に言うはずないよね。言われなくてもそうしますよーだ」
私はネウロに向かって一瞬舌を出してからポケットを探った
227汝は罪人なりや?【抜】【いちにちめ】:2012/01/26(木) 22:18:07.09 ID:94k76GH2O
「あれ?携帯部屋に忘れて来ちゃった」
ネウロは呆れたように目を閉じて溜め息をついた
「…貴様何のためにわざわざ事務所からアカネを連れてきたと思っている。すぐに連れて来て今後、肌身離さず持ち歩け」
そう言われたのと私が部屋から叩き出されたのは同時だった

私は部屋に戻ると迎えてくれたあかねちゃんに愚痴を言ってしまった
「あかねちゃんはいいよね〜何でも出来るからネウロに頼りにされて暴力もないし」
あかねちゃんは答えを即座に携帯に打ち込んで文字にする
(そんなこと無いよ弥子ちゃんだって…)
その時開けっ放しだったドアの向こうから声がした
「よう探偵さっきいきなり飛び出してったけどよ 何かあったのか?」
私は携帯をポケットに入れると振り向いてドアに向かった
「吾代さん…うんまた殺人事件」
「はあ〜…ったくどうしてお前らの行く先々で事件が起きんだよ 事件の探知機でも付いてんのか?」
吾代さんは面倒そうに頭を掻いた
「ははは…本当にね」
(付いてるんだよねネウロに)
噂をしたせいなのか吾代さんの後ろに本人が現れた
「吾代貴様に仕事をやろう」
「のわっ脅かすんじゃねえよ」
「現場は調べ終わったが野良犬が荒らしに来るかもしれん 貴様が見張っておけ」
228汝は罪人なりや?【抜】【いちにちめ】:2012/01/26(木) 22:53:17.34 ID:94k76GH2O
「はあ?なんで俺が」
不服そうな吾代さんにネウロはまた子犬の様な声色で言った
「ダメか?」
(断ったら…殺す気だ!)
「次はGM室に行くぞヤコ」
無言で首を振る吾代さんを残し私たちは捜査に向かった

さっき一度来たその部屋に付くと、やることのない私はあかねちゃんに話しかけた
「機械がいっぱいあるね」
あかねちゃんはいつの間にかネウロの携帯に乗り移り私の携帯と忙しく行き来している…今は話しかけない方が良さそうだ。
私は隣の部屋のネウロに視線を移した
「フム…ベッドを使用した形跡が無いな」
私は寝室のちょうど反対側にあるドアに近づいた
「あっちが寝室ならこっちのドアはなんだろ…あれ開いてる?」

覗いてみると階段があり下に続いているようだ
「降りてみるぞヤコ」
怖くなって閉めようとした私を後ろから来たネウロの手が掴み強引に引きずられる
「こちらにもベッドがあるな…なぜわざわざ階段を下りてまでコチラで眠る必要があるのだ?」
それ…わざわざ私を掴んで引きずり降ろしたアンタが言うこと?
「知らないよ〜」
「おや?扉があるぞ開けてみるか」
ネウロが扉に手をかけようとした時、聞き馴れた怒鳴り声が響いた
「だから探偵から入れるなって言われてんだよ」
229汝は罪人なりや?【抜】【いちにちめ】:2012/01/26(木) 23:20:04.55 ID:94k76GH2O
「吾代さんの声だ」
ネウロはドアを開けるのをやめて階段を登り始めた
「やれやれ…行儀の悪い野良犬だ…我が輩直々にしつけに行くとしよう」
吾代と揉めていたのは弥子からすれば意外な人物だった
「あれ?エドガーさん」
「おお女子高生探偵の弥子ちゃんじゃねえか…いやハンネのドラム缶ちゃんって呼んだ方がいいか?」
(ドラム缶にちゃん付けって…なにこの羞恥プレイ)
若干引いている私の前にネウロが出て言った
「現場に素人を入れると捜査が混乱します。お引き取り願いたいのですが」
ネウロは私の頭にアゴを乗せて覆い被さってくる…重いんですけど
「捜査ってことはやっぱり何かあったのか…まあ素人っちゃシロウトなんだけど小説の参考にしたくてな」
「そういえば小説家だって言ってましたもんね。」
「そうそう!俺は推理小説書いてんだけど、どこ持ってっても『リアリティが無い』って言われてよ…せっかくだから間近で捜査を見たいんだよな…出来ねえかな」
上目遣いでねだってくるおっさんをネウロはバッサリと切り捨てた
「お断りします」
「…ちょっとネウロ」
魔人は私を無視して話を続けた
「先生は内部犯の可能性を疑っておいでです ですから捜査の情報を話す事は出来ません」
230汝は罪人なりや?【抜】【いちにちめ】:2012/01/26(木) 23:47:16.21 ID:94k76GH2O
ネウロの発言で一瞬にしてその場の空気が凍り付いた
(内部犯…つまり私たちの中に犯人が居るってこと!?)

エドガーとネウロの間にはいっそう冷たい空気が流れている
「…へぇ〜もしかして俺疑われてんの?」
「さあ…どうでしょうね」
しばらくにらみ合いをした後、どうにもならないと悟ったエドガーは肩をすくめそのまま階段を下りていった
それを見届けるとネウロは吾代に指示を出す
「吾代、貴様は引き続きここで待機だ。その部屋鍵を閉めるまではな」
そして弥子の方に向き直るとなぜか助手口調で言った
「…現場はもういいでしょう聞き込みに参りましょうか先生」
ネウロは私の肩に腕を回すとそのまま階段を下りようとした
「ネウロ…私アンタの考えが分かった気がする」
ネウロは立ち止まりその碧の目で私を見た
「言ってみろ」
さっきのネウロの発言とあかねちゃんがまとめた資料から導き出した結論…確信を持った私はネウロと目を合わせて言った
「犯人は…人狼だよね」
ネウロは満足そうに目を細めささやくように言った
「…その通りだヤコ」


〜今日の分はここまで〜

長いだろ…次回から中盤なんだぜ…これ
しばらく忙しくなるので更新遅くなるかもしれません…オヤスミなさい
231ふら〜り:2012/01/27(金) 21:06:15.84 ID:UbdOIND70
>>金鹿さん(ご無理はなさらず、ごゆっくり〜)
>ったくどうしてお前らの行く先々で事件が起きんだよ
コナンも金田一もどうしようもないこのツッコミに、応えられるんですねえネウロは。まあ
その二人もどうせ、そんな能力があれば活用して事件に飛び込むでしょうけど。で飛び込み
たくないヤコは毎度引きずられてますけど、流石に慣れてますね。事件と、ネウロの思考にも。

>>カイカイさん
原始人でも呪術師でもないですが、他に「それっぽい」キャラといえば
ワールドヒーローズのマッドマンとかが思い出されます。
232作者の都合により名無しです:2012/01/29(日) 16:16:29.47 ID:CviRt9HS0
あー、そのマンガ、マッドマンがインストラクターになって皆を鍛えるところまで
しか読んでないです。ワーヒーのコミカライズは他にもあるんだろうけど、それぐらいしか。

気長に進めます。「インド」は、キューバやハイチの辺りにもあるし。
アナベベのビジネス仲間も居そうだし。
ただ、大魔境の知的生命犬も出したい気がしてきます。
アウターゾーンで一回だけあった、犬型宇宙人ともコラボできるかな。
233作者の都合により名無しです:2012/02/16(木) 23:58:27.73 ID:Pbab3N7w0
墓場だな…
234汝は罪人なりや?【閥】【いちにちめ】1 :2012/02/18(土) 11:19:09.43 ID:hoecpiy10
私達が食堂にむかうとエドガーさんを中心に集まって何かを話していた。
私達が中に入ると全員の視線がこちらに向き、ネウロはそのタイミングを待ちかまえていたように言った。
「やられやくさんがお亡くなりになられました」
皆ネウロの言葉に動揺する
「なっなんですって」
「おいおいマジかよ」
「亡くなったってどういう事ですか」
「ハア…ハア…」
「冗談はよしたまえ いなくなったの間違いだろう?」
思い思いの反応をする皆を無視してネウロは言った
「いいえ間違いではありません 今から僕たちが何があったのか説明致します。先生お願いしますね」
「えっ私がやるの!?」
いきなりのことに私は驚いてネウロの顔を見た。アイツはあの目でニヤニヤしながら声だけは助手のもので言う。
「何か問題でも?」
(大ありだよ)
激しく突っ込みたかったけど、しぶしぶ前に出て導き出した推理を披露した
「やられやくさんが殺された部屋は入り口と窓に内側から鍵がかかっていました。つまり密室だったんです」
「殺されたって…密室なら自殺じゃないの?」
私はジェニファーさんの方に向き直るときっぱりと言った
「いいえこれは間違いなく殺人です。やられやくさんはアイマスクを身につけて出入口付近に倒れていました。自殺ならそんなことはしない。
何故なら間もなく部屋に来る人狼に発見されて、助けを呼ばれれば自殺が失敗するから。仮に自殺だったとしても人狼が倒れている人を放置するのは不自然です。」
「つまり探偵さんはこう言いたいわけね…犯人は人狼だと」
「そうです」
場は再びざわめき出した。
235汝は罪人なりや?【閥】【いちにちめ】2 :2012/02/18(土) 14:06:31.09 ID:hoecpiy10
「せっかく死因を伏せたのにバラすとは…貴様はカニ味噌か」
「美味しそうな例えなのがムカつく」
すがるような目でくららが聞いた
「この中に犯人が要るのね…誰なの?」
出来るなら答えてあげたかった…けど私には分からない。
ネウロなら答えられるかもしれないと思い視線を送ってみるがアイツは明後日の方向を向いている。
(まさか…私に犯人まで当てろって言うの!?)
しばしの沈黙の後食堂に私の声が響いた。
「犯人は…お前だ!」
皆一斉に私に注目したが…私は叫んだ覚えがない
「犯人はまだわかりません…って今の私じゃない!」
私が慌てて否定すると、もう一度流れた声の方にみんなの視線が向いた
「ワリィいなちょっとしたジョークだ」
視線の先には録音機を手にしたエドガーがイタズラっぽく笑っていた
「変なおっさんは置いとくとして…犯人が分からないなら…これからどうするんだ?」
(あきらちゃん…そこはツッコミ入れてあげようよ)
「それなら…先生に考えがあります 説明は僕が」
(アンタには、もはやなにも言うまい)
ネウロの策というのは二人組を作るという簡単な物だった。みんなはこんなことで防げるのかやっぱり疑ってるみたい
「なあ探偵…本当にこんなんで大丈夫なのか?」
あきらちゃんが話しかけてきた。お姉さんと組むみたいだけど、私は何て言えば良いんだろ?
「今出来ることは少ないけど、警察が来てくれるまでの辛抱だから…それまで我慢して」
私が精一杯考えた言葉をかけると、彼女は納得行かないような顔をした。けど、それ以上質問しては来なかった。彼女と入れ違いにジェニファーさんが来る。
「探偵さんちょっといいかしら?」
236汝は罪人なりや?【閥】【いちにちめ】3 :2012/02/18(土) 17:10:42.48 ID:hoecpiy10
近くで見るとさすがに女優だけあってスタイルいいなあ…出るところは出て引っ込む所は引っ込むメリハリの効いた身体…羨ましいなあ…と思っていたら凝視してしまっていたらしい。
「どうしたの?そんなにジロジロ見て」
「いえいえなんでもないです!ところで私に何の用ですか?」
焦って首を振る私に、彼女はニッコリと笑いかけて言った。
「私と組まない?女同士の方がお互い気を使わなくて良さそうだし」
例の桃の扇で口元を隠しながら言う姿はとても優雅で、住んでいる世界が違うことをひしひしと感じる。
「私でよければ…モガッ」
私の返事は、黒い手袋にさえぎられて消えた。
「先生は僕と組むので残念ですが他を当たって欲しいと言ってます」
「んっふぇなんー!」(言ってないー!)
「そうなの?じゃあ仕方ないわね」
彼女は残念そうだったけど、ネウロが私を放すわけもなく、彼女は余った男性陣に声をかけはじめた。

その横のネウロは食堂の入り口を見、誰にも聞こえない声で一人つぶやく
「遅い…じいはなぜ戻って来んのだ?」

〜今日はここまで〜
諸事情で大変遅くなりました。しかも規制中なので代行です…そんなわけでこれからは更新が遅くなります
237ふら〜り:2012/02/18(土) 19:10:41.73 ID:abBMYNvC0
>>金鹿さん(現状での投下はありがたいです。昔のこのスレを見せて差し上げたい……)
原作ではいつものことですけど、ネウロが何をどこまで考えているのか、ヤコ=読者には
まださっぱりわかりませんねえ。金田一なんかと違って、ネウロ本人は犯人に狙われたって
絶対に殺されたりしない(ヤコと違って)のが、ある意味ヤコにとって腹立つところですな。
238作者の都合により名無しです:2012/02/20(月) 19:32:15.93 ID:X1kV9ic60
ドラえもん のび太の東方幻想郷
【ドラ×ハルヒ】 のび太の終わらない夏休み エンドレスエイト

この手の動画が当たり前にある現在、このスレの意義は何なのか?
幸い、バキではまだこの手の動画が作られてないけど。

マンガのシーンを脳内再生するための描写か、ノベルとしての描写か。
どっちにいくべきなんだろうか。
239銀杏丸 ◆qUi3yTFCmP8i :2012/02/21(火) 22:30:49.69 ID:njkdyAWd0
お久しぶりです
240作者の都合により名無しです:2012/02/21(火) 22:37:08.04 ID:njkdyAWd0
The Times They Are a-Changin'

人の定義は何か、と問われたら私は「己の意思によって立っている者」と応えるだろう。
運命などと、宿命などと、そんな言葉で私は己を偽らない。そんな言葉でこの教皇シオンは揺るがない。
ひなびた老人の、この私の、心の臓腑に突き立つ、黄金の拳を、運命などという言葉で諦観しない。
年老いたとてなおも鮮烈な赤、紅、朱、赫、あふれ出す血潮。
黄金に煌く聖衣を纏う少年、その野心に、その信念に燃えるその姿はひどくまぶしく思える。
今この哀れな老人を屠る少年の姿はひどく眩しい。
正邪など関係なく、その姿は人間なのだ。
死につつある私の体から、法衣を剥ぎ取り、教皇のマスクを奪い去る少年の姿は、
天を仰いで哄笑をあげる少年の姿は、冒涜的なまでに美しくおぞましいまでに純粋だ。
彼の意思はたった一つ、神を祓うこと。
この地上をいかなる神々の干渉から解き放つ、人の手による管理運営。
その果断を若いと切って捨てることもできるだろうが、私はそうはしたくなかった。
己が意思を完遂する。
常人にできることではない。
己の意思の基に行動し、その結果が破滅であったとしても揺るがない精神を持つ人間に私は憧れる。

その姿がどうしようもなく眩しく、そこに至らぬ己がどうしようもなくむなしい。
次の聖戦へのかすがいとなる。教皇の法衣と玉座に誓った私の意志がまるで塵芥のごとく払われた。
230年の我が妄執を、ただの一撃で。
一切合財を、ただの一撃で。
まるで喜劇のような悲劇だ。悲劇のような喜劇だ。
その極光のごとき極彩色の意思は、抗うものすべてをなぎ払う焔となるだろう。
それこそがこの私が求めたもうひとつの煌きだ。
だが、それゆえに聖域の管理者には相応しからぬものなのだ。
聖域の主とは女神アテナなのだ。
彼女の鎧であり、彼女の住処であり、彼女の家であり、彼女の庭であり、彼女の掌の上。
この地上における唯一無二の神の庭、神のゆりかご。それが聖域なのだ。
教皇の位とはたかがその程度でしかないのだと諦めた私と、神々を祓う足掛かりと捉えた彼。

黄金聖闘士・双子座ジェミニのサガ。

彼は、私を討つという事によってついにその領域へと手をかけたのだ。
241作者の都合により名無しです:2012/02/21(火) 22:38:13.87 ID:njkdyAWd0
「哂うか?サガよ…。
 この老人を」

果たしてそれは肉体がつぶやいた声だったのか。
血とともに命が流れ落ちる中、私はこの野心に燃える男に語る。

「お前は、聖闘士としての生き方よりも人間としての生き方を選んだのだ。
 神を否定する戦いを、選んだのだ」

祝福するように、語る。

「誰からも省みられぬ、誰からも祝福されることのない、修羅の道よ」

呪いのように、語る。

「聖闘士となったものならば、教皇の法衣を纏ったものならば、
 一度は脳裏をよぎるのだ。
 一度は思考するものだ」

それは呪詛、たとえ今わの際と言えども、語ることを許されぬ、呪詛。

「女神アテナがいるからこそ、この地上から争いが絶えぬのだと。
 われらが主は、戦の女神。
 戦を司る女神なのだ」

わかっているのだ。それは語るべきことではないと。
わかっているのだ。それは考えるべきことではないと。
わかっているのだ。それを口にしたらもはや聖闘士ではいられないと。
だが、それでも、言わざると得なかった。
たとえ死しても聖闘士。
その言葉どおりに、魂となっても冥王に挑んだかつての戦友たち、偉大なる先達たち、
その彼らとて果たして疑問に思うことはなかったのだろうか?

「いや、現世に出力される存在を別個の神と認識しているだけで、我らの知る神々はすべて同じ一柱の神なのやもしれぬ。
 まるで樹木のごとく、根源は変わらず、ただの枝葉、それが我らが知る神々なのやもしれぬ」

狂いつつあるのか、私はどこまでが己の正気であるのかなどとは思わない。
流れ落ちる血潮の代わりに、焦慮が私の五体を満たす。

「もし、神々からの干渉を防ぐことができるのならば…。
 もし、この地上を本当に人間の手で管理運営することが叶うのならば…」

偉大な彼らと道を違えることになることはわかっている。

「われら聖闘士が、人間が、本当の意味で生きるということではないのか…。
 神々を否定した先にこそ、人の時代がくるのではないか…。
 私が成せなかった事だ、神々を恐れるがあまり、終ぞ成せなかった事だ」

それでも私は言わねばならぬ。
242作者の都合により名無しです:2012/02/21(火) 22:41:25.76 ID:njkdyAWd0
「私はそう、なりたかった。
 お前はそうなるのだな、サガよ」

もはや私に栄光はいらぬ、もはや私に誇りはいらぬ、もはや私に夢などいらぬ。
すでに私は亡骸で、まっているのはコキュートスの凍獄だとわかっている。
死者のすべてを知悉したと言わんばかりに、倣岸に睥睨するあの男の待つ冥府へと行かねばならぬ。

されども、私にはまだ成さねばならぬことがある。

「ならば征け。
 叛徒と成り果て散ろうとも。
 それがお前の道ならば、私は祝福しよう。
 それがお前の道ならば、私は呪おう。
 それがお前の道ならば、決して違えず進むならば、それがお前の正義ならば」

もはや私の声は途切れた。
残り香のごとく空ろに消え行く小宇宙は、聖域を離れる。まだ会わねば成らぬものがいる。

「お前の道は光なき無常の道なれど、私はお前を讃えよう、我が血の果てにあるものよ。
 サガよ、我が遥かな子孫よ」

243銀杏丸 ◆qUi3yTFCmP8i :2012/02/21(火) 22:46:27.17 ID:njkdyAWd0
黄金聖闘士、双子座ジェミニのサガ。
アテナの降臨を機に叛乱。
その十三年後、アテナによって討たれる。
神に抗おうとしたその姿は、神に対してNOを突きつけようとして敗北したその姿は、
私の目にはどうしようもなく眩しく、人間であるように見える。
私は、それが羨ましい。
かすがいとなることを選択したのは己の意思だ。
が、しかし、それでも私は焦がれてやまない。
神に抗おうとしたその姿は、私の目にはどうしようもなく眩しく、人間であるように見える。
いや、偽らずに言うのならば、憧憬すら抱く。
私は神に勝利したかった。
神を打ち倒したかった。
それはいまや私の死に装束となってしまったこの法衣を纏ってから常に抱き続けていた思いだった。
師・ハクレイのように、先代・セージのように、神に抗う人間となりたかった。
私とサガとの違いは、抗う神の数でしかない。
サガは主たるアテナすら倒すべき神の一柱であると断じていたに過ぎない。

遥かな過去、私が愛した女は三人の子を生した。
一人は射手座・サジタリウスの聖闘士となり。
一人は双子座・ジェミニの聖闘士となり。
残る一人は道半ばにて果てた。
何の因果か、我が子ジェミニの末裔が今代のジェミニとなり、
我が子サジタリウスの末裔が今代のサジタリウスとなったのだ。
血族同士が血で血を洗う凄惨な争いが今代の聖戦の幕開けとなったのだ。
【〆】

このssそのものは理想郷に書いたやつの転載で失礼しますが
四月からまた当たらしく星矢のアニメがはじまるそうですね、楽しみです。
昨年は本当にいろんな事ありましたが、バキスレ健在でなによりでございます
オリ設定てんこ盛り銀杏丸の星矢ssですが、どうかよんでやっておくんなまし
では、また
244 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/22(水) 11:03:43.57 ID:IM8cDLhu0
第096話 「演劇をしよう!!」(中編)

「不肖がいまおりますのは銀成学園の1−A! ただいまこちらでは発表に向け猛練習の真っ最中!! この熱気が分かる
でしょうか!!」
 ハンディカメラの液晶の中をロバが泳いでいる。ロバといってもそれは属性で風体はもちろん違う。
 パリっとしたタキシード姿の小柄な少女。シルクハットを被り肩に1つずつお下げをたらしている。同学年の中で最も中学生
に近いヴィクトリアよりもさらに幼い顔つきだ。
(小札零。なんで私が音楽隊なんかと……ホムンクルスと一緒なのよ)
「ちなみに不肖たちは演劇のメイキングをば収録中」
(黙って!!)
 ヴィクトリアは口角をみちみちと引きつらせた。家庭用、だろうか。収録に当たりとある部員から貸し出されたそれは片手で
十分なほど小さい。こういう時を想定したのか筺体には黒いバンドが(やや破れとほつれが目立っているが)あり、何とか無事
に保定されている。
 何か見つけたらしい。歓声。ある一点めがけマイクしゅっしゅする小札。
 促されるままカメラの舳先を変えると和装姿の秋水がフレームインだ。剣客だけあり恐ろしく映えている。特に短いながら
も後ろ髪を縛ってるところが女性陣にツボったらしく黄色い声は3割り増しだ。着衣の色は浅黄で袖にダンダラ模様がつい
ていた。もっとも日本史に詳しくないヴィクトリアなので彼が何を模しているか分からないし興味もない。
 遠く離れた外国生まれの少女に分かれというのも酷だろう。欧州基準で考えた場合幕末は陸続きでないぶん三国志よ
り伝わり辛い。或いは好事家が逆境を克服せんとばかり奮起し三国志以上に広めているかも知れないがその努力は
まだヴィクトリアまで届いていない。激動の京都でさえ最果ての一僻地……ましてそこの一警察ならヴィクトリアはなお知らぬ。
「おお!! 新撰組でありますか!! これは渋い! これは誰役ですか斉藤一どのでありますか!? ちなみに一説により
ますれば新撰組に斉藤一なる方は2名いたとか!! 土方どのに北海道までとてとて着いていかれた方は三番隊組長組
長じゃなかった方の斉藤一どのと不肖聞き及びましたがその辺の是非も含めてお答え頂きますれば僥倖っっ!!」
「い、いやただのコスプレなんだが……」
 しどろもどろに答える秋水だがその声はギャラリーにかき消された。「いきなり一瀬伝八とか渋っ!」「会津で官軍とやり
合ってた時の名前持ち出すお前も渋っ!!」「つか組長持ち出すなら普通鈴木三樹三郎からだろ」とかいう無責任な歓声
はヴィクトリアの眉間をますます硬直させていく。自分の知らない話で盛り上がられるのは不愉快だ。ましてそれが自分の
時間を浪費しているのが明確な場合怒りはますます強くなる。
 液晶の中では小札が手際よくマイクを差し出しインタビュー。聞いているのは意気込みとか役作りとかまひろとの関係とか
だ。みっともない。3流タブロイドの記者? あっという間の転落劇にヴィクトリアは冷笑しそれは秋水の答弁でますます深まっ
た。びっくりするほど面白味がない。助けを求めるようにカメラを見る彼にゼスチュア。「恩に着なさい」、ただし貸し1つよ、
冷笑交じりに助け船。

「ね、ね、小札さーん。向こうで何かすごいコトやってるよー」
 トロくさい間延びした声を上げる。ネコを被るのは得意だ。

 はたして小札は指差されるまま視線を移した。
 そこは教室の端の方で……

「心がリンクしてるー! 戦う〜すべてのぉー仲間とぉー!!」

 先日ヴィクトリアがメールアドレスを教えてやった少女──栴檀香美──が津村斗貴子と殴り合っていた。

「スクランぼー! ふぉーつーすりーわんレッツゴー!!」
245 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/22(水) 11:05:15.27 ID:IM8cDLhu0
 耳慣れぬ奇妙な歌を歌いながら拳を繰り出す香美。相対する斗貴子は真剣だ。もともと鋭い瞳を更に鋭くしながら踏み込み
左右に身を開き攻撃を避けている。不意に香美が飛び上がった。あっとギャラリーが息を呑んだのは腰骨と大腿部が大胆
な回転連動を描いたからだ。飛び回し蹴り。名うての格闘家でさえなかなかやれないダイナミックな攻撃──それをやれた
のはホットパンツ姿だからだ──が鼻歌の下で当たり前のように芽生え敵の側頭部へ吸い込まれた。一瞬小札はすわ事
故発生かと目を剥いたがしかし流石は斗貴子である。結果からいえば回し蹴りは捌かれた。クラシックな構えをほとんど崩
さず左腕だけをわずかに上げた。ス、ス、ス。いくつもの残影描く繊手。それがネコ足のベクトルを大きく変えた。擦り上げ
られる真剣のよう……後に秋水がそう絶賛するほど見事な捌きだった。であるから中空にあった香美の体が大きく傾き大
きく均衡を欠いたのは当然といえた。飛距離は5m。教室中央めがけすっとんだ。
「合気! 合気でしょーか!!」 
 そう叫んだ小札が驚愕に黙り込むまで1秒までかからなかった。床に落ちるかと思われた香美はしかし敢えて捌かれるまま
大きく宙返りをうった。背中が極限まで丸まったと見る頃にはもう遅い。ネコらしいくぐもった鼻息を吹きながら彼女は目一杯
背筋を伸ばしバンザイをした。両手を床に向ける変則的なバンザイを。タンタンタタン。次の瞬間斗貴子は頚部に異様な
圧迫を感じた。傍観者たるヴィクトリアでさえ最初事態が飲み込めなかったから当事者の惑乱甚だ察するにあまりある。
ホットパンツから延びる白樺のような両足。その大腿部が戦乙女の気管を頸動脈ごと圧迫していた。後にヴィクトリアが映像
記録で調べたところによるとまず香美は逆立ちで着地するや腕の力だけで全身を跳ねあがらせた。そして前転飛びを繰り
返し斗貴子に肉迫。あとは以上の如くだ。
 年代物らしくあちこちキッズアニメのシールの貼られたカメラは確かに映していた。斗貴子の額にヘソを押し付ける香美
の姿を。艶やかな短髪さえ足の間から生えているのを除けば”あぐら”をかくうな姿勢だった。ギリギリという音がした。香美
の大腿部はいっそう深く斗貴子の首にめりこんだようだ。彼女の背中では蜂のようにくびれた両脛がXを描きいっそう脱出
困難だ。あられもなく下腹部を押し付ける姿勢は男子生徒諸君の琴線にふれたらしくどよめきと歓声が起こった。
「俺もして欲しい」そう叫んだのはリーゼント頭の男子生徒でヴィクトリアの不興を大いに買った。
「よっ」
 軽い調子だが見ていたものはひたすらに驚愕した。香美が軽く腰をひねったと見るや彼女の体は斗貴子の首を軸とばかり
に旋回し反転した。つまり肩車のような姿勢に変じた。攻勢は止まらない。シャギー少女が後ろに向かって倒れ込むとグル
ンという不気味な音がした。一同を戦慄と衝撃が貫いた。小柄ながらに不沈戦艦のようだと評判の斗貴子。その体が宙を
滑り天井へ吸い込まれた。フランケンシュタイナー!? 絶叫の小札。追随。ギャラリーたちも鋭く叫ぶ。
 奏でられるは激突音。時間はやや減速した。投げた姿勢のまま、横ずわりをするネコのように臀部を突き上げたままの香美。
重力もやや減衰中だ。空中に漂いながらそして小札めがけピースをした。もっともそれを後悔したのはコンマゼロゼロ何秒
か後である。笑みに緩む頬。その横を青い影が通り過ぎた。はっとするころにはもう遅い。斗貴子の勝ちが確定した。銀成
学園理事長に収まっているイオイソゴが数十分後懇意の業者に天井板を3枚ほど発注したのはこのとき斗貴子が教室の
天蓋を蹴り抜いたからである。ガードレールも拉(ひしゃ)げる脚力で莫大な加速を得た彼女は、絞首と落下を選んだ。意趣
返しとばかり細腕を首に絡ませ腰を沈め……咆哮。耳さえ押さえ震えあがる中ギャラリーは目撃した。揉み合う女性2人轟
然と垂直落下するのを。
 かくして香美は成すすべなく叩きつけられた。床に。「うげぇ」と舌出し呻くだけで済んだのはむろんこれが練習の一貫だか
らである。平生ならそのまま殺してるでしょうね。ヴィクトリアは肩を竦めた。

「というか手筈にない動きを取るな!!!」

 絹を裂くような怒声をあげたのは斗貴子。どうやら彼女らはアクションの練習中だったらしい。そして香美が予定外の攻撃
を仕掛けた……滑らかに説明する小札を映しながらヴィクトリア、「わかっているわよそれぐらい」瞳を冷たく尖らせた。
246 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/22(水) 11:07:59.76 ID:IM8cDLhu0
「あのコも凄かったけど」
「ああ。いきなり対応できるあの人もすげえ」
「何て名前だったっけ」
「津村斗貴子さん。2年じゃいろいろ有名」

 ギャラリーたちはまだまだ驚き冷めやらぬ態だ。拘束を解かれた香美は立ち上がるなり斗貴子の肩をたたいた。何度も
何度も。からからと笑いながら。

「なーに言っとるのさ。これ特訓じゃん特訓!! ゲキワザを鍛え悪に挑むのよ!!」

 つまりあたしら正義のケモノ!! 腰に手を当てそっくりかえる香美。裏腹にうなだれる斗貴子。ぷるんと揺れるネコ
少女の胸。「ああきっと戦力差に打ちのめされてる」どこからかそんな邪推が聞こえてきた。


「さあ今度は大道具の方々を映しましょう!! 参りましょう参りましょう!!」
「分かったからせめてカメラに映ってよ」

 ヴィクトリアは猫かぶりverで顔をしかめた。というのもリポーターがカメラマンの肩を抱えしきりに移動を促すからだ。よほ
ど小札は次の場所に行きたいらしい。


(あの、僕は……?)


 特に映されなかった貴信。哀愁漂うその肩を秋水は叩いた。優しく。とても優しく。



「さーこちら工芸室ではただいま演劇本番に向けて各種さまざまの調度品が製造中!! あ!! ご覧ください監督の方が
こちらに手を振っています!! 応じましょう!! おおーー!! おおおーーっ!!」

 くるりと振り返り大きく手を振りだす小札にヴィクトリアは不快の色を強めた。カメラに尻を向けるリポーターがどこにいる。
いや放送業界のルールなど知らないしそれ的には大丈夫なのかも知れないが、とにかくロバ少女のおちゃらけぶりは見てて
正直、「ウザい」。気難しい狭量少女は限りなくそう思った。


「こっち!! こちらにどーぞ!! こちらに!! ああっ、来ました!! いらっしゃいましたこちらが大道具の監督を担当
される──…」
 やってきた大道具監督を見たヴィクトリアは危うくキレそうになった。余裕綽綽、いかにもテレビ慣れしている顔つきを見た
瞬間感情のさまざまな奔流がつい口をつきそうになったのだ。」

「大道具監督さんの……総角主税さんですっっ!!」






「大道具ぅ!!? 裏方!? お前が!!?」


 ヴィクトリアは知らないがこの人事については戦士側も震撼した。口火を切ったのは剛太だ。場所は寄宿舎管理人室で
休憩を兼ねた最終調整……およそ1時間前の出来事だ。


「そうよ総角クン!! あなたはむしろ後からしゃしゃり出てきた分際で主役になろうとして総スカン喰らう役回りでしょ!!」
「そーだぜ!! 揉めた挙句無理やり主役やって失敗してまっぴー辺りに宥められてよーやく渋々ながらに身分相応の役
をやる! で、協調の良さを知って反省して俺たちに頭下げる!! そーいう役回りだろ!!」

.
247 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/22(水) 11:11:19.33 ID:IM8cDLhu0
 口ぐちに罵る桜花と御前に心中同意を示したのは秋水。斗貴子といえば良くも悪くもいつも通り睨みつけている。彼女に
言わせればホムンクルスは何をやっても気に入らない。悪行をやれば当然殺意が湧くし善行を見ても腹立たしい。なかなか
屈折しているが戦士が持つべき感覚としてはおおむね一般的だ。普通の範疇である。

「なあなんかえらい言われようなんだけど俺。それなりに譲歩してるよな小札?」

 珍しく情けない表情の総角だ。一筋の汗を垂らし傍らの小札を見た。「普段が普段ゆえ仕方無かろでありまする」。小札
は涙した。

「というか特訓はどうする?」
,


 防人は特にどうという感慨もないらしい。もともとの取り決め──演劇練習に託(かこつ)け特訓する──がどうなるかだけ
聞いた。

「当然やらせて頂く。ただ場所はココ(管理人室)の地下にして貰うと有難い」

 総角がいうには常に全員学校で特訓できるとも限らない……らしい。

「どゆコトだよ桜花?」
「他の人もアクション練習するでしょ? 教室とか体育館じゃスペース足りなくなるでしょうね」
「そう。何も演武を練習するのは俺たちばかりじゃない。だったらセーラー服美少女戦士や秋水も他の連中の面倒を見るだ
ろ? 練習台。試しの相手だ。香美にしろ無銘にしろそれは変わらん」
 確かにな。防人は下あごに手を当てた。劇までもう3日もない。事情を知らぬ部員たちはいよいよ練習を頑張るだろう。
「そういう時に俺たちだけ特訓……という訳にはいかないか」
 秋水も呻いた。
「逆にいえばだ。他の部員連中の面倒見た分を取り返す時間。そーいった物もシフトに組み込むべきだと俺は思う。周り道
した分、より濃密に特訓する地獄のような時間がな」
「……まあいいだろう。私は一応賛成だ。練習がひと段落したら休憩するとでも言って抜け出せばいい」
 学校からココまでは幸い近いし。斗貴子の言葉に最速で同意したのは無論剛太だ。そんな彼にクスクス笑いながら桜花
も手を挙げた。その付属品ども(弟含む)もしぶしぶながら手をあげて音楽隊連中も「ハイハイ」とめいめい頷いた。
 防人の議決が賛成に傾いたのはいうまでもない。

「でもどうして大道具だ?」
 防人は首を傾げた。いきなり主役をやらないのは配慮だとしても──まあそれが普通なのだが──総角のような派手好き
が表舞台に出ないのは何だか妙だ。
 総角は微笑した。自身に充ち溢れた顔つき、いわゆるドヤ顔だ。秋水を見たのは下記の文言にツッコミを求めたからか。
「アレだな。確かに俺が出れば舞台は輝く。というか俺の独壇場だ。総ての女性客は俺へ釘付けとなり男性客でさえ俺の
華麗すぎる剣さばきに目を奪われ熱狂する。控え目にいってもまあ、演技界における俺の伝説がここ銀成市の養護施設
から始まるのは間違いない。なあお前ら」
「師父。お言葉ですがそれは過大評価というものです」
『はは!! 貴方はいつもそうやって夢みたいなコトをいうけれど!!』
「すーぐつまらんコトでつまずくじゃん!! で何か情けない顔するでしょーが!!」
「……リーダーは……中間管理職が……お似合い……です」
 口々に悪口を並べたてる仲間たちを小札はふわりと指差した。両目は向き合う不等号でおかしみ溢れる「わきゃー」で
ある。真白に硬直する総角などとっくの三手前にお見通し。そんな表情(カオ)だった。そして色のない殻にメキメキと罅(ヒビ)
が入り──…
「どーーーーだこの部下どもからの好評嘖々(さくさく)!」
 白磁の欠片をまき散らし再誕する総角だが叫びはやや震えそして弱い。
「悪評しかないように思えるのだが」
「ちょっとヤケになってね? お前」
 うん。うん。秋水は見た。首魁の後ろを。揃って頷く部下どもを。こういうコトはよくあるらしい。
「フ」
 総角は笑った。しかしそれをやるまで2度ほど深呼吸を要したところを見るとそれなりのショックがあったようだ。
「でもアレだ。顔もいいし動きも演技も完璧すぎる俺が演技をやれば一人勝ちになってしまうだろ?」
 斗貴子は無言で身を屈めた。寄宿舎管理人室の床にはこのとき鐶が量産したマレフィック勢の似顔絵の書き損じがかな
り大量に撒き散らかっていた。撒いたのは無銘であまりのクオリティにとうとう癇癪を起したからだがそれは直後勃発した痴
話喧嘩ともども本筋ではない。
248 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/22(水) 11:12:07.63 ID:IM8cDLhu0
 とにかくも斗貴子はその1枚を拾い上げた。拳の中で何かが圧縮された。
 次の瞬間響いたポフという音は総角の体表で生じたものだ。一拍遅れてカサリという音が畳でした。
 総角は2、3度瞬いてから下を見た。丸まった紙屑。それが転がっている。
 一瞬かれは斗貴子を凝然と眺めたが視線を外し──剥がす、という形容も相応しかった。意志の力で辛うじて黙殺したという
感じは否めなかった──声を上げる、朗々と。
「いうのは、いいか演劇というのはだな! 絶対の能力者一人で支えるものじゃあないッ! みんな1人1人の努力でよくして
いくものだ」
 剛太の手から白いツブテが飛んだ。つられて香美も投げつけた。2人とも無表情でそれは先駆者も後進(除くラス1)もみ
なみな同じだった。
「特定個人の恣意では人として捻出すべき素晴らしいモノのために、誰もが楽しめる普遍的かつ高度な娯楽のために協力し、
頑張っていくべきものだ。組織が素晴らしい結果を弾き出す時というのはつまりうぐっ、つまり、つまり、それでだな!」
 うぐっは鐶のせいである。彼女の投擲した塊は紙製ながらも時速380kmをはじき出した。速度即応の痛烈さ。それが総
角の脇腹に直撃した。一時とはいえ演説が中断したのはそのせいだ。ダメ押しとばかり鼻柱へぶつかった紙屑は桜花の
投げたものだ。低威力だがそれだけに屈辱。欧州風の端整な顔立ちがそろそろ歪み始めた。
 無銘はどうしたものかと首をオロオロ左右していたが小札がぴょいと投げつけたのを皮切りに倣った。ここでノらぬ防人で
はない。香美の手が二度目の投擲をしたのは貴信の分で、とうとう毒島までもが(謝罪の辞儀をしつつ)投げた。
 御前がここまでおとなしくしていたのは特大の球体をこさえるためでそれは総角の頭上から振り落とされた。
 やがてバラけたそれが足元に落ちきる──白雨やむ──ころ、やっと抗議する(できた)音楽隊リーダー。声は流石に上
ずっていた。
「痛い痛い。やめろ。物を投げるなっ。なんだ!! 何が気に喰わない!?」
「貴様の総てだ!」
 斗貴子の叫び。頷く戦士。誰も彼もかつて一杯喰わされてるから仕方ない。
「フ、フ。とにかくだ。いくら優れているからといって新参に過ぎぬこの俺が他の者を押しのけ舞台の中央へいくようでは駄目だ」
 丸みを帯びる金髪の頂点に紙屑が当たり景気よく跳ね跳んだ。「またか」。暗澹たる面持ちで総角は犯人を見た。
「あ、いや、済まない。儀礼的に一応」
(今頃!?)
(反応遅ぇ!!)
(でも投げるんだ……)
 犯人──秋水──は戸惑い顔だ。

「おのれどいつもこいつも!! もう終わりだな投げないな!! いいさもう、投げたきゃ投げろ!! でもこっからは俺も
全力だからな!!!!  全力でゼンブゼンブ捌いてやるからな!! 覚悟しろ!!」
(あ、キレた)
(昔の口調全開であります)
 ひとしきり吠えた総角は青筋立てつつ一座を見まわした。のみならず床の紙屑総てを拾い上げ窓を開け──…
窓を閉めゴミ箱に捨てた。
(捨てないんだ外には)
(窓開けた辺りで我に返ったようだ)
(理知的なのか感情的なのかわからねーよ)

 そして空咳。総角は叫んだ。

「いいかお前らよく聞け。いいか。組織というものはだな!」

「トップの、自負だけが肥大した何者かのスタンドプレーのためにあるんじゃない! 」

「「「「「お前がそれを言うかーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」

 絶叫したのは秋水と桜花と御前と剛太とそして斗貴子。
 小札は瞳を細め笑った。にへらーと。
(考えようによっては戦団という組織の方々みなみな総てもりもりさんのスタンドプレーに振り回されておりますコト全く否め
ぬ訳で……)

「くそう紙屑あれば投げてやるのに!!」
「てめーもりもり先読みしやがったな!!」
「先読みして武器を捨てる……か。ったく!! 相変わらず小賢しいな!!」
「今からでも遅くない。回収しようか姉さん?」
「駄目よ秋水クン! 総角クンなんかのためにゴミ箱漁るなんて!!」
「ハッハッハ!! 喚くがいい叫ぶがいい!! だがもう遅い! もはやお前たちに武器はない!! フフフ……ハーッハッハ!!」
.
249 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/22(水) 11:15:19.78 ID:IM8cDLhu0
.
「しばらく揉めそうですしお茶にしましょう」
「そうだな毒島。お前たち、イモ羊羹ならあるが口に合うか?」
「あ、どうもです戦士長さん」
 無銘は軽く会釈した。防人には好意的らしい。
,
「フ。毒島よお前の反応が一番ひどい……人に紙屑ブツけておいてそれはないだろ」
 ごにょごにょ口の中で唱える総角だが10の目玉に気付き詠唱中断。
「優れているという自負があるのならその能力は他(た)のために使うべきだ。他を生かすために身を削るべきだ。リーダー
たる俺は常々そう考えているし、人材育成に対してはまったく計り知れぬモチベーションを抱いてもいる」
 斗貴子が短めの母音で反問した。鋭くもギラついた声は悪鬼のそれだった。
「よって裏方だ。部を見たが大道具に回され文句垂れてる連中がいた。そいつらを啓発する」
 ああそう。剛太は羊羹を食べに行った。
「フ。まずは演劇における大道具の重要性を説いてやる。目的意識をハッキリさせてやるのさ。自分たちの作る物がどれほ
ど役者を引き立てるか、観客の関心を惹起出来るのか……頑張れば頑張るほど役者と同じくらい劇に貢献できるというコトを
たっぷり知らしめてやる」
 言ってるコトはまともだけども……「お前が言うと胡散臭いんだよ」。口ぐちに混ぜ返すのは桜花ならびにその派生物。
「大道具の制作がどれほど創作性に富んでいるか、自己表現の媒体としては演技に負けず劣らずの可能性があるという
コトをきっちり教えてやる。フフフ。フハハハ!!」
 総角は哄笑した。両掌を上にむけ十指ことごとく鉤と化し。悪役のような笑いに渦巻かれながら秋水は口を開く。至って
普通のコトを普通に訊くために。
「……君は大道具に携わったコトがあるのか?」
「フ。ないさ」
「ないのかよ!!」
「だが要領など入門書を読めば大体掴める。要は、大道具担当の者たちに目的意識と張り合いを与えられるか、だろ?」


 最後に総角がこう言ったのをヴィクトリアは知らない。


「俺はどっしり構えて知ったかぶりをやればいいのさ。慣れれば誰でもわかる程度の基本事項を面白おかしく吹聴し、「まあ
俺も大道具は初めてだから分からないコトがあれば宜しく頼む」とでも頭を下げればそれで済む。一番大事なのは組織への
帰属意識だ。こいつらと一緒に頑張っていきたい、そう思える雰囲気を作るコトだ。俺はそれを阻む夾雑物を一つ一つ
取り除いていけばいい。組織に不安や苛立ちが満ちぬよう、な。そのためならば幾らでも身を削るさ」


 もし知っていても受け入れられたか、どうか。総角を見る彼女の眼は相変わらず厳しい。
250 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/22(水) 11:16:20.03 ID:IM8cDLhu0
以上ここまで。
251 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/22(水) 11:18:37.91 ID:IM8cDLhu0
訂正 >>248

× 「特定個人の恣意では人として」

○ 「「特定個人の恣意ではなく人として〜」


いつもの、コトです。
252 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/26(日) 05:24:18.42 ID:nGk/PBaX0
過去編

──接続章── 「”代数学の浮かす” 〜法衣の女・羸砲ヌヌ行の場合〜」


『いつでもマイナスからスタート』

『それをプラスに変える』

『そんな出会いがきっと』

『誰の胸にもある筈…さ』



 改竄者にとって大抵の事象がそうである。武装錬金もまた、例外ではない。
 変わりやすい、というコトである。
 ウィルという少年との攻防でいくつもの歴史が生まれ、消えていった。
 総ての戦いに決着が付き、あるべき終止符(ピリオド)に向かって再び動き出した歴史。
 そこに登場し猛威を振るったキドニーダガー。クロムクレイドルトゥグレイブ。
 使用者は鐶光。例外的な存在──総角──さえ除けば発現できるのは彼女だけ。
 皆はそう信じている。改竄と上書きを知らないがため、純然と。

 別の歴史では楯山千歳その人が行使していたなど……千歳さえ知らない。

 羸砲ヌヌ行(るいづつぬぬゆき)。恐ろしく奇抜だが本名である。誕生は2010年代。いわゆるキラキラネームが横行し
始めた時期である。彼女の両親はその点についてまったく筋金入りの連中だった。何をどうやったのか人名配当可能か
どうか疑わしい「羸」(意味は”ヤセる”)を姓に組み入れヌヌ行などという可愛気のない、雌雄の識別さえ困難な──どころ
か有機生命体の愛称として適切かどうかも怪しい──名を娘に与えた。

 スマートガンの武装錬金・アルジェブラ=サンディファー。
 それは発生と消滅を繰り返す歴史のなか偶発的にそして必然的に転がりこんできた。
 名前を変え……形状を変え……特性さえ変え──…

 武装錬金は位相を変える。歴史の変化に引きずられ。
 千歳から鐶へキドニーダガーが渡ったように、または円山の風船爆弾が身長消滅⇔爆裂増殖のように。
 時に創造主を変え特性を変え……あるいは形状を変え。
 さまざまな要点を幾つか異ならせながらしかし同一のものとして、誰かの手に。


 かつて武藤ソウヤという少年を過去へと送り出した武装錬金。

 それは時空改変に抗うべく姿を変えた。

 ヌヌ行自身はその創造主は以前の自分だと思っている。改変とともに今の姿に……とも。
 真偽は、分からない。もしかするとクロムクレイドルトゥグレイブのようにまったく別人から転がり込んだのかも知れない。


 それでも彼女は自分の人生に誇りを持っている。


 決して楽ではない、辛さの多い人生だったとしても……。
 自らの武装錬金で楽な方へ改変可能だとしても……。

 変えたくないと思っている。



.
253 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/26(日) 05:25:22.35 ID:nGk/PBaX0
 ヌヌ行がいわゆるイジメに苦しみ出したのは小学4年の頃である。
 他人(ひと)に対し本音で語れなくなったのもその頃だ。

 彼女はホラ吹きになった。虚言癖を得た。旅を終えてもそれは治っていない。

 きっかけはよくあるコトだ。

 勇気を振り絞りクラスの男子に告白をした。だが彼は既に他の女生徒と付き合っていた。地元では有力な土建屋の1人
娘として大いに権勢を振るい各種学校行事においてはリーダーシップを取る……美しいが気の強い女子と。

 もしヌヌ行がそれ──逆らってはならない者が唾をつけている──を知っていれば漠然ながらも危機を察知し告白を取
りやめただろう。
 だが相手や世間に気を払うにはまだあまりに幼すぎた。
 彼女はただ初めてやる告白にただ必死だった。雑多な状況にまでは頭が回らなかった。ただどうすれば生まれて初めて
の恋心を伝えられるのか考えるばかりだった。純粋なのは悪ではない。ただ世界というのは時に悪ならぬ者をむしろ爪弾き
傷めつけ、絶望させる。長じた後に「ぬかるみ」と評す理不尽な仕打ちが待ち受けているなどとは知らず……。
 ヌヌ行は可愛らしい便箋に「下手だが気持ちの籠った」文章をいっぱい書いた。
 そして半年がかりで仕上げたマフラーもつけ、告白に赴いた。


 地獄の始まりは告白後30分を過ぎたあたりだ。
 言うまでもなく告白は断られた。それでもヌヌ行自身まだそれには納得していた。メガネに三つ編みという地味ないでたち、
頭こそいいがクラス特有の活況には乗れず場末で静まり返っている方がお似合い……女子としては下の方だと自分でも
思っているヌヌ行──だいたいこの名前からして可愛くない。そろそろ始まりかけている思春期のなかうなだれている──
だからフラれるコトは(もちろん凄くショックだったが)、同時に爽やかな気分でもあった。
 一生懸命手紙を書き、マフラーも渡した。叶うコトはなかったがそこへ費やした全力、そして伝えるコトを実行した勇気。
 そういったものは子供に近ければ近いほどこそ味わえる経験だ。
 ヌヌ行はまだ子供そのものだった。
 幼さゆえ何が人生を豊かにするかなど具体的に述べられぬがしかしこのときの感情は確かに真髄を捉えていた。だから
こその充足感。悲しみと達成感の混じったフクザツな感慨は確実に自分を良くしていくのだと涙を拭き、胸を張っていると……
何人かの女子が自分を取り巻いた。


 連れ込まれたのは女子トイレだった。
 以後続発する地獄絵図のなか何度も何度も「このとき逃げていれば」と後悔する刻の中、しかしヌヌ行は訳も分からずおろ
おろするばかりだった。
 まず平手打ちが飛んだ。やったのは例の土建屋の娘だ。瞳から火を噴き頬を抑えるヌヌ行めがけおぞましい金切り声を
上げ始めた。隣には取り巻きの女子が何人かいてニタニタと笑っていた。出口の方にも何人か。見張りだろう。
 世界というのは本当理不尽な側面を有している。十何年かのちやっとこのときを客観視できたヌヌ行はやれやれと肩を
竦めた。土建屋の娘のブッ放した怒り。どうやらかなり入り組んでいたようだ。
 クラスでもトップだという自負。そんな自分の彼氏にFランクの女子が粉を掛けた。無論それもあったようだが──…
 果せるかな。裕福な家と何誌もの表紙が飾れる美貌とカリスマとそれらが織りなすクラスでの絶対権力を有する土建屋の娘
には一つだけ欠点があった。
 成績が、悪い。
 もちろん前述の要素を見ても分かるように頭自体は決して悪くない。むしろ幼いながらに持つ牽引力や長たる度量は義務
教育を駆け抜けたのち成績以上の成果をはじき出すだろう。それは美点だったがそれゆえ様々な人間と『遊びすぎた』。学校
の勉強などやる筈がない。他者との交流に比べればいつ使うかも分からぬ歴史年表や数式などまるで関心がない。
 だからか成績だけはとても悪い。この日の朝も口うるさい母親とその点で口論になったばかりだ。
254 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/26(日) 05:27:57.16 ID:nGk/PBaX0
 ヌヌ行の成績はトップクラスだった。
 不幸にも彼女の頭もまた悪くはなかった。幾分内向的で”クラス仲間の動静”なる生々しい世間にこそ興味はなかったが、
それだけに試験などという「いかにもやらないとマズい」事象には勤勉なる反応を見せた。しかも両親は奇人だったが頭は
よく、実業家としてなかなか成功していた(収入だけなら例の土建屋の12割はあった)。その遺伝だろう。
「あいつらに勝つ気はないの!! あなたがしっかりしなきゃ負けっぱなしよあんな奴らに!!」
 気位だけは高い──ブランド物で身を固めた紫髪の──母親がそう説教するたび土建屋の娘は猛反発を見せた。成績
1つ負けていたところでどうなのか。他では全部勝っている。だいたい稼業で勝つべきは父親ではないか。なぜ彼に言わない。
声を荒げそう反問し、子供特有の寂しさと怒りの混ざった残酷な推論を叩きつける。言えないでしょ、最近愛人作られて関
係が冷え切っているから。『あなたこそ愛人に勝ったらどう?』。猛烈な平手が頬を赤く染めた。学校終わったら撮影なのに
どうしてくれるの。待ち受けているのは肌のコンディションについて特に口うるさい50絡みのカメラマンだ。
 これだから財産目当ては。つくづくと侮蔑しながら家を出たのが9時間前。頬の腫れが引かぬためどうすればいいか現場に
聞いたのが40分前。あっそう。あれほど顔は大事にっていったのに。今日はもういい。ピシャリと言い放たれたとき土建屋娘
の怒りは頂点に達した。彼女は幼いながらに仕事を愛し、誇りさえ持っていた。なのに行けなかった。現場の人間がどれほ
ど迷惑を被るのだろう。それは自分の経歴に傷がついたコト以上に気掛かりで、申し訳なかった。
 そこでヌヌ行の告白騒ぎである。
 本来母親に向けるべき怒りの矛の先端を彼女に合わせたのは成績の件も少なからず影響していたが……。
 結局は『与し易い』からだ。
 あのブランド物の化け物は言えば言うだけ狂乱し莫大な損害をもたらすだろう。訴えても解決にはならないし却って下らぬ
ものが積もるだけ……。
 大人しく、いかにも純朴そうなヌヌ行はまったく格好の獲物だった。
 逆らうコトなど絶対なさそうで、それは実際そうだった。、

 安易なカタルシスほどブレーキロスなものはない。
 行く手に破滅が待ち受けていたとしてもその圧倒的な快美に見入られる
 自制などあっという間にドロドロだ。

 女子トイレでのやりとりは酸鼻を極めた。
 最初は文句と詰問で終わらせるつもりだったがこういう場合収まる道理はない。事前に決めた理性的な「これまで」など
叫ぶうちあっという間に忘却していた。縮こまるヌヌ行にますます怒りが膨れ上がる。この程度か、この程度の人間が自分
より上の成績持ちでしかも自分の責められる材料になっている。遊び呆けて学業を放棄している自分の怠惰など、もしそれ
を懸命に取り除いたところで「コイツには勝てない」、もともと仄かに抱いていた敬意と憧憬ともどもいずこなりへと追いやって、
ガンガン怒鳴り叫び散らす。取り巻きの女子たちの笑いが一層うすら寒くなったのは狂乱する土建屋の娘の醜態──
とても雑誌の表紙に乗れるレベルではない──が面白かったからだ。自分たちなど足元にも及ばない美貌が実に呆気なく
崩れている。取り乱しを窘めるものなど誰一人いない。なぜなら面白いからだ。
 美しさと知性。自分たちの持ち得ぬもの……それを持っているトップ2人の争いほど面白いものはなかった。勝手に醜く
転落した片方がもう片方を抉り苛み、傷つけている。「あのコたちはスゴいのにどうしてアナタたちは」。母親から勝手に
比較され少女らしい繊細な機微を日々傷つけられている彼女たちにとってもまたこの諍いはカタルシスだった。
 だからヌヌ行を助ける道理はない。仮に助ければ今度は自らが娘に責められる。彼女らが厭悪するのは叱責それ自体
ではない。叱責という醜い表情筋の歪みを引き出す物笑いの種。それこそ厭うべきものだった。それゆえそちらに落ちた
場合助けというのは期待できない。結局何となく連れ立って適当な場所で適当に笑っているだけの間柄なのだ。彼女らは。
 そうやって確かなものを得られぬまま過ごしているからこそ……。
 優れた存在というのは嫉ましい。
 なれぬからこそ疎ましい。
255 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/26(日) 05:28:36.05 ID:nGk/PBaX0
 もっとも、優れた存在というのは得てして地道な努力を厭わぬものだ。ヌヌ行にしろ土建屋の娘にしろその最大の美点(知性・
美貌)に関する努力は並々ならぬ。そういったものを最初から放擲し、何もせず磨かずの恣意放埓の赴くまま雑草のように
伸びさかっていた取り巻きどもを思うたびヌヌ行は微苦笑しながら軽く震える。「世界で一番怖いのはキミたちだ」。まったく
十何年後振り返っても戦慄すべき存在だった。

 少女らしい真心を集約したラブレターがついにひったくられた。
 あっと手を伸ばすころにはもう何もかもが破綻していた。
 思い出にと机の引き出しの奥深くに仕舞うつもりだった手紙は猿叫とともに引き裂かれた。ヒステリーに顔を赤く染める土
建屋の娘の手は出来そこなったシュレッダーだ。大きな破片が黒ずんだ灰色のタイル張りの床に撒き散らかった。テープで
止めればまだ。慌ててしゃがみこみ拾い集めるヌヌ行にどっと笑いがあがった。集団による、継続的な憂さ晴らしが決定した
のはこのときだ。傍観者の一人が動いたのは首魁への媚売りのためだ。内心では醜態を笑いながらも「そう動けば」、気に
入られ甘い汁を啜れる……浅ましい嗅覚、そして算段。それの赴くまま特に恨みのないヌヌ行──これまでは普通のクラス
メイトとしてノートの貸し借りをしたりしていた。玉入れで勝てば無邪気に笑いあい抱擁だって交わしたコモある──の手から
手紙の欠片を奪い取り便器に巻き、そして流した。
 マフラーもまた奪われた。後日焼却炉から灰まみれで引きずり出したそれはもはやただの炭のカスだった。悲しさよりも
まず寂しさが全身を貫いた。編み物をするコトに凄まじい抵抗が芽生えた。
 ここからはまあ小学生らしい場所柄を弁えたやり口だ。
 数を頼みに個室へ押し込み浅黒い緑のホースを上にやる。

 数時間後ぬれ鼠のヌヌ行が涙ながらに扉をぶち破るまでそれは続き──…

 学校の備品を壊したー!! 

 無慈悲な爆笑を以て地獄の始まりが締めくくられた。

 以降、クラスの女子の3分の2ほどは敵となった。
 残りはもちろん傍観者だった。「関わらないよう」。総てが決着したとき無関係な第三者ほど安全だ。
 自分の身を守り罪も背負わない。
 そんな第三者どもに対するヌヌ行の復讐は忘却だ。
 彼女らの存在を、ではない。
「何をされたかさえ忘れ」、普通に接してやる。そして彼女らに出来ないコトをやり助けてやる。
 正直奴らのやらかした仕打ちなど”しこり”にしてやる価値もない。

 その後訪れた素晴らしい出会い。自分を救ってくれた人たちに比べれば記憶にとどめる価値など……毛ほどもない。
 何の感情も催さないがそれだけに心から信じている。

 人の善意を信じすがるように眺めた彼女ら。
 事情を話したにも関わらずそっぽを向かれた時! どれほどの絶望が身をすり抜けたか!

 だからヌヌ行は今でも彼女らの顔を覚えていない。同窓会で会い見覚えがなければ「そういうタイプ」だみなし普通に笑い
普通に歓談する。悩みさえ聞いてやり大体は解決してやる。そして無邪気に笑う彼女らに微笑する。

「気楽なものだな」

 内心で少しだけ荒い声を上げながら……それさえも相談ごと忘れてやる。それが一番の復讐だと信じている。

 屈折が生じるほどひどい期間だった。
256 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/26(日) 05:30:23.18 ID:nGk/PBaX0
.
 子供というものは時に大人をも凌ぐ団結力を見せる。良い方向にしろ悪い方向にしろまだ忘れていない腹式呼吸よろし
く腹臓からの声を出し合い掛け合って奇妙だが純粋なつながりを形成する。
 遊びの時はいわずもがな。
 目的が敵の打倒ならば彼らは一層はげしさを増す。
 不幸にもその2点を同時に持ってしまったのがヌヌ行だ。
 名前こそ奇抜だが温和でおよそ他者を傷つけるというコトと無縁な彼女はただ初めて直面する人の悪意というものに震える
ばかりだった。上履きを隠されてもお気に入りのペンケースを色とりどりのペンごと踏みにじられても然り。
 もっとも参ったのはある日給食の時だ。
 どこから持って来たのか、アマガエルの轢死体がシチューめがけ転落した。
 最初それが何か分からなかったヌヌ行は正体をしるやぞっとした。自然に落ちたのではない。人が落とした。
 教師は教室にいない。
 6人がかりだった。完食までそれだけの人数が彼女を拘束した。
 腹や口から名状しがたいヒモのような器官を飛び出させた緑色の死骸がスプーンに乗って迫ってくる。
 顔を背けようとしても無駄だった。1人が首を固定し1人が口をこじ開ける。
 スプーンを持つ女生徒はもともと良いとはいえない顔の造作を更に卑しい笑みで引き落としていた。
 やがて口中に没入したメニュー外の食物は凄まじい味がした。粘膜の生臭さにむせかえるヌヌ行はとっくに涙し鼻水さえ
垂らしていた。にも関わらず強引に顎を動かされた。咀嚼を、させられた。何が砕けたのかばきりという嫌な音がした。舌の
蕾は初めてきたる激越な味にぞっと痺れた。歯の間をころころと這いまわる2つの球体が何かなど成人してなお考えたく
ない。カエルの最後の晩餐はどうやらハチか何かだったらしい。毒針が喉に刺さったためヌヌ行はこのあと3週間ばかり点
滴生活を強いられた。
 そして嵐のような給食が終わり──…
 灼熱に腫れあがる喉首で辛うじて息をしていたヌヌ行は奥歯の間に何かはさがっているのに気付いた。
 舌が、反射的に触れた。
 呑み損ねた内臓組織。糞の匂いのするそれに気付いた瞬間。
 とうとう吐瀉物をブチ撒けた。

 以後状況はますますヒドくなった。
 気はいいがカバラに熱狂するあまりややおかしい──明らかに精神疾患が疑われるほど無邪気で幼い──両親さえや
り玉に上げられた。父は常に涎を垂らし半笑いで母は所かまわずスキップでかっ飛ばすような人物だった。しかも服装とき
たらくつろぎ用でさえ10万は下らないスーツなのにどれもこれも常にそこかしこに粘土が点々とこびりついており──夫婦
2人してゴーレムの製造に熱中していたので──それがますます嘲笑を呼んだ。

 ヌヌ行はそんな連中の娘でしかも教室で吐いた!!

 未熟ゆえに耐えられぬ異物感。子供というのは常に自分ばかりが正しいと信じている。単なる堪え性のなささえ純然と燃
え盛る義憤と弁じそれらしき理屈の剣で斬りまくる。相手もまた自分と同じ人間であり、感情があり、痛みを感じる機能さえ有
していると幼稚園のころ教えて貰っている筈なのに……やってしまう。まして同じ感情の持ち主どもと寄り集まってしまうと
正誤などあっという間に吹き飛ぶ。なぜ吐いたのか? その経緯などどうでもいいらしい。
 とにかく群集心理だ。誰それがやっているからやっていい。やればスカっとするからやっていい。
 耐えている方が実は強く自殺を選んでしまう方が遥かに優しい……などと彼らは気付かないし気付いたとしても嘲笑する。

 ヌヌ行が小学校と聞いてもっとも強烈に思い出すのは人間の恐ろしさだった。
 給食当番のとき無理やり総てのメニューを配膳させられなおかつそれら総てを目の前で床にブチ撒かれ(汚い汚いと囃された)
コトもあった。吐く素振りを見せるものさえ。
 それは彼らにとってただの面白い演目だったのだろうが……。
 ヌヌ行は以後8年ほど料理が作れなくなった。女子大生になってからも飲食店でのバイトには並々ならぬ抵抗がある。
257 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/26(日) 05:30:52.55 ID:nGk/PBaX0
 ただ悲しいコトにヌヌ行の両親は見た目ほど劣っていなかった。むしろ実業家としては6代先までの安泰が誇れるほど成功
しておりその頭脳的優性はヌヌ行にも行き渡っていた。だからこそただの弱者に向ける以上のおぞましさがクラスのそこかしこ
から巻き起こった。苛められても苛められてもトップから転落せぬ頭脳。マスコミに持て囃され校長が集会で折にふれ褒めたたえる
両親(毎年莫大な寄付を行っていた)。嘲弄が嫉妬と化し義憤が邪推になり……とある試験のとき我が消しゴムに書いた覚えの
ない数式がゴマンと刻まれているのを見たときヌヌ行は初めて教師への密告を決意した。
 幸いカンニングの疑いは掛けられなかったし──温和で成績もよく両親が金銭面以外でもよく学校に奉仕していたので──
すぐさま犯人は見つかった。

 そして教師はイジメをやめるよう勧告した。

 クラスの人間は総てハイと頷き反省文を書いた。

 3日後……ヌヌ行の愛犬が行方不明になった。




 両前足を半ばから切り落とされた柴犬が息も絶え絶えに帰ってきたのは更に5日後。
 犯人はいまだ分からない。



 ただ。
 楔を打つような声を上げながら死にゆく愛犬をみた時……ヌヌ行は果てしない罪悪感を覚えた。

 自分のせいだ。
 きっと自分のせいだ。
 告げ口したから報復で……。

 警察も両親も変質者がやったのだと断定していたが──…

 3歳のころから共に過ごしていた友達のような存在を死に追いやったのは自分。

 彼女は悔恨とともにそう思った。


 だから、決意した。

 本当のコトなど話してはいけない。


 自分がいくら第三者に窮状を、同じ世界に厳然と佇む本当のコトを話しても彼らは助けなかった。

 カンニングを仕組まれたのは事実だが、その事実を話したばかりに愛犬を亡くした。
 教師は解決を図ろうとしたが、正しいその行為を呼んだばかりに大事な物を喪った。
 
 そういう状況を作ったのは例の告白のせいだ。
 好き。心から思う本当のコトを話したばかりに地獄のような日々が始まった。

 悪事は働いていない。したコトといえばそれだけだ。

 だからこそ「それだけ」……『真実を話す』行為に嫌気が指した。



 やがて彼女は自殺を決意する。
258 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/26(日) 05:31:39.66 ID:nGk/PBaX0
.




 武藤ソウヤという少年に出会ったのは……その時だ。




 ただしその時の彼はまだ…………………………………………………………………………………………



                                                 人のカタチをしていなかった。



 それでもヌヌ行は信じている。

”そこまでの”過酷な人生も”そこからの”人智を超えた激しい人生も、きっときっと意味があったのだろう……と。


 出会いは力をくれた。

 勇気をも。

 何があっても前へ進もう。

 そう思えるのは”たった3人”、そこに居た人たちのお陰だと……。

 心から信じている。





『いつでもマイナスからスタート』

『それをプラスに変える』

『そんな出会いがきっと』

『誰の胸にもある筈…さ』
259 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/26(日) 05:32:07.49 ID:nGk/PBaX0
以上ここまで。
260 ◆C.B5VSJlKU :2012/02/26(日) 05:50:15.03 ID:nGk/PBaX0
たてた

【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1330202946/
261作者の都合により名無しです:2012/03/05(月) 18:05:16.37 ID:+jaaHcIu0
あげ
しばらく入院してたので読めなかったけど
まだ続いていてうれしいよ
262作者の都合により名無しです:2012/08/12(日) 14:12:15.89 ID:Shok+c6/0
さげ
263作者の都合により名無しです
連投規制くらったー。こっちは書き込めるかな?

続きます。少し不穏な気配がっ?

誤字訂正です。
x相沢千鶴の手刀はそのほどまでに
o相沢千鶴の手刀はそれほどまでに