【2次】漫画SS総合スレへようこそpart70【創作】

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302美少女戦士の意外(?)な弱点
「ユーコスラッシュ!」
優子得意の、腕を振り出して撃つ衝撃波が刃牙を襲う。
この衝撃波、確かに当たればなかなかのダメージになりそうだが、ガードしてしまえば
大したことはない。最初は面食らったが、心構えをして受ければ怖くない攻撃だ。
考えてみれば、接近戦が苦手だから、怖いから、距離を取ってこんな攻撃を
しているのかもしれない。ならば、多少のダメージは覚悟で間合いを詰めるべき。
刃牙はガードを固めて走った。スラッシュを受けて、受けて、受けながら前進する。
「……そうきたか」
と呟いて、優子も攻め手を変えた。
といっても、やはり撃つことは撃つ。ただ、意図的に遅めのものを撃って、
撃った後、自分自身が衝撃波を追いかけて走ったのだ。
つまり、刃牙に向かって真っ直ぐに向かってくることになる。
「え? じ、自分から間合いを詰める?」
接近戦を嫌っているとばかり思っていた刃牙は、戸惑いながらもとりあえず、
衝撃波をガードした。もうこのダメージは平気だが、それでもやはり重さはあるから、
受け止めた瞬間はどうしても硬直してしまう。
その硬直の瞬間に、優子が踏み込んで来た。ギリギリで硬直から開放された刃牙は
迎撃しようとしたのだが、いきなり優子が不自然に加速した。まるで刃牙に、
強烈な勢いで吸い込まれたかのように。
いや、加速というのは正確ではない。これは瞬間移動だ、明らかに。
「何だっっ?」
刃牙は目を見張ったが、その目に優子は映らない。どこに? と思ったその時には、
優子は後ろから刃牙を抱きしめていた。
その、あまり豊かではない胸を刃牙の背に押し付けて、両腕を刃牙の腹の辺りに
回して組み合わせ、一気に持ち上げ、そして後方に落とす!
「ユーコジャーマンっ!」
豪快なジャーマンスープレックス。刃牙の頭部が地面(もちろんコンクリ)に激突し、
かなりいい音がした。
優子はすぐさま刃牙を放して立ち上がり、油断無く間合いをとった。
「飛び道具と対空技の【待ち】。飛び道具を追いかける【攻め】。遥か昔、私たちの
界隈で猛威を振るった、あるアメリカ軍人を始祖とする二大戦法よ」
303美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/07/08(金) 18:03:26.71 ID:dqBu3u8MP
「……」
常人なら最低でも気絶、そして重傷を負っているところだが、刃牙は刃牙なので
立ち上がった。とはいえ流石に、このダメージは小さいとは言い難い。
優子とその仲間&ライバルたち、あるいは刃牙の父親ならともかく、刃牙は
彼らほど人間離れした存在ではないのだ。
「さっきの……投げに入る直前の、不自然な加速は……?」
「不自然? 投げ技なんだから、間合いに入って発動したら、互いの位置関係が
どうあれ投げグラに入るのは当たり前でしょ。私なんかは投げキャラじゃないから、
特に間合いが広いわけでもないし。そう理不尽な吸い込みじゃないと思うけど」
優子が何を言っているのか、刃牙には全くわからない。ただ、彼女にとっては
あの瞬間移動は当然のことらしい。
腕や脚を振れば衝撃波、投げを仕掛ければ瞬間移動。人間業とは思えない。
すなわち優子が人間だとは思えない。刃牙は本気で、そう思った。
だが、それでも。
「……勝てる」
一言、呟いた。その言葉は優子の耳に届き、優子の眉をぴくりと動かす。
「ふうん? 一方的にやられておきながら、大したお言葉ね。技を食らいながら、
私の弱点を見つけたとでも?」
「ああ、そうだよ。致命的なのを二つ見つけた」
二つ、と言って刃牙は指を二本立てた。Vサインだ。
「細かな動き、間合いの取り方、呼吸のリズムに気迫に……そういったもの
から、読み取れたんだ。会長の苦手とすることがね。確かに会長は強いけど、
世界中を武者修行した俺とは、経験が違うってことだな」
確かな自信を込めた目で、刃牙は優子を見据える。
刃牙の武者修行については、優子は調査済みなのでもちろん知っている。刃牙の
格闘経験が、自分のそれを遥かに上回っていることも。
とすれば、刃牙の言っていることはハッタリではなさそうだ。
「私の弱点、ね。けど、それが解ったとしても、はたして突けるかしら?
攻防、遠近、全てにおいての隙の無さこそが私の強さ。弱点があったとしても、
私に触れられなければ無意味よ」
「そこがまず、第一の弱点さ。触れてみせる。予言しておくけど、次の一撃を
会長は必ず食らうよ。それでKOってことはないにしろ、少なくとも回避は不可能」
304美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/07/08(金) 18:04:55.47 ID:dqBu3u8MP
「そう。だったら、やってもらおうかしら!」
優子はスラッシュを放ち、それを追いかけて走った。これを刃牙がガードすれば、
硬直したところに組み付いて投げ、もしくは脚払い。刃牙が食らえば、のけぞった
ところに連続攻撃を叩き込む。
刃牙にも飛び道具があれば相殺という手段も使えようが、それがないことは
調査済み。出がかりが無敵の技もないし、テレポートできるような技もない。
私に弱点などないっ! と確信して優子は走る。その目の前で刃牙が、
「こうだっ!」
横に跳んだ。スラッシユは一瞬前まで刃牙がいた空間を通り過ぎ、屋上の鉄柵を越えて
彼方へと飛んでいった。スラッシュを追いかけていた優子は急ブレーキをかける。
そこへ、横合いから刃牙が突っ込んできた。全力疾走から跳び、空中で横回転して、
体重以上の勢いをたっぷり乗せた、ダッシュローリングソバットが優子に命中!
腕でのガードは辛うじて間に合ったものの、体勢が不安定だった為に受けきれず、
170センチにして40キロという細く軽い優子の体は、ひとたまりもなく飛ばされた。
「ぐっ……!」
優子は何とか体勢を整え、足から着地できた。が、腕が軽く痺れている。侮っていた
つもりはないが、刃牙の攻撃力、流石というべきか。
だが刃牙本人が、優子に評価してもらいたいのはそこではない。得意そうに指を立てて、
刃牙は優子に言った。
「弱点その1。理由はわからないけど、会長は横からの攻撃に弱い。多分、
慣れてないんじゃないかな。攻防が対正面に特化してるように思えるよ。
フットワークなんか、ほとんど前後移動ばっかり」
『な、慣れてないも何も……真横からの攻撃なんて、そもそも存在しないんだもん私たち……』
思わず心中でグチというか弱音を漏らす優子。だがこれは、対応できない問題ではない。
ぶん、と両腕を振って痺れを散らして、改めて構えなおした。
「なるほど、確かにそれは私の弱点だわ。けど、体の向きを90度変えてしまえば、
横からの攻撃は正面からの攻撃になる。今はちょっと驚いてしまったけど、
次はないわよ」
「だろうね。けど、次で終わるよ。弱点その2は、一撃必殺。今度は必中とは言わないけど、
もし当たれば、それで決着だ。会長は俺にKOされる。つまり、俺が勝つ」
305ふら〜り ◆rXl0RuLrAVdZ :2011/07/08(金) 18:06:28.25 ID:dqBu3u8MP
いくら刃牙キャラが強くても、波動拳やソニックブームは撃てないよな〜と思っていた時期が
私にも。で、その頃その思想に基づき描いた「ザコキャラ勇次郎」は、バキスレPart 8にて、
2003年9月13日投下。あの頃私は若かったっ。

>>サマサさん
「幼馴染みの男の子を好きになるパターン」の王道! 騎士とお姫様の構図ですもんねこれ。
実に良いっ。……その、健気で可愛い恋心を詐欺師が利用すると。同じ人外のミギーやネウロは
そういう心を理解できてなかったですけど、QBは理解した上でやってるわけですね。タチ悪い。

>>288
むこうぶちですか。天獅子先生、大出世されましよねえ。ええ、ファンとしては祝福すべきこと
なんですけどねもちろん。コミックゲーメストの、単行本未収録短編、全部切り抜いて
保存してますぜぃ……ギース様も山崎もゲーニッツも、そりゃもうカッコ良くてかっこ良くて!
306作者の都合により名無しです:2011/07/08(金) 18:25:50.15 ID:7p8dk3rL0
横からの攻撃に弱いとか、個人的にこういうメタネタには弱いw
次の刃牙の作戦も格ゲーのシステムを利用したものになるんかな?

>>QBは理解した上でやってる
理解してるというか、何千年と人間に関わってきた経験から
「人間ってあれこれこういう事するとこういう反応するよね。わけが分からないよ」
という風に見てるだけだよ、あの淫獣…
307作者の都合により名無しです:2011/07/08(金) 21:50:50.52 ID:dTFmzUy/0
サマサさんとふらーりさんが並んでてほっとした
今回のお2人のネタ元は俺にはわからんが・・
いや、ふらーりさんはいつもか・・w
308魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 12:56:34.08 ID:j3PzwEgt0
第五話「奇跡も、魔法も、いらねえよ」

対峙し、対決する魔法少女と蛙の魔女。
死闘の予感が、両者から発する鬼気が、空間を支配する。
「都子」
その鬼気に身を焦がしながらも、杏子は背後で見守る都子に語る。
「突然だけど―――溺れる者は藁にもすがる、って諺があるじゃないか?」
「え…?う、うん」
何を言いたいのか分からず、戸惑う都子に対して、続ける。
「あれって要するに、藁みたいな何の役にも立たないモノに手を伸ばしちまうくらいに切羽詰ったサマを嘲笑う言葉
なんだよね。あいつって、バカだよなー。そんなんに頼ったって何にもならないのに、ハハハ、ってか?
だけど。
だけどさ。
溺れてる奴だって、そんなの分かってる。分かった上で、それでも助けてくれって、必死に手を伸ばしてるんだ」
「…………」
それは―――都子にも、分かる。
自分の事のように。自分の事だから、よく分かる。
「知ったような顔して嘲ってる奴らはその気持ちが、分かるのかよ?みすぼらしい藁の、あるかないかも分からない
ような浮力に、最後の望みを賭けなきゃいけないくらいに追い詰められた誰かの想いを―――踏み躙るのかよ。
あたしみたいな、人を人とも思わない冷血魔法少女がそれを言う資格はないかもしれない」
けどさあ。
「あたしは、それでも。もしも、あたしが藁だったなら。
―――あたしみたいな奴を頼ってくれたそいつの手を引いて、どうにか向こう岸まで渡してやりたいんだ」
「杏子…」
都子は膝をつき、倒れた輝明の肩を抱きながら、杏子の背を見つめる。
「だから、都子―――あたしを頼れ」
魔女から目を離さず、杏子は笑った。
「誰かの想いを背負って戦う時は…絶対に、負けない。それが、愛と勇気の魔法少女ってもんだろ」
「……けて」
「もっとだ!もっと大きな声で!」
「助けて…」
都子は、ボロボロと零れる涙をそのままに、叫んだ。

「輝明を…あたしを…助けて、杏子!」

グ、っと。
杏子は、握り拳を作った右腕を持ち上げて。
「―――任せとけぇいっ!」
真っ赤なポニーテールを靡かせ。
瞬時、強烈な踏み込みから目にも止まらぬ速度で蛙の魔女へと突進する。
309魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 12:58:19.50 ID:j3PzwEgt0
単純だが強力なパワー&スピードが杏子のスタイルだ。ベテランとしての経験で積み上げた体術と技術、魔法少女
の中でも特に優れた膂力を活かしての物理戦闘に関しては、杏子の右に出る者はそうそういないだろう。
「一気に決めさせてもらうよ!」
伸びてくる蛙の魔女の舌を紙一重でかいくぐりながら繰り出す、槍の一撃。
だが、魔女の身体を覆う強固な外殻を貫く事ができない。
「ちっ…思ったより硬ぇぞ、こりゃ」
だが、杏子には弱音を吐く暇はない。
間髪入れずに迫る、魔女の腕。苦鳴を漏らしつつも、間一髪でかわした。
「それに、見かけによらず速い、か…!」
空いた腕での追撃。バックステップで回避。叩き付けられた拳が、大地に巨大な亀裂を走らせる。
「加えて、見た目通りのパワー…」
距離を取り、呼吸を整えながら敵の戦闘力を分析する。
「硬い、速い、強いと、三拍子揃った相手か…」
先日倒したサッカーボールの魔女とは、はっきり言って格の違う相手だ。
特殊な能力こそなさそうだが、純粋な戦闘能力に長けている。
骨が折れるね、と杏子は内心で毒づく。
ギミックやトリックを使って攻めてくる相手なら、手品の種さえ見破ってしまえばそれまで。
だが、単純な強さに任せてくる敵というのが、杏子にとってはむしろ厄介だ。
杏子自身、絡め手が得意なタイプではない。真っ向勝負で戦う魔法少女だ。
こういう類の魔女が相手では、正面から力ずくで捩じ伏せるしか選択肢がない―――だが。

「それが、どうした」

その事実が杏子の闘志を、翳(かげ)らせる事はない。
「だったら、押し通すだけだろ…!」
一度で無理なら、貫けるまで何度でもやるだけだ。雄叫びを上げ、再び飛びかかる。
対して蛙の魔女が、その顎を大きく開いた。
「またあの臭っせえ舌か…ワンパターンなんだよ!」
来るなら来い、と杏子は身構えた。
今度はその舌を捻じり切ってやると意気込む。
だが、飛び出してきたのは舌ではない。無数の水球だ。
魔女の魔力を帯びた水球が、まるで生きているかのようにジグザグに動き、杏子に向かってきた。
「…っ!?クソッ!」
意表を突かれながらも、杏子は迎撃態勢に入る。手にした槍の柄が、鎖で繋がった幾つもの節に分割される。
杏子の得物は、正確には槍ではない―――
魔力によって自在に伸縮し・湾曲し・分割する多節棍。
それを駆使した変幻自在の戦闘こそ、杏子の真骨頂だ。
「範囲攻撃ができない、なんて思ってたかよ―――!」
四方八方から迫る水球。分割された槍を、鞭の要領で振り回す。
大蛇がうねるように風を切り、水球を全て叩き割った―――かに見えた。
310魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 12:59:31.62 ID:j3PzwEgt0
だが水球は弾けると同時に元通りに形を取り戻し、またもや杏子目掛けて飛来する。
「うおっ…!」
油断した。あれが水だという事を、失念していた。
己の失敗を悔いる間もなく、水球が身体に容赦なくブチ当たる。
大した威力ではないが、バランスが崩れた。
その瞬間を見逃さず、蛙の魔女の舌が杏子の身体に絡み付く。
ブオン―――と、持ち上げ、地に叩き付ける。
「ガハッ…」
また持ち上げる。叩き付ける。持ち上げる。叩き付ける―――
「ぐ、が、あ…っ!」
「きょ…杏子ぉっ!」
たまりかねて都子が叫ぶが、杏子は。
この窮地にも関わらず、彼女らしい、不敵な笑みを崩さない。
「はっ…あんたは、あたしに全部、任せたんだろ…だったら、もうちょい信じろ、よ…!」
「で、でも…っ!」
「あ…あたしも、昔は、憧れた…愛と勇気の、魔法少女ってのに…」

今はもう、こんな風にすっかり落ちぶれちまったけどさ。
昔は確かに―――夢見てた。
TVアニメの主人公みたいにキラキラ輝く、正義の味方って奴に。

杏子の身体から、魔力が溢れ出る。
強化(ブースト)された筋力が、巻き付く舌を押し返していく。
「誰かの想いを…背負って…戦うってんなら…」
杏子の胸に輝くソウルジェムが。
魔力の行使によって、黒く濁りながらも。
それでもなお強く、眩しく、赤く輝く。
「そん時だけは…相手が神だろうと悪魔だろうと…負けちゃいけねーんだよ、愛と勇気の魔法少女ってのはな!」

ブチィッ―――

「グゲギャァァァァァァッ!」
魔女の悲鳴が響く。杏子はこじ開けるのを通り越して、舌を引き千切ったのだ。
本来、魔力をここまで無計画に使うなど御法度だ。
ソウルジェムがどれだけの穢れに耐え切れるのかなど分からないし、穢れを払うグリーフシードにしても貴重品だ。
先の事を考えれば、基本的に魔力は温存して戦うべきだった―――それでも。
今回は、そうも言っていられない状況だった。そして。
杏子にとって、これは。どれだけ自分を危険に晒そうとも。絶対に負けてはならない戦いだった。
「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
まさに真紅の流星と化し、杏子は蛙の魔女へと特攻をかける。
舌を失った事で動揺しつつも、魔女は水球で杏子の動きを止めにかかる。
311魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 13:00:36.78 ID:j3PzwEgt0
それでも。
今の杏子を、妨げる事は出来ない。
蹴散らし、叩き潰し、それでも避け切れないダメージを完全に無視して。
蛙の魔女の顎を、蹴り上げた。
人間はおろか、魔法少女の範疇すら遙かに越えた脚力から放たれた蹴りは、魔女の巨体をも軽々と宙に舞わせる。
それを見上げ、杏子は勝利を確信したように微笑む。
大胆に。そして不敵に。
「これで…決めるっ!」
槍に、使えるだけの魔力を纏わせて。
大きく振りかぶって、身を捻り。
渾身の力を込めて、投擲した。

「グゲゴゲゲゲゲゴゲェェェッッ!!!」

断末魔の声。
強固な鎧に護られた、蛙の魔女。だが、その装甲をも突き破り。
紅の魔法少女の全てを懸けた一撃が、呪われし魔女を撃ち貫いた。
魔女の身体は粒子状の結晶となって飛散し、やがてそれすらも消えていく。
そして跡に残ったのは、不可思議な球体―――グリーフシードのみ。
杏子がそれを手に取った瞬間、魔女の結界も消する。
世界の歪みは消えて、再び夜の廃校へと、一同は戻って来た。
「…ふう。危ねーとこだった」
早速、杏子が手に入れたばかりのグリーフシードを胸のソウルジェムへと押し当て、穢れを拭う。
体力も魔力も、殆ど底を尽きかけていた。
折角のグリーフシードも、早速使ってしまった。
魔法少女としてみれば、くたびれ損の骨折り儲けとしか言えない戦果だ。
「全く、こんな真似は二度とやらないからな…身体がいくつあっても足りねーよ」
憎まれ口を叩きながらも、それでも。
杏子はどこか、晴れやかな気持ちだった。
都子と輝明を横目にして、杏子はふっと相好を緩めた。
(あたしは…守れたよな。あんた達の、想いを…)
そんな、小さな満足感を抱きつつ、背を向けて歩き去ろうとした時。
「えっと…佐倉さん、だっけ?」
輝明に呼び止められて、足を止めた。
「何だよ?あんたに用なんてないんだけど」
「はは…キツいな。用っていうか…ただ、お礼を言いたかったんだ」
輝明は息をするのも辛そうだったが、それでもどうにか、言葉を紡いでいく。
「佐倉さんがいてくれなきゃ…都子はきっと…魔法少女になるしかなくて…そうなったらきっと、辛い思いをしてた
だろう。だから…ありがとう。都子を…守ってくれて」
「…はっ。べ、別にお礼なんざ、言われるほどのこたーしてねーよ」
面と向かってストレートに言われると、流石に恥ずかしいものがある。
悪ぶって顔を伏せた杏子に、都子が続けた。
312魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 13:02:31.72 ID:j3PzwEgt0
「あたしからも、言わせて。杏子」
「都子…」
「上手く言えないけど…あたし、あなたに会えてよかった。出会った魔法少女があなたで、よかった」
「…………」
「ありがとうね、杏子…」
「…ちっ。都子。最後にもう一回言うけど、やっぱあんた、魔法少女になるべきじゃねーよ」
むず痒そうにぽりぽりと頬をかきながら、杏子は何度も繰り返した台詞を言う。
「帰る家があって、家族がいて、暖かいメシが食えて―――愛する誰かがいる」

そんなあんたは、魔法少女には決定的に向いてない。

「じゃあな―――今度こそ、ホントにさよならだ。そこのカレシの為に、救急車くらいは呼んどいてやるよ」
それだけ言うと、杏子はもはや振り返らずに、颯爽と去っていく。
目に鮮やかな、赤髪のポニーテールを揺らして。
もう会えないだろうな、と都子は直感し、少し寂しかった。
ほんの少しの間の付き合いで、友達とさえ呼べる関係ではなかったかもしれない。
だけど、杏子は都子にとって―――大事な何かを残した人だった。
そして、残されたのは都子と輝明、そしてキュゥべえ。
「キュゥべえ」
都子は口を開いた。
「杏子の言い草じゃないけど…自分勝手に、言わせてもらうね」
静かで、だが有無を言わさぬ口調だった。
「あたしは、魔法少女になんてならない―――普通の女の子として、生きていく」
「…そうか。残念だけどボクとしても最低限のルールとして、契約の強制は出来ないからね―――魔法を望まない
キミに、売ってやる奇跡はない」
引き下がるしかないか、とキュゥべえは背中を向ける。
「ボクは行くよ。契約を望む、他の少女の元へと―――ただ、これだけは覚えておいてくれ、都子。いつか、キミが
望んだならば、ボクはいつでも契約してあげよう」
「いらねえよ、お前なんか…!」
輝明が、怒気を隠さずに言う。
「都子は…俺が守るし、幸せにする…奇跡も、魔法も、いらねえよ」
「輝明…!」
感極まって、都子は輝明を固く抱き締める。
折れた左腕と左足に響いて、輝明は悲鳴を上げた。
「い、いてて…!もっと優しくしろよ、都子…俺は重症なんだぞ…!」
「ご、ごめんね…でも…嬉しくて…えへへ…」
その様子をキュゥべえは無感情に見つめ、そして。
「全く…人間ってやっぱり、わけが分からないよ」
そう言い残した次の瞬間には、その姿は煙のように消えていた。
313魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 13:44:03.49 ID:j3PzwEgt0
魔法少女は去って。魔法の使者も消えて。
残されたのは、少女と少年だけ。
「…行っちゃったね。杏子も、キュゥべえも」
「ああ…キュゥべえはともかく、佐倉さんとは…もう少し…話をしたかったな…」
「何、それ。あたしの事を好きだって言ったくせに、もう浮気?」
「バ、バカ言うな…お礼だって、結局まともに言えなかったから、ちょっと気になっただけだって…」
「ふんだ。どうだか。杏子、美人だし」
それは確かになあ、と輝明は思った。
長いポニーテールはキリッとして魅力的だし、大人びた綺麗な顔立ちだけど、八重歯は幼い感じで可愛いし。
じゃなくて、と輝明は心の中でブンブンと頭を振った。
「それは…否定しないけど…でも、俺は、その、都子の事が…」
「ふふ…大丈夫、ホントはちゃんと分かってるから」
輝明の目を見つめて、都子は呟く。
「輝明。あたしね…嬉しい」
「…えっと。面と向かって言われると…照れるけど。なんていうか…まあ、俺に言える事は…あれだな…」
「何?」
「都子が…意外と巨乳で、こうして抱かれてると胸が押し当てられて、凄く気持ちいい…という事だ…」
「…バーカ」
そう口を尖らせながら、都子は輝明をそっと、自分の膝の上で寝かせた。
「でも…大好きだよ、輝明」
「俺も…だ。何度言ったって、足りない」
顔を見合せて。
散々遠回りをしてきた二人は、ようやく、心から笑い合えたのだった。


―――こうして、魔法と奇跡の物語は一先ず、幕を閉じた。
そして、少年と少女のエピローグを、少しだけ語ろう。
314サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/07/09(土) 13:45:09.27 ID:j3PzwEgt0
投下完了。次回で最終話。
最終話書いたらサンレッドに戻らねば。
気分転換できたおかげで、書くモチベーションが上がってきた。
「溺れる者は藁をもすがる」って、一応使われてはいるんだけど誤用らしい…んー。
やっぱ普通に「掴む」にしておいた方がよかったか?

杏子は悪ぶってるし、実際に悪い事もたくさんしてるけど、最後は自分を犠牲にして他人を
助けてしまうような子なんですよね…。
書いてる途中は原作での彼女の最期を思い出してしまって、ちょっと切ない。

>>300 ほんと、QBさんほどの外道は中々いないでぇ…。

>>301 どうにかフィニッシュまでカッコよく決められたかな…。

>>ふら〜りさん
>>飛び道具と対空技の【待ち】。飛び道具を追いかける【攻め】。遥か昔、私たちの
>>界隈で猛威を振るった、あるアメリカ軍人を始祖とする二大戦法よ」
待ちガイルかw
格闘ゲームの要素を取り入れた戦闘って、中々斬新かも…刃牙の作戦はどうなる?

>>306 ほんと、クッソ汚ねぇ淫獣ですよアイツ

>>307 毎度毎度、微妙にわけの分からんもん書いちまってすいませんw
315作者の都合により名無しです:2011/07/09(土) 20:48:04.98 ID:DSF+feup0
>>314
乙!原作に似合わずハッピーエンドに終わりそうで良かったです。ただ
>>クッソ汚ねぇ淫獣ですよアイツ
この表現は某野球選手たちと契約してホモの魔の手に引きずり込んだ某淫獣を思い起こさせるためNG
316作者の都合により名無しです:2011/07/10(日) 00:58:39.02 ID:ZiIk0Kfl0
お疲れです。原作は全然知らないけどハッピーエンドはいいものですな。
もう一話ありますが。短編でも完結してくれるって良いですな。
3話以上の話でサマサさんが一番完結させた人かな?ふらーりさんかな?
317作者の都合により名無しです:2011/07/10(日) 12:54:30.93 ID:ZtXiHyoo0
甘ったるくてよいハッピーエンドですな
エピローグも期待しております
318作者の都合により名無しです:2011/07/10(日) 23:04:23.67 ID:0zeawnX30
サマサさん、俺が好きだった4年位前のバキスレに戻してくれ!
319作者の都合により名無しです:2011/07/11(月) 01:04:59.08 ID:c1JAlzWL0
無理だろ
320魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/11(月) 19:49:07.05 ID:kO8ejEwR0
最終話「たった一つだけの」

永井輝明は病室のベッドで、少々退屈していた。
「ヒマだ…何もやる事がないというのが、ここまで苦痛とは…」
「しょうがないでしょ。ゆっくり休まないといけないんだから」
見舞い客用の椅子に座って林檎の皮を剥きながら、都子はそう言う。
とはいえ、左腕と左足に重いギプスの着用を余儀なくされては、少々気が滅入るのも仕方のない事だろう。
全治一ヶ月。リハビリも考えると数ヶ月。
中々に、厳しい現実だった。
(それでも命が助かっただけ、ありがたいと感謝すべきだろうな)
そう、輝明は思った。


―――あの事件から、一週間が過ぎていた。
駆け付けた救急隊員に病院へと担ぎ込まれ、治療を受けて。
手術は成功したものの、輝明の意識はしばらく戻らなかった。
その間、都子は輝明の側を一切離れようとしなかった。
あまりにも思い詰めた様子の都子に、医者や看護師、輝明や都子の両親が心配して帰宅を促しても、彼女は頑として
聞き入れず、遂に彼らの黙認を勝ち取った。
そして、輝明が目を覚ましたのは二日後だった。
目を開けた彼が最初に見たのは、泣きながら縋り付いてくる都子の姿。
髪はバサバサで、目の下には真っ黒なクマが出来ていたけど。
そんな彼女を、誰よりも愛しいと思って。
輝明は都子を、無事な右手で、そっと抱き寄せた。

とにかくそれで一件落着、一安心…とはいかなかった。
何だってあんな廃校で、こんな怪我をしていたのか、誤魔化すのが大変だったのだ。
<この世には魔女という存在がいて、そいつにやられたんです>などと事実を語ろうものなら、即座に別の病院へと
移される事は間違いなしだ。
結局、都子と相談し、口裏を合わせて。
<輝明と喧嘩して自暴自棄になった都子が、不良達の誘いに乗って遊んでいたら廃校に連れ込まれて乱暴されそうに
なって、助けに入った輝明が怪我を負ったものの不良は撃退した>という、一昔前のヤンキー漫画かとツッコミたく
なるような大嘘を吐く事になった。
何というか、よく考えてみると嘘とも言い切れない辺りが凄かった。
しかして、このありえなさが逆に信憑性を持たせたのか、医者も警察も訝しがりながらも最終的にはそれを信じた。
幼い頃から知っている都子の両親が泣きながら都子を叱りつけ、輝明や輝明の両親に土下座して謝罪したのは流石に
色んな意味で辛かった。
輝明にしてみれば<いや、こっちこそ色々すいません>と逆土下座したかった所である。


「学校からも、よくお説教と反省文の提出だけで済んだもんだよな」
「うん。正直、停学くらいは覚悟してたけど…日頃の行いがいいからかしらね?」
「自分で言うなよ…というか、本当にあれでよかったのか?もうちょっとどうにか…」
「いいんだよ」
321魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/11(月) 19:51:32.05 ID:kO8ejEwR0
都子は、少し遠い目をした。
「あたしがバカだったせいで、輝明はこんなになっちゃったんだもの…ちょっとはあたしも、泥を被らないと」
「…………」
「あはは…そんな深刻にならないでってば。ほら、剥けたわよ」
皮を綺麗に剥き、食べやすい大きさに切った林檎を爪楊枝に刺して。
照れた笑顔で、輝明の口元に持ってくる。
「はい、あーん」
「…………」
いともたやすく行われる恥ずかしい行為。しかし、大人しく口を開けてしまう辺りは惚れた弱みだ。
赤面しながら、もぐもぐと林檎を咀嚼する。
「うふふ、美味しい?」
「う、うん…」
ただ、まあ。
悪い気なんて、勿論しない―――
都子の顔を見ていた輝明はふと、彼女の変化に気付いた。
「そういや、都子…髪型、変えたのか」
「もう。今頃気づいたの?ホント、鈍感なんだから」
ブー、とふてくされたように口を尖らせながらも、都子の顔は笑っている。
「似合うかな、輝明?」
「ああ…何ていうか、さっぱりしてて格好いいっていうか…」

―――不意に、思い出した。
自分と都子にとって、計り知れない恩のある、あの魔法少女を。

「…佐倉さんに、似てるな」
「うん。実はちょっと意識してる。杏子が知ったら、きっと<あたしの真似なんかすんじゃねー!>って言うだろうけど」
都子は、杏子の照れ隠しに怒ってみせる顔を想像し、苦笑する。
「でも…あたしにとって杏子は、世界で一番カッコよくて、素敵な女の子だから」
「そうか…でもさ」
輝明は、言う。
「都子だって、世界で一番可愛くて、素敵な女の子だよ…少なくとも、俺にとっては」
「…もう。褒めても、何も御褒美なんて出ないわよ」
「はは…うっ…!っ…痛ててっ…!」
不意に身体を刺してくるような疼痛に、呻く。
鎮痛剤は投与されているとはいえ、酷い重傷なのだから、仕方ないだろう。
最初の内は感覚も麻痺していたせいかそんなに痛くなかったのだが、症状が落ち着いてきたおかげで痛覚がまとも
に機能し始めたのかもしれない。
「輝明…!」
「し、心配すんなよ…こんなん、何ともな…つっ…」
強がっても、苦痛が消えるわけではない。
顔を歪める輝明を、都子は気が気でない様子で見守っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
322魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/11(月) 19:52:58.20 ID:kO8ejEwR0
「あのね、輝明…あたし、一つだけ、魔法が使えるのよ」
「え…」
輝明の顔が強張る。
都子はキュゥべえとは契約していない。魔法少女なんかじゃないはずだ。
いや、まさか自分の知らない所で、何かされたのか?
「そんなんじゃないよ…たった一つだけの、ちょっとした、痛み止めの、魔法」
上手くできるか分からないけど、すぐに済むから、ちょっとだけ目を瞑っていてね。
そう言われて、不安がりながらも輝明は目を閉じて。

唇に、柔らかい何かが触れるのを感じた。

思わず目を開けると、これまでにないくらいに密着した都子の顔。
あ、でも。
幼稚園の頃に、同じ事があったっけ。
ままごとで、同年代の中ではおませだった都子が<おでかけのまえはこうするのよ!>とか言って。
子供心に、何だかドキドキしたのを少しだけ覚えている。
うん、そうだ。あれと同じだ。
端的に言うと、キスされた。
唇が、離れる。都子はえへ、とはにかんだように笑う。
「どう?効いた、かな?」
「…うん。痛く、ない」
それはもう。
さっぱり、痛みなんか吹っ飛んだ。
「…すっげえなあ、お前。まるで、魔法少女じゃないか」
それも―――とびっきりの、素敵な魔法だ。
キュゥべえのせいで、魔法という言葉に対しては悪いイメージしかなくなっていたけど。
こんな魔法なら―――あっていい。
「あのさ、都子」
「ん?」
「…効き目がにぶらないように、もう一回」
「えっちー」
そう言いながらも、また二人は顔を近づけて、唇を合わせて―――



―――丁度その頃。
病院の向かいにある、雑居ビルの屋上。
一人の少女が胡坐をかきながら、双眼鏡で輝明の病室を覗き込んでいた。
佐倉杏子―――魔法少女。
「…ったく。ちょっくら様子見てやろうと思ったら、随分とお気楽でいいね。やめたやめた、出歯亀なんて。あー、
バカらしいったらありゃしねー!」
杏子は双眼鏡を放り投げた。
懐からう○い棒を取り出し、乱暴に齧り付く。
言動だけ見ると怒っているようだが、実は照れているようだった。
323魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/11(月) 19:54:12.51 ID:kO8ejEwR0
「てゆうか、何だよ、都子のあの髪型!あたしの真似なんかすんじゃねー!」
都子が想像した通りの反応であった。この辺、分かりやすい少女である。
「ったくよー。あのバカップルが!あんな奴ら―――」
精々、末永く幸せにでもなりやがれ。
杏子は、心からそう思った。そう願った。

「―――今回は大失敗だったよ。キミのせいでね」

そんな彼女の感傷など知った事ではない、と言いたげな声に振り向くと。
得体の知れないつぶらな瞳で、キュゥべえが佇んでいた。
「…ケッ。文句言われる筋合いはねーよ。あたしはテメェの手下じゃねーんだ」
「まあ、そうだね。今のはキミ達が言う所の八つ当たりさ…まあ、ボクの気持ちも察してくれないかな?折角、アレだけ
の素材を見つけたってのに、パーになっちゃったんだから」
「素材、ね…テメェにとっちゃ、少女なんて道具かよ。で、本当に都子の事は諦めたんだな?」
「正確には、これ以上は彼女に関わっても、利益にはならないだろうからね。大倉都子―――確かに、中々の才能を
秘めていたけど、彼女を魔法少女にするためには、こうなると相当な労力をつぎ込まないといけないだろうからね。
それなら他にもっと楽に契約してくれる少女なんて何人もいる」
そういった子を相手にして数をこなした方がまだマシさ、と平然と語った。
キュゥべえはそれを、悪いなどと欠片も思っていないようだった。
「やれやれ、この任務も疲れるよ。どこかにいないものかなぁ―――この世界の概念そのものを覆す、万能の神にも
成り得る、途方もない才能を秘めた少女が。そんな子がいたら、ボクの全てを懸けて契約してみせるんだけどな」
「いてたまるか、ンなもん―――神様なんか、本当に困った時は助けてくれねえんだからな」
杏子は己の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情をした。
何か、思い出したくない過去を想ってしまったような―――そんな顔。
「ま、とにかく。キュゥべえにしてみりゃ大失敗だろうが。たまにはいいさ、こんな物語(ストーリー)も」
そう―――きっと、こんなお話があってもいい。
血腥い魔法少女の世界を垣間見ながらも、愛しい誰かに手を引かれて、平和な日常に戻っていく。
「そんな…普通の少女の物語があったって、いいじゃん」
「ならば、キミはどうするのかな、杏子。魔法少女であるキミの物語は、どうなっているんだい?」
「分かり切った事を訊きやがって。決まってるだろ―――」

杏子の姿が、瞬時に切り替わる。
真紅にして深紅、赤色にして朱色。
魔女を狩る、魔法少女へ。

「魔法少女に安息なんてない―――逃走も赦されない。永遠の闘争だけが、魔法少女(あたし)の物語だ」

それじゃあ今日も、魔女退治といきますか―――
佐倉杏子は地面を蹴って、空へ舞う。
過ぎ去った<普通の少女>としての日々に。
もしかしたらあったのかもしれない未来に。
僅かに想いを馳せながら。


普通の少女は、日常へ。
魔法の少女は、戦場へ。
一度は交錯した二人の少女の道は、再び分かれて元へと戻る。
もう二度と、その道が交わる事はないだろうけど。
せめて、二人のこれからに、夢と希望があらん事を。


―――全ての少女に、花束を―――
324サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/07/11(月) 20:07:50.61 ID:kO8ejEwR0
投下完了。
魔法少女みやこ☆マギカ、これにて完結。っていっても、全六話の短い話でしたが。
割と反響(というかQBの悪役人気)があって嬉しかったです。
杏子は書いてて楽しかったー。
ハッピーエンドはまどマギには似合わないかもしれませんが、折角の二次創作なんだから、と
割り切って書きました。

都子は何というか、原作(ときメモ4)だとトンデモねえヤンデレキャラなんですが、そういう部分が書けなかったなー。
ただ、その辺を忠実に書くと多分わけが分からなくなる上にドン引きされそうだったんで。
んー、力不足。

キスシーンとか、バキスレじゃ初めて書いた気がする…こっぱずかしい。

あと、書いた後で「あ、ここ間違ってるじゃねーか!」「ここは書き直そう…!」と思った部分も多々あるので、
まとめサイトで保管していただいた所に、自分で訂正してる部分があります(大して変わってるわけでもないですが)。

では、次はサンレッドで会いましょう。

>>315 まどマギの基本路線とは違うけど、一応自分では満足して書けました。Oh…TDN…

>>316 短い話でも、きっちり完結させると感慨深いものです。ふら〜りさんも相当書いてらっしゃるから…。

>>317 エピローグも、甘ったるく決めてみました。

>>318 四年前にいた面々…戻ってきてほしいものです。
325作者の都合により名無しです:2011/07/11(月) 23:47:47.24 ID:Ud832LBD0
お疲れ様でした!
またサマサさんの完結数が増えましたね!
2人の少女のこれからも見てみたい気もしますが
サンレッドも楽しみにしております。
326作者の都合により名無しです:2011/07/12(火) 21:49:06.54 ID:0eNYVPio0
バキスレでキスシーンって今まであったっけ?
サマサさん完結おめです。
魔法少女も少女のうちか…
327作者の都合により名無しです:2011/07/12(火) 22:57:09.63 ID:2xvjv9IN0
恋する少女はみんな魔法使いオチかー
ありがちというか王道ですな
完結お疲れ様でした
328 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 14:49:40.53 ID:lczKNppQ0
 橙の光が闇の中を進んでいた。円形のそれは時おり左右へ傾き空間の暗黒を削っていた。灰色の壁。丸く歪曲した天井。
そして線路。光が無造作に抽出する景色はここがトンネルであるコトを示唆していた。
 光はどうやらライトらしく後方から硬い足音がコツコツコツコツ常に響いている。それはもつれ合うような不協和音。足音の
主は複数いた。
「しかし広いわねココ。電波とか届くのかしら?」
 場所に不釣り合いな嬌声が淀んだ大気を震わせた。
「届くって入ってすぐの頃に言っただろ! 戦団への定時連絡! 毎日毎日ボクに押し付けやがって!!」
 こちらはいかにも坊ちゃんといった感じの若い男性の声。懐中電灯を握る手をぶるぶる震わせ憤りも露だ。
「何にせよ大戦士長救出作戦まで後2日。大まかな位置は把握できたな」
 いかにも無頼漢じみたハスキーな声が笑みを含ませると、前者2人は軽く同意を示した。
「まさか地下にトンネルがあるなんてね。地上から追跡しても分からない筈よ」
 まず応じたのは中性的な美貌の持ち主である。髪は短く瞥見(べっけん)の限りでは男女の区分がわからない。
 そんな”彼”を眼鏡の青年は得意げに指差しカラカラと笑った。髪には跳ねが多く寝ぐせだらけという方が分かりやすい。
「ボクのレイビーズたちに感謝しろよ円山。大戦士長の位置だって今日中に見つけてみせるさ」
 自信あり気な声音だがあまり余裕は感じられない。笑みもどこか卑屈な青年で丹力の乏しさが伺えた。
「確かに感謝だな」
「ひ……!」
 青年の頭が背後からガシリと掴まれた。彼は蒼い顔を恐る恐る後ろへねじ向け、背後の大男を見た。
「ヴィクターIIIの捕捉と言いなかなかどうしてやるじゃないか。見直したぞ犬飼」
 堂々たる体躯と十文字槍を持つ男がそこにいた。単純すぎる形容をするとすれば野武士であろう。荒々しく伸ばした黒髪
といい、いかにも元亀天正からそのまま現代に迷い出てきたような風貌だ。
「分かったから頭を放せ戦部!」
「フム。無作法だったか。しかし……ようやく」
 それほど強く掴まれていなかったが何となく怖かったらしい。犬飼、と呼ばれた青年は引き攣った胸に手を当て兢々(きょ
うきょう)たる息を付き始めた。だがもはやそんな様子など目に入っていないのだろう。戦部は槍を背中に回しのっそりと歩
きだした。通り過ぎていく彼を見た美貌の青年はわおと歓声を上げた。戦部の頬には凄烈な笑みが張り付いている。舌舐
めずりさえする様はまさに獣を狙う獣の顔つきだった。


 犬飼倫太郎。
 円山円。
 戦部厳至。


 かつて戦士長・火渡赤馬に坂口照星とその誘拐犯の追跡を命じられた男たちである。
 戦士ではあるがその分類は奇兵。今夏は一時期”再殺部隊”として毒島華花・根来忍といった連中ともども津村斗貴子や
パピヨンと熾烈な戦いを繰り広げた。力量面では申し分なしというところだが人格や性質に難があり、自然ヴィクターIII討伐
に代表されるような「難儀な、汚れ仕事」ばかり回されがちである。手がかりもなくその癖危険ばかりは大きい坂口照星追
跡を一介の戦士長に過ぎぬ火渡に丸投げされたのも、それを戦団に黙認されているのも上記一例であろう。

「まあスゴいといえばスゴいわねレイビーズ。地下トンネルを探し当てちゃうなんて」
 レイビーズ。一般的には狂犬病を意味する言葉だが、この場では犬飼の武装錬金を差す。形状は軍用犬(ミリタリードッグ)。
核鉄1つにつき1対2体の自動人形である。いまは4体が地上を捜索している。
「大戦士長の匂いが漏れていたからね」
「?」
「言うまでもないけどね。楯山千歳が捕捉できなかった以上、大戦士長は何らかの武装錬金の影響下にあった筈さ。「外部
からの干渉を完全にシャットアウトするタイプ」かな? とにかくバスターバロンごと拘束されていたのは間違いない。けど敵
側に何らかの事情があったようだね。一瞬だが特性が解かれ、本当にわずかだけど匂いが漏れちゃってたよ」
329 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 14:59:30.57 ID:lczKNppQ0
.
──「ところで照星君はどこにいるのかな? さっきから全然姿が見えないけど」
── ウィルはかすかに気色ばみ、そして瞑目した。
──「では、ご覧にいれましょうか。ボクの『インフィニティホープ』、ノゾミのなくならない世界と共に」
── 突如として大蛇のような巨大な影が空間をガラスのようにブチ破り、ムーンフェイスを襲った。
──「止まれ」
── ウィルの指示で肩口スレスレで止まったそれは低く唸ると、割れた空間に引き戻る。
── そこでは水銀に輝くブ厚い扉が開いており、中には照星の姿が見えた。
── 神父風の彼はアザと血に塗れてピクリとも動かない。
── 胸のかすかな動きで息があるコトだけが辛うじて分かった。
──「こりゃビックリ」
── 感想をもらすムーンフェイスはどこかわざとらしい。

                                             (11話─(3)参照)

「ナルホド。それがこのトンネルに残っちゃった訳ね」
「もちろん完全密閉とはいかないよ? どこかに通じている以上、空気の流れがないワケじゃない。第一天井なんかにも隙
間があるしね。長いトンネルの天井全部一枚の板で賄えないだろ? コンクリートでもそれは同じさ」
「ホントだ。何mかごとに分けて嵌めこんである。隙間はこのコたちの境目に……ね」
 円山は感心したように高い天井を見上げた。その様子にますます気をよくしたのかますます弾む犬飼の声。
「空気の流れに隙間。地上に、大戦士長の匂いが漏れていた理由さ。おかげで何とか嗅ぎつけるコトができた」
 そこで犬飼はニタリと唇の端を吊上げた。自信に満ちてはいるがやはりどこか劣等感の見え隠れする薄暗い笑みだ。
「しかもトンネルにはムーンフェイスと、誘拐犯の匂いもあった」

(ブ厚い土の上から、な。犬の嗅覚の倍というだけはある)
 聞くともなしに二人のやり取りを聞いていた戦部は微かに微笑した。

「どういう訳か誘拐現場には犯人たちやムーンフェイスの匂いがなかった。けどトンネルの中は違うよ。一応彼らは歩いた
らしい。だったら追跡はしやすくなる。たとえ大戦士長を何かの武装錬金で外界から完全に隔離していたとしても、今度は
同行者たる彼らの匂いを追えばいいだけだからね。乗り物に乗って移動したようだけど匂いはまだまだ残っている」
「後はそれを追うだけ……そんな方針だったわね」

(乗り物か)
 戦部は足元に目を落とし思案顔をした。地下鉄に使うようなレールがどこまでもどこまでも闇の奥まで伸びている。
(トンネルもだが線路も人工物のようだ。武装錬金特性で作られた訳ではない)
 ふむうと顎に手を当て戦部は考える。道中何度も繰り返した思案だが、これだけの長さこれだけの深さのものを作り上げ
ようとすればやはり相当の組織力がいるだろう。
(莫大な資金は言うまでもなくそれを兵站に生かしきる手腕は欠かせん。ホムンクルスは量産が効き人間以上の高出力を
持ってはいるが、大規模な物を作らせるには相応の教育が必要だ。統率、といってもいい。奢り高ぶり人喰いに傾注しが
ちなホムンクルスどもを長期間巨大な工事に従事させ、かつ水準以上のものを作らせたとすれば…………)
 戦部の趣味は戦史研究だが、歴史家にいわせれば歴史上勝利を収める組織とは上記が如き兵站と涵養(かんよう)
を達成できる物らしい
(いささか寓話じみた警鐘だが強者を招きやすいのもまた事実)
 質の高い組織には自ずと実力者が集まってくる。果実を期して幹と品種を眺めるように戦部は目を細めた。
(レティクルは10年前より強くなっている。俺が『弁当』の喰い方を覚えたあの時より)

 とりあえず行き止まりにたどり着いたのが数日前。9月9日である。
 そこから出口──梯子を上りマンホールを開ける──を見つけ再度レイビーズで追跡したところ、いくつかアジトらしい
場所が浮上。それらを戦団に報告したところ「救援部隊の体制が整うまで監視を継続」との結論に落ち着いた。音楽隊経
由で判明した敵の正体を伝えられたのもその頃だ。
 目下戦部らは警邏と絞り込みの最中だ。敵地は近い。襲撃も半ば期待していたが平和なまま現在に至る。

(このあたりに列車はない。消えたのだろう。誘拐に使われた物は武装錬金)
 退屈な現状把握をなぞりながらも内心線路に垂涎している戦部だ。
(10年前はなかったタイプ。詳しい形状は分からんが列車は列車、小ぶりというオチもあるまい。是非とも戦ってみたいものだ)
330 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:15:07.20 ID:lczKNppQ0
.
 そんな彼の思案をよそに背後では明るい声が響いている。

「でも分かるまでは大変だったわねー犬飼ちゃん。なかなか見つからなくてキャプテンブラボーに核鉄まで貸して貰って、4
体がかりであっちこっち探してたもの。もうほとんど涙目で取り乱してばっかり」
「黙れ!! 匂い追跡は難しいんだぞ!! 今回みたいなトンネルとか特殊な武装錬金使う相手なら特に!! というか
なんで誘拐現場の近くに入口なかったんだよ!! それさえあればボクは苦労せずに済んだんだ!!」
「どうやって地上に出たんでしょうね。誘拐犯さんたち」
 他愛もなくきゃいきゃいと戯れる2人に戦部は軽く嘆息した。道中こんなやり取りが何度もあった。よく飽きもせずに
何度もと呆れもするがそうでもしなければ気分が滅入って仕方ないのだろう。真暗で先の見えないトンネルは無言で
歩き続けるにはあまりにも長すぎる。
「でも匂いがあった以上確定さ。このトンネルが大戦士長誘拐に使われたのはね。毒島に調べて貰ったけど、誘拐現場
近辺に地下鉄や坑道といった類のものはない。敵が作ったとみるべきさ。そして匂いはブラフじゃない。ブラフを敷くなら地
上の方さ。けどアレだけ探しまわって一回もそれらしい匂いを捉えられなかったんだ。敵はブラフなんて使ってない。だったら
後はトンネルを辿るだけだろ?」
「そうね。大戦士長が誘拐された辺りにも戻ってみたけど、あっち方面のトンネルは一本だけの行きどまり」
「で、逆方面に向かった結果、ココにいる。分かれ道はなかったね。どうやら大戦士長誘拐用の直通らしい」

 衒学的な演説もひと段落というところだ。実力不相応の自意識もそろそろ満足だろう。アタリをつけた戦部は振り返り野太い
笑みを浮かべてみせた。

「重ねて言うが感謝するぞ犬飼。標的はすぐ傍。貴様のお陰でホムンクルス以上の連中と戦えそうだ」
「昂ぶっちゃって。もしかして敵の気配でも感じた?」
「ああ。居るぞ円山。近くにおよそ4体。内1体は恐らくヴィクター級。救出作戦が愉しみだ」
 一団の中で一番の美貌の主はやれやれと肩を竦めてみせた。僚友だから知っている。現役戦士中ホムンクルス最多撃破
数を誇る戦部は常に強者との戦いを望んでいるコトを。彼に言わせれば記録保持など望みを追い続けた副産物、通過点にす
ぎないのだ。ゆえに大戦士長誘拐という異常事態さえ彼にとっては新たな強者出現ぐらいの意味合いしかない。
「ヴィクター級ねえ。まあ1人ぐらいはいると思うけど……どうする? ボクたちだけでそいつ倒してみる? やれば大手柄だけど」
「悪くない提案だが、生憎俺は常々思っている。大戦士長とも戦いたいとな。救出をしくじり死なせては折角の飯もまずかろう」
「自重しなさい犬飼ちゃん。私たち結局ヴィクターIIIさえどうにもできなかったじゃない」
 軽く歯噛みし目を逸らす犬飼に円山は思った。「ホラー映画とかでまっ先に殺されるタイプね」と。実際彼は今夏のヴィクターIII
(武藤カズキ)討伐においてまっ先に交戦しまっ先にやられた輝かしい戦績の持ち主だ。
 それを気にしているのか。どうも最近功を焦っているフシがある。コンプレックスもあるのだろう。代々戦士を輩出した家系
の生まれで祖父──円山の記憶が正しければ、恐らくは──犬飼老人に至っては戦士長さえ努めていた。その後任に収ま
りいまは大戦士長にまで登り詰めているのが他ならぬ坂口照星なのである。一方犬飼は奇兵扱いの厄介者。救出作戦には
つまり戦士たち家族たち両方への面目躍如がかかっているという訳だ。
「私情挟みすぎね。2人とも。まあイイけど」
 円山は特に思うところはない。火渡に命じられたから付いてきた。それだけである。もし敵に円山好みの可愛いコがいれば
風船爆弾の武装錬金バブルケイジで身長を吹き飛ばし鳥カゴで飼いたくもあるが、それはついで程度である。主目的にする
ほど乗り気でもない。なぜなら──…腹部が痛い。傷が疼く。胃の中にゴロゴロとした不快感が走りいまにも爆発しそうな恐
怖がある。少し前、ある人物から受けた傷だ。
 円山の武装錬金の特性は「触れた相手の身長を15cm吹き飛ばす」。吹き飛ばした量が対象の身長を上回る場合、相手は
消滅する。
 今夏、円山はその特性を縦横に駆使し、ある対象の身長を34cmまで縮めた。しかし円山は目測と詰めを誤り、たった2発
しか当てなかった。差し引き4cm。そこまで縮んだ相手がどこに向かっているかも知らず、円山は大きく口を開け、笑い、不用
意な発言──鳥カゴで飼うのも悪くなかった──をしてしまった。
331 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:20:09.12 ID:lczKNppQ0
 相手は、津村斗貴子だった。不用意な発言が飛び出すころにはもう影も見せず円山の口に飛び込み胃の中へ潜り込ん
でいた。そして発言を悪趣味と断じ、「人間の」「円山の」胃を内部から切り開き、脱出した。
 その傷はトラウマとなり以来そのテの諧謔を浮かべるたび警告的ファントムペインに苛まれる。
 思い出したくもない──だが激痛もたらす法悦への期待もやや滲む、そんな──やや強張った笑みで円山は話題を変えた。
「私情といえばココ裂いてくれちゃったあのコ。今頃銀成市で怒っているでしょうね」
 同じ部隊のよしみか。毒島はこまめに戦団の現状を教えてくれる。おかげで暗いトンネルを歩くだけの円山たちもいっぱしの
事情通気取りだ。特に銀成市の現況は──かつて戦った相手と縁深い土地というコトもあり──よく話題にのぼる。
「ホムンクルスとの共闘ねえ。いいじゃないか。捨て駒にできるんだろ?」
 いささかひどい犬飼の意見だが、戦士としては模範解答だ。
「…………フム」
 戦部の目に鋭い光が灯ったのは戦後を鑑みてのコトだろう。共同戦線は救出作戦限定なのだ。終わってなお生き延びて
いる者があれば始末と称して挑むのも悪くない。野趣あふるるニュアンスに苦笑一方の円山だ。
「ま、見て気に入れば別の選択肢も有り得るがな。だがどちらにせよ──…」
「?」
「奴らが生き残っていればの話、だがな」
 機微を察したのか、大男は踵を返し仲間を見た。
「お前たちはまだ若いから知らないだろうが」
「チョットぉ。確かに若いけどアナタだってまだ27じゃない。私のたった4つ上」
 円山の抗議をしかし微笑でゆるりと流し戦部厳至は言葉を紡ぐ。
「敵は強いぞ。並のホムンクルスでは生き残るのも難しい」
「レティクルだっけ? それも毒島から聞いているよ。大戦士長を誘拐したのもそいつらだってね。でも10年前戦団に負けた
んでしょ? とてもそんな強いとはねェ」
「強いさ。実際見れば分かる。まだ若いお前たちと違い、俺はあの場に居たからな」
「へぇ初耳。10年前の決戦にいたなんて。その頃アナタまだ17。よく許可が下りたわね」
「武装錬金の特性が特性だからな。もっとも……その時まで『弁当』の喰い方も知らん新米だったが」
 犬飼と円山は顔を見合わせた。話がややズレている。余談だが戦部の武装錬金は『激戦』という十文字槍で、特性は槍
本体および創造者の高速自動修復である。戦部は例え黒色火薬で跡形も残らぬほど吹き飛ばされてもたちどころに再生する。
ただしその代償として莫大なエネルギーを要するため、戦闘突入時には『弁当』が必須だ。もしそれがなければあっという間に
ガス欠をきたし修復不能となるだろう。
 とはいえそれが敵の話とどう関係あるのだろう。戦部の話、続く。
「弁当の喰い方を覚えたのは幹部と戦っている最中だ。ディプレス……だったか。火星の幹部は圧倒的に強かった。あの
決戦における記録保持者は間違いなく奴だ。多くの戦士がディプレスによって分解され、命を失った。俺の居た部隊も例外
ではない。決して小さくはなかったが遭遇から5分と経たず壊滅に追いやられた」

 最初はただの掃討任務だったらしい。80体からなるホムンクルスの集団を壊滅寸前にまで追い込み部隊の士気はとみ
に高かったという。そのとき面妖な鳥型が音も立てず戦場に紛れ込んだ。

「まずは3人。気づいた時にはもう遅かった」

 仲のいいグループだった。一ツ所に固まってめいめいを補佐していた彼らの首から上が当たり前のように爆ぜた。ぶしゅ
りという不気味な音がした。首から夥しい出血を催す死骸が3つ仲良く膝をつき、傾き、そして丸太を転がすような音を奏で
る頃ようやく他の戦士も異常に気付いた。一瞬止まる戦場の波。滑り込む影。ある直線状にいた戦士が6人、『大きく削ら
れた』。運が良いものは右肩と右腕と右肺全部に気管支と左肺を少々。不運なものは腎臓同士の中間点を中心に腹部と
腰部のほぼ総て。人体を構成するいろいろな器官の落ちるリズムのやかましい中、戦士たちは見た。いたく嘴が巨大な、
不格好な鳥がはるか先で顔半分だけ振り向かせているのを。三白眼と口元をたっぷり歪め酷薄な笑みを浮かべているのを。

「飛火飛鴉(しんかひあ)?」
「中国のロケットミサイルみたいなものさ」
「特性は分解能力。無数にあるボールペン大の武装錬金。奴がそれを飛ばすたび俺を含む戦士どもが分解された」
「ま、アナタは激戦があるから問題ないでしょうけど、他の戦士はねえ」
332 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:27:01.49 ID:lczKNppQ0
.
 誰かが怒号をあげた。
 激烈な感情が伝播した。膨れ上がった殺気がそれまでの相手を軽くすり潰しながら鳥へ鳥へと向かい始めた。

「武装錬金の名はスピリレットレス(いくじなし)。いわば最強の矛だが最強の盾にもなりえる」
「成程。身にまとう訳だね? いや、周囲に漂わす……といった方が正しいかな?」
「キャプテンブラボーのシルバースキンが殴ってきた相手の腕分解するようなものね。物騒すぎてイヤになっちゃう」
「ゆえに激戦の高速自動修復を以てしても攻撃は届かなかった。もっとも、”その時までの”修復面積と回数ではな」

 近接戦闘を嗜むものは挑みかかるたびことごとく武器を砕かれその隙に頚部を打ち抜かれ絶命したという。
 遠距離攻撃をする者も末路はおおむね同じ。ディプレスは地を蹴りそして飛んだ。迫りくる銃弾やエネルギー弾を『盾』で
分解しつつ相手へ肉薄! 工夫も何もない。ただの体当たりを見舞った。周りに展開する分解能力の武装錬金ごと身を
ブチ当て戦士を肉塊へと造り替えた。

「なかなか面白い戦いだった。初陣から2度の戦もせぬうち大将以下が総崩れだ」
「楽しんじゃってるわねェ」

 やがてエネルギーが尽きた。隻腕の戦部は片膝をついた。手にした十文字槍は柄の上半分が穂先ごと消失。修復に伴
う稲光が微かに瞬いているが高速と呼ぶにはあまりにも精彩を欠き、遅かった。

 ラスイチ。よく戦った。嘲るような労いを囀りながら巨大な嘴の鳥がゆっくりと歩み寄る。周囲は屍の山。戦部の運命もまた
そこへ合流するかと思われた。

「その時さ。弁当の喰い方を覚えたのはな」

 負け戦。そんな絶対不利さえ愉悦と好む形質が奇跡を生んだ。腰だめのまま戦部は右腕ごと十文字槍を跳ね上げた。
居合いのような峻烈さだった。鞭と見まごうばかりしなる打撃の軌跡の中、神速ともいえる速度で元の形へ復した激戦、
がりがりと凄まじい音を立てながら分解され──…ディプレス=シンカヒアの嘴の一部を削り飛ばした。微かに驚き汗を
流す敵。彼とは逆に会心の、野太い笑みが戦部を支配した。劣勢の中、弱卒が一瞬だけ至強を上回る。戦部厳至の心が
躍るひとときである。

「修復速度が分解速度を上回った訳ね。でもソレをテンション一つでやってのけるなんてねえ」
 呆れたように円山は呟いた。きっと戦部は起死回生などカケラも目論んでいなかったに違いない。この一撃が通じなければ
負ける! 常人なら焦燥し繰り出すコトさえ躊躇う場面だが戦部にしてみれば「負ける!」という絶望的要素さえ面白い。もし
通じなかったとしてもその後の悪あがきさえ笑いながらとても楽しげにやってのけるのが彼なのだ。
 ただただ腹の減った子供が旨い料理の乗った皿を徹底的にねぶり尽くすようなに、戦闘という料理に残る余地、残滓も
何もかも消化せんとする貪欲さあらばこそ戦部は腹臓から高ぶり、高速自動修復の”高速”を更に一階梯上へ押し上げた
のだろう。回数も、面積も。
 つくづくと呆れながらも感心する円山の横で犬飼だけはしたり顔で自説を垂れ始めた。相手への称賛よりまず自分の発想
の素晴らしさとやらを披歴せずにいられない辺り、彼もまた子供じみている。
「ディプレスとかいう奴の武装錬金、シルバースキンと真逆だね。あっちは敵の分解速度が修復速度を上回れば攻撃が通
じる。戦えば分からないよ。どうなるか

「その辺りは分からんが……とにかく」

 削り飛んだ嘴の欠片。それを喜悦の表情で眺めながら戦部はゆるゆると手を動かした。果たして野太い槍の柄は器用にも
欠片を叩き、飛ばし、戦部の口にへと放り込んだ。

「後はまあ、いまやっているような弁当喰いと同じだ」

 咀嚼し、飲み干す。人を喰らうホムンクルスを人が喰らうというこの矛盾! だが戦史註(ときあか)す戦部にしてみれば
整合性に満ちた当たり前の行為である。攻撃が通じた瞬間、思い出し、腹が鳴った。古の戦士は斃した相手の血肉を喰ら
ったという。自らがそれより強いという証のために。そして相手の強さを取り込み、更なる強さを得るために。
 戦部の部隊に居た戦士は彼以外みなホムンクルス撃破数100以上。そんな手練れどもをあっという間に壊滅させたディプ
レス=シンカヒア。覚えるのは憎悪でも義憤でも復仇の念でもない。戦いたい。もっともっと戦いたい。そして打ち斃し……
もっともっと喰らいたい。なんと旨そうな羽根だろう。丸い頭を噛み千切れば何がどろりと出てくるのか。
333 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:30:56.79 ID:lczKNppQ0
 かつてない高揚の赴くまま──女を抱く興奮などこれに比べればまったく話にならぬほど矮小だった──戦部は叩き、薙
ぎ、突いた。全力で踏み込むあまり時おり足の下で仲間の死骸がナマ柔らかい何かをうジュりと吐き出したようだったが些
細な問題だ。戦後訪れた遺族や同僚どもの激しい抗議もひっくるめ、どうでもいい、つまらない問題だった。
 戦闘のもたらす高揚感。それこそが戦部を突き動かすものなのだ。それ以外は不要なのだ。

「半日は戦ったな。最初は小さな欠片程度しか飛ばせなかったが、徐々に徐々に喰いでのある塊を獲れるようになっていた」
「あらやだ。完ッ全に食べ物としか見てないわね」

 食べ物は食べ物でかなり興奮していたという。最初こそ食欲丸出しで迫ってくる戦部に激しくヒき、憂鬱だ憂鬱だと涙さえ流
していたが一通り泣き終えると、逆に、ハイになった。

「イヤだねェーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 何ィ!? 一体何なのよあんた!? 人間でしょ! 人間の分際
でホムンクルスさん喰っちまう訳!? え!! 何よナニナニおかしくねそれ!? 普通逆だよなあ逆!! 俺が! お前を!!
喰う!!! ホムンクルスさんがビビり倒す人間食べる!! それが摂理ってもんだろうが! 正しい流れってもんじゃねえか!!
なのに……オイ!! なんで俺がさっきから食べられちゃってる訳ェ!? おまっ、頭おかしくねーか!! なあ!! ……
ああ、ヤベえ。キタキタ鬱ってきた。せっかくよォ、惨めな人間の姿捨ててホムンクルスっつー化け物になって蹂躙する立場
手に入れたってのによオ〜〜〜〜喰われてるだァ!? クソ! 世界がまたてめェみたいなん差し向けて憂鬱にさせやがる! 
いつも、いwつwもwだw! こりゃあああもうううううアレだよなあああああ!! てめェ大好きっ子ちゃんになってよオオオオ!! 
うっとりと抱きしめて受け入れてやってからよおおおお!!! 世界!! てめェがいまさら何寄越そうと俺はもう揺らがね
えぞって強くなった寛容さの元に主張してやるべきだよなああ!! そして憂鬱を乗り越えてからてめェを殺すッッッ!!!
来な!! ゴーイングmy上へってな具合になぁ! 突き進むぜ俺はよォ!! 何があろうとよおおおおお!!!!」

 犬飼はため息をついた。
「狂っているね。どっちも」
「アジトに危機が来たとかで奴が撤退するまで戦いは続いた」


「それじゃバーイバーイバーイwwwwww それじゃバーイバーイバーイwwwwww」


「追おうとしたが相手は鳥型。あっという間に遠ざかり二度と見つけるコトはできなかった。あと4日もやり合えば喰えたのだ
が……惜しかった」
「負けなかっただけでも大したものよ」
 今更ながらに円山は実感した。火渡を除けば再殺部隊最強は戦部だろう。ホムンクルス撃破数の記録保持者だからと
いうのもあるが、そもそも戦闘に対する精神が根本から違いすぎる。”あの”坂口照星を誘拐した組織の幹部さえ、他より
わずかに面白くて喰いがいのある食料(エサ)ぐらいにしか見ていない。
「しかし、気になるな」
「何がよ?」
 十文字槍を持ちかえトンと肩に乗せると戦部はぎょろり目を剥き「いやな」と前置きした。
「確かあの後、奴や盟主を斃したという報告があった。だが奴らは現に生き延びている。腑に落ちんな」
「どうせクローンってオチじゃないの? ヴィクターの娘にソレ教えたのレティクルの盟主っていうし」
「例の音楽隊の金髪剣士も盟主のクローンだしね」
「いや、事後処理をした連中も最初その線を疑っていたが、調査の結果、間違いなく『本人たち』だと確認された」
「ワケわかんない」
「ただの手落ちかそれとも全く別の理由か……。ム? そう言えば『木星』の幹部だけは逃げおおせていたか? …………
いずれにせよディプレスに関してはしばしば生存説が出ていた」
「へぇ」
「鐶光。およそ1年前の話だが、音楽隊の副長はとある戦士と戦った。そのとき奴は、こう、だな」
 戦部の節くれだった掌が鼻のあたりから胸の半ばまでスッと下りた。
「ディプレス……ハシビロコウの嘴を作り、応戦した。関連性が疑われ、生存説が強まった」
「強まった? じゃあそれより前にも何かあったの?」
「7年前か8年前だ。殲滅任務に従事していた戦士が8名、惨殺されてな。死骸さえ残っていない者もいる。最後まで生き残っ
ていたらしい軍靴の戦士は戦団に連絡を入れ、こう言った。『敵は2人。うち1人は『火星』。ハシビロコウ。応答しろ。ディプ
レスは生きている』……と」
334 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:34:51.08 ID:lczKNppQ0
「だったらその時探せば良かったじゃない。まったくヴィクターのコトといい、戦団は詰めが甘いわね」
「探したさ。だが結局手がかり一つ得られず保留(テイクノート)扱いになった」
「やれやれ。その時ボクが戦士だったら今のように探し当てて見せたのに」
「ちなみに、だ」
 戦部はニヤリと笑った。
「その時人数分の核鉄が奪われたが、つい最近発見された」
「どこにあったの?」
「例の音楽隊から回収した26の核鉄の中にだ。どうやら奴らもまたディプレスと遭遇していたらしい」
「ん? 遭遇しただけじゃ核鉄取れないわよね? 戦ったの? でもまだ生きてるらしいわよねディプレス」
 不可解な話だ。音楽隊はディプレスと交戦し、彼を斃してはいないが所持品(核鉄)だけは8つも手に入れている。
「ところで献上されたのは20じゃなかったっけ?」
「それとは別に一時回収した音楽隊専用の核鉄が6つある。合わせて26。内1つは鳩尾無銘に返しているが」

 ディプレス=シンカヒア。

 かつて矛を交えた幹部はいまどこで何をしているのか。
 どうやら先ほど察知した気配の中にはいなかったらしく、戦部厳至はフウとため息をついた。
 むかし行ったうまい屋台がいまどこで営業しているか気にかけるような表情。犬飼と円山はそう思った。


 そして時系列はやや前後するが……。

 戦部が気にかける火星の幹部は。




 自販機でジュースを買っていた。

 銀成市の。

 人気のまったくない路地裏で。


「”これだ”って思えるものがあるならばー♪ 人の目ばっかり気にしちゃ損でしょーうー♪」


 金髪にピアスという”いかにも”ないでたちの青年はやや青い顔で歌を聴いていた。
 視線の先には全身フードがいて、自販機から戻ってくるところだった。

「しwwwwwかwwwwwwwwwしwwwwwww ツイてないよなあお前もwwwwwwww たて続けにマレフィックと会うなんざwwwww」
「え? ああ? う?」
 目を白黒しながら手を伸ばす。飛んできたのはジュースの缶だ。反射的にキャッチしながら愕然とする。
「それでもよォーwwww 病気のリヴォ野郎に業突張りのデッドwwwwww ワーカホリックなニートのウィルに破壊大好き盟主様
wwwwwwwwwそーいったのが銀成にいないだけマシだぜwwww アイツらにゃ理屈ってもんは通じねーwwww 話ができて加減も
できる分wwwwwグレイズィングとかマシな方だぜwwwww」
 どうやら奢ってくれるらしい。そもそもこんな路地裏に自販機があるのも妙な話だが膨れ上がる違和感に比べればまったく些
細な疑問だ。どうして奢ってくれるのだろうか。
                                                   マレフィック
「後よ後よwww お前が逢った奴らとかオイラの連れ以外にももう1人うろついてんだわ幹部wwww 木星、イソゴばーさんwww 
気をつけなwwww 見た目はチビっこい可愛らしい感じだしwwwww温和で穏健だからww暴力もエンコ詰めも拷問もしないけどwww」
 ガシリと肩を組みながら全身フードは低い声で耳打ちした。
「惚れられたが最後、喰われちまうぜ?」
 ぞっとするような声だった。純粋な殺意も確かに含まれてはいた。だがそれ以上に甘美な陶酔が大きく、男の自分でさえ
性的な何かをゾクリと蠢動させられる声だった。
「なーんつってwwwww なーんつってwwwwwwwww ビビった?wwww ねえビビった?wwww ンな顔すんなよwwwwww 
大丈夫だっつーのwwwww イソゴばーさんは自制できるお方だっぜwwwww 滅多なコトじゃ喰わないっぜwwwwwwwww」

 カラカラと笑いながら彼は肩を叩く。
335 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:40:20.71 ID:lczKNppQ0
「大体な!ww いまあのばーさん、お仕事の最中wwww 新しい仲間の候補探すのに忙しいwwwwwwwwwwwwwwwwwww
マレフィックアースつってなwwww オイラたちのしたいコトに必要な最後の幹部を探してんだよwwwwwwなのに人喰いとかやったら
戦士が騒いで台無しだろーがよwwww だからしねーよwwwwwイソゴばーさんはオイラたちん中で一番大人だからなwwwww
まーwwwww 体は子供丸出しなんだけどよオwwwwwwwwww あ、オイラロリコンじゃねーよwww おしとやかなよーwwwww
どっちかつーと巨乳なおねーさんのが好きだぜwwww」

「は、はぁ」と不明瞭な応答をしながら金髪ピアスは考える。

 この晩出逢った男女たち。カタチこそ違えど異常な破綻とおぞましさを抱えた彼らの仲間がまた一人、目の前にいる。理
由は分からないが気に入られたらしい、されたコトといえば他愛もない軽口だけで特に危害は加えてこない。
 だからといって飲む気になれぬがジュースである。掌をひんやりとさせ心地よく誘惑的だが口をつければどうなるか。幸い
プルタブの辺りは固く閉じられている。何かを混入された痕跡はない。悟られぬよう「くっ」と拳に力を込めアルミ製の筺体を
歪曲。液体の噴き出す気配はない。針のようなもので小さな穴を開けられてもいない。大丈夫そうだがさりげなく全身フード
と見比べながら逡巡する金髪ピアスくんである。
「wwwwwwww なんだよwww 毒なんて入ってねーよwwwww」
 ぎくりと身を強張らせる金髪ピアスだが相手が気を悪くした様子はない。
「まあ初対面だしwwwwあんな連中の仲間だからwwwww疑うのも無理はないよなwwwゴメンwwwゴwメwンwなwwww 心配
かけさせちゃってるよなあオイラwwwwwwwwwwwwああ憂鬱wwwww」
 笑っているがだからこそ恐ろしい。笑い声、笑み、笑顔。慈母のようににこやかな少女でさえ豹変し、恐るべき暴力──
当人にとっては『伝える』程度の軽い行為らしいが──をもたらしたのだ。安心などできよう筈がない。
「なんだったら俺が毒見すっけどwwwwwww あ! コップか何かに注いでなwwwww 口はつけねーよ口はwwww 男同士
でおまwww間接キスとかwwww照れるわwwww恥ずかしいwwwwwオイラがwwwwwwwww」
 身を固くする。心を読まれている。そういえばと汗を流す。先ほど彼はここに来た経緯をスパリと言い当てた。もし逃げよう
とすればたちどころに察するだろう。それがきっかけに爆発せぬとは限らない。
「ジュース飲む?wwww 飲んじゃう?wwwwwww」
 首をぶんぶんと左右に振りながら全身フードが迫ってくる。非常にうぜえと無意識に思いながら頷く。
「じゃあ開けるねwwwwwwww 開けちゃうwwwwwwwww」
 気障ったらしく指が弾かれた瞬間、それは起きた。プルタブ。それが魔法のように消失した。
「え?」
 何が何やらという顔で缶を傾ける。最初ただ開いただけかと思っていたがすぐさま違うと理解した。いくら角度を変えても
飲み口付近にタブは見えない。普通開ければ見える筈なのに……。良く見ると起こしたり戻したりする方のタブ──漢字の
『日』の下半分を丸くしたような──も消えている。
「さぁwwwwお近づきの印にwwwwwww一献wwwwwwwww一献wwwwwwwww」
 あっと目を剥くころにはもう遅い。素早い手つきで缶が奪われ口の上で傾いていた。強い力でこじ開けられた下顎めがけ
橙色の清涼飲料水がドボドボドボドボ降り注ぐ。吐きたいが吐けば何をされるか分からない。
「さぁ!! 吸い込んでくれーい! 僕の寂しさ、孤独を全部君がー♪」」
 恐怖。それは言い訳のように先ほどの女医を思い出させる。大丈夫。仮に毒が入っていてもきっと運んでもらえる。助け
てもらえる。命までは取られない。そうだったじゃないか。今まで遭った連中は……。
 妥協と甘えに満ちた生ぬるい考えのもとコクコクと喉を動かし飲んでいく。ただのジュースがおぞましい液体に思えた。し
かし品質自体はごくごく普通の物で、味に異常もなく異物混入も認められない。やがて缶が空になったころ気付く。消失し
たかに見えたプルタブ。口に残っていないし食道を通り抜けた形跡もない。缶にも残っていない。
 では、どこへ? どこへ消えたのか?
「さぁ? wwww気にするなwwwwww 本当にただ消えただけwww 原子レベルにwww分解されただけwwwww」
 そういって全身フードは肩を揺すって笑って見せた。その手に黒い靄のような物が漂っているのに気づき金髪ピアスは目
を擦った。もう一度見える。何もない。確かに何か黒いボールペンのようなものが飛んでいたのだが……。
336 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:43:33.71 ID:lczKNppQ0
 とにかく今までの人物とは違って比較的無害そうだ(ジュースを無理やり飲まされたが)。安心した金髪ピアスだがふと彼に
同行者がいたのを思い出す。いた、どころか先ほど突き飛ばしてしまっているではないか。今宵さまざまな刺激ですっかり
ベトベトになった背中を新たな汗が流れる。
 ゴミ捨て場の方から音がした。先ほど、同行者を体当たりで追いやったゴミ捨て場から。
 恐る恐るそちらを見る。

 黒い影が今まさに自分めがけ殺到しているところだった。
 同行者。それは女性のようなシルエットを持っていたがそれも分析するヒマあらばこそ。
 胸に何か強い衝撃が走った。上体がどうと揺れ思考が一瞬完全停止した。

 やがて巨大な泣き声が夜空に響き………………………………………………………………静かになった。


 翌日の昼。銀成学園地下。

 ヴィクトリアはまひろを前に眉を顰めていた。
337 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:46:37.01 ID:lczKNppQ0
今日は1週間に1度のお休みなのです。少ないのです。くすん。

ディプレスののーないキャストは藤原啓治さん。あのお声を想像しながら描くとテンション上がらないかい? 僕はそうさ。

くーねーくねーくねくねー! ぬーるーぬるーぬるぬるー!

田端「加頭ーーーー! おまえがーーーーー!! 松岡充に逢ってなければーーーー!! おれはーーーー!!」
松岡充「ボクと契約してゾンビ兵士に、なってよ!(満面の笑みで)」

塚田プロデューサーも大好き田端が登場するVシネマ・仮面ライダーエターナル、7/21発売! 買いたまえ。そして食べたまえ。はっはっは。

キュゥべえといえば仕事中やつがドドリアにレイプされるSS描いてたら上司に怒られた。
普通そのポジションはほむほむだろう! と。
えー。暁美サンがQBをレイプ? ふたなりはちょっと……。

そう呟いたところで僕は長い眠りから解き放たれた。来たか真夏の夜の淫夢! 松岡充も少し出ますよ仮面ライダーエターナル。

>ふら〜りさん(QBとはこんなヤツです。つ http://www.youtube.com/watch?v=LgM9cadDUTs
いやー本当常にそうですが、勝てない!! 前作のMSもぶっ飛んでましたが今度はメタ系……確かにそうでもせねば刃牙
世界の連中とは均衡が取れぬのですが、

──間合いに入って発動したら、互いの位置関係がどうあれ投げグラに入るのは当たり前でしょ。

「当たり前じゃねーよ!!」と思わず全力で突っ込んでしまったメタ系の特質、「いつの間にか自分に都合よく世界改竄してる」
の厄介さが同時に弱点を生み攻略の糸口になってる辺りこれはもう一種の能力バトル、プレーンすぎる能力を戦いの年季
で補う3部ジョセフが如きですよ刃牙は。でもココはユーコンが小説版にシフトしSNKの恩恵にあやかって横からの攻撃
(=ライン攻撃)にも対応する姿も見たかったり。漫画版はカプコン、小説版はSNKでしたっけ。技とかのモチーフ。個人的
にはふら〜りさんverの花山さんや渋川先生も見てみたいですね。ヤング渋川先生。10代でー美形補正ありーののー。


>サマサさん(完結おめでとうございます)
のっけからさやモンキー路線一直線の暗雲立ち込めまくりで中盤も絶望色ドス黒でしたがハッピーエンドで一安心です。
いいですね青春。コネクトが欲しくなりました。メモリーメモリを引きずり出し「スパイダー!」「スパイダー!」「スパイダー!」と
鳴らしまくりたくなるほど爽やかな終わり方、この読後感! コネクトが欲しいですね。うん。今は幸せそうで良かった。”今は”。
キュゥべえは心から純粋に愛していますので、セリフの1つ1つが脳内再生できてほっこりしました。もし自分が願いをかなえ
て貰えるなら、メモリーメモリが仕様上なぜかいわない「メモリー!」が鳴るように……この願いはエントロピーを凌駕します
よね。え。しませんかそうですか。
とにかく一番頑張ったのは杏子ですよ。原作では悲しい末路を迎えた彼女がここではちゃんと生き残って称えられるヒーロ
ーしている! そうですよ。口は悪いですけどいい子なんですよ彼女は。報われるべきなんですよ。挫折から立ち直った後
の爆発力! これがまた鮮明に浮かんでありがとうですよ。浮かぶといえば魔女のビジュアルもですね例のBGMが自動的
に脳内再生されるぐらい良かったです。
338 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:54:11.76 ID:lczKNppQ0
建てました。

【2次】漫画SS総合スレへようこそpart71【創作】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1310539725/
339作者の都合により名無しです
お疲れ様です!
あげますね。