【2次】漫画SS総合スレへようこそpart70【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の作品は>>2以降テンプレで。

前スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1289186120/
まとめサイト(バレ氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ(ゴート氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss
2作者の都合により名無しです:2011/04/01(金) 08:53:45.60 ID:D9dV7tAc0
永遠の扉 (スターダスト氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm(前サイト保管分)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/552.html

上・ロンギヌスの槍 中・チルノのパーフェクトさいきょー教室
下・〈Lost chronicle〉未来のイヴの消失 (ハシ氏)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/561.html
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1020.html
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1057.html

天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 〜惑いて来たれ、遊情の宴〜 (サマサ氏)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1110.html

上・ダイの大冒険AFTER 中・Hell's angel 下・邪神に魅入られて (ガモン氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/902.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1008.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1065.html

カイカイ (名無し氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1071.html 

AnotherAttraction BC (NB氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/104.html (現サイト連載中分)
3作者の都合により名無しです:2011/04/01(金) 18:30:20.49 ID:I3B6FNrp0
1さん乙です。
サマサさんスターダストさんだけでなく
また誰か活躍して欲しいなあ。
4作者の都合により名無しです:2011/04/01(金) 22:01:35.58 ID:Vs0fCgOQ0
1乙です
テンプレに載ってる人たちも、ほとんど見なくなっちゃったなあ…orz
5作者の都合により名無しです:2011/04/02(土) 00:47:50.95 ID:b/A7+9hG0
また誰か帰ってきてくれるといいねえ・・
1さん乙。
6作者の都合により名無しです:2011/04/03(日) 12:51:03.42 ID:lof1KOnA0
昔は新スレが立つと我先にと投稿があったんだがなあ…
7作者の都合により名無しです:2011/04/03(日) 16:03:45.14 ID:6pUkQLr70
書き貯めてから投稿するから待ってて
8作者の都合により名無しです:2011/04/05(火) 09:00:29.90 ID:OuPE48010
〜祝勝会(後篇)・困った時の八雲紫〜

―――前回のおさらい―――

幽々子がケーキを一人で食べた!
全く!
この亡霊は全く!


「…………」
しぃぃぃぃん…。
静寂が、空間を支配していた。
―――楽しく騒がしいはずの、レッドさんの祝勝会。
本来ならば、ちゃぶ台の上に並ぶヴァンプ様の手料理に舌鼓を打ちつつ、会話も弾んでいたはずだ。
何故だ。
何故、こんな事になってしまったのか。
ちゃぶ台を囲む皆の表情は一様に暗い。
残機ゼロ・ボム無しで難易度ルナティックの6面ボスに挑むプレイヤーの如く深刻な面持ちだ。
誰もが黙々と箸を動かし、機械的に料理を口に運ぶ。
ケーキがない。
食後のお楽しみ、ケーキがない。
その事実を知った時、コタロウは号泣した。
レッドさんとジローさんはケーキにさほど執着があったわけではないが、幽々子の非常識極まる行動に対し、流石に
難色を示した。
ジローにとってコタロウは最愛の弟であり、レッドさんも彼の事をウザがりつつ、何だかんだで兄貴分として世話を
焼いている身である。そのコタロウをこれだけ悲しませたのは、業腹であった。
妖夢については、前回ラストで幽々子をボコボコにしてなお、怒りと悲しみは収まっていない。
単純にケーキがないという以上に、尊敬し、敬愛する主人がそんな恥知らずな行動を取ったという事実そのものが、
根は実直かつ真面目な従者である彼女にとっては許し難い事であった。
かくして、この夕餉(ゆうげ)は、さながら家庭崩壊寸前の一家の気まずい食事風景と化していた。
「あ…相変わらず、お…美味しいわねえ、ヴァンプさんのお料理!オホホ…」
「い、いやあ、恐縮です。頑張った甲斐がありました、はは…」
その空気を打破すべく、対話を試みた幽々子とヴァンプ様。
立派だった。大人の対応だった。
元はと言えば幽々子がケーキを食ったのが原因であるが、だからこそ場を和ませようと努力している姿勢については
評価されるべきである。ヴァンプ様もそんな彼女の心情を慮り、笑顔を見せているのだ。
ヴァンプ様とて、彼女のつまみ食いの範疇を遙かに超えた蛮行に思う所はある。
されど、罪を憎んで人を憎まず。それがヴァンプ様である。
しかし。
それで済むようなら、世の中はもっと潤滑に回っている。

ギロッ!

一斉に睨まれ、二人はさっと目を逸らした。
彼らの瞳には、どう好意的に見ても<怒>以外の文字は刻まれていない。
再び、沈黙が訪れた。
基本が騒々しい世界である幻想郷において、ここまで静かな空間が形成された事は歴史上稀に見る珍事であろう。
それもこれも、幽々子がケーキを食べたからである。
「…もう、いいよ」
コタロウが、泣き腫らして真っ赤になった目で呟く。
「確かに、ケーキを食べちゃったゆゆちゃんは酷いけど…ぶっちゃけありえないけど…こんなの絶対おかしいけど…
でも、いつまでも根に持ってたって仕方ないじゃん」
「コタロウ…」
まるで聖人の如きコタロウの言葉に、誰もが聞き入った。
「さ、もう怒るのはやめようよ!レッドさんの祝勝会なんだから、パーっと明るくいこう!ねっ!」
楽しみにしていたケーキがなくなった。
それでも誰も憾(うら)まず、運命を受け入れ、懸命に笑おうとしている彼の姿は、まさに天使だった。
「コ、コ、コタロウー!あなたとヴァンプさんだけよ、私の味方は!」
感動の余り、幽々子はコタロウを抱き締める。
大きな胸に挟まれたおかげで非常に息苦しかった。
「全く…いつまでも、我儘な子供と思っていたのに…」
ジローは弟の見せた慈悲と博愛に対し、そっと目尻を拭った。
「ま、いつまでもグチグチ言ってんのも大人げねーしな…」
レッドさんも頑なな態度を解いて、歩み寄る姿勢を見せる。
「そうですとも。気を取り直して、パーッといきましょう、パーッと!」
ヴァンプ様も、流石の器の大きさである(悪の将軍としては相変わらず間違っていたが)。
一人の吸血鬼少年が示した、平和への道。
全ては上手くいくように思えた。
「それでも」
その時、妖夢が、地を這うような声で呟く。
「それでも、幽々子様がケーキを食ったという事実は消えない…!」
「…………」
どうやら、この一件について最も根に持っているのは、彼女のようであった。
妖夢だって、ケーキが食べたかったのだ。甘い物は大好きなのだ。
だって女の子だもん。
かくして空気は再び、お通夜に逆戻りした。
「…………」
それに耐え切れなかったのか、幽々子はそっと襖を開けて出ていった。
彼女を引き止める者は、誰もいなかった―――


月光に照らされた中庭で。
幽々子は悔恨に塗れて、ただ号泣した。
こんな事になるならば、ケーキを食べるんじゃなかった…。
今更ながらの懺悔を受け止めてくれる者など、誰もいない。

―――否。

「あらあら。どうしたのかしら、幽々子。ガキ大将にでもいじめられたのかしら?」

空中に生じた<スキマ>から、ひょっこりと顔を出したのは。

―――或る者は彼女を<神隠しの主犯>と呼んだ。
―――或る者は彼女を<幻想の境界>と呼んだ。
―――或る者は彼女を<境目に潜む妖怪>と呼んだ。
―――また或る者は彼女を<割と困ったちゃん>と呼んだ。

妖怪の賢者―――八雲紫。
彼女は幽々子に向けて、薄く笑う。
慈悲深いとも胡散臭いとも単に面白がっているだけとも取れる、曖昧な笑顔だ。
もしかしたら、そのどれでもないのかもしれない。
彼女は基本的に、いつでも掴み所なく、笑っているだけなのだから。
それはともかく、幽々子は紫に盛大に泣きついた。
「うわあああああん、ゆかりいいいいい!」
「ふむふむ…ケーキを勝手に食べちゃって」
「うえええええん!」
「妖夢がとうとうブチキレた」
「わあああああああん!」
「皆の間に流れる、この上なく気まずい空気」
「ぶええええええん!」
「無敵の<境界を操る程度の能力>で何とかしてくださいよォーーーッ」
「よく分かるわね」
「長い付き合いだからね」
紫はやれやれだぜ、と言わんばかりの顔で。
「ま、いいでしょ。貴女に恩を売っておくのも、悪くない」
そのしなやかな手を、幽々子に向けて翳した。
其れは現実を捻じ曲げ、幻想を具現化し、世界すら歪ませる、神にも比肩しうる八雲紫の異能。

「―――<境界を操る程度の能力>―――」


―――さて。
ちゃぶ台を囲む面々は、未だに口数も少なく、ただ目の前の料理をもそもそと咀嚼している。
事ここに至っては、妖夢とて後悔していた。
さっき全てを許しておけば、多少のわだかまりは残しつつも、また皆で笑い合えたのではないか。
だが、覆水盆に返らず。
全ては、もう遅かった。何もかも、壊れてしまったモノは、もう元には戻せない。

―――だが、妖夢は。いや、この場の誰もが失念していた。
この幻想郷には零れた水を何事もなかったかのように元通り盃に戻してしまうようなイカサマを、鼻歌混じりで成し
遂げてしまうような反則技(チート)の持ち主がいるという事を。

「おやまあ、ケーキを食べられただけに、景気の悪い顔が揃っている事」
スキマ妖怪・八雲紫。
自分でも面白いとも思っていないだろう冗談を口にしながら、彼女は悠然と部屋に入ってきた。
風呂敷包みを、その手にぶら下げて。
「何だよ、スキマ若作り。嫌味を言いにきたのかよ?」
「御挨拶ねえ。こちとら、きっちりお土産も持ってきたというのに」
「土産?」
「ほら。これよ」
風呂敷を開く。中には、四角形の白い箱。
ほのかに漂う、甘い香り。
「あ、ああ!まさか…」
「これは…!」
箱を開けると、そこにあったのは。
雪のように白いクリーム。恋する乙女の頬のように赤い苺。
ふわふわのスポンジに、色とりどりのローソク。
―――ケーキ!
失われたはずのその輝きに、誰もが魅了された。
「と、いうわけでもないけれど…幽々子の事、そろそろ許してあげたら?」
紫が指差す方向には、襖の間からバツが悪そうに顔を覗かせる幽々子の姿があった。
何とも憎めないその様子には、妖夢も苦笑するしかない。
「…ま、紫様に免じて、ここはさっぱり水に流すとしましょうか」
「ったく、一番ネチネチしてたテメーが言うなっての。ほれ、大食い亡霊。もういいからこっち来いよ」
「ええ。気を取り直して、皆で祝いましょう」
「そうそう。ほら、ローソクに火を点けて!さ、コタロウくん。元気よく吹き消してね!」
「よーし!コタロウ、いきまーす!」


―――さてさて、色々あったけど、無事にレッドさんの準々決勝進出を祝う事が出来そうです。
紫は果たして、ケーキを何処から持ってきたものやら。
パンパンだったはずのゆゆ様のお腹が、ちょっとスリムになっていたのは何故なのか。
ほんのちょっぴり気になるけれども、それはまあ、そっちに置いといて。
レッドさん、本当におめでとう!
13サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/04/05(火) 09:34:37.55 ID:OuPE48010
投下完了。前回は前スレ362より。
>>1さん、乙です。
マサルさんネタを使いすぎました。今は反省している。

前スレ364 このメンツで、まともなパーティーになるはずがありません。

>>ふら〜りさん(ゴーダンナー知ってるとは、正直思っとりませんでした)
ヴァンプ様、原作では一応「レッドさんは私達の手で倒したいんです!」と熱く語ったり
してるんですが…正直、諦めてるフシも所々に感じますw

前スレ366 <いつもの><相変わらずの>そんな誰かがいるスレっていいね…。

前スレ368 いや、あれを作る技術は僕にはないwぶっちゃけ、楽しくなかったらSSなんていう
        言ったら悪いけど何の得にもならないモンを書いとりません。

>>7 誰かは分かりませんが、待っとります。
14作者の都合により名無しです:2011/04/06(水) 02:09:15.94 ID:hLVEW7mI0
サマサさんお疲れ様です。

ヴァンプ様は優しいねえ。
レッドさんがチンピラな分バランス取れてて。
レッドさん祝勝会は優勝まで次はお預けかな?
15作者の都合により名無しです:2011/04/06(水) 10:17:08.18 ID:DAoBwdru0
マサルさんってジャガーの人のやつだっけ?
何はともあれ1番乗り乙ですサマサさん。
まだまだ優勝まで先は長いし敵も強敵ぞろいですが
幕間でこういうほのぼのしたのは良いですな。
16作者の都合により名無しです:2011/04/06(水) 17:43:12.77 ID:uHvl0ig70
なんか現スレはサマサさんしか来ないような気もする
スターダストさんもご無沙汰だし・・

サマサさん負担大きいけど頑張ってね
まあ、ご自分が楽しんで書いてくれるのが一番良いけど
17作者の都合により名無しです:2011/04/06(水) 21:32:19.68 ID:WCI7ML2c0
スターダストさんは多分だけど、区切りのいいとこまで書き溜めてから一気に鬼投稿するって
感じだから、またやってきてくれるだろう。
ご無沙汰の人たちも、戻ってきてくれればいいんだが。
18作者の都合により名無しです:2011/04/08(金) 22:49:03.84 ID:X/M+ISvt0
一応ほしゅage
全盛期が懐かしいぜ…
19作者の都合により名無しです:2011/04/11(月) 23:42:05.03 ID:aIuBoBSD0
一人じゃちょっときついな
やっぱ2〜3人いてほすい…
20作者の都合により名無しです:2011/04/13(水) 20:46:52.17 ID:hGciqiqr0
〜夜の邂逅〜

一時はどうなる事かと危ぶまれたレッドさんの祝勝会も、八雲紫の機転によって無事に仕切り直された。
ヴァンプ様の手料理をお腹一杯に食べ、ケーキにかぶりつき、お酒も入った。
(ヴァンプ様が真っ先に潰れた)
どんちゃん騒ぎの宴会は、夜遅くまで続き。
そして、いい具合に酔っ払った所で―――


―――月明かりに照らされた草原を、レッドは見下ろしていた。
風景はどこか歪んで、ぼんやりしているのに、意識ははっきりしている。
(あー。夢だな、こりゃ)
いわゆる、明晰夢というヤツだろう。
高い場所から地上を俯瞰している己を、夢の中の存在だと自覚している。
眼下に広がる草原では、二人の女性が向かい合っていた。
一人は、レッドも見知った顔。
(ありゃ、八雲のババアか…もう一人は…?)
もう一人の、彼女。その姿に覚えはない。なのにレッドは。
(なんか…知ってるぞ、俺。あいつの事)
―――ふわふわと緩くウェーブのかかった、金色に輝く長い髪。
―――どこまでも広がる海を宿したような、蒼い瞳。
飾り気のない、着古した旅装束に身を包んではいるが、その美しさに翳る所はない。
(どっかで…つーか、最近は毎日見てるよーな気も…)
誰かに似ている気がするが、判然としない。
「ふふ…貴女の事は知っていましたけれど、実際に顔を合わせるとは思いませんでしたわ」
紫は、妖艶な仕草で両手を広げ、唇を歪める。
「その血の命ずるが侭(まま)に、幾千年もの時をかけて世界を流離う伝説の吸血鬼―――<賢者イヴ>。
アリス・イヴ。とはいえまさか、この幻想郷を訪れる日が来ようとは」
(…賢者イヴ)
最近になって、よく耳にする名だった。
望月ジローを吸血鬼へと転化させた<闇の母(ナイト・マム)>。
望月コタロウの真の姿であり、最も古き<始祖(ソース・ブラッド)>が一人。
(あいつが…そうなのか…)
「此処は、幻想郷っていうんだね」
賢者イヴは、紫に向けて口を開いた。
鋭い牙が覗く、その口を。
「きみが創ったのかい、この世界は」
「…私一人の力ではないけれど、幻想郷の創造に、この八雲紫以上に貢献した者はいないと自負しておりますわ」
「そっか。紫ちゃんは、すごいね」
彼女は、月のように静謐な微笑を浮かべる。
21作者の都合により名無しです:2011/04/13(水) 20:47:50.97 ID:hGciqiqr0
「この世界は…幻想郷は<想い>に満ちている。ありとあらゆる存在の<想い>が。誰であろうと、何者であろうと
全てを受け入れる―――そんな優しさで、一杯だ」
「あら…<賢者>と呼ばれているのだから、どれだけ頭がいいのかと思えば、まるで白痴ね。この世界を、優しいだ
なんて…的外れもいいとこだわ」
対して紫は、先程までの丁寧さが嘘のように、忌々しげに答える。
「貴女の言う通り、幻想郷は全てを受け入れる。私もそんな幻想郷を心より愛している。けどそれは素晴らしくなど
ないわ。それはそれは―――とても残酷な話ですわ。どんな者も分け隔てなく受け入れるなんて」
そんなの、現実にはありえなくて…ただ、気持ち悪いだけじゃないの。
「そんな頓珍漢な褒め言葉なんて…罵詈雑言より、腹立たしい」
「そんな事はないよ」
だって、と。賢者は言い返した。
「何もかも受け入れるっていうのは誰とでも、何とでも、仲良くできるって事だもの。ぼくはね、紫ちゃん」
「…………」
「こんな素敵な場所を創ったきみの事を…とても、尊敬しているよ」
その言葉を聞いた紫の反応は、傍から見ているレッドにとっても予想外のものだった。
いつものように曖昧で胡散臭い笑顔を浮かべるでもなく。
先のように忌々しげに口を尖らせるでもなく。
虚を突かれたかのように、毒気を抜かれたかのように、素の少女の顔になっていた。
自分や幻想郷について、こんな感想を持たれるとは、まるで考えていなかった―――
そんな驚きと。
多分だが、少なからぬ喜びの色があった。
(はー…あのババアにあんな顔させるとは、やるじゃねーか)
レッドは<賢者イヴ>に対し、素直に感心した。
あの、常に<自分だけは全てを分かっている>かのような顔をしている八雲紫を驚かせたというだけで、文句なしに
すげー女だ。
そう思う。
(いや、俺が勝手に見てる夢なんだけどな…つーか、何でこんな夢見てんだ、俺)
と。
賢者イヴは、頭上を見上げて。
にこやかに。軽やかに。
誰もが見惚れずにはいられない笑顔で、彼女はレッドに向けて手を振った。
「やあっ、レッドさん!」
「え…」
「え、じゃないよ。きみは、レッドさんだよね?」
「…………お前」
22作者の都合により名無しです:2011/04/13(水) 20:49:38.95 ID:hGciqiqr0
その笑顔。屈託のない口調。
そうだ。
こいつは―――<賢者イヴ>とは―――年齢も性別も違うが―――
<あいつ>そのものじゃないか。
「いつも、ぼくたちと仲良くしてくれて、ありがとうね!」
「お前…まさか、コタロ―――」


―――目を覚ましたレッドが最初に見たのは、白玉楼の天井であった。
身を起こし、きょろきょろと辺りを見回す。
宴の跡。料理は大量に用意されていたのだが、綺麗さっぱりなくなっている。
そして、そこかしこに転がる空になった酒瓶。
皆、いい食べっぷり呑みっぷりであった事が見て取れる。
その参加者はといえば、ヴァンプ様はぐーぐーと気持ちよさそうな寝息を立てている。
妖夢は「もー食べられませーん…」というテンプレ寝言つきで横になっている。
紫は壁にもたれかかって目を閉じている。本当に眠っているのかどうかは、定かでない。
ジローと幽々子の姿はない。外に出ているのだろうか?
そして、コタロウは。
「むにゃむにゃ…」
天使のような寝顔で。
「むぐぐ…このお肉、かみ切れない…」
レッドさんの足に、齧り付いていた。夢の中で、マンガ肉でも食べているのか。
「…………」
地味に痛い。何かムカつく。さっきのおかしな夢も、多分コイツのせいだ。
レッドさんはそう結論した。
「…フッ」
ニヒルに笑い、懐から自らの相棒―――サンシュートを取り出す。
出力は最小限に抑えつつ、コタロウの顔面に狙いを定めた。
駆け巡る、コタロウとの思い出。
初めて出会ったあの夏の公園から、今に至るまでが、走馬灯のように浮かび上がる。
何だかんだで、自分達はいいコンビだったと。今になってそう思う。
「コタロウ…まさか、お前を撃つ羽目になるとは、思わなかったぜ…」
過酷な運命に翻弄され、己を慕ってくれる純粋無垢な少年を自らの手にかけねばならぬヒーローの哀愁を漂わせつつ。
そして、引き金に指をかけた。


―――白玉楼・庭園にて。
酔い覚ましに夜気にあたっていたジローと幽々子は、ふと顔を上げた。
「あら。今、妙な音がしなかった?具体的には爆発音と、なんとも哀れな悲鳴が」
「大方、コタロウがバカをやってレッドに吹っ飛ばされたんでしょう」
「軽く言うわねえ。弟が今まさにチンピラに虐待されてるというのに」
「何、レッドはあれでも面倒見のいい男です。ちゃんと手加減はしていますよ」
「ならいいでしょう。コタロウも、彼には随分懐いてるみたいだし」
23作者の都合により名無しです:2011/04/13(水) 20:50:18.48 ID:hGciqiqr0
ふっと、幽々子は幽(かす)かに微笑む。
「コタロウは、レッドやヴァンプさんと上手くやれてるみたいね」
「おかげさまで。あまり清廉潔白とも言えない二人ですが」
何せチンピラヒーローと悪の将軍である。
子供の教育にはよろしくないコンビだ。特にレッドさん。
「こっちでも、魔理沙達と仲良くしてたみたいじゃない」
「ええ…友人が増えるのは、あやつにとっても、この兄にとっても喜ばしい事です」
「そう。それはいずれ」
いずれ、あなたがいなくなっても、寂しくないように。
「そういう事かしら?」
「…西行寺殿。貴女や、八雲殿は…我々の血統の秘密を、どこまで?」
「全部を全部知ってるわけじゃないわよ。アリス・イヴだって、何もかも包み隠さず話してくれたわけじゃない」
それでもね、と幽々子は嘯く。
「長く生きてれば―――まあ、私は死んでるんだけど―――どうしたって色んな噂が耳に入ってくる。絶対にバレや
しない秘密なんて、この世にないわよ」
「…どういう噂かは知りませんが、酷い流言飛語もあったものです。この私が」
どこか皮肉っぽく、ジローは言う。
「この弟思いの兄が、コタロウを放っておいて、何処かへ消えてしまうなど…あるわけないでしょう」
「他ならぬあなたが言うなら、そうなんでしょうね」
そういう事に、しときましょう。
その言葉を最後に黙り込んだ二人の間を、風が吹き抜ける。
夏の暑さを残しつつも、涼しさが混じり始めた初秋の風だ。

「―――あら、羨ましいわ。夜空の下でデートなんて」

その時。
紅い霧を引き連れて。

「そんな亡霊なんかより、この私をエスコートしてくれないかしら?」

眩くも、虚ろな月を背に。

「ねえ、ジロー?夜を棲家とする者同士、仲良くしましょうよ」

幼く、可憐で、それでいて何者よりもおぞましき悪魔が。

「このレミリア・スカーレットと、アバンチュールを愉しみましょう」

真紅の吸血姫が。
レミリア・スカーレットが、宵闇よりも更に黒き翼を広げ、其処にいた。
24サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/04/13(水) 20:56:41.39 ID:hGciqiqr0
投下完了。
今回、タイトルを入れ忘れましたが、天体戦士サンレッド外伝です。
何だか日本全体が暗い雰囲気の中(仕方のない事ですが)どうにかこうにかSS書いとります。
今回は社会問題となっている児童虐待をテーマに書きました(嘘)
次回、ゆゆ様VSレミリアお嬢。

>>14 レッドさん優勝の際には<ケンカが終わればみんな友達>なノリでいきたいですね。
>>15 ほのぼのシーンもバトルシーンも、上手く書ければいいんですが(汗)
>>16 いや…誰かが来てくれるはず。サマサ単独スレなんて誰得ですし…。
25作者の都合により名無しです:2011/04/14(木) 10:55:37.71 ID:qxmcq6iO0
東方はあまり知らないんですが、やはりキャラのバックステージが多彩なんですねえ。
世界の創造主みたいなのまでいるのか。確かに周りは怪物や神様みたいのばっかりだし。
その中でチンピラ超人のレッドさんが渡り合っているのは凄いですね。


いずれ誰か着てくれますよ。きっと。
2ちゃんどころでない作者さんもいるかもしれないけど・・
26作者の都合により名無しです:2011/04/14(木) 19:16:33.93 ID:MKI5CRVZ0
あげとこ。サマサさんお疲れ様です!

スカーレット様と一夜のデートとはうらやましいな。
精も根も抜かれそうだがwある意味理想の最後かw
27作者の都合により名無しです:2011/04/14(木) 22:00:24.98 ID:izM0qvPk0
ジローさんは原作からして色んな女性から好意を寄せられるポジションだからね
…性格的にまともな女が全くいないけどw
28作者の都合により名無しです:2011/04/15(金) 23:19:49.71 ID:KmQ75hoG0
トーナメントだからバトルばかりと思っていたら
結構書き込みますな。流石です。
29永遠の扉:2011/04/17(日) 00:32:05.69 ID:LUqnU/cc0
第095話 「演劇をしよう!! (前編)」

 栴檀貴信(ばいせんきしん)。肉体年齢は17歳である。
 遡るコト7〜8年前、ホムンクルスと化した「やかましい」青年であるところの彼は。
 裂けたレモンのような巨大な双眸に芥子粒のような四白眼を泳がせている彼は……困っていた。

「ああもうヒマじゃん! ヒマ!」
「静かにしろ」
「ヘーイ! 転入生のカノジョー!! ヒマなら俺とお話しないー!」

 原因は”前”である。
(余談だが栴檀は本来「せんだん」と読む。「ばいせん」とは無論誤用だが、響きがいいので使っているらしい)

 ホムンクルスの製造には「幼体」が用いられる。動植物、または人間の細胞を基盤(ベース)にしたそれらを投与された
場合、大抵の者は精神を”基盤”のそれに蝕まれ、体を乗っ取られてしまう。
 だが貴信は『ある事情』によってそれを免れた。投与された「幼体」の基盤は……当時彼が飼っていたノルウェージャン
フォレストキャットの変異種。後に栴檀香美と呼ばれるようになる、子猫だった。


「あのヘンな髪のやつなにさ? なんか好かん」
「あのエロスは無視しろ! どうせ大したコトはいっていない!!」
「あそ。じゃあさじゃあさ、おっかないの! サンマ食べるサンマ! サンマの切れっぱあげるじゃん」
「不必要だ!!」

 ホムンクルスになって以来、彼らは体を共有している。
 多くの場合、貴信は、体の主導権を香美に預けている。大きな意味はない。強いていえば”恥ずかしい”からであり、”香
美の方が見栄えがいいから”である。
 人間だった頃の貴信はそのクセのある容貌(わし鼻+四白眼。ロシアの殺人鬼のような!)や男らしくはあるがどこか冴え
ない性格のせいで、学園生活にまったく溶け込むコトができなかった。
 毎年4月ともなれば年度初頭の気楽さにふわふわしているクラスメイトたちが寄り合いコンパ親睦会のお誘いをしてきたが
しかし「自分のような人間が行っていいのか? うまく会話できなかったら? 打ち溶けられないまま散会し、後で”なんでアイツ
来ていたんだ”的陰口を叩かれたら……」と怯えに怯え、結局一度たりと誘いに乗れなかった。人外たるホムンクルスになって
からもそれは同じで、町一つ歩くにしても相方に体を預け顔を後ろ髪に隠している。
 その点香美という快活極まりないシャギー少女は大したもので、まったく何も考えず周囲へ絡む。あまり何も考えていないよう
だが子猫の頃からボス猫として周囲から信頼を集めていた彼女はなかなか気風がよく、何だかんだで人々から慕われる。
 何より、彼女の見目は貴信と違い麗しい。猫時代は捨てられていたのが不思議なほど愛らしい姿だったし、今でも貴信と同じ
DNAを使っているのが不思議なほど整った顔立ちである。(総角の見立てでは「貴信の母親似」という。貴信のDNAに含まれる
母親の遺伝子がこれでもかとばかり香美を盛りたてている……出会ったころ、彼はそういった。事実貴信の母親は、美人だった)

 とはいえなかなかクセのある少女でもある。絡む相手によってはひと悶着起こすコトもある。
 そして先ほどから彼女は、好きなように喋っている。
 貴信にとってそれはとてもマズかった。
 彼らのいる場所は、私語を慎むべき場所だった。
 約1名それを無視して振り返り、香美めがけて猛烈なラブコールを送るリーゼント(岡倉)も見えたが……
 基本的に、静粛であるべく場所だった。

「というか斗貴子さん、そのカワイコちゃんとお知り合いー? 良かったら紹介して……なーんて」
「黙れエロス!! いい加減自重しろ!!」
「垂れ目遊ぼうじゃん垂れ目! あんた銀紙丸めるじゃん! あたしそれ追っかけるじゃん。だから投げる! 早く!」
「ああもうだから静かにしろって!!」

 机を叩く音がした。語気に怒気が籠っているのも分かった。香美と話している相手がかなり苛立っているのが分かる。

(マズいッ! なんとかしなくてはッ!!!)

 普段ならこういう時、貴信は大声で香美を叱って黙らせるのだが、いまは「それができない」場所にいる。

 厳密にいえば決して不可能ではないが、大声を出せば香美を取り巻く状況が一段と悪くなる。
30永遠の扉:2011/04/17(日) 00:33:07.64 ID:LUqnU/cc0
 ……そんな場所に、彼らはいた。

「いい加減にしろ!!!」

 津村斗貴子が立ち上がる音がした。
 そして彼女はこれまでで最強最大の大声で、香美を叱り飛ばした。

「ここは教室で今は授業中だ! 静かにしろ!!!」

 隣で中村剛太がうんうんと頷いた。

 他の生徒たちの視線が嫌というほど刺さるのが分かったので、貴信は内心斗貴子に謝りまくりながら、涙を流した。






『何と!! 僕たちが銀成学園に転入!!?』



 発端は昨日である。

 津村斗貴子たち錬金の戦士と、貴信属するザ・ブレーメンタウンミュージシャンズの共闘姿勢についてある程度話がまと
まった所で、その提案が飛び出した。

 監視の都合上、貴信達が学園にいる方がいいらしい……とは防人の弁だが、貴信的には疑念もある。

『で!! でもいいのかなあ! 僕たちはホムンクルス!! 筋からいえば人間に害なす存在!! 実際これまで戦士たちは
ホムンクルスから学校を守るため戦ってきた筈!!』
「まったくだ!! 監視のために音楽隊を学校にィ!? 本末転倒です!!」

 防人の突拍子もない提案に場はしばらく賛否両論に揉めたが、

「どの道あと3日もしたらキミたちは戦いに身を投じなければならない。せめてそれまでは日常を満喫していなさい」

 やや愁いを帯びた防人の微笑に押し切られるカタチになった。




 結果。現在のところ。

【3年A組】

「フ。本日からお世話になる総角主税だ。字面が難しいから”そうかく”でも構わない」
「3年A組の皆さま、大変お騒がせしております! 小札零! 小札零をどうかよろしくお願いいたします!! あ、ありがとう
ございます。ありがとうございます。暖かなご支援を! 皆さまのお力添えをお願いいたします!」

「……何の?」
 ややヒいた笑いの桜花の横で、秋水が難しい視線を教壇に送っている。
 そこにいるのは、金髪の美丈夫ととても小柄なおさげの少女。
 前者はひどく見栄えがよく、すでに女子生徒たちの注目の的だ。着衣こそ一般生徒とまったく同じ学ランだが、細く引き締
まった筒型の体にそれは恐ろしく映えている。後ろでくくった髪をこれ見よがしに肩口へ乗せているのはいかにも派手好きの
総角らしいと秋水はおもった。例えるなら漆塗りの器に金箔をまぶすように。黒一色の制服を流れる金の奔流はあたかも「闇
を引き裂く星の光芒」といった様子で、なかなか絢爛豪華な趣だ。
「ありがとうございます。ありがとうございます。ああっお手を振って下さりありがとうございます。長い旅を経まして不肖小札零、
遂に銀成市に帰って参りました! 何卒、何卒ご協力をお願いいたします」
(だから何の……?)
31永遠の扉:2011/04/17(日) 00:33:34.23 ID:LUqnU/cc0
 桜花の表情が困惑に染まりきるのもむべなるかな。
 一方、小札の方はまったく制服に”着られている”といった感じだ。ゴシックロリータじみた衣装は童顔の彼女に似合っていな
くもないが、あちこちダブついているのが見てとれた。さりとて当人はあまり気にしていない(というより”よくあるコトすぎてヤケ
になっている”気配もある)ようで、マイク片手に選挙カーもどきの自己紹介を繰り返している。時には咆哮し、時には頭の上で
片手をぐるぐる回し、頬を緊張にうっすら染めつつ生徒諸氏の質問をいなしている。そして二言目には「小札零! 小札零を
どうかよろしくお願いいたします!」である。

 どうやら彼女、テンパっているらしい。


【1年A組】

「鐶光……です。”鐶”は……「かねへん」です……。でも私も時々……「おうへん」で書くので……その、どっちでもいい、です」
「鳩尾無銘だ」

 片や大人しそうな、片や無愛想な自己紹介が終わると、生徒たちは水を打ったように静まり返った。
 無関心、という訳ではない。男子生徒の中には赤い三つ編みの虚ろな瞳の少女にさっそく色目を使っている者もいる。ぼ
そぼそと喋る儚げな様子に心奪われたという感じだ。女子たちは女子たちで、「まるでまだ小学生」な太眉少年に保護意欲を
大いにかき立てられているようだ。学ラン姿もまだ初々しい、子犬のような少年だとみな囁きあった。
 それを抜きにしても銀成市民というのは転入生によく喰いつく。質問攻めは当たり前だ。
 にも関わらずあまり声をかけられずにいるのは……教室に居る、見なれぬ人物たちのせいである。

 率直に書くならば。

 教室の後ろに。

 銀色の全身コートとガスマスクが居た。
 これでもかと、突っ立っていた。

 無論彼らは、生徒ではない。教師でもなければ関係者でもない。
 まったくもって清々しいまでの部外者で、部外者の癖につくづく堂々と(ガスマスクの方は時々もじもじとするが)。
 居た。

「ああ。気にしないでくれ。人見知りなあの子たちを見守りに来ているだけだ。キミたちはいつも通り授業をしてくれ」

 恐る恐ると振り返る何人かの生徒に全身コートは軽く手を上げフレンドリーに応対するが……反応はいま一つだ。

(できるか!!)
(集中できない!)
(なんで銀成市名物がここにいるのよ!)
(不審者丸出し! つまみだしてよティーチャー!!)
(言うな! 我慢しろ!! 俺だって嫌だが理事長が入れろと!!)

 教室のそこかしこから不満といら立ちが立ち上る。ここ1年A組は現在、銀成学園一の魔境と化していた。

「ねーちーちん。あの銀色の服の人ってブラボーだよね?」
 不意に肩を叩かれた若宮千里はその理知的な顔つきを一瞬だけ歪めた。後ろの席で不思議そうに囁くまひろは異常な
教室の中でほんのりとした暖かさを振りまいているが、しかし今は授業中なのだ。私語を囁くのは良くないし、それを許す
のは友人としての最低限の節度に反する。表情に微細な変化が現れたのは左記がごとき機微もあったが、もう一つ、まひ
ろの言葉の意味を理解するのに数瞬を要したというのもある。
「……え? あのコートの人って、ブラボーさんだったの?」
 何とも面白味のない鸚鵡返しで、吐いた千里自身無味乾燥なマジメ気質を悔いてしまう言葉だが、不思議とまひろ自身を
疑う要素はない。どういう訳かこういう直観的なコトに関してまひろの文言は外れたためしがないのだ。
「よく分からないけど、ひょっとしてヒミツの任務中かも。突っ込まない方がいいよまっぴー」
 隣の席からひょっこり寄ってきたのは河合沙織である。黄色い髪を両側で縛った幼い顔立ちの友人は、「スクープ発見」
とばかりはしゃぎつつ、唇の前で人差し指を立てた。ヒミツに興奮しそれを守るコトに興奮している辺りまだまだ子供だと
千里は思う。かといってそんな友人の瑞々しは貶す気になれない。むしろ好ましさと尊敬さえ覚えている。
う、うん。突っ込まない。私は黙るよ黙っちゃう。何を隠そう私は黙秘権の達人よ!」
「いいから小さな声で喋りなさいまひろ。今は授業中よ」
32永遠の扉:2011/04/17(日) 00:34:08.72 ID:LUqnU/cc0
 ヴィクトリアを見習いなさい、そう言いながら「先ほどからいやに静かな」まひろの隣席へ視線を移す。
 その時までその所作に大した意味はなかった。やけに静かだったのでまひろを窘めがてら友人の様子を見た……位の
動機だったが、千里は、やや意外な物を見た。

 ヴィクトリアは、「見たコトもない目つきで」ある一点を凝視していた。
 千里が彼女の視線を追うと、赤い髪の転校生へ行きついた。

(知り合い?)

 千里は首を傾げた。

 神ならざる彼女は知らない。かつてヴィクトリアと鐶の間に起こったコトを。

(……確か、あの時の鳥型)
(……確か、あの時の人型)

 かつて銀成学園を舞台に行われた戦士と鐶の決戦。その終盤、紆余曲折を経て乱入したヴィクトリア。
 鐶は彼女の年齢を吸収した。見た目とは裏腹に齢100を超えるヴィクトリアの年齢を。
 結果、鐶は一気に老化した。それが原因で、斗貴子に負けた。

 以上のような因縁を思い出したのか。
 ヴィクトリアと鐶はしばし見詰めあった。

「さーちゃんさーちゃん、転校してきた赤い三つ編みのコさ、なんで制服着てないんだろ?」
「前の学校の制服じゃない? なんか海賊っぽいけど」
「制服かなあ?」

 まひろだけが呑気に首を傾げた。
 鐶は奇妙な服を着ていた。白と濃紺を基調としたそれはまさしく沙織のいうとおり、「海賊」のような服だった。
 三角を三つ連ねたような帽子はとても学校制服の一部には見えないし、二の腕の辺りで大きく尖った袖はどう見ても男
性用のそれだ。
 まひろは知らない。かつて彼女の兄、武藤カズキがその「奇妙な服」に苦しめられたコトを。

(シルバースキン・裏返し(リバース)。戦士長さんは鐶の奴めを拘束しているのだ。あのガスマスクの戦士は控え……。
いざという時、鐶を抑えられるように)

 頬杖を突きながら無銘は不快そうに外を見た。

(師父にアレを使わぬ理由が気に食わんがな。「早坂秋水と同じクラスに居るから」。くそ。つまり戦団の奴らめ、早坂秋水
が裏返し(リバース)並の抑止力がある、と! いざという時、師父を止められると……)

 太い眉がぎりぎりと吊りあがる。犬歯も露の”すごい形相”を冷ややかに見る少女が一人。

(確かあの男子生徒も音楽隊ね)

 ヴィクトリアは冷笑を浮かべた。笑うしかないだろう。いまやこの教室には戦士が2人にホムンクルスが3体だ。誰も彼も
争う気はないがそれでも世間的には十分不穏だ。戦士長の防人。戦士たち相手に大立ち回りを演じた鐶。この2人がちょっと
本気を出すだけで銀成学園の校舎は3分と持たず地球上から消えるだろう。ガスマスク(毒島)にしろ無銘にしろ、並のホム
ンクルスよりは強いだろうし、ヴィクトリア自身、避難壕を展開した時の自身の力量には(ひねくれた高慢な少女らしい)自信が
ある。それらを勘案するとこの教室はまったく恐ろしい状態だ。そう気付いているのは自分だけ……奇妙な優越感がヴィクトリア
の頬を歪ませる。

(どうやら手を組むコトにしたようね。音楽隊と戦士。パパが追撃された時以来かしら。問題は、なぜ手を組んだかというコト
だけど……ま、勝手にやりなさい。私は彼と白い核鉄を作るだけよ)
33 ◆C.B5VSJlKU :2011/04/17(日) 00:36:32.43 ID:LUqnU/cc0
以上ここまで。
震災に遭われた方が一刻も早く元の生活に戻れる事をお祈りしております。
34作者の都合により名無しです:2011/04/17(日) 15:13:44.65 ID:6GQNs86a0
おお、スターダストさんお疲れ様です。
学園ドラマはいいな。小札たちがいるとどうしてもコメディになるけどw
そこがまた可愛らしくていい。斗貴子がすっかりなじんでいるのも微笑ましい。
35信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 19:54:33.61 ID:Af+cIraG0

武田信玄と上杉謙信がその変な男に出会ったのは、第三回カラオケ合戦で死闘を繰り広げたその帰りだった。
「貴様、あの選曲は卑怯ではないか。難易度が低い曲を選び過ぎであろう」
「お主が難易度の高い曲を選び過ぎなんじゃ。合戦なのだから勝つ為に最善の手を尽くすは至極当然」
「むう……理には叶っておるが納得できん。貴様に『義』の文字は無いのか」
「心外じゃな。拙者は合戦に於いて己の死力を尽くすこともまた『義』じゃと思うておるが」
わしは納得できんのう、とぶつぶつ言っている謙信に構わず先を歩いていると背後で声がした。
「お姉さんお姉さん、これ落としものですよ」
信玄が振り返ると、年の頃は十代半ばであろう若者が謙信を呼び止めていた。
「これはすまぬな、どおりで頭が軽いと思っておった」
謙信は若者から兎の耳の形をした髪飾りを受け取る。それを再び頭に装着してにこりと笑った。
「礼を言うぞ」
「いえいえ。お姉さん、そのカッコ似合いますね。……ヒルダさんに勝るとも劣らぬナイスバディだし」
若者は謙信に見惚れている。信玄はなんとなくいらりとした。
謙信は異国の言葉である「ないすばでぃ」の意味を良く分かっていないようだったが信玄は知っている。
―――つまりは、発育がとても宜しいということだ。
あの若者に、確かに身体は武田朱謙(あかね)という二十歳の女子であるが
今は上杉謙信というおっさんの魂が入っているのだと言ったらどんな顔をするだろうか。
さらには信玄が身体を借りているこの武田玄太郎と新婚ほやほやラブラブバカップルなのだ、
と言ったらどんな顔をするのだろう。
「ちなみにお姉さんはなんでそういうカッコしてるんですか?」
「なんでって」
興味津津といった様子の若者の問いに謙信は首をかしげる。
「動きやすいであろう?わしは体操服の方が気に入っておったのだが、
 どうやら大人が街で体操服を着てはいけぬそうで捕り方に捕まってしもうてな」
「バニーちゃんの前は体操服だったんすか……
 くそうそっちも見たかったぁッきっと邦枝ちゃんの体操服姿とはまた違う味わいがあったのに」
若者はそれは悔しそうに呟いた。
36信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 19:55:45.04 ID:Af+cIraG0

体操服を街中で着てはいかんと警察官に懇々と諭されて帰ってきてのち、
謙信は朱謙の箪笥をひっくり返して着るものを探していた。
「ええい!何故この女はふりふりひらひらの服しか持っておらぬのだ!」
服を放り投げながらぷんぷんと謙信は憤る。
「ふりふりひらひらは朱謙の趣味じゃろうな。
 ……それより謙信、下穿き一枚でうろつくのは止めた方が良くは無いか」
「体操服が駄目なのだから仕方が無かろう!それともわしにふりふりを着ろと言うのか。
 おっさんのふりふりが見たいのか。変態か貴様!」
謙信は腰に手を当てて信玄の前に仁王立ちした。
―――謙信は全く分かっていない。
本人はおっさんのつもりでも周囲から見れば外見上は発育の宜しい女子なのである。
「……そうは言っておらぬが」
「ならば黙っておれ」
そう吐き捨てると謙信は再び箪笥を漁りだした。信玄はため息をつく。何を言っても無駄なようだ。
「しかし本当に現代の女子はこういう服ばかり着ておるのか。
 こんなにふりふりと動きにくい服でいざという時にどうするつもりなのであろう、嘆かわしいのう」
「おそらく現代には『いざという時』が無いのじゃろうな」
何気なく信玄が応えると意表を突かれた顔をして謙信が振り返った。
「……そうか。ならば備えなど必要が無いのやもしれぬな」
妙に神妙な顔になった謙信は静かに服を漁り始める。
「備えが必要無いほど平和なのだな、この時代は」
「平和じゃな」
「良い事……なのであろうな」
「良い事なんじゃろうな」
「良い時代だな」
「そうじゃな」
「Twitterもあるしのう」
「うまい棒もあるしな」
「……この時代には本当に何の憂いもないのであろうか」
「分からぬ」
信玄の返答に、謙信は無言で箪笥の奥を漁る。
37信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 19:56:58.33 ID:Af+cIraG0

しかしすぐに手を止め、嬉しそうな顔をして振り返った。
「信玄、我々は間違っておったようだ。これが朱謙の『備え』なんじゃろう」
謙信がいそいそと引っ張り出したのは見たことの無い黒い服だった。
身体の部分は確かにふりふりではない。むしろ身体にぴたりとしていそうだ。
「変わった服じゃな」
信玄が素直な感想を述べると、謙信はふふんと笑った。
「分からぬか信玄」
「動きやすそうではあるが」
「わしが思うにこれは忍びの服じゃぞ」
そういって謙信が差し出したのは共に着ると思しき網目状になった黒い穿きものだった。
「見よ、網目があると言うことはこれは鎖帷子であろう。これだけ軽ければ女子でも苦にはなるまい」
「しかし鎖帷子は胴を守らねばならぬのではないか?これでは足しか守れんじゃろう」
「朱謙のような弱そうな女が胴体だけ守っても逃げ切れぬであろう?闘って相手を倒せるわけもない。
 だから逃げ切る為に初めから足のみを傷つけぬよう考えておるのだろう。潔い覚悟じゃな」
「じゃか、こんな平和な世に忍びなどおらぬのではないか?」
「おらぬだろうな。だからこその『備え』なのであろう?
 この平和な世でもいざという時には忍びのごとくに身を呈して働くという意思の表れなのであろうな」
「ふむ……」
信玄は首を傾げる。
そう言われればそういう気もする。なにしろ自分たちの時代と様々なものが変わりすぎているのだ。
「ならばこれはなんの為じゃろうな」
信玄は共に置いてあった髪飾りを取り上げる。
どう見ても兎の耳を模っており、何の意味が有るのか良く分からない。
「我々の兜の飾りと似たようなものではないかのう。或いは『脱兎のごとく逃げる』という意味やもしれぬが」
「確かに珍奇な格好を好む者もおるからな。ふりふりが着れぬ代わりにその髪飾りなんじゃろうか」
「この平和な世でここまで備える朱謙の覚悟に感じ入った。わしはこれを着るぞ信玄」
38信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 19:58:14.27 ID:Af+cIraG0

―――という経緯があり現在に至る訳だが、まあそれはあの若者には関係が無い。
なんだかんだと話しかけて朱謙の気を引こうとしている若者に
そろそろ無駄な行為であることを知らせにいこうかと考えていると、数人の男たちが若者と謙信を取り囲んだ。
「お姉さん、素敵な格好してるじゃないの」
「こんな兄ちゃん放っといて俺らの方と遊ばない?」
いつの世も無頼の輩というのは似たような事を言うものだと信玄が妙に感心していると、謙信が不快そうな顔をしていた。
「わしはこの若者と話しておるゆえ、取り込んでおる。他を当たってくれぬか」
「お姉さん強気だねえ。いいから行こうぜ」
男が笑って謙信の手首を掴む。謙信が反対の手を握り締めるのを見て信玄はいかん、と思った。
いくら中身が謙信でも朱謙の腕力で男たちに勝てるわけがないとも少しは思う。
がそれ以上に、反対に男たちを伸してしまった時を心配する気持ちの方が大きかった。
いつ元の時代に帰れるのやらわからぬ以上、「武田玄太郎」と「武田朱謙」として大人しく生きて行かねばならぬのだ。
今ここで目立ってしまうような事をして得が有るわけがない。
謙信を止めるべくと近づこうとすると、それより早く若者が男たちと謙信の間に入った。
「いやいや、乱暴は止めましょうよ、ね?お姉さん嫌がってるし」
「なんだ兄ちゃん文句でもあるのか?」
「文句なんて滅相もない。ただ、ねえ、ほら男としてこういうのは、なんというか」
「てめえ、俺らが誰だか分かって―――まて、その制服……石矢魔高か?」
「え?そうですけど」
「なるほど」
男が謙信の手首を放した。訳が分からずきょとんとしている謙信を、若者が自分の後ろに追いやる。
「なら男鹿知ってるだろ?アバレオーガ」
「まあ知ってると言うか、どちらかといえば俺が育てたみたいな」
「そりゃ助かるわ、紹介してくれよ」
「天下取るにはさ、やっぱオーガ倒しとかねえと」
「あー……そういうことですかー……」
若者は後ろ手で尻ポケットから携帯電話を取り出し、何か操作してまた仕舞った。
39信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 20:00:32.68 ID:Af+cIraG0

それを目の前で不思議そうに見ていた謙信は首を傾げて信玄の方に視線を送ってきた。
信玄にもイマイチこの展開の意味が分からないので肩をすくめる。
しかし一瞬聞こえた「天下を取る」という言葉はこの平和な世には似つかわしくない、ということは分かる。
あの若者はなにか不穏なことに巻き込まれそうになっているようだ。
「いやーまさかお兄さん達が高校生だったとは、貫録有りすぎっすね」
信玄には若者の言葉は褒めているようには聞こえなかったが、男たちは気を良くした。
「だろ?けどさあ、こんな俺達でも男鹿は難敵な訳よ。そこで相談なんだけどさ、キミ男鹿とどういう関係?」
「えーと、小さいころから面倒を見てやっている関係とでも言いますか」
「小さい頃……?」
ざわり、と男たちが沸いた。
「男鹿と幼馴染?」
「まさか、知将古市……?」
「男鹿と古市、二人も同時に相手にするのは無理なんじゃ」
「……古市人質にとって男鹿呼び出すよりも大人しくバニーちゃんと遊んでた方が良いんじゃねえか?」
こそこそと、その割には丸聞こえの声で男たちが話あう。どうやら若者の正体が彼らにとって想定外のようだ。
信玄と謙信にとってはますます謎の展開である。古市という若者はそれほどの猛者なのだろうか。
ずっと不思議そうな顔をして話を聞いていた謙信は、男たちの目線に一歩踏み出した。
「やはりわしに用があるのであろう?この若者をさっさと帰さんか」
「ちょ、お姉さん」
ほんの一瞬、古市の顔に狼狽と逡巡の色が浮かんだ。が、すぐに再び謙信を押し戻しその前へ出る。
「いやいやいや、お兄さん方良く考えてみてくださいよ、男鹿ですよ?オーガ。
 このお姉さんと遊んだら確かに楽しいでしょうけど今日限り、
 ところが男鹿を倒せばお兄さん方の名は未来永劫知れ渡りますよ?色んなお姉さんが毎日よりどりみどりですよ?
 その上俺にとって男鹿は舎弟みたいなもの、俺が言えば何でも言うこと聞きますよアイツ。
 だからむしろお兄さん方は今猛烈にラッキーだ!この千載一遇の機会を逃すなんてそりゃないでしょー」
古市が一気にまくし立てると男たちがどよめいた。謙信も唖然としている。
40信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 20:01:41.18 ID:Af+cIraG0

「そうか……頭良いな……」
「さすが知将だな……」
「でしょー?……じゃあさっさとどっか行きましょ、俺が呼べばソッコーで男鹿来ますから」
「お、おう」
古市は男たちに挟まれて歩き出す。
数で優位であるはずの男たちは何処となく古市の勢いに気圧されているようだ。
「待たんか古市とやら」
その背中に謙信が声を掛けると、古市は笑いひらひらと手を振った。
「お姉さん、最近はメイド服も流行りっすよ。今度会ったら知り合いの巨乳メイドとの競演が見たいっすね」
それきり古市は男たちと去っていった。謙信はその背をじっと見つめている。
信玄が近づくと、謙信はわしを庇ったつもりなのであろうなと呟いた。
「おそらくな」
「震えておった、あの古市とやら」
「弱そうじゃったしな」
「合間合間に小さい声で『ヤベエ』『バレてんじゃん』『怖えー』『うわ泣きそう』と呟いておった」
「お主に良い顔がしたくて無理をしたのじゃな」
「きっと古市よりわしの方が強かったぞ」
「間違いないじゃろうな」
「……受けた恩は返さねばならぬよな」
「それが『義』じゃろうな」
「―――あ奴ら、何処へ行ったのであろう」
「謙信、忘れてはおらぬか」
先ほどの仕返しに、信玄はふふんと笑ってやった。謙信は分からぬ顔をして眼を瞬く。
「不良とくれば倉庫じゃろう、いつもドラマでやっておるわ」
謙信は一瞬目を見開いてからにやりと笑った。
「来た道にあったのう、丁度良さそうな倉庫が」
41信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 20:05:03.42 ID:Af+cIraG0

倉庫に入り込み物陰からそろりと覗くと予想通りに古市が男たちに囲まれていた。
心なしか男の数が増えているような気がする。謙信は頭を振りため息をついた。
「信玄、貴様の予想通り過ぎてわしは悲しくなってきたぞ」
「拙者はなんの軍略もなしに天下を取れると思うている彼奴めらに一言いうてやりたいわ」
「男共の数が増えておるのがあ奴らなりの軍略なのではないかのう」
「確かに兵の頭数も策に入れねばならぬと思うが、策が無いのに頭数だけ揃えてもそうそう勝てぬわ」
男共の様子を見ていると統率がとれているようには全く見えなかった。
上下関係は有りそうだったが、ただそれだけで天下を取れると思っているのならば非常に嘆かわしい。
男達の無策に腹を立てていると、謙信に静かにせいと睨みつけられた。
「気がつかれたらどうする。あちらには古市という人質がおるのじゃぞ」
「むう、そうじゃのう……しかし男鹿とやら一人を相手に七人がかりとは下種じゃな」
「そう言ってやるな、一人では勝てぬから下種なりに頭を使っておるのだろう」
「男鹿とやらは強いのじゃのう」
「なにをわくわくしておるか貴様。来るかどうかすら分からぬ男鹿を待つよりわしらで古市を助けねば」
すぐにでも飛び出しそうな謙信に信玄は苦笑した。持久戦は相変わらず苦手のようだ。
「待たんか。今出るわけにもいかぬじゃろう。男鹿が来るまで待った方が良かろう」
「臆したか信玄。貴様が腑抜けてもわしは行くぞ。相手が七人おるからなんじゃ」
「待てと言うに。よいか、拙者たちは玄太郎と朱謙の身体を借りておるのじゃぞ?
 確かに拙者ら二人おれば七人ごとき物の数では無いわ。しかしこれでああいう輩に目をつけられたらどうする。
 拙者らがおる間は何人来ようが畳めばよいじゃろうが、帰ってから下郎共に狙われたらどうする。
 なるべく目立ってはいかんのじゃ、拙者たちは。それが玄太郎と朱謙への『義』ではないのか」
玄太郎と朱謙が無頼の輩を退けられるとはとても思えない。
だから、二人の事も考えるならば男たちが恐れる男鹿を待つべきだ。
男鹿とともに男たちを倒したなら、男たちにとっては玄太郎も朱謙も「男鹿の付随物」である。
例え仲間だと見なされたとしても、男たちは二人の後ろに男鹿を見てそうそう手出しはしてこないはずだ。
42信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 20:06:29.60 ID:Af+cIraG0

「し―――しかし」
謙信は躊躇した。謙信にとって『義』は最も重い言葉のはずである。
もうひと押しで謙信を抑えることが出来そうだと考えた信玄は畳みかけることにした。
「そして見よ、あの男が持っておるのは鉄砲なのではないか?」
「わしらが知っておるのとはだいぶ違うようじゃが」
「これだけ拙者たちが知っておるのと異なる世で鉄砲だけが変わらぬと思うておる方がおかしいじゃろう。
 あの黒筒、形こそ小さいが基本的には変わらぬように見えんか?
 仮にあれが鉄砲であるなら、むやみに飛び出せば古市が―――」
信玄は口を噤む。鉄砲を持った男が古市にそれを突きつけていた。
古市は顔を引きつらせて男に何か言っている。周りの男たちは実に楽しそうにそれを眺めているばかりだ。
信玄はぎり、と歯を噛みしめる。
いつの世も下郎がすることはさして変わらないが、それでも気持ちのいい眺めでは無い。
しかし耐えねばならなかった。男共の狙いは男鹿なのだから、今すぐ古市が傷つけられることは無いはずだ。
男鹿の到着前に古市が命を落とせば人質の意味を成さないからである。
流石にそれが分からぬほどの阿呆ではないだろう。
「謙信、堪え―――」
横に謙信は居なかった。
「いい加減に恥を知れこの下種共が!」
声の方向に振り向くと、知らぬ間に物陰から飛び出した謙信が仁王立ちしていた。
背後から陽に照らされる謙信は、まるで後光が差しているようだった。
43信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 20:09:11.49 ID:Af+cIraG0

古市は我が目を疑った。今見たのは現実だろうか、それとも自分の願望だろうか。
「今、光り輝くバニーガールが居たよな……」
「俺も見た……」
男たちの様子を見るとどうやら自分の妄想ではないようだ。
(やばいな)
何処かへ隠れたのかもう姿は見えないが、知り合いにバニーちゃんはそうそう居ない。
とすれば先ほどのバニーちゃんが古市を助けに来たとしか考えられないのではないか。
(なんとかしないと……)
きっとバニーちゃんは先ほどの古市のあまりのカッコよさに、一人で逃げることに良心の呵責を感じたのだろう。
がしかし心配には及ばないのだ。じきに男鹿も来るだろう。
正直言って一人でこの場を切り抜けるのは不可能だが、男鹿が来るまでの場を繋ぐことは可能である。
そして古市は男鹿のせいで不良さん達の扱いは意外と慣れている。まあ慣れていても怖いものは怖いのだがそこはそれ。
だからむしろ、男たちが再びバニーちゃんに興味を持つことの方が恐ろしかった。
目の前の奴らが男鹿を待つまでの間にバニーちゃんをどうにかこうにかしようと考えるような馬鹿では無いと何故言えるだろう。
いや、どちらかというとそういうことを考えない方が不自然だと言えそうなタイプである。
つまりこいつらはただの馬鹿にしか見えないので馬鹿がしそうなことは大抵しそうだ。なにしろ馬鹿である。
いざそうなってしまった場合、腕力に自信のない古市に何が出来るだろう。
古市に出来ることは、ただ一つだった。
「嫌だなあお兄さん方。こんなとこにバニーちゃんが来るわけないでしょー?
 緊張しすぎて幻覚見えました?大丈夫すか?それよりも男鹿対策、大丈夫っすか?」
「当たり前だ、これを使う」
男の一人が拳銃を持っていた。本物かモデルガンか知らないが、高校生が持つようなものではない。
「それ、本物っすか?」
「こういう時の為にアニキから借りてきた。これで男鹿もビビるだろうよ」
「残念だなあ、お兄さんたち」
44信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 20:10:24.25 ID:Af+cIraG0

古市が深々とため息をついてみせると、男たちは殺気立った。
「ああ?」
「殴られたいのか古市?」
「いやいやいや、違いますって。良いですか、これはお兄さんたちにとってビックチャンスな訳ですよ。
 なにしろ俺という人質を得た上で男鹿を七人で囲めるんだから。そんな機会今後ありますか?
 つまりお兄さんたちが男鹿を倒して天下取ることはほぼ確定です。
 とすると、お兄さんたちが考えなくちゃいけないのは『男鹿をどう倒すか』じゃない。
 『どう格好よく伝説になるか』、じゃあないんですか?これから色んな奴らが語り継ぐんですよ?
 とすると、拳銃なんてつかってちゃあ勿体ない。折角『あの男鹿に』『素手で』勝ったと言う伝説が作れるのに。
 勿体ない、ああ勿体ない。『七人いるのに拳銃まで使った』という伝説になるのかあ。俺は非常に残念です」
「男鹿に素手で勝つかあ……」
「確かにカッコいい……」
「でしょー?」
想像通りのお馬鹿さん達に古市はにっこり笑って見せる。
「それで、本当に男鹿がくるのにあと30分なんだな?さっきの電話で本当にすぐにこっちに向うんだな?」
お馬鹿さんの親玉が古市に言う。
「男鹿の家からここまでは30分、間違いないっすね。今のうちにトイレ行っておいた方がよくないすか」
極上の笑顔で古市が答えると、男たちはほっとしたようだった。
45信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 20:11:40.72 ID:Af+cIraG0

信玄は謙信の頭を床に押し付けて伏せさせていた。先ほど飛び出したのをなんとか物陰に引きずりこんだところである。
「ええい放さんか貴様!」
謙信はじたばたと暴れる。放せばまた飛び出すに決まっているので信玄は手に力を込めた。
「今飛び出しても鉄砲に撃たれるだけじゃろうが」
「わしは軍神毘沙門天の転生である。鉄砲なぞ当たらぬわ」
謙信は胸を張る。信玄は苦笑しそうになった。この「毘沙門天の加護」にどれだけ武田軍が苦しめられたことか。
「お主に御加護が有っても朱謙には無いかもしれぬではないか。それとも朱謙も毘沙門天の化身と申すか」
「そうは……言わぬが」
消沈したのか急に謙信が大人しくなったので、手を外した。
「安心せい、古市は何やら言うて男共を煙に巻いておるようじゃぞ。しばらくは大丈夫じゃろう」
「ならばその隙をついて助けたほうが良くはないかのう」
「じゃから……」
問答の途中で二人は黙った。男の一人が入口へ向かってきている。信玄は息を殺した。
二人の真横を通るのだから気が付かれてもおかしくはない。
(どうする)
謙信と眼が合った。男が一人で仲間から離れたのは好機ではある。
気が付かれる前に片づけるべきか、隠れて見つからぬ努力をするか。
今は後者のほうが望ましいのだろう。何の為に今まで耐えていたのか分からないではないか。
しかし。
謙信の眼は爛々と輝いていた。多分信玄も同じだろう。―――考える必要は、無いようだった。

男の足音を聞きながら息をひそめる。警戒している様子は感じられない。気が緩みきっているのがよく分かった。
己の配下ならば性根を叩き直してやりたいところだが敵ならば好都合である。
近づく足音に飛び出す機を伺う。なるべくならば他の者どもには気付かれずに始末してしまいたいが上手くいくかどうか。
横を見ると謙信も息を殺して間合いを計っていた。
後僅か。
もう一歩。
飛び出そうとしたその瞬間に、男の身体が何かの衝撃で奥まで吹っ飛んだ。
「お前ら、ぜってー許さねえっ」
怒気をはらんだ声が響き渡る。男を殴り飛ばしたと思われるのは、全裸の赤子を背負った妙な若者だった。
「男鹿!?」
「なんでこんな早く……」
男たちの、そして信玄たちの待ち人が現れたようだった。
46作者の都合により名無しです:2011/04/17(日) 20:19:11.09 ID:1qIoFMcWO
久々に投下したらばいばいさるさんにひっかかりました。
終わりまでもう少しなのですが申し訳ないです
47作者の都合により名無しです:2011/04/17(日) 20:56:04.21 ID:Z+QDIobe0
どなた?とりあえず支援
48作者の都合により名無しです:2011/04/17(日) 20:58:36.20 ID:Z+QDIobe0
JIN今から見るから、その後お2人の感想書くお
サマサさんとスターダストさん以外の人が来て嬉しいお
49信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 23:02:40.29 ID:Af+cIraG0

「のう信玄、何故あの赤子は何も着ておらぬのかのう」
「現代では幼子ならば服を着ずとも良いのではないのか?この前訪れた春日部でも尻を出して踊る童がおったじゃろう」
「そういえばおったのう……確かに近くの幼稚園とやらでも下半身まるだしの幼子がおるし、我らの世とは違うのう」
完全に出そびれた信玄と謙信はひそひそと会話しながら様子を伺う。
男たちはずんずん近づく男鹿を見て動揺しているようだった。気が緩み切っているところに敵が現れて完全に混乱している。
近づく者を端から殴り倒しながら、男鹿は奥へと向かった。
「古市、男鹿が来るまで30分かかるって言ったじゃねえか!」
「俺らを騙しやがったな!?」
詰め寄る男たちに、古市はにやりと笑った。
「嫌だなーお兄さん方、俺は嘘なんかついてませんよ?『男鹿の家からここまで30分』って言ったじゃないすか」
「まだ5分くらいしか経ってねえじゃねえか!」
「あー、スミマセン、1個言い忘れてました」
すっ呆けた顔をして古市は尻ポケットから携帯電話を取り出し、男たちに開いて見せた。
「男鹿に電話したの、30分前なんすよねー。ずーっと通話状態でした。いやー丁度来るころだと思ってたんだよなあ」
「てめ……」
へらりと笑う古市に掴みかかった男は男鹿に背後から殴り飛ばされて昏倒した。
……いつの間にか、立っているのは親玉一人だけだった。
50信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 23:05:49.45 ID:Af+cIraG0
親玉は引きつった顔をして古市の首に腕を回し、鉄砲を突きつける。
「男鹿、来たら古市がどうなるか分かってんだろうな」
「あ?知らねえよ」
「スミマセンお兄さん、男鹿頭悪くって難しい事分かんないんですよね。大人しくぶっ飛ばされてください」
古市はへらへらと言う。男は怒気を放つ男鹿に気圧されて後ずさりした。
歩みを止めない男鹿に男はますます顔をひきつらせる。
「お―――俺らを倒したからって逃げられると思うなよ?アニキがそろそろ仲間連れてくるんだ」
「アニキと仲間というのはこいつらか?」
信玄が声のした入口を振り返ると、金の髪の女と学生らしき女がそれぞれが左右の手に倒れた男を引きずっていた。
「全く、坊ちゃまと散歩にでも行くかと思えば……こんな埃の多そうな所に連れてくるとは」
「わ、私は通りすがっただけだから。別に男鹿に恩を売ろうとか思ってないし。たまたまこいつらが邪魔だったのよね」
「ヒルダさん!邦枝さん!俺の為に美人がわざわざ!」
捕まったままの古市が感激の面持ちで叫ぶ。男鹿が目前まで迫った男は蒼白になって震えだした。
「ちょ、ちょっと待て男鹿。話し合おう」
「ぜってー許さねえ」
「いやあ男鹿がここまで友情に篤いとは、俺泣けてきた」
鉄砲を持ち有利にもかかわらず震える男、怒髪天を衝く勢いの男鹿、人質の身でありながら余裕の古市。
変わった関係となった三人を、謙信は眼を丸くして見守っている。信玄も不可思議な関係だと思う。
「てめえのせいで―――」
そして男鹿が胸倉を掴んだのは男ではなく古市だった。
「電話にビビってベル坊が大泣きして大変だったじゃねえかぁっ!」
「俺かよ!」
誰よりも遠くへ殴り飛ばされた古市を見て、信玄と謙信は思わず顔を見合わせてしまった。
51信魂さん魔王の子と出会う:2011/04/17(日) 23:07:23.97 ID:Af+cIraG0

信玄と謙信はそろりと倉庫を抜け出した。
後ろでは倒れた古市は放置され不良の親玉は袋叩きに合っていたが、もう二人に出来そうなことは無い。
「わしらが来るまでも無かったのう」
「古市には良い仲間がおるのじゃな」
「古市自身は弱そうじゃが、あれだけ強い仲間がおれば困らんであろう」
「人は城。人は石垣、人は掘―――やはりいつの世も力となるのは人の絆じゃな」
「わしらの世と変わってしまったことも多いが変わらぬことも多いのう。
 ……おおしまった。結局古市に恩を返しておらんではないか」
謙信は急に立ち止まって手を打つ。確かに、二人がした事と言えば物陰から成り行きを見守っていただけだ。
「仕方がないじゃろう―――お、あちらに警察官がおるな、せめて通報してやるというのはどうじゃろうな」
「ふむ、その程度では小さすぎるがまあ仕方がないのう。……これ、そこの警察官」
謙信は警察官を呼びとめて事情を説明する。
本来ならばああいう無頼の輩は首を切り落としてやりたいところだが、現代ではお縄になるくらいがせいぜいか。
「なるほど、ただちに署員を向かわせましょう」
「おおそうか、有難い」
警察官の言葉に、謙信は嬉しそうに信玄を振り返る。しかしその手首を警察官が掴んだ。
「で、アナタはなんでそんな格好なのかな?ちょっと署まで同行するように」

ばにーがーるは忍びの装束では無い上に街中で着て歩くモノではない、ということを武田信玄と上杉謙信は初めて知った。



≪了≫
52ぽん:2011/04/17(日) 23:13:34.10 ID:Af+cIraG0
久々すぎてばいばいさるさんの存在を忘れて引っかかってしまいました。
すみませんでした。

久々すぎるので名無しで投下しようかと思ったのですが
まとめサイトに自分の名前があり嬉しくなってしまったのでハンドルを名乗らせていただきます。

いぬまるくんの作者の読み切り「信魂さんいらっしゃい」が余りに面白かったので
SSを書きたくなりました。
べるぜバブとのコラボなのは鉄砲ネタを使いたい→ジャンプで現代もので鉄砲が出てきそうなの
という適当なセレクションなので、設定等が間違ってたらすみませんw

このスレにくるのは本当に久々なのですが、
お名前の見おぼえのある方々が今だにいらっしゃるのが素晴らしいです。
53作者の都合により名無しです:2011/04/17(日) 23:43:35.30 ID:Z+QDIobe0
ぽんさん久しぶりだなー。2年ぶりくらいか?

>スターダストさん
音楽隊の方々はみんな個性的で出演すると華があっていいですね。
ちょっとウザい感じもまた・・。ヴィクトリアはまだ浮いてるけど。
演劇隊と音楽隊が合わさってコラボしても楽しそうですね。
小札は行動も容姿も小学生みたいで可愛いな。

>ぽんさん
いや、元ネタマイナー過ぎるだろwべるぜバブは知ってるけど。
いぬまるくん自体、知らないのにさらにその読み切りってw
信玄と謙信の2人が仲良さげでズレてて面白いですねw
魔族たち相手にも武将なら引かないだろうな。


54作者の都合により名無しです:2011/04/18(月) 00:17:42.07 ID:i9/v2XeJ0
>>1さん&テンプレ作成者さん
おつ華麗さまです! 70か……あと30、頑張りたい(頑張って欲しい)ところです。

>>サマサさん(ケーキで騒ぐところはお子様、酔い潰れるところは大人。そんな御一同ですね)
こうやって、レッドさんが他キャラを眺めていくと実感しますね。超・超人であり、ヒモでチンピラ
だけど、彼はいつも読者目線のカメラアイ。やっぱり主人公キャラだなと。しかし鬼だの妖怪だのが
溢れてるこの世界で、彼は何だと思われてるんでしょ。凄く強い人間? それとも種族・ヒーロー?

>>スターダストさん
ああ。何ヶ月、いや何年か? 待ち望んだ光景が今ここに。この三組、はっきり言って全部全員
相思相愛ですから(約一名は否定するでしょうが)、その仲良さを見せられた生徒たちがどう
出るか。総角に熱烈アピールしてくる女の子、それを見た小札は? とか。ラブコメが楽しそう!

>>ぽんさん(お久しゅうございます! ぜひまたご執筆を!)
前作を読んだ時には、私はまだネウロ未読でした……懐かしい。フルメタなんかもそうですが、
こういう常識ギャップネタ好きですね。本作の場合、時代も性別も超越してて、でも誰もが
知ってる有名人というのが可笑しく、また二人が純朴にいい人なのが読み心地良かったです。
55ふら〜り:2011/04/18(月) 00:19:04.08 ID:i9/v2XeJ0
おっと失敗。
名無しはせんぞと誓った身ゆえに一応申しておきますと、>>54は私です。
56作者の都合により名無しです:2011/04/18(月) 09:08:16.22 ID:VDrVtyB80
おお、スターダストさんにぽんさんが復活してる。
スターダストさんは復活ってほど間は空いてないか。
これでまた盛ってくれれば。。
57作者の都合により名無しです:2011/04/18(月) 15:14:09.24 ID:KSlI3QaL0
永遠の扉の学園シーンを読むと
男子校で女子との甘酸っぱい学園生活の無かった
我が高校時代を思い出して切なくなってくる…。

ま、男子校でもそれなりに楽しかったし
大学行ってから遊びまくって今までに200人以上セックスしたけど
それよりこういうほんわかした男女関係を経験してみたかった…

肉体関係無しで男女がちょっとした事で
どきどきしたり喜んだりしたり出来るのって
高校生までだよなあ。
58作者の都合により名無しです:2011/04/18(月) 18:13:18.17 ID:OhxFxapt0
200人だとてめえ・・!
59作者の都合により名無しです:2011/04/19(火) 20:41:54.35 ID:Im7wSOfc0
スターダストさんもきっと充実した高校時代を送ったんだろうな・・
うらやましい。
小札みたいなやかましくてちょっと可愛い子と席近かったけど
全然仲が良くなれなかった。

ぽんさん復活乙です。ぜひ連載をしてください!
60永遠の扉:2011/04/21(木) 02:23:22.17 ID:gpabAI0W0
(とにかく、もりもり氏(総角)と小札氏は3年へ編入。早坂姉弟たちの監視を受けている! 無銘と鐶副長はどう見ても小
学生だけど1年生だ! 監視は防人戦士長と毒島氏!)
 そして2年生が貴信と香美。見張り番は斗貴子と剛太(体験入学扱いとかで特別に教室にいる)である。
(しかし香美はあまりに動物動物しすぎている! 学校はニガテのようだ!)
「うー。何さ。ヒマじゃん。ヒマ! なんでじっと座っとらなあかんのさ。遊びたい! あーそびたーい!!」
 セミロングの髪をツンツンに尖らせた少女は先ほどから落ち着きなく唸っている。身を丸めて机を揺すったかと思うと急に
体を伸ばしてハエに飛びかかったり……まったく授業を受ける様子がなく、教師も生徒もただただ唖然と香美を眺めている。
「じゃあ一緒に授業ふけない? ハニー!!」
 ただ一人香美に声をかけるリーゼント──岡倉英之──に関してはその伸びきった鼻の下や胸にばかり行く目線からして
下心がバレバレである。まったくまともではない。
 蔑視。どん引き。下心。それらに斗貴子の殺意が加わって、教室はまったく恐るべき空気に包まれていた。
 香美もとうとう限界に達したようだ。とても真剣な表情で、何度も何度も拳を突き上げつつ訴える。
「遊びたい! 絶対! 覚えて! みたい! すーぱーせんたいれっつごー!」
「静かにしろ!! というか何を覚えたいんだ!!」
(まったくだア!!!!!!!!!)
「あだ! 痛い痛いご主人! よーわからんけどつねるのはやめて! え、なに? 静かにしろ? う、うん。そーする」
 香美の頬をつねりながら貴信は心中詫びる。この教室に生けとし生ける総ての者に、詫びる。
 周囲からすれば「騒いでいた少女がなぜか急に自分の頬をつねりだし、誰かに謝っている」という不可解極まりない光景
だが、それはそれ。仕方ないと割り切るしかない。

 元がネコの香美だ。学園生活を送るたび、周囲を騒がせている。
 そもそも。
 ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズという組織名を見ても分かるように、この音楽隊の構成員の大部分は動物型である。
とはいえ実のところ、どういう訳かロバ型(小札)とニワトリ型(鐶)に関しては人間時の人格がそっくりそのまま残っている。
基盤となった生物の自我が宿主の精神を喰らい尽す……そんなホムンクルスの”仕組み”からすれば驚くべきコトだが……
(レティクルエレメンツ! 僕たちをホムンクルスにした組織にはそれだけの技術力がある!!)
 まだ母胎にいる頃、妊娠第7週目の「胎児以前」の状態に幼い体を埋め込まれた無銘でさえ、その精神が完全に動物の
ものとは言い難い。
 だが香美だけは違う。
 その精神は、純粋な、「ホムンクルス幼体」の基盤(ベース)の生物のままである。
 いわば香美はパピヨン謹製の動植物型ホムンクルスたちにこそ近い。
 そのため人間社会の規則や法律というのはまるで理解できない。貴信のサポートがなければ携帯電話やパソコンといった
文明の利器はまったく使えないし、音楽隊の中では唯一いまだ武装錬金を発動できずにいる。(もっとも牙や爪などの本能
的な戦いしかできない動植物型の不文律や、人型ならではの特権──武器使用の概念あればこその武装錬金発動──か
ら考えれば香美こそ普通といえるのだが)
「黙っていないでキミも栴檀香美を窘めたらどうだ。いちいち頬をつねるのは目立ってしかたない」
 苛立たしげな囁きに貴信は現実世界に引き戻された。「見れば」深刻な表情の斗貴子が眼前にいる。こちらを振り返る無数
の生徒も見えた。
「というか、いつも気になっているのだが……栴檀香美に呼びかけても”見える”のか? いちいち後ろに回れとか言われたら
その、困るのだが」
『あ! それは大丈夫!! 僕と香美は視界などの五感を総て共有しているからな!!』
 と大声で答えた貴信は後悔した。(馬鹿!)と顔をしかめる剛太の後ろでざわめきが起きた。
「何、いまの声?」
「誰?」
「すっげ大きな声!」
「というか何であのコ学ラン?」

 やってしまった。
 香美の髪の中で貴信は口をぱくぱくとさせた。

「ふ、腹話術だ!! ここここのコの特技は腹話術だ!! そうだったな栴檀香美!」
 うろたえながらも腕を広げ、必死に生徒たちへ呼びかける斗貴子。いよいよ疑念を持って注視する生徒たち。
 香美だけが目を細め、呑気に質問した。
「あー。おっかないの。ひょっとしてあたしらかばってくれてるわけ?」
61永遠の扉:2011/04/21(木) 02:26:12.93 ID:gpabAI0W0
(だ!! 誰がかばうか!! ホムンクルスが学校にいるとバレたら色々マズいんだ!! この学園はDrバタフライと
調整体の襲撃を受けたコトがある!! その時の恐怖がまだ残っているコもいる! ホムンクルスの存在を知られる訳に
はいかないんだ!!)
 小声でまくしたてる斗貴子の表情はかなり恐怖の度合が濃い。それだけ生徒達を大事に思っているのだろう。……貴信
の瞳が俄かに潤む。元人間として、そういうまっすぐな使命感はとてもとても好ましかった。
(香美。この津村斗貴子はおっかなく見えるが実はかなりいい津村斗貴子だ!! 困らせるのはよそう!!)
 内心で呼びかけると──意識を共有しているゆえの利点だ──香美は一瞬目を点にした後、ぶんすかぶんすか全力で
かぶりを振った。
「うん! うん! そ! そ! 今のふくわじゅつじゃん! よーわからんけどあのご主人の声はさ、あたしのじゃん!」

「なんだ腹話術か」
「腹話術ならしょうがない」
「可愛いからいいや!」
「なんかこうぐっとくるよな。女のコの学ラン姿って!」

 がやがやとそれぞれの感想を漏らしながら、生徒達は黒板に目を向けた。
「……」
 意外そうに目を見開く剛太に香美は「にゃっ!」とブイサインを繰り出し──…。
 同時に斗貴子は細く息を吐き、ホッと目を閉じた。しなやかな肢体からは見る見ると力が抜け、緊張状態を脱したのが
見てとれた。
(良かった。何とかホムンクルスの存在を隠せた)

 その時である。
 貴信の視線が、ある一点に吸いついた。

 後ろの席にいる男子生徒。いやに恰幅の良い、それでいて気弱そうな青年。
 その瞳へと……視線が吸い込まれた。
 平たくいえば「目があった」。
(マズい!!)
 貴信の動揺に気付いたのか、青年も慌てて瞳を逸らす。
 友人、だろうか。隣席の少年──短髪で眼鏡をかけた、いかにも優等生な──に呼びかけるのも見えた。
(は、はは! 気付かれた!?)
 指こそ指してこなかったが、貴信の存在について囁き合っているのは明白だった。
 なぜなら香美の優れた聴覚が、こんな会話を拾ったからだ。

「本当だって六舛君。あのコの髪の中に、目が……」
「静かにしろ大浜。斗貴子氏の知り合いならそれ位普通だ」

(どどどどうすれば……!!)

「2人で1つの体を共有している」

 異形の貴信にとってそれは恐怖だった。

(ば、バラされたらどうしよう!! 香美はともかくここここんな顔つきの僕だ! 絶対化け物扱いされてしまう!!)

 誰よりも人間らしいホムンクルスは、ただひたすら怯え始めていた。

「というか何でお前学ラン姿なんだよ?」
「よー分からんけど、ご主人が「女モノだと交代後、大変なコトになる!」とか言ってたじゃん。だから黒いじゃん

 そこでチャイムが鳴り、銀成学園は昼休みに突入した。


【銀成学園。廊下】


 購買部へと続く細い通路を白と黒の粒が流れていく。擦れ合い混じり合いながら、玄関へ、教室へ、曲がり角へと吸い込
まれ、吸い込まれたのと同じだけの粒が吐き出され、流れは永遠に続くように思われた。
62永遠の扉:2011/04/21(木) 02:28:47.76 ID:gpabAI0W0
 白い粒は女子生徒だ。いささか遊びすぎのきらいのある愛らしい制服から溢れんばかりの活力を放ち、人いきれを形づく
り、思い思いの方向へ歩いて行く。黒い粒はいうまでもなく男子生徒だ。質素な黒い学ランは男子特有の熱い匂いを振り
まきながらのっしのっしと進んでいく。
 その中でひときわ人目を引く生徒がいた。何かあったのか、窓際でじっと立ちすくむその生徒は、雑多様々の白黒たちから
会釈を受けたり質問されたりしながら、じっとその場に留まっている。途中「オウどうした?」と声をかけたのは彼の僚友たる
剣道部員たちだが、結局最後まで真意を知るコトはできなかった。
 恐ろしく端正な顔立ちの青年だった。短くも豊かな髪はうっすらと汗に湿り、えもいわれぬ色香を振りまいている。
「……えーと」
 早坂秋水はこめかみを押さえながら窓の外を見ていた。すぐそばの柱に靠(もた)れる金髪の美丈夫は落ち着いたもので
じっと目を閉じている。もっとも口元はニンマリと裂けているし、時おりくつくつと震えるところを見ると余程何かが面白いらしい。
 そんな金髪に油断ならない目線を送っていた桜花もいまでは、「あらー」としまりのない笑いを浮かべている。
「いったい何が。いったい何がーっ!!」
 小札はバンザイしつつ窓めがけピョコピョコ飛んでいるが、いまだ届く気配はない。

【窓の外。銀成学園中庭】

「ドーナツおいしい? ひかるん?」
「はい……おいしい……です」

 小箱を抱えたまひろが満面の笑顔で鐶にドーナツを与えている。
 後ろにはやや引き攣った笑みの千里が居て、その背後にはシルバースキンを見に纏う防人とガスマスク(毒島)。
 どこまでもどこまでも追い続けてくる彼らに沙織などは半泣きで、振り返るたび笑いながら泣いている。
「ま、まだついて来てる」
「目を合わせない方がいいよ沙織」
 絶賛猫かぶり中のヴィクトリアの後ろでは、なぜか無銘がガタガタと震えていてもいる。
「は、早く合流しましょうよ防人戦士長。早くしないと火渡様が……」
「確かにな。戦士・剛太からも催促が来ている。とはいえせっかくあのコに友達ができそうなんだ。あまり急かすのも無粋
というかなんというか」
「防人戦士長!? メール打っているようですが、まさか少し遅れそうだとか連絡してるんじゃあ」
「ブラボー。その通りだ!」
 メールをする銀色怪人の前でガスマスクがうっうと泣く。
 一言でいえば、異常な状態だった。
 にもかかわらず鐶はそんな状態にすっかり慣れたという感じで、当たり前のように、まひろの施しを受けている。




「あの鐶を……手なづけている……」
 冷え切った声で秋水は呟いた。顔面はすっかり色褪せ、形のよい顎からは冷や汗が滴っている。驚愕の程が伺えた。
「フ。さっそく友達ができたようで結構結構。奴は姉のせいで引っ込み思案だからな。ああいう明るい女子とはどんどん触れ
合うべきだと俺は常々思っている。しかしあのコ、無敵だな」
 窓を覗きこんだ桜花が思わず口を押さえた。まひろが鐶に飛びかかり、背中越しに頬ずりをしている。
(おもちゃ? あんなに強かったコが……おもちゃに……)
 ぷるぷると笑いに震える桜花の姿にも秋水は呆気に取られ──…
 小札はバンザイしつつ窓めがけピョコピョコ飛んでいるが、いまだ届く気配はない。
63永遠の扉:2011/04/21(木) 02:37:09.27 ID:gpabAI0W0
「ねーねーびっきー。むっむーの顔色悪いけど大丈夫かな?」
 沙織の声になにか光明を見出したのか。無銘は土気色の顔でまくし立てた。
「ああああ、あの、その、そそそそ、その凍らせても燃やしても駄目で鏡もあらゆる忍法も内装ごと無効化されて……」
 歯と歯を火打石のようにガチガチとすり合わせる少年の姿に異常を感じたらしく、まひろが会話に入ってきた。
「なにかあったの」
「さあ。転校してきたばかりだし、緊張しているだけなんじゃないかなあ」
「えへら」と肩を揺するヴィクトリアに無銘は愕然と面を上げ、抗議する。
「え!? ち! 違う貴様が」
「いいのいいの。転入したばかりだから緊張するのも仕方ないよ。あ、そうだ。学校案内しようか? どんなところか
分かれば少しは緊張も緩むんじゃないかな
「ここ、ことわ……」
 いつの間に近づいたのか。ヴィクトリアは無銘の肩を強く掴んだ。間近で、とても爽やかな笑みを浮かべた。
「そ れ が い い よ ね ?


「は、はい……」


「なんでもいいですから合流……! 早く合流しましょうよ……!」

 うなだれる無銘の後ろで毒島が叫ぶ。くぐもった声はまったく悲壮を極めていた。



(あれ? 確か防人戦士長に伝えるべきコトがあったような……? でも、思い出せません……)



「…………」
 無言で無銘を指差す秋水を見た総角はまず金色の前髪をゆっくりとかき上げた。そして柱から身を起こし、窓枠に頬杖
をつきながらまひろたち一行を微笑混じりに見回して──…大きく肩を窄めて見せた。

「フ。あのお嬢さんと何かあったな。そして負けた。それも仕方ない。何故なら無銘はアリモノを使う人種だからな」
「……?」
 言葉の意味を測りかねたのか。眉を顰める秋水に勿体ぶった解説が刺さり始めた。
「忍びという奴は人心だの地形だのといったアリモノを回して旨味を掠め取る生物だ。しょせん英傑とは言い難い人種……
目一杯の敵意が「忍びをすり潰す」そのためだけに人心や地形を拵えらえてきたら即投了の即詰みさ。英傑ならそれも
試練と乗り越えられるが忍びは違う。自身に向かう全力の敵意をどうにもできぬと分かっているからこそ忍ぶ。故に忍びだ」
「実はかの特性、巨大な武装錬金相手では不利なのです! 例のウロコ状の物体が隅々に行き渡るまでかなりの時間を
要しまする。そも手に持てるものでさえ3分のラグをばあります故! そして今度こそ届く筈! とあー!!」
 小札はバンザイしつつ窓めがけピョコピョコ飛んでいるが、いまだ届く気配はない。
「つまり……地の利を得られるヴィクトリアは天敵か。地上ならともかくアンダーグラウンドサーチライトの中へ引き込まれれば」
「そう。どうにもならないだろう。並の罠なら逃げるコトもできるだろうが……フ。地下ともあればそれも不可。あと俺はそれほど
忍びを軽蔑していないぞ? 俺のような英傑にとって忍びは必要不可欠だからな。そうだろ秋水。忍びもまた俺のような英
傑を必要としているよな秋水」
(……ちらちらと俺を見るな。英傑云々への反応を期待するな)
 どうも総角、本気で自分が英傑だと信じている訳ではなさそうだ。むしろ突っ込んで欲しいらしい。
 桜花はそんな総角に慈母のような微笑を送った。
「いま気付いたのだけど、ヴィクトリアさん、秋水クンがあれだけ苦戦した無銘クンに勝てるってコトは」
「流したか桜花。無視したか桜花。ひどいな。時々ひどいよなお前。まあいいけど」
 総角は「ちぇっ」と舌打ちしつつにこやかに人差し指を立てた。
「フ。そうだな。相性の問題もあるが、実はあのお嬢さんの武装錬金、かなり強い。俺も使ったコトがあるからこそ分かる。地下
限定とはいえ、自分の周囲の環境をだ、自分好みに都合よく造り替えられる。まったく反則的能力だ。そういう意味では毒
島という戦士のエアリアルオペレーター……周囲の気体を操作できるガスマスクと同じくらい強い。フ。まったく彼女らが俺
たちブレミュと敵対していなくて良かったと思う」
「すでにやられているんだけど。無銘クン」
「フ。アレはスキンシップだ。豪傑難敵を打ち負かす主人公といえどか弱い女のコのパンチには成す術なく吹き飛ばされるも
のだ。俺も大概強くて美形でカッコいいが、小札に「馬鹿ー!」とか殴られたら地平線まで飛んでいくのさ。飛んでいきたいな。
ああ飛びたいともさ。ベタなラブコメの文法を守らぬほど俺は無粋じゃあない。フ…………」
64永遠の扉:2011/04/21(木) 02:39:26.21 ID:gpabAI0W0
「何の話……? 総角クン」
 ダンスを踊るような手つきでうっとりする総角や大いに困惑する桜花をよそに。
「…………体力が6ケタぐらいのユニットを……説得して……仲間にしたのに……急に4980ぐらいの体力で……紙装甲で……
命中率25%ぐらいの攻撃にさえ……ばかすか当たりまくって……沈みます。無銘くんは……それ、です。味方補正、です」
 秋水が総毛だつ思いをしたのは、突然、窓ガラスに虚ろな目の少女が張り付いていたからだ。
 鼻と両手の皮膚が黄色くなるほどびったり密着している彼女はどこを見ているかも分からないぼやけた瞳のままボソボソ呟い
ている。鍵がかかった窓を時々ガタガタ揺らしたりもした。ゾンビが建物に入ろうとしているようだった。
「でも私は育てるのよだって無銘くんが大好きだから弱くてもいいの味方補正で弱体化してもいいの重要なのはキャラ性よ
無銘くんが無銘くんである限り私は育てるのパーツいっぱいつけて沢山改造してPPとことんつぎ込んで避けまくりーの当てま
くりーのの糞火力にするの最強にしたいの大好きだからいつもいつでも誰より強くいて欲しいのでも秋水さんに負けたりする
事もあってそれはなんだか残念なの悔しいの悲しいのだって最強で憧れでカッコいい無銘くんが負けるなんてあり得ない
あり得ないあり得ないあり得ないうふふあははそうよそうよ秋水さん背後から刺した時気持ちよかったの復讐できたって感じで
とてもとても気持ち良かったのでも今度はあんな女なんかに負けてやるせないの悔しいの悲しいのどうすればいいのねえ
どうすればいいの秋水さん教えて欲しいのやっぱり刺すべきなのでも根本的な解決にはならないわよねねえじゃあどうすれば
いいの教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えなさいよねえ!」
「や、病んじゃってるー!!」
 どこからか出てきた御前がムンクよろしく叫び、股間から魂の汗さえ噴き出した。
 鐶。彼女は。
 怪奇現象のようだった。秋水でさえ見た瞬間、鼓動を嫌というほど跳ね上げていた。鐶だと分かってからもなお「来るなら
普通に来てくれ」と冷や汗混じりの情けない表情で訴えるのが精いっぱいだ。
「光ちゃん、そんなキャラだったの……?」
「お姉ちゃん風……です。本音では…………ありません」
 恥ずかしそうににへらと頬を綻ばせる鐶に桜花は寒々とした物を感じた。果たして本当に本音ではないのだろうか。とは
いえノーブレスの淡々としたまくし立ては確かに

”鐶以外”

 の声だった。彼女以上に楚々とした、たおやかな、妙齢の女性の声だった。
(姉……? 確か鐶をホムンクルスにしたという……『玉城青空』のコトか?)
 鐶(モノマネが得意)の口が再現した美しい声に秋水はおぞましい物を感じた。
「え……ええと、本当に本当に……本音では……ありません……ただ……お姉ちゃんの真似がしたくなった……だけで……」
 空気を察したのか、鐶はおろおろと首を振り始めた。赤い三つ編みが昼の光を切るように揺らめき、いかにも可憐な様子
である。
「フ。話半分で聞いておけ。こいつは姉ほど病んじゃいないが、見た目ほど可憐を極めてもいない。実は結構いい性格だぞ?
事実自分を虐待した姉をゲームで徹底的にボコボコにし何度も何度も泣きべそをかかせている」
 総角の呟きに鐶は「リーダー……」とだけ呟いて俯いた。秘匿すべき不利な事実をばらされたという諦観しかそこになかった。
「……まさかとは思うけど、光ちゃん、秋水クン刺した時、気持ちよかったの…………?」
「今は……そんな事はどうでもいいんだ……です! 重要な事じゃない、です!」
 ガラスから一歩引いた鐶は珍しく慌てた様子で上を指差した。



「早く……屋上にいかないと……津村さんが……キレ……ます! きっと人質の貴信さんたちの命が……マッハで、ピンチ、です!」



 あり得る話だ。いらつく斗貴子の前にホムンクルス! 剛太が傍にいるとはいえとても危ない状況だ。
 急ぐべき状況だ。
 一同は息を呑み、咳き込むように叫んだ。


「誤魔化そうとしてるってコトは光ちゃん、やっぱり秋水クン刺して気持ちよかったんじゃ……!?」
「俺の件はともかく、ヴィクトリアへの復讐など考えない方がいい! 無銘の立場が悪くなる! まずは話し合うんだ。俺も仲裁する!!」
「フ。貴信達を引き合いに話を逸らそうとしても無駄だぞ鐶! まずは先ほどの姉真似がどこまで本気か検証しようか……!!」


.
65永遠の扉:2011/04/21(木) 02:46:14.99 ID:gpabAI0W0
 ひっと息を呑み後ずさる鐶だが状況はますます悪くなる。
 まず防人が後ろから「確かに誤魔化しは良くないな!」とがっしりと押さえつけ、その上にまひろが飛び付いた。
 元よりシルバースキンリバースで拘束されている鐶だから逃げ場はない。
 沙織がはしゃぎ千里が困り、ヴィクトリアが笑う中、無銘だけが「古人に云う。賢士は苛察せず」とばかり「突っ込むな」と
擁護をするが一度沸騰した場の雰囲気はどうにもならず、女性陣の冷やかし──かばってる→つまり無銘は鐶が好き? なる
邪推──でますます混迷ばかりが深まっていく。
 そんな中。
 小札はバンザイしつつ窓めがけピョコピョコ飛んでいるが、いまだ届く気配はない。
「なんでもいいです……でも早くしないと、私が、火渡様にお仕置きされてしまいますー!!」
「大丈夫だ! その辺りは俺が責任を持って処理する! フム。楽しくなってきたな。いっそ戦士・斗貴子たちもココに呼ぶか!」
 気楽な調子でメールを(胸の中でもがく鐶を事もなげに抑えながら。恐るべき膂力だった)打つ防人は気付かない。
 背後の毒島がおぞましい紫の気迫を漂わせ始めたコトを。
「いい加減……」
「ん?」
 振り返った時にはすでに何もかもが手遅れだった。
 ゴーグル越しでも分かるほど双眸に異様な光を湛えた毒島が居た。ガスマスクの円筒は白い煙を吹いていた。
「いい加減に……」
 後頭部から伸びる無数のチューブは今やその総てが逆立っていた。
 どれも尖端からは青白い気体が噴出しており、振りまかれるひどく不快な刺激臭は彼女がどれほど本気で怒っているか
雄弁に物語っていた。
「待て。戦士・毒島。キミはまさか──!」
「フ」
 余裕の笑みの総角が小札をお姫様だっこし廊下の奥めがけ逃げ出す頃……いくつも林立する銀成学園校舎。その間を
くぐもった怒りの叫びが駆け抜けた。
「いい加減に合流して下さいー!!!!」


 そして。
 爆発的事象を伴う煙がその場に居た総ての人物を覆い隠した。


 やがて煙が晴れた頃、立っている者は数えるほどしかいなかった。
 まひろは目をくるくるさせながら仰向けに倒れており、その横には目を×の字にした沙織の姿。うつ伏せになった千里の
の表情は当然分からないが、喪神しているのは明らかだった。「なんで私まで……」と魘されるのはヴィクトリアで、無銘は
なまじ毒への耐性があるせいか気絶もできず地面をのたうち廻っている。(優れた嗅覚に刺激臭がダイレクトヒットしてもいた)

「……ええと」
「すみません」
「大変なコトに……なりました」

 防護服とガスマスクとで難を逃れた防人と毒島と鐶は「あ」という顔で揃って廊下を覗きこんだ。

 所詮学校の窓である。気密性は薄かった。それゆえ煽りを受けたのだろう。

 早坂姉弟が白目を剥いて気絶していた。蟲のように地面に落ちた御前が泡を吹いて痙攣していた。
 通行していた無数の生徒たちもバタバタ倒れ始めている。


 つまり銀成学園は、おおむね平和だった。
66 ◆C.B5VSJlKU :2011/04/21(木) 03:36:37.77 ID:gpabAI0W0
通ってた高校はたまにカレーが出たかと思うと毒ガス撒かれるような場所で
カレーいっぱい喰ってる人ほどげえげえ吐いて吐瀉物で窒息死でした。
まったく充実の生活でしたね。余裕の音だ。馬力が違いますよ。
67作者の都合により名無しです:2011/04/21(木) 17:38:15.81 ID:VHCanTg00
おおスターダストさん連続更新お疲れ様です。
しかし後書きが病んでるw大丈夫かw

まひろや岡倉たちだけでもやかましいのに音楽隊たちが混ざったら
流石に危なかしいまでの騒がしさですな。
怪人たちにとってはごく平和な日常でも一般生徒にとってはサバイバルだ。
怪しい気体で倒れたりする事など日女茶飯事なんでしょうなあw


>窘めたらどうだ
>と魘されるのは   すいません普通人には読めないと思いますw
68作者の都合により名無しです:2011/04/22(金) 00:15:46.18 ID:0e9wPXc20
やっぱりカオスっぽくなっちゃうねw
演劇、見たいけどこの面子だから波乱があるよなぁ
〜一触即発〜

夜を照らすは、幽(かす)かな月光。
時に暴力的に焼き付ける太陽の光ではなく、包み込むように淡く、優しい温もりだ。
「またしても人の家に入り込んで、好き勝手な事ばかり言って…傲慢ね、吸血鬼(ヴァンパイア)」
優艶にして幽玄なる亡霊姫―――西行寺幽々子。 
「あら、御免あそばせ。あんまりにもボロっちいから、廃屋かと思ってしまったわ、亡霊(ゴースト)」
可憐にして苛烈なる吸血姫―――レミリア・スカーレット。
「…………」
彼女らの対峙を、ジローは息を詰めて見守る。
言葉こそ剣呑だが、幽々子もレミリアも本気で怒っている様子ではない。
両者ともに、口論を楽しんでいる風情がある。
ありがたい事だ、とジローは胸を撫で下ろす。
レミリアの強大な異能力と、サンレッドにも匹敵しうる絶大な戦闘能力は既に知っている。
幽々子の力は未知数だが、こうしてレミリアと平然と向かい合っている事から見ても、決して弱くはなかろう。
そんな二人が激突するような現場には、正直居合わせたくないというのが本音だ。
「で、かのレミリア・スカーレットともあろう者が、どういう御用件なのかしら?」
「さっきも言った通りよ。ジローに会いに来たわ」
ジローを見つめて、レミリアは意外な表情を浮かべた。
それは友好と、親愛の微笑み。
「こんな辺鄙な場所で、折角出会えた吸血鬼の仲間ですもの。仲良くしたいと思って」
「嘘ね」
幽々子は、断じる。
「いえ…というより、本当の事を半分しか言ってない。貴方の目当てはコタロウでしょう。まずは外堀から埋めよう
と、ジローに近づくのかしら」
「あら…邪推ね。そんな事しなくても、コタロウとは、もうお友達よ」
「レミリア・スカーレット。貴女が賢者イヴに憧れるのも、崇敬するのも勝手だわ。けれど、そんな感情をジローや
コタロウにまで押し付けないで」

「勝手なのは貴様だろう、西行寺幽々子」

ざわり―――と、大気が揺らぐ。
レミリアの目が見開き、紅き瞳が憤怒で爛々と輝いている。
「貴様や八雲紫はどうなんだ。あの方の―――賢者イヴの事があったから、ジローとコタロウの世話を焼いている
のだろうが。自分達はよくて、他の奴はダメ?巫戯化(ふざけ)るなよ」
「レミリア…」
「ああ、そうだとも。あの方の事があるから、私は二人に興味を持った。切っ掛けは確かにそうだ。だが、切っ掛け
など、それでいいだろう!興味を持った、だから色々と話をしたい、友達になりたい―――それの何が悪い!」

「―――何も、悪くなどありません」

それまで口を挟まず、二人のやり取りを静観していたジローが口を開いた。
「貴女は何も悪くありませんよ、レミリア」
「ジロー…よしなさい、こいつは危険よ」
「西行寺殿。心配して下さって、ありがとうございます…けれど」
彼女は、私に会いに来てくれたのです。ジローはそう言った。
「少なくとも、我々と友達になりたいという…そんな彼女の言葉に嘘や悪意はない。そう思います」
「それは…そうだけど」
「だから二人とも、そう喧嘩腰にならず。話くらい付き合いますよ」
ジローは帽子を取り、恭しく腰を折って、レミリアに向けて手を差し出す。
「幼くも偉大な真紅の姫君。こんな皮肉屋の青二才でよければ、貴公の夜の御供を」
「ジロー…」
その手を、レミリアは握り返そうとして。

「ダメですよ、ジローさん。侵入者を甘やかしちゃ」

―――レミリアの細く白い首筋に、刃が押し当てられた。
「こういう手合いは少し、痛い目見せないと反省しないものです」
月明かりを反射し、鈍く煌めく長刀。
装飾の殆ど施されていない、無骨な鋼。
それを握るのは対照的にたおやかな細腕。
肩で切り揃えられた白銀の髪が、夜風に靡く。
西行寺家が専属庭師にして西行寺幽々子様の警護役かつ剣術指南役―――魂魄妖夢。
酔い潰れていたはずの彼女ではあるが、その顔は既に素面(しらふ)に戻っている。
そう―――どれだけ普段、態度が悪くても、彼女は有能な剣士であり、西行寺家に仕える忠実な従者だ。
不穏な気配を察知すれば、すぐさま駆け付け、敵を討つ為に動き出す。
音もなく、静かに、だが素早く彼女は忍び寄り、レミリアへと肉薄していた。
<半人前>などと呼ぶにはいささか失礼ともいえる、卓越した足運びだった。
だが。
冷たい刃の感触を首に受けながら、レミリアには一切の動揺がない。
ただ静かに、妖夢の目を見ていた。
「さて…真面目な貴女は、不法侵入者である私を斬りに来た、と」
「それ以外に何がある」
「出来るかしら?」
「出来る出来ないじゃない…斬る!」
そして、言葉通りに刀を―――振るえなかった。
「…え?」
それどころか、指一本動かせない。全身が、石のように硬直している。
「こ…これは…!」
「だから半人前なのよ。吸血鬼相手に、目を合わせるなんて…」
吸血鬼の持つ異能が一つ―――
<視経侵攻(アイ・レイド)>。
視線を媒介として魔力を直接送り込み、対象の精神に干渉し、支配する魔術。
吸血鬼にとっては念動力である<力場思念(ハイド・ハンド)>と並び、基本ともいえる能力だが、同時にあらゆる
魔術の基幹でもあり、応用の幅は広い。
特に、レミリアのように強大な吸血鬼ともなれば、一瞬にして妖夢の自由を奪う事など、造作もない。
「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけ―――とは有名な言葉だけど、ねえ、妖夢」
その指先が―――鋼をも容易に引き裂く指先が、妖夢の首筋にかかる。
「貴女…覚悟があって、私に剣を向けたのかしら?」
「あ、う、ううう…!」
「心配ないわ。殺す気までないから」
レミリアは―――真紅の悪魔は、見る者の背筋を凍らせるような、凄絶な笑顔を浮かべる。
「ちょっと、生まれてきた事を後悔してもらうだけよ」
「ひぅっ…」
「―――!いけません、レミリア!彼女をはな―――」

「手を、離しなさい」

決して大きくはない、だが、有無を言わせぬ言葉。
―――西行寺幽々子。
だがそれは、普段の人を茶化したような彼女ではない。
其処にいるのは冥界を支配し、亡者を支配し、死そのものを支配する、幻想郷最強の亡霊だ。
反射的に、レミリアは妖夢を突き飛ばす。身体も動かせぬまま、受け身も取れずに倒れこみそうになる彼女をジロー
が支えた。
どれだけのプレッシャーがかかっていたのか、妖夢はまるで雨に打たれたように汗で全身が濡れている。
レミリアはもはや妖夢には目もくれず、幽々子を睨み付けた。
「言っておくけど、今のは正当防衛よ」
「我が庭を踏み荒らした侵入者がふてぶてしい…ジロー」
幽々子は、ジローに目配せする。
彼女の目はこう言っている…妖夢と一緒に、安全な所まで避難しなさい、と…。
その意図を察し、ジローは妖夢を抱えて白玉楼の屋根へと飛び乗った。
妖夢の細い体躯を、静かに横たえる。
「妖夢さん、しっかり」
「だ、大丈夫…と、言いたいんですが…まだ、身体が…」
「…失礼」
妖夢の目を覗き込み<視経侵攻>によって、彼女の精神へと入り込む。
その中に巣食うレミリアの魔力の残滓を、一つずつ丁寧に断ち切っていく。
程なくして、妖夢がぎこちないながらも自力で起き上がると、ジローは安堵の息を漏らした。
「レミリアが全力でなくてよかった。彼女が本気だったら、私では手の施しようがない所でした」
「はあ…なるほど。あれで彼女なりに、手心を加えていたという事なんですかね」
気落ちした様子で、妖夢は顔を伏せる。
「ざまぁありません。どや顔で出てきてこれです…すいません。私、相当に空気読めない事をしましたね」
「全くです」
「こんなザマでは、ミストさんの事を笑えません」
「いや、誰ですかそれ」
「神霊廟で自機返り咲きなもんで、ついついテンション上がっちゃって」
「悪い方向に上げすぎです…それはまあ、置いといて」
ジローは腰に提げた鞘から、銀刀を抜き出す。
「何をするつもりですか、ジローさん」
「無理かもしれませんが…止めに入ります。あの二人が闘えば、ただではすまない」
「無理です」
断言された。
「下手に割って入れば、死ぬだけです」
「しかし…」
「死ぬだけですよ。特に…」
妖夢は、己の主を―――西行寺幽々子を見つめる。
死を司る、亡霊姫を。
「特に、幽々子様の邪魔をすれば、死ぬ以外にはありません」


赤く、紅い―――鮮血の如くに緋い吸血鬼が、牙を剥き出しにして嗤う。
「いい加減に適度に話を進めて、いい具合に適当に殺し合う…ふふ。こういうのも、我々らしいかしら?」
その矮躯から噴出し、迸る力が、真紅の霧へと形を変えていく。
吸血鬼がその力を振るう際、その身から自然と漏れ出す幻の霧―――<眩霧(リーク・ブラッド)>
だがレミリアの眩霧は、既に物理的な破壊力すら秘めている。
弱い妖怪ならばそれに触れただけで、瞬時に灰と化してしまうだろう。
対して。
白く、淡い―――桜花の如くに儚い亡霊姫が、扇を広げて幽雅に微笑む。
「あら、殺し合いなんて人聞きの悪い…これから始まるのは、一方的な処刑よ」
じわじわと。じりじりと。じくじくと。
幽々子の発する霊気に触れた草花が萎れて、枯れて、腐り落ちていく。
原因もなく、過程もなく、意味もなく、ただ<死>という結果だけが、そこにはある。
<死>
それこそが、西行寺幽々子の本質であり、本性だ。

対立する二人は、同時に吼えた。

「―――花のように散るがいいわ、白き亡霊!」
「―――灰に還って散るがいいわ、紅き悪魔!」
73サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/04/22(金) 09:09:51.90 ID:9h+0sNON0
投下完了。前回は>>23より。
バキスレに復活の兆しが見えて嬉しい限り。これで僕は、心置きなく逝け…
いや、書き終えるまでは死にませんけどw
学園生活とか柔道部の友達(身長180p・体重100s超)と下ネタばっか話してた記憶しか
ねえよコンチクショウ。

>>25 超越的な力を持った人外に、チンピラが拳一本で立ち向かうとか燃えね?ね?
    スターダストさんやぽんさんが来てくださって嬉しい限りです。
>>26 俺…レミリアお嬢とデートできるなら、血液全部あげてもいいよ…(ダメ人間)

>>27 いるじゃないですか、えーと…えーと…(汗)

>>28 いや、ダラダラどうでもいい事を書いてるだけだったりしますw

>>スターダストさん(お帰りなさい!)
ダメだこの高校…早くなんとかしないと…。
傍から見てるだけなら賑やかなんですが、実際に巻き込まれる生徒達は大変ですね。
しかしこの場にカズキがいたら、真っ先に誰よりも馴染んでそうな…早く月から戻ってこーい。

>>ぽんさん(お久しぶりです)
まさかの信魂さん&べるぜ…!いぬまるだしっは最近のジャンプの中で、唯一コミック買ってる漫画だったりしますw
春日部の園児って、やはりしんちゃん…
不良じゃなくて古市をぶん殴っちゃう辺りが男鹿らしくてよかったです。
また新作を待ってます!

>>ふら〜りさん
実はレッドさん、作中で一番の常識人だったりするんですよね…チンピラでヒモだけど。
一応分類としては<種族・ヒーロー>になるんじゃないかと。人間じゃあ…ないよな。

>>57 200人だと…!オブラートに包んで言わせてもらいますがおすもうさんにGEKITOTSUされて市ね。
74作者の都合により名無しです:2011/04/22(金) 14:39:38.50 ID:RK0RwlUr0
レミリアと幽々子って幽々子の方が強いようなイメージだけど
実際の強さランクはどうなんだろう?
東方は上の方が密集してるからなぁ
個人的には幽々子の方がすき。
75作者の都合により名無しです:2011/04/22(金) 20:55:53.51 ID:1unROEDl0
>スターダストさん
毎日が学園祭のような学校だけど、より姦しい連中が
外部からやってきて収拾がつきませんね。
それでも全てを包み込む銀成学園、全てを受け入れるまひろ。
結局、丸く収まるような気がしないでもない。

>サマサさん
東方それほど詳しくないけど、作中最強レベルの対決かな?
横綱対決とすれば、ある意味トーナメントの決勝より激しくなるかも。
レッドさんはよくこの怪物たちの中に混じって健闘してる。
ヴァンプ様なら今頃消し炭になってる。
76作者の都合により名無しです:2011/04/22(金) 23:21:07.08 ID:1dF3394z0
サマサさんって柔道部だったのか!
なんとなくイメージと違うな・・w
77作者の都合により名無しです:2011/04/23(土) 01:14:54.26 ID:0sjOdbrj0
100kg超級か・・・まー筋肉もろくについてないクソピザなんだろうな
78サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/04/23(土) 08:47:20.14 ID:rIX2jLwb0
ちょっと誤解を招く言い方だったんですが、その友達が柔道部所属だったというだけで、
サマサには武道関係の心得は一切ありません(あったらその経験をSSに活かしてますw)

自分はテニス部でした。まあのほほんとやってる所だったんで、分身したりオーラ出したり
相手を観客席にぶっ飛ばしたりはしませんでしたが。

駄文失礼しました〜。
79作者の都合により名無しです:2011/04/23(土) 17:37:23.72 ID:rGu+5dWR0
スターダストさんもサマサさんも
充実した学園生活を送ったみたいで何よりでゲソ
80作者の都合により名無しです:2011/04/24(日) 00:05:32.78 ID:0sjOdbrj0
しかしニートに落ちぶれ…
81作者の都合により名無しです:2011/04/25(月) 01:55:25.83 ID:uHxmNk2K0
スターダストさんもサマサさんみたいに読み切りを1回書いてくれないかな
永遠の扉のスピンオフでもいいし、他作品でもいいし
なんかさわやかなやつを
82作者の都合により名無しです:2011/04/25(月) 03:02:05.38 ID:8SfKnVNf0
本人がさわやかじゃないからなw
83ふら〜り:2011/04/28(木) 19:00:24.77 ID:Vr6p5VG90
>>スターダストさん
武装錬金の……いや「永遠の扉」の、ベタなラブコメならぬベタな日常パート、ですかね。
殆ど喋らなくても小札は小札だなぁとか、久々に見た「青空」の文字と口真似に、あの病みっ
ぷりを思い出したり。本筋(香美・無銘・秋水&総角)のみならず、隅々まで目を引かれました。

>>サマサさん
うーむ。ケーキを思って壮絶なドラマを繰り広げてた時とはうって変わってこの緊迫感、皆の
威厳。こちらが彼女らの本性……いやどっちも本性か。同じくジローにも(珍しく)なかなかの
威厳を感じたんですが、斬り結ぶサイザーとドラムに割って入るギータにはなれない、か。
84 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/01(日) 00:52:05.21 ID:wqh93qcN0
【銀成学園。屋上】
 
 貴信は床の上にぼんやり座っていた。
 客観的にいえば香美があぐらをかいている状態なのだが、一応彼女と体を共有している身である。貴信もまた「座っている」
といえた。
 香美の目の前には斗貴子と剛太。まだ来ぬ防人たちについて愚痴をこぼし合っている。

 秋らしく床の感触はなかなか涼しい。きょろきょろと落ち付きなく目玉を動かし周囲を見る。一部やけに真新しい床板と
鉄柵が設けられている──屋上につくなり剛太が開口一番指差した。曰くこの前鐶にやられた。1階からここまで吹き飛ば
された。修理の跡だ──以外とりたてて特徴のない屋上だ。人気もない。
 ただ時おり生徒たちの声が下の方から響いてくる。校舎と校舎の間にある連絡通路からだろう。ここまで斗貴子と剛太に
両脇固められつつ『護送』されてきた貴信だ。当たり前だが屋上に行くためにはまず連絡通路を通り、校舎内の階段を登ら
なくてはならない。その道順を反復しつつ、「いかにも楽しそうな」生徒の声に溜息をつく。

(いいなあ!! きっとみんな楽しい学園生活を送っているというのに僕ときたら……!!)

 道中見た銀成学園生徒たちの輝くような笑顔が胸を抉って仕方ない。500mlのパック。菓子パン。幕の内弁当。それらを
ひっさげながら友達たちと昼休みモードでキャッキャしてる学生たち。中にはいかにもカップルという男女もいた。彼らは人目も
憚らず通路の端に座りこみ、手作りの弁当を「あーん」しあっている。それがますます貴信の心を辛くする。人間だったころ、
学生だったころ、円満な人間関係を築けなかった貴信にとって学園生活は地獄──(ハイみなさん2人でグループを作っ
て下さい!……あれ? ○○君だけまだですね。誰かー! ○○君とグループを作ってあげてくださいー!!」)──なのだ。

(て!!! 転入しなければ良かった!! 僕たちだけ寄宿舎に居れば……僕たちだけ寄宿舎に居れば良かった……!!)

 人知れず涙を流す貴信に気付いているのかいないのか。
 苛立たしげな叫びが屋上に広がった。
「……ガス中毒ぅ!? また何をやっているんだ戦士長たちは!!」
 屋上に不機嫌な声が轟いた。発信源を見る。ちょうどもの凄い形相の斗貴子が携帯電話を閉じるところだった。。
「どうしました先輩」
「早坂姉弟とまひろちゃんと若宮千里と河合沙織とヴィクトリアと鳩尾無銘がガスでやられたらしい。他の生徒にも僅か
だが被害が出ている。戦士長と毒島と鐶で保健室に運びしだい、こっちに来るそうだ」
「じゃあ特訓についての打ち合わせは? 大戦士長救出のための。今からやる予定でしたよね?」
「遅れるだろうな。まったく。今朝までに終わらせれば良かったものを」
「結局昨日は音楽隊の身の上話聞いて終わりでしたしね」

「つーかさ」
 それまで無言であぐらをかいていた香美が不思議そうに呟いた。
「もりもり(総角)とあやちゃん(小札)の名前でてこんかったけど、2人はなにしてんのさ? ここ来んの? 来ないの?」

 彼女を除く一同の目が点になった。一番早く動いたのは斗貴子で、彼女は電光のごとき素早さで携帯電話を開き、そし
て叩いた。20秒後。防人経由で現状と現況を把握したのか。彼女はこう叫んだ。

「ええい!! 逃げられた!!」
「逃げられたァ!!? まさかガス騒動のどさくさに紛れてですか!?」
「そうだ、小札を連れて!!」
「やばいじゃないですか! アイツ(副長戦の三分の一程度のページ数で負けたリーダーとはいえ)かなり強いんでしょ!」
 愕然たる面持ちで剛太が立ち上がる頃にはもう斗貴子、階段めがけ走り始めている。つられて剛太も貴信も立ち上がり、
斗貴子の後を追い始めた。
「ああもう!! だから裏返し(リバース)で拘束しろといったんだ!! 鐶と同じクラスにしておけばそれも可能だったろうに!!
『行くぞ香美! 僕たちも探すぞ!!』
「ああもうあの馬鹿もりもり!! 逃げんのはよくないでしょーが!! あんたはどーでもいいけどあやちゃんが困る!!」
「まだ遠くには行っていない筈だ!! キミは校外を探せ!! 私は校内だ!!」
「ラジャー!!」
「あと栴檀どもから目を離すな! 大事な人質だからな。いざとなったら利用して、脅して、抵抗できなくしてやる!!」
「ラジャー!!」
『え! なに、僕たちそんな扱い!?』
「さー出てこいもりもり!! あたしらの命が惜しかったらていこーをやめてでーてーくーるーじゃーん!!」
85 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/01(日) 00:54:26.74 ID:wqh93qcN0
>>84訂正

【銀成学園。屋上】
 
 貴信は床の上にぼんやり座っていた。
 客観的にいえば香美があぐらをかいている状態なのだが、一応彼女と体を共有している身である。貴信もまた「座っている」
といえた。
 香美の目の前には斗貴子と剛太。まだ来ぬ防人たちについて愚痴をこぼし合っている。

 秋らしく床の感触はなかなか涼しい。きょろきょろと落ち付きなく目玉を動かし周囲を見る。一部やけに真新しい床板と
鉄柵が設けられている──屋上につくなり剛太が開口一番指差した。曰くこの前鐶にやられた。1階からここまで吹き飛ば
された。修理の跡だ──以外とりたてて特徴のない屋上だ。人気もない。
 ただ時おり生徒たちの声が下の方から響いてくる。校舎と校舎の間にある連絡通路からだろう。ここまで斗貴子と剛太に
両脇固められつつ『護送』されてきた貴信だ。当たり前だが屋上に行くためにはまず連絡通路を通り、校舎内の階段を登ら
なくてはならない。その道順を反復しつつ、「いかにも楽しそうな」生徒の声に溜息をつく。

(いいなあ!! きっとみんな楽しい学園生活を送っているというのに僕ときたら……!!)

 道中見た銀成学園生徒たちの輝くような笑顔が胸を抉って仕方ない。500mlのパック。菓子パン。幕の内弁当。それらを
ひっさげながら友達たちと昼休みモードでキャッキャしてる学生たち。中にはいかにもカップルという男女もいた。彼らは人目も
憚らず通路の端に座りこみ、手作りの弁当を「あーん」しあっている。それがますます貴信の心を辛くする。人間だったころ、
学生だったころ、円満な人間関係を築けなかった貴信にとって学園生活は地獄──(ハイみなさん2人でグループを作っ
て下さい!……あれ? ○○君だけまだですね。誰かー! ○○君とグループを作ってあげてくださいー!!」)──なのだ。

(て!!! 転入しなければ良かった!! 僕たちだけ寄宿舎に居れば……僕たちだけ寄宿舎に居れば良かった……!!)

 人知れず涙を流す貴信に気付いているのかいないのか。
 苛立たしげな叫びが屋上に広がった。
「……ガス中毒ぅ!? また何をやっているんだ戦士長たちは!!」
 屋上に不機嫌な声が轟いた。発信源を見る。ちょうどもの凄い形相の斗貴子が携帯電話を閉じるところだった。。
「どうしました先輩」
「早坂姉弟とまひろちゃんと若宮千里と河合沙織とヴィクトリアと鳩尾無銘がガスでやられたらしい。他の生徒にも僅か
だが被害が出ている。戦士長と毒島と鐶で保健室に運びしだい、こっちに来るそうだ」
「じゃあ特訓についての打ち合わせは? 大戦士長救出のための。今からやる予定でしたよね?」
「遅れるだろうな。まったく。今朝までに終わらせれば良かったものを」
「結局昨日は音楽隊の身の上話聞いて終わりでしたしね」

「つーかさ」
 それまで無言であぐらをかいていた香美が不思議そうに呟いた。
「もりもり(総角)とあやちゃん(小札)の名前でてこんかったけど、2人はなにしてんのさ? ここ来んの? 来ないの?」

 彼女を除く一同の目が点になった。一番早く動いたのは斗貴子で、彼女は電光のごとき素早さで携帯電話を開き、そし
て叩いた。20秒後。防人経由で現状と現況を把握したのか。彼女はこう叫んだ。

「ええい!! 逃げられた!!」
「逃げられたァ!!? まさかガス騒動のどさくさに紛れてですか!?」
「そうだ、小札を連れて!!」
「やばいじゃないですか! アイツ(副長戦の三分の一程度のページ数で負けたリーダーとはいえ)かなり強いんでしょ!」
 愕然たる面持ちで剛太が立ち上がる頃にはもう斗貴子、階段めがけ走り始めている。つられて貴信も立ち上がり、斗貴
子の後を追い始めた。
「ああもう!! だから裏返し(リバース)で拘束しろといったんだ!! 鐶と同じクラスにしておけばそれも可能だったろうに!!
『行くぞ香美! 僕たちも探すぞ!!』
「ああもうあの馬鹿もりもり!! 逃げんのはよくないでしょーが!! あんたはどーでもいいけどあやちゃんが困る!!」
「まだ遠くには行っていない筈だ!! キミは校外を探せ!! 私は校内だ!!」
「ラジャー!!」
「あと栴檀どもから目を離すな! 大事な人質だからな。いざとなったら利用して、脅して、抵抗できなくしてやる!!」
「ラジャー!!」
『え! なに、僕たちそんな扱い!?』
「さー出てこいもりもり!! あたしらの命が惜しかったらていこーをやめてでーてーくーるーじゃーん!!」
86 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/01(日) 00:55:37.85 ID:wqh93qcN0
 口ぐちに叫びながら走る一同──香美はあまり良く分かってないらしく、剛太にぴょいぴょい飛び付きながら叫んでいる──
は階段に通じる扉を開き、そこに踏み入り、そして弾き飛ばされた。
 自画自賛したくなるほどの弾き飛びぶりだった。ばらばらと地面に散らばった一同は一瞬何が起こったのか判じかねた。

「バッキャロー大浜!! 斗貴子さんに何してんだ!!」
「ゴメン。急に走ってきたから」
「急いでいるみたいだけどちょっといい斗貴子氏?」

 扉から出てきたのは3人の少年だった。先頭にいたのは気弱そうだがひどく恰幅の良い青年で、彼への出会い頭の
衝突をして吹き飛んだのだと一同は理解した。その後ろには眼鏡少年とリーゼント。大浜、六舛、岡倉……貴信は彼らが
武藤カズキの親友というコトはおろか名前さえ知らないが、その顔には見覚えがあった。とても嫌な、見覚えが。

(確か授業中僕と目があった人たち!! マズい! まさか僕たちの正体を追求しに……!?)
 
 鼓動が跳ね上がる。汗が噴き出し香美の後ろ髪をべっとりと濡らす。大浜がこっちを見ているような気もした。

「ちょっと、といわれても。悪いが今は時間が……」

 口ごもる斗貴子の手の中で携帯電話が振動した。メールが届いたらしい。苦い顔の斗貴子がそれを剛太と香美に披瀝
した。

【差出人:フ】

【件名:フ。】

【内容:フ。失踪気味ですまない。いまから3分以内に屋上へ行く】

「……という訳だ」
「あんたさ、もりもりの名前「フ」で登録してんの?」
「違う!! 私が見せたいのはそこじゃない!! 奴がここに来るなら探す必要もないと!! ああもう! 音楽隊はこうい
うばかりか!! いい加減いやになってきた……いつもこうだ、おかしな連中の面倒ばかり……」
 語調はだんだんと弱くなり後半に至ってはもはや泣き声だった。斗貴子の苦労が、伺えた。
「あの、もし3分以内に総角が来なかったらどうします?」
 やや蒼い顔で手を挙げる後輩に、先輩は迷いなく断言した。
「人質ごとブチ撒ける」
『やっぱり!?』
「あ、もう1通メール来たみたいですよ」

【フ。ちなみにいま小札をお姫様抱っこしているぞ。写真は1枚20円だ】

「知 る か !」

 凄い力で携帯電話が叩きつけられた。床板に罅(ひび)が入るほどだった。


「どうやら時間ができたみたいだし、単刀直入に聞くけど」

 騒いでいた一同ははっと六舛を見た。そして彼は言葉通りとても単刀直入な言葉を吐いた。

「あまり突っ込まないけど任務増えた? 演劇の方、どうする?」


 貴信は斗貴子を見た。「忘れてた!」。そういう顔を彼女はしていた。


「フ。成程な。状況を整理してみよう。まずパピヨンどのが演劇部の監督になった。部員への、とりわけ武藤まひろという
お嬢さんへの悪影響を懸念したセーラー服美少女戦士はそれを防ぐべく演劇部に入り、一晩だけとはいえ秋水ともども
演技の神様とやらの元で修行した。戻ってみるとパピヨンどのは3日後の劇発表を決めた。それは他の劇団との対抗形
式で、負ければ全員男女問わずのセーラー服着用。彼の影響、ますますもって広がるはまあ確実、絶対勝たねばなるま
い、と。フ。流石は俺の理解力」
87 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/01(日) 00:55:57.10 ID:wqh93qcN0
「それが昨日の話だ。発表まであと2日しかない。だがお前たちの監視もしなければならないし」
「大戦士長どの救出に備え、俺たちと特訓もしなければならない、と。フ。すまない。悪いタイミングで忙しくしてしまったな」

 屋上の隅で斗貴子と総角がヒソヒソと話している。遠巻きに、訝しげに彼らを眺める六舛たちにはもちろん聞こえていな
いが香美(ネコ)と聴覚を共有する貴信には嫌というほど聞こえてくる。

「つかさあやちゃん、さっきからなんかあわあわしてるけどだいじょーぶ?」
「あわわ……お姫様抱っこ……お姫様抱っこ〜〜〜〜〜! 流れる金髪は正に騎士の如く、軽々と廊下を駆ける様たるや正
に英姿颯爽見惚れるほどの素晴らしさ! そもお姫様抱っこは乙女の憧れ拒める道理はありませぬ。腕Aが腕に当たり脇B
の下が逞しき胸板に当たるあの感触。腕Bを首に巻きつけるあの感触。嗚呼少女のロマンっ! 甘酸っぱさを感じずにはい
られません! それを何度夢見たコトか! 何度おねだりしたいのを呑みこんだコトでしょう! さささされど、されど実現した
らば抱えるは不肖が如きちんちくりん…………合いませぬ合いませぬパズルのピースが合いませぬ……にも関わらず生
徒どのに教師どのに老若男女様々な方々に見られ囁かれ囃し立てられまするは最早まったく羞恥の一言下車は不可! 
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしいィィィィー!! 抑え込まれ成す術なくあうあう首を振るばかりの不肖! そこへダメ押
しとばかり囁かれる悪魔の一言! 「お前軽いな」。ああああああああーっ!!! 直撃! 直撃ですーーーーー!! ぎゃあ
ああああああああああ!! 何という痛烈さ! 嬉しくも恐ろしきひとこ……ああっ、顔がッ、顔が近い! ダメですダメです
ダメなのでありますここは学び舎、人もおります! それ以上は、それ以上はーーーーっ!!」
「何言ってんだコイツ?」
 顔も真赤に瞳を渦巻かせる小札はまったく意識が混濁しているようだった。うわ言のように意味不明な言葉を吐くばかり
でまったくどうにもならなかった。時おり頬へオーバーアクション気味に両手を当てたり、首ごとおさげをブンブン振るが現世へ
復帰する気配はない。彼女が何かを拒むように両手をばたつかせた辺りで、剛太はなぜか総角を睨み、ひどく悔しそうな
顔をした。少し泣きそうだった。
「どーしたじゃんあんた! おなかいたい? おなかいたいときはクサ喰うといいじゃん。もさもさした丸っこいの吐くじゃん」
「うるせえ! 肩組みにくんな!」
「ヘーイ彼女! そんなつれない奴放っておいて俺とお茶しなーい!」
「しゃあー!! うっさい! さっきからあんたはなんか好かん! なんかこう、やな感じするじゃん!!」
 香美は牙を剥いた。恐ろしい気迫だった。
 それまでの鼻下伸びたエビス顔もどこへやら。岡倉はリーゼントも萎ませ崩れ落ちた。
「露骨すぎるからだよ岡倉君。付き合いたいならもっとこう手順ってもんが」
「下心バレバレ。せめて胸は見ない方がいいぞ。このエロスが」
「うるっせえ!! 黙って聞いてりゃ好き勝手いいやがってコンチクショー!!」
「お前もお前で俺にばかり絡んでくるな! あっちのリーゼントにしろ!! お前気に入っているみたいだし!」
「いやじゃん! ご主人かあんたに限る!!」
「なんでだよ!」
「なんでかは分からん!」

(なんかすごいなこの状況!!)

 貴信は笑いたくなってきた。分身のような香美が剛太とやいのやいのとじゃれ合い、六舛たちは軽く喧嘩し、小札は相変
わらず現世に復帰していない。総角はというと何やら叫ぶ斗貴子をまあまあと両手で制し、指を立てつつ語りかけている
らしい。説得。貴信がその内容を聞くともなしに聞いているうち斗貴子も譲歩する気になったようだ。彼女は不承不承と頷いた。

(いいなあ! こういうのが学園生活なんだよなあ!! 僕は参加できないけど、いいなあ!!」
「フ。参加したくばすればいい 。お前は自分が思っているほど嫌われる性分ではない」
(!?)
 髪のすだれの中で貴信は目を剥いた。すぐ眼前には見なれすぎた端正な顔。総角が余裕の笑みで囁いている。
 どうやら屋上の隅から一足飛びにきたらしい。面喰らった岡倉と大浜が「見たかよ今の動き!?」「早っ!」とざわつく中
音楽隊のリーダーは貴信の肩に手を置いた。
88 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/01(日) 00:57:54.09 ID:wqh93qcN0
「弱さゆえに節義と正しさを守らんとするお前はその美点を知られさえすれば確かな信頼を得るコトができる。自信を持て。
たまには心を開いてみろ。人間だった頃とはもう違う。いまは仲間を、俺を頼れる。ヘマをやっても庇ってやるさ。頑張ろう。
俺たちと共に、楽しい学園生活のために」


(俺たちと共に……)


「フ。まだ復帰していないか小札。少々やりすぎてしまったかな?」
 目で追った総角は、ややバツの悪そうな笑みをしながらも小札の頭をくしゃりと撫でていた。彼女の耳が甲高い音と共に
蒸気を噴く中、香美は後頭部(貴信の頬の辺り)をぽりぽり掻きつつ、呆れたように呟いた。
「あのさもりもり。いまのあやちゃんにじゃれたいからじゃないでしょ? ご主人になーんかいいコトいったけど恥ずかしいから
ゴマカしてるって感じじゃん。恥ずかしいならいわなきゃいいじゃんあんた」
「フ。さあな。ところでそこの眼鏡の少年──…」
 細い後ろ髪をピンと跳ね上げた総角は告げる。音楽隊の命運を変えるかも知れない言葉を、六舛に告げる。

「演劇部の話は聞いた。俺たちも入部させて貰いたいが、いいかな?」

 貴信は確かに聞いた。総角と斗貴子の”密談”がこう締めくくられるのを。

「要は俺たちが演劇部に入ればいい。されば監視もやりやすい。特訓についてはアレだな。アクション。アクションの練
習のフリしてやろう。なぁに。銀成市民はノリがいい。鐶が変形しても貴信が手から光球出してもあまり深く突っ込まないさ」




【銀成学園の『地下』】


 時は少し巻き戻る。

「呆れた。保健室が嫌なんて」
「大仰なのは嫌いなんでね。なぁに。血を吐いた拍子に眠くなり倒れこんだだけさ。少々眠ればすぐ良くなる」

 真っ白な部屋だった。ベッドと、部屋の隅に洗面台がある以外はまったく何もない部屋だった。
 そんな部屋に『椅子を作って座りながら』ヴィクトリアはやれやれと微苦笑した。ベッドの上のパピヨンは強がっているが、
覆面(マスク)越しにもクマが見えるほどやつれている。
 原因は簡単で、最近彼は演劇部の監督と白い核鉄の精製を同時にこなしている。授業のある時間は研究室に引きこもり
放課後は銀成学園で監督業。それが終わればまた研究。ほとんど寝ていないようだった。
 ヴィクトリアとしては研究室を空にする是非も問いたいが、基本的に彼不在の時はヴィクトリアが研究室で番をしているし、
特に口やかましくいう必要もないとも思っている。加えて昨晩遅くようやく「嘗て彼の配下だったという」5体のホムンクルスの
クローンが完成した。ヴィクトリアの見るところカエル型はどうしようもない作るだけムダな役立たずのごみくずホムンクルスだが
他はなかなか強い。特にワシ型に至っては尋常ならざる忠誠心をパピヨンに抱いているようで、正に番人は適任といえた。
(もっともおかげで仕事が増えたわ。アイツらのエサを作るのも私じゃない)
 聞けばクローン元どもは無差別に銀成市民を喰い散らかしていたようだが、いまは時期が時期である。たかが動植物型の
食人衝動で騒ぎを起こし、戦団と対立するようなコトは避けたい……そういうパピヨンの意向を汲み、目下ヴィクトリアは
ママ味のミートパイを量産中である。

「しばらく寝る。起こすな」
 言うが早いかパピヨンはうつぶせになり、鼻提灯を出し始めた。
「器用ね……」
89 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/01(日) 00:59:18.62 ID:wqh93qcN0
 目を見張りながら率直な感想を漏らすヴィクトリアは、そこできゅっと唇を結びゆっくりと上体を乗り出した。そして耳を澄まし
パピヨンが正体をなくしているのを認めると、視線を彼の掛け布団に移した。

(一番高くて柔らかいの買ってみたけど……寝心地、いい?)

 午前中の授業が終わるなりパピヨンからメールが来た。「手伝え」。訳も分からず指定の場所に行くと口から大量の血を
流し倒れているパピヨンが居た。ひとまず1階に運び更にアンダーグラウンドサーチライトの地下世界へ。しかし内装を
変えるコトのできる武装錬金といえど布団のような柔らかな物についてヴィクトリアは自信が持てず、取り急ぎ既製品を
買い求めた。店は遠かったし布団はかさばったが、その辺りの問題はホムンクルスの膂力と武装錬金の地下道を駆使
して何とかした。昨日聞いた総角のアドバイスを、実行した。

 パピヨンの寝息はまろやかだ。少なくても寝具が睡眠を妨げるほど劣悪というコトはなさそうだ。
(良かった)
 安らかな笑みを湛えながらしばらくヴィクトリアは鼻提灯を眺めた。安堵が全身に広がっているようだった。
(久しぶりねこの気分。ママを看病している頃……熱が下がったり、呼吸が安定したりした時の)
 ひょっとしたらこういうカオのできるのが本当の自分かも知れない。とりとめもない考えを巡らせながらそっとパピヨンの
肩に布団を掛け、ヴィクトリアは地上に戻るコトにした。武装錬金の特性上、パピヨンはしばらく地下に閉じ込められるコト
になってしまうが、寧ろ外敵から守れるような気がして、それがヴィクトリアには誇らしかった。
(ま、目覚めたらすぐ出してあげるわよ。どうせ携帯電話で連絡してくるでしょうし)

 ヴィクトリアは無言で腕を振った。壁にも床にも天井にも、思いつく限りの防音設備を施して、それから外へ出た。



【銀成学園 華道部部室】
 
 華道部部室は騒然としていた。突然のガス騒ぎで多くの生徒が昏倒したため保健室だけでは処理しきれず、応急処置と
して畳のある華道部の部室に布団を敷き負傷者の介助に当てているのだ。
 その一角でヴィクトリアは歯がみしていた。


(今度は私が看護される番……? どうなってるのよ本当)


 恨めしい気分でいっぱいだった。戦士! 彼らの不手際のせいでヴィクトリアは療養を余儀なくされている。
 シャっという音がした。布団の周りを囲う水色のカーテンから栗毛の少女の首だけが生えていた。
「大丈夫びっきー? 一番高くて柔らかいの選んでみたけど……寝心地、いい?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
 ヴィクトリアは本当に心からまひろを怒鳴りつけたくなったが、それが原因で墓穴を掘るのも馬鹿馬鹿しいので取りあえず
頭まで布団をかぶった。そして真赤な顔で縋るように思った。
(だだだ大丈夫よ。偶然の一致に決まってるじゃない。だって私言ってないもの。言ってないもの……)
90 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/01(日) 00:59:33.75 ID:wqh93qcN0
以上ここまで。
91作者の都合により名無しです:2011/05/01(日) 12:47:54.88 ID:xmpkbIpm0
>輝くような笑顔が胸を抉って仕方ない
わかるなあ。男子校だった俺は連れの行ってる共学高が羨ましくて仕方なかった
建築学びたかったから男子高いったんだけど、今でも仲良く学校に通うカップル見ると
つい苛めたくなってしまう

しかしお姫様抱っこされてあんなにギャースカ喚いたらその場に叩き落としてしまいそうだw
92作者の都合により名無しです:2011/05/01(日) 15:36:31.76 ID:Iy9QiaE70
>>91
気持ち悪い野郎だな
他人を妬む前に、自分を磨こう!
93作者の都合により名無しです:2011/05/01(日) 19:47:08.98 ID:qbjCXNEw0
小札とまひろは似てるなあ。
良い子だけど空気読めない、まあまひろは構う方で
小札は構われる方か。体型も真逆かw

確かまひろはナイスボディだったよね。
小札はそのテの層に需要がありそうだけどw
94作者の都合により名無しです:2011/05/01(日) 20:44:34.44 ID:L7kEPuxf0
>>93
お前はアホの子の上に空気読めないからな・・・
95作者の都合により名無しです:2011/05/01(日) 22:06:05.01 ID:oICa5/e+0
お疲れ様ですスターダストさん。
修羅場を潜り抜けてきた斗貴子すら萎えさせる音楽隊の個性の強さが
今回もてんこ盛りですね。小札もお姫様だっこでテンパって
独り言とは思えないマシンガントークしてますし。
その中でまひろは音楽隊に加入しても問題ないマイペーすっぷりですねえ。
96永遠の扉:2011/05/03(火) 00:03:44.26 ID:+84hyqpF0
 ヴィクトリアが狼狽し生徒達がガスの余韻に苛まれる。
 そんな華道部に明るい声が響いた。

「ブラボーだ! 聞け、戦士・秋水! 遂に音楽隊も演劇部に加入だ!」
「総角たちが?」
 頭を押さえながら秋水は布団をはだいた。上体を起こすのもまだ辛い。鈍い頭痛に思わずこめかみを押さえると、今度は
軽い嘔吐感が襲ってきた。隣ではまだ桜花が白目を剥いている。白目!? 最初流した秋水さえ思わず二度見するほど
衝撃的な光景だった。才色兼備の桜花。男子の憧れの的である桜花が露もなく白目を剥いている。
「……!! …………!」
 戦慄(わなな)く唇から声にならない叫びを上げつつ桜花を指差すと、防人はポンと手を打った。
「ああそれなら大丈夫だ。人払いはしておいた。一般生徒に見られてはいない」
 手袋に指差されるまま振り返る。そこには即席のカーテンが広がっていた。どうやら外界との仕切りらしい。
 そうやって作られた2畳ほどの部屋の中に防人が立っており、
「桜花さんの顔……隠し……ます。バンダナ、で……」
「ダメです! 顔に白い布はダメー!!」
 彼の後ろで鐶と毒島がじゃれあっている。
「しかし音楽隊が演劇部……? 確かに監視や特訓もしやすくなるだろうが、大丈夫なのか?」
「私は…………元演劇部……です。沙織さんに化けて……やって、ました」
 果たしてそうなのだろうか? 総角は目立ちたがりだ。頼みもしないのに出しゃばってきて、何もかもをブチ壊すのでは
……。そう思いながら秋水は別の疑問を口にした。
「無銘は? 鳩尾無銘は?」
「いま寝たところだよ!」
 まひろがカーテンを開けて飛び込んできた。ナース服を身にまとっているところからすると、他の生徒を看病しているよう
だ。
「君はガスから逃れたのか?」
「うーん。吸っちゃったんだけど2分ぐらい寝たら急に楽になってきて……」
(窓際に居た俺がまだこの調子なのにか? 君は確か外、毒島の近くに居た筈では)
「ホムンクルスでも直接吸えば10分は気絶するガスだったのですが……」
「動ける以上他の生徒さんの面倒を見るのは当たり前ッ! 何を隠そう私は看護の達人よ!!」
「で、鳩尾無銘は?」
 拳を固めるまひろに秋水は務めて静かに呼びかける。理解している。おかしなスイッチの入ったまひろに会話の主導権
を握らせていてはいつまでたっても進展しないと。
「えーとね、えーとね。隣の隣の隣のはすむかいのカーテンにいるよ! ついさっきまでとても苦しんでたけど、今は落ち付
いてるから大丈夫!
 でも……とまひろは顔を少しくもらせ口ごもった。

「なんだか、うなされているみたい」


 鳩尾無銘は、夢を見ていた。


 授業が終わった後。
(確か師父達との合流場所は屋上だったな)
 そこへ向かうべく、防人や毒島、鐶と話していたらまひろが来た。
 彼女は屈託のない笑顔でこう聞いてきた。
「むっむーの好きな物は何? あと、周りに浮いてるのって風船?」
「わ、我の好物はビーフジャーキー……い、いや違う! 馴れ馴れしいぞ貴様!」

 あまりに邪気のない様子に無銘は一瞬釣りこまれそうになったが、忍びを自任する彼である。見知らぬ人間を気安く
信用するのはよくない。一瞬彼女の豊かな胸に視線が止まりかけたのも恥ずかしい。その癖彼女の衣服からは何か不快
な匂いも感じられた。
(…………? なんだ、この匂いは?)
 それは……。

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 遠い昔嗅いだ覚えのある
.
 匂いだった。忌まわしい記憶に付帯するくせに、ひどく甘く、かぐわしい匂いだ。一言でいえばコクのある柑橘の、いい
匂いだった。にも関わらず怒りと恨みと不快感しか覚えられない。とにかく奇妙な匂いで、それが無銘を困惑させた。
97永遠の扉:2011/05/03(火) 00:04:54.05 ID:+84hyqpF0
 以上のような感情がオーバーフローし、無銘はとりあえず赤黒い顔を背けつつ、ありったけ無愛想な声で応対した。
「古人に云う、親しき仲にも礼儀あり。初対面なら尚更だ! だいたいそのむっむーというのもやめろ!! 周りに浮いて
るのは龕灯(がんどう)!! 龕灯というのは懐中電灯みたいなやつ!」
「えー。無銘くんだからむっむーがいいんじゃないかなあ。あ、そうだむっむー! ビーフジャーキーはないけど、鳥の唐揚な
らあるよ!!」
 鳥……ニワトリ……軽い嫌悪を浮かべる鐶をよそに、まひろはガサゴソとポケットをまさぐった。
「まひろ。なんでポケットに唐揚げが入っているの」
「からあげ! からあげ!」
 千里のツッコミも気になったが、無銘はついつい瞳を輝かせてしまった。

 それが、良くなかった。

 気づけば無銘はまひろに揉みくちゃにされた。それは鐶のドーナツ好きが発覚するまでの5分間、たっぷり続いた。

「珍しいよね。まっぴーが男の子とスキンシップするなんて」
「そーだよね。なんでだろう……」
「なんか理事長さんと似てるからじゃない? ほら、目もととかそっくりだし」
「まさか兄妹!? あー、でも違うかも。名字違うし
「性格だって違うでしょ。とにかく放してあげなさい。」

 口ぐちに騒ぐ少女たちにとうとう堪えかねた無銘は。

「がああああああ! 離せ! 離さんかああ!」

 逃走を選んだ。
 背後で「毒島! キミが追え! 俺は鐶を見なければならない!」という防人の鋭い指示が飛んだような気もしたが、無銘
は逃げるのに必死でそれどころではなかった。全身に残る甘い感触の余韻を振り切るのに、必死だった。
 もみくちゃにしてくる女子。無防備なる女子! 外見年齢10歳の無銘をまったく男性として認識していないまひろは、
少女にするがよろしくすり寄ってきたのだ。柔らかなる手で少年無銘の肩を触り、頬ずりをし芳しい息を吹きかけ、抱きつく。
「お話しようよ〜」引っ張ったニの腕が例え自分の柔らかな膨らみに触れても彼女は顔色1つ変えないのだ。恐るべき弾力
だった。この世の何より柔らかく、まろやかだった。かつかつとした血の気が耳たぶにまで昇りつめ、黄砂の吹き始めたころ
の艶めかしい春の夜のやるせない感情さえ全身を支配した。それだけでも無銘は自分をどうしようもできず困惑しているのに、
目の前で鐶が悲しそうな表情で自分とまひろを見比べていて、ますます混乱に拍車を掛けた。
(……どうして我が貴様の勝手な表情に……胸を痛ませねばならないのだ!!)
 少年特有のナイーブな感傷を持て余しているというのに、黄色い髪の少女(沙織)はからかってくるしまひろも可愛い可愛
いと飛びついてくる。特にどうというコトもない部位でさえ彼女はとろけそうなほど柔らかく、無銘はまったく(正直いってかな
り嬉しくもあったが、小札のような明るい少女を『そういう目』で見たくはない)、恥ずかしくて、いたたまれなかった。

(おのれ! おのれええ! あの女ども寄って集)たか)って我を弄びおって! かくなる上は何か忍法でおどかしてくれる! 
あ、ええと脅かすだけだなケガとかさせたら可哀相だし師父や母上に対する風当たりも悪くなる。うん。ちょっとビックリして
我をからかおうと思わなくなる程度の忍法だ。おう。何にしよ──…)

 子供らしい復讐劇を企てながら走っていた彼だが、その走りが徐々に遅くなる。
(?)
 高くもない鼻をひくつかせる。犬の嗅覚が何かを捉えた。
 軽く辺りを見渡した彼はやにわに平蜘蛛のように這いつくばり、床の匂いを嗅ぎ始めた。
「どうしました?」
 背後からシュウシュウという異様な音がした。振り返れば毒島が「飛んでいた」。ガスマスク後部に接続された無数のチュー
ブ。気体噴出で推進力さえ得られるらしい。
 そしてなぜか毒島は串刺しの焼き鳥を持っていた。
「なんだそれは?」
「武藤さんたちがお詫びにって……食べますか?」
「いや……そういう気分でもない」
「なにかあったのですか?」
 立ち上がった無銘は、両腕を揉みねじり、難しい顔をした。どう説明していいか迷ったが、戦団と音楽隊の関係を鑑みる
に隠し立ても良くないと判断し、ひとまずありのままを説明する。
「この学園。あの少女の服と云いこの廊下と云い、どうも覚えのある匂いが漂っている。それが気にかかった」
98永遠の扉:2011/05/03(火) 00:06:16.28 ID:wLW9Xs6X0
「? 無銘さんはお鼻がいいんですから、そういうコトもあるんじゃないですか? ほら、市販の香水とか整髪料の匂いとか
ならどこにあっても不思議じゃ……」
「我自身もそうは思う。だが、この匂い、我の忌まわしい記憶の中にありすぎる。まるで、我が生まれたあの場所にあった
ような……いや、我の誕生に関わった者たちの匂いのような……」
 毒島は軽く息を呑んだ。
「無銘さんの誕生に関わったのは確か、レティクルの幹部でしたよね?。『木星』と『金星』……その内どちらかの匂いがするって
いうんですか?」
「分からない。そこかしこにある分匂いは薄い。貴様がいう通り、奴らが身に付けていた香水なり整髪料と同じ物を使う生徒
がいる……それだけのコトやも知れぬ。だから我は、悩んで──…」
 どこか窓が開いているのか。風が突然廊下に流れ込んだ。それに頬を撫でられた無銘は言葉半ばで黙りこんだ。
「何か?」
「匂いが……濃くなった……」
「え!?」
 驚愕のあまり立ち尽くす無銘をよそに毒島は素早く指を立て、風向きを検証し始めた。
 数秒後。彼女は振り返る。ガスマスクのゴーグルに内蔵された望遠レンズを伸ばした。慌ただしく全身を揺すっているの
は発生源を探しているせいだろう。無銘は固唾を飲んでその作業を見守った。
 彼はその時、毒島が何を見ていたか、知らない。

(ありました!! 20m先! 確かに窓が。風はあそこから──… !?)
 本当に一瞬の出来事だった。
 その映像は、望遠機能で拡大しきった視界にさえ、本当にわずかしか映らなかった。時間的にも。面積的にも。
 果たして無銘には見えたかどうか。彼の武装錬金が「記憶に基づく映像の蓄積」だとしても、記録できたかどうか。
 開いた窓の近く。廊下の曲がり角。
 そこに、小さな影が吸い込まれていくのを毒島は見た。
 詳しい容姿までは分からなかったが、髪を後ろでくくっているのだけは辛うじて分かった。

 そしてもう一つ。人影は銀成学園の女生徒の制服を着ていた。

「居ました! あちらの曲がり角の近く!」
 とりあえず追うべく踏みだした毒島だったが、
「待て!!」
「きゃん!」
 矢も楯も堪らず駆け出す無銘に突き飛ばされ、転んだ。
「ごめん! 後で謝る!!」
 少年らしい声音で詫びながら無銘は曲がり角目がけて全力疾走し始めた。
(もしあの匂いが幹部のそれだとすれば!!)
 歯噛みする。凄まじい咬筋力が今にも奥歯をたたき割りそうだった。
(逃すわけにはいかない!! ずっとだ!! 我は奴らに復讐する時をずっとずっと夢見ていた!!!)
 鳩尾無銘はまだ母胎にいる頃、幼体を埋め込まれ、ホムンクルスになった。
 妊娠七週目。まだまだ人間の形には程遠い頃。絶対過敏期。催奇形がもっとも警戒される頃、帝王切開で剥き出しに
なった無銘は子犬基盤(ベース)の幼体を投与された。
 以来その余波で彼は人間の姿になれなかった。イヌ型……小さな小さなチワワとして生きるコトを余儀なくされた。
 もし彼の精神がまるきり獣のそれであればまだ楽だっただろう。
 だが、彼は人間の精神のまま成長する他なかった。心が人間でありながら、体はチワワのまま……。
(屈辱だった!! 母上も師父も優しくしてくれたが四ツ足で地面を蹴り皿を直接舐るような生活は……屈辱だった!!)
 そう仕向けた者たちは、記憶の中にいる者たちは、まったく遊び半分で「胎児以前の人間に幼体を投与した」。
 なぜそうしたかは知っている。聞いた覚えがある。
「ゲテモノを食べたい」
 それだけの理由で、母体の人間や胎内にいる人間の人生をめちゃくちゃにした。
 ようやく秋水との戦いで人間形態を獲得した無銘だが、それまでの塗炭の苦しみはまったく忘れようがない。異常な体を
与えた者たちを思う時、黒い炎が胸の中に燃え広がる。叫び、手近な何かを殴り付け、めちゃくちゃに壊したくなる。
(許せるものか! 『木星』に『金星』! 我を歪めた者たち!!)
 憤怒の形相で角を曲がる無銘は……。
 ちょうどそこから出てきた少女と衝突した。
「あた! ご、ごめんなさ……」
 咄嗟に謝りながら眉を引き締める。ぶつかった者が「匂いの元」かも知れないのだ。一歩飛びのき鼻を動かす。しかし
……「少なくてもその少女」から忌まわしい匂いはしない。辺りにはまだうっすら漂っているようだが……。
99永遠の扉:2011/05/03(火) 00:07:44.37 ID:+84hyqpF0
(別人、か)
「あの、ここを曲がってくる人を見ませんでしたか?」
 一拍遅れて駆け寄ってきた毒島に、その少女は首を振って見せた。美しい金髪の持ち主だ。一目で外国人だと分かった。。
「誰も来なかったけど」
 振り返る少女につられるように無銘はそこを見渡した。どうやら渡り廊下らしい。一階にしては珍しく校舎同士を繋ぐその
廊下の側面には窓ばかりが広がっている。駆けこめるような部屋はない。
「となると窓から逃げたのか?」
「調べてみます」
 そういって毒島がトテトテ駆けだした。やがて廊下の向こう側についた彼女はきょろきょろと辺りを見回しながら歩みを進め
やがて無銘たちの元へ戻ってきた。
「窓の開いた気配はありませんね。埃などの組成はどこも同じ。空気の流れた様子はありません」
 酸素濃度を一発で当てられる毒島である。空気に関しては相当の分析力がある……戦団でそう聞かされた無銘だから
頷かざるを得ない。
(ならば匂いの元はどこへ? そもそも匂いが濃くなったというのは錯覚、か?)
 悩む無銘へ急に冷たい声が突き刺さった。
「ところでアナタ、ホムンクルスでしょ? 周りに浮いているのは武装錬金? サーチライト?」
(え)
 無銘は知らない。彼女が今までどこにいたのか。
 ある種の親鳥は巣から直接飛び立たない。巣から離れた場所で飛び立ち、或いは着陸する。もしそれをやらなければ
──つまり巣を発着場にしたならば──外敵に卵やヒナを見つけられやすくなる。そんなリスクを避けるため、巣から離れて
飛び立つのだ。
 目の前にいる少女もそれと同じようなコトをやっていたのだが、無銘の知るところではない。地下に張り巡らせた迷路の
ような通路をぐねぐねと通り抜け、パピヨンの寝ている部屋から遠く離れたこの場所に登ってきたというコトも知らない。
 ただ彼女はその結果無銘とぶつかるコトになり、大変気分を害しているようだった。

「大方、武藤まひろと河合沙織に揉みくちゃにされて逃げてきて、何か復讐手段を考えているようだけど」

 長い金髪を筒で小分けにしたその少女に無銘は見覚えがあった。
 つい先日、総角と話しているのを見たコトがある。それどころか同じクラスにも居た。
 メールを交換しているという香美曰く、彼女もまたホムンクルスらしい。
(そそそそそういえばさっきはいなかった。手洗いに行くとか何とかで……!!)

 少女を中心に広がるのは冷たい雰囲気。武術を齧った強者のそれより冷淡な、女性ならではの威圧感。
 地鳴りさえ無銘は感じた。期せずして彼は、胆力で押されていた。
 そして不機嫌そうに目を細めたヴィクトリアが

「させると思う? この私が」

 細い手首をくるりと返した。

 浮遊感。

 そして、落下感。


 無銘があっと目を見開くころにはもう遅い。
 彼の足もとを中心に開いた六角形の穴は容赦なく彼を地下へと叩き落とした。


「走っていたし殺気が凄かったからピンと来たわ。ああ、武藤まひろと河合沙織に何かされたって」

「別に武藤まひろなんてどうなろうと知ったコトじゃないわよ。でも余所者のホムンクルスが暴れたら戦団がうるさいの」

 尻もちを突きながら無銘は見た。

 煉瓦塗れの殺風景な避難壕(シェルター)に冷然と立ち尽くすヴィクトリアを。
 彼女の横では壁が唸っていた。
 軋る床は今にも膨れ上がって無銘を飲み干しそうだった。

「ま! 待て! 確かに軽い報復を考えてはいたが、今はそれどころじゃないのだ! 話を──…」
100永遠の扉:2011/05/03(火) 00:16:26.45 ID:+84hyqpF0
「あのコや河合沙織がケガするだけでも、ちー……若宮千里がすごく心配しそうじゃない。もし巻き添え喰らったりしたら……
もっと不愉快だし。とにかく」
 力ある言葉と共に世界が変わる。
 地下に地響きが木霊する。煉瓦達はいよいよ敵意の元、変質し始めているようだった。
 唖然とする無銘。その胸板をいつしか細い脚が抑え込んでいた。足蹴にされ、踏みつけられていた。
 状況も忘れ見とれるほど蠱惑的な器官だった。太ももの半ば、スカートと黒い靴下の間で僅かに覗く白い肌は薄暗い地下
空間でも艶めかしく光っていた。
「下らないちょっかいは──…」
 とそこまでいいかけたヴィクトリアは一瞬とてもあどけない表情で無銘の顔を見て、それから視線を追い、自らの脚を見た。
「〜〜〜〜〜〜!!」
 何か、誤解したのだろう。幼い顔を怒りと屈辱と恥辱とにたっぷりくしゃくしゃにすると濃紺のスカートを抑えた。

 下に向かって強く引かれた裾に無銘は叫びたかった。「違う」。「見えたら嬉しかったかも知れないが、違う!」と。
「お、お仕置きが必要なようね。躾けてあげる」
 無銘の胸板に一層強くかかった力は、誤解に基づく怒りを大変多く含んでいるようだった。

「え、ええと」
 とはいえヴィクトリア自身ここからどうすればいいかよく分からないらしい。
 少女らしい熱に浮かされた顔の中、尖った眼差しの中、冷めた瞳が泳ぎに泳ぎ。」

 やけくそのような叫びが地下を劈(つんざ)いた。

「下 ら な い ち ょ っ か い は 止 し て 頂 戴 !」

 胸板が潰れ肋骨の軋む音がした。息が出来ない中、名字と同じ部位が空気を吐きつくす中、無銘は痛感した。
 ヴィクトリアもまたホムンクルスなのだと。

 恐ろしい高出力があらゆる抵抗と叛意を奪う中、

 棘の生えた壁が両側から迫ってきた。

 叫び、ヴィクトリアの足を跳ねのけた無銘は……

 もうどうにでもなれ。手を燃やし、足元を凍らせながら吶喊した。

 そして。

 地下に少年の絶叫が響き、総てが終わった。


「やはりヴィクトリアの仕業か」
「はい。地下から戻ってきた辺りで無銘さんの態度がガラリと変わりました。ヴィクトリア嬢に何かされたのは確かかと」
 頷く毒島に「しかし……」と反問しようとした秋水の耳に破滅的な絶叫が届いたのはその時だ。

「あ、ああー!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい二度とあのお姉さん達にちょっかいを出さんと誓う! 本当だ!!
本当だから許し……ぎゃああああああああああああああ!!」

 悪夢がフラッシュバックしたのだろう。すごい寝言が華道部部室を揺るがした。思わずそちらを仰ぎ見た秋水は恐ろしく
濃度の濃い「恐怖の」「ニオイ」を感じた。無銘がいるであろう場所。そこのカーテンから紫の煙がどろどろと漂っている
ようにも見えた。

(えらい目にあった……えらい目にあった。あのおねーさんは怖い……とても怖い)

 布団の中、横向きに寝そべりながら無銘はただただ震えるしかなかった。心因性の凄まじい寒気が全身を貫く。顎の
筋肉が痙攣し歯の根もガチガチと打ち鳴る。
 恐怖はしばらく去りそうになかった。

「まったく。ホムンクルス同士仲良くすればいいものを」
 どこか論点のズレた意見を呟く防人だが、ふと何かに気付いた様子で秋水に呼びかける。
「いまキミは戦士・毒島に何か聞こうとしていたな? 何か疑問でも?」
101作者の都合により名無しです:2011/05/03(火) 00:20:36.10 ID:xdwSk+U30
スターダストさん鬼更新復活か
102永遠の扉:2011/05/03(火) 00:33:42.47 ID:+84hyqpF0
「はい。毒島。君は確かに無銘が地下に引きずりこまれるのを見たんだな?」
「はい。この目でしっかりと」
「なのにどうしてすぐ戦士長に連絡しなかったんだ? 君は俺たちを合流させようと懸命だった。無銘が地下に囚われたの
ならそれを何とかするべく応援を呼ぶのが自然だ。君ならばすぐ気付くはずだからな。自分の体格や武装錬金がアンダー
グラウンド攻略に不向きだと。応援を呼ぶのが最善だと」
 確かになと防人も頷いた。
「火渡のためにと俺たちを監督しているキミだ。任務で手を抜くなどというコトはあり得ない。ひょっとして何か、俺たちにい
えないような出来事があったのか?
「それは……」
 毒島は急に黙りこんだ。秋水はその反応に見覚えがあった。
(どこかで見たコトがある。どこかで……)
 何か伝えたいコトがあるのに、無理やり何かで押さえつけらているような気配だった。
「ああ。別に叱るつもりはない。突然のコトだったからな。自分で何とかしようとするあまり俺たちへの連絡を忘れてしまった
というコトもありうる。そもそも合流が遅れたのは俺のふざけ過ぎのせいだからな」
「そ、そうじゃなくてですね、あの……そのう…………」
 小柄なガスマスクの挙動がやや怪しくなった。毒島は落ち着きなく首を振り始めた。
 秋水が混乱したのは、彼女のそんな様子に自らの何事かまでが怪しくさざめき始めたからだ。
(思い出した。この反応は確か……昨日の津村斗貴子と同じ)
 演技の神様の”顔”を聞かれた斗貴子も同じような反応をしていた……そう気付いた秋水だが防人に報告するコトはできない。
(まただ、またこの感覚。言葉を出そうとしているのに何か『枠』のような物で押し込められているこの感覚)

 毒島もまた混迷を極めていた。」

(やっと思い出しました。防人戦士長。戦士・秋水。実は──…)

 決して吐けない記憶が脳髄の中で渦巻く。

(実は……!!)

 橙の雨。
 落ちてこなかった焼き鳥。
 品定め。
 天井から生える果実。
 蝋人形。
 黒ブレザーの少女。
 ポニーテール。
 磁力。
 斧のような刃。

 そして。

 カラフルで、恐ろしくまばゆい光。

 様々な単語と光景が断片的に浮かんでは消えていく。


「ひひっ!! しばらくわしらの事、黙っていて貰おうかのう〜〜〜〜〜」

「ハイ禁止、と。すいやせんねえ。もうすぐ全面戦争でしょ? それの最後の仕上げって奴でさ。今は」

(無銘さんが地下に行った後、私は)

「さて”ぶれいく”。昨晩わしが云うた通り行くでよ。ひひ。演劇をしよう」
「了解でさ”ご老人”。呼ぶのはクライマックス女史にリヴォルハインの旦那。ブレミュに顔バレしてねーお二方すね?
「そうじゃ。奴らめ使って演劇をしよう。ひひ。試してくれる炙りだしてくれる」
「最後の幹部。マレフィックアースを探すため……演劇をしよう! すね」

(敵に、レティクルエレメンツの幹部たちに……逢いました。でもそれが、言えないんです)

(気付いて下さい。敵はもう、この街……いえ、この学園にいます……!)
103 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/03(火) 00:33:59.87 ID:+84hyqpF0
以上ここまで
104作者の都合により名無しです:2011/05/03(火) 01:59:23.60 ID:xdwSk+U30
まひろは可愛くてスタイルが良いから許される行動ばかりしてますな
バスト85だったっけ?大きめで柔らかそうだ。
不穏な雰囲気も漂って参りましたな。またも学園の危機だ!
105作者の都合により名無しです:2011/05/03(火) 03:23:01.23 ID:/GiGQ4jN0
ラストへ一直線って感じで嬉しくもあり寂しくもある
106作者の都合により名無しです:2011/05/03(火) 19:08:46.11 ID:0mcPL3Za0
お疲れ様ですスターダストさん。
前半はまひろと無銘の可愛さが爆発でコメディタッチのほのぼのした雰囲気でしたが
後半に掛けてバトルが勃発しそうな雰囲気ですね。
ラストバトルの前哨戦という感じになるのでしょうか?
確かにそろそろ激しい展開も良いですが、もう少しほのぼの感を満喫したいかもw
107ふら〜り:2011/05/03(火) 22:25:28.13 ID:Ldasnkt90
>>スターダストさん
貴信の気持ちがわかりすぎて胸が痛い。どうか彼にも幸あれ。そしてパピ、自分が「女の子の
凍えた心を暖めている」、なんて誰かに指摘されたらどんな顔するかな。とか思ってたら遂に
来たっ! いろんな意味でエグさ極まる奴らが! 戦う相手、タッグの組み合わせ、共に楽しみ!
108作者の都合により名無しです:2011/05/04(水) 23:50:18.89 ID:7AHWAd2o0
なんか秋までに終わりそうな雰囲気だ
屈指の大作が終わると同時にバキスレが終わると思うと胸熱
その頃にはサマサさんのサンレッドも終わっているだろうし
109激突! 刃牙vs勇次郎:2011/05/05(木) 13:11:10.37 ID:dmfZwdF+0
 勇次郎と刃牙の、史上最大の親子喧嘩が始まろうとしている。政府は非常事
態宣言を発令し、日本全体が厳戒態勢に入った。あと同じ時期にチョロチョロ
されると気が散るので、烈海王のボクシングの試合を中止に追い込んだ。

「貴様になんの権限があるんだ」
 烈の試合会場はラスベガスだったので、日本のバカ親子が何をしようと全然
まったく関係がない。烈は目の前の園田を血走った眼で睨みつけた。
「だってつまんなそうな試合じゃん」
 園田は烈のメンチなどお構いなしの涼しい顔で言った。世界の格闘家と親交
のある園田は、烈の試合の妨害役としてラスベガスに来ていた。
「つまらなくない! 中国武術を極めた海王と、ボクシング界最強のヘビー級
チャンプが闘うんだから、世界中の格闘技ファンが注目しているんだぞ!」
110激突! 刃牙vs勇次郎:2011/05/05(木) 13:13:32.14 ID:dmfZwdF+0
「ふーん。格闘技ファンってこいつら?」
 園田は控室を出て、観客席をのぞき見た。暇を持て余した海王が何人か寝て
いる他は、客は誰もいなかった。
「ほんで、世界最強のチャンプってこいつ?」
 控室の隅っこに、グラブをはめたバカでかい男がボケーと突っ立っていた。
頭に金属製のヘルメットをかぶっており、隣の博士が電気を流すと動き出した。
壁に向かって歩き続けて、壁に頭をゴンゴンぶつけている。
「ねえねえ、こんなんで試合やんの? こんなんに勝っても嬉しいの?」
「やかましい! 弱い相手と闘って楽にチヤホヤされたいんだから、つべこべ
言わずに試合をさせろ!」
 つい本音が出た。烈が少し哀れになったので、園田は自分の股間に手を突っ
込んだ。手に陰毛がついていたら試合は中止、水着の美女がついていたら試合
させてあげる。
111激突! 刃牙vs勇次郎:2011/05/05(木) 13:15:51.26 ID:ekE9bRnV0
「貴様さてはアホだな」
「まあまあ。そろそろ親子喧嘩が始まるから烈くんも一緒に見よう。絶対に超
面白いから」
 親子喧嘩は全世界にテレビ中継されていた。園田は手にこびりついた陰毛を
払い落として、テレビのスイッチをつけた。

 勇次郎と刃牙の親子喧嘩が始まった。あくまでも親子喧嘩なので、勇次郎は
急所を避けて刃牙のケツを軽く蹴った。痛いがとても温かい、親父の愛のムチ
だった。
「どりゃー!」
 勇次郎の次のパンチは刃牙の人中にクリーンヒットした。刃牙は顔の真ん中
に大きなクレーターを作ってぶっ倒れた。勇次郎は続けざまに刃牙の股間を思
い切り踏んづけて肛門に拳を突っ込んだ。肘まで入った。刃牙が思っていた親
子喧嘩とちょっと違う。
112激突! 刃牙vs勇次郎:2011/05/05(木) 13:17:52.28 ID:ekE9bRnV0
「オヤージ! 親子喧嘩なので急所ノー!」
「急所イエス。親子喧嘩などとぬるい事をほざいているのは貴様だけだ」
 勇次郎は全身に鬼の貌を作って、人生最大の本気モードに突入している。刃
牙も本気を出さないと間違いなく死ぬが、急にそんな事言われても困る。
「親父わかった! オレも本気を出すからまずはちょっと落ち着け!」
「よし0.1秒待ってやろう」
 0.1秒たったので、勇次郎は急所攻撃を再開した。大量の血煙の向こうから、
刃牙のか細い悲鳴が少しだけ聞こえた。

「ね、超面白いでしょ」
「ただの撲殺ショーじゃねーか」
 烈は無表情で園田に答えた。こんなしょっぱい試合のために、自分の晴れ舞
台がおじゃんになったと思うと、烈は怒りでいても立ってもいられなくなった。
113激突! 刃牙vs勇次郎:2011/05/05(木) 13:19:54.34 ID:ekE9bRnV0
「決めた。貴様が何と言おうが私も試合をしてヒーローになる」
「えーよ。試合させてあげる」
 園田は意外にも試合を許可した。烈は嬉々として廃人チャンプをリングに引
きずり上げて、自分でゴングを鳴らした。
「園田サンキュー! 今度は私が主役になる番だ!」
 烈が軽いジャブを打ったらチャンプは死んだ。全然何の歯ごたえもなかった。
客の海王どもは全員寝ているので、見ているのは園田1人だけだった。園田は烈
に言った。
「どう? 主役になれた? 嬉しい?」
「なんか違うなー!」
 烈と園田は顔を見合わせて大笑いした。人間ラクをしたらイカンのですよ。
114激突! 刃牙vs勇次郎:2011/05/05(木) 13:21:54.97 ID:ekE9bRnV0
おしまい。
去年の今頃も同じ事を書いたけど、金曜日も有給休暇を取っている人は許せん。
115作者の都合により名無しです:2011/05/05(木) 14:09:12.63 ID:bHRSR6mF0
意味が分からん
116作者の都合により名無しです:2011/05/05(木) 19:09:37.74 ID:uRXA10q70
相変わらずだなあVSさんはw
いや、いろいろな意味でご健在で何より。年に1回でも書いてくれるのは嬉しい。
流石の予測不可能な展開でしたが、本家バキがそれ以上に斜め上を行きそうだw
117作者の都合により名無しです:2011/05/05(木) 20:57:39.08 ID:20HzYZze0
お久しぶりですvsさん

懐かしい週間少年板のバキ本スレのウソバレを思い出しましたw
久しぶりの氏のバキネタでしたけど、
VSさんの余人には理解しがたい世界を堪能いたしました。
確かに今のバキと勇次郎なら撲殺ショーになるなあ。
またなんか書いてください。ドラ麻雀みたいな長編とは言わないけど。

まだ結婚生活続いてますか?w
118作者の都合により名無しです:2011/05/06(金) 13:22:51.43 ID:fJXCb+u90
面白いけど、昔ほどキレはなくなった気がする…
やはり月イチくらいは書かないと!
119作者の都合により名無しです:2011/05/06(金) 22:15:08.00 ID:3eMJ7Nn70
【2次】ギャルゲーSS総合スレへようこそ【創作】
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1298707927/
120作者の都合により名無しです:2011/05/07(土) 22:33:55.80 ID:3B/tuoc10
fateXbleach fateXダイの大冒険 ssが見たい
121 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/08(日) 00:01:50.01 ID:Tlds1DJX0

┌――――──┐
└――――──┘


┌――――――――――──┐
└――――――――――──┘


┌―――――――――――――――――──┐
└―――――――――――――――――──┘
                        



「ああっ!!!」

 毒島は叫んだ。全身の毛が逆立つ思いだった。床に開いた六角形の穴。それが無銘を地下へと引きずりこんだ。
 気付けばヴィクトリアの姿もそこにない。無銘共々地下に行ったのは明白だ。これから何が起こるのか……先ほど見た
少女の不機嫌ぶりからしてまず穏便には済まないだろう。大変な事になった。矢も楯もたまらずしゃがみ込む。
 余程慌てていたのだろう。それまで片手に持っていた焼き鳥が吹き飛んだ。
そしてそれは、天井めがけ大きく飛び、飛び、飛び……落ちてくるコトはなかった。


 代わりに、天井の辺りで粘着質な音が、した。


 何かが張り付いたような音だった。



 渡り廊下の湿度が微増した。柑橘の甘い匂いが濃くなった。

 異変が少しずつ始まっていた。


「あ、ああ……どうすれば」
 膝つきつつ床をポカスカと叩いてみる。特に変わった手ごたえはない。ヴィクトリアはすでに地上への道筋を閉ざしてい
るようだ。奇兵とはいえ火渡相手に副官をやれる毒島だ。切り替えは早い。すぐさま自力での打開を諦め、代わりにポケット
から携帯電話を取り出した。

(まずは防人戦士長に先ほどの人影と匂いについて連絡)

 思案を巡らす毒島は気付かない。その背後に舞い降りる影のあるコトを。

(確か……髪を後ろで縛った銀成学園の女生徒でしたね)

 影は、先ほどの焼き鳥だった。

(背丈と髪型を伝えるだけでもだいぶ絞れる筈)

 焼き鳥は2つの変化を遂げていた。

 ネギや肉のところどころに齧られた跡があった。
 最も歯型の大きい部分には黄ばんだ糸がついており、糸はそのまま天井へと繋がっていた。

 ぶら下がっていた。
 ぶらぶら、ぶらぶらと。

 蜘蛛の糸に絡めとられた羽虫の残骸のように、ぶらぶら、ぶらぶらと。
122 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/08(日) 00:02:22.66 ID:Tlds1DJX0
.
 毒島の背後で、揺れていた。

(あの人影がマレフィック(敵幹部)であるにしろないにしろ真偽は確認──…   ???????)

 伝えるべき情報。その整理が終わるとともに外界へ振り向けられたリソース。
 それが毒島を振りかえらせた。
 果たしてそこには………………………………………………………………………………………………………………。
 何も、無かった。

(しかし、心なしか…………甘い匂いが濃くなったような……)

 匂い。無銘が忌み嫌う匂い。彼の生まれた場所にあったという匂い。
 或いは敵の幹部そのもののそれかも知れない匂い。

 甘い柑橘の匂いが、濃くなっている。
 先ほど無銘がそれに気付いた時……正体不明の人影が、居た。

 そう。

 いま、自分がいる辺りに──…。
 

 言い知れぬ恐怖が毒島の全身を包む。戦士としての勘が告げている。留まるのは危険だと。逡巡。場を離れるべく飛翔用
の気体さえ後頭部のチューブ群に充填しかけた毒島。しかしその視点はある一点に止まりその動作も半ばで止まる。床。
鳩尾無銘を飲み干した床。もとより彼の監視を仰せつかっている毒島だ。迂闊な動きは取れない。ヴィクトリアの持つあらゆる
形質を鑑みるに無銘、消失点にこそ戻ってくる公算が高いのだ。まして彼らは毒島の感ずる違和感も危機感も知らない。

(もし何者かが潜んでいた場合、ヴィクトリア嬢や無銘さんが奇襲を受けるコトも。地下から戻ってくると同時に、奇襲を。ホム
ンクルスとはいえ彼らはまだ戦団と敵対していません。今後を考えた場合、犠牲には)

 ましてここは学園。敵の気配を感じていながら逃げるという選択肢はない。
 にぎにぎしい生徒でいっぱいの教室を出てまだ1時間も経っていないのだ。彼らの取りとめのない雑談さえ脳髄に新しい
戦士が逃げる? 毒島は首を振る。そして重くのしかかるガスマスクの特性を反芻する。幸い眼前に広がる渡り廊下は
ほどよく密閉されている。能力行使に不利はない……。

 なまじ戦士としての思考力があるばかりに彼女はその場に留まった。
 留まって、しまった。
 驚くほどの速さで毒島は携帯電話と向き合い、凄まじい勢いで指を動かし始めた。

(まずは連絡。何があるかは分かりませんが私の武装錬金なら時間稼ぎぐらいは。とにかく連絡さえすれば)

 何があろうと他の者が対応できる。

 そんな最終判断が。

 云い知れぬ恐怖感よりも任務への具体的方策を優先してしまえる精神力が………………………………………………。

 彼女の運命を、少しだけ狂わせた。

 文章が組み上がるまで15秒と要さなかった。
(後は、送るだけ……と)
 カーソルを『送信』に合わす。後はボタン一つ押すだけ……毒島がそう思った時、”それ”は起こった。

 ぴちゃり。

「……?」
 奇妙な物音に毒島は左右を見回した。何か、水滴が落ちたような音だった。しかし辺りにそういう痕跡はない。
 空耳? そう思いながらひとまずメールを送るべく液晶画面に視線を戻した毒島は…………………………凍りついた。
 橙色の雫。
123 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/08(日) 00:03:55.74 ID:Tlds1DJX0
. それが画面にこびりつき、光と色と文字をレンズの要領で歪めていた。

 ぴちゃり。
 ぴちゃり。
 ぴちゃり。

 愕然と立ち竦む毒島をよそに雫はなおも降り注ぐ。豪雨の中のフロントガラスのように携帯の画面はあっという間に橙の
粒に覆われた。画面だけではない。真鍮色のガスマスクもまたオレンジの雨を浴び始めた。注ぐ。注ぐ。謎めいた橙の雫は
いつしか毒島を中心に勢いよく降り始めていた。
(いったいどこから……?)
 ぞぞぞと身を伸ばしながら彼女が天井を見たのは、まったく反射的な行為だった。

 そして、見てしまった。
 天井板の隙間から。橙色の粘液が滾々と染み出しているのを。その粒が、廊下に降り注いでいるのを。

 渡り廊下の天井はもはや一面橙の雫に侵されていた。碁盤のように張り巡らされた板の隙間という隙間からオレンジの汁
がニュルニュルと分泌されている。それらは重力に従い落下する。大きな水滴も小さな水滴も一切合切の区別なくばちゃ
ばちゃと爆ぜ割れ、床のそこかしこでおぞましくも芳しい水たまりを作っていた。
 窓に散った水滴もある。昼休みを満喫しているのだろう。遠く向こうで談笑する生徒の景色をおぞましく歪めていた。
 あたかもこれから彼らに何をするのか、暗示しているように。毒島の顔から血の気が引いた。
「ひっ」
 また水滴が当たった。肩に沁み込んだそれは生暖かさを増しているようだった。
 全身がびくついた。その拍子に携帯電話が零れおち、床を滑った。
(しまった、つい! これでは防人戦士長に連絡が……!!)
 拾いに行こうと足を踏み出した毒島だが、そこで彼女は更なる異常に気が付いた。
(体が……動かない……!?)
 歩こうとしても体が前身しない。踏み出そうとする脚が鉛の枷をつけられたように重いのだ。
「ヴィクターの重力攻撃? い、いえ、というより、これは」
 彼女は気付いた。
 橙色の水滴たちがいつの間にか集合しているのを。水たまりと化したそれが毒島の両足をすっかり覆い尽くしているのを。
 おぞましいジェル状の感触が足首を登ってくる。もはや雫と呼べる代物ではなかった。正体不明の軟体動物のようなそれは
じゅらじゅらと音を立てながら毒島の両足に纏わりついている。粘土のような糊のような感触だ。怪物映画の主役が口から
吐くねっとりとした不潔感。それが現実のものとして足を蝕んでいる。気死しそうになりながら、毒島は自分が動けない理由
を分析した。
「これは……磁力?」
 横目に、ある風景が見えた。
 肩に染みついたオレンジ色の粘液が、後ろに向かって動いているのを。
 いつしか粘液は尖っていた。毬栗(イガグリ)。4分の1ほどに斬りおろしたそれを貼りつけたような、或いはヤマアラシが
肩に現れたような、兎にも角にも無数の棘がごちゃごちゃと無造作に連ねられ、携帯電話と反対方向、毒島の行くべき道
とは真逆の方へ突っ張っていた。再殺部隊の制服。その肩の生地は今や毒島の肌から大きく浮き上がり、後方へ後方へ、
棘によって引っ張られていた。
 それを見た毒島の瞳が大きく開き──…
「確かに柑橘の匂いがしますね。先ほど見た人影はあなたですね」
 白く光ったゴーグルに覆い隠された。
「……ひひっ! 御名答!!」
 声は、上からした。ある程度予想していたのか。毒島はひどく落ち着いた様子でそこを見た。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花。現象が明確なればなるほど研覈(けんかく)の、追及心が先立つか。ひひっ!! 流石は
かの根来めの侶儔(りょちゅう)……ともがら、奇兵仲間というだけのことはあるのう。いやあ流石流石。………ひひ」
「………………戦士・根来ですか。彼を気にかけているというコトはつまり、アナタは」
 ひ弱に見えるが戦部・根来といった奇兵連中と肩を並べる毒島だ。同年代の一般人よりは遥かに肝が据わっている。
「ひひっ。それについてはのーこめんと! なぁに安心せぇ。わしは別にヌシを害するつもりはないよ」
「……」
「そう。害するつもりはないよ。先ほど注いだのだって毒ではない……。ただの、よ・だ・れ……じゃっ!」
 毒島は眼前に広がる「あり得ない景色」を見ても、寧ろ頭が冷えて行く思いだった。
 先ほど粘液が吹き出していた天井板の隙間。
 その中のある一点。毒島にほどよく近いある一点から……。

 少女が生えていた。
.
124 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/08(日) 00:04:53.52 ID:Tlds1DJX0
「胸から上だけの少女」
 
 が、生えていた。

「枯れ尾花という割には瑞々しい、果実のような姿ですね」
 毒島の修辞は皮肉でもなんでもなかった。少女の体は天井から直接生えているという訳ではなかった。
 天井板の隙間から「茎のような」粘液がおよそ30cmばかり生えていて、それが途中から急に膨れ上がり「胸から上だけの」
少女を形作っていた。当然さかさまになっている少女だが、さほど気にする様子もない。後ろでくくった髪の毛らしい造形も
垂れさがる気配はない。
 おぞましい橙一色、蝋人形のような少女の顔の造詣の中で、大きな瞳だけがどこまでもキラキラと輝いていた。
「果実か。ひひ。こう見えてとんでもない年寄りじゃがのう」
「??」
「それにわしはどちらかといえば肉が好きじゃがな」
 そういいながら少女は串ざしの焼き肉を一齧りし、あむあむと咀嚼を始めた。
「その焼き鳥。私が持っていたものですか?」
 問いかける毒島だが返事は来ない。少女はいよいよ焼き鳥にむしゃぶりつき始めた。心ここにあらず、焼き鳥を食べる
のに必死だった。エサにありつく子犬のように一心不乱だった。そうして頬をぶうぶうに膨らませながら食べる、食べる、食べる。
「はぐはぐっ。はぐ!! うん旨い。肉の質も良いが何よりたれが良いのぅ。美味なりし美味なりし。ああ、旨いのう」
「あの、その焼き鳥……」
「のうのう! これ、これっ! どこで買ったのじゃ! なんかわしのつぼにはまった!!」
「あの、私の話を」
「ねぎの焼き加減がの! 絶妙なんじゃ! 産地はどこじゃ? 育て方の良さが味に出ておる!」
「さ、さあ……貰い物ですので詳しいコトまでは」
 食べかすを吐き散らかしながらまくし立てる少女を毒島は持て余し気味に見つめた。それは彼女が焼き鳥を飲み干し
口の周りのタレや食べかすを桃色の舌でぺろりと舐めとるまで続いた。
「お、おう。すまなんだの。質問に答えよう。うん。ヌシの持ってた焼き鳥じゃよ。ひひっ。まったく今の問答と言い先ほど
といい、わしという奴は、食い気を出すと必ずしくじるらしい」
「?」
「わからんか? 鳩尾無銘めに追われたわしはとっさに天井へと逃れた。本当は走って遁げようかと思ったが、地下から例
の最有力候補が昇ってくるではないか。見られてはマズい。そう思い咄嗟に天井へ”沁み込んだ”までは良かったが……
ほれ、ヌシが焼き鳥、吹き飛ばしたではないか。饑(ひだる)かったわしがつい武装錬金でこちらに……という次第じゃ」
 腕を揉みねじりながら少女はうんうんと頷いた。天井に固定された体が微かに揺れた。
「最有力候補が地下から? ヴィクトリアが? いったい『何』の最有力候補ですか?」
「のーこめんと」
 低い鼻をこすりながら少女は笑った。どうやらわざと情報を小出しにし、気を揉ませようとしているらしい。
「まー、我慢はしようと思ったよ? 天井で飯喰わば気配でバレよう。だから我慢をしていたのじゃが、ほれ、我慢をしている
うちますます食欲が募ってなあ。そもそも無銘めを見たのも悪い……ひひ。ひひひ。10年ぶりの持粱歯肥(じりょうしひ)、
つまりは御馳走……あれの味を想像するだについつい思わず”よだれ”を垂らしてしまった訳でのう。いや失敬失敬」
 それまで明るかった少女の表情が、無銘を語る時だけひどく薄暗くなったのに毒島は気付いた。しかし御馳走? ホム
ンクルスたる無銘を指してそう言いきれるおぞましさ。
(ホムンクルスは人間を食べます。でも同族、ホムンクルスを食べようなどというコトはありません。それをやれるのは
ヴィクターのような”第三の存在”か、或いは」
「或いはヌシの朋輩、戦部とやらのように佯狂(ようきょう)酔狂極める輩か、じゃろ?」
「……」
 毒島は軽く息を呑み、少女を見た。驚きを感じたのは心を読まれたからではない。佯狂(ようきょう)。狂人のフリをする
コト。強者を喰らい精神を高ぶらせる戦部の儀式を”ママゴト”と言い切れる。ともすれば少女自身、戦部に喰われるコト
があるかも知れないのに、まるで恐れている様子がないのだ。それが、不気味だった。
 そんな理解を理解したのか少女は軽く手首を翻し、得意そうに高説を始めた。
「おっと。馬鹿にはしとらんよ。”さいえんす”の見地からすれば甚だ不合理、実効性もないことをこれ見よがしに繰り返す
のはまさしく狂人のふりじゃが……それを以て不可能を打破できるところにこそ人間の良さがある。事実わしはじゃな、
彼にこんぱすーを感じておるよ。うん」
「コンパス?」
125 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/08(日) 00:07:07.41 ID:Tlds1DJX0
 何をいっているのだろう。目を点にする毒島に「しまった」という顔が返ってきた。少女は困ったように眼をつぶり、人差し指
でこめかみをグリグリといじり始めた。
「そ、その、じゃな。ほれ、ほれ。共感、という意味の。しんばるーじゃなくて、ええと、ええと。何じゃったか。しんぼるー?
あ、てれぱしー!! てれぱしー!!」
「シンパシー、では……」
「え?」
「だから、感じるのはシンパシーなのでは……」
「ふぇ」
 少女の双眸がじわりと濡れた。大きな瞳は今にも溢れんばかりの涙に満たされている。
(今の指摘のどこに泣く要素が!?)
 のみならず彼女は腕で瞳をごしごしこすり始めた。涙をぬぐおうとしているらしいのだが、考えてみれば元々粘液状した
姿でもある。その行為にどれほどの意味があるか伺い知るコトはできない。
「おのれ……なんで誰も彼もがわしを馬鹿にするのじゃ…………ちょっとぐらい横文字苦手でもよいではないか…………」
「よ、よくわかりませんがすみません」
「そ、そじゃ!! わしは漢字いっぱい知っとるんじゃぞ! 漢詩だって読み下せるし忍法もいっぱい使える! ちょちょちょ
長所の方が多いのじゃ! な! な!! 鼻が低くても横文字苦手でも良いじゃないかよ! のう!?」
「というか話、ズレてません?」
「よし一気に話を戻そう!」 泣いた鴉が何とやら。逆さづりの少女、満面の笑みで拳を突き”下げた”。

「まず戦部! 人の身ながらほむんくるすを喰うではないか? ならばほむんくるすたるわしがほむんくるすたる鳩尾無銘を
喰らおうとして何が不思議か? 大体あやつもともとわしの……よし!! この話題終了じゃ! で! よだれの話! ついよだ
れを垂らしたわしはヌシに気付かれこうなっている、と! 以上なのじゃーっ!!」
 何とも分からない少女だと毒島は嘆息した。明るいかと思えば薄暗い部分もある。そもそも敵なのかどうなのかもわから
ない。害を成すつもりがないなら、どうして拘束しているのか……左記のようなコトを告げると、少女はまた笑った。
「ひひっ。どの道ヌシは、わしの情報、防人めに連絡しようとしておったしな。よだれついでじゃ。動きを封じさせて貰ったよ。
いずれ干戈(かんか)を交える間柄とはいえいまはマズい。何しろわしはまだ地球を見つけておらん。『まれふぃっくあーす』
たる器を……見つけておらんからなあ」
(確か総角主税曰く、いま存命中のマレフィック……敵の幹部が冠するのは)

月。
水星。
金星。
火星。
木星。
土星。
天王星。
海王星。
冥王星。

そして、太陽。

(太陽系の惑星名。そのうえ更に、『地球』まで?)
 与えられた情報を元に推測を紡ぐ。辿りついた答えは肯定するのも恐ろしいものだった。

(最後の幹部の候補が……ここ銀成学園に?)

 毒島は生唾を呑んだ。それに気を良くしたのが少女は楽しげに囁き始めた。

(そしてその最有力候補というのが)
「う゛ぃくとりあかも知れぬ。ひひ。ヌシはそう思っているのじゃろ?」
「ひっ」
 か細い肢体を震わせたのも無理はない。すでに粘液に拘束されている毒島だが、新たに纏わりつく物質があった。
 それは少女の、首だった。
 天井からぶら下がっていた少女のそれがいつの間にかニューーーーーーーーーーーーーーーっと伸び、毒島の体をゆっく
りと、ゆっくりと取り巻きつつあった。大蛇に巻かれるネズミの気持ちが分かるような気がした。そうやってせわしなく動きながら
少女は笑い、時には毒島の顔を覗き込みながら喋る。橙色の体の中で口の中だけが炎のように赤いのを認めた瞬間
毒島は怖気に震えた。並びのいい真白な歯がそのまま頭蓋を削りこんでくる気がした。桃色の舌が脳髄ごと思考を啜り
尽くしてくるような気がした。
126 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/08(日) 00:09:35.14 ID:Tlds1DJX0
.
「『まれふぃっくあーす』こそ丕業(ひぎょう)の鍵よ。我ら成すべき大事業のきーよ」

「総ては猷念(ゆうねん)、理想のための策謀よ」

「我ら庶畿(こいねが)う世界を創るため、『まれふぃっくあーす』は何としても必要……」

 ひどくカビくさい言葉ばかりが宙を舞う。それらを一つ一つ拾いながら心中で反復すると、毒島は自らの考えを述べた。

「あなたが学校にいる理由は、まさか幹部の……調整体の素材を探しているから、ですか?」
「ひひっ。言っておくが『地球』は別格。調整体などにはせんよ。何しろ世界を満たして貰わねばならんからのう。究極の破
壊と平和という奴を齎して貰わんことには満たされんよ。わしや! 仲間や! 盟主様の! 無念という奴がの! ひひっ!!」
「世界を、満たす……? 究極の破壊と、平和? まさかヴィクター化? いや、それ以上の存在に……?」
「う゛ぃくたー化あ? ひひ、そーんな100年前に作ったような、ひひ! 作ったようなものに今さら頼るかよ! ひひ!! ひひひ!!」
 狂ったように笑う少女の胸がぶちりと千切れた。果実でいえば正に「もぎ取られた」彼女はそのまま床に落下しバシャリと
弾けた。バケツ一杯の水を撒いたような音が廊下に響いた。もはや少女の姿はどこにもない。落下地点を中心に無数の橙
色した粒が大小もさまざまに散らばり、昼の光をてかてかと弾いている。瑞々しい柑橘の匂いがぱあと広がり、毒島の鼻孔を
くすぐった。
(消えた? い、いえ……)

「まれふぃっくあーす」

「其れは後天的に作れる物ではない」

 毒島は戦慄した。床に散らばった『少女だった水滴』。それがズズ……、ズズ……、とナメクジのように這いずりながらある
一点に集結していく。先ほど床にできた水たまりも同様だった。天井板の隙間に溢れたものも……。

「まずは稟質(ひんしつ)。生まれつきその本質が清らかであることが肝要」

「次に現状。幸福であってはならぬ。幸福であってはならぬのじゃ…………」

「清らかながらに深い悲しみを宿している。う゛ぃくとりあめはかなり良い線じゃ。良い線じゃなあ。ひひ」

 粒たちは動きこそゆっくりだったが確実に確実に集合し、その体積を増しながら進んでいく。最初はどれも10円玉以下だ
った大きさの水滴たちは今や重厚なサーロインステーキほどだ。それがおよそ50。ズズ……ズズ……と粘り気のある音を
立てながら集まっていく。

「天然自然。性格的、武装錬金的条件が合致せねばならぬ……」

「我らの求める条件。ぱぴよんめが有する『もう1つの調整体』の形質に合致する者こそ」

「まれふぃっくあーすなのじゃよ」

 じっと立ちすくむ毒島をよそに欠片たちはとうとう総て合一した。
 オレンジ色の塊はまず棒状に直立し、全体全て雑巾のように捩じれた。後は各所を尖らせたり窪ませたり分断しながら──
さながらクレイアニメのように──複雑な変形を繰り返し。
「しかし困る」
 先ほどのすずなりの、蝋人形じみたものではない。
「せっかくの選別中に音楽隊が転校してくるとはの!」
 明確な少女の姿を、形成した。
(……私より年下?)
 異常事態の中に居るというのに毒島はそんな世俗的な感想を抱いた。
 眼前に居たのは見た目10歳にも届かない小さな少女。ポニーテールで、黒いブレザーを着ている。装飾といえば首元の
真赤なスカーフと両手についたブカブカの手甲ぐらい。カビ臭い口調とは裏腹にひどくあどけなく愛らしい、鼻の低い少女だった。
「ま! 許可を呉れてやったのはわしじゃがなあ。ひひっ。どうせ三日もすれば地獄を味わう奴ら……。何人下泉(かせん)に
行くことか。ひひ! 正直わしにも想像がつかんわい! 故にいまぐらいは温い平和とやらを楽しませてやるが功徳というも
の。ひひひ!!」
127 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/08(日) 00:14:48.13 ID:Tlds1DJX0
 そういって少女は芝居がかった調子で両手を広げた。頬にニタニタと貼りつく笑みはやはりかなり薄暗い。ひどく老獪な光
さえ瞳の奥で淀んでおり、毒島は本当にこの少女が”少女”なのか疑わしくなってきた。
(少女じゃない? そういえば先ほど彼女自身もそんなコトを。……まさか))
「おうおう。わしばかりに話させるでない。ヌシももっとこう、何か云え。会話が成り立たんと寂しいじゃろうが」
「総角主税や無銘さんから聞いたコトがあります」
「ひひ?」
「レティクルエレメンツには見た目こそ少女でありながらおよそ500年以上生きている幹部がいると」
「ほう」
「『木星』。伝説的な忍びだそうです。10年前の戦団との決戦では終ぞ戦士の誰にも顔を見せるコトなく逃げおおせたとか」
「イオイソゴ=キシャク。まあ確かにわしのことじゃが……今さら顔を覚えても無駄じゃよ」
 ドス黒い笑みが少女……いや、イオイソゴの顔に広がった。
「どうせヌシはもうすぐこの件に関し、何も考えられなくなる……」
 言葉と同時に粘液の締め付けが一層強まる。磁力ががっちりと毒島を押さえつける。華奢な彼女では振りほどくコトはおろ
か動くことさえままならぬだろう。
 毒島は黙りこんだ。イオイソゴもまた、黙りこんだ。
 廊下は静寂につつまれた。
 今や響くのはガスマスクから洩れる吸気音のみ……。
「いやー。参りましたねこりゃあ」
 転瞬。毒島の視界を巨大な影が覆った。影、と見えたのは一瞬で、毒島はすぐにそれが巨大な斧のような刃と気付いた。
(増援……?)
 突然響いたその声は、若い男性のものだった。
「おっじょーさん! いけませんねえそりゃあ。身動きできないからってそれは良くねーですよ。へへ」
 ガスマスク越しに人懐っこい顔がすり寄ってくるのが見えた。
「大人しくお話聞いていたのは情報引き出すためでしょ?」
 彼は毒島の肩に自分の顔を乗せていた。尖った磁石が刺さっているというのに、平然と。表情には恍惚さえ伺えた。
 そして光った。何かを囁かれたようだった。
 それだけで毒島は、それまでしていた「ある攻撃」をはたりとやめた。自分でも驚きながら、再開するコトはできなかった。
「何か……無色透明の有毒ガスであのご老人の動き封じようとしてたんでしょ? お嬢さんの考え通り、いま体を拘束して
いる粘液はご老人の武装錬金によるもの……」
「わしに有毒なる瓦斯(ガス)をば呉れてやれば拘束は緩んだやも知れぬ。そしてその隙に携帯電話を奪取。防人めに連
絡……と行きたかったようじゃがそうは問屋が卸さん」
 もがく毒島に一層強く斧のような刃が押し当てられた。
「云ったじゃろ? 「どうせヌシはもうすぐこの件に関し、何も考えられなくなる……」。ひひっ。という訳じゃぶれいく。やれ」
「黙っていて貰いやす。ご老人の特徴も含めてね。ひひっ」

 そして彼女の目を最大級の光が焼いた。

「危なかったすねえ。いまからメール消しやすよご老人」
「ごくろう。いやはや食い気を出すと碌なことにならんのう。ひひっ!」
「しかしまさか鳩尾無銘が転校してくるとは! ご老人、嬉しいんじゃないんすか?」
「ひひっ。食い気は出さんよ。ヌシこそ小札零との再会が待ち遠しかろ」
「そりゃあもう。何せ……」

「小札さんってば俺っちのお師匠ですから!! 小札師匠っすよ小札師匠!」

 他にも彼らは二、三会話をしていたようだが、毒島はただただ何もできず立ち尽くすばかりだった。

(敵が傍にいるのに何もできない……?)
 新しく現れた男がメールを消している。それを見ているのにどうするコトもできない。凄まじい絶望感だった。
(これがあの男の武装錬金の……特……性……)




 無銘が地下から戻ってきた時。

 毒島はただただ茫然と立ち尽くしていた。

 辺りにはうっすらと柑橘の匂いが立ち込めていたが……。
 「何もなかった」。彼女はそれを繰り返すだけだった。
128 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/08(日) 00:16:05.27 ID:Tlds1DJX0
以上ここまで。
129作者の都合により名無しです:2011/05/08(日) 01:02:35.65 ID:94rzUjad0
毒島って確かマスクの下は美少女でしたね
年端もいかない奇怪な少女との邂逅、
前回と打って変わった雰囲気ですな
不気味な雰囲気のまま次回に持ち越すのか
また賑々しくなるのかどうなるか楽しみです。
130作者の都合により名無しです:2011/05/08(日) 14:17:32.43 ID:Yk/NsPlr0
お疲れ様ですスターダストさん。

ここんところの好調な更新が嬉しいと同時に終わりそうで寂しくもあります。
まひろたちが活躍する明るい雰囲気の下で着々と薄黒いものが蠢いてますね。
そろそろバトルモードが来るんでしょうか?
131ふら〜り:2011/05/08(日) 20:46:05.18 ID:lYDWzFTn0
>>VSさん(お久しぶりですっっっっ!)
おぉVSシリーズ! 懐かしいノリです。やるならこれぐらいエグくやってほしい親子喧嘩ですが、
近年の勇次郎は人格が丸めだったり、やってることがもう「格闘」の域じゃなかったりしました
からねぇ。もしかしたら今後描かれる原作の親子喧嘩よりも、こっちの方が私には面白いかも。

>>スターダストさん
今回は映像がホラーでしたねえ。動じず応じて情報収集の為に会話を続けた毒島、見事な肝
です。カズキはもちろん斗貴子でも、この状況では「戦って倒して捕獲」を考えて暴れて、結局
叶わず(敵わず)逃げられてしまいそう。根来も久しぶりに見たいですが、再登場はまだ先か?
132作者の都合により名無しです:2011/05/08(日) 23:39:29.10 ID:vEQh6b8b0
やはりふらーりさん判定でも>>109はVSさんか

スターダストさんは意識的に明るいシーンと暗いシーンと激しいシーンを
折り混ぜているんだね。俺はまひろや小札がキャッキャウフフしてるのが
一番好きだけど
〜西行寺幽々子VSレミリア・スカーレット〜

「妖夢さん…彼女は、西行寺殿は、そこまで強いのですか」
「強いか弱いかでいうと…むしろ弱い部類です」
「弱い部類」
それは、少々…いや、相当にまずかろう。
吸血鬼という種族自体が身体能力・戦闘能力に関して地球上に存在する全生命体をひっくるめても上位の存在だ。
更には数々の奇蹟を実現する、無数の特殊能力をも備えている。
銀や日光に代表されるように弱点こそ多いが、それを補って余りあるほどに強く―――カリスマに溢れる。
人間がどれだけ夢想しても届かない神秘を、彼らは星の数ほど手にしている。
だからこそ人は彼等を散々忌避しながらも、魅せられ、時には神々の一柱として信仰の対象にすら祭り上げる。
まして相手はレミリア・スカーレット。
齢500を数える、最強の吸血鬼。
「なら、レミリアと闘って勝てる見込みはないのでは?」
「というか幽々子様がまともに殴り合いなんかしたら、下手すりゃそこらの低級妖怪にも負けます」
妖夢はそう語りながら、しかしその顔にはまるで不安はない。
主が負ける事などあり得ないと、確信しているかのように。
「それでも、まるで問題ありません―――どんな<強さ>だろうと、幽々子様の前には意味を成さない」
「意味が、ない」
「そう」
妖夢は言う。
「例え吸血鬼だろうが何だろうが…幽々子様の前では、無為に、無意味に死ぬだけ。そこから逃れられるのは、極々
僅かな例外として、死を超越した文字通りの不死身だけです。あのレミリア・スカーレットとて不死身に限りなく近い
生命力の持ち主でしょうが…完全な不死身ではない。ならば、幽々子様からは逃げられない」

「我が主・西行寺幽々子の<死に誘う程度の能力>―――其れは、誰も逃がさない」


漆黒の翼を広げ、月を背にしたレミリアは冷徹な女王の笑みを浮かべる。
吊り上がった口の端で、長く伸びた牙が月光に煌いた。
レミリアから絶え間なく放たれる真紅の霧が蠢き、無数の魔法陣を形成する。

「来たれ、我が従僕共―――<サーヴァントフライヤー>!」

魔法陣から無限とも思える程の蝙蝠が一斉に飛び出し、烈風を巻き起こしながら幽々子に向かう。
レミリアの魔力によって生み出された、呪われし蝙蝠。
彼等はその翼で肉を切り裂き、牙で血を啜るのだ。
相手が、普通の人間や妖怪であるならば。
だがそこにいるのは、西行寺幽々子だ。
死を操り、死を司り、死を誘う、亡霊姫。
その身を喰らうべく蝙蝠の群れが襲い掛かった一瞬、幽々子から凍て付くような霊気が迸る。
レミリアが放つ真紅の霧よりも淡い、桜の色をした霧。
幻想的な光景だったが、それがもたらすものはただ一つ―――<死>。
蝙蝠はそれに触れた瞬間、蒸発するように消し飛んだ。

―――誰かを、何かを<殺す>ためには、何らかの手段が必要である。
圧倒的な腕力で、物理的に。
それとも剣で斬り捨てるか。
もしくは毒を盛るという方法もあろう。
いずれにせよ、何もせずに<殺す>事は不可能だ。
しかし。しかし―――西行寺幽々子だけは、別だ。
神が、或いは悪魔が彼女に与えた<死に誘う程度の能力>。
意味もなく理由もなく際限もなく。
彼女がその気になれば、それだけであらゆる命は彼女の掌の上。
命ある者にとって其は、聳え立つ巨大な壁といえよう。

だが。
レミリア・スカーレットとて、自他共に認める幻想郷最上位級の大妖。
その壁を、むしろ楽しむかのように不敵に見据えていた。
「なら、これはどうかしら…?」
指先からパックリと傷口が開き、そこから噴水のように血が溢れ出す。
鮮血は蠢きながら形を成し、真紅の鎖となった。
それを掴み取り、ヒュンヒュンと風を切りながら振り回す。

「捕縛せよ―――<チェーンギャング>!」

レミリアの手から放たれた鎖がのたうつように蛇行し、旋回し、幽々子に向かう。
「無駄よ」
その鎖もまた、幽々子に触れる前に錆びて崩れて腐り落ちた。
「さて、こっちも反撃してみようかしら?」
幽々子の周囲を取り巻く霊気が変質していく。
それは―――蝶。
誰もが見惚れずにはいられない程に美しい、桜色の羽を持つ、無数の蝶だった。
だがそれがもたらすものは、臨死の恍惚。

「死符―――<ギャストリドリーム>」

蝶が一斉に飛び立った。優雅に舞う、幽雅に踊る、桜色した揚羽蝶。
その全てがレミリアに群がって、その矮躯を覆い隠す。
「このっ!」
魔力を噴出させて消し飛ばすが、そこから逃れた蝶が肩に、腕に、足に止まる。
溶けるように身体に染み込み、腐食させていく。
吸血鬼の持つ再生能力すら、作用しない。
レミリアは鬱陶しげに患部を引っ掴み、周囲の健康な肉ごと抉り出していく。
ようやく働き始めた再生能力でダメージは回復していくが、戦闘状況は明らかによくない。
遠距離戦は不利。
接近戦なら圧倒的にレミリアに分があるだろうが、そもそも近づけば死が待っている。
<死に誘う程度の能力>を発動している限り、幽々子はまさに無敵だ。
その防御を、崩さぬ限り。
「だったら、崩せばいいだけよ」
地上に降り立った吸血姫は、大地に掌を押し当てた。
「ハァッ!」
気迫と共に溢れ出した強大な力が、大地へと伝わっていく―――

ドゥン―――!

吸血鬼の異能<力場思念(ハイド・ハンド)>。
手を触れる事なく物体を動かす、いわゆる念動力。
それをレミリアは、この大地そのものに対して使用した。
即ち―――地球の核に向けて。
地軸が揺れ、傾き、震える。
突然の暴挙に、泰然としていた幽々子が足を縺れさせ、バランスを崩す。
能力の発動が、途切れた。
それが、狙いだった。
それだけの為に―――レミリアは、地球を動かした。
紅の閃光と化して、矢のように幽々子へと襲い掛かる。
瞬時、幽々子は身を捩りながら<死に誘う程度の能力>を再び発動させる。

交錯。

再び距離を取る両者。
幽々子は右腕を裂かれ。
対してレミリアの右腕は、幽々子の能力に侵食され、今にも崩れ落ちそうに腐れている。
忌々しげに、残る左手で使い物にならなくなった右腕を肩口からブチブチと引き千切る。
すぐさま肉の断面からゴボゴボと血の泡が吹き出し、細胞が凄まじい速度で増殖していく。
数秒後には、何一つ変わらない新品の右腕が出来上がっていた。
「ナメクジ星人?」
「いいえ、吸血鬼の力よ」
軽口を返してはいるが、レミリアの表情は優れない。
西行寺幽々子が相手では、手傷を負わせるだけでこのザマだ。
肉を切らせて骨を断つ―――どころか、腕一本失って僅かに肉を裂いただけ。
しかも彼女は、まだまだ本気とは言えない。
だがそれは、レミリアも同じだ。
黒き翼で、空へ舞う。
「本当の殺し合いは、ここから…って所ね」
再び、臨戦態勢に入って―――
レミリアと幽々子は、眉を顰めた。
二人の間に、割って入った者がいたのだ。

「…御二方。もう、おやめ下さい」

レミリアと同じく、紅を纏う吸血鬼―――<銀刀>望月ジロー。

「これ以上はどちらが勝っても、お互いにただでは済まない」
「控えろ。百年そこらしか生きていない若造が」
牙を剥き出し、鮮血のような眼でジローを睨み付ける。
「甘い顔をすれば付け上がったか?貴様に、この闘争を邪魔立てする権利などない」
「それは確かに、仰る通りです」
けれど。
「西行寺殿にはレッドやヴァンプ将軍共々、世話になりました。レミリアも私やコタロウにとっては、友人です」
ジローは慎重に、そして真摯に訴えかける。
仲裁し―――調停する。
「どうか、ここは矛を収めて下さい。御二人に何かあれば…コタロウが悲しみます」
「…………!」
その名を聞いた瞬間に、磐石の筈のレミリアの闘気が揺らぐ。その瞳には、ありありと迷いが浮かんでいた。
幽々子も同様だ。目を伏せ、静かにレミリアの反応を待っている。
「…卑怯ね」
レミリアが口を尖らせる。
「コタロウの名前を出せば、私も幽々子も引かざるを得ない…そうタカをくくってるんでしょう」
「いやはや、情けない限りです。何せ臆病者でして、このくらいしか貴女方を止める方法がないのです」
「…本当に臆病な奴ってのは、いつだって何もしない傍観者よ」
ゆっくりと地上に降り立ったレミリアから、燃え立つような鬼気は既に失せている。
「いいでしょう。身の危険を顧みずに割って入った勇気に免じて、此処はあなたの顔を立ててあげる」
「そうね。私も賛成」
腕の傷を止血しながら、幽々子もそう言う。
「ああ、クタクタ。やっぱり私みたいなお嬢様が肉体労働なんてするもんじゃないわ」
「よく言う、タヌキめ」
「あら、私タヌキは好きよ。美味しいもの」
「フン。まあどうでもいいけど、ボロボロにされたドレスは弁償してもらうわよ」
「いいわよ。領収書の宛名は<白玉楼(幽)>でね」
幽々子の人を喰った言動に対し、レミリアは小さく舌打ちしつつ、ジローの眼前で握り拳を作る。
その手を開けば、何処から取り出したものか、純白の封筒が掌に載せられていた。
「さあ、ジロー。ゴタゴタしたけど、今夜はこれを渡すために来たのよ」
「これは…」
品のいい金の縁取りを施した洋封筒。ジローはそれを、丁重に受け取る。
「我が城<紅魔館>にて明日、私の準々決勝進出を祝して、パーティーを行う」
いささか得意げに胸を反らし、レミリアは言う。
「望月ジロー、そして望月コタロウ。あなた達兄弟を、紅魔館へと招待する」
そして、空へと羽撃(はばた)いた。
「ヴァンプ将軍や、あの赤いヒモ男にも声をかけておくといい。目出度い席だ、無礼講でいこう」
ジローを見下ろして、その時ばかりは外見相応に可愛らしい仕種でウインクする。
「待ってるわよ、ジロー。楽しみにしているわ―――」
その姿が、歪んで霞んで赫色の霧と化す。夜風に流されるように消えていく。
そして静寂。
先程までの死闘が嘘のように、静まり返った。
「紅魔館…パーティー、ね。御馳走は出るかしら?」
「まだ食べるんですか、貴女」
「育ち盛りなの」
豪快な嘘を吐いた。亡霊に育ち盛りもクソもあるはずない。
「それはともかく…行くの?どうせロクな事にならないわよ」
「…正直、嫌な予感はあります」
ジローは重々しく頷いた。実際、嫌な予感だけはよく当たるのだ。
しかし…レミリア・スカーレット程の者からの、直々の誘いだ。
無下にする訳にもいかないだろう。
そうでなくとも。
ジローは、ある意味ではレミリアに強く惹かれている。
危険な存在だと認識しながらも、己の数倍もの時間を重ねたその血に、畏敬の念を禁じ得ない。
吸血鬼とは古き血が持つ重みに対して、本能的に一方ならぬ敬意を抱くものだ。
それらを鑑みれば、答えは決まっている。
「鬼が出るか蛇が出るか…紅魔館、行くしかないでしょうね」


―――結果的にはこの嫌な予感も、見事に的中する事となる。
望月ジローは紅魔館に巣食う<悪魔の妹>との、命懸けの遊戯に興じる羽目になるのだから。
138サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/05/10(火) 07:20:12.65 ID:/I0Q0Yv80
投下完了。前回は>>72より。
ゴールデンウィークとか何それ?みたいな状況で仕事ばっかでした。ファック!
今回は今の御時勢で書くべきかどうか迷った描写があります…が、気にするくらいならSSなんか
そもそも書くな、とも思うので、そのまま書きました。
ただ、苦情があれば修正します。
次回からレミリア過去篇と紅魔館篇。今作のもう一人の主人公なのにいまいち活躍できてないジローさんも
フランちゃんとガチバトります。死闘的な意味で暴走します。

>>74 その辺は作者の匙加減かなあ…実際には勝ったり負けたりで、ほとんど実力に差はないんじゃないかと。

>>75 いや、ヴァンプ様は結構頑丈なんで、タンコブこさえるくらいで済むかも(笑)

>>76 >>78に書いた通りです。
>>79 まあ、いい学生生活でした。

>>ふら〜りさん
おちゃらけてるのもマジにバトってるのも、共に本性という事で…人外の力を持ってても、基本的に少女
なんで。ジローさん、今回は割って入りました。下手打ってたら消し飛んでたトコでした。

>>スターダストさん
まさに鬼更新…頭が下がります。
小札のお姫様だっこに代表される、ストロベリーで楽しい学園生活に迫る影…!
壮大な野望を掲げる敵にどう立ち向かう錬金戦団&ブレミュ&やる夫社長!(出ますよね?ね?)

>>VSさん(かなあ?)
カオス。ただ、それしか言葉がありません。
そりゃ刃牙じゃまだまだ、勇次郎には勝てないですよね…本編で、より悲惨な最期にならないよう
祈るばかりです。そして烈…空気読めw
139作者の都合により名無しです:2011/05/10(火) 21:23:57.24 ID:EVSi9V/90
サマサさんって確か小売業でしたっけ?それなら休みはないですな
レミリアって吸血鬼でいう「真祖」って奴かな?
強いもの同士はなかなか決着をつけませんな、どの世界でも
140作者の都合により名無しです:2011/05/10(火) 23:26:42.44 ID:M+/6gNyx0
お疲れ様ですサマサさん。

東方それほど詳しくないですが「死」を自在に操る能力ならば幽々子は無敵ですね。
まさにボス戦でザキを連発するクリフト並みの強さです。
トーナメントで終わると思いましたが、過去編まであるとは話が深くなりますね。
141作者の都合により名無しです:2011/05/11(水) 14:15:30.56 ID:ZPHbOw8F0
次の舞台は紅魔館か・・
ますますレッドさんの影が薄くなっていく・・
142作者の都合により名無しです:2011/05/13(金) 17:09:35.30 ID:8yRyyNGJ0
>>140
>まさにボス戦でザキを連発するクリフト並みの強さです
その例えだと「ただの馬鹿」って言ってるようにしか見えんぞw
クリフトで例えれば「戦闘始まったとたんメタキンだろうがピサロだろうが裏ボスだろうが即死するレベル」
くらいって感じっぽいね。
143作者の都合により名無しです:2011/05/13(金) 18:17:44.55 ID:4+YEBf+40
まあ>>140の言い方はアレだけど、即死系能力って漫画・小説だと設定上はチートなのに
主要キャラ相手だとさっぱり効かないからな…
上位の敵にはあっさり跳ね返されるメドローアしかり
そもそも出番自体を消されたフーゴのパープル・ヘイズしかり
144作者の都合により名無しです:2011/05/13(金) 23:20:33.75 ID:QCHlIy/B0
>>142
なんだそのチート能力w 幽々子ってそんなに強いのかw
FF6のバニシュデス思い出したわw
145作者の都合により名無しです:2011/05/17(火) 13:20:54.34 ID:OxOotzbK0
サマサさんとダストさんのほかにも誰か来てくれー
146 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/18(水) 03:18:56.43 ID:NcZYDGcv0
【9月13日】

──────華道部部室。ガス騒動の臨時避難所にて──────

「幹部が?」
「匂いがしたというだけだ。いるかどうかまでは──…」
 そこまでいうと無銘は額を抑え渋い顔をした。布団の上でやっと上体だけ起こしている。そんな様子だ。毒が抜けるまで
いましばらくかかるように思えた。
(妙だ)
 胸中の違和感がますます強くなっているのを感じ、秋水は黙りこんだ。演技の神様に逢って以来、何かが迫ってきている
ような気がしてならない。明確な敵意こそ感じないが、輪郭を得る前のそれが少しずつ街を取り巻いてきているような……
 そもそもなぜ「黙りこむ」のか。違和感を覚えたのなら他の戦士にそれをいい、対策すべきなのに。
「とにかく柑橘の匂いだ。いま気付いたがあれはマンゴー。マンゴーの香りだった
「もう一度追跡してみるか?」
「貴様と組むのは願い下げだ。師父や戦士長さんが命ずるなら話は別だが」
 ぷいと顔をそむける少年無銘に秋水は微苦笑してみせた。「随分嫌われたな」。根はまっすぐで素直な少年のようだが
それゆえの潔癖さが「かつて小札を両断した」、秋水を受け入れ辛くしているらしい。
「ねーむっむー。よく分からないけどマンゴーの匂いが気になるの?」
 しゃーとカーテンが開き、見なれた顔がぴょこりと入ってきた。「むっむーと呼ぶなあ!!」 絶叫もなんのその、まひろは
いつものような朗らかな笑みを頬いっぱいに広げて見せた。
「そうだよね。マンゴーの香水、最近流行ってるみたいだもんねー。色んなところにあったら気になるよね」

 血相を変えて飛び出す無銘を秋水は追った。
 果たして小さな忍者は首を左右に振ると、道行く女生徒達から致命的な何かを察知し──…
 愕然たる面持ちで振り返った。
 秋水はただ、頷くしかなかった。

 芳しいマンゴーの香り。

 それは人間にすぎない秋水でさえはっきりと分かるほど、辺り一面に広がっていた……。

「でも、いつから流行っているのかな? 気づいたらみんな付けていたような」

 まひろだけは不思議そうに呟いた。





──────どこかで──────


「リヴォルハインが来たからなwwwwwwwww」
「全員に同じ香水使わせるなんてのいうのはこの上なく簡単です!」


──────華道部部室前廊下──────

「そうだ秋水先輩! 女装の件だけどね。ごしょごしょごしょごしょ……」
 無銘の瞳がギラっと光ったのは、まひろの挙動のせいである。彼女は背伸びをし、秋水の耳を両手で覆って内緒話を
仕掛けている。秋水やや面喰らったようだが、特に嫌がる素振りも見せずじつと言葉の終わるのを待っている。
(おのれ! 鐶の奴めが我にそういうコトする時はとても強引で力づくなのに!! なんでそんな優しい! おのれ!!)
「あ、ああ。そうか。感謝する」
 やがて解放された秋水は視線を微妙に外しながら素気なく答えた。いかにも朴念仁な態度だが、まひろは特に気にした
様子もない。楽しそうに笑いながらブイサインを突き出している。
「……というか女装? 何の話だ」
「そういえば君はあの出来事を知らなかったな」
 細い溜息を洩らすと秋水は訥々と語りだした。
「昨日の話だ。演劇部の女子部員たちが、俺に女装させる。そういってはしゃぎ出した」
「女装か。まったく碌でもない行為だ。師父も同じコトを仰るだろう」
147 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/18(水) 03:19:30.90 ID:NcZYDGcv0
「?」
 とにかく女装。
 火を付けたのは沙織である。2日後の演劇発表。それで負けたら(結論からいえば)男子は女装というパピヨンの提案に
悪ノリしたのか、「じゃあ勝つために秋水先輩に着せよう!」と言い出したのだ。些か破綻した論理であるが、彼女曰くそう
いうやり方で耳目を集めれば必ず勝てる、らしい。もっとも実際のところは「面白いものがただ見たい」であり、そのフザけ
た理屈をいかにもな正当性で押し通そうとしているだけであろう。
「で、貴様はそれに薄々気付きながら、同調する女生徒どもをどうにもできなかった、と!!」
 あらましを聞いた無銘は秋水の胸に人差し指を突きつけつつ「ざまあ見ろ」と笑った。とても嬉しそうな表情だった。歓喜と
恍惚に支配された子ども野獣の黒いカオ(表情)だった。
(そういう君も河合沙織やヴィクトリアといった女生徒をどうにもできなかったのでは……)
 内心突っ込む秋水の横で「でね!」とまひろが指を立てた。
「私みんなにいったの。やっぱり秋水先輩嫌がってるし、ダメだよって。そしたら何とか阻止できて……」
「どうして止めた貴様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 無銘は咆哮した。両掌を天に向け全身を震わせた。眦(まなじり)に涙さえ浮かんでいる気がした。
「え?」
「くそう! 我はこやつがもの笑いの種になっている様を笑ってやりたかったのに!! ザマ見ろザマ見ろって指差し爆笑し
溜飲をたっぷり下げてやりたかったのに!!!」
 地団駄踏む少年をまひろはしばらく不思議そうに眺めていたが、やがてどんぐり眼をパチクリさせこう言った。
「あ、ひょっとしてむっむー、女のコの格好がしたいの?」
「どうしてそうなる!!? 我の言葉、理解してるのか貴様!!!」
「似合うとおもうよ。むっむー可愛いもん。理事長さんにも似てるし」
 瞳を細めまひろはえへらと笑ってみせた。年老いたネコを思わせる長閑(のどか)なカオだ。だが却って無銘の苛立ちは
倍加した。更に文句を垂れるべく口を開きかけたが──…
「止せ無銘。彼女はともかく他の生徒に聞かれたらマズい。今度は君が無理やり着せられるかも知れない。セーラー服を」
「セーラー服……?」
「そうだ。女生徒たちが着せようとしていたのは……セーラー服だ。」
(!!!!!!!!!)
 セーラー服。その単語におぞましい記憶が蘇る。地下で見たヴィクトリア。彼女の着衣はそれだった。仕打ちの数々が
蘇る。恐ろしく冷たい眼差し。頭を踏みつけられる屈辱の記憶。そういえば彼女も演劇部という話を聞いた。今の話が
耳に入れば間違いなく強引に、無銘の衣装を変えるだろう。
 そう。
 おぞましい拷問を間に挟み!

「やだやだやだやだやだやだそれは怖いそれは怖い。頼む勘弁してくれ許してくれもう逆らわないから見逃してくれ……」

「むっむー。どうしたの? まださっきのガス残ってる? だるいならお部屋で寝る?」
「あまり突っ込まない方が」
 廊下の隅で膝を抱えてガクガク震える無銘を秋水は気の毒そうに眺めた。ヴィクトリアに何をされたかは分からないが、
トラウマなのは明らかだ。耳を抑え、首さえ左右にぶんぶん振りたくる彼はとても怖がっていた。
「分かった。無銘。ヴィクトリアには俺から話しておく。だからもう怯えなくていいんだ」
「ううううるさい。貴様の助力などいらん。そうだ。これは試練だ。我は自力で乗り越えるんだ」
「びっきーに何かされたの? で、でも恨まないであげてね。根はすごくいいコなんだよ」
 まひろは無銘をひどく心配そうに眺めながら、ヴィクトリアのフォローも一生懸命やっている。
 優しい少女だ。
 横顔を見ながら秋水は思う。毒島のガスを喰らってもまったくピンピンしているところは異常極まるが、回復後すぐ他の生
徒の看護に回ったところなどやはりカズキの妹である。年下だが、年齢など関係なく尊敬できる。率直な実感が胸に満ちる。
暖かな気分だった。栗色の髪。太い眉。白い鼻梁。大きな瞳はやや愁いを宿しながらも澄み渡り、初夏の泉のような輝きに
満ちている。そんな横顔を眺めているだけで秋水は澱(おり)や濁りが溶けるのを感じた。無数の傷で引き攣(つ)れた精神
から強張りが抜け、辛く抱えた様々へ立ち向かう勇気さえ湧いてくる気がした。無銘のコトは、忘れていた。
 どこからか風が吹き、マンゴーの爽やかな匂いが髪や鼻孔をくすぐった。爽やかな気分だった。視線を外すのが惜しま
れる気がして、もう少し、もう少し……風の中、同じ姿勢を続けている。
148 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/18(水) 03:20:56.01 ID:NcZYDGcv0
「むっむー大丈夫かな?」
 不意にまひろがこちらを見た。
 目が、合った。
 その瞳に映る2つの秋水はすっかり安らかに相好を崩していて、だからこそ彼は狼狽した。
 笑いながら人を凝視するのは無礼……。生真面目さゆえにそんなつまらぬコトが頭を巡り、慌てて視線を逸らすしかなかった。

(え? え? なんで秋水先輩、私見てたの? しかも笑ってたよね? え? どうして? どうしてなの?)
 まひろはまひろで大混乱である。秋水同様慌てて視線を外したきり、何もいえずただ俯いた。
 豊かな胸の奥で鼓動が強く大きくなるのを感じた。血で肥大した心臓がそこをきゅうきゅう締め付けているようで、息を吸う
たび苦しくなる。
 顔が熱い。耳たぶも。大きな瞳を切なげに細めながら首を振り、言い聞かせる。きっとそれはガスのせい。さっき吸いこ
んだガスのせい……。そう思わなければどうにもならないほど、気恥ずかしい気分だった。
 もしカズキが秋水と同じ反応を斗貴子に向けていたらこうはならなかっただろう。
「やっぱりお兄ちゃん斗貴子さんのコト好きなんだー」
  そういって沙織や千里と楽しく騒いでいただろう。
(じゃ、じゃあ秋水先輩、まさか私のコトを……)
 勇気を出して顔を上げる。秋水もこっちを向いた、またも視線は出会い頭の衝突だ。
「!!」
(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!)
 もうまひろの頭の中はぐしゃぐしゃだ。結んだ唇がもにゃもにゃの波線になっているような錯覚さえある。微熱はいよいよ
全身に広がり切ない痛みが胸を刺す。とりあえず気まずそうに横を向く。できるのはそれだけで何をいえばいいか分からない。
(ど、どうしよう。また目が合っちゃった。何か言わなきゃ。何か言わなきゃ。秋水先輩アレでけっこう照れ屋さんなんだから
私が黙りこんじゃダメだよ。ほ。ほら秋水先輩だって困ってる)
 横眼でチラチラ伺う秋水はほとほと困ったようにまひろのつま先を眺めている。また目が合わないよう気を配っているの
だろう。
(だだだだいたい秋水先輩が私のコトをなんて……ないないない。ないよそんなの! 絶対! ある訳が──…)
 きっと今の思い込みはただの自意識過剰なのだと縋るように考える。
 秋水ほど見栄えのいい青年はいない。剣戟においては並ぶものはいないし成績も優秀だ。さまざまな奇縁があったとは
いえまひろとは到底釣り合わない。そもそも彼がまひろに抱く感情はかつて贖罪とともに総て聞かされている。そこには
投影や共感こそあれ恋慕はなかった。なかったからこそまひろも秋水の吐露を受け止め、ともに頑張ろうと思っている。
(そ、そうだよ。それだけ。だいたいいま秋水先輩大変なんだよ。お兄ちゃん帰ってくるまで一生懸命この街守らなきゃいけない
んだから。ちょ、ちょっと目が合った位で「まさか私のコトを」なんて騒いじゃダメだよ。どうせ勘違いなんだし、迷惑……だよ)
 だから協力だけしていけばいい。それが約束なのだから。
 頭では分かっているつもりなのに、いざ割り切ろうとするととても寂しい気分が襲ってきてまひろは困った。
(どうしよう。最近、私。やっぱり)
 葛藤の原因が薄々ながら分かってきた。
 でも、それは、恋愛沙汰より秋水を困らせそうで。
 武藤まひろはただただ貝のように口を噤むしかなかった。

(……あれ? この様子とか我の龕灯に記録したら)
 やっと恐怖から脱した無銘は2人の様子を交互に見ながら考える。
(こやつらへの報復になるのでは? 早坂桜花とかに見せたら間違いなく弟からかうだろーし)
 龕灯の武装錬金・無銘は創造主の見た物を録画できる。いま黙りこくっている秋水とまひろを凝視すれば未来永劫その
様子を残せるだろう。小札を両断した秋水。過剰なスキンシップをしてきたまひろ。2人の恥部を他者に明かせるのだ。
これが報復と言わず何と言おう。
(ただ)
 と無銘の動きが途中で止まる。胸中に訪れたのは、声、だった。

──「むっむー。どうしたの? まださっきのガス残ってる? だるいならお部屋で寝る?」
──「分かった。無銘。ヴィクトリアには俺から話しておく。だからもう怯えなくていいんだ」

(…………ま、いっか)
 
 なるべく彼らを見ないよう、少年無銘はうずくまるフリをした。
149 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/18(水) 03:21:41.99 ID:NcZYDGcv0
 3人が思い思いの動きをしている間にも生徒の往来は絶えない。

「午後の授業中止だって。ほら、さっきのガス騒動のせいで」
「ラッキー。今日は早く帰れるぜ」
「ところでアレ……副会長じゃね?」
「片方は1年の武藤。ガワだけ可愛いイロモノと評判の」
「馬鹿見るな。取り込み中だぞアレは」
「以下小声で」
(まさか告白中!?」
(してるの? されてるの?)
(いーやそこまで行ってない)
(どっちもまだ自分の感情に気付いていない)
(だから情動をうまく処理できなくて困ってる)
(中学生か! 昭和の!)
(でも一番おいしい時期だぜ)
(ああ、一番おいしい時期だな)
(付き合い始めりゃもう夢はない!!)
(名言だ)
(名言だ)
(メッキ剥がれるもんな。幻滅されるもんな)
(カレシ持ちの愚痴聞いてみ? 恋愛幻想薄れるぜ。ケケ)
(伝聞で決めるのは良くない。付き合っている状態にもそれなりの良さが)
(俺が聞いたのは、俺のカノジョの俺に対する愚痴なんだよ……)
(うわ)
(キツっ。それはキツっ!)
(他にも幾つかあるぞ。生々しい、解決が何の感動も生まなかった事例が)
(やめ! したコトない奴ほど恋愛に救い求めてるんだぞ!)
(いや救い求めるほど破綻するのが恋愛だから)
(でも副会長なら大丈夫じゃね?)
(うん)
(相手の女のコは?)
(イロモノだからこそ幻滅はない!)
(そうか)
(良かった)
(良かった)
(頑張れ)
(頑張れ)
(でも学校でいちゃつくのはやめてね。見るの辛いし呪い殺したくなるから)
(そーだそーだ)


 囁きながらも生徒たちは空気を呼んでいるらしく、素知らぬ顔で通り過ぎていく。
 およそ20人ばかり通過しただろうか。
 ようやく、秋水が口を開いた。

「ところで……。他の部員を説得してくれた事、心から感謝している」
「あ……。ううん。この前私のあだ名のコトで困らせちゃったしそのお詫び。気、気にしないで」
「そうか」
「うん」
「…………」
「…………」
 また、会話が途切れた。
(ああ、また! でもダメ! 今度こそ喋らなきゃ! 秋水先輩優しくてマジメだけどそのせいで堅くなりがちで口下手なん
だから! 私が何かお話しないと間が持たないよ。話題! こういう時は何でもいいから話すのよ! じゃないと気まずく
なる一方! よし、じゃあ喋るわよ私。大丈夫。何とかなる! 自分を信じて!!)
「ところで一つ聞きたいのだが」
「って先越されたーっ!?」
 がーん。そんな擬音も背景にまひろは絶叫した。絞り出すようなソフトな声が廊下の奥まで木霊した。
「どうかしたのか?」
「成長したね。成長したね秋水先輩。良かった。もはや師匠として教えられるコトは何もないよ」
150 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/18(水) 03:25:31.84 ID:NcZYDGcv0
「師匠……いや確かに会話について手ほどきを受けた覚えはあるのだが」
「過去の話だよそれはもう。今日から先輩とは師匠でも弟子でもない。ライバルだよ」
 恥ずかしいやら悔しいやら。まひろの閉じた瞳から滝のような涙があふれた。
「よく分からないが、俺はいま、質問していいのか?」
「もちろんだよ。私もそっちの方が、その、助かるし」
「?」
 秋水は気付かない。この時自分を捉えた瞳が、僅かだが熱く濡れており、微かに「色の良い」返事を期待していたコトに。

「昨日はセーラー服騒ぎのせいで聞けなかったが、あの時、君の瞳が少し赤くなっていた。もしかして……何かあったのか?」

 まひろの顔が一瞬驚きに染まり、次いでフクザツな表情へと変貌した。
 悲しさと、申し訳なさと寂しさと……ほんの少しだけの「期待はずれ」が混じった表情だった。

「大丈夫」
 すぐさままひろはいつものような笑顔になった。
 まるでいつも通りを懸命に再現したような笑顔に。
 そして後ずさった。胸の前で平手を2つバタつかせながら。

「特に何もなかったから! 気にしないで! ね!!」

 上げた声はいつもよりやや甲高い。訝る秋水は更に2、3質問したが──…
 彼女はまくし立てるように「大丈夫」だけを連呼し、廊下の奥へと駆けて行った。



「朴念仁が!!!」



 追うべきか追うまいか逡巡する秋水の後頭部が衝撃に見舞われた。
「無銘」
 振り返れば忍びの少年が凍った手拭を持っている。なにで殴ったかは明言するまでもない。
「確かに今の質問は良くなかったな」
 無銘の横にはいつの間にか防人も立っている。どの辺からは分からないが、秋水とまひろのやり取りを見ていたらしい。
「ちょっと地雷でしたね」
 完全に、とはいかないが防人と毒島の反応から何事かを理解したらしい。
 秋水は猛然と踵を返し走り出した、
 走り出して、膝の裏を蹴られ、転んだ。
「問題を解決しないまま……突っ込むのは……ダメです、よ」
(蹴った)
(鐶の奴めが蹴った)
(裏返し(リバース)が攻撃だと見なさぬほどの速度で、ゆっくりと)
 防人たちが呆れるなか彼女はうつ伏せの秋水の頭を掴み、当たり前のように持ち上げた。
(すげーあの女のコ)
(ちっこいのに、長身の副会長を片手で)
「乙女心は……フクザツなのです…………。触れて欲しいけど…………相談したら迷惑だって……無理して……隠すコトが
……あります。……今のまっぴーのは……それ、です。明るい人ほど……深刻な悩み……相談、できません」
「そうですね。『それ』の正体を理解しないまま脊椎反射で追うのはオススメできません。ともすれば言い訳しながら問い詰め
てしまいますから。それは女性にとって大変迷惑。ですので、追うのは問題の根本を理解してからがよろしいかと」
 なぜか珍しく饒舌な鐶と毒島である。(乙女心の成せるわざであろう)
「ブラボーだガールズ! そして少し考えれば分かる筈だ戦士・秋水。武藤まひろがああいう反応をする原因は限られている」
「理解してやれ! あの少女は師父を倒した原動力だろうが!! 生半可な理解で関係を終わらせるようなマネは絶対に許さん!」
 誰も彼も秋水の返答など待たずまくし立てる。事態は彼の預かり知らぬところでどんどん変わっているようだ。
「キミならばこれだけのヒントで分かる筈だ。武藤まひろを追え。打ち合わせには参加しなくてもいい」
 防人の暖かな囁きに秋水は何故だかとても嫌な予感がした。
「皆さん! 少し危ないので廊下の端に寄って下さい!」
151 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/18(水) 03:26:24.60 ID:NcZYDGcv0
 毒島が生徒達に呼びかけている。端に寄れ? いったい何のために? 
 ねっとりとした汗が秋水の背中を流れた。」
 ちなみに彼はまだ鐶に持ち上げられたままだ。
 そしてまひろは問答の間にも遠くへ行っている。
 秋水が距離を詰めるには、それなりの「無理」が必要だろう。
 鐶は、凄まじいパワーの持ち主だ。
「ま、待ってください。まさかとは思いますが戦士長」
 防人が指を立てた。鐶の腕が唸り始めた。見れば腕の部分だけ、裏返し(リバース)が解除されている。
「クク。いい面だな早坂秋水!! さあやれ鐶!」
 哄笑とともに無銘は告げる。秋水の運命を放擲する悪魔の一言を。

 ・ ・ ・
「投げろ」


 腕がしなって放物線を描き、秋水をそうした。


「さて、戦士・斗貴子たちと合流するか」
「そうですね」
 向こうの方から何かぶつかって何か壊れる音がしたが誰も見ない。意図的に見ない。
 無銘はそれが面白くて仕方無い。小さくガッツポーズをした。
152 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/18(水) 03:28:04.73 ID:NcZYDGcv0
以上ここまで
153作者の都合により名無しです:2011/05/18(水) 17:18:20.07 ID:FAAcdf9P0
秋水が女装したらまひろより美人になるな・・
154ふら〜り:2011/05/18(水) 18:32:06.28 ID:hG++gIwe0
>>サマサさん
可憐なお姫様の名を出されては、無双の豪傑二人も刀を納めざるを得ない、ですか。性別
逆ですけど。根本的にDBなレッドに対して、レミリアはまだしも幽々子は思いっきりジョジョ
(それも5部以降)ですね。本体は弱いってところがまた。強さの質の違う、それぞれの頂点か。

>>スターダストさん
無銘の中で渦巻いてる、敵意と好意が微笑ましいですねぇ。仲間内だと総角は崇拝してるし
貴信はほぼ眼中にないっぽいので、いろんな意味で対等な男友達(と書いてライバル?)
がいること、自覚ないまま喜んでる・楽しんでるような。そんな平和な時間、あと少しでしょうが。
155作者の都合により名無しです:2011/05/18(水) 21:12:53.38 ID:kICaayzl0
お疲れ様でスターダストさん。

秋水のようなパーフェクト超人には(確か原作では下腹部まで完璧だったw)
まひろのような変人が意外と似合うかも知れませんね。ルックスは釣り合ってるし。
望めばいくらでも異性が寄ってくる外見ながら、正反対でありつつ合同の性格で
今まで純潔を貫いてきた同士。意外とナイスカップルでしょうね。
156作者の都合により名無しです:2011/05/18(水) 23:55:43.38 ID:4Ps6UkAI0
スターダストさんの書くまひろや小札たちは可愛いけど
実際に変な子と付き合うとどれだけ可愛くても長続きしないからなあ
まひろレベルならそれでも我慢するけど

まひろだけじゃなく無銘も可愛いなあ
157 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:08:04.43 ID:Km9d9CCL0
──────銀成学園屋上──────

 中央に整列する影があった。少年もいれば少女もいる。身長や年齢はばらばらな彼らだが床板に沿って一直線に居並
んでいる。中央に位置するショートボブの少女は宛(さなが)ら学級委員という顔つきで──時おり騒ぎ出す学ラン少女など
注意しつつ──左右を見渡している。そんな彼女と1mほどの距離を挟んで向かいあうのは全身銀色のコート姿。
 防人衛。いうまでもなく一団の指揮官である。

「とにかくガス騒ぎの影響で午後の授業は中止だ。その時間を打ちあわせに充てよう」
 ここで挙手。剛太だ。防人はすかさず指差し発言を促す。
「キャプテンブラボー。なんか毒島が落ち込んでいるんスけど」
(ああ。考えてみれば授業中止は私のせいですね。怪我の功名なのかも知れませんがあまり素直に喜んだりは、喜んだりは……)
 見ればガス騒動の主因が座りこんでいる。表情は暗い。ガスマスク越しでも分かるほどに。

「いまはそっとしておいてやるのが一番だ。さて本題だが……戦士たちと音楽隊の特訓についてだったな。
そちらについては総角主税からの提案通り、演劇の練習と並行して行う」
「つまり、練習のフリするんだな」
「ええ。演劇の練習なら武装錬金も小道具で通るし」
「ブラボー! その通りだ御前、桜花。何しろこの学園、演劇発表中に武装錬金が発動しても怪しまない部分があるからな。
鐶や他の者の特異体質についても、ま、何とかなるだろう」
(衣装に縫い込まれていた核鉄。それが本番中発動したらしい)
 まひろから聞いた「演劇部の逸話」を反芻しながら斗貴子はゲンナリと肩を落とした。
「というか本当にやるんですか戦士長? 武装錬金はともかく、鐶や栴檀どもの特異体質はいくらなんでも誤魔化しきれない
と思うのですが」
 防人はしばらく考えた後、親指を立てた。

「大丈夫だ! 問題ない!」
「戦士長……」

 覆面越しでも分かるほど瞳を怪しく煌かせる上司。斗貴子は理解した。「ああ、ノリだけで喋っている」と。
「大丈夫……小道具という……コトで……。演劇、頑張ります……!」
『僕らは特殊メイクってコトで!!』
「そ! そ! よーわからんけど、そ!!」」
「済むかァ!! というかなんでお前たちノリノリなんだ!!」
 叫ぶ斗貴子は見た。さっそく台本を読み込む小札を。幼い瞳がキラキラしていた。
(ナレーション、ナレーションの役をば空いていればやりたき所存。本分は実況ですがたまには、たまには。あああ、喉が
疼きまする。声をば張り上げ劇の勢い引き立てる一因子に不肖はなりたいのであります)
 小さな体をうずうずさせるロバ少女はまるでトランペットを眺める少年だ。

 そして斗貴子が気付く重大な事実。

「ちょっと待てェ! 鐶に特異体質を!? じゃあまさか裏返し(リバース)解除するのか!」
「何をいっている戦士・斗貴子。そうしなければ彼女との特訓は不可能だ!!」
「アイツにどれだけ苦戦したか忘れたんですか戦士長! 下手をすれば特訓どころか殲滅されますよ!」
「まあ解放しても大丈夫だろう」

 防人が指差す先を見る。薄々予想していた光景だが、斗貴子はもうどうしようもないほど情けない表情になった。

「むぐむぐ。ドーナツ……おいしい、です」
「はい光ちゃん。お代わりはまだまだあるわよ。劇に備えて栄養とらなきゃ」

 虚ろな瞳の少女はのんびりと好物を食べていた。

「ただ一つ断わっておくが、2日後の発表で負けたらキミたち音楽隊も罰ゲームだぞ」
『罰ゲーム!?』
「そうだ。全員戦士・斗貴子と同じセーラー服を来て貰う」
「女装、だと?」

 大気の凍る嫌な音がした。ついでおぞましい殺気も。
 ある一名を除く全員が発信源を見た。
 そこには。
158 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:08:27.95 ID:Km9d9CCL0
 壮絶に嫌そうな顔をする総角──ある一名──が居た。とてつもない剣気と威圧感を迸らせ、平たくいえば墨絵調だった。

「フ。この俺に女装を、だと? 誰が、発案、シテ、くれた、かは、知らナイ、が、とても! 不快! だな!!」

(なんでカタカナ混じりに怒ってんだもりもり?)
(何でも、クローン元が女装好きだとか)
(ああ。メルスティーン=ブレイドとかいうレティクルの盟主か)

『と、というご様子なので僕たちも部活を頑張りたい!!』
「つってもさー。あやちゃんならおっかない奴の服でもにあいそーじゃん」
(…………………お小遣い溜めて母の日にプレゼントしよう)


(ナレーション。ナレーション。ナレーション♪)


 一同の喧騒をよそに小札だけは浮かれていた。薄い胸にしっかと台本を抱きしめ左右に小さく振れていた。


「次に鳩尾無銘が察知したという敵幹部(マレフィック)の匂いだが……」
「それに関しては、同じ匂いの香水が流行っている、とか」
 どういう訳かややぎこちなく答える毒島だが、「まあ落ち込んでいるせいだろう」と誰も気にしない。

(違うんです皆さん。戦士長。すでに幹部は、この学校の中に……)

 先ほど邂逅した謎の少女。イオイソゴと名乗る幹部。更に謎の男。最低でも2名、幹部がいる。

 来ている。

 恐怖が全身を貫く。非常事態だ。理解しているにもかかわらず毒島の口は報告を許さない。

「匂いか。勘違いならそれでもいいが、確かに気にはなる。せめて幹部の顔さえ分かっていれば、探しようもあるのだが」
 トン、トン、と防人の方を叩く者があった。振り返る。いつの間にか鐶が背後に回っていた。
「私……知っています」
 珍しく輝くような笑みを浮かべていた。
「……私は…………お姉ちゃんに……無理やり……レティクルに……入れられたので……何人か……幹部さんと……逢
いました……。顔も、知っています。うふふ。うふふ」
 役立てるのが嬉しい。そんな表情で屈託なく彼女は笑っていた。
「昨日の夜……渡した……絵を……みてください……。自信作、です」
 ついに微笑は輝きの頂点に達し、戦士達をまばゆく照らした。
「つってもよォ、ひかるん?」
 ライト状の目を歪めながら御前が数枚の紙をぺらぺら揺すった。
「なんでお前の描く絵ってほとんど浮世絵風な訳?」
 差し出された4枚の紙を見つつ一同は嘆息した。
 描かれていたのはまったく御前のいう通り、浮世絵だった。
 銅色の髪を立て巻きにした女性も錫色の髪を後ろで結わえた女性もウルフカットの男性もやたらクチバシの大きな鳥の
絵も、総て総て、目に隈取りのある、両手を妙な角度で前に突き出した、独特の画風だった。
 よって捜索の役には立たない。昨晩戦士達は苦渋の決断を下した。
「上手くはあるんだが何か違う……。クソ。カズキといい鐶といいどうして似顔絵描かすとこうなるんだ」
「義姉ならもうちょっとうまいだろうって描かせてみたら……これだ!!」
 剛太が更に1枚の絵を突き出した。彼の表情は深刻だった。目元に涙を溜めていた。
 それほどその絵は異様だった。
 まず、横向きになったA4用紙のほぼ半分を占める形で巨大な人物が描かれていた。
 スカートを穿いているところを見ると少女のようだったが、顔つきは明らかに異常だった。
 両目の形は鋭角を下に向けた三日月という形容こそまさに相応しかった。そうやって笑みの形にばっくり裂けた眼窩が黒
のクレヨンでどこまでもどこまでも黒々と塗りつぶされているのだ。
 その上から乱雑に描き足された赤い瞳はらんらんと輝いている。まるでこちらを楽しげに観察しているようで、戦士長の防
人でさえ寒気がした。
 にも関わらず絵の中の少女らしき人物像は本当に心から笑っているようだった。
 ニタぁりと絶望的なまでに裂けた口に笑み以外の意味を求めるのは大変困難な作業だった。
159 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:09:01.17 ID:Km9d9CCL0
 そうして笑う少女はショートヘアーで、片手にサブマシンガンを持っている。
 少女以外の余白はほとんど赤と黒との書きなぐりで塗りつぶされていたが、よく目を凝らして見ると左下の方で赤い三つ
編みの少女が泣いているのも分かった。鐶だろう。大変小さな絵だった。笑う少女の絵の8分の1もなかった。ひどく戯画的
な点目からこれまた戯画的な粒がぼろぼろと零れている。肌色一色の体に点在する赤い点の意味するところはもはや考
えるまでもない。
 耐えかねたのか。とうとう剛太が叫んだ。
「オイあいつ大丈夫なのか!? 目からして何かおかしいとは思っていたけど……病みすぎだろこの絵!!」
『ま、まあこれでも一時期よりはだいぶ良くなった方だ!! 鳩尾のおかげでかなり明るくなった!! ちなみに僕と香美は
『火星』と『月』に出会ったコトはある! 似顔絵は提出済みだ!」
「そっちも見たけど、変な鳥と赤い筒だろ。そんな目立つ奴いたらすぐ分かるって」
「フ」
 ここで総角が手を挙げた。何事かと皆が見た。
「思い出したが俺は鐶の姉の自動人形を見たコトがある。鐶が加入した時、いろいろあったからな」
「どーせ不細工な人形なんじゃねーの?」
「お前が言うな御前。で、それは幹部に似ているのか?」
「鐶の話では、な。ただ若干デフォルメが効きすぎてもいたが」
 斗貴子のリクエストに応じるように、彼は1枚の紙を差し出した。
 こちらはひどくファンシーな絵柄だった。ぬいぐるみのような少女がクレヨンで描かれている。髪は短く目は点で、にっこり
と微笑している。頭頂部から延びる一本の長い毛がそこはかとない愛嬌を振りまいている。更に渦状の適当太陽が空に
輝き、バックではとても可愛らしいロバやイヌやネコやニワトリや鎖持った青年がキャッキャウフフしていた。
「あら。意外に上手。スカした態度の癖に」
「まったくだ。スカした態度の癖に何だこの絵柄」
「スカした態度の癖に下らないオマケとか付けてんじゃねーよもりもり。ロバとかいらねーっての!」
「先輩。アイツ、スカした態度の癖にクレヨン使ってますよクレヨン。どんな顔して買ったんでしょうね」
「フ。小札よ。桜花達が貶してくるせいで俺はいたく傷ついた。なにか優しい言葉で慰めてくれないか」
「みなさまもりもりさんを責めぬようお願い申し上げます!」
 身振り手振りを交えつつ小札はきゃいきゃいとまくし立てる。
「確かにスカしたご態度であるコトはまっっっったく否めませぬがこれはいわばいわゆる自己防御、自衛と自律の成りすまし、
いいえなんといいますか、寧ろもりもりさん根本はまったく人畜無害、もしかしたら自分は無力で無能でアブラムシ以下の
クズやも知れぬと枕を濡らす夜さえございます!」
(クズやも知れぬ……)
 桜花が顔を背けた。ウケたらしい。口を覆ってプルプル震え始めた。
「しかるに!! だからこそ弱さゆえの努力で頑張って生きているのがもりもりさん! そのスカした態度が良いスカした態
度か悪いスカした態度かと問われますれば不肖、まったく良いスカした態度だとスカした態度にてスカした態度を助長して
差し上げたいほどスカした態度なのであります!」
 言葉が進行するたび総角がどんどん蒼くなっていく。
「あとクレヨンは「親戚の子供にプレゼントしたいのだが」ともっともらしいウソつきつつ、スカした態度で平然と! お買い求
めになられておりました!! 以上っ!! お慰めになりましたか!!」
「フ。所詮慰めを乞うような男の末路などこんなものだ。閨でもなければな」
 どこまでもスカした態度である。やや血色の失せた表情で、彼はなおも笑い、小札を撫でる。ともすれば著しく威厳が損な
われる暴露かもしれぬというのに、それを受けてなお凄まじい余裕だった。
「そして……ロバたちは要る。絶対に、絶対にだ。部下達を可愛く描いてやったコトに対し俺は些かの後悔もない」
(無駄にかっけえなオイ)
(でもウソついてまでクレヨン買ってるのよね総角クン)
(嫌なホムンクルスだ。いろいろな意味で)
「つーか、何でこれがこれにそっくりなんだよ」
 剛太は先ほどの「病んだ絵」を指差した。総角画とのひどい乖離が見受けられた。
「怒るとああなるらしーじゃん?」
「そうなのであります! ひとたび激昂すらば最早まったく笑面夜叉! 手のつけようがないとか!」
「なんでだよ!! まさか二重人格とか?」
「いいえ……そうじゃなくて……」
160 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:09:21.47 ID:Km9d9CCL0
 騒ぐ少女達をよそに防人だけは黙然とその絵を凝視した。
(……どこかで見たような)
 極端にデフォルメされた笑顔。”アホ毛”という俗称を持つ長い毛。ふわふわとウェーブのかかるショートヘアー。
「ちなみに……お姉ちゃんは……あまり……喋りません……サブマシンガンで「書いて」……伝えます……」
「書く? サブマシンガンで?」
 他愛もない剛太の反問だが思考が一気に繋がるのを感じ防人は瞠目した。
(まさか)
 孤児院で出会った不思議な少女。
 笑顔で。ショートヘアーで。
 スケッチブックに言葉を”書く”少女。
「どうかしましたか戦士長」
 異変を察したのか。斗貴子は神妙な面持ちだ。

「ああ。実は──…」

 防人衛は口を開く。言葉を紡ぐべく。孤児院で出会った少女。鐶の姉かも知れぬ敵の幹部かも知れぬ存在の存在を明ら
かにするために。もし彼女がそうだというならば無銘のいう「別の幹部の気配」もいよいよ現実のものとなるだろう。
 マレフィック。敵の幹部。彼らが銀成市に来ているかも知れない。
 恐るべき予感を抱いたまま、防人衛は口を開く。

「ほう。すでに防人めにもか」
「ええ。いくら防御において無敵を誇るシルバースキンでも、俺っちの武装錬金特性までは防げません」
「抜け目のないことじゃのう。そしてりばーすについて語ることを禁じた、か
「念のためすよ。なーんか妹さん来そうな気配だったんで、ま、あのコ経由で気付かれるの防ぐためにね

「すまん。気のせいだった。特に見覚えはない」

 斗貴子の顔に広がる失意。それをたっぷり網膜に焼きつけてから防人は愕然とした。
(いま俺は何といった?)
 見覚えがない? ない訳ではない。総角の描く「鐶の姉そっくりな自動人形」。その特徴と合致する少女を昨日見たばかりなのだ。
だからこそ言葉を紡ごうとしたばかりではないか。にも関わらず出てきたのは別の言葉……。
 同時に彼は気付く。青白く研ぎ澄まされた精神が自身の異常を客観的に分析する。精神の何事かが第三者の意思によって抑圧されて
いる。長らく戦いに身を置いてきた経験則がアラームを告げ始める。精神攻撃を得意とする相手との交戦記録の数々が脳裡を過る。
直面している違和感は精神面を攻撃された時のそれにそっくりだった。
(これは武装錬金の……特性)
 全容は分からないが間違いなくそうだった。分析は更なる疑問を呼ぶ。特性? 特性だとすれば一体、いつ? 
(思い出せ。彼女と出会った後、何があった?)
 薄皮を剥ぐように剥ぐように記憶の深層へ向かっていく。何かを忘れているような、否、忘れさせられているような気がした。


                                                                「っとすいやせん」

                           「再会! 再会ってのはいいと思いませんか灰色の人!」

            「あ。そうだそうだ灰色の人。すいませんねえ。本当の色は何色で?」

「失礼なコトを聞くが、もしかして君は色も──…」

      「そーいうコトでさ」

                                              「部分……発動。無音無動作で」

  「……あ。やっぱり会っちまってますねえ。あーもう! 「ぶみ」って! 本当まったくかーわいいんだから!」



                          「じゃあ何やるか決定!!!」


(攻撃を受けた? 俺が? あり得ない。絶対防御のシルバースキンを……かいくぐったというのか?)
161 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:09:43.55 ID:Km9d9CCL0
 そう葛藤する間にも脳髄がぐにゃぐにゃと歪み記憶を埋め去っていきそうな恐ろしさがある。
 伝えようにも言葉は吐けない。書くコトも。示唆するコトも。
 そもそも何が起こったかさえはっきりと思い出せない。
 いつ、攻撃を受けたのか、防人自身認識できないのだ。

(これは一体どういう特性だ?)

 体に異常はない。思考も正常だ。ただ「鐶の姉らしき」少女とエビス顔の青年についてのみ詮索と暴露を禁じられている
ようだった。

「ねーねー光ちゃん。絵じゃなく口で敵の幹部について教えてくれない? 特徴とか性格とか」
「まー確かにな。もし幹部がこの街に来てるなら、早めに見つけるに越したコトはねェ」
 桜花の提案に剛太も頷いた。豊かな髪をぼりぼり掻きつつ、「厄介なコトになる前にな」とも呟いた。
 鐶はしばらく考えた後、ぽつりぽつりと囁き出した。
「知っている人だけで……いいですか?」
「もちろん」
「えーと……私が逢ったのは……天王星と木星……金星に……火星、です。あ、お姉ちゃんは海王星……です」
「つまり5人。幹部のうちの半分か」
「そうだ。木星の名はイオイソゴ=キシャク。だが顔までは分からない。我も師父も戦士たちも、誰も」
「誰も顔をって……。すっげー忍者らしい忍者だなオイ」
 頬に手を当て感心する御前に、無銘は切歯して見せた。
「だからこそ鐶めの似顔絵には期待していたのだが」
 出てきたのは浮世絵風……。現代社会ではやや一般性に劣るだろう。
「これだとちょっと難しいわね。まだ小さいから仕方ないけど」
 桜花はにこにこと笑いながら鐶を撫でた。赤い髪の少女は少しくすぐったそうに笑った。(あまり役立っていないという
自覚はない)
「天王星は……ブレイクさん……です……。私の師匠の……一人、です」
「師匠、というのは?」
 防人の質問に鐶は指折りながら答えた。要約すると鐶には師匠と呼べる人物が3人いるらしい。
 1人はホムンクルスとしての基本的な生き方を教えた義姉。
 1人は戦闘のイロハを叩きこんだ火星。ハシビロコウ型ホムンクルス。
「そして──…」





【昨晩……9月12日の夜】


──────使われていない資材置き場にて──────



「ははははははは」

 辺りにけたたましい笑い声が響いていた。夜半にも関わらず誰も文句を言いに来ないところを見ると、よほど住宅街から
離れているらしい。錆びた鉄骨やドロまみれの基盤、プラスチック製の大きな破片。砕けた塀。その瓦礫。赤いまだらのある土管。
血の溜まったブルーシート。割れた歯。肉片。皮膚のついた金髪の束。そういったものが転がっている60坪ほどの空き地で、
青年が一人、楽しそうに笑っていた。細い長身でウルフカットの青年だった。



「そして……私の特異体質を使った……潜入方法の指南……モノマネとか……演技とか……「他の人にすり替わる方法」
を教えてくれたのが……ブレイクさん、です」
162 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:13:30.67 ID:Km9d9CCL0
「はははははははははは! ははっ ひーっ! ひーっ!」
『わ、笑わないでよブレイクくん。私だってやりたくやった訳じゃ』
 青年の横には少女が立っていて、いまは上記がごとき応答を恥ずかしそうに『見せている』。
 マジックでスケッチブックに描いた文字を、見せている。



「お姉ちゃんのコードネームは……リバース=イングラム。声は……出しません。言葉を……何かに、書きます」



「2人は……コンビ……です。らぶらぶ……なのです」



 ひとしきり笑い終わった青年は「ひー、ひー」と苦しそうに身を丸めつつ、こう語った。
「いやね。青っち何してるのかなーって部屋の方それとなく伺っておりやしたが、そしたらどっか出てく感じじゃねーですか? 
お花を摘みにかとも思ったんですがなんか小銭の音もしたのでピンときやした。コンビニですねと。夜食になんか辛いの買う
んですねと。されどされど今は夜半の丑三つ時、青っち一人で歩かせるのは危ねえ! なればと影ながら守るべく密かに後
つけましたら」
 彼は足元を見た。
 黒い影が横向きに倒れていた。人、だった。性別は男性で20を少し越えたというところだ。耳はピアスだらけで髪も金色。
世間的にあまりいい印象のない格好だ。
「案の定こういうお手合いさんがやってきて、こうなったと。へへ」
 ウルフカットの青年が揉み手をしながらしゃがみ込むと、金髪ピアスは苦しそうに息を吐き、けたたましく、叫びだした。
「たたたた頼む、見逃してくれ。命だけは。う、うちは貧しいんだ。お袋だってスーパーの値引き品ばかり何とかこの平成大不
況を凌いでいるんだ。時々買いすぎて腐らせて駄目にして、安売りだからって買いこまない方がいいとは思うけど俺だって
パチンコや競馬でスってるんだから文句は言えねえ。とにかくどの職場でもバイトさえ長続きしない俺だとしても死ねば母一人
子一人の家だ、収入が減ってお袋病院行けなくなり孤独死するのは目に見えている! 頼む。大家が特殊清掃と原状回復
の費用を負担しないためにも、俺を殺さないでくれ! これでも家賃だけは滞納したコトがないし大家も褒めてくれたんだ」
『……何このメチャクチャ具体的な命乞い』
「落ち付いて。すでに助けているじゃないですか。もし俺っちが来ていなければ死んでやしたよおにーさん。にひ」
 生きているようだが辛うじて、という状態らしい。着衣のところどころが大きく破れ生々しい傷を覗かせている。
 笑顔の少女がスケッチブックに一言。
『……やりすぎちゃった』
「なんなんだよあの女は!! ちょっと手を出しただけでこれだ!!」
「青っちすか? へえ。見ての通りの可愛い女の子でさ。怒るとちょっぴり怖いすけどそこがまた、可愛い」
「ちょっぴり、だと……」
 金髪ピアスの右腕と左足は歪な形に折れ曲がり、右掌には何本か指の欠損が見受けられた。ブレイクはそんな彼をごろり
と転がし仰向けにした。そして、微苦笑した。左肩から骨が飛び出している。横向きになった拍子に地面へ刺さったのか。
骨は血泥に塗れていた。激痛でやっとそれに気付いたのだろう。金髪ピアスは絶叫しのたうち廻った。叫ぶ口に前歯は一本
もなかった。奥歯にもいくつか欠損が見受けられた。皮ごと毟られ剥き出しになった頭に名称不明の甲虫が何匹も何匹も集り
血を吸っているようだった。虻に良く似た羽虫も止まり傷に腹部をせわしなく擦りつけ始めた。卵を産んでいるようだった。
「やめろ」。拒否の声を張り上げながら金髪ピアスは骨の折れた腕をぎりぎりと振りかざす。叫ぶたび彼は吐血し内臓の損傷
さえ疑わせた。
「こうなったのはー ひとえにー 伝えたーい だーけー」
 ブレイクはなめらかに立ち上がりくるくる回り始めた。裂けた指に喰らいつかれいよいよ狂乱を極める金髪ピアスなどまったく
眼中にないかの如くスピンを決め、月をうっとり見上げた。

「そう! ありゃあ憎悪とかトラウマとかで必死こいて攻撃してるわけじゃあねーです☆」

 灰色の澄んだ瞳にはひどく優しげな光が灯っている。足元から絶え間なく漂う絶叫と湿性咳嗽(しっせいがいそう)と吐血の
匂いを無視しているにも関わらず、慈愛に満ちた、聖人のような眼差しをしていた。

「伝えたい。自分が怖い思いをしているのを、自分が嫌がっているというコトを……青っちはただただ伝えたい。それが声
じゃなく拳に乗ってるだけなんですから、こりゃ別段狂ってるとかそーいうのじゃありやせんね」
163 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:14:15.94 ID:Km9d9CCL0
 静かな優しい口調だが、言葉を吐くたびその語気が強まっていくのに金髪ピアスは気付いた。恋人を自慢するとかいう
低いレベルの語りではない。ブレイクの全身からゆらゆら立ち上る清冽な気迫から伺えるのは……信仰心。おぞましい
までの信仰心だ。神を信じその素晴らしさを群衆に説いて回る、敬虔かつ視野狭窄の宗教家だけが持つ異様の熱烈さが
徐々にだが確実に、ブレイクの声を、場の空気を、金髪ピアスの精神を……張りつめたものにしていく。

「嗚呼! 聞くも涙語るも涙の大事情! 青っちは生後11か月ごろお母さんに首を絞められ、首が歪み声帯が壊れちまいました!!」

 とうとう感情が爆発したのか。ブレイクは叫んだ。舞台役者のように腹臓から声を振り絞り。
 凄まじい声だった。熱気と整合性に満ちたコクのある、年代物の楽器のような声だった。
 そんな声を立てながらもブレイクはなめらかに歩を進め、やがて少女──リバース──に傅(かしず)きながら手を差し伸べる。

「だから大きな声を出せず高校時代に至るまで誰ともッッ!! まともなコミュニケーションをとれなかった青っち!! 実の
お父さんは手がかからぬからと半ばネグレクトをやらかし義妹ばかりを可愛がる! 義母(おかあ)さんは大きな声を出せぬ
青っちを否定し的外れなリハビリで苦しめるばかり!! クラスメイトも先生も! 決して彼女を救ったりはしなかった!!
嗚呼!! いかに努力しようと報われぬこの世の中! 才知も美貌も謙虚も努力も兼ね備えながらも……会話! その元
手をうまく転がせぬばかりに他者の枠へ入れず砂を噛むような孤独ばかり味わった……否! 味合わされた青っち!!
声を出せぬのはひとえに潰れた喉のせい。だがそれは決して青っちのせいではない! 寧ろ被害者だというのに世界は
救いの手を差し伸べなかった。すでに実のお母さんにさえ見放されていたというのに、差し伸べなかった……」

 彼女の人生に転機が訪れたのは! 凄まじい勢いで身を翻しながらブレイクは『何か小さい金属片』を手にした。
 と見えたのは一瞬で、やがて彼の掌は恐ろしく野太い柄を掴んだ。そしてそれを旋回させながら地面に突き立てた。


「そのブレイクって奴はどんな武装錬金使うんだよ?」

 御前の問いにちょっと考え込む仕草をしてから、鐶は答えた。



「ブレイクさんのコードネームは、ブレイク=ハルベルド。ハルバードの武装錬金を……使うそう、です」



 金髪ピアスは息を呑んだ。「特撮……?」と目を白黒させながら、その複雑な武器を見た。
 とても長い武器だった。穂先から地面までゆうに2mはあった。長身だが華奢なブレイクが持つのが傍目からでも不安に
なるほど、『重そうな』武器だった。いつの間に、どこから出てきたのか、疑わせる武器だった。
 とても大雑把な表現をすればクロススピアーの穂先の一つを『斧』に変えた形状で、今にも煙となって空気へ散りそうなほど
虚ろな灰色で塗り固められていた。
 それを持ったままブレイクはゆっくりと歩み出す。近づいてくる。直観的に察知した金髪ピアスは逃げようともがくが、
折れた脚では到底立ち上がれそうにない。立った所で逃げられるかどうか。ブレイクの背後で笑顔の少女がサブマシンガンを
構えているのを見た瞬間、黒い絶望感が全身を包んだ。銃口は彼の動きにつれて微細な揺れを見せている。照準はまったく
外れる気配はない。精魂込めて立ち上がったところでアキレス腱を撃ち抜かれるのがオチだろう。そして槍を持ったブレイ
クがまくし立てながら近づいてくる。異常な気迫だった。最高潮を演じている役者のように青白い光が瞳に灯っている。凄ま
じく爽やかな笑顔だった。この世に存在する爽やかの総てを意思と努力で完璧に再現した凄まじい笑顔だった。そこには殺意
も敵意もない。ただ彼は叫びながら金髪ピアスをにこやかに凝視しているのだ。
 目が合った瞬間、怖気とともにようやく気付く。
 関わってはならない者だった……と。


「人生に転機が訪れたのは! 訳あって光っち、妹さんの頬を殴った時!!」


 適当につまめる程度の快美ばかり求めわずかばかり身を切られるだけで顔色を変え、その癖相手が太刀打ちできない
存在と知れば即座に報復は諦め「ああムカつく。誰かアイツ殺せっての」とばかり仲間と酒を飲み愚痴さえ数分で忘れ去る。
 そんな人間らしくも愛らしい感性によって今日も社会規範を大きく揺るがすことなく生きている金髪ピアスなどあっという間に
吹き飛ばせそうな概念が迫ってくる。

164 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:15:23.51 ID:Km9d9CCL0
「妹さん殴ったときに気付いたのが「殴ると意思を伝えやすい!」 だから快美に魅入られた。さながら女子中学生が同級生
とのおしゃべりに熱中するかのごとく肉体言語に四六時夢中、それが青っち!」
 オペラ歌手のような声量だ。ギラリと光る穂先に震えながらつまらない感想を抱く。同時に「でかい声してるんだから誰か
助けに来いよ」と身勝手な期待をしたがそれは不可能だとすぐに気付く。
『私を襲う為にこんな人気のない場所を選んだもんねー。遠いよ? 住宅街からも繁華街からも』
 スケッチブックに無慈悲な文字が刻まれる。書いた主(あるじ)は笑顔のままだ。暖かな、慈母のような笑みだ。

「青っちは拳骨で誰かの頬の骨を、血やお肉ごと吹っ飛ばすのが楽しい! 『伝わった』 それを感じて、嬉しい!」

 いまの自分の表情に気付く。青っちと呼ばれている少女に向けた表情の数々に気付く。
 二度と襲いたくない。怖い。やめて。許して。
 暗い感情の羅列は明らかに、「青っち」好みのものだ。襲われた少女が加害者に言ってほしい、普通の言葉だ。
 それを伝えられるようになるだけの元手を拳経由でたっぷり与えた。
 伝えた。
 気付き、ぞっとする。口で言えば済む問題を恐るべき暴力にすり替えてなお彼女は笑顔のままなのだ。
 ともすれば自分の行為が暴力という名の忌むべきものとさえ気付いていないのかも知れない。
 拳は声の代わりでしかなく、相手の傷など鼓膜がちょっと揺らめいた程度にしか思っていない。
 そんな笑顔だった。

「でもすね青っち。暴力はおろか人に迷惑かけるのさえ大嫌いな優しい女のコなんすよ。だって暴力とか迷惑とか、
なーんも伝わりませんからね。怯えられ一方的に恨まれるだけ。気持ちも何も分かってもらえない。だから寂しい。
にひ。さっきアナタにやったようなコトなんて、叩いた内にも入りやせんよ」
「…………」
「っと。これだけのケガしちまったのはアレすよ。人間さんが弱くて脆すぎるから」
「…………」
「殺すつもりなら、最初から武装錬金の特性使ってここに放置していましたからね」
「…………」
「あと、格闘戦は意外と不向きすよ青っち。この前なんか真赤な髪した鬼のようなおじ様に絡まれましたけどねえ。30分殴り
合った挙句怖くなって逃げましたもん。あちらさん無傷、青っち両肩外れる重傷。だから青っちの負けといえるでしょう」

 やや落ち着いたのか。ブレイクは金髪ピアスの前に座りこんだ。
 槍がざくりという音を立て突き立ったが、危害を加えるつもりはないらしい。
 穂先は、掌から50cmほどの距離に刺さっていた。

(もしかしてもう解放してくれるとか? そ、そうだよな。こんなに殴られたんだしこいつ人当たり良さそうだし、そもそも仲裁
してあのコ止めたのもこいつだし……)
 安堵。期待。微かに瞳を輝かせる金髪ピアスの前で、ブレイクは「うーむ」と困った顔をした。
「ただ困ったことに、おにーさんのいまの重傷って奴は、青っちが「伝えた」程度のやつなんすよね。公平に見りゃあ、叫び声
をちょっと投げかけられた程度じゃないすか。つまり謝罪とか償いとか、まだやって貰ってないって話じゃないですか。ねえ?」
 金髪ピアスは最初何を言われているのかわからなかった。声が穏やかすぎるせいでその文脈のひどさをすぐには理解で
きなかった。
 死んでいたかも知れない重傷を、「叫びを投げかけた程度」と断定したのだ。ブレイクは。
 その上で謝罪や償いを求めている。しかもヤクザがやるような「もっと出せ」という恐喝でもない。ただ本当に常識に照ら
しあわせた真っ当な要求をしている。少なくても本人は心からそう信じている。
「わかりますよねおにーさん。青っちすごく怯えていたじゃないですか。今だって怖かった怖かったって泣きそうな顔をして
いるでしょ? 根は優しくてか弱い女のコなんですから、見知らぬオオカミさんに襲われてすぐ落ち着ける訳、ないじゃな
いですか」
 泣きそうな顔? ”青っち”を振り仰いだ金髪ピアスは唖然とした。彼女は依然として笑顔のままである。まるで天女の
ような幻想的な存在として、ただただにっこりと笑っている。
「ね。泣きそうな顔でしょ?」
「え……」
「俺っちにはわかるんです!! つーーーーか! 大好きな女のコなんだから微妙な表情ぐらい分からなくてどうするっつ
話ですよ。例え世界中の他の誰もが読み解けなくても、俺っちだけは理解して、いつでも傍で支えてやらなきゃならないで
しょーが!!」
165 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:23:09.28 ID:Km9d9CCL0
 叫びとともに槍がまばゆく光った。その光は金髪ピアスの目を灼いた。

(なんなんだよ)
 彼はだんだん腹が立ってきた。相手が穏便になってくるや否や、生来の身勝手な主張がむくむくと首をもたげてきた。
(俺はこんなにボコられただろーが! 襲ったのは悪いが過剰防衛した奴も悪いだろ! なのにどうして俺ばかり)
 先に手を出したのは棚に上げ、毒づきながら槍を見る。地面に突き立ったままだ。良かった。胸をなで下ろす。
(使うつもりはないようだな。訳の分からない奴で助かった。つか物騒なカタチだな。あんなのでやられるのイヤだし、
適当に謝っておくか)

「だいたいお兄さん? わかりませんかねえ。いま辛うじてながら五体満足なのは通りすがったのが俺っちなればこそでさ。
盟主様が通りすがっていたら……にひ。殺されるより壊されるよりヒドい破滅を味わったでしょうねえ。そして泥沼行きの第
二の人生強制開始ですよ。むかしむかし有無を言わさず1つにされた飼い主とネコのようにね」

 彼は気付く。
 自分の手。
 それがゆっくりと、穂先に近づいていくのを。


「ブレイクさんの武装錬金の特性は……わかりません」


「青っちは「イヤだ」って伝えたでしょ? なのにまだ反省していない……。にひっ。歪み果てた枠ってのはやはりそう
簡単に変わらないようで。あーあ。やっぱこの辺りが人間の持つ「枠」の限界なんでしょーかねえ」

 鋭く光る灰色の刃は触れるだけで指を裂くだろう。
 分かっていながらそこへ向かうのを止められない。
 穂先までの距離45cm。

「あ、あ、あ……」
 声にならない声を漏らしながらもう片方の手で押さえこむ。骨折部分から激痛が広がり涙と鼻水が出る。それでも腕は
着々と穂先に向かう。レミングスの自殺行進だ。もっと力を込めれば止まるかも知れないが、骨折部分がどうなるか
考えるとひどく躊躇われた。或いは穂先に手をやる方が痛みは少なく済むかも知れない……。
 恐ろしくこじんまりとしたみみっちい思索を見透かしているのかいないのか。

 ブレイクはにへらと笑った。 穂先までの距離25cm。


「………………ただ、お姉ちゃんの話だと……相手を……好きなように……コントロールできる、そう、です」


「おっと? どうしやした? どうしてお兄さん、おん自ら穂先に手をばかざそーとしてるので? 危ないっすよねー。ほら、
ほら。早く手をすっ込めて。俺っちはなーんも危害を加える気はないっすよ。ただお兄さんが『バキバキドルバッキー』の
穂先を危険だなあ、避けないと手が裂けるって怯えているからこうなる訳で」
 痛みと葛藤に歯を食いしばる金髪ピアスはすがるようにブレイクを見た。

 穂先までの距離15cm。
 涙と鼻水にまみれ、歯をガチガチ鳴らす男を、ブレイクはただ、楽しそうに眺めた。

「大丈夫。罰を覚悟すれば止まります。さーどうなるか(どきどきどきどき)」
 と言ってはいるが心から心配している訳でもなさそうだ。
 穂先までの距離5cm。

『危ないって思うならバキバキドルバッキーを地面から抜くか解除すればいいのに』
 笑顔の少女はまったく笑顔のまま嘆息し、更にこう付け加えた。
『提案しようかなって思ったけど、もう手遅れみたい』


 何か千切れたらしい「ブツリ」という音が資材置き場に響いた。

 次いで青年の絶叫も……。
166 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/20(金) 00:23:34.44 ID:Km9d9CCL0
以上ここまで
〜紅魔降臨・前〜

<永遠に紅い幼き月>レミリア・スカーレット。
<紅い悪魔>レミリア・スカーレット。

外の世界において最強の吸血鬼はと問えば、百人いれば九十九人が化け物殺しの鬼札(ジョーカー)―――
窮極にして絶対の存在たるアーカードの名を挙げるだろう。
残る一人についても<まあ他の奴はどうせアーカードって言うだろうし俺もそう思うけど、ここは敢えて別の奴に
しよっと。俺って異端派!>というへそ曲がりである可能性が非常に高い。
だが。しかし。
幻想郷においては恐らくレミリアこそが最強の吸血鬼であり、至高である。
とはいえ、彼女も最初から最強だったわけでもなければ、生まれた時から吸血鬼だったわけではない。
遥か遠い昔―――500年ともう少し前には、彼女とて人間だった。


とある小さな町の貧しい家に生を受けた彼女は、贅沢はできなかったけれど、それなりに幸福だった。
誰もが羨む美男美女のカップル、というわけではないけれど愛し合って結ばれた両親。
優しい父親と気立てのいい母親。
微笑みかけてくれる町の人々。
同世代の友人達。
幸いにして器量良しで、素直な性格に育ったレミリアは、誰からも愛されるお姫様だった。
両親は自分が満足に食べずとも、愛娘を飢えさせはしなかった。
誕生日には乏しい稼ぎをやり繰りして、彼女のために綺麗な服を仕立ててくれた。
そんな、ささやかながらも幸せを与えてくれた両親は、彼女がまだ十になる前に流行り病で亡くなった。
途方に暮れていたレミリアを救ってくれたのは、町に唯一つだけある教会の神父様だった。
自分と同じように親を亡くした孤児達の面倒を見てくれている、慈悲深い人だった。
「いいですか、レミィ」
自分が泣いていると、神父様は大きく、温かな手で静かに頭を撫でながら語りかけてくれたものだ。
「主は、あなたをいつだって見守ってくれています。どんな辛い事があっても強く、優しく、正しく生きていれば
きっと幸運を授けて下さいますよ」
「ほんと?いい子にしてれば、神様が助けてくれるの?」
「うーん…とは言ったものの、世の中はそう上手くいかないんですよね。残念な事ですが、真面目に清く生きた
人が報われないなんて、いくらでもあるのです」
「ダメじゃない」
「うーん…」
けれどね、レミィ。
神父様は笑いながら片目を瞑る。
〜紅魔降臨・前〜

<永遠に紅い幼き月>レミリア・スカーレット。
<紅い悪魔>レミリア・スカーレット。

外の世界において最強の吸血鬼はと問えば、百人いれば九十九人が化け物殺しの鬼札(ジョーカー)―――
窮極にして絶対の存在たるアーカードの名を挙げるだろう。
残る一人についても<まあ他の奴はどうせアーカードって言うだろうし俺もそう思うけど、ここは敢えて別の奴に
しよっと。俺って異端派!>というへそ曲がりである可能性が非常に高い。
だが。しかし。
幻想郷においては恐らくレミリアこそが最強の吸血鬼であり、至高である。
とはいえ、彼女も最初から最強だったわけでもなければ、生まれた時から吸血鬼だったわけではない。
遥か遠い昔―――500年ともう少し前には、彼女とて人間だった。


とある小さな町の貧しい家に生を受けた彼女は、贅沢はできなかったけれど、それなりに幸福だった。
誰もが羨む美男美女のカップル、というわけではないけれど愛し合って結ばれた両親。
優しい父親と気立てのいい母親。
微笑みかけてくれる町の人々。
同世代の友人達。
幸いにして器量良しで、素直な性格に育ったレミリアは、誰からも愛されるお姫様だった。
両親は自分が満足に食べずとも、愛娘を飢えさせはしなかった。
誕生日には乏しい稼ぎをやり繰りして、彼女のために綺麗な服を仕立ててくれた。
そんな、ささやかながらも幸せを与えてくれた両親は、彼女がまだ十になる前に流行り病で亡くなった。
途方に暮れていたレミリアを救ってくれたのは、町に唯一つだけある教会の神父様だった。
自分と同じように親を亡くした孤児達の面倒を見てくれている、慈悲深い人だった。
「いいですか、レミィ」
自分が泣いていると、神父様は大きく、温かな手で静かに頭を撫でながら語りかけてくれたものだ。
「主は、あなたをいつだって見守ってくれています。どんな辛い事があっても強く、優しく、正しく生きていれば
きっと幸運を授けて下さいますよ」
「ほんと?いい子にしてれば、神様が助けてくれるの?」
「うーん…とは言ったものの、世の中はそう上手くいかないんですよね。残念な事ですが、真面目に清く生きた
人が報われないなんて、いくらでもあるのです」
「ダメじゃない」
「うーん…」
けれどね、レミィ。
神父様は笑いながら片目を瞑る。
「それでも、神様なんかいないと悲観して下ばかり向いて生きていくより、何かいい事がきっとあると信じて前を
向いて歩いていく方が、ずっと楽しいじゃないですか」
だから。
「運命は残酷です。けれど、強く生きればきっと主は微笑んでくれますよ」
「…うん!」
レミリアは泣き止んで、太陽のような明るい笑顔を見せた。
―――それは今となっては絶対に浮かべる事のない、純朴な、少女そのままの笑顔だった。


―――それは、ある日の御祈りの時間だった。
剣や槍で武装した暴漢達が、教会に押し掛けてきたのだ。
彼等は一様に白いフード付きのローブを被った、得体の知れない連中だった。
「…!何ですか、あなた達は!」
これまでに見た事もないような険しい顔で、神父様が怒鳴る。
怯える子供達を下がらせ、前へ出る。
「ここは神の家ですぞ!土足で踏み入るなど、何たる不敬!」
「おやおや、勇ましい神父様ですねえ。でもそういう態度はよくない。命を縮めますよ?」
神に仕える者でも、死に急ぎたくはないでしょう。
白フードのリーダーと思しき先頭の男が、にやにや笑いながら答える。
「ま、突然やって来て何なんだ、と思われるのも当たり前ですんで、用件だけ端的に」
「何を…」
「その子供達、売ってもらえませんか?」
「な―――!」
絶句する神父様を無視して、白フードはコインの詰まった袋をちらつかせる。
「ほら、この通り代金は支払います。あなたってば、こんな小さな教会で子供達の面倒見るとか、ただでさえ大変
でしょう?これは大変にお得な話で」
「帰れ、この恥知らず共めがっ!」
怒声が響いた。
「この子達は、私にとって実の子同然だ!それを売るなど、誰がするかっ!」
「うーむ、それは残念」
特に残念でもなさそうに言って。白フードは手にした剣を、あっさり振り下ろした。
真っ赤な血が迸る。
子供達の悲鳴。
「が…あっ…」
「ま、別にいいですけど。金を払わずに済むかわりに死体の処理が面倒になるってだけですし」
地を赤く染めながら、血に濡れた神父様は崩れ落ちる。
「な…何故…」
死の間際の、今にも消えていきそうな命を振り絞り、神父様は言った。
「どうして…こんな事…を…」
「え?えーっと、うん、まあ、別に誰でもよかったといえば誰でもよかったんですがね」
「な…に」
「なんつーかね、ウチの組織ですごいモンを手に入れまして。その人体実験をやりたくてね。別に子供じゃないと
ダメなわけじゃないけど、親のいないガキなら後腐れないでしょ?ま、そういう事で」
「き…さ…ま…」
神父様は震える手で、胸元から何かを取り出す。
清貧を旨とする彼にとって唯一の贅沢品ともいえる、純銀製のロザリオだった。
最期の力で握り締め、祈る。
「主よ…子供達を…どうか…お救い…」
そこまでだった。掌から、ロザリオが滑り落ちる。白フードはそれを拾い上げた。
「うん、中々いい品じゃないの。どっかで売っ払って女でも買うか!巨乳がいいな、巨乳!…まあまあ、それは後
のお楽しみにとっとくとして」
その顔は、まさしく悪魔としか形容できなかった。
「さ、クソガキ共。おじさんと一緒に行こうね?いやいやするワガママで、聞き分けのない子は、神父様みたいに
なっちゃうよ?」


子供達が連れていかれたのは、人がいなくなって久しい古城。
その地下には大きな部屋があり、中央には不気味な魔法陣が描かれている。
壁にはたいまつが燃え盛って室内に灯りをともしている。
奥には祭壇らしきものが置かれ、そこには奇妙なものが祭られていた。
(…あれは…何…?)
印象としては、槍の穂先だけ取り外した刃物。
それはたいまつの火に照らされて鈍く、妖しい輝きを放っていた。
「よーし、最初は誰にし・よ・う・か・な?…よし、君に決めた!」
指名された女の子は泣き喚き暴れ出すが、所詮は小さな子供の力だ。
あっさり取り押さえられ、魔法陣に寝かされる。
「や…やだぁ…」
「はいはい、こんな所で怖がっちゃダ〜メ。ほら、これが見えるかな?」
祭壇から例の刃物を持ってきて、女の子の目の前でちらつかせる。
「まあ分からないと思うけど、一応説明しとこうか」
へらへら笑いながら、白フードは口を開いた。
「こいつは<ロンギヌスの槍>というものでね…これを使った儀式によってだ、何と驚き、あっと驚き、吸血鬼を
造れちゃうんだ!」
「きゅ…きゅうけつ…き…?」
「そう―――それも単なる吸血鬼じゃないぞ。吸血鬼には幾つもの血統があるんだけどね、その中でも血統の祖
となった偉大な吸血鬼を始祖(ソース・ブラッド)と呼ぶんだ。この<ロンギヌスの槍>はだ、その始祖を人工的に
産み出してしまう、すっごい秘密道具なんだよ!」
でもね、と白フードは述懐する。
「やっぱそんなモン、いきなり使うのも怖いじゃない。化け物にもなりたくないしさあ?だからさあ、適当な奴で
実験しようと思って。で、まあ、成功して本当に始祖が爆誕したら、俺達のために馬車馬のように働いてもらおう
ってね。え?制御できるのかって?そこでこの魔法陣さ。これには特別な魔力が秘めてあって、吸血鬼の力を
完全に封じるんだ。だから、絶対安全ってわけ」
ぺらぺらぺらぺら、訊かれていない事まで語る白フード。そして彼は。
「えいっ」
少女の胸に向けて<ロンギヌスの槍>を突き立てた。絶叫が響き―――
「…あ。ダメ。失敗。次いこ、次」
心臓を貫かれ、絶命した少女をまるでモノのように脇にどけて、次の生贄を指名する。

「あー。また失敗!」
「こいつもダメか!」
「あーもう、次持ってきて!」

―――その凄惨な儀式を、レミリアは震えながら見ているだけしかなかった。
(助けて…)
それは誰に対しての呟きだったのだろうか。
優しい父?気立てのいい母?慈悲深い神父様?それとも―――神様?
(神父様…大好きな神父様…!)
今でも、大好きだ。でも、一つだけ恨んでいる。
(嘘吐き…!神父様の嘘吐き!神様が見守ってくれてるんなら…何でみんなを助けてくれないの…?)
「―――あーあ。君で最後だ」
こりゃ失敗だな、とぼやきながら白フードはレミリアの腕を掴む。抵抗の意思は、既に失せていた。
もう、何もかもどうでもよかった。
父も、母も、神父様も、仲間達も先に逝ってしまった。
これならもう―――向こうの方が楽しそうだ。
レミリアは死を前にして、安らかですらあった。
「じゃ、いくよー。ほれ」
明らかにやる気のない様子で、けれど刃は容赦なくレミリアの心臓に食い込んだ。
「ぐ…ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
激痛。憤怒。悲嘆。絶望。
先程までの聖者の如き安らかさは、それらの前に一瞬にして吹き飛んだ。
負の感情全てがないまぜになって、全身を駆け巡った。
何で?何でこんな事になるんだ?
どんな辛い事があっても強く、優しく、正しく生きてきたつもりなのに。

(ああ、そうか。助けてくれる神様なんか―――いないんだ)
悟った。
(あるのは―――残酷な運命だけ)
だったら。
(こんな運命なんか―――捻じ曲げてやる)
それは、人間として何らかの形で訪れる死という運命を、否定した瞬間だった。
(このまま死んでたまるか…!私は…私は…!)
―――化け物に成り果ててでも生き延びて―――
―――このクズ共を八つ裂きにしてやる―――
―――運命に、復讐してやる―――

誰かの、何者かの、脈動を、感じた。
例えるなら足下に、真っ黒な何かが這い寄ってくるような。
それは不定形に蠢きながら、レミリアの全身を絡め取っていく。
今にも停止しようとしていた心臓が、力強い鼓動を始める。
流れる血は、視覚的には赤いままだったが―――本質が変貌していた。
人間の赤き血を、吸血鬼の黒き血が塗り潰していく。
長く、鋭い牙が伸びていく。
瞳が真紅に染まっていく。
背中の皮膚が変形し、漆黒の翼が生えてくる。
何よりも―――存在そのものが、人間から根本的に作り変えられていく。
有機体としての摂理からすら、逸脱していく。
「え…?え?ええええ!?な、何これぇ!?もしかしたら、成功しちゃった!?」
白フードの男が喚いているが、そんな事に構わず、レミリアは胸から槍を引き抜いた。
その傷は、瞬時に塞がっていく。それを見届けて、ゆっくりと身を起こす。
人間達を、睥睨する。

そこに立っていたのは、紛れもなく始祖だった。

自らに与えられた無限に等しい力を、ほんの少しだけ解放する。
<吸血鬼の力を完全に封じる>という触れ込みの魔法陣が、まるで意味を成さずに消し飛んだ。
白フードの中の一人に向けて、ゆっくりと歩いていく。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ…」
そいつは意味の通らぬ言葉を発しながら、眼前の脅威を見つめるしかない。
レミリアは無造作に、横薙ぎの手刀を繰り出した。

―――彼はまだ、この中では幸せな部類だった。
何が起こったのかも正確には理解しないまま、一瞬で首を刎ねられて苦しまずに逝けたのだから。
残った者達は、人間が感じ得る限りで最大級の恐怖を噛み締めながら死んだ。
人間が知覚しうる限界を遥かに越えた激痛を甘受しながら息絶えた。
彼等は見た。生態系の最上位に存在する、吸血鬼という魔神を。
彼等は聴いた。怒れる始祖の、天地に轟くような怒号を。

「こ…こ…ころ、ちて…」
死屍累々・死山血河(しざんけつが)の地獄で、リーダー格の男だけは、まだ生きていた。
無理矢理に生かされていた、という方が正しい。
普通なら完全に死んでいるはずの、拷問を通り越した圧倒的な暴力。
それに晒されて、それでも死という安息を赦されなかった。
人間というより肉塊といった方が近い―――とはよく使われる表現なのだが、今現在、彼は比喩ではなく頭から下
が文字通りミンチ肉と化している。
そんな状態でも生きているのは、レミリアが魔力によって生命力を供給しているからだ。
有史以来―――というか生物史上、これほどの苦痛を味わった生命体も恐らくはいるまい。
この阿鼻叫喚の苦しみを味わえた人間は、間違いなく歴史上で彼一人だろう。、
彼自身はそんなもの、ちっとも幸運に思うまいが。
「ころちて、ころちて…」
「あら。さっきまでは<助けて>か<許して>って言ってた気がするけど?」
返り血で真紅に染まった姿で、レミリアは嗤う。もはやそれは―――朗らかな少女の笑みではない。
まさしく、鬼そのものの貌だった。
「ころちて…ころ…ちて…」
「…あー。もう、完全に精神があっちにイっちゃってるわね」
これ以上は、どう痛めつけても<ころちて>としか言わないだろう。
潮時ね、とレミリアは男の頭を両手で挟み込む。
「お望み通り、殺してあげるわ。気分はどう?」
「あ…あ…」
その言葉を聞いた瞬間、彼はまさに至福の表情を浮かべた。
やっと、この形容しようもない地獄から解放される。
「あり…が…とう…」
多分彼は、生まれて初めて、心の底から感謝していた。

ぶちゃっ。

頭を挟み潰し、彼は死体―――というよりも、残骸と化した。
その残骸の中に、光る物を見つける。
純銀のロザリオ。
「神父…様…」
反射的に掴み取ろうとして。
「…っ!」
肌が焼ける痛みに、手を離す。そうか、と思い至った。
「私…吸血鬼になったんだものね…そりゃあ銀なんか、持てないか」
自嘲する。
「あははははは…」
廃墟の古城に響く、虚ろで乾いた笑い。
超越者となった彼女には似つかわしくない―――或いは逆に、だからこそこれ以上なく相応しい―――
カラカラの笑い声だった。
「あはは…私、化け物になっちゃったよ…」

「化け物とは酷いね。人間じゃないのは確かだけどさ」

レミリアの背後から、どことなくおどけた声。
振り向けば、いつの間に現れたのか、一人の男が立っていた。
見てくれは、何の変哲もない男だった。
まずまず整った顔立ちだが、特にこれといって特徴もない。
極々、ありふれた青年だ。
だが、レミリアには分かった。人でなくなった彼女には、理解できた。

―――こいつも、自分と同じ、化け物だ―――

「だから化け物扱いは酷いってば…とにかくその通り。君と同じで、僕も吸血鬼さ」
心を読んだかのように、そう答える男。
にこやかで、人好きのする―――しかし、瞳の奥に底知れぬ深淵を宿した人外の笑顔。
「…あなたが誰で、何をしに来たかはどうでもいい」
紅の瞳が、大きく見開かれた。
「問題は、私の敵なのかどうかよ」
紅い風が、渦を巻く。
古びているとはいえ、頑丈に造られているはずの城が、今にも砕けそうな程に震える。
レミリアは、特に何かしたわけではない。
ただ、男に向けて威嚇の意味を込めて殺気を放った―――それだけだ。
それだけの事で、天地を揺るがす程の圧力が生み出された。
これこそが―――吸血鬼。
その中でも別次元の存在である、始祖の力だ。
「―――素晴らしい」
しかし、殺気を向けられた当の本人はといえば、感極まった声で呟く。
「何と苛烈で―――華麗な始祖(ソース・ブラッド)か…!」
男は、瞳に涙さえ浮かべて感動に打ち震えていた。
レミリアは何とも興を削がれたような気分で、珍獣を見るような目で彼を睨む。
「あなたは」
問いかける。
「あなたは…誰?」
男は、涙を拭いて笑顔で答えた。
「可愛い女の子の味方さ」


―――これは、真紅の吸血姫―――レミリア・スカーレットが産まれた夜の物語。
続きはまた、後ほど―――
175サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/05/20(金) 13:52:32.94 ID:a/uJGEB90
投下完了。前回は>>137より。 スターダストさんから間を置かず、失礼しました。
レミリアお嬢の誕生篇。重い話になりました。
つい数話前まではケーキを巡ってバカ騒ぎ、もっともっと遡れば平和な溝ノ口で正義と悪の
楽しい日常だったのに…。我ながら無茶な方向に突き進んでいる気もします。
しかしながらお嬢は<BLACK BLOOD BROTHERS>の設定に乗っかりすぎて、まるでBBBの
方の登場人物のように錯覚しちまう。自分で書いてるくせに。

ちなみにこの<ロンギヌスの槍>BBBの方で出てくる魔具なんですが、このSSに出てきたのは
偽物です。本物はとてもこんな雑魚キャラどもに手に入るようなシロモノじゃありません。
最後に出てきた男は、BBBのキャラです。
うむ、BBB知らんとわけがわからないよ!だな。
知ってても<あれ?誰これ?>と思われた場合は、サマサの書き方が悪いな。

しかし<ロンギヌスの槍>と書くと…ハシさんが心配です。
地震から数日後の生存報告らしきツイート以来、ツイッターにも姿を見せていないんですよね。
呑気に2ちゃんだのツイッターだのどころじゃないでしょうが orz

PSP3000を購入。これで第二次Z破界篇ができるぜ!
情報によるとヒロインは相手を土下座させるのが大好きなんだけど机を勢いよく叩かれると「ひっ」と
びびってしまうヘタレなところもあって、ジャージ姿でタケノコ掘りにいくのがよく似合うとの事。楽しみ。
まあ何故か手元には<スパロボAポータブル>があるんだけどね!とりあえずこれやってから。
アホセル懐かしいです。アドバンス版よりやたら難しい気がする…。
第二次OGにカズマが出たら、今度こそ可愛い彼女が出来るんだろうか…。

>>139 <血統の祖>という一般的な意味でなら、真祖といえるかもしれませんね。ただBBBだと、真祖と
    呼ばれているのは一人だけなんで…どうかな。
>>140 あんた、それ全然褒め言葉になっとりませんがな…w
>>141 レッドさんも本編のバトル以外で活躍させたいですねー。
>>142-144 扱いの難しい能力だとは思います。そうそうキャラ殺すわけにもいかんしねー…。

>>スターダストさん
>>ガワだけ可愛いイロモノ
やっぱまっぴーはそういうキャラとして認識されてるんですか…wでも大好きですまっぴー可愛いよまっぴー。
金髪ピアスくんの妙に立っているキャラが割とツボです。しかし惜しむらくは、DQNが出てくるのはボロクソに
されるためというのが、物語のお約束なんですよねー…。

>>ふら〜りさん
まあ、力量のある作者が書けばDB系キャラVSジョジョ系キャラの戦闘って面白く書けるんだろうけど…
自分じゃこれが限界です。え、お姫様?やだなあ、このSSの姫ポジションはヴァンプ様ですよ(本気)
176作者の都合により名無しです:2011/05/20(金) 23:53:06.38 ID:jsMZe4Tj0
スターダストさんの連投凄いな。
本当に終わらせにかかってるのかと思うと寂しくてならないけど…
後書きがない分、余計に気にかかる
177作者の都合により名無しです:2011/05/21(土) 02:55:49.57 ID:VmnmGFdg0
お疲れ様ですスターダストさん、サマサさん

・永遠の扉
防人の頼もしさは異常だけど、根拠が無いというか責任感が無いというか・・
ちょっとバトルモードも本格化してきましたね。ブレイクさんキャラ立ってるなあ。

・サンレッド外伝
アーカードがゲスト参加すると思ったwまあ、出るとますますレッドさんの
存在感がなくなるからなあ。ちょっと今回は黒いお話でしたね。こういうのも好きです。


178作者の都合により名無しです:2011/05/21(土) 15:21:08.06 ID:2tH6RHrH0
>スターダストさん(連続更新お疲れ様です)
敵の幹部が攻め入ってきて深刻な事態のはずなのに、学園の雰囲気と
登場人物の愛らしさのためイマイチ緊迫感がw でも、戦闘描写も
得意なスターダストさんの事、そろそろ激しいバトルに移行しそうですね。
最後の絶叫が気にかかりますが、次回はハードな展開になるのかな?


>サマサさん(ハシさん心配ですね。震源地に近いし…)
原作知りませんがレミリアが元々人間だった、とは原作設定ですか?
あれだけ余裕綽綽の麗しの吸血鬼にも暗い過去があったという事でしょうか。
確かにほんの数羽前まではワイワイがやがやでしたけど、こういう展開も好きですよー。
179作者の都合により名無しです:2011/05/21(土) 18:41:04.28 ID:cep5hgC40
レミリアが生まれつきの吸血鬼なのか元人間かは原作でも明言されてないはず
まあ東方って作家ごとに脳内設定が違うなんてデフォだし…それ自体を楽しむ
ジャンルでもあるし、このSSじゃこうなんだなってくらいに楽しむが吉
180作者の都合により名無しです:2011/05/21(土) 23:57:17.96 ID:/06jS1+U0
2ヶ月くらいネットが使えない環境になりそうだ
スターダストさんもサマサさんも頑張って下さい
俺は特に永遠の扉のファンなので、
俺が帰ってきても続いているといいな
181作者の都合により名無しです:2011/05/22(日) 19:08:02.48 ID:h7jhSmfx0
昨日今日と時間があったので一から永遠の扉を読み直した。
間違いなくバキスレ史上最長の作品だな。

ここまできたら是非とも完結させて欲しいものだ。
その日が近そうなのが寂しいが。
182ふら〜り:2011/05/24(火) 00:19:34.22 ID:SApqgi0r0
>>スターダストさん
本人が一人称で語っても地の文が三人称で語っても作中の他キャラから紹介されても……
やはり青っちのエグさは凄惨ですねえ。Jガイルや吉良よりも常人離れしてる印象(こいつらは
単純な性欲や加虐欲ですし)。同僚たちも歪んでますし、戦士勢がどんな感想を抱くか楽しみ。

>>サマサさん
正しく慎ましやかに生きていても、悪意に蹂躙されることはあり神は助けてくれない。けど、
最後の最期で、たった一人だけ、しかも人外の存在に成り果ててしまったけど、それでも
「この子たちを助けてほしい」という祈りはギリギリのところで通じた、のかもしれませんね。
183作者の都合により名無しです:2011/05/24(火) 00:43:25.14 ID:h7hfur8V0
>>181
ニートさん乙です
184 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/28(土) 00:35:18.36 ID:iigcIPpF0
「指!! オオオオオ俺の指ィィがあああああああああああああああああああああああああああ!!
 狂ったように喚く金髪ピアスの掌には成程明らかに「欠け」があった。それを補うように何本か、細長い肉の塊が彼の前に
転がっている。筋のようなものを垂らしながら赤い液体をとろとろ零しているところを見るとやっぱりそれは指のようで、何本
か切除する羽目になった、そう見るのが正しそうだ。
 突き立てられたハルバードの澄んだ刃。叫ぶ表情が歪んで映る。更にそこへ小指が、ぐっぐっ、と引きずられるように向
かっていく。一段と大きさを増した悲鳴が響く。金髪ピアス。彼の腕はなおも動いている! 意思に反した動きなのは彼が
懸命に手首を抑えているところからして明らかだ。なのにびィんと突き立った小指ときたら等間隔を滑るように動いていく。
 一瞬止まっては一瞬進み、一瞬止まっては一瞬進み。
 ぐっ、ぐっ。
 ゆっくりとゆっくりと刃に向かって動いていくのだ。恐るべき光景であった。まるで糸で縛られたように無理やり前身してい
くのだ。されど指に何か巻きついた形跡はない。金髪ピアスも糸の可能性を疑ったのだろう。しばしば起死回生とばかり手
首から手を放しては指先と進行方向の間に手をやりぐしゃぐしゃと掻きまわす。だが何の手ごたえもないと見え、彼はもはや
洟水さえ垂らし、ぐずる。「なんなんだよ」「なんでなんだよ」。すすり泣くような声がいよいよ号泣の様相を帯びた所で小指の
第二関節がハルバードの肉厚の刃に吸い込まれた。ぶちりという音を契機にまた一つ、肉の、血管の、神経の、末梢部へ
到る連続性が遮断された。

「ああっ!! ひどい! なんということにー!! ><」

 ハルバードの持ち主は「大変だー!」とばかり声を上げた。だがそれだけである。いよいよ指のストックが心もとなくなって
きた男をにこやかに眺めるだけである。現在のところ何か手助けしようという気配は見当たらない。だからといって危害を
加える気配もない。
 金髪ピアスはその青年──ブレイクと名乗るウルフカットの──の眼差しがどういうものかやっと気付いた。
 それは決して人間を超越した眼差しではない。むしろありふれた種類のものだ。誰もが日常の一場面でふと覗かせる
代物で、金髪ピアスさえ「ああ、俺もしたコトがあるのかもな」と納得できるほど普通の眼差しだった。
 だからこそ、身震いがした。

(コイツの目。指を切断されて苦しむ俺を見るコイツの目は──…)


「人間の価値を誰よりも認めているホムンクルス?」
 凛々しい眉を跳ね上げながら斗貴子は訝った。矛盾した文言だ。ホムンクルスにとって人間など本来ただの食糧にすぎな
い筈だ。兼ね備えた高出力も相まって見下し、侮るコトがほとんどではないか。少なくても斗貴子が斃してきた連中というのは
そういう「いかにも」な類型だ。
「はい…………。ブレイクさんは……常に……人間の可能性を……信じて、います」
「だったら何でレティクルとかいう組織に居るんだ?」
「わかりません……。確かなのは……人間を……倫理や感情で……見れない、というコトです」
「なのに人間を信じている? 訳が分からねェなオイ」
「いえ」
 分からない、苛立つ剛太へ説明するように、桜花はゆっくりと言葉を吐いた。
「利用価値っていうのはね、人を人として見れないほどよく見えてくるものよ。何の感情も寄せられないから残酷なまでに
客観的に見れちゃう。私はそうだったもの。何となくだけど、ブレイクって幹部の気持ちは分かるわ」
「嫌な理解の仕方だな……」」
「あらひょっとして自分の身が心配? 大丈夫よ。剛太クンを利用しようだなんてコト、ちっとも考えてないわよ。普通にお話
しできて、普通にお友達になれたらいいかなあって思うだけで」
「信用できねェ」
 照れくさそうに微笑する桜花。ぷいと顔をそむける剛太。彼らをよそに斗貴子だけが腕組みしつつ呻いた。
「つまり、だ。ブレイクとかいう幹部が信じる人間の価値とやらは、……自分にとっての、利用価値か」
「動物嫌いがペットショップ開くようなもんだな」
 御前に言わせれば「カケラも愛情がない癖に『商品売買の旨味』だけは知っている」らしい。だから慈愛を無視した能率的
な最善手ばかりで『商品』を扱える。利益のためなら廃棄もする。利益をもたらさないのなら排除する……。
185 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/28(土) 00:36:08.97 ID:iigcIPpF0
「人間が好きなんじゃないのね。人間を上手く使って、利益を得るのが好き」
「お姉ちゃんの話だと……ブレイクさん……”ある出来事”をきっかけに…………人間全体に対する感情が……冷めてし
まった、そうです。…………『枠』……私には理解しにくい……色眼鏡で…………世界や人を見れるのはそのせい……とも」


 指を抑えながら金髪ピアスは改めて気付く。
 ブレイクの灰色の目に灯る感情の意味を。
(間違いない。この目は)
 映画でも見るような目だった。映画の登場人物が惨たらしい目に遭って苦しむのを見るような、怖れと、不安と、恐怖刺激
にキャーキャーわななく目だった。
 彼は決してエンコ詰めの光景を喜んでいない。罰だざまあだとせせら笑ってもいない。
 恐るべき情景だと理解している。
 自分がそれをされたら嫌だとでも思っている。
 痛みを想像し、同情さえ寄せている。
 なのにその表情にはどこか決定的な違和感がある。被害に苦しむ金髪ピアスと同じ世界、同じ空間にいながら「まるで
テレビの向こうの出来事を見ているように」、現実感が乏しい。

「うわこの場面すっごい怖い! でもまあ作り物だし実際この役者さんは重傷負ったりしてないからいいよね」

「昨日こんな爆発事故があったのか! 死者1000人で中には子供も、か。ヒドい。こんなコトもあるんだなあ(しみじみ)」

「はは。また珍プレー好プレーやってるよ。またボールが股間に当たるんだろ? 毎年あるよなこういうの。ははは!!」

 誰もがテレビという枠の中へ寄せる平凡な感情しかブレイクには無いようだった。目の前で、人間が、指を切断されて
いるというのに、それっぽちの感情しか動かないようだった。にこやかで、人当たりがいい、いかにも人畜無害な青年と
いう様子なのに、その根本は完全に壊れているようだった。

「さて、じゃあ次は」
『もう解放してあげようよ。ブレイク君』

 そんな文字を書いたスケッチブックがブレイクの肩に乗った。金髪ピアスはそれを見上げると口を半開きにしたきり硬直した。
 ブレイクの動きを制したのは笑顔の少女だ。彼の後ろでやや気恥しげに微笑みながら、金髪ピアスをじっと見つめていた。
 ごめんね。ウチのブレイク君がが悪いことして。子供の悪戯をしかる母親のような穏やかな笑みだ。
(さっきアレだけ俺をボコにしといてどうして普通に笑えるんだよ。俺の怪我のほとんどはお前のせいだろ!)
 そういった過去などないかのごとく、少女はただ笑っている。
 普通ならば何を笑っているのかと詰るだろう。怒声の一つでも浴びせたくなるだろう。
 だが被害に遭った金髪ピアスでさえそういったコトを一瞬忘れてしまうほど、素晴らしい笑顔だった。
 暖かく、可憐で、優しさにあふれた、純真極まる頬笑みだった。見ているだけで癒され、傷の痛みさえ引いていくようだった。
 改めてその少女を見る。見惚れてしまう。
 ふわふわとウェーブの掛ったショートヘアーの持ち主だ。パーカーとジーパンという地味な出で立ちながらスタイルは良く、
くびれたウェストがウソのようにその上下が魅惑的なまでに盛り上がっている。ひどく日本人離れした肉感だ。にも関わらず
顔つきはまったく清楚、純潔極まる笑顔の持ち主だ。青年が何か話しかけるたびやや困惑した様子を浮かべるが、ニコ
ニコ、ニコニコと瞳を細めたまま応答している。
 応答。
 彼女にとってその行為は特殊なやり方でしかできないらしい。
 青年が何か言葉をかけるたび、彼女は胸に抱えたスケッチブックをいちいち翻し、文字を書くのだ。
 或いは喋れないのだろうか? ならば手話をやればいいようなものなのに、いちいちマジックで言葉を書き、答えている。
 青年は特にそれを咎める様子もない。寧ろ彼らにとってそれは普通の行為なのだろう。すでに何万回と繰り返してきたのが
見てとれた。
 とにかく奇妙なコミュニケーションだった。
 少女がスケッチブックを抱え直すたび、それが豊かな胸をぐにゃりと潰すのが見えた。文字を描くのに夢中で気付いていない
少女──たびたび”青っち”と呼ばれているのを思い出した──とは対照的に、ブレイクはとても幸せそうに鼻の下を伸ばしながら
その情景を眺めている。すさまじいエビス顔でとても幸せそうだ。お裾わけとばかりコッソリ指差しながら金髪ピアスに教えてき
たりもしている。その間にも指はハルバードに向かっており、都合2本ほど体を離れた。
186 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/28(土) 00:41:20.25 ID:iigcIPpF0

「お姉ちゃん……ですか? 普段は優しくて大人しい……お姫さまのような人、です。土曜日の午後になるたび……ドーナツ
を焼いてくれて……それはとっても……ごちそう……でした」」

「刺激しない限りは……大人しい、優しい、お姉ちゃんのままです……」

「おお! 自分に毒牙をむけた方さえ気遣うとはさすが青っち。ああ、やっぱり可愛い!!」
 ブレイクは腕を広げ”青っち”に抱きつかんとした。
 転瞬。
 少女の腕がしなった。地をも削らんばかり救い上がった拳がブレイクの顎を捉え彼を天空高くへ追放した。
「あ? え、え?? えええ? 仲間を、仲間? あれ?」
 目を白黒させる金髪ピアスの前に少女は屈みこみ、にこにことスケッチブックを見せた。
『もう女の子に乱暴な事したらダメだよ? それから肩の骨とか開放性骨折してゴメンね』
 そのはるか後ろにある廃車に何かが落ちた。もちろんそれはブレイクで、いまは古びた合金を突き破り内部へ突入している。
「仲間殴る必要性は……?」
 車から閃光が迸った。一拍遅れ轟音も。爆発。奇跡的に残っていたガソリンがブレイク落下の衝撃で引火したらしい。
 しかも扉がおかしな歪み方をしているらしく全然開かない。何度か叩かれる音がしたが火勢の強まりと反比例してどんどん
小さくなりやがて消えた。ブレイクの出てくる気配はない。
 そんな炎に炙られる車を一瞬だけ横目で見た青っちは、しばらく腕組みしてじっと考え込み── 鮭色の炎に炙られる満
面の笑みは、幻想的でさえあった──こう書いた。
『困った』
「そりゃあ仲間爆発に巻き込まれたら困るけれども! 質問に答えてないし理由になってないし!」
 青っちの頭で何かが動いた。アホ毛。身も蓋もない俗称をもつ長大な癖っ毛が、笑顔の前で、困ったように揺らめいた。
『そ、そうだよね。消さなきゃ! 落ち付いて! 確か1キロ先にコンビニあったから、まずはお水買って……』
「ガソリン燃えてんのに水!? しかもコンビニ!? ちーがーう!! まずは消防署に電話!!」
『で、電話はやだ。恥ずかしい。知らない人といきなり会話なんて……』
「書いてる場合? ねえそんなコト書いてる場合なの今? なんかジュージューいってるよアイツ。口じゃなくて体表面全部
でジュージューいってるよアイツ。恥も外聞もかなぐり捨てて救いに行くべき場面じゃないの今」
「青っちが許すというなら即解放しまさ!! いい病院紹介しやすねえ!!」
 背後からの大声にびっくりしたらしい。アホ毛がビコーンと屹立した。そして少女はやや身を固くしながらぎこちなく振り返った。
『ふ、復活するの早すぎだよブレイク君。え? ガソリンって水ダメなの?』
 視線を背後に向けながらスケッチブックだけは金髪ピアスに見せる青っちである。自分が何を『言って』いるのか見せたいと
いう配慮なのだろうが、どこかズレている。
 一方ブレイクはそんなコトなどお構いなしだ。夜目で精いっぱい注視した彼は下顎が歪な形に折れ曲がり口から血さえ垂らして
いる。ところどころに車の破片が刺さっている。火はどういう訳か消えているが、あちこち煤だらけで髪もぼうぼう。ドリフのコント
のオチ状態である。
「今のは愛のやり取りっ! 苦しくなどないんでさ!!」
 けほけほと煙を吹きつつ彼は絶叫する。槍を突き上げ、勝ち誇ったように。しかし衣服はあちこちボロボロというか最早
燃えカスを来ているという状態で見るも無残である。
「ああしかし困りましたね麻薬的な内分泌性物質の生産効率がちぃーとばかり悪くてあちこちまだ痛いんす」
 ブレイク、2mほどシャッと飛んだ。
「これを和らげるにはもっとこう殴られて! 興奮して! 脳内麻薬ギンギンにしなきゃいけません!」
 もう一回跳躍。徐々に近づいてくる。金髪ピアスはサザエさんのOPを想像した。
「つきましては青っち! もっとぶって下さいやし!」
 ついに少女の眼前に到着したブレイクは、やや奇妙な要求をした。
「え」
 よほど驚いたらしい。これまで一言も発さなかった青っちが声を漏らした。
「ぶつんでさ、俺っちを! そしたら脳内麻薬出て痛み解消!」
「馬鹿やめろ! 今の一発は確実に足に来ている! 燃えてた廃車からここまで来るのに3回も跳んだのがその証拠だ。
……普段のお前ならあれぐらいの距離、ひとっ飛びだろ! なのに、なのに3回も……。お前の足はもう限界なんだ!
これ以上あいつの拳を浴び続ければ二度と立って歩けるかさえ……」
187 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/28(土) 00:41:44.38 ID:iigcIPpF0
「へ。知ってますよそれ位。でも、男のコにゃあ後の人生犠牲にしてでも達すべき理想って奴がありやしてね。今がそれで
さ。引くわけには……」
『う。どこからどう突っ込めばいいか分からない』
「とにかく増えるけど増えないんす!! 愛のヨロコビは何もかも凌駕しやすからね! だから青っち大至急俺っちをぶっ」
 少女の手からスケッチブックが転がり落ちた。
 真っ白な細い手がブレイクに向かってゆっくりと、動いた。
(ダメだ殴られる! アイツはもう──…)
 轟音。そして衝撃。破滅的な未来など見たくもないとばかり目をつぶる金髪ピアス。
 だが聞こえてきた音は意外にも柔らかな音であった。

 ほよん。

 何かが震えるような音である。
 恐る恐る目を開け、面を上げた彼の目に飛び込んできたのは驚くべき光景であった。

 ブレイクの手が、少女の胸に導かれている。
 ハルバードが緩やかに倒れた。からからと音立て柄が地面をのたうった。予想だにしていなかったのだろう。ブレイクは
目を見開いたままただただ硬直していた。その掌は豊かな膨らみの大部分を覆ったまま徐々にだが柔らかさへ埋没していく
ようだった。

「にゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 やがて彼は目をグルグルにしながら鼻血を噴いた。後ろに向かって倒れていった。その鼻梁から噴き出す赤い曲線は
虹のような青春の輝きを帯びていた。
 そうして倒れたブレイクに少女は屈みこみつつスケブを差し出した。表情はよく分からないが、耳たぶがほんのり赤い
ところからすると自分の所業に倫理的羞恥を覚えているらしい。アホ毛も心なしか萎れている。
『殴ったりしたらブレイクくんボロボロになるもん。明日も一緒に『建設予定地』探さなきゃいけないし……落ちついて
貰うにはこうするしかないかな……って。だだだだって殴ったら興奮するけど殴らなくても興奮するヘンな人だもんブレイク君』
「ほよんって! ほよんっていままろやかななのがアアウアウアウよよよ良くないっすよそーいう行為は。う、嬉しいんすけど
ねそーいうのはもっと正式な交際を始めてから20回ぐらいデートして、ちゅーしてからじゃないとその、不潔というか、ああ
いやいや違います青っちのおっぱいが不潔だとかいーうんじゃなくて、正しい手順踏んでねーのにえろいことだけやるとか
いうのはダメ! 絶対ダメ!! 青っちが自分を安売りしてるよーでそういうの見るの辛いし、だいたい実はちゅーだってまd」
 また顎にいいのをもらい彼は天空へ吹き飛んだ。
(座ったままでアッパーカットとかできるんだ。すげえ)
『ばか。ブレイクくんの……ばか』
「拳。拳。スキンシップ。ああ、やっぱりこれすよ。岩石にゴム被せたような感触。イイ。やっぱ殴られる方がイイ……」
 倒れ伏すブレイクに金髪ピアスは思う。ああ、ドMなんだな。と
「俺っちMじゃねーですよ! S! どっちかというとS!」
 心を読んだようにブレイクは独白を始める。大の字になって夜空を眺める彼は、息せき切ってはいるがとても満足気な
表情だ。ケンカを終えて相手と友情をはぐくむ番長のような爽やかささえあった。
「殴られたコトをすね、青っちにいうと耳たぶ真赤にして座り込むんすよ! こっちが言えばいうほど泣きそうな顔になって、
それがまた興奮するんすよ!!」
「興奮ってお前」
「ギャップつーんすか? いつも笑顔のコが真赤な顔で涙溜めてしかも上目遣い! イイ。イイっす……。だから毎日欠か
さず殴られて言葉責めのストック貯めてるんす」
「いや、毎日殴られる必要はあるのか?」
「分かってね〜〜〜〜〜〜〜〜〜っすねえ!! 一方的に責めるなんてのは青っちが可哀相っす! 男女交際ってのは、
いいっすか男女交際っていうのは! 責めて責められて責め返してまた責められて、で、ちょっと時々2回連続で責めて「や
めてこれ以上はダメぇ」って言われてんのにもう1回責めるもんだから後で3回たっぷり責められて太腿とかつねられる、バラ
ンスのとれた奴じゃねーと!! 青っちを責めたいならまず俺っちが責められて殴られて、十分な肉体的ダメージを負うべ
きなんす! その上で青っちイジメ倒してゾクゾクしなきゃあ! ね!」
『…………うぅ。時々思うけどなんで私、こんな人のファンやってたんだろう』
「は! しまった。まさか青っち俺っちのこと嫌いになりやしたか? せせせ性癖が嫌いっていうなら直すよう努力しやす!」
188 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/28(土) 00:42:01.95 ID:iigcIPpF0
『の、のーこめんと』
「ひらがななのがかーわいい! というかもしかしてひょっとして俺っちの言葉責めが気持ち良かったりしますかだったら
男としてとてもうれしーなあなんてブグっ!!」
 青っちの踵がブレイクの顔面を踏み砕いた。凄まじい勢いだった。
「えーと。ご褒美?」
「ご褒美す! ありがとうす!!」
『御褒美じゃなくて!! ああもう話がズレてるんだからもう!!』
 とにかく少女はブレイクの襟首を掴んで引きずり起こし、スケッチブックを突き付ける。
 笑顔ながらに必死の(紅潮した)顔だ。内容をしきりにアホ毛でぴょこぴょこ指差すほど狼狽している。
『ヘンなことばかりいってないで早くグレイズィングさんの病院! 教えて!!』
「そうだ早く教えろこのバカップルども!! 茶番見せられる彼女ナシの身にもなれ! 心も体も痛いんだ!!」
「バカップル!? え、カップルに見えますか!! 俺っちと青っち! やった! やったやったやったー!!! ほら青っち、
まだお付き合いしてないのにそー見えるって事はやっぱ相思相あへぐ!!!!」

 とうとう青っちはスケッチブックでブレイクの顔面をぽかぽか乱打し始めた。怒りと羞恥に引き攣った笑顔はあたかもラブ
コメのヒロインのごとくであるが、その裏に潜む修羅の激情を先ほどたっぷり味わった金髪ピアスにしてみれば、薄ら寒く、
不気味な表情にしか思えない。
「うぐぅ。『恥ずかしいから騒がないで』。何という伝え方か! 何という伝え方か!」
『大事なコトだから二度言ったのね……って、言わないでってば! 付き合わされる私はすごく恥ずかしいのよ!!』

 ややあって

「とにかくおにーさん、解放してあげやしょう」

 金髪ピアスの体に六角形の金属片が乗せられた。核鉄治療を施したのだが、当の金髪ピアスは何をされたか終ぞ分から
なかった。

「しかし、タダで解放してやるほど俺っち、甘くねーですよ?」

 やっと走って逃げだせるほどにまで回復した瞬間。

「あともうちょっとだけ、償って貰いやしょうか? ああ大丈夫。一瞬チカっとなるだけす」

 ハルバードが再び光り、目を灼いた。
 悪夢パート2が訪れる! 恐怖した彼はパート1で千切れた総ての指をポケットに突っ込みその場を逃げ出した。
 残り少ない指で病院の地図を握りしめながら……。

 入れ替わるように消防車のサイレンが迫ってくる。
 ブレイクと青っちは無言で頷き合うとどこかへ消えた。

「で、結局お前の義姉(あね)の武装錬金特性は何なんだ?」
「……私には、見せてくれませんでした。話しによると……必中で必殺の……かなりエゲつないものだ、そうです」
「まー、あんなバカ強い鐶にこんな絵描かすぐらいの姉貴だもんな」
「無茶苦茶怖い能力なんでしょうね」
 先ほどの「病んでいる」絵を交互に眺めながら剛太と桜花は同時に溜息をついた。
「そして」


「お姉ちゃんの武装錬金は……ブレイクさんと組んだ時…………さらに凶悪になるそう……です」


『うぅ。ブレイク君の特性の使い方、相変わらずエグい。私の悪用っぷりも大概だけど、人によって使い方変えてるのが
エグい』
 路地裏を歩きながら青っちは書く。手を広げれば塀に手が当たりそうな狭い道だ。ところどころにゴミさえ落ちており
足元にはくれぐれも注意という所だ。夜でもある。にも関わらず彼女は歩きながらスケッチブックに文字を書く。執念めいた
何事かさえ感じられる仕草だった。
「そっすかねえ。いつも逃げ道用意してますが」
『用意しているから、だよ。相手の人が改心して、『枠』を破ってでも償おうと決意しない限りぜったい救われないような使い
方してる……。逃げ道の数だけ、私の、『マシーン』の絶対逆らえない使い方よりエグい……』
189 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/28(土) 00:42:42.85 ID:iigcIPpF0
「にしし。盟主様直伝のやり方っすよ。本気になりゃあ逃げ道なしの絶対逆らえないような使い方もできやすけどねー。姉御
とか早坂秋水とか、あと防人衛にやったアレなんかが正にそうで。ま、実害はありますが危害はない。そんな微妙な力加減
も可能す」
 青っちの歩みがピタリと止まった。彼女を見たブレイクは微苦笑した。
『姉御……津村斗貴子さん……』
 そう書かれたスケッチブックが落ちている。彼女は拾う気配がない。
『ふふふ。光ちゃん倒した人。羨ましい羨ましい……』
 だが、文字は次から次へと生まれていく。路地裏に響く不気味な音と共に。
「津村さんだけじゃないのよ戦士の人全部なのよ全部全部ぜんぶゼンブ全部!! 沢山伝えたい。大戦士長さんでだいぶ
憂さを晴らしたお陰で戦士長の防人さん見てもギリギリ何とか抑えられたけどやっぱり伝えたい伝えたい色々なコトを伝え
たい伝えたい伝えたいあははうふふふふ』
 鉢で薬草をすり潰すような音だ。ごりごりとした重みのある、何かが擂(す)り潰される音だ。
「にひひ。狂おしき青っちもまた可愛い。ですが今はまだ自重してくださいねー」
『うんうんうんイソゴさんがマレフィックアースを見つけるまでの辛抱辛抱うふふふガマンするガマンする私はいいコ我慢する』
 笑うブレイクは見た。
 路地裏に広がる塀。そこ一面に文字が彫られているのを。
 青っちは、指で直接、書いていた。塀に文字を、書いていた。
 膝立ちしたまま無言で文字を書く彼女は、表情の見えなさも相まってまるで悪霊のようだった。なまじ美貌の持ち主だから
こそ成しうる狂的な幽玄の存在だ。
(ああもうだから青っちは素敵なんすよ。人間はおろかホムンクルスの枠さえぶっちぎった怖さ持ってますからねえ)
 ゾクゾクしながらブレイクは彼女の指を見る。
 それの動くところコンクリート製の塀が当たり前のように削られ破片を降らすのだ。
 その様子を鐶光の義姉、リバース=イングラム──本名玉城青空、俗称青っち──は肩をゆすって笑いながら笑いなが
ら、実にまったく愉しそうに眺めている。
 ニンマリと口を裂き、赤い瞳孔で。義妹の絵そっくりの表情で。
 そして彼女はひどく機械的な動作で急速にブレイクを向き、こうも問う。

『あ、そういえばさっき特性発動したけど、『文字』はどこから調達したの? 答えて答えて答えなさいよねえ早く!!』
「スケブすよ? どのページか忘れましたけど『消えてる』筈す」

 謎めいたやり取りだが当人たちにとっては重要らしい。

「それはともかくクライマックス女史に業務連絡しますかねえ」
『演劇の?』
「そう。演劇の」

 ブレイクは携帯電話を取り出し、どこかへかけた。
190 ◆C.B5VSJlKU :2011/05/28(土) 00:42:54.07 ID:iigcIPpF0
以上ここまで
191作者の都合により名無しです:2011/05/28(土) 01:25:04.53 ID:k6HJfpvR0
お疲れ様ですスターダストさん。

青っちとブレイクのバカップルぶりは微笑ましいですが
その秘めたる戦闘能力はすさまじいものがありそうですね。
息の合ったところを魅せてくれるのでしょう。
特性を生かした、直線的な強さではないいわゆる曲者でしょうね。
192作者の都合により名無しです:2011/05/28(土) 13:25:43.59 ID:ga6Tu44r0
ブレイクさんも青っちもキャラが立ってていいですなー
登場人物がこれだけ多いのに、一人としてかぶっているキャラがいないのは凄いと思います。
ただ、どんどん最終回に近づいているのが寂しいですが
完結は間違いなさそうなので、嬉しいかな。マイペースで頑張って下さい。
193作者の都合により名無しです:2011/05/28(土) 23:44:06.70 ID:FyA7fA/i0
でも小札以上にアクが強いキャラはさすがのスターダストさんでも
なかなか書けないよね
青っち&ブレイクも良いキャラだけど楽団の連中が強烈だからな
〜紅魔降臨・後〜

鮮血の泉と屍の山。
向かい合う少女と男。
夜の世界に足を踏み出したばかりの、産まれ立ての始祖。
想像もつかない程に永い夜を歩んできた、古き吸血鬼。
太陽に背を向けた二匹の獣が、出会った。


「さて。僕が何者なのか、何故ここに来たのか…君はあまり興味がないようだけど、一応は説明しておこうか」
「…一応、聞こうかしら」
「うむ。先も言った通り、僕は可愛い女の子の味方さ!…いや、悪い。そんな冷たい目で見ないでくれ。マジな話
をすると、別にそんな大物ってわけじゃない。ちょっとばかり長生きしただけの、どこにでもいそうな吸血鬼さ」
どこまで信じていいものか、彼はそう嘯く。
「そんな僕がどうしてこんな所にいるかといえば、胡散臭い連中が<ロンギヌスの槍>を手に入れたとか、風の噂
で聞いたもんで、ちょっかいをかけに来ただけ…のはずだったんだが…まさかこんな事になってるとは、思っても
みなかった」
呆れたとも感心したとも取れる顔つきで、男は嘆息する。
「本当に驚いたよ…こんな偽物の<槍>で、始祖が…それも、これほどの力を有した始祖が誕生するとはね」
「…にせ、もの…?」
「ああ。真っ赤な偽物だよ」
男はそう繰り返した。
「<ロンギヌスの槍>。偉大なる始祖が一人<典司ソロモン>が創り出した禁断にして禁忌の魔具…人為的に始祖
を産み出す禁術…」
「それが…ロンギヌスの槍…?」
そうとも、と彼は首肯する。
「そんな本物の<ロンギヌスの槍>を、この程度の連中が…小説で例えるなら話の都合で出さなきゃならないから
くらいの理由で登場した、ロクに設定もない薄っぺらい雑魚キャラに手にできるもんか。本物を手に入れるとした
ら、余程の後ろ盾を持つ巨大組織か、もしくは絶大な財力と権力を手にした何者か…ま、それはそうと」
195サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/06/03(金) 18:53:47.91 ID:601CNYjq0
忍者ウザすぎ…何このクソ機能
直接投下したんで、よろしければどうぞ

http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1218.html
196サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/06/03(金) 19:07:21.19 ID:2Z31DfVn0
投下完了。前回は>>174より。
ダークな成分がちょっと多すぎたんで、次回はヴァンプ様による癒し成分を多めにしたいと思っとります。
ますますブラック・ブラッド・ブラザーズを知らない人をふるいにかける内容になってきたかもしれん。

第二次Z、俺の知ってる光子力ビームと違うんだけど何これ。
スパロボではいつもは優等生な竜馬が…完全に殺人鬼の顔だよ、アレ。真ゲならしょうがないけど。
Dの時とかも思ったけどコスモクラッシャーのナオトとかアキラは連中は結構クズだ。こいつら絶対使ってやらねえ。
クロウという名前で貧乏人とか、アーカムシティの魔導探偵を思い出してならない。彼は第三次くらいで出るのか。

>>177 旦那が出ちゃったら、ちょっとレッドさんでも勝てないかもしれない…。
    100%コロナバスター食らわせても、普通に生きてそうだし>旦那
>>178 ちょっと暗くなっちゃったんで、次回はほのぼの多めでいきたいです。
197サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/06/03(金) 19:10:55.61 ID:2Z31DfVn0
>>179 作者さんによって恐ろしいほど違いますからね、東方世界は…。

>>180 第二次Z終わらせたら本気出す…!

>>ふら〜りさん
正直、救いがあんまりにもなさすぎたかなーとか思いますです。
どうなんのかなー、この話…。

>>スターダストさん
ブレイクさんのキチっぷりが凄まじい…人間を人間とも思ってないからこそ、客観的にその価値を見る
事ができる、というのは皮肉ですね。
この辺りのキャラ立ての上手さ、見習いたいものです。
どうでもいいけど、スケッチブックで会話する女の子というと大昔のギャルゲーを思い出します。
198作者の都合により名無しです:2011/06/03(金) 21:17:19.96 ID:pNzidbPV0
お疲れ様ですサマサさん。
最初は力比べのトーナメントから始まった大会も
伝説の槍や吸血鬼の始祖が絡むダークファンタジーに成って参りましたな
明るい雰囲気が徐々に無くなって来たのは寂しいけど
レッドさんが熱血に戻してくれるでしょう


忍者って何のことか分からないけど
また2ちゃん使い辛くなったのかな?
199作者の都合により名無しです:2011/06/04(土) 17:42:04.00 ID:vnXQvzLI0
この作品も超長編になっていくな
サマサさんのやる気がラストまで続いてくれるといいが
レッドさんいない方が面白いかな
レッドさん単純だから内面が書きづらいかも
200作者の都合により名無しです:2011/06/05(日) 19:47:09.37 ID:aGs3d4Yu0
ロンギヌスの槍か…
ハシさん大丈夫かな……
201ふら〜り:2011/06/06(月) 00:42:07.65 ID:qQ1MkHsp0
>>スターダストさん(ネウロも殺し屋1も武装錬金も、バキスレがきっかけで読み始めた作品です)
シックスにも垣原にも劣らないSとM。しかしそれを巻き起こしてる片割れは、絶世の美少女
だってんだから凄まじい光景です。つくづく戦闘力の高さとは全く別種の「恐ろしさ」を備えて
ますねえ連中は。小札や香美らの可愛さとは全く別種の「漫画=絵で見たさ」のある今回でした。

>>サマサさん
華麗にスルーされてると知った不快な赤マスク氏の運命や如何に。空で入れ替わられてるのは
彼の今後の暗示か。でも彼と愉快な仲間たちと触れ合うことで、こういう境遇の女の子が少し
ずつ心を温められていくってぇのも王道。もっとも彼女と彼の場合、拳の語り合いがメインかな。
202 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/07(火) 00:59:34.49 ID:KkokehX60
『ウソはつかないけど豆知識!! みんな知ってる『7つの大罪』、6世紀ごろまでは8つだった!!』

「暴食」
「色欲」
「強欲」
「憂鬱」
「憤怒」
「怠惰」
「虚飾」
「傲慢」

 いわゆる枢要罪である。

「いきなり叫ぶなお前。うるせェ」
 ムっとした様子の剛太に『すまない!』と詫びながら貴信は言う。
                                                              マレフィック
『このうち「憂鬱」と「虚飾」はそれぞれ怠惰と傲慢に統一され、「嫉妬」が追加された訳だけど!! 敵の幹部はこれらの罪
のうちどれか1つを持っている!! 規則で決められているかどーかは知らないけれど、必ず1つ! 何かの罪を!!』
 あ。ひょっとして。桜花はくすりと笑った。
「もしかして光ちゃんのお姉さんって『憤怒』? 『嫉妬』ぽくもあるけど」
 怖すぎるから。例の絵を弾き微笑む桜花に鐶は頷いた。
「成程な。乳児期に首を絞められたせいで他者とマトモに交流できなくなった。その鬱積が憤怒となり、『歪んだ伝え方』を
生んだ……という訳か。そしてブレイクという幹部の罪は『虚飾』」
『むむ!! 正解だが不思議だなセーラー服美少女戦士!! 今までの話からすると『傲慢』との二択になってしばらく
迷うのが普通だ!!』
「そーいやそうだな。人間に関心がない。でも可能性は信じている。それを利用して利益を得るのが好き。出揃っている
情報はそれだけじゃないスか先輩。なのになんで『虚飾』って言いきれたんです?」
「? 何かいまおかしな事をいったか?」
 凛々しい顔を不思議そうに澄ませる斗貴子に「だから」と剛太は人差し指を立てた。
「人間嫌いな癖に自分の利益のために何かやらそーなんてのは『傲慢』じゃないですか? なのにどうして虚飾っていったのか
気になっただけで。いや、先輩がそれだっていうなら俺は構いませんし、直感で言い当てるっていうのもカッコ良くてステキですけど」
「なぜって言われても。アイツは他人に一切関心がない癖に人当たりだけはいいだろう? 常に愛想よく笑いペコペコと頭を
下げる癖に人を育てるのだけは無性にうまい。人の心を掴むのがうまいというか、相手が何を望んでいるか見抜き、即座に
それをやってのけるだけの適応力を持っている。だから育てられる方は奴を慕い、能力以上の努力ができる。しかも育成
方針はすでに社会にとって有益で具体的な、価値のあるものを掲げている。結局はアイツのための努力なのに、誰も彼も
ついついやり甲斐を感じてしまう」
「確かに……私も…………特異体質でいろいろな人に……化けるのは……楽しかった……です」
(で、先輩たちを散々苦しめた、と)
 剛太は聞いている。ブレイクに育てられたという鐶。彼女は沙織に化けて秋水の間隙をつき、これを倒した。直後時間進
行により人混みでごったがえする大交差点でとある漫画家に化け群衆を散々惑乱させた挙句、防人たちをも翻弄し、逐
一違う人間に化けては攻撃し攻撃し、千歳を可愛いだけが取り柄の役立たず以下に貶め、ヘルメスドライブの捕捉(千歳が
見た人間は記録される。その容貌が全く別人に変形でもしない限り)さえ免れた。
 それを思い出したのか、斗貴子もやや苦い表情で鐶を見た。
「アイツは軽薄なようでいて、その実確かな眼力を持っていた筈だ。相手の能力をどう使えば成果が出るか。成果を出すため
にはどういう教育を施せばいいか。教育をやり抜くには自分がどうあればいいか。そもそも自分の望む成果を得るためには
どんな人間を探せばいいか。例えそれらの過程で見つけたやり方がどれほど困難なものだとしても、最善手である限り投
げ出しもせず楽な方へも逃げようともせず、相手……お前と共に労苦を背負いながらやり抜ける。そんな粘り強さと実行力
を持った……何ていうかその、ホムンクルスらしくない男だったんじゃないか?」
 思い当たるふしがいくつかあるのか、鐶は何度も頷いた。それを確認すると斗貴子はこう締めくくった。
「アイツは自分の勝手を押し通そうとしている癖にこちらとの兼ね合いはしっかり考えてくるからな。まったく。パッと見た感じ
私心がないから始末が悪い。奴を『虚飾』だといったのはそのせいだ。本意はどうであれ、他者や人間社会にとって都合よく
振る舞うコトができる。都合よく振舞いながらも少しずつ悪意を浸透させ、着実に社会を破滅させようとしている。『傲慢』な
ら逆だ。自分は変えようともせず、他者だけを変えようとする」
203 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/07(火) 01:00:12.85 ID:KkokehX60
「それって『傲慢』より悪くね? 本心も見せずに自分だけ得しようなんて」
「確かに最悪だが、アイツは必ずしも自分一人だけが利益に与りたい訳じゃない。虚飾だからな。傲慢じゃない。行いのほと
んどは自分のためだし、さっきもいったが自分にとっての利用価値でしか人間を評価できない部分もある。……だが」
「だが?」
「ただの一人勝ちは好まない」
 断言する斗貴子に剛太は首をひねった。津村斗貴子といえばホムンクルスはおろかまだ人間の信奉者さえ手に掛ける
少女ではないか。それが長々と内面分析をぶっている。「どんな事情があろうとホムンクルスはホムンクルス! 全て殺す!」
文字通り何もかも斬って捨てる筈の彼女が半ば弁護じみた分析を披露しているのだ。違和感。桜花もそれを感じたらしく怪
訝な視線を投げてくる。ひとまず様子を見よう。無言で頷きあう間にも、斗貴子の口は言葉を紡ぐ。
 紡ぐ、紡ぐ。
 まるで何者かの意思を代弁するように……。
「間接的な利益。自分の指導を受けた者が、それまでの『枠』を破って成長し、自分にさえできないコトをやり始める、自分に
も至れない境地へ至る。そういう様を見る方が好きなんじゃないか? 本当は人喰いも破壊もない正しいやり方ができる。社
会や人の持つ『枠』を観察し、考え、求められているであろうものを見つけ出し、地道な努力でそれを作り上げるコトに至上
の喜びを感じる男の筈だ。なぜ道を誤りレティクルとかいう組織の幹部になっているかは謎だが」
 まるで旧知を語るような眼差しだ。剛太はどう切り込んでいいかどうか迷ったが、こういう時の探りのうまさは桜花の方が
上らしい。彼女はニコニコと微笑しながら──それは話に聞く鐶の姉の優しい笑みやブレイクの下男じみた愛想笑いとは
また違った、理知的で、魅惑的な、結婚詐欺師のようだと剛太が思う──軽い調子で問いかけた。
「やだ津村さん。まるで逢ったコトあるみたいな口ぶりね」
「まさか。ただの推測だ。聞いた情報からの……な」
 無愛想な表情でプイと横を向く斗貴子にこのときどのような抑圧が訪れていたか桜花たちは知らない。







「演技の神様?」
「そうよん。ブレイクのあだ名の一つ。ワタクシの仲間の」


 仲間、の辺りで滑らかな声がピクリと跳ね上がった。
 何らかの刺激に反応したのだろう。艶めかしい沈黙が訪れた。声はしばらく吐息に置き換わった。

【昨晩……9月12日の夜】

 申し訳程度の明りに包まれるそこは診察室のようだった。
 カーテンで遮られた診察台の中では 艶めかしい鬩(せめ)ぎ合いが繰り広げられているらしく、「ダメ」「今夜はもう終わ
り」「終わりですってばあ。もう」、文脈にはそんなフレーズが目立っていた。だがそれらの言葉とは裏腹に声は常に弾んでお
り甘くかかった鼻息さえ時折漏れる。
 肉の組成を貪りあう時の生々しい音や水分を”嚥下させられる”喉の苦鳴を時々合間に挟みながらも拒否を意味するフ
レーズは何度も何度も再発信される。だが本気の拒否でないコトは明らかだ。声は期待感と興奮にはしたなく潤み、品定め
るような笑いを織り交ぜながら……。
 何かをしつこく要求される。それを拒んでみる。無意味とも思える押し問答を心から楽しんでいる声だった。競りのサクラが
物欲塗れを挑発しガンガンと吊り上げる様相だった。
 すぐに許さない方がより甚大で素晴らしい結果を獲得できる。確信がますますの欲望高騰をやらかしている最中だった。

「きゃ」

 わざとらしい声。カーテンがレールの辺りでぶちぶちと音立て舞い落ちた。突き破ってきたのは真っ白な人影。一糸まとわ
ぬそれが机にぶつかり筆記用具と聴診器をブチ撒けた。落ちた無数のカルテを踏みにじりながら毛深い脛が白い人影へ
向かっていく。揺らめいたのは銅色の髪。それが柔らかな肩の上で踊りながら登っていく。床から、机の上へと。
 腹部から膝へと至る艶めかしい曲線が机上に鎮座した。呼吸はいよいよ激しくなる。男の手が両の膝に乗る。女の腕
が男の首の後ろに回る。割り開く。引き寄せる。無言の中、情動だけが合致する。



 やがて引き攣れた声と獣じみた唸りが重なり合い、嵐となって行き過ぎた。
204 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/07(火) 01:00:51.37 ID:KkokehX60
.


「ブレイク。仲間の1人は世間じゃ演技の神様って呼ばれているのよん」

 しゅるしゅるとした衣ずれの音を立て終えると女医はそういって微笑した。

「フフ。実はとてもわるーい人なのに、ワタクシ同様オモテの顔を持ってますの」

 銀成市に最近できた病院。そこの女医だ。とある市民はぬるついた余韻の中、彼女を見た。

 女医というよりはプレイメイトという単語こそ相応しい容貌。縦巻きにした銅色の髪は恐ろしく艶やかで、小柄ながらも
恐ろしく豊かな肢体ともども一目で外国籍と分かる美女だった。年のころは20代前半、着衣こそ薄汚れた白衣と──
そもそも医者が着ていいのか。病院なのだ。衛生観念は?──まったく色気がないが、全身から漂う一種の艶めかしさ
の中では却って「メチャクチャにしたい」下世話な情動をかきたてるアクセントだ。紫のタイトスカートから覗く2本の大腿部。
真黒なストッキングに包まれたその辺りからはねっとりとした濃厚な匂いが立ち込めている。

「気になる? プロデュース業よん。若い人たちにウケのいいサウンドユニットを作るコトもあればアイドル発掘して殿方た
ち発情させたり。団塊の方々向けに演歌を送るコトもしばしば」

 言葉の内容は頭に入らない。久方ぶりの満足感に荒い息をつきながら思う事はただ一つ。
 薄汚れた白衣。血走った眼でそれを見る。勝利感。来院者総てへのざまあ見ろ。内実を知っているのは自分だけ、衣服
の下。着やせ。ホクロの位置。匂い。うねり。達し方。妻には近頃覚えのない征服感と達成感が次から次へと湧いてくる。

「今日はセーラー服着た美少女さんと美青年さんにアクション指導したとか……」

 女医との出会い。きっかけは娘。虫歯の治療。削らずに治せるお医者さん。それを探している内ここにたどり着き、知り
合った。
 妻には今日は残業といってある。疑われるコトはないだろう。彼女だって何をしているか分からない。ママさんバレーの祝
勝会に行くとかで娘を義母に預けているが……コーチは男で若くてイケメンらしい。歓心を買うためみな躍起になっている。
妻も情熱を燃やしている。「若い頃は運動なんてしたコトないけど、そろそろ中年だし」。だから健康のために? 目的は見
え透いている。そしてバレーへの情熱の5分の1ほども自分に向かない。
 夫婦生活は結婚後ほどなくして不妊治療の効果確認程度のものとなり、娘の誕生ともに消えうせた。
「2人目? ほら、いまは不況だし年収的に」
 意見は主婦の鑑だ。素晴らしい判断力だ。それほど賢明にも関わらず避妊対策を発案できぬ矛盾には苦笑だが。
 要は、冷めている。もはや疲れた夜に挑みかかるほどの魅力を自分に感じていない、つまりは睡眠欲以下なのだ。
 しかしそれを言えば生活に波風が立つ。だから大人らしく年収うんぬんのもっともらしい理屈を引きずり出し、セックスレス
という問題を有耶無耶にしているだけなのだ。
 とある市民は思う。そんな誤魔化しや不満足に彩られた生活もまた仕方ないと。夫婦生活のなさに不服を覚えていたとして
も我慢すべきなのだ。解決しようと乗り出せば亀裂が入る。魅力を感じていない男に詰め寄られ喜ぶ女性はいない。長年一つ
屋根の下で暮らしている夫なら尚更だ。向こうだって細かな不満に耐えている。だから耐える、我慢する。当たり前のコトだ。
 夫婦の問題に限らず誰しも必ず嗜む行為。
 恵まれているなら尚更だ。妻がいて、娘もいる。仕事も順調。ローンはまだまだ残っているが家も車もそこそこの質のも
のを有している。十分に恵まれている。酒もタバコも知っている。相談できる仲間もいる。ガスを抜く手段などいくらでもあるのだ。
 そう信じ、一般的に見て「正しく」生きていた市民である。行為の終焉とともに脳髄がみるみると冷えていくのを感じた。
 不貞。無垢な娘の笑顔が脳裏に浮かぶ。自分はそれを壊そうとしている。達成感や勝利感の後に襲ってきたのは現実的な
罪悪感。それは会社からここまで車を飛ばしている時も確かにあった。病院へ入るのを何度躊躇したか。だが女医がドアから
顔を覗かせねっとりとした笑いを浮かべた瞬間、ふらふらと引き寄せられるように診察室へ入り──…気づけば何度も何度
も頂点に達していた。
205 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/07(火) 01:01:20.74 ID:KkokehX60
 初めてこの病院にきた時を脳裏に描きながら(2か月振りの休みだったのに)妻への不満を唱えながら(せっかくの有給が
ダメになった)言い訳を言い訳で繕いながら(ママさんバレーの大会!? 俺の2か月ぶりの休みを潰したのに)虫歯に苦しむ
娘を自分一人に押し付けた妻への当てつけのように(そうだ。これぐらいの役得はいいだろ)どうせ彼女も若いイケメンのコーチ
とお楽しみ……荒唐無稽な自己正当を描きながら、情動を突き動かした。

 いつの間にか腰かけたのか女医は机の上で脚を組みクスクス笑う。向き合う形だ。立ちつくす市民──まだ着衣はつけて
いない。彼女の視線は「下」にだけ向けがちだ──を眺めながら唇に手を当て、ぬぐう仕草。
「ああ。ステキ。あんな激しいのは久しぶり。奥様に対し相当フラストレーションが溜まっていたようねん」
 いったい何をぬぐったのか。とにかく露骨に指をしゃぶり、わざとらしく喉を鳴らす。ぞっとするほどの疼きが再来した。
「やたら直腸検査がお好きなようでしたけど奥さまにとってそれはNG? ふふ」
 艶めかしく光るキツネ目が自分を捉えた。悪循環だ。やめろ。情動が冷えていくのは分かった。
 社会で生きているから自分の感情ぐらい分かる。上司の理不尽な説教──総計3時間。堂々めぐりの、しつこい、同じ話題
が幾度となく重複する頭の悪い──を喰らった後に酒を求めるような感情。逃避。そうだ逃避だ。
 不貞を働いたという罪悪感と不安感から逃れるために求めている。柔らかな肢体。快美。ぬくもり。体を重ねれば重ねる
ほど罪悪感が深まりますます抜け出せなくなると予期しながら、求めずにはいられない。
「あん。駄目よ。本日の診察はもう終・わ・り。それにワタクシ……」
 戦慄きを曲解したのか、正しく理解しながらなお誘っているのか。
 とにかく彼女はうっとりと瞳を潤ませながらこういった。
「ワタクシ、余韻に浸るのが大好きなのよん。熱くてトロトロなのが中で段々冷めていく……女だけが味わえる特権だもの…………」
 実際そうかどうかも分からない蠱惑的なだけの文言だ。中身のない、挑発のためだけの挑発だ。分かっている筈なのに先ほど
賞味した素晴らしさが全身のそこかしこに蘇る。男を悦ばすためだけに生まれたような体だった。何をも拒まず何にでも甘く
痺れて跳ね上がる、「都合の良すぎる」体だ。それだけに平素妻には理性ゆえ試さぬ聞きかじりの歪な行為を次から次へと
叩きつけた。返ってきたのはどれもこれも理想的な反応だ。とろけそうな夢の時間だった。
女医はエスカレートしていく一方の行為総て受け入れるだろう。男の自分さえ何度はしたなくよがったか。とろとろの粘膜、
もう一度だけ、もう一度だけ……血流が一点に集中し硬度を増す。だが、続ければいずれ妻に、女医は──…
「大丈夫よん。今日のコト、口外しなくてよ」
 頬に手が当てられた。女医は何もかも見透かしているようだった。

「ワタクシ、エロい事は大好きですけど人さまの家庭ブチ壊すのは趣味じゃなくてよ?」

「ま、盟主様に限っては『ブチ壊す』、そのためなら寝取りさえ男女問わずやらかすでしょうケド」

 盟主? 耳慣れぬ単語にとある市民は首をひねった。そういえばさっきも仲間がどうとかいっていた。この女医は一体何者
なのだろう。

 市民の感じるキナ臭さ。
 それを忘れさせんとするが如く女医は述べる様々を。

「そうよねさっきのは男性的情動を晴らしたいだけの行為」

「奥様への感情とは別腹」

「殿方はみなそうでしてよ。お気になさらず」

「AV見てティッシュにブチ撒けた程度の意味合い」

「ワタクシなどは公衆便所のようなもの」

「好き放題ヤって下って構いませんわよ」

 好色でいぎたない笑みを頬一面に張り付けながら都合のいい論理ばかりを並べ立てる。
 だが現実問題、子供ができたらどうなる? 認知は? 堕胎は?
 そう問いかけると女医は手を引っ込め、しばし考えた後ニコリと笑った。どこか寂しそうな、笑みだった。

「大丈夫」

「子供なんてできませんわよ」

 薬か何かで避妊するのだろうか。そう聞くと女医は軽く身を乗り出した。形のいい下顎を右腕全体で支えながらゆったりと
問いかける。念を押すように上目遣いをしながら、微笑を浮かべ……
206 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/07(火) 01:01:46.07 ID:KkokehX60
.
「薬も道具も必要ありませんわよ?」

 急に冷たい声を漏らした。顔つきもそれにつられたのか冷酷の色が濃くなった。

「必要なんてそもそもなくてよ。ええ。まったく、笑えるほどにね」

 嗚咽のような声が栗の花臭い唇から漏れ始めた。
 それが笑い声だと気づいた瞬間、とある市民はぞっとする思いをした。

「説明がまだでしたわねえ。ワタクシ実は赤ちゃんできない体ですのよ。できなくされましたの。遙かな昔。できなくね」

 女性にとっては致命的だともいえる事実。それを彼女は笑いながら告げるのだ。瞳をうっとりと細め荒い息を吐きながら
切なげに喘ぐのだ。気づけば彼女は胸の中にいて、「堪らない」。いまにも達しそうな表情で涙を溜めながらこちらを見てい
た。視認に満足したのだろう。すぐさま喉首に噛みつきくぐもった声を上げた。とても加減された甘噛みだった。生殖機能の
喪失それ自体に欲情する──ノーリスクになった、好き放題ヤれる。結局歓喜しか覚えていないような──淫靡な舌が鎖
骨の辺りを生暖かく這いまわる。
 そもそも見た目20を過ぎて数年という美女だ。遙かな昔? 心臓がどきりと高鳴った。穢れのない娘の姿が蘇る。彼女と
同年代のとき、女医はすでに? 混乱気味の脳髄を現実に引きずり戻したのは胸からの甘い刺激だ。見る。男には無用の、
形骸的な器官が艶めかしく弄ばれている。
「性欲と愛情は別モノ。皆様そーいう割り切りが足りなくてよ。ちょぉっと中に注ぎ込んだだけでどうしてギャーギャー騒がれる
のん? おかしいわよねん。殿方はフラストレーションを晴らしたいだけなのに。そしてその受け皿になれなかった、あ・る・い
は原因そのものの淑女さんほど顔も真赤に怒り狂う……」
 恐ろしく貞操観念のない意見だ。だがとある市民は内心それを肯定した気分でいっぱいだ。妻への不満の様々は自己弁護
を導きだすに十分だ。すすり泣くような息と震えを気管から引きずり出しながら女医の頭を掴む。心得たもので彼女は背伸びを
しながら桃色の尖りを含ませた。舌がしばらく絡み合い、離れるやねっとりとした蜜の線を銀色に輝かせた。
「肥沃さもなければ具合も悪い。感度も鈍ければ声もダミ。そのクセ殿方を悦ばす努力もしない。アレもダメでコレもダメ。
お尻の穴1つ使えというだけで怒り狂う、道具の使用さえ認めない。お粗末な癖に身を捨てて恥も外聞もなく乱れる覚悟さえ
ない。そもそもエロい事が好きじゃない。殿方寝取られる淑女さんはだいたいそんなもんよん。クス。自業自得、身から出たサビ」
 男性側にも原因がある、女性ばかり悪いとは限らない……当たり前の前提を無視した意見を甘い息とともに吐き散らかし
女医はオトコの手を取る。視線をやるのは診察台。
 好色そうな顔には絶対の自信があふれていた。色欲においてこの世の誰にも負けないと。

 だから何をしてもいい。
 メチャクチャにされてもいい。

 と。


「そういえば以前俺たちの傷を治した武装錬金。その本来の持ち主というのが──…」
 遠くで語り合う斗貴子、剛太、桜花、鐶を眺めながら防人は目を細めた。
「グレイズィング=メディック。師父に云う。性格最悪の痴女だ」
 無銘は歯ぎしりしながら語りだした。
「階級は『金星』。罪は『色欲』。我をチワワの体に貶めた仇の1人」


 アラームが鳴った。診察台の上にある何かの装置。そのランプがけたたましく赤く明滅している。
「急患さんのようねん」
 慣れた様子で女医は立ち上がる。……市民に跨った姿勢から、ゆっくりと。
「お預けよん。いいコに──…」
 言いかけた女医の体を市民の腕がしっかと抱き締め引き留める。男という生物はどうやら寸止めを我慢できないようだ。
恐るべき速度でやおら立ち上がり、行為の続きを要求している。急患患者? どうせ今日日流行りのモンスターペイシェント、
大したコトない無視しろ……色欲に血走る男の顔を女医はうっとりと微笑みながら見詰めた。手はすでに自身の腰と市民の
下腹部の間に潜り込んでいる。人形顔負けの真白な腕がくねり。
 くねり。
 くねり。
207 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/07(火) 01:08:25.71 ID:KkokehX60
「そいやあああああああああああああああああああああああ!!!」」
 恐ろしく野暮ったい声とともに市民の体が浮き上がった。両腕と両足を無防備な大の字に広げた彼の下腹部でブチリとも
ボキリともとれる爆裂音が轟いた。そして吹き飛ぶ市民。どこをどう攫まれ投げられたかはよく分からないが、とにかく彼は
飛び、診察室の扉を粉々に破砕して、廊下の壁にめり込んだ。
 何が起こったか市民はつくづく測りかねた。夢かとさえ思ったが、下腹部から立ち上る未知なる痛み──とても形容しがたい、
人類史上類を見ない不思議な不思議なマーベラスな刺激だった──が現実だと教えてくれる。目を白黒とする間にも女医は
のっしのっしと肩を怒らせながら向かってくる。何かが、激変していた。
「くぉんの色情狂が!」
「え! なにその突然の自己批判!?」
 胸倉を攫み目を三角にする女医にどういっていいものか市民は困惑した。そんな様子がますます火に油を注いだのだろう。
女医はゲンコツで市民の頭頂部を殴りつけ、顔を間近に引きよせ金切り声をあげた。
「いいコト! 急患さんはひどい急病ないし重傷に苦しんで! すがる思いでやってきて下さってるのよん!! なのに色欲
に耽って放置だなんて到底許されるコトじゃなくてよ!! 出ますわよ、大至急診て差し上げなくてはッ!! 『まずは』医療ミス
も手抜きもない適切極まる正しい医学の恩恵を! もたらすのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 そうまくしたてると女医はガニマタでドタバタと病院を出て行き、30秒もしない内に見慣れぬ人間を引きずってきた。
「指欠損しまくりじゃなくて!! ああンもう可哀想!! ハズオブラブで即効治療よん!!」
「ちょ、待て! よく考えたら俺、保険証がねーんだって!! 高い病院のお金払ったら今月の家賃が!!」
「保険証? 要りませんわよ! どうせ仲間の、リバースやらブレイクやらのやらかした怪我! 無料で診て差し上げるのは当然!」
 金髪でピアスをした、「碌でもなさそうな」人種だった。唖然と眺める視線に気づいたのだろう。彼も市民を見、顔をひきつらせた。
「ここにも怪我人!? 大事な部分がお尻の穴に対し複雑な刺さり方をした怪我人!! セルフか!!」
「大丈夫!! 大丈夫ですの!! ちょっとしたお仕置きしただけですしトータルで見れば気持ちイーーーーーーーーーーーーーイ
瞬間のが多かったですのよ!! 診察しましょう!! 楽しみましょう!! 2人より3人! 1穴より2穴!」
「やばいこの人もおかしい改造されるきっと改造される!!」
「改造!! ああんもういいじゃないソレ!! ちゃんと治療はしますけどん、お望みならお指ぜーんぶ猛々しい男性的なあれに
してもいいわよん♪」
「外道忍法帖の人!? ねえまさか外道忍法帖の人!?」
「そうよ目指すはイソゴ老曰くのーーーーーーーー!! お指っいかがわしい! 人↑間↑へーーーーーーーーーーーーー!!」
「胸に手ぇ当て声高く歌ってるよこの女医さん!! テンション、高ぇーーーーーーーーーーーーー!!」

 喚く女医と金髪ピアスはそのまま手術室に突っ込んでいった。振動でドアと壁全体がアニメ的にぐにゃりと歪曲したのを見た市民、
ぽつりと一言。

「……サザエさん?」


「そういえば彼女の武装錬金は、かなり特殊だそうですね」
 毒島はどこからか一冊の本を取り出した。防人はそれに見覚えがある。ありすぎる程に。
「教本か。戦団の」
 頷く毒島は滑らかな手つきでページをめくり、ある1ページでその手を止めた。

【第4章 武装錬金 第5 自動人形】

 と書かれたそのページには巨大な犬やメカメカしい伝書鳩、腹部に「夷」と書かれた肉達磨などなど様々な武装錬金のイラスト
が書かれている。その一番下、「衛生兵」と見出しのついたイラストを毒島は指差した。
「戦士・犬飼、犬飼老人、大戦士長に桜花さん……自動人形持ちの方は沢山いますが、彼女とコレは特殊な部類」

【特性:あらゆる傷病の完治。(死者蘇生も可能)】


「こんな武装錬金を有しておきながら、グレイズィング、金星の幹部はだ」
 鳩尾無銘は吐き捨てるように呟いた。
「生死を弄ぶ。色狂いにして何より好むは……」


                          「拷   問」

208 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/07(火) 01:12:02.44 ID:KkokehX60
以上ここまで
209作者の都合により名無しです:2011/06/07(火) 22:51:42.36 ID:X7YGEobu0
エロ女医さん良いな
この作品の中でも良い女は沢山いるけど
プンプン色香が解き放たれているのは珍しい
ちょっと臭そうだけど、いろいろと
210作者の都合により名無しです:2011/06/08(水) 07:07:07.72 ID:KSEArD1G0
おつかれさまですスターダストさん。
色欲の権化のキャラが出てきましたね。

美人や可愛いキャラは沢山いましたけど
セックスを前面に押し出したキャラは
永遠の扉ではいませんでしたが、なんかエロいなー。
エロでどS美人か。好みだけど近付きたくないw
211作者の都合により名無しです:2011/06/08(水) 07:46:43.22 ID:0CwCQ+Nr0
>>特性:あらゆる傷病の完治。(死者蘇生も可能)

なんだこの桜花の完全上位互換のチート能力…
スターダストさんの文章力や筆の速さはすごいと思うし、SSも大好きだけど、
こういう風にオリキャラに無茶苦茶な能力持たせちまったりする辺りは時々
ドン引きするわー…
あと、完全に個人的な意見になっちゃうけど、青とかブレイクが全然いいキャラだと
思えない。普通にただの人格破綻者だとしか。
それについては創作なんだから、主要人物には多少のキャラ付けは必要だと理解は
してるけど、それでもなんかな…という感じ。

批判的になっちゃったけど、スターダストさんのSSは全部見てるし原作の武装錬金だって
大好きだよ。
その原作を下敷きにして全く新しい物語を、これだけのボリュームで送り出してるという
のは本当にとんでもない力量だと思う。好き勝手やってるからこそのパワーと勢いがある
というのも分かる。
だからこそ時々オリキャラが鼻につくのが残念でならない。小札とかいいキャラもいるんだけど、
基本的に単なる変態集団だというのがな…
(原作もそうだったけど、ここまで極端じゃない。パピヨンはアレだが)

これ読んで、不快に思われる方もいると思います(スターダストさん自身に対しても失礼だとは思う)
タダで読ませてもらってる身でここまで文句ばっかというのもどうかと思います。
それでもこの辺のモヤモヤ感は一度、どうしても言いたい事だったので…
それでは、大変失礼しました。
212作者の都合により名無しです:2011/06/08(水) 10:34:26.44 ID:uTAu6FbA0
エンゼルから引き受けという最大の制約が消えて、病気治療、死者蘇生不可の制限がなくなってるのか。
確かに桜花の立場がないw
213作者の都合により名無しです:2011/06/08(水) 21:51:17.28 ID:p57NSQQW0
スターダストさんの完全18禁ってどっかにないかな?
ねっとりとしたエロを書きそうだから非常に興味があるw
214作者の都合により名無しです:2011/06/08(水) 22:47:16.15 ID:9OR9iqXTO
なまじっか文章力がある最低系SSって感じかな
自分のイメージの中の武装錬金を書いているのと、武装錬金の二次創作の差とでもいうべきか?
・無意味に残酷
・オリキャラ無双
が濃くなるとキッツイ
215作者の都合により名無しです:2011/06/09(木) 00:22:41.71 ID:msaGuKhn0
俺は楽しみに読んでるんだが…
216作者の都合により名無しです:2011/06/09(木) 12:36:08.33 ID:ioxvucHb0
まぁそこらへんの好みや評価は人それぞれだろ
自分はこういうノリで読ませてくれる作品好きだけど、合わない人は合わないだろうし

スターダストさん乙です
ブログの過去編も楽しみに待ってますよー
217作者の都合により名無しです:2011/06/09(木) 14:08:53.41 ID:pGBFbEuC0
全く読んでないが>>211だけで糞作品ということはわかった
218作者の都合により名無しです:2011/06/09(木) 22:39:15.07 ID:pz22G1JE0
最初から楽しみに読んでいる人間からしたら本当に迷惑な流れだな
219作者の都合により名無しです:2011/06/10(金) 08:57:29.39 ID:thO8/y9M0
>>211も悪気があったんじゃないだろうけどな
批判よりの感想とはいえこんだけ長文書けるってのは逆に相当読み込んでるんだろうし
220作者の都合により名無しです:2011/06/10(金) 23:10:54.46 ID:lJ8K6+lu0
>>211はちゃんと永遠の扉を読み込んでて好きなんだろうね
221作者の都合により名無しです:2011/06/14(火) 21:21:46.40 ID:iGjuaz5v0
保守あげ
2〜3日の内には投下できると思う…
222作者の都合により名無しです:2011/06/14(火) 21:23:24.91 ID:iGjuaz5v0
あげてなかったしw
223作者の都合により名無しです:2011/06/15(水) 21:24:28.32 ID:pmNLa5Qq0
誰か知らんが代わりにあげておく
俺も復活しなきゃと思いつつ仕事が忙しい・・
224作者の都合により名無しです:2011/06/15(水) 21:27:11.86 ID:4vgGjfAS0
やっぱ社会人だとSS書くのも辛いよね
俺も就職してからはめっきり書けなくなった…
225作者の都合により名無しです:2011/06/15(水) 21:29:30.85 ID:pmNLa5Qq0
仕方ないさ。余時間も体力も学生時代とは違う
俺もバキスレが無くなったらもうSSは卒業するつもりだ
書く方は勿論、読む方も
だからこそスターダストさんとサマサさんには頑張ってほしいけどね
でも最後に俺も長編もう一作書いて終わりたいな
226作者の都合により名無しです:2011/06/15(水) 22:26:01.36 ID:1zkFR+VhO
いざPCの前に座っても、脳ミソが動かないので
7キロバイト程度の文章に1月かかるから困る
昔ほどアニメ見れなくなってきたから妄想の種も枯渇しがちだ
歳とったな、俺
〜幻想郷珍道中・紅魔館へ〜

不気味に鬱蒼と生い茂る木々。
深く闇に沈む森。
日が落ちた世界を、天体戦士サンレッド率いる一向は紅魔館へ向けて進む。
しかして何とも、夜の世界というのはおどろおどろしい雰囲気だ。
おまけにここは幻想郷。夜は、妖怪達の時間。いつ彼等が牙を剥いて襲ってくるか分かったものではない。
―――しかしながら、ここにいる面子を見て、それでもなお襲い掛かってくる妖怪がいたとしたら、そいつは勇気
があるのではなくただの自殺志願だろう。
白玉楼の主―――西行寺幽々子。
その護衛役の半人半霊の剣士―――魂魄妖夢。
百年を生きる吸血鬼―――望月ジロー。
そして幻想郷最強クラスの妖怪達とも互角に渡り合う最強のチンピラ―――サンレッド。
向かってくる低級妖怪などがいれば、数秒で消し炭にもミンチ肉にもできるような連中であった。
「あわわ…レッドさ〜ん」
「ひええ…兄者〜」
そんな中、戦闘力的にはみそっかすなヴァンプ様とコタロウは震えながら、それぞれにレッドさんとジローさんの
服の裾を掴むというヒロイン行動に出た。
こいつらは多分、妖怪に襲われたら普通に喰われる。
「どうしましょう、私、とっても怖いです!今にも何か出そうじゃないですかぁ」
「ぼ、ぼくを絶対守ってね、兄者!」
レッドとジローは顔を見合わせて、はぁ〜〜〜っ…と深い溜息をつくばかりである。
「ほらほら、あそこの暗がりなんて、今にも亡霊とかが出てきそうですよ!」
「あそこの細い道から、血塗れの刀を提げた辻斬りとか出たら…!」
うわあーーーっ!と自分達の空想上の恐怖に震える二人は抱き合って叫んだ。
レッドとジローは怒りすら覚えず、ゲンナリとした表情で無視を決め込んだ。
「あらあら、そんな心配しなくても大丈夫よ」
そんな彼等に対して優雅に、幽雅に微笑んだのは西行寺幽々子である。
亡霊姫の異名に恥じぬ耽美にして端麗な笑顔は、まさに不気味な森に咲いた一輪の花。
「ヴァンプさんやコタロウをいじめるような悪い亡霊が来たら、私がやっつけてあげるわ。ね、妖夢」
「そうそう。辻斬りなんぞ、この妖夢が斬って捨てて御覧に入れましょう」
妖夢も年頃の少女らしい笑顔で、しかしその瞳に刃のような鋭い光を覗かせつつ腰に提げた剣を誇示する。
「うわぁ〜…ゆゆちゃんも妖夢ちゃんも、カッコいい〜」
「いやあ、近頃の娘さんは強いんですねー」
コタロウはすっかり尊敬の眼差しである。
ヴァンプ様もほっと一安心、その顔には余裕が戻っていた。
「…おい、ジロー。ツッコめよ、お前ら二人こそ亡霊と辻斬りだろー、って」
「無茶言わないでください。この世界でツッコミ役に回ると大変なんですよ」
「それでも貧乏クジを自分から引く甲斐性を見せろよ。百歳の年の功を見せろよ」
「おやおや、こういう時だけ年長者扱いですか。そういうあなたこそ、自分が泥を被ってこそのヒーローでは?」
チクチク嫌味を交わし合う二人だが、そもそもこんな会話自体が不毛だと気付いてすぐに口を閉ざした。
こういう時は、黙っているに限る。
「どうしたんです、レッドさんもジローさんもダンマリしちゃって」
「何でもねーよ…つーかお前、今、スゲー鼻声だぞ」
「え?ああ。昨日お布団しかずに寝ちゃったから、風邪気味かもしれませんねー」
ズルズルっと洟をすするヴァンプ様。
「大丈夫なの、ヴァンプさん。声がなんだか<ばん○うえいじ>みたいだけど」
「ああ。こいつ、鼻が詰まってっと<ば○どう>そっくりの声になるんだよ」
「へぇー。似てる似てる!」
「えー、そうかなあ。怪人の皆にもたまに言われるんだけど…」
「そっくりだよ。ねえねえ、一度モノマネしてみてよ。<ばんどうえ○じ>の!」
「これ、コタロウ。ヴァンプ将軍は風邪で苦しんでいるのに、ワガママを言ってはいけません」
「ははは、いいんですよ、これくらい」
ヴァンプ様はにこやかに、そしてちょっとしかめっ面になって、言い放つ。

「…ぼかぁねぇ〜、ゆでたまごがぁ大好きでねぇ〜」

ドカッ!と一斉に笑い声が起きた。
渋い顔をしていたジローですら、一瞬吹き出しかけた程である。
「似てるー!似てるよ、ヴァンプさん!」
「ぼかぁねぇ〜、のイントネーションなんてまるで本人でしたよ!」
「すごいわ、ヴァンプさん。これはもう<ばんど○えいじのモノマネが上手い程度の能力>だわ!」
皆に褒められ、ヴァンプ様も満更でもなさそうにポッと顔を赤らめる。
その後頭部をはたくレッドさん。
もはやお約束の光景―――それにレッドは、どこか安心していた。
幻想郷は、現世とはまるで違う世界だ。
その中にいれば、レッドとて油断すれば空気に流されてしまう所だろう。
だが、ヴァンプ様の存在が…ここに来てもなお一切変わらず、神奈川県川崎市溝ノ口の匂いを垂れ流す彼の存在
がレッドを現実に繋ぎ止めている。
こんな世界に来たというのに、そんなものは何処吹く風とばかりに何も変わらないヴァンプ様。
「ヴァンプ…お前ってよ」
「はい?」
「結構、スゲー奴なのかもな」
「え…」
照れ臭そうに頬をかき、レッドは小さな声で言った。

「なんつーか…ありがとよ」

―――その瞬間、仲間達は一斉に後ずさった。
その顔に浮かぶのは驚愕と衝撃、恐怖と呼んでも差し支えなかった。
「…なんだよ」
「い、いえ…あなたが急に、お礼なんて言うから…」
「レッドさん、絶対そんな事言わないと思ってたのに…意外な一面だよー」
散々な言われようである。普段の行ないというものが、如実に表れているといえよう。
「うふふ、でも何だかほっこりするわー。二人の間には、私達には分からない絆があるのね」
「やはり、この物語の本筋はレッドさん×ヴァンプ様という事ですね」
「えー、もう、やめてくださいよー(ぽっ)私とレッドさんはそんなんじゃなくて血で血を洗う壮絶な死闘を繰り広げる
血塗られたライバルなんですからねっ!…いたっ!もー、何で叩くんですか、レッドさん!」
「うるせー!気色わりー事ばっか言ってんじゃねー!」
もはやテンプレに入れてもいいくらいのいつものやり取りである。
「ほらほら。夫婦漫才はそこまでにして、行きましょう。ほら、紅魔館が見えてきましたよ」
妖夢の言葉に対しても、既に「誰が夫婦だ!?」とツッコむ気分にすらならず、レッドは顔を上げる。

―――深い霧がかかった湖の畔。
鮮やかな深紅で統一された色調の、古めかしい洋館。
巨大な時計台が、重々しく時を刻んでいる。
何よりも館そのものが発する、ただならぬ妖気。
まさしく<紅き悪魔の舘>―――まともな神経の持ち主なら、近づこうともすまい。

「ふわ〜…レミリアちゃん、こんなすごい所に住んでるんだね」
コタロウが首を思いっきり伸ばして見上げながら、感嘆する。
「姫様のお屋敷と、どっちが大きいかな?ねえ、兄者」
「あん?<姫様>って、誰だよ」
「北の黒姫」
ジローが語ったのは、レッドの初めて聞く名前だった。
「<真祖混沌>の名は、知っていますね?」
「ああ。何度か聞いたよ。史上最も偉大な吸血鬼だかなんだか」
「北の黒姫とは、真祖が直系の一人…私とコタロウは川崎に移住する前は、彼女の世話になっていたんです」
「あー、なるほど!」
その説明にポン、と手を打ったのは、ヴァンプ様である。
「つまり、ミミコさんの前にジローさんを養ってくれていた人って事ですね!」
「…………」
間違ってはいないのだろうが、言い方が悪すぎる。
まるでジローさんが女をとっかえひっかえしてる最低の<何か縛るモノ>だと言ってるようなものだ。
その場の空気がちょっと冷えたのに気付かず、ヴァンプ様は続ける。
「そう言えばレッドさんも、かよこさんの前にお付き合いしてた女性がいますよね。ほら、ちょっとキツイ感じの
ホステスさん。それと同じですね、ははは」
「おい、ヴァンプ…」
「…ヴァンプ将軍」
「は…は」
二人の鋭い眼光は、もはや物理的な圧力さえ備えている。
やっとこ、ヴァンプ様は自分が地雷を豪快に踏み抜いた事に気付いたのであった。
レッドさんとジローが、ヴァンプ様の身体を両側から挟むようにして、持ち上げる。
腰を屈めて、力を込めて。そして。
ヴァンプ様を、真上へとブン投げた。

「「ダブル・ファルコン・アロー!」」

異様なまでに息の合った、謎の合体攻撃。
ああああああああ…!と、ドップラー効果によってヴァンプ様の叫びはどんどん遠くなり。
最高地点に到達し、落下を始めた瞬間に近づいていく。
そして、地面に墜ちた時、漫画的な<ヴァンプ様の形をした穴>が大地に穿たれた。
ダメージは150000。
画面には斜め線が入り、左上と右下にそれぞれレッドさんとジローさんのどやっとしたカットインである。


<解説>
ダブル・ファルコン・アロー
合体攻撃(天体戦士サンレッド&望月ジロー)
気力制限130 攻撃力7000(フル改造時9000) 射程1〜4 EN消費60 地形適正全てS

やや火力に難のあるジローにとってはありがたい合体攻撃。
消費ENの割に高い攻撃力と優れた地形適正を持つので、強敵相手にドンドン使っていこう。
ただし、ジローはサンレッドに隣接していると、太陽闘気によって毎ターンHPが削られるので注意。
なお、元ネタは<BLACK BLOOD BROTHERS>短編集第一巻にてジローがコタロウに対して行なった折檻。
賢者イヴの血統に代々伝わる奥義、その名も<ファルコン・アロー>…らしい。
ジローさんは時々コタロウを殺す気としか思えないから困る。


閑話休題(それはともかく)。
紅魔館へと赴いた一行。
門番に招待状を見せて、庭園へと足を踏み入れて。
上方からの視線を感じて、二階のバルコニーを見上げる。

―――宵闇に合わせたような、黒のイヴニングドレス。
―――対照的に、両手には純白のレースの手袋。
―――ヒールの高いブーツ。

<紅い悪魔>レミリア・スカーレットが、柵にもたれかかって、こちらを見下ろしていた。
ジローが帽子を取って会釈し、コタロウが笑顔で手を振ると、それに応えてレミリアも優雅に手を振る。
そして、レッドと目線がぶつかる。
太陽の戦士と、夜の申し子。
瞬間的に見えない火花が散り、熱風が吹き荒れた。
だが、この場でそれ以上の競り合いをするつもりはないらしい。
フン、と肩を竦めて、館の中へとその姿が消えていく。
それを見送り、レッドも肩の力を抜く。
やはり、幻想郷の強豪妖怪と向かい合うのは、レッドにとっても相当の緊張を伴うものだ。
特にそれが、凶悪極まりない真紅の吸血姫ともなれば。
「ねえ、レッドさん」
「あ?何だよ、コタロウ」
「レミリアちゃんって、ホントにレッドさんの事が大好きなんだね」
「はあ…?」
突然の珍説に、怒るより先に呆れてしまう。
「あの態度見て、どうやったらそう思えるんだよ。隙あらば殺してやるって面構えじゃねーか」
「だってさあ、レミリアちゃんって、本当に嫌いな相手だったら、そもそも無視するタイプだと思うんだ。なのに
レッドさんには、ああやって突っかかるじゃない」
「はあ…」
「つまり、レミリアちゃんはツンデレさんなんだよ!」
「ありえねえ…」
「いや…ツンデレかどうかはともかくとして、一理ある気もします」
と、ジロー。
「吸血鬼にとって、太陽とは基本的に触れてはならない天敵であり、仇敵です…されど吸血鬼とて、かつては人間
であり、陽光を受けて生きていたのです。もはや手の届かなくなったその輝きは…あまりに眩しい過去の光だ」
「…………」
「レッド。吸血鬼にとって―――恐らくはレミリアにとっても―――その太陽の輝きを持つ戦士であるあなたは、
怨敵であると同時に、憧れなのでしょう」
「…どーでもいいよ、んなモン。少なくとも俺は、あのクソ生意気なガキが気に入らねー」
言い捨てて、レッドは紅魔館をもう一度眺め眇める。
血のように紅き屋敷は、何も語らず、静かに―――そして不気味に佇んでいる。
こんな所にやって来て、何も起こらない方がおかしかろう。
「へ…嵐の予感、って奴だな」
ちょっとニヒルでハードボイルドな男を気取るサンレッド。
「え!?嵐が来るんですか!?どうしよう、傘持ってないし、洗濯物取り込んでないですよ!」
天然でボケて、小突かれるヴァンプ様。


―――緊迫感があるのかないのか分からない一同は、悪魔の巣窟へと今、一歩を踏み出すのだった。
232サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/06/16(木) 23:10:19.79 ID:CbEs7csM0
投下完了。前回は>>195を参照に。
少々時間がかかってしまいました。反省。
第2次スパロボZの再世篇への丸投げっぷりは唖然…あれはちょっと酷くね?
後は前作のZEUTH組は来た意味があるのか。
「平行世界の同一人物と出会っても、自分の知るその人と比べてはならない」という俺ルールが、
レントンに関してはあまり守られてない気がする…レントンの前にゲッターチームにツッコめよお前ら。

>>198 ダーク路線に行き過ぎてたので、今回はギャグ多めで。2ちゃんねるはどんどん窮屈になるな…。
>>199 いない方が面白いとまで言われた主人公サンレッドの明日はどっちだw
    でも単純なようで、結構悩み多きヒーローなんですよね、彼。
>>200 ツイッターでも未だに音沙汰がないんですよね…心配です。

>>ふら〜りさん
今回で微妙にフラグが立ったような、立たないような…まあ基本、女の子相手とはいえ戦闘力は桁違い
の連中なんで、色恋沙汰よりは拳で語るライバルになるかな、と。

>>スターダストさん
こんなチート能力を持った奴らが変態共が何人もいるとは…!恐るべし。
しかし、そんな強敵を打ち破ってこその主人公。
斗貴子さんや剛太、秋水の活躍に期待大です。

>>211
オリ要素と原作の兼ね合いってのは、難しいもんですよ…書く立場として言わせてもらうと、やっぱ自分
なりの要素は入れたいもんだと思いますしね。まあ細かい事は言わずに楽しんだもの勝ちですよ。

>>223-226
自分も仕事に慣れるまではキツくて、全然書けなくなった時期があります。
一時間PCの前にいても一行すら書けない時は、もう吐き気がしそうでした…。
233作者の都合により名無しです:2011/06/17(金) 06:44:14.06 ID:lxmiN7ZB0
ああ、そうか。
レッドさんは(一応)太陽の化身だから吸血鬼の天敵なんだな
チンピラなんで太陽ってイメージがなかったがw
怨敵だからこそ気になるって事か。
234ふら〜り:2011/06/17(金) 20:32:14.92 ID:uXSeR4rE0
>>スターダストさん(拷問といえば。ttp://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/dio/01.htm
斗貴子の態度に違和感、の辺りは推理小説みたいだなあ、と思ってたらいつの間にやら
官能小説に。全年齢対応範囲内の描写でも、ここまでできるものかと新鮮な感服です。
サドにマゾにエロにと、つくづく並の「悪の組織の幹部たち」を越えてる奴らですねぇ……

>>サマサさん
夫婦漫才〜♪ とそばで歌いたくなる微笑ましさですねえ。それでいて、きっちりレミリア
ともフラグを漂わせてる。いやはや凄いなあレッドさん。チンピラとか言われつつも、両面
(?)でモテてる。何かもう、IFルートで各キャラ別イベント&エピローグが見たくなってきたり。

正直なところ、心配してたんですが……結構、職人さんたちも去りはせず、
読んで下さってるみたいですね。ほっと安心しました。
235作者の都合により名無しです:2011/06/17(金) 23:19:17.31 ID:b/syvhJb0
サマサさんお疲れさまです。
ちょっと暗い感じの話が続いていましたが
ヴァンプ様のほのぼの感が救いですね
あとコタロウの無邪気さも。
レミリアもレッドの馬鹿さ加減に惹かれているのかな
236作者の都合により名無しです:2011/06/18(土) 08:55:58.27 ID:+TTVA3OK0
レッドさんは主役なのでいないよりいた方がいいよね
レッドさんがいなくてもヴァンプがいればいいけど
237作者の都合により名無しです:2011/06/19(日) 00:39:36.87 ID:PchkDKIe0
ジローさんとレッドさんにエースボーナス

つ ヒモ

女性パイロットの搭乗したユニットに隣接するとEN消費減少
逆に隣接されたユニットはEN消費増大
238作者の都合により名無しです:2011/06/19(日) 23:24:32.17 ID:dJe9/N+10
ならばかよこさんとミミコさんのエースボーナス

つ乙女(メイデン)

それぞれレッドさんとジローさんが隣接した時のマイナス要素が無視され、
レッドさん・ジローさんの全能力値に+10
239作者の都合により名無しです:2011/06/20(月) 21:36:06.10 ID:KbGeCinc0
ヴァンプ様のエースボーナスはほぼ確実に
「マップクリア時に二子玉丼(SP50回復)一個入手」だな

レッドさんは能力・武装共に優秀だけど、格闘型成長タイプのくせに最強技が
射撃の<コロナバスター>のせいでなんとなく釈然としない使い勝手になりそうだ
240作者の都合により名無しです:2011/06/21(火) 11:16:53.17 ID:GIIOuDTS0
何故エースボーナスを設定するスレにw

斗貴子さんのエースボーナスは<ホムンクルスに対してダメージ1.5倍>
だな…武装錬金シナリオ終了後は死にボーナスと化す
241作者の都合により名無しです:2011/06/22(水) 19:06:04.10 ID:tJ4mDpm00
どうしても雑談になってしまいがちだな…
一日に最低でも一本は来てた時代が懐かしい
242 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/23(木) 04:28:34.39 ID:6/vMWtjk0
「きゃあああああああああ! どいてどいてどいてー!!!」
 明るい声が銀成学園廊下を劈(つんざ)いた。同時に激しい衝突音が響き大地を揺るがせた。
「ゴメン! ゴメンね!! ちょっといま急いでたから!! 大丈夫? ケガはない!?」
 上記全ての原因──武藤まひろ──は慌てて立ち上がると被害者に駆け寄った。そこは廊下の交差点だ。どうも曲が
角が人影を不意に吐き出したせいで衝突したらしい。
「……痛いわね。廊下を走るなって校則、知らないの?」
 ぶつかられた方はというと地面に尻もちをついたまま恨めし気に頭をさすっている。日本の学校にはそぐわない顔立ちの
持ち主だ。衝突のせいか筒に束ねた金髪はうっすらホコリを被っているがそれでもなお眩く輝いている。
「フン。衝突される方も衝突される方だ。仮にもホムンクルスなら避けてみたらどうだ」
「アナタが避けたせいでぶつかったんじゃない」
「んー。避け方一つとってもまったく華麗。流石は俺! 流石はこの俺パピ・ヨン!」
「はいはい」
 後ろで芝居がかった陶酔を見せる蝶々覆面に嘆息しながら少女は立ち上がる。まひろはその2人に限りなく見覚えがあった。
「あれ? びっきーに監督? なんで一緒にいるの?」

 なんで、と聞かれても別に大した理由はない。ヴィクトリアは二度目の溜息をつきながらその経緯を反復した。
 地下で休んでいたパピヨンの様子を見に行った。するとちょうど地上へ行くところだった。彼は演劇部に向かっていてヴィ
クトリアも演劇部に用事があったので同じ道を歩いた。
 それだけである。

「ナニナニ。もしかしてひょっとしてびっきーと監督ってストロベリーな仲!?」
「そんな訳ないでしょ。たまたま目的地が一緒だったから同じ道を歩いていただけ」
「いやー。風のウワサでこの前空飛ぶ監督を切なそうなカオで追っかけてたって聞いたからもしかしてとは思ってたけど」
「ち、違うわよ」
 嫌そうな顔、それでいてやや赤らんだ顔でまひろを見る。彼女は袖で口を抑え我がコトが如くニヘラニヘラと照れくさそう
に笑っている。パピヨンを追いかけていたのは事実だが、それを元にした曲解──まひろにとって都合のいい、刺激的なだ
けの──ばかりが脳髄全てを占めているのは明らかだ。一瞬怒鳴りつけたい気分になったが敢えて落ち着き息を吸う。ム
キになったが最後、まひろはそれさえ証左として囃し立てる。短い付き合いだが何が致命的で何が効果的かぐらいは分かっ
ているつもりだ。必死に自制心を動員する。落ち着く。言い聞かせる。自分に。静かに応答するのよ静かに応答するのよ
ヴィクトリア……。
「よく分からないけど良かったねびっきー!! 私でよかったら応援するよ!)
「違うって言ってるでしょ!!!!」
 理性の決壊は早かった。後悔と元にまひろの手を見る。つい今しがた跳ね除けたそれだが、一瞬前自分の両手を力強
く握りしめた瞬間いろいろな感情がバクハツした。バクハツしてしまった。それが決定打となったのか、まひろは「照れてる
照れてる」と楽しそうに笑い始めた。
(ああもう。イヤになるわ。このコは本当……!!)
 心から自分を祝福してくれている笑みだった。だからこそ腹が立つのにだからこそ毒舌で本格的に攻撃できない。
(大体)
 ヴィクトリアがパピヨンに抱いている感情は、まひろが思うほど単純で平易な物でもない。どちらかといえば尊敬に近いし、
尊敬しているからこそ身の回りの雑多な事柄を引き受け少しでも力添えしたいと思っている。それを続け、白い核鉄を完成
させるコトが父を救い母を弔う道なのである。つまるところパピヨンはその道標(どうひょう)なのだ。世俗的な感情を寄せれば
間違いなく怒るだろうし、ヴィクトリア自身そういう私欲的な感情の捌け口にはしたくない。
(…………今のままで、いいのよ)
 研究室の床を掃き空調を整え彼の吐血頻度を大幅に下げ自分のついでと称し滋養のある食料を提供する。そして半ば
下男のように知識を捧げ指示に従い作業を行う。何ら見返りのない行為だが目標に向かっているという確かな充足はある
し端々で見え隠れする青年らしいパピヨンの反応を見るだけで冷たい心はほのかに暖まる。まひろの考えているような”そ
れ以上”などとても求める気にはなれないヴィクトリアだ。
 ……もっとも、そこに憶病さや逃げのニュアンスがあるのにも薄々感づいてはいるのだが。
243 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/23(木) 04:29:45.73 ID:6/vMWtjk0
「フム。確かにせいぜい共同研究をしているという位の間柄だが……それはともかく向こうから走ってくるのは貴様目当てか?」
 共同研究をしているという位の間柄。その言葉に疼くような心痛と「共同なんだ。アレ」と微かな喜びを覚えるヴィクトリアをよそに
まひろはハッと後ろを振り返る。ヴィクトリアも視線を追う。見なれた人影。廊下の遥か向こう、50mほど先を走っていてもすぐ
それと分かるほど見栄えのいい長身の青年だ。秋水。『何故か』学生服のあちこちが破け痣や流血が見受けられたが、それ
にも負けず猛然と走っている。ぎゃんとした視線は確かにまひろを捉え、何が何でも追いついて見せるという強い意志が50m
の距離を置いてもなおヒシヒシと感じられた。余程本気らしい。
 それが分かったせいで狼狽したのか。まひろは太い眉を困ったように下げながらヴィクトリアの袖を強く引いた。何度も何度も
くいくいと。
「おおおお願いびっきー!! ちょっとだけでいいから地下に逃げさせて!!」
「何よ。ひょっとして痴話喧嘩?」
「そ、そーじゃなくて」
「よく見たらアイツ切なそうなカオじゃない。ふーん。アナタたちひょっとしてストロベリーな間柄?」
 まひろは言葉に詰まったらしく露骨に視線を外した。
 しめたとばかりヴィクトリアは薄く笑った。意趣返しだ。パピヨンの件で困惑させてきた意趣返し。よし決めたやれ決めた。
ヴィクトリアが行動指針は「まひろを秋水に突き出す」、それに決定だ。
(決めた以上何をやっても無駄よ。パターンなんて読めてるんだから。どうせアナタは私の肩でも掴んで揺すりながら必死に
頼むんでしょ? でもやらないんだから。早坂秋水のあの速度……。ちょっと私が粘るだけで簡単に追いつけるでしょうね。
普段私を困らせているんだから少しぐらい意趣返しされても仕方な──…)

 じわっ。

 意外な反応が、訪れた。
 騒ぎ出すかに見えたまひろは……。
 大きな瞳いっぱいに涙をためていた。
 それはヴィクトリアが要求を飲まないコトに対してではなく、何かもっと大きな理由を抱えているようだった。
「成程。追いかけられている理由は概ね察しがついた」
 黒々とした笑みを浮かべるパピヨンを見ながらヴィクトリアは困ったように微笑した。
「……わかったわよ。今日だけ特別に避難させてあげるから泣かないの」
「あ、ありがとうびっきー! やっぱり優しいんだね!」
「ちちち違うわよ!! これはあの、ええと、そうよ。アナタの涙なんて鬱陶しいだけだから仕方なくよ!! ああもう! アナ
タと話してるとペースが狂うわ本当……。こんなの違う……私らしくない……」
「いいじゃないか無様で。ヒキコモリにはお似合いだ」
「アナタは黙ってて!!」
 パピヨンの毒舌が嬉しいような悲しいような複雑なヴィクトリアだ。その表情を曲解したのかまひろは心配そうに呟いた。
「もしかしてびっきー、無理してる? その、イヤだったら自分で何とかするよ?」
「別にいいわよ。もう慣れっこ。アナタと絡んでイヤじゃない時の方が少ないのよ」
 足元に六角形の線を走らせながら、「けど」とヴィクトリアは念を押した。
「理由だけは聞かせなさいよ。理由次第ではアイツに引き渡すつもりよ私? それでもいいわね?」
 まひろは一瞬躊躇ったようだが瞳を軽く泳がせると覚悟したようにコクコクと頷いた。それを認めたヴィクトリアは彼女を片
手で優しく引きよせ地下への道を開いた。浮遊感。一同は地下壕めがけ落下し始めた。
「待てェ!! なぜこの俺まで地下にやる!? 俺はこれから息抜き程度の演劇監督をやり速攻で研究の続きを──…」
「急いでいるせいで微調整できないの。少しぐらいガマンしなさい。どうしても嫌なら別の場所に入口開いてあげるから」
「うおおおお! 上が閉じる上が閉じる! 貴様! 地下に着いたら速効で入口を開けろ! すぐにだ!!」
「はいはい。言われなくてもしてあげるわよ」
 落下しながら泳ぐように手足をバタつかせるパピヨンを慣れた調子でいなしながら──傍らでまひろが「スゴい。あの監督と互
角」と感心したように呟いたのにはやや嬉しくもあり誇らしくもある。正体不明意味不明の勝利感!──ヴィクトリアは少し
湿った笑みを浮かべた。
(痴話喧嘩じゃないって言いたかったのね?)
244 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/23(木) 04:30:13.89 ID:6/vMWtjk0
(でも説明しようとすると私まで困らせそうだから言えなくて)

(そもそも自分でもよく分からない気持ちだから──…)

(つい早坂秋水から逃げてしまった……当たらずとも遠からずという所でしょ?)

 そういう時は誰かに話して気持ちを整理すべきだ。
 当たり前だがそれが”身に沁みて”分かっているヴィクトリアである。

(聞いてあげるわよ。アナタが持ち込む厄介事には慣れてるつもり)

(でも、それが済んだらちゃんと向き合いなさいよ。逃げ続けていいコトなんて何一つないんだから)

 かつて逃げ込んだ地下で秋水とまひろの説得を受けた彼女は今。
 まひろを秋水から逃げさせないために地下へと向かっていた。



  マレフィック
 敵組織の幹部の情報が出そろいつつある。貴信と香美の話を聞き終えた剛太はふうと息をついた。
「お前らが今の体になった理由は大体わかった。やりやがった『火星』と『月』がどういう幹部かもな」
『そう!! 罪については火星の方が『憂鬱』! 月の方が『強欲』だ!』
「なんかさー。月? 月とかいうおっかないのは『デッド=クラスター』って名前らしいじゃん。んで、なんか喋りがおかしかった
じゃん。光ふくちょーみたくさ、なまっとる? うんうん。そーじゃんそーじゃん。なまっとった」
 屋上の床板を左右にゴロゴロ転がっているのは栴檀香美というネコ型である。容姿たるや豊満で野性味あふるる美少女
という様子だが、挙動はまったくだらしない。転がるたび薄い上着がはだけ血色のよい脇腹や背中が覗いている。どうやら
長い話に飽きたらしく、床で丸まって居眠りをしては貴信の鎖分銅でぴしぱし叩かれしかめっ面でイヤイヤ話に復帰してい
るという調子だ。
「訛って……ああ。関西弁ってコトね。貴信さんの話からすると」
 流石の桜花もケダモノ相手だとややヒくらしい。奔放な香美を持て余し気味に見つめながら言葉を繋ぐ。
「で、強欲だから色々集めてて、その過程で栴檀たちをこんな風にした訳か」
『だがもっと強く恐ろしいのは『火星』! ディプレス=シンカヒア!! 彼の武装錬金はかなりいろいろ分解できる!!』

『そう!! 人間やホムンクルスは当たり前! ウワサによればレーザーや毒ガスもどうにかできるとか!』

「物理攻撃だけならマレフィック最強っていうけど……つくづく厄介な連中ばっかだな」
 剛太は豊かな髪をかきむしる。先が思いやられる、そんな反応だった。



【昨晩……9月12日の夜】


「いいですかディプレスさん!! ディレクターズカット版こそあの映画のこの上ない完全版じゃないですか!!!!」
「完全じゃねーよクライマックスwwwwwwww 場面追加したせいでテンポ悪くなってるじゃねーかwwwww 劇場版こそ最強wwww」

 路地裏を歩く2つの影があった。彼ら(または彼女ら)は全身をフードですっぽり覆い、夜中だというのに何事かを大声で
話し合っている。片方は女性らしく耳触りのいい澄んだ声の持ち主だ。何やら映画について語っているようだが、出てくる単語は
どうも子供向けのものばかりでお世辞にも大人らしいとは言い難い。
「もぉー!! 盟主様だってディレクターズカット版大好きっていってるんですよぉ! 『ふ。悪い怪人が壊される場面が増えている!
悪い怪人が壊されるのを見るのは気分がいい!!』とか何とかこの上なく言って」
「悪の組織の盟主がwwww怪人壊されるの見て喜ぶなwwwwwwww」
「とにかくテンポが悪くなっているとしても!! その分この上なく物語的な深みが出ていいじゃないですかディプレスさん!」
「あーwwww オイラは深みよりテンポ重視だからwwwwwwwwww」
「ぬぬぬ……!!」
 もう片方──こちらはザラっとした男性の声を持つ──は相方の上げ足を取るばかりだ。それに立腹したのか。女性の
方がやや語気を荒げた。あわや会話が口論に移行せんとしたその時である。
245 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/23(木) 04:32:37.22 ID:6/vMWtjk0
 彼女の腰部から澄んだ電子音がした。着信音らしく(しばらく全身フード相手にやり辛そうにポケットをまさぐった)携帯電
話を抜き取ったクライマックスはしばらく画面を眺めていたが、やにわに明るい声でディプレスへこう呼び掛けた。
「!! ディプレスさんディプレスさん」
「なんだよクライマックスwwwwwwww そのミルキィな着信音はブレイクからだよなwww なんかいいコトでもあったのかよwwwwwwww」
「はいっ! 三日後私! 劇に出ちゃいます!! あの銀成学園さんの演劇部さんの対戦相手さんとして!!」
「マジですか!wwwwwwwww」
「マジですなのです!! ああ、久しぶりの劇……声優やってるころは演技の一環とか何とかでこの上なく無理やりやらさ
れた演劇! 毎日毎日イヤでしたがなぜか大ウケしてロングランした演劇! 好きになった日の公演中、5人ばかりの役者
さんが奈落に落ちてのーみそコネコネ・コンパイル★ しちゃったもんだから所属劇団が解散で、辞めざるを得なかった演
劇です!」
 往時を思い出したのか。クライマックスは胸の前で手を組んだりクルクル回ったりしながら歌うように返答した。身振り手振り
や声には経験者特有の小気味いいキレがあり、決して言葉に偽りがないコトを雄弁に物語っていた。
 そんな彼女とは裏腹に、ディプレスと呼ばれた方の全身フードはとても気の毒そうに呟いた。
「好いたものが必ずヒドい目に遭う不幸体質だもんなあお前。ああ、憂鬱」
「そーなのです! この上なくお気に入りの喫茶店は必ず強盗殺人や火事で廃業、大好きだったダウトをさがせ2は打ちきり、
好きなタレントは田代まさしさんで好きな社長さんはホリエモンさんで好きなプリキュアは明日のナージャ」
「ナージャプリキュアじゃねえwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「仲良くなったネコさんが目の前で轢き殺されてグロ画像になるのも見ましたこの上なく……」
 指折り数えていくうち耐えきれなくなったようだ。声はだんだんと勢いを無くし全身は小刻みに震え始めた。全身フードの
せいで表情までは分からないが泣いているのは明らかだった。
「あーーーーーーーー憂鬱wwwwwwwwwwwwwwwwwwまったく同情すっぜクライマックスさんよォーーーーーwwwwwwwwwwwwwww」
 そんな彼女とは対照的にディプレスはいやにテンションを上げた。陽気ではあるがザラリザラリとした声音の、狂的な印象
ばかり際立つ喋り方だ。
「とととととにかく私、劇に出ちゃうのです! なにしろこの上なく人手が足りないようですから!!」
「まー、お前の武装錬金特性なら一人で何役もできるだろうがwww でもお前wwww そんな冴えなさで大丈夫か?wwww」
「大丈夫だ! 問題ない! です! わ、私は演劇なんか大嫌いなんですからねっ! だからうまくいきます! この上なくっ!」
「似非ツンデレは寒いってwwww」
 そんな他愛もない会話をキャーキャーかわしていく内、テンションが高まったのだろう。クライマックスとディプレスは手と手を
握り合いヒラヒラ踊りだした。そして最後に両手を繋いだままバンザイし、とてもさわやかな声で締めくくる。
「僕たち!」
「私たちは!」

「「仲良し!!!!」」

 その時である。路地の向こうから吹いてきた黒い風がクライマックスの腹部に突き刺さり、彼女を吹き飛ばした。
「ぬええええええええええええええええええええーっ!?」
 間の抜けた声を上げながら全身フードをは四肢をバタつかせてみるがもう遅い。行く手にはゴミ捨て場。成す術もなく彼女
はそこへ突っ込み盛大な音を立てた。バケツが壊れ冷蔵庫が倒れゴミ袋が破け本が崩れ缶が飛び散る大合唱。
「ああもう憂鬱ww ゴミのオールスターのお出迎えw つか明日いったい何出す日だよwwwww 分別守れっての人間どもwwwwwwwww」
 カラカラと笑いながらディプレスは黒い風の正体を見た。
 それは、人だった。
 髪を金色に染めピアスをした、「いかにも」な人種だった。人を弾き飛ばした呵責に悩んでいるようだが、慌てて背後を振り
返り怯えた様子を見せる辺り、どうやら何かに追い立てられているらしい。

「おーーーーーーーーーーーーーwwww なになになに!」
 けたたましい声を上げながらディプレスは金髪ピアスに詰め寄り両肩をバシバシと叩いた。気のいいあんちゃんが知り合い
にするような仕草だがやられる方はまったく迷惑らしく顔をしかめた。
246 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/23(木) 04:35:28.37 ID:6/vMWtjk0
「よく見たらお前昼間リバースに絡んでたチンピラAさんじゃないの!!wwww いやお前こんな所で会うなんて奇遇だな!!w
おいおいおいなんだその目wwwww 初対面でそりゃあちょっと不躾ってもんだろwwwwwww 傷つくっぜ!www 憂鬱だっぜwww」

 いやなフランクな調子の全身フードに金髪ピアスは凍りつかせた顔面の筋肉総て強引に引き延ばすような絶望的な表情をした。
 出会ってはならない者に出会ってしまった。相手の顔は分からないが全身から立ち上る異常な気配はこの晩すでに出会っ
た様々な男女とまったく変わらない。

「で、何よ何よ何なのよそのケガ?wwww ハッ! もしかしてお前リターンマッチとばかりリバースにちょっかい出した? 
そーか出したか!wwwww んでボコられたところでブレイクに仲裁してもらって命だけ取り留めたけどアイツになんかヒドい
目あwわwさwれwてwwwww紹介されたグレイズィングの病院で拷問の一つか二つかまされたもんだからwwwwww必死なっ
て逃げてたとwwwwwwwwww」

 んでクライマックスにぶつかったwwwwww高いテンションを早口でぶつけてくるディプレスに金髪ピアスは戦慄した。
 1つはその洞察力にだが、それ以上に彼を震えさせたのは。

 赤茶けた銅似の髪を縦巻きにした妖艶な女医の記憶である。




「あぐぐぐ……んぎっ! はーっ……。はーーーーーーっ……。や、やめろ……。やめて、ください。も、もう治らなくていいです……
これ以上痛いのだけは、痛いのだけは……!!」

 治療は、された。だが完治とともに有無を言わさず破壊行為と拷問の数々を働きだした。いかなる怪我もすぐに治ったが……
治るそばから、新しい苦痛が襲ってきた。

「せっかくケガしてたんですもの。治したけど再現して、たっぷり、たぁーっぷり苦しませてあげるわん」

「クス。1回目の治療はお詫び、仲間の監督不行き届きの罪滅ぼしにして医療の正しい恩恵」

「で・も、ここからはタダの趣味……クス。ブレイクはリバース襲われて頭に来て罪滅ぼしさせようとしたんですけど」

「ワタクシは違いましてよ」

「人をいたぶるのに理由なんていりませんわよ。ヤりたいからヤる。苦しんでる顔が見たいから苦しめる、それだけ」

「義憤だの正義だの自制心だのの理由づけ着飾ってるブレイクはまだまだ甘チャン」

「ブレイクで思い出しましたけど、インフォームドコンセントよん。あのね。アナタの体は今、麻酔を受け付けない状態ですの」

 女医はそういって頬に左手を差し伸べる。誘惑的な笑みだ。軽く細めた瞳は淫靡な光にうっとりと蕩けている。興奮性の吐息
をひっきりなしに荒げているその様だけ見ればまったく男女の甘美な行為の濫觴(らんしょう、始まり)にしか取れないが、
右手に握られた特殊な器具が何もかも総てをブチ壊している。市販のマジックペンより少し太いぐらいのそれは金属製で
ぐにゃりと歪曲した先端部分からは小気味のいい回転音がしている。ドリルが、付いていた。歯科用の歯を削る器具だった。
 彼女が何を目論んでいるかはかなり明白だった。それでも感染症を鑑みれば先ほどまでの錆びた針による瀉血(しゃけつ)
よりは何段階かマシといえた。
「麻酔ナシで頼むわねん。どーせ打っても効かないし……。ふふ。なぜそうなっちゃったか知りたいボウヤ? ブレイクのバ
キバキドルバッキーがそういう特性だからよん。あのコのハルバードはねん、「麻酔を受け付けるコトを禁じる」みたいなコ
トができるのよ……」
 ドリルがゆっくりと近づいてくる。器具によって椅子に拘束された金髪ピアスはイモムシのように身を捩らせる他なかった。
「あらん。そうおびえなくてもいいのよ。限度をブッちぎった痛みもまた快楽。大丈夫、大丈夫」
 いやいやをするように振られる頭を押さえこむと、女医はすぐ間近で粘っこく笑い──…
 金髪ピアスの唇に自分のそれをゆっくり重ねた。ねっとりとした生暖かさが口腔内に雪崩れ込んできたとき金髪ピアスは
あまりの事態に全身のあらゆる部位を固くした。あらゆる、部位を。
 口を蹂躙しているのは舌だった。舌が舌に絡まりつきねぶり上げ啜り上げ、遂には唇の外へと引きずり出した。
「あらん意外に長い。頑張れば肘舐めれるかもねん」
 白い舌苔(ぜったい)が目立つ薄汚れた舌を女医は愛おしそうに一瞥し、今度は舌だけを唇に含み顔を前後に揺すり始めた。
 赤茶けた巻き髪が豊かな胸の辺りで揺れる。淫らな水音が響きねっとりとした唾液が床を穢す。
247 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/23(木) 04:36:52.61 ID:6/vMWtjk0
 妙技だった。垂れがちな、縮みがちな舌を自分のそれで器用に捉えながらも唇とは干渉させず常に一定の張力を保ちつつ、
リズミカルに規則正しく首を振るのだ。舌の位置を小刻みに変え、艶めかしく這い回らせながらも保定できるのは異常の一言
だ。そもそも彼女の舌に籠る力は人間のそれを遥かに上回っていた。まるで『人を超えた存在だけが』持ちえる高出力を
淫らな方面へ濫用しているようだった。
 限界まで無理やり引き伸ばされた舌は下部いっぱいに緊張感のある痛みを走らせるが、それを打ち消すほどの甘い刺
激と甘い匂いが次から次へと襲い来る。
 接吻とはやや違った、しかし特定分野では確かに確立されている肉塊愛撫だった。濃密な匂いのする唾液で舌を穢し、
或いは噛み、とにかく恐ろしく煽情的な行為の数々を繰り返しながら、女医は頭から手を剥がす。肩から胸、胸から腹へと
さするように手を動かす。
 下へ、下へと。
 白い手。期待しがちな男性の単純な直感はそれがどこに伸びるか直ちに明察し、そして事実その通りとなった。
 金属の羅列が解放される音。衣擦れ。脳髄を突き抜ける甘美な衝撃。それらの中、金髪ピアスは見た。
 歯科用のドリルがさんざお楽しみだった唇のすぐそこにもう迫っているのを。
 恐怖に歪む顔に女医はうっとりと微笑した。

「ほら言うでしょう。初 め て は い つ も 痛 い っ て 。大丈夫。慣れれば気持ちよくヨガれますわよん。クス」

 健康な前歯をドリルが貫通した。
 絶叫。それが何か限度を超えた力を導いたらしい。獣のように唸りながら顔を背けた金髪ピアスの口から前歯が飛んだ。
厳密にいえば「歯ならびに女医の腕へ強い力で固定されていた歯科用ドリルから強引に逃れようと無理のある甚大な力で
もって顔を動かしたせいで歯が折れ、脱落した」という所であるが一言でいえば飛んだ。もっとも歯は相変わらずドリルに
貫通したままで、変わったことといえば断面から様々の解釈ができる桃色のどろどろを巻き散らしつつ旋回している位だ。
ドリルは止まる気配がない。ヤニで黄色くなった前歯が手元でぐるぐる回転する様に流石の女医も最初やや面喰っていた
ようだったが、すぐにうっとりと笑い、
 笑い、
 笑い、
 けたたましく笑い。
 目を剥き舌を出しながら床へ這いつくばり──… 
 飛散したどろどろを舐め始めた。甘ったるくも耳を塞ぎたくなる牝の叫びを上げながら、舐め始めた。


「その隙に最後の力を振り絞って逃げてきた、かwwwww 馬鹿だろお前wwww あのまま拷問耐えてりゃあ居合わせた別
の男といい思いできたしケガも全部治ったっつーのによぉwwwwwwwwwww」

 前歯が抜けた金髪ピアスを楽しそうに眺めながらディプレスはくつくつと肩を震わせた。

 冗談じゃない。逃げるときに見た女医の顔を思い出しながら金髪ピアスは全身を震わせた。
 薄汚れた床を躊躇いなく舐める彼女の顔はどんな娼婦より浅ましかった。その浅ましささえ自覚し興奮の材料にしている
ようで、決して潔癖ではない金髪ピアスでさえゾクリとした嫌悪と吐き気を催した。

(何なんだよアイツ……。何なんだよアイツは)

 人間というより妖怪を見たような気分だった。


「あらん。逃げちゃった」

 服や床についた桃色の液体を『総て舐め尽した』女医は、蛻(もぬけ)の空の椅子を一瞥すると残念そうに呟いた。
「ああんもう! ああんもう!! ハズオブラブですっぱり治した後は痛みの数だけの快楽をもたらそーと、具体的には見も
知らぬ殿方交えた3Pやろうと思ったのにん!」
 あどけない調子で右手を大きく振りながら指を弾くがあまりいい音はでない。ぽしゅりぽしゅりとしょぼくれた音を奏でながら
女医はとても残念そうに「ああんもう!」を繰り返した。

「まあでも乱交騒ぎは近々ありそうですわよねん」

 やがて指を弾くのにも飽きたのか。女医は艶めかしい肢体をくねらせながら診察室を出た。

「発案:盟主様。プロデュース:盟主様のが」

「演劇の発表の後に」
248 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/23(木) 04:38:01.23 ID:6/vMWtjk0
 縦巻きの髪を軽く一払いするとグレイズィング=メディックはそこを一望した。

 廊下をしばらく歩き出た先は待合室。片隅にはある市民が所在なげに座っている。一連の騒ぎのせいか彼は眼を丸くして
おりグレイズィングを見てもしばらくぼんやりしていた。
 女医は彼に笑いかける。逃げれば良かったのに。快楽に魅かれたせいで今は蜘蛛の糸の上……。
 そんな思考が滲み出た好色で野蛮な狩人の笑みをい汚く浮かべながら彼女は市民に近づき、その頬を優しく撫でた。
「先ほどは失礼。ワタクシとしたコトが取り乱したわねん。あらん?」
 あらんをややワザとらしくいいながら頭を見る。先ほどゲンコツで殴りつけたそこはうっすらと血が滲み、コブまでできて
いる。
「怪我、ちょっとひどいんじゃなくて……? ふふふ。ごめんなさい。医療ミスですわね」

 そして立ち上がり、数歩距離を取り、腰の後ろで手を組みながら、首だけ後ろに向ける女医。
 彼女は、ねっとりとした笑みでこう聞いた。

「また治療していきます?」

 市民は数秒逡巡したが──…

 よろよろと立ちあがると、目を血走らせながら頷いた。

 その反応に満足したのだろう。女医は上着を脱ぎながらクスクスと笑った。

「ほどほどにねん。朝帰りで奥様と修羅場っちゃ、可愛い娘さんが泣くわよん」
249 ◆C.B5VSJlKU :2011/06/23(木) 04:38:29.13 ID:6/vMWtjk0
以上ここまで。
250作者の都合により名無しです:2011/06/24(金) 21:24:57.53 ID:EEliE2by0
良かった。スターダストさん来てくれて。
吹っ切れたような感じの作風で、このエロ女医も好きです。
まだまだ先は長いと思いますが、どうぞラストまで魅せて下さい。

あげとく。
251作者の都合により名無しです:2011/06/24(金) 23:05:39.77 ID:qlcnVJvM0
意外とヴィクトリアとパピヨンはお似合いかもね。人外同士で。
パピヨンは変態だけど中々器は大きそうだし、頭も切れるし。
しかし2chで草を生やされまくるとSSとは言えイラっとするなw
まあダストさんはそのようにキャラを作ってるんだろうけど。


ところで「ストロベリーな仲」って錬金の中だけの言葉だよね?
一般人には流行ってないよね?
252作者の都合により名無しです:2011/06/25(土) 23:01:23.99 ID:iN1GKA4k0
ラストバトルへの面子が揃いつつあるのかな?
でも、ほんわかしたムードで終わって欲しいな。
253美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/06/29(水) 23:20:03.68 ID:J0ZJcnFG0
夕刻。今日の授業が全て終わり、生徒たちは放課後を迎えた。
ある者は連れ立って遊びに行き、ある者は部活に励み、ある者は委員会活動に取り組む。
そんな光景を彼、範馬刃牙は教室の窓から眺めていた。一時的なものとはいえ、別れを惜しんで。
「これでしばらく、見納めだな」
先日、徳川からの使者によって知らされた最大トーナメント。世界中から選び抜かれた
強者たちが集うこの大会で優勝を狙うのは、地下闘技場における無敗のチャンプである
自分にとっても、容易なことではないだろう。
なので特訓を始めることにした。その間、学生生活はお休みである。
「しっかし、また梢江ちゃんには叱られちゃうだろうなぁ。何とか納得してもらわないと……」
「刃牙くううううぅぅぅぅんっっ!」
噂をすれば何とやら。その梢江が、ただならぬ大声を上げて走ってきた。声だけでなく
その表情も、何やら切羽詰ってるというか緊迫してるというか、普通ではない。
「あなた、何やらかしたのっ!」
走ってきた梢江は体当たりしそうな勢いで刃牙に詰め寄り、その襟首を掴んで振り回した。
何が何だかわからぬまま、刃牙は振り回される。
「ちょ、ちょっと、まっ、俺まだ何も、言ってない、」
「まだ? やっぱり何かやったのね!」
「や、やるとかそういうものじゃ、だから、まず、落ち着いて、」
刃牙になだめられ、梢江はようやく手を離した。でもまだ息を切らし、ぜーはー言っている。
皺の寄った襟を直しながら、刃牙は訊ねた。
「俺が言ってるのは、また特訓に入るから明日から学校を休むってことで。梢江ちゃん、
そのことで怒ってるのかと思ったんだけど、でも考えてみたら、俺まだ誰にも言ってないし」
「特訓?」
梢江はちょっと首を傾げて考える。
「欠席が多すぎるから……っていっても、それでわざわざ呼び出すとかはしないわよね。
それは先生の仕事だし、わざわざ刃牙君を気にかける理由には……」
「? 何のこと、呼び出しって」
考え込んでぶつぶつ言ってた梢江が、改めて刃牙に向き直った。
「さっきね、会長に伝言を頼まれたのよ。刃牙君に、屋上へ来るようにって。
何だか話があるみたいよ。それも人目を避けて」
254美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/06/29(水) 23:20:48.31 ID:J0ZJcnFG0
梢江は生徒会に所属しているので、ここでいう会長というのは生徒会長のことだ。
「会長が? 俺に? なんだろ」
刃牙は、顔こそ知っているものの一度も会話したことのない会長を思い出した。
才色兼備の文武両道、成績優秀品行方正、あらゆる美辞麗句な四字熟語が、
ピタリと似合う美少女で、ついでに家は大金持ち。
模範生というレベルを超え、天が二物も三物も四物も与えた、「理想」の塊みたいな
女子生徒、それが会長だ。男子はもちろん女子にもファンは多い。むしろ女子の方が多い。
不良でこそないものの欠席しまくりで進級が危うい刃牙とは、はっきり言って
住む世界の違うお方である。だから今まで、刃牙と接点なんかなかったのだが。
「私、てっきり刃牙君が何かとんでもないことに手を染めてて、それを知った会長が、
先生方に知られる前にやめさせるとか改心させるとか自首をすすめるとか、」
「もしもーし。梢江ちゃん。俺のこと何だと思ってる?」
「だって、じゃあ何か心当たりあるの?」
「いや、そりゃないけどさ。……まあいいよ、危ぶむなかれ、行けばわかるさってね」
考えるのが面倒になった刃牙は、カバンを持って歩き出した。教室を出て、屋上に向かう。
残された梢江はというと、
『うう、心配だわ。気になってしょうがない……けど、覗き見して盗み聞きするって
わけにもいかないし……でも気になるし……』
一人、悶々と悩んでいた。

刃牙が屋上に出てみると、天気晴朗にして風は穏やか、まだ真夏の暑さはなく、
昼寝に丁度いい陽気だった。
ここは立ち入り禁止というわけではないが、昼食時以外には殆ど人は来ない。
皆が帰宅したり部活に向かったりする放課後となれば尚更だ。
だから今、刃牙の他にここにいるのは、一人だけ。鉄柵越しにグラウンドを見下ろしている、
ほっそりとした女の子がいるだけだ。
「来てくれたのね」
女の子らしく、けれど高すぎはしない、耳に心地よい声と共に振り向いたのは、
確かに刃牙の知っている、生徒会長様だった。
255美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/06/29(水) 23:22:20.79 ID:J0ZJcnFG0
眼鏡の向こうには気品を感じさせるツリ気味の目、整った鼻筋と可憐な桜色の唇。
スラリと高い身長は、実は刃牙を3センチ上回る。
艶やかなセミロングのストレートヘアは華奢な背中でサラサラと風に揺れ、首も肩も腰も、
どうやったらそんな風になれるんですかと他の女子生徒が何人も聞きに来るぐらい
細くしなやか。それでいて出るべきところはしっかり……あ、いや、待てよこれは……
『今気付いたけど、それほどでもない、というより明確にアレだな。多分、全国平均値を
きっちり下回ってる。今まで気を向けてなかったから、てっきり完璧超人だと思ってたけど、
ここが唯一の弱点ってとこか。けどしかし、むしろそれこそ望むところという男子も少なくは』
「……範馬君?」
会長にジト目で睨まれていることに気付き、刃牙は慌てて会長の胸部から視線を逸らす。
「す、すいません。でも、あの、俺は、実は、むしろそれこその方に属してまして、」
「? 何を言ってるのかわからないけど、とりあえず私の話を聞いてくれる?」
「あ、は、はい。どうぞ」
会長は刃牙に近づいてきた。
「あなたの中学時代のことを噂に聞いてね。失礼ながら、ちょっと調べさせてもらったの。
ご家庭の事情と、あなたの今までの経歴を」
予想外の言葉が飛んできて、刃牙は思わず一歩、後ずさった。緊張して警戒する。
会長の方は平然としたもので、警戒している刃牙を見つめてにっこり微笑んだ。
「大丈夫よ。松本さんにも、誰にも何も言わないわ。こういう言い方は何だけど、
あなたの過去そのものに興味はないしね。興味があるのはその過去を経て作り上げられた、
今現在の、そしてこれからの範馬君」
「これからの、ってどういう意味ですか」
会長の真意を測りかね、刃牙は軽く困惑する。
「詳しくは、今は言えないわ。言って、あなたが知っても、部外者であれば何にもならないしね。
そして部外者になるか、関係者になるかは、これから決まるの。範馬君、あなた格闘技の
心得があるのよね。それもかなり。その腕前を試させてほしいの」
「はい?」
刃牙は、今度は軽くではなく、重く困惑した。測ったら10トンぐらいはありそうな重さの困惑だ。
「試すって、何の為に」
「だから、それは関係者になったら説明してあげる。私が考えてる、ある計画の関係者にね」
「はあ。で、どうやって試すんです」
「もちろん、今この場で私と戦うのよ」
256ふら〜り ◆rXl0RuLrAVdZ :2011/06/29(水) 23:24:19.48 ID:J0ZJcnFG0
最近、というには間が空きすぎですが、私の定番になっております
バキキャラVS他作品キャラの短編です。会長の出典は次回にて。
にしても、私の手によるキャラ改変ももちろん入ってますけど、
それを除いてもこの頃の刃牙は、いい子でしたよねぇ……

>>スターダストさん
>物理攻撃だけならマレフィック最強
相手を倒す・壊す・殺すのなら、それだけで充分だけど、相手側にとっても防ぎ易い。
だからそれ以外のものも必要。と、普通ならそれで話が終わるんですけど、彼らの場合は
戦闘以外のところで活用しまくってますからね「非物理攻撃」。戦士たちの対応策に期待。
257魔法少女みやこ☆マギカ:2011/06/30(木) 20:54:48.54 ID:v9cf8WpT0

―――此れは魔法と奇跡の物語である。
―――但し、そこに夢と希望が溢れているとは限らない。


<登場人物>
大倉都子(おおくら・みやこ)………………少女―――そして魔法少女見習い

永井輝明(ながい・てるあき)………………少年

佐倉杏子(さくら・きょうこ)………………魔法少女

キュゥべえ………………魔法の使者



第一話「魔法少女になってよ」

とある街の小さな公園。
夕陽が差し込む中で、その少女は力なくブランコに座り、俯いていた。
キィ、キィ、と錆びた音を立てて、古びたブランコは少女を乗せて揺れている。
紺色のブレザーとスカート、ネクタイという服装からして、高校生なのだろう。
長く伸ばした黒い髪は艶やかだが、風に吹かれるがまま散々に乱れている。
端正な顔立ちは悲しみに暗く沈み、瞳には彼女が本来持っているであろう輝きが失せていた。
頬に残るは、大粒の涙の痕。
その全身から発散されるのは、今にも壊れそうな危うさと、それ故の儚い美しさ。

―――彼女の名は、大倉都子という。
悲嘆に暮れるその理由は、人によっては些細な、青春時代の思い出と一言で片づけてしまうようなものかもしれない。
それでも彼女にとっては、今までの自分全てが否定されてしまったような苦痛だった。
都子には、幼馴染の少年がいる。
隣の家に住む、同い年の男の子―――永井輝明。
生まれてから今に至るまで、ずっと傍にいた二人。
男と女なんて関係のない、気の置けない友達だったはずなのに、いつからだろうか?
ゆっくりと、けれど確実に。気が付けば都子は、輝明の事を好きになっていた。
258魔法少女みやこ☆マギカ:2011/06/30(木) 20:56:40.87 ID:v9cf8WpT0
向こうは鈍感で、こちらの気持ちなんて全然察してくれないけれど。
それでも、恋をするというのは、それはとっても嬉しいな、って。
そう思っていた―――だけど。

「お弁当をね…作ってあげたの、彼に」
都子は誰に聞かせるでもなく、一人呟く。
午前の授業が終わって一息ついた昼休み。
学校の屋上で、二人きりで。
「喜んでくれたわ。美味しいって。料理上手だねって…」
されど。その後に続いた言葉は、都子を打ちのめした。

―――きっと都子は、いい男を見つけて、素敵なお嫁さんになるよ。
―――結婚式にはさ、俺も幼馴染代表として呼んでくれよな。

輝明は、何の屈託もなく、悪意もなく、そう言った。
それが都子をどれだけ傷つけるかなんて、思いもせずに。
「それって、さあ…要するに、私なんて、単なる幼馴染でしかないよって…そういう事じゃない…」
女として見ていない。
恋愛対象になんて、入ってない。
そう思い知らされた気がして、都子の中で何かが壊れた。

―――輝明のバカ!もういい!もう、あなたなんか知らない!

そう泣き叫んで、走り去った。
教室に戻るやいなや鞄を引っ掴み、学校からも逃げるように出ていった。
その後、何をしていたのか自分でもよく覚えていない。
我に返ってみれば、こうして一人、黄昏(たそがれ)ていた。
「…バカみたい、あたし」
もしかしたら輝明も、自分の事を好きなのかもしれない。
そうだったら、どうしよう。
感情に歯止めなんか利かなくなるかもしれない。
それはそれで、望む所だったりして―――
そんな甘酸っぱい期待と想像は、空虚な妄想に過ぎないと知って。
「もう…ダメだよ、あたし」
両手で顔を覆っても、再び溢れる涙と嗚咽を隠す事はできなかった。
「あたし…もう、消えちゃいたい…!」
259魔法少女みやこ☆マギカ:2011/06/30(木) 20:58:02.59 ID:v9cf8WpT0
その時。

「悲観するのは、まだ早いんじゃないかな?」

奇妙な声が、響いた。

「大倉都子。キミにはまだ、チャンスが残されている」

その声は、朗々と言い募る。

「命を懸けてでも叶えたい願いがあるなら―――ボクがそれを一つだけ、叶えてあげる」

そして。都子は、目の前の景色が一変している事に気付いた。
さっきまで、確かに夕暮れの公園にいたはず―――なのに。
例えるならそこは、サッカースタジアムというべきか?
しかして、周囲の風景はグチャグチャに歪んでいる。
精神に破綻をきたした画家が、手当たり次第に絵具をブチ撒けたような異常な空間。
明らかに、現実とはまるで違う。
「こ…ここは…?」
「魔女の結界さ」
背後からの声。振り向くとそこには、不可思議な生物がちょこんと座っていた。
まっ白い毛皮を持つ、つぶらで真っ赤な瞳の四足歩行生物―――
一見しての印象でいうなら、そう。
漫画やアニメで魔法のヒロインが連れ歩くような、マスコット。
そんなモノが、人間の言葉で喋っている。
「ボクの名前は、そうだね…キュゥべえとでも言ってくれればいい」
謎の生物―――キュゥべえは、小首を傾げる。
表情は変わっていないが、笑ったのかもしれない。
「初めまして、大倉都子」
「は…初めまして」
いや、呑気に挨拶している場合ではない。
疑問は、山ほどある。
私はどうなったの?魔女の結界?あなたは何者?
「それについては、まあ、ゆっくりと説明していこう」
キュゥべえは都子の横を通り過ぎ、曲がりくねった階段を昇っていく。
都子も慌てて後を追いながら、その背に話しかける。
「ちょっと待ってよ。本当に何なの、これ」
「都子。この世にはね、絶望と呪いを撒き散らす<魔女>と呼ばれる存在がいる」
「ま…じょ?」
「そう。ヤツらは普段は己が創った<結界>の中に閉じこもり、人前に姿を見せない―――けれど、時に現実世界
に現れては、人間に危害を加えるんだ」
「そんな話、聞いた事ないわ」
「そうだね。魔女による被害は、人間には理解できない。大抵は理由なき自殺や殺人事件として処理されてしまう」
「…本当なら、恐ろしい話ね」
「信じ難いだろうけど、本当の事さ」
260魔法少女みやこ☆マギカ:2011/06/30(木) 20:59:10.69 ID:v9cf8WpT0
階段を昇り切った二人は、だだっ広い観客席に出た。
席を埋め尽くすのは、真っ黒い影。
人間の形をしているけれど、微動だにせずに座り込んでいるその姿は、ただ不気味。
「そして、魔女と戦い、無力な人々を守る使命を背負った少女達―――」
そう語り、キュゥべえはグラウンドを見下ろした。
極彩色のカクテル光線に照らされた、不正に歪んだグラウンドの中央。

―――異形の存在が、そこにいた。
青いユニフォームを着たそれは、けれどサッカー選手なんかでは決してなかった。
異常な程に長い戯画的な手足を持ち、無数のサッカーボールをお手玉のようにリフティングしている。
頭部はそのものズバリ、サッカーボールだった。
どこか滑稽で、ユーモラスな風情すら感じさせるが、現実にそんなモノが蠢く様はひたすらにおぞましい。

「あれが魔女…この世界に仇なす、呪われた存在」
そして、魔女に対峙する、もう一つの存在。
真っ赤な長髪をリボンで束ねてポニーテールにした、都子とほとんど変わらない年齢と思しき少女。
真紅の装束に身を包んだその姿は凛々しく、戦場に立つ女騎士を連想させる。
その両手で、華奢な身体には不釣り合いな程に大きな槍を構えている。
「そう。彼女こそが<魔法少女>の一人…佐倉杏子」
「魔法少女…佐倉、杏子」
瞬間、戦いが始まる。
魔女が無数のボールを蹴り出すと、それは物理法則を無視した動きと速度で杏子へ襲い掛かった。
「しゃらくせぇんだよっ!」
しかし、杏子は怯む事なく槍を振り回す。ボールは次々と破壊され、残ったものも軽く身を捻ってかわす。
そのまま魔女へ向けて突撃。魔女は長い手足を鞭のように振り回すが―――
切断。更に断裁。
そして―――断罪。
「はあぁーーーっ!」
気合の咆哮と共に繰り出された一閃が、魔女の胸部を突き破った。
魔女は耳をつんざくような悲鳴を上げながら消えていき―――


―――都子は、元の公園にいた。
目の前にはキュゥべえと、そして魔法少女・佐倉杏子。
先程は遠目で分からなかった彼女の顔だが、今ははっきり見える。
少々キツい印象を与えるがすらりとして引き締まった目鼻立ちで、十分に美人と言える。
口元から覗く八重歯が、ともすれば冷たく見えかねない彼女の美貌を和らげるのに一役買っていた。
そして、胸元で輝く、大きな紅い宝石―――

その美しさは、まるで。
まるで、命そのものの煌きのようで。

杏子は怪訝な目で都子を見据える。その眼光の鋭さに、都子は少したじろいだ。
一体どんな経験をすれば、年端もいかぬ少女がこんな目をできるというのだろうか。
「やあ。久しぶりだね、杏子」
「…キュゥべえか。誰だよ、この子」
「大倉都子―――魔法少女見習い、といった所かな」
261魔法少女みやこ☆マギカ:2011/06/30(木) 21:01:15.14 ID:v9cf8WpT0
「ふーん。それで?何だってあたしの所に来たわけさ。言っとくが後輩育成なんてガラじゃないよ。そういうのは
マミとかの方が適任だろ?」
「別にキミに会わせたかったわけじゃないよ。魔法少女について都子に説明するには、実地体験してもらった方
が手っ取り早くて分かりやすいと思ったまでさ」
「チッ…それにあたしを利用したってか。相変わらず気に食わない野郎だ」
舌打ちしながら。
紅の魔法少女は懐から棒付きのキャンディーを取り出し、口に含むとそっぽを向いた。
「で、都子だっけ?どうすんの、あんた。魔法少女になんの?」
「え…」
そう問われて、都子は答えに窮する。
「いや…でもあたし、まだ何にも分かってないし…」
「そうか」
ちらりと、都子を横目にする。
そんな杏子の目からは、先ほどの厳しさは影を潜めている。
気のせいかもしれないが―――どこか、都子を案じているような瞳だった。
「どうしようとあんたの勝手だけど、忠告だ…魔法少女になんか、なるもんじゃない」
その言葉には、たっぷりと嘲りが含まれていた。
都子に対してではない―――己に対しての、侮蔑。
「それって…どういう」
「言葉通りさ。魔法少女ってのは…救われない存在なんだよ」
杏子はそれきり口を閉じて、都子達に背を向けて歩き去っていく。
その後ろ姿を見つめながら、キュゥべえはやれやれ、とため息をついた。
「優秀なんだけどね。困った子だよ」
「キュゥべえ…教えて」
「ん?何をだい」
「何もかもよ。魔法少女だの…魔女だの…こんなの、絶対おかしいわ」
「そうは言ってもキミの見た通りさ。世界を侵そうとする魔女と、世界を守ろうとする魔法少女―――
漫画やアニメとやらで、御馴染じゃないのかな?」
それはまあ、言ってしまえば分かりやすい。
正義の味方の魔法少女と、それに対する悪い魔女。
わざわざ説明されるまでもない事なのかもしれない。
「それで…どうしてあたしが、その見習いなのよ?」
「こればかりは、素質というか才能としか言えないよ、都子。キミは、魔法少女としての才能を秘めている」
だからボクが、スカウトに来たんだ。
真意を見せぬ瞳で、キュゥべえはのたまう。
「ま、そうだね…あと一つ、最も大切な事を教えよう」
「最も大切な事…?」
「見返りだよ」
見返り。
「魔法少女は、命を賭して魔女と戦う―――その代償としてたった一つ、どんな願いも叶うんだ」
「たった、一つ…どんな、願いも」
「そう。それがどんな、不条理な祈りであろうとも」

―――都子の中に浮かぶ、幼馴染の笑顔。
今の都子が願うとしたら…それは、たった一つで十分。

―――彼が…輝明が、私に振り向いてくれますように―――

それを見透かしたように、キュゥべえは目を細めた。
「一人の人間の心を変えるくらい―――簡単さ」
「…………」
だから、都子。
「ボクと契約して、魔法少女になってよ」
262サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/06/30(木) 21:40:43.77 ID:v9cf8WpT0
投下完了。
サンレッドの方が何度目になるか分からないスランプ。
こういう時は別のSSを書くに限る!という事で書きました。全5〜6話くらいの短い話になるかと。
一応は、ハッピーエンド目指して書きます。
元ネタは「魔法少女まどか☆マギカ」アニメ原作だけど、漫画版も結構多く出てるんで、ギリギリOKかな、と…。
すんません(汗)
さやか派だったけど、最近は杏子が好きになってきたんで、彼女を主要登場人物としました。
QBさんについては…皆が「こいつUZEEEE!殴りTEEEE!」と思ってくだされば成功。

大倉都子は「ときめきメモリアル4」のヒロイン。我ながらどういう組み合わせなんだ、これ。
彼女の幼馴染がときメモ4の主人公なんですが、デフォルト名がないので漫画版準拠の名前。
しかし、ときメモ主人公の性格のクソっぷりはすげえわw
2以来の久々のときメモだったが、どうしてこんな奴がモテるんだとプレイ中ずっと疑問符が浮かぶのは
もう仕様だと思うしかねえ。
このSSではもうちょい、できるだけマシな性格に書きたいもんです。

都子と杏子の一人称は「あたし」なんですが、もしかしたら気付かずに「私」になってるとこがあるかも
しれん。こういう細かい部分の仕事が適当で雑なくせに気になる…。
と思ったら>>261の最後の方でなってたw面倒でなければ保管の際には修正していただければ…。

>>233 嫌いと好きは、表裏一体というか紙一重ですからね…ある意味、いいコンビになるかもしれません。
>>235 バカは見てて面白いですからね…レッドさん、ほんとはアレで結構頭もいいんですが。
>>236 いてもいなくてもいいとまで言われちまったレッドさんの明日はどっちだw
>>237-240 こういう団結力を見せるこのバキスレが大好きです。

>>スターダストさん
ホントにもう…胸焼けしそうなくらいに濃ゆい奴ら!(褒めてます)
味方サイドで対抗できそうなのが、パピヨンくらいしかいねえって…どうなる錬金戦団!

>>ふら〜りさん
新連載お疲れ様です!美少女戦士というと、浮かぶのはやはりセーラームーン…。
果たして刃牙と美少女生徒会長の戦いはどうなる!?
263作者の都合により名無しです:2011/06/30(木) 21:46:52.21 ID:VSmvGAHUO
まさかバキスレにまでQBに魔の手が…
魔女がいるってことはまだほむらは旅の途中?

みやこがどうか幸せになりますようにw
264作者の都合により名無しです:2011/06/30(木) 22:07:45.91 ID:J1ysXwVh0
サマサさん芸域広いと言うか、芸風通りと言うかw
魔法少女マギカは知ってるけど、観てしまうとはまってしまいそうで
見てなかったけど、サマサさんがSSにしたなら見てみるかな・・
265魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/01(金) 21:14:21.77 ID:V5VAEuLI0
第二話「奇跡になんか、頼るなよ」

―――普通の少女・大倉都子。
けれど彼女は、出会ってしまった。
人智を超えた、魔法の力と。


<魔法の使者>キュゥべえと<魔法少女>佐倉杏子との邂逅から、一夜明けて。
「…魔法少女」
都子は一人、まとまらない考えを引きずって街を彷徨い歩いていた。
―――結局。
<もう少し考えさせて>とだけ答えて、キュゥべえとは別れた。
「意外だなあ、大抵の子は二つ返事なのに」
まあいいや、とキュゥべえは呑気そうに言う。
「契約したくなったら、心の中でボクを呼んでくれるだけでいい。すぐに駆け付けて、契約してあげるよ」
「…契約」
「自分の気持ちと、しっかり向き合って、その上で決めるんだ。選択権は、キミにある」
とはいうものの、都子は未だに決断できずにいた。
(魔法少女になれば…引き換えに、どんな願いも一つだけ叶う)
今の彼女にとって、あまりにも魅力的な取引ではあったけれど。
その後は―――どうなる?魔法少女として、恐ろしい魔女と命ある限り戦う運命を背負う事となる。
アニメの主人公みたい、だなんて能天気にはしゃぐ事はできない。
それよりも、都子を迷わせているのは、願いの内容だ。

―――輝明を、あたしに振り向かせたい―――

でもそれは…本来なら、自分の力でどうにかすべきではないのか?
奇跡に縋って、彼の心を無理矢理に自分に向かせたとしても―――
「本当に…それでいいの?」

そんなので、恋を成就させても―――
いつかきっと、後悔するんじゃないだろうか―――

一晩中、ベッドの中で一睡もせずに考えた。
それでも答えは出せずに、堂々巡りに終わってしまった。
朝になって、制服を着て、鞄を持って。だけど学校に行く気になんかなれずに。
当てもなく、ただぼんやりと歩いていた。
「おい。そこのあんた」
だから最初、それが自分に向けてとは気付かなかった。
「あんただよ、あんた―――大倉都子」
「え…」
振り向けば。
266魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/01(金) 21:15:13.25 ID:V5VAEuLI0
「何してんのさ、平日の真っ昼間からそんなカッコで。学校はサボリかい?」
―――昨夜の戦装束とは違い、爽やかな印象を与える薄い色合いの上着に、ショートパンツ。
色気のない格好だが、それが逆に彼女の自然な健康美を引き立てている。
「佐倉…さん?」
「杏子でいいよ」
そう言って。
「食うかい?」
杏子は、ポッキーを差し出してきた。
都子は怪訝に思いながらもお礼を言ってそれを受け取る。
「綺麗に食べろよ。食い物を粗末にする奴は最低だからな」
「う、うん…」
しばし無言で、二人でポッキーを齧る。
どうにも杏子の真意を掴みかねて、都子は少々居心地の悪い思いだった。
「なあ…都子。まだ契約してないみたいだけど、結局あんた、どうすんの?」
不意に、杏子はそう訊ねてきた。
「昨日も言ったけど、あたしはお薦めしないよ」
「…でも」
振り切るには―――あまりにも甘い誘惑だ。
「正直に言っとくけどね。これはあんたの為というより、あたしの為だ」
言って。
杏子は掌に乗せた何かを、都子に見せる。
「それは…」
「これが、ソウルジェム…魔法少女の証さ。その様子じゃ、キュゥべえに教わってないみたいだね」

―――戦装束の杏子の胸元で輝いていた、あの真紅の宝石。
ソウルジェム。

「魔法少女の魔力の源。しかして、魔法を使えば使うほど、奇跡を起こせば起こすほど、この石は穢れていく」
「穢れる」
「真っ黒に穢れ切ったら…どうなるのかね?ま、死ぬんじゃないの」
おかしくなさそうに、杏子は笑う。
「その穢れを浄化するためには、とあるモノが必要だ」
そう言って杏子が取り出したのは、美麗な装飾が施された球体。
「グリーフシードというモノでね…ソウルジェムの穢れを祓う事ができる、唯一のアイテム。魔女を倒せば、コイツ
が手に入るが―――どうしたって数に限りがあるからね。グリーフシードを巡って、魔法少女同士で争う事も珍しく
ないんだ」
つまり。
「魔法少女同士ってのは仲間じゃない…商売敵さ」
ポキィっ!
派手な音を立てて、ポッキーを噛み砕く。
「従って、あたしとしては新しい魔法少女の誕生なんか迷惑なんだよ。文字通りの死活問題だからな」
「…………」
「そうでなくとも帰る家があって、家族がいて、暖かいメシが食える―――そんな恵まれた奴が、魔法少女になんざ
なるんじゃねえよ」
「恵まれてる…ですって…!?」
267魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/01(金) 21:16:42.64 ID:V5VAEuLI0
その言葉に我慢できず、都子は思わず立ち上がり、杏子を見下ろして喚き散らす。
「何が恵まれてるってのよ!?あたしにだって…あたしにだって、願いがあるわ!」
「―――そうか。どんな願いだ」
「…輝明、に」
健気に、一途に想い続けた、幼馴染。
「あたしの事を…好きに、なって、ほしい…」
「惚れた腫れたの話かよ…個人的にはどうかと思うね。魔法で人の心をどうにかしようなんて…最悪だ」
「それでも…」
知らず知らずの内に、涙が零れた。
「それでも、好きなの…鈍感で、あたしの気持ちに全然気付かなくて…だけど…嫌いになんか、なれない…」
「…………」
「あたしは…あいつが好きなの…命を捨ててもいいって、思えるくらいに…」
すっと、ハンカチが差し出された。
ぶっきらぼうに、杏子は「拭けよ」と都子の手にハンカチを押し付ける。
「…あり、がと」
「あんたなりに、命を賭けるに足る理由だってのは分かったよ…でもな、それでもやめとけ」
杏子は、断固とした口調で語る。
「運命を捩じ伏せ、従えたつもりでも―――そのツケは、どこかで払わされるんだ」
とても払えないような利子をつけてね、と、杏子は自嘲気味に笑った。
「希望と絶望は差し引きゼロ―――奇跡の名の下に因果を歪めた報いは、いつか必ずあんたに襲い掛かるよ」
「差し引き…ゼロ」
「あたしも、魔法少女は何人も見てきたけど…願いを叶えて幸せになった奴なんて、会った事ないね」
杏子は笑みを消して、真摯な眼差しで都子を射抜いた。
「だから、魔法少女になろうなんて考えるな―――人として生きろ」
「…………」
「失敗したあたしが言うんだ。間違いない」
失敗。何気なく言ったのだろうが、それはとても重いものを秘めているのだと、都子は感じた。
「…杏子は」
「あん?」
「杏子は…どんな、願いを?」
「言いたくねえ。言う義理もねえ」
短くも明瞭な否定。しかし、その一瞬浮かべた苦渋の色が、雄弁に物語っていた。
自分も、魔法少女達の例外ではない。
たった一つの願いを叶えても―――幸せになどなれなかった、と。
「ま、それはそうと、都子。色恋沙汰なんて理由ならさ―――」
杏子はニカッと笑い、ビシっと人差し指を都子の鼻先に突き付けてくる。
「あんた、そんだけ可愛いツラしてるんだ。もっともっと自分を磨いて、振り向かせればいいじゃねーか!」
「杏子…」
「自分自身で勝負しな。奇跡になんか、頼るなよ」
そう告げられて―――都子は、思わず微笑んだ。
「いい人ね、あなた」
「ハンッ!さっきも言ったけどあんたの為じゃねえ。同業者なんか増えても、あたしには損な事しかねーからな」
自分の為だ、と杏子は嘯(うそぶ)く。
268魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/01(金) 21:20:01.81 ID:V5VAEuLI0
「それでも…ありがとう」
ぐっ、と。杏子は食べ物が喉に詰まったかのように顔を赤くして、そっぽを向く。
「だ、だから!お礼なんか言ってんじゃねーよ!…ったく。白けた白けた。あたしはもう行くぞ!」
「うん…それじゃ、また」
「バカ言え。あたしとしちゃ、あんたがこのまま平和な日常に戻って、二度と顔を合わせないっつーのが最良さ」
憎まれ口を叩きながら、杏子は街の雑踏へと消えていく。
その後ろ姿を、都子はずっと見送っていた。
かつて、同じ選択を迫られ―――そして奇跡を選んだ、彼女の姿を。


―――数時間後。
都子と杏子が語り合った、その場所で、汗だくになって走る少年の姿があった。
髪はあまり手入れされておらずボサボサだが顔立ちは整っており、異性にはそれなりに好かれる部類だろう。
電柱に手を着き、深呼吸して荒い息を静める。
「都子…」
呟くのは彼にとって、とても大切な女の子の名前だった。
彼の名は―――永井輝明。
大倉都子の、幼馴染。
「どこに行っちゃったんだよ…お前…」
学校に、都子は来なかった。
彼女の家に電話しても、今朝は確かに登校したと言われた。
いても立ってもいられず、学校は自主休校し―――つまりサボリである―――都子を探して街中を駆けずり回り。
それでも、影も形も見つからない。
「…俺の、せいか」
思い出す。都子と共に過ごした、昨日の昼休み。
彼女の作ってくれた弁当を食べながら、無神経に放ってしまった言葉。

―――きっと都子は、いい男を見つけて、素敵なお嫁さんになるよ。
―――結婚式にはさ、俺も幼馴染代表として呼んでくれよな。

こんな言葉は、彼にとっても本心ではなかった。
輝明だって―――都子の事は、憎からず想っていたのだ。
けれど彼は<鈍感が服を着て歩いている>とまで評されている男である。
都子も自分を好きでいてくれている、なんて、まるで気付かずに。
(都子が俺に優しくしてくれるのは…単に、幼馴染だからだよな)
(恋人が出来たりしたら…もう俺に、構ってくれないよな)
そんな風に考えてしまって、半分やけっぱちで、あんな事を言ってしまった。
そして―――都子を傷つけた。
「ごめん…都子」
今となっては、理解するしかない。
自分が都子を想うように、都子もきっと、自分を想ってくれていたのだと。
269魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/01(金) 21:21:11.71 ID:V5VAEuLI0
だから―――あんなに、泣いて。
過去に戻れるのなら、自分を蹴り飛ばしてやりたかった。だけど、そんな事は出来ない。
ならば、自分に出来る事は、一つだけ。
都子を見つけて、謝って。そして。
もう手遅れかもしれないけれど―――自分の気持ちを、伝えよう。
「昨日の昼休み…本当は…俺の嫁さんになってくれたらいいのになって…そう、言いたかったんだぜ」
ぐっと歯を食い縛って、再び駆け出した。
都子を。
大事な人を、求めて。


―――そんな彼の姿を、電柱の上から観察する者がいた。
「ふーん…永井輝明。なるほどね」
魔法の使者―――キュゥべえ。
街往く人々は誰一人、彼の姿には気付かない。
彼自身から姿を見せぬ限り、誰もキュゥべえを認識する事は出来ないのだ。
「それにしても、人間というのは理解できないよ。愛だの恋だので右往左往…」
まったく。
わけが分からないよ。
それがキュゥべえの、正直な感想だった。
「ま、いいか…そんな事は、ボクの知った事じゃない」
瞳を歪ませ、キュゥべえは冷徹に輝明を見つめる。
その様はまるで、配られた手札をチェックする、カードゲームの参加者のようでもあった。
彼にとっては人間なんて、使えるのかそうでないのか、その二つにしか区別されていないのだ。
「魔法少女の強さは才能だけじゃなく、契約の際にどんな願いを叶えるか。それにも相当に左右されるからね…」
大倉都子は、最上級とまではいかないが、逸材と称して差し支えない素質を秘めている。
それでも願い事次第では<並の魔法少女>程度に成り下がってしまうだろう。
「誰かに自分を好きになってもらう、ってのも別にいいんだけど…正直ちょっと弱いなあ。おまけにあの永井輝明
も、都子に対して好意を抱いてるみたいだし。これじゃあ願い事にならないかもね―――そもそも、輝明が都子を
見つけちゃったら、都子は魔法少女になるつもりなんてなくなっちゃうんじゃないかなぁ」
面倒な事だなぁ。恋愛なんて、所詮は性欲に起因する劣情を綺麗に言い換えただけの言葉なのに、と。
キュゥべえは嘲りすらせずにそう思った。
ともかく、折角の上等な素材を準備段階で台無しにしては、元も子もない。
キュゥべえは考える。
「できればもっともっと、強い感情で、純粋な祈りで、気高き願いで契約してもらいたい所だ」
そのための布石は、打てるだけ打っておくべき。
キュゥべえはもう一度、永井輝明を一瞥する。
大切な幼馴染の姿を探して、必死に駆ける少年を。
「大倉都子への最後の一押しとして、彼にも精々、活躍してもらおうかな」
そして、キュゥべえは地面に降り立ち。
輝明に向けて、ゆっくりと歩き出した―――
270サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/07/01(金) 21:54:49.12 ID:V5VAEuLI0
投下完了。第二回。
自分でも驚くくらい書けるな…サンレッドも書かなきゃだし、この調子でハイペースのまま終わらせたい。
誰もが誰かを思いやる中、自分の事しか考えてねーQBさんは自分で書いててマジパネェっす。

杏子は利己的で、顔も名前も知らない連中がいくら死のうが気にしないような所もあるんですが、反面、
情を移した相手に対しては自分がどんな不利益を被ろうとも身を挺して助けたりするような、ボロボロに
擦り切れてるんだけど、心の奥底に捨てきれない優しさを持った魔法少女です。
キツイ言動の向こうにはきっと、誰よりも思いやりが溢れている…はず。

>>263 時系列としては、ほむらがまどかと出会う更に前の話という感じです。それにしては杏子がちょっと
    優しすぎるかな…都子が幸せになれるかどうかは…契約しちゃったら、無理だろうな(汗)

>>264 まどマギは蝶・オススメのアニメです。そんじょそこらの魔法少女モノはもう飽きた、そもそも
    魔法少女は好きじゃない、という方にこそ個人的には見てほしい。
271作者の都合により名無しです:2011/07/02(土) 20:07:03.64 ID:At5TiZ0b0
サマサさんはたまに女じゃないかと思えてくる。ポエミーなところが。
普通の少女の感覚を良く書けるね
272作者の都合により名無しです:2011/07/02(土) 20:29:41.72 ID:Nqx+HOiz0
しばらく見ないうちに随分と題材がオタ臭くなったなー
273作者の都合により名無しです:2011/07/02(土) 22:03:12.30 ID:fWfQUMmb0
サマサさん健筆だなー
俺もまどマギって知らないけど、サマサさんの文体が好きなんで
今回のSSも楽しみにしております。レッドさんの事も忘れずに頑張って下さい。
並の魔法少女も凄いと思うけどなー
274美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/07/03(日) 18:27:00.17 ID:qhVoZ8egP
>>255

刃牙の困惑の重さが1000トンになった。100トンハンマーの10倍だ。これは重い。
「…………それはイタリアンジョークですか?」
「どうしてイタリアが出てくるのか興味は尽きないけど、とりあえず置いておくわね。
範馬君、まさか女の子を殴るなんてできませんとか言わないでしょうね?」
「いや、そこは『まさか女の子を殴れるなんていわないでしょうね』だと思うんですけど」
「普通はそうかもしれないけど、あなたは格闘キャラでしょ」
「キャ、キャラ? とにかく俺は女の子を殴ったことなんてないし、これからも
するつもりはないし、だから当然、会長だって殴れませんよ」
と刃牙が言うと、会長はちょっと冷めた顔になった。
「ふぅん。それは困ったわね。それじゃあ使えないわ」
「使えるも使えないも、俺の過去を調べたのなら知ってるんでしょう? 俺が何の為に
格闘技をやってるのか、俺の目標が何なのか、俺が打倒したいのは誰なのか」
力説する刃牙に、会長は冷ややかな声で応じる。
「男と生まれたからには、誰でも一生に一度は夢見る『地上最強の男』。グラップラーとは、
地上最強の男を目指す、格闘士のことである……なんて言葉があるんだけど。
範馬君だって、男の子なんだから憧れてるんでしょう? 地上最強に」
「それは、もちろん」
「だったら、私ぐらい倒してみなさいよ。できないの? それなら降参で不戦敗よ」
「いいですよ。会長がそう思うんなら、そう思ってくれて結構です」
ちょっとカチンときたので、刃牙の声にトゲが生える。
会長は溜息をつき、やれやれと首を振って、
「ガンコねえ。やっぱり、理屈ではわかってくれないか。だったら実力行使と
いきますか。体で痛みを感じれば、嫌でも理解するでしょ。ま、理解した時には
既にKOされてる、ってことになるかもしれないけどね」
会長は不敵な笑みを浮かべた。
その溢れる自信が、刃牙の中の警戒センサーに反応した。どう見ても会長の
体格は格闘技をやってる人間のそれではないし、歩くその動きを見ても、
武道の心得などがあるとは思えない。だが、まるっきりの一般人とは何か違う。
この奇妙な気配、異常な胸騒ぎに刃牙が戸惑っていると、
「いくわよ範馬君」
275美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/07/03(日) 18:27:53.68 ID:qhVoZ8egP
会長は、まるで舞踏のように優雅な動きで、右腕を水平に後ろに引いた。
すっ……と音の聞こえそうな、綺麗な動作だ。
そしてその腕を、刃牙ですら目にも止まらぬ速度で振った。前方、つまり刃牙に向かって。
「ユーコスラアアアアァァッシュ!」
裂帛の気合と共に生じた衝撃波が刃牙を襲う!
「っ!?」
刃牙は咄嗟に、本能的に両腕を構えて防御姿勢をとった。その腕に衝撃波が当たって、
刃牙の体を後方にずらす。
吹っ飛ばされるというほどのものではないが、もし今、ぼーっと突っ立っててまともに
腹や胸に受けていたら、軽いダメージでは済まなかっただろう。
「な、なんだこれは?」
「ほらほら! ボサッとしてると、そのまま削り殺すわよっ!」
普段の上品な様子はどこへやら、会長は挑発的に声を張り上げて、衝撃波を
連続して撃ち出してきた。
刃牙のガードの上に、重い打撃が何度も何度も叩きつけられてくる。確かにこのままでは、
いずれ体力を削り取られ、ガードが弾かれるだろう。そしてまともにくらえば、KOもあり得る。
「くっ!」
このままじっとしてたら本当にやられてしまう。刃牙はガードを解き、
唸りを上げて飛んで来る衝撃波の上に跳んだ。
もちろん、真上に高跳びをしたわけではない。前方への幅跳びだ。衝撃波を越えて、
そのまま会長の頭上へと向かう。不本意だがこのまま(手加減して)脳天か延髄に
一撃食らわせ、気絶させようと思ったのだが、
「甘いっ!」
刃牙が跳び込んで来るのを読んでいたのか、会長は既に身を沈めていた。
姿勢を低くしてやり過ごすつもりかと思いきや、そこから勢いよく伸び上がって
高く跳び上がり、その長い脚をフルに使った、豪快な内回し蹴りを刃牙に食らわせる!
「ユーコインテレクチュアルっ!」
この蹴りにも厚い衝撃波が纏われており、刃牙は会長の足に接触していないのに
充分な重さの打撃を食らい、今度はガードしていなかったので結構なダメージを受け、
見事に吹っ飛んだ。
軽い脳震盪と何が何だかの混乱とで受身も取れず、コンクリートの地面に叩きつけられる。
276美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/07/03(日) 18:29:05.65 ID:qhVoZ8egP
「ぅぐっ……!」
「この程度なの、範馬君? だとしたら期待ハズレもいいとこなんだけど」
華麗に着地した会長が、見下した態度で言った。
刃牙を怒らせる為の挑発なのか、それとも本気なのか掴みづらい顔と声だ。
つまり、本気で刃牙を見下している可能性ありなわけで。
「まあ、これはちょっとロコツな【待ち】だけどね。でも世の中には、待ちハメなんでも
遠慮なしって輩もいるから。初心者にはキツイと思うけど、これぐらいは対応してもらわないと」
「……参ったな」
刃牙は立ち上がった。
「初心者、なんて言われちゃあ、な。しかも、どうやら本気でやらないとやられそうな強さを、
見せられちまった。悪かったよ会長。女の子だからって甘く見て……ナメてたこと、謝る」
「解ってくれたならいいわよ」
会長は、ぐっと拳を握って微笑んだ。
「私たちの界隈じゃあ、男女のキャラ差なんてないからね。一切の遠慮は無用、
本気でかかってきて。私も本気でやらせてもらうから」
刃牙が構える。表情を引き締めて、気迫を込めて。
その刃牙を見て、会長はいよいよ嬉しそうな顔になる。根っから、戦うのが好きな人種の顔だ。
「いいわ、範馬君。あなたに見せてあげる。私の本気を、この榊原優子の力を、
とくと見せてあげるっっ!」
277ふら〜り ◆rXl0RuLrAVdZ :2011/07/03(日) 18:34:37.01 ID:qhVoZ8egP
格ゲー化もされましたが原作は漫画で、しかしその漫画の中でもこういうセリフが
平気で飛び交う『速攻生徒会』から、ユーコンこと榊原優子です。

にしても。天獅子悦也、吉崎観音、桜瀬琥姫、エドモンド荒川(荒川弘)、古場美一(氏賀Y太)、
その他もろもろ。コミックゲーメスト健在なりせば、後の世への影響は決して小さくなかったかと。
私としては、天獅子先生の! あの大迫力格闘がまた見たいです……

>>サマサさん
これも原作は未見、なれど噂は常々耳にしております。考えてみればアプローチの仕方が、
喪黒と同じですよねQB。で、魔女と戦うという交換条件が提示済みだから、それ以上の
マイナスはないと思ってしまう。しかも喪黒と違ってQBは自ら積極的に引っ掛けに来る、と。
278作者の都合により名無しです:2011/07/03(日) 18:44:38.22 ID:T6d9hj5I0
ほんとマニアックだふら〜りさんw
しかし、格闘美少女VS刃牙という構図は中々映えるな

>>喪黒と同じですよねQB
いや、正直QBの前では喪黒はすげえ善人に見えるぞ…
契約した後で説明されてないマイナスがわんさか出てきて「聞かれなかったからね」と
平然とかます悪魔だ、あいつは
279作者の都合により名無しです:2011/07/03(日) 22:31:25.97 ID:hQNaoqiyO
>QB
ウシジマくんが善人に見えるレベルだしなぁ
280魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/04(月) 13:09:31.13 ID:RVe8HI1J0
第三話「ぼくが、ぜったい、守ってあげる」

―――それは昔の話。
意地悪な男子にいじめられて、女の子は泣いていた。
大した理由でもない。
女のくせに生意気だ、とか、それこそ言いがかりみたいなものだった。
「やめろ!」
いじめっ子に、殴りかかる男の子がいた。女の子の隣の家に住む子供だった。
「みやちゃんをいじめるなー!」
どれだけ殴り返されても男の子はいじめっ子に食ってかかって、とうとう最後には逆にいじめっ子を大泣きさせて
退散させた。
そして、まだ泣き続けている女の子に、笑いかけた。
「泣かないで、みやちゃん」
「う…ぐすっ…」
「みやちゃんをいじめる奴は、ぼくがやっつけてあげるから」
「てるくん…」
「みやちゃんは、ぼくが、ぜったい、守ってあげる」
「―――うん!」


―――それは、子供時代の思い出。
(輝明は、きっともう…あの頃の事なんて、全部忘れちゃってるんだろうな…)
それでも、都子にとっては大事な記憶だった。
大切な―――輝明との思い出だった。


―――夜の帳(とばり)が落ちた街外れ。
数年前に廃校となり、取り壊しもされずに打ち捨てられたとある学園。
ボロボロに朽ちた校舎の前で杏子は鯛焼きを頬張りながら、うんざりして言う。
目の前にいるのはキュゥべえ―――そして、都子。
「キュゥべえ。あたしは言ったろ?後輩育成はガラじゃねえって」
「まあ、今回だけ頼むよ。都子にはもう少し、現場を体験してもらいたいんだ」
ちっ、と舌打ちして、目線を都子に移す。
「都子…あんたにも、何度も忠告したろ。魔法少女になんかなるなって」
「分かってる。これで…最後にする」
都子は、そう言った。
281魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/04(月) 13:10:56.27 ID:RVe8HI1J0
「これで、決める。進むのか、踏み止まるのか」
「ね?都子もこう言ってるし、今夜の魔女退治に同行させてあげてよ。知らない仲じゃないんだし」
「…はぁーっ」
わざとらしく息をついて。
「言っとくけど、一から十まで面倒は見切れないよ。基本的に、何かあったら見捨てる方向で行く」
「うん。ごめんね、杏子。無理言って」
「何かあったら見捨てるっつってるだろうが。そう言いながら助けてくれる、なんて期待すんなよ」
「大丈夫さ、都子。何かあったらボクを呼んで契約すればいい。一瞬で終わる」
任せておきたまえと、とでも言いたげに、キュゥべえは胸を張った。
と思うと、くるりと振り返って歩いていく。
「おい、どこ行くんだよ?」
「ボクにもちょっと用事があるんだ。大丈夫、すぐに戻るよ」
そのまま返事も聞かずに去っていくキュゥべえ。それを見送った杏子は、忌々しげに眉を歪める。
「あの野郎、何を企んでやがる…まあいい。とりあえず、準備するか」
杏子はソウルジェムを右手に掲げる。身体から魔力が溢れ、真っ赤な光の洪水に呑み込まれていく。
一瞬にして杏子はラフな普段着から、勇壮な魔法少女の姿へと変身していた。
「…すごい。分かってたけど、本当に魔法少女なんだね」
「感心すんなよ、こそばゆい…」
「ふふ、ごめんね」
「ちっ。いいか、都子。さっきも言った通りあたしはあんたを助けない。来るのなら、自己責任だ」
「うん…覚悟はしてる、つもり」
「…なら、行くよ。ついといで」
さっさと歩き出す杏子の背を、慌てて追いかけていく。
しばし進むと、杏子は立ち止った。
「…ここだ」
手にした槍の穂先で指し示した場所は、一見するとごく普通の壁にしか見えない。しかし―――
よく目を凝らしてみると、分かる。
282魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/04(月) 13:12:19.83 ID:RVe8HI1J0
空間が―――世界が、歪んでいる。
臆する事なく、杏子は足を踏み出した。こんな事はもう、何十回と繰り返したとでも言いたげに。
そして実際に、彼女にとっては何百回と繰り返した事であった。
都子は少々腰を引かせつつも、杏子に倣って歪みへと飛び込む。
魔女の張り巡らせた、結界へと―――


―――その、僅かに数分後。
息を切らせて、一人の少年が魔女の結界の前に立っていた。
都子の幼馴染…輝明。
どこから調達したのやら、その手には鉄パイプが握られている。護身用という事か。
その足元には、キュゥべえの姿。
「こ…ここに、都子が…?」
「うん。急いだ方がいいよ。こうしている間にも、彼女に危機が迫っているかもしれない」
したり顔で、キュゥべえはそんな事を言う。
大体がお前のせいなんだろうが、と言いたいのを、輝明はぐっと堪えた。自分にはそれを言う資格はない―――
自分がもっと都子の気持ちを察していれば、そもそもこんな事になっていないのだ。
輝明がキュゥべえと出会ったのは、昼間の事だった。
都子の影も形も見つからず、当然携帯も繋がらず、焦りだけが募っていた所へ現れた、この怪しい生き物。
彼は驚く輝明に対して、簡潔に説明した。
魔法少女。魔女。己との契約。都子の置かれた現状。
あまりにも信じ難かったが…ならば目の前にいる明らかに規格外のナマモノを、どう説明しろというのか。
「残念ながらボクも都子とはぐれちゃってね。居場所は分からない―――けど、見つけたらキミにも伝えよう」
「…………」
どこまで信じていいか分からないが、都子を探す手立てもない今、このキュゥべえとかいう胡散臭い珍獣の言う事
を聞くしかなかった。
そして、夜になって、ようやくキュゥべえが「都子が見つかったよ」とやって来た。
そして、ここまで来る道すがら。

「頼りになる魔法少女が一人、そばに付いてるとはいえ、危険だよ。連れ戻した方がいいだろうね」
「…………」
「それを任せられるのは、キミだけだ。彼女もキミの言う事なら、聞いてくれるだろう」
「…………」
「今の都子は、精神的に随分と参ってる。そこにつけ込んで契約したくはないよ。ちゃんと落ち着かせて、その上
で決断してほしい。そのためにキミも都子を説得してくれないかな?」
「…………」

そんな言葉を、並べ立てた。
はっきり言って、つつけばいくらでもボロが出そうな相手だが、今は追及している時間もない。
キュゥべえ自身、恐らくはそれを分かっていて、多少強引にでも輝明を焚きつけているのだ。
―――ボクに難癖つけてる暇があったら、都子を追いかけなよ―――
その一見とぼけた顔に底知れない真意を隠して、キュゥべえは輝明を急き立てる。
283魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/04(月) 13:13:46.86 ID:RVe8HI1J0
「…テメェになんか、言われるまでもねえよ」
鉄パイプを強く握り直して、輝明は魔女の結界へと一歩、歩み出す。
「都子は俺が、絶対に守る―――絶対にだ」
歪みが、輝明を呑み込んでいく。それを見送り、キュゥべえは表情一つ変えずに呟く。
「都子を守るって…脆弱な人間であるキミが、魔女から?無理に決まってるじゃないか」
淡々と、事実だけを告げるように。
「ま、いいさ。キミは大倉都子を釣り上げる為の餌に過ぎないからね―――何十億という多少増え過ぎた哺乳類が
一人くらいどうなろうと、宇宙全体から見れば、どうという事はない。誤差ですらないよ」


―――結界内を、杏子の背に張り付くようにして、おっかなびっくり都子は歩く。
まるで童話に出てくるような暗い森の中だった。
木々は歪み、曲がり、捩子(ねじ)れて、捻(ひね)くれて、鳥や獣どころか虫の気配さえもない。
今の自分の心の中みたい、と都子は思った。
何をしていいのか分からなくて、グチャグチャで、真っ暗で。
「なんか…今にも、お化けとか出そうだね」
「出るに決まってるだろ、おっそろしい魔女が」
にやり、と杏子はシニカルに言ってみせる。
「怖くなったのなら、家に帰りな。そして魔法少女だの魔女だの忘れて、二度と関わろうとするんじゃない」
「杏子は、そればっかりだね」
「それが一番平和だからさ。あたしは商売敵が増えずに済む。あんたは人間やめずに済む」
「…………そうなの、かな」
「そうだとも。あたしに言わせりゃどいつもこいつもあれこれ考えすぎだよ。もっとシンプルに、そして自由気儘に
やればいいのにさ」
「自由気儘」
「自分勝手と言ってもいいよ…特に、都子」
杏子は、鋭い目付きで都子を見据える。
「あんたに関しては魔法少女になるにせよ、ならないにせよ…もうちょっと、自分勝手に生きるべきだよ」
「そんな事、言われたって」
「そうじゃないと、辛いばっかりさ―――あたしの知ってる、とある魔法少女のようにね」
そう前置きして、杏子は語り始めた。
「そいつの名は巴(ともえ)マミ…銃使いの魔法少女。なんつったらいいかな…あたしとは、正反対だ」
「正反対」
「あたしは他人なんざ、知ったこっちゃねえ。自分の為だけに生きてる正統派魔法少女だ。対してあいつは自分
の身の危険を省みる事なく、他人を救う為に生きてる。云わば異端系魔法少女さ」
「立派…だと、思うけど」
「魔法少女としちゃ、失格だよ。この稼業はテメェの事を第一に考えなきゃ、死ぬだけだからな―――自分よりも
他人を優先するようなやり方で、よくぞ何年も生き残ってるもんだと思うよ、マミの奴は」
ただね、と。
杏子は顔を曇らせて続ける。
284魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/04(月) 13:15:56.65 ID:RVe8HI1J0
「そのせいで、あいつはきっと、あたしとは比べ物にならないくらいキツイ思いをしてる」
「…………」
「マミがどれだけ他人の為に戦おうが、誰にも感謝なんてされない。それ以前にマミが魔法少女として戦っている
事そのものを誰も知らない。見返りなんて何もない」
「そん、なの」
聞いているだけで―――辛すぎるじゃない。
どれだけ必死になっても、誰にも理解されないなんて。
「そう。だからあたしも、顔を合わせる度に言ってやるんだ。もっと自分に正直に生きなよ、ってね―――けど、
あいつはいつも笑って言うだけだ。これが自分の生き方なんだって。逆にあたしに説教する始末だよ、もっと他人
を思い遣りなさい、ってね」
「…本当に、そう思ってるのかな」
「無理矢理にでもそう思わなきゃ、やってられねえんだろ…と、あたしは解釈してるよ」
くくく、と杏子は薄く笑う。
「分かったかい。他人の為に生きるなんてバカらしいんだ。開き直って、自分勝手にやるべきなんだよ」
「でも…杏子だって」
「あん?」
「杏子だって、本当は、誰かの為に戦う魔法少女に憧れてるんじゃないかな」
「なっ…」
虚を突かれたように、杏子は絶句した。都子は、続ける。
「それこそ自分勝手にだけど、あたしは、そう思うな」
「…はっ。昔はそうだったかもね。こんな力を手に入れて、正義の味方気取りだった気もするよ―――今じゃもう
見る影もないけどね」
杏子は殊更に悪ぶってみせる。照れているのかもしれない。都子は何だか、微笑ましい気持ちになった。
「杏子。杏子はまるで自分の事を、悪い奴みたいに言うけど…あたしは、そうは思わない」
「な、何だよ。じゃあどう思ってんだ」
「杏子は、いい子だよ―――口が悪いだけで、とってもいい子」
今度こそ、杏子は顔を真っ赤にして押し黙る。それがおかしくて、都子は少し気持ちが晴れた。
「―――ちぃっ!」
その時だった。血相を変えて、杏子が槍を構える。
「え。きょ、杏子、どうし―――」
「じっとしてろ!魔女の使い魔だ―――!」
森の奥から、たくさんの影がタンゴでも踊る様に軽快な音楽を響かせて這い出てきた。
グネグネと蠢きながら、影は形を変えていく。
能面のように無表情な人の頭部に蝶の翅が生えて、パタパタと飛んでいる。
子供の落書きみたいなデッサンの崩れた馬の背に乗った、これまた歪んだ姿の白い鎧の騎士。
そんな、出来の悪いホラー映画の怪物みたいな連中が、大挙して押し掛けてくる。
「な、何、これ…」
「魔女の手下…使い魔だよ。強かねえけど、数が多いのはちょっと厄介だ」
ヒュンヒュンと、槍を風車のように振り回しながら、杏子がこの状況をむしろ楽しむように言う。
285魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/04(月) 14:07:28.04 ID:RVe8HI1J0
「離れときな、都子。下手にしゃしゃり出てあたしの邪魔するなら、こいつらに食わせちまうぞ」
「う、うん…」
顔面蒼白のまま、都子は後ろに下がる―――と、その瞬間、底なし沼に落ちたかのように足が地面に沈んだ。
「え―――」
「…!都子っ!」
杏子が手を伸ばしても―――遅かった。一瞬にして、都子は地面に吸い込まれるようにして消えていた。
「く、くそっ…!あのバカ、どんだけあたしを困らせりゃ気が済むんだ!」
地団駄を踏みたかったが、そんな余裕は杏子にはない。使い魔達が一斉に襲い掛かってくる。
「…おおおおぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
一閃。
傍目には闇雲にブン回したようにしか見えない槍が、正確に使い魔達を貫き、薙ぎ払う。
都子を探すにしろ何にしろ、とにかくこいつらを手早く片付けないことにはどうにもならない。
魔法少女としての長年の経験が、杏子の思考から闘争に必要な事柄以外の全てを消していく。
冷徹に。冷酷に。余計な事は一切考えない、単なる戦闘マシーンになれと、己に言い聞かせる。
それでもなお、その片隅に―――都子の姿が、僅かではあったが、残っていた。


―――都子は狭いトンネルの中を転げ落ちていた。
雪だるまなら、ものすごい大きさになってるなあ、なんて呑気な事を考えている場合ではない。
やがて、トンネルの向こうに穴が開いたかと思うと、ポイっと放り出された。
無造作に地面に投げ出されて尻餅をつき、涙目になりながらもどうにか立ち上がる。
広大な空間。その中央には、大きな泉。
「…………?」
気になって、泉に近づき、覗き込む。
ゴボッ…ゴボッ…ゴボッ…奇怪な音を立て、水泡が上がる。
「な、何か、いるの…?」
後ずさる都子の目の前で、ゾゾゾゾッ…と泉が盛り上がっていく。
そして―――<魔女>が、その異形を露わにする。
それは、蛙だった。
トラックほどの巨大な身体を持つ蛙。
まるで甲殻類のような外殻に覆われたその巨体は、しかし鈍重さを感じさせない。
異常なまでに大きな目玉をぐりぐり動かしながら、無限に伸びているのではないかと思わせる長い舌をチロチロ
と覗かせながら、蛙の姿をした魔女は、形容不能な叫び声を上げる―――


「蛙の魔女―――その性質は<空想>」
「大好きな童話の世界を模した自らの結界の中で、空虚な妄想と戯れる魔女」
「自分を迎えに来てくれる白馬の王子様を待ち続ける、夢見がちな魔女」
「さあ。大倉都子。仕上げだよ」
「彼女の儚い空想を、魔法少女と化したキミの力で、打ち砕いてやるといい」
286サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/07/04(月) 14:14:31.96 ID:RVe8HI1J0
投下完了。
夜勤明けで頭が痛い。これで眠る…。

>>271 いや、もうすぐ30になろうかというムサい男です(笑)
>>272 昔からですよ…。
>>273 まどマギについてはもう、QBが全て。こいつが全部持ってった。

>>ふら〜りさん
速攻生徒会は知らないけど、待ちハメとかが格ゲーっぽいw
刃牙もここは超必殺技・ゴキブリダッシュで対抗するしか!(この時期だとまだ覚えてないって)
QBは魔法少女史上、というかアニメ史上最強クラスの詐欺師だと思います。

>>278-279
喪黒は約束を破らなければ助けてくれるし、ウシジマくんですら男気を見せた相手には
彼なりの誠意で答えたりするし…
QBはもう、そういう感情の持ち合わせすらないというね
287作者の都合により名無しです:2011/07/04(月) 17:56:57.14 ID:23Z6n5250
QBってのがなんなのかは知らんが
笑ゥせぇるすまんは不可避としか思えない破滅や
マジで単に破滅させたかったっぽい話が普通にあるぞ
288作者の都合により名無しです:2011/07/04(月) 23:17:05.60 ID:gVF2B4zv0
ふらーりさんは引き出しが常人とは違い過ぎるw
俺が知ってるのは天獅子悦也だけ、しかもむこうぶちっていう
麻雀漫画だけだ・・

サマサさんもちょっと違うけど、メジャーなマイナーどころから
持ってくるからな。結構知っているものが多い。
ふらーりさんはマイナーの中のマイナーを持ってくるからw
289作者の都合により名無しです:2011/07/05(火) 20:03:25.50 ID:KatbnNUF0
まどマギはあんまり知らんが、自分勝手に生きるのが正統派で他人を助けるのが
異端な魔法少女ってのもすごい話だわ…
でも杏子も何だかんだで優しい子みたいでちょっとほんわかする
290作者の都合により名無しです:2011/07/05(火) 20:24:22.26 ID:lguKKEeD0
QBを見ると小学生にロボットを押し付け、(止むを得ない事情があったとは言え)強大な敵との
命懸けの戦いを強要したエルドランを思い出す。「契約」数も3年間で39人とこの手のアニメではかなりの数を誇るしw
291魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/06(水) 20:56:24.77 ID:ZmoVA8mm0
―――幼い子供の頃は、誰もが想像し、創造する。
無敵のスーパーヒーローや素敵なヒロイン。
或いは…彼らと敵対する、恐ろしい怪物。
子供達にとっては、それらは憧憬の対象であり、尊敬の対象であり、そして恐怖の対象であり。
何よりも、身近に存在する現実であった。
けれど、それは所詮は空想に過ぎないのだと、やがて誰もが悟っていく。
この世にはヒーローもヒロインもTVの中にしかいないし、怪物だっていない。
そうやって、現実と向き合っていくのだ。しかし。
ならば今。
大倉都子の目の前の<現実>とは―――何なのだろう。
正しく、幼き日の空想の産物としか思えない、おぞましい魔女(バケモノ)は―――


「グゲゴグゲゴグゲゲゲゲゲゴ!!!!」
異様な鳴き声―――或いは笑い声?―――を発しながら。
ヌメヌメとじめつく肌を引き摺って。
蛙の魔女が、都子に近づいていく。
「ひ…ひぅっ…!」
怯えながらも、都子は金縛りに遭ったように指すら動かす事ができない。
恐怖。
蛇に睨まれた蛙―――この場合は、蛙に睨まれた人間だが―――という陳腐な表現を、都子は己の身を以って体感
する羽目になった。
(逃げなきゃダメだ、逃げなきゃダメだ、逃げなきゃダメだ、逃げなきゃダメだ)
(助けて、助けて…誰か…)
思考ばかりがグルグル渦巻いて、肝心の足は全く動いてくれない。
蛙の魔女が、その粘着質な唾液に塗れた舌を、都子の眼前で見せ付けるようにブラブラと揺らす。
ペチャリ…
頬を一舐めされて、都子は心底から震え上がった。
足から力が抜けて、立っていられない。へたり込む。
本能的に、理解してしまった。
この魔女は、あたしを一思いに殺さない。
猫が鼠を甚振るように、じっくりと恐怖する様を楽しんで、ゆっくりと殺すんだ。
殺す―――死ぬ―――この世から、消える―――
(ヤダ…そんなの…いや!)
声も出せずに、都子はそれでも助けを求めた。
(助けて…お父さん…お母さん…)
生まれてからずっと自分を育て、守ってくれていた、両親の顔。
(助けて…杏子)
先日出会ったばかりの、厳しくも優しく、都子を案じてくれた魔法少女。
そして。
292魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/06(水) 20:59:11.95 ID:ZmoVA8mm0
(輝明…)
大切な、幼馴染。
鈍感で、ズボラで、だけど。

―――ぼくが、ぜったい、守ってあげる―――

都子がいじめられている時には、いつも守ってくれた、輝明。
(輝明…!)
都子は全身から力を振り絞って、硬直した身体を無理矢理に動かしてその名を叫んだ。
「助けて…輝明!」

「―――都子から離れろぉ、このバケモンっ!」

怒声が響き。蛙の魔女の顔が、横手から殴り付けられる。
さして効いてはいないようだったが、驚いたのか大きく跳ねて後方へ飛び退いた。
都子は呆然と、その顔を見上げる。
杏子が来てくれたのかと思ったが、そうじゃないのも分かっていた。
あの声は―――自分が、誰よりもよく知る声だったから。
「遅くなってごめん、都子…怪我はないか」
「てる…あき…」
都子の幼馴染で、想い人の少年。
どれだけ急いで駆け付けたのか、汗塗れの顔に、荒い息。
魔女を手加減抜きでブン殴ったせいで、鉄パイプを握り締めている両手は痺れているようだった。
それでも輝明は、都子が傷つけられていない事を見て取り、安堵して笑ってみせる。
「よかった…何とか、間に合ったか」
「なん、で…あなたが」
「話すと、長いんだけど。お前がどういう事になってんのかは、白いのから大体聞いた」
「白いの…」
間違いない、キュゥべえだ。何故、あいつが輝明を?
「…話したい事や、言わなきゃいけない事はたくさんある。けど、今は…」
輝明は、蛙の魔女を睨み付ける。
「あいつが許せない。都子を襲おうとした、あいつが」
「輝明…」
「都子。お前は逃げるんだ…時間は、俺が稼いでやるから」
「そんな…無茶だよ!」
「大丈夫。俺も逃げ足は速いんだ。とりあえずもう一発殴ってやったら、すぐに逃げる」
鉄パイプを握り直した所で、蛙の魔女が再びにじり寄ってくる。
それに向けて、輝明は叫んだ。
「来いよ、蛙ヅラ。都子をいじめるような奴はな…昔から、俺がブン殴ってやったんだ!」
「…………!」
輝明の言葉に、都子はこんな時だというのに胸が熱くなるのを感じた。
(変わってない…輝明は、昔のまま…)
子供の頃の輝明は、都子がいじめっ子に髪の毛を引っ張られていようものなら、それが自分より大きくて強そうな
相手でも、臆す事なく立ち向かって、都を守ってくれた。
293魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/06(水) 21:01:45.93 ID:ZmoVA8mm0
今の輝明もまた―――あの頃、いじめっ子に食ってかかった時のように。
都子の為に、恐ろしい魔女に立ち向かおうと。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」
渾身の力で振り下ろす一撃。

―――輝明は運動神経には自信があるし、腕っ節はかなり強い方だ。
街でいきがった不良に絡まれれば、それが4、5人程度なら無傷で軽く返り討ちにできる。
それでも―――相手は、魔女だ。
魔法少女と対を成す、この世の不条理を体現する存在だ。
どれだけ強かろうとも<人間>では、魔女には敵うはずがない。
そんな事。
輝明だって、分かっていたのに。

蛙の魔女が、右腕を無造作に打ち下ろした。鉄パイプとぶつかり、嫌な音を立てる。
「う…!」
振り翳した鉄パイプは、まるでシャープペンの芯をへし折るようにあっさりとひしゃげて。
蛙の魔女の腕が、輝明の身体を打ち据えた。
悲鳴と共に、自動車に撥ねられたような勢いで吹き飛ばされ、輝明は無様に大地に転がる。
魔女はそれを見届けると、グゲグゲと笑いながら泉へ身を沈めていく。
「げ…げほっ…!」
「て…輝明ィっ!」
都子が血相を変えて倒れた輝明に駆け寄り、その身体を揺さぶる。
手に、べったりと血が付いた。頭を切ったらしく、赤い液体が輝明の顔を染めている。
彼の左手と左脚は、ありえない方向に曲がっていた。
「み…みや、こ…」
口の端から血を流しながら、輝明が途切れがちに言葉を発する。
「逃げろって…言ったのに…こんな所に、いるなよ…」
「バカ…バカ!輝明を…置いていけるわけ、ないでしょ…!」
ボロボロと、都子の瞳から零れ落ちる雫が、輝明の頬を濡らした。
「なんで…どうして、こんな無茶、したのよ…あたしなんかの、為に…」
「昔…言った、ろ…」
「え…?」
「みや…こは…俺が、絶対に守って、やるって…」
「…………!」

―――泣かないで、みやちゃん―――
―――みやちゃんをいじめる奴は、ぼくがやっつけてあげるから―――
―――みやちゃんは、ぼくが、ぜったい、守ってあげる―――

「なんで…よ…」
都子は、ボロボロと泣きながら輝明に縋り付く。
「そんな、子供の頃のことなんて…忘れてると、思ってた、のに…」
「ひどい…な…俺だって…全部、忘れてる…わけじゃ、ないよ…」
輝明は、笑った。この場には似つかわしくない、照れたような笑いだ。
「大好きな…女の子との、思い出を…何もかも忘れてるとか…そりゃ、ないって…」
「…え…」
耳を疑った。あまりの状況に頭がおかしくなったのかと本気で思った。
「い、いま…なん、て…」
「俺は」
294魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/06(水) 21:03:04.54 ID:ZmoVA8mm0
はっきりした声で、輝明は言う。
「俺は、都子が好きだ」
「てる、あき」
あたしの事が、好き?輝明が?そんな。だって。あの時、お弁当を作ってあげた時。あなたは。
「弁当を持ってきてくれた時さ…あんな事言ったけど…本当は…俺のお嫁さんになってくれって…言いたかった」
「輝明…」
「ごめんな…都子」
無事な右腕を、どうにか持ち上げて。
自分に縋り付く都子の髪を、愛おしげに優しく撫でた。
「俺…バカで鈍感で、都子の事が大好きなのに、お前の気持ちが分からなくて、傷つけて…」
「バカ…!バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!この鈍感!」
都子は。
これまで流した事がないほどの大粒の涙を振りまきながら、散々に罵り。
「あ、あたしだって…」
輝明の胸に、顔を埋めた。
「あたしだって…輝明が、好き…!大好き…!誰よりも…愛してる…!」
「そっか」
どこかほっとしたように、輝明は息をついた。

「俺もだぜ、都子…世界一、愛してる」
「輝明…あたしだって…世界で一番、あなたが好き…!」

都子にとっても輝明にとっても、夢にまで見たはずのお互いの気持ちを確かめ合う瞬間。
それが、こんな悪夢の中で実現してしまった事は、皮肉としか言いようがない。
「もっと早く…こうして気持ちを伝えてれば…こんな、ろくでもない事には…ならなかったのかもな…」
「うっ…ひっく…えぐっ…」
「泣くなよ…俺の事なんて、放っておいて…いいから…逃げてくれよ、都子…またあの蛙野郎が来たら…今度こそ
もう…助けてやれない…」
輝明は。
今にも命の火が消えそうな、この瞬間に、なお。
自分ではなく、ただ都子の事だけを、考えていた。
「こんな…ボロボロにされて…都子も守れなかった、なんて…カッコ、悪すぎだろ…」
「そんな事ない…そんな事、ないよ…ねえ、一緒に、逃げよう…」
「無茶、言うなよ…もう…左は手も足も、どうにかなっちまって…全然動かないんだ…」
「てる…あきぃ…」
「もういいんだ。もう、いいんだよ…」
満足そうに、穏やかな顔で輝明は言った。
「都子が、そんなにも俺を想ってくれていたってだけで…もう、思い残す事はないよ…」
だから、泣き止んでくれ。そして、精一杯でいいから、どこまでも走って、生きてくれ。
輝明はそう言ったが、都子はもう決めていた。
ここから―――輝明の傍から離れない。
生まれた時から一緒だった輝明。自分をいつも守ってくれた輝明。自分を好きだと言ってくれた輝明。
(あたしって…ほんと、バカ)
魔法に、奇跡になんか頼らなくても―――自分が欲しかったものは、すぐそこにあったのに。
295魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/06(水) 21:04:27.41 ID:ZmoVA8mm0
自分の気持ちばかりで、輝明の気持ちにまるで気付いていなかった自分こそ、本物のバカで、鈍感だ。
そんなバカで鈍感な自分に、言ってくれた。

―――世界一、愛してる―――

だから、あたしは…輝明と、最期の時まで一緒にいる。
それが、あたしの、最後に出来る事―――

「違うよ、大倉都子」
声が。
「キミにはまだ、残された道がある」
あの、魔法の使者の、声が。
「まさか忘れてるわけじゃないよね、大倉都子―――キミは無力に嘆くだけのか弱く可愛いお姫様じゃない」
声が、響く。
「キミには、力がある―――自分を、そして愛する者を守る為の力だ」
振り向けば、そこに、いた。
真っ白な姿に、とぼけた笑顔を浮かべて、奇跡を売って歩く者が。
「キュゥべえ…」
「ごめんよ。彼をここに連れて来たのはボクだ。キミと話をさせたかっただけなんだけど、こんな事になるなんて…」
いけしゃあしゃあと、キュゥべえは喋り続ける。
「しかし、永井輝明―――彼は本物だよ。大抵の人間は、愛だの恋だの言った所で、土壇場では自分が可愛いもの
だけど…彼は、本物だった」
その本物を、壊してもいいのかい?
「…………」
「―――大倉都子。キミは、どんな願いでその魂(ソウルジェム)を輝かせるんだい?」
さあ。
「この運命に立ち向かう覚悟を決めたのならば」
何もかもが終わってしまう前に。
その小さな唇で。
「今こそ紡ぐんだ。キミだけの魔法少女物語(マギカ)を」
「あたしだけの…物語」
「さあ。魔女ももう、待ってはくれない。時間はもうないよ」
「…あたしは」
都子の、願いは。
「あたしは…輝明を、守りたい」
祈りは。
「あたしを守ってくれた輝明を、今度はあたしが守りたい」
想いは。
「あたしの大好きな輝明を、守りたい」
希望は。
「あたしを愛してくれた輝明を、守りたい」
それは―――愛。

「輝明―――あなたを失くす以外、もう何も恐くない。だから、あなただけはあたしが守る」
「例え、人間を捨ててでも」

都子が立ち上がると同時に、泉から再び蛙の魔女が浮上する。
「時間ギリギリ、だね。大丈夫、契約は一瞬で終わるよ―――」
296魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/06(水) 21:43:03.70 ID:ZmoVA8mm0
キュゥべえの長い耳が、触手のように都子の身体に絡まっていく。
それを輝明は、愕然と見上げる他なかった。
「み、都子…!」
「輝明…あたし、魔法少女になる。学校の皆には、ナイショだよ?」
悲しげに、泣きながら笑って。
「ねえ…輝明は、あたしが人間やめても…あたしの事、好きでいてくれるかなぁ?」
「…好きだ。都子がどうなろうとも、俺の気持ちは変わらない…でも…やめろ。俺の為、なんて理由で…魔法少女に
なんか…」
「じゃあ、どうするんだい、輝明」
キュゥべえは、非情な事実を告げる。
「こうしないとキミはおろか、都子まで死ぬよ。こうするしかないんだよ、こうするしか。代案もないのに感情でモノを
言うのはやめてほしいな」
「くっ…!」
事ここに至って、輝明は黙るしかなかった。そうしている間にも、蛙の魔女が、迫る。
「さあ…新たなる魔法少女の誕生だ。どうぞ、御覧あ―――」

「御覧になるかぁ、んなモンッッッ!」

瞬時―――蛙の魔女の巨体が、吹き飛ばされていた。
そして、今まさに都子と契約しようとしていたキュゥべえの耳がたおやかな手で引っ掴まれる。
「キュゥべえよ…テメェ、ちょっとふざけすぎだぜ」
そして、投げ飛ばされる。
「キュウっ!?」
キュゥべえは意外に可愛い悲鳴を上げて、受身を取る。
都子と輝明は突然の事態の急変に、目を丸くする。
297魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/06(水) 21:44:41.10 ID:ZmoVA8mm0
彼らの眼前には、彼女が。
鮮烈なまでに赤い、彼女が。

「…ガラじゃねえけどな。ここは一つ、あたしが仕切らせてもらうよ―――!」

一陣の風、烈火の如き紅を纏いて。
緋色の閃光、暗闇を切り裂いて。
真紅の魔法少女が―――
佐倉杏子が、立っていた。
その姿はまさに、死地に降り立った戦乙女(ヴァルキュリア)。

「きょ…杏子」
「危なかったねー、怖かったねー、都子。よしよし」
軽い調子で言ってのけ、都子に抱きつき肩をポンポンと叩く。
「とまあ、冗談はこれくらいにして…」
倒れた輝明。彼に寄り添う都子。そして、キュゥべえ。
彼らの姿を見て、杏子は全てとはいかずとも、大方の事情を察したようだった。
「はん…要するに、大体キュゥべえのせいだな」
杏子に睨まれても、キュゥべえは素知らぬ顔だ。舌打ちして、杏子は蛙の魔女に向き直る。
魔女は既に体勢を整えて、再び襲い掛かろうと、大きく開いた口からボタボタと唾液を零している。
杏子は、怖れない。そして、怯まない。
得物である槍を凛々しく構えて、不敵に笑う。
そして、高らかに言い放った。

「都子―――あんたの願いも祈りも想いも希望も愛も、あたしが穢させない」

「今回だけは自分じゃない、誰かの為に戦ってやる―――だから」

―――魔法少女みやこ☆マギカ
―――第四話
―――「全部、あたしに任せとけ」
298サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/07/06(水) 21:53:07.28 ID:ZmoVA8mm0
投下完了。
次回、杏子のスーパーヒーロータイムと都子の最後の選択。
次々回が最終回になります。
なんとかハッピーエンドでいけそうかな…

特撮とかヒーロー物のアニメで、最初に出るはずのサブタイトルが出なくて、番組の最後で
ヒーローの決め台詞と共に大文字で
第○○話「〜〜〜(決め台詞)」 という演出は、一度やってみたかったネタ

>>287 喪黒も善人じゃ全然ないけど、それでも依頼人の自業自得の場合の方が多かったし、本人は
    幸せという状況もあったと思うのです。QBはもう、そんなもん何処吹く風です。

>>288 引き出しは…まあ、あんまりメジャーじゃないですかねwふら〜りさんには敵わない…。

>>289 アニメで初登場時は「外道魔法少女」という感じだったんですけどね>杏子
    いつの間にか、作中で唯一の良識人に…
>>290 しかし、それを言ったら孫に<神にも悪魔にもなれる力>を押し付けたおじいちゃんとか、
    問題のある人はいくらでもいるわけで…
299作者の都合により名無しです:2011/07/07(木) 00:32:27.90 ID:Pi9ci9BH0
後出しの方が有利だもんなー
まーどこぞの場末アニメのキャラがアニメ史上最強()とかないわー
300作者の都合により名無しです:2011/07/08(金) 07:38:36.43 ID:s9ooGyjI0
>278
そもそもQBさんの目的からしてアレだからな。
しかもこの手のキャラでよく言われる手段すら通用しないし
時には自ら悪意を持って破滅に導いてくるという。
301作者の都合により名無しです:2011/07/08(金) 09:17:20.38 ID:7p8dk3rL0
杏子カッケーけど、原作知ってると持ち上げてからの絶望フラグにしか見えないよ…
どうか最後までカッコよく決めてくれー
302美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/07/08(金) 18:02:05.90 ID:dqBu3u8MP
「ユーコスラッシュ!」
優子得意の、腕を振り出して撃つ衝撃波が刃牙を襲う。
この衝撃波、確かに当たればなかなかのダメージになりそうだが、ガードしてしまえば
大したことはない。最初は面食らったが、心構えをして受ければ怖くない攻撃だ。
考えてみれば、接近戦が苦手だから、怖いから、距離を取ってこんな攻撃を
しているのかもしれない。ならば、多少のダメージは覚悟で間合いを詰めるべき。
刃牙はガードを固めて走った。スラッシュを受けて、受けて、受けながら前進する。
「……そうきたか」
と呟いて、優子も攻め手を変えた。
といっても、やはり撃つことは撃つ。ただ、意図的に遅めのものを撃って、
撃った後、自分自身が衝撃波を追いかけて走ったのだ。
つまり、刃牙に向かって真っ直ぐに向かってくることになる。
「え? じ、自分から間合いを詰める?」
接近戦を嫌っているとばかり思っていた刃牙は、戸惑いながらもとりあえず、
衝撃波をガードした。もうこのダメージは平気だが、それでもやはり重さはあるから、
受け止めた瞬間はどうしても硬直してしまう。
その硬直の瞬間に、優子が踏み込んで来た。ギリギリで硬直から開放された刃牙は
迎撃しようとしたのだが、いきなり優子が不自然に加速した。まるで刃牙に、
強烈な勢いで吸い込まれたかのように。
いや、加速というのは正確ではない。これは瞬間移動だ、明らかに。
「何だっっ?」
刃牙は目を見張ったが、その目に優子は映らない。どこに? と思ったその時には、
優子は後ろから刃牙を抱きしめていた。
その、あまり豊かではない胸を刃牙の背に押し付けて、両腕を刃牙の腹の辺りに
回して組み合わせ、一気に持ち上げ、そして後方に落とす!
「ユーコジャーマンっ!」
豪快なジャーマンスープレックス。刃牙の頭部が地面(もちろんコンクリ)に激突し、
かなりいい音がした。
優子はすぐさま刃牙を放して立ち上がり、油断無く間合いをとった。
「飛び道具と対空技の【待ち】。飛び道具を追いかける【攻め】。遥か昔、私たちの
界隈で猛威を振るった、あるアメリカ軍人を始祖とする二大戦法よ」
303美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/07/08(金) 18:03:26.71 ID:dqBu3u8MP
「……」
常人なら最低でも気絶、そして重傷を負っているところだが、刃牙は刃牙なので
立ち上がった。とはいえ流石に、このダメージは小さいとは言い難い。
優子とその仲間&ライバルたち、あるいは刃牙の父親ならともかく、刃牙は
彼らほど人間離れした存在ではないのだ。
「さっきの……投げに入る直前の、不自然な加速は……?」
「不自然? 投げ技なんだから、間合いに入って発動したら、互いの位置関係が
どうあれ投げグラに入るのは当たり前でしょ。私なんかは投げキャラじゃないから、
特に間合いが広いわけでもないし。そう理不尽な吸い込みじゃないと思うけど」
優子が何を言っているのか、刃牙には全くわからない。ただ、彼女にとっては
あの瞬間移動は当然のことらしい。
腕や脚を振れば衝撃波、投げを仕掛ければ瞬間移動。人間業とは思えない。
すなわち優子が人間だとは思えない。刃牙は本気で、そう思った。
だが、それでも。
「……勝てる」
一言、呟いた。その言葉は優子の耳に届き、優子の眉をぴくりと動かす。
「ふうん? 一方的にやられておきながら、大したお言葉ね。技を食らいながら、
私の弱点を見つけたとでも?」
「ああ、そうだよ。致命的なのを二つ見つけた」
二つ、と言って刃牙は指を二本立てた。Vサインだ。
「細かな動き、間合いの取り方、呼吸のリズムに気迫に……そういったもの
から、読み取れたんだ。会長の苦手とすることがね。確かに会長は強いけど、
世界中を武者修行した俺とは、経験が違うってことだな」
確かな自信を込めた目で、刃牙は優子を見据える。
刃牙の武者修行については、優子は調査済みなのでもちろん知っている。刃牙の
格闘経験が、自分のそれを遥かに上回っていることも。
とすれば、刃牙の言っていることはハッタリではなさそうだ。
「私の弱点、ね。けど、それが解ったとしても、はたして突けるかしら?
攻防、遠近、全てにおいての隙の無さこそが私の強さ。弱点があったとしても、
私に触れられなければ無意味よ」
「そこがまず、第一の弱点さ。触れてみせる。予言しておくけど、次の一撃を
会長は必ず食らうよ。それでKOってことはないにしろ、少なくとも回避は不可能」
304美少女戦士の意外(?)な弱点:2011/07/08(金) 18:04:55.47 ID:dqBu3u8MP
「そう。だったら、やってもらおうかしら!」
優子はスラッシュを放ち、それを追いかけて走った。これを刃牙がガードすれば、
硬直したところに組み付いて投げ、もしくは脚払い。刃牙が食らえば、のけぞった
ところに連続攻撃を叩き込む。
刃牙にも飛び道具があれば相殺という手段も使えようが、それがないことは
調査済み。出がかりが無敵の技もないし、テレポートできるような技もない。
私に弱点などないっ! と確信して優子は走る。その目の前で刃牙が、
「こうだっ!」
横に跳んだ。スラッシユは一瞬前まで刃牙がいた空間を通り過ぎ、屋上の鉄柵を越えて
彼方へと飛んでいった。スラッシュを追いかけていた優子は急ブレーキをかける。
そこへ、横合いから刃牙が突っ込んできた。全力疾走から跳び、空中で横回転して、
体重以上の勢いをたっぷり乗せた、ダッシュローリングソバットが優子に命中!
腕でのガードは辛うじて間に合ったものの、体勢が不安定だった為に受けきれず、
170センチにして40キロという細く軽い優子の体は、ひとたまりもなく飛ばされた。
「ぐっ……!」
優子は何とか体勢を整え、足から着地できた。が、腕が軽く痺れている。侮っていた
つもりはないが、刃牙の攻撃力、流石というべきか。
だが刃牙本人が、優子に評価してもらいたいのはそこではない。得意そうに指を立てて、
刃牙は優子に言った。
「弱点その1。理由はわからないけど、会長は横からの攻撃に弱い。多分、
慣れてないんじゃないかな。攻防が対正面に特化してるように思えるよ。
フットワークなんか、ほとんど前後移動ばっかり」
『な、慣れてないも何も……真横からの攻撃なんて、そもそも存在しないんだもん私たち……』
思わず心中でグチというか弱音を漏らす優子。だがこれは、対応できない問題ではない。
ぶん、と両腕を振って痺れを散らして、改めて構えなおした。
「なるほど、確かにそれは私の弱点だわ。けど、体の向きを90度変えてしまえば、
横からの攻撃は正面からの攻撃になる。今はちょっと驚いてしまったけど、
次はないわよ」
「だろうね。けど、次で終わるよ。弱点その2は、一撃必殺。今度は必中とは言わないけど、
もし当たれば、それで決着だ。会長は俺にKOされる。つまり、俺が勝つ」
305ふら〜り ◆rXl0RuLrAVdZ :2011/07/08(金) 18:06:28.25 ID:dqBu3u8MP
いくら刃牙キャラが強くても、波動拳やソニックブームは撃てないよな〜と思っていた時期が
私にも。で、その頃その思想に基づき描いた「ザコキャラ勇次郎」は、バキスレPart 8にて、
2003年9月13日投下。あの頃私は若かったっ。

>>サマサさん
「幼馴染みの男の子を好きになるパターン」の王道! 騎士とお姫様の構図ですもんねこれ。
実に良いっ。……その、健気で可愛い恋心を詐欺師が利用すると。同じ人外のミギーやネウロは
そういう心を理解できてなかったですけど、QBは理解した上でやってるわけですね。タチ悪い。

>>288
むこうぶちですか。天獅子先生、大出世されましよねえ。ええ、ファンとしては祝福すべきこと
なんですけどねもちろん。コミックゲーメストの、単行本未収録短編、全部切り抜いて
保存してますぜぃ……ギース様も山崎もゲーニッツも、そりゃもうカッコ良くてかっこ良くて!
306作者の都合により名無しです:2011/07/08(金) 18:25:50.15 ID:7p8dk3rL0
横からの攻撃に弱いとか、個人的にこういうメタネタには弱いw
次の刃牙の作戦も格ゲーのシステムを利用したものになるんかな?

>>QBは理解した上でやってる
理解してるというか、何千年と人間に関わってきた経験から
「人間ってあれこれこういう事するとこういう反応するよね。わけが分からないよ」
という風に見てるだけだよ、あの淫獣…
307作者の都合により名無しです:2011/07/08(金) 21:50:50.52 ID:dTFmzUy/0
サマサさんとふらーりさんが並んでてほっとした
今回のお2人のネタ元は俺にはわからんが・・
いや、ふらーりさんはいつもか・・w
308魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 12:56:34.08 ID:j3PzwEgt0
第五話「奇跡も、魔法も、いらねえよ」

対峙し、対決する魔法少女と蛙の魔女。
死闘の予感が、両者から発する鬼気が、空間を支配する。
「都子」
その鬼気に身を焦がしながらも、杏子は背後で見守る都子に語る。
「突然だけど―――溺れる者は藁にもすがる、って諺があるじゃないか?」
「え…?う、うん」
何を言いたいのか分からず、戸惑う都子に対して、続ける。
「あれって要するに、藁みたいな何の役にも立たないモノに手を伸ばしちまうくらいに切羽詰ったサマを嘲笑う言葉
なんだよね。あいつって、バカだよなー。そんなんに頼ったって何にもならないのに、ハハハ、ってか?
だけど。
だけどさ。
溺れてる奴だって、そんなの分かってる。分かった上で、それでも助けてくれって、必死に手を伸ばしてるんだ」
「…………」
それは―――都子にも、分かる。
自分の事のように。自分の事だから、よく分かる。
「知ったような顔して嘲ってる奴らはその気持ちが、分かるのかよ?みすぼらしい藁の、あるかないかも分からない
ような浮力に、最後の望みを賭けなきゃいけないくらいに追い詰められた誰かの想いを―――踏み躙るのかよ。
あたしみたいな、人を人とも思わない冷血魔法少女がそれを言う資格はないかもしれない」
けどさあ。
「あたしは、それでも。もしも、あたしが藁だったなら。
―――あたしみたいな奴を頼ってくれたそいつの手を引いて、どうにか向こう岸まで渡してやりたいんだ」
「杏子…」
都子は膝をつき、倒れた輝明の肩を抱きながら、杏子の背を見つめる。
「だから、都子―――あたしを頼れ」
魔女から目を離さず、杏子は笑った。
「誰かの想いを背負って戦う時は…絶対に、負けない。それが、愛と勇気の魔法少女ってもんだろ」
「……けて」
「もっとだ!もっと大きな声で!」
「助けて…」
都子は、ボロボロと零れる涙をそのままに、叫んだ。

「輝明を…あたしを…助けて、杏子!」

グ、っと。
杏子は、握り拳を作った右腕を持ち上げて。
「―――任せとけぇいっ!」
真っ赤なポニーテールを靡かせ。
瞬時、強烈な踏み込みから目にも止まらぬ速度で蛙の魔女へと突進する。
309魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 12:58:19.50 ID:j3PzwEgt0
単純だが強力なパワー&スピードが杏子のスタイルだ。ベテランとしての経験で積み上げた体術と技術、魔法少女
の中でも特に優れた膂力を活かしての物理戦闘に関しては、杏子の右に出る者はそうそういないだろう。
「一気に決めさせてもらうよ!」
伸びてくる蛙の魔女の舌を紙一重でかいくぐりながら繰り出す、槍の一撃。
だが、魔女の身体を覆う強固な外殻を貫く事ができない。
「ちっ…思ったより硬ぇぞ、こりゃ」
だが、杏子には弱音を吐く暇はない。
間髪入れずに迫る、魔女の腕。苦鳴を漏らしつつも、間一髪でかわした。
「それに、見かけによらず速い、か…!」
空いた腕での追撃。バックステップで回避。叩き付けられた拳が、大地に巨大な亀裂を走らせる。
「加えて、見た目通りのパワー…」
距離を取り、呼吸を整えながら敵の戦闘力を分析する。
「硬い、速い、強いと、三拍子揃った相手か…」
先日倒したサッカーボールの魔女とは、はっきり言って格の違う相手だ。
特殊な能力こそなさそうだが、純粋な戦闘能力に長けている。
骨が折れるね、と杏子は内心で毒づく。
ギミックやトリックを使って攻めてくる相手なら、手品の種さえ見破ってしまえばそれまで。
だが、単純な強さに任せてくる敵というのが、杏子にとってはむしろ厄介だ。
杏子自身、絡め手が得意なタイプではない。真っ向勝負で戦う魔法少女だ。
こういう類の魔女が相手では、正面から力ずくで捩じ伏せるしか選択肢がない―――だが。

「それが、どうした」

その事実が杏子の闘志を、翳(かげ)らせる事はない。
「だったら、押し通すだけだろ…!」
一度で無理なら、貫けるまで何度でもやるだけだ。雄叫びを上げ、再び飛びかかる。
対して蛙の魔女が、その顎を大きく開いた。
「またあの臭っせえ舌か…ワンパターンなんだよ!」
来るなら来い、と杏子は身構えた。
今度はその舌を捻じり切ってやると意気込む。
だが、飛び出してきたのは舌ではない。無数の水球だ。
魔女の魔力を帯びた水球が、まるで生きているかのようにジグザグに動き、杏子に向かってきた。
「…っ!?クソッ!」
意表を突かれながらも、杏子は迎撃態勢に入る。手にした槍の柄が、鎖で繋がった幾つもの節に分割される。
杏子の得物は、正確には槍ではない―――
魔力によって自在に伸縮し・湾曲し・分割する多節棍。
それを駆使した変幻自在の戦闘こそ、杏子の真骨頂だ。
「範囲攻撃ができない、なんて思ってたかよ―――!」
四方八方から迫る水球。分割された槍を、鞭の要領で振り回す。
大蛇がうねるように風を切り、水球を全て叩き割った―――かに見えた。
310魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 12:59:31.62 ID:j3PzwEgt0
だが水球は弾けると同時に元通りに形を取り戻し、またもや杏子目掛けて飛来する。
「うおっ…!」
油断した。あれが水だという事を、失念していた。
己の失敗を悔いる間もなく、水球が身体に容赦なくブチ当たる。
大した威力ではないが、バランスが崩れた。
その瞬間を見逃さず、蛙の魔女の舌が杏子の身体に絡み付く。
ブオン―――と、持ち上げ、地に叩き付ける。
「ガハッ…」
また持ち上げる。叩き付ける。持ち上げる。叩き付ける―――
「ぐ、が、あ…っ!」
「きょ…杏子ぉっ!」
たまりかねて都子が叫ぶが、杏子は。
この窮地にも関わらず、彼女らしい、不敵な笑みを崩さない。
「はっ…あんたは、あたしに全部、任せたんだろ…だったら、もうちょい信じろ、よ…!」
「で、でも…っ!」
「あ…あたしも、昔は、憧れた…愛と勇気の、魔法少女ってのに…」

今はもう、こんな風にすっかり落ちぶれちまったけどさ。
昔は確かに―――夢見てた。
TVアニメの主人公みたいにキラキラ輝く、正義の味方って奴に。

杏子の身体から、魔力が溢れ出る。
強化(ブースト)された筋力が、巻き付く舌を押し返していく。
「誰かの想いを…背負って…戦うってんなら…」
杏子の胸に輝くソウルジェムが。
魔力の行使によって、黒く濁りながらも。
それでもなお強く、眩しく、赤く輝く。
「そん時だけは…相手が神だろうと悪魔だろうと…負けちゃいけねーんだよ、愛と勇気の魔法少女ってのはな!」

ブチィッ―――

「グゲギャァァァァァァッ!」
魔女の悲鳴が響く。杏子はこじ開けるのを通り越して、舌を引き千切ったのだ。
本来、魔力をここまで無計画に使うなど御法度だ。
ソウルジェムがどれだけの穢れに耐え切れるのかなど分からないし、穢れを払うグリーフシードにしても貴重品だ。
先の事を考えれば、基本的に魔力は温存して戦うべきだった―――それでも。
今回は、そうも言っていられない状況だった。そして。
杏子にとって、これは。どれだけ自分を危険に晒そうとも。絶対に負けてはならない戦いだった。
「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
まさに真紅の流星と化し、杏子は蛙の魔女へと特攻をかける。
舌を失った事で動揺しつつも、魔女は水球で杏子の動きを止めにかかる。
311魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 13:00:36.78 ID:j3PzwEgt0
それでも。
今の杏子を、妨げる事は出来ない。
蹴散らし、叩き潰し、それでも避け切れないダメージを完全に無視して。
蛙の魔女の顎を、蹴り上げた。
人間はおろか、魔法少女の範疇すら遙かに越えた脚力から放たれた蹴りは、魔女の巨体をも軽々と宙に舞わせる。
それを見上げ、杏子は勝利を確信したように微笑む。
大胆に。そして不敵に。
「これで…決めるっ!」
槍に、使えるだけの魔力を纏わせて。
大きく振りかぶって、身を捻り。
渾身の力を込めて、投擲した。

「グゲゴゲゲゲゲゴゲェェェッッ!!!」

断末魔の声。
強固な鎧に護られた、蛙の魔女。だが、その装甲をも突き破り。
紅の魔法少女の全てを懸けた一撃が、呪われし魔女を撃ち貫いた。
魔女の身体は粒子状の結晶となって飛散し、やがてそれすらも消えていく。
そして跡に残ったのは、不可思議な球体―――グリーフシードのみ。
杏子がそれを手に取った瞬間、魔女の結界も消する。
世界の歪みは消えて、再び夜の廃校へと、一同は戻って来た。
「…ふう。危ねーとこだった」
早速、杏子が手に入れたばかりのグリーフシードを胸のソウルジェムへと押し当て、穢れを拭う。
体力も魔力も、殆ど底を尽きかけていた。
折角のグリーフシードも、早速使ってしまった。
魔法少女としてみれば、くたびれ損の骨折り儲けとしか言えない戦果だ。
「全く、こんな真似は二度とやらないからな…身体がいくつあっても足りねーよ」
憎まれ口を叩きながらも、それでも。
杏子はどこか、晴れやかな気持ちだった。
都子と輝明を横目にして、杏子はふっと相好を緩めた。
(あたしは…守れたよな。あんた達の、想いを…)
そんな、小さな満足感を抱きつつ、背を向けて歩き去ろうとした時。
「えっと…佐倉さん、だっけ?」
輝明に呼び止められて、足を止めた。
「何だよ?あんたに用なんてないんだけど」
「はは…キツいな。用っていうか…ただ、お礼を言いたかったんだ」
輝明は息をするのも辛そうだったが、それでもどうにか、言葉を紡いでいく。
「佐倉さんがいてくれなきゃ…都子はきっと…魔法少女になるしかなくて…そうなったらきっと、辛い思いをしてた
だろう。だから…ありがとう。都子を…守ってくれて」
「…はっ。べ、別にお礼なんざ、言われるほどのこたーしてねーよ」
面と向かってストレートに言われると、流石に恥ずかしいものがある。
悪ぶって顔を伏せた杏子に、都子が続けた。
312魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 13:02:31.72 ID:j3PzwEgt0
「あたしからも、言わせて。杏子」
「都子…」
「上手く言えないけど…あたし、あなたに会えてよかった。出会った魔法少女があなたで、よかった」
「…………」
「ありがとうね、杏子…」
「…ちっ。都子。最後にもう一回言うけど、やっぱあんた、魔法少女になるべきじゃねーよ」
むず痒そうにぽりぽりと頬をかきながら、杏子は何度も繰り返した台詞を言う。
「帰る家があって、家族がいて、暖かいメシが食えて―――愛する誰かがいる」

そんなあんたは、魔法少女には決定的に向いてない。

「じゃあな―――今度こそ、ホントにさよならだ。そこのカレシの為に、救急車くらいは呼んどいてやるよ」
それだけ言うと、杏子はもはや振り返らずに、颯爽と去っていく。
目に鮮やかな、赤髪のポニーテールを揺らして。
もう会えないだろうな、と都子は直感し、少し寂しかった。
ほんの少しの間の付き合いで、友達とさえ呼べる関係ではなかったかもしれない。
だけど、杏子は都子にとって―――大事な何かを残した人だった。
そして、残されたのは都子と輝明、そしてキュゥべえ。
「キュゥべえ」
都子は口を開いた。
「杏子の言い草じゃないけど…自分勝手に、言わせてもらうね」
静かで、だが有無を言わさぬ口調だった。
「あたしは、魔法少女になんてならない―――普通の女の子として、生きていく」
「…そうか。残念だけどボクとしても最低限のルールとして、契約の強制は出来ないからね―――魔法を望まない
キミに、売ってやる奇跡はない」
引き下がるしかないか、とキュゥべえは背中を向ける。
「ボクは行くよ。契約を望む、他の少女の元へと―――ただ、これだけは覚えておいてくれ、都子。いつか、キミが
望んだならば、ボクはいつでも契約してあげよう」
「いらねえよ、お前なんか…!」
輝明が、怒気を隠さずに言う。
「都子は…俺が守るし、幸せにする…奇跡も、魔法も、いらねえよ」
「輝明…!」
感極まって、都子は輝明を固く抱き締める。
折れた左腕と左足に響いて、輝明は悲鳴を上げた。
「い、いてて…!もっと優しくしろよ、都子…俺は重症なんだぞ…!」
「ご、ごめんね…でも…嬉しくて…えへへ…」
その様子をキュゥべえは無感情に見つめ、そして。
「全く…人間ってやっぱり、わけが分からないよ」
そう言い残した次の瞬間には、その姿は煙のように消えていた。
313魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/09(土) 13:44:03.49 ID:j3PzwEgt0
魔法少女は去って。魔法の使者も消えて。
残されたのは、少女と少年だけ。
「…行っちゃったね。杏子も、キュゥべえも」
「ああ…キュゥべえはともかく、佐倉さんとは…もう少し…話をしたかったな…」
「何、それ。あたしの事を好きだって言ったくせに、もう浮気?」
「バ、バカ言うな…お礼だって、結局まともに言えなかったから、ちょっと気になっただけだって…」
「ふんだ。どうだか。杏子、美人だし」
それは確かになあ、と輝明は思った。
長いポニーテールはキリッとして魅力的だし、大人びた綺麗な顔立ちだけど、八重歯は幼い感じで可愛いし。
じゃなくて、と輝明は心の中でブンブンと頭を振った。
「それは…否定しないけど…でも、俺は、その、都子の事が…」
「ふふ…大丈夫、ホントはちゃんと分かってるから」
輝明の目を見つめて、都子は呟く。
「輝明。あたしね…嬉しい」
「…えっと。面と向かって言われると…照れるけど。なんていうか…まあ、俺に言える事は…あれだな…」
「何?」
「都子が…意外と巨乳で、こうして抱かれてると胸が押し当てられて、凄く気持ちいい…という事だ…」
「…バーカ」
そう口を尖らせながら、都子は輝明をそっと、自分の膝の上で寝かせた。
「でも…大好きだよ、輝明」
「俺も…だ。何度言ったって、足りない」
顔を見合せて。
散々遠回りをしてきた二人は、ようやく、心から笑い合えたのだった。


―――こうして、魔法と奇跡の物語は一先ず、幕を閉じた。
そして、少年と少女のエピローグを、少しだけ語ろう。
314サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/07/09(土) 13:45:09.27 ID:j3PzwEgt0
投下完了。次回で最終話。
最終話書いたらサンレッドに戻らねば。
気分転換できたおかげで、書くモチベーションが上がってきた。
「溺れる者は藁をもすがる」って、一応使われてはいるんだけど誤用らしい…んー。
やっぱ普通に「掴む」にしておいた方がよかったか?

杏子は悪ぶってるし、実際に悪い事もたくさんしてるけど、最後は自分を犠牲にして他人を
助けてしまうような子なんですよね…。
書いてる途中は原作での彼女の最期を思い出してしまって、ちょっと切ない。

>>300 ほんと、QBさんほどの外道は中々いないでぇ…。

>>301 どうにかフィニッシュまでカッコよく決められたかな…。

>>ふら〜りさん
>>飛び道具と対空技の【待ち】。飛び道具を追いかける【攻め】。遥か昔、私たちの
>>界隈で猛威を振るった、あるアメリカ軍人を始祖とする二大戦法よ」
待ちガイルかw
格闘ゲームの要素を取り入れた戦闘って、中々斬新かも…刃牙の作戦はどうなる?

>>306 ほんと、クッソ汚ねぇ淫獣ですよアイツ

>>307 毎度毎度、微妙にわけの分からんもん書いちまってすいませんw
315作者の都合により名無しです:2011/07/09(土) 20:48:04.98 ID:DSF+feup0
>>314
乙!原作に似合わずハッピーエンドに終わりそうで良かったです。ただ
>>クッソ汚ねぇ淫獣ですよアイツ
この表現は某野球選手たちと契約してホモの魔の手に引きずり込んだ某淫獣を思い起こさせるためNG
316作者の都合により名無しです:2011/07/10(日) 00:58:39.02 ID:ZiIk0Kfl0
お疲れです。原作は全然知らないけどハッピーエンドはいいものですな。
もう一話ありますが。短編でも完結してくれるって良いですな。
3話以上の話でサマサさんが一番完結させた人かな?ふらーりさんかな?
317作者の都合により名無しです:2011/07/10(日) 12:54:30.93 ID:ZtXiHyoo0
甘ったるくてよいハッピーエンドですな
エピローグも期待しております
318作者の都合により名無しです:2011/07/10(日) 23:04:23.67 ID:0zeawnX30
サマサさん、俺が好きだった4年位前のバキスレに戻してくれ!
319作者の都合により名無しです:2011/07/11(月) 01:04:59.08 ID:c1JAlzWL0
無理だろ
320魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/11(月) 19:49:07.05 ID:kO8ejEwR0
最終話「たった一つだけの」

永井輝明は病室のベッドで、少々退屈していた。
「ヒマだ…何もやる事がないというのが、ここまで苦痛とは…」
「しょうがないでしょ。ゆっくり休まないといけないんだから」
見舞い客用の椅子に座って林檎の皮を剥きながら、都子はそう言う。
とはいえ、左腕と左足に重いギプスの着用を余儀なくされては、少々気が滅入るのも仕方のない事だろう。
全治一ヶ月。リハビリも考えると数ヶ月。
中々に、厳しい現実だった。
(それでも命が助かっただけ、ありがたいと感謝すべきだろうな)
そう、輝明は思った。


―――あの事件から、一週間が過ぎていた。
駆け付けた救急隊員に病院へと担ぎ込まれ、治療を受けて。
手術は成功したものの、輝明の意識はしばらく戻らなかった。
その間、都子は輝明の側を一切離れようとしなかった。
あまりにも思い詰めた様子の都子に、医者や看護師、輝明や都子の両親が心配して帰宅を促しても、彼女は頑として
聞き入れず、遂に彼らの黙認を勝ち取った。
そして、輝明が目を覚ましたのは二日後だった。
目を開けた彼が最初に見たのは、泣きながら縋り付いてくる都子の姿。
髪はバサバサで、目の下には真っ黒なクマが出来ていたけど。
そんな彼女を、誰よりも愛しいと思って。
輝明は都子を、無事な右手で、そっと抱き寄せた。

とにかくそれで一件落着、一安心…とはいかなかった。
何だってあんな廃校で、こんな怪我をしていたのか、誤魔化すのが大変だったのだ。
<この世には魔女という存在がいて、そいつにやられたんです>などと事実を語ろうものなら、即座に別の病院へと
移される事は間違いなしだ。
結局、都子と相談し、口裏を合わせて。
<輝明と喧嘩して自暴自棄になった都子が、不良達の誘いに乗って遊んでいたら廃校に連れ込まれて乱暴されそうに
なって、助けに入った輝明が怪我を負ったものの不良は撃退した>という、一昔前のヤンキー漫画かとツッコミたく
なるような大嘘を吐く事になった。
何というか、よく考えてみると嘘とも言い切れない辺りが凄かった。
しかして、このありえなさが逆に信憑性を持たせたのか、医者も警察も訝しがりながらも最終的にはそれを信じた。
幼い頃から知っている都子の両親が泣きながら都子を叱りつけ、輝明や輝明の両親に土下座して謝罪したのは流石に
色んな意味で辛かった。
輝明にしてみれば<いや、こっちこそ色々すいません>と逆土下座したかった所である。


「学校からも、よくお説教と反省文の提出だけで済んだもんだよな」
「うん。正直、停学くらいは覚悟してたけど…日頃の行いがいいからかしらね?」
「自分で言うなよ…というか、本当にあれでよかったのか?もうちょっとどうにか…」
「いいんだよ」
321魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/11(月) 19:51:32.05 ID:kO8ejEwR0
都子は、少し遠い目をした。
「あたしがバカだったせいで、輝明はこんなになっちゃったんだもの…ちょっとはあたしも、泥を被らないと」
「…………」
「あはは…そんな深刻にならないでってば。ほら、剥けたわよ」
皮を綺麗に剥き、食べやすい大きさに切った林檎を爪楊枝に刺して。
照れた笑顔で、輝明の口元に持ってくる。
「はい、あーん」
「…………」
いともたやすく行われる恥ずかしい行為。しかし、大人しく口を開けてしまう辺りは惚れた弱みだ。
赤面しながら、もぐもぐと林檎を咀嚼する。
「うふふ、美味しい?」
「う、うん…」
ただ、まあ。
悪い気なんて、勿論しない―――
都子の顔を見ていた輝明はふと、彼女の変化に気付いた。
「そういや、都子…髪型、変えたのか」
「もう。今頃気づいたの?ホント、鈍感なんだから」
ブー、とふてくされたように口を尖らせながらも、都子の顔は笑っている。
「似合うかな、輝明?」
「ああ…何ていうか、さっぱりしてて格好いいっていうか…」

―――不意に、思い出した。
自分と都子にとって、計り知れない恩のある、あの魔法少女を。

「…佐倉さんに、似てるな」
「うん。実はちょっと意識してる。杏子が知ったら、きっと<あたしの真似なんかすんじゃねー!>って言うだろうけど」
都子は、杏子の照れ隠しに怒ってみせる顔を想像し、苦笑する。
「でも…あたしにとって杏子は、世界で一番カッコよくて、素敵な女の子だから」
「そうか…でもさ」
輝明は、言う。
「都子だって、世界で一番可愛くて、素敵な女の子だよ…少なくとも、俺にとっては」
「…もう。褒めても、何も御褒美なんて出ないわよ」
「はは…うっ…!っ…痛ててっ…!」
不意に身体を刺してくるような疼痛に、呻く。
鎮痛剤は投与されているとはいえ、酷い重傷なのだから、仕方ないだろう。
最初の内は感覚も麻痺していたせいかそんなに痛くなかったのだが、症状が落ち着いてきたおかげで痛覚がまとも
に機能し始めたのかもしれない。
「輝明…!」
「し、心配すんなよ…こんなん、何ともな…つっ…」
強がっても、苦痛が消えるわけではない。
顔を歪める輝明を、都子は気が気でない様子で見守っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
322魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/11(月) 19:52:58.20 ID:kO8ejEwR0
「あのね、輝明…あたし、一つだけ、魔法が使えるのよ」
「え…」
輝明の顔が強張る。
都子はキュゥべえとは契約していない。魔法少女なんかじゃないはずだ。
いや、まさか自分の知らない所で、何かされたのか?
「そんなんじゃないよ…たった一つだけの、ちょっとした、痛み止めの、魔法」
上手くできるか分からないけど、すぐに済むから、ちょっとだけ目を瞑っていてね。
そう言われて、不安がりながらも輝明は目を閉じて。

唇に、柔らかい何かが触れるのを感じた。

思わず目を開けると、これまでにないくらいに密着した都子の顔。
あ、でも。
幼稚園の頃に、同じ事があったっけ。
ままごとで、同年代の中ではおませだった都子が<おでかけのまえはこうするのよ!>とか言って。
子供心に、何だかドキドキしたのを少しだけ覚えている。
うん、そうだ。あれと同じだ。
端的に言うと、キスされた。
唇が、離れる。都子はえへ、とはにかんだように笑う。
「どう?効いた、かな?」
「…うん。痛く、ない」
それはもう。
さっぱり、痛みなんか吹っ飛んだ。
「…すっげえなあ、お前。まるで、魔法少女じゃないか」
それも―――とびっきりの、素敵な魔法だ。
キュゥべえのせいで、魔法という言葉に対しては悪いイメージしかなくなっていたけど。
こんな魔法なら―――あっていい。
「あのさ、都子」
「ん?」
「…効き目がにぶらないように、もう一回」
「えっちー」
そう言いながらも、また二人は顔を近づけて、唇を合わせて―――



―――丁度その頃。
病院の向かいにある、雑居ビルの屋上。
一人の少女が胡坐をかきながら、双眼鏡で輝明の病室を覗き込んでいた。
佐倉杏子―――魔法少女。
「…ったく。ちょっくら様子見てやろうと思ったら、随分とお気楽でいいね。やめたやめた、出歯亀なんて。あー、
バカらしいったらありゃしねー!」
杏子は双眼鏡を放り投げた。
懐からう○い棒を取り出し、乱暴に齧り付く。
言動だけ見ると怒っているようだが、実は照れているようだった。
323魔法少女みやこ☆マギカ:2011/07/11(月) 19:54:12.51 ID:kO8ejEwR0
「てゆうか、何だよ、都子のあの髪型!あたしの真似なんかすんじゃねー!」
都子が想像した通りの反応であった。この辺、分かりやすい少女である。
「ったくよー。あのバカップルが!あんな奴ら―――」
精々、末永く幸せにでもなりやがれ。
杏子は、心からそう思った。そう願った。

「―――今回は大失敗だったよ。キミのせいでね」

そんな彼女の感傷など知った事ではない、と言いたげな声に振り向くと。
得体の知れないつぶらな瞳で、キュゥべえが佇んでいた。
「…ケッ。文句言われる筋合いはねーよ。あたしはテメェの手下じゃねーんだ」
「まあ、そうだね。今のはキミ達が言う所の八つ当たりさ…まあ、ボクの気持ちも察してくれないかな?折角、アレだけ
の素材を見つけたってのに、パーになっちゃったんだから」
「素材、ね…テメェにとっちゃ、少女なんて道具かよ。で、本当に都子の事は諦めたんだな?」
「正確には、これ以上は彼女に関わっても、利益にはならないだろうからね。大倉都子―――確かに、中々の才能を
秘めていたけど、彼女を魔法少女にするためには、こうなると相当な労力をつぎ込まないといけないだろうからね。
それなら他にもっと楽に契約してくれる少女なんて何人もいる」
そういった子を相手にして数をこなした方がまだマシさ、と平然と語った。
キュゥべえはそれを、悪いなどと欠片も思っていないようだった。
「やれやれ、この任務も疲れるよ。どこかにいないものかなぁ―――この世界の概念そのものを覆す、万能の神にも
成り得る、途方もない才能を秘めた少女が。そんな子がいたら、ボクの全てを懸けて契約してみせるんだけどな」
「いてたまるか、ンなもん―――神様なんか、本当に困った時は助けてくれねえんだからな」
杏子は己の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情をした。
何か、思い出したくない過去を想ってしまったような―――そんな顔。
「ま、とにかく。キュゥべえにしてみりゃ大失敗だろうが。たまにはいいさ、こんな物語(ストーリー)も」
そう―――きっと、こんなお話があってもいい。
血腥い魔法少女の世界を垣間見ながらも、愛しい誰かに手を引かれて、平和な日常に戻っていく。
「そんな…普通の少女の物語があったって、いいじゃん」
「ならば、キミはどうするのかな、杏子。魔法少女であるキミの物語は、どうなっているんだい?」
「分かり切った事を訊きやがって。決まってるだろ―――」

杏子の姿が、瞬時に切り替わる。
真紅にして深紅、赤色にして朱色。
魔女を狩る、魔法少女へ。

「魔法少女に安息なんてない―――逃走も赦されない。永遠の闘争だけが、魔法少女(あたし)の物語だ」

それじゃあ今日も、魔女退治といきますか―――
佐倉杏子は地面を蹴って、空へ舞う。
過ぎ去った<普通の少女>としての日々に。
もしかしたらあったのかもしれない未来に。
僅かに想いを馳せながら。


普通の少女は、日常へ。
魔法の少女は、戦場へ。
一度は交錯した二人の少女の道は、再び分かれて元へと戻る。
もう二度と、その道が交わる事はないだろうけど。
せめて、二人のこれからに、夢と希望があらん事を。


―――全ての少女に、花束を―――
324サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/07/11(月) 20:07:50.61 ID:kO8ejEwR0
投下完了。
魔法少女みやこ☆マギカ、これにて完結。っていっても、全六話の短い話でしたが。
割と反響(というかQBの悪役人気)があって嬉しかったです。
杏子は書いてて楽しかったー。
ハッピーエンドはまどマギには似合わないかもしれませんが、折角の二次創作なんだから、と
割り切って書きました。

都子は何というか、原作(ときメモ4)だとトンデモねえヤンデレキャラなんですが、そういう部分が書けなかったなー。
ただ、その辺を忠実に書くと多分わけが分からなくなる上にドン引きされそうだったんで。
んー、力不足。

キスシーンとか、バキスレじゃ初めて書いた気がする…こっぱずかしい。

あと、書いた後で「あ、ここ間違ってるじゃねーか!」「ここは書き直そう…!」と思った部分も多々あるので、
まとめサイトで保管していただいた所に、自分で訂正してる部分があります(大して変わってるわけでもないですが)。

では、次はサンレッドで会いましょう。

>>315 まどマギの基本路線とは違うけど、一応自分では満足して書けました。Oh…TDN…

>>316 短い話でも、きっちり完結させると感慨深いものです。ふら〜りさんも相当書いてらっしゃるから…。

>>317 エピローグも、甘ったるく決めてみました。

>>318 四年前にいた面々…戻ってきてほしいものです。
325作者の都合により名無しです:2011/07/11(月) 23:47:47.24 ID:Ud832LBD0
お疲れ様でした!
またサマサさんの完結数が増えましたね!
2人の少女のこれからも見てみたい気もしますが
サンレッドも楽しみにしております。
326作者の都合により名無しです:2011/07/12(火) 21:49:06.54 ID:0eNYVPio0
バキスレでキスシーンって今まであったっけ?
サマサさん完結おめです。
魔法少女も少女のうちか…
327作者の都合により名無しです:2011/07/12(火) 22:57:09.63 ID:2xvjv9IN0
恋する少女はみんな魔法使いオチかー
ありがちというか王道ですな
完結お疲れ様でした
328 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 14:49:40.53 ID:lczKNppQ0
 橙の光が闇の中を進んでいた。円形のそれは時おり左右へ傾き空間の暗黒を削っていた。灰色の壁。丸く歪曲した天井。
そして線路。光が無造作に抽出する景色はここがトンネルであるコトを示唆していた。
 光はどうやらライトらしく後方から硬い足音がコツコツコツコツ常に響いている。それはもつれ合うような不協和音。足音の
主は複数いた。
「しかし広いわねココ。電波とか届くのかしら?」
 場所に不釣り合いな嬌声が淀んだ大気を震わせた。
「届くって入ってすぐの頃に言っただろ! 戦団への定時連絡! 毎日毎日ボクに押し付けやがって!!」
 こちらはいかにも坊ちゃんといった感じの若い男性の声。懐中電灯を握る手をぶるぶる震わせ憤りも露だ。
「何にせよ大戦士長救出作戦まで後2日。大まかな位置は把握できたな」
 いかにも無頼漢じみたハスキーな声が笑みを含ませると、前者2人は軽く同意を示した。
「まさか地下にトンネルがあるなんてね。地上から追跡しても分からない筈よ」
 まず応じたのは中性的な美貌の持ち主である。髪は短く瞥見(べっけん)の限りでは男女の区分がわからない。
 そんな”彼”を眼鏡の青年は得意げに指差しカラカラと笑った。髪には跳ねが多く寝ぐせだらけという方が分かりやすい。
「ボクのレイビーズたちに感謝しろよ円山。大戦士長の位置だって今日中に見つけてみせるさ」
 自信あり気な声音だがあまり余裕は感じられない。笑みもどこか卑屈な青年で丹力の乏しさが伺えた。
「確かに感謝だな」
「ひ……!」
 青年の頭が背後からガシリと掴まれた。彼は蒼い顔を恐る恐る後ろへねじ向け、背後の大男を見た。
「ヴィクターIIIの捕捉と言いなかなかどうしてやるじゃないか。見直したぞ犬飼」
 堂々たる体躯と十文字槍を持つ男がそこにいた。単純すぎる形容をするとすれば野武士であろう。荒々しく伸ばした黒髪
といい、いかにも元亀天正からそのまま現代に迷い出てきたような風貌だ。
「分かったから頭を放せ戦部!」
「フム。無作法だったか。しかし……ようやく」
 それほど強く掴まれていなかったが何となく怖かったらしい。犬飼、と呼ばれた青年は引き攣った胸に手を当て兢々(きょ
うきょう)たる息を付き始めた。だがもはやそんな様子など目に入っていないのだろう。戦部は槍を背中に回しのっそりと歩
きだした。通り過ぎていく彼を見た美貌の青年はわおと歓声を上げた。戦部の頬には凄烈な笑みが張り付いている。舌舐
めずりさえする様はまさに獣を狙う獣の顔つきだった。


 犬飼倫太郎。
 円山円。
 戦部厳至。


 かつて戦士長・火渡赤馬に坂口照星とその誘拐犯の追跡を命じられた男たちである。
 戦士ではあるがその分類は奇兵。今夏は一時期”再殺部隊”として毒島華花・根来忍といった連中ともども津村斗貴子や
パピヨンと熾烈な戦いを繰り広げた。力量面では申し分なしというところだが人格や性質に難があり、自然ヴィクターIII討伐
に代表されるような「難儀な、汚れ仕事」ばかり回されがちである。手がかりもなくその癖危険ばかりは大きい坂口照星追
跡を一介の戦士長に過ぎぬ火渡に丸投げされたのも、それを戦団に黙認されているのも上記一例であろう。

「まあスゴいといえばスゴいわねレイビーズ。地下トンネルを探し当てちゃうなんて」
 レイビーズ。一般的には狂犬病を意味する言葉だが、この場では犬飼の武装錬金を差す。形状は軍用犬(ミリタリードッグ)。
核鉄1つにつき1対2体の自動人形である。いまは4体が地上を捜索している。
「大戦士長の匂いが漏れていたからね」
「?」
「言うまでもないけどね。楯山千歳が捕捉できなかった以上、大戦士長は何らかの武装錬金の影響下にあった筈さ。「外部
からの干渉を完全にシャットアウトするタイプ」かな? とにかくバスターバロンごと拘束されていたのは間違いない。けど敵
側に何らかの事情があったようだね。一瞬だが特性が解かれ、本当にわずかだけど匂いが漏れちゃってたよ」
329 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 14:59:30.57 ID:lczKNppQ0
.
──「ところで照星君はどこにいるのかな? さっきから全然姿が見えないけど」
── ウィルはかすかに気色ばみ、そして瞑目した。
──「では、ご覧にいれましょうか。ボクの『インフィニティホープ』、ノゾミのなくならない世界と共に」
── 突如として大蛇のような巨大な影が空間をガラスのようにブチ破り、ムーンフェイスを襲った。
──「止まれ」
── ウィルの指示で肩口スレスレで止まったそれは低く唸ると、割れた空間に引き戻る。
── そこでは水銀に輝くブ厚い扉が開いており、中には照星の姿が見えた。
── 神父風の彼はアザと血に塗れてピクリとも動かない。
── 胸のかすかな動きで息があるコトだけが辛うじて分かった。
──「こりゃビックリ」
── 感想をもらすムーンフェイスはどこかわざとらしい。

                                             (11話─(3)参照)

「ナルホド。それがこのトンネルに残っちゃった訳ね」
「もちろん完全密閉とはいかないよ? どこかに通じている以上、空気の流れがないワケじゃない。第一天井なんかにも隙
間があるしね。長いトンネルの天井全部一枚の板で賄えないだろ? コンクリートでもそれは同じさ」
「ホントだ。何mかごとに分けて嵌めこんである。隙間はこのコたちの境目に……ね」
 円山は感心したように高い天井を見上げた。その様子にますます気をよくしたのかますます弾む犬飼の声。
「空気の流れに隙間。地上に、大戦士長の匂いが漏れていた理由さ。おかげで何とか嗅ぎつけるコトができた」
 そこで犬飼はニタリと唇の端を吊上げた。自信に満ちてはいるがやはりどこか劣等感の見え隠れする薄暗い笑みだ。
「しかもトンネルにはムーンフェイスと、誘拐犯の匂いもあった」

(ブ厚い土の上から、な。犬の嗅覚の倍というだけはある)
 聞くともなしに二人のやり取りを聞いていた戦部は微かに微笑した。

「どういう訳か誘拐現場には犯人たちやムーンフェイスの匂いがなかった。けどトンネルの中は違うよ。一応彼らは歩いた
らしい。だったら追跡はしやすくなる。たとえ大戦士長を何かの武装錬金で外界から完全に隔離していたとしても、今度は
同行者たる彼らの匂いを追えばいいだけだからね。乗り物に乗って移動したようだけど匂いはまだまだ残っている」
「後はそれを追うだけ……そんな方針だったわね」

(乗り物か)
 戦部は足元に目を落とし思案顔をした。地下鉄に使うようなレールがどこまでもどこまでも闇の奥まで伸びている。
(トンネルもだが線路も人工物のようだ。武装錬金特性で作られた訳ではない)
 ふむうと顎に手を当て戦部は考える。道中何度も繰り返した思案だが、これだけの長さこれだけの深さのものを作り上げ
ようとすればやはり相当の組織力がいるだろう。
(莫大な資金は言うまでもなくそれを兵站に生かしきる手腕は欠かせん。ホムンクルスは量産が効き人間以上の高出力を
持ってはいるが、大規模な物を作らせるには相応の教育が必要だ。統率、といってもいい。奢り高ぶり人喰いに傾注しが
ちなホムンクルスどもを長期間巨大な工事に従事させ、かつ水準以上のものを作らせたとすれば…………)
 戦部の趣味は戦史研究だが、歴史家にいわせれば歴史上勝利を収める組織とは上記が如き兵站と涵養(かんよう)
を達成できる物らしい
(いささか寓話じみた警鐘だが強者を招きやすいのもまた事実)
 質の高い組織には自ずと実力者が集まってくる。果実を期して幹と品種を眺めるように戦部は目を細めた。
(レティクルは10年前より強くなっている。俺が『弁当』の喰い方を覚えたあの時より)

 とりあえず行き止まりにたどり着いたのが数日前。9月9日である。
 そこから出口──梯子を上りマンホールを開ける──を見つけ再度レイビーズで追跡したところ、いくつかアジトらしい
場所が浮上。それらを戦団に報告したところ「救援部隊の体制が整うまで監視を継続」との結論に落ち着いた。音楽隊経
由で判明した敵の正体を伝えられたのもその頃だ。
 目下戦部らは警邏と絞り込みの最中だ。敵地は近い。襲撃も半ば期待していたが平和なまま現在に至る。

(このあたりに列車はない。消えたのだろう。誘拐に使われた物は武装錬金)
 退屈な現状把握をなぞりながらも内心線路に垂涎している戦部だ。
(10年前はなかったタイプ。詳しい形状は分からんが列車は列車、小ぶりというオチもあるまい。是非とも戦ってみたいものだ)
330 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:15:07.20 ID:lczKNppQ0
.
 そんな彼の思案をよそに背後では明るい声が響いている。

「でも分かるまでは大変だったわねー犬飼ちゃん。なかなか見つからなくてキャプテンブラボーに核鉄まで貸して貰って、4
体がかりであっちこっち探してたもの。もうほとんど涙目で取り乱してばっかり」
「黙れ!! 匂い追跡は難しいんだぞ!! 今回みたいなトンネルとか特殊な武装錬金使う相手なら特に!! というか
なんで誘拐現場の近くに入口なかったんだよ!! それさえあればボクは苦労せずに済んだんだ!!」
「どうやって地上に出たんでしょうね。誘拐犯さんたち」
 他愛もなくきゃいきゃいと戯れる2人に戦部は軽く嘆息した。道中こんなやり取りが何度もあった。よく飽きもせずに
何度もと呆れもするがそうでもしなければ気分が滅入って仕方ないのだろう。真暗で先の見えないトンネルは無言で
歩き続けるにはあまりにも長すぎる。
「でも匂いがあった以上確定さ。このトンネルが大戦士長誘拐に使われたのはね。毒島に調べて貰ったけど、誘拐現場
近辺に地下鉄や坑道といった類のものはない。敵が作ったとみるべきさ。そして匂いはブラフじゃない。ブラフを敷くなら地
上の方さ。けどアレだけ探しまわって一回もそれらしい匂いを捉えられなかったんだ。敵はブラフなんて使ってない。だったら
後はトンネルを辿るだけだろ?」
「そうね。大戦士長が誘拐された辺りにも戻ってみたけど、あっち方面のトンネルは一本だけの行きどまり」
「で、逆方面に向かった結果、ココにいる。分かれ道はなかったね。どうやら大戦士長誘拐用の直通らしい」

 衒学的な演説もひと段落というところだ。実力不相応の自意識もそろそろ満足だろう。アタリをつけた戦部は振り返り野太い
笑みを浮かべてみせた。

「重ねて言うが感謝するぞ犬飼。標的はすぐ傍。貴様のお陰でホムンクルス以上の連中と戦えそうだ」
「昂ぶっちゃって。もしかして敵の気配でも感じた?」
「ああ。居るぞ円山。近くにおよそ4体。内1体は恐らくヴィクター級。救出作戦が愉しみだ」
 一団の中で一番の美貌の主はやれやれと肩を竦めてみせた。僚友だから知っている。現役戦士中ホムンクルス最多撃破
数を誇る戦部は常に強者との戦いを望んでいるコトを。彼に言わせれば記録保持など望みを追い続けた副産物、通過点にす
ぎないのだ。ゆえに大戦士長誘拐という異常事態さえ彼にとっては新たな強者出現ぐらいの意味合いしかない。
「ヴィクター級ねえ。まあ1人ぐらいはいると思うけど……どうする? ボクたちだけでそいつ倒してみる? やれば大手柄だけど」
「悪くない提案だが、生憎俺は常々思っている。大戦士長とも戦いたいとな。救出をしくじり死なせては折角の飯もまずかろう」
「自重しなさい犬飼ちゃん。私たち結局ヴィクターIIIさえどうにもできなかったじゃない」
 軽く歯噛みし目を逸らす犬飼に円山は思った。「ホラー映画とかでまっ先に殺されるタイプね」と。実際彼は今夏のヴィクターIII
(武藤カズキ)討伐においてまっ先に交戦しまっ先にやられた輝かしい戦績の持ち主だ。
 それを気にしているのか。どうも最近功を焦っているフシがある。コンプレックスもあるのだろう。代々戦士を輩出した家系
の生まれで祖父──円山の記憶が正しければ、恐らくは──犬飼老人に至っては戦士長さえ努めていた。その後任に収ま
りいまは大戦士長にまで登り詰めているのが他ならぬ坂口照星なのである。一方犬飼は奇兵扱いの厄介者。救出作戦には
つまり戦士たち家族たち両方への面目躍如がかかっているという訳だ。
「私情挟みすぎね。2人とも。まあイイけど」
 円山は特に思うところはない。火渡に命じられたから付いてきた。それだけである。もし敵に円山好みの可愛いコがいれば
風船爆弾の武装錬金バブルケイジで身長を吹き飛ばし鳥カゴで飼いたくもあるが、それはついで程度である。主目的にする
ほど乗り気でもない。なぜなら──…腹部が痛い。傷が疼く。胃の中にゴロゴロとした不快感が走りいまにも爆発しそうな恐
怖がある。少し前、ある人物から受けた傷だ。
 円山の武装錬金の特性は「触れた相手の身長を15cm吹き飛ばす」。吹き飛ばした量が対象の身長を上回る場合、相手は
消滅する。
 今夏、円山はその特性を縦横に駆使し、ある対象の身長を34cmまで縮めた。しかし円山は目測と詰めを誤り、たった2発
しか当てなかった。差し引き4cm。そこまで縮んだ相手がどこに向かっているかも知らず、円山は大きく口を開け、笑い、不用
意な発言──鳥カゴで飼うのも悪くなかった──をしてしまった。
331 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:20:09.12 ID:lczKNppQ0
 相手は、津村斗貴子だった。不用意な発言が飛び出すころにはもう影も見せず円山の口に飛び込み胃の中へ潜り込ん
でいた。そして発言を悪趣味と断じ、「人間の」「円山の」胃を内部から切り開き、脱出した。
 その傷はトラウマとなり以来そのテの諧謔を浮かべるたび警告的ファントムペインに苛まれる。
 思い出したくもない──だが激痛もたらす法悦への期待もやや滲む、そんな──やや強張った笑みで円山は話題を変えた。
「私情といえばココ裂いてくれちゃったあのコ。今頃銀成市で怒っているでしょうね」
 同じ部隊のよしみか。毒島はこまめに戦団の現状を教えてくれる。おかげで暗いトンネルを歩くだけの円山たちもいっぱしの
事情通気取りだ。特に銀成市の現況は──かつて戦った相手と縁深い土地というコトもあり──よく話題にのぼる。
「ホムンクルスとの共闘ねえ。いいじゃないか。捨て駒にできるんだろ?」
 いささかひどい犬飼の意見だが、戦士としては模範解答だ。
「…………フム」
 戦部の目に鋭い光が灯ったのは戦後を鑑みてのコトだろう。共同戦線は救出作戦限定なのだ。終わってなお生き延びて
いる者があれば始末と称して挑むのも悪くない。野趣あふるるニュアンスに苦笑一方の円山だ。
「ま、見て気に入れば別の選択肢も有り得るがな。だがどちらにせよ──…」
「?」
「奴らが生き残っていればの話、だがな」
 機微を察したのか、大男は踵を返し仲間を見た。
「お前たちはまだ若いから知らないだろうが」
「チョットぉ。確かに若いけどアナタだってまだ27じゃない。私のたった4つ上」
 円山の抗議をしかし微笑でゆるりと流し戦部厳至は言葉を紡ぐ。
「敵は強いぞ。並のホムンクルスでは生き残るのも難しい」
「レティクルだっけ? それも毒島から聞いているよ。大戦士長を誘拐したのもそいつらだってね。でも10年前戦団に負けた
んでしょ? とてもそんな強いとはねェ」
「強いさ。実際見れば分かる。まだ若いお前たちと違い、俺はあの場に居たからな」
「へぇ初耳。10年前の決戦にいたなんて。その頃アナタまだ17。よく許可が下りたわね」
「武装錬金の特性が特性だからな。もっとも……その時まで『弁当』の喰い方も知らん新米だったが」
 犬飼と円山は顔を見合わせた。話がややズレている。余談だが戦部の武装錬金は『激戦』という十文字槍で、特性は槍
本体および創造者の高速自動修復である。戦部は例え黒色火薬で跡形も残らぬほど吹き飛ばされてもたちどころに再生する。
ただしその代償として莫大なエネルギーを要するため、戦闘突入時には『弁当』が必須だ。もしそれがなければあっという間に
ガス欠をきたし修復不能となるだろう。
 とはいえそれが敵の話とどう関係あるのだろう。戦部の話、続く。
「弁当の喰い方を覚えたのは幹部と戦っている最中だ。ディプレス……だったか。火星の幹部は圧倒的に強かった。あの
決戦における記録保持者は間違いなく奴だ。多くの戦士がディプレスによって分解され、命を失った。俺の居た部隊も例外
ではない。決して小さくはなかったが遭遇から5分と経たず壊滅に追いやられた」

 最初はただの掃討任務だったらしい。80体からなるホムンクルスの集団を壊滅寸前にまで追い込み部隊の士気はとみ
に高かったという。そのとき面妖な鳥型が音も立てず戦場に紛れ込んだ。

「まずは3人。気づいた時にはもう遅かった」

 仲のいいグループだった。一ツ所に固まってめいめいを補佐していた彼らの首から上が当たり前のように爆ぜた。ぶしゅ
りという不気味な音がした。首から夥しい出血を催す死骸が3つ仲良く膝をつき、傾き、そして丸太を転がすような音を奏で
る頃ようやく他の戦士も異常に気付いた。一瞬止まる戦場の波。滑り込む影。ある直線状にいた戦士が6人、『大きく削ら
れた』。運が良いものは右肩と右腕と右肺全部に気管支と左肺を少々。不運なものは腎臓同士の中間点を中心に腹部と
腰部のほぼ総て。人体を構成するいろいろな器官の落ちるリズムのやかましい中、戦士たちは見た。いたく嘴が巨大な、
不格好な鳥がはるか先で顔半分だけ振り向かせているのを。三白眼と口元をたっぷり歪め酷薄な笑みを浮かべているのを。

「飛火飛鴉(しんかひあ)?」
「中国のロケットミサイルみたいなものさ」
「特性は分解能力。無数にあるボールペン大の武装錬金。奴がそれを飛ばすたび俺を含む戦士どもが分解された」
「ま、アナタは激戦があるから問題ないでしょうけど、他の戦士はねえ」
332 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:27:01.49 ID:lczKNppQ0
.
 誰かが怒号をあげた。
 激烈な感情が伝播した。膨れ上がった殺気がそれまでの相手を軽くすり潰しながら鳥へ鳥へと向かい始めた。

「武装錬金の名はスピリレットレス(いくじなし)。いわば最強の矛だが最強の盾にもなりえる」
「成程。身にまとう訳だね? いや、周囲に漂わす……といった方が正しいかな?」
「キャプテンブラボーのシルバースキンが殴ってきた相手の腕分解するようなものね。物騒すぎてイヤになっちゃう」
「ゆえに激戦の高速自動修復を以てしても攻撃は届かなかった。もっとも、”その時までの”修復面積と回数ではな」

 近接戦闘を嗜むものは挑みかかるたびことごとく武器を砕かれその隙に頚部を打ち抜かれ絶命したという。
 遠距離攻撃をする者も末路はおおむね同じ。ディプレスは地を蹴りそして飛んだ。迫りくる銃弾やエネルギー弾を『盾』で
分解しつつ相手へ肉薄! 工夫も何もない。ただの体当たりを見舞った。周りに展開する分解能力の武装錬金ごと身を
ブチ当て戦士を肉塊へと造り替えた。

「なかなか面白い戦いだった。初陣から2度の戦もせぬうち大将以下が総崩れだ」
「楽しんじゃってるわねェ」

 やがてエネルギーが尽きた。隻腕の戦部は片膝をついた。手にした十文字槍は柄の上半分が穂先ごと消失。修復に伴
う稲光が微かに瞬いているが高速と呼ぶにはあまりにも精彩を欠き、遅かった。

 ラスイチ。よく戦った。嘲るような労いを囀りながら巨大な嘴の鳥がゆっくりと歩み寄る。周囲は屍の山。戦部の運命もまた
そこへ合流するかと思われた。

「その時さ。弁当の喰い方を覚えたのはな」

 負け戦。そんな絶対不利さえ愉悦と好む形質が奇跡を生んだ。腰だめのまま戦部は右腕ごと十文字槍を跳ね上げた。
居合いのような峻烈さだった。鞭と見まごうばかりしなる打撃の軌跡の中、神速ともいえる速度で元の形へ復した激戦、
がりがりと凄まじい音を立てながら分解され──…ディプレス=シンカヒアの嘴の一部を削り飛ばした。微かに驚き汗を
流す敵。彼とは逆に会心の、野太い笑みが戦部を支配した。劣勢の中、弱卒が一瞬だけ至強を上回る。戦部厳至の心が
躍るひとときである。

「修復速度が分解速度を上回った訳ね。でもソレをテンション一つでやってのけるなんてねえ」
 呆れたように円山は呟いた。きっと戦部は起死回生などカケラも目論んでいなかったに違いない。この一撃が通じなければ
負ける! 常人なら焦燥し繰り出すコトさえ躊躇う場面だが戦部にしてみれば「負ける!」という絶望的要素さえ面白い。もし
通じなかったとしてもその後の悪あがきさえ笑いながらとても楽しげにやってのけるのが彼なのだ。
 ただただ腹の減った子供が旨い料理の乗った皿を徹底的にねぶり尽くすようなに、戦闘という料理に残る余地、残滓も
何もかも消化せんとする貪欲さあらばこそ戦部は腹臓から高ぶり、高速自動修復の”高速”を更に一階梯上へ押し上げた
のだろう。回数も、面積も。
 つくづくと呆れながらも感心する円山の横で犬飼だけはしたり顔で自説を垂れ始めた。相手への称賛よりまず自分の発想
の素晴らしさとやらを披歴せずにいられない辺り、彼もまた子供じみている。
「ディプレスとかいう奴の武装錬金、シルバースキンと真逆だね。あっちは敵の分解速度が修復速度を上回れば攻撃が通
じる。戦えば分からないよ。どうなるか

「その辺りは分からんが……とにかく」

 削り飛んだ嘴の欠片。それを喜悦の表情で眺めながら戦部はゆるゆると手を動かした。果たして野太い槍の柄は器用にも
欠片を叩き、飛ばし、戦部の口にへと放り込んだ。

「後はまあ、いまやっているような弁当喰いと同じだ」

 咀嚼し、飲み干す。人を喰らうホムンクルスを人が喰らうというこの矛盾! だが戦史註(ときあか)す戦部にしてみれば
整合性に満ちた当たり前の行為である。攻撃が通じた瞬間、思い出し、腹が鳴った。古の戦士は斃した相手の血肉を喰ら
ったという。自らがそれより強いという証のために。そして相手の強さを取り込み、更なる強さを得るために。
 戦部の部隊に居た戦士は彼以外みなホムンクルス撃破数100以上。そんな手練れどもをあっという間に壊滅させたディプ
レス=シンカヒア。覚えるのは憎悪でも義憤でも復仇の念でもない。戦いたい。もっともっと戦いたい。そして打ち斃し……
もっともっと喰らいたい。なんと旨そうな羽根だろう。丸い頭を噛み千切れば何がどろりと出てくるのか。
333 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:30:56.79 ID:lczKNppQ0
 かつてない高揚の赴くまま──女を抱く興奮などこれに比べればまったく話にならぬほど矮小だった──戦部は叩き、薙
ぎ、突いた。全力で踏み込むあまり時おり足の下で仲間の死骸がナマ柔らかい何かをうジュりと吐き出したようだったが些
細な問題だ。戦後訪れた遺族や同僚どもの激しい抗議もひっくるめ、どうでもいい、つまらない問題だった。
 戦闘のもたらす高揚感。それこそが戦部を突き動かすものなのだ。それ以外は不要なのだ。

「半日は戦ったな。最初は小さな欠片程度しか飛ばせなかったが、徐々に徐々に喰いでのある塊を獲れるようになっていた」
「あらやだ。完ッ全に食べ物としか見てないわね」

 食べ物は食べ物でかなり興奮していたという。最初こそ食欲丸出しで迫ってくる戦部に激しくヒき、憂鬱だ憂鬱だと涙さえ流
していたが一通り泣き終えると、逆に、ハイになった。

「イヤだねェーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 何ィ!? 一体何なのよあんた!? 人間でしょ! 人間の分際
でホムンクルスさん喰っちまう訳!? え!! 何よナニナニおかしくねそれ!? 普通逆だよなあ逆!! 俺が! お前を!!
喰う!!! ホムンクルスさんがビビり倒す人間食べる!! それが摂理ってもんだろうが! 正しい流れってもんじゃねえか!!
なのに……オイ!! なんで俺がさっきから食べられちゃってる訳ェ!? おまっ、頭おかしくねーか!! なあ!! ……
ああ、ヤベえ。キタキタ鬱ってきた。せっかくよォ、惨めな人間の姿捨ててホムンクルスっつー化け物になって蹂躙する立場
手に入れたってのによオ〜〜〜〜喰われてるだァ!? クソ! 世界がまたてめェみたいなん差し向けて憂鬱にさせやがる! 
いつも、いwつwもwだw! こりゃあああもうううううアレだよなあああああ!! てめェ大好きっ子ちゃんになってよオオオオ!! 
うっとりと抱きしめて受け入れてやってからよおおおお!!! 世界!! てめェがいまさら何寄越そうと俺はもう揺らがね
えぞって強くなった寛容さの元に主張してやるべきだよなああ!! そして憂鬱を乗り越えてからてめェを殺すッッッ!!!
来な!! ゴーイングmy上へってな具合になぁ! 突き進むぜ俺はよォ!! 何があろうとよおおおおお!!!!」

 犬飼はため息をついた。
「狂っているね。どっちも」
「アジトに危機が来たとかで奴が撤退するまで戦いは続いた」


「それじゃバーイバーイバーイwwwwww それじゃバーイバーイバーイwwwwww」


「追おうとしたが相手は鳥型。あっという間に遠ざかり二度と見つけるコトはできなかった。あと4日もやり合えば喰えたのだ
が……惜しかった」
「負けなかっただけでも大したものよ」
 今更ながらに円山は実感した。火渡を除けば再殺部隊最強は戦部だろう。ホムンクルス撃破数の記録保持者だからと
いうのもあるが、そもそも戦闘に対する精神が根本から違いすぎる。”あの”坂口照星を誘拐した組織の幹部さえ、他より
わずかに面白くて喰いがいのある食料(エサ)ぐらいにしか見ていない。
「しかし、気になるな」
「何がよ?」
 十文字槍を持ちかえトンと肩に乗せると戦部はぎょろり目を剥き「いやな」と前置きした。
「確かあの後、奴や盟主を斃したという報告があった。だが奴らは現に生き延びている。腑に落ちんな」
「どうせクローンってオチじゃないの? ヴィクターの娘にソレ教えたのレティクルの盟主っていうし」
「例の音楽隊の金髪剣士も盟主のクローンだしね」
「いや、事後処理をした連中も最初その線を疑っていたが、調査の結果、間違いなく『本人たち』だと確認された」
「ワケわかんない」
「ただの手落ちかそれとも全く別の理由か……。ム? そう言えば『木星』の幹部だけは逃げおおせていたか? …………
いずれにせよディプレスに関してはしばしば生存説が出ていた」
「へぇ」
「鐶光。およそ1年前の話だが、音楽隊の副長はとある戦士と戦った。そのとき奴は、こう、だな」
 戦部の節くれだった掌が鼻のあたりから胸の半ばまでスッと下りた。
「ディプレス……ハシビロコウの嘴を作り、応戦した。関連性が疑われ、生存説が強まった」
「強まった? じゃあそれより前にも何かあったの?」
「7年前か8年前だ。殲滅任務に従事していた戦士が8名、惨殺されてな。死骸さえ残っていない者もいる。最後まで生き残っ
ていたらしい軍靴の戦士は戦団に連絡を入れ、こう言った。『敵は2人。うち1人は『火星』。ハシビロコウ。応答しろ。ディプ
レスは生きている』……と」
334 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:34:51.08 ID:lczKNppQ0
「だったらその時探せば良かったじゃない。まったくヴィクターのコトといい、戦団は詰めが甘いわね」
「探したさ。だが結局手がかり一つ得られず保留(テイクノート)扱いになった」
「やれやれ。その時ボクが戦士だったら今のように探し当てて見せたのに」
「ちなみに、だ」
 戦部はニヤリと笑った。
「その時人数分の核鉄が奪われたが、つい最近発見された」
「どこにあったの?」
「例の音楽隊から回収した26の核鉄の中にだ。どうやら奴らもまたディプレスと遭遇していたらしい」
「ん? 遭遇しただけじゃ核鉄取れないわよね? 戦ったの? でもまだ生きてるらしいわよねディプレス」
 不可解な話だ。音楽隊はディプレスと交戦し、彼を斃してはいないが所持品(核鉄)だけは8つも手に入れている。
「ところで献上されたのは20じゃなかったっけ?」
「それとは別に一時回収した音楽隊専用の核鉄が6つある。合わせて26。内1つは鳩尾無銘に返しているが」

 ディプレス=シンカヒア。

 かつて矛を交えた幹部はいまどこで何をしているのか。
 どうやら先ほど察知した気配の中にはいなかったらしく、戦部厳至はフウとため息をついた。
 むかし行ったうまい屋台がいまどこで営業しているか気にかけるような表情。犬飼と円山はそう思った。


 そして時系列はやや前後するが……。

 戦部が気にかける火星の幹部は。




 自販機でジュースを買っていた。

 銀成市の。

 人気のまったくない路地裏で。


「”これだ”って思えるものがあるならばー♪ 人の目ばっかり気にしちゃ損でしょーうー♪」


 金髪にピアスという”いかにも”ないでたちの青年はやや青い顔で歌を聴いていた。
 視線の先には全身フードがいて、自販機から戻ってくるところだった。

「しwwwwwかwwwwwwwwwしwwwwwww ツイてないよなあお前もwwwwwwww たて続けにマレフィックと会うなんざwwwww」
「え? ああ? う?」
 目を白黒しながら手を伸ばす。飛んできたのはジュースの缶だ。反射的にキャッチしながら愕然とする。
「それでもよォーwwww 病気のリヴォ野郎に業突張りのデッドwwwwww ワーカホリックなニートのウィルに破壊大好き盟主様
wwwwwwwwwそーいったのが銀成にいないだけマシだぜwwww アイツらにゃ理屈ってもんは通じねーwwww 話ができて加減も
できる分wwwwwグレイズィングとかマシな方だぜwwwww」
 どうやら奢ってくれるらしい。そもそもこんな路地裏に自販機があるのも妙な話だが膨れ上がる違和感に比べればまったく些
細な疑問だ。どうして奢ってくれるのだろうか。
                                                   マレフィック
「後よ後よwww お前が逢った奴らとかオイラの連れ以外にももう1人うろついてんだわ幹部wwww 木星、イソゴばーさんwww 
気をつけなwwww 見た目はチビっこい可愛らしい感じだしwwwww温和で穏健だからww暴力もエンコ詰めも拷問もしないけどwww」
 ガシリと肩を組みながら全身フードは低い声で耳打ちした。
「惚れられたが最後、喰われちまうぜ?」
 ぞっとするような声だった。純粋な殺意も確かに含まれてはいた。だがそれ以上に甘美な陶酔が大きく、男の自分でさえ
性的な何かをゾクリと蠢動させられる声だった。
「なーんつってwwwww なーんつってwwwwwwwww ビビった?wwww ねえビビった?wwww ンな顔すんなよwwwwww 
大丈夫だっつーのwwwww イソゴばーさんは自制できるお方だっぜwwwww 滅多なコトじゃ喰わないっぜwwwwwwwww」

 カラカラと笑いながら彼は肩を叩く。
335 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:40:20.71 ID:lczKNppQ0
「大体な!ww いまあのばーさん、お仕事の最中wwww 新しい仲間の候補探すのに忙しいwwwwwwwwwwwwwwwwwww
マレフィックアースつってなwwww オイラたちのしたいコトに必要な最後の幹部を探してんだよwwwwwwなのに人喰いとかやったら
戦士が騒いで台無しだろーがよwwww だからしねーよwwwwwイソゴばーさんはオイラたちん中で一番大人だからなwwwww
まーwwwww 体は子供丸出しなんだけどよオwwwwwwwwww あ、オイラロリコンじゃねーよwww おしとやかなよーwwwww
どっちかつーと巨乳なおねーさんのが好きだぜwwww」

「は、はぁ」と不明瞭な応答をしながら金髪ピアスは考える。

 この晩出逢った男女たち。カタチこそ違えど異常な破綻とおぞましさを抱えた彼らの仲間がまた一人、目の前にいる。理
由は分からないが気に入られたらしい、されたコトといえば他愛もない軽口だけで特に危害は加えてこない。
 だからといって飲む気になれぬがジュースである。掌をひんやりとさせ心地よく誘惑的だが口をつければどうなるか。幸い
プルタブの辺りは固く閉じられている。何かを混入された痕跡はない。悟られぬよう「くっ」と拳に力を込めアルミ製の筺体を
歪曲。液体の噴き出す気配はない。針のようなもので小さな穴を開けられてもいない。大丈夫そうだがさりげなく全身フード
と見比べながら逡巡する金髪ピアスくんである。
「wwwwwwww なんだよwww 毒なんて入ってねーよwwwww」
 ぎくりと身を強張らせる金髪ピアスだが相手が気を悪くした様子はない。
「まあ初対面だしwwwwあんな連中の仲間だからwwwww疑うのも無理はないよなwwwゴメンwwwゴwメwンwなwwww 心配
かけさせちゃってるよなあオイラwwwwwwwwwwwwああ憂鬱wwwww」
 笑っているがだからこそ恐ろしい。笑い声、笑み、笑顔。慈母のようににこやかな少女でさえ豹変し、恐るべき暴力──
当人にとっては『伝える』程度の軽い行為らしいが──をもたらしたのだ。安心などできよう筈がない。
「なんだったら俺が毒見すっけどwwwwwww あ! コップか何かに注いでなwwwww 口はつけねーよ口はwwww 男同士
でおまwww間接キスとかwwww照れるわwwww恥ずかしいwwwwwオイラがwwwwwwwww」
 身を固くする。心を読まれている。そういえばと汗を流す。先ほど彼はここに来た経緯をスパリと言い当てた。もし逃げよう
とすればたちどころに察するだろう。それがきっかけに爆発せぬとは限らない。
「ジュース飲む?wwww 飲んじゃう?wwwwwww」
 首をぶんぶんと左右に振りながら全身フードが迫ってくる。非常にうぜえと無意識に思いながら頷く。
「じゃあ開けるねwwwwwwww 開けちゃうwwwwwwwww」
 気障ったらしく指が弾かれた瞬間、それは起きた。プルタブ。それが魔法のように消失した。
「え?」
 何が何やらという顔で缶を傾ける。最初ただ開いただけかと思っていたがすぐさま違うと理解した。いくら角度を変えても
飲み口付近にタブは見えない。普通開ければ見える筈なのに……。良く見ると起こしたり戻したりする方のタブ──漢字の
『日』の下半分を丸くしたような──も消えている。
「さぁwwwwお近づきの印にwwwwwww一献wwwwwwwww一献wwwwwwwww」
 あっと目を剥くころにはもう遅い。素早い手つきで缶が奪われ口の上で傾いていた。強い力でこじ開けられた下顎めがけ
橙色の清涼飲料水がドボドボドボドボ降り注ぐ。吐きたいが吐けば何をされるか分からない。
「さぁ!! 吸い込んでくれーい! 僕の寂しさ、孤独を全部君がー♪」」
 恐怖。それは言い訳のように先ほどの女医を思い出させる。大丈夫。仮に毒が入っていてもきっと運んでもらえる。助け
てもらえる。命までは取られない。そうだったじゃないか。今まで遭った連中は……。
 妥協と甘えに満ちた生ぬるい考えのもとコクコクと喉を動かし飲んでいく。ただのジュースがおぞましい液体に思えた。し
かし品質自体はごくごく普通の物で、味に異常もなく異物混入も認められない。やがて缶が空になったころ気付く。消失し
たかに見えたプルタブ。口に残っていないし食道を通り抜けた形跡もない。缶にも残っていない。
 では、どこへ? どこへ消えたのか?
「さぁ? wwww気にするなwwwwww 本当にただ消えただけwww 原子レベルにwww分解されただけwwwww」
 そういって全身フードは肩を揺すって笑って見せた。その手に黒い靄のような物が漂っているのに気づき金髪ピアスは目
を擦った。もう一度見える。何もない。確かに何か黒いボールペンのようなものが飛んでいたのだが……。
336 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:43:33.71 ID:lczKNppQ0
 とにかく今までの人物とは違って比較的無害そうだ(ジュースを無理やり飲まされたが)。安心した金髪ピアスだがふと彼に
同行者がいたのを思い出す。いた、どころか先ほど突き飛ばしてしまっているではないか。今宵さまざまな刺激ですっかり
ベトベトになった背中を新たな汗が流れる。
 ゴミ捨て場の方から音がした。先ほど、同行者を体当たりで追いやったゴミ捨て場から。
 恐る恐るそちらを見る。

 黒い影が今まさに自分めがけ殺到しているところだった。
 同行者。それは女性のようなシルエットを持っていたがそれも分析するヒマあらばこそ。
 胸に何か強い衝撃が走った。上体がどうと揺れ思考が一瞬完全停止した。

 やがて巨大な泣き声が夜空に響き………………………………………………………………静かになった。


 翌日の昼。銀成学園地下。

 ヴィクトリアはまひろを前に眉を顰めていた。
337 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:46:37.01 ID:lczKNppQ0
今日は1週間に1度のお休みなのです。少ないのです。くすん。

ディプレスののーないキャストは藤原啓治さん。あのお声を想像しながら描くとテンション上がらないかい? 僕はそうさ。

くーねーくねーくねくねー! ぬーるーぬるーぬるぬるー!

田端「加頭ーーーー! おまえがーーーーー!! 松岡充に逢ってなければーーーー!! おれはーーーー!!」
松岡充「ボクと契約してゾンビ兵士に、なってよ!(満面の笑みで)」

塚田プロデューサーも大好き田端が登場するVシネマ・仮面ライダーエターナル、7/21発売! 買いたまえ。そして食べたまえ。はっはっは。

キュゥべえといえば仕事中やつがドドリアにレイプされるSS描いてたら上司に怒られた。
普通そのポジションはほむほむだろう! と。
えー。暁美サンがQBをレイプ? ふたなりはちょっと……。

そう呟いたところで僕は長い眠りから解き放たれた。来たか真夏の夜の淫夢! 松岡充も少し出ますよ仮面ライダーエターナル。

>ふら〜りさん(QBとはこんなヤツです。つ http://www.youtube.com/watch?v=LgM9cadDUTs
いやー本当常にそうですが、勝てない!! 前作のMSもぶっ飛んでましたが今度はメタ系……確かにそうでもせねば刃牙
世界の連中とは均衡が取れぬのですが、

──間合いに入って発動したら、互いの位置関係がどうあれ投げグラに入るのは当たり前でしょ。

「当たり前じゃねーよ!!」と思わず全力で突っ込んでしまったメタ系の特質、「いつの間にか自分に都合よく世界改竄してる」
の厄介さが同時に弱点を生み攻略の糸口になってる辺りこれはもう一種の能力バトル、プレーンすぎる能力を戦いの年季
で補う3部ジョセフが如きですよ刃牙は。でもココはユーコンが小説版にシフトしSNKの恩恵にあやかって横からの攻撃
(=ライン攻撃)にも対応する姿も見たかったり。漫画版はカプコン、小説版はSNKでしたっけ。技とかのモチーフ。個人的
にはふら〜りさんverの花山さんや渋川先生も見てみたいですね。ヤング渋川先生。10代でー美形補正ありーののー。


>サマサさん(完結おめでとうございます)
のっけからさやモンキー路線一直線の暗雲立ち込めまくりで中盤も絶望色ドス黒でしたがハッピーエンドで一安心です。
いいですね青春。コネクトが欲しくなりました。メモリーメモリを引きずり出し「スパイダー!」「スパイダー!」「スパイダー!」と
鳴らしまくりたくなるほど爽やかな終わり方、この読後感! コネクトが欲しいですね。うん。今は幸せそうで良かった。”今は”。
キュゥべえは心から純粋に愛していますので、セリフの1つ1つが脳内再生できてほっこりしました。もし自分が願いをかなえ
て貰えるなら、メモリーメモリが仕様上なぜかいわない「メモリー!」が鳴るように……この願いはエントロピーを凌駕します
よね。え。しませんかそうですか。
とにかく一番頑張ったのは杏子ですよ。原作では悲しい末路を迎えた彼女がここではちゃんと生き残って称えられるヒーロ
ーしている! そうですよ。口は悪いですけどいい子なんですよ彼女は。報われるべきなんですよ。挫折から立ち直った後
の爆発力! これがまた鮮明に浮かんでありがとうですよ。浮かぶといえば魔女のビジュアルもですね例のBGMが自動的
に脳内再生されるぐらい良かったです。
338 ◆C.B5VSJlKU :2011/07/13(水) 15:54:11.76 ID:lczKNppQ0
建てました。

【2次】漫画SS総合スレへようこそpart71【創作】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1310539725/
339作者の都合により名無しです
お疲れ様です!
あげますね。