【2次】漫画SS総合スレへようこそpart69【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の作品は>>2以降テンプレで。

前スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1276348689/
まとめサイト(バレ氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ(ゴート氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss
2作者の都合により名無しです:2010/11/08(月) 12:17:28 ID:otxRIMax0
1段目2段目・戦闘神話 3段目・VP 4段目カルマ( 銀杏丸氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm(前サイト保管分)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/16.html(現サイト連載中分)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/501.html
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/860.html

永遠の扉 (スターダスト氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm(前サイト保管分)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/552.html

ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― (邪神氏)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/453.html

上・ロンギヌスの槍 中・チルノのパーフェクトさいきょー教室
下・〈Lost chronicle〉未来のイヴの消失 (ハシ氏)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/561.html
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1020.html
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1057.html

天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 〜惑いて来たれ、遊情の宴〜 (サマサ氏)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1110.html

上・ダイの大冒険AFTER 中・Hell's angel 下・邪神に魅入られて (ガモン氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/902.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1008.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1065.html

カイカイ (名無し氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1071.html 

聖少女風流記 上・ジャンヌ編 下・慶次編 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/114.html

AnotherAttraction BC (NB氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/104.html (現サイト連載中分)
3作者の都合により名無しです:2010/11/08(月) 12:20:39 ID:otxRIMax0
ちょっと早いかもしれませんが立ててしまいました
もし間違いがあったらすみません
4作者の都合により名無しです:2010/11/08(月) 18:50:15 ID:B6NTXsOF0
上・DRIFTERS VERSUS ... 中・HAPPINESS IS A WARM GUN  
下・THE DUSK (さい氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1145.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/608.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/617.html
5作者の都合により名無しです:2010/11/08(月) 18:52:45 ID:B6NTXsOF0
1さん乙です。でも俺が好きなさいさんを忘れないでよw

多分、今稼動してるのはDRIFTERS VERSUSだけかも知れませんが
他の作品も進めてほしいんで入れました。
DRIFTERSともども、他の作品も期待してます>さいさん
6作者の都合により名無しです:2010/11/09(火) 09:32:33 ID:+CspsB000
1さん乙。
さいさんとNBさんの復活はとてもうれしかったが
結局ハイデッガさんはこなかったね
7作者の都合により名無しです:2010/11/10(水) 18:04:59 ID:LXnfKjci0
現スレは盛りますように
8永遠の扉:2010/11/12(金) 23:24:31 ID:42JKPxoJ0
第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」(後編)

 パピヨンに首を絞められたとき、ヴィクトリアは確かに見た。

 いつか見た秋水の、澄んだ瞳とはまったく対照的な瞳を。

 濁っていて、苛立っていて、ヘドロとマグマを綯(な)い交ぜにして煮たてているような──…
 それがパピヨンの瞳だった。普通の人間ならまず嫌悪し、目を背け、悪と断じて貶めるだろう。

 だがヴィクトリアは……惹かれた。
 瞬間的に、瞳の奥にあるモノを理解してしまった。

 彼の境涯は僅かだが知っている。かつて彼の実家に行き、彼の父の日記を読んだコトがある。

 まだ人間だった頃のパピヨンは不治の病に罹り、誰からも必要とされず、死を待つだけだった。
 だからホムンクルスになったのだろう。
 イモ虫が蝶に変態すれば、華麗な変身を遂げさえすれば誰からも注目される。
 そう信じて研究を重ねた……というのはパピヨンの父の日記には書かれていなかったが……見当はつく。

 だがそれでも、一縷の望みを賭けたホムンクルス化さえ彼の人生を好転させなかったようだ。

 ヴィクトリアはホムンクルス化直後のパピヨンがどういう行動を取ったかまでは知らない。

 だが蝶野屋敷と呼ばれる彼の実家が荒廃し、住民が誰一人生存していないところからおおよその推測はできる。
 必要とされなかったから、殺した。
 想像に難くない話だ。

 武藤カズキという少年は、パピヨンを必要……とまではいかないが、何かを与え、何かパピヨンにとって一番大事な「何か」
を認めたように思える。人間に戻したいという執心を呼び起こすぐらいなのだから、きっと途轍もなく大きな物を与えたに
違いない。

 そんな存在が、月に消えた。
 父が同じ経緯をたどり、同時期に愛する母さえ失ったヴィクトリアだから、パピヨンの抱えている感情は少しだけ分かった。
 女学院の地下に秋水が来るまで彼女は、ただ、疲れていた。
 老女のように枯れてねじくれた精神から一絞りの何かが消えうせて、ただ疲れていた。
 総てを諦めていて、「そこから先」の人生に意味など見出せなかった。希望があっても縋るつもりにはなれなかった。
 そんな少し前の自分に溢れていた感情が、パピヨンの瞳の端々に見えた。
 違うところがあるとすれば。

 何もかもを諦めかけながらも。
 そこから先の人生の無意味さを悟りつつも。
 希望に縋るより絶望の赴くまま総てを破壊する方が楽だと知りつつも。

 自分にとって大事な「何か」を取り戻したいと奮起し、汚泥の中を歩いて行く。

 そんな意思の強さが瞳の奥に宿っていた。

 にも関わらず彼が揺らいでいるのは、大事な存在を失ったという失意のせい。

(平気な訳、ないわよね)

 鬱屈するのも無理はない。

9永遠の扉:2010/11/12(金) 23:25:52 ID:42JKPxoJ0
 彼もまた、たった一人のかけがえのない存在を失っているのだから。
 不可能を可能にするという理念さえ、巨大な失意に引きずられ、飲み込まれそうなほど傷ついている。
 一言でいえば彼は……悲しんでいる。
 つい最近母を失ったヴィクトリアだから、同じ気持ちには敏感だ。例え彼がそう言わなかったとしても、彼を取り巻く雰囲気
は雄弁すぎるほど気持ちを物語っている。
「何か」を与えてくれた人間がいなくなり、悲しんでいる。
 普通の人間ならそれを誰かに伝え、喋り、憚りなく泣きさえすれば気持ちは少しずつ楽になる。

 だがパピヨンはずっとずっと孤独のままなのだ。
 そして孤独の中で「ならざるを得なかった」傲岸不遜な態度のせいで……誰にも弱みを見せられずにいる。
 にも関わらず無差別な破壊で憂さを晴らせないのは、やはり武藤カズキとの間にあった何らかの絆のせいではないか?

 パピヨンの瞳を見た後、ヴィクトリアは少しずつ思い始めていた。

 なんでもいい。少しでもいい。彼の悲しみを和らげられないかと。


【9月12日】 昼ごろ。


──────銀成市。とある孤児院──────



「ではお願いしますの。話をしたら子供たちがもう、待ちきれないっておおはしゃぎですの。ありがとうございますの!」
「いえ。礼には及びません。やっぱり子供達は笑顔が一番ですから」
 防人は孤児院の庭にいた。やや大きめの駐車場ぐらいしかないこじんまりとした庭には身寄りのない子供たちが10人ほど
いる。孤児院……というコトで防人はここに来る前、錬金戦団にある同様の施設──こちらはホムンクルスに家族を殺され
た身寄りのない子供たちを収容する施設だ。千歳や剛太もそこで育った──に漂う一種の暗さを想像していたが、ついてし
まえば何とも彼好みの明るい喧噪に満ちていた。銀色の覆面の下で頬を緩ませながら庭を一望する。じゃれあう子供たち。
追いかけっこをする子供たち。砂場にいるのは兄弟だろうか。よく似た顔つきの子供が2人、赤や黄色のスコップで砂山を
ぺたぺたと叩いている。庭の片隅では先ほどの笑顔の少女が子供たちと戯れている。

(まさか銀成市にこんなブラボー場所があったとはな)

 知り合いの代理で初めてやってきたこの孤児院は、とてもいい場所だった。親や身寄りを亡くした筈の子供たちが心から
の笑顔を浮かべている。それだけで防人は癒される気分だった。
 彼は7年前、とある任務を失敗した。結果として多くの人々を死なす羽目になったその事件──斗貴子の故郷・赤銅島に
おける集団殺戮──は彼の心に今でも暗い影を落としている。
 結局斗貴子以外の誰も救えなかった。顔見知りの老人たちも、斗貴子のクラスメイトたちも。
 努力さえすれば世界の総てが救えるヒーローになれる。そう純粋に信じていた防人にとって、赤銅島の事件は大きな転機
となった。彼は自身の限界を悟り、せめて与えられた任務の中で最良の結果が出せる「キャプテン」を目指さんとするように
なった。
 事件に関わっていた防人の僚友たちもまた……変わった。
 無邪気で泣き虫だった楯山千歳は総ての感情を内に押し込めるようになり、自らの才能を信じていた火渡に至っては才
能さえ及ばぬ「不条理」を克服せんと自らも不条理足らんとするようになった。
 今の自分たちの姿は、若いころ描いていた輝かしい未来とはまったくかけ離れている。
 防人は時々そう思う。千歳にしろ火渡にしろ、いまの彼らの生きざまは彼らの本質からかけ離れた「無理のある」ものだ。
不自然さに満ちている。抱えた傷に触れぬよう、その上に同じ傷を重ねぬよう……そればかりを考えているのだから。

 だからこそ、無邪気に微笑むコトのできる子供たちを見るたび防人は思う。
 錬金術の災禍に彼らが巻き込まれ、自分たちのような傷を負うようなコトがあってはならない。

 と。
 
 防人が子供たちに贈る視線に何かを感じ取ったのか。
「みんないい子ですのよ」
 もうすぐ50になるかという女性の院長は嬉しそうに庭を見渡した。
「不況で寄付が減って、おいしい物も食べさせてあげれないのにあの子たちは文句一ついわないんですの。それどころかお
小遣いを一生懸命貯めてくれて──…」
10永遠の扉:2010/11/12(金) 23:27:10 ID:42JKPxoJ0
「成程。何かあなたにプレゼントでも?」
「いえ、値が張りそうなブランド物の限定品とかラー油とかレアなおもちゃとか、徹夜で並んで徹底的に買い占めてですね、
ヤフオクに流してくれるんですの。結構な利鞘を稼いでくれて……いまや運営費の8割が賄われているですの! ああ! 
なんて逞しいコたちなんでしょう!」
「は、はぁ」
「と失礼しました。ところで紹介がまだでしたね」
「?」
「ブラボーさんが連れて来てくれた人のコトですの。笑顔で無口でバインバインなあの女の子の」

 庭の片隅でその少女は幼稚園児ぐらいの子たちとドッジボールをしている。意外に運動神経がいいようで、子供たちの
ボールをひょいひょい避けたかと思うと、幼児ゆえの手加減のない投球をふわりと受け止め軽く返す。絶妙な送球だ。防人
は感嘆した。彼女はどうやら「相手がちょっと頑張れば取れる」ギリギリの加減を見極め、ボールを返しているらしかった。
それが証拠にボールを投げられた子供達。幼い闘争心をかきたてられているようで、右に左に飛んでは食らいつくように
ボールを取る。そこへ『よくできたね』とスケッチブックに文字を書き少女は応対する。余裕たっぷりだ。子供を見下して
いるのではなく彼らが楽しめるよう楽しめるよう、考えながら動いている。

 大人しいながらも利発な少女だ。防人は感心を込めつつ女院長に反問。

「失礼ですが彼女とはどういうご関係で?」
 彼女はここに来るとき防人に案内を乞うた。だがこの施設の子ならそれはそもそも必要ない。鐶光というホムンクルスの
ような方向音痴なら話は別だが、少女はどうやらチンピラに絡まれた弾みで道を見失っただけらしい。

「他の施設の院長さんですよ。まだお若いのに立派ですのよ? 是非運営の参考にしたいってわざわざ手紙を送ってくれ
て……」

 それで来るコトになったという。女院長自身、あの笑顔の少女とは今日が初対面ともいう。

「名前は確か……」

 その時、防人の耳を鈍い音が叩いた。振り返る。視線の遥か先には鼻を押さえて立ちつくす笑顔の少女。足元にはボー
ル。何が起こったか想像に難くない。

「失礼」

 防人が話を中断し少女に駆け寄ったのは、ひとえに彼女を心配してのコトだ。一見とてもか弱いその少女はとてもボール
の直撃に耐えれそうにない。幸い防人は経験上、軽い打撲や骨折、脱臼といった怪我の処置には慣れている。だからとり
あえず手当を……そう思い、自然に駆けだしていた。

「大丈夫か?」
 少女は防人を認めると……両手から手を放し、会った時のように足元からスケッチブックを拾い上げ、マジックでこう書いた。

『ぶみ!』

 ぶみとはなんだろうか。銀色覆面の奥で防人は目を点にした。方言だろうか。或いは怪我の状態をあらわす何か高度な
医療用語だろうか。
 やや鼻のあたりが赤くなった少女はしばらく防人を凝視し、しばらくすると「ぶみ!」の下に説明文を加えた。

『↑は鼻を打った叫び声です』

 やや照れくさそうに少女は微笑んだ。

(変わったコだな)
 コート越しに防人は頬を掻く。少女は「う」という感じに笑顔を歪め、慌ててスケッチブックを捲り、次なる言葉を紡ぎ始めた。
『へ、変な伝え方ですみません。ででででもブラボーさんが心配した様子で駆けよってきてくれたから、あのっ、その、どーし
てもいま思ってるコトを伝えなくちゃって思って……でもそーいえばお鼻が痛かったし急にぶつかってビックリしたなあって
気付いちゃってちょっと叫びたくて、気付いたら『ぶみ!』とか……あああ。なんでこんなの描いちゃったのかな私〜〜!!』
 笑顔のまま少女はしゃがみ込み、体育ずわりの姿勢で俯いた。空気は「やってしまった」とばかりどんよりしている。

(間違いない。このコは……天然だ!)
11永遠の扉:2010/11/12(金) 23:28:33 ID:42JKPxoJ0
『とにかくありがとうございます』
(お。復活。もう立ち上がった)

 少女はペコリと一礼した。ふわりとしたショートのウェーブヘアが揺れ、汗の粒がぱあっと散った。軽い運動で汗ばんだ
少女の芳しい匂いが周囲に立ち込め、防人はわずかだが鉄の自制心が揺らぐのを感じた。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 ここでようやくボールをぶつけたと思しき男児が声を出した。声を出せなかったのは突如として疾走してきた防人の──
彼はあくまで普通に走ったつもりだったが、小さな子供にとっては最高速のバイクや自動車が突っ込んでくるようなド迫力
だった。しかも彼は全身銀色のコート! びっくりするなという方が無理である──姿に腰を抜かしていたせいだ。

『大丈夫大丈夫。怒ってないから。でもお姉ちゃんはこう見えて怒るととっても怖いから、あまり悪いコトしちゃダメよーっ!
ボールはいいの。うん。遊んでる時の弾みだったし、君の気持ちみたいなのが伝わったから逆に嬉しい……かな?』

 そう書いて少女は男の子をぎゅっと抱きしめた。笑顔のままの彼女は「気にしたらダメよ?」とでも言いたげに彼の背中を
とんとんと優しく叩いた。

 その時、男の子の顔が真赤だった理由に、防人はすぐ気付いた。そして咳払いをしつつ軽く目を逸らした
 男の子の体には、笑顔で大人しげな少女に見合わぬ豊かな胸がピッタリと密着していた。
 そして少女が背中を叩くたび抱擁が微妙なズレを見せ、それにつられてたっぷりとした膨らみの潰れ方が露骨に変わる。
余程の質量らしい。服越しでさえそれが分かるのだから……実際に密着されている男の子が如何なる感触を味わってい
るか全く想像に難くない。

(桜花なら籠絡狙いで同じコトをするのだろうが……)

 どうやら少女は天然でやっているらしく(自分がそういう凶器を持っているという自覚さえないのかも知れない)、またスケッチ
ブックを拾い上げると「今度はお部屋で積木崩ししましょ。積木崩しは楽しいっ、楽しいのよーっ!」とだけ書いた。






 しばらくその少女は孤児院に宿泊するらしい。





(となると、パピヨンが考えた例の企画。彼女もアレを見るかも知れないな)


 防人はそう考えながら寄宿舎に向かって歩き出し、孤児院の門をくぐり抜け……何かにぶつかった。

「っとすいやせん」
「いやこちらこそ。すまない。ちょっと考え事をしていたからな」
「奇遇ですねえっ! 実は俺っちも考え事をしていたんでさ!!」
 ぶつかられた人影は声を張り上げた。怒っている訳ではなく、何かを心底喜んでいるらしい。
 防人とほぼ同年代で、見た目はやや若いウルフカットの青年は、にっこにことエビス顔で揉み手をしていた。
「実はこの孤児院に知り合いがいるらしくて久々の再会に心躍っているんでさ。へへっ。再会! 再会ってのはいいと思い
ませんか銀の人! 離れ離れだった愛する人にまた会える! くーっ! これだから人生はいい! 例え世界の総てが
灰色でも可愛いあの子だけは優しく輝いている!」
 生き別れの兄弟にでも会いに来たのだろうか? 防人はいろいろ聞きたくなったが折角の再会に水を差すのも悪いと
思い取りあえず親指を立てた。
「よく分からないがブラボーだ! おめでとう!」
「へへ。ありがとうございやす。ありがとうございやす」

12永遠の扉:2010/11/12(金) 23:29:52 ID:42JKPxoJ0
 そして防人は彼と入れ替わりに孤児院を出た。

 今しがたすれ違った男の通称が「演技の神様」で──…

 先ほど斗貴子たちの前で武装錬金を発動したなどとは。


 そして斗貴子たちがいま、どうなっているかなどは……。


 本当に心底、露知らぬまま、防人は寄宿舎へと歩いて行く。






















【9月7日】

──────パピヨンの研究室で──────

「頼みもしないコトを」
「別に。私が勝手にやってるだけよ

 不機嫌そうな声を聞きながら、ヴィクトリアは雑巾を絞った。バケツの中に赤くぬめった液体が零れおちる様はなかなか
恐ろしい物があるが──ヴィクトリアは「慣れていた」。

 この日の作業はおおむねパピヨンの予定通りに進行した。
 ただこの日、ちょっとした変化が研究室に起こっていた。
 ヴィクトリアがしゃがみ込み、床を拭いていたのだ。そして雑巾は限りなく赤く、遠まきに観察するパピヨンの口元にはうっす
らとした血の跡が滲んでいる。
 
 ヴィクトリアは、パピヨンの吐いた血を……拭いていた。

「病気なのにまた力むから血を吐くのよ。まったく。アナタって本当よく怒るわね」
「黙れ」
「早坂桜花から聞いたわよ。どうやらアナタ、ホムンクルスとしては不完全みたいね。だから人間だった頃の病気もその
まま。ずいぶんと変わってるのね」
「下らん邪魔が入ったからだ。慣れれば吐血の味も悪くない」
「はいはい」
「下らん同情を寄せているようだが、あいにく俺は貴様が思うほどの不便は感じちゃいない」
13永遠の扉:2010/11/12(金) 23:31:27 ID:v5RZFaZtP
 憮然と呟くパピヨンだが、声音は鬱屈時ほど恐ろしくもない。どちらかといえば拗ねているような調子だ。床拭きという
作業外の時間を怒らぬのは──作業の都合上ヴィクトリアに与えた休憩時間中の出来事というのもあるが──その行為
の意外性にやや面喰らっているせいかも知れない。少なくても作業開始時のヴィクトリアは、軽い驚きに息を呑むパピ
ヨンを見た。
「はいはい。でもこの研究室、もうちょっと清潔にしたらどう?」
 研究室の空気は淀んでいた。窓も換気口もなく、埃だらけでその上名称不明の器具どもが無遠慮に薬品の蒸気を絶え
間なくブッ放している。このままでは1年以内に公害病の温床になるだろう。
「埃っぽいと喉に悪いでしょ? いちいち血を吐いていたら作業の能率にも響くと思うけど」
 毒舌少女にしては非常にやんわりとした物言いで、諭すように呟く。ただし返答は大体予測済みで、事実その通りになった。
「断る。この埃っぽさとカビ臭さが俺は大好きでね」
「はいはい」
 ヴィクトリアは少し吹き出しそうになった。
(ああ。なんだ)
 指示を下している時のパピヨンはひどく厄介でやり辛い相手に見えたが──…
 いざ普通に話してみると。
(要するに子供なだけじゃない)
 ヴィクトリアの言葉にいちいち突っかかってくる割にはどこかズレた、我儘なだけの青年である。
(もし弟がいたらこんな感じだったかも知れないわね。パパ。ママ)
 考えてみれば実年齢ならヴィクトリアの方がはるかに上なのだ。曾祖母と曾孫、或いはそれ以上の年齢差だ。
 だからヴィクトリアの思考はやや的外れなのだが……。
 なんとなく「手のかかる弟」としてパピヨンを見る方が精神衛生上良さそうなので、ヴィクトリアはその方向性で行くコトにした。

 一方パピヨンは、慣れた様子で血だまりを掃除するヴィクトリアをしばらく黙然と観察していたが──…
 やがて。
「で、どうして貴様は血を拭くのに慣れている」
 とだけ呟いた。
 質問する側とは思えぬ傲慢な態度だ。だが少し前のように腕力で訴え爆薬を放つより比較的マシともいえる。
 ヴィクトリアは、答えた。

「まだママに体があった頃、介護してたからよ」

 ママ、ことアレキンサンドリアはヴィクターが怪物と化した時、傍にいた。傍にいたからこそ首から下の体機能を総て失い
7年もの間昏睡状態に陥った。ヴィクトリアが言ったのはその時期のコトだろう。

「ふぅん。介護ねえ。しかし体機能を失ったからといっていちいち出血するものか?」
「アナタ、いちいち鋭いわね」
 床に溜まった「鋭いやつ」の血を綺麗さっぱり拭ったヴィクトリアは軽く嘆息した。
「戦士のせいよ」
「追撃部隊が来たという訳か」
「そう。私達の隠れ家にね。パパの行方を聞きに来たのか、私とママを人質にして”また”パパへの切り札にするためかは
分からないけど」
 そういうコトが何度かあり、しばしば意識のない、動けぬアレキサンドリアが手傷を負うコトがあった。
「よくもまあそれで生き延びられたもんだ」
「…………助けてくれる人がいたからよ」
 パピヨンの表情がやや硬くなった。無理もないとヴィクトリアは思った。
「私も、思い出したのはつい最近だから」

 いつか寄宿舎で見た遥か過去の夢。それに出てきた「金髪の男」。胸には認識票。
 彼とよく似た男とヴィクトリアはつい最近邂逅した。
 のみならず、彼はある意味でヴィクトリアの運命を左右した。

 総角主税(あげまき ちから)。

 かつて戦士と激しい戦いを繰り広げたザ・ブレーメンタウンミュージシャンズのリーダー。

 ヴィクトリアに蝶野屋敷へ行くよう促したのは彼だった。そして彼女は蝶野屋敷で秋水たちに説得された。

(……そういえばアイツ言っていたわね)
14永遠の扉:2010/11/12(金) 23:34:42 ID:v5RZFaZtP
.
「この顔と同じ奴を見たコトはないか? もうちょっと老けていると思うが」

 凛々しい金髪の青年は自信たっぷりにそう呟いた。

 ヴィクトリアは、その顔に見覚えがあった。聴かれるまでは忘れていたが……見たコトがあった。

 崩れかけた家の中で、目覚めぬ母を前に泣きじゃくる幼い自分。
 やってきたのは男。金髪で認識票をかけた、生真面目そうな美丈夫。
 彼は戦団への怒りを露にし、ヴィクトリアにクローンの技術を教え……いつの間にか姿を消していた。

 総角はその男と似ていた。
 似ているといっても親や兄弟のような相似性とはどこか違っていた。
 簡単にいえば、同一人物の18歳と24歳の時の写真を並べたような相似性だ。
 同じ人物だが、年齢のせいで顔が少し違って見える。
 ヴィクトリアがあったコトのある金髪の男と総角は、そんな相似性を帯びていた。

(アイツは何者なのかしらね。結局。パパのコトも知っているようだったけど)

 戦団に連行された総角が何を供述しているかまでは分からないヴィクトリアだ。
 それはともかく彼との邂逅でヴィクトリアは「過去にいた金髪の青年」を思い出した。

「何しろこの100年ほとんどずっとママと2人きりだったし、その戦士が私達を守っていたのは本当に一時期……多分、3か
月もなかった筈よ。私達が日本に渡る手伝いをして、それっきり」
「それはそれは。随分酔狂な輩がいたものだ」
「本当にね。元々ママにクローン技術を教えたのもその戦士らしいし。…………え? 戦士? …………?」
「どうした?」
 ヴィクトリアはしばし口を噤んだ後、しばし視線を彷徨わせた。いっていい話題かどうか少し迷ったのだ。
 そもそもいまはパピヨンの与えた休憩時間中。それが終わっていたなら蝶々覆面はまた機嫌を損ねるだろう。
 まずは確認できる方から確認。素早く携帯電話に目を這わす。休憩の刻限はとっくに過ぎている。
「どうせアナタにとっては下らない話よ。続けていいのかしら。作業に戻れっていうなら戻るけど」
「手短に済ませ。下らん話を勿体つけられるのは嫌いでね」
「へぇ意外。それなりに融通効くようね……。意外……。で、話していて思い出したけど。確かあの戦士は…………戦士じゃ
なかった筈よ」
「意味が分からん」
「確か言ってたの。『戦団所属で核鉄も持っているが、戦士は本職じゃない』って」
「…………」
「武装錬金の特性がかなり特殊だとかで、研究畑にいながら試験的に戦士見習いもやっていたそうよ。正確な所属は、所属
は……。研究の、確か……そう。研究班の。……思い出してきたわ」
「…………」
「あの人は賢者の石研究班の班長。ママ(副班長)の上司。そう。あの戦士は……ママの上司」
 パピヨンは鼻を鳴らした。
「で、名前は?」
「名前は確か──…」



 ヴィクトリアの言葉を遮るように、けたたましいブザーが研究室に響いた。



 その出所を見たヴィクトリアは少し目を丸くした。
(もう? あと1時間はかかると思ったけど)
 研究室の一角に長い机がある。その上にはパソコンがあり、いかにもジャンクパーツから組み立てた雰囲気アリアリの
角の丸い直方体の装置が接続されている。
 更にパソコンの後ろには巨大な円筒形のフラスコが5つ並んでいる。
 総て大人1人が入れそうなほどの大きさという所までは共通しているが、フラスコの内容物はまちまちだった。
 
.
15永遠の扉:2010/11/12(金) 23:36:58 ID:v5RZFaZtP
「ヘビのように」酷薄そうな男性。
「ゴリラに似た」チンピラ風の男。
「カエルの如く」気色の悪い青年。
「バラのように」美しく艶やかな女。

そして。

「ワシを思わせる」屈強な若い男。

 実に様々な特徴をもつ男女は、フラスコの中で眠っていた。よく見るとその体の所々は欠けているが、もし付きっ切りで
監視すればその部分が徐々にだが確実に再生しつつあるのが分かっただろう。

 それらのフラスコの上部から延びたコードもまたパソコンに接続され、何かのデータを絶え間なくやり取りしているようだった。
「解析完了か。『もう一つの調整体』。あれがどう霊魂に作用するか……いや、そもそも貴様が作ったあの装置が正確に
解析できているか。それがそもそも問題だがな」
「図面を引いたのはアナタでしょ。部品を作ったのも。私は組み立てとソフトウェアの微調整をしただけよ。……もちろん、そっち
に問題があったら謝るけど……」
 後半は消え入りそうな声だった。ヴィクトリアなりに素直な感情を表したつもりだが、大声で言うのはやや気恥しくもあった。
 一方、パピヨンは彼女の微妙な変化になどまるで興味がないようで。

「とにかくまずは貴様がクローン再生しつつある『連中』の霊魂で試してみるとしよう。ご先祖様はスゴイスゴイと資自賛して
いたようだが……さて









──────薄暗いどこかで──────


「ほー。で、で!? 霊魂に作用しとったらどうスゴいん!? 」
「むーん」
「『もう一つの調整体』いうても要はあれ、ふっつーの核鉄ちょっと改造しただけやろ? 100年調整に調整重ねた白い核鉄
ほどスゴクないんやないかな。うん。ウチはそう思うとるでー」
「むーん。それはだね」


 ムーンフェイスは微苦笑していた。



 一連の戦闘終了後、目下ムーンフェイスは銀成市から退散中だ。
 いまは彼が「再就職先」と呼ぶ『組織』の用立てた建物に身を潜め、新たな戦いを待っている。
 のだが。

(やれやれ。LXEの間の抜けた連中が懐かしいよ)

 時々往時を忍ぶほど、再就職先の面々は「色々とヒドい」。
 例えば大人しそうだと話しかけた「笑顔の似合う少女」
(確か……リバっち。いや、リバース君だったかな。何にせよ……まったく怖かったよ)
『彼女にされたコト』は流石のムーンフェイスもあまり思い出したくない。

 いまムーンフェイスに質問している関西弁もあまり正常な人物ではないらしい。
 何しろ、つい12分ほど前まで坂口照星を筒型爆弾で破壊していた。
 何度も、何度も。
 端正な顔が爆ぜ骨と歯が見えた瞬間、関西弁はきゃっきゃと無邪気な歓声を上げた。
16永遠の扉:2010/11/12(金) 23:38:26 ID:v5RZFaZtP
「カルシウムの白さが目立つようになった顔面」を掌と鮮血で隠し、倒れまいと踏ん張る照星めがけ筒型爆弾を更に射出。
 直線的に、ではない。
 関西弁が念ずるたび坂口照星の周囲で空間が歪み、渦が空き、そこからまず「疵のついた大きな瞳」が覗く。喜悦に
きゅっと細まった瞳。筒型爆弾はそれを押しのけるようにして飛び出し、例えば肘を爆破する。
 恐らく武装錬金の特性によるものだが、詳細までは分からない。
 確かなのは誘拐以降、同様の行為が坂口照星のあらゆる部位に対して行われたというコトぐらいであろう。

「日本には」

 1発当たりの殺傷力は低い。皮が焼け肉が飛び白く旨そうな部分がちょっと覗く程度だ。
 威力のない爆発と爆風がじわじわとじわじわと、皮を裂いて肉を剥がす。
 ムーンフェイスが知る黒色火薬ならば、パピヨンの武装錬金ならば、一撃で肘から先を落とすだろう。
 
「日本には、わざとナマクラにした鋸で罪人の首挽く拷問あったとか」

 とは「坂口照星担当医」の文言である。
 3発まとめ撃ってようやくニアデスハピネス1発の9割程度。単発では比較的低威力の筒型爆弾を、関西弁はわざと1発
ずつ投入しているようだった。敢えてナマクラにした鋸の、拷問だった。

(ひどいやり口だったよ)

 今ごろ照星は千切れかけの、皮一枚で繋がっている肘をぶらぶらしたまま無聊を感じているのだろう。
「腐るのを待っとるんや! 爆弾さんたちはな、今日はそういう気分らしいんや。うん」
 底抜けに明るい関西弁は心から楽しんでいる。異常で、しみったれた拷問を。
「そんな話よりな、調整体について教えてーなー。拷問はもう飽きたし」

 幼児の背丈ほどの赤い筒。

 その中から響く関西弁に、ムーンフェイスはため息をついた。




 「もう一つの調整体」。

 かつて戦士たちが血眼で探しまわった黄色い核鉄。
 これを巡り彼らは「ブレーメンの音楽隊」を自称する5体(あるいは6名)のホムンクルスと苛烈な争いを繰り広げた。


──────パピヨンの研究室で──────


 それが飛ぶ。本棚に靠(もた)れかかるパピヨンめがけ。

「解析、成功のようね」
「貴様にしては上出来じゃないか」

 相手が無事キャッチしたのを確認すると、ヴィクトリアは腰に手を当て、悪戯っぽく身を乗り出した。

「慣れれば大したコトないわね錬金術。100年もやらなかったのが馬鹿みたい」

 意地の悪い、小悪魔的な微笑だ。それでいてどことなく明るい。

「調べてみて分かったけど、どうやらそれ、他の核鉄とは違った材質でできているようよ?」
「の、ようだな。どこで採れたかは知らんが精製次第では更に違った核鉄を作れるかも知れん」

 或いは、攻撃力を高め。
 或いは、防御力を高める。

.
17永遠の扉:2010/11/12(金) 23:39:16 ID:v5RZFaZtP
 遥かな未来、パピヨンはこの未知の材質と再び巡り合い……名付け親になる。
 パピヨニウム。
 約一年後、それは意外な形でパピヨンたちに関わってくるが──…
 それはまた別のお話。

「研究資料にウソはないわよ。『霊魂』に作用するわ。間違いなくね」

 束ねた金髪をふぁさりと揺らしながら姿勢を正す。今度は薄い胸を逸らす格好だ。
 対するパピヨンは黄色い核鉄を手にしたまま腕を組み、「やはりな」とだけ呟いた。
 ヴィクトリアも頷いた。

「そう。『肉体』でも『精神』でもなく」



「『霊魂』に」






──────薄暗いどこかで──────


「ほー。で、で!? 霊魂に作用しとったらどうスゴいん!? 」
「むーん」
「『もう一つの調整体』いうても要はあれ、ふっつーの核鉄ちょっと改造しただけやろ? 100年調整に調整重ねた白い核鉄
ほどスゴクないんやないかな。うん。ウチはそう思うとるんやけどー」
 シュールな光景だ。ムーンフェイスは自分の風貌を棚に上げ、会話相手を見た。
 どこからどうみても赤い筒だ。高さはようやく1mというところで、太さは電柱より一回り上ぐらい。先ほどからの声は全て筒の
中からしている。
 つまり筒が喋っているのだ。そしてムーンフェイスは筒に応答している。シュールな光景だ。戯画的三日月が困ったように見下してい
るのも加えればシュール度満点だ。
 再就職先の同僚たち曰くこの赤い筒は武装錬金という。とすれば創造者が中にいるのかも知れないが……筒はあまりに
小さすぎた。個人差や男女差もあるが人間はおよそ3歳ごろ背丈が1mを超える。筒は1mあるかどうかだ。幼稚園児が体
育ずわりしてようやく入れるという程度。ひょっとしたら筒の中には創造者などおらず、自動人形的なシステムで動いたり喋っ
たりしているのかも知れない……ムーンフェイスは推測したが、合っているか、どうか。

 筒のコードネームは「デッド=クラスター」

 再就職先の幹部の1人だ。

「どーしたん月のお兄ちゃん? ウチはマレフィックムーン。『月つながり』やし仲良うしよーや」
「あ、ああ。すまないね。ちょっと説明をまとめるのに苦労してたよ」
 ムーンフェイスは微苦笑した。何が悲しくて筒相手の講釈をしなくてはならないのか。
「まず錬金術の成り立ちから説明しないといけない。君は錬金術についてどれほど知っているかな?








「初歩的なコトぐらいなら知ってるわよ」

 じゃないとママを手伝えなかったから。錬金術嫌いの少女──ヴィクトリア=パワード──は指を曲げ始めた。
「そもそも錬金術の教義だと、人間は」
18永遠の扉:2010/11/12(金) 23:41:47 ID:42JKPxoJ0
                                   ,
 肉体。
 精神。
 霊魂。

「の3つからできてるっていうじゃない」
「まあ上出来だ。錬金術師どもはその3つを等しく高め、賢者の石を目指す」
 などというのは錬金術嫌いのヴィクトリアでさえ知っている。初歩も初歩。基本だ。
「賢者の石を作るのは錬金術師の最終目的……だったわね」

 肉体を。
 精神を。
 霊魂を。

 等しく高めるコトでしか賢者の石には到達できない。

 アンチ錬金術師のヴィクトリアでさえ分かる不文律だ。




「ところが、だね」
 ムーンフェイスはひどくおどけた調子で目の前の赤い筒に呼びかけた。
「ところが、この世界の『一般的な』錬金術の産物が高められるのは3つのうちの2つだけときている」

『肉体』を高めるのは”ホムンクルス”
『精神』を高めるのは”核鉄”

「ホムンクルスになれば肉体は限りなく強くなる。核鉄を使えばあらゆる精神が具現化する」

 いずれも錬金術によってより高次の存在へと導かれるのだ。




 だが、霊魂を高める術だけはない。





「それは戦団も同じコト。奴らが手がけるのは所詮ホムンクルスと核鉄だけ」
 とパピヨンが確信を込めて呟くのは、かつて桜花を使い戦団をハッキングしたからだが……ヴィクトリアの知るところではない。
「つまり……霊魂に関してはホムンクルスや核鉄のようなアプローチの手段がないというコト?」
「正解。ヒキコモリにしては上出来だ」
 あれば今頃戦団が管理している。されていないのは「ない」証明。
 高めようがない。
 この世界には霊魂を高めるための具体的手段がまるで流布していないのだ。
「じゃあ賢者の石がいまだにできないのって」
 蝶々覆面の下で詼笑(かいしょう)が浮かんだ。手首が踊り、流れるようにヴィクトリアを指差した。
「さっきかららしくもなく鋭いじゃないか。そう。誰も彼も出来合いのホムンクルスと核鉄を捏ねくりまわすだけ。真に研究すべ
き霊魂については最初から挑もうとさえしていない」
 つくづく傲然とした物言いだ。思わずヴィクトリアは「一旦は霊魂の研究に着手したが結局カタチにはできず挫折した」錬金
術師を妄想し、いるかいないか分からぬ彼らの弁護をしたくなった。
 恐らくはいた筈なのだ。
 肉体でも精神でもない霊魂の存在に着目し、研究した者が。
 もっとも冷静に考えればヴィクトリアは錬金術のせいで家族を引き裂かれ100年来の失意と鬱屈を味合わされた身でもある。
 見も知らぬ錬金術師が何を研究しようと挫折しようと弁護してやる義理は特にない。
(コイツの物言いに当てられすぎね)
19永遠の扉:2010/11/12(金) 23:43:14 ID:42JKPxoJ0
 というコトにして鼻を鳴らし、弁護を引っ込める。代わりに反論。
「でも、アナタのひいひいおじいさまは着手していたじゃない」
 話が最初に戻った。

「もう一つの調整体」は霊魂に作用する。

 それはヴィクトリアの解析結果からも疑いようがない。
「ま、蛾とはいえまがりなりにも俺のご先祖様」
 それ位の芸当は当たり前。でなければ話にならない──…あまりな嘲罵と黒い冷笑がパピヨンから放たれた。



「でも霊魂に作用するってどういうコトなん?」
「ヴィクター君のエナジードレインに近いかも知れないね」
 筒の前で月がひらりと踊った。


「そうね。基本的な仕組みはパパのエナジードレインとほぼ同じ。コピー? じゃないわね。あくまでただの模倣よ」
 コピーと模倣のニュアンスがどれほど違うかの論議はさておき。
 鳥に憧れる人間が鳥その物ではなく飛行機を作るように、「崇拝はしているからこそ猿真似はせず、自分のやり方でより
高次の存在を作り出したい」……そんな感じの製法だとヴィクトリアは呟いた。


「デッド君。君はアナザータイプを知っているかな? ほとんどはダブル武装錬金の時に出てくるのだけれど」
「あー。武装錬金が元の核鉄の持ち主のモンに似るって奴やろ?」
「そう。例えば君が私の核鉄でダブル武装錬金をしたなら、出てくるのは……月の模様をあしらった筒だね」



 ダブル武装錬金。
 それは、パピヨンも見た事がある。



「超人になった俺をさんざ止めんとした武藤カズキの場合、2本目の突撃槍(ランス)の意匠はあのブチ撒け女の処刑鎌
(デスサイズ)を嫌というほど受け継いでいた」
(津村斗貴子の核鉄でダブル武装錬金をしたようね)
 この日あたりからパピヨンに対抗すべく錬金術を猛勉強中のヴィクトリアだ。頷きもどこか堂に入っている。
「およそ50%。どんな核鉄でも前の使用者の形質を受け継ぐって聞いたけど──…」
 視線を黄色い核鉄へ移す。




「もう一つの調整体」が受け継ぐのは前の使用者の霊魂という訳さ。割合? 廃棄版なら最大で100%。ヴィクター君の
エナジードレインよろしく、触れた時間に比例して霊魂を吸い取るようだね」


 同刻、パピヨンもまたムーンフェイスと同じ文言を呟き、続きを紡ぐ。

「廃棄版といえば」
「戦士が話しているのを聞いたけど、この前の戦いでLXEの残党が使っていたそうじゃない」


 逆向 凱。
 死んだ筈の幹部が鈴木震洋の体を借りて蘇ったのは……

 ムーンフェイスは指を弾いた。
.
20永遠の扉:2010/11/12(金) 23:44:21 ID:42JKPxoJ0
「ズバリ。『もう1つの調整体』の特性のせいさ。何しろまだ普通に生きていたころの逆向君はテスターでね。あの西洋大剣
の戦士に殺される直前まで持っていたよ」
「でもその鈴木って奴はなんで廃棄版使たんや?」
「力が欲しかったんだろうね。なんとも平凡な理由。どうやって見つけたか? そこまでは知らないよ」


 そして震洋は廃棄版の核鉄を”食べた”
 恐らく彼も「もう一つの調整体」の存在を知り、その恩恵にあやかろうとしたのだろう。
 核鉄を食べるなどというのは些か荒唐無稽だが、もしかするとヴィクターや武藤カズキがされた核鉄の移植実験に倣った
のかも知れない。



 結果彼は、死んだ筈の幹部の霊魂に乗っ取られた。
 逆向凱は、秋水と苛烈な争いを繰り広げた。
 戦いがあったのは、ヴィクトリアが人喰いの衝動に怯え寄宿舎から逃げた頃……。


 ヴィクトリアは腰に手を当て自信ありげに微笑んだ。
「だけど完成版の方は前の使用者の霊魂に乗っ取られる心配はないわよ」
「らしいな。ご先祖様もわざわざ資料に書いている」
 手にした書類の束をパシリと叩き、パピヨン。
「『アナザータイプよろしく、前の使用者の霊魂の、”優れた部分”を受け継ぎ』」
「次の使用者の霊魂と混ぜる、か」
「例えば、アナタの後に津村斗貴子が使ったとしたらどうなるかしら?」
「フム……。恐らくあの女は知らず知らずのうちこの蝶・サイコーな格好をするようになる。つまり……真っ当な感性を獲得する!」
 最後の一文。鋭い叫びをヴィクトリアは黙殺した。
 何故ならそれは彼女にとって──…
 頷くまでもない、当たり前のコトだった。
「話をまとめるわね」
 ヴィクトリアは、手近なホワイトボードに結論を書いた。

『もう1つの調整体』の完成版について。

1.前の使用者の霊魂から”優れた部分”を受け継ぐ。
2.次の使用者の霊魂は前の使用者の”優れた部分”と混ざる」
3.2の状態の霊魂からさらに”優れた部分”を抽出し、記録。
4.記録される霊魂の質は、2〜3の繰り返しによって限りなく向上する。


 使う人間が多ければ多いほど真価を発揮する。端書を終えるとヴィクトリアは改めて呟いた。
 口調にはやや感心が混ざっている。

「ただ触るだけ。触るだけで向上できる……夢のような産物ね」
「何ともまあご先祖様らしからぬ小奇麗な仕掛けじゃないか」



「むーん。小奇麗すぎるが故に銀成学園での決戦にはとうとう用いられなかった代物だけど、これからは違うよ」
 月は闇の中で声を低くした。何かを狙い、壊さんとするように。低く、不気味に。



「兎にも角にも他とは違う特別製! 出来合いの核鉄を基盤(ベース)にするよりは手っ取り早いだろう」
 ヴィクトリアは一瞬彼が何をいっているか掴めなかったが、一拍置いて真意を悟った。
「白い核鉄の精製の話ね。本来基盤(ベース)にすべき黒い核鉄やその製法が失われている以上……」
 ヴィクトリアたちは一から黒い核鉄に匹敵する物を作りださなくてはならない。
 時間はない。
 しかし黒い核鉄に近い存在がいま、手元にある。
「あとはあののーみその残した研究資料とご先祖様の研究成果、そして何よりこの俺、パピ・ヨン! ズバ抜けた才覚を」
21永遠の扉:2010/11/12(金) 23:45:56 ID:42JKPxoJ0
「組み合わせて『もう1つの調整体』を……白い核鉄に」
 ヴィクトリアの細い体が震えた。少しずつだが母の、自分の悲願へ近づきつつある。
 抑えようのない歓喜が、彼女の体を突き抜けた。



「まー、もう1つの調整体とか実はウチの盟主様」
 筒は気楽に呟いた。
「とっくの100年前に作っていたりするけどなー」


「だね。そして君たちの盟主が作ったそれは黒い核鉄に形を変え、ヴィクター君の胸の中にある」
 Dr.バタフライはかつて言った。

 ヴィクターを修復したフラスコだけが……Dr.バタフライ独自(オリジナル)の物だと。

 その言葉が紡がれる少し前、Dr.バタフライ謹製の調整体が銀成学園を襲ってた。
「修復フラスコだけが自分独自の物」というバタフライ謹製の調整体が。

「まぁ調整体なんてのは少々珍しくはあるけど、やっぱり100年以上前から存在する概念さ」
 月の囁きに筒も微かに揺れた。頷いているようだった。
「Dr.バタフライが使っていた調整体なんてものは、所詮文献を真似ただけでね。そもそもアレが猛威を震えたのは、
遥か100年前のコトだよ。皮肉にも歴史上、調整体を戦士と互角以上に作れたのは錬金戦団にいた『ある男』だけさ。
彼謹製の調整体どもはヴィクター君追撃に随分貢献したようだけど、しかし不思議なコトにその『ある男』もまた戦団に反
旗を翻し、討伐された。もっとも半死半生になるまで二百数十体の調整体と1振りの大刀とで散々に抵抗し、ただでさえ
ヴィクター君に半壊させられていた戦団を、徹底的に痛めつけたようだけどね」
「盟主様からその話聞いたコトあるで。その『ある男』が姿を消してから調整体の研究は凍結されたようやな」
 不思議なコトに、”彼”の残した資料はいつの間にか消えていたようだ。
「いまんところ調整体を真っ当かつ強く作れる組織はウチらだけやろうなあ〜。ここまで言えばムーンフェイスのにーちゃん
にも大体の背景が分かるやろうけど」
「まあね」
「で、並の錬金術師が調整体作ると、基盤(ベース)にした数の生物の精神がぶつかり合って理性がなくなって、ちょっと腕っ
ぷしが強いだけの化け物になる訳やなー。バタフライの作ったのもそれやな。まあでも? 主人が大好きなネコの細胞培養
して飼い主に幼態突っ込んだ時は……1つの体に飼い主とネコの精神が同居したけど」
「そして『もう1つの調整体』。こっちはもしかするとヴィクター君からの伝聞で作り上げたのかも知れないね」 
 ただし、とムーンフェイスの声がおどけた。
「アレは白い核鉄になんかしていいものじゃあない」
 白眼を剥いた月顔の怪人は笑っていた。口をおぞましく裂き、悪意をたっぷり乗せて悠然と。
「君たちの盟主様からすでに話は伺っているよ。アレはキミたちの悲願を果たすのにどうしても必要なモノ……」
「そー思うなら例の音楽隊と戦士追い詰めた時、あんたが奪えば良かったやろ? 盟主さまにいらん苦労かけたらあかん」
「まあまあそう怒らない怒らない。パピヨン君相手だと分が悪くてね。彼に勝とうとするなら……」
 筒──デッドは軽く息を呑んだ。パピヨンに勝つ。その方策を述べんとするムーンフェイスの雰囲気が俄かに変った。
 飄々とした雰囲気が消え失せ、代わりにドス黒い風のような雰囲気がムーンフェイスを取り巻いた。
 顔は相変わらず半笑いのままだが、輪郭が眼の縁が口の周りが肌の総てが……歪んで見えた。

「死魄……そう。廃棄版の『もう1つの調整体』でも持ち出して、死魄を発動でもさせない限りとてもとても」

 ジリジリと耳を焼くような不快な音がデッドの耳を叩く中……デッドは確かに見た。

 髪の毛が。
 肌色の肌が。
 白目と黒目が。
 血色のある唇が。

 名前通り月面のようなムーンフェイスの顔の端々に”浮かんでくるのを”。
 肉が浮かぶというより半透明の映像がせり上がってくるような感じだった。それでいて半透明の髪や黒目は確かに質量を
持ってもいる。不気味な光景だった。彼は右手に「廃棄版の方」を持ってもいる。そのせいだろうか?

「しかし困ったコトに死魄を使うと私自身も無傷ではいられない。しかも相手が『多すぎた』」
 何をいっているのだろうこの男は。デッドは息を呑んだ。30体に分身できる武装錬金の持ち主曰く……
22永遠の扉:2010/11/12(金) 23:51:08 ID:42JKPxoJ0
.
『相手が多すぎた』

 冗談にしか聞こえない。話を聞く限りパピヨンが来るまでムーンフェイスは、協力しあう音楽隊と戦士たちを圧倒していた
そうではないか。彼らは合計で12人(11体とも)。ムーンフェイスの分身の3分の1程度だ。
 にも関わらず彼はいう。『相手が多すぎた』。
 だいたい、死魄とは何なのか。コードネームに同義を乗せるデッドさえ理解しがたい、おぞましい物を感じていた。
 言葉の矛盾の裏に、何か形容しがたい妖気が籠っている。

 やがてあらゆる変化が終息し、ムーンフェイスは元の顔に戻った。

「むーん。私とてこれまでの戦いで総ての力を見せた訳じゃないよ。君や君たちの仲間同様にね」
「……とにかく、ウチらはパピヨンとかいう奴から『もう1つの調整体』を奪わなあかん訳や」
「その点については心配ないよ。何しろ君の仲間が1人すでに動いているようだからね」
「?」
「リヴォルハイン君。先だってココを発った6人の幹部とは別に、彼もまた銀成市にいるようだね」

 筒は黙った。
 黙って。
 黙って。
 黙り続けてから。

 とても大きな声で絶叫した。

「待て! ウチはそんな聞いてへん!! そしたら結局ココに残ってるのは盟主様と水星とウチだけやないか! そんなん
ヒドいわ!ウチかて銀成市行ってのんびり観光したかったのに……! でも残っとる幹部は3人だけやからってグっと堪え
て愛しの盟主様守るためや守るためやって居残り決意したのに!! したのにーっ!!」
 予想外だったのだろう。柔らかな声はうろたえ、泣き声さえ混じっていた。
「まあまあ。どうやら君たちの盟主じきじきの密命だとか」
「そうはいうけどなあ……うう。買い物したかったなぁ……街メチャクチャにされる前に……売れてへん感じの商品買いあげて
店のおっちゃんとかおばちゃん、助けてあげたかったのに……」
 筒の下で煌くモノがあった。眼光と、涙のようだった。何者かが筒を持ち上げ、そこから顔を出したようだった。
 視線を下に落としたムーンフェイスは……笑った。
「ようやく分かったよ。狭い筒に君が入っていられる理由。むーん。それにしてもなかなか素敵な姿じゃないか」
「……ウチの体のコトはどうでもいいやろ? 意外に傷つきやすいんや。いうな。いうな……」


 今回はここまで。

 三国伝、丁奉ザメル考えてたら攻城兵器に取られたーっ。しくしく。しくしく。
 続きまして、いうだけ想像するだけならタダの脳内キャスティング披露のコーナー〜〜〜〜……わー。

 総角主税 …… 安元洋貴(ジャスティスファーイ!)
 小札  零 …… 豊口めぐみ(バンブーは後半グダグダである)
 鳩尾無銘 …… 檀臣幸(ウェザー!)
 栴檀貴信 …… 檜山修之(代表作:ベガ兵)
 栴檀香美 …… 水原薫(ニコ動でバイオ4の実況している奇特な人。あっちは声真似? なんとおー)
 鐶   光 …… 花澤香菜(声的に。姉の方は渡辺美佐氏か水谷優子氏)

 あと的良みらんが商業作家なってから表紙のカバー下に脳内キャスティング書かなくなってさびしい。
 という訳で近所のネコに業務用のまだ削ってないでっかい鰹節やったらノドの奥から触手が6千本ばかり生えてきてレイプされたー。わー。
 寂しさは、肉体的に癒された。
23作者の都合により名無しです:2010/11/13(土) 10:53:01 ID:lxjVFI6A0
お疲れ様ですスターダストさん。
ヴィクトリアたちもいいですが、
原作ではインパクトの割りにイマイチ活躍しなかった
ムーンフェイスが色々肉付けされてて嬉しいです。
小札たちも活躍してきそうだし、物語が加速してますね。
それとも、これからまた新しいキャラが出てくるのか?
色々と楽しみですが、この作品が終わる頃には
バキスレ終焉しちゃうなあ・・w

それにしても声優さん、檜山さんしか知らない・・
恥じるべきか安心すべきか
24作者の都合により名無しです:2010/11/13(土) 17:15:40 ID:1TDGBNqF0
スターダストさん一番乗り乙です。

内面的にビクトリアとパピヨンは共通してるところもあるんですかね。
まあ、心に傷を持っているのはトキコも同じですが
この2人はその上にどこか狂気がありますし。
重い雰囲気を中和してくれるのにブレーメンやムーンファイスは便利ですねw
25作者の都合により名無しです:2010/11/14(日) 15:50:51 ID:DV5IQz9A0
今回と次回が後半のターニングポイントかな
日常パートから徐々に離れつつあるね
26作者の都合により名無しです:2010/11/17(水) 19:36:52 ID:fFA52nDs0
脳内キャスティングコーナーって結構楽しいね
小札はイカ娘の人がいいな
27作者の都合により名無しです:2010/11/20(土) 18:29:16 ID:XY/WH0xO0
1週間こないのが珍しくなくなったな・・
28作者の都合により名無しです:2010/11/23(火) 12:08:23 ID:tEzdLwux0
保守上げ
29ふら〜り:2010/11/26(金) 21:21:04 ID:8CAguYDQ0
>>1さん
おつ華麗さま! 作者・読者に加えて、>>1さんのように紡いで下さる方がいて下さるから、
スレの歴史は続きます。またご新規さんが、あるいはお休み中の作者さんの復活が
あると信じて、今スレも行きましょう!

>>スターダストさん
『空手バカ一代』で、「本当に凶暴な奴とは、いかにもというスゴんだ奴ではなく、普段は
むしろユーモラスなもの」なんてセリフがありましたが。本作を見てると、それがよくよくわかり
ます。裏表が激しいというのとは違う。普段の言動・人当たりと、「別の一面」の差というか。

>>23
>それにしても声優さん、檜山さんしか知らない・・
まぁ座って。一杯酌み交わしましょう。そしてそんな私からもキャスティング。

 総角主税 …… 置鮎龍太郎(私の脳内で総角は、セラムンのタイガーズアイです)
 小札  零 …… 國府田マリ子(私が思う、一番可愛い声。まくしたてるのも似合いますし) 
 鳩尾無銘 …… 性格上は速水奨、と言いたいけど少年らしさもほしいし……降参。無念。
 栴檀貴信 …… 島田敏(ハリケンのサタラクラとか。千葉繁さんと並ぶハイテンション)
 栴檀香美 …… 林原めぐみ(ヒミコやリナなど。〜じゃん! の叫びが似合いそう)
 鐶   光 …… 皆口裕子(儚げぽそぽそ喋りは、ほたるちぁんが至高!)
30作者の都合により名無しです:2010/12/02(木) 17:51:31 ID:Iq/e5McF0
ふらーりさん声優微妙に古いぞw


・・しかし流石にもう来年は厳しいかも
スターダストさんサマサさんさいさんたちの連載が終わるまで
読み続けるが。パート1から見てるからな
31作者の都合により名無しです:2010/12/03(金) 22:18:04 ID:adL2U+CV0
今ちょっと短編書いてるから待ってて
もうすぐ投下できるはず
道明寺誠(どうみょうじ・まこと)―――十二歳・中学一年生。
この世は退屈で、平凡で、つまらない事しか起きない。
生を受けて十年と少しで、彼はそう悟って―――否。
諦めて、いた。
端的に言って、彼は天才である。天才という言葉が陳腐なら、インチキと例えてもいい。
冗談みたいな身体能力と天性のセンスのおかげで、ケンカは負けた経験どころか、苦戦の経験すらない。
勉強についてはまあ、そこそこといった所だが、それは単に本人が学業に精を出す気がないだけで、頭脳
に関してもズバ抜けていた。
だからこそ、彼にとっては自分を取り巻く全てが退屈で、平凡で、つまらなかった。
世界征服を企む大それたヒールなんて現れない。
平和を守る正義のヒーローなんていないし、必要もない。
無力な少年は無力なままで、ある日突然に強大な力を持つなんて事もありえない。
ボーイ・ミーツ・ガールから始まる荒唐無稽で愉快痛快な物語なんて―――
それこそ、どこぞの少年誌の中にしか存在しない。
もしかして。
もしかして、この世に世界征服を企む誰かがいて。
世界を守るヒーローが、それと戦っていたとしても。
きっと自分には関わりのない、遠い世界の―――別の世界の話だ。
道明寺誠はそう思っていたし、多分そうなる事だろう。


―――中学に入ってすぐの事だった。
昼休みの教室。椅子に座り、昼食後の一時のまどろみを楽しんでいた道明寺の平穏は無粋にも破られた。
「よぉ、お前」
驕慢さを隠そうともしない、粘着質な声である。
自分に話しかけているのだと分かっていたが、道明寺は目を閉じたままで気付かないフリをした。
「お前だよ、お前。聞いてんのかよ、おい」
煩わしいな、と思いつつも目を開ける。
そこにいたのは想像していた通りのバカ面である。その後ろには、これまた似たような顔の奴が三人。
確か隣のクラスの奴だった気もするが、よく覚えていない。
「何か用かよ…ちなみに俺の名前は<お前>じゃない。スポーツ万能・成績そこそこ・女子にはモテモテ
道明寺誠だ」
「はあ?…まあいいや。道明寺。お前さぁ、随分と暴れてるらしいじゃねえの」
「暴れてる?」
とぼけてみせたが、心当たりはあった…というか、心当たりしかない。
基本的に道明寺は売られたケンカは買う主義だし、こっちから売りつける事も多々ある。
そのせいで入学間もない彼だが、周囲からは既に問題児として扱われていた。
「俺のダチがよ、お前にやられたってんだよ、コラ」
「忘れたとは言わさねえぞ、オラ」
やたらとコラだのオラだのが好きな連中だなあ。
道明寺には、その程度の感想しかない。
「すまん、忘れた。どこのどいつの話?」
「一組の薬師寺だよ。お前がいきなり殴ってきたらしいな」
「顔面が二倍に膨れちまってたぞ、あいつ。よくもやってくれたなぁ、おい」
「ああ…思い出した」
名前までは覚えていないが、顔面が二倍に膨れたという辺りでピンと来た。
確か、数日前の放課後。
人気のない教室で、小柄で気弱そうな男子生徒が、大柄な男子に一方的に小突かれていた。
別に正義の味方ごっこがしたいわけじゃなかったが。
不愉快なものをそのままにしておくほど、人情に薄い男ではなかった。
「ふーん…弱い者いじめとは感心しねーな」
「ああ?」
いじめの現場を目撃されても、そいつはへらへらと、野卑な薄ら笑いを浮かべていただけだった。
自分のしている事が悪い事だという意識もないのだろう。
「勘違いするなよ。俺たちは仲良くボクシングごっこしてただけだぜ?なあ」
すごみをきかせて小柄な男子を睨み付ける。彼は怯えた表情で小さく頷くだけだった。
「へえ、そうかい」
にやりと笑い、道明寺はファイティング・ポーズを取ってみせた。
「じゃあ、俺とも遊んでくれよ」

―――彼は、自分がいじめていた相手がどんな痛みと恐怖を味わっていたのか、およそにして十倍の濃度
で味わう羽目になった。
顔面が二倍に膨れ上がったとはいうが、それに加えて、両拳も使い物にならなくされた。
完治したとして、箸と鉛筆は持てても、二度とボクシングごっこなどできない身体になった。
なお、いじめられていた男子生徒は気が付けばいなくなっていた。
それについては、道明寺は別に気にしなかったけれど。

「あいつとは小学生の頃からマブダチでよ。それがこんな目に合わされちゃあ…なあ?」
「黙っちゃおけねーなあ。うん」
「こちとら、マジムカついてんだよ」
「お前もちょっとは痛い目見てもらわねーとなあ?」
「成る程、成る程。よーく分かった」
道明寺は、仰々しく腕を組んで大袈裟に頷いてみせた。
「要するにお前らも、仲良く一緒に病院に行きたいってわけだ。把握した」
「言ってくれるじゃねえか」
「四人相手に、勝てると思ってんの?」
「まあいいや。放課後だ。放課後、屋上に来いよ。逃げんなよ?」
「いや」
道明寺は言った。
「ここでいいよ」
は、と四人は間の抜けた顔になった。
対して道明寺は、不敵とも取れる笑み。
「別に放課後なんて待たなくていいよ。ここでやろうぜ」


道明寺はケンカっ早いのは確かだが、怒りっぽい人間ではない。
むしろ、同い年の連中と比べれば感情の制御は群を抜いて上手い部類に入る。
だから別に、怒ったりはしていなかった。それどころか、冷静ですらあった。
冷静に、目の前のバカ共を手加減抜きでブン殴っただけである。


突然の凶行に騒然とする学友達を尻目に、道明寺は平然としていた。
目の前には、人間というより肉塊といった方が近くなった四人。
「へ…へめえ…たらで、すむとほもうな…」
その中ではリーダー格であったらしい男子が、くぐもった声で凄んでみせた。
根性だけは立派かもしれないと、道明寺は妙な所で感心した。
「ほ、ほれんちは、ヤクザらぞ…オヤジに、いっへ…ギタギタに、ひてやる…」
「家がヤクザ…ねえ」
うーん、と唸って顎を撫でる道明寺。その様子を臆していると思ったのか、男は半死半生の割に勢い込む。
「そうら!いくらほまえでも、こええらろお!?今ならろげざしてあやまへば―――」
「よし、今から案内しろ」
「ゆるひてやっても―――へ?」
青あざでパンダのようになった両目を、パチクリとさせる。
道明寺は、静かに繰り返した。
「案内しろよ、お前んちに。ちったあ面白そうだから、今から殴りこむわ」


面白くも何ともなかった。
相手がヤクザだろうが、普段のケンカと何も変わり映えしなかった。
ある者は、前歯を全部叩き折られていた。
またある者は、肘と膝の関節が逆方向に折れ曲がっていた。
或いは、窓ガラスに頭から突っ込んでいた。
「こんなもんか」
軽い失望と共に吐き出した言葉は、嘆きの色さえ含んでいた。
「漫画とかだと、ヤクザの事務所に殴り込みなんて、大抵物語の山場なんだけどなあ…」
実際は、仔犬を蹴飛ばすような簡単さだった。
いや、仔犬を蹴飛ばす方が難易度が高い。
だって可哀想じゃん、仔犬を蹴飛ばすだなんて。
その点こいつらを殴り飛ばすのには、何の躊躇もいらない分、ずっと楽だ。
「…………!」
当のヤクザの息子殿は、頼りにしていた組長である父親や、その配下の屈強な組員達が為す術なくボロクズ
にされたのを見て、完全に顔色をなくしていた。
ガチガチと歯を鳴らし、ズボンを黄色い液体で濡らすばかりだ。
道明寺は既に、彼に対して何の興味も持っていなかった。
何も言わずに肩をすくめて、半壊した事務所を後にしただけだった。


しかしまあ、流石にやりすぎだった。
中学入学早々に、道明寺は矯正施設とやらに入る事となってしまった。
とはいえ、彼はへこたれたりなどしなかった。
「何処にいたって、別に同じだし」
結局世界は、何も変わらない。
中学に通っていようが、施設にいようが、何も―――
施設にいた時の事は、正直な所、ほとんど何も覚えていない。
いや、記憶には留めているが、印象に残ることなどロクになかった。
たった一つだけ覚えているのは、面会に来た一人の少年の事だった。
「あの時は、お礼も言わなくてごめんなさい」
それはあの日の放課後、いじめの標的にされていた男子生徒だった。
「お礼って…別に俺、何もしてねーし。バカを殴っただけだよ」
「そんな。僕を助けてくれたじゃないですか」
「たまたまだよ。殴った相手が、たまたまお前をいじめてただけ。それだけだ」
皮肉っぽく、唇を歪めてみせた。
「それだけの、つまんねー話…この世の中と同じようにな」
「世の中って…」
「面白くねーんだよ、俺は。何をやっても退屈だ」
知らず知らずの内に、口調に熱がこもっていた。
「世界は、平凡と平坦と平常で出来ている―――間違った論理を振り翳して、この世界を売ろうとしてる
ほどの悪党なんていやしない。救わなきゃならない程の危機もねーんじゃヒーローだって現れっこねー。
俺たちの生きる世界は、そんな退屈に溢れた世界なのさ」
「それは、違います」
気弱ないじめられっ子には似つかわしくない、断固とした口調だった。
正直、道明寺は少し面食らった。
彼は、続けた。
「少なくとも、僕の世界は、道明寺くんに救われました」
「…………」
もしかしたら自分は、すごくマヌケ面をしていたのかもしれない。
「僕にとっては…道明寺くんこそ、世界を救ってくれた正義のヒーローです」
「…はは。そりゃ笑えるな」
ヒーローはいた。
実は自分こそがヒーローでした。
そりゃねーって。お前、そりゃほんとねーわ。
ちょっとイジメから助けてやっただけで、大袈裟にも程があるだろ。
それが正直な感想だったし、歯が痒くなるような思いでもあったが。
悪い気は、しなかった。
自分の人生観を変えるほどの出来事ではなかったけれど―――誰かに感謝されて、嬉しかった。
それだけの事。
その後、彼とはそれきりで、特に何かあるわけでもなかった。
でも不思議と、この時の事はずっと覚えておきたかった。


そして、時は流れて。
道明寺誠―――十四歳・中学三年生。
この世は退屈で、平凡で、つまらない事しか起きない。
ヒールもヒーローもいない。ボーイ・ミーツ・ガールなんて夢物語。
そんな彼の諦念は<クロガネに導かれし少年>との出会いによって、木っ端微塵に砕かれることとなるの
だが、それはまた、別の話である―――
36サマサ ◆2NA38J2XJM :2010/12/03(金) 23:48:17 ID:Q0BlctwO0
投下完了。
サンレッドの方がちょっとスランプなので気分転換に短編書いてみました。
題材はタイトルにもある通り、チャンピオンREDで連載中のロボット漫画「鉄のラインバレル」。
主人公の早瀬さん…ではなく、彼を公私共に支えるよき友人・道明寺クンを主役に
据えてみました。
彼の過去は<暴力沙汰で施設に入れられた>くらいしか言及されてないのをいいことに、
捏造しまくりました。これぞ二次創作の醍醐味…と自己弁護。
とにかくこの人、チートにも程があります。素の人間として考えれば、はっきりいってバケモンです。
そのインチキ性能は原作を見れば理解できるかと。

70の大台を目前にしてこの御通夜ムード…!
スパロボLも一周目クリアしたし、サマサもSSに力を入れないと!
紫影のソナーニルをクリアしたら本気出す…!(ダメかも)

前スレ320
東方でも上位クラスの力を持っております、ゆうかりん。フロシャイムの方々がいたら…死ぬ…。

前スレ321
FBFを取っておいたのは「FBFは体力の消耗が他のフォームより激しく、継戦能力自体は低いから」
「幽香は大技一発で勝てるほど甘い相手じゃないし、FBFで倒しきれなかったら負けるから」と解釈して
もらえれば。いや、実際どうなのかは知りませんけどw

>>ふら〜りさん
原作だと、搦め手も結構使ってるんですが…凍らせたり落とし穴を掘ったり。けど結局通じないという…。
誰かレッドさんを倒す手段を考えてー!

前スレ323
お嬢様はカリスマぶっててもどこかでマヌケっぽいのがお嬢様です。多分。ただ単に、作者に強さの
辻褄を合わせる気がないだけかも…(汗

前スレ324
戦闘IQの高さもヒーローの素質かも。まあ頭を使うより、力任せにぶん殴る方が似合うけどw
37作者の都合により名無しです:2010/12/04(土) 16:15:50 ID:9mWaX+fe0
サマサさんお久しぶりです!
原作はまったく知りませんが、天才ゆえのニヒリズムですかな。
ちょっと厨二病っぽいけどw圧倒的な実力があるから仕方ないか。
でも締めはしみじみとしてますなあ。
38作者の都合により名無しです:2010/12/05(日) 08:43:21 ID:7aNo+gAX0
サマサさんやスターダストさんたちが踏ん張ってくれている限りは
まだバキスレを見捨てないんで頑張って下さい。

チャンピオンREDか。読んだ事無いけど、一度探して読んでみるかな。
39作者の都合により名無しです:2010/12/05(日) 19:05:53 ID:6t8M6yUV0
久しぶりにバレさんのまとめサイトにいったら、スレの過去ログが全部消えてました。
保管している方、いらっしゃいますか?
40作者の都合により名無しです:2010/12/06(月) 09:56:53 ID:RPiLc4vU0
>>39
うわ本当だ。えらいショック
SSは消えてないからまだいいけど・・
バレさん今頃何してるんだろ?
41作者の都合により名無しです:2010/12/07(火) 19:19:47 ID:z/8Xge630
サマサさんお疲れです。
世の中に対して斜に構えていた時期が自分にもあったなあと
少し思い出しました。
42作者の都合により名無しです:2010/12/08(水) 19:14:46 ID:5DfiKV6Q0
ふらーりさんでも過去スレは保管はしてないだろうなあ
43作者の都合により名無しです:2010/12/10(金) 01:17:46 ID:9CHdJgl80
過去ログとれるから、取れる分だけとってみる
44作者の都合により名無しです:2010/12/10(金) 01:47:43 ID:9CHdJgl80
ttp://onishibata.ddo.jp/20/download.php?id=06232

過去ログ取得成功
パスワードは sage です。
45AnotherAttraction BC:2010/12/10(金) 22:45:01 ID:4vFXhtI40
前スレ190から

 ―――頂上会議の三ヶ月前。
「…クリード、返事を出さないのか?」
 執務用の机を挟んで、シキがエアメールの封筒を手に取った。
「そんな汚らわしい物はさっさと捨ててくれないか? 邪魔だよ」
 ノートパソコンの画面から眼を離さず、彼のピアニストの様な指がキーボードに流麗なタップを刻む。
「しかし、良いのか? 名のある各組織からの召喚だぞ、もし今後に影響が…」
「良いんだよそんな物。連中の考える事なんて、たかが知れてるからね」
 アップテンポの音楽を思わせるキータッチ音が、会話に更なる愚弄を添える。
「しかし…」「冗談じゃない」
 焦れた様な声が、ナンバーツーの口を無理矢理塞ぐ。
「キミはこの僕に……この偉大なる僕に、無能共の元に足労しろと言うのかい?」
 無駄骨、と言った雰囲気で目頭を揉む。
「どうせ『技術を寄こせ』とか、『資金を寄こせ』とか、『改造しろ』とか言ってくるだろうしね。
 僕は凡愚共に関わっている暇さえ惜しいんだ、いっそ連中が集まった所に爆弾でも届けたいくらいだよ」
 何を打ち込むのに疲れたか、急に伸びをして脇のメモにペンを走らせる。
 自動書記の様に見る見る描かれるのは、幾つものハングマンとその上に書いた『Old Fools(愚鈍な年寄り共)』。
「全く……クロノスに対抗した気でチマチマ暴れていれば、社会の底辺で生きる事くらいは許してやったんだけど………これは
 ちょっと眼に余るね。ゴミクズの分際で僕と同等みたいな態度を取るなんて………皆殺しにしてやろうか」
 破ったその紙を宙に弾くと―――、横薙ぎで奔る高速の指がその上半分…ハングマン達の首を一閃で斬り飛ばした。
「…いや、でも待てよ……」
 指が往復するたび、先刻飛んだ上半分が何度も上に弾かれて少しずつ刃物で切った様にカットされていく。
「うん…成る程……そうか…」
 中空の紙片は綺麗な楕円形となり、そのきっちり中心にはあの嘲弄文が収まっている。
「シキ、やっぱり受けるよ。先輩方と親交を深めよう」「…何だと?」
 彼の怪訝も致し方無し、今もその先輩方に見立てた紙片を嬲っている。
「行くと言ってるのさ。色々準備が要るから、君も手伝ってくれないか」
 だが…やおら往復する手が不意に天を衝く。それは、無刀で有るが紛れも無い大上段の構え。
 そして――――――、落雷もかくやの神速で机の天板ギリギリまで手刀が振り抜かれた。
「ああ……楽しみだな」
 遠足を待つ少年の様な貌の前に舞う、両断された紙片………そして余波で二つに割れた天板が、穏便な会合など無い事を示していた。
46AnotherAttraction BC:2010/12/10(金) 22:45:47 ID:4vFXhtI40
 そして現在。
 大食堂に満ちるのは先刻の和やかさではなく、煮え滾る様な殺気だ。
 してなおその温度を上げるのは、皮肉にも今までで一番朗らかなクリードの笑顔だ。壁中の黒服が懐に手を入れ、ご先輩方≠ネどは
火でも噴くのではないかと言うほど顔を怒りに染め上げている。
「おやおや、どうなさいました? 僕は皆さんの意を的確に汲んだつもりですが」
「―――黙れ! このクソガキがッ!!!」
 溢れんばかりの怒りで、激しく卓を殴り付ける。
「自惚れるのも大概にしろよ、若造! 貴様……我々を何だと思っている!?」
「……立場を良い事に若い衆の手柄を横取りせんとする、老害…ですかね?」
 その背後で、シャルデンが堪え切れずに苦笑を零す。
「おい三下、何がおかしい!!?」
「イエ…此処で怒るのでしたらつまり、我々の協力など要らない、と言う解釈で良いのでしょうカ?」
 美青年の蛇の様な異論に、真っ赤になった顔が言葉を飲み込んで見る見る青黒くなる。
「それ、見なサイ」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!! 黙れッ!!! 詭弁を弄すなッッツッ!!!」
「……成る程。クリード、お前の言った通り立場にアグラをかいた連中ばかりか」
 呆れ返ったシキの言葉が引き金となってか、遂に無数の銃口が彼らに向けられる。
「……我々革命の闘士に、これ以上の無礼は許さんぞ!! 訂正しろこのクソチビがッ!!!」
「革命の闘士なら、もう少し品性を学んだ方が良いな。育ちと器が知れるぞ」
「同志の話し合いに武器を持ち込む時点で、これまでの人生が見えて来るようだね」
 いちいち痛い所を突かれ、彼らはもう爆発寸前だった。

「待て、待て、待て! 君達銃を収めなさい!!! 早く!」
 それを一人止めたのは、アリウス師だ。彼は武器を持っていないらしく、両手を広げて宥めに掛かっていた。
「どうやらクリード君は、少々勘違いしているようだ。そのぐらいは大目に見なさい」
「まさか、僕は到って冷静で大真面目ですよ。僕の様に未来も才能も有る前途有望な若者が、死に損なっただけで此処まで来た
老衰寸前の干物に、その功績を奪われるのが我慢ならないのですよ。
 正直言って、引き際を忘れた輩などただただ有害です。違いますか?」
 何処までも快活なクリードに、アリウス師でも抑え切れないほど怒りが満ち満ちる。
「君は……何故こんな…」
「最終的に決定させたのは老師、貴方ですよ」
 毒に満ちた笑顔に、アリウス師の貌が凍り付いた。
「後世に譲る気など無いのでしょう? 道とサイバネティクスに不老の可能性を託し、あわよくば永遠に今の地位に居座ろう
と言う魂胆では? まだ貴方がたは、頂点の美味を味わい尽くしていないでしょうから」
 脂汗と震える拳は雄弁な証明だ。
「ついでに言うとあの時、僕は笑いを堪えるのに一生懸命でしたよ。
 典型的ですよ。まずは恫喝、続いて懐柔、そして緩めば一気に篭絡………星の使徒の主導権を皆さんで握る気満々じゃないですか」
 打ち合わせを読まれていた事に、場を占める歴々が言葉を失う。
「やれやれ、志半ばに召されるのが嫌なのは判りますよ。でも、寿命に追い着かれるより早く目的を遂げる手を考えるのも、
指導者の才覚では無いでしょうかね? そんなだから老害なのですよ、貴方がたは」
 何処までも嘲笑うクリードへの怒りは頂点に達そうとしていた。何より図星を当てられ続け、忍耐は勿論矜持も尽きかかっている。
「過ぎ去りし後の礎? ふふ、まあその通りでしょうね。自分達の栄耀栄華を支えると言う意味では」
「―――黙れッ!」
 とうとうアリウス師が叫んだ。
「………選べ。此処で死ぬか……それとも我らの傘下に降るか…二つに一つだ!」
「一番の嘘つきが、やっと正直になれましたね。でも、もう少し言辞の修飾を取り払うべきかと」
 その時―――頭目の一人が耳のマイクに手をやった。それだけなら誰も注目しないのだが、驚愕に染まる声音と貌が一同を注目させる。
「………何…? 馬鹿な! そんな……そんな筈が…!!」「今、襲撃を受けているのでしょう?」
 誰もが彼を訝る中、クリードの言葉は明らかに通信に即したものだった。
「勿論僕の部隊ではありません。間違い無くクロノス……それも、アウトラウンドでしょうね」
47AnotherAttraction BC:2010/12/10(金) 22:48:40 ID:4vFXhtI40
 ―――ハルドヴェルク城、正門前掃射陣地。
「ボス…! 早く、何とかしてください!! このままじゃ押し切られます!!」
 陣地に蹲りつつ、男は泣きそうな声で通信機に叫ぶ。
 正面だけあって装備も陣地の厚みも余所以上だが、それでも襲撃者達は圧倒的だった。
 射撃間隔は機関銃のそれより酷く空いているが、その精度と来たら攻撃しようとした途端にヘッドショットが待っている。
 それゆえ今も土嚢に身を隠すが、放物弾道で飛来する矢は陣地を守る同志をそのまま射殺して来た。かく言う彼も、その脚に深々と
アルミ製の矢が突き刺さっている。
「……悪魔だ…あいつらは悪魔だ!」
 機銃掃射が出来ない以上、接近戦しかない。傍らに置いたショットガンを掲げ、土嚢を越えて来るであろう敵勢を恐怖を堪えて待つ。
 ………そうして銃声も止み、息苦しい二分が経過した。
「…? 来ないのか?」
 此処ではない他のルートを確保したのだろうか。だとしても出るのは得策ではない。コーナーミラー(歯科医の使う口内鏡を
大きくした様な器具。これで死角を見る)を取り出し、陣地の外を注意深く確かめる。
 その所為で―――、傍で斧を振り上げる黒服に気付くのが遅れた。
「…正面、クリア」
 サングラス型の通信機に囁きながら、無慈悲な刃は振り下ろされた。

「僕が、此処の情報を漏洩したからですよ」
 子供の様に邪気の無い笑みで、快活に絶望を告げる。
「と言ってもご安心を。それなりの情報収集力が無いと得られない程度に制限しましたから。
 ですので万が一にも、三下が来る事は有りません」
「ふざけるなッ!」卓を叩くと同時に怒号が迸る。「貴様…此処の情報をクロノスに売っただと……!!! 一体どう言うつもりだ!」
「それに……貴様らはどうする気だ!? まさか逃げられるとでも思っていないだろうな!」
「いいえ。寧ろ、連中を迎え撃つために今回招きに応じたのですよ。
 そろそろ有力なナンバーズを派手に減らしても良いか……と、思いましてね」
 つまりクリードにとって、彼らはクロノスをおびき寄せる為の餌だったのだ。誰もが憤激に血を昇らせる。
「いい加減にしろ!!! 良いか、もし我々に何か有ったら…!!!」
「……報復ですか? 無駄ですよ」そう言って携帯を取り出し、数秒話し込むなりアリウス師の所まで卓上を滑らせる。
「貴方にです。どうぞスピーカーでお聞きを」
 手で促され、恐る恐る携帯のボタンを押す。
48AnotherAttraction BC:2010/12/10(金) 22:49:40 ID:4vFXhtI40
「……私だ」
『おう、アリウス師。私だ』
 一瞬誰か判らなかった。その聞き慣れたイントネーションが、携帯から出る筈が無かったからだ。
「何故無駄か…ですが、簡単ですよ。もう皆さん帰っておられるからです」
『クリード様の仰られるとおりだ。私ことアリウス師並びに各組織のトップ連中は円満に帰還中だ』
 好々爺然とした笑い声は、死神の笑いそのものだ。
「もうこちらで作った皆さんが帰っている以上、僕らが皆さんの組織に報復される事はありませんね。
 指導者は二人も必要無い………となればこちらは居なくても良いでしょう。
 勿論ご安心を。僕が彼らを通して組織をまともに機能させますから」
 指導者は辛いな、と言い締めて、彼は呵呵大笑した。
「おのれ……ッ!!! 表の奴らも呼べッ!」
「ソレも無駄」シャルデンが静かに笑う。「部屋の外の連中は、全員死んでいマス。遅効性の神経ガスデスから、誰も助かりまセン」
 何度も通信機の非常事態コードをコールし続けるが、言葉通り全く繋がらなかった。
 それを目端で確認したクリードが席を立つ。
「さて、楽しい会議もこれで終了ですね。では続いて、僕達の宴を愉しむとしようか」
「待て! 逃げられると…!」「ああそうだ」
 興味は無い、とばかりに罵声を無視してシキの肩に手を置く。
「済まないね、つまらない事を任せて」
「良いさ。私の道はこう言う事′けだ」
 言い終えるや否や――――矮躯から黒く巨大な蟷螂が無数に飛び出した。


 ………阿鼻叫喚を扉の向こうに聞きながら、クリードは廊下に転がる男達の死体を眺める。
「相変わらず、静かな殺し方だね」
「殺しは無味・無色・無臭・無労が極意デス。散らかるのも騒がしいのも、好きではありまセン」
 シャルデンの道は血に性質ばかりではなく、効能も付加できる。従って気付かれぬよう転々と滴った血の道は、彼が氣を開放する
事で揮発性の毒ガスに変じて彼らを殺したのだ。
「…お美事。素晴らしいお手並みです」
 飾らぬ賞賛と共に、あの秘書姿の美女が現れた。
「全隊に通達を終えました。アウトラウンドとの接触は二分十一秒と推定されます。
 それで、こっちの……」
 言いつつ、連れて来たその人物を前に突き出す。
「丁重に扱ってくれないか。彼女は大事な賓客だ」
 特に何か――例えば、逃走の準備――をしていない事を確かめながら、クリードは微笑んだ。
「なかなか似合ってるじゃないか、リンスレット=ウォーカー」
 秘書に両腕を押さえられながら、純白のパーティドレス姿の彼女は憎々しげに彼を睨んだ。
49AnotherAttraction BC:2010/12/10(金) 23:04:26 ID:4vFXhtI40
サンタさん、精神と時の部屋か加速装置で良いわ。俺へのプレゼント(挨拶)。

……とか熱望せんばかりに筆が遅えNBです、皆さんこんばんわ。
あれからどんだけ掛かってんだっつの! 
ともあれ色々私事がかさみ、遅筆に一層磨きが掛かった事を謝罪しますが、
正直このポンコツSSを楽しみにして下さる方々が居ると言うだけで、俺には至上のプレゼントですね。
実は結構俺の認識の外な意見が多くて、非常に文の肥やしになっています。
なので今後も一切の忌憚無き金言を頂けると、とても有り難い次第です。

それでは皆さん、早々にご意見頂きたくズバッと退散仕りまする。
と言う訳で、今回は此処まで、ではまた。
50作者の都合により名無しです:2010/12/11(土) 09:51:08 ID:7XkZaoYk0
>>44さんお疲れですー
マジ助かりました

>NBさん
お久しぶりですー。間が開いても、書き続けてくれるとうれしいです。

区リードは能力が高過ぎる故の幼児性がその不気味さを引き立たせてますな
古来、カリスマのある人間というのはそんなもんかも知れない。
本来個人主義であると思うシャルデンたちが魅かれるのもそんな所かな?
リンスの登場でまた艶っぽくなりそうで楽しみです。
51ふら〜り:2010/12/11(土) 12:13:31 ID:SyN8LwLc0
このお二人が並ぶのは嬉しいですな。

>>サマサさん
いやいや、この男子生徒君には心底同意。誰が何と言おうと、立派に「強くて優しい正義の
ヒーロー」ですよ! 子犬を蹴飛ばすのは可哀想とか、人から感謝されて素直にそれを喜ぶ
とか。ヘンに「俺は正義じゃない。ただ○○で〜」とか気取らないところがまた、カッコいい!

>>NBさん
実力やカリスマ性のみならず、いちいち相手の神経を逆撫でするセリフがまた天才的。しかも
>自動書記の様に見る見る描かれるのは、幾つものハングマンとその上に書いた『Old Fools(愚鈍な年寄り共)』
その相手が見も聞きもしてないところでまで、わざわざ手の込んだ嫌がらせ……というか
なんというか。敵に回すと、二重三重にイヤ過ぎる相手ですねクリードは。強い怖いだけでなく。

>>44
おつ華麗さま! こういうの、やり方が解りませんもので……単にメモ帳にコピペした
だけのものなら持ってたんですが。
52作者の都合により名無しです:2010/12/11(土) 12:44:13 ID:VDlb4Zoz0
NBさんお疲れ様です。
この作品はクリードがもう一人の主人公ですね。
原作はよく知りませんが、彼のキャラが一番怪しげで
物語をリードしてる気がする。
その周りの特に女性陣も魅力的ですが。
大決戦が近いのかな?
53作者の都合により名無しです:2010/12/13(月) 10:13:32 ID:PvSXtruC0
NBさん半年くらい来なかったけど
ここ最近はよくあげてくれて嬉しい
クリードもかっこいいけど
やはりトレインやセフィリア様の勇士が早く見たいな
54作者の都合により名無しです:2010/12/14(火) 21:29:00 ID:IS33kL/o0
55永遠の扉:2010/12/16(木) 02:36:29 ID:r3GIuXItP
【9月12日】 

 まひろ所属するところの演劇部は最近とみに活気を帯びている。
 もちろん元々みんな演劇に意欲的だったのはいうまでもないが、それが最近とても良い方向に刺激されている。
 だからまひろは最近部活がとても楽しい。

「でもびっきー、あまり部活に来てないよね。カゼかなあ? 体の調子が悪かったらどうしよう」
「しばらくアルバイトで忙しいみたいよ。何でもやりたいコトのためにお金貯めたいんだって」
「お父さんたちから仕送り貰っているのに立派だねびっきー。メイドカフェでも毎日一生懸命働いているし」
「そういえばヴィクトリアのご両親って何してる人なんだろう。今は離れて暮らしているらしいけど、あの子、家族のコトはあ
まり話したがらないから……」
「そそそそそそれはきっとホームシックになりそうだからだよ! う、うん。きっとそうだよ」
「? ? なんでまっぴーが慌てるの? でもびっきーって不思議だよねー。なぜか斗貴子さんと同じ制服着てるし、外国の
コなのに日本語すごくうまいし」

 そんな最近不在気味のヴィクトリアと入れ替わるようにやってきた男がいる。
 パピヨン。新たな監督である。彼の牽引力は良きにつけ悪しにつけ強烈なのだ。演劇部の活況は彼のせいでもある。
 更に彼に引き続くように、斗貴子、秋水、桜花といった知り合いたちも次々入部してきている。

 だから、まひろは最近の部活が楽しい。



 たとえ内心のさらに奥底に秘めた感情がどうであれ。



「ハイ! ハイっ! 監督! 木さんの役なら私が!」
「貴様がか? 馬鹿をいえ。貴様のような落ち着きのない女になど背景はとても任せられん」
「ううん! 向いてないからこそチャレンジするのよ! 何しろ私はまだ一年生ッ!!! 背景さんをコツコツやって先輩たち
の演技をしっかり勉強しなきゃダメなの!! え、どうしてもダメ? うーん。監督がそういうなら…… あ! あ、じゃあさじゃ
あさ、出会えー出会えーって悪代官さんに呼ばれてすぐ斬り殺されて爆発するミミズ怪人A! これ、これならどうかな! す
ぐ退場するし他の人にも迷惑にならないよ!!」」
「まっぴー。もうちょっといい役頼もうよ」
「というか何で悪代官が怪人呼ぶの? そんなの書いた覚えないけど……」
 顔をしかめたり呆れたりの友人たちのツッコミもなんのその、まひろは今日も絶好調である……と部員達は思った。
「生憎だが下っ端の要望を聞き入れてやるつもりはないんでね。役の配置は俺がする。貴様は──…そうだな。爆発現場
で仰天して騒ぐモブで十分だ。やかましいだけの貴様の声も場面によっては使いようがある」
「おぉ。さすが監督」
 メガホンをビシィ! と突き付けるパピヨンにまひろは心底感心したように頷いた。
「…………フン」
 最近就任したての監督──パピヨン──がやや目を丸くした。よくあるコトだ。まひろはいつも不思議に思っている。元気
よく発言する度、監督の内面はわずかだが確かに揺らいでいるようだった。無愛想で傲慢な鉄面皮が人間的な柔らかさに
はつと鞣(なめ)されるのだ。まるで、いなくなった誰かを懐かしむような機微が滲み出るのだ。
(むかし仲良かったコとか思い出してるのかな?)
 常々不思議に思っているが、もしその「仲良かったコ」が闘病の末に死んだーとか、お互い好きだったのに親の都合で引き
裂かれたーとかドラマチックな要素満載だったりすると聞くのは悪い。そう思ってまひろはあまり突っ込まないコトにしている。
(……私だって、お兄ちゃんのコト聞かれたらまだすごく悲しいし)
 カズキのコトを思い出すたび胸がちくちくする。
(きっといまも敵さんと戦っているんだよね。なのに私、フツーに過ごしていていいのかなあ…………?)
 秋水の病室で、メイド喫茶で、演劇部で。笑って過ごしていても時々不意にカズキのコトを思い出してしまう。そのたび自分
だけが兄に守られた世界の中で楽しく明るく過ごしていていいのかという疑問も浮かんでしまう。


「それについては構わないと思う。君の兄は、君がそう過ごせる世界を守りたいから敵とともに月へ飛んだんだ」

「君が笑ったり楽しんだりしていても、彼は決して責めない。身を張って良かった。心からそう思うだけだ」


 秋水などは生真面目な表情で気にしないよう諭してくれるし、そういう気配りはとても嬉しいが──…
56永遠の扉:2010/12/16(木) 02:45:25 ID:r3GIuXItP
.

(でもねお兄ちゃん。斗貴子さんはね。まだだいぶ元気がないよ。きっと毎晩泣いてるよ……?)

(びっきーって可愛いんだよ。お兄ちゃんにも会わせてあげたいなあ)

(六舛先輩や岡倉先輩や大浜先輩は悲しそうだよ。ちーちんだってさーちゃんだって寂しそうだよ)

(桜花先輩もブラボーさんも辛そうだし)

(きっと秋水先輩も、お兄ちゃんに謝らなきゃ前へ進めないと思うよ)

(私だって辛いんだよ。お兄ちゃんに戦わせて私だけ楽しく過ごすなんて)

(いくらお兄ちゃんがみんなの味方で、大勢の人を守ってくれていてもね…………)

(帰ってきてくれなきゃ…………みんな心から喜べないよ……)


「大丈夫、まひろ?」
「え?」
 心配そうな千里の呼びかけでまひろは現実世界に引き戻された。理知的な顔立ちのおかっぱ少女はひどく心配そう
な顔をしている。その背後にはやや瞳が赤い沙織もいる。頬を何か湿った熱い物が通り過ぎた。慌てて手を当てる。指先
が水分に光っている。それでまひろは自分が泣いていたコトに気付いた。見渡せば演劇部員たちの視線が嫌というほど
自分を向いている。
「あああええと、ええとねコレは、監督の見事な采配に感動していただけで、その、あの……!」
 慌てて胸の前で手を振る。必死に取り繕うが友人たちや部員一同の微妙な雰囲気は消えない。確か学校関係者には
カズキが原因不明の失踪を遂げたとだけ伝えてあるのをまひろは思い出した。今は収まっているが初夏以前の銀成市
では行方不明事件がよく起きていた。一説には全国平均の2倍という。大きなものなら高台に住んでいた蝶野一族の失踪
事件、小さなものなら銀成学園の英語教師の失踪(表向きは入院として処理されているが)などが記憶に新しい。カズキも
そういう事件に巻き込まれた。部員達はそう思っているのだろう。もっとも、カズキは失踪事件の根源をことごとく取り除い
た側で、結果、月にいるのだが。

「まあこの俺、パピ・ヨンの采配に感動するのは無理もない! せいぜい貴様はこの俺の素晴らしさに感動して泣いていろ!」

 パピヨンはどこ吹く風である。両手を華麗に広げて腰を左右に振りたくった。
 明るい雰囲気だが、まひろは見てしまった。
 一瞬難しげに何かを考え込み、少し泣きそうになるのを無理に明るくした「監督」の顔を。
(ひょっとして、私に気遣ったり──…)
「おうおうなんじゃなんじゃ。微妙にしけった雰囲気じゃのう。ひひ。いい若い者が昼日中から辛気臭くてどうする」
 ドアの開く音に遅れてカラカラとした声が教室に響き渡った。
 見ればいやにカビ臭い小柄な少女がそこにいる。
「あ! 理事長さんだ!! 理事長さんが来たよちーちんさーちゃん!」
 まひろの声が跳ね上がった。明るい声はどこか、無理をしているような響きもあった。


57永遠の扉:2010/12/16(木) 02:48:18 ID:r3GIuXItP
【9月9日】


 パピヨンのストレス値が高まっていた。


「シーツぐらい干さないと健康に悪いでしょ」


 太陽の匂いのするシーツをヴィクトリアが敷き述べた。ストレス値+1。


「何って……見ての通りただの掃除じゃない。埃ってコマメに取り除かないと喉を刺激するし……」

 三角巾を被ったヴィクトリアがハタキ片手にキョトリとした。ストレス値+1。


「夕ご飯買いに行くけど、欲しい物あるなら言いなさいよ。つつっ、ついでに買ってきてあげるから」

 やや顔を赤くしてやり辛そうにヴィクトリアが聞いた。ストレス値−1.


「え? ハンバーガーだけ……? あ、いえ。文句があるとかじゃなくて……でも、栄養が偏るでしょ? いつもアナタ血を吐
いてるからホウレンソウたっぷりのシチューがいいって……あ、ち、違うわよ。アナタに作ってあげたいとかそういうのじゃなくて、
単に私用に作るけど材料少なめに買うと却って高くつくし、でも沢山買ったら今度は余るから、その、その、捨てる位ならア
ナタにあげた方が経済的って…………。あ……。食べかけを押し付けるとかそういうのじゃなくて! あなたに分けてから
食べるし、滋養とか鉄分があるから、悪くないって、悪くないってちょっと思っただけで…………いやなら、別にいいわよ……」

 買い物のメニューにケチを付けてきた。ストレス値+4。



「なんだかんだで食べてるじゃない。ひょっとして……おいしかったり、する? 味見はしたつもりだけど……」

 シチューを5皿お代わりしただけでやや嬉しそうな上目遣いをした。ストレス値+16。


「ええい鬱陶しい!! 貴様は一体何様のつもりだ!」

 クローン培養中のフラスコに痛烈な一撃が与えられた。中で蛙井という名の試験体がひいと顔を歪めた。フラスコには軽く
罅が入り、内容液がうっすら染み出した。ヴィクトリアはいない。しばらく時間が空くと告げるや、学校に行った。

 横なぐりに叩きつけた右拳を戦慄かせながら、パピヨンは咆哮する。

「人間のころ余命幾許もないと宣言された俺にさえ看護師や医者どもはああまでしつこく関わらなかったぞ!! フザけるな!
100年来地下に籠ったヒキコモリ風情が俺を保護しようなど、思いあがりにも程があ──…」

 うっぷとパピヨンは口に手を当てた。怒鳴り散らした時のお決まりで、血液が込み上げてくるのを感じたのだ。

 黙る。
 黙る。
 黙る。

 血は、込み上げてこなかった。

「──っ!!!」

 それがいよいよパピヨンを激昂させた。
 ヴィクトリアの清掃作業は病人の気管支に対し確実にいい効果をもたらしている。
 ここのところベッドシーツは毎日洗濯され、太陽の光とアイロンの熨(の)しで常に新品同様だ。気管支にはとてもいい。
58永遠の扉:2010/12/16(木) 02:54:39 ID:r3GIuXItP
 彼は声にならない声を上げ、手近なフラスコを何度も何度も痛打し始めた。円筒形のそれは地震に見舞われたかのごとく
揺れに揺れ、中にいるオーバーオール姿のぼっちゃん刈りが恐怖の形相でもがいた。彼は無数の気泡すら吐いた。

 最近のヴィクトリアはやや豹変しているように感じた。
 初対面の時のツンとした棘のある態度がなぜか急に軟化し、何かといえばパピヨンの世話を焼くようになったのだ。
 血を吐けば無言で口を拭き、机上で船を漕げば毛布を掛け、徹夜をすれば「雑務は自分がやるから」と睡眠を促し、腹が
鳴れば滋養のある暖かい食べ物をそっと差し出す。
 まったくヴィクトリアらしからぬ態度だ。もっとも小さな頃は純真無垢な少女だったしホムンクルスとなってからも母の介護や
100年来の守護をやりおおし、怪物と化した父でさえ家族として愛している。実際のところ根はやさしい家族思いの少女で、
ひねくれてしまったのは錬金戦団が押しつけたホムンクルス化やヴィクター討伐のせい……という見方もできなくはない。
 秋水やまひろ、千里といった面々との関わりで屈折が程良く和らぎつつあるのかも知れないが──…

 とにかくヴィクトリアの一挙一動の総てが、パピヨンにとってはまったく腹立たしい。

 理由はよく分からない。嫌悪を催すというのではなく、内心の何か、かつては求めていたが今はまあどうでもいいと割り切っ
ている何事かが疼くのだ。傲慢な彼だから割り切ろうともしている。下っ端のやっている事なのだからその成果の総ては
搾取してもいい、自分にはその権利がある。言い聞かせながらヴィクトリアの差し出す味も量も質もひどく良い料理を「搾取」
その一言で腹に収めるのだが、見守るように侍るヴィクトリアの表情! ひどく安心したような、物質的にはまったく損をして
いる筈なのに限りなく満たされている柔らかな微笑を見ると無性に腹が立つのだ。

 そういったヴィクトリアの存在を認めてしまえば今まで自分の縋ってきたモノが無に帰すような。
 ズルズルと生ぬるい方向へ引きずられ、ついには「カズキを救う」という大志を失ってしまうような。
 自分を支え続けてきた矜持が根底から崩壊してしまうような。

 やるせないもどかしさにパピヨンはずっとずっと苛立っていた。

 ヴィクトリアへの対処が決定したのは翌日である。
 彼女のある行動が、訳の分らぬ怒りに満ちた堪忍袋を決壊させた。

 白い核鉄の研究に没頭する筈のパピヨンが、演劇部の監督に就任し、やや無駄な時間を過ごし始めたのは。

 翌日のヴィクトリアの決意のせいである。

【9月10日】

「研究も軌道に乗ってきたし、私、少し働こうと思うの。研究資材はともかく、食費はけっこうかかるでしょ? それ位捻出
したいし──…」

 おずおずと話しだしたヴィクトリアにパピヨンは激昂した。
 聞けば彼女はメイドカフェでアルバイトをする(ディケイドとかやる夫が出てきた091話参照)らしい。

 実際問題、食費の問題などはなかった。パピヨンは父や曾祖父の遺産をたっぷり持っている。端的にいえば湿地帯とか
火山とかが点在する広大な土地にパピヨンパークという名の施設を作れるぐらいはある。にも関わらずヴィクトリアは働いて、
食費を稼ぐという。

(俺は、ヒモか……!!)

 などという世俗的な感想こそ抱かなかったが、怒りの本質はまさにそれであった。
 奇妙な話だが、パピヨンのような独立独歩を貫く気高い男にとって、女に食費を稼がせるというのは我慢ならぬコトらしい。
 かといって「食費など貴様の分もまとめて賄ってやる」と言える度量もないらしい。吝嗇(りんしょく。ケチ)という訳ではない。
それをいえば疎ましく思っているヴィクトリアを自分の世界に一歩引き入れてしまうような気がしたのだ。彼女もなんだかんだ
で受け入れるのも見えていた。それも庇護にありつけたという媚態ではなく、もっとこう人間的な、心通わせれる相手ができた
というささやかな喜びと嬉しさを以て申し出を受け入れるだろう。
 頭のいいパピヨンは瞬時にそこまで考えてしまい──…
 限りなく正確な未来予想図が非常に非常に不愉快だった。

 彼はとうとう、決意した。

 ヴィクトリアとの対決を、決意した。
59永遠の扉:2010/12/16(木) 02:56:12 ID:r3GIuXItP
 彼女が世間話で「それなりに楽しい」と評していた演劇部を、めちゃくちゃに破壊したくなったのだ。
 壊してどういうメリットがあるかは不明だが、とにかくヴィクトリアにやられっ放しなのは気に入らないのである。


 ならばニアデスハピネスの一つでもブっ放して脅せばいいような物なのだが──…


 直接危害を加えたくないと無意識に思っている自分がまた、パピヨンにとって腹立たしい。


 そして彼は演劇部の監督に就任した。


【9月12日】

 誰もいない研究室の中でヴィクトリアは暗い表情をしていた。

 最近、パピヨンが不在気味である。

 特に喧嘩をした覚えはない。一昨日、バイトを始めた日あたりから突然彼が顔を合わさなくなった。
 原因が分からない上に所在も掴めない。携帯電話の番号はそもそも分からない。

 だから実は最近、(防人に外泊許可を貰った上で。ただし行き先は告げてない)研究室に泊まってはそこから学校へ行き
放課後はバイトという生活の繰り返しなのだが、パピヨンが帰ってくる気配はない。
 彼愛用の机の上にはシチュー鍋と書き置きがあり、後者にはしばらくの研究方針と作業手順が事細かに書かれている。
 託す、というコトはヴィクトリアの手腕をある程度信頼している証かもしれないが、傲慢な癖にいやに病弱で世間ずれしてい
る弟のような青年が研究室にいないというのは、少し寂しかった。

 ヴィクトリアはただ、パピヨンの健康状態が気掛かりだった。
 動けぬ母を介護していた時のように、少しでも少しでも健康に近づけるよう、ヴィクトリアなりに努力したつもりだった。
 掃除もしたし、料理も作った。研究に没頭するあまり床で寝ていたパピヨンをベッドに運ぶ時は、意外にあどけない寝顔に
ヴィクトリアらしからぬ安らかな笑いを浮かべたものだ。
 そんな風に彼の世話を焼いたのは、濁った瞳の奥に気高い光を見たからだ。
 彼女と似た悲しみを湛えながらも、彼女が到れるかどうか分からない素晴らしい強さを秘めた光。
 どう接していいか分からなかったが、なるべく親身になれるよう務めたつもりだった。
 自分らしからぬ表情をしてしまうたび、就寝前に「なぜあんな反応してしまったのよ……」と枕に顔を埋め自らの失態を
嘆いたりもした。でもそういうくすぐったい感情が失ってしまった何かを取り戻してくれるようで、気恥しくも決して悪い気持ち
ではなかった。

(私はただ少しでも力になってあげたかったのに……どうして、避けてるのよ)

 作り置きしたシチュー鍋の蓋を開ける。。減った様子はない。
「お腹が空いたら温めて食べなさい」。
 側面で揺れる張り紙がなぜだか瞳に痛かった。





「たまには……部活に顔を出そうかな……」





 まひろたちの顔が、無性に見たくなった。
60 ◆C.B5VSJlKU :2010/12/16(木) 03:01:12 ID:r3GIuXItP
以上ここまで
61作者の都合により名無しです:2010/12/16(木) 09:50:01 ID:LAjUuf0n0
スターダストさんお疲れ様です。
みんな青春してる感じで甘酸っぱいですな。
まひろはもちろんですが、パピヨンたちもそれなりに楽しそう。

ヴィクトリアも氷が解けた感じでいいですね。
62作者の都合により名無しです:2010/12/16(木) 17:40:00 ID:qF+1aKVu0
なんかスターダストさんの後書きの無さが心配・・
それはともかくお疲れ様です!

パピヨンはジョジョでいう「精神的貴族」ですね。
こんな可愛いびっきーが色々してくれるというのは男にとって夢なのにw
演劇部の活況も好い感じで、しばらくほんわかムードですかね。
だからこそカズキがいない寂しさが募りますが・・。
63作者の都合により名無しです:2010/12/17(金) 13:55:51 ID:uO9JBQio0
スターダストさん、サマサさん、NBさんって同時期くらいの登場だったよね?
このお三方がまだ書いてくれてるのは感慨深いなー

スターダストさん乙です。
変態紳士のパピヨンさんは好き勝手に生きてきたから(原作では不遇だけど)
ストレスには弱いのかもね。しかし美人看護士がついているのは贅沢すぎ。
顔立ちというだけなら作中一番かも知れないし、ヴィクトリア。
桜花さんより美人になりそうだしうらやましい
64作者の都合により名無しです:2010/12/18(土) 12:36:23 ID:FJeUEPYv0
スターダストさんのこの作品が最長記録なんだよね
頑張って完結させてほしい・・。
65作者の都合により名無しです:2010/12/20(月) 10:07:12 ID:QANZBSxS0
期待上げ
せめて今の作品群が完結するまでスレもってほしい
66作者の都合により名無しです:2010/12/21(火) 18:00:51 ID:SwqT6uug0
スターダストさん、NBさん、サマサさんときたから
今度はさいさんだな
67作者の都合により名無しです:2010/12/21(火) 20:00:55 ID:EKQjtfMu0
語ろうぜスレとか肉スレとかヤムスレとかあった時代が懐かしい

このスレが終了するまでにパオ氏とサナダムシ氏とうみにん氏だけは
一度遊びに着てほしい
68作者の都合により名無しです:2010/12/21(火) 20:03:33 ID:EKQjtfMu0
あ、あと忘れちゃいけないバレ氏

まあ、>>66さんの言うとおり
サマサさんたちがいる内はまだまだこのスレを見続けるけどね
69作者の都合により名無しです:2010/12/21(火) 20:53:35 ID:pV7B7jNs0
俺も昔は書いてたんだが、SSってノレてる時はスラスラ書けるけど、一旦どこかで
つまづくと本気で書けなくなる。
趣味や楽しみでやってるはずなのに最後は苦痛になる始末だった…
70作者の都合により名無しです:2010/12/22(水) 17:35:08 ID:NfGCJKMc0
>>69
それはわかる
ちょっと行き詰って
書くのが苦痛になってきて
しばらくSSから離れると
今度は書けなくって
投げ出しになるというパターン
71作者の都合により名無しです:2010/12/22(水) 23:31:14 ID:NYbUXeEZ0
そしてしばらくして新作書くけど投げ出し癖ついちゃってて結局未完作品だけ
増えちまう…まあ俺の事だけど orz

一度投げ出しやって真っ当に復活した人ってサマサさんくらいじゃなかろうか。
72邪神に魅入られて:2010/12/28(火) 16:03:08 ID:UeE2RizG0
第二話 崩壊

アクナディンは愕然とする。千年魔道書に書かれた古の魔術とその儀式。
千年アイテムを造る為に必要なもの、それは九十九人の人間の生贄。その魔道書に書かれた闇の錬金術、
それは神と悪魔の契約の儀式。金を創り出す為に異種の金属を変成させる際に魔術的儀式により……
人間の生贄が必要となる。
そしてその事実を、国王であるアクナムカノン、アクナディンの実兄は知る由も無かった。
アクナディンはこの事実を王に伝える事をしなかった。伝えれば必ず王はその正義感から非人道的行為であるとし、他の方法を模索させる。
だが王国はもう時間が無い。例え罪無き人々を殺してでも国を守らなければならない。
翌日、謁見の間でアクナディンはアクナムカノンに魔術書に書かれた内容を、生贄を必要とする最重要の秘密を隠し、『闇の錬金術』を行う許しを乞うた。

「七日程あれば、古の魔術を復活させることが出来ます」
『だが…それほどの強大な力を生み出すことはこの世に災いを招く恐れも…』

眼を閉じ、アクナムカノンは悩んでいたが、シモンがアクナムカノンに決断を促す。

「アクナムカノン王、もはや時間はありませぬ…ご決断を!!」

シモンの一言にアクナムカノンは決意する。国の一大事に、指を加えて傍観している訳にはいかない。

「我が王国の平和を七つの秘宝に委ねる!!」
「は!」

その後、アクナディンは馬に跨り、兵士を集めて王宮の入り口に出た。
「よいか!! 我々は王家の谷近くのクル・エルナ村に向かう!」

アクナディンが兵士達に号令を掛ける。兵士達は何故盗賊村と呼ばれる場所に行かなければならないのかと困惑していた。
出立の時、アクナディンはふと後ろを見やる。そこには愛する妻と、息子のセトがいた。

『セト…私はこの国の為に自らの手を血で染めねばならぬ…兄が国王に即位した日から…私は影を歩む運命』

アクナディンは太陽に向かい走り出す。その顔はただひたすらに険しい。

『私もお前も王になれぬ身…さらばだ…息子よ…』
73邪神に魅入られて:2010/12/28(火) 16:05:22 ID:UeE2RizG0
その頃クル・エルナ村ではいつもの朝の風景が広がっていた。
戦争が目前に迫っているというのにこの盗賊村は妙に呑気であり、先日、女の子の赤ん坊が生まれ、
やっとこの村も人口が『百人』になったなどと村人は昨晩からお祭り騒ぎである。
勿論、バクラの家も例外ではなく、村のますますの発展を願って、この良き日を嬉しそうに過ごしていた。
この様に村は変わらず平和で、その後に降り掛かる惨劇など予想だにしていなかったのだ。
今日も雲ひとつ無い晴天である。盗賊村の罪人と蔑まれている者達も、歌い、踊る。
快晴の空は人々の心を象徴しているようであった。
当然、王国の方より近づいてきた軍隊と、その頭上を覆うように広がる暗雲には気付かなかった。

「今日は無礼講だ! 新たに生まれた100人目の命と、村の益々の発展を祈ろう」

長老のこの無礼講という言葉に反応したバクラは、大人達に混じって葡萄酒を呑む。酔っているのか、気分が高揚しているのか、
沈む夕日のように顔が赤い。

「もう、バクラったら、お酒なんて飲んじゃって!」
「へへ〜、いいのいいの〜」

同年代のおませな少女も、参ったものだと言わんばかりに溜め息をつく。
そんな時だった。村の中心で村人たちが集まっているときに、王国の兵団が到着した。
これには村人も良い感じはしなかった。もうすぐ、敵国との戦争も始まるというし、もし、巻き込まれたならば少数の、王国から追われた者達の
村など一溜まりもないだろう。
兵団が2列縦隊に並び、奥からアクナディンが歩を進めてくる。

「長老よ、確か、この村の人口は『九十九』人だったな」

正確に言えば女の子が産まれたので百人であるが、王国には情報は届いていないようだった。

「一体何を仰っておるのでしょう?」

長老がアクナディンに問いかけた瞬間、彼の額が赤く染めあがった。
74邪神に魅入られて:2010/12/28(火) 16:07:22 ID:UeE2RizG0
血である。夥しい量の血が彼の顔に広がり続ける。彼の額には矢が刺さっていた。
弓兵が放っていたのだ。だが、村人達は、何が起きたのかは全くもって理解できてはいなかった。
勿論、バクラも例外ではない。
地に堕ちていく天使の様に崩れ落ちる長老。村人達は、声を上げて逃げる。

「うわあああああああ!!!!!」

余りにも原始的な悲鳴。物心ついた幼児も、思慮分別の分かる者も等しく同じ悲鳴を上げる。
だが、無情にも彼等が救われることは無かった。
千年魔術書に書かれた九十九人の生贄となることを余儀なくされたのである。
産まれたばかりの赤子も、盲目の老婆も、村一番の力持ちも、皆等しく殺されていく。
気付いた時には太陽は隠れ、積乱雲が盗賊村を包み込む。やがて、冷たい雨が降り注いだ。

「くそ、さっきまでいい天気だったのに」

バクラが苦虫を噛みしめるような顔で天を見つめる。誰も救わない天を。

「バクラ!!」

少女がバクラに駆けよる。バクラもそれに気付く。鬼気迫る表情で、バクラは少女を見る。

「やめろ! こっちに来るな!!」

時は既に遅かった。駆けよった少女は、左胸を、矢によって貫かれる。即死だった。
バクラは、泣いた。涙が止め処なく溢れ流れた。恐ろしい程に大きな声を上げてその場を走り去った。
目の前で友人を殺された。王国が憎い、憎い、憎い!
だが、『恐怖』が、バクラの心を支配していた。目の前で次々に死んでいく人々。
少年は、この世の地獄の真っ只中にその身を置いていたのだ。
75邪神に魅入られて:2010/12/28(火) 16:08:44 ID:UeE2RizG0
右を見ても、左を見ても、死体。今日の朝まで一緒になって笑っていた友人達の死体。
精霊超獣を自分だけが見えてしまう特異な人間であっても、まるで変わりなく自分と関わってくれた人々。
最愛の両親。先に殺されたのは母親だったのだろう。そして覆いかぶさるように父親が倒れ伏していた。
バクラの涙はもう枯れていた。彼の瞳には既に『光』など、宿ってはいなかった。

「どうやら、これで九十九人、生贄を創ることが出来ましたね」
「うむ…」

兵士の問いかけに、小さく頷くアクナディン。仕方がなかった。
王国の為には、無くてはならない犠牲だった。そう解釈し、無理やり、自分の罪悪を胸の内に収め、クルエルナの地下の神殿に向かう。

王国の為に、王の影となり、自ら闇の道を歩みだした神官。
恐怖と復讐心にその身を支配され、やがて光すらも消えた哀れな少年。

その奥に佇む、一切の光をも逃がさず呑みこむ邪神が、高らかに嘲笑していた。
76ガモン ◆AZ5sKwHlMSgF :2010/12/28(火) 16:12:26 ID:UeE2RizG0
ご無沙汰しています。
今回も短くて申し訳ありません。
最近は本当に文章を書く事が出来なくなってしまい、ネタも全く浮かびません。
本調子で書けるようになるまで時間が掛かると思います。
申し訳ございません。
77作者の都合により名無しです:2010/12/28(火) 19:47:37 ID:oKwyG1Eq0
お久しぶりですガモンさん
原作でも悲惨だったよね、このエピソード…
バクラは加害者にして被害者なんだよなー
78作者の都合により名無しです:2010/12/31(金) 14:32:46 ID:mxX+h2Eq0
ガモンさん慌てず少し休んで復帰して下さいな。
楽しく書くのが長続きする秘訣ですから。

かつて投げ出した俺が言うのはアレだけどな・・w
79ふら〜り:2011/01/01(土) 11:04:29 ID:esMqSZjM0
あけましたおめでたい。本年もよろしくお願いします!

>>スターダストさん
パピヨンとまひろ。カズキを挟んで、同じではないけど近いものを抱いている者同士。だから
ある部分、通じてる。パピヨンとヴィクトリア。同じように捻れていたけれど、一方が大きく、
一方は少しだけ、解けてきているから、その差が摩擦になっている。人間関係の妙ですねぇ。

>>ガモンさん(祝ご帰還! ゆっくりじっくり楽しめる範囲で、よろしくお願いしますっ)
平和描写が平和であればあるほど、殺戮描写が鮮やかに映えますねぇ……王側にも
ちゃんと事情があるのがまたキツい。例によって原作未読ですが、この生贄人数の
誤差が、ジークフリードの背中の葉っぱよろしく、後々になって大きく影響してきそうな。
80作者の都合により名無しです:2011/01/02(日) 19:52:39 ID:z9NUlYmg0
ふらーりさんおめでとう。
今年はどうなるかな。
復活するといいね
81作者の都合により名無しです:2011/01/04(火) 18:00:06 ID:uD6OlfO+0
顕正さん、面白いスレがありました。
他の方も、こっち一度ごらんください。

戦国末期の日本_VS_ドラクエVの世界
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ff/1293944355/
82作者の都合により名無しです:2011/01/04(火) 21:54:50 ID:1LNf/9v60
岸辺露伴は動かない ―殺戮の女王―(前篇)

ぼく―――漫画家・岸辺露伴は<女王>の前に立ち尽くしていた。
その圧倒的な、心を震わせる美しさに。


此処は、日本から遠く離れた国…名をSH王国。
人口数万人という小国ながら、風光明媚な景観で観光地として人気が高い。
また、芸術が盛んな御国柄でもあり、現国王からして政務の傍ら音楽家として活動しているというのだから
恐れ入る話である。
そんなSH王国のほぼ中心に、一つの歴史ある美術館が鎮座していた。
<サン・ホラ記念美術館>
古めかしくも厳かな風格を持つ、堂々たる偉容。
世界中から集められた名品・珍品の数々は、世界中の目の肥えた好事家達をも例外なく唸らせるという。
この岸部露判も、漫画のネタになればと思い立ち、はるばるやって来たというわけだ。
実際、想像通り―――否、想像以上にインスピレーションを刺激してくれる逸品ばかりだった。

SH王国が生んだ伝説的な詩人ルーナ・バラッドの詩の一説が刻まれた石碑だとか。
絶世の美貌を誇った白き雪の姫が愛用していたティアラだとか。
神の手を持つ者と称された彫刻家オーギュスト・ローランの遺作となった天使の彫像だとか。
まあ中には<悪魔が封じられていた石畳>だの<奈落の仮面>だの、ワケのワカらんモノもあったが。

その中でも目玉であり、白眉と言えるのが、今まさにぼくの目の前に佇む<女王>―――
其れは、血潮のように紅く、焔のように緋い宝石だった。

母なる大地が育んだ奇蹟。
世界最大と謳われた輝石。
所有者を代え渡り歩いた軌跡。
手にした者に与えられる特典は、予約済みの鬼籍―――
30ctの、赤色金剛石(ディアマン・ルージュ)。

その名を―――<殺戮の女王(レーヌ・ミシェル)>。

硝子ケースに納められた<彼女>は、凍りつくように美しかった。
この時のぼくの心を、どう表現すればいいのだろうか?
探し求めていた運命の女性(エリス)に、永き旅路の果てに巡り会えた―――
83作者の都合により名無しです:2011/01/04(火) 21:55:39 ID:1LNf/9v60

ああ。
まさにそんな気分だ。
いつまでも、この感動に浸っていたい―――

「ボン・ソワール。よろしいかな、ムシュー?」

と。
ぼくの感傷をぶち壊しにするかの如く、肩を叩かれた。
むっとしながら振り向けば、そこにいたのは何とまあ、胡散臭い男であった。
燕尾服に蝶ネクタイ、頭にはシルクハット。
右手にはステッキ。
鼻の上にちょこんと乗っけた片眼鏡(モノクル)。
人懐っこい笑顔を浮かべてはいるが、何処からどう見ても、怪しさしか存在しない男だった。
ぼくは無言で、数メートルほど移動した。
この岸辺露伴の持つ、とある<能力>を使う事も考えたが…そういう形でさえ、関わり合いになりたくない。
無視するに、限る。
「いきなり距離を取らないでくれ給えよ、ムシュー・ロハン?」
「なっ…!?」
名前を知られているだと…!?こいつ…何者だ!?
「はっはっは、驚く事ではないだろう。ロハン・キシベといえば、我が国でも高名な漫画家だからね―――
私も勿論、大ファンですとも。こんな所で会えるとは、運命の女神に感謝すべきか」
男は懐に手を突っ込むと、何かを取り出す。
「それは…」
「うふ。大好きですよ、これ。いつも持ち歩いてるぐらいにね」
ぼくの代表作<ピンクダークの少年>第一巻だ。
しかも、日本語版。
「最初の版ということで、今は修正されてる誤植も味というものさ」
おまけに初版らしかった。
…単なる、ぼくの熱狂的なマニアなのだろうか?それはそれで気色悪いものがある。
「初対面で不躾と思うが…是非とも、サインを頂きたい。家宝にしますので」
「…名前は?」
単行本を受け取りつつ、ぼくは訊く。
さっさとサインでも何でもして、帰ってもらおう。
それがいい。
「クリストフ・ジャン・ジャック・サンローラン―――最も<サヴァン>と言った方が、通りがよかったり
するのだがね」
「サヴァン…<賢者>ね…」
サラサラとペンを走らせて、ぼくは彼―――<サヴァン>と名乗る胡散臭い男に単行本を突っ返した。
サヴァンは心底嬉しくて堪らないといった面持ちで、いそいそとサイン本を仕舞う。
84作者の都合により名無しです:2011/01/04(火) 21:56:25 ID:1LNf/9v60
よし、これでオールOK。
ぼくの平和は保たれた。後はさっさと帰ってくれるのを待つだけだ。
「時にムシュー・ロハン。君はこの<殺戮の女王>に、並々ならぬ興味があるようだね?」
帰ってくれなかった。
むしろ、話を続ける気満々だ。
「君がこの美術館に足を踏み入れてから今でちょうど七十七分七秒。<殺戮の女王>の前で足を止めて魅入る
事、実に四十五分。秒にして千六百二十秒…と、言っている間にも、二十三秒が過ぎてしまった」
鷹揚に。
サヴァンは、両の手を大きく広げた。
「ムシュー・ロハン。私でよければ、君の話し相手になりたい」
「だが断る」
この岸辺露伴が最も好きな事の一つは、こういう自分勝手に物事を進める手合いに「NO」と断ってやる事だ。
「確かにこの<女王>実に美しい輝石だ…こうして硝子の檻に鎖された姿は、まるで硝子の棺で眠る可憐な姫君
のようだね…嗚呼。正しく彼女は、檻の中の花だ」
「…………」
こいつ…。
「多くの人間を魅了し、そしてその人生を狂わせてきた赤色金剛石―――そもそも、この<殺戮の女王>の名は
一人の女性に由来するのだよ」
サヴァンは、静謐に語り続ける。
いつしかぼくは、彼の言葉に聴き入っていた。
「<殺戮の舞台女優>と呼ばれたミシェル・マールブランシェ。彼女が犯罪史の表舞台に登場する事、三度に
渡る―――まずは実父ヨセフ・マールブランシェの凄惨な変死事件。
その後、彼女を引き取った養父アマンド・オルビエによる絞殺・死体遺棄未遂事件。
最後に、ミシェル・マールブランシェ自身の手による青少年連続拉致殺害事件。
不思議な事に、ミシェルは最後の事件において年齢は二十歳にもなっていない。だというのに、干乾びた老婆
となって、自らが殺した少年達と共に折り重なるようにして死していたという。その生涯は、余りにも多くの
死で彩られているのだよ」
この赤色金剛石と同じように。
サヴァンは言う。
85作者の都合により名無しです:2011/01/04(火) 21:57:35 ID:1LNf/9v60
「奇跡の輝石・赤色金剛石(ディアマン・ルージュ)―――彼女を最初に手に取ったのは、妹の婚礼のために
出稼ぎをしていたとある青年。寂れた鉱山の中で彼は寝食を忘れ、何かに取り憑かれたように穴を掘った。
掘り続けた。そして…彼の眼前に現れた、かつて見たこともない美しき原石―――」

サヴァンの紡ぐ言葉は、ぼくの脳裏にその光景を思い浮かばせる。
幸運。彼にとってまさに、至極の幸運だ。
彼は30ctの赤色金剛石を手にしながら、ただ、妹の笑顔だけを思っていたのだろう。
これを売れば、莫大な金になる。
苦労をかけてきた可愛い妹の婚礼を、盛大に祝ってやれる。
嗚呼。可愛い妹よ。これで、胸を張って、送り出せ―――

ガツッ

「欲に眼が眩んだ鉱山の管理者は、男を殺して女王を奪った―――
鉱山の管理者は宝石商に其れを持ち込んだ―――
眼の色を変えた鷲鼻の宝石商は、管理者を殺して女王を奪った―――
その宝石商も、また―――
回る廻る、死神の回転盤(ルレトゥ)―――
そして、彼女は今―――この美術館の一室。硝子の柩で、静かに眠る」
ふう、と。サヴァンはそこで、話を終えた。
「ムシュー・ロハン。君は今、この<殺戮の女王(レーヌ・ミシェル)>に、強く魅せられている事だろう―――
それでも、硝子越しに見つめるだけにして置き給え」

「狡猾な少女―――影と踊った老婆―――派手な娼婦―――泥に塗れた王妃―――幾つもの首を彩り、幾つ
もの首を刈り取った女王。その凛と紅き血塗れの接吻(くちづけ)に、どうか射ち堕とされぬよう」

その後、いくらかの言葉を交わした気もするが、よく覚えていない。
ぼくの心は既に<女王>に支配されていたのかもしれない。
彼女を、もっと間近で見たい。
この手で触れたい。
その欲求は、ぼくの中で、抑え切れぬ程に強くなっていた―――
86サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/01/04(火) 22:17:16 ID:1LNf/9v60
投下完了。
SoundHorizon 7th 「Marchen」 発売記念…というわけで(どんなわけ?)書きます。
後篇も2〜3日のうちに投下できる…予定。
思った以上にサンホラよく知ってる人向けになっちまったな…(汗)
サヴァンの胡散臭さ、上手く出せたかなあ?

>>37 まあ、原作が厨二要素満載なもんで(笑)でも、熱い少年漫画でおすすめですよ。
>>38 最後の一人になったとしても、きっと書きます。
>>39-40 時代を感じる…悲しいな…
>>41 そういう時期は、きっと誰にでもある。僕にもある…。

>>ふら〜りさん
カッコよく…書けましたかね(汗)
正直、書いてて自分で「なんつう厨二か…!」と思いましたw

>>63 バキスレの長い歴史…僕らがまだまだ終わらせません。
>>69-71 すごく分かる…。

>>NBさん
NBさんの書くクリードさんのカリスマには頭が下がるぜ…
原作でもこんなんだったら、多分トレインは負けてますね。
強く、狡猾で、洒落っ気もある悪役…素敵…。

>>スターダストさん
パピヨン×ヴィクトリアか…グっとくるね(親指を立てる)
僕はまっぴー派だけど、スターダストさんの書くヴィクトリアなら第二婦人にしてあげてもいいかな(最低)
悲惨すぎる過去の持ち主なんで、是非幸せになってほしい…。

>>ガモンさん
誰が加害者で誰が被害者か…増えるのは犠牲者ばかりですね。
バクラも悪党なんだけど、苛酷な運命を背負ってる…遊戯王のキャラは大概そうですが。
しかし、アクナディンの親心の先にあるのが、結果的には未来の社長と考えると…うーむ(汗)
87作者の都合により名無しです:2011/01/05(水) 16:43:02 ID:SHOQZ2eR0
あけましておめでとうですサマサさん!
今年はきっとバキスレ立ち直りますよ。
サマサさんには是非今年も引っ張ってもらいたいと思います。
ロハンの読みきり、どんなオチになるか楽しみにしてます。
88作者の都合により名無しです:2011/01/05(水) 20:28:57 ID:Szb3D/s40
サマサさんあけ乙!
久しぶりに作品来たと思ったらめっさ胡散臭えwww
サンレッドも好きだけどこっちも期待してます

サマサさんには大塚さんパートをどう思ったか聞いてみたい
主に槍的な意味で
89永遠の扉:2011/01/06(木) 11:55:38 ID:CpIcJTOoP
【9月12日】

 放課後。

──────銀成学園。演劇部一同がよく使う教室で──────


「んふふ。そうじゃあ〜 もっともっとわしを撫でるのじゃあー」
 まるで夢見心地でうっとりする少女の頭を、まひろが楽しそうに撫でていた。
「おうおう。そこじゃ、そこじゃあ。んー」
 いやにカビ臭い口調の少女は、ひどく戯画的な眼差しである。三本線にくしゃついた瞳が今にも蕩けそうにずり下がっている。

 恐ろしく小さな体にややぶかぶかなゴシック系の制服をまとうポニーテールの少女。
 外見年齢およそ7歳程度の彼女こそ、現在の銀成学園理事長なのである。

 話によれば前理事長の孫であり社会勉強を兼ねて就任したという彼女、どういう訳かよく演劇部に出入りしている。
 とはいえ部員一同はあまり恐縮した様子もない。お菓子など与え適当にあしらいつつ、マイペースに練習をしている。
 この日も彼らは稽古に余念がない。例の「ざんねんだったね」を合唱したり筋トレに励んだり台本を読み込んだりだ。
 そんな喧騒と熱意に満ちた教室の一角で、まひろと理事長はじゃれている。

「理事長さんってフェレットみたいだよね。かんざしのマスコットもそうだし」
 そういいながらまひろは理事長のかんざしを物珍しそうに弄んだ。後ろ髪の付け根に差されたそれは愛らしいフェレットと
マンゴーのオブジェをぶら下げている。彼らは理事長が明るく楽しく叫ぶたび、夢の国の住民がごとくくるくる踊るのだ。
「ふぇれっとは可愛いからのう。まあ腐れ縁の連れ合いが選んだ理由は碌なもんじゃないが……」
 それはともかく、と理事長はまひろの腰にがしりと抱きついた。
「今度はだっこじゃ、だっこしてくれじゃ! だっこして、且つ! 撫で撫で!」
 身長は恐らく130cmもないだろう。そんな小さな子供が目をきらきらさせながら見上げてくるからたまらない。魚心あれば
なんとやら。ただでさえスキンシップが大好きなまひろ、目下大いに理事長がお気に入りだ。。
「きゃー!!
 ひとたび黄色い声を上げればもうすごい。頬ずりはするわお姫様だっこはするはペタペタペタペタ体中を撫でまわすわの
大騒ぎである。
「ちーちん! さーちゃん! やっぱり理事長さんってすごく可愛いよ! 一緒に撫で撫でしようよ撫で撫で!」
 可愛い子犬を見つけたという調子である。平素生命の息吹に満ちたあどけない瞳がより一層明るく輝いている。
 友人たちは、呆れた。
「いや……そうはいうけどまっぴー。そのコ理事長さん。銀成学園で一番偉い人だよ」
「ちょっとは手加減してあげなさい。ケガしたら可哀相」
「えー、でも理事長さん可愛いし……」
「ええよええよ。好き放題愛でるのじゃー。わしは可愛がられるのが大好きなのじゃー」
 ころころと理事長は喉を鳴らし、ひどくご満悦という様子だ。Vの字を描くまひろの両腕に抱きかかえられたまま、とても
とても幸せそうに目を細めている。
「ね、ね。理事長さんも演劇部入ろうよ!」
 表情がわずかに曇った。
「うーむ……演劇か。しかしわしは世阿弥観阿弥が催すがごとき煌びやかな舞台には甚だ不向きじゃぞ。もっとこう柿色の
裙(くん)穿き謀略偸盗(ちゅうとう)渦巻く裏舞台をば跋扈しとる方が性分にあっとるような」
「くん? ちゅうとう?」
 突如出てきた耳慣れぬ単語に一瞬あごに手を当て考えかけたまひろだが、由来彼女がその程度で止まる道理もない。
「大丈夫!」
「なにがよ」
 醒めた目で呻く千里と「いっても無駄だよちーちん」と額に手を当て嘆息中の沙織を無視し、まひろは叫ぶ。ぱんと手を打ち
大音声で呼びかける。
「理事長さんは可愛いから大丈夫!!」
「可愛い可愛いというが本当かのう? その、じゃな。実はわしの鼻はすこぶる低い……情けないほど低いのじゃ。だから
まあ、わしはの。鏡見てもわが顔が可愛いとはあまり思えんというか……うぅ、その。低くてぴんくが差した変な鼻がすごく
すごく嫌なのじゃ…………」
 それまで明るかった理事長の瞳が俄かに潤んだ。鼻を両手で覆い隠したまま頬を赤らめおどおどとまひろを見上げる辺り
よほど低い鼻にコンプレックスを抱いているようだ。
「ヌシが普通だと思うても、わしは低い鼻が嫌なのじゃ。まして、まして、衆目犇(ひしめ)く演劇場で舞台に登るなど。あ、ああ。
考えるだけで靦汗(てんかん)の至り……うぅ。恥ずかしい。いやじゃいやじゃ。きっと、ひっく。みなわしの低い鼻を笑うのじゃ」
「そうかな? 普通だと思うけど」
90永遠の扉:2011/01/06(木) 11:57:34 ID:CpIcJTOoP
「ひあっ!?」
 理事長の細い体がびくりと跳ねた。千里と沙織の顔面が蒼白になった。まひろ! 彼女の指が低い鼻をつまみ、弄び始めて
いるではないか。いつの間にやら理事長の手が、剥がされてもいる。
「ほら。ちゃんと掴めるよ?」
「や、やめ……! ぎゅっとつまむでな……ここここれ以上つぶれたらどうす……あっ!」
 白い指が柔らかな丘陵を揉みつぶすたび、まひろの胸の中で幼い肢体がぶるぶると震えた。軟骨をしなやかな指が圧迫する
と必ず絹を裂くような叫びが小さな喉の奥から迸り、悶える。澄んだ大きな瞳には甘い靄さえかかり、艶めかしく潤んでいた。
 身をよじりもじもじと太ももをすり合わせるが、その動きはひどく弱々しい。まひろの腕から抜け出せないのは、彼女の力が
強いという訳ではなく、理事長自身の脱力のせいであろう。
「ごご後生じゃ、後生じ……んっ!! やめ、やめぇ、そんな強く引っ張……痛い……はぁ、はぁ、んんん……、あっ! あっあっ、
やめ、やめて……やっ、いや、いやあああっ、声、声っ、恥ずかしいぃ………」
 泣きそうな顔で理事長は首を左右に振る。しかしまひろは無邪気な物で、あくまで好奇心の赴くまま低い鼻をいじり続ける。
やがて理事長の声はとぎれとぎれになり、激しい吐息ばかりが教室に響いた。成り行きを見守る部員たちの顔は徐々に
深刻さを増していく。「背徳的な雰囲気だがいいのか」。みな、唖然とするばかりであった。

「斗貴子さん。自分がいかがわしい小説描いてた癖に他の人に描くなって命令する人ってどう思う? オレ? んー。まあその
人にもいろいろ事情があるとは思うけど、でもさ、ちゃんと説明しないと「お前はどうなんだ」って反発されて大変じゃないかな。
ほら、岡倉なんかそういう本が大好きでしょ? 実は大浜もちょっと危ないシュミの本集めてるし」
「知るか! ああもう何の話だ! それから声真似はやめ……待てェ! エロスはともかく大浜真史まで!?」
「…………戻ってきたのはいいが、少々妙なコトになっているようだぞ津村」

 六舛、斗貴子、秋水。

 教室に入ってきた3名もまた、硬直した。

「武藤まひろ! おーのーれは!! なにをしでかしておるんじゃ! え!! このわしが何者かと知った上での狼藉か!」
 数分後。教室の中央には魔王のごとき三白眼で腕組みする理事長がいた。
「ごめん……」
「御免で済むなら撃柝(げきたく)の衛士はいらんわ!」
 うなだれるまひろの前で踏み鳴るは理事長の細い足。相当の怒りが見受けられたが演劇部員たちにさほどの動揺はない。
駄々っ子を見るようなほのぼのとした目線が理事長に集中している。
「ご、ごめん。でも「げきたく」ってなぁに?」
「あ、それは夜警とかに使う拍子木でつまり撃柝の衛士とは”ぽりすめん”みたいなアレじゃ」
「なるほど」
「って違うじゃろ!! わしのすべきは説明でなく説教! ええと、ええと、よ、ようもわしを弄んでくれたな! おとめのじゅ
んじょう、どーしてくれる! 刺激されたぞあれが、ええと! こんぷり、こんぷりけ、ああいや、ええと。ええと……」
「コンプレックス」
 しどろもどろの理事長を見かねたのか。それまで窓際でぬっくと腕組みしていた斗貴子がぼそりと呟いた。
「お? おおお……」
 発進元にぶんと向き直った理事長、しばし目線を虚空に彷徨わせ「こんぷれっくす、こんぷれっくすなのじゃな成程成程」
とぶつぶつひとりごちていたが、それもつかの間。まひろや千里たちや秋水、他の演劇部員たちの「本当は知らないんじゃ……」
という疑惑のマナザシに気付くや否や慌てた様子で背筋を伸ばした。伸ばす、というより大至急立て直すという形容こそふさわ
しい勢いで、痛烈なバネの跳ね上がりさえ想起させた。彼女はそれの赴くまま薄い胸を反らし、腰に両手を当てた。仁王立
ち。うっすらと汗の光る得意顔はいかにも知ったかぶりという表情だった。
「う、うん。知っとるよ。知っとるよ? こんぷれっくすじゃな。あのでっかくてギザギザしとる奴じゃろ。な? な?」」
「ぜんぜん違う!」
「ち、違わんよ。わしの在所じゃでっかくてギザギザしとるもん」
「いいか。コンプレックスというのは」
「がおらお? がおらお?」
「コンプレックスというのは、自分の身体的特徴に」
「がおらおがおらお!!」
「身体的特徴に劣等感を抱く事を──…」
「ほぐゎー!!!」
「話を聞けぇ!!!」
「ひひっ! 聞くかよー!!」
91永遠の扉:2011/01/06(木) 11:59:28 ID:CpIcJTOoP
 斗貴子のツッコミを黙殺し、理事長はやや語調を強めた。
「迂闊に話をきけばわしが横文字苦手なのがバレるではないか! ええ!?」
(それを大声でいうのはどうなんだ)
 鼻をひりひりと赤く腫らした理事長に秋水は眉をひそめた。が、当人は白状したコトにさえ気づかぬようで。
「とにかく! こここ、こん、こん、こんぷれっしゅ! わしのこんぷれっしゅをいじくり倒すとは失礼にも程があろう!」
(言えてない)
(言えてない)
(この理事長はとことん横文字が苦手らしい)
 演劇部員たちの頬が引き攣り始めたのは、理事長の説教の中に出てくる「コンプレックス」という単語が常に間違いだら
けでたどたどしいからである。にも関わらず彼女はこんこんとまひろを説教する。まひろもまひろで「こんぷれっしゅだよね!
こんぷれっしゅ刺激しちゃったらダメだよね。ごめんね理事長さん」と全力で間違った謝り方をしているのでますますおかしい。
(このコの方は相変わらずだな)
 秋水は嘆息したが、表情に嫌気はない。むしろ好意に溢れているといって良かった。
 だがある時、ふとその表情がわずかだが曇った。

(…………君はいま、無理をしていないか?)

(目が微かに赤い。もしかして、泣いていたのか?)

 やがて一同の間にいたく完成度の高い寸劇を見ているような錯覚が満ち始め、それとともに彼らはうつむいた。微妙に
震えているのはついに笑いを堪えられなくなったせいである。
「世が世ならわしは姫君のような立場……待て! いま笑ったな部員ども! わわわわしが姫君で何が悪かろう
よじゃ!! それはまあ鼻だって低いし気品なんぞ欠片もないしいつまで経っても稚(いとけな)い髫齔(ちょうしん)の顔立ち
じゃし、見知るおなごもことごとくわし以上の器量よし……おい部員ども! 何を笑っておるのじゃ!! わしはこう見えても
ヌシらよりずっと年上! あわっ! じゃなくて! なななななんというかっ! 精神の日月(じつげつ)において三歩の長が
あると……笑うなあ! ぐす。わしは、わしはなあ、ヌシらよりかなり年上なんじゃあ!!」」
 途中から理事長の怒りの矛先は部員たちに向き始めたらしい。彼女はぐずぐずと大きな瞳に涙を湛えながら懸命に
まくし立てている。

「理事長はともかくパピヨンはどこ行った? 私達は取り急ぎ用事を済ませたいのだが」

 ため息交じりに斗貴子が呟くと、たまたま近くにいた千里が「あ」と声を漏らした。

「今日は監督、ちょっと遅れてくるみたいですよ。なんでも急用だとか」
「ほう。私達にやりたくもない演技の修行をさせておいて自分は遅刻か」
「え! なになに斗貴子さん! 演技の修行したの!? いいなあ修行。私もしたい」
 栗毛の少女の双眸がぱあっと輝いた。のみならず豊かな胸の前で拳を揃え、しきりに話をせがみ始めた。
 一見、いつものような明るい態度である。
 斗貴子はいつものように気押され、六舛や千里たちといった顔なじみもやれやれと相好を崩したが……
(…………)
 秋水だけはまひろの目を見据えたきり黙然としている。


 □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


「──と、言う訳だ。私と早坂秋水はその演技の神様の下で一晩修行した」
「そうなんだ。アクションの修行を。斗貴子さんと秋水先輩ならきっと大丈夫だよ。いいお芝居ができると思うよ! ね、
秋水先輩もそう思うでしょ。」
「あ、ああ」
 ややぎこちない秋水の口調に、まひろは一瞬微妙な、何か核心を突かれたような不安げな表情をしたが、すぐいつもの
ような底抜けに明るい笑みを浮かべた。
「で、その演技の神様ってどんな人!? やっぱりこう、神様だから白いおヒゲを生やした仙人さんみたいな人?」
92永遠の扉:2011/01/06(木) 12:00:33 ID:CpIcJTOoP
.



 斗貴子と。
 秋水と。
 六舛は。




「「「……………」」」




 まるで示し合せたように黙りこんだ。



「どうしたんですか斗貴子さん。六舛先輩と秋水先輩まで黙りこんで」
「あ、いや。その……」
「やっぱりヒミツだったりする? そっちの方がカッコいいから?」

 はしゃぐ沙織に適当に相槌を打ちながら、斗貴子は恐ろしい怖気が立ち上ってくるのを感じていた。
 横目を這わせた秋水も同じ気分らしかった。平素超然としている六舛さえ血の気が引いているのが分かった。

(おかしい)


 おぞましい違和感がある。


(どうして、私はあの演技の神様の顔を──…)


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(思い出せない?)


(一晩付き合った記憶もある。あの人が教えた演技のやり方だって覚えている!)


(なのに)


 思い出そうとするたび


(なのに)

 演技の神様の姿が霞んでみえる。頭の中に靄がかかったようだ。声さえ正確に思い出せない。

(ど忘れしたという感じじゃない。妙だ。そもそも彼を紹介したのは六舛孝二。なのに旧知の間柄の彼でさえ)

「知らない、分からない」

 そんな顔で斗貴子を見ている。
93永遠の扉:2011/01/06(木) 12:01:32 ID:CpIcJTOoP
(私や早坂秋水が忘れるなら分かる。初対面だからな。顔を忘れてしまうのも不思議じゃない。だが、六舛孝二! 演技の
神様と親交のある彼がどうして覚えていない!? 絶対におかしい。異常だ。演技の神様とは朝別れた筈なのに放課後よ
うやくここに来たのもおかしいといえばおかしい)

(そもそも演技の神様は男だったのか? 女? それさえ分からなくなってきている)

 紙のように白い顔で息を呑む。

(朝から今までの記憶が……ない? 何があった? 私達は、何をしていた……?)

 若々しく水気のある唇もいまは乾き、ひび割れそうな勢いだ。

(何かがあった筈なんだ。重要で、見逃してはいけない何かが)



*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−


「小札零、という少女を知っているだろうか? 小柄で、おさげ髪で、シルクハットとタキシードの」

「あー。それはっすねえ」


*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−





(そうだ。確か『何かがあった』。別れ際に、何かが)





*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−


 演技の神様はひょいと右手を突き出した。

 演技の神様の掌には。

 いつの間に出したのだろう。

『核鉄』が握られていた。


*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−





(クソ! どうして思い出せない!? 絶対に何かがあったんだ)




94男と『彼女』:2011/01/06(木) 12:08:33 ID:vYkkSwVj0
その男はとても幸せそうだった。悦楽の笑み、という言葉が似合う程に。
まだ、春も始まったばかりの季節であり、東北ということで少し冷たい風が吹く。
だが、『彼女』と手を繋いでいる男は、『彼女』と同じ時間を共有していることが嬉しくて、このうすら寒い空の下を、彼女と一緒にドライブをしたかった。

「今日はどこへ行こうか」

男の問いかけに、『彼女』は答えなかった。心ここに在らず、ということなのだろうか。

「まあ、目的地の無いドライブも、中々良いじゃあないか。さ、乗ってくれ」

男は彼女の手を引きながらゆっくりと運転席に座り、エンジンを掛ける。
『彼女』は一言も喋らなかった。だが、別に男はそれを不審がる様子もなかった。

「あ、僕の買ったオパールの指輪を嵌めていてくれるんだね。とても嬉しいよ。きっと似合うと思ったんだ」

『彼女』の左手の薬指にきらりと小さな光を発して輝くオパールの指輪を見て、微笑んだ。
男は、見た感じは普通のサラリーマンといった風な風貌をしていたが、指輪を買える辺り、実家はそれなりに大きく、資産があると考えられる。
普段の生活に、特に苦労も無い、平凡だが、幸せな生活を送っているのだろう。

「へ? 昇進に興味はないのかって? 嫌だな君は、僕は出世とかに興味はないんだ」

男は否定的な言葉を口にする。

「勿論、私であればそれなりの地位にも就けるかもしれない。だが、そのことで職場の同僚達と険悪になるのは嫌だからね…
別に仲良くしようとか言っているんじゃあない。『平穏な生活』を脅かしたくないだけさ…だから仕事もそつなくこなすだけ。
だけど別に暮らしを不憫にさせるつもりはないよ。君と二人っきりで…それなりにいい人生を送れればいい」

男は笑いながら助手席に顔を向ける。『彼女』は何も言わなかった。
男女のドライブとは思えない程に会話の弾まない空間であった。
それでも、いや、だからこそ男は満足だった。
やけに声を大きくして話す女性などは彼は好きにはなれないだろう。
大きな声がストレスになってしまうこともある。
ストレスが溜まるというのは精神衛生上良くは無い。
彼は極めて健康な生活を心がけているのであった。
彼は日常では遅くとも夜の8時には帰宅する習慣を心がけている。
勿論、健康に気を使っているので煙草も吸わない、酒もたしなむ程度である。
温かいミルクを飲んで20分程のストレッチをし、11時には就寝している。
8時間の睡眠を心がける彼は朝まで熟睡した後、前日の疲労もストレスも無く、出窓から流れ込む優しい日差しに包まれながら眼を覚ます。
社内での健康診断でも異常は無いと毎年言われている。
これだけ健康に気を使う彼なのだから、静かな空間でゆったりと『彼女』と二人で過ごすこの空間が堪らなく美しい一時であると感じた。
95男と『彼女』:2011/01/06(木) 12:10:32 ID:vYkkSwVj0
「ここら辺は別荘地帯で避暑地としてもよく使われているんだ。ここには僕がよく通っているお店もあるし、空き地もある。
休日はいつもここで過ごしているんだ」

男は空き地の辺りで車を止める。

「この近くにパン屋さんがあるから、ここで昼食を買おうか」

男はよくこのパン屋、『サンジェルマン』に通っている。
この店では昼の11時に焼きあがったパンでサンドイッチを作ることで有名である。
その為、営業の合間に昼食に立ち寄るサラリーマンや、子供を幼稚園に送り、家事を終えた後の主婦達のお茶会や憩いの場として評判が良かった。

「ほら、このカツサンドもラップの上からでもホカホカしているだろう」

満面の笑みでカツサンドを眺める男と、カツサンドを触る『彼女』
すると、マニキュアで尖っていた彼女の指がラップを突き破り、ソースをしみ出す。

「あらあら、いけない子だね」

ふっと男は微笑ってソースが付着した『彼女』の指を『舐めた』。

「ふふふ…ふふふふふ……フフフフフフフフフフフ〜〜〜〜〜〜……」

近くに人が居なかった事が幸いし、えらく昂った男の『異常』な笑い声と唸るような声が混ざるような小さな声は届かなかった。

「そのカツサンド、突き破っちゃったから……他のを買おうよ。ほら、そこのホットドックもマスタードがたぁっぷりかかってるよ」

満足な笑顔を浮かべ、『二人』は店を立ち去る。
早速、彼等は空き地の木陰に座り、昼食を取ることにした。
未だに、冷たい空が吹いているが、この雲一つない晴天に、天高く太陽が輝く。
絶えず光を地上にもたらし、正午には暖かい気温の中で、人々は過ごす。
今日も絶好のピクニック日和であった。

「美しい街だね。地元住民なのにまるでピクニックにでも来ているようだよ。車のエンジン音も少ないし…とてもいい場所だね。
ねえ、僕達はここで永住しないかい?」

男は絶えず上機嫌であった。『彼女』と過ごす一瞬が楽しくて堪らないようだった。
96永遠の扉:2011/01/06(木) 12:13:12 ID:CpIcJTOoP
*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−



 何が起こっている!? 愕然と固まる戦士2人と一般人1人を「作り物のような笑顔」が一瞥し


「武装錬金!」




 叫んだ。

 転瞬、稲妻が槍のような武器から放たれ、3人に絡み付き。



 森から無数の鳥が飛び立った。

 それきり辺りは静かになった。

*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−





(見逃してしまえばこの街がまた危険に晒されるような重大な何かが……)





*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−





「*****の武装錬金、バ@£‰ドル≒ッ&ー!」




 へへ



                          ────を禁ずる。







*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−
97男と『彼女』:2011/01/06(木) 12:15:45 ID:vYkkSwVj0

「あ、口の周りが汚れちゃったよ。君に拭いてもらいたいな」

と、男はポケットティッシュを『彼女』に差し出す。『彼女』は一人でポケットティッシュを掴むことが出来ず、男に手伝ってもらって、ようやくティッシュを掴んだ。
 
 バキッボキッ

『彼女』の手首が音を鳴らせた。関節がかたいなどというような音の鳴り方では無いことは確かだった。肉体が硬直しているとしか思えない。
そっと『彼女』は男の口を拭く。この時、男は異変に気付く。

「ちょっと臭ってきたかな……」

男は『彼女』の手に香水を使った。

「ン〜ン、もう限界かな…そろそろこの女とも手を切る時期だな…クク…クククク…『手を切る』……またどこかで旅行してる女の子を私の家に『誘って』みようか…
ククククククククク」

そう言って男は、『彼女』の手を放り投げる。もうとっくに肉体を失い、『手だけ』になっていたその死体は空中を舞った後に地面に堕ちていく。

「ム…臭くなっていることに憤りを感じてつい放り投げてしまった。ちゃあんと後始末はしておかなくっちゃあ」

先程まで、『永住しよう』といっていた男は、『彼女』にぬっと近づく。

「もう君には飽きちゃったよ。でも、君の指の味…『今までの女』よりも良かったよ。私自身、君と居られて幸せだった。
でも、もういらないな、違う人を見つけるから……御馳走様」

『美しい手首』は、突如として爆発した。男は、証拠隠滅の為に死体を完全に消すことを絶対に忘れない。

「キラークイーン、これがあれば、私の『殺人衝動』とも上手く付き合って行けるな。つくづく確信しているよ」
98永遠の扉:2011/01/06(木) 12:16:45 ID:CpIcJTOoP
.
──────銀成市某所──────

「やっ! リバっち。あー。青っちの方がいいですかね。へへ。へへへへ」
「…………」
「戦士との遭遇についちゃ大丈夫でさ。俺っちの武装錬金なら遭遇したという事実さえなかったコトにできますからねえ。
ま、厳密にいえば「遭遇した俺っちの風貌風体口調などなど思い出すコトを

”※※※”

ですがねー。へへっ。さればこそ俺っちは放胆にも戦士さん方の前で武装錬金発動した訳で」
「…………」
「あーっ! 相変わらずエグいんだからって顔で微笑しつつ溜息した! そんな青っち可愛いっす!! お頭のアホ毛が
ぴょろりんって動いたのもキュートっす! ああもうやっぱり青っちは可愛い! 女神!! え? 文字? 文字……?
あっ、あああ! ちゃんと書きましたよそりゃあ。俺っちの武装錬金には文字が不可欠すからね! ええ。ええ! そう
意味じゃサブマシンガンで文字書ける青っちとの相性はベリベリグーっす! 最高のパートナーでさあ! 大好きっす!」
「…………」
「照れてる? 照れてる照れてる? 照れてくれてるんすか青っち、俺っちの言葉で! ああ。いいなあ〜。何気ない褒め言
葉にはにかんで恥ずかしがってくれる女の子。だからもう青っちは大好きなんすよ。え? 言葉が軽い? 軽いならいくらで
も放ちますよこの愛の言葉!! 青っちの心に届け俺っちの愛! え、そうじゃない? 武装錬金の話? ああもうマジメ! 
のろけたりしない! それが青っち! マイペースかつ倫理的。やっぱ可愛っ……うほほ! いま瞳の色反転させかけまし
たね怒りかけましたね! いや怒って俺っちぼこる青っちも好きでさあ! あの息継ぎなしのサブマシンガントークも禍々し
くて好きっすよ。でもアレやると後で青っちが落ち込んじまって可哀相なので(でも可哀相な青っちも儚げで大好きっす!)真
面目な話をしやす!」



「戦士さん方、俺っちとブレミュの小札零の関係に気付いたようですねえ」

「これはマズいって訳で」

「もし戦士経由で「俺っちがどういう存在か」ブレミュへの問い合わせがあったとすれば」



「漏れますよ。へへ。俺っちが幹部級だというコトも、幹部級が何を目論んでいるのかというコトも」



「だから防がせて貰いやすよー」

「出会ってしまったのは偶然ですからね。へへ。まさか六っちが戦士と知り合いだとは夢にも」

「でも俺っちが尊敬してやまぬ盟主様はまだ戦うなっていってますからね。ここは一つ、穏便に……」

「脳のあちこち、しばらく機能不全というコトで」






──────銀成市。以下の理由によりあちこち──────


 ヴィクトリアは、走っていた。


 部活に行くべく学校に向かったら、空を飛ぶパピヨンを見つけた。
 だから、追跡をしていた。
99 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/06(木) 12:18:10 ID:CpIcJTOoP
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。>>94さんごめんなさい。
100ガモン ◆AZ5sKwHlMSgF :2011/01/06(木) 12:18:26 ID:vYkkSwVj0
>>スターダストさん
申し訳ございません。私の文が割り込む様な形で入ってしまいました。
本当に申し訳ございません。
101男と『彼女』:2011/01/06(木) 12:26:04 ID:vYkkSwVj0
男、吉良吉影はくつくつと笑いながら車に乗る。
喚起の為に、窓を開けると、20代後半辺りの女性がハイヒールの音をリズム良く鳴らして歩く姿を見つけた。

「ああ、もう、課長ったら本当にムカつくったら! 今日だって電車の中で私のケツ触りやがって本当に殺してやりたいわ!」

ふんっと鼻息を荒くして歩道を歩く女性。吉良はその女性を眼で追っていた。

「口は悪いな…だが、綺麗な『手』をしている…僕のところに来れば清い心で付き合えるよ」

そっと車を降りて、吉良は、女性に駆けよっていった。

彼は常に心の平穏を願って生きてきた男である。それはこれからも変わらない。
仕事もそつなくこなし、誰に恨まれるわけでもないが、これといった喜びもない極めて普通の生活をしていた。
適度に自分の力を発揮するため、各種コンクールなどの成績は3位に入賞することもあった。
自分に対しても周りに対しても常に気を配れる存在であった。
自分自身、細やかな気配りと要所で役立つ大胆な行動力があれば変わりなく平穏な生活が送れると確信していた。
平穏な生活を望んでいるだけの、どこにでもいる平凡なサラリーマン。
だが、彼はたった一つ、たった一つのシンプルなある性格において…異常であった。

「クック〜ン、お姉さん、綺麗な手首をしていますね〜。私の……『吉良吉影』の家に来てください」


また一人、殺人鬼の魔の手に堕ちた淑女が一人、彼の家に導かれていく。
102ガモン ◆AZ5sKwHlMSgF :2011/01/06(木) 13:25:32 ID:vYkkSwVj0
新年明けましておめでとうございます。
スターダストさん。バキスレの皆様。この度は誠に申し訳ございませんでした。

>>サマサさん(見えざる腕の様な感想、ありがとうございます!)
今回は露伴にミシェルと、自分にとっては豪華キャストです。
年齢20歳で干からびた老婆と化したミシェル。彼女がどんな魔法を駆使したのか、全員知り及ぶところではないでしょう。
今回笑ったのはやはりピンクダークの少年の誤植でしょうか。
あのセリフ、あの帽子の少年が叫ぶのでしょうか?

>>ふら〜りさん
そうですね。原作でも九十九人殺していたので、バクラ以外は全員死ななければならないですね。
どちらにしても後一回で今回の物語が終わるので、あまり膨らませ過ぎない様に注意します。
103作者の都合により名無しです:2011/01/06(木) 15:12:50 ID:nZAjX1Gl0
な、なんだこりゃめっちゃ読みづらいw
まあともかくスターダストさん、ガモンさんお疲れ様です。

・永遠の扉
この理事長さんはダストさんのオリジナルかな?可愛いですなw
石原に対する毒もやんわりと。ルックス的にはどんなイメージだろ?
ほのぼのした中にもちょっとまた荒れそうな雰囲気もしてきましたね。
新年からかしましそうなオープニングでよい感じです。


・男と「彼女」
ガモンさん年末弱気な感じでしたけど、復活嬉しいです。
吉良は相変わらず妖しい魅力でいい感じですな。ジョジョはそれほど
詳しくないけど、ラスボスとして異色な感じで割りと好きでした。
ディオみたいなカリスマは無くとも、異常性は上でしたね。
104作者の都合により名無しです:2011/01/06(木) 18:34:46 ID:Qve4L2PU0
小札は意外とストーリー上において重要キャラクターなのだろうか?
可愛いけど賑やかしキャラみたいに捉えてたけど、ヴィクトリア並の
キーキャラなら嬉しい。 ・・流石にそこまでは無理かw
105作者の都合により名無しです:2011/01/07(金) 07:14:06 ID:D6hxlTv+0
お疲れ様です。この状況でバッティングとはシンクロニティだなw

>スターダストさん
前半のゆったりしたほのぼのモードから後半は転調して
少し雲行きが怪しくなりましたね。多くの人物が集まって来て、
どうやら物語が加速する様子。
まひろと秋水の恋の行方どころではなくなってきたかも。

>ガモンさん
吉良は自分の中では小物ってイメージがあるんだけど
日常の中に潜む闇って感じで、ラスボスとしては弱いけど
人間くさい分、怖いのかもしれませんね。
変態が能力もつと怖そう。
106作者の都合により名無しです:2011/01/07(金) 18:29:00 ID:rU2bQVsk0
岸辺露伴は動かない ―殺戮の女王―(後篇)

30ctの赤色金剛石(ディアマン・ルージュ)―――
<殺戮の女王(レーヌ・ミシェル)>。
ぼくはそれに、魅せられた。
好奇心がツンツン刺激される―――いや。好奇心じゃあ、ない。
これは、恋心と表現した方がより近いだろう。
愛しい恋人を抱きしめるように、彼女に触れたい―――
視覚で、触覚で、聴覚で、嗅覚で、味覚で、第六感で、彼女の全てを知りたい。
その感動もきっと、ぼくの手によって新たな傑作となるだろうから。
予感がある。確信がある。そして何より。
彼女との出会いを、最高の漫画とする自信があった。


まずは平和的な交渉を試みよう。
館長にアポを取ったぼくは、漫画家という身分を明かして、取材のために<殺戮の女王>を少しだけ触らせて
欲しいと懇願した。
「そう言われても、困りますなあ」
館長は渋い顔だ。
「この岸辺露伴が頭を下げて頼んでいるというのに…何も譲ってくれとまでは言ってない。取材料もそちらの
言い値をいくらでも支払おう」
「そんな問題ではありません。はっきり申し上げておくと、アレは国宝級の品なのです―――軽々しく、誰に
でも触らせるような代物ではありませんので」
分からず屋め…これでもぼくは、穏便に事を為そうとしていたのに。
まあいい。ならば手段を選ばないが、構わないだろう?
この岸辺露伴の産み出す傑作のためなんだからね―――

「―――『ヘブンズ・ドアー』―――ッ!!!」

ぼくの背後に、ピンクダークの少年の主人公を模した<ヴィジョン>が浮かんだのが、見える者には見えた
だろう。これがぼくの持つ<スタンド>。
人智を越えた、神秘の力だ。
その瞬間、館長は床に崩れ落ちた。顔面がまるで<本>のページのようにめくれ上がっていた。
―――人間の体には、今まで生きてきた全てが記憶されている。
ぼくの『ヘブンズ・ドアー』は対象の人間や動物を、彼自身の人生が描かれた<本>として読む事が出来る。
最も、今回はそれを読むために本にしたわけではないのだけれど―――折角だ。
彼がどんな人生を送ってきたのか、体験しておこう。
いい作品を産み出すのは<リアリティ>だ。人間のナマの感情だ。
107作者の都合により名無しです:2011/01/07(金) 18:30:23 ID:rU2bQVsk0
リアリティこそが作品に命を吹き込むエネルギーであり、リアリティこそがエンターテイメントなのさ。
例え平凡な人生であっても、それは彼だけの物語(ロマン)。
それを読む事は、実に面白い。
ペラリと、ぼくはページをめくった。
ふむ…本名はK・Y…誕生日2月12日…血液型A…

『マリアリが俺のジャスティス』『あずにゃんぺろぺろ』『こな×かがだろjk』『ネロはクズ可愛い』etc…

「…………」
何だこれは…見なければよかった。
最低な男だな…こんな奴を漫画に描いても読者に好かれるハズがない。
まあいい。気を取り直して、ぼくは『ヘブンズ・ドアー』のもう一つの能力を発現させる。
『ヘブンズ・ドアー』二つ目の能力。それは<本>に新たな情報を書き込む事。
それはこの岸辺露伴からの命令だ。逆らう事は出来ない、絶対遵守の力だ。

『岸辺露伴の言葉に一切の疑問を持つ事なく従う』

―――目覚めた館長に、ぼくは言った。
「さて・・・<殺戮の女王>の取材、構わないね?」
「ええ、勿論ですとも!いつでも構いませんよ!」
「それはありがたい。では…そうだな。閉館後に、ゆっくりと一人で楽しみたいな。いいだろ?」
「はい、では警備の者にもそのように伝えておきますので!」
交渉成立。なに?それは能力の悪用じゃないかって!?
ど素人共がこの岸辺露伴に意見するのかねッ!
彼女とぼくの出会いのため、何より傑作を産み出すためなんだからかまいやしないだろう!?


そして―――深夜。
照明は、敢えて消している。無粋な人工の灯りなど、彼女の輝きを邪魔する異物でしかない。
暗闇の中、ぼくは一人、彼女の前に立った。
静まり返った美術館の一室で、ぼくは改めて<彼女>を見つめる。
鎖された硝子の中で眠る君は、嗚呼―――誰よりも、何よりも美しい。
陳腐な表現をさせてもらうが、気分はまるで姫君を迎えに行く白馬の王子だ。
硝子ケースの鍵を取り出して(一応言っておくが、館長がぼくの頼みに応じて、快く渡してくれたのである。
奪い取ったわけじゃないからね)鍵穴に挿れて回せば、ほら、出ちゃうだろ?
愛しき、ぼくの―――ミシェル。
震える手で、ぼくは、彼女を手に取った―――

ぞくりと。
首筋に、柔らかな腕が回される感触。
耳元で囁く声。

―――くすくす
―――私を冷たい硝子の檻から出してくれた貴方
―――今度は貴方が私の持ち主なの?
―――うふふ
―――よろしくね

「…………ッ」
幻聴か…!?いや…それにしては…あまりにも、リアルだった。
108作者の都合により名無しです:2011/01/07(金) 18:31:21 ID:rU2bQVsk0
リアリティが、ありすぎた。
「まさか…!」
信じ難い事だが…ぼくの頭がどうかしたとでも思われるかもしれないが…この赤色金剛石は…!
「生きて…いる…?意思を、持っているのか…!?」
もし、そうなら―――ぼくは『ヘブンズ・ドアー』を顕現させる。
本当に、君に心があるというのなら…見せてくれ、ぼくに。
君の全てを、知りたい。
手にした<殺戮の女王(レーヌ・ミシェル)>は、微笑んでいるように見えた―――
その真紅(ルージュ)の微笑みは、ぼくを甘く、熱く溶かして―――

「―――『ヘブンズ・ド 「そこまでにし給え、ムシュー・ロハン」

その声にふっと我に返ると、ぼくの手に握られていたはずの<彼女>がいない。
何処だ。彼女は何処に?
いや…その前に、今の声は―――
「忠告したろう?硝子越しに見つめるだけにしておけと」
いつから其処にいたのか―――ぼくの背後に<賢者(サヴァン)>を名乗る男が立っていた。
そして彼の手には、赤色金剛石が…<殺戮の女王>が納まっていた。
「貴様っ…!」
「返せと言われても聞けないよ。彼女は…人が触れてはならないものだ」
サヴァンは静かに、彼女を硝子の檻の中へと戻した。
その瞳からは、彼の心中を窺い知る事は出来ない。
「知ってはならない事も、世界には存在する。全てを見通せる君の<スタンド>を以ってしてもね」
「…!<スタンド>を…知っているのか?まさか、お前も…!?」
「いいや。私は単なる一般人だよ…それでも、調べようと思えば調べられるものさ。私は君の大ファンだから
ね―――君の事を、色々調べた時期があるんだよ」
それはもう、ストーカーというものじゃないのか…?
恐ろしい話である。他人のプライベートを勝手に覗き見するとは、なんて奴だ!
「まあ怒らないで欲しい。これでも私は、君の命の恩人の心算(つもり)だよ」
「…………」
「彼女の持ち主となった者は死ぬ―――これは都市伝説などではない。厳然たる事実だ」
109作者の都合により名無しです:2011/01/07(金) 18:32:06 ID:rU2bQVsk0
サヴァンは、断固とした態度で言った。
「彼女がどんな魔法を駆使するのか、私には知り及ぶ所ではないが―――その呪いは、紛う事なく本物だ。
私は君の大ファンだからね、ムシュー・ロハン。君の作品が読めなくなるなど、耐えられない」
コツコツと。
ステッキを突きながら、サヴァンは闇の中へと消えていく。
「ここから離れ給え、ムシュー・ロハン。願わくば君が、ミシェルの世界に囚われぬように―――」


―――そしてぼくは今、杜王町で原稿用紙に向けてペンを走らせている。
あの後、ぼくはもう一度<彼女>を手に取る事はせず、ただ鍵をかけ直して、美術館を去った。
結局<殺戮の女王>とは何だったのか。
そして<サヴァン>とは何者だったのか。
何もかも分からない事ばかりだった。
それでも―――ぼくは、運のいい方だったのかもしれない。
彼女に触れながらも、こうして生きて、漫画を描いていられるのだから。
あの時はぼくと彼女の逢瀬を邪魔したサヴァンに対して憤ったものだが…今は、彼の言葉は正しかったのだと
認めざるをえない。
帰国してから<殺戮の女王>について調べた所、その持ち主の尽くが凄惨な死を遂げていたというのは、確か
な事実だった。偶然と呼ぶには、その数はあまりにも多すぎた。

―――彼女はやはり、檻から出してはならない存在だったのだろう。

そんな事を考えている間に、原稿は一段落ついた。
溜息をつき、ぼくはデスクを離れた。
冷蔵庫からワイン―――銘柄はかのSH王国特産の<ロレーヌ>だ―――を取り出し、グラスに注ぐ。
ソファに身を沈めてTVを点ければ、流れるのは何の変哲もないニュース番組。
だが、ぼくは、己の目と耳を疑う事となった。
「―――次のニュースです。SH王国のサン・ホラ美術館に展示されていた、世にも珍しい赤いダイヤモンド
…通称<殺戮の女王(レーヌ・ミシェル)>が昨晩未明、押し入った強盗によって盗み出されました」
思わず、手にしたワイングラスを取りこぼす所だった。
「SH王国警視庁は現在、全力で捜索に当たっており―――」
もうぼくには、アナウンサーの声など届いていなかった。
唖然呆然としながら、ただ、彼女の事を思っていた―――


母なる大地が育んだ奇蹟。
世界最大と謳われた輝石。
所有者を変え渡り歩いた軌跡。
特典は、予約済みの鬼籍。
30ctの赤色金剛石―――<殺戮の女王>。

嗚呼、彼女は再び、世に解き放たれた―――
これから先、彼女はどれだけの死を撒き散らすのか。
この岸辺露伴には、知る由もない。
110サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/01/07(金) 18:43:59 ID:9e1klG7p0
投下完了。前篇は>>82から。
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
どうにか予告通りに三日以内に書けました。SSを書く感覚が戻ってきた気がする。
さあ、次はサンレッドの続きだ…。

>>87 こんなオチになりました。結構な投げっぱなしエンドかも…。
>>88 流石に<ロンギィ〜ヌス>は最初は吹きましたが、慣れてくるとあれはアレで。

>>スターダストさん
相変わらず何という文量…僕も見習わなくては。
理事長がウザ可愛いですね…女性陣の可愛らしさにキュンキュンしつつも後半は
急展開。走るヴィクトリアの先にあるものは!?

>>ガモンさん
吉良の不気味さが滲み出て、いい意味で気色悪い。カリスマや強さは他のボスキャラに
劣るけれど、インパクトと異様さは随一の彼。なのに目標は<平穏な人生>というのが
また怖い所。何から何までおぞましい…。
拙作、豪華キャストを使ってこの有様です。ちょっとでも楽しんでいただけたのなら幸いですが…。
111作者の都合により名無しです:2011/01/07(金) 20:41:42 ID:87Wu0Vh00
サマサさんのSSをずっと読み続けてきた俺からすると
凄くサマサさんらしいオチの気がする。上手くは言えないけど。
SSの感覚が戻ってきたのは何より。


今年もサマサさんとスターダストさんがバキスレを引っ張ってくれるのか。
NBさん・さいさん、という実力派の人もたまに書いてくれるし、
ガモンさんもガンバってくれてるし、なんだかんだで今年も大丈夫かな。

欲を言えば新人さんがやってきてくれるか、
かつての名物職人さんがまた戻ってきてくれると嬉しいが。
112作者の都合により名無しです:2011/01/08(土) 07:12:49 ID:HxSP1IQP0
ロハンは昨今増えつつある萌え漫画信奉者をどんな目でみているんだろうか・・
ピンクダークの少年は絶対真逆な漫画だしw
荒木先生はブリーチとかコキおろしてるしw
113作者の都合により名無しです:2011/01/08(土) 12:43:21 ID:UHNAjZOi0
散りばめられたサンホラ名セリフネタがサマサさんの真骨頂という感じだw
決闘神話を思い出す
あっちの社長といい今回の露伴といい、サマサさんは結構トンがったキャラを書く
のがうまいなー
114ふら〜り:2011/01/08(土) 18:52:31 ID:gIU++gMc0
>>サマサさん(その心意気には頭が下がりますっ)
>サヴァンの胡散臭さ、上手く出せたかなあ?
ジョジョなら、敵スタンド使い。カイジなら、カイジを嵌めて金を騙しとるor勝負をもちかける奴。
そんな感じでしたが、謎のままでしたね。ただ、味方だったのは確かのようで。にしても荒木先生の
作風を、サマサさん・ガモンさんが巧く再現してるからでしょうが、露伴・吉良の口調って似てるなぁ。

>>スターダストさん
むーん。>>104を先に見てしまったので、小札の登場を期待してしまったっっ。私の中の小札分
が枯渇してます故、早期の登場を何卒。で今回登場したアレは、記憶操作ですか。発動条件
や効果の範囲によっては、一撃必殺も甚だしい武器。また、彼もあんな口調で中身はエグいのか?

>>ガモンさん
ディオやカーズ、あるいは竜王やゾーマとは質の違う恐ろしさを持ったラスボス、吉良。恐ろしい
というより「おぞましい」ですかね。絵ではなく文章で、こうねっとりと描写されると、また格別な
ものがありますな。平穏に暮らす為にいろいろ努力してる、でもコレだけはやめられない……か。
115作者の都合により名無しです:2011/01/08(土) 19:47:13 ID:05Gc6oTK0
スターダストさんファンのおいらとしては
もう少し後書きを書いてほしかったり
116 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/09(日) 00:02:00 ID:B2J1qWE3P
 奇しくも彼女が気付くと同時に向こうも気が付いた。彼はひどく嫌そうな顔をした。蝶々覆面の上からでさえ露骨に分かるほど両頬に皺を
寄せ、瞳を濁らせた。そしてそのまま速度を上げ、去っていこうとした。

「待ちなさいよ!!」


 気づけば、ヴィクトリアは走っていた。



(ああもう。なんで追っかけなきゃいけないのよ)


 さまざまな建物の上を飛ぶパピヨン。
 地べたを走るヴィクトリア。

 走るヴィクトリアはまったくただごとではないという顔である。
 ふだん冷たくすました顔がウソのようにあどけなく、ひたすら懸命になっている。

 走り始めたのが昼ごろだからかれこれ数時間は走っている。住宅街を抜け商店街を抜け、このまえ時間進行の時ごった
がえした大交差点を走り抜け、全身汗だくで走っている。華奢な体に纏わりつくセーラー服は疾走の風にくしゃくしゃとなり、
筒に通した金髪は風の中で時おりからから打ち鳴る。すれ違う老若男女が何事かと目を剥いているのも見た。そうしてヴィ
クトリアの視線を追った彼らはニヤニヤする。空を飛ぶ蝶々覆面。最近町のウワサになりつつある都市伝説。それに恋い
焦がれる少女が一生懸命追いかけている。そんな目をするのだ。
 正直、恥ずかしい。走りつつ、猫かぶりのホヤホヤした顔をちょっとだけ赤くする。

(ち、違うわよ。そんなんじゃなくて……。私はただ)

 パピヨンと話がしたい。最近急に研究室を離れがちになって、シチューを食べなくなった理由が、聞きたい。
 聞いてどうするかまでは分からない。ただ、彼が何か不満を抱えているのなら改善したいとは思っている。
 ヴィクトリアはパピヨンを害したい訳ではない。ともに白い核鉄を目指す間柄として、協力がしたい。
 自分が決して至れぬモノを瞳に秘めている相手に、少しでも力添えがしたい。

(だいたいまだ9月でも飛べば十分寒いのよ。ずっと飛んでたら…………体に毒じゃない)

 パピヨンの吐血風景が何度も何度もフラッシュバックする。脳髄のあちこちにモニターを置いたかの如く吐血のパピヨンが過る。
 その時の苦しそうな喘鳴。聞いている方が辛くなる。ホムンクルスだから死にはしないのだろうが、だからといって吐血する
環境に彼を置きっ放しというのは嫌なのだ。助けてやれるなら、助けてやりたいのだ。
 ホムンクルスが嫌いと公言して憚らぬヴィクトリアとしては、破格の感情であろう。

「いい加減に止まったらどう!? 私が気に入らないなら言えばいいじゃない!!」

 慣れない運動に(ホムンクルスだから高出力。だが一応運動不足という概念もあるらしい)へあへあと息を吐きつつ、叫ぶ。

「知らないね。俺がどこに行こうと勝手だろ? 引きこもり風情に干渉される謂われはない」
「そうだけど!! その、その……!!」

 ここで「どうして研究室来なくなったのよ」と聞ければどれほど楽か。だがヴィクトリアはいざ質問の直前になると躊躇われて
仕方ない。
 もし、彼が自分を見捨てていたとすれば? ひどい嫌悪を催していたとすれば? 二度と会いたくもないと宣言されたら?

 悪い考えばかり胸が過る。パピヨンに嘲られるのは慣れている。そういう性格だからと割り切れる。

 だが、やっと歩き出せた新たな道の途中で道しるべから不必要と断ぜられ、見放されるのは怖かった。
117 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/09(日) 00:04:23 ID:/ndxJmtJP

(私が気付いていないだけで何か大失敗した? 貴方に迷惑をかけた?)


(看護がよくなかった? 貴方の体質に合わなかったの?)





(シチュー、おいしくなかった……?)


 走っている内に悪い考えばかり浮かんでくる。ひねくれている筈のヴィクトリアにしては恐ろしく率直で素朴で素直な恐怖ば
かり身を満たす。

(何を不安がってるのよ。私らしくもない。どうせアイツのコトだから下らない理由で避けてるんでしょ? 不安がっても無意味
じゃない。馬鹿ね私……。どうせ下らない理由よ。そうに決まってるじゃない)

 必死に首を振る。浮かんでは消えるさまざまな恐れはまるで少女のそれだ。100年以上生きているヴィクトリアらしからぬ
怖れ。内心ではそれを馬鹿馬鹿しい、どうかしていると冷笑混じりに見ているのに……。

(下らない理由で私を避けている筈。そう考えようとしているのに────…)

 ふとした弾みに「あの時のアレが良くなかったのかも」と寒気混じりに思ってしまう。該当場面のパピヨンの表情を思い返す
たび、失意の色が濃かったよう錯覚している。妄想じみた不安に無理やりな確証をこじつけている。

(どうかしてるわ最近の私……)

 ホムンクルスに「変えられて」以降、自分を卑下し続けてきたヴィクトリアだ。自分の欠点など幾らでも自覚している。自分は
しょせん狭量で冷淡で、毒舌ばかり吐く刺々しい老婆だと是認している。
 そんな自分が、パピヨンのコトを思う時だけまるで少女のような素直さを覗かせている。
 まったくどうかしている。自分らしく、ヴィクトリアらしくない。
 そう思いながらも悪い気がせず、その感情を抑えようともしていない。見下しているのに、抑えたがらない。

(寄宿舎なんかに無理やり連れ戻すからおかしくなったじゃない。どうしてくれるのよ)

 羞恥の色の濃い顔で恨むのは、むろん秋水とまひろである。


 やがてパピヨンは最高速度でどこかへと飛び去っていった。


──────銀成市。市街地からやや離れた廃ビル前──────


 廃墟のビルの前で、ヴィクトリアは上体をやや屈めぜえはあと息をついていた。
 3階建てのそれを登れば大空で点を描くパピヨンの後姿ぐらいは見えそうだが、しかしそれをしてどうなるという思いもある。
 一瞬顔見知りの千歳に依頼しようかとも思ったが、相手は錬金戦団の戦士だ。
 戦団の手でホムンクルスにさせられたヴィクトリアがおいそれと頼めよう筈もない。
118 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/09(日) 00:06:48 ID:/ndxJmtJP
 目下できそうなのはいらだたしげに叫ぶコトぐらいだろう。
 よってヴィクトリアは、叫んだ。

「ああもう! 見失ったじゃない!」
「ああもう! 見失ったじゃん!!」

 声が、ハモった。

「?」

 訝しげに視線を移す。

 と。

 そこには──…




「奴め! 方向音痴も大概にしろ!! やっと捕捉したと思ったらもういない! なんだあの高速機動!!」
「まあまあ。そのうちひょっこり戻ってくるやも知れませぬ! 現に始めての出逢いではそうでした! おねーさんのところへ
言ったかと思いきや即座虚空のはぐれ鳥! 不肖ら食すレーションの匂いにつられてひょっこりと! 戻ってきたのであります!」
『はは!! 戦団に核鉄を没収されていなければなあ!!」
「フ。確かにな。ヘルメスドライブさえ使えたらすぐ捕捉できるんだが。おっと。すまない。催促じゃない」
「ダメですよー! 犬さんの武装錬金解除したりしたら、私が火渡様にお仕置きされてしまいます」
「千歳どのに依頼をばかければ何とかなるように思いまするがああしかし生憎千歳どの、根来どのともども新たな任務に従事
中! 平和な一家と鉤爪の戦士どののが突如消えた謎の事件をば調べておりますればこちらに振り向ける余力はございませぬ!!」
「でもさでもさどうすんのさ! ぱっとせん白ネコとか垂れ目たちのおるとこいけないじゃん! 全員いっしょって約束だし!!」

 えらく奇抜な一団が、いた。
 少女もいれば青年もいる。ガスマスクもいればいかにも手品師な少女もいる。
 少年の周りにふわふわ浮かぶランタンのようなものは、武装錬金だろうか?

 ヴィクトリアは、その中の何人かに見覚えがあった。


「…………フ。これは奇遇。いつかの避難豪以来かな。しまらぬ姿で再会とはな」

 その中の一人がヴィクトリアに気付き、微苦笑した。

「あー!! そだ! そだ! メルアドどうするじゃんあんた! 久しぶり!」
『はは! 寄宿舎の近くで会ったのはいつだったかなあ!』
「なにやら追いかけっこをされてるご様子! そういえば嘗ての戦いの最後パピヨンどのはいいました! ヴィクターどのの娘を
探している! となれば恐らくすでに合流済みにて研究をばすでに開始でありましょうー!」




「鬱陶しい。戻ってきてたの?」




 苦虫をかみつぶしたような表情で、ヴィクトリアは応答した。



119 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/09(日) 00:09:42 ID:/ndxJmtJP
──────銀成学園。演劇部一同がよく使う教室で──────


「三日後!?」

 部員達がどよめいた。

「そうだ。三日後。貴様たちは劇を発表(や)れ。題材は問わん。とにかく三日で発表可能なレベルに持って行け!」

 毒々しい表情で指を突き出すのは誰あろうパピヨンである。
 心なしか息が荒く、センスの良い黒スーツがじんわり汗に濡れているのを目ざとく見つけた部員どもも何人かいたが、
「まあ監督だから」と聞かずにいる。
 そして、斗貴子の口から限りなく不満に満ちた絶叫が迸る。
「三日後ぉ!? 待て! いくらなんでも無茶苦茶だ! このコたちの身にもなれ!!」
「やれやれ。これだからブチ撒け女は嫌になる」
「何だと!?」
「いいか。あの腹黒女にも言ったが、俺は常々怠け者は死ねばいいと考えている」
 丸めた台本が斗貴子の鼻先にビシィ! と突きつけられた。
「仲良しゴッコでダラダラやっているような連中に期間を与えても無駄だ。だからまずは敢えて追い込んでやる。さすれば余
程の怠け者でもない限り死に物狂いで練習に励むさ」
 ひどく暗い調子だが煮えたぎるような熱を秘めている。激昂しかけていた斗貴子でさえ危うく一理を認めそうになった。
「上達だの向上だのといったきっかけはそういうものから生まれる。……だろ?」
 そうニヤリと笑う監督に、演劇部は、湧いた。
「そうだ!! たまには三日間死にもの狂いでやるぞー!!」
「練習の密度を高めるってコトですね!!」
「やんややんや!!」
「やんや!!」
「がおらお!!」
 斗貴子はただ、愕然とするばかりであった。扇動されつつある部員(部員でない筈の理事長もなぜかノっていた)たちは
まあいつもの調子だ。気にするまでもない。問題は。
 急に監督らしいコトを言い出したパピヨンである。
「……どうしたヤブカラボウに? お前がマトモなコトをいうなんて。明日は雪でも降るのか?」
「いうさ。俺が受け持つ演劇部だ! 中途半端は許さない! 壊しても仕方ない気がしてきたしね」
「中途半端でいい!! というかとっとと飽きろ! それから、さっきから小さな子連れて何やってる!!」
 パピヨンの腰のあたりには理事長がしがみついている。ひどくうっとりとした表情だ。ほわほわと泡のようなものを飛ばして
ご満悦という調子だ。
「理事長特権とやらで臨時の顧問を任されてな。引き換えに面倒を見てやっている」
「今すぐ離れろ! お前は何かこう全体的に子供の教育に悪い!」
「知らんな。このガキが勝手に寄ってくる。文句ならそっちにいえ」
「ヌシ! ヌシ! ほれほれもっとわしを撫でるのじゃ〜。もっともっと可愛がってくりゃれなのじゃー♪」
 当の理事長は平気な顔だ。甘い声を出し、一生懸命顔を上げ、しきりにおねだりしている。
「すっかり懐いている。もう嫌だこの学校」


(ひひっ。ゲテモノほどうまいからのう……)



 うなだれる斗貴子は見落としたが。
 理事長の口には涎がうっすらと滲んでいた。


「待て。今お前、さらっと聞き捨てならないコトいったな! 顧問っ!? 部外者の貴様がか!」
「ノンノン。勘違いしてもらっちゃ困るね。そもそもこの俺は部外者じゃない! この学校に籍を置くれっきとした関係者! す
でに5年もいるこの俺が、転校してきたばかりの貴様にとやかく言われる筋合いはないね」
「2年余分に在籍した挙句来なくなったのはどこのどいつだ!!」
「あいにく学籍は置かれたままでね。生徒が学校に出入りして何が悪い」
「百歩譲ってそうだとしても生徒が顧問やるのはおかしいだろ!」
「大丈夫じゃ! わしが校則変えておいた! じゃからパピヨンは演劇部の顧問でええのじゃよ」
 斗貴子の顔が引き攣った。相手が子供だから怒鳴りこそしなかったが、震える拳はあきらかに怒りを秘めていた。
120 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/09(日) 00:11:28 ID:/ndxJmtJP
「演劇部を救おうと修行した私が体制側にさえ刃向われる、か。ふふ。面白い。やっぱりもう何もかも嫌になった。さっさとブチ
撒けよう。それが一番手っ取り早いに決まってる」
「落ちつけ津村。四面楚歌は元よりだ」
「お! おおー。いけめんさんじゃ! いけめんさんがおった!」
 今度は理事長、斗貴子を窘める秋水にすり寄った。
「のう、のう、抱っこしてくれんかの!? わしは面喰いなのじゃ! おのこ選びの基本は顔なのじゃ!! だから『面喰い』
なのじゃ!! いつも最初は、顔からなのじゃ!!」
「と言われても」
 難しい顔の秋水に「ええー!?」と理事長は首を振った。ポニーテールが飛び立ちそうに揺れた。
「いやじゃいやじゃ! わしは観ての通りの矮躯ゆえ高い視点という奴に憧れておる……。だから抱っこじゃ! 持ち上げ
てくれ! 持ち上げてくれなのじゃ!」
 やいやいと小さな体を全力で揉み揺すりながら理事長はおねだりする。不満気に寄せた眉根はひどく愛らしい。
「抱っこがダメなら肩車でもいい! かたぐるま! かーたぐるま!!!」
 騒ぐ少女を、秋水はほとほと持て余し気味に眺めた。
「ダメ、か……?」
 そして彼女が指を咥えたまま瞳を潤ました瞬間。

 周囲からの(主にまひろからの)熱烈な進めにより、理事長を高い高いする羽目になった。





──────銀成市。市街地からやや離れた廃ビル前──────


 ヴィクトリアの話し相手は、影や逆光で顔が良く見えない。ただ、服装や仕草や声で「彼ら」と分かった。
 ただ。
 ヴィクトリアが聞き及んでいる人数より1人少なく、そして多い。
(様子からすると、「副長」……私にいろいろやってくれた鳥型がどこかに行ってるようね)
 「彼ら」の構成員は『5人』。内1人が不在。にも関わらず目の前にいる連中は『5人』。5−1+X=5。Xを求めよ。
(……1人は戦士? 監視役? それにしては弱そうだけど))
 尖る瞳が一点に吸いつく。ガスマスクを被った小柄な人物。伝え聞く戦いのどこにもいなかった人物だ。

 目があった。向こうはおっかなビックリという様子で頭を下げた。もしかするとヴィクトリアを知っているのかも知れない。
 首をかしげる彼女に渋みのある低い声と、やたら滑らかな明るい声が順にかかった。

「フ。成程な。大体の事情は把握した」
「そもパピヨンどのとは初対面からほどなくして胸貫かれたるヴィクトリア嬢どの! 普通に考えますれば第一印象、ヤな方
悪人ヒドい奴となりまするはまず必定! されどされどココが現実の奇妙なトコロ特異点、思慕お寄せになリまするはやは
りご両家の因縁ゆえなのでしょーか! かつてバタフライどのがヴィクターどのに心酔されたのとはやや逆の趣こそござい
ますが、やはりご両家には斯様がごとき相性の良さがあるのやも知れませぬ!!」

 交互に喋る相手達を見つつ、ヴィクトリアは嘆息した。くすんだビルの壁に背を預け、ちょっと遠くを見るような眼をした。

「いいわね。アナタたちは仲良さそうで」
「そうかな? 実を言うと出会ったころはな。俺、結構こいつを邪慳にしてたぞ?」
「…………不肖の方は、一目ぼれでありました」
「あっそう。というかなんであの時(ニュートンアップル女学院)の出来事まで知ってるのよ」
「ね! ねっ! メルアド! メルアド交換するじゃん! あたしさ、あたしさ! きかいはよーわからんけど、けーたーでん
わだけは好きじゃん! はなれてんのに声するじゃん! あと、しゃべってんのが見える! すごい!!」
『ちょ! 待て! 今は黙るべきだ! メルアドは後! は、はは! ごめん! だから、その冷たい眼はやめて欲しい!!
ははは! 中学時代高校時代の女子からの『コイツ駄目だ』みたいな冷たい目線を思い出して辛いんだッ!!』
(ああ、うるさい)
「匂いじゃ追跡できませんか? あ、ああ。予定がおしています。本当は昨日、防人戦士長たちと合流する手はずだったのに」
「匂い!? にににに匂いなど嗅げよう筈もないわ!! な、なんで我が奴の匂いなど……あ、いや違うぞ。そもそも奴は空を
飛んでいるゆえ匂いなど追跡できん。それがいいたかった、だけなのだ!」
「フ。あたふたするお前は最高に面白いな」
「不肖たちのなかで最も心配されている証でしょう。仲良きコトはよきコトですっ!」
121 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/09(日) 00:15:08 ID:/ndxJmtJP
 がやがやとやかましい彼らが相談に乗る気配はない。相談? ヴィクトリアは軽く鼻白んだ。自分は何を期待しているのだろう、
嫌って、見下している相手に手助けを求めるとは……。自分がとても利己的で勝手に思え、ヴィクトリアは嘆息した。
「話を聞くだけ聞いておいて自分語りばかり? やっぱりホムンクルス。話すだけ無駄だったわ」
「フ。踵を返すのは少々待て」
「なによ」
「パピヨンみたいな人はな。なまじ頭がいいばかりに自分のやり方が一番正しいと思っている。だから他者にあれこれいわれるのは
我慢がならないのさ」
「……………それ位、分かっているわよ」
「フ。失礼。だが付け加えると、人間だった頃、彼は誰にも相手をされなかった。家族にさえ優しくされた覚えはないのだろう」
「……」
「だからお前の看護や手料理には、正直言って戸惑っているのさ。彼は思い出さないようにしているのだろうが、財産目当
ての家庭教師に誑かされたコトもある」
(そんなコトが?)
「だから、厚意を受け取っていいかどうか迷っている。その上」
「その上?」
「彼はああいう性格だからな。最初に心から喜べるものを与えてくれた奴だけを至上としている。それ以外の人間は何を
してこようと認めない。いや、認めたがらないというべきだな。”最初”以外を認めるのは”最初”に対する冒涜だとさえ信じて
いる。だから、お前を素直に受け入れられないのさ。お前が劣っているとかいう問題じゃないさ。ただ、お前が彼と出会うの
が少しばかり遅かった。それだけだ」
「抽象的ね」
「仲のいい友人はいるか? そいつをお前は母親以上の存在と認められるか? 1位の席にいた母親を蹴落とし、友人を
その座に据えられるか? フ。できないだろう。彼はその度合いが他の誰よりも強いだけさ。普通の人間ならいくつでも用意
できる分野別の1位の席を、たった1つしか用意できず、1つしかないゆえに毎日毎日必死に守ろうとしているのさ」
「ご高説どうも。じゃあ、私はどうすればいいのよ?」
「あまり真っ向から接触しないのが一番だろう。こう、コッソリとだな。力添えをしてやればいい。ベッドのシーツをいつの間に
か替えておくとか、工具の並べ方をさりげなくあいつ好みにしてやるとか、とにかく奴が「パッと見は分からないが少し考えれ
ばお前の助力に気付き、軽く感嘆する」程度の内助の功を見舞ってやればいい」
「やんわりと、やんわりとなのです!! お言葉で窘めようとするよりより優れたやり方を遠慮がちに提示して頂きますれば
波風立たぬは正に必定!」
「ふーん。ホムンクルスにしてはまともな意見じゃない」
「だろう。フ。実をいうと俺もかつてはあんな性格だったのさ。自意識ばかりが先走っていた時代があるのさ」
「で、あるがゆえに機微がわかるのです! これも10年旅をしたからなのです!!」
「とにかくだ。あまり不安がっても仕方ないさ。悪い考えなんてのは願望に似ている。心配が見せるのは一番叶って欲しい
コトの対極さ。とはいえ人間関係、自分の考えが的中するコトは少ない。なぜなら相手はこちらばかりを見ていない。相手
は相手の辿ってきた道を基準に世界を見ている。こちらの知らない材料コミで考え、動き、生きているのさ。だったら」
「こっちの考えだけで相手を測ろうとするな……って言いたい訳ね」
「……フ。ご、御名答」
「あんたいまくやしそーな表情したじゃん」
『いったら駄目だ! 先読みされてガックシきたけど敢えて余裕の顔立ちで誤魔化したなどといったら失礼だ!!』
「なに? 貴方って実はただの見栄っ張り? その余裕ってただの繕いなのかしら?」
「フ。十年もリーダーをやれば外向きの顔も板に付く。大人ぶったリーマンも家に帰れば子供のようにはしゃぐだろ。
それを幼稚という奴はないさ。使い分けに過ぎない」
「尤もらしい言葉の羅列で真意を隠すお喋りが大人の対応っていうなら、世界はずいぶん窮屈ね」
「窮屈だからこその処世さ。言質をやらねば恥もない。お前も組織の長を十年やれば、乖離甚だしい「本意」と「社会的責
務」の妥協点がわかってくる。ま、技術を突き詰めるコトに比ぶれば退屈で、無味乾燥極まる理解だが」
「い、いいか。匂い追跡ができないのは奴が空を飛んでいるせいだからな。恥ずかしいとか奴の匂いを嗅ごうとすると黄砂
が吹き始めた頃の訳のわからぬモヤモヤが胸に籠って妙な気分になるとか、そういう理由で匂い追跡を拒んでいる訳では
ない!」
122 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/09(日) 00:26:50 ID:/ndxJmtJP
「わ、わかりましたから、とにかく早く探しましょうよ〜。せっかくの合流なのに副長サンがいなかったら駄目です……」
「アナタ」
「なんだ」
「思ったより嫌な奴じゃなさそうね。この前蝶野屋敷の場所を教えてくれたコト、感謝してあげないコトもないわ」



「フ。それはどうも。意見に真意が滲むうちは世界もまだまだ自由に見えるさ。彼のコトはどうにかできるだろう」




 揺らめく金髪に背を向け、ヴィクトリアは走り出した。

「去ってしまわれましたね。ご武運を! 幸運を祈りまする! ぐっどらぁーっく!!!」
「へっへー。メルアド貰ったじゃんメルアド!! あのコと仲良く、できるじゃん!!」
(女子高生のメルアド……! 女子高生のメルアド……!! いいなあ、僕は学生時代1度も貰えなかったのに!!)
「あ、ああ……!! メルアドといえば火渡様からの着信が50件を超えました。怒っています。怒っていますーーーーーーー!!」
「とにかく!! まずはあのアホウドリを見つけなくては話にならぬ!!」


「フ。俺はいま、久々にマズいと思っている。どこだ。奴はどこに行った? いやな脂汗が背中を濡らして仕方ないんだが」


 某所。


「いらっしゃい……ませー、です。ご主人さま……お帰りなさい…………です」
「イデオンの世界からただいまです。やる夫さんたち? ハッ! 置き去りにして逃げてきましたよ。敗色濃厚だったので!
僕はね、勝てる戦いしかしませんよ。ゲッターエンペラー? 勝てる訳がない! あれは逃げていい相手ッ! …………
ところであなた、新人さんですか?」
「はい……リーダーたちが……はぐれたので……アルバイト……です」
「我のスカウトに乗ったはいいが……なぜ裸足?」
「可愛いのはいいけど目が虚ろすぎかしら。大丈夫かしら?」
「知った事か。だがこの前どっかでみたような気がするぜ。そして空を飛んでいた気がするぜ!」
「時給は……3ドーナツです……頑張り……ます」

(ぷ)

 走りながらヴィクトリアは噴き出した。先ほどの一団が探していた人物。それが仕事場の店先で呼び込みをしている。
 とりあえず写メを取り、登録したてのアドレスへ送る。

 そして仕事場の仲間たちに逃がさないよう釘を刺し、本人にも忠告。双方から了解を得た。

 走りだす。ヴィクトリアは若々しい息吹が全身を駆け巡るのを感じた。



──「彼は誰にも相手をされなかった。家族にさえ優しくされた覚えはないのだろう」

──「だからお前の看護や手料理なんてのには、正直言って戸惑っているのさ」



(そう、なんだ。戸惑っているだけなんだ……)


 今までの自分らしからぬときめきに小さな心臓をとくとくと波打たせながら、”奴”を求めてヴィクトリアは走る。

 次に遭ったら何をいおう。考えるのも楽しかった。
123 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/09(日) 00:29:17 ID:/ndxJmtJP
以上ここまで。
124作者の都合により名無しです:2011/01/09(日) 07:31:32 ID:OLY+/ceC0
スターダストさん年明けから好調ですね。嬉しい限り。
ヴィクトリアといいトキコといい、年相応?の女の子っぽい感情が
透けていいですね。特にヴィクトリアは可愛い。素直じゃない感じが。
でも、執筆ペースが上がったって事は終わりが近いのかな?寂しい。
125作者の都合により名無しです:2011/01/09(日) 19:51:04 ID:5I+2KfxG0
お疲れ様ですスターダストさん。

>シチュー、おいしくなかった?
この言葉にビクトリアの乙女性が凝縮されてますねw
同じような異端の2人だから惹かれてしまうのか。
でもパピヨンは冷たく突き放してしまいそうで怖い。
126作者の都合により名無しです:2011/01/10(月) 07:31:03 ID:zWXwC3v50
まひろがヒロインと思ってたけど
びっきーがヒロインだったかw
小札はマスコットというかペットというか
127作者の都合により名無しです:2011/01/11(火) 07:43:05 ID:iMePk1+F0
意外と年明けから好調で良かった
128作者の都合により名無しです:2011/01/12(水) 16:47:44 ID:/hYkwYOy0
ども。ひさしぶりにスレに来てみました
オリキャラが主人公のDBの二次創作の想像をしています。
書くとなると恥ずかしいのですがどうも納得の行く展開になりえないんです。

もし書くとしたらさっさと読み捨ててくださいね。
129作者の都合により名無しです:2011/01/12(水) 23:27:54 ID:5yeu5fXs0
はい、わかりました
130作者の都合により名無しです:2011/01/13(木) 07:28:05 ID:ze/lnmXY0
>>128
以前に書かれた方かな?

是非頑張って下さい。
最悪、投げ出しでもいいですからw
お待ちしております。
この調子でサナダムシさんとか復活するといいなあ。

オリキャラ主役のDB物というと
ヤムスレのサイヤンキラーをまず思い出す。

もう、サイヤンキラーどころか
ヤムスレ肉スレロワスレが存在したことすら
知らない人もいるだろうなあ・・
〜ヴァンプと幽香の密約・そしてとある吸血鬼の憂鬱〜

二回戦第一試合―――サンレッドと風見幽香の死闘。
それは、太陽の戦士の勝利で幕を閉じた。
興奮覚めやらぬ中、サンレッドは両手をゆっくりと下ろし、ようやく息をついたのだった。
『天体戦士サンレッド、一回戦に続いてまたしても大番狂わせをやってのけたぁ!幻想郷最強とも噂される風見幽香
を激闘の果てに捻じ伏せ、準々決勝への進出を決めました!まさに彼こそはドSを越えた超絶ドS―――
真・究極加虐生物サンレッドの誕生だッ―――!』
「フン!」
元ネタ通りに鼻を鳴らしてノリのいい所を見せるレッドさんである。
彼は倒れた幽香を見下ろし、口を開いた。
「どうだ、風見…最初に言った通り、俺の拳がおかしくなるまでボコってやったぜ…」
そう語るレッドの両手からは、ポタポタと血が零れ落ちている。
単に皮が破れているだけではない。折れた骨が、肉を突き破っていた。
「あと、もう少し…もう少しだけテメーがしぶとかったら、俺の負けだったよ」
「そう…惜しかったわ。けどね…その、ほんの少しの差こそが、全て…」
「…………」
「ああすればよかっただの、こうすれば勝ってただの、下らない言い訳などしない。負けたわ…サンレッド」
「なら…今すぐあいつを解放しろ。忘れたとは言わさねーぞ」
「解放…?ああ、ヴァンプ将軍の事ね」
何がおかしいのか、幽香はくすりと笑う。
「それについて、あなたに言わなければならない事があるの」
「何だと?」
「実はね、彼は…」

「あ、幽香さんはお疲れでしょうし、そこからは私がレッドさんに説明しときます」

―――そう言いながら、入場門から現れたのは、囚われの身であった筈のヴァンプ様であった。
「レッドさん、二回戦突破おめでとうございます!いやー、素晴らしい闘いでした!」
彼はニコニコしながら、レッドをねぎらう。
レッドさんはというと、口をパクパクさせながら彼の顔を指差すばかりだ。
「お、おい…どういうこった…いや…正直、もう、可能性は一つしかねーって分かるんだけどよ…」
「その通りよ」
幽香が頷く。
「グルだったの、私とヴァンプ将軍」
「ええ。端的に言うとレッドさんを騙してました、すいません」
「端的に言わなくても分かるよバカ野郎!じゃあ何か!?磔になってたヴァンプは何なんだよ!?」
「ああ。あれは幽香さんが植物を変化させて作った人形なんですよ。よく出来てたでしょ?」
「…………おい。まさか」
レッドは全ての表情が消えた顔で、審判・四季映姫を見た。
果たして彼女は、したり顔で頷く。
「はい。私も事前に演出として説明されていました。でなければ、風見幽香を反則負けにしていますよ」
「おい…」
「なお、八雲紫もこの事は了承済みです」
「あいつもグルかぁぁぁぁぁっ!」
自分が完全にピエロであった事を知り、レッドは腹立たしいやら悔しいやら情けないやら、散々な気分である。
何故、勝利したというのに、こんなやるせない気持ちにならなければならないのか。
「…私も、最初は本気で拉致するつもりだったんだけどね。ヴァンプ将軍と話してると、あんまりなお人好しぶりに
そんな気分も失せちゃって。ほんとに悪の将軍なのかしら、この人…」
「えーっ、それは酷いですよ、幽香さん。私はいずれこの幻想郷だって征服するつもりですから(笑)」
何気に壮大な野望を語るヴァンプ様に、会場の皆からも暖かい笑いが贈られた。
ヴァンプ様はテレテレした様子で手を振ってそれに応える。
「ね、こんな調子よ…何だか自分がどうしようもない極悪人に思えてきちゃって。予定を変更して、こういう演出に
なったというわけ」
「ええ、そうなんですよレッドさん。いやあ、しかし感激です。私に危機が迫った事でレッドさんがあんなに怒って
下さるだなんて。普段は厳しい事を言ってても、やっぱりレッドさんは優しいヒーローだったんですね(ポッ)」
「…………ヴァンプ」
「はい?」
「言いたい事は山ほどあるけど、とりあえず、殴るぞ」
ガツンッ。
最後の力を振り絞り、砕けた拳でヴァンプ様をブン殴って―――
レッドは遂に、精根尽きて倒れたのだった。


―――担架で運ばれていくレッドと幽香。そしてコブが出来た頭を押さえつつそれに付き添うヴァンプ様。
それを見つめ、心から安堵している女がここに一人。
「もぉ〜っ!紫ったら、仕込みならそうと早く言ってよ。幽々子、本気で心配しちゃったじゃない!」
白玉楼の主・西行寺幽々子である。
「ああ〜、よかった!ほんっとうによかった!これでまたヴァンプさんの手料理が食べられるわ!」
「そんな事言ってると、妖夢が泣くわよ?白玉楼の台所を任されてるのは本来、あの子でしょうに」
「それがね、あの子ったら<ヴァンプさんが来てから楽でいいですねー>なんて平然と言ってるのよ。誰があんな風
に育てたのかしら!」
「鏡を見なさい。ほら」
「まあ、この世の者とも思えない美少女ね!」
「ぎゃはははははは!ヒィ〜ひっひっひっひ!wwwwwwwwwwwww!」
「そこまで爆笑するこたないじゃない!」
「ごめんごめん。とにかくこれで太陽の戦士・サンレッドも八強入り。それも、星熊勇儀と風見幽香を倒して―――
いいわ。とてもいいわね、彼は。予想以上にトーナメントを引っ掻き回して、混沌とさせてくれてるじゃないの」
「楽しそうねぇ、紫…ま、貴女はそういう子だから」
そうのたまう幽々子自身も、どこか楽しげに語る。
「目的も過程も結果も、貴女は重視しない…幻想郷が楽しければ、それでいい。それだけで、貴女は動いてる」
「今回に限っては、純粋に彼女の…アリス・イヴの遺志を汲んだつもりだったのだけどね。気付けば、この通りよ」
だけどね、と八雲紫は―――幻想郷の賢者は言う。
「きっと彼女も、このとてつもなく楽しい空気を味わいたかった事でしょう。この上なく楽しい時間を幻想郷の皆に
味わわせたかったのでしょう―――だからこれでいいの。だから、もっと楽しませて頂戴な」


「楽しくなかったわね」
レミリア・スカーレットは、そう嘯いて鼻を鳴らす。
「とんだ茶番劇だったわ。苛立ちさえも覚える」
「レミリアちゃんったら…」
しょうがないなあ、という顔のコタロウ。
「すごい闘いだったねー、ヴァンプさんが無事でよかったねーって、素直に言えばいいじゃない」
「如何にあなたの御言葉でも、奴を…サンレッドを褒めるような事だけは言いたくありません」
「ガンコだなあ…何でそんなにレッドさんを嫌うのさ」
「奴は、太陽の戦士です。そして、私は吸血鬼です」
太陽は我々にとって不朽の怨敵―――レミリアは、そう語る。
「そんな事ないよ」
コタロウは、微笑む。
「ぼくも兄者も、レッドさんと仲良しだもの。レミリアちゃんだって、きっと仲良くなれるよ」
「…………残念ながら、ありえません。サンレッドは私にとっては、永遠に敵でしかないでしょう」
それだけ言って、レミリアはコタロウに背を向けた。
「それでも―――少なくとも、あなたやジローとは仲良くしたいと思っていますわ」
「もっちろんだよ!ねえ、兄者」
「ええ。私のような若輩者でよろしいのなら」
天真爛漫に答えるコタロウと、礼儀正しく頷くジロー。
好対照な兄弟の姿に、レミリアは微笑んだ。そして歩き去りながら、言い残した。
「いずれ我が棲処―――紅魔館へと招待しましょう。幻想郷には私以外の吸血鬼はいませんから―――これでも、
寂しい思いをしておりまして。その折には是非、楽しい一時を」
その言葉には、遥か悠久を生きてきた古血(オールド・ブラッド)としての寂莫と孤独が込められていた。
ジローはレミリアの背中を見送りながら、彼女が生きてきたであろう長い、永い時を想う。
彼女の周囲には、友人と言える存在はそれなりにいるだろう。
誰かと一緒にいて、心安らぐ瞬間もあるかもしれない。

それでも―――レミリア・スカーレットは、孤独だ。

一人ぼっちで―――独りぼっちだ。

先の言葉は、それを否も応もなく痛感させるものだった。
と―――魔理沙が、こちらを怪訝な様子で見つめているのに気付いた。正確には、コタロウを、だ。
コタロウもその視線に気づき、きょとんとして見つめ返した。
「魔理沙ちゃん、どうかした?」
「いや…お前さあ。ただのバカなガキかと思ってたけど、何者?」
「え、何者って?」
「だってさぁ、あのワガママ娘があんなに謙(へりくだ)って敬語まで使っちゃってるんだぜ?気になるだろ」
「―――バカです」
ジローが、ややぶっきらぼうに答えた。
「こやつは、単なるバカです」
「兄者ったら、ひどーい!」
「いや、単なるバカです」
抗議を無視して、繰り返す。その態度に、魔理沙もそれ以上はこの話題を追及してこなかった。
はっきり言って性格の悪い彼女ではあるが、軽々しく立ち入ってはならない領域なのだと察したのだろう。
「…気になるといえば、もう一つ気になるんだが」
魔理沙はそう言って、話を変えた。
「あいつ、自分以外に吸血鬼がいないとか言ってたけど―――確か、妹がいたはずだぜ?なあ、パチュリー」
「ええ。レミィに輪をかけて問題児の妹―――フランドール・スカーレットがね…」
「何ですって…?それは、初耳だ」
なら、何故―――あのような事を?
「気にしない方がいいんじゃないですか?ああいうタイプは平然と、意味もなく、嘘を吐くものですから」
妖夢はそう言ったが、ジローには納得できない。
少なくとも―――最後にレミリアが見せたあの背中は。
痛々しいほど孤独に塗れたあの姿は、嘘ではなかった。
勿論、たかだか百年しか生きていない自分が、その五倍を生きた遥か年長の吸血鬼の心情など、完全に分かる
はずもないのだが。
「それでも…彼女が嘘を言ったとは、思えない」
「…考えても仕方ないでしょう。もっと考えるべき事は、あるはずです」
妖夢はどこか物憂げだ。彼女なりに、思う所があるのかもしれない。
「例えば、東京レイヴンズは、いつアニメになるんでしょうか、とか」
「そんな事を物憂げに考えていたのですか…」
「そんな事とはなんですか。ジローさんの後輩でしょうが」
「それはそうですが、彼等はまだ三巻が出たばかりなんです。気が早いですよ」
「いや、実際に相当期待されてると思うんですよ。シリーズ開始とほぼ同時にコミカライズしたり」
「ふむ…確かに、漫画版も好評のようですしね」
「漫画版第一巻の帯の文句は、正直コアな層を狙い過ぎだと思いますが」
「公式で残念幼なじみ呼ばわりですからね…夏目さん」
「そっち系の新規開拓を相当意識してますよね。狐耳と尻尾の美幼女を書くとは流石に思ってませんでした」
「世の風潮というものでしょうか」
「まあ私が一番グっときたのは京子のパンチラですが」
「何気にパンツネタが好きですね、貴女…」
「正直、パンツとBLとファッションセンターしまむら以外の話はしたくありません」
「もっと他の世界にも目を向けなさい!」
「そんな事言われても困りますよ!」
「逆ギレされたっ!?というか貴女、しまむらの話なんて一度もしたことないでしょう!」
「何を仰る、ジローさん。妖夢といえばしまむら、しまむらといえば妖夢じゃあないですか。2011年度のしまむらの
マスコットキャラクターとして、この魂魄妖夢が選ばれた平行世界もきっとあるはず」
「この世界では違うという自覚はあるんですね」
「大のしまむらファンだというのは違いありません。今も服の下にヒートテックを着てるくらいですよ?」
「それはユニクロだーっ!」
「閑話休題(それはともかく)。しかし、あざの先生は三巻からという格言があるものの、今回はイマイチだった気も
しますね…面白いのは間違いないんですが、期待しすぎたというか」
「それは辛辣な。まだまだ土台作りの段階と考えるべきでしょう」
「とはいえ、専門用語ばかり羅列されても、正直ついていけないと感じる部分が多いのですよ」
「ふむ。確かに…」
「そこへいくと<力場思念(ハイド・ハンド)>や<視経侵攻(アイ・レイド)>は専門用語でありつつどんな能力なのか
簡単な説明だけで分かる好例でしたね。如何にも吸血鬼的な能力ですし」
「恐縮です」
「あ、いや。ジローさんを褒めたわけじゃないですから。その辺勘違いされても困るというか」
「ツンデレじゃない娘に勘違いしないでと言われると、辛いですね…」
「専門用語の話は置いといて、三巻がショボいと感じた一番の要因は<最凶の十二神将>という仰々しい触れ込み
で登場した鏡さんが単なるチンピラだったせいだと思うんですが、ジローさんとしては如何でしょうか?」
「弱い者いじめ大好きで、強い者には弱かったりと、普通にヤな奴ですしね…個人的には、ああいうタイプもいた方
が話の幅が広がるとは思いますが」
「ま、扱い切れずにハンパなキャラのままでリタイアなんて醜態だけは晒さないでほしいものです」
「…妖夢さん。さっきから、やたら厳しい意見ばかりじゃありませんか?」
「ファンだからこそ見る目が厳しくなるのですよ…話をアニメ化の方向に戻すと、やはり気になるのは声優ですね」
「なるほど。それは大事な要素です。かくいう私もアニメでは声優の熱演に随分助けられましたから」
「まあ、ここで声優妄想するというエロ漫画描いてた頃の的良みらんみたいな事はやめるとして」
「ここまで好き勝手言っておきながら、最後の一線は守るんですね」
「あれは正直、相当イタイ行為だったと本人も反省してるだろうし、寛大な精神で赦してやりましょうや」
「何という上から目線…」
「実を言うと一般誌で描き始めてからは、全然あの人の漫画見てないんですが」
「貴女、最低です!」
「とにかく、東京レイヴンズがアニメ化される日が楽しみですね。OPがどんな電波ソングになるのか、考えただけ
でワクワクしてきます。きっとパンツが空を飛びますよ」
「そういうノリの作品でもないはずですが」
「春虎くんや夏目さんがEDでデフォルメされてどんなダンスを踊るのかを想像しただけで萌えてきちゃいます」
「それは一昔前のセンスのような」
「コミケが春虎×冬児の強気受けな薄い本で溢れ返る日も近いでしょう」
「私はむしろ鏡×冬児の鬼畜攻めだと思うわ!」
「パチュリーさんが鼻息荒くしてこの話題に喰い付いてきたっ!?」
しかも、コアな分野で。
「これでも読書家だからね。実はさっきからどのタイミングで話に入ったものか見計らってたのよ」
「このタイミングで、ですか」
「じゃあ訊くけど、他にどのタイミングがあったというの?」
「…腐ってやがる…遅すぎたんだ…」
色んな事が。
「ほほぉ…とすると、パチュリーさんとしては純愛系より無理矢理迫られた方がいいと」
「モノにもよるわ」
「カズキの相手は誰だと思いますか?」
「パピヨンよりはブラボーね」
「一人前の戦士になるための特訓と称してアレコレですね、分かります」
スター○ストさんが怒りだしそうな会話だった。
「逆に尋ねるけど、一護の相手は?」
「浦原さん…と見せて更木隊長でいきましょうか!」
「いいわね、それ!」
ゴチン、と拳を打ちつけ合う二人。
腐った系統の話題で意気投合し、盛り上がり始めた妖夢とパチュリー。
ジローは流石に、この話に加わる気にはなれなかった(なってたら色々な意味でヤバい)。
ふと、周りを見ると。
コタロウと魔理沙、アリスは、ドン引きした目でこちらを見つめていた。
ジョジョ的に言うと<養豚場へ運ばれる豚を見るような>そんな目だ。
サンホラ的に言うと<この人達は何を喚いているんだろう…気持ち悪い…>そんな目だ。
「兄者達が何を言ってるのか、全然わかんないよ…」
「数十行かけて、こんなとこで力説することでもないよなぁ…」
「キモい(ばっさり)」
「…………」
何故、自分がこのような視線に晒されなくてはならないのか。
自分はただ日々の些細な出来事に小さな喜びと幸福を見出し、慎ましく生きているというのに。
ジローは石像のように黙りこくり、静かに、この話題が時と共に風化するのを待つ他ないのだった…。
136サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/01/13(木) 09:46:33 ID:JORRcMOh0
投下完了。前回は
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1167.html ここから

2ヶ月も間が空いたー…もっと早く書かないと。
しかし今回の後半部、我ながら頭がおかしいんじゃないかと思う。
夜勤明けで書いたからかな、ここ…。シラフで書いても同じようなモンになった気もしますが。
妖夢ファンの方がいたら、サマサに対して石を投げ付けてもいい。
それはそうと、あざの耕平「東京レイヴンズ」よろしければ是非、手に取ってみてください。
陰陽師モノが好きな方ならきっと楽しめる。陰陽師モノ?興味ねーなー、という人はきっと
陰陽師が好きになる。

>>111 >>サマサさんのSSをずっと読み続けてきた
やらないか(ツナギのチャックを外しながら)
スターダストさんの最近の健筆ぶりを見ていると、僕は刺身のツマくらいにしかならない気もする…。

>>112 けいおんとか、らき☆すた自体は普通に評価してそうな気もするけど、萌え要素にしか飛びつかない
    連中(僕を含む)は軽蔑してそう…かな。
>>113 個性が激しいキャラの方がむしろ書きやすいです。主義主張・行動がキチガイなりに一貫してるんで。
    社長は書いててホント楽しいキャラだった。

>>ふら〜りさん
SoundHorizonの原曲でも、謎の胡散臭い人です>サヴァン
悪人じゃないんだけど、単純に正義の味方でもなさそうな…まさに曲者。
ジョジョの作風が再現できてると感じていただけたのなら幸いです。

>>スターダストさん
パピヨンを追いかけるヴィクトリアを見る町人の目が優しすぎるwホンワカしました。
そして…やる夫ー!やらない夫ー!いや…彼らならゲッペラーさえ倒して、とびっきりの笑顔と共に
帰って来てくれるはず!でも…ゲッペラーだしな、相手(汗)

>>128
楽しみにしております。どうか頑張ってくだされ…!
137ふら〜り:2011/01/13(木) 23:30:36 ID:VSHr69jh0
>>スターダストさん
リクエストした途端の登場ぉ! 相変わらず各々立ち位置を確立させた賑やかさが心地よい。
>1位の席にいた母親を蹴落とし、友人をその座に据えられるか
>普通の人間ならいくつでも用意できる分野別の1位の席を、たった1つしか用意できず
わかるなぁ。この「席替え」を、敗北とかプライドが許さんとかいう風に意固地になる人、
いますね。いや多分、私自身も自覚ないままやっちゃってそう。流石リーダー、鋭い心理分析。

>>サマサさん(刺身のツマ? 何を仰る屋台骨)
>「言いたい事は山ほどあるけど、とりあえず、殴るぞ」
>精根尽きて倒れたのだった。
あーもう、肘でぐりぐりしたくなりますなコレは。精根尽き果てるほど戦った、その原動力は〜?
とイジ悪く。そのまま女性同士には変換できない、男性同士ならではのこの、拳を絡めた仲良さ
の表現といいますか……すみません、拳打ちつけてきます。私の最愛は剛太であり(以下略)

>>128
>さっさと読み捨ててくださいね。
いーえ逃がしません。ねっとり読み込ませて頂きます。
DBはバトル内容が単純ですから、却ってオリジナル要素を入れるのは難しいかもと
思いますが、お待ちしておりますぞっ。

>>130
懐かしいですねぇ。私も一度だけ、ヤムスレにSSを投下させて頂いたことがありましたっけ。
138作者の都合により名無しです:2011/01/14(金) 07:26:42 ID:Z5aE9Ttl0
ヴァンプ様はレッドのこぶしが砕けててよかったな。
100%状態なら確実に死んでいた・・

サマサさんおつかれっです。
スターダストさんが喜びそうな一文も入ってますな。
前回からサンレッドは開いてるけど、サマサさんは
その間も書いてくれてるからありがたいですなー。


なんか漫画サロン板に語ろうぜスレが
唐突に立てられてるんだがなんだありゃ?w
139作者の都合により名無しです:2011/01/14(金) 12:51:11 ID:gQ61BkyV0
サマサさん乙

ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm10952685
↑の動画の影響でRMLA姉貴はなぁんかホモ好き(淫夢厨・アンチレスリング)に見えてしょうがないんだよなぁ…
140作者の都合により名無しです:2011/01/14(金) 19:29:48 ID:2qquTNtr0
東方は全然知らんけど、サマサさんが楽しんで書いてそうで
読んでる方も楽しい。
レッドさん頑張れ。相手はたかが女子供連中だろ?
究極フォームを出すまでもないだろ
141作者の都合により名無しです:2011/01/14(金) 19:42:41 ID:hm238fFp0
東方の連中は見た目が女子供なだけで、中身は厨設定テンコモリのバケモンだぞ…
142永遠の扉:2011/01/15(土) 00:34:36 ID:pV7HIh12P
──────銀成学園。演劇部一同がよく使う教室で──────

「ほう」
「以上が、修業の成果だ」
「三日後の劇には俺たちも参加させて欲しい」

 教室には鳴りやまない拍手が満ちていた。

「すげー! 秋水先輩と斗貴子さんの打ち合い!」
「これが修行の成果!!」
「秋水先輩の方は武術演武の流れをくむクラシカルな受け答え!」
「片や斗貴子先輩の方は美しくも荒々しい女豹のような動き!!」
「通常なら前者がヒーロー役で後者を倒すという流れこそ王道! にも関わらず斗貴子先輩の方が何度打撃を受けても
立ち上がり最後は勝つという流れ! たった3分という短い時間の中で起承転結と意外性に富んだアクションシーンは
まったく見応え充分だ!」
「特に2:31の倒れ伏した斗貴子先輩が最後の力を振り絞って立ち上がる場面! 一連の逆転劇の糸口になったこの
場面! スローモーションで見ると何と1秒で16回も秋水先輩の攻撃をいなしている! 特に8撃目と9撃目! ここ!
胸に迫った逆胴を大きく弧を上げつつ摺り上げる! その隙に秋水先輩が投げた火薬玉をクナイで迎撃! 2人の
間で爆発が起こるのだけれど、もしタイミングがコンマ1秒でも遅れていたら失敗していた!」
「爆炎を突っ切りつつ互いが互いに突進するのも良かった」
「げふう。牛丼うまかったのじゃ。次は特上寿司5人前にちゃれんじじゃ!!」
「クナイは1:06で秋水先輩が投げていた奴だね。よく見ると実はちゃんと拾ってある。執拗な下段突きを転がりながら
回避している場面だったから見落としていたけど、本当によく考えてあるね。2人は演技を始めてまだ1日だというけど
ぜひともこの先続けて欲しい。キラリと光る物があるよ」
「そんなコトよりわしはおやつが食べたい! プリプリしたクリームのたっぷり入ったパンが食べたい!」
「特撮出れるって特撮! 高岩さんの敵役ぐらいはできるって!!」
「どうします監督! 秋水先輩も斗貴子先輩も出るべきだと思うんですが!!」

 パピヨンは、笑った。




──────銀成市住宅街。学園から寄宿舎へ続く道の半ばで──────

「はあ。それで劇に出るコトに?」
「ただの劇じゃないそうだ」

 銀成学園から寄宿舎に続く道で、剛太は数度瞬いた。

「普通の劇じゃないって……まさかムーンフェイスが乱入したあげく先輩がダブル武装錬金発動したりするんですか?」
「そりゃドラマCD1の話だって。ゴーチン」
「対戦形式だそうよ」
 ふわふわ浮かぶ御前を愛しげに撫でつつ笑うのは桜花。その横には秋水。いつもの戦士一同が仲よく帰宅していた。
「対戦形式? 劇で?」
「パピヨンの意向らしい。ただ劇をやるだけではつまらない、と」


「感謝して敬え。伝手を辿ってなかなかの相手を用意してやったぞ。負ければお前たちは……そうだな。全員そこのブチ撒
け女と同じ服で卒業まで過ごしてもらう。ダサい服を着せられるのは屈辱だろ?」


「お相手は劇団よ。声優さんとか俳優さんとか、ちょくちょくテレビに出ている人たちがいっぱいいるらしいの」
「プロばっかじゃないですか。大丈夫なんですか? いや、負けても斗貴子先輩は影響なしか。じゃあ大丈──…」
「俺も、セーラー服を着るかも知れないのだが」
 静かな秋水の囁きに、剛太は「うげ」と顔をしかめた。想像してしまったらしい。
「あら? 秋水クンならそれもいいと思うけど。元がカッコいいんですもん。私の弟だし、女装もきっと似合うわよ」
「姉さん。まさか写真を撮るつもりかい」
「そんな……。撮 る に 決 ま っ て る じ ゃ な い 」
 にっこり微笑む桜花に秋水は黙りこんだ。
143永遠の扉:2011/01/15(土) 00:36:40 ID:pV7HIh12P
「そーだそーだ。秋水の女装姿なんてめったに見れないんだぜ! いっそ負けちまえ演劇部!」
(女装なんてなあ。やる奴の気が知れねェ)
「頼むから勘弁してくれ。この前の俺の不規則発言だって「消した」とはまだ聞いていないよ姉さん」
「あー。そっちはまだナイショ」
 げんなりする秋水に剛太は「ああ」と頷いた。「まっぴー」。メイドカフェでの戯れで飛び出た秋水の声。咄嗟にそれを
録音した桜花の恐ろしさ。セーラー服に喰いつかぬ訳がない。
「お前、最近運がないよな」
「いいんだ。総ては俺の不注意だ。総ては俺の不注意だ……」
 秋水は肩を落とした。眉目秀麗の顔も曇り気味だ。
 微妙にブルーになっているらしい。桜花などは「まあまあ」と笑顔で慰めにかかっているが、秋水の憂鬱の原因の8割方
はこの姉にあると剛太は思った。おかしな格好をさせられるコト自体より、それを面白がって後世に残さんとする桜花の
茶目っ気こそ恐怖なのだろう。
「キミが一番貧乏くじを引いたかもな」
「かも知れない」
「まったく。まひろちゃんにパピヨンの服を着せたくないと参加したばかりに」
 斗貴子の口調もやや同情的だ。
(あれ? 微妙に打ち解けてるような。……そーいや先輩とこいつ、昨晩はどっか泊まったとか。…………いや!! まさ
かな! 先輩はそんな軽くねェ!! あの激甘アタマ一筋なんだしコイツだって武藤の妹と馬鹿ップルなんだから、ンな
コトある訳が)
「どうしたの剛太クン? 顔が青いけど」
「な、なんでもねェ!!」
 必死に叫ぶ剛太を桜花はくすくすと眺めた。
「お泊りが羨ましかったら私としてみる? どうせ秋水クンはまひろちゃんの相手で忙しそうだし」
「断る!!」
「あら残念。でも確かに秋水クンへの棘がなくなってるのは気になるわね。修行の時、何かあったの?」
「いまはパピヨンをどうにかするのが先決だ。過去のいきがかりにこだわっていても仕方ない。それだけだ」
「そう。私達はどうこういえる立場じゃないけど、津村さんがそうしてくれるならまひろちゃんもおかしな目に遭わないでしょうね」
 悩ましげに頬を抑え溜息をつく桜花もまた、まひろを案じているらしい。天真爛漫なまひろだがこの点、妙に人徳がある。
「そうだ。もし演劇部が負けてしまい、パピヨンの思うままになればやがて部員達は全員彼の衣装を着る羽目になるだろう」
 粛然とした秋水の呟きに桜花は「え?」と目を白黒させた。
「そんな状態だったの……? え? あんな服を? ダメよあんな服! 人間として守るべき最低限の尊厳が侵される……!!」
 鋭い叫びに一同は微妙な表情を返した。「同意だが衣装に関して弟の尊厳を踏みにじらんとしているのはどこの誰だ」とい
うニュアンスが多分に伺えた。
「おい聞いてないぞ秋水! そーだとわかってたら桜花は入部しなかったって!」
「あ。そういえば生徒会のお仕事が残っていたわ。先に行ってて。私は学校に戻ってくるわ」
 立ち止まりたおやかな笑みを浮かべる桜花に、剛太は疑惑の視線を突き刺した。
「……あんたも部員だったよな。まさかとは思うけど、会長権限で自分だけこっそり退部手続きしようとか思ってないだろうな?」
「う」
 決まりが悪そうな頬笑みは、頬のあちこちが引き攣っていた。面頬には特大の汗。図星なのはまったく否めない。
「「う」じゃないぞ桜花! 面白半分で入部しておいて都合が悪くなったら自分だけ逃げるのか!? 実行したらブチ撒けるぞ!!」
 勢い低くざらつく斗貴子の声に、桜花はいよいよ震え出した。
「だ! だって! セーラー服ならいいかなあとは思うけど、でもパピヨンのスーツとか嫌よ! 気持ち悪い! 胸元がはだ
けるから嫌とかそういうのじゃないの! パピヨンの格好だから嫌なの! ダメ。ダメよ……。メイド服もバニーさんもいいけ」
どあの格好だけは絶対にダメー! だから私は退部したいの。いいでしょそれ位、お願い。見逃して津村さん」
 桜花はいやいやと首を振った。振り乱れる見事な黒髪から立ち上るかぐわしい匂いに剛太はやや我を奪われかけたが「これは
きっとハニートラップ!」と踏みとどまる。
 だが桜花はかなり本気で泣いているようだった。こういう場合の慣習として、剛太も斗貴子も演技を疑ったが、童女のよう
なあどけなさが包み隠さず覗いている所を見ると、どうやら「素」らしかった。
「今から退部手続きを取ろうとしても無駄だよ姉さん。パピヨンはやめた部員にもあの服を着せようとしている」
144永遠の扉:2011/01/15(土) 00:38:09 ID:pV7HIh12P
「え? じゃあ秋水クンはあの格好の私を撮るの? いや、やめて。ごめんなさい」
 やおら弟に向き直った姉は胸の前で手を交差させ半歩後ずさった。声はいまにも消え入りそうだった。
「許して。寝顔に水性ペンで肉って書いた写真とか瞼にきらきらお目目書いた写真とか全部消すから許して……」
「元より撮るつもりはないが……落書きをするな姉さん。いい加減、俺で遊ばないでくれ姉さん」
「ふぇ!? あ、いえ、そのたとえ話というか出来心というか、ちちち違うのちゃんと水性ペンだからティッシュで落ちたし、ま
ひろちゃんにも送ってないのよ。あとちょっと悲しい時とかに見ると元気が出てくるし食欲も湧……あ、違うの! 秋水クンを
食べたいとかそういうのじゃなくて、ああああの、あのね! あのね秋水クン──…」
(すっげー取り乱してやがる)
 剛太は思わず口に手を当て、顔を背けた。その横で斗貴子だけが厳しく釘を刺した。
「彼の言う通りだ。じゃれるのはいいがやりすぎは良くない。少しは自重しろ」
「だって、だって秋水クン最近私に構ってくれないんだもん」
 寂しそうな拗ねているような表情が美貌を塗り固めた。
「だもんとかいうな。腹黒女の癖に」
 まったく中身のない会話ばかりが続いていく。このまま放置しても仕方ないと思った剛太は、ふと話題を変えた。
「ところで先輩。どうしてみんなして寄宿舎に向かってるんですか?」

 粛然たる面持ちで、斗貴子は呟いた。

「いま、大戦士長の誘拐事件がどうなっているか聞きたいというのもあるが……どうもあの劇の発表、戦士長が一枚噛んで
いるような気がする」
「防人戦士長がですか?」
「ああ。パピヨンの奴、対戦相手を用意するため伝手がどうこうと言っていたが、あんなフザけた格好の元ヒキコモリに伝手があって
たまるか! あんな奴と関係を持つ物好き、カズキ以外じゃ戦士長ぐらいなものだ!!」
「あらあらひどい言い草」
「だから今から問いただす! 演劇と戦士長の関係をな! いろいろ我慢してきたが私もそろそろ限界だ!」

「だから」

「戻るぞ! 寄宿舎へ!!!」


──とある道で──

「ぬ……ぐぐぐううううううううう!!!」
「ごめんなさい……です……」
「や、やかましい! 痛くなんかないわ! 痛くなんか!!」
「なにあったのさご主人?」
『はは! ”大事な時にフラフラするな!”と殴ったら特異体質で防御された! そして殴った方の手がぐしゃぐしゃになった!』
「うわぁ。あんたさ。あんたさ。さっきこのコに、あたしとご主人と3人がかりでボロ負けしたの忘れた訳?」
「さっきではない! 1年ぐらい前だ! あと我は、最終的には引き分けた!!」
「ハゲタカかはたまたクマタカか!! 咄嗟のコトゆえよくは分かりませぬがとにかくゴツンと殴られる瞬間、特異体質にて
頭をとても堅くされたご様子! ぬおお!? 実況どころではありませぬ! 大変です! 殴ってぐしゃぐしゃになってしまった
右拳、果して大丈夫なのでしょうか? 大丈夫でありましょうか! 痛いの痛いの飛んで行けです!!!」
「母上ーっ! わーっ!!」
「ごめんなさい……ごめんさない……です」
「フ。殴られた方が謝りまくっているのはなかなか面白い。あと、積悪うんぬんの使い方、微妙に違うぞ」
「ふ、普通に殴られれば……よかった……です。ケガさせて……ごめんなさい……です
「や! やかましい! 古人に云う、積悪の家には必ず余殃(よおう)有り。アホに脊椎反射で殴りかかった我の方が悪いのだ!」
「なんかさ。アイツ。えらそーな感じなのにすっごく謝っとらん?」
『はは! 不器用な奴!! 女のコ殴った自分が悪いと素直にいえないようだ!!』
「不肖がふーふーいたしましょう。え? いい? むー。昔はけっこうやってましたしけっこう喜んでくれたものですが、これは
やはり思春期ゆえの照れ臭さなのでしょーか」
(ふーふー……したい……です)
「と! とにかくやっと全員が揃われましたね!」

「ですから」

「行きましょう! 寄宿舎へ!!
145永遠の扉:2011/01/15(土) 00:40:15 ID:pV7HIh12P
──寄宿舎・管理人室──

「ああ。俺が手をまわした。戦士・斗貴子の入部も発表場所の選定も、対戦相手の募集も全てやっておいた!」
 実にあっけらかんと答える防人は、まったく会心の笑みだ。
「フフフ、フザけている場合ですか戦士長! そもそも大戦士長が誘拐されているんですよ! こんな呑気にいつまでも日常生活に
浸っている場合じゃありません!」
 ばんとちゃぶ台を叩く斗貴子だが、防人はまったく涼しい顔だ。卓上で揺らめく湯呑を手に取り、緑黄色の液体をゆっくりと
流し込み始めた。成り行きを見守っていた秋水たちも釣られる形で湯呑を取り、或いはせんべいなどを齧る。つかの間の
休息時間。ゆるやかな空気が、管理人室に立ち込めた。


「誘拐されているからこそだ。戦士・斗貴子」
 1分ほど経っただろうか。湯呑を置くと防人はぽつりと呟いた。
「?」
 防人らしからぬしんみりとした口調だ。斗貴子は首を傾げた。
「何か、進展があったんですか?」
「結論からいう。キミたちが日常を楽しめる時間は残り少ない」
 秋水達が思い思いの驚愕を浮かべたのは、次の言葉の持つ意味を理解したからであろう。


「3日後の劇発表が終わり次第、キミたちには大戦士長の救出作戦に従事してもらう」


 斗貴子は息を呑むと、ゆっくりと反問した。
「居場所が分かったんですか? 大戦士長の」
「ああ。戦士・犬飼たちの追跡の結果、大まかな位置までは絞り込まれた。後は戦団全体の体勢が整い次第、作戦を実行する」
「その期間が、3日間……という訳ですね」
 品良く頷く桜花の横で、剛太はかるく頭を掻いた。
(戦団全体の? あれ? でもいまの戦団ってヴィクター討伐の余波で……確か)
「ブラボー。気付いたようだな。戦士・剛太」
「あ……。は。はい。確かほとんどの戦士はヴィクターとの戦いで疲弊しきってる筈ですよね。なのにあと3日ぽっちで大戦士
長助けられるぐらい回復するんですか?」
「それはすでに解消された。ようやくだが総ての重軽傷者が戦えるまでに回復。今は火渡の元、組織を再編成している」
 秋水の表情が曇った。
(全員が……。自然回復にしては早すぎる。もしかすると──…)
 脳裡にさまざまな人物の姿が浮かぶ。かつて激しく戦ったその人物たちのうち何人かは「回復」に適した能力を持っていた。

「ひいては3日後。現在動ける総ての戦力が戦士・犬飼たちと合流する。もちろん俺たちも彼らとともに大戦士長の救出作
戦へ従事する」
「だったら、演劇をするヒマはない筈です戦士長。パピヨンのコトも気になりますが、私達だけでも早く戦団に合流して、足並み
を整えた方が──…」
 立ち上がらんとするセーラー服姿の部下を、防人は「いやいや」と手で制止した。
「実はだ戦士・斗貴子。救出作戦開始までの3日間、俺たちは別の任務も託されている。
「別の任務? こんな時にですか?」
「あー。何というか、こんな時だからこそ、だ。救出作戦が現実のものになったせいで新たに生まれた任務というべきか」
 防人の歯切れはやや悪い。
「どこから説明すればいいのか。その、だな。火渡の奴はあまり快く思っていないらしい。戦士たちのケガを治したのはいい
が、救出作戦直前に日本支部で造反されても下らないとか何とかで」
「話が見えないのですが……」
 訝しげな斗貴子の横で、桜花だけがただ、くすりと笑った。
(私は見えてきたわ。つまり、そういうコトね)
 寄宿舎管理人室は2つの部屋から出来ている。いま桜花達がいる居間(台所付き)と、寝室に。
 いまは襖で覆われた寝室を、桜花は意味ありげに見つめた。
(…………)
(…………)
 秋水と剛太もまた黙りこんだ。もし斗貴子が防人との会話にのみ神経をとがらせていなければ、彼女も隣の部屋を見た
だろう。

 寝室の方から、かすかな気配が漂う。
 息遣いと微かな囁きが、漏れてくる。
146永遠の扉:2011/01/15(土) 00:41:17 ID:pV7HIh12P
「すまない。順を追って話そう。実は大戦士長救出にあたり、ある外部組織の協力を仰ぐ事になった。ヴィクター討伐で疲弊
していた戦士たちがある程度戦えるまでに回復したのも」
「その、外部組織の協力で?」
「ああ。だがその外部組織の素性にちょっとした問題があってな。困ったコトに火渡は日本支部に置きたがらない。そこで
一旦俺たちに預けた。要は、救出作戦まで監視しろというコトだ」
 ここまで話を聞いた斗貴子は、他の戦士たちの尋常ならざる雰囲気にようやく気付いた。

「……もしかすると戦士長? その、外部組織というのは──…」

 協力者。
 疲弊した戦士の回復役。
 火渡が快く思わない。
 造反の可能性。
 ちょっとした問題のある素性。

 様々な言葉が斗貴子の脳裏で組み上がっていく。
 ただしそれが導く予想図は、戦団の常識を、これまで従事してきた任務の不文律を根底から覆す代物だった。

「ま、対面した方が早いだろ」


 防人はゆっくりと襖に歩み寄り。
 
 そして。

 開けた。
147永遠の扉:2011/01/15(土) 00:42:22 ID:pV7HIh12P
                                                                        .













「お、お前たちは─────────────!!」















                                                                        .
148永遠の扉:2011/01/15(土) 00:43:43 ID:pV7HIh12P
 誰が発したのか。驚愕に満ち満ちた絶叫轟く中、寝室にいた5体の影は思い思いに喋り出した。

「フ。聞いての通りだ」
 流れるような金髪の下で、綽綽たる笑みが漏れた。

「いやはや、以前より不肖、僭越ながら祈っておりましたが叶ってみれば正に妙味不可思議奇縁の再会劇!」
 タキシードをまとった小柄な体が、ぴょこぴょことおさげを跳ねあげる。

「古人に云う。昨日の敵は今日の友……。フン。早坂秋水など認めたくもないがな」
 不機嫌そうに腕組み中の忍者少年の周りには、龕灯がいくつか浮遊している。

「お久しぶり……です」
 バンダナをつけた虚ろな目の少女がはにかんだ様に手を振り、

『はっはっは!! まあそういう事なんだ! 宜しく頼む!!』
 どこか後ろ向きに突き刺さる大声を物ともせず

「お! 垂れ目いるじゃん垂れ目! さっきはくすりありがとじゃん!」
 豊麗な佇まいのシャギー少女が人懐っこい笑みでまくし立てる。





 総角主税。
 小札零。
 鳩尾無銘。
 鐶光。
 栴檀貴信。
 栴檀香美。

 ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ!

 かつて戦士と激闘を繰り広げた異形の戦士たちが、そこに居た!!
149 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/15(土) 01:01:27 ID:pV7HIh12P
てな訳で共闘。以上ここまで。
150作者の都合により名無しです:2011/01/15(土) 07:50:05 ID:zJXcFy040
秋水の男の娘はそれはそれは絶世の美少女でしょうな。
見てみたい。
秋水と斗貴子のアクションシーンは演劇の枠には収まらないしw
今回ちょっと短いけど、見所はいっぱいでした。
151作者の都合により名無しです:2011/01/15(土) 11:44:39 ID:0e9EgE3h0
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/budou/1289022641/
美味しんぼファン必見!
1.ドラえもんのうた

「こんにちは、ぼくドラえもんです!」

ある正月の朝…いつものように少年が寝転んでいると 机の中から出てきたのは 胡散臭い青いタヌキ
運命は遥か遠い時代を生きる一人と一匹を 出会う筈のない彼等を 気紛れに引き合わせてしまった―――

こんなことがいいと できたらいいと 唯…夢見るだけの日々
あんな夢やこんな夢 いっぱいあるけど叶う筈ないと 諦めてたよ
だけどきみはみんなみんな 叶えてくれた おなかにつけた白い不思議なポケットで
どんな夢も叶えてくれた

「空を自由に飛びたいなー」
「はい、タケコプター!」
「マジでぇ!?」

嗚呼…嗚呼…嗚呼…大好きだよ―――ぼくの大切な友達(ドラえもん)

宿題…当番…試験…お使い… 「野比!今度のテストも0点だったぞ!」「のび太、宿題はやったの!?」
あんな事やこんな事 大変だけど ぼくは今日も頑張っているよ!
きみはいつもみんなみんな 助けてくれた 不思議なポケットから出てくる
便利で素敵な道具で助けてくれた

「ドラえも〜ん!ジャイアンにいじめられたよ〜!」
「おもちゃの兵隊だ!それ、突撃!」
「ワァ〜オ!」

嗚呼…嗚呼…嗚呼…大好きだよ―――ぼくの大切な友達(ドラえもん)

こんな素敵な場所に いけたらいいと 唯…夢見ていた日々
この国はどんな所だろう?あの島はきっと素晴らしいんだろう―――想像だけしかできなかった
だけどきみはみんなみんな 往かせてくれた おなかから出てくる未来の機械で
世界の何処だって 連れてってくれたね

「スネ夫のやつ、南の島に行くのにぼくだけ仲間外れにするんだよぉ!」
「ウフフ!どこでもドアー!」
「こいつぁツイてるぜぇ!」

嗚呼…嗚呼…嗚呼…大好きだよ―――ぼくの大切な友達(ドラえもん)
嗚呼…嗚呼…嗚呼…大好きだよ―――ぼくの大切な友達(ドラえもん)

どんな幸せな出会いにも 別れの日は来る… ある朝 少年が目を覚ますと そこにはもう友達の姿はなくて…
「ドラえもん…きみが帰ったら部屋ががらんとしちゃったよ。でも…すぐに慣れると思う。
だから…心配するなよ、ドラえもん…」
2.オラはにんきもの

街を駆け回る お騒がせな幼児 マルダシにしてモロダシ ピュアに光る丸い瞳
その名は野原しんのすけ 人は彼を<嵐を呼ぶ園児>と語る!

混乱(パニック) 恐慌(パニック) 錯綜(パニック) 儘…皆が慌てふためく
「奴はすげえ 天才的だぜ!」 
壮健(パワフル) 勇敢(パワフル) 頑強(パワフル) 嗚呼…ムッティ(みさえ)
さあ、お馬鹿な一日を始めようか―――「しんのすけーっ!」

五歳にして彼は既に 女と見ればくどき 三にも四にも押しがカンジンと語った!
「ごきげんよう、お嬢さん(フロイライン) 玉葱はお好きかな?」
「そんなに見つめてもらっては照れるな…<オラのゾーさん(ロンギヌス)!>」
「しんのすけーっ!」

混乱(パニック) 恐慌(パニック) 錯綜(パニック) 儘…皆が慌てふためく
「奴はすげえ 天才的だぜ!」 
混乱(パニック) 恐慌(パニック) 錯綜(パニック) 嗚呼…皆は彼に万雷の拍手を送る
「奴はすげえ 感動するぜ!」
壮健(パワフル) 勇敢(パワフル) 頑強(パワフル) ねえ…ムッティ(みさえ)
さあ、お馬鹿な一日を始めようか―――「しんのすけ!」

近所一の不良 紅蠍(べにさそり)隊! 彼女等さえも奴にとっては遊び相手に過ぎない!
「ごきげんよう、お嬢さん(マドモアゼル) オラでよければきみと共に牛乳を飲みたい」
「残念ながらオラはきみの王子様じゃない…好きになられても、結婚はしかねるな」
「しんのすけーっ!」

混乱(パニック) 恐慌(パニック) 錯綜(パニック) 嗚呼…皆は彼に万雷の拍手を送る
「奴はすげえ 感動するぜ!」
「やれやれ…よい子というのも 中々大変なものだね」
混乱(パニック) 恐慌(パニック) 錯綜(パニック) 儘…皆が慌てふためく
「嗚呼…そうだね。我ながら、将来が楽しみというものさ」
「しんのすけーっ!」

君が今、笑っている、眩い金曜日午後七時半に
何も気にせず 親の目を恐れず 必ず其処で逢おう―――
「さあ。クレヨンしんちゃんを観る時は、部屋を明るくして、離れて見てくれ給え!」
3.アンパンマンのマーチ

静かな夜→静かな森→その中に佇む、小さな可愛いお家→パンを焼く優しいおじさんと少女
そして降り注いだ星屑は物言わぬパンに命を宿した…
残酷な運命に立ち向かいし愛と勇気の英雄(ヒーロー) アンパンマン その知られざるRoman

嗚呼…生きる喜びと哀しみ 例え胸の傷が痛もうとも それは何処か嬉しくて…
君は何の為に生まれ 何をして生きる?
嗚呼…答えられぬ儘…砂時計の砂は零れ落ちて往く… →「そんなのは…いやだ!」

今を生きる君の物語(ロマン) 熱き心を焔(ひかり)の如く燃やして
儘…君は往くのだろう→微笑んで!

嗚呼…生きる喜びと哀しみ 例え胸の傷が痛もうとも それは何処か嬉しくて…
嗚呼…英雄(アンパンマン)よ 優しき君は地平線を飛び越えて往くだろう 
力なき民(ローラン)の夢(ロマン)を護る為に

何が君の幸せなの?何をして喜ぶの?分からない儘…君は冥王の手に抱かれるの? (冥府ヘヨゥコソ!)
→「そんなのは、嫌だ!」

忘れられゆく夢の為に 零れゆく涙の為に
嗚呼…君は地平線を飛び越えるだろう→何処までも!

儘…恐れずにお往きなさい、パンよ 愛と勇気だけをその胸に抱いて
嗚呼…英雄(アンパンマン)よ 優しき君は地平線を飛び越えて往くだろう
力なき民(ローラン)の夢(ロマン)を護る為に―――!

語り(じまんぐ)「時は早く過ぎる…光る星も消えてゆく…嗚呼、其れでも往くがいい、友よ!
          君は君の地平線を目指して―――!」

「そうだ。生きていくことは、それだけで嬉しいんだ。だから君は、この地平線を生きて、往くんだ。
例えどんな敵が相手でも、君は往くんだ」

嗚呼…英雄(アンパンマン)よ 優しき君は地平線を飛び越えて往くだろう
力なき民(ローラン)の夢(ロマン)を護る為に―――!


勇気の鈴は凛と響き―――地平線を巡る不思議な冒険は続く―――
アンパン…ショクパン…カレーパン…
爛々と目玉をギつかせたバイキンマン…
嗚呼…お往きなさい、パンよ…
155サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/01/15(土) 18:04:38 ID:SIuP4d1Y0
こんばんわ…サマサです。
これを漫画SSと言い切っていいものかどうか迷いますが、一応ドラえもんにクレヨンしんちゃん、
アンパンマンのネタではあるので投下させていただきます。
そもそもサンホラっぽくすらなってない気もします。
ほんとにいいんだろうか、これは…苦情、絶賛受付中。

>>ふら〜りさん(屋台骨とは過分な評価…!ありがとうございます!)
ぶっちゃけレッドさん、誰よりもヴァンプ様の事を気にかけている男だと思います。でなきゃ自分の
命を狙ってるヤツを相手にあんなフレンドリーに接しませんw
恋敵と思っていたアイツが、いつの間にか誰よりも大切な存在になっているんですね…分かります。

>>138 まあ、100%状態なら死なないようにちゃんと手加減してくれますよw
    節操なく書き散らしてるけど、見捨てずに読んでくだされば幸いです。
>>139 東方二次創作業界はホントにカオスだぜ…。
>>140 無理。レッドさんでも彼女らの相手は本気出さなきゃキツいもんがあります。
>>141 能力設定がどう考えてもおかしいですもんね…。

>>スターダストさん
部員全員パピヨンスーツか…胸が熱くなるな。そしてかつての強敵との共闘!
まさに少年漫画の醍醐味という展開にこれまた胸熱。
まだまだ波乱がありそうで、目が離せません。
156作者の都合により名無しです:2011/01/15(土) 19:57:28 ID:yusRHYl40
お疲れ様ですスターダストさん、サマサさん。
お2人が居る間はきっとバキスレは不滅・・


>スターダストさん
劇発表で大団円、というとファイナルファンタジー9を思い出すけど
そうなるのだろうか。綺麗な終わり方だけど、ずっと続いてほしいような。
かつての敵と共闘は正当ジャンプ漫画ですな。小札とか役に立つだろうか・・。

>サマサさん
テーマ曲に合わせて作ったたSSというのは新しい気がしますね。
ドラえもんのSSを読んで、何故か銀河鉄道999のメーテルと鉄朗の別れが
頭に思い浮かんだ。少年は大切な人?と別れて大人になる、みたいな。
157ふら〜り:2011/01/15(土) 22:09:27 ID:QnRDgt+j0
>>スターダストさん
だらっしゃああぁぁ! 私はコレを待っていた! 無銘と根来のチームに燃え、剛太と香美の
カプ(もちろん斗貴子や桜花も絡む)に萌える日は近い! 六舛と豆知識勝負の貴信とか、
まひろにドーナツ貰って一緒に食べる鐶とか……これからの交流・共闘が楽しみで楽しみでっっ。

>>サマサさん
カイジ風とか男塾風とかに翻訳するのはよくあるネタですが、これはまた表現し難い雰囲気
ですね。しんちゃんとアンパンマンは何だか劇画風の映像が頭をよぎりました。ドラは最後が
しんみり……てんとう虫コミックス六巻、公式最終話(?)の、最後の一コマを思い出します。
158作者の都合により名無しです:2011/01/17(月) 13:24:52 ID:MC6/DSbQ0
スターダストさんのブログ見たけどもうすぐ最終章。
でも今年いっぱいくらいはまだ楽しませてくれますよね?

サマサさんはサンレッドが終わっても
きっとまた連載してくれると信じてる
159作者の都合により名無しです:2011/01/17(月) 17:43:44 ID:dwfGUQLy0
サンホラっぽくしただけでアンパンマンが異様に壮大になって吹いたw
160作者の都合により名無しです:2011/01/18(火) 11:19:24 ID:rBsGjzsN0
もうバキスレって10年くらい?
161作者の都合により名無しです:2011/01/20(木) 20:14:58 ID:8y19n2W30
昔 ナメックと呼ばれる星があった。
一人の凶悪な宇宙人とその部下達により星は消滅した。
星が消滅すると同時に一つの命が生まれた。
自然に生まれたのではなく人工的に創り出された命。
その名を「グスフ」と言った。

時は流れ、20年後。
戦士達は「魔人ブウ」というクリーチャーから平和を取り戻し 幸せに暮らしていた。

夜。
「うーっ、寒いな」
刈り取りを終えた畑に立ち、農夫は空を見上げた。
(流れ星が来たらいいな)
農夫の思いを聞いたのか空の一点がキラリと光り農夫の顔を照らす。
ゴオオ。
農夫が異変に気づいた時には遅かった。
「うわあッ!」
農夫は急いで伏せて頭を手で押さえる。

ドウンッ!
砂埃と炎を上げて“流れ星”は地面に衝突した。
「うう・・・ ああ・・」
突然の事に農夫はうろたえながらビクビクと近づく。
“流れ星”は岩では無かった。
更に言うと白くて球状のフォルムをしていた。
前面に窓が一つ。

プシューと音が出て煙と共に“流れ星”の前面が開きだす。
「何なんだあ…」
農夫の問いに答えるかの様に『ソレ』は姿を現した。
162作者の都合により名無しです:2011/01/20(木) 20:15:57 ID:8y19n2W30
細長い手足。黒い角が生えた頭部。中心部分が黒い胴体。
明らかに地球上の生物では無い特徴を持ち合わせていた。
「おい そこのお前!この男を知らないか?」
『ソレ』は農夫に手に持っていた写真を見せた。
黒い髪に山吹色の道着に青いシャツを着た男が映っていた。
「知らねえよ」
農夫はそれだけいうときびすを返して一目散に逃げ出した。
『ソレ』は農夫の背中から目を逸らして空を見た。
(フリーザ様もこの星空を見たのだろうか)

『ソレ』は体から白色のエネルギーを発すると跳躍 いや 飛翔と呼んだ方がいいのだろう。
空中に真っ直ぐに躍り出ると明かり、つまり街へと向かって進み始めた…。


同時刻、某都。
一人の少年が道を歩いていた。
初めての夜遊び。
お菓子とゲームを買って鼻歌を歌うというのが彼の考えた「夜遊び」だった。
そんな穏やかな気分は一つの声によって破られた。

「ヘイヘイヘーイ!そこの坊や!お兄ちゃん達にゲームを渡そうか!?」
少年の目の前に現れたのはみるからに暴力的な外見の三人組。
肩パットにモヒカンヘッドにチェーンをつけたズボン。
「嫌だね!」
少年はプイと顔を横に向けて立ち去ろうとする。
「からかってんじゃねーぞ!」
男の一人が回り込もうとする。
懐からナイフを出し威嚇のポーズをとる。
「…」
「痛い目にあいたくなきゃそれを渡しな」
言葉が終わるか終わらない内に男はローキックを繰り出し少年のバランスを崩そうとした。
シュン。
163作者の都合により名無しです:2011/01/20(木) 20:16:41 ID:8y19n2W30
空気が裂かれる音がした。
男達が気づいた時、少年は既に10メートル程先に言っていた。
「あ…?」
「逃すか!あのガキ!」
ザンッ。
追いかけた二人の男達が突っ伏す。
上空から何かが降ってきて男達を押しつぶしたのだ。
「なんだ お前!」
残った男が叫んで落下してきたモノに殴りかかる。
「お前が何だ」
『ソレ』は男に言葉と拳を同時にぶつけた。
「ぐおっ」
壁にヒビが入る程のエネルギーと共に男は吹き飛ばされた。


「おっちゃん 何なの?」
「君 パワーが強いね。この人を知らないかな?」
「その人に何か用なの?」
「ああちょっとね」


この青年と少年の出会いが後の激闘を引き起こす事など誰一人として予想できなかった。
たった一人の人造生命体「グフス」を除いて。


To be continued…
164作者の都合により名無しです:2011/01/20(木) 22:01:47 ID:8vMZSLOJ0
とある殺人鬼の物語(前篇)

―――或る、少女の話をしよう。
貧民街の路地裏で膝を抱える彼女。
いわゆる浮浪児(ストリート・チルドレン)というやつだ。
傍らには襤褸切れに近い毛布と、腐りかけの僅かな食糧。
そして、血のこびり付いたナイフ。
それだけが、少女の持ち物。
元々はカールした美しい金髪だったろうに、この街の澱んだ空気の中で、ロクに手入れもされていない
せいで無惨に煤けている。
ルビーのように輝く真紅の瞳も、世間の毒気にあてられて、既に濁り始めていた。
新雪のように白い肌も、垢が溜まって薄汚れている。
着ている服もいつから洗濯していないのか、異臭が染み付いていた。
それでも尚―――美しい少女だ。
眼も眩む程に可憐な娘だった。

今回のお話の主人公は、この少女。
何もかもが腐った街で、最も美しく、そして最も腐り果てた彼女の、死と新生の物語―――


わたしの母親は娼婦。
父親は、全く以って不明―――どうせ、客の中の誰かだろう。
少なくとも、愛情なんて欠片も与えてくれない母親だった。
名前すら、与えてくれなかった。
わたしを呼ぶ時は「おい、クソガキ」そんな女。
幼い自分の目の前でも平然と客とまぐわい、腹を空かせて泣き喚くわたしを殴りつけ、酷い時は阿片を
飲ませて(極貧生活なのに、何故そんなモノだけあったのか今でも不思議だ)無理矢理黙らせるような
最悪の女だった。
最後には、10歳にもならないわたしを僅かな金で娼館に売り飛ばした最低のアバズレだった。
娼館では下働きとして、毎日汗塗れ、塵塗れになるまで扱き使われ。
いずれ娼婦になった時のためにと、覚えたくもない、男を悦ばせるための手管を覚えさせられた。
そして13歳になった時、初めて客を取らされた。
覚えているぞ、チクショウめ。チビでデブでハゲの醜男だった。
「うひひひ…こ、こんな可愛い仔猫(キティ)を抱けるとは…高い金を払った甲斐があったよ。おまけに
今日が初めてなんだって?ヒョヒョ…こいつぁツイてるねぇ」
痛い、やめてと泣き叫ぶわたしを、好色な笑みを浮かべて組み敷き、純潔を奪った。
自分が快楽を得ることしか考えてない乱暴なセックス。
立て続けに3発、腐れた精液を撒き散らされた。
「また来るからねぇ、お嬢ちゃん」
純潔だった証の紅い液体。
欲望の証である白い汚濁。
何の証なのかよく分からない、頬を伝う透明な雫。
三種類の液体に塗れたわたしにそう言い残して、あのクズは帰っていった。
翌日、言葉通りにあのクズはまた来やがった。
「ほぉら、オヂさんはもうこんなに元気になっちゃってるんだよぉ?ねぇねぇどうすればいいと思う?
こんなお仕事してるんだから分かるでしょぉ?ほぉらほぉら、見て御覧、ほぉら」
気色悪い猫撫で声を出して、クズ野郎は珍棒をブラブラさせながらわたしに詰め寄ってくる。
そして奴はわたしの頭を押さえつけて、口淫させた。
涎を垂らしながら、快感の雄叫びを上げるゴミ野郎。
わたしは嗚咽と共に込み上げる胃液を、先走りの汚汁と一緒に飲み下しながら口虐に耐えるよりない。
でも、嫌だ。
もう嫌だ、こんなの。
165作者の都合により名無しです:2011/01/20(木) 22:02:36 ID:8vMZSLOJ0
嫌だ、嫌だ。
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
イヤイヤいやいやいやいやいやイヤいやいやいやいやイヤいやいや嫌いやいやいや嫌々いやいやいや!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっっ!!!!」

射精の瞬間を見計らって、そいつの下種なイチモツを、根本から噛み千切ってやった。
精液と鮮血を同時に吹き出しながら、泡を吹いて床を転げ回るゲスには目もくれず、私は手早く服だけ
を身に付けて、娼館を逃げ出した。
辿り着いた貧民街では、変態の相手から悪党の使いパシリまで金になるなら何でもやった。
迷い込んできた土地勘のない人間を襲って身包みを剥ぐなんて日常茶飯事。
罪悪感なんて湧くもんか。そんなもんは、恵まれた奴だけに赦された贅沢品だ。

―――何で、わたしは、こんなに最悪なんだ。
―――何で、わたしは、皆から見下されるんだ。
―――何で、わたしは、虫けらみたいに扱われるんだ。
―――何で、わたしは、誰からも何も貰えないんだ。
―――わたしの何が、悪かったんだよ。
―――何が―――

そんな鬱屈した思いを抱えていたその時、道端で客引きに必死な中年の娼婦を見つけた。
―――芽生えた憎しみ。
―――わたしは気付いた。
―――母親が娼婦だったせいで、こんな風に生まれついちまった。
―――娼館に売られたせいで、あんなクズに純潔を散らされた。
―――娼婦。嗚呼、娼婦!なんて…なんて汚らしい連中なんだ!

―――時は1888年8月31日。
大英帝国の首都・倫敦(ロンドン)。
イーストエンド・ホワイトチャペル。
<白き礼拝堂>なんて、酷い名前負けだった。
工場から吐き出される汚水と噴煙。
蔓延する伝染病。
死者は埋葬すらされずに放置され、腐れるがままにされている。
あらゆる貧困と悪徳と犯罪の温床。
この世のゴミ溜めとしか表現しようのない最悪の街で、歴史上最凶の殺人鬼が産声を上げた。
<切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)>
その正体が一人の可憐な少女であったなどと、誰も想像すらしない事であった―――


スコットランド・ヤードの優秀な刑事達が血眼になって捜し求める殺人鬼。
学者から小説家に至るまで、躍起になってその正体を推理する殺戮者。

―――高度な医学知識の持ち主だ。
―――ユダヤ人の精肉業者だ。
―――精神病を患った弁護士だ。

「きゃははは。好き勝手に言ってくれるじゃねーの」
路地裏の寝床で盗んできたいくつかの新聞を広げて、少女はけたたましく笑う。
166作者の都合により名無しです:2011/01/20(木) 22:03:43 ID:8vMZSLOJ0
とてもじゃないが、歳相応のあどけなさなど微塵もない、邪悪な笑みだ。
だがそれは、触れれば爛れる毒を持つ、危険な華の美しさでもあった。
毒と知っても、触れずにはいられない程に。
「ふむふむ…<殺人鬼、またしても現る!>か…有名になっちまったなあ、わたしも」
どの新聞にも、扇情的な見出しがでかでかと躍っている。
大衆たちは恐怖に震えながらも、興味本位と好奇心に踊らされるがままに、情報を望む。

加害者の正体は?
次の被害者は誰か?
犠牲者はまだまだ増えるのか?
いっそ、もっともっと殺されちまえば面白い―――
どうなったって、まさか自分は殺されやしないだろう―――

大抵の連中は、そんな風に思っている事だろう。
事実、今まで殺してきた娼婦はそうだった。己の正体を明かして惨殺する前に、少しばかりの世間話を
してみたが、どいつも目の前の少女があの<切り裂きジャック>だなんてこれっぽっちも気付かずに、
ヘラヘラしながら談笑していた。
ひとしきり友好的に振る舞い、極めて穏やかな会話を楽しみ、最後に言ってやるのだ。
「ああ、そうだ。言い忘れてたけどさあ、わたしが<切り裂きジャック>なんだ。今からあんたを惨殺する
からちゃっちゃと死ねよ淫売」
それでもなお、娼婦達は冗談と受け取り、あははと笑うかバカにするなと怒り出すかのどちらかだ。
少女のナイフが頚動脈を掻き切って、ようやくその顔が驚愕と恐怖と絶望に引き攣るのだ。
「最高だよなぁ、あのツラは…思い出すだけで、濡れてくる」
うっとりしながら、少女は右手を蠢かせる。
秘所を弄くりながら、淫らで残虐な殺戮の記憶に想いを馳せる。

一人目は手足をもいでやろうとした所で、巡回の警官に気付いて逃走した。
惜しい事をした。もうちょっとでバラバラにしてやれたのに。
二人目はボロアパートの裏庭でグチャグチャのメタメタにして殺してやった。
内臓を引っ張り出して、そこら中にブチ撒けた。
三人目はまさに解体しようとした時に荷馬車が来て、仕方なくそのまま放置した。
四人目はその直後、顔面を抉り、切り刻み、目玉を穿り出して耳を切り取った。

屍体と鮮血と内臓の芸術(オブジエ)。
それを創り出したのは、己の手。
恍惚としながら、その手で自慰に耽る少女。
幼くも紅い真珠を捏ね回し、淫裂が泡立つ程に激しく指を突き入れた。
「んっ…!あっ…あぁんっ…!」
絶頂(オーガズム)に達し、涎を垂らしながら、少女は悦楽の余韻に浸る。
だが―――足りない。
この程度の愉悦じゃあ、満足出来ない。
「…もっと。今度はもっと、惨たらしく、だ」
愛液に濡れた手で、ナイフを掴む。乾いた血をベロリ、と舌で舐め取った。
これは復讐。
そう―――復讐だ。
自分を産み落としやがったクソッタレ共に対する復讐だ!
「復讐は罪が故に、粛々と受け入れ給え…なーんてね」
167作者の都合により名無しです:2011/01/20(木) 22:06:50 ID:8vMZSLOJ0
既に少女は、狂気に支配されている。
本当の所、復讐なんてもうどうでもよかった。

ただ、この渇きを癒してくれる鮮血の泉が。
ただ、この冷え切った心を暖めてくれる鮮血の温もりだけが今の少女の全て。

「さーて―――それじゃあ今夜も、殺して解(バラ)して並べて揃えて晒してやるか」

月光に照らされた名無しの少女は、今宵も凶行に羽ばたく。
<切り裂きジャック>は獲物を求めて、夜を彷徨う。


―――闇夜を駆ける少女を、二つの人影が見つめていた。
二人とも、女性だ。それぞれ雰囲気は異なるが、共に美しい女性だった。
一人は清楚を絵に描いた、気品ある女性。深い慈愛と知性に満ちた横顔は、まるで聖女を思わせた。
その瞼は、静かに閉じられている―――
余談だが、盲人とは、聾唖よりも賢者めいて見えるという。彼女は盲人ではなかったが、誰かに危害を
加える人間にはとても見えない。
もう一人は対照的に、豊満な肉体を惜しみなく見せ付ける、淫魔を想像させる美女。
胸元から腹部までざっくり開いた淫靡な衣装。
男のみならず、女性すら惑わせ、酔わせる程の色香を漂わせている。
「…ジュスティーヌ。本当に、あの娘が<切り裂きジャック>なのかしら?」
妖艶な美女が、清楚な女性―――どうやら、ジュスティーヌという名のようだ―――に問う。
「間違いありません、F05(エフ・ヒュンフ)」
「それは、確かな情報?」
こちらはF05という名らしい美女が、再び訊く。
「間違いありません」
同じセリフを繰り返すジュスティーヌ。
「かの、眠りを忘れた天才―――灰色の脳細胞の全てを活用しうる賢者―――
この世で唯一人<名探偵>の称号を与えられた男の導き出した答えですから」
「ふぅん…なら、紛う事なく、彼女が<切り裂きジャック>…いえ、女の子だから<切り裂きジル>と
でも呼ぶべきかしら?大英帝国を震撼させる殺人鬼が、あんな可愛い仔猫(キティ)だなんて」
クスクスと微笑するF05。対して、ジュスティーヌは冷静に答える。
「F05…あなたに二つの使命を与えます」
「なんなりと」
「一つは、この国に潜む、汚らわしき怪物―――<月の一族(モントリヒト)>の討伐。
そしてもう一つは―――」

「<切り裂きジャック>―――彼女を、我々の新たな同志としてスカウトする事…でしょう?お任せを。
このF05…生前の名をド・ブランヴィリエ侯爵夫人。必ずや任務を全うして御覧に入れますわ」


時は1888年11月9日。

少女は知らない。
この日、己の運命が大きく捻じ曲げられる事を。
168サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/01/20(木) 22:28:23 ID:8vMZSLOJ0
投下完了。
前の方から間をあんまり置いてません。失礼しました。

今回は<エログロを書きてーなー!>という気分だったので、ちょっくら短編を。
題材は「モントリヒト−月の翼−」より、残虐美少女F08(エフ・アハト)を主人公に据えました。
バキスレ的にはハシさんの「ネクロファンタジア」でも活躍した彼女ですが、今回は生前の
彼女の物語を、妄想と捏造で一つ。
後篇もエロくてグロくて救いのない話でいきます。
…バキスレは、エロも問題ないですよね?多分。
自分が殺した相手を思い出しながらオ○ニーとか、ちょっとやりすぎた気もします。
すんません。

>>156 ドラえもんのは、書いてて自分でもギャグなのかしんみりなのか分からなくなりました…。

>>ふら〜りさん
正直、悪ノリしすぎた感がありますwしんちゃんとアンパンマンは、確かに劇画調になるかも
しれませんねー。

>>158 その前に、サンレッドを完結させないと…。それまで順当にいけば一年半…くらいかなあ?
>>159 謎の感動(多分) サンホラっぽいというか、別の何かになってた気もします…(汗)

>>DB新作さん(>>128の方?)
フリーザが残した負の遺産「グスフ」。悟空を探す謎の生物と、少年の出会い。
まだまだ導入部のようですが、謎が深まります。
…チンピラの容姿が北斗の拳のモヒカン雑魚で想像されて、何故か吹きましたw
強者に吹っ飛ばされるだけの簡単なお仕事>モヒカン雑魚(何
169見習い ◆fAd/AgOp6c :2011/01/21(金) 03:04:09 ID:oQ+1gOKLO
後6ヶ月で連載を目指そうと無理な目標持ってる見習いです。

とりまスペック晒すね
男、24、フリーター(アルバイト)、独身、実家暮し

学歴と職歴
技術系の専門学校出て職歴したけどなんやかんやで退職。

連載なんて無理かな。
170永遠の扉:2011/01/21(金) 04:06:04 ID:SosPZYP+P
「戦団に勾留された筈の音楽隊がどうして!? 解き放っていいんですか!?」
 居並ぶかつての敵達に、斗貴子は叫んだ。無理もない。倒すのにどれほど苦労したか。
「まあまあ。彼らは俺たちに協力すると約束してくれた。自ら望んでホムンクルスになったという訳でもないし、人間を喰い殺
したコトは一度もないという。なら大丈夫だろう」
「……彼らの話を信じるんですか? ホムンクルスのいうコトを」
「勾留中にたっぷり話したからな。目も濁っていない。信じていいと思う
 気楽な調子の防人だ。よくもまあと斗貴子は反論したくなったが押し留まる。よく考えてみれば彼女自身もこういう不可解な
温情を戦団から賜り、結果助けられた覚えがある。武藤カズキをめぐる逃避行。ヴィクターIIIという人外へ変質し、再殺を
余儀なくされた彼に斗貴子は肩入れし……結果、戦士1人を内部から『ブチ撒けた』。戦士に危害を加えたという一事だけ
見ればホムンクルスと遜色はない。本来ならば反逆者としてカズキもろとも殺されても不思議ではなかったが、紆余
曲折を経てどうにか許され、今も戦士を続けている。
(反逆を不問にされた私が音楽隊の解放に異を唱えるのは……)
 どこか身勝手なきらいもある。仮に「彼らは人間を喰いかねない」と拘留継続を求めたところで「お前は私情で仲間を殺し
かねない」と皮肉を言われるだろう。私情での叛意を不問にされてなお私情を押し通そうとする是非はどうか。
(そもそも私の反逆を許してくれたのは大戦士長だ。あの人を助けるために戦団が敷いた共同戦線に反対できる道理はない)
 思う所はいろいろあるが、斗貴子はひとまず黙った。
「気休めかも知れないが、念のため鳩尾無銘以外のメンバーからは核鉄を没収してある」
 そういえば、と秋水は気付いた。総角の首にかかっている認識票は……武装錬金ではない。
 どこにでも売っていそうな既製品だ。小札が持っているのもただのマイクであり、ロッドの武装錬金マシンガンシャッフル
の姿を確認するコトはできなかった。鐶の手にも貴信の手にも、短剣や鎖分銅は見当たらない。
「にも関わらず無銘の武装錬金だけ残してあるのは……」
「そう。監視用だな」
「どういうコトだよブラ坊。あのランタンみたいな奴がどう監視用になるんだよ?」
 手を上げ質問する御前に答えたのは意外にも秋水だった。
「彼の武装錬金は映像投影が可能だ。特性は性質付与。直接的な攻撃力はない」
「あー。だから取り上げられてないんだ」
「そうだな。6つある龕灯(がんどう)の内、1つだけは戦団本部に残してある。実はいま彼らが見ている映像も、龕灯を介して
火渡たちへと送られていてな。まあ、絶対ないとは思うが、もし彼らが監視役に危害を加えれば即座に戦士達が差し向けられる」
「……ん? 監視役? どこにいるんですか?」
 斗貴子はゆっくりと振り返る。そこにいるのは音楽隊だけだ。一瞬斗貴子は監視役が根来ではないかと思った。彼が例の忍者刀
の特性で亜空間に居て、監視を務めているのではないか……と。
 だがすぐ違うと知らされる。

「強力かどうかは分かりませんが」
 総角たちの後ろからひょいと出てくる影一つ。隠れていたというより、身長のせいで見えなかったらしい。
「火渡様からは許可が出ています……」
 小柄──小札とほぼ同じ──というコトを除けばその身体に際立った異常はない。ただ、首から上があまりに常軌
を逸している。斗貴子が呆気にとられるのもむべなるかな。なぜならその人物が被っている物というのが……

 ガスマスク

 だったからだ。

「確かキミは……毒島。根来や千歳さんと同じ再殺部隊の戦士だったな」
 旧知、というほどでもないが会ったコトがある。御前や剛太も頷いた
「確かブラ坊が火渡のせいで死にかけた時だよな」
「あー。そういやいたな。救急箱持ってうろついたり、火渡戦士長に灰皿投げられたり」
「でも正直、キミは強いのか? 見たところ奇兵らしくかなり異常だが、とても強そうには見えないぞ……」
「私の武装錬金、エアリアル=オペレーターの特性は気体操作です。いざとなれば音楽隊のみなさんを制止するコトぐらいは
できます。頑張ります!」
 敬語だが千歳と違って事務的という感じはない。声こそ低くくぐもっているが何やら懸命に喋っているという気配が滲んでいる。
 そもそもこの毒島という戦士の年齢はおろか素顔さえ知らない斗貴子である。一瞬、「まさか子供?」とも疑問を浮かべたが
いまはそれどころでもない。いろいろ初耳な事柄が多すぎる。
171永遠の扉:2011/01/21(金) 04:10:16 ID:SosPZYP+P
「気体操作……?」
「平たくいうとだな。戦士・斗貴子。あの武装錬金は毒ガスを作れる」
「はい。一般人に被害がなければサリンでもVXガスでも使っていいとの許可が出ています」
「強力なのは分かったが、それでも穴が多すぎないか? 鐶なら毒ガスが撒かれるより早く動けるだろうし、全員が一斉に
かかれば武装錬金の破壊も可能。だいたいここまでどうやってきた? 鉄道を乗り継いで、旅館に泊まったりした……?
やっぱり……。よくキミは寝込みを襲われなかったな」
 溜息混じりに思う。戦団はいちいちツメが甘いと。武装錬金が強力とはいえ毒島1人に6人ものホムンクルスを引率させる
のは危険すぎる。
 ヴィクター討伐の余波や救出作戦の準備で戦団が人手不足なのは分かっている。。
 それでもやはり不満や割り切れなさが消えない斗貴子だ。
「フ。もっとこう、ないのか? 『敢えて信頼を寄せたがゆえに俺たちも心から戦士を尊び、得難い協力関係が結ばれる』とか
なんとか、前向きな考えは。かつての敵との共闘だぞ共闘。小難しく考える前に喜んでみてはどうだ?」
「疑われている組織の長がいっても説得力はないぞ。総角」
 秋水の突っ込みに金髪の美丈夫は両手を上げた。やれやれと言いたげだ。
「とはいえ殺す殺すの一辺倒で万事解決といくものかな? フ。ヴィクターにしたって戦団が追い回し、あのお嬢さんをホムン
クルスにしなければ、案外大人しく従っていたかもだぞ。北風と太陽の例えよろしくな」
 相変わらず、腹立たしいまでの余裕だ。斗貴子のこめかみに青筋が浮かぶのも無理はない。
「一理はあるが貴様が言うな」
「フ。これは失言。とはいえ俺たちが戦団に協力したいのは事実だ。利用はしない。助けられる戦士がいるのなら、一人でも
多く助けさせて頂きたい。それは俺も小札も無銘も鐶も香美も貴信も、心から、願っている」
 芝居がかった調子で恭しく一礼をする総角の横で小さな影がぴょこりと跳ねた。
「意外やも知れませぬがそうなのであります! 特に無銘くんにおきましては一年ほど前、ご自身と鐶副長どのをば狩らんと
した戦士の方に噛みついたり、地割れに引きずり落としておりまして! いや、幸いにといいましょうか奇跡といいましょうか、
戦士どのは無事でございましたが、手を出してしまったコト、無銘くんはかなり気に病んでおりまする!!」
「……信じられると思うのか? 私達をさんざんひっかき回しておいて」
「信じて貰えなくても、だな。本意は行動で示す。だいたい嫌だろ? 使命感に従い、一生懸命動いているだけの戦士が理不尽
に命を奪われるのは。少なくても俺はまっぴらさ。『また』見殺しにするのかと、とても嫌さ」
「それは、そうだが……」
 言いよどむ斗貴子を見つつ、秋水は疑問符を掲げた。
(『また』?)
 なぜか戦士に好意的なのも謎だが、いやに実感のこもった『また』が引っかかる。総角は誰かを見殺しにしたコトがある
のだろうか?

「まあなんだ。突っ立っているのも辛いだろ。キミたちも座って一服しなさい)

 と、ここで防人は寝室に佇む音楽隊一同に手招きをした。


「一服! となりますればお茶汲みは必定! 防人戦士長どの防人戦士長どの! 不肖をお使い下さればまさにまったく
本望の極み、ゆらめく玉露の碧い波、まさに協力体勢証する濫觴(らんしょう)の一杯! いえいえ遠慮は御無用、いずれ
流れいずる協力の大河はいまこの時の觴(さかずき)、とゆーか湯のみの一杯一杯から生まれるのでありますっっ!!
ゆえにや不肖、心を込めて90度ぐらいのお湯をばズバババーっと注ぎ、お茶っ葉をさらさらーとやるのです!!」
「ブラボーだ! 君はもてなしの心をよく知っているようだな」
「よくぞ聞いて頂きました! 実は不肖、10年前までは巫女さんとして実に様々な方々をおもてなししておりました! 馬肥
ゆる稔歳の時わっしょいわっしょいお神輿来訪大宴会の時などは、肩に手ぬぐい巻きし農家の方々めがけとぷとぷと!
ああっ! とぷとぷと! お茶をついで回っていたのであります! ですので腕に覚えあり! 心配は御無用なのであります!」
「うむ! 注ぎ方も味も温度もまったく申し分ないお茶だ。ブラボー! おお、ブラボー!!!」

(さっそく意気投合してる……)

 愕然たる面持ちで斗貴子はお茶くみを見た。

(……? おかしい。いま私は小札に何か質問したかったような。だがそれが……分からない? どうしてだ?)

 朝方から続く違和感に、首を傾げつつ。



172永遠の扉:2011/01/21(金) 04:14:52 ID:SosPZYP+P
 やがて、卓袱台の上に沢山の湯のみが置かれた。常備している湯呑みだけでは足りず、ティーカップやグラスまで引っ張
り出す大騒ぎだ。その構成成分の8割が小札で、目下彼女は大わらわ。せっせかせっせかガス台と卓袱台をで往復している。

「とゆーかさ、とゆーかさ、とゆーかさ! きゅーびはぶすじまに一回やられたじゃん! どれほどのもんだ! ってとびかかっ
たら、ヘンな臭いのがぶしゅーって出てさ、で! あたしら巻き添えで仮ぎゃーしたじゃん!」
「おい! 我はいうなと釘をさしたぞ!!」
『挑戦したがるのも無理はない! 何しろ無銘の武装錬金は火渡戦士長たちと交戦したコトがある! その時の決め手が
毒島氏の武装錬金だったから、復讐心みたいなのが湧きあがったのだろうっ!!』

(011話(2)より)

──先ほどの編笠の矢はもうないらしく、黒装束の男は防戦一方だ。
──戦部は突き、薙ぎ、石突でゆるゆると牽制しつつ時には連続で突きを繰り出していく。
──その野性味あふるる槍技に流石の黒装束の男も押され始め──…
──やがて彼は、足をよろけさせた。
──しかしそれは疲労と見るにはあまりに性急。かすかに覗く目元も病的に色が失せている。

「おかしいとは思っていました。あの時、一酸化炭素中毒にした筈の無銘さんがすぐ動けた理由。それは薬のせいじゃなく
自動人形の無銘さんだったからですね」
『そうだ!! 元々毒ガスは効かない!! けれど自動人形だとバレれば本体を探されややこしいコトになる!! だから
無銘は一芝居を打ち、あの兵馬俑が自動人形であるコトを隠した!! けれどそれが面倒だったらしく、ちょっと毒島氏を
恨んでいるようだ!!』
「そ、そ! よーわからんけど、そ!!」
 毒島と騒がしい掛け合いをするシャギー少女──栴檀香美──はうんうんうんと素早く頷き、最後に剛太へブイサインを
繰り出した。
「でもなんとか仮ぎゃーからなおったじゃん! あたしらスゴいでしょ垂れ目! ご主人は特に強い訳よ!」
 得意気に胸を逸らすや豊かなふくらみがぷるんと揺れた。もっとも斗貴子(B78)一筋の剛太が惑わされる道理もなく。
「相変わらずうるせーホムンクルスだなオイ」
 ただただ、嘆息するコトしきりである。野性味あふれる引きしまった肢体をタンクトップとハーフサイズのジーンズで申し訳
程度に覆ったネコ型ホムンクルスはそれなりに端正な顔立ちをしているものの、絡めばやはり、かなりうるさい。快活すぎる
性格もあるが、その喧しさに一層の拍車をかけているのが、彼女の後頭部より時おりぶっ放される甲高い少年の声だ。

「そうだ。挨拶が遅れた。久しぶりだな。貴信」
『こちらこそだ!! はは!』
 どこか気弱な大声の持ち主を秋水はあまり嫌いではない。むしろカズキに通じるようで、敬意を抱いている。

 秋水は知っている。
 香美が首を180度回せばレモン型の瞳した異相が現れるのだ。
 さすれば体つきも少年の物となり、凄まじい膂力の籠った鎖分銅を嵐のように暴れさす。

(栴檀貴信。ネコ時代の栴檀香美の飼い主)
 秋水は腕組みをしながら回想する。思い起こされるのはかつて彼らと争った時のコト。

──『んーにゅ。あたしらさー、もともとご主人とネコで別々だったワケよ』

──「だがちょっとした事情で一つの体を共有するコトになったんだ!!」

──『そそ。さっきさぁ、なんかこわいれんちゅーにアレコレされてこんなんじゃん! おかげであた
──しネコなのに暗いトコとか狭いトコとか高いトコとか苦手っつーかこわいじゃん』

──「でだ、香美が僕などと同じ体なのは申し訳ない! いつかちゃんと飼い主として責任を持っ
──て、僕とは違う肉体を与えてやりたい! そしてちゃんとしたお婿さんと引き合わせてやりたい!
──ただ、それだけだ!」

(体を共有する飼い主と飼い猫。調整体にも似ているが、各々の人格が完全な形で残っているところは違う)
 なぜ、こうなったのかまでは分からない。ただ確実なのは目下その2人が剛太を大いに苛んでいるというコトである。
 秋水は、姉の未来の戦友候補をただただ同情的な目で眺めた。
「つかさ! さっきひかりふくちょーさ、久しぶりとかいったけどさ! さっきあってたじゃんさ。久しぶりってどーい
う感じじゃん。いまいちサッパわからん! 説明するじゃんせつめー!!」
173永遠の扉:2011/01/21(金) 04:16:40 ID:SosPZYP+P
「うるせえ! いきなりすり寄ってきてベタベタすんじゃねェ!!」
 見れば香美はすでに剛太へ歩み寄り、ぐなぐなという感じで全身を絡みつかせている。剛太は先ほどから着座しているから
香美もつられる形で横ずわりだ。うぐいす色のメッシュが入った派手なシャギーが剛太の肩などをつんつんつんつん叩いてい
る。彼のどこが気に入ったのか。いやに気安い調子でしだれかかったり首に手を回したり、顔を急接近させたりと、香美は
まったく忙しい。ついには質問さえ放棄し、けらけら笑いながら剛太にじゃれ始めた。
「もーなに聞いてたかもわからんくなってきた! めんどい! まずは遊ぶじゃん!! 遊ぶ!」
「やかましい、離せ。くそ! ホムンクルスだから力だけはありやがる!!
 ホムンクルスになる前はよほど人懐っこいネコだったのだろう。剛太の鼻先で形のよい鼻梁をスンスンさせるのも秋水は
見た。ネコとしての挨拶、とは瞬時に分かったが、居並ぶ戦士や音楽隊の面々はどうも別な解釈をねじつけたくて仕方無い
らしい。ブラボーと親指を立てた防人に呼応するように総角が口笛を吹き、小札や鐶は「大胆」と頬を赤らめる。「見た目に
騙されるな」と釘を刺すのは斗貴子で、剛太はただただ慌てふためき自己に非がないと弁明するばかりである。
 秋水は、見なかったコトにした。
 香美のスンスンの瞬間、笑顔の温度を絶対零度めがけ急降下させた桜花を。
『い、いや!! 香美は悪気はないんだ!! ただネコらしくスキンシップしたがっているだけで!!』
「あら。誰も怒ってないわよ貴信クン。ええ。分かっているわよ。ええ」
 果てしない笑顔の桜花が、秋水はとても怖い。
「フン。姉ごときに怯えるような男が我はおろか師父を下したなど……到底信じられん」
「無銘……」
 かつて秋水と激闘を繰り広げた忍者少年は──…
 怨敵の首筋に、ギラリと光る刃を押し当てていた。
(いきなり何やってんだお前!!)
 御前は目を剥いた。剛太も、唖然とした。
 再会直後の挨拶としてはいささか物騒すぎる。清潔感のある後ろ髪がすうっと撫で斬られ、はらはらと畳に落ちるのも桜
花は見た。つまり刃は真剣である。いま膝立ちの持ち主がそのつもりになったが最後、秋水の頸動脈は血の噴水をあげる
だろう。ちなみに小札はお茶汲み中のため以上の事態に気付かなかった。
(まだ恨んでいるようね。自分だけでなく小札さんまで倒しちゃった秋水クンのコト)
 少年ほど誇りや矜持にこだわり、それを傷つける者を激しく恨む。少年忍者の体から立ち上る青い陽炎に桜花はつくづく実感
した。
 が、秋水はさほど気にした様子もなく、涼しい顔で答えた。
「そうか。確か君は以前、シークレットトレイルを気に入っていたな。というコトはそれは忍者刀。小札が買ってくれたのか?」
「おうとも! お小遣いを2年分ぐらい前借りしたのだ!! なかなかの業物で、その上龕灯(がんどう)の性質付与にて錬金
術の産物とすればホムンクルスにさえ通じ──違う! なぜ貴様、たじろがん! 首筋に本物の刀が当たっているんだぞ!?」
 一瞬はうはうと三白眼を輝かせた無銘はすぐさま不機嫌そうな顔をした。
「君に殺気がないからだ。だったら動かない方が安全だろう」
「ぐ!!」
(フ。やはり見抜いたか。ただの嫌がらせだと)
 ニヤリと笑う総角を察知したのか、秋水は軽く微笑した。
「そもそも殺すつもりならこの体勢自体成立していない。君が本気で間合いに入っていたら、俺の首は今頃血だまりの中だ」
 淡々とした分析だ。春風のごとき微笑で紡ぐ秋水は、無銘に負けず劣らずの異様さを帯びていた。いや、そこは犬型に怒
れよと剛太は呆れ、貴信は大笑いし、桜花は秋水らしからぬ円やかさにフクザツな笑みを浮かべた。成長が嬉しい反面、自
分の預かり知らぬ所でまた一歩大人に近づいた弟に寂しさを感じているらしい。
「もっとも、俺の首が転がりそうなら総角が止めに入っただろうし、俺もそれなりの防御はしたと思う」
 勝利の笑み、というより限りない親しさを込めて秋水は笑いかける。厳密にいえば背中合わせの少年がそれを見るコトは
できないが、全体的な雰囲気で伝わっているらしい。無銘はますます渋い顔だ。

「何しろ」

「劇で勝たずにやられたら、棺の中でセーラー服を着せられるかも知れない。それは困る」

 一座の目が点になった。いち早く通常運転に戻った剛太などは隣の御前にこう呼び掛けた。
「オイ。いまあいつ冗談言わなかったか?」
「スッゲー余裕。総角に勝ったから成長したのか?」
174永遠の扉:2011/01/21(金) 04:17:39 ID:SosPZYP+P
「うるせえ! いきなりすり寄ってきてベタベタすんじゃねェ!!」
 見れば香美はすでに剛太へ歩み寄り、ぐなぐなという感じで全身を絡みつかせている。剛太は先ほどから着座しているから
香美もつられる形で横ずわりだ。うぐいす色のメッシュが入った派手なシャギーが剛太の肩などをつんつんつんつん叩いてい
る。彼のどこが気に入ったのか。いやに気安い調子でしだれかかったり首に手を回したり、顔を急接近させたりと、香美は
まったく忙しい。ついには質問さえ放棄し、けらけら笑いながら剛太にじゃれ始めた。
「もーなに聞いてたかもわからんくなってきた! めんどい! まずは遊ぶじゃん!! 遊ぶ!」
「やかましい、離せ。くそ! ホムンクルスだから力だけはありやがる!!
 ホムンクルスになる前はよほど人懐っこいネコだったのだろう。剛太の鼻先で形のよい鼻梁をスンスンさせるのも秋水は
見た。ネコとしての挨拶、とは瞬時に分かったが、居並ぶ戦士や音楽隊の面々はどうも別な解釈をねじつけたくて仕方無い
らしい。ブラボーと親指を立てた防人に呼応するように総角が口笛を吹き、小札や鐶は「大胆」と頬を赤らめる。「見た目に
騙されるな」と釘を刺すのは斗貴子で、剛太はただただ慌てふためき自己に非がないと弁明するばかりである。
 秋水は、見なかったコトにした。
 香美のスンスンの瞬間、笑顔の温度を絶対零度めがけ急降下させた桜花を。
『い、いや!! 香美は悪気はないんだ!! ただネコらしくスキンシップしたがっているだけで!!』
「あら。誰も怒ってないわよ貴信クン。ええ。分かっているわよ。ええ」
 果てしない笑顔の桜花が、秋水はとても怖い。
「フン。姉ごときに怯えるような男が我はおろか師父を下したなど……到底信じられん」
「無銘……」
 かつて秋水と激闘を繰り広げた忍者少年は──…
 怨敵の首筋に、ギラリと光る刃を押し当てていた。
(いきなり何やってんだお前!!)
 御前は目を剥いた。剛太も、唖然とした。
 再会直後の挨拶としてはいささか物騒すぎる。清潔感のある後ろ髪がすうっと撫で斬られ、はらはらと畳に落ちるのも桜
花は見た。つまり刃は真剣である。いま膝立ちの持ち主がそのつもりになったが最後、秋水の頸動脈は血の噴水をあげる
だろう。ちなみに小札はお茶汲み中のため以上の事態に気付かなかった。
(まだ恨んでいるようね。自分だけでなく小札さんまで倒しちゃった秋水クンのコト)
 少年ほど誇りや矜持にこだわり、それを傷つける者を激しく恨む。少年忍者の体から立ち上る青い陽炎に桜花はつくづく実感
した。
 が、秋水はさほど気にした様子もなく、涼しい顔で答えた。
「そうか。確か君は以前、シークレットトレイルを気に入っていたな。というコトはそれは忍者刀。小札が買ってくれたのか?」
「おうとも! お小遣いを2年分ぐらい前借りしたのだ!! なかなかの業物で、その上龕灯(がんどう)の性質付与にて錬金
術の産物とすればホムンクルスにさえ通じ──違う! なぜ貴様、たじろがん! 首筋に本物の刀が当たっているんだぞ!?」
 一瞬はうはうと三白眼を輝かせた無銘はすぐさま不機嫌そうな顔をした。
「君に殺気がないからだ。だったら動かない方が安全だろう」
「ぐ!!」
(フ。やはり見抜いたか。ただの嫌がらせだと)
 ニヤリと笑う総角を察知したのか、秋水は軽く微笑した。
「そもそも殺すつもりならこの体勢自体成立していない。君が本気で間合いに入っていたら、俺の首は今頃血だまりの中だ」
 淡々とした分析だ。春風のごとき微笑で紡ぐ秋水は、無銘に負けず劣らずの異様さを帯びていた。いや、そこは犬型に怒
れよと剛太は呆れ、貴信は大笑いし、桜花は秋水らしからぬ円やかさにフクザツな笑みを浮かべた。成長が嬉しい反面、自
分の預かり知らぬ所でまた一歩大人に近づいた弟に寂しさを感じているらしい。
「もっとも、俺の首が転がりそうなら総角が止めに入っただろうし、俺もそれなりの防御はしたと思う」
 勝利の笑み、というより限りない親しさを込めて秋水は笑いかける。厳密にいえば背中合わせの少年がそれを見るコトは
できないが、全体的な雰囲気で伝わっているらしい。無銘はますます渋い顔だ。

「何しろ」

「劇で勝たずにやられたら、棺の中でセーラー服を着せられるかも知れない。それは困る」

 一座の目が点になった。いち早く通常運転に戻った剛太などは隣の御前にこう呼び掛けた。
「い、いまあいつ冗談言わなかったか?」
「スッゲー余裕だなオイ。総角に勝ったから成長したのか?」
175永遠の扉:2011/01/21(金) 04:19:55 ID:cFEQ+SgO0
「フ。無銘よ。刀を致命の至近に置いてなお恐懼の一片さえ引き出せぬなら、それはもう己が格が根底から敗北している証だ。
可愛いちょっかいだと笑える内に退け。負けを認めるのもまた勇気。恥じゃないさ」
 総角の言葉でようやく刃を引くかどうか逡巡し始めた無銘。彼を完全に撤退させたのは。
「あ……もしかして無銘くん、例の六対一でのコト、まだ悔やまれているのでしょうか……」
 ガス台前から戻ってきた小札の言葉である。
「その……。申し訳ありませぬ。もし不肖が勝てておりますれば、無銘くんも秋水どのにしこりをば残さずに済んだ筈……」
 湯呑みやグラスが混在するお盆を手に喋る小札は、瞳をひどくくしゃくしゃにしている。

「ち、ちが……! あの時悪かったのはこやつを喰い止められなかった我の方で、母上は何ら!」

 秋水が息を呑んだのは、無銘とは無関係の事情による。

 一瞬、小札に対する何らかの質問が脳内で浮かび、それが強制的にかき消された。
 それだけ、である。

 ややあって。無銘と小札の鬱陶しくさえあるかばい合いが終わり。

 ひとまず小札は秋水にぺこりと頭を下げた。
「申し訳ありませぬ。根はいい子なのであります無銘くん。ただ、やるせなき感情と後悔に苦しむあまり、刃首筋に向けでも
せねば折り合いがつけられぬだけでして……」
「俺の事なら大丈夫だ。彼の気持ちはよく分かる。そもそも逆胴で君を傷つけたのは事実……これで無銘の気が晴れるなら
それでいいと思う」
(うぜえええええええええ!! この男、うぜえええええええええええええええ!!!)
 あくまでも爽やかな秋水に対し、無銘は顔面のあらゆる箇所を痙攣させた。
 眉が太く、眼光と犬歯の鋭い少年だ。歳は10というが全体に漂う気難しさは長年どれだけ苦渋を味わってきたかいやという
ほど物語っている。その少年はとうとう、逆上半分むずかり半分で様々な文句を叫び出した。
 曰く、一度勝ったぐらいで調子に乗るな。曰く、師父がダブル武装錬金を使っていれば勝っていた。などなど。
 秋水は一瞬額に人差し指を当てた。「そういえばこんな少年だった」。軽い頭痛──昔の自分を見ているような気恥しさコミ
の──を覚えながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「だが君は音楽隊の中である意味もっとも信じられる相手だ。解除しようと思えばいつでも解除できる龕灯をここまでの道
中ずっと発動し続けていたのは、君たちの戦団への服従を立証するためだろう。だから本気で俺に斬りかかるようなコトは
絶対にない。何故なら、そうすれば総角や小札に矛先が向かうからだ。それを防げるのなら、君はどこまでも私情を殺す
だろう。違うか?」
「ぐ……っ!!」
「毒島に喧嘩を売ったのも、逆らえばどうなるか、仲間たちに身を以て説明するため。毒ガスといえど、忍びの君なら総角たち
より耐性はある。そう思ったからこそ、わざと汚れ役を引き受けた……。違うか?」
「何が汚れ役をだ! 結局他の師父達を巻き込んでしまったわ! それを承知で指摘したのか貴様!」
「い、いや。君の行動の理由と結果のすり合わせが十分でなかっただけだ。嫌味ではない。本当だ」
「ウソだ!! 嘲弄したな貴様!! おのれ早坂秋水、おのれえええええええええ!!!」
 凄まじい形相で(まなじりに米粒のような涙をたたえつつ)歯がみする無銘を「まあまあ」と両手で制しながら秋水は思う。
やはりやり辛い少年だと。もっとも、相手が生真面目な分だけ、まひろやパピヨンなどの「突きぬけちゃってる」人物たち
より与し易くもあるが。

(くうう!! なんだこやつ! なんだこやつ! こういうのが大人だというのか!? くそう!)

 秋水の内心しらぬ無銘は羨望半分怒り半分でまたまた歯がみした。

 鳩尾無銘。
 かつてはチワワの姿にしかなれなかった犬型ホムンクルスである。
(その原因は確か)


──「ほっほう。七週目だからかのう。まだまだ人間の形には程遠い。チト早まったかの」
──「かじりかけの桃切れを缶詰に戻してお魚の目玉つけたよう。色々な汁気たっぷりでウットリ」
──「まあよい。母体が事切れたゆえ急ぐとしよう。幼体はあるかの? 子犬のホムンクルスの」

──「どれ、この赤子に埋め込んでやるかの。ホムンクルスはホムンクルスを喰えんというが」


──「犬に仕立てた出来そこないの赤子。果たして味や如何? 腹を壊すのもまた一興……」
176永遠の扉:2011/01/21(金) 04:21:25 ID:cFEQ+SgO0
(まだ母胎にいる頃、何者かによって幼体を埋め込まれたせい。今は人間形態にもなれるが)

「…………?」

 本日何度目かの違和感が過る。秋水は気付く。自分がいま、”何か”に気付きかけたのを。
 無銘との戦いの時には聞き流せた言葉。なのに無意識が警鐘を鳴らしている。気付け、気付けと、
 かつて聞いた、不明瞭なノイズ混じりの音声。声の主が男性か女性か、子供か老人かさえ分からないのに……。

 うち片方の口調に、秋水は強烈な聞き覚えがあった。
 最近。本当に最近、同じ口調の人間と出会った記憶がある。

 少しずつだが、日常と乖離した何事かが忍び寄っている気がする。

 にもかかわらず、考えようとするたび脳髄が軋む。周りの人間、特に無銘へ伝えようとするたび脳の中で情報が逆流し
て有耶無耶にされている。何かに禁じられているような……演技の神様絡みの事を思い出そうとする時の、嫌な違和感
ばかりが脳を占める。

「無銘くんは……優しい……です」
 桜花にしっかと抱きとめられた少女が、ぽつりと呟いた。
(……こっちはこっちで物騒なもんいなしてるな)
 剛太は呆れた。垂れ目が地の底めがけずり下がっていく心持ちは、いつかのメイド喫茶入店時以来だ。
 桜花は座ったまま、小柄な人物を膝に乗せている。年の離れた妹か、はたまた小さな娘を抱っこしているような体勢だ。
 ただ剛太的には”核爆弾をそうしている”というのが率直な感想だ。
 なにしろ、桜花が親しげに呼びかけているのは──…

(あらゆる鳥と人間の姿に化けられる『特異体質』の持ち主)

(ただし強さと引き換えに、常人の5倍の速度で老化する少女)

 そのせいだろうか。たった1週間前後の別れにも関わらず、以前より大人びて見えるのは。

 ずきりと痛む脇腹をさすりつつ、秋水はその少女の名を心で呼ぶ。限りない、畏怖を込めて。

(鐶光。俺を倒したホムンクルス……)

 防人と斗貴子と剛太、桜花。更にいまはこの場にいない楯山千歳と根来忍を加えた6人の戦士を一斉に相手取り、最後
の最後、負けるその瞬間まで優勢を保っていた音楽隊副長である。怯えるなという方が無理であろう。
 にもかかわらずいまは桜花のされるがままだ。まったく不思議な少女と言わざるを得ない。
「きっと無銘クン、小札さんだけじゃなく光ちゃんにも毒ガスを浴びせたくなかったんでしょ。ねー」
「ねー……です」
「ちちちちち違うわ!! 前述がごとく結局貴様も母上も巻き込んだ訳で……その、ズグロモリモズの毒になると怒りもしな
かった貴様には感謝したいというか……あ、違う、違うぞ……避けなかった方が悪いのだ。毒の再利用など当然……」
 顔をぱっと赤黒くし両手をあたふたさせる無銘を、虚ろな目の少女はぼうっと眺めた。顔は紅潮し、今にもとろけそうである。
「ビ、ビーフジャーキー……食べます?」
「お、おうとも」
 ひったくるようにしておやつをもぐもぐ食べる無銘を、鐶は嬉しそうに眺め
「あらあら。相変わらずお熱ね。光ちゃん」
 桜花の膝の上でしっとりと俯いた。詳しい表情は分からないが、とにかく赤いコトだけは確かだった。
「……………………………………………………はい」
 今にも消え入りそうな声である。室内でもバンダナをかぶり、ダウンジャケットとチュールのついたミニスカートという活発
な出で立ちとはいかにも乖離している。だが真赤な三つ編みの揺れ動くところどれほどの灰燼と圧倒をもたらすか。
 まさに魔神がごとき少女なのである。

「でも、光ちゃんがいるなら総角クンたちもうちょっと早く来れたんじゃないの?」
「そーそー。お前が鳥形態になってブレミュ全員載せてくりゃあ瀬戸内海からあっという間じゃね?」
「はい……。一度、試しました……。そしたら…………あっという間に…………北極に……つきました。シロクマさんと……
殴り合いをしました……」
「何とか青森県には戻れましたので、そこから電車など乗り継ぎつつここまで来た次第!」
 戦団の支部のある瀬戸内海と逆方向じゃねーか。剛太の口から愕然たる呻きが漏れる。
(そういえば方向音痴だったな)
177永遠の扉:2011/01/21(金) 04:22:46 ID:cFEQ+SgO0
 伝聞だが、秋水は思い出した。しかし戦えばあれほど強いというのに方向音痴とは。やや呆れたように目を細める秋水の
先で、鐶はピンク色のドーナツをもそもそと食べ始めた。咀嚼するたび食べかすが卓袱台に散らばり、香美や無銘が窘める。
 戦っていないと非常にボケーっとした性格で、いちいちいちいち抜けているようだ。
 その弊害をおっかぶされた者が約一名いるようで。
「申し訳ありません防人戦士長。予定では昨日、合流する手筈でしたのに……」
 ガスマスクがゴーグル越しに腕を当て、うっうと泣く仕草をした。
「……あー。遅刻したのは彼女のせいか」
「はい……」
「いや、北極に行ってこの程度の遅刻ならいい方だ」
「いえ。北極から日本までは数時間で着きました。ただ、よりにもよって、この街に着いてから1日ほど」
「迷っていたのか?」
 呻き、汗を垂らす防人に粛然と向き直り、鐶は力強く呟いた。
「はい……リーダーたちが……私と……はぐれて……迷いました」
「はぐれたのは貴様の方だろうが!!!」
 ばしりという音が鐶の頭からした。凍った蘇芳染めの手ぬぐいが彼女を襲撃したのである。もちろんそれは忍び六具の1つ
が薄氷(うすらい)なる忍法で凍結したものだから、犯人は誰あろう鳩尾無銘である。秋水は一瞬でそこまで見抜いた。
「痛い……です」
 バンダナを抑えながら鐶はうっすら涙ぐんだ。例の如くバンダナにはニワトリの顔が浮かび、鐶と同じ表情をしている。
「黙れ! 師父たちが貴様とはぐれたのではない! 貴様が虚ろなる笑い立てつつすずめばちを追っかけて、勝手にはぐれ
たのだろうが!!」
(すずめばちって)
(何で追いかけんだよそんなもん。あ。ひょっとしてズグロモリモズの毒用か。……!! じゃあつまり、喰うのか!? すずめばち!)
 剛太と御前が呆れる中、桜花だけはその光景を想像した。

「うふふ……あはは……すずめばちさん……待ってくださーい…… うふふ。あはははは」

 きっと、点描をバックにスローモーションで女の子走りしていたのだろう。虚ろな、病人のような目で。
 そうしてやがて口から異様に長い舌をべろりと出して、鞭のように地面をビターンビターンと2〜3度叩いて加速をつけ、
すずめばちを両断! 空中で巻き込み、口めがけ引きこむのだ。そこまで考えた桜花は盛大に吹き出し周囲の注目を集めた。

「ち、違います……はぐれたのは……リーダーたち……です。私はただ……道が分からなくなっただけ、です……」
「ますます貴様のせいではないか!! この方向音痴が!」 
「私は……方向音痴じゃ……ありません…………」
「マトモな方向感覚の持ち主がどうして銀成へ行けと指示され北極につくのだ!!」
(まったくだ)
 戦士一同はうんうんと頷いた。
「シロクマさんを生で見れたのは嬉しかったけれども!! え!! 貴様のせいで師父が協力すべき戦士長さんが待たさ
れたのだぞ! ホムンクルスだからとて約束破りを良しとしてどうする! 我も貴様も根底は人間なのだ!! 道議を踏み
外してどうする!! シロクマさんに延髄蹴りを叩きこんでどうする!」
「…………そう、ですが。でも……方向音痴じゃ……ありません」
「うっさい! この方向音痴方向音痴方向音痴方向音痴方向音痴方向音痴! ばーかばーか!!」
「り、理解しようとしていたのに……。そんなコトいう無銘くんは……嫌い……です」
 ぷいと顔をそむける鐶に誰もが溜息をついた。
(意外に頑固な子だな)
 防人は目を見張る思いだ。ドーナツで餌付けできるほど単純かと思いきや、欠点については妙に意固地になるらしい。
「ひょっとしてただの負けず嫌いか? となれば戦いの時、ああまでしつこいのも納得できるが」
 斗貴子は腕組みしつつ呻いた。まったく鐶という少女を負けさせるコトの困難さが今さらながらに痛感できた。
(本っっっ当。あの戦いは泥沼だった。正直二度と戦いたくない)
 ねじくれた感情を半眼から彼方めがけ飛ばしつつ、斗貴子は小声でブーたれる。
 つくづく泥沼な戦いだった。攻撃を叩きこめば回復。起死回生の一手を打てばことごとく破られ、追い詰めれば切り札を
使い敗北直前でもなお粘る。外見こそ可憐だが、まったく厄介きわまる負けず嫌いだ。
 無銘も辟易したらしく、とうとうさじを投げるような調子で叫んだ。
「嫌いでけっこう! 貴様に好かれても嬉しくないわ!」
「え…………」
178永遠の扉:2011/01/21(金) 04:24:48 ID:cFEQ+SgO0
 今度は青く澄んだ瞳が悲しみに溢れた。鐶はおろおろと無銘を見つめ健気な様子で何度も何度も淡い桜色の唇を震わせた。
何か言おうとしているようだが、言葉にはならない。ショックのほどが伺えた。とうとう鐶はすがるような視線を桜花に向けた。
 抱きかかえられているから首を後ろにねじ向ける形になる。半分涙目の上目遣いですがる鐶。桜花の保護意欲は大いに
かきたてられた。きゃーと黄色い声さえ上げ、まひろがよくやるような表情で頬ずりした。
(つくづく姉属性だなあ桜花)
 一応人格を共有している御前が思うのは、理知ゆえの客観視か。
 やがて桜花はバンダナ越しに鐶を撫で撫でしつつ、優しげに囁いた。

「こういう時は……謝った方がいいと思うわよ?」
「ごめんなさい……です。私がはぐれたせいで……合流が……遅れました」

(((謝るの早っ!!)))

「あ、あと……私を叩いても……無銘くんが……ケガしなかったのは……良かった、です」
「……やかましい」

 嬉しそうな鐶に、無銘は舌打ちした。

(確か彼女は姉の手でホムンクルスになったという。……姉妹の間に、どういう確執があったんだ?)

 秋水がその疑問を描く時、常に確固たる恐怖が胸を占める。

「なぜ、作れたのか」と。


「兎にも角にも不肖たちは合流した訳なのでありますっっっ!! 古来激しく拳を交えた者同士が擦りむけた手に手を取って
協力し合うというのは正にまったく王道の、力強くも勇気に満ちたお約束といえるでしょう!!」
 タキシードにシルクハットといういでたちの、まさにマジシャン少女が拳を固めて熱弁した。
(小札さんは相変わらずね)
(相変わらずすぎるなオイ)
 桜花、御前の溜息がシンクロした。いや、もともと彼女たちは人格を共有しているのだから当たり前といえば当たり前なの
だが、わざわざ本体と武装錬金の両方で溜息をつきたくなるほど、知己は一本調子である。
 小札零という小学生女児のようなロバ型は、正にいつもの調子だった。市販品のマイクを手にやんややんやとまくし立て
続けている。小さな体のどこから出ているのか不思議なぐらいのエネルギーを唇から迸らせ、肩のあたりでおさげを景気
よく揺らしている。
「あ……」
 斗貴子が一瞬、何かを言いたそうに口を開き、すぐ噤んだ。
(やはり君も同じ状態、なのか?)
 寸分たがわぬ反応をしながら秋水は思う。聞かなければならないコトが小札にあった。確か、演技の神様との関係性だ。
なのにそれを口に登らせようとするたび強制的に口を閉ざされる。自分の意思などないがごとく、口だけが強引に。
 秋水はいよいよ分からなくなってきた。あの、演技の神様という青年は、何者だったのだろう。
 いったい何を、したのだろう。
 そもそも小札自体、不思議な少女だ。副長という肩書こそ鐶に譲っているが、その実総角や無銘とともに音楽隊創設に
携わった最古参である。いま無銘が10歳なのを考えると、10年前の音楽隊黎明期において総角を補佐してきたのは実質
彼女一人といえるだろう。
 なぜ、総角につき従っているのか。
 実況が得意なのにいでたちが全身タキシードのマジシャンルックというちぐはぐさも不思議だ。
(そういえば彼女の前歴は香美や貴信、無銘や鐶のそれほど聞かされていない。音楽隊に属する前は何をしていたんだ?)

 その辺りが、例の演技の神様の謎を解く糸口になるかも知れないが──…

 懊悩などまったく知らぬ様子で、剛太は小札を揶揄した。
「ところでコイツって戦闘の役に立つんですか? 弱そうだし貧相だし」
「ひ、貧相!?」
 ショックを受けた様子で小札は胸を覆った。誰も身体的特徴には言及していないのだが、平素からのコンプレックスが
そういう行動をとらせたらしい。やがて質問の真意を悟ったのか、彼女は空咳を一つ打ち、再起動。
「むむ! やはりこの点さすがに鋭き剛太どの! 思考の歯車はいま不肖への分析に向かって激しく回り始めたという
ところでありましょう! 確かに不肖、戦闘能力におきましては他の皆々様より数枚劣りまする!」
 まるで他人事のように小札は熱を吹き、卓袱台の上で短い腕を「バババッ!」とばたつかせた。仲間達を順に指差してい
る。斗貴子が気付いたのは以下の紹介が終わったころである。
179永遠の扉:2011/01/21(金) 04:30:35 ID:YYbte9c90
「卓越した剣客かつ理論上総ての武装錬金コピー可能なもりもりさん!!

「敵対特性の兵馬俑あーんど性質付与の龕灯! それら併用可能で忍術たくさん無銘くん!」

「さらにさらにエネルギー抜き出し可能な鎖分銅とそれを存分に扱われるコト可能な貴信どの!」

「あらゆる物をお手に吸い込め吐き出せる香美どの! 野生ゆえの直観力や瞬発力は動物型の中でも実はかなりの高レベル!」

「それから言わずもがなの特異体質と年齢操作の短剣持ちの鐶副長!」

 まるで何かのトーナメントの出場選手を紹介するような口ぶりだ。ほんわかした柔らかい大声は聞くだけで癒されるようだと
秋水は思った。どんぐり眼をきらきらさせる小札の顔はまったく人外のホムンクルスらしからぬ物だった

「以上5名の方々に比べれば不肖! 数枚劣るのもいなめませぬ!」
「あら。そうかしら。例の絶縁破壊は強力だと思うわよ。何しろ神経の絶縁体を破壊して、身動きできなくしちゃんんだから」
 桜花の指摘に小札は目を点にし、汗をだらだら流し始めた。
「そ、それはご体験ゆえの感想でしょーか。裏には何やら絶縁破壊繰り出せし不肖への厳しいご指摘があるような」
「あら。気を使わせちゃった? 大丈夫、おあいこよ。私も小札さんの前歯折っちゃったし」
 そういって艶然と笑う桜花に縮こまる一方の小札である。ちなみにこの両名は同い年(18)である。モデル並の体型で
美女といって差し支えない桜花の傍に小札がいると、その寸胴した幼児体型はますます際立つようだった。
「あああ。ああああ。なぜに同じ年月重ねましたのにこうまで差があるのでしょーか……」
 頭を両手で大仰に抱えるロバ少女は桜花の悩ましい体つきをこれでもかととても必死に凝視した。
 胸、腹、腰。視線から発する破線の矢印マークが下へ下へと傾斜するたび、小札の顔はいよいよ悲壮を極めていく。
 最後には口をあんぐり開け、顔全体をひくひく震わせた。目はもうぐしゃぐしゃだ。クレヨンで書きなぐったがごとくひたすら
乱雑で真黒だ。そのまなじりには超特大のガラス玉のような涙さえ溜まっている。
 打ちのめされた。まさにそんな顔だ。だが総角などはそんな彼女を本当に愛しそうに笑って眺めている。
(これが絆というものなのだろうか……)
 秋水はそんなコトを考えてしまった。男女の機微はよく分からない。少なくても自分が当事者になれるとは思えない。
 実の父親は浮気をした。それが、秋水たちの運命を狂わせる引き金となった。
 父を恨んでいる訳ではない。ただ、押しつけられている。
 妻を得ながら浮気をする人物の息子。それが自分だという事実を。
 それでも小札を見て愛しそうに笑える総角は、羨ましかった。
(……考えるのはよそう。柄じゃない。俺はまだ、それ以外にもやるべき事が沢山ある)

 戦わなくてはならない。

 そう誓う秋水は、まだ気付けない。

 誓いの傍には月を見上げて泣く少女がいるコトを。

 それが太陽のような微笑に戻るよう、祈り続けているコトを。

 疑問を抱く秋水の前で、小札はただ、いつもの調子で喋りまくる。
「ととととにかく、マシンガンシャッフルは壊れた物を繋ぎ合せ自由自在に操れまするが戦場におきまして都合よく壊れた物
があるとも限らぬ以上、戦局によって大いに弱体化するコトもまた大いにありえますのですーーーーーーーーーっ!」
「こいつはこいつで栴檀ども並にうるせえ!!」
 剛太の叫びを更なる叫びがかき消した。
「ですが実は不肖、先の秋水どのとの戦いでさえ使わなかった『7色目:禁断の技』を持っております! こちらはげに恐ろし
き威力ではありますが、戦闘援護の一助ぐらいにはやってみせます頑張りまする!」
 やー! っと拳突き上げる小札の勢いが、秋水の記憶を蘇らせた。
「『7色目:禁断の技』? それはもしかすると、あの戦いの後言っていた……」
「そう! その技なのであります!!」

──「人生というのは色々あるものでして、残る一つの技は故あって封じているのです」
──「……」
──「恐らく使うとすれば、それは絶対に倒すべき恐ろしい敵に対してでありましょう」


 とまあ、わいわいがやがや実に楽しげに騒ぐ音楽隊であるが。
 斗貴子の表情はうかない。
180永遠の扉:2011/01/21(金) 04:33:38 ID:YYbte9c90
3レス分ぐらい削る → まだ多い →半分だけ投下 
なのにこの分量だよ!! 登場人物多いと死ぬよ! オリキャラまだ増えるけど!

181 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/21(金) 04:35:07 ID:SosPZYP+P
あと何となくトリップ表記。
182北斗の拳 ラオウ外伝『そこに正義は無い』:2011/01/21(金) 10:02:24 ID:1iB1D7XB0
199X年、地球が核の炎に包みこまれてからは、世界は、暴力が支配する時代となった。
核によってもたらされた甚大な被害。人はその日食事をすることですら手一杯だった。
そんな狂気の時代に、一人の男が出現した。
その男は、1800年の歴史を持つ、至高の暗殺拳の伝承者になりそこなった男。
幼少の頃より既に『天』を掴もうと追い続けた拳王がいた。

その男の名は、ラオウ。北斗三兄弟の長兄である。

彼は、義父リュウケンの殺害後、自分の力量一つで拳王軍を作り、天を掌握する為に動き出した。
信じられる物は自分の力のみ。他人の情けなど恥辱意外の何物でも無いと考え、生きてきた。
その考えはこれからも変わることは無い。ラオウの元に集まった者達は、その思想に恐怖を覚え、
ラオウの言う儘に征圧前進あるのみと考えた。
その日も、拳王軍は小さな村を襲おうとした。
その村は過疎地であった。食糧も儘ならないのではないかと思われるような土地であった。
崩れ落ちた廃屋、砂塵が吹き荒れ、子供達は痩せこけている。
男達は必死の思いで働き、女達は数少ない食糧で飯を食べさせている光景が窺える。
だが、村人達の眼が死んでいる訳では無かった。
苦しい生活の中でも彼等は強く生きていた。
その証拠に、村を駆けまわる子供達は、苦難を乗り越えたような、輝きに満ちた顔で笑っていた。
この恐怖の時代に、この貧困な村は、心だけが豊かであった。これもまた一種の『平和の象徴』と言えるだろう。
ラオウは愛馬、黒王号と共に、村に乗り込む。

「これはこれは、どの様な御用件でしょうか?」

年老いた老人が笑顔で更に皺を刻んだ顔を見せて、拳王に近づく。長老であった。
優しい、顔だった。乱世の時代に身を落としているとは考えられないような顔だった。

「オラオラ! 命が惜しくば食糧を明け渡せ〜!!」
183北斗の拳 ラオウ外伝『そこに正義は無い』:2011/01/21(金) 10:05:45 ID:1iB1D7XB0
モヒカンの男達が重火器を持って村人を襲う。
拳王軍の領土を拡大する為、この様に村を制圧し、領村にすることは多かった。
昼下がりのこの時刻、家事から離れ、休息をしていた主婦も、老後の人生を安泰に過ごしてきた老人も、
汗水垂らして働いてきた男達も、朗らかに笑い、遊んでいた未来ある子供達も……
皆等しく、紅く、美しく、燃え上がる。

「ギャハハハ! 消毒されてえか〜!」

モヒカンの男たちが下卑た笑顔を浮かべながら殺戮を繰り返していく。

「な…何ということを……」

長老は急いで、今生きている女子供の避難を優先した。
無論、その都度、殺されていく人もいた。
しかし、男達の、決死の補助により、逃げ切れた人も多かった。
だが、それでも、彼等は抵抗することは無かった。
単に、武力が無いだけなのかとも考えた。だが、抵抗をしてこない村人にラオウは憤りを感じた。

「貴様、何故抵抗せぬ。これほどまでに村を焼きつくされ、子供まで殺しているのだぞ?」

ラオウが長老に近付き、問いかける。

「わ…私達は、抵抗する気はありません…ただ…今生きている者だけでも助けなければ…」

長老は声を震わせていた。握っているその拳からは、紅い雫が零れ落ちていた。

「ぬう、それ程までに怒りと哀しみを露わにして何故抵抗せぬ!? 其れほどに哀惜の念に駆られておるならば、この拳王に立ち向かって来い。
うぬには抵抗する牙すら無いのか!!」

額に血管を浮かべ、長老の首根っこを掴む。
長老の細い首は、握ればそのまま折れてしまう程にか細く、弱いものだった。
184北斗の拳 ラオウ外伝『そこに正義は無い』:2011/01/21(金) 10:07:59 ID:1iB1D7XB0
「抵抗をしなければ死ぬ。生き延びたくばこの俺の腕を食いちぎってでも脱出してみろ。抗わねば、戦わねば貴様は死あるのみだ!!」
「ち…長老!!」

村人達が涙を流しながら駆けよる。その顔は、今にも拳王に殴りかからんばかりの表情であった。

「フフ、そうだ。それで良い。戦わねば何も得ることは出来ぬ!」

ラオウが村の男達に対して微笑む。自分にとって先程までの無抵抗は虫唾が走るものであった。
特に、無抵抗を武器と考えるような者などカス以下の以下である。
だが、ラオウの目論見とは裏腹に戦いが起こることは無かった。

「や…やめんかぁ!! 君達は、戦ってはいけない。君達には子供達を次代へ導かなければならない男達! 死ぬ者は、この老いぼれ一人で充分…
さあ、逃げろ…」

喉を掴まれたままの状況だが、あらん限りの力を振り絞り、声を出した。
村人は歯を食いしばり、血の涙を流して逃げた。その先に、光が待っているのか闇が待っているのか、それさえ分からぬまま…

「貴様何故男達を逃がした? うぬは命が惜しいとは思わぬのか? 脳ミソがクソになっているのか?」

ラオウは依然として喉を握る力を緩めない。もう一息で首の骨を折ってしまうだろう。

「闘争は……悲劇を呼ぶ…ばかりです。私…は、この小さな村で……乱世の煽りを受けても耐えしのぎ……日々の幸せを守って参りました。
闘争をしてしまっては、日々の生活など送ることは出来ない。私はこの命を犠牲にしてでも、村人や子供達を戦火の元に晒したくは無い!!」

肉体的なダメージが強くなり、吐血をしたが、それでも、長老は抵抗をしない。
185北斗の拳 ラオウ外伝『そこに正義は無い』:2011/01/21(金) 10:15:22 ID:1iB1D7XB0
「ぬうう!! 気に入らん。戦えばこの苦しみからも逃れられるというのに、何故戦わぬ?」
「私は戦いたくは無い…ただそれだけのことです。戦いとは、勝った者を幸せにするとは限ら無い。戦いに正義など無い!!」

長老が叫ぶ。ラオウは長老から手を放す。長老はすっくと立ってラオウを見る。
拳から血を流し、恐怖心からか、体を震わせながらも物怖じせず、拳王を見上げていた。

「この拳王を前にして物怖じせぬその態度でありながら頑なに戦闘を拒むその姿勢。圧倒的な死の恐怖を前にしてのその行動に敬意を評そう」

巨象程もある巨大な馬、ラオウの愛馬、黒王号から降り、ラオウは老人の前に立つ。

「戦いに正義は無い、と言ったな。元より戦いに正義などと言う抽象的な物など求めてはおらぬ。戦わなければ全ては手に入らぬということだ。
このラオウが目的とする物はただ一つ、天だ!! 天を掌握する為ならば神とでも戦える」

ラオウがその右拳を老人に突く。象の脚程もある巨大な腕が、老人に目掛けて突き進む。

「だが、この拳王を相手に臆さずに自分の主張を貫いたことに敬意を持って答えよう。これが天をも掌握する世紀末覇者、ラオウの拳だ!!」

ラオウの拳によって、老人はその肉体を二つに裂かれた。即死だった。
ラオウは黒王号に乗り、軍を率いて、村を制圧した。
先日まで平和だったこの村も、拳王の支配下に置かれ、恐怖の日々を過ごすことになる。

やがて、そのラオウの覇業にも終止符が打たれることになる。
原因は、圧倒的な力を持った世紀末覇者ラオウの敗北であった。
その男は胸に北斗七星を模った七つの傷を持つ男にして、北斗神拳の正統後継者である。
その男の名は……
186ガモン ◆AZ5sKwHlMSgF :2011/01/21(金) 10:57:12 ID:1iB1D7XB0
スターダストさん、連レス失礼しました。(今回はバッティングしなくてよかったです)
下手な読み切りを書かなくていいからさっさと連載再開しろ。と思われる方には申し訳ないです。
次回こそは続きを書きます。
ラオウ外伝、と銘打ったのにも関らず実際読んだことは無いので、本編のラオウを意識して書きました。
ただ、ラオウでは無くなった気がしますが……

>>見習いさん(同年代です。よろしくお願いします。)
お疲れ様です。
今の時代のモヒカン男は、ライアーゲームのミウラさんのような顔になるんでしょうか?
(ミウラさんは優しい人ですが…)
グフスと名乗る人造生命体はフリーザの部下らしいので、仇敵の悟空かそれともベジータを探しているのか。
どちらにしても少年も、四部の康一君のようにちょっとした縁でストーリーに深く関わってきそうです。

>>サマサさん
お疲れ様です。
原作を知らない私は切り裂きジャックはジョジョ一部のあの人のイメージが抜けませんが
女性ですか…もうどうでも良くなっているようですがきっかけが母親への復讐というのも史実に基づいていると思います。
死姦をする相馬光子などとはまた違った狂気があって面白そうだと思います。

>>スターダストさん
毎度半端ない文量を書けることに尊敬します。これで半分だとは……
5人に比べて劣ると自分で自覚している小札ですが、眼をキラキラさせている所を見るとそんなに悲観していない
というよりも純粋に尊敬しているようですね。実況が得意なのに、タキシードのマジシャンルック…
私はやはり最大トーナメントの眼鏡を掛けた方が浮かび上がるのでやはり異質ですね。
しかし、このちぐはぐさでは神様の前歴を調べるのも容易では無さそうですが……
187作者の都合により名無しです:2011/01/21(金) 12:27:14 ID:6Lo8CDn/0
ちょっと待てなんで急に込みだした?w

>ID:8y19n2W30さん(見習いさん?)
グスフかグフスかどっち?w ドラゴンボールのオリジナルは久々なので楽しみです。
とりあえず読みきりを書いて、気が向いたら連載して下さい。すぐ成長しますよ!

>サマサさん
エログロも直接過ぎなければいいでしょう。オナヌーはちょっとやりすぎですがw
毎度毎度原作は知りませんが、サンホラっぽい詠みきりでいい感じですな。

>スターダストさん
鬼投稿は大歓迎です! 毒島は美少女の割に能力はえげつないですな。一人石井部隊。
小札の可愛さはイカ娘に通じる所があるので、体型はむしろこのままがいいと思う。

>ガモンさん
ラオウは非道を纏って覇道を行くからラオウなわけで、ラオウ的に正しいですな。
このSS読んでゴラクのどげせんの人がラオウに土下座したらどうなるんだろうかと思った。



しかしこの更新頻度で4つ被るというのがシンクロニティw
スターダストさんの更新量は流石ですけど、確か30レス以上一気と言うのがあったな。
1985さんのテーブルのなんとかってやつ。
188作者の都合により名無しです:2011/01/21(金) 16:07:01 ID:QIqyeE5v0
「用って・・・?」
少年は聞いた。
「ちょっとね」
グスフは答えた。

そして手にエネルギーが凝縮した球体を作り空へと投げた。
一瞬 ビカッと光って星空を照らしたエネルギーは四散し消滅していく。
「これで・・・来てくれるかな」
「えっ?」

ぽかんとした表情の少年の上に影が差した。
グスフが影の主を見る。
上空に半袖の道着を着た男と緑色の道着を着た男がいた。
「ちょっと大きい気を感じたから着てみたら」
「こういうわけか」

「ヤムチャさんと天さん…」
「こいつは悪人じゃない。気の質でわかる。だが…」
ヤムチャと呼ばれた男が口を開いた。
空中で自然体のままだが隙が無い。
「恐らく貴方の仲間である人に用があるんです。フリーザ様の為にね」
グスフがニヤリと笑い、パワーを上げる。
彼の体が一回り大きくなった

「フリーザの残党か」
天さんといわれた男がグスフに話しかけた。
キッとグスフを睨み構えをとる。
189作者の都合により名無しです:2011/01/21(金) 16:07:48 ID:QIqyeE5v0
「ここじゃナンだし場所を変えましょう」
グスフが親指で後ろを指す。
“荒野でやろうぜ”というニュアンスである事はその場にいる誰の目にも明らかだった。
「いいだろう」
ヤムチャと天津飯が飛び立つグスフを追いかける。

「言った方がいいのかな?」
その場に残された少年、トランクスは首をかしげながらしばしの間 考えた。



数分後 ヤムチャ達とグスフは対峙していた。

「二人で来てもいいんですよ」
「俺達だって武闘家の端くれだ。そういう卑怯な真似はやらないんだ。尋常にすべきだろ」
「まずは俺からだ。」

グスフとヤムチャの会話に天津飯が割って入った。
「お前のパワーを計らせて貰う」
天津飯の背中が変形する。
二つの突起が肥大化し やがてそれは「腕」の形をとった。
「ほう?」
グスフが一歩前に出る。
自然な形だが即ダッシュが可能なフォーム。

ゴッ。
鈍い音が響いた。
天津飯が一瞬でグスフの背後に回りこんで一撃を与えたのだ。
だがグスフは涼しい顔でバックハンドで反撃を試みる。
バシン。ズン。
天津飯がそれを受け流しグスフにボディーブローを決める。
「お味はどうかな?」
慇懃な表情を浮かべながら天津飯がグスフにたずねた。
「そろそろ本気を出したらどうです?蚊に刺されたレベルですらありませんよ?」
グスフが言葉を言い終わると同時にダッシュする。
「ッ!」
あまりのスピードに驚いた天津飯が4つの腕でラッシュを繰り出す。
牽制・フェイント・ジャブ・ストレート・フック。
一つ手を出すたびに腕が傷つく。
グスフが全てにカウンターを当てているのだ。
「ちぇいやあ!」
グスフの回し蹴りが天津飯の脇腹を捉えた。
「ごはあっ!」
胃液を吐きながら吹き飛ぶ天津飯。
「もっと行きますよ!」
グスフが追撃しようとする。
190作者の都合により名無しです:2011/01/21(金) 16:08:51 ID:QIqyeE5v0
糞ッ。
天津飯は思った。
まさかここまで優れた相手だったとは。
気の大きさで気づくべきだったかもしれない。
ざっと今の自分の三倍は軽く超えている。
ならば。
「ダブル気孔砲ーーーーッ!」
腕で二つの三角形を作り、エネルギーを打ち出す天津飯。
相手を捕らえた。
ダメージはある筈。

その希望的観測は影によって打ち砕かれた。
グスフが両腕を横に広げて「気孔砲」の軌道を逸らしているのだ。
「面白いですねえ」
「馬鹿なッ!」
「先ほどの攻撃…全力ですよね?もう動く力も残ってないのでしょう。今楽にしてあげますよ」
「ううっ・・・」
天津飯の腕が二本へ戻っていく。
天津飯は無言でダッシュしグスフへの距離を詰める。
捨て身の攻撃。
グスフがちらりと斜め下を見る。
天津飯がアッパーを狙う。
が、直後天津飯の体が崩れ落ちた。
カウンターのハイキック。
それが決め技だった。

「次は…ヤムチャさん あなたですね?」
グフスがニヤリと笑いながらヤムチャに向かってゆっくりと歩き出す
「う…うわああああ」
ヤムチャが空を飛んで逃げ出す。
天津飯がやられた今 自分もああなるという事は彼は即座に理解した。
「逃しませんよう」

グスフがヤムチャの目前へと躍り出る。
高速で移動したのだ。
「う・・・あ・・・」
恐怖に縛られ一瞬ヤムチャの動きが止まった。
あまりにもデカすぎる隙。
直後、空中で爆発が起こった。
白目をむいて落下していくヤムチャの体。
ズシン。
仰向けに倒れたままヤムチャはうごかなくなった。


「たわいのない…フリーザ様を倒した奴はどいつだあああああ!」
グスフの絶叫が夜空に木霊した。
191作者の都合により名無しです:2011/01/21(金) 20:54:00 ID:jsdbC9JF0
復活の兆しだといいですね。
特に見習いさん、頑張って下さい。

>ドラゴンボール新作(タイトルつけてね)
天さんがDBの中で一番好きなので、出てきて嬉しく思いました。
ヤムチャは相変わらずの役回りですね。天さんもやられたけどw
これから主要戦力たちが出てくると思うので、楽しみにしてます。

>サマサさん
ハシさんも書いてたという事は有名な漫画か小説なのかな?
一度読んでみたい気もします。切り裂きジャックは色々なネタに
繋がりそうですね。美少女が殺人鬼というのはショックですが。

>スターダストさん
曲者、というか、個性派揃いの楽団の中でも、小札はやっぱり
存在感ありますね。独特の喋り方で姦しくて可愛らしくて。
でも現実的には香美みたいなちょいウザの娘が一番好きかなあw
(※大量投稿で仕方ありませんが、レスのダブりには気をつけましょうw)

>ガモンさん
無抵抗主義の老人も叩き潰す容赦の無さがラオウのカッコよさでも
ありますね。自分の信念の為なら進んで泥をかぶるところが。
でも、ちょっと敬意を表する、って台詞がラオウっぽくないかな?


久しぶりにふらーりさんの感想が楽しみだなあ。
192作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 12:33:07 ID:F5TNLN7S0
ーーカプセルコーポレーション
翌日。

グスフにやられたヤムチャ達が担ぎ込まれていた。
その場にはクリリンを筆頭としたZ戦士達がヤムチャの目撃証言に耳を傾けている。
「フリーザ軍の…生き残りだと?」
「孫の事を知っているのか」
「この気は・・・ギニューという人のものですね」

実際にナメック星でフリーザ軍と戦った事があるクリリンと孫悟飯は知っている。
「トランクスと悟天が経験を積むには丁度いい相手かもな」
「気の大きさだけならな」
ピッコロとクリリンが楽観的な表情で会話を始めた。
(おい 悟天 最初からアレでいこうぜ)
(念の為に…ね)
少年達がヒソヒソ話を始めてドアから出ようとした。
「おい トランクス!仙豆はいいのか!」
クリリンが呼び止める。
「いいですよ。それは天津飯さんの分です」
そして少年達は駆け足で飛び出し空へと躍り出た。
「俺も行きます。」
孫悟飯が道着姿で決意を表した。
「あいつ等だけでも大丈夫じゃないのか?」
「ギニューさんの奥の手を考えれば必要です」

1時間後ー
とある荒野。
グスフは岩の上に座って景色を眺めていた。
(のどかだなあ)
あまりにも平和すぎる情景。
グスフが今まで経験してきた戦闘や訓練とは真逆。

彼の心の琴線に触れた結果齎された穏やかな空気は二人の少年によって破られた。
「そこの人ー!よくもヤムチャさん達をー!」
「敵討ちだー!」
「君は…以前会ったね」
グスフがトランクスの姿を認識して言った。
「あの時やっておけばよかった!」
トランクスが悔しがる。
「やるよ!」
「OK!悟天!」
二人がおもむろにポーズをとる。
何の事かわからないグスフは困惑の表情を浮かべた。
「フュー!」
「ジョン!」
ピカッと光が放たれ、一人の戦士が完成した。
「お前は?」
『ゴテンクス!』
自己紹介を終えるや否やゴテンクスの拳がグスフの腹に突き刺さる。
「げえ」
高速で空中に飛ばされるグスフの体をゴテンクスが追いかけて横からフックを入れる。
更に追跡し背中にキック。
(何というパワー!)
驚愕するグスフの背後に又しても移動し今度は膝。
『ハッハッハー!』
嘲笑するゴテンクスをキッと睨みながらグスフは力を発散して停止する。
193作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 12:33:51 ID:F5TNLN7S0
「気をつけろゴテンクス!」
かけつけた孫悟飯が叫んだ。
『え?』
「奴は…ボディチェンジ という技を持っている。相手と自分の体を入れ替える技をな!」
「詳しいねえ…」
グスフが睨んだまま笑みを浮かべた。
『じゃあやる事は一つだね。ハアアアアア!』
ゴテンクスがパワーを上げる。
髪が金色に光り伸びていく。
(これ程のパワーだと…?)
「ハアッ!」
孫悟飯もパワーを上げる。
二人の戦士の全力の姿、「スーパーサイヤ人3ゴテンクス」と「アルティメット悟飯」降臨。
二人はグスフを挟み込む様に移動した。
『いくよッ!』
「か…め…」
孫悟飯がおもむろに構えてエネルギーの凝縮を始める。
『は・・・め…』
同様にゴテンクスも似たようなポーズをとる。
「う・・・」
グスフが汗を垂らす。
「『波ァァァァァァーーーーー!ッ』」
二つの閃光がグスフを襲う。
エネルギーと衝撃によりグスフの肉体は塵と消えた。


194作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 12:34:40 ID:F5TNLN7S0
と思われたが…

「えっ!」
『ああっ!?」
何と 二人の「かめはめ波」が交互に動いたのだ。
確かにグスフを挟み撃ちにした筈なのに。
「避けろーゴテンクス!」
「うわあああ」
孫悟飯は全力でガードする。
もちろんゴテンクスも。

「ッ!」
「ゴテンクスと…」
「悟飯の気が…」
「消えた…」
ブルマが持っていたお茶を床に落とした。


「阿呆が」
戦士が消えた場でグスフは呟いた。
彼がどの様な事をしたのか。
本人以外は知らない。
ただ一ついえる事はグスフは1%の確率さえあれば戦況をひっくり返す事が出来る。
それだけだ。


To be continued.

195作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 14:13:05 ID:+AZdiRoD0
おお新人さんお疲れ様です。
最強レベルの悟飯が負けていよいよお父さん出陣かな?
多分、最後まで書いて1日ごとにうぷしてると思うけど
完結目指して頑張って下さい。

スターダストさん、サマサさんはじめ、今年は幸先いいね。
ガモンさんも戻ってきてくれたし、
NBさん、さいさんもちょくちょく書いてくれるし。

銀杏丸さん、邪神さん、ハシさんはちょっとご無沙汰で心配。
196作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 21:04:05 ID:H/0tyhdJ0
やっぱり小札は可愛いな
実際こんな口調の奴がいたら殴りたくなるけど


新人さんは筆力はまだまだだけど
ぜひ頑張って長編を書いてほしいね
197ふら〜り:2011/01/22(土) 22:02:56 ID:FnWk5fZW0
久方ぶりの、この書き応え。ありがたやです。

>>DB新作さん(おいでませ! 纏めさせて頂いておりますので、御名前と作品タイトルを何卒)
フリーザの残党と一言にいっても、あの組織の構成員はかなりピンキリだからなぁ、と思っていたら
思いっきりピンの方だった様子。それもDBでは数少ない、グルド的超能力を使う模様。ジョジョ
ではなくDBですから、ほぼ力技で破るんでしょうけど、なかなか手強そう。まだ正体不明ですしね。

>>スターダストさん(削らず多いまま、それを二回三回に分けて下されば長く楽しめて歓迎ですぞ)
>もっとも斗貴子(B78)一筋の剛太が惑わされる道理もなく。
しからば、これを機に新しい属性を目覚めさせられるのも男の子として間違いではない道で
あり……と、その辺りの展開がこれからも楽しみ楽しみ。前作からの根来・千歳組とか、青空と
桜花の姉対決とか(でも戦闘力は雲泥だろうなぁ)、いろんな組み合わせの会話・共闘に期待!

>>ガモンさん
ありましたねえ無抵抗村。いろいろ美化というか持ち上げられてるラオウですけと、彼は決して
善人ではない。モヒカンたちのボスなんですしね。そりゃまあ天下統一すれば乱世よりはマシかも
しれませんが、それでもかなりの圧制はするでしょうし。長老を殺す辺り、そういうラオウらしさです。

>>サマサさん
切り裂きジャックはいろんな作品でいろんな風に描かれてますが、女の子とは珍しい。そして
本作の場合は「切り裂き」以外の部分も凄惨ですね。娼婦を恨む理由がしっかりしてて、それ
故に迫力あります。魔物とかではない、一般人を相手にしての返り血まみれ美少女。うぅ怖い。

>>見習いさん
ぶっちゃけた話、自分の好きな作品に対する妄想を描きゃあいいんですよと
経験者は談じます。ささ、遠慮なさらず。
198作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 23:23:47 ID:F5TNLN7S0
昼。
晴れた空の中一人の男が高速で移動していた。
男の名はベジータ。
ゴテンクスの気が消滅すると同時に外へと飛び出していた。
彼の当面のターゲットはゴテンクスと孫悟飯を殺した張本人。

都から大して離れてはいなかったので彼はあまりエネルギーを使わずに相手を見つける事が出来た。
「おい。そこのお前」
押し殺した様な声でベジータは相手に問いかけた。
「はい。…貴方はベジータ様!?」
相手が男に聞いた。
「俺を知っているのか。」
「はい。データベースでフリーザ軍の勇士の一人でありかなりのエリートだったと。」
「おだてても ゴテンクス達は戻ってはこない。お前には消えてもらう」
気を開放し構えを取る。
「そう 気張らずに。」
「だあッ!」
ベジータが掌から衝撃波を出す。
グスフはじっとその様子を見つめた。
衝撃波がグスフの目の5CM前まで迫る。

(遅いんだよ)
グスフはニヤリとつめたい笑みを浮かべた。
グスフの元になった存在の一人、「グルド」
彼の超能力「時間止め」
それが今 この瞬間だけ世界を支配していた。
「悪いね。ベジータさん。貴方の肉体が必要なんだ。ボディーチェンジ!」
グスフの口からエネルギーが出てそれがベジータの口から体内へと入る。
「時間は動き出すってね!」
ビュワワッ。
「どわっ」
グスフの肉体が吹き飛ぶ。
背後にあった岩へと激突し動かなくなる。
「ん〜ふっふっふ。記憶を読めば…え…?」
グスフはフリーザを斃した者を知った。
それは先程彼と戦った「ゴテンクス」なる者になった少年と似ていた。
「まさか・・・成長した“トランクス”という少年だったのか…」
消してしまった以上、もう彼が戦う理由は無い。
「やりました!やりましたよ!フリーザ様!」
一人勝どきを挙げるグスフ。
だが彼はベジータの記憶を読む内もっと大変な事に気づいた。
「・・・未来からの…?」
それは彼にとって非常に意外な事だった。
“タイムスリップ”など非現実・非科学的な事であるというのが彼の結論だった。
そんなものがあればフリーザを斃した者に自分から会いに行っていただろう。

199作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 23:24:41 ID:F5TNLN7S0
「そいつはちげーなあ!」
突然 野太い声がした。
「誰ですっ!?」
「おら、孫悟空ってんだ!」
グスフは空を見上げた。
彼が持っている写真に写っている人物がそこにいた。
「気でわかる。おめーはベジータの肉体を乗っ取りやがった」
「あなたが…フリーザ様の仇ですね。」
「ああそうさ。」
グスフは相手の言っている事が嘘であるという事を理解していた。
仇が平行世界の存在であり接触する手段が無い以上もう戦う意味は無い。
だけども。
こいつがフリーザ様を追い込んだ張本人。
許せない。
自分はフリーザ様の為に創られた生命体。
だから。
命は。
フリーザ様の仇討ちの為に!


孫悟空とグスフ。ゆっくりと歩いていく。
二人同時に足を止める。
一閃。
ドン。
突きを受ける。
パァン。
蹴りを受け流す。
「チェイ!」
グスフのグルリと横に回転しながらキック。
ビュンという空気を裂く音がして衝撃波も発生する。
「おっと」
驚いた様な表情をして紙一重で避ける悟空。
「そこだ」
踏み込んだグスフの膝が唸りをあげる。
「ごふぉっ」
唾を出しながら上空へと弾き飛ばされていく悟空に更にグスフは追撃のエネルギー波を片腕で見舞う。
「ギャリック砲!そらそらーっ!」
片方の腕からもエネルギーを繰り出すグスフ。
ドン!という轟音とともに爆発が発生する。
煙が晴れた時、空間の中心から現れたものは金色の髪をし 同色のオーラを身にまとった戦士だった。
「ふう…ウォーミングアップはこん位かな」
スーッと音を立てて降下する孫悟空にグスフが突撃した。
パンチとキックが唸りをあげながら降りかかる。
それを難なく受ける孫悟空。
スピード勝負。
グスフは体力を使わないスタイルに出たのだ。

そして 恐らく「格闘技」が地球上に出始めた時から使われた全ての「素手による攻撃」のパターンが出し尽くされた。
パンチ。キック。フック。エルボー。ヒップアタック。
タックル。投げ。カカト落とし。ネリチャギ。サイドキック。
アッパーカット。ボディーブロー。足払い。膝蹴り。

どれもこれもが宇宙の「超一流のファイター」の10倍を超える精度で何発も繰り出された。
だが相手は「孫悟空」というイキモノ。
パワーが乗らない速度だけの攻撃ではビクともしない。
それどころか受けるか避けるかのスタンスに出て余裕の笑みを浮かべている位だった。

200作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 23:25:28 ID:F5TNLN7S0
(ベジータの気はまだある)
距離をとって孫悟空は思った。
何とかしてベジータの肉体と魂を結び付けなくてはいけない。
だから本気が出せない。
さっきから攻撃していないのも相手の出方を探り、作戦を立てる為なのだ。
相手がボディーチェンジせざるを得ない様にして上手く瞬間移動してグスフを元の肉体へと戻す。
それが 孫悟空の出した結論だった。

「避けてるだけでは勝てませんよ?」
挑発的なセリフを吐きながらグスフはパワーを上げる。
ベジータの肉体が金色に光り目の色が青へと変わる。
「へっ」
再度、激突。
今度は気による技の応酬。
連続エネルギー弾をグスフが繰り出すと、孫悟空が追跡エネルギー弾を繰り出す。
反撃として孫悟空が「かめはめ波」を繰り出せば グスフが「ビッグバンアタック」で相殺。

「私はまだ…全力を出してはいませんよ?」
グスフが笑いながら立ち止まる。
「オラもだ」
二人とも静止。
風だけが動く。

不意に孫悟空が消えた。
「ッ!?」
グスフは目で追う事も“気”を探す事も出来ずに焦った。
それが痛手でありミスだった。

背後から飛び蹴りを喰らい吹き飛ばされた所をかめはめ波で狙い撃ちされたのだ。
「いい加減終わらせるぞ。はああああああああ!」
孫悟空がふんばり体の奥底から力を搾り出し始める。
空と地面が揺れ動き、雷が鳴り始める。

体が太くなり 眉毛が無くなり 髪が長く伸びた。
(これが…スーパーサイヤ人3!)
ベジータの記憶を読み取るとグスフは戦慄する。
そして笑った。

「え」
孫悟飯は狂ったのかと言いたげに目を広げる。
だが違った。
グスフは確信を得て笑ったのだ。
「貴方にも見せましょう。この方の肉体の真の力を」
グスフがベジータの肉体をフルパワーで稼動させ始める。
ドウッ!
周囲の空気が飛び去り、岩が崩れ雨が降り始める。
「まさか…」
「そのまさかですよ!孫悟空さん!」
ベジータの肉体から髪が伸び始める。
そしてその姿は孫悟空のソレと酷似していた。

201作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 23:26:25 ID:F5TNLN7S0
(貴方がこの姿を見るのはこれで最後ですけどね)
「ちっ。龍ゥゥゥゥゥゥ拳ンンン!」
右腕を突き出しながら相手に接近する孫悟空。
その姿をグスフは追う事が出来なかった。

(瞬間移動…か。だがッ!)
一手遅かった。
最大のパワーと最高のスピード。
それら二つを兼ね備えた 一撃必殺。
ソレが『龍拳』

しかし今のグスフなら「気」の動きを精密に捉える事が出来た。
「ストップザターイム!」
全てが静止していく。
風、葉、土、人、星、時間そのものも。

音一つしない“セカイ”で動く主。
それはグスフ。

グスフの両腕の掌にエネルギーが収縮されていく。
それはベジータの肉体の生命を削る程であった。
「ファイナルフラーッシュ!」
孫悟空の両脇から光の玉が迫る。
恐ろしい程の破壊エネルギーを秘めた玉に孫悟空の肉体が飲み込まれていく。
ドゥン。
中途半端な爆発が起こる。
時間が止まったセカイでは膨らんだまま静止するからだ。

グスフは爆発に背を向けると岩地に向かって飛んだ。
そして自分が吹き飛ばした肉体の傍に降り立った。

「ボディーチェンジ!」
グスフが自己の肉体に乗り移る。


「そして…刻は動き出す」
ドオオオオオオオオオオオオオオン。

星が揺らぐかと思える程の轟音が起こり 地が焼けるかと思える程の高熱が空を支配した。
その中で一人、髪が黒い男の体が静かに音も無く落下していく。
焼け焦げた肌、ボロボロになった衣服。

地面に激突した男はもう 息をしていなかった。

(終わりましたよ!フリーザ様!)

「う…カカロット…カカロットォォォ!」
目を覚ましたベジータが孫悟空の絶命に気づき絶叫する。

「貴方にもあったですか。涙は」
グスフがベジータを嘲笑する。
「このヤロオオオオ!」
ベジータがグスフに殴りかかる。
だがエネルギー残量は歴然として。
ヒョロイパンチしか出せずにフラフラと倒れ込むベジータ。
「終わりですよ」
グスフの言葉と同時にエネルギー波がべジータの胸の中心を貫く。
「ごふっ」
血を吐いて倒れるベジータは白目をむき永遠の眠りへとついた。
202作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 23:27:24 ID:F5TNLN7S0
「終わった…全て…終わったんだあああああああああああああ!」
歓喜の涙がグスフの目から溢れていた。
空を仰ぎ躍り出る。
「…まだだぜ」
「ああ」

二つの声がした。
グスフが横目でチラリと覗くと緑色のボディをした男と小柄な地球人がいた。
「もうドラゴンボールは使えない…もう誰も生き返れない!」
「魔人ブウの時にエネルギーを使いすぎたんだ!」

「ふっ 今度は自分の番ですか」
「ああそうだ」

グスフと二人の戦士達が激突する。
いつものグスフなら難なく勝てていただろう。
だが今回は違った。
ボディーチェンジの後に自分で付けた傷が思わぬ深度にまで達していたのだ。
グラリとゆれるグスフの肉体と意識。

そして。
「魔貫光殺砲!」
「気円斬!」

分断され、胸を貫かれたグスフは…息絶えた。


「終わったんだなピッコロ」
「ああ。」


その後「ドラゴンボール」と呼ばれるモノの不思議な力は「宇宙の平和」を守る為に「封印」され
使われる事は無かった。


203作者の都合により名無しです:2011/01/22(土) 23:33:07 ID:F5TNLN7S0
後書き

さていかがでしたでしょうか。描写が大雑把で伝わりにくい所が多々ありましたがね。
まあそこらへんは読み手である皆さんの「想像力」を使ってもらうしかありません。

自分の「創作」の原点は「ドラゴンボール」のアニメの演出にあります。
漫画では出来ない演出が「アニメ」にありましたよね。
あれを文章に出来たらなと10年間思ってきました。

んで結果がコレです。
短時間でやれるレベルとしてはこれが自分の限界なんです。

いい加減「SSを書く」事が「痛い」年齢になってきました。
だからこういうクソSSを書いたんです。

あえてダメな質の作品にする事によって『区切り」をつけたかったんです。
その試みは上手く行きました。

下手?当たり前だろ。下手に書いてるんだから。
プロじゃないんだ。作家なんて地位が低い職業。
ましてやアマ作家なんて掃いて捨てる程いるしなぁ?

いつか気づくはずです。
「ああ自分のやって事は痛いオタクがやる事だったんだ。クソの役にも立たないレベルだったんだ」ってね。

これも私の黒歴史の一つです。
これを終わらせる事によって私は禊をつける事が出来るんです。
さようなら。

もうこのスレには来ないし
SSを書く事もないでしょう。
おさらば。
204作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 08:46:57 ID:wr3y4YZc0
とある殺人鬼の物語(後篇)

伝説にして空前絶後の殺人鬼―――<切り裂きジャック>。
その凶刃によって命を奪われた犠牲者は、確実に分かっているだけで五人―――
実際には、二十人近くの娼婦が殺されたとも言われている。
捜査線上には多くの容疑者が浮かび上がったが、その正体は誰も特定出来なかった―――否。
たった一人。
碩学(せきがく)ならぬ身で天才と呼ばれ、当時、唯一<名探偵>と称された男。
常識も桁も外れた洞察力と推理力と情報収集力、そして行動力を備えた超人。
その名を<シャーロック・ホームズ>。
彼に<切り裂きジャック事件>の捜査を依頼すべくベーカー街221Bのアパートを訪れたのは、二人。
まずは、スコットランド・ヤードのレストレイド警部―――そして、彼の帰りを見計らったかのように
現れた、ジュスティーヌと名乗る見目麗しい女性だった。
レストレイドは法と正義と国の平和―――個人的理由として溺愛する姪っ子の身の安全―――の為に。
ジュスティーヌは<さる、偉大なる御方の崇高なる目的>の為に―――
それぞれ<切り裂きジャック>の正体を突き止める事を依頼してきた。
その灰色の脳細胞を駆使し、導き出した解答。

―――切り裂きジャックは、イーストエンドの路地裏を根城とする、年端もいかぬ一人の少女。

二人の依頼者に、この答えが知らされたのはほぼ同時…正確に言えば、レストレイド警部の方が、少し
だけ早かった。
しかして、より速く動き出したのはジュスティーヌ。
この差は、レストレイドが警察の一員であり、何をするにも煩雑な手続きが必要であった事。
逆に、ジュスティーヌはそれよりも遥かに身軽に動けるだけの融通と権限を持っていた事に起因する。
もしも…もしも、スコットランド・ヤードが少女の細腕に手錠をかける方が早かったとしたら。
美しき殺人鬼は法によって裁かれ、最低最悪の犯罪者として処刑され、人生を終えていただろう。
最低限とはいえ―――人として死ぬ事が、赦されただろう。
だが、そうはならなかった。

1888年11月9日。
少女のちっぽけな世界は脆くも崩れ―――そして、新たな物語が始まる。


いつもの殺し。
その筈だったのに。
いつも通り、娼婦を見つけては襲い、襲っては惨殺するだけの簡単なお仕事。
その筈だったのに。
「な…なんなんだ…」
ガチガチと自分の歯が鳴るのを、ブルブルと身体が震えるのを抑えられない。
目の前には惨殺され、解体された今宵の蛮行の犠牲者。
そして。
「どうしたんだい、仔猫(キティ)。先程までの威勢は、何処にいってしまったのだろうね?」
怯える少女を眺め眇めて、舌なめずりをする男。
黒ずくめのタキシード。黒髪黒瞳。夜を具現化したような、黒に塗り潰された男だった。
何より黒いのは―――空気。男が発する気配自体が、おぞましいほどに黒い。
何が起こったのか、少女にはよく分からなかった。
何が襲ったのか、少女にはよく分からなかった。
唯一つ…この男が、途方もない怪物とだけ分かった。


とあるアパートの一室。
娼婦を殺し、少女は解体に勤しんでいた。
頭の天辺から爪先まで、哀れな娼婦の肉体の全てを切り刻んでから、腹を割いた。
赤黒い子宮を引っ張り出して、糞が詰まった大腸を取り出す。
205作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 08:47:45 ID:wr3y4YZc0
血と糞尿の交じり合った異常な臭気さえ、今の少女にとっては芳しい媚薬だ。
うっとりしながら胃を、腎臓を、肝臓を、脾臓を、心臓を、次々に抉り出していった。
まさに至福の一時。凄惨極まるおままごと。
この世の地獄としか思えない、その場所に。

―――そいつは、月光を纏って現れた。

「こんばんは、お嬢さん(フロイライン)―――お楽しみの所、失礼するよ」
音も立てず、気配すら発する事なく、黒き男はまるで、最初からそこにいたかのように、気軽な調子で
少女に笑いかけた。
「な…なんだ、テメエっ!」
狼狽し、ナイフを構えて男に向き合う。焦っていた。恐怖していたといってもいい。
現場を見られた事以上に、男そのものの放つ、異様な雰囲気に。
「フフ」
対する男は余裕そのもので、少女を見つめる。まるで、ヤンチャな仔猫をいとおしむように。
「笑うな…」
それを嘲り受け取り、少女は―――<切り裂きジャック>は、狂気を持って凶刃を振るう。
「わたしを笑ってんじゃねえぞ、ネクラ野郎っ!」
突き出された刃は、しかし、ポッキリと根本から折られた。
男が人差し指と中指だけで刃先を摘み、まるで爪楊枝のように、あっさりへし折ったのだ。
「え…え…」
少女にとって、その銀色に輝く刃物は、絶対の武力だった。
どんな愚鈍だろうと、それを突き付ければ、顔を青くして自分に向かって土に頭を擦り付けた。
なのに―――何で―――
「―――何で。何で折れてんだよォっ!?ナ、ナイフってのは刺したり切ったりするもんだろォっ!?
折れるもんじゃねぇだろォがァァァァっっっ!!!」
「下らんね。何という低能だ。そんなもので私を…<モントリヒト>を殺せる気でいたとは」

ズォォォォォッ!
夜気を切り裂き、瘴気を噴き出しながら、男の背中からドス黒い翼が広がった。
痺れた頭で、やっとこ少女は理解した。
自分は…この世のものならぬ<怪異>に出遭ってしまったのだと。

<月の一族(モントリヒト)>

即ち―――吸血鬼。
それは遥か昔から存在する、人間の血を啜り、肉を喰らう異形の怪物(モンスター)。
夜を支配する王。
霊長類の頂点を極めたはずの人間の、更に上位に位置する存在。
通常の生命体とは比較にもならない身体能力と、数々の異能力。
ヒトは、彼等に恐怖しながらも、時に憧憬を覚え、崇拝さえする。
ヒトは、本能的に知っているのかもしれない―――彼等こそ、己の主だという事実を。


―――いつもの殺し。
その筈だったのに。
いつも通り、娼婦を見つけては襲い、襲っては惨殺するだけの簡単なお仕事。
その筈だったのに。
「な…なんなんだ…」
ガチガチと自分の歯が鳴るのを、ブルブルと身体が震えるのを抑えられない。
目の前には惨殺され、解体された今宵の蛮行の犠牲者。
そして。
206作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 08:48:49 ID:wr3y4YZc0
「どうしたんだい、仔猫(キティ)。先程までの威勢は、何処にいってしまったのだろうね?」
怯える少女を眺め眇めて、舌なめずりをする男。

―――なんで、こんな事になっちまったんだよぉっ!?

あっさりと組み敷かれ、少女は今度こそ、絶望した。
こいつは、本気でわたしを殺す心算(つもり)だ。
わたしを―――殺すんだ!
「な…なんで…わたしを…こ…殺す…の…?」
「なんで?可笑しな事を訊ねるものだね。狩猟に理由なんているのかい?君だってそうだろう。楽しい
から、愉しいから、樂しいから殺す―――私もそうなのさ」
ククク、と。吸血鬼は魔王のように残虐に嗤う。
「君のような仔猫の可愛いお顔が恐怖と絶望に歪むのを見るのは、最高だ。そして、その顔を引き裂く
のは、もっともっともっと最高だ。嗚呼、私の槍(ロンギヌス)を見てくれ給えよ…君を嬲る喜びで、
こんなに猛っているぞ」
言葉通り、スラックスの上からでも分かるほどに彼の怒張は限界まで漲っている。滲み出したカウパー
が股間に染みを作っていた。
「素晴らしい。素晴らしいよ。君の血を啜る瞬間、私はきっと射精してしまうだろう」
「…………!」
涙と鼻水と涎で顔中をグシャグシャにして、少女は酸欠の金魚のように口をパクパクさせる。
如何なる怪物的殺人鬼といえど―――真の悪魔(デモン)の前には、無力な少女にすぎない。
「さあ、仔猫。精々、小粋な命乞いを聴かせておくれ」
「…………あ…」
プシャァァァ…。
間の抜けた音を立てて失禁しながら。
無理矢理に笑顔を作って、少女は必死で悪魔に媚びる。
「あ…あた、し…」
「ん?」
「あた、し、これでも、昔は娼婦、だったから…た、助けてくれる、なら…や、ヤらせて、あげる…」
ポカンと。吸血鬼は、口を開けた。
「く、口がいいならしゃぶったげる!下の方だって好きなだけヤっていいよ!?そ、そうだ!お尻の方は
ま、まだ処女なんだよ?だ、だから、助け…」
「君はバカかね」
吸血鬼は、心底呆れたと言わんばかりに嘲った。
「我々にとって人間とは血を提供する家畜に過ぎない―――君は豚を殺す時に、豚が<セックスさせて
あげるから助けて>とぬかしたら救ってあげるのかい?」
「あ…う…うぐぅ…」
「君にはがっかりだよ。この地上で最も高貴な精神と誇りを持つモントリヒトである私に、そのような
惨めったらしい命乞いを聴かせるとは―――俺様をバカにしてんのか!?えっ!?このビッチがァっ!
誰がテメエの腐れマ○コになんぞ突っ込むかよ、ビチグソがァッ!」
先程までの紳士ヅラをかなぐり捨て、本性を露わに、モントリヒトは牙を剥き出しにする。
終わった。
少女は絶望と恐怖の臨界点などとっくに越えて、ある意味で安堵と平穏さえ感じていた。
これで、終わる。
最低で最悪なわたしの人生は…やっと、終わるんだ。
少女は目を閉じた。
「もう…いいよ」
気付けば、虚ろに笑っていた。
「せめて…楽に、死なせて…」
「…よかろう」
落ち着きを取り戻したのか、穏やかな口調に戻って、吸血鬼は少女の耳元で囁く。
「なぁに、痛いのは一瞬さ。その血を、我が糧としてくれよう」
首筋にかかる、冷たく、死臭が漂う吐息。
207作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 08:50:07 ID:wr3y4YZc0
次の瞬間には、その牙が、この血を、命を、吸い尽くしてくれるだろう。
少女は生まれてこの方ありえない程の静かな心境で、その時を待った。

「まだよ」

凛と響く、声。

「あなたはまだ、冥府の王の元へ逝くべきでないわ」

目を開き、その声の主を見た。
窓辺から修羅場と化したこの部屋に降り立ったのは、まるで女神のように美麗な女性。
豊満な肉体を包む、胸元から腹部までざっくり露出させた大胆な衣装。
むせ返る様な色香を放つ彼女の名は―――F05(エフ・ヒュンフ)。
その神々しいまでの美貌に、少女は命の危機さえ忘れて見惚れた。
「め…めがみ…さま…?」
それが、彼女に対する第一印象だった。F05はまさしく女神のように艶然と、少女に微笑む。
対して吸血鬼は顔を引き締め、少女から離れる。
その表情からは緊張と、そして僅かながら恐怖すら見て取れた。
強大なる悪魔が―――たおやかな一人の女性を、恐れていた。
「なるほど…美しすぎる屍人姫の御登場というわけか」
「あら。どうやら私の事を知っているようね?」
「知らぬわけがないさ。我等モントリヒトの忌々しき怨敵―――<装甲戦闘死体>め!」

<装甲戦闘死体(Die Panzerkampfleiche)>

其れは、復讐の衝動(イド)に突き動かされし狂気の天才―――
<ヴィクター・フランケンシュタイン>によって造り出されたモノ。
死体を素材とする禁忌の超人戦士にして、モントリヒトを抹殺する為の禁断の兵器。
墓を暴いて、道端に打ち捨てられた死体を拾って。
時には自らの手で人を殺してでも、フランケンシュタインは素材を集めた。
全ては、モントリヒトを一匹残さず全滅させるべく。
その尖兵となる為に、ただそれだけの為に、彼女達は死せる後も動き続ける。

そして、彼女―――F05はその一体。
生前はパリを恐怖に陥れた毒殺魔ド・ブランヴィリエ侯爵夫人。
死後は装甲戦闘死体F05としてモントリヒトを虐殺する、生粋の殺戮者である。


―――勝負は、あっけないくらいに一方的だった。
少女を脅かしていた恐るべき吸血鬼は全身を切り刻まれて、血の詰まった肉の塊と化した。
「が…ガハ…ッ…!」
人間ならば悠に十回は死ねている筈の重傷を受けて、それでもまだ、彼は生きていた。
それはむしろ、不運でしかない。
ただ、苦しみを無意味に長引かされているだけなのだから。
そのズタズタの全身に、F05の振るう、無数の刃が付いた鞭が巻き付く。
「ぐっ…う、うう…」
「これで終わりよ、汚らわしいモントリヒト」
ヒトは、悪魔の前には無力―――されど。
その悪魔とて、悪魔殺し(デモンベイン)の前にはまた、無力だ。
「さあ、腐れ吸血鬼(ファッキン・サッカー)。精々、小粋な命乞いを聴かせて頂戴」
「…は…」
彼は、それでも。
最期の時を迎えても―――地上で最も高貴と自称する誇りだけは、失わなかった。
208作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 08:52:26 ID:wr3y4YZc0
「一足早く、地獄におわす我等が神の元で待っているぞ。美しすぎる屍人姫よ…」
「それでは―――Au revoir(さようなら)」
F05は。美しき屍は。大蛇の如く、鞭を撓らせた。

「汚れし処刑―――ダーティー・エクスキューション!」

モントリヒトの肉を引き裂き、抉り、細切れに変えて―――ようやく。
彼は苦痛の生から解き放たれて、灰へと還った。
「…任務その一、モントリヒトの抹殺―――完了。さて」
部屋の隅でガタガタと震える少女に向き直る。目が合った瞬間、彼女はビクっと身を竦めた。
「怖がらせちゃったかしら?安心なさい。私はあなたの味方よ」
頭を撫でてやろうと、手を伸ばした。

パシッ―――!

少女はその手を、反射的に振り払う。
今まで、自分に向けてそうしてきた奴等は、自分を殴りつける為だけにその手を翳してきたから。
「可哀想に」
それでもF05は、慈悲と慈愛に満ちた笑顔を、少女に向ける。
「今まで誰かに優しくされたことがないのね…愛を、知らないのね」
そして、そのしなやかな腕で少女の小さな頭を包み、豊かな胸にその顔を埋めさせた。
顔は涙や鼻水でグシャグシャ、おまけに小便塗れの小汚い姿をまるで厭う素振りもなく、抱き締めた。
「大丈夫よ。私はあなたを、ぶったりしないわ」
「あ…」
まるで氷のように体温を感じない肢体だった。だが柔らかく、優しい抱擁に、少女から力が抜ける。
不意に、F05は顔を近づけてくる。少女は動けない。
「可愛いわ。あなたのような子、大好きよ」
唇を合わせてきた。突然の行為に一瞬、身を震わせるが、少女は抵抗しようとしない。
女性同士という禁忌も忘れるほどの甘美な接吻。
F05の舌が、少女の口内に入り込む。戸惑いながらも、少女は自ら舌を絡ませてきた。
ややあって、二人の唇が離れる。唾液がつー…と、糸を引いた。
少女は顔を上気させて、うっとりとF05を見上げる。
「あなた、お名前は?」
「名前…は…ありません」
そんなもの。誰も、自分にくれなかった。
「そう。あなたは誰からも…何も、貰えなかったのね」
「…………」
「何もかも奪われ、虐げられ、嘲笑われてきた・・・そうなのね?」
「…………」
返事はないが、はいと言っているも同然だ。

「だったら、私があなたに全てを与えてあげる」

「美味しいお菓子に温かい食事、綺麗なお洋服にふかふかの毛布」

「あなたを笑ってきた奴等を見返してやれる力も。そして」

「私が、あなたの家族に―――あなたのお姉様になってあげるわ」

「…どうして」
少女は問うた。
「なんで…あなたのような方が、わたしに、そこまでしてくれるんです?」
「好きだから。それじゃあ、ダメかしら?」
「え…」
絶句する少女に、F05は言い募る。
209作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 09:13:56 ID:4Js8QGU30
「あなたを一目見た時から、思ってたわ。あなたのような可愛い妹が欲しいって。そんな理由じゃダメ
なのかしら?」
「そ…それは…」
「ねえ。お願いよ。どうか…私の妹になって頂戴」
嗚呼、そうか。少女は思った。
わたしの人生は、この時の為にあったんだ。
今までの不幸は全て、この幸福を迎える為の試練だった。
神様、ありがとう。
今までテメエに会ったらクソ塗れにしてブチ殺してやるなんて思ってて、ごめんなさい。
これからは毎日感謝し、お祈りを捧げます。
ありがとう。わたしの元に、この御方を遣わせてくださって、本当にありがとう―――!
「わ…わたしでよかったら…あなたの、妹にしてください!わたし…わたし…!」
「いいのよ。もう何も言わなくていいの」
ぐっと。少女を抱き締める腕に、力を込めた。
「これからは私の事は、お姉様と呼びなさい」
「はい…お姉様…」
あの怪物は何だったのか。
それをいとも容易く屠った彼女は何者なのか。
依然として謎ではあったが、そんなものはどうでもよかった。
わたしの惨めな人生は、ここで終わる。そして、新しい人生が始まる。
地を這う醜い芋虫が、誰もが見惚れる美しい蝶になるように。
私は、生まれ変わるんだ!

「それじゃあ―――潔く、死んでから出直してきて頂戴」

チクッ。
首筋に鋭い痛みを感じて―――次の瞬間、それは地獄の苦痛に変わった。
頭が痛い。吐き気がする。血液が沸騰しているような灼熱感が全身を駆け巡る。
口がカラカラに乾く。体中が痛くて堪らない。汗が止まらない。
「ぐ、ぎゃ…ぎゃぁぁぁぁっ!」
悲鳴。
F05の狂った心には、それはまるで一流の楽団によるオーケストラのように心地よく響いた。
「それにしても、本当によかったわ。あんな腐れ吸血鬼(ファッキン・サッカー)に殺されなくて」
「あ、あ、あ、あぎゃああああああああ!」
「人間を殺すのは、人間だけに与えられた、極上の娯楽ですもの―――ね」
「な、なにを…なにを、しやが、った…!」
「砒素をベースとして特別に調合した毒薬…<ヒュドラ>。この世で最も苦しく死ねるお薬よ」
平然と。
F05は、恐ろしい事をのたまった。
「私は<装甲戦闘死体>―――その妹になるからには、あなたも死んでもらわないと」
「あ、が…な、なんだ、と…!」
「究極の殺人鬼<切り裂きジャック>―――その身体はきっと、最高の素材になるわ」

それが―――理由。
<切り裂きジャック>を探していた、その目的。
優れた素材の発掘。
墓を暴いて、道端に打ち捨てられた死体を拾って。
時には自らの手で人を殺してでも―――素材を集める。
全ては、モントリヒトを駆逐する為に。

「けれど、あなたを気に入ったのは本当よ?あなたのような可愛い妹が出来るなんて、嬉しいわ」
「ち、ちく、ちく、チクショウ…!」
やっぱり、神様なんて頓珍漢のド腐れ野郎だ。
210作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 09:15:11 ID:4Js8QGU30
こんなド外道をわたしの前に連れてきやがるなんて、何してくれてやがるんだ!
わたしが何をしたんだ!
どうせ遅かれ早かれ地獄に堕ちやがるような、薄汚ねぇ娼婦共を殺しただけじゃねえか!
恨んでやる…!呪ってやる…!殺してやる…!
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!

「F08(エフ・アハト)。あなたに与えられる予定の名よ」
F05は、その名前を愛しい恋人であるかのように口ずさむ。
「あなたは、三代目になるわね。初代のF08も、二代目も、共に私の良きパートナーだった―――
あなたも彼女等と同じく、私の素敵な相棒(バディ)になってくれると信じて…あら」
少女の瞳からは、既に光が消え失せていた。
毒の影響で、全身に紫色の斑点が浮き上がっている。
だらりとグロテスクに垂れ下がった舌。
「何だ…もう死んじゃったの?もう少し、あなたが苦しむ姿を見ていたかったのだけれど…」
まあいいわ、と微笑む。
「死んだあなたも、とっても綺麗よ。私の可愛い妹(プティ・スール)」
F05は死せる少女の唇をサキュバスの如く淫らに貪る。
恍惚に身を震わせながら、F05はその人間を遥か超越した聴覚で、遠雷の轟きを聴いていた。


―――雷鳴が響く。
―――雷光が閃く。
―――今日もまた何処かで、人造人間が産声をあげる―――


1888年11月9日。
最後の犠牲者の命と共に<切り裂きジャック>は歴史の闇へと消えた。
そして彼女は死して伝説となり―――
吸血鬼を狩る者として、新たな生を―――否。
単なる動く屍と成り果て、その後も殺戮を続けた。

<装甲戦闘死体F08(エフ・アハト)>
その忌まわしき名と呪われた屍の肉体こそ、生まれ落ちて以来、何一つ他人から与えられなかった少女が、
初めて貰った贈り物だった。
211サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/01/23(日) 09:16:03 ID:4Js8QGU30
投下完了。前篇は>>167より。
えらく救いようのないオチになりました。サマサの黒い部分を出しすぎたかな、と少し
反省しております。
なお、シャーロック・ホームズは様々な作品で扱われているので、各々でイメージが異なるかと思いますが、
僕が今回イメージしたのはPCゲーム<漆黒のシャルノス>のホームズです(ちなみに18禁ゲー)
レストレイド警部の姪っ子とか、それやってないと誰なのかさっぱり分からんでしょうけど…まあ…
お許しを。ちなみにシャルノスは時代設定が1905年なんで、全然時代が合いませんね。
この辺は…二次創作マジックということで…言い訳ばっかだな、自分(汗)
まあとにかく、痛いオタクの自分ですが、そんな自分の書いたブツでも、誰かが楽しんでくださればそれだけで
嬉しいし、誰かを楽しませたという事実はかけがえのない財産であります。
これからも真っ白に燃え尽きるまで、ただの単なる一人のSSバカであり続けたいものです。

>>見習いさん
ふら〜りさんも仰ってますが、己の妄想を叩き付ければよいのです。
さあ、往くがいい!

>>スターダストさん
音楽隊、全員ウゼえな…しかし全員可愛い。ウザ可愛い。気になるのはやはり小札の切り札
らしい『7色目:禁断の技』
ノ〜テンキな小札をしてここまで言わせるからには、とてつもないモノになりそうな…しかして、
オリキャラがこれほどキャラ立ってるのを見るにつけ、スターダストさんの底知れぬ力量に
ガクブルするばかりです。

>>ガモンさん
ラオウ、偉人ではあるけど、基本的には外道なんですよね…並の奴ならここで老人を見逃すという
甘さを見せるんでしょうけど、真っ二つに裂いちまう辺りが流石はラオウ。
覇道を突き進むからには、これほどの非常さが必要なのか…うーむ。

>>187 全然サンホラとは関係ない作品なのに、サンホラっぽくしちゃうのは、自分の悪い癖かも…w
>>191 有名…でもないかも(汗)美少女達のバトルが好きならオススメです。外道美少女ってそそりますよね(ゲスな笑み)

>>ふら〜りさん
そんな恐ろしい血塗れ美少女<切り裂きジャック>も、相手が真の怪物なら、これまた無力な羊に過ぎず…
外道の末路は、やはり悲惨なのかな、と。
212作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 12:22:14 ID:SmzG6Kzb0
新人が久しぶりに来たと喜んでいたら・・w
後書きが物凄く不快。そんなんだから無職なんだわ。


>サマサさん
お疲れ様です。人?は生きてきたようにしか死ねないってことですね。
闇の食物連鎖は続いていくって事ですか。読み切りもまた待ってます。
213作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 16:29:27 ID:YcLQ/1Z90
DB短編、なかなかおもしろかった。
214作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 17:06:59 ID:M3cvLw8c0
サマサさん好調ですね。サンホラって実はあんまり意味知らないけどサンホラっぽいですw
人間→切り裂きジャック→吸血鬼→装甲戦闘死体、と弱肉強食が続いていきますが
元ねたでは装甲戦闘死体もやられるのかな? ホームズ=装甲戦闘死体、なのかな?


><漆黒のシャルノス>のホームズ
 すみませんマニアックすぎますわw



>>212-213
完結させたのはえらいけど、後書きが病んでるわ。
自分の禊とか黒歴史とかなら自分の日記帳に書けばいいのにさ。

>「ああ自分のやって事は痛いオタクがやる事だったんだ。
>クソの役にも立たないレベルだったんだ」ってね

特にこれは他の書き手さんに失礼すぎる。
書いてる本人たちが楽しんで、何人かがそれを読んで楽しめれば十分だろう
215作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 17:36:01 ID:M3cvLw8c0
そもそも趣味の世界なんて何でもはたから見たら痛いもんだしな
それでも他人がとやかく言う権利はねーわ
まあ昔、投げ出した俺が言うのもお門違いかも知れんがな・・w
現役職人さんたちにはこれからも頑張って欲しいものだ。


スレ汚しスマン。ちょっとカッときたもんで
216作者の都合により名無しです:2011/01/23(日) 20:07:02 ID:+LsWJXYl0
ああそうだよ。SSなんて自己満足でやるもんだよ。
他人に見せるもんじゃないんだ
ここは書き手の公開オナニースレ

言い方が悪いが現実にそうだから。
217永遠の扉:2011/01/23(日) 23:08:17 ID:GL+i22To0
 音楽隊はホムンクルス特有の禍々しさが驚くほど薄い。秋水にちょっかいを出した無銘でさえ言葉の端々にはそこはか
とない愛嬌がある。
 だがそんな姿を見てもなお、斗貴子は受け入れ難い。記憶こそないが故郷の赤銅島はホムンクルスたちによって甚大な
被害を受けている。家族はおろか使用人やクラスメイトすら喰い殺された。唯一覚えているのは戦団の施設で邂逅したホムン
クルス。西山、と名乗るその少年は斗貴子の顔に消えるコトなき一文字の傷を刻んだ。顔に傷。女性たる斗貴子がホムンクル
スを憎悪するに十分だろう。戦団の技術なら傷跡も消せるが、斗貴子にそのつもりはない。傷跡とともに抱え続けたいほどの
憎悪。それをホムンクルスに覚えている。
 桜花や秋水は元々ホムンクルスに与していた。共闘に疑問はないだろう。
 剛太が家族をホムンクルスに殺されたのは物心つく前の話だ。共闘が戦団の姿勢なら、あっさり受け入れるだろう。
 斗貴子だけが、今にも叫びたい気分だ。
 だがそれを抑えようと思ったのは、黒い感情に振り回された時期あらばこそかも知れない。
「やはり、納得できないか? 戦士・斗貴子」
 問いかける防人の前ですうっと深く息を吸い、ゆっくりと正論だけを吐き散らかす。
「そもそも戦団がホムンクルスと共同戦線を張るなんて前代未聞です。あ、いえ。100年前のヴィクター討伐の時、ホムン
クルスの追撃部隊を結成したのは聞いています。ヴィクトリアも無理やり入れられていたとか。でもそれは……」
「共同戦線というより”差し向けた”というレベルだな。それでさえあのヴィクターが相手でなければ起こり得なかった事態だが」
「そうです。戦士とホムンクルスが対等に手を組んで戦うなんて、本来絶対にありえないコトです。なのにどうして火渡戦士長
まで黙認しているんですか? 彼の性格なら真先に反対しそうなのに」
「戦士・斗貴子」
「なんですか?」
「その答えは、キミ自身が既に言っている」
「…………?」
 冷静になったせいか。言葉を吐き終えた斗貴子は別の事実に気付く。
(ホムンクルスと、共同戦線? 私達をあれだけ苦しめた音楽隊を1人も殺さないまま……共闘?)
 嫌な予感が全身を過った。うなじの辺りから背中がじっとりとした汗にぬめる。
 以前から、予感があった。大戦士長の誘拐について、警戒していた。
 パピヨンをめぐる演劇部事件の中、思っていた。

──(すでに一線を退いている戦士長に連絡が来るとすれば大戦士長が救出された後か、或いは!)

──(大戦士長を誘拐した連中が、本部にいる火渡戦士長たちだけで手に負えないほど強大か!)

──(そのどちらかの筈! 残党狩りが終わった今、私達が備えるべきは後者!)

 凛々しい顔が青ざめていく。

(まさか……大戦士長を誘拐した相手というのは、私達はおろか音楽隊の手まで借りなければならないほど強大なのか?)

(100年前、ホムンクルスの追撃部隊を組織した時のように)

(ヴィクターに匹敵する敵が、控えている?)

 答えを求めて仰ぎ見る防人もまた一瞬微妙な表情を浮かべたが、すぐさまニヤリとほほ笑んだ。
 あたかも、来たる戦いへの不安を少しでも取り除こうとするように。

「まあなんだ。そう彼らを敵視しなくてもいいぞ戦士・斗貴子! 見ての通り彼らはなかなか気のいい連中だぞ」」
「私はそこの鳩尾無銘の敵対特性で重傷を負わされました。剛太も桜花も早坂秋水も他の音楽隊に」
 防人の頬に冷や汗が浮かんだ。
「鐶とかいう副長に至っては人混みを散々混乱させた挙句、調整体をけしかけ、将棋倒しさえ起こしました。一歩間違えれば
死人がでるようなコトを。戦士長は知らないかも知れませんが、銀成学園の生徒を何人も傷つけ、胎児にしたのも鐶です」
 鐶が小声で(無銘の分まで)謝る中、斗貴子はただ冷然たる面持ちで一人の男を睨み据えた。
「過去を責めても仕方ないのは十分身に沁みて分かっている。いま重要なのはこれから何をするかだ。それがキミたちとの
共闘というなら、戦団が判断したのなら、私は従うだけだ。一度は戦団に反逆し、再殺部隊の円山に重傷を負わせた私が今
でも戦士を続けていられるのは大戦士長のお陰だからな。戦団が大戦士長の救出にキミたちの……ホムンクルスの力が
必要というなら、私情を捨て、共闘を受け入れなくてはならない。強大な敵が控えているというなら、尚更」
 自分自身に言い聞かせるように、無理やり納得をさせるように、言葉を吐く。

「とはいえ」
218永遠の扉:2011/01/23(日) 23:09:46 ID:GL+i22To0
 真一文字の上で鋭く尖る瞳は、ただ一人の男を射抜いていた。

「正直、説明して貰わなければ気が済まない。戦士である私がかつて人々に厄災を振りまいたホムンクルスを見逃してまで
戦わなければならない組織というのは何だ? お前たちはその組織とどういう関わりがある? 仮にも協力を唱える以上、
その辺りの情報は伝えて貰わなければ困る」

 視線の先でその人物──総角主税──は静かに口を開いた。


「では単刀直入に説明させてもらう」

「大戦士長坂口照星を攫ったのは、俺たちブレミュ全員の運命を狂わせた組織」


 秋水は気付いた。余裕の権化のような総角から、その主成分がカラカラに蒸発しているのを。
 表情こそいつもと変わりないが、剣客としての鋭敏さがわずかな違和感を覚えた。
 まるで駆け出しの剣客が、名うての剣豪に挑む時のような清冽(せいれつ)で凄烈な緊張感が、総角の内面に満ちている
ようだった。
「総角。君は俺と戦った時、確かに言ったな」
「フ」
「ニオイ」に気付かれたのを恥じたのか、それともただ懐かしき記憶に陶酔したのか。
 金髪の美丈夫は目を閉じ、透き通るような笑みを浮かべた。

「小札達を一人ずつ俺にけしかけた真の理由が」

──「君の部下の『能力の底上げ』。……違うか?」
──「フ。珍しく長広舌(ちょうこうぜつ)御苦労。まぁ、大体は合っている」

「能力の底上げ、だと」
「確かにいったな」
「では」
 かつて震えとともに脳裡に描いた言葉が、総角へ放たれる。一言一句違わず、今度こそ。今度こそ。

「貴信と香美を一つの体にしたのも)」

「無銘を異常な方法で創造(つく)ったのも」

「小札のいった『絶対に倒すべき恐ろしい敵』も」

「鐶に無数の鳥や人間へ変形できる能力を与えたのも」

「すべて、その組織……なのか?」


 総角主税は質問を肯定する。残酷なまでに、呆気なく。事もなげに頷いて、肯定する。


「ああ。そうだ」

 一座は水を打ったように静かになった。

 音楽隊の面々は軽く息を呑んだきり硬直し、剛太や桜花は「まさか……」と戦慄いた。
(冗談じゃねェ。鐶を作ったのがその組織っていうなら)
(理論上は、光ちゃんレベルのホムンクルスを量産できるわね。或いは、それ以上のを──…)
 防人は腕を揉みねじったまま直立し、斗貴子だけが回答を求めるように鋭い瞳を総角に向けた。
「つまり、君たちにとって戦団は、「敵」の「敵」。だから共闘を申し出たという訳か」
「御名答。部下を鍛えたとはいえ奴らはまだまだ手に余る。だから協力者が欲しかった」
 棘の消えぬ斗貴子に応じる声は、どこか暗く、そして硬い。
「なら、以前の戦いは共闘を見越した上での売り込みか? つくづくフザけた男だな。まだ利用されている気がしてならない」
「否定はできないが……安心しろ。既に言ったが、協力して頂く以上は俺たちも協力する。利用などは絶対にしない」
219永遠の扉:2011/01/23(日) 23:12:00 ID:GL+i22To0
                                                               .
「待てって総角! どんな敵かはしらねーけど、大抵の奴はお前と鐶がいりゃあ何とかなるんじゃねーの!?」

 緊張に耐えかねたように叫ぶ御前に総角はただ、爽やかな笑みを浮かべた。

「ならないさ。下っぱはともかく、幹部級については俺でさえ楽勝とはいかない。鐶でさえ2人同時に相手どれば負ける」

「そして幹部は10人」

「そんな相手が…………10人……?」
 形の良い唇から血の気が引いているのを桜花は感じた。軽い身震いさえ全身を支配しているようだった。
「……組織の強さはおおむね把握した。だが勿体つけずに名前ぐらい教えたらどうだ」





「レティクルエレメンツ」





 総角はただ、その組織の名前を静かに呟き、一瞬だが遠い目をした。
 綽綽たる表情は消え失せ、かなりの緊張と後悔に満ちている。
 後悔? 秋水は首をかしげた。目を細める総角は、後悔しているようだった。
 組織の名を告げたコトにではなく、いま名を告げた組織に奪われてしまった大事な「何か」を悔やんでいるようにも見えた。
 そして彼は、小札を一瞥し、すぐ視線を逸らした。
 小札も、総角と似た表情をしていた。沈痛で、今にも泣きそうな……それを前に進むコトで抑えようとする表情だった。

(君たちの間に、一体何があったんだ?)

 秋水の疑問など構わず、総角は言葉を紡ぐ。

「レティクルエレメンツ。それが組織の名前だ。幹部の階級を示すは太陽系を巡る星々。即ち。

月。
水星。
金星。
火星。
木星。
土星。
天王星。
海王星。
冥王星。

そして、太陽。

以上、10人だ。もっとも幹部に上下関係はない。全員が同格。名目上は冥王星さえ太陽と同等の発言権を持つ」
「デルザー軍団みたいだな……」
 いやに渋い例えを持ち出す御前に微苦笑を浮かべつつ総角は説明を続け、彼の部下達はそれぞれの表情で聞く。
 無銘は、尖った瞳の中で憎悪の蒼い焔をぱっと燃やし。鐶は、虚ろな瞳を空色に湿らせ。
 香美はわずかに不安げな表情をしながら、後頭部をさする。貴信の表情だけは、分からない。

「マレフィック。階級の枕詞に”凶星”を戴く彼らはいろいろとアクが強いが、『盟主』……『太陽』には絶対の忠誠を誓っている」
「太陽が……トップ……?
 露骨に嫌悪感を示す斗貴子に、総角はゆったりと応対する。
220永遠の扉:2011/01/23(日) 23:13:24 ID:GL+i22To0
「そして。盟主の名は──…」







──数日前。パピヨンの研究施設で──


「で? 100年前、貴様とあののーみそを守っていたという戦団の物好きの名前は?」
「アナタまだ拘っていたの? 別にいいけど。はいはい睨まないで。言えばいいんでしょ?」
 ヴィクトリアは薄い胸をすうっと膨らませ、滑らかな声で彼を語る。

「私にクローン技術を教えた人」

「私の夢に出てきた人」

「元々はママの上司で、賢者の石研究班の班長にも関わらず」

「武装錬金の特性が『特殊すぎる』せいで、試験的に戦士見習いをしていたあの人」

「総角主税そっくりの、認識表を掛けた金髪さんの名前は──…」







──現在。光届かぬ各所にて恨めしげに佇む影達──


                                    「あぁもう、ほっしーなあ! いっつも着とる可愛い服!!」

          「面倒くさい……」  

                                      「激しいわよん。壊すのがセックスよりお好きですからん」    

「彼にゃ助けたかった命歪められたwwああ憂鬱wwwwwww」

                                  「お仕えする理由? 従えばうまい飯が食えるからじゃよ。ひひっ!」
 
「及公(だいこう)がお貸しになられたラジコン、ノリとテンションで壊すのやめろ! お前はあれか、ジャイアンか!」

                                 「プロデュースしやすよ。人の、飾りだけの枠ブチ破るにゃうってつけでさ」 

「いくらいくら伝えても伝えても伝えても笑って笑って許してくれるのよ怒りたいぐらい尊敬できる尊敬できるうふふあははは!!」 

                    「この上なく妬ましいです!! だって実は”※※※※”なのに尊敬されまくってるんですよぉ!?」




                         「「「「「「「「「そんな、盟主様の名は──…」」」」」」」」」



.
221永遠の扉:2011/01/23(日) 23:15:11 ID:GL+i22To0
.






「メルスティーン=ブレイド」







 総角は、名状しがたき激しさを意思の力で抑えながら。
 ヴィクトリアは、どこか懐かしげに。
 影達は、実にさまざまな感情を込めて。


 その名を、呼んだ。






「メルスティーン=ブレイド?」
「ああ。それが、盟主の名前」


「そして」





「武装錬金の複製」
 それを武装錬金の特性とする青年は一拍を置き、決定的な事実をただ、無感情に告げた。







「俺は、彼のクローンだ」






.
222 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/23(日) 23:33:48 ID:GL+i22To0
いかにも満を持して登場てな感じの「メルスティーン=ブレイド」。でも初出は話数1ケタの頃〜。
綴りは「MELSTEEN」。アナグラムると「心に剣、輝く勇気〜♪」 だからブレイド。

次回・次々回は2章の敵どもにスポットが当たります。それが済んだら音楽隊コミの日常パートです。

時間ができましたら頂いたご感想へのお返事をさせて頂く所存です。今しばらく、お待ちを。
223作者の都合により名無しです:2011/01/24(月) 11:19:50 ID:D5O4c6+D0
なんかスターダストさんのあとがきがいつになくテンション高いw
いよいよラスボス軍団が動き始めるんですな。ゴールが見えてきたのかな?
ラストバトルは共闘→大団円の王道でお願いしたいものです。

ただ、敵も10人いるしまだまだ日常パートはあるしで
年内は連載してくれる感じですね。
224作者の都合により名無しです:2011/01/24(月) 14:15:13 ID:52/NWKcK0
サマサさんがこんなエログロ書くとは予想外だったw
原作知らないけど、SS読む限りは装甲戦闘死体の設定って確かに<美しすぎる屍人姫>だね

スターダストさんは相変わらず健筆だなー
しかし、ブレミュより強い(?)奴らが10人とか…まだまだ先は長そうだー
225作者の都合により名無しです:2011/01/24(月) 16:13:21 ID:GNRtfLJO0
スターダストさんお疲れ様です。
おそらくラスボス?の全貌がわかりつつあり、いよいよ最終章に向かっているって感じですね。
まあ、まだまだ2年くらいは楽しませてくれると思っていますけど。

トキコは過去に酷い事があったから逆に、清濁併せ呑む事が出来ないのかな。
自分はハラワタぶちまけろとか言ってたのに・・
226作者の都合により名無しです:2011/01/24(月) 19:07:49 ID:NiI2r7Sn0
あの認識表のシーンから、どれだけ時間が経ったことか
感慨深い
227作者の都合により名無しです:2011/01/25(火) 11:27:34 ID:a6sZcVVa0
とりあえず まだわかって無い様だからわかりやすく言う事にした
ああ罵倒文句じゃなくて
SSとして「キモイオタクが考えそうな事」を表現する

ピンクな内容になるよ
職人共 お前等の鏡に映った姿を見せてやるよ
228ふら〜り:2011/01/25(火) 19:36:58 ID:gptvh1Om0
>>サマサさん(救われたと思ったら死。マッチ売りの少女、エグバージョンですな)
うーむ確かに救いがない。こういう境遇だと人間全体を恨んで無差別殺戮ってのがよくある
パターンですが、娼婦限定→自分を殺したF05と神様、という比較的まともな怨恨段階を
経て、最後は傀儡化。初めての贈り物と引き換えに、怨恨の念まで含め全てを奪われた、か。

>>スターダストさん(太陽系の名を冠する、でセーラー戦士が浮かぶのは、もう年寄りですね……)
共闘に続く、王道パート2! 「かつて大苦戦した敵と同等以上の新敵」。しかも斗貴子や
剛太はジョジョ3部、連中は5部って感じで、特性の厄介度が段違い。更に自分の特性を、
どうエグく使うかを考えるのも巧い。だからこそ、そこを打ち破るバトルに期待してます!
229永遠の扉:2011/01/25(火) 21:48:08 ID:8rJaUVE70
──どこかで──




「あなたはまだ、破壊への希求を捨てていないようですね」




 ひび割れたサングラスの奥。理知的な瞳が捉えるのは、流れるような金髪。
 どこまでも綺麗に梳られたそれは、持ち主の目鼻を隠し、表情までもを隠している。



「しかしメルスティーン。ヴィクターの盟友だったあなたはいつどこで、何を、誰を、どう破壊しようとしているのですか?」

「あとどうしてあなたはスカートを穿いているのですか? 確か男性だったと思うのですが」


 坂口照星は、眼前に佇む男へ静かに呼びかける。
 神父風の衣服は所々が破け、口元や目元に赤黒い血がこびりついているが、口調には何ら消耗が感じられない。
 それまで受けてきたであろう凄惨な暴行などなかったように。
 まるで戦団の執務室で部下に呼びかけているように。
 照星は、静かに呼びかける。

「私を誘拐した真の理由は何ですか?」

「それからどうしてスカートを……?」

 すっと立ちすくむ細い影に応える気配はない。まるで女性のような細身だった。
 そして確かに照星の指摘通りスカートを穿いていた。ミニスカートだ。しかし男性だというのに脚はバッタのように限りなく
細い。痩せこけているのではなく、引きしまっているという感じで、スポーツ少女のごとき清楚な肉感さえある。暗がりのため
全貌は分からないが、素足と思しき脚は脛毛のなびく気配はない。ツルツルだ。
 影の中、唯一さらさらと光る頭髪から流れるえも言われぬ色香に照星は一瞬、円山という部下を想起した。円山円。現在
同輩とともに照星を捜索中の彼は、”彼”であるがあたかも女性のような仕草や思考、顔だちの持ち主で、世俗的な言い方
をすれば『オカマ』である。
 ただ、と照星はメルスティーンを見据える。ひどく細身で全体的に柔和な印象の持ち主だが、全身の筋肉は”ある部分”以外
強く、硬く、しなやかだ。まるでありったけ集めた鋼線の束に絶え間なく負荷をかけているかのごとく、筋の端々がみちみちと音を
立てている。かといって逆三角系の筋骨隆々ではなく、ぱっと見何の特徴もない筒型の肉体だ。大戦士長・坂口照星がそう
いう体型を必要とする時は大抵、「パッとしない特性の武装錬金を引き当てたばかりに武器その物の使い方に熟練しきった
厄介な人間型」か、「ホムンクルスになれないハンデを既存武術で埋めんと修行し続けてきた信奉者」に梃子摺っている時だ。
 要するに、「武器を用いた技術の熟練者(エキスパート)」の体型をメルスティーンは持っていた。
 よほど強い者でない限り見抜けぬ「内に向かって濃縮された」、無駄を一切削ぎ落とし研ぎ澄ました、緻密な肉と腱の持ち主だ。
 何かにつけ女性的な円山との決定的な違いはそこだろう。
 肉体の奥底に秘められた、恐ろしく、激しい、獰猛で加減などカケラも効かせるつもりもないひどく男性的で前向きな気迫もまた、
円山とは違う。
 一言でいえば、武人と無頼の二束草鞋ばきだった。武技に自身の何もかもを惜しみなく注ぎこんだ者だけが持つ重厚さ
や寛容さがあるかと思えば、今すぐにでも世界の総てに飛びかかっていきそうな危うさもあった。それらはどっちつかずという
様子ではなく、常に同じだけの分量で存在し、柔らかな鋼線の束のような筋肉をみちみちみちみち鳴らし続けている。

「流石ですね。その筋肉はたゆまぬ鍛錬の証。10年前バスターバロンの腕を斬り飛ばしてなお慢心のないその態度。私の
部下達にも見習わせたい程です」

 まろやかな笑いが影から立ち上る。一見軽薄そうだが限りなく素直で純粋な、聞く者の心を引きこむ爽やかな笑いだ。
 礼をいったらしい。声はまごうことなき男性のものだ。謙遜と謝意を混ぜた丁寧な応対はまるで一流派の開祖のような
「人物」のそれで、だからこそ照星はちょっと頭痛を覚えた。

(円山のような人種でないとすれば、尚のコトどうしてスカートを……?)
230永遠の扉:2011/01/25(火) 21:51:02 ID:8rJaUVE70
 もちろんスカートは必ずしも女性専用という訳ではない。古代より熱帯地方では男女問わず巻きスカートの要領で腰布を巻いて
いたというし、その他の地域でも──例えばスコットランドのキルトに見られるように──スカート状衣類は男女ともに受け入れら
れていた。化粧に造詣の深い照星であるからその辺りの事情はおおむね知っている。
 じゃあ民族衣装なのかと彼はミニスカートを凝視したが……生地ではなんだかファンシーな動物が犇(ひしめ)きあっている。
照星が民族衣装説を捨てたのは、裾にひらひらとした可愛いフリルを認めた瞬間だ。

 彼は、まごうことのない女物のスカートを……穿いていた。そして脚への視線を感じるや、恥ずかしそうにスカートの丈を下に
向かって引いた、

「え。ええと何の話でしたか。……ああ。そうでしたね。なぜ誘拐したか。ご指摘感謝しますよメルスティーン。頬は赤らめないで」

「10年前のような戦団への反抗……という訳ではありませんね? 頬は……赤らめないで下さい」

「私を誘拐したのは、意趣返しでもなければ場当たり的な憂さ晴らしでもない。頬、赤らめないで!!」

「もっと巨大な流れを呼び起こすため誘拐した。そんな気がしてなりません。頬! やめてといってるでしょう! やめなさい!!」

「いま気付いたのですが、そのふわふわしたパーカー……女性用ですよね? まさか、下着も?」

 細い影の手の中で核鉄が輝いた。鋭く光る刃が、闇の中で風を切る。
 1回。2回。濁った風を淀んだ空気を壊すように荒々しく刃を振り回し、彼は照星へゆっくり近づく。


 やがて金色の閃光が照星の正中線すれすれをなぞり──…


 床に突き刺さった。順手に持たれた『大刀』がまっすぐに振り下ろされたようだ。


「────」


 前髪が舞い散る中、照星はメルスティーンの囁きを確かに聞いた。」
 一瞬呆気に取られた彼は、「信じられない」、そんな顔で愕然と反芻する。

「あなたは、自分が最後の1人になるつもりはない…………?」

「そして女装はただの趣味!?」
.
 照星は、絶句した。

「あ、いいえ。女装はともかくですね。いずれ幕を開ける決戦。その最初の戦死者になっても構わない……と言ったのですか?」

「今はいない『11人目の幹部』……いずれ呼び起こす『地球』こそ、君が総てを託す相手だと?」

「え? え? 今度私にお化粧を教えて欲しい? いや、構いませんが、その、どうして女装が趣味なのですかあなた」

 メルスティーンと呼ばれる影は答えない。ただ、照星がらしくもなくペースを乱されているところをを見ても分かるように、真
面目な回答の端々で出しぬけにしょーもない話題を繰り出す人物のようだ。それが意図的なら掴みどころのない人間だろ
う。天然でやっているとするなら、どこかで演劇をやっている栗色髪の元気少女なみの厄介さだ。
 やがて彼はちょっとガッツポーズをしてから静かに踵を返し、扉目がけて歩き出した。


(もしいまの言葉が”はぐらかし”とするならば、メルスティーン=ブレイド)

 これ以上会話しても無駄だと踏んだのか、照星はサングラスにクイと手を当てた。

(やはりこの誘拐には何らかの”ウラ”がある)
231永遠の扉:2011/01/25(火) 21:52:59 ID:8rJaUVE70

(……というか、お化粧教える代わりに解放してもらうというのは)

 無理でしょうね。照星はため息をついた。

(ただ、戦団に打撃を与えたいのなら、誘拐などせず私を殺せばいい。かといって交渉材料にしている様子もない。私をカード
に使うなら、拷問風景かその結果を映像なり画像に収める筈。ですが、その気配が全くない。ふふ。残念ですね火渡。もし
彼らが何らかの交渉をしたならば、キミは私の無様な姿を笑えたでしょうに)

 床に散らばる腐った無数の肉片は、言うまでもなく彼の物だった。
 元は純白だった床はいまや、膿と血塊の醜いまだら模様に彩られもはや見る影もない。
 照星は下を見て困ったように微笑した。
 現在のところ彼の両足は膝から先がない。止血処理こそ施されているが膿と熱を持ち絶え間ない痛みをもたらしている。

(やれやれ。例のグレイズィングが居ればこの程度の怪我、すぐ治るものを。もっとも、拷問の痕跡も痛みも何もかも一瞬
で癒されてしまうあの感覚……あまりいいものではありませんが)

 昨日辺りから彼女の姿がまったく見えない……その事実にどこか安心している照星だ。

 普通に考えるなら、治療役の不在を恨むべき状態だろう。
 並の人物なら「治して貰えるならそれでいいじゃないか」と思うだろう。
 照星でさえそう思っていなかったとは断言できない。

 だが、逆だ。
 痛みも傷もすぐ治せる。そんな人物が拷問の指揮を取っているのは、ある意味ただ破壊され続けるより……恐ろしい。

(私でさえ、不覚にも傾きかけてしまいました)

 絶叫と激痛の渦中で。

 照星は、グレイズィングを見てしまった。

(辛うじて踏みとどまれましたが、心の弱い戦士や新人なら……堕ちていたでしょうね)

 治して欲しい。
 救ってほしい。

 そうしてくれるなら、靴でも何でも舐める。

 だから、

”痛みを取り除いて!”

 そう懇願するのだ。「あらゆる怪我と苦痛を治せる」衛生兵の武装錬金・ハズオブラブの持ち主に。

 痛苦が取り除かれなくなるコトを、状況が一層悪くなるコトを怖れ、媚を売ってでも鎮痛を願うのだ。

(目先の苦痛から逃れたいがために、尊厳を捨て、本来なら戦うべき、絶対に屈してはならない相手に降服してしまう……。
人間ならよくあるコトです。彼らはそれを、弱さゆえに知り抜いている。だからこそ、恐ろしい)

 では誘拐の理由はそれなのか? 幹部たちは、照星の心を折り、無様に従わせたいがために拷問をしているのだろうか?

(いえ。違いますね。あれはただの快楽のための破壊……。戦団への私怨を私個人にぶつける者もいました。八つ当たり
は少々困りますが……結果私が折れようと折れまいと、死のうが死ぬまいと……『どっちでもいい』。そんな感じで、楽しげ
に……拷問をしていました)

 幹部たちの顔ぶれが目に見えて減ったのも気付いている。
 減ったのは、グレイズィングが来なくなったのとほぼ同時期だ。
 彼女だけが来なくなったのではない。彼女を含む幹部が何人か、来なくなったのだ。
232永遠の扉:2011/01/25(火) 21:55:01 ID:8rJaUVE70
(……何か、動きがあったようですね。まるで私への拷問期間を何かのタイムスケジュールの一部よろしくしっかり決めていて、
それが終了したから”次”に移ったように。しかし、一体彼らの目的は何なのですか?)

(なぜ彼らが私の外出を知りえ、誘拐できたのか)

(あの盟主が女装好きな理由ともども気になりますが……)

 熱を持った体が前へと沈んでいく。辺りは腐肉と血膿びっしりの床、床、床。不衛生な環境だ。きっと脚の切断面から雑菌が
入っている……当たり前で、つまらない思考をしながら照星は体を支えるべく手をつき──気付く。

(腐肉と、血膿?)

 掌を返し、じっと見る。視覚的にぞっと不快なネバつくそれらは、間違いなく照星の物だ。
 敵の物ではない。武装錬金を取り上げられた照星はずっと抗うコトもできぬまま、嬲られてきた。

 だから床は、その痕跡でいっぱいだ。

 腐肉と血膿。照星から削られ、或いは排出された体組織たちが、大量に点在している。

 床一面を見た照星は息を呑んだ。俄かに思考が高速回転を始める。緊急事態。それへ戦闘部門最高責任者として対処する
時のように、脳細胞があらゆる情報をひっつかみ、速読する。

(まさか)               (100年前の彼の専門の1つは──…)   (残った幹部の内の1人)
          
      (いえ、でも、そうです)      (『赤い筒の渦』)   (アレキサンドリア。女学院の地下のあなたの源流も、確か)

(マズいです) (実利的な理由) (筒はとても強欲) (タイムスケジュール。計画。より大きな流れ) (回収) (核鉄は幾つ?)


 一見まったく体系をなしていない単語が脳内を掛け巡る。いよいよ40度に迫る熱の中、照星はただ、自らの一部の腐れ果ての
成れの果てに顔を叩きつけた。むっとする異臭の中、いよいよ意識が遠のいていく。


(大変、です)

               (この拷問は)

                            (私個人を狙ったものではなく)

                                                       (戦団全体への、害悪の……為)




「むーん。成程。そういうカラクリ」

 血だまりに力なく突っ伏す照星を悠然と見下ろしながら、ムーンフェイスは鋭い顎を撫でた。

「ただ、そうだとしても、もっと穏便にやれたんじゃないかな? 『ウィル君』」
「えー。だって……面倒くさいし……」

 いつの間に現れたのか。短い髪の少年が、ムーンフェイスの後ろで大きな生あくびをした。
 凄惨な現場には見合わぬ、あどけない少年だ。いろいろな理由で美形とはいいがたいが、ひどく白い肌やなよなよとした体
型はそれだけで女性の保護欲をかきたてる。

「むーん? キミは『大家さん』じゃなかったかな。実験には直接関わらないんじゃ? 穏便な手段をやるのは『研究班』……
ディプレス君とかリバース君だと思ったんだけど」
「だってさぁ。アイツらが拷問抜けて本業に専念したら、ボクの拷問当番が増えるもん……」
233永遠の扉:2011/01/25(火) 22:02:46 ID:8rJaUVE70
 寝起き、らしい。肩さえ露骨に出すだぶついた白い服の上で少年は寝ぼけまなこを擦った。よく見るとかなり整った顔立ちだが、
寝ぐせやヨダレのせいですっかり美形らしさをなくしている。代わりといってはなんだが、脇に挟んだ大きなまくらはチャーム
ポイントともいえた。

「確かにね。サボったら例の赤い筒……デッド君に叱られる。というか現に私がここまで連れてこさせられた訳だけど」
「あー。デッドで思い出したけどぉ、あのさあ。今日の拷問当番ボクだってアイツ言ったけどお、もう、いいよね」
 ムーンフェイスの袖をくいくい引きつつ、ウィルは二度めのあくびをした。やや小柄な少年だ。戦士と比べるなら例の津村
斗貴子が一番近い……月の顔はとりとめもない分析をした。
「この人、気絶しちゃってるしさあ。え。だめ? じゃあ必殺ちょっぷー。とりゃあ。はいコレ拷問とても拷問。だから終わり。あ
あ、面倒くさい」
 糸目の少年は血だまりに胡坐をかきながら、ポリポリと頭を掻いた。面倒くさい、まったくそんなニュアンスしかなかった。
 やがて彼は膝の上で枕に両手を掛け、がくがくと貧乏ゆすりさえ始めた。
「ああ。寝たいー。ダラダラお菓子食べたいー。ぐだぐだニコ動巡回して適当に笑いたいー」
(確か2006年に開設する動画サイトの名前だったね。いま(2005年)それを知っているのは……やはり武装錬金の特性
のせいかな? まったく……)

 ムーンフェイスはほくそ笑んだ。彼は知っている。ウィルの名の由来を。

 未来から来た。だから、「ウィル」なのだ。未来の予定、未来予測……。

「あ。小豆の先物取引で6千万円損してる……まあいいや……取り返すの面倒くさい」

 携帯電話を興味なさげにポイ捨てしたウィルは、「まだ8兆円あるし」と両手を上に伸ばし大あくび。ネコのような臆面の
なさだ。気だるげな気流が口からあふれた。

「マレフィックもメルスティーンさまもさあ。ボクのいた未来じゃ今から10年前に全滅してたよ? だから正史にいなかった
『マレフィックアース』なんて11人目の幹部探してさー、拷問に見せかけた小細工してさー、ちょっとでも時間稼ぎの足しに
しようとしてるよねー。ディプレスたちが銀成市にいるのも……ああなんだっけ。まあいいや、もう喋るのめんどくさい」

 一方的に会話を打ち切ったウィルは、何もかもが本当に面倒臭そうだ。持参の枕さえ適当に捨て、そのまま突っ伏した。

 ムーンフェイスは思い出す。このやる気のまったくない少年が、なぜ悪の組織にいるかを。

『だってさー、ここにいたら働かなくてもご飯たべさせてくれるっていうしー。人間食べるのってすごく面倒くさいんだよ? amazon
で売ってないからさー、わざわざ捕まえて食べなきゃいけないし……。一応さ、どうすれば楽に食べれるか考えた事はあるよー。
宅配ピザ頼んでさ、配達人の方ごちそうさました。らくだった〜。なのにさ、ああ面倒くさ。警察とか錬金の戦士がいっぱい来て、
ボク殺そうとするの。仕方ないから株で儲けた5億円あげるから見逃してって小切手みせたらますますキレるし。あー。わけ
わかんない。面倒くさい。どうしてみんないつも急にワケの分からないコトで怒るのかなぁ。結局戦うはめになってすごく面倒
くさかったから、マレフィックに入ったよー。ここなら保険未加入でもグレイズィングが病気とか治してくれるしー、戦いはディ
プレスたち武闘派が僕への家賃代わりに引き受けてくれるしー』

 いつか聞いた自己紹介を思い出し、ムーンフェイスは輝くような笑みを浮かべた。

(面白いね。ホムンクルスとしても史上まれに見る駄目なコだよ。金城とか太とか細の方がまだマシだ)

 だがその駄目さが彼にとっては、面白い。悠久の、永遠の命を得ておきながら人喰いさえ厭い、怠惰に費やす……まったく
あらゆる節理への冒涜だ。ただただ面白い物にだけ飛び付き、浪費し、何も生まないまま生き続けるのだ。

(実はキミこそが総ての人間の、『理想像』という奴かも知れないね)

「ボクこの人のコトどうでもいー。死んだら教えてよムーンフェイスー。適当に時間巻き戻して復活させるからさあ〜。という訳
で、おやすみなーさーいー」

 腐肉と血膿の中でうつぶせになってくーくー眠るウィル。見下ろす眼は歪んだ興味に満ちている。

「いやはや。乖離が激しいね。誘拐直後に私へ向けた『仕事モード』とはまるで別人。かつて『7色目:禁断の技』をブチかま
してきた忌まわしき小札零を殺したい……そう言っていたのがウソのようだよ」
234永遠の扉:2011/01/25(火) 22:05:07 ID:8rJaUVE70
 いや、とムーンフェイスは指を弾いた。ムーンフェイスの隣にいるムーンフェイスが。

「もしかすると、その禁断の技とやらの後遺症でこうなってしまったのかもね」

「『領域の中』に限っては」

「時を止め」

「加速させ」

「減速させ」

「結果が気に入らなければ消し飛ばし」

「気に入れば保存し」

「あまつさえ巻き戻すコトさえ可能な武装錬金『インフィニティホープ』(ノゾミのなくならない世界)の持ち主」

 うじゃうじゃと意味もなく増殖しつつ、ムーンフェイスは高らかに笑う。

「時空関連では並ぶものなしだよ。メルスティーン君ともどもレティクルエレメンツ最強といっても過言じゃない……」

「常に全力で『仕事モード』なら10年前のようなアクシデントでもない限り、恐らくずっとずっと無敵だろうね」

「だからこそ、かもね」
 
 今は血の”膿”の中に突っ伏しスピースピーと可愛らしい寝息を立てるウィルを見ながら、思う。

「小札零のような善良な少女が勇気と、”らしからぬ悪辣さ”を振りしぼり……あんな技を見舞ったのは」

 しかし、不幸なものだよ。30人同時に肩を竦め、嘲笑する。

「彼女は善良すぎるがゆえに自らの選択の結果に恐怖した。そして、つい、傷を癒そうとした」

「して、しまった」

「結果、罪一つ背負うだけで済んだ筈の人生が、大きく狂ってしまった……。絶対に倒すべき恐ろしい敵を生き延びさせると
いうオマケ付きでね」


 倒れ伏す照星に起きる気配はない。

 だが、彼を救う戦いは、着々と近づいていた。

 着々と、着々と──…。
235 ◆C.B5VSJlKU :2011/01/25(火) 22:16:20 ID:8rJaUVE70
漢検の勉強頑張ったら知恵熱が出た。首のリンパが腫れ、声が出ない。
世間ではインフル小流行だけど、知恵熱だ。テンション上がってきた。知恵熱殺す。
今から50ページぐらい頑張る。頑張ったら知恵熱死ぬ。頑張るよ!
236とあるオタクの創作活動:2011/01/25(火) 22:17:26 ID:a6sZcVVa0
近未来

「創作」を表現する媒体に「脳に直接作用する機械」が採用された世界にてー


一人の少年が漫画を持って自室の部屋へと入った。
顔が上気し 手には力が入っていた。
「ついに!」
一般社会に普及し子供でも手を出せる様になった機械「Visual Video Display System」略して VVDS。
操作方法は「創作」をスキャンし機械の中で簡易な映像を作り出す。
使用者は付属したゴーグルを被り脳へと送り込まれた映像信号を受け取る。
ゴテゴテとはしているが画期的な発明とも言われていた。

少年が機械の中に漫画本を放り込む
「えへへー」
涎をたらしながら待つ少年。
1分後。
少年の目に漫画本のタイトルが映った。
そして本編が再生され始める。
「あひひー」
少年はエクスタシーにもにた感情を抱き始めた。


一時間後、再生は終了した。

数ヶ月後 少年は異常な行動を取り始めた。
VVDSを多用しすぎて脳に負担をかけすぎたのだ。
外で急に一人で笑い出す様になった少年を見て両親は精神病院へと送り込む事に決めた。

一年後 VVDSの使用を辞めた少年は正常に戻り VVDSの売却を決意した。

成人後 彼はネット上に自分の書いた小説をアップロードする様になったという…

237作者の都合により名無しです:2011/01/25(火) 22:18:48 ID:a6sZcVVa0
あとがき

ふー テーマ決めると書きやすいな。
今回の作品の主人公のモデルはお前等だよ。
自分の妄想を他人の目の前で公開しているお前等。

実に気持ち悪い?
鏡を見て言えよ。
このクソSSがお前等の鏡になったらいいがな。
まあそんな事を考える事が出来る頭があったらSSなんて書かないと思うけどな!
じゃあな
自称SS職人(笑)共。
238作者の都合により名無しです:2011/01/25(火) 23:38:23 ID:WKZh7EFv0
とりあえず、なにもいわずにID:a6sZcVVa0をNGへ
239作者の都合により名無しです:2011/01/26(水) 02:17:12 ID:s9LniFF80
正直スターダストさんのSSってイマイチ好きじゃない…
オリキャラへの偏愛というか、オナニー臭が酷すぎる
240作者の都合により名無しです:2011/01/26(水) 12:04:40 ID:OipiM7r70
スターダストさんお疲れ様です。
メルスティーンをはじめ、敵方はとんでもない連中が揃っているみたいですね
変態ってだけでなく能力的にも大きくトキコたちを上回りそうだ。
『地球』が本当のラスボスか、それとも救世主っぽい人か。


なんか変なのが1人沸いちまったなあ・・。
>>239もID:a6sZcVVa0だろうし。
まあ、バキスレ全盛期はこんなのが5人はいたがw

241作者の都合により名無しです:2011/01/26(水) 14:05:16 ID:wCMZradl0
スターダストさん乙です
小札はやれば出来る子なんですね。まあ、やる気だけはありそうだしw
しかし新キャラもどんどん出て来そうだからキャラ立て大変そうですなあ
俺も「面倒臭い病」が無ければもう少しマシな生き方だったかもw
スターダストさんみたいに漢検とか挑戦する気力とか無いし・・w
242作者の都合により名無しです:2011/01/26(水) 21:14:28 ID:oRJKD1n60
漢字検定ってさ 準1級〜1級が大学生・社会人レベル
つまり普通に生きていればスターダストみたいに汗臭く頑張らなくても自然と備わっているべき
能力
243作者の都合により名無しです:2011/01/26(水) 22:06:09 ID:KlNHH68C0
お前、サマサさんが決闘神話完走した辺りで沸いてたバカと同一人物か…?
244作者の都合により名無しです:2011/01/26(水) 22:07:27 ID:oRJKD1n60
違う。
245作者の都合により名無しです:2011/01/27(木) 07:58:00 ID:eAu7vaOb0
原作の武装錬金に時空使いの能力者っていたっけ?
インフィニティホープってジョジョっぽい能力だね
246作者の都合により名無しです:2011/01/27(木) 17:31:13 ID:eAu7vaOb0
マロンの語ろうぜスレ見たが、昔は死ぬほど職人いたんだな
247作者の都合により名無しです:2011/01/27(木) 18:36:26 ID:rdLPZCrO0
もう楽になれ・・・
〜花の妖怪達〜

―――メディスン・メランコリー。
精巧に作られた人形が魂を持った、付喪神(つくもがみ)に属する妖怪である。
その記憶は、アンティーク・ショップのウインドゥに飾られていた頃から始まる。
母親に手を繋がれてやってきた、一人の少女に抱かれた。

「あなたはメディスン。メディスン・メランコリー!すてきなお名前でしょ?」

名前を貰って、その子の家族になった。
何年かすると、自分と遊んでくれなくなった。

―――ねえ。どうしたの?
―――もう一緒に、おままごとをしてくれないの?

「もう、いらない」

そして、ゴミ捨て場に置き去りにされた。
だけど、迎えに来てくれると信じてた。
信じてた。それから時間が経った。
それでも信じてた。季節が移った。
まだ、信じてた。年が過ぎた。
理解した。自分は<いらないモノ>になったんだと。
それでも、僅かな希望に縋って、待って、待って、待って、待って―――

気付けば、辺りは一面の鈴蘭だった。
―――後で知った事だが、現世で忘れ去られた生物や物質は、この世界―――
幻想郷に流れ着く事があるのだという。
そこでも、自分は待ち続けた。待って、待って、待って、待って―――
どれだけ待ったか分からなくなった頃、自分が動けるようになっている事を知った。
鈴蘭の毒を吸い、魑魅魍魎渦巻く幻想郷の空気に触れて、いつしかその身に魂を宿していた。
そして、自分にはどうやら<毒を操る程度の能力>があるらしい事を知った。
その頃にはかつて人間を愛し、愛された記憶なんて、すっかり色褪せていた。
そのくせ、捨てられた悲しみと怒りの記憶だけは、まるで消えなかった。

―――自分は、命を手に入れた。じゃあ、どうする?
―――いらないモノと言われて、身勝手に捨てられた。
―――だったら。私だって。
―――人間(おまえら)なんか、いらないモノだ!

鈴蘭畑を離れて、人間を襲う事に決めた。
襲って襲って襲って襲って、全滅させてやるつもりだった。
何人か襲った所で…メディスンは、彼女に出会った。

「誰よ…あんた」
「なに。新顔に、ちょっと世間というものを教育してあげようかな、と」
それは、少女の姿をしていた。
優雅に日傘を広げた彼女は、一見して危険な空気はない。
だが、メディスンには分かった。
こいつは、人間じゃない。自分と同じで―――妖怪だ。
「妖怪が人を襲うのは、当然の事よ。それ自体はとやかく言わないわ」
「なら、放っておいてよ」
「そうもいかないの。そんな調子でやってたら、人間がいなくなっちゃうわ。そうなれば、我々妖怪だって共倒れ。
人間と妖怪は敵対しつつも癒着し、馴れ合いながらも闘い、いがみ合いつつ手を取り合う。
そういうバランスで、幻想郷は成り立っているのよ」
「それがどうした。私一人が暴れてどうにかなる世界なら、その程度だったって事でしょう」
「それはとても困るの。だから、貴女のようなはねっかえりが出てきて<異変>を起こした時は<博麗の巫女>
が解決する事になってるんだけど…今回はたまたま私が貴女を見つけた事だし、同じ妖怪として、幻想郷での
生き方を教えてあげようかな、ってね」
「余計なお世話よ…私こそ教えてやる。今の私は、何だって、誰だって殺せるくらいに強いんだ―――!」
「鬱陶しい子ね…正直ウザくなってきたけど、まあ、いいわ。首を突っ込んだからには、面倒見てあげる」


「私はメディスン・メランコリー!人間だろうが妖怪だろうが、私の毒で溶かして侵して腐らせてやる!
まずはお前だ!名前くらいは覚えてやる―――名乗れ!」
「私は風見幽香…人間だろうが妖怪だろうが気に喰わなければ問答無用でブッ飛ばす女として知られているわ。
メディスン・メランコリー。貴女の名前、覚えたわよ」


―――教えられたのは、メディスンの方だった。
勝負以前、戦闘以前の問題だった。
強さの次元が違い過ぎた。
何よりも屈辱だったのは―――自分が、怪我一つ負っていないという事だ。
風見幽香が本気なら、一瞬でメディスンを粉々にも出来たのに。
彼女はむしろ、メディスンが傷一つ負わないように細心の注意を払いながら闘っていた。
一切の手を抜く事なく、念入りに手抜きされた。
その上で―――ありありと、実力の差を見せ付けられた。
苦渋にまみれて膝をつき、掌で地を叩く。
「くそっ…くそっ!」
「ほら、立ちなさい」
微笑みながら、幽香はそっと手を差し伸べた。
「弱い事も無知な事も、恥じゃないわ。最初は誰だってそう。これから強くなればいい。学べばいい」
「…何を、偉そうに」
「可愛くないわね?疎ましいわね?そんな態度じゃ、誰とも仲良くなれないわよ」
「仲良く…?そんな必要はないわ。私は一人で生きていく」
「無理よ。生きてるからには、一人じゃいられない。生きるというのは、どうやったって誰かと関わっていく事よ。
どうせなら、皆と仲良くやれた方がいいでしょ?」
「なら、お前はそうしてるっていうのか!?」
「いいえ。私は基本がいじめっ子だから、皆から嫌われてるわ…こう見えても、長生きしすぎた。もう手遅れ」
だからこそ、と。
幽香は笑みを消して、真摯な瞳でメディスンを見つめる。
「せめて、まだまだこれからがある貴女には、上手くやってもらいたい」
「…!上から目線で―――分かったような事を言うな!」
<毒を操る程度の能力>を発動させて、幽香の手を握る。
じくじくと。
その手を毒が侵食していく。爛れて、腐れていく。
「どうだ、風見幽香!そんなに強いお前だって、私の毒でそのザマだ!」
メディスンは、不敵に笑った―――そのつもりだったのに。
目から溢れたのは、涙だった。
「私はもう、妖怪だ…化け物だ!こんな…こんな私と、誰が友達なんかになりたがる!誰が愛してくれる!?」
「そうねぇ…」
考え込むように小首を傾げて。
彼女は、メディスンの小さな体躯を抱き締めた。
毒で、身体が爛れる事も意に介さずに。
「とりあえず、此処に一人」
「な―――!」
「貴女みたいな我儘な子。疎ましい子。弱い癖に吠えてばかりの…昔の私にそっくりな子を、放っとけない」
「むかし…の…?」
「私にも、今の貴女のような時期があった。我儘で、鬱陶しくて、弱い癖に吠えてばかりの子だった」
そして。
「私には、友達になってくれようなんて人も、妖怪もいなかった―――喧嘩の相手になってくれる奴はいたけどね。
自業自得とはいえ、それはそれは寂しい事よ…そうね。むしろ私の方が、友達が欲しいだけかもしれない」
「…………」
「お互い、友達がいない者同士―――仲良くしてみないかしら?」
「…ちぇっ。仕方ない、な」
負けた。
戦闘だけでなく―――心まで。
「そんなに言うなら…あんたの、友達になってあげても、いいわよ」
「そう。それはよかった―――それはそうとして」
幽香は拳骨を作って、振り上げた。
「暴れ回って幻想郷を騒がせたお仕置きだけは、しておくわ」
―――手加減はしていたが、強烈な一発だったという。


それが。
メディスン・メランコリーが魂を得てから、初めて出来た友達だった。
その後、色々と経験を積み、多くの人間や妖怪と出会い。
何人か、友達と呼べる存在も出来たが。
メディスンの原点は、風見幽香との出会いだった。
幽香がいなければ―――今のメディスンは、いなかった。



―――夢を見ていた。
目の前には、幽香がニコニコしている。
ちょっとどころでなく意地悪で、ちょっとどころでなく暴力的だが、本当は優しい所もたくさんある幽香。
メディスンは、実の姉のように慕う彼女の笑顔に、とても嬉しくなった。
…その手にしているペンキ入りのバケツが、異様に嫌な予感を醸し出してはいるけれど。
どこからともなくハケを取り出した幽香は、鼻歌交じりにメディスンにペンキを塗りたくり始める。

「はーい、茶色いメディ〜♪」
「はーい、灰色メディ〜♪」
「はーい、鉛色メディ〜♪」
「はーい、真っ黒メディ〜♪」
「はーい、ドドメ色メディ〜♪」
「はーい、惑星ポポルのカエルのフン色メディ〜♪」
「はーい、何かもう色々混ぜすぎて名状し難き色メディ〜♪」

「七色ならせめて普通に虹色メディスンにしろやぁぁぁぁぁっ!」
寝起きも超スッキリ(か?)な美少女・メディスン。彼女が目覚めたのは、医務室のベッドの上であった。
「…夢見、悪いなぁ…」
そのせいだろうか、脳天と額がジンジンしている。
まるで頭頂部をぶん殴られ、その後激烈なデコピンを喰らったような痛みだ。
「って、それよりも試合は!?」
「終わったわ」
そう答えたのは、ベッドの傍にいた少女―――
「幽香!…終わったって…」
「二回戦、全部」
「えっ…」
絶句し、メディスンは力なく突っ伏した。
「うわあぁ…私、そんなに長い事気絶してたんだ…」
「全く。寝過ぎよ、メディ」
「幽香にだけは言われたくない気分なんだけど…私が気絶してた原因の半分は幽香にある気がするんだけど…」
「それは気のせいよ」
「そうかなあ…………あれ?」
メディスンは、そこで気付いた。
幽香は全身に包帯を巻かれている。如何にも<ついさっき殴り合いでもしてきたぞ>という具合に。
―――強大な妖怪は、回復力も治癒力も並外れている。幽香もその例外ではない。
「幽香…怪我、してるの?」
「…まあね」
常の彼女らしからぬ、何処か遠くを見るような目だった。
「…強かったの?あいつ」
「強いわ」
ふっと。
自嘲するように顔を伏せた。
「少なくとも―――私よりも」

「んなこたーねーだろ」

声のした方には、レッドがいた。
彼もまた全身傷だらけで医務室のドアにもたれかかり、タバコを吹かしている。
「強さだけなら、差なんてなかったよ。もう一度やったら、どうなるか分かんねー」
「勝った奴に言われても、嫌味なだけね」
「…ちっ。これでも褒めてるつもりなのによ。性格悪りーなー、ホント」
「自覚はしてるわ」
「してるのが余計に悪りーっての…ったく」
ちらりと、レッドはメディスンに目をやった。
幽香の敗戦を知り、ショックを受けたのか、言葉もない様子だ。
どこかバツの悪い思いをしつつ、レッドはフォローを入れようと語る。
「あのよ…マジで風見は強かったんだぜ?どっちが勝つかなんて、時の運―――」
「サンレッド!」
怒鳴るような剣幕に、レッドも思わずたじろぐ。
「な、なんだよ…」
「わ、私が…!」
「あん?」
メディスンは気持ちの整理を付けながら、言葉を選びながら。
それでも、きっぱりと言い放った。
「私がいつか、幽香の仇を討つから…それまであんた、誰にも負けるんじゃないわよ!」
「…………」
「それに、あんたがあっさり負けたりしたら、幽香が弱いって思われるんだからね!」
「…はー。ったく、皆してプレッシャーかけさせやがってよ」
憎まれ口を叩きながらも。
レッドは、決意を新たにしていた。
「俺は誰にも負けねーって…何度も言わせてんじゃねーっつーの」
ほれ、と小指を差し出した。
「嘘ついたら、針千本だって飲んでやらあ」
「…ふん!」
鼻を鳴らしながらも、メディスンは小指を絡めさせる。
それを見つめながら、幽香は嬉しそうに笑っていた。
「嬉しい事言ってくれるわねぇ、メディ。私、貴女が応援してくれてたのに負けちゃったから、嫌われたんじゃない
かって心配だったのよ?」
「別に…そんな事で、幽香を嫌いになんか、ならないよ」

「そのくらいで、友達を嫌いになんか、ならない」

「そう…貴女も、いつまでも我儘なだけの子供じゃないってことかしら?」
「…………」
照れたように、メディスンはそっぽを向いた。
レッドも、二人を静かに見守る。マスクの奥の素顔は、きっと笑っているのだろう。
「さて、メディ。サンレッドを倒すのは大変よ。少なくとも、私よりも強くならないといけないんだから」
「分かってる。強くなるよ、私」
「険しい道よ」
「分かってる」
「厳しいわよ」
「分かってるってば」
「よろしい」
幽香は、満足げに頷いた。
「なら、特訓ね。実は、前々からメディに対してやってみたかった虐待…いえ、修行があったのよ」
「え…ちょ、待って。今、普通に虐待って言った?」
「名付けて、一週間で最強妖怪になれる<USC(アルティメットサディスティックコース)>」
「何なの、その見るからに最悪な名前!?」
「うふふふ…まずはそこら中の妖怪集めて百人組手ね。それが済んだら日課として、まずは軽めに500キロの
バーベルで素振り一万回。指一本で大岩を砕いた後は幻想郷を兎跳びで一周。更に苦痛に耐える訓練として
油風呂、針の山歩きに火の輪くぐりも…」
「ちょっとー!?」
あまりにも不吉すぎる言葉の数々。メディスンの顔からは既に血の気が失せている。
レッドは、そろそろと医務室のドアを開けて。
「…じゃあ…俺は、これで…お前がいつか強くなって俺の前に現れる日を、楽しみにしてっから…」
Bボタンを押しながらダッシュで駆け出した。怪我人とは思えないスピードである。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ヒーローのくせに子供を見捨てるの!?お、置いてかないで!殺されるぅ〜っ!」
メディスンの悲鳴は、会場中に響き渡ったという。

その後、彼女がどのような修行を受けたのか。
その成果はあったのか。
それは誰も、知り及ぶ事ではない…。
253サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/01/28(金) 09:17:25 ID:tvnIB+XX0
投下完了。前回は>>135より。
なお、七色メディスンはこちらの動画からインスピレーションを得ました。

http://www.nicovideo.jp/watch/nm12264433

ぱ…パクリじゃ、ないよ…多分…(汗)
それにしても、一月は自分でも驚くほど書いたなー…スターダストさんには流石に及ばんけど。
この調子でいきたい。
最近気付いたこと。僕は実は妖夢が好きすぎる。
ゆかりん派だと思ってたんだけど…。

>>212 サンレッドの方に力を入れていきますが、短編もネタを思いついたら気分転換に書きたいです。
>>214 ええ…マニアックなのは分かってます…原作では、装甲戦闘死体もわりかしやられますw
    つっても、吸血鬼の方は原作開始時点で全滅寸前まで落ちぶれてたりしますが…。
>>224 エログロは、書いてて結構楽しかったです。このスレだとあんま黒いの書いてこなかったんで…。

>>ふら〜りさん
原作だと、幸せとまではいかないけど、割とフリーダムで楽しそうにしてるんですけどねw>F08
救いはないけど、救われるには犯した罪が重すぎる…

>>スターダストさん(漢検頑張ってください!)
ついに現れた最強の敵<レティクルエレメンツ>!傷を完全に治すわ時空系だわとやりたい放題の
連中が10人+αとは…やる夫ー!やらない夫ー!早く来てくれー!
254作者の都合により名無しです:2011/01/28(金) 15:39:22 ID:DikqrlgW0
サマサさんお疲れです。
レッドさんチンピラのくせに意外と気を使うなー
空回ってるけど。2月もがんばって下さい!
255作者の都合により名無しです:2011/01/28(金) 16:09:13 ID:fCCEZrzz0
痛いぐらいの凝りまくった長文かいてる奴がいるね。
だけど僕は同じ位くだらないネタを1レスで書けるんだよ?
こんな風にね


最強のストリートファイター を決める格闘大会が行われた。
二人の男が決勝へと進んだ。
豪鬼とリュウ。それが二人の名前だった。
「我が奥義喰らうがいい!」
豪鬼が力を体に込める。
「ぐっ!?」
リュウが全力で腕を固める。
「メ  イ  ド 剛  HA どう?」

豪鬼の道着が可愛らしいメイド服に変化していく。
そして彼はポーズをとり 顔を赤らめて「どう?」と笑いながらウィンクした。

「うっ うあああああああああ」
リュウは精神的に揺さぶりを喰らい泡を吹きながら失神した。

「笑止!」

豪鬼は勝ち誇るとその場を後にした。



おい サマサ どうだよ?お前のやってるSSなんてな この程度なんだよ!
わかったら 引退しな!
256作者の都合により名無しです:2011/01/28(金) 20:08:26 ID:xhuruRRK0
サマサさん乙です!

東方は絵柄を見てかわいいなと思う程度で詳しくは知りませんが
なんとなく百合百合した感じがいいですな。
レッドも決勝までは行くのは確定かな?相手は化け物揃いらしいですが。
決勝戦はファイアバードフォームで勝負でしょうな。

257作者の都合により名無しです:2011/01/29(土) 13:31:40 ID:nXAZYdMn0
サマサさんの芸風からいくと、最後はファイアーバード・プロミネンス・ヒュペリオンの
全フォーム同時装着とかやりそうな気がする
258ふら〜り:2011/01/29(土) 17:20:50 ID:tnRuPA9M0
>>スターダストさん
時間操作。DIOを代表に、いろんな作品でボス格キャラが持っている、最強の武器の一つ。
しかも本作のヒロイン(私認定)と深い因縁があるとなれば、これは注目せねば。しかし本作の
場合、時間操作キャラを従えてしまう、「そいつより格上」がいるときてる。一体どんな特性で?

>>サマサさん
「お前を倒すのは俺だ、他の奴には渡さん」「タイマン張ったらダチ、つーか弟分」……二人とも
かーなーり男前ですねぇ。それはそうと、本作が普通の少年漫画やラノベであれば、レッドが
戦った子たち・その関係者から、この調子で次々と好意を寄せられまくるところでしょうな。
259作者の都合により名無しです:2011/01/29(土) 21:53:29 ID:liym315D0
対戦相手や関係者から想いを託され、次に進む。王道ですな。
>「嬉しい事言ってくれるわねぇ、メディ。私、貴女が応援してくれてたのに負けちゃったから、嫌われたんじゃない
>かって心配だったのよ?」
>「そのくらいで、友達を嫌いになんか、ならない」

かわえええええ! やっぱ百・・・友達はいいですよね。
あと、惑星ポポルのカエルのフン色懐かしいw 道着w 山吹色w
260作者の都合により名無しです:2011/01/30(日) 14:10:42 ID:loBweA4N0
この百合への食いつき…まさか、ハシさんか…?
261作者の都合により名無しです:2011/02/04(金) 10:43:49 ID:UcUt0h3Q0
ハシさんだといいね

しかしスターダストさんとサマサさんが更新止まると
スレも止まるなあ
262作者の都合により名無しです:2011/02/07(月) 09:53:24 ID:rTFEyA4E0
あげ
あと2人いればなあ
263作者の都合により名無しです:2011/02/09(水) 12:19:53 ID:DKqFBPml0
NBさんとかハシさんとか邪神さんとか久しぶりに来ないかね
ハロイさんやさいさんや銀杏丸さんはもう来ないのかな
264作者の都合により名無しです:2011/02/09(水) 17:36:55 ID:W+zv5ctX0
バキスレって歴史が長いし書いてた人も多いけど
途中投げ出しも恐ろしく多いからなあ。
好きなSSも投げ出されまくってる。

まあ、外伝さんとバーディ作者さんは仕方ないけどね・・
265作者の都合により名無しです:2011/02/12(土) 20:59:18 ID:2j001EfG0
2週間ぱったりか
266作者の都合により名無しです:2011/02/15(火) 15:19:47 ID:rP/T2qn30
期待上げ
267作者の都合により名無しです:2011/02/16(水) 22:07:39 ID:sJ8pxk960
スーパーロボット大戦DOZEZA 〜終焉の土下座へ

我々の住むこの世界から、極めて近く、また限りなく遠い平行世界―――
地球は大ピンチである。
外宇宙からの侵略者・恐るべき地底勢力・人間同士の争い…もはや全ての終焉<アポカリュプシス>は
目前にまで迫っていた。
だが!しかし!そんな脅威に立ち向かう戦士達が、地球には存在していた!
強大なスーパーロボットで悪と闘う、正義の味方―――
その名も<兜甲児と愉快な仲間達>略して<カブコー>である!
…ちなみに、この部隊名の発案者である兜甲児は「まさか本当に採用されちまうとは思わなかった」と
漏らしていたという。
とにかく、彼らこそが地球に残された最後の希望なのだった。


さて、そんな<カブコー>の面々は現在、日本某所の基地に駐屯している。
そこでは、こんな光景が繰り広げられていた。
「うおぉぉぉぉ!カツゥゥゥッ!」
<カブコー>所属の戦艦ラー・カイラムの艦長ブライト・ノアは部下であるカツ・コバヤシの顔面を
全身全霊で殴り飛ばした。
「ゲフゥッ!」
「死ねよやぁ、このカツ野郎っっっっ!!!」
フリッカージャブからのチョッピング・ライトに、カツの前歯が三本ほど飛んだ。
「はあああああああっ!」
それに留まらず、頭を∞の形に振りながらウィービング。その勢いのままに無数のフックを繰り出す。
嵐の如き打撃が収まった時、カツはもはやボロ雑巾であった。
「な…何故…」
半死半生のカツは、血反吐に塗れながらも余りにも不条理な暴力に対して苦言を呈する。
「何故…あなたはいつもこんなことをするんです、ブライト…艦長…!」
「それはな…」
軍服の襟を正したブライトは、静かに、淡々と答える。
「それは…お前が<カツ>だからだ!」
「なっ…!」
「お前が<カツ>である限り、私はお前を甚振り続けるだろう…それが私の存在意義だ!」
その顔には、理不尽な部下イジメを行う下卑な喜びなど全くない。
むしろ、使命を背負った聖人の如き<絶対の覚悟>すら滲み出ていた。
「私は全てを賭して、お前を殴り続けよう…この拳、砕け散るまで!」
言葉通り、ブライトの拳からは真っ赤な血が滴り落ちていた。
カツはいっそ清々しさすら覚えつつ、意識を遠のかせていった…。


「はあ…」
空はこんなに青いのに、カツの心はロンドンの冬のように暗かった。
「僕は…何の為に<カブコー>にいるんだ…?」
殴られるだけなら、我慢できる。けれど。
「最近…というか、この戦争が始まってから、一度も出撃させてもらってない…」
一度、その事で控えめに抗議したら、生身で出撃させられそうになった(宇宙空間で)。
核ミサイルに括り付けられ、発射されかけた事など、一度や二度ではない。
268作者の都合により名無しです:2011/02/16(水) 22:08:42 ID:sJ8pxk960
自分とて、青雲の志を抱いて<カブコー>に参加したというのに…。
「はあ…」
溜息をつくと寿命が縮むというが、それが本当ならカツの命はとっくの昔に尽きている事だろう。
そんな彼の前に、ぬっと現れた人影。
「カツくん」
「あ…あなたは…」

―――別段高級でもなさそうなスーツとネクタイ。
チョビ髭を生やした鼻にちょこんと乗せた眼鏡。
風采の上がらない、冴えない中年男性という印象のこの男―――
名を瀬戸発(せと・はじめ)。彼もまた<カブコー>の一員である。
前職は高校教師であったというこの男は、そのうだつの上がらない容姿とは裏腹に、部隊の中でも屈指
の曲者として名を馳せている。
彼の最大の特徴は―――<土下座>。
そう。彼は戦闘に際して、武力を一切使わない。
彼はただ、頭(こうべ)を垂れて―――地に擦り付ける。
恥も外聞もなく―――土下座する。
だが彼は。瀬戸発は、それで全てを解決する。
恐怖の天才科学者Dr.ヘルや闇の帝王率いるミケーネ帝国。
アクシズ落としを画策したシャア・アズナブル。
人類内部の病巣ともいえる三輪長官やブルーコスモス盟主アズラエル。
その他諸々、一般人には殆ど知られていないが、それらは全て瀬戸の土下座によって悉くが撃退された。
圧倒的な<土下座>という名の神通力。
瀬戸発の<土下座>は、実は世界に満ちた至高の存在である<無限力>の一種ではないかと、実しやか
に囁かれている程なのだ。
高校教師時代から土下座で全てを切り抜けてきたという逸話もあり、付いた二つ名は<どげせん>。
気付けば彼は<カブコー>の中心的存在として、誰からも頼られる男となっていた。

(毎日毎日、ブライト艦長に殴られる僕とは、えらい違いだよな…)
ついつい、卑屈な気分になってしまうカツであった。そんな心情を察したのか、瀬戸は優しく微笑み、
カツの隣に体育座りである。
「カツくん…どうしたいんだい、君は」
「どうしたいって…そりゃあ…」
握り締めた手に、落ちる雫。
頬を濡らす涙。
「僕だって…僕だって、この部隊の一員なんだ…!」
「カツくん…」
「瀬戸さん…!僕も…出撃…したいですっ…!」
「そうか…」
すっく、と。瀬戸は立ち上がり、青い空を見上げる。
「丁度いい…試運転が、したかった所だ」
「え?試運転、って…何の?」
「友人に頼んでおいたモノが完成したと連絡が入った。もうじき、彼がそれを持ってやってくる」
「彼?」
「カツくん。君もニュータイプと呼ばれる者なら、感じないかい?ここに近づいてくる気配を」
「…!?」
ニュータイプ。それは宇宙に進出した人類が発現させた、超常の感覚。
カツもまた、その力の持ち主だ。
269作者の都合により名無しです:2011/02/16(水) 22:09:55 ID:sJ8pxk960
それによって、彼は確かに感じ取った。この基地に近づいてくる、何者かの存在を。
「え…?こ、この感覚は…!?まさか…!」
いや。
それはもはや、ニュータイプでなくとも感じ取れる所まで来ている。
途方もなく、強大な気配。
圧倒的な存在感に中てられたのか、基地の中にいた<カブコー>の面々も飛び出してくる。
その中にブライトの姿を見た瀬戸は、これで準備が整ったとばかりに小さくほくそ笑んだ。
―――やがて、空から降りてきたのは、青色の巨大なロボット。
その威容に<カブコー>の精鋭達も驚きを隠せない。
「バカな…あれは!」
「そんな…!」

その青いロボットは、名を<ネオ・グランゾン>といった。
かつて最強無敵、絶対の存在とすら呼ばれた、究極の戦闘マシーン―――
それがネオ・グランゾンだ。
そして、コクピットから一人の男が降りてくる。
貴公子然とした、怜悧にして端正な美貌。
しかしその瞳は、どこか暗い闇をも湛えていた。

彼の名はシュウ=シラカワ。
若くして10にも及ぶ博士号を持つ天才科学者。
そしてかつては<カブコー>と敵対し、その頭脳による数々の策略と、自らが設計し、そして造り上げた
超高性能機―――<グランゾン>そしてその真の姿である<ネオ・グランゾン>により、カブコーを壊滅
寸前にまで陥れた。
そんな彼も、今はカブコーを離れて自らの闘いを続ける魔装機神<サイバスター>の操者―――
マサキ・アンドーの活躍と、瀬戸の土下座によって悪事からは足を洗い、ここ最近は姿を見せなかったの
だが―――

「何をしにきた、シュウ!」
「また、俺たちとやり合おうってのか!?」
「ククク…そんな気はありませんよ。最も、あなた方がそれを望むというのならば、降りかかる火の粉は
払わねばなりませんがね」
血気に逸るカブコーの面々を前にしても、シュウは余裕綽々といった態度を崩さない。
そして彼は、瀬戸に歩み寄る。
「今日は、彼に用があって来たのですよ…<どげせん>瀬戸発にね」
「瀬戸さんに?どういう事だ」
「私から説明しよう」
瀬戸は、ざわつき始めた隊員達を制止する意味も含めて語り出した。
「実は私は、彼に<あるモノ>の開発を依頼していた…」
「あるモノだって?」
「何だよ、そりゃあ。シュウの野郎に頼むだなんて…」
「瀬戸発の、専用機ですよ」
答えたのは、シュウ。
その言葉は、精強なるカブコーの面々をも凍り付かせるに十分な威力を持っていた。
これまで、生身での土下座によって全てを成し遂げてきた瀬戸が、ロボットを?
そして、それを造ったのが、シュウ?
「皆が驚くのも、無理はないと思う」
瀬戸は、静かに語る。
270作者の都合により名無しです:2011/02/16(水) 22:11:03 ID:sJ8pxk960
「だが私も、自らの土下座だけでは限界を感じていた…宇宙最大の勢力を誇るバッフ・クラン。未だにその
全容を見せぬバルマー帝国。そして、無限とも思える数の宇宙怪獣…それらに対抗するには、更に強力な
土下座が必要だと…」
そして、シュウに振り向く。
「その為の力…私の専用機を産み出せる者といえば、彼しか…総合科学技術者(メタ・ネクシャリスト)
と異名を取る、シュウ=シラカワしかいまい。そう思った私は、彼に土下座して頼み込んだ」
結局土下座かよ、と誰もがツッコんだが、口には出さなかった。
だって、瀬戸発である。土下座で何もかも手に入ると、本気で信じている男である。
「クク…まさか、邪神ヴォルクルスとの戦いに乱入して土下座してくるとは、流石に思いませんでした
がね。下手をすれば死んでいたというのに、恐ろしい男だ」
よく分からないが、瀬戸は瀬戸で、命を賭した土下座を行なっていたらしい。
伊達に<どげせん>などと呼ばれてはいない。
「その熱意に打たれた…という訳ではありませんが、いい加減に私も根負けしましてね。あの大戦に…
<封印戦争>にも参加せずに、彼の専用機を造っていたのです」
「なるほど…最近、姿を見せなかったのは、それが理由か」
「で、その瀬戸さんの専用機ってのは、どんなんだ?」
「ククク…では御覧なさい。これこそが瀬戸発の為の機体―――その名も<ドゲザリオン>です!」
シュウが指を鳴らすと、何もなかったはずの空間に、突如として巨大なロボットが出現した。
それは。
その、ロボットは。
実に、実に―――何という名状し難きフォルムか。
ドゲアーム。
ドゲレッグ。
ドゲボディ。
ドゲヘッド。
全身の全てで、土下座しているかのようなロボであった。
瀬戸発が乗る機体として、これ以上相応しいものがあろうか…!
<ドゲザリオン>の名に、偽りなしだ。
「す、すげえ…!」
「まるで、土下座をする為に造られたようなロボだぜ…」
「いや…間違いない。これは、土下座の、土下座による、土下座の為に造られた機械神だ!」
これに瀬戸が乗ったら、どうなってしまうのか?
湧き上がるのは戦慄と恐怖、そしてある種の期待感だ。
「シュウ。よくぞこれだけのモノを仕上げてくれた…感謝する」
「フ…」
二人は、ガッチリと握手を交わした。
互いに一癖も二癖もある男ではあるが、それでもその間には、奇妙な信頼が―――
互いの力を認め合った者同士の連帯があるようだった。
「パイロットとして、既にあなたのデータは登録してあります。いつでも起動できますよ」
「ありがとう。では…ブライト艦長!」
「な、なんだ!?」
いきなり名を呼ばれ、ブライトが狼狽したその虚を突き、瀬戸は畳み掛ける。
「あなたはこれまで、ただの一度もカツ・コバヤシを出撃させていない…そうですな?」
「それは…そうだが。それは今、関係ないだろう」
「関係ある。何故なら、今から私はドゲザリオンの初陣として…あなたに挑むからです」
「な…何ィ!?」
言うが早いか、瀬戸はドゲザリオンに乗り込む。
その瞬間だった。
カブコーの面々、そして彼らの乗る機体に異常が連鎖的に発生したのだ!
271作者の都合により名無しです:2011/02/16(水) 22:12:48 ID:sJ8pxk960
「ゲッターが、反応してやがる…!」
「お、俺に埋め込まれた銅鐸が疼くぜ…!」
「Gストーンの輝きが増した…!」
「イデのパワーが上がったわ!」
「アニマスピリチア!」
Etc、Etc。
瀬戸が、ドゲザリオンに乗った―――
ただそれだけで、これほどの異常が起きた。
そして、ゆっくりとドゲザリオンが動きだす。

―――瀬戸が、己の機体に求めたモノとは何か?
決まっている。
土下座だ。
それ以外に、彼に必要なモノなどない。
そしてシュウ=シラカワは、その要求に完璧に応えてみせた。
ドゲザリオンに搭載されたシステム―――
それは<ダイレクト・ドゲザ・モーション・システム>
パイロットがコクピット内で土下座を行う事により、ドゲザリオンはその動きを完全にトレース。
一切のズレなく、ドゲザリオンはパイロットと共に土下座する。
その土下座力変換効率は、生身での土下座の実に十倍!
瀬戸の土下座力を百万とするなら、ドゲザリオンに搭乗する事で発揮される土下座力は何と一千万!

そんな正確な数値など知る由もないが<カブコー>の面々は、これから始まる事態を恐れ半分、期待
半分で見守るばかりだ。
瀬戸が土下座する時―――<何か>が起きる。
無限力の一つとすら揶揄される瀬戸の土下座は、奇蹟を具現するのだ!
そして、ドゲザリオンはブライトに向けて<あのポーズ>を取る!

ORZ

―――それは、人が母の子宮に抱かれていた頃から無意識に取っていた、原初のスタイル。
それは、生命の姿。それは、宇宙の真理。
土下座。
最底辺の物乞いが行う筈のそれはいまや、偉大なる王の命令に匹敵する強制力を得ていた!
「お願いです、ブライト艦長…カツくんも、出撃させてあげてください」
「む、むう…だ、だが…!」
ブライトは、抗っていた。
本当は、今すぐにでも首肯し、この圧迫感から逃れたい。だが。
彼の中に流れるカツ虐待の血が。彼を構成するカツ苛めの遺伝子が。
この申し出を受けてはならないと、全力で抗っていた!
しかして、瀬戸の土下座は続く。
「なにとぞ…」
ドゲザリオンから響く、瀬戸の哀願。

「なにとぞ、カツくんに彼専用の機体を…そして彼を
小 隊 長 に し て い た だ き た い ! ! !」

その発言に、カブコーの面々はどよめく。
「専用機に、小隊長って…!」
「最初は、カツも出撃させてやれってだけだったのに…!」
「流石は瀬戸さんだ…エゲつねえぜ!」
272作者の都合により名無しです:2011/02/16(水) 22:38:21 ID:sJ8pxk960
さて。カツはというと、渦中の人でありながら、すっかり置いてけぼりにされた気分である。
(なんだ…なんなんだ、この展開…!)
しかし。戸惑いながらも彼の胸中は、熱く煮えたぎっていた。
人は誰でも、一度は主人公になれる。
今がその時だと、カツは確信していた。
「ブライト艦長…」
カツは跪き、地に手を着け、そして額を擦り付けた。
「どうか、僕に専用機と…小隊長の座を!」
瀬戸発。
彼が駆るドゲザリオン。
そして、カツ・コバヤシ。
まさしく三位一体土下座(トリニティ・ドゲ)!
その土下座力は瀬戸の百万がドゲザリオンによって一千万にまで増幅され、カツの土下座によって更に
二倍の二千万!
ブライトは完全に顔色をなくし、だらだらと汗をかきながら震えるばかりであった。
(…見事です、瀬戸!)
シュウは瀬戸が作り出した一連の流れに芸術的な美しさすら感じていた。
もはや場は、完全に瀬戸が支配している。ブライト艦長が折れるのも、時間の問題だろう。
(ククク…これはもう、土下座の名を借りた脅迫ですね。瀬戸発…地べたを這いずり、惨めったらしく
赦しを請うているように見せて、その実、己の意志を貫くことしか考えていない!己の要求を押し通す
ことしか頭にない!)
そんな瀬戸の姿は、シュウの目にすら眩く映る。
この男は何て、ワガママで。何て、自分勝手で。

―――何て<自由>なのだろうか。

(そう…だから私は、彼に惹かれてしまうのかもしれませんね…)
自分自身の為にしか動かない彼が、瀬戸の為の専用機である<ドゲザリオン>を、労力を惜しむ事なく
造り上げてしまった程に。
(瀬戸発…あなたの土下座道の行く末、しかと見届けさせてもらいましょう)
そのクールな顔立ちを緩め、シュウは頬を少しだけ…本当に少しだけ、赤らめるのだった。


―――かくして瀬戸の活躍もあり、カツ・コバヤシの主張は認められた。
次の出撃時にはカツ専用νガンダムが用意され、小隊員として元祖スーパーロボットパイロット兜甲児
に、流竜馬率いるゲッターチーム、そして勇者王・獅子王凱と、超豪華メンバーが選出された。
ちなみに彼らの乗機はそれぞれマジンカイザー・真ゲッター・ジェネシックガオガイガーである。
考えうる限り、最高の条件といっていいだろう。
これに対する反論は一切なかった。どうせ土下座で押し切られるだけだからである。
「瀬戸さん…!」
ドゲザリオンから降りた瀬戸に、カツは駆け寄った。
「ありがとうございます!僕は…僕はもう、どう言っていいのか…!」
言葉が見つからない。ただただ、カツの双眸からはとめどなく溢れる涙。
それはそれは、熱い涙だった。
伝えたい。この、熱い想いを。
「すみません…!」
カツが取った姿勢は―――土下座。
それ以外に、ない。
自分の為に尽力してくれた瀬戸に…ただただ、心から謝りたかった。
「いいんだ、カツくん。君の気持ちは、分かっている。次の出撃、楽しみにしているよ」
瀬戸は、カツの肩にそっと手を置いた。
カツの心意気は、瀬戸には余すところなく伝わっていた。

そう―――
謝りたいと感じたなら―――
それはもう<感謝>だから―――


瀬戸発。
宇宙に平和が訪れるその日まで、彼の土下座は続く!
273サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/02/16(水) 22:39:55 ID:sJ8pxk960
投下完了。
長編の執筆がスランプなら、思いついた短編を書こう!と思った結果がこれだよ!
今回は「どげせん」の瀬戸発が、もしスーパーロボット大戦にいたら…という話。
αシリーズっぽいけど、ちょっと違う世界の話だと思ってください。
ブライトが異常にカツをいじめているというのは、漫画家・吉田創さんがよくネタにしていたアレ。
一部では批判も相当受けたネタなんでどうかなと思いましたが…ははは(汗)
ドゲザリオンを造るのはシュウじゃなくてもよかったけど、やっぱりスパロボネタで書くなら彼は出したかった
ので…ちなみに、サマサは彼のおホモ説を結構真面目に支持しています。
総括すると、ちょっと瀬戸マンセーが酷かったかな…。
続編は多分書かない。でも、ネタが浮かんだら書くかも。
他にネタとして「元気やでっ」と最近流行りのハートフルボッコ魔法少女アニメの愛くるしいマスコットQBさんとの
コラボとか思いついたけど、相当暗い話になるのでそっと頭の引き出しに仕舞いこんだサマサ。
QBさんのつぶらな瞳を見るたびに不安になるサマサ。ほんと恐ろしい♂やで、QBさんは。

>>254 チンピラだけど、意外と優しい。それがレッドさん。2月は…頑張らないとw
>>256 原作には百合要素はないけど、二次創作ではバリバリ。それが東方…!
     FBFも、早いところ書きたいですねー。
>>257 おい、何ネタバレしてんすかw

>>258 強さは皆が認めるけれど、別に惚れられまではしない辺りがレッドさん。
     まあ惚れられても、かよ子さんがいるんでレッドさんは困るだけですがw
>>259 そこまで受けてくれるとは、予想外です。ありがとうございます。
>>260-261 ほんとにハシさんか?しかし、ハシさんは実は百合厨ではないという疑惑が…!ソースは彼のツイッター。
274作者の都合により名無しです:2011/02/16(水) 23:00:46 ID:H7YGctPx0
サマサさん乙。
しかしまさかのどげせんネタとはww
彼は板垣漫画(作画は似てるけど違う人ですが)では唯一勇次郎に対抗できそうな人間なので、
スパロボ世界でもこの土下座力(ちから)っぷりは納得です。

あとこれは個人的な我侭ですが、できれば作者公認のネタである
「瀬戸のモデル=田代まさし」の件には触れてほしかったなw
275作者の都合により名無しです:2011/02/17(木) 01:27:41 ID:4/nG8bVb0
どげせんとスパロボって対極もいいとこだW
それにしてもサマサさん乙です。
長編がスランプでも短編でバキスレに貢献してくれて嬉しい。
276サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/02/17(木) 21:29:14 ID:iZ8J6B0+0
スーパーロボット大戦DOGEZAじゃなくてDOZEZAになってたw
よりによってタイトルをこんな豪快に間違えるとは…
277作者の都合により名無しです:2011/02/18(金) 16:30:28 ID:bo0IvBcu0
サマサさんお疲れです。
サマサさんの十八番のひとつであるスパラボと
今流行りの?どげせんネタのコラボですね。
謝りたいと感じたから感謝とか板垣理論には
ついていけないけどSSにしたら楽しいですね。
また長編ともども待っております。
278作者の都合により名無しです:2011/02/19(土) 14:13:39 ID:cKBvz2dV0
どげせんはネタ続くのかね?
一発ネタを延々と伸ばしてる感じがするが
279作者の都合により名無しです:2011/02/20(日) 10:49:56.76 ID:S6sqZt9i0
そうか、外伝以降シュウが出なかったのはそんな理由が…ねーよw

>>278
まかり間違って20巻とか30巻いったりしたら、ラストの土下座はインフレしすぎて
とんでもない事になりそうだ…
280作者の都合により名無しです:2011/02/23(水) 08:54:40.54 ID:kvD09tOk0
スーパーロボット大戦DOGEZA 〜終焉の土下座へ PART2

宇宙に浮かぶは、何よりも碧く美しき宝石―――地球。
今日も今日とて邪なる欲望を抱き、侵略者が攻めてくる。
それ往け、地球を守る戦士達―――その名も<兜甲児と愉快な仲間達>略してカブコー!
科学・オカルト・努力・根性・熱血・愛・勇気・覚醒・再動・銅鐸・グレンキャノン―――そして土下座。
あらゆる手を尽くして、侵略者共を全滅だ!


「おのれ、カブコーめ…!まあいい、今日の所は挨拶代わりだ。次こそは貴様らの最後だ、はっはっは!」
テンプレ通りのセリフを吐きつつ、実はボロボロにされて涙目で逃げ帰っていく敵。
カブコー、今回も大勝利であった。


そして、戦闘後のミーティングというか雑談。
「今日もノリノリでしたね、万丈さん。あの口上、いつ聴いてもシビれますよ」
「いや、そんな風に言われると気恥ずかしいね…しかし、ノリノリといえば宙に敵う奴はいないだろう。
完全に相手を殺す気満々だったじゃないか」
「ははは。俺も戦闘中は無我夢中だからな…ついつい死ねぇ!とか全滅だ!とか言っちゃって…それより
すごかったよな、リョウ。お前アレ完全にエンペラー的なの見えちゃってたぞ」
「ああ、何か見えちまったみたいで…(笑)しかし…すごいといえば、やはり瀬戸さんだな」

―――瀬戸発。
土下座で全てを解決する、土下座専門家―――<どげせん>。

「あんな土下座見せられちゃ、そりゃどうしようもないぜ」
「何せ意思の疎通なんか出来ない筈の宇宙怪獣まで逃げ帰るもんなあ」
「ドゲザリオンに乗ってからというもの、ますます土下座に磨きがかかったようだな」
「カツも、彼の土下座で小隊長になってからというもの、目覚ましい活躍を見せているしな」
「ああ。ハンパねえぜ、瀬戸さんは」
「YSS(やっぱり 瀬戸さんは すごいぜ)」

―――そんな会話を耳にしながら。
仏頂面でミーティングルームを出ていく、一人の男がいた。
彼の名はゼンガー・ゾンボルト。
厳しく引き締められた口元と鍛え抜かれた肉体は、ドイツ人ながら、まるで戦国の世のサムライである。
その精神においても豪胆にして実直、信念に生きる武人。あまりの漢らしさに一部では<親分>などと
親しまれている無骨漢だ。
なお、彼の乗機は<武神装攻ダイゼンガー>。
何がどう武神装攻なのかまるで分からないが、勢いで誤魔化されたくなる漢の機体である。
フリーダムガンダム等は運動性や広範囲MAP兵器がある分扱いやすいし、スパロボ初心者から玄人まで
幅広く使われている基本的な機体。
対してダイゼンガーは見た目なんかは普通のスーパーロボットとほとんど変わらねぇが内蔵武器の使用
を否定し、刀一本で闘うおかげで接近戦には滅法強いが射程の長い敵にはタコ殴りにされる玄人好みの
扱いにくすぎる機体。
使いこなせねぇとボスボロットより弱いただの鉄クズみてぇなもんだってのに、ゼンガーはそれを手足の
ように易々と操る。
281作者の都合により名無しです:2011/02/23(水) 08:58:34.42 ID:kvD09tOk0
その剣は悪を断ち、神を断ち、そして全てを断つ―――断てぬものなどあんまりどころか、何もない。
カブコーにおいても皆から頼られ、一目置かれる存在である。
そんなゼンガーだが、目下、悩みがないわけではない。
(瀬戸発…!)
どこぞの盗撮犯によく似た顔の、妙に愛嬌がある男。
彼に対してゼンガーは、忸怩たる思いを抱えている。
(何かあれば、奴はすぐさま頭を下げてばかり…それでも男か!)
無論、ゼンガーとて瀬戸の力は認めている。
同じ部隊の仲間として、彼の土下座に助けられていると理解してもいる。
しかし。
古きよき日本男児の気質を体現したゼンガーには、土下座で全てを解決しようとする瀬戸の姿勢は、
余りにも軽佻浮薄に映る。
―――だがゼンガーは、そんな内心を誰にも語るまいと戒めていた。
確かに、瀬戸のやり方は気に食わない。それでも瀬戸は、実際に結果を出している。
カブコーの面々とも、良好な関係を築いてもいる。
ならば、余計な事を口にして波風を立てるべきではない―――ゼンガーはそう思い、自重していた。
と―――通路の向こうから、一人の男が歩いてくるのが見えた。
勿論、瀬戸である。まるで見計らったようなタイミングだ。
「…………」
軽く会釈だけして、ゼンガーはその横を通り過ぎようとする。
「ゼンガー」
そんな彼を、瀬戸は呼び止めた。
「ちょっと、外の空気でも吸いにいかないか?君と、話がしたいんだ」


―――外に出ると、瀬戸は何故か無数のカラスにたかられた。
特にそれを気にするでもなく、瀬戸はゼンガーに語りかける。
「ゼンガー。ここには私と君だけだ」
「…………それが、どうした」
「誰にも聞かれず、腹を割って話したい」
瀬戸は、ゼンガーの目をまっすぐに見つめた。
「君が、私を快く思っていない事は分かっている」
「…!そうか。なら、話す事などなかろう」
ゼンガーは、瀬戸に背を向ける。
「お前の存在が気に入らんからといって、俺はとやかく言うつもりはない。部隊から排斥しようなどとも
思っていない。瀬戸…貴様は、カブコーに必要な男だ。だが、仲良くする気もない」
「つまり…お互いに不干渉でいようと、そういう事か?」
「そうなるな。俺と貴様は、違いすぎる。とても気が合うとは思えん」
「私はそうは思わない」
ゼンガーの背中に、瀬戸はそう呼びかける。
「確かに君と私は違う。だが同時に、とてもよく似ているんだよ、ゼンガー…君と、私は」
「何…!」
「君は剣一本で己の道を切り開く。私は土下座で己の道を切り開く―――」
282作者の都合により名無しです:2011/02/23(水) 09:02:50.97 ID:kvD09tOk0
瀬戸の眼鏡が、陽光を受けてキラリと輝いた。
「君の剣と、私の土下座。それは非なるものだが…似たものだ。ならば、きっと分かり合える」
「詭弁を弄すな、瀬戸発っっっ!」
ゼンガーの怒号が、空気を震わせた。瀬戸にたかっていたカラスが、一斉に飛び立つ。
「もはや問答無用…!やはり俺と貴様は、相容れんようだな」
「そうかな」
瀬戸は。
「私は、そうは思わない」
先のセリフを繰り返し。
「君とも分かり合える。そう思う」
静かに。澱みなく。
「ゼンガー…どうか分かって頂きたい。私が頭を下げる、その意味を」
流水のように滑らかな動きで―――
「この通りだ、ゼンガー」
地に手を着き、頭を擦り付けた。

ナマで拝んでオドロキやがれッ!
瀬戸発・伝家の宝刀―――土下座!

「瀬戸、貴様…!この期に及んで、なお軽々しく頭を下げるか!」
激昂し、ゼンガーは瀬戸の肩に掴みかかる。
「俺と分かり合いたいなどと言うなら、まずは頭を上げろ!そのような軽い頭、どれだけ下げたとて、
俺の心が動くものか!」
「私の頭が軽い…?そうかな。ゼンガー・ゾンボルト」
本当にそう思うなら、試してみたまえ。
挑発的に、瀬戸は言う。
「よかろう…!ならば貴様を引きずり起こしてくれる!」
掴んだ肩を、力ずくで持ち上げようとして―――ゼンガーは、気付いた。
(…!?う…動かん…!)
瀬戸はそれなりに筋肉質ではあるが、決して大柄ではない。ゼンガーとの膂力の差は、歴然の筈だ。
だというのに―――大地に根ざした巨木の如く、一ミリたりとも動かない。
「ゼンガー…よく見なさい。私が、この背に負うモノを…」
「な…何だと…」
次の瞬間。
ゼンガーは、己の目を疑った。

―――筋骨隆々のヤクザ。
―――頑固な定食屋のオヤジ。
―――今時の高校生男子。
―――粗暴な空手部員。
―――母親思いの不良。
―――口やかましい評論家。
―――同僚の教員。
―――校長。

それだけではない。
瀬戸がこれまでに土下座してきた、ありとあらゆる者達が、瀬戸の背中に圧し掛かっていた。
283作者の都合により名無しです:2011/02/23(水) 09:07:31.47 ID:kvD09tOk0
その数、実に数百―――いや。数千、数万にも達している。
「私の土下座には…これまで関わり、土下座してきた全員の重量が掛かっている」
「バ…バカな!」
だが現実に、瀬戸の身体を動かす事は出来ない。
ゼンガーは今、思い知った。
(こ…こやつ…否。この漢は…軽々しく頭を下げてなどいない…!)
そう。瀬戸は―――重々しく、頭を下げていた。
常人では到底抱えることなど出来ぬ重みを背に、土下座していた。
「…不覚。真に軽々しいのは、何も知らずに貴様を否定していた、俺の方だったな…」
そう言いながらも、ゼンガーは晴れやかな顔をしていた。
まるで柔術の達人に、ふわりと投げられたような―――清々しさすら覚える敗北感。
「瀬戸…すまなかった」
ゼンガーは、地に膝を着けた。次に、掌を。
そして、その頭を―――
「勿体ない事をするな、ゼンガー」
瀬戸は、それを押し止めた。
土下座の伝道師である彼が。
土下座を、制した。
「君のような漢が…それこそ、軽々しく頭を下げてはいけない」
「瀬戸…」
瀬戸は立ち上がり、悠然と去っていく。
その背中を、ゼンガーはただ静かに見送った。

―――後にゼンガー・ゾンボルト(29)は、親しい友人にこう語った。
男が<漢>に惚れるというのは、まさにあの瞬間であった―――と。


その頃、瀬戸の自室にて。
「いつつ…」
―――身体に巻き付けておいたパワーアンクルを外した瀬戸は、肩の痛みに呻く。
持病の四十肩である。
「5…50キロはやりすぎだった…!30キロにしとけばよかった…!」

―――瀬戸発。
土下座のためには、どんな労力も厭わぬ男であった。
284サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/02/23(水) 09:13:10.19 ID:kvD09tOk0
投下完了。どげせん×スパロボ、まさかの第二弾。
今回はゼンガー親分を相手に土下座。
どげせん知ってる方が案外多くて驚いた。なんだかんだで注目度高いのね、どげせん。
結構どげせんでネタは浮かんだけど、次はサンレッド書かないとナー…

>>274 確かに、勇次郎に襲われても土下座で切り抜けそうですねw田代ネタ、やらせていただきました。
>>275 次はサンレッド書きます…とかいっときながら、どげせん第三弾やるかもしれません。
>>277 よくよく考えなくても<すごいね人体>とか<範馬刃牙復活っっっ>とかありえないっすよね…。
>>278-279 天元突破土下座とか…ないな。
285作者の都合により名無しです:2011/02/23(水) 13:37:03.32 ID:Fl1x88gr0
お疲れ様です。これシリーズものだったのかw
確かに土下座をナマで拝んだら驚くなあ。
ある意味、土下座って相手への恫喝なんだけどw
286作者の都合により名無しです:2011/02/23(水) 20:23:15.96 ID:qzMOVhWM0
お疲れ様ですサマサさん。
スパロボは全然知りませんが、どげせんは一番今好きなネタ漫画ですので
俺的にはタイムリーな感じです。もう少ししたら飽きそうですがw
美しい重い土下座ですね、瀬戸の土下座は。
でも個人的には土下座をする人間は絶対に信用しないな。
287作者の都合により名無しです:2011/02/24(木) 20:15:56.76 ID:Aba4Cll10
カイカイです。

「ドラえもん」「21エモン」「チンプイ」「パーマン」で、外宇宙文明がオフィシャル設定でどこまで
まとまってるか、見れるサイトや本は無いでしょうか。
288作者の都合により名無しです:2011/02/25(金) 12:15:53.21 ID:0q3HO8Jg0
おお、カイカイ氏お久しぶり。
オフィシャル設定を探してるのはSSのネタの為かな?
そうだとしたら楽しみ。
俺もちょっと探してみたけど、みつかんなかった・・
289ふら〜り:2011/02/25(金) 15:48:32.76 ID:mJHKfJmH0
>>サマサさん
「結果を出してる以上は文句言わない」漢らしいなぁ→「土下座の重さ」これも漢らしいなぁ→
「男が漢に惚れる」くはぁ!→と思ってたらオチがっっ! 作者さんの掌で転がされる、読者の
醍醐味を味わいました。あとドゲザリオンのデザイン、文字媒体ならではの魅せ方でしたね。巧い!

>>カイカイさん
心当たりはないですが……おそらく、それらの作品に跨った共通の設定なんてのは
ないでしょうし、個々にしてもそうガッチリしたものはないでしょうから、作っちゃってもいいと
思いますよ。
290作者の都合により名無しです:2011/02/25(金) 17:48:41.17 ID:VIeaTOlw0
俺もみつからなかった。
でもカイカイ氏がんばってくれ。
291作者の都合により名無しです:2011/02/25(金) 18:12:40.32 ID:w4TkpLmJ0
みなさん、ありがとうございます!

自分、うろ覚えな記憶としては・・・
21エモンの時代に、外宇宙文明の連合と地球が接触したんです。
そして、マツシバがドラえもんを製造するのが2100年代なんですよね。
パーマンやチンプイも外宇宙文明からの接触だけど、地球の政権とは接触しなかった、と。

そのため、リフォルドでも何でもコラボして違和感ないんですよ。
鉄人兵団とかも来てるぐらいだから。
ただ、気になるのは2011年の地球の科学力。
鉄人兵団、もし地球に来襲しても多国籍軍に鹵獲や破砕されちゃうのでは?

そうなってくると、のび太の成長や格闘とかの道程がちょっと違うものになります。
オリバたちの存在意義が、変わってくるので。
292作者の都合により名無しです:2011/02/25(金) 18:14:20.21 ID:w4TkpLmJ0
>>291もわたくし、カイカイです。
アニメ映画もリメイクになることですし、鉄人兵団VSリアル地球軍がどんな感じか
考えてください。
その部分は、作るときの材料(イメージとして)になります。
293作者の都合により名無しです:2011/02/25(金) 18:22:46.22 ID:VIeaTOlw0
いや・・さすがにリアル地球軍なら圧勝でしょw
294作者の都合により名無しです:2011/02/25(金) 22:26:26.65 ID:vWSX+GRl0
>>サマサさん
確かに瀬戸ならスパロボ世界でも、土下座一本でやっていけそうだw
第三弾も(あるのかな?)楽しみにしてます

>>カイカイさん
鉄人兵団はドラ達でも真っ向勝負じゃ勝てなかった相手ですからね…
地球全軍でも多分負けるんじゃないかと。
科学力は地球より遥かに上だし、指先からのレーザー一発でビルを破壊するような
奴が数十万・数百万といるし…
295作者の都合により名無しです:2011/02/26(土) 10:44:21.33 ID:nZ2poK9g0
それがドラたち、非殺傷兵器とヒラリマントしか使ってなかったんです。
ビル破壊も、ハンドキャノンや指弾の届く距離でのことだし、
地球人をある程度減らすことへの抵抗もなさそうな相手でした。

つまり、攻撃の有効射程が短い。これ、ワープや巨大ロボのある文明なのに不思議なんですよね。
それで、ひょっとしたらリアル地球軍に衝かれる点が多いのではないかと。
296作者の都合により名無しです:2011/02/26(土) 15:50:24.48 ID:OxRgxC7l0
よろしくお願いします!

1. BlackCat
(1) BlackCatの禁書目録のクロスオーバーSS
(2) イヴ×リオンのSS
2. 鬼切丸
鬼切丸×鈴鹿のSS
3. MURDER PRINCESS マーダープリンセス
カイト×ファリスのSS
4. 式神の城
玖珂光太郎×結城小夜 OR 玖珂光太郎×城島月子のSS
5. 大竹たかし DELTACITY 全2巻
6. ヴァンパイア十字界
(1) 蓮火×花雪 OR 蓮火×ブリジット
(2) とある魔術の禁書目録×ヴァンパイア十字界のクロスオーバーSS
7.. 地獄少女
(1) 不合理な 地獄少女の被害者(e× 看護婦、1期の看護婦、2期の 拓真を助けに来てくれた若い刑事、秋恵) 家族・恋人が 地獄通信に 地獄少女と仲間たちの名前を書くSS
(2) 極楽浄土の天使 OR 退魔師が 地獄少女と仲間たちを断罪するSS
(3) 拓真の 地獄少年化SS
二籠の最終回で拓真が地獄少年になるのかと思ってたんですが・・
地獄少年 ジル : 所詮この世は弱肉強食。 強ければ生き弱ければ死ぬ。
拓真 : あの時誰も僕を守ってくれなかった。
守ってくれたのはジルさんが教えてくれた真実とただ一振りの超能力
・・・だから 正しいのはジルさんの方なんだ。
8. 真・女神転生CG戦記ダンテの門
ダンテ× ユーカのSS
9. スレイヤーズ
魔竜王ガーヴが慎二に転生 ワカメ魔竜王シンガーヴ無双
10.. るろうに剣心
志士雄真実が禁書世界に転生
11. CODE:BREAKERととある魔術の禁書目録のクロスオーバーSS
12. ガンダムWとエヴァのクロスオーバー SS
13. ロードス島戦記 IF
(1) ナシェルのロードス統一
(2) ロードス島戦記の破壊の女神カーディス復活 VS ロードス連合軍
(3) 新ロードス島戦記の終末の巨人復活 VS ロードス連合軍
297作者の都合により名無しです:2011/02/26(土) 18:42:09.87 ID:X08Gt25m0
ICBMであっさり兵団壊滅するかも
298作者の都合により名無しです:2011/02/26(土) 18:44:23.66 ID:X08Gt25m0
自分で書いて我ながら天才だと思ってしまったwww
299作者の都合により名無しです:2011/02/28(月) 13:05:22.91 ID:/SjnJMn90
柳の御奴村の話、続編が読みたかったな。
特に、本部公園から東京拘置所のようなところへ回収された柳から、時が動き出すような感じで。
柳の供述じゃなく、秘蔵のマイクロフィルムとしてどっかに情報が隠されてるんだよ。
アナザーヘヴンとかともコラボしてさ。
ピクルより面白いぞ。
300作者の都合により名無しです:2011/03/01(火) 19:29:03.23 ID:PNighRfJ0
保守
全盛期を知る身としては辛いナー
301作者の都合により名無しです:2011/03/02(水) 10:31:33.51 ID:JspOjBx30
全盛期というか、バキ○刑囚編のリメイクをするスレだったんだよな。SSで。
302作者の都合により名無しです:2011/03/02(水) 11:17:57.18 ID:5XbpMMUF0
ここは偶然見た、虹のかなたではまったんだよなー。
実はいまだに待ってる。最近読みなおしたけど、やっぱりおもしろかった。
あと、エニア氏のジョジョ3部外伝もまってる…
303作者の都合により名無しです:2011/03/05(土) 13:16:11.23 ID:52m1iJA10
「TRICK」の原作マンガのSSは無いかな。
オリバとドリアンのコンビを投入するんだよ。
そのうち、タネも仕掛けもない怪生物(彼岸島のような)などを相手にし始めるんだ。
304作者の都合により名無しです:2011/03/05(土) 23:03:58.47 ID:zgBBJIoR0
『待ちぼうけ』

 セルゲーム当日──戦士は誰一人現れなかった。
 リング中央で待ちつつ、苛立つセル。
「もうとうに時間は過ぎている……一体どういうことだ」
 セルゲームに招かれた孫悟空たちはというと、すでに地球にはいなかった。
 十日間ではメンバーがセルを超えられなかったと悟った悟空が、確実にセルを打倒でき
る実力を身につけるまで、界王星に避難することを提案したのだ。ベジータは当然猛反対
したが、ブルマの説得もありしぶしぶ了承し、悟空と親しい者は皆地球にはいないという
状況になっていた。
「どういうことだ……。奴ら、どこにも気を感じられん」
 考えられるのは二つだけ。彼らが気を消しているか、それとも──どこにもいないか。
「奇襲など私には通じないことくらい分かっているはずだし……。となると、やはり逃げ
たということか」
 セルには心当たりがあった。悟空が彼の前で二度披露した瞬間移動。あの技ならば、い
くらセルが速くとも到底たどり着けない領域にまで逃げることが可能だ。
 失望と怒りで、拳を握りしめるセル。
「いいだろう、孫悟空。貴様ら腰抜けは不戦敗だ。私は約束通り、地球人どもを皆殺しに
するとしよう」
 思考を止め、殺戮のため飛び立とうとするセルに、やかましい声が飛んできた。
「コラーッ! セル、私を無視するんじゃなーい!」
 リングの上でわめき立てているのは、ミスター・サタンであった。ずっとセルを挑発し
ていたのだが、悟空ら不在の推理をしていたセルには全く聞こえていなかった。
「なんだ貴様は……」
「だはははっ! 私は天下一武道会チャンピオン、ミスター・サタン様だ! 貴様を倒す
ためにテレビクルーを連れて乗り込んできたのだ!」
 リングの外には、怯えるアナウンサーとカメラマンがあった。
「さあ、セルよ! 私にはトリックなど通じんぞ、かかってこ──」
「うるさい」
 セルは手刀をサタンにぶつけた。といってもほとんど触れただけに等しい。が、サタン
はこの一撃で空高く吹っ飛び、近くにあった岩山に激突した。
305作者の都合により名無しです:2011/03/05(土) 23:05:29.91 ID:zgBBJIoR0
「あ、あがが……」
「ゴミめ、殺す価値もない」
 血だらけになったサタンを見て、もはや人類は終わりだと悟ったアナウンサーとカメラ
マンはサタンを置いて逃げてしまった。
「さて手始めに、西の都あたりで人間どもを血祭りに……」
「待てぇ〜い!」
 セルが振り返ると、なんとサタンが再びリングに上がっていた。
「さっきのは油断しただけだ! さあもう一度、勝負しろ!」
「レベルの違いが分からんのか……。確かに世界チャンピオンではあるようだ、バカのな」
「き、貴様、許さぁ〜ん!」
 セルの頭脳はすでにサタンの生命力を計算し終えていた。こんなゴミに余計な力を使う
のはもったいないとばかりに、セルはサタンの生命をちょうどゼロにする威力にて、手刀
を放った。
「げへっ!」
 リング外に叩きつけられるサタン。この時点で、サタンは死体となった。
 ──はずだった。
「うぐぐ……トリックだ……」
 よろよろと、起き上がるサタン。
「なんだと……?」
 驚くセル。といってもサタンの根性にではなく、計算を間違えたことに対してであるが。
 いずれにせよ、全てがパーフェクトであるはずのセルの目論みを外したというのは大き
かった。セルはサタンに興味を持った。
「素質は、あるやもしれん……。地球人を殺したところで、どうせ生き返らせてしまうだ
ろうし、いずれは孫悟空も戻ってくるはずだ……。こいつで暇潰し、といくか」
 するとセルは気をわざと大幅に下げ、サタンに向かって叫んだ。
「ミスター・サタンとやら! もう少しで負けるところだったよ。さあもう一度、かかっ
てくるがいい!」
 負けるところだった。すなわちサタンは勝てそうだった。この言葉にあっさり騙された
サタンは、怪我も忘れてセルに襲いかかった。
「だははははーっ! ダイナマイトキック!」
 セルはサタンを鍛えようと考えたのである。
306作者の都合により名無しです:2011/03/05(土) 23:06:45.82 ID:zgBBJIoR0
 こうして、サタンにとっての試合、セルにとっての指導が本格的に始まった。
 練習嫌いの身で、低レベルではあるが天下一武道会の頂点に立った才能は伊達ではなか
った。あらゆる達人の細胞を持つセルの指導もあり、めきめきと実力を伸ばしていった。
 食糧はピッコロの細胞による魔術にて調達し、ほとんど朝から晩まで寝る時以外は闘っ
ていた。
 軍隊が壊滅した過去からか、誰も寄り付かないこの地にて、いつしかサタンは己の限界
を超えていた。気を操り、空を飛び、セルからあらゆる技術を吸収した。

 いくらかの年月が経ったある日、ついにあるはずがない日が訪れた。
 荒野で向かい合うセルとサタン。
「セルよ、今日こそ倒してやるぞ!」
「ふん、返り討ちにしてやる!」
 音を置き去りにした超高速での拳の打ち合い。攻撃と防御が目まぐるしく展開されてい
く。
 両者、一度間合いを取った。
「ダイナマイトキャノン!」
「かめはめ波!」
 ダイナマイトキャノンとは、気功波の原理からサタンが開発した独自のエネルギー波で
ある。威力は五分、しばらく押し合いが続くが決着がつかないので、二人とも肉弾戦へと
移る。
 一進一退。わずかなミスも許されない。
 だが──
「きええええええっ!」
 ──サタンが先んじた。かつては瓦を割るくらいがせいぜいだった手刀で、セルの右腕
を切り落としたのだ。
「ぬぅっ!」
 すぐさま右腕を再生させるセル。が、これで生じた隙と消費した体力が決定的な差とな
り、徐々にサタンが優位になってゆき──
 ついに──
 ついに──
 ついに。
307作者の都合により名無しです:2011/03/05(土) 23:09:17.33 ID:zgBBJIoR0
 サタンの右拳が、セルの頭部にある核を貫いた。
「ぐはっ……!」
「や、やったぞ!」
 地上へと落下するセル。サタンが笑顔で駆け寄る。
「だははははーっ! どうだセル、これが私の実力だっ!」
「あ、ああ……見事だ……。まさか、このような日が来よう、とは……」
「ざまあみやがれ! さあ、とっととくたばっちまえ!」
「そう、だな……私は地獄、に行くだろう……」
「当たり前だ! この──」不意に、サタンの目から涙がこぼれた。「この野郎、頼むっ、
死ぬなぁーっ! 死なないでくれぇーっ!」
 自分の拳で破壊した核を、必死に元通りにしようとするサタン。しかし、もはやセルの
命は風前の灯であった。
「バカめ……。いくら、強くなっても……バカは変わらなかった、な……」
「おい、待てぇーっ! 死ぬな、死ぬんじゃあーいっ!」
 セルの気が消えた。サタンの五感全てが示す。宿敵であり師匠であり親友であり自分自
身ですらあったセルの死を。
 サタンはあらん限りの声で絶叫した。
「セルーッ!」

 セルの亡骸を抱え、サタンは泣き続けた。いくら泣き止みたくとも、涙と鼻水が止まっ
てくれないのだ。セルと過ごした日々は、失うには余りにも大きすぎた。
 しばらくして、サタンは背後に巨大な気がいくつも現れたのを感じた。
 振り返ると、孫悟空、孫悟飯、ベジータ、トランクス、ピッコロ、クリリン、ヤムチャ、
天津飯が勢ぞろいしていた。
「なんだ、貴様らは……」
「オラ、孫悟空ってんだ。セルを倒せる実力をつけたから、帰ってきたんだが、おめぇが
倒しちまったみてぇだな。サンキュー!」
 ほがらかに笑い合う戦士たち。
 悪気はないのだろうが、サタンにはセルの死を冒涜されたような気がしてならなかった。
 サタンはうつむき、決意した。彼らはセルの敵なのだ。すなわち──ミスター・サタン
の敵でもある、と。
308作者の都合により名無しです:2011/03/05(土) 23:10:37.43 ID:zgBBJIoR0
「うおおおおおおおっ!」
 全パワーを解放し、サタンは悟空に突撃した。完全体のセルをも上回ったパワー。セル
から逃げていた戦士たちでは到底敵わなかった。
 ──はずがなかった。
「おめぇ、セルの仲間だったんか。しょうがねぇな〜」
 悟空はあっさりと超サイヤ人3に変身すると、サタンに向けてほとんどチャージなしで
かめはめ波を放った。サタンとは比べ物にならない天才である悟空が、今さらサタンに後
れを取るはずがなかった。
 エネルギーの塊に呑み込まれたサタン。最後にこう言い残し──
「セル、すぐに追いつくぞ」
 消滅した。
309作者の都合により名無しです:2011/03/06(日) 08:11:04.73 ID:sl5OkRnf0
乙です
悟空達がちょっと感じ悪すぎるなー…
でも、サタンの最期はちょっとしんみりきた
310作者の都合により名無しです:2011/03/06(日) 20:21:23.12 ID:1ZnRzvnf0
Tails of DOGEZARIA

―――此処は剣と魔法…そして土下座が全ての根源を成す幻想世界―――
創世の土下座三女神(ドゲガデス)ドゲリア・ドゲーネ・ドゲリスが産み出したとされる天地。

<DOGEZARIA(ドゲザリア)>

時は聖ドゲ歴1000年。
ドゲ・ザリー帝国の初代皇帝ドゲザーは直属の部下たる土下座四天王、そして支配階級たる土下貴族
達を率い、世界各国を相手取って土下座大戦(ワールド・ドゲ・ウォーズ)を引き起こした。
この一大戦争に勝利したドゲザーは、遂に土下座による世界制覇を成し遂げる。
土下座税(ドゲタクス)の導入による、貧困層の拡大。
横行する土下座軍(ドゲタリー・フォース)による被支配者への横暴。
土下貴族(ドゲ・ノーブル)は土下座によって強権を振るい、圧制を強いた。
政治家達は土下座主義(ドゲ・ポリシー)によって腐敗し、平和主義を説いた土下座教(ドゲ・チャーチ)
は徹底的に弾圧された。
力なき民は、ただひたすらに願った。
英雄の到来を。
勇者の降臨を。

―――そして、彼は来た。

「この通りです…どうか…御赦しをっ…!」

その身に秘めた神秘の力。其れ故に帝国に追われる少女ドゲリー。
彼女を救ったのは、貴族達をも易々と退ける土下座力の持ち主。
名をハジメ=セト。
311作者の都合により名無しです:2011/03/06(日) 20:24:42.60 ID:1ZnRzvnf0
―――彼はどこから来たのか?
―――彼は何者なのか?
―――ただ、一つ。
彼の土下座は、この歪んだ世界を変える土下座―――

セトとドゲリーの元に集まる、宿命に導かれし仲間達。
「僕は土下座魔神アスラの生まれ変わりだー!」
「俺は土下座親善大使だぞー!」
「土下座なんぞしてんじゃぬぇぇ!(若本規夫ボイス)」

彼らとの旅の中で、何も知らなかった少女は世界を知る。
その醜さを。
そして、なおも美しきものもあるという事を。
そして―――この世界を歪める者達の暗躍を。

そんな世界でも、人は、力強く生きていた。
笑顔を忘れず、朗らかに笑っていた。
だが、彼らを悲しめ、苦しめる帝国の存在は、ドゲリーに暗い影を落としていく。

自分はセトや仲間達によって救われた。
ならば、彼らは。
誰が、救ってくれるというのだろう?

「ドゲリー」
セトは、ただ、静かに問うた。
「君が望むなら、私は力を貸そう」
「セト…」
「私に与えられた万難を排す土下座力は、全て君のものだ」

「掌は私が地に着けよう。膝は私が曲げよう。頭ですら、私が下げよう―――
それでも、君が決めるんだ。望むのは、決めるのは、君だ」
「わ、私は…」

決意した。
土下座で歪んだ世界を、土下座で救うと。
312作者の都合により名無しです:2011/03/06(日) 20:25:51.84 ID:1ZnRzvnf0
この世界を正すため―――そしてドゲリーを救うために、彼らと共に帝国に挑むセト。
待ち受けるは、圧倒的な土下座力を持つ四天王。

「ほほほ…哀れな娘よな、ドゲリー…否。創世の女神の化身め!」
「教えてやろう…貴様の土下座など、何の意味もない事を!」
「見せてくれようぞ。真の土下座というものをなぁ!」
「ブエナスノーチェス(こんばんは)!そしてアディオスアミーゴ(さようなら)!
哀れなるセトよ、貴様の土下座もここまでだ!」

遂に姿を現した皇帝ドゲザー。
そして明かされる、衝撃の真実。

「愚かな―――あくまでも私に…父に逆らおうというのか…息子よ!」
「何故だ…何故、父の志を理解せん!」
「我が土下座こそが…我ら一族だけが、土下座によってこの腐った世界を統治すべきなのだ!」

迫り来る巨大な敵。
余りにも強大な運命。
ならばそれに膝を屈するか?
それとも―――

「諦めないで、セト!君の土下座は、もっと…何よりも強かったはずだよ!」

土下座によって、運命をも切り裂くか―――?


―――ねえ。
まだ、覚えてるかな?
君と出会ったあの日の夕焼けと―――あの日の土下座。
あの日、私は、君と一緒に、地に頭を擦り付けたよね―――


〜君と土下座するRPG〜 Tails of DOGEZARIA

近日発売!
313サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/03/06(日) 20:39:45.58 ID:1ZnRzvnf0
投下完了。
またしてもどげせんネタです…一巻発売記念ということで、一つ。
次こそは…次こそはサンレッド書きます…(滝汗)
しかし、ヴァンプ様がセクキャバとかフィリピンパブの存在を知っていた事にショックを受けた。
何というか、コウノトリやキャベツ畑を信じている少女が無修正ビデオを見せられた気分。
しかし、おさわりせずに世間話しちゃう辺りは間違いなくヴァンプ様だったから安心した。
そんな27歳の初春。

しかして、どげせん既に30万部突破とかマジか。
何だかんだいってすげーですわあの漫画。

>>285 実際、あんなんされたら困るのはこっちですからねーw
>>286 兵藤会長も、土下座には否定的でしたからねー。やっぱ、現実じゃ通用しないかな…。

>>ふら〜りさん
いくらなんでも土下座で全部解決しすぎかな?とも思いましたが(笑)
原作もまあそんな感じですけど、あの強引な説得力を上手く出せたかどうか…。

>>294 スパロボコラボでの第三弾も考えてますが…とりあえず次はサンレッドです。

>>カイカイさん
地球は負けますね。これはもう確実なレベルで。
大規模破壊兵器を使わなかったのは、労働力にするべき人間を大量に殺したりするのを自重した
結果かなあ?と。
外宇宙レベルでの移動を平然と成し遂げる段階で、それこそスパロボ軍団でもないと太刀打ちできない
んじゃないですかね…。勝手な想像ですが。

>>待ちぼうけ
サタンの修行・セルとの奇妙な友情…
それを無慈悲に打ち砕いたZ戦士、許すまじ(かなりマジに)。
これ、普通に悟空は地獄逝きだろJK…全く!これだからサイヤ人は!
サタンがセルとあの世で仲良くやっていけることを願うばかり…。
314作者の都合により名無しです:2011/03/07(月) 00:14:10.48 ID:m6Wsqb7x0
テイルズってよくわからん・・。
ゲームのテイルズオブなんたらだよね?
とにかくサマサさん乙です。
どげせんシリーズもいいですけど
そろそろレッドさんにも合いたいです。
315作者の都合により名無しです:2011/03/07(月) 11:24:07.27 ID:ecNt+cT4O
我が儘すぎ
何様?
316作者の都合により名無しです:2011/03/07(月) 12:14:40.56 ID:cEVSvhhb0
>待ちぼうけ作者氏(新人さん?もしかしてサナダムシさん?)
サタンはある意味ドラゴンボール世界で悟空以上の救世主ですなw
確かに、耐久力「だけ」ならZ戦士以上かも。サタンチョップを耐えたしw
サタンはナイスガイだけど、悟空は天然で腹黒いですな。このSSでも原作でも。

>サマサさん
サマサさんはテイルズも好きなのかぁ・・。やっぱりなw僕も好きです。
土下座魔法は世界を超えますな。そして世界と運命を救う。・・のか?
なんか土下座でRPGネタのSSも書けそうですね。途中でネタに困りそうだけどw
317作者の都合により名無しです:2011/03/07(月) 14:32:09.60 ID:jhLLqzqa0
>>316
本当だ
サナダムシさんっぽいな
文体とか似てる感じだ
本人なら嬉しいな
もちろん、新人さんや他の方の復活でも嬉しいけど
サナダムシさんは個人的に1番好きな職人さん
318作者の都合により名無しです:2011/03/07(月) 14:54:36.82 ID:I4u4szoO0
今週のまる子、はまじが打撃技に転じたのは意外だったな。

次郎長埋蔵金が幕末の洋式銃20丁と10ドル金貨一袋だったのも、なんかまだ裏がありそうだ。

キーパーソンはハマジ、なんで今までパンチテクを隠してきたのかだ。
319作者の都合により名無しです:2011/03/08(火) 03:38:24.04 ID:VZxphqmT0
サナダムシさんが復帰してくれたらまた少し盛り返すと思うんだが
サナダムシさんなのか?
320作者の都合により名無しです:2011/03/08(火) 11:06:23.23 ID:7KQMu7pB0
そういえばサマサさん、NBさん、サナダムシさんは同期なんだよね・・
もう一度3人揃ったバキスレが見たい

あくまで待ちぼうけ作者さんがサナダムシさんと仮定してだけどw
321作者の都合により名無しです:2011/03/09(水) 11:59:44.71 ID:EP/ewEEe0
ちびまる子ちゃん最強議論スレをたててくれ。
322作者の都合により名無しです:2011/03/10(木) 09:11:25.01 ID:5FzNsUlv0
〜八強、集う〜

『さあ、会場の皆さん!二回戦の全試合が終了し、これにて本日の闘いが全て終了しました!』
未だ興奮のざわめきが収まらぬ中、それに負けぬ勢いで響く実況。
『あんな試合、こんな試合、色々ありましたね!…え?ほとんど見た覚えがない?それは気のCeuiよ。とにかく本日
の全24試合を終え、遂に準々決勝に8名が駒を進めました!』
「ふむ…確かにここまで長い道のりでしたね」
実況に同意し、妖夢も感慨深げに頷く。
「ほんの数時間の事でありながら、まるで半年ぐらいかかったような…」
全く妖夢は、何を言っているのか。
ほんの数時間の間の出来事を書くのに半年以上もかかるだなんて、そんなバカな話があるわけない。
ないったらないのだ。
「いやいや、構いませんよ。何せ私は<未来放浪ガルディーン>の続きを今なお待ってるくらい気の長い女ですから。
どうぞ、気楽にやってください」
「…あの、誰と話してるんですか?」
ちょっと薄気味悪げに、ヴァンプ様が尋ねる。
「天におわす、この世界を産み出せしオタク野郎とです」
「はあ…いるんですか、そんな人が」
「おや、信じておられない?まあ、行数を稼ぐために無意味な楽屋ネタを入れるような仕事ぶりでは、奴を信じろと
いう方が無理な話かもしれませんが」
ふう、っと溜息を吐く。
「ま、その辺は彼も反省してるし、大目に見てあげましょう。きっとこれからはギャグなど一切入る余地のない本格
シリアスバトルストーリーになっていくはずですから」
「いつもいつも、そんな事ばかり言って…何を考えて生きてるんですか、貴女」
「フッ…知れたこと」
呆れて物も言えない、といった風情のジローに対し、妖夢はBに近いCカップといった、控えめながらも<女性>
としての存在を主張する二つの柔らかくて男なら誰でも大好きな俗に言う所のおっぱいを反り返らせて答えた。
「私は何時如何なる時も、読者の皆様を萌えさせるためだけに生きております。↑の一文もそのためです」
「妖夢さんに萌えてる方は相当の少数派だと見ますが」
「何を仰る。バキスレの萌えキャラといえばこの妖夢か小札か、でなくばふら〜りさんではありませんか」
「彼女らと比べたら貴女のコールド負けじゃないですか。怖れながら言わせていただきますが、当SSに寄せられた
感想で、貴女を好きだという意見をほとんど見た事がない。ヴァンプ将軍の方がまだ勝負になります」
「え、そんな事ないですよ。私なんてただのオジサンですよ、ははは」
頬を真っ赤にしてテレテレなヴァンプ様である。
萌える。
そんな彼をライバル意識むき出しの目で睨み、妖夢が反論する。
「いいえ、私の隠れファンも結構いるはずですよ?私が何年、薄い本業界で活躍してると思ってますか。萌えさせる
ためなら、脱ぐ事も厭わぬプロ根性!幽々子様との百合百合でイヤーンなカラミだってこなしますとも!」
「そんな必死だから皆さん、貴女に萌えてくれないんだと思います」
「ぬう…難しいものです。そもそも<萌え>って何なんでしょうか…」
哲学的だった。
ジローは答えられない。つーか、考えたくないという顔だった。
「ここは魔法少女属性をつけてみましょうか。実は最近スカウトを受けたんですよ。白くて可愛いマスコットと契約
して魔法少女になれば願いが一つ叶うそうですよ。タイトルも<魔法少女ようむ☆マギカ>にしてもらえると」
「止めはしませんが嫌な予感がするので、断っておきなさい」
「では何か口癖を考えてみましょうか。<うぐぅ>だとか<あうー>はどうでしょう。或いは<はちみつくまさん>
に<〜〜だおー>とか言ってみるのもいいかもしれませんね。これは一時代築けますよ」
「その時代は、かなり昔に終わっていますよ…」
「そんなこと言う人、嫌いです!」

―――と、綺麗に落ちた所で。

『さあ。では登場してもらいましょう。見事ベスト8に名を連ねた人間・妖怪・吸血鬼・鬼・風神・大悪霊・魔界神
―――そしてヒーロー!皆さん、盛大な拍手をどうぞ!」

まず現れたのは、紅白を基調とした巫女服に身を包んだ少女。
<人間>博麗霊夢。

続いて、二本の巨大な角を備えた小柄な童女。
<鬼>伊吹萃香。

白皙の肌と血のように紅い瞳。
<吸血鬼>レミリア・スカーレット。

巨大な注連縄を背負った、蒼い髪の少女。
<風神>八坂神奈子。

風に揺れる白銀の髪と、漆黒の六枚翼。
<魔界神>神綺。

大きなトンガリ帽子に青いローブ、悪霊だから足はない。
<大悪霊>魅魔。

相変わらず、胡散臭い笑顔を浮かべた少女。
<妖怪>八雲紫。

最後に溝ノ口からやってきた、真っ赤なチンピラ。
<ヒーロー>天体戦士サンレッド。

『―――以上8名!いずれも劣らぬ猛者ばかりです!それでは、御一人ずつにこれからの闘いへの意気込みを語って
いただきましょう!インタビュアーは不肖ながら私、射命丸文が務めさせていただきます!』
文の背中から黒い羽が広がり、同時に実況席からその姿が消える。
次の瞬間には、既に彼女は8人の眼前に立っていた。
その速度に、レッドは少々ながら驚いた。
「…そんなスピードがあんなら、出場してりゃよかったんじゃねーか?」
「いやいや、レッドさん。私はこれで結構長生きでして、この歳になると自分で参加するより、誰かが盛り上がって
いるのを見物することに楽しみを見出すようになるので御座います」
「そういうもんか」
「そういうもんです。いやーしかしレッドさん。こうして並ぶとあなただけ浮いてますねー、色んな意味で。正直に
言わせてもらうと、もうギャグの領域ですよ(笑)」
「ほっとけ!」
「おお、怖い怖い…ではまずは博麗の巫女・博麗霊夢さん、どうぞ!」
「そうね…私が言いたいのは、一つだけ」
霊夢は、巫女に相応しい神秘的な雰囲気を醸し出し、厳かに言った。
「観客、多いわね」
「ええ、幻想郷中から集まってますから」
「そう…多いはずよね…でも、何で…」
ビキッ。突如、その額に、青筋が浮かんだ。
「―――何だってこんなトコには集まるくせして、ウチの神社には集まらないのよ!ええっ!?舐めてんのあんたら
ねえ、舐めてんのぉ!?」
「ちょ、ちょっと、霊夢さん…」
「あんたらのうち十人に一人でもウチに来て、一人十円でも賽銭箱に入れてくれれば、私だって…私だって貧乏巫女
なんて言われずに…すむのに…う、うっ…うううっ…!」
とうとう泣き出した。文は声をかけるべきかどうか迷い。
「…さあ、二人目にいきましょう!」
結局見なかった事にした。英断である。
「大悪霊・魅魔様!ここ数年、御姿が見えなかった貴女ですが、何処で何をしていたのか気になる所ですねー」
「ふふ。色々やってたのさ、あたしも…」
大人びた(年増などと言ってはいけない)美貌に影を落とし、彼女は言う。
「ほう、例えば?」
「搾乳モノのビデオに主演女優として」
「はいー!個人的には詳しく訊きたいけどお子様も見ているのでアウトー!では魅魔様、一言どうぞ!」
「そうだね…それじゃあ」
すっと顔を上げ、観客席の一点を見つめる。
その視線の先には、霧雨魔理沙の姿があった。
魅魔は顔を綻ばせて、大声を張り上げる。
「魔理沙ぁ〜〜〜っ!見ててよ、お師匠様、頑張るからねぇ〜〜〜っ!」
「師匠…?」
レッドは眉を持ち上げた―――マスクなのにどうやって、などと訊いてはいけない。
「あんた、あの白黒の…」
「ああ。あいつに魔法を教えたのは、何を隠そうこのあたしさ!」
「はあー…」
魔理沙はというと、必死に顔を伏せていた。
恥ずかしい師匠を見られて恥ずかしいという、見たままの有り様だ。
レッドさんは自分に置き換えて考えてみた。

―――大観衆の中、インタビューを受けるヴァンプ様が自分に向けて大きく手を振る。
「レッドさーーーん!私、頑張りますから、応援してくださいねーーー!」

(うわっ!こりゃ恥ずかしい!そしてウゼぇ!)
考えただけでヴァンプ様を殴りたくなってくる。
これが終わったら一発こづいてやろうと決心するのだった。
「え、えー…では次に魔界神・神綺様!魔界統治で忙しい中、よくぞ来て下さいました!」
「あら?そんなに忙しくないわよぉ」
左側で纏めたサイドテールの髪を靡かせながら、年若い少女のようにコロコロ笑う。
「難しい事は大概夢子ちゃんがやってくれるしぃ。あ、夢子ちゃんは私のメイドさんでとっても可愛い子でぇ」
「あ、あはは…そのお話も興味深いのですが、長くなりそうなので、一言でお願いします」
「え〜…一言、というと…そうねぇ…」
すっと顔を上げ、観客席の一点を見つめる。
その視線の先には、アリス・マーガトロイドの姿があった。
神綺は顔を綻ばせて、大声を張り上げる。
「アリスちゃーーんっ!見ててよ、ママ、頑張るからねぇ〜〜〜っ!」
「ママ…?」
レッドは眉を持ち上げた―――マスクなのにどうやって、などと(略
「あんた、あの人形女の…」
「うん。あの子を産んだのは私よぉー」
「はあー…」
アリスはというと、必死に顔を伏せていた。
恥ずかしい母親を見られて恥ずかしいという、見たままの有り様だ。
レッドさんは自分に置き換えて考えてみた。

―――大観衆の中、インタビューを受けるヴァンプ様が自分に向けて大きく手を振る。
「レッドさーーーん!私、頑張りますから、応援してくださいねーーー!」

(うわっ!こりゃ恥ずかしい!そして超ウゼぇ!)
考えただけでヴァンプ様を殴りたくなってくる。
これが終わったらさっきのも合わせて二発こづいてやろうと決心するのだった。
「では…次…」
あまりに身も蓋もないインタビューの連続にテンションが下がりつつ、文はやる気を奮い起こす。
「守矢神社の祭神が一柱・八坂加奈子様!外側の世界から此処に来て以来、殆どの異変が間接的にあんたらのせい
で引き起こされてると言っても過言じゃあないお騒がせ一家の家長!」
「酷い言われようだね、全く」
そう言いつつ、否定はしない。
「とにかく、ここまで来たからには目指すは優勝だけさ。ねえ、早苗、諏訪子!」
それに応えてか、観客席から黄色い声が上がる。
「ファイトです、八坂様!」
「神奈子ちゃーん、あたし達の分まで頑張ってぇー!」
長い髪の美少女と、ヘンテコな帽子を被った美幼女である。
この二人が<早苗>と<諏訪子>らしい。
「応よ、私に任せるがいい!優勝し、守矢神社の名声をこの幻想郷に響かせるのさ!その余勢を駆り、この幻想郷を、
守矢神社を頂点とする一大宗教国家に生まれ変わらせる…!ふふ―――そして我々はそれに乗じて可愛いマスコット
<モリヤくん>を発売。私達三人のブロマイドはリビドーの溜まった青少年諸君を中心にバカ売れ、その勢いに任せて
現世へ舞い戻り、無能な政治家共から政権を奪取し、鬼畜米英へと宣戦布告し、我々が世界を支配するのだ!」
「おいおいおい…」
レッドさんは呆れつつ、文に耳打ちする。
「なんかすげー野望がこんなトコで明らかにされちまったぞ…いいのか、これ」
「うーん…これはもう、誰かがあのアホ…もとい、邪神を倒してくれるのを祈るばかりです」
答えつつ、文は非常にうんざりしていた。
(こ、こいつらは…個人的な事以外、まるで話す気ないじゃないですか…何でだよ…何で幻想郷はこんな奴らばかり
なんだよ…こんなんじゃ私、実況をやりたくなくなっちまうよ…)
と、文が某異星人のように心中で愚痴っていると。
「貸しなさい」
レミリア・スカーレットが、マイクを奪うようにして引っ掴む。
「―――さて。もう何度も説明しているけれど、この大会の優勝者には、賢者イヴが遺した秘宝が贈られる」
その声の、なんと威厳に満ちた事か。
幼い姿に似つかわしくない厳粛な面持ちに、誰もが魅入る。
「賢者イヴ。この幻想郷において彼女を知る者は、残念ながらそう多くはないでしょう。されど、私は知っている。
彼女が如何に偉大か、如何に素晴らしい方であったか」
そして。

「その賢者の遺物ならば…手にすべきは、最も強く、高貴な存在であるべき」

月夜に向けて、その手を大きく突き上げた。

「宣言する。彼女の遺産はこのレミリア・スカーレットが必ずや、手にすると―――!」

「お、おお…!」
やっとこまともなコメントが出てきて、文はちょっと嬉し泣きしそうだった。
(パチパチパチ)
心中では、盛大に拍手してたりした。
(へー…あながち、ただのクソガキでもなかったか…)
その様子には、彼女と折り合いの悪いレッドでさえも感心させられるものがあった。
言葉の裏から滲み出すような強い決意を、感じずにはいられない。
文はマイクを受け取って、レッドに突き付けた。
「素晴らしい御言葉、ありがとうございました!では次、レッドさん行ってみましょう!」
「え、俺?」
「はい。皆さん、あなたには注目してますよ?新顔ながら星熊勇儀・風見幽香という強豪妖怪二人を倒して、堂々の
準々決勝進出ですからね。いいコメント、期待してますよ!」
「あー…」
マイクを貰い、何を言おうか迷いつつ。
「えっと。川崎でヒーローやってるサンレッドです。年は27です…あーいや、年は別にいいけど。何つーか、アレ。
俺には一人、吸血鬼のダチがいまして」
とりあえず、正直な気持ちを言う事にした。
「そいつは百年以上生きてるくせにはっきり言ってどーしよーもない奴でして。女の家に弟と一緒に転がり込んで、
その子に生活基盤全部を丸投げして、弟に対しては躾を通り越して虐待も飛び越えて日常的に拷問としか思えねー
暴力を振るうような奴で―――あ、この弟ってのもとんでもねーバカなんで、ブン殴りたくなる気持ちも正直分かると
いえば分かるんですが」
観客席から凄いメンチをきられてるのが分かったが、ポリポリと頭をかきながら続ける。
「まあでも、付き合ってみると割といい奴だし…そんで、その賢者イヴってのとも、色々あったらしくて、そんで…
あー、イチイチ説明すんのはもうメンドくせえ!いいか、ジロー!何度も言うようだけどなあ!」
ビシッと。
観客席のジローに向けて、指を突き付けた。
「俺は相手が誰だろうとブチのめして、優勝して、賞品を持って帰ってやるから―――川崎に戻ったら、豪勢なメシ
でも食わせろよ!」
「…レッド」
ジローは相好を崩し、答える。
「何でも、好きなものを奢りましょう!」
そんな彼に、最愛の弟であるコタロウは囁く。
「兄者…今月は遅刻しすぎの罰でミミちゃんからお小遣い減らされてるのに、そんなこと言って大丈夫?」
「…交際費ということで、どうにか誤魔化しましょう」
汚い大人の社会を学ぶコタロウだった。

「―――いいね、いいね。友情というのは、とてもいい」

そこに割り込むように、幼い少女の声。
「友達は大事だ。とても大事だ。友達が隣りにいてくれるだけで、酒も旨いしメシも進む」
レッドが手にしていたマイクはいつの間にやら小さな手で奪い取られていた。
「だけど…その友情のためにわざと負ける…なんてことはしないよ。あんたもそんなの望まないだろうしね」
「テメエは…」
「酔いどれ幼女―――伊吹萃香ちゃんさ」
星熊勇儀と同じく、鬼族最強の四天王の一人―――
伊吹萃香。
「トーナメント表でいえば、次のあんたの対戦相手だね」
「…星熊の、敵討ちってとこか?」
「いやいや、そんなつもりはないね。あんたも勇儀も全力で闘り合った結果さ。そんなみみっちい事言ってたら、
私こそ勇儀に殴られちまうよ。私はただ、鬼の闘争本能のままに、あんたと闘うだけさね―――」
萃香は朗らかに―――それでいて、獰猛にも見える顔で笑う。
見た目そのままの少女のように。
見た目に似つかわしくない、猛獣のように。
「さ、私の言いたい事は以上だ。最後は…ほれ、紫。ビっと決めな」
マイクを無造作に放り投げる。それは明後日の方向に飛んでいったかと思えば、次の瞬間にはどういうわけか
八雲紫の掌に納まっていた。
「ま、特に言う事もないんだけど…そんなに皆、肩肘張らずにやりなさいな」

「楽しければいいの。面白ければいいの」
「混沌ならばそれでいい。混乱ならばそれもよし」
「踊るもよし、唄うもよし。それを見て阿呆と笑うのも、それで楽しいならよし」
「勝ち負けなんて関係なく、最後の最後、この祭りを一番楽しめた奴が勝ちよ」

「はい、私のインタビューは終わりよ。どうぞ」
にこやかに、それでいて胡散臭い笑顔で、紫は文にマイクを渡す。
「相変わらず、何が言いたいのか分かるような分からないような…結局、煙に巻かれたような」
「気にしたら負けよ。何も楽しめなくなるからね」
「はー…」
あんた絶対、自分でも何言ってんのか実は分かってねーだろ。
喉まで出かかった毒舌を引っ込め、声を張り上げる。
「では、これにて本日の全日程は終了です!準々決勝は五日後―――その組み合わせは!」


『準々決勝・第一試合―――サンレッドVS伊吹萃香!』

『準々決勝・第二試合―――レミリア・スカーレットVS博麗霊夢!』

『準々決勝・第三試合―――八坂神奈子VS神綺!』

『準々決勝・第四試合―――八雲紫VS魅魔!』


「―――それでは今日はさようなら!五日後の熱闘・死闘・大激闘をお楽しみに!―――え?ハードルを上げる
な?いえいえそんな。上げに上げたハードルならば、その下をくぐればいいだけですよね☆」
「解決策になってねー!」
「ははははは。それでは皆様、また会いましょう!」


―――五日後。
天体戦士サンレッドには、更なる激しい闘いが待ち受けている。

「クックック…しかし、その前に、やらねばならぬ事がある…」
「ヴァ…ヴァンプ、さん…?」
「ヴァンプ将軍…何を!」
「クックックックック…!」

―――悪の将軍ヴァンプは、不気味な笑いを浮かべる―――!
そのド迫力に、隣にいたコタロウは思わず唾を飲み込み、ジローは刀に手をかける。

「レッドさんの祝勝会ですよ、ねっ!私、腕によりをかけてゴチソウ作っちゃいますから!」
「わーい、ヴァンプさんのゴチソウー!ねえねえ、ケーキは!?ケーキも作る!?」
「うふふ、もっちろんだよー、コタロウくん」
「わーい!きっとゆゆちゃんも喜ぶよ。食いしん坊バンザーイ!」
「ははは、じゃあ幽々子さんのためにもたくさんゴチソウ作らないとね」
「…………」
ジローは、そっと刀から手を放すのだった。

さあ。
次回はバトルもお休みして、楽しい祝勝会!
しかし―――それがまさか、あのような惨劇になろうとは―――
正直な所、皆が薄々感づいていたのだった。
329サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/03/10(木) 09:49:40.53 ID:5FzNsUlv0
投下完了。前回は>>252より。
さて…次回から「悪夢の祝勝会篇」「紅魔館パーティー篇」「レッドさん旧地獄修行篇」とやってから
トーナメント再開となります。こんな寄り道ばっかして本当に完結できるのか、自分…。
いや、弱気になっちゃダメだ。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃ(略

>>328でウルトラレッドのあの見開きを思い出してくれた人がもしいたら僕と友達になれるかもしれない…。

>>314 やっとこレッドさん書けました。もっとペース上げないと(汗)
>>316 一番好きなのはDSで出たハーツだったりします。瀬戸の土下座はきっと、宇宙をも救う…。
>>320 復活してほしい職人さんは…今までこのスレに書いた全員…。
330作者の都合により名無しです:2011/03/10(木) 12:19:01.61 ID:nGTn4KLh0
おお、サマサさん乙華麗です。
戦闘も楽しみですが、幕間劇はよりサマサさんのカラーが出てもっと楽しみだったり。
可愛いサンレッドキャラや東方キャラを期待しております。
331作者の都合により名無しです:2011/03/10(木) 18:33:59.04 ID:bMlfhYjF0
出来れば場外でレッドさんは東方キャラと絡んで欲しいな
特にレミリアとか・・
332作者の都合により名無しです:2011/03/11(金) 00:59:52.08 ID:d7o5Zemi0
この組み合わせ通りに決勝戦まで行くのかな?
決勝は主役対決でVS霊夢かと思ってたけど、準決勝か。
それともシャッフルするのかな?
東方はあまり詳しくないけど、残ったメンバーの中で一番強いのは
やっぱり主役の霊夢?

あと祝勝会はヴァンプ様の惨劇しか思い浮かばない…
333作者の都合により名無しです:2011/03/11(金) 18:43:24.74 ID:ABEktdSh0
地震の被害、職人さんたち大丈夫だろか・・
334ふら〜り:2011/03/12(土) 20:39:04.78 ID:2/FN/VP+0
>>304さん
悟空たちがいないなら他の「戦う相手」が欲しいというセル、才能はちゃんとあるサタン、
原作の設定からきっちり筋が通ってますねこれは。ただのいじめられっ子のクリリンがあそこまで
強くなれるなら、チャンピオンのサタンなら当然。悟空たちはまぁ、この流れならこうもなるか……

>>サマサさん
・Tails of DOGEZARIA
どこまでいくのか、このシリーズの土下座……土下座同士での戦いとか、一体どういう形で
勝敗がつくのか想像もできませぬぞ。しかも女神とか少女とかがちゃんといて、彼女らも
土下座してると。これ、映像化したら新ジャンル「土下座萌え」の開拓となるのかもしれない。

・サンレッド(パオさんの本部、サナダさんのシコル、小札、そして「ヴァンプ様を思うレッド」ですね私ぁ)
他の七人、レッドについてのコメントが少なかったのは余裕か、ナメてるのかそれとも……つーか
誰も気負ってませんよね。思えばこの七人に限らず、ここの子らはみんな、自信に溢れてました。
でも、それはレッドも同じ。ここまでの試合、互いに想定外の、想像を絶する強さだったでしょうな。
335作者の都合により名無しです:2011/03/12(土) 23:46:55.44 ID:fbgFO1ap0
ふら〜りさんは京都かどっかだから
今回の地震の被害は受けなかったみたいだな。
他の方は大丈夫だろうか。

ふら〜りさん審査で>>304氏はサナダムシさんと思いますか?
336作者の都合により名無しです:2011/03/14(月) 21:11:56.63 ID:KuBAa0Qb0
ハシさん被災したっぽい orz
あの人のSS好きだから復活を待ってたんだけど、しばらくSSどこじゃなさそうだ…
337作者の都合により名無しです:2011/03/15(火) 01:32:30.64 ID:iStGtkSi0
マジ?
なんでわかったんですか、>>336は。
ツイッターかなにか?

でもとりあえず命は無事なんでしょ?
ご家族とか大丈夫だろうか。

338作者の都合により名無しです:2011/03/15(火) 04:37:40.35 ID:yE8/GdgB0
ご本人のツイッター
地震以降発言がなくて、ようやく一言だけ
「元気が回復してない。しばらくじっとしてます」というツイートが来た…
タイミング的に、恐らくそうだろうな…東北出身とか書いてた気がするし。
マジで被災したのなら、このスレ住人としてささやかながら応援したい。
とりあえず身近でできるのは募金だな…
339 ◆Y9wk5AHHDA :2011/03/15(火) 11:13:02.04 ID:zh1soEtp0
tesu
340作者の都合により名無しです:2011/03/15(火) 12:46:36.30 ID:YkjVLzrt0
ハシさんのSS好きだけど
こんな時期に書いてくださいなんて言えないなあ。
お元気であってください・・

俺も2万円だけだけど義捐金を送ったよ。
貧乏でこれが精一杯・・。
341作者の都合により名無しです:2011/03/17(木) 08:57:45.11 ID:JsLUYVdC0
スーパーロボット大戦DOGEZA 〜終焉の土下座へ PART3

地球の為に―――そして、全宇宙の平和の為に日夜闘う正義の軍団<カブコー>。
そこに属する者達は、程度の差はあれ一癖も二癖もあるツワモノばかりだ。
ごく普通の地球人もいれば、親父によってサイボーグにされた奴も何人かいる。
超能力者もいれば、遺伝子操作された新人類というべき者もいる。
そして、ここにも一人、異彩を放つ男がいた。

食堂の片隅で、物憂げに頬杖をつく青年。
オレンジ色の髪をした、一見ごく普通のナイスガイな彼の名はミスト・レックス。
実は彼は、地球人ではない。
かつて、強大な敵によって滅ぼされた惑星アトリームの生き残り―――つまりは、異星人である。
紆余曲折を経て流れ着いたこの地で<カブコー>の面々と出会い、新たな故郷である地球を守るべく、
戦いに身を投じたミストではあるが、地球での暮らしは彼にとって理解し難いものがあった。
星を越えたカルチャー・ギャップ。
彼の精神は、追い詰められていた。


例えば、こんな事があった。
廊下で、ダイナミックなモミアゲの持ち主である兜甲児に声をかけられた。
「よお、ミストさん。ちょっとこれ、見てくれよ」
「え、何ですか?」
「ほれ」
ミミクソであった。しかも、やたらデカい。
「…………」
「でっけえミミクソだろ?誰かに自慢したくってさあ。今度、マサキの奴も呼んで、見せてやろうと思って
んだけど…」
この時、ミストはこう思った。
(こんな汚物を他人を呼び付けてまでわざわざ見せつけるだなんて、許される事じゃない…!)

他には、トイレで順番を待っていた時。
「ああ、ミストさんか。待たせてすまなかったな」
「いいえ。じゃあ失礼します」
虚無りそうな雰囲気を持つヤバげな男、流竜馬と入れ替わりに個室へと入る。
そこで彼は、恐ろしいものを見た。
「そ、そんな…こんな事が、本当にあるのか…!?」
トイレットペーパーが、使い切られたまま―――交換されていなかったのだ!
これにはミストも呆れ果てるばかりだった。
(後の人のために交換すべきじゃないか…!それなのに地球人ときたら…!)

そう―――こんな事もあった。
「ミスト。ちょっと話があるんだが…俺の部屋に来てくれないか?」
「はあ。別に構いませんけど…」
請われるがままに、その男―――偉大な勇者にして戦闘のプロ・剣鉄也の部屋に入った。
342作者の都合により名無しです:2011/03/17(木) 08:58:49.61 ID:JsLUYVdC0
「ふふふ…今夜は俺とお前で、ダブルブースターだからな…」
「え。何で後ろ手にドアを閉めて鍵をかけるんですか何でズボンのチャックを下げるんですか何で大きく
なってやがるんですか何で半笑いで俺ににじり寄ってくるんですか何で俺を四つん這いにさせるんですか
何で俺のズボンを脱がすんですか何で舌なめずりをするんですか」
「こちらは剣鉄也だ、グレートブースターを発射する!」
「アッーーー!」
―――数時間後。ミストは尻を押さえながら鉄也の部屋から出てきた。
その顔には、これ以上ない程の苦渋が満ちている。
(ノ…ノンケを無理やり食っちまうような地球人に…守る価値なんて…あるのか…?)


―――そんなこんなで、彼の地球人に対する不信感は、もはや拭い切れなくなっていた。
今までは地球を新たな故郷と思い、必死に頑張ってきた。
だが…それももう、限界だった。
(何とか今まで持ちこたえてきたけど、これじゃ俺…地球を守りたくなくなっちまうよ…俺が神様なら、地球人
に守る価値なんてないって判断するよ…)
そんな考えも浮かんできた頃。
「隣、いいかな?」
「え?」
返事も待たずにその男は、ミストの隣に座った。
そう。
彼の往く所、土下座旋風―――<どげせん>が巻き起こる。
土下座で全てを解決する漢・瀬戸発であった。
彼の持っていたトレーに何気なく目をやったミストは、眉を顰める。
「カレーラーメン…?メニューには、そんなのなかったと思いますけど」
「ああ。どうしても食べたかったので、土下座して作ってもらったんだ」
しれっとした顔でのたまう瀬戸。
そんな彼にも、ミストは不信感を覚えずにはいられない。
(メニューにあるものを頼めばいいじゃないか…土下座してまでカレーラーメンを作らせるだなんて、理解
できないし…納得できないよ…)
顔に出ていたのかもしれない。瀬戸は襟元をカレー汁で汚しつつ、口を開いた。
「ミスト。最近の君は、どうも様子がおかしいぞ」
「え…」
「皆、心配している。このままでは、パンクしてしまうぞ」
「それは…」
心中を見透かされたようで、バツが悪い。ミストは顔を背ける。
「気持ちは分からんじゃない。地球とアトリームの文化の違い…考え方の相違…居心地は悪かろう」
「…確かに俺にとって、地球人のやる事は、正直に言わせてもらえば、理解に苦しむ部分もあります」
ミストは、ポツポツと語り始めた。
「俺はまだ、地球で暮らし始めてから数か月にしかなりません…でもカブコーの皆と出会って…それなりに
楽しく過ごして…地球っていい星だなって、思ってました…でも、そこに住む連中ときたら…!まともな人
なんて、数えるくらいしかいないじゃないですか!」
叫ぶようなその言葉を、瀬戸は厳粛に受け止めていた。
「同族で戦争を始めたり、政治家は自分の事しか考えてなかったリ…自分達で自分の住む場所を汚したり…
そんなの、ダメじゃないですか…!」
「うむ…耳が痛いな。だが、確かに事実だ」
瀬戸も、ミストの意見に同意する。
343作者の都合により名無しです:2011/03/17(木) 09:00:15.91 ID:JsLUYVdC0
「だから…やっぱり地球人って、俺とは違うのかなって…」
「そんな事はないさ。確かに、地求人には問題も多い。しかし…同じだよ、ミスト」
瀬戸は、おもむろに椅子から立ち上がり。
「アトリーム人だろうと、地球人だろうと…違いなど、ない。同じ人間だ」
ゆっくりと、地に伏せた―――
「な、何を…」
「さあ。君も」
「え?」
「土下座だよ。迷わずやれよ。やれば分かるさ」
「いや…土下座なんかしても、根本的な解決にはなりませんよね?」
「なるさ。だから、早く。早く、早く、早く(ハリーハリーハリー)!」
「…………」
有無を言わさぬ迫力に、渋々ながらもミストは瀬戸に倣い、土下座する。
(何の説明もなく、いきなり土下座させるだなんて…やっぱり地球人はダメじゃないか…!)
「ミスト。私は何の意味もなく、土下座させているわけじゃないよ」
そんな不満が顔に出たのを見て取ったのか、瀬戸は静かにミストを諭し始める。
「気を楽にして。そして…思い出せ。母の胎内にいた、あの三百余日を…!」
「母の…」
「そうだ…ミスト。今、お前が取っている姿勢(ポーズ)は…生命の根源そのものの姿だ」
「生命…」
「目を閉じろ。今なら感じるはずだ。あの羊水の温もりを」
「…………」
気付けばミストは、胎児にまで戻っている自分を自覚していた。
浮かんでいる。
母なる子宮に抱かれ、羊水に包まれて、自分は其処に浮かんでいる。
「我々も同じだよ、ミスト。地球人もまた、同じように産まれたんだ」
「同じ…」

「さあ。遡(さかのぼ)れ。始まりは…海に漂う単細胞生物だった。波に揺らされるだけの弱き存在」

「そこから、細胞が分裂し、微生物へ」

「そして、脊椎動物へと進化し」

「魚類として海へ残る者もいれば、やがて海を離れて、大地へ立つ者も現れた」

「ある者は翼を得た。またある者は強き牙を、爪を得た。またある者は小さく、しかし逞しく生きた」

「そして―――道具を用い、火を支配し、文明を築いた―――」

「それが人類の歴史。それが我々の道程。それが―――人間(ホモ・サピエンス)」

「胎児の姿は、その歴史を如実に物語っている」

「そんな胎児の姿勢…それこそが―――」

土下座。
それは―――生命の育んできた歴史そのものだ。
344作者の都合により名無しです:2011/03/17(木) 09:02:02.38 ID:JsLUYVdC0
そこには地球人も、異星人も、隔たりなどない…。
ミストは、理解した。
(俺は、なんてささいな事にこだわっていたんだ…)
滂沱する。
頬を伝う、熱い涙。それもまた、生命の証。
(何も変わらないんだ…俺も、地球の皆も…)
そんなミストの肩を、瀬戸はそっと叩いた。
「地球人も、アトリーム人も、同じようにして進化してきた…何も、違いはしないさ」
「瀬戸さん…」
―――ミスト・レックスの中で、何かが動き出した瞬間だった。


それから数日。
「ねえねえ、ゴオちん。今度の休暇はカブコーの皆で海にでも行かない?」
「お、そりゃいいな」
可愛い女の子とそんな話をしているゴリラ顔の男は、カブコーのエースパイロットの一人、猿渡ゴオ。
ゴリラ顔の三十路のくせして女子高生の奥さんをゲットした、まっこと許し難い犯罪者である。
ちなみにこの女の子こそ、彼の奥さんである。女子高生というだけで許せないのに美少女だ。
もはや死刑モノである。
そんな二人に、カブコーの面々も同意する。
「海かー。楽しみだなあ」
「戦いも今は一段落してるし、息抜きも大事だよなー」
「そうそう…あ、ミストさん!ミストさんも、海に行かねえか?」
通りがかったミストにも、誘いがかかる。
以前の彼ならば(まだ戦争が終わったわけじゃないのに海だなんて…こんなに俺と地球人で意識の差がある
とは思わなかった…!)と心中で愚痴っていた事だろう。
だが。
「海ですか?ははは、そうですね。俺もご一緒させてもらいますよ」
彼は朗らかに、そう答えるのだった。
「ほお…ミスト。お前、少し変わったか?」
「え、そうですか?」
「ああ。前は何だか思い詰めていたように見えたが、すっきりした顔になったぞ」
「うーん、自分じゃあんまり自覚はないけど…まあ、あれですね」
ミストはにこやかに白い歯を見せて、親指を立て、爽やかに言ってのけた。
「俺だって一緒に土下座してくれる人がいれば成長しますよ、猿渡さん!」


―――土下座が結びし、星を越えた友情。
この出会いこそは、必然―――
345サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/03/17(木) 09:12:28.92 ID:JsLUYVdC0
投下完了。
今回は、いつものおふざけ満載の後書きが自重…とてもそんな場合じゃない。
(お前のSS自体が不謹慎な悪ふざけだ、と言われたら、正直反論できないけど…)

今回の主人公ミストさんは、こちらを参照。
http://riceballman.fc2web.com/AA-Illust/Data/MisutoSan.html

>>330 可愛く書けるかなあ?ヴァンプ様は相当可愛く書けてる自信がありますがw
>>331 レミリアお嬢はまだまだ出番あります。カリスマ溢れまくりです(多分)
>>332 強さは相性考えなければ、ほとんど横並び一列くらいかなあ…この辺、東方は
     相当曖昧なんで…。
>>ふら〜りさん
土下座萌えは、原作の<どげせん>において、存分に発揮されております。
読んでいないのなら、是非この機会に!

>>336-338 >>340
ハシさん御本人は無事で何よりですが、御家族の方の安否が心配です…。
今はただ、祈るのみ…。
後は、やはり募金くらいしか出来ることはないか…。
346作者の都合により名無しです:2011/03/17(木) 20:12:13.58 ID:f5dLFON90
サマサさんお疲れ様です。
どげせんもこれでパート3ですか。定番ものになった参りましたねw
土下座は星を越えるのか・・w


被災地の方には頑張って欲しいけど
我々は萎縮せず、普段どおりにした方が良いかも。
自粛してばかりだと経済が益々悪くなって
結果として復興に歯止めが掛かる。

でも、ハシさんにはいつか一言でも
このスレになんかメッセージして欲しいですね・・
347作者の都合により名無しです:2011/03/18(金) 10:38:07.15 ID:d23GAUF40
こんな時だからこそ(いい意味で)馬鹿馬鹿しいSSが読めてよかったです
でも地震や放射能は土下座ではどうにもならないからなあ…
348作者の都合により名無しです:2011/03/18(金) 21:10:43.88 ID:jkx37oBg0
ハシさんマジで大丈夫かね。もう避難とかすべき時期と思うけど
腐れ民主党とゴミ東電のおかげで下手すれば東京まで壊滅
349作者の都合により名無しです:2011/03/18(金) 21:35:53.04 ID:edWBBNIj0
こnスレはじめてくるけど進撃の巨人とかって興味ある人いるの?
いるなら書きたい
350作者の都合により名無しです:2011/03/18(金) 22:18:36.35 ID:jkx37oBg0
俺大ファンだよ

出来ればジャンを活躍させて欲しい
エレンミカサアルミンの3バカより好き
351作者の都合により名無しです:2011/03/19(土) 01:25:50.64 ID:3UtuG20g0
>>349
書いてくれたら嬉しい。
進撃の巨人は主役の3人以外も、サシャとかリヴァイとか良いキャラ多いしね。
352作者の都合により名無しです:2011/03/20(日) 09:15:30.37 ID:1LTAWO6f0
バキスレにまでミストさんがやってくるなんて…もしかしてサマサさんはKをボロカスに言いつつ、
実はミストさんの事が大好きなんじゃ…
いや、よそう。俺の予感だけでバキスレを混乱させたくない…。


進撃の巨人は好きなんで、書いてくれるなら楽しみに待ってる。
どうか頑張ってくれ。
353作者の都合により名無しです:2011/03/22(火) 10:17:42.17 ID:7yui3OPU0
永遠の扉 (スターダスト氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm(前サイト保管分)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/552.html

上・ロンギヌスの槍 中・チルノのパーフェクトさいきょー教室
下・〈Lost chronicle〉未来のイヴの消失 (ハシ氏)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/561.html
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1020.html
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1057.html

天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 〜惑いて来たれ、遊情の宴〜 (サマサ氏)
http://www25/atwiki.jp/bakiss/pages/1110.html

上・ダイの大冒険AFTER 中・Hell's angel 下・邪神に魅入られて (ガモン氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/902.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1008.html
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1065.html

カイカイ (名無し氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1071.html 

AnotherAttraction BC (NB氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/104.html (現サイト連載中分)
354作者の都合により名無しです:2011/03/22(火) 10:18:02.41 ID:7yui3OPU0
テンプレ整理してみた。
355作者の都合により名無しです:2011/03/22(火) 16:44:29.15 ID:DtxiRXXG0
乙です
さいさんの入れてほしかったなー
356作者の都合により名無しです:2011/03/25(金) 18:09:51.54 ID:Kncn1R6E0
スレが死んでいる・・

まあ、日本全体がお通夜ムードだしな・・
原発どうするんだアレ
357作者の都合により名無しです:2011/03/28(月) 17:40:46.14 ID:K6kJNfwq0
ハシさんってどうなったのかな?
358作者の都合により名無しです:2011/03/30(水) 09:01:27.27 ID:YQeYOct90
〜祝勝会(前篇)・惨劇の幕開け〜

―――前回までのおさらい―――

美しくも謎めいた妖怪・八雲紫の力によって不思議な世界<幻想郷>へと迷い込んだ天体戦士サンレッド御一行。
かつてこの地を訪れた伝説の吸血鬼<賢者イヴ>の遺産を巡って開催された<幻想郷最大トーナメント>に参戦した
レッドさん。
彼は望月ジロー・コタロウの吸血鬼兄弟、そして宿敵である悪の将軍ヴァンプ様と友情を深めたりしつつ、神奈川県
川崎市溝ノ口では使い道のなかった戦闘力を存分に発揮し、一回戦では鬼族最強の星熊勇儀を倒す。
そして二回戦において幻想郷最強の一角と称される風見幽香との死闘を制し、見事に準々決勝へと勝ち進んだの
であった。
これより待ち受けるは、更なる強敵。
頑張れ、僕らのヒーロー・サンレッド!
とりあえず、全ては祝勝会でヴァンプ様の愛情と殺意たっぷりの御馳走を食べてからだ!


と、いうわけで、幻想郷最大トーナメント初日から一夜明けて。
其処は転生を待つ死者達の世界・冥界。
昼間でも薄暗く、まともな感性の持ち主であればどことなく陰鬱な気分にさせられる事であろう。
夕暮れ時は更に欝蒼とした雰囲気を醸し出し、道行く者の背中をゾクリとさせる。
そんな冥界を管理する亡霊姫・西行寺幽々子が座する白玉楼にて。
「フンフフフフフーンフフフッフーン♪」
―――冥界の空気をブチ壊す陽気な鼻歌を口ずさむ…もとい鼻ずさむのは、そう、ヴァンプ様。
白玉楼の台所に立つ彼は、今夜の<レッドさん祝勝会>の準備の為に、料理の仕込みで忙しいのだ。
出席者は主役のレッドさん。望月兄弟。幽々子に妖夢。そしてヴァンプ様自身。
「紫様にも声をかけたんですが<これでも忙しい身なのよ。ま、行けたら行くわ>だそうです」
「うーん。となると、料理は多めに作った方がよさそうですね」
「まあその辺の計算は大丈夫ですよ。幽々子様を基準にすれば、他の面子は誤差みたいなもんですから」
レッドさんとジローは成人男性の標準程度には食べる。
コタロウは小さい身体の割に食いしん坊だが、まあ理不尽なまでの大食いでもない。
ヴァンプ様は残ったら<もったいない!>と食べてしまうオカン気質なので、意外に食べる。
妖夢は剣の鍛練と幽々子の為の雑用で結構動き回っているので、女子の平均以上には食べる。
紫は以前、一緒に食卓を囲んだ時には普通に食べていたので、平均的と見ていいだろう。
幽々子の胃袋は宇宙である。
というわけで、かなりの量を作らねばならない。
とはいえ、元が料理好きのヴァンプ様にとっては苦ではない。
むしろ楽しげに包丁を振るい、鍋の火加減を調節している。
「しかしヴァンプさん。もしレッドさんが負けてたらどうするつもりだったんです?」
隣で彼を手伝っていた妖夢は、そう尋ねる。
対してヴァンプ様は、ニコニコしながら平然と答えた。
「その時はまあ、残念会ということで」
「なるほど。もし不幸にも死んでたら抹殺記念祝賀会という事だったんですね?この悪党めぇ(笑)」
「いやあ、そう考えると残念ですね。勇儀さんも幽香さんもかなりいいトコまでレッドさんを追い詰めてましたし。
はっはっは」
物騒な話題を和やかな口調で交わしつつ。
ヴァンプ様はデザートにと作ったケーキの上に、お手製の砂糖菓子人形を置いていく。
レッドさんにヴァンプ様。ジローとコタロウ。幽々子と紫、そして妖夢。
その再現度は非常に高かったが、妖夢は不満げである。
359作者の都合により名無しです:2011/03/30(水) 09:03:16.44 ID:YQeYOct90
「むう。私はもっとスリムでしょう。具体的には私の腰をもっと細くして、その分を幽々子様に回すべきかと」
「ははは、そんな事を言ってると怒られちゃいますよ」
なんて言いながら、チョコレートで字を書いていく。

<レッドさんおめでとう!そして死ね!>

「もう何を言ってんのか分かりませんよ。祝ってんですか、それとも呪ってんですか」
「いや。それはそれ、これはこれ、ですよ」
どんな時もレッドさん抹殺への執念を忘れない、それが僕らのヴァンプ様である。
「どれどれ、少し味見を…」
「あー、ダメダメ、妖夢ちゃん!つまみ食いは許しませんよっ!」
そこら辺は厳しいヴァンプ様である。
「さ、料理を運びましょうか。レッドさん達がお腹を空かして待ってますよ」
「全く、男衆はこういう時に手伝ってくれないのですから。これだからヒ○なんですよ」
「ははは、まあそんなグチグチ言わないで」

―――そして、ヴァンプ様も妖夢も消えた台所。
眼を肉食獣の如くギラつかせた影が其処に忍び込んだ事に、気付く者はいなかった―――!


ちゃぶ台の上には、湯気を立てた料理が並ぶ。
「おー、ヴァンプ。中々頑張ったじゃねーか」
へらへらしつつヴァンプ様をねぎらうレッドさん。久々にバトルスーツを脱いで、いつものTシャツ短パンスタイル
でくつろぎタイムである。
なお今回のTシャツ文字は<陰惨系魔法少女>だ。
「いやー、大した事はありませんよ。レッドさんの祝勝会なんですから、これくらいはしないと…しかし忘れるなよ
サンレッド!私はいつでも貴様の首を狙っているという事はな、ククククク…いたっ」
悪的発言をかますヴァンプ様とそれを小突くレッドさん。
もはやマンネリを通り越して安心感すら覚えるいつもの漫才。
それを見つめるジロー・コタロウ・妖夢の眼差しはとても暖かい。
具体的に言うと出しっぱなしにして小一時間経ったマグロの刺身くらい生暖かった。
「さ、後はケーキを持ってきて、幽々子様を呼んで、パーティーの始まりといきましょうか」
「わーい、ケーキ!ねえねえ、レッドさん。ローソクの火を消すの、ぼくがやっていいかな?」
「あー?別にいいよ、誰がやったって…」
「いやいや、ここはレッドさんが主役ですから、やはりレッドさんが吹き消すべきかと…いたっ」
気のない素振りのレッドさんに余計な事を言って、またも小突かれるヴァンプ様であった。
「うるせー!んなガキくせー事、やりたくもねーよ!」
「おや。そんな事を言う割に、実はやりたかったんじゃないかと思ってしまうのは、勘繰りすぎでしょうか?」
「混ぜっ返すんじゃねーよ、ジロー!」
「ふふ…」
そんな彼らの様子を見て、妖夢は微笑む。
360作者の都合により名無しです:2011/03/30(水) 09:04:34.20 ID:YQeYOct90
「仲がよろしくて結構。皆さん方を見ていると、私の中の乙女コスモが満たされますよ」
「よせよ、気持ち悪りい」
「やはり基本のレッドさん×ヴァンプさんが一番萌えますね」
「えー、そんな。私とレッドさんはそんなんじゃないですよぉ(ぽっ)」
「頭カチ割られてーのかテメーら!」
「おお、怖い怖い…では、ケーキを取りに行くついでに幽々子様を呼びに行きますね」
―――幽々子の方がついでである辺りに、彼女の高い仕事意識と忠誠心が如実に表れているといえよう。


―――妖夢は台所に足を踏み入れた瞬間、違和感に気付いた。
言葉にはできない、嫌な予感。
何かがおかしい。何かが―――狂っている。
脳裏には某超大作サスペンスゲームで死体が発見された時のような恐怖感溢れるBGMが鳴りっぱなしだ。
バクバクと高鳴る心臓を押さえ、鉛のように重い足を引きずるようにして歩く。
「う…!」
台所の隅。
そこに、一人の女が蹲っていた。
「ゆ…ゆゆ…こ…様…?」
顔は見えないが、間違うはずがない。
その後ろ姿は、確かに己の主君である西行寺幽々子その人だ。
「ま…まさか…!」
最悪の可能性に思い至って。
愕然と。呆然と。
妖夢は、立ち尽くした。
「妖夢…」
ゆっくりと、幽々子が振り向く。スローモーション再生でもしているかのように、その動きは遅かった。
まるでゾンビのように、顔面から全ての表情が抜け落ちている。
口元が、べっとりと白いもので汚れていた。
周囲に漂う、甘ったるい香り。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「よ…よして下さい。何を…謝ってるんですか…?」
「ちょっとだけ…ちょっとだけの心算(つもり)だったの…だけど…我慢できなかった」
「は…はははは。冗談は、良子さんですよ。まさか、いくら幽々子様でも、そんな真似をするわけないと信じてます
とも。それくらいの自制心はありますよね?」
それには答える事なく、幽々子は胸元に抱えていた一枚の皿を差し出した。
ケーキが乗っていたはずの、その皿には、今は僅かにクリームがこびり付いているのみ。
「とっても…とっても美味しかったの!ヴァンプさんのケーキ!」
「あ…あんたって…あんたって人はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

プチンッ

妖夢は知った。
本物の怒りは。純粋なる憤怒は。
むしろ、人を冷静にさせるのだと。
「幽々子様…否。西行寺幽々子!」
全身に、かつてない力が漲るのを、妖夢は感じた。
「許さねえ…貴様は私の心を裏切ったっっっ!」
額に浮かぶ青筋。
服を破りながら盛り上がっていく筋肉。
血走り、狂気に満ち満ちた眼。
迸る怒気と闘気、そして殺気。
もはや其れは、妖夢であって、妖夢とはとても言えない存在と化していた―――
361作者の都合により名無しです:2011/03/30(水) 09:07:46.16 ID:YQeYOct90
「最終奥義(ラストスペル)―――<武血鬼裂妖夢(ブチキレヨウム)>!!!」

          _,..-、  ,.l~~~~~|, -'"~ヽ
         ヾ :::::::::<´ :::::::::::::|' :::::::::::ヽ,..
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            >、.-'''´    ¨¨¨¨¨::::::::::`'''- .._
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 ,'  ̄ノ ;  ̄゛` _ノ,      /.:ヽ :i::::::::/: /:::':.. .:..,. ''. ::      `ヽ
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 l',  ) ̄`ヽ `       /.\. ヽ:  , -‐''´ ..::: ..    :     .::l . :.:.::|
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      ヽ!  { :..  ̄ ̄厂:く__,.-‐''    ..|    |!:. .   . .. ... - =_ヲ''
362作者の都合により名無しです:2011/03/30(水) 09:08:53.56 ID:YQeYOct90

その異形と化した超肉体から放たれた一撃は、この幻想郷にあって尚、常識を外れた破壊力を秘めていた。
ただ、力を込めて、下から突き上げるように殴る。
角度。タイミング。速度。全てが完璧なアッパーカットだった。
「これは貴様に食べられた…ケーキの痛みだぁぁっ!」
「ひでぶっっっ!」
屋根を突き破り、幽々子の身体は天空へと打ち上げられた。
「まだこれからだぁぁぁぁっ!」
それを追い、妖夢が飛び上がる。
いつものように魔力とかそういうのではなく、純然たる脚力だけで飛ぶ。
「これは…ケーキの悲しみぃぃっ!」
残像すら見えないスピードで幽々子に追いつき、音を置き去りにして怒涛の猛攻。
最後に、両腕を大きく振りかぶって。
「そしてこれは…ケーキの怒りだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
振り下ろす。
幽々子の脳天がひしゃげ、次の瞬間には大地へと叩き付けられた。
「はぁっ…はぁっ…う…ううっ…!」
眼窩から溢れ出す涙。そこには、勝利の喜びなどない。
ケーキ。嗚呼、ケーキ。
皆が楽しみにしていたケーキ。
もはや幽々子のお腹の中で消化されるのを待つだけとなったケーキ。
妖夢の慟哭はただ虚しく、物悲しく、宵闇へと消えていった―――
363サマサ ◆2NA38J2XJM :2011/03/30(水) 09:42:44.46 ID:YQeYOct90
投下完了。前回は>>328より。
今回は東方次回作にて妖夢が自機復帰ということもあって、妖夢回となりました。
…ごめんなさい。石を投げないでください。
ブチ切れ妖夢の元ネタはこれです。

http://gensoubanmatome.blog109.fc2.com/blog-entry-30.html

酷い話になってしまいました。今は反省している。

>>346 土下座は、宇宙を越える(多分) こっちから被災地の方にできる事って、ほんと少ないんですよね…。
>>347 それでも瀬戸なら…瀬戸なら何とかしてくれる…!
>>348 東北の現在の状況から考えると、背筋が寒くなるものがあります…心配だとしか言えない…。
>>349 是非!楽しみにしてます。
>>352 今度こそ守ってみせるぞ!この新しい故郷(バキスレ)を!
>>353 テンプレ、乙であります!
364作者の都合により名無しです:2011/03/30(水) 22:03:45.64 ID:dCCCIqF20
お疲れ様です。
想像していた通りの姦しいパーティになりましたね。
食い物の恨みは恐ろしい・・ちょっと違うかw
365ふら〜り:2011/03/30(水) 22:56:25.34 ID:OihseB0j0
>>サマサさん
・スーパーロボット大戦DOGEZA(女子高生で美少女で、おっぱいですからねぇあの嫁さんは) 
一応、言われてみれば筋が通っていなくもない壮大なスケールの屁理屈……ですなあ。
戦いの中で悩むヒーローを、こういう内容の説得で前向きにさせてしまうってのは、師匠
でなければヒロインの役目。ノリや勢いでなく、話の中身でこんな流れにできてしまうのは凄い。

・サンレッド
「レッドを倒すのはこの俺(我が軍)だ、他の奴には渡さん」的な執着はないわけか。冷静な
判断なのか諦めの境地なのか。ちゃぶ台を前にして待ってるレッドと、かいがいしく料理を
持ってくる(つまみ食いは注意する)ヴァンプ様……カプ妄想どころか、既に夫婦の図……

>>335
だとしたら名乗ってくださると思う、というか名乗って欲しいところですな。待ってる身としては。
だから違うんじゃないかなと思ったり。そうであってほしいと願ったり。
ちなみに私、今は奈良県在住です。サマサさんに足向けられない身としては……
西に向ければいいかな?

>>353
おつ華麗さまです! この厚みに貢献したい、と思いはするんですが……
366作者の都合により名無しです:2011/03/31(木) 00:54:39.53 ID:rYpbhalm0
サマサさんとふらーりさんが並んでいるとほっとするな
最近、スターダストさんもご無沙汰だし。
久しぶりにレッドさんのSS見たけど相変わらずのノリでほっとする
367作者の都合により名無しです:2011/03/31(木) 11:04:46.33 ID:EghaTngQ0
【2次】ギャルゲーSS総合スレへようこそ【創作】
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gal/1298707927/
368作者の都合により名無しです:2011/03/31(木) 14:36:20.04 ID:rkh+0S620
>>361のAAはサマサさんが作ったの?
サマサさんは本当に楽しんで書いているみたいで読んでて伝わってくるね
だから長く続けられると思う。

新スレ立てられなかった。誰かお願いします
369作者の都合により名無しです:2011/03/31(木) 19:36:05.28 ID:q+AFkIeF0
ふら〜りさんがゴーダンナー知ってたのが意外すぎるw
370作者の都合により名無しです:2011/04/01(金) 08:54:21.03 ID:D9dV7tAc0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart70【創作】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1301615594/

立てた
371作者の都合により名無しです
乙!
しかしスレ立てづらくなったなあ