【2次】漫画SS総合スレへようこそpart67【創作】
1 :
作者の都合により名無しです:
2 :
作者の都合により名無しです:2010/02/09(火) 11:02:31 ID:l/9UyFCo0
3 :
作者の都合により名無しです:2010/02/09(火) 11:03:16 ID:l/9UyFCo0
4 :
作者の都合により名無しです:2010/02/09(火) 11:05:55 ID:l/9UyFCo0
間違ってたらごめんなさい
しかし作品の半分はもう載せてても仕方ないなw
1さん乙
また復活する人が来るといいな
6 :
永遠の扉:2010/02/10(水) 23:43:06 ID:bM2hJ5yp0
「という夢を見たんだ」
卵焼きを飲み干した早坂秋水がぽつりと呟いた。剛太は思う。この店に来ていったい何時間経ったのだろう。ふと眺めた
窓はもう夕闇を削っていて、すみれ色の枠内を会社帰りのサラリーマンがぽつぽつと行き過ぎている。
ラタン椅子を軋ませながら行儀悪く背伸びをする。ペキペキと小気味いい音が背骨から走り、筋肉のほぐれる心地よさが
細長い体を貫いた。そうして無言でオレンジジュースを口に運び、置いた。グラスの中で透明な氷が4つカラカラと打ち合っ
て回る。それを垂れ目で追いつつ深く長く盛大な溜息を洩らしてからようやく、ようやく剛太は頷いた。
「夢なら、しょうがないな」
返答は来なかった。頷かれたような気もするが、それはどうでもよかった。夢? どこからが夢? 秋水を嵌めまひろのあだ
名を呼ばせたあたりか。人間離れしたオートバイメーカー社長が登場した辺りか。それとも彼が変身した辺りか。
どうでもいいや、剛太はそう思った。
すっかり冷めた卵焼きに手を伸ばす。モサモサと食べるそれは何とも気だるい味がした。氷水で嚥下すべくグラスに手を
伸ばす。すっと現れた半笑いのヴィクトリアが天然水をなみなみと注ぎ足し帰っていく。笑いたくもなるだろう。喧噪の戻りつ
つあるメイドカフェでどうして男2人が連れだって沈黙せねばならぬのか。侘しさに浸る剛太の気分を和らげたのは意外にも
秋水の言葉だった。
「全てが、夢だった。白昼夢というべきだ。でなければ幻として捉える他、俺たちに道は残されていない」
「そうだな。いま俺たちの周りに壊れたイスやテーブルが散乱して床板もぶっ壊れて、向こうであの店長が丸っこい亀裂まみ
れの壁の前で業者と修理費用の見積もりやっててあの禿のオーナーの頭にまだ粘液残ってるけど」
「全ては夢だ。夢……だったんだ」
「ふふ……ふふふ」
「ハハハ」
乾いた笑いをひとしきり漏らすと、彼らはまったく同じタイミングでコキンとうな垂れた。
「あり得ない」
「俺も、そう思う」
オーナーや桜花たちが片づけに追われる中、剛太たちはしばらくずっとうな垂れていた。
7 :
永遠の扉:2010/02/10(水) 23:45:30 ID:bM2hJ5yp0
やる夫社長とやらない夫専務が変身した直後──…
銃を突き出したその戦士は「柱まみれ」だと剛太は思った。シアンを基調とした顔、そして胸から肩を覆うプロテクターを
黒い柱でびっしりと覆っている姿はつくづく神経質だ。角張り過ぎ。常軌を逸した几帳面。見ているだけで胃痛がする。その
くせ腹から下は無特徴な全身スーツに多少アクセントを加えたという態で、ややもすると気分屋で興味のない分野について
はとことん無関心で冷淡なのではないかとも思った。大口径の銃が電子音声と光輝く文字を発したのは、黒とシアンの冷
たい配色から一層冷たい印象を抱く剛太の背後に半裸の大男が超高速で肉薄していた頃である。怠惰を関する薄暗い
顔つきの男、やる夫社長に投げ飛ばされ壁にめり込んでいた筈の大男はいつの間にか態勢を立て直し、あろうコトか最も
遠い剛太を狙っていた。桜花の絹を裂くような悲鳴に振りかえった剛太の鼻先に礒岩のような拳が迫り──…
【FINAL ATTACK RIDE】
DIDIDIDIEND!
流暢なスクラッチとともに銃口より放たれた光の波がスロウスの上半身に直撃。だが怠惰の巨体は従う事を良しとせず
──使命感ではなく、”面倒くさい” だがそれを矜持とすれば彼は明らかに確固たる矜持に従っていた──胸全体を灼く
錐にも似た奔流を抱き抱え、踏みとどまった。光熱と膂力がせめぎ合う震動がメイドカフェを揺るがした。窓が震え、20メ
ートル先の額縁が安いガラスを張り裂きながら落下した。乱痴気騒ぎを経てなお倒れてないテーブルから皿やコップがず
り落ちて破砕の音をばら撒いた。それでなお両者は相譲らず押し合いへしあいを続けるかに見えた。が。
「あ……れ?」
スロウスが異変に気付いたのは、横一文字の剣閃がイノシシのような足をすでに薙ぎ斬った後である。秋水。いつしか
彼は投げ飛ばされた怠惰の権化の傍まで走りより、息もつかさず両足を切断していた。ふわりと浮いた巨体をすかさず光
の収束が押し流した。果たしてヒの字に曲がり宙を舞うスロウス。そんな彼の前に──…
【FINAL ATTACK RIDE】
DEDEDEDECADE!
光輝くカードが残影描きつつ規則正しく整列した。カードというよりドミノ牌。事態を茫然と眺めるほかない剛太はそう思っ
た。それほど整然と並んでいた10枚近くのカードの先……スロウスの寸前が終点なら『始点』の辺りでブラックとマゼンタ
に彩られた異形の戦士が飛び上がる。牢獄の前で輝く碧眼。陳腐な修辞を施すとすればそんな顔つきに成り果てた50間近
のオートバイメーカー社長の動きにつられカードたちが舞い上がる。彼とスロウスを結ぶ斜めの軌道にピタリと並ぶカード
たち。バーコード状の紋様が刻まれたそれらを飛び蹴りで突っ切る社長が章印のない異形のホムンクルスに激突するまで
さほどの時間は要さなかった。ディメンションキック。カード通過によってエネルギーを収束した飛び蹴りは重機でさえ除け
られぬ巨体を壁目がけ轟然と弾き飛ばし、大爆発さえ引き起こした。洒脱な天井が吹き飛ばされ、付近を往くものの耳目
を嫌というほど集めた。そしてやる夫社長──ディケイドはパンパンと手を打った。
「馬鹿な! スロウスが!」
やる夫社長。やらない夫専務。この2人が身を変じて以降気死したように立ちすくんでいた鳴滝がようやく言葉を発した。
「そもそもディケイドは『奴』だけの筈! それはディエンドとて同じ事! それが何故、存在しているのだ!!」
「並行世界を渡り歩けるのは『奴』だけじゃない……って事だろ役割的に考えて」
ぞんざいな口調で踏み出たのは今や柱まみれのシアンと化したやらない夫専務である。
8 :
永遠の扉:2010/02/10(水) 23:47:41 ID:bM2hJ5yp0
「俺たちもまた様々な世界を渡り歩いてきた。時にゲームの世界を、時には漫画の世界を。歴史上の偉人をなぞる事もあ
れば金融とかの講座を開く事もある」
「詭弁だぞそれは!」
「そうかな。世界はスレ主の数だけあるだろ。時に何かを壊し時に何かを繋ぎ、忘れ去られそうになっている物を再構成し
様々な人間に伝え直す……それが俺たちの役目だろ?」
「だったらそれこそまさにディケイドの真髄じゃねーかお! だからやる夫がディケイドやってても何ら問題ねーお!」
「黙れ!! 黙れ黙れ黙れ! 『奴』以外のディケイドなど私は認めん! 認めんぞ!」
必死に声を張り上げる鳴滝を見て剛太は思った。こいつもしかして本家本元を密かに好きなんじゃないかと。
「破壊者は1人のみで十分なのだ!! なぜそれが分からん! あっちこっちから第2第3のディケイドが現れ、適当な破
壊と再構築を行ってしまえば全く収拾がつかないのだぞ! 分かっているのかディケイド! こんな幕間の話やるのに
4回も5回も投下していてはいつまで経っても完結しないのだぞ! 100話近くやった挙句エターになったら目も当てられ
ないしそもそもいつまで貴様のいるべきスレを放置するつもりなのだ! だからディケイド! 貴様は登場すべきではなかっ
たのだ!」
いよいよ熱を帯びた鳴滝をまぁまぁとなだめつつ、ディケイドは反論した。
「でもまあ、本編でもクウガとかリ・イマジネーションって名目で色々変えられていたじゃないかお!! だったらやる夫がデ
ィケイドでやらない夫がディエンドでもいいじゃないかお! 全てはリ・イマジネーションだお! どうせまた10年経ったらデ
ィケイドだって別の役者さんがやるに決まってるお! やる夫スレ自体リ・イマジネーションの塊だし!!」
鳴滝はとうとうキレたようだった。
「おのれえディケイド! 貴 様 は 設 定 さ え 破 壊 す る の か ! !」
転瞬、黒いオーロラが一団を包み込んだ! 汚水のように煤けたそれがメイドカフェから消え去った後、桜花はただ
彼らの居た場所を見て慄然とした。
そこには誰もいない。ディケイドもディエンドも鳴滝も、そして秋水さえも忽然と消え去っていた。
「一体……どこへ……?」
採石場。切り立った崖に囲まれる砂利だらけの場所。
砂塵が舞い木枯らしがヒョウヒョウ吹き上がる殺風景な所に彼らはいた。
「んー、どうやらあいつの能力で飛ばされたようだお」
「だな」
醒めた様子で頷くディエンドを秋水は黙然と眺めた。
「ん? ああ。何が起こったか分からないって様子だな」
「ええ」
「端的にいうと俺らは別の世界に飛ばされたって所だ。っと。安心しろ。帰ろうと思えば割と何とかなるだろ」
9 :
永遠の扉:2010/02/10(水) 23:49:38 ID:bM2hJ5yp0
「そうかな?」
笑みを含んだ声に3人が振り返ると、そこには化石状のUSBメモリを携えほくそ笑む鳴滝が居た。
「残念だよディケイド。私としてもコイツだけは使いたくなかった」
いかにも勿体つけた様子にディケイドは大仰に肩をすくめて見せた。
「ハッ! 今さら何ができるっていうんだおお前に! だいたいお前むかし変身音叉持っていかにも変身できるよーな素振り
見せてたけど蓋を開けてみりゃ特に何もなかったじゃねーかお!」
「フハハ! それはもはや過ぎた事だよディケイド! 世界は常に新しくなっている! 私の運命は必ず10度目に立ちあがっ
たその時に新しい風通り抜ける道が開くのだろうディケイド?」
「聞かれても……。大体、なんでいつも2番の歌詞は微妙に意味不明なんだお」
鳴滝の手の中でUSBメモリが翻った。
「!!! やる夫! さっさとケータッチ出して遺え……コンプリートフォームになれ!」
「あん? 近所のサティじゃ1500円で叩き売られてるあの残念玩具を? 鳴滝ごときにかお? いらねーおwwww こんな
雑魚、カブトになってクロックアップすりゃ終わりだおwwwwwwwwwwwwwww」
「馬鹿! さっさとしろ! あれは! あれは──!!」
「もう手遅れだよディケイド!」
鳴滝はそのメモリのボタンを押した。
声が、響いた。
ひたすら低く、おぞましい、恐怖を孕んだ声が。
「テラー」
そして変貌した鳴滝を中心に闇が広がっていく。砂利の広がっていた殺風景な地面は瞬く間に暗黒空間へと変じた。
「はははは! これは客が屋台に忘れていった代物なのだよ! MOVIE大戦2010の時にパクっておいた!」
闇に呑まれ火花を散らすディエンドから振り絞るような声が立ち上った。
「てめえ! 泥棒すんな!!」
「いや、そのナリでいわれても説得力ねーお」
白けたようなディケイドの声を哄笑がかき消した。
「ハハハハハハ!! 安心しろ! この戦いが終わったら交番に届けるさ! お前たちを、この逃げ場のない世界で始末
してからじっくりとな!!」
「! まさか!」
秋水はここでようやく気付いた。彼らを囲むように黒いオーロラが展開しているのを。闇に呑まれる足元から立ち上る
言語化不能の感覚に顔を歪めながらオーロラめがけ刀を振るう。突破できる手ごたえは、ない。
(……しまった。閉じ込められた! 逃げ場を断たれた上にこの攻撃──…望みはあるのか?)
視認できる場所はもはや全て暗黒に侵食されている。冷たい汗が端正な顎を伝い落ち、闇の中へと吸い込まれた。
忙しいのでコレだけ。お返事はまた後日……すみません。
もはや武装錬金関係ないけど次でこのお話終わり。多分。
鳴滝にガイアドライバー着けるの忘れた。後日wikiの方に足しときます。
スターダストさんでスレが始まるの久しぶりだなあ・・
一番乗り乙です。
ディケイドややる夫出ちゃこの作風仕方ないな、と思いつつ
終わるのは少し残念…。もう少し違う世界観も楽しみたかった。
また元の永遠に戻るんですよね?
お話終わりって作品が終わるんじゃないですよね?
13 :
作者の都合により名無しです:2010/02/11(木) 19:10:34 ID:JSz4ijOX0
1さん、スターダストさんお疲れ様です。
再開してからのことがすべて夢オチか、とも思ったけど
やる夫たちが健在でなによりですw
武装錬金のキャラと他の世界のキャラが混在してるのが肝と思いますので
やはりベースは錬金世界がいいかなと。まだまだまひろたちの物語がみたいですし。
スターダストさんも戻ってきたし
ぜひサナダムシさんに戻ってきて頂きたい
前スレ、サナダムシさんいなくて非常に違和感を感じた
安定して書いてるサマサさんとスターダストさん
不定期ながら顔を見せてくれる人もチラホラいる
普通のSSスレならこれで全然問題ないんだけどなー…全盛期を知る者としては
寂れたと思ってしまう
全盛期は毎日2、3本作品が来てたからな
1週間でスレが終わったこともあった
ま、ヤムスレとか肉スレとか各種ロワスレとか
終わった中で生き残ってるだけでも凄いと思う
しかしスターダストさん作風変わったなーw
やる夫書いてた影響だね。
いや、幅が広がったというべきか
17 :
作者の都合により名無しです:2010/02/12(金) 09:20:50 ID:mix1bPZp0
スターダストさんの永遠の扉は完結したら
バキスレ史上最長の作品になるのかな?
武装への愛が溢れてて好きな作品だから復活はうれしい。
でもディケイドといえば「結末は映画で」だから
完結に一抹の不安を覚えるなw
>>1 おつ華麗さまです! いつ誰が復活されるかわからない当スレのこと、「その方」の為にも
スレを立て、テンプレを残して下さったことに感謝です。きっと、あの方やあの方が再起
して下さいますよ……ってまあ他力本願ばかりじゃダメだとは思いいつもすみませんです。
>>サマサさん
このSS世界の賑やかさが再確認されますねえ。遠い地では健気な弟子が立派に師の域に
近づいてるし、川崎市では魔物もヒーローも悪の組織も毎日楽しく暮らしていますとさ、
めでたしめでたし。フロシャイムのみんなで作ってみんなで食べるチキンカレー、美味しそう。
>>スターダストさん
映像描写が実に素晴らしい! 私はバキスレでさんざん「原作知らないので文章だけで想像」
をやってきましたが、この文章だけで想像される映像ってどんなのだろ……と楽しめました。
凄く特異な意味でのクロスオーバー編、面白かったですよ。復帰される本筋にも期待してます!
19 :
ふら〜り:2010/02/12(金) 18:51:38 ID:h9QHfVQB0
おっとすみません、
>>18は私です。
自宅が規制の渦中につき、職場で隙を見て書き込んでおりますもので……
遠目から見れば並んだ僕達は家族に見えるだろう、美人のママにかっこいいパパ。
だから僕は並ばないように距離を取る、少しでも怪しまれるようにして注意を引きたい。
誰かが気付いてくれることを祈りながら……そして、その誰かが助けてくれることを願いながら。
「早人! 速くしないとおいてっちゃうわよ〜!」
授業参観でみんながママを「綺麗だね」と羨ましがった。
家に遊びに来た友達はパパの写真を見て「俳優みたい」と褒めちぎった。
でも、僕のパパはパパじゃないんだ……。
「もう! 名前のわりにノロマなんだから!」
「フフフ、そうカリカリしなくてもいいじゃあないか……」
僕を急かすママに笑顔で接するパパの姿をした『奴』を見つめる。
少し前、パパがパパだった頃にこの光景を見れたらどんなにうれしかっただろうか。
僕は多分、望まれて生まれた訳じゃあないのだろう。
僕の母と本物の父の間には何時だって目に見えない壁があった。
僕を見る二人の目も、間に見えない壁を挟んで見ていた。
ママは相変わらず僕を悪く言うがもう壁はなかった。
パパがパパの姿をした『奴』に入れ替わってしばらくすると、壁はなくなった。
でも僕は感謝の気持ちをほんの少しも抱かないし、喜ぶことも出来なかった。
『奴』は何時殺すのだろう…明日だろうか? 今日だろうか?
「はぁ〜……お腹と背中がくっつきそう。あなた背負ってあげてよ」
「いいとも、そら!」「キャッ!? 私じゃなくて早人のことよ!」
『奴』に抱かれ頬を膨らませながらも、ママの目は嬉しそうだった……パパの姿をした『奴』が殺人鬼だとも知らずに。
「ハハハ、判ったよ……さぁ来なさい早人」
ママを降ろした『奴』はしゃがみ込むと、僕のほうに背を向けながら視線を投げかけた。
逃げ出したい、微笑ましい家族のやりとりにでも見えるのか道行く人々が僕を見て笑う。
他人から見た父の背中におぶさるという行為は、僕には腹を空かした猛獣の背中に乗れというのと同義だった。
広い背中に手をかけ身を任せると、底知れない闇に引きずり込まれてしまったかのような恐怖で硬直する。
大抵の人間は人の背から伝わる暖かみを、幼き日に肉親から伝えられて知っているだろう。
まだ忘れるような年ではないこの僕も……だからこそ、『奴』の背中が怖い。
人と触れ合っているのに温もりも思いやりも………ありとあらゆる感情をまるっきし感じられなかった。
体温だけの背中、獣の背中と何も違わない。
「脅えることはない……今の生活は気に入ってるよ、残り物も始末した。
お前に『バイツァ・ダスト』が憑いている限り、今まで通り何も変わりはしないさ」
震える僕をあざ笑うような悪魔の囁き、誘惑の台詞のつもりだろうか。
僕にはそうは聞こえなかった、このまま永遠の罪人でいるつもりかという問いかけだった。
決意を固めなければ………僕が何もしなければ、『何も変わりはしない』のだから。
仗助さんに億泰さん………殺されたみんな、僕が諦めたせいで死んでしまった人の為に何かをしないと。
頭でそう思っても、あの時の様な闘志は沸いて来ない……一人という孤独が、『奴』への恐怖が抑止力となっている。
僕の味方は、もう誰も居ない……怪我をして帰る度に『奴』の機嫌が良くなっていく。
死んでいる………僕の知らない場所で、『奴』と戦う力のある人が。
僕の勇気が挫かれていく、奴の背にもたれる感覚に慣れる。
まるで、僕の心が冷たい闇に身を任せているように思えて吐き気がした。
「やっと着いたわ! レストラン『Tonio Trussardi(トニオ トラサルディー)』ですって!」
ママが目の色を変えて駆け出した、目的地についたようだ。
霊園の横にあるイタリアンレストラン………奇妙な名所の多い杜王町だがここもその一つだ。
美味しいと評判だが墓地が隣ということもあって夜は人が寄り付かない。
ただ美味しいだけじゃなく、食べた人を健康で幸福にするレストランらしい。
ここの料理を食べた癌患者が検査に出てみると腫瘍が消えてたという噂もある。
他にも聞いただけで期待に胸を膨らませてしまいそうな話がいくつもあるのだが、ただ虚しく頭の中を過ぎる。
殺人鬼がこれからその料理を食べて、より幸せになるというのだろうか……。
『奴』の喜びや幸福は罪もない人々の屍上に成り立っているというのに。
入り口に着くと『奴』は僕を背から降ろして看板を覗き込む。
珍しく困惑の表情が浮かばせながら、訝しげに看板を見つめる。
「献立はお客様次第……? どういう意味だ………」
「ほらぁ〜! アナタもはやく入りましょうよっ!」
ママの手に引っ張られて『奴』が看板から離れる。
僕の願う幸福な料理、奴の喉にでも詰まって窒息死させてはくれないだろうか。
限りなく0に近い非現実的な願いに、露程の期待も抱けず……。
諦めの感情に支配されたままレストランへ足を入れる。
清潔感に満ち溢れた白を基調とした店内に、二つのテーブルが並ぶ。
余ったスペースが店を少し寂しげに見せながらも、テーブルの上はキャンドルや花で彩られている。
ドアに付けられた鈴の音に気付いた店主らしき人物が、厨房の奥から現れた。
「いらっしゃいマセ。ワタシ、『トニオ』と申しマス」
店主はがっしりした健康的な体格の外国人だった。
コック帽を被ってなければボディビルダーに見えていたかもしれない。
カタコトながらも丁寧で聞き取りやすい日本語で挨拶をしながら、イスを引いて座るよう促している。
「シ……シニョール」
ママがイスに座ってお礼を言うが、それは男性に用いるスペイン語の敬称だった気がする。
用途が正しかったのか、言いたい事を理解したのかは判らないが店主は爽やかな笑顔で会釈して答えた。
席に着くと、テーブルを見回す『奴』が店主に尋ねる。
「所で、メニューが見当たらないが……」
「あぁ……リスタですか。ウチにはないんですよ」
すると店主は「失礼します」と言ってママの腕を取って手の平を見つめた。
何をしているのか聞くより早く、彼の目標は遂げられた。
「腸の荒れに加えて軽度のドライアイ……それと腰痛ですか」
驚くママを尻目に僕や『奴』の手を取って同じように診断する。
彼は漢方料理や山野草、アマゾンのメディシンマンの下で修行しこれを身につけたらしい。
味はまだ判らないが健康にする料理、というのはどうやら期待が持てそうだった。
「しかし、料理を選べないのに3500円か」
「あんまり辛いのとか来なければいいんだけど……」
そう言うとママは、グラスに注がれた水を口に含んだ。
噂の料理は水から始まっていたと知らずに。
ドット単位のズレはやっぱ無理だった。邪神です( 0w0)
半角スペースを連続で使えれば……ただの文字整列でこれなんだからAA職人って大変なんですね。
―前スレ感謝の言葉―
>>ふら〜りさん やる夫でブレイドッッ! VIPはブーン系小説とか見るけどやる夫は有名なのしか見てなかったり。
早速見てきましたがアンデッドとの会話とかオリジナリティもあっていいですな。オゥ林田は難しかったか。
写真の親父は従って爆発するのか逃げ出すのか、どっちに出るか判りませんでした。
空気弾で吹っ飛ぶ直前に息子の名前を叫んでたり子煩悩だし自爆しそうではあったんですが。
しかし最終的に運命が味方したほうが吉良っぽいかなということで逃亡ルートに( 0M0)
>>サマサさん >>次はトニオさんか!?
何故バレた……といっても出せる奴は限られてくるから予想は楽ですな〔;0H0〕
総統とヴァンプ様が意気投合……正義陣は意気投合しないといいですね。
デラックスファイターなんて正義の味方なのに悪の組織から強盗しちゃうし( 0w0)
まぁレッドさんはヒモだけどクズじゃないからそんなことは………まさかそんな、ハハハ……。
>>314氏 人を従えるカリスマはないけど惹きつける魅力なら……女性限定ですが( <:V:>)
何もしなくても向こうから獲物が来たり、時には積極的に自分から狩りに出たり。
例えるなら動く食虫植物になるのでしょうか、素敵な生態ですね。
>>316氏 平穏派、いい響きですね。思考は全く平穏ではないというミスマッチな吉影さんの魅力が表れやすくて。
>>音石明を病院のコンセントから旅立たせて、川尻の職場へ向かわせるのはどうですか?
>>316さん……2度同じことを言わせないで下さいよ……1度でいいことを2度言わな(ry
墳上のように一度でも善意や正義を感じる行動を取ってれば考えたんですけどね。
戦う理由をつけるなら病院より刑務所ですな、刑期短縮とか……まぁ申し訳ないですが出番はないです( 0w0)
25 :
作者の都合により名無しです:2010/02/16(火) 10:18:20 ID:k7kbuEqC0
おお〜トニオ出た
第4部の面白さってバトルよりも
こういう奇妙な日常風景の描写だと思うんだよね
バトルだけなら第2部や3部の方が面白いし
邪神さんにイタリアンの知識はあるのかな?w
お疲れ様です邪神さん。
トニオ好きだけど戦闘要員じゃないから今回限りの出番かな?
早人の苦悩を救えるほどの強さでもないよね・・
でも、一応原作ではじょうすけに勝った?のか・・
邪神さんもながいねえ。ありがたい
トニオの料理は旨そうに書いて
28 :
ふら〜り:2010/02/19(金) 08:37:57 ID:rhCR60jZ0
>>邪神さん
ぅぅ、のっけからバイツァ編の絶望感が重い重い。原作以上に絶望的な状況の中、速人も
よく正気を保ててるものです。トニオさんは原作で「店に来る客を注意しておく」と言ってました
が、本作で遂に来店。最初から殺る気ならば殺れるでしょうが……展開が想像つきません。
ふらーりさんの1人コメントは寂しいのう
誰か来てくれるようあげ
パターン@悪の皆様方
「バレンタインだなあ…」
「ああ、バレンタインだよ」
「だからって、なあ…」
「所詮、俺らにゃ関係ない行事っすよ…」
―――言うまでもなく、神奈川県川崎市。
道を往くのは世界を狙う恐るべき悪党四人。
フロシャイム川崎支部所属のメダリオ&カーメンマン。一匹狼のヒム。悪の吸血鬼ヤフリー。
世界を狙ってるくせに、話題はセコいにも程がある。
しかし―――しかし、だ。男子たるもの、バレンタインは試練の時なのだ!
「そういや思い出すなあ、メダリオ。お前、いつかのバレンタインで高級チョコを自分で買って、女の子から貰ったとか
虚しい演技してたっけ(笑)」
「なっ…おいカーメン!その事は言うなよ!」
「うっわー…そんなハズカシー真似してたのかよ」
「メダリオさん、そりゃ悲しすぎますよ…(苦笑)」
「うっうるせー!お前らだって精々母親からしか貰ったことねーくせに!」
ぐうの音も出ず、三人は黙り込むしかないと思われた。だが…そこに名乗りを挙げる勇者が一人。
「俺は…貰ったっすよ」
「ヤ…ヤフリー…お前…」
どよめく面々を睥睨し、彼は告げる。それは、まさに勝利の雄叫びだった。
「母親以外の女から、チョコを…しかも、二人!」
ババーン!そんな効果音が聴こえてきそうな程、今の彼からは<オーラ>が感じられた。
しかし。
「…どうせ<姉貴>とか<妹>とか、そんなオチだろ」
「…………」
無言で意気消沈していくヤフリー。その姿は図星と言っているも同然である。
結局、モテない同盟四人である事は揺るぎない事実だった。
というより、読者の皆様も考えてほしい。本当にバレンタインで男にチョコを贈る女なんているのだろうか?
実はただの都市伝説ではないのか?そうは思わないのか、皆さん!少なくとも筆者は見た事無いぞ、そんなん!
「…オレ、決めたぜ」
「何をだよ、ヒム」
「オレが世界征服した暁には、バレンタインを廃止する。こんな…こんな悲しみと憎しみの連鎖は―――誰かが断ち
切らなくちゃならねえんだ!今までに散っていった、多くの戦士達(おとこたち)のためにも…!」
その横顔は、眩しいくらいに気高く、そして悲しかった…。
そんな切なすぎる漢達は、揃って肩を落とす。その時だった。
「あ、いたいた!みんな、探したんだよ」
四人に駆け寄ってきたのは、悪の軍団を女手一つで統べるロリ美少女・エニシア。
重たそうな袋を抱えた彼女は、ムサいヤロー共に輝くような笑顔を向ける。そして。
「はいっ!バレンタインおめでとう!」
綺麗にラッピングされた箱が四つ、メダリオ達に手渡される。
「お、おお…!」
「これは、まさか…!」
「あの、伝説の…!」
「女の子のちょ、ちょ、ちょ…!」
恐る恐るラッピングを外して、中身を確認する―――神々しい輝きと共に(※イメージです)現れたのは、小ぶりで
形も歪な、手造り感溢れるハート型のチョコレート。
えへへ、とはにかむエニシア。
「お世話になった皆に配ろうと思ったんだけどね…たくさん作ろうと思ったら、材料が足り苦しくて、こんなに小さく
なっちゃった。形もよくないし、そんなのでごめんね」
そう言いつつヤロー共を見たエニシアはぎょっとする。
四人はチョコを握り締め、まるで命を賭して闘った好敵手の最期を見届けたかのような熱い涙を流していたのだ。
そして。
「うおおおおーーーーっ!バレンタインばんざーーーーい!」
「4000年生きててよかったーーーーっ!食わねえ!このチョコは食わねえ!ピラミッドの中まで持ってく!」
「チョコレートなんて…大好きだぁーーーーっ!魔界の皆…オレは…やったぞぉぉぉぉぉっ!」
「よっしゃあ!こうなったらエニシアちゃんを胴上げだぁ!」
「え?え?」
訳の分からない間に担ぎ上げられ、天高く舞うエニシア。何が起こっているのかイマイチ理解できないが、歓喜の
涙を流す漢達の笑顔を見た彼女は<ああ、皆喜んでくれてるみたいでよかった>と微笑むのだった。
さあ漢達よ、今回のサンレッドはバレンタイン。
僕らには一切関係のないこの菓子業界と歯医者の陰謀に、川崎市の皆はどう立ち向かうのか!?
天体戦士サンレッド 〜バレンタイン!それぞれの波乱
パターンAアニマルソルジャー
「いやあ、エニシアちゃんのおかげで、今年はいいバレンタインになったなー」
「ほんとっすよ。この思い出だけで、俺は強く生きていけるっす」
先程までとは打って変わってほくほく顔の漢達。現金なものである。
「えへ…そこまで喜んでもらえるなんて、嬉しいよ」
照れてほっぺを赤くしながらはにかむエニシア。心温まる光景である。
(※一応言っときますが、この連中は悪サイドです)
「ははは。で、今から他の連中のとこにも幸せの配達に?」
「うん。バイト先の人や、レッドさんとか…あ、でもレッドさんはかよ子さんがいるからどうかな…迷惑かも」
「あー、そうだなあ…レッドとかよ子さんかあ…」
「あの二人、バレンタインだからってすっげーいいことしてたりして!」
「おいおい、そういう話はよせよー」
「そうっすよー。女の子がいるってのに」
ちょっぴり下世話に盛り上がるヤロー共。そんな四人に対して。
「え?レッドさんとかよ子さんがなにするの?」
エニシアはきょとんとして訊き返した。赤ちゃんはコウノトリが運んでくるものと信じている純粋な瞳である。
ゲホンゲホンと、わざとらしく咳込んで誤魔化した所に、新たな登場人物達が現れた。
「あれ?皆して集まって、何してるの」
フロシャイムのアイドル・アニマルソルジャーのウサコッツ・デビルねこ・Pちゃん・ヘルウルフである。
ボン太くんは、今日はお休みの模様。
キュートな四匹は、当り前のように大量のチョコを抱えていた。
「おう、アニソル…って、お前ら、すっげー貰ってんのな…」
「うん。女の子達に追いかけ回されて、困っちゃったよー」
そこらのイケメンのセリフならしばきたくなるが、ウサコッツの言う事ならば許せる。だって可愛いは正義だもの。
「あはは…それじゃあ、私も追いかけ回しちゃおっかな。はい、ウサ先輩達にもチョコレート」
「あ!ありがとうね、エニシアちゃん」
「でも、そんなにたくさん貰ってたら、迷惑じゃない?」
「そんな事ないよ。嬉しいよ。そうだよねっ、ねこくん、Pちゃん、ヘルウルフ」
耳をピョコピョコさせてチョコを受け取るウサコッツ。Pちゃんは早速包みを開けてパクパクしている。
「チョコレート スキ」
ヘルウルフもご機嫌だ。しかし、デビルねこだけはどうも浮かない顔である。
「あれ…?おい、ねこ。お前、チョコ苦手だったっけか?」
メダリオの問いに、デビルねこは首を振った。
「ううん。チョコは大好きだよ。でも…」
「でも?何だよ、おい」
デビルねこは、深く、ふかーーーーーーく溜息をつく。
「食べたらダメなんだ。糖尿が…酷くなってね…」
「と…糖尿…」
「…そ…そうなんだ…」
「うん…食事制限をもっと徹底しろってお医者さんに言われてるの…」
何つーか、非常に重い話だった。何故ファンシーなぬいぐるみから、こんなトークを聞かされなければならないのか。
「そう言えば血圧もちょっとヤバかったし…四十肩も全然治らないし…歩くとすぐ息切れするし…加齢臭もますます
キツくなるし…コレステロールもアレだし…痔の疑いも…あと、肝臓の数値を見たお医者さんが深刻な顔してた…」
「…ねこ。それ以上はやめとこうぜ…こっちも悲しくなるから…」
「そだね。ぼくが言えるのは一つだけだよ…健康には気を付けてね!」
―――それは、シャレにならないほどの説得力だったという。
パターンBレッドさん
かよ子さんのマンション。
すまし顔でお茶を啜るかよ子さん。
そして、やるせなさそうに頬杖をつくレッドさん。
「なあ…かよ子…言うもんじゃねえ。男の方から言うもんじゃねえのは分かってんだけどよ…」
「何よ」
「バレンタインなのに、チョコくれねーとか!去年も一昨年もその前も!つーか去年、俺アピールしたじゃん!恥を
忍んでチョコ欲しいって、すっげーアピールしてたじゃん!ヴァンプには用意してたのに俺にはねーって、やっぱり
傷つくっつーの!」
「あー、やっぱそれでヘコんでたの?あんたも可愛いとこあるわねー(はあと)」
「う、うるせー!」
「ふふ、そんなに拗ねないの」
かよ子さんはレッドさんに向けて、艶っぽくウインクする。
「あんたにはチョコレートより、もっといいものあげるから。ね?」
「な…!お、おま…そういうこと、言うんじゃねーよ…」
レッドさんは顔を真っ赤にして(元から真っ赤だが)そっぽを向く。そんなちょっぴりアダルティな雰囲気の中。
ピンポ〜ン
と、玄関のチャイムが鳴った。邪魔されたようなほっとしたような微妙な気分で、レッドさんが立ち上がる。
「あーもう、誰だよ…ヴァンプか?またチョコレートのお裾分けに来たんじゃねーだろな…」
そうぼやきながらドアを開けると、そこにいたのは意外な顔。
「ヤア、レッド。久シブリーッテ程ジャナイネ、コナイダ赤色戦隊ゴッコシタバッカダシ。ハハハ」
「お前…シャイタンじゃねーか!」
そう。イベリア在住の悪魔シャイタンだった。
「どーしたんだよ、また鎌仲のコンサートに出演か?ハードスケジュールだな、おい(笑)」
「イヤイヤ、今日ハレッドニ用事ガアッテネ…ホラ」
シャイタンが懐から取り出したのは、ラッピングされた四角い箱だ。
「あん?まさかこれ、チョコか?」
「ア、勘違イシナイデヨ。マサカノBL展開トカジャナイカラ(ポッ)」
「ポッじゃねーよ、気色悪りー。何だよ、たくさん貰ったからお裾分けか?」
「違ウ違ウ。ホラ、ライラノ事ハ話シタヨネ?」
「ライラ…?」
考え込むレッドさんだったが、直に得心して手を叩く。
「あーあー、思い出した!ライラって確かホラ、お前のコレだろ?」
へらへらしながら小指を立てるレッドさんである。
「モー、ソウイウ言イ方ハヨシテヨ。マア、間違ッテハナイケドサ…フフ。デ、ライラガ世話ニナッテル人ニッテ、チョコ
ヲ作ッタンダヨ。コレハレッドノ分ッテワケサ」
「ほー…随分気立てがいいんだな。俺とは直接面識もねーのに、何か悪りーなー」
「ハハハ、ソンナニ褒メルナッテ。イイ女ナノハ確カダケドサー(笑)」
「おいおい、日本まで来て<嫁自慢>?このこの」
冷やかすレッドさんと照れ照れなシャイタン。そんな和やかムードは、背後からの冷たい言葉で凍り付いた。
「あらあら…あんたったら、私にチョコをねだらなくても貰えてるじゃない」
すっかり蚊帳の外にされていたかよ子さんは、完璧に左右対称の笑みを作った。そう、まさに<作った>としか表現
できない、凄絶な表情である。
「へえ〜…あんたも他の人からチョコを貰える甲斐性があったんだあ〜…ふ〜ん…」
その笑顔の、なんと恐ろしかったことか。
かつてイベリアを震撼させた悪魔と、現在進行形で川崎を震撼させているヒーローが、揃って脂汗に塗れていた。
お前のせいだぞ、何とかしろよ。そんな想いを込めてシャイタンを肘で突っつくレッドさん。
シャイタンは頬をヒクヒクさせつつ、自信なさそうな愛想笑いをするばかりだった。そして。
「ア…アノサ…我、チョット急用思イ出シチャッタ!アステカデ<唯一神(クロニカ)>ト昼飯食ウ約束シテタンダッタ!
<レコンキスタ>ト<コンキスタドーレス>ニツイテ熱ク議論ヲ交ワスンダッタ!ジャアネ、レッド!」
シャイタンは愛想笑いを浮かべたまま翼を広げ、大空へと飛び立ち、あっという間に見えなくなった。
恐らく、マッハ10は出ていただろう。流石は伝説の悪魔だ、とレッドさんは妙な所で感心するのだった。
「って感心してる場合じゃねーよ!テメー、おい、待て!」
待て、と言った所でシャイタンは既に空の彼方。
後には立ち尽くすレッドさんと、張り付いた様な笑顔のかよ子さんだけが残されたのであった。
―――なお一時間後、ようやくかよ子さんが機嫌を直した所でエニシアがチョコを持って来て、更に修羅場な空気に
なってしまったそうだが、それは全く別のお話である。
パターンC軍曹
とあるマンションの一室。
高校生と思しき男女がチョコレートケーキを挟んで向かい合っていた。
サクッ。パクッ。
「どうよ、宗介。感想は?我ながらよく出来てると思うんだけど」
「肯定だ、千鳥。とても立派な菓子に仕上がっている」
相良宗介は、無愛想な顔をほんの少しだけ緩めて(普通の人間ではまず気付かない変化であるが)頷く。
「カカオの香りが食欲を程良く刺激し、味覚に対する期待を否が応にも高める。口内に入った瞬間にチョコクリーム
がふわりと溶ける食感も中々だ。チョコの甘みと苦みが染み込んだスポンジも相まって(以下省略)」
「何でアンタはそんな堅苦しい感想になるんだか…」
呆れた風を装いながらも、千鳥かなめは嬉しそうに笑っていた。
「ま、いいわ。褒めてるんだから、よしにしたげる」
そう言って、美味しそうにチョコケーキをぱくつく宗介を、彼女には珍しい事に優しく見守るのだった。
日本一(世界一か?)非常識な高校生も、今日ばかりは常識的にバレンタインを謳歌していたとさ。
―――ちなみに、とある潜水艦の中では。
「…はあ」
テレサ・テスタロッサは、デスクの上の物体を涙目で眺め眇める。
仔細にその形状と色彩を表現するのは難しい。例えて言うなら、前衛芸術だった。
一応言っておくが、これはチョコレートケーキである。
少なくとも、彼女はそうなるように作ったはずだった。
「こんなの渡したら、絶対嫌がらせだって思われちゃう…」
黒焦げの前衛芸術をゴミ箱に突っ込み、テッサは不貞寝するしかなかった。
「結局当て馬扱いなのね、私って…いいのよ、分かってるから。原作からしてそうだもの…」
―――悲しいバレンタインを過ごすのは、何もモテない漢ばかりではないというお話だったとさ。
パターンD望月ジロー
「…ごめん、ジローさん。まさかこんな事になるとは思わなくて…」
愛嬌たっぷりのアヒル口少女・ミミコさん。
彼女は望月ジローと望月コタロウの吸血鬼兄弟を女手一つで養っています。
さて、そんな彼女の眼前では、ジローさんが口から煙を吐いていた。
「ミミコさんの…せいでは…ありません…私も…迂闊でした…」
青息吐息で、ようやっと言葉を発する。
「バレンタイン、とは…そもそも…聖人ヴァレンティヌスが死した日…云わば、聖なる日です…そんな日に贈られる
チョコにも…神聖な力が宿ったとしても…おかしくは…ない…」
「いや、その理屈はおかしいよ、兄者…」
コタロウはツッコミを入れたが、ミミコさんから貰ったチョコを食った瞬間に彼の兄はこの有様である。
彼の中に流れる血が、神聖な存在であるバレンタインチョコを拒絶したとしか考えられない。
「ふ…この身に宿す黒き血は…どうやら、バレンタインを楽しむ事すら赦してはくれないようです…それもまた、私
の宿命なのでしょう…」
「いや、いくらカッコつけてもカッコよくないから」
―――望月ジロー。彼もまたバレンタインに苦悩する漢の一人であった。
通常とは、かなり違う意味で。
パターンEヴァンプ様
川崎支部の居間には、山と積まれたチョコレート。
何故か大量の味噌やら醤油やら砂糖やら塩やらまで置いてある。
そこからヒョイっと顔を出したのは、我等が将軍ヴァンプ様だ。
「いやー。こんなにたくさん貰っちゃった、私。バレンタインって、いいなあ」
女子高生から御近所の若い女性、婦人会のおば様まで、幅広い支持を得たヴァンプ様。
何を隠そう、川崎一のモテ男とは彼の事である。
こうして、バレンタインは十人十色に過ぎていくのだった。
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、漢達の壮絶な―――
大事なことなのでもう一度言おう、壮絶な闘いの物語である!
投下完了…この話、バレンタインに投下するつもりだったんです。なのに何でこんなに遅れたか?
アクセス規制うざいんだよチクショウ!それはそうと遅れましたが
>>1さん、スレ立て乙です。
金剛番長が終わりに向けてカウントダウンを始めている…寂しいけど、エンディングに向けてすげえ盛り上がりを
見せているので、期待大。鈴木央先生の漫画はライパクにしろブリアクにしろ、ラストがすげー尻すぼみばっか
だったんだけど、今作は最後まで完全燃焼してやるぜ!という意気込みが伝わってきていい感じです。
しかし、最終決戦がスーパーロボット大戦レベルの闘いになるとは流石に思わなかったw
最終金剛ならケイサル=エフェスにも勝てる。多分。
>>前スレ332
川崎支部の掟は、アニメでもほんの一分にも満たないながら、妙な味があって好きです。
>>前スレ333
東方projectからです。そろそろ登場人物紹介に追記しないといけないキャラが増えてきました…。
>>スターダストさん
いやあ、なんだ、夢だったのかーハッハッハ…で終わってたら秋水達も幸せだったのに…。
どう収集つけるんですか、これw
どうにもならないだろ…常識的に考えて…
>>15 >>16 全盛期は一日2〜3本来るのも珍しくないという勢いでしたからね…良き時代だった。
>>ふら〜りさん
強さだけなら拙作・超機神大戦のラストメンバーにも劣らぬ連中が揃ってるのに、やってることのショボさと
いったら…でも、それが川崎市の愛すべき皆さんです。
>>邪神?さん
トニオさん当たった…!彼の料理を食べた吉良が悪の心を浄化される…なんて展開は流石にないでしょうが、
果たしてどうなる!?さあ行け、トニオさん!ブロック石鹸パンチで殺人鬼を倒せ!(無理)
とにもかくにも、トニオさんの料理に期待します。
40 :
作者の都合により名無しです:2010/02/22(月) 12:20:00 ID:e0UcAUIk0
規制ウザ杉ですよね
俺も今、会社からこっそり書き込みしてます
バレンタインネタはほのぼのしてていいですなあ
かよ子さんはいい女すぐる
原作でもバレンタインのレッドとかよ子さんはエロスな雰囲気だったもんねw
ねこくんは…生きろ…
しかし、悪側にどんどんメンバーが集まっているというのに未だにTシャツレッドを
倒せる気配すらしない(それ以前に勝負にさえならない)のはどういう事かw
サマサさんが頑張っている限りは
バキスレを見捨てませんよ
ヴァンプ様おいしいところもって行くなw
>>41 とりあえずSS内で描写のあるところでは
アームスレイブ(全長10m程のロボット兵器)およそ10機&無数のヒーローを相手にして
無傷で全滅させたヒムが更に特訓でパワーアップしてもパンチ一発で瞬殺するレッドさんだからな…
他の連中がドラクエのパラメータでやってるのに、一人だけディスガイアみたいな馬鹿ステで
暴れ回ってるようなもんだな
44 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:12:46 ID:tEyRSovRP
>>9続き
「だが本当に馬鹿馬鹿しいのはそこからだったよな」
「……概ねはそうだった。君の行動以外は」
枯れた声で頷くしかない美青年に剛太はつくづく同情した。
どこかで木々のざわめく音がした。地鳴りも。ごうごう、ごうごう。灰の霧が立ち込め、ゲル状の蒼黒が地面に広っていく。
それを踏みしめ走る秋水。漆黒の海原に放り出されたような浮遊感。ごうごう。ごうごう。恐懼疑惑を掻き立てる蠢動の中、
逆胴を放つ。煌く青のアーチが灰の向こうで影を散らした。違う。避けられた。切歯する秋水の横で耳障りな哄笑が再び上
がる。脇構えで息をつく。汗がひどい。全身を鋭利に貫く冷たさの中で動悸だけが熱く波打っているようだった。敵を見る。
睨むのは簡単だった。彼の居る場所はすぐ分かる。厚ぼったく日光を遮る灰の向こうで古びた青銅がうっすら輝いているの
だから。
頭に被る装飾具を『冠』だけに限定すれば、彼はまさしく冠を戴く敵だった。
双頭の鷲を模したレリーフは古代を思わせる遺跡の紋様をしっかと刻んでいる。その下で正体不明の肉食獣の髑髏が
秋水を見返している。黒々と落ち込んだ眼窩にひどく理知的な光を湛えているのが一層不気味だった。お前が何を感じ何
を考えているかお見通しだよ──そう告げられたようで身震いする思いだった。口にくわえた金の装飾具は「人形と、その
後ろから”呑まないで。助けて”とばかり伸ばされた哀れな人々の無数の腕」に見えた。
闇の化身。
現生と、生者の与り知らぬいずことを区切る暗幕の向こうからやってきた冥界の使者。
冠から垂れるマントはそんな背景を与えていた。引き締まった上半身は艶のない黒。ひどく厚い腰巻は血でなめされたよ
うに赤黒い。そして哄笑ばかりが響き渡る。木々のざわめき。地鳴り。動悸。血潮が遡って鼓膜をなでる轟音。総てが混じり、
より強まる。ごうごう、ごうごう。圧迫的鳴動の中で光の奔流が敵に殺到した。ディエンド。すでに片膝をついている彼の放っ
た一撃を追うようにディケイドが飛び蹴りを放ってもいる。哄笑が「ふっ」と息注ぎするように途切れた。光が流れ鋭角の蹴
りが空を切る。消えた。秋水だけが見た。マントを翻し瞬間移動する敵を。そしてやや離れた場所で再び高々と笑い始める
敵を。火花が散る。苦鳴も上がる。闇中ぬかずくディケイド。滴る粘液上の闇を浴びるディエンド。彼らに一拍遅れ、秋水自身
も激しくせき込み口を押さえた。嫌な喪失感が臓腑の奥から込み上げる。手を離す。鮮血が掌中に溢れている。内臓のどこ
かがやられたらしい──…地面に広がる闇は立つ者総てを拒んでいるようだった。居るだけで生命力が削られる。ヴィクター
のエネルギードレインと同等かそれ以上。そう思いながら腕を振る。赤い雫が飛んで闇に呑まれた。そこでようやく敵は言
葉らしい言葉を発した。
「どうだディケイド! もはや貴様には成す術がないだろう!」
テラードーパント。これがあの冴えない中年男(鳴滝)だったのかと秋水は眼を見張る思いだった。そして口火を切られる
戦い。それは壮烈だった。特に「他のライダーを呼べる」ディエンドは最善手を尽くしていた。ギャレン。イクサ。キックホッパ
ーにパンチホッパー。そして……裁鬼! ガンバライドで当たったカスカードもとい名だたる強豪のカードで次から次へと召
還したのである。全員呼んだ瞬間爆散したが。
むろんディケイドというライダーにはお約束の最終形態がある。コンプリートフォーム。証明写真よろしく撮られたライダーども
のカードを胸のあたりにバーっと貼り付けただけのすこぶるダサ……先取的な格好になると同じく最終形態した先輩ライダーを
呼びだして彼らの超必殺技をぶっ放すコトができる。ただし変身に必要なケータッチは操作中にフッ飛ばされ、闇の大地に呑
まれ見えなくなった。なればとディケイド、右腰のカードホルダーからカードを1枚取り出した。
アタックライド。クロックアップ。
細かい理屈は色々あるが、要はめっちゃ素早い動きができるカード。それをベルトのバックルに通そうとしたら特撮特有
の火花が全身を駆け廻った。足元の闇にやられたらしい。カードが落ち、呑まれ、見えなくなった。
「なにやってんだてめえ!!」
「るせえ! お前こそ役立たずばっか呼んでんじゃねえお!!
とうとう口論を始めたマゼンタとシアンを右顧左眄する秋水は彼らを窘めようとした。
だが。
45 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:14:22 ID:tEyRSovRP
限界はまず……彼を襲った。
ドーパントという怪人でさえ苛む闇。それに生身で挑んでいたがゆえの当然の帰結。倒れ伏し、闇の中へと沈みゆく秋水。
手を伸ばすディケイドたちもまた闇に囚われ、成す術がない。
「まずは1人! ふははは! 覚悟はいいかディケイド! ここで貴様の旅は終わる! 終わるのだ!! はははは!!!」
その時である。周囲を取り巻くオーロラの一角に亀裂が入ったのは。
鈍い音がした。サンドバックを全力で叩いているような、拳がぶつかる音。それは徐々にだが確実に戦場へ迫ってきてい
るようだった。目を剥く鳴滝。振り返るディケイドとディエンド。
鈍い音が大きく、そして近くなるたび、オーロラのひび割れが増えていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
野太い男の叫びがした。雄叫び。次いで何かが割れる音。意味不明の叫びが鳴滝から迸る。今は亡き秋水たちの脱出を
阻んでいた汚水のようなオーロラ。それが割れている。ディケイドは目撃した。砕かれた空間からニュっと突き出す、ある物を。
拳。
節くれ立ち、ひたすらに巨大な拳。頑健に握りしめられたそれは、その主の性質を何よりも雄弁に物語っていた。ディエン
ドは息を呑んだ。拳は肌以外の何物も纏っていない。秋水のソードサムライXさえ通らぬオーロラを破砕したというのに、ラ
イダースーツはおろかメリケンサックの一つさえ付けていない。かといって怪物のそれかといえばそうでもない。逞しい肌色
をしたそれは──…まぎれもない人間の拳だった。
そしてさらに侵入する黒い腕。
衝撃が辺りを揺るがした。破損したといってもまだ腕一本がようやく覗く程度だったオーロラはその衝撃によっていよいよ
本格的に蹂躙され始めた。腕がもう一本、オーロラを貫通し、そしてスルスルと引っ込んだ。
引き下がるのか? ディエンドは一瞬思ったが、次に起こった出来事は彼が信奉せし「常識」など軽々と飛び越えていた。
ヒビまみれのオーロラに「向こう側」があるというなら、逞しい腕はその向こう側とこちら側の境目を掴んだようだった。空間
へぽっかり空いた穴を支点として、掴んだようだった。
──預言者を自称し、武装錬金の世界の知識も仕入れていた鳴滝さえ事態を正確に把握していたかどうかは怪しい。
彼はただ唖然と見つめていた。
オーロラが、もぎ取られるのを。
それはドアを蝶番ごとひっこ抜く侵入行為に似ていた。空間を……いや、世界さえ隔絶していたオーロラは、メリメリと凄ま
じい音を立てて除外された。縦3メートル横1メートルほどある大穴が空間に開いた。ドアの例えをやめるとすれば、住居の
壁が外から縦3メートル横1メートルほどひっぺがされたというべきか。──とはいえ普通の家屋でも素手でそういう暴挙は
できないのだが──剥がされたオーロラは乱雑に叩きつけられた。闇に浮かぶ欠片は海面に不法投棄されたガラスオブ
ジェのよう……ライダースーツの中で役立たずな連想を浮かべたやらない夫専務は自分の顎が下に向かって果てしなく垂
れさがっているのに気付いた。愕然としている。理知的な自分でさえ口をあんぐり開けるしかないのだから、相棒と呼ぶそ
そっかしい社長はもはやスーツの中で失禁しているのではないかとさえ思った。
「まったく何やってんだよ! 余計な世話焼かせやがって!!」
割れたオーロラから耳慣れた声が響く。剛太。「やりたくないけど仕方ねェ」、そんな顔つきで飛び込んできた彼は闇漂う
大地を長い手足をめいっぱい振って走り出した。
「くそ! やっぱこの闇みてぇなの痛ぇし!! 畜生、一気に突っ切るしかねえ! うおおおおおおおおおおおお!!!」
目を三角にして遮二無二に突っ走る。闇に波紋を点々と広げせ目指すのは──…秋水が沈んだ場所! はっと気付い
たディエンドの視線の先で幾度となく苦悶に顔を歪める剛太は、それを振り払うような絶叫を迸らせ前方めがけ大きく跳躍
した。彼が走った距離はおよそ50メートルだろうか。塩酸の海に匹敵するこの空間をそれだけ走れば危殆に瀕する事は
まず免れないが、ディケイドたちはそれ以上の危険に「あっ」と息を呑んだ。むべなるかな。空中の剛太はそのまま闇と化
した地面めがけ頭から飛び込んだ……。闇がザプリと音を立て、剛太の姿はそこに没した。
(オーロラ越しに状況見えてたのかお。つか……アレ破ったのコイツかお? いや、でも腕の太さが違うし)
ディケイドは首を横に振った。あの逞しい腕はひょろ長い剛太のそれとはまったく違う。
46 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:16:51 ID:tEyRSovRP
(やったのはこいつだろ常識的に考えて)
ディエンドはただ、破られた空間──剛太がやってきた方──を茫然と眺めていた。
ただ一人嘲笑を張り上げたのはいうまでもなく鳴滝である。
「馬鹿め! 自らテラードーパントの闇に飛び込むとは! 仲間を助けるつもりだったのだろうが無駄だよ! 生身で呑まれ
て生きていられる筈がない! はははは! はーっはっはっは!」
「言いたいことはそれだけか?」
黒い皮靴がゆっくりと踏み出された。
洞穴のような黒い空間から歩み出て来たのは、男だった。剛太の消えた地点を眺め、笑ってもいるようだった。
いでたちは至って単純。白いカッターシャツに黒い学生服。
ただしそれらは野太い骨と隆々たる筋肉によって今にもはち切れんばかりに膨らんでいた。背丈はメイドカフェのオーナ
ー(念仏)よりはやや小さい。だが、でかい。身長ではなく漂う雰囲気が。粗雑な威圧感を超えた純然たる人間としての大き
さがそのまま彼を大きく見せている……と生暖かく湿る股間を気にしつつもディケイドは思った。バイクメーカー社長として多
くの人間を見てきたからこそ分かる。
本物、だと。
天を衝かんばかりの偉丈夫。ズボンを粗雑なベルトでとりあえず固定し、詰襟を顔面の中ほどまで競り立たせるその姿は
ただ1つの単語でしか表わせそうになかった。
『番長』
後ろに向かって伸びる3本角の髪型がいやでも耳目を引く男──否。”漢”だった。
彼は緩やかに足を踏み出した。タブードーパントの作り出した闇の広がる世界に向かって。
だが、何もない。起こらない。オーロラを踏んだ足裏が闇のぬかるみに取られているというのに。
彼は路上を進むのと変わりなく、平然と進んでいく。
猪よりも太い首を左右に曲げてゴキゴキと鳴らしながら、拳を整え。
進んでいく。
鳴滝めがけゆっくりと。
「ば!! 馬鹿な! タブードーパントだぞ! いくら私が正規の使用者でないとはいえ、威力はそれなりの筈!」
「……」
平行四辺形の目は明らかに怒気を孕んでいた。それで一層狼狽したのだろう。鳴滝は絶対的優勢を説いた。その理由を
論(あげつら)いだした。
「錬金の戦士たちは飲み干した! ディケイドもディエンドも成す術がない! なのに!! どうして!!! 何故だッ!!!?
この闇を生身の人間が喰らって無事でいられる筈が──…」
「知ったことか─────────っ!!!」
巨大な拳が鳴滝を吹き飛ばした! 彼は飛ぶ。頬に走る灼熱の痛みに瞳の理知を忘我して。そして皮肉にも自らが作り
出したオーロラにしこたま背中をぶつけ「ぐぎぇ」と情けない声を上げた。
「てめえが襲った場所は女たちが真心込めて客をもてなす場所だ! そこを荒らした挙句こんな場所に逃げるなんざ──…」
殴りぬけた腕もそのままにその男は鋭く叫んだ。
「スジが通らねえぜ!!」
殴られ、制御を欠いたせいか。周囲に立ち込めていた闇が緩やかに引いて行く。
「な……に……」
「分かったらとっとと店に戻って片付けを手伝いやがれ! いいな!」
それだけ言って翻り、入口へと戻り始めた漢。ディケイドとディエンドはただただ彼を眺めるばかりである。
「なんだ?」
訝しげな視線に彼らは「ひっ!」と情けない声を上げた。無理もないだろ苦戦してた敵を一蹴した奴なんだから……などと
自己弁護するディエンドをよそにディケイドはおそるおそる手を上げ、質問した。
「お、お前、何者だお?」
「セコムだ!!! 金糸雀に呼ばれた!」
「はい?」
「今の俺はセコム……いや! セコム番長だ!」
男の声はひどく明朗で大きいが、文言はどうも噛みあわない。
「いやあの? やる夫たちでさえ突破できないあのオーロラを素手で壊せるとか人間業じゃねーお」
「時給は20プリンだぜ」
「いや聞いてねーからそういう情報」
パタパタと手を振るディケイドの横でうーむと考え込む仕草をしたのはディエンドである。
「まさか俺たちと同じく色んな世界を渡り歩けるとか」
「何いってるかワケわからねぇ!」
47 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:19:06 ID:tEyRSovRP
猛禽類が羽ばたいているような眉毛をいっそういからせ、セコム番長は答えた。
「俺はただお前たちの消えた辺りを探っていただけだ! そしたら音が聞こえた! 叩いたら割れた! それだけだぜ!」
「無茶苦茶すぎるお。チートだおこいつ」
「だな」
「ぷアッ! ……ったく! 本っっ当、剣の通じない奴には弱いのなお前! あと初見殺しにも!」
点々と広がる水たまり程度にまで縮小した闇の一つがさざめいた。振り向いたディケイドたち一行の視線の先ではちょうど
剛太が闇の中から這い出てくるところだった。
「すまない」
見事な黒髪を粘液状の闇でずっくりと湿らせ謝っているのは誰あろう早坂秋水である。
「すまないじゃねーっての。カッコつけといて情けなく沈んでんじゃねーよ。俺がマリンダイバーモードで助けなかったら死ん
でたぞ! 分かってんのか! 何で連れさらてんだよ! 馬鹿かお前は!」
「すまない」
「だあああああもうッ!!!!!!!」
豊かな髪を掻き毟る剛太はつくづくやり場のない怒りを抱えているようだった。
「つーかあの闇っぽいやつ目に入ったけど大丈夫なのかよ! 失明したら斗貴子先輩のメイド姿見れなくなるだろ!!」
剛太がディケイドたちと合流したのは、秋水の三度目の謝罪を怒鳴り散らした後である。
「ああもう腹立つ!! なんで元・信奉者助けるためにこんなズタボロになんなきゃならねーんだ!!」
「まあ、それ位で済んで良かっただろ設定的に考えて……」
あちこち破れたアロハシャツから血を滲ませている剛太を見ながらディエンドは呻いた。
「お前が潜ったすぐ後に、この……セコム番長? セコム番長とかいう奴が鳴滝殴っただろ。あれで闇が引いて」
「お。威力がだいぶ弱まったって訳かお。それにアイツもいってたけど本来の使用者じゃないから、元々の威力自体、本家
本元にゃ及ばないってところかお」
(だから俺も生きている……というコトか)
「つーかお前!」
秋水の思考を無遠慮に散らしたディケイドは、ひどく気さくな様子で剛太の肩を押した。
「そんなにコイツ嫌いだったらわざわざ来なくても良かったんじゃねーかお?」
「だな。言っちゃ悪いがセコム番長1人でカタついただろ戦力的に考えて……」
ぐっと呻いたきり剛太は黙った。そして垂れ目を更に垂らしてまだ闇の残る採石場の地面を所在なげに眺めまわした後
横髪をそよがせるように一撫でして、それからようやくブスリと呟いた。
「……くだろ」
「ハイ?」
消え入りそうな声を聞き返すディケイドに、剛太の何事かはついに決壊したようだった。
「だから! この元・信奉者がくたばったらこいつの姉貴とか激甘アタマの妹とか泣くだろ!!!」
「はァ」
なに1人で勝手に逆上してんだ? ディエンドの視線はみるみると冷めていく。
「なのに通りすがりの連中に丸投げしてハイ大丈夫とかアイツらに言えるかってんだ! 俺は、俺は!!!」
──満月に照らされる巨人の腕の上で。
「カズキ……」
「カズキ……」
「カズキ……」
その女性(ひと)はすすり泣いていた。
気丈さも凛然さも何もかもかなぐり捨て、ただひたすら……想い人の名を、呼んでいた。
『許さねぇぞ武藤ォ!』
『よくも先輩を泣かせやがって……!!』
48 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:20:15 ID:tEyRSovRP
「俺は! 女泣かすような奴は大っ嫌いだ!!」
ほとばしる絶叫に一同はみな呆気に取られたらしかった。秋水さえ眼を丸くし、ディケイドとディエンドは目の部分の柱を
ぽーんと飛び出させ、セコム番長も仏頂面を驚愕に歪めた。
「だから放っておけるかっての! こいつも大概嫌いだけど見殺しにしたら俺はあのバカと同じになるから助けにきた!
それだけ! 悪いか!! あァ!!」
身振り手振りを交えながらもはや怪鳥のごとく声を振り絞る剛太に対して訪れた反応は──…
ク ク || プ //
ス ク ス | | │ //
/ ス | | ッ // ク ク ||. プ //
/ // ス ク ス _ | | │ //
/ ̄ ̄\ / ス ─ | | ッ //
/ _ノ .\ / //
| ( >)(<) ____
. | ⌒(__人__) ./ ⌒ ⌒\ こいつハーフボイルドだおwwww
| ` Y⌒l / (>) (<)\
. | . 人__ ヽ / ::::::⌒(__人__)⌒ \
ヽ }| | | ` Y⌒ l__ |
ヽ ノ、| | \ 人_ ヽ /
. /^l / / ,─l ヽ \
ハーフボイルドだなwwwwwwwwwww
笑い、だった。
「うるせえ! つーか侵食すんな!! それになんで変身前の顔なんだよ!」
顔も真赤に牙剥く剛太がたじろいだのは、秋水が深々と辞儀をしたからである。
「なんだよ!」
「感謝する。君は姉さんの事を気遣ってくれたんだな」
剛太はまだ黙った。静かな沈黙というよりは怒りの言葉を吐き散らかすための予備動作という様子で、紅潮する顔面は
しばらくブルブルと震えた。そして叫ぶ。
「なんでそうなんだよ! 俺は──…」
「だが君は、姉さんを泣かせたくないと思ったのだろう。だったらそれだけで十分だ。感謝する」
「ぐっ……」
言葉に詰まった剛太へ外野陣の笑いがますます強まった。うるせえ笑うな。怒鳴り散らした剛太に「ヒイ」とわざとらしく
怯えて逃げるディケイドたち。なーおなーおと鳴いてうろつきまわるネコ。
そんな中、秋水はふと考え込むような顔をした。
「もっとも、俺の事で武藤の妹が泣くかは分からないが──…」
「泣くさ」
不思議そうな様子の秋水に「やっぱそっけねぇ」と剛太は軽く毒づいた。
──「コレ、初めて着たんだけど……似合うかな?」
── 秋水の反応を期待しているらしい。上目遣い気味のまひろの頬はやや赤い。
「理由は自分で考えな。……っと。?」
肩に大きな掌が乗った。振りむくとそこには巨大な漢が居た。
「あーと。セコム番長だっけ? 何か用?」
「スジを通したな」
ニヤリと笑ってそのまま踵を返す偉丈夫にしばし剛太は首を傾げたが──…
まあいいや。冷めた目線で一同にこう囁いた。
「帰るか。俺たちの世界へ」
そろそろ連投規制かな
頑張れ
50 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:28:20 ID:tEyRSovRP
「まだだ! まだ私は倒れていないぞディケイドオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
突如響いた絶叫に慌てて振り向く。居た。テラードーパントが。
「ははは! 今の一撃はなかなかだったぞ少年! だが私の命を奪うどころかメモリブレイクさえ起こしてはいない!!」
しつこいぜ。そう呟くセコム番長に剛太は全力で頷いた。
「だが、勝てない相手でもない」
(刀は通じない。だが俺たちがセコム番長の補佐に回れば──…
銃を構えるディエンドの横で秋水は正眼に構えた。
「お?」
やる夫社長ことディケイドの手元でカードが煌いた。扇状に広げた3枚のカード。最初灰色だったそれがみる間に色づいた。
「なんだよ?」
胡乱な目つきで誰何する剛太に「あ、そうか」という声がかかった。そしてディエンドの手の中でも同じ現象が起こった。
「そのカードに……何が?」
怪訝を浮かべる秋水は確かに見た。スーツの中でいぎたない笑みを浮かべる社長と専務を。透視したというより、彼らか
ら立ち上るニオイ──剣戟の際に現れる感情の流れ──から察知したというべきか。
「なあ……やる夫よ」
「そうだお! せっかくだからコレを使うお!!」
いいながら彼らはめいめいの方向に向かって歩き始めた。攻撃に移るのかと剛太は思ったが、足取りはひどく軽やかだ。
何を目論んでいるのか。そう思っている間にまず。
ディケイドが、
剛太の背後に、
立った。
「ちょっとくすぐったいお!!!」
【FINAL FORM RIDE】
GOGOGOGOUTA!
はたかれた背筋がびらりと開いた。異様な感触に振りむいた剛太は「ひどく見なれた形状」の金属片が跳ね上がってい
るのを目撃した。それは2つのふくらはぎの外側にも生えている。「ひどく見なれた形状」の武器を3等分したような形だ。
まるで歯車を3等分したような扇型の金属──…それが剛太の体から生えている!
「え? 何だコレ! どうなってんだ俺の体!!」
「さあ行くお!!!!」
この時起こった出来事を、剛太は終世忘れるコトができなかった。まず首が亀のごとく引っ込んだ。両肘は自発の意思
と関係なく直角に曲がり、両足ときたらその付け根からくの字にひん曲った。そして合わさる扇型。背中に生えていたそれ
と両ふくらはぎのそれらは見事に合致し、ある武器を作り上げた。
「な、中村の体が”モーターギア”に変形した!!」
目を見開く秋水の遥か先で浮遊しているのはまさしくモーターギアだった。ひどく巨大な歯車だった。
「ゴーターギアって呼ぶべきかもな商品命名側的に考えて……」
秋水の背中にいやーな汗が流れた。
ディエンドが、
銃を構えて、
背後にいる。
(中村……。俺も後を追うぞ)
泣きたい気分だった。
「痛みは一瞬だ」
【FINAL FORM RIDE】
SYUSYUSYUSYUUSUI!
51 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:32:04 ID:tEyRSovRP
いろいろな音声が銃声によって締めくくられた。胸の中央にチクリとした痛みが走る。それをきっかけに自分の体が剛太
よろしく変質していくのを秋水は止められなかった。背中に無骨な茎(なかご)と下緒と飾り輪が生えた。胸板がシャツごと
180度旋回し顔面を覆いつくしたのに比べたら、両腕が頭上で大きな輪をユーモラスに作ったコトなど比較にならぬ些事で
ある。剥き出しになった腹部にはXを描くモールドと、銘。
浮遊感。
秋水の体は宙をキリキリと飛び始めた。つられて舞いあがったソードサムライが内股の限りを尽くす両脛の間に挟み込ま
た。そこでようやくこの異様な変形は終わりを告げた。
「こっちはソードシュウスイXってところかな……。銃使いが持つのも変だが」
不承不承といった感じでディエンドが持つ武器はひたすらに巨大な”剣”だった。長身のディエンドの倍はあろうか。
(なんだこの状況)
流石のセコム番長もただ汗を流すばかりである。それは鳴滝も同じだった。
「フザけるなディケイド! そしてディエンド! ライダー以外を! 変形させるなアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ハッ! 知るかお!! どうせやる夫は世界の破壊者だから設定なんざとことん壊してやるお!」
「いいすぎだろそれ……」
馬鹿丸出しで小躍りするディケイドを窘めるディエンドに秋水と剛太は全力で同意した。
「おのれえええ! どうしてこうなった! どうしてこうなった!!」
怒りとともに闇が広がっていく。だがそれより早くゴーターギアに乗り込んだディケイドとディエンドは涼しい顔で突っ込んで
いく。歯車は飛んだ。降り注ぐ闇の粘液さえも複雑軌道で避け切って、ついには鳴滝の右上腕部さえ鋭く斬った。更に至近
でリターンバック。激しく揺れながら敵の体のあらゆる部位を斬り刻む。鮮やかに舞い散る火花の中で鳴滝はついに吹き飛
ばされた。呻きながらも辛うじて着地する。だが追撃は終わらない。
「今だッ!!」
飛び降りたディエンドに正中線を斬られ、たたらを踏む冥界の使者。それに迫るは裂帛の咆哮。
【FINAL ATTACK RIDE】
SYUSYUSYUSYUUSUI!
「これが俺と奴の力だあああああああああああああ!」
巨大な剣が横一文字に振りかざされ胸板を大きく斬り裂いた。逆胴に似た石火の軌跡をかいくぐり、ディケイドも飛び込む!
「トドメだお!」
繰り出されたアッパーカットは傷に呻く鳴滝を容赦なく上方へ吹き飛ばした。訪れた自由落下。叫ぶ鳴滝。唸るギア。
ディケイドの右前腕部に密着し旋回する巨大な歯車が、鳴滝の落下地点に待ち構えていた。
(馬鹿め! 私に瞬間移動能力がある事を忘れたか!!)
距離はまだある。マントを翻し消える余裕も……。ほくそ笑む鳴滝に鈍い衝撃が走ったのはこの時だ。
「また逃げようなんざスジが通らねえぜ」
振りかえるとそこには──…
「てめえが仕掛けたケンカだ。最後までやれ」
拳を限界まで硬く大きく肥大させたセコム番長がいた。跳んでいた。
「ホ! いつの間に!」
「知ったことか! 打舞流叛魔(ダブルハンマー)アアアアアアアアアアアアアア!!」
「複数で私1人をボコるのはスジが通っているのかあああああああああああああああ!!!!」
殴り飛ばされ、世にも情けない声を上げながら鳴滝は。
【FINAL ATTACK RIDE】
GOGOGOGOUTA!
「これがやる夫たちの団結の力だおおおお!!」
鳴滝は巨大な歯車に巻き込まれ、破砕された。(団結と言いさえすればリンチも許されるのである!)
爆音が採石場に響いた。
緑色の炎に炙られながら、ディケイドは手を叩き呟いた。
「さっきお前はやる夫たちの旅がここまでといったようだけど」
「それはお前の方だったな。そう──…」
52 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:33:20 ID:tEyRSovRP
/ _ -‐ /. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
,/ , '´ ./: \
/ ,/ /: : \
/ / ./: : : : \ 絶望がお前の
/ /. __ ./: : : : : : .._ _ \
l ノ. / .ヽ l ; : : : : : :´⌒\,, ;、、、/⌒` l
/ / l. ', |: : : : : ;;( ● )::::ノヽ::::::( ● );;::: |
./ / .,-‐、 l _ _ } .l: : : : : : ´"''", "''"´ l
; / ∠,,,,,.」 -‐、 ! \ : : : : . . ( j )、 ,<´ _..
!;_,, -‐''"", .-‐'⌒ヽT l \ : : : : :`ー-‐'´`ー-‐'′ /:::ヽ-‐'::´:::::::::::
ゞ-‐''"/ __ノ l ! ./ヽ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :,イ:::::::::::ヽ:::::::::::::::::::
γ / ! ', /::::::::::`\: ``ー- -‐'"´ / /::::::::::::::::\:::::::::::::::
ヽ ´L_⊥ -―---' -<::::::::::::::::::::::ハ:\ : : : _//´ ,'::::::::::::_::-‐:、\::::::::::
l i ,)::::::::::::::::λ `‐-、_∠ l:::::::/::::::::::::::`:\:::::
ゝ , -― ' ´ ̄ ̄  ̄ヽ:::::::::::::::/.ヽ /:.:.:.:.λ ィ::::::/:::::::::::::::::::::::::::`:::
ノl _ ,イ:\:::::::::/! ヽ .∧:.:.:./ ヽ ./ l:::/::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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/ _ノ \
| ( ●)(●)
| (__人__) ゴールだ……。
| ` ⌒´ノ
.| } ,. -- 、
. ヽ } ,. '´イ }
ヽ ノ , ' _,. '
/ l/r´ ̄}} ,. '´ , '
/ ヽ!〈 r´ ヽ--―― 、 ,. 、 __ --‐ ' ´ ,. '
ム.、 ト| !、 ,.- `丶 、 _ -―ヤ´ ,. '
./.リヽ `┴`キ (、 ` ー-/ _/` ー- ,. ' ´
. /ニ/,. >、 \ / { / / _ -‐´
. / イ-ヽ=\ ,\ / __ ∨ / ̄ ,. ' ¨ヽ
`ー― イノ__〈.イ/ `丶、 -、 / \ ヽ{. `〈ー一' ー― '´ }
イ´ / /`7ヾ、 / ヘ、 \ ,.イ
, - ' ´ / / ム. ヽ、 ヾ ヘヽ. \ , '
, 一 ´ / _, -┴' /-イ ∧ ヽ. ヘ. \ ト----‐ ´
r'´ / _ -‐ '´ /_{ ∧ ヽ ヘ_,\ ∨
/ ,.‐' ´ ,.-く ̄f≧! `丶 、 ヽ } ∧ ∨
 ̄ `ー 、 / , '´ ,! ; ! `丶、 ヽ ''"" .l ∧ ∨
53 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:34:45 ID:tEyRSovRP
「いや、だからこの世界侵食すんなって」
「そうだな」
変身を解いた彼らの横で尻もちをつきながら、剛太と秋水は激しく息をついた。
心から思う。もう嫌だ。ネコがうろつているような気もしたがきっと幻覚だ。
「つぅかあのオッサン爆発したけどいいのかよ! いろんな意味で!」
「あー大丈夫だお。炎が緑色だお? じゃあありゃワームだお」
「ワーム?」
「要するに人間に擬態する怪物だ。だからアレは偽物の鳴滝だな」
「怪物なら仕方ねえ! とっとと店に戻って報酬のプリンを喰うぜ!」
「なーお」
そして一同は店に戻ってきた。
「剛太クン! 良かった……無事だったのね」
彼を一番困らせたのは、店に戻るなり両手を掴んで帰還を喜ぶ桜花だった。(とっくにスペアのメイド服に着替えていた)
よく見るとまなじりにはうっすら涙が浮かんでいる。6月の雨よりしっとりとした声音で縷縷綿綿と連ねる言葉を要約すると、
「秋水クンを助けにいってくれたのは嬉しいけど無茶(※ 別世界じみた変な場所へ行くこと)しないで」
で、何だか無茶な理屈がたぶんに入り混じっている。
(いやお前、助けにいかなかったらいかなかったで責めるだろうが。だいたい、弟消えた時に『気丈ぶってるけど実は心配
でたまりません』って表情(カオ)してたの誰だよ)
「アナタのコトも随分心配してたわよ」
「うんうん」
ヴィクトリアと沙織の様子からすると演技ではなく本当に心配していたらしい。
「あーもう。分かったから離せって。人が見てるだろうが」
「そ、そうね。ごめんなさい……。ウワサになって津村さんの耳に入ったら迷惑だものね」
いやにしおらしい様子で手を放した桜花はなんだかションボリしてもいるようだった。
どうしろと。無性に腹を立てる剛太をしばし眺めた秋水は生真面目な様子で手を打った。
「もしかすると君はいま、自己嫌悪に陥っているのか?」
──「俺は! 女泣かすような奴は大っ嫌いだ!!」
ある人はいった。「時に正論は暴論よりも人を怒らせる」。
一見マジメに紡がれただけの言葉は、悪い意味で琴線に触れてしまったらしい。
「てめェ! からかってんのか!」
「いや。先ほどの君の言葉からそうではないかと思っただけだ。他意はない」
秋水は秋水で涼しい顔だ。マジメなようだが実は案外ちょっとからかっているのかもしれない。
いまにも胸倉を掴まれそうになりながら、怒り狂う剛太を涼やかな目で見ている。
「え? え? 何の話してるの?」
桜花だけはおろおろと男2人を見比べた。先ほどの剛太の啖呵などまったく知らないのだろう。
秋水はチラリと剛太を見ると、正に破顔一笑。「馬鹿! 言うな!」という言葉も物ともせず、爽やかに相好を崩した。
「なんでもない。こっちの話だよ。姉さん」
もっかい支援しとくか
しかしなんつー展開だw
55 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:41:26 ID:tEyRSovRP
ややあって。
気だるく腰掛けた剛太はまるで試合直前のように粛然と座る美剣士に言葉を投げた。
「……なあ」
「なんだ」
「どうしてさっき俺の言葉チクらなかったんだ?」
「姉さんに伝えない方が君のためだと思ったからだ」
つってもなあと剛太は頭に手を当てた。
「でもお前、武藤の妹のあだ名の件で俺にハメられたじゃねーか。仕返ししたくなるだろ? 普通はそうだろ。な?」
少し考え込んだ秋水はややはにかんだ微笑を浮かべた。なにこいつこんな顔できるのと垂れ目が軽く見開かれた。
「実をいうと仕返しも少しは考えた」
「オイ」
「だがあれは俺の過失だ。君を恨む筋合いはない。第一、君の戦い方には学べる部分が多い。……それに」
「それに?」
「君は姉さんの戦友になれるかも知れない。だからあの言葉は伏せるべきだ。少なくてもそうする事が敬意だと俺は思っている」
「あっそ」
唇を尖らせながら剛太はメニュー表を取り、やや熱心な様子で眺め始めた。
またも訪れる沈黙。もっとも秋水はもう剛太との間に生じる会話の空白に慣れているらしい。そういう石像のように背筋良く
座りながら粛然と店内の様子を見ている。
やがて料理名と価格とアレルギー表示とカロリー値の羅列が垂れ目の歓心を買わなくなったようだ。プラスチックか何か
で硬くコーティングされたメニュー表がテーブルの上に放り落された。
そして頬杖をついた剛太は、少し所在投げに呟いた
「どれでも今の所持金で買えるけどさ、お前、好きな物はなんだよ?」
「?」
「…………おごってやるよ。礼と詫びな。でもコレで貸し借りなしだぞ」
端正な瞳をいやにあどけなく見開いた秋水の口元に嬉しそうな笑みが広がった。
「渋茶」
「じゃあそれな」
そしてそれを飲み干し、現在に至る。
「にしても一体なんだったんだあの戦いは」
「夢という事にする他ない」
卵焼きをぱくつきながら2人は何度目かの溜息を漏らした。
やる夫社長たちはというと相変わらず店内をうろついている。
「くそ! やっぱテラーのガイアメモリ見つからないお!」
「倒したはいいがメモリがないって危なすぎるだろ! 回収するかメモリブレイクしないと!」
「だからといってこの僕まで呼ばないで下さいよ! 僕は忙しいんです!」
「うっさいできる夫! てめえクウガだからってサボりすぎだお!」
「でもテラー倒したんでしょ? じゃあ大丈夫ですよ。アレ以上のガイアメモリなんてそうある訳」
「るせえ! そういってこう、アレを強化した白面とか大魔王バーンのガイアメモリとか出てきたらどうすんだお!」
「それを抜きにしてもシニガミハカセとかあったしなあ。他の世界の強豪の記憶が来たらどうする?」
「はは。まさか。ありえませんよそんなの」
例の採石場の世界とメイドカフェはまだ繋がっているらしく、彼らは行った来たりしながら何か探しているようだった。
「あのー。秋水先輩」
おずおずとした声に秋水が振り返った。つられて振り返った剛太は卵焼きを吹いた。
「この学生服なんだけど、やっぱり洗って返した方がいいよね」
だぼだぼとした学生服から白い太ももを半ばまで露出したまひろが困ったように眉を潜めている。
先ほどの戦闘の際、「服だけを溶かす都合のいい粘液」を浴びて全裸になった彼女はその時借りた服をずっときている
らしかった。
(いや、まず適当な服に着替えろよ。なんでずっと学生服なんだよ)
天然の恐ろしさをむざむざと見せつけられる思いだった。実際彼女は学生服の上着一枚という姿が相当恥ずかしいらし
く、先ほどから必死に胸元を抑え、裾をなるべく下の方に下の方にと小さな拳で懸命に引っ張っているようだった。洗う云々
よりまず生地が延びる心配をしろ。剛太はそう叫びたかった。
「そ、そうだな。洗って貰った方が、いい」
(面喰らってる面喰らってる)
笑いをこらえるのも大変だった。
ぎこちない口調の秋水は傍目でも分かるほど、目のやりどころに困っている。
56 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:43:34 ID:tEyRSovRP
それが面白くて仕方ないので、剛太はまひろに着替えるよう促さない。
「そ、そうだよね」
「だだだが、汚いとかそういう意味ではなく、君の心証を考えた場合そうすべきだと思っただけであって」
「う、うん。分かってるよ! 変なネバネバがついちゃってるし秋水先輩の服が溶けちゃったら悪いから。ね。ね」
また今日も卵焼きの吹きカスを拾い集める作業が始まるお……ディケイドの口真似をしながら剛太は赤絨毯の上を這い
ずりまわった。何かもう頭上の会話はどうでも良かった。簡単にいうと、同じ場所にいるのはいたたまれない。剛太は本当、
身を以て知っている。ストロベリートーク中の男女という奴がいかに周りを見ていないかを。例えばすぐ傍にいる後輩を無
視して「キミが死ぬ時が私の死ぬ時だ!」みたいな文言吐く先輩だっている。
胸が痛い。滝のような涙がばーっと溢れた。それでも居ながらにして忘れ去られるよりはまだ良かった。赤絨毯の上で
卵焼きのカスを拾い集めている方が楽だった。惨めだが度合いはまだ少ない。
斗貴子との共同任務を粉砕され変な世界で闇に潜って変形させられた今日という日は本当、サイアクだった。
「ネバネバが心配なら入浴した方がいい。ちょうどあの銭湯も近い」
「銭湯……?」
頭上でアニメアニメした声が息を呑んだ。しばらくの沈黙は「んぬぬぬぬ」みたいなじれったい声の地響きによって打破さ
れた。
「いやあ! 一緒に銭湯とか! 秋水先輩のエロスー!!」
遠ざかる足音。待ってくれという気配。どうやらまひろは勝手な勘違いで去っていったらしい。
(はいはいバカップルバカップル)
「なーお」
目の前をブルーの毛(実際には灰色に近い)をしたネコが行き過ぎた。「卵焼き喰うか」と差し出しかけた剛太は目を点に
した。ネコはすでに口に何かをくわえている。手を伸ばす。不機嫌な鳴き声とともにネコは走り出した。片付けに追われるメ
イドたちの間を抜けて修理中で開きっぱなしの自動ドアをくぐり、街の雑踏に消えていった。
「待ってくれ! 一緒にとは言っていない! ただ薦めただけで──!!」
秋水も立ち上がってまひろを追いかけていった。もちろん、彼は釈明に必死で「学生服1枚の女子を追いかける」挙措の
異常さに気付いていない。そのまま間違って女子更衣室に飛び込んで、着替え中の女子たちに悲鳴を上げられ、後々まで
ヴィクトリアにねちっこく小馬鹿にされるが──…
それはまた、別のお話。
「すまないねミック。私の落し物を探させてしまって」
「なーお」
「しかし屋台に忘れてしまうとは……実は若菜も落としていたのだがね。これでは叱れないよ」
「なーお」
雑踏の中で飼い主にあやされながら、ミックは満足そうな鳴き声を上げた。
「やっぱりプリンは最高だぜ」
隣の席で”らしからぬ”デザートを舌鼓を打つセコム番長にお冷を継ぐと、桜花は剛太の前にふわりと着座した。
「カッコ良かったわよ。あの人についてった剛太クン」
「うるせェよ」
「秋水クン助けてくれてありがとう。でも無茶しちゃダメよ」
ふふと笑いながら桜花は滑らかにケーキを切り分けた。ひどく丸くてクリームの上にキウイやオレンジやイチゴが鮮やかに
乗っている高そうなケーキである。渋茶購入によって実はすっかり寂しい財布を思い剛太は汗を流した。
「注文したかそれ? してないよな。いっとくけど勝手に買わせておいて代金払えとかナシだぞ」
「サービスよ。だって剛太クンカッコ良かったから。それとも甘いお菓子は嫌い?」
「別にどうでも」
「じゃあどうぞ」
扇型のケーキが小皿に乗ってしなやかな手つきで配膳された。
(まあ、いっか)
斗貴子との共同任務がフイにされ色々散々な思いをした一日だったが、矜持らしきものはそれなりに貫けたとは思う。
ちなみに斗貴子の方は任務を終え、小一時間もすれば寄宿舎に戻るらしい。数分前に見たメールを反芻しながら、剛太
はひどく高そうなケーキにフォークを伸ばした。
少しだけ、元・信奉者の双子の姉妹への感情が和らいでいる。
そんな気がした。
57 :
永遠の扉:2010/02/23(火) 22:45:26 ID:tEyRSovRP
♪ジャージャージャー ジャージャ-ジャー (イントロっぽい何か) >
____
/ \
/ ⌒ ⌒\
/ ( ⌒) ( ⌒)ヽ 剛太。ここからがお前の本当の旅だお。
l ⌒(__人__)⌒ |
\ |r┬‐| /
/ ` ⌒´ ヽ
/ ̄ ̄\
/ ヽ、_ \
(●)(● ) |
お前には俺らがついてるだろ常考。 (__人__) |
( |
. { |
⊂ ヽ∩ く
| '、_ \ / )
| |_\ “ ./
ヽ、 __\_/
_.. ‐'''''''''''' ‐ 、
,r' \
/ ⌒ ヽ, もう呼ばないで下さいよ。僕は蝶・忙しいんです。
( ●) `― ..i
i. ( ●) |
\ _´___ /
\`ー'´ __/
よこいちれーつのちぇいす……>
「だから侵食すんじゃねええええええええええええええええええええええ!!」
オーロラをくぐり別の世界へ旅立つ3人は怒鳴り声で見送った。
「次の世界はなんでしょうね」
「さあな」
「どんな敵でも世界でも構わないお! どうせ鳴滝が相手だし、楽勝だお!!」
「だな!」
明るく笑いながら彼らはまた一歩踏み出した。旅はまだ……続く。
「私の影武者はやられたか。だが! 次のイデオンの世界こそ貴様の墓場だディケイド!」
黒い、黒い空間で。
「テラーは負けたがこれならば確実に貴様を葬れる! 楽しみだぞディケイド!」
鳴滝は化石状のUSBメモリを押した。そして響くその名前。
「ゲッターエンペラー」
今、史上最大の戦いが幕を開けようとしていた……!!
遥か未来で作られた物がなぜ地球の記憶にあるとかそもそも地球規模の記憶に収まるのかという謎は劇場版で明らか
になったらいいなあと思いました。
とりあえずこの稿はここまで。次回は斗貴子さんかパピ&ヴィク。
>>サマサさん(私も延々規制中……ゴセイの話が! GA一次の話が! したいぞ!)
>「はいっ!バレンタインおめでとう!」
赤ちゃんコウノトリ以上に、この↑無邪気さが微笑ましい。いわゆる本命モノではないにせよ、
渡してる本人に「義理」意識のない義理チョコ……羨ましいぞ男四人。逆に本命モノを渡せて
ないテッサが哀れ。普通の男なら、いや宗介でも、嫌な気はしないのに。ある意味女の見栄、か。
>>スターダストさん
いやいやいやいや、これは流石に、原作知らない人には何が起こってるかわからんでしょう!
私の頭の中で、漫画でもないアニメでもない、やたら滑らかなCGの剛太と秋水が変形して
……うぅむ夢に見そうだ。斗貴子に見せたら、小札に実況させたら、などと妄想膨らみます。
60 :
ふら〜り:2010/02/24(水) 08:54:44 ID:Q6pZfFzp0
>>59 はいまた私です。規制がいつまで続くかわかりませんし、以後は
名無しになってても訂正するのはやめます。お騒がせしました。
61 :
作者の都合により名無しです:2010/02/24(水) 10:44:20 ID:oZ0OEiiw0
スターダストさん完全に趣味に走り始めたw
いいぞもっとやれww
超展開すぐるw
しばらく休養中に振り切れた感じだダストさんw
ゲッターエンペラーなんてマイナーすぎると思うんだがw
個人的にこういうノリは大好きですが、
このシリーズが終わったら、また萌え燃えの元の永遠に戻ってほしいな
あげとこ
今年いっぱいもつかね
川崎市街地より離れた山中―――そこでは川崎市の悪党達が集結し、大きな円陣を組んでいた。
その中心では、二人の男が睨み合っている。
一人は超金属戦士・ヒム。
もう一方は、まるで冗談のように巨大な男だった。長身のヒムが、子供のように小さく見える。
(サンレッド抹殺のための、新しい刺客か…その実戦訓練の相手役を買って出たはいいが…)
異様なのはその身体の大きさだけではない。筋骨隆々とした肉体の上に乗っているのは、獰猛な野獣の頭部だ。
闘争心と覇気に満ちた瞳に射抜かれ、ヒムは戦慄する。
(ただデケえってだけじゃねえ…コイツの発する闘気が、実際以上に大きく見せてやがるんだ!)
震えが止まらない。だが、それは恐怖に起因するものではない―――
(こんな野郎がいたとはな…面白ぇ!)
ヒムは戦士だ。その冷たい金属の身体に、熱き魂を宿す闘士だ。強敵との闘争は彼にとって忌避でなく、むしろ歓迎
すべきことだった。
ザッ!両雄は大地を踏み締め、拳を固く、硬く、堅く握る。
(これ程の相手に、小手調べなんざ意味がねえ。オレの最強の技で、一気に勝負をかけるぜ!)
ヒムの右手に闘気が集中し、恒星の如く眩い光を放ち始める。
それこそが彼の編み出した奥義―――真っ向から全ての力を込めて、敵をブチ抜く―――
単純明快、されど一撃必殺!
「オォォォォォォォォラナックルゥゥゥゥゥゥッ!」
咆哮と共に叩き込まれた拳―――直撃すれば山の一つや二つは軽く消し飛ばす破壊力を秘めた驚異の必殺技。
それを、眼前の野獣に向けて渾身の力で撃ち抜いた。
「…な…!」
驚愕の呻きは、攻撃した側であるヒムから洩れた。
全力の闘気拳を―――野獣はその分厚い胸板で、あっさりと受け止めていた。
「かんたんナこトだヨ」
野獣の口から、不明瞭な発音で言葉が漏れる。
「キミの闘気ヲ、もっト強い闘気デ、おさエ込んダだケ」
そして野獣のターンが始まる。
「ガアアアアアアアアアアアッ!」
天地を引き裂く野獣の雄叫び。
撃ち込まれた腕を引っ掴み、まるで子供が人形を振り回すような動作で、ヒムの身体を大地に叩き付けた。
「が…はっ…!」
凄まじい衝撃に息が詰まり、全身が錆び付いたように動かない。
それで、決着だった。
「…なるほど。あれが<獣皇カサス>か」
その成り行きを見守っていたフロシャイム川崎支部・ヴァンプ将軍は、傍らに佇むエニシアに目を落とす。
「奴の噂は私も聞いた事がある。ルール無用の地下怪人闘技場において五百戦無敗を記録したという生ける伝説…
まさか<エニシア軍団>に身を寄せていたとは思わなかったがな」
悪の姫君・エニシアは誇らしげに頷く。
「そう。彼こそは我等の軍団において最強の漢…パワーとスピードに優れた獣人型の怪人。その中でもトップクラス
の戦闘力を誇る、恐るべき狂戦士。それが<獣皇カサス>よ。今までは外国で活動してもらってたけど、サンレッド
抹殺のため、此度川崎へと来てもらったわ」
「しかし…あんなとんでもない奴をよく配下にできましたね」
「一体、どうやって味方に引き入れたんです?」
「それハ…ボクたちノ夢のたメ…」
戦闘員1号・2号が口にした疑問に対し、答えたのはカサス自身だ。
「夢?」
「そウ…夢」
遠い目をして、カサスは言い募る。
「どうセ世界征服すルなラ…カワいイ女の子と共ニ…そんナ想いデ、ボクたちハ姫様ニ従っテいル」
「…ああ。そっか」
「理解できました…」
要するにエニシア軍団とは、世界征服願望を持ったロリコン共の集会なのか。
何だかなあ。
「だが…確かに、強え…それも、とんでもなく」
ようやく立ち上がったヒムは、荒く息をつきながら語る。
「確かにコイツなら、倒しちまうかもしれねえ…サンレッドを!」
そう―――<獣皇>の二つ名は伊達ではない。
彼は間違いなく、サンレッド抹殺のために降り立った最強の魔人だ。
「クククク…しかし、頼もしくも恐ろしい漢よ。サンレッドを抹殺した暁には、その力で我等フロシャイムに牙を剥こう
というのだからな…くくく」
「忘れたわけではないでしょう?我々は所詮、サンレッドを葬るまでの仮初の同盟…覚えておくことね。世界を支配
するのは、私達の方よ」
挑発的に口の端を吊り上げるヴァンプ様に対し、挑戦的に言い放つエニシア。
(今の私達、すっごく悪の組織っぽくない?)と二人はちょっと自分に感激しちゃったりしていた。
※この世界の悪は、様式美を重んじています。御了承下さい。
―――さて、気になる獣皇カサス対サンレッドの結果は?
それは戦闘開始から五秒。
レッドさんの閃光のようなボディブローで膝が落ちた所を、狙い澄ましたアッパーカットで顎を砕かれ、獣皇カサス
は多摩川上流河川敷にて怪人生初のKO負けを喫したのでした。
か、勘違いしないでよねっ!これはレッドさんが強かっただけでカサスが弱いんじゃないんだからねっ!
と、ツンデレ風に決めてみても結果は変わらない。
今日も青い空と燦々輝く太陽の下で、悪の皆さんは正座させられ、真っ赤なヒーローに説教されるのだった。
天体戦士サンレッド 〜偽サンレッド現る!?フロシャイム、驚愕の思惑
たっぷり一時間の説教が終わり、レッドさんは帰っていった。
その後姿を見送りながら、世界征服を企む悪党共はやっとこ一息つく。
「いたたたた…足が痺れちゃったよ、もう…」
「レッドの奴、本当に説教好きですよねー…」
「自分はヒモのくせして…」
もはや御馴染の光景、ブー垂れるヴァンプ様と戦闘員である。
「つーか、何でオレまで説教されなきゃいけなかったんだ…」
完全に巻き添え食らった形のヒム。さっさと帰ればよかったのに、律儀な男であった。
「…ごめン…なんカ…ボクガあっさリ負けちゃっタせいデ…みんナ、説教さレちゃっテ…」
ションボリするカサスだが、皆はそんな彼に優しい声をかけた。
「そんな事ないよ、カサスくん。君はすごく頑張ったよ!」
「そうっすよ!あんなん、レッドの奴がどっかおかしいだけですよ!」
「気にする事ないよ、カサス。それより病院行かないと…ええっと、保険証持ってたっけ?」
「ウン、姫様…ボク、ちゃんト<国民健康保険>入ってルかラ。アフ○ックにモ加入してルかラ(笑)」
※世界征服も身体が資本です。
「そっか。じゃあヴァンプさん、私はカサスに付き添って病院に行くんで、今日はお疲れ様でしたー」
「うん。エニシアちゃんにカサスくん、お疲れ様ー」
病院へと向かう二人を見送って、残されたヴァンプ様一行は溜息をつく。
「今回は、結構いけるかと思ったのになあ…」
「ほんと、どうやったらレッド倒せますかねえ」
「もう核兵器でも落としますか?じゃなかったら、Pちゃんのソーラーレイとか!」
「ダメだよ。そんな事したら、罪のない川崎市の皆さんまで死んじゃうでしょ?」
「そっかー。一般人巻き込むわけにはいきませんよねー」
「うーん、じゃあどうします?」
「こんなんはどうだ?並行世界から別のサンレッドを連れて来て、この世界のサンレッドと闘わせるんだ」
「もう、ヒムさんったら。スパ○ボじゃないんですから」
「ははは、悪い悪い。冗談だよ」
「…え?ちょっと待って、ヒムくん」
その会話の何処かが、ヴァンプ様の琴線に触れたらしい。ヒムの肩を叩き、真面目な顔で問う。
「今、何て言ったの?もう一度お願い」
「え…?いや、サンレッドとサンレッドを闘わせたらどうかって…」
「それだよ!どうして今まで思いつかなかったんだろ!」
ポンっと手を叩き、ヴァンプ様は小躍りする。
「レッドさんを倒すにはレッドさんだよ!もうそれしかないよ!」
「え?え?あの、話が見えてこないんですけど…」
「もしかして、本当に並行世界に行こうってんですか?いくらフロシャイムの科学力でも、それは…前に使った例の
異次元への扉を開ける装置も、動作が不安定という事で使用禁止になりましたし…」
「違う違う。そういうんじゃなくて<サンレッドでサンレッドを倒す>っていう発想の事を言ってるの―――
ヒーロー物じゃ定番のアレだよ、アレ」
ヴァンプ様は、大きく手を広げて宣言した―――
「私達で造ればいいんだよ!偽サンレッド…そう、サンブラックを!」
後日。かよ子さんのマンション。
「…で?そのサンブラックだかブラックサンだか造るのに、何で俺んトコに来てんだよ」
イライラした様子の―――つまりはいつものレッドさんが、ヴァンプ様を睨む。
今日のTシャツは<爆破オチ>だ。
「ええ、ですから…完全にレッドさんそのものの偽者を造りたいんです。それで…」
ヴァンプ様はへらへらにこにこ、揉み手しながらレッドさんにレポート用紙を差し出す。
「これにレッドさんの詳細なデータを記入していただければ、と」
「…お前…俺がんなもん書くと思ってんのか…?」
「ええ、どうかお願いします。レッドさん抹殺のためにも、レッドさんの力を貸してください!」
「ヴァンプ…お前、矛盾って言葉知ってるか?」
「え、そりゃあ知ってますよ。それが何か?」
「何か、じゃねー!何処の世界に命を狙ってるヒーローを抹殺するのに、そのヒーローの協力を仰ごうとする悪党が
いるんだよ!」
「目の前にいるじゃないですか」
「開き直ってんじゃねーよ!その顔面を麻酔抜きで人力整形したろか!?」
レッドさん、当然の事ながらブチ切れである。
「もう、そんなイジワル言わないで協力してあげなさいよ」
と、お茶と一緒に助け船を出したのは、かよ子さん。
「<正義と悪>の前に<ご近所さん>でしょ?これも付き合いよ」
「付き合いで抹殺されろっていうのかよ」
「抹殺されないように闘えばいいじゃないの」
「…かよ子…お前、どっちの味方だよ…」
「んー…どっちかというとヴァンプさんの味方かしら」
ヒーロー物の定番・ヒロインの裏切りであった。レッドさんは文句を言う気力もなくしてお茶を啜る。
「あの…レッドさん。この用紙は置いていきますんで…ほんと、気が向いたらでいいんで」
「帰れ」
「…えーと」
「か・え・れ」
静かな声が、逆に恐ろしかったという…。
「…お、お邪魔しましたー」
そそくさと帰っていくヴァンプ様を尻目に、レッドさんは頬杖をついて舌打ちする。
そして、レポート用紙に目を落とした。
「はい」
ボールペンを差し出し、微笑むかよ子さん。
「分かってるわよ、あんたの性格くらい。ねっ、優しいヒーローさん」
「…ちっ」
―――翌朝。
新聞受けを覗いたヴァンプ様は、そこにレポート用紙を見つけて、大いに喜んだという。
そして用紙に記載されたデータを元に、フロシャイム本部の脅威の科学力によって、遂にサンブラックが完成した!
対決の日。いつもの公園。
「くっくっく、見よサンレッド…これがサンブラックだ!」
―――そこには、バトルスーツを着たサンレッドそっくりのロボットがあった。
違いといえば名前の通り、色だけ真っ黒な所だ。
「ほ〜…よくできてるけどよ、俺はもうちょいハンサムじゃねーの?」
マスクにハンサムもクソもなかろうが、まあお約束のセリフである。
「それよか、問題は性能の方だろ?俺そっくりってんならよ、強さも同じなんだろうな?手間かけさせておいていつもの
通りワンパンチで終わりってんなら、説教じゃすまねーからな」
「ふふふ…そのような心配などせずともよいわ。この対決が終われば赤き太陽は堕ち、世界を闇で包むべく、暗黒の
太陽が新たに昇るのだ!」
※ヴァンプ様はこの口上を徹夜して考えました。
「さあ、往けい!悪しき漆黒の太陽・サンブラック!真紅の太陽を絶望の闇で塗り潰すのだ!」
スイッチ・ON。
遂に!遂に!遂にサンブラックが起動―――
プシューッ…………プスプスプスプス
「あ、あれ?動かないし、何か煙が出てるんだけど…どうしましょう、レッドさん」
「どうしましょう、じゃねーよ!そっちが造ったもんだろーが、ったく…」
ゴンゴンとサンブラックを叩くレッドさん。
その拍子か、サンブラックの目が怪しく輝き―――
足裏のジェット噴射が作動し、大空へとかっ飛んで―――
爆発した。
「…えーと。これはその、つまり…」
ヴァンプ様は必死に言い訳を探していた。まー何言っても無駄だろうなーとは薄々分かっちゃいるんだけど。
「いずれはレッドさんも、あんな風に爆殺してやるぞ!という心意気の現れでして…ははは…」
「…遺言はそれだけか…?」
「…………(通夜のような沈痛な面持ち)」←ヴァンプ様
「…………(鬼神のような憤怒の面持ち)」←レッドさん
この日のサンレッドの説教は、実に五時間にも及んだという。
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
投下完了。ヒムに圧勝できる強さの敵を五秒で倒すとか…正直やりすぎた感があります。ごめんなさい。
なんかヒムは強いんだけど、戦闘には負けてばっかのイメージがあります。原作で仲間になったのが最終盤で、敵が
最強クラスのバケモンばっかだったからかなあ?
短編ネタも結構書いたし、いっぺんサンレッドで外伝的な長編書いてみようかなあ、と思ってます。
折角の二次創作なんだし、原作サンレッドじゃ絶対やらないようなガチバトル展開も入れて。
需要ないかもしれないけど(笑)まあ、あくまでも予定は未定ですが。
しかし<無限のフロンティアEXCEED>が面白すぎる。
骨太な難易度、ネタまみれの会話、おっぱいと尻…ああ、素晴らしい!
最近のスパロボは微妙だなーと思ってたのでこういうのは嬉しいね。
>>40 世界征服よりもバレンタインのチョコに一喜一憂。それが神奈川県川崎市。
>>41 レッドさんの強さは本当にどうなっているのか…そしてレッドさんより強い可能性のあるアバシリンは更に
どういうことなのか…。悪党達頑張れ、超頑張れ。
>>42 ヴァンプ様はほのぼのもギャグもオチも担当できて、本当に素晴らしい御方。こんなキャラを生み出した
くぼたまこと先生はすげえ。
>>43 バキの世界に何故か紛れ込んでしまったスーパーサイヤ人。僕の中ではこんなイマジナシオン。
>>スターダストさん
ツッコミが追いつかねえ…!とりあえずセコム番長自重w
しかし本当に剛太はハーフボイルドだおwwwww 絶望がお前のゴールだ…は、何故か普通にかっけえと思いました。
そしてラストはまさかのゲッペラー…よし、ラ=グースか時天空を呼ぼう。
次回は新展開のようですが、この怒涛の蝶展開からどう話を転がすか?
>>ふら〜りさん
どっちかというと僕はテッサ派です(何)最終的に宗介はかなめに行き着くことに文句は全くないんですが…
不憫ですよね、なんつーか。しかし、このSSのミスリルは一体何の活動をしているんだろうか…
やっとこ復活かー。そしてサマサさんお疲れ。
ヒムに圧勝できるカサスを五秒で倒せるレッドさん…一体どうすりゃこの赤い悪魔を
倒せるんだよw
しかしこのSSだとエニシアが川崎市にいたら、だけど、逆にサモンナイト4世界に
レッドさんが召喚されたらどうなるんだろうか。
なんかはぐれ召喚獣扱いされて迫害されてた所をエニシア軍団に助けられて、そのまま
軍団に身を寄せてしまいそうな気がするw
鯖落ち長かったなー
サマサさんなんで3月1日に投稿できてるの?
レッドさんはドラゴンボールの世界でも
立派にやっていけそうな強さだなw
人間的には確実にヴァンプ様の方が素晴らしいのに
チンピラが何で説教してるんだw
「オリバさんが、受刑者なわけないよね・・・」。何げなく、のび太が出来杉に言う。
帝愛の騒乱、と呼ばれる一連の暴動事件が鎮まってきた頃、のび太は出来杉と裏山にいた。
のび太は裏山を騒乱時に利用しており、通学路で暴動の便乗派から静香を守っていた出来杉を諸共に招待してから、
裏山を元に戻してからも出来杉は時折こうしてのび太と一緒に裏山へ来るようになっていたのだ。
その過程で、龍書文たちのことなどをのび太は話した。
出来杉は、自分はスネ夫が別荘等へ行くときだけでなくドラえもんたちが冒険をしているときもハブられてるなどと
不満げだった。だがまぁ、出来杉は周辺事情などへの理解も優れていて、不満げなのは本心ではなかった。
出来杉は「いや、ビスケット・オリバはまだ免刑になってないよ」。
英語が読めるだけ、C言語がわかるだけではない出来杉は学習ルームを九州のナツミちゃんどころじゃなく活用する。
オリバが筋肉で抑え込んでるもの。
それは、そういった行刑で今も問題となっているあまり強くない薬効・・・
それを強化するため、大柄なオリバが安楽のうちに罪を償える量に増量された凄惨化合物。
「知らなかったのかい? 行刑を待つ人は確定囚、服役してる人は受刑者、
だから自由刑じゃない人がブタ箱に居るだけじゃ受刑はしてない。でも彼は行刑中だから、受刑者なんだ」。
無拍子の抜き撃ちを会得したのび太だが、社会科学の知識はあまり成長してない。
尤も、中学受験にすら出てこない範囲を知ってる5年生も珍しいのだが。
「じゃあ、オリバさんは今も代謝してるのか。そんなものを宿して」。
オリバはアリゾナ州のドライブインに居た。表に自動二輪車を停めて。
ドライブインといっても宿場町みたいな規模で、街頭カメラや自販機もある過ごし易そうな街だった。
但し、冬の陽光は激しくて、それがまた周辺の砂漠地帯で反射してるから治安が良くても雨戸を閉めるのは当たり前だった。
その雑居ビルは3階にフランス料理店が入居していて、50ドルぐらい持って自分へのゴホウビに来る奴とか
景気が良いのか悪いかわからん奴らが商談に来たり、精一杯の婚活に励む奴が来てたりする気さくな雰囲気を醸し出していた。
しかし客の全員が、店の隅の床の方は見ないようにしていた。
オリバが、カブト蟲の幼虫みたいな姿勢になってウネっている。
折悪く半裸で調味用のオイルを塗りたくってるから臭くも汚らしくもないし、
味沢が平然と料理の感想とかを聞きに来るから、
客たちは味沢を「マーケティングなら間に合ってる」などとわけのわからない文句で厨房へ返すことこそすれ、
オリバを不審に思うようなことはなかった。不審といえば不審なのだが、異常ではないようなのだ。
オリバは真剣な顔で押し黙り、ただウネっていた。
力強くも月下に揺れる何らかの自然物が如きウネりは、ディスプレイとしての資格すら有ったのだ。
店の裏手には、投げ捨てられた観葉植物が野晒しになっているので、そこだけはいつもと違った。
オリバは戦っていた。だが、何も排泄しない。透明ゲボすら、吐かない。ただ、絨毯をサラサラいわせてウネっている。
そのうち、「ウゥッ!」と呻り両目をカッと見開く。クチは強く閉じられている。
客たちは、それもあんまり気にしていない。オリバと同じように、それぞれの大切なことがあるのだ。
オリバの毒が裏返った。それも、自然界には存在しない毒が一種類だけ。
それを筋肉と愛だけで抑え、そして裏返したのだ。
オリバはさりげなく立ち、そして歩き厨房のすぐ外側に積んであるキャベツの段ボウル箱を一個持ち上げると
また戻ってきて床に置いた。そして商談してる奴らの机でコール機を押した。
そしてまた来た道を戻り、段ボウル箱の前に陣取る。
オリバは無視され商談は続くが、味沢が出てくると一時中断。そして、味沢が横を素通りすると商談は再開された。
オリバは「メインをいくつか頼む」と爽やかな笑顔で味沢に告げる。厨房へ後姿が消えゆく味沢。
3分もしないうちに、カゼインをブチ込んだ小型バケツ(プリンを製造してから洗ってない)がキャベツ箱の隣に置かれた。
静まり返る店内。
小型バケツの水面は、床に置かれて微妙に波打っていた。だがさすがに、洗剤は浮いていなかった。
キャベツ箱には、味沢がポケットから抜いた紙ナプキン付きのオタマがボフッと置かれる。
小型バケツは、客達の懸念をよそに乾いてゆく。オリバが一番美味しいと思う逸品。ベスト・チョイス。
オリバが幸せそうに、小型バケツをキャベツ箱に置く。
すると間髪入れず缶コーヒーが厨房から飛来する!
客達が気付く頃、オリバのレとミの指と親指は缶コーヒーを保持している。それがまた、音も無く。
漂う闘気はハンパじゃなく、しかし素人衆(プロボクシングの他州王者を含む)はなんとなくワクワクしていた。
食後のコーヒーを終えると、オリバは一旦1階の入り口まで出てデザートとコーヒーの値段を見てくると
またレストランまで戻ってきて「書いてなかったけど、いくらかな」とレジ当番に聞いた。爽やかな笑顔。
レジ当番も、これには「シェフにおまかせと、1ドルじゃないでしょうか」としか言えない。
少額の現金を持たないオリバは、懐から輪ゴムの札束を取り出すと50ドル札を一枚抜いて両手でレジ係に渡す。
レジ係が紙幣を受け取ると、もう振り返らずにオリバはドアをくぐり歩き始めた。
【カイカイです。龍書文の天敵、オリバが復活しました。今のオリバなら、勇次郎とてパワーだけじゃ勝てません。】
出来杉は意外と腹黒いと思うな、原作でも
オリバとドラえもんのクロスはシュールだ
83 :
ふら〜り:2010/03/05(金) 08:36:59 ID:c14cUpk10
>>サマサさん
スタープラチナ同様、タネも仕掛けもなく強いから、裏をかいて勝利とかできないんですよね
レッドは……敵にすると最高に厄介なタイプ。で、こういう日々の平和な積み重ねを見せた
面々がシリアス長編! 人生初の映画版ドラ視聴のような期待感! ぜひぜひお願いしますっ!
>>カイカイさん(地底由来は地味め弱めなのが傾向ですな。チューブとかジャシンカとか)
言われてみれば、いつもいつもハブられながら頼られれば協力的な出来杉は、能力のみならず
人格も出来すぎてるかも。しかし今回のメインは、終始ほぼ無言、作中人物からもほぼ無視
されてたのに異様な存在感のオリバ。原作がアレな今、せめてここでは重厚濃厚でいてほしい。
84 :
作者の都合により名無しです:2010/03/06(土) 12:55:53 ID:AVoOFo0m0
最近サンレッド見始めたが、本当にレッドさんやヴァンプ様がサマサさんの書く通りで笑った
原作再現率がパネぇ
俺もサマサさんのss見てサンレッドを読んだクチw
87 :
作者の都合により名無しです:2010/03/09(火) 18:07:22 ID:+hDdauSq0
サザエさん一家も海産物とか水産関係の名前、
DBも地球人の一部は料理の名前ですよね。
ナメック人は楽器で、サイヤ人は野菜。
どなたか、うまいことサザエさんをDBとコラボしませんか?
ママが清潔感溢れるグラスを手に取り、注がれた水を飲む。
何もおかしな所はない……僕も気にせず水を飲んだ。
「おいしいっ! 水がこんなにおいしいなんて……」
水に体温が移らぬよう脚に指を移して目を力強く閉じ、よく冷えた水の美味しさに酔いしれる。
確かに美味しい、生まれてこのかた飲んだことがないと言い切れる。
しかし、奇妙な出来事が起きているのに気付いた……。
ママの目蓋に………若干ではあるが『霜』が張り付いていた。
「マ……ママ!? その目………!」
「え? すごく冷たい水だからかしら……目がキンキンに冷えて開かないのよ」
「確かに冷たいが旨い、水道水がこの味になれば市販のミネラルウォーターなんていらないな」
殺人鬼が目を瞑りながら水を飲む、だが奴と僕の目には何もなかった。
ママがゴクゴクと音をたてて水を飲み干すと、目蓋の『霜』は一層広がった。
そんな異常事態にあるというのに、二人は目をつむり水を賛美していた。
「ふぅ、まるでファンタジー映画の女神が住む湖の水とでも言わんばかりの壮麗な味だ」
「カキ氷を一気に食べたような冷たさなのに頭がキンキンしない……それどころか優しさまで感じるわぁ〜〜!」
何を呑気なことを言っているのか、そんなことよりママの身に起きた異変に気付かないのか。
もはや霜を通り越して凍っている、何故グラス一杯の水で目が凍るのか?
どうして僕と殺人鬼には何も起こらないのか?
「当店では料理や飲料用に様々な水を使用しマス。キリマンジャロの雪解け水が好評でしたが生憎入荷待ちでシテ。
今回は数種類の軟水をブレンドしましタ……眼球付近の神経を冷し、目の疲れを癒すと共に乾燥から守りマス」
トニオと名乗る店主が講釈を垂れるがそんなムチャな原理が通る筈がない。
ママを見ると背を伸ばし、あくびをしていた。
氷は涙に解け、目を拭って目蓋に広げると跡形もなく消え去った。
「はっ!? 今まで中々出なかった涙がこんなに……」
それは解けた『霜』の分ではないのか疑ったが、ママの目からは今も涙が流れている。
まさかドライアイが治ったのだろうか……涙を拭いてからもママの眼球は見違えるほど潤っていた。
少女マンガのようにキラキラと輝く瞳は、近くで見つめれば鏡のようにハッキリと自分の姿が映るだろう。
「食後のコーヒーを飲んで一息ついた後のように頭が冴え渡り、飲み心地の良さは水でありながら水以上だ」
「水にも手を抜かない通の心意気、彼の料理をはやく味わってみたいわ」
二人は何事もなかったかのように店主の出す料理に期待を膨らませている。
見間違いではない、本当にママの目は凍っていた……震える手でグラスを口に運ぶ。
冷水が口内を通ると、複雑に絡み合う別々の味をした水が喉を清めていく。
胃に到達すると爽やかな風が体中を駆け抜けていくようで心地よく、それが涙腺にまで響き渡る。
だが、僕の体には変化がなかった。
見間違いだったのか……僕の網膜にはハッキリとママの目が凍る瞬間が焼きついているのに。
殺人鬼と一緒に暮らす異常な生活で疲れてしまったのだろうか。
そんな心配を余所に、いつの間に厨房へ移っていたのか店主が皿を持って奥から現れた。
「お待たせ致しまシタ、アンティパストは『アンディーヴサラダ』です」
「アンディーヴ?」
ママが聞きなれない料理に、疑問符を頭の上に浮かべながら見つめる。
確かチコリーのことで、フランスか何処かでの名称だ。
チコリーの葉を食べやすい大きさにカットし、スライスされたマッシュルームやリンゴが盛り付けられている。
三角形に切られたチーズと僅かにレモンの香り漂うドレッシングの匂いが食欲をそそる。
ママと殺人鬼が料理にフォークをのばす、また何か起こらないだろうか?
不安になった僕は先に殺人鬼に食べさせて様子を見るべく、ママに話しかけることにした。
「マ……ママ! 目になんか付いてるよ」
「え? やだ、涙と一緒にヤニかなんかでちゃったのかしら……」
ハンカチを取って目を拭う、殺人鬼はそれを気に留めることなくサラダを口に運んだ。
シャキッ、というテレビのCM等で新鮮なリンゴにかじりついた時に聞く音が現実にテーブルに広がる。
どうなるのだろう、殺人鬼の目も凍るのか……それとも別のことが………?
「ふむ、チコリーの苦味がレモンの酸味や甘味と交わって新鮮な野菜の旨みになってるな」
「へぇ……アナタって料理にそんな詳しかったのね」
「いや、前に社内旅行先で食べた料理に感化されてね……でも、なんてことはない普通のサラダさ」
水のおいしさを上回ることはなかったのか、つまらなそうにフォークでリンゴを転がしている。
やはり何も起こらない……奴のいう通り普通のサラダなのだろう。
僕の考えすぎだったのだ、そう思ってチコリーとチーズとリンゴを一遍に突き刺し口に頬張る。
僕は口にフォークくわえたまま、体中の力を失って背もたれに寄りかかった。
「は、早人? どうかしたの!?」
「しのぶ、早人にアレルギーか何かあったか?」
「ふぉいしいっ……ふぉいしすひる………」
「「えっ?」」
ママが僕の口からフォークを引き抜くと同時に体中に沸きあがる活力に身を任せ飛び起きる。
この美味しさをどう伝えたらいい、愛する人へ己の愛が如何ほどか伝えるほどに言葉で語れる物ではない。
とにかく僕の知る言葉の全てを使って叫んだ。
「アンディーヴの青臭さとレモンドレッシングの酸味をブルーチーズの強烈な風味で程よくカバーしている!
それを成して尚有り余るチーズの風味が今度はリンゴの甘味をまろやかに引き立てている!
更にチコリーとリンゴの間にチーズを突き立てればチーズを歯に残さず、優しさに満ち溢れた食感だ!」
ママの手からフォークを引ったくり、チコリー、チーズ、リンゴの順に突き立てて口に頬張る。
それを見た奴とママが同じようにしてサラダを口に運ぶ。
「チコリーとリンゴがシャッキリと! チーズが続けてポンと口の中で踊り跳ね回る!」
「しゃっきりポンのリズムに合わせて味が……パーフェクトハーモニーが口の中を飛び跳ねてるぅ―――ッ!」
苦味、臭み、酸味、甘味……ぶつかり合う個性の中に完全な調和を生み出す。
チコリーに合わせる訳でもなく、ドレッシングに合わせる訳でもない。
料理の完成に向かって素材達が全力で個々の力を発揮して誕生する………味。
これ以上に素晴らしいものがこの世にあるだろうか、一種の神聖さすら感じる。
こんな幸福を与えてくれた店主、トニオさんにどう感謝したらいいものか。
サラダを頬張りながら横を見ると、ニコニコと優しい笑顔でこちらを見つめるトニオさんが立っていた。
その笑顔を天使か菩薩かのように見ているとそそくさと床に布を敷き始めた。
そして僕を見てカミソリを片手にこう言うのだ。
「さぁ、こちらへどうぞ」
立ち読み程度でしか知りませんが、鉄鍋のジャンの調合水をそのままパク……ゴフゴフ、流用しました。邪神です( 0w0)
実際の料理は居酒屋で適当に揚げ物やってた程度でしかないのでイタリアンには流用できませんでした。
ちなみにスタンド使いでもない早人がパール・ジャムの効果に気付いて、吉良が呑気に飯を食っているのは
原作での億泰、そして『The Book』で琢馬がスタンドに気付く様子がないので『洞察力』やスタンドの有無ではない。
という勝手な脳内設定で、当然スタンドは早人には見えません。このSSでは仗助と早人は特別ということで( 0w0)
>>ふら〜りさん やけに絶望した早人で始まりましたが実は休憩パートでした〔 0H0〕
早人は仗助と億泰、吉良は山岡、しのぶは味皇に。
殺人鬼だって彼にとってはお客様デス。
>>スターダストさん 753が……地獄兄弟が……そしてそんなネタキャラ共は兎も角! 橘さんの扱いが!
ディケイド界での彼らの扱いを考えるとこれも運命か……。
>>サマサさん 大佐が哀しみを背負っておられる……準ヒロインの宿命か。
恋人の季節は哀しみの季節、絶望という名のゴールが待ち受ける日。
ここはヒムを応援して………アレ? オンドゥルルラギッタンディスカー!
>>25氏 イタリアンの知識は0ですがピザやパスタは好きです(*0M0)コレクッテモイイカナ?
大丈夫……美味しんぼやミスター味っ子のアニメを見てる俺なら………!
無理だと3行目辺りで気付き始めたのでウィキ、グーグル先生に頼りました、スイマセン(;0w0)
>>26氏 スタンドはどれも直接戦闘やアシストが出来るものばかりですがトニオさんだけは純粋に非戦闘用ですね。
戦いにおいては何の役にも立たないけども、幸福感や満足感を与えて健康にできる。
クレイジー・Dのように他人に優しい能力、きっとトニオさんも優しさに満ち溢れてる筈。
>>27氏 実際に料理はしませんでしたが旨そうな映写はできたでしょうか?
気になったら是非試して下さい、もちろん責任は取りません(*0w0)
>>水に体温が移らぬよう脚に指を移して目を力強く閉じ、よく冷えた水の美味しさに酔いしれる。
水に体温が移らぬよう指をグラスの脚に移して目を力強く閉じ、よく冷えた水の美味しさに酔いしれる。
でした。申し訳ない(;0w0)
トニオさんの料理をおかしいと思うか否かは、自分の考えでは
<スタンド能力の一環として、効力が出ていると例え涙がドバドバ出ようが胃腸が飛び出ようが
おかしく思わないように精神が安定する(ムリヤリ安定させられる)>
みたいな理屈じゃないかなと思います。
仗助は料理を食べてないからこの効力は出なかったし、琢磨はちゃんと効いてたから疑問に思わないよう
精神が安定していた(させられていた)
しかし、こう書くとタチの悪い洗脳だなwそんな能力じゃないとは思うが。
「なんだって、空き地でビスケット・オリバを見ただって??」
のび太が驚愕して安雄に確かめる。そうしながら、空き地までの道を走り出してる。
太り気味な安雄よりのび太の方が、足遅い。のび太は、わざとらしくなく遅く走った。
一事が万事で、そうしている。当面の悩みは、秋の体力テストと運動会。
点数を取るか、今までの皆との関係を取るか。
救いになっているのは、著しく向上したのが早撃ちだということ。
元からのび太の得意分野だったことなので、皆はそういうこともあるとあるがままを受け入れている。
安雄が空き地の入り口に当たる道で立ち止まった。
舗装された細い道で、空き地へは階段を降りていく方の出入り口だ。両サイドは、民家の塀。
のび太から安雄の肩越しに見える空き地では、小山のような黒人が乞食と対峙していた。
小山というのは、まだ見ぬ不良中学生とか隣町の男子小学生のことではない。
地形だ。
対する乞食は、数日前から土管に寝泊りしのび太たちに一日廿円の地代を要求している人物だ。
以前はドラえもんの道具で故郷を見せて立ち直らせ空き地から立ち退かせたが、また戻ってきてしまったのだ。
フェンスもトタンも築かず道に面している側。その道に、安雄を伝令とするケラチョ狩り部隊が集まっていた。
ジャイアンをリーダーとする乞食退治のグループで、皆、野球のユニフォームとマイボールで偽装&武装している。
オリバがどういう人物か、インターネットの普及した昨今に於いて出来杉から言伝が廻るのは早かった。
そんな東洋の児童たちの動向を意にも介さず、オリバは乞食に日本語で宣告する。
「ハイチ出身のジャパニーズ、メガゾンビ殿とお見受けする。貴殿をジュン・ゲバルより保護したし」。
ジュン・ゲバルは教科書上で、キューバとかのあたりの人物としてしか誰にも知られていない。
少なくとも、この場に集まったミニサイズの戦士たちには。のび太も例外ではなかった。
龍書文は以前、「そんな人名は、テストに出ないだろう。義務教育との両立が、約束(師事の条件)だ」と言った。
(オリバさん、気のせいか肌のツヤから明度が落ちたような・・・いや、光をあまり逃がしていない!?)
オリバと面識のあるのび太は、塩素仕込みの弾丸を2世紀前のスティンギー・ピストルで臍に撃った日のことを思い出した。
あの時は、少なくともオリバは撃ったら倒れそうな体だった。だが、今は・・・1世紀前のH&K小銃でも受け切られ得る体だった。
「オリバさん・・・」。
のび太が高いところから声を掛けると、オリバは返事する代わりに表情をアナログ時計1時間分ほど左に向けた。
場から急速に緊張が解けゆく。皆は(ああ、のび太はオリバとも知己なのか)と思って解散した。
ジャイアンは肩にバットを担ぎながらも、(中学に上がったら、潔くタイマンを張る事になるだろう・・・)と思い詰めていた。
のび太の性格を知っていても尚、21世紀の序盤を育ちゆく身に宿る中途半端な武力・暴力を持て余してしまう。
乞食撃退の途上でオリバが敵か味方かという時点、そしてオリバが乞食を連れて行くと知ったらおとなしく帰る。
それを一瞬のうちに把握したのだろう、オリバは「ふとっちょクンもライ麦畑に入れていいのかな?」と安雄のことを訊いてきた。
のび太の苦笑は、かつて塩素入りの銃撃を「サリンジャー作戦」などと銘打っていたことへの自嘲とオリバへの畏敬。
安雄はびびった。そして、のび太に「じゃあ」とだけ言って早歩きで帰ってしまった。
自分が強く賢く、そして21世紀の強者へとなりつつある現実。反して、変わりゆくことへの寂しさ。
このままいくと、今年度のうちにもドラえもんは未来へ帰ってしまうのではないか。のび太、成長の刻。
そんなことを自覚しながらも、石造りの階段を降りるうちにだんだんと腰や膝を浮かさない体勢へ変わってるのび太。
オリバは、1秒ほど「・・・・・」と思案した。太い唇を閉じて。僅かに笑うのは、安堵と期待。クチを再び開く。
「ちょうど良かっタ。これからドラに報せなきゃと思ってたんダ」。
オリバが空き地でのび太と合流していた頃、「ターちゃん」・渋川・ロブロビンソンは大学構内のベンチに座っていた。
海馬はカフェテリアのテラスのテーブルに就いて、デュエルカードをシャッフル等して遊んでいる。
それに飽きたら、護身術(素手の部分だけ)の技でズールをじゃらしていた。
マスター国松がコーチ長、素手のパートがムエタイ五冠王・チャモアンに一任のカリキュラムをこなした賜物だ。
「アナベベさん、どうでしたか」。「電子回路」とだけ標榜された通用門にアロハシャツ姿の黒人の姿を認めた渋川の第一声。
外瑠魔派の事はともかく少なくともそういう世界があることを、渋川たちは信じざるを得ない新たな物証。
バリアー・ジャケット・システム。その真贋が明らかになった。掛け値なしの、本物。
伊佐武光へ納入した物より、AI制御の点で優れている。
なにせ、バリアーのフィルタリングを声で操作できるのだ。
その物証が始めて渋川の道場に来たとき、その物証は30歳ぐらいの女性の胸に食い込んでいた。
「ほぅ・・・赤坂流の・・・」とだけ玄関で返事する渋川。不審な感じを隠せないのは、赤坂理子が高校に居る時間帯だから。
そして、バキから理子がまだ高校3年生だと聞いているから。
赤坂流の看板が門松みたいな高さに打ってあるのを不審に思い、出稽古に行って見たときは中学生かと思ったが。
「三ちゃんを返せ」。
渋川は、「農業問題とかの話かな」としか思わなかった。でも、それっきり理子が黙るので所作を用いて居間へ誘導した。
鉄瓶は、固定したうえに伝導する部分に細工がしてある。わざと、来客の手頃な位置に置いてある。
理子が鉄瓶の取っ手に「熱くないところ入れ」と言いながら手を伸ばす。
確かに、それは言い終わってから取っ手を掴もうとしたのに、磁力が空間から湧き出して腕ごとビョンッと戻って来た。
それでも理子は、自分の知らない茶道による道具かと思い再び正座した。だが、この時点で渋川は丹田に力を入れた。
丹田と連動した両膝の微妙な狭まりが綿を圧迫し、座布団に仕込んだエマージェンシー・スイッチを押したのだ。
理子が被服の下に何か巻いているとは思っていたが、「誰かに連絡して護身完成」なんて実現するものだとは思わなかった。
1分ほどの沈黙を最初に破ったのは、ロードワーク中の姿で(もちろん土足で)勝手口から上がってきたロブ・ロビンソン。
「おーい生きてるかー、俺が疑われるから生きてろよー」そんな声を掛けながら、ロブが迫り来る。
100 :
作者の都合により名無しです:2010/03/13(土) 13:09:08 ID:PPXKL4Zz0
そこからは、文字通り泥臭い戦いになった。和風建築の床下は、湿っていて土臭い。
最初、理子は「作務衣のような物、入れ」「トレーナー入れ」などと言いつつ間合いを無造作に埋めて服を掴んだ。
渋川は受けきったが、ロブはローキックの反作用が予想外に過剰で発生位置もデタラメだったので足を怪我した。
怪我の功名か、頭を鉄瓶ではなく畳で打った。そのやりとりで、新たな物理法則を認めた二人は道場へ走り畳を外した。
林立する畳がどれも倒れないように、まるでレクリエーションのように取り付き理子の動きを封じる。
その過程でバリアの範囲と構成要素が薄々わかった二人は、道場の床板に手を出す。
尖った木材を、火花と共に弾く理子。焼け焦げた畳や木片が降りしきる。
ドサクサで、道場に点火した渋川が逃げ出す。ロブも急いで逃げに転じて閂を渡してしまう。
正常な空気以外の全ての気体をNG指定して来た理子は、渋川たちの予想を良い意味で裏切り急いで床下に退避。
畳の質量すら重さを感じさせず除けて来た理子に対して、渋川は惜しげも無く発炎筒を使用した。
煙は理子からあらゆるものを奪い、立ち上がろうとさせた。
だが、理子は改装した部分の下に来ていてバリアが鉄筋建築に押し返されるのを体で受け続け遂には昏睡した。
それから、渋川はアルバート博士に近所の喫茶店からIP電話で連絡を入れた。
迎えのクルマが、喫茶店の駐車場に駐車できないほどのリムジンだったのは驚いたが車中で20分ほど仮眠した。
気がつけば近郊の学園都市まで10km、それから一睡もしていないので
渋川は時空の戦いとか宇宙文明との邂逅に至る未来史とかを憂うような態度の下では
早くどっか泊まりたいと思っていた。ロブは足の甲が腫れているので、靴を脱いで片足を風通し良くしている。
101 :
作者の都合により名無しです:2010/03/13(土) 13:10:44 ID:PPXKL4Zz0
渋川たちが居る同じ市内では、もうひとつの実験が行われていた。
帝愛が出店してるアミューズメント施設の「カードゲームコーナー」で、兵藤和尊が理子に捺印している。
焼印で。
兵藤は理子の頤や胸や脚を上から見下している。ハンコを10秒、離さない。
猿轡で悲鳴が単調な高音に変容してる。皮下脂肪の薄いところでも、焼印すると臭い。
理子は全身に力が入るのと拘束した範囲でしか何も動いてないのとで、変なフィットネスしてるように見える。
女子高生に無謀を働く鬼畜。その羽織袴の背中を睨む理子。
睨む理子の額に、熱がる理子とは少し違う歪んだ文字が音も無く浮き出てくる。
表情筋の作用で、見た目には図案が微妙に違うのだ。
勇気を振り絞ってバッと振り向く兵藤の凄い顔に目が合い、「ヒィィッ」と息を吐いてびびる理子。
びびっているのは、兵藤も同じで「・・・・・・・どういうトリックなんだ?」と声を絞り出す。
理子は持ち前の負けん気と武を通じて獲得した心の強さで、すぐびびるのをやめて言い返す。
口を開いたとき、理子は先ずは生き存えるのを優先して近い未来の出来事を選んだ。
102 :
作者の都合により名無しです:2010/03/13(土) 13:12:21 ID:PPXKL4Zz0
「兵藤和尊、デュエル・シティにて伊藤開司とデュエルする。
リバース札の『壺魔人』に『アルティメーター』で突撃し、撃沈。魂を抜かれその場で憤死する」。
「はぁ?」と意に返さない兵藤。もうこいつもびびるのをやめている。
「伊藤開司もベスト4進出ならず、日雇い保険と合法ギャンブルを往復するだけの廃人になる」。
そう言い終わる前に、乾いた銃声と黒服の一人が防護用チタン板を撃たれる轟音が
カイジのプライバシーを保護する。カイジくんはプロの百円BETerになって、どうなるんだって?
ギョッとして振り向く兵藤。
下手人らしきトゲトゲの物体が一瞬だけ見えたが、その直後から廊下を駆けていく音がする。
どう考えても陽動だが、今は敢えて理子を両方とも置いてトゲトゲが行った方向への戦術的転進を指示する。
一筋縄では倒せない王。
袴を抓んで走りながら(どう転んでも、海馬コーポレーションのアレはフケなきゃなー)とまで思ってやがる。
103 :
作者の都合により名無しです:2010/03/13(土) 13:14:17 ID:PPXKL4Zz0
カイカイです。自分は、マンガのページとして浮かんだイメージをなるべく「ありのまま」文章にしてます。
だから、どうしても一文が長くなったりしてしまいます。
わかりにくい描写などありましたら、暇のある限り補足しますのでご遠慮なくお申し付けください。
〜序〜
其処は幻想郷―――其れは、全てを受け入れる楽園。
現実世界から忘れられ、弾き出された者達が集う最後の場所。
これより始まるは、この妖しくも美しき世界で繰り広げられる物語―――
―――それは、現代から遡る事、実に数百年。
幻想郷にて。小雨が降り注ぐ中秋の頃。
庭先に巨大な桜の木を臨む純和風の屋敷。その縁側で雲に隠れた月を想うように天を仰ぐ、三人の女性。
「中秋の名月…とはいうものの、実際には天気が悪くて見られないのが普通なの。十年のうち、九年は雨が降って月
を隠してしまうのよ」
そう語るのは青白い死に装束に身を包む、儚くも清楚な雰囲気を持った少女。
肩口で綺麗に揃えた髪は、光の加減で雪のように白く―――或いは桜の花のように薄紅にも見える。
彼女はこの屋敷の主にして、名を西行寺幽々子(さいぎょうじ・ゆゆこ)。
その立ち居振る舞いは優雅にして幽雅。確かにここにいるというのに、今にも消えてなくなってしまいそうな程に存在
が希薄だった。
しかし、それも当然の事―――彼女は既に生命の輪廻から解き放たれた存在なのだから。
死してなお現世を彷徨う亡霊。
それが<天衣無縫の亡霊>西行寺幽々子だ。
幽々子は傍らの月見団子を手に取り、微笑む。
「だから昔の人は、このお団子のように丸い物を見てそれを満月と結び付けたの。雨に隠れて見えないお月様を心に
描いていたのね。見えない月に想いを馳せる―――それが雨月(うづき)。
想像し、創造される幻想の月は、現実の月よりもずっと美しく、風流な物なのよ」
そしてむんず、と団子を数個まとめて掴み、口一杯に頬張る。
幽雅なる亡霊・西行寺幽々子。まだ冒頭だというのに食いしん坊キャラが確立された瞬間だった。
「ああ、おいひい。風流、風流」
「大層に語って、結局食い気?太っても知らないわよ」
くすくすと笑いながら茶化したのは、鈴が鳴るように軽やかな少女の声。
白磁の肌に艶やかな長い髪。千人いれば千人が認める美麗な容姿ではあるのだが、どうにもこうにも胡散臭い空気
の持ち主である。彼女を知る者であれば、その人格について誰もがこう語るだろう。
<異常なまでに掴み所のない、よく分からない女>だと。
言葉による説明は困難だが、どこもかしこもとにかく嘘臭いのだ。
例えていうなら、こちらを笑顔で見つめていたかと思えば急に右を向く。つられてそちらに顔を向ければ、今度は天を
仰いでいる。こちらも空を見上げれば、いつの間にか彼女は地面に視線を落としている。
そうやってせわしなくキョロキョロしている人間を、嘲るでもなくただ、楽しげに見つめている―――
何が面白いのか、ただ静かに笑っている―――
そんな類の<よく分からなさ>を、彼女は存分に備えていた。
彼女こそは幻想郷の創世に携わりし妖怪の賢者にして、世界の法則を根底から揺るがす<境界を操る程度の能力>
の持ち主。
<神隠しの主犯>八雲紫(やくも・ゆかり)―――それが、彼女の名。
「丸い物を見て月を連想するのなら、別に団子でなくても何でもいいじゃない。だというのに、何故貴女は団子を選ぶ?
答えは唯一つよ、幽々子。貴女はお月見を口実に団子を貪り食いたいだけでしょう」
「いいじゃないの、別に。食べる事と寝る事が私の人生においていつも最優先なの」
「亡霊が何を言うか。イヴ、貴女も幽々子を諭してあげなさいよ」
「え?んーっと、お野菜も食べないと健康に悪いよ」
「更に食べさせる方向にいってどうする」
紫からツッコミを入れられた、最後の一人―――
それは、月光の化身のような女性だった。輝くような金髪碧眼に、柔らかな美貌。
そのたおやかな姿は幼い少女のようにも、成熟した大人にも見える。
「どうしたのかしら、イヴ。いつも賑やかな貴女が、随分大人しいじゃないの」
「んー…何ていうか折角のお月見なのに、お月様が見えないのはやっぱり寂しいかなって」
月光を遮る雲を見やり<イヴ>と呼ばれた彼女は溜息をつく。
「ゆゆちゃんの言う事も分かるんだけどねー。ここはやっぱり、満月の下で皆で大騒ぎしたかったな。ぼくは明日には
また、出発しないといけないし…」
その寂しげな横顔を、二人は静かに見守るしかできない。
「ずっと幻想郷にいたらいいじゃない…とは、言っちゃいけないわよね」
幽々子は一抹の未練を込めつつ、そう呟く。
「最も偉大な存在である<真祖混沌>と並び称される母なる吸血鬼<賢者イヴ>―――その血の導くままに世界を
流離(さすら)うが宿命」
「そう。だから貴女を引き留めてはならない。この世に存在するモノには全て、与えられた役割がある―――他の何を
捨てたとしても、その役割だけは放棄してはならない。故に、ずっと此処にいろとは言わないわ」
紫と幽々子はそっと<イヴ>の手を握った。
「だけど、いつかまた、幻想郷に来てね」
「その時は満月の下で、一緒にお酒でも飲みましょう―――我等が親愛なる友人<賢者>アリス・イヴ」」
「そうだねえ」
彼女は、本当に嬉しそうに微笑んだ。まるで、何処にでもいる少女のように。
「楽しみだね。いつか来る、その時が」
―――それから、幾星霜の時を経て。
何処かの国の、満月の下。
伝説の大吸血鬼アリス・イヴは、傍らに寄り添う青年に熱く語っていた。
「…と、まあ。ぼくは紫ちゃん、そしてゆゆちゃんと約束したわけさ…<ドンチャン騒ぎしようぜ!>と」
「なるほど」
その青年の名は、望月ジロー。
<賢者イヴ>より直々にその尊き血を賜り、月下の世界に足を踏み入れた若き吸血鬼だ。
「しかし人外魔境の楽園・幻想郷とは…私も風の噂には聞いた事がありますし、あなたが言うからには実在するの
でしょうが―――俄かには信じ難い話ですね」
「確かにね。ぼくだって、あそこに行けたのは偶然みたいなものだったし…だけど、確かに在ったんだ」
力強く、アリスは言う。
「人も、そうでない者も、全てを受け入れてくれる世界―――幻想郷を、ぼくはこの目で見た」
何を思い出したのか、にへら、と笑う。
「そうそう、ぼくたちと同じ吸血鬼もいたんだよ。レミリアちゃんっていってねー、お人形さんみたいですっごく可愛い
子だったんだ。それ以外にも、面白い子たちがたくさんいたの」
目を輝かせて、彼女は語った。
曰く、自然そのもののように無邪気な妖精。
曰く、ケンカっぱやいのが玉に瑕だけど陽気で酒好きな鬼達。
曰く、いじめっ子だけど本当は優しい究極加虐生物。
アリスの唇から紡がれる幻想世界の御伽噺。ジローはただ言葉も忘れ、彼女の物語に聴き入っていた。
「でも、ジローには行ってほしくないかな。幻想郷」
「何故です、我が君」
「…………」
「我が君?」
「アリスって」
唇を尖らせ、睨み付けてくる。
「そう呼ばないと返事しないって、いつも言ってるでしょう?それとも何?持ちネタのつもりなの?」
「申し訳ありません、我がき…アリス」
「よろしい。では答えてあげよう」
柔らかに微笑み、アリスは続けた。
「幻想郷はね、恐ろしい事に美幼女か美少女か美女しかいないんだよ」
「は…はあ?」
「少なくとも、ぼくが見た限りは妖怪だろうが何だろうが、全員すっごい可愛い子ばっかだった」
「それが何故、幻想郷に行ってほしくない理由になるのでしょう?」
「可愛い女の子達に囲まれたら、浮気するんじゃないかなあ。ジローは」
その言葉にジローはキョトンとして、次に笑った。
「そんな不貞を働くつもりはありませんよ、アリス」
「ふーん、どうだか。ぼくの目が黒い内は、浮気なんて許さないんだからね!」
あなたの目は碧いじゃないですか、とは言えないし、言う気もない。
「私は、貴女の物です。アリス」
身も心も、血の一滴に至るまで、全て。
「この命、尽きようと―――永遠に」
―――そして、現在。
それは未だ色濃く残る真夏の暑さと、僅かに吹き始めた秋の涼しい風が入り乱れる季節の物語。
鬱蒼とした夜の森の中に、その四人はいた。
天体戦士サンレッド。望月ジロー。望月コタロウ。そしてヴァンプ将軍。
「…何故、我々はこんな場所にいるのか。状況を整理してみましょう」
ジローの意見に、反対の声はない。
「最初は…確か、俺とコタロウがラーメン食ってたんだよな」
「そうだよ、レッドさん」
パチンコで勝った帰り道、たまたま出会ったコタロウに、ラーメンを奢ってやったのだ。
「宝来軒だよね。で、そこにヴァンプさんもいたんだ」
「ああ。別に一緒に食おうとも言ってねーのに俺らの隣に移動してきやがって」
「いいじゃないですか。皆で食べた方が美味しいですもん」
毎度ながら、悪の将軍の言う事ではなかった。
「ちなみにぼくは、チャーシュー麺を食べたんだ…レッドさんとヴァンプさんはメンマラーメンだった」
コタロウはラーメンの味を思い出したのか、唾を飲み込む。
「力強く打たれた麺のコシは天下一品。さっぱりしていながら素材の味がしっかり染み込んだスープとよく絡んで
舌を蕩かすんだ。チャーシューは脂身の少ない部位を使いつつ、味付けをクドくならない絶妙のバランスで濃い目
に仕上げてあって、たっぷり十枚も乗っていながらまるで飽きない。最高のラーメンだった」
「それでいて値段も懐に優しいんだから、本当に恐れ入るよねー」
「いや、そこまで詳細に説明する事じゃねーだろ…で、食い終わったらもう夕方だった」
「ええ。店を出た所で、コタロウくんを探しに来てたジローさんと出くわしたんですよね」
「はい。こやつが連絡もなしに門限を過ぎても帰ってこないものですから」
「夕食の前にラーメンなんか食べちゃダメだって、兄者のゲンコツをもらっちゃった…」
まだ少々痛む脳天を押さえ、コタロウは涙目になる。
「お前って案外と躾には厳しいよな、ジロー」
「これでもまだ甘いぐらいですよ。私が子供の頃や、吸血鬼になったばかりの頃などは―――おっと、話が逸れる
所でしたね。ともかく、レッドにヴァンプ将軍。あなた方もあまりコタロウを甘やかさないでいただきたい」
「へいへい。分かりましたよっと」
「えーと…それから、家に帰るところですよね」
四人は長く伸びた影を引き連れ、紅く染まった街を歩いていた。
ひぐらしの鳴き声がどこか物悲しい、夏の夕暮れ。
近道しようと、人通りの途絶えた路地に入った。
そこに―――彼女はいた。
紫色の典雅なドレスを纏う美しい少女だった。真っ白い日傘を差した彼女は、妖艶に微笑む。
四人は声を出す事もできず、その微笑に魅入られたように立ち尽くす。
害意も敵意も感じない。恐怖感や威圧感も皆無だ。
なのに―――まるで磔にされたように、動けない。
「お前は…誰だ。いや―――<何>なんだ、お前は」
ようやく言葉を発したレッドに対して、少女はからかうように答える。
「スキマ妖怪。神隠しの主犯。割と困ったちゃん。八雲紫。好きなように呼べばいいわ」
「…八雲…紫…!?」
その名に反応したのはジローだった。
「まさか…あなたが、あの…!?」
「あら、私を知っているのね―――<彼女>から聞いたのかしら?<賢者イヴ>直系の子・望月ジロー」
「―――!」
虚を突かれてたじろぐジローを気に留める素振りもなく、少女はクンっと軽く指を振った。
「―――<境界を操る程度の能力>」
空間に突如現れた亀裂。仮にスキマ―――とでも呼ぼうか?
どこに繋がっているのか、或いはただの行き止まりに過ぎないのか。
その中には、無数の目が存在していた。その全てが、レッド達をじっと見つめている。
スキマは分裂でもしているかのように、次々と世界を侵食していく。
やがて、視界は全て埋め尽くされ―――
「…そして、今に至るってわけか」
レッドは大きく舌打ちする。
「全然分かんねー。何だよ、賢者イヴだのなんだの…」
「―――私の<闇の母(ナイト・マム)>です」
ジローは、レッドにだけ聴こえる声で語った。
「私を吸血鬼へと転化させた存在…それが古の吸血鬼<賢者イヴ>」
「…?ああ。そういや、前にも言ってたな。確か…レミリアってのが来た時だっけ?」
かつて川崎市に現れた幼き姿の吸血鬼をレッドは思い出していた。ジローは軽く頷く。
「その通りです。八雲紫についても、その時に説明していたでしょう?」
「ああ。幻想郷を創った妖怪…だっけ?」
「そう。境界の妖怪・幻想郷の母―――それが、八雲紫…」
「あら、随分褒めてくれるのね?嬉しいわ」
突如響く声に周囲を見渡すが、何処にも誰の姿も見えない。
「ふふ…このままじゃ話しづらいかしら?」
空間が、音もなく裂けた。その中から何の気負いもなさそうにヒョイ、と出てきたのは例の少女。
木々の隙間から僅かに降り注ぐ月光に照らされたその姿の、何と美しい事か。
その美しさこそが、まさに彼女の人外性を証明していた。
人間ではない。怪人ですらない。
彼女はもっと―――まるで<別の何か>だ。
「月のいい夜にこんばんわ…此処は我等にとって最後の楽園・幻想郷。そして私は八雲紫。永遠の十七歳よ」
ジョークのつもりかもしれなかったが、誰一人クスリともしなかった。
「れ、れ、れ、レッドさん…」
ヴァンプ様はすっかり怯えて、レッドさんの背後に隠れてしまう。
「お前…悪の将軍が真っ先にビビってんじゃねーよ、ったく」
悪態をつきながらも、レッドは己の全身が緊張している事に気付いた。
(こいつは…なんつーバケモンだ…!)
意志の疎通も問題なく行える。いきなり妙な世界に引きずり込んできたとはいえど、こちらに危害を加えようとする
つもりもなさそうだ。
それでも―――レッドは、警戒心を解く事ができない。
隣にいるジローも、いつでも刀を抜けるように柄に手をかけている。
「そんなに怖い顔しないでよ、別に取って喰おうというわけじゃないんだから」
レッド達とは対照的に、紫は笑顔で手をヒラヒラさせる。
「もしかして、いきなり幻想郷に引き込んだ事を怒ってるのかしら?だったら謝るわ、ごめんなさい」
彼女に邪気はないと、頭で理解はできる。だが、疑念は未だに拭えない。
今にもたおやかな少女の仮面を脱ぎ捨て、牙を剥いて襲いかかってくるのではないか―――
そんな風に思えてならない。
レッドは傍らにいる三人を横目で見る。
この中で一番強いのは自分だという自負はあった。あくまで一対一の勝負なら、この怪物が相手でも後塵を拝する
気は更々なかった。だが今は、自分一人ではない。
ジローは百年を生きる歴戦の吸血鬼で、剣士としても一流だ。相手が八雲紫といえど、簡単にやられはすまい。
問題は、残る二人。
(ヴァンプとコタロウなんざ、こいつにかかったら逃げる間もなく殺されちまう…!)
彼等を守りながらでは、ジローと二人がかりでも厳しい闘いになるだろう。
もしも、守り切れなかったら―――
「…くそっ」
最悪の事ばかり考えてしまうのは、やはり恐れているからなのか。
<境界の妖怪>八雲紫を―――!
「怖がらなくて大丈夫だよ、みんな」
その声は、コタロウのものだった。
「この人は、悪い人じゃないよ」
彼はまるで恐れる様子もなく、じっと、紫を見つめていた。
視線に気付いたのか、紫もコタロウに顔を向ける。
そして、彼の碧い瞳と視線を交錯させた。
「はじめまして、紫ちゃん」
コタロウは屈託のない笑顔を浮かべ、そう言った。
「ぼくは、望月コタロウだよ」
「…はじめまして、コタロウ」
コタロウに向けて紫は、微笑みを返した。
先程までの人を喰ったような表情ではなく。まるで古くからの友人を迎え入れるような、優しい笑顔だった。
細くしなやかな手を、コタロウに差し出す。コタロウは迷うことなく、その手を握った。
「会えて嬉しいわ。これから仲良くしましょうね」
「うん!ぼくたちきっと、いい友達になれるよ」
それを見た瞬間、ほんの少しだが彼女に対する警戒と不信感が消えるのをレッド達は自覚した。
少なくとも―――<邪悪>ではない。
そう思えた。
「さて…このまま立ち話もなんだわね。私の友達の家が近くにあるわ。お話しはそこでしましょう…何故にあなた達を
この世界へ呼んだのか、そこで教えて差し上げるわ」
返事を待たず、さっさと紫は歩いていく。
「あ、待ってよ紫ちゃん!ほらみんな、紫ちゃん行っちゃうよ。追いかけないと!」
「お前が仕切るんじゃねーよ、ったく…」
コタロウを先頭に、四人は紫の後を追う。
その先に何が待つのか、彼らはまだ知らない。
幻想世界の不思議な夜は、まだ始まったばかりだった。
カイカイさんのあと、あまり間をおかずの投稿ですいません。
いやあ、とうとう投下しちまいましたよ。これでもう後戻りはできませんぜ…!
今回の話は<ネタに詰まったら長編書いとけ!><困ったらとりあえずバトルトーナメントしとけ!>
というノリで書くので、細部は適当です…というと言いすぎですが(汗)
今回はそこそこ長編になります。レッドさんも各種フォームを解禁して、いつになく真面目に闘っちゃったり
します。
題材はいつも通りに天体戦士サンレッド。あとBBB(ブラック・ブラッド・ブラザーズ)。
そして、東方project。
BBBについてはそこまで掘り下げる予定ではないのですが、これを読んでくださった人が興味を持って原作小説
に手を出してくれたらいいなあ…なんて。数多の吸血鬼モノの中でも、屈指の出来だと思いますので、是非。
中盤〜終盤にかけての盛り上がりは、小説読んでて初めて震えが来たほど…ああ、また読み返したくなってきた。
しかし東方には<アリス・マーガトロイド>がいるから、名前被りだとややこしいぜw
>>75 問題はレッドさんは黙って迫害されるような大人しい漢ではないということ。一人で第三勢力と化して
大暴れしそうな気もしますね(笑)
>>76 ちょうど鯖落ちする寸前に投下したからです。なんてタイミング。
>>チンピラが何で説教してるんだw
いやホント、何でこうなるんでしょうか…。
>>ふら〜りさん
スタープラチナはジョジョにしては珍しく、戦略もクソもない力押しの戦闘が多かったですよね。
それでいていざとなったら知能戦もできる承太郎はいい主人公でした。
というわけで、いつになく重いふいんきで始まったサンレッド外伝です。まあ次回からはもうちょいライトな展開に
なる予定ですが。
>>85 >>86 SSを書いてて一番嬉しいのは<このSS読んで原作に手を出した>これに尽きます。
原作サンレッド、僕の書く駄文の100倍は面白いですよね!(自虐)
>>邪神?さん
トニオさんの料理の魅力には、殺人鬼もメロメロか…流石トニオさん。僕もトニオさんの料理を食べてみたいと、原作
読んだ時から今でも思っとります。確か小説版じゃ悪性腫瘍治すレベルに達してましたよね、彼。凄すぎる。
しかし、しゃっきりポンってwしゃっきりポンって、栗田さんは本当になんでこんな表現を思いついたんだろうかw
―――ヒムは…ヒムは、遠くに行っちまったんですよ…。
111 :
作者の都合により名無しです:2010/03/14(日) 10:48:30 ID:wla29mJz0
最近の2ch大規制酷くない?
>邪神さん
この料理は邪神さんのオリジナルかな?
サラダうまそうだ。これからメインにかけてどんな料理が飛び出すのやらw
>カイカイさん
カイジとオリバが同じ作品内で共存するのはなかなか面白いですなw
帝愛のキャパを超えるキャラが多いので、収集がつくのかw
>サマサさん
SS書く人は東方すきが多いのかwレッドさんなら怪物ぞろいの中でも
飛びぬけた力と不条理を見せてくれるはず。
美味そうだな、トニオの料理
こういうのは普段作者がどういうもの喰ってるかが勝負
邪心さんはグルメかな
113 :
ふら〜り:2010/03/14(日) 20:38:31 ID:uzzZHRAdP
>>邪神さん
恥ずかしながら、チコリーもブルーチーズも食べたことない身ですが、それでも今回は読んでて
唾が湧きました。これが休憩パート、というのは早人の為のものですねこれ。四六時中緊張
してる彼が、今ひと時だけトニオさんの料理で心を休められる。美味しい料理は偉大なり。
>>カイカイさん
言われて気付く。ゲバルって、その作品世界なら社会科の教科書に載っててもおかしくないん
ですよね。バキとか授業で習ってるかも。そして相変わらず誰が強いのか弱いのかよくわからん
空間ですが、主役(かなぁ……)ののび太、そろそろ射撃の腕前でも披露して欲しいところ。
>>サマサさん
こういう、遠い異世界からのコンタクトはドラ長編っぽくてわくわくしますなぁ。レッドがいるから、
「目の前の敵を倒す」だけならドラや遊戯やおそらくガンダムにも負けないでしょうが、状況
に応じたいろんな能力となると……他のメンツ、そしてレッドにも、どれだけのことができるか?
114 :
作者の都合により名無しです:2010/03/15(月) 11:23:03 ID:LTKgzAha0
サマサさんといい邪神さんといい今回は旨そうだなw
太陽の光さえ届かぬ地の底。
幻想郷の地上と地底を繋ぐ巨大な洞穴の中に、その橋はあった。
――渡る者が途絶えた橋。
つけられた名の如く、この橋を渡る人間、あるいは妖怪は存在しない。夜
の闇よりも濃い暗闇に浮かび上がる橋は不気味の一言で、進んでここを訪れ
る者は、よほどの酔狂の持ち主か、はたまたこの橋と強い縁を持つ者か。
しかし、誰もいないと思われた橋の上に、一つの人影があった。
ややウェーブがかかった金色の髪に、鋭角的に尖った耳、ペルシャの民族
衣装によく似た装束を纏った少女。緑色の瞳に憂鬱を滲ませて、彼女はたっ
たひとりで、洞穴の上を見上げる。その視線の先にある何か≠、求める
ように。
彼女の名は、水橋パルスィ。
『嫉妬心を操る程度の能力』を持ち、ここ幻想郷に生きる有象無象の妖怪
のひとつ、橋姫である。
――橋姫。
橋に奉られ橋を守護する女神、あるいは嫉妬に狂い橋から身を投げた人間
が成り果てた鬼神であるとも伝えられる妖怪。有名なのは京に伝わる『宇治
の橋姫』だろうか。最愛の夫を別の女に奪われ嫉妬に狂い、呪いの成就を祈
願し宇治の水底に沈んだある女≠ヘ、妖怪橋姫に変じ、憎い恋敵と縁を結
ぶ者の悉くを憑り殺したあげく、その時代に生きた稀代の陰陽師に調伏され
たという。
その『宇治の橋姫』とパルスィの間にどんな関連性があるのか、誰も知ら
ない。この橋に訪れる者はいないし、何より、パルスィが過去を語りたがら
ないためだ。ただ、パルスィが『宇治の橋姫』と同一ではなくとも、似たよ
うな過去を経てきたことは推察できる。
――彼女は、この橋から離れることができない。
強力な呪いにも似た縁が、パルスィをこの橋に縛っている。
橋姫は数々の伝承に残っているように、橋と縁を持ち、嫉妬に狂った人間
が変じた妖怪だ。この場所から動けぬほど強い由縁が橋とパルスィとの間に
在る以上、彼女が胸に秘するにはあまりにもつらい想い――おそらくは大切
な人を奪われた悲しみからくる嫉妬――を遺して死んだ人間だったことはわ
かる。
パルスィは何も語らず、ずっと橋の上を見つめている。
その先にある、暗闇蠢く地底とは違い、美しき蒼穹が広がる地上を想う。
「……きっと今頃、地底と地上の妖怪たちで宴会でもやってる最中かしらね。
ふん、『過去の諍いは忘れて仲良くしましょう』、か。その能天気ぶりが嫉
ましいわ」
妖怪の賢者は謳う。『幻想郷はすべてを受け入れる』と。
だが建前では『すべてを受け入れる』と謳っていても、実際には偏見や差
別や争いがないわけではない。よく楽園と呼ばれる幻想郷ではあるが、ヒエ
ラルキーの頂点にいる妖怪の中には人喰いを嗜好するものもいるし、人里に
は妖怪退治の知識を蒐集してきた退魔の末裔が暮らしている。
どんなに大層なお題目を掲げても、決して綺麗なままでは生きられない。
地上に住む以上、穢れを免れることはできない。清濁白黒すべてを内包する
小さな世界、それが今の幻想郷だった。
そして地底に棲む妖怪たちは、その幻想郷の黒い部分の象徴とも言えた。
地底――人間と妖怪から忌み嫌われる者達の掃き溜めとも言える場所。
すべてを受け入れると謳う幻想郷においても、人間や妖怪から疎まれ、忌
避された妖怪たち。屍骸を集める妖怪、他人の心を読む妖怪、疫病をもたら
す妖怪、どれも普通の人間や妖怪との共存が難しいものたちだ。
屍骸を蒐集して悦ぶ妖怪と仲良くしたいと思う者がいるだろうか。自分の
心を曝け出されて不安に思わぬ者はいるだろうか。身体が病魔に蝕まれても
手を取り合いたいと思う者がいるだろうか。
彼らの居場所は幻想郷には存在しなかった。人間はもちろん、朋友である
はずの妖怪からも見捨てられた。そんな現状を憂慮したひとりの妖怪の賢者
と、現在の地霊殿の盟主である妖怪覚≠ニの間で、苦肉の策がとられた。
幻想郷の地下に存在する、広大な空間。旧地獄街道も在るその場所に、忌
み嫌われる妖怪たちを集めて、地上とは別のコミュニティを造る。そして地
上へと続く洞穴を閉ざし、地底と地上の接触を永久に禁止する。『こっちは
こっちでやるから、そっちはそっちで楽しくやってくれ。もう何も奪わない
でくれ』ということだ。
かくして妖怪の賢者と地霊殿の盟主との間で秘密の約定が結ばれ、以後、
ながらく地底と地上は断絶状態にあった。
しかし最近になってその事情も幾らか変化してきた。
間欠泉の異変以後、地底と地上の交流が再開されたのだ。
『楽園の素敵な巫女』博麗霊夢と、
『普通の魔法使い』霧雨魔理沙によって。
突如として地上に噴出した間欠泉に亡霊が紛れていたことを不審に思った
ふたりは、その謎を解明するために、封印されていた地底への道を拓き、異
変の首謀者たちを叩きのめした。それによってなし崩し的に地上と地底の交
流は再開された。パルスィ自身としては、そんな適当でよいのだろうかと感
じたものだが、地上と地底の共存は思いのほか上手くいっているらしい。
件の異変の首謀者であった妖怪とその友人はしょっちゅう地上に顔を出し
ているとのことだし、反対に地底にくる妖怪も多くなった。
妖怪の山の四天王の一角、『小さな百鬼夜行』伊吹萃香がその筆頭だろう。
彼女は、地上を棄てて地底に住むようになった鬼たちが築いた旧都に、よ
く飲み比べをするために足を運んでいる。どう見ても幼女にしか見えない伊
吹萃香が、屈強な鬼たちを酔い潰し屈服させていく様はまさに圧巻の一言だ
ったと、パルスィは風の噂に聞いていた。
これまでの確執が嘘のように、地底と地上は友好を結んでいる。
それだけ幻想郷の住人の精神が豊かになったということの証左なのだろう
か。パルスィにはわからない。ただ、上位妖怪の間に限って言えば、地底妖
怪の対する偏見は既に取り払われたと見ていいだろう。
地底の妖怪たちは、暖かな光を手に入れたのだ。
しかし自分はそうはいかない。手を取り合って輪に入りたくても、橋の呪
いがそれを赦してくれない。どれだけ焦がれこの手を伸ばそうと、暖かな光
を掴むことはできない。この暗く湿った地底に永劫留まり続け、光が降り注
ぐ地上に生きる幸せな者達を嫉み続ける――それが妖怪橋姫に堕した自分に
お似合いの運命だ。
……そう、パルスィはずっと思っていたのだが。
「また今日も辛気臭い顔してるなパルスィ、そんなんじゃせっかくの美人が
台無しだぞ!」
「ぐわらば!?」
どすぅ! 突然背中に生じた衝撃によって、パルスィは空に吹っ飛んだ。
緩やかな放物線を描いてパルスィはゆっくりと落下し、橋の手すりと激突。
「ぶしゃあああ」と額から盛大に血飛沫を撒き散らしながら、ごろごろと橋
の上を転がり、そのまま橋の下を流れる川に転落。哀れ水橋パルスィは地底
の迷宮に散った。
「いきなり背中ブッ叩いてなに考えてんだこの馬鹿鬼がァ! おかげで三途
の川のむこうでおいでおいでする元夫の姿が見えたわ!」
いや生きてた。頭からだくだくと血を流しながら這い出してきた。まるで
貴船神社へ祈願しに行った時のように鬼気迫る表情で、自分の背中を叩いた
誰かを睨みつける。
「すまんすまん。しかしパルスィは貧弱だなあ、私は軽く撫でただけだぞ?」
「人を虚弱児みたいに言うな! ハッ! さすがは『語られる怪力乱神』の
異名の持ち主、あんたにかかればどんな人妖も指先ひとつでダウンでしょう
ね! 私なんて、あんたからすれば路傍に転がる石ころみたいなモンでしょ
うね!」
「ははは。あんな酷い仕打ちをされたのに、私のことを褒めるだなんて、や
っぱりパルスィは他人のいいところを見つける天才だなあ」
「自覚してやがったよこいつ! しかも皮肉がまったく通じてねえ――!」
「まあまあ気を静めなよ。じゃないといつまでたっても血が止まらないよ?」
「だれの所為だよくそったれ! ――うわあ、これまじで致命傷だよ。血が
だくだくって止まる気配ないもの。……うふふ、また三途の川が見えてきた
わあ。小町さんは相変わらずシエスタしてるのね。ああ、あの人がいる……
ああ、あの人も……なんだ、みんな、幸せにしてたのね……」
「モルヒネの麻酔のまぼろしさ〜、そうでなきゃきっとうわごと〜」
「まぼろしでも夢でもいいじゃない〜、あ〜、モモコは〜、しあーわーせ〜
――って何を歌わせてる!? ってかモモコってだれ!?」
「世を儚み生まれ変わるため空へと飛んで、最後に救われた少女さ。きっと
ね(キリッ」
「なにが(キリッよ! こっちは死に掛けたってのに! ってかまぼろしでも元
夫が幸せそうにのうのうと天国で暮らしてるのが嫉ましい! くそ、「世界
で君だけを愛している」ってほざいたくせにすぐ別の女に乗り換えやがって!
また祟り殺してやろかあの野郎――!」
「ただあのアルバムの恐るべきところはちょっと救いが見えた瞬間に、何の
救いもない楽曲を最後に据えて一気に突き落とすところにあるね。私は嘘も
バッドエンドも大嫌いで、あのバンドとは絶対に相容れないと思っているけ
れど、そんな個人的な感情は抜きにしても、『レティクル座』は名盤だと思
っているよ」
「無視された!? けっこう重い話なのにどうでもいいCDの感想で華麗に
スルーされちゃったよ私の過去設定! あんたが来た所為でこれまでのシリ
アスな空気がすっかり迷子よ! このシリアスブレイカー! どう責任とっ
てくれんのよ! ってかあんたも私も地底で数百年は過ごして来たって設定
でしょうが! 何で外の人間の、しかもいまではコアな音楽ファンしか知ら
ないグループの楽曲なんて知ってるのよ!」
「きっと絶望少女辺りの楽曲聴いて久しぶりに筋少熱がぶり返した作者が、
境界の妖怪にメタの境界をいじくらせてゴリ押しした結果だろうなあ」
「作者の都合にあわせて能力行使しなきゃいけないなんて八雲紫も大変ね!?
あげく大体の東方SSではくろまく(笑)的扱い。クロスオーバー作品での
他作品間の接着剤、『境界を操る程度の能力』で、どんなキャラもお手軽に
幻想入り! ああ、世のSS作家から便利屋扱いされる優遇っぷりが嫉まし
い!」
「パルスィ、メタ発言は禁じ手だ。無闇に使っていいものじゃない。その発
言はいろんな人を敵に回す。それになにより、サマサさんに失礼だろう!」
「知らないわよ! サマサって誰よ!」
「謝れ! サマサさんに謝れ!」
「ぬぐ……ゴ、ゴメンナサイ……」
「んん? 聞こえんなあ〜」
「〜〜ッ! ……失礼な発言をして本当に申し訳ありませんでしたっ! ど
うよ、これで文句ないでしょ!?」
「ああ。しかし本当に、メタ発言は控えるんだぞ、パルスィ」
「真っ先にその禁じ手を破ったあんたにだけは言われたくなかったご忠告ど
うもありがとう! 有難すぎて涙と血が止まらないわ!」
「むう、確かにこのままほっとくと不味いことになるな。よしわかった、つ
きっきりで看病してあげよう、私のお姫様。まずは悪いばい菌が入り込まな
いよう傷口を酒で消毒しよう」
「くそっ、結局それが目的かよこのエロ鬼がァ! 何かにつけて私の身体に
触ろうとしやがって、その大胆さが嫉ましい! って頭にぶっかけられたお
酒が傷口に染みてくきぃぃぃぃぃ!?」
「……パルスィ。濡れそぼってるあんた、中々エロティックだな……」
「おいやめろ、そんな熱っぽい視線で私を見るな、ってあんた私の上着に手
をかけて何をしようとしてるやめろ馬鹿――!!」
少女格闘中……。
「はー、はー、はー、はー、はー……」
「悪ふざけが過ぎたことは謝るよ、パルスィ。だからそろそろ機嫌をなおし
てくれないか?」
「ふん!」
鼻息荒くそっぽを向くパルスィと、両手を合わせて謝罪の意を示す女性。
額からそそり立つ紅の角、腰までかかる鮮やかな金色の髪。体操着に酷似
した装束はややサイズがあってはいないらしく、ぴったりと彼女の肢体に張
り付き、その豊満なバストを強調している。
彼女の名は、星熊勇儀(ほしくま・ゆうぎ)。旧都に棲む鬼たちの総元締め
として、地霊殿の盟主である古明地さとりとともに、この地底を治める妖怪
である。
『心を読む程度の能力』によって地底の妖怪からも避けられている古明地
さとりとは違い、勇儀は豪放磊落で姉御肌な性格のため、仲間の鬼だけでは
なく多くの地底妖怪に慕われていた。
「……で、今日はいったい何の用よ?」
やっと血が止まり、平静さを取り戻したパルスィが問う。
「いやなに、パルスィと一杯飲もうかと思ってね」
「……またなの? まったく、酒さえ飲めれば万事オッケーなそのポジティ
ブさが嫉ましいわ」
「そういうパルスィだって鬼じゃないか」
「私は橋姫よ。貴船さまの加護で鬼神に変じたとはいえ、元は人間だもの。
根っからの酒豪じゃないの。あんたのペースにあわせてちゃ身が持たないし、
そもそも私は酒が苦手で……」
「まあまあ、とにかく呑もう!」
「話聞いてたのかこの馬鹿鬼!」
こちらの都合を一切省みない彼女の姿勢に、パルスィは少しだけ苛立つ。
星熊勇儀という妖怪はいつもこうだ。己の力で万事解決すると思っている。
こちらの憂鬱な気分を粉々に打ち砕いてくれる。別に頼んだわけでもないの
に、この妖怪は、自分の傍にいてくれる。そんなマイペース極まる彼女に振
り回されるのは一度や二度だけではなかった。
だが、大江山にこの鬼ありと怖れられた彼女に抗えるだけの力は、自分に
はない。今日も記憶がなくなるまで酒を飲まされ、明日は二日酔いに苦しむ
ことになる――そんなのは毎度のことで、もう慣れっこだったが。
だが、今日はいつもと違うようだ。パルスィは、勇儀がいつもの酒とは別
に、他の何か≠持ってきていることに気がついた。
「なによそれ」
「ん、ああこいつかい?」
それは小さな紙箱だった。異国風の装飾が施されたもので、日本生まれの
妖怪である勇儀には少々似合わない代物だった。
パルスィにはその紙箱に見覚えがあった。それと似たような箱を見た記憶
があった。
「あ、それもしかして……バ、バレリオン?」
「どこの砲撃戦型AMだいそれ。バレンタインチョコだよ、バレンタイン」
「そ、そう、それそれ。あの黒白の魔法使いが広めたっていう」
「あの時はたまげたなあ。彗星がパルスィの真上に落っこちて爆発したと思
ったら、パルスィの後頭部にちっこい紙箱が埋まっててさ」
「リアルメテオストライクで死に掛けたけどね……怪力を発揮したり、隕石
から地球を救ったりとかはなかったけど」
――バレンタイン。外の世界の男女間で行われているというそれは、何年
か前に起こった星降る夜の砂糖菓子の流星と、それに呼応して八雲家が主催
した遊惰な星隠しというただの馬鹿騒ぎによって、幻想郷の住人の知るとこ
ろになった。いまではすっかり、バレンタインは幻想郷の恒例行事となって
いる。
おかげでチョコの材料の調達に境界の妖怪が奔走する羽目になったとか、
鈍感な片思い相手に対する日ごろ溜まった鬱憤……いや、純粋なる想いをチ
ョコとして伝えるべく集まった同士たち――中心人物は七色の人形遣い――
による、お料理教室が開かれていたりとか、そのたびにアクシデントが発生
しチョコが大爆発を起こして台無しになったりとかは、それはまた別のおは
なしである。
「ふーん。もうそんな時季なのね。知らなかったわ」
「ずっと地底にいると時間の流れも曖昧になっちまうのかね。地上じゃすご
い騒ぎだったよ」
「悪かったわね。どうせ引き篭もりみたいなものよ、私は。でもあんただっ
てつい最近まで同じようなものだったじゃない。自由に地上に行けるように
なったからって偉そうにすんな」
「すまんすまん、そう腐りなさんな」
「で、そろそろ私は理由が聞きたいわね。どうしてあんたは、今になって
<`ョコを持ってきたりしたのよ」
今日は3月14日。バレンタインデーはもうとっくの昔に過ぎている。今
頃になってチョコを渡す理由がわからない。もし彼女がバレンタインをすっ
かり忘れていて、その埋め合わせをするためだけにチョコを持ってきたのだ
としたら、興ざめを通り越して怒りを覚えてしまうところだ。
……本当は。バレンタインの日、ずっとずっと、彼女が来るのを待ってい
たというのに。
「実はなパルスィ、誰かに親愛を示すためチョコを渡すイベントは、バレン
タインデーだけじゃないんだ」
――ホワイトデー。
バレンタインデーにチョコを貰ったひとが、お返しとしてプレゼントを渡
す日。
「……な、なによそれ。私、勇儀にチョコなんて渡してないわよ。お返しだ
なんて……」
「パルスィは私と酒を飲んでくれるじゃないか。無理を言って押しかけてる
に、パルスィは絶対に断らない。これはそのお礼だよ」
「そんなこと言って……ただ酒が飲みたくて、そんな口実作ってるだけじゃ
ないの?」
「そうかもしれん。地底に咲く可憐な花を愛でながら味わう酒は、千年の月
日を閲した名酒が霞むほど格別だからね」
「……そんな恥ずかしい台詞がぽんぽん出てくるあんたの言語中枢が嫉まし
いわ」
そんな風に憎まれ口を叩きながら、パルスィはチョコを受け取った。
――本当は飛び上がって抱きつきたくなるほど嬉しかったのだが、意地っ
張りな彼女は、寸での所で自分を押し留めた。
「ありがとう、私、とってもうれしいわ」――だなんて、絶対に言ってあげ
ない。そんな顔から火が出そうな台詞を吐いて、彼女を喜ばせてたまるもの
か。いつも彼女に振り回されているのだ、そのくらいの意地悪をしても別に
ばちは当たらないだろう。
「では、パルスィと私のこれからに幸多からんことを祈って」
「……目の前の馬鹿がいつか治癒されることを祈って」
言葉と酒盃を交わして、パルスィと勇儀はホワイトデーのチョコを味わった。
<了>
少女飲酒中……。
少女飲酒中……。
少女飲酒中……。
少女泥酔中……。
「ふあああああぁああん、ゆうぅぎぃいい、いつも私なんかにかまってくれ
てありがとぉぉぉぉぉぉぉ! 私、ぜんっぜん素直じゃないからいつもツン
ツンしてるけど、ゆうぎと会えるのとっっっっっっっても楽しみにしてるん
だかりゃあ!」
「パルスィ。呑みすぎだ」
「にょませた当人がにゃあにいってるのよぉ、ヒック。――ふわあ、ゆうぎ
のおっぱいやわらかぁい。もふもふ! もふもふぅ! なによぉこの生意気
なおっぱい、ぺったらな私をばかにしてんの? 嫉ましい! でもさわっち
ゃう! つんつくつんつくつんつくつん!」
「や、やめなよパルスィ。くすぐったいよ……」
「なによ! 私におっぱいさわられるのがイヤなの!? 嘘だっ! どうせ
さわられたいから私のところに夜這いにきてんでしょ? 私のことが大好き
で大好きで仕方がないんでしょ!?」
「ああ。大好きさね」
「私も大好きぃ! ゆうぎのことを世界でいっっっっちばん愛してりゅのぉ!
でもどう愛したりゃいいかわからにゃいのぉ! また裏切られるかもしれに
ゃいって不安でたまらにゃいのぉ! もうあんにゃ想いはしたくにゃいのぉ!
もうひとりはぜったいにいやぁ!」
「私はパルスィのことをひとりにはしないよ。ずっとパルスィの傍にいる」
「……それ、ほんと? 嘘じゃない?」
「私が嘘が大嫌いってことは、パルスィだって知っているだろう?」
「う……ひっぐ。ゆうぎぃ、愛してるぅっ! 大好きっ! 私、ゆうぎから
絶対に離れない! ずっといっしょにいるぅ!」
「ははははは。パルスィは甘えんぼだなあ」
「そう! 私は甘えんぼらのぉ! だからこれからはたっくさん甘えるのぉ!
世界中が私に嫉妬するくらいに! 勇儀から愛されて幸せな私に世界中が
嫉妬するくらいにぃ! ……んみゅ、ふわぁ」
「眠くなったのかい、パルスィ」
「……うん」
「もう遅いから休みな、私が傍にいるから」
「そうするぅ……わあぃ、勇儀の膝枕、きもちいい……zzz」
「……ふふ」
「――成る程、『パルスィの寝顔がかわいすぎて生きるのがツライこのまま
ちゅっちゅしたい』、ですか」
「んな!? ――なんだいびっくりさせないでおくれよ、古明地」
「これは失礼、私の能力は自動的ですので」
氷のような無表情で、どこぞの死神のようなことをのたまう少女。
癖毛のある薄い紫色の短髪、淡い空色をした部屋着、そして胸のあたりに
ある、ぎょろりと開いた第三の瞳……。
彼女の名は、古明地さとり。
旧灼熱地獄跡に建造された地霊殿に盟主として君臨し、この地底を治める
妖怪覚(さとり)。そして忌み嫌われる妖怪たちの筆頭でもある。
彼女の能力――『心を読む程度の能力』に恐れを抱かない者はいない。そ
れは幻想郷最強種と謳われる鬼とて例外ではない。旧都の鬼は、さとりが棲
む地霊殿に決して近づかない。
ただ勇儀とさとりの両名に関してだけは、けっこう仲が良かった。
勇儀の頼みを聞いて、さとりが重い腰を上げて地上へ赴く程度には。
「まったく、こんないたいけな幼女に重労働させるなんてあなたは鬼ですか。
……なになに、『あんただってウン百歳はいってるババアじゃないか』、で
すって? 失礼な、どうみても小五にしか見えない私とBBA(Beautiful B
eing Alliance)の御三方と一緒にしないでください。それに実際きついんで
すよ、あなたと違って私はデスクワーク派ですし、しかも地上は煩悩まみれ
の者が多くて歩くだけで心が削られて……」
「あー、わかったよ古明地。ちゃんと感謝してるよ。私の頼みを聞いてくれ
て、ありがとうな」
「……嘘は言ってないようですね。ま、あなたに限って嘘をつくことなどあ
りえませんが」
ふう、とさとりは疲れたように息をついた。そして勇儀の膝の上ですやす
やと眠るパルスィを、醒めた目つきで見つめる。
「しかし最初に聞いた時は耳を疑いましたよ。まさか、あの星熊勇儀がチョ
コを作りたいなんて、ねえ」
勇儀の頼み――チョコレートのレシピを教えて欲しい。
さとりは思わず椅子からこけるほど驚いたが、彼女の真剣な表情と心を視
て、旧友のために一肌脱ぐことに決めた。
まずは地上に赴き、七色の人形遣いからレシピを入手。次は境界の妖怪の
トラウマを自分の能力の応用で刺激、「れんこぉぉぉぉぉぉ!」と叫び涙を
流す境界の妖怪の隙をついて、チョコの材料を強奪。ここまでは順調にいっ
た。問題は調理の段階で起こった。
『語られる怪力乱神』星熊勇儀。生れ落ちてざっと数百年、生まれてこの
方料理をしたことがない。刃物を持ったことがない、そもそも酒とつまみだ
けで生きているような妖怪である。そんな彼女がチョコを作る――道のりは
あまりにも険しく、ゴールは遥か彼方にあった。
砂糖と塩を間違えたりするのは可愛いもので、調理過程で「正体不明の種」
を混ぜてしまい名状し難きもっと別の何か的な代物が出来上がったり、火加
減を盛大に誤ってあわや地霊殿が核融合の炎に包まれる大惨事にまで発展し
そうになったり。
そんなこんなで、ようやくチョコが出来上がったのは昨日。完成したチョ
コを手に意気揚々とパルスィの元へ向かった勇儀と、灰燼と化した地霊殿を
背にそれを見送ったさとりとその家族。自分たちの住居が壊滅する羽目にな
ったが、普段見られないような勇儀の慌てた表情だったりとか乙女らしい表
情とかを見られたので、さとり個人として満足していた。
「それにしても、ふふ。チョコの出来で一喜一憂するあなたの心を視るのは
痛快でしたね。本当にごちそうさまでした」
「相変わらず趣味が悪いね、古明地」
「失礼、私はひねくれているのでね。……しかし、わかりませんね、勇儀。
なぜあなたがパルスィにチョコを渡したいと……何々、『簡単なことさ、パ
ルスィの笑顔が見たかっただけだよ』……はいはいバカップルバカップル。
ああいや、質問の仕方を間違ったようですね。あなたは何故そんなにも水橋
パルスィに入れ込むのですか?」
「パルスィが幸せなことを積み重ねることでさ、橋の呪いが解けるかと思っ
て」
「…………」
「こいつは、自分は絶対に幸せにはなれないって思い込んでる。どんなに他
人を愛しても、いつか裏切られるんじゃないかって、怖くてたまらないんだ。
誰かを愛することで自分が深く傷つくなら、もう愛なんていらない。この橋
で、誰とも会わず、孤独に生きる……橋姫と橋の縁ももちろんあるだろうが、
パルスィがこの橋から離れられないのは、無意識下で他人を拒絶しているからさ。
……私はパルスィの過去に何があったのか知らない。別に無理に知ろうと
も思わない。でもさ、過去に囚われたまま孤独に生きるなんて、あまりにつ
らいことじゃないか。だから私は、パルスィに教えてやるって決めたのさ。
あんたは絶対に幸せになれる、私がしてやる、ってね」
「それで、バレンタインデー……いや、ホワイトデー、ですか」
「ああ。――私はパルスィを世界で一番の幸せものにしてやりたい。膨大な
不幸せな過去を、膨大な幸せな現在が粉砕し、パルスィを笑顔でいっぱいに
させてやりたいんだ」
「……しかし、そんな日が本当に来るのでしょうか」
「来るさ。地底が解放され、人妖問わず、みんな笑って暮らせてるいまの幻
想郷なら。――古明地。いや、さとり。あんたとあんたの妹だって、きっと
そう≠ネるさ」
「……ふ。鬼たるあなたがそう言うのなら、それは嘘ではないでしょうね」
「嘘なもんか。知ってるだろう? 私は、嘘が大嫌いなんだ」
そう言って勇儀は笑った。それは地底には存在しないはずの、地上の蒼天
にて輝く太陽のようだった。そんな勇儀を見て、さとりの氷のように冷たい
無表情が、僅かに変わった。それは微笑。――地底が閉ざされ、そして彼女
の妹が心を閉ざしてから、一度も浮かべたことがなかったもの。
胸に生まれた暖かなものを感じながら、さとりは思う。地底は変わった。
地底に棲む者たちも変わりつつある。パルスィも、そして、自分も。
「いつか、地霊殿で宴会を開きましょう。その時は、必ずパルスィを連れて
来てくださいね。あなたも知っているように、彼女は素直ではありませんか
ら」
「ああ、見せ付けてやるよ。私とパルスィの仲を、嫌になるくらいにね」
「ふふ。楽しみにしています。それでは、また」
そう言って古明地さとりは去っていった。
後には勇儀とパルスィだけが残された。
――渡る者が途絶えた橋。
その名の如く、誰も此処を訪れる者はいなかった。けれど、今は違う。
孤独な橋姫の傍らには優しい鬼がいる。きっと彼女が呪いから解放される
のも、そして地底の妖怪が幸せに笑えるようになるのも、そう遠い日のこと
ではないだろう。
――to be contined HAPPY END of All Touhou Chireiden Characters!
――覚悟は出来ています、サマサさん。どうぞ煮るなり焼くなり好きにしてください(聖者は十字架に架けられましたポーズで
ってか色々はっちゃけた所為で本筋を見失っている気がします。でも、3/14に投稿できてよかった。まだ3/14の44:40頃ですから、ぎり大丈夫ですよね?
というわけで、またしても東方SS、キャストは東方地霊殿から水橋パルスィと星熊勇儀と、チョイ役で古明地さとり。
バレンタインデーに投稿できなかったので、無理くりホワイトデーSS書いてみました。
ふら〜りさん
こういう女性のタイプは好きですけど、三次元では決してお目にかかりたくありませんw
SS上ならまだしも、現実に居たら真っ先に眼を逸らします。やっぱり三次元より二次元……。
>>前スレ279
ですよねーw
>>前スレ280
いつか元ネタリストを作成して公開したりするかもしれません。
本スレに投稿という形ではなく、ブログに張った物を公開するような感じで。そういえばブログ、まだ残ってるかな……。
サマサさん
(腹を見せて完全屈服ポーズ
……こ、この度はSSの中に勝手にサマサさんの名前を出して申し訳ありませんでした……。
SSの中でパルスィはああ言っていますけど、やっぱりクロスさせる上ではゆかりんの力を借りるしかないと自分も思います。……自分もクロスさせる時はゆかりんの能力を使うと思います。
ですので……へ、へへ……どうかお慈悲ぉ!
>>天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 〜惑いて来たれ、遊惰の宴〜
とうとうレッドさん一行が幻想郷に……! ということは、以前サマサさんが仰っていた勇儀やお空や文とのガチバトルが現実のものに!?
単純な力だけなら色々とヤバイ面子が揃ってるので、今からわくわくが止まりません……! あ、ちなみに俺の嫁のひじりん(聖白蓮)の出番はありますか?
>>まさに終末の世界…!川崎でくすぶってるチンピラヒーローをこの世界に派遣しましょうか?(かなりマジで)
〈ロスクロ〉世界の日本は、
最近スターの座を駆け下っている超悪霊☆シンデレラ諫山黄泉ちゃんを偶像(アイドル)に据え、「わたしの恋はホッチキス(ガハラさん的愛情表現」の熱唱に萌え萌えキュンして
ダメな感じに一致団結した大群(おおぜいのけがれ)と、日本三大怨霊のドリームタッグが人間たちを虐殺していたり、
分霊して黒髪ロングストレートな女学生や宝具『傾世元禳』を持つグラマラスな妖怪仙人など無数の化身に分かれた〈白面金毛九尾狐〉から京都を守るべく、
ぬらりひょんの孫と獣の槍継承者が死闘を繰り広げていたり、
赤い雪を降らせたり果たしてその実体は名状し難い肉塊だったりするグロテスクでキュアキュアな幼女二人組が大きいお友達をハートキャッチ(物理的な意味で)していたり、
某所に奉ぜられていた英霊たちや不遇な生涯を送った剣豪たちを纏めて魔界転生させたあげく、多重次元屈折曲芸現象で並行世界の自分を呼び寄せた石馬戒厳が、
国体を蝕む朝鮮妖術の伝承者やヨーロッパからの難民に紛れて日本に侵入した西洋妖怪たちにカミカゼアタックを敢行したり、
相変わらず帝都壊滅を目論む加藤保憲と、彼の前に立ちはだかる『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の口笛を吹く『世界の敵の敵』と、
《人類最強》のタッグを組んだ忍術を少々扱うサラリーマンと赤い髪の請負人、
日本近海で勃発する怪獣大進撃――海神グランマンマーレ率いる〈眷属邪神群〉ポ=ニョの軍勢と〈白面金毛九尾狐〉の分霊のひとつである〈白面の者〉、
X星人とトーカーズ兄妹に操られ金星から飛来した三つ首の黄金竜、「またしても来年度の予算はゼロか……」と諦め気味に呟き多目的大型戦闘機「DAG-MBS-SX3」に乗り込む黒木特佐、
亀型と二体の蛾型の地球守護聖獣たち、そしてすべてを終わらせるべく伝説の怪獣王が満を持して登場して……!
――みたいな、恐怖のズンドコ状態になっているので、レッドさんも大忙しだろうと思います(アホ面
ちなみに日本編は日本三大怨霊さまの祟りが怖いので書く予定はありません……。
>>サマサさん
BBBも東方も好きな自分としては紫とコタロウの会話にWKTKが止まらないw
しかしレッドさん、コタロウは分かるけどヴァンプ様もちゃんと守ろうとしてる辺り優しいw
>>ハシさん
最初に言おう。勇パルは俺のジェラシー。
しかしハシさんはどんだけ百合が好きなんだ、俺も好きですw
さとりんはやはり小五ロ…ゴホンゴホン。
サマサさんにハシさんといい、皆東方好きだなー。
原作描写が少ないから二次創作しやすいんだろうか。
>>恐怖のズンドコ状態になっているので、レッドさんも大忙し
いや、そんな絶望的な状況なのに何故か川崎だけは全然平和でレッドさんは
相変わらずのグータラヒモ生活送ってそうな気がするw
いや、むしろ川崎市でグータラ暮らしてるレッドさんは、ロスト・クロニクルみたいな
終末世界で苛酷な闘いの日々を送り、身も心も疲れ果てた天体戦士サンレッドが束の間
のまどろみの中で見た、幸せで優しい幻に過ぎないのかもしれない…
ハシさんお疲れ様です。
お得意の百合ワールド全開ですなw
ハシさんスプリガンを再会してくれよう
東方よく知らないんだよう
でもハシさんの書く東方SSはそこはかとない微妙なエロさがあるな
原作もこんな感じなのかな
バレンタインデーとかホワイトデーとか
都市伝説のSSはファンタジー要素たっぷりで楽しいな
東方に対する愛があふれているな
〜賢者が遺せしは〜
幻想郷には、多種多様の人知を超えた領域が存在する。死者の魂が彷徨う世界―――冥界もその一つだ。
そこには、とある巨大な屋敷が在った。
永遠に咲く事無き呪われし桜<西行妖>が聳える壮麗な庭園。
それこそは転生と成仏を待つ魂の管理を閻魔王より承りし西行寺幽々子が住まう<白玉楼>―――
「―――とはいうものの、普段はそんなにやることもないのよね。ヒマだわ」
幽々子は縁側に腰掛け、傍らに控えていた少女に愚痴る。
「面白き事もなき世を面白く―――なんて簡単に言ってくれるわ。あーあ、ヒマだわ、ヒマ、ヒマ。このままじゃヒマ
すぎてゆゆちゃん死んじゃう」
「…幽々子様。私はそれに対して<亡霊の貴女が死ぬわけないでしょう>と創意工夫の欠片もないツッコミを返す
べきでしょうか?それとも自分の事をゆゆちゃんと呼ぶのはイタイと忠言すべきでしょうか?」
気真面目な口調で語る少女の名は魂魄妖夢(こんぱく・ようむ)。
可愛い、というよりは凛々しく整った顔立ちとさっぱりしたボブカット。身に付けた二本の刀と相成り、彼女自身が
一振りの名刀のようだ。
真っ白なシャツの上に丁寧に着こなした簡素な青緑のベストとスカートという、実直を絵に描いたような衣装を纏う
彼女こそは、西行寺家の庭師にして幽々子の忠実な護衛役―――
それが人間と幽霊の間に生と死を受けた<半人半霊の剣士>魂魄妖夢。
その華麗にして苛烈なる剣技の前には、世界広しと言えども斬れぬ物などあんまりない!
「ハッタリでもいいからそこは<我に断てぬ物なし!>みたいに決めるべきだと思うけれど」
「何処の最近キャラ付けがおかしくなってきたスーパーロボット乗り親分ですか、それは」
「妖夢ったらさっきからダメ出しばっかりして。もっと主を敬いなさいよ。つーかあんた、ゼンガーさんをディス
ってんじゃないわよ」
チッチッチ。妖夢は軽く指を振ってみせた。
「幽々子様…これぞ<主にダメ出しする勇気>です!」
「なっ!?」
何という事か。やっている事は主にダメ出ししているだけなのに、そこに勇気と付いただけで、まるで憎まれ役を
演じる事によって主の過ちを諌める真の忠義者を見ているかのようではないか!
「ああ、妖夢!貴女のような立派な子が私の家来だなんて誇らしいわ!」
「その通り。この忠臣・妖夢はいざ幽々子様に兇刃が迫りし時は、とっとと逃げ出す覚悟です」
「ダメじゃん!」
チッチッチ。またしても指振りである。
「これぞ<主を見捨てる勇気>也!」
「なぁっ!!??」
何という事か。やっている事は主を見捨てただけなのに、そこに勇気と付いただけで、まるでやむをやまれぬ事情
によって主を見捨てざるを得なくなり、不忠の大罪に血の涙を流す武士(もののふ)のようではないか!
「って、いくらヒマだからってこんな雑談ばかりしてどうするの」
「では歌を詠んでみてはどうです。皆様に幽々子様の風流な一面を見ていただきましょう」
「ふむ、それはいいわね。このままじゃ読者の皆様から見た私の印象は単なる漫才亡霊だもの」
メタ発言をかましつつ、幽々子は筆と短冊を手にした。
さらさらと短冊に文字を綴る姿は、実にサマになっている。伊達に千年以上も亡霊やってるわけではないのだ。
そして完成した一句を、朗々と謳い上げる。
生きていて よかった今日は カツ丼に
ケーキにあんみつ 食べた嬉しさ
「―――どうかしら?自信作なんだけど」
すっげーいい笑顔の幽々子様である。その自信の根拠をどうか教えてほしい。
「思ったままを言っていいでしょうか」
「どうぞ。遠慮なく褒め称えるがいいわ」
「紙と墨と時間の無駄です」
「辛辣な!」
「これぞ<主の詠んだ歌にケチを付ける勇気>っすわ」
「なぁぁぁっ!!!???やっている事は主の詠んだ歌にケチを付けただけなのに、そこに勇気と付いただけで、
まるで敢えて厳しい批評を行う事で主の更なる成長を促す伝説の従者のよう―――って、もういいわよ」
「そうですね、ネタの天丼はやり過ぎるとクドくなりますから。ではカードゲームでもしますか?」
「いいわね。実は最近魔理沙からすごいカードを交換してもらったのよ。<こーりんのわーむ>ってカードでね。
パワーとタフネスがもう、すごい数値なの。なのにさっぱり弱い<ゴクラクチョー>と交換してやろう、だって。
十枚持ってたから全部交換してもらったわ。魔理沙ったら意外と太っ腹よねー。これからは気前のいい魔法使いと
呼んであげなきゃ」
「<欲しいものは死ぬまで借りる>が信条の、あの厚顔無恥な魔法使いといえども幽々子様の人徳には感服した
ということでしょうね、うんうん」
(※妖夢さんは何もかも全て分かった上で言っております。分からない人はシャークトレードでググって下さい)
さて、こんなゆるゆる萌え漫画のようなやり取りをしている二人ではあったが。
「―――楽しそうね、幽々子。私達も混ぜてくれない?」
突如響いた声。その姿を見た幽々子は、嬉しそうに微笑んだ。
「妖夢。どうやら退屈な時間も終わりそうよ」
主の言葉に、妖夢は庭園に目をやる。
そこには八雲紫と、見知らぬ怪しい四人組(レッドさん御一行)がいたのだった。
「はじめまして、外なる世界より来たる皆様―――幽々子でございまーす!」
座敷に上がった皆の前で、幽々子はサザエさんのものまねをした。
何やってんだろう、この亡霊。つーか何をやらせてるんだろう、作者。
「ほら、妖夢。貴女はお魚くわえたドラ猫の役をやりなさい。私はそれを裸足で追っかけるわ」
「全力で御断りさせていただきます」
「ケチー」
「…おい。俺らはサザエさんごっこを見物するために連れてこられたのか?」
レッドさん、額に青筋である。相手が(見た目は)少女でなければ、とっくにブン殴っている所だ。
「ごめんなさいね、ちょっとウケを取ってみたくなって―――ところで、紫」
幽々子は、ジローとコタロウに目を向けた。紫は頷く。
「ええ。<賢者イヴ>の子・望月ジロー。そしてその<弟>…望月コタロウよ」
「そう…他の二人は?」
「一緒にいたから、ついでに連れてきたの」
はあ、とヴァンプ様は溜息をつく。
「私達オマケなんですねぇ、レッドさん…」
「お前と一緒にすんじゃねーよ、ヴァンプ」
とはいっても、この疎外感はちょっと辛いものがあった。そこに。
「大丈夫だよ」
後光が射さんばかりの笑顔のコタロウであった。
「レッドさんもヴァンプさんも、ぼくの友達だもん。ぼくの関係者だから、オマケなんかじゃないよ!」
「コタロウくん…いいの?私なんかタダのおじさんで、しかも悪の将軍なのに」
「そんなの関係ないよ!ヴァンプさんは大事な友達さ!」
「コ…コタロウくん!」
「ヴァンプさん!」
ガシッ!男達の友情がそこにはあった。
「ほら、レッドさんも!」
「…アホくさ。いーよ、俺はオマケで」
「もう、レッドさんったらスネちゃって…それにしても」
コタロウは、紫と幽々子をまじまじと見つめる。
「紫ちゃんにゆゆちゃんって初めて会った気がしないね。何だかぼく、二人の事、ずっと前から知ってるみたい」
首を傾げるコタロウに、幽々子は頷く。
「そうね―――私もコタロウの事を、昔から知ってた気がするわ」
そして、彼女は笑いかけた。
「仲良くしましょうね、コタロウ」
「うん、ゆゆちゃん!」
「そうですね、ゆゆちゃん」
「何をドサクサに紛れて主をゆゆちゃんと呼んでますか、妖夢」
「これは失礼を。フレンドリーな主従関係を築こうと思いまして―――さて、私も自己紹介しておきましょうか。
マイネームイズ・ヨウム・コンパク。ナイストゥミーチュー」
「え、え…?ま、まいねーむいずこたろー…ナスとミートソース…」
「オー、ソーリィ。アイキャントスピークイングリッシュ!」
「…妖夢」
流石の幽々子も呆れたのか、妖夢を諌める。
「貴女は一体全体、どういうキャラを目指してるの」
「はあ、皆から愛されるキャラを模索してまして」
「にしても、原作からかけ離れすぎでしょうが」
「東方二次創作ではよくある事です。私がその気になれば、幽々子様が実はスカトロマニアという設定でハシさん
に一発ドぎついのを書いて頂く事も可能なのですよ?大丈夫、バキスレにはウンコSSという伝統芸能があります」
「貴女、ハシさんに何てモノを書かす気なの!?てゆうか、何故ハシさんをチョイス!?」
「恐らく、先のホワイトデーで勝手に作者の名前を使われた事への報復かと」
「やめて!SS書き同士の醜い争いに私を巻き込まないで!」
「こうして憎しみの緋き風車(ムーラン・ルージュ)は廻り続けるのです…」
「やけに詩的な表現ですこと!てゆーか書くわけないでしょ、そんなモン!」
「なに、パンツの一枚でもくれてやれば、あの漢は喜んで書くに決まっています」
「自分のパンツを犠牲にしてまで主を貶めたいの!?恐ろしい子!」
「あ、ご心配なく。渡すのは幽々子様のパンツですよ?」
「鬼畜!これからは貴女の事を史上最低最悪最狂・最も卑劣なド腐れ従者と呼んでやるわ!」
「―――いい加減にしろ、コラッ!」
収集がつかなくなってきたバカ会話を、レッドさんの怒号が断ち切った。
「んな下らねー話で行数を稼いでんじゃねーよ!チラシの裏にでも書いてろ!」
まさに正論、その通りだった。
「えーと、その…ごめんなさい」
当然ながら謝るしかない。紫も呆れたように溜息をつく。
「幽々子…そういや、夕飯まだでしょ?妖夢と一緒に作ってきなさいよ。貴女が話してたら埒があかないわ」
「紫まで邪魔者扱いして…いいわよ。ゆゆちゃんは妖夢と仲良くご飯作るから」
「あ、それじゃあ私もお手伝いしましょうか?」
さっと手を挙げた、カリスマ主夫ヴァンプ様である。
「あら、いいのかしら?」
「ええ。これでも、料理はちょっとしたものなんですよ」
「では、お言葉に甘えようかしら」
「あ、じゃあぼくも手伝うよ!」
と、コタロウも立ち上がる。
「ここにいても、ぼくは難しい話は分かんないしね」
さっきまでのは凄まじく低俗な話だったけどな、とレッドさんは心の中で突っ込んだ。
ともかくヴァンプ様・妖夢・幽々子・コタロウの四人が部屋を出ていき、レッドさんとジロー、紫が残された。
「八雲殿…話していただけますか?」
しばしの沈黙を破り、ジローが口を開いた。
「何故、我々を幻想郷に?」
「―――コタロウは、本当に似てるわね。アリス・イヴに」
質問に対する答えではなかった。
「八雲殿…!」
「彼女の話をしたかったのよ。アリス・イヴの子であるあなたと―――まあ、それだけじゃないけどね」
どこかはぐらかしたように、妖怪の賢者は語る。
「…なあ。部外者の俺が言う事じゃねーけどよ。どんな奴だったんだよ、アリス・イヴってのは」
「そうね…」
少し考え、紫は答えた。
「私は<割と困ったちゃん>なんて揶揄されるけど…アリス・イヴは<とても困ったちゃん>だったわ」
「否定できませんね、それは…」
ジローは苦笑する。その脳裏には<アリス>との思い出が巡っているのかもしれない。
そして、またしても沈黙。
「―――ダメね。もっとたくさん、あの子の事を話したいと思っていたのに…どうにも、調子が出ないわ」
「…申し訳ありません」
「何を謝るのよ、望月ジロー」
「私は…貴女の友であり、我が君であるアリス・イヴを…護れなかった」
深い悔恨と慙愧の念が、ジローの整った顔立ちを歪めていた。
「―――<香港聖戦>」
紫が呟いた言葉に、レッドはぴくりと眉根を寄せた。
「香港聖戦…?それって、確か…」
「あら、あなたも知ってるのかしら?」
「ああ。当時の新聞やら週刊誌やらが散々騒ぎ立ててたからな。嫌でも耳に入ったよ」
<香港聖戦>
それはおよそ10年前、香港を舞台に繰り広げられた壮絶なる戦争。
突如出現した<九龍王>と呼ばれる吸血鬼。彼は血族と共に瞬く間に香港を制圧し、人類に宣戦布告した。
対する人類とヒーロー、数多のヴァンパイア・ハンター。
そして人類に味方する<東の龍王>に率いられた吸血鬼達。
参戦した全ての存在が血で血を洗う死闘を繰り広げた、歴史上最大の闘い。
「俺はまだ学生だったから参加してねーし、週刊誌程度の知識しかねーけど、ヒーローも大勢参戦してたらしいし
裏じゃあ<ミスリル>とかいう組織も動いたって話だ…確かジロー、お前はその時に大活躍して<銀刀>なんて
呼ばれるようになったんだよな?」
「…大活躍などしてませんよ。ただ、ヤケになって暴れていただけです」
自嘲を込めて、ジローは吐き捨てた。
「…その時に、死んだのか…?」
ジローも紫も、何も答えない。それが何より雄弁な返答だった。
ゴホン、とレッドは咳払いする。
「何があったか知らねーけどよ…しょーがねーだろ。お前は精一杯やったんだろうし、その結果で、その―――
アリス・イヴってのが死んじまったのは、悲しいこったろーけど、お前のせいじゃねーだろ」
レッドはいつになく、穏やかな声だった。
「だからよ、ウジウジ悩むなって。いなくなった誰かを忘れずにいるのも大事だろーけどよ、もうちょい能天気に
生きててもバチは当たらねーっての」
「―――優しいわね、サンレッド」
紫は、口元に少し笑みを浮かべていた。
「それだけの強さと優しさなら、世が世ならば立派なヒーローだったでしょうに。平和ボケした川崎市は、あなたに
とってはさぞ退屈な街でしょうね?」
「…けっ。人の地元を悪く言うんじゃねー。いいんだよ、俺は川崎は川崎で気に入ってんだ」
「ふーん。それならそれでいいけれど―――ああ、そうだ。サンレッド、あなたのさっきの言葉、間違ってるわ」
「何が?」
「アリス・イヴが死んだ―――という部分よ。彼女は、死んでなんかいない」
「はあ?」
思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「いや―――そりゃ、おかしいだろ。だって…」
「正確には<賢者>は死んでも蘇るの…死して灰になろうとも、その灰からまた新たな命として生まれ変わる。
幾度となく死と転生を繰り返し、世界を旅する吸血鬼―――それが<賢者イヴ>よ」
「死んでも、また生まれる…?なら、どっかにいるのか?その<賢者イヴ>の生まれ変わりが」
「そう―――もしかしたら、あなたのすぐ傍にいるのかもよ?ねえ、サンレッド」
「八雲殿!」
それは、よほど触れてはならない事だったのだろうか。声を荒げ、ジローが立ち上がる。紫は、ただ目を伏せた。
「…ごめんなさい。少し喋りすぎたわ。サンレッド、今のは忘れて頂戴」
「忘れろっつってもな…」
確かに、レッドは既に聞いてしまった。そして、答えは明白だ。
死すれば新たな命に生まれ変わる<賢者イヴ>。
どこか謎の多い吸血鬼の兄弟、望月ジローと望月コタロウ。
生まれ変わったはずのアリス・イヴは今、何処に?
アリス・イヴと親交があった西行寺幽々子と八雲紫は語る。
―――私もコタロウの事を、昔から知ってた気がするわ。
―――もしかしたら、あなたのすぐ傍にいるのかもよ?
「…ゴタゴタ、めんどくせー話ばっかしやがって。そんなん俺に話した所でどーもしねーよ」
レッドは頬杖をつき、答えた。
「賢者がどーだのこーだの、俺にゃ興味ねーな…今まで通りにやるだけだ。今まで通り、コタロウはただのバカ
なガキ。俺にとっちゃ、それだけだ―――ヒーローは、子供の味方だからな」
「レッド…」
「あいつは、お前の弟の望月コタロウ。それでいいんだろ?」
「ええ…そうです」
「コタロウは、私の弟ですよ。それ以外の何者でもない」
「だよなあ」
レッドは、からからと笑った。
「大体がな、あのバカが<賢者>なんて、悪い冗談にも程があるっての!あいつが賢者なら世界は賢者しか
いねーっての!そう思うだろ、なあ」
「―――そう」
果たして何を思ったのか、幻想郷の母たる妖怪は薄く微笑む。
「サンレッド…あなた、意外と大物なのかもね」
「何だよ。急に褒めてんじゃねーよ」
「いえ、私もそう思いますよ」
ジローも続いた。
「正直、最初にあなたを見た時はなんだこのチンピラのヒモは、と思いましたが、謝ります」
「お前って結構ひでーな、おい…」
しかし反論できないのも事実である。レッドは憮然とするしかなかった。
「あれ?何だか三人とも、結構仲良くなってませんか?」
そこにヴァンプ様が、美味しそうな香りの立ち上る鍋を両手にやってきた。後ろには皿や茶碗を持つコタロウ達
の姿も見える。
「ねえねえ、レッドさん。どんな話してたんですか?」
「うっせーなー。何でもねーよ、何でも」
レッドさんはしっしっ、と鬱陶しそうにあしらいつつ、声を張り上げた。
「ほら、それよりメシだメシ!熱い内に食おうぜ!」
「そうよそうよ。私、もう我慢できないわ!」
「幽々子様。つまみ食いしまくってた貴女が言うセリフではありません」
「ああん、妖夢ったら、黙ってれば分からない事を言わないで。しょうがないじゃない、ヴァンプさんのお料理、
とっても×10美味しいんだもの!」
「うん!ヴァンプさんの料理は日本一だよ!」
「いやだ、そんなに褒めないでよー。照れるじゃない(ぽっ)」
「ぽっ、じゃねーよ。悪の将軍としての自覚を持てよ、全く…」
さて、それはともかく。
『いただきます!』
少女食事中…
英雄食事中…
兄弟食事中…
将軍食事中…
「あー、美味しかった。ヴァンプさんは料理の天才ね」
大きくなったお腹を叩き、幽々子は満足げに息をつく。
「うふふ、意地悪な妖夢はお払い箱にして、ヴァンプさんを雇おうかしら?」
「どうぞどうぞ。私は退職金を元手に今流行りの自分探しの旅に出ますので」
「え…ちょ、ちょっとやめてよ。冗談にそんな冗談で返すのは…」
「いえ、本心ですから。どうです、ヴァンプさん。考えてみませんか?」
「え?うーん…でも私、やっぱり世界征服の野望は捨てられないから…ごめんなさい」
「そうですか、残念です…」
本当に残念そうな妖夢さんであった。
「なんて恐ろしい子…まあ妖夢とは後でじっくり話し合うとして、紫。貴女もう<あれ>は見せたの?」
「まだよ。皆が揃ってからと思ってね」
「<あれ>?何だよ、それ」
「―――これよ」
紫が宙に手を翳すと、スキマが出現した。その中に腕を突っ込み、引き抜く。
取り出されたのは縦・横ともに三尺三寸ほどの大きな箱。
「賢者イヴが、私達に預けていったものよ。秘蔵の一品だって…遺品になってしまったけど、ね」
「…………」
「数百年後―――具体的には、今年の今頃に一緒に開けようと言っていたわ。そのくらいが、いい塩梅だってさ」
「どういうこった?」
「さあ?賢者の考える事は計り知れないわ。とにかく彼女は、そう言い残していった―――彼女がもういない今と
なっては、私や幽々子だけで開けてもよかったんだけど、イヴの身内である貴方達も呼ぶのが筋と思ったからね
―――まあ、余分なのも二人ほど来ちゃったけれど」
ちらり、とレッドさんとヴァンプ様を見やる。
「余分で悪かったな、コラ」
「まあまあ、レッドさん―――じゃあ、開けてみませんか?ジローさんにコタロウくんもいるわけですし」
「そうですね…私も、是非見せてほしい」
「うん、開けてみようよ!何が入ってるのかなー?すっごい宝物だったりして!」
ワクワクする皆の視線を受けながら、紫が箱の蓋をこじ開けていく。
「…あら?」
「どうしたの、紫」
「いえ…これを見て」
一同は箱の中を覗き込む。そこには一回り小さな箱と、その上にそっと置かれた手紙があった。
手紙には<アリス・イヴが今、その場にいなかったら読んでください>と走り書きがされてある。
「…イヴ」
小さくその名を呟き、紫は手紙を開いた。
<紫ちゃん、それにゆゆちゃんへ。この手紙を読んでいるという事はアリス・イヴはもういなくなったという事なの
でしょう。でも寂しがらないでください。ぼくは皆の心の中で生き続けているからね>
「自分で言うか、あの子は…」
「全く、イヴらしいわ」
皮肉っぽい口調だったが、紫と幽々子の表情には暖かさと懐かしさがある。
しかし手紙を読み進めるうちに、怪訝な顔になっていく。
<さて、ぼくの秘蔵の品なんですが、ぼくがいない以上は新しい所有者を決めるべきでしょう。そこで、いい事を
思い付きました。名づけて秘宝争奪幻想郷トーナメントです>
「…はあ?」
「ひほーそーだつとーなめんと?」
<読んで字の如く、この箱の中身が欲しいという参加者を集い、一大トーナメントを開いて大騒ぎです>
<もしもよろしければ紫ちゃん達でその辺の段取りをやっていただければ嬉しいです。ではでは>
「おい…本当に、そんなアホな事が書いてんのか?」
手紙をひったくるようにして受け取り、目を通してみるレッドさん。ジローもそれを覗き込む。
「書いてあるな…」
「書いてますね…確かに、彼女の文字です」
「…なんだってこんな事を」
「多分…面白そうだと思って、その気持ちを抑えきれなかったのではないでしょうか」
あんな風に、とジローはコタロウを見やる。
「トーナメント…すっごーい!早く見たい、トーナメント!ねえねえ紫ちゃん、やろうよトーナメント!」
手足をバタバタさせて、コタロウは紫のドレスの裾を掴んで満面の笑顔でせがんでいる。
その有様を見て、レッドさんは大げさに肩を落とす。
「…コタロウ」
紫はコタロウに目を落とし、静かに問う。
「あなた、この企画が面白いと思う?」
「うん。トーナメント、いいじゃん!バトル物の定番だよ、定番!もちろんレッドさんと兄者も出るよね!ねっ」
無邪気な瞳に見つめられ、レッドさんとジローは嘆息した。
「…俺達も出場しなきゃなんねーんだろーな、話の流れ的に」
「まあ、そうでしょうね…しかし、これはいわば彼女の形見をかけた闘いです」
ジローは居住いを直し、答える。
「彼女は幻想郷の住人のためにと遺したのかもしれませんが…この場に居合わせたからには、欲しくなりました」
「お前、意外と我儘だよなー…」
「ええ、よく言われます」
「ったくよー、おかしな事になってきやがったな」
そうは言いつつ、レッドは自分が少なからず高揚している事を自覚していた。
彼は、予感している。
普段は持て余し気味の巨大すぎる力。このトーナメントは、それを遺憾なく発揮できるだろう―――
そんな確信があった。バキボキっと、拳を鳴らす。
「しゃーねーな。それじゃあちょっくら、サクっと優勝してやるか!」
「あ…あのー…」
やる気になってるレッドさんとジローを見て、ヴァンプ様はおどおどしつつ自分の顔を指差す。
「も…もしかして、私も?」
「お前はやめとけ、ヴァンプ」
「そ、そうですよねー!じゃあ私は皆さんの応援に回るという事で、ははは」
素直であった。何度も言うけど、この人は世界征服を企む悪の将軍だからね!
「幽々子…貴女はどうする?」
「どうするもこうするもないわよ」
幽々子は、紫に向けてウインクしてみせた。
「紫だって、こういうバカ騒ぎは好みでしょう?いいわよ、私達も手伝って盛り上げてあげる」
「<達>の中に、私も入っているんでしょうか?」
「勿論。まずは、そうね…新聞記者の射命丸文(しゃめいまる・あや)にこの話を伝えて頂戴。それであの子なら
喜び勇んで記事にして、参加者を集ってくれるでしょう。あとは会場の設営だけど、河童達にでも頼んで―――」
はあ、と妖夢は肩を竦めるが、彼女は言動がどうあれ忠実な従者である。
主に逆らうつもりなど、毛頭ない。
誰からも反対意見が出ないのを確認し、紫は嘯く。
「いいでしょう―――アリス・イヴ。貴女の我儘、友達のよしみで聞いてあげる」
それは即ち、宣言だった。
「幻想郷最大トーナメント、開催よ。優勝賞品は賢者が遺せし秘宝―――」
そして。
「この八雲紫も、出場させてもらうわ。元々は、私が預かった品ですからね―――」
投下完了。前回は
>>109より。
ジローとコタロウの秘密、今回の話だけだと、本当にクリティカルな部分には触れてないんですよね…
そこまで触れたら、流石におちゃらけムードじゃいられないので。
(興味があるという方は是非原作ブラック・ブラッド・ブラザーズをどうぞ)
次回はトーナメントに出場する面々を書きます。かなりの数のキャラが出るので、登場人物紹介もやるかな…。
>>111 レッドさんも今回ばかりはTシャツのままワンパンKOというわけにはいきません。初のガチバトルです。
>>ふら〜りさん
ドラや遊戯は<負けても再び立ち上がるヒーロー>として書いたつもりですが、レッドさんは
<どんな敵が相手でも絶対に勝つヒーロー>として書きたいかなあ…。負けた瞬間に、彼のキャラは
終わってしまう気がする…。でもアバシリンだけはレッドさんより強くてもなんか許せるw
>>114 邪神?さんの料理はマジ美味そうですw
>>ハシさん
,;r'"´;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`ヽ、
,r'";;;;:::::;彡-=―-=:、;;;;;;ヽ、
/;;ィ''"´ _,,,,....ニ、 ,.,_ `ヾ;;;;〉
`i!:: ,rニ彡三=、' ゙''ニ≧=、!´ ははは、全然怒ってなんかいませんよ。
r'ニヽ, ( ・ソ,; (、・') i'
ll' '゙ ,;:'''"´~~,f_,,j ヾ~`''ヾ. 僕なんぞの名前でよければ、好きに使ってくださいw
ヽ) , : ''" `ー''^ヘ i!
ll`7´ _,r''二ニヽ. l
!::: ^''"''ー-=゙ゝ リ
l;::: ヾ゙゙`^''フ /
人、 `゙’゙::. イ
つーわけで、今回は僕のSSの中でハシさんの名前を使わせていただきましたw
勇儀姐さんとパルスィはやはり鉄板カップリングですね。しかし個人的には嫉妬に狂った萃香が
「あんたが悪いんだよ…あたしの勇儀を誑かしたあんたが…!」
というスクイズ展開も捨てがたい(冗談です)。
ちなみに僕はBBAとはボイン・ボイン・アネキ説を推したい。↓参考動画
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9791653 勇儀姐さんとレッドさんのバトルは確定してます。ゆかりんも確定。予定では萃香とゆうかりんと輝夜もですが、
これは変更するかもしれません。白蓮さんは…残念ながらまた別の機会に(汗)
ロスクロ世界のレッドさん…なんだろう。これだけのメンツが揃ってなお、レッドさんなら何とかしてくれそうな気がする…!
>>126 レッドさん、実は相当に器の大きい人なんじゃなかろうか。変なとこで異様にみみっちかったりもするけどw
>>127 それでこそレッドさん、という気もします。
>>128 それ、なんてシャンゼリオン!?
140 :
ふら〜り:2010/03/18(木) 21:52:34 ID:5GqYA73UP
かつての武装錬金を思い出す勢いですな、東方。思えばバキスレなくば、武装錬金も
ネウロも読んでなかった……私がネウロを読むきっかけになった電車魚さん、復帰待ってますよ!
あとNBさん、貴方が復帰して下さったらブラックキャットを読むぞという願掛け中です!
>>ハシさん
酔ったパルスィが何ともらぶりぃです。んが、それよりも何よりも、勇儀の男前っぷりが良い!
これだけ想われ、愛されたら、こりゃもうパルスィとて女冥利に尽きるってもんでしょう相手の
性別がどうあれというかむしろ今の彼女にはその方が心の傷的にも良いのではとか思ったり。
>>サマサさん
次回作はサンレッド外伝外伝・香港編ということですな? 私としてはぜひとも読みたい、
豪華な内容……本作中で、回想だけで済ますには惜しいネタですぞ! で今のところ、レッド
が楽しめそうな戦いを彼女らが提供できるイメージはないのですが、原作ではそんな強さを?
>>128 私もサマサさん同様、何の疑いもなくシャンゼリオンが浮かびましたよっ。 急な打ち切り
だったんじゃないかとも思いますが、ならば尚更、あの最終回は素晴らしかった!
幽々子様は一番好きなキャラ。活躍してほしいね。
トーナメントか。何人くらい参加でどれほどの規模になるのかな?
142 :
作者の都合により名無しです:2010/03/19(金) 06:55:55 ID:1Fw6JTjl0
サマサさんとハシさんが仲良くて微笑ましいなあ
トーナメントは本格的なものになるのか
ダイジェストみたいな感じになるのか分からないけど
ある意味最も盛り上がりのある素材なので頑張ってほしい
東方あんまり知らないけどw
「ちぇっ、やはりそうか」。
メガゾンビを連れて、とりあえず学校の裏山に向かう途中で。
最初に、オリバが奇妙な飛行物体に気が付いた。
つられて空を見たのび太が、飛行物体が大きくなるにつれてその正体を知る。
米中の軍事拡張へ抗するための最終兵器。とても同じ時代に存在するとは思えない兵器だと伝え聞いている。
彼我の距離、目測で1km。こんな間合いで地対空のガンファイトができるのはD・Tougouぐらいだろう。
最終兵器の『顔面』が、のび太にははっきり見えた。
前からそうではないかと思っていたが、のび太は極度の遠視だったのだ。
最終兵器と目が合ったとき、(この子にも彼氏とか居るんだろうな)(ここへは結構な距離を南下してきたのか)
と物思いがしばし頭をよぎったが、そんな思考を終える頃には最終兵器の位置エネルギーが・・・
バケツを縦に半回転させたようにスピードへと変換されて久しかった。
22世紀のショックガンは、大気も何も関係なく1km程度の距離をのび太が指す軌道でエネルギーを撃ち出したのだ。
オリバが見下ろすのは、ショックガンが納まりそうもないスペアポケット。
そこへストンッと鳴る衣擦れを残して、百均玩具みたいな外観のショックガンが納まる。
脅威のハンドポケットを前に、しかし近隣で隕石が落下したかのような轟音と飛来物を背に上機嫌なのがオリバだ。
オリバの背(やや猫背になるだけで僧帽筋で首と頭をガード!)をボフボフと打つ、民家の塀の欠片やルーフ類。
公共のゴミ箱、飲食ゴミ、路傍の石、何かの部品らしき金属片。
だが、音が一部吸い込まれてるような不審すぎる金属音に振り返ったオリバをリフォルドのロボットが切りつける。
寸での回避。半身になり、バックステップ。オリバの筋肉が石片を弾くと、ロボから一刀分の間合いで音も無く転げる。
その石だけではない。ロボが球体の中心軸でもあるかのように、飛来物が水滴のように空中を滴ったり跳ね返されたりする。
オリバが反撃を始めないうちから、何らかのバリアを展開しているのだ。
ドラえもんはリフォルドの防御フィールドが未来道具『バリアーポイント』と同種の物と看破し、すぐさまそれを片手に前進。
「旧型亜種らしきバリアを中和しろ!」
しかし、ドラえもんの前進が止る。そして次には押され始める!
最終兵器が墜落した余波の第一波が止んだ刻、ドラえもんはキレイな円形の動きで転倒した。
リフォルドのバリアは22世紀の地球製品が少なくとも旧型亜種とは把握していないシロモノなのだ。
前に出るのび太。
間合いが、ロボの裁断器官のそれに入った!
のび太が弓手に持つバリアー・ポイントはバリアの中和しかしていないのだ。
オリバが身を締めたとき、リフォルドのロボはコンモリとしたスライムのようになっていた。
オリバが不審そうにしていると、1秒ほどしてロボが倒れる。のび太を隔ててこっち側に倒れてくる。
ロボが揺れ始めたタイミングで、粘着剤に当たらないよう普通に振り返って歩いて来るのび太。
オリバがのび太の安否を気にしたが、すぐさまロボの異変とのび太の銃技の関連性に気付く。
メガゾンビは、先ほどのからの超常現象に心がついていかず「うーん」と唸って昏睡した。
オリバは、ショックガンの重量感と機能の関係について気にしていた。
質感だけなら、そういった偽装は21世紀初頭ではもう珍しい物ではないから気にしない。
だが、重量と機能はそれで偽装できるものではない。
けれどものび太、銃の本体ともいうべき物体が一流の銃士の域を出ていないからすぐどうでもよくなった。
オリバの渡って来た地球の一面で、のび太ほどの年齢で銃を撃つ者は珍しくない。
メガゾンビが倒れるとすぐドラえもんがオリバと正対し、人垣になったうえで
のび太が『ポイポイカプセル』でメガゾンビの収容を試みた。
しかしダメだったので、別の道具を取り出し「イルイルッ」と音声入力のような所作を経て無事収容した。
学校の裏山に『漫画制作用の缶詰』を置いて、メガゾンビを介抱する。
その両サイドには、ドラえもんとお医者さんカバン・のび太&オリバが座る。
メガゾンビは、気付け薬の塗布を受けてからすぐ起き上がり胡坐の姿勢になった。
しかし、その姿勢を崩す余力さえない様子で「あの、とりあえず証人保護などでしたらありがたいです」
などとオリバに的外れな挨拶をしている。
それでもまだ、フィールド・サプライズを疑っているので完全にオリバたちを帝愛の手先でないと信じるまでには
至っていない。
そんなメガゾンビの心境を推し量り忘れたオリバが、無造作にクチを開いてしまう。
「ところでのび太、京浜第3シェルターからジャッカルの自動二輪隊が動いたぞ。心当たりは無いか」。
のび太には心当たりが無いので「いいえ?」とだけ言ったが、その間にメガゾンビは完全に誤解してしまった。
(よりによって、あの回収珍走隊が・・・俺が知らないとでも思っているのか)
事態が動いたことを知らず、時間の経過を制御する缶の機能を利用しドラえもんは仮眠用寝具で休養の準備を始めた。
めいめい、グルメテーブル掛けの指定おまかせモードで肉類を食べる(本来の用途は不飽和脂肪酸の補給)、
座布団を二つに畳む、押入れに入る、狸寝入りをするといったふうな消灯モードになった。
オリバなんとなく男らしいなw
ドラえもんがいやに小物に見える。
一応といっては失礼だけど、
ストーリ性もちゃんとあるんだなw
148 :
作者の都合により名無しです:2010/03/23(火) 06:24:07 ID:DPPGmKU30
着地点がどうなるのかわからんSSだw
149 :
作者の都合により名無しです:2010/03/23(火) 22:46:27 ID:h8LkpweL0
着地点、次回すら定かでないのがSSのだいご味。全盛期ジャンプのマンガと同じですねw
特にドラは、因果律とか煩雑なようで自由度最強だから自分でもよくわかりません。だが、それがいい。
「最終兵器彼女」は、のび太たちと同じ人間のグループ(身内に最終兵器が居る者同士)として出しました。
けれども、本編とあまり関係なさそうだしなんだか気が乗ってこないので当初予定の最終シーンのみ登場となりました。
最終兵器と言っても、ドラえもん自体は重量が120kgで反重力装置や小型原子炉を積んでるぐらいしかそういうところがありません。
問題は四次元ポケットの中身。バイバインを1滴吸った栗饅頭でも物言わぬ終末兵器になってしまう世界。
どこでもドアがあるとはいえ、あまりいつもの圏内から離れられても地理的に収拾をつけにくくしてしまうし。
「最終兵器倉庫親友」といったところでしょうか。
機会があったら、あらゆる惑星内最強クラスのキャラクターで栗饅頭を阻止する話を創りたいところです。
「ロトの紋章」からエントリーの異魔神なんか、広範囲への自然系攻撃が可能で心強い感じです。
滞空して高度呪文を連射するという戦闘スタイルの異魔神一人で全てが解決するぐらい、心強いですよね。
但し、狂ったのび太にショックガン等で狙撃されないことが大前提。
150 :
作者の都合により名無しです:2010/03/23(火) 22:48:06 ID:h8LkpweL0
ジャイアンが「のび太のくせに(世界を滅ぼすなんて)生意気だぞぉ!!」とか友情全開で向かっていき、
何らかの兵器で倒されウネウネしたフキダシで「のび・・・太・・・」と言い残して血溜りの中へ倒れ込むような
世界観じゃないのが大前提。
基本的に、スペアポケットでドラと共通の取り出し先へアクセスできたら誰でも最終兵器。
そうなったら、オリバとてジャアインの同属上位の一般社会人に過ぎません。
ポケットを没収するか全身不随にでもしない限り、ポケットの持ち主はアンチェインとしても地球一ですし。
ご自身が楽しんで書くのが一番ですよ
形式なんて気にせず、のびのび気ままにやってくれればいいです
〜真紅の吸血姫〜
その時だった。
「面白そうな連中が、面白そうな話をしてるじゃない」
幼くもそれに似合わぬ怜悧な声だった。
「私も混ぜてくれないかしら?」
幽々子は顔を引き締め、障子を開け放つ。
眼前に広がる、優雅な庭園。聳え立つ巨大な桜―――<西行妖>。
その枝に、一匹の蝙蝠がぶら下がっていた。
「盗み聞きとは、趣味が悪いわね」
気分を害したのか、呑気な幽々子にしては少々険のある物言いだった。
「御免遊ばせ、退屈でしょうがなかったもので」
驚いた事に、蝙蝠が返答する。
「…<化身(メタモーフィシス)>」
ジローが呟いた。
読んで字の如く、己の姿をまるで別の何かに変化させる異能力。
「吸血鬼の中でも、魔術に長けた者の得意技ですよ…」
「吸血鬼…?そういやさっきの声、どっかで聞いたような」
そこまで言って、レッドも思い至った。
かつて川崎市に降り立ち、ある意味レッドすら震撼させた、幼くも恐るべき吸血鬼―――
「あら、私を知っているのかしら?」
「ああ。川崎でプリン落っことして泣いてたガキだろ?」
ぐっと、蝙蝠が言葉に詰まる。紫と幽々子が思わず吹き出し、蝙蝠はぐっと言葉に詰まる。
「ま、まあいいわ…見せてあげましょう、私の高貴なる姿を!」
まるでTVのチャンネルを回すように、瞬時に蝙蝠が姿を変えた―――いや<元に戻った>というべきか。
そこにいたのは、齢10に満たない程の幼い少女―――されど、その内実は見た目とは程遠い。
そもそも彼女は、既に五百年を超える時を生きている。
月光を浴びて煌く蒼い髪。血のように紅い瞳が、端正な美貌に華を添えている。
その神々しいまでの姿は、その場の全員に否応なく認識させた。
彼女こそが、月下の支配者なのだと。
「れ、レッドさん…私を守ってくださいね!」
「何ヒロインっぽい事言ってんだ、悪の将軍が」
まあ、そんな正義と悪の馴れ合いはともかく。
「こんばんは、そして初めまして―――我こそは紅魔館の主レミリア・スカーレット」
彼女はまるで踊るように軽やかな足取りで、縁側で成り行きを見守る一同に歩み寄る。
「一応言っておくけれど、狼藉は赦しませんよ」
「そんなことしないわよ。顔見せに来ただけ―――あの方に、ね」
そしてコタロウの前で立ち止まり、その顔をまじまじと見つめる。
「当然と言えばその通りだけど…似てるわねえ、あの方に」
<あの方>というのが誰を指すのか、訊くまでもない。
「む〜…なんだかさっきから、そんなことばかり言われてる気がする」
当のコタロウは不満げだ。事態が自分のよく分からない方向に動いているのがお気に召さないらしい。
レミリアはクスリと笑い、今度はジローに顔を向ける。
「あなたが望月ジロー。あの方より直々に血を受けた者、か」
「レミリア・スカーレット…そういえば、彼女も貴女の事を語っていましたよ」
「あら、そうなの?どんな風に言っていたのかしら」
「…褒めていましたよ」
嘘は言っていない。<お人形さんみたいに可愛い>は褒め言葉のはずだ。
「そう。あの方も私を覚えていてくださったのね―――嬉しいわ」
彼女―――<賢者イヴ>の事は、彼女が幻想郷を訪れた際に一度会ったきりだが、よく覚えている。
その瞬間の感動は、未だに忘れられない。
全身の血が歓喜に沸き立つような、あの衝動は。
神との対話に成功した聖者の心地だった。
「あの方は…まさに吸血鬼の頂点。紛う事無きカリスマだったわ」
吸血鬼という括りは同じでも、その存在はまるで別物だった。
自分になくて彼女にあるものはいくらでも挙げる事が出来たが、その逆は何一つ思い付かなかった。
「驚いたわね…傲岸不遜が牙を生やして歩いてる貴女が、そこまで言うなんて」
「吸血鬼ならぬ貴女でも分かるはずよ、八雲紫。そして西行寺幽々子。あの方の偉大さが」
逆に言えば―――吸血鬼だからこそ、レミリアはかくも<賢者イヴ>に敬意を払っているのだろう。
<始祖(ソース・ブラッド)>とは、あらゆる吸血鬼にとって神も同然の存在である。
そして<賢者イヴ>は始祖の中でも<真祖混沌>と並ぶ崇高な吸血鬼とされている。
それは天上天下唯我独尊を地で行くレミリア・スカーレットにしても例外ではないのだ。
「そして、望月ジロー…あなたは、私よりも深く理解しているはず」
「…否定はしません。彼女は…アリス・イヴは、素晴らしい方だった」
ジローは、黙祷するように目を閉じた。紫と幽々子、そしてレミリアもそれに続く。
「なんかぼくたち、話に入れないね…」
「ちょっと寂しいですねー、レッドさん」
「うるせえ!俺に話を振るんじゃねーよ」
「ではこうしたら如何でしょう。コタロウくんとヴァンプさんとレッドさん、そしてこの魂魄妖夢で<蚊帳の外カルテット>
を結成するというのは。しかしレッドさん、あなた主人公なのに蚊帳の外なんて地味にヤバい話ですよ。鰤市の苺くん
だってもうちょい話に絡んできますよ。もっと危機感を持ってください」
「…………」
返事のない所を見ると、自覚はあったようである。それはともかく。
「…そういえば、自己紹介もまだでしたね。改めて名乗らせて頂くとしましょう」
目を開いたジローは、レミリアに向き直って凛と背筋を伸ばし、あごを軽く引いた。
一度息を吸い、恭しく頭を下げる。
「初にお目にかかる、レミリア・スカーレット。永遠に紅い幼き月。運命を操り司る吸血姫。遥か悠久の夜を生きる
古き血よ。私の名は、望月ジロー。<賢者イヴ>の血統に連なる者。また、香(こう)の港の戦よりのち<銀刀>
と呼ばれし者。百の齢を重ねしが、いまだ浅き脈動なれば、貴女の流れを妨げることなく、共に強き鼓動を刻まん
ことを」
その姿を、レッドは興味深げに眺めていた。古き吸血鬼―――所謂<古血(オールド・ブラッド)>同士が仁義を
交わす際の口上というのは、そうそう見れるものではない。コタロウやヴァンプも、いつもとまるで違うジローに
驚き、目を瞠っていた。
レミリアも気を良くしたのか、僅かに口元を綻ばせる。
「年長者に対する礼節は弁えているようね、望月ジロー。」
「恐縮です」
「最近の若い連中はその辺が疎かになっているから困るわ。例えば貧乏巫女とか魔法使いとか。きっちりと躾けて
くれる大人がいないからそうなるのかしらね?あなたはどうだったのかしら」
すうっと。レミリアはジローに近づき、その目を覗き込んだ。
「…っ!」
「心配しないで。野暮な真似はしないわ」
反射的に目を逸らそうとするジローに対し、レミリアは小さな子供に言い聞かせるような声で語る。
吸血鬼は目を合わせただけで、その内在を己の意のままに操る事が出来る―――
それが<視経侵攻(アイ・レイド)>と呼ばれる異能だ。
その精度は吸血鬼の力量によって左右されるが、レミリアともなれば、同じ吸血鬼であるジローですらも一瞬で忠実
な操り人形に堕としてしまえるだろう。
「そんな事をするつもりなんてないの。ちょっと視るだけよ」
有無を言わさずジローの頭を両手で挟み込み、その瞳をじっと見つめる―――それは、一瞬で終わった。
「クスクス」
何がおかしいのか、ジローから手を離した彼女は笑う。
「随分おっかない御爺様に育てられたのね?それに吸血鬼に成り立ての頃、先輩の女吸血鬼に随分苛められたよう
だし…ああ、その女には今でもイビられてるのね、可哀想に。それに、やたらと図体の大きい吸血鬼…鬱陶しがって
いながら、その実とても頼りに思ってるのね。素直じゃないんだから」
「…他にも、いらぬ事を覗いてはいないでしょうね?最後の辺りは既にいらぬ事の領域ですが」
「心配しないでと言ったでしょう?余計な物まで視るつもりもないわ。精々が世界恐慌の時に株で大損こいた記憶を
覗いたくらいよ」
「消せ!今すぐその記憶を抹消なさい!」
「さて、それはそうと」
レミリアは喚くジローを無視し、話を切り替えた。
「件のトーナメント、私も出場させてもらうわ―――あの方の遺品とあれば、是非ともこの手にしたいものね」
「はっ」
と、鼻で笑ったのは、レッドである。
「プリン落として泣いてたガキが生意気によー。どうせ出場しても恥とベソかくだけだからやめときな」
「…………」
レミリアは、張り付けたような笑顔でサンレッドを見つめる。
「もしかして、私に言ってるのかしら?聴き間違えならいいんだけど」
「ああ、悪りぃ。ガキに見えてもババァだから耳が遠いんだな?恥晒すから出場すんなって言ってんだよ」
挑発している、などというレベルではない。明らかにケンカを売っている。
しかも、別に理由もなく。この辺がチンピラヒーロー・レッドさんの悪い癖である。
「あはは」
レミリアは、笑う。明らかに笑っていない瞳で。
「愉快な人ねえ、あなた。愉快すぎて…殺したくなってきたわ」
凍えるような声と同時に、レミリアが今まで抑えていた気配を解き放つ。
その瞬間、空気が一瞬にして魔界の瘴気に転じたかのようだった。
肌を刺すような殺気に、ヴァンプとコタロウは抱き合って産まれ立ての仔鹿のように震える。
ジローと妖夢は圧倒的な鬼気を前に思わず刀を抜き、構える。
今なお平然としているのは紫と幽々子、そしてサンレッドだけだ。
「本番の前に<不幸な事故>で参加者が一人くらい減っても、別に誰も困らないわよね?」
「ほー。どうするってんだ?」
「決まっているでしょう」
運命の吸血姫は、天を―――月を仰ぎ見る。
「今夜は丁度退屈してたし、気分もいい。それにほら、こんなに月も紅い―――」
だから。
「本気で殺すわよ」
「殺す殺すって連呼してる時点で小物臭丸出しなんだよ。やれるもんなら殺ってみな、クソガキ」
レッドは庭園に降り立ち、レミリアを挑発する。吸血姫の紅の唇が、三日月の形に歪んだ。
「その減らず口、縫いつけてやるわ―――!」
赤い風が、吹き抜ける。真紅の吸血姫が、牙を剥き出しにする。
「―――<不夜城レッド>!」
叫びと同時にレミリアの身体から真紅の闘気が燃え上がり、周囲を薙ぎ払う。
吸血鬼にとっては基本的な技能といえる<力場思念(ハイド・ハンド)>―――
肉体ではなく魔力によって物理的な圧力を生み出す、俗にサイコキネシスと呼ばれる異能。
レミリアが行なったのは、本質的にはそれと同じ。
違うのは、放出された魔力の総量だ。そこらの吸血鬼では何十人が束になろうとも届かない程の圧倒的容量。
それを彼女は、呼吸をするような気軽さで解き放った。
「煙を巻き上げるだけかよ、しゃらくせえっ!」
だが、それをまともに受けてカスリ傷で済んだレッドも、やはり並ではない。
地を裂くほどの踏み込みでレミリアに肉薄する。その拳が今、炎を纏い夜空に煌く。
「―――<ファイアー・ブロウ>!」
単純明快―――拳に炎を纏わせ、渾身の力で殴りつける。
鳩尾に受けたレミリアは吹っ飛ばされつつも、空中で姿勢を整える。
「ふふ…やるじゃない。ドレスが焦げちゃったわ」
黒き羽根を広げ、ひらりと舞い上がり、余裕の笑みを浮かべた。
「へっ―――そりゃあこっちのセリフだ。ちったあ面白え闘いになりそうじゃねーか…!」
対するレッドもトントンと足踏みし、ボクシングのような構えを取った。
いつになく真剣なヒーローの姿に、観戦してるヴァンプ様はたらたら汗を流す。
「レ…レッドさんが、真面目に闘ってる…!いつもタバコ吸いながらダラダラやってるのに…!」
なんて風に感動なさっていた。
「本気出せばレッドさん、あんな風に出来たんだ…」
「本気?あれが?」
その言葉を、紫は鼻で笑って否定する。
「あんなの、二人にとってはじゃれ合ってるようなものよ」
「え…」
「まあ、見ておきなさい―――化物同士の闘争というものを」
二人の闘いに目を戻すと、既に激しい攻防が始まっていた。
刹那に無数の拳が飛び交い、互いにその全てを見切り、受け止める。
千のフェイントの中に一つだけ混ぜた殺意を込めた一撃。
それをいなした瞬間、更に追撃。その間隙を縫っての反撃。
「しゃあっ!」
「クッ…!」
レッドの拳が、レミリアをガードごと弾き飛ばした。
均衡しているかに見えた闘いだが、次第にレッドが押し始めている。
リーチの差を利用して間合いを制し、徐々に追い詰めていく。
「格闘じゃそっちが有利か―――なら、こんなのはどう?」
宙に舞って距離を取り、両の掌に魔力を集中する。
「悪魔の晩餐―――<デモンズディナーフォーク>!」
放たれた魔力が無数の槍と化し、サンレッドを襲う。全てをかわす事は、如何にレッドでも不可能。
「それがどうしたっ!」
ならばとレッドは、多少のダメージを無視して魔槍の嵐の中に敢えて飛び込む。
その決断はレミリアにとっても驚きだったに違いない。攻勢に出たレッドの動きを捉え損ねた、その一瞬。
「らあっ!」
遠心力をたっぷり込めたローリング・ソバットが、レミリアの側頭部を痛打した。
悲鳴を上げながらレミリアは地に叩き付けられ、レッドは更に追い打ちをかけるべく猛進する。
だが、その動きが縫い止められたかのように制止する。見れば彼の手足に、何かが巻き付いていた。
「運命は今、我が手に―――<ミゼラブルフェイト>!」
虚空より飛び出したそれは、真紅の鎖。
血のように赤い無数の鎖が、サンレッドの自由を完全に奪っていた。
「ちっ…!下らねー真似しやがって!」
「負け惜しみは男らしくないわよ?まあ、直にその口も利けなくなる」
レミリアは優位を確信し、レッドを見下ろす。その全身から沸き上がる、緋色の闘気。
「ブチ抜いてあげるわ―――<バッドレディスクランブル>!」
闘気を纏い、自らを弾丸と化しての突撃―――
無防備で喰らえば、レッドとて無傷では済まないだろう。だが。
「らぁぁぁぁぁぁァァァっ!」
怒号と共に裂帛の覇気を放ち、鎖を消し飛ばした。そしてカっ飛んでくるレミリアに向けて、足裏で蹴り付ける。
「なっ…!」
「サンレッド・スーパーキック!」
とか言いつつ、実態は単なるヤクザキック―――されど、彼の脚力とレミリアの勢いが合わさったカウンターだ。
さしもの吸血姫も相当のダメージを被り、倒れこそはしなかったものの大きくよろめいた。
その表情には常に己の一つ上をいくレッドへの驚愕と苛立ち、そしてそれを良しとしない矜持が浮かんでいる。
「へっ! テメーの技は見栄えがいいだけで中身がスカスカなんだよ…そんなんじゃ俺には勝てねーな」
「言ってくれる。幻想郷の闘いというのはただ勝てばいいわけではないの。如何に美しく闘うかを競うのよ」
そう語る彼女の右手に魔力が結集していき、煌々と輝く。
「魅せてあげるわ、サンレッド。我が真の力を―――!」
解き放たれた魔力は槍の形状を取り、太陽の戦士に襲いかかる。
対するサンレッドは、両手を天高く掲げ、己の太陽闘気(コロナ)を凝縮した火炎球を作り出す。
其れはまさしく、地上に顕現した神の火―――即ち、太陽!
「穿ち貫け、神の槍―――<スピア・ザ・グングニル>!」
「燃え盛れ、神の火―――<コロナアタック>!」
両者同時に放った、必殺の一撃。
片や全てを貫く神槍。
片や全てを焼く太陽。
二つの超エネルギーが激突すれば、辺り一面が焼け野原となってもおかしくはなかった。
だが。
「―――その辺にしときなさい。幽々子の家を壊すつもり?」
一瞬にして、相対する神の槍と神の火は消え去った。文字通りに跡形もなく消滅したのだ。
「…八雲紫…!」
レミリアは歯軋りし、いつの間にやら自分とレッドの間に陣取った紫を睨み付けた。
「何をやりやがった、テメエ…」
レッドも険を隠そうともせず問い詰める。大妖怪は事もなげに答えた。
「大したことじゃないわ。ちょいと境界を弄って別の空間に飛ばしただけよ」
そしてレミリアに向き直り、傲然と言い放つ。
「おいたもここまでにしなさい、レミリア・スカーレット。少し挑発されたくらいでこれ以上暴れるようなら私や幽々子
も黙っていないわよ」
「…………」
逡巡するが、答えは決まっていた。
少々熱くなってしまったが、所詮は暇潰しと気晴らし程度の意味しかない闘いだ。
それだけのために幻想郷屈指の実力者である八雲紫や西行寺幽々子を敵に回すほど、彼女は愚かではない。
漆黒の羽根で夜空に飛び上がり、月光を背にしてレッド達を高みより見下ろした。
「興が醒めたわね―――今夜の宴は御開きよ」
そして。
「覚悟しておくのね、サンレッド―――トーナメントで出会った時こそ、きっちりしっかり殺してあげる」
剣呑な言葉だけ残して、吸血姫は去っていく。
サンレッドは無言で、その背をただ静かに見送った。
「すっごーい!レッドさん、かっこよかったー!」
そんな彼にコタロウが駆け寄り、笑顔で抱き付く。
「まるで本物のヒーローみたいだったよ!」
「何だよ、その褒め方は…」
まるでいつもはヒーローじゃないかのようである。そして否定はできないのが悲しい。
「…レッドさん」
と。ヴァンプ様はジト目でレッドを見つめていた。そして、急にプリプリして文句を言いだす。
「もぉ〜っ!レッドさん、何なんですか、今の闘い!」
「何を怒ってんだよ、お前…」
「何を、じゃありません!私達との対決じゃ、あんな派手なアクションしてくれないくせに、もう!私だってね、レッド
さんがいつもああいう感じで対決してくれてたらこんな文句は言いませんよ!ほんとにもう!」
「…………」
レッドさんは救い難い、とばかりに嘆息し、ゲンコツで無理矢理黙らせた。
「に、しても…確かに強かったよ、あのガキ」
今でもこの身に、闘いの余韻が残っている。
結果的には終始優位に立っていたとはいえ、見た目ほど余裕があったわけでもない。
気を抜いていれば、こちらがやられていてもおかしくはなかった。
「あいつが川崎に来た時にお前の言ってた事も、あながち過大評価ってわけでもなかったな、ジロー」
「…………」
「おい、何ボーっとしてんだよ」
「…申し訳ない。正直、圧倒されていました」
同じ吸血鬼だからこそ、レミリアとの格の違い―――否、桁の違いは傍から見るだけで理解できた。
そして、そのレミリアと互角以上に渡り合ったサンレッド。
「おまけに、あなた方は双方共に全力を見せたわけではない…はっきり言って、気が滅入りますよ」
「もう、兄者ったらそんな弱気じゃダメだよ!」
コタロウはそう言って励ますが、ジローの表情は暗い。
「そうは言いますが、コタロウ…兄はとても嫌な予感がするのです。私の扱いに困った作者が、ロクでもない末路
を用意してそうな…自分で言うのもなんですが、私の強さは雑魚散らしには丁度いいけど強敵にはボロボロになる
という、実に半端な強さなんですよ?サンレッドは素人から玄人まで扱いやすい圧倒的な強さですが、私のような
強さは素人には扱いが難しすぎるんです」
「だからメタ発言はやめましょう、ジローさん」
ぽんぽんと、妖夢はジローの肩を叩く。
「ジローさんのカッコいい所、私は全部分かってますから。主に原作小説で。だからこの腐れSSでどれだけ酷い
扱いを受けようとも、私は生暖かい視線で見守りますからね」
「5秒前に自分が仰った事を覚えていないんですか、あなたは…」
「ちなみに私はジロー×ケインよりジロー×陣内が好みです。好青年と渋いおじさま、いいですよね」
「死んでしまえ」
「おや、さてはゼルマン×ジローがいいのですか?美少年に強気責めされるのがいいんですね、このマゾ野郎め」
「殺す!必殺と書いて必ず殺す!」
「皆さんは男同士と見れば妄想カップリングに走る腐女子を毛嫌いしますが、あなた達だって女同士と見ればレズ
カップリング妄想をなさるでしょう?マリアリだの勇パルだの、幻想に過ぎないのに…我々の本質は結局の所同じ
なんですよ。現実を見ましょう、現実を」
「話を逸らすなぁっ!そしてハシさんを始めとする色んな方面を敵に回すなぁっ!」
「はいはい、境界操作境界操作」
八雲紫が境界を弄ったおかげで、およそ十行ほどの駄文はなかったことにされた。
マリアリはジャスティスだし、勇パルはジェラシー。大丈夫、これが現実だよ。
「まあ、何はともあれ…一筋縄じゃあいかなそうだな」
「その通りよ、サンレッド」
幽雅に扇を広げ、幽々子は妖艶に微笑む。
「最強の吸血鬼たるレミリアですら、此処ではあくまで<屈指の実力者>でしかないわ―――幻想郷はまさに人外
の群雄割拠。幽々白書っぽくいうと<バカな…!これほどの力を持った奴らが何の野心も持たずに暮らしていたと
いうのか!?>よ」
「ポッと出のオッサンに優勝をかっ攫われそうな話だな…」
ま、そんなつもりはさらさらねーけどな。
サンレッドはそう言った。
「普段が普段だからよ―――ここらでヒーローらしい所をたっぷり見せてやるぜ」
―――そしてトーナメントの噂は、瞬く間に幻想郷を駆け巡る。
次は、その参加者達のそれぞれの思惑を語るとしよう。
>>152 「あら、私を知っているのかしら?」
「ああ。川崎でプリン落っことして泣いてたガキだろ?」
ぐっと、蝙蝠が言葉に詰まる。紫と幽々子が思わず吹き出し、蝙蝠はぐっと言葉に詰まる。
この部分、保管の際にはこうなおしてください。
「あら、私を知っているのかしら?」
「ああ。川崎でプリン落っことして泣いてたガキだろ?」
紫と幽々子が思わず吹き出し、蝙蝠はぐっと言葉に詰まる。
レッドさんはフロシャイムにもちゃんと戦ってやれよ・・
他作品キャラばかりひいきじゃないか・・
でもヴァンプ様ゲンコツ一発か。萌えキャラだなただの
いやひいきもなにも原作キャラに本気出したら消し炭になっちゃうから出せないw
東方キャラってこんなに強いのか
主役のレッドもようやく本気を出せるみたいだな
バンプ相手には手加減しまくりだったろうけどw
>>163 >>東方キャラってこんなに強いのか
俺の感覚だとむしろ普段着のままでレミリアお嬢と互角以上に闘える
レッドさんが強すぎるw
各種フォーム使ったら現時点で東方最強キャラ(恐らく)の綿月姉妹も
敵じゃなかろうな
165 :
作者の都合により名無しです:2010/03/25(木) 20:41:08 ID:OIyDMw2x0
賛否両論あった、黄金期ジャンプ時代の集英社・漫画部門。
鳥山明ですら、アシスタント逃散・リリーフレスでナメック星編やりとげたことがある。描き直しもしない潔さ。
原哲夫と堀江信彦のコンビは、編集部がゴリ押ししてもユリアしか復活させてない。これが武勇伝になる世界。
でも、ああいう編集方針が全盛期を作ったのも事実。
週刊少年サンデーなんか、名作多いけど妙にグダグダで高橋留美子ぐらいしかパッと思いつく作家名がない。
チャンピオンに至っては、バキとか星矢の移籍先ぐらいしか今となってはイメージできない雑誌。
浦安鉄筋家族とか特攻天女とか京四郎とか部活道とか、面白い作品はけっこーあったにも関らずです。
着地点というか、おおまかな感じとしてはのび太の成長と堕落や他作品とのコラボですが・・・。
展開によっては、ドラたちが生きて完結するのかも未定。なんたって、パラレルワールドの概念が当たり前。
いかんせん、人の復活も(22世紀の法律では不味くとも技術的には)男塾より容易な連中です。
原作との辻褄を付けるのがSSを引き立てますが、児童期の時点でのび太(オリジナル)が氏んでても問題が無い。
だが、それがいい。これからも、ご感想などじゃんじゃんお聞かせ下さい。
あなたは間違いなく普通の人と感覚と感性が違うな。
まあ多少ズレてなければSSなんて書けんよ。元SS書きの俺が言うから間違いない。
サマサ氏の書く毒舌妖夢にはちょっとビックリしたが、これはこれでいいと
思えてきたwゆゆ様とのやり取りがギャグマンガ日和の太子と妹子っぽくて
なんか好き。
特撮の世界観で言えば、ラディッツはどんな感じですかね。
地球人類の危機で言えば、彼ほどダイレクトな奴も珍しいでしょう。
やはり、外宇宙から来る奴は範疇外でしょうか。
170 :
ふら〜り:2010/03/28(日) 22:49:21 ID:CT5hjBVhP
>>カイカイさん
瞬間接着銃は確か、のび太の得意とする拳銃ではなくライフル型だったような、とか。
チッポケット二次元カメラを差し置いて、DQ4のモンスターを未知の存在として出した
ダイ大のアレを使うか、とか。少々古めの、ちりばめられたコアでディープなネタがなんとも。
>>サマサさん(そうそう、本質は同じ。なのに似たもの同士が罵り合うこと多し。嘆かわしい)
流石というか、実年齢や実力はどうあれ、とりあえず外見は女の子相手に容赦ないですな
レッド。それもビームではなく拳で脚で思いっきり。あるいは、レッドにそこまでやらせる方が「流石」
なのか? こうなると、トーナメントまでに修行してヴァンプ将軍も参戦、そしてレッドと……
〜それぞれの思惑・前篇〜
さて、天体戦士サンレッドとレミリア・スカーレットの挨拶代わりの闘いから一夜明けて。
幻想郷と外の世界の境界に位置する博麗神社。
神主は不在。いるのはただ一人<博麗の巫女>。
彼女こそは外界との往来を遮断する<博麗大結界>を管理する存在にして、幻想郷の異変を解決する役割(ロール)
を与えられし存在。
そんな霊験あらたかな神社であるが、一言でいえば寂れている。
二言でいえば蝶・寂れている。ほんともう、閑古鳥が大挙して押し寄せているのだ。
そんなトホホな神社の境内には、件の<博麗の巫女>。
紅白を基調とし、脇を大胆に露出させた巫女服を着込んだ黒髪の少女―――
<楽園の素敵な巫女>博麗霊夢(はくれい・れいむ)だ。
幻想郷の異変解決屋である博麗の巫女として多忙な日々を送っている割に、ちっとも懐が潤わない彼女は賽銭箱を
覗いては溜息をつく。その姿だけならば憂いを帯びた美少女に見えなくもない。
「あ〜金欲しいな〜金かねカネ。世の中お金が全てじゃないけど大概の物は金で買えるし人の心だって金で動かせ
なくもないのよ。世の大人が本当の事を言わないなら言ってやるわ、金は命よりも重いのよ。命乞いなら貴様の好き
なお金様に頼めですって?上等よ、金さえくれればアンタを守って私がバットー斎と闘ってやるわー」
台無しだった。
「あー…どっかに金になる話はないかなー…」
「金、金、金と嘆かわしい。<博麗の巫女>ともあろう者がなんたるザマか」
いつの間にか境内に、狐がいた。
金色の狐だった。
九つの尾を持つ、この世のものとも思えぬほどに美しい狐だった。
「貴女は財布よりも心を豊かにすべきだな。心に一輪の美しき花を咲かせれば、空っぽの賽銭箱も閑古鳥の鳴き声
も、きっと気にならなくなることだろう。心が満たされれば世界はほら、こんなに素晴らしい」
「心の前に私のお腹を満たしてよ。こちとらこのままじゃ強制断食道場だっつーの」
九尾の狐が言葉を発している―――とんでもない光景だったが、霊夢は特に驚く様子もない。
この狐とは、顔見知りだ。
「浅ましい、浅ましい。腹が膨れればそれでいいなど、貴女の心はまっこと乾いているな」
「だったら何か面白い事をやってよ、藍(らん)。最近さっぱり異変も起こらないし、退屈してんのよ」
―――この九尾の狐は<スキマ妖怪の式>八雲藍(やくも・らん)。
大妖怪・八雲紫の使役する式神であり、忠実なる家来だ。
なお九尾狐とは、この幻想郷においても伝説級の妖怪である。そんなシロモノを己の手足として扱う八雲紫―――
まこと、底知れぬ深淵だ。
「ほら、魔理沙プロデュースの<星屑のバレンタイン>や紫考案の<星隠しのホワイトデー>みたいな。ああいう
エンターテイメントを求めてるの、私は」
それを前にしてまるで萎縮する様子のない霊夢も、大したものである。無礼とも思える態度も慣れっこなのか、藍
は特に気分を害した様子もなく答えた。
「<幻想郷最大トーナメント>」
「はあ?」
何それ、と顔に?マークを浮かべる霊夢。
「我が主・八雲紫とその朋友であらせられる西行寺幽々子殿によって、近々開催される祭りだ」
「祭り…?一体、どういうものよ」
事情が飲み込めない霊夢に対し、藍は得々と昨夜の顛末を語った。
外界より招かれた者達。
伝説の吸血鬼<賢者イヴ>の遺した秘蔵の宝。
それを巡り開催される、一大トーナメント。
何を考えているのやら、話が進むにつれて次第に霊夢の瞳が輝きを増し始めていた。
「…既にこの件はかの<伝統の幻想ブン屋>にも伝わっているからな。今日中には幻想郷全土に渡って広まること
だろう。なお、開催日は一週間後を予定している」
「ほほお…それにしても、親切な狐ね。放っておいても伝わるってのに、わざわざ教えに来てくれるなんて」
「主の命令だ。折角だから貴女にも出番をあげる、などと仰られてな…紫様は偉大な御方だが、時々理解できない
時もある―――否、私如きが紫様を理解しようなどと、おこがましいというもの。私はただあの御方の式として、
命令に従うまで」
「ふん、殊勝だこと。世の家来に恵まれない御主人様はあんたを見てさぞ羨むことでしょうね。ほんと、家来の鑑
だわ。奴隷根性ここに極まるってカンジ」
「ふふふ、褒めても何もあげないぞ?」
「今のを褒め言葉だと思えるあんたがすごいわ…まあいい。とにかく、そのトーナメントで優勝すれば、賢者イヴ
の秘宝とやらが頂けるって寸法でしょう?」
「イグザクトリィ(その通り)」
九尾の妖狐はくいっと首を持ち上げる。人間でいえば、胸をそっくり返らせているようなものだろう。
霊夢は尊大な妖狐に気を悪くした様子もなく、にやりと笑った。
原作・東方の主人公らしからぬ、真っ黒な笑みだった。
「面白そうじゃない。退屈しのぎがてらに秘宝とやらを手に入れて、ウチの神社の御神体にしてやるわ!」
「ほほう、それで参拝客と賽銭GETだぜ!といった所か?」
「そう上手くいけばいいけどね。ま、最悪でも売り飛ばせば二束三文でもお金にゃなるでしょ」
「それは物凄く失礼な発言だぞ、博麗の巫女よ…」
何はともあれ<楽園の素敵な巫女>博麗霊夢。
トーナメント、参戦決定。
―――さて、日も落ちて暗闇の中。
此処は人里離れた妖怪の山。
その名の通り、この地は河童や天狗といった数々の妖怪が生息している。
そして―――こんな奴らもいたりするのだ。
妖怪の山の奥深く、その一軒家はあった。
ごく普通の瓦葺の日本家屋―――しかし、その実態は恐るべき妖怪達の巣窟なのだ!
その内部はというと、異様の一言である。
煌びやかな照明に、整然と並んだテーブル席。まるでキャバクラか何かである。
その一角に、幼子がちょこんと座っていた。
それはそれは、奇妙な姿の幼子だった。
衣類は簡素な上着にヒラヒラしたスカート。
長く伸ばした亜麻色の髪。その頭部の両脇からは、捩れた二対の長い角。
妖怪の中でも最強の戦闘種族と謳われし、伝説の怪物―――<鬼>。
そして彼女こそは<鬼>の中でも群を抜いた力量を誇り、妖怪の山の四天王の一角―――
名を伊吹萃香(いぶき・すいか)。
<小さな百鬼夜行>の二つ名を持つ、酔いどれツルペタ幼女である。
「…お姉さん。手持ち、これだけあるんだが」
萃香は懐から、いくらかの硬貨を取り出し、テーブルに置く。
「これで、一番上等な酒をくれないか…悪酔いしないやつを頼む」
「おう。ちょっと待ってなよ」
金を受け取って奥へと引っ込んでいったのは、萃香とは対照的に長身でグラマー、腰まで伸びた鮮やかな金髪を悠然
と靡かせる、如何にも男勝りな印象の美女だった。
まるで体操服のような簡素な上着に、足首まで隠れるロングスカート。額から突き出た真っ赤な一本角。
萃香と同じく鬼にして、共に四天王の名を受けた女傑。
その名を星熊勇儀(ほしぐま・ゆうぎ)。
<語られる怪力乱神(かいりょくらんしん)><力の勇儀>と称される実力派の妖怪だ。
彼女はぱたぱたと店の奥に引っ込み、じきに酒瓶を手に戻ってきた。
「どうぞ、お客さん」
「ありがとよ」
ワイングラスに注がれた真っ赤な液体を、グイっと一口。萃香はその味わいに、目を瞠った。
「―――美味い。本物の葡萄酒ってのはこんなに美味いもんだったのか…今まで私が酒だと思ってた液体は、一体
何だったんだろうな…」
「それは<ロレーヌ>。上等な味なのに懐に優しい、人気の逸品さ」
「<ロレーヌ>か…」
不意に、脳裏に浮かんだ光景。
赦されぬ想いに身を焦がした貴族の令嬢と使用人の少年。悲恋の果ての逃避行。
そんな歓びも哀しみも思い出も、全てを包むような優しい味わい。
萃香は寂しげに、けれど満足したように微笑み、席を立った。
外に出ると、空には満面の星屑(エトワール)。
「嗚呼…人生はままならぬ…されど、この痛みこそ―――私が生きた証なのだ…」
そしてカメラ目線で振り向き、ニカッと笑って親指を立てる。
「そんな素敵(ロマン)が溢れてる!さあ、キミも<クラブ・イブキ>で夢の時間を過ごそう!」
「はい、カットカットカットォ!御二方、素晴らしい演技でした!…って、何なんですかこれ…」
草むらからビデオカメラと集音マイクを手に現れたのは、見目麗しい少女。
海のように、あるいは空のように青く煌くロングヘア。
桃の実と葉をあしらった装飾の丸い帽子がトレードマーク。
胸元に赤いリボンを取り付けた半袖の白い上着にロングスカート、足にはブーツという洋装。
<非想非非想天の娘>比那名居天子(ひななゐ・てんし)。
天界に住まう高貴なる民・天人が一人である。
彼女は以前、とある事件をきっかけに萃香によって叩きのめされ、以来悲しき舎弟扱いを受けているのだ。
元来ワガママお嬢様気質の天子にとっては、辛い日々であった。
「そんな事をいって分かっとるんだぞぉ、天子ちゃんよ。ドMの天子ちゃんは実は私にぞんざいに扱われることで
快感を得ているのだという事実を」
「ちょっと、やめて下さいよ。私のドM設定はファンの皆さんが面白がって捏造してるだけなんですからね!私は
痛いのなんて大嫌いなんです!」
「またまたー。寝言で<もっとぶって>と言ってるのをこの萃香ちゃんは聴き逃しませんでしたよ?」
「バカな!?いやいや、そういう話じゃなくて、何故こんな撮影をしてるのかと聞いてるんです!」
「何故?ふふふ…これを見れば分かろう、天子ちゃん」
萃香が指差した先には、ド派手なネオンが取り付けられた看板。ネオンの文字はこう書かれていた―――
<クラブ・イブキ>と。
「これぞ萃香ちゃんプロデュース・幻想郷の夜のオアシス<クラブ・イブキ>じゃあ!」
うっとりした顔で、萃香は語る。
「幻想郷の夜に華と彩りを。楽しく美味しく酒を呑もう―――そんな想いを込め、私は念願の店を持つに至った!
さっきのは、宣伝用のプロモーション・ビデオ撮影というわけよ」
「さいでっか…しかし、そんな事のためにわざわざ勇儀さんまで呼んだんですか?」
「いいのいいの。数百年来の親友・萃香の頼みだからね。断る理由もないよ」
からからと快活に笑う勇儀。
「それに、地底に閉じこもりっぱなしも何だしね。たまには地上に出てみるのも悪かないさ」
「地底か…こう言っちゃなんですけど、あんまりイメージよくないですよね」
「否定はしないよ。けど、棲んでる奴らは意外とイカしてる」
「例えば?」
「病毒遣いの土蜘蛛に、死体運びが趣味の猫娘。核融合を操る地獄鴉に心を読むロリっ娘。そして妬ましがり屋の
寂しがり屋さ」
「…どれもこれもお近づきになりたくないんですけど」
「そう言いなさんな。付き合ってみりゃ、意外と可愛い魑魅魍魎共だからね」
妖怪の山の四天王―――とはいうものの勇儀は現在、地上に住んでいない。
というよりも、地上で呑気に暮らしている萃香の方が鬼としては珍しいのだ。
鬼は遥か昔に地上を棄て、地底深くに新天地を求めて移り住んだ。
星熊勇儀はその代表者として地底の鬼達を纏め上げている―――誰に頼まれたわけでもないが、そもそも鬼は闘い
を好み、強者を尊ぶ。豪放磊落で面倒見のいい姉御肌の性格に加え、山の四天王の一人に数えられる実力を備えた
彼女は、自然とそんなポジションに立っていたのだ。
「そりゃそうと天子ちゃん、さっきの映像を早速見せておくれよ。どんな仕上がりになってるのか確認しねーと」
「おお、そうだそうだ。私はかっこよく映ってるんだろうね?」
「はいはい、今やりますよ」
天子はいそいそと機器を操作し、ついにお披露目の時となった。
「さあ、とくとごろうじろ!これが<クラブ・イブキ>プロモーション・ムービーでございます!」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7924529 「…うん…すげえよ。すっごくよくできてる…でもさあ…」
萃香はジト目で天子を睨んだ。
「全然さっきの映像ねーじゃん!まるで別物じゃん!」
「だってさっきの寸劇、どう見ても漫画版<Roman>の<見えざる腕>のおパクリじゃないですか」
「いいじゃん別に!サンホラリスペクトって奴だよ!」
「リスペクトとかオマージュとか付けば何でも赦されるわけではないんですよ、萃香さん」
「ぬう…まあ、仕方ねーか…」
萃香はそれでも納得いかない様子だったが、結局は折れたようだった。
「プロモーション映像はこれでよし…後はホステスとして選りすぐりの幼女とツルペタを萃(あつ)めるばかり!」
「幼女とツルペタしかいない店に需要があるんですか?貧乳はステータスで希少価値だなんて幻です」
「う、ぬう…」
「実際は巨乳の方が余程ステータスだし希少価値なんですよ…ケッ!」
天子は自嘲気味に悪態を吐く。その掌は己の胸部をぺたぺたと撫でている。
<揺れない震源地>その控えめにして絶壁の胸に与えられし二つ名であった。
萃香も悲しげに己の断崖絶壁を見つめる。
この場で唯一巨乳の勇儀はというと、ちょっと肩身の狭い思いをしていたという。
「うーん…しかし、今更デカ乳を萃めるというのも負けた気が…となると、別の方面で勝負か…なんぞないかなー、
凡百のキャバクラとは一線を画す、ここにしかない名物…」
萃香は眉間にしわを寄せて考え込む。そして一分後、彼女の頭上に豆電球が光った。
「よし、思いついた…天子ちゃん」
「はい?」
「おめー、脱げ」
萃香の目は、マジだった。
「あ、あの…それは」
「だから、脱げ。クラブ・イブキの名物―――ザ・女体ショー!」
叫びながら萃香は天子にのしかかり、力任せに脱がしにかかる。
「何でそうなるんですかぁぁぁぁぁ!?」
「とりあえずエロじゃあ!エロさえあれば男はやってくる!困ったらエロに走れば間違いない!それはToLOVEるが
歴史的事実として証明しちょる!手始めにおめーの貧相な乳でもいいから晒すんじゃあ!さあ、おめーも手伝え
勇儀!オープンしたらタダ酒チケットやるから!」
「ガッテン承知の助!さあ、あたしのタダ酒のために乳を見せろ!」
「そんな史上最低の理由で乙女の乳を晒してたまるかぁぁぁぁ!助けてぇぇぇ!」
「ええい、五月蠅い!健全な男性読者諸君が今頃右手をせわしなく動かしとるんじゃ、観念せい!」
まるでニューヨークのスラム街か、でなくば梅澤春人漫画のような光景であった。
このまま天子ちゃんはロック&ドラッグ&セックス&バイオレンスの世界に突入してしまうのだろうか!?
その時。
「あやややや、お取り込み中でしたか?とりあえずパシャパシャ、とな。毎度お馴染み、清く正しい射命丸です」
能天気な声とカメラのフラッシュに、萃香達は振り向く。
そこにいたのは黒い翼を生やした少女だった。
翼とは対照的に、雪のように白く陶器の如く滑らかな肌。
肩までの艶やかな黒髪は、まさに鴉の濡れ羽という他にない美しさだ。
彼女は鴉天狗の射命丸文(しゃめいまる・あや)。
<伝統の幻想ブン屋>と異名を取る、新聞記者である。
「あ、私の事は気にせず続けてください。なんならエロパロでやれというレベルまでやっちゃって結構なんで」
「…興が失せたよ、天狗め」
萃香と勇儀は天子から離れた。天子は衣服を整えながら安堵の息をつく。
「た、助かった…ところで、さっきの写真は…」
「安心して下さい。我が文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)の一面にバッチリ掲載しますので!」
「悪魔だ!ここに悪魔がいる!」
※射命丸文は鴉天狗です。
「くくく…今宵の文々。新聞は貴女のおかげで世の貧乳マニアにバカ売れですぞ…」
「嬉しくなーいっ!」
「ま、冗談はともかく、これをどうぞ」
文は肩に下げたバッグから、紙の束を取り出す。
それこそは<文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)>―――射命丸文が個人で発行している新聞であり、常人にも
理解しやすい身近な話題を、到底常人とは言い難い連中に配達し、それなりに人気を博している読み物である。
「いやあ、最近は中々いい記事が書けなかったんですが、今回は特ダネですよ」
「へー。まあ、期待せずに読んでやんよ」
やる気のない態度で文々。新聞を読み始める萃香。勇儀と天子も横から覗き込む。
「ふーん…トーナメント、ねえ…あんま興味ないかなー」
「そっか?強い奴がたくさん出るなら、面白そうだとおもうけど」
「痛いのはやだなあ…」
いまいち反応が悪い三人に、文は少々不満顔だ。
「あややや、あまり乗り気でなさそうですねぇ?貴女方のような実力者に出て頂ければ、盛り上がる事間違いなしなん
ですが」
「ヒマなら出てもよかったんだけどね、私は<クラブ・イブキ>の開店準備で大忙しなんだよ。人員の確保に広報活動
だの、他にも諸々」
「だからこそですよ!」
ずいいっ!と文はキスするかと思うくらいに顔を近づける。
「トーナメントは一般公開して、観客も人妖問わず大勢集めますからね。バリバリ活躍すれば、俄然注目を浴びますよ。
そこでキャバクラの宣伝をすればいいんです!」
「お?」
その意見には思うところがあったのか、萃香は目を丸くする。
「そうすればホステスとして働きたいという女性もいるかもしれませんし、一度は行ってみようかなと思う者もいるやも
しれません。立派な広報活動ですよ」
「お、お?」
「そして優勝すれば、かの大吸血鬼<賢者イヴ>の遺産も手に入る―――それは、この店の名物になるんじゃない
でしょうか、などとこの愚かな天狗は思うわけですが如何です?」
「お、お、おお!」
萃香は色めきたち、目をキラキラさせて文の手をガシっと握った。
「おーし、トーナメントで活躍しまくってクラブ・イブキの宣伝すっぞー!ついでに秘宝とやらも手に入れてウチの名物
にしちゃる!これで赤字も閑古鳥も何処吹く風よ!」
すっかりその気である。文は誰にも聴こえないように小さく呟いた。
「まさか、ここまで単純なオミソの持ち主だったとは…」
「ん?なんか言った?」
「いえいえ、何も」
「まーいいや。もっちろん勇儀も出るよな?一緒に大暴れしたろうぜ!」
「そーだなぁ…」
顎に手を当てて少し考えるフリをしてみるが、断るつもりも理由もない。
お祭り騒ぎも強い奴とのケンカも、彼女は大好きなのだ。
「よし!一緒に出よう、萃香」
「そう来ないとね!」
グッと拳を押し当てあう二人の鬼であった。天子はそんな彼女らに不安げに問う。
「そう上手くいきますか?強い人がいっぱい出るんじゃ…それにほら、外界の吸血鬼とかヒーローとか、どういう力の
持ち主なのか分からない奴らも出るみたいですし、油断してれば足元を掬われますよ」
「かかかかか、天子よ。おめーも随分丸くなっちゃったなあ。我等を誰と心得る!」
「そう!この星熊勇儀と伊吹萃香―――共に<妖怪の山>四天王が一角也!」
二人は肩を組み、啖呵を切った。
「人間だろうと妖怪だろうとヒーローだろうと―――ケンカで鬼に勝てるものか!」
<小さな百鬼夜行>伊吹萃香。
そして<語られる怪力乱神>星熊勇儀。
トーナメント、参戦決定。
投下完了。前回は
>>158より。
アクセス規制うざい。こんな調子じゃ2ちゃんねるはダメになるぞ…
どんどんマニアックな方向に走り始めました。これでいいんだろうか(汗)
出場者紹介編は一度で終わらすつもりだったんですが結構長くなったので、次回に続く。
>>161 本気で闘ってたら今頃フロシャイムは壊滅してます。
>>162 そう考えるとゲンコツだけで勘弁してあげてるレッドさんは優しい。
>>163 でもお嬢様は結構負けてるから、東方ラスボス格の中では弱い部類かも…
>>164 レッドさんの本気は惑星破壊レベルですからね…特撮ヒーローとしては破格の強さでしょう。
>>167 ちょっと極端なキャラ付けをしすぎたかなあ、と思っとりますw
>>169 やはりレッドさんは出てくる作品を間違えたヒーローだとしか思えない。
>>ふら〜りさん
本気を出さずにあしらえる相手なら、流石にここまでせんと思います。一応ヒーローなんでw
ヴァンプ様は<ライバル>というより<ヒロイン>ポジションです。悪の将軍なのに。
178 :
作者の都合により名無しです:2010/04/03(土) 13:47:51 ID:HyXMApi+0
179 :
作者の都合により名無しです:2010/04/03(土) 14:45:11 ID:WIXZX8F60
乙ですサマサさん。規制、まじでウザイですね。
東方の主要キャラは総出演みたいな感じになるのかな?
東方は正直詳しくないけど、トーナメント物は好きなので期待です。
面白かったころのバキの最大トーナメントみたいになるといいな。
規制のせいだろうけど、人が少なくて不安になるぜ…
サマサさん乙かれ。
やっぱ霊夢は貧乏・守銭奴キャラなのね…勇儀と萃香の鬼コンビって公式で絡みがある割に
意外と書いてる人は少ない気がするので結構新鮮だった(俺がそういうのを見てなかっただけかもしれんが)
いつになったら規制終わるんだ
ネットカフエ代も馬鹿にならん
サマサさん乙華麗です!
あートーナメント楽しみだけど星熊勇儀ってどんな奴だったっけ?
もう一度東方勉強してみるかな。ちょっぴりエロ要素も入ると嬉しいな
なかなか規制で感想かけないけど、サマサさんどんどん更新お願いします
2ちゃんもうだめなのかね。今年、俺のパソコンから書き込める日より
規制の日の方が倍は多いぞ?
耳鳴りが、地響きとなって僕の体を揺すっている。
あのカミソリはなんだ? 「こちらへどうぞ」とは誰に向かって言っているのだ?
僕の体が椅子から降りてのそのそと歩く、呼ばれたのは僕なのか?
僕の心には初めて殺人鬼と出会った日の様な不安が満ちていた。
父を失った悲しみを覚える暇も無い、圧倒的な恐怖にベッドの下でガタガタと体を震わせていた。
だが、僕の体はもう僕の意思では動かない……あの時のような震えもなければ冷や汗だって流さない。
カミソリをもった店主に向かって操り人形のようにフラフラと歩いていく。
店主の顔からは笑みは消え、作業に没頭する機械を思わせる冷たい目をしていた。
その目でジッと見つめられると、筋に寒気が走り凍りつくような感覚に襲われた。
白いペースト状の液体を取り出し、筆のように先端のまとまった刷毛でペーストを良く混ぜる。
「痛みや出血が見られないほど軽度デスが、出来かけの口内炎を見つけまシタ。
歯は磨かれているのでその他の原因であるビタミン、鉄分の不足分をチコリーとレモンで補充しマス」
顔面にムズムズとした痒みが走る、頬がビクビクと痙攣して目が無理やり開閉させられ視界が歪む。
ピリピリとした痛みが鼻の下から頬へ、頬から顎へと伝わっていく。
「そしてリンゴに含まれるカリウムがブルーチーズに含まれるカビによって化学反応を起こし増大。
筋肉、神経細胞を躍動させて口内の雑菌を皮膚から外に押出すのデス」
店主が解説している様だが訳が判らない、ママの様な異常が僕に起こるのだろうという不安から目は開けたままだ。
そのせいでもっと異常なことを目の当たりにし、目だけではなく『感触』としてそれを感知すると叫び声を上げた。
「ひ、ひげ―――!」
異常な速度で、異常な物が僕の顔にビッシリと生えている、今の僕には無いはずの物が今も伸び続けている。
顔の半分を覆う無数に生える黒い線状の物体……僕の顔に、『ヒゲ』が生えていた。
テレビや小説、フィクションの世界ならこんな時にはズルズルと音をたてて毛が伸びていくのだろう。
だが、この異常な事態はフィクションであることを否定するように無音のまま進行していく。
「チーズに含まれる豊富なタンパク質は構成するアミノ酸のバランスがよくスムーズに消化・吸収されマス。
そして、栄養価を搾り出されたタンパク質で擬似ケラチンを精製し内部を雑菌で固めて毛髪状にして外へ出すのデス」
店主が相変わらず有り得ない理論を述べているが、現実に僕の体に起こっている。
だが今は店主の理論に従ってこの怪奇現象が起きているのかを気にしている余裕はない。
ママ達に助けを求めるべく、首から上をママの方へと向ける。
「マ、ママ! 僕にヒゲが……」
「新鮮なリンゴの甘さとアンディーヴの柔らかな苦味! 噛むとあふれ出す水分の爽やかさとがドッキング!」
「こんなに水々しいサラダなのに薄味の物足りなさが全くない! 激流に身を任せ同化している気分だ!」
ママも殺人鬼も僕には目もくれず料理を口に運び続けている。
目は爛々と妖しく輝き、自分の意思など存在していないかのようだった。
僕を助けてくれる人間は、もう居ない……。
力を持った人の悪意、欲望のままに蠢く闇を止められる人間はもう居ないのだ。
その力を前にして、僕に平穏は訪れないという事を改めて思い知らされる。
「さっ、動かないで下サイ……手元が狂ってしまいマスからネ」
店主が僕へ睨むような鋭い視線を送ると、一瞬だけ動いた首が再び固定される。
蛇に睨まれた蛙のように僕の体は動かなくなり、店主にされるがまま顔に生暖かい液体を塗られる。
カミソリの刃が頬に当てられ、一瞬ひやりとするがペーストに暖められ金属の固さだけが肌に伝わるようになる。
ヌルりとした液体と一緒に体毛が削ぎ落とされていく、異物感が取り除かれる心地良さがあった。
同時に感じる、他人の手に握られた刃物が自分に押し当てられている恐怖。
僕の命は彼の手の内にあり、このカミソリを喉元に押し当てるだけで僕の意識は永遠に戻らない場所へ旅立つのだ。
永い時を彷徨う様な、終着点もなく歩いているような時間。
ヒゲはゆっくり確実に減っているのに終わりが見えない。
もしかしたら刈り取られるのはヒゲだけではなく、僕の命……。
「ハイ、終わりましたよ」
「えっ?」
頬へ触れる、生い茂る雑草のように蔓延っていたヒゲが綺麗に剃られていた。
つやつやもちもちとほっぺたが手の平に吸い付くような弾力を返してくる。
店主の意図を読めず困惑していると、何時の間にかヒゲを片付け終えた店主がママに料理を解説していた。
「レモンの美肌効果は本物デスが、果汁を肌に直接塗ると汁は酸性なので刺激や皮膚炎のリスクを負います。
口から取り込んだ各種ビタミンをしっかりと体中に浸透させ肌へと伝わり効果が現れるのデス」
「言われてみると……なんだか肌が若返ったみたいにすべすべになったような気が………」
「ハハハ、ここの料理ならそんなにすぐに変わらないと判っていてもそんな気分にさせられるよ」
若返ったみたいに、その言葉にまさかと思いママを見て異変に気付く。
身体的特徴に大きな変化は見られない、それにママは元々若く見える方だ。
だが、生まれて一日たりともママの顔を見なかった日はない僕には判る。
写真でしか見たことのないママの顔、ママは十代後半まで若返っていた。
「マ……ママ! ホントに若くなってる!」
「やだぁ、早人ったらお世辞が上手いんだから」
「は〜や〜とぉ〜……欲しいものがあるんだろ? ママに取り入ろうって魂胆かぁ〜?」
ママも殺人鬼も僕の言うことを冗談として受け流し、談笑を続け料理を堪能している。
そんな二人を見てか、店主の顔には再び笑みが戻っていた。
「いえいえ、本当にお若くなっておられマス」
「フゥ〜ム、言われて見ると本当に若くなったような……」
「まぁ! アナタったら調子がいいんだから、フフン♪」
ありきたりなお世辞を残して厨房へと去る店主、そのお世辞が現実にママに起こっているとは。
僕の身に起きた変化、ママの凍る目と異常な若返り。
店主の目的は何なのか、命を取り留めた今では皆目検討がつかない。
「お待たせしまシタ。こちらがプリモ・ピアット、『タリアテッレ・ボロネーゼ』デス」
考えを纏める暇もないまま、次の料理が運ばれる。
プリモピアット(第一の皿)には主にパスタやスープが選ばれる。
店主が持ち出したのはパスタだった、見慣れない薄く延ばされた平べったい麺。
そこに細かく刻まれたニンジン、タマネギ、そしてひき肉たっぷりのミートソースが絡まっている。
「イタリア料理アカデミーでは牛肉を推奨していマスが、家庭的な物として出すなら豚挽肉が最適デス。
食通の自尊心を満足させるための高級料理では、料理による幸せは生まれませン。
幸せの原点……貧富に関わらず誰もが感じることのできる味、それが『家庭の味』デス」
幸せ………彼が本当に僕達に幸せをもたらすとは、僕には信じられなくなっていた。
それに水、サラダ、これを口に含んだ僕とママには以上が起きたのに殺人鬼には何もない。
もしや、殺人鬼の仲間ではないのか……そんな疑問が僕の脳裏に浮かんだ。
そうだとしたらママを助けられるのは、僕しかいない。
胸が激しく動悸する、ママのフォークがパスタを絡めとっていた。
規制オワタ。ひげー!の元ネタはロマサガ2。コメントで料理語ってたらこんなに書くスペースが狭く……邪神です(;0w0)
しかしこの展開のgdgdっぷり……原作知ってれば分かることだしさっさと書くべき所をgdってしまうのがこの私。
>>ふら〜りさん >>これが休憩パート、というのは早人の為のものですねこれ。
あ、初期の怪しいトニオさん状態にしてたのが自分でネタバレしてた\(0w0)/
まぁジョジョ知ってれば危機感とかは沸きませんし、別にいいか(;0w0)
チコリーは結構色々な種類があるらしいですが自分が知る奴はキャベツと白菜の中間の食感。
ブルーチーズはゴルゴンゾーラしか知りません……世界三大ブルーチーズらしいです。
食す場合は作るところによるらしいですが、丸かじりはキツい物が多いのでパン等とあわせてどうぞ。
>>サマサさん レッドさんが幻想入りして化物認定……ここは飛べるし射撃武器もあるし弾幕戦ですね( 0M0)
KOFスカイステージのように華麗に空を飛ぶレッドさんが脳裏に浮かびます。
まぁ自分は緋想と天測しか知らないですけど……縦シューの恋人は雷電たんが居るもので〔*0H0〕
とりあえずスカトロを試みさせる場合、黄金水、UNK等の排泄物の食し方は……おっと、書くスペースが!
>>94氏 その発想はなかった……雪解け水にパール・ジャムの効力が働いてたなら仗助君も飲んでるけど、
健康になる時にしか精神安定効果は働かないなら仗助君には効かなかったり。
そして琢磨の能力なら写真の様にしてその時の光景が見えるけど一緒に効果も作用する訳ですな。
千帆に効果が現れて自分に何もない時も平然としてるし、瞬間的じゃなく一時的に持続するのかも( <:V:>)
>>111氏 サラダは適当にググって出た奴を脳内でアレンジしただけです( 0w0)
これにナッツとか加えると酒のお供にいいとかなんとか。
>>112氏 「黒ラベルとチーザの『ゴルゴンゾーラ味』+から揚げ」これがここ1年、私の最高の贅沢です(*0w0)
グルメじゃないけど醤油ラーメンの出汁は鶏がらか海鮮か位の違いが出てれば味の判別も一応……。
まぁほぼ別物ですよね、基本的に海鮮出汁は臭みが気になって美味いとは思えない……。
されどスープとゆで卵との相性はおでんに匹敵すると言っても過言ではなく麺、スープより旨かった(*0M0)
>>114氏 し、しまった! 書くスペースが……チーズは緑黄色野菜との相性がパーフェクトで……あ、もう書けねぇ(;0w0)
187 :
ふら〜り:2010/04/09(金) 20:44:36 ID:GoP1WafiP
>>サマサさん(ニコニコも見ましたが↓っぷり、ほんと煌びやかですね)
話が進めば進むほど明かされる百花繚乱っぷり。こんな子たちが、あのレッドと大激突できて
しまうというのが……想像するだに凄い映像です。しかし強い男性が不在、見慣れてない
世界なんだとすると、レッドは彼女らの目にどう映りどう思われるのか。もしやフラグ乱立?
>>邪神さん(もしかして、料理・栄養関係のお仕事とか専門の勉強しておられるとか?)
原作以上に、外から見れば平和で楽しい仲良し家族ですねえ。吉良、演技上手すぎ。
>「は〜や〜とぉ〜……欲しいものがあるんだろ? ママに取り入ろうって魂胆かぁ〜?」
すっっごい優しいパパの笑顔が目に浮かぶ。でも早人は恐怖と焦燥が高まるばかりで、
自分で言っといて何ですけどあまり休憩できてなさげ。いや、きっと料理の効果で少しは……
>>181 私んとこも、かれこれ一ヶ月以上ずーっと規制です。なのでスターダストさんのオススメで、
P2というのを使い、どうにか書き込めるようになりました。やはり自宅でゆっくり読み書き
したいですし、ネカフェ代よりお得ですよ。私からもオススメです。
188 :
作者の都合により名無しです:2010/04/09(金) 20:57:30 ID:KZtyE0WI0
邪神さんの作品読んでたらイタリア料理食いたくなってきたよw
189 :
181:2010/04/10(土) 18:10:56 ID:e9tCjOc/0
P2ってなんぞや?
家の近くにネカフェあるから、ついそっちに行っちゃうけどw
邪神さん乙華麗さまです!
本当に旨そうな料理だけど絶対に喰いたくないな、トニオの料理
あとあと健康になってもひげが生えたりしたくないわw
確かに邪神さんは栄養士かなんかかもね
男性だろうに料理や栄養に妙に詳しい
もしかしたらどっかから丸ごと持ってきただけかも知れんけどw
191 :
作者の都合により名無しです:2010/04/14(水) 13:02:31 ID:SlkMXxth0
寂しいなあ
本当にサナダムシさんは引退されたのか
パオさん、ザクさん、うみにんさん、サナダムシさん。
みなさんお元気かなあ。
193 :
作者の都合により名無しです:2010/04/18(日) 13:47:39 ID:aZxwqi2C0
ヤクバレさんやNBさんやミドリさんやかまいたちさんやゲロさん、
なによりバレさんもなあ。
前回は
>>176より。
今回
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1118.html 全然アクセス規制が解けないので、保管所の方に直接保管してみました。
ややこしいやり方かもしれないので、こういうのはなるべくやらないようにすべきかも…
けどネカフェから作品投下は非常にめんどいし、P2とかはクレジット持たない主義だし…みんな規制が
悪いんじゃー!
規制の間に話のストックが二話出来たよ!喜ぶべきか悲しむべきか分からん!
今回の話、ハシさんのロスクロ読んでなかったらゆうかりんはともかくメディの出番はなかった…。
ハシさん、ありがとう。なのに出来上がった作品はこんな有様だよ!
>>179 今のバキは…あれはあれで面白いけど、何か違いますよね。主要キャラ総出演!とまでは
いかないけど、結構出る予定。名前だけなら総出演かもしれません。
>>180 二次創作での霊夢は、実に9割(サマサ調べ)が貧乏巫女ですよね。
実際は生活そのものは豊からしいけど(賽銭がないのは公式設定ですが)
>>181 まずまず頑張っていきますんで、応援宜しくお願いします。
2ちゃんは…規制も必要だろうけど、やりすぎると衰退するぞ…
>>邪神?さん
トニオさん、何も知らずに見たらそりゃあ怖いですよね…リアルタイムで見てた時も、子供心に
<こいつ絶対悪い事企んでる!>とガクブルしたもんです。
さて、伝説のレンガ石鹸アタックは早人に命中するのか?(期待の方向が違う)
レッドさん、プロミネンスフォームなら宇宙まで飛べますからね。幻想郷の怪物・超人達が相手でも
決して空中戦でもひけは取らないはず。
それはそうと次の更新時には是非スカについてのご教授を(待て)
>>ふら〜りさん
強い男キャラ、というのは東方にはいないから(というより、原作の世界で繰り広げられるのはあくまで
ごっこ遊びなんで、大人の男が介入すべきではない)確かにレッドさんは異質ですねー。
東方側がどう思うかはともかく、レッドさんは強い相手との闘いはむしろ望む所だろうから、ノリノリで闘える
でしょう。
>>192 >>193 数多の職人が現れ、去っていった…そんなバキスレ。
彼らが帰ってくる日まで、このロートルも頑張るつもりです。
196 :
作者の都合により名無しです:2010/04/20(火) 16:05:35 ID:3H1yyqGg0
最強トーナメントですな、まさに
幽香の参戦も決まってうれしいです。
規制うざくてたまりませんが、サマサさんの健筆を祈ってます!
197 :
ふら〜り:2010/04/20(火) 21:19:02 ID:Y2dfUJho0
>>サマサさん
>あんたのパワーアップイベントだったのかよ!
どこぞのボドボドライダーを思い出します。で、この作品の女の子たち、能力・破壊力は
常軌を逸してて好戦的でもありますが、それぞれの仲良し間では和やかにじゃれ合って
ますよね。が、そのグループ外に出ると……とか? だとすりゃ面白いところでリアルだなと。
>>189 ググれば一発ですが、要するに金を払って規制を回避できるものです。荒らしのせいで
出費というのも何ですが、もともと2ちゃんが有料だと思えば、さほど腹も立たず。
私なんかバキスレだけでも、小説何冊分の萌え、燃え、笑い、感動をもらえたことか。
サマサさんおつかれさまです。
次々と参加者が集まってきますが
喧嘩商売(オススメマンガ)みたいになかなか試合が始まらないのかな?
早くトーナメントの開催を見たいですが、たっぷり今年一年はかかりそうですねw
〜それぞれの思惑・後篇〜
巨大な湖の畔に、その館は聳え立っていた。
屋根も外壁も真っ赤に塗りたくられた、悪魔の館―――人はそれを<紅魔館>と呼び、畏れた。
その一室では、悪魔達による饗宴(サバト)が繰り広げられていた―――
「セイヤァッ!」
中国風の衣装を纏い、長い赤髪を振り乱し拳を振るう女性。
まるで舞い踊るように美しい体捌きだ。
更に体内で練り上げた<気>をその拳に込め、可憐な両腕を鉄槌と化す。
「―――烈虹真拳!」
彼女は紅魔館の門番にして拳法の達人<華人小娘>紅美鈴(ホン・メイリン)。
人の身では決して到達できない境地に至ったその絶技を指先一つで受け止めたのは、大吸血鬼レミリア。
「くっ…」
「まだまだね。こんなんじゃ準備運動にもならないわ」
「も…申し訳ありません」
「なら、これはどうかしら?」
背後からの声。
「火符―――アグニシャイン!」
襲い掛かる無数の火球。
「続けて木符―――シルフィホルン!」
そして鋼すら切り裂く鎌鼬が群れを成して迫り来る。
それを放ったのは、ゆったりしたローブに身を包んだ病弱そうな少女。紅魔館の地下に存在する大図書館の管理人
にして、レミリアの数少ない友人でもある<動かない大図書館>パチュリー・ノーレッジ。
レミリアは軽く腕を振るい、魔力の風を起こす。たったそれだけの動作で、彼女は大魔術を相殺した。
「ふん、相変わらずビタミンAが足りてないわね」
「あらま…私としては、本気で殺すつもりだったんだけどね」
「甘いわよ、パチェ。灰も残さないつもりで来なさい」
「では、お言葉に甘えて―――咲夜の世界」
―――ありのまま起こった事を記そう。
気が付けばレミリアの周囲を、優に百を超える銀のナイフが取り囲んでいた。
それは催眠術や超スピードなどというチャチなものでは断じてない。
ナイフを放った張本人である<完全で瀟洒な従者>十六夜咲夜(いざよい・さくや)の恐るべき能力の片鱗だ。
「―――殺人ドール!」
そして全てのナイフが一斉にレミリア目掛けて飛びかかり―――瞬きの間に全て叩き落とされた。
「いいタイミングだったけど、残念ね。そんなナイフじゃ林檎にも刺さらないわよ」
「ふふ…カリスマ溢れるお嬢様も…凛々しいですわぁ〜〜〜〜〜っ!」
ブブーっと鼻血を噴き出す咲夜さん。結局お嬢様であれば何でもいいらしい。
「でも、お嬢様は急にどうなされたんでしょう?修行なんてらしくもない」
「例のトーナメントがあるからでしょ」
美鈴の疑問に、パチュリーが答えた。
「それでもレミィのガラじゃないとは思うけどね」
「何とでも言いなさい。私はどうしても欲しいのよ、あの方の…賢者イヴの秘宝が」
「へー。でも、それだけじゃなさそうね。誰か、ブチのめしてやりたい相手がいるんじゃなくて?」
「…フン。分かったような口を利かないで」
鼻を鳴らしつつ、レミリアは親指を噛む。
思い出されるのは、屈辱の記憶だ。
「今のままじゃ、サンレッドには勝てないわ…」
あの夜の闘いは、お互いに全力ではなかった。
とはいえ、どちらがより余裕を残していたかといえば、サンレッドの方だろう。
まだ奴は、真の力を見せてはいない。その確信があった。
「外の世界のヒーロー…そんなに強かったのですか?」
「…かなりね。それだけは認めざるをえない。だからこうして、鍛え直してるのよ」
「お嬢様にそこまで言わせるとは…武に生きる者として、是非とも手合わせを望みたいものです」
「やめときなさい、美鈴。貴女じゃ一撃でやられるのがオチよ」
「酷っ!せっかく武人キャラらしく振る舞ったのに!」
「やかましいわ、居眠り門番」
抗議の声を無視して、舌打ちする。
「とはいえ…三人がかりでもこれじゃ、身体も温まらないわね」
「じゃあ、あたしが相手したげよっか?お・ね・え・さ・ま♪」
部屋の壁が、砕け散った。
予備動作もクソもない、それは完全なまでの破壊にして、破滅だった。
究極の破壊を体現してみせたのは、砕けた壁から悠然と部屋に侵入(はい)ってきた幼い少女―――
年の頃はレミリアとそう変わりなく見える。
ブロンドの髪を靡かせたその姿は、よく出来た人形のようだ。
背中にはまるで枯れ木の枝を思わせる不気味な翼。
<悪魔の妹>フランドール・スカーレット。
レミリアの実妹であり、彼女と同等の実力を持つ強大な吸血鬼である。
「い…妹様…!」
咲夜が顔を引き攣らせ、後ずさる。美鈴とパチュリーも同様だ。
「あらぁ?そんなに怖がらなくてもいいじゃない。あたしだって紅魔館のお嬢様なのにぃ。プンプン」
両手の人差し指を立てて、頭にツノを作ってみせる。
可愛らしい仕草だが、咲夜達にとっては猛獣が牙を剥いたようにしか見えない。
レミリアも恐るべき吸血鬼だが、少なくとも力と凶暴性を自制する術は知っている。
知っているというだけだが、ともかく知っている。
だがフランドールは、それを知ろうとすらしない。
何一つ分からぬまま、無邪気な幼子の心のまま、絶大な力を何の遠慮も忌憚もなく振るうのだ。
姉であるレミリアですらそんな妹を持て余し、館の一室に幽閉せざるをえなかった。
そんな事をしても無駄だと知りながら。
フランドールがその気なら、今こうしているように、平然と出てこれるのだから―――
だが。
今のレミリアにとっては、彼女が出てきてくれたのは好都合だった。
「いいでしょう、フラン」
レミリア・スカーレットが変質する。
これまではどれだけ派手に闘おうとも、幼い少女としての一面は常にあった。
だが今の彼女を見て、そんな印象を抱く者など皆無だろう。
そこにいるのは傲慢にして偉大な月下の女帝―――レミリア・スカーレット!
「久しぶりに、姉妹水入らずで遊びましょうか」
「うふふ、嬉しいなぁ。楽しいなぁ。お姉様と殺し合いごっこだぁ!」
―――二対の悪魔の死闘は、一昼夜に及び続いた。
その光景を見ていた紅魔館の面子は揃って口を閉ざし、ただ恐怖だけを顔面に張り付けていたという。
<永遠に紅い幼き月>レミリア・スカーレット。
彼女は幻想郷最大トーナメント準決勝において再びサンレッドと相対し、雌雄を決する事となる。
所変わって、白玉楼。
―――今にも雨が降りそうな曇天だった。
暗い空の下、白玉楼の庭園で二人の剣士が睨み合う。
<半人半霊>魂魄妖夢。
<銀刀>望月ジロー。
妖夢が手にするのは<楼観剣>と銘打たれた長刀。
妖怪の刀匠によりて鍛え上げられた妖刀。
ジローが手にするのは刀身に銀がコーティングされた無骨な日本刀。
数多の同族の血を吸い、彼の二つ名の由来となった銀刀。
二人は既に半刻に渡って、僅かな身じろぎすらせずに向い合っていた。
互いに正眼に構えた剣もまた、時が止まったように動かない。
はらり、と彼等の間に木の葉が落ちる―――
「参るっ!」
それを合図として、先に動いたのは妖夢だった。一歩で間合いを詰め、一呼吸で九の斬撃を繰り出す。
だがそこに、ジローの姿は既にない。彼は高く跳躍して妖夢の剣をかわし、頭上から銀刀を振り下ろす。
妖夢もそれを読んでいた。素早いバックステップで距離を取り、ジローの剣が空を斬る。
両者が態勢を整えたのは完全に同時。
横薙ぎの一撃を繰り出したのも同時。
キィン―――澄んだ音を響かせて、互いの得物が弾かれて宙を舞い、地に突き立った。
「…ふう。中々どうして、相当の使い手じゃないですか」
楼観剣を地から引き抜き、鞘に収めて、一気に噴き出した汗を拭いながら妖夢はジローを称える。
「おかげでいい鍛錬になりました。ありがとうございます」
「こちらこそ」
ジローも帽子を取り、頭を下げた。
「よき剣士に出会えました。剣に生きる者の端くれとして、喜ばしい限りです」
「もう。そんなにおだててもパンツはあげませんからね!」
「いらん!」
「またまた。<パンツ>と聞いた瞬間、その無愛想な顔がちょっと綻んだのを確かに見ましたよ」
「バ…バカな!私はそのようなハレンチな男では…!」
「ああ、ごめんなさい幽々子様。妖夢はこのゲス男によって汚されてしまいました…」
「違ぁぁぁぁぁうっ!それでも私はやってないっ!」
「ま、冗談はともかく」
妖夢は背筋を伸ばし、ジローを見つめる。
「あなた、本当にトーナメントに出場するつもりですか?」
「…言いたい事は分かります。とても優勝できる腕ではないと言いたいのでしょう?」
「はい。ぶっちゃけるとそうです」
竹を割ったような率直な言葉だ。ジローは思わず苦笑してしまう。
「私と互角の腕を持つからには、実力的には幻想郷でも上中下のうち、上には分類されるでしょう―――けれども
上の上に位置する連中。例えば八雲紫様―――例えばレミリア・スカーレット。そういう相手と闘ったら、間違いなく
あなたは負けます」
「でしょうね。そのくらいは分かります」
自嘲するでもなく、軽く答えるジロー。妖夢はそれに構わず続ける。
「無様な敗北。それだけならまだいい。命があればやり直せる―――所詮はお祭り騒ぎのようなものですからね。
命まで奪い合うような闘いにはならないでしょう。死ぬ前に降参すればいいだけです」
けれど。妖夢は続ける。
「あなたの気の入れようから見ると、負けを認めるようには思えません。殺されると分かった上で、それでも突き
進んでしまうんじゃなかろうかと」
「おや、心配してくれてるんですか?可愛い女の子の胸を痛めさせてしまうとは、我ながら罪深い」
「あなたの心配なんかしちゃいません。勝手にやってればいいでしょう」
皮肉な物言いのジローに対し、妖夢はいつになく真摯に語る。
「私が心配してるのは、あなたが死んだら悲しむ人がいるんじゃないか、という事です」
「…………!」
脳裏に浮かぶのは、弟の―――コタロウの笑顔。
その隣には、アヒル口の少女。
親しい何人かの友人。その中にはサンレッドやヴァンプ将軍の姿もあった。
「<賢者イヴ>というのがあなたにとってどれだけ大切な存在かは想像に難くありません。その遺産とやらに執着
するのも、仕方ないとは思います―――でも、死んだら何にもならないでしょう」
「…死ぬ気なんてありませんよ」
ジローは皮肉っぽく、笑って答えた。
「私にはまだ<使命>が残っていますから。それを果たすまでは、死んではならないんです」
「ふーん…何か、それを果たした瞬間に死んじゃいそうですね」
「そうですね…否定はしません」
「してくださいよ。そんな言い方だと不安になるじゃないですか」
「お?やはり心配してくれているのですね。おお、ありがたやありがたや」
「ケッ!調子乗ってんじゃねーですよ、百年しか生きてねーガキが!」
「…………参考までに、妖夢さんはどのくらいの歳なのですか?」
「えっと…多分あなたの三倍くらいは生きてますかね」
大先輩だった。
「申し訳ありません。お年寄りの方に大変失礼をしました。バスではシルバーシートを譲りましょう」
「あらまあ、いいんですよ。それより私の年金のために馬車馬のように働いてくださいね、ガキンチョ」
「いやあ、実を言うと私は国に金なんて納めてないんですよ、吸血鬼ですから」
「おっと、これは失礼。あなたは女性の世話になってるから、確定申告の必要がないんですね?<何か縛るモノ>
なんですね?」
「ははは。これは手厳しい。あんまり嫌味ばかりだと、口元の小皺が増えますよ?」
「うふふ。そんな事を言ってると、寝てる間に心臓に杭が刺さってても知りませんよ?」
仲がいいんだか悪いんだかよく分からん不毛な会話は、その後一時間近くも続いたという。
―――その頃、厨房にて。ヴァンプ様は夕飯の支度を始めていた。
「さて、ジローさんは妖夢ちゃんの相手をしてるし、レッドさんとコタロウくんも幽々子さんに頼まれて買い物に行ってる
事だし、私も働かないとね!」
割烹着を見事に着こなし、気合十分である。包丁を握り締め、まな板に野菜を並べる。
「クックック…では、始めるとするか」
ヴァンプ様の目付きが変わった。お人好しの悪の将軍から、闘う漢(おとこ)の燃える瞳へ。
眠れる獅子が今、目覚めた。
そう、厨房は彼にとって戦場なのだ!
その華麗にして優美なる包丁捌きは、ジローと妖夢の剣技にも劣らぬ芸術であったという―――
―――さて、我等がヒーロー・天体戦士サンレッドとその一番弟子(自称)望月コタロウは買い物である。
人間の里。
機械文明の欠片も感じない、昔ながらの不便でありつつ活気に満ちた生活が営まれている事は、道行く人々の表情
から窺い知れた。
そんな中で真っ赤なマスクのヒーローと、天使のような金髪美少年の取り合わせは異様過ぎる。
思いっきり注目を浴びていたが、二人は特に気にしていないようだった。
「ヒーローが異世界に来て、やる事はおつかいって…間違ってるだろ、色々」
レッドさん、マナー違反の歩きタバコしながらいきなり愚痴である。
「しかも、行き先を訊いたら<香霖堂って店なんだけど、行けば分かるわよ。明らかにおかしな店だから>ときたもん
だ。いい加減すぎんだろ」
「もう、そんなに暗くなっちゃダメだよ。ほら、見てごらん。空はこんなにいい天気!」
コタロウがビシっと指し示した空は先も言った通り、今にも泣き出しそうな曇天である。
「…じゃ、ないね。レッドさん、この世界を明るく照らしてよ。太陽の戦士でしょ?」
「そういう方面の能力じゃねーんだよ、俺は…世界を照らせとか言ってんじゃねー、吸血鬼なのに」
そう言って、レッドはコタロウの姿を見つめる。
ふわふわの金髪に、海のような青蒼の瞳。
太陽なんてへっちゃら。ニンニクたっぷりのラーメンも大好き。
クリスマスには聖歌も唄う。
「今更だけどお前、ホントにジローとは全然違うのな…」
「そうなんだよねー。兄弟なのに、不思議でしょ?でも、これはね」
「…兄弟だからだろ」
笑顔で何かを言おうとするコタロウに先んじて、レッドは言った。
「ジローは強えけど、太陽だのニンニクだの聖歌だの弱点だらけだ。お前は弱っちいけど、ジローの苦手なモンは
全部へっちゃらだろ?だからよ…」
レッドはタバコの煙を吐き出し、コタロウを見つめた。
「お互いにダメな所を助け合えるようにって…そういう風になったんじゃねえのか?俺はそう思うけどな」
そう答えた。けれどこの兄弟について、結局の所レッドは殆ど分かっていない。
もしかしたら、もっと別の理由―――
目を覆いたくなるほど残酷で悲しく、それでいて涙せずにいられない崇高で優しい秘密があるのかもしれない。
そんな風に思えてならなかった。
「そう。それなんだよ、レッドさん!」
けれどコタロウは、いつになくおセンチなレッドに向けて、いつもの明るい笑顔を向ける。
「兄者もそう言ってたんだよ。二人が助け合えるようにって、ぼくらのお母さんが知恵を絞って考えてくれたんだよ
って。だからね」
「ぼくも大きくなったらレッドさんぐらい強くなって、兄者を助けてあげるんだ!」
「そっか」
レッドは素気なく答えて、コタロウの頭をポンと叩いた。
「ジローが言うんなら、そうなんだろな」
「うん!」
「けど、俺ぐらいに強くなるってのは無理だろ。お前、ヘッポコだしよ」
「ええ〜〜〜…そんな事ないよ!誰もが最初は弱いけど、頑張って強くなるんだからね!」
「いーや、お前の弱さは努力で補える範囲を越えてる。どれだけ頑張っても人間じゃハンマ星人にゃ勝てねーのと
同じだっての」
「ひっどーい!レッドさんのバカー!」
「かかか、空き地の野良犬(生後数ヶ月)を倒せるようになってから言いやがれ」
プリプリ怒るコタロウを軽くあしらいつつ、レッドはコタロウと歩幅を合わせて道を往く。
やがて人間の里は遠ざかり、深い森が見えてきた。その入口に建つ一軒屋に、二人は目を奪われた。
「…あれか」
<香霖堂(こうりんどう)>という看板を掲げたその店は、異様の一言だった。
玄関の脇に雑然と並ぶタヌキの置物だのサッカーボールだのバス亭の看板だの、統一性がないにも程がある。
「うっわー、楽しそうな店だね!」
「そうか?ゴチャゴチャしててうっとーしーとは思うけどよ」
「レッドさんったら、そんな事ばっか言って。さあ、レッツ&ゴー!」
「爆走すんじゃねーよ…あ、コケた」
「おや、見ない顔だね?はじめまして。僕は店主の森近霖之助(もりちか・りんのすけ)だ」
店に入るなり出迎えたのは、昔風の衣装を着込んで眼鏡をかけた若い男。
見かけは何処にでもいそうな優男だが、どことなく曲者の風格も漂わせている。
(あんま気が合いそうにはねーなー)
そんな失礼な事を考えながら、レッドは幽々子から渡されたメモを霖之助に差し出す。
「これを見せれば分かるって言われたんだけどよ」
「ふむ…ああ、君は西行寺家の使いなのか。とすると、もしや噂の異世界から来たヒーローかい?」
「あん?何でんな事を知ってんだ」
「これさ」
言うまでもなく文々。新聞である。まだそれに目を通した事のなかったレッドとコタロウは、その内容に驚く。
「こんなんが発行されてたのか…俺達の事までバッチリ書いてるし」
「何処で調べたんだろね」
「清く正しく、射命丸文。神出鬼没の彼女にかかれば、記事にできない事件はないよ…さて、それでは少し待って
いてくれ。注文の品を用意するから」
霖之助が店内をガサゴソと探り始める。それを待っている間、レッドはぐるりと店内を見回してみた。
「ふーん…色んなモンがあんだな」
「幻想郷には、様々な世界から色々な物が紛れ込んでくるんだ。僕はそれを拾って、売り物にしている」
「はあー。随分と楽な商売だな」
「ははは。魔理沙の奴にもよく言われるよ」
「でも、何の道具なのかとか全然分からないんじゃない?」
コタロウの疑問に対し、霖之助は「そうでもないよ」と答えた。
「僕にはちょっとした能力があってね…初めて見た道具でも、その名前と用途がすぐに分かるのさ」
「へえー。すごいじゃん!」
「ふふ。そうは言っても、実はそんなにすごくないんだけどね」
例えば、と霖之助は扇風機を示した。
「これは扇風機といって、風を送って涼しくなるための道具だ…ここまでは分かる」
「うん」
「でも何が動力なのか、どうすれば動いてくれるのか…それは分からない。色々試してみるしかないんだ」
「うーん、それは結構不便かも」
「だね。けれど、使い方が分かればしめたものさ。外界の技術の恩恵にあやかることができるからね」
くすり、と霖之助は笑ってみせた。
「実を言うと気に入ったモノは売らずに、自分の持ち物にしている」
「せこくねーか、それ」
「そう言ってくれるなよ。役得さ、これも―――そうそう、最近じゃこんなのも見つけたよ」
霖之助が懐から取り出したのは、くの字型の奇妙な物体―――そう、銃だった。
普通の銃と違いカラフルな色合いで、まるでヒーローが使う兵器のようだ。
「これはね、サン―――」
「サンシュートじゃねーか!」
レッドは霖之助を遮り、その手からサンシュートをひったくる。
「ウチの工具箱にでも入ってるもんだと思ってたのに…」
「はあ…君の持ち物だったのか。気付かない内に幻想入りしてしまったんだね」
世間は狭いもんだ、と霖之助は呟く。
「兵器として使うつもりはないけど、デザインが気に入ったから手元に置いておきたかったんだけどね…所有者が
現れたのなら仕方がない。必要な物なら、返すよ」
「あ?いや、まあ、俺のだけど、別にそこまで必要ってわけじゃ…」
だが、サンシュートは(一応)己の頼れる相棒だ(多分)。
返してくれると言ってるんだから、お言葉に甘えるべきかもしれない。
「…じゃあ、悪いけど持ってくぞ」
「悪い事はないさ。道具が本来あるべき場所に戻っただけだからね…さて」
どうやら注文の品も包み終わったらしい。霖之助は大きな袋をレッドに手渡し、人好きのする笑みを見せた。
「どうかまた、御贔屓に」
紆余曲折を経て、サンレッドの手に戻ったサンシュート。
果たしてその実力が発揮される日は訪れるのだろうか。
それは誰にも分からない―――
おまけ
「ゆゆちゃーん。おつかい、終わったよー」
コタロウは、香霖堂で包んでもらった袋を幽々子に渡した。
「ご苦労様。ふんふふふふふーんふふふっふーん♪…ああっ!」
幽々子は、恐るべき過ちに気付き、彼女には珍しく声を荒げた。
「コ…コタロウ!おつりで勝手に金平糖なんて買っちゃダメじゃない!」
「ごめん…どうしても食べたかったから、つい…」
「まあまあ、そう怒ってやるなよ」
「もう…ああっ!」
幽々子は再び声を荒げた。
「サ…サンレッド!勝手にタバコを買っちゃダメじゃない!しかも1カートン!」
「わ…悪い…切れてたもんだから、つい…」
投下完了。
レミリアお嬢様、書いてるうちに気に入ってきたんで、当初の予定を変更して真面目にレッドさんと闘わせる
ことにしました。
次回、トーナメント予選開始。
>>203 ちょっと修正
「ふむ…ああ、君は西行寺家の使いなのか。とすると、もしや噂の異世界から来たヒーローかい?」
→「ふむ…ああ、君は西行寺家の使いなのか。とすると、もしや噂の外の世界から来たヒーローかい?」
この長編のためにブラック・ブラッド・ブラザーズを読み直してますが、いやあ、結構細かい設定って
忘れちまうもんですね(汗)
ジローさんの機械オンチとか、コタロウが語学に流暢だとか、すっかり記憶から抜けてた…
この兄弟書くのは結構楽しいけど、二人とミミコさんに待ち受けている運命を考えると辛い。
こればっかはレッドさんでもヴァンプ様でもどうにも出来ないからなあ…。
話は変わって、魔装機神がDSで出るというのを最近知りました(遅すぎる!)
やってくれるぜ、スパロボスタッフ…
最終面で再びネオグラ無双が出来ると思うだけで恥ずかしい話ですが私…『勃起』しちゃいましてね…フフ…
とりあえずサイバスターに資金つぎ込みます。意味もなくサイフラッシュ撃ちまくります。
また金ゴーレムを親の仇の如く狩るぞー!
>>196 ゆうかりんファンらしいあなたのためにも頑張りますよ(多分)
規制、せめて今の半分くらいになってくれれば…
>>ふら〜りさん
いやあ、彼女達は何処へ行っても仲良しですよ。どのくらい仲良しかというと、顔を合わせた瞬間に
とりあえず弾幕で語り合うくらい仲良しです。
>>私なんかバキスレだけでも、小説何冊分の萌え、燃え、笑い、感動をもらえたことか
その萌え・燃え・笑い・感動の中に僕のSSが、ほんの1%でもあれば幸いです。
>>198 いやいや、次回トーナメント(予選)開幕だから大丈夫ですよ(笑)
全員分やってたら、確かに一年くらいかかりそうですが。
206 :
作者の都合により名無しです:2010/04/24(土) 13:05:09 ID:2tacas+P0
お疲れ様ですサマサさん。
今年中には確実に終わってしまうとの事でうれしいような寂しいような。
いよいよ次回からトーナメント開始ということで、主役?のサンレッドが
またさらに影が薄くなっていかないように祈っていますw
いよいよトーナメント開始ですか。
レッドさんも人外だけどレミリアは更に人外だからな。
主役である以上、最後までトーナメントには関わらないといけないけど。
というか、レッドの強さが東方基準だとどのレベルかいまいちよくわからん。
>>207 まあその辺はおいおい書かれるはず
(つーか、東方キャラの強さ自体が解釈の余地が多すぎるからどうとでも書けるだろう)
一応レミリアとの戦闘ではやや優勢、くらいに描かれてたから、6ボス〜EXボスと同格の強さは
持ってるんジャマイカ→レッドさん
太陽の戦士だから太陽に弱い吸血鬼とは相性よかったのかもしれんがw
レッドさんはギャグ漫画キャラだからなあ
ファイヤバードフォームでどうかというレベルじゃ
ギャグキャラだからこそ強いという見方もできるぞ
カメダス(だったっけ?)に掲載していたコラボ漫画でこち亀の両さんがフリーザの攻撃を食らっても
ピンピンしていたように
両さんはとにかく不死身って感じだがレッドさんはギャグキャラ補正のしぶとさに加えてあの強さだからな
213 :
ふら〜り:2010/04/28(水) 07:42:00 ID:Z+CcK0UB0
>>サマサさん
>とりあえず弾幕で語り合うくらい仲良し
コブシじゃなくて弾幕か。タイマンはったらダチなのかと。レッドなんかはそもそも手応えの
ある相手がいないからってのもありますが、普段は大して好戦的でもないですよね。もしかして、
何だかだと戦いを楽しむ彼女らの方が血の気が多い? でヴァンプ様の方が女の子らしい?
※GW帰郷とPC故障が重なったので、しばし留守にします。
214 :
作者の都合により名無しです:2010/05/01(土) 18:18:44 ID:/GszuOAL0
もうテンプレの作品ほとんど投げ出しなんだよなあ・・
215 :
作者の都合により名無しです:2010/05/01(土) 19:28:08 ID:ZqewjO6IO
めだかボックスってどこかで見たことあるような話しだよね?
なんか天上天下と被るの俺だけ?
くるくると回るフォーク、だがタリアテッレは見慣れた細いパスタのようにうまく巻き付かない。
平たく弾力に富んだ麺は複雑に絡み合うことを拒否している。
ママが手こずっているうちにこの状況を打破しなければならない。
殺人鬼は相変わらず平気な顔をしたまま、器用にパスタを口に滑らせていく。
何故、奴だけが平気なのか………やはり店主は奴の仲間なのか。
どうすればいい、その言葉だけが頭の中を駆け巡り打開策は何も出てこない。
「鶏肉と豚肉を合わせたミンチか、淡白な鶏肉に豚肉の肉汁がよく行き届いてる」
「鶏肉……私どうにも鳥って好きになれないのよねぇ。この間も庭に羽の毟られた鳥の屍骸が……」
「しのぶ………食事中にそういう話は……」
二人がフォークを置いて話しだした、もう迷ってはいられない。
椅子を降り、厨房へと目を向ける。
明るく清潔な空間、今の僕には魔境にしか見えない。
「ママ! ちょっと僕トイレ!」
「アナタだって見たはずよ……私を気遣って言ってくれてるのは判るけど………」
「幽霊や呪いなんてあるはずないだろう? 君の見間違いだよ、あれ以来何も変わったことはないじゃないか」
ママも殺人鬼も僕のことなど気にかけず、この間庭に落ちていたスズメの死骸の話を続けている。
奴が話題を避けているということは多分、見えない力……奴の『能力』か屋根裏の『生物』が関係するのだろう。
だが、そんなことより今はこの異常な料理の正体を突き止めるのが先だ。
厨房へと近づく、真っ白な空間から漂う得体の知れない圧力。
物音を立てないよう注意しながら、そっと覗き込む。
目の前のテーブルには既に次の料理が置かれている。
右へ目を向けると流し台に調理台、そしてその奥に小部屋が見えた。
奥の小部屋は、少し薄暗く檻のような物が見える。
なぜこんな所に檻があるのだろう、鶏の飼育用だろうか?
だが室内で飼う意味はない、そもそも衛生面の問題から禁止されている筈だ。
より深く覗き込み、両目で暗がりを確かめてみる。
白い床に泡だった謎の液体が流れている。
少し粘性のあるその液体の先には、うつろな目をして床に寝そべっている子犬が居た。
子犬の前には、餌として出すには贅沢な調理された肉片が置かれていた。
そして、床に流れる液体は子犬の口へと続いていた。
子犬の横で、影が動いた。
「キサマァァァ――――ッ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
今まで見せていた穏やかな笑顔を豹変させ怒号をあげる店主に驚き、つまづく。
僕が尻餅をつくのと同時に、立っていた所へ包丁が刺さる。
やはりこの店主は異常だ、そして料理も異常な物だ。
「キャアアアア――――!」
食卓からママの悲鳴が響く、料理を口にしてしまったのだろう。
あの子犬が食べたのは次に出される料理、きっとまだ間に合う。
店主に背を向けて駆け出す、後ろから刺されたって構わない……ママを助けなければ。
「ママ! この料理は食べちゃ――――」
「鶏肉が口の中で弾み、豚肉のジューシーな味わいがパスタの独特な歯応えと一緒に駆け巡る!」
「プリプリともちもちが織り成すタリアテッレのストーリー! 私は今、幸せな物語の中に居るのよォ―――ッッ!」
ママの叫びは悲鳴ではなく、歓声だった。
ママ達は陶酔しきっている、店主の料理は麻薬以上の誘惑を施しているのだろう。
僕がサラダを食べている間、怪しいから食べ残そう等と微塵も考えなかったように。
店主が僕の首根っこを掴み、天井に届く勢いで持ち上げる。
「ド―――ユーつもりデスか小僧ォォォ! ワタシのレシピを盗み見ようとデモいうのデスカァァァ!?」
「マ………ママ……」
額に青筋を浮かべながら僕を睨みつけ、プロレスラーのように太い腕が僕を締め上げる。
かすれる声でママを呼ぶ、ここから逃げなければあの子犬と同じ運命を辿ることになるだろう。
僕の声は聞こえている筈なのだがママも殺人鬼もサラダの時と同様、僕を見向きもせずパスタを食べ続けている。
「早人、トイレはどうしたの?」
「速くしないと早人の分も食べちゃうかもしれないな」
殺人鬼は冗談めかして言っているが、食べ終わっても居ないのに僕のパスタにチラチラと目を向けている。
店主の力は一向に弱まることは無い、このまま僕は命を落とすのだろう。
きっと彼等は僕の死体に気付くことなく料理を満悦す………。
そこまで考えると、視界が90度周り電車の中で見る風景のように店主の肉体が左方面に視界から流れていく。
店主の靴が視界に入るや否や、僕の肉体に強い衝撃が走る。
鬼のような形相で僕を睨み付けたまま、店主は外を指差した。
「トイレはここじゃアリマセンッッッ! 全く、仕方ないデスネ……案内致しマス」
店主は僕の手を取り、僕達が入店したドアへと突き進む。
半ば引きずられるように引っ張られる、再び店主の意図を見失う。
先ほどまでとは違い、怒りの形相は崩さないが殺意は感じられない。
僕を外に連れ出してから殺すのだろうか?
だが一々そんな事をするなら、両親の目の前で息子の首を絞めるような真似はしないはずだ。
ドアを開き闇夜へ飛び出す、僕の手を取る男は殺人鬼かもしれないのに不思議と恐怖は感じなくなっていた。
だが、この店に来てから浮かんだ疑問は何一つ解決されてはおらず不信感だけが募っていた。
一体この男はどういう目的であんな料理を作っているのだろうか。
「ドウしてこの町の少年は常識というモノが欠けているのデショウ……キミで二人目デスヨ!」
怒鳴りながらレストランの入り口から出て、すぐ左の扉へ案内される。
レストランは彼の自宅の一室、ということになるのだろうか。
外にある二つのドアはレストランと家屋に分かれており、中で繋がる扉は無いようだ。
一つの建物に家屋と店が独立している、料理に対する店主の二面性を表してるように見えた。
「調理場は神聖な場所デス! それなのに彼は洗ってもナイ手でアッチコッチ触るし、髪型はハンバーグだし……」
「ハンバーグ……そ、その人って仗助さんっ!?」
「ソウデス! アンナ頭だと相当な量の整髪料を使うでショウ……全く持って不潔極ま……」
そこまで言うと彼は憤怒に染まった鬼の形相を変え、僕を見つめた。
異常な料理が能力だとすれば、仗助さんと面識があるとすれば……。
「もしかしてキミは……」
「僕に質問するなァ―――!」
この人はきっと『能力』を持っている。
殺人鬼を倒す希望に繋がる、ここで間違いが起きてはならない。
会話は慎重に行わなければならない
「まずいんだ……僕への質問は! 言えないんだ!」
希望への興奮、そして絶望への恐怖に震える僕の様子を見て理解してくれたようだ。
「……判りまシタ。では、ワタシから話しても?」
「……はい!」
今回もコメントがギリギリです、これもサマサさんのせいなんだ。邪神です。(( X))
個人的な感情からのツッコミで返答欄を見づらくしたのは私の責任だ、だが私は誤らない。
ちなみにトニオさんの家の構造は妄想ですが店の中には見た所扉がなく、
家の外に2つあり建物の大きさもそこそこだったので多分こういう構造なのかと。
子犬を飼ってた部屋は映写が少なくて良くわかりませんでしたから繋がってるのかも?
>>ふら〜りさん Q.>>(もしかして、料理・栄養関係のお仕事とか専門の勉強しておられるとか?)
A.wikiとグーグ(ry
吉良ならトニオさんの料理にテンプテーションされながらも演じきれる筈……っ!
ようやく早人に休憩タイム! これで話が進むと思ったら肉料理がまだでした(*0w0)
>>サマサさん レッドさんに宇宙S適正があるとはしらなんだ……。
そうなると精神コマンドが気になるところ、魂のスペースが愛になって強いけれど火力打ち止め。
そんなタイプな気がする、もしくは熱血の変わりに脱力が入ってるとか。
>>おつりで勝手に金平糖なんて買っちゃダメじゃない!→(*0M0)<コレクッテモイイカナ?
>>勝手にタバコを買っちゃダメじゃない!しかも1カートン!→(*0M0)<コレクッテモイイカナ?
食いしんぼキャラにこのコンボがないだと……? 今までアンタをこのスレの先輩だって!
バキスレ界の橘さんだと思って尊敬していたのに! 俺は……俺はアンタに裏切られた気分だ!(#0w0)
そして赤の他人の金でタバコ1カートン買うレッドさんマジ自重、かよ子さんじゃねぇからその人!
ちなみにUNK(アンノウン)の食し方は形状によって……おっと、誰か来……なにをするきさまー!
人は………ただ人であればいい……。
>>188氏 自分も食べに行きたいです……ホント。ミネストローネこそ至高のスープ。
雑多に詰め込まれた野菜とパスタのクズ、それらのダシを殺すことなくトマトが引き立てるッッッ!
パンを何倍にも美味しく食べれる不思議な魔法、まさに西洋の神秘ですね〔*0H0〕
>>189氏 なんということだ……トニオさんの料理を食べたくないと思わせてしまうとは!
これも私の未熟さ故………味の表現、治療法に工夫が足りなかったか、そういや外観を描写してなかった。
原作の自分に何が起きてもいいから食べたいと思わせる魅力が出せなかったとは不覚……。
>>190氏 残念ながら料理関係でも栄養関係でもないので、料理はパクリですが一応アレンジしてます( 0w0)
ただタリアテッレは変に工夫すると原作のトニオさんの言うような母から娘に引き継がれる味にならないので、
これはウィキペディアにある原型の庶民バージョンをそのまま使いました。
221 :
邪神?:2010/05/02(日) 01:27:29 ID:PxUgYNyE0
調べてみたら自分の知ってた行数限界は間違ってたようでもう数行いけたみたいです。
それなのにコメントがギリギリとかサマサさんのせいにしたのは私の責任だ、だが私は謝らない。
だが>>だが私は誤らない。 この誤字は眠いから仕方なかったとはいえ私の責任だ。すまなかった。
222 :
作者の都合により名無しです:2010/05/02(日) 14:20:28 ID:VDV0yq180
おつかれさまです
おれはトニオさんの料理を食べたいですよw
あとがこわいけどw
トニオの料理は手ごろな値段で旨そうだから
(能力関係なく)喰いたいとは思うけど
決して一流店のレベルの料理ではないようなw
邪神さんのSSに出た料理も原作に出た料理も
カジュアルイタリアン、もしくは
イタリア家庭料理って感じですよね。
俺もそっちの方が好きですけど。
〜天体戦士サンレッドVS望月ジロー〜
幻想郷最大トーナメントに向けて、各自が準備を進めているその頃。
―――神奈川県川崎市。いつもは善と悪の壮絶な闘いが繰り広げられている公園に、数人の人影。
「…どういうことかしら、これ」
「うーん…」
「急に四人もいなくなったと思ったら、ねえ…」
レッドさんの恋人・かよ子さん。
ジローとコタロウの雇い主にして扶養主・ミミコさん。
そしてフロシャイム川崎支部の戦闘員1号・2号。
彼らの手には、一通の手紙。差出人はそれぞれサンレッド・望月兄弟・ヴァンプ様である。
内容はかいつまんで言えば<少し留守にします。必ず戻ってくるので心配しないでください>とのことだ。
「まあ、ウチの人だけじゃ頼りないけど、ヴァンプさんもいるなら安心ね」
「そうですよね。ジローさんやコタロウくんだけじゃともかく、ヴァンプさんがいるんだもの」
「そうっすよねー。ヴァンプ様も一緒なら、滅多な事はないですよ」
「羽根を伸ばして旅行でもしてるんじゃないですかねー、ははは」
ははは、と四人は笑い合った。
こういう時にモノを言うのは、普段の行いと社会的信用である。
悪の将軍ヴァンプ。すっかり保護者扱いされているのであった。
―――そして、幻想郷。
白玉楼に絶賛居候中のレッドさん御一行。
「さあ皆さん。特にレッドさんとジローさんは今日に備えて、たーんと食べて下さい!」
すっかり料理当番となったヴァンプ様が持ってきたのは山盛りのご飯に、特大のステーキとトンカツ。
「テキにカツ、ですよ。ははは」
「わーい、いただきまーす!」
コタロウが元気よく手を合わせて、早速ステーキとトンカツをケチャップ塗れにしていた。
トーナメント本戦まで、あと三日に迫っている。
今日は本戦出場者を決定するための予選会が開かれるのだ。
「何しろ参加者の人数が当初の予定を大幅に超えてるのよ。ちょっと数を絞らないとね」
幽々子はそう言って、肉を口に放り込む。その途端、目を丸くした。
「あら、このお肉ってばすっごく柔らかくて美味しいわ!ヴァンプさん、どんなお肉を使ったの?」
「いえいえ、普通のお肉ですよ。ただ、ステーキは事前にパイナップルの搾り汁に漬け込んでおいたんです。そう
すると酵素の働きで驚くほど肉質が柔らかくなるんですね。トンカツは最初に強火でしっかりと揚げて肉汁を閉じ
込めてから、弱火でじっくりと二度揚げしたんです。これなら分厚くても中までしっかりと火が通りますし、肉汁も
タップリでジューシーな仕上がりになりますよ」
「なるほど、手間をかけたからこその美味さというわけですね。感動で思わず大阪城と合体してしまいそうです」
妖夢がよく分からない褒め方をするが、その顔は素直に<美味過ぎる>と告げていた。
「うふふ。いっその事、ヴァンプさんと結婚しちゃおうかしら。そしたら毎日美味しいご飯が食べ放題ね」
「もう。幽々子さんったら、こんなおじさんをからかっちゃダメですよ〜(ポッ)」
そうは言うけど満更でもなさそうな御二人である。
まさかのヴァンプ様×ゆゆ様。
誰が得をするんだろうか、このカップリング。
「くっだらねー…」
そんなやり取りを冷やかに見つめて、メシをかっこむレッドさん。
ふと、先程から一言も発していないジローと目が合った。
「何だよ。いつになく無口じゃねーか、ジロー。メシも進んでねーし」
「これは失礼。少々、考え事をしていたもので」
「トーナメントの事か」
レッドは箸を置いて、顎に手を付く。
「なるようにしかならねーよ。当たって砕けろだ」
「そうだよ、兄者。ほら、ぼくの分もあげるから頑張ろうよ!」
ケチャップで真っ赤になったトンカツを一切れ差し出すコタロウ。そんな弟に苦笑しつつ、その小さな頭にジロー
はそっと手を置く。
「当たって砕ける気はないですよ、コタロウ。やるからには、勝ちにいきますとも」
―――そして空に月が昇る頃。
白玉楼の大庭園は、その広大な敷地を埋め尽くさんばかりの人妖で溢れ返っていた。
この全員が、トーナメントに参加を表明した者達である。
「えー。こんなにたくさん集まってくださり、まことにありがとうございます」
彼らの眼前では、いつの間にやら用意されたお立ち台に登った幽々子が挨拶を行っていた。
「さて、皆さん!この中で最強は誰なのか知りたいかー!?」
「「「「「おーーーーーーっ!!」」」」」
何百人という参加者から一斉に上がる雄叫び。
「賢者イヴの秘宝が欲しいかーーーっ!?」
「「「「「おーーーーーーっ!!」」」」」
まるで昔懐かしのクイズ番組のノリである。
「ったく、何だよこれ…」
早速イライラしてきたレッドさんであった。
「まるでノーテンキな女子校生の集会じゃねーか、おい」
「しかし…そこかしこから、強大な気配を感じます」
ジローは戦慄を隠しきれず、額に浮き出る汗を拭った。
「あなたもそれは分かっているでしょう、レッド」
「確かにな…」
その辺りは認めざるを得ない。軽く探ってみただけでも、八雲紫やレミリア・スカーレットに匹敵する怪物的な力
をいくつも感じ取れる。
「どっちにしろ優勝するには避けて通れねーよ。当たっちまったら、ブッ倒すだけだ」
「そうですね―――乱暴な言い方だが、間違いではない」
そう。
この場に立ったからには、相手が誰であっても退くわけにはいかないのだ。
「さて、それでは幻想郷最大トーナメント予選を開始します!ルールは簡単、相手を殺しちゃわない限りは何でも
ありのバーリ・トゥード!武器の使用も一切禁じません!医療班として優秀なスタッフも待機しておりますので、
ガンガンやっちゃいましょう!さあ、質問があるなら今のうちにどうぞ!」
「―――予選の方式は?」
その声はざわめきの中でもはっきりと響き渡った。
すうっと、小さな影が上空へと舞い上がる。
「どうやって、本戦出場者を決めるのかしら?」
レッドとジローは、顔を見合わせる。
「あいつ…やっぱり、来てやがったか」
「そのようですね」
妖しく輝く月をバックに、彼女は悠然と大地を見下ろしていた。
レミリア・スカーレット―――紅き吸血姫。
「それは、私から説明しましょう」
彼女の問いに答えたのは、幽々子ではなかった。幽々子の背後、何もないはずの空間がぱっくりと裂ける。
そこからひょいっと、何気なしに一人の女が現れた。
八雲紫―――境界の妖怪。
その何気なさこそが、何よりも不気味だ。
「こんばんは、皆さん。今大会の主催者の一人にして参加者の一人、八雲紫です―――レミリア・スカーレット。
本戦出場者の決定方法について、だったわね」
「そうよ。勿体ぶってないでさっさと教えなさい、この若造りババアが」
レミリアからの悪態に特に気を悪くした様子もなく、紫はくすりと笑う。
「口で説明するより、やった方が早いわ―――こうするのよ」
瞬時―――全てが、巨大なスキマに呑み込まれた。
何もかもが暗く冷たいスキマに喰われていく中、妖怪の賢者の声だけが耳に届く。
「私も含めて、参加者は全32のブロックにそれぞれ無作為に振り分けられるわ―――そして、トーナメントは総勢
32名で行われる。ここまで言えば、分かるでしょう」
「バトルロイヤルって事だね」
そう言い放ったのは、額から長い角を突き出させた長身の鬼―――星熊勇儀だ。
「要はそのブロックで、最後まで立っていた一人だけが本戦に出場できる。そういう話だろう?」
「は。分かりやすくていいじゃないか」
彼女の傍にいた、小さな鬼―――伊吹萃香も余裕の笑みを浮かべる。
「文句はないみたいね?なら、始めましょうか…予選、開始よ」
声が遠ざかり、暗闇の先に光が射す。
そして―――
気付けばレッドは、石畳の上にいた。
「ここは…神社か?つっても、ボロボロだな」
目の前には朽ち果てた社。足元の石畳も、所々が剥がれ落ちていた。
茫々に生い茂った雑草が、風に吹かれて寂しく揺れている。
「ここが、俺の割り振られたブロックってわけか…」
目を凝らすと、神社を中心として半透明の球形結界が張られている事に気付いた。
半径およそ100m程だろうか?どうやら、この中で闘えという事らしい。
結界に近づき、試しにコツコツと叩いてみるがビクともしない。本気を出せば壊せないこともないだろうが、さて
どうするか?
<一応言っておくけど、そんな事をしたら失格よ?>
「…どっから見てんだよ、スキマババア」
<どこからでもよ。この幻想郷で、私に見えない場所はない>
妖怪の賢者は、平然と言い放つ。
<さて、ではいきましょうか―――予選、開始よ>
宣言と同時に、レッドの眼前に異形の影が徒党を組んで現れる。
明らかに人間以外の姿をした者。特に人間と変わりなく見える者。
人間の姿を基本としつつ、人間ではありえない部分を持つ者。
ひゅう、とレッドは緊張した様子もなく、だらけきった態度で軽く口笛を吹く。
「早速お出ましか。群れてる所を見ると、大した連中でもねーな」
「作戦といってもらいたいね」
妖怪達の中の一匹が、そう言った。
「最初は手を組んで、邪魔な奴から倒す…バトルロイヤルの定石だろう?」
「ほー。まずは力を合わせてヨソ者の俺をやっちまおうってわけか?」
「そういう事さ。悪く思うなよ」
「いやいや、お構いなく―――」
バキバキと、レッドは拳を鳴らした。
「そういう事なら俺も、遠慮なくブッ飛ばしてやるからよ」
烈火の闘気が迸り、レッドを取り囲んでいた妖怪達が一斉に顔を引き攣らせる。そして、悟った。
例えば鬼の双璧。
例えば境界の妖怪。
例えば究極加虐生物。
眼前にいるのはそんな上級妖怪と比しても決して劣らぬ、真の怪物だという事実に。
覆しようのない階級制度(ヒエラルキー)。
それを一瞬で、拳を交わすまでもなく骨の髄まで、本能で理解させられた。
「さあ、来いよ。雑魚妖怪AからG」
くいくいと手招きしながら、レッドは壮絶な笑みを浮かべた。
恐怖と焦燥に耐え切れず、一団の中でも一際巨大な体躯を持つ妖怪が丸太のような腕を振り翳しながら突進する。
それに引きずられるようにして、各々が叫び声を上げながらレッドに飛びかかった。
対してレッドは拳をグッと握り締めて、大きく振りかぶり、前に突き出す。
発生した衝撃波は大地を割り、群れをなした妖怪達を一瞬で弾き飛ばした。
まさに圧倒―――正しく巨象と蟻の闘いだった。
倒れた妖怪達は、突如出現した黒いスキマに呑み込まれて消えていく。
「おいおい、どうなったんだよ。まさか、負けたら死ぬとか問答無用のルールじゃねーだろな?」
<そんな事はしないわよ。倒れた者は白玉楼に戻して、手厚く治療してあげるわ>
「そりゃ安心だ…つーか、あんたも闘いの真っ最中なんじゃねーのか?呑気に解説してていーのかよ」
<いいのよ。もう全員ブチのめしてあげたから>
「おい…まさか主催者権限で、自分のブロックに楽な相手ばっか割り振ったんじゃねーだろな」
<心外ね。ゲームは正々堂々やるから楽しいのよ。ズルして勝っても面白くもなんともないわ>
多分本心だとは思うが、今一つ信用できない。何しろ八雲紫は、胡散臭さの塊のような女なのだ。
その気になればどんなイカサマも思いのままの<境界を操る程度の能力>。
言った端から平然とインチキをしそうな気もするのだ。
<さて、あんまりあなたにばっかり構ってても贔屓になるからこの辺で失礼するわ。健闘を祈ってるわよ>
言いたい事だけ言って紫の声は消えた。
「…やっぱ、ヤな女」
レッドは舌打ちして、足元の小石を蹴り飛ばす。
その時。
「ふふん。ヒーローだけあって、思ったよりやるわね」
背後から響く声。振り向けば、そこには四人の少女がいた。
一人目は青い服に青い髪、青い瞳と青ずくめのヒンヤリしてそうな幼子。
「あたいは氷の妖精チルノ!」
その隣には、昆虫のような羽根と触覚を生やした少女。
「ボクは蛍の妖怪リグル・ナイトバグ!」
彼女らの頭上には、羽根帽子を被った赤髪の少女が悠然と佇む。
「私は夜雀の妖怪ミスティア・ローレライ!」
そして一切の光を拒絶する闇を纏い、呆けたように笑う幼き妖怪。
「最後に宵闇の妖怪ルーミアなのかー!」
ビシィッ!と謎の四人組はポーズを決めた。
「「「「我ら<頭脳派四天王>!」」」」
そう―――人は彼女らを<バカルテット>と呼ぶ!
言うまでもないが<バカのカルテット>の意である。
レッドは四人にスタスタと近づき、脳天に一発ずつチョップをかました。
「ぎゃふん」
「扱い酷っ」
「ITEッ」
「救命阿なのかー」
「はい、終了」
ピクピク痙攣しているバカルテットを放置して踵を返し、社の前に立つ。中に向けて声を張り上げた。
「いるんだろ?そこに。レッドイヤーは高性能だからな。その中で小競り合いやってたことくれー分かってるよ。
隠れてねーで、出てきな」
「隠れていたつもりはありませんよ」
朽ちた社から現れたのは、赤いスーツを纏った長身の青年。その手には、銀でコーティングされた日本刀。
「精神統一していたんです。乱れた心であなたに勝てるわけがありませんからね」
「そうか―――やる気十分ってわけだな」
<銀刀>望月ジローは、天体戦士サンレッドを真っすぐに見据える。
レッドはその鋭い眼光を、真っ向から受け止めた。
此処で出会った運命の皮肉を嘆くつもりも、呪うつもりも二人にはない。
「ま、こうなっちまったもんはしょーがねーな…一応言っとくが、わざと負けてやる気はねーぞ」
「結構。道はこの剣にて、自ら斬り開こう」
ジローの身体から、濃密な霧が立ち昇った。それは唸りをあげて渦巻き、大地を抉り空を斬り裂く。
眩霧(リーク・ブラッド)―――強力な吸血鬼がその力を振るう際に見られる現象だ。
幻の霧を纏い、ジローは柄を握る手を顔の高さにまで上げて、自然体で銀刀を振り上げた。
古くより現代に伝わる一撃必殺の剣―――示現流・蜻蛉(トンボ)の型である。
対して、レッドは。
「―――変身」
短く呟くと、その全身が光に包まれた。太陽の如く光の中で、その姿が変化する。
だらしないTシャツ短パンから、ヒーローとしての真っ赤な戦闘服に0.001秒で蒸着。
「本気でいくぞ、ジロー」
「来なさい、サンレッド」
レッドは悠然と、ジローに向けて歩み出した―――
吸血鬼の剣士は迫り来るヒーローを見据えたまま、微動だにしない。
一歩。
また、一歩。
距離が縮まるたびに、身体がひりひりと焦げていくようだった。
サンレッドが放つ闘気は、日光に弱い吸血鬼にとっては猛毒も同然だ。
吸血鬼の源泉である黒き血の魔力を阻害し、焼き尽くす太陽。それが天体戦士サンレッド。
それでも、退く気は全くない。
(―――次か)
ジローは呼吸を整え、その瞬間を待ち受ける。
サンレッドを相手に最初の一太刀を外せば、もはや勝機はあるまい。
望む所だ。ジローはそう思った。
元より示現流は、二の太刀を持たぬ一撃必殺の剣―――全てを焼く烈火の剣だ。
―――太陽すらも、斬ってみせよう―――
不退転の決意と覚悟を以て、吸血鬼の剣士は太陽の戦士へ向け、渾身の一撃を振り下ろした。
「―――チェストォォォォォォッ!」
髪の毛一本ほどの狂いもなく、真っすぐに突き進む刃。
その太刀筋はまさしく示現流の真髄―――<真・雲耀(うんよう)>に達していたといっていい。
彼の長い吸血鬼としての生においても、最高にして至高の一閃。
だがその時、もう一つの閃光が銀刀と交錯する。
キィン―――と。
甲高い音色と共に、銀刀の刀身が半ばからへし折れた。
ジローは剣を振り抜いた姿勢のまま、茫然と立ち尽くす。
視界には折れて宙を舞う刀身。そして、左手を振り上げた姿勢のままのサンレッド。
音すら遥か置き去りにした斬撃を見切り、手刀で叩き折った―――
言葉にすればそれだけだが、神業というより他にない。
レッドは更にもう一歩踏み込み、固く、硬く、堅く握りしめた右拳を真っすぐに撃ち抜く。
咄嗟に力場思念(ハイド・ハンド)により、ジローは前方に不可視の防壁を展開する。
その強度は、銃弾はおろか大砲すら無効化する―――だが。
太陽の戦士の鉄拳はそれを軽々と突破し、吸血鬼の心臓を真上から打ち据えた。
カタパルトから撃ち出されたような速度でジローの身体が吹き飛ばされ、社へ叩き付けられる。
その破壊力を示すかのように、社は跡形もなく倒壊した。
(…勝てないな、これは)
社の残骸と砂埃、そして己の血反吐に沈み、ジローは痛感した。
積み重ねてきた百年の歳月も修行も、何もかも無にする理不尽なまでの暴力。
生まれてくる世界を間違ったとしか思えない、常識も理屈も足蹴にする怪物。
それが、天体戦士サンレッド―――
だが。
「グッ…」
焼けるような痛みを訴える心臓を無視して。
もはや限界だと主張する全身を意志力で捻じ伏せて。
折れた銀刀を握り直して。
ジローは立ち上がり、再びサンレッドに向けて切っ先を向ける。霞む視界。歪む世界。
それでも、彼の瞳は太陽の戦士を確かに捉えていた。
「よせよ、ジロー。それ以上やったら、いくら吸血鬼でも死んじまうぞ」
「…バカな男…なんですよ…私は」
一言ごとに血を吐きながら、そう答えた。
言葉とは裏腹に、自嘲の響きは一切ない。
「人間だった頃から頑固で…融通が利かない…吸血鬼になって百年を越えても全く変わらない…三つ子の魂百
までとは、よく言ったものです…能があるとすれば、少しばかり剣を嗜んだくらいです」
その剣も、通じなかった。
「けれどね…本当に私は諦めの悪い男でして…勝てないと分かっていても、退きたくないんですよ」
「賢者の秘宝…か?」
「それもありますし…単純に、負けず嫌いだというのもあります…」
すうっと、大きく息を吸い込んだ。
「無理をしてでも立ち上がれる内は、倒れたくない―――それだけです」
「秘宝なんざ、俺には興味ねー」
レッドはそう吐き捨てた。
「欲しいってんなら、俺が優勝してお前に渡してやるよ。だから、もう倒れとけ」
乱暴な言い草だが、彼なりにジローを慮っているのだろう。それくらいは分かる。
だからといって、それで考えを改められるようなら苦労はない。
「…さあ、もう一勝負といきましょう」
返事はない。レッドは何を思うのか、マスクの上からでは計り知れない。
(こんな所で意地を張ったまま死んだら…本当に大バカ者だな…)
靄がかかったような意識の中で、何故か多くの思い出が次々に蘇った。
祖父の事。
軍人時代の上官の事。
人間・望月次郎の死。
吸血鬼・望月ジローの誕生。
それからの百年。
最愛の母との離別。
最愛の弟の誕生。
成長した弟と共に神奈川県川崎市にやってきて、アヒル口の少女の世話になった。
そして、今は―――幻想郷にいる。
(走馬灯か?)
これはいよいよまずいかもしれない。そう思った時、先日の妖夢とのやり取りが想起された。
―――私が心配してるのは、あなたが死んだら悲しむ人がいるんじゃないか、という事です
とんでもない毒舌少女だが、その時ばかりは、確かにジローを心配してくれていたのだ。
自分は彼女に、こう答えた。
―――私にはまだ<使命>が残っていますから。それを果たすまでは、死んではならないんです
「…使命」
ふっと、力が抜けた。銀刀が手から滑り落ちる。
大地に仰向けに倒れ込む。真上に望む月は、ただただ美しかった。
まるで、今は亡き彼女のように。
どくん。
血が波打つ。
彼女から託された血。それに秘められた使命。
そして、自分の愛する者達。
「私は…正真正銘の愚か者になる所でしたね…」
己の人生の中で、命を賭けてでも何かを成し遂げねばならぬ時はあろう。
全てが終われば灰も残らぬような闘いに身を投じねばならぬ時も来よう。
だが、それは―――今ではない。
自分が何らかの物語の主人公として、その血の一滴まで流し尽す―――
そんな日が、いつか来るかもしれないが―――
それは、今ではない。
「サンレッド」
どこか清々しさを感じさせる微笑を浮かべ、ジローは己を見下ろすレッドに親指を立てた。
「応援しますよ―――どうか、優勝してください」
レッドもまた、親指を立て返した。
―――天体戦士サンレッド・トーナメント本戦出場。
投下完了。前回は
>>204より。
間が空きましたが、分量はかなり長めだと思うのでどうか許してくだされ。
ジローさんはレッドさんと当たってしまって予選敗退ですが、これからは解説者(コメンテーター)Jとして、そして
レッドさんVSレミリアお嬢の闘いで一肌脱いでもらう予定です(自分でハードルを上げる阿呆サマサ)。
>>206 まあ、トーナメントでは本来ギャグ漫画の主人公であるという事実を忘れるくらいカッコよく
闘ってくれる…はず…
>207 5ボス級が相手なら楽勝、6ボス・EXボス級には苦戦するくらいかなと思っています。
ただ、勇儀姐さんみたいに本気ならラスボス級の力を持ってる3ボスとかもいるからなあ…。
>>208 大体そんな感じです。太陽の戦士だから吸血鬼には強いというのは、当たってます。
いや、本当にそうなのかは知りませんがw
>>209 流石に素で上級妖怪クラスに勝てるかというと、微妙かと。フォーム使えば幻想郷でも
最強クラスだとは思います(思いたい)。
>>210 ギャグキャラって、その属性持ったままバトル漫画に行ったらある意味無敵ですよね(笑)
カメダス懐かしい。あの頃のこち亀は面白かった。
>>211 ダイヤモンドより硬いヨロイを素手でベコボコにするとか、地味にスゲーと思います。
>>212 何ぞこれwちょっと楽しみ。
>>ふら〜りさん
あの世界じゃ弾幕でのケンカは、あくまでも少女達のごっこ遊びですが、それを大魔王もビックリな
戦闘力を持つ奴らが大真面目にやってるというのがすごい所。確かにレッドさんより、彼女らの方が
血の気自体は多いかも…ヴァンプ様は確実に女性らしいです、はいw
>>邪神?さん
ああよかった!ブロック石鹸が早人の脳天に直撃しなくてよかった!(かなりマジに心配してました)
殺人鬼も虜にするトニオさんの料理、やはりパネェっすね(以前も言ったような気がするけど)
トニオさんダメだ!ハンバーグヘアなんて言っちゃダメだ!
トニオさんへの誤解は解けたようですが、これによってトニオさんにまで<バイツァ・ダスト>の魔手が!?
どうにか危機を回避してほしい所です。
食いしん坊キャラならやっぱそういう反応ですよね…迂闊。こんなザマでは憧れから格下げされても仕方ない。
しかし橘さんとはどの橘さんだ。テニヌ王子の橘さんならギリギリ許す(多分違う)。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9334501 これの2:18からの展開を見ればレッドさんの宇宙S適正が理解できるはずです(ニコ厨とか言わないで)
ファイアーバードアタックよりも素の顔面パンチの方が痛そうなのってどうなんだ、実際。
レッドさんは精神コマンドはダメなのばっかだけど、素の戦闘力がヤバすぎて無改造で無双余裕、しかし特殊能力
<ヒモ>によって獲得資金1/10になるので他のユニットが全然育たない、その上勝手にパチンコに行くので資金が
減るという仕様だと思います(たまに大勝して資金が増える)。
UNK(アンノウン)は…やはり人が触れてはならぬ領域だというのか…。
232 :
作者の都合により名無しです:2010/05/04(火) 16:40:33 ID:eSFuCiCj0
レッドさんは頭が悪い分、恐れを知らないから
大物っぽく見えるな。
実際に強いけど、東方の上位クラスにはどうかなー?
サマサさん乙です。
主人公なのでトーナメントで決勝まで上がるのが宿命と思いますが、
ギャグ漫画キャラなので途中で敗退もあるかな?とも思います。
サンレッドの方が東方より好きなので(というか東方ほとんど知らない)
レッドさんにはぜひ優勝してほしいものですね。
ヤムチャは美女のおっぱいが揉みたくなった。ちょっと揉みたいぐらいなら
黙っておくが、冗談ではすまないぐらい揉みたかったので、歩行者天国のど真
ん中で大きな声で叫んだ。
「オレは美女のおっぱいが揉みたいー!」
誰も振り向かなかった。魔人ブウという悪いデブの魔法で、世界中の人間と
美女のおっぱいは全部石に変えられてしまっていた。
「プーアルー! 美女のおっぱいを揉みまくるにはどうしたらいいー!」
「魔人ブウを倒せば魔法が解けるです!」
「それ以外の方法でよろしくお願いします!」
ヤムチャは猫の召使いのプーアルに深々と頭を下げた。魔人ブウと言えば地
球はおろか、全宇宙を含めてもトップクラスに強い反則キャラなので、とても
ヤムチャの手に負える相手ではない。
「大丈夫ですヤムチャ様! 他の誰かがブウを倒しても魔法は解けるです!」
「悟空せんせーい!」
ヤムチャはワープに近い速度で孫悟空の家に到着した。アホの悟空をだまく
らかしてブウと闘わせようと思ったら、悟空は寝そべってテレビを見ながら石
になっていた。
「この役立たずー!」
ヤムチャは悟空の体をハンマーでメチャクチャに砕いて便所に流した。地球
のピンチにのうのうとテレビを見ているような主人公は、もはやウンコと一体
化するしか生きる道はないのであった。
「他にブウに勝てそうなお前とお前とお前ー!」
ベジータとトランクスと孫悟飯の家にも行ってみたが、みんな揃って石像と
化していた。どいつもこいつもサイヤ人のクセして、肝心な時に役に立たない。
ヤムチャは三人をハンマーで粉々に砕いて、悟空と同じく便所に流した。
「うおー! 何でもいいから美女のおっぱいを揉ませろー!」
ヤムチャは高まる欲望を抑えきれず、アスファルトの道路のボコボコに股間
をこすりつけ始めた。手が小刻みに震え出している。
「プーアル! 美女に化けてオレ様に胸を揉ませなさい!」
「はいです!」
プーアルは特殊能力の持ち主で、どんな姿にでも化ける事ができる。プーア
ルは絶世の美女に変身して、豊満なおっぱいをヤムチャの頬に押しつけた。
「さあヤムチャ様! おっぱいを好きなだけこねくり回して下さい!」
プーアルの能力には欠点があった。化けた後でも、どこかに必ずプーアルだ
と分かる特徴が浮かび上がる。今回の場合、両方のおっぱいにプーアルの小腸
と大腸がキレイにとぐろを巻いていた。
「揉めるかー!」
ヤムチャは小腸と大腸を両手につかんで思い切り引っ張った。おっぱいがコ
マの要領で猛烈に回転して、プーアルの体を離れてどこかに飛んで行った。は
ずみでプーアルの変身もとけた。
「ヤムチャ様、こうなったらヤムチャ様一人でブウを倒して、世界中の人たち
を救ってやるしかないです!」
「そこなんですよプーアルくん」
ヤムチャには、さっきからずっと気になっていた事がある。世界中の人が石
になったとして、どうして自分だけが生身のままでいるのだろうか。
「美女のおっぱいが揉みたいー!」
ヤムチャが叫んだのではない。前方のビルの影あたりから男の絶叫が聞こえ
た。ヤムチャとプーアルがかけつけると、若い男が電信柱に股間をこすりつけ
ていた。ヤムチャは男の肩に手を乗せて聞いた。
「キミは美女のおっぱいが揉みたいのか!」
「はい! 自分は美女のおっぱいを揉みたくて漏れる寸前です!」
なんとなく分かった気がした。
「美女のおっぱいはどこだー!」
突然、車道のマンホールの蓋が吹き飛んだ。大量の汚水と一緒に、復活した
悟空が飛び出した。
「オラ悟空は美女のおっぱいが揉みてえぞー!」
ほぼ同時に、別の三つのマンホールの蓋も吹き飛んで、ベジータとトランク
スと悟飯も復活した。
「美女のおっぱいを揉むぞー!」
どうやら、美女のおっぱいを揉みたいという熱い思いが臨界点を超えた時、
ブウの魔法はとけるらしい。もらいゲロと同じ理屈で、こうなると連鎖反応と
いうものが発生する。
「オレもオレもオレも美女のおっぱいが揉みたいー!」
世界中の男たちが一斉に復活した。美女のおっぱいを揉みたい気持ちが一点
に集まって大きな龍となり、ブウの居城目指して稲妻のように飛んで行った。
龍の背中には、美女のおっぱいを揉みたい軍団が全員乗っている。
「全員でブウを倒して美女のおっぱいを揉むぞー!」
「うおー!」
勝どきをあげた軍団の前を、プーアルのおっぱいが横切った。小腸と大腸は
もう巻いていないので、普通の美女のおっぱいだった。おっぱい単体なので美
女かどうかは分からないのだが、神のごとき想像力で無理やり美女を補完した。
「美女のおっぱいだー!」
おっぱいを揉んだら満足したので、ヤムチャも含めて全員石に戻った。男っ
てホントにバカな生き物ですこと。
おしまい。今日と明日も有給を取っている人、許さん。
238 :
作者の都合により名無しです:2010/05/07(金) 13:48:39 ID:46r2YNtW0
お疲れ様です。
もしかしてVSさんですか?
相変わらずのキレ、お見事です!
マジでうれしいよ!
相変わらずだなこの人はw
vsさんお疲れ様、そしてお久しぶりです。
なんか美女のおっぱいに対する想いを集めると
超特大の元気玉ができそうですねw
連載とまではいかなくとも、
2ヶ月か3ヶ月に1回くらい読み切りとか
書いてくれると嬉しいなあ。
今はサマサさんと邪神さんに負担かかりすぎだからね。
いろんな人が復活すると良いなあ。
文体とかセンスとか改行の仕方とか、本編に関係ないタイトルとかw
おそらくVS氏で間違いないだろうね。
ブランクがあるとは言え、相変わらず電波ゆんゆんで安心しました。
おっぱい化したプーアルに小腸が巻き付いたとか普通の人の発想じゃないわw
VS氏には週間漫画板バキスレのヤクバレも復活させてほしいが…
もう既に原作のバキ自体がギャグになってしまってるからな…w
「勝者!劉海王!」のヤクバレは鮮明に覚えています。衝撃的でした。
>>邪神さん
トニオさんは料理だけでなく本人も怪しさ爆発ですよねw
本来は非戦闘員であるトニオさんまで吹っ飛ばされない事を祈るばかり…
>>サマサさん
ヴァンプ様とフラグを立てるだなんて、何て羨ましいんだゆゆ様…あれ?
レッドさんにはトーナメントでも圧倒的なパワーで突き進んでほしいものです。
>>VSさん(恐らく)
あんた絶対頭がおかしい(褒め言葉)
>>美女のおっぱいを揉みたい気持ちが一点に集まって大きな龍となり、ブウの
居城目指して稲妻のように飛んで行った
かっけえwでもロクでもねえw
ところでサマサさんの一押しらしいブラックブラッドブラザーズなんだがぶっちゃけ
面白いのか?ジロー・コタロウ兄弟のキャラとかは好きだけど原作もこんな感じ?
俺はこの設定、近年萌化の一途を辿るクソみたいなラノベより遥かに楽しそうとは思うが人それぞれか
まぁアニメあるみたいだしそっち見て楽しかったら小説のほうも買ってみよう
アニメ版BBBはやめとけ
信者の俺ですら首を傾げる出来だった
ガチで面白い小説なんで是非読んでほしい
ジローさんは本当に愛すべきダメ男で、でもいざとなるとスゲーカッコいいんだよ
手遅れだった、数話みたけど作画もろもろひでぇw
三巻からの盛り上がりに定評がある作者なのにアニメは三巻で終わったからなぁ
〜賢者の血統〜
―――白玉楼の庭園。
既に予選は終了し、闘いを勝ち抜いた32名の精鋭が出揃っていた。
「…………」
サンレッドは無言で、本戦出場者達を眺め眇める。
まず目についたのは、頭から角を生やした長身の美女と小柄な幼女の二人組。
(あいつら、相当やるな…)
今は気配を抑えているようだが、それでも隠しきれない程の力が滲み出している。
「星熊勇儀と伊吹萃香―――強大な種族である鬼の中でも、更に突き抜けた二人よ」
不意にかけられた声に、ぎょっとして振り向く。
「あら、驚かせたかしら?ごめんなさいね」
夜だというのに日傘を差したその少女は、ニコニコ笑っていた。
それだけならどういう事もないが―――その全身は余す所なく血に濡れている。
彼女自身に怪我はないようだから、全て返り血だろう。
「私は風見幽香というの。あなたが外の世界のヒーロー・サンレッドね?噂は聞いてるわよ」
「お、おお。そりゃどーも…つーかお前、どうしたんだよ、その血…」
「これ?大した事じゃないの。ちょっと愉しみすぎちゃってね…うふ」
血で紅く染まった姿のまま、少女―――風見幽香は平然と言った。
(こいつは…関わり合いにならねー方がいいな)
さり気なく距離を取ろうとするが、幽香はレッドの腕に手を回してくる。
「つれないわね?私とお話ししましょうよ。あなたとっても強そうだし、興味があるの」
甘い声でしな垂れかかる美少女。そう言えば聴こえはいいが、レッドには凶暴な野獣に牙を突き立てられたように
しか思えない。
何よりも、自分がこうまで畏(おそ)れを喚起させられているという事実に、レッドは少なからず戦慄していた。
「他に強いのは…あら、霊夢がいるわね。あの紅白の巫女さんよ。人間だけど相当にできるわよ、あいつは―――
あそこには輝夜姫様もいるわね。長く美しく黒い髪、誰もが見惚れた絶世の美女―――けど、実力は本物よ。彼女
の持つ能力は、普通にやってて攻略できるものじゃないわ」
レッドの返事も聞かず、一方的に喋る幽香。
「ふふ、懐かしい顔ぶれも何人かいるわね…魅魔ったら最近全然見ないから、成仏したのかとおもっちゃったわ。
神綺も、魔界神としての仕事はいいのかしら。後は―――レミリア・スカーレットと八雲紫。この二人は、あなたも
知ってるんじゃなくて?」
「ああ。訊いてもねーのにわざわざ解説してくれて、ありがとよ」
「お気になさらず。私、これでもドS(親切)ガールのゆうかりんと言われてるのよ」
皮肉をたっぷり込めた言葉も、幽香は軽く聞き流すばかりだった。
すっと絡めていた腕を解き、蕩ける様な極上の笑顔を見せる。
それはまるで、毒塗れの棘で覆われた美しき花のように。
「それじゃあね、サンレッド。縁があるならトーナメントでまた会いましょう」
幽香はそれだけ言い残し、軽い足取りで離れていった―――
<究極加虐生物>風見幽香。
天体戦士サンレッドは二回戦で彼女と激突し、その加虐的な力を思い知る事となる。
幽香と入れ替わるように、小さな影が近づいてくるのをレッドは感じ取っていた。
既に接触した事のある気配だ。
「どうやら予選敗退なんてブザマは晒さずに済んだようね」
「テメーもな、クソガキ」
レミリア・スカーレット―――運命の吸血姫。
彼女は周囲を見回し、胡乱気に眉根を寄せる。
「望月ジローはどうしたの?古血(オールド・ブラッド)ともあろう者が予選で消えるとは思えないけど」
「…あいつは、俺と当たった」
「ふーん…そしてあなたは彼を、容赦なく討ち取ったというわけね」
「…………」
「怒らないでよ。ケンカを売ってるわけじゃないわ…ただ」
レミリアは、嘲るように口の端を吊り上げた。
「己の<兄>があなたに倒されたなんて知れば、あの方はどう思うかしらね?」
「―――っ!」
思考より速く、身体が動いた。
握り締めた拳をレミリアに向けて振り下ろす。
カウンターを狙い、レミリアも拳を突き出す。
ガシッ―――
「やめときな。祭りがまだ始まってもいない内から大騒ぎなんて、粋じゃないだろ?」
両者の拳は、間に割って入った者の掌で受け止められた。
毒気を抜かれたような顔で、二人は乱入者を見る。
女性としてはかなりの長身だ。サンレッドと視線の高さがほぼ等しい。
長くたなびく金の髪に映える、戦女神の如き凛々しい美貌。
額から長く伸びた、一本の角。
だがレッドが驚いたのはそんな事ではない。
(こいつ…俺とクソガキの拳を、あっさり受け止めやがった…!)
「…星熊勇儀…!」
忌々しげに、レミリアがその名を口にした。
「怖い目で見るなって、お嬢ちゃん。可愛いお顔が台無しだよ?」
対して勇儀は余裕の表情で、からからと笑う。
「サンレッド、だっけ?あんたもよしな。子供の挑発に乗るなんて、みっともないよ」
「…ちっ」
釈然としないながらも、レッドとレミリアは拳を引っ込めた。
「はいはい、そこの三人。その辺にしときなさい」
パンパンと、壇上に登った幽々子が手を叩き、声を張り上げる。
「皆さん、予選お疲れ様!本戦の予定については追って連絡いたします。それでは今日は解散!トーナメントでの
活躍、期待してますからね!」
そこでレッド達に目を向けて、にこやかに笑った。
「特にあなた達。その有り余ってる元気を、トーナメントで存分に発散して大いに盛り上げてね!」
あからさまな皮肉に、レミリアが怒りも露に舌打ちするが、結局は爆発にまで至らず、この場は引き下がった。
「…ふん、まあいい。トーナメントで全員の血を干乾びるまで吸い尽くしてやるわ―――それが嫌ならさっさと逃げる
準備でもしておくのね」
翼を広げ、飛び去っていく吸血姫。それを見上げて、勇儀はやれやれ、と苦笑する。
「あのワガママお嬢め。強いくせにああいう事ばっか言うから、イマイチ小物くさく思われるんだよなぁ」
ま、それはともかく。
そう言って勇儀はレッドに右手を差し出す。
「もしあたしと当たったら、そん時は楽しくやろうじゃないのさ」
反射的にその手を握り返したレッドは、顔をしかめる。
まるで万力の如き圧力だ。
「やるね、あんた。並の奴ならこの時点で砕けてる」
「砕くつもりだったのかよ、メスゴリラが」
「そう言うなって。強そうな奴を見れば力比べしたくなるのが鬼の性(サガ)―――」
「このくらいで砕けちまうようなヤワい拳なら、興味はないね」
勇儀は拳を離し、にぃっと剛毅な笑みを見せる。
「当たるかどうかは組み合わせ次第だけど―――あんたとのケンカ、楽しみにしてるよ」
<語られる怪力乱神>星熊勇儀。
彼女とサンレッドの死闘は幻想郷最大トーナメントの開幕を飾るに相応しき大一番として、後々まで語り継がれる事
となるのだった。
―――白玉楼・邸内。
そこは怪我人で溢れて臨時の病院と化していた。所々から、呻き声が響く。
本戦出場者達が解散した後で、レッドはこの場所を訪れていた。
「予選で怪我を負った者のうち、症状の重い者はここに残って治療を受けています」
と、ここまで案内してくれた妖夢が解説する。
「中でも風見幽香にやられた者達は特に酷い有様です。生きているのが奇跡というか死んでた方が楽だったという
べきなのか」
「風見…あいつか」
血に濡れたあの笑顔を、レッドは思い出していた。
「出会ったのですか?」
「ああ。予選が終わった後、あっちから声をかけてきたんだよ。見るからに危ねー女だった」
「ふーん…あっちから、ねえ…」
妖夢は<それは気の毒に>とでも言いたげな視線を向ける。
「あなた、最悪にも彼女に気に入られたかもしれませんよ。可哀想に」
「最悪ね…面白え」
レッドは空になったタバコの箱を握り潰す。それは音もなく燃え上がり、灰と化した。
「おお。やる気満々ですね、レッドさん」
「ああ。ちーと、どうしても優勝しなきゃならなくなっちまったんでな…」
「それは、ここに重症で運ばれてきたジローさんの事と関係があるんですか?」
「…まあな」
「シリアスっぽい空気なので軽口は控えましょう―――この先です。ヴァンプさんとコタロウくんもいるので、見れば
分かると思います」
「そっか、案内してくれてありがとよ」
「いえいえ、御気になさらず」
妖夢はにっこり微笑んだ。
「所詮あなたは女性に寄生しないと生命の維持もままならないヒモ野郎ですから、どうぞ私に頼って下さい」
―――結局、軽口を控えるつもりなど更々ない妖夢さんだった。
「あ、レッドさん!こっちこっち!」
少し歩いた先。とある部屋の前で、ヴァンプ様が慌てた様子で手招きする。
「デケー声出すんじゃねーよ、テメーはよ」
「そんな事言ってる場合ですか!ジローさんが酷い傷で運ばれてきたんですよ!」
「…………」
「幸い命に別状はありませんでした。今はコタロウくんが付き添ってますが…誰がやったか知りませんけど、何で
あそこまで痛めつける必要があるんですか…!?」
「…あー、その、まあ真剣勝負なわけだし、相手も今頃やりすぎたって反省してっかも…」
「だからってあんな…!やったのはきっとロクデナシでチンピラでヤカラのヒモ野郎ですよ!」
「おい…」
「レッドさん、きっと仇を討ってくださいね!ジローさんの無念を晴らし」
「うるせえ!やったのは俺だよ!」
「え…」
「予選で当たっちまって…まあ、見ての通りだよ」
それを聞き、ヴァンプ様は目をパチクリさせ、次に怒り出した。
「レッドさん、あなたって人は何て事をするんですか!」
「しょーがねーだろ、ジローはお前らみてーに軽くゲンコツ一発でハイお終いってわけにゃいかねーんだよ!」
「だからって、あんな―――」
「…いいんです、ヴァンプ将軍」
その声は、部屋の中からだった。
「ジローさん…」
「レッドは責められるような事などしていない。これはあくまで、正々堂々勝負した結果です」
「はあ…」
そう言われると、ヴァンプ様も黙るしかない。レッドは一つ咳払いして、襖に手をかける。
「ちょっと…入るぞ」
「どうぞ」
「あ、じゃあ私はどうしましょう?ここにいても邪魔なだけかもしれませんし…」
「あの大食い亡霊に夜食でも作ってやれよ…」
「そ、そうですね!幽々子さん、予選の準備やら何やらでお腹も空いてるだろうし!」
そそくさと去っていくヴァンプ様をジト目で見送り、レッドは部屋へと入った。
中央には布団が敷かれ、上半身に包帯を巻かれたジローが寝かされている。
その傍らには、コタロウの姿があった。
いささか後ろめたい気持ちで、襖を閉める。
―――己の<兄>があなたに倒されたなんて知れば、あの方はどう思うかしらね?
「怪我…大丈夫か?」
「何、心配はいりません。優秀で美しい女医が手当てしてくださいましたからね…つっ…!」
流石に痛みが酷いのか、ジローは顔を歪める。
「…悪かったな。やっぱ、ちょっとやりすぎたわ」
「気にしないで下さい。弟も、怒ってなどいませんよ」
ジローは身を起こし、そう言った。コタロウは首を曲げて、レッドを見つめている。
「あのよ、コタロウ…何つーか、なあ…」
口ごもるレッド。だがコタロウは穏やかに笑って。
「分かってる」
コタロウは―――否。
それはコタロウであって、コタロウではなかった。
「レッドさん。あなたはジローと、きっちり正面から向き合ってくれたんだね」
「コタロウ…お前…」
彼は今、ジローを<兄>でなく<ジロー>と呼んだ。
その瞳のどこまでも深い蒼さに、レッドは思わずたじろぐ。
ジローはただ茫然と、弟の姿を見つめていた。
本能的にレッドは理解した。
これは。今、自分の目の前にいるこいつは―――
(これが…賢者イヴだってのか…!?)
レッドは驚いていた。それ以上に―――感動していた。
理屈を越えて湧き上がる<賢者>への畏敬。
神との対話に成功した聖者は、こういう気持ちなのかもしれない。そんな事を思った。
だが。
(違う…)
それでも。
(こんなん、俺の知ってるコタロウじゃねーだろ…!)
「トーナメント、勝ってね。レッドさん」
「…勝つに決まってんだろ。<コタロウ>」
額に、軽くデコピンしてやった。
「レッドさんに任せときな。あっさり優勝してやっからよ」
<賢者>は目をパチクリさせて、屈託なく笑った。
「うん!兄者の分まで頑張ってよ、レッドさん!」
そこにいたのは、いつものコタロウだった。ふわあ、と大きな欠伸を一つ。
「あーあ…何だかぼく、眠くなっちゃった…」
「そ、そうですか…ではもう眠りなさい、コタロウ」
「うん、お休み…」
コタロウは目を擦りながら、部屋を後にする。
「コタロウ」
レッドはその背に、思わず問いかけた。
「お前は…望月コタロウだよな?」
「え?うん、そうだよ…レッドさんも、お休み…ふわ〜ぁ…」
早速眠りに落ちかけているのか、ふらふらしながら歩いていき、柱に頭をぶつけた。
タンコブを押さえながら、コタロウは危うい足取りで奥へと消えていく。
その後姿を見送り、レッドはジローに向き直った。
彼は固く唇を引き結び、微動だにしない。
「…なあ、ジロー。今のは」
「灰より転生した<賢者イヴ>は、しばらくの間はただの子供とほとんど変わりありません…普通の人間のように
成長し、育っていきます」
「今は、その途中だって事か?」
「そう。そして十分に成長した時、再び<賢者>として覚醒する日を迎えるのです」
ならば、まさか―――今のが、そうだったのか?
「…もしかして、あのままにしといた方がよかったか?」
「いえ。どっちにしろ、今はまだ<孵化>にまでは至らなかったでしょう」
ジローは残念だ、とでも言いたげに力なく首を振った。
「本当に<賢者>として覚醒の時を迎えていたなら、あの程度で止まりはしないでしょうからね」
「そっか。俺が余計な事しちまったってんじゃねーんだな」
「ただ…ああして賢者としての意識が表に出てきたということは、その時も遠からず訪れるのかもしれません」
吸血鬼はそっと目を閉じる。いずれ来たるべき<その日>に、想いを馳せるかのように。
「お前はどうなるんだよ、ジロー」
「…………」
「その時になったら…お前はどうするんだ?それまでと同じように、あいつの兄貴のままでいられるのか?」
「…………」
「今みてーに、あいつの傍にいてやれるのかよ?」
「…………」
「三点リーダ四回ばっかで返事してんじゃねーぞ、おい!」
「私は、あやつの兄です」
ジローは目を開けて、その瞳をレッドに向けた。
そして、言った。
「あやつがどうなっても―――私はずっと、望月コタロウの兄、望月ジローですよ」
「…信じていいんだろうな?」
「勿論です」
胸を張って、にやりと笑った口元から牙を覗かせ、ジローは堂々と語る。
その表情には、一片の曇りもなかった。
「私、嘘なんてつきませんよ。正直なだけが取り柄ですから」
―――数年後。
訪れた<その日>サンレッドは、望月ジローという男が大嘘つきだという事実を痛感する事になるのだが、
それはまた別の話である。
―――さて。
次に、トーナメント開催に向けて闘う裏方達を紹介しよう。
投下完了。前回は
>>230より。
トーナメントで相対する強敵達との出会い。レッドさんモテモテです。
羨ましいというべきかご愁傷様というべきか。
コタロウ、ここまではっきり賢者モードになってたらもう猶予なんてほとんどないよなあ…原作的には。
その辺は二次創作ということで、原作知ってる方はどうか見逃していただければ。
>>232 上位クラスには、流石のレッドさんでも苦戦を強いられるかと…
>>233 やはり主人公ですから、最後まで勝ち抜いてもらわないと話しになりません。
>>VSさん
よし、僕も美女のおっぱいを揉み隊に参加させていただきますw
相変わらず、あなたはどういう発想してるんだ…すごすぎます。
>>241 最強チンピラヒーローとして、トーナメント本選もバリバリ活躍します。
BBBは(好みはありますが)マジ面白いです。望月兄弟も…うーん、多分そこまで
キャラに違和感はない…はず…(自信なさげ)
>>242 もったいない!そんな偏見で読まないなんて本当にもったいない!でも、好き嫌いはあるもんな…
無理強いはすまい。
>>243 アニメは…アニメはファンの間でも黒歴史扱いなんですよ…
>>244 愛すべきダメ男。ジローさんとレッドさんは結構似た者同士かも?
>>245 orz
>>246 これから盛り上がるぞー!という所で終わっちゃいましたからね…
BBBがラノベとしてはマイナーな部類に入るのが残念でならない。アニメがもっと…もっといい出来なら…!
255 :
作者の都合により名無しです:2010/05/13(木) 13:38:29 ID:RRcQPTVK0
お疲れ様ですサマサさん。
主人公だけあって、レッドさんの周りには変わった人が集まってくる。
人気者ですな。ヴァンプさまはその中で郡を抜いて変わってますがw
決勝まで活躍してほしいものです。
コタロウとジローは良いキャラだよね。
今度時間があったときに、BBBとやらを呼んで見るとするかな。
しかし外伝という割には相当長くなりそうな。
激闘が続いた後にレッドが立っているのを期待。
東方知らないのでどれほど上位キャラが強いのかわからないけど
レッドさんには頑張ってほしい。一応、主役なのだから。
(ヴァンプ様だったかな、主役は?)
風見幽香とか東方キャラは、なんか特殊能力の持ち主ばかり見たいだけど
腕力馬鹿のレッドさんはどう戦っていくのかな?
258 :
ふら〜り:2010/05/15(土) 17:38:15 ID:3gjEPiRkP
>>邪神さん
おお、いろいろありました(いや、この店では日常の光景か?)が、遂に! トニオさんに
早人の事情が通じ……たかなぁ。実は何か思いっきり誤解してそうな気も。分野を問わず、
こういう一芸に秀でた人って、他の分野では結構ボケてたり常識知らずだったりしますしねえ。
>>サマサさん
相変わらずレッドは人外魔境な強さ、そして相変わらずのヴァンプ……料理は上手いわ
気遣いできるわご近所の信頼も絶大だわ。あと、レッドって色仕掛けというか女の子仕掛け
には動じない? こんなに各種属性揃ってるのに無反応で。今は警戒モードなだけかな?
>>VSさん(お久しぶりです! 創世期の、初代四天王の一角っっ!)
昔話やドラえもんに時々あるような、ちょっと教訓じみている話ですね。彼らにとっての不満
というか不都合(おっぱい揉めない)が、実は彼らを支えていた存在で、それを失ってしまった
ら全てが崩れる、という。勢い任せの不条理ギャグとみせてその実、奥深い。流石也です!
>>223 私もです。和食や中華料理でも、高級な店の高級な料理が心の底から美味しくて満腹で
値段相応に満足、なんてことは殆どないのが実体験。
>>256 BBBは7巻までは絶対読んでくれ
そこを読むか否かでがらりと評価が変わるはず
バキスレの皆さんをBBBの始祖で例えると
真祖バレさん(この人がいなければバキスレの隆盛はなかった)
闘将サナダムシさん(バキネタが多いので)
賢者ふら〜りさん(このスレを古くから見守るお母さん)
とか言ってみる
260 :
作者の都合により名無しです:2010/05/18(火) 15:21:50 ID:Zjis6Frr0
初代四天王ってVS氏パオ氏外伝氏とあと一人誰だったっけ?
その頃ってまだサナダムシさんやうみにんさんやサマサさんっていなかったよな?
奴の正体をどうやって伝えればいいのだろう、僕が話せないのだから彼が話す……それはいい。
だが僕への質問には答えられない、首を縦に振っただけで彼の五体は粉微塵に爆散するだろう。
質問に答えることが出来ないというのにどうやって伝えればいいのだろうか。
僕のせいでまた人の命が奪われる恐怖と、この状況をどう打破するかに頭を抱える。
「キミは勇敢な少年デスね……仗助クンのヨーに」
「え……?」
震える僕を見て、彼は『勇敢』と言った。
そんなことはない、僕が諦めたせいで奴を倒す希望は尽きてしまった。
僕は無力な臆病者なのに、奴から逃げた卑怯者なのに彼はそんな僕を見て『勇敢』という賛辞を送る。
その重圧に僕は耐えられなかった。
「そんなことはありません……仗助さん達は僕のせいで………」
「でもキミは戦おうとしたんじゃないデスか? ワタシの厨房を覗いたのはレシピを盗み見るためじゃアリマセン。
キミの察しの通りワタシは『スタンド使い』デス、ワタシの料理を警戒していたのデスね」
無言で俯く僕を、肯定したと受け取ったのか優しげな笑みで見つめる。
僕には優しくされる資格なんてない、いっそ責められた方が楽だろう。
彼の視線から逃げるように地面と向き合う。
「仗助クンもキミと同じ理由でワタシの厨房を覗いたんデスよ。彼の場合は親友のタメでしたケドね」
「…………」
下げていた頭が僅かに上に上がる。
奴と戦える人たち、僕のせいで死んでしまった人達。
やはり彼等は、さっき僕がトニオさんに感じた恐怖と戦っていたのだ。
仗助さんと同じ行動を取れたという事が誇らしく、同時に己の無力をより強く痛感する。
「自分を省みず誰かのタメに危険を犯す、その行為は勇敢と呼んでも差し支えないものだと私は思いマス。
そしてキミは、自分の両親のタメに戦ったのデス……キミは仗助クンと同じ位、勇敢な少年デスよ」
「………違うんだ、『両親』じゃあないんだ! 『両親』じゃあ……」
どこまで話せるのだろう、奴の能力『バイツァ・ダスト』は奴の正体を教えると作動する。
直接教えずに彼に気付いてもらうしかない、すがる様な気持ちでトニオさんを見る。
「………一つ質問をシマス」
心臓が高鳴るのを感じる、また一つ希望を断つのかもしれないが彼の目に宿る決意……それに答えなければならない。
「答えられないかもしれません………それでよければ」
彼は僕の肩に優しく手を置いた。
力強く、優しい温もりが夜風に冷えた僕の体を燃えるように熱くしていく。
「キミは助けを求めてマスか?」
心に希望が満ちてくる、彼が聞いているのは奴の正体ではない。
この質問にはきっと答えられる、僕は首を縦に振った。
「判りまシタ、仗助クンのお父さんならこの件について協力してくれるでショウ」
彼の言葉に心が救われるのを感じる、この人に任せれば奴をなんとかしてくれる。
希望は途絶えてはいなかった、仗助さん達の死を無駄にしないで済むかもしれない。
涙が頬を伝う、死んでいった彼等のために一矢報いることが出来る。
絶望の中に居た僕にようやく光が訪れたことが嬉しかった。
トニオさんが困ったような顔で泣きじゃくる僕の背を優しく撫でる。
僕は気恥ずかしくなって涙を拭い、店の扉へと駆け出した。
「な、長すぎると変に思われるから……もう、戻りましょう」
「そうデスね、ところで………」
彼が一枚の用紙をポケットから取り出しそれに何やら書き込んでいく。
そして書き終えると、僕にその紙を手渡した。
「ワタシの厨房を勝手に汚したことは許せマセンッッッ! 今日は家族で来ているようデスし心配させないよう帰りなサイ。
タダシ、その紙に書いた日には店の手伝いに来てもらいマス!」
「ええええぇぇぇ―――――!?」
彼はポン、と僕の肩を叩いて先に店へと戻っていった。
紙を見ると事細かなスケジュールが乗っており、平日にもシフトが組み込まれていた。
労働基準法に違反しているのは明らかだが、勝手に厨房に入った手前やるのが道理だろう。
僕はトボトボと店の中へと戻っていった。
「早人ォォォ――――! これ食ってもいいかな?」
「早人ォォォ――――! これ食ってもいいかしら?」
二人は僕の席に置かれたパスタの皿を引っ張りながら出迎えてくれた。
二人から皿を取り返し、ズルズルと少し冷めたパスタを口に運ぶ。
旨い、ソースを絡めモチモチとした平たい麺の上で鶏肉が甘くプリプリと踊っている。
味だけではなく舌触りから歯応えまで満足の行く出来になっている。
トマトソースのシンプルなパスタなのにすごく個性的で新鮮に感じた。
ソース自体は特別、手のかかった物ではないのに麺が違うことで全く別の料理に感じる。
二人は次の料理を待ちきれないといった様子でソワソワと時計を見たり周囲を見渡したりしている。
ママがめんぼうで耳かきをしていると白い綿が真っ黒に染まって出てきた。
「おいおい、早人が食事中なんだだぞ」
「だってなんだか耳がムズムズして……フゥ〜〜〜なんだか頭の中がスースーして気持ちいい……」
明らかに異常な量の耳垢だった、危害を加える人じゃないと分かっても少し不安になってしまう。
僕がパスタを食べ終わる頃に、奥からトニオさんが次の料理を手にして出てきた。
「お待たせシマシタ。セコンド・ピアット、『プロシュットの香草添え』です」
「プロシュート?」
「その通り! プロシュットは日本ではプロシュートとも呼ばれマス、奥方サマは博識デスね」
ママが褒められて喜んでいるが、あの様子では聞き間違えただけだろう。
店主の説明ではプロシュットとはイタリア語で『とても乾いた物』で生ハム、つまり熱処理をされていないハムらしい。
皿の上には数枚のハムが花びらの様にハーブを取り巻いていて、螺旋を描くようにソースがかけられている。
「パスタで結構お腹が膨れたけどお肉はこれだけなのね……」
「あぁ、コース料理での肉料理は基本的に少ないんだ。終わってみれば満腹で美味しい物だがこれはちょっと少ないな…」
蜉蝣の羽を連想させる程に薄く切られたハムは下に敷かれた皿の白さを映し出していた。
ママはフォークで肉を突き刺し、殺人鬼は器用にフォークとナイフで上手く丸めて一口サイズにしている。
二人の間を取って二つ折りにして肉を噛み締めると口中に強い臭いが広がる、ハーブとオリーブオイルを基調としたソース。
その二つが強く、爽やかに香り付けしているが紛れもない肉の味がそれに紛れて次から次へと溢れてくる。
焼くよりも、煮るよりも強烈な肉の味が薄っぺらなハムから漂ってくる。
「すごい……こんなにも薄い肉一枚で口から肉があふれ出てきそうだ」
「見た目は乾燥した一枚の肉片……口に含めばそこから生まれる肉の大海原が私の口を潤していくッッッ!」
「肉の臭みを消そうとせずにハーブの香りと合わせ一層強くしつつ不快感を消しているのね!」
焼肉、しゃぶしゃぶ、ステーキ……今まで僕が食べてきた高価とされる肉よりも、目の前のハムが宝石の様に輝いて見える。
ずっと噛んでこの幸せの中に何時までも閉じこもっていたい、その欲求とは裏腹に肉が喉を通り過ぎる。
喉を通る際に食道に強烈な旨みを残していき、口からは消えてゆく……もっと味わいたい衝動が体を突き動かす。
あっという間に完食してしまい、残った皿を名残惜しく見つめていると汗が目に入った。
目を拭うと手がベットリと汗に濡れる、だが店内を熱いとは感じないし服もベタつかない。
頬を拭うとまたしても手に纏わりついたのだが吹き出たというより上から垂れている感じがする。
頭を上から押さえつけると、毛髪の下がグジュグジュになっていた。
汗が吹き出ているのは僕の『毛根』からだった。
思わず席を立ち上がると頭から濡れた布を被せられる。
「早人クンには朝、寝起きが悪いことが多々あるようデス。そこで毛根の下にある皮膚の新陳代謝を良くシマシタ。
汚れを落とすと同時に脳に刺激を与え神経ペプチドを増加、睡眠や覚醒の制御能力を向上させ朝の目覚めを快適にシマス。
今は夜ですので体内時計が正常なら逆に眠くなってシマウかもしれまセンケド……まぁ心配は無用デス。
こうして濡れタオルでアタマを拭いてしまえば今日は化学薬品でアタマを洗う必要もアリマセン」
トニオさんにアタマから流れる汗を隅々までふき取られると、頭が軽くなるが瞼が若干重い。
帰ったらぐっすり眠れそうな気がしたが、今の僕にはデザートを食べるまで満足して眠ることは考えられない。
期待に胸を膨らませて料理を待つと、その期待に答えてか速めに厨房からトニオさんが顔を出す。
「最後のメニュー、ドルチェ『ビスコット・サヴォイアルディ』になりマス」
「サ……サヴァイ? アルティ?」
ママが芸人のお約束みたいにボケている、耳垢がまだ残っているのではないだろうか?
ビスコット・サヴォイアルディ、サヴォイアルディのビスケットという意味で単数だとサヴォイアルドになる。
円筒を押し潰して角を丸くした形状をしていて、上から見ると指のように見える。
その為かイタリア語でディータ・ディ・ダーマ、英語でレディ・フィンガーとも呼ばれ『貴婦人の指』と例えられるらしい。
通常イタリアンビスケットはどれも硬いのでコーヒーやワインに付けるのだがサヴォイアルディは柔らかいのでそのまま食べる。
ビスケットとは言ってもスポンジケーキに近い触感なのでティラミスの生地にも使われる。
「でも、最後にクリームも何もないスポンジケーキっていうのは拍子抜けね……」
「腕は良かったし量の少ない肉も味には満足だったが、最後に金への執着が見えたような気がして残念かな」
とって見ると中に何かしら詰まっているような重さではなく、本当にスポンジケーキのようだった。
表面に多少パウダー状のものが掛けられている程度で、ついさっき出た肉料理と比べてみてもショボい。
さっさと食べて家に帰って寝るとしよう、そう思って口の中に放り込んだ。
「「「うんまぁ――――い!」」」
また来るよ、何回でも通うもんね。
僕はビスコッティを口に含む度、心に決意を固め至福の一時を終えた。
僕はこの日を絶対に忘れない、世界一美味しい料理を食べた日のことを。
復活ッッッ! VS氏復活ッッッッ! VS氏復活ッッッッッ!邪神です( 0w0)
元はバキスレなのにこのネタが出ない不思議、まぁ現状バキ成分0ですからね……。
パスタ、サヴォイアルディ後の耳垢現象の科学的説明は長さ的にカット、早人は毛と毛で被っちゃったな……ゴロー的に不満。
ところでトニオさんが語尾にデスデスつけてるのを見て思ったんですけど、12人の妹の一人にならないか心配です。
家事は完璧で外人属性、小宇宙を増幅させればコック帽を取った際にデコ属性をつけることも人によっては容易い。
私も料理が出来て病んでてマッチョという属性は非常にクリティカル。
テイルズシリーズでも一番かっこいいのは料理が出来て病んでてマッチョ。
つまり『リーガル・ブライアン公爵』と決まっています。ロリコンという病気に負けず贖罪のため戦う彼は私の心を強く打ちました。
>>ふら〜りさん 流石にここで引っ張ると更なるgdgdに突入するので物分りのいい人になりました。
料理以外にはアホの子、そんな一面を萌え要素として組み込みたい人には申し訳ないが私は謝らない。
>>サマサさん サマサさん…もういいんです! 一緒にこのSSスレ冬の時代を戦いましょう! さぁこのレンゲルバックルを……。
ヴァンプ様のアレを再現するならつまみ食いは敵。
食いしん坊キャラの彼女がそのポジションに当ってしまったのは流れ故…起こるべくして起こった悲劇です。多分。
それはそうと妖夢は大阪城と変形合体すればいいのに! でもアレはドンブリ物だから料理が違うか。
まさかトーナメント本戦に完全究極体を温存しているのか。それとも主人のピンチに颯爽と現れて
味頭巾フォームを譲るのか、後者は熱い! コンプリート、スタートアップ(ry 終わった後に「今君が生きているのは(ry」
ちなみに一番尊敬してる橘さんはボドボドライダーな橘さんなのですが、サマサさんのことは
アマガミの橘さんと想い尊敬してます! アマガミ未プレイだけど(*0w0)
とりあえずレッドさん加入フラグは立てないほうが良さそうですな……。
そしてニコ厨でも大丈夫、何を隠そう私もニコ厨。マイリスはライダーと作業用BGMのみだけど。
剣とファイズは平成2大傑作だと思うんです、そしてWが3つ目の傑作になってくれそうな程面白い。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8210850 http://www.nicovideo.jp/watch/sm8212238 >>222氏 食った後こそ健康になれるのに後が怖いとはこれ如何に。
腹が裂けるのを乗り越えれば幸せへの道が開かれる!
>>223氏 >>一流店のレベルの料理ではないようなw
味のレベルは最高位でしょうけど料理のグレード自体は家庭料理主体なので確かに低い。
しかし健康にする事を第一とし、それをクリアした上で美味しいのだからトニオさんの腕は建前ではない真の一流。
それに一流店になっても高価な食材って大抵は栄養面が微妙だし彼には合わないやも。
>>239氏 負担のことならお構いなく、この更新速度の遅さで負担なんて! ハ、ハハハ……。
(;0M0)<俺はまだ戦える……戦えるんだ! しかしブーン系小説も廃れてるし、どこも衰退が激しいな……。
>>241氏 吉影さんの平穏を乱さなければ生き残れます、乱す者は許されない。祈ろう……みんなでトニオさんの生還を。
266 :
作者の都合により名無しです:2010/05/19(水) 21:23:22 ID:RbxsdRJu0
お疲れ様です邪神さん。
美食の極みともいえるトニオさんの料理、まさに天国タイムですが
次回はどうなるのかなあ。まだ一波乱ありそうですが終わりかな?
まあトニオさんの料理は舌と健康においしい料理だから
このまま帰宅かな?
イタリア料理食いたくなってきたなあ
プロシュートといえば兄貴だけど
部が違うから出ないよね
〜幕間劇(インターミッション)〜
予選から、丸一日が経過した。
重傷を負ったジローではあるが、吸血鬼―――それも齢百年を超える古き牙の再生能力は伊達ではない。
既に、己の足で歩き回れるまでに回復していた。
月灯りが照らす白玉楼の庭園。縁側にそっと腰を下ろし、坐禅を組む。
涼やかな風が頬を優しく撫でる、いい夜だった。
月の光は、彼の身体を優しく包んでくれる。
その祝福の中、しばしジローは思索に耽った。
「ジローさん」
「ん…?」
呼びかけられ、思索を中断する。そこには、半人半霊の少女が立っていた。
「御身体の方、もう大丈夫なんですか?」
「ええ。心配をおかけしました」
「か、勘違いしないでよねっ!べっ、別にあんたの心配なんてしてないんだからねっ!」
「…妖夢さん。属性は無闇にたくさん付ければいいものではありませんよ」
「そりゃそうです。眼鏡っ子でお嬢様で優等生で知恵袋で天然で健気でスタイル抜群でドジっ子と、ハイブリッド
で完全無欠の萌えキャラになるはずだった幸運☆の某ピンクさんなんて、人気的な意味で悲惨でしたもんね」
「どうしてそう無駄に敵を増やす発言を…」
「ま、某みゆきさんの話なんてよして、本題に入ります。これをどうぞ」
「む…」
妖夢が差し出したのは、一振りの刀―――望月ジローの愛刀にして、彼の二つ名の由来でもある<銀刀>。
受け取ったジローは、それを鞘から抜き出す。
銀のコーティングを施された傷一つない刀身が、月の光に煌めいた。
「しかしこれは、レッドとの闘いで折れたはず…何故?」
「幻想郷には様々な異能を持った連中が百花繚乱ですから―――<壊れた物を直す程度の能力>の持ち主くらい、
探せばいるものです」
値は少々張りましたが、と妖夢は親指と人差し指で円を作ってみせた。
「それはかたじけない。ただ、その…情けない話ですが、私は手持ちが…」
「んなもん、ミミコさんに養われてるヒモ吸血鬼のあなたに期待しちゃいませんよ」
「むっ…!」
容赦ない言い草に、日頃は温厚なジローも流石に腹に据えかねた。
ここは一つ、ガツンとかまさねば漢(おとこ)ではない!
「何たる無礼か、魂魄妖夢!誇り高き<賢者>の血統に連なるこの望月ジローを愚弄するとは、言語道断っ!ええ、
認めましょう。確かに私は弟共々ミミコさんに生活基盤の全てを委ねている―――しかし!それはお互いの信頼と
同意の上に成り立つ尊き関係なのです!それを<ヒモ>などと侮蔑的な一言で表すとは、笑止千万っ!そもそも
が私はミミコさんの護衛役として日々を誠実に勤勉に送っているのです!いやまあ確かに遅刻率ほぼ100%ですし、
そのせいでミミコさんは下手すれば死んでた事もありますし、とある水曜日には機関銃をぶっぱなして建物を倒壊
させ、危うくミミコさんを巻き添えにしかけた事とかもありますが―――それでも私は断じて<何か縛るモノ>など
ではないのですっ!半人半霊の剣士・魂魄妖夢っ!先刻の貴女の悪意と偏見に満ち満ちた発言に対して、私は
正式に謝罪と賠償を要求させて頂くっ!」
と、颯爽と立ち上がり妖夢に向けて毅然と言い放つ―――事が出来たらいいなあ、と空想してみた。
もちろん空想してみるだけであり、実際は何も言えずに口をへの字にしただけである。
<空しい想像>と書いて空想。
269 :
天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 〜惑いて来たれ、遊惰の宴〜:2010/05/21(金) 21:30:01 ID:n28Ekfl90
「ともかく、お金に関してはジローさんに請求するつもりはありませんよ」
「はあ。しかし、それでは…」
「この刀の修理を依頼してきた男とその友人達が、支払ってくれています」
「え?」
「ただ、彼等も懐具合が芳しくなかったので…労働という形で返す事と相成りました」
「それは一体、どういう…」
「まあ、別に難しい話じゃありません。要するに―――」
「あー、チクショウ!何だってこんな無駄にデケーんだよ、この家は!」
―――サンレッドは手にした雑巾を放り投げて、大の字になった。
「朝から三人がかりで掃除してんのに、全然終わんねーぞ!?どーせここにゃ大食い亡霊と毒吐き従者の二人
しか住んでねーんだから、もっと慎ましやかな家に引っ越せよ!」
「あらあら、サンレッドったら」
くすくすと、様子を見守っていた幽々子が笑う。
「あなたが自分で言ったことでしょ?<銀刀を直すのにかかった金の分、働いて返す>って。だからこの白玉楼
の大掃除を頼んだんじゃない」
「そりゃそーだけど…ここまで広いとは思わなかったんだよ、くそっ」
「まあまあ、レッドさん。これもジローさんのためですよ」
ハタキを持ったヴァンプ様が、レッドさんを宥める。
「うるせーよ、ヴァンプ。つーかお前、何を当然のように正義の味方の手伝いやってんだ。悪の将軍のくせに」
「いや、それはほら。レッドさんとジローさんは<正義の味方>である前に、ご近所さんですから。ははは」
「そう!友情には正義も悪もないんだよ、レッドさん」
箒を握り締めたコタロウが、力強い笑顔で語る。
彼もまた敬愛する兄のため、過酷な労働に精を出しているのである。
「ったく…この脳味噌お花畑コンビが」
起き上がり、雑巾を拾って掃除を再開するレッドさん。
はあ〜、と溜息をつきながら呟きを洩らす。
「俺、こんな他人のために身を粉にするお人好しなキャラだったっけ…」
「―――確かに、あなたのキャラではありませんね」
そう言ったのは、黒い髪と瞳を持つ、赤いスーツの吸血鬼―――望月ジロー。
いつの間に現れたのか、彼はモップを手にしてそこにいた。
「ジローさん!」
「兄者!もう起きて大丈夫なの?」
「ええ。もうすっかり良くなりました」
駆け寄る悪の将軍と弟に、ジローは笑顔を返した。
「だから、私も手伝いが出来ればと思いまして、ね」
「そんな…ダメですよ、まだ安静にしてなきゃ!」
「いいんです。我が愛刀の修理代くらい、自分で捻出しますよ」
構いませんよね、と、ジローはレッドとコタロウに目を向けた。
「まっ、本人がやるっていうんなら手伝ってもらおーや」
「そうだね。でも、無理はしちゃダメだよ、兄者」
「何を言います、コタロウ。お前は兄を甘く見ていますね?このくらいが無理なら、私はとっくの昔に灰になって
いますよ」
「それもそっか…じゃ、兄者も一緒に大掃除〜♪」
バスバス箒を振り回すコタロウである。余計な埃を撒き散らしているも同然であった。
ジローはふっと笑い、最愛の弟の脳天にエルボーをムエタイ式に鋭角で決めた。
コタロウは浜に打ち揚げられたカニのように泡を吹いて失神・昏倒する。
床にだくだくと赤色が嫌な感じに広がった。
それを見下ろし、ジローは真面目くさった顔つきで言い放つ。
「コタロウ。掃除は真剣に、そして丁寧にやりなさい」
「あのー、ジローさん…スパルタ教育にも程があるのでは…」
「ヴァンプ将軍。昔の人はこう言いました…痛くなければ覚えませぬ、と」
「…お前は大丈夫なのかよ、ジロー。掃除が得意そうには見えねーぞ」
「心配なさらず」
にやりとほくそ笑むジローさん。
「これでもミミコさんから給料を頂く前日には、自主的に家の掃除をしているのですよ?」
「そ…そうか…」
俺もかよ子の給料日には掃除してる、とは言えないレッドさん。
そんな二人を見ながら、ヴァンプ様はこっそり呟くのであった。
「この二人が妙に仲良しなのは、ヒモ共鳴してるからなのかも…」
「おい。何か言ったか、ヴァンプ。正義を行使しなきゃならねー気がすんだけどよ?」
「直ったばかりの銀刀の試し斬りをしなければならない気もしますが?」
※レッドイヤーと吸血鬼は地獄耳です。
「いえ、何も。あは、あはは…」
日本人的な笑顔を浮かべるヴァンプ様。ちょっぴり殺気を発しながら詰め寄るレッドとジロー。
そして、未だに泡を吹き続けるコタロウ。
彼等を微笑ましく見つめながら、幽々子はそっとその場を後にするのだった。
「おや幽々子様。そんなゴキゲンな様子でどうしました?」
主の姿を見つけた妖夢は、開口一番にそう言った。
「あら、分かるかしら?ふふ」
「分かるわよ、そりゃ。にやけた顔しちゃって」
虚空にぽっかり開いた<スキマ>―――そこからぬうっと、八雲紫が顔を出した。
「…もっと普通に現れて頂く訳にはいきませんか、紫様。貴女様の登場の仕方は非常に心臓に悪いのですが」
「スキマ妖怪としてのレゾンデートルよ、これは」
「は、それは失礼をば」
反論はしない。この大妖怪に、自分如きが何を言おうがどうにもならない事など、妖夢とて弁えている。
「で、幽々子様は何故にそんな今にもマッパでリンボーダンスしそうな程に浮かれているのです?」
「長い亡霊生活の中でも未だかつてそこまで浮かれた事はないわよ…それはともかく、コタロウがね」
ふふ、と幽々子は優しげに微笑む。
それはただ純粋に、友の幸せを祝福するための笑顔だった。
「あの子は家族や友達に恵まれてるな、と思って」
「恵まれてる…そうですか?周りにいるのは甲斐性のない兄に、ヒモでチンピラのヒーロー、うだつの上がらない
悪の将軍ですよ?ミミコさんという方はどうだか知りませんが、恐らく一見まともそうでいて問題大ありの女性で
ある可能性大です。むしろ残念な人間関係しか築けていない気もしますが…」
「貴女も意外に見る目がないわね」
クスクスと、紫は笑う。
「あんな混沌として面白い連中が周りにいてくれるなんて、最高じゃない―――ねえ、幽々子」
「ええ。きっと退屈とは無縁の毎日を送ってる事でしょうね。羨ましいくらいだわ」
「楽しければそれでよし…そういう事ですか?」
「そうよ」
「その通り」
境界を司る遊惰なる大賢者と、死を司る幽雅なる亡霊姫は、あっけらかんと答えた。
「楽しくおかしく面白く―――それこそ生きる醍醐味でしょう?」
「ま、私はもう死んでるけれどね」
「…貴女方は偉大な御方です。それは心の底から認めています。けど、その思考はよく分かりません」
妖夢は無駄と知りつつ、言い募る。
「楽しいだけじゃあ、やってけないでしょう」
「そう―――楽しいだけじゃ、やっていけないの」
「特に、コタロウは―――<賢者イヴ>の血統は、ね…」
返って来たその言葉は、妖夢にとって意外なものだった。
「あの子の未来に待ち受ける宿命は…とても重い」
「…………」
「だからこそ、ああいう友達は貴重なのよ」
幽々子は笑みを消して、遥か未来に想いを馳せるように月を仰ぐ。
「コタロウに何があろうとも…きっと、サンレッドやヴァンプさん、それにミミコさんとやらは、変わらずあの子の傍
にいてくれるでしょう。あの子の友達であり続けてくれるでしょう―――」
「そんな得難い仲間達を、コタロウは手にしている…それはそれは、有難い話だわ」
紫は目を閉じ、黙祷するように両手を合わせる。
妖夢はまだ納得できない、とばかりに仏頂面をしていたが、やがて。
「まあ、確かに」
渋々という様子ではあったが、こう言ったのだった。
「ヒモだったり悪の将軍だったり、その割にお人好しで―――面白い連中には、違いありませんね」
「でしょう」
紫は楽しげに答える。
「特にサンレッドには期待しているわ。どれだけカオスな事をやってくれるのか―――本当に、楽しみ」
「結局、御自分の享楽優先じゃないですか…」
やれやれだぜ、と言わんばかりに妖夢は深く溜息をつくのだった。
<境界の妖怪>八雲紫。
サンレッドと彼女の対決は、正しく頂上決戦―――トーナメント決勝戦にて実現する事となる。
投下完了。前回は
>>253より。
本編の続きの前に小休止として、幕間を一本挟みました。次回もなるべく早く投下できればいいなあ。
ジローさんをちょっとダメ男に書きすぎかなあと思ってBBB短編集を見たら大丈夫、ジローさんは原作からして
ダメ男でした(失礼)。
なお、コタロウへの暴力描写はこれでも大人しめです。原作はガチで児童相談所に訴えられそうな折檻の嵐。
BBBのテーマは愛…そして児童虐待(結構マジ)。
>>255 戦闘力はともかく、キャラの濃さではヴァンプ様は決して幻想郷の皆さんにも負けちゃいません。
>>256 是非読んでください。僕の駄文では原作の素敵さの半分の半分も伝えきれていないので。
>>257 多種多様な能力者を相手に、理不尽な腕力一本で突き進むのがレッドさんかと。
>>ふら〜りさん
レッドさんはあれでかよ子さんにベタ惚れなんで…でも、割と女好きっぽい所もあるから、普通な状況で
言い寄られたらグラリとくるかも?
>>259 7巻はまさに至高。あれほどの絶望を味わわせてくれたのはそうそうありません。それでいて、
反撃への期待感も盛り上げてくれるラストは究極。
>>260 僕はまだいませんでした…しかし僕もすでにバキスレ歴6年か。あの頃は新人だった僕も、もはや老兵。
>>邪神?さん
・サマサ 装備>レンゲルバックル
シWW∩
(・∀H
(、二^ァノ
/=[(l)]ヽ
(_)⌒(_)
〔o〕
〔 0H0〕
L`{ _品}"」
∪[{(品)∪
(_)(_)
父親の正体は殺人鬼だというのに、何という仲良し家族ぶり…!三人の息をピッタリ合わせるトニオさんの料理に
僕は敬意を表するっ!しかし、世界最高の料理を食べて健康になった吉良はある意味更にパワーアップかも…。
それでも早人の窮地がジョセフに伝わったなら、次の援軍も近い?しかし、更なる犠牲者が出るという事にも…。
希望を持てばいいのかもっと深い絶望の始まりなのかさっぱり読めません。
アマガミの橘さんはよく分からないのでググったら、何この変態という名の紳士…僕如きに例えるには勿体無い漢。だが光栄。
もしも「サマサさんの事は旋風の橘と思ってます!」とか言われてたら、僕はあなたを粛清せねばならない所でした。
レッドさん加入フラグ…残念な事に、レッドさんは全ルートで強制加入です。
仮面ライダーは最近見てない(見る時間がない)のですが、そんなに面白いのなら今度見てみます。
273 :
作者の都合により名無しです:2010/05/22(土) 12:39:04 ID:dZ78Wkh60
ほのぼのとした決戦前ですなあ
サンレッド以外知らないのが悲しいけど
ジローさんはヒモなんかじゃないやい!
そう言いたいけど、原作の彼の言動を鑑みると…(汗)
うん、ジローさんはヒモじゃないよ
ただちょっと弟に対して教育と称した虐待を施すのが大好きな
最悪の兄貴ってだけだよ
お前らジローさんをヒモだのDV兄貴だの好き勝手言いやがって!
本当の事だからこそ言っちゃいけない事もあるだろうが!
277 :
作者の都合により名無しです:2010/05/24(月) 18:33:42 ID:TZtKZVdH0
お前らがジローさんジローさん言うから
ついにDDDとやらを読み始めることにしたよ
278 :
ふら〜り:2010/05/24(月) 20:40:57 ID:YCHWVxEq0
奇しくもタイミングが重なりました。邪神さんもサマサさんも、「よし、じゃあ次の10話分の
ページを用意するか!」ができるのが嬉しくありがたく。
>>邪神さん
トニオさん、気づいた上にきちんと危機を察知して、見事な対応してますね。バイツァから
逃れられてる。それにしても、早人がこうして対策に奔走してるのを吉良は全く気づかず、
呑気に食事してるというのは普通ならマヌケに見えるのに……見えない。バイツァ恐るべし。
>>サマサさん
燃えバトルも萌え色恋もなく、ただの平和な(一部虐待あり)お掃除シーン。それでも各キャラ
がちゃんと立ってて、読んでてほんわりできるのが流石。料理ほど技術は要しないとはいえ、
家事の一部たる掃除、ちゃんとできるんですねレッド。案外、やれば器用にいろいろできる人?
>>260 夜王さんですね。懐かしい……あの頃の私は若かった、というのが本当に文字通り
言えてしまうのが当スレの凄いところ。
279 :
作者の都合により名無しです:2010/05/25(火) 20:17:46 ID:gZFOtJp90
川尻浩作の代わりに、磯野波平を乗っ取ったらどうなっていたかを
どなたかSS化してください。
あの大家族で、さぞや凄い戦いになると思いますよ。
もしくは、北九州一家監禁事件の緒方誉さんのような状況になる。
この場合、犯人コンビを吹っ飛ばしたら終了なんじゃないかという気もしますが
一番の目的は平穏を守り抜くことにあるので一筋縄ではいきません。
>ふら〜りさん
8年以上も続いていますからね
戻ってきてほしい人、沢山いるなぁ。
楽しみにしてて投げ出された作品も沢山あるしw
外伝さんとバーディ作者さんは無理だけど…。
パオ氏とうみにん氏、カマイタチ氏とか何してるんだろ
サナダムシ氏は、なんとなく帰ってきてくれる気がする
全盛期を知っている身としては、衰退期としか言えない現状が悲しい…
(だからこそこの状況で定期的に書いてくれてるサマサさんと邪神さんには感謝)
読む専門の人たちも、もっと気楽にバンバンSSの感想とかを書いたらどうか
そういうのが職人の皆さんのやる気にも繋がると思うし、スレを活性化させり一因にもなると思う
(SS書きでもない俺が言う事じゃないかもしれんが)
まあ、1日に2本3本来るのが当たり前だった
4年位前が異常だったのかも知れないんだけどね…。
鬼みたいな頻度で更新する人もいたからなぁ。
異形都市〈ケイオス・ヘキサ〉下層。ドール自治区〈オールドタウン〉。
メディスン誘拐、そして奪還から数日後。マダム・マルチアーノの邸宅に
て。
「今回の件は完全に我々の失態です。まさかオルゴーレ社の検査官がドール
誘拐を企てるとは。以後、担当者の選定には細心の注意を払い、このような
ことが起こらないよう務めます。あなた方とは、今後もよい関係を続けてい
きたいので」
――背筋が凍るほど美しい女性だった。銀色の髪に、緋色の瞳。雪のよう
に白い肌。まるで神が自らの手で造形したような、この世ならざる美貌を備
える彼女は、降魔局のL系列妖術技官(ウィッチクラフト・オフィサー)のひ
とり。識別コード名はL4(ラフレンツェ・フォー)。
降魔局。都市の治安を司る公安局、法と秩序を司る法務局(ブロイラーハ
ウス)と並ぶ、異形都市〈ケイオス・ヘキサ〉に君臨する三大勢力のひとつ
であり、魔導災害《復活》によって再発見された大いなる古き技、魔法、魔
術に関するありとあらゆる知識を蒐集する研究機関。降魔局の研究施設には、
世界中から集められた多くの魔術品が保管されており、その量と質は、一国
のそれを遥かに凌駕しているという。
彼女、L4は、降魔局からの使者だ。と同時に、降魔局が有する玩具のひと
つでもある。工場で製造される大量生産品ではなく、オーダーメイドの球体
関節人形を依代(ホスト)にして、原版(オリジナル)の魂を魂魄転写(ゴース
トダビング)した、魔女の模造品(ウィッチ・レプリカ)。
魂の分割は個体間の共感効果(フレイザーエフェクト)による心霊的ダメー
ジが大きく、さらに魔女という存在は生きているだけで周囲を奈落(Abyss)
へと墜落させる。故に、主に異形都市の霊的恒常性の維持に従事する妖術技
官以外――つまり、彼女らの複写元である魔女ラフレンツェ・O(オリジナ
ル)は、致命的な霊障の防止という名目で、異形都市のどこかの階層で厳重
に封印されているという。
デッドガールではないが、彼女もまた人形だった。降魔局に利用される操
り人形。使い潰されることを前提として生産される消耗品。
そして人形と会話する者もまた人形だった。
L4のイメージカラーが白なら、L4と対面する彼女は黒。
「それはこちらも同じことです、L4殿。降魔局の支援があれば、それだけで
他のクリミナル・ギルドへの牽制になる。デッドガールをポルノ産業に利用
しようとする輩は少なくない。もしデッドガール専門の非合法な娼館が立ち
並ぶようなことになれば、下層はあっという間にドール病の罹患者で満杯に
なり、かつての最下層のように隔離指定を受けることになるでしょう。その
ような事態は、あなた方降魔局も、公安局も、そして何より、お母様が望み
はしない」
ストレートに流した黒髪に赤いリボンがついたヘッドドレスを乗せ、肩に
は黒を基調としたミニマント、そしてこれまた黒色をしたコルセット風のエ
プロンドレスを身に纏う女性。衣装だけ見れば如何にもなゴシックロリータ
ファッションで可愛らしいが、彼女が放つ怜悧な眼光がその印象を裏切る。
彼女は、オールドタウンが誇る最高戦力、都市戦闘用自動人形部隊〈12姉
妹〉のリーダーにして、マダム・マルチアーノの代理人として対外との交渉
を受け持つ女性型アンドロイド。名をエイプリルという。
降魔局とオールドタウンの代表者の会談。その内容は過日のメディスン・
メランコリー誘拐の残務処理だ。既に誘拐犯への報復は終わったいま、残さ
れている処理すべき案件は、オールドタウンへ送られる物資の検査官を、新
たに選び出すこと。
下層の住人からは人形租界、あるいは人形娼婦街と悪意を以って揶揄され
るオールドタウンには、降魔局が選定した検査官以外に立ち入りを認められ
ていない。高い塀に覆われたオールドタウンへの唯一の入り口たる巨大な門
扉の前には、マダム・マルチアーノが雇ったフリーランスでありパイロキネ
シスであるひとりの荒事屋(ランナー)と、そしていつの間にかオールドタウ
ンに住み着いた殺人兵器≠フ異名を持つ女刀剣使い(ブレードランナー)が、
興味本位で中に入ろうとするヒューマンボーイを懇切丁寧に説得し(時には
暴力を用いて)、ドールたちの最後の居場所を硬く守っている。
とはいえ、デッドガールのアルーアの誘惑に勝てるヒューマンボーイはご
くごく少数だ。時には如何なる手段を使ってか中へと入り、デッドガールと
交情してしまうケースも生ずる。そんな時には、特例としてオールドタウン
への居住を認める。デッドガールのナノマシンに汚染された精液を外へと流
出させないためだ。虚勢し生殖機能を失うか死体にならない限り、彼らは永
遠にオールドタウンの外に出ることは赦されない。そんなアルーアに魅入ら
れた彼らは、〈人間戦線〉の支持者たちに、人類の裏切り者、ドールによる
人類絶滅計画の片棒を担うもの――ドールジャンキーと呼ばれ、忌み嫌われ
ている。
(そう。ぼくのように、ね)
自嘲するようにくちびるを歪め、エイプリルのちょうど背後に立つイグナ
ッツ・ズワクフは、他のものに気付かれぬよう、小さく肩をすくめた。
イグナッツはこの場の空気に窮屈さを憶えていた。本来なら自分はこの場
所にいるべき人間ではない。オールドタウンの代表者と、降魔局の使者との
会談に参加できるほど、自分は大層な人間じゃない。
自分の本分は暗殺者のエスコート役。オールドタウンが誇る殺人のプリマ
ドンナ、プリマヴェラ・ボビンスキのエスコート役という、舞台の端役に過
ぎないのだ。取るに足らない、いてもいなくても物語にさしたる影響を与え
ない、どうでもいいキャストだ。
だがいまは、イグナッツにはこの会談に参加する理由があった。その理由
は、イグナッツが、件の事件の被害者、メディスン・メランコリーの世話係
だからだ。
ありとあらゆる知識を欲する降魔局。彼らはメディスン・メランコリーの、
現時点での精神状態のデータを要求した。彼女は稀有なる力の持ち主だ。そ
して、《復活》前に発生した有象無象の妖怪のひとつでもある。たとえ彼女
の所有権がオールドタウンにあるのだとしても、探求者として、メディスン
のデータは押さえておきたいのだろう。
会談が始まってからイグナッツは、ごく簡単にメディスンの現在の状況を
説明した。いまのメディスンの精神は小康状態を保っている。誘拐されたこ
とへの恐怖は、もはや感じられない。彼女の精神は普段の生活を送れるレベ
ルにまで回復した。……メディスンはまた、誰とも会わず、ひとり自分の殻
に閉じこもった生活を送っている。
その説明が済んだあとは、ただふたつの危険なドールの会話に耳を傾ける
ことしか、やることがなくなった。ふたつの人形による会談は続く。イグナ
ッツはそれにじっと耳を傾ける。たとえ場違いな配役だとしても、与えられ
た機会は最大限生かさなければ。この会話は、イグナッツにとって非常に重
要な意味を持っていた。
イグナッツは、バンコクの犯罪組織に身を寄せていた時のように、オール
ドタウンもまた一時的な宿り木に過ぎない、と考えていた。状況が危険なも
のに変われば、すぐにでも此処を出て行くつもりだった。プリマヴェラとふ
たりで。
だから情報は出来るだけ仕入れておきたかった。オールドタウンの外にい
る情報屋から高額で新しい情報を買い取り、常に危険に目を光らせていると
はいえ、安心は出来ない。自分たちを拾ってくれたマダム・マルチアーノに
は感謝しているが、それとこれとは話は別だ。
……メディスンには悪いとは思うものの、こればかりは仕方がない。人に
は優先順位というものがある。自分の両手は多くを抱えられるほど大きくは
ない。せめてメディスンが、自分がいなくてもひとりで立派に生きていける
ようにと、祈ってやることぐらいしかできない。
会談は続く。人形の会談は続く。
ふたつの人形の一体――エイプリルが口を開く。
「しかし、今後こういったことはないようにしていただきたい。L4殿。ドー
ル誘拐――これは、私どもにとっても、あなた方にとっても致命傷になりか
ねない」
「わかっています。議会で正式に承認されたとはいえ、いまだデッドガール
保護法には多数の反対者がいるというのが現状。そもそもあれは、我々降魔
局が法務局(ブロイラーハウス)に働きかけてごり押しさせたものですからね。
反発が出るのは当然です。公安局などひどいものです。まあ彼らの立場――
都市の治安を脅かすものは絶対根絶からすれば、当然と言えるのでしょうが。
世論は依然として〈人間戦線〉を支持している。彼らからすれば、私たちは
まさしく世界を滅びへと導く悪魔そのものでしょうね」
L4はころころと鈴を転がすような声で笑った。
彼女の言葉通り、都市の治安を司る公安局は、降魔局、そしてオールドタ
ウンの支配者マダム・マルチアーノのことを忌み嫌っている。それこそ蛇蝎
の如く。
それも無理からぬことだった。遺伝子を組み替えるドール病は、人類とい
う種の存続を危うくさせる。このままデッドガールとヒューマンボーイが交
わり続ければ、人間の子どもは産まれなくなり、やがて世界は人形のものに
なるだろう。デッドガールを保護するということは、世界を滅ぼすことに繋
がる。
人類を絶滅へと導く恐るべき特定民族殲滅現象、それがドール禍だ。だが
コントロール不可能な現象ではなかった。その状況の維持には多大な労力が
かかり、其処に至るまでの道のりも平坦なものではなかった。しかし、人類
とデッドガールの共存は、決して不可能なことではない。オールドタウンが
それを証明している。
L4の言葉に、エイプリルは僅かに肩をすくめた。そんなことは分かりきっ
ている、とでも言いたげに。彼女を見るたび、イグナッツはいつも思う。随
分と人間臭いモーションをする自動機械人形だ、と。
彼女たち〈12姉妹〉は、人間の少女から変異したデッドガールでもなけれ
ば、捨てられた人形が自由意志を持つに至ったメディスンのような付喪神で
はなく、精密電子回路によって駆動する電気式(イミテーション)だった。
魔術に頼らず人間の精神をここまで再現するすべは、外の世界では聞いた
ことがない。イグナッツがこれまで目にしてきたガイノイドは、エイプリル
たち〈12姉妹〉ほど出来のいいモノではなかった。もっともこの異形都市に
おいては話は別だろう。中層ではまだ誕生して間もない義体化技術によるサ
イボーグたちが闊歩している。ひとの魂を完璧に模倣した狂気のエンジニア
が存在していても、不思議ではない。
会談は続く。人形の会談は続く。
エイプリルが口を開く。
「それで、検査官の後任はどうなっているのですか?」
「正式な決定はまだですが、おそらくロクス・ソルス社から担当の者が参る
ことになると思われます」
ロクス・ソルス社――高級ガイノイドの開発・生産を事業とする、最近急
速に業績を伸ばしている新興の自動人形製造メーカーだ。ロクス・ソルス社
は、他の自動人形製造メーカーと同じく、デッドガール擁護に立っている。
ドール迫害が横行しているいまの世界情勢では珍しいことだった。〈人間
戦線〉のプロパガンダの成果で、外の人間のドールへの悪感情は凄まじく、
デッドガール以外――生殖機能が備わっていないタイプのドール(所詮人形
は無機物なので、当たり前の話ではあるが)でさえ串刺し(ツェパ)の対象に
なる始末だ。
それらのことを踏まえると、降魔局の采配は適切と言えるだろう。新興の
メーカーと言うのも都合がよかった。都市行政府と独自のパイプを作りたが
っている彼らからすれば、今回の推薦はまさに栄光への階段を一歩登ったよ
うなものだろう。高級役人や降魔局の上層部に気に入られるため、彼らは、
馬車馬のように働くに違いない。
「ただ、人間――あなた方の文化からすればヒューマンボーイと言うべきで
しょうか――が検査官を勤める以上、今回の事態と類似するケースの発生は
避けられないでしょう。アルーアに魅了されるヒューマンボーイは後を絶た
ない。定期的にカウンセリングを受けているにも関わらず。心霊手術で虚勢
すれば手っ取り早いのですが、そうすると志願者がいなくなりますしね。難
しいものです」
そう言ってL4は溜息をついた。まるで人間そのものに呆れているかのよう
に。オリジナルから人格複製された人形である彼女は、厳密に言えばもはや
人ではない。そんな彼女からすれば、人間の営み一切が奇異なものに映るの
だろう。
「しかも、デッドガールではない人形にさえ手を出す始末。聞けば、彼女―
―メディスン・メランコリーはデッドガールではないのでしょう? まった
く、わからないものです、もしアルーアに魅了されていたのなら、デッドガー
ルと他のドールを間違えるはずはないと思うのですが。それとも、彼女をデ
ッドガールと誤認識してしまうほどアルーアに脳を汚染されていたのか。ど
ちらにしろ、都市法は残酷ですね。あの人間も哀れなものです。ほんの些細
な間違いで、命を落としてしまったのですから。この都市においては、すべ
ての命が、等しく価値がない」
「人攫いにかける情けなどありはしません。出来ることなら、私自らの手で、
その誘拐犯をぶっ壊してさしあげたかった≠ュらいです」
「ああ……申し訳ありません。あなた方からすれば、それがもっともな感情
ですね。軽率でした」
「いえ、構いません」
……本当に、人間臭い機械人形だ。怒りの感情すら再現するなんて。
ただの機械ではありえない。もしかすると彼女――エイプリルは、本当に
魂を有しているのかもしれない。エンジニアによって組み上げられた人間に
似た思考プログラムではなく、本物の魂が。義体化および電脳化専門のエン
ジニアなら、彼女らにはゴースト≠ェ宿っている、と表現するだろう。
……それから数分経ち、会談は終了した。後日検査官がオールドタウン入
りし、前任者の仕事を引き継ぐだろう。エイプリルは立ち上がり、背後のイ
グナッツへと振り返って、こう言った。
「ではイグナッツ、L4殿をお送りしてください。くれぐれも丁重に」
†††
イグナッツは運転席に座り、自前の車を運転していた。自動操縦プログラ
ムが実装されていない安物だ。メディスン奪還の際に使った自動浮遊カーは
マダム・マルチアーノの所有物であり、彼の懐具合ではとてもではないが購
入できない。助手席にはL4が座っている。じっと目蓋を閉じ、オールドタウ
ンの入り口に着くのを待っている。
イグナッツの視界を、オールドタウンの街並みが過ぎ去っていく。かつて
実施された都市拡充計画で多く建造され、しかし計画の廃止によって建造途
中でうち捨てられたビルの群れが見える。まるで墓標のようだと、イグナッ
ツは思った。生活の息吹きは微塵も感じられない。目に映るすべてがモノク
ロに見える。確かに其処には住人が存在しているはずなのに。あのビルの中
では、いまもデッドガールとドールジャンキーが様々なプレイ――お医者さ
んごっこや美容院(ビューティー・パーラー)ごっこなどに耽っているに違い
ないのに。
本当のゴーストタウンだ。死の都。
まさに死んだ娘(デッドガール)に相応しい。
「……ミスタ・ズワクフ」
――珍しいこともあるものだ。この人形が、自分に語り掛けてくるなど。
何度かこうしてオールドタウンの入り口まで送り迎えをしたことがあるが、
いつも彼女は黙ったまま、自分と会話しようとはしなかった。いったいどん
な目論見があるのか。イグナッツは僅かに緊張した。彼女らの模造魔眼は容
易く人間の精神を掌握し、魅了、支配する。警戒するに越したことはない。
それに、人形とはいえ、彼女は降魔局所属の妖術技官だ。せいぜい礼を失さ
ないよう心がけなければ。イグナッツは軽く頷き、L4に先を促した。
「ずっと聞いてみたかったのです。これは、個人的な疑問です。私ども降魔
局があなた方に定期的に提出を求める、デッドガールの生態データなどでは
なく」
異端に対して絶対根絶の立場を取る公安局とは違い、降魔局は人類の天敵
たるデッドガールに歩み寄りを見せていた。異形都市においても迫害される
立場にあるデッドガールを保護し、ごく小規模ではあるが生活圏として下層
の一区画――現在のオールドタウンを提供した。
その代償として降魔局が要求したのは、デッドガールの生態データだった。
人間を変異させるプログラムを備えたナノマシン。
森羅万象を思うが侭に書き換える量子の魔法。
そして彼女らの根幹である超電子CPUたる子宮(マトリックス)。
そのすべてを解明できるだけのデータを要求したのだ。
デッドガールの秘密――すなわち、デッドガールの子宮(マトリックス)の
秘密は、どの国も喉から手が出るほど欲しがっていた。
しかし、ドール虐殺を先導する〈人間戦線〉の手前、デッドガールの詳細
な生態、生理機能を調査し、大々的に研究するのは如何なる国家も憚られた。
いまや〈人間戦線〉の発言力は決して軽視できないほどに高まっている。〈
眷属邪神群〉との殲滅戦を乗り越えられたのも彼らの力に寄る所が大きい。
そんな英雄たち――ただし実態は暴力を弄ぶクズの集団であったが――であ
る彼らに糾弾されればただではすまない。
支援
だが異形都市でならば話は別だ。この都市は国連からも〈人間戦線〉から
も一歩引いた立場にいる。故にマトリックスの秘密を欲する各国は密かに降
魔局とコンタクトを取り、対して潤沢な研究資金を手に入れるために降魔局
は、スポンサーたちの要望に応えた。すなわち、外から隔離され〈人間戦線
〉の手が届かない異形都市に、デッドガールによるコミュニティを形成させ、
そこから得られるデータをスポンサーに渡す、というシステムを作り上げた
のだ。
「デッドガールは人気者です。ドールジャンキーにも、そして、権力を弄ぶ
人間にも。すべてのヒューマンボーイが彼女らに魅了されている。アルーア
に溺れている。――こんなにも、その身に魔を宿しながら、それでもなお人
間たちを惹きつけてやまない種族には、そうそうお目にかかれはしません。
《復活》以後、ありとあらゆる魔と妖を調査解析してきた我々ですが、その
中でもデッドガールは群を抜いてにユニークな種族と言えます」
L4の緋色の霊視眼(グラム・サイト)がイグナッツに向けられる。
イグナッツはその瞳を見ない。見れば精神が汚染され魔女の虜になる。
自分を見ようとしないイグナッツに構わずに、L4はさらに言葉を紡ぐ。
「ユニークと言えば、あなたもそうです。ミスタ・ズワクフ。ドールジャン
キーは数多いですが、あなたほどドールに寄り添い共に歩んだヒューマンボー
イは稀でしょう。ロンドンを脱出し、バンコクに潜伏し、そしてこの異形都
市へと至った。その道のり決して平坦なものではなかったでしょう。敵は多
かったはずだ。死を意識したのはそれこそ数え切れないくらい」
「まあ、そうですね」
イグナッツは思い出す。バンコクでの日々がすべてご破算になった出来事
を、バンコクの犯罪組織を抜けるきっかけになった事件を、プリマヴェラと
の長い長いの逃亡劇のことを。あれはプリマヴェラと過ごしたスリリングな
日々の中でも飛び切りスリリングな出来事だった。なにせ、プリマヴェラが
死の危険に瀕していたからだ。
〈魔法の粉〉、というものがある。デッドガールの子宮(マトリックス)に
入り込み、彼女らのプログラムを狂わせる死のマイクロマシンだ。その〈魔
法の粉〉によって、プリマヴェラの子宮はずたずたに引き裂かれていた。イ
グナッツは、〈魔法の粉〉によって衰弱し量子の魔法も使えなくなったプリ
マヴェラを、迫り来る凶手たちから守り、死に物狂いで逃げた。
そうして、この異形都市に辿り着き、大金を積んで腕利きのエンジニアに
プリマヴェラの修理を依頼した。エンジニアは言った。もう少し処置が遅れ
ていれば、彼女は確実に死んでいただろう、と。
……本当に、あれは心臓に悪い経験だった。
危うく、プリマヴェラが死ぬところだった、などと。
プリマヴェラが死んでしまうなんて、悪い夢だ。
「その記憶は本当に正しいのでしょうか」
「……なに」
――心を読まれた。
だが、そのことに対しては大きな驚きはない。彼女は魔女だ。他人の心を
読むことなど朝飯前なのだろう。引っかかったのは別のことだ。……記憶に
間違いがある? そんな馬鹿な。どういうことだ。プリマヴェラは確かに生
きている。いまは別の場所にいるが、それでも、彼女はいまも生きている。
それに間違いなんて、ない。ないはずだ。
「ひとの記憶はとても不確かなものです。容易く書き換えられ改竄される。
あなたが真実だと思っていたことは、実は、まったくの嘘かもしれない。
――あなたは、見たいものだけを見ているだけなのかもしれない。
自分に都合のいいことだけを選び、それ以外のものを見ようとしていない
だけかもしれない。この都市に生きるほとんどの人間と、同じように」
「……なにを……言ってるんだ……?」
くすり、とL4は笑った。
「まあ、そんなことはどうでもいいのです。私にとって、真実など、どうで
もいいこと。……私が知りたいのは、あなたのことです。ミスタ・ズワクフ」
「……ぼくの……こと……?」
「はい。私の興味のすべては、あなたに注がれている。あなたは、とてもユ
ニークだ。……あなたはなぜ、あのデッドガールと共に生きることを選択し
たのですか? 多くのデッドガールからただひとり、イグナッツ・ズワク
フ≠ェ、プリマヴェラ・ボビンスキを選び、共に生きると決めたのは、どう
して? それはアルーアへの依存ですか? それとも別の要因ですか? な
にかあるはずです、有象無象のドールジャンキーとあなたとを分かつ、決定
的な違いが」
「……ぼくは」
呼吸するのがひどく億劫だった。声を発するのも苦痛を伴う。無意識につ
ばを飲み込む。明らかに身体の調子がおかしい。なにかされたのか。魔女の
目は見なかったのに。
「ミスタ・ズワクフ。私の話、ちゃんと聞いてますか? 答えて下さい」
――ああ、そうか。
魔女は言葉を弄ぶ。魔女の言葉には力が宿るのだ。
たとえ目を合わせていなくても、自分はすでに魔女の術中だったのか。
後悔してももう遅い。
魔女のくちびるから魔力を伴って声が漏れ出す。
イグナッツはその声を聞かない。聞けば魔女の虜になる。
魔女はさらに言霊を紡ぐ。
「私はあなたのことが知りたい」
冷ややかな感触。陶器が持つ無機質な質感。見れば、L4の手が、イグナッ
ツの手に触れていた。デッドガールの……プリマヴェラのアルーア程ではな
いものの、その手触りは途方もない心地よさを伴って、イグナッツの意識を
掻き乱す。その甘美なる感触に抗うように「……ぼくは」と、イグナッツは
搾り出すように声を発した。
「……ぼくは、特別な人間じゃ、ありませんよ。ぼくは、平凡な人間だ。あ
なたに興味を、持たれるような人間じゃ、ない」
「果たして本当にそうでしょうか」
嘲笑の響きがイグナッツの耳に滑り込む。きっと彼女は嗤っている。自分
を嘲笑っている。だが彼女の表情を確認したりはしない。魔女の目を見れば
魔女に支配される。イグナッツはL4の顔を見たい衝動をぐっとこらえた。気
がつけばオールドタウンの入り口までもうすぐだ。あと少しだけ魔女の魅了
に耐えればすべてが終わる。それまでは……。
「あなたは稀有なるひとだ」
――魔女の声が聞こえる。
「この都市のすべてを掻き集めても、あなたが秘める価値とは吊り合わない」
――いと深き場所から響き渡る声。
「さあ、見せてください。あなたのすべてを。……そして、教えてください」
――四つのLの声に導かれて辿り着く其処は。
「魔なる女に魅入られた人間は、みな等しく奈落(abyss)に堕ちるのかを」
――そして、車は到着した。
……どうも、お久しぶりです。超絶遅くなりました。しかも今回、あんまり話進んでないよ!
こんな無駄に言葉使って、もう!あああああ。
でも、完結させようという意志が大切ですよね。ははは。……はあ。
というわけで、未来のイヴの消失です。なんだか設定がめちゃめちゃごちゃごちゃすぎて……。
正直L系列妖術技官はやりすぎたと思ってる。あと、魂魄転写にゴーストダビングのルビふるとか。めちゃめちゃ。
ちなみに元ネタはサンホラの楽園幻想物語組曲と古橋秀之著「ブラックロッドシリーズ」、鬼哭街に、攻殻機動隊シリーズです。
あ。あと、いま流行りのtwitterなんぞをやってます。「サトウ ハシ」でツイッター検索すれば出てくると思います。興味ある方はdondonフォローしてもいいのよ?(何
なんで「サトウ」が付いてるのかというと……mixi垢の名残りなんですよね。そういえば、mixiもバキスレ関係の方が少なかった。すごく。
mixiにいらっしゃったのは、さいさんと、ハロイさんくらいでしょうか。ハロイさんは本人か確証が持てませんが……。
個人的にtwitterはすごい使いやすいです……ブログやmixiよりよほど。私、日記のようなきっちりした文章書くのが苦手なので。思いついたものをポンポン投稿できるのがいい。
>>126 >最初に言おう。勇パルは俺のジェラシー。
>しかしハシさんはどんだけ百合が好きなんだ、俺も好きですw
ぐっ(握手
>>127 気がつけばどっぷりです、東方。
>>128 むしろ百合しか書きたくないです(キリッ
>>129 つ、次こそはスプリガン書きます。あと、原作にはエロスはないです。少なくとも目に見える部分では。
>>130 ファンタジーだからこそ楽しめますよね。現実のバレンタインデーは……うう
>>142 サマサさんにはよくしていただいて、とてもありがたいです……。
>>288 支援ありがとうございました!
サマサさん
天体戦士サンレッド外伝、楽しく読ませていただいてます。
私のSSの設定が使われてた時はびっくりして、次の瞬間狂喜乱舞しましたwありがたやありがたや……。そしてメディスン撫で撫で。
……しかし、我が嫁白蓮さんがサマサさんのSSで登場しないのは、とてもとても残念です。どうですか、サマサさん。いまからでも、ちらっとでも出演というのは(あつかましさ大爆発
ふら〜りさん
ホワイトデーSS、楽しんでいただけたようで幸いです。しかし……百合が前提で話が進むのは少し如何なものか、とも思うんですよね……。。
まあでも、書いてて楽しいのは事実ですし、たぶん止められないと思いますがw
すいませんトリつけわすれました。
サンホラ好きの俺には神回でした
ラフレンツェ・フォーとかwおまwww
サマサさんの決闘神話ばりにサンホラネタ入れてくれると嬉しい(俺くらいしか喜ばんかもしれんが)
おお、ハシさんは更新は少ないけど一度更新すると分量多くて読み応えあるなあ。
ひたひたと何かが忍び寄ってくるジワジワ感がありますな。
魔女の声が近づいているのか、逆に魔女に近づいていっているのか。
1ヶ月に1回くらいは更新してくれるとうれしいなー。
ツイッターにハロイさんらしき方が来たんですか。
ハロイさん、HPも消えちゃってたからなー。
296 :
作者の都合により名無しです:2010/05/26(水) 15:06:26 ID:habgcLMZ0
ハシさん乙です
大量に投下していただける方がいるとスレが活気付きますので
うれしいです。
原作知りませんが叙情的な書き方で魔女に魅入られていく様子がわかります
これからも頑張って更新してください。twitterも見に行きます。
ところでサンホラってなに?
4つのL…だと…!
これは本人の登場が楽しみだw
>>296 簡単に言うと暗くて欝で人がじゃんじゃか死ぬ、物語みたいな曲作りまくってるグループ
詳しくはググれ
ハシさんにツイッターで挨拶したので、とりあえず本人確認ということでカキコ
ついでと言っちゃ失礼ですが、SS感想
四つのL…!複製ということは、オリジナル登場もありますよね!?
ありえねえルビの数々にゾクゾクします。こういうの大好物。
>>お医者さ んごっこや美容院(ビューティー・パーラー)ごっこなどに耽っているに違いない
,'⌒,ー、 _ ,,.. X
〈∨⌒ /\__,,.. -‐ '' " _,,. ‐''´
〈\ _,,r'" 〉 // // . ‐''"
,ゝ `</ / 〉 / ∧_,. r ''"
- - - -_,,.. ‐''" _,.〉 / / . {'⌒) ∠二二> - - - - - - -
_,.. ‐''" _,,,.. -{(⌒)、 r'`ー''‐‐^‐'ヾ{} +
'-‐ '' " _,,. ‐''"`ー‐ヘj^‐' ;; ‐ -‐ _-
- ‐_+ ;'" ,;'' ,'' ,;゙ ‐- ー_- ‐
______,''___,;;"_;;__,,___________
///////////////////////
よし、僕ちょっと異形都市に行ってくるw
5〜6月は魔装機神発売にサンホラの新曲発売と、オラワクワクしてきたぞ!
特にサンホラはMoira以来久々の新曲。今度はどんな物語が紡がれ、どんな陛下に似た人が現れ、
何人死ぬのか楽しみであります(待て)。
>>296 まあ
>>297の方が仰ってる通りなんですが、人がバンバン死んでいく中、それでも生きていく強さとか、
死してなお想いは残るというか、そんな余韻が残る辺りが素敵です>サンホラ
ハシさんとサマサさんが仲良くてほほえましい
〜裏方、その奮闘〜
―――幻想郷最大トーナメント本戦は、遂に明日まで迫っていた。
参加者達が思い思いに時を過ごす中、トーナメントを成功させるべく、裏方の皆さんは今なお闘っていた。
その奮戦ぶりを、どうか見ていただきたい。
「―――あやややや。これはすごいですね、にとりさん」
鴉天狗の新聞記者―――射命丸文は眼前に聳え立つ巨大な建造物に目を瞠り、手にしたカメラのフラッシュを
次々にたいていく。
「ふふん、そうだろうそうだろう。我ら河童の科学力は幻想郷一ィィィィィッ!」
彼女のすぐ後ろでは、大きなザックを背負い、髪を二つにしばってハンチング帽を被った少女が胸を反り返らせて
いた。天狗と同じく、妖怪の山に棲息する妖怪の一種―――河童である。
「この<超妖怪弾頭>河城(かわしろ)にとり―――お値段以上の仕事はさせてもらったよ」
幻想郷のあらゆる種族の中で最も科学技術に深い造詣を有する妖怪―――それが河童である。
中でもこの河城にとりは若輩ながら卓越した技術と知識を持つ新進気鋭の河童だった。
彼女の発明品は回転寿司のレーンからペプシキューカンバー、果ては光学迷彩スーツに至るまで多岐に渡る。
その実績を見込まれ、幻想郷最大トーナメント本戦会場の設営を一任されたのだった。
「その結果がこれだよ!」
―――古代、剣闘士達が命を賭して死闘を繰り広げた円形闘技場(コロッセオ)―――
本戦会場は、正しくその再現だった。
決して派手ではないが、見る物を圧倒する風格を漂わせるその偉容。
一騎当千の猛者達が激突する闘いの舞台として、これ以上ないように思われた。
「どうだい、中々のモンだろう?我ながら自信作さ」
「うんうん、明日にはここで幻想郷中から集まった強者が鎬を削って闘うのですね!うううう〜、記者魂が疼いて
きましたぁ!最近ちっとも面白いネタがありませんでしたからね。このトーナメントの模様、細大漏らさず記事に
させていただきますよ!」
文は瞳に星くん的な炎をメラメラさせつつ、にとりにマイクを突き付ける。
「にとりさん!まずこの会場について質問させていただきますが、よろしいですか!?」
「悪いっつっても無理矢理訊き出すんだろ…いいよ、別に隠す事もないし」
「では、まずお訊きしたいのは安全性です。何しろ、本戦出場者に名を連ねるのははっきり言って怪物としか形容
できない皆様ですからね。闘技場があっさりぶっ壊されるようでは不安でおちおち観戦も出来ませんよ?」
「ふふ、あやや。お前さんはこの河城にとりを侮っているね?」
にやりと笑い、にとりは己の胸を力強く叩く。
「耐久力については無問題(モウマンタイ)!試しにテ○ドンと同等の破壊力を持ったにとり特製ミサイルを十発
ほど撃ち込んでみたけど、小揺るぎもしない程度の強度さ!」
「うわ。明らかに試合が終わる頃にはボロボロになって出場者の強さアピールに使われるフラグですね!」
「うん。正直、私も造ってて思った…」
「あー、まあ、それはともかく、内部はどうなってるんです?」
「今は明日の本番に向けて最後の準備をしてるとこ。見知った連中も何人か顔を出してるから、あややもちょっと
見ていくかい?」
「おお、よろしいので?」
「建前は関係者以外立ち入り禁止なんだけどね…見学したいって奴は通してるよ。まあ、騒ぎを起こさない限りは
黙認って事さね」
「はいはい、心得ていますとも。では、拝見拝見〜」
>>300ちょっと訂正
〜裏方、その奮闘〜
―――幻想郷最大トーナメント本戦は、遂に明日まで迫っていた。
参加者達が思い思いに時を過ごす中、トーナメントを成功させるべく、裏方の皆さんは今なお闘っていた。
その奮戦ぶりを、どうか見ていただきたい。
「―――あやややや。これはすごいですね、にとりさん」
鴉天狗の新聞記者―――射命丸文は眼前に聳え立つ巨大な建造物に目を瞠り、手にしたカメラのフラッシュを
次々にたいていく。
「ふふん、そうだろうそうだろう。我ら河童の科学力は幻想郷一ィィィィィッ!」
彼女のすぐ後ろでは、大きなザックを背負い、髪を二つにしばってハンチング帽を被った少女が胸を反り返らせて
いた。天狗と同じく、妖怪の山に棲息する妖怪の一種―――河童である。
「この<超妖怪弾頭>河城(かわしろ)にとり―――お値段以上の仕事はさせてもらったよ」
幻想郷のあらゆる種族の中で最も科学技術に深い造詣を有する妖怪―――それが河童である。
中でもこの河城にとりは若輩ながら卓越した技術と知識を持つ新進気鋭の河童だった。
彼女の発明品は回転寿司のレーン(後の<かっぱ寿司>であった)からペプシキューカンバー、挙句の果ては
光学迷彩スーツに至るまで多岐に渡る。
その実績を見込まれ、幻想郷最大トーナメント本戦会場の設営を一任されたのだった。
「その結果がこれだよ!」
―――古代、剣闘士達が命を賭して死闘を繰り広げた円形闘技場(コロッセオ)―――
本戦会場は、正しくその再現だった。
決して派手ではないが、見る物を圧倒する風格を漂わせるその偉容。
一騎当千の猛者達が激突する闘いの舞台として、これ以上ないように思われた。
「どうだい、中々のモンだろう?我ながら自信作さ」
「うんうん、明日にはここで幻想郷中から集まった強者が鎬を削って闘うのですね!うううう〜、記者魂が疼いて
きましたぁ!最近ちっとも面白いネタがありませんでしたからね。このトーナメントの模様、細大漏らさず記事に
させていただきますよ!」
文は瞳に星くん的な炎をメラメラさせつつ、にとりにマイクを突き付ける。
「にとりさん!まずこの会場について質問させていただきますが、よろしいですか!?」
「悪いっつっても無理矢理訊き出すんだろ…いいよ、別に隠す事もないし」
「では、まずお訊きしたいのは安全性です。何しろ、本戦出場者に名を連ねるのははっきり言って怪物としか形容
できない皆様ですからね。闘技場があっさりぶっ壊されるようでは不安でおちおち観戦も出来ませんよ?」
「ふふ、あやや。お前さんはこの河城にとりを侮っているね?」
にやりと笑い、にとりは己の胸を力強く叩く。
「耐久力については無問題(モウマンタイ)!試しにテ○ドンと同等の破壊力を持ったにとり特製ミサイルを十発
ほど撃ち込んでみたけど、小揺るぎもしない程度の強度さ!」
「うわ。明らかに試合が終わる頃にはボロボロになって出場者の強さアピールに使われるフラグですね!」
「うん。正直、私も造ってて思った…」
「あー、まあ、それはともかく、内部はどうなってるんです?」
「今は明日の本番に向けて最後の準備をしてるとこ。見知った連中も何人か顔を出してるから、あややもちょっと
見ていくかい?」
「おお、よろしいので?」
「建前は関係者以外立ち入り禁止なんだけどね…見学したいって奴は通してるよ。まあ、騒ぎを起こさない限りは
黙認って事さね」
「はいはい、心得ていますとも。では、拝見拝見〜」
闘技場の入り口を抜けると、広々とした空間に連なる屋台の群れ。
主に飲食物を扱う売店が並んでいるようだった。中には出場選手の絵がプリントされたTシャツを売っている店も
ある。見学者を考慮してか既に開いている店もあるが、多くはまだまだ開店準備で大忙しだ。
とある焼鳥屋台では。
「輝夜…開店の準備を手伝ってくれるのは嬉しいんだ。でもな…」
わなわなと震える妹紅。その手には、空っぽの酒瓶。
「ええ〜、な〜に〜もこた〜ん」
白皙の美貌を真っ赤にして、既にへべれけになっている輝夜。
「勝手に酒を呑んでもいいとは言ってないぞ!あーあ、一番高いの空けちゃって…」
がっくり肩を落とす妹紅。その首筋に酒臭い息が生暖かく吐きかけられた。
「いいじゃないかもこ〜。ぶれいこう、ぶれいこう」
「慧音!お前まで呑んだのか!?」
青にも銀にも見える艶のある髪。胸元を大きく開けた青いワンピースがやや扇情的だ。
輝夜と一緒に手伝いに来てくれていた妹紅の友人・上白沢慧音(かみしらさわ・けいね)である。
普段は知的な教師である彼女だが、今は単なる酔っ払いへと華麗なクラスチェンジを果たしていた。
「固いこというなよ〜。ボディはこ〜んなにやわらかなくせに〜」
「ひいい!よせ、そんなとこを触るなぁ!」
「いいじゃないかぁ、女同士だろぉ?」
「あ、ずるーい。私も私もー。えへへへぇ、もこたんったら芳しいスメル〜」
「二人ともやめろぉ!私を百合畑に誘うんじゃない!そんな事しても喜ぶのはあの百合好きの漢だけだぞ!」
―――その隣にある某クラブの出店では。
「うん、美味い!ロマネだなこりゃ!」
伊吹萃香が盃の中身を飲み干し、ぷはーっと満足げに息をつく。
それを見ながら、手伝いに来ていた少女はその涼しげな表情を変えずに平然と言い放つ。
「いえ、ファンタでございます」
「酒ですらねーのかよ!気付かなかった自分にもビックリだわ!せめてアルコール分を持ってこいよ!」
「失礼ながら萃香様。貴女様は既に酒をリットルにして五、ccにして五千も呑んでおられます。これ以上は健康に
よろしくないかと、空気を読んだ次第でございます」
「その結果がファンタかよ…相変わらず空気を読んだ上でそれを無視する女だね、衣玖ちゃん」
彼女はリュウグウノツカイから変異した妖怪・永江衣玖(ながえ・いく)。
<空気を読む程度の能力>の持ち主ではあるが、読めたからといってそれで空気をよくできるかどうかは別問題
という生きた見本であった。
「衣玖ったら…後で私が八つ当たりされるんだからやめてよ」
「何を言います、天子様。だからこそやってるんじゃないですか」
「イジメだ!職場イジメが発覚した!」
「ははは。皆、仲がいいねえ」
酒を呑みつつテンプレートな感想を述べる星熊勇儀。ちなみに彼女が持っているのは杯でも酒瓶でもなく酒樽だ。
それに直接口を付けてラッパ呑みしているのである。だというのに然程酔った様子も見えない所が恐ろしい。
「勇儀さんも呑気な事言ってないで、ちょっとはあの二人を諌めてくださいよ…」
「いいじゃないか、こうしてバカやれるのも、仲良しの証拠さ」
「かもしれませんけど…」
「その後で天子ちゃんが萃香にドツキ回されるのも、仲良しの証拠さ」
「それは全力で否定させていただきます!」
そんな凄惨な有り様を見ていた文は、やれやれとばかりに両手を広げた。
「うーん、既に酔っ払いの巣窟と化してますねえ…」
「明日が思いやられるねえ」
「ま、酔いどれ共はうっちゃっときましょう。ここもしかと見学させてもらって、我が文々。新聞のネタにさせてもらい
ましょうか!」
その時である。
「天体戦士サンレッド―――あなたは誠に野蛮で、横行跋扈であるッ!」
屋台の一角から響いた、清らかでありながら内に秘めた激情を感じさせる声。
「この声に、このセリフ…もしや!」
目線を向けた先には、夜雀の妖怪でありミスティア・ローレライの経営する八つ目鰻の屋台―――
そのカウンターに座る、一人の女性。
緩くウェーブのかかった亜麻色の長い髪。黒と白を貴重にしたゴスロリ風の装束。
外見のみならず、内面から自然と滲み出すような美を持つ女性だった。
それは、己の信念に全てを捧げる覚悟を持った者だけが手にしうる美―――殉教者の美と言えるかもしれない。
彼女は<ガンガンいく僧侶>聖白蓮(ひじり・びゃくれん)。
新興宗教・命蓮寺(みょうれんじ)の代表者にして神仏も妖怪も人間も全ては平等と謳う、超絶平等主義者。
幻想郷の中では新顔ながら、確かな実力と清廉な人格で一目置かれる存在である。
「…へーへー、分かった分かった。おーこーばっこね、おーこーばっこ…」
その隣でどんより顔をしているのは言うまでもない、サンレッドである。
更にその背後では、予選で彼に敗れた四人組が便乗して大騒ぎしている。
「そーだそーだ!お前はおーこーばっこだぞー!」
「おーこーばっこー!」
「おーこーばっこなのかー!」
「で、おーこーばっこってどういう意味?」
「力に任せて威張り放題のやりたい放題、という意味です。つまり、彼のような人物を指していうのです」
律儀に答える白蓮。淑やかな美貌を凛々しく引き締め、サンレッドに人差し指をビシっと突き付ける。
「聞けば予選で、このか弱くいたいけな子等に容赦なくその拳を振り下ろしたとか―――それだけに留まらず、外
の世界では怪人達にやりたい放題の非道を働いているとも聞きました…天体戦士サンレッド!誠に粗野で、暴虎
馮河(ぼうこひょうが)である!」
なお暴虎馮河とは、血気にはやり無謀な勇を振るうの意である。
そしてサンレッドはそんな彼女の隣で、もはや何度目になるのか分からない溜息をつく。
「…なんで俺は、こんなトコで何処の誰とも分からねー女に説教されてんだろ…ここにゃ大食い亡霊の荷物持ち
で来ただけだってのに…」
「南無三!」
「いてっ!ビール瓶で叩くんじゃねーよ!」
「このようないたいけな者達を虐げておきながら、その態度―――誠に不遜で、厚顔無恥であるッ!」
「…………」
「おや、だんまりを決め込むのですか?誠に無気力で、馬耳東風であるッ!」
「分かってんならもういーだろ…」
「まだまだ言いたい事はたくさんあります。何せあなたは誠にチンピラで、何か縛るモノであるッ!」
「四字熟語ですらなくなったじゃねーか!つーか何で皆、さも当然のようにそれを知ってんだよ!?」
―――説教はまだまだ終わりそうもない。
文とにとりは見なかった事にして、その場を立ち去るのであった。
「…白蓮さんまでいるとは思いませんでした」
「あー。多分、誰かさんへの接待じゃないかね?」
「どういう意味?」
「…大人の事情さ」
ややこしそうな話であった。
―――客席。
「おおー。随分と広いじゃないですか」
「実に五万人が収容可能だからね…それでも前売りチケットはすぐさま売り切れちゃったよ」
「はぁー。やはり皆、トーナメントに興味津々という事ですね?」
「そうなるね…しかしだ、あやや。お前さんは出場しなくてよかったのかい?<幻想郷最速>の名を欲しいままに
するあんたなら、いいとこまでいけると思うんだがね?」
いやいや、と文は笑って首を振った。
「速いだけで勝てるほど、甘いメンツはいませんよ。例えばにとりさん…あれを見てください」
「ん?」
文が指差した先には、二人の少女。
「いよいよ明日ね、幽香。私、ここからたくさん応援するからね!」
究極加虐生物・風見幽香と、その隣には毒人形―――メディスン・メランコリー。
メディスンはそこの売店で買ってきたらしいポップコーンを頬張り、これも売店で購入したと思しき幽香の絵入り
Tシャツに身を包んでいた。
「ありがとう、メディ。でも私はか弱い女の子だから。正直、自信ないわねぇ」
その言葉とは裏腹に、その麗しい横顔には萎縮した様子など欠片もない。
あるのはただ、己が力への絶対の自負と矜持―――
それを知ってか知らずか、メディスンはぶんぶんと首を振って先の幽香の言葉を否定した。
「そんな事ないよ。幽香はとっても強いもの。きっと優勝できるわ!」
「そう?ふふふ…」
「何せ幽香は幻想郷史上最狂・最凶・最恐の妖怪だもの。見た目はともかく分類としてはもう女じゃないって!」
「ふふ…」
笑顔が引き攣る幽香。それに気付かず、メディスンは命知らずにも続ける。
「何ていうか、幽香がか弱いってんなら他の連中はもうお箸も持てない超箱入りお嬢様よ!」
「ふ…」
「ホントなら私、幽香の事は<アニキ>って呼びたいくらいなんだから!男顔負けっていうか、むしろゴリラとか
の域に達してるっていうか…」
「メディ」
「ん?」
幽香の全く笑っていない目を見て、やっとこさ、メディスンは自分が地雷を踏み抜きまくった事に気付く。
「え、えーと…」
必死に言い訳の言葉を探すが、もう遅い。幽香は己の拳を堅く握り締め、高々と掲げていた。
「メディ。私ね、貴女の事はとっても素直で可愛くていい子だと思ってるのよ?本当の妹みたいに想っているわ」
「そ、そう?えへへへへ…」
「でもね…覚えておきなさい」
頭上に振り翳した拳を、一切の躊躇なくメディスンの脳天目掛けて振り下ろす。
メディスンはその場で一回転した後、顔面から地にめり込み、ピクピク痙攣する物体へと姿を変えた。
「口は災いの元―――また一つ賢くなったわね」
その一部始終を見ていた文は、からかうような口調でにとりに問う。
「いくら力があったって、あんなのとガチで闘り合いたいですか?」
「いや…遠慮する」
でしょう、と文は楽しげに笑う。
「それに、まあ…ああいう連中は、傍から見てる方が面白い」
「同意だね」
顔を見合せて笑い合う二人―――そこに。
「お久しぶりですね、河城にとり…それに射命丸文」
「うっ…あ、あんた…じゃない、貴女様は…!」
「ど、どうも…ご無沙汰です…」
文とにとりの表情を一言で表すなら<苦手な先輩とばったり出会っちまった後輩>という感じである。
二人の前にいるのは、厳粛な雰囲気を漂わせる長身の女性。
厳格を絵に描いたような引き締まった顔立ちは、威圧的でこそないものの見る者を否応無しに萎縮させる。
彼女こそは幻想郷における地獄の最高責任者にして、死者達を裁く最大権力者である閻魔が一人―――
<楽園の最高裁判長>四季映姫・ヤマザナドゥその人である。
人格者には違いないが、説教好きが高じて大概の人妖から煙たがられている御方であった。
「い、いやあ。四季様まで見学とは意外ですね、はは…」
「や、やはり四季様もトーナメントに御興味が?」
「そういうわけではありません…おや、まだ知りませんでしたか?」
「はあ…何をでしょう?」
映姫はこほん、と咳払いし、やや気取った仕草で胸を張る。
「この度、私こと四季映姫・ヤマザナドゥは、西行寺幽々子及び八雲紫からの正式な依頼により、この幻想郷最大
トーナメントの審判を務める事と相成りました」
「四季様が審判を…?ははあ、それはまた適材適所ですね」
「まあ、手前味噌ながら言わせてもらうと、これほどクセの強い連中の闘いに白黒つけられるのは私くらいのもの
でしょうからね…」
「能力からして<白黒はっきりつける程度の能力>ですしね…これは楽しみです、ははは。では私共はこれにて。
さあにとりさん、いきましょ…」
「お待ちなさい、射命丸文」
さっさと回れ右して帰ろうとしていた文は、ぐっと足を止め、嫌々ながら振り向く。
「貴女は相変わらず事件とあればそこかしこ飛び回っているようですが…以前、私が言った事をお忘れですか?」
「え、えっとぉ…」
「射命丸文。かつても言いましたが、あなたは事件を果敢に追い掛け回す事で、新たな事件の火種となってしまい
がちです―――そう。貴女は少し、好奇心が旺盛すぎる」
「…………うう〜」
反論出来ない―――四季映姫・ヤマザナドゥの言う事は、いつだって正しいのだ。
この場をどうにか切り抜ける方法を、文は必死に考えた。そして―――
「あ、そうだ四季様!実は売店の方に、説教してほしいという男がいまして!」
「ほう?」
ピクリ、と眉を持ち上げる映姫。好機と見た文は畳み掛ける。
「ダメな自分を変えたいと、色々な方々に説教を受けているのです。ここは是非、四季様が有難い説教をかまして
差し上げるべきかと!」
「いいでしょう。迷える子羊に正しい道を説く事も、我が使命」
「さっすがぁ〜!あ、その男の名はサンレッドと言いまして、赤いマスクを被ってるからすぐに分かるはずです。
まあかなりのツンデレさんなものですから、説教を嫌がる素振りを見せるかもしれませんが、なに、実の所誘って
るんですよ。どうぞ、心行くまで映姫様の徳高きお話を聞かせて差し上げてくださいな!」
「分かりました…彼の荒みきった心は必ずや、この四季映姫・ヤマザナドゥが救ってみせましょう」
胸を聳やかし、我らが映姫様は出撃していく―――
なお、彼女のサンレッドに対する説教は実に六時間にも及んだそうな。
聖白蓮と四季映姫・ヤマザナドゥのダブルお説教を食らったサンレッドは、トーナメント前日にして多大なる精神的
ダメージを被ったのだった。合掌。
「―――あらあら。貴女ったら、酷い事するのね」
「おや…?」
いつから見ていたのか。気付けば背後に、魂魄妖夢を従えた西行寺幽々子が立っていた。
右手に開いた扇子を持ち、口元を隠して幽雅に微笑みの花を咲かせる。それだけなら格好もつくのだが、左手には
売店で買ったと思しき大量の飲食物が入った袋をぶら下げている辺りがしまらない。
ちなみに、妖夢の両手も食べ物で塞がっている。勿論全て幽々子の分である。
これだけ喰う亡者は彼女の他にはそうそういまい。
「あんまりウチの居候を苛めないでほしいものね?」
「は、それは失礼をば」
「ま、確かに彼にはヤマナザドゥの有難い説法が必要かもね…あの性格じゃ、高確率で地獄に堕ちそうだし」
「ええ。それも一番きっつい阿鼻地獄に」
「正義のヒーローなのに、えらい言われようですね…」
「ヴァンプさんは確実に極楽浄土へ逝けるでしょうけど」
「ええ。死した後、彼は天の国から世界を見守って下さるでしょう」
「悪の将軍なのに!」
名誉なんだか不名誉なんだか分からない話であった。
「それはともかく―――射命丸文。実は貴女に、いいお話を持ってきたのよ」
「はて?それは一体…」
訝しがる文に向けて、くすりと幽々子は微笑んだ。
「トーナメントで、ちょっと仕事をやってもらいたいの…きっと、貴女もノリノリでやってくれる仕事よ」
現と幻想の狭間より、その全てを見つめながら。
境界の賢者は、一人静かに佇む。
「もうすぐよ―――アリス・イヴ」
旧友の名を呼ぶ。月光の化身のように美しかった、彼女の名を。
「もうすぐ始まるわ…幻想郷最大の、お祭り騒ぎが」
盛大に、賑やかに、破天荒に、そして面白おかしく―――
それがきっと、彼女の望んだ事だから。
幻想郷最大トーナメント―――関係者一覧
主催者 八雲紫&西行寺幽々子&賢者イヴ
会場設営担当 河城にとり&河童の皆さん
売店 焼鳥屋台<猛虎譚(もこたん)> 八つ目鰻屋台<みすちー> クラブ・イブキ 他多数
審判 四季映姫・ヤマザナドゥ
出場者 予選を勝ち抜いた総勢32名
「…さてと」
記事を纏め終えた射命丸文は、隠しきれぬ笑みを浮かべて最後にこう書き足した。
「実況アナウンサーは―――コホン。不肖、私こと射命丸文でございます」
―――そして。
ついにトーナメントは、本戦を迎える―――
最後に立つのは人か、妖怪か、はたまたヒーローか。今はまだ、誰も知らない。
投下完了。前回は
>>271より。
東方知らない人は今回の話、確実にわけわかめだろうなあ…すいません。
ほぼハシさんへの接待のためだけに書いた話…とまで言っちゃったら言いすぎですが。
次回、トーナメント本選開幕。トーナメント物ではお約束のあのネタでいきます(いく予定です)。
ツイッター、面白い。ただ好き勝手にぼやきを垂れ流すだけなのにこんなに楽しいとは思ってもみなかった。
ハシさんともたくさん話せて楽しかった…けど、会話の内容は一般人には確実に分からん単語ばかりだった。
>>273 基本路線としてほのぼので行きたいと思っとります。
>>274-276 お前ら…お前らはジローさんを何だと思ってるんだよ!真実は人を傷つけてしまうものなんだよ!
>>277 DDDじゃないッ!BBBだッ!二度と間違えるなッ!
>>ふら〜りさん
レッドさんはブレーカーを直したり戦闘ロボを組み立てたり美味いグラタンを作れたり、結構器用。
なのに、何か縛るモノです。
>>281 衰退期…聞きたくない言葉です。
>>294 あれは我ながら、狂気の産物としか言えません。
>>299 サマサ×ハシか…ウホッ!いいSS書き…
308 :
作者の都合により名無しです:2010/05/29(土) 14:05:52 ID:tcoDKJq10
32名参加って事は決勝戦まで31試合か?
いや、バキの最大トーナメント並みの試合数になるなw
サマサさん乙です。
東方に詳しい人なら豪華キャストのトーナメントだろうなあw
私は東方を知らないんで、レッドさんの無双をひらすらに願っております。
せめて優勝争いには絡ませてね。なんか強そうな人ばかりだけど。
最大トーナメント名物の選手入場はあるのかな?
ダイジェクト式にしてもロブロビンソンvs猪狩くらいの書き方になるのか完全にすっ飛ばすのか
選手入場wktk
312 :
ふら〜り:2010/05/30(日) 23:08:49 ID:H9tyDX2LP
>>ハシさん
描いてる人も原作も違うんだから当然ですが、同じ百花繚乱でもサマサさんとの質の違いが凄い。
>汚染された精液を外へと流出させないため
生々しさにゾッとしました。武力皆無の侵略……ではない、侵食? そんなことについて語り合う
美女という図がまたゾッと。動きのないシーンだけでも揺さぶられる、そこはサマサさんと同じ。
>>サマサさん
こういう様子だけ見てると、こんな子たちがあのレッド相手にやり合えるのかという気になります。
それだけに、本戦が始まってからのギャップが面白いんだろなと期待。紅一点ならぬ黒一点、
かつ異世界人のレッドがどう戦い、苦戦するか楽勝するか、彼女らにどんな評価を受けるのか?
誰かヘタリアのSS書いてくれんかのう
314 :
作者の都合により名無しです:2010/06/01(火) 19:46:31 ID:jUSf9xgK0
初期悟空や初期ブルマも14歳だけどネルフに入らせたいな。
どなたかおねがいします。
315 :
作者の都合により名無しです:2010/06/02(水) 12:29:44 ID:P+1nf4Yq0
日本のみなさん、こんにちは
私は中国人です
私の中国の名前は公偉です
日本の漫画は好きです
簡単な日本語しか話せません
日本人の友達は欲しい
e-mail:
[email protected]
316 :
作者の都合により名無しです:2010/06/05(土) 16:17:48 ID:0R+gnwKhO
最近は本当に誰も来ないね。寂しいよ。四・五年前は来すぎだったけどw
ロワスレもあったしね
317 :
作者の都合により名無しです:2010/06/05(土) 17:01:13 ID:8wxrrutH0
肉スレもヤムスレもあったねえ
懐かしいねえ
〜全選手入場!〜
太陽と入れ替わりに、月の光が静かに大地を照らす頃。
燦々と輝く照明が、幻想郷最大トーナメントの舞台である闘技場を明るく彩る。
「いやーしかし、大した盛り上がりだぜ。よくこれだけ集まったもんだ」
既に満員と化した客席の一角で、一人の少女が呆れとも感心とも取れる呟きを漏らす。
真っ黒いトンガリ帽子に、魔法使いが着るような古めかしい白黒の衣装。気の強そうな瞳が印象に残る少女だ。
<普通の魔法使い>霧雨魔理沙(きりさめ・まりさ)―――<楽園の素敵な巫女>博麗霊夢と共に数多くの異変を
解決してきた英傑であり、この幻想郷では知らぬ者はいない悪童である。
<彼女に物を貸したら死ぬまで戻らない>は幻想郷の常識だ。実にジャイアニズム溢れる少女である。
「これだけ大掛かりな催しも珍しいからね…ま、ヒマ人が多いってのもあるでしょうけど」
体調が芳しくないのか、時折小さく咳込みながら魔理沙の左隣に座るパチュリー・ノーレッジが答えた。
紅魔館・地下大図書館の管理人にして魔法使いとしても名高い彼女は、魔理沙ともそれなりに親交がある。
話の合う同業者・気の置けない友人といった所だろう。なお、彼女は魔理沙のジャイアニズムの一番の被害者でも
ある。今や図書館の蔵書の1/4は魔理沙に借りパクされているのだ。
「そういやパチュリーは出ないでよかったのか?紅魔館の連中はお嬢様以外にも出場してんだろ」
「私はパス。レミィの特訓に付き合って疲れたせいか、喘息の調子もよくないし」
「特訓?あのお嬢が?」
「ほら、外の世界から来たっていうヒーローがいるでしょ?そいつと揉めたらしくて、妙にやる気なのよ」
「あ。その話だったら、私も幽香から聞いた!」
毒人形のメディスン・メランコリーが、魔理沙の後ろの席から身を乗り出して話に加わる。
「予選が終わった後も、なんかレミリアお嬢が突っかかってたみたいよ。相当仲が悪いんじゃないかしら」
「はぁ〜…しかし、それだけお嬢様の機嫌を損ねてて生きてるなんざ、大したもんだな」
―――幼い子供そのままの容姿と言動からは想像し難いものの、大吸血鬼レミリア・スカーレットの評判は非常に
剣呑かつ物騒なものだ。
平穏無事でいたいのならば、決して関わるな―――
百万の軍勢を敵に回そうとも、彼女だけは敵に回すな―――
味方にさえ、回してはならない―――
「なーに言ってるのよ。吸血鬼がいようとヒーローがいようと、優勝は幽香で決まりよ!ねえ、魔理沙だってそう思う
でしょ?」
「あー?まあ、あいつならいいトコまで行くんじゃねーの?」
「気のない返事ねえ。パチュリーはどう思う?幽香が勝つよね」
「悪いけど、私はレミィを推しとくわ。同居人だしね」
「ちぇ〜。こうなったらアリス、二人で幽香を応援しようね!」
「…………」
「あれ?アリス?」
「…………」
魔理沙の右隣に座っている、これまで押し黙っていた少女―――アリス・マーガトロイドは、どんよりとした目を
メディスンに向ける。
目の覚めるような見事な金の髪に、海のような蒼い瞳。人形のように整った顔立ちと、人形のように物静かな彼女
は、今は勝手に髪の毛が伸びた人形の如き陰鬱なオーラを発していた。
「メディスン…私ね、最初は魔理沙を誘ったの」
「うん」
「<二人きり>で観戦するつもりだったのよ…でも魔理沙ったら<ならパチュリーも誘おうぜ>なんて言い出して。
おまけに会場の入り口でばったり貴女に会って…魔理沙と二人きりの夜はどうなったのよぉぉぉぉぉ!」
そう―――<七色の人形遣い>アリス・マーガトロイド。
何を隠そう百合畑の住人であり、魔理沙に恋する純情(?)な乙女である。
その想いが届いているとは、お世辞にも言い難い。
「いいじゃんか。たくさんいた方が楽しいぜ?」
対する魔理沙は飄々としたものである。パチュリーは同情とも憐憫とも取れる視線をアリスに注いだ。
「アリス…悪いこと言わないから、真っ当な恋をしなさい。今のままじゃ、幸せになれないわよ」
「え、恋?何だよアリス、お前も女の子だなー。相手は誰だよ。もしかして私の知ってる奴?」
この有様である。アリスは涙目で地面にのの字を書き始めた。
「恋…?ねえ。恋って何?」
頭上に?を浮かべてメディスンが問う。生まれて間もない彼女には、分からない事も多いのである。
パチュリーは苦笑しながら答えた。
「要するに、誰かの事を好きってこと」
「あ、だったら私も恋してるよ」
「へえ、誰にだ?」
「えっとね、幽香でしょ。それに魔理沙にパチュリーにアリス。あと、霊夢に…」
「あのな、メディスン。恋ってのはそういうんじゃなくて…」
「いいのよ、魔理沙」
勘違いを正そうとした魔理沙を遮り、パチュリーはメディスンへ優しい視線を送る。
「その純粋な気持ちを大事にしなさい、メディスン…アリスみたいになったら、もう戻れないから…」
パチュリーは、慈しむように微笑み、語りかける。
「よく聞きなさいね…貴女の<好き>と、アリスの<好き>は違うの。アリスのそれはもっとこうネッチョリしていて
グチャグチャしてドロドロして陰湿なの。アリスが目指すのは、百合という名の大海なのよ…」
「パチュリー…あんた、もしかしなくてもケンカ売ってるでしょう?」
「いいえ、そんな事はゴザイマセン。ただメディスンの穢れ無き魂を百合色に染めてはならないと使命感に燃えて
いるだけよ」
「きーっ!やっぱバカにしてるじゃない!」
―――年頃の乙女達の会話を、これ以上晒すのは控えよう。
彼女らの名誉のためにも。
さて、我等がヴァンプ様を始めとする川崎市より来たる面々は、魔理沙達のすぐ前の席にいた。
実に漫画的な偶然である。
「いやあ、女の子達は賑やかで微笑ましいですね」
ニコニコしながらヴァンプ様はそう語る。別に会話を盗み聞きしていたわけではなく、声が大きいので嫌でも耳に
入るだけである。
なお彼は、百合だの何だのの意味はちっとも分かっておりません。
「でも兄者、ユリってどういう意味?」
ケチャップをたっぷり付けたフランクフルトを頬張りながら、コタロウは答えに困る問いを発する。
「…きっと百合の根っこの調理法の事を話しているのですよ、コタロウ」
「え?百合の根って食べられるの!?」
「食べられますとも。そうですよね、ヴァンプ将軍」
「ええ、ホクホクしててとっても美味しいですよね。茶碗蒸しに入れるといい感じです」
「うわあー。ぼくも食べてみたいなあ」
「じゃあ今度作ってあげるよ。ユリ根入りの茶碗蒸し」
「ほんと!?ヴァンプさん、大好き!」
吸血鬼×2・悪の将軍×1とも思えぬほんわかした平和な会話であった。
そこに、涼やかな気配と共に冷然とした声。
「―――ユリ根は茹で立てホヤホヤにマヨネーズを付けて食すのが私のジャスティス。なお、幽々子様は生でも
平気でボリボリ食べます」
―――言ってる内容は酷いものであった。
「あ、妖夢ちゃんじゃないですか。幽々子さんの傍にいなくてよろしいんですか?」
「ええ。<折角だから貴女も楽しんできなさい>とのことなので。今日の私は何の変哲もないイチ観客です」
と、ヴァンプ様の隣に座り、後ろを振り向く。
「それにしても、彼奴等のすぐ前とは…今からでも運営側に文句付けて席を替えてもらいましょうかね?」
「おいおい。ヒデー事言うなよ、妖夢」
妖夢の悪態に、後ろの白黒少女―――魔理沙が前屈みになって言い返す。
「そんな邪魔者扱いしなくてもいいじゃんか」
「ヴァンプさん、コタロウくん、ジローさん。財布はしっかりと持ってくださいよ。この白黒は幻想郷では知られた
コソ泥です。気を抜けば一瞬で身ぐるみ剥がされますよ」
「そんな事しないって。なあパチュリー、アリス。お前らからも何とか言ってやれよ」
「財布だけじゃなくて、貴金属も気を付けた方がいいわよ」
「食べ物も危険ね。小さな子供のお菓子だろうと、彼女は平気で奪うわ…そこの男の子。フランクフルトは今すぐ
隠しなさい。魔理沙は既に獲物を狙う鷹の目をしているわ」
「ええ!?ダメだよ、これはぼくのだからね!」
「ヒデーぜお前ら!」
魔理沙は天を仰いで嘆くが、これも日頃の行いが悪いからであった。
「妖夢さん…このお嬢さん方は、あなたの御友人で?」
「まあ、友達とそう言えなくもないですね。この油断ならない白黒盗人が霧雨魔理沙。隣のもやしっ子と百合娘
がパチュリー・ノーレッジとアリス・マーガトロイド。その後ろにいるのがメディスン・メランコリーです」
「…アリス?」
その名前を、複雑な表情で呟くジロー。その横顔には、どこか痛みさえ漂っていた。
「おや、どうしましたジローさん。またムッツリ助平な事を考えているのですか?」
「い、いえ…私のよく知る女性と、同じ名前でしたので…気になさらないで下さい」
「ふむ…では、一応あなた方も紹介しておきましょうか。こちらは、外の世界から来た吸血鬼の望月ジローさん
と望月コタロウくんの兄弟。もう一人は善良な悪の将軍ヴァンプさんです」
「あ、どうも。悪の組織フロシャイムの将軍をやってるヴァンプです」
腰を低くして、丁寧に応対するヴァンプ様。社会人の鑑である。
(※善良な悪の将軍って何だよ、と訊かれても作者には答えられません。御了承下さい)
「…おっさん。あんたよく<向いてない>って言われてるんじゃねーか?」
「え!?何で分かったんですか!?」
「いや、だって、なあ…まあいいや。よろしく」
「ええ。よろしくお願いします、お嬢さん方」
ジローが少々気取った仕草で帽子を取り、深く頭を下げる。
「へえ、あなたが望月ジロー?」
パチュリーが興味ぶかげにジローをしげしげと眺める。
「確か、あなたも吸血鬼なのよね?レミィ…レミリアが褒めてたわよ。礼儀正しい若者だって」
「それは光栄です―――貴女は、レミリアと随分親しいようですね」
「まあね。あの子の数少ない友人の一人だと自負しているわ」
そこでパチュリーは、コタロウに視線を移した。
「で、その子が弟のコタロウくん」
「うん、そうだよ!」
朗らかに答えるコタロウ。その愛らしい笑顔に、魔理沙達も一瞬言葉を忘れて魅入ってしまう。
「と、天使のように愛くるしい少年ではありますが、油断しないように。この子は物凄いバカなので話していると
割と頻繁に頭が痛くなります」
「もおー、妖夢ちゃんのイジワル!バカって言う方がバカなんだよ!妖夢ちゃんのバカ!」
「ね、バカでしょう?」
「ああ、バカだな…バーカバーカ」
「バカね。専門用語でいえばHだわ」
「バカだわ…チルノ級かも」
「やーい、バカ!漢字で書くと馬と鹿!」
「あ、兄者ぁ〜。ぼくはバカじゃないよね!?」
助けを求めて兄に縋るが、ジローは眉間を指で押さえて黙りこくる。うんと言っているも同然であった。
「ヴァンプさーん…」
「え、えっと…コタロウくんは、とっても素直で優しくていい子だと思うの、私」
バカという事は否定しないヴァンプ様であった。
『―――皆様、大変長らくお待たせいたしました』
おバカな会話を断ち切るようなタイミングで拡声機から響く声。
「あれ?これ、文の声じゃないか」
「そういえば、実況アナウンサーに任命されたって言ってたわね。やけに張り切ってたけど…」
同時に会場の照明が全て落とされ、真っ暗になる。
『ただいまより、幻想郷最大トーナメント開会宣言を、主催者である西行寺幽々子様が行います』
ざわめく観客をよそに、スポットライトが闘技場の中央に当たる。
先程まで無人だったそこに、たおやかな女性の姿。
黒き羽根を持つ蝶を無数に侍らせ。
扇を優雅に、幽雅に広げ。
見るもの全てを魅了し、同時に抗えぬ死に誘うような危険な微笑を咲かせて。
西行寺幽々子が、そこにいた。
観客達は皆、亡霊姫の麗しき姿に言葉も忘れて静まり返る。
「わあー。ゆゆちゃん、すっごくキレイ!」
―――約一名、そうでもなかった。
幽々子はその言葉が聴こえたのか、コタロウのいる方角に向けて小さく手を振る。
『え…えー。あの、開会宣言を…』
「ああ、そうね―――とはいっても、長々として偉そうなだけの話なんて誰も聞きたくないでしょうから、手短に
済ませましょうか」
常と変らぬ悠然とした物腰で、幽々子はそうのたまう。
「ますは、厳しい予選を勝ち抜いた選手達を紹介しましょう―――」
スポットライトが幽々子から、入場門へと移動する。
『それでは、全選手入場!』
実況アナウンサー・射命丸文の力強い声が響き、次々に入場門より選ばれた32名の英雄達が姿を現す。
文は声を張り上げ、昨夜寝ずに考えた選手達の紹介文を力の限り叫んだ。
風の神は生きていた!! 山の妖怪からの信仰心で古き神性が甦った!!!
闘神!! 八坂神奈子(やさか・かなこ)だァ――――!!!
百鬼夜行はすでに私が完成させている!!
山の四天王が一角・伊吹萃香(いぶき・すいか)だァ――――!!!
大事なモノだろうが何だろうが落としまくってやる!!
毘沙門天の弟子・意外とドジっ子 寅丸星(とらまる・しょう)だァッ!!!
弾幕の撃ち合いなら我々の歴史がものを言う!!
楽園の素敵な巫女 脇のチラ見せがトレンド 博麗霊夢!!!
学会に魔法の力を知らしめたい!!
岡崎夢美(おかざき・ゆめみ)だァ!!!
担当は秋の神だが弾幕ごっこなら全季節が私のものだ!!
秋静葉(あき・しずは)だ!!!
日光対策は完璧だ!! 紅き吸血鬼 レミリア・スカーレット!!!!
帽子の中に本体なんかいない!!
古の祟り神・ミシャグジ様が来たッ 洩矢諏訪子(もりや・すわこ)!!!
タイマンなら絶対に敗けん!!
最強妖怪・鬼のケンカ見せたる 四天王が一人・怪力乱心 星熊勇儀だ!!!
バーリ・トゥード(なんでもあり)ならこいつが怖い!!
奇跡を起こせ 東風谷早苗(こちや・さなえ)!!!
妖精の湖から彼女が上陸だ!!
参戦理由は氷の妖精に誘われて 名前はまだない 大妖精!!!
人気者になりたいからここに来たのだ!!
不人気姉妹の意地を見せてやる!!秋穣子(あき・みのりこ)!!!
めい土の土産に優勝とはよく言ったもの!!
悪霊の奥義が今 実戦でバクハツする!! 怨念の大悪霊 魅魔(みま)だ―――!!!
九尾狐こそが最強妖怪の代名詞だ!!
まさかこの狐がきてくれるとはッッ 八雲藍(やくも・らん)!!!
闘いたいからここまできたッ 本名・キャリア一切不明!!!!
紅魔館のプリティ・デビル 小悪魔だ!!!
我々は妖怪最速ではない幻想郷で最速なのだ!!
白狼天狗・犬走椛(いぬばしり・もみじ)!!!
ドッキリの本場は今や命蓮寺にある!! 私に驚いてくれる奴はいないのか!!
<付喪神(つくもがみ)>多々良小傘(たたら・こがさ)だ!!!
厄(ヤク)ゥゥゥゥい!! 説明不要!!! クルクル廻るぞ
厄神様・鍵山雛(かぎやま・ひな)!!
死体運びは実戦で使えてナンボのモン!!!…なのか!?
地底から火焔猫燐(かえんびょう・りん)の登場だ!!!
支援
優勝は私のもの 邪魔するやつは焼き尽くすだけ!!
地底のおバカ代表 地に鎖されし神の火 霊烏路空(れいうじ・うつほ)!!!
自分を試しに幻想郷へきたッ!!
空気を読んだ上で破壊するッ 永江衣玖(ながえ・いく)!!!
弾幕に更なる磨きをかけ 魔界の支配者・神綺(しんき)が帰ってきたァ!!!
今の自分に死角はないッッ!!
完全で瀟洒な従者 十六夜咲夜(いざよい・さくや)!!
中国四千年の拳技が今ベールを脱ぐ!!
紅魔館から 紅美鈴(ホン・メイリン)だ!!!
不老不死となった私はいつでも全盛期だ!!
かぐや姫こと 蓬莱山輝夜(ほうらいさん・かぐや) 本名で登場だ!!!
警察の仕事はどーしたッ 旧作の炎 未だ消えずッ!!
補導も検挙も思いのまま!! 小兎姫(ことひめ)だ!!!
特に理由はないッ 死神が強いのは当たりまえ!!
映姫様にはないしょだけど彼女は審判だからモロバレだ!!!
小野塚小町(おのづか・こまち)がきてくれた―――!!!
神綺様の元で磨いた実戦弾幕!!
魔界のデンジャラス・メイド 夢子だ!!!
実戦だったらこの人を外せない!! 超ドS級妖怪 風見幽香だ!!!
超一流イタズラっ子の超一流のトラップだ!! 生で拝んでオドロキやがれッ
永遠亭の問題児!!! 因幡(いなば)てゐだ!!!
幻想郷はこの女が完成させた!!
境界の妖怪!! 幻想郷のナチュラルボーン・チーター(天然イカサマ師) 八雲紫だ!!!
幻想郷にコイツがやってきたッ
溝ノ口発の真っ赤なヒーローッッ
我々はこの漢を待っていたのかもしれないッッッ 天体戦士サンレッドの登場だ―――ッ
「―――さあ、以上32名の選手達!」
ずらりと並んだ勇者達に向け、幽々子が声を嗄らさんばかりに激励する。
「幻想郷最大トーナメント…優勝の栄冠を目指して、力の限り突き進みなさい!」
―――<幻想郷最大トーナメント>。
これは紛う事なき幻想郷史上に残る一大戦争として、歴史に深く刻み込まれる事となるのだった。
投下完了。前回は
>>306より。
今回はコピペ改変ネタだから楽…かと思ってたらむしろいつもより大変だったでござるの巻。
ちょっと登場人物紹介とか作った方がいいかもしれん。
>>308 それ全部書いたら偉業だとは思いますが、とても書けませんw
>>309 負けちゃったら話にならないので、時にはズタボロにされつつどうにか勝ちます。
>>310 ご覧の有様だよ!
>>311 レッドさん以外の闘いは基本キンクリです。御了承ください。
>>ふら〜りさん
黒一点…まあどう考えても男女比がおかしいw気分的には去年まで女子高だった学校に一人だけ
入ってきた男子新入生です。そう易々と勝たせてもらえない相手ばかり。
原作では無双通り越して悪夢みたいな強さのレッドさんですが、二次創作なんで原作じゃできない
激闘を存分に繰り広げます。
>>323 支援ありがとうございます。
第二十八話 マスタードラゴン
ボブルの塔でのゲマ一行との激戦、ゾーマの出現、バーンとの邂逅等。
今回のドラゴンオーブ争奪戦において多くの敵と出会い、戦々恐々したが、念願のダイと再会出来たという喜びを改めて実感し、
その夜、六人は枕を高くして眠る事が出来た。
ポップとラーハルトは待ち望んでいた者に再会出来た事が余程嬉しいのだろう。
彼等は無意識の内に涙をながしていたのであった。
〜魔界 ゾーマの城〜
その城は標高が2000メートルはあるであろう山脈に包まれた小さな島の中心にそびえ立っていた。
周辺で生活している魔物も、この城から発せられるオーラを感じ取らずにはいられない。
同時に、それだけの力を持つ“彼”には敬意を払い、絶対的な服従を誓う事を余儀なくされる。
だがこの城で生きる魔物、および周辺の魔物は、その主に永遠に仕えていく事が大変名誉であるのだ。
「ふっ少々取り乱してしまったようだな。全く、奴は千年経ってもまるで変わらぬ男よ」
この禍々しい城の主、ゾーマが多少笑みをこぼしながらバーンとの再会を思い出す。
「失礼します」
玉座の間に爬虫類の様な顔をした、一人の魔族が入室した。
「ゾーマ様、私を呼ばれるとは…一体どのようなご用件でしょうか?」
「バラモスよ…そなたにはこれから地上へ上がってもらう」
ゾーマは表情を変えずに続けた。
「そなたならあの地上を制圧する事も出来るだろう。期待しているぞ、バラモス」
バラモスには分かっていた。これまでこの主君は地上を制圧せよ等という命令を発した事はない。
元々彼には地上を欲しよう等という欲は無い。興味を持たれてはいないのだ。
そうであるにも関わらず、地上を制圧せよとの命令、これは再会した大魔王バーンへのアンチテーゼである。
これまでバーンとヴェルザーのいざこざを文字通り、高みの見物を繰り返していたが、ここに来てバーンの行動に干渉しようと思った事も彼に直接会った事により、何らかの心境の変化があったのだろう。
地上を消滅し、魔界に太陽の光をもたらすのが早いか、地上を支配し魔物が魔界と地上を巡回する世の中になる事の方が早いか……
ゾーマにとってしてみれば単なる遊戯に過ぎない。バーンが死に、ヴェルザーと膠着状態にあり、刺激の無くなった日常に突如として降り立った復活した大魔王バーン。
退屈とも言える日常を変え、暇を持て余していた大魔王が戯れに地上でも制圧してみるか。程度の考えである。
「仰せの通りに!!」
バラモスが我が主君に敬礼をし、ゆっくりと退室していった。
彼はゾーマが最も信頼を置いている部下である。遊戯とはいえ、多少は制圧の確立も高い方が面白い。
ゾーマがバーンやヴェルザーと違う最大の理由は具体的な野望が無いという事だろう。
だからバーンとヴェルザーの争いにも自分は手を出すような事はない。彼等には地上支配、地上消滅と、明確な大計画が存在する。
だが彼にはその目的が無い。ある程度の力を有する者達はゾーマの考えは理解する事が出来ないだろう。
少なくともバーン・ヴェルザー・ゾーマの三者は自己の目的を容易に達成出来る程の力を持っている事は魔界の誰もが知っている。
自分がゾーマならば地上の支配ないしは消滅を実行すると考える魔族は少なくはない。せっかくの部下も宝の持ち腐れだろうと他の魔族は思っている。
だがゾーマは自己の快楽の為に動く大魔王である。
生ある者が今際の際に精一杯の雄叫びを上げて朽ち果てていく姿を見る事にとてつもない快感を覚える。
快楽殺人者の様なものだ。もちろんそのような事は分かっていて部下達はゾーマに服従する。
支配や消滅といった目的を持たず、己の快楽の為に動くゾーマに彼等は目的を持って動く魔王とは違う魅力を感じ、
永久に主君につき従っていくのだ。
逆にゾーマにはバーンやヴェルザーを始め、目的を持つ者の思考の方が理解できなかった。
バーン達の計画が仮に成功するとしても、生ある者はいつか滅びる。
バーンやヴェルザーの計画は、多少は他の魔族の為とも言える動機があった。それが彼の理解出来ない点である。
生ある者はいつか朽ち果てる。バーン・ヴェルザーのやっている事はある意味自分の死後の魔族の繁栄も考えているとでも言う様な計画だ。
逆にゾーマにはそれほど他者に興味を持てない。例外は部下のみである。
いつか朽ち果てる身であるというのにわざわざ魔族の為に働くという事がゾーマにとっては馬鹿馬鹿しいことだ。
つまりこの遊戯もゾーマにとって目的というものにはならない。必ず成功させよう等という精神は全くない。
だが、ゾーマの勢力が及んでいない地域の魔族は必ずゾーマが地上の支配を狙っていると誤解し、止めようとするだろう。
ゾーマはそれも考慮に入れた上で“地上支配ごっこ”の様なことを始めた。
自分に仇なす者達ならば殺せばいい。むしろゾーマはバーンを含め、自分に立ち向かってくる者を作る為にこんな遊びを企画したのだ。
自分に挑んで、我が腕の中で息絶えていく者を作る為に……
玉座の間から出たバラモスは入り口に立っていた二体の魔物に顔を向けた。
「何だ?このワシに用でもあるのか?」
五本の首を持つ龍がバラモスに近付く。
「ゾーマ様のお気に入りだからといって調子に乗らぬ事だな」
一方でバラモスにそっくりな魔物が口を開く。
「まあまあ、兄者も別に調子に乗っている訳ではないだろうし、いきなりケンカ腰にならなくてもいいじゃないか」
バラモスの弟は口ではそう言いつつも、眼はバラモスを認めていなかった。
だが実際実力はバラモスが二人に比べて上である。だからこそ主君も彼に全幅の信頼を寄せている。
「このワシに喧嘩を売るという事は、同時にこのワシを信頼して下さっているゾーマ様に反旗を翻すという事になるぞ」
バラモスは落ち着いた口調で二人に伝え、城を出た。
「クッッ、クソォ!!!!」
バラモスの弟が地面を殴りつけ、地団太を踏んだ。
〜天空城〜
ボブルの塔での戦いから一夜明け、六人は瞬間移動呪文で天空城へ降り立った。
「待ちかねていたぞ。これで我らが主、マスタードラゴン様が復活なされる。有り難い、勇者達よ」
勇者と呼ばれ、少々赤面するポップであった。
「プサンはどこへ行った?」
ラーハルトが長老を少し睨みつける。長老は何故?と問うた。
「プサンが来れば分かる。さあ、どこにいるのか教えてもらおう」
「今プサンは天空人だと嘘の証言をし、城へ侵入したことで牢獄に入っているが。
訳が有るのならば直ぐに釈放しよう」
牢獄から出たプサンは服も汚れ、みすぼらしい格好でダイ達の前に姿を現した。
「おお、それはドラゴンオーブ!!ダイ殿、それを渡して貰えますか?」
「え、いいけど……」
ダイからプサンに手渡されたドラゴンオーブはその淡い光をより一層強く輝かせる。
その大きな光はやがてプサンを包み、ダイ達一行を包み、天空城を優しく包み込んだ。
「うっ、眩し!!」
ポップが慌てて眼を塞ぎ、やがて光が消え、辺りの状況が確認出来るほど視界が回復した時、
そこにプサンの姿はなく、黄金色に光り輝く竜が存在していた。
「ま……まま……」
余程驚いているのだろう。長老は開いた口が塞がらなかった。それはダイ・ポップ・マァムにとっても同じ事である。
しかしラーハルトだけはやはりとでも言いたいような顔でその様子を見守っていた。
「マスタードラゴン様!!!!!」
普段は冷静な長老もこの時ばかりは流石に平静を保てない。そうでなくても先程まで牢獄に閉じ込めていたのだから。
自分は殺されてしまうかもしれない……それよりもただただ最愛の主君に対し申し訳ない事をしてしまった。
いっその事自分で死んでしまおうかとも思った。
「も、申し訳もございません!!!!」
「いや、良い。お主としても城を守る為の業務を全うしていた事は分かっている。
私が留守の間、御苦労だった」
「な、なんかいきなり喋り方変わりすぎじゃねえか?」
ポップが鼻水を垂らしながら突っ込んだ。
「ダイ、そして仲間達よ。改めて紹介しよう。我こそが天空を統べる者、マスタードラゴンなり」
その威風堂々とした姿は思わずダイに固唾を呑ませた程だった。
330 :
ガモン:2010/06/06(日) 10:54:39 ID:aOTxSgyP0
第二十八話 投下完了です。
サマサさん連続投稿申し訳ありません。
長い間続きが書けませんでしたが、やっと書けました。
顕正さんの小説に比べて思いっきり拙い文章ですが、まだ続きます。
(顕正さん、ご完結おめでとうございます。)
>>サマサさん
お疲れ様です。
トーナメント戦が遂に始まりますね。しかし、バキの最大トーナメントに比べて、
大会運営者や売店の方も決めておられるとは……幻想郷最大のお祭りを始めるに至っては準備が整っています。
東方キャラって自分の中ではそんなに強いイメージが無いのですが、レッドさんとどう闘うんだろう。
ヴァンプ様は天の国へ言っても部下達に料理を作っていると思います。
ヴァンプ様はとても悪人には見えないです。(実際悪人じゃないけど……)
恒例の選手入場ネタですが、こんなに作品の個性が出た選手入場も珍しいと思います。
331 :
ふら〜り:2010/06/06(日) 12:43:56 ID:8bJSIZQWP
>>サマサさん
こうしてみると壮観ですねぇ。この空気に圧倒されず、はしゃぎもせず、普段のノリを
揺るがせないヴァンプ様はやっぱり、内心レツドを応援してるんでしょうな。いわゆる、俺以外
の奴に負けるなど〜っての。でも実際、レッドの敗北なんか目にしたらどんな顔しますかね。
>>ガモンさん(お帰りなさいませっっ!)
人類全体に関わるような野望はなく、あるのは気分次第の欲望だけ。DIOではなく吉良って
ことですな。しかし隠れ潜む吉良と違って、軍勢を率いて他軍団にちょっかいを出す。他軍団
のみならず、人間側も反抗してくるのを知ってて、というか期待して。壮大過ぎる迷惑だ……
332 :
作者の都合により名無しです:2010/06/07(月) 12:52:01 ID:03iW0e3+0
サマサさんお疲れ様です。
やはりトーナメントのあの入場シーンは再現されましたかw
東方知らない俺にもなんかそのキャラわかった気になりましたw
そしてガモンさんお帰りなさい。
正直、投げ出しかなと思って心配していたんですが
これからダイやポップたちの活躍がまた楽しめると嬉しいです。
ガモンさんおかえり!
これからどんどん活躍してくださいな。
物語りも佳境ですし、未完はつらい。
全選手入場ネタはサマサさんの力の入れっぷりが感じられて好きだな
>>私に驚いてくれる奴はいないのか!!
これがちょっとツボったw
そしてガモンさん、復帰おめでとう
顕正さんとはまた違うダイ大アフターを、また楽しませてください!
335 :
作者の都合により名無しです:2010/06/09(水) 12:12:24 ID:8ltdwuTz0
ガモンさん以外にも復活してくれるとうれしいな
336 :
テンプレ1:2010/06/11(金) 19:13:40 ID:YvPtdBlh0
337 :
テンプレ2:2010/06/11(金) 19:15:08 ID:YvPtdBlh0
338 :
テンプレ2 修正:2010/06/11(金) 19:26:54 ID:YvPtdBlh0
339 :
ハイデッカ:2010/06/11(金) 19:35:44 ID:YvPtdBlh0
間違いがあったらすみません。
家のパソコン規制で慌ててネカフェであげてるんで。
(1ヶ月規制後に復活5日でまた規制。ふざけんな)
流石に1年以上来られてない方はテンプレから外しました。
寂しいけど、NBさん、ハロイさん、さいさん、電車魚さん、
フルメタルウルブスさん作者さんの復活をお待ちしております。
しかし、一時期からは考えられない寂しさだな・・。
テンプレ寂し過ぎるんで聖少女復活させてみた。
ぼちぼち書いてるんで次スレでは今までのあらすじ
と2話くらい書ければ、と。
しかし当の本人が内容をまったく覚えてなかった。
これには我ながら驚いた。他の人は余計に覚えてないわなw
ま、会社ぶっ潰れて暇になったし、3週に1本くらい上げれるようにしますわ。
聖少女復活キターーー!
ハイデッカさん書く書く詐欺はやめてくれなw
前も書くとか言って書かなかったし。
まあ、テンプレにわざわざ入れたんだから
それなりに準備してるんだろう。
それにしても会社潰れたのか。災難だな。
あと1本来たら新スレでちょうどいいかな?
ハイデッカ氏テンプレ乙。
復活は嬉しいけど、復活するなら簡潔させてな
SSスレという場所に初めて来たのですが、
原作展開から少し離れた設定のSSでも投下OKでしょうか?
今話題のハガレンで書き上げたものがあるのですが、
最終回を見てみたら自分の予想した展開とは設定が全然違ってまして。
…でも物書きとして寝食惜しんで書き上げた作品が愛しくてならんのです。
友人知人に見せるだけでは物足りなくて。
>>342 そういう原作のif的作品も充分アリだと思います!
>>343 ありがとうございます。
ではもうしばらくしたら投下はじめたいと思いますです。
おつきあい頂ければ幸いです。
イーストシティ、東方司令部。
客人の到着を告げられた彼女が応接室に入ると、ソファから黒髪長身の青年が立ち上がった。
その後ろには小柄な仮面の人物が直立し控えている。
脳裏にある情報と二人の容貌を照合し、招いた相手にまちがいないと判断して口を開く。
「シンの皇子、リン・ヤオとその護衛だな」
「貴女がオリヴィエ・ミラ・アームストロング大将カ」
相手がその名にうなずくのを確認し、リンは床に両膝をつき胸の前で手を合わせ頭を垂れた。
「我が部下、フーの遺体をわざわざ荼毘に附してくださったと聞いタ。感謝すル」
その後ろでリンとともに深々と頭を下げる仮面の護衛、ランファンは懐に祖父の遺髪と
「そこに魂が残る」と言い伝えられている喉の遺骨を持っている。
「おかげで魂損なわれることなく、共に祖国に帰れル」
アメストリスの風習は基本的に土葬であり、
基本的には遺体の損傷が激しいなど特別な場合しか火葬は行われない。
対するシンでは火葬を主とし、土葬は大罪人の埋葬法とされている。
郷に入っては郷に従え、と言うのは分かっているが、肉親より親しく在った、
体術の師でありその命を賭して宿敵を倒した彼を
異国の地でただ土葬にしてしまうのはあまりにも…むごい。
平伏する二人の前にひざをつき、リンの肩に手を触れてオリヴィエは答えた。
「シンの風習については調べたことがある。それに感謝するのはこっちの方だ。
貴殿がバッカニアの最期の願いを聞き届け、中央兵から我が部下たちを守り抜いたことへの礼だと思ってくれ」
もう一度深く頭を下げ、リンはうながされるままソファに、ランファンはその背後に戻った。
運ばれてきた珈琲を口にして、オリヴィエが切り出す。
「それにしても、あの日の貴殿のはたらきは実にめざましかったそうだな」
全身を硬化させ、ライフルの狙撃マシンガンの打撃をものともせず
装甲車や戦車の体当たりにもびくともせず、
ただ一人で中央軍をなぎ払ったと聞いている。
「味方にすれば何と頼もしい…!」
とは、そのすべてを見て、記憶して報告したヴァトー・ファルマン少尉の言葉でもある。
欲しい。入手すれば無二の戦力になる。
そのために今日彼らをこの場に呼びつけたのだ。
これ以上無駄な手順を踏む気はない。
カップを置き、オリヴィエは切れ長の目をすっと細めた。
「リン・ヤオ」
肉厚の官能的な唇に笑みを浮かべ、手を伸ばす。
「シン国になど戻らず、私の部下になれ」
冷たい指先がほおからあごにかけてゆっくり撫で下ろすその指が思い切りよく弾かれた。
二人の間に割って入ったランファンが怒気もあらわに唸る。
「若はシン国皇帝になる御方。異国の女郎ごときが軽々しく触れてよい存在ではなイ」
「ほう」
オリヴィエが立ち上がった。
アメストリス国随一の名家、アームストロング家現当主のプライドを
ここぞとばかりに全身にみなぎらせ、胸の前で腕を組み軽く背を反らせて言い放つ。
「同国人なら下賤の女でも良いと?」
あからさまに見下されたランファンがとっさに脳裏に浮かんだ言葉を返す。
「黙れ年増」
「ほざけ小娘」
「とにかく、若は貴様などには渡さン!」
「ならば勝ち取るがいい。場所は設定してやろう」
「望むところ。その言葉、後悔するなヨ」
リン本人の意思をよそに話ががんがん進んでいく。
「あのー、俺の意見は〜」
「若は黙っててくださイ!」
「賞品は黙ってろ」
ついに物扱い。
まあ、ここはとりあえず二人がお互いに気を取られているうちに逃げて
我が身の安全を確保しておこうか、とそろりと後ずさるリンの背後にまた別の人影が立った。
「!」
首に手刀を打たれて昏倒するリンに
「若ッ!」
気を取られたランファンのみぞおちにオリヴィエのひざが食い込み、
思わず体を折ってあらわになったうなじにひじ打ちが決まる。
リンを襲った人物がすかさずランファンの背後に回り、
両腕を背中の方にねじ上げて押さえつけた。仮面が落ちる。
オリヴィエの腕に抱き起こされるリンを目の当たりにしてランファンが蒼白になった。
「…若を離セ…!」
壮絶な殺気をはらんだ叫びをふふん、と鼻で笑い飛ばし、
オリヴィエが宣言する。
「勝負は一週間後。場所は追って指定する。逃げるなよ小娘」
ランファンの背後を取った人物に向かって目配せし、
「ごめんなさいね」
耳元で女性の声がしたかと思った途端にランファンの意識も暗転した。
場所は変わり、イーストシティ某所のホテル。
「リンが東方司令部でアームストロング姉に捕まったぁ!?」
「とどめ入れたのは私だけどね」
何故か突然イズミから呼び出されたエドワードは聞かされたことの次第に唖然とした。
「で、この子はリン皇子とやらの護衛さんに間違いない?」
ベッドの上で膝を抱え、殺気を隠そうともせずにこっちをねめつけている
鋼の義手、仮面の少女を肩越しに親指で刺してイズミが問う。
「あ、まあうん。で師匠、なんで東部にいるんですか」
「オリヴィエちゃんにねー、折り入って頼みがあるって呼び出されたのよ」
初めて会ったそのときから意気投合していたらしいのは知っていたが、
いつの間にそんなに仲良くなったのか。
つかあの女傑を「ちゃん」づけで呼べるとは、さすがイズミ師匠。
「旅費と滞在費を旦那の分まで出してくれるって言うから、
久しぶりの旅行がわりにいいかなって思って来たんだけど」
まさかお願いとやらがこんなことだとはね、とため息をつき、
イズミはランファンがうずくまったままのベッドに近づいた。
「エド、この子の名前は?」
「ランファンだよ」
「ランファンさん、…ごめんなさいね」
とっさに身構えたランファンだったが、真摯な謝罪の言葉を耳にして即攻撃、とまでは行かない程度に
緊張を解く。
イズミは慈愛に満ちた笑顔で仮面の下の瞳をのぞき込み、よしよしと頭を撫でた。
「おわびと言っちゃなんだけど、ちょっと私と特訓しない?」
一応貴方の見張りなんだけどねー、このまま人さらいの手伝いじゃ後味悪いじゃない、と苦笑する。
「勝って、堂々と帰りたいでしょう」
あまりにも意外な言葉を言われ、助けを求めるようにこっちを見るランファンに
エドワードはうなずいて見せる。
「あー、習っといて損はないと思う。そのひと俺とアルの師匠だし」
エルリック兄弟の体術が自分と同等か、時に勝ることすらあると知っている
ランファンは素直にその言葉に従うことにした。
そもそも従者として、あの魔女の手元からリンを救い出し
一刻も早くシン国へ戻るためにはなりふりかまってはいられない。
ベッドから下り、イズミの足下にひざまずく。
「お師匠殿」
「イズミでいいわよ。ただの主婦だから」
「では、イズミ殿。よろしくお願いしまス」
夕刻、イーストシティの一等地に新築されたアームストロング家別邸。
食事を済ませ、テーブルの向こうのオリヴィエにリンは問いかけた。
「人質というわりにえらく大事にしてもらってる気がするガ」
3食昼寝つきどころか、空腹になる間隔が他人より短いリンに合わせて豪華で美味な5食つき。
しかも邸内のみとはいえ自由に動いていいという許可までもらっている。
蒸留酒のボトルから手酌で満たしたロックグラスを傾けながらオリヴィエが返す。
「一国の皇子相手に無礼はせん」
そのセリフ、どの口で言うかどの口で。
「だが、躾のなってない部下には別だ」
…それはまあ、否定できない。年増呼ばわりはまずかったぞランファン。
「小娘は市内のホテルにいる。が、あの時お前を倒した者を見張りにつけてある」
ホムンクルス「強欲」と一つ身になってからの特殊能力のみがやたら注目されるせいで目立たないが、
元々リン自身も戦闘能力は高い。たいていの相手に不覚を取らないだけの腕はある。
いくら脱出に気を取られていたからとはいえ、
その自分にまったく気付かせることなく背後を取り急所を打つだけの実力を持つ者を
ランファンが無傷で倒せるかどうかは微妙、と冷静に判断するリンに向かって
オリヴィエは目を細めた。
「貴殿か小娘、どっちかが逃走したら容赦なく手出ししていいと言ってある。
おとなしくしておいたほうがおたがいの身のためだな」
的確にこっちの弱点見抜きやがって、と舌打ちする代わりに
水のグラスを勢いよく空にしてリンは立ち上がった。
「馳走になっタ」
オリヴィエが出て行く彼の背中に掲げたグラスの中で、氷が涼やかな音を立てて崩れた。
次の日の朝、イーストシティで最高レベルを誇る病院。
見晴らしの良い最上階、特別室の今の主は一人の少年。
彼の兄をはじめとする旧知の人々が入れ替わり立ち替わり見舞いに来るその一室には
常に花と様々な土産物が絶えない。
「オリヴィエ将軍とランファンさんの決闘かあ」
ベッドの上、体を起こしたアルフォンスがエドワードの話を聞き、目を輝かせた。
「そ。次の日曜に東方司令部の練兵場でだってさ。アルも見たいよな?」
「そりゃ面白そうだけど…この体で見にいけるかな」
「真理の扉」の前から救出されて1ヶ月。立つのがやっとだったガリガリの肉体は
十分な休養と栄養を摂取し適度な運動を行う日々のおかげで順調に回復しつつあるものの、
まだ長時間立っていたり長い距離を歩くことはできない。
「大丈夫、ロス中尉が特別席用意してくれるってさ」
「じゃあノックス先生に聞いてみて、外出許可が出たら行くよ」
「許可なんていらねーって。そんな長くかかんないだろうし」
「前に兄さんがマスタング大尉と模擬戦したときは朝から夕方までかかったじゃない」
「あーれーはー結局片づけまでさせられたからだって。会場こわしまくったのは大尉だし」
兄弟の他愛ない会話を興味深く聞きながら、
離れたテーブルで林檎をむいていたメイが皿をアルフォンスの枕元に持っていく。
ありがとう、と微笑んで林檎を手に取ったアルフォンスが首を傾げた。
「メイはシンに戻らなくていいの?」
「今のところハ、まダ」
「そっか」
「お、旨いなこの林檎」
「うん、昨日ホークアイ中尉が持ってきてくれたやつかな」
「エドワードさン、アル様のおやつ取らないでくださイ」
「いいじゃん1個くらい」
と言いつつもう1個手に取るエドワードから
動物を追い払うかのようにしっしっと手を振られたことにはむかつくものの、
兄弟水入らずの時間を邪魔し続けるのも悪いかと
メイは花瓶と花束をいくつか抱えて部屋を出た。
給湯室で花瓶の水を換え、痛んだり枯れたりしている花を外し入れ替え
どうにか見栄えよく生け直そうと努力しているところにエドワードが顔を出す。
「メイ」
また何か嫌みを言われるのか、と身構えるメイの肩にぽんと手を置き、
エドワードは頭を下げた。
「アルの看病、ありがとな」
本当なら自分がずっと側についていたいところだが、
「約束の日」からずっといろんな後始末に奔走させられているため、
一日に一度わずかな時間を作って会いに来るのが精一杯。
他人に頼みたくとも、皆それぞれの事情と生活に戻らなければならなかったため
「じゃあ私がつきそいまス」と言い出したメイに任せるしかなかったのだ。
正直最初はいかがなものかと疑っていたが、
見ている限り彼女の看病ぶりはなかなかかいがいしく、
かなりの医学的知識と応急手当に応用できる錬丹術を持ち合わせているため
安心していられると医師看護婦たちの覚えもよろしい。
…入院したばかりのころ、夜中にアルフォンスが急に心肺停止状態に陥ったことがあったが
すぐに気付いたメイが錬丹術を使って無事蘇生させたという話も聞いている。
「ほんと助かってる。アルもメイが側にいてくれるから安心だって言ってる。
けど…本当に、まだあっちに戻らなくていいのか?」
元々彼女の目的は一族のために「不老不死の法」を祖国に持ち帰ることだと聞いている。
しかしアメストリスから「賢者の石」がすべて失われた今、
彼女が求める「不老不死の法」を得るすべはこの国にはもうないのだ。
なのにもしかして、アルフォンスの看病のためだけに
彼女がアメストリスに残っているのなら申し訳ない。
メイが胸の前で手を組み、きらきらと瞳を輝かせて笑顔になった。
「エドワードさン、もしかして心配してくださってるんですカ?」
ペットのシャオメイとともに首を傾げる姿は文句なしに愛らしい。
しかし素直にそういう反応をされると、あえて反発したくなるのが彼の性格。
「いやそのときは、万歳三唱で見送ってやろうと思ってるから。
予定空けとかないとな」
その言葉に、彼女の表情が喜びから怒りに変わる。
一瞬でもこの相手に感激した自分が愚かだった。
「いつだろうと、誰にも、絶っ対に教えませン!」
怒りの勢いに任せてその場を片づけたメイはべーっと舌を出し、
花瓶を両腕に抱えて給湯室を出て行った。
日中、アルフォンスが別室で運動能力を取り戻すためのリハビリを行っている間が
メイの私的な時間である。自分の服を洗濯したり買い物したり、旧知の人物を訪ねたり。
「こんにちハ」
アルフォンスが入院している病院にほど近い、小さなアパート。
呼び鈴を鳴らしたメイを部屋の主、ティム・マルコーが出迎えた。
「こんにちは、メイちゃん」
「お邪魔しまス」
その部屋は、玄関に面して居間と小さな台所、その奥にベランダに面した2部屋がある造りだ。
向かって左側はマルコーの居室であり、もう片方には。
「スカーさン、こんにちハ」
ノックのあと、答えの戻ってこないドアを細く開けてメイは中に声をかけた。
昼間だというのにカーテンを閉め切ったままの薄暗い部屋。
ベッドの上、枕元の壁に背中を預けて座る褐色の肌の男が赤い瞳で
ただ目の前の空間を見つめている。
彼の名はスカー。
かつては悪名高きテロリストだったが、
自分が激情のままに屠った医師夫婦の娘との出会いをきっかけに改心。
2ヶ月前の「約束の日」においてはイシュヴァール人の同胞を指揮して
「逆転の錬成陣」を制作し、大総統キング・ブラッドレイに止めをさした
無二の功労者である。
彼自身は「約束の日」を阻止したあとで多くの国家錬金術師を惨殺した罪により
囚われ裁かれるだろうと覚悟していたのだが、
…結局罪はその功績と相殺され自由の身となったのだ。
だが、それは幸いではなかった。
両親に付けられた名を捨てて「傷の男」となり己の信じるもののために生きてきた
彼のすべての感情は、
もう一人の「名無し」ホムンクルス「憤怒」キング・ブラッドレイとの戦いで灼きつくされた。
一度は人生の目標とした、「テロ以外の形でアメストリスを変える礎となる」という
新たな熱い意志も、…今はもう、思い出せないまま。
ただ、生きている。
話しかければある程度は答えるし、自分から食事を取るし風呂にも入る。
しかしそれは、単に染みついた生活習慣に従い体を動かしているというだけだ。
今の彼は…まるで、作るときに決められた動きだけを延々と繰り返す人形のよう。
メイは小さなため息をついてドアを閉じた。
自分に珈琲、メイとシャオメイにココアを淹れてテーブルにおいたマルコーが問いかける。
「アルフォンス君の様子はどうだい?」
「体の調子は日ごとに良くなってこられてますけド、
夜ぐっすり眠れないのが一番おつらいみたいでス」
席につきながらしゅんとして答えるメイの頭を撫で、静かにつぶやいた。
「心だけは、術や薬で治せるものではないからね」
「そう…ですネ…」
スカーの部屋のドアを見つめ、二人は深いため息をつく。
その中にも、心を治せないままの男がいる…
「ところで。メイちゃんはいつシンに戻るのかな」
ほんの2時間ほど前にアルフォンスとエドワードからも投げかけられた問いを
三度投げかけられ、メイは今日はつくづくこの質問に縁がある日だなと苦笑した。
「まだ決めてないんですけド」
しかしいつかはシンに戻らなくてはいけない。本当は今すぐにでも。
「不老不死の法」を入手する望みが絶たれた以上、
一刻でも早く次の手を打たなければならないことは分かっているのだ。
分かっていて…一月たった今も、まだ、動けずにいるのは、
縁あって仲間になり普通以上の好意を抱いた二人、
アルフォンスとスカーにどうしても別れを告げられずにいるせいだ。
会えなくなってしまうには二人とも容態が重すぎて。
「…多分、いつかハ」
「ではそのとき、私もシンに連れて行ってくれないか」
細い瞳に強い意志の光をみなぎらせ、マルコーは語る。
「これはメイちゃんと話していて気付いたことだから
間違っていたら遠慮無く訂正して欲しい。
シン国には傷を癒すための優れた錬丹術があるけれど、
基本的な衛生に関する考えはアメストリスの方が発達しているね」
「ハイ」
一流の錬丹術師であり、シン国最先端の医術的知識を身につけているメイでさえ、
アメストリスに来てはじめて「清潔」を保つことのの大切さを知りその効果に驚いたのだ。
食中毒、伝染病、感染症。こまめに手を洗う、うがいをするなどの
ごく基本的な衛生知識を身につけるだけで防げる、または軽く済む病は数多い。
それに錬丹術を使わない単純な治療の際も、切開に使う刃物を火で灼く、
傷口を酒で洗うなど原始的な消毒法がありはするが、
医術を行うものすべてがそれを徹底して実施しているわけではない。
「だから衛生的な知識とその重要さを伝えて、…あと、自分で言うのもなんだが、
私は医療系の錬金術についてはかなりのものだ。
私の知識とシンの錬丹術を組み合わせたらもっといろんな治療ができるんじゃないだろうかと思う」
熱っぽく言葉を紡いでいた彼が、ふとテーブルに視線を落とした。
「本当はね、ずっと、もう医者も錬金術もやめようと思っていた」
多くの人間の命を利用して「賢者の石」を制作し、
その石がイシュヴァール殲滅戦に利用されたことへの悔悟は大きく。
「だけど、エドワード君やスカー殿やメイちゃんを見ているうちにね、
もう一度、人の役にたってみたいと思うようになったんだ」
この年でおかしいかい、と頭をかいたマルコーの手を取り、
メイが瞳を潤ませる。
「いいエ、…すばらしいでス、マルコーさン」
彼の理想がシン国で形になれば、どれほどの民が助かることだろう。
「微力ですけド、我がチャン族のすべてをもってマルコーさんに
ご協力することを私の名にかけてお約束しまス」
もちろん、…理想と感動と人情だけで協力を申し出ているわけではない。
マルコーを連れて行ってまずは「アメストリス国からわざわざ探してきた名医」のふれこみで
現皇帝に紹介する。そして彼が皇帝に気に入られれれば
チャン族の地位が上がる見込みも出てくると思うからだ。
他人の夢をも冷静に自己的な計算に組み込んだ自分に少し嫌悪し、
メイは冷えたココアを飲み干して立ち上がった。
「もうすぐアルフォンス様の運動の時間が終わるのデ。また、来ますネ」
道を歩きながら、メイはさっき浮かんだ自分の計画について考え直していた。
マルコーをシンに連れて行くのはいいのだが、そう簡単に皇帝に会わせることができるだろうか。
ただでさえいろんな部族、あらゆる者が手を変え品を変えて取り入ろうとしている状態なのに。
せめてヤオ家並みの勢力が在れば簡単な話だろうけど…
そういえばさっき、アルフォンスの病室で
リン・ヤオがこっちの女将軍に捕まりその護衛が彼を取り返すために決闘するとか
エドワードが言っていたけど。
あっちはあっちでさっさとシンに戻る必要があるだろうにいったい何をやってるんだか。
「!」
唐突に、情報の欠片が劇的な勢いで組み合わさり、一つの計画をはじき出した。
チャンスは間近、1回しかない。
成功させられれば逆転の可能性は大いにある計画だが、正直時間も人手も伝手も足りない。
やれるだろうか。
…否、やるのだ。
決断して、メイは出てきたばかりのアパートに駆け戻った。
呼び鈴を押し、部屋の主がドアを開けてくれるのももどかしく。
「おや、忘れ物かい?」
いぶかしげなマルコーの声を背中で聞きながら、スカーの部屋に飛びこむ。
こちらを見ようともしない彼の肩に手をかけて、揺さぶる。
「スカーさん、スカーさん」
この声が届きますように、と祈りながらくりかえし彼を呼ぶ。
シャオメイもメイの肩から降り、スカーのひざに飛び乗った。
足の上に置かれたままの彼の手にしがみつき、頭をすりつけぴょこぴょこと下げ、
懇願の仕草を繰り返す。
やがて、虚空に据えられていた赤い瞳がゆっくり動き、メイを映した。
「…メイか」
以前の彼からは考えられないほどのろりと片手を伸ばし、彼女の頭を撫でる。
「己れに、何をしろと」
シャオメイとともに彼の手を取り、メイは深々と頭を下げた。
「力を貸してくださイ。お願いしまス…!」
リハビリを終え、病室に戻ってきたアルフォンスを迎えたのは、
メイと白杖を携えた黒髪、サングラスの青年。
「待たせてもらってたよ」
手を上げて見せる彼にアルフォンスは笑顔で呼びかけた。
「マスタング少将、お久しぶりです」
車椅子を押してきた看護婦二人が、アルフォンスをベッドに寝かせて
「ごゆっくり」と声をかけ出て行く。
まず横になったままで対峙する非礼をわび、アルフォンスは単刀直入に切り出した。
「今日は、一人で来られたんですか」
「炎の錬金術師」ロイ・マスタング。
「真理」を見せられた際に失われた彼の視力は結局戻らないまま。
一度は退官の話も出ていた彼だが、錬金術師としての強大な戦闘能力は失われたにしても
その頭脳と才気を失うにはあまりにも惜しいという現大総統の一存により、
現在は傷病休暇扱いでリハビリ中の身である。
白杖を手にしたままメイが準備した椅子にかけ、ロイが答える。
「ああ、他人の手をわずらわせるのは好きじゃない」
「そうですよね。僕も、せめて一人で歩けるようになりたいんですけど…」
「君の場合は事情が全く違うだろう。だが、前にリザと来たときより
ずいぶん良くなったんじゃないか」
サングラスの下で見えない目を細めて。
「視力を失うと代わりに他の感覚が鋭くなると言うのは本当だな。
向かい合って集中すれば、相手の健康状態、感情…そんなものが分かるようになってきた」
これがシンの人間がいう気を読むということかも知れないな、と唇に笑みを浮かべた彼に、
アルフォンスは感嘆の声をあげる。
「すごい」
元々卓越した才能の持ち主ではあるが、そう簡単に短期間で会得できることではないだろう。
「本当にすごいことですヨ。気の流れを読むのは錬丹術師になるための基本ですけド、
それができずにあきらめる人は多いんでス」
「ほめてくれてありがとう、シンのお嬢さん」
メイを向いて極上の笑顔を出すロイを見て、そういうところは健在なんですね、と
あきれたような安堵したような気持ちになった途端にアルフォンスは眠気を感じ、目を瞬いた。
「アル様、少しお休みになりますカ?」
よく気が付くメイが声をかけ、
「ああ、疲れているところに長居しては悪いな。また来るよ」
ロイが別れの握手をして立ち上がる。
「私、マスタングさんをお送りしてきますネ」
出て行く彼の後をメイが追う。
その言動に何故か指先に刺さったトゲのような違和感を感じながら、
全身を満たす疲れに抗いきれずアルフォンスは眠りに落ちる。
メイがロイの手を引き、二人は建物の1階、無人の待合ロビーに来たところで足を止める。
「話が途中だったな」
「はイ」
「君にはリザの命を救ってもらった恩義がある。今の私にできることがあるならば、なんでも聞こう」
「ありがとうございまス」
ロイ・マスタング。どうにかして口実を作って連絡を取らねばと考えていた、
その彼が自分から出向いてきてくれたとはなんという僥倖。
…もしかしたら、運は自分の方に向いてきているのかも知れない。
そのことに心から感謝しながら、メイは彼への依頼を口にした。
木曜日の正午過ぎ。
東方司令部内に臨時に与えられた専用事務室で昼食を取っていたエドワードのところに、
デニー・ブロッシュ曹長が自分の昼食を抱えて来襲。
「ロス中尉と例の日曜日の件取り仕切ってるんだけどさー、
なんか今日になって大総統も見に来るとか言い出したからもうおおわらわ」
「こんなところで無駄話してる時間ないんじゃね?」
「だって俺司会なのに、何の情報も持ってないんだよー」
というわけで質問タイムがはじまる。
「司令官の相手さー、男?女?」
「女」
「美人?」
「まあ、美人」
仮面外せばだけどな、と内心でつけくわえておく。
おお、と何故かいたく感動した様子のブロッシュが、きらきらと期待に満ちたまなざしで質問を次ぐ。
「ウィンリィちゃんとどっちが美人?」
いきなりの単語に口の中のものを吹き出しかけてひとしきりむせ、
エドワードは頭を抱えた。
「なんでウィンリィがここで出てくんだよ…」
「だって俺、結局ちゃんとした答え聞いてないし」
「だからあのときも違うって言っただろっ」
「じゃあ君らの関係はー?」
う、と言葉に詰まるエドワードに追い打ちをかけるように、
「国家錬金術師エドワード・エルリック殿。司令官が執務室でお呼びです」
呼び出し。
現東方司令部の司令官と言えば他ならぬ話題の人、
オリヴィエ・ミラ・アームストロングに他ならない。
何だか知らないけど生きて帰ってこいよー、と涙するブロッシュに見送られ、
エドワードは足取りのごとく重い気持ちで司令官執務室へ向かった。
「遅い」
入室するなり怒声が飛んでくる。
気迫に圧され思わず直立不動になったエドワードに鋭いまなざしを向け、オリヴィエが続けた。
「エドワード・エルリック。以前リン・ヤオの護衛と戦い、勝利したことがあるそうだな」
「はい」
「ならば奴の弱点を知っているな」
知ってる。
知ってるけど、正体不明の敵だったラッシュバレーのときとは違い、
共にホムンクルスたちとの死闘をくぐりぬけた仲間である今のランファンはいわば戦友。
素顔を見せることを嫌い、いつもつけている仮面を外されると
反射的にひるみ致命的な隙を見せてしまうという彼女の弱点はできれば知らせずにおいてやりたい。
「お言葉を返すようですけどー、今さら弱点調べなくてもーアームストロング大将の腕だったら、
十分勝てる相手だと思」
「四の五のほざくな!」
一喝。
「エドワード・エルリック」
執務机から立ち上がり、つかつかと近づいてきて目の前に立ったオリヴィエが
彼の目をのぞきこんで唇を笑みの形にした。
「とっとと要点だけ答えろ」
壮絶に恐ろしい。なまじ修羅場をくぐり抜けてきたエドワードだからこそ、
これは絶対に逆らっちゃいけない相手だと本能で理解してしまう。
(ランファン、悪りぃ…!)
心の中で土下座しまくりながら、エドワードはすべてを白状した。
金曜日の深夜。
ベッドの中で、ランファンは寝つけない自分をもてあましていた。
イズミとの練習は最初に「特訓」と言われただけあって厳しく激しく、
体はくたくたに疲れているのに眠れない。
せめて目を閉じ神経だけでも休めようと思うものの、
今度はいろんな考えがぐるぐると回って余計目がさえてしまう。
何とか眠気が来そうな姿勢を探し何度目かの寝返りを打ったそのとき、
隣のベッドのイズミが声をかけてきた。
「ランファンさん、眠れないの?」
「…ハイ」
悟られているのなら仕方ない、と腹をくくって返事する。
体を起こし、ベッドに腰掛けてイズミはランファンを手招きした。
「じゃあ、ね、髪を触らせてもらってもいい?」
「は…はイ」
そっちに移動したランファンの髪をほどき、丁寧に櫛を通していく。
「まっすぐできれいな髪ね」
「あ、ありがとうございまス」
「他の髪型はしないの? 編んだりとか結んだりとか」
「動きの邪魔になるのデ、まとめておくのが一番かト」
「そうね」
他人とここまで距離を近しくし、しかも体の一部分を委ねるという経験がほとんどないため
最初は緊張していたランファンだったが、他愛のない会話をしているうちに
不思議とゆったりした気持ちになっていく。
だからその質問が、口をついて出てしまったのかも知れない。
「イズミ殿ハ、どうしてこんなに私によくしてくださるんですカ」
それはことの最初から思っていたことだ。
東方司令部でリンや自分を気絶させたあと、
自分だけこのホテルに運んできて同じ部屋に寝泊まりしている彼女からは
「私は見張りだから逃げないでね、逃げたらランファンちゃんを倒さなきゃならなくなるから」
と言われているけれど、…普通、こういう場合の見張りは
内部事情を明かしたり捕虜に稽古をつけたりしないものだと思うのだが。
背後のイズミから苦笑の気配が返ってきた。
「言ったでしょ? オリヴィエちゃんのお願いだけど、
本当は気にくわないのこういうこと。だからできる範囲でちょっと邪魔をね。
それに、…娘を、育ててみたかったからかしらね」
「…?」
「私、子供がいないのよ」
「す、すみませン」
「いいの、大丈夫」
あわてて頭を下げるランファンの頭を今度は手でそっと撫でて、続ける。
「エドワードとアルフォンスを弟子にして子育てみたいなことはできたけど、
男の子相手じゃできないこともあるじゃない」
髪を梳かしてあげたり、と微笑んで、ふと心に浮かんだ質問を投げかけた。
「ランファンさんのお母様はどんなひとだったの?」
「覚えてないでス。物心ついたときにはもう側にいなかったのデ」
自身も腕利きの護衛だった母はランファンを産んで体調が戻るとすぐ
彼女の主であるリンの母親の護衛の任に戻り、…そのまま主を守り抜き一生を終えたのだ。
「祖父が私を育ててくれたんでス」
「…お祖父様のことは残念だったわね」
「でも本望だったト」
その命を失っても、主を害そうとする強敵を倒すことができたのだから。
ランファンはうつむいて、左肩の付け根を押さえた。
「若ハ、…私のこの肩が治るまでト、帰国を延ばしてくださっテ」
キング・ブラッドレイと共に落下しようとした彼を救おうとして痛めた、
機械鎧の接続部分。
「どうせ『不老不死の法』はもう手には入らん。ならお前の肩の方が大事だ。
焦って戻ってもシンに整備士がいない以上その肩をどうすることもできんだろう」
わずかな時間よりおまえの腕を損なう方が惜しい、と言い切ってくれたことは、
心から嬉しかったけど。
「私の腕なんてかまわずシンに戻っていれバ、今のようなことにはならなかったのニ」
囚われの身の彼を思うと、苦しい。ひどい目に遭わされているのではないだろうか。
そして自分は、明日戦いの場に立って、
あの圧倒的な迫力を纏い実力も兼ね備えた女将軍に気圧されることなく戦えるのか。
もし負けて、本当にシンに戻れなくなってしまったら。リンが皇帝になれないとしたら。
彼を守るために命を捨てた、祖父にも顔向けができない。
ぎゅっと閉じたまぶたの裏が熱くなった。手に口を当てるランファンの肩を、
イズミが抱きしめる。
「大丈夫。練習のとおりにやれば、きっと勝てるから」
優しく、力強いイズミの言葉にすがるようにうなずくともう涙がこらえられなくなった。
彼女の肩に額を付けて、泣きじゃくってしまう。子供のように。
震えるランファンの背中をあやすように撫でながら、イズミがささやく。
「明日は特訓無しで、休養日にしましょう。
疲れを残してたら勝てるものも勝てなくなるから」
「ハイ」
「一緒に買い物に行かない? 何か買ってあげる」
土曜日の夜。
「明日の外出許可が出てよかったですネ、アル様」
回診の主治医を見送って、ベッドの側に戻ってきたメイが声を弾ませる。
「うん」
おやつとか飲み物持っていった方がいいですよネ、とくるくる動く姿をしばらく見つめて。
「メイ」
アルフォンスは静かに彼女を呼んだ。
おいでおいでされ、そこに座ってと側の椅子を指され、
メイがかしこまった面持ちで首を傾げる。
「どうか、しましたカ?」
「僕に何か隠しごとしてるよね」
単刀直入に問いただされ、メイは言葉に詰まった。
言わずにいようか、でも言わないと後で余計に彼を傷つけるだろうし、
でも言いたくないと迷っていたけど、…仕方ない。
「明日…シンに戻りまス」
アルフォンスにとってその答えは予想内のものだった。
「明日?」
「はイ」
「明日のいつ?」
メイが困ったように笑う。
「…ギリギリまデ、アル様といっしょにいますかラ」
うまくごまかしたつもりだろうが、そのことから明日何かやらかそうとしている事実が
透けて見えてしまっている。
そう来るなら「何か僕に手伝えることはある?」と、
もの分かりよくそう言うつもり、だったのに。
「行かないで」
口をついて出ていた言葉に一番驚いたのはアルフォンス自身だった。
「…ごめん…」
メイは脚の上で両手を握りしめ、うつむいて首を大きく左右に振った。
その言葉だけは聞きたくなかった、と心底思う。
肉体を取り戻してから1ヶ月、衰弱しきっていた肉体は安定し
年齢相応の筋肉をつけはじめたところだけど、
優しい彼の心は眠るたびに悪夢に苛まれ、
バランスを崩した精神は肉体を引きずり不調にする。
ずいぶん良くなったのにまだそんな状態の彼を置いて行きたくはないけど。
昼間、ひそかにロイから派遣されたヴァトー・ファルマン大尉から
東方司令部の内部構造と共に伝えられた「シン皇帝の容態悪化、予断を許さず」の情報を
耳にした瞬間に否応もなく計画は走り出してしまった。
でもきっと、多くの人々が気にかけ見守っていてくれる彼なら
私ひとりがいなくなっても大丈夫、と必死に自分を説得して、別れようと思っていたのに、
「行かないで」なんて言われたら。
「ごめんなさイ…ごめんなさイ、アルフォンス様」
あふれる涙が音を立てて服の上に滴り落ちる。
「でも、もウ…」
「泣かないで」
アルフォンスは体を起こし、身を乗り出した。
まだ全然思いの通りに動かない体を心からもどかしく思いながら
震える右手を伸ばしてメイのほおに触れる。
「今まで引きとめて、ごめん」
ささやいたそこで体重を支えきれなくなった左腕が折れた。
がくっと崩れる上半身をあわてて支え、
メイが苦労しながらアルフォンスをベッドに寝かせ直す。
「無理しちゃ駄目ですヨ」
「うわあ格好悪い…」
頭の中ではそのまま彼女を引き寄せて抱きしめるところまで展開ができあがっていたのに。
まだ全然自由にならない体が心底憎い。
毛布をかけ直してくれるメイの手を引き留めて握りしめてアルフォンスは告げた。
「普通に動けるようになったら、シンに会いに行くよ」
真摯な瞳にほおを染め、メイがからかうように答える。
「シンは、遠いですヨ。間に大砂漠もありますシ」
「メイだって一人で超えてきたじゃない」
「シャオメイも一緒でしたかラ」
「今度も、一人と一匹?」
「マルコーさんとスカーさんが一緒でス」
「そうなんだ」
彼女が一人じゃないことに安心し、
共に行ける彼らのことをうらやましく思い、アルフォンスは繰り返し誓った。
「絶対、会いに行くから」
「はイ。お待ちしていまス」
361 :
作者の都合により名無しです:2010/06/12(土) 21:34:59 ID:3sIe/1kh0
おお、ハガレン大好きだ。楽しみ
だけどもうスレに書き込めないと思うけど、
バイト数の問題で。
次スレに続き書いたら?
新スレ立てようと思ったけど無理だった。
でも好きな題材の新作が来て本当に楽しみだ。
作者さん、頑張って下さい。
ところでこれは連載なのかな?読み切りなのかな?
>>362 ハガレン作者です
読み切りのつもりで一気にあげてたら
ばいばいさるさんされました○| ̄|_
携帯からですがトリつけときます
あとバイト数とか関係あるんですね…無知ですみません
続きは次スレに載せます
じゃあ
>>360までを前編にして
残りを後日新スレにうぷしたらいいよ。
ふら〜りさんか誰かがまとめサイトに上げてくれるし。
確か502KBでスレに書き込めなくなるはず。
トリテストかねて
>>364 ありがとうございました。
自分も立てられなかったので新スレを待ちます。
366 :
作者の都合により名無しです: