【2次】漫画SS総合スレへようこそpart66【創作】
「―――はあ。なるほど…ヴァンプの野郎、ロクなことしねーな、全く」 ここはレッドさんの自宅―――正確に言えばレッドさんの彼女・かよ子さんの自宅で、ファラから今回の事の次第 を聞き、しかめっ面になったレッドさんという場面である。 「でもヴァンプさん、とっても優しくていい人だったよ?」 「だから世界征服できねーんだよ。悪の組織のくせして」 「そういう事を言わないの。全く、あんたって酷いんだから」 そう言ってレッドさんをたしなめたのが噂の彼女・もうすぐ三十路のかよ子さん。 全体的にスマートできりっとした容姿、可愛いというより凛々しい大人の女といった印象のしっかり者だ。 だらしないレッドさんを色んな意味で支える出来た女性で職業・保険の外交員。やり手である。 「―――ほら、二人とも終わったわよ」 コタロウは鼻に絆創膏を貼りつけられ、ディランは膝に包帯を巻かれていた。 「ありがとね、かよ子さん!」 「…あ、ありがとう」 元気のいいコタロウと、何故かはにかむディラン。かよ子さんはくすっと笑って、二人の頭をチョンとつつく。 「ケンカはよくないけど、女の子を守るために闘ったのよね。二人とも、かっこいいわよ」 「へへ…ぼくはレッドさんの愛弟子だからね!」 「愛しくねえし弟子にした覚えもねえよ」 レッドさんはすげなく言うが、勿論コタロウは聞いちゃいない。ディランはというと。 「…………」 顔を少し赤くして、膝に巻かれた包帯と、かよ子さんの顔を見つめていた…。 天体戦士サンレッド 〜召喚!異世界よりの使者(後編) かよ子さんは早速ヴァンプ様の携帯(高齢者向けのラクチンホン)に電話していた。 「―――ええ、そうなの。そういう訳でディランくんとファラちゃんはウチで預かってるから…え?いいのいいの、 お礼なんて。ウチの人、いつもヒマしてるだけなんだから。ちょっとはヒーローらしい事もしてくれないと…」 その様子を見ながら、ディランはレッドさんに問う。
「なあ。かよ子さんはレッドさんの…えっと、恋人なんだよな?」 「あ?そうだけど、何だよ。マセた事言ってんじゃねーよ」 「素敵な人だよね…やっぱり女の人って、レッドさんみたいな強い男が好きなのかな?」 「おいおい、急に何言いだすんだよ…ま、確かに弱いよりは強い男の方がいいだろうけどな」 レッドさんはにやりと笑って立派な力瘤を作る。グータラな彼だが、その肉体は非常に逞しいのだ。 「…………」 ディランは色んな意味で羨ましそうにレッドさんを見つめる。ファラは複雑な顔でディランに話しかけた。 「ディラン…もしかして、かよ子さんの事を好きになっちゃったの?」 「な!?何でそうなるんだよ!ただ、素敵だなーって言っただけじゃないか!」 「あー、ディラン!ファラちゃんがいるのに浮気なんて、いっけないんだー!」 コタロウも面白がって話に参加する。ディランはますます顔を真っ赤にした。 「ファラは関係ないだろ!別にボクはファラの事なんか何とも思ってないんだからな!」 「…何とも…思ってない…」 「う…一々泣きそうになるな、バカ!」 「こら、ディラン!またファラちゃんを泣かせたなー!何でキミはそう捻くれて…」 「―――静かにしろ、おいっ!」 ドンッ!とレッドさんがテーブルをぶっ叩く。お子様方はビクッと身を竦ませて黙り込む。 「おめーら、人んちでうるせーんだよ!…いてっ!」 「うるさいのはあんたでしょ。全くもう、そんなに怒鳴る事ないじゃないの」 容赦なくレッドさんのドタマを叩いたかよ子さんは、腕組みしながら説教する。 「いや、だってお前が電話中なのに、大騒ぎするから…」 「それでも正しい叱り方ってものがあるでしょ、全く…とりあえず、ヴァンプさんには連絡入れたから。すぐに迎え に来てくれるわよ」 「うんうん。それまではウチでゆっくり休んでいってよ」 「コタロウ。お前んちじゃねーだろ、ここは俺んち…」 「あんたのウチでもないでしょ。私のウチよ」 「…………」 黙るしかないレッドさん。彼はかよ子さんには絶対に勝てないのである。 ヒーローの恋人・かよ子さん。ある意味で川崎市最強の女傑であった。 ちょっと気まずい空気の中、ディランが口を開いた。
「あ…あの、かよ子さん」 「どうしたの、ディランくん?」 「かよ子さんは、その…ヴァンプさん達と仲がいいの?」 「え?そうねー。よく料理のお裾分けを貰ったりするし、いいご近所さんよ」 「でも…」 ディランは口ごもりながら、言った。 「でもあいつらは、怪人で…化け物じゃないか…」 「化け物?どこが?」 かよ子さんは、特に糾弾するでもなく、静かに訊ねた。 「どこがって…どう見てもおかしいよ。あんな変な連中…人間じゃない。化け物だ」 「そうね。確かにあの人達は怪人であって、人間じゃないわね」 だけど。 「ヴァンプさん達は、確かに怪人だけど…心はどこにでもいる、お人好しの人間そのものよ」 「心…?」 「そう。心」 かよ子は、優しくそう言い聞かせた。 「だからディランくんも、人の見てくれよりも心をきちんと見れる人になってほしいって…そう思うな」 「かよ子さん…」 その時、玄関のチャイムが鳴り響く。ドアが遠慮がちに開くと、そこには汗びっしょりのヴァンプ将軍がいた。後ろ にはカーメンマンとメダリオの姿も見える。二人も相当走り回ったのか、息を切らしていた。 「ご…ごめんね、かよ子さん。二人の面倒見てもらっちゃって」 「あら、いいのよヴァンプさん。ディランくんもファラちゃんもお行儀よくしてくれて…」 「あ、そうですか!それはそれは…あれ?もう一人子供がいるけど、もしかしてレッドさんの子じゃあ…」 「んなわけねーだろ!近所に住んでる吸血鬼のコタロウだよ」 「へー。はじめまして、コタロウくん。私、レッドさんと敵対してる悪の組織フロシャイムのヴァンプ将軍だよ」 「うわー、おじさんが悪の将軍!?それじゃあレッドさんとはいつも血で血を洗う死闘を繰り広げてるんだね!」 「いやあ、ははは。それほどでもあるかな、うふふ…」 「ガキ相手に見栄張ってんじゃねえよ!いいから早く小僧とお嬢ちゃんを連れて帰れ!」 「は、はい!それじゃあ帰ろうか、ディランくん、ファラちゃん」 レッドさんの剣幕に、ヴァンプ様は慌てて二人を促す。
「うん。来てくれてありがとうね、ヴァンプさん。レッドさんにかよ子さん、お世話になりました!」 「あの…さよなら。それと、かよ子さん」 元気一杯のファラに対して、ディランは少し口ごもった。 「なあに?ディランくん」 「また…遊びに来てもいいかな?」 かよ子さんはクスっと笑って、ディランの頭を撫でた。ディランは恥ずかしそうにしつつも、されるがままだ。 「いいわよ。いつでもいらっしゃい」 「…うん」 そしてアジトへと帰っていく一行を見送り、かよ子さんはレッドさんとコタロウに目を向ける。 「ほら。あんたはコタロウくんを送っていきなさい」 「え…コタロウをか?俺が?」 「あんた以外に誰がいるの。もうすぐ暗くなっちゃうし、こんな小さな子を一人で帰らす訳にいかないじゃない。以前 も送っていってあげた事あるんでしょ?」 「いや、そうだけど今日はこれから見たい番組あるしよ…それにこいつ吸血鬼だし、夜は平気だと」 そんな抗議を黙殺し、かよ子さんはコタロウに笑顔を向ける。 「コタロウくんはこの人に送ってってもらいたいわよね。ねー?」 「うん!ぼく、レッドさんとまだまだ一緒にお話ししたいなー!」 「んなっ…コタロウ、お前なあ…」 「いいじゃないの。あんたを慕ってくれる子供なんて他にいないんだから、優しくしてあげなさい」 「…………」 結局レッドさんはコタロウの手を引いて、彼の兄と雇い主の待つマンションへと向かう事になるのだった。 「―――それでね。公園でディランとコタロウくんと一緒に遊んで、二人がファラのために悪い人達と闘ってくれて、 レッドさんがとっても強くて、かよ子さんは優しくて素敵だったの」 「へー。そんな事があったんだ」 ファラの手を引き、相槌を打ちながらヴァンプ様は家路を辿る。そのすぐ後ろを歩きながら、ディランは思う。
(この人達は…人間じゃない) だけど。 (だけど…ボクの知ってる、どんな人間よりも優しい) ―――ディランくんも、人の見てくれよりも心をきちんと見れる人になってほしいって…そう思うな 「ん?どうしたの、ディランくん。あ!もしかして傷が痛むの!?大丈夫?ちょっと休んでいこうか?」 「い、いえ…そうじゃありません。あの…皆さん」 ディランは俯いて、ようやく言葉を紡ぎ出す。 「…迎えに来てくれて、ありがとう」 そして、頭をペコリと下げた。 「それと…化け物だなんて言って、ごめんなさい」 「いいんだよ、もう。ほら、今日は鶏ダンゴ鍋を作るから、早くウチに帰ろう」 ヴァンプ様は照れたように笑って、ディランの小さな手を包むように握る。 ディランもその大きな手を、しっかりと握り返した。 カーメンマンとメダリオも、まあしょうがねーから許してやるか、と言いたげに苦笑するのだった。 ―――それからの一週間、二人は神奈川県川崎市・溝ノ口にてたくさんの思い出を作った。 川崎支部の怪人達は、ディランとファラをまるで本当の弟妹のように扱い、二人もそれに素直に甘えた。 公園でコタロウと遊び、そしてその三人でレッドさんとフロシャイムの対決を見学させてもらった。 (※なお、この時のレッドさんは子供達が見ているという事もあって珍しくサービス精神を発揮し、バトルスーツを 着用して対決に臨んだ。そしていつもの十倍はエンターテイメント性溢れる闘い振りを見せて、子供達を大いに 興奮させたのだった。ただし、対決に駆り出された怪人はいつもの十倍ボコボコにされました) 時にはレッドさんの家…もとい、かよ子さんの家でかよ子さんの手料理も御馳走になったりした。味については… 言わぬが花というものだろう。 ファラは彼らとの時間を存分に楽しみ、そしてディランもいつしか、何処にでもいるごく普通の子供のように、屈託 なく笑うようになった。
皆の優しさに触れて、強さに触れて、笑顔に触れて、捻くれた子供だったディランは少しだけ、けれど確かに何か が変わった。この街に来て、よかった―――彼はそう思った。 けれど。 そんな魔法のような時間も、もうすぐ終わる。 二人には、二人の帰るべき世界があるのだから――― ―――装置の充電も無事に終了し、ついに二人が元の世界<ルーンハイム>へと帰る時がやって来た。 川崎支部アジトにはそれを見送るために大勢の怪人や、すっかり仲良くなったコタロウ、そしてレッドさんとかよ子 さんの姿もあった。 「ファラ、寂しいな…これで皆とお別れなんて…」 「ほらほら、ファラちゃん。やっとおうちに帰れるっていうのに、泣いてどうするの…グスッ…」 ヴァンプ様は泣きそうになっているファラを慰めつつ、自分も貰い泣きしていた。 「お前の顔も見納めかと思うと、ちょっと名残惜しいなー」 「ま、お前も来た時に比べりゃ随分マシになったな。あん時はもう呪ったろかこのガキって思ったもん」 「う、うるさいな!もう謝ったんだから蒸し返すなよ!」 何だかんだですっかり仲良くなったらしいメダリオとカーメンマン、そしてディラン。 「ぼくの事も、忘れないでね!」 別れの悲しさを我慢して、精一杯の笑顔でコタロウが手を振る。ディランとファラも、笑顔で手を振り返した。 「ま、俺もお前らみたいなこまっしゃくれたガキがいたって事は、精々覚えといてやるよ」 レッドさんも憎まれ口を叩きながら、その横顔はどこか寂しげだった。 そして、かよ子さん。 「ディランくん、ファラちゃん。二人とも、いつまでも仲良くね」 「かよ子さん…うん!ファラ、ディランとずっと仲良くする!」 かよ子さんはそれを聞いてにっこり笑い、ファラの頭をそっと撫でる。 「―――かよ子さん!」 そしてディランは、胸の内全てを吐き出すように叫んだ。 「ボク…レッドさんみたいに、誰よりも強い男になるよ!それで…それでかよ子さんみたいな素敵な人を見つけて、 その人と結婚するんだ!」 かよ子さんはその告白に目を丸くしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「ありがとう、ディランくん。でもあなたには、探さなくてももういるじゃない」 ファラを指差し、かよ子さんはいたずらっぽくディランに囁く。 「ほら、こんなに素敵なお姫様が」 「う…ち、違う!あいつとは、そんなんじゃ…」 「あら、じゃあファラちゃんの事は嫌いなのかしら?」 「そ、それは…そういう言い方は、ずるいよ…」 「そうね。ごめんね、意地悪な事言って。けど、ディランくん」 ディランの手をそっと握り、かよ子さんは言った。 「あなたが私の事を素敵だって言ってくれたのは、本当に嬉しいわ。ありがとう」 「…かよ子さん」 「元気でね、ディランくん」 「…うん!」 「―――よーし、装置の準備は出来たよ!二人とも、用意はいいかい?」 ヴァンプ様の声に、ディランとファラは顔を見合わせて頷く。名残は尽きないけれど、もう帰らなければならない。 「皆…さよなら!ずっと覚えてるから…絶対、忘れないから!」 ―――こうして、神奈川県川崎市での少年と少女の物語は終わりを告げた。 ここからは、彼らの世界でのお話――― ルーンハイム・セレスティア王国。その城下町では、子供達が和気藹々と遊んでいた。 人間の子供もいれば、翼を持つ民―――<ランカスタ>の子供もいる。 姿かたちの違いなど気にせず、彼等はただ幼い日々を謳歌する。 そんな時、こちらに近づいてくる小さな人影を見つけて、皆一様に眉を顰める。 「…あ。おい、あれ…」 「帝国のディラン皇子じゃないか…」 「何しに来たんだ?」 はっきり言ってあまり印象のいい相手ではない。帝国といえば反ランカスタ思想の象徴であり、その皇子という時点 で普通の子供にとっては取っ付き辛い。向こうの方も、自分達と仲良くする気など毛頭ないような態度を見せていた ため、これまで同年代の子供達との交流などなかったのだ。
「…あの、さ」 ディランは彼等の前で立ち止まり、やや遠慮がちに口を開いた。 「ボクも…一緒に遊んでもいいかな…」 意外な申し出に、子供達は呆気に取られたように顔を見合わせたが、すぐに笑顔になった。 「いいよ、一緒に遊ぼう!」 それを聞いて、ディランも照れくさそうにしながら子供達の輪の中に入っていった。 「じゃあ、何して遊ぶ?」 「鬼ごっこ?」 「かくれんぼは?」 「うーん。どれもありきたりだよなあ…」 「あ…じゃあボク、やってみたい事があるんだけど」 手を上げてそう言ったディランに、皆の視線が集中する。彼ははたして、この遊びを提案したのだった。 「―――天体戦士サンレッドごっこ!」 ―――後日、王国の子供達の間では、この遊びが大流行する事になるのだった。 なお、一番人気はヴァンプ様役であったそうだが、ディランはレッドさん役にこだわりを持っていたという。 時にはその中にファラも加わり、その場合はレッドさん役のディランと一セットでかよ子さん役を演じたそうな。 ―――それから、月日は流れ。 ファラは、立派な美少女に成長していた。 「ふふ…ディランったら、まだやってる」 王宮のテラスから、中庭を見下ろす。 「なんというか、その…昔からは信じられないほど変わったな、ディランは…」 ファラの父であるセレスティア国王が、冷汗をかきつつ答えた。 「そうね。でも…」 ファラは、にこやかに笑う。 「ディランは、誰にも恥じることのない―――ルーンハイムのヒーローよ」 「そうか…そうだな。ディランがいなければ、我々はどうなっていたことか」
国王は、それでも何だかなあ、といった顔で、ただ一言、率直に今の心情を語った。 「どうしてこうなった」 そして、当のディランはというと。彼もある意味で立派に成長していた。 「おいテメエ!誰が足を崩していいっつったんだオラァ!膝の皿抜き取るぞコラァ!」 彼は今、王宮の中庭に色んな奴を集めて正座させ、説教をかましていた。 具体的に言うと色々企んでた父親である皇帝やら、どっからどう見ても怪しい宰相やら、一目見ただけで怪しすぎる 三博士やら、色々あってディランを憎んでいた双子の弟やら、洗脳されていたファラの兄貴やら、帝国が誇る二人 の将軍やら、魔界の支配者級魔人三体やら、しまいには世界の破壊を目論んでいた黒き女神やら、原作ゲーム 知らん人でも<よー分からんけどスゲー連中なんだろうなあ>と想像がつくであろうそうそうたるメンツである。 簡単に説明すると帝国は王国への侵略を画策していたり、黒幕は宰相だったり、もうとにかく色々あったんだけれど、 ディランはこいつら全員かるーくワンパンKOして皆まとめて正座させて説教しているのだ。 これもレッドさんの強さに憧れ、それを目指して日々鍛錬していた賜物である。ディランの戦闘力は、もはや本家の 天体戦士サンレッドにも匹敵するほどになっていた。 そう、彼はまさしくルーンハイムを照らす太陽となったのだ。 そして彼の傍には、子供の頃と同じようにファラがいる。何よりも強く自分を支えてくれる、大切な絆が――― ルーンハイムの平和は、これからも揺らぐことはないだろう。 ディランの胸に、神奈川県川崎市で出会った人々の想いがある限り――― ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語であり、その正義の光は遠い異世界の少年 の心で、今なお輝き続けている。
投下完了。
>>1 さん、スレ立てお疲れ様&ありがとうございます。
前スレ432からの続き。後編です。
最後のオチが酷い事になってしまいました(爆)。レッドさんのように強い男ってか、レッドさんそのものと
化すとか…ヒーローとの出会いが少年の運命を変えた、と言えば聞こえはいいのに。
なお、かよ子さんの容姿についてはアニメ版準拠です。原作だと、顔がコロコロ変わりすぎなんで…
アニメ見てから原作サンレッド一巻読んだら、大概驚くと思います。色んな意味で。
前スレ448
レッドさんはもう<チンピラに世界最強クラスの力を与えた結果がこれだよ!>としか言えません。
しかし僕の題材にする元ネタはなんでこう、いつもいつもどっかズレてるんでしょうか(笑)
前スレ449
それはまあ、アレです。チチだって無事に悟飯と悟天を産んだことだし…
レッドさんは一応ヒーローだし、子供には優しいんじゃないかなー、と思います。
>>ガモンさん
まさかの遊戯王ネタ…しかもクル・エルナ村か!
結構エグいネタが多い遊戯王の中でも、屈指のエゲツないエピソードですよね、これ。
この後に待ち受ける惨劇を知る身としては、仲間達と戯れるバクラが悲しすぎる…。
彼は<加害者>であると同時に<被害者>で<犠牲者>なんですよね…。複雑だ。
ホルアクティ召喚はもう、勢いでやっちまったとしか。初期設定ではバトルシティ終了後くらいの
つもりだったんですが、時系列ムチャクチャです(汗)。
古代編終了後、原作のエンディングまで一ヶ月しかないもんなあ…その辺りは二次創作という事で
曖昧に見ていただくしか(おい)。
>>ふら〜りさん
原作を読んでいただければ、ヴァンプ様がどれだけ<オカン>なのかがよく分かります。どっかズレてて
時には図々しくて、でもお人好しで憎めない、そんな<お母さん>。
かよ子さんは作中でも書いた通り、間違いなく川崎市最強です。
15 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:23:27 ID:m3Ni7s1G0
「ふふふ……ははははは!! いかにスプリガンの魔女といえど、 わらわの悪夢の世界の前には、何もできぬか!?」 黒の女王アリスが、傲岸に、傲慢に、哄笑をあげる。背後に漆黒の悪夢達を従えて。 いまや彼女が従える悪夢の軍勢は、ティアの完全に包囲していた。そこに逃げ道はなく、また、逃がす気もないのだろう。 雲霞のごとき数の黒の兵士達が鎧を軋ませ、醜悪な容貌をした悪夢の怪物達が気味の悪い笑い声を上げる。 ひとつの生き物のように、彼らはざわめき、蠢き、嘲笑う。たったひとりで自分達に立ち向かうことの愚かさと、 たったひとりの人間の無力さを。 無力な人間を恐怖させ、嬲り、いのちを奪う――それが彼らに与えられたキャストだ。その割り振られたキャストを演じる限り、 彼らには、人間を容易く殺せる権能が約束される。人間の不安や恐怖といった負の想像が彼らの由縁であり、原典たる グリモワール・オブ・アリスが殺戮の物語を描き続ける限り、彼らは、永遠に人間の涙と血を吸い続けるだろう。 純粋な恐怖の塊。ただの人間では発狂を免れまい。だがティアはまったく恐怖を感じていなかった。 いつものように、その唇に冷たい微笑みを浮かべている。こんなもの、まったく脅威ではない、とでも言いたげに。 その態度が、黒の女王アリスの癇に障る。 「貴様……何故、怯えぬ。何故、悲鳴をあげぬ。いまから貴様は、それはそれは惨めな死を遂げるのだぞ」 「怯える? 悲鳴をあげる? どうして、そんなことをしなくちゃいけないのかしら」 「わらわの悪夢の世界を前にした人間は、そうするしかできないからだ! 自らの無力さに涙し、迫りくる死に何もできず! ただ終焉を享受することしかできない! そしてそのときこそ、わらわという存在が輝く瞬間なのだ! 人間の敗北――それが訪れるとき、わらわの権勢が永久不滅であることが証明される!」 ふっ、とティアは息をつく。それには蔑みと哀れみが含まれている。 「あなたは、そんなことのために戦っているの? くだらない。 きっとフュンフちゃんだって、そんなものに何の価値もない、って言うでしょうね」
16 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:24:56 ID:m3Ni7s1G0
「気でも違ったか魔女。フュンフ=〈アリス〉とはわらわのことだ!」 「いいえ。あなたは、フュンフちゃんに取り憑く哀れな影。そうすることでしか力を発揮できない、空ろなる夢まぼろし。 ……そんな空虚なものを、どうして恐れることができるのかしら? それに、あなたは人間を侮りすぎている。こんな悪夢の世界よりよほど人間は、強く、まばゆいものよ」 「ハッ! わらわに恐怖することしかできない人間どもが、わらわより強いだと? 世迷いごとも大概にせよ! 人間など、赤子の手を捻るより簡単にくびり殺せるわ!」 「あなたは人間の強さを知らない。あなたは人間の可能性を知らない。たしかに人間は儚く、脆い。 けれどその手には無限の可能性が秘められている。なにかを生み出すことができる。 古代文明が残した遺産よりよほど素晴らしいものをね。そしてそれは、フュンフちゃんにも言えることよ」 「馬鹿な。貴様はこやつのことを、人間と見なしているのか」 「ええ、そうよ」 「はははは! おもしろいぞ、魔女! 貴様の冗談はおもしろい! 馬鹿め、わらわが空ろなる夢まぼろしというのなら、 もうひとりのわらわ、このフュンフ=〈アリス〉も同じ! 人間ではない。 グリモワール・オブ・アリスから生まれた物語のキャラクター、架空の人物に過ぎぬ!」 黒の女王アリスのキャストを演じ、もはや別人になり果ててはいるが、他ならぬフュンフ自身が語る。自分は人間ではないと。 だが、そうではないと、ティアは揺るぎない確信を以ってそう思う。その理由は、奇妙なお茶会でフュンフの言葉だ。 自分の物語がほしい――そう語る彼女の瞳には、自分の未来を切り開こうとする確固たる意思が存在していた。 ならば、たとえ肉を持たぬ幽玄な存在だとしても、一冊の本から生まれた架空の存在だとしても、 「自分の物語を手に入れるということは、自分の人生を手に入れることと同じ。誰にも強制され、自分の意思で道を切り開いていく。 その先にあるのは、決して光り輝くものではないかもしれないけれど。少なくとも、誰かに強制されず、自分の未来を選択することが できるわ。それができるのは、人間だけよ。そして――」
17 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:32:36 ID:m3Ni7s1G0
ティアは、黒の女王アリスへと冷ややかな、けれど、確かに熱いものを含んだ視線を向ける。 「私は人間を愛している。人間の意志を愛している。そして、人間の意志を歪めるものを、決して赦しはしない。 だから、フュンフちゃんの意思を歪め、他人の物語を強いるあなたを、私は絶対に赦しはしない」 ティアは何かの言葉を囁いた。それはただの言葉ではなかった。魔女の紡ぐ言葉には力が宿るのだ。 それはルーン文字であり、黒の女王の世界を崩壊に導く革命の楔だった。 「――ぐ、あ、があァッ!?」 突然、黒の女王アリスの様子が変わった。胸を強く握りしめ、何かを恐れるような表情を浮かべている。 彼女の背後の影もまた、不安げにざわめいていた。そばに控える悪夢の軍勢も同じく。 彼らの存在の根幹を揺るがすような事態が、静かに進行している。 自分の中で致命的な変化が進んでいる――そのことに黒の女王アリスは怯える。 自身の世界を、支配を脅かす何か。それは、ひとつの声だった。 心の深奥より響いてくる声。暗闇の中でささやかに響き渡る、誰かの声。 ティアの力ある言葉に応えて、その声の主が、意識を取り戻したのだ。 グリモワール・オブ・アリスが用意したキャストに塗りつぶされていた彼女が、黒の女王の支配に抗い、意識の表層に現れ始めたのだ。 ――アリスの顔に、ふたつの貌があらわれていた。 ――小さく形のよい鼻を境に、きっちり半分、黒の女王の貌と、もうひとつ。 「馬鹿な……黒の女王の時間はまだ終わりを迎えてはいないはずだ。白兎の時計は正しく進み続けているはずだ。何故、貴様が――!」 もはや恐慌状態に陥った黒の女王が言葉にならない声でわめく。 「この革命のルーンは、あらゆる王政を瓦解させる言霊。黒の女王、あなたが統べる悪夢の世界に終わりをもたらす言葉よ。 革命のルーンは圧制に苦しむ誰かの声に応える。その声がなければ、起動さえ叶わないけれど。 つまり、あなたのキャスト――黒の女王を演じているその子は、あなたの王政を望んでいない。 こんな物語なんて望んではいないということよ。そうでしょう? フュンフちゃん――」
18 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:33:25 ID:m3Ni7s1G0
ティアの言葉に応えて。無意識の深淵に封じられていたひとりの少女が目を醒ます。 それはあり得ないことだった。グリモワールの筋書きは絶対だ。ただひとを殺せと囁き、自由意志を奪い、 己の望みを叶えさせる人形へと書き換える。哀れな少女の意思など一顧だにしない。その筋書きには、いかなる意思も介入する余地はない。 それは少女のあるじである鉤十字の魔女でさえ例外ではない。 だが―― もしも物語の登場人物が意思を持ったならば。一切の齟齬を赦さぬ絶対の予定調和を紡ぐ筋書きに対して、反逆するのではないか。 それが、自分の願いに反する筋書きならなおさら。 それが、己が物語に息づくすべての存在を支配する神であると僭称する、愚かで傲慢な書き手が紡ぐ筋書きならなおさらのことだ。 物語の登場人物の意思。 大河のように大きな流れを形成する物語において、それは、確かにささやかな力に違いない。 だがこの刹那において、彼女の意思は――フュンフ=〈アリス〉の意思は、グリモワールが描く筋書きさえも凌駕するのだ。 「控えよ! いまは貴様が出るときではない! 残酷な女王のキャストを全うしろ! グリモワール・オブ・アリスの物語を紡げ! 人間を恐怖させ絶望を味あわせろ!」 『イヤよ』 声が―― 黒の女王の最奥から響いて―― 確かにそれは否定の言葉だった。彼女の本心からの願いだった。 グリモワール・オブ・アリスの筋書き。それは、無辜の人間に涙を流させ、悲鳴を上げさせる、嘆きと絶望の物語。 物語の登場人物の運命を絡めとり隷属させる、チャールズ・ラトウィッジ・ドジスンが数と言葉とで組み上げた絶対なる恐怖の機構。 だがそれはまだ筋書き(みかんせい)であるがゆえに、まだ、物語の結末を書き換えることができる。 そして、彼女は否定の言葉を口にした。拒絶の言葉を口にした。ならば、まだ彼女を助けることができる。まだ、言葉は届くのだ。
19 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:37:19 ID:m3Ni7s1G0
「フュンフちゃん。あなたはさっき、グリモワール・オブ・アリスの筋書きに従わなくちゃいけない、そう言ったわね。 わたしは物語から生まれた登場人物だから、と。でも、それは間違いよ。物語の登場人物が筋書きに従わなくちゃいけないなんて、 誰が決めたの? 物語は最初からすべてが決まっているものじゃないわ。常に流動する、一個の生き物のようなものよ。 それに、その物語の主人公は、作者ではなく、その物語の登場人物なのよ。グリモワール・オブ・アリスに、そしてグルマルキンに従い、 最悪の物語を紡ぐ必要なんてないわ。 そんなキャストを演じなくても、あなたは、あなた自身の物語を掴めるはずよ」 「黙れ! 黙れ魔女! そのような妖言で、わらわを、わらわの世界をかき乱すなァッ!」 ぴしり、ぴしり、と。黒の女王の貌に亀裂がはしっていく。少女を縛る鎖が軋みをあげる。少女を苛める悪夢が終わりを迎える。 自分が終わる――その恐怖に、黒の女王は震え、怯えた。 「あなたの時間は、これでおしまいよ。黒の女王。夢は醒める、それがどんな怖ろしい悪夢でも、必ずね」 そう言ってティアは、指で虚空に軌跡を描く。"革命"のルーンが、黒の女王の額に刻まれる。 あらゆる王政を瓦解させる力強き言霊。魔力と想いが込められた神秘文字が、悪夢の世界を崩壊へと導いていく。 『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』 禍々しい叫び声をあげて―― 悪夢の怪物たちが崩れていく。歪み捻じ曲がった不思議の国の住人達が、壊れていく。 硝子細工のように身体の全身に亀裂がはしって、金属音を奏でながら、砕けていく。 砕けた破片は黒い液体のようなものに変わり、太陽の下で蒸発し、儚き幻想へと還っていく。 グリモワール・オブ・アリスの物語が、終わりを告げる―― 「あ、ああ……馬鹿な……わらわの悪夢の世界が……グリモワール・オブ・アリスの物語が……! ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」 ――黒の女王の断末魔の叫びとともに、 ――黒の女王のキャストが、少女から剥がれ落ちる。
20 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:38:31 ID:m3Ni7s1G0
そしてあらわれたのは―― 黒の女王のキャストを演じていた少女。 グリモワール・オブ・アリスが紡ぐ残酷で無慈悲な物語ではなく、別の物語を求める少女。 フュンフ=〈アリス〉だった。 「……まさか黒の女王のキャストを強制的にキャンセルするなんてね。恐れ入ったわ、魔女さん」 「私だけの力じゃないわ。あなた自身が、こんなことしたくないと思っていたからこそ、解呪に成功したのよ」 「……そう。それで? 黒の女王のキャストが剥がれて、すべてを失った哀れな少女にあなたは何を望むの? 何をさせたいの?」 「なにも。あなたは、あなたのしたいことをすればいいわ。あなたにはすべてが許されているのだから」 そう言ってティアは、手を差し伸べる。やわらかな微笑を浮かべながら。 「わたしといっしょにいらしゃい。グルマルキンなんていう怖くて悪い魔女のところから逃げて。 あなたの望みはわたしのところで叶えればいいわ。わたしのところで、あなたの物語を探せばいい。 誰もあなたに強制なんてしない。あなたがたくさんの人間を殺してきたという罪も、きっと、時間が解決してくれるわ。 グリモワール・オブ・アリスの呪縛からも、完全に解き放ってあげる。大丈夫、心配はいらないわ。 わたしもまた魔女なんですからね」 「そう――そう、ね。魔女さんの言うとおりにして、人を殺すことなんかしなくても、おいしいお茶を飲んでいられる。 不安も恐怖も感じることなく、ずっと黄金の午後の中にいられる。それはきっと、素敵な物語なんでしょうね。でも、でもね」 差し伸べられた手へ向けて、フュンフの小さな手が伸びる。 けれど、ふたりの指が触れ合う、その寸前に。 フュンフは、ぱちん、と指を鳴らした。
21 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:40:13 ID:m3Ni7s1G0
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』 ――瞬間、耳を塞ぎたくなるような、身の毛のよだつおぞましい叫び声が轟いた。 ティアはその方角を向き――汚らしい唾液がしたたる牙を垣間見る。 半ば崩れ落ち、醜悪なかたちと成り果てた怪物――ジャバウォッキーが、ティアを喰らうべく襲いかかったのだ。 悪夢の中でも最強を誇るこの怪異は、黒の女王が消え去ったあとでも、こうしてしばらくは顕現することができる。 即座にティアは護符から幻想の魔獣を召喚する。激突する二匹の怪物の牙と爪。響き渡るふたつの雄々しい咆哮。 「フュンフちゃん……」 唖然とした顔で、ティアは少女に振り向いた。何故、この少女はふたたび牙を剥いたのか。自分の言葉は届かなかったのか。 いいや、違う。たしかに言葉は届いていた。ただ、それが遅すぎただけで。 少女は、フュンフは、いまにも泣きそうな顔をしながら、言う。 「ごめんなさいね、魔女さん。あなたの好意を無駄にしてしまって、本当に、ごめんなさい。 こんなこと言ってもいまさら信じてくれないと思うけど、魔女さんの言うとおりにしてもいいかなって思ったのよ。 魔女さんの語る物語、それも、きっと素敵なものなんでしょうね。 でも、もう遅いのよ。すべてが手遅れよ。だってわたし、グルマルキン大佐と契約しちゃったんだもの」 そう言ってフュンフは二の腕を捲りあげる。その白いやわ肌には――ある文字が刻まれていた。 それを見たティアの表情が悲しみと怒りで歪む。 その文字の意味するところを理解してしまった彼女は、彼女の残酷な運命が、もはや不可避であることを悟った。 「――"服従"のルーン」 「ええ。グルマルキン大佐が契約が守られるための保険と言って、わたしに刻みこんだのよ」 「なんてことを……」 鉤十字の魔女――グルマルキン・フォン・シュティーベルの傲慢な嗤い顔を思い浮かべ、ティアは嫌悪をあらわにする。 服従のルーン。それは、ひとの自由意志を歪めて使い勝手のいい操り人形にする、ティアにとっては最も唾棄すべきもの。
22 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:41:49 ID:m3Ni7s1G0
おそらく、グルマルキンは自分の物語を探すフュンフの弱みに付け込み、最も得意とするルーン魔術を用いて、少女の意思を歪め、 なんでも言うことを聞くお利口な人形へと仕立て上げた。契約を守れば少女のささやかな願いは叶うのかもしれないが、その代償は 自由のない魔女の奴隷への転落だ。少女が積み上げてきた屍と犯してきた罪とを比較すれば、あまりに割が合わない代償だ。契約の 果てに魔女が得るものは、使い勝手のいい武器。少女が得るものは、ささやかな願いの成就と、破滅。 「……なるほど、甘言を使って誰かの弱みにつけこみ、滅びへと陥れる。まさに古の魔女そのものね。吐き気がするわ」 「……優しいのね、魔女さんは。うちの魔女とは大違いね。そう、わたしは、魔女グルマルキンの奴隷。 だからあなたの手をとることはできないの。きっとあなたの手をとった瞬間に、わたしに死が訪れるだろうから。 だからあなたといっしょにはいけないわ。ごめんなさい。――ああ、いまとなっては無為なことだけど、それでも、もしもの おはなしを想像するのは、とっても魅力的ね。けれど、それよりももっと魅力的なおはなしを、わたしは知っている。それは、 御伽噺部隊にいることでしか得られないの。それは――ふふ、口に出すのはちょっと恥ずかしいけど、ええ、そう。愛のおはなしよ」 僅かに頬を赤く染めて、フュンフは語り出す。彼女の本当の願いを。彼女が求める物語を。 「わたしには守りたいひとがいるの。 そのひとはわたしのことを危なっかしいって言ってお節介ばかり焼くの。 けれど本当は、自分が一番危なっかしいってことに気がついてない。 そのひとは誰よりも先に闘いに出ようとするの。 その度に身体を傷だらけにしてしまって、見てられない。 そのひととわたしはいつも喧嘩してばかりいるの。 けどそれはわたしのことを本当に心配してくれるからで、ああ、仕方ないなって、最後には全部許しちゃうの。 そのひとは決して諦めないの。 どんなに難しい任務でも、どんなに強い敵が相手でも、最後まで諦めることなく、わたしのところに帰ってきてくれる。 ――わたしは、そのひとのすべてを愛してる。そのひとの強さ、弱さ、好きなところも嫌いなところもなにもかも。 わたしはそのひとの隣にいることが何よりもうれしい。そのひとといっしょに生きることこそが――ああ、そう。そうね……」 フュンフは何かを悟ったような表情を浮かべ、まるで花咲くような笑みで、言った。 「それがわたしの物語だったのね」
23 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:44:08 ID:m3Ni7s1G0
悲鳴を上げて、ティアの魔獣がジャバウォッキーに組み伏せられる。 ジャバウォッキ―の牙がティアの魔獣を引き裂き、そのままバリバリと捕食してしまった。 そして悪夢の怪物の双眸が、ティアを映す。怪物の牙と爪が、いままさにティア目掛けて振り下ろされようとして―― 「わたしはそのひとと、ずっといっしょにいたい。そのひとを死なせたくない。そのためなら何でもするわ。 そのひとを守り、ともに生きる――そんな戦いの物語が、わたしが本当に欲しかった物語なのよ。 だから、わたしの物語を阻むあなたの手を取ることはできないわ。 だから、こんなわたしに手を差し伸べてくれたあなたを殺してさえ見せるわ。 さあ、お願いだから死んで! 魔女ティア・フラット!」 「そいつは困る」 その声は頭上から届いた。弾かれたようにその方向へ視線を向けるティアとフュンフ。 その先にあるものは―― 空から高速に落ちてくるひとりの男だった。 黒い服、黒い髪、黒い眼帯。そして、黒い翼。 その男のすべてが黒かった。 男は、その瞳に剣呑な光を宿らせ、肉食獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべていた。 およそ堅気の人間とは思えない。それに、まっとうな生まれでもあるまい。 その背中から生える黒い翼――おそらく、遥か極東に伝わる妖怪、鴉天狗の血を引いているのか。 それとも、厳しい修行の末に天狗の力を習得した修験者であるのか。 それは定かではないが、どちらにしろ、この男がただの人間ではないことは確かだ。 ティアはその顔に見覚えがあった。 直截対峙した経験はないものの、その名とその力量はいやというほど聞き及んでいる。 裏社会に轟く伝説。黒ずくめの死神――スクリーミング・クロウ。
24 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:46:38 ID:m3Ni7s1G0
「平群天神奇峰伊予ヶ岳に棲まいし大天狗! 太郎丸より継ぎし大うちわ! 妖嵐暴風を巻き起こす! 央基五黄! 一白太陰、九紫に太陽! 乾坤九星、八卦良し!」 ――男は眼帯に右手を突き入れ、 ―― 一息に何かを引き抜いた。 それは、大きな大きな団扇だった。比類なき自然の猛威を喚ぶ、名高き奇峰伊予ヶ岳の遥か高みに座す大天狗の秘宝。 そして、彼の口上に応じて、天地自然、森羅万象あらゆるものを象る幾何学模様――八卦図が男の足元に出現する。 大団扇と八卦図。そのふたつは、破壊の大光を孕む暗雲を青空に導いて―― 「――落ちよ怒槌、神鳴る力!」 雷光が輝く。 雷音が轟く。 大団扇、そして、男の足元に展開される八卦図に導かれて、異常に膨張した乱雲から無数の稲妻が迸り、悪夢の怪物に降り注いだ。 すべてを消し炭にする雷の力が、ジャバウォッキーの体内で荒れ狂う。 稲妻は破壊を撒き散らす。悪夢の怪物のすべてを蹂躙し、その身体中を食い荒らす。 『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』 耳を塞ぎたくなるようなおぞましい断末魔があがる。 雷撃の一撃を受けたジャバウォッキーは、身をくねらせて、爆発四散した。 稲妻は、怪物の欠片すら一瞬で、慈悲も容赦もなく、灰燼へと還した。 「カッ、カカッ、カカカカカカカカカカァッ!」 ――暗雲を背にして、低気圧の王が笑いを張り上げる。 ――地上を蠢く哀れなものどもに嘲笑を捧げる。
25 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:48:52 ID:m3Ni7s1G0
すべてのひとを怖れさせる悪夢さえも打ち砕く破壊を振りまきながら、黒服の男は、地上にいる哀れな少女を睥睨する。 そして、天へと右腕を掲げる。それは、あらゆるものを焼け焦がす破滅の大光を導くのだ。 ――輝く光。比類なき破壊を孕む光。それは、呆然と空を見上げるフュンフをとらえて。 ――暗雲から放たれたひとつの稲妻が、フュンフの頭上に迫る。 周囲の景色が、そして自分の動きが、とても遅く流れているように、フュンフは感じた。 奇妙な感覚。時間が限界まで引き伸ばされるような。死の間際に脳が見せる錯覚。 あの稲妻に打たれれば、自分はあっけなく死ぬだろう。 最強の悪夢ジャバウォッキーが為すすべなく滅ぼされたように、自分もまた、塵芥へと還るだろう。 間に合わない。フュンフはその場から逃れようと思考するが、光より早く動ける人間などいるはずがない。 ――彼女の最愛のひとならば、神速の"赤い靴"を履く彼女であれば、可能だったかもしれないが。 (これで……終わりなの? フィーアともういちど会うこともできず、わたしの物語は――) だが、彼女の物語は終わらない。いまは、まだ。 呆然と終わりを享受しようとする少女には、仲間がいる。手を差し伸べてくれる誰かがいる。 それは、水妖(ローレライ)の声を持つ少女と、その少女を己の背に乗せて飼い主の下へと迫る一匹の黒猫だ。 ――呆然と終わりの雷光を見つめるフュンフに大きな獣の影が迫り、 ――その背に乗る小さな影が彼女の身体を引き寄せ、終わりから救った。 「……ダイ、ナ……?」 『にゃおおん』 ダイナと呼ばれた獣――巨大な黒猫は、飼い主に名を呼ばれて、ごろごろと嬉しそうに喉を鳴らした。
26 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:50:47 ID:m3Ni7s1G0
〈黒猫〉ダイナ。この雌の黒猫も、フュンフによって召喚された幻想の怪物だ。 だが、過度に滑稽さを強調され歪められたかたちを持つ悪夢の住人達とは別のものだ。 ダイナの姿かたちは歪んでなどいなかった。しなやかな猫の身体が放つ気高さと凛々しさ。 フュンフが支配する悪夢の世界のモチーフが、かのチャールズ・ラトウィッジ・ドジスンが書き記した狂える不思議の国ならば、 この〈黒猫〉ダイナは、少女アリスが不思議の国へと誘われる前に物語に登場した、彼女がもっとも愛する黒猫をモチーフに しているのだろう。 ジャバウォッキーを始めとする歪み果てた怪物が、彼らの原典グリモワール・オブ・アリスの狂気の象徴ならば、 この〈黒猫〉は、フュンフ=〈アリス〉の正気の象徴なのだろう。 だからこうして、黒の女王のキャストを演じてなどいなくても、彼女が狂気にとらわれていなくても、 〈黒猫〉ダイナは世界に顕現し、愛する飼い主を救うのだ。 そして、もうひとり。黒猫の背に乗り、フュンフに向けて手を差し伸べた誰か。 「……ゼクス」 フュンフの声に応えて、漆黒の軍服――武装親衛隊の勤務服に身を包んだゼクス=〈ローレライ〉が微笑を返した。 そして、彼女に何事かを告げようとして、フュンフは気絶した。悪夢召還のために多大な負担を負った精神が限界に達したのだろう。 眠りに堕ちたフュンフを黒猫の背に寝かせたゼクスは、一瞬のうちに表情を引き締めて、次の行動に入った。 彼女の視線の先には、これまでフュンフと戦っていた魔女の姿と、黒雲と稲妻を従える黒服の男の姿が映っていた。 黒服の男。突然現れたイレギュラー。そして、たったいま彼が見せた、悪夢の蹂躙。 それは、彼が保有する戦力が、魔女と同等か、それ以上であることを物語っていた。 これでは、魔女の生け捕りは望めそうにない。それどころか、こちらの命さえ危ういだろう。 任務は失敗した。だが、魔女グルマルキンは自分たちを罰したりはしないのだろう。あの戦争が好きな魔女は。 同じ鉤十字を信仰する狂える『少佐』とその配下の吸血鬼たちには及ばずとも、己のあるじである魔女は戦争の愉悦に狂っている。 こうして自分たちが魔女ティアを殺すことに失敗しても、鉤十字の魔女は、己の手で宿敵を縊り殺せると歓喜するだろう。
27 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:52:13 ID:m3Ni7s1G0
そして、自分たちは最初の目的を果たしたのだ。 スプリガンの注意を自分たちに引きつけ、フュルステンベルク城の地下に在る黒き円卓にて胎動する儀式の準備が、 完成を迎えるまでの時間を稼ぐこと。 ――ロンギヌスを中核として、すべての人間の〈歴史〉に終焉をもたらす儀式が起動するまでの時間稼ぎを。 だからもう、ここに留まる理由はない。 ゼクスは胸に手を当てて、口を開いた。小さくかたちのよい唇。 そこから零れる、鈴のように透明で、絹糸をより合わせたような、美しいソプラノ。 時よとまれ、お前は美しい 私の地上の日々の痕跡は 永劫へと滅びはしない その幸せの予感のうちに 今味わうぞ、この至高の瞬間を 歌声が響く。 歌声が響く。 それは、ゼクスの魔歌(まがうた)のひとつ。それは、時を凍らせる詩。 ただしその魔歌は、時間と空間そのものを停止させるものではない。そこまでの力は、森羅万象あらゆるものを停止させるだけの力は、 ゼクスの魔歌にはない。だが限りなく等しい結果を、彼女とその仲間の敵へともたらす。 ゼクスの声は、脳髄に直截突き刺さり、響き渡る。 意識の間隙に滑り込み、魔女と黒い男の心理を掌握し、ふたりの体感時間に錯誤を刻み込む―― ――魔女と黒服の男、ふたりの動きが止まっていた。 ――まるで時間が止まったかのように。 〈ローレライ〉の魔歌。ひとの心理のみに作用し、ひとの意識に錯誤を生み、正しい時間経過を錯覚させるもの。 数多の人間を深淵へと沈める水妖を模倣した、偽なる御伽噺の力。 そう、この力は偽物なのだ。自分の身体に宿る本当の力――〈沈んだ歌姫〉、〈黒の神子〉の力のほんの一部を利用して再現復元された、
28 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:54:01 ID:m3Ni7s1G0
いまは儚き幻想に成り果てた水妖の声を模したもの。魔術魔法という幻想の論理ではなく、いつか人間が自己の能力として獲得する であろう超能力と呼ばれる力。 それは魔術魔法ではない、超能力というティアの知らない力であるが故に、こうして魔女の動きを止めてしまうことも可能だった。 動きを止めるとはいえ、その持続時間はあまりに限られている。あと数十秒もたてば、ふたりは意識を取り戻すだろう。 怖ろしい魔女は彫像のように動きを止めている。この隙に逃げることが出来る。それどころか、ここで命を奪うことも可能だ。 だが、古の叡智を秘めたこの魔女が、〈ローレライ〉の声だけで殺せるとは思えない。 自分の声は、ひとに暗示をかけて、その肉体を砕くことさえ可能ではあるが、それだけでこの魔女を殺せるとは思えない。 それに、個人的にも、ゼクスはこの魔女のことを殺したくはなかった。 ゼクスは、この魔女が、フュンフに向けて手を差し伸べる光景を見ていた。 自分の仲間を救おうとした魔女。しかし、出会うのがあまりに遅すぎた魔女。 ゼクスは思う。もしもあのとき、恐怖と絶望の奥底で涙する自分の前に訪れた魔女が、彼女であったのなら。 きっと、いまとは違う運命を歩めていたのだと思う。 けれどそれは、あまりに無為な想像だった。 自分たちは選択した。ただひとつの願いをかなえるために、鉤十字の魔女の手を取った。いまさら戻れはしないのだ。 それにフュンフのこともある。狂気に冒された彼女の精神を、いますぐにでも癒す必要があった。 そしてゼクスは、ありえた可能性、いまとは違う未来を自分たちにくれたであろう魔女に背をむけて、 「おい、待てよ」 ――背後からかけられた声によって、その場に縛り付けられた。 それは、ひとりの男の声。〈ローレライ〉の魔歌によって、体感時間が止まっているはずの男の声。 「……!?」 自分の予測を超える事態に、ゼクスは混乱し、そして恐怖した。 魔歌の効果は持続しているはずなのに。背後にいる男が動けるはずが、ないのに。 弾かれるように振り向いたゼクスの視線の先に、こきこきと首を鳴らす黒服の男の姿が――
29 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/02(水) 23:56:22 ID:m3Ni7s1G0
「ったくまさか超能力とはな。油断したぜ。だが、残念だったな。俺に超能力は通用しねえよ。 俺に頭にはな、人造精霊が埋め込まれてるんだ。 こいつは、俺の精神が念波もしくは呪波に侵食された瞬間、意識を自動的にシャットダウンして、すぐに正常な状態に再起動させるんだ。 以前にお前みたいなサイコキノとやりあって痛い目にあったことがあってな。 高い金積んで心霊医療師に手術してもらった甲斐があったぜ。こうして――」 『GAAAAAAAAAA!!!』 肉食獣が如き獰猛な笑みを浮かべて、自分の飼い主と、その仲間であるゼクスに迫りくる黒服の男に、黒猫ダイナが踊りかかった。 だが、その牙と爪は届かない。その寸前に、〈黒猫〉ダイナは、黒服の男に殴り飛ばされていた。 ダイナの背に乗っていたゼクスは、衝撃に吹き飛ばされて、地面に叩きつけられて、痛みに呻く。 そして、黒服の男に顎を掴まれ、強引に彼の下へ引き寄せられた。 「――すこぶる快適な気分で、お前らに訊くことができるんだからな」 なにを、とゼクスは言いたかったが、彼女の喉はすでに正常な声を発する機能を失っていた。 かつて経験した耐えがたき恐怖によって、心に刻まれたトラウマによって、彼女は唖者となっていたのだ。 いいや、たとえ彼女が健常者であったとしても、いまこの場において、ゼクスは声を出すことはできなかっただろう。 恐怖が、ゼクスのすべてを支配していた。 己の力を撥ね退けて、じっとこちらの瞳を覗き込む男の姿が、たまらなく怖い。 〈ローレライ〉の魔歌が通用しないことが、たまらなく怖い。 フュンフと〈黒猫〉ダイナが戦闘不能となり、いまや縋れるものがなくなったことが、たまらなく怖かった。 ゼクスは思う。まるであのときのようだ、と。 それは、過去の忌まわしい出来事、御伽噺部隊に入隊する以前に経験した恐怖。 〈教団〉から逃げ出した自分たちに追いすがる黒い追跡者。ひとり、またひとりといなくなっていく仲間たち。 耐え切れぬ恐怖に追われ、逃げて、逃げて、逃げて―― そして自分が犯してしまった罪を想起して―― ゼクスは、涙していた。
30 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/03(木) 00:50:23 ID:98RuLya10
「答えてもらうぜ。俺の本当の目的。魔女グルマルキンが持ってる真紅の宝石が、どこに在るのかを――」 「そこまでにしておきなさいな」 声。それは、女の声だった。静かではあったが、けれど、有無を言わせない力が込められた声。 男の肩の上に、手が置かれていた。それは何気ない動作ではあったが、この手のあるじが魔女であるが故に、 拳銃を突きつけることよりもよほど、男の動作を封じることができるだろう。黒服の男が僅かでも動けば、この手のあるじは、 即座にルーン魔術を起動させるだろう。 「――エドワード・ロング。いいえ、長谷川虎蔵と呼ぶべきなのかしら?」 〈ローレライ〉の魔歌の支配から脱したティアが、黒服の男に語り掛けていた。 「こっち(欧州)じゃあロングで通ってるんだ。できればそっちで呼んでくれると嬉しいな、魔女ティア・フラットさんよ。 それとな、頼むから仕事の邪魔しないでくれ。あんたとは、出来れば戦いたくないんでね。魔女を相手にするのは、随分と面倒だ」 背後を取られているのにもかかわらず、黒服の男――ロングは身じろぎもしない。 それどころか、不遜な言葉を投げかけてみせる。 依然としてロングは、ゼクスの顎を掴んでいた。彼女の目尻には涙が溜まっていた。 それを見て、ティアの表情が一瞬だけ曇る。きっと彼女もまた、魔女グルマルキンの奴隷なのだろう。 服従のルーンを身体に刻まれて、望まぬ戦いを強いられて。 「そう。私とは戦いたくないのね。なら、この子たちは見逃しなさい」 「……なに?」 まったく予想していなかった言葉だったのだろう。ロングは、僅かに眉を顰めた。 ゼクスもまた、魔女の言葉が信じられない、というような驚愕の表情を浮かべていた。 何故、自分達を見逃すのか。敵である自分達を。先ほどまで命のやり取りをしていた相手を。 ティアはその疑問に答えなかった。ただ短く、言葉を告げるのみ。
31 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/03(木) 00:51:15 ID:98RuLya10
「行きなさい。戦いは、終わりよ。 ……フュンフちゃんのことをお願いね」 ロングは懐から紙巻煙草を取り出し、火をつける。肺いっぱいに吸い、紫煙を吐き出す。 彼の視線の先にいるのは、魔女ティアひとりだけだ。鉤十字の少女たちの姿は、すでにない。 悪夢を従えていた少女(アリス)と水妖の声を発する少女(ゼクス)は、巨大な黒猫の背に乗せられて、どこかへと逃げ去った。 その行先は、彼の仲間でありいまも少女たちを追跡しているピンカートン上級探偵たちが突き止めるだろう。 問題なのは、目の前で佇む魔女だった。彼女は静かに、鉤十字の少女たちが逃げ去った方向を、言葉もなく見つめていた。 魔女の心に去来するもの。それがなんであるか、ロングにはわからない。 それは、古の叡智を持ちながら、たったひとりの少女すら助けられなかったことへの悔恨と無力感か。 それは、ひとの意思を捻じ曲げる鉤十字の魔女への怒りか。 魔女は語らない。ただ冷ややかな光を双眸に宿して佇むのみ。 「あんたがなにを思っているのか知らないが」 と、ロングは紫煙を吐き出しながら言う。 「あいつらは、あんたより先にグルマルキンに会っちまった。ただそれだけのことさ。世界は優しく出来てない。 あんたのように無償で手を差し伸べる奴もいるし、グルマルキンのように己の欲望を満たすために手を差し伸べる奴もいる。 そして弱い奴は強い奴に喰われるんだ。それが世界の在り方さ。あんたが気に病むことはねえよ」 「――それでも」 続く言葉はなかった。言葉を操り、そして弄ぶ魔女は沈黙していた。 彼女の胸には、ただ決意があった。それは、この場において、口に出しても無意味なものだ。 運命を歪められた少女たち。少女たちの運命を操り弄ぶ魔女。 自分がそれらのものに対して何を選択し、何を成すのか。それは言葉ではなく、行動で示すべきだった。 そしてひとつの決意を秘めたティアは、 彼女に相応しい、冷ややかな、そして得体の知れない魔女の笑みをロングへ向けた。
32 :
ロンギヌスの槍 :2009/12/03(木) 00:52:27 ID:98RuLya10
「エドワード・ロング。黒雲と稲妻を従える低気圧の王。あなたのことはソフィアから訊いているわ。 勝手で気侭な彼女に振り回された者同士で昔話をするのもいいけれど――さっそく本題に入りましょう。 あなたがここにいる理由は、あなたの望みは、ロンギヌスでもなければ、その対価として支払われる大金でもない。 そうよね?」 「あらら。ぜんぶお見通しってわけか」 「当然よ。魔女に嘘は通用しないのよ。妖怪"さとり"ほどの精密さはなくても――魔女の瞳は 心さえも見通す。そして魔女は心を弄び、利用し、自分の望みを叶えるの」 そしてティアは、手をロングに向けて差し伸べた。その動作は、涙にくれる誰かを助けるためではない。 古の魔女の如く、甘言を用いてひとの弱みにつけこみ、己の望みを叶えるために、彼女は手を伸ばしたのだ。 「あなたの望みは私が叶えましょう、エドワード・ロング。私はあらゆるものをあなたに与えるでしょう。 ――怖ろしい魔女(わたし)との契約を交わし、私の望みを叶える助けをするのなら」
シリアスバトルものの百合キャラで、これまで自分の嗜好とぴったりあった奴ってお目にかかったことないんだよな……。
「それならオリキャラでやればいいじゃない!」という天の声が舞い降りてきたので、こうなりました。
アリスさん、あんた見ず知らずの人間になに情熱的な愛の告白してるんだ。
ですがそれに萌え狂う自分、もはや救いようがないですね。アハハ。
サマサさん
>「そうね。確かにあの人達は怪人であって、人間じゃないわね」
>だけど。
>「ヴァンプさん達は、確かに怪人だけど…心はどこにでもいる、お人好しの人間そのものよ」
かよ子さん格好よすぎる……。
でも漫画版サンレッドの一巻のかよ子さんとは、イメージが合致しない……。
>人形繋がりでアリスにも出て欲しいけど、
まだアリスが出るかは秘密です(何
ですが「未来のイヴの消失」には、メディスンの他にもうひとり、東方キャラを登場させる予定です。
それから、真紅の模造宝石は伏線ではありませんが、ミシェルは出ます。ノエルも出ます。
ふら〜りさん
バトルヒロインを書くことがライフワークになりつつあります(何
実は原作のプリマヴェラはこれまで自分が書いたことのない超絶ビッチキャラなので、執筆に苦労しています。
ですがプリマヴェラとイギーの憎み合い、それでも愛し合う関係、そして原作でのふたりの最期に涙してしまった自分としては、
このふたりの素晴らしさを少しでも伝わるよう頑張って最期まで書ききりたいです。
>>414 さん
無駄に長くてすみませんw
>>415 さん
クトゥルーの他にもいろんな世界観を混ぜ合わせてできた、作者自身にもよくわからないものに成り果てています。
寒々しいのは、作者が文明崩壊後の世界設定が大好きな所為です。
>>416 まだバキスレは終わりませんよ!
>>417 さん
クトゥルー神話をベースにはしていますが、多彩な作品が混在しています。
作者が「世界観の矛盾? 設定のすり合わせ? そんなの知らね!」な人間なので、もしかしたら、黒の乗り手も登場するかも……?
>>419 さん
きっとまた間髪いれず新しいのを書いてくれますよ(何
うわ、すっかり忘れてました、本当に申し訳ないです。
>>1 さん、スレ立て乙です。
自分の投稿に集中してて忘れてました。だめだめですね、もはや土下座――
36 :
ふら〜り :2009/12/03(木) 20:28:00 ID:JSBHV1rY0
>>1 おつ華麗さまですっ! 勢いは多少落ちようとも、まだまだ新旧職人さんたちが
頑張ってくださってるこのバキスレ、その歴史を繋いで下さったことに感謝です!
>>サマサさん
強いヒーローに、そして優しい年上の女性に憧れる少年……良いなぁ。ほのぼのとしつつも、
彼の行き着いた先は充分スケール大きいのがまた。レッドはレッドで、出向くまでもなく異世界
の命運を変えた(救った)わけで、その彼を「ウチの人」呼ばわりするかよ子さん。皆、豪快!
>>ハシさん
序盤、映像的には不釣合いなほど古典的な、熱い人間賛歌な展開だったので、このまま
いけるか? と思ったのですが……二転三転の挙句に果たせず、でしたね。相手が相手
だけに、ティアもロングも、能力的には低くなくても届かないというか。前途多難さが重い。
37 :
作者の都合により名無しです :2009/12/04(金) 06:59:19 ID:hw5YEueG0
新スレ、いろんな方々が戻ってきてくれるといいですね。 ロンギヌス大好きだったので、ハシさんの本格復帰は嬉しいです。 サマサさんも好調みたいだし、またバキスレ盛るといいなー
38 :
東方聖誕祭 :2009/12/04(金) 09:24:52 ID:MNihBbms0
さあ、今日はクリスマス。年に一度の聖なる祭り。 誰もが心躍る、特別な一日。 それはこの世界に残る、人ならざる者達にとって最後の楽園―――<幻想郷>においても例外ではない。 例えば、とある一軒家を覗いてみよう。 人形で埋め尽くされた、一種異様な部屋。しかしながら今日ばかりは部屋中に所狭しと煌びやかな飾り付けが施され、 テーブルの上には七面鳥やらケーキやらシャンパンやら、思いつく限りの御馳走が並んでいる。 向い合って席に着くのは、二人の少女。 「へへー!サンタは私がもらったぜ!」 勝手にケーキを切り分け、勝手にサンタのお菓子を持っていくのは霧雨魔理沙(きりさめ・まりさ)。 職業・魔法使い。 白黒を基調にした衣装と長く伸ばした金髪、黙っていれば誰もが認める美少女ながら、その男勝りのヤンチャな言動が 玉に瑕―――いや、それも彼女の魅力なのだろう。 「あ、魔理沙ったら。私も狙ってたのに」 片割れは、肩までのふわふわした金髪をヘアバンドで留めた、これまた美少女。彼女の名はアリス・マーガトロイド。 職業・人形使い。 いつもは自らの操る人形と同じく、美しくも冷たい雰囲気を漂わす彼女なのだが、今はどことなく浮かれた様子である。 クリスマスだからというよりは、魔理沙が一緒だからだろう。誤解しないでほしいのだが、彼女は百合の人ではない。 好きになった人が、たまたま同姓の魔理沙だっただけである。 「怒るなよ、アリス。ほら、チョコレートの家はやるからさ」 そう言いつつも、既にケーキを口一杯に頬張っている魔理沙。 「もう、まだ乾杯もしてないのに…ほら、クリームが顔に付いてるわよ」 指で魔理沙の鼻先に付いたクリームをすくい取り、自分の口に運ぶ。甘い味わいと香りがアリスの口中に広がる。 魔理沙はちょっとはにかんで頬を緩める。彼女も別に百合の人ではない。 ただ、アリスの事については満更でもないだけである。 「そういえば魔理沙。バレンタインの時みたいに、皆にプレゼントを配らないの?」 彼女の得意とする、星屑の魔法。流れ星に乗せて届けられた、甘いチョコレート。だけど、アリスにだけは、自らの手で 渡してくれた。あの夜の思い出は、未だに色褪せずに二人の胸の中で輝いている。
39 :
東方聖誕祭 :2009/12/04(金) 09:26:00 ID:MNihBbms0
「どこぞの巫女じゃないけど、皆に渡すだけのプレゼントを買う金がないぜ。盗んだ…ん、ごほん、死ぬまで借りた物を質 に入れるってのも流石に憚られるしな」 「身も蓋もないわね」 「だから」 すっと、ラッピングされた袋を差し出す。 「アリスの分しか買えなかったぜ」 「…ありがとう」 アリスも同じように、リボンの付いた包み紙を渡した。 二人して、なんとなく照れ臭くて黙り込んでしまう。やたらと耽美な空気が流れていた。 なんにせよ、可愛い女の子二人がイチャイチャしてキャッキャウフフして百合百合してたら、それだけで見ている方は幸せ である。異論は認めない。 ―――そんな、二人きりの世界に没頭している彼女達の元に。 「お、やってるやってる」 ―――呼ばれてもいないのに、勝手に玄関のドアを開けて、勝手に部屋に入ってきた闖入者が一人。 「メリークリスマース!…神社勤めの巫女が言うセリフじゃないけどね!」 ―――闖入者の名は博麗霊夢(はくれい・れいむ)。 セミロングの黒髪に、あどけなくもふてぶてしさを感じさせる小生意気系美少女。チャームポイントは肩と脇を大胆に露出 させた、紅白の巫女服だ。 先のセリフの通り、とある寂れて賽銭もロクに入らない(失礼)神社の巫女さんである。 「…………」 「…………」 先程まで桃色空気を醸し出していた二人は、一気に白けていた。 (おい…呼んだの、私だけじゃなかったのかよ…)←アイコンタクト (呼んでないわよ、霊夢は…)←アイコンタクト そんな事はお構いなしで、霊夢はテーブルの上の御馳走に目を輝かせた。
40 :
東方聖誕祭 :2009/12/04(金) 09:27:48 ID:MNihBbms0
「うっわー、何これ、七面鳥!?こちとらロー○ンの<から○げくん>を買う賽銭もないってのに贅沢ねえ」 幻想郷にローソ○があるのかどうかは不明である。しかしそんな事はどうでもよかった。 (なんなんだ…今日の霊夢は。いつもより余計に空気が読めてないぜ…) (よりによって、この聖なる日に異変発生かしら?) 実に失礼だったが、そもそも今の霊夢自体が失礼と無礼の権化だ。霊夢は床に落ちてたパーティーグッズのサンタ帽を 勝手に被り、勧められたわけでもないのに空いていた椅子に座る。 「ほらほら、そんなしけた顔してないで。プレゼントだって持ってきたのよ?」 くしゃくしゃの紙袋を二人に渡す、というか押し付ける霊夢。魔理沙とアリスは、ただただ能面のような顔で受け取るしか なかった。異様なテンションの霊夢に対してもはや文句を言う気力も失せている。というか、文句をつけたら一瞬にして 殺られそうな危うさを感じていた。 当の霊夢はパンパン手を叩きながら、声を張り上げる。 「はいはいはい、それじゃあ皆で仲良く乾杯しましょうね!シャンパンシャンパン、っと」 両手にシャンパンの瓶を引っ掴み、親指で栓を弾いてカッ飛ばす。それは奇跡的な軌道を描き、魔理沙とアリスの眉間 に直撃して二人を悶絶させた。霊夢はお構いなしにグラスに泡立つ液体を注ぎ、高々と掲げる。 「ほら、カンパーーーイ!」 「…カンパイ」 「カンパイ…」 気分は<乾杯>というより<完敗>だった。 何に対してなのかは本人達にも分からないが、とにかく敗北感で胸は一杯だった。 霊夢はその後も傍若無人の謗りをまるで恐れぬ振る舞いで、食っては飲んで、歌って踊って、騒いではっちゃけ、一人 で弾幕全開の勢いである。魔理沙とアリスはただただその暴力的なパーティーを受け入れるしかないのであった。 ―――そして。 霊夢は真っ赤な顔で床に転がって、すうすう寝息を立てていた。 「…無茶苦茶な勢いで飲んでたもんなあ」 魔理沙は呆れて物も言えない、とばかりに溜息をついた。 「全く…騒ぐだけ騒いで、真っ先に酔い潰れるなんて」 アリスは文句を垂れつつ、毛布をかけてやった。
41 :
東方聖誕祭 :2009/12/04(金) 09:30:37 ID:MNihBbms0
「んふふ〜…魔理沙…アリス…もっと飲みなさいよぉ〜〜〜…」 霊夢はどんな夢を見ているものか、へらへら笑いながら見事な鼻提灯を作っていた。 どうにも憎めないその顔を見ていると、せっかくのクリスマスを台無しにされた憤りも、なんとなく失せてしまった。 魔理沙とアリスは顔を見合わせ、<しょうがないなあ>とばかりに苦笑した。 「…こいつ、私達と一緒に遊びたかっただけなのかもな」 そんな中で、魔理沙はポツリと呟く。 「霊夢って、普段は誰かと一緒にいても、いつも一人だけ別の場所にいるってカンジじゃんか」 「そうね。そうするのが好きというより、他人に興味がないのよ」 容赦ない言い方だったが、当たっている―――と魔理沙は思った。 別に、霊夢には友達がいないわけではない。笑顔をまるで見せないわけでもない。 それでも―――彼女は、根っこの所で一人ぼっちだ。 幻想郷の平和を乱す<異変>を解決する<博麗の巫女>。 妖怪退治を生業とする<博麗の巫女>。 現世と幻想の境界たる<結界>の守り手である<博麗の巫女>。 そんな特殊な立場が―――否応なく、彼女を<普通の女の子>から遠ざけてしまう。 「だから…たまには、思いっきりハメを外してバカ騒ぎしたかっただけなのかもしれないな」 「それでこんな事を?他人の迷惑考えないにも程があるわよ」 アリスはぷくーっと頬を膨らませたが、魔理沙は爽やかに笑った。 「なあに、許してやろうぜ。友達のワガママに付き合ってやるのも、友達の仕事さ。なあ?」 「…そうかもね」 二人は、霊夢の幸せそうな寝顔を見下ろして、ただ一言。 「「メリークリスマス、霊夢」」 窓の外では聖夜を祝福するかのように、真っ白な雪がちらつき始めていた。 煌くようなスノー・ホワイトは世界を、そして少女達を包み込むように、優しく降り積もる。 ―――こうして、幻想郷のホーリィナイトは過ぎていく。 この世界で笑って泣いて怒ってはしゃいで、誰よりも逞しく生きる少女達に、どうか幸あれ。
投下完了。東方ネタです。
今回の話は、ハシさんが昔バレンタイン記念に書かれた<砂糖菓子の流星>のアンサーSSのつもり。
12月といえばクリスマス、ということで書きました。
作中にもそれをほのめかす発言がありますが、勝手にこんな事していいんだろうか?
ハシさん、気を悪くしたらごめんなさい。
しかし東方ネタ初めて書いたから、キャラがおかしい気もするなー(汗)
>>ハシさん
と、いうわけで<砂糖菓子の流星>の後日談・クリスマス編として、勝手に書いた今作です。
あんまいい出来じゃないけれど、ハシさんリスペクトとして…(ゴマスリゴマスリ)
そしてフェンフさん。あんたみたいな人(百合)、大好きだよ。
フィーアさんの目の前で言ってあげなさい。そして二人で幻想郷へ逝けばいいさ。
>>〈沈んだ歌姫〉〈黒の神子〉
こういう単語が出る度にワクワクが止まらんね…!
ちなみに原作版サンレッドのかよ子さんは1,2巻はまるで別人だと思ってください。本物のかよ子さんは
3巻中盤から登場しますので(笑)
>>ふら〜りさん
スケールでかいというか、何というか…(笑)
レッドさんの偉大さはほんま百万世界を照らし出すでぇ〜。
>>37 最近はまた、創作意欲が結構出てきた気もします。
43 :
作者の都合により名無しです :2009/12/04(金) 13:15:48 ID:ueTmLSja0
バキって、いつからファンタジー志向になったんでしょうね。 現代文明があってモンスターが出てこないベルセルクみたいな。 1巻の時点では、往年の空手バカ一代とかに近い雰囲気だったのに。 初期のグラバキは、真島クンすっとばす!にも参考されてるっぽいぐらいなのに。 高校生になって、ガスガンの達人として名を馳せるのび太と真島クンの対決なんかも書きたいですね。
サマサさんまで東方ファンと来たら 俺も東方を調べねばなるまい。 サマサさんとハシさんが頑張ってくれるうちは まだまだ大丈夫っぽいな。
45 :
作者の都合により名無しです :2009/12/06(日) 19:31:44 ID:+TRsdlpl0
皆川作品読んでないけど、ロンギヌスは不思議の国のアリスっぽくて好きだな。 ハシさんは文章が初期に比べるとどんどんこなれて来て面白くなってる。 しかし東方といい、サンレッドといい、サマサさんは通だなw 東方はよく知らないけどサンレッドはヴァンプさまの可愛らしさがよく出てて好きです。
46 :
作者の都合により名無しです :2009/12/08(火) 11:31:17 ID:WSlxCunq0
のび太の日本誕生とコラボして、ダイの後日譚を作る方はおりませんか?
第十五話 Fenice Eterna 空気が凝固したかのように戦いの場は静まり返っていた。 饒舌な第三勢力が珍しいことに言葉を失い、勇者や魔族も負けず劣らず衝撃を受けている。 闘う資格の無い相手を瞳という球にする、鬼眼を持つ者の技。 今まで鬼眼の能力を使うことはできなかったのに、発現したのだ。 「おいおい……。奇跡とか覚醒なんて人間の特権じゃねえの?」 反論が無いのは本人も理解できていないためだ。 今までどれほど望んでも兆候すらなかったのだ。命の危機に晒されただけが理由ではないだろう。 やがて第三勢力は原因に思い当たったように額を押さえ、疲れた様子で肩を落とした。 「マジかよ。よりによって滅ぼす相手に力を与えたなんてなァ」 皮肉と言うほかない。 見当もつかなかった、力を目覚めさせるきっかけ。 それは二人の出会いだった。 勇者と魔の血を継ぐ者の邂逅によって力が解放されたのだ。 単に鬼眼の能力が使えるようになったのではない。扉が開いたとでも表現すべき感覚が湧きあがっている。 これまで、鍛錬してきても“レベルアップ”に結びつかず、焦っても成果ほとんどなかった。精神が先行するばかりで実力が追いついていなかった。 だが、ようやく歯車がかみ合い始めた。 初めに一人の魔族と少年として巡り合ったからだろう。 最初から敵として向き合っていれば、引き金は永遠に引かれなかったかもしれない。戦い、障害を排除しようとするだけの関係ならば芽生えなかった。 本来相容れない陣営に立つ両者が共感を覚えて、この結果へと導かれた。 出会いの意味が鬼眼の覚醒だけで終わるのか、その先につながるのか、まだ誰にもわからない。 大魔王の遺志を継ぐ者がゆっくりと敵を睥睨した。 今までと違い、魔物の集団はもはや敵にはならない。 「降ってわいたような力をひけらかす気か? ろくに変わらねーじゃねーか、俺と」 「……違うよ」 ダイが短く否定した。 偶然手に入れたに近い力に驕る心の持ち主ならば、紋章と鬼眼がつながることもなかっただろう。 大魔王の信念の下に力を求め続け、ダイたちの戦いを見て何かを感じ、鬼眼をもって生まれた理由――力を振るう目的を見出したため殻から脱却できたのだ。 「はっ、特別な血を持ってるからって偉そうに。いいご身分だ」 二人は敵を静かに見つめる。 偉大な存在の血を継いでいても、その事実が輝かしい未来を約束するとは限らない。血脈など関係なく才能を開花させる者もいれば、素質に恵まれず重圧に苦悩する者もいる。 流れる血や力の象徴と呼べるものをそれぞれ受け継いだ二人は確かに有利だと言えるが、何の努力もせず過程も無しに強くなれるわけではない。 他の、天賦の才を持つ者達も決して頼りきりではない。 持つ者には持つ者なりの苦しみがある。それを二人が口にすることはなかった。どのように語ろうと相手は受け入れようとはしないだろう。 「そんなの納得できるかよ。どうせ強くなれたのは血とか才能とかのおかげだろ? だいたい――」 ぺらぺらと喋り出した男を軽蔑するように眺め、イルミナは拳を握りしめた。刃を触れ合わせているような気配が放たれる。 「今になって口ばかり動かすとは、無粋な」 魔族は敵の言葉を弁舌によって否定する気はない。自らの手で証明するだけだ。 闘志が炎となって全身を包んでいるかのような錯覚を起こさせる。 喉の奥から獣の咆哮に似た叫びが迸った。 「ここから先は力で語れッ!」 魔界の住人はほぼ全員が遥か昔から同じ理に従ってきた。それは第三勢力も例外ではない。 積極的に支持しなくとも本気で抗いはせず、己の能力を疎ましく思っていても他者に振りかざすのを控えはしなかった。 力こそ全てという則に深く支配されているからこそ見上げてきたのだ。 逆らわず行動してきた彼に叩き返される時がきた。
竜の紋章の光が増した。再び鬼眼とつながると金色の闘気が溢れ出し、高まっていく。あと少しで――何かきっかけがあれば解放されるだろう。 「貴様の能力は鬼眼と相性が悪いらしいな」 それも敵視していた理由の一つに違いない。 「だったらどうだってんだ!」 大地を覆うように闇が波濤となって押し寄せる。ダイは地に勢いよく剣を叩きつけ、まとめて吹き飛ばそうとした。 分裂した飛沫が矢となって降り注ぐのを迎え撃つのは最速の剣。 多数の細い矢を払い、本体を狙う。第三勢力の体を葉のように薄い衣が幾枚も包み込んだが、ダイの空裂斬が引き裂いた。 しかし、倒すには至らない。 反撃に何本もの鞭と刃が振り回され、体を打ち据える。 距離をとったダイは唇を噛んだ。 彼は紋章の力を十分に使えず、イルミナは傷つき血を流しすぎている。何らかの力に目覚めただけであっという間に逆転というわけにはいかない。 (おかしい) イルミナは思案する表情になった。 全盛期の肉体に戻った大魔王の奥義に挑み、追い詰めたダイの実力はこんなものではない。 強さを発揮できないのは竜の騎士の力を封じられているだけなのか、それとも別の要因があるのか。 「奴の性格ならば勇者の相棒も招くはず」 見世物を楽しむかのように行動してきた第三勢力が主要人物であるポップを招待しなかった理由。答えにたどり着いたのはダイだった。 「絆の力が怖いからなのか?」 「奇跡を起こされたら困るだろ」 成功寸前までいった大魔王バーンの計画を阻止し、勇者に勇気を与えた存在を警戒している。 (力……) 父の掲げた力とダイたちの見せた力。 後者は理解できない部分も多いが、“力”であることに変わりはない。 ならば、と呟いた彼女の額の眼が光ると、バンダナを巻いた少年の姿が虚空に映し出された。 「おい」 突如響いた声にポップは仰天したが、すぐに状況を把握すべく意識を集中させた。 「ダイが苦戦しているぞ」 『ダイが……!?』 沈黙はわずかな間のことだった。 にやりと笑い、確信に満ちた口調で宣言する。 『そんなやつに、ダイは負けねえ』 少年の表情から陰が拭い去られたのを見て第三勢力は呆れている。 「この場にいて一緒に戦うならともかく、何でそんな自信満々なんだよ」 『離れてたっておれたちの心はつながってる』 天地魔闘の構えを破る時も、黒の核晶を止める時も、そうだった。直接闘うことはできずとも、多くの者達との出会いや力があって危機を乗り越えることができたのだ。 『思い出せよ』 これまで積み重ねてきた経験を。繰り広げた戦いの数々を。出会った人々の言葉を。力を解放する感覚を。 そして、一瞬に全てを込めて眩しく燃え滾らせる様を。 膨れ上がった何かが弾けた。重い枷が砕け散ったことで身体が軽くなったような感覚に包まれる。 状況を変え、勇者を力づけてきたのは常に親友の存在だった。 「封印が解けちまったのか。どうして――!?」 ずっと観察してきたのに、彼らの強さの源は第三勢力には理解できない。これから先も永遠に。 それを悟ったダイの表情はどことなく悲しげだった。 紋章の力が戻ったことを知り、イルミナは声を潜めて告げた。 「竜魔人化はするな」 ダイは二つの紋章の力を全て解き放った結果、魔獣のように殺気をみなぎらせて相手を攻撃することとなった。 それでも完全に意識を手放したわけではなく、涙を流す心は残っていた。 だが、第三勢力は相手の力に干渉する能力を、紋章を暴走させることに用いるかもしれない。その場合、破壊衝動に飲み込まれてしまう可能性がある。 ヒュンケルやマァムまで危険に晒してしまう――ダイにとって何よりも避けたい事態だ。 すべてを捨てる覚悟を決めなければ到底届かなかった大魔王と違い、第三勢力はそうすべき相手ではない。 頷いたダイは剣を握り、己の力を伝えていく。今まで抑えられていた反動か、輝く闘気が勢いよく迸る。 襲いかかる影の刃をことごとく断ち切り、勇者は全ての力を込めて剣を振り抜いた。 「アバンストラッシュ!」 心技体の揃った必殺の一撃が、第三勢力の身体を深々と切り裂いた。
男が傷口を抑え、黒い液体を迸らせながらよろめいた。苦しげに荒い呼吸を繰り返し、今にも崩れ落ちそうになりながら踏みとどまる。 もはや勝敗は決したかと思われたが、彼はまだ倒れない。表情が歪んでいるのは苦痛のためだけではない。 「ちっ」 忌々しげな舌打ちとともに耳障りな音が生じた。 全身が醜く変化していく。 顔に亀裂が生じ、どろりとした黒い液体が滴り落ちた。 両腕が半ばから砕け散り、代わりに怪物のような禍々しい剛腕が生えた。 顔に黒い領域が広がり、半分以上包み込む。闇に覆われた目の部分は不気味に光り、ミストバーンの眼のようになっている。 「あーあ……。こんな姿になってまで戦うのは趣味じゃねえのによ」 声はこもっていて聞き取りにくい。数えきれない人間が一度に発声しているようだ。 この変貌は彼の意思ではない。敵を滅ぼそうとする闘気の性質が、無理矢理生き延びさせようとしている。 暗い世界の闇が積もりに積もって結晶化したような姿。あらゆる瘴気が固形化したような、威力や速度の増した攻撃。 それでも二人は退かない。存在を維持しようとする性(さが)に振り回されている敵を見、ここで戦いを終わらせねばならないといっそう強く感じたのだ。 火炎呪文が放たれ第三勢力を焼く。全身から伸びる枝が焼き払われた瞬間を狙い、ダイが攻撃を放った。 吹き飛ばされてゆく影の奥からさらなる闇が噴き出した。 腕から無骨で歪んだ爪が生え、顔面が巨大な口と化したように頬から牙が伸びる。 二人に向かって禍々しい剛腕が振るわれた。 繰り出された攻撃にイルミナが反応した。掌撃で受け流し、威力を軽減させるつもりだ。 だが、足りない。 魔を統べる者を目指すならばさらなる力が必要だ。 思い描く相手は決まっている。その技も。 天地魔闘の構え。 攻、防、魔の三動作を一瞬で繰り出す大魔王の奥義。全盛期の肉体を取り戻してはじめて使用できる技だ。 今の段階では遠く及ばない。絶望的なまでに隔たっている距離は本人が一番知っている。 掌で攻撃を弾くが、衝撃を完全には殺しきれず骨の砕ける音が響いた。 歯を食いしばり、もう片方の腕に力を込める。 「ウオオオオッ!」 気合の叫びが自然と漏れた。 ぶちぶちと何かがちぎれる音を立てながら腕が動く。 「ぐっ!」 第三勢力の頬に拳がめりこみ、くぐもった呻きを漏らした彼は後退した。 大魔王は老人の姿で同時攻撃を行っていた。未熟であるため反動が大きく、己の身も傷つけてしまうが、不完全ながらも成功した。 後退した敵を睨み、傷ついた腕に暗黒闘気を込め、練り上げて解き放つ。あまりの負荷に、先ほどからの酷使に耐えかねた腕が嫌な音を立てて折れた。異様な角度に曲がった腕はあちこちが裂け、惨状を呈している。 苦痛の声を噛み殺した魔族が言葉を押し出すように告げた。 「行け……ッ!」 決定的な一撃は勇者に託した。ダイに最後の一押しを与えるのがポップの役目であるように、最後の一太刀はダイが浴びせると決まっている。 地を抉りながら噴き上げる波が通過したところへダイが切り込む。 「戦神の末裔、か。マズイなこりゃ」 苦笑を浮かべた第三勢力だが、さすがに力が無い。 距離を開けようとした彼の動きが見えない壁にぶつかったかのように止まった。 結界が張られている。 「逃げられ……っ!?」 驚愕に顔をこわばらせた男へとダイが斬りかかる。 すべてを照らす閃光に包まれながら。 第三勢力は目を細め、顔をそむけた。 灼熱の痛みの中で彼は悟った。 (ああ、俺が嫌だって思ってたのは――) 自分と違い、大きな存在に近づこうとあがく魔族が気にくわなかったのか。 能力を妨害する天敵を除こうとしたのか。 居心地のよい世界に変革をもたらそうとする者達を排除したいためか。 勇者が気にくわないからか。 もちろんそれらも理由に含まれている。 だが、本当に恐れていたのはこの光景が実現することだった。 勇者ダイと大魔王の血を引く者が手を取り合い、己を滅ぼし世界に光をもたらす可能性を摘み取りたかった。
全身の牙や爪が折れ砕ける中、倒れた彼は震えながら言葉を紡いだ。 「“地上の奴らと魔界の連中が力を合わせて悪い奴をやっつけました。めでたしめでたし”……なワケねえよなァ」 滅びを目前にしながらも彼は落ち着いていた。恐怖の無いどこか冷めた目をしている。 「楽しみだ。どうせすぐ二つの世界で争いが起きるんだ」 強がりではない。近日公開予定の見世物について語るような口調だ。 世界の姿がこのままならば、魔界側が豊かな地上を狙うだけの一方的な関係に変化はない。地上に平和が訪れたとしても、危うい均衡の上に成り立つかりそめのものだ。 「たとえ起こらなくたって、人間同士で殺し合いさ」 ははは、と愉快そうに笑う声が血なまぐさい空気の中に流れ、消えていく。 ダイが否定するように首を横に振ったが、彼は飄々とした笑みを浮かべている。 「きれいごとぬかすなよ」 答えたのは別の声だった。 「実現させれば夢物語ではないだろう」 大魔王の野望もそうだ。 閉ざされた空に太陽をもたらすなど荒唐無稽な話にしか思えないが、数千年かけて力を蓄え、実行に移し、達成する寸前までいった。理想を現実とするだけの力があったのだ。 第三勢力は自信に満ちた表情で両目を閉ざし、朗らかに笑った。 分身体は平和のために力を尽くす勇者や世界を見たくない様子だった。だが本体は笑っている。己の言葉に確信を抱いたまま。 「あの世で見てるぜ。……高笑いしながらな!」 彼の身体は石と化し、砂粒より細かく砕け散ってしまった。 同時にイルミナも倒れこんだ。 限界を迎え、身体に力が入らない。色の無い空間を浮遊しているような、霧の彼方へ引きずられるような感覚に襲われている。名を呼ばれたような気がするが、瞼が重く開かない。 彼女は薄れゆく意識の中、想いを告げた。 「太陽が、見たい」 尊敬する相手が焦がれたものを目にしたい。 ダイは頷き、ヒュンケルやマァムとともに地上へ戻った。
大地に横たえられた魔族は光に照らされ幸せそうな表情を浮かべた。瞼を閉ざしたままで状況を把握できないが、陽光の暖かさは感じられる。 気が緩んだのか子供のような口調の問いがこぼれ落ちた。 「父さ――父は私を……叱るだろうか?」 耳を澄ましても聞き取るのは難しい台詞に、ダイは首を横に振った。 「ううん。褒めるよ、きっと」 そうか、と小さく呟いた顔が曇った。 とうに死神の迎えがきてもおかしくないはずなのに、命の灯は消えないでいる。それどころか身体に少しずつ力が湧いてくる。 信じられない思いで眼を開けると、マァムがベホイミをかけつづけている。 暗黒闘気による傷は回復呪文を受けつけない。だが、ある程度時間が経過して影響が薄まるまで持ちこたえられたことと、魔族の強靭な生命力が合わさってわずかながら回復したようだ。 「私を助けるのか?」 今は共闘しても明日どうなるかわからない。わざわざ不安要素を残す理由が理解できないようだ。 「いきなり味方って言うことはできないけど、一緒に戦ったじゃないか」 少しずつ傷が癒える感覚に魔族は息を吐き、ゆっくりと身を起こした。 和らいだ表情が引き締められる。己の部下の姿を見たためだ。 ヒュンケルから出てきたシャドーの体は今にも消えそうなほど薄く、儚げだ。 「き、消えるな! 消えてはならぬ、お前は私の――」 「ええ。私は……あなた様の、部下なのですから」 うろたえる相手に答える声は弱弱しい。 その場にいる者達の表情が曇った。 せっかく今まで知らなかった物事を味わうことができたのに、傍らにいた相手に去られては喜びも消えてしまう。 回復させられないか自問するが解決法は分からない。 おろおろしながら彼女が傷つききった手を伸ばすと、予想外の事態が起こった。 シャドーが体内に吸い込まれてしまったのだ。 「暗黒闘気を糧とするのかもしれん」 この中では最も暗黒闘気の扱いにたけているヒュンケルが推測した。 身を削って力を使った影は深い眠りにつく。 眠る期間は数日か、数週間か、数ヶ月か。もっとかかるかもしれない。ずっと目覚めないかもしれない。 それでも彼女は待つつもりだった。 長い時を生きる種族ならば再会できると信じて。 「お前は私の傍で同じ光景を見るのだ。命令だぞ」 「……はい」 その言葉を最後に、シャドーの気配は消えた。 「目覚める時には相応しい力を身につけていなければ……ん? 何だこれは」 彼女の顔に疑問の色が浮かんだ。 シャドーは第三勢力に取り込まれた際に、彼の記憶や吸収した天界の知識の一部を得たらしい。闇から生まれた存在として同化していたからこそ起こった現象だ。 ヒュンケルはシャドーの記憶の中のミストバーンを見ただけだったが、今回は違う。 わずかな欠片がイルミナにも伝わったのだ。流れ込んできた情報に眉をひそめる。見たこともない文章が浮かんでくる。 「扉を開ける……何のことだ」 「扉?」 マァムとヒュンケルが目を瞬かせ、ある可能性が浮かんだダイは微笑んだ。 「君はバーンにはなれないよ」 「何?」 「でも、できなかったことをやれる。そう思うんだ」
52 :
顕正 :2009/12/08(火) 19:29:05 ID:NSlBlXiR0
以上です。 一か月以上規制されてました。 次で最終話です。
53 :
ふら〜り :2009/12/08(火) 19:48:34 ID:pm9gNk8v0
>>サマサさん うん、こういう酔っ払いさんは可愛くていいですな。日頃のウサを晴らし、一時の安らぎを 得るのが宴会・酒の役割というもの。まぁ本作のような、いい仲間に囲まれていてこそ、って ことでもありますけどね。霊夢も皆も、心地よい酔いの中で楽しい夢が見られますように。 >>顕正さん(規制! イヤで無念で歯痒いですよねぇ。お察しします) 力も心も大きく成長したイルミナはこれから……って物凄く「第二部」を感じさせる雰囲気 ですよぉぉ。寂しいですが、最終回期待してます。それにしても最後の最後まで、第三勢力 の言ってることには反論し辛かった。美学哲学ってほどでもないけど、核心突いてるというか。
〜〜〜天体戦士サンレッド・これまでのあらすじ〜〜〜 ―――2010年、世界は未曾有の危機を迎えた! 世界を蹂躙する、悪の組織フロシャイム。迎え撃つ、正義の戦士サンレッド。 今、闘いは最終局面へ――― 迫りくる悪の化身。 仮初の平和は脆くも砕かれ、絶望が世界を包む。 「サンレッド…お遊びは終わった。ここからは、殺し合いの時間だ!」 「ふ…今までお前が俺達に勝ってこれたのは、俺達が真の力の一割も出していなかったからだと思い知りな!」 「レッド!とうとうお前をぶっ殺すよー!」 鋼鉄の神は大地を蹴り、全てを破壊する。 「クックック…ゆけい、ヴァンプレイオス!愚かな人間共に我らの力を示すのだ!」 その強大な力の前に、人類に逃げ場はない。 それに乗じて胎動を始める、更なる邪悪。 「フフ…サンレッドカ。面白イ男ジャナイカ、我ト炎ノ力デ勝負シヨウトハ…」 千年の静寂を破り、動きだした伝説の悪魔。 その炎は世界を蝕み、天をも焦がす。 吸血鬼。食物連鎖において絶対の頂点に立つ、不死不滅の王。 「レッドさん…こっちももう、それなりに切羽詰まってるんでね。その首、今度こそ貰うっすよ」 人ならざる超常の力。もはや力なき人々に、安息の夜は来ない。 だが、影は光なくば生まれない。 悪に抗う<正義>は、確かに存在するのだ。
「あんた…どうしても行くのね」 「そうだよ、かよ子」 太陽の戦士は愛する女性に別れを告げて、静かな、されど凄絶な覚悟を背負い、戦場へ。 「俺は、ヒーローだからな」 「大佐殿…もはや一刻の猶予もありません!」 「分かっています、相良軍曹」 可憐な顔立ちを凛々しく引き締め、少女が号令する。 「<アーバレスト>の使用を許可します!サンレッドと共に、この世界に平和を!」 銀の刀を振るいし吸血鬼は、最愛の女性と最愛の弟に向けて、ただ笑う。 これから死地へ向かうとは思えぬ、優しい笑みを。 「ジローさん…」 「兄者…」 「二人とも、そんな顔をしないでください…私は好きなんです、この川崎市が。だから守りたい。この街を」 大地を埋め尽くし、空を覆い隠す悪の軍団。 ヒーローが絶体絶命の危機に陥ったその時、一陣の風と共に現れたのは。 「サンレッド…テメエを倒すのはオレだ。オレ以外のヤツにやられるのは許さねえ!」 魔界より来たる、超金属の肉体に熱い闘志を秘めた戦士。かつての敵はこの時、最強の友となった。 「お久しぶりです…レッドさん!」 幼きあの日、強く優しいヒーローに憧れた異世界の少年。彼は今、新たなヒーローとして太陽に並び立つ。
―――そして、全ての終焉。 「ヴァンプ将軍…全て…全てお前が仕組んだ事だったのか!」 真なる巨悪は、冷徹に嘲り笑う。 「サンレッド…今こそ雌雄を決する時だ!」 太陽を宿し、ヒーローは皆の想いを胸に、大空へと羽ばたく。 「天体戦士サンレッド・究極形態―――ファイアーバードフォーム!」 ―――天体戦士サンレッドVSフロシャイム。 最後に立つのは、正義か悪か――― ―――窓の外で、チュンチュンと雀の鳴き声。ヴァンプ様は布団から起き上がった。 「あれ…なんか、すっごい壮大な夢見ちゃった」 ぽっと顔を赤らめ、ポツリと呟く。 「いいなあ…すっごくよかったなあ、今の夢。おっと、今日はレッドさんとの対決の日だった!よーし、今日こそは 絶対にレッドさんを抹殺しなくっちゃ!」 ボカッ。 されど、現実は厳しい。今日も今日とてフロシャイムの皆さんは、レッドさんにワンパンKOされるのだった。 ショートショート@炎の悪魔・再び 「サンレッド…君ニ今、敢エテ問オウ」 炎の悪魔・シャイタンは厳かに言い放つ。 「本当ニ<タコワサビ>モ<枝豆>モ好キナダケ頼ンデイインダネ!?」 「厳かに言い放つ内容じゃねーだろ、いいよ。パチンコで確変の嵐だったんだからよー。俺の奢りだ、はっはっは」 ―――ここは溝ノ口のとある居酒屋。
天体戦士サンレッドと炎の悪魔シャイタンは、仲良く一緒に飲んでいた。 「あれ?レッドさんじゃないですか。それに…もしかして、シャイタンさん?」 そこに来ました、我らがヴァンプ様。 「ヤア、ヴァンプジャナイカ。久シブリダネ」 「ええ、こんばんは。また日本に来られたんですか?」 「おう。例の鎌仲とかいう奴のコンサートにまた出演するんだとさ…つーかよ、お前は何を勝手に俺らの隣に座って るんだよ。さも当然のように」 「ハハハ、イイジャナイカ。二人ヨリ三人ノ方ガ楽シイヨ」 「ちっ、しゃーねーなー。言っとくけど、お前の分は奢りじゃねーぞ」 とてもじゃないがヒーローと悪魔と悪の将軍の会話ではなかった。それはさておき。 「そうそう、私ね、シャイタンさんやレッドさんに前から訊いてみたいことがあったんですけど」 「何だよ」 「ほら、漫画やアニメで炎系の能力者がよくやるアレ。指先に小さな火を出してタバコに火を付けるの」 「アアー。アルアル、ソウイウノ」 「二人とも炎系ですし、出来るのかなーって思って」 ウーン、とレッドさんとシャイタンは腕組みする。 「やれねーことはないけどよ…アレ、力の加減が難しいんだよ、意外と」 「ソウソウ。ウッカリシテ力ヲ入レスギチャッタラ、モウサ…」 二人はわざとらしく嘆息する。 「川崎市がなくなるな」 「ウン、ナクナル」 「ははは、まっさかー。いくらなんでも」 「いやいや、ヴァンプ。お前、俺達を舐めすぎだって」 「ソウダヨ。洒落ニナラナイッテ。マジ、我トレッドガ本気出シタラ、マジ洒落ジャ済マナイッテ」 ―――神奈川県川崎市・溝ノ口は今日も平和である。
ショートショートA軍曹と大佐のさっと一品 「相良宗介軍曹と!」 「テレサ・テスタロッサ大佐の!」 「「さっと一品!!」」 ワーパチパチパチパチ(拍手) 「さあ、サガラさん!今日はどんな料理を教えてくれるんですか!?」 「はっ。戦場で役立つ男の料理です、サー!」 「せ、戦場ですか…でも、このコーナーは現代日本で生きる皆さんのための料理を…」 「いえ。今の世の中、いつ戦火に見舞われてもおかしくはありません。いざという時に逞しく生き抜くための知識を 得ておくべきだと思います」 「は、はい…では、お願いします」 「はっ、お任せください。まず、用意するものは簡単。塩とライター、あるいはマッチ。それと何か燃やすものを」 「塩…ライターかマッチ…燃やすもの…」 「そして、手近な獣を捕まえます。犬でも猫でもいいし、野鳥でもいい。とにかく肉でありさえすれば。腕に自信が あるなら、熊か猪を狙うのもよろしいでしょう」 「いぬ…ねこ…」 「そして、獲物の血を抜きます。そうしないと生臭いので、慣れていないと食べにくいですから」 ☆軍曹のワンポイントアドバイス 抜いた生き血は保管しておく事。本当に食料がなくなった時、大切な栄養源になるぞ! 「次にライターと火種を使い、焚き火をします。この際に敵に発見されぬよう、十分に注意を。そして塩を肉にしっかり 揉みこんで下味をつけて焼く。これだけです。後は豪快に丸齧り…」
スタスタスタ。一人の少女が客席から降りてきて、ハリセンを力強く構えた。 スッパ〜〜〜〜〜ン! 「痛いぞ、千鳥」 「何を教えてんのよ、アンタは!このコーナーは本来<ヴァンプ将軍のさっと一品>でしょうが!なのに何でアンタ 達が出演してんのよ!?」 「フロシャイムのメディア戦略を阻止するために決まっているだろう。こうして俺がより役に立つ料理を教える事で、 奴らの魔の手に陥って洗脳された人々の目を覚ませればと…」 「その前にアンタが目を覚ませェェェェ!つーか永眠しろォォォォ!」 「で、では皆様!またの機会があればー!」 ショートショートB黒き血の兄弟 「コタロウ…お前のすべき事は分かっていますね」 「任せてよ、兄者」 吸血鬼の兄弟は、いつになく真剣な顔で、得物を手にして目線を交わす。 一体何が起ころうとしているのか!? 「ではコタロウ、お前は風呂場の汚れを落とすのです。私はリビングに掃除機をかけますので!」 「ラジャー!」 兄は掃除機を手に、弟は洗剤とブラシを手に掃除を始めた。 今日は二人の雇い主から給料を貰う日。吸血鬼兄弟は、自主的に掃除をするのだった。 (笑えないあなた…ヒモの素質があるかもしれませんよ)
ショートショートCヒム、更なる高みへ! 魔界から来た戦士・ヒム。最近の彼はフロシャイム川崎支部にもちょくちょく足を運んでいる。 一匹狼と悪の組織という違いはあれど、やはり志を同じくする者同士、通じ合う何かがあるのかもしれない。 そんなある日の事。 「おう、ヒムちゃん。これでいいのか?」 「ありがとよ、ミイラの旦那」 ヒムは大きな紙袋を抱えて、フロシャイム川崎支部を後にした。 その様子を見ていたメダリオは、カーメンマンに問う。 「なあ、カーメン。お前、ヒムに何を渡したんだ?」 「本だよ。あいつ、レッド抹殺のための特訓するのにどうしても必要な資料だから貸してくれってさ」 「へー。お前、そんな本持ってたの。一体全体、どんな本よ?」 カーメンマンは頬をポリポリしながら、言った。 「<アストロ球団><巨人の星><ミスター・フルスイング>」 「…何の特訓する気だ、あいつは」 「そっとしといてやれよ…本人、真面目なんだよ…」 ―――ヒムは後日、町内の野球大会で八面六臂の大活躍をしたそうな。 ショートショートD川崎支部の掟 「ヴァンプ様。頼まれてたもの、買ってきましたー」 頭巾とマスクで顔を隠したフロシャイム怪人・ヴァイヤーは、スーパーの袋をヴァンプ様に渡した。 「ご苦労様。えっと、卵に豚肉、それと…ああっ!」 ヴァンプ様は、恐るべき過ちに気付き、彼には珍しく声を荒げた。 「ヴァ…ヴァイヤーくん!ウチで飴っていったらキンカンのど飴のことでしょ!?」 ―――嗚呼、世知辛くも逞しく今日を生きる者達に、笑顔あれ。
投下完了。
決闘神話を早く書き上げるべきなんですが、うーん…ちょっとスランプ。
今回のサンレッドネタは、一つの話にするには短い話をショートショート集にしてみました。
原作漫画・アニメを知ってる人にはお馴染みのネタも結構あると思いますので、ニヤリとして
いただければ…していただけるんだろうか(汗)
>>44 できれば、パート100くらいまでいってほしい所です。
>>45 通というか、単なるオタク野郎ですw
>>顕正さん
次回、最終回…!仕方ないこととはいえ、悲しいな、このセリフは…。
この物語は本当に<イルミナの成長物語>でしたね。未熟者で、、覚醒しても単騎無双が
できるほど戦闘面で劇的に強くなったわけでもない。でも、精神的には本当に強くなった。
悪役の第三勢力も、非常にムカつくし嫌なヤツだけど、言ってる事が全部間違ってるわけでも
なく、時には真理でさえあった、深いキャラだった。
最終回でイルミナがどういう答えを出すのか、楽しみにしています。
>>ふら〜りさん
いい仲間のいない宴会ほど嫌なものはないですがね…(実体験)
損得勘定も何もない、純粋な友情ってのはそうそう存在しないけど、だからこそ物語の中で
くらいは…ね。
62 :
作者の都合により名無しです :2009/12/12(土) 18:21:45 ID:2et8PJdh0
規制長かった。スレが大変だから感想書きたかったのに。 顕正さん、次回最終回ですか。ちょっと速いけどお疲れ様でした。 イルミナが憎しみから脱皮してダイと手を取り合い、決着をつける姿が 清々しかったです。やはり大魔王の娘、器は大きいですね。 シャドーに対する態度とかも、女性の優しさが見えたりして。 最終回期待しております。 サマサさん、いつもお疲れ様です。 読んでる途中でヴァンプ様の夢オチと分かってしまいましたが、微笑ましいw さっと一品は本家は実際に食べれるものですが、この調理は出来ませんなー。 本当にこのスレがいつまで続くのか分かりませんが、サマサさんがいる限りは 応援したいと思います。
63 :
カイカイ :2009/12/12(土) 20:49:07 ID:rK+RVssG0
「帝愛がつぶれたら、なんで黒川さんが困るのさ?」 のび太のアホっぷりは、変わることがない。 「だいたい、その質屋みたいな会社も繁昌するだけじゃないの?」 21世紀初め、帝愛は未曾有の貸し出しラッシュに見舞われた。 まだ日本国内だけだが、20歳以上の人間の殆どが最寄の帝愛系キャッシングから五万円を借り入れた。 そして、中小企業はほぼ全てが同じく50万円から100万円の融資を依頼してきた。 わけもわからず、その殆どを帝愛側は受けてしまった。帝愛側といっても、それらは全て表の部門だ。 ここからが大変だった。 単に、国民たちが謎の結託を為してそれらを踏み倒すだけならまだ金額的には想定の範囲内である。 だが、そのせいで全員がブラックリスト。既にカード類を持ってる連中も、ブラックリスト。 無事な奴も、融資を断られるまで繰りかえし少額の融資を求めてくる。 表の部門がそうなってるから、闇の部門へ流れてくる奴も激減した。 新たな融資をしてもらいたければ、ダメ元で表の部門へ行く。借りられたら、踏み倒す。 借りられなかったら、その足で路上へ埋没する。だから、新旧の顧客が顧客ではなくなった。 表の部門への対策から人々は結託し、帝愛の地下部門でさえ債務者の回収をしにくい時期が来た。 だから、かつての遠藤のような支部長クラスは全員が没落した。 代わりの人間が居る居ないではなく、末路が目に見えているから誰も代わりをしたくないのだ。 帝愛の基幹産業は1ヶ月でガタガタになった。
64 :
カイカイ :2009/12/12(土) 20:51:37 ID:rK+RVssG0
「いや、流行ビールスによるもの」。 ドラえもんは断言した。学校の裏山で切り株に腰掛け、黒川の乱れた着衣をレンズ越しに見てそう言った。 流行ビールスは22世紀の道具で、ドラえもんたちも一度だけ『スカートの丈を変える』のに使ったことがある。 それと同種のものなのだが、黒川のブラウスに付着していたのはそれと同じ物ではなかった。 椎茸の菌を用いて地球人類用に作り直された22世紀の流行ビールスではなかった。 ドラえもんたちは練馬区の路上で、夥しい数の暴徒からタックルを連続で受けて倒れる暇も無かった黒川を助けた。 前日の晩、のび助がいきなり「テーアイの給付金らしいよ」などと称してお金を持って帰って来てから24時間も経ていない。 「黒川さんが心配だ、明日の朝みにいこう」と言いだしたのは、魯鈍なはずののび太。 もっとも、それはコレクトコールの衛星電話で龍書文に相談した直後のことだったから、のび太一人の考えではなさそうだ。 帝愛関係者への迫害は、まるで名簿でも出回っているかのように正確かつ精力的に為された。 ドラえもんが秘密道具で裏山から抽出した精霊の実らせた、季節外れかつ自然界には存在しない甘栗を齧ったのび太は 「討って出よう。空気感染でもないならもう、携帯電話ぐらいしか思いつかない。1個、狩ってくる」。
65 :
カイカイ :2009/12/12(土) 20:53:35 ID:rK+RVssG0
強くなったのび太の逞しさに、裏山の精霊は感涙している。 ドラえもんはメガネから光学クリップを外して、のび太に返す。返しながら言う。 「ランダム・・・というか一斉に送ってるなら、先に黒川さんの電話を走査しても遅くないだろう」。 「あ、電源入れてくれたらテンペストだけで『いけます』から」。 ドラえもんが奇妙なワンドを黒川の電話に翳すと、ピッという電子音がする。 「(黒川のブラウスに付着していた菌と『携帯電話の電磁波に痕を残した菌』は)同じ物ですね」。 黒川はドラえもんのペースについていくのがやっとだったが、ともかく当分は裏山で隠遁することにして のび太たちを見送った。息も切らさず走って登校したのび太だったが、席はガラガラで4時間目まで自習だった。 幾多の冒険を共にした仲間たちも、2人少ない。 ジャイアンは家の手伝い、スネ夫は四畳半島へ避難したそうだ。 その頃、一条はというと飢えたプチセレブから必死に丼飯や魚の切り身などを守っていた。 焼肉店オーナーの牛島さん、一条に箸のアタマで首を何度か突かれて涙目だ。 そうこうしてるうちに、低級居住権しか持たない牛島さんは黒服たちに"鎮静ルーム”へとご案内された。 シェルターは人口過多になっていて、狂気の鎮静ルームでは肥満体形の労務者・安藤を"食べる"話が持ち上がっていた。
66 :
カイカイ :2009/12/12(土) 20:55:33 ID:rK+RVssG0
娑婆はというと、数だけは凄い暴徒が散発的に発生してるだけでいつもどおりだった。 ただし、暴徒になる奴と暴徒に(先手を打ってるつもりで)狩られる奴だけは戦争状態だった。 そして、高性能ビールスが23世紀のものだと看破したとき、ドラえもんもまた『帝愛ブーム』ビールスに冒された。 冒されてから0.4秒で、白目むいて背中から倒れる。のび太がショックガンの早撃ちで朋友を一時停止した。 「・・・・・・やっぱり、あいつだ。ギガゾンビに違いない」。ショックガンは非危害兵器なのだ。 ギガゾンビはかつて、タイムパトロールに身柄を確保され現在も23世紀を『1秒たりとも』動いていない。 だから、ギガゾンビが紀元前12世紀へ侵攻する『以前』の所業なんだろう。 もしかすると、20世紀生まれの祖先が帝愛にお金や人生を搾取されているのかもしれない。 だがドラえもんは、すぐにそんな空虚すぎるシンパシィを振り払い のび太の手を借りて起き上がりながら…とりあえずスネ夫の家へと二人してタケコプターで発った。 こうしている間にも、帝愛は事態が進んでいた。 謎の危機に対して、兵藤和尊が行ったのは焼け石に水の債務者苛みング。Signamingと書く和製の造語。 あるいは、単なる逃避行動だったのかもしれない。 そして、高級幹部の一人が独断で同じ事を行い動画に撮影して大手の動画サイトに投稿してしまったのだ。 その高級幹部はすぐに動画が通った各地のサーバーの残留データと共に消されたが、時既に遅く21世紀の当局が動き始めてしまった。 よせばいいのに、高級幹部はたくさんの手掛かりやメッセージを「お金を返しに行こう動画」に盛り込んでいた。 それで、感染者の中でも暴徒にならなかった階層の奴らを動かしてしまい、連鎖的に国家権力まで動いてしまったのだ。 【ドラえもん ギガゾンビの逆襲・2chの特別編 続く】
67 :
カイカイ :2009/12/12(土) 20:57:07 ID:rK+RVssG0
【番外編】 「今日は、【暑い】と言ったら気温の低下と共に×(カケル)五千弗をチャージするぜ」。 才気溢れる兵藤和也にとっては、22世紀の気温制御装置でさえオモチャ扱いだ。 戦いに敗れ中国領チベットへ留学した友達の赤松剛鬼とは違い、何でもオモチャにする、という意味だが。 「それ、アメリカドルなんだよね?」などと聞き返すのは、のび太だ。 居並ぶのは、体温調節とメンタルの雄・ボクサーの中でも神クラスのモハメド・アライ・Jr。 特攻天女こと瑞希。伝導の問題で、本気になればゲームにならないからお医者さんカバン係を務めるドラミ。 スネ夫の友達のズル木。どんな超人や秘密道具を見ても、驚かないモジャモジャ頭の海藤。 表の世界でも有名な雀士で王国が経営難の動物王・陸奥圓明流の陸奥正憲。メンバーの中でも最年長だ。 今日は、いつもと違うメンバーで集っている。 5000ドルの意味は、表の世界に名前を知らしめたばかりの和也が帝愛では禁書に指定した書籍「愛よりも剣」に縁る。 課税後の手取りのお金から、掛け金を支払うのだ。身銭といっても、自己実現によるものだが。 いつもマイペースな和也に対し、和也と同じ側の人間であるはずのアライと瑞希も 座った姿勢を傾かせて上着を手繰り寄せながら「ほんっとに払えヨ」「どっかの債権とか引出金なんかはナシだから」などと 支払われる側として勝負を受けている。和也がゲームで支払う、この知る人ぞ知る極限のシチュエーション!
68 :
カイカイ :2009/12/12(土) 20:58:19 ID:rK+RVssG0
アライが無駄に迅い拳速でベルを打つ。ファミレスにあるような、普通のベルだ。 5秒もしないうちに、SW財団から出向中の玉美さんが飛んでくる。 「武が何かを知ってしまった俺にとっテ、口頭だけってのはフェアじゃあない」。 アライ以外の誰にも、アライの言動が意味不明だったが黒服の玉美さんはアライの丹田辺りへ 『錠前』を通す動作をするとまた部屋の外へと去って行った。去るとき、スーツの袖で汗を拭っていた玉美。 不思議なことだが、玉美のどこが一番ヘンだったかと訊けば誰もが撥水性の良さそうなスーツの袖で汗を拭いたことを挙げる。 ただ、海藤だけが「テリトリーか?」などと言ったけどアライは「?」といったふうに海藤の方を向いて黙っている。 「じゃあ、今から7200秒。Common設定(室内の気温)は、現状維持で29℃。ドアや窓を開けるのは、一切の例外なしで禁止」。 誰が言うともなしにドラミがゲームを仕切る。全員、整然とうなづく。 夏みたいな気温になったサロンで、アマチュアたちの勝負の刻が始まる。 心も強くなったはずののび太、タイムテレビの画面が「7199」の間に「暑い暑い」とのたまう。 のび太、体感温度23℃/3万ドル。誰もがわけもなく居辛い沈黙の中、海藤だけがのび太の真意を知る。 最初に体感温度を適度に下げておこう、という大胆な戦略。決して意志の弱さでも、金銭欲でもない。
69 :
カイカイ :2009/12/12(土) 20:59:19 ID:rK+RVssG0
「一樽の汚水に一滴のワインを落しても汚水は汚水だが、一樽のワインに一滴の汚水が落ちたら一樽の汚水ができる。 そういうコトワザがあるよな〜〜。うんうん、良い話だ。見習え食品業界。Ahッアッアッ♪アッアッアアッ♪ けど、これおかしくねぇか? 樽に鹿のフンを一個ポチャンしただけのワインと、ワイン数滴を垂らした一斗缶イッパイの小便。 同じ汚水でしょうか?」 うだるような暑さと自身の汗の不快感を抱えながらの沈黙に耐えられず、意味のない長話を始めるズル木。 「和也くん、試したことあるか?」 そう訊かれても、そんなことするわけがない。誰もが西洋樽酒を選択するだけだ。する前からわかってる。 「し、しらねーよ」。それしか言えない和也。 「寅さんの俳優って誰だったっけ?」 悪魔のようなズル木のフェイントにも「渥美清」なんてストレートに応えるのび太。 「赤井秀和」「三人目だからわからなーい♪」「引きこもりの北村五郎さんだろ」などと続く一同。 「網走の冬はー」。挙がった陸奥の声に「「「「「寒かったんだなー(笑)」」」」」。 「けっこーマンガ読んではるねー」。更にトークを続けようとするのは海藤だ。だが次の瞬間! 何かが途切れたように、全員が沈黙する。海藤も、それに倣う。 誰も油断していないのだ。まだ7000を切っていない今、油断してる奴など居ないのだ。
カイカイ相変わらず訳のわからん作風だw 妙に話も大きくなっていくしw L'alba della Coesistenza、いい意味でダイ大らしくない雰囲気で 好きだったな。次回最終回か…。
>サマサさん ショートショートは肩の力を抜いて読めますので、良いですね。 ヒムやコタロウ、ヴァンプ将軍のほのぼのさが伝わってきます。 サンレッドはしかしつくづく脇役だな。 >顕正さん イルミナは凛々しいけどどこか世間ズレしてなくて、 そこが可愛かったのですが。子供だけど経験豊富?なダイとの対比が 良かった。最後、この2人が分かり合えてよかったです。 >カイカイさん このある意味「突拍子のなさ」はVSさんの作風を思い出しますね。 帝愛からキャッシングした人間に未来はあるのかなあ? 和也も出てきましたが、のび太と立派に絡んでますねw
72 :
ふら〜り :2009/12/14(月) 20:06:29 ID:IcH3KiJU0
>>サマサさん 絶対に夢オチだと確信して読んでました。お約束がお約束通りに来てくれた安心ほのぼの ギャグですな。宗介はまだ100%フロシャイムのことを危険視しててまじめに任務してるん だろうけど、レッド抹殺の為に野球やってるヒムは、どういう思考回路で行き着いたのやら…… >>カイカイさん おそらくカイジが、あとまだ4〜5年はかけて悪戦苦闘の末に倒すであろう帝愛が見る影もなく。 しかも流行ビールスって、ドラの道具の中でもかなり古く、かつマイナーなものを使ってこの展開。 のび太の反撃がギャグで来るかシリアスで来るかさえ読めぬ、文章は重いのに内容はカオス!
第五十話「ラスト・デュエル!(後篇)」 対峙する、王と神。 激突する、光と闇。 世界を照らす創世の女神―――ホルアクティ。 歴史を喰らう破壊の魔獣―――ベスティア。 「ぐ、う、う…!」 全身を襲う激痛に、闇遊戯は呻く。 (こうなる事は、分かっていたが…召喚しただけで、身体がバラバラになりそうだぜ…!) この世界においては通常の三幻神でさえ、召喚するだけでも体力を相当に消耗する。まして、その全てを融合させた ホルアクティ。その存在を顕現させるだけで、満身創痍の身体が悲鳴を上げていた。 「フフ…成程。ソンナ切リ札ヲ今マデ使ワナカッタノハ、其レガ理由カ…」 魔獣―――ベスティアと化したタナトスが、洞察する。 「肉体ヘノ負荷ガ大キ過ギル。恐ラク攻撃ハ一度ガ限界…其レデハ敵ヲ倒セナカッタ時ニ、窮地ニ陥ルダケダ」 「それは…お前も同じだろう、タナトス」 闇遊戯は、挑発するように言い放つ。 「お前とて、それほどの力を操るからには相当の無理をしているはず…ギリギリなのは、お互い様だ」 「ナラ…条件ハ同ジカ。ヨカロゥ」 ベスティアが口腔を(その余りにも形容し難き姿形故に、本当に口であるかどうかは疑わしかったが)大きく開き、 ビチャビチャと体液を滴らせながら、混沌そのものの如く這い寄る。 「王(ファラオ)ト神(タナトス)、白黒ハッキリ付ケヨゥジャナィカ」 「そうだ。どちらが勝つにせよ…ここで、全てが決する」 金色の女神が大きく両腕を広げ、天を仰ぐ。黒を越えて、聖なる光の力が世界を満たす。 「女神よ…オレ達に光を…希望を…勝利をもたらせ!光創世(ジェセル)!」 白磁の両腕が振り下ろされ、白き閃光が黒の世界に降り注ぐ。それは暗闇を、暗黒を、絶望を消し去ろうとするかの ように眩く輝き、絶対の黒をも圧していく。 魔獣はそれに対して、退くことなく立ちはだかる。 創世の光を前にして、破壊の黒を以て喰らい付く。
「魔獣ヨ…世界ニ…歴史ニ…地平ニ…全テニ終焉ヲ!死魔殺炎烈光(ディアボリック・デスバースト)!」 ベスティアの全身から立ち昇る、地獄から湧き出したような黒き焔。それはまるで己の意志を持つかのように蠢き、 渦巻き、女神の放つ白き聖光を押し返さんとばかりに蝕んでいく。 激突する白と黒が互いを消し去らんと、激しく明滅する。 「うおおおおおおおっ…!」 全身の血液が沸騰するような灼熱感。 鋭い針を全身に突き立てられる程の痛み。 例えれば、肉が尽く引き裂かれ、骨が一片残さず粉と化す地獄。 その全てに耐えて、闇遊戯は眼前に立つ魔獣を―――死神を睨み付ける。 「グガガガガガガガッ…!」 タナトスもまた、己の骨身を削っていくような闘いを強いられていた。 強大な魔獣の力を振るい、偉大な女神の光に真っ向から挑んでいるのだ。 彼もまた己が神性の全てを懸けて、この最後の決闘に臨んでいる。 両者ともに―――真の決着を、望んでいる。 白黒きっちり―――ケリを付ける。 「くっ…あああああっ」 だが、それでも―――不利なのは、闇遊戯だ。 共に満身創痍だったとはいえ、闇遊戯の肉体は人間であり――― タナトスの肉体は、ヒトという存在を遥かに超越する神の其れ。 他の条件が同じなら―――人間が、神に勝てるはずがない! 「ドゥシタ、古ノ王(ファラオ)ヨ!コノ程度ガキミノ力カ!?其レデヨクモ大口ヲ叩ケタモノダ!」 「くっ…!」 「違ゥダロゥ…コンナモノジャナィダロゥ…キミ達ガ語ルベキ、人間ノ強靭(ツヨ)サハ!」 タナトスは、吼える。 「示シテミロヨ、人間ハコノ程度デ終焉(ォワ)ラヌト…コノ程度デ挫折(クジ)ケヌト!」 それはまるで―――そうあって欲しいと願っているようだった。 「我ヲ否定スルノナラ―――我ノ救ィヲ拒絶スルノナラ―――人間ノ力デ、我ヲ越ェテミセロ!」 「が、あ、あっ…!」 それでも、もはや闇遊戯は最後の力すら、一滴残さず枯れ果てようとしていた。 視界が暗く染まる。足が地に着いているのかどうかも分からない。痛みだけがますます酷くなっていく。
(もう…オレは…) ―――誰かの声が、聴こえた。 「遊戯!」 「しっかりしやがれ…!」 遠のき始めていた意識が覚醒する。 「城之内くん…オリオン…」 二人が、ボロクズのような身体に鞭打って―――崩れ落ちかける闇遊戯の身体を、支えていた。 「言ったろうが…一人じゃ耐え切れなくっても…」 「お前にゃあ…仲間がいるんだ!皆一緒なら―――何も怖いもんなんかあるか!」 「…………!」 よく見れば、二人だけではない。 「おのれ…このオレに下らんスポ根決闘(デュエル)の片棒を担がせおって!」 海馬。 「このレオンティウス…友を支える程度の力ならば持っておる!」 レオンティウス。 「遊戯…運命なんかに…負けないで!」 ミーシャ。 「これで終わりにするんだ―――全ての悲劇を!」 エレフ。 誰もが本来なら指一本も動かせないようなズタズタの身体で、全員で闇遊戯を支えていた。 (往こう―――皆と一緒に!) 最後に、誰より頼れる相棒が。 (オレだけじゃない…皆が…共に闘っているんだ…) 全身に、血が通っていくようだった。あれほど耐え難かった苦痛が、消え失せていた。 「下ラナィ…下ラナィナ、ヤリ尽クサレタ展開ダ…シカシ、其レディィ!其レコソガ人間ノ力!一人一人ハ弱ィカラコソ、 皆デ支ェ合ィ、ソシテ―――キミ達ハ今、神サェ殺スノカ!」 そして吼える吼える魔獣(ベスティア)―――猛る猛る死神(タナトス)! 「愛シテル…愛シテルゾ、人間!今我ハ、コノ冥府ニ産マレ堕チテ以来、最モ愛スル人間達ニ出会ェタ!ダカラコソ 手加減ナドシナィ―――我ノ全テヲ懸ケテ、全身全霊デ愛シ抜コゥ!」 魔獣の力が更に強まっていく。だが、闇遊戯はもはや揺るぎはしない。
「タナトス…今こそ、オレ達の力を全てお前にぶつける…オレ達の勝利のために…そして、お前のためにも!お前に 示してみせる―――!人間の想いと…結束の力を!」 金色の女神が、黒き魔獣の力を越え、世界を白き光で照らしていく――― 「グァァァ、ァァァーーーーッ!」 タナトスもまた、最後の力でそれに抗うが―――如何に神といえど、彼はこの場にただ一柱。 如何に強大なる神であっても――― 繋がる力は。集う力は。結ばれる力は。それすら遥か凌駕する! 「神も…魔獣も…全てを超える…それこそが―――結束の力だぁぁぁぁぁぁぁっ!」 「遊戯!」 城之内が、声を嗄らして叫んだ。 「今こそブチ破れ―――運命も、歴史も、神様も―――全部まとめて、カッ飛ばせ!」 紫(シ)に彩られし死神(タナトス)も――― 黒(クロ)き書に記されし魔獣(ベスティア)も――― 白(シロ)き創世の光の中に、全てが消えていく――― ―――そして、黒の世界が光の中に呑み込まれ。 魔獣も女神も、もはやその存在を維持できなくなり、消滅した。 そして残された闇遊戯達は、再び冥府。 眼前には、冥王―――タナトス。 「…ハァッ…ハッ…ガハッ…」 全身が罅割れ、そこから止め処なく真紅の血を流しながら。 「間違ィカ…結局、我ハ間違ッティタト…間違ッティタカラ、負ケタノカ!」 「負けたから間違い…勝ったから正しい…そんな事はないだろう」 「だけど、ボクはやっぱり…貴柱(あなた)は、間違ってると思う」 未だ眼光鋭く睨み付けてくるタナトスに、闇遊戯…そして、遊戯が語りかける。 「確かに、生きていくことは辛いことだって多いよ。嫌なことや悲しいこと、痛いことだってたくさんある…けれど ―――其れでも人は生きて、征くんだ。確かにボク達の生きる場所は、願った事全てが叶う世界じゃない。だけど、 誰もが遥かな地平線を目指して!残酷な運命の中で、生き足掻くんだ!死だけが全てに平等な救い?或いは貴柱 自身が運命の神になって、どんな願いも叶う幸せな世界を創る?そんな救いがあるか、バカ野郎!」
「…………!」 「タナトス!貴柱のしていることは…人間の可能性の全てを奪うことと同じなんだよ!」 「故ニ我ガ愛ハ間違ィダト云ゥノカ―――!ナラバ我ハ、我ハドゥスレバヨィ!」 「受け入れればいいんだ、タナトス」 遊戯…否。闇遊戯は、静かに答えた。 「精一杯生きて、生きて、生き抜いた者たちが、最期に辿り着くこの場所で…暖かく、彼らを迎え入れてやること。 それがお前がしてやれる、人間に対する愛だと―――オレは、そう思う」 「ソゥ、カ…其レガ、キミ達ノ…人間ノ、答ェカ」 タナトスは、張り詰めていた何かが解けたように、安らかに笑っていた。 「我ノ趣味デハナィガ…負ケタ以上、認メルヨリナシカ…敗者ハ黙シテ、引キ下ガロゥ」 サレド。 「覚ェテォクガヨィ、死セル者達―――我ハ諦メタ訳デハナィゾ。人間ニハヤハリ我ノ救ィガ必要ダト感ジタナラバ、 我ハ再ビ、生ケトシ生ケル全テヲ、殺メ続ケル事デ救ォゥ―――」 タナトスはそう言って、爽やかにすら思えるその笑顔を闇遊戯達に向ける。 「ソゥナラヌ為ニモ―――精々、懸命ニ生キルガヨカロゥ」 「生きる」 エレフは、気負いなくそう答えた。 「私達人間は…強く生きられる」 「そうよ。どんなに辛くても、生きろと…皆が教えてくれたわ」 ミーシャが。 「貴様の気遣いなど、余計なだけだ」 海馬が。 「運命は残酷だ。されど彼女を恐れはしない―――例え女神(ミラ)が微笑まずとも、我等は挫けず生きよう」 レオンティウスが。 「ま、難しい事は言えないけどよ…最後の最期で笑って死ねれば、それで運命に対して俺の勝ちさ」 オリオンが。 「そういうこった。だから、まあ…心配すんなよ、タナトス。あと…一つだけ言っとく」 最後に城之内が、少々バツが悪そうに口を開く。 「オレは別にアンタのこと、嫌いじゃねーし憎んでもいねーよ…ま、好きにまではなれねーけどな」 多分、他の皆も同じだよ。城之内はそう言った。
「…ソゥカ。我ハキミ達ガ好キダヨ。フフフフフ…ァノ仔等ノ言葉ナド聞キ流シテォケバィィノニ、其レガ出来ナィノガ キミ達トィゥ人間カ…嗚呼、ソゥカ」 ダカラ我ハ―――キミ達ノ友達ニナリタカッタンダ。 そう呟いて、タナトスは冥府の空を仰ぎ見る。 「最後ニ…我カラ一ツ、粋ナ計ラィヲシヨゥ。レオンティウス、アルテミシア、ソシテ、エレフニ」 「計らいだと…最後まで、何を企んでいる?」 猜疑心バリバリの海馬であったが、タナトスは気にせずに笑った。 「何…キミ達ノ顔ヲ見タィト望ム亡者達ガィルノデネ。本来ハ赦サレヌ事ダガ…マァ、今回ダケハヨカロゥ」 タナトスは背後を振り向き、声をかけた。 「ォ前達…モゥ一度、顔ヲ見セテヤリナサィ」 すう―――っと。まるで、初めからそこにいたかのように、彼らは忽然とその姿を現していた。 「あ…」 「そ…そんな…」 「あなた達は…!」 そこにいたのは、彼らにとって懐かしい顔だった。 エレフとミーシャの育ての両親―――ポリュデウケス夫妻。 レオンティウスの叔父にして、赤髪の蠍―――スコルピオス。 そして、運命に翻弄されし三兄弟の母―――イサドラ。 ポリュデウケス夫妻は、笑顔で手を振っていた。 スコルピオスは、レオンティウスに向けて不敵に口を吊り上げ、中指を立てる。 イサドラは、ただ静かにエレフとミーシャ、レオンティウスを見つめて、満足そうに笑っていた。 言葉はなかった。ただ、もはや決して交じり合う事のないはずの生者と亡者はしばし見つめ合っていた。 どれだけの感情と想いを込めてか―――静かに、向かい合っていた。 「―――サァ。名残ハァロゥガ、此処マデダ。サヨゥナラ、現世ニ生キル者達ヨ―――」 ふうっと、闇遊戯達の身体が宙に浮かぶ。やがてその周囲に眩い光が集い、彼らを静かに包んだ。 「我ノ力デ、地上…アルカディアニデモ送ッテヤロゥ。ソンナ身体デハ、モハヤ其処マデ戻レマィカラナ」 「…へっ。至れり尽くせりの死神様だな、全く」
城之内の、どこか温かみを感じさせる悪態を最後に―――彼等は、地上へと戻っていった。 それを見届けた死者達もまた、満足げに笑って消えていく。 残されたのは、タナトスただ一柱。 彼は、詠うように口ずさむ。 「…運命(ミラ)…貴柱(ァナタ)ガ命ヲ運ビ続ケ―――」 「怯ェル仔等ニ痛ミヲ与ェ続ケルノナラバ―――」 「我ハ、生ケトシ生ケル全テヲ―――」 「―――唯、静カニ愛シ続ケ、見守リ続ケヨゥ―――」 現世と時空を隔てた超空間。 全てを見届けた詩女神六姉妹は、人間の示した奇蹟を目にして声もなかった。ただ一人を除いては。 「―――ね、ね?あたいの言った通りあの仔等、勝ったでしょ?ねえ。姉ちゃん達ってば、無視すんな、おーい!」 「…確かに」 やたらとはしゃぐ六女・ロクリアに対し、長女・イオニアは咳払いして答えた。
「人間は…我々が思うよりも、ずっと強いようですね」 「でしょでしょ?あたいの言った通りだよね!」 「貴柱(あなた)が威張る事ではありませんがね」 「ガッビーン!」 「さて、皆。帰りましょうか…最早タナトスに、害意はないと判断します」 「おーい、待ってよ!帰り支度すんな!あたいはまだ山ほど言いたい事が…」 ロクリアを完全に黙殺し、詩女神達は再び神の国へと帰っていく。 「人間よ…」 イオニアはその途中で、呟いた。 「あなた方はいずれ、火を騙り…風を穢し…地を屠り…水を腐(くさ)す…そしてやがて、神を殺し、神への畏れを 忘るるでしょう」 其れでも。 「お往きなさい、仔等よ―――命がある限り」 ―――こうして、古代世界を揺るがした戦乱は真に幕を閉じた。 それは即ち、遊戯達がこの時代を去る日が遂に来たという事。 最後に向かうはレスボス島―――この物語が幕を開けた場所にして、幕を閉じる場所。 神話を生きた者達との別れの時は、刻一刻と迫っていた。
投下完了。前回は
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1058.html ついにラスボス撃破。次回から終章を三回に分けてお送りして、超古代決闘神話も
完結となります…長かった。そして、本当に名残は尽きない。
つーか最後、ポリュデウケス夫妻とイサドラママンはともかく、何でさも当然のように蠍さんまでいるんだよ!
あたかも星矢終盤の黄金聖闘士全員集合シーンでいい笑顔でちゃっかり正義側に加わってた魚座の人と
蟹座の人のように!
>>62 ネタさえあれば、僕もこれからもガンガン書きたいんですが…決闘神話が終わっても、
サンレッドはもうちょい書くと思います。
>>71 レッドさん、キャラは十分立ってるけど、活躍するのはいつもフロシャイムの面々ですしね。
公式でもヴァンプ様が真の主役扱いだしw
>>ふら〜りさん
「来るぞ来るぞ、やっぱり来た!」こういう展開が僕は大好きです。宗介はもう、本格的にフロシャイムに
入社しちゃえばいいと思います。ヒムは多分、超人野球漫画を見て「これだ!」と思っちゃったんじゃないかな…。
82 :
作者の都合により名無しです :2009/12/18(金) 10:57:30 ID:HIzC6wPF0
ついにラスボス撃破、エピローグ突入か・・ 寂しいけど、サマサさんにしては「やり終えた」って感覚なのかな 爽やかなラストを期待してますぜ。
84 :
作者の都合により名無しです :2009/12/18(金) 23:42:11 ID:3wjaoep00
【番外編 のび太のホーリーランド】 野々宮拓馬。光臨館初段のリーゼント頭、のび太と同級(タメ)の16歳だ。 「学校の裏山で居なくなったカヨ、お前は何か知っているはずだ」。 のび太に投げかける言葉。カヨは野々宮が光臨館に入る前、美沙に逢う前に好きだった女の子。 「ケンカするつもりはないよ。逃げるつもりもない。だけど、これじゃ不公平だ」。 のび太と野々宮は、練馬区内の駅構内地下街にあるアミューズメントセンターの一角にいる。 隣はパチンコだしゲームコーナーは室内が暗い。筺体がキャラクターたちの狂態を映し出す画面の発光だけが、灯り。 野々宮はイスにも腰掛けず、高校の友達の遊ぶ様を横から見ていたのび太を見下ろし話しかけた。 そして、相手が野比のび太なのを確かめるといきなり本題に入った。 なにせ室内は音が凄まじいから、のび太の友達でさえのび太の知り合いが来てるぐらいにしか思っていない。 「どう不公平なんだ」。野々宮が少しドスの効いた声を出す。漸く、のび太の友達がギョッとし始める。 だが野々宮の疑問は尤もだ。のび太は、既に銃使いとして通学圏内の高校生たちに知られている。 のび太の通う学校でも、のび太への呼び出しや個別の持ち物検査が行われたこともある。 だから本日、のび太はガスガンを持って来てないことを野々宮に伝えるまで一苦労を要した。 そのうえで、野々宮が筺体を隔てた向こう側に行き定額契約の携帯電話のチャットで話し合うことが決った。
85 :
作者の都合により名無しです :2009/12/18(金) 23:43:35 ID:3wjaoep00
「ノノ>こちら、ノノミヤ。」 野々宮のハンドルネームに、軽く噴出してしまうクラスメート。無駄に萌え易いネーミングだ。 慌てて筺体の向こう側を見るが、野々宮はなぜか半笑いだ。 のび太は初対面からの何だろうという感じを崩さず普通に返信する。「Vitter>カヨさんて誰ですか?」 「ノノ>小さいとき、お前らの校区に住んでた女子だ。」「ノノ>裏山は遊び場だった。」 「Vitter>いなくなった、とは?嫌な感じがするけど」「ノノ>話を合わせられても困る。当時の新聞記事もあるけど」 「ノノ>カヨがいなくなった日の、裏山の天気。空模様というか。何か憶えは無いか?」 クラスメートたちは、野々宮は頭がおかしいのかと訝り始める。だが、のび太は野々宮が何を伝えようとしてるのかわかった。 しばし、どうすべきか考える。野々宮は、さきほどの体の向きからして何らかの打撃技を使う。 中学に上がる前、--龍書文のは速すぎて全然見えなかったが−−黒川がやってた技のおかげで打撃技には造詣のあるのび太。 野々宮の格闘技術は未知数だが、何か習ってるドキュソ風の奴が業を煮やして何かしてきたら厄介だ。 「Vitter>覚えがある。だが、今それを掘り起こすべきではない。」 「ノノ>わけを、おしえてくれ」「ノノ>だってお前ら」2行目の送信、野々宮が勇み足してしまう。 同時に、「Vitter>カヨさんの新聞記事を持って裏山に来てくれるか。」のび太が返信を滑らせてしまう。 そこから「ノノ>2時間でいける。」は4秒しか間が空かなかった。 のび太が顔を上げて何か言おうとしたが、目の合った野々宮は黙って頷くと電話を畳んで踵を返した。
86 :
作者の都合により名無しです :2009/12/18(金) 23:46:58 ID:3wjaoep00
のび太とドラえもんは、のび太が更生し終えてからも度々会っている。 人の自発的な更生には生憎というか幸いというか、完璧や確実は無いからセワシがドラえもんとのパイプを確保してくれているのだ。 セワシは、22世紀人特有のメタ認識で実家の豊かさや空気がみるみる変わっていくのを感じていた。 それと同時に、“新しい”生活にどことなく寂しさをも感じ始めてもいたのだ。ジャイ子の入所先へ寄り道する日も増えた。 ドラ焼きを齧りながら、ドラえもんは電話に出る。その回線に出るときは、いちいちタイムマシンの座席まで出ねばならないが。 「ククルのこと、憶えてるよね。あのときの裏山で、女の子が一人いなくなってるらしいんだ」。 「そうか、ちょっと待って…」。「データがあったよのび太くん」。その間、2秒。のび太の傍らで、コクピットモニターに画が燈る。 次に出たドラえもんは、『壁紙式の』収納スペースから無線のリピート装置を出してきてセワシたちと一緒に 炬燵で団欒しながら通話してきた。どうやら、22世紀では数時間程度が過ぎていたようだ。 「航事局情報公開受付の検索システムを使った。史料を見てくれ」。 亜光速の周期で明滅する画面の中でドラたちのリビングのシーンが、電子書籍のような物の表紙に変わる。 「いいかい、のび太くん」。それで始まるドラのナビと史料で、以下のことがわかった。 残念ながら、女の子はまだ裏山にいる。のび太が交信してる時刻から約2年後の2008年、自称霊能者のサバイバルゲーマーによって発見される。 20世紀からドラえもんの交信時刻まで、ククルが来たときの空模様は報道されていない。同じく、カヨの仇についても続報なし。 そして、のび太は近況と野々宮の出現をドラに伝える。
87 :
作者の都合により名無しです :2009/12/18(金) 23:48:34 ID:3wjaoep00
「まずいぞ、のび太くん。居住権にまつわる地球の新しい人権のうち『史上いつの日も存在する権利』には、当然義務も伴うんだよね」。 「『戦国自衛隊』作品群(これに着想を得た全く別の作品たちのこと)ファンのギガゾーは論外だけど」。 「僕ら市民もね、未来に関する『決定的な』情報を知的生物に伝えたり記録に残したりしたらやばいんだ」。 「逆に、記憶野やメモリへのエディトリアルな干渉もやばい。思想信条に関るところは、不可侵の聖域なんだ」。 「だから、僕もそっちへ行くときは目撃者に違和感を覚えさせない電磁波…じゃなくて不可視光線を出してるんだよ」。 「いちばんヤバイなのは、人のイキシニに関る事象だな。生かした場合でも、歴史破壊になる」。 「歴史破壊は、自然人(知的生物)もロボットも無しに官民問わずどこの組織も飛びついてくるよ。憲法が根拠法規みたいなもんだな」。 「おおもとの憲法ではプログラム規定じゃないから、ひとたび世界政府…じゃなくて国連の末端運営機関が動いたら最後だと思っていい」。 「ああ、最後といってもそんなに気にしなくていいよ。ただ、とっても寂しくなるよ」。 のび太はしばらく、Ikishinyって何の単語なのか後で聞こうと思ってた。 だが今ののび太は、帝愛の時間貯金箱を使って初めて本当に奮起した頃を思い出していた。 あのときと同じ、親友との時間を守る戦い。 「何かあったら報せるよ。よかったら、見ててくれると嬉しいな」。 そう言って抽斗から畳へと下りるのび太。タイムテレビの存在や、子守ロボットの見守り。 自身が、いつの間にか「逃げ」のベクトルを持ち始めていることに気付いて少し恐れを抱く。 そんなのび太を、昨今の廉価で安定したラジコンヘリの搭載する盗撮用無線カメラで見る者があった。 のび太が入れようはずも無い抽斗から、のび太が出てくるところを見た彼は、それを恐れもせずニヤリと笑った。 「ダメだなぁ、のび太は」。そんな光景を、こんなにも原始的な装置で観て笑ってられる人間は限られてる。 「けど、僕のフェンシングは一人用なんだ。悪いな」。彼は大きくなって、スペアポケットに昔とは違う価値を見い出していた。
88 :
作者の都合により名無しです :2009/12/18(金) 23:50:33 ID:3wjaoep00
カイカイです。番外編は、本編とは全く無関係でもないけどツナガリは少ない外伝なのでよろしく。 タイムふろしきはチロの話では使われなかったり(うろ覚え)無人島の話で活躍したりしましたが、 無人島の話を思い出す限りではのび太が帝愛で失敗してもドラの科学力が帝愛を圧倒してる間なら 何回でもやりなおさせることができるんじゃないかって気がしますよね。 タマシイムマシン等とは違い、本当に一度消滅して小学生からやり直すことになりますが。 帝愛との戦いというより、澤井課長の子孫が積極的に使ってそうな。 VSさんの作品に興味がわいてまいりました。マージャン教室以外にも、何かありますかね。 あと、ドラえもんにはよくお金を取り立てる系のロボットが出てくるので いっぺん帝愛とのび太たちの単純な狩る者狩られる者の戦いも描いてみたいです。
89 :
作者の都合により名無しです :2009/12/18(金) 23:52:29 ID:3wjaoep00
【ダメ人間なのび太も奮闘!】「のび太と地球鉄人兵団」 「今知ったんだけど、もうここいらに"腕が伸びる”ムショでも懲役作業でプログラミングをしてるらしいね」。 朋友の「今」、さっきテレビを観てたのか今しがた何かを受信したのかわからないのがのび太を飽きさせない。 「エエ、インド人はともかく懲役マンにまで委託すんのか。そのうち、池沼が参入してこないだろうな」。 「ところでインド人はどっち側なんだろうか。辛うじてこっち側なんだろうか」。 この場にララァさんが居たら、22世紀の"時裁”へ訴えられる発言。 「知ってるか、のび太くん。僕らロボット界でも屈指の闘士・Dr.ワイリーの偉人伝」。 Dr.ワイリー。22世紀では闘士か戦犯かで意見の分かれる人物だ。ドラえもんは平凡に肯定派。 ワイリーは、常人なら7時間も保たず精神をやられる電子回路設計作業から 監視の一番厳しい板金工場まで、いろいろな作業ができた。そして、幾度目かのロボットを率いた内戦を起こす。 その偉業を支えたのが、各種の電子設計作業だ。
90 :
作者の都合により名無しです :2009/12/18(金) 23:53:12 ID:3wjaoep00
「最近、過去の世界にロボットの理想郷を作る動きが出ている。普通に暴挙なんだが、なぜか推し進められてるんだ」。 「いい結果が出るとは思えない。だけど、一度は見たい夢だ」。後半、主語が抜けている文言。曖昧なコトバ。 坂崎さんちに住んでる謎のロンゲ男なら、こんなとき違和感を感じて”スイッチレバーが下がり始める”ことだろう。 しかし、相手は未だ目覚めぬダメ人間。しかも、喩えじゃなしに、まだほんの子供だ。 のび太は、ねじまき都市のことを覚えてはいたが「まぁいいや」で済ませてしまう。 そして、ドラえもんの提示したロボットの受け取り証をバンダナのように頭に被り、契約の意志をその繊維に滲み込ませる。 のび太はドラえもんのオーナーではない。子守ロボットで、ポンヨウだ。だから、のび太がロボットを持つのは初めてだ。 のび太が体を動かしたくなったからと遊びにでかけてから、ドラえもんは畳に落涙した。 こうするしか、なかった。静かな侵略戦争。地球人類は今、外なる文明の産物たる22世紀のロボットたちに脅かされ始めていた。
一年以上続いた決闘神話もついに終わりか バキスレで50話を越える大長編が完結するのもこれが最後かな… 遊戯王SSでしかも長編って今までなかったから楽しかったよ ところでサマサさんの「東方聖誕祭」をまとめサイトに編集したの誰だよ 前半部分がごっそり抜けてるぞ カイカイさんは本当に電波ゆんゆんで素晴らしいぜw これからも独自路線を突っ走ってくれ
92 :
作者の都合により名無しです :2009/12/19(土) 15:44:22 ID:8sRepArx0
こんなSSが読みたい! 1. BlackCat イヴ×リオンのSS 2. 鬼切丸 鬼切丸×鈴鹿のSS 3. MURDER PRINCESS カイト×ファリスのSS 4.. 式神の城 玖珂光太郎×結城小夜 OR 玖珂光太郎×城島月子のSS 5. 大竹たかし DELTACITY 全2巻 6.. ヴァンパイア十字界 蓮火 × 花雪 OR 蓮火 × ブリジット 7. 地獄少女 (1) 不合理な 地獄少女の被害者(e× 看護婦,1期の看護婦、2期の 拓真を助けに来てくれた若い刑事,秋恵) 家族・恋人が 地獄通信に 地獄少女と仲間たちの名前を書くSS (2) 極楽浄土の天使 OR 退魔師が 地獄少女と仲間たちを断罪するSS (3) 拓真の 地獄少年化SS 二籠の最終回で拓真が地獄少年になるのかと思ってたんですが・・ 地獄少年 ジル : 所詮この世は弱肉強食。 強ければ生き弱ければ死ぬ。 拓真 : あの時誰も僕を守ってくれなかった。 守ってくれたのはジルさんが教えてくれた真実とただ一振りの超能力 ・・・だから 正しいのはジルさんの方なんだ。 8.. 真・女神転生CG戦記ダンテの門
93 :
作者の都合により名無しです :2009/12/21(月) 00:17:20 ID:cTDOZL9s0
のび太はすごいですよね。素材として。 そのうち、「元気やでっ!」とのコラボも考えてます。 その場合、のび太たちが街の図書館で紛失する未来日記がメインテーマになりますので、 夜神たちも高確率で参入してくるでしょうね。 というか、あの秘密道具をテーマにしてて夜神たちを出さずにはいられない。 尤も、人氏にに対してはリミッターを設けるので。 【ギガゾンビの逆襲】 鎮静ルームは、いよいよ狂気の坩堝と化していた。 先ず、安藤の負債残高と回収見込み残高が一人の収容者の持つ電子書籍リーダーに転送されてきた。 負債残高、なんと1300万円! そして、回収見込み残高が200万円だ。この、哀しい現実。 安藤は、あんな体形でただでさえ作業能率は悪い。 また、土木作業に適した体にするためのレーシック代もかかっている。 だが、改造はそこまで。さすがの地下労働者とて、脂肪熔解エステまではついていないのだ。 それに、安藤を標準の範疇へ戻すのに現代科学で強引な方法を選ぶと、安藤の肉体が崩壊してしまう。 8畳間の和室に詰め込まれた20人余りもの収容者たちは、一人頭10万円以上でいつまでに安藤が食卓に上るのかを思案していた。 そこへ、一石を投じるのは村上直樹だ。
94 :
作者の都合により名無しです :2009/12/21(月) 00:21:11 ID:cTDOZL9s0
モノを動かすよりお金や権利を動かした方が儲かる、この信条から彼は旧大蔵省時代から貸付資金系を動かしてきた。 「オレは昔、山崎と言う変態に嵌められて似たような目に遭ったことがあります<中略> 出口の見えない今の状況で、目先の食糧のためにお金を積むという考え、それはやばい」。 「だからって、腹は減るぞ!」。ヤミキンの丑島が怒鳴る。 そう、シェルターへ殺到した人間の中でも、人口増加率よりも増加人数が最も多い階層。それが、低級居住権層。 食糧の供給、実は兵藤たちの次に兵士や労働者が準最優先される。その次が、中堅以下のセレブ層だ。 だから、帝都新聞の経営陣とかが「質を落してでも、量を増やしてくれよ」などとほざいてもダメなんだ。 労働者対象の勤労奨励システムで、サービスランチが供給停止になって久しい。 もちろん、低級居住権層でさえめしの量が減っているのだから本来の対象者でない者にまで回らないのだ。 居住権者から餓○者が出るまで、現状はかわらないだろう。 「そこまでカネを出せるなら、安藤なんかほっといて旨いめしを食べませんか?」 「そうだな、Tボーンステーキは腹持ちがいいぞ」。
95 :
作者の都合により名無しです :2009/12/21(月) 00:22:58 ID:cTDOZL9s0
「ダメだ」。「競り合いになる」。「それこそ、村上さんのドキュメンタリー映画みたいになるぞ」。 神威三兄弟の、滝の水みたいな連携に皆が静まり返る。居住ランクも、鎮静ルームでは最上層の3人だ。 その連携の素晴らしさも然る事ながら、やはり絶対量のことが気になるのだ。 「食材だけ、買えませんか?バターやチーズさえ手に入れたら、あとは電子レンジや鍋だ」。 空気清浄税をケチるジャッカル、薄暗い和室で電子葉巻を吸いながら続ける。「要は、貧者の肉を食えばいいんだ」。 さしものジャッカルも、思考が錯綜し始めている。洋食では定番の乳製品、だがこの喩えはよくない。 再び、安藤を食べる気運が高まったからだ。 「確かに、人件費を省ける」。そうと決まれば、安藤へ皆の注意が向く前に算段をつけねば。 スネツグは言うが早いか、便所へ続く襖を引き、スリッパをペタつかせながら鎮静ルームを出る。 見張りの黒服に、レストラン部門へ問い合わせをしておいてもらうのだ。 そして、誰が言うともなしに規定人数の3人ずつ襖を出入りし、トイレ休憩や冷水機の水で時間を潰した。 午後3時前。少ない昼食には空腹が堪える時間帯になって、黒服は痛ましい伝言を鎮静ルームに向けて発表した。 皆、ガックリとうなだれてしまった…。だが次の瞬間!
96 :
作者の都合により名無しです :2009/12/21(月) 00:23:50 ID:cTDOZL9s0
「事態は、最終段階へと移った。この『安藤』という奴を買い取って、余すとこなく食いモンにするぞ」。 さっそく、猿1頭を丸ごと中華フルコースに調理できる料理人が呼び寄せられた。 それと同時に、労働部門へ安藤の買取交渉が開始される。 ほどなくして秋山醤、味沢匠が鎮静ルームの框で革靴を脱ぐ。異様な熱気に、遅れて到着した安藤はギョッとする。 先ず、調理の手順として食材のコンディションを確かめる。安藤の体臭がムッと漂い始める頃、鎮静ルームは動き出した。 秋山は調理室へ行ってタマネギと香辛料を検分し、味沢は肥満者救済の按摩と称して肉付きを最終確認する。 ジャッカルは安藤の周辺関係を最終確認するため、安藤の生体情報としての指紋を特製の電子書籍リーダーに斯ける。 すると、画面の安藤のプロフィールが消えて野比のび太のそれが現れてしまった。 「どういうことなんだ……?」 プロフィールを安藤のものに戻して調べ直すが、どうしても安藤と野比の指紋一致だけが覆せない。 もっとも、安藤の登録情報に関しては最初から不審な点はインプットされていないのだが。 「指紋の一致も、数兆分の1とかで必ずしもゼロではないようなのですが・・・」。 ジャッカルは野比のプロフィールを調べ始めた。そして、驚愕の事実を鎮静ルームは回覧することになる。 薄暗い和室にクッキリと明滅する画面には、「帝愛との関係:台湾方面本部長・龍書文の朋友」とあった。
97 :
作者の都合により名無しです :2009/12/21(月) 00:26:15 ID:cTDOZL9s0
「この偶然は奇跡的です。しかし、彼と野比に何ら因果関係はないものと思われます」。 「思われます、じゃ不充分だ…。相手は、あのロンだぞ。ロン。おい安藤、どうよ」? 何の事前情報も与えずに、それでいて馴れ馴れしく「どうよ?」とくる。 安藤、体の嵩だけなら意外にもジャッカルとはタメ同士なのだ。 「あの、ぼく実は野比のび太でーす」。誰も、笑わない。静まり返る。 さては、安藤は自分の運命を悟りそれに抗い始めたのか? それとも・・・・・・・。 ※「安藤」は、カイジの安藤です。決してアンドレもどきのバキキャラじゃないのでよろしく。
98 :
作者の都合により名無しです :2009/12/21(月) 01:02:45 ID:eoQn085Y0
よく意味がわからん
99 :
作者の都合により名無しです :2009/12/21(月) 14:15:14 ID:Bw0ObrjE0
カイカイさんは爆走してるなw
100 :
ふら〜り :2009/12/24(木) 21:06:32 ID:IExbkDbH0
>>サマサさん 最期まで、神の視点でしたねえタナトス。「敵にも敵の正義がある」って私は嫌いなんです が、彼の場合は善悪の枠を完全に外れてて、壮大かつ清々しい。その辺り、城之内が理解 してて、言葉にしてくれたように思えます。お名残惜しいですが、フィナーレも楽しみです。 >>カイカイさん(VSさんは、旧まとめサイトに山ほどありますよ。最初期四天王の1人です) で、いきなり真島君ですかっ。しかもチャット……原作の連載当時、私はまだ持ってなかったな 携帯電話。さておき、時間の行き来は昔からいろいろ議論されてますよね。ドラたちこそ、 歴史を変えまくりだぞとか。不可視光線とかでその辺いろいろ補強しているのが面白いです。
終章1「帰るべき場所へ」 あの<冥王タナトス>との闘いからしばし時は流れ―――レスボス島。 星女神の神殿。 その中庭では、この世界を去り往く遊戯達に最後の別れを告げんと、多くの者達が集まっていた。 「ふふ。これだけの面々が一斉にこの神殿に集まるなんて、もうないでしょうね」 <詩を詠む聖女>ソフィアは、相変わらず大人の微笑みを浮かべていた。 そして彼女は、ミーシャの頬にそっと手を添える。 「ミーシャ…今のあなたを見れば分かるわ。本当に、強くなったわね」 「ソフィア様。私だけでは、この時を迎えることなんて出来ませんでした」 ミーシャは静かに語った。 「素晴らしい仲間達が―――友達が、いてくれたからです」 「そうね…」 二人は、遊戯達を見る。彼等は集まってくれた皆と共に、最後の時を過ごしていた。 「あなたも行ってきなさい、ミーシャ。私となら、いつでも話せるでしょう?」 「はい、ソフィア様」 ミーシャは人だかりの中に駆け寄り、自らもその一員となった。 「お、ミーシャか。ソフィア先生と何を話してたんだ?」 「ふふ、女同士の会話を探るものじゃないわよ」 「ちぇっ、ケチ。それにしても…とうとう、この世界ともお別れか…」 城之内が名残惜しげにつぶやく。 「うん…やっと元の時代に戻れるのは嬉しいけど、オリオン達とお別れって事だもんね」 遊戯もそんな事を言うと、オリオンは眉根を寄せて詰め寄った。 「なあ…お前ら。ほんとに行っちまうのか?」 「あ?そりゃそーだろ。未練はあるけど、もうこの世界でオレ達がやれることは全部やっちまったからな」 「それに、元の時代で待っていてくれる皆がいるから」 「フン…オレがいなくては海馬コーポレーションも成り立たんからな」 遊戯達は、名残惜しそうなオリオンにそう答えた。
「そっか…やっぱそうだよな」 「オリオン様。無理を言ってはなりません」 横からミーシャと同じく星女神の巫女が一人、フィリスが口を挟む。 「彼等は天界の住人…俗世での使命を終えられた以上、これ以上人間の世界に引き留めてはなりません。我々は その御姿を、ただ小さき心の内に残しておきましょう…」 多分、今の彼女の脳内では、徐々に奇妙な感じになった遊戯達が決め顔で親指を立てつつ天に昇っているのだろう。 それでいいのだ。彼女はそれで幸せなのである。 「この人、まだボクらのことを勘違いしてたんだ…」 「いいんじゃないか?このまま神様で。少なくとも…我々にとってお前達は、神以上の事をしてくれた」 エレフはそう言って、深々と頭を下げた。 「みんな―――ありがとう。お前達に会えなければ、私達はきっと見るに堪えないくらい酷いことになっていた」 「フン…思えば、貴様には世話ばかり焼かされたものだ」 海馬は憎まれ口を叩くが、その横顔は少しだけ―――ほんの少しだけ、寂しげだった。 エレフは海馬に、右手を差し出す。海馬は迷ったものの、その手を握り返した。 「さよなら…遥か遠き時代を生きる友よ」 「…フン」 オリオンはそれを横目に、ミーシャと顔を見合わせて、お互いに少し悲しそうに笑う。 「まあ…仕方ねえか。けどお前ら。俺というハンサムガイがいた歴史的事実を、あっちに戻っても語り継げよな」 「私というキュートガールがいた神話的事実も、覚えていてね」 「ガールって年じゃねえだろ…いてぇっ!」 ミーシャの鉄拳が火を噴き、城之内の顔面を陥没させた。某ガキ大将クラスの破壊力である。 「全く、最後の一時だというのに賑やかだな」 レオンティウスは呆れたように言いつつ、顔は和やかに笑っていた。 「しかし、それもまた彼等の強さなのでしょう」 彼の傍に付き従うカストルは、今さらながらに感嘆していた。 「その力こそが、強大なる冥王すらも撃ち破った―――そう思えて、なりませぬ」 「そうだな…さて。私も挨拶を済ませてこようか」 そしてレオンティウスは、遊戯達三人の肩を優しく叩いた。 「遊戯、城之内、そして海馬…キミ達に言っておきたい事があるんだ。聞いてくれるか?」 「何だよ、改まって」
彼は、三人の顔をじっと見つめて。 「わ、私は…キミ達の事を、す、す…」 「す?」 「す…」 そして、ぐっと唇を噛んだ。 「す…素晴らしい友だと思っているぞ!」 空気を読んでちょっと妥協した。ノーマルな友人達に対して、アブノーマルな男のせめてもの気遣いであった。 対して城之内と遊戯はニコリと笑って、握手を求めた。 「ああ。最高の男だったぜ、アンタ!」 「かっこよかったよ、レオンさん!」 「そ、そうか…そう言ってもらえると、嬉しい」 レオンティウスは顔を赤くし、右手で城之内の手を、左手で遊戯の手を握った。 「おい、海馬。お前も握手くらいしろよ?」 「誰がやるか…その男からは、危険な匂いがするからな!」 「…それは否定しねえけど、気のせいだって…多分」 城之内も自信なさ気である。 「ふふん。しかしまあ、相変わらず面白いなあ、お前達は」 そこに割り込んできたのは<女傑部隊の女王>アレクサンドラだ。 「アンタか…正直、顔を合わせずに帰りたかったぜ」 城之内はゲンナリしていたが、勿論アレクサンドラは気にしちゃいない。 「露骨に嫌そうな顔をしおって、可愛い奴め。本当は麗しのお姉様に構ってもらえて嬉しいくせに。お前の本音など 私には分かっているのだぞ?」 「ほー。一応訊こうか?」 訊きたくねえけど。どうせロクでもない答えしか返らないし。空気読まないだろうし。 「<この女、頼んだら童貞捨てさせてくれるんじゃねえかなあ>」 「ロクでもなさすぎるし空気のくの字も読んでねえ!アンタの中でオレはどういうキャラなんだよ!」 「え…違うのか?」 「何で意外そうな顔を!?マジでオレがそんな事を考えてると思ってたのかよ!」 「…本気で嫌なのか…残念だ」 アレクサンドラは、溜息と共に言った。
「お前は嫌がってる振りして私を誘ってるのだとばかり思ってたんだが」 「ポジティブシンキングにも程があるわ!」 「じゃ、じゃあ乳ぐらいは記念に揉んでいかないか?いや、揉んでください、お願いします!」 「キャラを変えるくらい揉まれたいのか!?何がアンタをそこまでさせる!?」 「いや、これで帰るんなら童貞を頂いておかないと勿体無い気がして。それもダメなら乳くらい揉ませようかと」 「ぶっちゃけられたー!」 そのやり取りをみていた遊戯は、クスクスと笑う。 「二人とも、ホントに仲がいいね」 「ゆ…遊戯ー!お前までオレを裏切るのかー!?」 「いや、だって」 遊戯は、城之内の顔を指差す。 「結構楽しそうだもん、城之内くん」 「む…」 確かに、話自体は非常に楽しいかもしれない。 「こほん…まあ、私も少々冗談がすぎたのは謝ろう」 「冗談に聴こえなかったぜ…」 「まあそういうな…乳を揉む揉まないはともかく」 アレクサンドラは、二人に向けてそっと両手を伸ばした。 「握手くらいは、していってもいいだろう?」 「…へっ。そうだな」 「うん!」 そして差し出しされた二人の手。アレクサンドラはにやりと口の端を吊り上げ、その手首を掴み――― 自分の胸に、押し当てた。 「うっ…」 「わっ…」 素晴らしい柔軟性と弾力に、頭がクラクラしそうだった。十秒ほど経過して、ようやく彼女は手首を離した。 「どうだ?記念に揉んでいってよかっただろう?」 そして、スカっと爽やかな笑顔で決めた。 「「…コクリ」」 二人とも、思わず首を縦に振っていた。だってしょうがないじゃない、男の子なんだもの。
「この際だから童貞を捨てていってもいいかと思っただろう?」 「いえ」 「遠慮します」 そこは譲れない一線だった。お子様も読んでるだろうしね! 「ちっ…下らん事ばかりしおって。もう下らんおしゃべりは済ませただろう。早くせんと置いていくぞ!」 「わ、分かってるよ!」 「今行くってば!」 本当に置いていきそうな剣幕の海馬に対し、慌てて駆け出していく二人。そして三人は、清らかな泉の畔に立った。 「星女神<アストラ>―――」 遊戯は天を仰ぎ、静かに、されど力強く語りかける。 「ボク達は、この世界でやれるべきことはやり終えた。全てが上手くいったとは言えないけれど…だけど、精一杯に 闘い抜いたよ」 「そうだな。我ながら、ここまでよくやってこれたもんだと思うぜ」 城之内もそれに続く。 「フン…出番を終えた役者がいつまでも舞台に居座ることほど見苦しいものはないからな。古代妄想ツアーもここら で幕引きとさせてもらおうか」 海馬は彼らしい憎まれ口だが、その横顔には、僅かながらの哀愁があった。 『神話を生きる者達―――そして、遠き明日を生きる者達よ』 天から、慈愛に満ちた女性の声が響いてくる。 「星女神…アストラ」 『あなた達は、この神話の時代を全力で駆け抜けた。時に迷い、傷つき、失いながら―――それでも誰一人も諦める 事無く、残酷な運命にそれぞれが向き合った。その結果が善であれ、悪であれ―――偽りなど、ありません』 星女神は、その姿を見せることはなかった。けれど、彼女はきっと微笑んでいる。 『遊戯…城之内…海馬…あなた達がこの世界から去っても、あなた達が関わった者達の心に、あなた達は色褪せる 事なく、存在し続けるでしょう。だから―――あなた達も、我々の事を、どうか末永く覚えておいてくださいね』
「忘れねえよ!ぜってぇ、忘れるもんか…!」 城之内は、今まで堪えていた涙を乱暴に拭いながら叫んだ。 「ボクも、忘れたりしない!皆…ボクらの、大事な友達だ!」 遊戯は溢れる涙をそのままに、神話の時代の仲間達に向き直って笑いかけた。 「フン…精々、バカバカしい世界にバカバカしい奴等がいたとだけ、覚えておいてやるさ」 最後まで素直ではない海馬だった。 そんな三人を見つめる<神話を生きた者達>は、一様に笑っていた。 最後は笑顔で、見送ってあげたかったから。 だから、本当は泣きそうだったけど、心から笑った。 その時だった。遊戯達の身体が、眩い光に包まれたのだ。 それはあたかも、この時代に飛ばされてしまった、あの時と同じように――― その光の中で、遊戯は皆に精一杯手を振った。 直後に闇遊戯に入れ替わり、彼はニヤリと笑って別れの挨拶とした。 城之内は盛大に泣きながら、仲間達の名を呼んでいた。 海馬は口の端に少しだけ笑みを浮かべ、人差し指と中指を揃えて立てた。 そして光は太陽の如くに一際強く輝き――― まるで、何事もなかったかのように消えた。 最初から、何も存在していなかったかのように、何もなかった。 「だけど…確かに、いた」 「ああ。いたよ」 エレフの言葉に、オリオンが続いた。 「あいつらは…此処に、いたんだ」 「そして今もまだ、いるわ」 ミーシャは己の胸に手を当てる。 「私達の心に…いつまでも」 ―――そして、夕暮れ。 海を望む丘の上でエレフは一人佇み、沈みゆく太陽を見つめていた。 「エレフ」
声をかけられて振り向くと、そこにはミーシャがいた。 「隣、いい?」 「悪いわけがないだろう」 ミーシャは嬉しそうに笑って、エレフの隣に立った。 「皆は、帰っていったか」 「ええ…ただ、フィリスが」 ミーシャがちょっと頬をひくつかせる。 「五体投地したまま、動こうとしないの。なんていうか、次の太陽が昇るまで、神子様に感謝の祈りを捧げるとか…」 「そ…そうか」 それ以上の追及はしなかった。なんかもう、詳しく訊いたら色々ヤバすぎると思えたのだ。 「…綺麗な夕焼けね」 「キミの方が綺麗だよ」 「それは恋人に対して言いなさいよ」 「生憎、そんな女がいない」 「じゃあフィリスかアレクサンドラ様を紹介してあげる」 「勘弁してください」 二人でこんなバカな会話が出来る事が、何よりも嬉しかった。 二人が望んでいたものは、こんなに平凡で―――こんなに、素晴らしかった。 残酷な運命に翻弄され続けた双子は、今はただ二人寄り添い、海に沈んでいく太陽を静かに見つめていた。 「夕焼けは…正直、嫌いだ」 エレフは、誰にともなく呟いた。 「あの幼き日…父と母を失った事を、思い出してしまう」 「エレフ…」 「けれど、ミーシャ」 ミーシャに向けたその顔は、悲しげに、だけど少しだけ笑っていた。 「今の夕焼けは…お前の言う通り、綺麗だと思えるんだ」 「そっか」
ミーシャは、優しく微笑む。 「じゃあいつか、好きになれるといいね」 「ああ。いつか…心から幸せだと、そう思えたなら―――きっと、もっと綺麗に見えるだろう」 ―――この罪深き身に、そんな日々が果たして訪れるのか。 それでも、信じてみよう。 いつか―――穏やかに笑える日が来る事を。 この命、ある限り―――ただ、懸命に生きていこう。 遠い世界からやって来て、そして帰っていった彼等のように。 それは、小さな身体に無限の勇気を秘めた少年のように。 それは、どこまでも折れない不屈の心を持った凡骨のように。 それは、誰よりも強く何よりも気高き皇帝のように。 (しあわせにおなりなさい) 母が遺した11文字の伝言を、叶えられるように―――
投下完了。前回は
>>80 から。
闘いを終えて、勇者達は帰るべき場所へ…そんな終章1でした。
出勤前に投下しようとして
>>105 まで投下した所で、いきなりパソコンの電源が切れて、それきり
動かなくなった…!幸い今は動いてますが、何だったんだ、あれは…
最近「いぬまるだしっ」が面白すぎる。メゾン・ド・ペンギンで最悪なオチを付けた作者と
同一人物とは思えない。人間はここまで進化できるのか…。
>>82 爽やかにできるといいなあ…決闘神話は結構暗い話だったんで、ラストくらいは。
>>83 スパロボNEOは買ってない(最近は据え置きをやる時間と体力がない)ですが、
こういう展開は熱くていいですね。
>>ふら〜りさん
「敵にも敵の正義」そんなものはただのおためごかしだという事は、ジョジョを読めばよく分かる。
言い訳のしようもない悪い奴らが、そもそも言い訳などするつもりもなく、悪を邁進するあの姿は
見てて気持ちよさすら感じますね。
忘れてました
>>91 さて、残すは二回です。最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。
落としていた速度を急いで60キロ以上に戻し、『ハイウェイ・スター』を振り切る。 攻撃射程圏内から離脱すると素早く冷静さを取り戻す。 「爆破が浅かったか……こうなると同じ手は通じないだろうが大した問題ではない。 こうなることも予想して私はこの道を選んだのだ。 ガソリン残量も気にせず高速へ突っ込むほど私は愚かではない」 先程の爆破で仕留めるつもりだったが、墳上がしぶとく生き残った時の対処も考えていた。 墳上の行動を掴むべく携帯を手に取る。 「奴との距離は? ……よし、次は私の進路に対向車がいないか見ていてくれ」 親父から伝えられた墳上との距離を考えると頃合いでもある。 高速道路へは向かわない、ガソリンが切れるまでのその場凌ぎにしかならないのだから。 どこまでも追跡し獲物を追い詰め、逃走しながら致命傷を与えるのは困難。 岸辺露伴に弱点のないスタンドと称されるのも頷ける。 「確かに無敵のスタンドだ……相手の接近を許さず決して追跡を止めない。 この吉良吉影でさえ弱点を見つけることは出来なかった」 コンクリートを駆け抜ける追跡者の足音。 体重0の人間が60キロでコンクリートの上を裸足で走るという現実に有り得ない音。 忌々しく耳障りなそれを振り切るようにスピードを上げる。 「だが『弱点のない無敵のスタンド』が相手でも……私に敗北は有り得ないッ!」
聞きなれた愛車のエンジン音が、いつもに増して耳によく響く。 恐怖に拍動していた心臓の鼓動はもう聞こえない。 いつも感じている風は、いつもに増して冷たい。 奴……吉良吉影は自分の数キロ先を走っている。 「俺は逃げねぇ……そして奴を逃がしはしねぇ。 まだビビってんのはテメーにだって判ってる……平気なツラしようにも冷や汗が止まらねぇ」 風を冷たく感じるのは、噴き出す冷や汗がそうさせていたのだ。 汗を拭うと自然とアゴを指でいじっていた、それは彼の無意識な恐怖のサインだった。 「だがもう『迷い』は無い」 アゴをいじるのを止め、もう一度汗を拭うと両の手でハンドルを握る。 恐怖しながらも迷いを捨て、怒りの矛先を吉良吉影へ向けて愛車を走らせる。 「……! 高速に入るルートから抜けやがった、どうするつもりだ?」 『ハイウェイ・スター』を通じて吉良吉影の匂いを感じ取る。 右へ……また右へ……また右に……? 三度右に曲がった瞬間、殺人鬼の次の進路に気付く。 「ひっ……左だッッ! 真っ直ぐこっちに突っ込んでくる!」 前方にバイクに乗ったサラリーマンの姿をハッキリとその目で捉えた。 そして自分のスタンドがその男を追跡している姿も。 再び手が震え出し、拭ったばかりの額に汗が滲み出る。 恐怖、怒り、今すぐ逃げ出したいという気持ちと大切な人を守るという使命感が交錯する。 その中に、『迷い』はなかった。
「うおおお―――っ! くたばりやがれぇ―――っっ!」 恐怖を克服できずとも、それに立ち向かう強い意志。彼の心の成長はスタンドにも現れていた。 精密操作は不可能な筈の『ハイウェイ・スター』の右腕を本体、墳上裕也の下へ待機。 残った部位で全方位から吉良吉影を襲撃する。 例え『ハイウェイ・スター』の包囲を掻い潜って接近戦に持ち込まれても、養分を吸っていれば勝機はある。 「やはりな……確かに『キラー・クィーン』だけではこの状況を打破するのは難しい。 だが『運命』は常に私の味方なのだッッ! 『コイツ』が私の手にある事がその証拠ッッ!」 殺人鬼の次なる逃走経路は地面だった。 恐らく爆弾となっているであろう奴のバイクをこちらへ向け、ダメージ覚悟で飛び降りたのだ。 急いで飛び降りながらも吉良吉影へと『ハイウェイ・スター』を差し向ける。 養分を吸いながらなら同じ地面への激突という状況化で優位になれる。 「バイクから身投げしたくらいで逃げれると思うんじゃねーぜっ!吉良吉影―――っ!」 地面を無様に転がる殺人鬼へと『ハイウェイ・スター』の向きを変える。 60キロ以上の車体から飛び降りたからといって60キロ以上の速度で地面を転がる訳が無い。 すぐに追いつき、養分を奪い取る寸前『ハイウェイ・スター』の動きが止まる。 地面に激突した筈の吉良吉影は無傷でこちらを見つめていた、奴は『透明な壁』に包まれていた。 「逃げる……か、どうやって逃げるか考えるのは君の方だと思うがな」 逃げるのは……俺の方? 殺人鬼からの忠告に素直に従い自分の置かれている状況を見渡す。 この直後、彼は自分の窮地に気付くのだがそれを知らせるのは彼の『目』ではなく『耳』だった。 「コッチヲミロォォ……」
激突するバイクに隠れるピンク色の爆弾戦車、吉良吉影の罠はこれだったのだ。 だが進路は墳上とは別の方向へと向かっている。 それも当然である、高温の物を目標に突進し続ける『シアーハートアタック』 彼よりバイクのタイヤやエンジンを標的にするのは至極当然であった。 「い、急いで奴を仕留めねぇとバイクの次は俺が……」 「いや……君は死ぬね。バイクと一緒に」 『シアーハートアタック』が爆発し、バイクが吹き飛ぶ。 バイクの陰で見えなかった、つまり『シアーハートアタック』の位置は自分から見てバイクと反対側。 そこで爆発すると、当然バイクはこちらへ向かって吹き飛んでくる。 自分の愛車も、『キラー・クィーン』で爆弾にされたバイクも……。 「案外、呆気なかったな。そしてスーツの修理費だが……この程度なら裁縫でなんとかなりそうだよ」 バイクの残骸、その下に埋もれる墳上裕也の遺体へと冷たく言い放つ。 親父に前方車両の確認をさせたのは『シアーハートアタック』の標的を自分のバイクに絞るためだった。 飛び降りる際には『ストレイ・キャット』の防御本能を利用した。 天候という不安要素はあったが日が落ちる前に決行したのは正解だった。 「フゥ、山岸由花子の時みたいにヒドい目に遭わずに済んだな…」 スーツの修理費の次はどうやって帰るかを心配する。 だが、彼の悩みはまた増えるだろう。 ペタリ…… この足音が消えない限り。
115 :
邪神? :2009/12/27(日) 05:53:27 ID:Xs30L7+t0
長い!スランプが長い!またもかなり久々の邪神です。 しかもうっかり途中で間違ったページに上書きしちゃうし……。 そういう時も新しい文が出たりしたんだけど今回は浮かばないから元のが短くなっただけな感じ……。 逆に考えるんだ「端的にまとまった」と考えるんだ。 しかも墳上戦の次で終わると思ってたけどまだ出てない生き残りって思い返すと結構居るし……(;0w0) 吉良吉影の戦いはこれからだ!で終わらせるべきだろうか…。 そしてまたも返事をしようにもいつの過去ログかわからず申し訳ない(;0w0) 取り合えずちと遅いですがメリークリスマス、ちと速いですがよいお年をば( <::V::>)ノシ
116 :
ふら〜り :2009/12/27(日) 21:05:07 ID:945Delih0
>>サマサさん 相変わらずな海馬やブラボーな星女神も印象的ですが、私としては来てくれるか不安だった アレク女史が嬉しい! 本人の言動も、男の子たちの反応も実に理想的。こうでなくては、です。 それもこれも、これで最後と思うと……寂しさもあれど、最後だからこその感動もあります。 >>邪神? さん(年の暮れ間近に、嬉しい復活です!) クレイジーDとは対照的な、「破壊」だけの、応用の利かないキラークイーンでどう対処する のかと思ったら……シンプルに「反撃」。けど突っ込むだけではない。ジョジョらしい知能戦 でした。DIOやカーズのようにズバ抜けて強いわけではない、吉良ならではの緊迫感ですね。
117 :
作者の都合により名無しです :2009/12/27(日) 21:58:34 ID:bQmKHzq/0
音石明って、どうなりましたっけ? ここはひとつ、川尻の勤務先の電源に攻めて来させてはいかがか。 噴上の取り巻きが一人でも生き残ってたり、SW財団が支援してくれたりしたら音石が川尻の”プロフィール”を知ることは可能です。 特に、取り巻きについては吉良が調査を終えるが先か音石の進撃が先かの時間との戦いになりそうです。 取り巻きの連中も、川尻の特徴とかを知って警戒するでしょうし噴上の最後を知って囮協力してくれそうです。 あと、VSさんの作品でマージャン教室以外のも何かありませんか?
118 :
ふら〜り :2009/12/27(日) 22:02:03 ID:945Delih0
>>117 音石は原作だと、2007年の時点で出所してる
六壁坂の話で、玉美と一緒にサインお願いしてたからなw
120 :
作者の都合により名無しです :2009/12/28(月) 09:17:23 ID:hCdiazQ50
サマサってSS書く意味あんの?全然読者からの反響も何もないじゃん。 決闘神話もサンレッドも面白くねーし、連載終わったら二度と書かなくていいよ。
121 :
作者の都合により名無しです :2009/12/29(火) 13:41:03 ID:TAVPkhyW0
規制がやっと解けた・・ サマサさん、終章はどことなくわびしいですな。 ミーシャのやさしい微笑が逆に寂しさも募る。
バキスレもいよいよ収束かな・・ ヤムスレ、肉スレとか懐かしい。 サマサさんには本当に感謝。 よくぞ5年もスレを引っ張って下さった。 ラストまで期待しております。
123 :
作者の都合により名無しです :2010/01/06(水) 23:14:40 ID:1Of3JTcQ0
音石、なんとかして病院のコンセントから参戦できませんかね。 杜王町の戦況を知る、プロシュートの舎弟の釣竿のスタンドの人みたいに いきなり目覚める、この2つの奇跡が前提になってしまいますが。 ただ、それさえクリアーすればレッドホットチリペッパーは強力なスタンドだし良い勝負になりますよ。 それにしても杜王、保健所がだいぶ寛大なようですね。 店の裏で猫に餌付けしてても、そこじゃないところがないと住人が違和感を覚えないw
終章2「神話の終焉」 「…ん…ここは…」 眠りから覚めるような感覚。気付けば遊戯と城之内、そして海馬は、古ぼけた遺跡の中にいた。 「どうやら、戻ってこれたか…あの神殿だ」 辺りを見回した海馬は、そう断ずる。 「本当かよ?」 「間違いない。あの部屋に覚えがある…例の石像があった部屋だ」 「どれどれ…」 部屋を覗き込んだ遊戯達は、思いもよらぬ光景にぎょっとした。 その部屋の中では、三人の少年が石像を前にして何やら騒いでいた。 「こ、これって…ボクたち三人に、そっくりじゃないか!」 「ほ、ホントだ…おい海馬、どういうこった!?」 「オレに聞いてどうする。ちっ…なんだ、これは…また下らんオカルト話でも始めるつもりか?」 何となく聞き覚えのある会話――― そこにいたのは、まさしく自分達三人だ。遊戯と城之内は訳が分からず、互いに顔を見合わせる。 「フン…そういう事か」 海馬だけは状況を理解し、鼻を鳴らした。 「一人で分かってんじゃねえよ、海馬」 「見ていれば貴様のようなバカにも分かる…もうじき、あそこにいるオレ達が光と共に消えるはずだ」 「え?」 果たして、海馬の言葉通りに、部屋にいる方の遊戯達が光に包まれる。そして、そのまま消え去っていった。 「…あ!そうか!そういう事か!」 遊戯も得心して、手をポンと叩いた。 「いや、だからさ遊戯。どういうことなのよ?」 この期に及んでも城之内の頭ではチンプンカンプンだ。海馬は小馬鹿にして解説を始めた。
「要するに、オレ達があの時代に飛ばされる寸前へと帰ってきたのさ。そして入れ違いで、現代のオレ達が過去へと 飛ばされた…」 「それで帰ってきたボクらは、神話の時代へと旅立つボクらをこうして見送ったって訳だよ」 「…一応分かったけど、なんか、ややこしいな…」 城之内は何となく分かったような、煙に巻かれたような気分だったが<まあ分かんなくても問題ねーや>と楽天的に 考えて、話題を変える。 「しかしまあ、見たかよ、オレらのビビった顔…ヒヒヒ、これからどんな大冒険が待ってるか知ったら、あんなもんじゃ ないぜ、きっと」 「ホントに…あの時は、あんな闘いを繰り広げるなんて思ってもなかったよ」 「そうだよな…へへっ。頑張れよ、オレ達!」 先輩として、古代へと旅立った自分達にエールを送り、三人はしばし過ぎ去ったあの時代に想いを馳せた。 「おー、キミ達!こんな所に突っ立ってどうしたのです?」 妙に耳に残る、特徴的な声。振り向くと、そこにはあの謎の大富豪。 「あ、ズヴォリンスキーのオッサン。お久しぶりっす!相変わらず胡散臭いっすね!」 「ふむ?久しぶりという程じゃないはずですが…まあいいでしょう」 胡散臭いという部分はスルーした。自分でも分かっているのだろう。 「いやはや、しかし、素晴らしい大発見ですよ、これは!ああ…やはり<エレフセイア>は間違ってはいなかった… アルカディアは本当にあったんだ!」 「パズーですか、アンタは」 ツッコミを入れながら、城之内は気になっていた事を尋ねる。 「あのー…<エレフセイア>って、どんな話でしたっけ。もう一度聞かせてもらえたら、ありがたいんすけど」 勿論、その内容は覚えている。古代ギリシャを舞台にした、一大悲劇の物語――― けれど、ズヴォリンスキーは悲劇を語るには似つかわしくない、明るい笑みを浮かべた。 「はっはっは、いくらでもお聞かせしましょう。叙事詩<エレフセイア>―――それは―――」 それは―――神話を生きた英雄達と、天から降り立ったとされる三人の少年の物語。 彼等は手を取り合い、時には敵対し、時には共に闘い、遂には神をも撃ち破る――― 「そんな―――波瀾万丈大冒険の御伽噺ですよ」 「へへ…そっすか」
城之内は堂々と胸を張った。 遊戯もにっこり笑って城之内に倣い、胸を反り返らせる。己の中で闇遊戯も同じようにしているのが分かった。 海馬は興味なさそうに目を閉じていたが、よく見れば少しだが笑っている。 自分達のやった事は無駄なんかじゃない。そう示されたようで、嬉しくて少し照れくさくて、とても誇らしかった。 「ちなみにこの神話<エレフセイア>には、姉妹作ともいうべきものが存在します」 「へえ、どんなんっすか?」 「<カイバセイア>といって、<白龍皇帝>と呼ばれた英雄の視点から描かれた物語です。とある吟遊詩人の兄妹が 綴ったとされるものでして」 「あ、もういいっす」 城之内は露骨に<訊かなきゃよかった>という顔をした。横で得意げに笑う海馬をぶん殴ってやろうかとすら思う。 「全く…しかし、遊戯。どうしても気になるんだけどよ」 「なにが?」 「いや。オレ達は結局、どうしてあの時代に行っちまったのかなってさ…」 「ボクだって分からない。けれど…そんなことはもう、どうでもいいんだ」 遊戯は、微笑みながら城之内に向き直る。 そう。説明しようとすればいくらだって出来る。 運命の女神様が本当にいて、悲しい運命を変えるために自分達をあの時代に呼んだとか、そういう風に奇麗に纏める ことも出来るだろう。けど―――そんな説明付けたって、それは蛇足というものだ。 それよりも、本当に大切な事は。 「ボクたちは確かに、あの神話の時代を駆け抜けた―――素晴らしい仲間達と共に、あの世界を闘い抜いた。それで いいんだよ、城之内くん」 「…ああ、そうだな」 城之内も、笑い返す。そう―――きっと、それでいい。
残った謎は謎のまま、張った伏線は張ったまま。投げっぱなしの放りっぱなし。 物語としては失格だけど、それでもいいと思えるから。 そんな謎は、胸の中に息づく絆に比べたら―――全然、気にしなくてもいい事だ。 そしてようやく思い至った。冒険の始まりの合図だった、あの謎の声の正体に――― (エレフ、ミーシャ、オリオン…それに皆。お前らは、いた。確かに、オレ達と一緒にいたんだ) 忘れてなんかいない。忘れやしない。城之内は、袖でぐいっと目元を拭った。 「―――おっしゃ!地底脱出ってね!くぅー、陽の光よー!オレを暖かく包みやがれー!」 「うーん、現代の空気も久しぶりだね!」 「フン…これで胡散臭い古代妄想ツアーも本当に終わりか」 地上から降ろされた救助用の縄梯子によじ登り、やっとこ戻ってきた遊戯達は、三者三様の感想を漏らした。そんな 彼らに、杏子達が駆け寄ってくる。 「大丈夫だったの…って、アンタ達、穴に落ちただけにしてはなんか妙に服が薄汚れてない?」 「ああ、まあ、なんつったらいいのか、色々あってよ…」 「そう!色々あったのです、色々!いや、もう、これから忙しくなりますよ!ハハハ、嬉しい悲鳴ってヤツです!」 ブンブン腕を振り回して力説するズヴォリンスキー。そのハイテンションは天井というものを知らないようだ。 ―――そこへ。 「あなた!あーなーた!」 と呼びかけながら、こちらへ駆けてくる婦人の姿が目に入った。 「お?おお、エイレーヌ!」 対してズヴォリンスキーは両手を大きく広げ、満面の笑みを浮かべた。 「おお〜…愛しの我が妻よ!わたくし、キミの魅力に、ズヴォリンスキ〜!」 「何をバカなこと仰ってるんですか、もう…あら、そちらの方々は?」 婦人―――エイレーヌは、不思議そうに遊戯達を見つめる。遊戯達はというと、ポカンと口を開けていた。 「ズ…ズヴォリンスキーさん、結婚してたんだ…」 「よく相手がいたな…」 ナチュラルに酷い言い方である。しかし、ズヴォリンスキーは勿論聞いちゃいない。
「ああ、彼等は日本から修学旅行中の高校生でして。先程お友達になったばかりなんですよ、はっはっは」 「あら、そうなの。ごめんなさいね、この人ったらバカなことばっかり言ってたでしょう?」 「いやあ、そんな。ははは…」 と。愛想笑いを浮かべていた遊戯と城之内は、エイレーヌの顔を見てそのまま固まった。 ―――驚くほど美しいわけではないが、品よく整った顔立ち。深い知性を感じさせる物静かな笑み。 それは、まさしく――― 「ソ…ソフィア先生ー!?こんなとこで何やってんすか、アンタ!」 「ソフィア?いえいえ、彼女は我が妻エイレーヌですぞ」 「え?あ、そ、そうなんですか!すいません、知ってる人によく似てたもんで…」 城之内は頭をポリポリしながらヘラヘラするしかなかった。隣で同じように口を開けっぱなしの遊戯に小声で囁く。 「しかし…ホント、似てるよなあ。ほとんど本人じゃねえか」 「うん…不思議な事ってあるよね…」 二人とも、ただただ嘆息するばかりである。 「それはそうとして、愛しの我が妻よ!わたくし、ついに大発見です!ハラショー…ハラショォォォォッ!」 そんな彼らを尻目に、ズヴォリンスキーは大はしゃぎでエイレーヌに話しかけている。 「あらあら、そんなに喜ぶなんて、よっぽど素敵な事があったんですね…けど、私からも嬉しい報せがありますわ」 エイレーヌも満面の笑顔で、そんな事をのたまう。 「おお、では先にエイレーヌ、キミから話してください。なに、如何にキミが凄い話題を持ってきた所で、わたくしの大発見 に勝る驚きではないでしょうからね。お楽しみは後にとっときましょう、はっはっは!」 「あら、そんな大きな事を言っていいのかしら?うふふ…実はですね…」 一拍置いて、エイレーヌは微笑みながら告げる。 「ついに、私のお腹に、私達の愛の結晶が宿りましたわ!」 「……………………は……………………」 ズヴォリンスキーが口をあんぐりと開ける。構わずに、エイレーヌは続けた。
「お医者様のお話では、男の子と女の子の双子かもしれないのですって!」 「……………………お……………………おお〜〜〜〜……………………おおおおおおお〜っ!」 そしてズヴォリンスキーは歓喜の雄叫びを上げて、その場から垂直に10mほどジャンプした。 いくらギャグ描写にしても飛び過ぎである。彼もまた神の眷属なのやもしれない。 「おおお〜〜〜エイレーヌ…愛しの我が妻よぉ〜〜〜っ!ハラショー…ハァァァラショォォォ〜〜〜〜ッ!生まれて くる子供の名前は、遠い昔にもう決めてあるのですぞー!」 もう古代遺跡を発見したことなんざ忘却の彼方のようだ。遊戯達は呆れながらも、ちょっとおかしな夫婦のやりとり を微笑ましい想いで見守っていた(海馬はもう興味もないのか、鼻を鳴らすだけだったが)。 「で?遠い昔にもう決めてあるって、どういう名前なんすか?双子なんだから、二人分いるでしょ」 「はっはっは。男女の双子ならむしろ理想的なんですよ!何故ならその名前は―――」 城之内の問いに対して、ズヴォリンスキーは得意げに大きく手を広げて、その名を告げた――― 此処に、永き神話の物語はページを閉じる。 最後に、神話を駆け抜けた者達の、それからの物語を少しだけ―――
投下完了。前回は
>>108 から。
次回―――最終回。
少し遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
バキスレがどうか、今年も末永く続きますように。
>>ふら〜りさん
アレク様は最後にももうちょっと出番あります。なんだかんだで、書いてて一番楽しいキャラでした。
>>121 やっぱりラストとなると、どうしても寂しさは出ちゃいます。
>>122 上に書いたとおり、次回で最終回です。どうか最後までお付き合いの程を。
僕みたいなモンの書くSSでも読んでくださるのなら、最後の一兵となってでも書いていくのでよろしく。
アクセス規制で書き込めない時にサンレッドも一本書いたので、続けて投下します。
毎度お馴染み、神奈川県川崎市。 「…んー」 「どうしたのよ、あんた」 「いや…ほら、あの女の子」 商店街で買い物していた我らがヒーロー・サンレッドとかよ子さん。二人の視線の先には。 「―――新装開店セールでーす!よろしくお願いしまーす!」 現実じゃありえねー天然物のピンク髪は、彼女が人外の存在である事を雄弁に物語っている。雪よりも白い清らかな肌 と、穢れを知らぬ清純可憐な愛らしい顔立ち。 そんな年端もいかぬ美少女が、道行く人々に向けてチラシを配っているのだった。 「女の子型の怪人ってのは珍しいけど、あの子は最近よく見るんだよな…こないだは定食屋で働いてたぞ」 「ああ、そう言えば私も他の場所でティッシュ配ってるの見たわ」 「そんなに仕事を掛け持ちしてんのか…働きモンだなあ、おい」 「そうねー。誰かさんに見習ってほしいぐらいね」 ゲホンゲホン、とわざとらしく咳をするレッドさん。確かにかよ子さんのヒ○という身分から見れば、この寒空の下で汗水 垂らして働く少女の姿は、ちょっと胸を打たれてしまうものがあるのだった。 天体戦士サンレッド 〜少女の願い!サンレッド・怒りの全力バトル そんなある日の夜。 道行くレッドさんは、ふと前方に人影を発見した。 「あれ?あの子は…」 件のピンク髪勤労少女である。彼女は買い物袋を手に、一軒家に入っていく所だった。 特に何の変哲もない木造二階建て。フロシャイム川崎支部に、ちょっと似ていた。 表札には女の子的な丸っこい字で<エニシア軍団>と書かれている。 「皆、ただいまー」 途端にガラガラと玄関の戸が開き、わらわらと男達が出てきた。 人間もいれば怪人もいる、玉石混合の連中だったが、たった一つ共通している事があった。 それは。
「お帰りなさいませ、姫様」 「お疲れでしょう、今お茶を入れますので…」 「バカ野郎!エニシア様には俺がお茶を入れるんだ!」 「何言ってやがる!それは俺の役目だぁ!」 「つうかなにエニシア様なんて馴れ馴れしく呼んでんだあ!」 「そうだそうだぁ!俺だってそう呼びたいけど我慢してるんだぞ!」 ―――少女に対して、やたら高い忠誠心を持っているらしい、という事である。 ちょっと暴走気味なくらいに。 「もう、ケンカはダメでしょ!私達は仲間なんだから、仲良くしなきゃ。ねっ?」 「「「はいっ!」」」 そんな諍いも、少女の鶴の一声であっさり収まる。妙な集団ではあるが、その結束は固いようだ。 (ふーん。よく分からねーけど、慕われてんだな。あの…エニシアって子) ちょっと救われた気分になるレッドさんだった。やはり彼も男として、可愛い女の子には優しい気分になるのだ。 そうこうしているうちに、少女―――エニシア達は家の中へと入っていった。 「なーんか、気になる連中だよな…<レッドイヤー>!」 レッドさんは精神を集中して、特殊能力<レッドイヤー>を発動させた。これは周囲10km以内のあらゆる物音を完璧 に聞き分ける事が出来る、物凄い地獄耳なのだ! だけどプライバシーの侵害だよね、普通に。でもレッドさんは何処吹く風で、屋内の音声を探る。 ガサゴソガソゴソ。何やら作っているような音。 <姫様、ただでさえお疲れだというのにそのような…> <いいんだよ。造花作りって結構楽しいし> 「…家に帰っても仕事してんのか…しかも今時造花って…」 居た堪れないレッドさんである。ちなみに彼は家にいる時はTVを見ながらゴロゴロしている。 <私だって、自分の食べる分くらいは自分で稼がないと。それに、軍団の維持費だってバカにならないでしょ?> <だからといって、姫様がそこまで働く事はありません!> <そうですよ!金の事なんて心配しなくても、俺達だってバイトしてるし…> <ありがとう。でも…私、思うの。人の上に立つからには、自分が一番汗を流さないと、誰も付いてこないって> 「…………」 ちなみにレッドさんはここ数年、金なんて一銭も稼いでいない。
<ううっ…姫様ぁ…!俺達、一生姫様に付いていきます!> <力を合わせて、きっと姫様の望みを叶えてみせますから!> <そうとも!姫様のためなら俺達、死ねますから!> <気持ちは嬉しいけど…死ぬのはダメだよ。皆、作戦は常に命を大事に、だよ。私との約束、ねっ?> <はっ!皆、姫様の御命令だ。復唱いくぞ!命を大事に!> <命を大事に!><命を大事に!><命を大事に!> そこでレッドイヤーを解除し、レッドさんはその場を後にした。 「…何をやりてーのかは知らねーけど…ま、頑張れよ。お嬢ちゃん」 更に、別の日。 一際冷え込む夕暮れだった。 「―――よろしくお願いしまーす!」 元気のいい声が、商店街に木霊する。 「今日も、チラシ配りか…」 かよ子さんと共に、レッドさんはまたしてもあの少女―――エニシアの姿を目撃した。 (あんな小娘があれだけ働いて…何しようってんだよ) 本当なら、お洒落して友達と遊びに出掛けて、時には恋をして、青春を謳歌して然るべき年頃だろう。 だけど、エニシアの姿はそんな<当り前の女の子>としての全てを放棄しているようにさえ思える。 確かに、彼女には心を許せる仲間達がいるだろう。 彼等が待っていてくれる、温かい家もあるだろう。 それでも彼女は―――本当に、それでいいのだろうか? (そこまでしてやりたい事があるって…どういう気持ちなんだよ…) 項垂れるレッドさん。その肩をポン、と叩かれた。 「気になるんでしょ?行ってきなさい」 かよ子さんは、そう言って微笑む。
「か弱い女の子を助けるのも、ヒーローの務めでしょ」 「…へっ。出来た女だよ、お前は」 レッドさんは照れ隠しに胸を反らせながら、自販機で温かいココアを買い、エニシアに向けて歩き出すのだった。 「…はあ」 かじかんだ手に息を吐きかけたぐらいでは、寒さは紛れない。 エニシアの本来は白魚のように繊細な指先は、連日の仕事で痛々しく真っ赤に擦り切れていた。 「でも…私に付いてきてくれる、皆のためだもの…」 軍団員の顔を一人一人思い浮かべていけば、挫けそうな心が暖まった。 彼等は自分にとって単なる部下ではない。 給金もロクに払えないような自分を<姫様>と慕い、心の底から信じて付いてきてくれた、大切な仲間だ。 こんな小娘の、世迷言のような<とある目的>を叶えようと集まってくれた同志だ。 そう。軍団の皆は自分の大事な―――家族だ。 「頑張らないと…え?」 その鼻先にぬっと突き出された、ココアの缶。顔を上げると、そこにいたのは赤いマスクのあの御方。 「寒いだろ。飲めよ」 「あの…あなたは?」 「親切なお兄さんだよ。いいから受け取れ。金なんか取らねーから」 レッドさんは少女の小さな手にココアを押し付けると、自分はそっぽを向いてタバコを吹かし始める。 「…ありがとう」 戸惑っていたエニシアだったが、不器用なレッドさんなりの優しさを確かに感じ取り、笑顔になった。 「いただきます」 チラシを脇に抱え、プルトップを開けて口を付ける。温かくて甘い液体が、冷え切った身に染み渡っていく。 「ああ、美味しい…」 エニシアは幸せそうにココアを啜る。レッドさんはそんな彼女の横顔を見つめ、気になっていた事を尋ねた。 「…なあ、お嬢ちゃん。余計な詮索かもしれねーけど、訊いていいか?」 「うん。何かな?ココアのお礼だし、何でも答えるよ」 「最近ここらでしゃかりき働いてるみたいだけどよ。そんなに仕事ばっかして金貯めて、どうすんだ?何かやりたい 事があって、金がいるとか?あ、いや、勝手な想像だけどな」 レッドイヤーでその辺りは分かっていたが、それを言ったら犯罪者扱いされるのでぼやかしながら訊く。
「そんな所。どうしてもやりたい事があって…そのためには、お金がいっぱいあるにこしたことはないから」 「そっか」 ふー、とタバコの煙を吹き出し、レッドさんは言う。 「俺でよけりゃ、手伝ってやろうか?」 「え…?」 意外な申し出だったのか、エニシアはきょとんとしてレッドさんを見つめる。 「ほら、俺は一応この川崎市を守るヒーローだしな。市民のために出来ることがあるならやってやるよ。どーせ毎日 ヒマだし。あ…でも金貸してくれとか言われたら困るけど」 レッドさん、アレだからね。かよ子さんに養われてる身だからね。 「ヒーロー…ああ。だからそんなマスクしてるんだね。へー、私、ヒーローの人って初めて見た」 「おう。自分で言うのもなんだけど力にゃ自信あるし、手先も結構器用だぜ?」 ぐっと、力瘤を作って叩いてみせる。 「だから、俺に出来る事があるなら遠慮なく言えよ。正義のヒーロー・サンレッドは、頼れる男だぜ?」 「…ありがとうね。レッドさん。私、本当に嬉しいよ」 でも、それはダメ。エニシアはそう言った。 「レッドさんに頼ることは、しちゃダメなの」 「おいおい、何でだよ?俺がこれだけモチベーション高いのって、結構レアなテンションなんだぞ」 「それでも…それでも、ダメなの!」 そしてエニシアは、衝撃の事実を告げた。 「だって私―――世界征服を企んでるんだもの!」 「…は?」 トンデモな発言に、レッドさんは間抜けな声を出してしまう。 「だから、ヒーローのレッドさんが世界征服の手伝いなんて出来ないでしょ?」 「そりゃ、そうだけどよ…」 レッドさんはこの寒いのに冷汗をだらだら流しつつ、あー、と眉間を押さえた。 「マジで、世界征服企んでんの?そしてそれを、ヒーローの俺の目の前で告白すんの?」 「うん!だって、世界征服は―――誰にも恥じる事のない、私の…ううん、私達全員の夢だもの!」
そう語る彼女の眼差しは、夢見る少女そのものだった。その輝きを見れば、誰もが心癒される事だろう。 夢の内容がアレでなければ。 「あ、でも…一つだけ、正義の味方のレッドさんが、私達のために出来る事ならあるよ」 「…なんだ。言ってみろ。ここまで来たら聞いてやるからよ…」 「それじゃあ、優しい正義のヒーローさんに、悪の姫君からのお願いだよっ!」 エニシアは、咲き誇る花のような笑顔でレッドさんに告げる。 「いつか私達の軍団と闘う時が来たら、手加減無しでやってね。全力のヒーローと真っ向勝負でぶつかって、そして 打ち倒す。それが世界征服と並ぶ、悪の軍団としての醍醐味だもの!」 とん、っと再びチラシを手にして、レッドさんにペコリと頭を下げた。 「ココア、ご馳走様。美味しかったよ」 「そりゃ…どうも…」 「だけど、覚悟していてね。いずれレッドさんとは雌雄を決さなければいけないんだから。正義の味方のレッドさんと 悪の軍団である私達は、謂わば光と闇の闘いだものね」 「はは…そだな…」 「それじゃあ、いつか対決しようね!約束だよー!」 「おう…」 テンションが見る見る内に下がっていくレッドさんにもう一度屈託なく笑いかけて、エニシアは再びチラシ配りに戻る のだった。それを見ながら、レッドさんは呟く。 「ヴァンプといい金属野郎といいあの子といい…世界征服、そんなに流行ってんのかよ…世も末だな」 レッドさんはもう心の底からやり切れない、とばかりにどよよ〜〜〜んと目線を落とすのだった。 ―――数日後。 いつもの対決場所である公園。 そこにいたのはレッドさんとヴァンプ将軍、それにフロシャイム川崎支部の皆さん。 ここまではいつも通りだが、今回は更に珍客がいた。 「天体戦士サンレッド…我ら<エニシア軍団>に歯向かう愚か者。ああ、私は悲しい…あらゆる命の象徴たる太陽 を、この手で」 チラリと手元のカンペを見て、続ける。 「地に堕とさねばならないとは…サンレッド!せめて美しく、そして残酷に逝きなさい!」
少女―――エニシアはそこまでのたまった所で、軍団員に向き直る。 「えっと、こんな感じでいいかな?ちゃんと悪の姫君っぽさとか出てる?」 「出てますよ、姫様!もうオーラ出まくりです!テニス部部長くらい出てますよ!」 「俺、ちょっと感動して膝が震えてますもん!」 「どこに出しても恥ずかしくない、ワルでクールな姫様でしたよ!」 「姫様バンザーイ!」 おべっかでなく、マジでのたまっている辺りが余計にタチが悪かった。 「そ、そうかな。えへへ…」 ほっぺを真っ赤にして照れるエニシア。それを聖母の眼差しで優しく見守るヴァンプ様。 レッドさんはそんな心温まる光景を黙殺し、ヴァンプ様の胸倉を掴んだ。 「あいたたた。何するんですか、レッドさん…」 「何するじゃねーよ!何なんだよこいつら!何で俺達の対決場所にいるんだよ!」 「え?レッドさんの知り合いなんでしょ、エニシアちゃん。前にココアを貰ったって言ってましたけど」 「そういう事を訊いてんじゃねーよ!何で対決に同伴してんだって事だよ!」 「ああ…実はエニシアちゃん、ウチの怪人のバイト先の知り合いでして」 「ほほお。それで?」 「それで、彼女も軍団を結成して世界を狙っている事は知っていたんで。それなら一度、我々フロシャイムと同盟を 結んでレッドさんと闘ってみないかって誘ったんです」 「…………」 レッドさんはエニシアを見た。エニシアは嬉しそうな顔でニコニコしている。 「勿論私達<エニシア軍団>も二つ返事で承諾したの。世界征服のためには、いずれフロシャイムも倒さなければ ならない相手だけど、その前にヒーローであるレッドさんを協力して抹殺しようって。ねー」 「ねー」 「悪の組織同士がそんな<放課後ウチに来て遊ぼー>みたいなレベルで同盟を結んでんじゃねー!」 「いいじゃないですか、レッドさん。仲良き事は美しき哉、ですよ。ねー、エニシアちゃん」 「ねー、ヴァンプさん」 すっかり仲良しさんな二人である。スパロボとかでありがちな<目的のために手を組んだけど隙を見せればお前ら も潰してやるぜゲッヘッヘ>な空気なんて微塵もない。 「…………バカだ…こいつら、正真正銘のアホ共だ…」 何でこの神奈川県川崎市溝ノ口には、頭カラッポでろくでもねー夢ばっか詰め込んだような奴が集まるのか? そして何故よりによって、俺がその地を守るヒーローやってんのか?
「とにかく!今日はエニシア軍団と共に貴様を叩き潰してくれるわ!覚悟せよ、サンレッド!ふはははは!」 「手加減など無用よ、サンレッド!あなたは善で我らは悪…あれ?カンニングペーパーどこだっけ」 「姫様、しっかり!」 「俺達がついてますから!」 ブチンッ!確かにそんな音が聴こえた。ついにレッドさんがブチ切れた音である。 「エニシアちゃんよ…確かおめー、全力で俺に闘ってほしいって言ったよな…」 「うん、言ったよ?」 「手加減すんなとも言ったな…」 「うん」 「ああ、分かった。分かったよ。見せてやるよ、俺の全力―――!」 ブワッ―――と、全てが焼け付くような熱気がサンレッドから迸る。 「え…ま、まさかレッドさん…ほんとに全力で行くんですか?」 「も、もしかして、私、ヤバい事言っちゃった…?」 恐怖。ヴァンプ様とエニシアを筆頭とする悪の権化達を支配するのは、純然たる畏れだ。 例えるならば、龍の前の蝿。獅子の前の蟻。どれだけ楽天的な連中でも瞬時に理解できる、圧倒的格差。 食物連鎖の絶対的上位に位置する存在。どれだけ言葉を尽くしても語れない、絶対にして絶大の壁。 それこそが―――本気になった天体戦士サンレッドだ! 「燃えろ、俺の太陽闘気(コロナ)―――変身!」 吹き荒れる爆熱と灼熱の中で、サンレッドがその姿を変化させる。 真っ赤なバトルスーツを基調として、その上から輝きを放つ追加装甲が装着された。 背中には爆風でたなびく、真紅のマント。 「強火で直火で、正義が燃える―――!天体戦士サンレッド・飛翔形態―――<プロミネンスフォーム>!」 <紅炎(プロミネンス)>の名を冠するその姿は、正しく日輪の化身。 朝陽のようにキラキラ輝く、絶対太陽。 夕陽のようにギラギラ燃える、でっかい太陽。 情熱を漲らせ。灼熱を溢れさせ。太陽の戦士(ソルジャー)が―――紅蓮の闘神が、そこにいた。
「あ…ああ…ヤバい…レッドさん、本当に本気になっちゃってる…」 「あ、あの…今からやっぱり手加減してとか…無理、かな…」 燃え滾る怒りに熱く紅くバーニングなレッドさんとは対照的に、顔面蒼白・涙目でガタガタ震える悪の将軍と姫君。 「姫様!こうなったら姫様必殺のフェアリースマイルで奴を骨抜きにするしかありませんぞ!」 「大丈夫!姫様ならば出来ます!」 この期に及んで姫様絶対主義を貫き通す覚悟の家臣達。忠臣の鑑であった。 でも、それがレッドさんに通じるかどうかは悲しいかな、別問題だった。 「うっせえわバカ共!死なねえ程度に殺してやるから、覚悟しやがれぇぇぇぇぇぇ!」 煉獄の炎を身に纏いながら、サンレッドは天高く舞う。一瞬にして大気圏を突破し、宇宙空間に到達。 そこから全速力で、公園に向けて急降下!その姿はまさに、燃え盛る真紅の隕石―――! 「紅炎奥義―――<メテオクラッシュ>!」 「「「「「どっひゃ〜〜〜!」」」」」 ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である! なお悪の皆様方はいつもより念入りに正義の説教をされたけど、エニシアちゃんだけはバイトがあったので帰らせて もらったとさ。そんなレッドさんの優しさが心に染みるお話でした。
投下完了、決闘神話に続いてサンレッドでした。 アニメサンレッドの新OP映像でのプロミネンスフォームがかっこよすぎて、ついつい発動させちゃいました。 今回はギャグだったけど、いつか書くかもしれない最終回では、かっこよく変身させてあげたいものです。 今回出てきたエニシア軍団、元ネタは<サモンナイト4>より。 ゲーム本編とは相当性格違いますけど。そもそも怪人じゃないし、世界征服企んでるわけじゃねーし。 家臣を思いやる優しい姫様と、姫様を心から愛する忠臣達なのは間違いじゃないんですけどね。 サンレッド世界に合わせて世知辛くさせるとこんな感じになっちゃいました。 こないだはサモンナイトXネタで書いたと思ったら今度はこれです。 僕の中でサモンナイトが今更始まってるんでしょうか…。ネタが通じる人もいなかろうに。
サマサさんあけましておめでとうございます。 長期のアクセス規制に引っかかってました、俺も。 いよいよ最終回ですか、遊戯王。 寂しいけども、最後まで書ききってくれたあなたに心から敬意を表します。 ラストはハッピーエンドみたいでいいですな! サンレッドみたいな短編読みきりでもいいので(出来れば連載がいいけど) また書いてくれると嬉しいですね。 僕もサマサさんとふら〜りさんがこのスレから消えるまではバキスレを 最後まで読んでいようかと思います。全盛期を知るだけに本当に寂しいけど。
第092話 「剛太と桜花、残党に挑む」 9月10日。夕方。 「いらっしゃいませー!」 耳をつんざく甘ったるい歓声に中村剛太は顔をしかめた。 (やっぱ入るんじゃなかった) 振り返ると真新しい強化ガラス製の自動ドア越しにハートマークだらけのA型看板が見えた。なぜそれを見た段階で踵を 返さなかったのかと5秒前の自分を呪いたくなるほど頭の悪そうなA型看板だ。薄いパールピンクで塗装され、丸っこい文 字で「メイドカフェ ぎんせーえんじぇるす!」と銘打たれている。輪郭には数えるのが馬鹿らしいほどのハートマーク。 (本当にここで良かったのか?) 右手に握ったメモ切れを自問自答がてら見る。そのまま広告に載せられそうなほど丁寧に書かれた地図と様々な要素を 照合。残念ながら住所店名立地条件全てが符号。流麗な知人の文字が恨めしい。 「いらっしゃいませー! 1名様ですか!」 黄色い髪を両側で縛った少女が店の奥からぴょこぴょこと飛び出してきた瞬間、剛太はますますこの空間への嫌悪を強 めた。何故ならば少女は濃紺のワンピースにフリフリしたワンピースを掛けていた。メイド服。起源は女主人とメイドの区別 用といわれているが対好事家どものサービスへ供されるようになって久しい。 やはりここはメイドカフェであった。ただでさえ垂れ気味でだらしない目が地の底めがけずり下がって行くのを剛太はひし ひしと感じた。 応対に出てきた少女と同じいでたちの連中が、丸テーブルとイスと見た目普通だが顔面の何事かが干からびている男性 諸氏ひしめく広い店内の中で活発に活動しているのが見えた。見るつもりはなかったが剛太は入口入ってすぐの場所で長 細い体を立ちすくませているため、その先へ洋々と広がる店の内実を否応なしに見せつけられた。 「わーお客さんステキー!」 「やーん。お尻触っちゃ駄目ですよぉ」 「そうなんですかぁ。お客さん頑張ったんですねー。エラいエラい。よしよし」 「じゃんけん! じゃんけん!」 少女達はひっきりなしに甘い声を上げ、笑い、元気よく男性諸氏に応対している。まったくよくここまで美辞麗句を吐ける と剛太が感心するほど少女達は言葉の全てを「お客さん」褒めに費やしている。 (お前らそれ絶対営業用だよな? 本心から思ってないよな? 思ってないから耳触りのいい言葉ばっか吐けるんだよな?) 醒めた脳髄は営業終了後または休憩中の少女たちがいかに口さがない調子で顧客を評しているか想像させた。ややも すると顧客の触れた手を念入りにアルコール消毒しているかも知れない。入口近くのレジにはイラスト──リボンその他の 装飾と可愛らしさだけが取り柄の意味不明動物ども──で過剰に彩られた料金表があった。現実逃避用に眺めたそれら はますます現実から逃避するに十分な料金設定を剛太に突きつけた。と同時にどうして少女たちがああも必死に接客して いるか納得した。つまり金のためかと剛太が一人勝手に結論づける頃、目の前で白い割りばしのような足をミニスカートか ら覗かせている少女が困惑丸出しで眉をひそめ「あのー、お客さん?」と呼びかけてきた。 それでようやく剛太は我に返った。初めてみるメイドカフェの異空間ぶりに心を奪われていたらしい 「悪いけど客じゃなくて私用。この人呼んでくんない? つーか呼ばれたの俺なんだけど」 ため息交じりに右手のメモの更に右下、著者名を指差すと少女は「わかった!」と店奥へ駆け出し、そして綺麗にスッ転 んだ。ドジっこメイドであろう。ドリンク運搬中の仲間に当たりオレンジジュースが盆ごと氷ごと近くのテーブルに降り注ぎ、 歓談していた20代後半の男性客がずぶ濡れになった。平謝りに謝るドジっこメイド。 (そういう演出いいから) 作為を感じつつレジカウンターへもたれかかる。疲れた。ただそれだけを思いながら耳障りな乱痴気騒ぎを聞き流す。 いつしか剛太はここに至るまでの経緯を反芻し始めていた。
143 :
永遠の扉 :2010/01/07(木) 22:55:03 ID:WLcVFHDJP
「しばらくこの町へ残留?」 9月7日。 ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズという色々常識外れな共同体との戦いが決着して間もない頃。 秋水とまひろが病室で他愛もない会話をしている頃。 寄宿舎管理人室において防人衛は剛太にとって意外な指示を下した。 「そうだ。キミにはしばらくこの街で残党狩りに従事してもらう」 「ああ。LXE。あの信奉者……早坂秋水がやってた任務の引き継ぎっスね? アイツだけまだ入院中ですし」 軽い調子で答えると、ガスコンロから戻ってきた防人がうむと頷いた。手には湯呑。ブラボー謹製ブラボー緑茶である。飲 むかと問われたので恭しく礼を言いながら受け取る。古びた陶器の心地いい熱さが掌に広がる。 「ま、厳密にいえば残党がまだ残っているかどうかの調査だな。秋水のおかげで逆向凱率いる残党は壊滅したが、もうこ の町のどこにも残党が潜んでいないとは決していい切れない」 「確か逆向って奴も銀成学園での決戦の時は眠ってたそうですしね」 「そうだ。一見平和に見えるこの街だが火種が未だ燻っている可能性がある」 「つーかパピヨンとかいう奴は野放しにしといていいんですか? いま一番危ないのはアイツじゃあ?」 一連の戦いの最後に突如として現れ漁夫の利をかっさらった蝶人を挙げると、防人はしかし意外にサッパリした顔つきで 答えた。 「アイツなら大丈夫だ。戦士・カズキに対する敬意は本物。彼との決着を経ずして今さらこの町に危害を加える事は絶対に ない。だから俺が気にしているのは他の連中の事だな。ヴィクターや逆向のように『今は動けないが復活の機会を待ってい る』……そういう者たちを完全に根絶しない限り、この街は永久に平和を取り戻せない」 (確かに100年前からヴィクター眠ってたもんなあ) 男の上司が淹れたにしては滅法うまい緑茶をすすりながら、剛太は銀成市の大変さに思いを馳せた。1世紀前に『存在(い) るだけで死を撒き散らす』ヴィクターが漂着して以来、Dr.バタフライ率いる共同体が癌腫のようにしずしずと住民を殺し、その 玄孫も腹立ち紛れに住民を殺し、学園が襲われ、それが決着したと思えばLXEの残党がまたぶり返し、バタフライの遺産を 巡って流れの共同体と戦士たちと3つ巴の争いを繰り広げた。 (それでなお残党残ってたら……この街呪われ過ぎだろ) 重々しく湯呑を置くと、飲み差しの水面に蛍光灯が反射した。その丸いきらめきが連想させるある人物に剛太ははっと息 を飲み、頬に一条の汗を垂らした。 「……一つ質問したいんスけど。もしあのムーンフェイスとかいう奴がいたらどうします?」 「発見したら捕捉しつつ俺たちに連絡。戦闘に突入したら全力で逃げてくれ」 飄々とした声音が俄かに堅さを帯びたのは経緯ゆえであろう。剣持真希士。ムーンフェイスに殺された防人の部下。彼の 像が自分にオーバーラップしているのを剛太は感じた。 「た! 確かに俺のモーターギアじゃ無理っぽいですもんねアイツ。それでもまあ尾行と逃げ帰り位はできるでしょ!」 空元気の赴くまま腕まくりをすると、「流石は戦士・剛太! くれぐれも頼むぞ!」と景気のいい返答が返ってきた。 少し前までは上司の一人にすぎなかった防人へ何やら配慮めいた事をした不思議を剛太は発見せぬまま、彼は彼らしい 質問へ移行した。 「で、その任務は誰とやるんスか?」 普段やる気なさげな表情がはちきれんばかりの期待に染まったのは詰まるところ望みのためである。垂れた瞳は子犬の ように見開き、口元も年相応のワクワクドキドキを見せている。 「誰ってそりゃあまあ」 子供めいたニヤツキが防人の顔面に広がった。 「戦士・斗貴子だ!」 「よっしゃあッ!!!」 今度は心からのガッツポーズ。剛太は猛然と立ち上がり、咆哮した。 意中の女性。尊敬する人。女神。スパルタン。青髪を短く鋭く切り上げたセーラー服美少女戦士の姿を脳内でふし拝んで いる内、剛太の頬を熱い物が伝った。いつしか彼は感涙に咽び泣いていた。 「やっぱりキャプテンブラボーは話が分かる!」
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永遠の扉 :2010/01/07(木) 22:57:59 ID:WLcVFHDJP
「当たり前だ。部下に動いてもらう以上、こういうブラボーな配慮をせずしてどうする!」 「ブラボー! おお、ブラボー!」 会心の笑みで拳を突き出すと防人もそれに応じた。拳と拳の触れ合いは何かが通じた漢同士のロマンであろう。 「もっとも彼女は本調子でないから、栴檀貴信から受けた傷がほぼ治っているお前が存分に補佐してやってくれ」 垂れ目少年、今度は胸をドンと叩いた。 「任しといて下さいよ! そりゃあもう存分に助けますよ!」 意中の人にいいトコ見せられるとばかり剛太は発奮した。そもそも任務の題目は「残党が居るかどうかの調査」である。 となれば調査にかこつけ斗貴子と2人街と闊歩できるかも知れない。月に消えたカズキの隙をつくようで悪くもあるが、ただ 色々と辛い場面を見せつけられた分くらいいい思いしても……という欲目がむくむくと首をもたげてきた。でもそれは敬愛す る先輩の抱えた重大な問題を解決する物ではなく、むしろ自分の欲求を満たしたいが故の穢れた行為。それはよくないそ れはダメだと剛太が葛藤する間にもウィンドウショッピングだの2人きりの外食だのへの妄想が任務に対する不純なモチベー ションを強めていく。とにかく任務の中で先輩を補佐、絶対守るだけがいいと自制めいた妥協を打ち出しながらも、こう守っ た後に「ありがとう剛太」とか笑われたらどうするスッゲー嬉しくねとかいう取らぬ狸の皮算用さえ湧き出てくるからまったく どうしようもない。要するに剛太、横取りするのじゃなくちょっとしたデート気分を味わいたいのであろう。 「で、後もう一人、スペシャルアドバイザーの協力も仰ぎたいが、いいか?」 「ええ! ええ! 先輩さえいれば後はどうでも!! ああそれにしてもいいなあ。先輩と2人きり、いいなあ」 防人の問いを夢見心地で考えなしに快諾したが故に。 (こんな場所来る羽目になったんだよなあ。くそ。先輩と1秒でも長く一緒に居たいのに……) トホホと肩を落とす剛太に聞きなれた声が響いた。 「あらあら剛太クン。もうちょっと後でも良かったのに」 「あんたにそれ決める権限あるんスかね。キャプテンブラボーならともかく」 憮然とした調子で呼びかけると呼び出し人──わざわざメモまで書いてメイドカフェに呼び出した──早坂桜花がくすりと 笑みをこぼした。剛太はその笑みを見ていない。もともと微妙な感情を抱く桜花によって理解しがたい場所へ呼び出された ため感情は最悪。顔も見たくないとばかりレジカウンターにもたれ、壁を剣呑に眺めている。 「残党の件で話があるってメールしたら、あの不細工な自動人形がそれ持ってきたんだけど」 「ええ。分かってるわよ。でももうちょっと待ってくれないかしら」 「だから何だよもうちょっとって。ああ畜生。やっぱ協力なんて仰がなきゃ良かった」 「だってバイト終わるのもうちょっと後だし……」 「…………バイト?」 はつと胸中に生じた疑惑によって首を捻じ曲げようやく桜花を見た剛太はしばし目を奪われた。 彼女は、メイド服を着ていた。 艶やかな黒髪にホワイトブリムを付け、濃紺のワンピースと純白のエプロンドレスを纏い、フリフリのついたロングスカート の前で両手を組んで楽しそうに剛太を眺めていた。 ただそれだけであるのに彼女は正に清楚の体現であった。腰まで伸びた黒髪も聡明たる美貌も気品のある佇まいも全て 全て紺と白を基調とした衣装と絶妙なる合致を見せている。香水、だろうか。シトラスの甘やかな匂いが剛太の鼻梁をくすぐっ た。その控え目な匂いはしかしますます桜花をよく見せ、もはや清廉潔白なるメイド長の趣さえ漂わせ始めている。斜に構 えたリアリストであるところの剛太さえ不覚にも見とれかけた。すらりと伸びた長身は華奢でありながら胸部はひどく豊饒で あり衣服の生地がいまにも張り裂けんばかりに隆起している。熟成。たわわ。果実。メロン。スイカ。あらゆるワードが熱に 霞む剛太の頭を駆け巡り、視線を「そこ」へ釘付けた。 「やだ剛太クン。そんなに見ちゃ津村さんに悪いでしょ」 胸を覆うように両手を交差させる桜花だが、特に気分を害した様子はない。はしたない弟を軽く叱るような口調でニコニコ と相好を崩している。 剛太は口をもごもごとさせながらとりあえず「悪ぃ」とだけ謝ったが、自分の置かれた境遇を再認識すると咳き込むように 文句を垂れ始めた。
145 :
永遠の扉 :2010/01/07(木) 23:00:08 ID:WLcVFHDJP
「じゃなくて!! バイト!? なんであんたがココでバイトしてんだ!!」 「なんでってそりゃあ……面白そうだったからだけど? 寄宿舎のカレーパーティーで一回着て以来、気に入ってたのよね。 そんな時たまたま街角でオーナーにスカウトされちゃって。やってみようかなって」 いかにも的外れな質問を浴びたとばかり桜花はきょとんとしている。そのあどけない反応に一瞬毒気を抜かれかけた剛太 だがここで矛を引っ込めては敗北とばかり常識論頼りの攻勢を開始した。店内では喧騒がやみ全ての視線が剛太たちに 向きつつある。 「違う! 俺の聞きたいのはそういうコトじゃねェ! 高校って普通バイト禁止だろ! しかもあんた生徒会長じゃねェか! 生徒会長が校則破ってバイトしていいのかよ!?」 ぎゃんぎゃんと言葉を吐きつくすと、剛太は脱力したようにぜーはーと息をついた。すかさず最初に出てきた黄髪ツインテー ルの少女が「ドリンクはいかがですか」と聞いてきたが「いるか!」なる垂れ目の絶叫で速攻撃退された。 一方桜花は平然たるもので、「ああ、それ?」とだけ人のいい笑顔を浮かべた。 「私と秋水クンは数か月前『交通事故』に遭って入院したの。入院したら医療費が嵩むでしょ? 医療費が嵩んだら、2人暮 らしの私達の生活は苦しくなっちゃうの」 「つまり……生活苦しいって理由で特別に許可して貰った訳か」 憮然とした面持ちで指摘すると、桜花は「そそ。ぴんぽーん」と両手製の大きな輪を頭上に描いた。おどけている、剛太は 丹田直送「生涯最大級」の溜息をついた。 「だからって何故にメイドカフェ……。もっと生徒会長らしい職場あんだろ。先公どももよく許可したな」 「あら? 銀成学園の先生たちって結構寛大よ? 『現代の若者文化を実地で学びより良い生徒会活動に反映する』とか 何とか報告したら速攻で許可下りたし、休みの日とか結構皆さん遊びにくるし……」 (ヤな学校だなオイ) (それにね。かなり実入りがいいの。テキトーに男の人あしらうだけでボロ儲けなのよ?) 甘く小さな声に剛太の身がゾクゾクと竦んだ。耳元に熱く潤んだ吐息がかかる。彼女はいつしか剛太の傍に立ち、耳元で ヒソヒソと囁きだしている。思わぬ挙措に店内の客とメイドたちから羨望と好奇の混じった視線が刺さり始め、剛太を狼狽 させた。 (ちょ! 何やってんスか!) (しっ。そのまま。残党探してるんでしょ?) 思わず敬語で抗議する剛太の耳へ更に桜色の唇が接近した。 (だったらこのお店を調べるコトね) やや赫々としていた顔色が俄かに緊張の青めがけて中和された。 (つーコトは、まさかこの店に……?) 桜花は何もいわず顔を離した。いつものごとき笑顔からは「残党」なる非日常の存在は感じられない。 「私はもうあがっちゃうけど、料金の方は心配しないでね。オーナーに口利きしておくから」 「待て。なんで俺が店に入るコトになってる? フツーに聞き込みとか張り込みすりゃいいだろ。つかバイトしてるならあんた が調べりゃ……」 「ゴメンなさいね。その辺りの事情はちょっとフクザツなの。でもお店に入ったらすぐ分かるから」 剛太は甚だ理解に苦しんだ。フクザツな事情? 店に入ればすぐ分かる? (なに企んでんだよ残党どもは) なかなか事態が飲み込めない剛太をよそに桜花は携帯電話を取り出しわざとらしく呟いた。 「あら。もうこんな時間。じゃあ私はあが──…」 困惑きわまる大声が飛びかかって来たのはその時である。 「桜花せんぱーい!」 クルリと方向転換した桜花めがけ先ほどの黄髪少女が走ってきた。
146 :
永遠の扉 :2010/01/07(木) 23:01:06 ID:WLcVFHDJP
「あら光ちゃ……じゃなかったわね今は。沙織ちゃん。どうしたの?」 沙織、と呼ばれた少女はひどく困り切っている様子だった。小学生といっても通じるほど大きな瞳を更に見開き表面張力 ギリギリまで困惑という名の液体を湛えているようだった。その顔を見た剛太はおや? と首を傾げた。どこかで見た覚えが ある。軽く記憶をなぞる。 (あ。そうだ。寄宿舎の管理人室で会議してる時、武藤の妹たちと覗きやってた奴だ。ん? いや待てあの時は確か、鐶光 とかいう敵のホムンクルスが化けてたんだよな。ってコトは「本物」とは初対面か?) その「本物」、剛太にはまったく目もくれずただただ必死に桜花へ状況説明をしている。それが終わらない限り剛太の用件 は終わりそうにないので聞くともなしに聞いてみる。 やがて門外漢の垂れ目にも事情が分かった。 どうやら同僚が一人、来れなくなったらしい。理由は「子供が熱を出した」せい。子持ちでメイドカフェ勤務? 不思議な話 だが場所が場所ゆえ仕方ない……剛太はそう割り切った。とにかく事情が以上のようであるなら店長なりオーナーなりに相 談すれば良さそうなものだが、沙織の話では彼らとも連絡がつかないらしい。 「困ったわね。じゃあ私たちで何とかしないと」 と桜花が店内を見ると、メイドたちが一斉に首を横に振った。どうやら自信がないらしい。 (やれやれ。上司が上司ならバイトもバイトかよ) 剛太が呆れていると、桜花がするりとレジカウンターに滑り込み、レジの下から慣れた手つきで紙を一枚取り出した。難 しい顔で眺めている所から察するに、どうやらシフト表らしい。 「やっぱりあと1人いないと回らないわね」 「回らない? え、でもここファミレスとかじゃないでしょ? 1人ぐらいいなくても何とかなるんじゃ?」 不思議そうな呟きに桜花はいかにも仕事慣れした調子で答えた。 「ここは食べ物作って出すだけじゃないのよ剛太クン。お客さんが来たらマンツーマンでおもてなししなきゃいけないの。で、 今日の売上予算的には私が上がった後、もう1人いないとどうしても回らないの。休んだ人は普通の人の3人分ぐらい働け る人だし……。かといって2人以上入れたら今度は人件費が予算オーバーね。入れられるのはあと1人って所だけど、誰 にしようかしら。あ、沙織ちゃん。とりあえず今日オフの人に電話掛けて出れるかどうか聞いてくれない? 手の開いてる人 は店長やオーナーに電話をかけ続けて。繋がったらいまどういう状況か報告して指示を仰いで」 やがて同僚たちが動き出すのを確認すると、桜花はすぐさまシフト表に視線を戻した。瞳の色は真剣だ。どうすればこの 難局を乗り切れるか心底マジメに考えているらしい。そういう雑味のない様子に「こういう表情(カオ)もできるのか」と剛太 はひどく感心した。が、素直に褒めるのも癪なので、わざと茶化すように質問する。 「あんた慣れすぎだろ。つかいつから勤務してんだよ」 「そうね。総角クンたちとの決着付いてからだから……1週間ぐらい?」 にこりともしない桜花に剛太は息を呑んだ。 (幾らなんでも適応しすぎだろ) とはいえ生徒会長になれるほど有能な桜花であるから、未知の仕事でも飲みこむのは早いのであろう。 しかし彼女の奮戦も空しくオーナーや店長と連絡が取れたという報告はない。 やがて沙織が戻ってきた。桜花の指示を受けどこかで電話していたらしい。 「うぅ。駄目だったよ桜花先輩。誰も連絡つかないー」 あどけない表情をしかめて軽くベソを書く後輩に桜花は生徒会長らしく、「じゃ」と微笑んだ。 「私が残るわ。それでいいでしょ? 店長やオーナーには後で説明しておくわ」 「さすが桜花先輩!」 「というコトでゆっくりしていかない剛太クン? 私を御指名ならサービスしちゃうけど」 くしゃくしゃの更に掻きむしりながら「さてどう先輩に報告したものか」と思案にくれる剛太である。
念仏番長が銀成市にメイドカフェを出店する事にしたのは、つまるところ私欲のためである。 来音寺萬尊(らいおんじまんそん)といういかにも偽名くさい本名を持つこの男は号が示す通り坊主である。 容貌魁偉にして禿頭、学ランの上から巨大な数珠をかけている所はまったくもう誰がどう見ても坊主であるが、ただし非 常に俗物であり、一度などは新興宗教めいたものを立ち上げ暴利を貪っていた。 紆余曲折を経て改心し友情の大切を噛みしめるようにはなったが、しかしコトあるごとに自身を模した「念仏くん」なるグッ ズを売りたがるのが珠に瑕である。 知り合いの財閥令嬢を説き伏せまんまとメイドカフェを銀成市部に出店し、そこのオーナーに収まったのもつまるところは 新興宗教時代のしくじりによって山のような在庫ができた「念仏くん」グッズを捌くためである。 目論見はこうだ。色んな意味で群雄割拠してる東京23区は敢えて外して埼玉にメイドカフェを作る。そして可愛い女の子 を沢山集めて人気を出す。すると各所で取り上げられ有名になる。そこでマスコットとして「念仏くん」グッズをねじ込む。結果、 バカ売れ。正に完璧なプランである。 「ま、勝手にやってよ」 日頃念仏を小馬鹿にしてやまない後付け反則何でもアリのへそ出しマスクは冷笑したが、しかし念仏は自身の成功を信 じている。この日もオーナーの職務を放棄し、知り合いの粘液デロッデロショタ生物に従業員一同の写真を見せびらかし悦 に浸っていた。携帯電話の電源は切っている。自慢タイムを邪魔されたくなかったのだ。 「都心から外れども女子のレベルは遥かに高し……! やはり我の目に狂いはなかった」 桜花はいわずもがな。その後輩の河合沙織もコケティッシュな雰囲気がウケている。他の女子も高レベル。いずれも街角 で念仏直々にスカウトした逸材どもである。無論失敗も多かった。顔に傷ある凛々しいセーラー服の少女は勧誘途中でブチ 切れて目つぶししてきたし、同じくセーラー服で髪を筒にいれてる外人少女は汚物でもみるような冷たい目つきで毒舌を降らし、 念仏の心を抉り、シルクハットを被ったお下げ少女はメイドに対する講釈を十万行ばかり垂れてから丁重に断った。虚ろな 瞳でうろうろしてた少女は「地図があれば……行けます」といったから書いてあげた。でもやってくる気配がない。 「とはいえ次なるツンデレカフェの開業を視野に入れた場合、毒舌少女は外せんぞ。今度出会ったら必ずや引き入れてみせる」 「そ、そうデロか」 粘り強さが最大の武器であるデロデロのショタは、しかし度重なる念仏の自慢話にとうとう根負けしたらしく去って行った。 「フン。他愛もない。次は居合辺りに──…」 自慢のメールを送ろうと携帯電話を開いた念仏、電源がオフになっているのに気付いた。そして電源を入れる。 見計らったように電話が来た。桜花からである。報告を聞いた念仏は思わず立ち上がった。 「何! サソ……遥っちが休むだと……? ま、まあ良いわ。お主が代わりに入るというのなら問題はない。後は頼んだぞ。 我もすぐに駆け付ける!」 遥っち。義理の息子を養育するためメイドに身をやつしてまで働く元レディース。桜花とはあらゆる要素が対極的だが、 「無理してる感じが逆にイイ」「実は怖そう。でも怒られたい」などなどの理由で当店ナンバー2の人気者である。念仏の誘い によって銀成に来たのである。 というコトで続く。 新年明けましておめでとうございます。ブログ吹っ飛んだけど作りなおして元気です。
スターダストさんマジでお久しぶり! またこの大長編が読めると嬉しいです。 正直内容忘れてるところもあるから、 新ブログに読みにいきます。 え?念仏番長?w
149 :
ふら〜り :2010/01/08(金) 20:39:35 ID:Qo3xL9l70
>>サマサさん ・決闘神話 はー……帰って来ちゃいましたねぇ。大長編ドラで、最後にのび太の部屋に戻ってきた時の ような、満足感と寂しさ入り混じるこの気持ち。旅の記録が伝説として語られる、というのは FF1のEDを思い出す壮大さ。この余韻に浸りつつ、伝説の英雄たちのエピローグ、待ってます! ・サンレッド つまり、サンレッド世界の空気にアテられるとみんなこうなってしまうというわけですな。こんな のどかな世界に、レッドみたいな超絶ヒーローがいるってのがまた何とも。もっと深刻な危機に 晒されてる異世界もあろうに……って、そういや前に、間接的に異世界を救ってましたね。 >>スターダストさん(復っっっっ活! 新年早々めでたい!) 桜花のメイド姿、容易に想像がつきますな。実に似合ってる。武装錬金の戦闘力はとにかく、 才色兼備の体現みたいな人ですからねぇ。そしてそんな桜花と、脳内斗貴子に対する剛太の リアクションがまた彼らしく、見てて実に微笑ましい。男の子らしいってなぁ、いいもんです。
サマサさんの遊戯王が終わりそうで寂しく思ってたら ダストさんキターーー(*゚∀゚*)ーーーー!!!!
最終話 黎明 地上を狙う黒い巨竜の全身に傷が刻まれ、鱗が剥がれ、あちこちから血が流れていた。 いくら魔界の実力者といえど、昇格兵士ヒムや陸戦騎ラーハルト、ポップやアバンといった面々を一度に相手にしては瞬時に仕留めることは難しい。 それでも戦意はまったく衰えていない。帰還した勇者を捉え、目が細められる。 火炎を吐かれたダイは空を翔けてかわした。 息吹がおさまって竜の眼前に飛び出したのは若い魔族だ。傷はある程度回復したものの完全に癒えたわけではない。衣が破れ、血に染まった状態で呼びかける。 「戦いを止めよ! ヴェルザー!」 「何?」 よりによって大魔王の血を引く者が地上の住人への攻撃を止めようとするのは予想外だ。 力を振り絞った叫びに耳を傾けるはずもなく、闘気を高めていく。 「腑抜けが。やはり父には遠く及ばんな」 地上の者達の味方をするならばまとめて倒すだけだ。 ヴェルザーも消耗しているが、先ほどから戦っているヒムやラーハルト、死神の相手をしていたアバンとポップも傷を負い、疲弊している。 集束した闘気が撃ち出されようとした刹那、空気の質が変わった。 「やめろ」 少年がたった一言呟いただけなのに莫大な圧力が竜の全身を締め付けた。 ダイの黒髪は逆立ち、額の紋章は眩しく輝いている。それに引きずられて中身まで変質していくかのようだ。 彼が意識的に枷を外せば、魔界最強のバーンをも葬った、竜の騎士の力を全開にした魔獣の姿に変わる。 “みんなのダイ”として戦いたい。自分の存在がなくなってしまうかもしれないという恐怖は厳然として存在している。 そのため、大魔王との戦いでもできるだけ使おうとはしなかった。 だが、傷つき倒れそうな仲間を――地上の人々を守るためならば禁断の力を解放することも辞さない。 動きを止めたヴェルザーにダイが語りかけた。 「おまえも魔界が豊かになってほしいって思うだろ? もし魔界にも太陽をもたらす方法があるとすれば――」 「何のことだよ!?」 「可能なのですか?」 ポップとアバンが関心をひかれたように身を乗り出した。 「まさか……」 「話聞くだけでも聞いた方がいいんじゃねえのか? 冥竜王さんよ」 ラーハルトは驚きを隠せず、ヒムが提案する。 ヴェルザーは疑念も露に鼻を鳴らしたが、ひとまず殺気は収め、話を聞く態勢に入った。 地上に着陸し、アバンが他の者たち――常人には見えないものを見るメルルなど――を集める。 そこでダイが考え考え説明し、ところどころイルミナが補った。
話は最近地上で発見された遺跡についてだった。 そこに秘められた力が明らかになったのだ。 ポップが見つけたのが世界地図の上方の頂点となり、下方の二点――エイミやニセ勇者の発見した遺跡とつなぐと細長い三角形になる。 さらにヴェルザー襲来時にメルルが“二つ”見た。おおよその位置を割り出し書き加えると、全部で五つになる。 それらをすべてつなぐと五芒星が形成される。 大魔王バーンは地上各地にピラァを投下し、六芒星魔法陣を描いた。黒の核晶の力を増幅させ、世界を消し飛ばし、魔界に太陽をもたらすために。 だが、遺跡によって形成された五芒星は地上を吹き飛ばすためのものではない。 「メルルが見たんだ。遺跡の前で、太陽に照らされた世界を」 遺跡に案内されたメルルが見た“ある光景”とは、太陽の光が降り注ぐ魔界の姿だった。 世界の形を一つに戻すのか、魔界の空を晴らすのかまではわからないが、地上を消滅させるような働きはない。 そこで疑問の声が上がった。 「そんな遺跡があったならとっくに見つかっているはずじゃない」 いくら人の踏み込まないような場所にあるといっても、遥か昔からあったのならば、幾つかは誰かが発見しているはずだ。 「おそらく結界が張られていたのでしょう。世界の在り方を変える力を持つのですから、慎重を期したのかもしれません」 天界の力や知識を吸収した第三勢力は遺跡の扉の開け方など一部分の知識しか得ておらず、何のために使うのか把握しきれていなかった。 だが、魔界にも太陽がもたらされると知れば遺跡を破壊しようとしただろう。 他の魔族も大いなる力を悪用しようと企んだかもしれない。 「今ならわかるよ。精霊が最後になんて言ったのか」 ダイの心に天界の精霊の最後の言葉が浮かび上がった。 『世界に陽光の守りがあらんことを……』 地上でも人間でもなく、地上でも魔界でもなく、“世界”と言った。 そこに住まう者すべてを指していた。
今まで扉の開け方がわからなかったが、第三勢力と一時的に同化したシャドーが得た情報によって入る方法を知ることができた。 中の装置を動かすための手順を整えるには古文書読解やさらなる研究が必要になるが、最低限要るものがある。 「天界の力が関わってる竜の騎士(おれ)と……人間と、魔族と、竜のみんなの力が要るんだ」 ただの竜ならば超竜軍団にも属していたが、世界規模の変革を起こすのは不可能だろう。 知恵ある竜。かつて魔界を二分した、竜を統べる存在。 雷竜ボリクスに打ち勝ち、冥竜王の称号を手にしたヴェルザーこそが役を担うに相応しいはずだ。 「貴様の父にオレの一族はほぼ壊滅させられたのだぞ」 簡単に友好的な態度をとるはずもなく、不機嫌そうにうなる。 が、提案を一蹴する気はないようだ。 検討するように考え込んでいる。 仮にダイたちを滅ぼすことができたとしても、そのせいで魔界が豊かになる可能性まで摘み取ってしまっては大きな損失となる。 「古文書などの調査は私にお任せください」 眼鏡をくいくい動かしながらアバンが呑気に挙手した。緊張感の無い仕草だが、大魔王をも警戒させた理知の光が眼に宿っている。 「おれも手伝います!」 ポップが負けじと勢いよく発言する。アバンのように何でも器用にこなせるとは言えないが、魔法の応用や技術の研磨には自信がある。 装置を動かすには正面から魔力を叩きつけるのではなく、細かい調節なども要求されるだろう。 イルミナは魔力の源である鬼眼を活かそうとしている。 アバンやポップ、イルミナ、ヴェルザー。 人と魔と竜。 それら三種族を合わせた存在である竜の騎士の血を引き、人の心の強い勇者ダイ。 彼らが協力すれば道が開けるだろう。 「ヴェルザー、まずは魔界の状況を変えることが先ではないか? 勝利を求めるあまり欲するものを失っては本末転倒だろう」 そこでヴェルザーは光溢れる世界を望まなかった第三勢力について尋ねた。 最期まで他者を嘲弄し、死んでいったと聞かされ牙を剥く。 アバンとポップが顔を見合せ、呆れたような表情を二人揃って浮かべてみせた。 「あのような輩の思い通りに動くんですか?」 「ここで戦ってボロボロになるのもそいつの思惑どおりってワケだ。冥竜王ってのは口だけかよ?」 大魔王に奥義を使わせた時のように挑発する。 一歩間違えれば危機的な状況を誘発してしまうが、ポップには勝算があった。 力こそ正義が彼らの則だ。だからこそ誇りにこだわり、己の名や力を貶めるような行為は許せないはずだ。 「大魔王と魔界を二分したってほどの存在が、手の上で踊らされるような真似はしねえよな?」 「……よかろう」 長い沈黙ののち、ヴェルザーはそう呟いた。 もし途中で言葉を翻し襲撃するようなことがあれば冥竜王の名がすたるとポップやアバンがそれとなく釘を刺し、正式に協力を取り付けた。 ヴェルザーが本格的に被害を及ぼすより早く戦いを止めることができたため、国民も受け入れやすい。実質的に害を与えたのは第三勢力の手下である魔物たちと分身体だけだ。 侵攻の規模を考えれば幸運と言える結果である。
「もしかして……結界が消えたのは」 ふと浮かんだ、あまりに荒唐無稽な考えにマァムは苦笑した。 遺跡が今になって姿を現したのは、舞台が整えられたことを察したためではないかと思ったのだ。 世界の均衡を乱す者を粛正する役目の竜の騎士。 だが、ダイは敵対する魔界の住人を力ずくで滅ぼすのではなく、魔族――それも仇敵の血縁者と手を取り合おうとし、成功した。 魔族もそれに応え、竜を止めようとした。 ポップやアバンも、種族だけでなく信念や価値観が異なる存在へのわだかまりがないわけではない。 それでも、より望ましい方向へ進むために道を選んだ。 見守る彼らの目の前で、ダイは魔族と竜に確信に満ちた口調で告げた。 「できるよ。みんなで力を合わせれば」 「お前ならば――」 イルミナは続きを呑みこんだが、他の者達も同じ気持ちだった。 試みが成功するかわからない。 今は手を組んでも、いずれ戦うことになるかもしれない。 第三勢力の言うように、平和など束の間のできごと――うたかたの夢にすぎないのかもしれない。 それでもポップをはじめとする人間たちは希望を捨てる気はまったくなかった。 小さな勇者がいれば、きっと変えられる。そう思ったのだから。 だからポップはダイの髪をわしゃわしゃとかきまわし、笑いながら告げた。 「おれもいるからな」 ダイは相棒の少年に頷き、微笑を浮かべたのだった。 それから一同は戦の後の処理に追われた。 ヴェルザーはいったん魔界に戻り、イルミナは地上に留まった。 ヒュンケルがさらわれたと聞いて身悶えせんばかりになっていたエイミが突進し、無事を喜ぶ。 ヴェルザーとの戦いで協力しあったはずのラーハルトとヒムは再びいがみ合っていた。 メルルは短期間に何度も“見た”ため休養を取り、レオナやアバン、各国の王たちは人々に事態を上手く説明すべく頭を働かせている。 五つの遺跡の碑文の単語を拾い集め、呟く。 「遺跡がもたらす姿について告げているようですね」 ポップも師にならい、熱心に意味をくみ取ろうとしている。 注目を集めているのはやはりイルミナだった。 全盛期の大魔王の姿にかなり似ているため、複雑な表情の者もいる。 好奇心を抑えきれないようだったが、肉親だからといって優遇されたわけではないと聞かされ一応引き下がった。
深夜、ダイとイルミナは並んで立って夜空を見上げていた。 バランはバーンの仕掛けた黒の核晶によって命を落としたが、ダイは復讐の念に燃えてはいない。 バーンの計画によって命を落とした者達の遺族は素直に受け入れないだろうが、眠らされていたため直接関わりようがなかった。 また、第三勢力を倒す要になったとアバンたちが発表したためいくらか風当たりは弱まっている。 イルミナには地上の人間への憎悪――絶対に滅ぼすという意思は今のところ無い。 目的は魔界に太陽をもたらすこと。地上破壊は手段の一つに過ぎず、地上を消滅させずとも可能ならば争う必要はない。 バーンが知ればそちらを選んだだろうか。それとも世界の在り方を弱肉強食に統一するために続行しただろうか。 疑問が疑問を生み、目にした地上や人間の姿が不快ではないことに彼女自身も戸惑っているようだった。 「私は地上のことも人間のことも知ろうとはしなかった。……お前のことも」 ダイは真剣に耳を傾けている。 彼女は一語一語確かめるように口にする。 「知らぬことではなく、知ろうとしない姿勢こそが恥ではないかと思う。相手を理解しようとする意思も無いまま平和は語れまい」 だから、これからダイや人間との交流の中で知ろうとしている。 横顔を見せて淡々と語っていた彼女はダイに顔を向けた。彼も真っ直ぐに見つめる。 「ダイ。私は心身ともに強くなってみせる。……お前達のように」 これは誓いの言葉だ。 魔族を統べるに相応しい存在となる決意が表れている。 戦神の血の流れる者は厳かに告げた。 「そして、お前と戦い勝利した時こそ――大魔王と名乗ろう」 ダイは無言で頷いた。 再び前を向いた魔族は湧き上がる想いに身を任せた。 『てめえは親父みてえにゃなれねえな!』 『バーンにはなれないよ』 (父よ。私はあなたのように、敵をすべて焼き滅ぼす炎にはなれません) どれほど力を身につけようとバーンにはなれない。振るおうとする方向も異なっている。 (それでも……誰かを照らすことはできるでしょうか?) 地上の希望となったダイのように。ダイに勇気を与えたポップのように。ミストに戦う理由を与えたバーンのように。 ダイには光を感じる。まるで空に在る太陽のような暖かい光を。 『でも、できなかったことをやれる。そう思うんだ』 バーンは焼き尽くす者。ミストバーン――ミストは影のように寄り添い、大魔王とともに生きる者。 彼女の名は輝き照らす者を意味する。 その名にふさわしく生きていきたい。 夢を現実としてみせることを誓い、彼女は拳を握り締めた。 勇者に憧れたダイが世界を救ったように、大魔王が望み焦がれた景色を実現させようと。
「――のように、か」 魔族はふと呟いた。 人間同士でさえ争うのだ。いきなり共存を唱え、一つになって暮らそうとするのは不可能だろう。 ただ―― 「異なる種族でも、違う世界に住まう者でも、同じものを目指す時……共に生きると言えるのではないか」 混乱したように頭をかいたダイは目を細めた。 思索にふける二人の視界に光が差した。 朝日が姿を現そうとしている。 その頃、古文書を読み進めていたアバンがポップに対して口を開いた。 「碑文には新たな時代の到来の兆しを感じ取った時扉が開き、世界が輝くと記してありました。あなたが読んだ語の意味は――」 『太陽は昇る。 人と魔と竜を照らすために。 ――を告げるために』 後に一連の出来事は刻まれた語からこう呼ばれることとなった。 “共存の夜明け”と。 L'alba della Coesistenza 完
157 :
顕正 :2010/01/08(金) 22:32:46 ID:0OYRd1bN0
以上です。 バーン様の言葉が心に残るため、このような結末になりました。 今まで読んでくださった方、感想をくださった方、本当にありがとうございました!
お疲れ様でした顕正さん! 見事完結されて嬉しいです。 ダイとイルミナ、「絆」がしっかりと結ばれましたね。 イルミナは魔王にはなれずとも立派な魔族の代表になれたと思います。 また顕正さんと逢えるといいな。
159 :
作者の都合により名無しです :2010/01/09(土) 13:11:12 ID:qtvZEGxS0
お疲れ様でした。完結おめでとうございます。 ダイをベースにオリキャラがいきいきとしてていい感じでした。 イルミナはいいキャラだったなあ
サマサさんの遊戯王が終わったて寂しく思ってたところで スターダストさんの永遠の扉がかえってきたと思ったら 顕正さんのL'alba della Coesistenzaが終わってしまう。 なかなか上手くいかんもんだな。 顕正さん本当にお疲れ様でした。 アクション物ではないダイ、楽しく読ませていただきました。 テーマは「共存共生」だったんですね。 またいつか、読み切りでも書いて頂ければ。
桜花のメイド姿より まひろのメイド姿の方が良く似合う気がする スターダストさん戻って着てよかったなあ
サンレッドはこれほどの力で一体誰と戦うというのかw 宝の持ち腐れという言葉がこれほど似合うヒーローもいない フロシャイムも特撮ヒーロー系の怪人としては最強クラスの人材が揃ってるけど、サンレッドは 完全に異次元の強さだからな… スターダストさん復帰おめでとう…つーか金剛番長とのクロスってw もっと好き勝手やってくれていいぞ! メイド服はいいものだ。 顕正さんお疲れ。 最後は魔族との共存という答えに辿り着けて爽やかなエンディングだった。 プレッシャーかけるようだけど、次回作にも期待してるよ。
終章3「其処に物語(ロマン)は確かに在った」 修学旅行が終わり、遊戯達はまた学校に通い始めていた。 「―――そしてオレと星女神の巫女・ミーシャが絶体絶命の危機に陥ったその時、颯爽と救世主は現れた!その通り、 彼こそは星女神の勇者・オリオン!そしてもう一人は何を隠そう我が親友・遊戯!」 「はいはい、もう百回は聞いたよ…」 遊戯と城之内の友人である本田は、ウンザリだといわんばかりに両手で耳を塞ぐ。 「オカルト的な事にはオレだって何度も巻き込まれたから、タイムスリップしたとかいう話を疑うわけじゃねーけど、 ここ最近、 お前それしか話してねーじゃんか!」 「そーよねー。ほんともう、耳にタコってカンジ」 仲間内の紅一点・杏子も、ふふんと城之内を嘲笑う。 「そんな事ないよ。ボクは何度聞いてもワクワクするけどなー」 「うう…獏良ぁ〜〜〜!本当のダチ公はお前だけだぁ〜〜〜!」 漢泣きしながらちょっと電波入ってる友人・獏良に縋り付く城之内。暑苦しい男だった。 「ふふ、城之内くんったら…」 (ははは…また、いつもの毎日が戻ってきたってカンジだな) 遊戯、そして闇遊戯は、そんな光景を微笑ましく見つめるのだった。 海馬はというと、学校なんぞ目もくれず、本業である海馬コーポレーション社長として仕事に精を出していた。 海馬とて(信じられないかもしれないが)生身の人間である以上、休憩くらいする。 その時間を利用して、彼はとある本を読んでいた。 「あれ?兄サマ、何を読んでるのさ」 「モクバか…何、少々興味深い本だからな」 海馬にとって唯一の肉親であり、ただ一人心を許す存在である海馬モクバ。海馬は彼に、手にした本を見せる。 「<カイバセイア>…?聞いた事ないなー」 「まあ、少し読んでみろ」
受け取ったモクバは、最初こそいまいちピンと来ない様子で本を捲っていたが、次第にその瞳が輝きを増し、文字を 追うスピードが上がる。 「うっわー…これ、すっげー面白い!なんかこの<白龍皇帝>ってヤツ、ちょっと兄サマに似ててかっこいいしさ! 名前まで<カイバ>だし!」 「フン。そうか」 どことなく嬉しそうに海馬は笑い、部屋の一角に目を向ける。 そこには、例の白龍マスクが誇らしげに飾られていた。 (海馬ランドの次のアトラクションは決まりだな…) <正義の味方・カイバーマン>を主役としたヒーローショーは、チビっ子の間で絶大な人気を博したそうな。 ―――さて。 ここから先は、神話を生きた者達のそれからの人生――― 奴隷部隊―――彼等が巻き起こした戦乱から、早くも数年の月日が流れていた。 「今思えば、まるで夢のような出来事だったな…」 かつて<紫眼の狼>そして<白龍皇帝>の副官を務めたシリウスは、懐かしむように目を細めた。 「そうだな…けれど」 彼と立場を同じくするオルフは、力強く言った。 「あれは、素晴らしい夢だった。それを見せてくれただけで、私は閣下と皇帝様に感謝している」 「そうか…」 シリウスも、にやりと笑う。 「私もだ。そして…こいつらもな」 後ろを振り向くと、そこには随分と数を減らしてしまったが、奴隷部隊の仲間達がいた。 「―――さて!もうすぐ鉄器の国に着く。そこで我らの新天地を探すのだ!」 おおー!と元気のいい声が返ってくる。
苦しい旅を続けてきた彼らだが、誰一人として弱音など吐いたりしなかった。 奴隷部隊から離れていった者、死んでいった者も多いが、彼らとて、最後まで己の意志で、そのように生きた。 彼らの闘いは、世界に変革をもたらすことはできなかったが―――奴隷達に、前を向いて歩くことを教えた。 もう誰も、いじけた瞳をしていない。澱んでいた彼らの心には、確かに風が吹いたのだ。 ―――その後の奴隷部隊については、詳細は不明である。無事に新天地に辿り着けたのかもしれないし、或いは荒野 で彷徨った果てに野垂れ死んだのかもしれない。 だが、少なくとも―――彼らは人として生きた。人としての自由を求めて闘い、人としての命を紡いだ。 それは誰にも穢されざる、彼らの生きた証――― アルカディアでは、国王レオンティウスの結婚式が盛大に行われていた。 相手は、というと。 「おお…何という美しい花嫁か…」 「まるで、女神の様だ…」 「あんな綺麗な人、ほんとにいるもんなんだな…」 「素敵ね…憧れちゃう」 そんな民衆に対して、花嫁は見た目華やかな笑みを浮かべて手を振りつつ、小声でレオンティウスに囁く。 「ははははは、見ろレオンティウス。皆の者が私の見てくれに騙されておるぞ」 「…どうしてこうなった…」 レオンティウスはこめかみをピクピクさせながら、呻くように呟く。 この花嫁、言うまでもなくアレクサンドラである。 「確かに。どういう経緯を辿ってこうなったのだろうな。私にはさっぱり分からん」 「威張って言うな、脳筋女め」 「まあアレだ。私達に関してはいいオチがつかんから、とりあえず結婚させてみましたという思惑が垣間見える」 「身も蓋もないな…」 嘆息するレオンティウスであった。
「ところでレオンティウス。お前の妹…ミーシャとかいったか。確か、あの色男と結婚したんだったな」 「ああ。いざ挙式という段になって、エレフが<やはり納得いかん!>と言い出してな。あの時は大変だった」 レオンティウスがその時の事を思い出して、苦笑する。 「全く、あんなに可愛い義弟が出来るというのに、エレフは何が不満なんだ!」 ―――彼のアノ趣味は、今なお現役バリバリである。 「…それはともかく、今では子供も生まれて平穏無事に暮らしておるそうではないか。よかったよかった」 「ああ。私もほっとしているよ」 「やはり可愛い妹の事か…ふふ。お前も立派にシスコンよなあ」 そんな事をのたまいつつ、アレクサンドラは思い出したように言う。 「そういえば、生まれた娘はお前が名付け親になったんだったな」 「そうだとも」 レオンティウスは、笑って胸を張った。 「我が母上のように立派な女性になるようにと、願いを込めてな」 「ふん、マザコンめ」 憎まれ口を叩きながらも、アレクサンドラは屈託なく笑っていた。 ―――その後、レオンティウスは勇猛果敢な王として雷名を轟かせ、アレクサンドラは夫と並び戦場を駆ける戦乙女 として、皆から尊敬される王妃になったという。 何だかんだで、二人は仲良くやっているようだった。 ―――アルカディア領のとある街。 広場では、二人の吟遊詩人が軽やかに竪琴を奏で、高らかに歌っている。 まだ年若い兄妹と思しき二人だったが、その技量は一流の詩人と比べても決して遜色はない。 観客は皆、彼等の詠う物語に聴き入っていた。 その内容は主に<白龍皇帝>と呼ばれる英傑を詠ったものだった。 彼の歩んだ軌跡、成し遂げた偉業。その破綻しているとしか思えない、それでいてどこか魅力的な人格に至るまで、 事細かに彼等は語り、詠う。
やがて物語は終わりを告げ、観客達はいくらかのおひねりを詩人の兄妹に手渡して去っていく。 二人が荷物をまとめ、立ち去ろうとすると、服の裾を小さな手が引っ張っていた。 「ねえ、おにいちゃん、おねえちゃん。それから、オオカミさんとこーてー様はどうなったの?」 それは、幼い少女だった。ふわふわした金色の髪に、神秘的な色合いの紫眼。まるで天使のように愛らしい少女。 彼女は笑顔で問いかける。 「二人が、おともだちといっしょにわるい神様をやっつけたんだよね。ねっ?」 詩人の兄妹は、苦笑しながら答えた。 「さあ、どうなったのかな…もう昔の話だから」 「そうね。もう誰も忘れちゃったの」 「ええ〜。そんなのずるいよぉ」 「はは…さあ、もうお帰り。父さんと母さんが待っているだろう?」 「はーい…」 渋々といった様子で、少女は去っていく。残された詩人の兄妹は、顔を見合せて笑う。 「ソロル…本当はね、あの頃の事は今でもよく覚えてるよ」 「ええ。私もよ、お兄様」 そう。何もかも印象深く覚えている。思い出すまでもなく、ずっと想っている。 <紫眼の狼>と<白龍皇帝>の強さと、優しさを。 二人は、信じているのだ。 どこか遠い遠い空、白龍の翼は今なお力強く煌いているのだと――― ―――紫眼の少女が街中をぽてぽて歩いていると、前方にこちらに向けて手を振る男の姿があった。 「イサドラ。ここにいたのか、探したぞ」 「あ、おじさま!」 元気よく駆け寄り、その胸元に飛びつく。男は少女の金の髪をくしゃくしゃと撫でた。 銀髪に紫のメッシュ。少女と同じ紫眼。 けれどその面立ちは穏やかで、かつて<紫眼の狼>と呼ばれた険しさなど何処にもない。 ただ優しい笑顔で、姪に当たる少女を抱きしめていた。
「今日は皆で出かける約束だったろう?勝手に出歩いて、お父さんとお母さんが怒ってたぞ」 「ええ〜…おじさまは、イサドラの味方だよね?いっしょにごめんなさいしてくれるよね?」 「ああ、味方だ」 「わーい!」 「しかし、味方だからこそ甘やかさない!」 「えーん!」 ころころ表情を変える姪っ子に苦笑しつつ、男―――エレフは、イサドラを肩車する。 「ほら、行くよ。二人はもう向こうで待ってる」 「うん!」 ―――二人が街外れの丘に辿り着く頃には、もう夕暮れ。西の空が赤く輝いていた。 「きれい…」 「イサドラは、夕焼けが好きかい?」 「うん、とってもすてき!」 「そうか」 エレフは、微笑む。 「それはよかったな」 「おじさまも、好きでしょ?」 「ああ…」 少しだけ言葉に詰まり、けれど答えた。 「夕焼けは、綺麗だから好きだ」 その時だった。 「おーい、エレフ!おせーぞ!」 「イサドラも何処をほっつき歩いてたの、もう!お母さんの鉄拳が火を噴くわよ!」 丘の麓で、二人が声を張り上げる。 オリオンとミーシャ―――笑えるくらいに、あの頃と変わっていない。 変った所といえば夫婦になって、子供…イサドラが生まれた事くらいだ。
「ごめんなさーい…」 「ったくもう。子供一人で出歩いてたら、危ねーだろ。心配かけさせんなよ」 叱りながらも、オリオンとミーシャは優しく笑っていた。 それはただ、ありふれた、ごく普通の家族の姿。 「じゃ、全員揃った所で、行くか」 「え、どこいくの?」 「そうか。イサドラは、ここに来るのは初めてだったな」 「うん」 「そうだったか…いいモノがあるからな、驚くなよ?」 不思議そうに首を傾げるイサドラに、オリオンはそう答える。 「ねえねえ、いいモノって何なの?おいしいもの?」 「がっつくな。食いモンじゃねーよ」 「着いてからのお楽しみよ」 いいモノと聞いて目を輝かせるイサドラを軽くかわしつつ、四人は丘を登っていく。 「ねー、おじさまー。まだかなー?」 「もうすぐだ…ほら。あれを見なさい」 「ん…?」 夕陽に照らされた、丘の頂上。 そこには、三体の石像があった。精巧に彫られたそれは、まるで今にも動き出しそうな程だ。 「わあー…すっごーい!」 「だろう?私が彫ったんだぞ、これは」 「おじさまが!?ふわー、すごいすごい!おじさま、てんさいー!」 「あんま褒めるな、イサドラ。このバカはすぐに調子に乗るからな…いてっ!」 軽口を叩くオリオンの脳天にチョップをお見舞いした。 「何すんだ、バカ!」 「うるさい、大バカめ!」 「ケンカはやめなさい、二大バカ!」 ミーシャのダブルパンチが二人の鳩尾に炸裂し、悶絶させる。そしてここに序列が決定。 ミーシャ>>>>>(越えられない壁)>>>>>野郎二人
それはともかく。 「このおにいちゃんたち、かっこいいね」 石像の精悍な姿に、イサドラはただ見惚れていた。それを見守りながら、オリオンは答える。 「そりゃそうさ。何しろ、神様さえぶっ飛ばした奴らだからな」 そして、エレフに目を向けた。 「しかし、今更だけどさ…お前、何だってこんなモン作ろうと思ったんだ?」 「大した理由じゃないさ」 エレフは、夕焼け空に向けて目を細める。 「ただ、何かの形で残しておきたかったんだ。あいつらの姿を…」 「そっか」 オリオンはミーシャと並んで、懐かしそうにその石像を見つめた。 それは、遊戯たち三人の姿をしていた―――それに向けて、三人は自分たちの想いを込める。 遠い遠い未来で、いつの日か、見つけてくれた時のために――― (…やっと、来てくれたね。待ってたんだよ) (また会えて嬉しいわ、遊戯。城之内。それに海馬も…) (よう、お前ら。ひっさしぶりだなあ。まさか俺たちのこと、忘れちゃったりしてねーよな?) <幻想音楽を奏でる吟遊詩人>が紡ぐ、無限にして夢幻の地平(セカイ)。 其の第六の地平線を統べる運命の女神<Moira(ミラ)>。その姿を見たものは未だ誰もいない――― ―――遊☆戯☆王 〜超古代決闘神話〜・完―――
投下完了。前回は
>>129 から。
ついに長かった<遊☆戯☆王 〜超古代決闘神話〜>も完結です。ここまで続けられたのも、
読んでくださる皆さんの励まし・応援があったからこそ。
結果的には、きっちりハッピーエンドで終える事ができてよかったなと思っています。
サンレッドはまだ書きますが、いつかネタが浮かんだら、長編もまたやってみたいかな…。
最後に、長い間ご愛読ありがとうございました!
>>141 本当に長い間の応援、ありがとうございました。自己満足で書いてるとはいえ、やはり自分のSSを
楽しんでくださっている人がいるのは嬉しいものです。全盛期のバキスレか…あの頃僕も若かった。
>>スターダストさん(復帰おめでとうございます!)
桜花メイド服ー!…しかし、最後の念仏番長で全部持ってかれましたw
金剛番長も登場するんでしょうか?あの漢なら武装錬金なしでも<気合だーーーっ!>でホムンクルスを
消滅させそうな気がしますね。
>>ふら〜りさん
大長編ドラのラストの達成感と一抹の寂しさ、確かにちょっと意識しました。エンディングはこういう形になった
けど、いかがでしたか?サンレッドはもう…強すぎw理不尽すら感じます。
>>150 この調子で、色んな人が帰ってきてくれたら嬉しいですね。
>>顕正さん
完結、お疲れ様です。最後はきっちりヴェルザーとも(まだまだ利害関係絡んだにすぎないとはいえ)和解したのが、この作品の
テーマ<共存>をしっかり踏襲してて素晴らしい。僕だったら殺しちゃうよ、彼!(ダメじゃん)イルミナも、最後はダイと馴れ合う
わけではないけど<絆>を結ぶ事はできた…爽やかなエンディングでした。次回作も待っています!
>>160 別れあれば出会いあり…諸行無常です。
>>162 フロシャイム、本当は強いんですけどね…いつかレッドさんが本気を出して闘うべき<真の巨悪>も
書いてみたい。
172 :
ふら〜り :2010/01/13(水) 20:40:53 ID:bfNDatiF0
>>顕正さん おつ華麗さまでしたっっ! 人と魔と竜、三つの勢力があるダイ世界らしい結末でしたね。戦いは 終わっても物語世界の未来はまだ続く、という余韻が非常に印象的です。イルミナといいヴェルザー といい、誇り・使命感をしっかりと持った上で悩み、そして自分の道を定めている姿が美しいです。 おそらくこの作品の根本テーマ……でも、ちゃんと「滅ぼされるべき敵」として、第三勢力がいた のが嬉しい。やはりバトルはバトルとして完全燃焼したいですしね。次回作、お待ちしてます! >>サマサさん 決戦前夜と並ぶ、「それぞれの顔」が楽しいエピローグ部分。まず海馬、結局のところ遊戯 より誰より伝説的存在として色濃く刻まれたような。次にアレク女史、まぁ気楽に気が合う 相手といえばそうかも。そして感服したのが奴隷たち。その枠を壊さず、でもこのEDに馴染む、 希望のある終わり方でしたね。過去作に劣らぬ強大なラスボス、悲しみも喜びも抱いた 神話世界の住人たち、そして海馬と仲間たち(←おい)。壮大且つ燃え萌えな作品でした!
サマサさんお疲れ様でした! ほのぼのとした日常の遊戯たちの後日談と 神話の後の物語のようなレオンティウスたちの 後日談の対比がいいですね。 バキスレ最後の?大作が終わってしまい寂しいですが また何か楽しませてくれると幸いです。
特にイルミナ、サイコーです。 セイうのモエはもちろん、本家のサリーヌをも凌駕してる名オリキャラです。 ありがとうございました。
175 :
永遠の扉 :2010/01/16(土) 08:46:13 ID:k6UivDR1P
店内には赤絨毯が敷き詰められ、小ぢんまりしたクリーム色の丸テーブルが等間隔で並べられている。数はざっと30と 行った所か。どのテーブルの周りにも颯爽たる様子のラタン椅子が置かれており、それは客数に応じて自由に移動できる ようだった。席の9割はすでに埋まり店内は人で溢れ、もうすっかり無統制にぐしゃぐしゃと崩れたラタン椅子の上では各人 が思い思いの歓談に興じている。椅子とテーブルのない場所を通路とすれば、その通路もなかなか大混雑していた。帰る 客やトイレに行く客、新しく入って来た客が複雑な人の波を形成し、トレーに山と盛られた注文の品を気忙しく運ぶメイドと 空になった器皿(きべい)類を早足で運ぶメイドが更に不愉快な流れを作っている。行き過ぎる彼女らは剛太の肩を何度も 何度も痛打した。避けようにもだらしない位置で歓談する客が邪魔で動けない。何度目かの「お客さんごめんなさい」をブスっ とした表情で聞き逃すと剛太はポケットに手を入れた猫背のまま、目指す席目がけ再び歩き出した。 (ったく。歩きづらいったらありゃしねえ。案内役もどっか行っちまったし) 頼みの桜花は上司(防人ではなくこの店の)へ連絡すべく店奥へスッ込んでいる。 「あ、でもどこに座ればいいか紙に書いて渡しておくから。剛太クンはそこで待っててね」 「またメモかよ。書くなら残党の件について書けよ」 そうして店内の端、指定された席──18番テーブル──へ到着したのがおよそ5分後。しかし振り返れば距離は短い。モー ターギア足に付ければ20秒で着けるってのと人混みのもたらした不能率を呪いながら、 「だいたいもっと席同士の間隔開けろっての。詰めすぎ。ちょっと客が座るだけで通れねェよこれじゃ」 とも愚痴りながらラタン椅子──背もたれが暗褐色の水牛の皮で編まれ、なかなか豪華な──を引き、座ろうとした剛太 は中腰のまま硬直した。隣のテーブルに見慣れた姿がある。期せずして固まったのはそのせいだ。 相手も剛太に気づいたらしい。「17番」と銘打たれたテーブルの前で彼は軽く目を見張ったようだった。 「もしやと思っていたが、先ほど姉さんと話していたのは君だったのか」 「…………オイ。お前入院中じゃなかったのか?」 至極真っ当な質問をすると、生真面目な表情が思案に変じた。 「外出許可は出ている。戦士長からも任務は帯びていないが……不都合があっただろうか?」 「別にねーけど」 本日何度目かの盛大な溜息をしつつ背もたれ以外真っ黒な椅子に腰掛けた。座り心地はよく歩行の疲れがみるみると 抜けていくようだった。しかし安息の時はまだ来ない。視線を感じ首を曲げると、隣の男が剛太の仕草をまじめ腐った表情 で観察している。応対したくはなかったが、放置していればそのうち椅子の上で正座しかねない雰囲気を感じたので、半眼 でつくづく嫌そうに反問する。 「…………なんだよ?」 「一つ聴きたい。君はこういう場所に馴染みがあるのか」 「ねーよ。任務でお前の姉貴に呼ばれただけ。でなきゃ来ねーっての」 丸テーブル上のメニュー表に頬杖を突きながらだらしなく手を振ると、男──早坂秋水──は「そうか」とだけ呟いた。 それきりしばし会話は途切れた。店内は相変わらず忙しいらしく嬌声と媚の入り混じった喧騒がそこかしこから舞い上が る。にも関わらず剛太と秋水のところだけメイドさんが来ないのは、やはり忙しいせいだろうか。 そのまま男二人、手持無沙汰で沈黙を続けたが……5分をすぎた辺りで剛太が愕然たる面持ちで立ち上がった。 「つか何でお前が居るんだよ!!!!!」 大音声で指差すが秋水の反応は鈍い。 「だから、病院から外出許可が下り、戦士長からも特に任務が下りなかったためだが」 「その結果がどうしてメイドカフェに直結してんだよ! おかしいだろ! お前の性格なら剣道場にでも行って見学なり指導 なりする方があってるだろ!! ああ!?」 火を噴くような勢いで詰め寄る垂れ目を「またか」という目で見たのは他の客とメイドたち。 「複雑な事情がある」 秋水は軽く沈黙し、軽く視線を泳がした。どうやら彼自身の才覚や器では説明しにくい事態が降りかかっているらしい。 「あーハイハイ。よーするに誰かから呼びつけられたとかそーいう訳? で、来たくはなかったけどそのクソお真面目な性格 が災いして断り切れなかったとかそんなカンジ?」 美青年が頷くのを見届けると、剛太は「だあもう」とオーバーすぎる仕草で顔を覆った。 「百歩譲ってメイドカフェ来るのはいいとしてもだ」 「しても?
176 :
永遠の扉 :2010/01/16(土) 08:49:19 ID:k6UivDR1P
「せめて学生服はやめろよ」 「変だろうか」 漆黒で無個性な衣装を腕上げ身丸め眺めまわす秋水はどうも抜けている。そもアニメ版では胴着姿で病院に行き斗貴子 を見舞った男である。ややもすると学生服と胴着以外の衣装を持っていないのかも知れない。 「で。聞くまでもねーと思うけど、お前をここに呼び出した相手ってのは」 「ごめーん秋水先輩! 洗い物が多くて!!」 甘く幼く朗らかな声と共に足音が近づいてきた。振り返ればコケティッシュな雰囲気のメイドがいた。胸の高さで大事そう に抱えるピンクの丸トレイには渋茶の入ったグラスや明太スパゲッティ。それらを運んできたメイドのいでたちは桜花とほぼ 一緒だったが、腰のあたりにヒラヒラした長いリボンを付けているところがやや違う。スカート丈もやや短く、黒いストッキング に覆われた膝小僧が可憐な様子で覗いていた。桜花が有能なメイド長だとすれば、こちらは元気いっぱいの新人メイドで あろう。 (武藤まひろ。あの激甘アタマの妹までいるのかよ!!) おののく彼の前にお冷が置かれた。見ればまひろが置いたらしい。彼女は胸の前で平手を立てて申し訳なさそうに 「桜花先輩もうちょっとで来るから待っててね」 とだけ伝えて隣のテーブルへ行った。 「コレ、初めて着たんだけど……似合うかな?」 秋水の反応を期待しているらしい。上目遣い気味のまひろの頬はやや赤い。 聞かれた秋水の方はやや驚いたらしい。頬をかくと少し視線を彷徨わせ、30秒後に空咳一つ打ってからようやく 「似合うと思う」 とだけ呟いた。 (うわぁ。コイツそっけねえ) もし斗貴子がメイド服を着たらあらゆる弁舌を尽くして誉め讃えようと胸中密かに誓っている剛太である。秋水の反応は ──彼が最近まひろといい感じなのを防人たちから風のウワサ程度に聞いている剛太にとっては──そっけないものに 思えた。もっとも剛太自身桜花のメイド姿にはそっけなかったが。 一方、まひろは秋水のそっけない反応がとても嬉しかったらしく、「ありがとう」とはにかんだ笑みを浮かべた。もう本当心 底喜んでるけど同時になんだか照れくさくて仕方ない、そんな調子である。 「じゃ、じゃあ頑張るね。何を隠そう、私はご奉仕の達人よ!」 「あ、ああ。頼む」 (何をどう頼むってんだよ。渋茶でも飲ませて貰うのか) 何だか急に毒づきたくなってきた剛太である。だがそんなコトをしても不毛なだけなのでやめた。もっとも、負け惜しみの ように(はいはいバカップルバカップル)と彼らを評しもしたが。 そんな彼の待ち人は一向に来る気配はない。剛太は隣の席から響く他愛も中身もないストロベリートークを鬱陶しそうに 聞き流した。ハンバーガーを買う為にまひろがここでバイトしているとかそういった情報はまったくもってどうでも良かった。 剛太はたださっさとこの街にいるかも知れない残党の情報を桜花から掴んで斗貴子と2人きりの殲滅線をやりたいだけな のである。 (……にしても顔見知り多すぎだろこの店。まさかあの人までいねェだろうな) 楯山千歳。かつて女学院でセーラー服を着た26歳。趣味はコスプレ(本人は否定)。すでに銀成市を離れている彼女だ が武装錬金の特性が「瞬間移動」なのを考えると決して安心できない。 剛太は怖々と周囲を見渡した。果たして見慣れた跳ねつきショートの無表情美人はどこにもいない。良かった。安堵とと ともにお冷を口に含んだ剛太の耳をホヤホヤとしたネコ撫で声が叩いた。 「そーなんだぁ。日本の文化って難しいね」 声の発生源を見る。長い金髪を筒状の装飾具(ヘアバンチ)で小分けにした少女が顧客へニコニコとほほ笑んでいた。 「ぶふーっ!!!!!」 お冷が噴出するのをどうして止められよう。ヴィクトリア=パワード。ホムンクルスである筈の少女がしれっと紛れ込んで いるではないか。むろんメイド姿だ。丈の短いスカートに黒いハイソックスを履き、どこまでもどこまでも平坦で隆起のない シャープな胸部に可愛らしいブローチさえ付けていた。 「大丈夫か?」 困惑顔の秋水をよそに剛太はむせまくり、ようやく沈静するや喰いかかるように質問した。 「この店こそ大丈夫かよ! あいつホムンクルスだぞ! 接客させていいのか!?」 「うーんまあ、びっきーも一度はオーナーの誘いを断ったんだけど、ほらでも生活費のコトとかあるでしょ? だから桜花先 輩の紹介で今日から働くコトに」
177 :
永遠の扉 :2010/01/16(土) 08:52:56 ID:k6UivDR1P
剛太の聞きたいコトはそういう経緯ではない。安全面での保証だ。 (くそう。ズレてる。流石アイツの妹) まひろの解説を聞きつつ剛太は決意した。これで千歳まで出てきたら逃げよう。多角的な意味で『見るに堪えない』。 「ところで秋水先輩、この人とお知り合い? さっき何かお話してたみたいだけど……」 小首を傾げながら囁くまひろの視線に剛太の古傷がちょっと疼いたのは、彼女の兄を思い出したからだ。彼女の兄は斗 貴子とそれはもう(剛太にとって)痛烈極まる恋愛劇を演じていた。 剣客の機微では剛太の心情まで汲めなかったらしい。秋水はただひたすら真剣に囁いた。 「仲間だ」 (仲間、ねェ」 約1週間前の夜の出来事が去来する。 「俺が栴檀貴信や栴檀香美に勝てたのは、君の助言があったからだ。感謝する」 9月3日。夜。一連の戦いが終わった直後。剛太の前で深々と頭を下げる秋水が居た。 (ったく。堅苦しいったらありゃしねェ) なまじっか頭のいい剛太にとって型にはまった”だけ”の礼はどうもよろしくない。世界に対して未熟で真面目以外の繕い 方を知らぬ秋水が、結果として紋切りの中で精一杯の謝辞を述べているとしても、剛太的にはあまり嬉しくない。 ので、とりあえず 「俺に感謝すんなら斗貴子先輩助けてやりな」 とだけいった。秋水は頷いた。 (だいたい仲間とか戦友とかはなあ) 黙然と突き出す下唇には果てなき懊悩が滲んでいた。柄じゃない。シニカルで現実的だから声高に叫ぶのは嘘臭くて好み ではない。にも関わらず対人感情は最近微妙な変化を遂げてもいる。鐶戦終盤で桜花を叱咤し手を引かせた原動力は何 だったのか。「化け物の類友」程度に見ていた元・信奉者とつかず離れずの距離を保っているのはどうしてか。なんだかん だで桜花や秋水を拒絶していないのは何故なのか……。仲間という言葉に好奇心丸出しの質問攻めをしてくるまひろを適 当にあしらいながら、剛太は悩んだ。が、結果は出そうにない。 (あー面倒臭ぇ) 豊かな髪をボルリボルリと二掻きすると、剛太は話題を変えた。訳の分らぬ葛藤をもたらした元・信奉者にちょっとした意趣返 しをしたくなったのである。 「ところでさ、お前の姉貴から聞いたんだけど」 「?」 「お前、武藤の妹をあだ名で呼ぶかどうか詰め寄られてるんだって?」 軽く息をつめる秋水の表情はこう語っていた。「なぜ姉さんが知っている」と。 剛太はその驚きを別な方面に解釈し、軽い調子で平手をぱたつかせた。 「あー、大丈夫大丈夫。無理に呼ばせたりはしねェって」 「そうだよ! 秋水先輩が「まっぴー」なんて呼ぶの似合わないよ!」 うむと眉をいからせるまひろを流し眼で見ながら「まっぴー、ね」と剛太は含みのある笑いを浮かべた。 「ところでお前、こういう遊び知ってるか?」 「遊び、とは?」 呼びかけられた秋水はしげしげと剛太を見返した。 「まず『法被(はっぴ)』って10回言ってみ?」 彼は不承不承従った。法被法被法被……粛然とした経文のような連呼を満足そうに聞き遂げた剛太は不意にまひろを 指差した。 「じゃあコレは?」 「まっぴー」 その4文字を発した秋水の表情が凍りついた。全く以て取り返しのつかないコトをしてしまった。終わりだ。破滅だ。氷河 期を終えた表情は汗みずく。もはや「ひたすら情けない」としか形容できぬ表情になった。 「待ってくれ。落ち着いて聞いてくれ。今のは事故だ。事故なんだ」 「かかってやんの。正解は武藤まひろな」 瞑目した剛太の頬には「してやったり」という笑みがありありと刻まれ 「思ったよりカッコイイ! きゃー!!」 悲願の叶ったまひろは満面の笑みで万歳した。そして人混みに飛び込んで河合沙織を引っ張り出し今の出来事を報告 するや両手を組んでクルクル回り始めた。喜びを分かち合っているのだろう。 秋水の全身が戦慄いた。声はもう震えに震えている。 「君は何という事をしてくれたんだ」 広がって行く、今の事実が広がって行く……すすり泣くような囁きが端正な唇から漏れた。 「まぁまぁ。仲間ならこーいうスキンシップもアリだろ。大丈夫。他の奴には秘密にしといてやるって」 「だが……!!」 端正な顔がいっそう紅潮した。やり場のない絶望感をどう晴らせばいいか分からないという様子だ。
178 :
永遠の扉 :2010/01/16(土) 08:53:59 ID:k6UivDR1P
「あらあら。まるで小学生みたいなやり取り」 携帯電話をパチリと閉じたのは誰あろう早坂桜花である。いつの間にか彼女は男2人の背後にいた。ようく見ると桜花の 後ろには細い通路があって、その行き止まりに「従業員専用」と書かれたドアがある。つまりそこから来た。剛太は納得した。 「でも秋水クン。剛太クンもまひろちゃんもさっきの言葉録音してないでしょ? だったらあの場限りで終わるわよ」 「確かに」 「私は録音したけどね」 「姉さん!?」 「最近の携帯電話って本当便利。法被10回の辺りで見当ついて準備できたし」 限りなくなく広がる慈母の笑みに剛太はうすら寒い物を感じた。 「ね、秋水クン、さっきの聞く? 大丈夫。結構カッコ良かったわよ。ね。ね?」 濃紺と純白のツートンカラーが豊かな肢体ごと剛太と秋水の間に滑り込み、童女のような嬌声を上げ始めた。よっぽど さっきの発言が気に入ったのか……とは剛太の感想。彼は目下姉弟2人の世界の蚊帳の外、エプロンドレスの紐が交差 する背中を見るぐらいしかやるコトがない。とはいえそれもやがて弟君の悲痛なる歎願で終わりを告げたが。 「…………頼む。勘弁してくれ」 「ホラ。コイツもこう言ってるし、ファイル消去した方がいいんじゃないの?」 ちょっとしたからかいが思わぬ波紋を広げている。と、いたたまれなくなった剛太がとうとう秋水の擁護に回ると、果せる かな桜花は姿勢を正しくるりと反転した。今度は剛太と向き合う形である。 「あ、そうね。そうしましょう」 白魚のような指がまっぴー発言を収めた携帯電話を開いた。秋水の口から洩れた吐息は安堵のそれか。 「と見せかけてまひろちゃんに送信! えいっ!」 「悪魔かお前は!」 剛太の手が一閃、心底楽しそうな桜花の手から携帯電話をもぎ取った。次いで彼はアクション映画顔負けの機敏さで椅子 から飛びあがって人混みの空白地帯に着地。桜花との距離が十分空いたのを確認すると反撃を警戒しつつ画面を見た。 垂れ目に落胆の色がありありと広がった。遅かった。華やかな液晶に映るは”送信完了”。ああ、些細な悪戯でまろび出た 文言はいまや電子の波を超え、まひろの携帯電話に伝播したようだった。「こいつずっとコレでからかわれるんだろうな」と 秋水の身に降りかかるであろう災難を予期すると、途轍もない罪悪感に見舞われた。 「ふふっ、そう来ると思って予めメールに添付して送信準備してたの」 「性格悪いのに頭だきゃあいいのな!!」 怒りとともに投げられた携帯電話をキャッチした桜花、先ほどの音声ファイルを慣れた手つきで「秋水クンの面白フォルダ」 に移した。そしてコレクションの数々を照れ照れした笑顔で眺めた。 「悪ぃ。まさかこういうコトになるなんて」 「もういい。全ては俺の不注意だ。俺の……」 あらゆる苦しみを内包した溜息をついたきり秋水は黙り込んだ。俯いた加減で表情は分からないが全身から立ち上る黒雲 がごときオーラから察するに人生最大級の絶望感を味わっているらしい。彼の周囲だけ光が消えたようで薄緑したヒトダマ さえ幻視できそうだった。 (やりすぎちゃったかしら……?) 困ったように微笑する桜花はしかし、自分にとって都合の悪い事を黙殺するように話題を変えた。 「それはともかくお待たせしたわね剛太クン」 「”それ”で済ましていいコトかよ? なあ? 大事な弟なんだろこいつは」 一条の汗に彩られた笑顔が意見を黙殺した。 「残党の件だったわね」 「それより弟を何とかしろよ」 「残党の件だったわね」 「弟!」 「残 党 の 件 だ っ た わ ね !」 声の張り上げ合戦は桜花に軍配があがった。沈黙する剛太。こんな姉に使役される秋水が心底哀れに思えてきた。 それは桜花も同じだったらしい。しばし逡巡すると「どうしても嫌なら消してもいいわよ。ね、ごめんなさい。元気出して」と 弟の背中をさすった。そして顔を上げて(チラチラと秋水を心配そうに見ながら)、こういった。 「実をいうと今の店内に手掛かりはないわ」 「なっ……!!」
179 :
永遠の扉 :2010/01/16(土) 08:55:33 ID:k6UivDR1P
絶句する剛太の口にやわやかな人差し指が押し付けられた。静かに、といいたいのだろう。細い体が艶やかな黒髪を揺 らめかせながら剛太の懐に踊り込んだ。彼が「あっ」という頃にはすでに桜花は吐息がかかるほど近くで首を上げ、濡れそ ぼる瞳を向けている。ぷいと視線を外した先で乱れ前髪が白い額を露出させているのが見えた。剛太は心から悔やむ。た だそれだけの映像にひどい艶めかしさを感じたコトを。必死に斗貴子の顔の傷とかホムンクルスをブチ殺す直前に必ず覗 く犬歯を思い出して踏みとどまる。 あと隣の席ではまひろが秋水に「いい子いい子」して一生懸命慰めている。 「落ち付いて。今日はまだ来てないってコトよ。いつもなら夕方近くに来るのだけど……」 剛太の鎮静を認めると、桜花はそっと掌を外した。 「で、どういう奴なんだよそれは? 1人? それとも複数?」 「複数ね。私が確認した限りじゃいつも2人1組。ただ」 「ただ?」 「実をいうと、ホムンクルスかどうかは分からないの」 垂れた瞳の奥で直観の光が瞬いた。それから隣の席では「私もこの音声ファイル消すから元気出して!」というまひろの 決意を皮切りに「いや君がそうする事は」「でも」「しかし」などと痴話喧嘩じみたやり取りが起こっていたが本筋にはあまり関 係ない。 「だろうな。わざわざこんなトコ来るんだ。動植物型でも人型でも人間形態とるよな。じゃあ章印の有無確認した方がよくね?」 「どうやって?」 「色仕掛け。人型でも脱がしゃ胸の章印見えるだろ」 無表情の桜花が剛太の脳天にチョップを見舞った。ぽこりという音がした。 「ここはそういうお店じゃないわ」 「冗談はともかく人間の姿してるのは厄介だな」 いいえ、と桜花はかぶりを振った。隣の席で会話は続く。詳細は知らん。 「逆よ」 「は?」 「人間とはかけ離れた姿なの。だけどホムンクルスかどうかはどうしても分からなくて」 「ちょっと待てよ。人間やめてる姿なんだろ? じゃあホムンクルスで決まりじゃねーのかよ」 「いいえ。どう見ても人間じゃないけど、ホムンクルスとも断定できない姿なの。さっき私がいった『フクザツさ』はそこよ」 まず剛太に話を持ち掛けたのも『フクザツさ』のせいらしい。隣の席では剣客が復活した。 「えーと。話を総合すると、この店にゃ毎日ホムンクルスっぽいのが2体来るんだな? でもホムンクルスかどーかはあん たにゃ区別つかないと。だからまず先輩じゃなくて俺を呼んだ、と?」 「そうよ。だって津村さんじゃ有無を言わさず虐殺しにかかるでしょ。それでもし信奉者でさえない人だったら取り返しつか ないもの。だからまず剛太クンに検分して貰った方が安全よ。今のところあの人たちが危害を加える様子はないし」 剛太が憮然としたのは彼自身の名誉のためではない。 「あんた先輩を何だと思ってる訳? 確かに一回スイッチ入ったら血塗られた獣で、俺さえちょっとヒくけど、落ち着いてる 時はかなりクレバーでクールなんだぞ。尋問ぐらいちゃんとするって」 「念には念よ。津村さんはちょっとした刺激で暴走するもの」 「……否定はできないけど」 冗談とも皮肉ともつかない表情の桜花に応じた瞬間、それは来た。 「イヨッ! みんな元気でやってるかお!」 店に入って来た男は……ひどく背が低かった。おそらく150cmもないだろう。そのくせブヨブヨと肥り、手足も驚くほど短い。 とここまで書けばただ背の低い男性にすぎないが、実のところ風体は異様を極めていた。まず顔面というのがデカい。肉ま んのような形をしたそれは幅も高さも彼自身の上半身ぐらいの大きさがあった。おかげで彼はすっかり三頭身だった。何か の漫画かイラストからひょいと抜け出て来たような戯画臭がパねぇだった。衣服らしい衣服も来ていない。全身は顔面と同じ 白色だった。剛太は唖然としながらも頭の中の歯車を総動員してその理由を求めた。タイツだ。きっと全身タイツを着ている に違いない。「じゃあナゼ全身タイツ?」という次なる疑問は突き詰めると頭が痛くなりそうなので却下しつつ剛太はすがる ような思いで男の全身を眺めた。違う。タイツじゃない。男の体は白い肉の瑞々しさを遠目で視認できるほどたっぷり放って いる。つまり彼は全裸またはそれに準ずるいでたちだった。よくも闊歩を許したなと剛太は銀成警察を呪った。
規制かな?
181 :
永遠の扉 :2010/01/16(土) 09:36:42 ID:k6UivDR1P
そのくせメイドたちは彼に対して好意的らしく、手が開いている者は我先にと殺到し、顧客を相手どってる者は軽く手をあ げ笑顔で応対。しかし部外者の剛太に言わせれば、そうするに値する容貌では絶対になかった。美形でもなければ可愛く もない。冷徹にいえば醜怪以外の何者でもなかった。 (そもそも人類のツラじゃねェ) ひたすらに丸く黒々とした大きな瞳。”3”を横倒したようなネコのような口、テキトーにマジックで書きました……といわれ ても違和感のないほど申し訳程度の眉毛。巨大な顔面の中央部により集まったそれらが、い汚い笑みをメイドどもに振り まいているのはまったく異常であった。にも関わらず白く禿げ上がった水頭症患者のような頭をメイドたちがきゃあきゃあ言 いながら触りまくっているのも剛太にとって異常であった。 「アレはまさか……」 「だよな。アレって」 隣に座っていた秋水がハッとしたのを幸い、剛太は全速力で話しかけた。さほど親しくない男にそうせざるを得なかったの は、度重なる精神疲労を誰かと分かち合いたくなったからであろう。果たして秋水は生真面目に頷いた。剛太は初めてこの 男に友情らしき物を感じた。それは共感してくれたという喜びであった。忌み嫌っていたマジメさもここぞという局面では頼 りになるという信頼であった。剛太の目に宿る光を一瞥した秋水は今一度、しかしより粛然さと確信に満ちた様子で頷き返 し、重々しく囁いた。 「あれは姉さんの武装錬金、エンゼル御前!」 「違ェ!!」 剛太の叫びを受けた秋水は、心底意外そうに「違うのか?」と呟いた。そして滔々と武装錬金の変化について説いた。創 造者の内面の変化は武装錬金の外観にも変化を及ぼすではないか、現にカズキやヴィクターはそうだった。以前戦った チワワ型ホムンクルスだって人型への変形を獲得するや龕灯を発動した……などなど。 「だからってあんなデカくなるかよ! 元はいくらだ! 数十センチ!」 「だがバスターバロンという前例もある。エンゼル御前がああいう進化を遂げたとしても不思議では──…」 「ねーよ!! 確かに体型とか不細工な所は似てるけど! 似てるけど!!」 「不細工で悪かったわね。それから秋水クン、後でちょっとお話しましょうか?」 「あ、ああ……」 むっとする桜花に秋水は果てしなくたじろいだようだった。 「つーか!! アレってホムンクルスだよな!! な! なあ!!」 「さっきも言ったでしょ? 私にも分からないの」 弟に絶対零度の微笑を送っていた桜花が、はたりと悩ましげに眉を顰めた。 「ホムンクルスなら章印ある筈なんだけど、見当たらなくて……」 「しかし云われてみればあの姿。人間とはあまりにもかけ離れすぎている」 「云われなくても見て気付け」 「それとも私の武装錬金に似ているから分からなかったのかしら」 棘のある艶声に秋水はまたも気圧されたようだった。この男、女性にはとんと弱いらしい。 「とりあえずフルーツ持って来たよー。バナナでしょ、リンゴでしょ、それからそれからマンドラゴラ!」 明るいまひろの声だけがこの場の救いである。秋水は無言でマンドラゴラをくびり殺した。破滅的な絶叫が響いた。 「まあ、他のみたくいかにもメカって感じでもねーしなあ」 人間型や動植物型の人間形態は概ね普通の人間と遜色ない。例えばヘビ型にされた英語教師が以前と変わりない学 校生活を送った実例もある。ホムンクルスでありながら普通の学生生活を送っているヴィクトリアも好例だろう。一方、動植 物型の「原型」……前述の英語教師でいえば「ヘビの形態」はモチーフをひどく無機的にした姿をしている。平たく言えばそ れこそ剛太の言う通り、メカメカしているのだ。 が、いま入店してきた男は人間の姿をしてないくせにホムンクルスの最大の特徴たる「メカメカしさ」も持っていない。 「…………だったらアレ、何だよ?」 「それが分かれば苦労しないわよ」 「で、アレに関する情報は?」 「名前は入速出やる夫さん。今年で48歳よ」 「48歳でメイドカフェ来るなよ……」 「職業はバイクメーカーの社長さん。ついこの間まで経営危機で大変だったとか」 「……確か日本のバイクメーカーって4つしかなかったよな。な。な。じゃあアレって有名企業の社長か?」 桜花は軽く汗をかいたようだった。 「ふ、ふふふ? 私は「日本の」とは一言も言ってないわよ?」 「でも名字からするとあいつ国籍上は日本人だよな? だったら」
182 :
永遠の扉 :2010/01/16(土) 09:38:33 ID:k6UivDR1P
質問は果てしのない笑みでサラリと流された。 「剛太クン、バナナ食べる? ちょうどまひろちゃんが持ってきてくれたのがテーブルにあるけど」 「いや聞けよ。あれはスズキの社長か?」 「バナナにはね、栄養と食物繊維がタップリ入っているのよ」 「それともカワサキ? ヤマハ?」 「バナナ食べる? 食べない?」 「あ、わかった。 ホン──…」 「…………」 剛太が言葉半ばで黙り込んだのは、桜花が青筋付きの笑顔で「ゴゴゴゴ」と凄んできたからだ。退いた方が良い、こうなっ た姉さんが一番怖い……秋水が袖を引いてきたので、剛太は黙った。すると閉じた口にバナナが直撃し、潰れ、生々しい乳 白色の塊がこびりついた。それを認めた剛太が憤激したのは、少し前任務で歩いていた森で期せずして「ぷちゅ」と踏みつ ぶしてしまった何かの幼虫を思い出したからである。破壊された腹部からねっとりと溢れた内容物は下ろしたての靴を汚し 剛太を暗澹たる気分にさせた。口にこびりつくバナナがそれを思い出させた。白くヌメっとした「栄養と食物繊維」のなれの 果ては気色悪かった。トリガーだった。気色悪さは正にマキシマムドライブのトリガーだった。剛太は吼えた。 「……何やってんだよ!!!」 怒鳴られた桜花は珍しく動揺したらしい。軽く焦点がブレた目でおろおろとバナナと剛太を見比べた。 「だ、だって。あーんしてくれなかったんだもん……。秋水クンなら黙ってあーんしてくれたし……そのっ、男の人ならみんな 何も言わなくてもあーんしてくれるって思ってて……! だから、えぇと、その!」 いやにたどたどしい口調。剛太は芝居を疑ったが、ほんのり朱に染まる頬はどうやら本気の本気で羞恥を感じているら しい。一方、まひろは桜花の思わぬ告白に驚いたらしい。 「え! そうなの秋水先輩。桜花先輩にあーんして貰ってたの!?」 「小さい頃の話だ」 頬に一滴の汗を垂らす秋水に、疑惑的な剛太は「お前もしかして最近までやって貰ってたんじゃねーの?」と思ったが 先ほどのまっぴー発言で与えた被害を鑑み黙る事とした。 「いいなあ。私もあーんしたいなあ」 「やるなら兄にやってくれ。頼むから」 「とととととりあえずバナナ片付けるわね!」 いろいろな事に目を白黒とさせる桜花がスゴい事をやらかしたのはこの時だ。彼女は剛太の唇でヌメ付くバナナの欠片 を指でかっさらうと、食べた。そして自らの手の先で破損しているバナナを咥え込みきゅらきゅらと吸い込んだ。 「…………」 「…………」 男2人の表情が微妙な曇り方を見せた。剛太は物言いたげに赤面し、秋水はひたすらに難しい顔をしている。 「!!!!!!!!!!」 彼らの思惑を察したか。桜花の美しい顔が蒸気をぼわりと立てて真赤になった。 「……ケ、ケータイでいまの様子をとってないわよね?」 「いいえ」とばかりに男2人の首がシンクロした。しかし桜花はうなだれた。本日の双子は痴態に落ち込む運命にあるらしい。 「違うのよ……そういうつもりじゃ……バナナ片づけなきゃって慌てちゃったから……慌てちゃったから…………」 「わー。桜花先輩すごい食欲」 何も知らぬ無邪気なまひろだけはそういう感動の仕方をした。 一方、店内。 やる夫と呼ばれた男に沙織がマイクを渡した。どうやら歌うようにせがんでいるらしい。カラオケ付きとはまた豪奢なメイ ドカフェだが、しかし客が歌う是非はどうなのか? ただしやる夫は快諾し、「じゃあアレやるお!」とドラゴンボールZの主 題歌2つを立て続けに歌い出した。
規制かな? 遊戯王が終わったら永遠の扉が帰ってくる やっぱりしぶといなバキスレ
184 :
永遠の扉 :2010/01/16(土) 09:39:31 ID:k6UivDR1P
……。 …………。 ………………。 ……………………。 やがてメイドカフェは感動の渦に包まれた。メイドも客も等しく熱狂し、落ち込んでいた桜花さえガバっと面を上げ、何か 叫びたそうにウズウズし、まひろに至っては1曲目の中盤から「ちゃーらー! へっちゃらー!」と同調していた。腿の上で 握りしめた拳から興奮性の汗を滴らせたのは秋水で、剛太はただただ「すげえ」と目を見開いた。 歌は終わらない。そのテのライブじゃ引っ張りダコな曲、それもとびきり難しい曲ばかりを歌い切った。もはやメイドカフェ内 において客とメイドの区別は消え、「やる夫とそれ以外」に二極化した。やる夫以外は時に沸き、時に静まり、泣いたり笑った りして歌に聞き惚れた。一団の中で最も冷めているであろうヴィクトリアさえ「へぇ。やるじゃない」と感心した。 「あいつのノドすごすぎね?」 「でしょう。むかし芸者さん遊びした時に鍛えたらしいわよ」 「それだけじゃないさ。アイツは不思議な奴でな。最初は本っっっっっっっっ当に駄目で死んだ方が良い人間のクズなんだが、 ひとたび試練が降りかかったら必ず乗り越える。最初師匠役だった俺さえ楽々と超えてしまうだろ主人公的に考えて……」 「!! またなんか来た!」 やる夫を更に長細くした感じの生物がいつの間にか傍にいる。剛太は目を剥いた。こっちは背広を着ているが、容貌が 異常なのに変わりはない。 「あら。藤……じゃなかった専務さん。入速出社長さんの相方のやらない夫専務さん」 「見てな。アイツの真骨頂はここからさ。アイツは歌だけじゃなく芸も上手い」 なるほどやる夫と呼ばれた男は腹踊りとかリンボーダンスとかを心底楽しそうにやっている。 「……つーか、自分で芸するぐらいならメイドカフェ来る意味なくね?」 剛太の呟きにまひろも「だよね」と頷いた。 「分かってないな。お前ら」 シガーチョコ片手にやらない夫専務は呆れたように呟いた。 「あいつは自分だけが楽しむのが嫌なんだよ。周りの人間を楽しませて、力を引き出させて盛り上げる方が本当に好きな んだよ。……ほら。メイドたちの顔見ろよ。すごく楽しそうだろ?」 「確かに」 やる夫を接客している少女たちのみならず、遠くで他の客に応対している少女たちも活気を帯びているようだった。 「ああやって誰かに楽しませて貰った連中は強いのさ。誰かから「本当の喜び」を貰った奴ってのはそれを誰かにも与えた いと思う。だから頑張れる。何があろうと中途半端なモノだきゃ渡したくないって踏ん張って、困難に挑めるのさ。やる夫は それを知ってるし、相手がそういう連中だって信じている。だから自分が率先してみんなを楽しませるのさ」 「つまりメイドへの敬意、という訳か」 「そんな所だ。昔は芸者相手にやってた事をいまはメイドにやってるだけさ」 得心がいった。そんな秋水に専務は深く頷いた。 「ま、お前たちのような若い連中にゃ分からないだろうけど」 「ううん。そういうコトだったら分かるよ」 まひろが首を振ると、秋水も粛然と首肯した。桜花も透き通った笑みを浮かべた。 (……ケッ。どいつもこいつも) 剛太は苦笑した。 きっと誰もが同じ少年の姿を描いているのだろう。それが分かるだけに何とも面映ゆい。 (けど、こいつらに激甘アタマ連想させるような奴が本当にホムンクルスなのか?) いかにも人外といったやる夫を見る目は難しい。 「ところで専務、どうして私たちのところに?」 桜花の問いに専務は頭痛を抱えているような表情を浮かべた。 「オーナーと店長に挨拶しようと思ったが、どっちもいないとかありえないだろ常識的に考えて。とりあえず他のメイドに話聞 いたら、あんたが一番話分かるっていうからやってきた」 「あら。それはすいません」 優雅な仕草で口に手を当てると、桜花は生徒会長らしくキビキビと答え始めた。一方、副会長は木偶の坊のようにボーっ と座り込んでいた。なにかやれ、秋水。 「何度も電話してるんだけど店長はいま捕まらなくて。オーナーならあと1時間ほどで帰ってくる予定ですけど。……あ、もし お急ぎでしたら連絡しましょうか? 規則で携帯電話の番号は教えられませんし……」 「いや、いい。挨拶だけだ。帰ってくるならそれでいい」 「ちょっと待ったあ!! 店長ならすでに帰ってるかしら!!」 彼らの背後でドアが──先ほど桜花がくぐったであろう──従業員専用出入口が勢いよく開いて壁をぶっ叩いた。 「あら金糸雀店長。どこへお出かけで?」
185 :
永遠の扉 :2010/01/16(土) 09:41:12 ID:k6UivDR1P
小柄な影が全力で桜花に突進してきた。専務と軽く挨拶するとマシンガンのように言葉を発し始めた。 「セコムと契約した後ちょっくら秋葉行って声優のCDの限定盤買い占めてきたかしら!!」 店長と呼ばれたのはどっからどー見ても少女であった。軽く七三に分けた前髪とバネのような縦巻きロールが愛らしい少女 であった。橙のワンピースと黄色の燕尾服を着て、室内だというのに日傘を差している。 (やっぱコイツもヘン!) 剛太が嘆いた原因の2割は室内日傘だが、残り8割は少女の身長のせいである。ただ低いというか縮尺が根本的に違う。 まるで人形のようだと彼は思ったが実はそうである。 「あら? 店長が声優さん好きとは意外ですね」 桜花が微笑すると、店長は「違うかしら!」と拳固めて力説を始めた。 「限定盤をヤフオクへ流すとこれがまたいいカネになるかしら!! つってもカナは別に金のためにやってるんじゃあねーか しら! どこで限定盤スンナリ変えるかも知らない情弱どもが群がって! 必死こいて金額釣り上げていく様が笑えるから やってるかしら!! どうしても欲しい、どうしても限定盤についてるポスターが欲しいって調子でナケナシのカネはたいて原 価20円ぽっちぐらいのペラ紙高騰させてく純情ども見て笑うのは本当っつくづく! 最高かしら!!!!」 頬に両手を当てきゃぴきゃぴと笑う店長は、人として大事な何かが決定的に欠けているようだった。 「あーあと3年したらこいつら「どうしてたかがウン万画素で人間映ってるだけの厚紙必死こいて買ったんだ」って落ち込むん だろうなあって想像するとメシが旨くて旨くてたまらねーのよ!!! でも声優人気とやらはその純情どもの大人買いに支え られてるかも知らねーからカナのやる事ぁ別に悪事でもなんでもねーかしら! 『見せかける』ッ! 楽しく儲けさせて貰う見 返りに、実態以上の人気と順位と勢いとを演出してやってるのよ! ファンどもが純粋意思でやってるように!!」 (何の話してるか分からねェけど、嫌な店長だ) (……だな) 剛太の呟きに秋水も呼応した。まひろはというと店の奥から甘ったるそうな卵焼きを沢山持ってきて楽しそうにテーブルへ 並べている。ちなみにそれは店長が仕事の後のささやかな楽しみにと密かに作って冷蔵庫に入れていた私物だった。金糸 雀は終業後、泣きに泣いた。 「ち・な・み・に! カナは別にメイド服着て店に出たりはしねーかしら!! いちいちチマチマ男どもに媚びてカネ稼ごうと するほどカナは馬鹿じゃねーかしら!! 逆よ逆!! 連中の持つ女性への希求とやらをうまーく利用して! 付け入って! いかにもおいしそうなサービス創出して儲けるべきかしら!」 あまりにあまりな文言である。遂にやらない夫専務がたまりかねたように口を挟んだ。 「そういう言葉吐くなよ。お客さんは神様だろ」 「ハッ! やっぱ商売やる以上尖ってねーと勝てねェかしら!! 勝てねェんなら敬意だのなんだの持ってようと無駄かしら!」 「つうかお前、ちょっと酒臭くね?」 剛太は鼻をつまんだ。 「ハッ!! ナスカドーパントがくたばるかどうかの瀬戸際! 医者も断酒会も顔色止めて飛びかかって来たけどこれが呑 まずに居られるかって話かしら! あはは! 肝臓の数値最悪だったからもう長くねーかしら!! 酒も商売も好きにやら せろかしら!! どうせカナがくたばっても泣く人間なんざいやしねえ! かしら!」 呵呵大笑する店長だが、その大きな眼には真珠のような涙が浮かんでいた。 「第一! この前の経営危機まで代理店や協力工場にあこぎな要求突きつけてたのはどこの会社かしら!?」 「いうなよそれ」 専務と店長にしか分からぬ世界があるらしい。 「どーせメイドカフェなんざ数年経ったら廃れるに決まってるから雇われ経験積んだ所で今後にゃ繋がらねーかしら! だか らカナは「どうすりゃ儲けれるか」って機微だけ学ぶのよ。んで落ち目んなったら上り調子んなってるトコへさっさと飛びつい てまた儲けてやるかしら! それもまあカナがくたばってなきゃあだけど! ぶはははは! 」 震える手で瓢箪を持ちバーボンをすすってゲップをすると、彼女はこう締めくくった。 「ハッ! 買い占めるCDの声優名の移り変わりの激しい事激しい事!」 「勉強になります」 「すんな。そんな勉強」 心底感心した様子のメイド長に冷徹なツッコミが刺さった。 (それよりあの社長と専務がホムンクルスかどーか確かめねーと) 鋭い光を帯びた剛太の目がやる夫社長を捉えた。
186 :
作者の都合により名無しです :2010/01/16(土) 14:09:26 ID:l2fopRlN0
久しぶりのスターダストさんの鬼投稿懐かしい! 今回はコメディが楽しくていよいよ再開全快ってかんじ
しかしサマサは折角連載を無事に終えたというのに感想が実質1レスだけか ここまで不人気ならもうSS書くのやめた方がいいんじゃね?
188 :
作者の都合により名無しです :2010/01/16(土) 16:59:38 ID:iQFPub4m0
サマサさんお疲れ様でした。 エピローグに一番サマサさんの作風を感じますね、いつも。 少しセピア色した感じの幸せな空気が漂っているというか。 ほっとするというか。 遊戯王はあまり知りませんでしたが、 みんなオリキャラみたいな感じで読んでました。 またサンレッド以外にも何か書いてくれると嬉しいです。
アク禁喰らう → P2使う → さるさん喰らう → 急用入る で半日投下できなかった最後の1レス。
>>148 さん
ギャグもシリアスもこなせる良キャラですよね、彼。
ふら〜りさん
剛太は桜花に対する揺れ具合が面白いですね。高校生らしいリビドーと理想のせめぎあい。
飢えてるけど手近なもんで済ませられん生殺し具合が良い。
あと秋水とコンビ組んでバカやりつつ友情育む、みたいなのも見たいです。
>>150 さん
どもです。それなりに頑張ってみます。
>>161 さん
一般的なメイド役ならばまひろが一番似合うかも。(素直で明るいので)
>>162 さん
よーしパパ頑張っちゃうぞーってやった結果がこれだよ! 金糸雀のキャラがちょっとおかしいですね。うん。
サマサさん
まずはお疲れ様です! 巡り巡って物語の最初のアレの正体が最後に明かされる構成、実にお見事!
昔懐かしい七剣邪とかダイターンの前口上やセッコの角砂糖キャッチなどなど、小ネタの数々にニマリとさせていただきました。
自分が一番好きだったのはやはり社長。
時に奴隷達の英雄で時に保父さんで時に神の誘惑さえはねのけるダークヒーローな彼の活躍の数々は
やはり読んでて心踊るものでした。怒りと憎しみを払うための戦いは肯定するけど兄弟間の争いは絶対ダメというのも彼らしい。
「悪党だって、ちょっと頭がアレだって構わねえ」
常に前向きではっちゃけまくってる彼は「これぞ社長!」と頷くことしきりでした。曹操や信長みたいな英雄ですよね。
鋭気を養われたら、また一つ、何か!
サマサさんが連載を完走され、スターダストさんが戻ってきてくれて
少しいいムードになったのになんで
>>187 みたいな馬鹿が沸くのか
サマサさん本当にお疲れ様でした。
超機神の頃からサマサさんの作品ずっと読んでおりましたよ、俺。
綺麗な形でまた完結作品が増えて嬉しいです。
今度はどんな作品を持ってくるのか楽しみにしております。
そしてスターダストさん、変わらず記録的な投下量ですな!
相変わらず錬金キャラに対する愛が溢れてて楽しいです。
俺も桜花やまひろにあーんして欲しいなw
戦闘よりもこういう日常風景が好きだなあ。 なんとなくほんわかする。高校時代が懐かしい…
やるやらコンビをSSに出すとは… なんという無謀!なんという蛮勇! だがそれがいい!スターダストさんお久しぶりでございます サマサさん、お疲れさまでした サンレッド、アニメ版のかよこさんがめちゃくちゃ美人でどえらいびっくりしました いい女つかまえたなぁ、サンレッドw
194 :
作者の都合により名無しです :2010/01/18(月) 12:05:05 ID:xpimSLU40
サマサさんの連載が終わってしまうのは怖い サナダムシさんとともにここ数年のバキスレの顔だったからな でもスターダストさんが復帰してくれたし、 これからも誰か復帰してくれねーかな
―――意表を突いた展開。それは物語にとって大切な要素の一つである。 されど、これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、人知を超えた怪人やヒーローの世知辛い日常を綴る物語。 それゆえに読者の皆様方には<どうせいつもの日常風景が垂れ流されるんだろ、ケッ>なんて思われるのだ。 うん。その通りなんです、すいません。 「いらっしゃいませ!ピ○・キャ○ットへようこそ!」 フリフリ可愛らしい制服に身を包んだ、ピンク髪の少女がにこやかに接客する。 そう、前回レッドさんに全力で闘ってもらえたある意味幸運、ある意味凶運の悪の姫君・エニシアである。 悪の軍団を率いる彼女は、今日はどうやらファミレスのバイトに精を出している様子だった。 「よー、エニシアちゃん。相変わらず可愛いねー」 「ちわっす!」「ちわっす!」 店に入ってきたのは、モグラ型怪人コンビのモギラとモゲラを引き連れたアリジゴク怪人・アントキラーさん。 「あ!アントさんじゃない。最近よく来てくれるね」 「いやー、もう三日に一度はエニシアちゃんの顔見ないと落ち着かなくて(笑)」 「またまたー。私より可愛い人なんて、この店にはたくさんいるじゃない」 「何言ってんの。今やウサ兄さんと並ぶ○ア・キャロッ○川崎店の看板娘じゃないの。なあ、お前ら」 「そうっすよ。もっと自分に自信持っていいんすよ」 「よっ、この癒し系!悪のアイドル!」 モギラとモゲラもアントキラーに続き、エニシアを褒め称える。先輩に追従してのおべっかでなく、本心である。 確かにアントキラーの言う通り、可愛い店員が多い事で有名なこの店でも、エニシアは頭一つ抜きん出た美少女 だ。その人気ぶりたるや、この漢に並ぶほどである。 「こらっ!エニシアちゃん、通路で立ち話してたらダメでしょ!」 思わず抱きしめたくなるような愛くるしい声で叱ってきたのは、そう、我等がアニソルのリーダー・ウサコッツ。 (※忘れていらっしゃる方が大半でしょうが、このSSではウサコッツはここでバイトしてます) 彼はエニシアの先輩として、彼女を厳しく戒める。 「す、すいません。ウサ先輩」 「バイトだってお金もらってる以上はプロなんだよ!?お客さんとお話しするのもサービスの一環だけど、きちんと 席に案内してからにしなよ!」
プリプリ怒るが、姿が愛らしいので全然怖くない。客や店員からは<きゃー!怒ってるウサちゃんも可愛いー!> と黄色い声が上がる始末だ。 それでも直接の後輩であるエニシア、そしてアントさん率いる三人組怪人はしゅんとしてしまう辺りは流石である。 「アントキラーも、お客さんだからって何してもいいわけじゃないんだよ?<お客様は神様>というけど、マナーは きっちり守ってもらわないと、困るのはお店なの!」 「はい!すんません、ウサ兄さん」 「すんませんっした!」「すんませんっした!」 「よし、反省したならいいよ。じゃあエニシアちゃん、席に案内してあげて」 「はい!ではアントさんにモギモゲさん、こちらへどうぞ」 丁寧な仕草で三人を案内するエニシア。それを見ながらウサコッツはうんうん、と頷くのだった。 そんな先輩と後輩の心温まる交流の中に、闖入者はやってきた。 「―――おい、お前ら。丁度よかった、ここにいたのか」 赤いマスクの今一つ影の薄い主人公・サンレッドである。 今日のTシャツは<バター飴・ジンギスカン・熊カレー>。これ、実は今回の伏線ね。テストに出るよ。 「あ…レッド!何しに来たのさ!」 「何だよ、ウサ公。いきなりケンカ腰か…別に仕事の邪魔しにきたわけじゃねーよ。ちょっと話があってな…」 いつになくテンションの低いレッドさんである。しかしてその顔つきは、どこか真剣であった。 「おう、お前ら。ちょっと座らせてもらうぞ」 アントさん達の席に、返事も待たずにさっさと座る。実に嫌な先輩っぽさである。 「え、でも…」 「ああ?何だよ、また病院に行きてーのか、コラ」 「…どうぞ座ってください」 流石のアントキラーもレッドさんに対してはそう言うしかない。レッドさんは早速タバコを吹かし始めた。 何となく重苦しい雰囲気である。そんな空気を打ち破るように、エニシアが注文を取りにやってきた。 「アントさん、御注文は…あれ?レッドさんも来てたんだ。あ、もしかして私に会いに来てくれたり?」 「あー、まあ、そんなトコだよ」 「うふふ、嬉しい。でも、浮気はダメだよ?そんな事したら、かよ子さんに言い付けちゃうからね」 「バーカ。そんなマセたセリフはあと十年経ってから言えっての…しかし、今日もバイトかよ?」 「うん!今日も明日もバイトだよ。だって夢(世界征服)のためには、グータラなんてしてられないもの」
エニシアはロリリッ!と表情を引き締め、決意を熱く語った。 (※ロリリッ!とは、ロリィな女の子がキリッ!とした時にどこからともなく放たれる効果音です) 「…そりゃ感心だ。けど、明日は休め。絶対休め。何が起きても休め。つーかもう、アジトに鍵かけて引きこもれ。 絶対に外を出歩くんじゃねーぞ。いいな」 「え?」 レッドさんの発言に、エニシアは目を丸くする。そりゃこんな訳の分からん事を突然言われりゃそうなるだろう。 「どういうことっすか、レッドさん」 アントキラーが会話に割って入る。レッドさんは気だるげにタバコの煙を吐き出した。その姿は、怯えているように さえ見える。宇宙最強とすら思える戦闘力の持ち主である、この漢が。 「…北海道にな、ヤベーくらいタチの悪いヒーロー二人組がいる。その人らにとっちゃ正義なんざ口実で、ただ単 に悪の怪人をしばき倒し、ぶっ殺す事が大好きっつー、とんでもねー連中だ」 ごくり、と悪の怪人達は唾を飲み込む。 このチンピラヒーローのサンレッドがこうも言うのだ。それだけで相当トンデモな二人組に違いない。 「そ、それは怖いね…でも、そのヒーローさん達は北海道にいるんでしょ?私達には関係ないよね?ねえ?」 エニシアの口調には、そうであってくれという切なる願いが込められていた。だがレッドさんは無情に首を横に振る。 「二人は北海道の怪人なんざとっくの昔に皆殺しにしちまってて…今は日本各地を回って、怪人狩りしてるんだよ。 けど成果が上がらなくて、もう怪人だったら誰でもいいってくらいのテンションになっちまってる…」 だらだらと、脱水症状を起こすんじゃないかというくらいの汗が額を流れ落ちる。 「そして、俺に連絡があったんだよ…明日、来るって…」 「ま…まさか…」 「そのまさか…明日、来るんだよ。神奈川県川崎市溝ノ口に!」 ヒイっと、誰ともなく悲鳴を上げた―――! 「俺の先輩…兄弟戦士アバシリンが!しかも、手当たり次第に殺る気満々で!」 天体戦士サンレッド 〜絶望の宴!最凶ヒーロー兄弟・本土上陸 ―――そして、翌日。フロシャイム川崎支部アジト。 そこはアバシリン来襲の報を受けた川崎市在住の悪の皆さんの緊急避難所と化していた。
カーテンは固く閉ざされ、電灯は消され、蝋燭だけが唯一の光源。 皆は一様に防災頭巾を被り、お先真っ暗な顔で俯いている。 範馬勇次郎と江田島平八がタッグを組み、しかも殺る気満々でやって来るも同然なのだから、それも仕方なかろう。 「ああ、もう…何で姉貴や兄貴が全員海外に遠征してて俺一人で留守番って時に、こんな事になんだよ…」 吸血鬼のヤフリーくんは、今にも灰になって消滅しそうな程の恐怖に震えていた。 彼もまたコタロウ経由でレッドさんから連絡をもらい、こうして川崎支部へ身を寄せているのだった。 頼れる家族は上記の理由で不在、産まれ立ての仔鹿のように怯えるしかなかった彼をヴァンプ様達は快く迎えた。 今は吸血鬼も怪人もない、彼等は同じ脅威に立ち向かう同志である。 「…エロパロ板的展開ヤダ…婦女暴行ヤダ…凌辱ヤダ…触手ウネウネも人体改造もヤダヤダァァァァァッ!」 レッドさんから如何な話を聞かされたか、エニシアちゃんは悪夢の如き想像にすっかり怯えて、某アスキーアート のように泣き叫んでいた。 (彼女はエロパロ板サモンナイトスレにて、色々悲惨な経験をしていたりします。御了承下さい) ああ、見える。並行世界で肉便器の如き無惨な扱いを受ける自分の姿が。 きっと数時間後には、同じ不幸が我が身に降りかかるのだ。 「姫様、大丈夫です!俺達が必ずや鬼畜野郎アバシリンの魔の手から、姫様を御守りします!」 軍団員の皆様は、決死の覚悟で己の姫君を守り通す決意を固めつつ、ガチガチ歯を鳴らしていた。 「あー…百年バイトして、折角貯金したのになー…どうせならもっと贅沢すんだった…」 アントキラーはすっかり命を諦めていた。 「オメーはまだいいよ、アント。そうやって後悔する事が出来るんだから。俺なんて、ロクに後悔する事もねーよ… ああ、四千年生きたけど特に悪い事もなかったけど、いい事もなかったなー…バレンタインで母ちゃん以外から チョコ貰った事もねーし…ああ、義理チョコでいいから欲しかった…」 死を前にして、カーメンマンは己の特になにもなかった人生を嘆いていた。 「チクショー!せめて最期にカップ麺を喰いまくってやる!」 秘蔵のカップ麺コレクションを並べて、メダリオはヤケ喰いしていた。 「ああ…抹殺したかったなあ、レッドさん…征服したかったなあ、世界…」 虚ろな瞳で、ヴァンプ様は力なく呟く。 他の怪人達も似たようなもので、実に終末的なムードが漂っていた。 そんな中、ヒムが神妙に呟く。 「北海道の兄弟戦士アバシリンか…ここ川崎で、その名を聞くとはな」 「ヒムくん…もしかして、アバシリンの二人と何かあったの?」 ヴァンプ様からの質問に、ヒムは顔を暗くしながら答えた。
「オレの先輩にフレイザードという男がいた…戦場とあらば手段を選ばず勝利に固執し、女の顔も平然と焼き潰す 非道な男だったが、後輩に対しては面倒見のいい岩石生命体でな。オレや仲間も随分世話になった…」 魔界立魔界中学校に在籍していたあの頃。 仲間と共に不良のレッテルを張られ、親からも教師からも見放されていた。 そんな中、同じく札付きのワルだったフレイザード先輩だけは、自分達に何かと世話を焼いてくれたものだ。 (おい、ヒム。これ、もう見飽きたからやるよ) 無骨漢キャラを気にしてエロ本も買えない自分のために、それを譲ってくれた。 (ガラスを割ったのはオレだ。こいつは関係ねえ!) これ以上内申が悪くなったら退学というフェンブレンのために、罪を被ってくれた事もある。 (全く、情けねえ。こんくれえ自分で直せよな) 自転車のチェーンが外れて困っていたシグマを、憎まれ口を叩きながらも助けてくれた。 (テメエなんかに何が分かるんだ!こいつは金属生命体だ。腐ったミカンじゃねえ!) ブロックをネチネチいびっていた嫌味な教師の胸倉を掴み、そう言い放ったものだ。 (へっ!お前ら、こんな連中に手こずってんじゃねえぞ!) ザボエラ中学との抗争で危機に陥った時に、汗だくになって駆けつけてくれた時には、思わず涙が出た。 頼れる先輩だった。最高の先輩だった――― 「そんなフレイザード先輩は、例に漏れず世界征服を企み、北海道へ旅立った―――」 「あ…ま、まさか…!」 「そう。殺られたのさ、アバシリンに…!」 ヒムはぐっと、拳を握り締めた。 「実家に届けられた先輩の遺体は、原形を留めない程に惨たらしくもグチャグチャにされていた…あそこまでする 必要があったってのかよ、チクショウ…!先輩は、ちょっとばかり世界征服を企んでただけじゃねえか!」 「ヒムくん…」 ヴァンプ様は、そっとヒムの肩に手を置くしかなかった。 「悔しい…!オレは悔しいんだよ!先輩の仇がそこにいるってのに、コソコソ隠れるしかないのが!」 本当は今すぐに飛び出して、アバシリンにこの拳を叩きつけたい。 だが―――
「サンレッドすらビビらせるような奴相手に、今のオレじゃどう足掻いても勝ち目はねえ…くそっ…くそぉっ…!」 自分はこうして、悔し涙を流すしかないのか―――そんなヒムに、ヴァンプ様はそっと語りかける。 「悔しいなら、強くなればいいんだよ」 「将軍さん…」 「ヒムくん。その涙を、忘れちゃダメだよ。今の悔しさを忘れない限り…ヒムくんはきっと、もっと強くなれるよ」 「…へっ。変わってるよ、あんた。商売敵のオレを励ましてどうすんだ、全く…」 「はは。やっぱり私って、悪の将軍らしくないのかな」 「ああ、全然な…けど、ありがとよ。ハドラー社長とアルビナスさん以外じゃ、あんたくらいのもんだよ。オレなんか を気遣ってくれたのは…」 涙は止まる事はないが、心に重く圧し掛かっていた何かは消えていた。ヴァンプ様とヒムは、立場は違えど目的 を同じくする者同士、力強く笑い合った。 地獄と化した川崎に咲いた、友情という名の華一輪。 絶望の中で灯った希望に、悪の皆さんは僅かながら救われた気分だった。 その時。 カチャン――― 「え…い、今のは…」 玄関の鍵が開いた音に、一同は一気に顔面蒼白になった。 ギシッ…ギシッ…床が軋む音が、どんどん近付いてくる。 「あ、ああ…しまった…縁側の下に隠しておいた合鍵、回収しておくの忘れてた…!」 「ええーっ!」 「何してんすか、ヴァンプ様!」 「ご、ごめん…!」 「ヴァンプさんを責めてる場合じゃねーっすよ!どうすんですか!?」 「ヤダァァァァァァッ!肉奴隷人生ヤダヤダヤダヤダァァァァァァァァァッッッ!」 「姫様ぁぁぁぁ!どうかあなただけでもお逃げくださいぃぃぃぃ!」 「時が見える…」 「あれ?死んだはずのじいちゃんとばあちゃん…どうしたんだよ、そんな河の向こうで手を振って」 混乱と恐慌に陥る悪の権化達。しかし、敢然と立ち上がる漢が一人。 「ヒ…ヒム?お前…」 「皆、早く逃げろ。その時間くらいは、稼いでやる」
その横顔には単なる復讐心だけではない、壮烈なまでの覚悟が滲んでいる。 「そ、そんな!出来ないよ、キミだけ置いて逃げるだなんて!」 「いいんだ、将軍さん」 ヒムは今にも死地へ赴くとは思えない、爽やかな笑顔をヴァンプ様に向けた。背中からは後光が射して見える。 「この場所は、随分と居心地がよくてな…へっ。オレとした事が情が移っちまったらしい。自分の命なんか捨てて 構わねえ…それでも、あんた達にこんな所で死んでほしくねえんだ!」 がしっと、ヴァンプ様の手を握り締めた。 「オレの夢を、託すぜ。どうかオレの分まで生きて、世界征服を成し遂げてくれよ」 「…………!」 圧倒的なまでの漢っぷり。誰が予想しただろうか。このおちゃらけSSで、こんな燃え展開が来ようとは。 それは一同の今にも消えかけていた<勇気>という名の光に、確かに火を点けた。 「けっ…一人でカッコつけようったって、そうはいかねーぜ、ヒムちゃんよ」 「おうよ。悪の怪人がヒーローにビビってどうすんだっての!」 カーメンマンとメダリオが口火を切り、それは皆に伝染していく。 「はん…ほんっとバカっすねー、皆さん。一時のテンションに流されて、わざわざ死にに行こうだなんて…ま、俺 もそんなバカの一人か」 腰の刀を抜き放ち、ヤフリーは牙を剥き出しにする。 「…皆。私だけ助かろうなんて思わないよ。私達<エニシア軍団>は生きるも死ぬも一緒だよ。そうでしょ!?」 「ひ、姫様…分かりました!我々は地獄までも、姫様に付いていきます!」 悪夢から目覚め、エニシアは己の家族たる軍団員と共に立ち上がった。 そして我らがヴァンプ様も、悪の将軍としての威厳をこれでもかとばかりに発して号令をかけた。 「―――フロシャイム川崎支部、全軍出撃!我等に歯向かう兄弟戦士アバシリンを抹殺するのだ!」 「「「「「はいっ!」」」」」 ヒムはその光景に涙しそうになるのを堪え、先頭に立って憎むべき敵・アバシリンを待ち受ける。 一致団結。今、全ての悪があらゆる垣根を越えて、一つとなった。もはや彼等に、恐れる物など何もない。 それこそは結束の力。時に強大なる神々すらも退ける、決して断ち切れぬ絆がもたらす奇跡なのだ! そして、ガラガラと戸が開き――― 「あん?何だよお前ら、そんな張り切っちゃって。俺だよ俺、皆のヒーロー・サンレッドだよ。ははははは」 一気に脱力する悪の皆さん。そんなヴァンプ様達を見下ろし、レッドさんはガハハハと豪快に笑う。 「おい、カーテン開けろカーテン!蝋燭なんか立てて辛気くせーぞ!」
ちょちょいのぱっぱでカーテンを開いていくレッドさんである。相変わらず人の返事なんか聞いちゃいない。 「…いや、あの、レッドさん。今日はアバシリンさんが来るんじゃ…」 ヴァンプ様は顔を真っ青にしながらレッドさんに問うが、彼はへらへらしながら陽気に答える。 「ああ、それなんだけどよ!なんか北海道にデビルエゾジカ組とかいう連中が攻めてきたらしくってさー。アバ先輩 は喜び勇んで北海道に帰って行っちまった!つーわけでさ、もう何も心配いらねーってわけ!いやー、よかったな お前ら!死ななくて済んで!命ってホント大事だもんなー、粗末に捨てるもんじゃねーっての!」 ぎゃははははは!とバカ笑いするレッドさん。愕然としていた一同ではあったが、次第に命が助かったという実感が 沸き起こり、はあーっと安堵の溜息がそこかしこで漏れる。 「あー…気ぃ抜けたぜ、チクショウ…へへっ。まあこれで、また世界征服に向けて強くなれるってもんだぜ!」 「その意気だよ、ヒムくん。死んじゃったら何にもならないからね!よーし、皆!今日は腕によりをかけて御馳走を 作るから、ウチでご飯食べていきなさいよ!」 「おおーっ!さっすがヴァンプ様!生きててよかったー!」 「ヴァンプ様の美味しい料理が食べられるのも、命があるからだよなー!」 「ほんと、命って大切だよなー!」 「そうっすねー!というわけで、吸血鬼の俺も命の輝きに感謝しながらゴチになるっす!」 「うんうん。生きてるって素晴らしいよね!ねっ、皆!」 「その通りです、姫様!」 「命、バンザーイ!」 こうして世界征服を企む悪党達は、命の大切さをしみじみと噛み締めたのでした。 めでたしめでたし。 ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である! なお、北海道を襲ったデビルエゾジカ組の怪人は、一匹残らず八つ裂きにされたそうですが、それはまた別の話。 皆も一つしかない命が惜しかったら、世界征服を企んだとしても、北海道にだけは絶対行かないようにね!
投下完了。決闘神話は終わりましたが、善と悪の壮絶な闘いの物語はまだまだ続きます。
前回のサンレッドは
>>131 からです。
兄弟戦士アバシリン。サンレッド世界随一の危険人物にして、レッドさんも恐れる唯一の存在です。
彼らが本格的にヒーローとして活躍する場面は、ヤバすぎてとても書けませんw
>>ふら〜りさん
奴隷部隊については、ああいう終わり方にするのは最初から決めていました。完全に救われたわけじゃ
ないけど、未来に希望を繋げるエンディングということで…しかしこの作品、本当に社長と愉快な仲間達
でしたね(おい)
>>173 長編は今のところ予定はないですが、サンレッドはもうしばらく続けようと思っています。
>>183 バキスレはまだ終わらんよ!
>>188 遊戯王サイドもサンホラサイドも、エンディングの頃にはすっかり愛着が湧いてたので、ラストシーン
を書き終えた時は本当にほっとしたけど、同じくらい寂しかったです。
>>スターダストさん
念仏番長にやる夫にやらない夫に金糸雀…もうダメだ、このメイド喫茶wもうほんと、色々ダメだw
(いい意味で)
でもメイドさんのレベルは全体的にむちゃくちゃ高そうだ…一度は行ってみたい。そしてそのまま逝ってみたい。
どう収集つけるのかが楽しみかつ不安です。やる夫が武装錬金使うような展開になってほしいような、ほしくないような。
決闘神話、小ネタは悪ノリしすぎた時もあるけど、楽しんでいただけたようで何より。
社長はやっぱ人気者ですね、ぶっちゃけ遊戯より(笑)。あの強烈なキャラを上手く描けるかが一番不安だったんです
が、皆さんの反応を見る限りでは好意的に受け取っていただけていたのでほっとしています。
まさしく彼は<乱世の英雄>ですよね。
>>191 今度長編を書くとしたら、一体何を持ってくるべきか…今は自分にも分かりませんが、その時は一つよろしく。
>>193 原作の初登場のかよ子さんとか、ほんと酷いですからね…アニメじゃ最初から美人でよかった。
>>194 本当に、一日数本は来てた全盛期が懐かしい…(遠い目)
>>200 の
「はは。やっぱり私って、悪の将軍らしくないのかな」
「ああ、全然な…けど、ありがとよ。ハドラー社長とアルビナスさん以外じゃ、あんたくらいのもんだよ。オレなんか
を気遣ってくれたのは…」
涙は止まる事はないが、心に重く圧し掛かっていた何かは消えていた。ヴァンプ様とヒムは、立場は違えど目的
を同じくする者同士、力強く笑い合った。
地獄と化した川崎に咲いた、友情という名の華一輪。
絶望の中で灯った希望に、悪の皆さんは僅かながら救われた気分だった。
この部分を、保管時には下記のように修正お願いします。
「はは。やっぱり私って、悪の将軍らしくないのかな。ダメだね、私ってば」
「ああ、全然な…けど、ありがとよ。ハドラー社長とアルビナスさん以外じゃ、あんたくらいのもんだよ。オレなんか
を気遣ってくれた大人は…」
涙は止まる事はないが、心に重く圧し掛かっていた何かは消えていた。ヴァンプ様とヒムは、立場は違えど目的
を同じくする者同士、力強く笑い合った。
地獄と化した川崎に咲いた、友情という名の華一輪。 世界征服を企む悪の怪人同士とはいえ、その美しさに偽り
などない。絶望の中で灯った希望に、悪の皆さんは僅かながら救われた気分だった。
お手数おかけしますが、どうかよろしく。
205 :
作者の都合により名無しです :2010/01/19(火) 15:37:49 ID:+fie7rCE0
サンレッドは話的にいつ終わっても違和感無い作品なので少し危惧してましたが まだまだ続きそうで良かったです。今年一年よろしくお願いします!
206 :
ふら〜り :2010/01/19(火) 19:49:08 ID:zp06OYYn0
>>スターダストさん(【武装】やる夫はどんな敵でも味方でも手を放さないようです【錬金】) うぅむ、先にやられてしまったかっっ。やるやらが、まひろたちに溶け込んでる様子、無理なく 目に浮かびます。外見も内面(某スレですねフフ)も描写が緻密なので。それと剛太、この 展開で悪ノリせず、罪悪感→謝罪となるのに感動。真面目で硬派、そういう奴ですよね。 >>サマサさん(○アキャ○は、1と2はプレイしました。懐かしいなぁ) かよ子さんの時もそうでしたが、「あのレッドさんが」と尺度になってるのが面白い。そんな 脅威に対し、極限状況だからこそ現れるその人の本性、その結果……『剣心』の新月村 とは全く正反対に、これからの彼らが楽しみになります。絆を深めた仲間たちに幸あれ。
サマサさんお疲れ様です。 ダイキャラでヒム以外はサンレッド世界には入りづらいですね。 強いけどギャグも出来るし、人情家だし。 ヴァンプさんは相変わらずいい人だな。
サマサさんとスターダストさん、あと一人帰ってくれば・・。
サンレッドおもしろかったです! この調子で長く続けてください。 しかしアバシリンのヤバさはマジパネェですな。 この二人は信念持った悪党より性質の悪い、シリアルキラーに近い存在ですからね……。 いつか警察に連続殺戮犯として指名手配されそうな気がしてなりません。 でも警察じゃ逮捕できないから在日米軍と自衛隊が出動して……なんて未来図が浮かんでしまいました。
騒音が聞こえる。 この騒ぎでパトカーや野次馬が来た訳ではない。 まして吹き飛んだエンジンが機能している訳でもない。 私の危険を知らせるあの音だった。 ド ド ド ド ド ド ド…… もう一度、横たわる墳上裕也へと視線を向ける。 地面に広がる黒い染み、ガソリンと大量の血。 自己の健康状態の管理の為、家庭で学べる程度の医学は身につけている。 致死量に近い量の血が流れている、生きていたとしても長くは無い。 「ガソリンと混じっていて見分け難いが……この出血では動ける筈がない」 血とガソリンがアスファルトを黒く濡らしていく。 さっきの足音は死ぬ間際の悪足掻きだったのだろうか……。 「混じっ…てんのは……」 声と共にガラクタとなったバイクの下に瞳が現れる。 ガラクタの隙間から現れた男の顔は、血に覆われており本来の肌色を確認出来ないほどに流血していた。 きっと青ざめて今にも死にそうな血色をしていることだろう。 しかし、その目の輝きは対照的に光に満ち溢れていた。 またしても、由花子の時と同じく墳上裕也が『あの目』をしていた。 「くたばり損ないがァ―――っ!」 「ガソリン………だけじゃ…ねぇ……」
トドメを指さなければならない……『あの目』をした奴は一人残らず。 あの状態では身動きは取れない、爆弾となっているバイクを起爆して殺す。 だが『キラークイーン』を出した瞬間、足を何かに掴まれ引き摺り倒される。 「こんな……どこに!?」 足を掴んでいる手は、『ハイウェイ・スター』のものだった。 無数の足がガソリンの下で死骸に集る虫のように蠢いており、吉良の足を掴む手に群がって融合していく。 ズブズブと指先が吉良の体にめり込み、養分を吸いながら引きずり込む。 だがバイク二台分の爆発で何故奴が生きているのか。 「俺の…『ハイウェイ・スター』……燃料タンク……吹っ飛ばす位…なんとか出来たぜ……」 真っ先に墳上に突っ込んだのは奴のバイクだった。 手元に残しておいた『ハイウェイ・スター』の腕でガソリンタンクを吹き飛ばし威力を軽減。 自分のバイクの下敷きになることで爆弾になっている吉良のバイクに触れないようにしていた。 「クズがァ――! 爆弾に触れないようにしても起爆してしまえば貴様は終わりだァ―――っ!」 左手の起爆スイッチに指を掛けているというのに、墳上の目は輝きに満ちていた。 気に喰わない……『あの目』が存在する限り、必ず私の望む平穏とは対極の状況が訪れるだろう。 だが、死を目前としているこの瞬間に置いても奴の目は死んではいない。 勝利を確信している目、奴にとっての私に対する勝利。 ガソリンに塗れた『ハイウェイ・スター』が、ダメージで崩れ落ちながらニヤニヤと笑っていた。 「一緒に……あの世で………仗助とご対面だ……」
そんなのは御免だ……奴の顔はもう二度と見たくない。 奴がガソリンと血反吐に塗れた手にライターを覗かせている。 震える指先が力なく歯車状のドラムを廻し、点火の作業に入る。 何とかしてこの障害を排除しなければならないが、私に取り付く『ハイウェイ・スター』に弱点はない。 そうなると本体、墳上裕也の弱点を見つける必要がある。 スタンドでの近接戦は養分を吸われ本体を抑えられている今の私では不可能。 遠距離からの爆破もガソリンに引火するので不可能。 今の天候での『ストレイ・キャット』には殺傷能力は求められない。 判らない……この吉良吉影の頭脳を持ってしても。 死ぬのか? ここで奴が点火するのを黙って見守るしかないのか? 『バイツァ・ダスト』………対象が墳上では吹っ飛ぶ人間の居ないここで時は巻き戻らない。 なんて役に立たない能力だ………ピンチの時にしか発動しない癖にこの状況では役に立たない……。 あのコンビニの女にでも発動できれば、この町をほんの少し離れるだけでこいつを……。 「ま、待て! それ以上動いたらさっきのコンビニの女を殺す!」 父の調べでは確か墳上裕也には数名の取り巻きが居た筈。 あの女である可能性は低く無い、これに賭けるしか道は残されていない。 「……なん…だと?」 指の動きが止まった、時間を掛け過ぎてはいけない。 出血で思考が鈍れば女の事を忘れて火をつける可能性も出てくる。
「………ハッタリだ」 「違うね、お前がバイクの下敷きになってるのは私がバイクを爆破しなかったから……。 いや、正確には爆破できなかったんだよ。出来たら引きずられる前に爆破していたと思わないか?」 バイクは爆弾になっている……急いで飛び降りたので何処を爆弾にしたかは覚えていないが何処かの部品だ。 一台丸ごと爆弾にすることはできない、機械は複数の金属や回路の集まりであって一つの物ではないからだ。 車ならば外装を爆弾にすれば殆ど一台爆弾にしたようなものだったのだが……。 押し黙る墳上裕也、血の巡りを悪くした頭で必死に考えているのだろうが答えを待つゆとりは無い。 ほんの少しだけ間を置いて話を続ける。 「私は爆弾を二つまでしか生成出来ない……追跡爆弾『シアーハートアタック』を含めて。 そのうち一つはあの女、つまりそのバイクは爆弾なんかじゃあないんだよ………」 デタラメを吹き込み混乱させる、頭の悪そうなガキだが念を入れる。 真実を教えてしまうと道中に仕掛けた爆弾の説明が付かない。 これなら道中で仕掛けた時に『シアーハートアタック』は使ってないから爆弾も使用可能だ。 ちなみに三つと答えることはできない、『女』『シアーハートアタック』『バイク』 こうして爆弾を作れるので今の状況に矛盾が生じる。 「…何が……望みだ」 「出来れば逃がして欲しいが納得しないだろう? 私も君を生かしておく気はない……そこで」 この一言が私の勝利を決定付けるだろう。 墳上は私から逃げることが敗北する事なのだと己に言い聞かせ追跡してきたのだから。 私の平穏を縛るこの下らない愚考を、奴の首を絞める縄としてやる。 「正々堂々、君に決闘を申し込もう」
なんとか一ヶ月で出来た……スランプ脱出の兆しと信じたい。邪神です( 0w0)
ふとガンダムが恋しくなってG-ジェネレーションFを取り出したらDisc3がダメになってました。
Vガンが……Wガンダムが……開き直ってDisc1を適当にやったり。
08小隊はいつ見てもいいですね。燃えキャラカレンに萌えキャラサンダースとツボを押さえてます。
初見では外装マスクのせいでダサく見えたEz-8もアッガイの如く愛おしく見える不思議。
でもコクピットが胸にあるのに胸にバルカンを仕込んじゃうのはどういうことなんでしょうね( 0w0)
いちおう装甲ついてるけど装甲つければ誘爆しないならヘビーアームズは……大丈夫だったな(;0w0)
―感謝の言葉―
>>ふら〜りさん 触れば一撃、無限爆破の追跡爆弾、そしてバイツァ・ダストという反則能力持ちなのに
ハングリー精神が無いからパワー型にしては弱いしバイツァは発動条件厳しいし……。
結局は持ち前の知力で戦う訳ですが、その知的なところが吉影さんのイカす所。
>>117 氏 自分へのレス……でいいよね(;0w0)
彼も候補に入れたのですが海水に落ちてスタンドがダメになったと言ってたんで再起不能。
刑務所に入れる際にチリペッパーがボロボロだというのも安心の理由になってましたし、
充電での回復はできない物と解釈してます。
>>123 氏 きっと自分へのレスと信じて( 0w0)
上に同じく、そして彼には良心がないので杜王の状況を知っても吉良と戦わないかと。
>>208 氏 呼ばれて飛び出……え、御呼びで無(ry
215 :
作者の都合により名無しです :2010/01/24(日) 18:55:19 ID:Hus/RGQa0
邪神さんお疲れ様です! しかもジョジョの続きでうれしいですよ。 決闘とは穏やかでない引きですな。 続きを期待しております。 これからもバキスレ復活の為に誰か復帰してくれるといいな
216 :
作者の都合により名無しです :2010/01/25(月) 00:04:21 ID:H0X04trq0
アサッテ君ならびに隣の山田くん、ビジネスマン・クラスでフルコンタクト空手を始めた。 白帯を巻いているのだが、初めて手を染めた武道の味に酔いしれている時期。 メタボ対策や浪人中の運動不足対策はどこへやら、すっかり自称武道家だ。 そんな時期、ピクルに出遭う。間が悪いとしか思えない。 そのとき、ピクルはかつての追剥で作った敵を撃破し、更には当分の衣糧を得ようとしていたところだった。 21歳の剣道家を物陰に引きずり込み、そして被害者の着衣で闇より出でたピクルに二人は対峙した。 被害者の襟には、帝愛の構成員バッジが光る。いや、物理的にはピクルの襟に、だ。 表部門の社員証に過ぎないとはいえ、被害者は若くして債権者代行補助バイトの域を超えている証でもある。 第二波(ピクルにとっては次なる接近者)を観察するピクルと目が合ったとき、いきなりアサッテくんが仕掛けた。 身についた技術によるコンボパンチが、スパーリングでは打たない上段に3つほどきまる。 しかも、KO狙いではなく鼻血による戦意喪失狙い。だが鼻はビクともせずアサッテの拳の握りが崩れる。 ピクルのワンパンで、というより押し退けただけで吹っ飛んでくるアサッテを 自分で下がってきたものと勝手に解釈し入れ替わり立ち替わりに仕掛ける山田。 山田の中段蹴りが物凄い手ごたえできまるのだが、違和感。靴の先端へ反作用が過剰にかかって、爪先が折れるように痛む。 だからコンボによるもう片方の足での攻撃(体で覚えたばかりの動きだ)まで終えてから、山田の思考が始まる。 その思考が一瞬で途絶える、ピクルのショルダータックル。
217 :
作者の都合により名無しです :2010/01/25(月) 00:10:36 ID:blQ5Bxvf0
そして、呪術や貨幣経済に目覚めたばかりのピクルはアサッテと山田の耳に『伯方の塩』を詰めて去っていく。 ジャックに続き、金竜山にも復活されている(金竜山とは後楽園の地上で遭遇して再見)ので手法を変えたのだ。 しかし、アサッテや山田から全くステロイドの匂いがしないため不安そうに時折ふりかえってくるピクル。 チョボチョボとした足取りで去りゆくピクルを、20世紀では違法の街頭カメラ・ハックごしにのび太が観る。 接触事故防止と機動性のための反重力装置を節電しているので畳を撓らせている、のび太の朋もまた。 「ピクルはUMAなんかじゃない。ドラゴンやグリフォンのように、作られた生物だ」。いつになく、朋の顔が険しい。 「まてよドラえもん、デザイン・ヒューマンなんかちょっと未来にはよくいるじゃないか。せいぜいが闇っ子だ」。 「デザイン・ヒューマンにはいくつかの要件が要るんだ。そうでなきゃ、あの超能力ベビーの騒動がタダで済むはずないだろう」。 いつか、のび太がドラえもんの道具で人間を作ったときのことだ。同じく、ジャイアンとスネ夫を『複製』したこともある。 タダで済む済まないは、未来からの干渉についてだろう。 「じゃあ、ピクルは・・・」。その先が、まだ恐くて言えないのび太。 「インドの奥地に送れないのかな・・・あの、戦時中の象みたいに」。 このとき、のび太のイチかバチかの賭けは成功する。 そして、のび太が『安藤』になって20世紀を生き直すときはピクル、そして22世紀の子どもたちが助けてくれたのだ。
お疲れ様です 邪神さん。復活うれしいです。 またどんどん更新してくれることを祈ってます。
>邪神氏 ジョジョはあまり詳しくないですが、スタンドバトル楽しみにしてます。 なによりバキスレに書き手さんがぼちぼち帰って来てくれて嬉しいわ もう片方のロマサガ作品ってどうなりましたっけ?確かメモリ飛んだ? >名無しさん 以前、バキとドラえもん書いてた人か?w いや相変わらずシュールだw まあピクルはUMAじゃなく板垣の妄想の産物(オナニー)ですなw
220 :
ふら〜り :2010/01/26(火) 08:36:45 ID:6fy+M2Lz0
>>邪神さん 知恵を絞ってどうにかこうにか戦ってて、ちっとも楽勝じゃないけど一撃必殺を持ち、ゆえに 迫力は充分。仰る通り面白いキャラですよね吉良は。その吉良以上に苦戦し、覚悟と根性で 食い下がってる墳上がまたカッコいい。けど、もう体のダメージが限界に近づいてるようで…… >>カイカイさん(ですよね?) アサッテ君ですか。私は「ショージ君」シリーズの方が馴染みあります。そしてミュータント 赤ちゃんって、またメジャー作品のマイナーネタを。そんなカオスの中で、強さも知能もなかなか 原作に忠実なピクルが目立ってます。カイカイさんにとってはギャートルズのお仲間ですかね?
「―――あらまあ。ヴァンプさんとこの子じゃない。こんにちは」 「ふもっふ!」 フロシャイム川崎支部への道すがら、通りがかりの近所の森末さんに手を上げて朗らかに挨拶するボン太くん。 されど、その和やかな容姿を真に受けてはならない。 彼の裡には、獣が住むのだ。 (フロシャイム…奴等の実態も大分掴めてきたな…) 数百・数千もの構成員それぞれが、並のヒーローを遥かに超える実力の持ち主である事。 幼い子供に対し<フロシャイムは善良な悪の組織>と刷り込みを行っている事。 カードゲームを発売し、法を犯す事無く大金をせしめた事。 異次元への扉を開くほどの科学力の持ち主であるという事。 最近ではとある吸血鬼の一族や恐るべき力を秘めた魔界の戦士、悪の姫君を奉ずる謎の軍団とも接触し、更に勢力を 増している事。 何という事か。一見平和な神奈川県川崎市溝ノ口に、ここまで恐ろしい悪が蔓延っていようとは! (天体戦士サンレッド…彼の活躍がなくば、既に日本はフロシャイムに制圧されている事だろう…だがこれ程の巨悪に、 大佐殿以外は誰も気が付かなかったとは!恐ろしい…あれだけの力を持った組織が、ここまで完璧にその実情を世間 から隠し通し、堂々と悪の看板を掲げて存在しているという事実が!) この地に住まう人々は、今はまだフロシャイムの事を<お人好し揃いの悪の組織>としか思っていない。 だが、もしも奴等の本性が知れ渡る事になれば、少なくとも川崎市は大混乱に陥るだろう。 いや、それすら見越して、フロシャイムは人畜無害な悪の組織を演じているのかもしれない。 (サンレッドもいつまで持ち堪える事ができるか…早急にミスリルが動くに足るだけの悪事の証拠を掴んで、奴等の野望 を食い止めねば!) そんな決意と共に、ボン太くんは川崎支部アジトへと入っていく。 「あ、ボン太くん、久しぶりー!最近顔を見せないから心配してたんだよー」 「これでアニマルソルジャーが全員揃ったね」 「ボン太くん スキ」 アニソルメンバーからのお出迎え。Pちゃんも翼をパタパタさせて挨拶している。
「ふもっ!」 元気に挨拶を返すボン太くん。彼は台所への暖簾をくぐり―――絶句した。 そこには。 「そうそう。中々筋がいいよ、かなめちゃん」 割烹着姿の我等がカリスマ将軍ヴァンプ様。 「そうですか?ありがとうございます、ヴァンプ様」 そして、同じく割烹着を身に付けた千鳥かなめであった。 「ふもぉぉぉぉぉぉーーーーっ(千鳥ぃぃぃぃぃぃーーーーっ)!!!???」 ボン太くんの絶叫が、川崎支部アジトを中心に、半径1kmに渡って轟いたという…。 天体戦士サンレッド 〜フロシャイムの姦計!軍曹・孤高の闘い 「―――って、何でアンタがここにいんのよぉぉぉ!?」 耳をツーンと言わせながらも、千鳥かなめはボン太くんに詰め寄った。頭を抱えてガクガク揺さぶる。 「ふ…もふもふもふ、ふもっ!(そ…それはこっちのセリフだ!何故千鳥がここに!?)」 「ええい、相変わらず何を言っとんのかさっぱり分からんわぁぁぁっ!…あ、そう言えば前に悪の組織に潜入するとか 何とか言ってたわね。まさかここだったの?何だってまたここなのよ!?」 脳をシェイクする勢いで、なおも揺する。見かねたヴァンプ様がかなめを押し止め、かなめは息を荒くしつつどうにか 落ち着きを取り戻した。 「ちょちょちょ、ちょっとかなめちゃん!いきなりどうしたの?ウチのボン太くんが何か?」 「す…すいません、ヴァンプ様。ちょっとこいつの事、知ってたものですから…」 「え?かなめちゃん、ボン太くんの知り合いだったの?」 「はい。何と言いますか、こいつは」 「もっふー!」 ボン太くんは大声で会話を遮った。中の人は背中まで冷汗でびっしょりだ。
(危なかった…俺の正体をバラされてしまう所だった!) 既に自分が<組織>の工作員であるという事は勘付かれている筈。にも関わらずフロシャイムが抹殺行動に出ない のは、向こうにも確証がないということだろう(以前、ケーキに猛毒が仕込まれているものと疑ったのが、後でどれだけ 調べても毒物は検出されなかったので結局食べた。美味しかった)。 まさか彼女がそこまで暴露するとは思わないが、自分の<中身>について言及されれば、そこからいくらでも素性は 洗い出せるだろう。フロシャイムには、それだけの力がある。 (※あるにはあるんです。そういうまともな悪事に使おうとしないだけです) そうなれば自分はおろか<ミスリル>まで危機に晒されてしまっていた。最悪の事態を間一髪で回避し、どうにか胸を 撫で下ろす。 「もう、ボン太くんたら。そんなに大きな声ばかり出しちゃダメ。近所迷惑でしょ?」 「ほんとにアンタは…いつもそんなんでヴァンプ様達に迷惑かけてんじゃないの?全く…」 まだ耳を押さえつつ、ヴァンプ様とかなめは顔をしかめる。妙に仲の良い様子の二人に、ボン太くんは首を傾げる。 (しかし、千鳥は一体どうしたんだ?これではまるで、フロシャイムの一員ではないか…) ぞくっ――― その想像は、余りにも恐ろしかった。 千鳥かなめ―――少しばかりお転婆なのが玉に瑕だけど、いつも元気で明るい少女。 けれど、彼女には<とある秘密>がある。 その<秘密>を巡り、悪党共からその身柄を狙われた事は一度や二度ではない。 そして今、フロシャイム川崎支部に千鳥かなめはいる…しかもやたらとヴァンプ将軍と仲良しになって…! この二つの符号が示す事実はただ一つ…! (何という事だ…!千鳥は既にヴァンプ将軍によって洗脳されている…!) それは、本当におぞましい想像で―――恐ろしい事実だった(少なくとも、彼の脳内では)。 いや、待て。まだ、そうとは限らない。 早急に、本人に確かめてみなければならない。 「ふもっ!」 「ちょ、ちょっと。急に手を引っ張らないでよ」 「あ、ボン太くん!何処行くの?かなめちゃんは今…あー、行っちゃった」
ヴァンプ様はポリポリと頭を掻きつつ、先程までかなめが作っていた<それ>を見つめ、にやりと笑う。 「ククク…よく出来ておるわ。あの娘、本当に見所があるぞ。フフフフフ…」 特に意味はないけど、悪モードに入ってみるお茶目なヴァンプ様であった。 一応言っとくけど、かなめは別に何か法に触れるモノを作ってたわけじゃありませんので、悪しからず。 ―――かなめの手を引き、ボン太くんが辿り着いたのは川崎支部アジトの庭。 洗濯物がたなびく牧歌的な背景で、得体の知れないナマモノと仏頂面した美少女が向かい合うという、訳の分からん 光景が展開されていた。 <千鳥…率直に訊こう> ボン太くんはふもふももふもふしか喋れないので、筆談である。 「何よ、ソースケ」 <ヴァンプ将軍に拉致され、体中を弄り回された挙句に洗脳されたんだな?> 「何でそうなる!?」 バチコーン、と素晴らしい音を立ててハリセンが炸裂した。 <痛いぞ、千鳥> 「じゃかあしいわ!どういう思考回路してんのよ、アンタは!」 当然ながらプリプリ怒るかなめである。 <しかし、奴等は悪の組織だ。何故そこに千鳥がいるんだ?> 「そ、それは…何だっていいでしょ!ソースケには関係ないんだから」 明らかに態度がおかしくなった。ボン太くんは確信する。 (やはり…重要な部分については口を閉ざすように脳を弄られているのか!間違いない…洗脳だ!) 彼は戦慄した。 フロシャイムの監視を怠っていたつもりはない。だというのに…。 自分の目を掻い潜り、千鳥かなめにこうも易々と接触し、手駒にしてしまうとは…! ボン太くんの脳裏には、悪の女幹部っぽい服(露出度パネェ)を着て悪っぽい高笑いを響かせるかなめの姿が鮮明に 映し出されていた。 「あのね…勘違いしてるみたいだから言っとくけど、別にあたし、フロシャイムに入ったとかじゃ…」 「―――あ、いたいたボン太くん!…と、かなめちゃん。二人して、何してたの?」 と、庭にやってきたウサコッツが駆け寄ってきた。かなめはその愛らしい姿に頬を綻ばせる。
「あら、ウサちゃん。何でもないの。ちょっとこのバカ…コホン、ボン太くんとお話ししてただけよ」 「えー、二人だけのナイショ話?ずるーい!ぼくも混ぜてよー」 「ふふ、はいはい。じゃあ、一緒に遊びましょうね」 かなめは今までに見たこともないような笑顔で、ウサコッツを抱き上げる。 「うふふ、かーわいい!」 「もー、かなめちゃんまでぼくをバカにしてー!ぼくは全然可愛くなんてないもん!」 そんな二人(一人と一匹)の姿を、ボン太くんは茫然と見つめるしかなかった。 間違いなかった。千鳥かなめは身も心も完全に、フロシャイムの構成員と化していた。 「…ふも…」 ふらふらと歩き出し、ボン太くんは川崎支部を後にする。 「あ、ちょっとソー…ボン太くん、どこ行くのよ!?」 かなめの声も、もはや彼の耳には届かない。 何という事だ。 自分の本来の任務において最重要事項は、千鳥かなめの安全を守る事。 だというのに、こうしておめおめと洗脳されてしまうとは! (…大佐殿に報告だけは、しておかなくては。そして…責任を取ろう) 携帯を取り出し、ボン太くんは決意した。 自宅に隠し持っている爆薬の質・量を思い出す。 (あれだけあれば、川崎支部を吹き飛ばす事くらいは可能だ…そう、この役立たずで愚かな軍曹の命ごとな…) そう、自爆テロである。誰かこの子を止めてあげて! ―――何かよー分からんけどSF的なすっげー高性能な潜水艦。 その執務室にて、<大佐殿>ことテレサ・テスタロッサ…愛称テッサは、頭を抱えていた。 「…何だったのかしら、あの電話は…」 彼女が秘かに想いを寄せている、寡黙な少年からの連絡。 その内容は、実に不可解なものであった。
226 :
作者の都合により名無しです :2010/01/26(火) 10:10:41 ID:LCMGlR8v0
サマサさん健筆だなあ! 仕事から帰ったらゆっくり読むよ いつもお疲れ様です
『フロシャイムの恐るべき計画を食い止めることができませんでした』 『奴等の野望は、恐らくは既に手の付けられない所まで来ています』 『その上に、千鳥まで洗脳され…』 「…うーん…」 考える。一体、何があったのか。 何だって、彼はあんなにもテンパっていたのか。 今にもありったけの爆弾を抱えて特攻しそうな勢いだった。 その常人を遥かに超越する脳細胞の全てを使って、仮説から更なる仮説を導き出し、辿り着いた答えは。 「な…何てことなの…!」 思わず、涙が零れた。 自分のせいだ。自分があの前途有望で頼り甲斐があって無口だけどかっこよくて素敵な少年(大佐主観)を、こうも 追い込んでしまったのだ。 責任感の強い彼は、自分のバカバカしい頼み事も一生懸命にやりすぎてしまったのだろう。 だけど、彼にも精鋭部隊の一員としての誇りと矜持があったはずだ。 間違っても、あんなノホホンとした悪の組織を調査するために<ミスリル>にいるわけではない。 テッサが知る限りのフロシャイムは御近所付き合いを欠かさず、幼稚園児のためのボランティアで楽しい遠足行事を プロデュースし、子供から大人まで遊べるカードゲームを作って皆を喜ばせる、そんな組織だ。 (ちなみに主な情報源はウサコッツである。本人は世界征服の一環と言い張っていたが) 恐らく、何故自分がこんなバカな事をやらなければならないのかと、悩み抜いていた事だろう。 けれど<大佐殿から直々に受けた任務だから>と、必死にやり遂げようとした。 不満も何も言わず、自分一人で抱え込んで。 その結果、彼をここまで精神的に追い詰めてしまった――― <フロシャイムは本格的に世界征服を企んでいる恐ろしい組織>という妄想を創り出し、自分のしている事に意味を 見出したのだ。そうでもなければ、バカバカしくてやってられなかったから。 テッサはそう理解し、泣いた。手元にピストルがあったなら、確実に自分の頭をブチ抜いていただろう。 いや、贖罪として敢えて苦しみを長引かせるため、腹をブチ抜いたかもしれない。
嗚呼、恐るべきはフロシャイム。自分は何一つ手を下すことなく、強大な正義の組織の中核を成す若き才女を、自殺 寸前にまで陥らせるとは!もう一度云おう、フロシャイムは恐るべき悪の組織である! ―――通常とは、相当に違う意味で。 夜である。ボン太くんスーツを脱いだ相良宗介は、街灯の寂しい灯りの下、トボトボと帰り道を歩む。 彼の脳裏には、既に遺書の文面が並んでいる。後は原稿用紙に書き写すだけだ。 (大佐殿…クルツ…マオ…そしてミスリルの仲間達…後は任せた…俺は、俺は…もうダメだ…) そして学校の皆を思った。 (今思えば、悪くない体験だった…さらば、愛すべき我が母校…愛すべき恩師、愛すべき学友達よ…) 「―――何を捨てられた野良犬みたいな顔で歩いてんのよ、アンタは」 そんな思索に耽る宗介の眼前にいたのは、何かの紙箱を持つ千鳥かなめ。 今や悪の手先と化してしまった少女だった(※あくまで宗介の脳内設定です)。 「千鳥…」 宗介は決意を固めた。こうなってしまったからには、せめて彼女をこれ以上、悪事に加担させたくはなかった。 すっと、拳銃を構える。慣れ親しんだその感触が、今はどこか空々しい。 「お前を殺した後で川崎支部に特攻してヴァンプ将軍率いるフロシャイム怪人諸共、俺も死ぬ!」 「お前だけ死ねぇっ!」 スパーン。ハリセンが炸裂し、宗介は悶絶する。 「ったく、もう…今度はどんなアホらしい勘違いしてんのよ」 「勘違いだと?しかし、千鳥はフロシャイムの手にかかり洗脳…」 「まだ言ってんのか、アンタは!何をどうすりゃそう思えんのよ!」 「いや、川崎支部での千鳥の行動を見る限り、そうとしか…」 「…………アンタは…ホント、一回頭をかち割って中身を見てみたいわ」 はあー、と盛大な溜息をつき、かなめは手にしていた紙箱を差し出す。 「ほら、ソースケ。ありがたく受け取りなさい」 「…これは何だ?」 「試作品よ。秘密にしておくつもりだったけど、このままじゃロクでもない勘違いを続けそうだから、あげるわ」 宗介は訝しげに紙箱を受け取り、注意深く開く。爆発物や毒ガスの可能性も考慮したが、そうではなかった。 「…む」 それは、見事なチョコレートケーキだった。かなめは少し誇らしげに、胸を張る。
「どう?ヴァンプ様も上出来だって褒めてくれたのよ」 「確かに、よく出来ているが…これと今回の件に、一体何の関連が?」 「アンタが知ってるとは思えないけど、バレンタインのためよ」 「ばれんたいんだと?」 当然の如く知らない。知ってる方が驚きだ。 「2月14日。簡単に説明すると、女の子から男の子へ、親愛の証としてチョコレートを贈る日なの」 「何と…そんな行事があったとは、知らなかった」 「でしょうね…だから、まあ、アンタにチョコケーキでも作ってやろうかと思って。それで、友達からヴァンプ様の噂を 聞いたのよ。すっごく料理上手だって。で、美味しいチョコケーキの作り方を教わってるってわけ」 「では…洗脳は」 「されてないっつってんでしょうが」 もう一発、ハリセンをお見舞い。今度は手加減してくれたのか、あまり痛くはなかった。 「…すまない。どうやら、俺の早とちりだったようだ」 「それで拳銃で撃たれたらたまんないわよ、バカ…ま、いいわ。明日学校で、感想聞かせてよ」 手を振りながら去っていくかなめを見送って、宗介は手の中のケーキを見つめる。 「バレンタイン、か…」 一口分だけ指で千切り、口に放り込む。 「…悪くない」 それは、ほんのり甘く。 少しだけほろ苦い、青春のような味がした。 ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である! なお大佐殿は後日、今回の事の次第を聞いてほっと胸を撫で下ろしつつ、自分もヴァンプ将軍の下でケーキの作り方 を学ぼうかと割と真剣に悩んだという。 ※追記 レッドさんは今回さっぱり出てこなかったけど、きっと川崎市の平和を人知れず守って下さっていたのでしょう。 主にパチンコ屋周辺をパトロールしてるのを見かけたから、間違いありません。
投下完了。
今回のサンレッドは久々(そうでもない?)のフルメタ組で。レッドさんは…あれ?
しかし、もし本当にかなめがフロシャイムに入ったとしても、ウィスパードの叡智を有効活用なんてできないでしょうね…
クーラーを修理してもらったりブレーカーが落ちた時に直してもらうくらいしかやらせそうにない。そして「いやー本当に
かなめちゃんがいてくれて助かったよ!」と満面の笑顔で語るヴァンプ様が目に浮かぶ。
ただ、このSS設定だとアマルガムがかなめをガチで狙ってきたとしたら、連中はミスリルだけでなく、本当は滅法強い
フロシャイムの面々や超絶チートヒーローのレッドさんまで相手にしなければならないわけです。
下手すればアバシリンまで顔を出すかもしれません。そうなったらベリアル千機くらい出さないと勝ち目ないよ。
>>205 終わらせようと思えばいつでも終われるけど、逆にいつまでも続けられる作風でもあるんで、まだまだ書きますよー!
>>ふら〜りさん
極限状況に追い詰められた事で結束を深める…王道ですが、それを悪サイドでやっちゃうのがこのSSのおかしい
所だと思います。世界征服を応援したくなる不思議。
>>207 ダイ大本編でも、圧倒的に強いのにチウに舎弟扱いされて鼻水垂らしたり、メタスラ系と同じ体質といわれて
結構へこんだりと、ギャグキャラの素質十分ですしねw
>>208 いつかまた、全盛期の賑わいが戻ってくれば。そう思いながら書いていきます。
>>209 彼らにとって怪人との闘いは<イッツ・ショウタイム>ですからね…アバシリンと相対した怪人は、運がよくても
文字通りの瞬殺、運が悪ければ嬲り殺しで苦しんで苦しんで死ぬ…ホントに正義側か、この人ら(汗)
>>226 楽しんでいただけているようで何よりです。仕事が終わったらじっくり読んでくだされ。
>>邪神?さん
吉良はラスボス級の中では戦闘は弱い方だけど、それだけに「生きていこうとする執念と知恵」は物凄いですよね。
<強さ>ならDIO様やカーズ様にはまるで敵わないけど、<怖さ>に関しては群を抜いていると思います。
このSSでも絶体絶命から知力で敵を罠に嵌めていく姿がクールでかっこいいです。悪だけど。墳上…合掌。
>>カイカイさん(多分)
実にカオス…だがそれがいい!細かい部分は抜きにして己の妄想を叩きつける姿勢に敬意を表するっ!
>>呪術や貨幣経済に目覚めたばかりのピクルはアサッテと山田の耳に『伯方の塩』を詰めて去っていく
待てピクル、何を学んだんだ貴様w
サンレッドもいいけどまたドラえもんの冒険物書いてほしいなあ ど〜もサンレッドは原作が趣味に合わない
サンレッドはヴぁんぷ様に萌えられるかどうかで評価が違う
サマサさんチャー研のことも知ってるようだから、 チャージマン研!VSアバシリンなんてのも書いてもらいたいと思ったw 研は一応ジュラル以外には無力という設定だが、アバシリンをジュラルと思い込ませるのは簡単だろうしw
234 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:06:16 ID:/w/PQfsD0
任務が任務である。剛太はいかにも人間離れのやる夫社長がホムンクルスかどーか確認せねばならぬ。 とりあえず作戦会議を開いた。ごとごととラタン椅子をテーブルの周りに集めただけの質素極まる会議に参加したのは桜 花と秋水。3人集まれば何とやら、同じテーブルを囲む同僚に「まー適当に知恵出してくれ」とだけ議長は呼びかけた。 「で、どうする?」 「どうするっつったってなあ。てゆーかお前話振るだけで考えないのな」 実直極まりない表情の秋水に気のない返事を漏らしながら、隣の桜花に視線を移す。目が合った。意味ありげな微笑が 返ってきたがそれだけで、特に提案などは来ない。人選を誤ったか。臨時議長席に溜息が洩れた。 (意見言えない奴と言うつもりのない奴だけじゃねーかこの会議。意味ねぇ!) お冷を注ぎにきたヴィクトリアが「無駄な努力御苦労さま」と毒づいてきた気もするがそれは無視。ヒマそうにケータイを 取り出してメールをチェックする。新着は8件。うち5件は件名からしてスパム丸出し。速攻削除。3件は特に興味を引かな い広告メール。削除。残り1つは斗貴子から。大喜びで読み始めた剛太の顔は、しかし文章を追うごとに曇って行った。 「どうしたの?」 「先輩からメール。今日はどうしても外せない事情があって来れないって」 「事情?」 「たまたま知り合った他の学校の生徒がホムンクルスにさらわれて、物騒な連中と一緒に救出に行かなきゃなんねーって」 「大変そうね津村さんも」 「あーダリぃ。もうあの白饅頭みたいな社長さ、ああいう生き物ってコトで良くね?」 込み上げてくる倦怠感。フル活用される椅子の背もたれ。首も腕も一切後ろへだらしなく垂らす剛太は自分でもこの任務 に対するモチベーションがダダ下がっているのに気づいた。もういい。めんどい。やっても無駄。そんな感じだ。 「だがもし彼がホムンクルスだった場合──…」 「わかってるよ。被害甚大だって。ホント真面目なのなお前。じゃあ……もういっそ当人に聞くか?」 「ぶっ」 投げやりな意見だが桜花はウケたらしい。はしたなく噴き出た吐息を艶やかな唇ごと押さえてぷるぷる震え出した。 「い、いくら津村さん来れないからって……(クス)…………そんな露骨に……(クスクス)……投げなくても……本当、分かりや すいんだから剛太クン……(クスクス)」 「あっそ。でも俺はあんたの笑いのツボが分からねーけどな。今のドコにそんなウケる要素が……」 「笑いのツボは人それぞれだお! だからこそそれを見極めるコトに意味があるんだお!」 「うわああああああああああっ!」 剛太が手足をバタつかせて椅子から転落したのは、絶賛のけぞり中の視界を巨大な逆さ顔に占領されたからである。 アップで見るその顔の大迫力よ。碁石のように黒々とした瞳には瞼も睫も何もなく、剛太はその男がやはり人外めいてい るコトを再認識させられた。転倒とともに視界が反転。逆立ちしてた渦中の人物が元に戻る。やる夫社長がそこに居る。 「お? なんでビックリしてんだお? やる夫呼んだのはあんたらじゃねーのかお?」 はぁ? と威圧的な声を喉の水面ギリギリに押し込めて剛太はやる夫の背後を見た。まひろがVサインしている。つまり はそういうコトだ。 「何か御用あったようだから呼んできたよ!」 「あーハイハイ。ありがとうございますってんだ。ケッ」 小声で吐き捨てる剛太の横できらびやかな笑顔が「お待ちしておりましたー」とばかり花咲いた。 そして彼女はやる夫社長との事務的な「お呼びしてごめんなさい → いいお」的な会話をサクっと終えてこういった。 「実はここにいる男のコたちが人生について相談したいそうなの!」 「え?」 「なっ!?」 ぎょっとする剛太と秋水に構わず桜花はバスガイドよろしく手首を返し、右手の彼らを指し示した。「みなさま右手をごらん 下さいませ。こちらは若さゆえ苦しみ若さゆえ悩み心の痛みに今宵も一人泣く男のコたちです」。そんな紹介の仕方だった。 「ほー。人生相談かお。やる夫を見込んでくれたんだったら答えるお!」 やる夫社長は相当気さくらしい。突拍子もない申し出をあっさり笑顔で快諾した。 (何だよこの展開。な、お前の姉貴何考えてるんだ) (分からない。むしろ俺が聞きたいのだが)
235 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:07:34 ID:/w/PQfsD0
まったくこういう時の桜花は機転が利いて利いて利きまくるらしい。「あらあらちょっと躊躇っているようね。恥ずかしがり屋 さんだから」といかにもなフォローをした。武藤まひろの唐突な行動をよくここまで活かせるものだと剛太は感心した。 「社長さんにお時間取らせるのも悪いから私が短く説明するわね。1人は恋について悩んでいるの。色々お世話になった 人が大好きなんだけど、その人には心に決めたカンジの人がいて、入り込む余地がないそうなの。でも諦め切れなくて 毎日毎日悩んでいるとか」 「ほう。それはまた」 いぎたない笑みが自分を捉えたような気がして剛太はゾクっとした。2人いるのになぜ分かったと。 「で、もう1人は昔いろいろあって人間不信になっちゃって、ちょっとした暴力事件を起こしちゃったの。でもその被害者 さんが何も責めずに後で助けてくれたから自分も頑張ろうって思ってるんだけど……ふふ。不器用だからなかなか動け ないみたいね。世界に対してどう頑張っていけばいいかまだ手探りって感じなのよ」 「ほほう」 (……だから姉さんは一体何を考えている) 「で、ちょっとでいいからアドバイスしてくれたなんて思ってるんだけど……いいかしら?」 「可愛い女の子の頼みなら大歓迎だお!」 「まあ社長さんったらお上手」 「メイド通り越してホステスになってるぞあんた」 実に世慣れしている桜花に剛太は愕然とした。これで昔は秋水以外に心を鎖していたというから驚きだ。 「んー成程。どっちがどーいう悩み持ってるかだいたい分かったお」 頬杖をついたやる夫社長の顔はちょっと意地悪い。うら若い青年の青臭い悩みをいじるのが楽しくて仕方ないという感じだ。 「まず恋の方はアレだお。全力でやるべきだお! 完全燃焼すべきだお!」 「!」 遠近法無視でドーンと差し出された指に剛太は息を呑んだ。 「フラれるとかフラれねーとかそういうのはどうでもいいお! くすぶったまま終わるっつーのが問題だお! 大事な恋にな んもできずに終わったら男として終わるのだお!」 「!!!!!!」 「だから自分にできるコトを徹底的にやるお! 誰に笑われてもいいお! 自分を磨いて磨きまくって、好きな人に追いつけ るよう努力するんだお! その結果が例え敗北だったとしても! 足掻きぬいて積み重ねたもんは自分って存在を一層素敵 にしてくれるもんだお」 (な、なんだこの頬を伝うもんは。俺は……俺は……俺は感動しているのか? こんな奴に……) 「で、そしたらしめたもんだお。綺麗な思い出とカッコいい自分が同時に手に入るんだお。そりゃあ振りむきゃ辛いかも知れない けど、それを肥料にしてもっといい出会いが舞いこむ土壌が整うのだお。人生ってのはそういうもんだお」 「社長オオオオオオオオオ!」 もう剛太は止まらない。涙ながらにやる夫社長の手を持ってブンスカブンスカ振りたくった。決めた。戦士やめたらこの社 長のいる会社に入りたいと。若手技術者になって歯車作ってもいいと。 「で、世界に対してどうするかっつー問題は難しいもんだお」 「はい」 一方の秋水はそれが死活問題であるからすくりと居住まいを正しやる夫社長に向かい合った。 「ただ、人のためにありたいっつーならきっと間違いはないお。やる夫はお前がどういう仕事に就きたいかは知らないけれど 人のためにありたいって思ってるなら、それはきっと上手くいくお。もちろん、辛いコトも不条理なコトも沢山あるお。降り注ぐお」 「分かっているつもりです」 「なら根本的なところでは大丈夫だお。人の輪ってのは大事お。やる夫だって色んな人の助けがあったから、社長をやって いられるんだお。もし退職したら全国巡って従業員全員と握手したいぐらいだお」 「人の輪……」 「後はまあ、堅すぎるのはよくねーってコトかお?」 「と言うのは?」 「やる夫の師匠がいってたけど、恋愛しない奴ってのは良くないお。人間としての面白味が出てこないんだお。だからお前も 恋愛をしてみるべきだお」 「恋愛、ですか」 「そこのコとかどうだお? ウチの娘に似てて性格良さそうだおwwwwwwwwwwwwww」 「え?」 「え゛っ!!」 やる夫社長の視線を追った秋水は真赤になるまひろを目撃した。そして目が合った。彼女はまん丸い目を気恥しそうに 見開くと、照れくさそうにプイと顔を背けた。秋水もまた然り。若干速くなった鼓動と呼吸を意思の力で鎮静すべく務めた。思 考がそれのみに留まるよう懸命に努めた。まんざら知らぬ仲でもないから余計に気まずい。
236 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:08:32 ID:/w/PQfsD0
(まひろちゃん……あ、そこのコはね、さっきいった被害者さんの妹なの) (なるほどwwwwwwww あんな堅物がここにいんのもそのせいかおwwwwwwwwwwwwwwww) ニヤニヤとするやる夫社長の前で剛太だけは(はいはいバカップルバカップル)と毒づいた。 「まあとにかくだお! お前たちの得手に帆を上げてみるお。そしたらきっと人生楽しいお」 「はい!」 元の席めがけて歩きだすやる夫社長に、青年2人は気持ちのいい返事をした。 固い絆が芽生えた。彼らはみなそう信じた。 だがこの1分後、剛太はやる夫社長の後頭部にモーターギアをお見舞いした!!! 要するに剛太は彼の正体を暴かなくてはならない! だがこの辺りチマチマチマチマやっても面倒くさい! ただでさえ作者は勝手に始めた過去編の重苦しさに頭を抱えてい るのだ! なんだよあの長編! 糞長かった鐶戦ぐらい続いてるよ! ブログ連載を始めた結果がこれだよ! よって終南捷径、目的達成への近道。 色々考えた結果。 剛太はモーターギアをこっそり投げた。手順は簡単。まず店全体に広がる人混みを見る。観察。次なる動きを完璧に予 測したところで──…投擲! ギアのごとき戦輪(チャクラム)が人混みに投げ入れられた。誰も気づくものはいなかった。 どのメイドがいいか下卑た談議をする男性2人の間を走り抜け、軌道上にすっ転ぶドジっコメイドも鋭く急上昇して余裕で 回避。天井近くでフォークよろしく急降下したその先で、一気飲みやりますと立ち上がった男性がいたが当たるコトなく通り 過ぎた。「?」 一気飲みをやりおおした彼はジョッキ片手に後ろ髪を触った。何かがそよいだような気がした。 そうして複雑な人波をギザギザと曲がりながらすり抜けていく戦輪。いささか現実離れしているが、しかし「速度・角度・回 転数を事前にインプット」可能なモーターギアである。理論からいえばこの程度の芸当はできて当然といえた。むしろ恐る べきは剛太の頭脳。彼は人混みを構成する何十人という人間の動きを読み切りモーターギアを投げた。一口に読むとい っても遠くの人間の様子など普通は分からぬものだ。まして分かった所で彼らは遠くにいる。モーターギアが彼らに到達 するまでに相当の時間差が生ずるであろう。様子は直接伺えない。にも関わらず5手6手先を読まねばならぬという複雑さ。 それを解消したのが桜花の武装錬金・エンゼル御前に付帯する自動人形である。やる夫社長に似た2頭身の似非キュー ピーは片手にケータイ持って密かに天井を飛んだ。そして剛太が肉眼で視認できぬ場所へ行くと、頭頂部アンテナに内蔵の マイクで音を拾った。 「本当は私の声を送るんだけど、逆も一応できるわよ」 桜花が差し出した手には籠手。ハート型の端末から御前を介し遠くの音が聞こえてくる。次いで剛太のケータイに着信。 御前の撮影した客どもの画像がリアルタイムで送られてきたのはいうまでもない。 「わー、まるで探偵みたい! ゾクゾクするね!」 まひろの黄色い歓声は黙殺。剛太は集まってくるあらゆる情報を分析し、「人混みを静かに抜けてやる夫社長だけに 当たる軌道」を算出。それに応じた速度と角度と回転数をモーターギアに入力し、投げたのである。距離が遠ざかるにつれ て生ずるであろう時間差さえ計算に入れていたようだから、いやはやまったく彼こそ現実離れした存在といえよう。 やがて淡い光の波がやる夫社長の後頭部すれすれでUターンし人群へと消えた。それとなく検分に赴いていた秋水もま た一頷きすると自席めがけ歩き始めた。彼は見た。白饅頭のような頭部は薄く削られ血を滲ましたきり再生する気配を見 せない。 再び人混みに没したモーターギアは人知れぬ複雑軌道を描き剛太の手中へ戻っていく。だが多くの者は気付いていない。 狙い撃たれたやる夫社長でさえ痛みを感じているかどうか。 (知らぬが仏、ね。バレたら大騒ぎよ) ヴィクトリアの面頬に本来の尖った冷笑が広がったのは、灰皿ほどある鋭利な歯車が耳元を通過した瞬間だった。 (大方あの社長がホムンクルスがどうか確かめようって魂胆でしょうけど……上手くいったかしら?) 「どうやら違うようだな。傷が再生しなかった」 席に座るべくラタン椅子を引く秋水へ「そうか」とだけ剛太は頷いた。 「じゃあシロだな。ホムンクルスなら武装錬金で与えた傷もすぐ再生する。……てかオイ」 戻ってきた戦輪の刃を眺める剛太の顔色が変わった。つられて桜花も覗きこんだ。
237 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:09:30 ID:/w/PQfsD0
「あの人の血、赤だぜ?」 「まあ意外。てっきり緑色だとばかり」 品良く口に手を当て驚く桜花だが文言のひどさは否めない。 「とりあえず採血して聖サンジェルマン病院で分析してもらいましょう。人間かどうか知りたいし」 当然の如く取り出されたラミジップに「さすがメイド長」と目を輝かせたのはまひろである。 「でも、さっきからみんな何やってるの?」 「分析。要するにあの社長さんの頭削って再生するかどうか試した。自然に傷が塞がりゃホムンクルスな」 「でも近づいて攻撃したらバレるでしょ? もしホムンクルスなら迂闊な刺激は命取り。メイドさんたち巻き込む訳にはいか ないし」 「うん。お客さんもいっぱいいるもんね」 「とはいえ御前様の矢でさえ目立って仕方ないのよ。秋水クンの攻撃じゃ間違いなく大騒ぎ。だから剛太クンのモーターギ アでこっそり攻撃したの」 「アレ?」とまひろは首を傾げた。 「じゃあどうしてココで攻撃したの?」 「ハイ?」 剛太の反問を浴びたまひろはむずがりを一層強めた。剛太たちなりの理由があると思いながらそれが理解できてないと いう調子だ。薄くて太い眉毛はハの字にさがり視線もげっ歯類のようにオドオド彷徨っている。 「え……だってやる夫さんたちが帰る時は人気のないトコとかいくでしょ? なんでその時を狙わなかったのかなーって」 「「!!!!!!!!!!!!」」 剛太と桜花に戦慄が走った。 「確かにいわれてみればそうだな。どうして攻撃したんだい姉さん? 俺は言われるまま検分しただけだが……」 不思議そうな秋水をよそに剛太たちはとめどない汗を流し始めた。 (馬鹿!! 考えてみりゃそうじゃねーかよ! こんなトコであんな手間暇掛ける意味ねーよ!!) (で! でも剛太クンだってノリノリだったじゃない! 「後で斗貴子先輩に報告したら褒められるかもなー」とか何とかで) 汗ダラダラで密談する2人。その足元をネコが通り過ぎた。 「わー、ネコさんだ! ネコさんが来たよ秋水先輩!!」 「確かにネコだが……しかしなぜココに?」 どこから迷いこんで来たのだろう。全身ブルーのネコが赤い絨毯の上をうろうろしている。ブルーといっても秋水の愛刀 のような鮮やかなそれではなく、たとえばロシアンブルーの”ブルー”よろしく薄い墨色に近い毛色だった。 「なお。なーお。なお……」 お世辞にも可愛いとは言い難い、不機嫌そうな声を漏らしながらそのネコはゆっくりと歩きまわっている。しばらくその様子を 見ていたまひろはやにわに表情を輝かせしゃがみこんだ。 「ね、ね? どこから来たのネコさん? おうちはあるの? それとも野良さん? お腹に巻いてるのはなーに?」 よしよしと頭を撫でられるネコを一瞥した秋水は、「おや?」と首を傾げた。そのネコの腹部には金属製の器具が巻かれ ている。それはまるで貞操帯のようだった。キャタピラを思わせる武骨なベルトが丸々とした腹部を被い、背中には重そうな 合板が乗っている。それは何かをはめ込むためにしつらえられたらしく、中央に小さな四角形の穴が開いている。 (鍵穴……にしては妙だな。一体誰がこんな物を……?) 無意識に手を伸ばす。ネコが振り返った。そして一層強く「なお!」と鳴いた。 「取られるの嫌がってるのかなー? よしよし」 すっかり打ち解けたらしい。喉を撫でられ気持ちよさそうに目を細めていたネコはまひろに抱っこされても抵抗する気配 はない。「なお、なお。なーお」と掠れた声で鳴くばかりである。 一方、剛太と桜花のヒソヒソ話は終局に差し掛かっていた。 (元々発案したのはあんただろ! だいたい、店でやる意味ないって知ってりゃあやらなかったって!) (なんていうか……ゴメン) てへっと桜花が笑い、剛太は渋々と矛を引っ込めた。代わりに歯車を頭の奥から引っ張り出してもっともらしい理屈をつけ る。とはいえまひろの関心はすっかり迷いネコに移っているようでもあったが。 「邪魔で仕方ねー人混みでも攻撃隠すにゃうってつけな訳。分かる?」 「ふぇ?」 当たり前のようにネコを頭に乗せたまひろは大きな瞳を瞬かせた。 「聞けよ! それからネコで遊ぶな!」 「違うよ! ネコさんが探し物したいから乗せてっていったの!」 「ウソつけ! ネコがいうか!」 「本当だってばあ」 剛太の剣幕に傷ついたのか、まひろはるるるーと涙を流した。 「香美ちゃんが居れば良かったのにね」
238 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:10:15 ID:/w/PQfsD0
「あんなん役に立つか! つーか本題! 俺がモーターギア飛ばしたのは(人混み云々)って訳!」 「え!? それでもやっぱり危なくないかな? もし他の人に当たったらケガするんじゃあ──…」 「大丈夫だ。彼の手腕ならば絶対に当たらない。」 メイド服で一段と可憐さをました肩に手が乗せられた。秋水だ。 「更にあの武装錬金は攻撃力がやや低い。しかも回転数は極端に下げてあった。万が一当たったとしても大事には至らない」 「そうよ! 核鉄つけておけば治るし、いざとなれば私が傷を引き受ければ済むもの」 まひろはすぐ納得したようだった。そしてネコと遊び始めた。 (やや低い、ねェ) 一仕事終えた満足感も手伝ってか、剛太はつい口を綻ばせた。 (俺の武装錬金はパワーだけなら最弱クラス。やや弱いなんてもんじゃねェよ。いちいち変な部分で気遣うのなお前) 「でもホントのコト言われたら言われたでヘソ曲げるでしょ剛太クン?」 血液入りラミジップをピっと締めたメイド長は相変わらずニコニコしている。 「…………ほんと、性格悪いのに頭だきゃいいのな」 「お互いさまよ」 隣の席から歓声があがった。 「きゃあ! もー、くすぐったいってばあ。やめてー」 見ればまひろが抱えたネコに口周りをぺろぺろ舐められ大はしゃぎしている。気楽なもんだ(ものね)と2人はため息を ついた。 「…………」 秋水だけはややフクザツな表情である。 「じゃあ俺、帰るわ」 席を立った剛太に桜花は意外そうな顔をした。 「何だよその顔? 社長さんがホムンクルスじゃないならココにいる意味ないだろ? さっさと帰って他の残党の手がかり探 さなきゃならない訳。できたら先輩の加勢に行きたいし」 「そうね。分かるわ。やっぱり津村さんが一番大事だものね」 反論されるかと思いきやひどく沈み込んだ返事が来て、むしろ剛太の方が面喰らった。 「少しの間だけど剛太クンと任務以外で話せて楽しかったわ。ありがとうね」 見上げた桜花の瞳はうるうると潤んでいる。何というか一夜限りの恋が終わった相手を見送るような愛しさと切なさが 徹底的に籠っている。剛太とて男性である。女性にかような目をされるとあまり悪い気はしない。というか邪険にしすぎた かもという罪悪感さえ沸いてくる。 (……始まった。姉さんの特技が) 秋水だけは知っている。桜花が美貌をいいコトにシナ作ってイニシアチヴ握ろうとしているのを。だがバラせば後で冷たい 詰問を浴びるのは目に見えているので黙った。取りあえずすっかり氷が溶けた渋茶を口にし間を持たす。 「わーったよ。念のため社長さんが帰るまでは居てやるから変な顔すんなって」 「本当にいいの? 任務に支障はないの? こんな私なんかと過ごしてていいの?」 「別に。任務放棄して駆けつけたら先輩すっげー怒るだろうし」 「ありがとう剛太クン。ありがとう……」 「ブフー」 余りにクサすぎる芝居にとうとう秋水は生ぬるい渋茶を吹いた。振りかえった桜花が何か言いたげにしていたようだが それは無視してテーブルを拭く。 (何も見ていない。俺は何も見ていない……) 「で、ヒマつぶしに何するの? 引き留める以上ちょっとは面白いコト用意してるよな?」 「ある訳ないじゃない。他の男の人ならともかく剛太クンが相手よ? 並のサービスじゃ引っかかる訳ないじゃない。漫画が 違ったらもっと過激なお色気攻撃できるけどこの漫画はToLOVEるじゃないもの。ToLOVEるだったら色々できるんだけど」 「ここがそーいう店じゃないっつったの誰だよ。つかToLOVEるって何だよ」 「それでも普通の人ならバナナあーんするだけで2万は落してくれるのよね。ボロいでしょ。まひろちゃんは良心的だから15円 でしてくれるけど……」 「やっぱ俺帰るわ」 顔面蒼白で立ち上がる剛太に魔法の言葉がかかったのはその瞬間である。 「でももし津村さんがメイド服着たらどうかしら」 ズッギューz_ン!! 剛太のハートがこれ以上ないほど的確に打ち貫かれた。 「なん……だと……?」 「もちろんヒラヒラしている服装だから好まないかも知れないわね。でもロングじゃなくミニならどうかしら?」 (ミニ!) 「エプロンもなるべくフリルを減らした方がいいわね。動きやすいように詰めるの」 (……いいかも) 「接客態度は基本無愛想ね。『まったく。コレぐらい自分で運んだらどうだ』とかいうの」 (くっはあ!!) 剛太は、陥落した。
239 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:11:53 ID:6NdKwaxjP
椅子に座りこんで「うわそれってスッゲよくねこんな所来るぐらいなら勉強しろとか説教とかされるんだぜ」とか何とか蕩け た顔つきで目まぐるしくメイド斗貴子を妄想しはじめた。 (ちょろいわね。後はメイド津村さんをエサにすればお話しする時間が稼げるわ) (何でそうまでして中村と話がしたいんだ姉さんは) 気に入っているのは確かだが剛太基準で見ればつくづく不憫である。いいように翻弄されてるだけではないか。 「ね! ね! 秋水先輩!」 「何だ」 「ネコメイドだよ私! ネコメイド!」 (また頭にネコを乗せてる) 乗せられた方もすっかり寛いでいるようだ。肉球を舐めてのんびり毛繕いしている。 「いらっしゃいませだにゃあご主人様! ご一緒に、ポテトはいかがですかにゃあ?」 豊かな肢体をくねくねさせるまひろは本当に楽しそうだ。 「だが俺はそう持ちかけられても上手く返せないのだが」 「大丈夫大丈夫! 私だって会話は下手だよ」 「下手? 君が?」 意外な思いでまひろを見ると、彼女はここぞと拳を固めて力説し始めた。 「うん。だって私、思いついたまま喋ってるだけだもん! 何を隠そう私は脊椎反射の達人よ!」 「道理で……」 凄まじい脱力感と眩暈に見舞われながら秋水は頷いた。 思えばまひろの突拍子のない言動に振り回されたコトの多いコト多いコト。恐らく相手を自分のペースに引き込むから、 会話がうまいように見えるのだろう。空気が読めん空気が読めんリアルでいたら絶対ウザイといわれるのだろう。 「でも、上手じゃなくても何かいうコトに意味があるんじゃないかな。じゃなかった。じゃないかにゃあ?」 「あ、ああ」 いつものごとくふんわりした笑みにどぎまぎしながら、秋水は頬を掻いた。 「君のいうコトにも一理はある。会話上手というのは自分の領分に相手を引き込める者……かも知れない」 おお! とまひろは柏手を打った。頭上のネコはあくびした。 「さっすが秋水先輩! 言う事がカッコいい!」 「だろうか」 「うんうん。そんな感じでいいと思うよ」 とまひろが頷いた瞬間。それは来た。 「ハーッハッハッハ! この店は俺が占拠したぞ! 命が惜しければおいしい物沢山持ってこい!」 「きゃああああああああああああ!」 絹を裂くような叫び。店内中央付近でどよめきが上がり人の波がぞわりと引いた。 (まさか──…) (ホムンクルス!?) 目配せし合った剛太と秋水は叫び惑う人々の中をかき分け騒ぎの中心点へと駆けた。桜花は神妙な面持ちで防人へ 連絡を入れ、まひろは固唾を呑んで成り行きを見守り始めた。頭上のネコが飛び降り、ゆっくりと歩きだす。 「馬鹿な! ポッキーゲームが廃止されているだと!? おのれえディケイド! 貴様はメイドカフェさえ破壊するのか!」 「きゃあ! 助けてー!」 「うるせえ! うまいもの沢山持ってきたら解放してやる! 静かにしろ!」 人混みをかき分け最前列に出た剛太たちの目の前には──…2人の男と1人のメイド。 1人は中年男性で、眼鏡にフェルト帽を付けている。 そしてもう1人はヴィクトリアの肩に手を回し、頬の辺りにがっしりとナイフを突きつけていた。そのナイフはステーキとか切 る奴だ。空になった鉄皿がテーブルにあるところを見るとどうも突発的に「やらかした」気配が濃厚だ。 そんな男の年齢は秋水と同じぐらい。逆立った髪とメガネの奥で光る酷薄な瞳が特徴的。 「! 君は!」 「知ってるのか早坂?」 「ヒッ!!」 最後の男が秋水を二度見してから悲鳴を上げたのは、剛太の質問とほぼ同時だった。 「馬鹿な! 秋水だと? なんでお前がこんな場所にいる! おかしいだろ! お前の性格なら剣道場にでも行って見学な り指導なりする方があってるだろ!! ああ!?」 「俺と同じコトいってやがる。つーか……知り合いかよ」 「君こそ何故こんな場所にいる? ええと……田中伏竜?」 「震洋だ! 鈴木震洋!」
240 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:12:51 ID:6NdKwaxjP
「ひっ!」 抗議した弾みか。銀の刃が人質たるヴィクトリアのふくよかな頬を掠めた。幼い顔がみるみると引き攣り「ちょ、落ち着いて 落ち着いて〜」と抗議さえ始めたが通じる気配はまるでない。震洋は吼えた。 「元L・X・Eの信奉者で! 生徒会書記の!! 思い出せって!」 「わーん。抗議するのはいいけど動かないでー。ナイフ怖いナイフ怖い」 この場で一番迷惑してるのは間違いなくヴィクトリアだと剛太は思った。興奮状態の震洋はその言動が人質にどういう影響 を与えるか全く分かっていないようだった。恐らく不意に現れた元同僚かつめっちゃ強い剣客をどういなすかばかり考えてい るのだろう。まずは鎮静が第一。そう目くばせした秋水も同じ考えに至ったらしい。きっと剣聖上泉信綱の「おにぎり差し入れて 立て籠り犯大懐柔作戦」を思い出してる。絶対。 (てゆーかさっさと助けて頂戴。振り切るのは簡単だけどそうしたら私がホムンクルスってバレるかも知れないでしょ。ああ鬱 陶しい。何でナイフ怖がらなきゃいけないのよ。こんなの刺さっても死ぬ訳ないのに 底冷えのする瞳でヴィクトリアはそう語っているようだった。「多少の無茶はいいようだな」と剛太が思う頃、しかし秋水はあら ゆる事情と状況に合致した理性的反応を繰り出した。 「分かった。落ち着いてくれ。君のコトは思い出したし人質さえ解放してくれれば危害は加えない。だが──…」 「例の『もう一つの調整体』の廃棄版を使った余波で入院してる筈の俺がどうしてココに、か?」 「ああ」 短く頷く秋水がチラリと剛太を見た。 (注意引き付けるから人質助けろってコトね。命つーか正体の秘密やらいまの生活守るために。つってもどうすりゃあいい?) 震洋の傍にいるフェルト帽も仲間であろう。一見どこにでもいそうな平凡な顔つきの彼はただ無言で佇んでいる。その様子 に剛太は却って底知れない不気味さを感じた。感じつつも思考の歯車を組み合わせていく。。 (こいつもL・X・Eの残党って可能性は高い。ホムンクルスかもな。さてどうしたもんか。人質が人質だけに多少の無茶はでき るけど、もう一人の能力が分からねぇ以上、迂闊に飛びこむのも危険) ポケットの中の核鉄をいつでも発動できるよう構えながら、慎重に状況を読む。数の上では互角。人質も実質的には意味 がない。療養中なのを差し引いても秋水の実力は折り紙付きだし後ろには桜花が控えている。これで斗貴子先輩いればと 剛太は思った。しかし彼女は他校の生徒を救出すべく奮戦中だろう。無理は言えない。 (ったく。どこの学校の生徒だよ。俺の生き甲斐奪うなっての。とにかくだ。あの帽子のおっさんが先に動きゃ主導権握られ るかも知れねェ。クソ。なんでこういうメに遭ってんだ俺は) 豊かな髪を掻き毟るのは本日何度目だろうか。じれったい気分を持て余す剛太とは裏腹に、震洋は好き勝手に喚き始めた。 「秋水。お前はいいよなあ! あの金髪剣士に回復して貰ったんだから! だが俺は違う! ケガを抱えたまま入院する羽 目になった! 俺は怯えた! 健康保険未加入だったから10割全額請求されるであろう医療費に怯えた! 鳴滝さんと 出会ったのはそんな頃だ!」 「鳴滝?」 「そうだ! この世界はいずれディケイドによって滅ぼされる! それを防ぐために私はこの少年に近づいたのだ! そして 未納だった健康保険料を全て納め、高額療養費を活用するよう進言したのだ!」 フェルト帽の男性が一歩進み出た。 「早坂秋水! そして中村剛太! いいぞぉ、高額療養費は! 払ったカネが自己負担限度額を超えた場合、その分だけ 払い戻されるのだ! ははは! ふははははははは!」 呵呵大笑とは裏腹に店内は水を打ったように静まり返っている。メイドたちも客達も石像のように立ちすくんで事の成り行き を眺めている。あれほど歌っていたやる夫社長も難しい表情で人の波の中にいる。やらない夫専務は無表情。 「あ! びっきー!」 「まひろ! 来ないで! (別に気遣ってる訳じゃないわよ。鬱陶しいから来て欲しくないだけ)」 微妙な感情差を見せる女友達2人のやり取りを背景にやや硬い声を漏らしたのは秋水である。 「何故、俺たちの名前を知っている?」 「調べたのだよ」 目を細めた剣士めがけ無特徴なコート姿がゆっくりと歩きだした。赤い絨毯にコツコツという重い音が響いた。
241 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:15:06 ID:6NdKwaxjP
「君たち連金の戦士はいわばこの世界を守る存在! つまり! シンケンジャーと同じくライダーのいない世界に生まれた ライダーと同じ存在! ディケイドに対抗できるのは君たちしかいないのだよ! さあ、私と手を組みこの世界を救おうでは ないか!」 「なぁ、オッサン。そのディケイドって奴は何なんだよ? ホムンクルスか?」 「違う! 世界の破壊者だ!」 間髪入れず声を張り上げた鳴滝はいかにも胡乱な存在に見えた。 「奴はすでに幾つもの世界を破滅に追いやっている! カブトボーグの世界も! 魔法少女アイ参の世界も! 奴のせいで 調和が乱れたのだ! 我々が手を結ばなければいずれこの武装錬金の世界も滅ぼされるぞ!」 「つまり男爵様とか編集部みたいな存在かしらね?」 人混みからひょこりと首を出した桜花はそのままにこやかにすっこんだ。 「そうだ! ディケイドはすでに編集部さえ抱き込みこの世界を葬り去ろうとしている! 現にすでにファイナルは終わったの だ!! このままでは次の赤マルジャンプの武装錬金ピリオドで君たちの活躍は終わるのだぞ! 様々な伏線も構想も闇に 葬り去られ何かモヤっとしたものを残すのだぞ!! そうなってはおしまいだ! ファンでさえ最近微妙になってきたかなーっ て思わざるをえない次回作に取って代わられ、それさえもいずれディケイドによって滅ぼされる! あの2ヶ月の休載はその 何よりの証だ!」 「うっせーよおっさん」 憮然とした面持ちで剛太は踏みだした。 「何か色々言っているようだけど、要はてめえ、メイド人質にするような奴の仲間だろ? ンな奴に世界救おうとか言われて も説得力ねーよ」 うんうんと他の客とメイドも頷いた。更に秋水も歩み出た。 「同感だ。君のいうコトが真実ならば、なおさらこのようなやり方で訴えるべきではない。まず戦団に協力を要請し、その上で 俺たちと共に闘って欲しい」 至極真っ当な意見を浴びた鳴滝はしかし戛然と眼を見開き凄まじい声を上げた。 「おのれえディケイド! すでに錬金の戦士は籠絡済みか!」 「いや聞けって。お前単にディケイド嫌いなだけだろ」 「……くっ、ふははは! だが後悔するのはやはり貴様だディケイドぉ! 見るが良い! 貴様に加担した者がまた滅ぼさ れる様を!! ふははははは! はーっはっはっは!!!」 身を仰け反らしなお哄笑を上げる鳴滝の周りに灰色のオーロラが揺らめいた。とみるや、彼の周囲に三角頭の大男が5 体ほど現れた。あちこちひび割れたその姿を認めた秋水と剛太の表情が俄かに硬くなった。 「調整体!? どうしててめェが!」 「というよりどこから!?」 「調整体、だと? ふはははは! 違う! これは人造人間的な意味でのアンデッドだ! 断じて調整体などではない!」 「敵のデザイン考えるのが面倒くさいから調整体で間に合わせたのね」 人混みからひょこりと首を出した桜花はそのままにこやかにすっこんだ。 「気をつけたまえ! こいつらはとびきり凶悪で! 凄まじく下品な化け物どもだ! さあ、行け! 騒ぎを起こしディケイドを おびき寄せるのだ!!」 咆哮とともに調整体たちは四散し人混みめがけ乱入した。 「しまった!」 「追うぞ中村!」 「そうはさせんぞ! 行けッ! 『スロウス』!」 「!!」 阿鼻叫喚の人混みめがけ踵を返した2人の背後で巨大な殺気が膨れ上がった。 「行くの めんど くせー」 咄嗟に飛びのいた剛太たちの間を巨岩が通り過ぎた。巨岩? 違う。拳だ。赤絨毯ごと床板を破砕した”それ”はひたすら 巨大だった。成人男性でさえ人形遊びの要領で掴めるだろう。着地がてらそんな下らない事を思った剛太は、すぐさま腕の 主を観察し──…絶句した。 そこには筋肉の山がそびえていた。むろん山というのは形容で、手足もあれば頭もある。”それ”は異形ではあるが辛うじ て人の形をしていた。ただし彼の纏う筋肉はあまりに無軌道で野放図すぎた。上半身と両腕のみを肥大させているそれらは ボディービルダーのような計画性とは全く無縁だった。ただ無思慮に単純な力作業を続けた結果そうなったという感じである。 上半身はほぼ裸。黒いズボンから伸びる2本のサスペンダー以外は全て肌色だ。 「はず れた?」
242 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:16:08 ID:6NdKwaxjP
野太い指で口元をかく男の顔はひどく暗い。何本か顔にかかっている伸び放題の前髪と、目元に滲む薄暗さ──惰性に 身を任せ続けてきた者だけが持つ──が入り混じって凄まじい影を落としている。その闇に戦輪が吸いこまれた。額の辺り に刺さってぎゅらぎゅらと旋回し始めた。 (見えねーけど動植物型なら額に章印あるだろ! まずはそっちをやって──…) (人型の急所も斬る!) 鈍牛よりも遅く額に手を伸ばす男の胸が左から右に向かって真一文字に斬り裂かれた。巨漢の傍にいた震洋でさえ何が 起こったか一瞬判じかねた。サスペンダーの斬れるブツリという音を聞いてようやくおぼろげに事態を理解した程度だ。 大男の胸から血しぶきが飛び散った。取り巻く群衆から歓声とも悲鳴ともつかぬ声が張り上がった。 逆胴。息もつかせず飛び込んだ秋水は、しかし微動だにせぬ大男に息を呑んだ。 「馬鹿な。章印が……ない?」 血みどろの大男の胸にはあるべき物がない。とはいえ胸を深く斬られたのは確かだ。並のホムンクルスでならば痛み に対し何らかの揺らぎを見せるであろう。 にも関わらず大男は無感情なあくびのような声を発して額の戦輪を取り去ったきり、ボンヤリと辺りを見回し始めた。正に 文字通り痛痒を感じていないらしかった。 「額も駄目かよ。じゃあこいつもホムンクルスじゃねーのか?」 「いいや! 彼はホムンクルスだ! ただし『この世界の』ホムンクルスとは全く違う! 章印などという弱点などありはしな いのだよ!」 けたたましい哄笑が響く中、 大男はのっそりと剛太と秋水を見た。両目は白く盲いているが視力自体はあるらしい。 「あれ? 女将軍 どこ?」 逆胴の傷が稲光とともに再生を始めた。面妖なコトに切断されたサスペンダーさえ修復しているようだった。一方、人混 みの騒ぎはますます加速する。入口に殺到する客やメイドがもつれ合い、転倒する者さえ出始めたようだった。 「くそ! 早く倒さないと客とメイドがやられるってのに!」 「アレは俺に任せるんだ! 君は姉さんと一緒に皆を逃がせ!」 「任せろったって、お前まだ完全には──…」 刀を振りかざし疾駆する秋水を巨大な拳が迎撃した。 「いいや 考えるのも めんど くせー」 「ぐっ」 突き出された拳を刀で受け止めたのは、恐らく剛太を先行させるためだろう。肉厚の刃が嫌な音を立てて軋んだ。相当 肉厚のソードサムライXであるが、岩石のような拳の前では楊枝のように頼りなく見えた。それが剛太を躊躇わせた。 「いいから行くんだ! どの道俺の武装錬金では誘導と戦闘は同時にできない!」 「けど!」 「先ほど君の見せた機転を信じる! だから俺を信じてくれ! 大混乱の人混みの中で刀を振り回せばどうなるか。想像した剛太は不承不承そちらに向かって走り始めた。 「あ。そうだ。人質解放しとこう」 「!!」 鈴木震洋の頭にモーターギアが激突した。 彼は意識とヴィクトリアを手放しながら床に沈んだ。 (え? 俺の出番これで終わり? せっかくコレ貰ったのに……) 彼の手から化石を模したUSBメモリが落ちた。その拍子にどこか端末が押されたのだろう。こんな声がした。 「エンピツ」 大男の声にも似た、しかし若干違う声。それを聞きつけたネコが「なーお」とひと鳴きした。 (入口抑えられたみたいね。非常口も) レジカウンター前に佇むグレーの調整体をどうするコトもできず桜花達は立ちすくんでいた。人混みの動きは何とか止まり、 入口めがけ長蛇の列ができてるという感じだ。 (こういう時、光ちゃんいたら一瞬で片付きそうなんだけど……) 戦団に収監されている割と人間に友好的なホムンクルスたちを思って桜花はため息をついた。 「ちくしょー! さっきから矢ぁ撃ってんのに全っ然効かないぞ!」 トロロロロ……と奇妙な音を立てて舞い降りた御前はひどく恨めしそうに調整体を見た。 (それも当然。あの男の話じゃホムンクルスに似た別の存在らしいもの。一体どうすれば──…) 「頑張れ変なの!」「キューピー……さん? 頑張ってー!」「不細工だけは心意気は買うぞー!」 こんな状況なのに客もメイドもどこかノンビリしている。 「るせぇ! 変なのっていうな!」 「ハッ! 変な上にザコくて見てられないかしら! こーいう時こそカナの知略の見せ所かしら!!」
243 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:18:44 ID:3DfS2H+F0
人混みをかき分けてきた小柄な影は誰あろう金糸雀店長である。彼女はビシィ! と調整体を指差すと、得意満面で薄っ ぺらい胸を張った。 「どこのどなたかは知らないけど、あなたはもう終わりかしら! カナの秘策はすでに炸裂しているかしら!」 「おおー」「さすが店長」というどよめきを指揮者じみた手つきで沈めると、彼女は会心の笑みを浮かべた。 「すでにセコムよんだからもうすぐ全て解決かしら!」 人々は黙り込んだ。「セコムじゃ無理だろ」「やっぱ店長だ……」と失意に満ちた呟きがぽつぽつ聞こえた。 「ところでやる夫社長たちは?」 「ん? ああ!」とまひろは部屋の隅を指差した。 「あのたまにチカチカ光ってるのがそうだよ!」 「えーっと」 火花と火花とぶつかりあって、たまにそっから手品のように出てきた調整体が蹴りやら蹴りやら浴びて血ヘドを吐いている。 勝負は五分というところか。やる夫社長とやらない夫専務が攻撃を喰らう場面もあり、タンコブとか生傷がどんどん増えていく。 「べ、別次元の戦いね」 「ロンベルクとミストバーンみたいだね」 「溶かせろォ〜! 服だけを溶かす都合のいい粘液を……喰らえッ!!」 無視されたのが悔しかったのか。入口の調整体が動いた。次の瞬間、彼の口から溢れた白い粘液がメイド達を襲った。 「きゃああああああああああああああああ!」 「やべ! 誰かやられたか!!」 人混みをどかしながら入口へと駆け付けた剛太が見た物。 それは。 肌色天国。 太ももとか胸とか腹とか露出した可愛いメイドが羞恥に頬を染め。 豊かな胸を露出した桜花が憤懣やるせない様子でそこを隠し。 一糸まとわぬ姿のまひろが「かあっ」と顔面を上気させてしゃがみこんでいる。 なんてコトは、なかった。 ただ全身白濁でベトベトになったでっかい坊主がメイドたちの前に立ちふさがっているだけであった。 粘液は全てが彼が防いだのか。 もちろん裸である。無かった事にされかけている序盤当時のブヨブヨ腹さえだらしなく垂れている。 「間に合ったか! 我の仲間に手出しはさせんぞ!」 念仏番長。このメイドカフェのオーナー。 彼は最悪のタイミングで帰って来たのである。顔は白濁でどろどろだが誰が喜ぶというのか。 「死ね!!」 「死ね!!」 「空気読め!!」 男性客と調整体の心はこの時初めて一つになった。大挙する男どもが念仏を持ち上げると調整体が電気系統の故障か 何かで開かなかった自動ドアを笑顔で開けた。そこから念仏番長が廃棄されたのを合図に再び粘液がメイドたちに降りか かった。念仏が壊したユートピアはいまここに復活を遂げたのである。もちろん男性客らは一瞬ばかりの眼福と引き換えに メイド諸氏からの信頼を著しく損なったとは気付いていない。目先の利得に踊らされ真っ当な努力や信頼を放棄する衆愚 の縮図がここにあった。 「馬鹿だアイツら」 唖然とする剛太。そして念仏は再度閉ざされた自動ドアを号泣しながら叩いている。仏撃使えよ、まず。 「ぐは!」 「きゃあっ!?」 そこに秋水がフッ飛ばされてきてますます混迷を極めた。何で飛んで来たかと剛太が店内を見ると「本気 出すの 超め んどくせー」と跳ねまわるスロウスがいた。原因はそれだ。一方秋水は全裸のまひろを組み敷く形になっていた。様々な 力学的要素が複雑に絡み合った結果そうなったのであろう。いわゆるToLOVEる現象である。互いの状況を理解した2人 はバツの悪さと、動揺と、わずかばかりの甘酸っぱいトキメキを乗せた複雑な表情をしつつお約束の赤面をした。そして素 早く離れる2人。「これを」と後ろ手で学生服の上着差し出す秋水の声はぎこちなく上ずっている。まひろはまひろで秋水の 方を見れないという感じの無言でコクコク頷いて急いで羽織った。ああ、ストロベリー。一部始終を目撃したメイドや客や桜 花や御前はほんわかした。調整体とスロウスもにっこり笑って手を繋ぎ点描トーンの中の人になった。これで万事は解決した。 愛は世界を救うのである終わり。 「ははは! かかったな! 今のはフェイントだ! やれ! 調整体! スロウス!」 「ラブコメとか めんどくせー 恋愛とか めんどくせー」 「がはあ!!」
244 :
永遠の扉 :2010/01/29(金) 01:21:21 ID:3DfS2H+F0
(バカップルやってるからそーなるんだよ! 馬鹿ッ!) 剛太が嘆く中(ちょっとざまあwwwと思った)、殴られた秋水は店の中へ飛んでった。椅子をいくつかフッ飛ばしテーブルブチ折ってようやく止まった。 それを追うスロウスはいよいよトドメに移ろうとしている。 「早坂……ぐっ!!」 背中を通り過ぎる鋭い爪の感覚に剛太は我が身の不覚を悔いた。秋水に気を取られたばかりに調整体に斬られた。 だが不思議と秋水を恨む気持ちはない。桜花もまひろも彼を見ている。その瞳に宿る光は──… (俺が先輩心配する時と同じじゃねェかよ! だったらアイツ見捨てる訳にゃいかねえ! だが!) 体のあちこちにモーターギアの跡を刻みながらもなお動く調整体に激しい苛立ちが募る。 (章印もない奴相手に攻撃力最弱じゃ歯が立たねえ! せめて先輩か誰か、もう1人でも居てくれたら!) 桜花目がけて爪が振り下ろされるのが見えた。考える暇はなかった。ただ突き動かされるまま剛太は走り──… 鳴滝の笑いが爆発した。 「やはり君が世界を守るのは不可能なのだよ早坂秋水! あれだけの罪を犯しておきながらのうのうと錬金戦団に下る ような者など世界は歓迎しない! しょせん君はディケイド同様、世界から追放され、隔絶されるべき存在なのだ!」 「そうだとしても、俺は諦めるわけにはいかない! この街を守る。そう約束しているんだ」 よろけながら立ち上がる秋水に鳴滝の容赦ない哄笑が刺さる。 「さあ! その状態で果たして本気のスロウスの体当たりを避け切れるかな!」 壁を跳ねまわり超高速を得た筋肉の弾丸が秋水目がけて殺到した。 「あ、あああああ……」 豊かな胸元を隠しながら、桜花は形のいい唇を震わせた。 「何発モーターギア喰らっても死ななかった奴が……一撃だと?」 いま正に頭を吹き飛ばされ空間をズリ落ちていく調整体に剛太も慄然とした。 「まったく」 金と青の直線が目立つ50口径の銃を構えたその男は、大儀そうに呟き 「やっぱり素手じゃ無理だろ。常識的に考えて……」 襲い来る4体の調整体をあっという間に一掃。そして銃身にカードをセットした。 「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 その男は数百キログラムはあろうかというスロウスを真正面から受け止めている最中だった。 裂帛の気合にも似た、しかしより野暮ったくて原始的な叫びを轟かせる彼の体は秋水よりも小さい。 にもかかわらず、絨毯におぞましい裂傷を刻みながらもスロウスを受け切っている。 動きが止まった瞬間、丹田から絞り出すような唸りを男は上げ、重量なら数十倍はあるスロウスを……『投げた』。 遥か遠くの壁にスロウスが叩きつけられた。衝撃がメイドカフェを貫き全てが揺れる。 舞い落ちる埃の中で鳴滝は、ただその男を唖然と眺めていた。 全身から汗を流し秋水の前に立ちすくむその男は、ひどく不格好だった。 3頭身で不細工で、ぶよぶよと肥っていて……しかし誰よりも強い意思を以て鳴滝を睨んでいた。 腰にはベルト。カメラのようなバックルが特徴的な、ベルト。 「罪を犯したから世界が歓迎してない? ああ。確かにそうかもだお。時には強く無情な風がこいつを襲い、仲間にさえ過 去を詰られるコトもあるだろうお」 けど! と彼は秋水を指差した。 「けどこいつは自分の犯した過ちを悔い、今でも償おうとしているんだお! 例え世界に歓迎されずとも、何度だって立ち上 がり誰かのために闘うだろうお! 罪を犯してしまったからこそ、それを許してくれた人間のために戦える! 世界に歓迎さ れなかったからこそ、歓迎してくれる誰かのために身を削れる! そんなコイツをお前が侮辱していい道理は絶対ないお!」 鳴滝の眉が不愉快そうに跳ねた。 「貴様……何者だ!?」 「通りすがりの仮面ライダーだ! 覚えておけ! ……だお!」 カードが1枚。彼の手の中で翻り、バックルへと叩きこまれた。 「変身!!!」 バックルのサイドハンドルが交差を描く両手によって押し込められた。そして走る残影と真紅の柱。 オートバイメーカー社長・入速出やる夫社長(48)が引き起こす意外な変貌に秋水はただ唖然とするばかりであった。 「つー訳だ。群衆の前でやるのは気が進まないが──…変身」 天井に発砲したやらない夫専務の周囲にも残影と群青の柱が走り……。 「ディケイドとディエンドだと! 馬鹿な! 『奴ら』以外にも存在するなど……私、聞いてない!」 鳴滝が絶叫する中、彼らは姿を変えた!
どうしてこうなった! どうしてこうなった!
本当にどうしてこうなったすぎるw これでいいのかw 再開前から雰囲気がかわりすぎだー
イグナッツとプリマヴェラ、そしてまだ意識が戻らずイグナッツに抱えら れたメディスン。三人がホテルの外に出ると、一台の自動浮遊カーが止まっ ていた。中層の世界的大手自動車メーカーが作った最新式の浮遊カーだ。そ れを見てイグナッツは口笛を吹いた。さすがはマダム・マルチアーノだ。迎 えの車はこちらで用意するとの話だったが、これほど豪華な出迎えが来ると は。 その車は中層の富裕層が使うものだった。自分達のような人間には一生縁 のない人間たちが乗り回す車だ。腐るほど金を持ったセレブたち。浪費する 特権を生まれながらにして許された人間たち。 貧民層が多い下層の住人では、たとえ一生かけてもこの車を買うことはで きないだろう。それ故にイグナッツは、車上荒らしにあっていないか心配し た。こんなところに無造作に置いておくのは如何にもまずい。だがそこはさ すがはマルチアーノ、対策は完璧だった。 浮遊カーの電子ロックには、幾重にも厳重なプロテクトがかけられていた。 中層の大企業の情報蓄積機関(インフォメーション・エンジン)に易々と侵入 できる腕利きのハッカーですら手間取るレベルのプロテクトだ。時間をかけ れば十分に解除できる代物だったが、車上荒らし程度でそんな労力を払う人 間はいない。もちろんふたりはハッカーではないし、さらに、マダムから解 除パスワードを知らされていなかった。 だが問題はない。何故ならばプリマヴェラがここにいるからだ。 彼女はドールだ。彼女には量子の魔法がある。 「Open sesame!」 プリマヴェラの嬉々とした声と共に、ロックの解除を示す電子音が響き、 呆気なくドアが開かれた。
量子の魔法。それは、リリム=デッドガールのみに許された、世界を侵蝕 する禁じられた遊び。その魔法はどんな高度な電子プロテクトも狂わせる。 この場所、このときを限定すれば、プリマヴェラ以外に浮遊カーのドアを 開けることのできるものはいない。そういう意味で、マダム・マルチアーノ の采配は見事と言えるだろう。世界中で迫害されているドールを保護し、そ の性質を知り抜いている彼女ならではだ。 もっとも例外も存在する。電子攪拌(スナーク)という異能の使い手ならば 話は別だ。一流の電子攪拌の使い手は、次元違いのプロテクトがかけられた 都市行政の管理下にある交通管制システムや公安局の各種呪文編纂機関にさ え干渉できるという。 だが電子攪拌の使い手はあまりに少ない。最近都市で名を上げてきた金色 のネズミを相棒(バディ)にしている事件屋(ランナー)が、その電子攪拌の使 い手らしいが、彼女の活動場所はもっぱら中層であるという。 イグナッツは後部座席にメディスンを寝かせ、自身は運転手席へと乗り込 もうとする。正規の運転免許は取得していないが、車の運転は得意だ。異形 都市に来る前に住んでいたバンコクでは、プリマヴェラとふたりで、敵対組 織の凶手と熾烈なカーチェイスを繰り広げたことがある。 だが今は、イグナッツは運転する気分ではなかった。そしてそれはプリマ ヴェラも同じだった。 「運転は機械にまかせましょ?」 そう言ってプリマヴェラは左手を伸ばした。再び、量子の魔法。電子機関 の塊たる浮遊カーの中枢部に干渉する。起動を示すシグナルが点灯、行き先 をオールドタウンに再設定。後のことはすべて機械がやってくれる。
「疲れたわ」 後部座席に背を預けたプリマヴェラが大きく息をついた。彼女に次いで車 内に入ったイグナッツがドアを閉めるのと同時に、自動浮遊カーが走り出す。 「そのわりに満足そうな顔してるじゃないか」 「まあね。久々の仕事だったもの。吸血人形(デッドガール)の面目躍如とい ったところよ。でも今日は、血を味わうことができなかったわ」 「できなかったんじゃなく、したくなかったんだろう?」 「わかってるじゃないの、イギー。血は甘いしおいしいから好きだけど、汚 い血は飲みたくないもの」 プリマヴェラの手がイグナッツの首筋に伸びる。冷ややかな指先が触れる。 人間が持つ体温ではない。陶器のように熱がない。こういうとき、彼女は人 間ではなくドールであると思い知らされる。 「あいつ臭かったわ。酒と煙草の酷い匂い。きっとどろどろの血が流れてい たはずよ。そんな血なんて、一滴も飲みたくない。でもねイギー、わたし、 昂ぶっちゃって仕方がないの。久しぶりに殺しをしたせいね。血が飲みたく て仕方がないの。ねえ、イギー。いいでしょ?」 熱に浮かされたような表情で、プリマヴェラはイギーの服を脱がしていく。 陶器の指がシャツのボタンを外していく。不健康そうな白い肌があらわにな る。プリマヴェラの指がイグナッツの首筋をなぞる。 「せめてオールドタウンについてからにしなよ」
「論外よ、イギー。偽善者みたいなこと言わないで。あなただって吸われた いくせに。ドールの蠱惑(アルーア)に溺れたいくせに。ねえ、ドールジャン キーのイギー……」 「ん……」 重なるふたつのくちびる。それは、青春時代に少年と少女が交わす、可愛 らしいくちづけではなかった。互いに求め奪い合う、獣のまぐわいだ。 プリマヴェラの舌がイグナッツの口内を蹂躙する。鋭く伸びた犬歯が口腔 を傷つける。広がる血の味。その甘美なる味わいに、プリマヴェラの動きが いっそう激しくなる。イグナッツは己の脳髄がぼんやりと痺れていくのを認 識した。痛みによってではない。プリマヴェラがもたらす途方もない快楽に、 脳髄がゆっくりと溶かされていくのだ。 苦痛と快楽。それこそ、ドールがヒューマンボーイに与える蠱惑(アルー ア)だった。この快楽に永劫たゆたっていたい。それは紛れもないイグナッ ツの本心であったが、いまはさすがにわきまえるべきだ。だからイグナッツ はプリマヴェラのことを押しのけた。 「そこまで。メディが目を醒ましたらどうするんだ」 ちらりと横に視線を流す。 奪還してきたアンティークドールは、まだ眠りに堕ちていた。 「いいじゃない、別に。みせつけてやればいいのよ」 それがどうした、といわんばかりにプリマヴェラは眉を寄せる。 「そういうわけにもいかないよ。マダムからぼくらに与えられた仕事は暗
殺だけじゃない。メディの教育も入っているからね。彼女にはちょっと刺激 が強すぎる」 「あなたはどんどん偽善者になっていくわね」 そう言ってプリマヴェラはそっぽを向いた。防弾処理がなされた窓の外に 視線を向ける。どうやら彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。 「ごめんねプリマヴェラ。けどこの埋め合わせはきっとするよ。きみが欲し がってた新しいコートだって買ってあげるから」 「いらない。買い物ならメグたちといっしょに行くわ」 メグというのはオールドタウンに住むリリムのことだ。彼女はアメリカ出 身で、自分と同じくリリムに変異した妹スーザン・トリンダーとともに、ドー ル迫害――親戚からの苛烈な虐待から逃れ、この異形都市に移住してきた。 そのような経歴をもつ少女(ドール)は珍しくない。オールドタウンの一画 に建てられたお城でずっと誰とも会わず暮らしている姉妹人形、メアリ・キ ャサリン・ブラックウッドとコンスタンス・ブラックウッドもまた、ドール 迫害の狂騒にあてられた人間たちから逃亡してきた少女(ドール)たちだ。 プリマヴェラは、同じような過去――リリムに変異し、家族や知人の迫害 から逃れてきた少女(ドール)たちと、とても仲良しになった。まるで普通の 人間の女の子のように仲良しになった。向日葵のように明るいメグやスーザ ンとはよく無限雑踏街にあるファッション・ショップに足を運ぶし、決して 他人を家の中にいれないブラックウッド姉妹とも、扉越しにではあるが楽し くおしゃべりをしたりする。 そんなプリマヴェラを見てイグナッツは、まるで時間が巻き戻ったようだ、
と思った。自分たちがまだ普通の少年と少女でいられた時代、いまはもう永 遠に失われてしまった、黄金に輝く青春時代のことを思い出した。 あの頃のことはあまり思い出したくはない。 だがいまのプリマヴェラを見ていると、ただの少年と少女であった頃の自 分たちをどうしても思い出してしまう。 プリマヴェラがリリムに変異しなかったなら、彼女はおそらくああいう風 に笑えていたはずだ。彼女は幸せに、人間として死ねたはずだ。 ふたりで互いに手を取り合い、魔界都市と化したロンドンから長い長い旅 に出て、生きるためとはいえ、そしてプリマヴェラのプログラムが人間の血 を欲していたからといって、彼女に人殺しの仕事をさせて、その手を血で汚 させることもなかった。 自分たちは普通の少年と少女ではなくなった。 自分たちは堕ちるところまで堕ちてしまった。 けれど―― 「おかしなイギー。ひとりで笑って、気持ち悪い」 「……笑っていた?」 「ええ。なにか楽しいことでもあったの?」 「……いや、どうかな」 イグナッツは曖昧に言う。 自分の人生はろくなことがなかった。奔放すぎる彼女に振り回されてばか りで命がいくらあっても足りない。だが彼女とともに生きていくと決めた。 愛する彼女とともに。たとえ地獄の底に堕ちるのだとしても、かつて彼女が
言ったように、死ぬまでふたりはいっしょに生きる。……運命が本当に℃ゥ 分たちに追いつくまでは。 ただ最近、その事情もいささか変わり始めているのだが―― 「う……んん……」 イグナッツの傍らで声がした。 眠っていたメディスンの瞼が、ゆっくりと上がっていく。 「……イギー……?」 不安げに揺れる澄んだ蒼色の瞳。それは、恐るべき《復活》の日を境に世 界から永遠に失われた美しきもの――太陽輝く青空の色だった。 意識を取り戻したメディスンはぎゅっとイグナッツの服の袖を掴む。 「……ここ、どこ……? あたし、誰かにさらわれて……」 「心配いらないよ、メディ。怖くて悪い大人(ヒューマンボーイ)はもういな いから。いまはオールドタウンに向かってるところさ」 そう言ってイグナッツはメディスンの頭を撫でた。 いまもまだ僅かに身体を震わせている彼女を安心させるように。 「……うん」 まだ薬が効いているのか、メディスンは眠たそうに眼を擦った。よほど強 い薬物を打たれたのだろう。ただの薬物で彼女がこれほど疲労するのはあり えない。そこらの薬物よりよほど、彼女の陶器の身体は毒性が強いからだ。
彼女は時計技師(ドールマイスター)の手で一から造られた自動機械人形で もなければ、人間の少女が変異したリリムでもなかった。 彼女はアンティークドール、鈴蘭畑に棄てられた愛玩人形が意思を持ち動 き出した、完全自律人形。それだけなら珍しくはなかった。《復活》の日を 境にこの世界はあらゆる御伽噺で満ちた。自由意志を持つに至った器物―― 妖怪付喪神≠ヘこの異形都市に腐るほどいる。珍しいのは彼女の力だ。 それは『毒を操る程度の能力』という脅威にして稀有なる力。鈴蘭畑に棄 てられ、まだ動くことができなかった愛玩人形時代のメディスンが、可憐な 花に宿る毒を吸って成長した末に得た力。有機物無機物問わずあらゆるもの を溶解させる恐るべき力だ。 人間の意識を失わせる程度の薬物など、逆に彼女の活力になってしまうだ ろう。だから彼女の意識を奪った薬物は、よほどの劇薬か、彼女専用に調合 された新薬だったのか。その真偽はもう確かめることは出来なくなってしま ったが―― 誘拐犯はプリマヴェラの手にかかって死に、こうしてメディスンを奪還す ることができた。彼女を誘拐したあの男が単独犯だったのか、それとも彼に 命じた組織がいるのか、まだまだ謎は残っているが、とりあえずはメディス ンに危機が及ぶことはない。 もし誘拐犯に仲間がいて、まだメディスンのことを諦めていないのだとし ても、マダム・マルチアーノ直属の殺人人形部隊《12姉妹》が報復に動き だすだろう。彼女たちに命を狙われて生き残れる人間はいない。 つまりはとりあえず安心してもいい状況だということだ。 少なくともメディスンが思い煩う必要はない。 とはいえ、まだ彼女の状態は万全とは言いがたい。オールドタウンに着く までまだ時間はある。だからイグナッツはもう少し休んだ方がいいと言った。
メディスンは頷きを返す。その瞼が再び閉じられて……。 「そんなことよりも」 だがそうは問屋がおろさなかった。 「あんた、わたしたちに言うことがあるでしょ?」 プリマヴェラだ。メディスンの顎を掴み、翡翠色の瞳で睨みつける。 「ごめんなさい≠ニありがとうございました≠諱A悪い子。あんたがお いたをしたせいでわたしたち、重労働する羽目になったんだから。まったく、 よりによってヒューマンボーイについていっちゃうなんて。時計ウサギに誘 われて井戸の底におっこちたアリスの方がよほど分別があるわ」 「…………」 「ねえ、黙ってないでなんとか言ったらどうなの? わたしたちが助けなか ったら、あんた、いまごろドールジャンキーに売り飛ばされていたところよ。 もしそうなってたら、どんなひどいことされたでしょうねえ。あいつらどい つもこいつも変態だから、あんたもしかしたら、達磨にされてたかもしれな いわよ。達磨だって、ドールの一種だしね」 「…………」 「プリマヴェラ、やめなよ。彼女はいま疲れて――」 「イギーは黙ってて。しつけはちゃんとしないと。でないと悪い子はすぐに つけあがるんだから」
「……きみにだけは言われたくない台詞だね」 「なにか言った?」 「いや、なんでもないよ」 じろりとこちらを睨むプリマヴェラの視線を受け流し、傍らのメディスン をちらりと見る。プリマヴェラの挑発的な台詞に、メディスンの表情がどん どん険しくなっていく。まずい――とイグナッツは思った。 このふたりは仲が悪い。非常に悪い。ことあるごとに対立し、口汚く罵り あう。いや、プリマヴェラだけではない。メディスンは、他のオールドタウ ンの住人と友好な人間関係を築いているとは、とても言いがたかった。 メディスンはいつもひとりだった。オールドタウンにたくさんいる仲間( ドール)の輪に決して入ろうとしなかった。いつも一歩引いたところからそ の様子を眺めていた。 ひとりで寂しそうにしている彼女を見かねて、一度メグとスーザンが遊び に誘ったことがあったのだが、そのときメディスンは、差し伸べられたふた りの手を冷たく払い、口汚い罵倒を浴びせた。まだメグはメディスンと仲良 くなるのを諦めてはいないようだが、それは難しいだろうと、イグナッツは 思う。 オールドタウンのドールは、誰も彼もが心に傷を抱えている。 メディスンもそうだ。彼女は大切なものを失った。 それは故郷。かつてこの世界にあった、幻想郷≠ニ呼ばれる数多の御伽 噺が集う夢まぼろしの地。 世界から忘却されたものたち――妖怪、妖精、神など御伽噺の住人たちの
最後の理想郷として存在していた幻想郷は、突如として終焉を迎えた。朝を 迎え儚く消える夢のように、水面に浮かんで弾ける泡沫のように、呆気なく。 滅亡の寸前、メディスンはいつものように自分の生まれた場所である鈴蘭 畑にいた。今日は何をして過ごそうとか、誰と会おうとか、そういうことを 考えながら。そのときのメディスンは、これまでと同じく、この穏やかで楽 しい毎日がずっとずっと続いていくのだろうと思っていた。そう信じていた。 疑うことすらしなかった。 滅亡のときのことは、あまり憶えていないのだという。憶えているのは、 硝子が割れるような音が幻想郷に響いたこと、空に亀裂が走ったこと、周囲 の景色が霞のように消えていったこと。 そして声が聞こえたこと。それはふたりの少女の声だった。メディスンは その声に聞き覚えがなかった。少なくとも、自分の友人知人のものではなか った。ただその一方の声は、あの境界の妖怪――八雲紫の声に似ていた。 とても幼く、まるで人間のような声だったけれど――メディスンにはそれ が、八雲紫が上げた悲鳴のように聞こえたという。 そして意識を取り戻したとき、メディスンは知らない場所にひとりでいた。 其処は知識として知っていた場所だった。幻想郷で生まれた彼女がこれま で目にしたことがなかったもの――すなわち、幻想郷の外の世界=B 妖怪としてはなり立ての赤ん坊に過ぎないメディスンにとって、幻想郷の 外の世界は地獄に映った。その頃の世界は、《復活》を始めとする魔導災害 によって混乱の極みにあった。凶悪な幻想生物の出現、ヨーロッパを滅亡さ せた〈眷属邪神群〉との殲滅戦による致命的な呪波汚染、少ない物資を奪い 合う人間同士の醜い争い。 そして中世の黒死病の如く蔓延するドール禍。目の前の現実から眼を逸ら
して、己の尊厳を満たすために犠牲者を求めるヒューマンボーイたち。大地 に墓標のように立つ、串刺し(ツェパ)にされた哀れな少女(ドール)たち。 人間の少女から変異したリリムではないものの、メディスンは危険なドー ルだとして、幾度となく〈人間戦線〉の再殺部隊に狙われた。怖い大人(ヒ ューマンボーイ)たちに幾度となく命を奪われかけた。 ……メディスンは泣きながらイグナッツに語った。人間がこれほど怖いも のだとは知らなかったと。自分が知る人間はこうではなかったと。性格に少 し問題があったが、こんなにも怖ろしく、そして誰かを平気で殺そうとする 人間ではなかったと。 そして心身ともにぼろぼろになりながら世界を放浪した末に、メディスン は此処、異形都市〈ケイオス・ヘキサ〉にたどり着いたのだという。 メディスンにこれまでのことを聞き出すのには、とても時間がかかった。 もともと人見知りの性格に加えて、外の世界での経験した出来事によって、 彼女は完全に心を閉ざしていた。 だからだろう、オールドタウンのほかのドールと決して交わらず、神経過 敏に誰彼かまわず敵意を向け、いつもひとりでどこか遠くの景色を見るよう にぼんやり毎日を過ごしているのは。 だが本当のメディスンは、もっと笑顔が似合うドールだと、イグナッツは 思う。メディスンの教育係を任されて数ヶ月、イグナッツは地道な会話の積 み重ねを経て、ようやく彼女と信頼関係らしきものを築けることに成功した。 イギーにだけは話してあげる、とメディスンは耳元で囁いた。仲良くなっ た友達と秘密を共有する女の子のような声で。彼女が生まれ、彼女が日々を 過ごした場所でのことを語った。そのとき、イグナッツは思った。思い知っ
た。彼女は自分たちのような日陰者ではなく、もっと陽の当たる場所にいる べき少女なのだと。 幻想郷のことを語るメディスンの表情は晴れやかで。 幻想郷のことを誇るメディスンの笑顔は輝いていた。 イグナッツにとって、彼女の笑顔は目を背けたくなるほど眩しかった。 自分たちとは違う。 自分たちとは違う。 こんな暗がりと閉塞感に満ちた都市で蠢き、虫けらのように死んでいくの ではなく、一面の向日葵畑で無邪気に笑っている姿こそ、本当のメディスン の姿なのだろう。 だが幻想郷が存在していたころならそれでよかったのかもしれないが、い まはそうはいかない。彼女が身をもって思い知ったように、この世界は優し くはない。幻想郷がなくなったいま、彼女は過酷な世界を生きる術を学ぶ必 要がある。 そのことにはイグナッツも賛成するが、だからといって自分たちにその役 割が回ってくるとは思わなかった。マダム・マルチアーノから初めて話を聞 かされたときには、何かの間違いだとしか思えなかった。 自分たちはまだ十代の子どもだ。それにまっとうな人生を歩んできたわけ でもない。誰かに何かを教えることができるとは、とても思えない。 それに何より、プリマヴェラが先生役? ありえない。そういうプレイな ら彼女は張り切って演じきるのだろうが、どちらかといえば彼女は教師に楯 突く問題児だ。 事実、実質的な教育係を果たしているのはイグナッツひとり。 プリマヴェラはもっぱら、メディスンと喧嘩ばかりしている。
そう、こんな風に―― 「ほんっっっとうにむかつくクソガキね。なに、都合が悪かったらだんまり? 眼を閉じて、耳を塞いで、何も聞かず、何も言わず。自分の嫌いなものは全 部シャットアウト。それですむと思ってるの?」 「……別に。あたし、助けてなんて頼んでない」 これまでずっと黙っていたメディスンが、自分の顎を掴んでいたプリマヴ ェラの手を払う。そして、プリマヴェラに真っ向から挑むように睨み返す。 「あたし、別にプリマヴェラに助けられなくたって、大丈夫だったもん。あ たしはただのドールじゃない。他のドールみたいにやわじゃないもん。だか らプリマヴェラにはごめんなさいも、ありがとうだって言ってあげない!」 「……へえ。生意気言うじゃない、クソガキ」 睨み合うふたり。車内に満ちる一触即発の雰囲気。 両者に挟まれるかたちになったイグナッツは冷や汗を流す。生きた心地が まったくしなかった。 プリマヴェラとメディスン、どちらも人間の姿かたちをしながらも、人間 を遥かに超えた怪物だ。プリマヴェラは吸血鬼の腕力と俊敏性を持ち、さら に量子の魔法を持っている。そしてメディスンは腕力や俊敏性こそないもの の、彼女の『毒を操る程度の能力』が真価を発揮すれば、人間などただの腐 肉の塊へ変わるだろう。 だからイグナッツは気が気ではなかった。 どうにかふたりが鞘を収めるようにしなければ、自分の身が危ない。
「……ふたりとも、頼むから機嫌を直してくれないかな」 「だいたい、プリマヴェラだって悪い子じゃない! そんな派手で恥ずかし い格好して!」 「はあ? あんたこそその時代遅れのだっさいゴスロリ、神経疑うわ。わた しそういうのノイローゼなの。鳥肌がたっちゃうわ」 「ちょっと」 「これはアリスが縫ってくれた服よ! 幽香だって魔理沙だって、褒めてく れたもん! かわいいって!」 「ねえってば」 「はっ、そんなだっさい格好でちやほやされるなんて、幻想郷は超がつくド 田舎だったってことね。いやね、お願いだから近づかないでくれる? あん たから田舎の土臭い匂いがうつったら大変だわ」 「あたしだっておばさんみたいに香水かけまくったプリマヴェラに近づいて 欲しくないわ!」 「なんですって……!」 「ふたりとも、いいかげんに」 「「イギー、うるさい!」」 「……ごめん」
……どうやらほとぼりが冷めるのを待つしかないようだ。 イグナッツはカーナビの表示画面を見る。まだオールドタウンに着くまで 時間がかかるようだ。それまで罵詈雑言を浴びせあうふたりの間に挟まれて 過ごさなければならない。 はあ、とイグナッツは大きな大きなため息をついた。 ††† 異形都市〈ケイオス・ヘキサ〉下層。高層ホテル前。 ……プリマヴェラによって窓から放り投げられ、地上に落下して死んだと 思われた男は、驚くべきことにまだ生きていた。しかし、その命はもはや風 前の灯だった。落下の衝撃で内臓器官のことごとくが破裂し、骨という骨が 砕け、身体に埋め込まれた数秘機関が次々に機能を停止していく。 だが男はまだ生きていた。必死に死の影から逃れようとしていた。 激痛で何度も意識が飛びそうになる。だがここで意識を失ってしまえば、 自分は永遠に目覚めることはないだろう。まだ動作している数秘機関の全機 能を生命維持にあてる。だがそれも焼け石に水だった。組織再生が追いつか ない。血が止まらない。力が抜けていく。視界が薄れていく。 「……俺は……死なない……」 そう苦しげに言う男の周囲には、人だかりが出来ていた。下層の住人たち。 だが彼らは男のことを助けようとはしなかった。手を差し伸べようとはしな かった。彼らの中に渦巻いているのは暗い悦びだ。貧困に苦しむ自分たちと は違い、恵まれた生活を享受している中層の人間が死に瀕している。
ざまあみろ。ざまあみろ。彼らはそう思っていた。 だから男が苦しむさまを見て喜びはすれど、助けることなど論外だった。 中には機関電信(エンジン・フォン)の写真機能を起動させておもしろそうに 男の様子を撮影している者すらいる。 自分を助けるものはいない。このままでは自分は死んでしまう。 だが、男は諦めなかった。必死に地面を這って前に進む。 一体何が、彼をそこまで駆り立てるのか。 それは―― 「俺は……この都市から……生きて出るんだ……」 血を吐き出しながら、男はもがく。 「俺は……生きる……この都市から、この地獄から……逃げてみせる……!」 ――すべてはそのために。この異形都市から脱出するために、自分はあの アンティークドールを誘拐したのだ。 この異形都市は地獄だ。此処は世界の果てだ。 危険な妖怪魔物が蔓延り、人間の枠外を越えた魔人どもが跋扈する。 都市では比較的治安がよいとされている中層でさえ、かつての常識からは 考えられない犯罪――ギアスユーザーや契約者による凶悪な犯罪が多発して いる。 それだけではない。彼がこの都市の脱出を決意した理由は、決して犯罪が 多い危険極まりない場所だからだけではないのだ。 この都市の存在理由、どうしてこの異形都市〈ケイオス・ヘキサ〉が、再 び建造されるに至ったのか。彼はそれを知ってしまったのだ。
――あのおぞましい真相を知れば、誰もがこの都市から逃げ出そうと決心 するに違いない。初めてそれ≠知ったとき、彼は恐怖で動けなくなった。 それ≠ェ成就したとき、この都市がどうなるのかを想像しただけで、気が 狂いそうになった。 だから彼は逃げると決めた。自分のほかのなにもかもを犠牲にしてでも、 この地獄から逃げようと決心したのだ。 「そのために俺は契約した……あの怖ろしい赫眼の魔人どもと……《結社》 の魔人どもの話に乗ったんだ。ああ、怖ろしい、俺は怖ろしい。あの《結社 》の魔人どもが。奴らがこの都市でしようとしていることが、怖ろしくてた まらない。ああ、助けてくれ、助けてくれ、俺の救い主、黒の列車よ! 俺 をこの地獄から連れ出してくれ!」 男は必死に手を伸ばした。だが、彼に手を差し伸べる誰かは、此処にはい ない。男を取り囲む人間たちは、みな嘲りながら哀れみの視線を向けるのみ。 自分を助けるものはいない。その事実に絶望し、同時に胸のうちに沸いた 怒りを原動力にして、彼は這う。這って、生きようと懸命に前へと進む。 しかし、ああ、彼にはもう先はない。 運命が彼に追いついた。死神の手が彼の心臓をとらえたのだ。 生と死の境目を歪め、それらを弄ぶ魔人のひとりが、いままさに彼の命を 刈り取ろうと―― 「おめでとうございます」 声、そして言葉―― それは、地を這う哀れな男に向けられた声だった。 男は顔を上げた。誰だ、俺に声をかけたのは誰だ。 失血によってぼんやりとした男の視界にうつる、誰かの細身のシルエット。
――美しい女性が佇んでいた。気品あるかんばせには慈愛の笑みが溢れて おり、閉じられた瞼からは静かな知性が感じられる。 余談だが、盲人というのは、聾唖よりも賢者のように見えるのだという。 彼女は盲人ではなかったが、ともかく、誰かに危害を加えるような女性に はとても見えない。 だが、男は、心の底から震え上がった。 「ジュスティーヌ……!」 「おめでとうございます」 恐怖に満ちた男の声を、ジュスティーヌと呼ばれた女性は言葉の繰り返し によって切って捨てた。 男の言葉など最初から聞く気がないのだろう。 そして男は、周囲の異常に気がついた。自分を囲んでいた人間の群れが、 一斉に動きを止めていたのだ。まるでこの空間だけ時間が止まったかのよう だった。男はこの現象が如何なるものかを知っていた。それは神や悪魔など の、御伽噺の存在がもたらす奇跡ではない。この現象は、すべて、ひとの手 によってなされたものだ。 時間牢獄――時間と空間を操る大いなる技にして、ジュスティーヌが現在 所属する、《結社》と呼ばれる組織が有する叡智のほんの一欠片。 広域犯罪組織《結社》。別名を《西インド会社》。 あらゆる犯罪を操ると同時に、優秀な碩学を数多く擁し、人間妖物の区別 なく、多くの秘密結社を支配下におき、人類文明におけるほぼすべての闇と 知識とを支配するとさえ囁かれる巨大組織である。
規制ですか?
彼らの力は、人類の守護者を自称する〈人間戦線〉や、ナチ残党が結集し て組織された〈総統の子ら〉、英国王室の背後にいるエデンバイタル教団に も深く浸透しているという。 異形都市中層にある大企業群についても然りだ。この都市に本社を置く大 企業のほとんどが、大なり小なり《結社》の影響を受けている。 彼らは恐怖と狂気を生み出し、そのふたつによって、森羅万象あらゆるも のを操るのだ。 そして自分もまた、《結社》によって運命を弄ばれた。 そう、目の前に現れたこの女。そして、彼女が唯一崇拝する、異形都市上 層に設置された静謐なる知識の間≠ノ座し、異形都市全域で展開されてい る《結社》の謀略のすべてを統括するという、人体の神秘すべてを解き明か した碩学にして、永久不滅の肉体と生命を有する赫眼の魔人に。 このふたりの魔人の依頼によって、彼はメディスン・メランコリーを誘拐 したのだった。この異形都市から脱出する鍵――黒の切符を、依頼完遂の暁 に自分に与えるという条件に、魔人の手を取ったのだ。 だがその所為で自分は死に瀕している。 そしてこの女は、依頼をしくじった自分を嘲笑っている。 それがとても悔しい。その綺麗な顔に拳を突き立てたい、そう思うものの、 身体は言うことをきいてくれない。 「ああ、どうして――」 死に瀕した羽虫を愛でるような笑顔を浮かべて、ジュスティーヌは言う。 「嗚呼、なぜそんな顔をするのですか? あなたの命は有効利用された。あ なたの献身によって、博士の計画は次の段階に進む。嗚呼、素晴らしい、素 晴らしいことです。これで汚らわしい吸血人形(デッドガール)はこの都市か ら一掃される。どうか誇りに思ってください、博士の理想の礎になられたこ
とを。あなたの勇気ある行動を、博士はとても評価なさっているのですよ?」 「なら……俺によこせ、黒の列車の乗車権利を、お前たちが所持している黒 の切符を!」 「ああ、それは――」 ジュスティーヌは困ったように小首を傾げた。 「残念です。私はあなたの献身に応えたいと思う。ですが、あなたはもう限 界のようです。あなたからは色濃い死相が見える。もう数分もせずにあなた は死ぬでしょう。これでは、非常に貴重な黒の切符を与えることはできませ ん」 「ならば、お前たちの技術で、俺を治せ! お前たちならばできるはずだ!」 「ああ、確かに。博士の叡智の前には、如何なる致命傷も意味を失くします が――」 顎に手を当てて、ジュスティーヌは思案する。 まだ助かるチャンスはある。彼女と彼女が所属する組織は、人間の生と死 を思うがままに操る叡智を保有している。ここで彼女に哀願すれば、自分は 助かるかもしれない。 男は最後の力を振り絞って言葉を吐き出す。僅かな可能性にすがる。その 様子はまるで、残り僅かになった蝋燭の火が放つ最後の閃光のようだった。 「俺はお前らに言われたすべてのことをやった。オールドタウンからあのドー ルを誘拐し、お前たちから渡された装置で、あの小娘に希死願望を刺激する 人造心理を埋めこんだ。 それにな、俺は知っているぞ、調べたんだ、お前たちのことを。お前らの
経歴、お前らがかつて所属していた組織がなにをしていたのか。そしてお前 たちの上に君臨する――あの赫眼備えし魔人がこれまでしてきたおぞましい 所行についても! 死者の安息を破り、呪われた人造人間として蘇らせ、吸 血鬼どもと暗闘を繰り返してきた――《復活》前なら、俺だってこんなオカ ルト話なんぞ信じなかったさ。だがいまは、ご覧の通りこの世界は迷信深い 場所に変わった。 いまならどんなことだって信じられる。お前らが崇拝するあの男――ああ、 口にするのも怖ろしくおぞましい――《結社》最高幹部のひとり《三博士》 ヴィクトル・フランケンシュタインが、どんな致命傷を癒すことも、死者 を蘇らせることすら可能なんだってことも! なあ頼むよお願いだ、俺は仕事を果たしたお前たちの望むことをすべてし たんだ! さあ、俺に黒の切符を、俺を助けてくれ! はやく、はやくしろ! はやくしないと、ああ、俺は死んでしまう! 死んでからじゃ遅いんだ! 俺は人造人間になんかなりたくない! あんな呪われた存在にはなりたくな い! ああ、だからはやくはやくはやくはやく――」 「よくまわる舌ですね」 「ぐげ、がぁッ!?」 突然の激痛に男は悶絶した。 伸びきった男の舌を、ジュスティーヌのハイヒールが突き刺したのだ。 「確かに、かつて私どもは、〈F機関〉という秘密結社を結成し、人類の刃 たる人造人間を生み出し、人類の天敵たる吸血鬼(モントリヒト)を狩り続け て来ました。いまは博士とともに《結社》の一員になりはしましたが――人 体の神秘すべてを掌握した博士の叡智はいまだ健在です。あなたを死の淵か ら救うこともできるでしょう。人造人間を厭う気持ちも理解できます。です が、しかし」
ぎりぎり、とジュスティーヌはハイヒールに体重をかける。 「あなたは口にしてはならぬことを口にした」 聞いた人間の心胆を凍りつかせる冷ややかな声。 「全人類の救済のため、吸血鬼との聖戦を始めた博士を、よりによっておぞ ましいなどと――私、人選を誤まりました。あなたの決意、あなたの献身、 あなたの勇気ある行動、すべては博士の理想に共鳴してのことだと思ってい たのですが、ただ自分が助かりたかっただけなのですね。汚らわしい、もう あなたは必要ありません」 そう言ってジュスティーヌは右手を伸ばす。 それは、人体の神秘のすべてを解き明かしたひとりの碩学に授けられた力 宿りし右手。森羅万象あらゆるものの死を理解し、その絶対なる幕引きを脆 く儚き人間にもたらす権能秘めし右手だ。 「あ、が……!」 突然、男は胸を押さえて呻いた。 彼は自分に伸ばされる右手の力を本能で理解した。 死ぬ、自分は、死ぬ―― いやだ、俺は生きていたい生きていたい生きていたい―― いやだ、俺は死にたくない死にたくない死にたくない―― 「さあ、諦めるときです」 その言葉とともに――ジュスティーヌの右手が男の額に触れた。 その瞬間、男の心臓が停止した。その瞳から光が消えた。
……この都市のおぞましい存在理由を知り、プリマヴェラによって致命傷 を負い、《結社》に運命を弄ばれた哀れな男は、いまここに惨死という結末 をもって、物語の表舞台から永久に姿を消した。 「――さて」 ジュスティーヌは満足そうに頷いた。すべては計画通りに進んでいる。 哀れなるアンティークドールを誘拐することも、そして彼女がオールドタ ウンの住人に奪還されることも……愚かにも自分のあるじを侮辱した男が死 ぬことも、すべて、すべてこちらの手の内だ。 「タイガーリリィ。時間牢獄の解除を。それから、影人間数体を此処に寄越 しなさい。目撃者の記憶を削除するために、MEを装備させるのを忘れずに」 『了解した』 ジュスティーヌの言葉に応え、機械式合成音声が鳴り響いた。 ジュスティーヌの傍に人影はない。少なくとも、彼女の言葉に答えられる 人間は、此処にはいない。ジュスティーヌ以外の人間は、時間牢獄に囚われ て、肉体も精神も凍りついているからだ。 ならばその声は、いったい何処から発せられたものなのか。 それはジュスティーヌの左手から。その掌の上には、人間の眼球がひとつ あった。その眼球はかすかに振動していた。その振動は人間の声の波長と同 一のものだった。人間の声と同じの波長を発することにより、その眼球は、 人間の発声器官の代わりを果たしているのだろう。 この眼球は、タイガーリリィという人造人間が有する機能の一部。 都市全域を監視下に置く広域フラグメント監視網"システム・ウォレス"の 基幹ユニットとして稼動しているタイガーリリィの無数ある瞳のひとつであ
り、いまは最下層の《機関回廊》に在る本体の代わりに、あるじであるジュ スティーヌとの意思伝達機能を有している。 「タイガーリリィ。献体Mの監視状況を報告なさい」 『……献体Mは現在、プリマヴェラ・ボビンスキとイグナッツ・ズワクフと ともにオールドタウンに向けて移動中。既に意識を回復。希死願望を刺激す る《結社》製人造心理も、献体Mの精神に馴染みつつあるようだ』 「結構。嗚呼、素晴らしい。彼女の涙と悲しみは、やがて疫病と荒廃を導く 黒の希死願望(スーサイド・ブラック)へと成長する。博士もお喜びになられ るでしょう。 そして、タイガーリリィ。《機関回廊》と接続し、広域監視網システム・ ウォレス≠フ基幹ユニットとして機能するよう博士に再改造されたあなたは、 かつての空間認識能力を遥かに凌駕するほどに機能が上昇した。どうですか、 素晴らしいでしょう、博士の叡智は。そして誇りなさいな、博士にじかに触 れられ、博士の理想に殉じることができる名誉を」 『…………』 無言。 無言。 タイガーリリィと呼ばれた、いまは姿が見えず、そして声音から女性であ ると予測される人物は、ジュスティーヌの言葉に答えない。 「……まあ、いいでしょう。あなたの本心がどうであれ、博士の計画は進む。 博士が組み上げた絶対なる恐怖の機構からは、誰ひとりとして逃れることは できないのですから」 そう言ってジュスティーヌは微笑んだ。
この都市に生きるものすべてが、《結社》の計画の構成要素だ。 プリマヴェラ・ボビンスキも、イグナッツ・ズワクフも、メディスン・メ ランコリーも、オールドタウンの住人(ドール)どもも、このタイガーリリィ も、異形都市の上層中層下層最下層に住むすべての生命あるものも……そし て自分さえもが、いずれは《結社》最高幹部《三博士》ヴィクトル・フラン ケンシュタインに捧げられる供物なのだ。 かつて魔界都市ロンドンの地下奥深くに隠され、ここ異形都市最下層に密 かに再建造された《機関回廊》にて、現在最終調整中の《抹殺者》について も然り。あの機械仕掛けの巨影、森羅万象あらゆるものに疫病と荒廃をもた らす悪鬼が立ち上がるときこそ、自分たちの渇望が成就する。 すなわち、人類の天敵、吸血人形(デッドガール)と吸血鬼(モントリヒト) の完全根絶。この都市に蔓延する人の姿かたちをした疫病は、さらなる疫病 と荒廃によって残り余さず消え去るだろう。 その瞬間を想像して、ジュスティーヌは笑みを浮かべる。 ――計画が完遂されれば下層の住人はすべて死に絶えるだろうが、構うこ とはない。彼女にとって、ヴィクトル・フランケンシュタインの言葉は絶対 だった。逆らうことなどありえない。 「汚らわしいものどもが一掃された世界は、かつての栄光を取り戻し、輝か しいものへと変わるでしょう。素晴らしいことです、半世紀前には果たせな かった博士の悲願、それがもうすぐ叶う……素晴らしい、嗚呼、素晴らしい。 ……あなたも、そう思うでしょう?」 ジュスティーヌは己の背後に向けて言葉をかけた。 「ええ。実に素晴らしいことですわ」 声、そして言葉―― それは、女の声だった。
ジュスティーヌの背後に、ひとりの女性が佇んでいた。 その豊満な肉体には、男を惑わしてやまない色香が漂っている。胸元から 腹部までざっくりと開いた淫靡なコスチュームは、精気を啜る淫魔を思い起 こさせる。 彼女の名は、F05(エフ・フュンフ)。 生前の名は、マリー・マドレーヌ・ドルー・ドブレー。 かつて、幻影都市パリを恐怖に陥れた毒殺魔にして――精鋭人造人間部隊 〈装甲戦闘死体〉のひとりとして蘇り、あるじであるヴィクトル・フランケ ンシュタインのもと、世界にさらなる恐怖と狂気をもたらす魔人である。 「F05さん。あなたに使命と試練を課します。あなたがまだ博士の理想と 悲願に殉じる決意があるのなら、そして一度敗北したあなたを死の淵から救 った博士の慈悲に報いる覚悟があるのなら、その期待に見事応えてみせなさ い」 「ご安心なさってくださいな、ジュスティーヌ」 妖艶な笑みを浮かべながら、F05は言う。 「哀れなる毒人形メディスン・メランコリーと、比類なき荒廃と疫病の王の 尖兵たる《抹殺者》を用いた、博士の悲願、我らの渇望の成就を導くもの。 ――すなわち、この都市においては二度目の現象数式実験。 わたくしが必ずや成功させてご覧に入れましょう」
ふら〜りさん ティアの力量ならフュンフの服従の呪いも解けるんでしょうが、彼女自身が御伽噺部隊側にいたいと思っているのが 難儀なところ。ですので彼女の想い人であるフィーアを篭絡さえすれば……。 スターダストさん >鳴滝さん ナニャッデンダア゙ンタイッタイ ……鳴滝さんのことはともかく、復活うれしいです! ブログのSSも拝見していますよー。 SSの随所にニヤニヤできる箇所があって楽しいですw そうか、魔法少女アイ惨があんな有様になったのは、 ディケイドが一枚噛んでいたのか……! まさか07版怒りの日も彼の仕業!? おのれディケイド! そして念仏番長は死ねばいい。 サマサさん 気を悪くするなんてとんでもない! めちゃうれしいです。しかもマリアリマリアリうふふうふふ。 >しかし東方ネタ初めて書いたから、キャラがおかしい気もするなー(汗) なんの、人の数だけ東方キャラは在るのです。 原作の描写が少ないので、解釈次第で性格も変わってきますし、他の人がどう書くか見るのも楽しみのひとつ。 病んでるアリスも、乙女アリスも、変態アリスもそれぞれまったく違うアリスがいて、それぞれによさがあるように。 ですからサマサさんはサマサさんの東方を紡いでいってください!(さりげに次のSSを催促
そう言えばニコニコでは東方・アイマス・らきすたの架空戦記が沢山あるけど、 この3作品いずれか2つ以上の合作って見たことないな。 だからこのスレの職人さんに(ry いや何でもないですw
278 :
ふら〜り :2010/02/01(月) 10:46:12 ID:k0cVdpf20
>>サマサさん(「強大な正義の組織」ってのもなかなか見ない言葉ですよねえ) 原作一巻のことを思えば、「かなめが脳を弄くられる」については普段以上に暴走するのが むしろ当然かもしれず。それでもテッサへの報告だの責任を取ろうだのと、立派に軍人してる のが彼の偉いところ。そしてその彼を落ち込みから救うのが、彼女のいつもの役目&魅力。 >>スターダストさん >こんな所来るぐらいなら勉強しろとか説教とかされるんだぜ これはさほどアブノーマルではない、一般的に需要はあると思う。また剛太はただ、想い人 を思い浮かべているだけのこと。……でもMですねこれは。そして、熱い語りから二次創作 バトルへと、やる夫がいよいよ本領発揮!原作→AA→本作の三次創作というべきかっ? >>ハシさん 毎度ながらハシさんの描かれる女性陣は美しくも怖い。それでいて一面、結構な脆さも 備えてたりするんですよね。戦闘力があり、残虐性もあり、酷く我侭だったりもするけど、 突くとこ突けば壊れるというか。ハデに華やかに崩壊してる世界観に、よく合ってます。
279 :
作者の都合により名無しです :2010/02/01(月) 15:31:00 ID:5OAZxM/U0
規制マジうざいな・・ スターダストさんとハシさん、大好きなお2人が連投されててとても嬉しいです・ ダストさんはやるおシリーズでもお世話になったなあ。確かに再開してから作風ちげえw ふら〜りさんの言うとおり、ハシさんの書く女性は爽快感がある。近づきたくないがw
ハシさんの書く少女の物語の雰囲気が好きなんだが 今回は1つも元ねたわからん…。 楽しませていただきましたけどね
281 :
作者の都合により名無しです :2010/02/03(水) 02:36:53 ID:LS397jS10
ドラクエ1〜3(ロト三部作)の設定で「ドラクエ2のデルコンダルを作ったのはカンダタ」という話がありました。 そういう都市伝説だったのかもしれませんが、自分の中では妙に整合性が感じられます。 整合性と言うか、それでも違和感が無い・合点がいくだけなんですがw どうでしょうか。 平和が樹立された後の魔界=アレフガルドという設定で次作を作られてみては。 ここは漫画サロンなので、その場合は「ロトの紋章」がベースになりそうですが。 ダイ大には天界も登場したので、天界を一段上のカレント・ディレクトリ(イルミナたちが関ったのは天界の一部地域、というか小大陸) だと思えば「プリンセス・アリーナ」等の他のドラクエ漫画とのコラボも叶います。
282 :
作者の都合により名無しです :2010/02/03(水) 02:37:39 ID:LS397jS10
長くなったので分割。 ドラクエのキラーマシーンは、公式設定では機体に「AMERICA」と書いてあります。 つまり、たいがいのマンガ世界とコラボが可能なんです。それがドラクエ。 ダイ大で美味しいのは、破邪の洞窟。 もしあの洞窟、特定の階から罠の配置やモンスターの布陣が内側へシフトしていたらどうでしょうか。 それも、魔法による罠で配置なんかいつもランダムに変動してるしモンスターたちも誰が統御してるわけでもないのに 内側へ向いているという方向性だけは共通。主人公たちは、そのおかげで破邪の洞窟を先に進むことができたりもする。 顕正さんには一度、ご検討いただきたいです。 コラボといえば、顕正さんの作品を読んでダイ大にまた興味がわき、 のび太たちが「もしもボックス」でドラクエ世界を創出して「のび太の創世記」どころじゃない事態を起こす話を考えたりもしました。 世界観としては「ライトニング・ブリゲイト」みたいな感じですが、漫画SSは何とでもコラボできるので面白い物に関しては何でも先ず一考!
283 :
作者の都合により名無しです :2010/02/03(水) 02:39:15 ID:LS397jS10
連投すみませんが、遊戯王の方について。 紀元前のエジプトには、エルフやロボットのカードはありえないと思うのですがそれらを独立の種族として扱うのはどうでしょうか。 時間と空間を越えて、存在するものを全部司りカードとする設定に解釈。 そんで、エルフの郷とか魔術師の学閥とかロボットの支配する領域とかの話を作った人はいませんかね。 「黒き森のウィッチ」なんか、もし戦いになったらどっちに着くのかでドラマができそう。 攻守の数値を入れ替える魔法カードでビッグシールド・ガードナーとホーリー・エルフ(武器カード追加)のタイマンとか。 もしくは、科学と魔法の文明が衝突したときにサイコ・ショッカーが単独で参戦して三つ巴にしてしまうなど。 連載当時に気になっていたことは、インセクター蛾賀のターンごとに攻撃力の上がる虫のカード。 あのカードなら、攻撃力や守備力が無限大じゃない奴を除けば神を倒して虫の惑星を作れますよね。
構想できてるなら自分で書けばいいんじゃ?
好きなものを好きなように書けばいいよねえ うーん、永遠の扉大好きなんだけど どちらかというとお休み前の作風がよかったなあ やる夫あまり読んでないし・・
いつものようにいつもの如く、神奈川県川崎市。 「―――この世界には<幻想郷>と呼ばれる、夢想と空想を具現化し、具象化した楽園が存在します」 道端を歩きながら語るのは、真っ赤な帽子に真っ赤なスーツ、日傘を差した赤ずくめの男――― 彼の名は望月ジロー。黒髪黒瞳の端正な顔立ちだが、口元には鋭い牙が覗く。 彼こそは望月コタロウの兄にして<銀刀>と恐れられる、既に百年以上の時を生きた力ある吸血鬼だ。 「へー」 気のない相槌を打ったのは赤いマスクだけど格好はいつものTシャツな我らのヒーロー・サンレッド。今日の文字は <東方赤太陽>である。彼はジローに呼び出され、むさ苦しくも男二人で歩いているのだ。 「其処は<神隠しの主犯><遊惰なる賢者>と称される伝説の大妖怪<八雲紫(やくも・ゆかり)>が創り上げし、 人間もそれ以外も、全てを受け入れる理想郷―――鬼に天狗に河童に妖精、果ては神々に至るまで、何でもござれ の百鬼夜行にして百花繚乱」 「ほー。えらく詳しいじゃねえか。行った事でもあんのか?」 「いえ…私を吸血鬼へ転化させた<闇の母(ナイト・マム)>から聞いた話です。彼女は八雲紫とも面識があったそう ですし、幻想郷をその目で見た事もあると言ってましたが、残念ながら私自身は幻想郷やその住人と関わった事は ありません」 「あっそ。しかしそんな妙な奴と知り合いだったとか、お前の吸血鬼的な意味での母親ってすげえ大物とか?」 「…そうですね。大物なのは勿論ですが、素晴らしい女性でした…」 過去形だった。口調もやたら暗い。地雷を踏んだか、とレッドさんは顔を曇らせるが、ジローは微笑んだ。 「気にしないでください。彼女の残した尊き血は私の中で生き続けている…コタロウの中でも…」 「そうか…その、何だ。いい女だったんだろな、さぞや。俺も会ってみたかったもんだ」 「ははは。ではコタロウを女の子にして、あの性格のままで10年ほど成長した姿を想像してください。それで大体の所は 合ってますよ」 想像してみた。レッドさんはうわー、とばかりに両手を上げる。 「とんでもねえトラブルメーカーだったんだろうな、そいつは…」 「彼女の名誉のために否定したい所ですが、残念な事に正解です…おっと、話が逸れましたね。幻想郷の事ですが… 何でもござれというからには、当然ながら吸血鬼も存在するのです」 「ふーん。けどよ、そんな話されても俺には関係ねーだろ。俺は<神奈川県川崎市>のヒーローだぞ?幻想なんたら の事なんざ知らねーっての。何かあるならそこの御当地ヒーローに解決してもらえばいいじゃねーか」 「確かに幻想郷には<博麗の巫女>と呼ばれる異変の解決屋がいるそうですが、今回はここ川崎市に関わる事なの です―――だから、あなたにも御足労願いました」 「あん?」 「いざという時には―――どうか、力を貸していただきたい」
ジローは深々と頭を下げる。その神妙な面持ちにレッドさんも態度を引き締めた。 「…ヤベー事が起きるのか。川崎市に」 「ヤバい、どころの話ではありません。下手をすれば―――神奈川県が、地図から消えます」 大げさだとは思わないでください。ジローはそう言った。 その身体は小刻みに震えている。根源的なまでの恐怖―――そして、少なからぬ畏敬に。 「幻想郷に存在する吸血鬼の中でも最強と謳われる紅き月下の女帝…レミリア・スカーレット。<紅き悪魔の館> ―――紅魔館(こうまかん)に住まう彼女は、齢こそは五百年と、吸血鬼として見れば驚くほど時を重ねたというわけ ではないのですが―――その力は、数千年を生きた古き者達にも決して劣るものではありません」 「でも、お前だって<銀刀>なんて呼ばれてる吸血鬼界の大物だろ。それでも勝てないくらい強えーのか?」 「無茶を言わないでください。私などレミリアの前では路傍の雑草にもなりませんよ。彼女が本気なら、一瞬で血液の 一滴すらも残さず消し飛ばされて終わりです。彼女に匹敵する吸血鬼となると、原初にして史上最も偉大なる吸血鬼 <真祖混沌>直系血族たる<四神>―――或いはかのヘルシング家に仕える究極の血統。彼の前では神ですらも 一山幾らの有象無象。世界が終れど、尚語り継がれるであろう闇夜の伝説。絶大にして絶対の吸血鬼・アーカード卿 くらいでしょうね」 「よく分かんねーけど、とにかくすげーんだな。で…ここまでの話の流れから、予想できるけどよ」 ふうーっと、レッドはタバコの煙を宙に漂わせる。 「…来るんだろ。その<幻想郷において最強の吸血鬼>とやらが、川崎に」 「正確には、既に来ています。己の忠実なる従者を一人だけ連れて…ね」 ジローは、ただでさえ鋭い目付きを更に尖らせ、宣告する。 「大吸血鬼レミリア・スカーレットは今―――神奈川県川崎市にいる」 都心でもない川崎に現れた、恐るべき吸血鬼レミリア・スカーレット。彼女は何故川崎に?その狙いは? 予告しよう―――川崎市に、血の雨が降る! ついでに、可愛い女の子達が恥ずかしい液体を垂れ流すムフフな展開もあるので男性読者はお楽しみに! 天体戦士サンレッド 〜血に染まる川崎!真紅の大決戦 「あ…それはそうと、レッド。申し訳ありませんが、私からもう少し離れていただけませんか?」 「あん?何でだよ。自分から呼び付けといて離れろとか、身勝手なヤローだな、おい」
「申し訳ない。けれど吸血鬼の私では、太陽の戦士であるあなたの傍にいるだけで体力が削られてしまうのです」 「え、そうなのか?コタロウとかは全然平気みてーだけど…」 「あのバカ弟はそうでも、私はそうではないのです」 それは、どこか含みを持たせた言い方だった。とにもかくにもレッドさんが言われた通りに距離を取ったのを見計らい、 ジローは話を続ける。 「吸血鬼と一口にいっても、属する血統によって性質や弱点はそれぞれなんですが…私の場合、吸血鬼が苦手そうな ものは大体弱点なんです。今だって日光がきついから、日傘を差してるでしょう?」 「んな<悪そうな奴は大体友達>みてーに言うなよ…つーかお前、そんな弱点多くて大丈夫なのか?コタロウなんて ニンニクたっぷりのラーメンもガツガツ食うし、クリスマスにはバンバン聖歌を唄いまくってたぞ。同じ兄弟だってのに、 何でそうも違うんだよ」 「…その辺は色々事情がありまして。出来れば、触れない方向で」 「事情、ね。お前やコタロウって随分と謎が多いよな。軽々しく話せねーってんなら訊かねーけどよ」 「申し訳ない。ただ…コタロウとは、そういった事は気にせずに仲良くして頂ければありがたい」 「何だよ、改まって。そんな事言ってるとフラグが立っちまって早死にすんぞー?ま…あのバカが懐いてくれるウチは、 俺も面倒くせーけど面倒見てやるよ。ヒーローは子供の味方だからな、ははは」 言い草はぶっきらぼうだが、レッドさんなりの優しさを感じたジローは微笑む。 「なら、どうか末永くよろしく。私も、いつまでもあいつの傍にいてやれるわけではないでしょうから」 「だから、そういうセリフ言うなって…それよか、今はレミリアだかれみりゃだかの事だろ?」 「おっと、そうでしたね…先に話した通り、彼女は本来<幻想郷>で暮らしている。其処は強力な結界によって外界から 完全に隔離されています。気軽に外界へ…とはいかない。その結界を越えて、彼女は何を目的としているのか? 人間達の世界で何をしようとしているのか?彼女の動向は現在、あらゆる吸血鬼の注目の的なのです」 遂に吸血鬼による世界征服に乗り出したか?人間達を億単位で家畜にするつもりか? 世界を己の血族で埋め尽くそうというのか?憶測が更に憶測を呼び、月下の世界は混乱に陥っている。 「流石にこの段階でちょっかいをかけようという血族もいないでしょうが…レミリアの出方次第では、黙っていない連中も 必ず現れる。レミリアも、それを排除するために力を行使する事を厭わないでしょう」 吸血鬼にとって敵を殺すとは、当然の選択肢なのですから―――そう語るジローの瞳は、どこか自嘲めいていた。 「そして、川崎は吸血鬼が跳梁跋扈する戦場と化す。そうなればコタロウやミミコさん―――あるいは、あなたの恋人の かよ子さんや、友人であるヴァンプ将軍にも危害が及ぶかもしれません」 「…そりゃあ、胸クソ悪い話だな…いや、勘違いすんな!ヴァンプは別に友達じゃねーんだからな!」 これが噂のツンデレッドである。 「そんな事にならぬよう、私とていざとなれば我が身を捨てて闘う覚悟はありますが、覚悟だけでどうにかなる相手では ない―――必要なのは純然たる力です。彼女と闘えるだけの力です」
すっと襟を正して、ジローはレッドを真っすぐに見つめた。 「サンレッド―――あなたの力を貸して下さい。この川崎市においてレミリアと真正面からやり合えるのは、太陽の戦士 にして最強のヒーローであるあなたしかいません」 「へっ…頼りにされたもんだな、俺も」 そんな物騒な話を聞かされたというのに、レッドはどことなく嬉しそうでさえあった。 彼は―――余りにも強すぎる。故に―――彼は闘いに飢えている。 無比の力を持っていながら、それを振るうべき敵がいない。 無双のヒーローでありながら、それに匹敵する敵がいない。 無敵の存在だからこそ―――文字通りの意味で敵がいない。 その葛藤は、彼を常に蝕んでいる。だからこそ、強敵の出現は彼にとって喜びですらあるのだ。 川崎市が危機に晒されているという懸念もあるが、己の力を限界すら越えて引き出すような血沸き肉踊る闘いの予感 に、サンレッドは胸を焦がすような期待をも感じている。 それが、サンレッドの危うさであり―――頼もしさでもあった。 「任せとけ。そのレミリアが最強の吸血鬼だろうが何だろうが…悪巧みしてるってんならこの俺が、社会人の心得って もんを教えてやるぜ!」←はい、そこのあなた!ヒモのくせにとか言わないで! その時である。すぐそこにあったコンビニのドアが開いて、<ありがとうございましたー>という店員の声を背に、 ビニール袋を手にした一人の幼女が出てきた。 風に溶けそうな程に透き通った蒼い髪。豪奢ではないが品よく丁寧に仕立てられたピンクのドレス。 背中には、夜を具現化したような漆黒の羽根。 10歳になるかならないかという幼子だったが、発散する気配はそんな生易しいものではない。 誰もが見惚れるような愛らしい顔立ちだが、そこには幾星霜を経て研磨されたような絶対的なカリスマがあった。 サンレッドもジローも、瞬時に理解した。彼女の口元にあるはずの牙を見るまでもない。 彼女こそが月夜の女帝―――レミリア・スカーレット! 「…で。何でそいつがコンビニで買い物してんだ?」 「さあ…」 そう。大層に書いたけれど、彼女はただコンビニから出てきただけである。 コンビニでの買い物すらもカリスマ漂う吸血鬼・レミリア。果たして、何を買ったのか? 「うふふふ…高貴なる私に相応しきは、やはりこれしかないわね…」 唇から洩れるは、威厳に満ちた言葉。何処までもカリスマ吸血鬼な彼女が袋から取り出したのは。
「女性が選ぶコンビニスイーツ・五週連続ナンバー1!ウルトラ・スーパー・デラックスプリン!(税込398円)」 すぐそこで成人男性二人がずっこけているのにも構わず、レミリアは高々とUSDプリンを天に掲げる。 遂にはこれ以上ない程の笑顔でミュージカルよろしく、歌って踊り出す。 〜Song For The PURIN 素敵で無敵なぷるるんプリン〜 作詞:スエルテ沙魔沙 作曲:スエニョ沙魔沙 う〜☆う〜☆おやつだど〜☆プリンだど〜☆ プ・プ・プリン♪素敵なプリン♪ププププ・プリン♪無敵なプリン♪ あたしのプリン♪スペシャルプリン♪甘くて美味しい♪ぷるるんプリン♪ 人肉よりも♪生き血よりも♪アマアマ♪ウマウマ♪ぽよよんプリン♪ 敬え♪平伏せ♪愚民共♪あたしと♪プリンに♪跪(ひざまず)け〜♪ 此処におわすは♪レミリア様の♪プリンだど〜♪ (間奏・セリフ) 「俺…この戦争が終わったら、プリンと結婚するんだ…」←この直後に撃たれる 「お前らと一緒になんていられるか!俺はプリンと二人で部屋に戻るからな!」←犯人はプリン 「不吉だ…プッチンプリンのプッチンするとこが、勝手に折れやがった…」←交通事故に遭う 「遂にここまで来たか、我が息子よ…いや、勇者プリン!」←激闘の果てに改心するが黒幕にやられる がお〜☆がお〜☆食べちゃうど〜☆プリンだど〜☆ プ・プ・プリン♪偉大なプリン♪パパピピ・プリン♪パピプペ・プリン♪ あたしのプリン♪ミラクルプリン♪嬉しい楽しい♪さいきょープリン♪ 大人も子供も♪硬派な番長も♪みんなで♪ウマウマ♪ぷりぷりプリン♪ 崇めろ♪讃えろ♪愚民共♪あたしと♪プリンを♪奉(たてまつ)れ〜♪ 畏れ多くも♪レミリア様の♪プリンだど〜♪ 目指せ、オリコン78位!(発売日:未定 定価:限定盤100万円・通常盤100円) ※限定盤には原寸大レミリア様フィギュアが付いてきます。 「…おい、ジロー。プリン持って歌ってるぞ、最強の吸血鬼が」 「…ええ、レッド。プリン持って踊ってますね、最強の吸血鬼が」
カリスマブレイクで止まったwww 連投規制なのかどうなのか
陽光を浴びて、全身からプスプス煙が噴き上がっているのも気にしないくらいノリノリで。 しかも、すっげーいい笑顔で。 そんな事やってるもんだから、足を滑らせて盛大にコケた。 「あっ」という暇もない。 レミリアの手からUSDプリンがするりと離れ―――べちゃん、と地に落下。 哀れ、USDプリンは地面の染みと化した。 「あ…ああ…」 レミリアはさっきまでUSDプリンだった物体を愕然と見つめる。ああ、何ということだろう。 泣く子も笑う、人類が生み出せし至高のグルメ―――それこそはプリン。 世界最後の硬派と名高いあの番長も認める究極のスイーツ―――そう、プリン。 素敵なプリン。無敵なプリン。スペシャルプリン。ぷるるんプリン。ぽよよんプリン。 口の中で溶けていくきめ細やかな食感を、舌を蕩かすその甘美な味わいを、彼女はもう楽しめないのだ。 「あた…あた…あたちの…プリン…」 その大きな瞳から、滝のような涙が流れる。それだけならまだしも、鼻水まで滝のように流れる。 「あああああああ、あだぢのぷっでぃんがぁぁぁぁぁぁぁ!」 天地に響き渡る大絶叫。この音波によって半径10kmに存在するガラスというガラスが割れたという。 「どぼぢでぇぇぇぇ!どぼぢであだぢのぷっでぃんがこんなすがたにぃぃぃぃぃ!」 涙と鼻水塗れで地面に転がり、じたばた駄々を捏ねる。絶対の威厳が一瞬にして崩壊した。カリスマブレイクだ。 正直言って関わりたくないが、一応正義の味方としては、このまま放置するのも居た堪れない。 「…レッド。どうにかしてあげなさい。あなた、正義のヒーローでしょ?」 「お前こそ何とかしろよ…あいつと同じ吸血鬼で、正義側だろ?」 「コタロウがどう言っていたのか知りませんが、私は吸血鬼ではあっても別に正義ではないっ」 「なっ…ここに来て開き直りか!?ずりーぞ、テメー!」 責任を押し付け合う野郎二人。されどこいつらがどうにかする前に、レミリアに駆け寄る人影があった。 それは、メイドさんだった。紛れもなく、メイドさんだった。何を隠そう、メイドさんだった。 しかも只のメイドさんではない。<美少女の>メイドさんだった! 物語の中にしか存在を赦されぬ<ものごっつい美少女の>メイドさんだった! 通常のメイドさんの3倍どころか10倍の賃金を払ってでも雇いたくなるような、美少女メイドさんだった! この母なる大地(ガイア)に住まう全ての漢達の憧れ―――美少女メイドさんだった!
雪のように煌く白銀の髪。端麗な顔立ちはやや冷たさを感じさせるが、それは彼女の魅力をまるで損なう事は無く、 むしろその白皙の美貌を引き立てていた。 <お願いだから踏んでください!>と思わず土下座したくなる、すらりと長く白い脚も素晴らしい。 どこをどう見てもケチの付けようがない、完璧にして完全なまでの<美少女メイドさん>。 それはまさしく穢れた地上に舞い降りた天使にして神秘―――<美少女メイドさん>! はてさて、そんな美少女メイドさんはレミリアを優しく抱き起こす。 「ほら、お嬢様。そんなに泣かれて、どうなされたんです?」 「うわぁぁぁぁん、さくやぁぁぁぁぁ!あだぢのぷっでぃんがぁぁぁぁぁ!」 「ぷっでぃん?…ああ、プリンを地面に落としてしまわれたのですね」 しょうがないなあ、とばかりに肩を竦め、<さくや>というらしいメイドさんはレミリアの頭をナデナデする。 「はいはい、お嬢様。プリンぐらい、また買ってあげますから」 「ヤダぁぁぁぁ、あのぷっでぃんじゃなきゃヤなのぉぉぉぉぉ!」 「もう、我儘ばかり仰らないでください…」 ツー…と。 美少女メイドさんの鼻の穴から、紅い液体が漏れ出してくる。 「そんなお嬢様も可愛くて、可愛くて…咲夜は…」 ブバッ! 蛇口を思いっきり捻ったような勢いで、鼻血が噴き出す。 「興奮してしまうじゃないですかぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!」 恍惚としか表現しようのない笑顔で、グッと両手の親指を突き立て、メイドさんは天を仰いだ。 鼻血が見事なアーチを川崎の空に架けて、虹を描く。 そう―――今まさに、川崎市に血の雨が降り注いでいた!予告は間違っていなかったのだ! 「…………」 そんな地獄絵図を見守るレッドさんとジローさん。 もはや彼らの中の<恐るべき吸血鬼レミリアとその忠実なる従者>像は完膚なきまでに粉々になっていた。 このまま二人にコロナアタックをかまして何事もなかったような顔で立ち去ろうかなとレッドさんは一瞬思ったが、 流石にそれは正義の味方的に憚られる。何せ見た目は絶世の美幼女と奇跡の美少女なので。 「レッド、どうします…」 「どうするもクソも…仕方ねーだろ。とにかく、川崎まで来て何を企んでんのかだけ確かめとかねーと」
レッドさんは勇敢にも、絶対にお近づきになりたくない二人に対して声をかけるという英雄的行動に打って出た。 もうヤケクソになってるのかもしれない。 「…なあ。そこのメイドさん。ちょっといいか?」 「はい?」 脱脂綿を鼻に詰めて、メイドさんはこちらに向き直った。メイド服の胸元が真っ赤なのがもう、何というか怖い。 傍若無人なレッドさんでさえドン引きである。それでもレッドさんは勇気を振り絞り尋ねた。 「あのー…あんたら、本当に吸血鬼レミリアと、その従者なんだよな?」 「イグザクトリィ(その通りでございます)…ふふ。川崎にまで偉大なるお嬢様の名は轟いているのですね。従者として 実に誇りに思います」 優雅にお辞儀するメイドさん。しかしその鼻の穴には脱脂綿が詰められている。 「いかにも、この御方こそが我が主たる<永遠に紅い幼き月>レミリア・スカーレット―――そして、私はその忠実なる 下僕―――<完全で瀟洒な従者>十六夜咲夜(いざよい・さくや)と申します」 二つ名は凄かったが、レッドさん達の目の前にいるのは。 「びぇぇぇぇ、ぷっでぃん、あだぢのぷっでぃんがぁ、ぶぇぇぇぇん」 潰れたプリンを前に未だに泣き喚く幼女と。 「ふふ…本当に可愛らしいのですから…そんな姿を見ていると、咲夜は、咲夜はまた…ブバァァァッ!」 脱脂綿を鼻からロケットのように噴出させ、再び川崎に鼻血の雨を降らすメイドさん。 その無駄に放出される血を、某アカギさんに分けてやりたいものである。 人生最大級の頭痛を堪えつつ、それでもレッドさんは咲夜に問う。 「あんた…まさか、ロリコンなのか?」 「ロリコン?それは心外ですね。物事の表現は的確にすべきです」 脱脂綿を詰め直しつつも、咲夜さんは傲然と言い放つ。 「私は<ペドフィリア>です。ロリコンと一緒にしないで下さい!」 「…ごめんなさい」 どう違うんだよ、と心の中だけでツッコミを入れつつ、レッドさんは謝るしかなかった。 「分かればよろしい。これからはペドの人をロリコンなどと呼ばないように」 「…………コホン。一つ、訊いてよろしいか?何故レミリア・スカーレット程の吸血鬼が川崎に?」 埒があかないと見て、ジローが尋ねる。 そう、そもそもそれが全ての始まりである。レミリアはどうして、川崎まで来たのか? 「余程の理由があるのでしょうが…差し支えなければ、お教え願えませんか」 「え?ああ…そんな大した理由ではありません。これです」
川崎市のガイドブックを取り出す咲夜さん。その表紙にはバカでっかく、こんな文字が躍っていた。 <芸術はバクハツだ!世界の岡本太○が待っている!入場者歓迎!> 「お嬢様が是非とも<岡○太郎美術館>に行きたいとのことでしたので」 「…………岡本○郎」 「そ…そのために、わざわざ結界を越えて…?」 ひゅるるるるぅ〜…と寒い風が吹き抜けていく。 「確かに呆れる理由ですよね…結界の管理者である八雲紫様と博霊の巫女―――霊夢(れいむ)さんを説得するのも 大変だったんですよ?そんな事のために結界を解いて外に出すわけにはいかない、と仰られて」 「そりゃそうだろ」 そうも簡単に結界解除を大安売りされては、こっちだって困る。 「でも、御二人とも最終的には折れてくださいましたよ。紫様には御土産に<ミニチュア太陽の塔>を白と銀のセットで 買って来るという事で…霊夢さんの方は賽銭箱に諭吉を突撃させたら、今まで人類が目撃した事のないような笑顔で 見送ってくださいました」 「「安っ!結界、安っ!」」 異口同音に二人の漢は叫ぶしかなかった。二人合わせても税込13150円也!それでいいのか、幻想郷!? 完全に固まったレッドさんとジローを放置して、咲夜さんは日傘をレミリアの頭上に翳し、その手を取った。 「さ、お嬢様。プリンはもう諦めて、○本太郎美術館へ行きましょう。紅魔館の皆に御土産買って帰りましょうね」 「うう…さよなら、あだぢのぷっでぃん…」 咲夜さんに手を引かれ、レミリアは鼻を啜りながら去っていく。 そんな二人の姿を、レッドさんとジローさんはただぼんやりと見つめていた。 「…俺、パチンコ屋に寄ってから帰るわ。お前はどうする?」 「…天気がいいので、帰って寝ます。吸血鬼ですから、私」 「そっか」 「そうです」 二人はただ疲れ切ったように、乾いた笑いを洩らすのだった…。 ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語であり、そして可愛い女の子達が、恥ずかしい 液体(主に鼻水と鼻血)を惜しげもなく垂れ流したムフフな物語である!
投下完了。今回のサンレッドは、ブラックブラッドブラザーズと東方とのクロスでした。
レミリアと咲夜さんのキャラは、ギャグ系東方二次創作としてはスタンダードに仕上がったと思いますが、いかがでしょう?
しかし、アーカードの旦那と互角はちょいと持ち上げすぎた(笑)
今回はレミリアに悪意がなく、レッドさんもやる気をなくしたので実現しませんでしたが、実際にレッドさんVS東方キャラを
やったら一番見たいのは勇儀姐さんとの小細工無用のガチ喧嘩。次点でお空との太陽対決。
プロミネンスフォームで文との最速決戦も面白いかも。書いてみませんか、ハシさん(すいません、ジョークです)。
>>231 そうとう好みの分かれる作風ですからね…
>>232 ヴァンプ様を愛せる人は人生を得しています。多分。
>>233 外道同士で意気投合しちゃったらどう責任取るんですかw
>>スターダストさん
そうか…何もかもディケイドの仕業か!MUSASHIもエンドレスエイトも何もかも!しかし念仏番長よ、空気を読め。
いやー、ツッコミ所が多すぎますwやる夫とやらない夫がディケイドとディエンドとか…なにを食ったらそんな発想が
出てくるんですか。
しかしやる夫社長に僕も説教されたい…そして彼の優しさに触れたい…
>>つまり男爵様とか編集部みたいな存在かしらね?
それは言っちゃダメでしょ桜花さ〜〜〜〜〜〜〜〜ん(大汗)
>>ハシさん
まさに終末の世界…!川崎でくすぶってるチンピラヒーローをこの世界に派遣しましょうか?(かなりマジで)
新しい仲間に馴染めず、かつての友を想って悲しむばかりのメディスンが切ない…。
幻想郷滅亡の時に聴こえた二人の少女の悲鳴…片方はゆかりんっぽかったという事は、やはりメリーと蓮子?
そして幻想郷にいたはずの面々は…いや、彼女達なら例え死のうが、映姫様を蹴倒してでも戻ってくるはず!
しかし、プリマヴェラの強さがこれでもかと描かれていながら、なお安心できない強大な敵…燃えて萌える!
東方SS、お気に召していただけたようでほっとしてます。今回はレミリアお嬢様と咲夜さんでしたが、如何だったでしょうか?
>>ふら〜りさん
宗介はあれでムチャクチャ真面目ですからね…ベクトルがぶっ飛んでるけどwそんな彼が最後によりかかれるのは、やはり
かなめしかいないでしょうね。
>>281-283 すげえ構想だ…ゴクリ 遊戯王については、何故古代エジプト発祥なのにロボットとかは確かに思うw
>>291 規制でした、ありがとうございます。カリスマブレイクお嬢はいかがでしたか?
297 :
作者の都合により名無しです :2010/02/04(木) 23:40:34 ID:ppm6wCcW0
1~23番の二次創作小説SS(Side Story)のコミケや通販予定はないでしょうか? 1. 初恋ばれんたいん スペシャル 2. エーベルージュ 3. センチメンタルグラフティ2 4. ONE 〜輝く季節へ〜 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、 中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の 他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。) SS 5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS 6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2 7. MinDeaD BlooD 〜支配者の為の狂死曲〜 8. Dies irae 9. Phantom of Inferno END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒 SS 10. 銀色-完全版-、朱 『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世 SS
298 :
作者の都合により名無しです :2010/02/04(木) 23:42:07 ID:ppm6wCcW0
11. TYPE-MOON (1) 逆行最強化断罪スーパー慎二がペルセウスを召還する SS (2) 凛がイスカンダルを召還するSS (3) 逆行最強化慎二 OR 四季が 秋葉,琥珀 OR 凛を断罪する SS (4) 憑依最強化慎二 OR 四季が 秋葉,琥珀 OR 凛を断罪する SS 12. ゼロの使い魔 (1) 原作知識有 助演 憑依転生最強化SS (ウェールズ、ワルド、ジョゼフ、ビダーシャル) (2) 原作知識有 オリキャラ 憑依転生最強化 SS (タバサ OR イザベラの 双子のお兄さん) 13. とある魔術の禁書目録 (1) 垣根 帝督が活躍する OR 垣根帝督×麦野沈利 SS (2) 原作知識有 垣根帝督 憑依転生最強化 SS (3)一方通行が上条当麻に敗北後もし垣根帝督がレベル6実験を受け継いだら IF SS 14. GS美神 (1) 逆行最強化断罪 横島×ダーク小竜姫のSS(非ハーレム 単独カップリング ルシオラ も除外)
299 :
作者の都合により名無しです :2010/02/04(木) 23:48:22 ID:ppm6wCcW0
15. EVA (1) 逆行断罪スーパーシンジ×2番レイ(貞本版+新劇場版)のSS (2) 一人目のレイが死なないで生存そのまま成長した一人目のレイが登場する(二人目のレイは登場しない) P.S エヴァンゲリオンのLRSファンフィクションで、レイの性格は大体二つに分かれます。 1.白痴幼児タイプのレイ LRSファンフィクションで大体のレイはこの性格のように思えます。 白痴美を取り越して白痴に近いレイであり、 他人に裸や下着姿を見せてはいけないという基本的な常識も知らず、 キスや性交等、性に関する知識も全然無いか、それともほとんどありません。 このタイプの場合、逆行物では、シンジがレイに常識や人間の感情等を一つ一つ教えていくという「レイ育成計画」になってしまいがちです。 このタイプは、アニメのレイに近いと言えるでしょう。 2.精神年齢が高く、大人っぽいレイ 1番の白痴幼児タイプとは違って、他人に裸や下着姿を見せてはいけないという 基本的な常識くらいはあり(見られたとしても恥ずかしく思ったりはしないが)、 キスや性交等、性に関する知識は理論的に知っており、自分の自我が確立している、 (命令には絶対服従だが)感情表現がより豊富です。 このタイプの場合、 コミックスのレイに近いと言えるでしょう。
300 :
作者の都合により名無しです :2010/02/04(木) 23:49:13 ID:ppm6wCcW0
16. BlackCat イヴ×リオンのSS 17. 鬼切丸 鬼切丸×鈴鹿のSS 18. MURDER PRINCESS カイト×ファリスのSS 19. 式神の城 玖珂光太郎×結城小夜 OR 玖珂光太郎×城島月子のSS 20. 大竹たかし DELTACITY 全2巻 21. ヴァンパイア十字界 蓮火×花雪 OR 蓮火×ブリジット 22. 地獄少女 (1) 不合理な 地獄少女の被害者(e× 看護婦,1期の看護婦、2期の 拓真を助けに来てくれた若い刑事,秋恵) 家族・恋人が 地獄通信に 地獄少女と仲間たちの名前を書くSS (2) 極楽浄土の天使 OR 退魔師が 地獄少女と仲間たちを断罪するSS (3) 拓真の 地獄少年化SS 二籠の最終回で拓真が地獄少年になるのかと思ってたんですが・・ 地獄少年 ジル : 所詮この世は弱肉強食。 強ければ生き弱ければ死ぬ。 拓真 : あの時誰も僕を守ってくれなかった。 守ってくれたのはジルさんが教えてくれた真実とただ一振りの超能力 ・・・だから 正しいのはジルさんの方なんだ。 23. 真・女神転生CG戦記ダンテの門 ダンテ× ユーカのSS
301 :
ジョジョの奇妙な冒険第4部 :2010/02/05(金) 02:58:15 ID:7jd7GWuR0
決闘、争いを好まない私がこんな野蛮な行為を物事の解決に用いる日が来るとは。 だがここで墳上を潰せば、私を追い詰められるスタンド使いはもう居ない筈だ。 墳上を見るに、あの日『バイツァ・ダスト』を発動してから残るスタンド使いは私に『対応』して動いている。 私と戦う気があるなら岸辺露伴の様に私を捜索しただろう。 能力も露伴の奴なんかよりずっと追跡に向いた物を持っている。 なのに、それをしなかったのはこいつが私を避けていたからだ。 由花子は女であることを理由に私との接触を避けるよう言われていたのだろう……。 その由花子が身を乗り出して私を殺しにきた時にもこいつは何もしなかった。 正義漢ぶってはいるが、結局は仕方なく私を倒しにきたのだ。 もう戦える人間はこいつしか居ない筈だ。 如何に『あの目』をしても、その下にある身勝手で自分本位な本質までは変えられない。 この死に掛けのゴキブリにも劣る下等なクズを都合良く丸め込み、虫けら以下の死を与えてやる。 「……話せ」 そら来た………女も助かって私も殺せる都合のいい選択肢が存在したとして寄越すと思っているのだろうか。 女を捨てれば私に勝てたものを、愛という愚かな行動理念がお前の身を滅ぼすのだ。 『キラー・クイーン』に百円玉を二枚持たせ、そのうち一枚を親指と人差し指にはさみ墳上に向ける。 「私の『キラークイーン』は爆弾を二つまでしか作れない。 この爆弾コインを二枚……それを凌げば君の勝ちだ。」 聞いただけでは私が有利だろう、だがこの条件であっても不利なのは私である。 墳上が『ハイウェイ・スター』で壁を作れば、『キラークイーン』に隙間を縫ってコインを放つ精密性はない。 同じ軌道に二枚続けて発射するぐらいは出来るが『ハイウェイ・スター』の壁で視界が悪くなれば当たる保障はない。 まとめてふき飛ばそうと接触爆弾になる前に、手動で爆破すれば自分の身が危うい。
私の有利を匂わせておき、その実私の攻撃を壁一つで完封できる墳上に有利な条件。 あからさまに有利にしては胡散臭いと思ったからだ。 しかし、そんなことをしなくても奴は受けただろう。 受けざるを得ないのだ、判断力が鈍って自分が不利と思っていたとしてもこいつが目指す『勝利』の目的は変わらない。 奴らの考えでは犠牲の上に勝利は成り立たない……何があっても女を見捨てるはずはないのだから。 愚かなことだ……勝利に犠牲はつきもの、そんな判りきったことで命を落とす。 私は自分の為に生きている、自分の為に『睡眠』を取り、自分の為に『食事』を取り、自分の為に『手首』を切り取る。 誰かの為に自分を犠牲にする理解しがたい精神を正義と吠え……良心という無益な枷に囚われているカス共。 私の生涯において正しいのは私の価値観だ、誰にも邪魔はさせない。 「合図……は………」 「私の一発目のコインを飛ばしたらにしよう、爆弾が解除されるには私の意志による解除。 または三つ以上爆弾を生成した時の一番古い物……本当に彼女が大事なら二発目を待つのが懸命だぞ?」 突き刺す様な目で墳上が睨む、自分の優位に気付いているのかいないのか。 奴にまだ考える余裕があるかは判らないが、どっちにしても奴は死ぬ。 この一撃で墳上裕也は東方仗助とあの世で仲良く、私の『平穏な生活』を歯噛みしながら見届けることになる。 挑発の成果は上々だ……先ほどまで憎たらしく見えてたが今は実に『いい眼』だ。きっとコインを捉えてくれる。 夜道を照らす街灯、本来ならばこれが点く前に家に帰って食事を済ませていたのに。 だが、怒りは沸いてこない………この街灯が私の勝利を映してくれる。 風が吹いた、それと同時に『キラークイーン』がコインを弾いた。 爆弾になったコインを正面から飲み込むべく『ハイウェイ・スター』が波を形成する。 なるほど、壁よりもずっと効果的に正面からの攻撃を防ぎ私を襲えるだろう。 しかし、その無意味な策に失笑せずにはいられなかった……コインは墳上の頭上を飛んでいるのだから。
風に乗って墳上へと落下していく銀色の輝き。 街灯の光を反射しキラキラと安っぽくも美しく煌く死の宣告。 だが墳上は攻めを止めようとはせず、半分の『ハイウェイ・スター』を防衛に廻すのみだった。 正面からの第二射を防ぐためにも全ての『ハイウェイ・スター』は向けられない。 墳上の頭上、十分な余裕を持って百円玉が『ハイウェイ・スター』にキャッチされた。 確かに手ごたえがあった、しかしあってはいけないのだ……ここにあるべきは『落下』の衝撃ではなく『爆発』の衝撃だ。 殺人鬼、吉良吉影へと視線を戻す。 笑っていた……街灯の真下、舞台演劇の主役をライトアップするように淡い明かりに包まれていた。 そして、輝きを一身に受けているはずの彼の目は夜道をグレーと見間違うほどに『黒』かった。 手には不思議な物体を持っていて、植物とも動物とも区別つかないそれが『火』を吹いた。 奇妙な吹き方で空中で爆発が連鎖を起こすようにしてこちらに炎が向かっていた。 波と化してる『ハイウェイ・スター』を貫通し、その影響で手足からの出血が増加した。 「フハハ……フハハハハハ勝ったぞォォ―――――――――っ!」 殺人鬼の雄叫びが夜道に木霊する、そして気付く。 自分に迫る死を……呆気なさ過ぎて涙も出ない、それか流す時間もないだけか。 ゆっくり、眠るように目を閉じると真っ白な世界に幾つもの顔が浮かぶ。 仗助……悪ぃ、俺なんかじゃあこんな下衆野郎の一人だって倒せやしねぇ。 レイコ……思えばバカな男に付き合わせちまった。 アケミ……顔は良くても根性なしの意気地なし、ツケが回ったんだな。 ヨシエ……すまねぇ、辛いかもしれねぇが俺のことなんか忘れていい男捕まえろよ。 そして、焼けるような痛みに襲われた。
意表をついての上空へのコイントス、だがこれは爆弾じゃあない。 私の勝利を決定付けるのはこの……『ストレイ・キャット』 こいつは植物ではあるが、同時に猫でもある……視覚で感じる街灯の光と太陽を完全に区別は出来まい。 光量による威力は問題ではない、灯りの元に無理やり引きずり出して勘違いして撃ってくれればいい。 奴の頭を吹き飛ばすための『空気の道』を作ってくれればいいのだ。 空気弾の接触爆弾じゃあない、射程は短く弾速も遅いが動けない奴に当てるには問題ない。 『キラークイーン』の腹部から猫草を取り出すと、墳上目掛けて『空気の道』が出来上がった。 頭上の『ハイウェイ・スター』が百円玉に接触すると、奴は阿呆みたいに口を開きながら百円玉を見つめていた。 笑いを堪える必要があるだろうか、ない……勝利が確定したのだ。 「フハハ……フハハハハハ勝ったぞォォ―――――――――っ!」 『キラークイーン』第一の爆弾、接触……点火……『空気の道』は『炎の矢』に代わって墳上を襲う。 墳上裕也から『あの目』が持っていた輝きが失われ、諦めの色……負け犬の目が閉ざされた。 消える、この杜王町から『あの目』をするクソカスが消える。 最低の一日と思ったが、私の平穏を祝す記念日となりそうだ。 果てしなく長く暗い夜道が、まるでブロードウェイの花道の様に光り輝く栄光の道に見える。 もう誰も私を追わない、争いのない平和な世界が今日から始まる。 目を閉じて暗黒へと身を投じる……誰も邪魔の入らない自分だけの世界。 そして、奴に『矢』の刺さる音が私の耳に届いた。
猫草の有能っぷりに前話に引き続き感謝。邪神です( 0w0)
時に先々代のPCだと文字設定を変えても反映されなかったんですがPC買い換えたし試してみると……反映されてる!
これで由花子の締め付けのシーンみたいな表現があってもミスらずにすむ……か?康一君の行が…(;0w0)
そして話の流れを叩き切って数話前から『キラークイーン』と『キラー・クイーン』で安定しなかったりしてすいません。
完全に確認不足でした……ホント申し訳ない。
―感謝の言葉&講座―
>>ふら〜りさん 平穏に生きることに全力全快、余裕で勝てたのは重ちーだけ( 0w0)
康一君にも左手以外は無傷で勝てたけど精神的敗北を味わったり……最も必死なラスボスですな。
それはそうと墳上君はライフスティールされたソウジ(LP1)の如く元気です。
>>サマサさん 正と悪の有り方の逆転、サンレッドは余り知りませんが鷹の爪団みたいな感じなんですかね( 0w0)
違うのは萌えキャラポジションか、鷹の爪団は総帥よりレオパルド博士の方が可愛い。
それはそうと墳上はまだまだソウルスティールされたレオン皇帝の如く元気です。
>>215 氏 自分が居ない間に結構寂しくなった気がしますね……。
富樫状態の私では抜けた穴を埋めれそうにはありませんし新人さんでも古強者でも来て欲しいですな(;0w0)
>>218 氏 昔のペースに戻れたら……勢いだけでやってたあの頃。一話を見ると自分の未熟が痛ましい。
それは兎も角、アミバ様の活躍をまた書きたい。
>>219 氏 ロマサガは電子の藻屑となりました……プロットの復元もまだまだ(;0w0)
そのくせ変な案ばかりでてきて困る。シフのドリルでハリケーンミキサーとか…シフがドリルで天元突破とか…。
でも何故かホーク組の出来は30%ぐらいなのにスタン組は90%出来上がってしまった。主人公補正か……。
ソウルスティール&ライフスティール 本編には出てないが感謝の言葉で使ったので解説せざるを得ない。
生命力(LP)ダメージでソウルは全ダメージ、ライフは1ダメージ。LP0で死亡消滅。
306 :
作者の都合により名無しです :2010/02/05(金) 11:05:51 ID:utY69r4L0
邪神さん乙です 墳上はさすがに吉良相手にはどうにもならないか。残念です。 ロマサガは仕方ないですね。パソ不具合はどうにもならない。
307 :
作者の都合により名無しです :2010/02/05(金) 11:59:52 ID:rHRlapGI0
そういえば、帝愛の一日外出権。あれの外出者回収のシステムで気になってたことがあるんですけど。 もし、外出者が警察や893に捕まったらどうするんでしょうか。 893はともかく、警察から外出者を奪還するのは難しいでしょう。 なにせ外出者、逃げようとして警察に駆け込むかもしれないし そうでなくても万引きやチカンなどをしでかすかもしれません。 しかも、微罪ならともかく外出者が借金を減らしたい一心で銀行ごーとーでもしたら全てが明るみに出てしまうでしょう。 少なくとも、人しにが出たら外出者をシャバから引き揚げるのは困難になります。 ここらへん、どうなってるんでしょうか。今後の参考にもなるし、一度皆さんのご意見をおきかせください。
邪神さんお疲れ様です。 ここで矢ですか。一体どうなるのか・・・
地面に広がる黒い血痕に、真新しい鮮血が上塗りされる。 『ハイウェイ・スター』で作られた波が崩れ去って倒れこんでくる。 ……何故? 本体が死ねばスタンドは消える筈、『倒れる』ことはない。 私の体に『ハイウェイ・スター』が張り付いている。 ドドドドドドドドドド…… 勝利を祝福してくれていた暗黒の世界に奇怪な、聞きなれた『音』が響いた。 目を開けば死体が転がっている、少しすれば『ハイウェイ・スター』も消える筈だ。 噴出す汗が目に入らない様に、ゆっくりと目を開いた。 思い描いたとおり血を流しながら地面に突っ伏す墳上裕也。 だが想像と完璧な一致はしていない、頭に穴があいていない。 代わりに彼の背中には『矢』が刺さっていた。 上を見上げると、『父』が笑っていた。 弓を持ってゲラゲラと笑っていた。 「ウワッハハハハ! 思い知ったかぁ――――!」 上を向いていた墳上裕也、その頭部目掛けて空気を『爆破』した。 上から矢が降ってきて、墳上裕也を地面に縫い付けた。 そして頭が吹き飛んでいない……『爆破』は当たっていない。 「キ……キラークイー………ッッ!」 『キラークイーン』の手から百円玉が落ちると、チャリンという漫画の擬音の様な音が鳴り響く。 それと同時に、脱出不可能な底なし沼に沈み込むような音が聞こえた。 それは私に張り付いていた『ハイウェイ・スター』が肉体へと潜り込む音だった。
体に入り込む『ハイウェイ・スター』から生命の消滅を感じ取る。 ボロボロの肉体に打ち込まれた矢、出血に重なる出血は死を確実な物にした。 私の養分を全て奪ったとしても墳上はじきに死ぬだろう、だがそれよりも早く私は干物になる。 「たぶん……てめーは最初から………人質なんかとっちゃ…………いねぇ」 奴を攻撃するには……『シアーハートアタック』ならば。 だが、死に行く奴の体、街灯の温度、猫草の体温……どれが一番高い? 「………俺を殺す…手段を……不確実な方法で………減らすはずがねぇ……」 猫草の『ストレイ・キャット』……地面に転がり眠っている。 街灯の明かりの下にいるが全く反応していない。 「それはわかっていたんだ………そうなんだよなあ〜〜〜……」 『キラークイーン』に持たせていた百円玉を飛ばそう。 地面を這いずる芋虫のように、百円玉へと手を伸ばす。 「しかしよォー……ひょっとしたら………万が一にも……って思ったらよぉ」 地面をカリカリと弱々しく掻き毟る、もう少しで指が届くのに。 私の勝利は目の前なのに……体はピクリとも動かせない。 「俺の女を………助けねぇわけには…いかねぇだろう……!」 「黙れぇ――――ッッ! 貴様がその甘ったれた考えで死ぬことに代わりはなぁいんだァ―――!」 だが、今追い込まれてるのは……この私だ。
「よっ、吉影ぇ――――ッ!」 一枚の写真が飛んでくる、その中に写る人物が血相を変えていた。 『父』だ、私をこんな状況に追い込んだのはこいつだ。 今まで私を助けたことなどない癖に、余計なことをするから私の平穏は遥か彼方に遠のいてしまった。 スタンドの発現にしても、今の状況にしてもこいつが原因なのだ。 こいつが墳上にスタンド能力を与えなければ、こいつが私の邪魔をしなければ。 何の役にも立たない、無能で無価値な『父』……今、私が苦しんでいるのはこいつのせいだ。 「ワシが拾ってやる! これをあのクソガキに飛ばすんじゃぁ―――っ!」 爆弾にする予定だった百円玉を掴み取る『父』を見て閃く。 こんなことになる原因を作った父への復讐と、この状況からの脱出方法。 『キラークイーン』の右手にすがりつく写真を掴む。 「な、何を………」 「行け……」 ぽかんと口を開く父は、上空へ舞い上がった百円玉を見つめる墳上より滑稽だった。 生涯忘れることはないと思い、心の底から笑ってやった墳上よりずっとマヌケな顔だ。 だが笑えない……今それを見て感じるのは理解の遅い役立たずのクズへの怒りだった。 「行け………私を想うなら……」 「吉影……ま、まさか………」 私はついに手に入れた、『シアーハートアタック』よりも猫草の『空気弾』よりも正確に相手を爆破する爆弾。 スピードもパワーもないが確実に狙った標的へと向かう一発限りの爆弾……。 先ほどまで抱いていた憎しみを笑顔にして向ける……自分の『父』に向かって。
どんな『物体』も『キラークイーン』の右手にかかれば爆弾になる。 石ころも、コインも、ありとあらゆる物は爆弾になる………そして写真も例外ではない。 父は既に死んでいてスタンドの能力で写真の中にいる、写真は『物体』だ。 「こ、この百円で……」 「行け……」 父の手から硬貨が滑り落ち、聞いたばかりのチャリンという音が再び鳴り響く。 何かの冗談かと問いかけるような視線を私に向ける。 「ワシはおまえの………」 「行け……!」 私を助けるという父の願いを成就させてやろうというのに何をためらうのか。 『キラークイーン』の活動限界は刻一刻と迫っている……笑みを消し、突き放すように言い放つ。 爆弾となった父の顔が涙と鼻水に濡れた。 「ようやく………私の役にたてるじゃあないか……」 「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 叫びながら写真が飛んだ、墳上とは別の方向へ。 父を呪った……迫る死に信じてもいない神を祈った。 初めて祈った神への願いは『父の死』だった。 その時、風が父を墳上の下へと運んだ。 墳上の頬に父の写真が張り付き、父と墳上が私を見つめていた。 私はそれを、笑顔で見送ってやった。 「私の最高の味方……やはり父ではなく、『運命』だった」
結構な速さで出来上がりましたが次回は遅くなると思います。邪神です( 0w0)
ズレはおにぎり君のAA講座を見て勉強したので今度こそ……。
まぁ今回は使う機会ありませんけど( 0w0)
ちなみに弓は石弓ではなく、矢も石矢じゃありません。
どっちも失ってますので普通の弓と矢。
スタンド使いを量産してたなら弓の技術がありそうなので使わせただけです。
距離的には形兆の兄貴と康一君、街灯の下だし夜でも見えたってことで。
―感謝の言葉―
>>306 氏 ハイウェイ・スターもそこそこの戦闘能力があって超射程と強いんですけどね( 0w0)
>>308 氏 こうなりました( 0w0)
>>サマサさん 突っ込んだら負けかと思ったけど、言わせてもらう プリンソングとメイド愛を語るのに力入れすぎだwww しかし旦那級の吸血鬼が少なくとも六人はいるのに何て平和な世界か… >>邪神?さん 【追悼】ああ…噴上…【葬式】というスレを思わず立てたくなった 父親すら平気で鉄砲玉にする吉良マジパネェ… DIO様やカーズ様みたいな圧倒的なカリスマはないけど、とことんおぞましい
315 :
作者の都合により名無しです :2010/02/06(土) 19:47:31 ID:P73uTZVD0
そのおぞましさが、平穏派の持ち味なのでは。 少なくとも、世界征服派はもってないおぞましさ。
316 :
作者の都合により名無しです :2010/02/06(土) 19:49:13 ID:P73uTZVD0
それはそうと、次から。 音石明を病院のコンセントから旅立たせて、川尻の職場へ向かわせるのはどうですか?
もうあと一本きたら次スレかな? しばらく見てないけどハイデッカさん元気だろうか。
サンレッドの強さって実際どうなん? サマサさんのSSだとそこらのヒーローや怪人よりか遥かに強いって扱いだけど、 原作でもそういうチートキャラなのか?
>>318 一応wikiのコピペ、きっとサマサさんが更に詳しく説明してくれる。
ヒーローとしてのスペックはかなり高い。基本的に、敵を正拳突きの一撃で倒すが、これはフロシャイム側が弱いのでは
なく、あくまでサンレッドが強いのである。普段、戦闘服を着ないなどのやる気が見られないのも、自分が強すぎる結果、
相手が弱すぎて本気を出す気になれない向きが強く、強そうな相手(例えば変身後のヘルウルフ)に対しては期待する
様子が見て取れる。4年に1度くらいは戦闘服姿で本気で戦いたくなるらしい(そういう時に限ってフロシャイム側の都合が悪い)。
他にもレッドイヤー(半径10km以内の物音を聞き分けることが出来る能力)やレッドアイ(1km先の縫い針の穴まで見ることが出来る能力)などの能力を有す。
また、子供の頃は「カッパのサンちゃん」と呼ばれるくらいに泳ぎが得意で、(独り暮らしが長かったため)裁縫も得意である。
戦隊時代は今より凶悪で粗暴だったらしく、ヴァンプは「あの頃に比べたらレッドさんも丸くなった」と発言している
(怪人には「ビーバップとかに出てくるタチの悪い不良みたいだった」と言われている)。
320 :
ふら〜り :2010/02/08(月) 08:54:34 ID:Vw/XDOge0
>>サマサさん
子供らしいダダのこね方をしつつも、泣きながらも素直にプリンを諦めたレミリアは良い子。
しかしただ泣いてるだけでここまで鼻血を(しかも同性に)出させるとは、原作知りませんけど
相当な美幼女……単に咲夜の方が常軌を逸しすぎてるのか? まぁ川崎市は今日も平和だ、と。
>>邪神さん(やる夫でブレイドが始まりましたね)
墳上も、ダメージのせいで思考力・判断力なんかが低下してなければあるいは、って感じが
します。主人公側がまだ意識ある内の高笑いは、普通なら逆転フラグなのに……そして
あの父までをも犠牲に(しかも咄嗟の判断とかではなく)する吉良、ドス黒さはDIOカーズ以上!
>>281 >>281 殿自らが描いて下さることを、勝手ながら期待しますぞ。
なんだろう、このサンレッドとジローさんのマッチング具合w やっぱり紐だからか?紐だからかw原作じゃあんなにかっこいいのに マシンガンの日だけに水曜日じゃなくてよかったようなよくなかったような 旦那in川崎市とか、アン神父in川崎市とかみてみたいです
神奈川県川崎市より、遠く次元を隔てた先の異世界・ルーンハイム。 悪のデルティアナ帝国は、叛旗を翻した皇子ディランによってその野望を挫かれた。 もうボッコボコのギッタギタにされた。 見てて可哀想なくらいだった。 <もうやめてあげて>最終的にはそんな同情の声が上がる始末だった。 だが、悪は踏んづけても踏んづけても潰えることはない。 それはまるで、頑固でしつこい油汚れのように! 「ふふふ…ディラン。よくぞ決闘の申し出を受けてくれたな。流石は俺の宿敵だ」 セレスティア王国―――王都セイントリア。広場では二人の少年が向かい合う。 二人は全く同じ顔をしていた。 特徴的な銀髪。ややあどけなさを残しながらも端正に整った顔立ち。 違うのは、瞳に込められた意志。 「まだ懲りてなかったか…説教が足りなかったな」 揺るがぬ正義を宿すは、かつてセレスティアの王女ファラと共に神奈川県川崎市溝ノ口を訪れた皇子ディラン。 絶対の悪逆を宿すは、ディランの双子の弟・ラディウス。 彼は生まれた直後に忌み仔として塔に幽閉されて育ったとかどうだかでまあ色々あって兄貴のディランを憎んでいる のだ。詳しく知りたきゃサモンナイトXを買ってプレイして下さい。 「なんか、俺の悲惨な半生が軽く流された気がする…」 「この屈辱をバネに今後とも頑張れ。俺は兄として応援しているぞ」 「いや、あんたが言うなよ…余計悲しくなるだろ。つーか、兄貴…」 ラディウスはディランの服装を指差す。 Tシャツに半ズボンにサンダル。シャツの文字は<福山潤>である。 (※ディランの声優さんです。反逆のルル様とか蝶々仮面のライバル偽善者くんとか演じてます) 「いつもながら何だ、そのやる気のない格好は!?俺なんて気合入れてお気に入りのオサレな衣装纏ってきたのに! せめて鎧とか着て来いよ!剣とか装備しろよ!」 「バカを言うな。俺の知る限り最も強い男サンレッドは、よっぽど気が乗らない限りいつもこの格好だったぞ。一度だけ バトルスーツで闘ってるの見せてくれたけど、その時以外は常にTシャツだった」 「誰だよサンレッドって!生死をかけた決闘に<Tシャツ>で挑むバカなんて見習うな!」
「そういうなよ。俺はあの人の二番弟子だからな…リスペクトってヤツだ」 ディランは少し遠い目をしていた。何を思っているのか、ラディウスには窺い知る事が出来ない。 「それに俺、対決の後で買い物行くから鎧だとしんどくてな。ファラに頼まれてるんだよ」 「俺との決闘より買い物優先か!?どんだけあんたの中のランキング下位に甘んじてるのよ俺は!」 「だってお前…アレだよ」 ディランは顔を曇らせた。 「俺はデルティアナ帝国からの人質としてセレスティアに来ただろう?でも俺、帝国に反逆しちゃったからもう人質と しての意味ないわけ。それでもまだ王宮に住んでて陛下やファラに養ってもらってるわけだから、せめて家事手伝い くらいしないと居づらいわけで…」 「…………いや、兄貴。あんた、ルーンハイム救ったヒーローだろ?もっと堂々としてりゃいいんじゃ…」 「それでも世間の連中は喉元過ぎれば熱さ忘れるんだよ!<何でアイツもう帝国の皇子でも何でもないのにまだいる わけ?世界救ったからって調子乗ってるの?つーかファラ様のヒモ?>みたいに見る奴さえいるの!マトリフ師匠の 気持ちが今なら分かるよチクショー!」 「せ…世知辛いな、そりゃ…苦労してんだ、兄貴も」 「…俺の事はどうでもいいだろ。デルティアナの方はどうなんだ、ラディウス。お前、週に一回のペースで俺の命を 狙ってきてるけど、そんなに暇なのか?」 ※要するに週に一回のペースでラディウスはボコボコにされています。実の兄貴に。でもラディウスも実の兄貴の命 を狙ってるのでおあいこです。 「暇ってゆうか…ウチらの方も、世知辛いよ。兄貴にメタメタにされたせいで」 デルティアナ帝国が権勢を振るえたのも、初代皇帝ゴードナーと、そしてその跡を継いだディランの父親である皇帝 グロッケンが創り上げた<強大な帝国>としてのイメージがあったのが大きい。其れ故に人々は恐れ、従った。 されど、今のデルティアナは<Tシャツ着て半ズボンでサンダルの反逆者一人に負けたダメ帝国>である。 こんな帝国に、誰が恐れ入ってくれるものか。デルティアナ帝国はすっかり牙を抜かれたに等しい。 「親父は兄貴がドツキまわしてからというもの、すっかりボケちまったし…俺、今だから言うけどさあ、親父も抹殺して やるつもりだったんだよ。俺が悲惨な少年時代送ったのも、親父のせいだし…でもさあ…朝メシ食ったばっかなのに <ラディウスや、晩のご飯はまだかいのお?>なんて言ってる親父見てると、抹殺どころか、俺が末永く面倒を見て やらないとなあ、なんて思っちまう始末さ…」 「そっか。じゃあ頑張って介護福祉士の資格を取れよ」 「ああ、俺は俺でボチボチやってくよ…資格は取らないけどな。さて―――下らん話はここまでだ。そろそろ殺し合うと するか、兄貴。とりあえずあんたを抹殺しない事には、セレスティア征服もままならんからな」
「そうだな。俺も買い物に行かなければならない事だし、さっさと決闘済ませるぞ。散々しばき倒して、ロロ雑巾… ごめん、噛んじゃった。ボロ雑巾のように捨ててやる!」 「セリフが正義じゃないぞ、兄貴…まあいいさ。それでは兄貴抹殺委員会名誉会長・ラディウス、参る」 いつそんなアホな委員会出来たんだ、おい。ディランはそう思ったが、面倒なのでもう突っ込まない事にした。 ラディウスは背にした剣をすいっと抜き去り、構えを取る。 「これぞ我がデルティアナ帝国に代々伝わる宝剣<天の皇剣>…その威力、その身を以て知るがいい!」 ※具体的には攻撃力+160です。 神速の踏み込みから放たれる斬撃。 それは人間としての限界を極めていたと評して間違いなかろう。 しかし、残念ながら彼の相手はあのチンピラヒーローを目標として幼少より身体を鍛えていたような男である。 つまりは人間として越えちゃダメなラインを平然と足蹴にしてるような奴である。 ディランは振り下ろされた刃を人差し指と中指で挟んで、くいっと捻った。 ポキッ、と折れた剣身をポイッと投げ捨てる。ラディウスは柄だけになった天の皇剣を握り締めたまま、茫然となる。 「ちょ…兄貴、これはシャレにならないって…どうしてくれんのさ、宝剣折っちゃって…後で返せばいいやーと思って 無断で持ち出したのに…ああもう、アロンアルファでくっつくかな…ほんと、マジでどうし」 セリフを最後まで言う事は出来なかった。脳天にチョップをかまされ、悶絶して地面に転がる。 しかし、それで終わりではない。 某野菜王子風に言うなら、ここからが本当の地獄だ。 「オラオラオラオラオラオラオラオラァっ!」 ガスガスガスガスガスガスガスガスッ!倒れたラディウスに向けて容赦なくストンピングをかますディラン。 やがてラディウスがピクピクと痙攣する肉塊に変わったのを見届け、彼は踵を返す。 今日は説教している暇はない。彼には大いなる使命(買い物)があるのだから…。 「あ…兄貴…一つだけ…一つだけ言わせてくれ…」 ラディウスは息も絶え絶えながら、口を開く。 「こんなの、ヒーローの闘い方じゃないだろ…チンピラじゃん、ただの…」 「何を言うか。俺が尊敬し手本とするヒーロー・サンレッドはこうやって悪と闘っていたぞ」 そして諦めるな、ラディウス。ディランはそう言って笑う。 「サンレッドの宿敵であるヴァンプ将軍と怪人達は、どれだけボッコボコにされようが絶対に挫けなかった…お前も 悪を名乗るのなら、彼を見習え」 「…だから誰なの…サンレッドとかヴァンプ将軍とかって…」
「説明すると長いが、ただ一つだけ言えることは…かよ子さんは素晴らしい女性だった。それだけさ」 「…誰だ、かよ子って…」 よく分からないけど、ラディウスはたった一つだけ理解した。 兄貴がこんな事になった諸悪の根源は、間違いなくそいつらであると。 ―――ルーンハイムにおいて唯一のヒーロー・反逆皇子ディラン。 その闘い振りは、まさに溝ノ口の真っ赤なヒーローを思わせるものだったという…。 彼がこの光景を見れば、満足げにこう語っただろう。 <ディランは(ある意味)俺が育てた>と。 さて皆さん。今回のサンレッドはショートショート第二弾だ! ショートショート@ゴドムとソドラ 「なあ…キャビアとかそんな高級食材あるじゃん?でも俺、ああいうのって高いだけであんまり美味いもんでもない と思うんだよ。何千円とか、下手したら何万円とか払って、それだけの価値があるのかって話だよ」 「…で?」 「だからあ、そんな金があるなら他に色々出来るって事!同じメシ食うにしても、何千円も払えばさー、ラーメンが 何杯食えるって考えろよ。なあ、そこまでして食いたいか?サメの卵だよ?サメの卵!そんなんに大金使ってお前 の諭吉が泣いてるって言いたいわけよ、俺は。なあ、お前もそう思わねえ?なあ、なあ」 「…言いたい事は分かるけど、人の勝手だろ」 ショートショートAカリスマ吸血鬼・レミリア 「お嬢様。どうぞ」 「ありがとう、咲夜」 我が忠実な従者である咲夜が、カップに熱い液体を注ぐ。 ―――ここは世俗とかけ離れた楽園・幻想郷。 私は我が城<紅魔館>のテラスの日陰で、午後の気だるい一時を過ごしていた。 愚民共(しんあいなるどくしゃのみなさま)、お元気かしら?私は吸血鬼レミリア。
川崎で私の麗しい姿を目撃した者もいるのではなくて? あの時は少々取り乱してしまったけれど、あれはちょっとした戯れ…そう、お遊びに過ぎないの。 プリン一つ台無しになったくらいで、この私が本気で我を忘れるわけないでしょう? 如何なる時も優雅。何処までも高貴。選ばれしカリスマ。それがこの私、レミリア・スカーレット。 プリンの事なんかもう、これっぽっちも気にしてないわ。 プリンなんて…プリンなんて…!大好きなのにコンチクショォォォォォォォォォォォォォ! あら、嫌だ。目からしょっぱい汁が…ハンケチーフでフキフキ。 さて。私はカップを掴み、口元に運ぶ。中身はコーヒー。そう、私はいつもコーヒーよ。 別にショートショートに出演するからって大人ぶってるとかじゃないわ。 勿論ブラックよ。ミルクだの砂糖だの、お子様のやる事。 偉大な吸血鬼たる私は、この夜のように黒く、地獄の如く熱く、初恋を思わせる苦いコーヒーを楽しむの。 それでこそ、カリスマ吸血鬼というもの。ロリリッ! (※ロリリッ!とは以前も説明した通りロリィな子がキリッ!とした時に何処からか放たれる効果音です) 甘ったるいココアなんてガキの飲み物。そんなものは氷の妖精にでもぶっかけてやればいいのよ。 ぐいっ。ブバアッ! 「なにこれぇぇぇぇぇ!こんなニガいのヤダぁぁぁぁぁっ!」 「お嬢様…だからせめてミルクと砂糖をがんがんどばどば入れて甘ったるくすべきと申し上げたのに」 「そんなのかりしゅまじゃないぃぃぃぃぃ!かりしゅまはかっこよくぶらっくこぉひぃなのぉぉぉぉぉっ!」 「一口でカリスマブレイクするような人に飲ませるブラックコーヒーは存在しません」 「じゃあさくやがぶらっくでもアマアマのこぉひぃつくってぇぇぇぇ!」 「ああ、もう。そんな我儘なお嬢様も…素敵ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ―――紅魔館。それは、メイドの咲夜さんがブチ撒けた鼻血で真紅に染まったというが、真偽は定かでない。 ショートショートB悪の軍団集結 フロシャイム川崎支部に所属する怪人達。 悪の姫君エニシアを奉る軍団。 魔界より来たれり一匹狼のヒム。 悪の吸血鬼が一員ヤフリー。 あの<アバシリン事変>を生き延びて結束を深めた悪の面々は、とある施設の前に集合していた。
「皆の者、よくぞ集まってくれた…我々<川崎市悪党同盟>は、これより共同作戦を行う!」 一同を代表し、ヴァンプ将軍が指揮を執る。 この悪の化身は、果たしてどんな恐ろしい事を企んでいるのか!? その時、施設の中からスピーカーを通して音声が響いてきた。 「大変お待たせしました〜。ただいまよりスーパー○○、タイムセールを実施しまーす。卵1パックなんと50円で 御提供。その他には牛肉が…」 「よし、では行くぞ!我等フロシャイムとエニシア軍団のメンバーは卵を優先的に狙うのだ!アニマルソルジャー、 お前達はヒム、ヤフリーと共に遊撃部隊として卵以外の商品を確実に仕留めよ!可能ならば、卵は二回並べ!」 「「「「「ラジャー!」」」」」 ヴァンプ将軍の的確な指揮を受けて、一同はスーパーへと突撃する。 世界を狙う恐るべき悪魔達。奴らにとっては、買い物すらも戦場なのだ! ショートショートC結成!赤色戦隊トリプルレッド! いつもの対決場所・公園。 そこには四人の人影。 かつてイベリアを震撼させた<炎の悪魔>シャイタン。 百年を生きる古き吸血鬼<銀刀>望月ジロー。 そして地上最強のヒーロー<天体戦士>サンレッド。 彼等を見守るのは、ジローの弟である望月コタロウ。 四人は真剣な面持ちで佇む。そして、まずはシャイタンが動いた。彼はやたらかっこいいポーズを決めて叫ぶ。 「全テヲ焼キ尽クス緋色ノ炎!デビルレッド・シャイタン!」 続いてジローが、むっちゃかっこいいポーズを取り、吼える。 「闇夜を駆ける紅き影―――!ヴァンパイアレッド・ジロー!」
最後に我等がヒーロー・レッドさんがとってもかっこいいポーズで咆哮する! 「そして世界を照らす真っ赤な太陽!そう、俺こそがサンレッド!」 「「「我等、赤色戦隊トリプルレッド!」」」 ババーーーン!と三人の背後でド派手な爆発である(※あくまでもイメージ映像です。御了承下さい)。 ちなみにシャイタンは言うまでもなく鎌仲さんのコンサート出演のため来日です。悪しからず。 コタロウは満面の笑顔でパチパチ手を叩く。 「すごいすごい!皆、かっこいい!」 「ハハハ、ソウカイ?ヤッテミルト面白イネ、コウイウノモ」 白い歯と健康的な歯茎を見せて笑顔で語るシャイタン。悪魔なのにこれでいいのか。 「全く、このバカは…何が<この三人で戦隊組んだら面白くない?>ですか。恥ずかしい」 憎まれ口を叩いてはいるが、結構まんざらでもない顔のジロー。 「なっはっは。しかし、こういうのやってると思いだすな、ウェザー3時代を」 懐かしそうに笑うレッドさんである。 「ウェザースリー?レッドさん、それ何?」 「ああ。俺が昔組んでた戦隊だよ。気象戦隊っつってな。ブルーとイエローがいたんだ」 当時のサンレッドは<晴れの戦士ウェザーレッド>。 残る二人は<雨の戦士ウェザーブルー>と<雷の戦士ウェザーイエロー>である。 二人ともレッドさんに劣らぬ戦闘力と性格のヤバさであったそうな。 「ちなみに、俺がリーダーだったんだぜ」 「へー。さっすが赤色だけはあるねっ。あ…でも」 コタロウはふと思いついて、何気なく口にする。 「この<赤色戦隊>だと、誰がリーダーをやるの?」 シーン…と静まり返る一同。 レッド・ジロー・シャイタンは、お互いを牽制するように鋭く睨み付ける。 「…我、モウ数千年生キテルンダ。間違イナク最年長ダヨネ」 シャイタンが口火を切った。 「此処ハ、長老ノ知恵トイウ事デ、我ニ任セテハドウカナ?」 「いやいや、ちょっと待てシャイタン」
レッドさんがそれを阻む。 「俺はかつてリーダーを務めた実績があるからよ。ここは俺がやるべきだろ?」 「いいえ、それはどうでしょうか」 ジローが異議を申し出る。 「確かに私はシャイタンほど長く生きてはいませんし、レッドのように、何かのリーダーを務めた経験もない――― だからこそ、未知数に期待しての若きリーダーということでどうでしょうか?」 バチバチバチッ! 三人の視線がぶつかり合い、火花を散らした。 「…コノ年寄リニ譲ッテヤロウトイウ気ハナインダネ。敬老精神ノナイ薄情者ハ、死神(タナトス)ガ迎エニ来ルゾ。 アイツ、ジメジメネチネチデ嫌ナ奴ダゾー。決闘神話読ンデクレタナラ知ッテルダロウケド」 「お前ら、もう十分生きてるだろ?シャイタンは数千年、ジローも百年超え…老い先短いんだから出しゃばってない で、若者に任せようって気にならねーのか?あ?」 「はっはっは、やだなあ。吸血鬼にとっての百年なんて、やっとこさ一人前と認められる程度ですよ?人間で言えば どうにか成人式を迎えた程度です。あなたこそ、そろそろ成人病に気を付けねばならないのでは?」 ピキピキピキ。三人の額に、漫画的表現の青筋がバリバリ浮かんでいた。 コタロウはなんかすごい<言わなくていい事を言っちゃった感>に襲われ、身体が灰になる思いだったそうな。 そんなコタロウに、三人は(表面上は)笑顔で詰め寄る。 「コタロウ…我ガ一番リーダーニ相応シイト思ウヨネ?ネ?ウント言ッテヨ。ケチャップ塗リタクッタハンバーガーデモ 奢ッテアゲルカラ」 「我が弟よ…まさか、兄を裏切るような真似はしませんよね?あ、そうだ。特に関係はないけど、今日の献立はミミコ さんに頼んでケチャップをいつもの二倍使ったナポリタンにしましょうか」 「おいおい、浅ましい事すんなよ、お前ら。コタロウだって嫌がってんじゃねーか…それはそうとコタロウ、今日は帰り にラーメン屋行こうぜ?ニンニクたっぷりで美味いぞー」 何たる大人気ない大人達であろうか。コタロウは悲しげに顔を伏せる。 そして。 「…こんなんじゃ、ダメだよ。こんなの、正義の戦隊じゃないよ!」 「え…」 コタロウの突然の剣幕に、三人は毒気を抜かれた。 「誰がリーダーかなんて事でケンカして…こんなんじゃ、世界の愛と平和なんて守れっこないじゃん!力を合わせて 悪を討つ―――それが正義のヒーローでしょ!そうじゃないの!?」
ズキューーーーーーーーーーーン! その言葉は、三人の胸に深く突き刺さった(特に、本職ヒーローであるレッドさんには深刻な言葉である)。 慙愧の念に目線を地に落とし―――そして、再び顔を上げた時、その表情は憑き物が落ちたように晴れやかだった。 レッドさん、シャイタン、ジローさん、そしてコタロウ。漢達は互いの肩を強く抱き合う。 その際、ジローさんはレッドさんの太陽闘気によって割とシャレにならない火傷を負ったが、気にしない方向で。 「コタロウ!我々ガ間違ッテイタヨ!」 「本当に…弟に教わろうとは、情けない兄です」 「全くだ…コタロウ。正義の心得を一番よく分かってたのは、お前だったぜ…」 「いいんだよ、皆…分かり合えたのなら、それでいいんだ…」 ああ、何と美しい光景か。正義を愛する者達の心は今、一つになったのだ! 悪魔と吸血鬼が正義側かどうかはこの際どうでもいいのだ! 「デ、コタロウ。ソレハソッチニ置イトイテ」 「結局、お前はどう思うのです」 「俺達の中で、誰が一番リーダーに向いてるんだ?お前の意見を聞かせろよ」 ―――コタロウは思った。 正義の味方も案外楽じゃないんだなあ、と。 赤色戦隊トリプルレッド―――結成後間もなく解散。 その理由はあくまでも<音楽性の違い>と三人は言い張ったという。 ショートショートD川崎支部の掟 「ヴァンプ様。頼まれてたもの、買ってきましたー」 フロシャイム怪人・ヴァイヤーは、スーパーの袋をヴァンプ様に渡した。 「ご苦労様。えっと、カレー粉に玉ねぎ…ああっ!」 ヴァンプ様は、恐るべき過ちに気付き、彼には珍しく声を荒げた。 「ヴァ…ヴァイヤーくん!ウチでカレーっていったら鶏肉でしょ!?」 ―――そんなこんなで、神奈川県川崎市溝ノ口。色々あるけど、皆この街が大好きなのだ。
投下完了。今回はショートショートの詰め合わせで。軽い気分で読んでくだされば。
ディランとかシャイタンは川崎在住じゃないので(ディランに至っては異世界)いつも気軽に書けるわけでは
ないため、出番を割とたくさん裂きました。いやー、しかし、ディランは原作とここまでかけ離れるとは…(汗)
完全にサンレッド世界の空気に毒されてしまいました、彼は。いいんだろうか、こんなん書いて。
>>邪神?さん
鷹の爪はサンレッドと結構通じる部分があります。ヴァンプ様と総統が出会ったら、絶対意気投合しますw
>>墳上はまだまだソウルスティールされたレオン皇帝の如く元気です
それもう死んどるがな!後はジェラールに伝承法教えるだけでんがな!吉良…実の父さえ文字通りの鉄砲玉
とは、マジで怖いです。次はトニオさんか!?
>>314 突っ込んだら負け。そう思ってくれるはずの部分に突っ込んでいただけると作者としては嬉しい。
旦那レベルが六人いるとか、考えただけで悪夢ですよね…。なのになんだ、この平和ボケした世界w
>>318 >>319 で詳しく解説してますが、並のヒーローより遥かに強い怪人をフロシャイム構成員は軽く倒せる
レベル。そのフロシャイム怪人をレッドさんはまるで本気を出さずに数人まとめてワンパンチで沈める強さ。
そしてレッドさんは更に変身を数回残している…強すぎです、このヒーロー。ヒモだけど。
>>ふら〜りさん
まあ、原作じゃ鼻血噴いたりしませんけどねwあくまで二次設定です。レミリアお嬢様と咲夜さんがどれだけ
素晴らしいかは、僕よりもハシさんがお詳しいはず。僕の東方projectマニアレベルをシコルとするなら、ハシさん
は恐らくピクル級だと思いますので…。
それはそうと、川崎市は今日も平和です。
>>321 BBB原作知ってる方イターーー!最終巻は星一つ分の死と再生を繰り返し、異形の姿に成り果てながら、なお
己の使命のため、そして愛する者たちのために殉じたジローさんにただ、涙…。
でも一番ボロ泣きしたのはヤフリーくんの最期。ごめんよ、それまで単なるドジ&ギャグ担当敵と思ってた。
ジローさんとかは短編だとギャグキャラの顔も見せていたからこそ、本編でのかっこよさが際立ったと思います。
レッドさんもきっと、いつか来るはずのマジバトルでは…あー、どうだろ(汗)
BBB世界ならゼルマンといいライバルになれたかもなあ…。同じ炎系だし、赤いし、レッドさんの強さならゼルマンも満足なはず。
旦那や神父が川崎に来たら…結局、アホな理由でレッドさんとは闘わず仕舞でしょうね(笑)
332 :
作者の都合により名無しです :2010/02/08(月) 11:58:02 ID:1s+SxVy90
川崎支部の掟は本当に原作に出てきそうだw バトルより料理に全てをおくヴァンプさまだからねw
レミリアって何かと思ったけど東方?だったっけ? ショートはすらっと読めて良いですね。 アニマルソルジャーはこういうネタにはうってつけですし。
334 :
作者の都合により名無しです :
2010/02/09(火) 11:01:36 ID:l/9UyFCo0