【2次】漫画SS総合スレへようこそpart65【創作】
立った、立ってしまった――
パソコンで二回もダメだったのに、携帯からだと一発でした。
ハイデッカさん、テンプレありがとうございます。さっそく使わせていただきました。
スレ立てははじめてなので、不備がないか不安ではありますが……。
さて。
もう少ししたら、新作SSを投下したいと思います。
「そのためにスレ立てたのか!?」と言われたら、すみません、誠にその通りと言わざるをえませんが――
どうかご容赦を。
あと題材がバキスレの基準ぎりぎりな作品なので、そっちのほうも笑って許してくれると、その、うれしいです。
ハシさん乙です!
スレ立て最近、以上に厳しいですね。
SSは明日の朝読ませて頂きます。
「あー、だめです! ぜんぜんだめ! こんなありふれた記事じゃ、幻想郷のみなさんの関心はひけません!」
――机の上に山のように積み上げられた取材資料が。
――細くしなやかで、陶磁器のように白い足によって蹴り崩される。
ばさばさと紙片が宙を舞う。
その中心で眼元にくまをつくり、おそらくここ数日一睡もしていないだろう彼女の名は、射命丸 文。
ここ"幻想郷"の妖怪の山に棲む、鴉天狗の少女だ。
彼女が自分の睡眠時間を削ってまで心を砕いているものとは、いったいなにか。
それは彼女のアイデンティティーと関係している。
彼女を彼女たらしめているもの――つまり、刺激的な未知をもとめ、それを新聞として誰かに伝えるということ。
彼女は、ここ数日、彼女が不定期に発行している「文々。新聞」にのせる記事についての取材を繰り返していた。
だが集まる情報は、細かい差異はあれど、これまで新聞にのせてきた記事とあまり変わり映えのしない、退屈なものばかりだった。
それでもかつての彼女なら、妥協し、似たような記事をのせることを厭わなかっただろう。
だが、彼女は変わってしまった。ただのありふれたスクープでは、満足できなくなっている。
その起源は、四か月前のある日と符合している。
今年の3月14日――外の世界ではホワイトデーと呼ばれている、特別な日。
あの日、あの時。
そう、"境界の妖怪"八雲紫が、霧雨魔理沙への意趣返しとして企画したあの"遊惰な星隠し"があった日から。
射命丸 文の渇きはひどくなっている。
未知に猛烈に乾いているいまの彼女だからこそ、あれは、得難い経験だったと強く思う。
まるで幼子が夢見るように、一瞬一瞬に絶えず姿を変える奇跡に眼を奪われた。息をのんだ。
奇跡が飽和しつつある此処"幻想郷"においてなお、あの催しは奇跡だと断言できた。
できることなら、もう一度アレを見たい、と文は思う。それは幻想郷の住人すべてが思っていることだろうと文は推測する。
しかしあちらにも事情があるのだろう。
いつの日か、催しのための準備が整ったのなら。再びアレを見ることができたとしたら。
自分は万雷の喝采とシャッターを切ることで、その奇跡に応えよう。
「――まあ、それはおいおい楽しみしておくことにして。問題は幻想郷が平和すぎるってことなんですよねー」
ペンを鼻先に、椅子に身体を限界まで預けながら、文は呟いた。
外界から隔絶された幻想郷は、彼女らふるき幻想にとってはまさに楽園といえたが、その一方で閉鎖的であるが故の問題を抱えていた。
刺激的な"何か"が、あまりに少なすぎるのだ。
常に未知を追い求めシャッターを切る彼女だ。そしてこれまで経験したことのない渇きに苛まれている彼女だ。
いっそのこと、誰か"異変"でも起こしてくれないかしら――そう思ってしまうのも、無理のないことだった。
このままではいけない。このまま新聞を発行できないままでいるなら、伝統の幻想ブン屋たる自分は、自分ではなくなってしまう。
何より――新聞を待ち望んでいる読者に対して申し訳が立たない。
何かいい知恵はないものか。この閉塞した状況を打破する、たったひとつの冴えたやり方は。
「――そうです! 嗚呼、私は何て愚かだったんでしょうか!
いるじゃないですか、最高のスクープを提供してくれる稀有な人物が!」
◇◇◇
「大ちゃーん、おっそいよー!」
「ま、まってよチルノちゃん!」
――息せき切って走るふたりの妖精の姿がある。
――妖怪の山のどこか、緑が生い茂る大自然の只中で。
青色の衣服を纏い、背中の氷の羽を輝かせ、一番前を走っている幼子の名は、氷精チルノ。
そのチルノに必死に追いつこうとしている、翡翠色の長髪の幼子は、ただ単に大妖精と呼ばれている。
妖精、それは、大自然の具現といわれている。
パラケルススの四大元素論をひも解くまでもなく、この日本では、あらゆる存在になにかの想いが宿っているということが伝えられてきた。
自然についても然り。火に、水に、土に、風に、ありとあらゆる自然現象のひとつひとつに想いが宿り、それは時に形を得る。
それが彼女ら妖精だ。
やがてふたりは尾根へとたどり着いた。
はるか彼方にまで続く山々、その斜面に繁茂する緑と、そしてとけ残った雪の白。
そしてふたりを見下ろすどこまでも広がる青空。
雄大な大自然が、ふたりの妖精の訪れを祝福していた。
「うん、あたいにはちょっとおとるけど、このふうけいもさいきょーね!」
そう言って笑みを浮かべるチルノにようやく追いついた大妖精が、「つかまえた」と言って背後から抱きしめる。
「もう、くすぐったいよ、大ちゃん」
「ふふ。私のことを置いていこうとした罰だよ」
嬌声をあげてふたりはじゃれあう。満面の笑みを浮かべ、楽しくて仕方がないというように。
たとえひとならざる存在だとしても、こうして子どもが笑えているということは、そこは、とてもいい世界なのだろう。
子どもがこうして、重荷も責務も背負うことなく、ただ日々を楽しんで過ごす。
そのかけがえのない輝かしいものを、このふたりの妖精は、まったく意識することなく示している。
目に見えるすべてが、輝かしいものに感じられる。こうしてただ生きていることが、最高の幸福だと感じている。
大自然の具現だからこそ、彼女たちはただそこにあるものを、とても愛おしく感じているのかもしれない。
「でも、よくこんな場所知ってたね、チルノちゃん」
「とうぜんよ。なんてったって、あたいはさいきょーだからね!」
好奇心の塊であるチルノは常々、これまで誰も見たことのない"はじめて"を探し求め、幻想郷を冒険していた。
その未知を探索している途中で、偶然、この場所を見つけたのだ。
そして大切な親友である大妖精を誘い、ふたりにとっての"はじめて"の場所にたどりついた。
これまで見たことも聞いたこともない何か。それを体験することはひとりででもできるけれど――
こうして誰かと共有することの方が、何倍も楽しいことだとチルノには思えた。大好きな親友とならなおさら。
ただこうしてふたりで眺めているだけで。胸が高鳴るのを感じる。
そんな未知を楽しんでいたふたりの髪が、突風で翻る。
つむじ風がふたりの目の前に発生し、それによって湧き上がるほこりや砂にふたりが目を閉じている間に――
ひとつの人影が姿をあらわしていた。
団扇と取材用のメモとペンを手にした天狗少女――射命丸 文だ。
「お久しぶりです、チルノさん。それに、大妖精さんも」
「文さん!」
大妖精は丁寧にお辞儀をする。それを見て文の笑顔が深くなる。
「大妖精さんはいつも礼儀正しくて素敵ですねえ。――それにくらべて、なんです? チルノさん。
せっかくあなたの恩人が来ているっていうのに、なんの挨拶もなしですか?」
その言葉に、チルノはむっとした表情をつくった。
「なにがおんじんだ! あんたのきじのせいであたいはいろんなやつにバカにされてるのよ! あんたのしんぶんは、うそばっかし!」
「いいえ、嘘ではありませんよ。わたしは常に公正な視点に立って記事を書くことを心がけているのですから」
「うそ、うそ! あたいと大ガマのたたかいだって、まるであたいがまけたみたいにかいたじゃない!」
「何言ってるんですか。実際負けたでしょうに」
「まけてないもん! いいしょうぶはしたもん! あたいしってるぞ、そういうの、マスゴミっていうんだ!」
「ち、チルノさんは物知りですねえ……」
この三人の関係は、文がチルノの冒険を「文々。新聞」に記事として載せたことから始まっている。
『氷の妖精、大ガマに喰われる』との題目で書かれた記事に憤慨したチルノが、大妖精を連れ立って元凶たる天狗記者の
ところに新聞の修正を要求しに向かい、名誉の回復を図ったのだ。結局チルノの申し立ては聞き入れられなかったのだが、
文の「あなたが大ガマに勝ったという事実を提供してくれるのなら、わたしはよろこんでそれを記事にしますよ」という言葉が、
チルノの負けず嫌いな心に火をつけた。
以来大ガマに戦いを挑んでは負けるというチルノと、それを記事にする文、そしてふたりを応援する大妖精といった関係が続いている。
「――それで、あれからどうなりました? 大ガマには勝ちましたか?
実はわたし、新聞の記事にするネタがなくて困っているところでして。いまなら一面にばばーん!とチルノさんの大スクープが
載るチャンスですよ。それに個人的にも、そろそろチルノさんの吉報が聞きたいところです」
「う。そ、それは、まだだけど……」
「まだだけど?」
「いつかちゃんとかってみせるんだから! そしてあんたも大ガマも、ぎゃふんっていわせてやる!」
「――ふふ。まったく、チルノさんは背伸びがお好きですねえ。
まあ、わたしはその決して諦めない心が好きで、だからこそあなたの記事を書くことを楽しみにしてるんですけど」
「あたい、せのびなんかしてないもん! さいきょーだから、そんなことしない!
それに、あたいがほんきをだせば、あんたなんてごみばこぽいぽいの、ぽいなんだから!」
「へーえ?」
胸をはって自信満々な笑みを浮かべるチルノに、文は、少しだけ意地悪がしたくなった。
「それなら、いまここで証明してみてくださいよ」
「えっ……?」
へりくだった態度を見せているものの、この天狗少女は実は相当強いのだ。幻想郷には実力者はそれこそ星の数ほどいるが、
彼女はその強豪妖怪の中において最強の一角と目されている。
「風を操る程度の能力」の持ち主であり、「幻想郷最速」と謳われる彼女は、その身を疾風と化し、あらゆる善悪正邪を翻弄する。
妖精最強であるチルノも、この天狗少女が相手ではいささか分が悪すぎる。
「私は逃げも隠れもしません。あ、弾幕はかわしますけどね。ほらほらー、早くみせてくださいよ、あなたの本気」
「う……ううー!」
歯を剥いて威嚇するチルノであったが――戯れに文が発揮した彼女の背後に蠢く妖力を感じ取って。
自分と彼女の圧倒的な力量差をはっきりと見せつけられて。
自分は"最強"ではないと悟って。
チルノは頭をうなだれ、しばらく黙っていたかと思うと、
「――う、うわーん! ぶんぶんがいじめるー! うわあああああああん!!!」
「い!?」
――大きな声で泣き出した。
「あ、文さん!」
「わ、わたし別に泣かせるつもりじゃ――
ああもう、チルノさんごめんなさい、あなたは最強ですよ、ええ、そうですとも。わたしが保証します」
「うわあああああああん!!! うわあああああああん!!!」
「あややややや……」
一度決壊してしまったものは止まらない。そしてそれを無理に押しとどめてしまえば、心のどこかにしこりが残ってしまう。
大妖精は、悲しみもなにもかも、泣いてしまうことですべて吐き出してしまえばいいことを知っていた。
だから文に目くばせする。大丈夫ですよ、と。
――五分ほどたって、ようやくチルノは泣きやんだ。しゃくりあげながら、文のことを睨みつけている。
文はばつのわるそうな顔をして、黙ったままだ。
まだ目尻に涙をためているチルノを、大妖精は抱きしめる。
「私、別に、チルノちゃんがさいきょーじゃなくてもいいよ。チルノちゃんと遊べるなら、どんなチルノちゃんだって、私、好きだよ」
きっと彼女は、チルノを慰めるために、その言葉を投げかけたのだろう。
けれど、けれど。
「……大ちゃんもわかってない! あたいは、さいきょーなの! 大ちゃんもあたいをバカにするのね! そんな大ちゃんなんて――」
大妖精の抱擁を振り切って。
背中の美しい青色をした六枚の結晶の羽を輝かせ、チルノは浮かび上がる。
そのまなじりに大きな涙を浮かべ、心の奥底から湧き出る暗く澱んだものを抑えることができず――
「――ぜっこうしてやる!」
チルノは、大切な親友へ、最悪の言葉をぶつけてしまう。
「チルノちゃん!? ま、待って!」
――けれど、その声は、届かない。
――小さな氷精は、親友の声に耳をふさぎ、逃げるように。
――はるか彼方へ、姿を消した。
◇◇◇
「あたい……ばかじゃないもん……さいきょーなんだもん……」
そこが何処なのか、チルノは知らない。ただ湧き上がる心の赴くまま空を飛んで、ここにたどり着いた。
魔法の森だろうか。それとも、自分が訪れたことのない、"はじめて"の土地なのだろうか。
――どうでもいいことだ、そんなこと。さっき受けた心の傷にくらべたら、"はじめて"なんて。何の価値もない。
自分は最強などではないと思い知らされたことによって、チルノは深く傷ついていた。
いや、本当は。最初から知っていたのだ。自分は、最強なんかじゃ、ない。
紅白の巫女、黒白の魔法使い、悪魔の従者――かつての異変でチルノはこの三人の人間に"弾幕ごっこ"を仕掛け、惨敗を喫した。
自分は最強なんかじゃなかった。なのにその後も、変わらず自分のことを最強だと言って。自分を最強だと偽って。
その嘘の上塗りは、チルノの心の傷を、確実に膿ませていく。
そして、周囲の人間や妖怪の、彼女への接し方もまた、その傷を深く深く抉っていた。
『ああもう、チルノさんごめんなさい、あなたは最強ですよ、ええ、そうですとも』
先ほど掛けられた、文の慰めの言葉。
きっと彼女は、泣きわめく自分がうっとうしいから、わざとそんなことを言ったのだろう。決して、本心ではない。
まだ未熟だからとあなどって接していると、子どもは目ざとくその裏の真意を読み取る。
子どもは大人よりも、そして誰よりも、高みに登ろうと必死だから。
けれど、けれど。
誰より必死であろうとも、それが成長と結びついていなければ、すべて無意味だ。そうチルノは思う。
最悪の気分だった。
いまの彼女は、周囲の人間や妖怪、そして"最強"という言葉で虚飾をほどこそうとする自分のことを、嫌いになりかけていた。
そして――
『――ぜっこうしてやる!』
どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。
大切な親友が、自分のことを裏切ったと思ってしまったから?
いいや、彼女は裏切ってなどいない。
きっと彼女は、本心から自分のことを想ってくれているが故に、あの言葉を言ってくれたのに。
"最強"でなくてもいい、それでも自分のことが好きだというその言葉――それに嘘なんてない。
そんな大切な親友のことを――自分こそが、裏切ったのだ。
「うぐっ……うえええ……っ」
(きらい、きらい、きらい。なにもかも、大ちゃんをうらぎった、さいきょーじゃないうそつきなあたいも)
(――ぜんぶ、だいきらい)
――そうして誰もいない森の中
――彼女はたったひとり、むせび泣く。
――いいや、いいや。ひとりでは、ない。
――木々が織りなすその暗がりに。
――チルノを見下ろす、澱み、蠢く赫色が、ひとつ。
『――み――』
『――つ――』
『――け――』
『――た――』
このSSは、「文チルは俺の一面記事」、「大チルが俺のアイシクルフォール」、
その他の俺達のジャスティスでお送りいたします。
……ええ、はい。というわけで、また性懲りもなく、東方SSです。
前回の「砂糖菓子の流星」では東方は自重しますといったのに、また書いてしまいました。
すみません。
あと、今回のSSは、あるSS職人さんへのメッセージも含んでいます。
拙作「砂糖菓子の流星」の設定を汲んでくれた、あのSS――
まさに
>>7の文のような感想を抱きました。
いつまでも楽しみに待っています。
>>254 >でもロングが最強ですか。
あ、単体のスペックに限っての話です。
なんせロングは作中で台風を喚んだことがあるので。
さすがの優も、台風そのものは倒すのは難しいでしょうから……。
>>261 >今回は優が主役の面目躍如といった回でしたね。
>どうしてもティアに主役を奪われがちになってましたけど
あああああ……がんばって書きます。
どうも最近、キャラの描き方の比重が偏ってるなあと思っていたので……。
ふら〜りさん
やっと優の描き方が乗ってきたって感じでした、前回は。
なんか最近、男を書くのにあまり魅力を感じなくなってきていて……。
これは不味い。非常に。なんとかしないと……。
とりあえず少年漫画の名作を片っ端から読み漁りたいと思います。
正統派ヒーロー……そう映ってくれたのなら幸いです。
自分にとっては、この正統派ヒーローこそが一番書くのが難しいと感じているので。
サマサさん
>初めに謝っておきます。澪音の世界・星屑の革紐が大好きだ!という方…
>マジすいませんでしたァァァァァァッ!(ジャンピング土下座)
許す。だが殺す(嘘です
<狗使い>のキャラ、好きです。小さな女の子と大きな獣っていう組み合わせは萌えますね。
シエルは……どうなんでしょうね。力量に関しては神父と同格かちょっと劣るくらいで、
そのために畏怖されてるっていう面もあるんでしょうけども。でも彼女が嫌われているとしたら、
それは過去彼女が一時期教会で言われてるところの異端だったってことが一番大きいかもです。
ガモンさん
その言葉をかけてくれるだけで、彼女らもうかばれると思います……(さりげなく死亡フラグをたてる
あと、ゲマの台詞に「イラッ☆」ってなりました。
でも彼は超魔生物になったあとのハドラーを知らない感じですね……。
保身を捨てたあとのハドラーを見て、ゲマは何を思うのか。
ああ、ガモンさんのSS読んでたら大ダイ再読したくなってきました……。
いま漫画喫茶にいるので、ハドラーの最期のところ読んでいこうと思います。
ハシさんお疲れ様ですー!
原作知りませんがまたロンギヌスとは毛色の違う
メルヘンチックな感じの作風ですね。
チルノの活躍を楽しみにしております。
ハロイさん(ですよね?)復活されるといいですねー!
18 :
作者の都合により名無しです:2009/07/23(木) 07:13:22 ID:ddCPJytj0
ハシさん新作とスレ立て乙です
東方は意外とファンがいるようですな
さいきょーを目指しながらもぜんぜん最強じゃない
チルノがどう最強になるって話かな?
第九話 暗黒
踏み込む者のいない魔界の奥地にある洞窟には内部に手が加えられていた。
その一室で椅子に座った男女がテーブルを挟んで座っていた。
室内は暗く、照明の設置の仕方から判断するに明度を重視していないようだ。内装も地味で殺風景である。華やかで趣向の凝らされた造りの大魔宮とは正反対だ。
死神によって案内されたイルミナは第三勢力を睨みつけた。
かたや自分の名を明らかにしない謎に包まれた存在。かたや大魔王の血を引き、遺志を継ぐ決意を固めている者。
どちらも地上に対して好意を抱いているとは言いがたいが、互いに手を取り合い、胸襟を開いて語り合う心境には程遠い。
闇を切り取ったような感情の読めない漆黒の双眸が彼女を見つめている。
「シャドーはどこだ」
「まあ、そう焦んなって」
地を這うような声に対し、男は降参するように手を上げ飄々とした笑みを浮かべた。
「てめえと話がしたくてよ」
話すことなど無い、と表情に書いてあるが気に留めずにもったいぶって腕を組む。
「話?」
イルミナははっきりと冷笑を浮かべた。不気味な魔物を幾度も送り込み、殺そうとしていたのだから今さら話し合う必要などないはずだ。
今ここで部下――シャドーの居場所を聞き出そうとしても無駄であることを察し、衝動を抑えるかのように拳を握る。
「私の部下を使っておびき寄せずとも済んだものを……!」
部下を攫うような真似をしなくても、直接会う機会が与えられたならば罠だと知りつつ応じただろう。
彼女の方も相手の真意を知りたいと思っていたのだから。
一方的に敵視し葬ろうとしていた理由。
表立って反旗を翻したならばともかく、敵意を抱いておらず、実力も未熟な、部下もろくにいない存在など脅威にはならなかったはずだ。
成長して力をつけることを恐れているならば他にも手の打ちようはあった。
秘法が解けて父の死を知らされた直後ならば、もっともらしい理屈をつけて力を利用するため陣営に引き込むことも可能だっただろう。
バーンのように地上を完全に破壊しようという野望も、ヴェルザーのように世界を手中におさめようという欲望も無い彼は何を目的としているのか。
値踏みするような視線と嫌悪感を隠しきれない眼差しが交差する。
「始末を部下に任せてもよかったんだけどよ。やっぱ直接見ときたかったんだ、バーンの家族がどんな奴か」
大魔王の名が出るとイルミナの顔色が変わった。
彼は相手の心の動きに気づいていたが、別のことを口にした。
「いきなり殺そうとした理由は……目障り。そんだけ」
話し合いという名目が虚しく感じられる、吐き捨てるような口調だった。呼んだのも、前向きな関係を築くためではなくおびき寄せて殺すためだとわかる。
敵意がぶつかりあい、氷の張りつめるような冷やかな空気が薄暗い室内に立ち込めた。
「第三勢力と名乗る割にまともな部下がおらんようだな」
出現した魔物は魔界に生息する種類ではない。見たこともない生物は無理矢理生み出されたようないびつな姿をしていた。
意思の疎通をはかろうともせず、淡々と殺そうとするだけの異形の存在。
たった一名とはいえ、忠実で真面目なシャドーのいる彼女の方がよほど部下に恵まれていると言える。
「部下がいたって面倒くせえだけだろ。世界征服とか興味ないし、賭けに参加したのも監視目的で――」
「監視?」
彼は口が滑ったというように顔をしかめた。
言うべきか言わざるべきか、しばらく迷った末に言葉を吐き出す。
「確認しときたいんだが、てめえはバーンの野望を叶えるつもりなんだろ?」
彼女は即座に頷いた。考えるまでもない、当たり前のことだった。
世界が一つだった頃、魔族も竜も太陽の下で暮らしていた。人間に比べると遥かに寿命が長いため、体質もそう簡単には変わらない。
長年魔界で暮らしてきた魔族、バーンが何よりも求め焦がれた太陽。それを他の住人も欲している。
「父の大望を――」
決意を秘めた声に第三勢力は髪をぼりぼりとかいた。聞きわけの無い子供に対するように指を振ってみせる。
「あのな、魔界に太陽をって考えが間違ってンだよ。不毛の大地、暗黒の世界……それでいいだろ。神サマが決めたんだぜ、太陽の恵みは人間のモンだって」
「な……!」
掲げた信念を真っ向から否定され、絶句する相手の顔を見てにやにや笑っている。
魔界の住人が聞けば怒りだすような考えを明らかにした彼は、きっぱり言い切った。
「俺はお断りだね。暗い魔界にひきこもってりゃそれでいい。……たぶん」
彼は光ある世界を求めてはいない。
だから地上を破壊するつもりも、侵略するつもりもない。
彼女を嫌っていたのも根底に流れる価値観が相容れないためだ。
実力はあるのだろうが、部下がいない理由は明白だ。
信念も威厳も覇気もなく、他者を惹きつけ従わせる力が欠けている。己に何も与えない相手に力を捧げる気にはなれないだろう。
「……いざとなったら計画を邪魔しようって思ってた。うまく妨害できなくて焦ってたら潰れたけどな。ホッとしたのなんのって」
欲の無い態度に呆れ返っていたイルミナの表情が一気に険しくなった。
父の野望を侮辱する言葉は許せない。
今にも怒りを爆発させそうな彼女を煽るように、第三勢力は言葉を続ける。
「何千年もかけた計画がワケのわかんねー力でパーになって、化物から自分の信念叩き返されて……同情するぜ。ミストバーンのヤローが見てたらどんな反応しただろな?」
シャドーを相手にした時と同じく、ミストバーン――ミストに言及する彼は不快げだ。
その理由を追求するより早く第三勢力は肩をすくめた。
「ま、どんなにご大層な志を持ってようと死んじまえばおしまいだな。ただの負け犬だ」
ギリ、と歯を鳴らした彼女を宥めるように手を振る。
「バーンが主張してた“力こそ全て”ってのはそういうことだろ?」
闘いに負け、命を落とせばただの敗者でしかない。負けたことを悪しざまに言われようと反論はできない。
彼が最期まで貫き通した非情な理が、遺族の心を重く沈ませていく。
「負けた奴の遺志を継ぐって意気込んでるてめえも、命令を後生大事に守ってるてめえの部下も、物好きなこった」
彼女の目の中に雷光が閃いた。
自分だけでなく大魔王とその腹心、自分の部下をも否定しようとしている相手に殺気を叩きつける。
「シャドーを殺したのか?」
「まだ完全に消えちゃいねえよ」
彼は己の胸を指差した。まるでそこにシャドーがいるかのように。
「でも別に気にする必要ねえだろ。命令だから従ってるだけの――」
イルミナはゆらりと立ち上がり、低い声で告げた。
「今はそうかもしれん。命令が無くとも従いたくなるような主になればいいだけの話だ」
確かに、ミストからの命令で仕えていると宣言された時は素直に頷けなかった。
ただの義務感でしかないのかと思った。
だが、シャドーが彼女の力になったことは事実だ。
心から従わせるには、上に立つ者としての力量を備えねばならない。
そのための努力もしないで相手の態度に不満を漏らすばかりでは、相応しい主とは言えない。
もうこれ以上話すことは無い。
覇権に執着しない理由も、敵対する理由もわかった。決して交わることの無い道を歩んでいると理解できた。
ならば、後は戦うのみ。
第三勢力が立ち上がり、ここでは狭いと言うように場所を移した。洞窟の一部とは思えない大きさの広間に出た二人は向かい合った。
青年は陰鬱な空間に相応しい微笑を浮かべ、泰然としている。
「俺、弱えんだけどなー。必殺技とか奥義とかねえし」
彼が軽く両手を差し伸べると不可思議な紋様がイルミナの身体を包み込んだ。
「く……!?」
急激な脱力感が彼女を襲う。
第三勢力の能力を知った彼女の面に焦慮の色が浮かんだ。
力が抑えられてしまったのだ。
「真っ向勝負は苦手だ。……蝕んだり取り込んだりは得意だがな」
バーンやヴェルザーのような目立つ能力や華々しい強さがない代わりに、特殊な能力を持っている。
己を蝕む力の性質を探ろうとした彼女は目を細めた。
「貴様が取り込んだ力は……天界の」
「正解」
彼は天界の住人の力や知識の断片を少しずつ食らい、我が物としてきた。
魔族たちが相手だとうまく吸収できず、天界の住人の方が効きやすかったため後者を力を食らうための獲物に選んだ。相性があるのだろう。
精霊たちは戦う力は持たないが、封印や結界といった術を扱うことに長け、対象の力を増減させる補助呪文を使うことができる。
部下として出現させた魔物たちは、竜の騎士のような生命を生み出す能力の結晶だった。
だが、不完全でいびつなものである。ゼロから完全な生命体を作りだすのではなく、魔界の魔物たちをベースにして偽りの生命を与えたのだ。
自身の実力は大魔王や冥竜王ほど高くないが、相手の力を落として戦う。力が十分に発揮できなくなるという点で厄介な能力だ。
たとえ強くても正面から戦える相手ならばやりやすいだろうが、思うように力を振るえない感覚のずれが動きを鈍らせる。
彼は速度の落ちた攻撃を容易く避け、反撃を叩きこんだ。常ならば容易く防げる一撃が彼女の身体を吹き飛ばし、荒れた大地に叩きつける。
身を起こし、構えた彼女は相手を詰ることもせず静かに機をうかがっている。
「卑怯とか言わねーのか?」
彼女は黙って頷いた。
勝利のために相手の力を削ぐのは当然のことだ。
己の未熟さが原因であり、真に強ければ少々力が落ちようと容易く勝利できたはず。
大魔王バーンならば。あるいは、腹心の部下ミストバーンならば。
「てめえの部下も俺が食っちまったよ」
挑発するように唇を吊り上げて笑う。取り込んでしまったと知ってイルミナが目を見開いた。
相手の正体を垣間見たかのように。
光の奔流が渦巻き、分身体とヒュンケル、マァムの戦いは終わりを迎えようとしていた。
闘気の波を叩きつけられた二人だったが、ヒュンケルが我が身を盾とし、とっさにマァムを庇ったのだ。
とうに限界に達していた身体を気力だけで動かしていたが、超人的な精神をもってしてもこれ以上戦うことはできない。
威力が軽減されたとはいえ、マァムも動けない。
「いつでも一発逆転できると思ったかよ?」
分身体はぐったりと横たわる二人の身体を抱え上げた。すぐさま生命を奪う意思はないらしい。
「……!?」
不吉な予感を覚えたアバンが眉をひそめたが、その隙に刃が身体を切り裂き鮮血を散らした。
よろめいた彼へ死神が笑いながら鎌を振り上げる。
「そろそろサヨナラ、かな?」
振り下ろそうとした瞬間、金色の光が走った。飛来した黄金の羽根を弾き飛ばし、距離をとる。
現れたのはレオナだった。フェザーで援護したのだ。
死神は乱暴に扱われても壊れなかった玩具に向ける眼差しで二人を相手にしようとした。
が、頭を押さえ後退する。
「あちゃあ、ヴェルザー様ピンチ?」
緊張感の無い呟きを漏らし、鎌をくるりと回す。
「一応主だからねェ」
死神はそう言い放ち、瞬時に移動した。合流呪文を使ったのだろう。
勇者たちを相手に苦戦しているであろう主――ヴェルザーの援護に行ったのだ。
ダイが竜闘気を纏いつつ自分の剣で斬りかかり、ヒムとラーハルトは魔物や竜たちを相手にしている。
ポップはダイの支援に徹し、効果的に魔法を叩きこんでいる。
手にしている杖はブラックロッドのような多彩な変形機能こそないが、魔力を力に変換でき、使いやすい。
歴代竜の騎士の中で最も強いダイは真っ向から戦っている。紋章はひたいに浮かんでいるが、竜魔人化はしていない。
自身の存在を捨てるかもしれない、あまりに危険な能力はできることならば使わずにいたかった。
破壊衝動に駆られ、敵を滅ぼしつくすまで戦う化物としてではなく、地上の平和のため、人間のために戦う“みんなのダイ”として剣を振るいたいのだから。
順調に戦いを進めていたダイたちが勝利を予感した瞬間、トランプのカードがひらりと落ちた。主の劣勢を知って死神が援護に駆け付けたのだ。
「しっかりしてくださいよ、ヴェルザー様」
忠誠心の感じられない態度にヴェルザーが不快げに唸った。
追ってきたアバンとレオナも合流し、向き直る。
仕切り直しかと思われたが、別の方向から光の渦が巻き起こると中から男が現れた。
黒髪の中に金色が混じっている彼は第三勢力の分身体だ。
「よお」
手を上げて呑気に挨拶した彼はヒュンケルとマァムを預かっていることを告げた。
一同の表情がさっと変わったのを見、嬉しげに喉を鳴らす。
彼は喜々として闘いの様子を語りはじめた。
「オレのセリフにいちいち顔色変えて……敵の言うことなんか放っときゃいいのによォ。まったく、虫唾の走るイイ子ちゃんだ」
侵略しようとしていた魔王軍、人々を襲った分身体に対し、使徒をはじめとする人間たちは生命を守るため立ち向かっていったにすぎない。
闘う意志のない者や力を失った相手を痛めつけ、殺すような真似はしない。
それでも彼らは完全に割り切ることはできなかった。
「ちっとも楽しんでなかったって言いきれるか? すげえ技で雑魚を蹴散らした時スカッとしなかったか? そう尋ねた時の顔、面白かったぜ?」
ククッと笑い、両手を広げる。
「返品したいんで取りにきな、ダイ。まさか見捨てるなんてこたしねえよな? 正義の味方の勇者サマは」
行かなければ二人は殺されてしまうだろう。ポップが自分も行くと言いかけたが、分身体は却下した。
本拠地まで案内するのは一人、ダイだけだと言う。
魔界に行くだけならば世界各地に出現した穴を通ればいい。だが、第三勢力のいる場所を自力で探していては時間がかかりすぎる。
手引きが無ければ戦闘に勝利するどころか敵の元へ到達すらできない。
ダイがいればヴェルザーに勝てるはずだった。
レオナは直接闘うのではなく援護に回るため、実質的にポップとアバン、ヒム、ラーハルトでヴェルザーと死神を相手にしなければならない。
ダイも、いくら強いとはいえ、たった一人で敵地に赴くには危険すぎる。バーンのように自分の力をぶつけてくる相手ならばともかく、卑怯な手段も当然のように使う相手なのだ。
「来ねえの? じゃ殺しちまうか。復活しないよう念入りにな」
ダイたちの顔色が変わり――ポップが声を絞り出すようにして告げた。
「二人を頼む」
ダイは頷き、分身体に連れられて魔界へと赴いた。
25 :
顕正:2009/07/23(木) 08:27:51 ID:L5GejjoP0
以上です。
スレ立て乙です。
ダイの大冒険もですが、うしおととらの悪役、特にラスボスが大好きです。
バーン様も白面の者も圧倒的な実力と威厳があります。
ハドラーやミストバーンとは異なる方向の魅力がある紅煉や斗和子も好きです。
顕正さんお疲れ様です
魔界は暗くてジメジメしてるから魔界といわれれば魔界。
禅問答のような応対をする飄々とする男にイルミナは手玉に取られてますね。
まさに狂言回し的存在。
>ハシさん(スレたて乙です)
東方はあまり知りませんがとても可愛らしいキャラたちが活き活きとしてますね。
子供っぽい?チルノですがそれ故に壊れやすい感じでまたいとおしいです。
>顕正さん(お名前、どういう意味でしょうか?)
なんとなく哲学的な趣もある第三勢力。バーンの偉業もイルミナの思いも一言で
切って捨てるのはある意味痛快ですね。それ故に底知れない何かを感じます。
ヴェルザーはやはりバーンほど強くないのか
確かにバランにすら1対1で負けたからな
29 :
しけい荘大戦:2009/07/24(金) 23:00:15 ID:oK8CTaZ10
最終話「夜明け」
決着を迎えた時刻──暁光がホテルに淡く差し込んだ。
シコルスキーがゲバルに対抗できる点は指だけだった。指しかなかった。だからこそシ
コルスキーは指を根こそぎ生かし切ることで、勝利をもぎ取ることができた。
敗北を喫したゲバルがまもなく意識を取り戻す。清々しい表情をしている。
「よう……シコルスキー。グッドゥモーニング」
「ゲバル……」
「……敗けちまったな。こうなった以上、俺はもうボッシュに手を出す気はない」
ゲバルは潔く敗北を宣言した。余力はある。力を出し尽くした今のシコルスキーならば、
襲いかかれば百パーセント倒せるにもかかわらず、だ。
戸惑うシコルスキーに、ゲバルは爽やかに微笑む。
「胸を張ってくれよ。おまえはテロリストからも、俺たちからも、ボッシュを守り抜いた。
ボディガードをやり遂げたんだからな」
右手と右手。互いに傷ついた利き手同士で握手を交わす。好敵手との会話は、言葉では
なくこれだけで十分だった。
「ふっふっふ、敗れてしまったようだねェ、ゲバル君」
突如、米国大統領ボッシュが姿を現した。戦いの前にゲバルによって気絶させられてい
たが、目を覚ましたようだ。
「ボッシュ……」
「聞いたよ。君はもう私に手を出さない、と。これにて一件落着……というワケにはいか
ないのだよ」
ボッシュは右手を拳にすると、上向きにした左掌に叩きつけた。
「先ほど君らが私にしたこと、忘れたわけではあるまい」
ゲバルとレッセンによる拘束及び脅迫、誘拐未遂。高いプライドを持つボッシュが水に
流せるはずもない。
「君らの国には軍を投入させてもらおう。兵士と監視衛星で徹底した管理下に置く。むろ
ん独立だけは認めておいてやるがね……。ついでに我が国に潜入したという君の手下ども
は草の根を分けてでも探し出し、全員始末してやる。敗北して逮捕された大統領の命と引
き換えになら、喜んで首を差し出す連中だろうからねェ」
唇を卑しい笑みに変え、ボッシュはシコルスキーに高らかに命令を下す。
30 :
しけい荘大戦:2009/07/24(金) 23:01:02 ID:oK8CTaZ10
「シコルスキー君、最後の仕上げだ! 凶悪犯ゲバルを捕縛するのだ。そうすれば君にア
メリカンドリームを──」
次の瞬間、シコルスキーは右肘でボッシュの前歯を叩き割っていた。
「ひいぃぃっ! な、なんでこ、こんな……ッ!」
「さっそくアメリカンドリームが叶ったぜ。一度大統領ってのを殴ってみたかったんだ」
「ぜ、絶対に許さんぞ……。必ず後悔させてやるからな……ッ!」
「やってみろ。アパートでのいじめに比べたら、米軍を相手にする方が遥かに気楽だぜ」
「くぅぅっ……!」
折れた前歯を大切そうにかき集め、悔しそうに立ち去って行くボッシュの背中。朝日を
浴びつつ、シコルスキーとゲバルは笑い合った。
午前六時を回った頃、天内悠を筆頭とするテログループは主要メンバーのほとんどを逮
捕され、再起不能同然となった。ただしカマキリだけは徳川光成が経営する動物園に引き
取られることになった。
天内は手錠をかけられる際、園田に「全力を出せてよかった」と漏らしたという。
目まぐるしく後処理がなされる中、大活躍をしたしけい荘陣営はというと、全員が病院
に搬送されていた。
鬼と化した刃牙の猛攻を受けきったオリバ。
春成との中国拳法対決を制したドリアン。
巨大カマキリと真っ向から張り合ったスペック。
格上であるゲバルを空道で苦しめた柳。
自爆でレッセンと相打ちとなったドイル。
天内とゲバル、強敵二人から勝利を掴んだシコルスキー。
個々の差はあれど、無事な者など一人もいなかった。ボッシュが前歯を失うくらいで済
んだのは、彼らがそれぞれ鍛え上げた力の全てを発揮したからに他ならない。
一方、オリバに吐いた捨て台詞の通り、デートを決行した刃牙には思いがけないドラマ
が待っていた。
病室をノックする音。ベッドに横たわる刃牙が応じると、一人の女性が入って来た。
「聞いたわ。敗けたんですってね」
「梢江……来てくれたんだね」
包帯とギプスまみれの体を無理に起こす刃牙。梢江はつかつかとベッドに近づき、刃牙
の耳元でこうささやいた。
31 :
しけい荘大戦:2009/07/24(金) 23:02:01 ID:oK8CTaZ10
「カッコわる」
さらに続ける。
「いつか調べたことがあるわ。刃牙という言葉の意味。刃(やいば)、鋭く威力のあるさ
ま。牙(きば)、鋭く大きく尖った歯。だけど、どうやらあなたはとんだナマクラだった
ようね」
表情を凍りつかせる刃牙に、梢江は見舞いの品を取り出した。
焼きたてのピザを。
「ハイィィッ!」
梢江は咆哮とともに、熱々のピザ生地を刃牙の顔面に叩きつけた。満足に動かせぬ体で
もがく刃牙に見向きもせず、梢江は病室を後にした。
──範馬刃牙、二度目の敗北。
一ヶ月後、しけい荘はまたいつものいい加減な空気を取り戻していた。
家賃を滞納し、またもオリバに追いかけられるスペック。
「ハハハ、大家サンヨォ。俺ダッテイツマデモ逃ゲテイルワケジャナイゼ」
「ほう……私とやる気かね」
「受ケテミヤガレ、消力(シャオリー)ッ!」
スペックのゆるやかな拳がオリバの胸板に触れた。ダメージがありそうな攻撃ではなか
ったが、本当にダメージはなかった。
「ふざけているのかね」
「ア、アレ……?」
どうやらスペックが老人会メンバーの技を使えるのは酸欠状態の時に限られるらしい。
「ア……アバヨッ!」やはり逃げるのだった。
足空掌すら通用せず、ゲバルに惨敗した柳はというと、猛省していた。部屋で茶をすす
りながらある真理に到達する。
「ゲバルさんのあの若さと筋力に対抗するには、私も若返るしかないッ!」
男性用のファッション雑誌を買い漁り、柳は若者の街「渋谷」へ修業に出ることを決意
した。
「いざッ!」
猛毒柳龍光は、またひとつ伝説を打ち立てることとなる。
ドリアンは相変わらず実らないペテンを続けている。海王のブランドを利用して『これ
であなたも恐竜になれる』という適当に綴った偽象形拳の本を出版したが、全く売れなか
ったという。
32 :
しけい荘大戦:2009/07/24(金) 23:02:53 ID:oK8CTaZ10
しかも烈に海王の名を悪用したことがばれ、スペック同様追われる身となってしまった。
「ドリアン海王、今日こそ覚悟してもらいましょうッ!」
「れ、烈君……少しは私の話を……。私にも生活が……」
「問答無用ッ!」
怒る烈、泣くドリアン。同門対決は御法度などという掟は両名には通用しない。
しけい荘が誇る手品師ドイルは、レッセン相手に引き分けに持ち込むのがやっとだった
ことを悔やんでいた。毒手を克服すべく、現在は解毒剤と第三の目となるカメラを体内に
埋め込むことを検討している。
また一週間前から世界最大の空手組織「神心会」に入門し、早くも正拳突きをマスター
しつつある。
「セイィッ!」
もちろん実験台はシコルスキーである。
七人目の住民だったゲバルはもういない。彼はあれから行方をくらまし、アパートにも
便り一つない。きっと今もなお、米国との過酷な闘争に身を置いているにちがいない。
ある日、しけい荘に真新しい一台のロッカーが配達された。扉には「301」と印刷さ
れている。
恐る恐る皆で戸を開くと、中には一通の手紙が添えてあった。
「親愛なるしけい荘へ。
私もいつまでも同居している訳にはいかないので、新しい“301号室”を用意させて
もらった。
今度戻った時はよろしく頼む──純・ゲバル」
これを読み、シコルスキーは苦笑した。
「とうとうロッカーが自室かよ……。あいつらしいな」
オリバはその日のうちに、しけい荘の名簿に新たな部屋番号を一つ書き加えた。
お わ り
新スレおめでとうございます。ハシさんお疲れ様です。
これにて完結です。
ペース落とさず出来たことだけがせめてもの救いです。
最終ボスを天内にするかゲバルにするかは、ギリギリまで迷いましたがこうなりました。
中身としては防衛戦を書きたかったのですが、
結局タイマンを連続してやってるだけになってしまい……。
しかし、強すぎるカマキリやオリバVS刃牙、天内戦などは楽しんで書けました。
ゲバル戦ははっきりいって無理矢理勝たせたという感じです。
長らく投下させて頂き、本当にありがとうございました。
34 :
作者の都合により名無しです:2009/07/25(土) 08:55:39 ID:BEJ/u79m0
サナダムシさんお疲れ様でした!
最後の大統領への一撃、主役らしいカッコいい一発でした。
なんかエンディングがきれい過ぎてこのシリーズが
完全に終わってしまうんではないか・・と心配してしまいました。
また、面白い作品で復活してください。お願いします!
サナダムシさん、完結おめでとうございます。
ふら〜りさんと並んでもっとも完結が多い職人さんですね。
短編も読みきりも長編もうんこwもあらゆる分野を書けて
楽しませてくれるあなたを本当に尊敬します。
最後はさわやかなエンディングでしたね。
今回でとりあえずシコルスキーをはじめとするしけい荘の面々とは
お別れですが、またこのキャラたちと会えるのを楽しみにしてます。
もちろん、他の作品も期待してます。
サナダムシさんはバキスレ初期からの書き手さんである意味
バキスレの顔みたいな方なので、現スレでも何か書いて頂けると嬉しいですね。
お疲れ様でしたサナダさん
このシリーズ好きなのでまたやってください
敵キャラがもうなかなかいないでしょうが
ラスボスはゲバルでよかったと思います
天内はなんか格が足りない
今回も素敵なSSをありがとうございましたサナダムシさん。
男気とかわいげ溢れるしこるスキーをまた見れて楽しかったです。
次のシリーズはいよいよピクルか勇次郎が出動?
>長らく投下させて頂き、本当にありがとうございました
でもなんかこの1行が気にかかるな…
このままいなくなってしまうとかは勘弁して下さい。
38 :
作者の都合により名無しです:2009/07/25(土) 21:18:48 ID:BEJ/u79m0
ただの完結のご挨拶でしょ。
職人中の職人のサナダムシさんはまた帰ってくるさ!
久しぶりにうんこも読みたい。
第二十六話 二人の大魔王
ボブルの塔地下の戦いもついに大詰めを迎えている。
「もう貴様が逆転できる可能性はない。」
ジャミ目掛けて槍を突きつけるラーハルト、勝敗は誰の目にも明らかだった。
一方傷だらけのジャミ、呪文や息も通じず彼は倒されざる負えない状況に追い込まれ発狂する。
「ゲマ様ー!!!!」
これが彼の最期の言葉だった。オリハルコンを斬り裂くハーケンディストールの前にはジャミと言えど耐える事は出来ない。
ラーハルトは二つに分かれた死体に背を向け歩き出す。
「ぐはぁ……」
エスタークの一撃により左腕を斬り飛ばされるゴンズ、切り口からは夥しい量の血が流れる。
「後悔しろ、最早お前に生き残る術はない。」
後退するゴンズ、追い詰めるエスターク、やけになりゴンズは右腕に持つ斧を振り回す。しかし、当たらない。
対照的にエスタークは攻撃を仕掛けない。その事がゴンズにとってより恐怖を与えていた。
『無理だ!!勝てない!!!』
今更ながらにゴンズはエスタークを襲った事に後悔する。しかし時既に遅し。もう彼は逃げる事は出来ない。
「くそーー!!!!!こうなったら、逃げるしかね……」
背を向けようとした瞬間立ち止まる。ゴンズにもプライドがないわけではない。
彼にもゲマの部下として闘い続けてきた歴戦の戦士、その誇りが(逃走)の二文字を(闘争)に変え、エスタークに向かい特攻する。
そんな彼の誇りも、眼の前にいる男はねじ伏せる。まるで草を摘む様に容易く。
一気に近づいたゴンズの心臓を貫く。雄叫びを上げる事も無くゴンズは逝った。
「ダイは無事だろうか、急がなければ。」
エスタークは先程感じた気配の元へ走り出す。
ダイとバーン、ダイが斬りかかりバーンが受け止める状況が続く。
その均衡もやがては崩れ始め、バーンがダイを追い詰めていく。その状況をバーンは不審に思っていた。
「何故変身しない?まさか変身せずとも余に勝てると抜かすのか?」
そう、ダイはかつて大魔宮での戦いや一度目のエスタークとの闘いで見せた竜魔人に近い姿にならずに戦っていた。
「ダイ、一体どうしたんだ!」
ポップがダイに叫ぶ、しかしダイが変身しない理由はポップやマァムにあった。
今までダイは本意ではないが世界を守る為と割り切り、双竜紋を一つにさせてきた。それは周りに仲間がいなかったからという事もあるだろう。
しかし今ダイは仲間に見守られた中で宿敵大魔王バーンと闘っている。
このままでは勝てないとダイは知りつつ、仲間が見ている前で(魔獣)の姿になりたくなかった。
『例えどんな姿だろうがダイはダイだ。』
大魔宮でのポップの言葉が脳裏に浮かぶ。一度は皆の前で変身を決意した。それでも大切な友の前で凶悪な姿を晒したくない。
勇者とはいえ若干十二歳。彼は友に恐怖を与える存在になりはしないかと危惧していた。ダイの中で変身をして世界を守るか、醜い姿を晒さないで闘うかというジレンマに苛まれていた。
「ふん、何に気を取られているのか分からないが攻撃に手応えが感じられない、余を楽しませる事が出来なければ、死ぬだけだ。」
見切りをつけた大魔王バーンはダイ目掛けてカラミティエンドを振り下ろす。
「や、やめろー!!!!」
ポップはダイの前に立ちメラゾーマをバーンに当てる。バーンにダメージはない。
マァムも閃華裂光拳でバーンを殴り付ける。
「ぬるい、大魔宮で闘った時はこんなものではなかったはずだ!!」
バーンが想定していた闘いと大きく違うこの現状、バーンにとってはとても不愉快な状況だろう。
『駄目だ、俺が変身しないで皆が傷つくなんて、我慢出来ない!!』
ダイは両手の紋章を輝かせる。
「まさか、竜魔人になるのか?」
バーンが身構える。かつて圧倒的な力の差を見せつけられ、自分も勝利の為に全てを捨てさせられたダイの本気。
それでも後退しないのは大魔王のプライドが許さない。
「ならば余も全身全霊を以て闘おうではないか!!」
大魔王バーン最強の技、天地魔闘の構えにポップとマァムは戦慄を覚える。
その時ダイの頭上で嘲笑っている魔族の存在を感知したのはバーンだけだった。
「ふん、この塔にいるのはミルドラースだと思っていたがな、四千年の間動きを見せなかったお前が現れるとはな、ゾーマよ。」
バーンの眼の先には、青い体、黒い頭の部分に第三の眼が付き、二本の角が頭の両側に付く。
「バ、バーンにそっくりじゃねえか!!!」
それがポップの最初の意見だった。
その大きなマントと衣の着こなし方がどことなく老人姿のバーンを思い浮かべる。
「どうした、今から殺し合うのではないのか?どちらかが、華々しく散る瞬間を見たかったが。」
どことなく冷たい声、その声にマァムは身震いした。
「高見の見物とはいい御身分だなゾーマ。お前の様な大魔王が勇者の頭上にいて無視できると思うか?相変わらず空気の読めない男だな。」
大魔王、その言葉にダイはオーディンが言っていた事を思い出す。
「もしかして、お前がこの世界を破滅させようとするものなのか?」
「世界を破滅というのは知らないが天界を滅ぼそうとは思っている。」
天界を滅ぼすという言葉を悪びれも無く語るゾーマ、スケールの大きさがバーンとよく似ている。
「神々は末永く生き続けている。私にはそれが我慢できない。生あるものは死ぬ一瞬がとても美しい。
神々がこれからも醜く生き続けようとするならば裁きを下す事が我が勤め。
生にしがみつき、太陽を独占している神々は滅びなければならない。」
余りにも思考の似通っている二人、しかしそれだけに仲がいいという事はない。
ゾーマはダイを見やる。
「そんなに睨まんでもいい。この地上を破壊する気はない。ただ、勇者とそこの男の闘いを見たかっただけだ。」
小馬鹿にしたような態度でバーンはゾーマを見る。
「千年前からお前とは折が合わないがな。今回の決闘を邪魔した事は余も笑って許せる範囲を超えている。
「宿敵の死に様を見物しに来ただけだがな…貴様には千年前に付けられた胸の傷の借りがあるからな。」
「ならばお前がかかって来い。」
大魔王二人が闘気を放出する中ダイが二人の仲を割って入る。
「どっちにしたってお前達がこれからやる事は解ってるんだ。地上の爆破や天界の滅亡…
そんなこと、絶対にさせない!!!」
ダイの両腕の紋章が光る。二つの紋章が一つに……
直後ダイの顔面にメラゾーマが叩き込まれる。
「小僧、大魔王ゾーマを相手にするという事がどういう事か教えてやろうか。」
「くっ。」
「ハハハハ、感情的になりやすいのも相変わらずか。個人的にはお前に手を出さないでもらいたいがな。」
バーンはゾーマを見て嘲笑っていた。
「不愉快だな、帰らせてもらおう。小僧、また会おう。」
ゾーマはそのまま消えていった。
44 :
ガモン:2009/07/26(日) 12:26:11 ID:/mUqNx3A0
第二十六話 投下完了です。ゾーマ登場
>>ハシさん
新スレ立てと新連載お疲れ様です。
チルノのパーフェクトさいきょー教室
ロンギヌスと大分作風が変わっていますがこちらも東方ですね。
明るい雰囲気かと思っていたら突然の絶交発言や自分への怒りとスタートは少し暗そうですね。
パーフェクトさんすう教室みたいなノリになりそうですね。
>>ふら〜りさん
バズズのメガンテですが、原作の様な展開も良かったのですがこの状況だと無理あるかな?と思ってしまいました。
ゲマの死に様はもう八割方出来ていますが少し先の話になりますね。
>>顕正さん
バーン様やヴェルザーとはまったく異質な魅力を第三勢力は持っていますね。
取り込まれてしまったシャドーはもう出てこれないのでしょうか?
ヴェルザーと死神の主従関係も曖昧というか主君と部下っぽくない話し方が逆に印象に残ります。
ダイがまた魔界へ赴く事になりましたが今回からまたストーリーが動きそうですね。
>>サナダムシさん
全三十六話の投稿、本当にお疲れ様です。
闘いが終わった後のゲバルがとても清々しい程に潔いですね。
「アパートのいじめに比べたら米軍を相手にする方がはるかに気楽」シコルスキーのこの言葉が印象に残ります。
刃牙は悲惨でしたね、少しこの展開に期待してしまいましたが。
それぞれの生活に戻っていく中で送られてきた301号室、
是非またゲバルには戻ってきて欲しいです。
本当に面白かったです。ありがとうございます。
いつかまた書かれる日を楽しみにしています。
ゾーマはドラクエのラスボスの中でおそらく一番人気があるキャラだから
最後まで大物で居てほしい。ラスボスでもかまわないかも。
46 :
ふら〜り:2009/07/26(日) 21:11:40 ID:3ujvvGd70
>>ハシさん(スレ立て、ありがとうございましたっっ!)
相変わらず両極端、ハイスピード流血バトルとふわふわほのぼのワールドの同時進行がお見事。
チルノの気持ちと行動、誰しも幼い頃に覚えがあるのではないでしょうか? 自分で解っていても
止められない意地っ張り、ダダこね。周囲の大人たちの戸惑いも含めて、懐かしい風景でした。
>>顕正さん
悪辣ではあれど驕りはせず、相手をただ憎むだけではなく信条の違いを認識し、それを相手
自身に告げてもいる第三勢力氏。相変わらず漢らしい戦闘理念を揺るがさないイルミナといい、
原作のハドラーやバーンたちにも劣らぬ本作魔界勢。第三勢力氏はまだ、裏もありそうですが。
>>ガモンさん
ゾーマまで来ましたかっ! 彼は太陽が欲しいとか魔族の繁栄とか人間が憎いとか、そういう
理由で戦ってるわけではないですからね。スケールが小さいとも、無限ともいえる。確かにバーン
とは相容れないでしょうな。恐らく歴代DQ魔王の中でも上位人気の彼、本作での活躍や如何に?
>>サナダムシさん
おつ華麗さまでしたっっ! 長かった死闘は米大統領への一撃で幕。そんな豪傑の捨て台詞が、
>アパートでのいじめに比べたら、米軍を相手にする方が遥かに気楽だぜ
アメリカを飲み込んだこの台詞は、ハリウッドヒーロー並の渋さと、その彼らを上回るスケールと、
本作シコルらしい可愛さを備えてて、本っっ当に面白カッコいいです。オリバまで重傷という、
かつてない規模の戦いも、終わればまたいつもの日常へ。変わったのは名簿だけ……パオさん
の本部と並ぶ萌え男性キャラ首位のサナダさんシコル&仲間たち、また会える日を待ってます!
ガモンさん乙です
ゾーマは人気あるしバーンとかぶるところがあるので書きにくいでしょうが
頑張ってメインキュラにしてほしいです
魔王クラスが沢山出てきて豪華ですが、収拾が難しくなりそうだw
第二話 再会
「大丈夫ですか?鬼塚先生。」
内山田教頭に追われ続けていた鬼塚は一周廻って屋上に戻っていた。
「大丈夫っすよ冬月ちゃん。それよりさっきの爆発何すか?」
「それが、今日から登校し始めた阿久津って生徒が怪しいって職員室で大騒ぎになってるんですよ。」
それでは何の為に今まで鬼塚達が追い駆け回されていたのだろうか?
「またすぐに生徒疑っちまうってのも、拙いんじゃないですかね。それに阿久津ってうちの生徒じゃないですか。」
とても神崎相手にマジギレしていた男とは思えない。
「鬼塚、追いだせるの?」
相沢が阿久津に問いただす。教師に余程の恨みがあるのだろうか、表情に鬼気迫るものがある。
そんな相沢の問いに阿久津は返事を返さない。
「ねえ、大丈夫なの!?今回の相手は一筋縄じゃいかないって話したでしょう?」
「五月蠅い、大体お前が”あんな事”をしなけりゃ”アイツ”が退学する事はなかったんだ!?
お前にも責任はあるだろう。」
「でも、アンタにだって教師に恨みはあるでしょう。”あんな事件”が起きたんだから。」
阿久津の威圧感に相沢はやや引く。阿久津はその様子を冷たい目線で見つめている。
「明日からでいいだろ、疲れた。」
一言言い残し阿久津は校門を出て行った。
「チッ!」
「あ、薫く〜ん!!」
下校時に無免でSTEEDを乗り回している阿久津に野村朋子(通称トロ子)が声を掛ける。
「トロ子、久しぶりじゃねえか、今日来てなかったよな。」
「うん、私いま芸能プロダクションに入ってるんだ。」
思わぬ返答に阿久津は思わず吹き出す。
「お前が芸能人なのかよ!?まあでも昔から人形遊びの演技が上手いからな。。」
今日初めて見せる阿久津の笑顔。
小等部の頃から阿久津は何かと野村とよく話していた。
「せっかくだからよ、飯食いに行かねーか?乗せてやるぜ。」
と、言われるがままに野村は阿久津の後ろに乗る。
「危ねーからよ、ちゃんと捕まっとけよ。」
無免許でバイクに乗った中学生二人を当然周りの大人は白い目で見ていた。
近くのラーメン屋で夕食を済ませた所で沖ノ島マネージャーに野村は連れて行かれる。どうやら雑誌の取材のようだ。
再び一人で国道を走っていると、十五人程の暴走族と運悪く鉢合わせになった。
「オイコラァ!!テメエみてえな中坊がSTEED乗り回して俺達のシマ上がってくるなんてよぉ、ナメてんのかぁ!!」
制裁とばかりに鉄パイプで襲い掛かる男に対し阿久津は一撃でアスファルトに沈める。
「ニィーちゃんよぉ、相手見て喧嘩売った方がいいんじゃねえか?」
族の頭のような男に蹴りを入れる。大したダメージではないがその一撃が男のプライドを打ち砕く。
「上等だぜ貴様、ぶっ殺してやんよぉ!!!!」
「その言葉、そっくりリボンでも付けて返してやるぜ。」
「小僧、そんなに足が曲がっちゃいけねえ方向に曲げて欲しいようだな。」
二人のボルテージがMAXまで高まる。…が、喧嘩の内容は呆気ないものだった。
「こ、このやろ……」
顔面がボコボコに腫れた族の頭が涙目になりながら必死で抵抗する。
「ククク、曲がっちゃいけない方向に足を曲げるのは、アンタの方だったな。」
阿久津は笑いながら男の足を踏み続けた。周りの男達は目の前の光景にただ茫然としていた。
「ギャアアアアアアアアアアア!!!!」
断末魔が響く。乱闘騒ぎで通行止めを喰らっていた通行人達は思わず耳を塞ぐ。
「いっただろ?相手見て喧嘩売れって。」
阿久津はそのまま走り去って行った。
一足遅く警察が駆けつける。
「お前達だな?こんな所で騒いでいたのは。」
その日暴走族十五人は保護観察処分を受ける事になる。
そして翌日。
「え〜本日は授業参観日と言いますか、保護者の方々が見に来られるので、授業一時間に細心の注意を払って下さいね。
特に鬼塚先生!!!あなたのクラスに言っているんですよ。もしも問題を起こすような事があれば…分かっていますね?」
「わ、分かってますよ〜。そう心配しないで下さいよ。」
鬼塚は教室に入ると既に一人生徒の保護者と思しき者がいた。
「じゃあじゅぎょ……」
鬼塚は思わず眼を丸くした。それは相手も同じだっただろう。
「阿久津!!?」
「……鬼塚?」
神奈川の湘南で起こった第二次湘南戦争。当時辻堂高校一年(留年)の時に戦った二代目暴走天使。
そのリーダー、阿久津淳也が、六年の時を経て、再会した。
当然事情を知らない大多数の生徒は首を傾げるばかりである。
「ふん、まさかお前が教師やってるなんてな、世の中どうなるか分からねえもんだな。」
「てか何でお前がここにいるんだよ!」
「薫がここのクラスだからだ。」
阿久津(淳)は目線を阿久津(薫)に流す。
「別にこんな所まで来なくていいのによ、俺はもう家を出た身なんだぜ?」
睨みつけるような眼で兄を見る。
「まあ、親父に頼まれてるからな。それに、一人にしておくとまた”やる”んだろ。」
二人の間に不穏な空気が流れる。
「な、何とかならねえのかよこの状況。」
村井は冷や汗を掻いて阿久津兄弟を見つめていた。
その日、授業自体は和やかに進んでいった。この日何の問題も無く終わった事が、内山田教頭にとって何よりの喜びであった。
『ああ、昨日は教室の爆破等危ない事があった。というよりも鬼塚が来てから平和な日など無かったからな。そうだ、今夜は娘に土産でも買って帰ろう。』
そんな事を考えながら盆栽の手入れをしていたら左小指を切ってしまった。
「だあああああ!!!!」
猪木ばりのダーが学園中にこだました。
「で、なんでここに来るんだ。」
鬼塚に続き阿久津までも弾間龍二のバイクショップに来ていた。
「大体俺はな、まだ完全にお前のこと許したっつうわけじゃないぜ。」
六年前、今の龍二の彼女である長瀬渚の第二人格である(夜叉)を引き出させた男であったため、当時は阿久津を殺す決意までしたこともある。
「それはそうとアイツ、お前の弟だったんだな。どっかで見たことあるような気が……」
一度言いかけて止まる。
「おい、どうしたんだ英吉?」
「いや、なんでもねえ。」
初めて阿久津薫を見た時は、阿久津の弟かも知れないという思いはまるで出てこなかった。
もっと異質的な”再会”と呼ぶような思いを、鬼塚は体験していたのだ。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るぞ。」
と、そそくさと阿久津は帰って行った。
「アイツ、結局何しに来たんだ?」
52 :
ガモン:2009/07/27(月) 23:03:19 ID:SEIFLte80
第二話 投下完了です。
他作品から一部キャラが出ると言いましたが、大分出そうです。
正直オリキャラの名前で展開ばれてるだろうなとは思いました。
第十話 Odio
ダイと分身体は山腹を貫く通路の中を歩いていた。
ここを抜ければ第三勢力の拠点はすぐだという。
しかし、分身体はまだ途中だというのに足を止め、振り返るとにやりと笑った。
「俺の案内はここまでだ。とっとと来いよ!」
意地の悪い笑みを浮かべているため、最初から中途半端な場所で先に行くつもりだったのだろう。
分身体が姿を消すと同時に魔物達が現れた。道をふさいでいる彼らを倒さなければ進めない。狭い場所であるため呪文でひとっとびというわけにもいかない。
ダイは剣を抜き、斬りかかった。
第三勢力は両手の指を伸ばし、イルミナに向けた。
暗黒の糸が編まれるのを彼女は宙に跳んで避け、炎のような熱を帯びた波動――魔炎気が叩きつけられるのを火炎呪文で迎え撃つ。
反撃の爆裂呪文は圧縮された暗黒闘気で撃たれ、到達する前に弾けた。
(第三勢力の肩書に恥じない実力か……!)
だが、かろうじて渡り合える。隙を窺い、勝機を掴むことも不可能ではない――そう思った瞬間、体から伸びる影が実体化した。
「ぐっ!」
鋭利な刃が攻撃を放とうとしていた身体に突き刺さり、鮮血が滴った。高密度の暗黒闘気が武器となり、影のように形を変えて襲いかかる。
攻撃速度も威力も比べ物にならない。
バーンやヴェルザーのような爆発的な攻撃力はなくても、「弱い」と自称するには大きすぎる力である。
内心の呟きが聞こえたかのように第三勢力はぶるぶると首を振った。
「弱ぇって」
声音から確かに感じられる。己より下の敵を嬲ることへの愉悦が。
「謙遜か? 似合わん真似を」
「処世術って言葉、知らねえの? 保身上等、いのちだいじに!」
いきなり手の内を晒すことはせず、実力を隠していた。理由を訊けば「竜の騎士が怖いから」とでも答えたことだろう。
「もうちょい遊んでてもいいが、真の力だの本気だのもったいぶってねえでとっとと出せって思うだろ?」
イルミナの表情は険しい。完全な状態で相手にしても厳しいというのに、今は力を封じられている。
苛立ちを読み取ったかのように第三勢力は嘲笑を浴びせた。
「てめえ程度なら力を落とさなくたって勝てる。俺は親切だから言い訳を用意してやったんだぜ? “力が抑えられていなければ”ってな!」
「貴様……!」
「試してみるか?」
怒りをみなぎらせた相手に彼は手を伸ばした。不可視の枷が外されるような感覚が彼女を包み、身体が軽くなる。
万全の状態であっても勝てないという言葉が正しいと証明するためだろう。
影は、ある時は剣となり、ある時は弾丸となって襲い来る。
魔界に漂う瘴気が結晶化したような攻撃を食らえば回復呪文は効かない。
彼らの闘う空間に満ちた闇が少しずつ濃くなり、暗黒闘気から形成された武器が魔族を追い詰めていく。
それでも彼女の闘志に陰りは無い。
実力に隔たりがある状態ながら食らいついている。
かつて父が否定した魂の力が今の彼女を支えている。
気迫に圧されたかのように後退した第三勢力へと疾走し、渾身の一撃を叩きこもうとした彼女の動きが鈍った。
第三勢力の口が動き、部下の声が吐き出されたためだ。
『イルミナ、様』
「……シャドー?」
一瞬、しかし致命的な隙が生まれた彼女を暗黒の檻が包み込んだ。
闇に飲み込まれる寸前、第三勢力の口元に禍々しい笑みが閃いた。
ぽたりと水滴が落ちた。
四肢を黒い楔で貫かれ、岩壁に磔にされている彼女を見、第三勢力は嘲笑を浮かべている。
縫いとめられている両腕には黒い鎖が絡み、棘が深々と皮膚に食いこみ破っている。両肘から先の肌がずたずたに裂け、血が衣を染めている。
傷が再生する速度はきわめて遅い。暗黒闘気による傷だということもあるが、再び彼が力を抑え込んだのだ。
「情けないたあ思わねえのか? 大魔王サマの血縁者だってのにとんだ面汚しじゃねえか」
言葉の弾丸が的確に心を撃ち抜き、闘志を削いでいく。
相手をいたぶることを彼は心から楽しんでいる。
部下のふりをしてみせたのも迷いを生じさせるためだ。大魔王に比べれば甘さの残る性格を把握している。
刺すような視線など塵ほどにも感じていない。
「敵に何を求めてンだ。武人らしさか?」
そう嘯いた彼は大笑いした。
「そんなんでよくダイに殺されなかったな!」
イルミナは歯を食いしばった。父を倒したダイより自分が遥かに弱いことはわかっている。
地上を障害物と見なしている敵なのだから、あの場で殺されてもおかしくなかった。
“温情”によって見逃されたと思うと屈辱のあまり目が眩む。
「お優しい勇者サマだ。親父を殺されてんのによ」
「何?」
聞き返すと彼は大げさに目を丸くし、嘆かわしいように溜息をつき、両手を広げた。
「ダイの親父はてめえの親父に殺されたんだぜ。しかも一対一の戦いじゃなくて爆弾爆破されて死んだんだ」
事情を聞かされた彼女の顔がこわばった。
大魔王バーンは一対一の、力と力の激突の果てに敗れ、命を落とした。
だが、ダイの父のバランは一騎打ちではなく、ハドラーの体内に埋め込まれた黒の核晶が原因で命を奪われた。
直接力をぶつけることもできず、爆発の威力を抑えるために生命を振り絞ったのだ。
もし自分がダイの立場ならば到底納得できない。
「なんで復讐しなかったんだろな? ……ああ、てめえが弱すぎて眼中にないってことか!」
イルミナの顔色が変わる。
たとえ化物じみた強さの持ち主から戦いを挑まれようと、退かない覚悟がある。
憎悪を向けられたのならば、どれほど強烈でも闘志を燃やし跳ね返すことができる。
父の仕掛けた戦いや抱いた野望が間違っていたとは思っていないのだから、どのような相手でも受けて立つつもりだった。
だが、無関心では対処のしようがない。殺意とともに襲いかかってこられるより、いっそう心を抉られる。
敵意を向けるにも値しない、ちっぽけな存在だと見なされる方がよほど残酷だ。
相手の言葉を受け止めるしかない彼女はひたいから血を滴らせながら呟いた。
「貴様は勇者に勝てるのか?」
「下りてきてもらう。自分が上るよりそっちのが楽だからな」
その言葉で、イルミナの面に納得の表情が浮かんだ。霧の中にうっすらと見えていた答えが姿を現したかのように。
「貴様は闘気の集合体か。ミストやシャドーのような」
「……そうだがよ。あいつらと一緒にすんな」
霧のような姿を持つ彼らと違い、第三勢力は実体化した。他者を乗っ取って闘う必要はなく、自分の身体で行動することができる。
暗黒闘気だけでなくわずかながら光の闘気も含まれており、それらを結集させて生み出したのが分身体だ。
特殊な生まれ方をしたため光の闘気を操り、体のバランスが崩されるため暗黒闘気による攻撃を弱点としていた。
シャドーの声真似が上手かったのも、正体が似ていたためだ。
自分の方が上だと言わんばかりに首を振った彼にイルミナが淡々と告げる。
「だが、強くはならなかった」
思念が集合し、結晶化した彼にレベルアップの概念はない。
相手を引きずり下ろすことを第一としている。ダイに“下りてきてもらう”と言ったのもそのためだ。
いつの間にか第三勢力の顔からは笑みが消えていた。表情が抜け落ち、仮面のような顔になっている。
今まで言葉の刃で心を一方的に切り裂いてきたのに、たったそれだけの語で表情が凍っている。
彼女の眼には哀れみさえ浮かんでいる。
力を食らってきた男への。
第三勢力は暗黒闘気をはじめとする闘気が実体化した存在だ。
身体があっても、彼の行使する能力は他者を蝕むことのみ。
生命を生み出す術を取り込み偽りの生命を与え、結界や補助呪文などの力を我が物として敵の力を封じるすべを身につけた。
結果、第三勢力と呼ばれるようになったが手下はそこまで強くなく、本人も権力や強さには興味を抱いていないため、バーンとヴェルザーの二強時代が続いていた。
「第三勢力と呼ばれるだけの力があったところで、恐ろしいとは思えん」
気迫のこもった低い声が空気を震わせる。
敵がその気になればすぐさま首をはねられるというのに、彼女は平静さを保っている。まるでチェスの対局中であるかのように。
いつの間にか男の物腰から余裕は失われ、眼は黒い水を湛えたようになっていた。
映るのは光の差さない深淵。
「へえ?」
「名を持たないのは、大魔王の名にかけて戦った父のように……勇者として戦った“奴”のようになれないと知っているためだろう?」
イルミナは追及を緩めようとしない。
復讐の念をこめているのではなく、事実を淡々と告げる。それこそが最も相手の心を抉ると知っている。
彼は、他者を理解できない、くだらないと見下すことで安心感を得ようとしている。同じ舞台に立つことを放棄している。
名にかけて強くなった者のようにはなれないと思い知るのが嫌で逃げている。
「……黙れよ」
暗雲を思わせる声だが彼女はひるまない。炎の眼光で敵を射すくめる。
「貴様が蔑んだミストは、きっと貴様を憐れむだろうな。貴様には無い物を持っていたのだから」
信念。忠誠心。戦う理由。存在する意味。能力を認め、活かしてくれる相手。
ミストへの過剰な悪態は、自分には無い物を持つ相手への疑問の表れだった。
なぜ、同じ強くなれない体の持ち主のはずなのに誇りを抱けたのか。
数えきれないほどの年月の間、誰かのために戦ってきたのか。
心を押し潰そうとする嫉妬を敬意に昇華できたのか。
ハドラーのような強者から魂を認められたのか。
半端だと嘲ったシャドーにも生きがいがある。認め、必要とする相手がいる。
「真に見下し、とるに足らないと見なしているならば拘泥せぬはず……。捨てきれぬのだろう?」
「黙れって」
イルミナに対して不快感を露にしていたのは掲げる野望が気にくわないためだが、他にも理由があった。
彼と同じように己の非力さを知りながら、諦めようとはしない。
あまりに大きく鮮烈な輝きを放つ存在。その重圧感に潰されてもおかしくないのに、近づこうとしている。
いっそ己とは無関係だと割り切れれば、完全に切り離せば楽になれるかもしれない。
存在の大きさゆえに目をそむけ、自分にとってどうでもいいと唱え続けてきた。
あまりに眩しい光は、目を焼き、闇を深くさせる。
すべては執着の裏返しだ。
彼女にも覚えがある。ずっと父のようになりたいと思っていた。
それは勇者一行の師に対する想いと似ているかもしれない。
だが、相手への感情を力に変えて歩んでいくダイたちや彼女と違い、彼は止まっている。
身体を持たないミストと違い、道はあったかもしれないのに、探そうとはしなかった。
同じものを見て進むか、退くか。そこで道が決定的に別れたのだ。
「私には父からつけられた名がある。お前は、誰だ?」
今は“大魔王の血を引く存在”としか見なされていなくても、彼女自身を認める者はいる。
だが、第三勢力は違う。
無数の思念から生まれ、名を得なかった彼は誰でもない。
他者への敬意を抱くこともなく、名を持たず、名を覚えられることも呼ばれることもない。
これから先、どれほど時間が経とうと変わらない。
「貴様にできることは、わかった気になって虚しい優越感に浸る……それだけだ」
見下しているつもりでも、結局は上に立てていない。そのことを本人も薄々気づいている。
心を蝕み呪縛する鎖からは決して逃げられない。
「少し黙れ」
男の声が急速に冷えた。
影がざわざわとうごめき、刃物となって全身を切り裂いた。
焼けるような苦痛に襲われても彼女はただじっと見つめている。
次々と出現する牙が、爪が、身体を裂く。
血の臭気があたりに立ち込めるが、声一つ上げずに敵を眺めている。
太い杭が胸の中央――心臓を貫くとさすがに顔が歪んだ。第三勢力が傷口を広げるように得物をひねる。
「が、あ……ッ!」
大量の血が口から溢れ、地に染みを作った。
「魔王は魔王らしく“世界に闇を”って言ってりゃいいんだよ」
血塊を吐き出した魔族は壮絶な眼光で敵を睨んだ。
「生きとし生ける者には、太陽が必要なのだ……!」
父が抱いた考えだからそう主張しているのではない。
地上の姿を自分の目で見て確信したのだ。
今まで理想を掲げても実感が伴っていなかったが、光溢れる世界がどんな言葉よりも雄弁に訴えかけてきた。
じわじわと身体を削られながらも彼女は不敵な笑みを浮かべている。
「クク……ハハハッ」
低い声は少しずつ大きくなり、やがて大魔王のように高らかな笑声となった。
「ハハハハハッ!」
心臓を潰されているというのに、楽しげに笑っている。追い詰められているはずの立場が逆になったかのようだ。
「どうして笑う」
「貴様は心から笑うことはない。そう思うと可笑しくてな」
ダイは笑っていた。地上の平和を目にして、心から嬉しそうに。
彼女も笑っていた。初めて目にする太陽に、太陽が照らす世界に心を奪われて。
きっと大魔王も笑うだろう。太陽がもたらされた魔界の姿を目にすれば。
「そんな貴様が、父を――大魔王バーンを倒したダイに敵うものか!」
魂から吐き出された叫びに、第三勢力は答えなかった。無言のまま乱暴に杭を引き抜く。
「かはっ……!」
大量の血が勢いよく地面を叩き、魔族は頭を垂れた。
なぜか脳裏には勇者と大魔王の顔、両方が浮かんでいた。
優しい勇者と冷酷な大魔王。対極に位置するというのに同じものを感じる。
思考の淵を探ろうとするが、激痛に意識がちぎれかけている。
そこに分身体が現れ、別の場所に置いていたヒュンケルとマァムの身体を地に放り出した。
60 :
顕正:2009/07/28(火) 12:26:23 ID:gRs2mEbf0
以上です。
61 :
作者の都合により名無しです:2009/07/28(火) 19:54:03 ID:vgy/UwX40
>ガモンさん
トロ子好きだったなあ。他作品って湘南純愛組のこと?
まだ序盤ですがどんどん事件が起きてきそうで楽しみですね。
>顕正さん
イルミナはバーンの娘にしては弱いし甘いし可愛いですねw
ただ、一本筋の通った精神力がある。気高さだけはバーン以上。
イルミナの武器は言葉か。誇りに力が追いついていないのが悲しいな。
心では父を倒したダイを認めてるのはいいけど。
鬼塚ってタイムリーですな。リメイクも始まったし。
ガモンさんらしいGTOを期待してます。
顕正さんは心理戦というか心の葛藤みたいなのが
上手いな。本格バトルも楽しみにしてます。
64 :
作者の都合により名無しです:2009/08/02(日) 12:41:29 ID:+RESspANO
おっぱい!
65 :
ふら〜り:2009/08/02(日) 20:41:12 ID:BHPsKjg80
>>ガモンさん
キャラたちの性格は「BOY」や「ろくブル」よりは「湘爆」に近い感じですかね。地理的にもそう
みたいですが。当然ながらダイ大とはまるで違う、生活感があるが故の地味な迫力が滲んで
ます。阿久津弟は、兄(だけ)を知ってる鬼塚の想像の枠を越えてる様子。何をしでかすか……
>>顕正さん
一歩間違えば卑劣なゲス野郎に見えかねない第三勢力氏ですけど、仕掛けた罠などではなく
ちゃんと自分の能力だけで戦ってますね。本人は随分思い悩んでますけど、充分真っ当なボス
キャラだなと思えます。……それだけに、イルミナは言い訳できない実力負けに見えますが。
ついにこのスレも終焉を迎えつつあるのか
不死鳥のごとくまた蘇って欲しいけど
第三話 復讐
鬼塚は水道に茶葉を入れていた事が教頭にばれて、職員室に呼ばれていた。
「いいじゃないっすか〜、生徒だって喜んでるんですよ?」
「鬼塚君!!!!そんな事言っても済まされないんですよ!!あ〜我が校の品格が……」
そんな二人の間に冬月が仲立ちすることが多々ある。
「止めてください!もう。」
職員室での騒ぎもここまで来ると毎日の日課だと言っても過言ではない。
「失礼しま〜す。」
ノックをして扉を開いたのは阿久津である。阿久津は獲物を視る肉食獣の様な眼で冬月を見つめる。
「どうしたの?阿久津君。」
「すみません、ちょっと教室まで来てくれませんか?」
冬月は阿久津につられるままに教室へと向かった……はずだった。
所が3−4組の教室には阿久津しか入ってこなかった。
「じゃ、俺はもう帰るからよ。」
「へ、お、おいちょっと。」
菊池の呼びかけにも応じず、阿久津は鞄を右手に持ち教室を出る。
阿久津は校門の裏側に止めてあるバイクの傍らに横たわっている冬月を視ながら微笑む。
「ククク、先週の日曜に必要な情報は全部集めてんだ。今日がアイツの命日よ!!」
後ろに気絶した冬月を乗せて阿久津は校門を出て行く。その様子を生徒達が見ていた。
「おい、アイツなにする気だよ!!」
「分からない、だが…放ってく訳にもいかないだろう。」
菊池、村井、藤吉、草野の三人が急いで教室を出る。廊下でそれを見かけた鬼塚が四人を追いかける。
「おい、お前等!!何やってんだ!!」
四人は鬼塚に状況を説明する。冬月が拉致された等という話を聞けば鬼塚が黙っているはずがない。
鬼塚は、阿久津を探しに校門を出た。
一方阿久津は冬月を連れてマンションの一室の前で立ち止まる。
「ククク、ハハハハハハ!!!」
阿久津が笑いながらインターホンを押すと、現在生徒に暴力を振るった事で停職中の勅使川原優が返答した。
「どちら……」
「俺ですよ、勅使川原先生、阿久津です。」
名前を聞いた瞬間、勅使川原は身が凍りついた様に動かなかった。
「開けて下さいよ、先生。じゃねーとアンタの好きな冬月って新任教師、耳辺り切れちゃうよ♡」
「な、なんだとぉ!!!」
勅使川原は包丁を持ってドアを開ける。そこには頬にカッターを突き付けられながら気絶している冬月と笑っている阿久津がいた。
「き、貴様〜〜!!!!!」
包丁を阿久津に突きつけ、突進するが阿久津に足を蹴られる。
「この前道歩いてたらこの女の名前をずっと呼んでたからな、人質ぐらいにはなるだろう。」
阿久津は冬月を手から離し、勅使川原を殴り続ける。
「アンタ、一年前に何したか、覚えてるよな、なあ、勅使川原家の落ちこぼれ君よぉ。」
殴られた左目を抑えながら勅使川原は部屋の中へ逃げる。
しかし阿久津はそれでも中に入り、勅使川原を追い詰めてきた。
「く、こ、このやろー!!!!俺は東大出のエリートだぞ!!!貴様みたいな低俗な不良とは、ちがぶふぇ!!」
無表情で阿久津は勅使川原を蹴り続ける。殺しても可笑しくない勢いである。
一方ようやっと目が覚めた冬月はいきなり知らない家の玄関の開いている部屋を目の当たりにすれば、誰でも驚くだろう。
そして偶然そのマンションの下から鬼塚は冬月を見つけた。
「冬月ちゃ〜ん!!!」
「鬼塚君!!」
急いで鬼塚は階段を駆け上がる。それと同時に全裸の勅使川原が玄関を飛び出してくる。
「キャ〜〜〜〜!!!!!!」
全裸の男が目の前に近づき、思わず絶叫する冬月。勅使川原は呆然としていた。
追うようにして阿久津が勅使川原の首を掴む。そこに、鬼塚も到着する。
「な、なんじゃこりゃあ!!!」
鬼塚は阿久津の方を向く。
「テメエ、こりゃ一体どういう事なんだよ!!」
鬼の形相で阿久津を睨む。
すると阿久津はライターの火を灯しながら、鬼塚を見る。
「死刑執行♡」
全裸の勅使川原が瞬く間に火を纏う。
「ハハハハ、せめて最後ぐらい華やかに散ったらいいんじゃねえのか!?落ちこぼれ君。」
「あがああああああああああ!!!!!!」
「いやああああああ!!!!!」
冬月が叫ぶ。火の勢いはどんどん早まり全身に回りそうである。
と、鬼塚が毛布を急いで勅使川原に被せながら火の勢いを殺していく。
処置が間に合い、何とか半身火傷ですんだが、阿久津は気に入らないと言わんばかりに勅使川原を睨む。
「邪魔しやがったな?鬼塚……」
「自分が何してっか分かってんのか!?」
すると阿久津は鬼塚を殴った。
「上等だよ、コラア!!!!」
マンションでいきなり殴り合いを始める二人。最早女性が割って入れるような状況ではない。
どこから持ってきたのかバールで鬼塚の頭を叩く阿久津。当たり所が悪ければ死んでもおかしくない一撃である。
鬼塚も阿久津の下半身を思い切り蹴る、蹴る、蹴る。
教師と生徒の喧嘩は殺し合いの要素を含んできた。
「ドタマかち割ってやんよ鬼塚ァ!!!」
「テメエエエエ!!!!」
阿久津が鬼塚を蹴ると鬼塚は阿久津の顔面を壁にぶち当てる。全くの互角である。
阿久津は服を脱ぎ捨てて鬼塚を殴る。その時冬月は阿久津の背中を見た。
「な、何これ……」
冬月の眼に映った阿久津の背中は、一面に、一切光が無いような、漆黒の天使が描かれた刺青だった。
「死んじまえやああ!!!」
二人は共に顔面を殴り合い、共に倒れた。
「鬼塚先生!!」
冬月は急いで鬼塚に近寄る。傍らで阿久津が立ちあがる。
「くっ次だ、次やった時が、テメエの最後だって伝えとけや!」
そう言い残し、阿久津は去って行った。
71 :
ガモン:2009/08/05(水) 00:03:10 ID:m1GK1GvB0
第三話 投下完了です。 湘南純愛組!にだんだん近づいてしまっています。
>>顕正さん
お疲れ様です。
ミストやシャドーと同じ闘気の塊の筈なのに実体を持つ第三勢力は、他とは一線を画す存在ですね。
一方でイルミナ、口論では確実に第三勢力んの上をいっていますが戦局は不利、果たしてどうなるのか楽しみです。
イルミナの脳裏に浮かぶ二人の男は、確かに対極でありながら通じるものを持っているかも知れませんね。
冬月ってなんか作中でもさらわれてた気がするけど俺の気のせいか?
ガモンさんお疲れです。スレがちょっと不調ですがガモンさんのように
2本連載してくれる方がいると安心します。頑張れ。
阿久津強いな
バールを使ってとはいえ鬼塚と五分か
第十一話 闇
第三勢力の手下達は世界各地を跳梁していた。
町や村の人間を襲う者達は外見こそ異なっているものの、内面は大差ないように見える。
相手を滅ぼすという衝動のまま、刷り込まれた行動を繰り返すかのように淡々と襲ってくる。
他の魔物たちのように感情を見せれば、反発し、闘志を奮い立たせることもできるだろうが、表情もろくに浮かべず攻撃するだけだ。
「うわああっ!」
転がるようにして回避し、恥も外聞もなく叫んだ男は恐怖にゆがんだ表情を浮かべている。
酒場で世界を救った勇者が恐ろしいと漏らした彼はただ逃げ惑っていた。
魔物を、天を、己に降りかかる運命を恨み、呪詛を吐き続ける。
「くそ、くそ、ちくしょう……!」
何で自分がこんな目に。
現実逃避の言葉が脳内を駆け巡る。知らぬうちに澱んだ想いが口から吐き出されていく。
「世界を救う勇者は何やってんだ? こんな時に戦うのが役目じゃねえのかよ」
男は知らない。
当てにしている勇者は仲間を救うため、戦いを終わらせるために今この瞬間剣を振るっていることを。
魔物を侵攻させた元凶は、意思を持つ者たちから生まれた存在であることを。
別の男も目を血走らせてぶつぶつ呟いている。
「化物はとっとと地上から消えろよ」
震えている彼らの傍を戦士が駆け抜け、剣を振るった。
「とっとと逃げろ!」
苛立ちも露に怒鳴った若者が歯を食いしばる。額や腕から血を流し、鎧もところどころ欠けている。それでも闘志の火は消えておらず、魔物に刃を向ける。
「これじゃあ勇者様に顔向けできねえじゃねえか」
敵を切り裂く青年の顔は悲しみに染まっていた。
(忘れちまったのかよ?)
異種族も含め、皆が力を合わせ、心を一つにして大魔王の計画を挫いたことを。
世界が滅ぶか否かの局面において、圧倒的な力を持つ竜の騎士に頼っていた面を否定できない。
戦いが終わった時、勇者は去ってしまった。異質な存在を受け入れられない人間の心の狭さを背負ったかのように。
戻ってきたと知らされたが、同じことが起こらないとは限らない。
「だから……オレたちだって戦わないとな」
敵の親玉を勇者やその仲間が倒すならば、手下たちと戦い、戦う力の弱い者達を守る。
それが自分の役目だと考えていた。
先ほどの男たちのように手足を動かさず愚痴を並べている者もいなくはないが、自ら戦おうとしている人間の数は遥かに多い。
「く……!」
男の足もとがふらついた。
魔物達が一斉に飛びかかり、死を予想した青年が顔をこわばらせる。
だが、影の集団は巻き起こった爆炎になぎ払われた。
鰐の獣人が彼を庇うように立っている。
「あんたは――」
堂々たる体躯の武人が悠揚迫らぬ態度で名乗った。
「クロコダインという」
比較的影響の薄いデルムリン島から出てきた彼は襲撃の激しい場所に赴き、人間とともに戦ってきた。獣王遊撃隊の面々も力を発揮しているという。
それを聞いた若者の顔に生気がみなぎった。
「やっぱそうだよな」
「どうした?」
「種族が違っても、きっと――」
剣を構えなおした男に対し、力づけるように笑いかけてからクロコダインは斧を振るった。
頼もしき咆哮が響き渡り、闇の勢力が轟火に吹き払われる。
第三勢力の言葉を跳ね返すかのように、多くの者達が希望を胸に戦っていた。
「う……!」
マァムは地に投げ出された衝撃で目を覚まし、自身の傷を顧みず真っ先に仲間の怪我を確認した。
ボロボロになったヒュンケルの身体を見て即座に回復呪文をかけたが、闇の力を用いて再起不能の身体を酷使したところに闘気を叩きつけられたため、治る兆しはない。
「無駄だって」
嘲笑に顔を上げたマァムは状況を知るために周囲を見回した。黒い髪と眼の持ち主と、ところどころ金髪の混ざった男が薄笑いを浮かべている。
光の乏しい空や広がる不毛の大地から魔界だと判断し、近くの岩壁に磔にされている人物を見て目を見開く。
彼女の知る敵によく似た姿の持ち主が、惨たらしく痛めつけられ、全身を血に染めている。胸にはまだふさがらない穴が開いている。
「あなたが……!」
「今のうちに殺っとけば?」
マァムの脳裏にダイの言葉が蘇る。
魔族の抱く野心。家族への敬意と誇り。そして、バーンと違い、絶対に相容れない相手ではないこと。
彼女は決然として顔を上げ、歩み寄っていった。
複雑に絡んでいる鎖は外せないが、四肢の楔を引き抜く。
回復呪文を唱えるが、暗黒闘気によって受けた傷であるため効果は発揮されなかった。
縛められている両腕や無残な胸の傷を見る彼女の表情は、まるで自分が傷つけられたかのようだ。
敵対する相手を助けようとする行為を理解できず、イルミナは凝視している。
「それが人間の情ってヤツなのかねぇ」
「……そうよ」
「はん、人間サマ万歳ってか。魔族もそう変わんねーと思うがな」
持論を翻す日は永遠に来ないと悟らせる分身体の表情だった。
彼がヒュンケルやマァムに向けた言葉の意味。
様々な争いの中から生まれ出でた彼にとって、どの種族がどんな理由で戦おうとたいして違いがあるようには思えず、その苛立ちから吐き出された。
無気力さを見せていても第三勢力や分身体の内ではどす黒い感情が渦巻いている。
「変だよなァ。暗黒闘気の塊が――」
何と言ったか聞き取りづらかったが、第三勢力は言い直すことはせずに肩をすくめた。
分身体も同意するようにもっともらしく頷いている。
「誰かのために暗黒闘気使って戦う奴もいりゃ、俺みてえな光の闘気使いもいる。面白……くはねえか」
分身の言葉にくっくっと笑った第三勢力は突然マァムを吹き飛ばした。イルミナに手を伸ばす彼の動作に応じて分身体が少女の身体を押さえ、動きを封じた。
救おうとした相手が無残に殺される光景を見せようとしている。
額の黒い布が引きちぎられ、光の無い第三の眼が露になった。
これから起こる出来事を予測したマァムが息を呑む。
「役に立たないなら要らねえだろ。やめてほしいか?」
魔族は襲い来る激痛を予期しても魔族は取り乱さなかった。鼻を鳴らし、呆れたような笑みを浮かべながら両目を閉ざす。
「いきがるな。小心者」
「……臆病で結構だが、てめえに言われると腹立つな。命乞いの一つでもすりゃ可愛げがあるのによ」
指が額に近づき、ずぶりという音とともに潜り込んだ。
魔族の口が大きく開き、声にならぬ叫びが吐き出された。
「……ッ!」
目が見開かれ、酸素を求めるように口が動く。
あまりの痛みに声さえも出ない。
鮮血が流れ顔を染め上げていく様にマァムは思わず顔をそむけた。
残酷な笑みを浮かべながら第三勢力が鬼眼を抉りだそうとした瞬間――飛来した斬撃が腕を切り裂いた。
「ダイ!」
マァムが叫ぶ。
勇者が剣を逆手に握り、飛びこんできた。
分身体が呻きを漏らし、少女が顔を輝かせ、魔族が表情の抜け落ちた面で少年を見つめた。
咄嗟に指を離し、慌てて飛びすさった第三勢力の顔は引きつっている。
明らかにダイに苦手意識を抱いている。
目をそらした彼は哀願するように両手を広げた。
「頼む。地上は狙わねえから殺さないでくれよ」
本気で言っているとは思えないためダイはマァムに目を向けたが、彼女も真否を判断することはできない。
魔族に視線を移したダイの顔が悲痛な形にゆがんだ。かつて明るい笑顔を見せ、語らった相手は鮮血に濡れていた。
四肢を貫かれ、両肘から先は棘つきの鎖が同化するように絡み合い、皮膚を破っている。胸の中央を貫かれた傷は目を逸らしたくなる有様だ。
彼女は苦痛を訴えず、沈黙と表情で第三勢力の発言が事実だと肯定した。
眩しい存在から目をそむけている彼は、魔界で暮らしていれば満足だろう。今までと同じく他者を見下した気になって過ごすだけだ。
詳しい事情は分からずとも、第三勢力に野心や覇気が無いことを知ったため、ダイは低い声で告げた。
「ヒュンケルとマァムを……イルミナも解放するんだ」
本人は予想外の言葉に目を見開いたが、ダイは当然のことを言ったまでという表情だ。
敵対するだけの関係でしかなく、弱い自分を見くびっていると思いこんでいただけに、ダイの考えが理解できない。
彼女を助けたい。単純にそう思っていることなどわからない。
「同情か? 恩を着せ、言うことを聞かせようと――」
「君はそんなものじゃ動かないだろ?」
押しつけられた恩で従うような性格ではない。
見抜かれていることに舌打ちした彼女は顔をそむけ、苦々しげに呻いた。
「腹が立つな。お前には」
やはり憎まれていると思ったダイだが、意味することは違っていた。
(完全に隔たっていれば憎めるものを……!)
いっそ通じるものが何もなければ、心から憎めた。その方が楽だった。
仇敵と考えてきた相手が敵でなくなっては、己を駆り立てる原動力も弱まってしまう。
第三勢力はおどけた身振りで降参するように手を上げた。
「了解了解。バーンを倒した正真正銘の化物なんかと戦うつもりはねえって」
分身体がマァムから手を離し、彼女はヒュンケルをそっと抱えた。だが、イルミナの拘束を解こうとはしない。
「って言いたいところだが――見たいモンがあんだよなァ。どーしても」
ククク、と笑みを漏らした男が傲然と顔を上げた。
「きれいごとほざく連中が仮面かなぐり捨てて本性剥き出しにしてるとことか、のほほんと暮らしてる奴らの世界がグチャグチャになるとことかよ」
「どうしてそんな!」
侵略でも破壊でもない、何の意味もない行動。
神々への復讐などが動機であるならば理解できる。
だが、彼には神々を憎悪する理由はない。
支配する意思もないのに地上に手を伸ばす必要はない。
無気力な態度は偽りなのか。
混乱するダイに不思議そうな声が降り注ぐ。
「なあ、勇者サマ。てめえは人助けしたり平和のために戦うのにいちいち理屈をこねるのかい?」
相手の顔色が変わるのを楽しそうに眺め、喉を鳴らす。
「同じだよ。世界をメチャクチャにするのに理由なんているか? 自分(てめえ)と違うから……それだけで十分さ」
地上に対する興味が薄いというのは紛れもない本心だ。
ただ、「ムカつく」相手が苦しめばいいという感情が上回った。
自分は楽しくないのに他者は幸せそうに笑っているのが気にくわない。許せない。不公平だ。
だから、壊してしまえ。
自分が同じ高さまで上るのではなく、相手を泥の中に引きずり込むことを――相手がもがく様を欲している第三勢力の顔は奇妙に輝いており、人間らしさを漂わせている。
「地上を消滅させるのか!?」
「いンや。俺はバーンやヴェルザーみてえに強くねえ。苦しんでるとこ見られなくなっても退屈だろ。……臆病で弱っちい俺はどうすると思う?」
不吉な予感がダイたちを襲う。
答えたのはイルミナだった。
「人間同士で争わせ、疲弊しきったところを狙う。違うか?」
異質な存在を疎み排除する人間の性につけこみ、恐怖を煽り、対立を生みだし、自滅させる。
暗黒闘気から構成された彼ならば人々の心の闇を広げることも可能だ。
消滅でもなく、征服でもなく、混沌を望んでいる。
「そのために、人間たちが団結する要となるダイのみ先に葬る。……名案だな」
希望の象徴たる勇者を殺せば計画を進めやすくなる。
言葉とは裏腹に、彼女の表情は不快げにゆがんでいる。自分の手を汚さないやり方に嫌悪感を抱いたのだ。
「“滅びこそ我が喜び”って御方はいないモンかねぇ。闇をもたらそうって頑張ってくれる連中がいれば俺が動かなくて済むのによ。……得にならねえから仕方ないか」
今まで気だるげだった第三勢力だが、バーンの死がきっかけとなって彼の中で何かが変質し、噴き出したのだろう。
ダイは紋章を出して攻撃しようとしたが、光は薄く今にも消えそうだ。ほとんど力を発揮できない。
「天界の力なら食いやすい。竜の騎士サマの力を使いこなすこたできねえが、抑え込むくらいならなんとかなるぜ」
ダイの莫大な力を自分のものにしようとしても不可能に近い。
欲ばれば自滅する可能性が高いため、無理に取り込む真似はしなかった。
魔界に来た時に紋章が使えず、地上に戻ってから出現したのは、第三勢力が干渉していたためだった。
力の戻った時期が悪かったのも、イルミナとの決別を促す目的があったのだろう。
ダイの力になろうとマァムは分身体の相手を引き受けることにしたが、一人では勝ち目は薄い。
それでも仲間を守ろうと拳を構える。
戦おうとするダイたちの姿を半ば意識を失いながら見つめるイルミナは自嘲の呟きを漏らした。
(私は、何をしている)
勇者一行の少女が回復呪文を唱えようとし、父を殺した本人が解放を求めた。
敵から情けをかけられた己の不甲斐なさがただただ腹立たしい。
こうして動けないまま、戦いを見ているしかないのか。
『好都合じゃねえか、なあ!?』
第三勢力の声が聞こえてくるようだ。
この場にいる者は全員敵だ。邪魔者同士、潰し合えばいい。
囁きの向こうから、本当にそうなのかという声が響いた。
利を考えるならば観察していれば済む。
だが、大魔王はそうしないだろう。
目的を達成するだけならば、計画が失敗した時点で撤退し、敵が寿命で死に絶えるのを待っていればよかったはずだから。
ここで戦わずにいては第三勢力と大して違いはない。
いくら言葉を重ねようと、行動で語らねば説得力は生まれない。
血のこびりついた唇が動き、かすれた声が絞り出された。
「私も、戦う」
ダイは驚いたように目を見開いた。
「むちゃだ! それに、おれはバーンを――」
「父を、侮辱した奴を……許せぬ」
ダイが敵であることに変わりはない。
協力して第三勢力を倒すという意識はない。全てを忘れて味方になるつもりもなかった。
ただ、このまま第三勢力をダイに倒されては感情がおさまらない。逆に、ダイが殺されるのも耐えがたい。
まだ己の実力を認めさせておらず、第三勢力のような相手に殺されては、敗れた大魔王の立場がなくなってしまう。
『父さんを殺した相手のこと……憎んでる?』
『おれの父さんは、すごく強かった。一緒に過ごした時間は短かったけど絶対に忘れない』
まだ幼さの残る少年の言葉が浮かんでは消えていく。入れ替わるようにして過去に抱いた疑問が浮上する。
『なぜ私はこの眼をもって生まれてきた……? この力は何のためにある』
少年の存在が求めた問いの答えとなる。
その予感は消えておらず、ますます強まっている。
歯を食いしばり、両腕を動かそうとするが、果たせない。もがけばもがくほどいっそう深く棘が食い込み、身を傷つけるばかりだ。
岩壁や腕と溶け込むように絡みつく鎖を切り離すことは不可能に近い。
脱するための答えは単純だった。
イルミナはダイに向かって言い放った。
「私の腕を切れ」
ダイは覚悟を決めた目を見てもなおためらった。
魔族は四肢を再生させることができる。だが、力を抑えられている現在の状況では瞬時に再生することはできず、元通りになるまで時間がかかってしまう。痛みも激しいはずだ。
「傷つく覚悟も無しに戦いの道を選ぶものか。……やれ!」
ダイは自分の腕を斬るかのように顔をゆがめながら剣を振るった。
「ぐうぅっ……!」
肘から先を切り離された魔族は地に膝をついたが、倒れ伏すことだけはこらえた。
痛みに顔をゆがめ、汗をにじませながら両腕を再生させる。バチバチと雷に似た音と光が走り、少しずつ回復していく。
それを見たダイの頭にもいきなり痛みが走った。
「つ……!」
思わず額を抑えたがすぐにおさまった。敵の干渉が強まったのかと思ったが、違うらしい。
二人は闇より生まれた者に向き直った。
82 :
顕正:2009/08/05(水) 20:40:43 ID:mNmIO1vl0
以上です。
滅びこそ我が喜び。ゾーマ様の名セリフですね。
ダイとイルミナ、隔たってはいるけど底に流れるものが
共通してますね。父への想いとか、自分の存在への疑問とか。
意外といいコンビになれるかも。
第四十四話「そして、最後の場所へ」
暗く長い石畳の回廊。三人の足音と息遣いだけが、その空間を満たしていた。
「ちきしょう…なんでこんなお化け屋敷みてーな神殿を造りやがるんだ。もっとぱーっと明るくしやがれ!」
城之内はそう愚痴るが、ぱーっと明るかったらそれはもう冥府ではない。なのでお化け嫌いの彼としては身を縮めて
こそこそ歩くしかないのである。肝の小さい男であった。
「…ここまで来るのに、三人になっちゃったね」
遊戯は不安そうに呟く。ミーシャも心細そうに眉を顰めた。
「大丈夫かしら、皆…」
「心配しなくたって、あいつらは簡単にくたばるタマじゃねえよ。前振りっつーか、伏線ってヤツさ。きっとオレ達
が絶体絶命大ピンチって時に<待ってましたっ!>とばかりに登場するつもりなんだよ」
「それはどうかな。現実は非情だ」
「それはどうかな。現実は非情だ」
「!?」
ぬうっと。それは、突然現れたにも関わらず、つい先程からそこにいたかのように、極当然のように立っていた。
―――まだ幼い少年と少女。黒髪に黒装束、瞳だけが紫色に爛々と輝いている。
「我々は<双子人形>―――タナトス様の側近にして、冥府の番人の長を務めている」
「我々は<双子人形>―――タナトス様の側近にして、冥府の番人の長を務めている」
際者・色者・曲者揃いだった冥府の番人達―――そのリーダー格であるという事実は、そのまま二人の只者でなさを
物語っていた。
「そう。云わば我々は冥府番長なのだ」
「そう。云わば我々は冥府番長なのだ」
衝撃の歴史的事実・番長の起源は古代ギリシャだった!
「こんな所にいる双子って…まさかお前ら、迷宮兄弟の先祖か何かか?」
「誰だ、それは。知らん」
「誰だ、それは。知らん」
違うらしかった。
「我々は迷宮兄弟ではない、μφ(みゅーふぃー)兄妹だ」
「我々は迷宮兄弟ではない、μφ(みゅーふぃー)兄妹だ」
みゅーふぃー兄妹らしかった。めいきゅうきょうだい、みゅーふぃーきょうだい。
「いや、別に上手いこと言えてねーから」
「そっちが言ってきたのだろう、バカめ」
「そっちが言ってきたのだろう、バカめ」
子供二人にバカにされた。ちょっと悲しい城之内だった。
「さて…人間よ。タナトス様はこの先で待っている。お前達と話がしたいと仰られた」
「さて…人間よ。タナトス様はこの先で待っている。お前達と話がしたいと仰られた」
「そうとなれば、我々としてはそれに従うのみ。通るがよい。但し」
「そうとなれば、我々としてはそれに従うのみ。通るがよい。但し」
「通っていいのはチビと巫女の二人だけ―――お前はダメだ」
「通っていいのはチビと巫女の二人だけ―――お前はダメだ」
双子は全く同じ動作で、城之内を指差す。
「お前については指示を受けていない。よって、我々の判断で殺戮対象と看做す」
「お前については指示を受けていない。よって、我々の判断で殺戮対象と看做す」
「へっ…御指名とは嬉しいじゃねえか。受けて立ってやるぜ!」
「城之内くん…!」
「来るな!」
駆け寄ろうとする遊戯を、城之内は制した。
「伏線だよ、伏線。お前らがピンチの時に<待ってましたっ!>とばかりに登場してやるから―――」
ここは任せて、先に行け。城之内は決め顔でそう言った。
「―――待ってるよ!」
「待ってるわ!」
「おう、待ってな!」
そして二人を見送った城之内は、双子と対峙する。
「闘う前に、一つ言っておく」
「闘う前に、一つ言っておく」
「何だよ」
「タナトス様は人間を愛しておられるが―――我々は、人間が嫌いだ」
「タナトス様は人間を愛しておられるが―――我々は、人間が嫌いだ」
言葉通りに、二人は嫌悪を隠そうともしない冷徹な眼で、城之内を睨み付けた。
「貴様らのような愚かで、救い難い連中を愛するが故―――あの方は、苦しんでおられるのだ」
「貴様らのような愚かで、救い難い連中を愛するが故―――あの方は、苦しんでおられるのだ」
「なのに貴様らは、タナトス様を死神と畏れるばかりで、敬おうともしない」
「なのに貴様らは、タナトス様を死神と畏れるばかりで、敬おうともしない」
「その上に、冥府にまで入り込み、タナトス様に害を為そうとは―――」
「その上に、冥府にまで入り込み、タナトス様に害を為そうとは―――」
「イライラするわ、フィー」
「ムカムカするな、ミュー」
最後のセリフは…被っていない。怒気が、吹き荒れる嵐のように噴出する。
「分かるか、人間。思わずキャラ作りを忘れるほどに、我々の怒りは深いのだ」
「分かるか、人間。思わずキャラ作りを忘れるほどに、我々の怒りは深いのだ」
「キャラ作りでやるなよ、そんな面倒くせーこと…」
城之内は、軽く肩を回しながら構えを取る。彼とて、ここに至るまでに数々の修羅場を潜り抜けてきた男―――
二人の発する闇の凶気に、気圧されはしない。
お化けや幽霊は怖くとも―――闘うべき敵を、恐れはしない。
「行くぜ―――決闘(デュエル)!」
冥王神殿・最奥部―――冥王の間。
遊戯とミーシャ、二人の行く手を阻むのは、重々しく閉ざされた扉。
表面にレリーフされた奇妙な紋章が、不気味な紫色の光を放っている。
「この扉…どうやったら開くんだ?」
押そうが引こうがビクともしない。
「やっぱり力ずくでいくしかないかしら?」
「<万能地雷グレイモヤ>ってカードならあるけど、やっちゃう?」
そんな暴力的な思考に走りつつあった二人の脳裏に、声が響く。
<乱暴ハヨシ給ェ、修理スルノガ大変ダロ?>
「この声は―――タナトス!」
<フフ…早ク来給ェ。我ト話ヲシヨゥジャナィカ>
「なら扉を開けろ、タナトス!」
対して、返答は。
<ァ、其レ引戸ナンダ。左ニ動カセバィィヨ>
「…………」
左に引いた。あっさり開いた。
「…冥王の間へ続く扉が、引戸…」
別にそれで問題があるわけではないが、なんなんだろう、このやるせなさは。
遊戯とミーシャは、開いた扉の先へと足を踏み入れた―――
「え…これって…」
「うそ…」
眼前に広がる光景に、二人は言葉を失う。
そこはまるで―――理想郷だった。
空からは柔らかな光が注ぎ、木々と花が咲き乱れ、蝶が舞い踊り、鳥が唄い囀る。
まるで夢見がちな少女が空想するかのような楽園が、そこに在った。
(くすくす)(くすくす)(くすくす)
可愛らしい笑い声と共に、遊戯達の鼻先を何者かが飛び回る。透明な翅(はね)を生やした小人―――そう、絵本の
世界から抜け出してきたような妖精だ。
(そうよ、ここが楽園)(痛みも悲しみも苦しみもない、幸せ満ち溢れる世界)(だって楽園なんだもの)
「…………」
遊戯もミーシャも、何も答えない。ただ硬い表情で、前へと進む。
(どうしたの、そんなに怖い顔で)(ほら、笑いましょう)(だって、ここは楽園―――)
「違う」
遊戯は、きっぱりと撥ね付けた。
「ここは、楽園なんかじゃない―――少なくとも、ボクらにとっては、ただの牢獄だ…」
ざっ、と。遊戯は地を踏み締める。
「エレフと…そしてもう一人のボクを閉じ込める、ただの地獄だ」
そして、眼前には一人の男がいた。遊戯は臆することなく、彼を見据える。
男は遊戯とミーシャの知る顔で、されど彼では決して浮かべないような笑顔を見せる。
「―――そうだろう、タナトス!」
「悲シィ事ヲ言ゥネ、キミハ」
タナトスは自分の元へやってきた妖精をあやしながら、答える。
「暗ィバカリジャ気ガ滅入ルダロゥト思ッテ、コンナ舞台ヲ用意シテァゲタンダガ…御気ニ召サナィカ」
「まさか本当に、ぱーっと明るい冥府を用意するとは思わなかったよ…」
「…エレフ」
ミーシャが思わず呟いた言葉に、タナトスは寂しげに笑う。
「エレフハモゥィナィヨ…否。ソゥジャナィ。我ガ<タナトス>デァリ、同時ニ<エレウセウス>ダ」
「違う!あなたは…エレフじゃない!エレフを…返して!」
「其レハ駄目ダ。彼ハ、返セナィ」
タナトスはそれ以上は答えず、ただ天を仰ぐ。途端、青空が一瞬にして赤黒く染まる。
「此処ハ冥府ノ最モ深キ領域…即チ、楽園(エリシオン)。ソシテ…」
空は荒れ、木々は枯れ、花は崩れ朽ち果て、大地は腐敗し―――
「其ノ真実ノ名ヲ―――奈落(アビス)」
楽園は―――奈落へと堕ちた。
地獄の中で、死神は。<冥王>タナトスは、どこまでも穏やかに語る。
「争ィナラバィツデモ出来ル…其レヨリモ、我ト話ヲシヨゥジャナィカ」
89 :
ふら〜り:2009/08/05(水) 22:26:29 ID:F3Cy62R20
ん、連投?
投下完了。前回は前スレ321より。
久しぶりなのに中途半端な量ですが、GW中は全く書けないので、とりあえずここで。
西尾維新原作アニメ<化物語>。映像で見ると、原作とはまた違った味わいがあります。
この世界は僕にこのアニメを見せるために誕生したと言っても過言ではないでしょう。これから先の
歴史は全部消化試合です。
僕らのありゃりゃぎさんがガハラさんに虐待されたり小学5年生女子にセクハラ三昧してるのが
映像で見られるだけですごい幸せ。勢い余ってガハラさんが本当に地球にやってくるサイヤ人を
倒すSSを書こうかと思いましたが、そんなん書いて誰が喜ぶのかと思ったのでやめました。
>>ふら〜りさん
サンレッド。逆に宗介にとってはあの世界の方が生きていきやすい気もします。だって怪人とかが
普通に生活してるんですもの…チャカを持ち歩く高校生だって受け入れられますよ。
前スレ344 原作も名作ですよ。是非どうぞ。
前スレ345 ぶっちゃけ、主人公はヴァンプ将軍ですよねw
前スレ346 彼らが弱かったのではありません、フロシャイムの連中が意外と強く、そしてレッドさんが
あんまりにも強すぎるのです。
>>電車魚さん
人(じんぶつしょうかい)が、本当にネウロ的センスで感涙。しかし本編はサイとアイがまさかの決別…!
どうなるんだサイアイコンビ!雨降って地固まるであってくれますように…。
しかしネウロキャラは本当に「これはできないけどこれならどんなムチャでもいける!」という一芸特化が
素晴らしいですね。専門家というか、プロ集団というか。それを見事に書き切った松井先生はやはり凄い。
しかし一つ言いたい。ジェニュインさんはワカメさんの命令ならばその場でウンチだってするだろうから
素晴らしいんですYO!(歪んだ思想)
>>89 レス書くのに手間取ってました、すいません…。
>>ガモンさん
ゲマはドラクエXやった当時、本気で吐き気がしました…こいつとケフカとカルラは僕的にSFCの
RPG三大悪です。
さて、やっとこタナトス様の元まで辿り着いたはいいけど、こっからどうなるのか?自分でももう、
タナトス様をあまりにも強くしすぎたせいでどうやって勝たせたものか…あ、いやいや。ちゃんと
考えてますよ(汗)
レッドさんはもう<理不尽なまでに強すぎるヒーロー>を突き詰めた性能ですから。もう強さだけに
関して言えば、多分シャイタンやタナトス様もワンパンチだと思います(言いすぎ)。
宗介は誤解を解くより、誤解しまくったままの方が面白いかも…。
>>ハシさん
スレ立て乙です!そしてチルノうぜえ…うざいけど可愛いよ、バカヤロー!
東方SS、僕も書ければ書くんですが、こうも素晴らしいのを書かれると何も書くことがないというか…。
あーもう、歯痒い。
マリアリとか書きたいけど、百合なんざ書いたことねーし書いちゃったら書いちゃったでそんな自分自身に
嫌気が差しそうなんすよ!サンホラエロパロは書いたことあるのに…。
どうでもいいが、てゐと漫画版Romanのエトワール(幼女)はちょっと似てる…。
しかしどんだけ東方のこと語ってんでしょうか、僕は。もうノリでタナトス様に弾幕結界使わせそうな勢い
ですよ(嘘です)。
シエルさんは聞けば聞くほど、興味が湧いてくる…敬遠してたけど、手ぇ出してみるかなあ、月姫。
>>GW中は全く書けないので
ゴールデンウィークじゃねえ!お盆だよ!何書いてんだ僕!
我ながらなんかテンパってるなあ…失礼しました。
サマサさんとサナダムシさんが着てくれるとなんとなく安心する。
>顕正さん
ぶっちゃけイルミナが主人公ですね。ダイに対する憎しみと
敬愛する父を倒した強さと魂への尊敬を感じます。
まだ最後の敵がはっきりしないけれど、イルミナとは分かり合って欲しい。
>サマサさん
いよいよ佳境に近付きつつありますが、その前に少しお盆休みですかw
王道っぽくダンジョンの中を行くパーティ、もうすぐ激闘の始まりですね!
94 :
作者の都合により名無しです:2009/08/06(木) 07:13:27 ID:l3Hmh/Bc0
サマサさん乙です
お盆中はゆっくり休んで明けたらまた遊戯王とサンレッドを楽しませてください。
95 :
ふら〜り:2009/08/06(木) 21:31:24 ID:sqSX72er0
最近は敵キャラが光ってますよね。
>>ガモンさん
こりゃまたエグいですな阿久津。今回のところは一応、(武器使った分を考慮して)押し負けた
ような感じですけど、この調子だと次の手が恐ろしい。もう絶対に「真正面から鬼塚と勝負!」
なんてことはしないでしょうし、次は人数増加か更なる武器か、あるいは人質以上の絡め手か。
>>顕正さん
善意に理由が無いように、悪意にも理由が無い、か。領土や権力を欲しているわけでは
ないことといい、特定の憎む対象がいないことといい、古式ゆかしき「悪魔」の思考してます
第三勢力。細かい手段はどうあれ、とにかく真っ向から戦いを挑んできたバーンより厄介かも。
>>サマサさん
ラーミアの卵を守ってそうな二人がなんか可愛い。しかしラスボスへの忠誠心高い副官
という重要ポジ、その実力に期待。当のラスボスたるタナトスは相変わらず、お茶目さんな
口調でさらりとデカいことを言ってくれて。次回は彼の話、あるいは部下たちのバトル現状?
顕正さんのイルミナ好きだけどなんかゴツそうな女だ
作中に美人と書いてあるけどね
97 :
作者の都合により名無しです:2009/08/07(金) 16:09:34 ID:6IsWRJxk0
のりぴーの事で気が滅入る
サナダムシさんとか復活してくれないかな
◆◆◆
――あたいは、そのとき。この、澱み、蠢く赫色に見つめられて。
――どうしてこいつが震えているのか。どうしてこいつがあたいを求めたのか。それを理解して。
――こいつの『無限に増え続ける程度の能力』と、あたいの『冷気を操る程度の能力』とを掛け合わせて。
――あたいが最強になり、こいつがあらゆる"こわいもの"から逃れるという取り引きに、あたいは、のった。
――そのときのあたいは、最強になるという意味も、その先になにがあるのかも、知らなかった。
――ひとりぼっちのあたいは……大ちゃんを裏切り、またひとりぼっちになってしまったあたいは。
――最強になるしかない。それしかあたいには残されていない。……そう、思っていたから。
◆◆◆
「うう……私の心無い言葉でチルノさんを傷つけてしまいました……。嗚呼、私、これからどうしたらいいんでしょうか。
もしかしたら『もう二度とあたいの前に姿をあらわすな!』とか『もう二度とあんたの取材は受けないから!』とか、
言われたりする可能性も……。他の人間や妖怪の方ならまだしも、チルノさんにそんなこと言われたら、私は……。
ふふ、ふふふふ……あははは! 救いは! 救いはないんですか!? うわああああああん!!」
「文さんまで泣いてどうするんですか! しっかりしてください!」
――空を漂うふたつの影があった。
――射命丸 文と大妖精のふたりだ。
ふたりは、突然どこかに消えてしまったチルノの姿を求めて、幻想郷の空を飛び回っていた。
だが、いったい彼女がどこに行ったのか――ふたりともまったく検討がつかず、いまだチルノを見つけられていない。
文は道中ずっと、チルノを泣かしてしまったことを悔いていた。
自分の所為で、彼女の笑顔が失われてしまった。だからどうにかしてチルノに謝ろうとしていたのだが――
探し人の居場所がわからなければ、いかに幻想郷最速を誇る文と言えど、その駿足をいかすことはできない。
文は、自分の情けなさとチルノへの罪悪感が極まって、恥も外聞もなく泣き出してしまっていた。
99 :
作者の都合により名無しです:2009/08/09(日) 17:24:25 ID:4RdovB1t0
そんな文を、大妖精は必死になだめていた。
背丈、そして生きた年月でいえば大妖精より文のほうが遥かに上なのだが、この有様ではどちらが年長かわからない。
「す、すみません大妖精さん……ああ、私ってば本当にだめだめですね……」
「大丈夫ですよ、文さん。きちんと謝れば、チルノちゃんだってきっと許してくれます」
「うう……大妖精さんがいてくれて本当に助かります。大妖精さんは、チルノさんのことをよくわかっていらっしゃるのですね」
「……そんなことありませんよ。だってわたしも、チルノちゃんに嫌われちゃったみたいですから」
そう言って微笑む大妖精の表情には、僅かにかげりがあった。
きちんと謝れば、きっと許してくれる――それは文だけでなく、自分に向けた言葉でもあるのだろう。
そんな不安げな大妖精を見て、文はあらためて不思議に思った。
どうしてチルノは、こんなにも自分のことを想ってくれる大妖精に、あんなことを言ったのか。
それに――どうしてチルノはあれほど"最強"であることに固執するのか。
長らくチルノに密着取材をし続けてきた文であったが、彼女はあらためて、チルノについてまだ未知なる部分があることを思い知った。
新聞記者の――いいや、彼女の中の射命丸 文の部分が、チルノのことをもっともっと知りたいと訴えていた。
どうしてチルノはあんなに最強たらんとするのか。それを知ることが、チルノを深く理解するために必要だと、文は思った。
そのことを大妖精に伝えると――彼女は少しためらいながら「たぶん――」と切り出した。
「――チルノちゃんが、ずっとひとりぼっちだったことに関係しているんだと思います」
その言葉に、文は驚きで眼を丸くした。
「へえ……それは初耳です。いまの友達百人なチルノさんからは、ちょっと想像できないですね」
チルノは大妖精とともにいることが多いが、他にも仲のよい妖精や妖怪がいる。
宵闇の妖怪、夜雀の妖怪、蟲の妖怪と特に仲がよく――さらに驚くべきことだが、
あの紅魔館の主、運命の吸血姫レミリア・スカーレットが主催するお茶会に招待されたこともあるらしい。
そんな誰からも好かれるチルノに、ひとりぼっちだった時があったとは。にわかには信じがたい。
しかし、チルノの親友である彼女の言うことなら、それは真実なのだろう。
文は大妖精に先をうながした。
「妖精は暖かい空気を好むものが大半で、冷気を操るチルノちゃんは、ずっと爪弾きものだったそうなんです。
それに、チルノちゃんは他の妖精よりずっと力が強いから、なおさら怖がられてたみたいで。
冬の間はレティさんがいっしょにいてくれたから、さびしくはなかったみたいですけど……」
大妖精がいま挙げたレティというのは、『寒気を操る程度の能力』の持つ妖怪、レティ・ホワイトロックのことだ。
似たような性質を持つふたりは、冬の間、いっしょのときを楽しんでいた。
だがいつまでも一緒にいられるわけではない。
冷気を好み、暖気を苦手とするレティは、冬が終わるとともに、幻想郷のどこかで眠りについてしまうのだという。
だからレティのいない冬以外の季節、チルノは他の妖精から仲間はずれにされ、ずっとひとりぼっちのときを過ごしていた。
「だいたいわかりました。
チルノさんには、その妖精にはありえざる力の所為で、逃げ場がなかったんですね。
どこにいっても、その力の所為でこわがられるから、遊び相手がいない。
唯一の友達であるレティさんも、冬の間しか会うことができない。
ずっと、ひとりぼっち……残されたのは、すがれるのは、自分の力だけ。
最強であることを示し続けることで、チルノさんは自分を保とうとした。
私にとってのアイデンティティーが新聞を書くことのように、
チルノさんのアイデンティティーは最強であることだったんですねえ……。
自分の力が否定されたら、自分よりも強いものがあらわれたら、もう自分に残されたものはなにもない……」
「ですが」と言葉を切り、文は微笑みを大妖精に向けた。
「そこにあなたがあらわれたことで、チルノさんはひとりぼっちじゃなくなった。そうですね?」
「はい……」
「ふむふむ。大妖精さんは、チルノさんほどじゃないですけど、妖精にしては強い力を持っていますしね。
――目に浮かぶようですよ。冬以外の間でもいっしょにいられる、はじめての友達を見つけたときのチルノさんの笑顔が」
「はい。チルノちゃんは、すごく喜んでいました。これでさびしい想いをしなくてすむ、って。
けれど――私は、もっと嬉しかったんです。
……外の世界から幻想郷にきたばかりで、不安で仕方がなかった頃。
はじめて会えたのが、友達になれたのが、チルノちゃんで……」
「あやややや。そう言えば大妖精さんは、幻想郷で生まれたチルノさんと違って、外の世界の出身でしたっけ」
外の世界――
現実と非現実を区切る"博麗大結界"によって、幻想郷は、外の世界から隔絶されている。
幻想郷に妖怪や妖精、神による文明があるように、外の世界には、人間の作った鋼の文明が広がっているという。
「わたしは幻想郷に来る前、イギリスに居たんです。そこで、妖精の女王ティターニアさまに仕えていました。
でも、わたしが幻想郷への旅に出る頃にはすでに、ティターニアさまが治める妖精の国は、滅亡寸前だったんです。
ティターニアさまの力は徐々に弱くなっていて、オーベロンさまもすでにお隠れになっていて……。
人間が増えるほど、妖精の住む場所がどんどんなくなって。もう、イギリスにわたし達妖精の居場所はなかったんです。
そんなとき、わたしは、ティターニアさまにお暇をだされたんです。
そして、イギリスを去り、東を目指しなさいと言われました。
東の果てのその先に――わたし達ふるき幻想に残された、最後の楽園がある。
そう仰られて、ティターニアさまは妖精の国にひとり、残りました。
……そのあと、ティターニアさまがどうなったのか、わたしにはわかりません」
「ふむ……」
幻想郷で生まれた文は、外の世界のことをあまり知らない。
それでも、大妖精が仕えていたという女王の名は聞いたことがある。
かつて月の女神であったという妖精の女王ティターニア。
神の座から零落したとはいえ、その力は、幻想郷の強豪妖怪と比べても遜色のない実力を持っているだろうに。
そんな存在が追い詰められてしまうほど、外の世界は、人間が勢力を振るっているのだろうか。
外の世界とは、そんなに恐ろしいところなのだろうか。
「はい。外の世界は、こわいところです」
迷いのない表情で、大妖精は言った。
「……幻想郷を目指して外の世界を旅している間、わたし、ずっとこわかったんです。
人間という存在が、とてもとても恐ろしかった」
「……というと?」
「文さんはご存じないかもしれませんが――
わたしが生まれたヨーロッパの大地は、むかし、大きな森があったんです。
どこまでも続く森。たくさんの妖精と、たくさんの魔女と、たくさんの狼がいた森。
その森はこわいことも多かったけれど――楽しいこともたくさんあったんです。
湧き出る水はおいしかったし、空気はきれいだったし、魔女さんが見せてくれる魔法はとても不思議で、楽しくて。
人間もそんな森を恐れながら、それでも共に生きていました。
わたし達ふるき幻想と、人間は、同じときをいっしょに生きていたんです。
でも――わたしがイギリスから幻想郷への旅にでたそのとき、すべてが変わっていた。
かつて森があった場所には、たくさんの鋼があって、たくさんの人間が住んでいました。
……自然もない、鋼ばかりの場所を通らなきゃいけないとき、わたしはいつも怯えていました。
"黒くてこわい人間"が、わたし達を捕まえようと、いつも追ってくるんです。
……結局、わたし以外の妖精は、その黒くてこわい人間にすべて捕まってしまいました。
きっと彼女達は、もう消えてしまったんだと思います。自然のない場所では、妖精は存在できませんから。
それと同じように、妖精も魔女も狼も――そのすべてが人間によって消されてしまったことに気が付いたとき、わたしは。
人間が、とてもとてもこわいものだと――そう、思いました」
それを聞いて文は、"境界の妖怪"八雲紫がいつか語った、
「人間が夢見ることを忘れはじめたことで、外の世界に、幻想の居場所がなくなりつつあるのよ」
――という言葉を思い出した。
幻想郷で生まれた文にはよくわからないことだった。人間によって自分達の住む居場所そのものが無くなるということは。
しかし、つい最近幻想郷にやってきた、あの守矢神社の風祝と二柱の神が、
信仰が廃れた所為で外の世界から追われたように。
人間がかつて信じていた迷信や御伽噺を捨て、鋼の文明を作り出したことで幻想達が滅びに向かっている。
――それは、真実なのだろう。
かつてともに生きてきたはずの人間達が、なにを思って幻想達を排斥しはじめたのか……文にはわからない。
けれど、ひとつだけ確かなことがある。
「けど、幻想郷はそうじゃなかったでしょう? 大妖精さん」
「……はい。ここは、本当に、楽園ですね。
ここには黒くてこわい人間はいないし、自然がたくさんあって、仲間がいて、すごく楽しいです。
むかしのように人間と幻想がともに手をとって、毎日を暮らしている。
かつてあった、けれど失われ、忘れ去られた幻想達が、消え行くことを思い煩うことなく生きていける。
――それになにより、チルノちゃんと出会えた。
わたし、幻想郷に来て、ほんとうによかったです」
――パシャッ、という音がした。
――文がカメラのシャッターを切ったのだ。
「ふふ。最高の笑顔でしたよ、大妖精さん! 次の記事の一面は大妖精さんで決まりですね!」
「もう、文さんったら!」
真っ赤になって照れる大妖精。突然写真をとったことを詫びながら、文は言う。
「あなたのその言葉、是非とも八雲紫さんにお聞かせしたいものですねえ。
あの方は幻想郷を形造った妖怪の賢者のひとりであり、この幻想郷を最も愛しておられる方なのですから。
外の世界の出身である大妖精さんが――この幻想郷を楽園と言ってくれるのなら。
――八雲紫さんも、それはそれはお喜びになるでしょう」
八雲紫――
大妖精はかの大妖怪と直截会ったことはない。
他の妖精は彼女のことをこわいと言ってはいるが、大妖精はどうしても彼女のことをこわいと思えなかった。
逆に、この幻想郷を形造ってくれた彼女に、感謝の言葉を贈りたい。
幻想郷があったからこそ、チルノや文、たくさんの人間や妖怪と出会うことができたのだから。
そんなことを思っていた大妖精の視線の先に、
「あ、文さん、見てください! あそこに――」
「あーっ、大ちゃんにぶんぶんだ!」
ひとりで地上を歩くチルノの姿があった。それを確認した文は、即座にその身を疾風にして、チルノの眼の前に降り立った。
そして――地面に深く深く頭を擦り付けた。
「ち、チルノさん――あの、その、ごめんなさい! 私、あなたの最強という言葉にかける想いを、ちゃんと理解していませんでした!
これからはちゃんとあなたのことを思って言葉を選んで、あなたの記事を書きます! もういじわるだってしません!
ですからどうか、『もう二度とあたいの前に姿をあらわすな!』とか『もうあんたの取材は受けないから!』とか、
そんなこと言わないでください! 後生ですから……!」
一足遅れて地上に降り立った大妖精は、文のその姿に驚いた。
天狗は強いものには迎合し、弱いものには不遜な態度をとるというが、文はその例外らしい。
というより、文がチルノのことを大切に思っているからだろうか? 大切なひとが深く傷ついてしまった。それが自分の所為ならば。
自分のプライドも何もかもかなぐり捨て、頭を下げる。本当に相手のことを想っていなければ、決してできないことだ。
大妖精は、こんなにもチルノを想ってくれるひとが自分の他にもいることを知って、とても嬉しくなった。
きっと、誰かを強く想うことさえできれば。その誰かも、きっとその想いに応えてくれるはずだ。
「ねえ、チルノちゃん。わたしもチルノちゃんことを、ちゃんとわかってなかったみたい。けれどこれからは、ちゃんとチルノちゃんの
ことを想って、チルノちゃんと遊ぶから。……だから許してくれないかな」
そんなふたりに対して、氷の妖精チルノは――
「大ちゃん、もうそんなことどうでもいいのよ!」
「もんだいはそんなことじゃないの!」
「ろんてんは、あたいがさいきょーか、そうじゃないかなんだ!」
「でも、そのぎろんもきょうかぎりよ!」
「そうそう!」
「あたいがさいきょーじゃないとか!」
「もうそんなこといわせないぞ!」
「あたいはさいきょーになった!」
「だからこれからは、だれもあたいのことを馬鹿にできないんだ!」
「はいもうその通りでございます、だれもあなたを馬鹿にしたりなんて――って、んん? は、はえっ!?」
「ち、チルノちゃん……いったいどうしたの……?!」
文と大妖精は、驚きで何も言えなくなってしまった。
それも仕方のないことだ。
何故なら――
ふたりの前にいるチルノは、ひとりではなかったから。
如何なる珍事が起こったのか、ふたりの前には――姿かたちがまったく同じの9人のチルノ達があらわれていた。
異常事態はそれだけでは終わらない。
木々の間から、草花の影から、ありとあらゆるところから――大勢のチルノ達が出現しはじめたのだ。
「大ちゃーん、みてみて、あたいたちのことを!」
「こんなにたくさんふえて、あたいすごいでしょ!」
「おいぶんぶん! いくらあんたでも、こんなたくさんあいてにできないでしょ!」
「ゆえに、あたいはさいきょー!」
「たたかいはかずなのだよ、大ちゃん!」
「ちょっとおさないでよじゃまだってば!」
「あんたこそあたいのじゃまをするな!」
「あたいのくせになまいきだぞ!」
「ちょっといまぶったのだれよ!」
「あたいじゃないぞ!」
「ウソツケー」
「あだだだだ、あしふむなー!」
「あたいをぶつなんて、いいどきょうしてるじゃない、あたいのくせに!」
「いてっ」
「やったな!」
「あたいにはあたい返しだ!」
「ダイセツザン(棒読み」
「あ、あんたたち、そのネタはどうかと思うわよ!?」
「ネタは鮮度がいのちなのよ! 今日の放送分のネタは今日のうちに使い切るの!」
「あたいこそ大チルノ最強のあたい、氷精チルノ!」
「それは先週分のネタよ!」
「大食漢、でてこいや!」
「あだだだだ、まだふんでるってば!」
「ぶんぶん、いまこそ弾幕ごっこよ! ぎったんぎったんにしてやるー!」
「そのまえにあたいぶったのだれよ!」
「あたいにきまってんじゃない! 馬鹿なの? 死ぬの?」
「おお、おろかおろか」
「馬鹿にすんなー!」
「ねえみて大ちゃん! さいしゅうきちくくみたいそうジャングルジム、ぜんぶあたいよ!」
「ちょっとこのくみたいそうむりがあるよ! かんせつがありえないほうこうに!」
「つ、つぶれる……」
「まてー! にげんなー!」
「くやしかったらあたいにおいついてみな!」
「いいかげんあしふむのやめろー!」
――騒々しいことこの上なかった。
いま確認できるだけでも、チルノの人数は、およそ50は超えるだろうか。
文は耳をふさぎながら、音が暴力になることを思い知った。
チルノの――いいや、チルノ達の想像を絶する声音以外に、なにも聞こえない。もうチルノの声しか聞こえない。
「こ、こはいったい何事!? 大妖精さん、何か心当たりは――」
「……ふ、ふふ……チルノちゃんがたくさん……チルノちゃんがたくさん……チルノちゃんがたくさん……」
「大妖精さん!?」
大勢のチルノを眼にして、理性の許容量を超えてしまったらしい大妖精は、ぶつぶつと同じ言葉を繰り返していた。
うっすらと白目すら剥いているのを見て、文は動揺した。
「し、しっかりしてください大妖精さん! 気を強く持ってください!」
ふらりと姿勢を崩した大妖精を抱きとめた文は、気つけに彼女の頬を何度か軽く叩く。
だが、いま見たものがあまりに衝撃的だったのか、大妖精は正気を取り戻さない。
「おいぶんぶん!」
「いまこそ、あたいがさいきょーであることを証明するときよ!」
「いざじんじょーに弾幕ごっこ!」
「でりゃー! くらえー!」
「ちょ、ちょっとタンマです!」
突然チルノから放たれた冷気と氷の波から逃れ、文は大妖精を抱いて空に飛び上がった。
勝負を受けようとしない文に、チルノ達からいっせいに非難の声があがる。
「「「「「「「「「「「に」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「げ」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「ん」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「な」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「馬」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「鹿」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「ー」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」
チルノ達の声でびりびりと空気が震える。
文は眼下に広がるチルノの群れに何か言おうとし――自分が思っているよりも、事態は深刻だということを理解した。
木々が――枯れている。草花も。小さな昆虫が、腹を見せて地面に転がっている。
妖精は存在するための力を自然から得ている。
故にこの現象は――大量に増えたチルノ達によって、
許容量以上の力を吸い上げられている自然が、終わりのはじまりを迎えていることのあらわれなのだろう。
――このままチルノを放っておけば。
――幻想郷からすべての自然が消え去ってしまうのではないか。
「こ、これは大スクープ……もとい、"異変"の予感! 久々にいい記事が書けそうです!
しかし、しかし、いまは記事を書くことより、チルノさんをどうにかすることが先です!
しからばここは、"異変"解決の専門家に登場していただくことにしましょう!」
◇◇◇
「――で、あんたらに呼び出されたのはいいけど……なんなの……これ……」
「まさにチルノさんの大軍団(レギオン)ですね」
「チルノちゃんがたくさん……チルノちゃんがたくさん……チルノちゃんがたくさん……」
文と大妖精に呼び出された紅白の巫女服を着た少女――博麗 霊夢は、目の前に広がる惨状を目にして、
絶句する以外の選択肢をもたなかった。
そう、惨状。これはもう惨状と形容する他ない。
右を見ても、チルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノ。
左を見ても、チルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノチルノ。
まさにチルノの大安売りである。ちなみに現在の状況を図に表わすとこうなる。
チルノ → H 射命丸 文 → 文
大妖精 → 大 博麗 霊夢 → 霊
文 霊 大
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「これはひどい」
これほど上手くいまの状況をあらわした言葉もないだろう。
雲霞のごとく膨れ上がったチルノの群れ――以後、チルノ・レギオンと呼称しよう――を見て、霊夢は頭を抱えた。
博麗神社でこのうだるような暑さの中だらだらしていたところに、疾風を纏った射命丸 文が突然あらわれ、有無を言わさず
連れ出されたときから、いやな予感はしていたのだ。
この天狗少女が目の前に現れるのはいつだって、新聞を押し売りか、厄介事の持ち込みと相場が決まっている。
「あんたら余計なことしてくれたわね……」
額に青筋を立てながら、霊夢は騒動の元凶であるふたりを睨みつけた。
「ごめんなさい……」
チルノが好奇心旺盛で悪戯好きな妖精を体現する存在なら、大妖精は真逆の存在と言えるだろう。
彼女は誰に対しても礼儀正しく、また悪いことをしたら謝るという常識を持っていた。
大妖精がしおらしく謝っているのを見て、霊夢の心の中に、小さな罪悪感が生まれる。
「まあいいじゃないですか。私は大スクープを得て、尚且つチルノさんに謝れる。
霊夢さんはこの冷気で涼める。ギブアンドテイクですよ」
「うっさい! 大妖精のことは許すけど、あんたのことは許さないわ。あとで焼き鳥にしてやる」
「あやややや。ちょっと待ってください。
確かに、チルノさんを泣かせてしまったことは、わたしに責任があります。
でも、チルノさんがどうしてこんなに増えてしまったのか、それは私の与り知らぬところです」
「役に立たない新聞記者ね。
――ま、いいわ。こんな程度の低い"異変"、あたしだけで十分よ。あんたたちは下がってなさい」
「それは心強い! では、お言葉に甘えて。大妖精さん、私達は安全地帯で事態の解決を待ちましょう」
そう言い残すと文は、大妖精を抱えて空へ飛び去り、あっという間に姿を消してしまった。
「あの鴉天狗……いつか本当に焼き鳥にしてやろうかしら」
あとは任せろといったが、そもそもこの騒動の原因を作ったのは彼女達なのだ。
言いたいことは山ほどあったが、仕方がない。幻想郷での面倒ごとの解決は、いつだって自分の役割だ。
どうしてそんな役割を負わなければならないのか。理由をあげればきりがない。
自分は幻想郷の調節装置とも言える"博麗の巫女"だから、とか。
自分はこれまで数々の"異変"を解決してきた"博麗の巫女"だから、とか。
自分は"博麗大結界"を維持する"博麗の巫女"だから、とか。
つまるところ、彼女が妖怪をはじめとするふるき幻想と対峙する理由は、この"博麗の巫女"であるから、ということに収束する。
割り振られた役割を演じよ――という言葉を霊夢は思い出す。
その言葉を使ったのは、霊夢がその姿を思い浮かべるたびに複雑な想いを抱く、あの境界の妖怪だ。
そう、役割。
妖怪や神といったひとならざる幻想の存在は、常に人間を脅かす役割を演じなければならない。
ひとを食べる妖怪であるとか。ひとを祟る信仰の廃れた神であるとか。
対して人間は、その脅威に恐怖し涙を流すか、あるいは、その存在を打倒する役割を演じる必要がある。
竜を斃し不死身となった英雄であるとか。神の試練に打ち勝った英雄であるとか。
互いが役割を負うことで、現実と幻想の均衡を保つ。
世界にかつて在り、そしていまでは廃れてしまったこの約束事を放棄すれば――人が夢見ることを忘れ、
鋼の文明を選択したこの世界において、本当なら"あるはずがない"非常識な場所である此処"幻想郷"は、あっけなく滅び去るだろう。
まあ、小難しいことはともかくとして。そう霊夢は思った。
境界の妖怪に諭されるまでもなく、彼女は、自分の役割を果たすつもりでいた。
すなわち、この異常事態――"異変"を解決する役割。"博麗の巫女″としての自分をつらぬくこと。
「さて、ちゃっちゃと終わらせよっと。ほら馬鹿妖精、"博麗の巫女"が、あんたをこらしめにやってきたわよ」
そう言って、軽く、一歩踏み込む。その瞬間、数え切れないほどの空色の瞳が、一斉に霊夢に注がれた。
天敵の存在を察知したチルノ・レギオンは、その排除を、そして自分達が最強であることを証明すべく、行動を開始した。
万のチルノ達が、一斉に天へ向けて手をかかげる。そのすべての手には"スペルカード"と呼称される魔の符がある。
その所作の意味するところはすなわち、数多の伝承、神話、御伽噺が一堂に会す、
このゆめとうつつの狭間にたゆたう″幻想郷″において、唯一暴力の限定行使が許されている事例――"弾幕ごっこ"開始の合図だ。
「「「「「「「「「「「ス」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「ペ」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「ル」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「カ」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「ー」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「ド」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「発」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「動」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」
――氷符「アイシクルフォール Phantasm」
チルノ・レギオンの宣言が、カードに秘められた自然の力を解放する。
瞬間、霊夢は、いまが夏であることを忘れた。
突然、血さえ凍りつく極寒の地に投げ出されたのではないかと錯覚した。
その認識は概ね間違ってはいない。
チルノ・レギオンは、スペルカード宣言の余波のみで、周囲の景色を極寒地獄へと変えていた。
木々も草花も一瞬にして熱を奪われて凍りついた。
それまでは精々肌寒いとしか感じなかった周囲の空気も、いまや鋭い痛みをともなうほどに冷たさを増していた。
しかもこれほどの惨状を演出してもなお、スペルカードはまだ完全に発動していないのだ。
霊夢は戦慄した。まさかチルノがこれほどの脅威をもたらすとは、思いもしなかったのだ。
だがしかし、霊夢がいま相手をしているのは、チルノただひとりではなく、チルノ・レギオンなのだ。
氷精チルノは、単体で妖怪とも張り合えるほどの力を持った、非力な妖精の中でも希有な存在である。
その彼女が知性はともかくとして、力はそのままに数を増したこのチルノ・レギオン。
その戦力が如何なるものを生み出すのか――
それは、この"異変"が終息したあと、かの"妖怪の賢者"八雲紫が漏らした、
「あのまま彼女達を放っておいたら、幻想郷は確実に滅びたでしょうね」の一言ですべて言いあらわせるだろう。
(まずい――!)
"博麗の巫女"としての勘が、霊夢に警鐘をならす。
霊夢は即座に「空を飛ぶ程度の能力」で、文字通り中空へと飛翔した。
だが、遅かった。氷の礫の豪雨と、絶対零度の冷気が織り交ざった弾幕が、既に彼女を捉えていたのだ。
相手が普段は歯牙にもかけないチルノということで、霊夢にも油断があったのだろう。
その油断により致命的なミスを侵した霊夢は――
「ちょ……」
そんな呟きをひとつ残し――
冷気の大河に飲み込まれ、そのまま見えなくなった。
◇◇◇
――そうして誰もいない森の中。
――氷の妖精が去り、誰もいなくなった森の中。
――いいや、いいや。なにかがいる。だれかがいる。
――木々が織りなすその暗がりに。
――ひとりぼっちで震え、澱み、蠢く赫色が、ひとつ。
『――こわい――』
『――こわい――』
『――こわい――』
『――たくさんの――』
『――はじめての――』
『――こわいもの――』
『――こわい――』
『――こわい――』
『――こわい――』
『――だから――』
『――けすの――』
『――わ、た、し、が――』
『――けされるまえに――』
『――この、幻想郷の――』
『――す、べ、て、を――』
すいません、感想とお返事は明日書きます。
ハシさん乙です!
こういうスレがピンチの時に大量投下してくれるとひとしおありがたいですな。
チルノちゃんたち可愛いけど、どこか百合百合してるのは原作の仕様なのかな?
117 :
作者の都合により名無しです:2009/08/09(日) 23:15:53 ID:j0jvZEsC0
意外とシリアスになってきましたな
東方は一人一人設定が細かいらしいので個性溢れてていいです
なんとなく明るいキャラの裏で傷も持ってるようだ
チルノ軍団恐るべし
チルノより強いのが確か沢山いるんだよなあ
最後のレス、まるで蒼いうさぎが一人で震えて待っているようだw
俺は東方知らないからスプリガンの続きが読みたい・・
120 :
ふら〜り:2009/08/10(月) 22:24:06 ID:I3xF+u1F0
>>ハシさん(昭和のだいせつだーんは聴いたことないですが、平成版のアレは……ねえ)
前回同様、思考が生々しい子供らしさというか、リアルですねぇ。物事に対して、どう受け
止めてどう感じてどう動くかが実に子供らしい。行き着いた結果がレギオンなのもまたその
一端。物語的にはちゃんと重いものがありつつ、賑やかだったり可愛かったりで、面白い。
ついにふらーりさんの感想が1つになってしまったか
122 :
女か虎か:2009/08/11(火) 23:16:42 ID:We0xl78n0
16: HOWLING
葛西に火傷を負わされた蛭の頬は、時間が経つにしたがい引き攣れて痛み出した。
浅達性の第U度熱傷。一見派手に発赤してはいるが、真皮にまでは達していない。新陳代謝の早い
若い体なら、跡も残らず一週間程度で完治するものだ。
もっとも今の蛭にとって、火傷の程度などどうでもいいことだった。
面積の広い眉間に、刻印のごとく深い皺。普段は利発さと気の弱さを半分ずつ覗かせる黒瞳は、
今は鋭く研ぎ澄まされて一枚の紙片に吸い寄せられている。
白い無地の便箋だった。惚れ惚れするような見事な筆跡で、万年筆による文章が並んでいる。
文字サイズも字間も完璧そのもの、市販の仮名手本とまごわんばかりだ。だが注意深く観察すれば、
跳ねや払いといった細かい部分に微少なブレが見てとれる。筆記者の手の震えによるものに相違ない。
アイの字だった。
『蛭へ
あなたがこれを目にするとき、私は既にこの世にいないか、
サイの命によって彼の元を去った後かのいずれかでしょう。
いずれにせよ、今後私が彼の力になることは極めて困難であると予想します』
字が乾ききる前に折り畳まれたものと見え、青いインクは随所で掠れている。相当に急いで
書かれたものと容易に知れた。
恐らくはアジトに戻ってきてから、サイが帰還するまでの短時間に記されたもの。
『上記の予想を踏まえた上で、あなたに託さなければならないことが幾つかあります。
身勝手と憤られるかもしれませんが、志潰えた哀れな女の最後の願いと、
寛大な心をもって聞き届けていただければ幸いです』
ここで一行、行間が空く。
『私はあなたが思っている以上に、あなたを高く評価しています。
単純に能力や技術のみをいえば、あなたを遥かに上回る協力者は少なくありません。
ですがあなたには、それを補って余りあるだけのサイへの忠誠があります。
あなたなら決してサイを裏切らない、そう確信するからこその今回のお願いです』
目で追う文章は脳内で、耳元に語りかける声となって再生される。
イントネーション、単語と単語の切れ目、息遣いまでリアルに感じられる。
123 :
女か虎か:2009/08/11(火) 23:18:46 ID:We0xl78n0
『サイの傍を離れないでください。
彼の杖となって彼を支え、盾となって彼を守ってください。
彼は無限の可能性を秘めてはいますが、決して無敵の存在ではありません。
悩みも傷つきも倒れもする一人の人間です。
彼に与する協力者たちの大半は、この単純な事実を知らず、
誇張された偶像としての≪怪盗X≫を崇拝しています。
彼の真の姿を目の当たりにすれば、彼らは失望して離れていくでしょう。
最悪の場合は反逆すら試みるかもしれません。
精神状態が極めて不安定な今の彼に、それを抑えることは極めて困難です。
忘れないでください。
今この状況でサイを支えられる人間は、世界にあなた一人しかいないということを』
また一行、空行。
『≪我鬼≫の一件で荒れたサイが、こちらの思いもよらぬ行動に出るかもしれません。
葛西の動向も同様に気にかかります。
この先何が起こったとしても動じず、サイの傍に控え、彼を守ってくださるようお願いします。
そのために必要と思われるものを託します。
齧りついてでもその場所を手放さないでいてください。
私の分まで、サイのことを宜しくお願い致します』
最後の一行は特に急いていたらしく、ほとんど走り書きに近い状態だった。
「これって……」
サイに殺されるおそれを織り込んだに留まらない。破れた夢を前に彼女はこれを書いたのだ。
この文章は蛭に宛てたメッセージであると同時に、ある種の訣別文でもある。
サイの元で彼の望みを共に追い続けた、自分自身への離別の手紙だった。
受け止めるべき、なのだろう。本来は。涙を拭いて奮い立ち、この文面にある通りアイの分まで
サイを支えると、心に誓うのがあるべき姿だろう。しかし今の蛭にはそれができなかった。
アイの意思自体は理解できる。
だがサイに仕えていられる時間がほとんど残されていない今の自分が、彼女の期待にどれだけ
応えられるというのか。
蛭は奥歯を食いしばった。
節くれだった無骨な手に力がこもり、白の便箋に縒れを作った。
124 :
女か虎か:2009/08/11(火) 23:21:13 ID:We0xl78n0
*
深淵に沈むサイの精神を浮上させたのは、風の唸りにも似た遠い吼え声だった。
るぉぉおぉぉぉん
るぉぉぉぉおおぉぉおん
大きくはない。耳を塞げばそれで遮断できる程度の声音だ。遠吠えの主は力の限り吼えているに
違いないが、隔たる距離が大気の震えを微細なものにしている。
それでもなお咆哮はサイの神経を逆撫でした。
ある種の肉食獣を想起させるこの遠吼えは、今の彼が最も聞きたくないものだった。
やかましい。
俺にその声を聞かせるな。
苛立ちが湧き上がる。心臓の激痛がいつの間にか消えたことも、腹から胸へ、胸から喉へと
せりあがっていた嘔吐感の消滅も、じわじわと沸点に迫る意識が掻き乱してうやむやにしてしまう。
「黙れ……」
低く呻く。
サイの都合などおかまいなしに、遠きにありて吼えるなにかは更に高々と咆哮する。
るぉぉん
るぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉん
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ!」
跳ね起きると同時の絶叫は、闇に閉ざされた空間に残響とともに響きわたった。
空気が振動した。肺の酸素を全て吐ききったとき、冷えきった見えざる手が顔を撫でた。周囲の
温度は明らかに、日本の冬の平均気温をはるかに下回っていた。
その低すぎるまでの気温が、逆上しきったサイを我に返らせた。
おかしい。
この尋常でない寒さは何だ。まるで北の異国にいるような。
全身の神経を研ぎ澄ませながら、サイはもうひとつの違和感に思い至った。
何も見えないことだ。
常識を超えた知覚を持つ彼に、暗闇は何の障害にもならない。≪我鬼≫との戦闘においてそうだった
ように、夜の底でも昼同然の視界が得られる。本来であれば。
しかし今眼前に広がっているのは暗黒だった。
「何、これ……何、が」
細胞の異常が続いているのか、それとも。
分からない。何ひとつとして理解できない。
身を強張らせるサイの耳に、さっきの咆哮が再び届いた。
聴覚への刺激は、視覚をシャットアウトされた脳をひときわ激しく揺さぶる。
るぉぉぉぉん
るぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおおん……
恐慌がまた襲ってきた。耳を塞いで声の限りに喚いた。
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさいっ!」
しかし耳朶をなぶる遠吼えは、次第に変化を呈しはじめた。
125 :
女か虎か:2009/08/11(火) 23:23:38 ID:We0xl78n0
るぉ……おおぉん
おぉぉぉぉおおおおおん
おおおおぉぉおおぁあああぁああん
あぁぁあ………ぁぁん
ああぁあぁああぁぁぁぁあぁあああぁぁぁぁぁん
咽喉を噴き上がり響く力強い咆哮が、すすり泣くような声へと変じていく。
横隔膜を痙攣させ、涙と鼻水を垂れ流しながら泣きじゃくる人間のそれへと。ドップラー効果に
しては異様すぎる変化。
耳を塞ぐ手を放し、サイは周囲の気配をまさぐる。
視界が明るく開けたのはそのときだった。
毛の短い絨毯のような、朱金色の野が目の前に広がった。
夕日を浴びて赤く輝く、刈り込まれたあとの麦畑。
あああぁぁああぁん
あぁぁん……
ああーん……
あーん……
弾かれたように振り返る。
子供がそこにいた。
まだ十にもなるまい薄汚れた少年が、地に置かれた棺に取りすがり、全身全霊で泣きじゃくっていた。
――これは?
神経を尖らせるサイの脇に、フッと新たな気配が湧く。
霧のように浮かび上がるのは、一様に純白の服を着た、十数人の人の群れ。
『かわいそうに』
『人食い虎に襲われるなんて……まだ冬にもなっていないのに』
『骨しか残らなかったって話だぞ』
『あの家の息子、確かまだ八つでしょう? これからどうするのかしら』
『どうも何も……誰かが引き取るしかないだろう』
『誰かって誰よ。どこの家もそんな余裕ないわよ……』
しばらく日本を拠点に活動していたせいで、脳が日本語漬けになっていた。そのため彼らが囁きあう
言葉が何語か、把握するのに数秒を要した。
中国語、それも東北官話と呼ばれる北東部の方言。
サイは顔をしかめた。
何かと思えばくだらない、ただの夢か。
よくあることだ。他人の中身を覗くことでトレースした彼らの断片が、おもむろに浮かび上がって
脳の一部を占拠する。恐れることも懸念することもない。いずれ脳細胞とともに変異し崩れて
消し尽くされる情景だ。
さて、これは誰の中身だろう。
記憶の主とおぼしき泣き喚く子供を、サイは観察者の目で注視した。
汚らしく涙と鼻汁にまみれた顔は、よく見れば日焼けと垢とで黒々としている。骨格にそって
健康的に肉がつけば、それなりに愛らしい少年であるに違いない。だが悲しいかな栄養不足でこけた
頬が、その顔から愛嬌を奪っていた。
126 :
女か虎か:2009/08/11(火) 23:29:37 ID:We0xl78n0
――貧乏農家の倅(せがれ)か。たぶん、黒竜江省か吉林省あたりの。
――あの白服は中国の喪服……早死にした親の葬式ってとこだな。
本人の容貌、周囲の状況、そしてさっき耳にした会話から、サイはそう結論を下した。
彼の記憶の中にそのプロフィールに合致する人物はいなかったが、どうでもいいことを忘れてしまうのは
いつものことだ。
――誰だっけ、本当。全然思い出せない……
そう考えたとき自嘲の笑みがこみ上げた。
――はッ、馬鹿馬鹿しい。こんなこと思い出そうとしてどうなるっていうんだ。
――どうせいずれ全部忘れてしまうのに。
――忘れて化物になり果てるのに。
白の喪服の群れの中に一人ぶかぶかの貫頭衣で立つサイは、普通に考えれば相当目立つはずだが、
気に留めるそぶりを見せる者はない。
誰の目にも映らぬ傍観者。それがこの場におけるサイの立場らしい。
棺にすがりつく少年を冷めた目で見つめていると、
『新生(シンシェン)!』
白喪服の林をかき分けて、小さな影が走り出た。
『新生、新生、なかないで。かおをあげて』
現れたのは少女だった。
泣きじゃくる少年とさして変わらぬ年の。
『ほら、なみだをふいて。ね、てぬぐいをあげるから。かおをふいたらわたしをみて、新生。
わたしのめをみて』
この退屈な情景は、いつになったら終わるのだろう。
ため息をついたサイは何の気なしに少女の顔に視線を投げ、そして息を呑んだ。
――アイ。
似ていた。あの女に。
体のわりには長くすらりと伸びた手足。決して派手でも華やかでもないが、パーツひとつひとつが
精緻に造形され、バランスよく整えられた品のよい顔。まだ幼いが、もう二十年ほど待ちさえすれば、
彼女によく似た涼しげな印象の美女ができあがるだろう。
硬直するサイを尻目に、少女は言葉を続ける。
『だいじょうぶよ、新生。なかなくても。だって新生はひとりじゃない。わたしがいるわ』
脂気がなくぱさついた少年の髪を、この上なく愛おしいもののように少女は梳いた。
『わたし、新生のそばにいる。なにがあってもずっとずっと、ずうっと新生のそばにいるわ。
だから新生、ないちゃだめ』
涙と鼻水で汚れた少年の顔を、少女は手にした布で何の気後れもなく拭った。
『わたしは、月亮(ユエリャン)。新生のそばの月亮よ。いままでも、これからも、ずっと……』
少年の体をきつく抱き締める、アイによく似た少女。
サイは呆然と立ち尽くしたまま、目の前の光景をただ眺めていた。
127 :
女か虎か:2009/08/11(火) 23:31:19 ID:We0xl78n0
*
『――それは面白いことになったね葛西』
携帯の通話口から漏れる声が、クク、と低い笑いを漏らした。
『この目でその光景を見られないのが残念だよ。隠しカメラでも預けておけばよかった』
「どうですかねえ、お預けいただいても満足いただける画(え)が撮れたかどうか。
ビデオ撮影しながら猫かぶれるほど、俺ぁ器用じゃないもんで」
『やってやれないことはないだろうさ』
軽く言い放つ電話相手に、葛西は小さくため息をつく。
好き勝手言いやがって、こっちの苦労も知らないで。
吐く息に滲んだ疲労は、幸いにも主人の耳には届かなかった。あるいは届いたにもかかわらず
無視された。唇の間に覗く白い歯が、ありありと思い浮かぶような声で主人は続けた。
『随分と悪あがきを重ねてきたようだが、これで≪あの子≫も思い知るだろう。自分が一匹の怪物に
他ならないとね』
「また突き放したことを仰いますねえ、ご自分のお子様に向かって」
『突き放すも何も事実だからね。≪あの子≫は元々そういう存在として産み出されたんだ、本来の
自分の正体(なかみ)を悟るだけのことさ。如何ともしがたい現実を受け容れるのは、子供が大人に
なるのに必要な儀式だよ』
「ひっでぇ父親だ」
『厳格な教育方針と言ってもらいたいね』
お子様と葛西は口にしたが、厳密には≪改造を施したクローン体≫だ。つまり電話口の向こうに
いる男と、子供じみた癇癪で周囲を振り回すあの少年は、この世で最も互いに近しい存在といえる。
しかし両者を比べてのこの違いはどうだ。
――DNAってのは当てにならないねぇ全く。
携帯を耳に押し当てながら、葛西は肩を竦める。
「……お子様の確保に関しては、これで障害は無くなったと考えていいと思います。もともとあの女さえ
いなけりゃ楽に運んだはずの任務でしたからね。で、どうなさいます? 何なら例の虎モドキの
始末より、そっちを優先するって手もありますが……」
『いや、≪あの子≫の捕獲は後回しでいい』
声は言下に否定した。
その即断ぶりに葛西は瞬く。
「虎モドキの処理が最優先ってことですか。まさかとは思いますが焦ってらっしゃるんですか?
あなたらしくもない……」
『そういうわけでもないんだがね』
ククク、とまた笑い声。
『今は泳がせておいた方が、あの子が苦しむ様をより長く楽しめるじゃないか』
葛西は思わず携帯を耳から離した。受話口から何かが溢れ出してくる錯覚にとらわれたからだった。
どす黒いもの。どろどろと粘っこく、耳から侵入して内側から蝕むもの。
『どうした、葛西?』
「いえ」
知らず知らずのうちに唇が歪んでいた。携帯を再び耳に押し当て、湧き上がる喜びを率直に言葉で示した。
「今改めて思ったんですが……俺ぁ本当に、あなたってお人について来て良かったですよ」
『それは良かった』
当然のように、声。
怪盗"X"のようなまがいものとは違う。この男こそは真の悪。
磨かれた吐き気を催す思考回路。いかなることにも揺らがぬ黒い脳細胞。
死に場所を探していた自分に、生まれて初めて心から『生きたい』と思わせた男。
128 :
女か虎か:2009/08/11(火) 23:33:09 ID:We0xl78n0
『ところで葛西。話は変わるがね』
「は……」
名前を呼ばれて我に返った。
『そちらに戻ってから、≪あの子≫の様子に何か変化はないかい?
何でもいい、どんな些細なことでも構わない』
「変化?」
思い当たらない。普段以上に激しく怒りを爆発させてはいたが、それも所詮そこまでのことでしか
ない。あの怪盗の不安定な精神を思えば充分に想定可能な範囲だ。
『そうか。いや、≪あの子≫が≪あれ≫の細胞を取り込んだと聞いてね』
「取り込んだっつうか潜り込まれたって感じですけどね。それがどうかしましたか?」
『拒否反応だよ』
声が答えた。
『二種類の異なる強化細胞が同一肉体内で接触すると、激しく反発しあって互いを拒絶する。反応は
一方がもう一方を制するまで続き、決して共存しあうことはない。少なくとも、実験によれば
そういうデータが出ている』
葛西は首をかしげた。彼は火の扱いには卓越しているが、こうした方面には門外漢の域を出ない。
そもそも強化細胞自体にまるで興味がないから尚更だ。
「はぁ。どうもよく分かりませんが……俺が見た限りは全く」
『ふむ、残念だ。興味があったんだがね』
髭の生えた顎を撫でさすったらしい間があった。
『怪物として生を享けた細胞同士、果たしてどちらが勝つのか……』
今回の投下は以上です。
本格的に原作ネタバレ垂れ流し状態となって参りました。
そして吉林省の地名を覚えていらっしゃる方はこの時点で一人もいないに300元。
>>379さん
「暗愚」は別に言い回しないかと色々悩んだんですが、
「愚か」じゃストレートすぎてアレだし「うつけ」じゃどこの信長様だしで、
結局現行のものに落ち着きました。
>>380さん
読み手の方のテンションについては書いてる側からは分かりかねますが、
ムサい男が画面にギッシリになるので私のテンションは確実に落ちます。
冗談ですので本気にしないでください。念のため。
>>381さん
敗北というよりは……詳細はまた次回以降で触れます。
はぁあ等々力が劣化アイ? 貴様表へ出ろ。二人ともそれぞれに素敵な女性なんだよ!
歯ぁくいしば(省略されました。全て読むにはフンフフ〜ンフ〜ンフ〜ンフ〜ンと書き込んでください)
>>387さん
サイは苦しい状態に突き落とされてあがいてるくらいが一番かっこいいと思います。
なのでちょっとの間がんばってもらいます。
性欲云々はノーコメントで。語りたいけどエロス大好き私の脳が暴走するので我慢。ここ全年齢板。
人間のお肉は実際女性のほうが美味しいようですよ。これは人でもトラでもなくてヒグマですが、
北海道で昔実際に起こった事件では、クマが人間の女性の匂いに執着して、
女性が使ってた枕をガジガジするなんてことがあったようです。
自然界では脂肪って貴重なんですけど、女性は男性よりその脂肪がたっぷりついてるので
動物さんには嬉しい食材だというんですね。以上ほんのりと怖いお話でした。
>ガモンさん
アイのサイ大好きぶりは異常ですから。22巻読むとそれがよく分かりますぜ。
葛西はなんだかんだで蛭くらいの若くてケツ青い奴の相手をするのが嫌いじゃないと思います、
穂村とかテラとかチー坊とかとの組み合わせを見る限り……
最後のサイのアイへの呼びかけはちょっとくどくなりすぎるかと悩んだのですが、
色々考えて結局入れてしまいました。人間らしいと言っていただけたなら良かったのでしょうか。
>ふら〜りさん(ヒロインおめでとうってww今まではヒロインじゃなかったってことですかwww)
理想の上司どころか、ボスとしては最悪もいいとこじゃないでしょうかサイ。
基本理不尽だわ、そのくせ天然入ってるわ、どうでもいいことすぐ忘れるわ、
気に入られたら気に入られたですぐ「あんたの中身が見たい」とか言われて命の危機だわ。
企業でたとえるなら絶対にブラック企業ですサイ一味。
アイがサイに従う理由については、13巻までお読みになったならもうそれ以上は出てこないと
思いますよ。14巻以降はアイ視点の描写がほとんどありませんので。
「好奇心?」ですか。私の見方とは少し、いや随分違ってますねえ。面白いです。
これだから2chで漫画について語るのはやめられない……!
>サマサさん
ジェニュインはワカメの命令ならその場でウンチだって……、……………。
開眼しました。私を弟子にして下さい。
130 :
作者の都合により名無しです:2009/08/12(水) 07:51:33 ID:64BiH2V60
お疲れ様です電車魚さん!
すべてが核心に近づきつつありますね。
いよいよ原作のラスボスのあの方まで姿を見せましたか。
怪物同士は分かり合えないのかな?
131 :
作者の都合により名無しです:2009/08/12(水) 12:14:43 ID:qqBP3/910
電車魚さん乙です。
よく考えればこの作品の主要キャラッて善因不安定なんですよね。
我鬼しかり、サイしかり、アイも原作より迷いが多く感じる。
アイに関しては人間味の部分を深く書かれてるんでより良いと思いますが。
葛西が一番ブレてないというか、大人というか。
今回の最後に一切の迷いが無い絶対悪が現れましたが、
どうやら物語にも深く関わりそうですね。
それとも「悪意の傍観者」として観客のように楽しんでいくのかな?
おお、女tか虎かが来てる。
原作のキャラをうまく使いながら
オリジナル設定も活きてて好きな作品です。
原作でもどうしてもシックスが好きになれなかった。
サイとアイが我鬼をどうにかするのにしてほしいな。
シックスはあんまり現場に介入してほしくないかも。
第二十七話 ドラゴンオーブ
ゲマの去った一室、燃焼しきれていない怒りを内に秘めつつヒムは歩く。
自分の中で大魔王以上の存在であったハドラー、ゲマが彼の地上での一件を知らないとはいえ、ヒムは、ゲマを許すことは出来ない。
やるせない思いのまま歩いていると、足下に、玉が二つ転がっていた。
「何だこりゃ?」
ヒムはとりあえず得体の知れない二つの玉を持って階段を上がった。
その上ではダイ、ポップ、マァムの三人がバーンと対峙している。
「ふん、ゾーマめ、無粋な真似をしおって、興醒めしたわ。」
明らかに不機嫌そうな顔でバーンはダイを見る。
「ふ、気分を害した。この様な半端な決着はうぬらも望まないものであろう?」
「だったら、今回は闘わなくても……」
マァムの率直な意見だった。出来る事ならば今ここでは闘いたくない。
マァムの願いがバーンに通じたのかバーンは握り拳を解く。
「気に入らぬ展開だが、いいだろう。今の気合いの抜けた貴様等の相手など時間の無駄だ。」
バーンは深い溜息をつき、塔を出て行った。
「た、助かった……」
思わず安心するポップ。先程までの緊張感が尋常でなかった事を証明した瞬間だった。
「これから、どうしようか。」
ダイが二人に問いかける。二人と違いエスタークを追って塔に入ったダイには明確な目的はない。
「この塔にあるドラゴンオーブっていう玉を探しに来たのよ。」
マァムがダイに説明する。オーブの話から天空城の話まで。
「ドラゴンっていえばこの塔の地上に大きな竜の像みたいな物が建ってたけど…」
ダイがボブルの塔地上で観た竜の像。明らかに他とは異なる気配を放っていた。
といった具合に話し合いを進めていた三人に近付く影が二つ。
135 :
ガモン:2009/08/15(土) 00:29:12 ID:hnp/hpbu0
第二十七話 投下完了です。
今回でやっと塔が終わりましたが、展開を急ぎ過ぎてカオスになってしまいました。
>>顕正さん
お疲れ様です。
理屈っぽくもあり子供じみた思考回路を持つ第三勢力ですが、裏で違う目的がある訳でもなさそうですし、
目的のない敵というのも恐怖を感じさせます。
今回はダイとイルミナの共通点やイルミナの覚悟が伝わってきた回ですね。
今の形ではダイとイルミナの共闘になりそうですがイルミナが望むはずもない。
どうなるのかが楽しみです。
>>サマサさん
シリアスな中にギャグが入っているような冥府での戦いですね。
今のところ順調に一人ずつ闘い、最終的にタナトスの元に辿り着いたのは遊戯とミーシャ。
回を追うごとにこの二人の思想が危なくなっていると思います。
タナトスのセリフを読んでいると、自分の中であらまりさんの声が脳内再生されます。
この場面を見ると仮面の男が無念だった様な気になってしまいました。
>>ハシさん
大量投下 お疲れ様です。
チルノや文についての話、人間の凶行などでシリアスな展開続きでしたが、チルノの増殖。
チルノ同士のやり取りなどでとても笑いました。そしてそのあとの霊夢とチルノ・レギオン。
正に数に物を言わせた闘い方でもありますね。
最後に出た人が本編の敵なのでしょうか?
>>電車魚さん
原因不明のサイの不調、期待に答えられないと思っている蛭など、一つの物語に複数のドラマがあってとても面白いです。
目の前の暗黒、獣の遠吠え。そして夢の中でみたアイそっくりの女性。
一方後半からシックスが出てきましたが、我鬼との戦いに干渉してくるとは思えませんね。
上から物を見る形で最終回まで出てきそうですね。
「だ……あ……ダイ……さ…ま……?」
影の一人、ラーハルトは思わず眼を疑う。
今まで地上、魔界、果ては天空城まで探した結果、すれ違い故に主君に出会えなかったラーハルト。
しかし今、半年の時を経て仕えるべき主君、ダイを眼の前にラーハルトは、泣いた。
声も出さず、涙を見せぬ様に腰を下ろしダイの前にひざまづく。
「ダイ様、再会できる……日を、心……待ちに、しておりました。」
少々声が掠れる。ラーハルトは俯いたまま、歓喜に心を震わせ、ただ、泣く。
「心配かけて、ごめん。」
ダイはラーハルトに近寄り、謝る。ダイもやはり彼等に迷惑を掛けた事を悔やんでいる。
片方の影はエスタークであった。
「あー、お前はいつかの!!」
ポップがエスタークを見る。エスタークもポップを見て気が付く。
「魔界で会った者達か。」
特別に喜ぶことも無くエスタークはポップを見る。一方でポップは”この男”に好感を持っていなかった。
『やっぱこういう感じの性格かよコイツ。』
「良かった、大きな気配がダイの近くに来たので心配したが、生きているな。」
ゴンズを倒した後エスタークはバーン、ゾーマの残した気配の方向へ急いでいた。彼もダイが心配だったのだろう。
当面の目標がドラゴンオーブの回収という事になり、五人が出発しようとしたところでヒムが歩いてきた。
「何だ?全員いるんじゃ別れた…意味…」
流石のヒムもダイがその場にいた事には驚いた。
「ダイ、お前。」
ヒムはまんざらでもない様子でダイを見ていた。
先程の竜の像の話の真実を確かめる為、六人は地上にあった竜の像の顔部分を見る。
「これといった特徴は見つからないが…」
と、エスタークはヒムを見た瞬間、ヒムが持っていた玉に目が行く。
「おい、もしかしたらその光っている玉が鍵なのではないか?」
ヒムが持っている玉に、瞳の様な絵柄が彫ってある事に気づくエスターク。早速二つの玉を竜の眼に入れた。
「何かRPGの基本を行ってるよなこの塔。これで何もなかったら詐欺だぜ。」
両目に玉を入れるとゆっくりと竜の口が開く。
「お、開くもんだな。」
思ったよりも簡単に道が開いた事にヒムは拍子抜けした。
逆にポップは大魔王二人と会っていたのでこれ以上のトラブルは出来る限り避けたいと思っていた。
口の中へ入ると、部屋一面に穴が開いていた。
「飛び込めっつってるようなもんだよな。」
全員で一斉に穴へ飛び込む。落ちた先には一つの青白い玉が一つあるだけの空間が広がる。
しかしその玉が放っているオーラはダイとラーハルトが思わず冷や汗を流すほどだった。
「間違いない、これが…ドラゴンオーブだ。」
ラーハルトが呟く。
それじゃ、これを天空城に持っていけばいいんだよな?」
ポップがオーブに触れようとすると反発する様にオーブから火が放たれる。
「うわっち!!」
ポップは一時オーブから離れる。
そんな中ダイがオーブに近付く。
「ふっふっふっ。」
オーブから放たれるオーラに押されるダイ。
「もう、少しだ!!」
オーブを掴み、台座から持ち上げる。ドラゴンオーブは今、ダイの手に渡った。
ついにオーブを取る事に成功した一行。
ボブルの塔での激戦を考えると全員が達成感溢れる心境となっていた。
「しかし、何故ダイが取れた?やはり、竜の魂は竜の騎士でなければ取れない。ということか…」
「まあいいじゃねえか。詳しい事は後で考えりゃあよお。」
六人は一応の目的を達成し、飛翔呪文で、竜の口から脱出し、塔の玄関口から地上へ出た。
「こうして外に出ると、生き返ったみたいだなぁ。」
塔の外に出た頃にはリンガイアはもう夜だった。
六人はその日、リンガイアでの宿泊を余儀なくされた。
〜大神殿〜
「それで、その鋼鉄の男を打ち損じたという訳か。」
大神官ハーゴンが鞭でゲマを叩く、ゲマは抵抗せずに罰を受け続けた。
「ミルドラース様も大層お怒りの事だろう。勇者の仲間一人削れないとはな!次に失敗したら、貴様は死ぬぞ。」
ハーゴンはそれだけ言い残し、その場を去る。
『ほほほ、この傷は油断した私への戒めとして受けました。が、次は、こうはいきませんよ。ほほほほほ。』
セントべレス山山頂に甲高い嘲笑が響き渡った。
139 :
ガモン:2009/08/15(土) 00:37:28 ID:hnp/hpbu0
↑
>>135すみません。投稿の順番を間違えました。
申し訳ありませんでした。
第十二話 影
ダイの剣と第三勢力の影のぶつかり合う音が響き渡った。
一時的に停戦し、手を組むことになったとはいえ、鬼眼を持つ者はすぐさま戦いに加われる状態ではない。
力を抑えられ、暗黒闘気によって負った全身の怪我や切断された両腕の再生速度は極端に低下している。
刻まれた傷は深く、本来ならば戦うどころではなく生命をつなぐだけで精一杯のはずだ。
ダイは紋章の力をほとんど使えず、実体化して武器となる影の前に苦戦を強いられていた。
第三勢力は変幻自在の攻撃を繰り出し相手を追い詰めているのに、高らかに笑うことはせず顔をしかめている。眉間にしわを刻み、吐き捨てる。
「苦手だ。てめえみたいな奴」
苛立ちに呼応したようにゆらゆらと立ち上る霧が集い、幾重もの刃となって襲いかかった。
尽きることの無い闇を相手にしているような感覚が少年を包んでいく。
イルミナがようやく腕を再生させて戦う二人に接近すると、とつぜん第三勢力の動きが鈍った。
(罠か?)
先ほどの戦いのように部下のふりをして隙をつこうとしているのか。
だが、ダイもいる状況で同じ手を繰り返すとは思えない。
困惑の表情も演技ではなく本物のようだ。
剣を振り下ろしかけた少年の手が止まる。
ダイはイルミナを見て攻撃を思いとどまった。彼女の表情がそうさせたのだ。
「シャドー……なのか」
ダイはシャドーが第三勢力に取り込まれたことを知らなかったが、その言葉でわずかながら事情を察した。
敵の身体が、まるで未熟な傀儡師に操られているような動きを見せている。
吸収されたシャドーは完全に溶けておらず、かろうじて残っていたらしい。第三勢力の内側から動きを縛っている。
だが、意識は消えかけており、イルミナの呼びかけにも反応しない。無意識のうちに力を振るい、動きを鈍らせるだけだ。こうしている間にも影は消耗し、残された力が削られていく。
第三勢力は挑発するように眉を上げ、懊悩をせせら笑った。
「俺を殺したら、てめえの部下も死んじまうな」
彼女にもわかっている。ここでためらわず滅ぼすのが最善なのだと。
攻撃を叩きこもうとするより早く第三勢力の得物が打ち込まれた。
「イルミナ!」
血飛沫とともに崩れ落ちる彼女へダイの叫びが、男の嘲笑が降り注ぐ。
「てめえは親父やミストバーンみてえにゃなれねえな!」
大魔王ならば勝利のためにためらいなく部下を切り捨てただろう。ミストバーンも忠誠を貫くためならば認めた相手をも殺すはずだ。
彼女がいかにバーンを目指そうと、同じようにはなれないことをダイは知った。
ダイが攻防を繰り広げる間に立ち上がり、口内の血を吐き出した魔族の顔は怒りに染まっている。
第三勢力は愉しむかのように笑った。
「ならなくていいだろ、別に。醜い姿になってまで勝とうとしたバーンとか、なりふり構わずご主人サマのために働こうとした忠犬野郎の真似なんぞしたくもねえ」
「貴様が父を語るな」
吐き捨てた彼女は影を呼んだ。
「シャドー!」
大魔王の遺志を継ぐ者は呼びかける。大魔王の腹心によって救われた、たった一人の部下へ。
「お前は私のために働くのだろう!?」
炎のように烈しい声が消滅しかかっていたシャドーの意識に届く。
この感覚は似ていた。
ミストバーンと出会い、力を与えられる前の状態に。
自我が消えかけていたあの頃に。
遠い昔、何のために存在するのかわからず、ただ闇の中を漂流していた。
(私は、何のためにこの身体をもって生まれてきた?)
その答えを与えたミストは消滅した。
影を動かしてきたのは最後の命令だ。
そう思っていたが、どこからともなく反問が浮かび上がる。
(それだけなのか?)
第三勢力と同化することでシャドーは無数の思念の中へ吸い込まれそうになった。暗い波に流され、心地よささえ感じていた。このまま溶けてもいいとぼんやり考えていた。
だが、ここは自分の在るべき場所ではないという声が高まっていく。
上を目指している者が呼んでいる。
憧れた相手に近づこうと進む、その傍らに必要としている。
「捨てちまえばいいのによォ」
「忠実な部下を捨てて王になれるものか……!」
黒い光が凝集したような第三勢力の中に光は届かず、声のみ伝わってくる。峻烈な気配が暗黒をも震わせた。
大魔王の腹心に比べれば遥かに弱い、中途半端な自分を部下だとみなしている。
主として認められようと意気込んでいる。
勝手に敵に挑み、闇に飲み込まれても手を伸ばしてくれた。
ならば、それに応えねば何のために生まれたのかわからない。
命令を成し遂げるために。
そして、新たに芽生えた想いを貫き通すために。
(力を……!)
膨れ上がった叫びに突き動かされるように、シャドーは手を伸ばした。
曖昧になっていた意識が明確になり、引きずり戻されていく。
「何ィ!?」
ぎこちない動作を見せていた第三勢力がぎょっとして叫んだ。
影の身体が半分ほど抜け出たのである。一同は目を見開いたが、同化しているためこれ以上は離れられない。
シャドーの意識が表面に出ている今が第三勢力を仕留める好機だ。
だが、一時的とはいえ、共闘している相手の部下ごと即座に叩き斬るほど非情にはなりきれない。
ダイが剣の柄を握り締めると宝玉がきらりと光った。
まるで、“おれにまかせろ”と言うように。
(え?)
消えかけている竜の紋章が力を振り絞ったように光り、頭に情報が流れ込む。
ダイは無意識のうちにすっと目を細めた。
軌道が見える。
闘いの遺伝子を持ち、アバンの技を継いだ彼ならば状況を変えられる。
誰かを滅ぼすのではなく、救うことができる。
彼は本能のままに剣を振るい、シャドーを切り離した。
「お前……っ!?」
シャドーは状況についていけず目を丸くしたが、事情の把握より戦闘を優先すべく周囲を見回した。
入る器が無い。
ヒュンケルは意識を失っているため乗っ取ることはたやすいが、身体が限界だ。使うとしても時間が限られており、無理に戦わせれば死んでしまう。
マァムでは暗黒闘気をろくに発揮できない。
主であるイルミナに入る気は無く、ダイの身体を使おうとしても上手くいかないに決まっている。仮に乗っ取りに成功したところで十分に使いこなすことはできない。
(どうすれば……!)
逡巡するシャドーに、分身体がヒュンケルを得意げに指差しながら陽気に声をかけた。
「そいつがてめえの大切なご主人様を消したんだぜ。見ただろ?」
第三勢力に吸収されたシャドーは、彼の記憶と知識を垣間見た。その中にはミストの最期もあった。
シャドーが尊敬し、命を捧げることを誓った相手はヒュンケルが光の闘気で消滅させた。
「利用するつもりだったとはいえ、命救って技教えて十数年面倒みてきた相手を過去の汚点扱いだぜ? 恩知らずだよなァ」
生ぬるい風によって倒れているヒュンケルの色素の薄い髪が揺れる。マァムが庇うように立ち、そっと触れるとヒュンケルは短く呻き目を開けた。
「親父を殺した正義が敵だなんて高説たれたくせに勘違いでした、信念に従って闇の道驀進してたのに必殺掌返し、自分が魔物の中で育ったのも忘れてるっぽいしワケわかんねーぜ」
歪んだ情報をもたらされたシャドーの眼に激しい憎悪が燃え上がる。
分身体はわざとらしく指を振り、ヒュンケルに同情するような視線を向けた。
「いやいや、人格なんざどうでもいい道具扱いされたら無理もねえ。鍛えられる奴への敬意とかも嘘っぱちだったってワケだ」
「違う!」
シャドーは目を見開いて否定した。
「あの御方は――敵であっても強靭な肉体と精神を持つ者は尊敬する!」
分身体とシャドーの会話によってヒュンケルの中に眠っていた疑問が呼び起こされていく。
(どちらが正しいんだ?)
主の身体を返還し、弟子の体に入ってからのミストは性格が変わったかのように饒舌になっていた。
器の力に驕っているだけの虎の威を借る狐だったのか。豹変したように見えたが、所詮あれが本当の性格だったのか。
弟子のことは尊敬すべき戦士の一人ではなく、ただの道具としか見なしていなかったのか。
どこかで認められたような気がしたのも、人生に多大な影響を与えた相手から否定されたくないという願望の裏返しにすぎないのか。
親友の“死”による動揺。
長年沈黙を強いられ、ようやく解放された反動。
隠し続けた秘密を暴かれ、状況が大きく変化したことによる混乱。
戦うためには一刻も早く新たな器を手に入れねばならないという焦り。
それらが大きく関わっているだろう。
あの笑いが生み出された理由は他にはないのか。
「てめえはこいつが羨ましくてたまらないだろ?」
ヒュンケルを指差し、分身体はわざわざ尋ねた。シャドーがぽつりと呟く。
「……ああ。私は真に必要とはされなかったのだから」
身体を持たぬシャドーは、ミストが必要としていた予備の器になれない。
理想の器として鍛えられたことが、役に立つ道具として認められたことが妬ましい。
それを聞いてヒュンケルの心にある考えが浮かんだ。
ミストにとって、大魔王以外の存在はすべて道具だ。
それは本人も例外ではないのではないか。
切羽詰まった局面においてもっとも重要なのは、大魔王の役に立つか否かだ。
心から認めている相手でも障害になるならば排除し、自分が役立つ存在になるならば何でも利用するだろう。
そこで相手の人格を考慮しても負担になるだけだ。
あの状況下で、プライドが高い彼が“役に立つ裏切り者”相手にかける言葉は限られている。
「肝心な時に戦えず、お役に立てなかった。だから――!」
「ただの役立たずじゃねーか。道具未満のゴミだな」
ハッとしたようにヒュンケルが顔を上げる。
ミストがヒュンケルを道具だと言ったのは紛れもない本心だ。
だが、まったく認めていなければ、道具にもならないクズ、ただの裏切り者としか捉えないはずだ。
闇の師の真意――命を救った目的を聞き、それ以上追及しようとは思わなかったヒュンケルだが、シャドーが別の視点から語ったのだ。
いびつな形であったとはいえ、確かに認められていたと。
闇の師の名を呟いたヒュンケルは拳を握り締め顔を上げた。
「ん、どうした。元師匠の寄生虫ヤローにガッカリしたのか?」
怒りのあまりシャドーの身体が炎のように揺らめいた。
「己の在り方に葛藤し、這い上がろうとする者を――譲れぬもののために立ち上がり、戦い抜いた者をそう呼ぶのか!?」
おまえもそうなのか、と問われたヒュンケルは首を横に振った。
「虫のいい言葉かもしれないが、奴に勝つためにおまえの力が必要だ。オレが身体を貸す……おまえの力を使わせてくれないか」
ヒュンケルが黒い影に手を差し伸べた。
シャドーの逡巡は長くはなかった。
本来の主を滅ぼした相手につくべきか、ひどく侮辱した相手を利するため諦観するか。
答えは決まっていた。
主が認めた相手――ヒュンケルに向かって黒い手を伸ばす。
彼一人では勝てなくても、暗黒闘気の集合体であるシャドーが力を貸せば上回るかもしれない。
「ミスト様を侮辱した者は許せぬ。……そして、あの方の力になるために戦う」
「命令だからか。見上げた奴隷根性だな」
シャドーは首を横に振った。
昔は命令されたから、という意識が大半だった。
「今は、私がやりたいと思ったからやっている!」
己の弱さを知っている。力をつけ、偉大な存在の陰から踏み出そうとしている。
他者を嘲笑うばかりの第三勢力がそのような相手を侮辱するのは許せない。
「そうかい。じゃあ聖なる光に呑まれて消えなッ!」
「我が力と生命、おまえに預ける!」
シャドーが叫び、ヒュンケルの中に入り込んだ。
魂の回廊を通過する間、周囲に映る景色は目まぐるしく変化する。
ヒュンケルの知るミストバーン――ミストの姿が映し出される。
『鍛え強くなれる者は尊敬に値した! 羨ましかった……』
羨望に基づいた、強者への敬意。
『この忌まわしい体のおかげでバーン様に出会えた』
哀れみは要らないと誇らしげに言い切った姿。
『バーン様は言われた! “おまえは余に仕える天命をもって生まれてきた”と!』
忌まわしい体に意味があったと知った、永遠に忘れることのない出会いの日。
『大魔王さまのお言葉はすべてに優先する……!』
そして、絶対的な忠誠。
同時に、ヒュンケルの心にもシャドーの中のミストの情報が流れ込んできた。
忌まわしい過去の象徴として疎んだ相手。
かつて国を滅ぼした罪の意識が重いからこそ、わき目もふらず歩んできた。
関係をすべて否定しなければ、心の闇に任せて剣を振るってきた頃の自分に戻ってしまう気がして、“清算”しようとした。
だが、今の自分はアバンとミストバーン、二人の師によって成り立っている。
かつてミストバーンによって生命を救われ、技を教わり、仲間との出会いによって新たな力を得た。
それら全てをぶつけなければ勝てない。
精神を落ち着けるようにヒュンケルは目を伏せた。
「我が師よ。オレに力を」
教わった技を仕方なく使うのではなく、認め、向き合い、受け入れる覚悟を決める。
否定せずに改めて己に突きつける。
敵が嘲笑おうと、仲間を守るために戦うという思いは変わらない。
道を切り開くため、今こそ力が必要だ。
ヒュンケルが顔を上げる。その両眼には光があった。
先ほどの闇の波に流されかけていた目つきとは違う。
「闘魔滅砕陣!」
掌が差し出され、はるかに密度と圧力の増した陣が展開され、分身体を捉えた。
光と闇の邂逅が戦士に力を与えた。
シャドーの身体を形成する暗黒闘気はヒュンケルの振るう力に適していた。
影はミストバーンから力を与えられ、ヒュンケルはミストバーンから理想の器として鍛えられたのだから。
かろうじて陣を破った分身体は、笑みはそのままに、眼差しは鋭くして後退した。
今、シャドーは体を構成する暗黒闘気まで器に与え、攻撃に上乗せしている。
光と闇の絶妙な均衡の上に成り立つ攻撃が分身体を追い詰めていく。
ただ、シャドーとヒュンケルの両者とも消耗が激しく、身を削るようにして戦っている。このまま攻撃させ、自滅するのを待てばいい。
彼の計画は成功するはずだった。
もう一人、アバンの使徒がいなければ。
ヒュンケルに集中していた彼は少女の存在を忘れかけていた。
隙を窺っていたマァムの目が光り、両手を地面に叩きつけた。
「土竜昇破拳!」
かつて老師、ブロキーナがミストバーンに対し使用した技。あの時は不発だったが、今回は成功した。
火山の噴火のように地面が爆ぜる。
分身体の身体が宙に浮き上がり、無防備になったところを狙い、ヒュンケルが掌に暗黒闘気を集中させる。
「闘魔最終掌!」
すべての暗黒闘気を結集させた一撃が胸に叩き込まれた。大きな穴が生じ、そこから光が溢れだす。
どうと倒れた分身体の口元には疲れたような笑みが浮かんでいる。
ヒュンケルに気を取られ、マァムを小娘だと侮っていたことが敗因となった。
「……まあ、いいか」
自身の消滅を前にしても分身体は無関心な態度だった。
「邪悪、ねぇ……てめえらが生んどいてよく言うぜ。……胸張っとけ。てめえらがどんなことしようが竜の騎士サマが守ってくれるぜ。命かけてな」
憎悪も軽蔑もない、書物に書かれた文章を読み上げるような調子だった。
ヒュンケルたちだけでなく、人間全体に向けて言っている。
闘気によって成り立つ彼にとっては戦っている状態こそが自然であり、平和などかりそめの状況にしか思えない。
地上と魔界の住人が争う“当たり前”の状態を変えようとしている竜の騎士、ダイ。
地上を狙う輩を力で撃退するだけなのか、それとも別の道を示すのか。
分身体はどちらも見る気はないだろう。むしろ、結末を見届けずに済んでよかったと言いたそうな、安らかな顔になっている。
「せいぜい、頑張って……パワーアップ、しろよ。同じことの繰り返し、だがな」
強さのためにすべてを捨てたハドラーも言っていた。
強さというものは虚しいものだ、いくら上げても上には上がいる、と。
それでも使徒の力を上回ってから死にたいと明確な目標を持っていた。
一方、第三勢力や分身体は、レベルアップの概念がない出生と目的のない生き方が合わさり、高みを目指す者への軽視につながっていた。
ヒュンケルが見つめていると分身体は霧のように薄れ、消えてしまった。
彼は消耗しきっているシャドーに口を開きかけた。
「礼を――」
「礼は、ミスト様に……」
声は小さく、弱々しい。
体内にいるシャドーの輪郭は霞み、消えかけていた。
148 :
顕正:2009/08/15(土) 09:14:52 ID:U77BGDUk0
以上です。
ミストの最期には違和感がありますので、「このような見方もできるのではないか」と考えたことを書きました。
本体になってからも異なる方向で印象に残る台詞がありますので、ただの小物で片づけるのはもったいないと思っています。
149 :
作者の都合により名無しです:2009/08/15(土) 15:08:19 ID:8bzovdud0
>ガモンさん
ドラゴンオーブは原作ではドラゴンを呼び覚ますためのアイテムだったけど
この作品でも重要みたいですね。魔王軍のヒエラルキーはどうなってるのかな?
>顕正さん
分身体は最後まで美味しいまま消えて言ったなあ。敗北しないまま退場したのかも。
ヒュンケルたちの心と記憶にも爪あとを残して消えていったのですからね。
意外と良いキャラだった分身体消えてしまいましたな
確かにミストは正体を現してから急に小物っぽくなった
ミストバーンの時はバーンとバランに次ぐ威厳を持ってたのに
う〜ん
>ダイの大冒険AFTER:
ダイというよりドラクエモンスターズの作風を下敷きにしてる感じですね。
ゾーマやバーンが他の魔王にカマセられるのは少し嫌かな。
魔王キャラたちが沢山出ると楽しいけど、パワーバランスとか難しそう。
>L'alba della Coesistenza
王になりきれないイルミナと忠誠を貫くシャドーは良い感じでしたね。
お互い甘さと未熟さが抜けきらないけど、それが良い主従関係を作ってたというか。
シャドーを失ったイルミナがどう変わるか楽しみです。
153 :
作者の都合により名無しです:2009/08/16(日) 22:09:20 ID:KVIMf2wF0
ガモンさんと顕正さん以来、新人さん来てないんだよな
あげ
今の連載陣終わると終わりかなこのまま行くと
155 :
ふら〜り:2009/08/18(火) 17:56:56 ID:pFGqTSMl0
>>電車魚さん(16巻。「極悪モンスターと戦う純然一般人」笛吹さんがカッコいいっっ!)
>荒れたサイが、こちらの思いもよらぬ行動に出るかもしれません。
そもそもアイ自身、初対面で殺されかけてますし。蛭もほぼ同じ、しかもアイはそれを止める気
ゼロで。そんなのを越えて仕えてる二人……とんでもなく特異な、連帯感というか仲間意識
がありそう。つーかアイほどの美人に、危機に瀕してここまで言われて奮わなきゃ、だぞ蛭っ。
>>ガモンさん
ひと段落と思いきや、よく考えたらゲマを始め魔王勢はみんな元気で、まだまだ道は長いん
ですよねぇ。ダイたち側は魔界側みたいな他作品もとい多作品豪華キャストじゃないですし。
とはいえ魔王たちが一枚岩ではないのも事実。もしかしたら内紛、裏切りなんかがあるかも。
>>顕正さん
>影はミストバーンから力を与えられ、ヒュンケルはミストバーンから理想の器として鍛えられたのだから
「なじむ! 実になじむぞっ!」ってとこですか。アバンの使徒ならぬミストの使徒。相変わらず
第三勢力の主張はなかなか鋭いですが、この二人なら問答無用、何はともあれミストへの
侮辱は許さじ、と。あとマァムにも見せ場があったのは良かったです。ヒュンケルの前ですしね。
間が空くのでレス返しだけでもさせてください。
>>130さん
ようやく色んなものをブッちゃけられるところまで来たって感じです。
「怪物同士」が分かり合えるかどうかは……どうでしょうね。
人間と魔人が分かり合うハードルの高さに比べればそうでもない気もします。
その高いハードル乗り越えちゃったネウロ&弥子マジパネェ。
>>131さん
ああ、そういえば皆不安定ですね。思わず納得してしまいました。
アイが原作より迷いが多いのはひとえに私の作風の問題ですが。
それと、原作のように味のある脇キャラに徹するならともかく、
物語の中心に持ってくるなら少しくらい迷いがあるくらいの方がドラマ作りやすいという
生臭い事情があります。絶対悪ワカメはそのうちまた出てきますね。
>>132さん
好きと言っていただけると食欲が湧いてきます。
ポメラも買ったことだし、夜食でも食べながら執筆ペース上げていこうかな。
>>133さん
あれま残念。私は結構あの人好きなんですけど。
味噌汁よりサラダに大根と一緒に入れる方がおいしい。まあそれはともかく、
原作の流れとの兼ね合いがありますので彼を絡ませるにはある程度限度があります。
その「ある程度」が
>>133さんに満足していただけるレベルかは分からないですが。
>ガモンさん
色んなキャラにそれぞれの戦いをさせるのが好きなんです。
シックスは現場に自分でしゃしゃり出てくるより、観客として全体を見ている方が
威厳が出るタイプのキャラだと思いますね。事実原作でみずから武器を取ってから
格段にオーラが褪せた……
>>153-154 YOU書いちゃいなYO
>ふら〜りさん(正直私、ネウロより笹塚より吾代より笛吹が一番男前だと思います)
それなりにあったんじゃないかと思うんですよね、アイ・蛭間の仲間意識。
もちろん、原作では会話してなかった二人ですし、彼らがサイを見る目には共通点こそあれど
微妙に異なっているのも事実ですけど。
アイはコミックスの人物紹介で美女と書かれていますが、いかんせん地味な女性なので
蛭を始めとした周囲にも美人認定はされてなさそうな気が。
特に蛭のようなサイ崇拝者たちにとっては、普段は空気的存在な気もするし。
最後に少しだけ宣伝失礼します。
私がまだ少女でまだ恐竜がいたころボンボンでやってた、『海の大陸NOA』という
SFギャグ漫画があります。
8年の連載中断期間を経て『海の大陸NOA+(プラス)』として再開したにもかかわらず、
同誌の休刊(事実上廃刊?)によりWeb漫画サイトMiChao!に移籍が決定し、
現在『海の大陸NOA×(カケル)』として連載されているという不遇な作品です。
しかもそのMiChao!ももうすぐなくなるらしい。
これシックス氏の嫌がらせですか? それともまさかチー坊の呪いですか?
あまりにもかわいそうだ……
もしこちらにかつての読者の方がいらしたら、連載再開後に出たコミックスなどを
ぜひ手に取ってあげてください。
島民でない方も興味があればぜひ。スレ見ればわかりますが、さすがに8年の時を経て復活する
だけのことはある、熱烈な支持を受けているギャグ作品です。
無印1〜2巻は絶版ですが、運がよければ古本屋とかにあるかも。
157 :
作者の都合により名無しです:2009/08/19(水) 13:06:51 ID:3kvqt1j10
電車さんが連載終わるまではこのスレを見捨てないです
ガモンさんとか顕正さんとかがんばってらっしゃるしね
その言い方は名前の挙がってない他の執筆陣に失礼
159 :
作者の都合により名無しです:2009/08/19(水) 16:53:15 ID:3kvqt1j10
ごめんそんなつもりではなかったんだ
文章下手だからごめん
みんな読んでますよ
ひ ど い 自 演 を 見 た
おまえら語るスレでやれよ
語るスレって今あんの?
大分前におちてそれっきりだと思ってたんだが
落ちたままだよ
立ててもいいけど需要あるのかね
きっとまた盛るさ
変にスレで絡まれると読み手も書き手もテンションおちるし
かといって何も言っちゃいけないのも言論統制みたいで嫌だし
立ててもいいんじゃないかね
他のSSスレの状況がわからないんでその辺は?だが
160は誤爆の気もするけどね
立てたい人が立てればいいんでないかい
サナダムシさんとかハロイさんとか復活しないかな
おっぱい
いっぱい
夢いっぱい
169 :
カルマ:2009/08/24(月) 13:19:29 ID:FKZaidSP0
後編2
力が欲しい。
何のために、聞かれて即答できるやつは皆強くなった。
ある者は、守るために。
ある者は、奪うために。
ある者は、戦うために。
ある者は、強さを知るために。
ある者は、自由のために。
ある者は、明日の糧のために。
しかし、彼らがその初心を貫徹できたかといえば、首を傾げざるを得ない。
強くはなった。
だが、それだけだ。
守るべきものはすでに亡く、奪うべきものはすでに潰え、戦いは終わり、強さの理由もわからず、
自由という名の鎖につながれ、日々の糧を得ても心の空腹は満たされない。
臓腑を焼くこの感情はいったい何なのだろう?
心をえぐるこの感情はいったい何なのだろう?
身を焦がすこの感情はいったい何なのだろう。
答えを求めて牙を、爪を、技を研いた末に、待っていたのは虚ろな己の双眸だった。
その双眸がここにある。
デスマスクも、アフロディーテも、同じ目をしてそこにいる。
殺戮者の目だ。
冷徹な意思をもって死を強いる者、相手を「殺す」事を目的とした思考、行動を組み立てられる者。
より効率よく、より能率的に、より確実に、命を削りとる者。
そこには正邪もなく、善悪もない。
倒すべき敵もまたその本質は同じものだ。
戦士(ソルジャー)とはつまりはそういうものだ。
170 :
カルマ:2009/08/24(月) 13:30:27 ID:FKZaidSP0
「…なぁ、デスマスク。
君はいったいいつまで生きる?」
胡乱気な顔のデスマスクに、アフロディーテは語る。
「神々はどうなんだろうな。
神々というくらいだから永久不滅なんだろうか?
アテナなどはその時々に応じて人の体で転生するし、
我らが敵・冥王は聖戦のたびに人間の肉体を拠り代にするらしい。
そんな連中からしてみれば、我々人間なんて塵芥みたいなもの、
なのかもしれないな…」
アフロディーテはどこか儚げにいう。
「だからこそ、私は火花のように生きたい。
一瞬の閃光で良い、悔いなく生きたいのさ。
たとえそれが、私の傲慢であってもな」
「…あの姉さんをこうして囲ってるのも、か?」
「女が一人で生きていくのは、色々と辛いことがある。
そういうことさ…。
アドニスには、そんな世界を見てほしくは無い」
引きつるような、鳥の声ような音が、デスマスクの笑い声だと気がついた時には、
もはや闘争の空気は霧散していた。
171 :
カルマ:2009/08/24(月) 13:32:18 ID:FKZaidSP0
「なんともまぁ傲慢な事ぁいうじゃないか、ええ?
閃光のように?火花のように?悔いなく?」
そこでデスマスクは堪えきれなくなったか、破裂するように笑い出す。
事もあろうに腹を抱えて笑っていた。
「傲慢?そうさ、なんたる傲慢か!
それが如何に困難かわからんお前じゃあるまいに!
お前も、俺も、聖闘士だ!
自ら望んで虎口に飛び込む事でしか生きていることを認識できない戦士だろう?」
笑わせるな!と、デスマスクは一喝した。
「そういうことはなぁ、戦なんぞと縁も所縁もないやつだけが言える資格があるんだ!
自ら望んで鉄火場に飛び込む大馬鹿野郎が吐いて言い言葉じゃねぇんだよ!」
だからこその聖闘士だ。
殺す、倒す、葬る、殺される、倒される、葬り去られる。
そういった覚悟をした奴が、よくもまぁぬけぬけといえた物だ。
そういう思いがあるからこそ、デスマスクは今のアフロディーテが許せない。
闘争の空気は霧散したとはいえ、いつまた再燃するとも限らない。
「いつ果てようとも構わないなら、なぜ家族を持とうと思った?
残される者を思わずに、ただ己可愛さに家族を持とうなどと!
それを傲慢と言ったんだよ!」
デスマスクの怒りは、常ならぬほど激しく、そしてあまりにも純粋だった。
172 :
カルマ:2009/08/24(月) 13:36:43 ID:FKZaidSP0
それがあまりにも自然で、アフロディーテには驚嘆以外の感情をもてなかった。
「傲慢で何が悪い?
力とはその傲慢を満たすためにあるんだろう?お前の理屈じゃあ」
揺ぎ無いアフロディーテの眼光。だがそれに怯むデスマスクではない。
「ほぉ、ご立派なこった。
…なぁ、何のための小宇宙だ?
殺すためだ。
壊すためだ。
打ち倒すためだ。
葬り去るためだ。
それが我等アテナの聖闘士の、戦士の本懐だ」
アフロディーテはぐうの音も出ない。
拳を握り締めたそのときから、その覚悟は出来ていた。
出来ていた、はずだった。
姉が生きていたと知るまでは。
元々、鉄風雷火とはなんのかかわりのない、ごく普通の家庭だった彼ら姉弟だった。
ただ一度の家族旅行がテロに巻き込まれるまでは。
その生命力の強さと並外れた小宇宙によってかろうじて生き残った少年は、
姉を探すために聖闘士の道を選んだ。
屍山血河を築き上げながら。
「さっきも言ったろう?
血に汚れた手のひらで、お前はあの餓鬼を抱き上げられるのか?
血に汚れた姿で、お前はあの姐さんの微笑みを受けられるのか?
お前、そこまで面の皮あつかねぇだろうよ…」
そこでふと、彼はアフロディーテとは別のほうを見る。
何か面白いモノを見つけたように。
173 :
カルマ:2009/08/24(月) 13:39:17 ID:FKZaidSP0
「諦めろとは言わん。
折り合いを付けろ、アテナの聖闘士なのか、何者なのかを、な。
おら、あの餓鬼きたぞ?」
アフロディーテの後ろからとてとてと、それでも必死で走ってくる子供。アドニス。
勢いそのまま、デスマスクに殴りかかった。
「おじちゃんいじめるなー!」
半ば泣き叫びながらの彼の拳には、間違いなく小宇宙が宿っていた。
「おい、クソ餓鬼。
手前の意見通したけりゃあ、強くなるこったな。
この積尸気に惑わされないくらいにゃあな」
殴りかかったアドニスの腕をつかみ、
その勢いのままアフロディーテに向かって放り投げるデスマスクは、そんな言葉を吐いた。
「いいかぁ、盟!アドニス!拳を作るなら覚悟も握れ。
握り締めたら死んでも離すな!わかったかぁ!」
先ほどの漆黒の双眸ではなく、どこか羨望の滲んだ眼差しでデスマスクは言う。
果たして彼はいったいどんな思いでそう言ったのか、アフロディーテにはわからなかった。
そして、それがアドニスとアフロディーテとの関係を致命的に変化させることになる。
みなさんどうもお久しぶりです、銀杏丸です
グレンラガン羅巌編見逃したり、てつを登場回を捕り逃したり、いろいろありましたが元気です
OVAロストキャンパスまだ見てませんが!
ながぁっく間があきましたが、カルマはこれにておしまいです
もともと小ネタ程度のつもりだったのに、思いついたの三月だったのに
キンクリくらったような気分です
ポップの名台詞に関しては他意はないです
声優ネタ1割ですがw
ただ、この台詞は元々戦いとは遠いところに居た、
とはいっても実家武器屋ですが、のポップだからこそ言えた台詞ですし
竜の騎士のダイ、地獄の騎士の息子のヒュンケル、勇者の仲間だった人間の娘のマァム
亡国の王女のレオナといった他の面子がいったんならあれほどの説得力は持たないでしょう
最近ダイ大人気でうれしいです
では、またお会いしましょう
175 :
作者の都合により名無しです:2009/08/25(火) 08:11:50 ID:ZEyXDdWd0
おお、銀ちゃん復活お久しぶり
スレがこのような状況だから余計うれしいよ
原作では2大ヘタレ黄金のアフロとデスだけど
この作品では割とかっこいいな。ロスキャンの影響かな
銀杏丸さんお久しぶりです。
デスマスクに覚悟という言葉は似つわしくありませんがw
よい幕引きでしたね。またお会いできる日を。
それはよく晴れた夏の日の出来事。
公園のベンチで我らがヒーロー・サンレッドは、鬱陶しそうにタバコを吹かしていた。
ちなみに今日のTシャツは<黒き血の兄弟>である。
浮かない顔の原因は、彼の隣に座る十歳ほどの少年。
「だからね、レッドさん!ぼくを弟子にしてよ!ぼくも立派なヒーローになりたいんだ!」
「…………」
―――ふわふわの金髪に、蒼い海を思わせる碧眼。天使のように愛らしい笑顔の美少年である。
そんな少年を、レッドは困ったように見下ろしていた。
「あー、その。なんつったらいいかなー…」
「お願い!ぼくは真剣なんだ。ヒーローはチビっ子の味方でしょ?」
「そりゃまあ、通俗的に言えばそうだな…けどな」
レッドは頭痛を堪えるように眉間を押さえる。
「ヒーローになりたいっつっても、お前、吸血鬼じゃん…」
「うん、そうだよ」
だから何?と言いたげに朗らかに笑うその少年には、小さな牙が生えていた。
そう。彼こそは夜の世界の住人・吸血鬼であった。
天体戦士サンレッド 〜月下の支配者!吸血鬼参上
―――吸血鬼。映画やテレビでおなじみの、月下に生きる怪物。
その名の示す通り人の血を吸い、肉を喰らう、恐るべき闇の王。
しかしレッドの目の前にいる少年はそんなもの何処吹く風で、にこにこ笑っている。
「まー、別に吸血鬼がヒーローなんて目指すな、とは言わねーけどよ…」
レッドはタバコの煙を吐き出す。
「なあ、ガキ」
「ガキじゃないよ、ぼくには望月コタロウって立派な名前があるんだ!」
「そっか、そりゃ悪かったな…で、コタロウ。何だってお前ヒーローになりたいんだよ?」
「よくぞ訊いてくれました!」
ぐいっと胸を張る吸血鬼少年・コタロウ。
「ぼくはね、兄者を助けてあげられるような、強い男になりたいんだ!」
「兄者…?」
「そう。ぼくの兄者は吸血鬼でありながら悪の吸血鬼を狩る、正義の吸血鬼なのさっ!」
「吸血鬼を狩る吸血鬼…?おい、まさかお前の兄貴って<銀刀(ぎんとう)>とか呼ばれてるんじゃねーだろな?」
「え?レッドさん、兄者のこと知ってるの?」
「知ってるもクソもこの業界じゃ有名人じゃねーか。同族殺しの英雄、自らにとっても猛毒の銀の刀を振るう剣士…
敵という敵を斬り伏せて、付いた仇名が<銀刀>。ま、どっちかってーと勇名よりか悪名を轟かせてる、物騒な野郎
だって話だけどな。しかし、弟がいるって話までは聞いたことがなかったけどよ」
「へー。レッドさんも知ってるなんて、兄者ってやっぱすごいんだ!」
「まー、そういう噂話にゃ疎い俺でも知ってるって時点で、どんだけーってカンジだな…しかしよ、そいつが噂通り
の強さならそれこそお前の助けなんざいらねーだろ」
「うん…そうかもしれない。いや、多分そうだよ。だけど…それじゃぼくは、ぼくが許せない」
コタロウは、ぐっと顔を引き締める。
「兄者はいつだって、ぼくを守ってくれるんだ…でも、兄者にとっては、ぼくは足手纏いですらないのかもしれない
…ぼくなんて、お荷物ですらないのかもしれない」
「コタロウ…」
「だからぼくは、強くなりたいんだ…!兄者と肩を並べて闘えるくらいに強く…誰よりも強く!」
「コタロウ!」
「レッドさん!」
ヒーローと吸血鬼少年は、ガシっと肩を抱き合う。男同士の魂が呼応した、美しき瞬間だった。
「お前、それ、先週の<薬物戦隊クラッシュレンジャー>のグリーンのセリフじゃねーか」
「うっ!」
―――そうでもなかった。
「レッドさんも見てたんだ、アレ…やっぱりヒーローとして、ああいう番組を見て勉強してるんだねっ」
「あ、ああ。まあな…」
単に<ヒマだったから適当にチャンネル回してただけ>とは流石のレッドも言えなかった。
「と、とにかくレッドさん。悩める少年をヒーローとして導いてくれたっていいじゃん!」
「そーだなー…まあ、早寝早起きして、栄養のあるモンたくさん食って、外で元気よく遊べばいいんじゃね?」
吸血鬼少年に対してとは思えないアドバイスだった。コタロウもプクーっと頬を膨らませる。
「そういうんじゃなくて、もっとこう、ド派手な必殺技とかさー、そういうの教えてよ!」
「ワガママばっか言ってんじゃねーよ、ったく…」
「じゃあ、レッドさんが実際に闘ってるところを見せてよ。ぼくはそれを観戦して、ヒーローの心得を学ぶから」
「つってもなー…ヴァンプ達は今、盆休み取ってやがるから、しばらく対決の予定がねーんだよ」
ちなみに十連休だそうな。それはともかく。
「じゃあ、対戦相手はぼくが用意するから!それならいいでしょ?」
「あ?お前が用意するって…空き地の野良犬とかじゃねーだろうな」
「そんなんじゃないってば!目下兄者と敵対してる悪の吸血鬼達だよ!」
「ほー…そりゃ楽しみだ。けどよ、どうやって用意すんだよ?」
「うん、ちょっと待ってて。メールするから」
「メール…」
携帯を取り出してポチポチ操作するコタロウを、レッドは何とも言えない顔で見る。
「お前、兄貴と敵対してる連中とメールのやり取りしてんのか…」
「え?だってそうじゃないと、急な対決の時に連絡が取れなかったりして困るでしょ」
「…そっか。そうだな」
どこの正義と悪も、大概は似たような関係らしい。レッドは深々と溜息をついたのだった。
「あ、きたきた、返信きたよ!…えー、ヤフリーしか予定空いてないのか…ホントはカーサかダールさんがよかった
んだけど、しょうがないなー。公園で待ってますよ、っと」
「ヤフリー…?そいつと闘えってのか」
「うん。特別弱いってわけじゃないけど、どうにもカマセ属性の持ち主でね…」
「ちなみにカーサとかダールとか言ってたけどよ、そいつらはどうなんだ?」
「カーサは数百年生きてて、数々の魔術を使いこなす<黒蛇>と異名を取る魔女だよ。力だけに任せて闘ったら、
いくらレッドさんでもキツいんじゃないかなあ。ダールさんはもう千年以上生きてる二刀流の剣士でね。この人は
とにかく、純粋に強いんだ。それだけに攻略は逆に難しいよ。真正面から闘って打ち勝つしかないからね」
「ほー、そりゃあ随分と骨のありそうな連中だな。で、今からやり合うヤフリーってのはどうなんだ?」
「えーと…吸血鬼になってから十年くらいで…まあ、剣の腕前はそれなりかな…そんくらい」
「…………ショボッ」
「うん。それを言っちゃあお終いだけどね…」
―――それから二十分後。
公園の入口に、一人の男がやってきた。
「あーちくしょう…こんな真夏に呼び出しやがって。灰になったらどうしてくれんだよ、コタロウの奴…」
だぶだぶのフード付きパーカーに裾の短いワークパンツ、派手目のスニーカーというファッションに身を包む、まだ
十代半ばの少年―――だが、その目に宿る剣呑な光は、彼がただの小僧ではないと雄弁に語っていた。
極めつけは腰に提げた刀。モロに銃刀法違反であった。
そう。彼こそが件の悪の吸血鬼・ヤフリーである。
ヤフリーはキョロキョロと、何かを探すように公園を見回していた。
と、チンピラっぽい男(まあレッドさんだけどね!)が手を上げて彼を呼び止める。
「おー、もしかしてお前がヤフリーか?」
「え?まあ、そうっすけど…」
「あ、ヤフリー!おっそいよー!」
ベンチからコタロウが気の抜けた声で愚痴る。
「コタロウ!お前なー、妙な用件で俺らにメールすんじゃねえよ。いきなりヒーローと闘えってなんだよ、全く…」
「あはは、ごめんごめん。じゃあ早速だけど対決お願いね」
「はいはい、やりゃあいいんだろ、やりゃあ…。で、何処にいるんだよ、そのサンレッドってヒーローは」
「やだなあ、ヤフリーったら。目の前にいるこの人だよ」
「あん…?目の前って、チンピラ風の赤マスクしか…って、あの…もしかして、アンタがサンレッド?」
「そーだよ」
「え、いや、その…アンタ、ヒーローなんすよね?」
「何だよ。俺がヒーローだったら悪いのかよ」
「いや、だってアンタTシャツじゃねーっすか!半ズボンじゃねーっすか!サンダルじゃねーっすか!登場するのに
前口上とか派手なポーズとか何もねーじゃねーっすか!もっとこう、ヒーローの登場シーンってほら…」
「あー、そういうのはもうこちとら散々言われ慣れてんだよ。いいからほら、さっさとかかってこいや」
身も蓋もない言い方にヤフリーは面食らうが、すぐに気を取り直した。
「チッ…まあいいっすよ。こちとら、アンタを倒しに来たのには間違いねーんすからね」
そして彼は刀に手をかけ、畏まった口調で語り始める。
「お初にお目にかかる、太陽の加護を受けし勇者。日輪を司る天体の戦士。赤き制裁の体現者。溝ノ口の」
ガスッ!
前口上の途中で強烈な右フックを顔面にモロに喰らったヤフリーは地面に突っ伏し、ピクピク痙攣する。
「な、何を…」
「何をじゃねーよ。長ったらしい前口上なんざ聞きたくねーっつーの」
「だからってその隙を狙うなんて…アンタ、ヒーローでしょうが…」
「ああ?ヒーローだからなんだよ?ヒーローが口上中で隙だらけの敵を狙っちゃ悪いってか、コラ」
「い…いいか悪いかでいうなら、悪いと思うっす…」
「ぼくもそう思う…」
コタロウにまで非難され、レッドはバツが悪そうに舌打ちした。
「分かった、分かったよ。とにかくアレだ、コタロウ。お前としては俺にヒーローらしく振舞ってほしいと、そういうわけ
なんだな?おっしゃ、じゃあいっちょ本気でやってやろうじゃねえか…」
そう言い放ち、レッドは両手を天高く掲げて精神を集中する。瞬間、レッドを中心に恐ろしい熱風が迸った。それは
渦を巻いてレッドの頭上へと収束していき、巨大な火球と化す。それはまさに地上に顕現した、小型の太陽。
まかり間違えばこの公園を中心に一帯を焦土と化すほどの莫大なエネルギーが秘められた、サンレッド必殺の業!
それは月下の伝説として語り継がれる炎―――<螺炎(らえん)>と呼ばれる秘奥義にも匹敵する禍々しさと熱量。
コタロウとヤフリーは眼前に現れた破壊の化身を前に、ただ立ち尽くすのみだった。
「塵一つ残さず、消滅させてやらあ…<コロナアタック>!」
「ストップストップ!レッドさん、それはシャレにならないよ!いくらなんでもヤフリーを塵一つ残さず消滅させて
ほしいなんて思ってないってば!」
「そ、そうっすよ!レッドさん、落ち着いて!」
ヤフリーも必死に(文字通り命がかかっているので当然である)レッドを宥める。その甲斐あってか、レッドは渋々
ながらもコロナアタックの構えを解いた。
「アレもダメ、コレもダメってお前らは注文が多いんだよ、ったく…仕方ねえな。おい、ヤフリーっつったか?普通
に闘ってやるから、そっちからかかってこいよ」
「そうしてくれりゃ助かりますよ、こっちも…じゃあその首、俺が貰い受けます。あの世で精々俺の名前を語り継ぐ
ことっすね」
ヤフリーは刀を抜き放ち、人間の規格を遥かに超える吸血鬼の膂力を以て超高速の斬撃を繰り出す。
え、その結果どうなったかって?レッドさんがワンパンKOしたに決まってるじゃないですか。
一応断わっておくが、ヤフリーは決して弱くない。あくまでも、レッドさんが強すぎたのである。
いつの間にか日は傾き、ひぐらしが鳴いていた。
だからといってこの牧歌的な世界のこと、カメラマンが喉を掻き毟って死んだりはしない。神奈川県川崎市は今日も
平和である。
「あー、もうすっかり日が暮れちまったな…おい、コタロウ。送ってってやるから、お前ももう家に帰れよ」
「うん、そうだね。じゃあヤフリー、またねー!」
「…おう。<銀刀>にもよろしくな」
吸血鬼の回復力を以てしても未だに癒えない傷を負ったヤフリーは地面に大の字になったままぞんざいに手を振る。
彼は今日また一つ、吸血鬼生の厳しさを知り大人になった。
本人がそれをありがたいと思っているかどうかは別問題ではあるが。
「…俺、何しにこの話に出てきたんだろ…」
その呟きに答えてくれる者は誰もいない。ただ、秋の気配を感じさせる涼やかな夕暮れの風だけが、彼の頬を優しく
撫でるのであった。
―――レッドの目の前には、オートロック付きの十階建て高級マンション。
並のサラリーマンの月収くらいの家賃を請求されそうな豪壮な佇まいである。
「ほー…お前ら、いいとこに住んでんじゃねーか。流石に<銀刀>ともなりゃ、それなりに儲かってんだな」
「あ、レッドさん。それちょっと違う」
「あん?」
「ぼくらはミミちゃんのお世話になってるの」
「ミミちゃん…?誰だよ、それ」
「えっと、詳しく話すと長くなるんだけど、ぼくらを養ってくれてる人」
「…養って…お前と、その、兄貴を?」
「うん」
レッドさんの脳裏にヒで始まってモで終わる、あまり印象のよくない言葉が浮かんだ。
「あー、えっと…それはその、なんだ。ぶっちゃけ、アレか?言いにくいけどよ、お前の兄貴ってその…」
「まあ正義の吸血鬼っていっても別に誰もお給料とかくれないし、食べていけないもん」
「…世知辛いね、そりゃ」
「だから、普段のぼくらはミミちゃんに衣食住の面倒を見てもらってるんだよ」
「…そ、そうか…」
レッドにとっては身につまされる話である。だらだらと背中を冷汗が滑り落ちていた。
「し、しかしよ、その<ミミちゃん>ってのは随分と羽振りがいいんだな。オートロックの高級マンション住まいで
居候二人置いてられる余裕があるなんて、中々のもんだぜ。何か怪しい商売でもやってんじゃねーだろな?」
「んー。よく分かんないけど、そのスジじゃあ<クイーンM>なんて呼ばれてるらしいよ」
「なんだそりゃ…そこはかとなく嫌な予感がする二つ名だな、おい」
「だから兄者、対決のない時はミミちゃんの護衛をしてるんだ。何だか危ないお仕事みたいだから。ちなみにぼくも
護衛として活躍してるんだよ!」
「あ…ああ〜、なるほどな、そういうことか!なんだ、その、じゃあ兄貴は何か縛るものってわけじゃねーんだな!
ちゃんと仕事してんだな!」
何故だか胸を撫で下ろすレッドだった。この純真な少年の兄がヒ○だったら、ちょっと辛い現実だからである。
「しかしお前も護衛やってるっつったけど、とても活躍できてそうにゃ見えねーけどな」
「そんなことないってば!…多分」
「どーだろね。んなもんは読者に訊けば分かるんだから見栄張ってると後で恥かくことになるぜ?」
「読者!?ぼくらの愛と友情と闘いの日々は小説だったのっ!?」
「ああ、富○見ファン○ジア文庫辺りで刊行されて本屋に平積みされてるのを見たぞ。確かアニメにもなってたな」
「やけに具体的だー!」
そんな雑談の間にエレベーターに乗り込み、最上階に辿り着いた。そして件の<ミミちゃん>の部屋の前に立つ。
「お茶くらい出すから、レッドさんも上がっていってよ」
「お、わりーな。それじゃあお言葉に甘えて…」
その時である。部屋の中からドンガラガッシャーンと大きな音がしたのだ。
「な、なんだ!敵襲か!?」
「レ、レッドさん、気を付けて!」
レッドは用心深く、そっとドアを開けて中を覗き見る。そこでは、一組の男女が言い争っていた。
「いい加減にしてよ、ジローさん!これでもう五回連続遅刻じゃない!」
「ミ、ミミコさん。どうか落ち着いて…」
「落ち着いてられるかぁ!あたし、もう少しで東京湾に沈められるとこだったのよ!?」
「ですから、間一髪で私が助け出したじゃないですか。ヒーローとは遅れてやってくるものなのです」
「ヒーローである前に社会に生きる者として五分前行動を心がけなさい!」
やたらハッスルしたアヒル口の少女。特別美人というわけでもないが、妙に愛嬌がある。
対するは赤いスーツに赤い帽子の赤ずくめのいでたちに、愛想笑いを浮かべた黒髪の青年である。
「あれが<ミミちゃん>とお前の兄貴の<銀刀>か?…あんまお前とは似てねーなー。それはそうと、なんつーか、
取り込み中みてーだけど…」
「うん…なんだか、ちょっと入り辛いね」
レッドに倣って部屋の様子を覗き見しているコタロウが、気まずそうに声を潜める。
「とにかく!ジローさん普段ゴロゴロしてばっかなんだから、仕事の時くらいきっちりしてもらわないと困るの!」
「夜も寝ずに過酷な闘いの日々を送る私に対して、なんと酷いことを…」
「夜寝なくても昼間はずっと寝てるでしょうが!女の子の世話になってグータラしてるだけなんてヒモよ、ヒモ!」
「な…!ミミコさん!いくら本当の事でも言っていいことと悪いことがあるでしょう!」
「自覚があんならもっとしっかりせんかぁぁぁぁぁっ!」
ますますハッスルしていく壮絶な闘い(?)を見つめ、レッドはボソっと呟いた。
「……………………ヒモ」
別に自分のことを言われているわけでもないのに、レッドはものごっつい居た堪れない気分であった。
「ねえ、レッドさん」
「…なんだよ」
「<ヒモ>って、なあに?」
穢れなき瞳で問いかけるコタロウに対し、レッドさんは何も答えることは出来なかったという。
ただ、一言。
「コタロウ…お前、ヒーローなんかならなくていいから、ヒモにだけはなるなよ…」
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、男と女…もとい、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
投下完了。お盆明け一発目は久々のサンレッドネタで。
まあお盆っつっても仕事しかしなかったけどね!(遠い目)
今回のクロスネタはBBB(ブラック・ブラッド・ブラザーズ)。マイナーなような、そうでもないような…。
作中でも言及されてる通りに吸血鬼もののラノベですが、キャラの性格や立ち位置はサンレッド的に
しています(原作はもっとシリアスでハードです)。
>>93 僕にはお盆休みなど存在しなかった…
>>94 お盆中は炎天下の中汗だくで仕事してて全く休めなかった…
>>ふら〜りさん
まあ、あんま期待せんで流し読みするくらいの気持ちでいてください(汗)
冗談はさておき、こっから先はそれなりに気合入れて書きますんで、どうぞよろしく。
>>ハシさん
チルノ・レギオンから2〜3人、大人しめのを見繕って僕にくださいw(かなりマジ)
幻想郷はほんまリリアン女学院と並ぶ百合のメッカやでぇ…。眼福眼福。
こっからどうやって収集付けんのかという展開ですが、果たしてどうなるか?
>>電車魚さん
僕の弟子になりたい?うれしいこと言ってくれるじゃないの。それじゃあとりあえずトイレに行こうか。
そして…ワカメ来ちゃったァァァァァ!この人はラストで盛大にへたれたけど、それまでの悪逆っぷりが
素敵だったので僕の中での評価は割と高いです。
どっちかというとこういう状況だと、自分は手を出さずににやにや笑いながら事態を静観してそうな感じ
ですが、どうなることやら。頑張れ、ワカメ。
>>ガモンさん
この作品、戦力的には敵側がまだまだ全然上なんですよねえ…個人的に魔王系で一番強いのは
ゾーマかなあと思っとります(FC3では結局こいつに勝てなかった…)
ハーゴンはもう後でゲマに裏切られて死にそうにしか思えないよ!つーかそうならなかったら逆に驚くよ!
186 :
作者の都合により名無しです:2009/08/27(木) 16:03:22 ID:9kJPvbuw0
サマサさんの影響でサンレッドのアニメをようつべでみました。
コタロウって柴田あみの作品のキャラだと思ったら違うのかw
またサンレッドねたお願いします。
サマサさんお疲れ様です。
サンレッドは実力だけは高いからその辺の吸血鬼や怪人ではかないませんね。
チンピラだけど・・
>>銀杏丸さん(お久し振りです! ダイに星矢に、その辺なら私でも熟知範囲なんですがねぇ)
今回のデスマスクは、いわば比古や勇次郎が剣心や刃牙に説教するような、師匠っぽい
貫禄がありますな。本人にはそんな自覚ないでしょうけど、しっかりした芯がある。というか
聖闘士としてすごく生真面目ですよね。今の彼には、紫龍だってそうそう文句反論はないかと。
>>サマサさん(あアあアニメまで行けたんなら、全っっ然マイナーじゃないですっっ! ……はぅ)
相変わらずの牧歌ぶり。作品数が重なったんで、私の中でもだいぶサンレッドのイメージが
できてきました。凄く強いけど内面は常識人、でもヒーローとしては非常識人と。後はアレです、
好意を寄せてくる美少女との絡みが見たい。今回は少年でしたが、女の子相手ならどう出る?
>>そーいえば
バキスレの影響で見た作品はいろいろあります。古くは殺し屋1やアカギ、最近では
武装錬金やネウロ。無論、見てない作品も多々あります。だから例えば、私の中では未だに、
アスランといえばサマサさん製。当時のレスからすると、原作との差は小さいようですが。
189 :
ふら〜り:2009/08/27(木) 20:40:18 ID:z60IV0AS0
……あ。専ブラ変えたんで、つい失敗を。
>>188は私です。
ふら〜りさんアカギはバキスレの影響で見たのか。意外
ふら〜りさんとサマサさんとサナダムシさんは
もうそこにいてくれるだけで満足
サマサさんが来るとスレが引き締まるなあ
5日くらい来ないのが普通になってきたな
ヴィルトゥスが復活したから、サナダさんもそろそろ復活しないかなぁ。
とある小さな村、その日は夏も盛りの頃で村の子供達も昆虫採集に出かけ、男達は畑を耕す。
この村の少年、三つの眼を持つ天津飯もそのような穏やかな村でのびのびと育っていた。
彼は、半年前に山の災害で父を亡くしていたが、寂しさを表に出さず、健気に生きる彼の姿を見て、
彼の母は少し涙を流す。
「よし、炒飯!行くぞー。」
天津飯はもうすぐ九歳になる弟と一緒に近所の畑に向かう。
「おー、ボウズども、ありがとな!」
父が亡くなってからは病弱の母を支える為、何かと世話になっているお隣の農家で働いている。
「しかし、天ちゃんもエライねえ。本当なら、遊びたい盛りだろうに。」
天津飯は今十七歳。本来ならば教育を受けて友達と遊ぶ年頃だが、家庭が家庭なのでそうもいかない。
炒飯もそんな兄を手伝いたくて自分から農家に志願した。
その日の仕事も終わり、採れたての胡瓜を貰って帰路に着こうとする。
「天ちゃん炒ちゃん。君達とお母さん、家に来てくれてもいいんだよ?」
農家のおばさんが天津飯を呼びとめる。
「いや、いいですよ、こっちとしては雇ってくれるだけで充分なんで。」
と、笑って答える。
「お兄ちゃん早く帰ろうよう。」
「そうだな、母さん待たせちゃうからな。」
二人で笑いながら家に帰っていく。
「う〜ん、あたし達は別に迷惑じゃないんだけどねえ。」
「あの年でそういう気配りしちゃうんだろ。もっと子供らしく生きていて欲しいけどなあ。ん?雨か…」
夕方に鴉があちこちを飛びながら、カァッと悲しく泣き続ける。
まるで、この村の行く末を見届けたかのように。
翌日、村はいつもと違い騒がしい音に包まれていた。
「まあ、こんな村に軍隊さんが、何の用かの?」
村長が軍隊の頭らしき男と話している。
「単刀直入に言うわ。レッド総帥は今ドラゴンボールを見つけるために世界中を虱潰しに捜しているのよ。
この村にもドラゴンボールがあるかもしれないから、少し捜索させてもらうわ。」
レッドリボン軍のバイオレット大佐が村の各地に戦車を動かし始める。
「死ぬ気で捜しなさい。村を破壊してでもね。見つからなければ他を捜しましょう。」
レッドリボン軍は村中の土地を壊し、村人の家まで破壊してドラゴンボールを捜す。
「や、やめてくだされぇ!!!」
村民達が兵隊の凶行を止めようと近づくが意味を持たない。
「ふふふふ、私達の邪魔をしようなんて、命知らずなものね。」
バイオレットが村長の首根っこを掴む。
「見せしめになってくれるわよね。」
バイオレットのナイフが村長の頸動脈を的確に貫く。即死だった。
天津飯と炒飯は間近で見てしまい、ショックで倒れた。
「天ちゃん!!」
農家の夫婦が急いで二人を救出する。
レッドリボン軍が村に来て五時間、村は全壊していた。
「な、なんて事だ。こんなことになるなんて……」
女、子供を森の方に隠し、男達が鍬や鎌を持ち、軍隊に突っ込んでいく。
「俺達の村なんだ。俺達が戦うんだ!!!」
しかし、小さな村の人民の小さな武力で世界最強の軍隊に敵うはずもなかった。
三十分もしないうちに男達は皆殺し。軍隊はさらに山を調べ始める。
「この山にいる人間も捜索の邪魔になりそうだから、殺しちゃいましょう。」
軍隊はドラゴンボールを捜すと同時に道を阻んでいる子供達を殺す。
「天津飯、炒飯、逃げなさい!!」
「いやだ!!俺達だって戦うんだ!!!」
母が二人を逃がそうとする。しかし炒飯がそれを拒む。そこへ、バイオレットが近づく。
「あら、近くの街に逃げ込まれて、報復でもされたら拙いわね。念のために…」
「逃げて!!!」
母親の言葉に押され、天津飯が炒飯を連れて逃げだす。
そこへ、レッドリボン軍の戦闘機が空中から爆撃を開始した。
爆発で森は焼かれ、爆風によって天津飯と炒飯は離れ離れになった。
天津飯は、既に焼きつくされた村で目覚めた。周りには、死体、死体、死体。
農家の男や村長が見るも無残な姿になり果てている。
天津飯の眼から涙がこぼれ落ちる。
森に入ると、昨日まで元気に遊んでいた子供達、昔話を聞かせてくれた女性が、死んでいた。
しかし、それ以上に愕然としたのは、母と、弟の死だった。
「う、嘘だ……これ、ドッキリだろ…どこかで、カメラが回ってるんだろ。」
天津飯が自分の頬を力一杯に抓りながら必死で叫ぶ。
「なあ、返事をしろよ!!騙されないよ。あの軍隊だって金で雇った……劇団とか……」
頭では分かっている。しかし、本能がそれを認めない。
「起きてよーーーー!!!!!!!!」
体中の水分が根こそぎ無くなるような大粒の涙。天津飯の中にはもう、絶望しかない。
村に戻った頃には豪雨になっていた。
天津飯は半壊した聖堂の中に入る。経典等は殆ど焼失し、残っていたものは、焼け焦げた漆黒の天使だけ。
まるでその姿は地に堕ちた天使、ルシフェルの様であった。
「主よ、我に復讐を果たす力を、奴等を殺す力を捧げたまえ。」
血の涙を流し、天津飯は懇願する。すると神の導きか、聖堂に二人の男が入ってくる。
「ふふふ、中々よい、復讐心に満ちておるな。」
この男こそ、鶴仙流の始祖、鶴仙人だった。
それから一年、レッドリボン軍はドラゴンレーダーを開発し、一気にドラゴンボール捜索を始めるが、
一人の少年によってレッドリボン軍は潰れる。
そのレッドリボン軍で唯一生き残ったバイオレットは、軍を抜け、北の国へ向かった時に三つ目の男に出会う。
「ふ、一年前の……」
バイオレットが銃を出すより先に三つ目の男が指を突き付ける。
「Shall we die。」
三つ目の男、天津飯はどどん波を放ち、脳天を撃ち抜いた。
そして、その様子を見ていた白い肌の子供の様な男が天津飯に近づく。
「僕を、僕を強くして!!」
天津飯は男の瞳を見る。
『コイツも、憎しみのうちに生まれた者、か。』
今、彼等は鶴仙人、白桃桃のような最強の殺し屋になるために日夜、修業に励む。
三年後、彼等の生き方を変える男が、現れるまで。
198 :
ガモン:2009/09/01(火) 12:30:22 ID:Q+BH356o0
投下完了です。
生意気にも読み切りに挑戦してみました。原作からだいぶ離れてしまいました。
>>顕正さん
今回は分身体とミスト、シャドー、ヒュンケルがメインの話でしたね。
確かにミストは大魔王の役に立たない物は切って捨てるタイプだと思います。
イルミナが初期の頃に比べてとても成長した気がします。
>>銀杏丸さん
お疲れ様です。
デスマスクがかっこいいですね。彼の言っている事一言一言が芯に迫っていると思います。
アドニスとアフロディーテの関係がどう変わっていくのか、
先が楽しみです。
>>サマサさん
原作を知らないので吸血鬼がヒーローになるという展開に驚きました。
しかしレッドさんは適当にあしらっている感じでしたね。
チリ一つ残さないコロナアタックの存在が凄いと思いましたが反対に「<ヒモ>ってなあに」
は少し悲しかったですね。
199 :
ガモン:2009/09/01(火) 14:10:34 ID:Q+BH356o0
>>197の文章がおかしいですねどう見ても
「捧げたまえ」ではなく「与えたまえ」の方が自然ですね。
お疲れ様です!
読み切りも連載の合間に書いて頂けると嬉しいです
原作とはかなりテイストが違いますが、
それはそれで二次創作の醍醐味w
ハードボイルド調の天さんとレッドリボンですな
202 :
作者の都合により名無しです:2009/09/04(金) 14:33:18 ID:12iUYCOI0
今は週に2本くらいか
1日に3本くらい着てたのが普通だったんだけどな全盛期
>>202 4,5年ぶりくらいに覗いてみたけどスレが存続してた事におどろき。
まとめサイトも生きてるなぁ・・・昔俺が投げた作品も…
4年前ってスレが全盛期の頃だね
第十三話 Cuore
「オオオッ!」
ヴェルザーが気合の雄たけびとともに太い尾を振るった。いかなる武器をも凌駕する破壊力の込められた一撃は空気を砕きながらヒムとラーハルトに迫る。
真正面から受け止めることはできない。鞭のようにしなる尾が地面を殴りつけると、轟音を立てて巨大な亀裂が生じた。
横っ飛びに回避した二人に爪を振りかざす。まともにくらえば命を落としかねない攻撃が続く。
二人だけで戦うにはあまりにも厳しい相手だが、贅沢は言えない。
ダイはヒュンケルたちの救出に魔界まで赴いているが、配下の竜や魔物は他の戦士たちが引きつけている。それだけでも幾分楽だ。
第三勢力は勇者たちの戦力を分断し、葬ろうとした。
三界において最強と言える竜の騎士ダイや未熟ながらも大魔王の血を引く魔族は不可思議な力を持つ第三勢力が相手をし、分身体がヒュンケルを狙う。
ヴェルザーや死神に残りを押し付け、関心のある相手を獲物に選んだのだ。
強敵を前にしたヒムが考えるのは偉大な主ハドラー、彼の認めた勇者、そして最大の好敵手のことだった。
「ヒュンケルのヤロー、とっとと戻ってきやがれ……! 勝ち逃げしたら許さねえ」
鼻息荒く呟くヒムをラーハルトが冷ややかな目で見つめる。
「人形の分際で偉そうに」
大魔王の奥義に立ち向かった二人だが、仲は良好とは言いがたい。たちまち共闘しているとは思えない険悪な空気が漂う。
「てめえ、戦いが終わったらぶっ飛ばしてやるからな!」
「それはこちらの台詞だ」
「そんな場合じゃないでしょ!」
レオナが頭痛をこらえながら二人を制止する。
今まで二人はヴェルザーが地に接近した時にヒムは拳で、ラーハルトは槍でそれぞれ攻めかかり、レオナはフェザーで二人の援護に徹していた。
だが、完全に息が合っているとは言いがたい。
「バーンと戦った連中がどれほど強いかと思えば……ダイ以外は有象無象の集まりか」
失望さえ感じさせる声が降り注ぐ。
ヒムはムッとしたように顔を上げ、黒竜を睨んだ。
「腹立つな、あのトカゲ」
ラーハルトも同意するように槍を握りしめた。
「気にくわんな」
ここで反撃しなければ倒されてしまう。
ヒムは待ち望んだヒュンケルとの再戦のため、ラーハルトはダイに忠誠を捧げるため、生き延びねばならない。
ようやく目の色が変わった二人にレオナが頷いた。
「その有象無象に手こずっているのは誰かしら、爬虫類さん?」
挑発に対し、答えは業火で返された。
吐き出された炎にヒャダルコを唱える。氷と炎がぶつかりあい、あっけなく溶かされる。
「その程度の風雪でどうにかなると思ったか!?」
吹雪はヴェルザーの身体までは届かず、わずかに視界を遮っただけだ。
だが、巨体に裂傷が刻まれる。ラーハルトが接近して槍で切り裂いたのだ。
ハーケンディストール――視認さえ困難な高速の攻撃。それでも竜の強靭な生命力を絶つには力が足りない。
ラーハルトを吹き飛ばし、追撃を叩きこもうとしたヴェルザーはヒムの姿が無いことに気づいた。
ヒムは――上にいる。ノーザングランブレードを放つノヴァのように空高く跳躍したのだ。
ラーハルトとレオナが注意を引く役割を請け負った。二人が作り出した時間を活かし、力を練り上げる。
両腕にこめているのは、光の闘気。
放つ技は、ただ一つ。
「グランドクルス!」
光の十字が竜の巨体に刻みこまれた。
ポップとアバンは死神の罠を回避した。
先ほどからアバンの剣やポップの杖は届いていたが、たいして痛痒を与えていない。
二人の緊迫した表情を見る死神は楽しげだ。
(切っても殴っても効果が薄いなら……メドローアを狙うだろうね)
魔法力そのものに干渉するマホカンタや心臓部の材質などを除き、あらゆるものを消滅させる最強の呪文。
いくら機械の身体が頑丈で壊れにくいといえども、消し飛ばされればさすがに動きようが無い。
ポップが片手に凍てつく力を、片手に灼熱の力をまとわせた。両手を合わせて矢の形を作り、双極の力を解き放つ。
死神は避けようとはしない。代わりに腕よりやや細い筒を取り出し、口を向ける。黒光りする筒は呪文を吸いこんでしまった。
「吸い込まれちまった……!?」
「呪文を吸収できるんだ、これ。魔力炉とかの材質を使ったんだよ」
大魔王バーンと勇者一行の戦いをヴェルザーは監視していた。キルバーンと同じく死神もポップを警戒すべき相手だとみなしていた。
当然、大魔道士の切り札、メドローアの情報も掴んでいる。
敗北寸前の危機的な状況を逆転させることも可能な呪文への対処法を用意していたのである。
死神は二人を相手に余裕を漂わせている。
ポップとアバンは防戦一方だ。死神の繰り出す罠と技の前に逃げ回ることしかできない。
「どうしたのさ? 大勇者とか勇気の使徒とは思えない逃げっぷりだけど」
挑発に乗るかのように二人は突然立ち止まり、振り返った。顔には笑みが浮かんでいる。
「得意になる前にまわりを見たらどうだ?」
死神が周囲を見ると地面に金色の羽が刺さっている。
数は五本。
描くのは五芒星の魔法陣だ。
逃げるように見せかけ、攻撃も交えつつ極大化の陣を形成していた。
唱える呪文は――
「インパス!」
光が弾け、死神が不快げに舌打ちする。
本来インパスは宝箱に向かって唱えることで安全かどうか確認するための呪文である。また、道具を鑑定する能力もあり、効能などの情報を得られる。
極大化によって呪文が及ぶ対象や効果を引き上げ、機械仕掛けの人形に対して使用した。
「我々は確かめたかったのですよ」
「黒の核晶があるかどうかな」
ヴェルザーの手下かつ機械人形ならば、黒の核晶や似たような危険なアイテムを身につけているかもしれない。
アバンが一人で戦った時、圧されていたのも手を出しかねていたためだ。
いざとなれば攻撃をわざと食らい、自爆することも辞さないのか。
自分が滅ぶ気はまったく無く、判断によっては逃亡するのか。
それとも、何も持っていないのか。
確かめるために呪文を唱えたが、カードなどの小道具が妨害することもあり、精密に測ることはできなかった。
メドローアで黒の核晶ごと消し飛ばせるのかわからない。ヒャド系以外の呪文であるため誘爆する可能性があり、うかつな行動で皆や世界まで巻き込んでは悔やみきれない。
そこで極大化によって効果を高め、罠が無いか見抜くことにした。
結果、黒の核晶やそれに類するものは仕込まれていないと判明した。
これで心おきなく攻撃や魔法をぶつけることができる。
死神が動くより先にアバンが筒を弾き飛ばした。筒はくるくると回りながら飛び、甲高い音とともに地面に転がった。
アバンは何かを操るように指先を動かす。精緻な紋様を織り上げる職人のように。
鎌を振るおうとした死神の腕が止まる。
腕が見えない何かで縛られている。
「不可視の糸は何と言えばよいのでしょうか? キルバーンの罠から発想を得たのですが」
極細の糸を使い、腕をからめとったようだ。
糸を刃として断ち切ったり攻撃を防いだりすることはできない。自由自在に操れるほど練達しているわけではなく、万能と呼ぶには遠い。
施政の息抜き――手慰み程度の修練しかしておらず、あくまで小手先の技術だ。
ただ、意表を突いて隙を作ることはできた。技や器用さを活かして立ち回るアバンの性に合っていたと言える。
動きを止められた敵へポップが高威力の呪文を放とうとした瞬間、死神は笑った。
近くに転がっている筒から光が漏れる。
二人の顔がこわばったのも当然と言えるだろう。メドローアが放たれたのだから。
「放出もできるんだよ。さっき言わなかったけどね」
わざわざ機能を解説したのも吸収を印象付けるため。弾き飛ばされた筒から注意がそれた隙をついて、もっとも強力な一撃を見舞おうとした。
「自分の呪文で消えなよ」
相殺は間に合わない。
「うわあああっ!」
「ポップ!」
アバンの叫びもむなしく閃光の矢は少年に直撃した。
消滅する運命の少年を見つめ、ほくそ笑んだ死神が動きを止めた。
ポップの口元には笑みが浮かんでいる。彼を守るかのように、胴すれすれの位置に光り輝く鏡が出現している。
「魔法反射――!?」
「はね返せぇっ!」
光が方向を変え、死神に襲いかかった。
彼は極大消滅呪文を逆手に取られる危険に気づいていた。
もし自分が敵で呪文の存在を知っていれば警戒し、策を練る。罠にはめることに快感を覚える相手ならば最大の呪文を叩き返し、高笑いするだろう。
また、強力な魔法の使い手に対して有効打になるかもしれない。
そのため、マホカンタを使いこなせるようになる必要があった。
彼は特訓の中でマホカンタを応用する技術を磨いていた。
迅速に鏡面を出現させることもそうだが、単に正面から来た魔法を跳ね返すだけでなく、異なる方向を狙い反射するすべを身につけようとしていた。
アバンが叫んだのも半ば演技だ。彼はポップの特訓の内容を知っていたのだから。
腕を固定されている死神はとっさに鎌で己の腕を切り離した。
かろうじてかわしたが、体勢は大きく崩れている。
「罠よ!」
切り離された腕が材料となって罠が発動したが、ポップは反射的に地面に転がっていた筒を拾い上げて巻き起こった炎を吸収した。
死神に投げつけたところを狙い、アバンがフェザーで破壊し、暴発させる。
炎が弾けて視界を遮ったが、紅の幕をなぎ払うかのように走った白色の光芒が死神の胴を貫いた。
今度こそメドローアを命中させたのだと悟った死神はゆっくりと地面に倒れた。
仮面が外れ、その下の顔が露になった。
キルバーンと呼ばれていた人形の頭部には黒の核晶が搭載され、顎から上は機械仕掛けの内部が見えていた。
モデルとなった死神の貌を見たポップがうめく。
「てめえは……!」
人工の褐色の肌や黒い髪はあるものの、顔は無かった。
人の顔から眼や鼻を無くしたような容貌である。
顔の無い存在――誰でもない者は第三勢力によく似ている。死神としか呼ばれていなかった点も同様だ。
「ボクには、わからない……生も、死も。だったら……機能(あゆみ)が止まっても変わらないかもね」
彼は人形なのだから、本物の死や生から切り離されている。
キルバーンと同じはずの機械人形は透徹した口調で言葉を紡ぐ。
「人形のキルバーンは、心があるみたいだったのに」
いくらピロロが本体だと言っても、四六時中演技を続けるわけにはいかない。
普段は自律的に行動しており、その意思はピロロの人格をコピーしたものだ。
死神も当初は製作者の組み込んだ人格によって動いていた。口調なども現在とは異なっていたが、ある時から変わった。
製作者がいなくなり、動く理由がなくなってから。
コピーにすぎない人形がミストと友情らしきものを築くのを見、オリジナルであるはずの死神の方が口調などを真似るようになった。
「そうすれば心や感情がわかると思ったんだけどねェ。そう上手くはいかないや」
溜息を吐くような音が生じ、身体が震える。
「あの人形には人間の心が芽生えていたのかな? だとしたら感動的だなぁ」
クスクスと笑った死神にポップが顔をしかめた。
アバンも同じ気持ちのようだ。
キルバーンは獲物の生命を刈り取る瞬間に、生と死を司る神の実感を覚えていた。
「あんな残忍な相手に心など――」
「残酷さや残忍さだって心に含まれるんじゃないの?」
ククッと死神が笑う。
うすら寒い感覚が背を走り、二人は身を震わせた。
「機械仕掛の神の計らいは……理解できないなぁ」
溜息をついた死神は最期に呟き、動かなくなった。
211 :
顕正:2009/09/07(月) 19:45:31 ID:BcR3Z9R50
以上です。
ポップを書く時、才能や成長速度を拡大解釈して過剰に書いてしまいそうで難しいです。
ポップはダイ以上に主人公らしいキャラだからその点は書き辛いかも知れませんね。
ヒムとラーハルトの呼吸が合ってなさそうで上手く行ってる感じが好きです。
ヴェルザーは竜王を想像すればいいかな?バーンは明らかにゾーマがモデルでしたけど。
213 :
作者の都合により名無しです:2009/09/08(火) 01:21:38 ID:yKR5U7vD0
顕正さんお疲れです!
常に成長し続けるポップは機械人形にとって
ある意味羨ましい存在なのかも。
最後のセリフ、からくりサーカスで見た気がするけど偶然?
顕正さん、頑張って完結させて下さい
氏の作るオリジナルキャラはどこか寂しさが漂ってるところが好きです。
>>ガモンさん
うーむ天さんが渋い。使命・運命・正義・捜索・復讐などヒーローの戦う理由は数あれど、
やはり一番震えるのは「復讐」ですね。果たした後は多少なりとハッピーエンドが好みですが、
本作は静かに余韻を残しつつ、でもハッピーへの道が保証されてるのが嬉しい。後味良!
>>顕正さん
実績はともあれ、ほぼバーンと同格の相手に健闘してるレオナたち。このまま勝てるかどうか。
そして原作きっての知性派コンビは、やはり魅せてくれました! 術技そのものの性能だけ
ではない、知恵と勇気(覚悟)あってのこういうバトルって「ダイ」の大きな魅力ですよね!
>>203 そして私がまだいます。どなた様かは存じませぬが、旧作の再開でも新作開始でも、
時間あらば何卒。お待ちしております!
216 :
作者の都合により名無しです:2009/09/10(木) 10:15:37 ID:Kl3Q3XfFO
このスレまだあったんだなあ〜。長いね
第四十五話「鎖された心」
―――止まない雨が降りしきる荒野。
「…はっ…はっ…ぜぇっ…」
<狗遣い>の名を与えられた少女は爪先から脳天までズタボロになりながらも、かろうじて立っていた。その足元に
小さな黒い犬。プルー(百八世)―――狗遣いとしての魔力はもはや枯渇し、全力を振り絞ってさえただの仔犬程度
の存在しか産み出せなくなっていた。
「フン…しぶとさだけは褒めてやるが、もう飽きた」
対して海馬は、傷一つ負っていない。彼に寄り添う三体の白龍もまた、疲れた様子も見せずに翼を広げている。
まさに完封―――海馬は完全に、狗遣いを圧倒した。
「オレも先を急ぐのでな。貴様はここで終わりだ」
海馬が一歩踏み出す―――その時、足首に痛みが走った。僅かに顔をしかめ、それを見下ろす。
「…駄犬が」
今や地獄の番犬どころか、ただの番犬の役目さえ務まりそうもない小さな体躯と弱々しい爪牙。そんな脆弱な武器で、
プルーは必死に、海馬に噛みついていた。
ただ、主たる少女を守るために。
「…プルー…もう…よしなさい…」
狗遣いは最後の力で、言葉を絞り出した。
「私が…死んだら…タナトス様の…いうことをよく…きいて…可愛がって…もらう…のよ…」
「…………ちっ」
海馬は鬱陶しげにプルーを蹴り飛ばし、苦々しい顔で少女の脇を通り過ぎる。
「後は勝手にしろ。馬鹿馬鹿しい」
「…わ…私を…殺さないの…?」
勘違いするな。海馬は無愛想にそう言った。
「よくよく考えれば、わざわざ止めを刺す理由もない…貴様らなど、オレが手を下す価値もないということだ」
「…この…嘘吐き」
「フン。ならば最後に大嘘を吐いてやる―――オレはこれでも女子供には優しい男だ。女の上に子供でよかったな。
そしてその駄犬の、主人を守ろうとした心意気に免じて、命だけは助けてやる―――こう言えば満足か?」
「はっ…キザったらしいこと…言ってんじゃねーですわ…惚れますわよ、この…児童愛好者…」
海馬は返事もせず、歩み続ける。その後姿を見送る少女と仔犬にも、もう目も向けない。
この荒野の出来事は彼にとって、今でもう過去の遺物(もの)。
彼の目指すは、未来に待ち受ける闘いと、その先にある勝利のみ。
それを手にする時まで―――その歩みは、止まらない。
海馬瀬人―――完全勝利。
―――そこはつい先程まで、木々が茂り、花が咲き乱れる一面の緑だった。
だが今は、草木一本生えない―――否。そんな次元でなく、全てが根こそぎ消え失せていた。
現存するのは、男と女が一人ずつ。
男は全身傷だらけで、肩で息をしながらも両の足で立ち。
女は刃の砕けた鎌を握り締めたまま、倒れ伏していた。
「…全く、我ながらよく勝てたもんだぜ。どうやって闘ったのか、如何にして勝ったのか、まるで記憶にねえ」
オリオンは嘆息しながら、懐から何かを取り出す。
「一つだけ覚えてるのは…こいつのおかげで助かったことだけだな」
それは遊戯から貰い受けた、一枚のカード。ビリビリに破れて原型を留めていない、単なる紙屑にしか見えないその
たった一枚のカードが、まさにオリオンの命を救ったのだ。
「…そんな…」
収穫者の名を持つ彼女は、愕然と呟く。
「そんな紙切れで…私の鎌を防いだというの…?どうやって…」
「いや、どうやったのかは俺も覚えちゃいないから説明できねえけど…ま、あれだ。俺の勝因はただ一つ―――」
親指を立てて、不敵に笑う。
「友情パワーさ、お姉さん」
「ゆう…じょう…」
「陳腐だけどな―――だからこそ、悪かねえ」
「そんなもの…これが小説なら…最低の精神論だと酷評されるわよ…」
「だって、勝たなきゃ仲間を助けられねえんだからな」
オリオンは、最高に明るい笑顔で答える。
「最低呼ばわり、それも結構だ―――じゃあな」
颯爽と、オリオンは歩き出す。
数々の死亡フラグをへし折り、未来へと続く道を見出した彼に、もはや畏れはない。
彼もまた、最後の闘いが待ち受ける場所へと―――
オリオン―――勝利。
―――冥王神殿入口前。
二人の男が大の字になって寝そべっていた。全裸で。
「ふっ…レオンティウス。貴様の雷槍、凄まじい一撃だった」
「ああ。二度と血便以外のものが出ないようにしてやるくらいのつもりだったよ」
大の男が二人、全裸で何の話をしているのか、分からない人は分からないままの方が幸せである。
「惜しむらくは、俺の奥義<緋色の風車>を貴様に味わわせてやれなかったことだな…」
「ほう…ならそれは次の楽しみとして取っておこう」
「言ってくれる。その時には入れようと思えば大根でも入るのだという事実を教えてやろう」
「残念だったな。もう試したことがある」
「そうか…流石だな、レオンティウス。感想は?」
「もう二度と便秘に悩まされることはないだろうな、と思った」
二人は顔を見合わせ、にっと太い笑みを浮かべた。そしてレオンティウスは立ち上がる。全裸で。
「行くのか」
「ああ…友と、弟が待っている」
「そうか」
寝転がったまま、緋色の騎士は親指を立てる。
「またいつか、や ら な い か」
レオンティウスもまた、親指を立てる。
「ああ、や ろ う」
こうして、二人の漢(おとこ)の闘いはくそみそな結果に終わったのだった。
―――冥王神殿・内部。
「なんつーか…その…なんつったらいいのかな…」
城之内は、なんとも微妙な顔だった。ちなみに、無傷である。
眼前には、倒れ伏す黒の双子。二人とも涙目で、グズグズと啜り泣きの声だけが響く。
「なんなんだ…勝ったってのに、この肩透かしというか、ガッカリ感は…」
結論から言うと、この二人、とんでもなく弱かった。可哀想になるくらい、弱かったのである。最後の方はカードを使う
ことすら申し訳なくなって素手でやってみたが、それでもこの有様だ。
敵と闘っているというより、児童虐待をしている気分ですらあった。
「し…仕方ないだろうが。我々は闘いよりも、タナトス様の身の回りの世話の方が専門なんだ…」
「し…仕方ないだろうが。我々は闘いよりも、タナトス様の身の回りの世話の方が専門なんだ…」
「具体的には料理とか掃除とか、あと、タナトス様が退屈なされた時には骸骨と一緒に踊ったりとか」
「具体的には料理とか掃除とか、あと、タナトス様が退屈なされた時には骸骨と一緒に踊ったりとか」
「骸骨Aなんて、物凄いノリノリなんだぞ…」
「骸骨Bだって、物凄いノリノリなんだぞ…」
「見たくねえな、それ。しかし、だったら番人まで兼任すんなよ…」
「貴様に何が分かる」
「貴様に何が分かる」
黒い兄妹は、涙目のまま城之内を睨み付けた。
「我々はタナトス様の僕(しもべ)だ…主のために死ぬ覚悟で敵と闘うことの、何が悪い」
「我々はタナトス様の僕(しもべ)だ…主のために死ぬ覚悟で敵と闘うことの、何が悪い」
「…あー、その、なんだ。オレが言うこっちゃねーだろうけどよ…」
城之内は頭をポリポリしながら苦笑する。
「そこまでして、忠義を尽くしてくれる相手がいるってのはよ…タナトスの野郎にしても、幸せだとは思うぜ」
「…本当に、そう思うか?」
「…本当に、そう思うか?」
「ああ。だから、まあ…気を落とすなよ」
「…………」
「…………」
「あばよ。オレは行くぜ」
「…待て。最後に一つだけ、言いたいことがある」
「…待て。最後に一つだけ、言いたいことがある」
「何だよ」
「お前達にしてみれば、タナトス様は只の敵なんだろう…あの方はそれだけのことをしたんだろう。それでも」
「お前達にしてみれば、タナトス様は只の敵なんだろう…あの方はそれだけのことをしたんだろう。それでも」
「あの方を、好きになれとまでは言わない。でも、どうか嫌わないでくれ。憎まないでくれ」
「あの方を、好きになれとまでは言わない。でも、どうか嫌わないでくれ。憎まないでくれ」
「…………」
「タナトス様は、人間を本当に愛しておられる…その愛する対象に憎まれるということが、どれだけ辛いか」
「タナトス様は、人間を本当に愛しておられる…その愛する対象に憎まれるということが、どれだけ辛いか」
「どうか、分かってくれ…人間」
「どうか、分かってくれ…人間」
「…ったく。てめーらみたいなガキに、ここまで気を遣わせやがって」
城之内は二人に背を向け、歩き出す。
「あいつには、落とし前はきっちりつけさせる。オレの態度はその時に決めさせてもらうぜ」
城之内克也―――彼も今、最終決戦へ。
―――そして。冥王・タナトス。
荒れ果て、腐り落ちた大地と真っ赤に染まった空の元で、永遠たる神と死すべき運命を背負う人間は向い合う。
「用件ハ…訊クマデモナィネ」
タナトスは指を一つ立てる。
「エレフヲ取リ戻ス事―――先モ言ッタ通リ、其レハ出来ナィ」
もう一つ、指を立てた。
「二ツ目。遊戯…キミノ片割レ」
タナトスが空いた方の手で宙に手を翳すと、ドス黒い光が渦巻きながら世界を暗く照らし出す。やがて黒き光は集束
し、球体を成した。人の頭ほどの大きさの、黒く輝く水晶―――その中に、それは存在していた。
千年パズル―――闇より産まれし禁断の祭器にして、もう一人の遊戯が宿る墓標。
黒水晶はふわふわ漂いながら、ゆっくりと遊戯の元へやって来る。反射的に手を伸ばした遊戯はそれに触れた瞬間、
全身に無数の針を突き立てられたかのような苦痛に苛まれ、呻きながら手を離してしまう。
「其レハ我ガ封印サセテモラッタ…最早触レル事モ叶ワナィ」
「くっ…!」
「三ツ目」
指を、もう一つ―――
「地上ノ人間達ヲ殺メル事ヲ、止メニ来タ…シカシ、其レモ却下ダ」
どこまでも穏やかな声で、死神は全てを否定した。
「どうして…」
ミーシャは、声を震わせてタナトスを見つめる。
「どうしてこんなことをするの…タナトス!あなたは…そんなにも人間が憎いの!?」
その言葉に、タナトスは目を大きく開いた。何を言われているのか分からない―――そんな様子だった。
「女神ガ人間ヲ愛デルヨゥニ、我モ人間ヲ愛シティル。憎ムナド、トンデモナィ」
「なら、何故…人間の命を奪うの!?」
「其レコソガ我ノ愛ダヨ、星女神ノ巫女・アルテミシア」
タナトスは物思いに耽るように、そっと目を閉じた。
「儚キ命ヲ紡グ仔等―――聖女モ娼婦モ賢者モ愚者モ勇者モ弱者モ、生ケトシ生ケル全テ、我ハ愛スル。ケレド、
生キルトハ、辛ク悲シキコト…」
タナトスは、切なげに表情を曇らせる。
「何ガキミノ幸セ?何ヲシテ喜ブ?何ノ為ニ産マレタ?何ヲシテ生キルノカ?何モ分カラズ、何モ答ェラレズニ、唯
キミ達ハ運命ニ弄バレル。夢ヲ忘レ、涙ヲ零スバカリデ何処ニモ往ケナィ。時ハ無慈悲ニモ早ク過ギ去リ、光ル星
モ消ェ逝クガ運命(サダメ)。ソンナノハ嫌ダロ?」
遊戯とミーシャは、言葉もない。タナトスの語るそれは極論ではあったものの、確かに真実を言い当てていたのだ。
逃れようのない、残酷な真実を。
「サレド女神ハ奪ィ続ケル。例ェバ母カラ赤子ヲ。騎士カラ片腕ヲ。妹カラ兄ヲ。少女カラ光ヲ。少年カラ初恋ヲ。
彫刻家カラ妻ヲ。姉カラ弟ヲ。令嬢カラ愛ヲ―――
其ノ悲劇ハ、如何ナル賢者モ止メラレナィ。母ガドレダケ仔ノ幸セヲ願ォゥトモ、女神ハ其レヲ叶ェハシナィ―――
嗚呼、ナラバ生マレテ来ル前ニ死ンデ逝ク仔等ハ、ドンナニ幸セナ事ダロゥネ…」
「…………」
死の神は語り続ける。血に塗れ、死に塗れ、それでいて救いに塗れた幸福論を。
「嗚呼、悲シキ哉、人生。死シタ方ガ救ィトナル者達ノ、ナント多キコトカ。ナラバコソ我ハ、其ノ苦シミカラ救ゥタメニ
仔等ヲ殺メ続ケヨゥ…」
「そうか…つまり、死にたがっている人間を、あなたが自ら殺すことで救う…そういうことか」
カストルの話では、変死した者達は皆、何故か安らかな死に顔だったという。
その理由が、これで分かった。
彼らは望む通りに死ねたから、救われたから―――
「其ノタメニハ、我ノ器トナル者ガ必要ダッタ。器ナクテハ、我ハ現世ニ直接干渉シテ人ヲ殺メルコトハ出来ヌ。
ダガ肉ノ器ヲ得レバ、我ガ直接現世ニ顕現シ、多クノ苦シム仔等ヲ救ェルノダ」
「其レダケガ、我ガ―――<冥王>タナトスガ人間ニ与ェル事ガ出来ル、唯一ツノ救ィ」
「違う…」
遊戯はタナトスを睨み付けた。
「そんな救いなんて―――本当の救いじゃない!辛くとも…人は、生きていくべきなんだ!」
「遊戯。キミノ意見ハ否定シナィヨ―――ダガ、其レヲ参考ニスル心算(ツモリ)ハナィ」
ソシテ。
「キミ達ノ力デハ、我ヲ止メル事ハ出来ナィ。其レモ解ッティル筈ダヨ」
「…………」
「敢ェテ可能性ヲ挙ゲルナラ、キミノ片割レデァル古ノ王(ファラオ)ダロゥガ…彼ハ今ヤ我ガ封印ニヨリ、永劫ノ
眠リニ付ィタ。我ヲ倒ス事ハ、最早誰ニモ出来ナィ」
「…今…もう一人のボクなら可能性はあるって…そう、言ったね」
「零デハナィヨ。其レハ認メヨゥ。ソゥ高ィ可能性デモナィダロゥケドネ」
「そうか。だったら―――やっぱりここは、もう一人のボクに頼るしかないか」
遊戯はそう言うが早いか、黒水晶に再び手を触れる。今度の苦痛は、全身を焼かれるような熱さだった。遊戯は
悲鳴を上げて、弾かれるように倒れ込む。
「…っ!」
咳込みながら立ち上がり、更に手を伸ばした。
「うあああああっ!」
巨大な万力で全身を押し潰されるような感覚が襲いかかり、その場に崩れ落ちる。
「遊戯!もうやめて…このままじゃ、あなたが…」
「…大丈夫、だよ。このくらい…まるで、痛くない」
駆け寄ろうとするミーシャを手で制して、遊戯は再び立ち上がった。そして、また繰り返される地獄の苦痛。
「…無駄ナ事ダ。止メハシナィガ、其レ以上ヤレバ、本当ニ死ヌゾ」
「それでも…構わない」
遊戯は崩れ落ちかけた身体に鞭打ち、歯を食いしばる。
「その人のために死ねないのなら―――ボクはそれを、友達なんて呼ばない」
「美シィネ。ダケド正シクハナィ。ソンナ乱暴ナ意見ヲ受ケ入レテクレル者ナド、数ェル程モィナィト思ゥヨ」
「正しくなんてなくていい…美しくすらなくてもいい。だけどボクは…それが友達なんだって、思うんだ」
「…分カラナィ。何故キミハ其処マデ出来ルンダ?モゥ一人ノ自分トハ言ゥガ、彼ハキミトハ違ゥ存在ダ」
現代に生きる少年―――武藤遊戯。そして、古き世界に生きていた王―――
「彼モマタ、我ト違ワナィ。我ハエレフノ肉体ヲ借リテ、古ノ王ハキミノ肉体ヲ借リティル。本来、其レダケノ関係デハ
ナィノカ?彼ニ対シテ、其処マデノ義理ハナィト思ゥガ」
「同じじゃない…もう一人のボクと、あなたは…まるで違うよ」
「…?」
「彼がいたから…一人ぼっちのボクに、たくさんの友達が出来た。彼がいてくれたから―――どうしようもない弱虫
だったボクは、少しだけ強くなれたんだ。彼がいなかったら…今のボクは、何処にもいない」
「…ケレド、彼ノ居場所ハ現世ニハナィ。彼ハ本来、既ニ失ワレタ存在ダ。其ノ魂ガ眠ルベキハ、冥府ニシカナィ」
「居場所なら、あるさ」
千年パズルを鎖す黒水晶を、遊戯は両手でしっかりと掴んだ。先程までに倍する痛みと苦しみに、正直な話死ぬ
かと思った。しかし、遊戯は手を離さない。
「…呑気に寝てる場合じゃ、ないだろ…もう一人のボク…」
遊戯は息も絶え絶えに語りかける。
「今ここで<待ってましたっ!>って登場するなら…どう考えたってキミ以外いないじゃないか…!」
言葉に出来ないほどの闘いを共に駆け抜けてきた、誰でもない、もう一人の自分。
どんなピンチも、どんな窮地も、彼は鮮やかに切り抜けてみせた。
自分なんかより―――もっと、ずっと、主人公気質を備えた男だ。
「そのキミが…最後の最後で出てこないなんて、誰だって…ボクだって納得しない…!だから…」
「―――いつまでそんな所にいるんだ!キミの居場所なら、ちゃんとあるじゃないか!城之内くんや杏子、本田
くんや獏良くんに御伽くんにジイちゃんや…そうだ、舞さんや静香ちゃんだっている!海馬くんだって!それに、
オリオンやミーシャさんやレオンさんも!そして…ボクがいる!皆の隣が―――今、キミがいるべき場所だ!」
ピシッ―――
「何…!?」
タナトスが、彼に珍しく狼狽する。その眼前で、黒水晶に亀裂が走っていく。
「バカナ…我ノ封印ヲ破ロゥトシティルノカ!」
パキッ―――パキッ―――
「ソンナ、奇跡ガ…!」
「奇跡じゃない」
ミーシャは、タナトスの言葉を一蹴した。
「奇跡じゃないわ…友情よ」
「リ…理屈ニモ答ェニモナッティナィジャナィカ…!」
パリン―――
黒水晶が砕け散り、欠片が煌きながら風に流されていく。そして遊戯は両の手で、しっかりと握り締めていた。
千年パズルを。掛け替えのない友を。取り零すことなく、その手に。
「理屈も答えもいらないさ、タナトス。ただ、あいつの声が、オレを覚醒(めざ)めさせてくれたんだ」
「…………!」
偉大なる神々の一柱に相対するには余りにも不敵な笑みで。
死そのものたる存在に相対するには余りにも不遜な態度で。
彼はその鋭い眼光でタナトスを射抜いた。
―――闇遊戯、復活。
投下完了。前回は
>>88より。
在庫一層セールの如く倒された冥府の番人・そして闇遊戯復活。
次回、闇遊戯が「石畳の緋き悪魔」を歌います(8割嘘で2割くらい本当)。
残り話数はもう十話もないですが、ここまで来たらきっちり腰を据えて書き終えたいなと思います。
しかしながら、金剛番長本編で<番長・メイド喫茶に行く>をやっちまうとは思わなかったw
>>186 パプワくんの彼もコタロウでしたね、確かにw サンレッドはもうちょいネタストックがあります。
>>187 純粋な強さで言えば、僕が書いたことのあるキャラの中でも5本指に入る強さかと。チンピラですが…。
>>ふら〜りさん
サンレッドは常識はあるけど、良識はないという感じです。その割にはどっかお人好しで憎めないヤツ。
ヒーローとしては、敵方がもっと<真の悪>であったなら、大活躍できたろうになあ…。
>>190 いやいや、重鎮二人と並ぶと僕などまだまだです(恐縮)
>>191 逆にゆるゆるにしちまってる時もあるやもしれません(汗)
>>ガモンさん
Shall we die。いやあ…なんつーかもう、陳腐な言い方ですが、まさに<憎しみと暴力の連鎖>。
天さんと餃子に漂う哀愁に、ただ涙…。
話は変わるけど、ドラゴンボールで一番へたれたのはヤムチャよりむしろピッコロさんなんじゃないかと
最近は思います。ナメック星での彼は、ガチでピエロだった…。
それはさておき、無垢な少年に<ヒモってなあに?>と聞かれたら、その場で鬱になる自信がありますw
レッドさんはまあ、一応ヒーローだし、子供には割かし対応も柔らかくなるかなあ、とああいう形になりました。
お疲れ様ですサマサさん。
闇遊戯がいよいよ復活しましたか。
ヒーローっぽい復活劇で大活躍しそうな感じですな。
悪の組織・フロシャイム川崎支部。
その一室に怪人達を集め、ヴァンプ将軍はいつになく引き締まった顔である。
「フロシャイムの精鋭達よ…次なる作戦を発表する!」
厳かに告げられた言葉に、怪人達はざわめく。次の瞬間、備え付けのモニターに画像が映し出された。
「これは…幼稚園の送迎バスですか?」
「そうだ―――これ以上は、言わなくても分かるだろう?」
そして悪の将軍ヴァンプは、非情なる命令を下した―――!
「決行の日は明日!我らは園児達を人質として、バスジャックを行う!」
ついに悪の本性を現したフロシャイム!今、園児達の悲鳴がバキスレに木霊する!
…なんて展開にはなりませんので、読者の皆様方は今回も安心して、お子様にもお勧めのほのぼの牧歌的癒し系
小説<天体戦士サンレッド>を御堪能ください。
天体戦士サンレッド 〜卑劣なる策略!悪夢のバスジャック事件
翌日。
送迎バスは園児達を乗せ、今にも出発しようとしていた。ここまでは普段通りだが、今日はここからが違う。
「はーい、みんなー。今日は本物の悪の組織の皆さんが、バスジャックにやってきてくれますよー」
「わーい!」
「どこどこ、かいじんどこー?」
「ほらほら、慌てないで。さあ、今から怪人さん達が来てくれますから、みんなで拍手しましょうねー」
引率の保母さんが、ドア横でそわそわしながら待機している連中に声をかける。
「それではフロシャイムの皆さーん、お願いしまーす」
「あ、はーい!」
いそいそとバスに乗り込むヴァンプ様、それに怪人達が続く。
「どうもー、私フロシャイムで将軍やってるヴァンプです。バスジャックなんて初めてで、ちょっとドキドキしてるけど、
今日は皆さん、仲良くしましょうね!」
わーっと拍手が巻き起こり、ヴァンプ様はぽっと顔を赤らめてモジモジするのだった。
「こちらこそよろしく、ヴァンプさん。それではバスジャック開始の挨拶をお願いします」
「はい、それじゃ…おっほん!このバスは我々フロシャイムが乗っ取った!命が惜しくば大人しくしていることだな
―――我々は子供であろうが、いざとなれば容赦はせん!」
子供達の間からは、どっかんどっかん大爆笑が起きた。完全に遊園地のアトラクション扱いである。
「あーコラ!命が惜しくば大人しくしろって言ったばかりじゃない、もう!」
「わー、ショーグンがおこったー!」
「こわーい!」
「わー!」
その時だった。怪人達の中から、歩み出る影があった。
「コラー!ヴァンプ様が大人しくしろって言ってるんだから、大人しくしなよー!」
「静かにしないと、今日がお前達の命日だよ!」
「おまえたち コロス」
「ふもっふー!」
そう、フロシャイムが誇る最強の殺戮集団・アニマルソルジャーの面々である。なお喋れないのでセリフはないが、
Pちゃん改もきちんといるのであしからず。
「わー、ぬいぐるみだー!かわいー!」
「ウサちゃんだー!」
「ネコちゃんとワンちゃんとトリさんもいるよ!」
「ボン太くんもいるー!」
「あたし、だっこするー!」
「じゃあぼく、ボン太くんにだっこしてもらうー!」
「ちょ、ちょっとやめてよ!大人しくしないとぶっ殺すって言ってるじゃないかー!」
子供達にあっという間に揉みくちゃにされるアニマルソルジャー。その有様に、ボン太くんの中の人は戦慄した。
(これがフロシャイムのやり方か…こうして幼い子供達に<フロシャイムは善良な悪の組織>だと刷り込みを行い、
彼らが大人になる頃には<フロシャイムになら世界征服されてもいいか>と思わせるのが目的…なんという遠大
かつ恐ろしい策謀だ!)
彼の脳内でのフロシャイム評価はウナギ登りだ。今、日本で最もフロシャイムを警戒している男といっても過言で
ないだろう(他に警戒してる奴もいないだろうが)。
数分後、ようやく子供達をアニソルから引き剥がした保母さんは申し訳なさそうに頭を下げる。
「もう、この子達ったら…すいません。ヴァンプさん。折角バスジャックに来てくださったのに」
「いえいえ、いいんですよ。子供は元気が一番!ね、みんな!」
「んー…ヴァンプ様がそう言うなら…」
「だけど、こいつらが大人になったらぶっ殺すからね!覚えてなよ!」
「ヴァンプさま スキ」
「もっふー!」
―――こうして、恐怖のバスジャックは幕を開けた。
バスはそのまま予定のコースを進み、お昼の時間となった。
「おなかすいたー!」
「せんせー、ごはんはー?」
「はいはい。今日はなんとヴァンプさんが、お弁当を用意してくれましたー!」
わー!と子供達から歓声が上がる中、ヴァンプ様がはにかみながらお弁当を配る。
奇麗な俵型のおむすびに、甘い味付けの卵焼き。タコさんウィンナーに手作りのミートボール。大好物ばかり
で子供達は大喜びだ。
そんな園児達の姿を、保母さんとフロシャイム一同は微笑ましく見守っていた。
「ふふ…こうしてると、天使みたいに可愛らしいんだから」
「本当にねえ。この笑顔を私達大人が守っていかなきゃいけませんよね!」
(作者注:この御方は世界征服を企む悪の権化・ヴァンプ将軍です)
その後もバスジャックは何事もなく予定通りにスケジュールを消化し、いよいよクライマックスを迎えた。
「さあみんな。今日のバスジャックはどうでしたかー?」
「たのしかったー!」
「ウサちゃんたち、かわいかったー!」
「お弁当、おいしかったー!」
「うふふ、よかったわね。それじゃあ最後に、ヒーローに助けに来てもらいましょう!」
「わーい!」
はしゃぐ園児達の前に、ヴァンプ様がにこにこ笑いながら最後の挨拶に向かった。
「えー、それでは不肖ながら、私が音頭を取りますよ。さあ、皆で川崎を守るあの人を呼びましょう!せーの!」
「「「たすけてー、サンレッドー!」」」
その声に応え、我らがヒーロー・サンレッドが颯爽と…否。鬱陶しそうに、ドアからのっそりバスに乗り込んだ。
なお、今日のTシャツは<まじこい>。意味が分からなくても、大きなお友達しか検索しちゃいけません。
「ちょちょ…ちょっとレッドさんったら!カッコ良く登場して下さいねってお願いしたじゃないですか!どうして
普通にドアから入ってきたりしちゃうんですか、もう…」
―――この先はどう詳しく書いても<レッドさんが怪人全員ワンパンで昏倒させた>以外に書くことはないので、
割愛させていただくことにしよう。
こうしてフロシャイムの恐るべき計画は、我らがサンレッドの活躍によって食い止められたのだった。
正義と悪、双方の名誉のためにもそういうことにしといてあげて。
「―――ヴァンプさんにレッドさん、それに怪人の皆さん。今日は本当にありがとうございました」
「いえいえ。私達も初めてバスジャックをやらせていただいて、本当にいい経験になりましたよ」
「子供達も喜んでましたよ。次の機会もまたヴァンプさん達に頼もうかしら、うふっ」
「ははは、じゃあ次はもっと上手くジャックできるように練習しますんで。その時はレッドさんも、また協力して
くださいね…いたっ!もー、どうして殴ったりするんですか!」
ヴァンプ様の抗議の声を無視し、サンレッドは一人、背中にヒーローの哀愁を漂わせつつ夕暮れの道を歩く。
(俺、このままだと一生ファイアーバードフォームなんて使う機会ないんじゃねーかな…)
どうせなら決闘神話の方に出演したかったなどと思いつつ、レッドは虚しさを持て余すのだった。
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
232 :
作者の都合により名無しです:2009/09/12(土) 10:05:52 ID:fByqyOoS0
最終決戦へ向けて各キャラが快勝して、主役も復活して
とうとうラストへ向けてスパートですなあ
残り10話ということはあと2ヶ月くらいか。寂しいな。
最後まで頑張ってください!
さて、サンレッドネタです。
>>229、タイトル間違えてますが気にしないでください。
原作に近いテイストを目指してみましたが、どうだったでしょうか?
ちなみに「まじこい」とはこれのことです(18禁注意)
http://www.minatosoft.com/majikoi/index.html 何故にこれをTシャツの文字に?というと、このゲームの舞台はサンレッドと同じく川崎市であり、
サンレッドネタも割かし多いという繋がりです…いやあ、この注釈無しに分かってくれる人は絶対
いないだろうな(汗)
>>227 やはり主人公ですし、最後は彼が決めてくれないと、という思いはあります。
>>232 順調に書ければ確かに二ヶ月くらいですかね。しかし、冥府の番人戦は我ながらやっつけすぎた(笑)
どうでもいい追記。
「まじこい」の舞台は正確には川崎ではなく、川崎をモデルにした架空の街です。
いやあ、マジで99%の人にはどうでもいいな、これ…
サマサさん連続投稿お疲れ様です!
遊戯王はあと2ヶ月ですか。勇者たちが決戦の場に集まっていく
王道のラストバトルですね。最後まで楽しみにしてます。
サンレッドはどうみてもヴァンプ将軍が主役っぽい。
子供たちのもサンレッドより人気あるだろうしw
しかし遊戯王あと2ヶ月かぁ…。
顕正さんとガモンさんの作品も中盤以降だし
バキスレの歴史も今年が最後?
237 :
作者の都合により名無しです:2009/09/13(日) 08:10:40 ID:BembTFLF0
本当にヴァンプさまは幼児にお手製の弁当を振舞いそうだ
サンレッドはよってくる子供をはたきそうだけど
パクリ小説『放浪息子外伝・その後の土居と更科千鶴』
俺、中学までそんなに悪い方じゃなかったんだけど
高校では何しろ周りが不良ばかりだったからついつい流されちまったんだ。
成績も中の下だしサッカーとかバスケやるほどガッツもねぇ。
毎晩誰かの車が来るたび夜の街に遊びに出た。
話す事と言ったらカネ、クルマ、バイク、そして何より『女』。
ついつい見栄張って「4、5人とはヤッたぜ」なんてデマふかしちまった。
言っちまったからには何とかヤれる女さがし始めて、
同じ中学だった更科ならもしかしてヤらせてくれるんじゃないかって思ったんだ。
部屋に連れ込んでがむしゃらに泣き叫ぶ更科を裸にして
固く閉じた更科のアソコにアレをねじ込んだらすぐにイッちまったんだ。
避妊の「ひ」の字も頭になかった二人初めてのSEXで大当たり。
それで更科の親父に玄関で思いっきり殴られたんだ。
俺、足りない頭で考えた。できることと言えば駆け落ちだ。
先輩がパクッてきたクラウンのエンジンふかして千鶴と二人で逃げたんだ。
見知らぬ街で俺と千鶴の同棲ごっこが始まって、
俺は鳶職になって、千鶴はスーパーでパートを始めた。
「若い時に産んだ子供は出来が悪いってね何しろ子供が可哀想だよ」
そんな言葉が俺をいつしか一人前の「父親」にしはじめ、
「千鶴ちゃん若い時から同棲して『アレ』毎晩お盛んなんでしょ」
そんな言葉が千鶴をいつしか一人前の「母親」にしはじめた。
千鶴の両親もそんな俺たちのことを認め始め、
5年たったある日、幼稚園の子供を連れて千鶴の実家のそば屋に帰省したんだ。
お義父さんは静かに俺たちの子供を膝に抱えたまま涙を流し、
「おまえのおじいちゃんだよ、おまえのおじいちゃんだよ」って…。
あんなに反対してたお義父さんにビールを注がれて。
あんなに反対してたお義母さんの煮物が身に滲みる。
本当にサンレッドにありそうな話だw
子供たちにアニマルソルジャーたちは大人気だな。
240 :
ふら〜り:2009/09/14(月) 20:43:35 ID:RygVfXK40
サマサさん 質量早さ ありがたし 壮大・日常 どちらも良作!
>>サマサさん
・決闘神話
遂に、城之内や海馬やオリオンを脇役ポジに追いやって、両遊戯が主人公の座にしっかりと
着きましたな。タナトスは相変わらず神の視点で、遊戯たちの友情論なんか否定しないまでも
根本から理解できてませんけど、自分が部下から受けてる忠誠心についてはどうなんでしょね。
・サンレッド
宗介はある意味、日本一好意的にフロシャイムを見、高く評価している人ですよね。実際口に
出して言ってやったら、ヴァンプたちはどういう反応するかな。恐縮してお礼を言うか、「そんな
恐ろしいこと考えてません!」なのか。まぁどうせ、本来はミスリルの管轄外ですしね彼ら。
ふら〜りさんの感想が1人だけとは寂しいなあ・・
全盛期は2レスで6,7人とかザラだったのに
242 :
作者の都合により名無しです:2009/09/16(水) 12:17:28 ID:UwKsVz2AO
素晴らしい意見だ
じゃあ君が書いてみたら?
書いてみようかな、久しぶりに
今の自分にどれだけ書けるかわからんが
期待
245 :
作者の都合により名無しです:2009/09/24(木) 13:48:05 ID:FapMW5zt0
あげ
ふらーりさんなんか書いてよ
バキスレは何度も復活してきたからまだ期待してるぜ
サマサさん、顕正さん、ガモンさん、その他の方々頑張ってくれ
247 :
遊☆戯☆王 〜超古代決闘神話〜:2009/09/28(月) 21:16:02 ID:gJFW6rTN0
第四十六話「友情の戦士達」
遥か遠く、過ぎ去りし時代。
若き王はその魂を邪悪なる力と共に鎖された。
無数のピースに分解(バラ)され、久の眠りへと囚われた。
(千の孤独が蝕む、暗く冷たい檻の中に、オレはいた)
待ち続けた。
数十年―――数百年―――数千年―――
無数のピースを束ねてくれる誰かを。
(そして…)
優しい瞳をした少年だった。脆弱そうでいて、芯に強さを秘めた少年だった。
(そうだ―――お前がオレを、呼び覚ましてくれた)
(時に置き去りにされた、永すぎる闇)
(その闇の中で、名前さえ忘れていたオレを―――!)
共に駆け抜けた、数多の闘い。時に心が折れそうな時も、それでも立ち上がれたのは。
(いつもお前が、オレを支えてくれていたから―――!)
だから―――自分は、大丈夫だ。
どれだけズタボロにやられたって、何度だって。
諦めずに、闘える―――
「…正直、驚カサレタヨ」
タナトスは、肩を竦める。
「コンナ事ニナルトハ、思ッティナカッタ。人間ノ一念トィゥモノヲ甘ク見ティタ…シカシ、コノ先ハドゥスル?」
「決まっているさ。お前を倒し、エレフを取り戻す」
「確カニ、可能性ハ零デハナィネ。ダガ、確立デ言ェバ万ニ一ツモナィヨ。コレハ純然タル事実ダ―――人間一人ノ
力デハ、我ヲ倒ス事ハ出来ナィ。アルテミシアヲ入レテモ二人ダガ、彼女ハ戦力ニ数ェラレナィダロ?」
「一人じゃないわ」
ミーシャが断言し、闇遊戯は頷く。
「そう、一人じゃない。オレには、仲間がいる―――友がいる。そしてあいつらは、出番を心得ている奴らだ」
同時に風を切る音。疾風のように放たれた弓矢が、タナトスの胸に突き立つ。虚を突かれたタナトスに、更に爆熱の
火球と破壊の閃光が襲いかかり、金色の雷が血色の空を切り裂いて落ちてくる。巻き上がる土煙が視界を覆った。
「そう…ここで駆けつけなくて、いつ来てくれるというんだ?」
振り向けば、そこにいた。
「フン。ようやく戻ってきたようだな、間抜けめ」
蒼き眼の白龍を従えた海馬が。
「そういう憎まれ口を叩くなよ、ったく…」
弓を構えたオリオンが。
「とにかく、皆が無事だったようで何よりだ」
天高く槍を掲げたレオンティウスが。
「じゃあもう一人の遊戯も戻ってきて、全員揃ったとこで…最後のケンカといくか!」
紅き眼の黒竜と共に城之内が。
仲間達が―――そこにいた。
「…で、冥王様は今のショックでエレフの身体から出てってくれたりしてねーかな?」
「軽薄が。それで済むような話なら苦労はないさ」
「だよな…ちょっとくらいダメージを受けててくれたら御の字ってとこか」
そして土煙が収まった時に広がっていた光景は、ある意味で予想通り。あれだけの暴力に晒されながら、あれだけの
蹂躙に晒されながら、タナトスは髪の毛一本乱さず、何事もなかったかのように立っていた。
「…キミ達ニ今、敢ェテ問ゥ」
冥王は、人間達に語りかける。
「キミ達ハ、友ノ為ニ死ネルカ?」
「ああ?何を言って―――」
「答ェテクレ。ドゥナンダ?」
「死ねるよ。それがどうした」
城之内は、あっさりと言い切った。
「んな覚悟もねーなら、ここまで来てねーよ」
と、オリオン。
「己の大切な者の為に命を賭すのは、当然のことだ」
レオンティウス。
「友なんぞの為には死ねんが…誇りの為なら、命など惜しくはない」
そして、海馬。
249 :
遊☆戯☆王 〜超古代決闘神話〜:2009/09/28(月) 21:17:42 ID:gJFW6rTN0
「…ソゥカ」
タナトスは、微笑む。
「何故キミ達ガ、其レ程強ク結ビ付ィティルノカ、少シ分カッタ気ガスルヨ」
その横っ面に強烈な一撃が叩き込まれた。ブルーアイズがそのカギ爪を振るい、タナトスを張り飛ばしたのだ。更に
追撃で逆のカギ爪を振り下ろし、タナトスの身体を大地に叩き付ける。
「相変ワラズ短気ダネ、海馬。何カ失言デモ有ッタカナ?」
「フ…貴様の妄言など、最早気にもならん。ここに来る前から、オレは既にキレているわ!」
白き龍から放たれる破滅の吐息。それを気合で掻き消し、同時に己を押さえ付ける龍の身体を力任せに投げ飛ばす。
バネ仕掛けの如く飛び起きた所に、図ったようなタイミングで襲い来るのはレッドアイズとオリオン。
黒竜が吐き出した鋼鉄すら溶かす炎の弾丸を、蝋燭の火のように吹き消す。同時に腕を一振りして、雨霰と放たれた
弓矢を全て掴み取り、オリオンに向け投げ返した。素早く身をかわし直撃を避けたものの、手足に無数の傷を負った
オリオンは荒く息をつく。
背中に新たな気配。振り向けば、そこには黒衣の魔術師が二人―――闇遊戯が召喚した、黒魔導の師弟。
繰り出される連携攻撃を、タナトスは真正面から受け止めた。小揺るぎすらせずに掌を二人に向ける。ただそれだけ
の動作で、黒き魔導師達は一瞬にして灰と化し、砕け散る。
間髪入れずに、レオンティウスの雷槍が神速で迫る。そちらに目を向けることさえなく人差し指と中指で穂先を摘み、
捻り上げる。槍がレオンティウスの手から離れて宙を舞い、地に突き立った。
それだけの攻防が瞬きの間に行われ、その一瞬で闇遊戯達は、タナトスとの圧倒的な実力差を再認識させられた。
「―――諦メ給ェ。人間ノ力デハ、其レガ限界ダ」
その声は、優しくすらあった。
「命ヲ振リ絞リ、魂ヲ燃ヤシ尽シテモ…人デハ、神ニ届カナィ。キミ達ニ、打ツ手ハナィヨ」
「それが…どうした」
城之内が歯を食い縛り、拳を握り締める。
「ちょっとばかし打つ手がないだけで諦めてたまるか。ちょっとばかし勝ち目がないからって逃げてたまるか―――
命が消えようが、魂が尽きようが、オレ達は倒れねえ!棺桶から這い出してでも、どこまでも泣きついて噛みついて
―――テメエの喉笛喰い千切ってやらあ!」
そして城之内は地を蹴り、タナトスへと迫る。
「何ヲ」
するつもりか、と言う前に、顔面に衝撃が走る。城之内がその拳を以て、渾身の力で殴り飛ばしたのだ。予想外の事
に避けることもできなかったが、むしろ避けてくれていた方が城之内には幸いだったろう。
タナトスに対してそのまま殴りかかるなど、鋼鉄の塊に拳を叩き付けたにも等しい。事実、城之内は苦痛に顔を歪め、
拳からは血が滴り落ちていた。
だが、それでも―――それでも城之内は恐怖の欠片さえ見せず、タナトスを睨み付けた。揺るぎない視線に射抜かれ、
タナトスは一瞬気圧される。
その隙を突き、再び闇遊戯達から一気呵成の攻撃が放たれる。
「クッ…!」
闘いの開始以来、初めてタナトスが顔を歪める。猛攻を凌ぎつつもタナトスは動揺していた。
(友ヲ想ゥ力…斯クモ強キ物ナノカ)
そうは言っても人間達の攻撃は、タナトスにすれば結局は仔犬がじゃれついてきたようなものだ。目を瞑っていても
簡単に避けられるし、そもそも避ける必要すらない。まともに食らった所で、ダメージは皆無といって差し支えない。
神と人間―――両者の間には、それだけの隔たりがある。
彼等とて、それは理解しているはずだった。にも関わらず、彼等は恐れない。怯まない。挫けない―――
その事実に、タナトスは言い知れぬ戦慄を覚えていた。
同時に―――感嘆し、感動していた。
―――ドクン
(―――!?)
それは、自分とは違う鼓動。それは神ではなく―――人としての意志。
(エレフ…マサカ、彼ガ目覚メヨゥトシティルノカ!?)
胸に手を当て、その鼓動を抑え込む。
(眠ッティルンダ。ォ前ハ最早エレウセウスデハナィ。ォ前モ又<冥王>タナトス―――)
「エレフ―――!」
―――ドクン!
その声に、鼓動が一際強くなる。ゼンマイが切れた人形のようにぎこちなく、視線をそこに向ける。
「アルテ…ミシア…」
彼女は、ただ静かにタナトスを―――エレフを見つめていた。
今にも泣き出しそうな顔で、それでも必死に涙を堪えて。
紫の瞳が、交錯する。
―――ドクン、ドクン、ドクン!
「ガッ…ガァァッ…ヨセ…ヨスンダ!目覚メルナ、エレウセウス!」
目を大きく見開き、胸に手を当てたまま、タナトスは崩れ落ちる。ガチガチと歯が鳴るのを抑えられない。
「ォ前ハ我ノ器…幾星霜ノ時ヲ待チ続ケ、ヨゥヤク手ニシタ…渡サナィ…ォ前ダケハ誰ニモ!」
「?おい、遊戯。タナトスの様子がおかしいぞ。どうしやがったんだ!?」
「分からない…だが、只事じゃなさそうだ」
タナトスの異変に気付き、攻撃の手を止める。タナトスは蹲ったまま、震えている。
「…我ハ…我…違う…私…は…!」
「エレフ…?あなたは、エレフなの!?」
ミーシャが駆け寄り、その肩に手をかける。
「エレフ!お願い、しっかりして!」
「ミー…シャ…」
虚ろな瞳で、彼はミーシャを見つめる。その奥で、二つの心がせめぎ合っていた。
一つは冥王タナトス。
もう一つは、人間―――エレウセウスとしての心。
「ミーシャ、どいてくれ!」
入れ替わりで、オリオンがタナトス―――エレフの胸倉を掴みかかる。
「もうちょいでこのバカの目が覚めそうなんだろ?だったら…こうしてやらあ!」
思いっきり拳を握り、先の城之内よろしく、骨が砕けるような勢いで殴り飛ばす。
「オ…リ…オン…」
「ああ、そうだ!オリオン様だよ、ボケッ!」
殴る、殴る、殴る。皮が破けて血が滲むまで、肉が裂けて骨が軋むまで殴り続ける。いよいよ拳の感覚がなくなって
きた所で、レオンティウスに腕を掴まれた。
「次は、私がやろう―――エレフ。私が分かるか?」
「レオン…ティウス…私の…」
「そうだ。お前の兄だ―――エレフ!」
殴った。自分が殴られているかのような悲痛な顔で、兄は弟を殴り付けた。
「下らん…バカ共が寄り集まって、こんな安っぽいスポ根友情ドラマにオレを巻き込みおって」
そう言いながら、海馬がエレフの眼前に立ち、拳を振り上げた。
「光栄に思え…オレが他人の為に自らの手を傷めるなど、本来あってはならんはずのことだからな!」
一際大きな音が響いた。エレフの頭が大きく揺らぎ、海馬は痛みに顔をしかめる。
「…じゃ…か…」
そして、エレフの口から小さく声が漏れる。
「痛いじゃないか…皆…」
顔を上げる。その表情は紛れもなく、エレフのものだった。
「エレフ…!元に戻ったんだな!」
「エレフ!」
「来るな!」
皆が歓声を上げ、駆け寄ろうとするのをエレフは制した。
「まだ…奴が…タナトスが去ったわけではない…今はただ、私の意識が…表面に出ているだけだ…じきに、この身体
はまた…奴に支配される…」
「そんな―――どうにかならねえのか!?」
オリオンが肩を揺するが、エレフは力なく首を横に振るだけだ。
「どうにか…なるようなら…とっくに…しているさ…どうしようが、私はもう…タナトスと、一蓮托生だ…」
エレフは嘆息し、そして、どこか達観したように顔を伏せた。
「だが、私が目覚めている間は…奴の力を…僅かだが…抑えていられる…この意味が、分かるか…」
「な…なんだよ、それ。分かんねえよ、いきなりそんなん言われても…」
「今は防御力も…再生能力も…限界まで低くなっている…その上で、お前達の攻撃を無防備で受ければ…」
「!お前…それじゃあ、まさか!」
エレフは、自嘲するように笑った。
「私のことなら、もう…いいんだ…どうなろうと…自業自得さ…はっ。バカな話だ…自分なりに…上手くやっていた…
最善を尽くした…そのつもりだったのに…気付けば、このザマだ…死ぬしか、なくなってやがる」
それでしか、もう―――責任なんて取れない。
「機会はもう…今しかない。私もろとも、奴を殺すんだ」
投下完了。前回は
>>225より。
バキスレがちょっと元気がない今、僅かながらでも賑わいになれば。
スパロボ学園には未だに手を付けていない。果たしてどうなんだ、あれは…。
>>236 まだだ!まだ終わらんよ!バキスレは何度でも蘇るさ!
>>237 レッドさんも一応ヒーローだから、子供にそんな態度は取らない…と思いたいw
>>239 原作テイストに近いものをと書いたのですが、割と好評で安心です。
>>ふら〜りさん
そういや遊戯はレスボスでの闘い以降、あんまり活躍してなかった…主人公なのにw
タナトス様は部下に対しては<コンナニ素晴ラシィ部下ガィテクレテ幸セダナァ!>と
普通に思ってそうな気がします。基本的には優しい人(神様)なんで、彼。
サマサさん乙です!
社長のツンデレを極めた優しさの中、エレフが消えていきますね。
いよいよ終わりが近いんだ・・。
俺は初期からいたんで最後までバキスレを見届けるつもりです。
スパロボ学園はKよりはマシという程度。
あと、ジャンプの西尾さん原作の漫画つまんない。
256 :
作者の都合により名無しです:2009/09/29(火) 00:30:03 ID:rNwNpXAU0
城の内はいい奴だな。確か原作では最初、遊戯を苛めてた気がするがw
押さえ込まれた意識が目覚めてラスボスを倒すというのは王道ですが、
これやると本当に最終回が近いんだよな。寂しい。
この作品が最後のバキスレ完結作にならないのを心から願う。
サマサさん乙。
石畳の緋き悪魔を歌うっていうの、あながち嘘じゃなかったwww
お約束の展開だけど、何でだろう…サンホラのキャラが言うとマジ洒落になんないよ…
258 :
作者の都合により名無しです:2009/09/29(火) 13:43:35 ID:ozOtvDsr0
サマサさんの長編って全体的に明るいけど
最後の方は暗いっていうかほのかに悲しいのが多いね
今週号のチャンピオンで沙織さんがパンチラした件
最近パンチラ多いぞ車田先生
日が沈んだ空は二つの色に別れ、じんわりと藍色の夜空が光を塗り潰していく。
その空の中、奇妙なカラスが飛んでいた。
首に紐が巻きつき、周囲の鳥達とは明らかに違う速度で動き回っている。
まるで何かを見張っているかのように忙しなく飛んでいる。
紐は、一枚の紙切れに繋がっていた。
穴があるわけでも、テープで止めてある訳でもない。
紐は、写真の中へと続いていた。
「吉影……ワシのかわいい息子よ、守ってやるぞ。
ワシがかならず守ってやる……お前の平穏を……」
出来すぎたCG映画のように滑らかな動きで、写真からパジャマ姿の中年男性が這い出した。
吉良吉廣、殺人鬼『吉良吉影』の父親だった。
「奴の『ハイウェイ・スター』は危険なスタンド……お前の『キラー・クィーン』が、
奴に劣るとは思わんがこの状況は危険すぎる……!」
近寄りさえすれば一触必殺、仗助の居ない今『キラー・クィーン』の爆破を防げる者は居ない。
だが近寄る術がないのでは60キロを維持して走り続けるしかない。
ガソリンが切れるのが先か、事故で大怪我を負うのが先か……。
「だが、いざと言う時の備えはある……墳上裕也、必ず死んで貰うぞ!」
「どういうつもりだ……ガソリンの事を忘れちまう程のマヌケなのか?
高速道路ならその速度を維持するのは簡単だろう、だがガソリンはどうするつもりだ……。
俺のバイクは満タンだ、奴の方はわからねぇ……排気から考えて燃費は良くねーぜ」
何か策があるのだろうか、とにかくこのまま奴を高速まで追いかけるのは危険だ。
先回りして仕留めるべく進路を変える。
殺人鬼との対峙の時が近づいてくる。
冷や汗がハンドルを濡らし、頬を伝い向かい風に乾く。
膝が笑いそうになるのを横転への恐怖で防ぎながら、彼は殺人鬼の元へ向かう。
「チクショー……どうすりゃいい、俺はどうすりゃいい……」
彼の心は後悔に囚われていた。
放っておけばよかったのではないか。
町を出ろなんて警告をするのなら、一緒に出るように説得して逃げれば良かったのではないか。
偽りの怒りはその姿を潜め、恐怖が心を蝕んでいく。
だが、幸か不幸か彼の鼻は捕らえてしまった。
殺人鬼の臭いが止まったのを。
「……」
言葉を失い、思考を停止させたまま今まで定めてきた目的に向かって『ハイウェイ・スター』を追跡させる。
これを罠と気付くには、彼のスタンドのスピードは速すぎたようだ。
吉良吉影の臭いは一瞬で火炎から生まれる燐の臭い、スタンドの炎へと変わった。
そして焼き尽くされる『ハイウェイ・スター』へのダメージがそのまま墳上裕也へと向かう。
炎に焼かれる『ハイウェイ・スター』が追跡を止める。
耳障りな足音が聞こえないことを確認しつつ、速度を落とす。
「マヌケめ。自分の能力を過信しているからそんな単純なミスを犯すのだ」
内ポケットをポンポンと叩いてみると、布の感触は手の平に別の部位と同じ薄さであることを伝えていた。
舌打ちを漏らすが仕方の無いことだった、他に『爆弾』にできる物は靴ぐらいだし運転中に脱ぐ余裕はない。
「これで私の心配事は、スーツの修理費だけだな……。
川尻の安月給で買える代物だし高くはつかないだろう」
速度の低下と共に奪ったバイクのエンジン音が静まっていく。
もう彼の平穏を脅かす音は聞こえない……筈だった。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……
「……フッ、大型トラクターでも走っているのかな」
彼はそう呟きながらも咄嗟に背後を見た。
耳に伝わるそれは、大型自動車のエンジン音なんかではない。
ここ最近トラブル続きの彼がすっかり聞き慣れた……危険な音だった。
「うおおおおぉぉぉぉ―――ッッ!?」
無数の足が、彼を追い詰めていた。
体中のあちこちで、肉が音をたてて引き千切れていく。
腕も足も服の中でズタズタに引き裂かれ、血を撒き散らしながらバイクを走らせる。
恐怖で無意識のうちに速度を抑えていた為、コントロールを失うことはなかった。
滴る血に後輪が濡れてアスファルトに線を引く。
墳上の進む破滅への軌跡を描くように、長く赤黒く続いていた。
「ドジったな…やっぱ……止めとくんだったぜ……」
普段の墳上ならありえないミスだった。
しかし綺羅吉影は恐怖で麻痺した事を悟り、狡猾な罠で精神を打ち砕いた。
衣類と吉良吉影の臭いはしても、人の持つ複雑な臭いはしていなかった。
逃げることにばかり考え、戦いの思考を停止させた時、こうなることは決まっていたのかもしれない。
「敵わねぇよ……こんな奴…俺のスタンド、いや誰が相手でも倒せっこねぇ……」
自らを偽り向けていた怒りは、蝋の溶けきったロウソクの様に静かに消えていった。
血が足りず、息を荒げる墳上だったが愛車は止まらなかった。
「だがよ……テメーの思惑通りにはいかねぇらしいぜ………吉良吉影」
怒りは消えた、だが変わりに燃え上がる本物の闘志が彼を突き動かした。
「爆破が浅かった……速すぎたってことは焦ってるってことだ。
奴だって俺を恐れてるんだ……だから半端な位置で攻撃を仕掛けた。
もう迷ってなんかられねぇ……ビビってなんかいられねぇんだ!」
恐怖を完全に振り切ったわけではない、それでも手が震えることは無くなった。
鮮血と激痛で閉じた瞳に、愛しい人達を見た彼は絶望を振り払ってどこまでも殺人鬼を追い詰めるだろう。
その命がある限りは。
お待たせしました、スランプでした。邪神です(;0w0)
単純にネタが浮かびませんでした……それでこの時間のかかりようです申し訳ない。
墳上戦が終わればラストは近いやもしれません。
しかし視点が安定してないから読みづらそうな気がしてきた。
だが私は謝らない、そしてネタも無ければ手立ても無い。
バキスレが終わらぬ限りは諦めずやってみます( 0w0)
そしてコメントをつけてくれた方々には悪いのですがいつのスレで応援を受けたか判らず、
返答できません(;0w0)
アギトの会でジョジョはどうなったとか言われたようなどうだったか……。
今後はアンサガのキャッシュの如き2軍キャラとして頑張らせて頂きます(;0w0)
265 :
作者の都合により名無しです:2009/10/04(日) 08:43:39 ID:7rAi+wjs0
お久しぶりです邪神さん。
寂しい状況のこのスレに強力な助っ人が現れて嬉しいです。
正直、間が空いたので少し内容忘れましたがw
好きなジョジョ物なのでまた一度読み直して楽しみたいと思います。
のんびりご自分のペースで頑張ってください。
266 :
ふら〜り:2009/10/04(日) 09:09:24 ID:ugIuGCZE0
サマサさん、邪神さん、ありがとおおおおおおおおぉぉぉぉっっ!
>>サマサさん
友の熱い拳、解けかかる洗脳、強大ラスボスの唯一の傷、「俺ごと奴を貫け!」……うーん
燃える。タナトスほどの強さと、壮大な態度の持ち主が揺らぎ苦悶するのは、それだけでもう
カタルシス感じます。とはいえこのまま倒してしまうわけにもいかない遊戯たち。さぁどうなる!
>>邪神さん
>これで私の心配事は、スーツの修理費だけだな……。
すっっごく吉良らしい一言。彼の勝ちセリフってこんな感じですよね。人を殺すこと、誰かを
罠にはめることに成功し、涼しい顔でこういうセリフを吐いて……と思ってたら墳上の逆襲!
普通だったらこの展開、最低相討ちには持ち込むとこですが、しかし吉良は普通ではない、か。
邪神さん復活おめ!
サマサさんがスパロボ学園のことを気にしてたけど、個人的にはスパロボNEOをこのスレの住人(職人・読者ともに)が
どう思ってるかが気になる。
出演作が世代的にドンピシャな人が多そうでw
漫画業界的に言えばジャンプ黄金期と被ってるしね。
個人的にはスパロボKだけは許せん
第四十七話「紫眼の狼、再臨」
「どこから…間違っていたんだろうな、私は…」
エレフの目から、涙が零れ落ちる。
「本当に…今思い返せば…これでいいと思って選んだ道の…全てが、過ちだったとは…はは…笑えないな―――
最悪なのは…運命じゃなかった…何もかも運命のせいにした…私自身が最悪だったんだ…」
だから、どうか。
「せめて…最後に、責任を取りたい…これ以上、タナトスが…人を殺してしまう前に…」
「エレフ…待てよ、おい!」
「オリオンか…」
昔を懐かしむように、エレフは少しだけ笑った。
「奴隷だった頃に、いい思い出など何一つなかったが…お前と出会えた事だけは、幸運だったよ」
「な…何言ってんだよ、こんな時に。お前、それじゃ、まるで…」
まるで―――別れの言葉じゃないか。
「お前が我が友であってくれて―――よかった」
そして、エレフは海馬に目を向ける。
「海馬…ろくでもない事に付き合わせて、悪かったな…」
「…………」
海馬は、何も言えずにただエレフを見つめていた。
「レオンティウス…今さらお前を兄などと呼べないが…ミーシャの事は、どうか…善き兄として…見守ってくれ…」
「エレフ…バカを言うな!我々はまだ、兄弟として始まってすらいないだろう!始まる前から終わらせて、どうする
つもりだ!?」
「…仕方がないさ…私にはもう…始まるべき未来なんて…ない」
城之内と闇遊戯が、エレフの肩を掴んで揺する。
「バカ野郎!何を諦めてんだよ、エレフ!」
「よせ、エレフ!」
「遊戯…城之内…お前達には、随分とミーシャが助けられたな…その礼も出来ずに、すまない…」
「やめて、エレフ…あなたがいなくなったら、私はどうすればいいの!?」
「ミーシャ…」
エレフは、悲しげにミーシャの泣き顔を見つめる。
「最後に…一つだけ…ミーシャ…バカな兄だったが、赦してくれ…!」
「エレフ!」
「私はもう…ここまでだ。皆…頼む。私を殺して…全て、終わらせてくれ…」
そして、精算させてくれ。
「間違いだらけだった…私の人生を…」
「…ふざけんな」
オリオンが拳を震わせ、声を絞り出す。
「最後の最後で、言うことがそれかよ…最後までそんな泣き事言ってんのかよ、テメエは!間違いってんなら―――
今テメエがやろうとしてることが、一番の大間違いだ!」
「…オリ…オン…」
「確かにテメエはとんでもねえバカ野郎だよ!けどな…それでも…お前が死んだら、俺達がここまで来た意味が全部
なくなっちまうだろうが!」
「それは…人間を救うために…」
「アホか!そんなもん建前だ!生きていたくない、死にたいなんて思ってるような連中のことなんか知るかよ―――
勝手にしやがれ。俺はただ…ミーシャがお前と一緒に静かに暮らせたらいいと…最初からそれしか考えてねえよ!」
それなのに。
「それなのに―――お前が死んじゃったら、何もかも台無しじゃねえか!責任がどうこうってんなら―――ミーシャに
対しての責任はどうなんだよ!この期に及んでまだ逃げるのか、テメエは!」
「…オリオン…」
「オレ達だってオリオンと同じさ、エレフ」
城之内が続ける。
「こんなとこまでやってきて<歴史>を変えられるとまで思い上がっちゃいねえが…出会った誰かの<運命>くらい、
ちょっとはいい方に向けてやりたいって、そう思ったんだよ」
「…………」
「だから逃げちゃダメだ。オレ達は絶対お前を見捨てやしねえ…タナトスを倒した所で、お前がいなくなっちまった
ら、もうそれでここにいる連中は、誰一人笑えなくなっちまうからな!そんなんはごめんだ―――最後は、オレ達と
一緒に笑顔でキメて終わろうぜ、エレフ」
「そんな…資格が…私にあるはずがなかろう…私の罪はもはや…赦されることなど…」
「ならば、私が赦そう」
レオンティウスが、静かに口を開く。
「例え神が赦さずとも、この兄が…私が赦す。だから、もう…気に病まなくていいんだ」
「…レオン…にいさ…ん」
「エレフ。責任を取りたいというなら、尚更死を選ぶような真似はよせ―――身投げのような事をしても、罪滅ぼしに
などなりはしない。それはもっとずっと地味で、真っ当な道のはずだ」
「…だが…もう私は…タナトスから…解放されることはない…死ぬことでしか…」
「いや…」
闇遊戯は、首を横に振った。
「たった一つだけある…お前を殺さずに、タナトスをお前から引き剥がす手段が!」
「なん…だと…それは…」
「タナトスはお前と一体化…つまり、融合しているんだ―――ならばオレは、このカードを使うぜ!」
闇遊戯は天高く、一枚のカードを掲げた―――
「魔法カード発動―――<融合解除>!」
「―――!う、ぐ…ぐああああっ!」
エレフが胸を押さえて蹲り、苦悶する。同時にその身体から瘴気が噴き出していくが、それはエレフから離れるより
早く何者かの力によって抑えつけられ、再びエレフに纏わりつく。
「う、ガ、あ、ァ…渡さ、ナィ…!この…身体ハ…我の…器ダ…!」
その声はエレフとタナトス、二つの意志が入り混じっていた。一つの肉体の支配権を巡り、人と神が鎬を削っている
のだ。
「耐えろ、エレフ!タナトスに負けてはダメだ!」
「我ハ…私は…!神…人間…タナトス…エレウセウス…否!我ハ…タナトス!」
「エレフ…!くっ!このままでは…!」
「どけ、遊戯」
傲然と、海馬が闇遊戯と並び立つ。
「エレフ…貴様が死のうがどうなろうが、オレの知ったことではない。だが…生き残る道があるなら生きろ。生きて
再び、歩み出せ―――それを望むくらいの権利はあるだろう」
「カ…い…バ…」
「―――<融合解除>!」
闇遊戯が発動させたものと同じカード。その効果は二重となり、更に強くタナトスを抑え込む。
「よ…ヨセ…エレフを…連レて…いクナ…渡サなィ…其れダケハ赦サなィ!」
「くっ…!オレと海馬が力を合わせても、まだ足りないというのか!」
「くそっ…おい、城之内!お前もやってくれよ!」
オリオンに急かされるが、城之内は非常に居心地の悪そうな顔をするばかりだ。
「い、いや…そうしたいのはヤマヤマだけど、オレ、あのカード持ってねえんだ」
「最後の最後で絶妙にダメだなお前って奴は!」
「グ、ぐ…うおォォおおォッ!」
「!くっ!」
「がはっ…!」
エレフから凄まじい力が迸り、闇遊戯と海馬が吹き飛ばされる。それを一瞥にせず。エレフは―――
「フ。フフ…」
否。タナトスが、ゆっくりと立ち上がった。
「今ノハ危ナカッタ…モゥ少シデ、引キ剥ガサレテシマゥ所ダッタヨ…フフ。実ヲ言ゥト、今デモ結合ハ相当ニ弱ク
ナッティル。本当ニ紙一重ダッタ」
「ち…ちくしょう!何てこった、ここまで来たっていうのに…」
「残念ダッタネ…エレフノ言ゥ通リニシティレバ、少ナクトモ我ヲ葬ル事ハ出来タ。皮肉ナ事ダ…友情故ニキミ達ハ
其レ程ノ強サヲ得タガ、友情故ニ、我ヲ斃ス最後ノ機会ヲ失ッタンダ」
「…………」
皆は一様に唇を噛み、無力に嘆く。
カツン―――カツン―――
「…え?」
そんな、誰もが深い絶望に呑まれかけた地獄の中で、唯一人だけ、前へと進む者がいた。
「…今更キミガ、何ヲスル心算(ツモリ)ダ?」
それは闇遊戯でなければ城之内でも、海馬でも、オリオンでも、レオンティウスでもない。
「何をするって…決まってるでしょ。エレフを、取り戻すわ」
ミーシャだった。何一つ闘う為の術など知らぬ彼女が―――その身一つで、タナトスの元へと向かっていた。
ドクン。
タナトスの中にいるエレフが、再び鼓動を刻む。だがそれは、先程に比べれば明らかに弱い。黙殺しても、何ら問題
はない―――タナトスはそう判断した。
「エレフ…私が分かるでしょ?」
「ミーシャ、よせ!危険だ!」
「危険だって…今更、言うことじゃないでしょ」
仲間の制止の声を、ミーシャは笑って受け流した。
「お願い。私に任せて…この世界に生まれて、私に与えられた役目があるとしたら、きっと今、この場所よ」
ミーシャは歩みを止めない。タナトスはその姿を、不可解だと言わんばかりに見据える。
ドクン―――!
「クッ…!何故ダ…何故…」
取るに足りないはずの弱々しい鼓動が、無視出来ない痛みを与えてくる。
「エレフ…どうして、そんな所にいるのよ」
「黙レ…其ノ口ヲ閉ジルンダ、アルテミシア!」
それでもミーシャは、歩みを止めない。
「私だけじゃない…皆に心配かけて、迷惑かけて…その挙句に、死ぬだの何だの…どれだけ自分勝手なのよ」
「其処デ止マレ、アルテミシア!モゥエレフヲ刺激スルナ!」
タナトスは得体の知れない恐怖に、泰然とした態度をかなぐり捨てて叫ぶ。それでも、ミーシャは止まらない。
「止セ!止スンダ!コレ以上近ヅクナラ容赦シナィ!」
ミーシャは―――尚も、歩き続ける。
「エレフ…私の我儘を、一つくらい聞いてよ。そんな所にいないで…戻ってきなさい!」
「黙レ!」
タナトスが横薙ぎに手刀を繰り出した。何も起こらない。そよ風さえ感じない。
だが―――ミーシャの長い髪が、肩口からばっさりと切り落とされた。
「あ…」
はらりと地に落ちる銀色の髪を、ミーシャはただ茫然と見つめていた。
「黙ラネバ―――次ハ、首ヲ堕トス」
「ミーシャ!」
「待って!」
駆け寄ろうとする仲間達を、ミーシャはまたしても制した。
「お願い…ここは、私がやらなきゃダメなの」
ミーシャは泣きながら、微笑んでいた。
「エレフは…私がいてあげなきゃ、本当にダメな人だから」
ミーシャはまた一歩、タナトスに―――否。エレフに歩み寄る。
死を宿した終の瞳が、互いを見つめた。
紫を宿した対の瞳が、互いを見据えた。
「来ルナ!コレ以上近ヅケバ、本当ニ…!」
「エレフ。このままだと、私はタナトスに殺されるわ…だから―――」
ミーシャは溢れ出る涙を拭おうともせず、心の底から叫んだ。
「だから―――早く私を助けなさいよ、このダメ兄貴!」
「…ッ!」
タナトスは逡巡しながら、その手を振り上げ―――そのまま、動きを止めた。
「グ…エレ…フ…ォ前…させない…それだけは…黙レ…!貴様が黙れ…」
同じ口から交互に飛び出す、二つの言葉。
「我ハ…死神…私は…冥王…我…違う、私は…タナトス…死神…冥府ノ王…違う!」
「私は―――エレウセウス!ミーシャの兄―――エレウセウスだ!」
その瞬間、エレフの身体から黒い瘴気が噴き上がった。それは竜巻のように荒れ狂いながら天に昇っていく。そして
エレフは、ゆっくりと大地に倒れ伏した。
「エレフ!」
ミーシャが駆け寄り、ぐったりして動かないエレフを抱き起こす。
「しっかりして、エレフ!エレフ―――!」
「…ミーシャ」
エレフが、ゆっくりと目を開けた。
「何だ、その髪は…子供の頃みたいになってるぞ…」
「バカ…エレフのせいでしょ…」
ミーシャの瞳から零れた雫が、エレフの頬を濡らす。
「ごめんな、ミーシャ…ありがとう」
エレフは手を伸ばし、短くなってしまったミーシャの髪をそっと撫でる。
そんな二人を、一同は皆、驚きと感嘆を込めて―――海馬でさえも―――見つめていた。
タナトスは彼女を戦力に数えていなかったし、仲間達もそう思っていたが―――大間違いだ。
ミーシャは立派に、数の内だった。
この大一番で―――最高の仕事をしてくれた。
「…こんな時、どんな顔をすればいいのか分からないな」
「そうね…とりあえず、笑えばいいと思うわ」
そうか。エレフは、静かに笑った。
「ただいま、ミーシャ」
「おかえりなさい、エレフ」
投下完了。前回は
>>253より。
これにて残すは、タナトス様との最後の対決のみ。本当に終わりが近いとなると、感慨深いものが
あります。そして次回、サンホラ界の女神にして恐らく最強キャラの彼女がちょっとだけ姿を見せます。
タナトス様も今回ちょっとヘタレた感がありますが、どっこい、彼はまだまだ人類救済のため頑張りますよ。
ミーシャが髪を切られるシーンで、刀語を連想した人は、よく訓練された西尾維新読者です。
それはそうと天体戦士サンレッド・アニメ第二期が放映開始しましたが、予想は裏切り期待は裏切らない、
素晴らしい出来でした。ウェザースリーの偽OPはまさかスパロボ出演フラグ?(考えすぎ)
でもレッドさんならスパロボに出ても大活躍できるはず!
>>255 Kよりマシか…うーむ。めだかボックスは、西尾師の悪い所ばっか出ちゃってるなあ…。
>>256 最終回…本気で近いです。我ながら寂しい…。
>>257 サンホラキャラは<頑張ったけど、結局死にました>というのがマジで多いですからね…
陛下はまさしく人殺しソングの貴公子。
>>258 まあここまで場が煮詰まってもギャグやれるほどには能天気には書けないというのもあります。
>>ふら〜りさん
結果、こうなりました。タナトス様との最終決戦も、ラスボス戦でのお約束満載で突っ走りたいです。
<予想も期待も裏切らない>そんな展開が自分的には理想なんですが、難しいですね。
>>268 スパロボNEOの出演作は、懐かしすぎて大概は覚えてませんw結構面白そうだなとは思います。
しかし、種が出ないことに一抹の寂しさを覚える僕は、何だかんだ言って種が大好きだなあ…。
>>269 あれはねえ…酷かった。個人的に一番最悪だったのは、敵ボスが身体を支配された味方の肉親だと
知ってる癖に<おっしゃ!あいつをギタギタにしてやろうぜ!>とか言い出した甲児を筆頭に、誰一人
として助けようという意見を出さなかった事。お前らどんだけ薄情なんだよ。
次点で、レイ兄さんが「カギ爪が死ぬのを見れただけでいいさ…」とか抜かした所。原作の彼ならば
「よくもカギ爪を殺しやがったな!死ねぇ!」と言ってもおかしくないだろう。あんなんレイ兄さんじゃねえ。
異様に有能だったカガリ様だけは笑えたけど…。
サマサさん乙です。そろそろ終わりかぁ
サンホラーの一人として楽しんでいたのでちょっと名残惜しい気もします
あと、レイ兄さんに関しては全同意
お前ら本当にちゃんとアニメ見てんのかと(ry
大団円に向けて一直線という感じですね。
最終決戦とエンディングで全50話くらいで完結になるのかな?
寂しいなあ。
名物SSが消えてしまうなあ・・
最後のエヴァっぽい2人が幸せそうでいいですね。
第十四話 再会
シャドーが切り離されてから、第三勢力は魔物の集団を呼び出し、二人を襲わせていた。
無限に湧き出す敵の一体一体はそこまで強くないが、数を重ねられると消耗を強いられる。
雑魚を一掃できれば――紋章の力を完全に使えれば、状況を逆転させることも可能だろうが、このままでは力尽きるのを待つばかりだ。
力を抑えられていては、後手に回り、現れる敵に対処するだけで精一杯だ。
ふらりとイルミナの体が揺れる。磔にされ、限界まで痛めつけられ、立っているのもやっとの状態だ。
尊敬する者を侮辱した敵に一矢報いようと精神力で持ちこたえているが、第三勢力は手下で壁を作り安全圏から健闘を見守っている。
膝から力が抜け、がくりと崩れ落ちた彼女へ魔物たちが飛びかかった。
剣が翻り、彼らをなぎ払う。
ダイが援護しながら戦っている。
血のこびりついた唇が動き、かすれた声が絞り出された。
「何故だ。父も、私も、お前の――」
戦いの中でそれ以上言葉を交わす余裕はない。
ダイの呼吸は荒く、彼もまた疲弊している。
どれほど強くても正面から攻撃をぶつけてくるならば戦いやすかったかもしれない。
だが、敵は心を見透かし巧妙に闘志を削いでいく。
戦いが終われば完全に敵同士になるという意識が二人の連携を途切れさせ、ぎこちないものにしていた。
このままではどうしようもない。
「イルミナ」
彼女は眼を光らせ、無言で続きを促した。
「君はおれのことを憎んでる。お互い軽々しく許してくれなんて言えない。……でも、あいつを止めたいのは一緒だろ?」
ダイは振り返り、言い募った。炎のように輝く眼の持ち主に。
「おれたち二人が本気で力を合わせれば、最後の力が生まれるかもしれない。だから……!」
父、バランとともに戦った時の言葉を繰り返す。
あの時は眠らされてしまったが、今回は違う。
心を一つにして、力を合わせて戦おうというのだ。
「最後の、力」
イルミナは眼を伏せた。
力はある。
まだ目覚めていない力が。
だが、今までどれほど覚醒を望んでも応えなかった。
いつ開花するかわからない力をあてにするわけにもいかず、魔力や膂力を伸ばすべく地道な鍛錬に励んだ。
それでも蓋をされているかのように結果に結びつかず、焦りばかりが募っていった。誇り高くあるべきだと意気込んでいたのも、その反動が含まれているかもしれない。
どうすればいいのかわからない。
まるで、目覚めない鬼眼が枷となっているような、門となって道をふさいでいるような手ごたえしかない。
鬼眼を持つ者から助言は与えられなかった。何か言われただけで呼び覚ませる類の能力ではなく、自力で開くべき扉なのだから。
苦しげに首を振った彼女の脳裏にダイの言葉が浮上する。
『父さんみたいに強くなれないって落ち込んだこともあったけど、みんなのおかげでおれはおれだって思えるようになったんだ』
『私も……私もなれるだろうか?』
『なれるよ』
立場は異なっていても、共感できる想いがある。
強さは隔たっていても、通じる何かがある。
顔を上げた彼女の鬼眼が輝くと同時に、ダイの頭に痛みが走った。
「つうっ!?」
額の紋章が眩しいきらめきを放つ。竜の紋章と鬼眼が光でつながった。
「う、あ……!」
イルミナの中に無数の映像が流れ込み、光が弾けた。
老人が触れれば切れるような鋭気を纏い、力を練り上げ高めていく。
『おまえの正義を余に説きたくば、言葉ではなくあくまで力で語れっ!』
己の正義に従い、最後まで貫き通した男。刻まれた皺の一本一本から威厳がにじむようだ。
血に餓えた獣でも破壊衝動の塊でもない、魔界の頂点に立つ王者の姿が映っている。
強者は種族を問わず認めるという主張通り、彼は敵対者に手を差し伸べた。
『余の部下にならんか?』
人間の愚かさを穏やかに説いた大魔王の言を少年は否定しなかった。父の境遇が重くのしかかり、助けた子供から怯え泣かれた記憶は傷となって心に深く刻まれている。
守るべき者達の醜い面も知っていながら彼は首を横に振った。
地上の人間すべてが望むならば――
『おまえを倒して……! この地上を去る……!』
あまりに悲愴な決断に、光景を目にしている魔族は言葉を失った。
(……わからん。理解できん! なぜ己を疎む者達のために戦う?)
魔界の住人は基本的に己のために戦う。他人の力になることがあっても、利害がからむ場合が大半だ。
ダイの答えは理解できない。
不可解だという混乱に加え、腹の底から憤りがこみ上げる。
(なぜ、誰よりも地上を愛し、平和のために戦ってきたお前が……地上を去らねばならない!?)
場面が変わる。
全盛期の肉体と合体した大魔王――真大魔王バーンが降臨し、立っている五人を睥睨した。
『天よ叫べ! 地よ! 唸れ!』
大魔王の言葉に応えるかのように雷鳴がとどろき、地響きが起こる。
『今ここに! 魔の時代、来たる!』
激流があらゆるものを押し流さんとする。
『さあッ! 括目せよっ!』
大勇者の剣が、陸戦騎の槍が、昇格した兵士の拳が大魔王に迫り――
『天地魔闘』
一瞬で、蹴散らされた。
先代の勇者が、先代竜の騎士一番の部下が、魔王の魂を継ぐ者がまとめてなぎ倒された。
最大の奥義で勇者の最強の技をも打ち負かした大魔王が高らかに笑う。
勝ち目はなく、勝敗は決したかと思われた。
絶体絶命の状況でも立ち上がったのは勇者の相棒――大魔道士。
仲間が生命をかけて衝撃波の壁を破り、大魔王に奥義を使わせる。
再び天地魔闘の構えをとらせることに成功したポップは挑発し、最大の賭けに出た。
普通に攻撃すれば勝てるが、大魔王は奥義への絶大な自信から挑発に乗り、攻撃を待ち受ける。
『魂などでは余は殺せんっ!』
絶対的な確信に満ちた言葉とともに。
掌撃で弾かれた己の呪文と大魔王の火炎呪文が直撃した少年の口元に、してやったりと言いたげな笑みが浮かぶ。
『はね返せええっ!』
互いに認め合った好敵手、白銀の騎士シグマが託した鏡。
それが迫り来る呪文をはね返した。
業火に包まれながらも大魔王は気力で炎を吹き飛ばした。
『この大魔王バーンをなめるでないわーっ!』
飛来する斬撃を防ごうと拳を振りかざすが、すでにダイが走りこんでいる。
大魔王を倒すために編み出され、最高の好敵手――ハドラーに披露した必殺技を放つために。
『ストラッシュ、X!』
ダイとポップ、勇気と知謀が最強の奥義を破り、大魔王の片腕を奪った。
剣で心臓を貫き、体内に雷を流しこむダイをバーンは諭した。無駄な戦いを止めるために。
地上の消滅を告げられた少年の表情がゆがむ。
『チェスでもそうだが……真の勝者は最後の一手を決して悟られないように駒を動かすものだ』
だからこそ、大魔王は己をも駒の一つとみなし、強者を引きつけた。計画を確実に成功させるために。
ダイが戦いを始めたのは、大魔王を殺すためではない。
地上の平和を守るためだった。
守るべき対象が消えることを知らされ、気力を失い、涙を流すダイ。悲痛な叫びを上げる親友。
二人に穏やかな――優しささえ感じさせる言葉が浴びせられる。
『泣くな……お前たちは本当によく戦った』
やがて、闇の中から宿敵の声が響いた。
冥竜王ヴェルザーの声だ。
両者は敵対する間柄だったが、根底に流れる想いは同じだった。
『神々が憎い! 地上の人間どもにのみ平穏を与えた奴らの愚挙が許せぬっ!』
彼にとって人間は憎悪の対象ではない。憎悪は対等かそれ以上の相手、己に近い存在に抱くものだ。
彼が憎むのは魔界に押し込めた神々であり、地上の存在を邪魔に思っている。
人間の狭量さや脆弱さを軽蔑していても、強者であれば認める。
『ありがとう……!』
祝辞を述べた宿敵へ礼を告げた青年の面に勝ち誇った笑みが浮かぶ。
地上の運命は決定したかと思われたが、まだ希望の灯は消えていなかった。
幼い頃死について考え、怯えた少年にかけられた母の言葉。彼女は穏やかに人間の生き様を説いた。
『人間は誰でもいつかは死ぬ……だからみんな一生懸命生きるのよ』
勇気を司る使徒が不屈の闘志をみなぎらせながら立ち上がる。
『結果が見えたってもがきぬいてやる! 一生懸命生き抜いてやる! 一瞬……だけど……閃光のように! 眩しく燃えて生き抜いてやるっ!』
大魔王を相手に啖呵を切った彼の勇姿が、ダイに力と勇気を与え、立ち上がらせた。
『最高の友達、ポップ……君に出会えて……よかった!』
固唾を呑んで見守っていた魔族の胸に経験した事のない感情が湧きあがる。胸の内がかき回されたかのように様々な想いがめぐり、言葉にならない。
(なぜだ……! 私の心は何に揺らされているというのだ!?)
『心を一つに……世界中の人々の心を一つにできたら』
少年は幼少からの友に願いを告げ、小さな守り神は最期の力で願いを叶えた。
かつて友を売り飛ばそうとした小悪党が世界を救う鍵となる。
『こんな北の果てにもちゃんと勇者サマはいるから安心しろいっ! ……ニセ者だけどなあっ!』
間一髪、爆発は防がれ、大魔王は沈黙した。
が、鋭気に満ちた眼差しで三人を睥睨する。
『うぬらの人生は一瞬! だが余には永遠の生命がある!』
計画を止められたのならばやり直せばよい。邪魔者を全て殺し、今度こそ成し遂げるだけだ。
永遠と閃光。両者が相容れることはない。
とうとう勇者が決断を下し、大魔王の掲げた正義を叩き返す時がきた。
『こんなものが正義であってたまるかっ!』
振るわれる拳。
流れる涙。
衝動のままに襲いかかる魔獣となっているはずなのに、激しい痛みが伝わってくる。
いまだかつて誰も経験した事のない猛攻を浴びながらも大魔王は踏みとどまった。
『余は大魔王バーンなり!』
頂点に立つ者の意地がある。弱肉強食の世界で培われた信念がある。
彼が彼であるために、退くわけにはいかない。
勇者と同じく大魔王も選んだ。
勝利のために、大魔王バーンの偉大なる名を守り通すために、全てを捨てることを。
少年は、本来の身体を捨て自ら封じていた力を使った敵に、父から継いだ剣で斬りかかる。
この一撃で太陽になることを決意して。
『太陽になってみんなを天空から照らすよ』
(……太陽?)
永遠の存在。
大魔王が求め続けた対象。
父の魂をもこめた一撃は届かず、力つきそうになったダイの脳裏によみがえったのは。
苦境にある勇者に再び力と勇気を与えたのは、親友の言葉だった。
『閃光のように!』
ダイの身体が太陽のような閃光に包まれる。
太陽と閃光。
手の届かない存在と近い存在という違いがある。
だが、どちらも他者を照らすものだ。
(眩しい……)
光に見とれたかのように大魔王の面からあらゆる表情が抜け落ちた。
果たせぬ夢を具現化した玩具と同様、真っ二つに切り裂かれた大魔王へとダイが別れを告げる。
『さよなら……! 大魔王バーン!!』
力こそ全てという己の正義を最後まで貫き、全ての力を出し尽くして命を落とした大魔王。
太陽を渇望した彼の亡骸は太陽へと消えた。
地上に帰還した勇者は、相棒からの問いにわずかな笑みとともに答えた。
『バーンは……大魔王バーンは倒れた』
(父を倒した、ではなく――父は“倒れた”と――)
言葉に込められた想いを感じ、身を震わせる。
彼女はダイとバーンに似通った部分があると思っていた。
死闘を目にする中で、強者の孤独や勝利のために己の存在を捨てる覚悟こそが共通していたのだと思った。
(それだけなのか?)
親友の言葉が浮かばなければ、ダイは力尽きていたかもしれない。
光に見とれなければ、バーンに隙は生じなかったかもしれない。
すべてを捨てたはずの両者は、どちらも心を残していたのではないか。
その心こそが勝敗を分けたのではないか。
ダイを倒すことだけを目的としながらも、彼はあの瞬間、数千年かけて求めてきたものに想いを馳せたのかもしれない。
『魔界に太陽をって考えが間違ってンだよ』
『生きとし生ける者には、太陽が必要なのだ……!』
光と闇が視界を駆け巡り、最後に見えた光景は黄昏だった。
大魔王は満足気に微笑を浮かべ、希望に溢れた言葉を口にした。
『明日の……あの太陽は魔界を照らすために昇る』
夕陽の鮮やかな紅が胸の内を染め上げていく。炎を抱いたかのように熱くなる。
「と――父、さ……」
父の最期を知った魔族の眼から滴が落ちた。
美化も風化もない、克明な姿。
二度と目にすることはかなわない相手と巡り合うことができた。
記憶の回廊の中で。
誰よりも近い場所で。
再会した相手に触れようとするかのように、記憶の彼方の像へ震えながら手を伸ばす。
激戦の只中――生と死の狭間に在る王は恐ろしく、強く、輝かしい存在だった。
敗れてもなお、大魔王バーンは彼女にとって偉大な王でありつづける。
血の流れる唇がゆっくりと動く。
「我が名は――」
名は“照らす”という意味の語からとられた。
情を見せず、親子らしい交流などなかったが、血のつながりを示す証はそれだけで充分だった。
信念と信念、正義と正義のぶつかりあった戦いが魂を深く揺り動かす。
その奥から湧き上がる激情が身体を震わせた。
『なぜ私はこの眼をもって生まれてきた……? この力は何のためにある』
今この瞬間、彼女は心から力を欲していた。
敵を滅ぼすためではなく、夢を叶えるために。
力を手にしてもさらに強い者がいる。同じことの繰り返しになるかもしれない。
それでも、この道を選んだからには歩み続けるだけだ。
己の父を奪い、父が家族を奪った少年へのわだかまりや心に渦巻いていた感情。それらを超えて衝動が湧きあがる。
大切な何かを守らねばならない、と。
方向によっては欲するものを手にするために世界を焼き尽くし、勝利のために魔獣となりかねない欲望。
しかし、それは見方を変えれば強い想い、すなわち現状を変えようとする意志と言える。
「負けぬ……負けるわけにはいかぬっ!」
「回想すりゃ、叫べば強くなれんのか?」
絞り出された叫びを第三勢力は嘲った。
「想いの強さでどうにかなるなら、地上はとっくに消し飛んでらァ!」
青年は魔物たちに指示を出し、一斉に襲わせる。
「人間が成長(しんか)するならば、私も――」
飛躍的に力を伸ばすことができるのは人間や竜の騎士に限った話ではない。魔族にも眩しく生きる者はいる。
一人で望むだけでは扉は開かなかった。
だが、紋章が伝えた記憶によって――ダイとの出会いによって強さの在り方や成長の道程が実体を得た。
彼女の知る力と、今まで知らなかった力。双方が交差し、道を指し示す光となる。
父から受け継いだものは何か。他者から受け継ぐべきものは何なのか。
イルミナが顔を上げ、集団を睨み据えた。
閃光。
カツンという固い音が重なり合うように響いた。
額の眼から光が走ると、距離をつめた魔物達はことごとく球体と化し、床に落ちたのだ。
第三の眼――鬼眼には今までにない光が宿っている。
魔の血脈が、今覚醒した。
289 :
顕正:2009/10/10(土) 18:26:46 ID:XwIjFFaG0
以上です。
規制その他で遅くなってしまいました。
前回の「機械仕掛の神〜」の台詞は『からくりサーカス』のアルレッキーノの言葉に影響を受けています。
彼の最期にとても感動しました。
『ダイの大冒険』だけでなく『うしおととら』や『からくりサーカス』も大好きです。
290 :
ふら〜り:2009/10/10(土) 20:31:37 ID:lSGW0Bqa0
>>サマサさん(エヴァに赤木に、小ネタが楽し♪)
最後の最後にきてミーシャがやりましたねぇ。今まで本っっ当に活躍・見せ場が乏しかった、
たまにあってもほぼ毎度ギャグが付随してた彼女が。そんなミーシャとは逆に、ここで遊戯・
海馬と肩を並べて活躍しない(できない)城乃内が、何だか絶妙に彼らしいなぁと思ったり。
>>顕正さん(規制でしたか! 今まで幾度も、何人もの職人さんが難儀させられましたよねぇ)
原作最大の名場面(の連続)を経て、偉大な父をもつ者同士の共感、そして時を越えて親から
子へと受け継がれる誇り高き魂……壮大な時間でした。バーン本人がダイの仲間に、だと燃え
と萎えが同居してしまいますが、こういう形ならOK! バーンの力での反撃、これは楽しみ!
>>顕正さま
ぐあ〜、原作のシーンがいちいち脳裏に蘇って滾った!
覚醒イルミナに期待してるよ!
おお顕正さんお久しぶりです!
ダイとイルミナの同じ哀しみ持ったもの同士の
奇妙な友情がいいですね。
2人とも偉大な父親をもってるからなー
顕正さん復活おめ!
今回はいつもにもましてボリュームがありましたね
原作に対する愛をひしひしと感じますよ
とある昼下がり。
正義のヒーロー・天体戦士サンレッドがフロシャイム川崎支部のアジトへ足を運んだ。
そう、彼は遂にフロシャイム殲滅のために動き出した―――はずもなく、単に昼メシをたかりに来ただけである。
そして今日のTシャツは<決闘王>だ。
「おーい、ヴァンプ〜…あん?何だよ、いねーのかよ、おい」
サンダルを脱ぎ捨てて、ずかずかと廊下を進む。悪の巣窟へ潜入したヒーローとはもっと緊迫感溢れるものだとは
思うのだが、レッドさんはこういう御方である。御了承下さい。
そんな彼の耳に、居間から楽しそうな声が聞こえてきた。訝しげに覗き込むと、そこには。
「じゃ、私のターンいくよ!<伝説怪人ペリアル>を召喚して攻撃!」
「うわっ、また負けちゃった!」
「ヴァンプ様つえ〜!三連勝じゃないっすか」
「いやー。まぐれだって、まぐれ」
何かのカードを手にして遊ぶ、我らが悪の将軍・現在バキスレで最も上司にしたい漢(おとこ)と噂のヴァンプ様と、
彼の配下の怪人達の姿があった。
「…何やってんだ、お前ら」
「あ、レッドさんじゃないですか。こんにちわー」
「挨拶はいいからよ。何だよ、それ」
「これですか?」
ヴァンプ様はニコニコしながらカードを手に取り、レッドに見せつけた。そして悪モードに入る。
「ククク…これこそは我らフロシャイムが開発した最新カードゲーム<バトルクリーチャーズ>!これを大々的に
売り出して、資金源にするつもりだ!恐れ入ったか、サンレッド!フハハハハハ!」
「モロにパクリじゃねーか、アレの」
レッドさんの反応は、いささか冷ややかであった。
天体戦士サンレッド 〜悪夢の遊戯!苛烈なる死闘
「大体なあ」
レッドはヴァンプ様お手製のオムライスをパクつきながら、説教を開始する。
「お前ら悪の組織なんだろ?何を真っ当に商売なんかしてんだよ。悪なら悪らしく、金がいるんなら銀行強盗でも
すりゃいいじゃねーか」
「もう、レッドさんったら。いくら<悪の組織>だからって、そういう悪は許されませんよ。警察に捕まっちゃうじゃ
ないですか」
「逮捕されるのを心配する悪の権化なんざ聞いたことねーよ…それでこんなモン開発してりゃ世話ねーな」
「まあまあ、そんなこと言わずに。レッドさんもちょっとやってみませんか?自分で言うのもなんですが、面白い
ですよー、バトクリ。ちなみにパック一つに付き十枚入り、三百円です」
「もう略称付けてんのかよ…」
相変わらずニコニコしながらカードを差し出すヴァンプ様に、レッドはウンザリしつつもそれを受け取った。
「ったく、じゃあちょっとだけだぞ?つまんなかったらさっさと帰るからな」
邪険にしつつも付き合ってあげる辺り、レッドさんも立派なツンデレである。
「じゃ、ルールの説明しながらやりましょうか。カードは大まかに分けると、相手と直接バトルするキャラカードと、
その戦闘を補助するサポートカードがありましてですね…」
「ほーお。それで?」
ヴァンプ様の懇切丁寧な解説により、レッドはバトクリのルールを把握していく。そしてルールが分かれば実際に
やりたくなるのが人情というもので、素っ気なかったレッドも今では興味津々でカードを眺めていた。
「―――と、まあこんな感じですね。とりあえずカードは好きに使ってくださって結構ですんで、実際にデッキを
組んで一勝負してみましょうか」
「おう!…しかしこのカード、どっかで見たような絵柄ばっかだな」
「ええ。フロシャイムから売り出すゲームですから、大概はウチにちなんだ怪人やヒーローで作ってるんです」
「ふーん。おっ?俺のカードもあるじゃねーか。よし、コイツは入れとかねーとな…おっしゃ、早速やろうぜ!」
「はい、それじゃあ始めますよ…<死闘(バトル)>!」
号令と同時に互いにカードを引き、闘いが始まった。激しい攻防が幾度となく繰り返されたが、最後はヴァンプ様
が一日の長を見せて、見事勝利をもぎ取ったのだった。
「あー、チクショウ!もう一回だ、もう一回!」
負けたものの、どこか楽しそうなレッドさん。覚え立てのゲームというのは、勝敗抜きに楽しいものである。
「ははは、いいですとも。何回でもやりましょう」
ヴァンプ様も気軽に答えて、デッキをシャッフルする。こうして何の変哲もない、和やかな時間が流れていった。
―――だが、それもレッドが五連敗を喫した辺りから、風向きが怪しくなってきた。
「え…えーと…私のターン…<カーメンマン>と<メダリオ>で連携攻撃<ツイン・デスアタック>を発動して、
レッドさんのフィールドにいる<天体戦士サンレッド>を攻撃…レッドさんのライフは0で、私の勝ちです…」
勝利宣言しながら血の気が引きまくりのヴァンプ様。対して、青筋をこれでもかと浮かべたレッドさん。
「ちょ、ちょっとヴァンプ様!まずいですよ、ここら辺でレッドを勝たせてあげないと…」
戦闘員1号がヒソヒソと耳打ちするが、ヴァンプ様は青い顔で首を振るばかりだ。
「しょうがないでしょ。さっきわざと負けようとしたら<何手抜きしてんだコラァ!>って怒鳴られたじゃん!」
ドンッ!と机をぶっ叩く音に、フロシャイム一同は身を縮ませる。レッドは幽鬼の如く陰鬱なオーラを出しながら
立ち上がり、ボソっと呟く。
「…帰るわ」
「あ、そ、そうですか!いやー、何のお構いもせずに…」
「いやいや、いいってことよ。それでヴァンプ、次の対決だけどよー、是非そこの二匹で頼むわ」
「お、俺らっすか?」
カーメンマンとメダリオは、冷汗をダラダラ流しながら自分の顔を指差す。
「おう。お前らのツイン・デスアタックっての、どーしても見たくなってなー。俺を問答無用でブチ殺せるすげえ
必殺技なんだろ?楽しみにしてっからな。じゃ、また今度」
ドスドスと威圧感たっぷりの足音を響かせ、レッドさんは帰っていった。残されたフロシャイムの皆様は、異様
に気まずい空気の中、茫然と顔を見合わせる他なかった…。
―――後日の対決において、カーメンマンとメダリオのコンビは、レッドさんにいつもより念入りにボコられたと
いうのは、また別の話である。合掌。
それはさておき、一ヶ月後。バトルクリーチャーズは若者を中心に大流行していた。
その一例として、とあるごく普通の高校の、朝礼前の一幕をお見せしよう。
「へへー。見て見て、カナちゃん」
「どれどれ…うっそー!これ、百パックに一枚の封入率と噂の<ウサコッツ>ラメ入りキラカードじゃん!」
「なに!?おい、ちょっと触らせてくれよ!」
「ダーメ。見るだけだよー」
珍しいカードを手に入れた者は羨望の的となり、ちょっとした英雄気分が味わえる。
「風間、俺と勝負しようぜ!今日はギョウ先輩を中心に<ウザい先輩デッキ>を組んだんだ」
「うん、いいよ。今日の僕は飛行系の怪人を集めた<フロシャイム翼の会デッキ>さ」
実に数千種類と言われるカードの中から、日々新たなデッキを組み、勝負に勤しむ者もいる。
そんな教室の中央で、歓声が上がった。どうやら相当にレベルの高いゲームが繰り広げられているようだ。
「あそこ、盛り上がってるねー」
「ホント。そんなにいい勝負なのかしら…って、アレ、ソースケじゃん!」
<カナちゃん>と呼ばれた女子―――本名・千鳥かなめは、中心にいる鋭い眼光の男子生徒を見て目を丸くした。
彼の名は相良宗介。この学校である意味最も面白い男であり、ぶっちゃけボン太くんの中の人である。
「あいつもバトクリやるんだ…にしても、そんなに上手なの?」
「相良くんはどうか知らないけど、相手の人は隣のクラスの貝馬(かいま)くんだよ。ゲームが物凄く上手くて、
エンペラーって呼ばれてるんだって。バトクリも相当にやってるそうだけど…」
「へえー。あ、ソースケのカードがやられちゃった。こりゃ負けたわねー」
クラス中の注目が集まる中、貝馬は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ワハハハハハ!オレのフィールドには<アントキラー><モギラ><モゲラ>が揃っている!対して貴様の
場にいるのは役立たずの<セミンガ>のみ!貴様はもう終わりだぁぁぁぁぁっ!」
「うわ、テンション高っ!何あれ…」
かなめがドン引きするほどハイテンションの貝馬に対して、宗介は静かに言い放った。
「獲物を前に舌舐めずり…三流のやることだな」
「なに!?」
宗介はデッキからカードを引き、悠然とそのカードを示した。
「俺の引いたカードはサポートカード<脱皮>!これを発動し、<セミンガ>を墓地へ送る!そして俺の手札から
<完全体セミンガ>を召喚!」
「な…<完全体セミンガ>だとぉっ!条件こそ厳しいが、召喚に成功さえすれば他を寄せ付けぬ圧倒的な力を誇る
飛行系怪人最強のレアカード!そんなカードを持っていたのか!」
「このカードにより<セミンガ>はパワーを大幅に上げ、更に飛行能力を得た!対して貴様のフィールドには砂系
怪人のみ!よって<完全体セミンガ>は一方的に貴様を攻撃できる!」
「バカな…!バカなぁぁぁぁぁっ!」
<セミンガ>の直接攻撃により、貝馬くんのライフは0になった。宗介の勝利である。
「―――更に俺は場に伏せておいたサポートカード<サンレッドの説教>を発動!これは相手プレイヤーへの
直接攻撃に成功した時に発動可能で<完全体セミンガ>はもう一度攻撃の権利を得る!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!」
「更に手札から…」
「いい加減にせんかぁっ!」
スパーン!と後頭部をハリセンで叩かれた。
「もうやめなさい!貝馬くんのライフはもう0よ!」
「痛いぞ、千鳥。戦場において敵の生死の確認を怠れば、後々非常に面倒な事に…」
「あんたが言うと説得力ありすぎだけど、ここは学校であって戦場じゃないっつーの!」
ちなみに貝馬くんは魂を抜かれたように真っ白になっていた。よっぽど敗戦がショックだったらしい。
「全く、あんたってば…それにしても、随分バトクリやり込んでるみたいじゃない。こんなのに興味あったなんて
意外ねー。あんたもそれなりに現代社会に馴染んできたってトコ?」
何気なく宗介のデッキを手に取り、パラパラと眺めるかなめ。次第にその顔が強張ってくる。
「ちょ…これ、レアカードばっかじゃん!各種キラカードに…うわっ!<ムキエビ先輩・天ぷらバージョン>!?
未だ誰も見たことがない、実在すら疑われているという伝説にして幻の!あんた、どんだけハマってんの!?」
「いや…俺も最初はあくまで任務の為に、調査をしているだけのつもりだったんだ。それがいつの間にか、全ての
カードを集めなければ気が済まなくなってきて…気付けば、五百万円ほど浪費してしまった」
「ごひゃくまん!?あ、あんたねえ…」
かなめは呆れ果てていたが、その事実に戦慄したのは当の宗介自身である。
(何という恐ろしい発明をしたんだ、フロシャイムめ…!自らの広報活動と資金の調達、更には敵となり得る者に
対しての、資金面からの攻撃…これら全てを同時に行うとは!俺は…そしてミスリルは、とてつもない相手を敵に
回してしまったのかもしれん…!)
その一方で、彼はこうも思うのだった。
(しかし、それは別として面白いな、これは…今度クルツとマオにも勧めてみよう)
<ミスリル>でバトクリが大流行する日は、そう遠くはなかったという。
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
投下完了。サンレッドネタです。
今回の話は、もしフロシャイムがカードゲームを売り出したら…というもの。
ぶっちゃけ、遊戯王パロです。貝馬くんの元ネタは…言うまでもないでしょう(笑)
しかし軍曹は、すっかりレギュラーとして定着してしまいました。一回こっきりのゲストキャラの
つもりだったんだけどなあ…。ちなみに
>>珍しいカードを手に入れた者は羨望の的となり、ちょっとした英雄気分が味わえる
>>実に数千種類と言われるカードの中から、日々新たなデッキを組み、勝負に勤しむ者もいる
この辺りは僕の学生時代の実話だったりします。
>>278 サンホラーの方にも割と楽しんでいただけているようだったので、嬉しかったり。
Kのガンソ関連は本当に酷かった…。
>>279 恐らく51〜52話で本編終了、エピローグで2話ほどになります。
>>280 名物と言えるかどうかまでは分かりませんが、やはり長く書いてきたSSが終わるのは
自分でも感慨深く、寂しいものです。
>>ふら〜りさん
ミーシャはやっとこまともな活躍できて、作者としても胸を撫で下ろす思いです。城之内は…
序盤でやたら活躍したせいか、どんどん戦闘でいらない子に(笑)
300 :
作者の都合により名無しです:2009/10/14(水) 07:11:21 ID:odWDR2ve0
お疲れ様ですー
遊戯王SSとのコラボ?ですね。
レッドさんのヤクザっぷりが気持ちいいですw
あれ?相良宗介って聞いたことあるな
フルメタルパニック?
レッドさんの説教染みたところがすき
302 :
作者の都合により名無しです:2009/10/16(金) 12:54:50 ID:twTIXMXN0
サンレッドは確かアニメ第二シーズンやるよね
SSともにこっちも楽しみ
鉄拳と刃牙のクロスオーバーを描きたいと思っている
バトルシーンONLYでかなり厨二病要素が入るがな…
鉄拳ってゲームの奴かな?
面白そうだな
305 :
作者の都合により名無しです:2009/10/19(月) 18:31:33 ID:2F8siGbH0
厨二の需要をなめるなよ。俺は楽しみだぞ!
個人的にソウルキャリバーの方が・・・( 0M0)
おっさんの俺はストリートファイターがw
308 :
ふら〜り:2009/10/19(月) 20:53:23 ID:SKRDPHzJ0
>>サマサさん(バキスレでの描写から考えてというなら、私は海馬の部下・兵士Aを希望)
今までさんざん、ミスリルの対象外だの何だの言ってきましたが、まさかの大逆転(するかも)
ですな。宗介がここまでハマってるなら戦隊長様も手を出すだろうし、そうなりゃ彼女のファン
も……で資金面の攻撃成功。いやいや見直した、まさかこんな手で。フロシャイム侮り難し。
>>303 ぜひにぜひに! 思い起こせば私も昔、勇次郎vsギース様とか描いたものです。
>>海馬の部下・兵士Aを希望
悪いことは言わん、それだけはやめとけふらーりさんw
海馬コーポレーションは激烈ブラック企業だぞ
サナダさんはもう帰ってこないのか
第四十八話「The God Of Death」
その瞬間、天地が鳴動する。大地が揺らぎ、天に黒き雷光が迸る。
「な、なんだ!?」
「―――いかん!」
エレフが飛び起き、天を睨む。
「タナトスは私の中から出ていっただけだ…奴はまだ生きている!」
そして一際激しい雷鳴と共に、漆黒の雷が天を切り裂いて大地に突き立つ。否―――それは雷ではなく、先刻エレフ
の身体から脱け出ていった、あの黒い瘴気だ。
それはもぞもぞと不気味に蠢きながら、次第に形を成していく。
細胞が生じ、心臓が脈打ち、血が湧き、骨が組み合わさり、臓物が収まり、肉が覆い、皮膚が張り巡らされ―――
彼が、その真の姿を露わにした。
闇そのものを具現化したような、黒のローブ。そこから覗くのは、枯れ木のように細い木乃伊の如き指先。
その静謐に整った面立ちは、異様なまでの血の気のなさと相まって、さながらよく出来た彫像のようだ。
人間達に死を告げる紫の瞳は、妖しいほどに美しく輝いている。
彼こそが亡者達の王―――冥府の支配者―――死を司る神―――冥王タナトス。
タナトスは肩で息をしながら、信じられないとばかりにただ茫然と呟く。
「バカナ…何故、コンナ事ガ…」
「バカでも何故でもねえよ…当たり前だろうが!」
城之内がタナトスに向けて指を突き出し、吼える。
「兄貴ってのはな―――弟やら妹やらのためなら、なんだって出来るんだよ!」
「その通り!このバカのシスコンっぷりを計算してなかったみてえだなぁ、神様よぉ!」
オリオンも城之内に続けて叫ぶ。エレフはそれを苦々しい顔で横目にしながら呟く。
「誰がシスコンだ…誰が」
「貴様に決まっておろう。しかし、女…」
海馬はエレフの背後に立つミーシャを眺めた。その目には、僅かだが、賞賛の色がある。
「クク…ようやく凡骨レベルというところか」
「…褒めてるのかしら、それ…?」
ミーシャは釈然としなかった。ある意味城之内に対しても失礼である。
「エレフ…」
レオンティウスが、エレフの名を呼ぶ。エレフもレオンティウスを見つめ返した。
「…色々話したいことがある。だが、今は―――」
「分かっている」
エレフは黒い双剣を構え、レオンティウスは雷槍を構えた。そうして二人は、並び立つ。
「全ては、この闘いが終わってからだ…それでいいだろう」
「ああ」
タナトスはそれを見据え、唇を噛み締める。
「エレウセウス…我ガ器ヨ…今一度、我ガ手ニ戻ルガヨィ!」
いつの間にかタナトスの両手には、漆黒の大鎌が握られていた。尋常ではない重さのそれを小枝のように投擲する。
音を置き去りにして迫る二つの大鎌。エレフはそれを軽々と弾き落とす。
「…ェ」
ただそれだけのやり取りだったが、タナトスは明らかに動揺していた。唇が微かに震えている。
「今ノハ…マサカ…」
「?どうしたんだ。何だかびびってやがるぞ」
「…皆。下がっているんだ」
エレフが一歩、前に出る。
「奴とは、私がケリを付ける」
「な…エレフ、あいつを甘く見るな!俺達が全員でかかっても、まるで相手にならなかったんだぜ!?」
「大丈夫だ、オリオン」
エレフは、自信ありげに笑った。
「今まで、私が一番楽をしていたからな…後は、任せておけ」
「けどよ…」
「大丈夫だ」
そう、繰り返した。
「先の一撃で分かった。今の私とタナトスなら、私が勝つ」
言うが早いか地を蹴り、神速と化して狼は死神に迫る。
「ハァッ!」
気合と共に振り下ろされた剣は複雑な軌跡を描き、タナトスの全身を斬り裂く。
「…チッ!」
タナトスは呻きながら飛退き、黒き刃から逃れる。その傷は既に回復を始めているが、明らかに今までよりも遅い。
額から滴り落ちる血を手で拭い、タナトスはその顔を歪める。
「お、おい。エレフの奴、あんなに強かったのかよ…」
「違う」
レオンティウスがその疑問に答えた。
「イリオンで私と闘った時とは、明らかに動きが違う…エレフにあそこまでの力はなかったはずだ」
「…我ノ所為カ」
タナトスは息を乱しながら語る。
「先程マデ、エレフハ其ノ身ニ我ヲ宿シティタ…其ノ影響デ、彼ハ更ニ力ヲ増シタンダ」
「それだけじゃない」
エレフが引き継ぐ。
「自分でも分かっているはずだ。今のお前は、力を殆ど使い切ってしまっている」
「フフ…其ノ通リサ。ォ前ト引キ剥ガサレソゥニナル度、結合ヲ保ツ為ニ相当ノ消耗ヲ強ィラレタカラネ…我ナガラ
情ケナィ限リダ…<顔ガ濡レテ力ガ出ナィ>ソンナ気分ダヨ」
「ならば理解できるはずだ、タナトス」
エレフは切っ先を、タナトスに向けて突き付けた。
「もはやお前に勝ち目はない…ここまでだ」
「…………」
その宣告を、タナトスはどう受け止めたのか。彼は何も語らず俯き、身を震わせていた。
「けっ!どうした、散々いばっといて今更泣き事でも言う気か?それともこの人間風情がーとでも言いたいのかよ!
そんなザマで怒ろうがどうしようが、こちとらちっとも怖く―――」
「ハハハ」
城之内の悪態を遮るように、タナトスの唇から響いたのは笑い声。
それも自嘲の笑いだの、苦し紛れの笑いなどではない。
「ァハハハハハハハハハ!」
ただ、楽しいから笑う。愉快だから笑う。
そんな純朴なまでの笑顔で、彼は思うがままに笑っていた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ―――!
最高ダ!ヤハリ我ガ見込ンダ通リ、キミ達ハ本当ニ最高ダッタ!凄ィ、本当ニ凄ィ奴等ダ、キミ達ハ!」
「な、な、な、何だよ、これ…何で褒められてんだよ、オレ達…」
城之内は顔を引き攣らせ、だらだらと冷汗を流す。それは闇遊戯達も同じだった。
「ソゥカ…ヨゥヤク分カッタヨ!バカダ…キミ達ハバカナンダネ!」
タナトスは満面の笑顔と共に、そう言った。
「ソゥ…ソレモ半端デナィ大バカダ…ァァ…素晴ラシィ…ナント図抜ケタバカナノカ…!ダガ其レガィィ!勝算モ打算モ
何一ツ考ェズ、只管ニ己ノ信ズル道ヲ突キ進ミ、遂ニハ我ガ目論見ノ全テヲ打チ砕ィテミセタ!人間デァルキミ達ガ、
神デァル我ニ勝ッタノダ!正シク偉業…奇跡ト呼ンデモ過言デハナィヨ!嗚呼、我ハ今、猛烈ニ感動シティル!
嗚呼―――バカダ、バカバカ…最高ノ大バカ野郎共ダ!我ハキミ達ヲ心カラ尊敬シ、キミ達ノ前ニ跪ク!」
その眼から涙さえ零しながら、タナトスは歓喜に打ち震えていた。
「最高ダ…マサニキミ達コソハ人類バカ代表!我ニ欠ケティタノハ其レダ…本当ニ必要ダッタノハ器デハナク、キミ達
ノヨゥナ大バカダッタノダ!嗚呼、素晴ラシキ<偉大ナル可能性(グランディア)>ヨ!」
「うっ…!」
闇遊戯達は戦慄し、我知らず後ずさる。タナトスが自分達に襲いかかる気配はない。それどころか、彼からは自分達
に対する畏敬の念さえ感じられる。にも関わらず、かつてない程の恐怖が空間を支配していた。
「こいつ、どうかしてやがる…こんなんなら、ブチ切れてくれた方がよっぽどマシだったぜ…!」
城之内が冷汗をかきながら放ったその言葉が、全員の総意だった。
彼は―――<冥王>タナトスは、余りにも危険すぎる。
力や思想、そういった次元ではなく。その存在そのものが、果てなく禁忌。
最も忌まわしく、最も恐るべき神―――故に―――死神!
冥王―――タナトス!
「ヤリ直シダ!我ハ人間ヲ殺メル事デ運命カラ救ゥツモリダッタガ―――何ノ事ハナィ。運命カラ救ィタィノナラ、
話ハモット簡単ダッタノニ―――運命(ミラ)ヲ殺セバ其レデ済ム事ジャナィカ!」
運命を殺す―――そんな途方もない事を、タナトスはあっさりと言い放った。
「ソンナ事ニモ気付カナカッタトハ、自分ガ恥ズカシィ…穴ガァッタラ入リタィヨ!其レニ気付カセテクレタノハ、紛レモ
ナクキミ達ダ!キミ達ノバカバカシクモ勇気ニ満チ溢レタ行為ガ、我ノ目ヲ覚マシテクレタンダ!我モキミ達ヲ見習ィ、
バカニナロゥジャナィカ…万物ノ母ナル創造主…運命ノ女神<ミラ>―――我ハ彼女ヲ殺メ、残酷ナ運命ヲ破壊スル」
「運命を壊す…だと?壊してどうすんだよ。テメエが新しい運命の神様になろうってのか?とんだ冥王計画もあった
もんだぜ」
城之内の言葉に、タナトスは首肯する。
「フフ…其レモ又良キ哉。運命ノ白キ糸―――其ノ新タナル紡ギ手トシテ、人間達ニ不幸ト涙デナク、幸福ト笑顔ヲ
与ェ続ケル。願ッタ事全テガ叶ゥ、優シィ世界ヲ創ルノサ。嗚呼、素晴ラシィジャナィカ」
「ふざけるな」
海馬がそう言い放つ。
「不幸がなければ幸福もあるものか。涙なくして、笑顔などあるものか。願いが全て叶う世界など、何一つ叶わない
不毛の世界と同じだ。妄言もここに極まったな」
「妄言デモ妄想デモナィサ。キミ達ガ協力シテクレルナラ、不可能ナド無ィ」
そして死の神は人間達を見つめ、手を伸ばしながら微笑みかける。
「ソゥ…我ニハキミ達ノ力ガ必要ダ。我ト友達ニナロゥ。ソシテ我ト共ニ―――運命(ミラ)ヲ殺ソゥ」
伸ばした手。その指先がぱっくりと裂け、血が滴り落ちる。
カラン、カラン、カラン―――
その雫はタナトスの魔力によって固められ、真紅の宝石と化した。地面を転がりながら、紅の輝石は一同の足元へと
意志を持つかのように引き寄せられていく。
「サァ、受ケ取リ給ェ。ドレダケノ人間ガ求メタダロゥ―――紛ゥ事ナキ、神ノ血ダ」
「神の血…だと?」
「ソゥ。其レヲ手ニセント、或ル者ハ巨万ノ富ヲ捧ゲ、或ル者ハ己ノ命スラ賭シテ―――結局ハ誰モ、手ニスル事ハ
叶ワナカッタ神ノ力…」
タナトスは悲しむような、憐れむような声で語る。
「我ガ血ヲ口ニスレバ、其レガキミ達ノ物ダ」
「要するに…こいつを飲めば、強くなれるってのか?レオンやエレフみてーに…」
「ソンナ次元デハナィ。彼等ノ力モ確カニ神ノ血ヲ引クガ故ノ恩恵ダガ、残念ナガラ其ノ血ハ悠久ノ時ヲ経テ薄マリ、
弱クナッテシマッティル。純粋ナ神ニハ、トテモ及バナィ―――神ノ力トハ、斯クモ遥カ高ミニァル」
だからこそ、数多の人間が追い求めた神の力。それは例えば、あの赤髪の蠍のように。
其れを、惜しげもなく与えよう。だから。
「サァ…今此ノ時ヨリ、我々ハ友達ダ」
「―――バカめ」
海馬はそう言い捨てて、足を上げ―――神の血を、躊躇も忌憚もなく踏み付けた。
「貴様の血なんぞ、誰が飲むか」
「へっ…初めて意見が合ったな、海馬」
続いて、城之内が神の血を踏み砕く。
「俺は俺だ。神様なんて柄じゃないね」
と、オリオンも神の血を蹴り飛ばす。
「私に流れる血は雷神の血だ。それを混ぜ返すわけにはいかんな」
レオンティウスは丁重に神の血を手にしたかと思えば、あっさり投げ捨てた。
「ごめんなさい。私も、遠慮するわ」
ミーシャは足で砂をかけ、神の血を埋めた。
「もうこの身を、貴様の好きにさせてなるものか」
エレフは剣を振るい、神の血を粉々に斬り刻んだ。
「そういうわけだ…タナトス。こんなものは、オレ達には必要ない」
闇遊戯はもはや、神の血には目もくれなかった。
彼らは揃いも揃って―――神を容赦なく、冒涜した。そして、タナトスは。
「ソゥ、ソゥダロゥネ…キミ達ナラバソゥスルト、我ハ解ッティタヨ」
果たして彼は、まるで気分を害した様子もなく微笑みを絶やさなかった。
「ダケド我ハ我儘ナンダ…欲スルナラバ、力尽クデモ奪ィ取ル」
タナトスの指先が、複雑な印を結ぶ。膨大な魔力が迸り、邪気が噴き出す。
「な…何だ!?」
「来タレ…永遠ノ魔術師ガ記セシ<否定接続詞デ綴ジタ書物><黒キ女神ヲ宿ス禁書>―――」
黒い風が吹き抜けた。空中に亀裂が走り、そこから何かが飛び出してくる。
「…本?」
「其レハ存在シテハナラナィ書物。全二十四巻カラ成ル黒ィ表紙ノ予言書。或ル種ノ整合性ヲ持ツ歴然トシタ年代記。
有史以来ノ全テヲ網羅シタ記述ハ遥カ未来ニマデ及ビ、地平線(セカイ)ヲ余ス事ナク支配スル。
何時ノ頃カラカ、其レハコゥ呼バレル事ト為ッタ―――」
「黒キ予言書―――<ブラック・クロニクル>ト!」
合計二十四冊に及ぶ黒い書物はふわふわと宙に浮かび、不気味に佇んでいる。それを見つめる者達の脳裏に向け、
鮮烈なイメージが叩き付けられた。
それは少女。
黒い服と黒い髪、身震いするほどに美しい少女だ。彼女は艶然と微笑む。小さき者達を憐れむように、嘲るように。
「天地ノ開闢カラ終焉マデヲ網羅シタ年代記。其ノ最後ハ、黒キ獣ガ世界ヲ蹂躙シ、歴史ハ闇ヘト葬ラレル」
そしてタナトスは、朗々と謳い上げる。
「我等ハ書ニ拠リテ祝福ヲ約サレシ者―――我等ハ書ニ拠リテ断罪ヲ約サレシ者―――
数多ノ記憶―――歴史ヲ呑ミ込ンデ―――猶、書ノ魔獣ハ止マラナィ―――
其レ即チ―――光ヲモ逃ガサヌ暗黒ノ超重力―――其レ即チ―――時ノ歩ミヲモ赦サヌ暗黒ノ反重力!
<唯一神(クロニカ)>ヨ―――今キミガ望ムナラ、歴史ノ地平マデ逝コゥ!」
其れは地平線を奔る奔る―――其れは際限なく猛る猛る―――其れは全てを屠る屠る!
暴風のような狂気が黒き書物―――<ブラック・クロニクル>から迸り、タナトスに力を与える。
黒き書が一斉に開き、ぱらぱらと頁が風に舞って散らばっていく。
視界を埋め尽くすのはただ、黒い文字で記された記述―――
―――気付けば闇遊戯達は、暗闇の中にいた。否。そうではなかった。
それはただ、黒。
闇ですらない、純潔にして純血なる黒。
あらゆる存在を呑み込む黒。
万物を己の色へと塗り潰す黒。
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
クロが全てを呑み込み、支配する!
「何だよこりゃあ…タナトス、何処にいやがるんだ!」
「此処サ」
その声は極めて近く、且つ限りなく遠くから聴こえてくる。
「全テヲ喰ラゥ絶対ナル<黒>コソガ<ブラック・クロニクル>ダ。其レト融合シタ我モ又、黒―――ソゥ。キミ達ヲ包ム
黒、全テガ我ダ。数多ノ世界ト歴史ヲ呑ミ込ンダ<魔獣>ト、我ハ一ツニ為ッタ」
「よく分かんねえけど…要するに、これがテメエの奥の手ってわけか!」
「ソゥ。今度コソ最後ノ勝負ダ、死セル者達ヨ。キミ達ガ勝テバ、我ハ計画ノ全テヲ諦メヨゥ…但シ」
我ガ勝ッタナラ。
「其ノ時ハォメデトゥ…晴レテキミ達ハ、我ノ友達ダ」
投下完了。前回は
>>276より。
これにて真・ラスボス登場。今回はもううっかり
「コレガ<ブラック・クロニクル>ノ鬼械神(デウス・マキナ)<魔獣(ベスティア)>ダ!」
とか書いちまわないように自制心をフル稼働させました。
サンレッドネタも一本書いたので、今日中に投下すると思います。今回は秋らしくしっとり系で。
>>300 いやいや、これでもレッドさんの所業としては相当ぬるい方ですw
>>301 はい、フルメタです。レッドさんの説教は原作でも鉄板のネタ。
>>302 期待を裏切らないハイクオリティにテンション上がりっぱなしです。
>>ふら〜りさん
ミスリルでは数週間後には
「マオ姐さん、俺のデッキどうよ?」
「全然ダメねー。こんなんじゃ今度の第一回艦内バトクリ大会(戦隊長主催)じゃ勝ち抜けないわよ」
「ふ、優勝は俺の<アニソルデッキ>に決まっているがな」
こんな会話が日常的に交わされているとかいないとか。
しかし
>>309の方もおっしゃっているように、社長の部下だけはやめて下さいw
どうしてもというなら人生棒に振る覚悟をしてから。
サマサさんお疲れです〜
いよいよラスボス登場ですな。死の神だけあってスケールでかい。
素晴らしきバカたちがどう対抗するか楽しみです。
グランディアというとゲーム思い出すなw
今月中で終わりそうだ。寂しい。
最終決戦とエピローグ楽しみにしてます。
「おい、ヴァンプ。何してんだよ」
悪の組織フロシャイム・川崎支部。そのアジトへメシをたかりにやって来た正義のヒーロー・天体戦士サンレッドは、
居間で佇むヴァンプ将軍を訝しげに問いただす。
「あ、レッドさんじゃないですか。いやね、押入れを掃除してたら、こんなのが出てきたもので」
ヴァンプ様は、一冊のアルバムを手にしていた。
「私の高校時代のなんですけど、懐かしくてついつい見入っちゃいました」
「ほー、お前の高校時代ね…なんか、想像できねーなー。ちょっと貸してみろよ」
「はい、どうぞ」
パラパラとページを捲り、レッドはブハっと吹き出す。
「おいおい、お前ってば本当に学生服着ちゃってるじゃねーか!ブレザーだし、ネクタイだし!」
「そりゃー私だって高校生だったんです。学生服くらい着ますよ」
「けど、今のお前を知ってる俺からすれば違和感がすげーよ…」
「ははは。おっ、この二人は私の親友だった匠と純です。懐かしいなー、今頃何してるんだろ…」
「ふーん。しかしお前、男友達はこいつらしかいなかったのかよ。他の男の写真が全然ねーぞ…いや、一枚はある
けど誰だよ、この江○島平八のパチモンみてーなジジイは」
「あ、校長です。ちなみに男友達はこの二人だけでした」
「どんな高校だよ!つーか結局友達ほとんどいなかったのな!」
「いやー、あの頃の私は友達は少ないくらいの方がカッコイイなんて思ってまして…若気の至りですよ」
ヴァンプ様は遠い目で、己の過去を見つめていた。
「ほんと、あの頃の私はガムシャラでしたね…修学旅行の沖縄で巨大ハブと死闘を演じたり、街を支配する番長達
と拳で語り合ったり…」
「嘘くせーな、おい」
「ほんとですって」
「ま、どーでもいいよ、そんなん…おっ。何だよ、この女の子は。やたらお前と一緒に写ってるけど、まさか彼女か?
すっげー可愛いじゃねーか。お前もスミに置けねーなー、このこの」
「あ…」
ヴァンプ様は一瞬、言葉に詰まる。
「おいおい、急に暗い顔すんなよ…もしかして悪い事訊いちまったか?」
「いえ…そんな事ないですよ」
コホン、と咳払いするヴァンプ様。その目は、写真の中の少女に釘付けになっていた。
ショートカットがよく似合う、太陽のように眩しい笑顔を浮かべた少女。
「この子は、私の幼馴染だったんです…小さい頃から、ずっと一緒でした。けど…」
「けど、何だよ。フラれたのか?」
「いえ…そうじゃありません」
ヴァンプ様は、どこか後ろめたそうに顔を伏せた。
「私は彼女の想いに、応えてあげられなかったんです…私は恋より、夢を追いかける道を選んだから…」
「…そうか。よく分かんねーけど、蒸し返さない方がよかったな」
「いえ、いいんです…むしろ私は、誰かに話したかったのかもしれません」
「じゃあ話せよ。俺でよけりゃ、聞いてやるからよ。どうせヒマだしな」
いつになく優しいレッドさんである。明日は隕石が降って来るのかもしれない。それはともかく。
「それでは、お話ししましょう…私と、彼女の物語を…」
―――悪の将軍・ヴァンプ。彼の過去の一ページが、今紐解かれる…。
天体戦士サンレッド 〜知られざる過去!悪の将軍ヴァンプ・その青春
生まれた時から、その二人はずっと一緒だった。共に笑い、泣き、時にはケンカもして、共に育った。
「だけど、それは小学三年生に上がる前の春休み…私は親の仕事の都合で、引っ越す事になったんです」
泣きじゃくりながら、引越しのトラックを追いかける女の子。
遠ざかっていくトラックの中で、男の子もただ、泣いていた。
「そして高校生になると同時に、私はまた故郷に戻ってきたんです」
入学式の日。クラス分けの中に、お互いの名前を見つけた。偶然のような、運命のような、そんな再会。
それからまた、二人は一緒になった。
空白の時を埋めるかのように、少年と少女は惹かれあった。
幼い頃そうしたように、いつも一緒だった。
「へー。そりゃまた、お前にもドラマみてーな青春があったもんだな」
「ええ。楽しかったですよ。彼女といると、嫌な事なんて何もかも吹っ飛びました」
少年の高校時代は、彼女と共にあった。
ずっとこのままでいられたらいいと、二人とも、そう思っていた。
「だけど…私には、夢がありました。そして私は、夢と恋と、二つとも抱えられるほど強くなかったんです」
時はあっという間に過ぎ去り、卒業の日。
「私は…夢を選んだんです」
―――卒業式が終わり。
少年と少女は、中庭で向かい合う。
頭上には、この学校のシンボルである時計台。その鐘が鳴り響く中で結ばれた二人は、永遠に幸せになれる…。
そんな言い伝えから、その鐘は<伝説の鐘>と呼ばれていた。
けれど二人は、悲しげな顔でお互いを見つめていた。
「聞いたよ、ヴァンプ君…東京に行くんだって」
「…うん」
「ダメ…行っちゃ、やだよ」
少女の声は、震えていた。
「また…私の前からいなくなるの…?」
「…………」
少年は、答えることができない。
「どうして…ずっと、この街にいればいいじゃない!そんなに、夢が大事なの!?私よりも…」
「…捨てられないんだ。小さい頃からの、夢だったから…」
やっとの事で、少年はそう言った。少女を傷つけると知りながら。
「分かってくれとか許してくれなんてムシのいい事は言わない。でも俺は…どうしても、この夢を追いかけたい」
「じゃあ…じゃあ、私も一緒に連れていってよ。私が、君に付いていくから」
「それは出来ないよ…俺は、ダメな奴だから。そんな事をしても、きっとどちらも中途半端になって、余計にお前を
傷つけるだけだよ」
「…そっか」
少女は、泣いていた。
「私ね…ヴァンプ君のこと、ずっと見てた。ずっと、好きだったよ。子供の頃から」
「俺も、好きだよ。でも…ごめん。俺は…俺は…」
「俺は、絶対に世界を征服してみせる。世界征服に俺の全てを捧げる。もう、決めたんだ」
「そっか…今までありがとう、ヴァンプ君。私、君に会えて、本当に幸せだった」
泣きながら走り去る少女を、少年もまた涙しながら見送っていた。そして、気付いた。
自分は夢と同じくらいに大切な存在を、失ってしまったということに。
「俺は…酷い男だよな」
少年はそう呟く。
「でも、俺はもう決めたんだ…世界征服に命を懸けるって…」
懐から、一枚のチラシを取り出す。
<来たれ怪人!目指せ世界征服!フロシャイムはキミを待っている!詳しくは面接にて!>
「これを見た時、ビビッと来てしまったんだ…フロシャイムこそ、俺の骨を埋めるべき場所だと!」
少年はチラシを仕舞い、ゆっくりと歩き出す。
彼は今、大きな犠牲を払いながら、夢への階段を一歩踏み出したのだった―――
「…後悔してるか?夢を選んじまった事…」
話を聞き終えたレッドは、ぽつりと呟く。
「未練はないと言ったら嘘になるけど、後悔はしてませんよ。私は自分の意志で、夢を選んだんです」
対してヴァンプ様は少し寂しげな、けれど迷いのない笑顔で答えた。
「それに私はまだまだ、夢の途中です。後悔なんてしてられませんよ。そんな事じゃ、それこそ彼女に申し訳ない
じゃないですか」
きっぱりと語るヴァンプ様の顔には、もう翳りはない。
「だから私は世界征服を諦めたりしません!勿論レッドさんの抹殺もね。これからもバンバン命を狙っていきます
から、覚悟しといてくださいよー、ははは…いたっ!もー、そんなに頭を叩かないでくださいよ」
「うるせー!珍しくいい話だと思ったら最後はそれかよ!台無しにしやがって!」
いつものように馴れ合う正義と悪を尻目に、秋の風が吹き抜けていく。
やがて季節は巡り、冬が過ぎれば春が来る。
その度にきっと、我らがヴァンプ様は思い出すのだろう。
少年時代の、煌くような思い出を―――
―――フロシャイム川崎支部所属・ヴァンプ将軍。
彼にも彼だけの青春があり、そして彼だけの恋があった…。
投下完了。予告した通りサンレッドネタ。
ちなみに今回の話、元ネタは我が青春のギャルゲー<ときメモ2>。
(以前にも金剛番長ネタで書きましたね)
ときメモシリーズでもやっぱ2が色々ぶっ飛んでて一番好きです。
ヴァンプ様にもこんな青春があったんじゃないかなーと思いつつ書きました。いつもよりちょっとしんみり系。
>>321 まあサマサの書くもんですし、どうせ最後は力任せの解決ですよ(自嘲)
>>322 今月中は流石に無理かな…今年中には終了だと思います。
329 :
作者の都合により名無しです:2009/10/25(日) 20:57:44 ID:LnbA3Zvl0
サマサさんの作風は好きなのでちょくちょく遊戯王が終わっても書いて欲しい・・
サンレッドよく知らないけどヴァンプには癒されます
世界どころか川崎すら征服できない彼に幸あれ
ヴァンプ将軍は初恋の頃そのままに純朴に育ち
ピュアな心で世界征服を目指してるんだなw
>超古代戦記
おお、これは何という西尾節wwwwwww
クロニカ様ー!俺だー!踏みつけてk(ry
>サンレッド
ヴァンプ様がかっちょ良く見えた…何故だ
ホント世界征服頑張れ、超頑張れ
332 :
ふら〜り:2009/10/27(火) 21:09:20 ID:Tx9xfNIP0
>>サマサさん(精力的な執筆、ありがとうございますっっ!)
・決闘神話
ここまでの積み重ねがあるんで、タナトスから遊戯たちへの言葉が錯乱でも皮肉でもない、
根っからの本心だと受け取れますね。とてつもなく強い、スケールの大きい、底抜けに無邪気な
邪神。奥の手も、単に強い破壊力・耐久力ではなさそうで、彼らしい恐ろしさがあります。
・サンレッド
常時敬語で物腰丁寧なヴァンプ様。実は私、「女の子だったら結構な萌えキャラでは?」
なんて思ってたんですが。甘い恋を捨てて大きな夢を取るって、これ以上ないくらい男の子
らしい! 世界規模の対テロ組織にも影響を及ぼす彼、大願成就も決して遠くは……ぅむ。
333 :
作者の都合により名無しです:2009/11/01(日) 22:38:23 ID:y/r2d5q/O
おっぱい
仮○ライ○ーとかが闘っていそうな、人里離れた岩山。そこは地獄と化していた。
辺り一面に散らばる残骸―――<アームスレイブ>と呼ばれる巨大人型兵器のなれの果て・およそ十機分―――と、
半死半生で地を舐める無数のヒーロー。
その中心で、一人の男が嘲笑する。
「ハッ…地上の兵器やらヒーローってのは、こんなにも脆いのかよ。これじゃはるばる魔界から来た甲斐がねえな」
銀色に輝く、傷一つない超金属のボディ。精悍な顔には己の力に対する揺るぎない自信が溢れている。
「これでこの辺りのヒーローやら正義の組織はあらかた潰したな…さて」
そして、奴の次なる目的は―――
「今度は川崎…天体戦士サンレッドの首を貰うぜ」
「う…うう…」
倒れ伏すヒーローの中の一人が、呻きながら顔を上げた。
「お…お前は一体…何者なんだ…」
その問い掛けに対し、男は不敵に笑った。
「オレの名はヒム―――やがては世界を征服する男だ。覚えときな」
突如現れた謎の超戦士・ヒム!我らがサンレッドはこの強敵に勝てるのか!?
「オラァッ!」←レッドさんはせいけんづきを放った!
「グハァッ!」←ヒムに99999ポイントのダメージを与えた!ヒムを倒した!
―――そんな僕たち凡人の心配なんて何処吹く風。レッドさんはヒムをあっさりワンパンKOして、今日も世界を
守って下さったとさ。めでたしめでたし。
天体戦士サンレッド 〜魔界からの刺客!超金属戦士ヒム登場
「…………」
自宅(駅から徒歩10分・家賃3万円・フロなしの安アパート)で布団に寝転がり、ヒムは茫然と天井を見つめる。
「チクショウ…何なんだ、あいつは…あんなん魔界にだっていなかったぞ」
ケンカだけは、誰にも負けた事がなかった―――<タコ殴りのヒム>の名を聞けば、魔界の誰もが震え上がった。
それなのに、このザマはなんだ。
「くそっ!くそっ!くそっ…!」
負けた悔しさと自身への情けなさに、涙が滲む。
「こんなんじゃ…こんなんじゃ、快く魔界から送り出してくれた皆に、申し訳がねえっ…!」
ヒムは、思い出していた。
魔界で待つ、大切な仲間達の事を―――
―――数ヶ月前・魔界。ハドラー製鉄所(株)にて。
「ヒム…お前、本気なのか?ここでの仕事を辞めて、地上に行くって」
「何を考えておるんだ!それがどういう事か分かってるのか!?」
「ブローム!(訳:同じような事を言って北海道に旅立ち、アバシリンとかいうヒーローによってこれ以上はない
ほど惨たらしく殺られたフレイザード先輩を忘れたのか!?)」
仲間からの糾弾に、ヒムは唇を噛み締める。
「自分勝手は分かってる…だけど、オレはどうしても世界征服の道を歩みたいんだ!」
「バカ野郎!」
「グッ…!」
手加減なしの一撃だった。
「お前はハドラー社長から受けた恩を忘れたのか!?この魔界始まって以来の就職難の時代に、中卒でケンカ
しか取り柄のないワシらを雇ってくれた社長に対してどう言い訳するつもりだ!」
「そうだ!社長の奥さんだって、親からも見放された我々みたいな不良に、まるで本当の母親のように優しくして
くれたというのに…」
「ブローム!(訳:そうだそうだ!アルビナスさんの作ってくれたナスの味噌汁を思い出せ!)」
「うっ…」
ヒムは後ずさり、顔を背ける。そのまま皆に背を向けて走り去った。
「すまん…すまん、皆!」
「あ、ヒム!」
「待つんだ、ヒム!」
「ブローム!(訳:…皆、もうほっとけ!)」
「し、しかし…」
「ブローム…(訳:あいつだってもう子供じゃないんだ…社長やアルビナスさんへの義理を忘れたわけでもないさ。
それでも、あいつは夢に生きる事を選んだ…仕方ない)
「…………ヒム…」
「くそっ…あのバカ…」
―――翌日・魔界駅前。
「ハドラー社長…それに奥さんまで本当にすいません。見送りにまで来ていただいて…」
「そんな顔をするな、ヒム」
頭を下げるヒムに対し、ハドラー社長は優しく肩に手を置いた。
「オレにも覚えがある…世界征服の野望を胸に抱いた、若かりし頃が…ふふ、だからかな。今のお前を見ていると、
昔のオレを思い出してしまうんだ」
「社長…」
「ほら、受け取ってくれ」
差し出された封筒。中を覗くと、福沢諭吉が十枚。
「少ないが、退職金だ」
「そ、そんな…!突然仕事を辞めて迷惑かけたのに、こんなの受け取れません!それに…それに…!」
ヒムは知っていた。ハドラー製鉄所(株)は現在、大手取引先のバーン商事(株)やヴェルザー社(株)から受注を
減らされ、更にはアバン鋼業(有)といったライバルの台頭により、経営が決して楽ではない事を…。
しかし、そんなヒムに対してハドラー社長は豪快に笑い飛ばした。
「なあに、お前が世界征服に成功したら、この貸しは世界の半分で返してもらうからな。ハハハ」
「全く、何を言ってるんですかあなたは…ヒム。これを電車の中で食べなさい」
社長の奥さんが差し出した包みの中には、大きなおにぎりが三つ入っていた。
「辛いこともあるでしょうが、挫けず頑張りなさい。私も応援していますよ」
「奥さん…!」
ヒムは大粒の涙を流しながら、何度も頭を下げる。やがて発車のベルが鳴り響き、ヒムは地上へと旅立っていった。
電車の中でおにぎりを頬張りながら、ヒムは窓の外を眺めていた。
(さよなら…魔界)
そんな時だった。
「え…あ、あれは…まさか、そんな…!」
土手の上で手を振っている三人の男。紛れもなく、ヒムの仲間達だった。
「ヒムー!都会に負けるんじゃないぞー!」
「ワシらの事を忘れるなよー!」
「ブロームー!(訳:ヒムばんざーい!)」
「お…お前ら…」
ヒムの目に、熱い涙が込み上げる。それは彼の頬を優しく濡らした。
「世界を征服したら、オーストラリアをよこせよー!」
「ワシにはハワイとグアムをくれよー!」
「ブロームー!(訳:エジプトはオレのモンだー!)」
「へっ…バカ野郎!アメリカだろうがヨーロッパだろうがくれてやるぜ!」
ヒムは泣きながら、笑顔で手を振り返す。素晴らしき友の姿が見えなくなるまで、ずっと―――
パシン!とヒムは自分の頬を叩き、挫けかけた心に喝を入れる。
「そうだ…もうオレの夢だけじゃない…オレの肩には、あいつらの想いも乗っかってるんだ!」
力一杯に玄関のドアを開け、外へと飛び出す。
「強くなる…オレは強くなって、必ずあの赤マスクを倒し、先へ進む!」
ヒムの眼には、熱く燃える炎の輝き。
それは彼が秘める、不屈の魂の証明だった。
それから、一週間が過ぎて。いつもの公園。
レッドさんはいつものようにフロシャイム怪人をボコってヴァンプ様達を正座させて説教していた。
今回のTシャツは<オリハルコン>である。
「お前らはホント懲りねーなー、ヴァンプよ」
「ええ、まあ…懲りちゃったら世界征服の野望も終わってしまいますし」
「終われよ、どーせできっこねーんだから」
「いえ、一念岩をも通すと言いますし。諦めたら夢はそこまでですよ」
「言う事だけはいっちょまえなんだからなー、お前ら…」
レッドがはあー、とわざとらしい溜息をついた時、その男はやってきた。
「久しぶりだな…サンレッド!」
「ん?あれ、お前…」
そう。超金属戦士・ヒムである。レッドとて、彼の顔は覚えていた。
「知り合いですか、レッドさん?」
「ああ、こないだ話しただろ?先週いきなり襲ってきた金属野郎だよ」
「へー。というと、もしかしてキミもレッドさんの命を?」
「その通りだ。前回はブザマにやられちまったが、今度はそうはいかないぜ」
「ほー。そりゃ楽しみだ。そうまで言うからには、ちょっとは強くなったんだろうな?」
「へっ、調子に乗ってられるのも今のうちだ。先週までのオレとは違うぜ!山籠りの成果を見せてやる!」
具体的に言うと、ふさふさのロンゲになっていた。
原作<ダイの大冒険>を読んだ方なら、どのくらいパワーアップしたのか説明せずとも分かるはずだ。
サンレッドもその気配を感じ取り、にやりと笑って指をポキポキと鳴らした。
ヴァンプ様をはじめとするフロシャイム一同は、激闘の気配にごくりと唾を呑んだ。
ヒムは大きく息を吸い込み、天を仰ぐ。
(皆、見ていてくれ…オレの闘いを!)
そう。行く手にどんな苦難があろうとも、彼はその道を真っすぐに進むだろう。
彼の胸に、夢という名の光が宿っている限り―――
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
…え、勝負の結果ですか?可哀想で書けませんよ、またしてもワンパンKOされたなんて…。
投下完了。またしてもサンレッドネタです。次回は決闘神話書かなきゃな…。
ガモンさんや顕正さんの影響でダイの大冒険を読み直し、その勢いで書きました。
途中でヒムを応援しちゃった人、あなたは多分正しい(笑)。
しかしほんと、ガモンさんも顕正さんもスゲーわ…完全にダイ大の世界を書けてるんだもん。
僕が書いたらこれです(汗)。
ちなみに作中に名前が出てきたアバシリンとは、レッドさんの先輩ヒーローのことで、具体的な強さは不明ながら
レッドさんですらもビビる最強(最凶)ヒーロー。フレイザードはもう、マジで悲惨な最期を遂げたものと思われます。
合掌。
>>329 サンレッドネタとか、書こうと思えば結構いけそうなので、これからも書いていきたいですね。
ヴァンプ様は…ある意味、川崎は征服してますw
>>330 世界征服に一生懸命な彼を、今後も応援してください。
>>331 「私に踏まれたい…?おかしな人。けれど、それがお望みなら、踏んで差し上げましょう」
グリグリグリグリ。黒き少女は眼前に平伏す胡散臭い男の頭を容赦なく踏みつける。
男は苦痛を遥かに上回る恍惚に、涎を垂らしながら身悶えするだけだった…。
これで満足ですか、そうですか?それはさておき、ヴァンプ様には本当に世界を征服していただきたいものです。
>>ふら〜りさん
いやあ、ぶっちゃけ<破壊力すごいよー!とにかく強いよー!>でしかないです(ダメじゃん)。まあ、作者が
チャランポランな僕なもんで…。
ヴァンプ様はそのままで十分萌えキャラです。見た目は冴えないおじさんだけど、そこらの露骨な萌え狙いの
キャラよりよっぽど和むし癒されます。
折角書いてくれた人に感想が一つもないとはもう
終わったなw
341 :
作者の都合により名無しです:2009/11/05(木) 15:33:04 ID:sVac8sQC0
規制でかけなかったんだよw
サマサさんお疲れ様です。
サンレッド強いなヒムを瞬殺とはw
サンレッド愛をいつも感じるなあ
サマサさんのSSは好きで全部読んでるけど
サンレッドはよくわかんないんだよね
なんとなく可愛らしい感じなのはわかるけど
今のサンデーで言えば「はじめてのあく」みたいな感じかな。サンレッドの方はもっとギャグっぽいけど。
第四話 鬼畜クラブ
『助けて……お兄ちゃああああああああああん!!!!!!!!!』
「はぁ!!!ふぅ………」
朝五時、まだ陽も完全には昇らず、薄暗い中にある一筋の光が阿久津の部屋に入る。
寝不足なのだろうか、眼の下にうっすらと隅が出来、ふらついた足取りで部屋を出る。
しかし彼の中に未だに燃え続ける『復讐』という名の炎は燻ぶることを知らない。
彼は今、月五万のアパートに、かつて存在していた兄弟達の幻を見ながら一人で暮らしている。
前に住んでいた阿久津家には住まず、父母はせめてもの援助にと学費を出している。
今日も一人、阿久津薫は瞳の奥にかつての幸福な思い出をを押し込め、物悲しい表情で家を出る。
「ふぁああ……」
所変わって吉祥学苑、屋上に住んでいる鬼塚は昨日の事を思い返していた。
阿久津淳也の弟、薫。彼が一瞬の内に見せた背中の刺青、一面に色濃く描かれていた漆黒の天使……
しかしそれ以上に彼が気になったことは、彼の『眼』だった。
「あの眼、何回か、見たことがある……」
急に鬼塚を襲う言い知れぬ不安、そしてその不安を消し去るかのようにドアを開けた人物が一人。
「鬼塚先生〜〜〜!!!!!生徒と殴り合いのケンカをするとは〜…」
「ゲッきっ教頭!!!」
「もう我慢ならん!!!ワンダーフォーゲル部本主将の私が、シデムシに鉄槌をくらわせてれるわ〜!!!!!」
二人が早朝から毎朝懲りずに鬼ごっこをして一時間もすれば生徒達も登校し始める。
こうしていつもよりもデンジャラスな一日が始まる。
「マジで鬼塚の奴、阿久津に因縁吹っ掛けられたな。」
「アイツ、一度キレたら何するかわからないのよね。手加減ってものを知らないし。」
いささか現状に不安を抱いている菊池と神埼。特に神埼は小等部の頃から阿久津を知っている事が、
その不安を多く募らせる。
「あれ〜どうしたのかな?2人とも。」
後ろから相沢雅が2人に声を掛ける。
「あ!そういえばあんた達、鬼塚の仲間になったんだっけ?それじゃ不安よね〜
阿久津だったら鬼塚追放なんて、簡単に出来そうだしね。」
余裕たっぷりといった様子で菊池に顔を近付ける。
「あら〜、人の手借りなきゃ教師一人追放出来ないの雅?これだからお嬢様は…」
神埼が若干声を大きくして挑発めいた言動を発する。
「フン、そんな事を言っていられるのも今のうちよ。」
相沢は一足先に学苑へ入っていく。
『そうよ、今度こそ鬼塚を追放しなきゃ、この学園から!!!』
瞳をギラつかせる相沢、その瞳に映るものは教師への復讐か、それとも………
生徒が教室に入り、鬼塚も教室に入ろうとすると目の前に阿久津が立っていた。
すっと後ろに下がる鬼塚、しかし阿久津は鬼塚の顔を見ても笑ったままだった。
「昨日はすみませんでした、鬼塚先生。まさかあんなことになるなんて思わなくて。」
眼前で頭を下げられ、困惑しそうになった鬼塚だった。
「お前、あれだけの事しといて笑ってんじゃねえよ。それに、ポーカーフェイスだろ?そのツラァ。」
鬼塚の眼の先には、バタフライナイフを掴んだ阿久津の右腕が映っていた。
「嘘が下手だなテメー!!」
阿久津の手を掴みあげる鬼塚、しかし阿久津はなおも笑っている。
「すみませんね。相対性理論の本を入れてるポケットと間違えちゃったみたいでね。」
見え透いた嘘と馬鹿でも分かる。しかし常に余裕を持った態度であること、そして『例の眼』が脅威的だった。
「なんだあ?お前も頭良いような奴か?全くこいつにしろ神埼にし………」
直後、鬼塚の後頭部を何者かが殴りつける。
「これでいいんスよね。」
気づけば教室の前には大勢の人間が集まっていた。
「せ、先生〜!!!」
村井、藤吉、草野が急いで鬼塚の元に駆け寄る。
「あっ阿久津、らしくねえ真似してくれるじゃねえか。」
阿久津は先程までの様に笑みをこぼしてはいない。冷たい視線で、鬼塚を見下している。
「さーって、先生には死んで貰わねえとな。あんた殺せば、活きのいい女と強姦せてくれるっていうしよお!!」
「あ、あんた等、高等部の鬼畜クラブじゃ……」
「う、嘘…………」
普段、吉学名物の調教活動と銘打って女生徒を強姦している高等部のグループ、鬼畜クラブ。
その為中等部の女子には特に恐れられているグループでもあった。
「つまりテメーが俺を殺すために女子共をコイツ等に売ったんだろ?阿久津よぉ!!!」
「そうだと言ったら?どうするんですか?先生。」
鬼塚に顔を近付ける阿久津。
「お前は後でぶっ殺してやるが……」
鬼塚の拳が鬼畜クラブの一人に飛ぶ。
「ぐがぁ!!は、鼻がァ…」
「先にお前らから片付けてやらねえとな。」
「まとめてかかって来いよぉ!!!」
一気に2人の人間を殴り飛ばす鬼塚、鬼畜クラブも少し後ずさっていく。
「カーーっぺ、コイツは俺が殺してやるよ、この駄々島様のバタフライ拳でなぁ!!」
両手にバタフライナイフを仕込んで鬼塚に殴りかかる。
「ククククク、死ねやサルがあ!!」
しかし、いくら飛び込んだ所で鬼塚に勝てるわけもなく。カウンター気味に入ったボディで悶絶した。
「悪いなあ、テメエ等みてーな奴も嫌いじゃねえけどよ、いつまでも遊んでるわけにいかねえだろ。
なあ、阿久津よお。」
煙草に火を付けながら鬼塚は阿久津を見やる。しかし阿久津は表情を変えない。
「すました顔してねえでよ、昨日の決着付けようぜ阿久津ぅ。」
すると阿久津は鬼塚の後頭部を小突く。
「ぐあっ!!」
「阿久津!!テメエエエエ!!!!!」
村井が阿久津を殴る。しかし阿久津にダメージはない。
「あ?まさかテメエ等全員先公の肩持つのか!?こんなヤンキー教師のよぉ。
率先して教師イジメやってた奴らがどういう風の吹きまわしだ?」
阿久津はさらに鬼塚の脇腹を蹴る。と、後ろから阿久津の股間を蹴りあげる者がいた。
「はうっ!!!!」
「こうでもしないと、アンタ止まらないでしょ。」
「か、神埼!!この野郎〜〜。」
村井は改めて神埼を敵に回すべきではないと悟った。
348 :
ガモン:2009/11/07(土) 00:38:11 ID:iPaMQNwR0
第四話 投下完了です。 ご無沙汰してました。
これから夜勤なので感想は明日付けます。
ガモンさんお久しぶりです
内山田教頭には何だか癒されるw
ガモンさんお久しぶりですー
鬼塚のメチャクチャな毎日が楽しいです
スレ存続の危機ですが
サマサさんとガモンさんと顕正さんには
是非完結していただきたいです
ちょっと意欲湧いてきたので投稿予告
・餓狼伝の梶原VSFAWレスラーネタ
・勇次郎VS何か
需要あるかしらんけどね
ガモンさんの鬼塚は原作より過激?
教頭がいい味出してますな。
スレ苦戦してるけど、なんとか頑張って欲しい。
>>352 頑張れ!
354 :
作者の都合により名無しです:2009/11/12(木) 23:08:25 ID:EW1X5jgS0
マイナーなギャルゲーSS祭りを開催したいです。
マイナーなギャルゲーSS祭り!
1. SS祭り規定
自分の個人サイトに未発表の初恋ばれんたいん スペシャル、エーベルージュ、センチメンタルグラフティ2、canvas 百合奈・瑠璃子のSSを掲載して下さい。(それぞれの作品 一話完結型の短編 20本)
EX)
初恋ばれんたいん スペシャル 一話完結型の短編 20本
エーベルージュ 一話完結型の短編 20本
センチメンタルグラフティ2 一話完結型の短編 20本
canvas 百合奈・瑠璃子 一話完結型の短編 20本
ダーク、18禁、クロスオーバー、オリキャラ禁止
一話完結型の短編 1本 プレーンテキストで20KB以下禁止、20KB〜45KB以内
2. 日程
SS祭り期間 2009/11/07〜2011/11/07
SS祭り結果・賞金発表 2011/11/08
3. 賞金
私が個人的に最高と思う最優秀SSサイト管理人に賞金10万円を授与します。
355 :
作者の都合により名無しです:2009/11/12(木) 23:09:57 ID:EW1X5jgS0
(1) 初恋ばれんたいん スペシャル
初恋ばれんたいん スペシャル PS版は あまりのテンポの悪さ,ロードは遅い(パラメーターが上がる度に、
いちいち読み込みに行くらしい・・・)のせいで、悪評が集中しました。ですが 初恋ばれんたいん スペシャル PC版は
テンポ,ロード問題が改善して 快適です。(初恋ばれんたいん スペシャル PC版 プレイをお勧めします!)
初恋ばれんたいん スペシャルは ゲームシステム的にはどうしようもない欠陥品だけど。
初恋ばれんたいん スペシャル のキャラ設定とか、イベント、ストーリーに素晴らしいだけにとても惜しいと思います。
(2) エーベルージュ
科学と魔法が共存する異世界を舞台にしたトリフェルズ魔法学園の初等部に入学するところからスタートする。
前半は初等部で2年間、後半は高等部で3年間の学園生活を送り卒業するまでとなる。
(音声、イベントが追加された PS,SS版 プレイをおすすめします。)
(3) センチメンタルグラフティ2
前作『センチメンタルグラフティ1』の主人公が交通事故で死亡したという設定で
センチメンタルグラフティ2の主人公と前作 センチメンタルグラフティ1の12人のヒロインたちとの感動的な話です
前作(センチメンタルグラフティ1)がなければ センチメンタルグラフティ2は『ONE〜輝く季節へ〜』の茜シナリオを
を軽くしのぐ名作なのではないかと思っております。 (システムはクソ、シナリオ回想モードプレイをおすすめします。)
(4) canvas 百合奈・瑠璃子シナリオ
個人的には 「呪い」 と「花言葉」 を組み合わせた百合奈 シナリオは canvas 最高と思います。
356 :
作者の都合により名無しです:2009/11/16(月) 00:09:46 ID:xMj6DJfgO
おっぱい
357 :
作者の都合により名無しです:2009/11/16(月) 21:58:56 ID:LRMG2thw0
〜天体戦士サンレッド・登場人物や設定・裏設定の解説〜
(※あくまでこのSSにおける設定であり、作者の自己解釈・妄想なども割と含むので注意されたし)
○主人公
<天体戦士サンレッド>
本編の主人公…なのだが、ヴァンプ将軍をはじめとするフロシャイムの怪人達に存在感を完全に奪われている。
性格は粗暴なチンピラそのものだが、ヒーローだけあって優しい所もある…と思いたい。
かつては今よりもっとタチが悪かったそうな。
かよ子という恋人に養ってもらっている、いわゆるヒモである。
ヴァンプ将軍や怪人とはもはや完全に馴れ合っており、対決の時以外は結構仲良しな部分もある。
そんな彼だがヒーローとしての強さは本物で、どんな敵が相手でもTシャツにサンダルというやる気のない格好の
まま、ロクに全力を出さずに一撃で倒してしまうほど。
最近は川崎市に変な奴が色々やって来てちょっと辟易している模様。
<本人のコメント>
「主人公はヴァンプじゃなくて俺だぞ!」
○サンレッドの必殺技
<正拳突き>
単なる拳での一撃なのだが、大概はこれ一発で決着が付く。説明不要、ただただ痛い。これを喰らって以来、匂い
が分からなくなった奴がいるらしい。
<ストンピング>
倒れた相手に追い打ちで蹴って蹴って蹴りまくる。レッドの機嫌が悪かったり、逆に機嫌がよすぎて悪ノリした時
などによく使う。
<サンシュート>
サンレッド専用の拳銃型の武器。戦闘員程度が相手なら一撃で仕留められる威力がある、サンレッドの頼れる相棒
…のはずなのだが、二年前に工具箱に入っていたのが確認されてから行方不明。そもそも使う必要がないほど本人
が強いため、なくても困らない。ちなみに充電式である。
<コロナアタック>
サンレッドのコロナエネルギーを凝縮し、巨大な火球を作り出す必殺技。通常時で放てる必殺技としては最強だが、
威力が凄すぎて相手を確実に爆殺してしまうので、心優しいレッドさんはこんな非道な技を使わず、拳でボコボコ
にするだけで勘弁してあげてるのだ。
<究極形態・ファイアーバードフォーム>
全力で闘うに値する強敵を前にした時のみ装着される、サンレッドの究極フォーム。
戦闘力が飛躍的に上昇し、更に強力な必殺技の数々を放つことができる。この姿になったサンレッドは、まさしく
太陽の化身となりて世界を正義の光で照らし、悪を焼き尽くすのだ。
…しかし、そんな強敵はどこにもいやしないので、ファイアーバードフォームはダンボールに詰められて押入れに
ひっそりと収納されているのだった。
その姿は原作では登場しておらず、アニメのOPと第26話(ヴァンプ将軍が見た夢)でのみ見ることができる。
<ファイアーブロウ・バーニングキック>
ファイアーバードフォームで放つ必殺技。
炎を纏う拳・ファイアーブロウ。炎と共に上空から飛び蹴りを放つバーニングキック。
実際にやった所は、誰も見たことがない。こんなんで殴られたり蹴られたりしたら確実に死ぬからね。
<ファイアーバードアタック>
燃え盛る火炎を纏うその姿は、まさに伝説の不死鳥。その偉大なる力を以て悪を滅する、サンレッドの奥義。
勿論実際に使う機会はない。使ったら相手を殺っちゃうからね。
<サンシュート・コロナバスター>
巨大化したサンシュートを右腕に装着し、全てのエネルギーを込めて撃ち出す最大最強の一撃。
サンシュートの充電率によって威力が変わり、最大出力で放った時の破壊力は想像を絶する。
言うまでもないが、レッドさんは素手でも余裕で相手をボコれるので実際には使用されない。
使ったら守るべきぼくらの地球を破壊しかねないからね。
<プロミネンスフォーム>
サンレッドの飛行形態。凄まじいスピードで一瞬にして空の彼方へとカッ飛んでいく。
「クーラーと一緒で、たまには使わねーと故障する」らしく、多摩川の河原にて使用された。
その一部始終を目撃したヴァンプ様に「そんな理由で使うんなら、それで私達と闘って下さいよ!」と懇願された
ものの、レッドさんは「そんなセリフはTシャツの俺を追い詰めてから言え!」とにべもなかった。
この姿でフロシャイムと闘う日は、恐らく永遠に来ないだろう。
○悪の組織
<フロシャイム>
世界征服を企む悪の組織。
日本各地に支部を持ち、アメリカにも存在が確認されていることから、相当に大規模な組織であるようだ。
所属する怪人の戦闘力も高く、そこらのヒーローや怪人程度の相手ならば難なく倒せる猛者が揃っているのだが、
サンレッドはそれを遥かに越える強さの持ち主なので、大抵はワンパンチで倒される。
悪の組織といいつつロクに悪事を働かないので、存在意義を疑われることもしばしばだが、ご近所さんとは円滑に
お付き合いをしている。
本作では主にヴァンプ将軍率いる川崎支部を舞台に、サンレッドとの壮絶な闘いの物語が繰り広げられるのだ。
○フロシャイム川崎支部
<ヴァンプ将軍>
フロシャイム川崎支部を率いる悪の権化。川崎のカリスマ主夫。
宿願である世界征服に向けて日々頑張ってるエライ人(怪人)。
部下達からの信頼も厚い、理想の上司。掃除洗濯お手の物。料理の腕もプロ級である。
日本で最も割烹着が似合う悪の将軍だろう。
サンレッドとは友好的な敵対関係を築きつつも、隙あらば結構マジで命を狙ってくる侮れない漢。
常に穏やかで礼儀正しいが、意外に図々しい一面もある。
ちなみに声は某貴族芸人の山田さんそっくりである。
<本人のコメント>
「えー、改まってコメントとか言われると照れますねー。じゃあ一言だけ。我らが宿敵サンレッドよ、このSSでは
必ず貴様を抹殺してくれるわ!…いたっ!もーレッドさん、頭を叩かないで下さいよ!」
<アニマルソルジャー>
見た目は愛らしいぬいぐるみ達だが、フロシャイム川崎支部において最強の殺戮集団。通称アニソル。
女子高生を中心に絶大な人気を誇るニクたら可愛い悪魔である。
現在のメンバーはウサコッツ・デビルねこ・Pちゃん改・ヘルウルフ。そして新人のボン太くん。
<ウサコッツ>
ウサギ型。アニソルのリーダー。意外と策略家であり、サンレッドを結構苦しめている。
その可愛らしさに多くの者が道を踏み外したそうな。
<デビルねこ>
ネコ型。ウサコッツ同様愛らしい姿だが、中身は中年オヤジ。糖尿と四十肩に悩む、ヤバい身体の持ち主。
インシュリンを肌身離さず持ち歩いている。
<Pちゃん改>
鳥型。改造マニアで、自分自身をどんどん改造している。そのためか核兵器やら惑星破壊級の威力を持つ
レーザーやら、ムチャな武器を多数所有している。
<ヘルウルフ>
狼型。満月を見ると凶暴な姿に変身し、凄まじい戦闘力を得る。
気に入った相手には「スキ」嫌いな相手には「コロス」と、実に分かりやすく感情を表現する。
(アニメでは「チュキ」「コロチュ」だった)
<ボン太くん>
アニマルソルジャーに新しく加入した、謎の怪人(?)。数々の重火器を使いこなす戦闘のプロフェッショナル。
その正体は果たして何者か、誰も知らない。
<本人達のコメント>
「レッドを絶対ぶっ殺すよー!」
「最近、動悸と息切れが激しいの…あと、立ちくらみも頻繁に…」
「…………(Pちゃんは喋れません)」
「レッド コロス」
「ふもっふー!」
<メダリオ・カーメンマン>
ジェイソンのようなマスクを被った大男のメダリオと、ミイラのカーメンマン。
登場する時は大抵二人セットである。
原作でも出番が多い怪人で、そのせいかレッドさんとも割と仲良し。でもやっぱりボコられる。
二人揃うと合体技<ツイン・デスアタック>が使えるらしいが、それでも全然勝てない。
<本人達のコメント>
「溶かすぞテメー!」
「呪ったろかコラ!」
<アントキラー>
アリジゴク型怪人。カーメンマンと二歳違いの弟。四千年以上生きてるのに、二歳という微差が妙に笑える。
舎弟格のモグラ怪人<モギラ・モゲラ>と共に行動する事が多く、その場合は大体ファミレスでダベっている。
後輩に対してやたらエラそうだったり自転車を盗んだりと素行が悪いが、先輩に対しては礼儀正しい一面もある。
百年バイトしてたので、実は金持ち。
素行の悪さをレッドに咎められてボコボコにされることもしばしば。
<本人のコメント>
「いやホント、アリジゴクにさえ引きずり込めばレッドなんざイチコロだからよ。その辺ちゃんと分かっとけよ?」
<アーマータイガー・ヨロイジシ>
ネコ科猛獣の代表選手であるトラとライオン。アーマーとヨロイ。盛大にキャラ被りしているので仲が悪い二人。
共に相当の実力者ではあるのだが、それでもサンレッドにはまるで敵わない。
それもこれも、レッドさんが鬼のように強いのが悪いのである。
<本人達のコメント>
「なんでテメーと一まとめにされなきゃなんねーんだよ、この野郎!」
「黙れ!お主の方こそ遠慮してこの枠を拙者に譲るべきでござる!」
○その他の人物やら悪魔やら吸血鬼やらもうグダグダ
<炎の悪魔・シャイタン>
出典:Sound Horizon「聖戦のイベリア」
神話の時代から生きる伝説の悪魔。千年前にはイベリアを恐怖と絶望のドン底に叩き落とした恐るべき漢。
ギリシャの地底深くに住む某冥王様とは仲が悪いらしい。理由は「アイツ我トキャラ被ッテンダヨ」とのこと。
日本のミュージシャンである鎌仲氏(詳細不明)と親交があり、彼のコンサートに出演するため来日した。
その時サンレッドの財布を探してあげた縁で、彼とマブダチになる。
好物は恋人(?)のライラが作ってくれたハート型ハンバーグだとか。
<本人のコメント>
「マタ鎌仲カラ出演依頼ガ来タヨ…悪魔使イノ荒イ奴ダ」
<ヴァンプレイオス>
ヴァンプ様が懸賞で当てた巨大ロボ。名前の元ネタが知りたければ第三次スーパーロボット大戦αをやってね。
その性能は非常に高く、悪事に利用されていれば恐ろしい事態になっていたが、パイロットがヴァンプ様なので
世のため人のために使われ、最後は正義の組織<アロハ・パンパース>に寄贈された。
<本人のコメントは、ロボなのでなし>
<相良宗介>
出典:フルメタル・パニック!
ある時は高校生・ある時はゴミ処理係・ある時は秘密組織のスゴ腕エージェント・その正体はボン太くんの中の人。
ひょんな事からフロシャイムへ潜入捜査を行う事となり、実態を掴む度にその脅威に揺れている。
いずれ来たるべきフロシャイムとの全面戦争に向けて、準備と鍛錬に余念がない。
サンレッドの事はフロシャイムと日々激しい闘いを繰り広げる立派なヒーローだと思っているらしい。
なんだかんだで川崎支部は居心地がいいらしく、時間が許せばアジトに入り浸っている様子。
ボケた言動の度にクラスメートの少女から容赦なくハリセンで叩かれている。
フロシャイムが開発したカードゲーム<バトルクリーチャーズ>には未だにハマっている模様で、新パックが出る
度に散財している。
<本人のコメント>
「なんだ貴様は。まさかフロシャイムからの刺客か!?正直に吐かねば十秒毎に貴様の指が一本ずつなくなるぞ!」
<テレサ・テスタロッサ>
出典:フルメタル・パニック!
可憐な少女ながら、宗介が所属する組織<ミスリル>のとってもエラい人。愛称テッサ。
レッドさんの事はチンピ…もとい、ちょっとガラの悪い赤い人だと思っていて、苦手なタイプのようだ。
実は宗介の事が好きだが、ウサコッツの事も気になる多感なお年頃。
たまの休日にはボン太くんの様子を見るためという名目でアニソルメンバーと戯れる姿が目撃されているそうな。
<本人のコメントを貰いたかった所ですが、一緒にいた少年に銃を突き付けられたため断念>
<ピラフ一味>
出典:ドラゴンボール
説明不要なまでに有名なあの作品からやってきた、どこか憎めない三バカ悪役。
川崎市溝ノ口に来るまで結構悪事を働いていたらしく、宗介からも危険人物として警戒されていた。
アーマータイガーとヨロイジシに完敗し、宗介の手によって捕縛され、世界征服の野望はあえなく潰えた。
上記の二匹も結局サンレッドにはまるで敵わないので、カマセのカマセにされたというのもまた泣ける。
<本人達のコメントは、獄中のため掲載の許可が出ず>
<望月コタロウ>
出典:あざの耕平「BLACK BLOOD BROTHERS」
金髪碧眼の無邪気な美少年。その正体は吸血鬼。
兄は闇の世界に名を轟かす<銀刀(ぎんとう)>と呼ばれる吸血鬼だが、レッドさんが目撃した彼の姿は女性の尻に
敷かれるヒ○そのものだったそうな。
年齢相応にヒーローに対して憧れており、川崎のご当地ヒーローであるサンレッドに御執心。
レッドさんも連れない態度を取りつつ満更でもないようで、結構世話を焼いていた。
今でも暇さえあればレッドさんに付きまとっているらしく、レッドさんも迷惑がりつつ内心ちょっと嬉しいようで、
パチンコで勝った時などはハンバーガーやらフランクフルトを奢っているという。
<本人のコメント>
「兄者に<ヒモってなあに?>って訊いたら、ものすごく悲しそうな顔をしてたんだけど…ねえ、もしかしてまずい
事を訊いちゃったかな?結局教えてもらえなかったけど、ヒモってなんなの?ねえ、ねえ、ねえってば」
<ヤフリー>
出典:あざの耕平「BLACK BLOOD BROTHERS」
コタロウの兄<銀刀>と目下敵対している悪の吸血鬼達の一員。
まだ若い吸血鬼ながら実力は低くないが、周りにいる連中が化け物すぎて過小評価されがちなのが悩みだとか。
仲間内では微妙にオミソ扱いされつつもなんだかんだで可愛がられている癒し系。
コタロウのワガママのせいで吸血鬼なのに炎天下の公園に呼び出された挙句、口上の途中でレッドさんに殴られるわ
危うく塵一つ残さず消滅させられそうになるわ結局ボコボコにされるわと、散々な扱いを受けた彼に幸あれ。
<本人のコメント>
「…レッドの野郎に殴られてから、匂いが分からなくなったっす…」
<ヒム>
出典:ダイの大冒険
世界征服という大きな夢を抱いて魔界からやってきた超戦士。
ちっちゃな頃から悪ガキで、十五で不良と呼ばれたらしい。
その身体は神々が創りし伝説の超金属<オリハルコン>で出来ており、生半可な攻撃では傷一つ付かない。だが
レッドさんにはまるで歯が立たず、自信を失ってしまう。
しかし仲間や恩人との絆が彼を奮い立たせ、勇気と闘志を取り戻し、山籠りの果てにパワーアップを果たした。
それでもレッドさんに負けたその夜、彼はフロシャイムの怪人達と共に居酒屋で涙に暮れたという。
今なお打倒サンレッドを掲げて修業中である。
<本人のコメント>
「このままじゃ終わらねえ…必ずサンレッドを倒し、世界を征服してやるぜ!」
アクセス規制のせいで書き込みできず、モチベーションも上がらなかった…
リハビリのためにちょっと書いてみました、サンレッドの登場人物紹介・設定集的なもの。
サマサが書いた登場人物紹介系の中でも、恐らく最も悪ふざけの激しい一品となりました。
>>341 他作品の強キャラを瞬殺するってどうかな…とは思いましたが、レッドさんが苦戦する姿が
どうしても浮かばないというか…。
>>342 正義と悪が繰り広げる、世知辛くも暖かい物語に興味があるのなら、是非読んでください。
>>343 方向性は似てますよね、あれw
>>350 やっぱりいいなあ、サンレッド…
こうやって見るといろいろカオスだなwwww
レッドさんまじパネェっす、強すぎっす
あとシャイタンとコタロウで思わず吹いた
367 :
ふら〜り:2009/11/17(火) 19:52:21 ID:fDad5Z5O0
長かった……規制は本当に長かった……
>>サマサさん
・サンレッド
ヴァンプ様といい、何かもうみんなの夢を拳で粉砕してくれてますねレッドは。いやまあその
夢ってのがアレですから、文句も言えないんですけど。とはいえフロシャイムといいハドラーたち
といい、彼らにならばいっそ征服された方が、世の中平和になりそうな気がしないでもなく。
・設定資料
もし、ミスリルがレッドをスカウトしたりしたら……面倒くさがって拒否、かな? でも、そしたら
それはそれで、ミスリルから(例えば勇次郎のように)危険視されそうな気が。
>>ガモンさん
冒頭でちょっと「お?」とは思ったものの、鬼畜クラブって…やっぱりそういう奴か、と思えども
>あっ阿久津、らしくねえ真似してくれるじゃねえか。
こういう認識を持たれてもいる、と。まあ善人ってことは絶対になさそうですが、阿久津の
本性・根っこはまだ見えきっていない感じです。鬼塚との関わりの中で見える、あるいは変わる?
サンレッドは強すぎるものの悲劇だな
平和の世界に一匹いる虎って感じ
フロシャイムも強いけど、サンレッドが強すぎだからなー
サマサさんおつっす。
369 :
作者の都合により名無しです:2009/11/18(水) 00:48:31 ID:E/PvKBMd0
マイナーなギャルゲーSS祭り!変更事項!
1. SS祭り規定
自分の個人サイトに未発表の初恋ばれんたいん スペシャル、エーベルージュ、センチメンタルグラフティ2、canvas 百合奈・瑠璃子シナリオ
のSSを掲載して下さい。(それぞれの作品 一話完結型の短編 10本)
EX)
初恋ばれんたいん スペシャル 一話完結型の短編 10本
エーベルージュ 一話完結型の短編 10本
センチメンタルグラフティ2 一話完結型の短編 10本
canvas 百合奈・瑠璃子 一話完結型の短編 10本
BL、GL、ダーク、18禁、バトル、クロスオーバー、オリキャラ禁止
一話完結型の短編 1本 プレーンテキストで15KB以下禁止
大文字、太字、台本形式禁止
2. 日程
SS祭り期間 2009/11/07〜2011/11/07
SS祭り結果・賞金発表 2011/12/07
3. 賞金
私が個人的に最高と思う最優秀TOP3SSサイト管理人に賞金を授与します。
1位 10万円
2位 5万円
3位 3万円
サマサさんのSS読むと、レッドさんとチャージマン研!とかイタリアンスパイダーマンあたりの
マジキチ&鬼畜ヒーローとの絡みも見たくなってくるw
371 :
作者の都合により名無しです:2009/11/20(金) 20:24:20 ID:RyciBcar0
(1) 初恋ばれんたいん スペシャル
初恋ばれんたいん スペシャル PS版は あまりのテンポの悪さ,ロードは遅い(パラメーターが上がる度に、
いちいち読み込みに行くらしい・・・)のせいで、悪評が集中しました。ですが 初恋ばれんたいん スペシャル PC版は
テンポ,ロード問題が改善して 快適です。(初恋ばれんたいん スペシャル PC版 プレイをお勧めします!)
初恋ばれんたいん スペシャルは ゲームシステム的にはどうしようもない欠陥品だけど。
初恋ばれんたいん スペシャル のキャラ設定とか、イベント、ストーリーに素晴らしいだけにとても惜しいと思います。
(2) エーベルージュ
科学と魔法が共存する異世界を舞台にしたトリフェルズ魔法学園の初等部に入学するところからスタートする。
前半は初等部で2年間、後半は高等部で3年間の学園生活を送り卒業するまでとなる。
(音声、イベントが追加された PS,SS版 プレイをおすすめします。)
(3) センチメンタルグラフティ2
前作『センチメンタルグラフティ1』の主人公が交通事故で死亡したという設定で
センチメンタルグラフティ2の主人公と前作 センチメンタルグラフティ1の12人のヒロインたちとの感動的な話です
前作(センチメンタルグラフティ1)がなければ センチメンタルグラフティ2は『ONE〜輝く季節へ〜』の茜シナリオを
を軽くしのぐ名作なのではないかと思っております。 (システムはクソ、シナリオ回想モードプレイをおすすめします。)
(4) canvas 百合奈・瑠璃子シナリオ
個人的には 「呪い」 と「花言葉」 を組み合わせた百合奈 シナリオは canvas 最高と思います。
372 :
作者の都合により名無しです:2009/11/20(金) 20:28:16 ID:RyciBcar0
こんなSSが読みたい!
1. BlackCat
イヴ×リオンのSS
2. 鬼切丸
鬼切丸×鈴鹿のSS
18. MURDER PRINCESS
カイト×ファリスのSS
19. 式神の城
玖珂光太郎×結城小夜 OR 玖珂光太郎×城島月子のSS
20. 大竹たかし DELTACITY 全2巻
21. ヴァンパイア十字界
蓮火 × 花雪 OR 蓮火 × ブリジット
23. 地獄少女
(1) 不合理な 地獄少女の被害者(e× 看護婦,1期の看護婦、2期の 拓真を助けに来てくれた若い刑事,秋恵) 家族・恋人が 地獄通信に 地獄少女と仲間たちの名前を書くSS
(2) 極楽浄土の天使 OR 退魔師が 地獄少女と仲間たちを断罪するSS
(3) 拓真の 地獄少年化SS
二籠の最終回で拓真が地獄少年になるのかと思ってたんですが・・
地獄少年 ジル : 所詮この世は弱肉強食。 強ければ生き弱ければ死ぬ。
拓真 : あの時誰も僕を守ってくれなかった。
守ってくれたのはジルさんが教えてくれた真実とただ一振りの超能力
・・・だから 正しいのはジルさんの方なんだ。
24. 真・女神転生CG戦記ダンテの門
.
御伽噺を語りましょう
子どものころあなたが夢見た、だれかが夢見た御伽噺を
けれど大人になって忘れてしまった御伽噺を
あなたの心の中にたしかにあった御伽噺を
けれどどこかに消えてしまった御伽噺を
涙と悲鳴と絶望がこめられた残酷な御伽噺を
ささやかな希望がこめられた優しい御伽噺を
.
.
わたしはクロニカ
あなたたちが〈黒の予言書〉と呼んでいるものの原典
つまらない昔話しかできないくだらない女です
そしていまだ〈書〉に記されていないこの世界の〈歴史〉を視る女です
幾度となく繰り返される予定調和から外れたこの世界の〈歴史〉を
ここはあなたの理解を超えた世界
ここはあなたがいつか夢見た世界
もしあなたがこの世界の〈歴史〉を知りたいと望むのならば――
まずはつまらない昔話からお話してさし上げましょう
.
突如として全世界を襲った複数の魔導災害によって旧世界は完全に崩壊
した。その発端となったものは諸説あるが、一番有力なものは、倫敦を壊滅さ
せた大規模バイオテロとされている。公的には、だ。真相はもっと別のおぞま
しい恐怖が倫敦を襲ったのだ。
第一の魔導災害。狂った『少佐』が引き起こした、人類の〈歴史〉上、
最大最悪の吸血鬼禍。鉤十字の亡霊達。狂戦士の群れ。吸血鬼の群れ。彼
らは倫敦の一切合財を破壊し、半世紀前から続く怨念のすべてを解放し、
すべての生けるものを死せるものへと変えた。
魔女の釜の底と化した倫敦を脱出した老いた女王はただ事態の沈静を
待った。彼女がもっとも信頼を寄せる不死者の王が、狂った『少佐』の夢
を終わらせるのを待った。
だが、狂った『少佐』を打倒し、吉報を伝えるはずのヘルシング家の若
き当主も、その下僕の不死者の王も、その下僕の下僕であるドラキュリー
ナも、老いた女王の下に帰還する事はなかった。そして女王の祈りを嘲笑
うかのように、倫敦でさらなる異常事態が発生した。
第二の魔導災害。倫敦全域を覆う、原因不明にして正体不明の霧。
出ることも入ることも許さぬ霧。人間と空間と時間を狂わせる霧。
その向こうに『漆黒の逆さ城』が存在していると噂される霧。
老いた女王はすぐさま自分の手足である《ディオゲネス》に命じた。
倫敦を襲ったこの異常現象の調査を命じた。
王立碩学院に所属するひとりの碩学は語る。
「あの霧――仮にこれを《無限霧》とでも呼びましょうか――の彼方に
は、過去現在未来の倫敦が同時に存在しています」
度重なる調査の末にわかったことはそれだけだった。
生存者の安否は不明。倫敦の詳しい状態も把握できない。
そしてその報告を最後に調査隊の派遣は打ち切られ、米国に暫定的に置
かれた英国政府、ならびに崩御した女王に代わり新たに戴冠したシャル
ル・ジ・ブリタニアによって、倫敦は永久立入禁止区域に指定された。
第三の魔導災害。それは南極大陸から発射された大陸弾道兵器によって
引き起こされた。後の調査によれば、その弾道弾には鉤十字が刻まれてい
たらしい。
標的になった場所は、太平洋ニュージーランド沖合、南緯47度9分、西経
126度43分。人類の黎明以前からこの星で永劫の眠りにつく『大いなるC』
が存在する場所。海底神殿ルルイエ。
各国諜報部がその弾道弾の着弾を確認した後、おぞましい恐怖の怪物た
ちが出現し始めた。〈クトゥルー眷属邪神群〉と呼ばれる彼らは、ヨーロ
ッパのあらゆる場所に出現し、人間文明を破壊しはじめた。大いなるある
じに代わり永遠の治世をもたらす為に。
人間たちはこの事態に対抗すべく、ヴァチカンが擁する第9次十字軍の
生き残り、代行者や埋葬機関、魔術協会の魔術師たち、西方碩学協会の碩
学、そして国連加盟国の軍隊をまとめた連合軍――〈人間戦線〉を形成し、
〈クトゥルー眷属邪神群〉に戦いを挑んだ。
もっとも憂慮された事態――陰秘学者が夢あるいは書物の中で警告し続
けてきた旧支配者の顕現は、いかなる理由か何故か確認されなかった。そ
のため、魔術兵器ゴーレムを中核とした〈人間戦線〉の軍隊は、ある程度
戦況を有利に進めることができた。その代償としてヨーロッパの全土は戦
場となり、人の住めぬ地獄と化した。
そして、第四にして最後の魔導災害。それは、〈人間戦線〉と〈クトゥ
ルー眷属邪神群〉との殲滅戦がヨーロッパからアジアや南米大陸にまで飛
び火し始めた頃。広域犯罪組織《結社》が暗躍し始めた頃。鉤十字騎士団
や聖槍十三騎士団、ミレニアムの残存部隊に御伽噺部隊などのナチ残党が
組織した〈総統の子ら〉のテロ活動が活発になり始めた頃。ドール病、ス
テーシー病、離魂病などの原因不明の奇病がヨーロッパの滅亡を加速させ
ていた頃。
もはや死に体になっていたヨーロッパの大地に、突如として巨大な大樹
が芽吹いた。後に〈ダヌの世界樹〉と呼ばれたそれは、直截的な被害こそ
及ぼさなかったが、これまで起こった魔導災害の中で、もっとも怖ろしい
変化を世界にもたらした。
あの日、あのとき。世界中の青空を灰色雲が覆い、美しい太陽を隠して
しまった日から、それは始まった。
それは在りえざるものたちの《復活》の日。
それは忘れ去られていたものたちの《復活》の日。
それは人間と鋼が支配する〈歴史〉において消え去ったはずのものたち――
すなわち、御伽噺の住人の《復活》の日。
《復活》――全世界に突如として発生した魔導災害の中でもっとも大規模、
そして致命的な変化を及ぼした異常現象。その《復活》の日を境に、かつて
この世界に在り、そして人間に忘れ去られ、夢の彼方に去ったはずの御伽噺
の住人が、荒廃したこの世界に帰還を果たした。
幻獣、妖精、荒ぶるドラゴン、これら御伽噺の住人の存在が各国都市で
同時に確認された。夢まぼろしに過ぎなかった彼らは、まるで物語の役割
を演じるかのように振舞った。人間には扱えぬ奇跡の技を示し、人間には
操れぬ言語を発し、人間には理解できぬ理由で人間を害した。
そして人間もまた変化を免れることはできなかった。
世界のかたちが歪んだように人間のかたちもまた歪んでしまった。
世界が変異したように人間もまた変異した。
人間の姿かたちは御伽噺の住人の姿かたちに捻じ曲がった。
かつての人間のかたちを留めるものはごく少数で、ほとんどが姿を変え
てしまった。魔法という未知の技術が一般社会に浸透し、これまでの世界
を一変させた。
人々は思った。まるで物語の中へ迷い込んだようだと。
世界は変わった。迷信深い世界へと。
夢が現実になり、現実が夢になった。
旧き〈歴史〉は終わりを告げた。人間の〈歴史〉は終わりを告げた。
御伽噺の〈歴史〉が始まった。
.
つまらない昔話は、これでおしまい
これより先は、彼らの物語を語りましょう
御伽噺が《復活》した世界で、もっとも御伽噺が満ちる場所
御伽噺の住人に変異した人間たちが住まう場所
異形都市〈ケイオス・ヘキサ〉で紡がれる物語を
絶望の泥濘で喘ぎながらそれでも希望を信じるものたちの物語を
.
.
〈Lost chronicle〉
.
first page「未来のイヴの消失」
プリマヴェラ・ボビンスキ …… デッドガール
イグナッツ・ズワクフ …… ドールジャンキー
メディスン・メランコリー …… アンティークドール
second page「伝言 -message- 」
ルーン=バロット …… 事件屋
メアリ・クラリッサ・クリスティ …… 黄金瞳の少女
紫陽花の姫君 …… 壊れた人形
third page「ひばり」
リア・ド・レエ …… 求道者
ジャンヌ=クローム=〈ラ・ピュセル〉 …… 鋼鉄の聖女
フランチェスコ・プレラッティ …… 錬金術師
fourth page「魔女は楽園の夢を見るか?」
ラフレンツェ …… 魔女
オルフェウス …… 仮面の男
黒いアリス …… Forest
last page「■■■■■■■■■■■■」
■■■■■■ …… ■■■■■■
■■■■■■ …… ■■■■■■
■■■■■■ …… ■■■■■■
.
第25巻、34頁――
混沌の名を冠した異形都市で紡がれるひとつめの物語
不思議で不条理な街に生きる少年と少女の物語
不思議で不条理な街に生きる少年とドールの物語
.
.
「未来のイヴの消失」
.
異形都市〈ケイオス・ヘキサ〉下層。無限雑踏街。
昼も夜も灯りが絶えない、不夜城と呼ばれる区画。狭い空間に建築物
を限界まで押し込めたような、雑多で、閉塞感に満ちた場所。可聴領域
ぎりぎりで祈り続ける祈祷塔、排煙を噴き上げる機関工場群、レッド
ゾーンを振り切った残留思念濃度計(ラルヴァカウンター)、路地のそ
こかしこに備え付けられ自縛霊が群がる霊走路(ケーブル)と、各層に
分配される機関エネルギーが流れる導力菅。
異形都市〈ケイオス・ヘキサ〉下層。無限雑踏街。
そこは常に灯りに満ちている。そして猥雑な活気で溢れている。合成
食品が使われた調理品を販売する屋台から怒声のような呼び込みの声が
あがり、ハードロック調にアレンジされた祝詞や心霊去勢者(カストラー
ト)によるテクノポップ風の賛美歌などが狂ったように大音量で鳴り響く。
まるで祭りのような雰囲気だ。昼も夜も、この無限雑踏街で、その祭
りは行われている。なにかを怖れるように。暗がりとそこに棲むものを
怖れるように。
そしてその祭りの中にいるのは異形のものどもだ。醜悪な顔立ちのト
ロール。見目麗しいエルフ。二本足で歩行する蟻型の《虫蟲》。兎耳を
生やした小柄なプーカ。下半身が馬である《蹄馬》。道端で客寄せをし
ている《猫虎》の娼婦。それに引っかかった〈長足族(フロッギー)〉
の若者。
かつては人間だった者たち。異形都市〈ケイオス・ヘキサ〉下層の住人たち。
あの怖ろしい《復活》の日を境に異形の存在に変異した人間たち。
彼らは、日々を生きている。怖ろしい変異を経て、異形の存在に成り
果てながらも。慢性的な貧困にあえぎ、都市に蔓延する奇病に苛まれな
がらも。終わりが待ち受ける明日に怯えながらも。
彼らは強く強く今日という日を生きている。
そして彼と彼女もまた今日という日を生きていた。
少年と少女。
少年とドールもまた同じく。
†††
無限雑踏街から少し離れた場所に、そのホテルはある。
下層では珍しい高層ホテルだ。高級感あふれる豪華な内装が売りで、
滞在にはそれなりに高額の代金が要求される。一泊するだけで下層の住
人が一年に稼ぐ金が残らず吹き飛ぶくらいの額が。
だからそのホテルを使用するのは、貧困層が多い下層の住人ではな
く、それ以外の層の人間だ。〈ヘキサ〉の中でも変異の度合いが著しい
人間、そして貧困に苛まれる人間が集まる下層以外の層に住む人間。
たとえば、大企業のビルディングが聳える中層に住む、見た目は普通
でそれなりに裕福な人間であるとか。たとえば、文化委託政策が進めら
れ旧世界の文明文化が保存されている上層に住む、怖ろしい変異を免れ
た『完全な人間』であるとか。
変異した人間を嫌う上層の住民は滅多なことがない限り、他の層に比
べて格段に治安が悪い下層に来ることはない。反対によく下層を訪れる
のが、中層の大企業群の企業戦士たちだ。
麻薬の売買、暴力、売春が横行する治安の悪い下層は、中層の大企業
が都市行政の目を欺き、非合法な商談や魔導実験を行える唯一の場所
だった。
都市法が完全に意味を成さなくなった最下層は、危険な幻想生物や
〈深淵の者〉が率いる覚醒者の群れ、機械生命体『ファイレクシア』が
巣食う地獄であるため、下層の人間すら立ち寄らない。
そのため、中層の大企業は自分の欲望を満たすために下層の住人を利
用する。その逆も然りだ。
とどのつまりこのホテルは、非合法な商談あるいは魔導実験を行うた
めに下層を訪れる中層出身の企業戦士が、つかの間の滞在場所に選ぶ場
所だった。
仮に下層と中層の住人の間で揉め事が起こっても、ここには数秘機関
を身体に埋め込み生体機能を強化した警備員がいるし、すぐに公安に連
絡がゆき、数分もしないうちに都市最強の魔導特捜官ブラックロッドが
鎮圧にやってくる。
だからトラブルに巻き込まれ凶悪な犯罪者に追われることになっても、
このホテルへ逃げ込むことさえできれば、いのちの保障はされるという
わけだ。
だが――
どんなとき、どんな場所でも、破ってはならないというルールがあ
る。これから不運な運命を辿る男は、そのルールを破ってしまったの
だ。ルールを破ったものには制裁を。それが〈ヘキサ〉下層で唯一絶対
の法であり、下層と中層の緩衝地帯でもあるこのホテルにおいても、例
外ではなかった。
†††
ホテルの正面玄関の自動ドアが開き、その向こうからふたりの人影が
歩いてきた。ひとりは白人(ファラン)の少年。もうひとりはティーン
の少女だった。
少年はごく普通の格好をしていた。下層に住む10代のお手本のよう
な個性のない服装だった。反対に少女は華美に自分を着飾っていた。少
女の服装は清楚さと猥雑さが奇妙に同居していた。
ディオールの漆黒のショートドレス=ダーマプラスティック製/その
殺人的に短いスカートからのぞく陶磁器のように白く細い足/胸元で輝
く真紅の模造宝石/妖狐の毛皮で仕立てられた豪奢な白いコート/拘束
具のようなコルセットとファッションベルト/過剰な装飾と極端にタイ
トなシルエット。
ふたりはフロントで手続きもせずにエレベータへと向かった。行き先
は最上階。不審に思ったベルボーイがふたりに近づこうとしたが、ふい
にその足を止めた。ベルボーイは少女に釘付けになっていた。正確に
は、少女の髪の色と瞳の色にだ。
「わたしになにかご用?」
少女はベルボーイに向けて笑みを浮かべた。破滅的な女(ファムファ
タール)という形容がこれほど似合う表情もあるまい。まだ幼い顔立
ちに浮かぶ大人の笑顔。男を破滅させる危険な表情。
ベルボーイは少女の、少し黒く脱色した金色の髪と緑色の瞳を凝視して
いた。そして、目を見開き、恐怖に震えながら、ゆっくりとベルボーイは後ずさる。
少しずつ、少しずつ。顔をひきつらせながら。けれど少女から決して目を離さずに。
ベルボーイは恐怖を憶えていた。少女の髪と瞳の色の意味するところを理解したから。
それは怪物の証。たとえ姿かたちは美しい少女であろうとも。彼女は危険な怪物だった。
だが、どうしても少女から視線を逸らすことができなかった。
不思議な魔力が彼のすべてを支配していた。決して抗えない魔性の魅力だった。
そのとき、ベルボーイのインカムに、フロントからの指示が届いた。
とっとと元の位置に戻れというものだった。そこで彼は正気を取り戻した。
頭にかかっていた靄が急に晴れたような感覚だった。
改めてベルボーイは不審なふたりのことをフロントに伝えようとした
が――そこで異常に気がついた。
他のホテルの従業員が、明らかに不審なふたりに対して完全に無関心
を装っていたのだ。揉め事には極力目を背けていたいというように。そ
してこれから起こることをすべて知っているかのように。
すると、エレベータを待っていた白人の少年が、フロントにいる人間
に向けて目配せした。了承を示す頷きが帰ってきた。改めてベルボーイ
のインカムに指示が下る。先ほどと同じものだ。
ちん、という音がした。エレベータの扉が開かれる。その中に足を踏
み入れるふたり。少年がボタンを押す。ゆっくりと閉まる扉。
「お仕事がんばってね」
その少女の言葉とともに、扉は完全に閉まり、少女とベルボーイの繋
がりは永遠に絶たれた。
†††
「いやらしい目で見ていたわね、あの人間(ヒューマンボーイ)。あな
たと同じドールジャンキーかもね、イギー」
「このホテルは中層の企業が経営してるんだ。社員の教育は徹底されて
いるはずだよ。リリムは危険な怪物で、決して近づいちゃいけないってね」
――ハンドバックから手鏡を取り出して口紅を直す少女と。
――それに気の無い返事をする白人の少年。
「でもとってもいやらしい視線だったわ。まるでつま先から頭のてっぺ
んまですべて舐めまわすような視線だったわ。絶対に素質があるわね」
そして耳の裏にお気に入りの香水『殉教の処女』をつけ、少女は少年
に言った。
「あなたみたいなドールジャンキー、リリムの見せるつかの間の蠱惑
(アルーア)に耽溺する素質が。そう思わない? イギー」
少女の言葉と笑み。先ほどベルボーイに向けたものとは違う、もっと
危険で、もっと魅力的な笑みだった。その先に待ち受ける破滅を予感しながらも
決して抗えない、魔性の魅惑を宿した表情だった。
彼女は人間ではなかった。見た目は普通の人間の少女だったが、もっ
と美しく、もっと危険なものだった。
思春期を迎えた少女を、ただの人間から、陶器の人形(ドール)に変異
させてしまうナノマシンを子宮(マトリックス)の中に宿し、吸血あるいは
性交によってナノマシンを人間に植付け仲間を増やす、〈ヘキサ〉全域において、
吸血鬼と並びもっとも危険な種族に数えられるものたち。リリム。
あるいは異種間雑種。
あるいはカルティエドール。
あるいはガイノイド。
あるいはデッドガール。
白人の少年はさまざまな名前で呼ばれる魔物の少女に対して肩をすく
めてみせた。彼は少女の言うことについて議論するつもりはなかった。
無意味なことだし、彼女の言葉が――少なくとも自分に関しては――真
実だったからだ。つまりは自分がこれ以上ないほどにドールにのめり込
んでいる、どうしようもない偏執狂だということ。
「そんなことより、プリマヴェラ。仕事の確認をしよう」
だから彼女の話につきあうより、もっと建設的な話をするべきだっ
た。そう、たとえば――
「ぼくらの、殺しの仕事の」
少女=デッドガールの名は、プリマヴェラ・ボビンスキ。
白人の少年=ドールジャンキーの名は、イグナッツ・ズワクフ。
過酷な環境の下層において暗殺の仕事を請け負っているふたり。
少年と少女。
危険な少年と危険なドールだった。
†††
エレベータが最上階につくまでそれなりに時間があった。プリマヴェ
ラとイグナッツが仕事の内容を簡単に確認できる程度には。
イグナッツは機関電信(エンジンフォン)を取り出し、ディスプレイ
のメール受信BOXをクリック。仕事の内容が書かれたメールを閲覧する。
そのメールにはふたりの上司、オールドタウン=ドール自治区の支配
者、マダム・マルチアーノから依頼された殺しの標的の経歴が書かれて
いた。
ふたりの標的は中層に本社を置く『メルモフレーム』の社員だった。
魔術兵器ゴーレムの制御する自動人形オルゴーレを製造する、国連と特
別契約を結んだ大企業だ。
オルゴーレはその機械仕掛けの美しい歌声で、ゴーレムたちを鼓舞
し、多くの〈眷属邪神群〉を滅ぼした。すでに一線を退いたゴーレムととも
に彼女らの生産量は徐々に減ってきてはいるが、一部の好事家=ドール
ジャンキーからの需要が大きく、軍事用に比べ機能をデチューンしたシ
リーズが若干数だが一般販売されている。
それでも下層の住人にはとても手が届かないほど高価ではあった。
最近ではさらに安価になった『VOCALOID』シリーズが発売されているら
しいが、下層ではまだ出回ってはいない。
男は他の中層の企業戦士と同じく、下層での商談を専門としている人
間だった。オールドタウン=ドール自治区で商談を行う人間。ドールが
生きていくために必要な商品を売りさばく人間だった。
イグナッツが標的の経歴をざっと述べている間、プリマヴェラは、退
屈そうに髪の毛をいじっていた。彼女は、自分が主人公ではない物語に
はすぐ飽きてしまう性質なのだ。
どうせこの確認は形式的なものだ。イグナッツもそれほど重要ではな
いと考えていた。だから特別プリマヴェラに注意することもせず、ひと
りで話を続ける。
しかし――
経歴を確認すればするほど自分たちとはまったく違う、恵まれた人間
だとイグナッツは思った。なぜ、そんな恵まれた人間が殺されなければ
いけないのか。このゴミ溜めのような下層で生きる自分たちふたりに。
「変なやつよね。どうしてドールの誘拐なんてしたのかしら。しかも
オールドタウンのアンティークを。結果なんてわかりきってるのにね」
よかった、とイグナッツは思った。興味がない素振りをしながらも、
彼女は話を聞いてくれていた。
プリマヴェラの言葉通りだった。彼がいまからいのちを奪われる理由
は、下層のオールドタウン=ドール自治区から一体のアンティークドー
ルを誘拐したからだった。
ドールの誘拐――それは都市行政に対する明確な反逆行為だった。人
間をドール化させるナノマシンを持つリリムは、下層のごく一部の区画
でのみ生きることを許されている。これ以上都市にドール病の感染者を
増やすわけにはいかないからだ。だから、リリム(たとえそうでない
ドールでも)を下層以外の層に持ち出すことは、都市法で禁止されてい
る。都市法を破ったものには厳重な処分がなされるが、ドールの持ち出
しはもっとも罪が重く、その罪状が明らかになった時点で上層兵による
無裁判処刑が執り行われる。
中層の企業戦士である男がそのことを知らないはずがない。なにを
思ってドールの誘拐などたくらんだのか。それはふたりが考えることで
はなかったし、ふたりにとってもどうでもいいことだった。自分たちは
自分たちの仕事をするだけだ。
すでにこのホテルの支配人には話をつけている。事がすべて終わった
あとの処理も。準備は自分らがここに足を踏み入れた時点ですべて終わっ
ている。あとはルールを破った愚か者に制裁をするのみ。
エレベータが最上階へとついた。ちん、という音とともに、扉が開かれる。
プリマヴェラが外に出る。イグナッツがそれに続く。
そしてふたりは互いに顔を見た。さあ、仕事の時間だ。
†††
部屋番号300=標的のいる部屋のドアをいきなり蹴破り、プリマヴェラ
は中に踏み込んだ。標的はテレビを見ていたようだった。テーブルの上には
黄金色の酒がそそがれたグラスといくつかの錠剤が乗っていた。おそらく
多幸剤(ヒロイック・ピル)だ。
突然の闖入者に愕然とする男。年齢は30代前半、外見には特に変異
は見られない。おそらく内臓器官か脳神経系が変異しているのだろう。
「こんにちは、ヒューマンボーイ。ああ、そして、さようなら」
そう言ってプリマヴェラはかわいらしく微笑んだ。彼女は殺しをする
ときはいつだってそんなかわいらしい表情を浮かべるのだ。
自分の置かれた状況を理解した男は憤然とプリマヴェラに襲い掛かっ
た。素手で。それは悪手だ。リリムであるプリマヴェラにただの人間
(そうでなくても)が白兵戦を挑むのは自殺行為だ。彼女の細腕はコン
クリ壁を一撃で破壊する。人間など紙切れに等しい。イグナッツは、プリ
マヴェラが男を細切れにして、それでおしまいだろうと思っていた。
だが結果は違った。男の動きが急に加速した。人間の動きではなかっ
た。少なくともイグナッツの目には捉えられなかった。しかしプリマ
ヴェラは別だった。彼女は咄嗟の判断で床を蹴って後ろに飛んだ。大き
な音が響いた。男の拳が部屋の床にめり込んでいた。人間の力ではない
――おそらく、数秘機関を埋め込んで生体機能を強化しているのだろ
う。サイバネティクス=〈ヘキサ〉ではありふれた、そして外の世界で
は稀少とされる技術のひとつだ。
「殴り合いをお望み? ええ、いいわよ。受けてたってあげるわ」
プリマヴェラが最後まで言い終わらないうちに男は殴りかかってい
た。なかなかに年季の入った身のこなし方だった。従軍経験があるのか
もしれない。〈人間戦線〉と〈クトゥルー眷属邪神群〉との殲滅戦に従軍し
た軍人崩れ。あの素晴らしき人間の文明を守るというお題目で始められ、
結局はヨーロッパの大地を死滅させたあの大戦争の片棒を担った男たち。
それならばリリムであるプリマヴェラといい勝負が出来ても不思議で
はない。けれどこの程度の技量は下層においては平均点だ。そしてプリ
マヴェラの技量は平均点を遥かに超えていた。
プリマヴェラは男の右ストレートを軽くいなした。カウンターで相手
の顎を狙うがこれはかわされた。プリマヴェラの右ふくらはぎに放たれ
る男のローキック。しかしそれよりも早くプリマヴェラの上段蹴りが男
の延髄に炸裂した。呻き声を上げて膝をつく男。不敵な笑みを浮かべる
プリマヴェラ。
「もうお寝んね?」
プリマヴェラの嘲笑。男は必死に立ち上がろうとしていたが、思った
よりもダメージが大きいらしい。それも無理のないことだった。なにせ
リリムの蹴りを喰らったのだ、いくら数秘機関の埋め込みで強化してい
るとはいえ、男の意識はもはやばらばらに違いない。いますぐ床に倒れ
伏して、そのままいつまでも寝ていたいという奴だ。だが男は闘志を奮
い立たせて立ち上がった。
ドアの近くで戦いを見守っていたイグナッツは心中で男に喝采を送っ
た。だがそれまでだろうと思った。数秘機関を埋め込んだ程度の強化で
はリリムであるプリマヴェラに勝てるはずが無い。
実際イグナッツの思ったとおりになった。両者が拮抗していたのはほ
んの数秒で、あとは一方的な戦いになった。かわいらしく笑うプリマ
ヴェラ。顔を歪める男。獲物を痛めつけるプリマヴェラ。サンドバック
になる男。無傷のプリマヴェラ。全身傷だらけの男。
だが男はまだ致命的な一撃は受けていなかった。それはプリマヴェラ
が遊んでいるからだった。わざと手を抜いて相手の抵抗を楽しんでいる
のだ。なにせ彼女は最近ずっと殺しをしていなかったから。ひさしぶり
の獲物をじっくりといたぶり、堪能して、それから殺す気らしい。
そしてプリマヴェラの蹴りが男のみぞおちに沈んだ。げえっ、と男は
もんどりうちながら厨房の方へと転がっていった。悠然と、たっぷりと
余裕をもってプリマヴェラはその後を追った。そして立ち上がり、刃渡
り20cmのナイフをにぎって自分を睨みつける男を見つけた。
「あら、物騒なものをもってるじゃない。そんな"大きくてご立派なもの"で、
わたしをどうするつもりかしら? 他のドールにやったのと同じように、無
理やりいうことをきかせる気?」
答えは決まっていた。男はナイフを振りかぶりプリマヴェラ目掛けて
投げつけた。数秘機関で強化された筋肉が放つ投擲だ。ナイフは拳銃か
ら放たれる銃弾に迫るほどの速度でプリマヴェラに襲い掛かった。
だが彼女はまったく慌てなかった。相手の神経を逆撫でするように、
これ見よがしに上品な仕草で、投擲されたナイフを、二本の指で挟んで止め
た。男はさらにナイフを投げつけたが結果は同じだった。
そして最後の一本を投げつけようとした男の手が止まった。ナイフが
真っ赤な花=薔薇の花束に変貌していたからだ。まるで手品だ。
量子の魔法――リリムの子宮(マトリックス)が起こす奇跡。
現実を侵食する少女たちの悪戯。それは物質の在り様さえ変えてしまう。
「あなたってけっこう気障なのね。でも趣味が悪いわ」
初めて男の顔に恐怖の色が浮かんだ。敵対者=プリマヴェラの正体を
知ったからだ。リリムはヨーロッパの死滅の一端を担った種族だ。自動
人形を製造するメルモフレームの人間なら、彼女らに宿る力は身にしみ
て理解しているに違いない。またライバル会社の製品=カルティエ
ドール=リリムの怖ろしさも。
男は恐慌状態に陥り、プリマヴェラから逃げようとした。だがすべて
が遅かった。男が取るべき最良の方法はプリマヴェラが来訪したときに
どんな手段を使ってでも逃げることだった。だが彼はそれを理解してい
なかった。彼女がどういう存在なのかを理解していなかった。
男の必死の逃走は無意味だった。本気になれば銃弾にも追いつけるリ
リムの脚力で、プリマヴェラは厨房の奥にある隠し扉に逃げ込もうとし
た男の前に先回りし、「ばあ」と舌を出して驚かせた。
そしてプリマヴェラは驚愕でかたまった男の首根っこを掴み、そのま
ま床に叩きつけた。
「最後に聞くわ。あなたがさらったドールはどこ?」
男は震える指先でクローゼットを示した。まるでそうすればいのちが
助かるとでもいう様に。けれど男の希望的観測は裏切られる。絶対的強
者に飽きられた弱者の末路はいつだって決まっている。
「ありがと、ヒューマンボーイ。じゃあね」
耳元でそう囁き、プリマヴェラは男を持ち上げ、窓に向かって投げつ
けた。派手な音を立ててガラスが割れた。宙に投げ出される男。そして
地面に向けて落下する。絶叫をひとつ残して。
地上の方から何かが潰れたような音が聞こえた。そして次々に悲鳴が
あがった。プリマヴェラは結果よりも過程を重視する性質だったから、
地上の様子を確認したりはしなかった。
彼女はクローゼットの方に行き、すでにその中を調べていた相棒に語
りかけた。
「悪い大人についていっちゃった悪い子の様子はどう? イギー」
「問題ないよプリマヴェラ。彼女は無事さ。薬で眠らされているだけだよ」
イグナッツはクローゼットの中に隠されていたトランクケースの中身
を彼女に見せた。
トランクケースの中には少女がひとり入っていた。まばゆいブロンド
が波うち、ゴシックロリータ風のドレスを纏った少女。華奢な手足を丁
寧に折り曲げられ、ケースの中にすっぽりと収まっている少女。
少女は人間にしか見えなかったが、人間ではなかった。陶磁器のよう
に白い肌。なめらかな球体関節(ポールジョイント)。
彼女もプリマヴェラと同じくドールだった。もっとも彼女は人間から変
異したリリムではなく、生まれたときから人形であるアンティークであった
のだが。
「まったく、しつけがなってない子どもは困るわ。迷惑ばかりかけて」
「それをきみが言うのかい、プリマヴェラ」
イグナッツは苦笑した。彼にしてみれば、このふたりのドールはどっ
ちもどっちだった。けれどこれ以上刺激すると藪蛇になりそうなので、
イグナッツはそれ以上言葉を続けるのをやめた。
「ともかく、帰ろう。僕らのホームへ。彼女――メディスン・メランコリーといっしょにね」
よくもこんなキチ○イ(分量的な意味で)SSを! バキスレのみなさん、お許し下さい!(あいさつ
すいませんまた長編はじめてしまいました。きっと完結するので、みなさん生暖かい目で
見守ってください。このままじゃロンギヌスもチル最も負債になりそうな気がしますが――
とりあえずSS内の用語がわからなかった方は、「ブラックロッド」「ブラッドジャケット」
「ブライトライツホーリィランド」「赫炎のインガノック」「クトゥルー神話体系」さえ読めば理解できるので読んでください(ぶん投げ
「ブラックロッドシリーズ」はすでに手に入れることが難しい上に、インガノックにいたっては18禁ゲームではありますが――
これは、科学の代わりに魔術が発達したアーコロジー型巨大都市〈ケイオス・ヘキサ〉を舞台に繰り広げられる、
サイバー/スチーム/オカルトパンクちっくなSSです。
この四作以外にもいろんな作品をぶちこんで書いてます。とりあえず主要キャストの原典だけでも。
first page「未来のイヴの消失」
プリマヴェラ・ボビンスキ … DEAD GIRLS@リチャード・コールダー
イグナッツ・ズワクフ … DEAD GIRLS@リチャード・コールダー
メディスン・メランコリー … 東方PROJECT
second page「伝言 -message- 」
ルーン=バロット … マルドゥック・スクランブル@冲方丁
メアリ・クラリッサ・クリスティ … 漆黒のシャルノス@ライアーソフト
紫陽花の姫君 … ROMAN@sound horizon
third page「ひばり」
リア・ド・レエ … オリジナル
ジャンヌ=クローム=〈ラ・ピュセル〉 … オリジナル
フランチェスコ・プレラッティ … オリジナル
fourth page「魔女は楽園の夢を見るか?」
ラフレンツェ … 楽園幻想物語組曲@sound horizon
オルフェウス … 楽園幻想物語組曲@sound horizon
黒いアリス … Forest@ライアーソフト
いちおう、少年漫画が題材のひとつになっているので、
バキスレの規定ぎりぎりなはず――
え、肝心の少年漫画が見当たらない?
いやだなあ、最近漫画化したじゃないですか、マルドゥック・スクランブル。
きっと読んでいるひとは少ないけれど――ラノベ原作だけれど――別冊マガジンに連載されているから、
少年漫画ではあるはず。
他にもいろんな作品からいろんなキャラを出演させる予定です。いろんなネタを仕込む予定です。
しかし、なんだかサマサさんホイホイなSSになってる気がします。サンホラ的な意味で。
第四十九話「ラスト・デュエル!(前篇)」
―――現世から遥か遠くに隔たる超空間。
「遂に」「終に」「目覚めてしまった」
「<黒き予言書>」「<終焉の魔獣>」「<歴史の支配者>」
其処では先刻、タナトスと矛を交えた詩女神六姉妹が、死神と人間の最後の闘いを見守っていた。
「最早、人間達の力では」「到底太刀打ちできない」「されど、タナトスも今は十全ではない」
「今なら、我々が加勢すれば」「冥王を斃す事も」「せこくね、それ?」
どこか白けたような末っ子の六女だったが、姉達はそれを黙殺した。
「では参りましょう」「これ以上タナトスに」「人間達を殺させるわけにはいかない」
「あの者達に」「力を貸して」「姉ちゃん達さあ。あたいはどーかと思うよ、そーいうの」
またしても混ぜっ返した六女に対し、残る五姉妹は流石に気分を害したようだ。
「―――ロクリア。貴柱(あなた)は何を言いたいのです」
最年長の姉・イオニアが代表して苦言を呈するが、六女・ロクリアは涼しい顔だった。
「なんかさあ…偉そうってか上から目線なんだよね。姉ちゃん達も、タナトスのおっさんもさあ。人間を救ってやる
とか、助太刀してやるとか。あたいがもし人間だったら、いえいえ何もしてもらわなくて結構と言ってるよ」
「貴柱は…!みすみすタナトスを討つ機会を逃し、人間達を見殺しにしようというのですか!」
「そんなん言ってないでしょ。あたいはたださ―――ここはあの仔等に任せてみようって思ってるだけ」
ロクリアはそう言って、闇遊戯達を見つめる。
「これは、あの仔等のケンカさ。あたい達がしゃしゃり出る場面じゃないよ…それに、あたいは思うんだ」
「何を」
「あの仔達がどんでん返しを見せてくれるんじゃないか、ってね」
「バカな。最早これは、人の身で抗える段階を遥かに越えています」
「姉ちゃん達は人間が大好きなのに、人間を下に見てるよね。人間って、案外侮れないよ?」
ロクリアは、飄々とした態度で笑う。
「人間って、時々だけどほんの一瞬、本当に眩しく輝くんだ。まるで、閃光みたいに」
だから。
「あの仔等に任せたら、全部上手くいく―――そんな、女のカンだよ」
最終決闘場と化した、黒の領域。
黒そのものと為った死神は、嘲るでもなく問う。
「最後ニ、一応訊ィテォキタィ…降参スル気ハナィノカ?」
返事はない。闇遊戯達はただ、決意を秘めた眼差しで闇すら超えた黒を睨むだけだ。
「ソゥカ」
タナトスも、それは訊くまでもなく分かっていた。この世界が何者かによって綴られる物語ならば、この場は正しく
最終章。今や、最後の決着を残すのみだ。言葉など、今となっては意味など持たない。
意味を成すのはただ、己の意志を貫くための力のみ。
「ナラバ見セテァゲヨゥ…書ニ刻マレシ者達ノ力ヲ!」
黒が蠢き、姿を変えていく―――
「<ブラック・クロニクル>第一巻・44頁(ページ)―――<王宮ノ魔神(エクゾディア)>!」
波打つ黒が、逞しい四肢と化す。
右腕・右足・左腕・左足―――それは人のパーツのようにも見えるが、その意味を理解したのは闇遊戯と城之内と、
そして海馬だ。
エレフ達もそれが何かは分からずとも、底知れぬ脅威であることだけは明確に感じ取った。
そして、最後に胴体と頭部。四肢がそれに接続され、完全なる五体を成した。
「あれは…そんな!」
まさにそれは、異形の神だった。異形で異様で、何より偉大な神だった。
その怒りは大地を焼き、その怒号は天すら砕く。
彼こそは、絶対。眼前に如何なる存在も赦さぬ、壮烈なる魔神。
「―――<エクゾディア>!」
「知ッティタカ…ナラバ理解デキヨゥ、其ノ力モ!」
魔神は、祈りを捧げるかのように両の掌を合わせる。だが、その意味する所は敬虔な祈りなどとは程遠い。
もしそれを祈りというなら、彼はただ裁くために、焼き尽くすために、破壊するために祈るのだ。
「あ、あれは…おい!やべえぞ!」
「やべえのは分かるよ!けど、どうすんだ!?」
「落ち着け!まずは皆で防御を固めて―――」
「いや」
エレフがその場を制し、前へ出る。まるで、仲間達の楯であるかのように。
「―――皆、聞いてくれ」
「エレフ…おい、戻れ!アレをまともに喰らったら、いくらお前でも終わりだぞ!?」
「終わらんさ。お前達が、生きていれば」
エレフは、決然と答えた。
「この一撃は、私が全て受け止める…だから、お前達は防御の事など考えるな。奴を倒す事だけに集中しろ!」
「エレフ…」
「これは、タナトスにとっても最後の賭けのはず。奴は体力をほとんど使い果たしていた…その上でこれほどの力
を振るえば、恐らくは反動で完全に無防備になるはずだ。そこを狙え!」
「中々ノ推察ダヨ、エレフ。確カニォ前ノ言ゥ通リダ…ケレド、ォ前一人ダケデ、コノ一撃ヲ受ケ止メラレルカナ?
失敗スレバ、其レデ終ワリダ」
「やるさ…やってみせる」
「やめて、エレフ!どうしてそんな…」
「ミーシャ。私は、死なない」
エレフは、きっぱりと言い放つ。
「私は死にはしない…お前達と共に、これからの世界を生きるために闘うんだ!」
「怒リノ業火―――エクゾード・フレイム!」
地獄の炎―――そんな言葉は、この業火の前ではまるで陳腐だ。
極限の熱量は、もはや火炎とすら呼べない。
それはただの、悪夢だ。
万物を灰燼に帰してなお燃え盛る、破滅そのものの悪夢だ。
その悪夢を、エレフは双剣を楯にして受け止めた。
「ぐうううううぅッ!」
己の中の全ての力で、太陽の如き灼熱を押さえ込む。
「うあああああああぁーーーーーーっ!」
皮も肉も骨も、魂まで焼けていくような苦痛に、エレフは耐えた。命すらも振り絞り、力強く叫ぶ。
「タナトス!私は…人間は…神(おまえ)などに負けない!」
そして、無限熱量が弾け飛ぶ。眩い閃光に、タナトスさえも一瞬、眼が眩んだ。
「クッ…!」
「今だ―――行け、皆!」
―――その一瞬で、彼等は既に疾風のように駆け出していた。
レオンティウスの槍が雷光を纏い、エクゾディアの眉間に突き立った。
オリオンが残った星屑の矢を二本同時に放ち、それは正確に胸を貫いた。
海馬が駆る三体の白龍が、天地を震わす咆哮と共に破壊の吐息を放った。
城之内に寄り添う黒竜が、渾身の力を振り絞って特大の火球を吐き出した。
闇遊戯の召喚した頼れる仲間達が、一斉に攻撃を仕掛けた。
それを。
それすらをも。
冥王タナトスは、耐え切ってみせた。
「…残念ダッタネ…少シダケ…モゥ少シダケダッタノニ…」
魔神の姿がぐにゃりと歪み、新たな形態を取る。
「コノ悪魔ノ姿ニ為ルノハ気ガ進マナィガ…ソゥモ言ッテハィラレナィカ」
「<ブラック・クロニクル>第二巻・666頁―――<石畳ノ緋キ悪魔(シャイタン)>!」
それは炎髪灼眼(えんぱつしゃくがん)と捩れた二本の角を持つ、黒のレザージャケットに身を包んだ、異形にして
精悍な男だった。
ペンキで塗ったような白い顔には、奇妙な刺青。
背中には、悪魔を思わせる漆黒の翼。
この世に存在するどんな剣よりも強く鋭い鉤爪。
全身に炎を纏うその男は、彫像の如く美しい姿をしながらにして、おぞましい悪魔に相違なかった。
「全ク、悪趣味ナ格好ダロ?何ヲ考ェティルノカナ、コノ馬鹿悪魔ハ」
彼にしては珍しく悪態を吐きながら、緋き悪魔と化したタナトスは魔力を凝縮させる。
「シカモコノ馬鹿ハ、技名ダサィンダヨ…センスヲ磨ケ、センスヲ!」
先の魔神の業火にも劣らぬ爆炎が、黒すらも蹂躙し、闇遊戯達に押し寄せる。
「受ケテミヨ悪魔ノ炎!ウルトラスーパーデラックス・シャイタン・ファイアー!」
あんまりな技名に対し、ツッコミを入れる余裕などない。
白龍や黒竜をはじめとするモンスター達が主達を守ろうと、自らの意志でその命を楯に、果敢に炎を堰き止める。
それでも。
その炎を前に、彼等では余りにも脆すぎた。
「うあぁぁぁぁっ!」
「く…ちっくしょォーーーっ!」
そして防ぎきれなかった炎の余波だけで、闇遊戯達を蹴散らすには充分すぎた。
燃え盛る火炎の中で、彼等はただ糸が切れたように崩れ落ちた―――否。
「…ヤハリ…キミダケハ立チ上ガルカ、古ノ王ヨ…フフ。コノ世界ガ物語ナラ、間違ィナクキミガ主人公ダ」
「オレは…負けない」
「其ノ粋ヤ良シ。シカシ、最早キミニハ何モナィ筈」
(違う…)
最後の最後―――奥の手は、まだある。しかし…。
(だが…それでも、この恐るべき神に勝てるのか…!?)
その恐怖が、闇遊戯の手を縮こまらせていた。
(オレは、怯えているんだ…敗北に…!)
握り締めた手は汗に塗れ、がくがくと震える。
(恐ろしい…恐ろしいんだ、オレは…!)
と―――震えるその手に、誰かの手が重ねられた。
「ゆう…ぎ…」
「じょ…城之内くん…」
城之内はボロボロの身体で立ち上がっていた。闇遊戯の手を強く握り締め、力づけるように笑ってみせる。
「一人じゃあ耐えきれねえ力でも…皆一緒なら、きっと大丈夫だ」
重ねられたのは、力。そして想い。
「―――オレは、オレ達は…お前を信じるぜ、遊戯!」
「城之内くん…」
闇遊戯は、仲間達を見つめた。
オリオンとレオンティウス、そしてエレフは力強く笑みを浮かべる。
ミーシャは祈るように両手を合わせる。
海馬は<こんな奴に負けたら承知せんぞ>という顔で睨んできた。
ボロボロになりながら―――誰一人、諦めてなんかいなかった。
(―――もう一人のボク)
そして、遊戯。
(―――負けないで!)
(ああ―――オレは、勝つ!)
あれほどの恐怖が、嘘のように吹き飛んでいた。
そして、笑った。口の端を吊り上げ、不敵に。
それこそが、彼の真骨頂だ。
「何ヲ笑ゥ―――万策尽キ果テ絶望シタカ、遊戯!」
「それは違うぜ、タナトス」
闇遊戯は、笑みを崩さない。
「オレは<希望>を手にしたんだ!」
天高く掲げるは、三柱の神のカード!
「今―――王の名の下に三幻神を束ねる!」
古の伝説。
選ばれし王は自らの名の下に神を束ね、光の女神を呼ぶ。
闇と共に封印されし、王の名。
失われし、その名は。
「我が名は<アテム>―――!オベリスク・オシリス・ラー!今こそ真なる姿を顕現させよ!」
破壊を司る巨神が、天空を翔ける竜王が、太陽の化身たる神鳥が、光と化して連なり、渦巻く。
全てを拒む黒すらも煌々と照らし、今、女神が舞い降りる―――!
「―――光の創世神・ホルアクティ!」
神たる威厳と慈愛に満ちた美貌。
聖なる力を秘めた金色の衣装に身を包む彼女は、まさしく光の化身。
闇を、黒をも圧倒する、それは希望の権化だった。
「其レガ、キミノ切リ札カ」
対して、タナトスは。
「ナラバ見セヨゥ…予言ニ記サレシ、終焉ノ魔獣ノ姿ヲ!」
その姿を、更に変えていく。
魔神ではなく、悪魔でもない。黒そのものたる、純粋なる獣へ!
「<ブラック・クロニクル>第二十四巻・1023頁―――<魔獣(ベスティア)>!」
それはもはや、名状など不可能。
ただ、それは魔獣。ただ、それは破壊。ただ、それは終焉。
それは、ただただ―――黒き歴史の権化!
黒き魔獣―――ベスティア!
「これでお互い、全てを出し切ったか―――いくぜ、タナトス」
闇遊戯が、黒へと向けて咆哮する!
「最終決闘(ラスト・デュエル)!」
投下完了。前回は
>>319より。
ハシさんの投下直後に、失礼しました。
長かった決闘神話も、次回でついに決着。エンディングも合わせて、後四回(の予定)。
なお、タナトス様とシャイタンは仲が悪いというネタはもう一つのシリーズであるサンレッドと
リンクしてます。サンレッドネタで、近々もう一回シャイタン出す予定もあるので…。
最近、エロパロも書いてます(照れ)。エロパロ板のサモンナ○トスレで…興味があるという奇特な方、どうぞ。
>>366 こんなん相手にしてるヴァンプ様って超偉い。超頑張ってください。
>>ふら〜りさん
正直、日本ならフロシャイムの皆さんにお任せしたい…
>>ミスリルがレッドをスカウトしたりしたら
でもレッドは戦闘はバカ強いけど、兵士向きの性格じゃないしなあ…戦力として考えたら、既に戦略兵器の
レベルなんですが。
>>368 昔「アウターゾーン」という漫画に「どんなに強くてかっこいいヒーローも、それに見合う悪役がいなければ
弱いものいじめ。強くて悪い怪人がいてこそヒーローは輝くのよ」というセリフがありましたが、レッドさんを
見ているとしみじみと実感…。
>>370 レッドさんはああ見えて「正義の人」なので、マジなキチガイ相手なら容赦なく闘うんじゃないでしょうか。
チャージマン研は一応ヒーローだからアレだけど、イタリアスパイダーマンは…どうかな(汗)
>>ハシさん
ぼ、冒頭だけで何度世界を終焉の洪水に飲み込ませるつもりなんだ、あなたは…!
そして登場人物も実にカオス!人形繋がりでアリスにも出て欲しいけど、どうなんすかね?
紫陽花の姫君の異名が<壊れた人形>で、片割れとムシューの名が出てないのも気になる!
あと
>>胸元で輝く真紅の模造宝石
ま、まさかミシェル登場の伏線…?(原作DEAD GIRLS@知らんので、単に原作通りの設定ならすんませんw)
それ以外のネタもボーカロイドとか<深淵の者>と覚醒者とか、ああもう、どっから突っ込めばいいものか
分かりませんけどオラすげえワクワクしてきたぞ!
時間貯金箱。22世紀のスケジュール管理ツールである。
これには、預金機能の他にクレジットカード機能がついていた時期もある。
しかし、そのバージョンはあらゆる時代を見渡しても19基しか存在していない。
”時”の貸し借り。
普通、時間とか身長の方を担保にしてもらうもんだ。そして通貨を融資する。
たとえば22世紀でも最大手の金融集団「帝愛」。
岩盤を『ピーチ缶詰や業務用の上白糖に変えながら』汗を流す債務者の一条さんにお話をうかがった。
「時は金なり、と申します」。
はい、ありがとうございました。
そして、20世紀の練馬区。
のび太「じゃあ、夜の寝る時間を持ってきて昼寝すればいいんじゃん。利子も僅か2分7厘だ。とりあえず1時間!」
最近、のび太の様子がおかしいので心配し始めるドラえもん。
きちんとスケジュールを自己管理してくれているのだろうか。
慣れるまでが大変なのは、当たり前。そこを、乗り越えて欲しかった。
だが、もう1ヶ月になるのにのび太は規則正しい生活に慣れていないようだ。成績も元のまんま。
当初は調子が良かったのに、最初の週の終わりごろから元気が無くなってきていたのも気になる。
自律神経系かと思ったドラえもんは、渋るのび太をお医者さんカバンで簡易検査した。
【生活が不規則です】
のび太より先に押入れへ到達しようと、まるでビーチフラッグの選手でもあるかのように
畳の上を滑り行くドラえもん。彼が時間貯金箱を手に取り、慣れた手つきでクルクルと回しいくつかのパネルを押す。
そして時間貯金箱が発した電子音がスタートの合図であるかのように、机のヒキダシを開けて頭を突っ込む。
タイムマシンが搭載している印刷機へデータが転送されていたのだ。
それらを止めるでも無く、のび太は襖にもたれて寝ていた。ドラえもんが何とかしてくれるとでも思っているのだろう。
「これはいかんぞ、のび太くん」。
向かって右斜め上が留められた紙の束をめくり終え、開口一番にそう言ったのはロボットではない。
顔色の悪い黒服の男性だ。
時間貯金箱の「借り入れ」は、限度額の寸前にまで届いていた。
だから、ドラえもんは急いでこちらから出向いたのだ。動きの緩慢な、のび太を引っ張って。
「この10分とか20分、初等科施設の休み時間じゃないのか?きちんとトイレには行っているのか」。
「この日の夕方、返済したと思ったら8分22秒後にまたドカンといってるが、これはなぜだね?」
黒服はいろいろと疑問点を質した。それでどうやら、のび太に返済の意志があることは伝わったようだ。
「うん、きみはまだ"何とかなる”。いや、心配しなくていい。何も、きみをどうこうしようってんじゃあない」。
だが、何が何とかなるのだろう。のび太は、掛け値無しにヘタッピすぎた。要領の問題だった。
要は時間の使い方。
「限度額と繰り入れの期限。これらにさえ、触れなければ、いい」。
「しかし、もし”その時”が来たら・・・きみは満11歳でしかも20世紀人だから、きみではなく・・・」
「22世紀世界に於ける後見人の債務となる。すなわち、ドラえもん氏だな」。
思わず「えっ!?どういうことですか!?」とソファーを跳び上がるのび太。
「まぁ掛けたまえ」。のび太が落ち着ける時間を、と紙コップのシナモン緑茶を啜る黒服。
もう温くなっているけど、作法だからフーフーと冷ますそぶりを交えつつ。
黒服が宣告した事実は、「期限までに完済できなければ、ドラえもんとの時間を失う」というものだった。
ドラえもんの時間をのび太の時間に替えて回収すれば、当たり前のことだった。
帝愛が要求する時間自体は、そんなに長くない。50時間余りだ。
しかし、ロボットに債務代行をさせたら22世紀世界に於いて二度と子守ロボットを持てなくなる。
そして次に子守ロボットが必要な事態になったら、22世紀人であれば児童福祉施設への送致・・・じゃなくて保護。
そうでなければ、レッドカードがついて二度とドラえもんともドラミとも会えなくなる。
ドラえもん、一度は「数々の冒険を共にした、仲間たちにカンパを募ろう」「地域猫からも幾許か拝借しよう」みたいな
ことを言ってくれた。だがのび太、自分の意志でそれらを突っぱねた。
それからのび太は頑張った。月末には土日の殆どの時間を返済に充て、最初の関門を余裕で通過した。
借り入れを25時間弱に減らして、ラストの週に臨んだ。
昼寝する時間を飛ばして、生理的生活時間を含む「すべきこと」へ突入したり
木曜日の夜は思い切って消灯時から起床までを飛ばしてチャージしたりもした。
その甲斐あって、ドラえもんと別れなくて済んだのび太。はじめて、自分の力で成し遂げた何か。
ドラえもん、感慨無量で大喜びした。
「これじゃダメだ」。
「えっ?」
のび太が、何をダメだと言ってるのかわからないドラえもん。
「ジャイアンとのミッドナイト・タイマン。あれを皮切りに何度も、僕は奮起してきた」。
「けど、いつの間にか真剣になれなくなっていたじゃないか。日常で、真剣さを維持できない病」。
「あー・・・・・・そうだね。でもそれがのび太くんの」
今日はそれを遮るのび太。「ぼくは明日の放課後、修業をしてくるよ」。
心配だったが、少し嬉しかったドラえもん。
のび太が久々の昼寝を満喫し始めると、ポケットからパサパサと時間貯金箱の廃棄勧告書を広げ出す。
折り目や変色など、かなり前から何度も読まれていた様子だ。それを畳に置く。
そして書面の中央、魔法陣のような模様の上に時間貯金箱を置くとそれは22世紀へと転送された。
残存していた時間の代価なのだろう、明滅をやめた魔法陣には未来の小銭らしい物がいくつか積んである。
「よかった・・・・・・」。ドラえもんは、嬉しかった。
【のび太の更生・完】※この続編として、のび太がバキ世界へ鍛練に行く話を考えてます。龍書文も出てきますよ。
ちょっと待て
しばらく見ないうちになんか大量に着てる
ハシさん、サマサさん、SPドラさんお疲れ様です
一度じっくり読んでから感想書きますわ
特にハシさんのはすげえ長いw
ハシさん、クトゥルーの世界観ですか。
元ネタ一つも知らないけど、少し寒々とした雰囲気がステキです。
サマサさん本当に次回でラストバトルなんですねえ。
年内終了か。素敵なエンディングに向けて頑張ってください。
ドラえもんの方、初めての方かな?
ドラえもんとバキキャラは麻雀を思い出します。是非連載を。
ハシさんと新人さんが来たのは嬉しいが
サマサさんの連載が終わってしまうのか・・
417 :
作者の都合により名無しです:2009/11/24(火) 07:15:09 ID:wUY2Izzb0
>ハシさん
なんとなくトールキンっぽい世界観だな、と思ったら
クトゥルー神話などをベースにした話ですか。
それになんとなく現代風に相まって、いい意味で雑多な感じがしてますね。
ラストページまで楽しみに読ませて頂きます。サンホラ分かりませんがw
>サマサさん
ラスト・デュエルという言葉に一抹の寂しさを感じてしまったり。
それにしてもエクゾディアは原作でも三神より強い反則的な存在でしたが
しっかりラストバトルに参加してますね。
友情パワーで神の力をどう粉砕していくか楽しみです。
>ドラえもん作者さん
カイジ風ドラえもんですか。のびたならあっという間に帝愛の餌食に
なりそうですねw でものびたは友情には厚い男だから、やる時はやるでしょう。
大人になったら真人間になってたし。
ドラえもんが来なくても、以外に結構な社会的地位を得たのかも。
>>417 いや、ドラえもんが来なければ、ジャイ子と結婚して貧乏子沢山の散々なことになってたよ…。
ハシさん復活後大量投下だね。嬉しい。
サマサさんはもうすぐ長期連載終了だけど・・
その「誰か」に君がなるんだ
422 :
ふら〜り:2009/11/25(水) 19:47:37 ID:9bwv7a7+0
>>ハシさん(祝・復活っっ!)
毎度ながら、ハシさんの描かれるバトルなヒロインは迫力ありますねえ。同じ強さで同じ
言動を男性キャラがやっても出せないであろう、ゾクリとくるものがあります。それでいて
脆さも見せてくれるのがまたパターンではありますが、はたしてプリマはどうなりますやら?
>>サマサさん
こういうサブタイは燃えつつも寂しく……いやいや今は燃えねば。やはり最後は仲間たちに
支えられた主人公の一撃! ですよね。敵からもお墨付きをもらった「主人公」、傷ついて
いるのは敵味方同じなれど、遊戯たちはむしろ強くなっている。最終幕、刮目して見ます!
>>SPドラさん(歓迎! 纏めの都合もありますんで、できれば御名前を名乗って頂きたく)
時間を貯める・使うって道具は原作にも出てましたけど、あれと違ってこちらはシビアです
ねえ……ドラ所詮、一介の家電製品。22世紀の会社や法律に太刀打ちはできないか。
で、バキ世界でのび太が鍛錬とはまた、予測できそうでできない設定。待ってますよっ。
―――フロシャイム川崎支部。その一室に、奇妙な機械が置かれていた。
「本部が新たに開発した装置…これを作動することにより、異世界の恐るべき魔獣を召喚できるという…」
我らが将軍ヴァンプ様は、厳かに語る。
「私はサンレッド抹殺のため、早速この装置を起動してみた…しかし…」
一気に口調が情けないものに変わるヴァンプ様。
「…どうしよう。明らかに失敗しちゃったよ、これ…」
「まずいっすよ、ヴァンプ様。これは…」
「どう見ても魔獣じゃねーもんなー…」
周りで見守っていた川崎支部所属怪人・メダリオとカーメンマンも困惑するばかりだ。
はてさて、装置によって召喚されたのは。
「あ、あのー…ここ、どこ?おじさん達、誰?」
「ば…化け物!?なんだよお前ら!?」
6歳か7歳くらいの、可愛らしい女の子と、いかにも捻くれ者といった男の子であった。
天体戦士サンレッド 〜召喚!異世界よりの使者(前編)
―――突然の事に戸惑っている二人をヴァンプ様はどうにか宥めて、居間へと場所を移す。
「ほら。二人とも温かいココアでも飲んで」
「うん、ありがとう」
「…フン」
女の子は素直にココアに口を付けたが、男の子は警戒しているのかコップに触ろうともしない。
「えーと…ごめんね、こんな所に連れて来て。キミ達、名前は?」
「ファラだよ。こっちはディラン」
「こんな人さらい共に名前を教えるなよ、ファラ!」
ディランと呼ばれた男の子が、嫌悪を隠そうともせずに怒鳴る。
「でも、悪い人じゃなさそうだよ?」
「悪いかどうか以前に人でさえないじゃないか、こいつら!」
その様子に、メダリオとカーメンマンは眉を顰める。
「ファラちゃんはいい子だけど…あいつはカンジ悪いなー…」
「俺らの事、露骨に化け物扱いしてるみたいだしな」
「ほらほら、そんな事言っちゃダメ。今回の事は私達が全面的に悪いんだから、ね?」
ヴァンプ様はそう言って、二人に向き直る。
「質問ばかりで申し訳ないけど、ファラちゃんとディランくんは何処から来たのかな?」
「なんだよ、それ。そっちが連れて来たんじゃないか。さっさとボクらを元の場所に戻せよ!」
「うん…もう一度装置を起動すれば、ちゃんとキミ達を元の世界へ戻す機能もあるからそれは大丈夫。でも、さっき
起動したからエネルギーを使い切っちゃって、充電に一週間くらいかかっちゃうの。だから悪いんだけど、その間は
ここにいてもらうしかないから、それならお互いの事をよく知っておいた方がいいかなって思ったの、私」
ヴァンプ様は困った顔でディランに言い聞かせるが、ディランは口をへの字に曲げて顔を背けた。ファラはそんな彼
を困った顔で見つめて、ヴァンプに向けて頭を下げた。
「ごめんね、ヴァンプさん。ディランもきっと、知らない場所で不安なだけだから、許してあげて」
「ううん、いいんだよ、ファラちゃん。何度も言うけど、悪いのは私達なんだから。それじゃあ、二人の事を教えて
くれるかな?」
「うん。ファラとディランはね<ルーンハイム>って所から来たの―――」
―――彼女の話を総合するとこうである。
二人がやって来た世界の名は<ルーンハイム>。
人間と、そして<ランカスタ>と呼ばれる、翼を持つ民が住まう世界。
そこには、勢力を二分する二つの大国がある。
ランカスタを<亜人>と蔑み弾圧するデルティアナ帝国と、ランカスタと共存するセレスティア王国。
二つの国は激しい戦争を繰り広げていたが、やがて戦いに疲れ、ついにどちらともなく休戦が提案された。
その条件として、帝国と王国は、互いの皇子と王子を人質としてそれぞれ身柄を預けた。
人質がある限り、お互いにお互いの国に攻め込む事はできない―――そういう理屈だ。
そして、帝国から差し出された皇子こそが、ディラン。
王国から差し出された人質である王子、その妹こそがファラ。
そして今、その二人は神奈川県川崎市溝ノ口・フロシャイムアジトへとやってきた―――
「…つまり、ファラちゃんは王国の王女様で、ディランくんは帝国からやってきた皇子様ってわけだね?」
「うん、そうだよ」
「へー。ファラちゃんはお姫様なのか。どーりで可愛らしいわけだ」
「可愛い子は頭ナデナデの刑だー!」
「えへへ…ありがと」
メダリオとカーメンマンがファラの頭を優しく撫でる。ファラは照れ臭そうに笑った。
「それで、こっちのガキが帝国の皇子様?はー、こんなんが後継ぎじゃ未来はねーなー」
「うるさいぞ、化け物!」
あからさまにバカにしたカーメンマンの言葉に、ディランが噛みつく。
「はん。言ってくれるじゃねーかよ。そういやお前の故郷の帝国ってーのは、ランカスタとかいう連中を差別してる
んだよな?おまけにお前は皇子様だから、差別主義と選民思想が生まれながらに刷り込まれてるってわけか」
「はは、こりゃーわるーござんした。高貴な皇子様に、わたくし共みたいなバケモンが気安く話しかけたりしちゃー
いけなかったんすねー」
「くっ…お前ら、ボクをバカにしてるのか!?」
「バカにしてるのかじゃねーよ、バカにしてんだよ。言われなきゃ分からねーなんて、ほんっとバカだな、お前」
すっかりケンカ腰のメダリオとカーメンマン、そしてディラン。
「ディラン…怪人さん達と、ケンカしちゃダメだよ」
「ファラには関係ないだろ。黙ってろよ!」
見かねて止めに入ったファラに対してもこの態度だ。静観していたヴァンプ様がとうとう彼らの間に割って入る。
「ちょ、ちょっと待ちなさいってばディランくん…メダリオとカーメンマンも、そこまで言わなくてもいいでしょ。ほら、
皆とりあえず落ち着いて…」
「うるさい!」
ヴァンプ様が差し伸べた手を、ディランは乱暴に跳ね除けた。
「ディランくん…」
「ボクに触るな!薄汚いんだよ、この―――化け物!」
「―――あんたさあ。さっきから聞いてりゃ、好き放題言ってくれるじゃないの」
突如響いた声に、誰もがぎょっとする。するすると、何者かが天井の隙間から顔を出した。
それは蛇のような形状の、得体の知れない生物だった。ニョロニョロと不気味に身体をくねらせ、無数の目を爛々と
ギラつかせる、まさしく悪夢を具現化したかのような有り様。
奴の名は、誰も知らない。いつの間にか天井に棲み付いていたという事実を以て、ただこう呼ばれている―――
<天井>と!(まんまじゃねーか)
「な…お前、誰だよ…てゆうか、何なんだよ…」
「私の事はどうでもいいでしょ。それよりあんた、人を化け物化け物って連呼して、何様のつもり?」
「な、何だと…」
「私に言わせれば、本当に化け物なのはヴァンプさんや怪人じゃない。あんた達の世界にいるランカスタって人達?
それも違うわね」
「じゃあ、誰だよ?」
「あんたよ」
「なっ…!」
思わぬ言葉に、ディランは絶句する。
「自分と違う姿だからって、他人を平気で化け物扱いする、あんたのその性根の方がよっぽど化け物だって言ってる
のよ、私は!」
「…なんで…」
ディランの顔は、屈辱と怒りで赤くなっていた。
「なんで、そんな事言われなきゃいけないんだ…だってお前ら、化け物じゃないか!」
「そうよ、確かに人間じゃないわ。化け物と言われたら、そうかもしれない」
天井は、平然と言った。
「それで、見かけが化け物だからどうなの?どうしてそれが、あんたが私達を蔑む理由になるの?ねえ、教えてよ」
「う…うるさい、化け物!ボクは絶対にお前らなんかと仲良くしないからな!」
ディランは立ち上がり、居間から飛び出してしまう。玄関のドアが乱暴に開けられる音で、外に出ていったのだけは
分かった。
「あ、待ってよディラン!」
その後を追い、ファラも走り出した。残されたヴァンプ様達は、突然の事態にオロオロするばかりだ。
「…探しにいってやりなさい、ヴァンプさん」
そんな中で、天井は静かに言った。
「あの子は心細いだけなのよ。だから、必死に強がってるの…弱い自分を見せたくないから」
「天井さん…うん、私もそう思うよ。あの子は人質にされて、親や故郷から捨てられたって思ったんじゃないかな。
その上に今は何処とも知れない世界に来ちゃって。だから、あんなに心を閉ざして…」
「あの子については、ヴァンプさんが責任を持たなきゃいけない立場でしょ。そうでなくても、ヒネた子供を見守る
のも大人の役目よ」
「…そうですね。探しに行こう、皆!」
「ま、しょーがないっすね。やなガキだけど、何かあったら流石に目覚め悪いですし」
「ファラちゃんの事も心配ですしね」
「よし、じゃあ天井さんも一緒に…」
―――天井は既に引っ込んでいた。説教好きだが、面倒くさいことはしない。
それが川崎支部の居候・謎の生命体<天井>である。ちなみに、家賃は払っていない。
何処を走ったものか、ディランは公園のベンチで一人寂しく座っていた。
「…くそっ…」
思い返すのは、天井から投げかけられた言葉。
―――見かけが化け物だからどうなの?どうしてそれが、あんたが私達を蔑む理由になるの?
それに対し、何も答えられなかった。
「…なんでって…そりゃ…」
そして今、出した答えは。
「…理由なんか…ない…」
―――他人を平気で化け物扱いする、あんたのその性根の方がよっぽど化け物だって言ってるのよ、私は!
「違う…ボクは、化け物じゃ、ない…」
だけど…自分をはじめとする、帝国の者達が亜人と呼んで蔑んできたランカスタはどうだ。
彼らだって、亜人なんて呼ばれ方はされたくなかったんじゃないか?
この世界で出会った怪人は?化け物なんて言われて、いい気分はしなかったに違いない。
そう―――今の自分と同じ気分を、きっと味わってきた。
自分が、味わわせた。
「でも…今更、どうしろっていうんだ…」
「今からでも、皆と仲良くすればいいよ」
顔を上げると、そこにはファラが立っていた。息を切らし、肩を上下させながらも、彼女は優しく笑う。
「ファラ…」
「まだ、遅くなんてないよ。ヴァンプさんや怪人さんにごめんなさいしよう。ね?」
「…………」
「ね?ディラン…」
本当は、嬉しかった。自分みたいな奴を、必死に追いかけてくれた。心配してくれた。
「うるさい!ボクの事なんかほっとけよ!」
「…!」
だけど、出てきたのは拒絶の言葉。
「お前だってボクの事なんかホントはどうでもいいんだろ!?優しいフリしてボクを憐れんで、いい気分だろうな」
「ディラン…」
「もう、ボクに構うな…どっか行っちゃえよ」
「う…」
すぐさま、後悔した。ファラの大きな瞳に、見る見る内に大粒の涙が溜まっていく。
「う…う…」
悔やんだ所で、吐き捨てた言葉は戻らない。涙が今にも零れ落ちそうになったその時。
「コラーっ!女の子を泣かせたら、いけないんだぞーっ!」
やたら勢いのいい声。ビックリして公園の入り口に向き直ると、そこにいたのは金髪碧眼の美少年―――
彼は人ならざる鋭い牙を剥き出しにして吼える!
「ぼくの名は望月コタロウ!誇り高き吸血鬼の一員にして、この川崎市を守るヒーロー・天体戦士サンレッドの一番
弟子さ!ぼくの目が黒いうちは、女の子をいじめるような奴は許さないからねっ!」
皆様は覚えていらっしゃるだろうか?かつてレッドさんにヒーローになりたいとせがんだ、あの吸血鬼少年である。
なお、レッドさんが彼を弟子にしたという事実はないので悪しからず。
「お前の目、蒼いじゃんか…つーか、吸血鬼が真っ昼間の公園で何やってんだよ…」
吸血鬼であること自体には、もうツッコミを入れる気分にもならなかったようだ。
「そういう細かい事はいいから!とにかく、女の子を泣かせるなんてダメなの!ほら、ちゃんと謝って!」
「…ごめん、ファラ」
「ううん…いいよ、ディラン」
涙を拭いて、また笑顔を見せた。
(こいつは、いつもこうだ…ボクがどれだけ冷たくしても、すぐにまた、笑う)
その度に、ディランは戸惑いを覚える。もどかしいようなくすぐったいような、そんな気分。
コタロウはそんな二人を見て、満足げに笑う。
「よーし、今日もぼくは公園の平和を守ったのでした。これでレッドさんにまた一歩近づいたぞ!」
「…レッドさんって、誰だよ」
「さっきも言ったでしょ?この川崎市に住んでるヒーロー・天体戦士サンレッドだよ。どんな奴にも負けない、無敵
のヒーローさ」
コタロウはまるで自分の事のように威張って言う。
「ところでキミ達、見ない顔だけど…遠くの方から来たの?」
「うん。ファラとディランは、さっきルーンハイムから来たの」
「へえー。聞いたことないけど、外国だね?かっこいいなー」
コタロウはにこにこ笑う。対照的にディランは、鬱陶しそうに手を振った。
「ケンカの仲裁に来ただけなら、帰れよ…ボクらにもう用はないだろ」
「えー?そんな事言わないでよ。せっかくこうして出会えたのも何かの縁だよ。ね、ぼくと一緒に遊ぼう」
「…お前、実はただ単に遊び相手を探してただけだろ」
「うっ…!そ、そんなことはない事もない事もない事もない!」
図星のようである。ファラはくすくす笑って、コタロウの手を引いた。
「うん、いいよ。ファラ、コタロウくんと一緒に遊ぶ!」
そして、もう片方の手をディランに差し出す。
「ディランも、一緒に遊ぼう?」
「…ボクはいい。お前らだけでやってろよ」
「むー。愛想のないなあ…しょうがない。ファラちゃん、あっちでボール遊びしよう」
「うん!」
二人はボールを投げ合ったり蹴ったり、楽しそうに遊び始める。ディランはそれから目を逸らした。
(フン…別に、混ざりたくなんかないね!)
「あー、ファラちゃん!そんなに強く蹴っちゃダメだよ!」
(それにあのコタロウって奴は、吸血鬼だろ?そんな奴と一緒に遊べるか!)
「コタロウくん、いっくよー!それ!」
(あ、遊びたくなんか…)
ついつい目をやってしまう―――二人と、目が合った。ニコニコしながら、二人が近づいてくる。
「あー、楽しいけど、三人ならもっと楽しいだろうな!誰かもう一人、遊びたい子はいないかなー!」
「あれ?そこのベンチにいる男の子、混ざりたいんじゃないかなー?どうかなー?」
「…………」
ディランはベンチから立ち上がった。
「か、勘違いするなよ!お前らがボクに一緒に遊んでほしそうだから、仕方なく相手してやるだけなんだからな!」
コタロウとファラは<うんうん、分かってるよ>と言いたげな実に優しい笑顔でディランにボールを渡す。
「くそっ…それっ!」
思いっきりボールを蹴ると、公園の外にまで出て行ってしまった。
「あ、もう!強く蹴りすぎだよ、ディラン!」
ファラがボールを追いかけて、外へと飛び出す―――と、いかにもガラの悪い二人組の不良とぶつかってしまう。
「あ?なんだ、このガキ」
「いってーな。こりゃ、足が折れちまっただろうが。ああ?」
「え…えと…ご、ごめんなさ…」
「ごめんですむかよ、オラ!」
「親呼んで来い、親!慰謝料だよ、いしゃりょう!」
「あ…あう…あの…」
見た目通りに頭の悪い言いがかりだが、ファラはすっかり怯えきっていた。ディランとコタロウは顔を見合わせると、
迷う事なく不良の前に立ち塞がった。
「お前ら、ファラから離れろ!」
「公園の平和を乱す奴は、ぼくがぶん殴ってやるー!」
「はあ?なんだよ、お前ら」
「お姫様を守るナイトって奴か?ははは、かっこいいな、おい」
不良コンビはニヤニヤ笑いながら、あっさりと二人を蹴り飛ばした。コタロウは鼻をいささか強く打ちつけて悶絶し、
ディランは派手に地面に転がり、膝を酷く擦りむいてしまう。
「でぃ、ディラン!コタロウくん!」
ファラは慌てて二人に駆け寄るが、二人とも痛みで声も出ない。
「うわ、よええ〜」
「ガキがいいとこ見せようとするからこうなんだよ、ぎゃはは…」
「―――お前ら、弱い者いじめがそんなに楽しいかよ。おい」
「あん!?」
「なんだ、テメエはよ。ああ!?」
不良が振り向くと、そこにいたのは説明不要。
「レ…レッドさん…!」
コタロウが、まさに救世主の名を呼ぶように呟く。
そう、赤いマスクのチンピラヒーロー・我らがサンレッドである。そして今日のTシャツは<召喚騎士>だ。
そのヒーローらしからぬいでたちが、今はとてつもなく頼もしい。
「おいおい、お兄さん。かっこつけちゃって、何様よ?」
「そんなマスク被って正義のヒーローにでもなったつもり?ひゃはははは」
「ほー。よく分かったな」
レッドさんはブロック塀に向けて、軽く、本当にかるーく、拳を突き出す。
ただそれだけで、まるでバズーカ砲の直撃を受けたかのように硬いブロック塀が粉々に吹っ飛んだ。
「は…………」
不良の下品な笑いが一瞬にして凍りつく。目の前にいるのがモノホンのヒーローだとようやく気付いたのだ。
「す、すっげー…!」
捻くれ者のディランですら、圧倒的な力を前にして、純粋な憧れに目を輝かせた。
「かっこいー…」
「さっすがー!やっぱりレッドさんは強いや!」
ファラとコタロウが素直にレッドさんを称賛する。
レッドさんも満更でもないようで(普段誰かから褒められることなどないのである)いつも以上にヘラヘラしながら
不良に向かってバキバキ指を鳴らす。基本的にこの漢(おとこ)、機嫌がいい時ほど悪ノリするからタチが悪い。
「ほら、来いよオラァ!俺の拳がおかしくなるまでボコってやるからよぉ(笑)!」
目が完全にマジである。不良は生まれて初めて眼前に現れた死の恐怖を前に、迷うことなく逃走を選んだ。
「ひいいいい!マジパネぇぇぇぇ!」
「やべえよおい!こいつマジやべェェェェェェ!」
脱兎の如く駆けていく不良を尻目に鼻を鳴らしながら、レッドは子供達に顔を向けた。
「お前ら、大丈夫だったか?」
「うん…ありがとう」
ファラはぺこりと頭を下げるが、ディランは不貞腐れたように顔を背けた。
「…ふ、フン!あんな奴ら、ボクがこれからやっつけるとこだったんだからな。大きなお世話だ!」
「可愛げのねーガキだな、こいつ…つーかコタロウ、お前子供とはいえ吸血鬼だろ?頑丈さとか腕力とか、並の
人間よりかよっぽど強いはずだろ。あの程度の不良くらい、あっさり倒せよ」
「い、いやあ…ぼくの場合、運動神経に問題があるというか…」
コタロウは痛めて赤くなった鼻を押さえつつも、不良が逃げ去った方向を恨みがましく見つめる。
「それよりレッドさん。あいつら、一発くらい殴ってやればよかったのに」
「へっ、よせよせ。あんなボンクラ相手に本気なんか出しちゃ、ヒーローの名が泣くよ」
いつになく鷹揚なレッドさんである。連載開始以来初めてヒーロー的な活躍をしたので、調子をこいているのだ。
「…嘘つけ。明らかにあいつらをボコる気満々だったじゃないか…いててっ…」
「あ…ディラン。大丈夫?」
「一々心配すんな。擦りむいただけだよ、くっ…」
ディランは強がっていたが、傷は随分深いようで、見た目にも痛々しい。
「おい、下手に動くんじゃねーよ。随分派手に血が出てんじゃねーか」
その様子を覗き込んだレッドは、そう言って嘆息する。
「仕方ねーな。とりあえず俺んちが近いから、そこで手当してやるよ」
―――正確にはレッドさんの家ではなく、レッドさんの彼女であるかよ子さんの家である。
まあそれは、言わぬが花というものだろう。
そんな訳で次回本邦初公開、レッドさんの彼女、かよ子さんの登場である。
投下完了。今回はサンレッドネタ。分量が異様に多くなったので、前後編に分けます。
今回の元ネタはDSで最近発売したRPG<サモンナイトX>。
公式サイト
http://www.summonnight.net/snworld/snx/index.html 100%趣味で書いた話なんで、正直読者受けとか全然考えてないです(笑)
それでもまあ、暇つぶしくらいになれば幸いです。
>>414 ハシさんマジ長すぎwパネェ
>>415 年内終了が当面の目的ですが、どうなるか…。
>>416 終わらせたくないなあ…決闘神話。
>>417 古代編で出てきたと思ったらすぐにやられたエクゾディアに僕と兄貴は泣いた。
>>419 ゴールテープが見えてしまうと、本当に寂しいものがあります。
>>ふら〜りさん
>>やはり最後は仲間たちに 支えられた主人公の一撃
お約束な展開だけど、お約束とは素晴らしいものだからこそのお約束。
きっちり最後まで書ききりたいです。
逝きます
435 :
闘りゃんせ:2009/11/26(木) 22:53:46 ID:puvOLnyL0
死臭みちたる冥府の中、きらりと光るものがあった。
鎧だ。
きらきらと、まるで太陽のかけらのように光るそれは、冥府の住人にとって忌むべきもの。
彼らの主の、彼ら自身の仇敵の象徴ともいうべきものだ。
聖衣、なかでも格別な黄金の聖衣。
神話の昔から戦い続けた憎い相手のそれである。
が、死臭はそれからふいてくる。
死者を支配する立場にいるだろう彼ら冥闘士たちは、死臭に震えていた。
いや、すくみあがったというべきだろう。
もはや勝負になってはいない。
黄金の聖衣の主が、腕を一振りするだけで、一蹴りするだけで、
冥界の淀んだ大気が引き裂かれ、黒い冥闘衣が砕け、冥闘士が死ぬ。
もはや、暴威と呼ぶべきだ。
「にげぇ」ろ、とつながる筈だった冥闘士の声は、潰された肺から吐き出された空気によって、
酷く濁ったおくびの様な音となって消えた。
煌く黄金の小宇宙、たなびく死臭を踏みしめて、虎が猛威を振るっていた。
その眼光に雑兵冥闘士はすくみ、あるいは逃げまとい。
その鉄拳にあまたの冥闘士は命散らして消え果てて。
その健脚に死した冥闘士は踏みしめられて。
金色の虎、その名を天秤座の童虎という。
436 :
闘りゃんせ:2009/11/26(木) 22:56:40 ID:puvOLnyL0
二百数十年を五老峰にて座視してきた男の感情が燃えていた。
あの春の日の別れから二百数十年。
朋友との別れから十三年。
主君が、仇敵が、友が、仲間が、想い人が、弟子が、師が、その時の流れの中に消えていった。
それを五老峰から座視せねばならなかった男の激情が燃えていた。
「どうした?この程度か?
不甲斐ないのぉ…」
嘲りではなく、落胆。
それに激昂したひとりの冥闘士が殴りかかるが。
「精進が足りん」の声と共に破裂し、びしゃりと冥界の地にその肉片をばら撒いて終わった。
何らかの技が使われたのだ、と理解した冥闘士たちはついに逃げ出した。
誰だって命は惜しい。
「死人が逃げるなよ」
その声をいったい何人が聞けただろう。
瞬く間、というより、認識したら仲間たちが死んでいた。
逃げ出したはずなのに、いつの間にか敵に向かって突っ込んでいた。
ああ、光速で移動したのだと理解したとたん、その冥闘士も死んでいた。
虎がその爪を振るうたびに、虎がその腕を振るうたびに、稲穂のように命が刈り取られていく。
「その聖衣、黄金聖闘士とお見受けする。」
思うさま暴威を振るう猛獣を駆逐せんと、一人の冥闘士が名乗りをあげた。
437 :
闘りゃんせ:2009/11/26(木) 22:59:10 ID:puvOLnyL0
「私は」
名乗りをあげた、が、最後まで口上を述べることはできなかった。
「喧しい、死人が喋るな」
簡単な話だ。今の童虎が、そんな冥闘士を見逃しはしないのだから。
べしゃりと大地に叩き付けられた冥闘士はそのまま沈黙した。
頭部が半分以上潰れてしまえば、そもそも話すことなどできはしないのだから。
「もはや、どちらが暗黒の住人かわかりませんね…」
童虎の眼光に耐えるだけの実力をもっているのか、その女のような細面の男は死臭の渦の中で微笑んでさえ見せた。
彼の纏う昏い輝きを湛えた冥衣の羽から、なにか黒い霞のようなものが辺りに満ちていく。
「ごきげんよう、虎どの。
私は天究星ナスのベロニカ…」
ヴヴヴ、と、死臭を纏った黒霞が唸った。
否、蝿の羽音だ。
「そして、さようなら」
金の虎を食らいつくさんとばかりに、蝿の群れが童虎を飲み込んだ。
「まったく、この神聖な死の静寂を破るなんて…。
忌々しいったらありゃしないわね…」
仕事は済んだとばかりにきびすを返し、その場を後にするベロニカだったが。
突如として黒霞を引き裂いた金の龍に驚愕を浮かべる。
金の龍はそのまま天にのぼって霧散した。
それが小宇宙の、この虎の技だと理解した時、ベロニカは初めて死を恐怖した。
「ほぉ、まさに五月蝿いという言葉通りじゃのぉ」
埃を払うような仕草とともに生み出された金色の龍の前に、蝿が敵うはずもない。
金の龍、その名を童虎秘儀・廬山龍飛翔。
小宇宙の龍の顎を視界に納める間に、ベロニカは粉砕された。
438 :
闘りゃんせ:2009/11/26(木) 23:01:03 ID:puvOLnyL0
同時に、童虎に向かって一頭の巨大な獣が踊りかかる。
獅子の頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ合成獣「キマイラ」だ。
いや、キマイラだけではない。
二頭犬「オルトロス」や、半人半蛇の怪人「タゲス」、百の腕をもつ巨人「ヘカトンケイル」など、
ギリシア神話にその名を残す怪物たちが群れを成して童虎へと踊りかかっていた。
「蝿が虎に敵うはずもありますまいに…」
そうつぶやくのは、天霊星ネクロマンサーのビャクだ。
その宿星名の通り死者を操る能力をもっており、この冥府において彼は完全に己の力を振るうことができる。
腐臭をあげ、腐肉を飛び散らせ、汚汁をたらしながら童虎に向かって踊りかかる怪物は、みな、死体なのだ。
神話の昔、英雄たちによって討伐され、敗者として死の眠りについた者たちを、ただ己の都合のみで使役する。
そのおぞましい力、それがネクロマンサーの力だ。
「ああ、すばらしい…。
死んでしまえば、全て僕の思いのままなのに…。
どんな美人も生きていれば老いる…、醜い老婆になってしまう…、でも、でも!でも!
僕がこうして使ってあげれば!老いない!死んでしまえば老いないんだ!
醜くならない!
ああ、ハーデスさまはなんて偉大なんだぁ…」
感極まったように己の肩を抱いて身震いするビャク。
そこでふと、自分が使役する怪物たちの動きが止まっていることに気がついた。
「おぉ、流石は流石は怪物たち…。
かの黄金聖闘士とてこれだけぶつければ…
…あぁ、そうだぁ、死んだ黄金聖闘士を使えばいいじゃないかぁ!」
ケラケラと、タガの外れたように笑うビャク。
が、それも突然破られる。
怪物たちが突如宙を舞った。
439 :
闘りゃんせ:2009/11/26(木) 23:06:09 ID:puvOLnyL0
「貴様はわしの逆鱗に触れた」
ぼぐ、という音をビャクは聞いた。
自分の顔面に拳が打ち込まれた音だ、一体だれが?この目の前の男だ、憤怒に燃える男の鉄拳だ。
黄金聖闘士・天秤座ライブラの童虎の鉄拳だ。
「死者を操り…、走狗としたこと!
万死に値する!」
ぼたぼたと、ぼとぼとと血反吐を撒き散らすビャクの目には、黄金の虎がいた。
ビャク自身、殴られたのだと気がつくのに、刹那の間を要した。
頭髪は逆立ち、小宇宙は煌く。
今の童虎の目に映るのは、ビャクではない。
亡き友だ。
血涙を流しながら同胞と戦った黄金聖闘士だ。
不動の壁となって散ったアルデバランだ。
無念とともに散ったデスマスクとアフロディーテだ。
同胞に禁忌の技を仕掛けなければならなかったサガ、シュラ、カミュだ。
教皇の座に縛られ、それ故に殺されたシオンだ。
「うるさいぃいぃぃいいいぃいぃぃィゐぃいいいいいぃぃい」
砕けた顎のせいか、奇妙にどもって裏返った声。
そこには間違いなく、恐怖が篭っていた。
ビャクは、死人と死病渦巻く生まれ故郷ですら感じたことのない恐怖を抱いていた。
輝く命に、燃える生命に、怒れる虎に。
「みンなァ、死ィぬゥNだよォおあぁあぁ」
複雑な印を組むや、童虎が倒したはずの怪物たちがふたたび立ち上がる。
だが、もはや原型をとどめているものは数えるほどしかない。
ヘカトンケイルは右側の腕がもう二・三本ほどしかなく、オルトロスはその名を示す双頭を失い、鋭い爪しかない。
タゲスなどは下半身を失い、人間の上半身のみがこちらへと這ってきている。
目を背けたくなるような惨状だった。
それでもなお戦わせようとするビャクを、童虎は心底醜いと思った。
440 :
闘りゃんせ:2009/11/26(木) 23:09:39 ID:puvOLnyL0
童虎一人に向かい雪崩落ちる怪物たち。
虚ろな眼窩から腐汁をたらし、ちぎれた腸をたなびかせ、腐肉をこぼしながら童虎に向かってくるその姿は、
ころしてくれ、ころしてくれと懇願するように童虎には思えた。
限界以上の命令を出したのだろう、明らかに先ほどよりも肉体の崩壊が進んでいるが、
怪物たちは聖闘士並みのスピードで襲い掛かる。
すまんな、と、誰に言うともなくつぶやくと、童虎から金色の龍が飛ぶ…。
その数十と二つ。
━━━━廬山龍飛翔━━━━
天秤座の黄金聖衣には、聖闘士にとって禁忌とされる武具が搭載されている。
武器の使用を禁じるアテナが唯一武器を授けた聖闘士という存在には意味がある。
武器をもって全聖闘士の天秤となるべし。
アテナの無言の絶対命令を下された存在であるが故、童虎には自制と理性を求められる。
今、この場においてさえ童虎は自制と理性をもって事に当たっていた。
それ故に、十二の武具を開放した。
絶対の法理たる生と死を捻じ曲げる者にアテナの制裁を。
それが今、童虎が武具を開放した理由である。
理性ある闘争の神、それがアテナだ。
理性なき闘争の神、アレスとの致命的かつ絶対の差。
闘争という極限において、なお、理性を失わぬこと、それこそが人類が霊長たる証なのだ。
本能のままに争うは獣、理性をもって戦うからこそアテナの聖闘士は「ソルジャー」たりえるのだ。
十二の黄金龍、十二の廬山龍飛翔。それが意味することはただの一つ。
怪物の殲滅。
タゲスがはじけとび、オルトロスが崩れ落ち、ヘカトンケイルが押しつぶされ、キマイラが切断される。
ただの一瞬、ほんの刹那、それだけで死体は死体へと還った。
ただ呆然と、その様を眺めるしかないビャク。
その彼の肩を、ぽんと、まるで友人のように叩く手があった。
はじかれたように振り替える、そのままあご下に衝撃、虎の声が響く。
「廬山昇龍覇」と!
441 :
闘りゃんせ:2009/11/26(木) 23:12:23 ID:puvOLnyL0
ビャクは舌で口中をさぐるが、不思議と下あごに触れない。かわりに舌が妙にひきつった感触を受けた。
簡単な話だ、もうないのだから。
べり、という音は、上あごから歯が落ちた音だろう。
脳が直接下からぶん殴られたためか、今のビャクは自分がどんな状態にあるのかわからない。
例えるならば、ゼリーか漂うクラゲか。
それでも不思議と耳は、よく聞こえた。
恐怖は耳から入り、脳を浸して全身を腐らせる。
黄金の虎に、彼は赤子のように震えて泣いた。
ビャクは自分の意のままにしたかっただけなのだ。
人は人と触れ合うことで距離感を掴む。
その距離感を掴みかねた者は、生涯その摩擦を恐れてすごす。
摩擦を厭い、摩擦を嫌い、そして摩擦から逃げだしたビャクは、結局は死を弄んでいたに過ぎない。
「廬山百龍覇」
それがおろかなネクロマンサーが最期に聞いた音だった。
そして…。
「天暗星ウィル・オー・ウィスプのブラジオン!」
「天威星ティンダロスのレイザークロウ!」
「天速星バイアクヘのブラー…」
「天微星ミーゴのトリプレイガス!」
死臭が死臭を呼び、殺意が殺意を招く死の舞台にて…。
「ホ、一丁前に名乗りおるか?
わが名は童虎!黄金聖闘士、天秤座ライブラの童虎!
黄金の龍の顎を恐れんものからかかってこい!」
戦いは、続く!
442 :
銀杏丸:2009/11/26(木) 23:17:28 ID:puvOLnyL0
はい皆様お久しぶりです、銀杏丸です
あんまり久しぶりなんでトリわすれちまったい
いろいろありましたが、生きてます
毎年十一月は冥途のたびの一里塚な僕です、スコーピオのミロはなんか地味なんで好きになりきれない…
あと二週間生まれていれば天秤座だったのにと、昔は思ったモンです
タイトル元ネタは
ttp://www.youtube.com/watch?v=xSSF-Zp0zCw 中島みゆき作詞作曲のスゴい歌です、一聴の価値あり
今回は童虎無双、書き始めたの7月だってのに…orz
これ実はLCで童虎三本勝負が始まる前だったりします、書き出したのw
ナス、瞬殺しちまいましたが、ガチのオカマキャラでキャラ立ちしていてけっこう好きです
ネクロフィリアにしちゃったビャクもすきな冥闘士だったり、冥衣のオブジェモードが中々にカッコイイ
昔から聖闘士がなぜ「ソルジャー」なのか不思議でして、自分なりの回答をだしてみたのがこのお話
まぁ、アテナの近衛兵だからソルジャーじゃんといわれればそれまでなんですがw
一度はやりたい投げっぱなしエンド、名前だけでた連中は一応原作にもLCにも未登場の連中です
名前の借用元はクトゥルー神話とトランスフォーマーから
それぞれ、
天暗星 楊志(ようし)
天威星 呼延灼(こえんしゃく※ジャイアントロボで有名)
天速星 戴宗(たいそう※ジャイアントロボで有名)
天微星 史進(ししん※ジャイアントロボで有名)
最近は色々厄いですが、皆様ご健勝のようでなにより
チャンピオンのLC、ギャラクシアンエクスプロージョンの打ち合いからの結末までがまた素晴らしい
では、また!
443 :
力イ力イ:2009/11/28(土) 10:31:39 ID:JtsTUSsO0
「この時代にも、いや僕らの時代には既に帝愛があるのか…」。
のび太は、喫茶店の座席でやや前傾姿勢となり頭を上げた。
小学生だけでは入店できなかった区内の喫茶店。トイメンに座るのはロン毛の黒服だ。
だからというわけでもないだろうが、その人は黒川と名乗った。
「で、どうする?まだ強くなりたい?」
黒服の黒川は、のび太に問う。
それへの返事を先延ばしにしたいからか、先ほどの20世紀で味わったものでは屈指の「リアル」を
思い出してやや体が震えたからか、のび太は両膝の上に置いた手に力を入れ再び下を向く。
そして、コーラフロートをチュゥゥッと一喫。そして息をつぐと開口一番に…。
「はい、今度は地道にしたいです」。
黒川は、裏物DVDを収録・再製(気の遠くなるダビング作業)・出荷する秘密工場を視察に来ていた。
秘密工場といっても、収録だけは別の場所で行われる。しかも、帝愛の息がかかった民家とかだ。
そこで、体育用の長細いマットに行楽用のビニールシートを巻いた物体の上でシコってる最中の…
のび太と出遭った。
強くなるため深夜徘徊に行ったのび太は、裏DVD業者にコロッと騙されて別の日にはこういうところに居るのだ。
脇でアクロバティックな姿になって応援してる、ドキュソ風の女性(19歳ぐらいか?)が彼のマネージャーらしかった。
444 :
力イ力イ:2009/11/28(土) 10:33:22 ID:JtsTUSsO0
ドキュソ女は、のび太ぐらいの年齢(ころ)初めて下着を売ったクチだ。
それが長じて、半分は情欲のためこういうことをしているのだろう。
とりあえず、債務奴隷でもない奴にこういうことをしたらダメなので撮影が終わってから
こういうことを認可したアホどもを召集してデータ収録の装置を全てクリーンアップさせた。
そして、なにげなく黒川はクッションをけった。ドキュソ女が腰の下に敷いていた四角いクッションなのだが。
それを、なんとなくキャッチしたのがのび太。その流れで、黒川はのび太を外へ誘い出した。
それから、腕を組んで歩きながらどういうことだったのか訊いた。それと同時に、のび太が置かれていた状況を教えた。
呆れたことに、それでものび太は闇金のことを「民間でも筋肉だけに頼らずケンカに勝つすべを知っている集団」としか
認識していなかった。弱いくせに、もはやジャンキー…。それもパワージャンキー。破滅型…。
それを見かねたのか、「こんな面白い餓鬼めったにいないぞ」とでも思ったのか黒川はのび太を実家の道場に招いた。
当日、ドラえもんも同行して来た。
「裸の美女が夜のNYを歩くようなものだ」という喩えを聞いたことのある黒川だが、
こいつまさにそれだとしか思えないのび太にかつて見た人物を思い出す。
何がこいつをそこまでさせるのか。それもプロボクシングで勝ち上がるとかじゃなく、漠然と強くなりたいだなんて。
そんな黒川も、あのような出逢い方をした対象に実家の道場の所在地を教えてる時点でけっこー毒されてる。
445 :
力イ力イ:2009/11/28(土) 10:36:13 ID:JtsTUSsO0
のび太は、ジャージ姿で道場に来た。入り口で「スリッパはどこですか?」などと聞くのは愛嬌か。
あとあと(中学の挌技室とか)、のび太がヘンに思われたりしないよう一般常識ぐらい教えてやる。
それから、挨拶も早々に立ち合い。なぜなら、土曜日はまだ半ドンのところが多くて夕方まで誰も来ないから。
その半ドンも、のび太にとっては土曜日が半分潰れる苦難という意味を為すようだ。これは鍛え甲斐がある。
隅で正座するドラえもんの脚を不思議に思い見つめながらも、黒川はのび太に相対する。
鯉口が鳴らないので、気分を出すために「シャキーン」とほざいてみる黒川。「ギャッ!」と飛び退くのび太。
そのぐらい、予想すべきだ。ここが少林寺拳法とかの道院やジムに見えるのか。
黒川は”中身”を無造作に、畳やゴザの成れの果てが形作る山へ投げ捨てた。
そして、鮮やかな桜色の鞘をのび太に投げて寄越す。
隅で”中身”が陽光に煌めいているからまだびびってるのび太だが、なぜか黒川が鞘を帯から抜くときの
違和感が頭を離れなかった。ずっとアゴを引いて体の正面に向いていた黒川の貌。
いつの間に、帯から鞘を抜き去ることなんかできたのか。
それからの展開は、のび太がいくつか痣を作るだけに終わった。
鞘をフルスイングするのび太を、手刀や刈り技で崩す。のび太が床に強打しないように、両手で支えてやる。
10分ほどで、こんなルーティンワークと化した。さながら、ヘンな社交ダンスみたいだ。
のび太の属する世帯への”浸透”を既に済ませているとはいえ、あんまり痣を作ったらやばいので
乱捕りは早々に止めた。痛みに呻くのび太はしかし、この黒川より更に強い人間―ここの道場主―に興味を持った。
なぜなら、黒川はすべての技をその人物から教わったに過ぎないと言ったから。
446 :
力イ力イ:2009/11/28(土) 10:37:31 ID:JtsTUSsO0
だがその日・・・! 予想外の事態が発生・・・!
「うわっ! それどうしたの!?」「!」「センセイッ・・・」「師範っ・・・」
「くぅわっ、水くれー」。
道場主が、練習の開始時刻に30分余り遅れて道場に帰り着いた。それも、フルボッコで。
「まさか俺がらみじゃ!?」
門弟の木崎という人が、心配そうに訊いてる。でも、道場主はカブリを振る。
それでも依然、道場主は満身創痍だからホッとはできない。
黒川が差し出したお冷。道場主はそれをクイッと飲み干し…コップをコースターに置きつつ別の方を向く。
道場の出入り口がある方だ。そこに、一目で別の武道をしてるとわかる格好の男性が立っている。
蛍光灯の光が、拳法着に反射してキラキラしてる割にはそれがとても体にフィットしてそうだ、
「落し物です」。それだけ言うと、拳法家風の男性は黒い棒のようなものを上がり框に置いて去っていった。
後ろ向きに発進したのに、道場の敷居で蹴躓かなかったし最初の一歩にしては妙に速かった。
そして黒い棒のような物。微妙に湾曲している。それは重厚な黒塗りの鞘だった。
道場主。この闘い方の「八段範士」。先ほどの果し合いの経緯、その話に違和感を覚えるのび太。
道場主は、「一足一刀の間合いから構え合って始めた」「得物は鞘、いつもの稽古のように」とのたまう。
なるほど、確かに抜く手を柔術で捕られて〜みたいな展開ではなさそうだ。しかし、違和感。
初めての道場の緊張感と、間近に見た暴力製の”作成物”を見たことで自制心が緩んでいたのだろう。
447 :
力イ力イ:2009/11/28(土) 10:40:02 ID:JtsTUSsO0
のび太は挙手した。つい、「野比くん、だったね」と当ててしまう道場主。
「なんで、本身を抜いた果し合いにならなかったんですか?」
本当は、一足一刀の間合いから数抜きをしたのだ。相手も―得物の有無の他は―同じ条件で。
そのうえで、ついぞ一本もとれなかった。それを、ごまかした。
のび太の晴眼を一笑に付して黙殺。だが、せめてもの詫びにと「子守ロボット」とやらに望みを託す。
強敵・龍書文への紹介状。誰への詫びなのか。その悩みの雲が晴れるのを待たず、のび太は次のステージへ向かう。
電気スタンドに照らされた、畳敷きの一室。ショックガンに突き上げられた鉛筆が、薄明かりの向こうで泳いでいる。
本人も、後から認識してるんじゃないかってぐらい普通に・・・途中から二挺拳銃に変わってる。
ロンがショックガンの間合い・・・いや射程距離で勝負を受けてくれるかどうかわからない。
それに、勝ててもショックガンの力によるところが大きい。それでも、早抜きなればこそ。
きっと、ロンは認めてくれる。勝てば、認めてくれる。その想いは確信に近かった。
素手と短銃の違いはあれど、自分の遥か先を歩く人物であろうと。
早抜きを選択(えら)んだ者同士のシンパシィ!!
かつて夜の時間帯を利用した月までの踏破計画。あれは挫折したが、今度ののび太は時差を利用して中国へ往く。
そして、夜明け頃に帰ってくる。強くなりたいという思い。
※予定ありませんが、続きます。金本や野生のエルクを当て馬にする予定もあります。
最後の輝きかも知れんが沢山投下されて嬉しい。
>サマサさん
サンレッド、チンピラなのにヒーローだかヒーローなのにチンピラだか
分かりませんが、今回は由緒正しくヒーローしてましたね。カッコいい。
サマサさんは思いもよらないところから元ネタ引っ張ってくるなあw
>銀杏丸さん
お久しぶりです。俺もさそり座で乙女や獅子や双子がうらやましかったw
童虎無双ですな。LCではシオンやレグルスと共に黄金三弱でしたが
流石にこのSSでは強いですな。一応、デスマスクも悼まれてて嬉しいw
>カイカイさん
一回書いて辞める人も多いけど、なんか続けてくれそうで嬉しいです。
なんとなくVSさん風味の作風だ。もしかして過去に書かれた方かな?
破滅型、しかも自然に地雷を踏むのび太がどう堕ちて行くか楽しみです。
449 :
作者の都合により名無しです:2009/11/29(日) 12:17:57 ID:JHnaLJ/c0
サマサさんと銀杏丸さんとカイカイさんが来てるのか
まだ、来年の春までは持ちそうだ
・サンレッド
軽く小突いただけでブロックが飛び散るサンレッドと一緒に
生活してるかよこは凄いな。下半身ずたずたにならないだろうか
子供2人を温かく見守るサンレッドはいいね。いいもんみたいだ。
・通りゃんせ
このベロニカは死の神の加護を受けていないのかすぐ死んだな
マニゴルド戦ではちょっとは粘ったけど。童貞虎は流石に強い。
「戦いは、続く!」という事は後編があるのかな?
・カイカイ
これはのび太無双・・なのか?意外とのび太がたくましい。
漫画版のアホさと映画版の勇者っぷりがブレンドされたような感じだ。
黒川ってバキキャラでしたっけ?バキは見限ったから思い出せない・・
第一話 束の間の幸せ
今より三千年前、イエス・キリストもいない、俗に紀元前と呼ばれる時代、
古代エジプトは新王国時代を迎えていた。そんな王国にも当時から貧富の差は激しく、
このクル・エルナ村は特に貧困に苦しむ人々が住んでおり、通りがかる旅人からは金、食糧、物品を盗み続ける。
元々王宮に仕えていた墓職人が墓荒らしとなった事実も含み、俗に『盗賊村』と呼ばれるようになっていった。
しかし、この村で生まれ育った子供達にとっては、その行動が正しいと思い、何の疑いもなかった。
もちろん、バクラと名乗る少年も…………
彼はクルエルナ村の子供達と一緒に通りがかる旅人を襲い、金品を奪う。
「やった!!これで美味い物食べにいこうぜ!」
今日もバクラは数人の連れと一緒に村を駆け回る。
「そうだバクラ、今日も体を消して見せてよ!!」
「ちぇっしょうがないな。」
少年にせがまれ、彼は胴回りの部分から下半身にかけて、肉体を消した。
「まあ、消すって言うよりも『隠す』って感じだな。」
「すごーい!!!」
バクラは少年少女達に褒められ、赤面した。
バクラは、特殊な精霊(カー)を持っていた。名は精霊超獣(ディアバウンド)。
この精霊超獣が後に王国を崩壊寸前まで追い詰める事になるが、それはまた別の話。
「お前等本当にディアバウンドが見えないのか、不思議だなあ。」
バクラは周囲の人間、果ては家族にも、精霊が見えない事が不思議だった。
一方王宮では一大事が起こっていた。王国の王子が失踪したと、城の小間使いが嘆いていたのだ。
「私が少し眼を離した隙に、ああ、私の職務怠慢です……」
「安心なされ、貴女のせいではない。幸い外に出られた形跡もなく、我々神官団も捜索している。
直ぐに王子は見つかるじゃろう。」
神官、シモンが女性を励ます。そんな様子を壺の中からそっと見つめる影があった。
「出られないよう!!!!」
壺の中からなんとか顔を出し、外の様子を伺う少年、アテムは申し訳なさそうに女性に頭を下げる。
結局それから捜索は一時間以上掛かり、壺から、その特徴あるツンツンした頭を神官・マハードの眼がとらえ、
壺を壊すという少々荒業に出て、やっと事件は解決した。
「馬鹿者!!どれ程皆がお前を心配したか分かるか!!!」
物心付いたばかりの子供の行動であるからといってアクナムカノン王は甘やかさなかった。
責任感のない者に、次代の王にはなれないということもあるが、王も人。
自分の息子が心配でならなかった。
「もういい、自分の部屋で…休んでいなさい。」
アテムが部屋に戻り、アクナムカノン王と神官・アクナディンだけが玉座の間に残った。
「我が兄弟、アクナディンよ、王宮制圧のタイムリミットまで、あと何日ある。」
「は、もう長くても二週間程になってしまうかと。それまでに『千年魔術書』の解読出来るよう急いでおります。」
「頼むぞ、アクナディンよ…………」
アクナディンが玉座の間を後にする。彼の後ろに伸びる影が嘲笑していた事は、誰も知らない。
翌日、バクラの家は今日も朝から忙しそうに行動している。
母が、少ない食糧で工夫を凝らしながら手間を掛けて料理を作り、物を盗む等考えられないといったような父はナイル川で魚を獲る。
いつもと変わらない日々、そんな毎日がバクラにはとても愛おしく感じる。
自分一人だけ精霊が見えて一緒に行動をしててもはぐれ者扱いをされず、変わりなく自分に接してくれる者達に感謝していた。
どんなに貧困で苦しんでいても今のバクラは幸せだろう。
クル・エルナ村の子供達の生活は毎日同じだ。時には王家の墓を荒らすかの様に身ぐるみを剥ぐ事もある。
子供達が盗みを働くような荒んだ環境になったのも、王国が敵国と戦争をしているのが大きな理由だろう。
墓荒らしになってしまった王宮の墓職人達が王国の眼から逃れるように遠方に移り住んでいった結果、このクル・エルナ村に着いたのだが、
不運な事に丁度王国と敵国の境目に出来たような小さな村だった。
村の人口はたった九十九人、敵国の騎馬隊に一瞬で滅ぼされるだろう。
しかし、敵国はわざと村を残し、金を搾り取り続けた。
そして、いよいよ村の金も底をついてきたとき…………
「もう取れるだけ取ったから滅ぼしちまうかあ?」
剣を村人に突き付ける兵士を兵隊長のような男が制止する。
「我々はこんな村を潰しに来たのではない。王国を滅ぼすまで、余計な行動は極力避けろ。」
こうして村は滅ぼされるという最悪の危機は脱したが、貧困によって食事もろくに取れないような人間が増え、
そして今現在に至るわけである。
村の子供達も大人達から話を聞き、生計を立てる為に、大人と一緒に盗みを働いている。
王宮でもそのような盗賊村の噂に良い思いをしていなかった。
しかしアクナムカノン王は盗賊村が盗みを働きだしたのにもこちらに責任があると言い、
敢えて手を出さずに、盗賊村の様子を見守っていた。
王宮陥落のタイムリミットまで残り二週間、
「と、解けた!!魔術書に書かれた全ての謎が!!!し、しかし………」
千年魔術書の謎を解いたにも関わらず、不快そうな顔をするアクナディン。
全てが、邪神の描いた脚本通りに事が進んでいた。
453 :
ガモン:2009/11/29(日) 22:36:27 ID:N0i0eiP20
前回感想を書けずにすみませんでした。
そしてネタも浮かばないので二、三話程遊戯王の短編を挟みます。サマサさんすみません。
あと、いつもよりも量は少ないです。すみません。
>>サマサさん
ファラとディラン、読み始めた所はFF4のパロムとポロムに似てるような気もしましたが、
ディランのほうは少々やきもち焼きですかね、コタロウとの関わり合いを見て思いました。
レッドさんはヒーローとは思えないような言動もしていますが、まあヒーローって実際このような方だと思います。
次回いよいよヒロインの登場ですね。
決闘神話の方で驚いたのが実は闇遊戯が実名を言ってホルアクティを召喚した所ですね。
もう古代編終わった後の話だったんでしょうか?タナトス様はゾークよりも強いですね。
>>銀杏丸さん
ベロニカ、楽に勝利したと思ったら逆に瞬殺されてしまいましたね。
ビャクのネクロマンサー能力と言動はとても外道のような感じも致しますが。
童虎一人で数多くの敵を屠ってきていますね。
>>カイカイさん
のび太に原作でも数少ないというかごくまれな向上心がありますね。
道場主がボロボロになった時の木崎の反応が気になりますね。やはり花山組のあの木崎ですかね。
のび太がだんだん強くなっていくシチュエーションは燃えますね。
454 :
ふら〜り:2009/11/30(月) 09:58:04 ID:7fdOZJSD0
持ち直してきましたっ!
>>サマサさん
子供を相手にする図なんか見てると、もはや単に「いい人」というより母性すら感じます
ヴァンプ様。今回はまたスケールの大きい話ですけど、レッドの彼女が楽しみ。こういう
豪快な男が、唯一頭の上がらない人にたしなめられたりするのって好きなんですよねえ。
>>銀杏丸さん(お帰りなさいませっ!)
私が射手座で妹が天秤座。共に12宮当時は寂しかったんですけど、後に妹は狂喜しました。
理性ある戦い、でも凄惨で容赦のない戦いっぷりの童虎。春麗がいなければ、紫龍ももっと
こんな風に育ってたんでしょうかね。自信たっぷりな態度に恥じないだけの実力、カッコいい!
>>カイカイさん
確かにのび太は、射撃の技術だけなら、プロの凄腕の殺し屋を束にしても勝てる実力が
ありますからね。銃の間合いで真正面から攻撃できれば、龍が相手でも勝てると思います。
問題があるなら精神面だけですが、それもこののび太なら大丈夫そう。勝ち目濃厚、か?
>>ガモンさん
王宮と盗賊村、最上級と最下級を並べて、両者を繋ぐ設定があり、村は平和で王宮からは
不穏な空気。物語の基本構造がしっかりしてるなあという印象です。なのに短編なのが少し
残念ですが、それならその間、しかと楽しませてもらいます。ガモンさんの他作品と比べつつ。
そろそろ次スレ立ててきます
すんません、規制かかって立てられませんでした…
とりあえずテンプレ作ってみましたので、有志の方お願いします。
テンプレ間違いあればご指摘もどうか。
462 :
作者の都合により名無しです:2009/12/01(火) 12:17:43 ID:ENyfMtrQ0
黒川は、カイジキャラにもいるしバキキャラにもいます。
カイジキャラの方は、ネット上で諸説ありましたが今回は牝の方で。
バキキャラの黒川は、幼年編ですね。金本も同じく。
居合やってる友達に試してもらったことあるんですが、居合はテクニックが凄いんですよ。
マンガオタのガリ(パワーとスピードとコミュニケーション能力が不自由w)でさえ、あんな芸当ができた。
セオリーとは逆に、使い手の挙動ではなく武器(刀)の方を見て防ぐしかありません。
幸い、刀は80cm近い大きさだしやや湾曲してるだけでシンプルな形をしてるし電灯の下だとキラキラ光るんですよw
それでも、双方が寸止めじゃなかったら腕を大打撲するところでした。
刃筋が剣道の比じゃなくシッカリしてるので、受け技ができそうにないんです。
バキ界で八段範士の黒川を素手で圧倒するロン、これはもう射撃以外に野比の活路おまへん。
格闘戦だったら、ジャイアンですらルミナにも遠く及ばないでしょうね(タフネスが桁違い)。
このままじゃSS投下できぬ
自分のホストじゃスレ立てられないので誰かお願いします
465 :
作者の都合により名無しです:
スレたてお疲れ様です!