【漫画家リレー小説】新生 えなりの奇妙な冒険 第二部

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167ダーティペアの大乱入
「おーれのー 闘志がァ 真っ赤に燃ーえーるゥー♪
ギャンブルーー ジェエットでーー クーロースゥイィンンーー♯」

今この瞬間、俺は、長谷川裕一は確かにシャングリラに足を踏み入れていた。
『ゲッター』シリーズ! 『勇者』シリーズ! 『ゼオライマー』! 『ギャンブラーZ』! 『流星のカルナバル』! etcetc!!
大手量販店とはとても信じられないぐらいマニアックな品揃えだ。どちらかというと個人経営の専門店にありそうなものだが。

「この手をあーかく そーめるたび 閉じ込めたこーのおーもーいぃーーーー♭
コオォォン ジャッジャッジャッジャジャジャジャ ジャジャジャジャン ジャッジャッジャッジャジャジャジャ ジャジャジャジャン♪(イントロ)」

ああ、こうして家路を急ぐ時間すらもどかしい。心を燃え上がらせる主題歌たちが勝手に口をついて出てきてしまう。
しかし、いったいあの店は何だったのだろう? 奇跡の生還を果たし、そして今また新たな戦場に身を投じようとしている俺に対するせめてもの餞だろうか?
だとしたら、神か悪魔か知らないがなかなか粋なことをするものだ。

「Danger! 悪がしーのび寄ーるゥ♪
Let's Go! 今だはーしり出ァせェ♯
Diving! 後ろ振ーり向くーなァ♭
Keep on! 平和まァもるたァめェ♪♪」

肩に食い込む荷物の重さすら、その中に封じられた何物にも代え難い凝縮された時間を思わせる。
気がつくと街路樹の銀杏に飛びつき、梢から梢へライダーキックを繰り出しつつ声も枯れんと熱唱しながら飛び回っていた。
恐らく端から見ると相当変な奴に見えただろうが、そんなことは関係ない。
今はこの逸る気持を抑えつつ竹本の家まで辿り着くことが最優先の命題。情報収集の名の下に全ての行為は正当化されるのだ!
赤信号の交差点を天高く跳躍して飛び越えようが、民家の庭先を土足で走り抜けようが、ポイ捨てされた煙草をゴミ箱に捨てておこうが、そんなことは大した問題ではない。
全てはこれからの計画を立てるとともに英気を養うという崇高なる目的のための偉大なる行為なのだ!!

そんなこんなでさすがに自己弁護のネタもつきてきたころ、ようやく竹本の家に帰ってきた。
窓ガラスやドアノブ、煙突などを除いて外観のほぼ全てが木材のみで構成されたログハウスのような家だが、それでもやはり見逃すことはなかった。
いくら素材が木といっても、その組み合わせ方は人間特有の直線的なもの。休耕田や真新しい切り株の多い里山であっても、
杉やブナの木立、ワラビやウラジロといったシダ植物の群、あるいは名も知れぬ灌木の中に人工物はどうしようもなく目立つ。
個人的にはもう少し金属的な作りの家のほうが好みだが、これはこれで秘密の地下室なんかがありそうな風情だ。悪くはない。
168ダーティペアの大乱入:2008/08/29(金) 08:29:58 ID:bCUr5aer0
家の左手を流れる小川でひとまず口を漱ごうかとも思ったが、最近は山中にも化学物質の魔手が伸びてきているというようなことを聞いたのでやめておいた。
体調を壊しでも壊したらアニメ鑑賞、あ、いや、情報収集に支障をきたすかもしれないからな。

山の湿気のせいかうっすらと露の浮いたドアノブを回して家の中へ入り、靴を脱ぎ捨てて一直線にテレビとデッキを探す。
玄関を入ってすぐ右の居間らしきところにあった。旧式なブラウン管だがサイズは恐らく24型。贅沢は言えまい。これなら十分だ。
テレビ台の中にDVDプレイヤーを見つけた。よかった、きちんと配線されている。台のガラス戸を押し開けて電源を入れる。
トレイ開閉ボタンを押す。よし、あとはDVDを……あれっ、無い!? バカな、いったいどうして!?
来た道をもう一度辿るが見つからない。どこかに落としてしまったのか、それとも誰かに盗られてしまったのか。
さすがにあれをもう一揃い買えるだけの金はない。いったいどうしたらいいんだ。考えろ、考えろ裕一。
しばらく自分でもわからぬままぐるぐると歩き回っていたが、やがて意を決してあの店へ戻って聞いてみることにした。
もちろんどんな事情があったところで払い戻しなんかしてもらえるほど世の中甘くはないとはわかっているし、落とし物が店に届けられるわけはない。
それでも、俺の足はここに向いた。そして長年の経験から、俺は自分の勘というやつをある程度信頼することにしている。

自動ドアの前に立つと、特有のモーター音とともに店内の冷えた空気が肌に感じられた。
入口近辺にある流行の品々を無視し、まっすぐ左手のレジに向かう。
よかった、さっきの店員のままだ。だめでもともと、一応聞いてみるか。
「……というわけなんです。何かご存じではありませんか?」
「ちょっと待て。『……というわけなんです。何かご存じではありませんか?』だけでは何もわからん!」
「だから、かくかくしかじか、こういうわけなんです!!」
「なるほど……。それは災難だな。だが少年よ!! 一つだけ、一つだけ聞かせてくれ!!!」
「何ですか!?」
見ればサンバイザーの奥の表情が疑念と『ありえない、絶対ありえない』と『いや、でももしかしたら……』を合わせたような名状しがたいものになっている。
やけに高いテンションにつられてこちらまでつい大声になってしまう。他の客がいない時でよかった。
そして次の瞬間、彼が発した言葉! それは俺の動きをたっぷり十秒は止めるほどの圧倒的威力を持っていた。
「君の背負っているリュックサックの中身は……なんだ?」

あれ? 本当だ。言われるまでリュックを背負っていたことすら忘れていた。
確かこの中にあの時たっぷりと買い込んだ荷物を入れたんじゃなかったっけ?
ってことは俺の収穫祭の編み上げ……じゃない、収穫した品々はひょっとしてこの中!?
じゃあ俺はいったい…………何をやっていたんだぁぁぁぁぁあああ!!!!????
169ダーティペアの大乱入:2008/08/29(金) 08:31:31 ID:bCUr5aer0
だいたいこんな感じの思考が超音速で俺の精神を削り取りながら回転していたんじゃないかと思う。
思う、というのはその時の記憶がほとんどないからだ。
こんな事は全力で忘れてしまいたい、ってことだろう。だからこれを読んでる君たちもすぐに頭の中から叩き出すんだ。いいな。
あの店員が呆れと驚愕と安堵をそれぞれ自乗したような調子の声で『ありがとうございました』と言っていたような気がしたが、よく覚えていない。
ともかく鉛色のリフレインが魂を重く震わせ続ける中を、ほんのちょっとした向かい風すら土砂混じりの大暴風雨のように感じながら店を出て、三度竹本の家に辿り着いた。
もう何というか、卑近な例えで言えば残虐非道な敵組織の幹部が実は自分の兄だったと知ったときに匹敵する大ダメージだった。もちろんベクトルは違うが。
こちらのほうが全ての憤りの向かう先が自分である分始末が悪いかもしれない。

忘れよう。忘れるんだ。
目を開けばほら、そこにはシャングリラの、あるいはユートピアへのゲートが開かれるのを待っているじゃあないか。
さあ、アニメという名の楽園へ旅立とう! ……もちろん情報収集のためだからな? そこのところを誤解しないように。
エネルギープラグ、接続確認!
ハードウェアへの電力供給、異常なし! メインスイッチ押下!
BIOSロード完了、コマンド入力受付状態に移行! システムオールグリーン!!
次だ! ソフトウェアの取出および設置開始!
梱包フィルム剥離に取りかかれ! くれぐれも保存状態を悪化させないように細心の注意を払って……
……待て、何だあの影は!?

テレビの向こうにある窓の、更に奥。
鬱蒼と茂る木立をも超えて、僅かに見える市街地に何か巨大なものが動いた。
だが、いくらビルに匹敵する大きさの物体といえども、この山奥の家から、しかも山道や畑跡による分断以外はほとんど隙間なく繁る森を越えて
眼前の理想郷に全身のあらゆる感覚器官を集中させていた俺に存在を気付かせるなど、普通ではありえない。
その様な状況的事実を確認する前に、前の世界において幾多の死線を超え磨かれた精神が直観的に理解してしまった。
俺は少しばかり、休息をとりすぎたのだと。

俺がSF・ロボットコーナーの前で品定めをしている間に、視野狭窄に陥って右往左往している間に、もはや全ては動き出してしまったのだ。
ここから先は、寸暇を惜しむことすら滅多に許されない修羅道を進む以外に道はない。
後悔はしていない。もともとあの時捨てたはずの命だし、何より自ら望んで選んだ生き方だ。
だから……アニメや漫画に興じるのは、もう少し後にしよう。
出来るだけ早く全てを終わらせ、その後でゆっくり、平和の尊さを噛みしめながら楽しむために、ここに置いていこう。
俺が迷わないための、錨として。
170ダーティペアの大乱入:2008/08/29(金) 08:33:49 ID:bCUr5aer0
さっきは気が動転していて気付かなかったが、この街の静けさはどうだ。
こうして繁華街を歩いていても人影はまばらで、とてもそこそこ大きな都市だとは思えない。これではまるでゴーストタウンだ。
だが、この口をつぐむような沈黙以上に俺の心を乱すものがある。
俺が今ここにいる理由、あの巨大ロボットだ。
とても視界が悪かった上に少しの間しか見えなかったが、白を基調としたカラーリングに頭部の鍬形のようなアンテナ、
そして何より、視界に入るか入らないかのうちに俺の心を震わせたという事実。
大量の続編やメディア展開を持つあれを描くことの出来る漫画家は多い――事実俺もスピンオフ作品を一つ描いている――が、あの筆を使いこなした画風はあの人以外にありえない。

まず間違いなく『機動戦士ガンダム』! そして『安彦良和』さんだ!
そう思うと、胸の奥から何か熱いものがこみ上げてくるように感じる。
俺のかつての同僚にして、尊敬する先輩。
そして……『神』との戦いにおける、艦隊総司令。
もちろん、俺の世界の安彦さんそのままというわけではないだろう。だが、俺をこの世界に呼んだのが竹本である以上、そう変わりはないはずだ。(※)
『クラッシャージョウ』の挿絵をつとめ、『アリオン』や『ジャンヌ・ダルク』、『三河物語』と言った神話・歴史物を得意とし、『機動戦士ガンダム』を手がけた安彦良和さんに違いない。

※竹本の漫画『さよりなパラレル』では、別の世界でも外見や性格、社会的地位などがほとんど同じ人物が頻繁に登場していた。

そう思うと足も自然に早まり、気付けば異様な気配の漂う一角に入っていた。
風景自体は他の路地と変わらない――人の気配がしないところまで――が、肌に感じる空気がひどくひりついたものになっている。
これは、今まで漫画家として、そしてスーパーロボット乗りとしてその身を置き続けてきた世界――戦場の空気だ。
そうだ、よく考えてみれば何の意味もなくガンダムなんかを安彦さんが出すわけはない。
この街の不気味な沈黙も、そう考えれば納得がいく。漫画家同士の争いなんて、読者に見せられるものじゃあない。出版社が戒厳令を敷くのはよくあることだ。
だとしたら、安彦さんもまた戦っているに違いない。理由はわからないが、とにかく合流し、できれば加勢しなくては。
そう思って大通りや路地や、あるいは建物の中も走り回ってみたがいっこうに見つからない。
おかしいな、ガンダムなんて大きなものを使っていれば音もでるし、いくら高いビルの多い都会であっても目立つはずなんだが……。もしかして、もうどこか別の場所へ移動してしまったのか?

そう思ってさすがに途方に暮れていたとき、風を切るような空気を震わせるような、独特の音が響いた。
それが耳に入るやいなや、俺は駆け出していた。
理由は単純だ。その音は聞き間違えようもなく、ガンダムの主力武器の一つ、ビームライフルの発射音だったからである。
ガンダムのものにしては音が小さいが、恐らく生身での白兵戦になっているんだろう。
とにかく、音の出所に向かおう。そこに安彦さんがいるはずだ!
171ダーティペアの大乱入:2008/08/29(金) 08:34:58 ID:bCUr5aer0
はやる気持のまま音の方向へ向かった俺には、街が急に広くなったように思えた。
さっきあてもなく探し回っていたときにはそれほど感じなかったが、早くどこかに行きたいと思えば思うほど目的地は遠く感じるらしい。
感覚的には一時間ほども走っていたように思えたが、きっと実際には五、六分というところだっただろう。
消火栓のある辻を曲がると、とたんに血の臭いが濃くなり、角から二十メートルほど先のところに血まみれの男が二人と、そして血とは違う赤色の軍服を着た男、安彦さんがいた。
「逃げられたか……」などと呟いているのが聞こえる。


「安彦さん……」
俺がそう呼びかけると、彼はひび割れたヘルメットを脱いで端正な顔をこちらに向けた。感慨が俺の心を満たす。
「誰かと思えば、長谷川君じゃないか。久しぶりだな。」
よかった。本当に寸分も違わない。俺の知っている安彦さんそのものだ。
「ええ。お久しぶりです。……しかし、ひどい状況ですね。
こちらでも、戦いがあったんですか。」
「ああ。秋田書店の連中が集英社を襲ったようだ。私はちょっとした所用で集英社の柴田君に用があっただけなのだが、巻き込まれてしまってね。」
「それは……大変でしたね。最近、他のところでも不穏な噂をよく聞きます。何かよくないことが起ころうとしているみたいだ。」
竹本から聞いた話の他にも何やら起こっているらしい。
まったく、嫌な予感がする。こんな時は示し合わせたように次々と事件が起こり、どうにもならないところまで進んでしまうことが多いんだ。
「うむ。だが今は、目の前のことから済ませていく他ないな。
とりあえず、三浦君と柴田君を病院に連れていこう。このままでは危ないかもしれん。」
「三浦と柴田っていうと、あの倒れてる二人ですか? 俺はてっきり敵かと……」
「確かに、この状況ではそう思われても仕方ないか。まあ詳しい説明は後でしよう。」
そして俺達は安彦先生の自動二輪と俺のカロス17を使って二人を病院まで運び、必要な手続きを済ませ、
これまでとこれからについて話し合っているときに謎のテレパシーを受信した。
172作者の都合により名無しです:2008/08/29(金) 08:40:22 ID:UNd+qL2F0
んむ、終わり?規制?
173ダーティペアの大乱入:2008/08/29(金) 09:04:49 ID:bCUr5aer0
「安彦さん……今の、聞こえましたか?」
小学館が秋田書店に襲撃されて云々と聞こえた。本当なら捨て置くわけにはいかない。
「ああ。長谷川君にも聞こえたか。小学館はここからほど近いから届いたんだろうな。どうする?
……といっても、君の答えはもう決まってるか。まったく、清々しいまでの少年漫画家め。」
「ええ。今すぐ小学館へ向かいましょう!」

そして今、安彦さんの一tバイクに乗って小学館への道をひた走っている。
もともと一人乗りなのでだいぶ乗り心地は最悪に近いが、この非常時に文句を言ってはいられない。
しかし、片側三車線の幹線道路に他の車が一台も見えないというのも、何となく寒気のする光景だ。
こんな異常な光景が地上のどこにも現れないように、俺達が、俺達漫画家が頑張らないといけないんだと強く思う。
そして小学館の建物を遙か遠くに認め、その周囲で戦う人間達をはっきりと見分けられる距離まで近付いたとき、俺の脳髄にまたも電流が走った。
「なんてこった……何であいつがいるんだよ!? 襲撃者は秋田書店じゃないのか!?」
「どうした、長谷川?」
どうも仮面ライダーがいるように見えてならない。しかも、俺の気が確かならあのフォルムは、テレビ放映されなかった幻のライダー『ZX』!
あれが漫画化されたという話は村枝賢一の『仮面ライダーSPIRITS』以外に聞いたことがない。
「いや、あいつは確か元小学館だったっけ……。でもそれにしちゃあ、あいつと戦ってる女の人は高橋留美子さんに見えるんだよな……。
安彦さん、すいませんが俺はあの仮面ライダーとやらせてください。」
「わかった。何か事情があるのだろう? 他の連中の相手は私がしておく。後顧の憂いを気にせず、存分にやりたまえ。」
「ありがとうございます。」
そう言って立ち上がり、戦闘の準備に入る。
時速150キロメートル近く――これでも抑えている方だ――で疾走るバイクの上だから風圧が凄く体勢を崩しそうになったが、まあそこは気合いでカバーした。
174ダーティペアの大乱入:2008/08/29(金) 09:05:40 ID:bCUr5aer0
「クロノ、スーーーーーーツッ!!!!」
風を全身に感じながら、変身の合図となる言葉を叫ぶ(別に叫ぶ必要はない。本当は心の中で思うだけで十分である)。
そして、転送されてくるスーツが周囲の物質を取り込んで固定されてしまわないように、遮るものの無い空中へ思い切りジャンプ!!
そしてジャンプの頂点で(別に頂点でなくてもいい)パスコードを完成させることで、
「ディメンジョン!! チェンジィィィイイ!!!!」
体内の重心点に存在する経口受信装置に向けてクロノスーツが電送され、漫画家・長谷川裕一は時空監視員『クロノアイズ』へと変身するのだ!!
……まあ全部俺が描いた漫画の中での設定で、実際はこうじゃないけど。

だが、スーツの能力に関しては時空間干渉系以外、ほぼ全ての再現に成功している!
すなわち、頭部以外の全身を覆うスーツは防弾・対光学兵器の強固な鎧であると同時に全身の能力をUPさせ、
特にブーツは強化され最大18メートルのジャンプを可能にする!
背部に取り付けられた反重力ブースターは最大で時速380キロメートル、24時間の飛行が可能! 
頭部を防護するヘルメットは側頭部から後頭部の下半分までしかないように見えるが、実際はこの状態でもフィールドを放射し頭部を強固にガードしている!


そしてジャンプの勢いのまま、対峙する三人の間へ飛び込んだ!!
「……小学館ってのは、どっちだい? SOSが聞こえたから、助けに来たんだけど。」
いきなりの乱入に全員少々面食らった様子だったが、すぐに目のやり場に困る格好の女性が応えてくれた。
「私たちよ。」
落ち着いてよく見たら、全身ひどい怪我だな。この人の仲間らしい男のほうもそうだ。
「私は高橋留美子。こっちの男の人は皆川亮二君よ。あの仮面の男に小学館が襲われたから戦ってるんだけど、正直苦戦してるわ。
……加勢してくれるっていうなら、悪いけどすぐにお願い。」
やっぱり、高橋留美子さんだったか。
あの時代に生きたオタクたちにとって、彼女とラムちゃんは永遠の偶像と言っていい。
俺なんかは『クロノアイズグランサー』で主人公の母親にラムちゃんのコスプレをさせたこともあるし、他にも彼女の影響力は筆舌に尽くしがたい。
そんな、言ってみれば伝説の人と出会え、その上言葉まで交わせるなんて思わなかった。これだけは、この戦争騒ぎに感謝してもいいかもな。
175ダーティペアの大乱入:2008/08/29(金) 09:06:33 ID:bCUr5aer0
と、喜びを噛みしめるのはもう少し後にした方がいいな。
仮面ライダーのほうがさっきから動いていないのも不気味だ。
どうもいきなり割り込んできた俺を警戒しているか観察しているらしい。あるいはその両方か。
あいつが襲撃者だということから考えても、やっぱり村枝じゃあないんだろうか?
俺だとわかってあいつが何も言わないわけもないだろうに。などと思っていると、そいつが仮面の奥で呟くように話しはじめた。
それは、紛れもない村枝賢一の声だった。
だが、そうであるが故に、その語られた内容は俺を驚愕させたのだ。
「キサマ‥‥
キサマは‥‥俺が‥‥誰か 知っているか!?」

何だぁ!??
とても村枝とは思えない邪悪な声で何を言いやがるてめえ!! 貴様ら俺の名を言ってみろ! ですか!?
と一瞬思ったが、声の調子は明らかに威圧と言うよりは焦燥や渇望と言った方がしっくりくる。
まさか記憶喪失か? だが、お前は記憶を失ったぐらいで容易く悪に染まる人間じゃないはずだ!!
……高橋さんたちが悪っていうのは、さすがに考えられないし。
だから、こう言ってやる。
「知らねえな。俺の知り合いの仮面ライダーなら、こんな事はしねえよ。
俺にわかることはたった一つ……。」

指を突き付け、不自然にならない程度にポーズを取って思いっきり言い放つ!
「てめえが今刻んでんのは、最悪の記憶だ!!」
「!!
チィィ!!」
俺の言葉を宣戦布告と受け取ったか、仮面ライダーZXはおもむろに空中へ飛び上がった。
いいさ、相手になってやる。
あいつが村枝じゃあなかったら張り倒す。
村枝だったら張り倒して正気に戻してやる。
そう考えるか考えないかの内に、俺の足もまた地を蹴り、空を駆けていた。
176ダーティペアの大乱入:2008/08/29(金) 09:08:08 ID:bCUr5aer0
常人ではありえない空中での姿勢制御からZXがとった構えは、本能がそうさせるのか、仮面ライダー伝統の跳び蹴り――ライダーキック。
そして俺もまた、ごく自然にその動作に入っていた。
「石ノ森先生……あなたの技を借りることを、『すごい科学で守ります!』に免じてお許しください!!!」

「ライダァァァアアアア――」
「ゼ・ク・ロ・ス‥‥」


原作/少年漫画板有志


「「キィーーーーーーーーック!!!!」」


新生 えなりの奇妙な冒険

第二部


二つの流星が交錯する瞬間、俺は本能的に感じていた。
こいつは、間違いなく村枝賢一その人だ、と。


仮面ライダーZX
――Forget Memories――
177ダーティペアの大乱入:2008/08/29(金) 09:10:01 ID:bCUr5aer0
【次回予告】

「ぐぎゃああああ!!
裕一ーーーー!!!」
断末魔の吠声を上げ、仮面ライダーZXが、村枝賢一が爆散する。
「ぐああ! 賢一ーーーッ!!」
長谷川裕一は、まだ硝煙の立ち上る友の命を奪った銃を構えたまま、倒れることも、慟哭することすら出来ない。

運命であった……
師に続き、宇宙戦士長谷川は
かつての親友をも、戦場で殺めてしまった

だが

苦労と絶望の中、明日をも知れぬ戦士たちには
さらに過酷で残酷な運命が待っていた……………

次回、"闇への彷徨”
お楽しみに!!

(マップス2巻を持っていると楽しめる可能性が増すかも知れません)


・タイトルの元ネタは『小学館の嵐』とセットで安彦先生が挿絵を描いていた某スペースオペラから。
・一人称って難しい。高千穂遥の文体を真似るとかそんな余裕全然なかった。
・名残惜しいけれども、これで一旦私は引退させていただきます。
個人的な最終回ってことでちょっとはっちゃけすぎた。何というかもうごめんなさい。
・ROM&感想はこれからも出来る限り続けさせていただきます。
・ふと思い立って新生スレに書いたSSをまとめてみたら190kb。調子がいいと長文になるせいか。
旧版のえなり&岩代対ハムも入れたら200kbいってるなこりゃ。