【2次】漫画SS総合スレへようこそpart52【創作】

このエントリーをはてなブックマークに追加
401作者の都合により名無しです:2007/12/07(金) 21:47:32 ID:D73Er6340
また停滞か
402作者の都合により名無しです:2007/12/07(金) 23:14:24 ID:0D/wFTrp0
『世界平和安全協会』というおもしろい動画です。
今日のインチキ宗教団体を考えさせられる動画です。

http://2ch.zz.tc/sagi
403作者の都合により名無しです:2007/12/08(土) 12:15:30 ID:MMRTQkTTO
屍鬼を再SS化できる猛者はおらんのか!!!
404作者の都合により名無しです:2007/12/08(土) 21:34:12 ID:w/ZNGXTE0
あげ
復活したと思ったのにまた調子悪くなったw
405作者の都合により名無しです:2007/12/10(月) 20:55:23 ID:hcIyNIwA0
10日フリーズかw
ま、年末だからな・・。
406永遠の扉:2007/12/10(月) 23:16:01 ID:XHLIgoRj0
第028話 「動き出す闇(後編)」

地下を貫く正六角の通路が真暗な闇の彼方まで煉瓦造りを伸ばし、
けたたましいほどの足音を残響させている。
寄宿舎管理人室から姿を消したヴィクトリアだが、瞬間移動を用いた
ワケではなく、ただ足元にこの空間を発生させ没入したに過ぎない。
そして喘ぐように息吐きながら駆けている。

母の肉片を喰らって生きてきた者が、母に似た少女に食人衝動を覚え
ている。人間じみた情愛を人に抱いたせいで自らの怪物性をより深く
認識する羽目になっている。
今のように地下にいれば良かった。
光のない場所ならいかなる闇も常態として過ごす事ができた。
けれど暖かな景色を知ってしまったから、こうなっている。
いまはただ、一人になりたい。
それを叶えるためには、華奢な足を内角百二十度に窪んだ不格好な床
の上で運動させるほかなく、そのせいか足は時折もつれヘアバンチで
留めた艶やかな金髪も胸の前で乱れに乱れている。
不思議なコトに彼女の背後では避難壕の空間がすうっとかき消え、あ
とは湿った土くれとなっている。
解除しているのだ。アンダーグラウンドサーチライトによって形成され
る亜空間は、根来がシークレットトレイルにて斬り開く亜空間とはまた
異なり、存在さえ知悉すれば誰であろうと侵入は可能である。
現に斗貴子や千歳は特性を知らぬ状態で探し当てた。
だからこそヴィクトリアは逃走に際して自らの通りすぎた道を閉鎖し、
取りつかれたように疾走を続け……

一体どれだけ駆けたか。

「……もう、十分な筈」
立ち止まると肩で息を荒くつき、酸素を何度も何度も取り入れた。
407永遠の扉:2007/12/10(月) 23:17:01 ID:XHLIgoRj0
ひどく体が重く、熱い。走ったせいか、食人衝動の飢餓感と熱ぼったさ
が腹部から全身に広がっている。汗がひどい。止まらない。背中はすで
にぞくりとするほどの脂汗と冷汗に塗れて、肌着が不快に密着している。
六角形の一辺たる壁にもたれる。一瞬冷たく心地いい感触が走ったが
吹き出る汗のせいですぐさま不快な熱へと転じた。
地下は換気が悪い。淀んだ空気に熱が漂うばかりで埒が開かない。
嗅覚を集中するとなぜか仄かに草木の生々しい匂いもしたが、あまり
気休めにはならないだろう。
と判断したヴィクトリアの脇で紺碧の閃光が走った。
正確には壁からせりだしたというべきか。横幅二十センチほどの光が
無機質な煉瓦から現出したと見るや、その二十センチばかり上で同様
の光が発生し、以降厳正なる二十センチの間隔で光の線が上へ上へ
と増殖していく。それは何かのメーターが増大する光景にも似ていた。
ライトグリーンの光が仄かに地下を照らし、ヴィクトリアの影を床に伸ば
したのも束の間。
線の光は壁から生えた真鍮色の金具と化し、ヴィクトリアはそれに手を
掛け、上へ上へと昇り出す。いうまでもなく、アンダーグラウンドサーチ
ライトの特性によって梯子を作り出したのだ。
やがて天井に六角形の亀裂が生じ、ヴィクトリアの身体は地上に出た。

見回すとタイル張りの歩道が足もとに広がっていた。
歩道は曲がりくねっており、その左手には雑草が申し訳程度に生えた
地面が広がっている。
右手では地面が盛り上がって草木をまぶし、視認できる限り全ての部
分で歩道に沿ってなだらかな丘を描いていた。地下で感じた青臭さは
ここに群生する草木の根の匂いだったのかも知れない。
左の地面と歩道の境目には、白地に黒で「銀成市 菖蒲園(予定地)」
と描かれた看板が無造作に設置されている。予定地にも関わらず街
灯が何本か道を照らしているのは、歩道がどこかとどこかを繋いでい
るからだろうか。目を凝らすと歩道の果てに赤茶けた煉瓦造りの建物
がうっすら見えた。
(下水道処理施設……)
408永遠の扉:2007/12/10(月) 23:18:13 ID:XHLIgoRj0
知ったのは数日前だというのに、ひどく懐かしい。
記憶に残っているのは、自分の武装錬金と形が似ているからだろう。
教えてくれたのは千里だ。彼女は街の地理に不慣れなヴィクトリアに
市民だよりか何かのパンフレットを元に教えてくれた。
眼が潤む。戻れる物ならその当時に戻りたいとも思い……

そこで、息を呑んだ。
理屈さえ知っていれば簡単に分かるコトだった。
だから平生であれば冷笑を持ってあしらえただろう。
「ご苦労な事ね」と。
しかしこの時は冷えた瞳孔を引き締めるのが精一杯であった。
影を数える単位とは何であろうか。
枚? 個? 体?
思うに単位というのは管理のためにある。多数ある物の実数を踏まえ
販売や経理、生産に役立てるべく単位が発生するのである。
だが影をそうする者は……いないだろう。
影は影でありなんら実体を持たぬ。持たぬ物を社会規律の中で管理
せんとするのは、幽霊の見世物小屋を作ろうとするほど愚かしい。
よってヴィクトリアが十メートル先、街灯の光のふもとにある景色を下
記のように形容したのは、ある意味で間違いでありある意味では正し
かった。
影が一体、佇んでいる、と。
もちろんそれは影ではなく着衣が黒いせいである。
着衣の黒は見慣れた黒でもあった。
学生服。
それを着た早坂秋水がいた。
彼も彼で走ってきたらしい。
近づいてくる彼は携帯電話片手に眉目秀麗な顔に汗を浮かべ、激し
い息を意思の力で鎮静させつつあった。

千歳は浮かない顔で自分の武装錬金を見た。
ヘルメスドライブ。
409永遠の扉:2007/12/10(月) 23:19:14 ID:XHLIgoRj0
特性は索敵と瞬間移動。見知った者なら画面内で追尾もできる。
ヘルメスドライブで亜空間の中へ千歳が移動する事もできたが、それ
で説得できるかと言えばはなはだ難しい。
秋水に追跡を任せてみようと思ったのは、かつて彼が遠路はるばる
ニュートンアップル女学院を訪ねてヴィクトリアを説得している場面を
目撃したのもあるが、実はもう一つの事情がある。
寄宿舎管理人室には激しい緊張が満ちていた。
電話を切った防人の口から指示が下る。千歳はそれを受けてヘルメス
ドライブ付属のペンを画面に押し当て、寄宿舎管理人室からかき消えた。

ヴィクトリアは驚愕が去ると、追跡の光景がありありと浮かんできた。
この眼前にいる男はおそらく千歳と連絡を密に取り合い、ヴィクトリアが
その背後で空間閉鎖するのをやめるのを見計らって亜空間に突入して
くるつもりだったのだろう。
ただその為にヴィクトリアと同じように地上を疾駆し、あるいは地下の
ように一本道でない地上で必死に狭雑物を避けてヴィクトリア以上の
速度で走っていたに違いない。
戦士がどうしてそこまでするのか。
とるべき態度としては斗貴子の方がまだ正しい。
それが自分に対する罵倒であったしても納得はできる。。
「ホムンクルス」なる錬金術の産物を嫌悪しているという共通項ゆえに。
戦士がホムンクルスを餌場たる寄宿舎に引きとめるコトの是非など、
本来は論ずるまでもない。放逐大いに結構。内通の疑念も正論だ。
なのに秋水はヴィクトリアを追ってきた。
それもきっと斃しにきたのではなく、連れ戻しに。
「……アナタ、いってもわからないの?」
蔑視を送る。送るほかない。この元・信奉者に対する不可解な感情を
不可解なままで留め置く事は、ただ百年来の嫌悪と侮蔑を冷えた眼差
しに乗せる事でしか達せられぬように思えた。
「まだ君が寄宿舎を去る必要は生じていない」
対する学生服の男は毅然とした声である。
苛立たずにはいられないヴィクトリアだ。
410永遠の扉:2007/12/10(月) 23:20:07 ID:XHLIgoRj0
右足で左のふくらはぎをかくような仕草をとりながら、つま先を歩道に
軽く押しつけた。タイルがひび割れた。卵の殻にスプーンを当てるよう
に小気味よく。それでも足らず、鼻を鳴らした。
「生じているわよ。少なくても私にとってはそう」
若宮千里。母親にどこか似ているその少女は、薄暗い感情を抱えた
ヴィクトリアに親切で、いろいろ教えたり髪を梳いたりしてくれた。
だがそのせいで。
ヴィクトリアは千里がひどく愛しく思えてきている。
今から寄宿舎に帰って千里の部屋に入り、まひろがするような自然さで
千里に抱きつきたいと思っている。
そしてヴィクトリアの口はワニのように裂けサメじみた乱喰歯を生やし
て、千里の柔らかな体に突き立てたい。
捕食していた母と似ているからこそ、そうしたくてたまらない。
「だがそれは既に予見できていた事だ。俺が以前伝えた通り、戦団側
でも備えはできている。だから……」
「だから寄宿舎に留まれ、そういいたいのかしら?」
唇を噛みしめて軽く俯いたのは、求めてやまぬ明るい笑顔のせいだ。
知識として、人型ホムンクルスが手の穴から人間を捕食するとは知っ
ている。だがアレキサンドリアのクローンを経口にて百年ずっと摂取し
てきたヴィクトリアは離乳食しか知らぬ子猫のようであり、食物は手先
でなく口で捕食するという未成熟な感覚しか持ち合わせていない。
口で思う存分白くて柔らかい体を堪能したい。
肉を噛み切りはぎ取り尽してミートパイに調理したい。
「俺は君が鎖された世界に戻るのは見逃したくない」
手を伸ばせば届くぐらいの距離にいる秋水を一瞥する。
「断っておくけど、いまさら戦団の力なんて借りたくないの」
因縁を無視し戦団の作る糧秣を食えなどいわれて、頷けはしない。
「だが……」
少し歯切れが悪くなった秋水を押しのけ、少しヒステリックな声を上げた。
「うるさいわね。もういいでしょ。放っておいて」
これ以上話していると自らの暗い部分を話さざるを得なくなる。
それは屈辱だ。
411永遠の扉:2007/12/10(月) 23:22:17 ID:Kzha7S3U0
一世紀以上ぐらい年下で。
元・信奉者で。
今は戦士で。
人間の。
秋水へ心情を吐露するのがひどく憂鬱で恥ずべき行為に思えた。
その間にも嫌な熱が腹の底から湧いてきて、全身が火照る。
耳たぶがかつかつと赤熱する。柔肉を想い、唾液が分泌される。
どこか甘美な感情で母に似た少女を思う。求めてやまない。
ワケも分からぬという態で自らの血しぶきを浴びる千里が見たい。
掠れた声でヴィクトリアを呼ぶだろう。一縷の信頼にすがって。
しかしそれすら罪悪感の要素にはならず、むしろ香ばしいスパイスの
匂いにすら思え、倒錯的な食欲が芽生えてくる。
きっと四肢を欠損して血の海の中で虚ろな瞳を天井に向ける母親似の
少女を見ても、腹部を裂いて消化物の悪臭漂う臓物をすするコトしか
浮かばぬだろう。
人間ならもっと他にいる。
でもよりにもよって一番親愛を覚えて、自分の欠落した部分を緩やか
に癒してくれる人に対して、そんな薄暗い欲求を覚えている。
制止もできない。飢餓が進行すれば血走った眼で千里に飛びかかる。
自分はやはり人喰いの怪物なのだと絶望的な気分になる。
……気づいた時。
秋水が差しのべた手を、跳ねのけていた。
眼が合う。
相手の瞳は怒った様子もなく、ただ何か真摯な言葉を考えているようだった。
わずかだがヴィクトリアは罪悪を覚えた。
認めたくはないが、原始的な感情に哀切じみた罪悪感が確かにあった。
自分をひどく情けなく思ったのは、次の行動である。
三歩よろよろと後退すると、丈の短い青色のミニスカートをはためかせ
ながら踵を返し、無言のまま闇に向かって走っていた。
武装錬金を発動せずそうした理由は分からない。
もしかするとホムンクルスではない、一人の少女としてのヴィクトリアが
逃げていたのかも知れない。
412永遠の扉:2007/12/10(月) 23:23:15 ID:Kzha7S3U0
秋水はそんな彼女を追おうと踏み出し──…

空間におぞましい空気が満ち、そして爆ぜた。

重い音を立てて、何かが崩れ落ちた。
金色の光が地面に溢れ、零れる砂金のように雲散霧消していく。
ヴィクトリアはすでに遠ざかっている。視認はしていないが、背後から
の足音がそう伝えている。
掌には、何かを斬り捨てた手応えと握り慣れた愛刀の柄の質感。
キラリと『足もとからの月光』を反射するソードサムライXの姿を視認し
た時、ようやく秋水は自分が何をしたかを把握した。
無意識化での攻撃。
背後に現れた敵意目がけて身を翻しつつ無音無動作で武装錬金を発
動し、袈裟掛けに斬り捨てていたようだ。
黒い影が前のめりに倒れた。膝をつき、胴体を地に叩きつける。
それはひどく見慣れた衣装だった。
……眼下でさらさらと闇に溶けゆく衣装は洒脱な燕尾服。
汗が噴き出る。
ただなる驚愕と警戒ならばそこまでは出なかった。
(予測できていた事態だ。だが、よりにもよって今、この時……!)
ヴィクトリアの足音がますます遠ざかって行く。
斬り捨てた男は背中しか秋水に向けてはいないが、前面にあしらって
いるボタンの形さえ、顔と合わせて克明に浮かんだ。

「やぁ。久しぶりだね双子の弟」

その男の口調はひどく調子が外れている。
鉤状に裂けた口からは高い不協和音しか奏でられないような気がした。
「いやはや、逆向君から聞いてビックリしちゃったよ。まさか君が錬金
の戦士になっているとはね。あの突撃槍(ランス)の少年への義理かな?」
歩道の向こう、ヴィクトリアが逃走した方角とは正反対から遠くにある赤
煉瓦の建物を背景に影が人さし指を立てつつ緩やかに歩いてきた。
413永遠の扉:2007/12/10(月) 23:23:47 ID:Kzha7S3U0
実に百八十八センチメートルもの長身だがどちらかといえばやせ型で
ひょろひょろとした頼りなさすら漂っている。
だがひとたび戦えばどれほど悪辣な消耗を強いる相手か。
「あ、そうそう。彼にはパピヨン君もずいぶんとご執心だったけど」
街灯の下にひどく戯画的な怪人が佇んでいた。
簡単にいえば、三日月の絵に目鼻をあしらったような男。
「あの程度の戦士の、いったいどこがいいんだろうね?」
「ムーンフェイス」
早坂秋水は静かに呟くと、ソードサムライXを正眼に構えた。
「リラックスリラックス。戦いに来たんじゃないよ。せっかくの再会だから
ね、君にとって耳寄りな情報を持ってきてあげたんだ」
ムーンフェイスはいかにも心外という様子で指を弾いた。
既にその頃…… ヴィクトリアの足音はもう聞こえなくなっていた。

激しい焦燥が全身を駆け巡るのを秋水は感じた。
ヴィクトリアを追わなくてはならない。が、ムーンフェイスも見過ごせない。
放っておけば一般人が喰われる。秋水も背を向ければ命の保証はない。
葛藤で微動だにできない美青年を、白濁した瞳が面白そうに眺めている。
「銀成学園の生徒たちが寝泊まりしている所ってなんていったっけ?」
「寄宿舎」
粘っこく緩やかな口調に対して、秋水の返答はひどく気ぜわしい。
「それそれ。実はだね、もうすぐ──…」
ムーンフェイスはひどく現実味の薄い事を歌うように述べた。
「もうすぐ逆向君率いるL・X・E残党が総攻撃しにいくよ」
「な……!?」
当たり前のようにまひろの顔が浮かんだ。
先程まで平和に語らっていた少女が、ホムンクルスに喰いちぎられる
様を想像し、口の中が渇く思いがした。
「むーん。襲撃開始は午後零時だから……」
秋水はさきほど見た携帯電話の時刻表示を必死に手繰った。
確か十一時二十五分。それから五分は経過している。よって。
414永遠の扉:2007/12/10(月) 23:24:41 ID:Kzha7S3U0
「残りはたったの三十分。早く戻るなり迎撃しに行った方がいいんじゃ
ないかな? あ、そうそう。ちなみにこの件は君の上司たちにも連絡済
みだよ。レーダーの武装錬金を持つ戦士なら、私の話が嘘じゃないとい
うコトは証明できるだろうね。……ほら、噂をすれば何とやら、だね」
秋水の学生服のポケットの中で鈍い震動が走った。
携帯電話に着信がきたらしい。出るべきか。だが目の前には敵がいる。
「おやおや、何もしないよ。安心して出たらどうだい?」
意を決して出ると、千歳の声が耳に響いた。
「戦士・秋水ね。実は……」
「ムーンフェイスなら目の前にいます。大体のあらましも既に」
それで事情を察してくれたようだ。千歳は素早く言葉を継いだ。
「残念ながらムーンフェイスのいう事は真実よ。L・X・Eの残党たちはい
ま、銀成市北西部にある下水道処理施設の地下に待機中。ヘルメス
ドライブでワープして確認したわ。かなりの規模ね。数は百体以上」
「下水道処理施設……?」
秋水はムーンフェイスの後ろに佇む煉瓦造りの建物を見た。
社会に疎い秋水でも、銀成市の施設についてはL・X・E時代に一通り
教えられている。だから気づいた。
「ええ。今あなたのいる場所からなら、五分以内に奇襲がかけれるわ」
それが何を意味しているか、秋水には分かった。

根来と剛太は入院中。
千歳と桜花は直接戦闘に不向き。
防人と斗貴子はまだケガの癒えない体。

(俺が行くしかない。行くしか──…)
それが例え、ヴィクトリアを見捨てる事になろうとも。
葛藤に包まれる秋水をムーンフェイスはひどく面白がったようだ。
「さ、どうする?。もしこのまま判断を誤ったら、大事な大事な君の母校
の生徒たちが、ホムンクルスのディナーになってしまうよ。それは戦士
としてはちとマズくないかい? あ、でもそういえば」
次の言葉を聞いた瞬間、冷たい炎が、喉から丹田に突き抜ける気がした。
415永遠の扉:2007/12/10(月) 23:31:30 ID:Kzha7S3U0
「君も姉といっしょに手引をしていたから、あまり関係ないのかな?」
「黙れ!」
気づけば激情のまま飛びこみ、逆胴を打ち放ち、怪人を上下に両断し
ていた。滑る秋水の体が歩道脇の丘に乗り上げ、木が眼前に見えた。
「むーん。冗談冗談。ひどく緊張しているようだから、ほぐしてあげようと
思っただけだよ。まぁせいぜい頑張るコトだね。集合場所へ奇襲をか
ければ、まだ寄宿舎に被害は少ないだろうから」
新たに現出したムーンフェイスがそれだけ告げて木立の中に消えた。
行くべき道は二つ。
寄宿舎を守るために奇襲をかけるか、ヴィクトリアを追うか。
「……戦士・秋水。分かっていると思うけど」
携帯電話から響く涼やかな声には「はい」としか応えるしかない。
心底からカズキがうらやましい。彼ならばこの二択も叶えただろう。
けれど秋水には寄宿舎を守るという選択肢しか取れない。
無力感に頬が引き攣る。ばらけた前髪から覗く片目に苛立ちの光が灯る。
携帯電話を切ると、手の甲を木の幹に叩きつけた。
蒼い落ち葉が降りしきり、皮膚が破れ、熱い痛みがじんわりと広がった。
(……すまない。本当にすまない)
ヴィクトリアに幾度となく詫び、彼女の消えた方向を数度振り返ってか
ら秋水は下水道処理施設へと駆け始めた。

「はっ! 何というしくじりでありましょう!」
その時、木の上で息をのむ者がいた。
「捕縛には絶好の機会でありながらついついやり取りに気を取られ……」
小さな影がしゅっと地面に降りたって、秋水の後ろ姿にハンカチを振った。
「心情を歌いますれば”さようならー さようならー 元気でいーてーねー”」
で、小札は腕組みをして考え込んだ。
「はてさていかが致しましょう。もしかするとここで力添えをしますれば
早坂秋水どのも我らブレミュに助力をする可能性も……いやはやしか
しどうしたものでありましょう。しかし一つ確かなのは!」
ガタガタと身を震わせながら、小札は思った。
「夜道でみるムーンフェイスどのはひたすら恐ろしいというコト……」
416スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/12/10(月) 23:34:12 ID:Kzha7S3U0
うーむ。実はもう一シーン入れたかったのですが一回の投稿分として
も残り容量としても難しく断念したしだい。
というかまた小札が勝手にでしゃばってきた。ちゃっかりしてる奴ですよ。

>>385さん
少し彼女の立ち位置には思う所もあり…… いいんでしょうかこのままで。
さりとて彼女がこの時期に完全に救われるというのもおかしな気が……
秋水は本当にいろいろと美味しいですね。嬉しくて仕方ないですw

>>386さん
被害の大きさは両者とも同じですからね。その辺り、ちょっと本編でも
描いてみました。そしていざ描いてみると「おお、確かに共通だ」と納得したり。
描かねば分からぬ部分ってありますね。秋水は、もっともっと伸ばしたく。

>>387さん
色々と申し訳ありません。確かに負の役所を引き受けさせすぎているきらいが
ありますね…… せめて敵側にもっと負の要素を配分するべきでした。この辺り
自分の構想の甘さのせいです。だからこそいずれはちゃんとした活躍を……!

>>388さん
容赦のなさでは作中最強だと思います。ただそれに悪ノリしてしまったきらいもあり……

>>389さん
ありがとうございます。ただし今後はある一場面を覗いて自重します。

ふら〜りさん(お気持ち、果てしなく分かります)
人間、二人集えば諍いが生じるとは何かで読んだ言葉。
漫画キャラでもそれはあるように思います。ただ、斗貴子さんだけは
荒ませすぎたかも。本来は優しくも厳しい良い人なのです。本当に。
417作者の都合により名無しです:2007/12/10(月) 23:47:28 ID:6/HjgKKOO
お、俺の好きなムーンがでてる!
変態はいてもド外道はいないブソレン世界中、尤も悪辣な奴だけに
もっと秋水を追い込んで欲しいです
418作者の都合により名無しです:2007/12/11(火) 16:21:41 ID:8Ng2rqKu0
随分久しぶりに作品着たなw

スターダストさん乙です。
前回までとは打って変わりダークな雰囲気ですね。
ムーンフェイスはコミカルなキャラだけど
なんとなく底知れないものもあるので秋水は
苦戦するでしょうな。
419作者の都合により名無しです:2007/12/11(火) 22:44:34 ID:Jz4u8Im50
秋水がなんか熱血キャラになってきた!
少年漫画の主人公みたいだ。
420邪神?:2007/12/12(水) 01:35:00 ID:rP7XUnt7O
携帯からだと見れるのに…書き込めるのに…なぜPCからだと>>393までしか表示しない上に書きこむと人大杉なんだ!そんな訳で続きは出来たけど投下できませんので問題解決をお待ちください…
421作者の都合により名無しです:2007/12/12(水) 08:47:39 ID:2YPjNFn30
専ブラ使いなはれ
422作者の都合により名無しです:2007/12/12(水) 10:11:29 ID:APVAstn9O
ヒント・板移動
423七十一話「猛襲する鷲の爪」:2007/12/12(水) 15:56:13 ID:tPzGwl1e0
「さぁて・・・どう切り刻んで欲しい?」
女のように細く長い指をベロリと舐めながら、死神の形相で微笑んでいる。
しかし、それより気になるのは眼の前の男から感じる気迫だった。
善と悪、白と黒、表と裏、真逆というのはこういうことか。
男から感じる闘気は、ケンシロウと正反対であった。
噴き出す程に凄まじく洗練された闘気は圧力まで感じ取れる。
恐らく、ケンシロウと同レベルの格闘家。

「ん〜迷う、迷うぞぉぉ〜〜!」
口ではそう言っても奴の目が全てを物語っていた。
苦痛を与え続ける為に急所に浅く、神経を深く貫く。
男が突然、走りだした。

何か危険な気がする、技の性質を見抜けないうちはガードに徹する。
小盾を構え攻撃に備える、一方的に攻められるのを防ぐため斧で反撃の構えだけは取っておく。
「南斗流羽矢弾!」
男が拳を振るい、闘気を生み出し発射する。

ケンシロウも同じように闘気を自在に操り、戦闘に使っていた。
盾で防ぎ、そのまま男を迎え撃つのがいいだろう。
衝撃に備えて踏ん張るホーク、だが衝撃はなかった。
闘気を受け止めた盾は一瞬でコマ切れにされてしまった。

「おやぁ〜?防御を固めなくていいのか?」
相変わらずニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。
余裕や油断ではない、遊んでいる。
こいつは、子供がアリを踏みつぶすのと同じ感覚で攻撃の手を加えている。

鉄屑となった盾で攻撃を逸らすべく、腕を払いのける。
だが、それも無駄だった。
指先を舐める仕草、構えから手刀が武器だと思ったがそれだけではない。
手先ではなく、腕に触れた瞬間に覆っている闘気だけで破壊したのだ。
424七十一話「猛襲する鷲の爪」:2007/12/12(水) 16:02:36 ID:tPzGwl1e0
砕け散った盾では軌道を逸らすことは不可能、ならば自分から回避するしかない。
分解された盾を見た感じ、四肢に闘気を纏わせ、突き破るようにして拳を打ち込む闘法のようだ。
拳や指先から相手の体に気を流し込み、内側から破壊するケンシロウとは逆の発想である。
「捉えたぞ!」

ボォウッ と、何かが破裂したかのような音と同時に第二撃が繰り出される。
速すぎる拳の圧力に、空気が爆発したかのような音をたてる。
迫りくる凶刃の如き拳に、ホークは身を屈めることでそれをかわそうとした。

「無駄よぉっ!」
外した手刀の勢いを殺さず、振り回すようにしてホークへ背を向けながらしゃがむ。
位置は勘で分かっているのか、姿勢の低くなったホークへ追撃の下段蹴りを入れる。
胴体か顔面辺りを貫く為、やや上向きに鋭い蹴りが放たれた。
ボォフゥ 聞こえたのはまたも空気を炸裂させた音だった。

地面にベッタリとへばり付くホーク。
無様だがこうしなければ殺されていただろう。
拳のスピードはかなりの物、ならば下手に下がるよりも前にでてかわす。
正面というよりは下面というべきか。

流石にシンも、顔面を地面に張り付けてまでかわすと予測しなかったのか一瞬だが硬直する。
ホークはその隙を逃さず、手の力で体を回転させて回し蹴りを放った。
伸びきっていたシンの脚は、闘気を纏ってはいたがスピードを乗せなければ意味がないらしく、
バチィ!と音をたてて弾かれてしまった。

だが、弾かれた勢いをホークと同じように体を回転させて立ち上がることに利用することでダメージは皆無。
それに帯びていた闘気も、攻撃に使えぬと判断してか肉体を硬化させるため内側へ移していた。
脛を蹴ったのだが表情一つ変えずに立っている、恐らく痺れや痛みは一切感じていないだろう。

「・・・貴様、今のは北斗の動きか?いや、そうだったら俺の経絡秘孔へ攻撃していた筈。
それにどこか独特で野蛮だ・・・面白い。今の防御を評価して少しだけ、俺の拳法について話してやろう。
南斗聖拳、百八の流派が存在する最強の暗殺拳・・・俺はその百八の中でも最強と謳われる南斗六聖の一人。」
425七十一話「猛襲する鷲の爪」:2007/12/12(水) 16:04:04 ID:tPzGwl1e0
「南斗聖拳はお前が体験した通り、闘気を以て相手を外部から破壊する拳法だ。
俺の南斗弧鷲拳は、貫通力を高めることで強靭な肉体であっても突き破ることが出来る。
お前は武器で闘う男、分かりやすく言ってやると俺の腕は拳の速さで振り回される槍と言った所か。」

「ご忠告どうも、だがアンタ、自分を過大評価しすぎなんじゃねぇか?」
減らず口を叩いてはみたが、実際は奴の言う通りだった。
槍にしたってゲラ=ハの使うような安物の石槍じゃあない。
鉄、それどころかドラゴンの鱗やレアメタルで作られた物にも見劣りしないだろう。

「クックック・・・見えるぞ、お前の生への『執念』が。
執念は人を強くする、絶望の淵から這い上がろうとする気力は『愛』なんぞとは比べ物にならん強さだ。
だぁがぁ〜〜〜〜〜〜〜!足りん・・・足りんぞぉ!執念が足りぃぃん!」

助走なしに飛び上がるシン、とんでもない跳躍力で一気にホークの頭上へ迫る。
見た目こそ、ただの飛び蹴りだったがケンシロウのハードトレーニングの成果だろう。
見える、身体全体を鋭い闘気が覆っており、無数の足が残像を残しながらカマイタチを作り出している。
「今度はどうかなぁ〜?南斗獄屠拳!」
攻防一体、足を一本に見せるようにフェイントをかけている。
だが、貫通力を主体とした拳法なら本命は一ヶ所の筈。

今度は何所に、どうやっても回避が間に合わない。
肌に空気で作られた刃が触れ始めた、多少のダメージを覚悟で本命だけを防ぐ。
咄嗟に斧でガードするが、莫大な闘気とスピードを乗せた一撃は、
石斧如き、枯れ木の小枝をプレスマシンに掛けるようにして粉微塵に砕いてしまった。
刃の面積が少なかったので四方に爆散したが、威力を周囲に拡散させない程に正確なシンの一撃は、
岩や壁だったらポッカリと、足跡を残して穴を掘ることも可能だっただろう。

「チッ、奇妙な感覚だ・・・俺の蹴りに耐える金属が存在するのか。」
蹴り飛ばしたホークを貫くことはできなかった。
修業時代、まだ未熟だった頃に物質に感じた『硬い』という感触。
恐らく、灰から蘇らせたジャギの肉体が完全に自分に馴染んでも破壊できないだろう。
「オエッ・・・ぷぅ・・なんて蹴りだ・・・。」
426七十一話「猛襲する鷲の爪」:2007/12/12(水) 16:06:58 ID:tPzGwl1e0
「妙な武器だ、だが武器に頼るというのは油断を生み隙を作る愚かな行為。
貴様、多少は見えていたようだな、面白い・・・クククっ・・・・・・。
だが、まぁだまだぁ!足りんなぁ・・・修練、そして何よりも執念が!」

こちらへ向かって猛スピードで走りだすシン、奴の一撃に力に加え体重が乗ることを考える。
背筋に走る寒気、無意識に下がる足、しかし壁を背にしたままどこへ逃げろというのか。
一か八か、訓練によって体得したにわか仕込みの格闘で対応する。
可能性は限りなく薄いが、虚を突けば勝機はある。

「でえやぁっ!」
シンの第一手は手刀、十分に練られた闘気が人の指先を鋼鉄の槍へと変える。
だが、確実な一撃を加える為か先程の攻防と違い腕部には気が見られない。
手が心臓を貫くより速く、右手で腕を払いのけシンの突っ込む勢いを体当たりで止める。
自分で一流の格闘家を自負するだけあって一瞬で体制を立て直し、顔面へ蹴りが飛んでくる。
体勢を立て直すための一瞬に生まれた余裕で蹴りを潜り抜けてかわすと、初めてシンの背後を取った。
「もらったぁ!」

背骨をへし折るべく、正拳突きの構えに入るホーク。
この状況なら反撃は間に合わない、そう思った時シンに違和感を感じ取る。
軸足を地面から離し胴体の位置を下げる。
外した蹴りは、上段から地面スレスレへと下がりながら膝を曲げて第二撃の準備にかかる。
地面を離れた軸足がホークへ向かって伸びる。
そして地面へ蹴りが放たれると、それが踏み込みとなって軸足は加速する。

「南斗旋脚葬・・・!こいつを受け流すとは、お前の評価を改めなければな。
この俺を相手に数分間、戦い抜いたのだ・・・。」

ワザと背を向け自分の不利を晒し出し、それを餌に相手に隙を作らせ地を滑って蹴り飛ばす。
バックステップで威力を軽減したが、骨が内臓に刺さったのだろう、妙に息苦しい。
軸足を下げる動作を見過ごしていたら死んでいただろう。
しかし、これから死ぬのだから同じことか・・・。
ホークが死を覚悟した瞬間、部屋へ足音が響いた。
427邪神:2007/12/12(水) 16:07:53 ID:tPzGwl1e0
よく考えたらシンは金髪だった…鬱な邪神です。(;0w0)
今回の遅れは>>420&Gジェネのせい、デンドロビウムタソとサザビーの制作に浮かれ過ぎた…。
取りあえずギコナビを再DLしたら治った、メルシー>>421->>422
〜感謝と南斗聖拳講座〜

>>ふら〜り氏 格ゲー技を引っさげて帰ってきた南斗弧鷲拳、原作では名無しの南斗聖拳だったので
       アニメの方を知らない人にも分かりやすく、彼直々に解説してもらいました。
       関係ない話ですが、SFCのクソゲーではサイコクラッシャーがシン最強の必殺技。

>>348氏 彼もイマイチ人格を特定できてないような…格ゲーの印象か無駄に声を伸ばすイメージが自分の中に。
    実家から北斗送りつけてもらおうかな…。

>>349氏 イッツミー?(0w0)
    自分だったら申し訳ないんですがミキタカの使い道を考案中でして…。
    フンガミも本体を見つけられない限り無敵だし、彼等はほぼ一発キャラなので使い難いのですw

>>350氏 セイント…ジャンプ黄金時代の遺産、興味はあるんですが金がないので未購入。
    ニコニコでアニメ版でも見てるかな…でも美味しんぼが90話でストップしてるしそっちが先か。

>>351氏 終わりがないのが終わり…つまり未完(ry
    なんてならないようにしようと思います。

南斗流羽矢弾 格ゲー技。本編ではユダ以外、飛び道具を使わない南斗ですが一応あるみたいです。
       ガードを無視して気絶値を溜める技、ハート様、ジャギ様以外に使うと自分が死兆星を見る。

南斗獄屠拳  原作でユリアと旅立とうとするケンシロウを打ち負かした技。
       空中に飛び上がって蹴るという単純な技だが、すれ違った際に
       ケンシロウの四肢に攻撃を加えた辺り単発の攻撃ではないと予想される。
       格ゲーだとケンシロウに同じモーションの技があり、撃ちあうとシンが勝つ。
       原作への愛が感じられるゲームだが、クソゲーと評する人も多いので購入は慎重に。

南斗旋脚葬  格ゲー技。しゃがんだまま相手に背を向ける位に体を捻り、地面を滑りながら蹴る。
428作者の都合により名無しです:2007/12/12(水) 22:49:18 ID:5e2m0hRq0
どうもドット絵のホークと劇画の北斗キャラの対峙する絵ヅラが
想像できないなw邪神さん乙でした。
429作者の都合により名無しです:2007/12/13(木) 17:07:30 ID:8ZmJBVwL0
邪神さんお疲れ様です!
え・・シンがジャギ様入ってる?
ホークノピンチを救うのはシンの宿敵しかありえないかな?
でも後期ケンとシンじゃスペック違いすぎるからなあ。
430作者の都合により名無しです:2007/12/14(金) 13:06:03 ID:fQo1OL/v0
次スレテンプレはまだ?
431作者の都合により名無しです:2007/12/16(日) 09:41:59 ID:PACmXSbf0
今日1日待って
ハイデッカ氏が作らなければ俺が作るよ
職人さんたちももう書き辛い容量だろうし
432さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/12/16(日) 15:48:48 ID:0PtT/2oz0
こんにちは。
今回は『WHEN〜』はお休みさせて頂いて、ちょっと短編なんぞを投稿します。
ダークな内容が嫌いな方は今回はスルーしちゃって下さい。その方がいいです。
433さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/12/16(日) 15:49:25 ID:0PtT/2oz0

平和。充足。安定。
人の暮らしのより良い形を表すには、まずこれらの言葉が浮かぶだろうか。
武藤カズキはそんな言葉を以ってしても足りない程の幸福感に包まれていた。
絶え間無き変化と闘いに身を投じた高校二年生の数ヶ月間も、最早遠く何年も前の事。
自分の取り囲む現在の環境を考えれば、それは夢だったのではないかとも思う。
しかし、夢ではない。
夢ではない証拠がいつも傍にいるのだから。

キッチンの方に眼を遣れば、妻が食事の準備を進めている。
旧姓から自分と同じ姓に変わり、ひとつ屋根の下に生活を共にする年上の妻。
出会い、命を救われ、共に闘い、愛して、愛されて。
今は武藤家の人間となり、カズキの生涯の伴侶となった斗貴子である。

ふと斗貴子と眼が合う。
特に言葉は無く、お互いに微笑み合うだけだ。
だがそれがいい。
それだけでいい。
斗貴子は微笑んだまま、少し休めた調理の手をまた動かし始める。
キッチンから漂う香りはいつの間にか、食材が加熱された単純な香ばしさから、丁寧に味付けされた
複雑かつ玄妙な匂いに変化していた。
もうすぐ家族揃って食卓を囲む、あの至福の時間だ。
そろそろお腹を空かせた妹も帰ってくるだろう。

まひろが社会人となり、「一人暮らしをしたい」と言い出した時、カズキは随分と反対したものだった。
「少し過保護すぎやしないか?」という斗貴子のやんわりとした説得さえも珍しく撥ね退け、
まひろに自分達と同居するよう強く勧めた。
まひろもそれに押されて渋々、というよりも幾分二人に遠慮する態度で共同生活を始めたのである。
高校生だった頃から二人の事に関してはやたらと余計なところにまで気を回すまひろとしては、
所謂“ストロベリーな二人の生活”を邪魔するのは申し訳無いと考えていたのだろう。
とはいえ、そんなまひろも年月を重ねていくに従って、気遣いばかりしていた態度は良い意味で
遠慮の無いおおらかなものへと変わっていった。
434猿の手:2007/12/16(日) 15:53:51 ID:0PtT/2oz0
家中に明るい笑顔を振りまき、元気な声を響かせ、斗貴子に擦り寄り、カズキにその日あった事を
楽しげに話す。
まるで、高校生の頃のまひろに戻ったかのような変化の仕方だ。
“大好きなお兄ちゃん、大好きなお義姉ちゃん”と一緒の暮らしの方が、とかく孤独や寂寥の念に
囚われがちな都会の一人暮らしよりも遥かに良いものだとわかったからだろうか。
それとも実際はカズキに言われるまでもなく、三人一緒の生活を望んでいたのか。
はたまた元々の楽天的で子供っぽい性格が前に出てきたのか。
それはよくわからない。
よくわからないが、カズキはそうしたまひろの変化に眼を細めていた。
やはりあの時、無理を言ってでも共に住まわせて良かったと。
そして、斗貴子も同様に思っているのであろうと。

さほど大きくもない2LDKのマンション。
夫婦とその妹の仲の良い小さな家族。
冒険や変化とは縁の無い慎ましやかな日常。
彼はこの“三人家族”の幸せな生活に満足していた。



そんなある晩、三人の元に一つの小包が届いた。
発送元には父親の名がある。確か今は出張でイギリスにいる筈だ。
一年のほとんどが海外出張ばかりの両親を持つカズキは、すぐにピンときた。
「また父さんが外国の珍しい物を送ってきたんじゃないかな」
昔からカズキの父は日本に置いてきた二人の子供を思いやってか、行く先々の国で何か興味を
引く物があると土産代わりに送ってきたものだった。
今回もそれに違いないと当たりをつけたのだ。
「よし、開けてみよう!」
「何だろうね? お菓子かな? ほら、お兄ちゃん! 早く早く!」
二人共、既にもう二十代半ばを過ぎているというのに、まるで子供のようなはしゃぎようだ。
まるで身体の大きな子供を二人養っているみたいだなと微笑ましく思いながら、斗貴子はキッチンに
向かった。
435猿の手:2007/12/16(日) 15:55:25 ID:0PtT/2oz0
いつもなら食器洗いを手伝うまひろだが、小包の中身が気になって仕方が無いのか、包み紙を破る
カズキの手元をニコニコしながら見つめたままだ。
斗貴子は皿を擦りながら声を掛ける。
「もしお菓子だったらまひろちゃんはやめておいたほうがいいんじゃないか? 最近、体重が
気になってるようだしな」
言う端から笑い声になってしまい、斗貴子はどうにも困った。
「んもぉ〜、お義姉ちゃんの意地悪〜!」
まひろのほのぼのとした抗議の声が斗貴子のいるキッチンまで響いてくる。

やがてごく短い静寂の後、二人の驚く声が斗貴子の耳に飛び込んできた。
それは予期していたものとは違う、嫌悪を含んだものだったが。
「うわっ!」
「やだ……! 何これ……?」
二人の声を不審に思った斗貴子は洗い物をやめ、エプロンで手を拭きながらリビングに戻った。
「どうした? 中身は何だったん――」
カズキの持つ古そうな木箱の中身を見て、斗貴子もまた声を失ってしまった。
それは、黒い毛に覆われている干乾びた小さな手だった。
手首の辺りから切断され、綿を敷き詰めた箱の中にちんまりと納まっている。
確かに喜びの声を上げるような気持ちのいいものではない。
斗貴子は近寄り、しげしげとその手を観察した。
「これは……何の手だろう。ひどくミイラ化しているようだが……」
さすがに元は泣く子も黙る女戦士だった斗貴子である。
特に動じる様子も無く、目の前の不気味な物体を冷静に分析している。
しかし、横にいる義妹はそういう訳にもいかない。
「うえ〜、気持ち悪いよ〜。お父さん、何でこんなの送ってきたのかなぁ」
その天然っぷりを原動力に常識外れの奇行をやらかしていた女子高生時代なら、目の前の珍妙な品に
眼を輝かすところなのだろうが、さすがにそういった面は“大人”になったのだろうか。
ほとんど泣き声になりながら涙で瞳を潤ませて、手のミイラやそれを観察している斗貴子から
遠ざかっていく。
カズキはカズキで正体不明の贈り物に好奇心をくすぐられたのか、妻に倣うように熱心に
手のミイラを観察している。
436猿の手:2007/12/16(日) 15:56:58 ID:0PtT/2oz0
そして観察を続けていくうちに、ある物を発見した。
「ちょっと待って、手紙みたいなのがあるよ。ほら、コレ」
カズキは綿と箱の内壁の間に差し込まれている紙片を取り出し、斗貴子に渡した。
斗貴子はカズキから紙片を受け取ると、いつの間にかソファの裏に隠れてしまったまひろにも
聞こえるように声に出してその内容を読み上げる。
「ええと、何々……――

『この猿の手のミイラには魔力が宿っており、あなたの願いを何でも三つだけ叶えてくれます。
どんな願いをかけるかはあなたの自由です。ただし、慎重にお使い下さい』

――だそうだ。フーム……」
“魔力”
“三つの願い”
そんな単語が出てきたせいか、斗貴子には猿の手が非科学的でオカルトじみた、ひどくつまらない物に
思えてくる。
「猿の手か……。おそらくどこかの民族に伝わるまじないの品か何かだろう。
まひろちゃん、そんなに怖がる事はないぞ?」
「でも……私、何だか怖いし、気持ち悪いよ。ねえ、それどこかに仕舞って? お願い。ね……?」
どうやらまひろは真剣に怖がっている様子だ。
ソファの裏から顔半分だけを覗かせて、決してこちらに近づこうとしない。
そんなまひろが気にかかりつつも、カズキはまた新たな発見をしてしまった。
それは“発見”と言う程大げさなものではないのかもしれないが、異質さは充分に感じられる。
「……でもおかしいな。この手紙、父さんの字じゃないよ。それに、ほら――」
先程、破いた包み紙に張られている宛名を指す。
「――こっちも父さんの字じゃない。変だよ」
不思議がるカズキだったが、斗貴子はさも当たり前とばかりに一番に考えられる可能性を彼に返す。
「お義父様が忙しくて、誰かに代筆してもらったんじゃないか?」
「そうかなぁ……」
ちょっとした考察と討論を続ける夫婦に向かって、おずおずとした声が掛けられた。
「ね、ねえ……お兄ちゃん、お義姉ちゃん……そろそろ、ホントに……」
もう顔を覗かせる事もしなくなってしまったまひろ。
437猿の手:2007/12/16(日) 16:14:15 ID:0PtT/2oz0
ソファの裏で両膝を抱えて、高校一年生の頃から更に成長した長身を縮ませている姿が容易に
想像できる。
「ああ、すまない。もう仕舞うよ、まひろちゃん」
「ごめんな、まひろ。珍しい物だから、つい……」
斗貴子は箱の蓋を閉めて腰を上げ、カズキはバツの悪い様子で頭を掻く。
斗貴子が木箱を持って夫婦の寝室の方へ姿を消すと、まひろはようやくソファの裏からヒョコリと
顔を出した。
背もたれ部分に両手を掛けて顔だけを覗かせているその姿は、まるで子猫のようだ。
カズキは妹のそんな姿に改めて愛らしさを覚えてしまう。

一方、夫婦の寝室では――
押入れの戸を開けた斗貴子はしばし考えた。
上段には予備の布団が、下段には季節毎の衣類が入った衣装ケースや不用物が入ったダンボールがあり、
木箱を収めるスペースが見当たらない。
「困ったな……」
斗貴子は一人ごちると、やむなく押入れの下段を手前から整理し始めた。

そんな彼女の耳に来客を告げるチャイムの音が届いた。
音の種類からして玄関ではなく、マンションのエントランスのチャイムだ。
「あ、お兄ちゃんは座ってなよ。私が出るから」
おやと身体を戻しかけた斗貴子であったが、リビングから聞こえてくるまひろの先程とは
打って変わった快活な声に、安心して作業を再開する。
まひろがインターホンに向かって朗らかに話す声が遠く聞こえてくる。
内容まではさすがに聞き取れなかったが。
しばらくして、また兄妹の会話が戻ってきた。
「誰?」
「隣のおじさん。また鍵を忘れて締め出されちゃったんだって。オートロックも結構不便だよね」
「あのおじさんかぁ。いつも酔っ払ってるし、無理も無いよ」
438猿の手:2007/12/16(日) 16:15:39 ID:0PtT/2oz0

斗貴子は「またか……」と内心、苦々しく思う。
元来、彼女は酒に飲まれるような輩には絶対に好意が持てない。
斗貴子自身が祭事くらいでしか口にしないし、カズキも普段から酒をあまり飲まない亭主という
事実もその思考に一役買っているのかもしれない。
もののついでではないが、そうなると家の鍵を忘れるという隣人の軽率さ、粗忽さにも苛立つ思いが
込み上げてくる。
これくらいのマンションであればエントランスのオートロックなど当然の事なのだろうし、
鍵の携帯という常日頃の行いをどうして怠るのだろうか、などと。
思考が動作に表れるのか、押入れの中を片付ける挙動が少し乱暴になっている事に、斗貴子は
はたと気づいた。
(いかん、いかん。少し神経質すぎるな。あの二人を見習わなければ……)
性格上、やや頑固で融通の利かない面がある彼女にしてみれば、家庭生活や近所付き合いなどで
骨が折れる場面も少なくないのだろう。
そういう時はあの兄妹の天真爛漫さが少し羨ましくもなる。

押入れの中に顔を突っ込んであれやこれやと苦心しているうちに、どうにか手元の木箱を収納するのに
充分なスペースを確保する事が出来た。
そこに箱を収めて任務完了、と満足気な斗貴子の脳裏に、己の読み上げた手紙の内容がふと蘇る。
(願いを何でも、か……)
眼下にある木箱を、中身を透かすようにジッと見つめる。
見つめているうちに斗貴子は思わず眼を閉じ、小声で呟いた。

「どうか、いつまでもカズキと二人一緒に、幸せでいられますように……」

そう呟いてから、斗貴子はつまらない事をしてしまったと一人煩悶した。
(な、何をしてるんだ、私は……! 馬鹿馬鹿しい……)
こんなオカルトまがいの怪しいシロモノに願いを掛けるという愚かさに気づいたのだろう。
しかし、焦り身悶えてしまう訳は他にもあった。
これまでの人生の半分以上が女性らしさとは縁遠かった自分。
様々な不愉快極まる言葉がそろそろ当てはまる年齢になりつつある自分。
439猿の手:2007/12/16(日) 16:16:32 ID:0PtT/2oz0
そんな自分が何とも乙女チックに願い事をしてしまったという事実が、斗貴子には許せない。
彼女のように願うのは、愛情を向ける対象がいる者なれば当たり前ではあるのだが。
未だその“当たり前”を受け入れられないでいるのか、それとも受け入れられない理由が
新たに芽生えているのか。
斗貴子は含羞と自嘲の念に頬を染めながら、そそくさと箱を押入れの奥深くへと仕舞ってしまった。

箱の蓋を閉められ、暗闇の奥へ閉じ込められた“猿の手”は大人しく沈黙を守る。
決して持ち主に何かを主張したりはしない。
それはそうだろう。
彼の役目は“話す”事ではなく、願いを“聞き”、そして“叶える”事なのだから。
出来るだけ、速やかに。



[続]
440さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/12/16(日) 16:21:40 ID:0PtT/2oz0
こんな感じでした。
ジェイコブズの名作小説『猿の手』を題材に、登場人物を錬金キャラに置き換え、
内容やメッセージ性にアレンジを加えたり。
いわゆるリ・イマジネーションというヤツで。
この作品は全三回に分けて投稿します。次は明日。その次は明々後日。
自分の一番得意な二次創作のスタイルがこんな感じなんで、書いてて楽しいです。
こういうのがお嫌いな方もいらっしゃるとは思いますが。
では失礼します。
441ふら〜り:2007/12/16(日) 18:45:37 ID:Knt8ZHGj0
>>スターダストさん
今の秋水、凄く素直に「正義のヒーロー」なシチュですね。ヴィクトリアの、戦闘どころ
か会話すらろくにないのに深遠ドロドロな描写も良かったですが……罪なき人々を
護る為、今は許せと少女に背を向け、魔物の群れに立ち向かう剣士! あぁ燃える。

>>邪神? さん
うん、シンが期待に違わぬ強さで嬉しい。言動がハイなのは灰から復活のせいか。
>修業時代、まだ未熟だった頃に物質に感じた『硬い』という感触。
これ迫力あります。本来のシンが本来の北斗世界で戦えば、何であろうと『硬い』
なんて感じないと。いつかケンと共闘なんて展開も妄想してしまうほどカッコいい。

>>さいさん
「手」以外はほのぼの日常風景なのに、何とも不気味な雰囲気が漂ってます。「手」
が斗貴子の願い事を叶える為に何を仕出かすか、残り二つでその傷口がどうなるか、
ですね。三つの願い事モノはいろんなパターンがありますが、本作ははたして……
442作者の都合により名無しです:2007/12/16(日) 19:16:08 ID:sqA5OXXZ0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart53【創作】

元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1192630797/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
443テンプレ2:2007/12/16(日) 19:16:52 ID:sqA5OXXZ0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・鬼と人とのワルツ 下・仮面奈良ダー カブト (鬼平氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/258.html
戦闘神話  (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm  
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
上・HEN THE MAN COMES AROUND  下・猿の手(さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1192630797/434-439
上・ヴィクテム・レッド 中・シュガーハート&ヴァニラソウル
脳噛ネウロは間違えない (ハロイ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
ドラえもん のび太の新説桃太郎伝 
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
444テンプレ3:2007/12/16(日) 19:17:28 ID:sqA5OXXZ0
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝 未来への意志 (エニア氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1192630797/10−11
DBIF (クリキントン氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/293.html
ドラえもん のび太と天聖導士 (うみにん氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/tennsei/01.htm
『絶対、大丈夫』 (白書氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/85.html
DIOの奇妙な放浪記  (名無し氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/371.html
るろうに剣心 ー死狂い編ー (こがん☆氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/383.html
“涼宮ハルヒ”の憂鬱  アル晴レタ七夕ノ日ノコト (hii氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/398.html
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
445ハイデッカ:2007/12/16(日) 19:24:01 ID:sqA5OXXZ0
テンプレ遅れて申し訳ない。
アク禁が長かったのと、11月から滅茶苦茶忙しかったので遅れてしまった。

今回、ちょっと慌てて作ったので自信がない。
致命的な間違いはないかとは思うけど、ちょっと新スレ立てる方注意して下さい。
ハロイさんのとこ間違ってるね。「下・」が抜けてる。
新作のアドが一文字分飛び出てるし。
たくさんしばらく来てない作品があるけど、年内は保留で。

ゴート氏が海外に行かれてから作品保存されてないのかな?
ま、年末仕事が楽になったらやるか・・

あとさいさんお疲れ様です。
正直、錬金はあまり呼んだ事ないけど
ジェイコブズの猿の手は好きなので、中篇後編を期待してます。

446脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 06:59:27 ID:nebwu80c0
「──はい、分かりました。それじゃ、来週日曜の十五時、駅前で」
 わたしはそう結んで、携帯の通話ボタンを押す。
 液晶画面が回線の接続が切れたことを教え、そこでやっとわたしはこらえていた溜息を吐くことができた。
 なんとも言えない脱力感と、重荷から開放された解放感との半々の気持ちで、
事務所で一番高価な家具、『トロイ』と呼ばれるデスクへと首を向ける。
「……ネウロー、全死さんと待ち合わせしたよ」
 半分死んでるようなわたしの声に、椅子にふんぞり返ってうとうとしていた男──ネウロがぱっちりと目を覚ます。
 気怠げに軽いあくびをしつつ、ネウロは窓の外に広がる暗闇を見、そしてわたしを見た。
「ふむ……ヤコよ、貴様は飛鳥井全死と何時間電話をしていたのだ?」
 ちらり、と携帯の画面に記された通話時間の表示に目を落とす。
「……99,99でカウントストップしてる……朝の九時ごろから始めて今が夜中の三時くらい」
「ほう、そんなにも一体なにを話していたのだ?」
「……なにも。大したことない世間話か、そうじゃなかったら、なに言ってるかさっぱり分からない難しい話だけ。
アンタに言われた『会う約束』を取り付けるのは、電話を切る前の五秒で済んだ」
「人間の女は長電話が好きとは聞いていたが、これほどまでとはな。もっと他にすべきことはないのか?
魔界の電話は長電話を何よりも忌み嫌っていてな、通話時間が三秒を超えると爆発して半径十キロ内を焦土と化すのだぞ」
「あの人がおかしいだけだってば……飲まず食わずで十八時間とかさすがにないわ……」
 普段なら、その魔界の電話とやらにツッコミを入れるところだが、精神的にも体力的にも消耗し尽くしていたので、素で答えるのが精一杯だった。
「うう……せっかくの日曜だったのに、丸一日潰した挙句に完徹って……わたしの休日はどこいっちゃったの?」
 今日(というかもう昨日)に食べるはずだったあれやこれに思いを馳せ、どうしようもなく惨めな気持ちになってくる。
 そして、そんなわたしの惨めな気持ちに拍車をかけるものがある。
「ねえ、ネウロ」
「なんだ」
「いいかげんに外してよ、これ」
 と、わたしを椅子に縛り付けるチェーンとロープと南京錠を、辛うじて自由な右手で示す。
 魔人の常識外れの力で椅子に緊縛され、その状態で十八時間も意味のない話や意味不明の話に付き合わされる──
ドSなネウロによって様々な拷問を受けてきたわたしだったが、今日のこの仕打ちはトップ3に入るだろう。
 なんでいつもいつもわたしだけがこんな目に遭わなきゃいけないのだろうか。
 真面目に考えると辛いからあまり考えないようにしてるけれど、さすがに泣けてくるものがある。
447脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 07:01:33 ID:nebwu80c0
「もー……勘弁してよ……」
 疲労と空腹と睡眠不足で意識が朦朧としてくる。あとほんの数時間で朝が来て、学校が始まる。
 せめて仮眠でも……と、(椅子に拘束されたままなのはこの際諦めることにして)目を閉じた瞬間、
「寝るなヤコ。寝ると死ぬぞ」
 首がもげそうな強烈ビンタがわたしの頬を一秒で五往復した。
 くわんくわん頭の中で響く衝撃が、わたしの意識を遠のかせるのが自分でも分かる。
 乱れた平衡感覚がわたしの視界を一回転半させ、視界がぼやける。
 このままだと──オチる。
 いや、別に気絶したっていいのだが(ホントはよくないのだろうけど)、この場合「気絶」は「寝る」として見做されるのだろうか。
 このままオチたら死ぬってゆーか、ネウロに殺されるのではないだろうか。
 そんな思考がわたしの内部を駆け巡るが、それを上回る勢いで、わたしの意識はこの宇宙の遥か彼方へブッ飛んでいこうとしていた。
「しかし実際、貴様には悪いことをしたと思っているのだぞ」
「だった……ら、すんな……よ」
 意識を保つためにツッコミを試みるも、ビックリするぐらいの掠れ声。
「本来なら、その右腕も縛りつけ、口にもボールギャグを噛ませなければ、とても緊縛と呼べる代物ではない。
飛鳥井全死との連絡を取らせるために、泣く泣く貴様の腕と口に自由を与えなければならなかった我が輩の心痛……
貴様なら分かってくれるはずだな?」
(分かるか。つーか、拷問に手心を加えることが、ネウロにとっての『悪いこと』なのかよ)
 今度は声にすらならなかった。
「踏んで縛って叩いて蹴って殴って吊るして──それが我が輩の愛だ」
「愛なら仕方ないな──って、ンなわけあるか! 虐めて愛情表現とか小学生か! しかもスケールデカすぎだろ!」
 ──さて、このツッコミはきちんと声になっていたのだろうか?
 この直後に意識がぶっつり途絶えてしまったので、わたしにはそのあたりの事は定かじゃなかった。
448脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 07:03:28 ID:nebwu80c0


 誰かに呼ばれた気がして、目を覚ます。
 時計を見ると夜中の三時だった。
「甲介くん、甲介くん」
 いや──気のせいではなく、確かに誰かが俺を呼んでいた。
 まだまどろみの中にある意識のままに、声の主を探して照明の消えているワンルームの部屋の至るところに視線を漂わせる。
 やがて意識が徐々にはっきりとしてきた頃に、彷徨う視線がベッドの上──というか俺の隣で焦点を結ぶ。
 そこには、全裸の女が座り込み、俺の肩を軽く揺さぶっていた。
 だが、全裸の定義があくまでも「生まれたままの姿」というやつなら、そいつは決して全裸ではなかった。
 顔にはアイマスク、細い首にはチョーカー風の首輪(首輪風のチョーカーではない)、
そして両手首と両足首にはベッドの支柱と鎖で連結された枷。
 ちゃらちゃらと鎖が擦れるリズミカルな音で、俺は完全に覚醒した。
 その女は真銅白樺だった。
「起こしてごめんね、甲介くん」
「……まだ帰ってなかったのか?」
 俺がそう言うと、白樺は肩をすくめてみせたらしく、また鎖が鳴った。
「あのね……君がこの鎖を外してくれなかったら、わたしは帰りたくても帰れないんだけど?」
 完全に覚醒したと言うのは俺の錯誤で、どうやらまだ俺は寝ぼけていたらしい。
 思い出したからだ。
「──忘れてた。悪い」
 思い出してみれば我ながら呆れるしかないが、俺は彼女の拘束を解くよりも先に眠ってしまったようだった。
「ううん、それはいいの。『すっかり忘れ去られた自分』っていうのを実感できて、新鮮だったから」
「そいつは俺には理解しがたい感覚だから、『良かったな』としか言いようがないよ。で、じゃあ、なんで起こしたんだ?」
 そこで気が付いたが、白樺はさっきから膝をすり合わせてもじもじとしていた。
 だがどうやら、それは羞恥心とかそういった類の感情によるものではないらしく──、
「トイレ」
 生理的な欲求によるものだったらしい。
 俺が身を起こして手足と首の戒めを解くと、彼女はベッドからするりと降りぱたぱたとトイレへ駆け込んでいった。
449脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 07:07:04 ID:nebwu80c0
 それを見るとはなしに見送ってから、俺は再びベッドに横たわる。
 すっかり霧散した眠気をかき集めるために、できるだけどうでもいいことを考えようとした。
 その材料として選んだのは白樺のことだ。
 なぜ、彼女は緊縛された状態での性行為を望むのだろうかという点だ。
 そしてまた、なぜその相手に俺を選んでいるのかということ。
 俺自身について言えば、その点ははっきりしている。
 それは白樺が望んでいることで、しかも断る理由が特に思い当たらないからであり、
そして──ここが一番大事な点であるが──それが習慣として、レギュラーとして定着しているからだ。
 別に長く続けるつもりなど毛頭無かったのだが、かれこれ三年くらいになるのだろうか。
 元々、彼女とは中学時代からの知り合いだったが、こういう関係になった、つまり白樺が俺のレギュラーとして組み込まれたのは、
まったくの偶然に当時の彼女のパートナーを殺害したことに起因している。
 俺はその代役として、いわば穴埋めとして納まっているのであり、それは非常に恣意的な推移の結果だ。
 発端はどうあれ、それがレギュラーとして定常化された出来事なら、白樺が俺から離れていくなり或いはお互いの環境が変化するなりして、
やがてその関係性が消滅するときを迎えるまで、俺は淡々とそれを受け入れるだけである。
 来るものは拒まず、去るものは追わず。それが習慣に従って生きていくということだ。
 定期的に人殺すのも、その習慣に従うからこそだ。
 始めて殺したのは六歳のときで、それ以来、殺人が俺の習慣になっている。
 殺害人数が百人に達したら一度打ち切ってみようかとなんとなく考えるが、それはまだ少し先のことになる。
止めるという発想自体に大した意味はないし、先のことを真剣に考える習慣はない。
 鬼に笑われたくはないからだ。
 ──などと、思考が脱線して当初の目的通りにかなりどうでもいい結論らしきものに辿り着き、
睡魔がじわじわと俺の瞼に被さろうとしたとき──いきなり携帯電話の着信音が鳴り響いた。
 闇とレム睡眠の海に満たされた部屋の静寂はその一撃で木っ端微塵に破壊される。
トイレのほうから「うひゃ」という白樺の小さな悲鳴が聞こえてきた。
 念の為に横目で時計の針を捉え、現時刻を確認する。
 やはり三時過ぎだった。
 こんな時間に電話をかけてくる非常識な人間といえば、たった一人しか心当たりがない。
 俺はげんなりした気持ちで携帯電話を取り上げ、通話ボタンを押した。
450脳噛ネウロは間違えない
「遅いんだよ、この馬鹿! 何時間待たせる気だ! 電話くらいさっさと取れよ! お前は催促嫌いの漫画家か!?」
「……待たせたのはほんの数秒だと思いますけど」
 やはり全死だった。
「嘘こけ! たっぷり三時間は待ったぞ!」
「全死さんは、ダリの作った体内時計でも内蔵してるんですか?」
 俺の突っ込みなどに耳を貸す素振りすら見せず、全死はひとしきり俺を罵倒した後に、
この草木も眠る絶好の呪いアワーな時間に近所迷惑を顧みず電話をかけてきたそもそもの本題を切り出した。
「来週、弥子ちゃんとデートするぞ」
「……おめでとうございます。電話、切ってもいいですか?」
 トイレから戻ってきた白樺が、自前の拘束具をバッグにしまう。代わりに下着を取り出し、身に着けはじめた。
 電話中の俺に遠慮しているのか、それとも今が深夜だということに配慮しているのか、その動作は極力音を潜めたものだった。
「なんで切るんだよ。話はこれからだ」
「その話、長くなるようでしたら明日にしてください。俺は学校があるんです」
「すぐ済むよ。むしろ、そんなお前に渡りに船な話だ──今すぐ、大学まで来い」
「俺は明朝に行きたいのであって、今行きたいわけじゃないですよ」
「関係ない。どの道、用事が済んだら朝になる。冬来たりなば春遠からじって言うだろう?」
 下着に次いで衣服をも着終えた白樺は、最後に眼鏡をかけて身繕いを終了させた。
 俺個人の希望としては行為の最中にも眼鏡をつけていて欲しいのだが、生憎、眼鏡とアイマスクは両立しない。
「その言い回しはおかしい気もしますし、すぐ済むのか朝までかかるのかはっきりさせて欲しいですが、
用件を聞いていないので断言はできませんね。で、俺に大学でなにをさせたいんですか?
──と言うか、全死さん、今どこにいるんです? もしかして学校ですか?」
「そうだよ。だからお前を呼んでんだよ──いちゃいちゃしようぜ」
 その全死の要請と、桂木弥子とデートすることと、なんの関係があるのか俺には推し量ることは不可能だった。
 全死の中ではその両者は明確で整然としたロジックで連なっているのだろうが、
全死のような異常な精神構造を持ち合わせていない俺には知るべくもないことである。
 どの道──答えははっきりしていた。
「嫌ですよ。なに言ってるんですか。それに──全死さん、出来なかったじゃないですか」