【2次】漫画SS総合スレへようこそpart52【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1186235428/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
2作者の都合により名無しです:2007/10/17(水) 23:26:37 ID:qoLtkAsY0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・鬼と人とのワルツ 下・仮面奈良ダー カブト (鬼平氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/258.html
戦闘神話  (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm  
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html
上・ヴィクテム・レッド 下・シュガーハート&ヴァニラソウル (ハロイ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
上・ドラえもん のび太の新説桃太郎伝 下・P2!〜after 10 years〜(サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/401.html
3作者の都合により名無しです:2007/10/17(水) 23:27:41 ID:qoLtkAsY0
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝 未来への意志 (エニア氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html
その名はキャプテン・・・ (邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
DBIF (クリキントン氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/293.html
ドラえもん のび太と天聖導士 (うみにん氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/tennsei/01.htm
脳噛ネウロは間違えない (名無し氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
『絶対、大丈夫』 (白書氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/85.html
DIOの奇妙な放浪記  (名無し氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/371.html
るろうに剣心 ー死狂い編ー (こがん☆氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/383.html
“涼宮ハルヒ”の憂鬱  アル晴レタ七夕ノ日ノコト (hii氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/398.html
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
4作者の都合により名無しです:2007/10/17(水) 23:37:10 ID:qoLtkAsY0
スターダストさん、お疲れ様でした。
いつもとちょっと違う短編連作という感じで、普段より労力が要ったと思います。
剛太から斗貴子まで、独立してるんだけど繋がってるんですね。
小札や美香が敵なのにほのぼのとしていいなあ。

ゴーとさん、俺も出来るだけ協力したいと思います。
お仕事頑張ってきて下さい!
5作者の都合により名無しです:2007/10/18(木) 00:11:20 ID:Q6N9v+VU0
>>1乙。
テンプレの人たち、現スレは帰ってきてくれるといいが
6作者の都合により名無しです:2007/10/18(木) 08:48:36 ID:4lpYC+d80
1お疲れ様です。
スターダストさんやさいさんたち以外も
週1以上のペースで書いてくれるといいな
7作者の都合により名無しです:2007/10/19(金) 02:02:24 ID:qeL6/Mer0
なかなか来ないね?
8作者の都合により名無しです:2007/10/19(金) 12:55:46 ID:Ah/ujO4q0
サナダさんがいなくなるとやはり淋しいな
9ゴート:2007/10/19(金) 23:31:04 ID:lzx9RoJS0
スレ立て乙です。

保管の仕方を書いたページを作ってみました。
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/404.html
わかりにくいところがあれば教えてください。

お手数をおかけします。
10少年誌的にアウトな吉良吉影:2007/10/20(土) 09:20:27 ID:CvzMd7Pj0
周囲の沈黙が重く、鈍く聞こえる。
そよ風がまるで馬の群れが疾走するかのように響き渡る。

ドドドドドド…

運命は何時だって私の味方だ……
このガキの持ち出した『猫草』の空気弾も運よく懐の『腕時計』が守ってくれた。
それなのに……

「てめー今確かに 『吉良吉影』っつったよなあぁ〜〜〜〜!」
「こっ…こんな偶然がッ!!」
目の前のガキ、川尻早人が拳を握り締めて「してやったり」という顔をしている。

「偶然なんかじゃあない…運命なんかでもない!これは賭けだ!ぼくが賭けたんだッ!!」
沈黙が止み、会話が継続しているのに一層大きく耳鳴りが鳴り続ける。

ドドドドドド…

「ちょっぴり早く来させる事に賭けたんだッ!(そして来たッ!)」
早人がモーニングコールによって起こした、『バイツァ・ダスト』で爆死が決まっている(であろう。)
『東方仗助』が近づいてくる、まずいッ……!!

「確かに聞いたぜ…!おめーは今…確かに名乗った!!」

声にならない喘ぎ声が漏れる、どうする…?どうすればいいッ!?
「ドラァッ!」

奴のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドの拳が頬に直撃する。
「同姓同名の人違いだったらよォォ〜〜〜ッ
怪我はいつでも治せっからよォォー〜〜〜」
隣にいた虹村億奏が私の正体に驚いているがそんな事を気にしている余裕は…あった。
11少年誌的にアウトな吉良吉影:2007/10/20(土) 09:22:52 ID:CvzMd7Pj0
私の能力、『バイツァ・ダスト』は見た人間を爆死させる、私自身を除いて。
出現条件は『川尻早人』への私に対する質問、詮索。
もしくは『川尻早人』へ危害を加えること。
そして爆破した瞬間、一時間前へと時間を戻す。
と、いう事はだ…。

ビシッ、地面についている砂粒程の小石を早人の目に向けて飛ばす。
小さく、手の平サイズに縮んだ私のスタンド、『キラークイーン』が姿を現し小石を掴み取る。

「なんだ……こいつ!?」
「なにか…ヤバいッ!削りとれェッ!」

『キラークイーン・バイツァ・ダスト』は網膜に『憑き物』のようにして入り込む能力。
絶対に回避する事の出来ない無敵の能力、最強の爆弾。

こうして賭けに勝ったが、勝負に負けた川尻早人は…
全てを諦め、『吉良吉影』を父親として迎え入れるしか無くなった。

涙を流しながら学校へと向かっていく早人を見送り、
愛する妻の入れてくれたコーヒーを飲み終え、支度を済ませる。
「それじゃあ仕事に出かけるか『お出かけ』の…キスをしてもいいかな?」

その日、5人の杜王町に在住してた住民が突然、失踪した。
中には有名な超人気漫画家の岸辺露伴と海洋冒険家の空条承太郎も含まれていた。

青空の広がる美しい杜王町、だが殺人犯が居るとは未だに誰も気づいてはいなかった…

「彼女……美しい手をしているなァ〜〜〜〜」

 /l_______ _  _
< To Be continued | |_| |_|
 \l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
12邪神?:2007/10/20(土) 09:27:04 ID:CvzMd7Pj0
ジョジョ全巻が届いたから試しにジョジョSS作ってみた。邪神です。( 0w0)ノ
いや、吉良吉影は化物すぎますね・・・ヤムチャ以上に心惹かれたのは吉良吉影が初めてです。
なんか4部好きな人なら誰でも思いつきそうな話ですな。
早人の意思が弱すぎる気もするけど。
逆の空気を読まない早人編もちょっぴり考えてます。

余談ですがク○ミソで有名なあの人の名台詞に「なんでも試してみるもんさ」ってあったので
何か試してみようと思って吉影先生の趣味の一部、手首をしゃぶる。
自分の手首で試してみたんですが、汗の味を気にしなければ意外と癖になりそう・・・。
あとTo Be continued はエニアさんのをパクったんじゃないですよ!
ちゃんと自力で探しましたよォ〜〜ジョジョAA集から必死こいてェェ〜〜(NO!NO!NO!アトゥム神的な意味で)

〜読み切り講座…と思ったがジョジョは有名だし、未読の方にも実際に読んでもらいたいし感謝だけ…〜
*言うまでもないけど前スレです…

>>385氏 「北斗神拳に一対多数の戦いは〜」って言葉を引っくりかえしちゃうのが悩みどころ。
     しゃべりすぎの件は戦闘がチームプレイなもので・・・w

>>386氏  >>俺はこのケン、フレンドリーで好きだよ
     そういってもらえると結構うれしかったり。
     原作だと殴り合いでしか友情を表現しない奴だったもんで会話させてあげたかったり。

>>387氏  388の方も言うとおり知名度も高いし復刻版も出てますからねぇ。
     読んだのはサイバーブルーが面白かったからですけど。

>>ふら〜り氏 ロマサガ2では守るのも大事だったのでそこから着想をば・・・
       アミバ様を原作通りもっとおしゃべりにさせて時間をかければ
       ケンシロウにフラグ立てれたかも・・・後悔後先たたず(;0w0)
13作者の都合により名無しです:2007/10/20(土) 12:46:00 ID:FDnnce460
邪神さんお疲れさんです。
邪神さんってジョジョも好きなんだ?
吉良は好きなキャラなので活躍?を期待してます。
14作者の都合により名無しです:2007/10/20(土) 21:17:41 ID:qV3ZNmaT0
これは1回危機を乗り越えた後の吉良か?
お疲れ様です。なんかすぐ終わりそうだけど新連載楽しみにしてます。
原作に今のところ忠実だね。

あとゴートさん、一度保管を試してみますよ。

慣れれば簡単っぽいね。
15項羽と劉邦:2007/10/21(日) 00:52:13 ID:SvH1nXYF0
「生きていた呂后」

やがて              背景 →  (焦げた木々)
数十分の             背景 →  (雲ひとつない夜空)
時が                背景 →  (上空から見た城)
流れた。             背景 →  (城の中庭から見た縁側)

「う、うーん。はっ!」
布団で寝ていた行者は慌てて跳ね起きた。
身のこなしは実に素早い。一瞬後には布団のそばにストンと着地して、両手をメトロン星人
みたいな形で上段に構えている。
ちなみに上記のポーズは文庫版闇の土鬼、中巻132ページ1コマ目だ。
自らのおかれている状況が不測ゆえの警戒か。
じっとり汗ばんだ憔悴の表情で、拳を無暗にふりかざす。
部屋は三国志とかでよくある中国丸出しの部屋(名前はよく知らん)で、敵はいないらしい。
「まーまー落ち着いて。これから共同戦線を張らなきゃいけない関係なんですし」
いや、いた。扉ががらりと開くと、韓信が入ってきた。後ろには劉邦ともう一人見知らぬ顔。
「は?」
状況がつかめない。
行者はとりあえず質問するコトにした。(以下、一人称あり)

なんで森で倒れてた俺が移動している。
「不測の事態が発生したので連れてきました」
不測の事態とは?
「禁則事項です」
おいそこ。またハルヒネタやらない。
「冗談です。後で話します」
つまらん。んな冗談はいいから早くこっちの質問に答えろ。
ここはドコだ。
「成皐城です。項羽に取られたり取り返したりしたあの城。ここであなたには私たちと協力
して戦って貰います」
断る。
16項羽と劉邦:2007/10/21(日) 00:54:43 ID:SvH1nXYF0
「ちなみにそれは不測の事態のせいです」
あーうるさい。俺起因の難問じゃなけりゃ聞かんぞ。聞いたって責任は持てないからな。

(以上。一人称終わり)

その頃、成皐城に近づきつつある三つの影があった。
森の方から飛んできたそれらが、ときおり交叉して火花を散らしながらも徐々に城へと接近
するのを城壁の兵士たちは緊張の面持ちで見つめていた。
見慣れた軍馬とは違う、それでいて何万もの兵よりもおぞましい威力の気配が漂っている。
轟音に遅れて地響きが城壁を揺らした。身を乗り出して影を見物していた何人かの兵が危う
く落下しそうになった。
ほうほうの態で上った彼らは、影が交差した辺りで地面がクレーター上に抉られているのを
目撃した。
目撃しただけで、他にどうという感想も浮かばない。
なぜならばすでに何十回となく同様の破壊現象を遠巻きに見ており、すでに恐怖すら麻痺
している。

「もうさ、やんなっちゃう。だって私いわゆる糟糠(そうこう)の妻なのよ。漢王が下っ端の頃か
らずーっと、ずーっと支え続けてきたのよねェ。でもさあの人ったら出世したら他の女に目を
つけてる! しかもそいつの子供に帝位継がそうとしてる! ひどーい!」
声の主は影の一つ。
もっとも兵士たちの動体視力ではそれが豊満な美少女だとは捉えられなかっただろう。
「だから決めたの。素敵だよね青空。秋の風もキラキラ輝いてて気持ちいいよね。うん。あの
妾なんて八ツ裂でいいよね。正妻の子供が帝位継ぐのは歴史の必然よね! だから戚(せ
き)とかいうのピーしてピーして人豚よ! けっけっけ」
奇妙で奇抜ないでたちだ。真赤(ここ重要)な百合があしらわれた白い和服を着ていると表現
すれば「ああ、昔の日本人なのだな」と納得するであろうが、しかしその丈は腰のあたりまで
しかなく、むき出しになった太ももには網タイツを着装している。靴は黒のロングブーツ。
更に和服の袂からはこぼれんばかりの乳房が覗いており、まったく傾(かぶ)いているとし
か思えない。
「はぁ、あなたたちさ、ホントわかってるワケ!」
影は疾駆しながら巨大な十手を残る二つの影に差し向けた。
17項羽と劉邦:2007/10/21(日) 00:56:11 ID:SvH1nXYF0
「項羽倒して国を作るのって大変ジャン!」
髪は黒く長い。中心で分けられた前髪はふんわりした曲線を描き、分け目からこぼれる幾房
もの髪がえもゆわれぬ清浄な色気を醸し出している。
「人いっぱい死んだしー、民衆も戦争で疲弊したしー、でも平和になったらそーいうのはなく
ワケでー、私たちはそれを維持してく責務あるワケよ責務。うんうん」
目鼻には取り立てて特徴はないが、それだけにどこにでもいる親しみやすいお姉さんという
顔をしている。
このお銀ちゃんみたいな人(地球が燃え尽きる日に彼女が出る前に短編集で元作品を読ん
でいた筆者は誠に勝ち組といわざるをえない。いえい!)、実は彼女。
彼女は。

「呂后です。呂后が生きてましてね。こっちは善後策を検討中。張良どのたちは足止め」
韓信の説明によると、解体した体から脱皮して、バラバラの状態で合体して、んで戦闘をふっ
かけてきたらしい。

彼女は自らをまず呂后と名乗った。次に何かをつぶやいた。
二つの影にそれは聞き取れなかったが、名乗られた以上信ずる他ないだろう。
張良は想起した。復活ともに炎熱を迸らせた呂后を。
蕭何は背後に思いを馳せた。一瞬にして呂后に焼き尽くされた森を。
木炭が乱れ喰い歯のように天を仰いで、くゆる黒煙にも焦げ臭さが生々しい。

(以下、一人称あり)

で、俺がお前らと共闘して倒せってか。冗談じゃないぞ。元々あいつに喧嘩をふっかけたの
はお前たちの方だろうが。むしろ俺は仲裁しようとしたね。が、そんな今時めずらしい平和主
義者を三人がかりでリンチしてきたのはどこのどいつらだ。悪いが協力はしないぞ。器が小さ
いとか思うだろうが、三人で来られりゃ温厚な仏様でも三度の顔が一瞬でなくなるさ。
「不服ですか」
ああまっぴらだ。願い下げだ。さっき痛感したがやはり歴史への介入なんてゴメンだね。
一未来人であるところの俺はどこにいるかも分からんリサをさっさと未来に連れ戻して、んで
家を襲ってくるクダランたわけた兵器と毎日毎日したくもないドンパチを繰り広げてさえいりゃ
いいんだ。それで満足かって聞かれたら俺の生活に対する満足度を表すメーターは百パー
18項羽と劉邦:2007/10/21(日) 00:58:50 ID:SvH1nXYF0
セントに程遠いところで止まるだろうが、決してゼロで止まったりもしないさ。何故なら結局そ
ういうのが俺の日常なんだからな。時間旅行で見てきた戦国時代や江戸時代の人間に俺と
同じ質問をしてみろ。きっと俺と同じ答えを返してくるぜ。俺は理想主義者でもなければ改革
者でもないただの一未来人だから分別ぐらいわきまえて、せいぜいあくせくとした日常に不平
を洩らしながらもどこかで満足しているさ。歴史なんて変えたいとは思わないね。

(以上。一人称終わり)

呂后は腕組みを解いてぴょんぴょん跳ねた。跳ねると、両耳の前から伸びた髪がつられて
空を暴れ回って微笑ましい。
「でも、そこに出てくるはにっくきあの妾! あのさ、わかってるワケ? 妾風情がしゃしゃり
出てきたら漢って国のバランスがおかしくなるんよ……?」
うるうると手を組んで張良や蕭何を見ながらも、足だけは物すごい速度で成皐城に向かって
いるから恐ろしい。いったいどういうコツがあるのか、彼女は上半身をまったくブラさず走れる
のだ。混世魔王や白昼の残月みたく。
「妾がさ、色仕掛けで政権握れるよーな国なんて、いつか必ず滅びるワケとよ。むー。崩壊
したらさ、みんなが迷惑なワケよ。だから妾の戚(せき)とかいうのは殺した方が全体的に見
て得なワケ!」
『一理はある。だがそれは清廉なる者が発してこそ万里隅々に及ぶ文言!』
張良は踊るように身をよじらせ、つぶてを放った。
「貴様はあまりに矯激すぎる! それではいつか臣下の心が離れていくぞ!」
蕭何は銅銭をしゅらっと剣の形にして斬りかかった。
「だいたいさ、歴史上じゃ妾が自分の子供に政権握らそうと画策すんのはよくないって批判す
る傾向があるクセに、なんで私だけ批判されるよの。妾殺して国の維持を図るのがそんなに
悪い! ねぇ、そんなに悪い!?」
呂后は目を三角にして大きく舞い上がり、口から五メートルはあろうかという矢を吹き出した。
いかな圧縮率で入っていたかは分からない。そもそも矢であるかも分からない。
いわゆる棒手裏剣の先端にハートマークの部品を接着した無骨不気味な武器である。
ともかくさすがの蕭何といえど、かような巨大な武器を頭上から投げられようとは思考の外。
土くれ巻き上げながら踵で速度を殺し、決死で飛び退く。そのすぐ前に重苦しく地に刺さった
奇怪なる武器の姿には、あわや圧殺の憂き目を逃れたと安堵を禁じえぬが。
間髪は入らない。
19項羽と劉邦:2007/10/21(日) 01:00:19 ID:SvH1nXYF0
形のいい呂后の唇がきゅっとすぼんだと見るや、べっべっべっと前述の武器が地上に吐き
捨てられた。
大道芸ですらせいぜい一本の長剣を六割飲めば上等の出来だというのに、呂后は柱ほど
の武器を三本連続で食道から吐き出し、弾丸のような速度で飛ばすのだ。
(痰か何かのように易々と……!)
『く……! 反応が遅れた。直撃こそ免……免れ? いや……!!』
蕭何と張良は素早く四方を見渡して歯噛みした。
次に襲ってきたのはいかんともし難い自嘲だ。
見誤った。
屈辱と激昂に拳が戦慄き、いまだ天に浮かぶ呂后を八つ裂きにしたい衝動が湧く。
「あー気づいちゃった? そ。直接攻撃狙いじゃなかったり♪」
先ほど呂后の口から射出された異形の武器は、蕭何と張良を囲むように佇立している。
「しまった。避けるのに必死で気づかなかった。私はなんという勘違いを」
蕭何はブラボーみたいな声で顔を覆って泣き崩れた。
「あーあ。やだやだ頭コチコチの連中って。嫌だよね。瀬戸物の内側にこびりついたグラタン
をこそぎ落とすの。金属のスプーンがじょりじょり鳴って頭が痛くなっちゃう。いいや。殺しち
ゃおう」
繊手が指を弾くと、地面に刺さった武器の下方からしゅうしゅうと空虚な音が響いた。
やがて音とともに土や小石が吸い上げられているのを認めた時、蕭何は文庫版マーズ1巻
272ページ2コマ目のマーズみたいなポーズをした
「コンクリートや鉄が粉々になって吸い上げられていく」
『違う。時代的には土や小石だ』
とりあえず突っ込んだ張良は一筋の汗を流しながら柱に向かって輪(モーターギアみたい奴)
を投げた。蕭何は髪を針にして同じ事をした。
果せるかな。柱の周りには竜巻以上の暴風が吹き荒れており、輪も髪の毛針もバチバチと
巻き込まれ、やがて揉み砕かれた。
同時に彼らは別の事を認識した。
柱が他にも三本ある。
つまり四方を包囲されている。
よって脱出は不可
柱に近づけば風圧に巻き込まれ、輪や髪の毛針と同じく……
「粉砕! 玉砕! 大喝采!!」
20項羽と劉邦:2007/10/21(日) 01:01:31 ID:6UT46Dwi0
『……た゛ろうナよ。おも( ニ 呂后か゛』
徐々に風が強くなってきた。張良は一生懸命虫文字を維持しながら(でもところどころは乱れ
ている)感想を漏らしたがどうしようもない。
呼吸ができなくなりつつあるのだ。
二人はそれが空気の渦により真空状態だと、カマイタチに体を切り裂かれながらも悟ったが
荒れ狂う風の中では這いつくばるほかない。
やがて彼らから意識が遠のき始め

「あっはっは。ざまあー! 体の一部だけを六神体化! 私は確かに出来が違う!」 
呂后は宙に浮かびながら、勝利の笑みを浮かべた。

「いいんですか? さっきあなたはいってたじゃないですか」
韓信はうつろな表情で行者の肩に手をおいた。

>「てめーら、この時代に呂后殺ってんじゃねーぞ! もっと後の時代に殺されるんだろーが!」

「って。つまりあなたは未来から来た人で、今後の歴史を知っている」
「……だったらなんだ」
「私たちはどうですか?」
「はぁ?」
「今、この時代に殺されるかどうかという事です。もしそうであるなら、おそらくあの場から呂后
が逆転するであろう事を見越して、仲裁には入らなかったのでは?」
「!」
「どうやら死なないらしいですね」
韓信は納得した風情でコクコク頷いた。
「ですが、あなただけはマズい。歴史があなたの命を保証していない。だからこそ私たちと手
を結んで抗戦すべき必要があります」
「いや、その論理がそもそもおかしい。俺はあの呂后と争うつもりもない。アイツだって俺に恨
みは持っていないさ。なら、そもそも争う理由なんてないだろ? だから俺がこの時代で落命
する理由なんてないさ。はははは」
手を突き出して愉快に笑う行者であったが、
「ありますよ、理由。それは……」
21項羽と劉邦:2007/10/21(日) 01:02:58 ID:6UT46Dwi0
韓信のセリフに鼓膜をぐさりと突かれ、驚愕の面持ちで外を見た。
(ば、馬鹿な。そんな事がある筈が。ありえない…… けれど話が本当なら……!)

風の音が、強くなってきた。

「考えてみれば殺すには惜しい連中だったケド。まぁ、後は私がやるわよ
吹き荒れる砂礫のせいで分からないが、今頃張良と蕭何はカマイタチにずたずたに切り裂
かれミンチとなって飛んでいるのだろう。
暗い想像に呂后は舌なめずりをした。
「項羽率いる秦の退治なんて私ひとりで十分だしー」
『奇遇だな。それはこちらも同じだ』
「ああ…なんだ… 風が…やんだじゃねえか」
四柱の一角が突如として爆ぜた。
次にその横にあった柱に何かが巻きついて引き抜かれた。
ぶわりと風の中で冗談のように浮きあがったそれは、隣の柱に激突して共に砕け散った。
同時に最後の柱が根元からへし折られ、地平まで届く激烈なる倒壊音を奏でた
『我ら能吏に甘んじたるは漢王に覇者たる名分を与えんがため』
砂礫の晴れた空間に佇んでいたのは、上着がぼろぼろに破れた張良。
髪は乱れ、あちこち傷だらけで意外に引き締まった肉体をちらちらと露出しているが、眼光
だけはまったく衰えていない。
手には七節棍が握られていて、それで柱を破壊したのだと呂后は悟った。
「温州蜜柑でございます」
蕭何はニコニコしながらお盆に乗ったじゃがバターを張良に差し出したが、蹴り倒されて顔面
にしこたま七節棍を浴びせかけられた。
『我らが実力を以て秦を叩きつぶせば我らが覇者になる。が、それはつまらん』
「おっつぁん、温州蜜柑でございます」
蕭何はボロボロになりながらなおじゃがバターを進めるが誰も聞き入れない。
『漢王の度量に才覚を賭け、押し上げてこそ意味がある。彼は弱い。だが』
「おいらの知らねえ奴らのどんな思いも何もかも丸ごとひっくるめてその袋に飲み込む!」
「……虹裏ネタから蒼天航路へ飛ぶ節操のなさはともかく、やはり一筋縄じゃ無理みたい」
しくしくと涙を流す呂后であった。
22スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/10/21(日) 01:04:53 ID:6UT46Dwi0
とまぁコレぐらいの配分がいいと思うのですよ。

ゴートさん
了解です。なるべく自作については保管していきますよー
それから組曲のご紹介、ありがとうございます。
アフリカの方では何事もない事を願っております。

前スレ480さん
故あってだいたい1レスぐらいで物語を完結させる練習が必要でして……
ちょうど各人の動向を描く必要が出てきたので挑戦してみました。
ええ。もちろんネウロの影響も少しw 短編でちゃんとオチがつけれるってすごいですよね。

前スレ>>481さん
実は何気に今後の展開への仕込みが色々ありますので、お楽しみにw
各人の事情があれこれと絡みあって流れを作るというのが理想形。はたして
それがどれほどできるか。次回は……ふっふっふ。

>>4さん
描くよりはその前段階、「何を描くべきか」をまとめるのがちょっと大変だったかも?
ここをしっかりしておかないと、話に関連性が出てこないので…… で、視点を切り替えつつ
本筋の流れを形成していくのは、司馬遼太郎の幕末小説を読んでいるようで楽しかったです。
23作者の都合により名無しです:2007/10/21(日) 01:24:21 ID:zSjYFrOg0
お疲れ様ですスターダストさん。
そこかしこに豆知識とオタ知識が散り混ぜてますね。
こっちの作品の方がスイスイ書けてるような印象を受けます。
24作者の都合により名無しです:2007/10/21(日) 04:30:22 ID:pXBq0b1p0
この作品は永遠の扉と違って
完全に自分が楽しむために書いてるなw
25作者の都合により名無しです:2007/10/21(日) 12:14:17 ID:eGLQArtU0
>ゴートさん
アフリカの南ってどこの国ですか・・?気をつけていって来てください。

>邪心さん
吉良の狂気がSSでどこまで表現できるか楽しみです。短編っぽいですね。

>スターダストさん
ナンセンスギャグと知らない人以外置いてきぼりの格好ですがそこがいいですw
26本気の理由:2007/10/21(日) 15:03:15 ID:FJlsO7XU0
 地球上を覆う莫大な気迫。
 人や獣はもちろん、草木や微生物さえも自らに押し寄せた圧倒的な存在感(プレッシャ
ー)を感知していた。もし主に害意があれば、たちまち地上には諸々の悪影響が及んでい
たはずだ。
 原因を特定できた者はほんのわずか──地球を代表する歴戦の戦士のみ。
 まず彼らは驚いた。超サイヤ人3を体現し、もはや単体でこれ以上のレベルアップはあ
り得ない域に達していた悟空。それにもかかわらず、今彼の気は明らかに魔人ブウ戦での
それを一歩上回っていた。
 そして同時に疑問符も浮かび上がる。なぜこれ程の気を発する必要があったのか。
 今発せられている悟空の気が、フルパワーであることはおそらくまちがいない。だが、
理由が今ひとつ思い当たらない。修業のためか。だがこれは考えにくい。まだウーブに悟
空の全力と伍する実力があるわけがないし、悟空の修業スタイルから推測しても不自然さ
が残る。
 ──となると、残る可能性など一つしかない。
 新たな強敵である。
27本気の理由:2007/10/21(日) 15:04:23 ID:FJlsO7XU0
 カメハウスでは、クリリンが出発の準備に取りかかっていた。
「クリリン、ほんとに行くのか?」
「えぇ。悟空ならわざわざ気を込めて確認しなくても自分のフルパワーくらい分かるはず
ですし、これはまちがいなく只事じゃありません。……臭うんですよ」
「鼻がないのにか?」
「む、武天老師様……」
 亀仙人の軽口に苦笑いするクリリン。
「とにかく気をつけい。万が一のことがあったら、二人が悲しむぞ」
「ありがとうございます。俺だって死にたくありませんからね。18号たちが買い物から
戻ったら、心配するなって伝えておいて下さい」
 気を開放し、飛び立つクリリン。
 悟空の近くに別の気は感じられない。人造人間のような気配を持たない敵なのだろうか。
 杞憂ならばそれに越したことはない。だが、クリリンの悪い予感はよく当たる。クリリ
ン自身それを分かっているからこそ、駆けつけずにはいられないのだ。
 気を探ると、どうやら仲間たちも動き出したらしい。
 フルパワーを発揮した孫悟空、頭から離れぬ不安、存在すら明らかでない敵、集結しつ
つある戦士──避けられぬ開戦の予感。
 幕は上がった。
28本気の理由:2007/10/21(日) 15:07:48 ID:FJlsO7XU0
 神殿から地上を見守る二つの影。ピッコロとデンデ。ベクトルこそ違うものの、共に優
秀なナメック星人である。
 緑色の肌を、大量の汗が伝う。
「ご、悟空さん……」
「あのバカ……!」
 二人は全てを見ていた。
「野糞で力みすぎて、気を全部放出するやつがあるか……!」

                                   お わ り
29サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2007/10/21(日) 15:13:10 ID:FJlsO7XU0
久しぶりに短編を書いてみました。
よろしくお願いします。
30ふら〜り:2007/10/21(日) 18:12:07 ID:xM7UUeSX0
>>1さん
おつ華麗さまです。持ち直したと思ったらまたちょっとピンチか、と思ってたらスターダストさんに
邪神? さんが来てくれて、そしてそしてサナダムシさんの復活で感激と安堵。私もまた書かねば。

>>ハイデッカさん
毎度ご苦労様ですっ、サー! 
>それでも1話分は書いたんだけど、あまり気に入らなくて消した。
作品に対する妥協なき姿勢に感服ひとしきり。ゆえに、そんなハイデッカさんの作品への
期待も高まっておりまする。待ってますよっ。

>>スターダストさん
・永遠の扉
パジャマ姿で……普段より頼りなげな表情、潤んだ瞳、熱い体、そして鼻水とか想像したらもう。
「体力低下」で病気ってほのかな弱さに萌え。で久々、我が最萌えロバさん前線で活躍するか?
・項羽と劉邦
項羽と劉邦の物語は横光版ではないものの、漫画も小説も読みました。記憶は朧ですが。しかし、
>歴史上じゃ妾が自分の子供に政権握らそうと画策すんのはよくないって批判する傾向がある
……今まで気付かなかった。やはり彼女がエグ過ぎるからか? 本作に限っては違う意味でも。

>>邪神? さん
なるほど、言われてみれば。藤田和日郎先生の「邪眼は日輪に飛ぶ」や、ラノベの「食前絶後!」
にもありましたが、「視」が一撃必殺の武器になるって恐ろしいですよね。よほどの事前情報と
準備装備がないと防ぎようがない。邪神? さんとしては珍しく、ちょっとゾッとする話でした。

>>サナダムシさん(お久しぶりですっっ! 待っっっっておりましたぞっっっっ!)
サナダムシさん、お変わりなく。そりゃもう本当にお変わりなくて心底安心しました。え〜介護の
専門学校で学んだところによりますと、「りきみ」と「いきみ」は別物で、高齢者の場合は危険な
状態を誘発する可能性があるから注意、とのことです。本作を読んで、ちと納得できたような。

>>ゴートさん
私も引き続き、自作については補完してゆきます。ネット可能であれば、また顔出してくださいね。
お気をつけて! ……しかしバレさんといい、凄そうな人たちが管理して下さってますねぇ……
31作者の都合により名無しです:2007/10/21(日) 22:25:41 ID:TCVMYJqP0
サナダムシさん復活キターーー!
相変わらず軽妙洒脱な文だなあw
最後はお約束で締めたしw
32作者の都合により名無しです:2007/10/22(月) 08:48:15 ID:8AA9zST30
サナダムシさん復活は素直に嬉しい。
ちょっとボリュームが少ないけど、また書いてくれると信じてます。
DBの短編、本当にうまいな。
33作者の都合により名無しです:2007/10/22(月) 14:30:22 ID:VPH8i1zf0
サナダさん、加藤のやつは復活はないんですか?
34作者の都合により名無しです:2007/10/22(月) 23:45:46 ID:xkZgP8bh0
サナダムシさん復帰は何より嬉しいな
邪神さんも新連載始めてくれたし良い事だ

両方とも文量少ないがw
35作者の都合により名無しです:2007/10/23(火) 08:28:47 ID:knx9wRzk0
一生解けないうんこの呪いにかかったサナダムシさん萌え
いつもと同じ時間帯、いつもと同じように通勤しながらチラチラと周囲の女性の手首へと視線を移す。
昨日は最高の一日だった、コーヒーで火傷したり、早人のおかげで空気弾も喰らったが…。
承太郎も、露伴も康一も億奏も、そして東方仗助も死んだ。
これからの私の日々はきっと幸福で、何一つストレスを感じない物となるだろう。

『バイツァ・ダスト』も解除済みだ、既に一日経っているので安全は保障されている。
『キラークイーン』は死体の処理に便利なので、代わりに私の父親の写真を早人の上着に仕込んである。
父のスタンド、『アトム・ハート・ファーザー』は写真に自由に出入りできる能力。
早人が誰かに知らせようとすればバレずに後始末を済ませてくれるという訳だ。

一人の女性が反対側の歩道を通る、長い黒髪、バツグンのプロポーション。
そして美しい顔と手首、思わず一瞬見とれてしまった。

(フフフ……丁度いい、腐りかけの彼女……ええと、名前はなんだったか…。ああ、美奈子だった。
まぁいい、彼女とは『手を切って』新しくあの子の綺麗な『手を切る』としよう…)

「もしもし、部長ですか?おはようございます、川尻浩作です。
まことに申し訳ありませんが…今朝15分ほど出社が遅れそうなのです。

路上で頭をペコペコ下げながら電話をかけるその姿から誰が殺人鬼と予想できるだろうか。
クスクスと周囲から笑い声が聞こえるのが少し恥ずかしいが、広瀬康一との戦いで恥をかくのには慣れた。
それに、あの時と違って電話が終われば周囲の興味の対象から外れる。
目立ってはいるが何も問題はない。

「いえ、息子が学校に行くのを嫌がって…いえ部長、人様から見たらほんのつまらない理由なのです…。
はい。15分ほどしか…かかりませんので……はい…まことにすみません……はい、済み次第…はい。
すぐ会社に……向かいますので…はい……は!失礼します!部長」―ピッ―

まったく立場がどうのと面倒な奴だ、そんなに出世したかったのか川尻浩作め。
「気苦労の方が多いのに…金だのなんだの欲に眼が眩んだアホはこれだから困る」
さぁて、気を取り直して『新しい彼女』の行方を追いかけてみよう……。
コツコツと靴音をワザと、でも少し小さめにたてながら女性の後方3メートルを維持しながら歩く。
足音を全くたてないのは不自然で逆に怪しい、離れ過ぎたまま視界に入っていればストーカーらしく見られる。
近寄ることが大事なのだ、腕時計を気にしたりネクタイを締め直したり、如何にもサラリーマンな仕草もいい。

段々と人気のない所へ歩いて行く、いいぞ……『運命』は常に私の味方だ。
角を曲がる、そこは開拓中の住宅街、早朝は騒音を気にして工事の時間帯からずれているのだろう。
車一つ見当たらない…ハァァ〜……なんて完璧な空間だ…私と…『彼女』と二人っきり…。
後は…邪魔な体を私の『キラークイーン』で吹っ飛ばすだけでいい…でも、その前に…。

「お嬢さん、この先は行き止まりですが…何か用でもあるのですか?」
さり気無い質問、焦らず、警戒心をゆっくり解いて…会話へ持ち込もう。
これから腐るまでの間、『お付き合い』させていただくのだ。
性格や好みを知っておくのは男女の交際においてはとても大切なことだ。
もっとも、愛する妻がいるので指輪をプレゼントしてあげられないのが残念だが…クク。

「ええ、そうなの。」
ン〜〜〜冷たい声だがそれとなく慈愛を秘めている…気がする。
素敵な声だ、もう聞くことはない訳だしじっくり聞かせてもらおう。
私の正体を知った時の叫び声を思い浮かべると…フフ…股間にサポーターを当てていて正解だった…。

「どんな用ですか?差し出がましいでしょうが…女性が一人で人気のない場所をうろつくのは不用心ですよ。」
少し窮屈な感じがするが、グッと堪えねば。
私のように紳士でも股間がアレだと変態にしか思われないからな…。

笑顔で振り返る彼女、フワッと持ちあがる髪が中々に素敵だ。
だが……気のせいだろうか、眼に全く光がない。
まるで…死人か何かのようだ。
「あら、優しいのねアナタ。でも…どうしてもやらなくてはいけないの。
撫し付けですけど…もしよかったらついて来てくれれば心強いのですが…」

……フフ、今日は最高の一日になりそうだ…
紳士らしく、それでいてさり気無い茶目っ気も見せとけば女はホイホイ信用するものだ。
イメージを崩さないよう、声のトーンを素人の真似るシェイクスピアの劇にでる騎士、とでもいう感じに…。
「私の様な者で出来ることがあればなんなりと申し付けてください…お嬢さ……」

ギ    ギ    ギ    ギ    ギ    ギ
 リ ギ  リ ギ  リ ギ  チ ギ  リ ギ  リ
    リ    チ    リ    リ    リ

「むごぉぉぉォォ〜〜〜〜!!」
(な、なんだッ!?舌が締め付けられるッ!体にもッ!?
う、動けないッ!身動き一つとれやしないッ!)

「あるわ…アナタに出来ること、あの世で康一君に詫び続けるのよ…未来永劫ね……!」
髪の毛が…伸びている!?こいつもスタンド使いだったのか?
死体のように冷たかった眼が、怒りの炎で鈍い輝きを帯びていた。

体中に見境なく巻きつく髪、多重にも重なるので髪と髪の間に挟まれた肉が千切れて血が流れる。
「そのムカつく話し方を止めて…私とお話しましょう……ね?」
取り繕った笑顔に加えて、眼輪筋をピグピグさせている。
抑えたくもない怒りを、やっとの思いで抑えているといった顔だ。
舌に巻きついていた髪を解くと、少し後ろに下がる。

「アナタのスタンド…正体が分からないんですもの、失礼だけど少し下がらせてもらうわ。
さぁ、お話しましょうか?アナタの正体とかスタンドの能力とか…教えてくれる?」
眼輪筋を痙攣させたまま、笑顔で話しかけてくるその姿…恐怖せずにはいられない…。
だが、なんとかしてこの状況を打破する為にも女との会話は必要だ…。

「わ…私の名前は川尻浩さくッ〜〜〜〜〜〜!!!?」
首を絞める力が更に強くなっていく、気管だけではなく血管までストップさせるつもりだろう。
とんでもない女に出会ってしまった…ヒドすぎる……なんてヒドイ一日だ…。
「それはテメェが殺した奴の名だろうがぁァ〜〜〜〜!!あたしをナメやがってェ!
その悪趣味なスーツに釣り合うように顔面歪めてやる…こォの田吾作がァ〜〜〜!」
全身に髪の毛が纏わりつき、締め付けてくる。
体中を万力で締め付けられるような痛みが込み上げてくる。

(キラークイーンの指で少しでも髪に触れられれば毛髪を通じて頭を吹っ飛ばせるのにッ…!)
身体が動かない今…『キラークイーン』を出した所で正体を悟られ殺されるのが必定。
ごまかすのだ…なんとしてでもッ!

「あぁぁうあああぁ〜〜〜なぁ、なにを言ってるんだぁぁ〜君はぁ〜〜〜〜〜。
わっ、わたしはぁ…たっ、ただの会社員だよぉ〜オオオオオオェェ!?」

この女…口の中にまで髪の毛を……このまま内臓をバラバラにすることもできるのか?
強すぎる…反則じゃあないのか……? 射程距離はありそうだが逃げられそうにないッ!

「ジョースターのジジイのこと知らないのね…スタンドの能力は精神力次第。
孫を殺された怒りが悲しみを上回ったのかしら…康一君を失った今のアタシみたいにね…」
そういって写真を取り出す、それは川尻浩作…つまりこの吉良吉影の顔の移った写真だった。
だが…何故だ!?早人がそんなことをすれば写真から父が飛び出す筈だ……。
まさか…しくじったのか?いや、殺人には慣れている筈…あんな小僧に出し抜かれる程の役立たずでは…。

「なんか考えてるみたいね…無駄よ……『愛は無敵』なのよ。
康一君…本当に素敵だった……小さくてかわいくって…いざって時にはすごく頼もしくって…。
もう一生、彼みたいな人には出会えないって位…愛してたわ…」

眼の前の女が涙ぐんでいる…チャンスか!?
精神力が弱ればスタンドの力も弱まる…段々と呼吸が楽になってきたッ!!
だが安心はできない…思い出に浸って悲しんでくれれば脱出して髪に触れるくらいまで弱まるだろうが、
その逆もあり得る…下手な事を言って刺激しない様に…心の隙間をつくのだ吉影!
 /l_______ _  _
< To Be continued | |_| |_|
 \l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
やはり新しく始めると出だしはスイスイいきますね。邪神です(0M0)
二話目からタイトル変更なんですが前回のはタイトルもTo Be continuedもノリでつけたもので、
読みきりのつもりでした…。続けようなんて考えてなかったのですが思い浮かんできたし、
最近過疎が進んでるし気分転換にいいかな、なんて思ったので続けてみる事に。
『ラブ・デラックス』の彼女が放っておく筈ないですもんね…。

ジョジョみたいな逆転劇を自分に展開できるのか…
原作の様な緻密な計算は出来ませんが、由花子戦は脳内で出来あがってます。
ドドドを入れ忘れたのに気づいたけど改行の問題からめんどくなったので脳内でどうぞ…。

〜もはや回避できないネタ切れの嵐、救援と共に感謝を記す〜

>>ふら〜り氏 >>よほどの事前情報と 準備装備がないと防ぎようがない。
       装備は露伴に「見えなくなって耳が聞こえなくなる、敵は感覚で探る」
       とか書き込んでもらえば大丈夫なのかも…仗助は本にできないとか言ってたけど何故億奏は…。
       しかしこの対策を得るための情報源、早人は地雷状態。
       『バイツァ・ダスト』は多少の欠陥があるものの、吉良吉影は化物すぎますね。

>>13氏 6部だけリアルタイムだったので色々気になっちゃってジョジョでググったら
    手首をしゃぶってる吉影先生が出てきたりして私の大変な物を盗んでいかれました…。
    最近は「ディアボロの大冒険」とかニコニコの「かいんたちの夜」とか
    ジョジョ関連に手を出すのが日課。名前の原曲シリーズでQueenの
    「Killer Queen」「Another One Bites the Dust 」を流しっぱなしの日々。
    パソコンが熱々です(;0M0)

>>14氏 猫草の空気弾を喰らって早人とおしゃべりしてたら仗助にバレたっていう
    うっかり屋さんなシーンです、本名を名乗っても大丈夫な殺人鬼でしたからねぇ。
    筆跡云々よりこういった気配りに注意すべきだったんですね…。

>>25氏 狂気だなんて…ちょっぴり変わった趣味を持ってるだけですよ、『ちょっぴり』ね。

>>34氏 今回はちょっぴり増量。前回のはOPとでも考えて下さい…。
41作者の都合により名無しです:2007/10/23(火) 21:21:01 ID:dC19e1MB0
お疲れ様です
少しずつSSらしい展開になってきましたね
前回は原作に忠実でしたけど、今回からオリジナルの味が出てきてます
失礼ながらキャプテンの方よりこっちの方が新鮮味があって楽しいなあw

またの更新を楽しみにしてます。
42作者の都合により名無しです:2007/10/24(水) 08:29:26 ID:aGaKCRGL0
邪神さん乙。
ラブデラックスえらい強いなw
吉良の性格が原作よりかなりヘタレ?
43作者の都合により名無しです:2007/10/24(水) 13:54:15 ID:6HYQ0d4c0
吉良パパのスタンド名ってこんな名前だったっけ?
とにもかくにも邪神?氏おつです。
ジョジョは人気あるネタなんで頑張って書いてください。
44作者の都合により名無しです:2007/10/25(木) 22:00:00 ID:mostlUJ50
スタートダッシュ失敗か
45作者の都合により名無しです:2007/10/27(土) 13:27:30 ID:SIMYZZSK0
寂しくなっちゃったなー
ハロイさんとかエニアさんとか帰ってこないかな
46作者の都合により名無しです:2007/10/28(日) 14:48:34 ID:x9AFbYBx0
週末も来ないのか・・
47作者の都合により名無しです:2007/10/29(月) 23:33:41 ID:5w0/XyXA0
さいさんどうしたんだろ
48作者の都合により名無しです:2007/10/31(水) 08:23:02 ID:L9UQaXwl0
入院されてるみたいだね。心配・・。
また聞こえる、またこの音を聞くことになるなんて…。
この音が聞こえる時、私はいつも平穏とはかけ離れた状況下にある……。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

あの馬鹿が…人間関係は調べなかったのか?
父の情報によれば私を詮索しているのは承太郎、露伴、康一、億奏、仗助。
それに未起隆とかいう『矢』を弾いた奇妙な男だけ…こんな奴の情報は…ないッ……!

喉の奥まで突っ込まれていた髪の毛を引っ込め、呼吸する時間を与える。

「さぁ、話す気になった?」

顔に美しく、したたかな笑みを浮かべながらも瞼は涙に濡れていた。
だが、吉影は彼女を美しいとは思わなくなっていた。
額にブチ切れそうな程に太い青筋を立てつつ、
眼輪筋の動きは一層激しくなり、その振動で涙は頬を伝わずに空を舞っていた。

落ち着け…この吉良吉影、杜王町に来てから幾度となくクソカスどもに平穏を乱されてきた…。
だが、そんなピンチの時こそ冷静な対処で上手く切り抜け続けた…。
『運命』は……最終的には私に味方をするッッ!

「そ……そう、君の睨んだ通り…私の名前は吉良吉影…」

更にきつく締め付ける、だが身体中に巻きついているのに何故か手には髪を近付けない。
(まさか私のスタンド能力を…?クッ……有りうるな…私の写真を手にしたのだ…。
スタンドの察しがついてもおかしくはない…)

「そう…そうしていい子にしてれば、少しは優しく殺してあげるわ……」

こいつ……私を弄り殺す気か……だが時間を稼げば勝機はある筈…。
「ま…待ってくれ……私には妻と息子が…」
「『私には』?これで2度目よ…名前に続けて他人の物を勝手に使ったの……。
まったく……こいつぁメチャ許さんよなぁぁああああああ!」

ズッ、という這う音に続けて肉が裂けて血が出始める。
落ち着け…この女が、じっくりと私を殺す気ならここで一先ず止める……

少しずつ、肉へくい込むスピードを落としていく。
心を落ち着け、最愛の人を失った心の痛みを、思いつく限りの方法で肉体の痛みにして伝える。

思った通りだ…幸運にも、手首の所まで髪が来ている。
このまま更に伸ばして指が届く位置までくれば私の勝利……。
……だが、はっきりしない…こいつは私の『スタンド能力』を知っているのか?
例え指の触れる位置まで来なくとも、勝つ方法がない訳ではないが…。

「ち……違う…確かに最初は行方を眩ますのに利用していたに過ぎなかった…。
だが…一緒に暮らしている内に…なんというか……その…」

「……何よ。」

そう、この戸惑いの演技…速くも引っ掛かってくれたぞ……。
我ながら流石と言わざるを得ない、
フフ……この吉良吉影…役者でもなんでもこなして見せるぞ、平穏に暮らすためならばッ!

「れ…連帯感とでも言えばいいのか……家に残した家族を想うと…暖かな気分になるんだ…」

女は黙って殺人鬼へ冷たい視線を向け続けていた。
髪の動きも手足を動かせないぐらいで止めている。

この沈黙…無反応な訳ではない……。
確かに異常な女だが、所詮は小娘…情愛が絡めば弱いものだ。
一般人の見解では、殺人鬼に愛なんて感情は無いものだと決めつけている…偽りだろうと『愛』を見せるのだ。
「そう……」

よし、いい反応だ…このまま騙し通せば私の勝利だ!
だが油断してはいけない…口元の髪は引っ込めてはいない。
恐らく、私のスタンドを『近距離パワータイプ』だと確信しているのだろう。
私のスタンドの正体が分からないから距離を取る、そう言っておいて3メートルしか離れていない。
それに後ろに回り込んだりもせず、正面から堂々と対峙している。
いざとなれば、私が髪の毛を無理矢理にでも引き千切れることを理解している。
だが、先程の髪を伸ばすスピード、そしてこのパワー。
私が『キラークイーン』のスイッチを入れるより速く、内臓をズタズタに引き裂くことは決して不可能ではない。

「それじゃあ…スタンドを出して頂戴。本体同様に縛りあげるわ。
言っておくけど、抵抗すればどうなるか……判ってるわね?」

やはり私のスタンドを『近距離パワータイプ』と確信している…。
『本体同様』ということは手足を縛り付ける気でいるってことだからな……。
そしてこいつは、私のスタンドの『能力』は解ってはいないッ!
解っていれば出すように指名する筈はない…触れれば私の勝ちなのに『本体同様』手も縛ると言っている…。
そして………フフ…判っているさ……君が『許す』とは一言も言っていないことも。
アホ面ぶら下げながら『許して貰えてラッキー』って顔でこの女の策に引っ掛かった振りをしてやる…。

「ああっ……ありがとう…ありがとう……」

眼を涙で潤ませながら無様で間抜けな男を演じつつ、彼女の指示通りにスタンドを発現させる。
勿論、両手を上に降服のポーズで。(まぁ、スタンド同士の戦いでこれが意味を成すとは思えないが形式上…)
『キラークイーン』の腕や足へ大量の髪の毛を巻きつかせ行動を封じる。
その姿は如何にもロープで縛られた人質そのもの、目の前の女もそう思っていると確信していた。

形勢逆転だ…これで私は気付かれないよう、この忌々しい髪に触れてやれば勝利する……。
ピンチの時こそ『運命』はこの吉良吉影に味方する…乗り越えられない物事など、何一つない。

「それじゃあ…アナタを助けてあげるかどうかテストしましょう。」
…今なんと言った?助けるだと……白々しい嘘を…。
もしや……この状況で嘘をつくということは殺す気でいるのか?
『助かる』と信じ込ませてから、喉へ髪を突っ込んで絶望させながら弄り殺すのか?
は…速すぎる……まだ指の届く位置ではない………やられてしまう…この吉良吉影がやられてしまうッ!

「私にだって…情けくらいあるわ。
生きる価値があるかどうか…チェックしてあげる。
これから、アナタに質問することに決して嘘をつかないこと。
唯…生きていられても2度と悪事が出来ないようにその『両手を粉々にする』わ。」

この女……本気で言っているのか…?
クク…勝った……『両手を粉々にする』ということは私の指に触れる筈だ。
その時、私が抵抗出来ないように『スタンド』の手も縛り付ける筈……。
例えこの女が、動揺や汗に反応して嘘を見破る機械を持ってきたとしても無駄無駄ァ…。
最近ではクソったれ仗助達に寝首をかかれやしないかと……不安の余り夜も寝付けなかった………。
そのお陰で、口の中に精神安定剤を仕込んでおく習慣がついていたのだ…。
もう必要ないと思っていたが…幸運だった……。

しかし、女は数分経っても質問を始めようとはしなかった。
一体、何をしているのだろうか?
機械をここに持ってくる為の時間だろうか?
あれこれ考えているうちに、奥の小道から小柄な男が出てきた。
「こいつですか……康一殿を殺したっつー殺人鬼は…」

歳は20代前半ってとこか……嘘を判別するような道具は見当たらない…。
待てよ、こいつ…広瀬康一を知っているということはまさか……!
み…耳鳴りが激しく……また………あの音がッ……。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
 /l_______ _  _
< To Be continued | |_| |_|
 \l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
バキスレに再び停滞期が訪れたようですな。邪神です( 0H0)ノ
一週間経って誰もこないと中々寂しい感じがしますね。
でも停滞期が過ぎ去るまでの我慢・・・その場しのぎにでも読んでやって下さい。

ちなみに、吉良の精神安定剤の設定は原作にはありません(0w0)
川尻になってから家にいるってのにリラックスも出来ず爪切ったり筆跡変えようとしたり。
色々と忙しそうだったので、休まる暇ないんじゃないかと思って使ってそうなイメージが頭の中で定着。
家に置いておくと不審がられたりしそうだし、きっと管理はパパス任せでしょう。

〜この作品、講座必要だろうか?ジョジョは3部で終わったって人も居るしなぁ・・・取りあえず感謝。〜

>>41氏 キャプテンはゲーネタですから馴染みづらいのかも・・・。
    そろそろ漫画のキャラを出していきたいと思う今日この頃。

>>42氏 原作の最終局面ではカッコよすぎて逞しそうな印象を受けますが、
    結構おっちょこちょいですよw
    彼女の手首をパクられたり、一般人を装っているのに仗助のスタンド見ちゃったり。
    それに荒木先生も怖いのは、心の弱い人間だと語ってましたよ。4部のどっかの単行本で。
    吉良は強さと弱さを兼ね備えた人間味の強い殺人鬼だと…私は思っているッ!

>>43氏 >>吉良パパのスタンド名ってこんな名前だったっけ?
    パパスの登場回の題名がそうだったから、そうなのかなーってw
    でもジョジョアゴ買ってみたらちゃんと合ってました。
54作者の都合により名無しです:2007/10/31(水) 21:24:03 ID:JA0NKx790
お疲れ様です。
停滞期だけど、邪神さんのように定期的に
うぷしてくれる人はありがたいです。

吉良が原作より絶体絶命になってますな。
あと2、3回くらいで終わりそうな気もしますが
ジョジョ物は続けてほしいです。
55ふら〜り:2007/11/01(木) 00:00:56 ID:k7RDnC2D0
>>邪神? さん(孤軍奮闘に♪感謝と敬意〜♪です。只今援軍に参じるべく努力中……)
原作の猫草編と同じく、敵・悪キャラである吉良が主人公ポジションですね。キラークイーン
は触れるだけで一撃必殺ですから、空気弾とかを間に挟まないと駆け引きバトルは難しそう。
で、「正体を知られないように」を吉良の枷にしてると。うん、ジョジョらしい深みが出てます。
56作者の都合により名無しです:2007/11/01(木) 00:11:11 ID:G1+kt1dG0
邪神氏乙。
ジョジョはそこそこ好きだけど6・7部は詳しくないので
豆知識が欲しい気もする。
57作者の都合により名無しです:2007/11/01(木) 08:29:36 ID:wwdpbyOc0
お疲れさんですー
吉良が切羽詰ってていい感じです
言葉回しとかもジョジョっぽいw
58作者の都合により名無しです:2007/11/01(木) 11:48:02 ID:6qvmW8cs0
スレ不調で入院されている方もいるみたいで心配ですが
邪神さんやふらーりさんの活躍を楽しみにしてます。
59作者の都合により名無しです:2007/11/02(金) 11:40:01 ID:BA18uyJ40
あげ
週末は誰か来ますように
60作者の都合により名無しです:2007/11/02(金) 22:34:56 ID:TipHzMln0
サマサさんか誰か来るでしょ
スターダストさんはアク禁みたいだけど
NBさんとかハロイさんとか復活しないかねえ
61作者の都合により名無しです:2007/11/03(土) 20:09:19 ID:pod+P58x0
6月くらいからずっと不調だな
ハロイさんが来なくなったあたりからだ
62ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/11/04(日) 12:58:30 ID:cAWqSSHU0
お久しぶりです。
晴れて自由の身になりました。
覚えている方がいるなら幸いです。
とりあえず「シュガーハート&ヴァニラソウル」を再開します。
「そんなもん覚えてねーよ」という方がいるなら、簡単な粗筋でも載せようかと思うんですがどうでしょうか。いらないでしょうか。
63シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/04(日) 13:00:06 ID:cAWqSSHU0
『液状と透明 A』


「さあ、答えてもらおうか。君はなぜここにいる?
ニューヨークで銀の匙をくわえる生活こそがふさわしい君が、なぜ日本の片田舎にまでやってきたのか、その訳を」
 静・ジョースターの腕をひねり上げて彼女の身体の自由を奪うそいつは、そんな質問を投げかけてきた。
 その醒めた声音、その鋭い視線には、容赦というものがまるで無かった。
 ついさっきまでは気弱そうな態度を保っていたそいつの豹変ぶり、
みしみしと肩を軋ませる痛み、そして今にも腕を折られてしまうのではないかという恐怖で、静の目に涙が滲む。
 その拘束を振りほどこうと試みてみても、静と似たような細い体格のどこにそんな力が潜んでいるのかと
疑いたくなるほどの強固な握力で、静の行動は完璧に制圧されていた。
「う、うう……」
 小さな唇から漏れる苦悶の声など意に介さず、そいつはさらに言葉を重ねてくる。
「考えてもみるといい、ニューヨークとここ杜王町に隔たるその距離を。
ジュール・ヴェルヌは交通機関の発達を指して『世界は狭くなった』と評した。だが──距離は距離だ。
この世界は狭くなんてなっていない。五千六百キロメートルもの隔絶を越える『なにか』があったからこそ、君はここに立っているのだろう?
僕はそれが知りたいんだ。君はなにを求めて、ここまでやってきたのかをね」
 激痛と恐怖でごた混ぜになった静の思考の奥底が、なにかを訴えていた。
 だが、それはなかなか形にならず、痛みに呻く情けない声として口からこぼれるだけだった。
「早めに吐いたほうが身のためだぞ。白を切通すために腕一本を失う気か?」
「あ……」
「うん?」
「あなた……誰?」
「なんだと?」
「どうして……っ、こ、こに……いるの?」
 弱々しくも確実に紡ぎだされた静の言葉に、ただでさえ希薄だったそいつの雰囲気がいっそう薄まり、
ほとんど無味無臭と言っていいほどの、なにも感じさせないゆえの異常な気迫がその場に満ちた。
64シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/04(日) 13:01:51 ID:cAWqSSHU0
 次の瞬間、
「────っ!」
 肩が外れるのではないかと思うほどの激痛が静を襲い、そのあまりの痛さに腰を抜かしかけ、
だが、そいつががっちり身体を押さえ込んでいるために膝をつくことも許されなかった。
「どういう了見だい? 質問をしているのは僕だ。質問を質問で返すなと親や教師に教わらなかったのか?」
 がくがくと震える膝になにか熱い雫が落ちるのが感じられ、
「なんだ、泣いているのかい?」
 その言葉で静は自分がぼたぼたと涙を流していることに気がついた。
 背後から静を拘束するそいつの顔が、ゆっくりと静の頬に近づけられる。
 そして──そいつの熱くうねる舌が涙で濡れる静の頬を這った。
 痛みと恐怖と恥ずかしさと気持ち悪さで脳内が爆発寸前の静とは対照的に、
そいつは機械のような精確さと無感動さで淡々と彼女の涙を舐めとった。
「やはり……この『味』は『秘密』の味だ。なにかの強力な目的意識と、それを裏打ちする強固な意志が感じられる」
 それはまるで「このワインはこれこれこんな感じの味がする」とでも言うような気安さで、
「さあ、吐いてもらう。君のその秘密を。君が僕の求めているものであるかどうかを」
 今度こそ仮借なく腕を捻りあげる感触が静の脳を焼き、
「ア──」
「なんだって?」
「『アクトン・ベイビー』!」
 静・ジョースターの『スタンド』能力『アクトン・ベイビー』がその特殊能力を発現させ、
「な、なんだと……? 馬鹿な、どこへ消えた!?」
 ──静はこの世界から視覚的に消失した。
「貴様……合成人間、いや、MPLSか!?」
 一瞬の狼狽で静の動きを封じていた腕の束縛が緩み、その機を逃さずそいつの腕からすり抜け、
「そこか!」
 その目に見えぬ動きで『まだそこにいる』ことを察知したそいつが再び静を捕らえようとするも、振りかぶった腕は空しく宙を切った。
「くそ……どこにいる?」
 ほんの微かに震える声で、そいつは周囲を睥睨する。
 その視線に捉えられるものは当然ながら皆無だった。
65シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/04(日) 13:03:44 ID:cAWqSSHU0
 見えない相手に備えてか、そいつは全身を緊張させて両腕を胸の辺りで構える。
「────」
 うっすらと目を閉じ、あらゆる異変を逃すまいとするいかにも戦闘的なその姿勢は、
可憐と言っていいその風貌には似つかわしくなく、物凄い違和感を醸し出していた。
 とん、とん、とん。
 連続的に床を踏むような音がそいつの側から徐々に離れていき、塔屋のドアへと向かう。
 そいつは後を追うべきかどうが一瞬判断に迷ったが、
 ぎい、ばたん。
 その隙にドアは閉ざされてしまい、後には静寂と西日だけが残った。
 それでもしばらくは警戒を解かないそいつだったが、
「ふう──」
 という溜め息とともに、構えを解いて軽く肩をすくめた。
「……『消える』能力だと? だが、これで只者ではないことがはっきりしたね、静・ジョースターさん。
君が何者であるか、必ずこのユージンが暴いてみせる……そう、我が『パンドラ』のために、ね」
 その口ぶりは、どこか面白そうな響きを伴っていた。
 そいつ──ユージンはなおも独りごちる。
「『アクトン・ベイビー』と言ったな……しかし、ただ『消える』だけの能力では、
純粋な戦闘型の合成人間たる僕の『リキッド』に敵いはしない。姿は消えても、彼女の気配は掴んだ。次は逃がさない」
 ぱん。
 なんの前触れもないままに響いた景気のいい音と、同時に己の頬に走った衝撃の源を、ユージンは掴み損ねた。
 数瞬遅れて、目に見えぬ『誰か』が自分の顔を叩いたのだと理解する。
「まだ……ここにいたのか……逃げた振りをして……?」
 それに続くように、屋上を一目散に走る靴の音、ドアのノブをひねる音、錆びた蝶番が開く音、
「待て!」
 それを追うように出口に向かって動き出そうとしたその刹那、
「────!!」
 ユージンは凄まじいまでの殺気を感じ、反射的に後方に跳躍した。
 身に染み付いた動作で戦闘態勢を整え、周囲に警戒の視線を走らせる。
66シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/04(日) 13:05:26 ID:cAWqSSHU0
「そこまでにしておきたまえ。色男くん」
 と、どこか人を馬鹿にしたような声がユージンの耳に届く。
「そういう乱暴なやり方で女性を口説くものではない。さっきから黙って見ていたが、正直言って──目に余るね」
 その間にも、階段を三段飛ばしで駆け下りる軽い体重の反響音が風に乗って届く。
 もはやこの場での追跡は不可能だろうと即断し、声の主の居場所を探す。
 その居所はすぐに割れた。
 屋上敷地の、ユージンが立つ場所から対角線上の正反対の辺りのフェンスの上に、一つの影が佇立していた。
 その頭から足元まで黒系の色に染まる筒状のシルエットを見て、ユージンが声を上げる。その声は驚きに満ちていた。
「貴様──ブギーポップか?」
「おや、私を知っているのかね?」
「……僕の記憶が確かなら、貴様は女だったはずだ」
「私の記憶が確かならば、私の『本体』が性転換したという事実は認められないな。
自動的な泡たる私には性別など関係ないが──それでもこの身体は男性のものだよ。
君の知っている『ブギーポップ』は、おそらく私と『泡』の記憶を共有する『同胞』なのだろうね」
「……貴様のような怪人がこの世界にはごろごろしていると言うことか? ──だとしたら、世も末だな」
「ふむ、私も同感だね。この世界はまったくもって救いようがない」
 半ば皮肉で言ったつもりが非常に真面目な調子で同意されてしまい、ユージンはちょっと肩透かしを食らう。
「……貴様も静・ジョースターの仲間なのか? だから僕の邪魔をしたのか?」
「さて、どうだろうね。向こうは私のことを友達だと思ってくれるのだろうか。私にはそこを問い質す勇気などないよ。君はどう見る?」
「おい、真面目に──」
「私は必要十分に真面目だよ」
 おおむねにおいて無表情であることを自覚しているユージンすら気味の悪さを覚える鉄面皮を顔に載せ、
ブギーポップは真剣そのもの、といった感じで首を傾げてみせた。
「そんなことより……君は彼女の秘密を知りたいかね? 彼女が求めているもの──彼女が挑むべき『カーメン』を」
「知っているのか!?」
 ブギーポップを見上げるユージンの身体に、これ以上ないくらいの緊張が走る。
 だが、その勝気をいなすように、ブギーポップはまるで関係のなさそうなことを口に上らせた。
「君は大切な思い出があるかい?」
「なんだと? なんの話だ? 僕は『羽』を──」
 ユージンの抗弁を遮るように、さらに続ける。
67シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/04(日) 13:08:11 ID:cAWqSSHU0
「『それ』は、おそらく君にもあるはずだ……『生きていく』という能力の源たる『掛け替えのないもの』──。
だが、それは裏を返すと『取り返しのつかないもの』に他ならない。
この世界はいつだって残酷だ。私たちは絶えず試されている。その『生きていく』能力を、ね。
その過酷な試練(ディシプリン)の中で、心に抱く『取り返しのつかないもの』と、この世界のバランスが崩れたとき、
そこに『崩壊のビート』が刻まれ、その者は『世界の敵』と成り果てる。
そんな『全てを諦めてしまう』道に進む前に、私たちは全身全霊を以ってあらゆる可能性を試さなければならないんだ。
それが生きると言うことさ。その果てのない闘争からは、誰も逃れることはできない。彼女も、そして、君もね」
 なにを言ってるのかさっぱり分からない癖に「なにかを訴えようとしてる」ということだけは分かりすぎるその長広舌に、
さしものユージンも苛立ちを隠せずに声を荒げた。
「なにが言いたい? つまり貴様は僕の敵だと言うことか?」
「いや、それは違う」
 と、あっさりと即答され、なんとなく毒気が抜かれたような気分になる。
「少なくとも『今は』私は君の敵ではない。そういう意味では、どちらかと言うと私はあの少女の方をこそ警戒している。
彼女は今、非常にアンバランスな状態にある。君が明確に持っているであろう『思い出』──彼女にはそれが欠落している。
いや──欠落していると思い込んでいる」
「……どういうことだ?」
「そのままの意味さ。彼女には敵であれ味方であれ、この世界に根ざすための助けが必要だ。
だから、私は君に忠告しにきたんだよ。『赤ん坊に気をつけろ(アクトン・ベイビー)』と、ね」
 やはり意味不明な内容に、ついユージンは眉をしかめる。
「およそ全ての質問者は等しく回答者として試されている──それが、私が君に言える唯一つのことだ」
「それは……あの、静・ジョースターが僕の敵性存在であると言うことか? 彼女も僕の握る情報を求めて僕を攻撃してくると?」
「さて、その解釈は君に任せるよ」
 そう言うやブギーポップばさっとマントを翻す。その背後に隠されていた夕日がユージンの網膜を射抜き、
「く……」
 眩んだ視界が回復する頃には、黒ずくめの怪人の姿は陰も形もなく消え去っていた。
68シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/04(日) 13:10:10 ID:cAWqSSHU0
 今度こそ一人ぼっちになった屋上で、ユージンは夕日が沈みつつあるのをぼうっと眺めていた。
 やけに頬が熱い気がして、静・ジョースターに叩かれたことを思い出し、その箇所に手を置く。わずかにひりひりと痛んだ。
「こうも簡単に攻撃を食らったのは久しぶりだな……」
 静・ジョースターが何者であるかは未だ未確定だが──それでもはっきりしていることはあった。
 この頬に残る熱──それは、尋問に対する彼女の拒絶の意思であり、加えた拷問への報復措置であり、
 ──合成人間ユージンへの宣戦布告だった。
69ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/11/04(日) 13:14:00 ID:cAWqSSHU0
ageちったよ。久々にカキコするとこれだもの。
レッドとネウロの話もいずれ続けます。電波が降りてきたら。

まあとにかく、自分で言った年内復帰が果たせて良かったです。
70作者の都合により名無しです:2007/11/04(日) 19:17:29 ID:fYz3qJAp0
やったーハロイさん復活したー
再開早々、静が活躍してて嬉しかったです。
俺は覚えているけど、5ヶ月くらい空いてるからあらすじもいるかな?
とにもかくにも、再開乙!です。

でも消えるだけだとやはり戦闘キツいね。
静は主役だからこれからも活躍するんでしょうが。
71作者の都合により名無しです:2007/11/04(日) 23:49:44 ID:q5G20E0S0
ハロイさんきたああああああ

正直、もう戻ってこられないかと思ってましたw
シュガーソウルもヴィクテムも大好きな作品なので頑張って下さい!
72作者の都合により名無しです:2007/11/05(月) 00:44:31 ID:cIGcoc2i0
お疲れ様ですハロイ氏。
復活おめでとうございます。
これから世界の謎が解かれていくのに、
休載でちょっと寂しかったです。
強力な能力者だらけの世界で、
精神的にも能力的にも
イマイチの静がどう成長していくか。
ジョースター家の誇りを見せて欲しいですね。

簡単なあらすじ、僕は欲しいです。
73作者の都合により名無しです:2007/11/05(月) 09:18:01 ID:iQ95/GX40
朝起きたらハロイさんが復活してた!
サナダムシさんも復活したし、バキスレに希望が見えてきたな。
さいさんやスターダストさんが不調みたいだけど・・
(さいさんは不調どころではないな。早く元気になってほしい)
ヴィクテムレッドの復活もお待ちしてます。
74作者の都合により名無しです:2007/11/05(月) 13:02:11 ID:8DT3ej4q0
ハロイさんグッジョブ!
十和子が出なかったのは残念だけど
静が頑張ってるので良かった。
75ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/11/05(月) 15:34:25 ID:VrA42UsG0
そしたら蛇足ですが「シュガーハート&ヴァニラソウル」のここ最近の流れを。


・「赤ん坊を待ちながら」
『世界の敵の敵』である変身ヒーロー「ブギーポップ」=秋月貴也と、静との奇妙な交流。

・「迂回と焼菓」
「赤ん坊を〜」と同時期に進行する、十和子とラウンダバウトの身に降りかかる試練の話。
『羽』を探す少年、小狼が謎のスタンド使いの攻撃を受けて意識不明に陥る。
彼の回復を期すため、十和子とラウンダバウト、小狼の友人である航は
『必殺』『死体蘇生』の能力を持つ『ダーク・フューネラル』と戦う。
十和子が『必殺』の能力をわざとその身に受けることで、小狼に掛けられていた『必殺』の能力を解除させることに成功する。

・「液状と透明」
「赤ん坊を〜」直後の話。
小狼の旅の同行者、黒鋼とファイは『羽』の手がかりを求め、天色優=合成人間ユージンと協調路線を取る。
そんなユージンが「怪しい人物」として目をつけたのは、謎めく転校生、静・ジョースターだった。


ざっとこんな感じです。
レッド、ネウロのあらすじも必要であれば、それを投下するときに一緒に添えます。
76作者の都合により名無しです:2007/11/05(月) 21:32:45 ID:44k7g6VU0
そういやネウロもハロイさんなんだな。
3本全てクオリティが高いとは大した人だ。
77シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/06(火) 02:43:36 ID:T05FYeiZ0
『液状と透明 B』


「はぁっ、はぁっ……」
 静は弾む息を口から吐き、三段飛ばしで階段を駆け下りる。屋上から四階へ、四階から三階へ。
後も振り返らない必死さで、弾丸のように性急に、わき目も振らずに位置エネルギーを消費しつつ階下へと向かう。
 あのユージンとかいう男子生徒に締め上げられた左肩の付け根がしくしく痛むので、そこに右手をあてがっていた。
 そんな微妙に無理のある体勢で一気に駆け下りたため、三階の踊り場へ至る最後の一段を踏み外してしまい、
足をもつれさせて無様に床にくずおれる。
「痛ぁ……」
 自分の来た道を仰ぎ見る、だがあの彼が後を追ってくる気配は感じられない。
 無事に逃げおおせたと考えるのは楽観に過ぎるだろうということは静も自覚していた。
 軽くひねった足首をさすりつつ、よろよろと立ち上がる。
「なんなのよ、もう……」
 ふと口を付く弱音。
 ここ数十分の間に静の見に起こった屋上での体験は、まったくもってどこまでも決定的かつ徹底的に──意味不明だった。
 変身ヒーローを自任するクラスメイトとの奇妙な交流から始まり──
友達の十和子がなんだかこの上なく傲慢な感じの校内放送を流し、ブギーポップは消え、
見ず知らずの男子生徒にスカートの中身を覗かれたと思ったらその当の本人たる男子生徒に訳もわからず腕を捻りあげられ──
「なにが起こっているの……? この学校、なんなの……?」
 静の知っている学校というものは、決してコスプレ少年が校内を闊歩することなどなく、
決して大上段に構えたオレ様的呼び出しがスピーカーから全校放送されることなどなく、
決して転校生に向かって「なぜここにいるのか」とかなんとか小難しい存在論的弁明を暴力によって強制することなどないのだ。
 それが静の知る学校という機関だし、一般的な見地からしてもこの認識はおおむね間違っていないはずだと静は考えている。
78シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/06(火) 02:44:49 ID:T05FYeiZ0
「とりあえず……これからどうしよう?」
 さっきは勢い任せに件の彼にビンタをかましたけれど、訳の分からぬままに彼と事を構えるという選択肢はナシのように思える。
 静には戦闘的な能力や資質、敵の力量を計る感受性などは皆無に等しかったが、それでも肌で実感できたことがある。
 かのユージンなる人物は自分とは桁違いのレベルで『暴力』というものに慣れているであろうことを。
 どんな理由があれ、相手の腕を無理やりねじり上げて詰問を掛けるなどという真似は自分には物理的にも心情的にも限りなく困難な行為であるが、
彼はそれをいとも容易く行えるのだ。それだけでも彼我の差は歴然としている。
 ならば、大人しく彼の望むとおりに自分がこの街に来た理由を伝えるべきなのだろうか。
 自分がこの街に来たのは、極めて私的な事由──自分のルーツを探るため。
 そんなことを知って、いったい彼はどうするつもりなのだろうか。
 彼はなにかとんでもない勘違いをしているのではないだろうか?
 ──と、すると、やはり誤解を解くためにも正直に話すべきなのだろう。
 静の理性の大半はその判断を支持していた。
 だが。
(でも……なにかがズレてるような気がする)
 なにがズレているのかは自分でも理解できないまま、そんなある種切実な所感を抱く。
 ハイスピードで流動する状況に翻弄されて思考は混乱し、自分が何をするべきなのかを見失いかける静。
 とりあえず逃げなければ──遅かれ早かれ、彼はきっと自分を追ってくるのだから。
 その本能の囁きに従い、薄暗くなりかけた無人の廊下を進みかけたその時、
「おい」
「うひゃぁ」
 背後からいきなり呼び止められ、口から心臓が飛び出そうになる。
 実際に飛び出しはしなかったが、代わりになんとも馬鹿丸出しの小さな悲鳴が飛び出した。
 半分涙目でギギギって感じな動作で振り返ると、そこには黒のジャージを来た男性教師の姿があった。
79シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/06(火) 02:46:29 ID:T05FYeiZ0
 大柄でかなり人相の悪いその教師は剣のある視線で静を一瞥し、
「こんな時間までなにしてんだ」
「へ、あの」
 答える言葉が無かった。
 脳裏にはさっきまでのあれやこれが想起されるも、それが具体的な形で喉元に上がってこず、へどもどしながらやっとのことで、
「い、色々してました」
「色々ってなんだ色々って」
 呆れたように返すその声すらドスが利いていて、静は本気で泣きそうになる。ある意味あのユージン氏より怖かった。
 静の意識の一部が、彼に助けを求めることで屋上での問題の解決を図ろうと提案するが、
「あ、あのう」
「ああ?」
 ぎろりと睨む凶眼にビビったので即座に却下。
「もー、ダメだよ、その子怖がってるじゃーん」
 黒ジャージの背後から声。目を凝らすと、そこにもう一つの人影があった。
 さらさらの金髪、夕暮れの薄闇にも映える蒼眼、ひょろりと細長い手足を白衣で包んだ姿。
「ごめんねー、このせんせー目つき悪いからー」
 ぽんぽんを肩を叩かれるのを鬱陶しそうに振り払う黒ジャージ。
「余計なこと言ってんじゃねえ」
 こっちの白衣の先生は安心できそうだ──と静は思いかけ、すんでのところで思いとどまる。
 柔和そうな顔には優しそうな微笑が浮かんでいたが──目が全く笑っていなかった。
 その含むところがありそうな目は、どこかで見たような気がする──思い出せない。
「でもでもー、そんな怖い顔してたらダメだようー。だって、さ──」
 その目つきを思い出す。
 なにかろくでもないことを考えているときの十和子のそれにそっくりだった。
「静ちゃんには聞きたいことがあるんだからねー」
80シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/06(火) 02:53:17 ID:T05FYeiZ0
 白衣の男の言葉が引き金となって、静はあることに思い至る。
『聞きたいこと』
 これが違う場所、違う時で放たれた言葉なら、「はい、なんでしょうか」と受け答えの態勢も取れただろうが、
今この時この場所で『それ』を言うということはまず間違いなく──『彼』の仲間だ!
 まるで予期せぬ伏兵だったが、だが、大筋に於いては想定の範囲内だった。
 『ユージン』の追尾に備え、静は意識下で精神テンションを十分に張り詰めていた。
 今度こそ遅滞も瑕疵もなく、
(『アクトン・ベイビー』!)
 心の内でその名を唱え、自らの姿を空間に溶かす。
「──あれ?」
「……んだと?」
 いきなり消失した静を訝しむ声が二つ。
 だが、透明化した彼女はもはや誰にも見えず、ゆえに誰にも捕らえられることは無く──。
「えーっと、ここらへん?」
 白衣の男がひょいと指し伸ばした腕が、静の肩を掠った。
(え──!)
 二人の間を通り抜けようとした静の足がたたらを踏む。
「あ、惜っしいー」
 へらへら笑う白衣の男の横で、静は愕然としかける。
 うろたえながらも、彼と距離を置こうと正反対の位置へと足を伸ばしたところで、
「逃がすかよ」
 自分がまさにその位置へと──黒ジャージの手の届く範囲へと誘導させられたことを遅まきながら悟った。
「目に見えねえからってな、本当に見えなくなるわけじゃねえんだよ」
 その声から逃れるように身を屈め、だが男の手はまっすぐこちらへと伸びてきて、
透明のセーラー服の襟首をしっかりと掴まれてしまう。
81シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/06(火) 02:59:51 ID:T05FYeiZ0
 服ごと首から引っ張られる感覚を覚えながら、静は黒ジャージの言ったことに共感していた。
 『アクトン・ベイビー』。それはただ透明になるだけの無力な能力。
 視覚的に消えてみたところで、本当にこの世から消えてなくなる訳じゃない。
 呼気は気流を渦として、重力に縛られた身体は音として、血と肉は仄かな匂いとして、この世界に確実な跡を残し続けている。
 本当にいなくなる訳じゃない、十和子だって見えない自分を探り当てて見せた。
 そんな、かくれんぼにしか役に立たなそうな小さな力。
(でも、だからって──!)
 「逃げなきゃ」という目的意識以上に、正体不明の意地に突き動かされて静はもがく。
 猫でもつまむように持ち上げられる襟に逆らい、一瞬息が詰まるほどの喉に圧迫感、そして──、
 見えない服を脱ぎ捨てて、静は猛ダッシュした。
 男たちがなにかを言っているのが感じられたが、それはすでに背中越しのことだった。
 振り返らず、阻むものなく、静は走る。
 逃げ切った、そう思った瞬間、不意にがつん、という衝撃が後頭部に走った。
 ぐらりと世界が反転する。天地が逆になった世界で、静は床からぶら下がるそれを見た。
 それは、あの強気なんだから弱気なんだからよく分からないユージンでもなく、もちろん白黒教師二人組みでもなく──、
「廊下を走っちゃあ、ダメじゃない。静・ジョースターさん?」
 艶やかな声音、しかし怜悧な口調、
「でも、ちょうど良かったわ──」
 糸が切れたように傾く身体と幕が降りるように暗転する視界の中で、静は見る。
 腰まで伸びたソバージュ、砂時計のような洗練されたプロポーション、漆黒の瞳。
「邪魔臭いユージンやあの異世界人二人に先んじて貴女を確保することが出来たんですもの」
 ──そこで、静の意識はぶっつりと途絶えた。
82作者の都合により名無しです:2007/11/06(火) 08:36:28 ID:htDSzyKs0
ハロイさんは更新し始めると凄いなあw

静は十和子たちに比べて能力的には劣るけど、
常識人の「良い子ちゃん」としてどう異能力者たちに
対抗できるか楽しみですね。

最後、また篭絡されてますがw
83作者の都合により名無しです:2007/11/06(火) 13:07:37 ID:EF1DWHyi0
復帰直後の連続更新乙です。
再開後の流れは、静が本格的に大きな流れに巻き込まれつつ
精神的に成長していくパートみたいですな
また最後に気になるニューキャラ?が出てきてヒキがうまい
84作者の都合により名無しです:2007/11/06(火) 15:22:17 ID:t6Gz01GM0
なりふりかまわなければアクトン・ベイビーの能力って恐ろしいんだがな
暗殺やスパイ活動なんかにこれほど使える力もそうないし
格闘戦だって目を瞑ってボクシングをすることを考えたらどれだけ有利になれるかわかろうってもんだ

それが静本人が無力な常識人のおかげでいまひとつ使えてない
でもそれがいい
85作者の都合により名無しです:2007/11/06(火) 21:36:00 ID:lU7ondFE0
復活早々調子いいなー
静は無理にレベルアップせずにこのままのキャラがいいけどな
その方が十和子とのコンストラストが生きると思うし
86乙女のドリー夢:2007/11/06(火) 22:10:53 ID:7atRcOPi0
「松本さん、範馬君とどういう関係なのっ?」
ある日の休み時間。トイレにでも行くらしい刃牙が教室を出たのを見計らって、
隣のクラスの女の子が一人、梢江の席に鼻息荒く駆けて来た。
この子の名は浅井留美。これといって特徴のない、というか今時珍しいくらい地味な
三つ編み眼鏡っ子である。梢江とは中学の時に同じクラスだったので顔見知り。
梢江としては『浅井さん、ちょっとお洒落に気を遣ったら、もっと可愛くなるだろうになぁ』
とか思ってしまうような、そんな子だ。でも本人はどこ吹く風のマイウェイを貫いている。
そういえば昔から、留美が男子と会話しているところなんて殆ど見たことがない。そんな
留美が、何でいきなりよりによって刃牙のことを?
「ど、どういう関係って言われても」
「確か前に言ってたよね。範馬君、松本さんの家に下宿してるって。範馬君の家とは
家族ぐるみでお付き合いしてて、範馬君とは幼なじみとか?」
「ううん。そんな古い付き合いじゃないわ。刃牙君のお母さんが亡くなられて、お父さんは
海外出張が多いとか何とか……あたしも詳しくは知らないの。刃牙君自身に聞いても
何も教えてくれないし」
と梢江が答えると、留美は何やら腕組みしてふむふむ頷く。
「そっか。立ち位置的には幼なじみキャラもありかと思ったけど、そこは違ったと」
「? でも浅井さん、刃牙君のこと、あたしに聞かれても大したことは答えられないわよ。
刃牙君、毎日やたらと激しいトレーニングしたり、ぷっつり姿を見せないと思ったらひどい傷
だらけで帰ってきたりでね。あたしも何が何だか? だもん」
「……!」
梢江の説明に、留美は目を見張った。その目には驚愕と、そしてなぜか歓喜が溢れている。
「謎の傷だらけで帰宅……どこで何をしてきたかは秘密……そうよ、そりゃそうよね……」
「あ、あの、浅井さん? もしも〜し? 何か見えるの?」
遥か彼方を見つめて異様に幸せそうな留美の目の前で、梢江がひらひらと手を振ってみる。
87乙女のドリー夢:2007/11/06(火) 22:12:37 ID:7atRcOPi0
だが留美に反応はない。虚空に向かって何かを夢想、いや妄想している様子。それもかなり
濃密なものを。話の流れからすると刃牙絡みっぽいが、梢江にはさっぱりわからない。
その時、刃牙が教室に戻ってきた。と留美はあからさまに慌てて梢江に礼を言い、そそくさと
教室を出て行く。まるで刃牙から逃げるように。
その様子を見送った梢江の席に、同じく留美の慌てっぷりをしっかり目撃した刃牙が
のこのこやってきた。
「何かあったの? 今のは確か、浅井さんだよね。随分と動揺してたみたいだったけど」
「何かあったの? は、こっちの台詞っぽいわよ刃牙君」
「へ?」
「反応がオーバーだったから不覚にも思い至らなかったけど、よくよく考えてみれば単純な
展開よね今のは。浅井さんにとってあたしは刃牙君の同居人、そのあたしに刃牙君の
ことを聞きにきた。動機は何か? もちろん刃牙君のことを知りたいから。つまり、」
梢江は立ち上がって、刃牙に囁いた。
「ちょっと信じ難いけど、まず間違いないわ。浅井さん、刃牙君のこと好きなのよ」
「っ!? オレのことを? なんでまた、まさかそんな」
「あたしだってまさかと思うけど、それ以外考えられないもん。さあ白状しなさい刃牙君、
浅井さんと何かあったんでしょ? 車に轢かれそうになったところに飛び込んで助けたとか、
それとも不良に絡まれてたところを」
「いやそんなベタなことはしてないよ。というか浅井さんとはろくに喋ったこともないし」
「……」
「だからそんな目で見られても、オレには何の心当たりも」
と主張する刃牙の言葉を遮って、梢江が言った。
「振り向かずに聞いて。……浅井さん、今も廊下の窓から顔出して刃牙君のこと見てる」
「え」
「入学もクラス替えも転校もないんだから、今ごろ急に一目惚れってこともないでしょうし。
となると、やっぱり何かあったに違いないわ」
「って言われても、ホントに浅井さんとなんて何の接点もないんだってばっ」
88乙女のドリー夢:2007/11/06(火) 22:14:19 ID:7atRcOPi0
賑やかに騒ぐ刃牙と梢江を、いや刃牙の背中だけを、廊下から留美が見ていた。
『ふぅ〜む。こうやってよく見ると、範馬君ってあれで意外といいガタイしてるみたいね。
解りにくいけど、多分結構筋肉ついてる。まぁいいガタイって言っても、あたしとしては
もちろん筋肉極薄の華奢な男の子の方が好みなんだけど。この際、そこまで贅沢
言ってちゃダメよね。なんてったって範馬君は、範馬君こそは…………!』
留美の瞳に、アツい炎が燃えていた。だがそれは、梢江が考えているようなものではない。
興味、関心、そして好意ではあっても恋ではない。なにしろ芸能人といえば声優か
特撮俳優しか知らず、漫研がないからと仕方なく美術部に在籍する彼女、浅井留美は、
『でも範馬君、クラスの男の子とはあまり親しい様子がないのよね。一緒に戦ってる仲間
は学校外にいるのかな? あ、普段は異世界にいる? あるいは小動物に化けてるとか?
とするとネコミミにしっぽ、いやイヌ耳も捨て難いし、もちろんウサ耳ってのも』
と、こういう子なのである。
なぜに彼女が、あの刃牙に対してこんなことになったのか。その原因は今朝の、些細な
できごとにあった。
と言っても刃牙や勇次郎のような強いんだ星人とは違う、ごく普通の一般人(……か?)
である留美にとっては、とんでもない光景だったのだが。
89ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/11/06(火) 22:16:30 ID:7atRcOPi0
『妄想少女オタク系』です。原作の留美はいろいろ実在作品に絡めて熱く語ってますが……
解ってますとも。現役女子高生たる彼女がシュラトやグランゾートを知ってる方が不自然です、
はい。ネットも携帯電話もなかったあの頃、私ぁ見知らぬお姉さんたちと「駅の伝言板文通」
とかやったもんです。あの時の話題といえばトルーパーとファイブマンと(以下長文略)

>>ハロイさん(ご帰還めでたし! あらすじまとめは他作品にもぜひ)
知識も経験も思考も、ただ一点を除けば能力も、普通の女の子ですね静。承太郎やジョセフ
なら素でも戦えますが、静は無理。あらすじを見たら彼女が「狙われるヒロイン」なのと十和子
のヒーローっぷりを再確認してしまったり。いつか覚醒イベントか、あるいはいっそ囚われる?
90作者の都合により名無しです:2007/11/07(水) 10:32:00 ID:AIbsbsXw0
ふらーりさん新作乙!
またふらーりさんの得意そうな題材で楽しみだw
91作者の都合により名無しです:2007/11/07(水) 12:31:25 ID:PNA3RlDK0
新作お疲れ様ですふら〜りさん。
相変わらず一般人には出所のわからない元ネタ
ですな(いや、タイトル書かれてもわからんよw)
バキや梢とどう絡んでいくか想像も出来ませんわw
まただ……モンゴルの騎馬民族が私のすぐ横で戦争真っ最中、とでもいうような耳に残るこのざわめき…。
極度の緊張から生まれるのか…あるいは恐怖から生まれる幻聴か……。
いずれにしても、この耳鳴りはしばらく止まないということは確かだ……。

ドドドドドド……
   ゴゴゴゴゴゴ……

眼の前に立ち尽くし、私を睨みつける小柄な20代男性……。
頬に十字傷があるが、イマイチ貫禄のようなものは感じられない。
よく見れば大量の冷汗まで…見せかけだけの気の弱い男のようだ。
だが、その眼から感じられる怒りは本物だった。
この男……スタンド使いだとすれば………。

「そういえば…自己紹介がまだ……よね?私は山岸由花子。」

山岸…そうだ、康一のガールフレンド……調べはついていた…。
何故忘れていたんだ……雰囲気が違って見えたからか?
『シンデレラ』に続けて女のスタンド使いは無いという私の思い込みか?
失敗だった…自分から地雷を踏みに行ったようなものだったのか…。

「俺様はよぉ…オメェーに殺された康一殿の一の舎弟、小林玉美だ!
今から……この名前を冥途まで持ってくか、一生脅えて過ごすか選ばせてやる…。」

そういって腹部に一発だけ蹴りを入れると、スタンドに襲われるのが怖いのかすぐ由花子の後ろへと距離を置いた。

クッ…対して痛くはないが、『ジャン・フランコ・フィレ』のスーツが……。
川尻の安月給で買うには少し値が張るというのに…。
この男……いや、『心を読む』『頭で考えていることを読む』スタンドという可能性もある……。
余り深く考えすぎるな……今は精神安定剤の効果に期待するしかない…。
「それじゃあ……アナタ、川尻浩作の奥さんを本当に愛している?」

川尻しのぶ…!まさか……いや、考えられないことでは無かったが…。
精神に動揺が走るのが分かる……だが、同時に体に変化がないことも分かった。
脈拍は正常……汗も察して大量に噴き出てはいない…。
問題は……この男がどこまで私の『嘘』を見抜けるか、だ…。

この状態、機械ならば見抜くことは出来ないだろう。
だが、相手はスタンド使い…心や精神に関連することも見抜くかも知れない……。
尋問とは相手の動揺を誘う為、強制的にイエスかノーのどちらかで答えさせる筈……。
質問に条件を出さないということは…好き勝手に言っていいということだ…。
余程の自信があるのだろう……だが、相手はあの小僧…康一にベタ惚れ……。
愛を否定すればこの場で八つ裂きにされてしまう…言うしかない……ッ!

「あ……愛している…彼女と自分自身さえ良ければ……どうでもいいって程…」
どうだ?通るのか…この『嘘』は……!

少し驚いたような顔をする二人、もしや…。

「本当なのね……素晴らしいわ、愛のない人間は生きるに値しない…よく分かってるわね。」
「嘘だろ……こいつ…殺人鬼の癖に愛だとぉ?」

通ったぞ…!
私は賭けに勝った!
後の質問もこの調子で切り抜けられるッ!

「これなら信用してもいいかも知れないわね…じゃあアナタのスタンド能力を教えて。」

フーッ……心を落ちつけろ吉影…こいつのスタンド、確実に見抜くわけではない…。
嘘はつき通すことが可能だッ!精神安定剤の効果が切れる前に尋問を終わらせるッ!

「こ…康一君に聞いてないのか?『キラークイーン』、左手から爆弾を発射する……他に取り柄なんかない…。」
この女の反応を見る限りでは『第一の爆弾』はバレちゃあいないッ!
これで左手を警戒してグルグル巻きにするなり、縛り付けるなりするだろう。
右手への警戒は薄れる…その時がチャンス……。
だが…何故この女、溜息なんか……?

「………残念ね、やっぱり信用出来ないわ。」

………何故だ……?
何を言っているんだ…この女?
私にどこか一ヶ所でも、『不自然』な所があるか?

「テメーに掛けた『錠』がよ……浮き出て来たぜ…!」

胸元へと視線を送る、少し汚されたお気に入りのスーツ。
ちょっとした洒落っ気を出す為のドクロのネクタイ、シアーハートアタックに似ているのも気に入っている。
いつもと変わらない、自分自身の姿に…『不自然』な物体が引っ付いていた。
それが目に入った瞬間、あの音が聞こえ始めた………。


ドドドドドドドドドドドドド…


「なんだ…これは…南京錠……か…?」

何故…私の体に……こんな物が…いつの間にッ!?

「アナタのスタンド能力なんてお見通しだったのよ…川尻になる前に一度だけ、
康一君に能力を使うところを承太郎さんに見られていたんだから……。
深読みなんかしないで、普通に考えればよかったのに…私って正直な女なのよ?」

ブ……ブラフ……なにが正直だ……このクソ女にしてやられた……。
スタンドに気づいていない素振りで、私を試していたのか…。
「結構…間抜けなのね、私の髪に触ろうとピクピクしてる指は可愛かったんだけど……。
危ないから…もう引っ込めさせてもらうわね……。」

馬鹿な……悪夢としか思えない………。
この吉良吉影がミスを犯すなんて…。
お……終わりなのか…終わってしまうのか…ッ?

「でも……今のに引っ掛かったってことは、やっぱり愛しているのね。」

…こいつ……そういえば何故…?
私はしのぶを愛していると嘘をついた筈…。

「俺のスタンド、ザ・ロックは……『罪悪感』を持った相手に取りつく。
嘘をつくとき、そいつは必ず罪悪感を抱くもんだ……自分に嘘をついていることにもなるからな。
しかし…なんて小せぇ錠だ……人一倍、そういったもんを感じねー辺りはやはり殺人鬼だな…。」

嘘をつく時に罪悪感…私に錠がつかなかったのは……。
いや、今はそんなことはどうでもいい………。
この錠前……大きさは罪悪感の大きさで決まるのか…となると重量も…。
まずい……今は通販の鉛のリストバンド程度にも感じないが…これを小さいとすれば危険だ……。
肉弾戦になれば有利なのは私だが……その優位さえも封じられてしまうッ…!
しかも、こいつには康一の時の様に射程距離があるかどうか…。

「残念だわ……本当に…愛を持った殺人鬼なんて、少しロマンチックだったのに……。」

どうする……殺されてしまうぞ……こうなれば一か八かに賭けるしか…!
間に合うか分からんが……第一にガードだ…守るのは脳でも身体でもなく……口…。
シアーハートアタックに視線を集中させ…キラークイーンで自分自身を守るッ!
 /l_______ _  _
< To Be continued | |_| |_|
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〜豆知識が欲しいとあったので急遽単行本とジョジョアゴで作ってみた〜

吉良吉影 4部主人公、もちろん自分の脳内で。
     ちなみに自分のSSに『杜王町に来てから』という文がありましたが地元だったの忘れてました…。
     サンドイッチ食いながら『美しい町だ…』って地元自慢するような人だとは思いませんでしたので…。
     プロフィールにはありませんが川尻浩作という会社員を殺害。
     スタンド使いのエステティシャン、辻彩を脅迫。
     彼女のスタンドで川尻浩作になり替わった後、辻彩を殺害、逃亡。

単行本によるプロフィール…
吉良吉影 (現在、川尻浩作の顔と指紋、社会的証明を持つ)
生年月日1966年1月30日 血液型A型 出身地 S市杜王町 きき腕 右
学歴 D学院大文学部卒 属する宗教団体 なし

性格 誰に対しても物腰柔らかな態度で警戒心を与えない、そして高い知能と才能を持っているにも関わらず。
自分の能力以下の職務に就き、他の社員はどんどん出世していくのに、彼はそんな事どうでもよいと考えている。
目立たず平穏な人生を送るのが彼の願い。

趣味 1975年から自分の切った爪を集め、長さを計っていた。(現在はやれない)
好きな映画『日の名残り』(借りて見ましたが字幕はあっても日本語音声は無し。)
好きなファッション 『ジャン・フランコ・フィレ』

女性への態度 別に好みのタイプはなく、女性からは結構モテる。
しかしデートの最中いつも「はやく帰りたいな」と思っている。指に毛の生えた女は嫌い。

殺人の特徴 彼は4〜5年の周期で爪の激しく伸びる時期に、
自分の欲望をコントロール出来なくなることを知っている。犯行の際中、
彼は女性との会話を好み、名前や住所問いただすが女性が自分勝手な事を言うのは大嫌い。
彼女の手を家に持ち帰って遊んだり、大便の後にオシリをふいてもらったりすると幸せな気持ちになれる。

スタンド『キラークイーン』
自分から攻撃することは好まないが追ってくる者は絶対に殺す。
(何故かスタンド能力の内容がプロフィールに載ってないのでwikiや自分の解釈で勝手に補足)

能力は触れた物質を爆弾に変える『第一の爆弾』と体温に反応する『第二の爆弾 シアーハートアタック』
本編で説明されてないが爆弾になった物に触れれば、触れた者(物?)が爆弾になる。
爆弾化する範囲は吉良の意思で決定できる、女性を手首だけ残して殺害するシーンあり。
更に周囲に被害を与えるか、与えないかも選択可能、爆発はスタンドの力なので一般人には見えない。
だが爆発の原理は同じらしく、空気のない場所では爆発はおこらないし、更に爆弾に触っても平気な様子。
(猫草を物と仮定すれば違ってくるだろうが作者の考えでは植物も生き物です。ゴールドエクスペリエンス参照)

『第三の爆弾 キラークイーン・バイツァ・ダスト』
キラークイーンをスタンドを持たない(持っててもいいかも知れない)第三者に憑りつかせる。
対象は死亡してても可能、川尻浩作の息子、早人を殺害した直後に発現したので恐らく確実。
その間、吉良はキラークイーン、及びその能力、第一、第二の爆弾を使えない。

バイツァ・ダストは憑りついた相手を、吉良が解除しない限りあらゆる攻撃から守る。(吉良本人の攻撃でも)
憑りつかれた相手に吉良に関する質問を行うとバイツァ・ダストが発動する。
質問は言動であっても、文章であっても、早人が答えているかの有無に関らず作動する。
恐らく射程は無限、少なくとも町一つ覆っている。
見た瞬間、相手の網膜に入り込んでいるので防御は不可能。
破壊力はBだが頭から吹っ飛ばすので無意味、岸辺露伴は全身が消滅。
スタンドの爆発で死ぬと強制的に全身が吹っ飛ぶのだろうか、生き延びれば全身は吹っ飛ばない?(仗助、重清)

作動すると時間を一時間吹っ飛ばして巻き戻す。
朝8時に作動すれば朝の7時に戻る、といったように。
バイツァ・ダスト作動中に何か異常のあった物質は、その異常から逃れることはない。
落して壊れたティーポットは持ってるだけでも時間がくれば壊れる。
新しく異常を起こす事は可能なので、本来は寝坊する筈の高校生を無理矢理起こせば起きる。

バイツァ・ダストを解除すれば壊した物はリセットされる。
8時に壊れる予定の物でも、7時59分59秒までにバイツァ・ダストが解除されれば破壊されない。
ただ7時59分59秒までに壊れた物は壊れたままである。
時を戻す限界があるかどうかは不明、早人が民間人を犠牲にすれば無限にやりなおせるのだろうか?
バイツァ・ダスト発動中に何が起こったかは吉良本人には分からない。
取り憑かれた早人のみ、知っている。

取りあえず『時』が絡んだスタンドは議論が絶えない物ばかりなのでここで追求を終了しておく。

川尻早人  プッツンした根性を持った小学5年生。このSSだとさっさと諦めてしまったが、
      原作ならもっとプッツンしてくれていただろう。
      親を盗撮するのが趣味なド変態、みんなはこうならないよう吉良吉影を見習おう。

山岸由花子 ようやく名乗れた。かなりプッツンした女、広瀬康一に異常な愛情を抱いている。
      一日でセーターを作り上げたり誘拐したりズギュウウウウウン!したり。
      そういった奇行が好きなのでジョジョキャラでも4部のキャラは基本的に好印象。
      スタンド名は『ラブ・デラックス』髪の毛を伸ばしたり切り離して操作するスタンド。
      切り離した髪を相手の頭に埋め込んで操作する事も可能。
      数百本もあれば遠隔操作でも人間一人を軽々持ち上げられる。
      スタンド自体には大きな力はないが、由花子の精神力が凄まじいので家一つ包み込んで潰せる。
      本作では直に掴んでいて距離もたった3メートル、動けなくてもしょうがない。
      自分の髪にダメージがあると髪が白くなって老婆のようになる。

小林玉美  ニートだったが康一君の舎弟となってから金融会社でスタンド能力を活かして働く。
      スタンド名は『ザ・ロック』相手に錠前を取り付ける。
      錠前は罪悪感が大きければ大きいほど、どんどん重さを増す。
      重さと言っても物理的な重さではなく、心の『負い目』のようなもの。
      どんなに遠くに逃げても無駄、と本人が言ってるので射程は恐らく無限。
      錠前をつけられた人間が玉美を攻撃すると、その攻撃は錠前に向かって帰って行く(らしい)。

死人や未登場は追々説明していきます(0w0)
〜感謝のお言葉〜

>>ふら〜り士 援軍も来たことですしこれで活性化するといいですなぁ。(*0w0)
       猫と戯れる吉影先生は平和の象徴でしたね。すぐ戦闘に入ったけど。
       由花子はパワー型とやり合ったことがないので脳内補正入ってたり。
       まぁ『愛は無敵』ってことで温かく見守って下さい…(;0w0)

>>54士 ミキタカやフンガミも思いついたらやるかも。
    まさかの老ジョセフも…まぁまとまってないとキャプテンのように泥沼になるから企画だけ…。

>>56士 6・7部は出てきませんが途中で途切れてる人を思いやっぱしつけてみました。
    ツェペリ一族は何故あそこまで漢なのか…7部はチーズの唄必聴。

>>57士 悲しいかなスタンドなんて持ってるから平穏なんて訪れません。
    それでも負けじと平穏を求める吉影先生の為にSSを作っております。
    その割にはSS内の吉良がアホ頭な気がしますが、おっちょこちょいはステータスです。

>>58士 ハロイさんの復活と共に巻き返す所ですな。
    少年漫画っぽく、「ピンチの時こそ」っていう精神がこのスレには見られる。
    いや、そんな気がしただけですが…。




P.S 氏を士にして武士っぽくしてみた…でっていu(ry
100作者の都合により名無しです:2007/11/07(水) 19:00:16 ID:AIbsbsXw0
お、邪神さんもなんか一皮向けた感じだ
多くの漫画やゲームのキャラが出るより、こういう1作集中で
話を作る方が読みやすくて楽しいな
101作者の都合により名無しです:2007/11/07(水) 22:54:06 ID:yXj+xf6e0
>ふら〜りさん
新作乙です。ふら〜りさん特有の文体で特有の漫画選択ですね。
ともあれ、久しぶりのバキ物・・かな?恋愛話になるのか
コメディになるかわからないけど、期待してます。

>邪神さん
新連載好調な更新ですね。無敵なはずの吉良が決して強いとは思えない
由花子と玉美に蹂躙されてますな。原作とはパラレルな世界ですが
どういう流れになるか楽しみです。でも豆知識が本編よりながいw
ドドドドドドドドドドドドドドドド……

うるさい……只の耳鳴りだ………落ち着くんだ吉良吉影…。
一瞬『キラークイーン』を解除し……スタンドの周りの髪の毛から抜け出す。
そして出来るだけ素早く……再び発現させて私本体の髪の毛を……。
この女のスタンドは素早いが……『シアーハートアタック』で反応を遅らせれば希望はある…。
髪の毛数本なら入られても窒息はしない…小さい裂傷なら入れられるかもしれないが…。

「アナタは今、『シアーハートアタック』で攻撃しようとしている。」

…………………ハッタリだ。

「アナタが次に言うセリフは『おいおい、この状況で僕に何が出来るっていうんだい』よ。」
「おいおい、この状況で僕に………ッ!」

…………………嘘だ。

「戦った者の精神を受け継ぐ……ジョースターさんや露伴さん。
康一君……………彼の死を無駄にしない為。
そして康一君が何の為に死んだのか理解する為。
……アナタを殺すの。」

…………………このクソ女…何を!?

「以前の私だったら……彼を失った喪失感や怒りの為だけにアナタを殺したわ。
でも、今は違う……アナタは………私が彼の志(こころざし)を受け継ぐための試練。
さぁ、『シアーハートアタック』で攻撃してきなさい…アナタに味方する『運命』を打ち破るわ。」

落ち着け……落ち着くんだ吉良吉影!
心拍が上昇してるのが自分でも分かる…精神安定剤が切れたのか!?
違う……時間的にまだ効き目は残っている筈だ…追い詰められているッ!
完全に精神的に追い詰められた今…身体が安定剤なんて誤魔化しを無視しているッ!?
「どうしたの…腕だけで許して欲しいとでもいう気?
違うわね……『シアーハートアタック』を髪で受け止められることを心配している。
とてもパワフルなスタンドらしいけど……康一君は正面から止められたと言っていたわ」

……どうすればいい、どうすれば…。

「彼のスタンドって能力はスゴいけど…パワーはからっきし……。
『シアーハートアタック』が凄いのはキャタピラの巻き込む力と爆発だけ…違う?」

どうすればいいどうすればいい……どうすればいいんだ。

果てしない絶望に陥り、無意識に彼は爪を噛もうと動く筈のない腕をブルブルと震わせた。
無意識にしようとしていることが出来ない、そのもどかしさから歯をガチガチと鳴らした。
無論、これも無意識の出来事。だが吉良吉影は気付いてはいない…彼の頭の中は……。

どうしたらいい どうしようもない でもあきらめない

しあわせになるんだ どうしたらいい どうしようもない でもあきらめない

おちつきたい くちでガチガチとおとがうるさい どうしようもない でもあきらめない

諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない

「……誰も」

口をゆっくりと開き始めた殺人鬼、彼の表情はいつもと変わらない。
平凡な会社員の顔、オールバックなのは少し派手かもしれないが極々真面目な男にしか見えない。
よくホラー表現に機械的に淡々と喋る…そんな表現が使われる。
今の彼は正にそれだったが、そんなに怖いものだろうか?
機械の音声を聞けばわかるが結構、間が抜けているしホラーの語り部は平静としているだけで声に強弱はつける。
眼の前の男から噴き出す、ドス黒い瘴気のような威圧感は語りからきているのではない。
『漆黒』、本物の『黒』、太陽は彼を照らしていたが彼の『瞳』には一片の輝きも届きはしなかった。
「誰も……生まれて持った『性』を押さえることなど………出来ない。
食欲、性欲、七つの大罪なんてあるが……人間は生きてるだけで罪人ってことだ…。
聖人って奴もどうせオナニーとかするんだろう……頭の中だけで済ませるのかな……。
聖なる河、ガンジーってのがエジプトあるらしいが…そこの信者はこっそり垂れ流してんじゃあないか?」

ドドドドドドドドド……

……聞こえる…あの音が…………。
だが、そんなの関係ないね………。
私は…勝って見せるぞ……争いは嫌いだが…。
勝つ。勝つ。勝つ。勝つ。
そして……幸せで、平穏で、退屈で、幸福で、誰一人として敵の居ない世界を築き上げる…。

「君はどうだい?由花子さん……だったかな…大方、今は亡き康一君で…。
フフ……その…女性に対して下品なんだが………『処理』とかしてるのかい?」

「やろっ…」
「テメェ―――――――――――――――――――ッッッ!」

玉美は横から聞こえた叫び声に恐怖し、一瞬ではあったが考えるのを停止した。
震える体に無理をさせ、隣を振り返ると再び思考を停止させた。
恐ろしかった、これが『本当に怒る』ということなのだろう。
なまじ中途半端な憎悪や悪意なんかではない、真の怒り。

少年時代に悪事を働き、親からビンタを受けることは多くの者が経験するだろう。
その時、例え痛みが大したことがなくとも、『怖い』と思ったのなら、
それは、きっと『本当に怒っていた』のだろう。

「許さないわ……ゲスなこと抜かしやがッてぇぇぇぇぇ!
その薄ら汚ねぇ――――チンボコ引っこ抜いてェェェ!
そっから内臓をかき混ぜつつ骨をへし折りながらテメェーの頭ぶち抜いてぇ!
腐った脳ミソをグチャグチャのミンチにしてやるぁぁぁ!!」
「この時だ……確かに私はシアーハートを使いたかった。
だが髪の毛で止められてしまう……今もそれは変わらない……。
君……気づいていたかな………無意識なのかな………私からの攻撃に備えてか…。
髪の毛の3分の1はガード用に取っておいたんじゃあないのかい?
今の君……『攻撃』されたら…すごく危ない状況に居るんだよ………。」

「……ハッ!?」

気付くと、彼女の胸元がへこんでいた。
彼女からは見えなかったが吉影には見えていた。
窪みの中心部には、猫の肉級のような痕がついていたのを。
そして後方へ吹き飛びながら吉良へと目を戻した彼女が見たのは、
髪の毛の呪縛を振り払い、自由になった『キラークイーン』
そして、その腹部から覗き込む、『草』の様な、『猫』の様な不思議な物体。

「……私も思いつかなかったよ。
『ストレイ・キャット』の空気弾をそのまま使うなんてね…。
一撃必殺の空気爆弾としてしか見てなかった……反省したよ。
そのまま撃てば『猫草』に全てを任せて撃てる…。
私の『意思』よりコイツの『野生の勘』って奴の方が当てになることもある……か。」

『ストレイ・キャット』は死んだ猫の発言させたスタンド能力。
草と同化し復活を遂げ、そして『空気』を操る能力を得た。
このスタンドの成長性を植物と同様に高いと睨んだ吉良だが、その通りであった。

「やはり…………『味方』だった……。
運命は…何処でも…何時でも……この吉良吉影の……。
最も信頼できる『味方』だァ――――――――――――ッ!!」

 /l_______ _  _
< To Be continued | |_| |_|
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なんか好調、邪神です。( 0w0)
お前キャプテンは?
とか言われそうな吉影っぷりですが。
正直放置してます^^

いや、なんか…吉影さんの精神が俺を突き動かすんです。
もっとみんなに平穏の大切さや、諦めない精神。
そして女性でもっとも萌えるべきパーツは手首だということ。

吉良吉影は……きっとそれを伝えたがっているんです。
平穏に暮らす為には隠さなくっちゃいけませんけど…。
我慢してたんです…だから女性を殺害する時は自己紹介は怠らない。

それにしても文章がジョジョっぽさを演出するため会話のシメから。←を抜いていたんですが、
一部残ってるのが残念。しかし、これって常に抜いとくものなんですね、・も…じゃないとダメとか。
会話の間を表現しやすいのでキャプテンでは・を使う気でいますけど。
そんな基本も出来てませんでしたが……吉影さんの精神は…俺が受け継ぐッ!

いやキャプテンは次回のは八割出来てるんで…いえ部長!人様からみたらほんのつまらない理由なので(ry
〜感謝〜

>>100氏 >>お、邪神さんもなんか一皮向けた感じだ
    ひょ、ひょっとして成長したんですかァ!?ぼく!?
    キャプテンは、語ろうぜスレで言われてた気がしますが構成力もないのに
    「IF」をやっちゃったせいですよ…きっとw
    それにゲームの趣味が合わないとほぼオリキャラ構成のSSと変わらん…。
    今後は好き勝手しすぎるのは控えようと思ってますw

>>101氏 >>豆知識が本編よりながいw
    自分でもやってて豆?って思ったけど自重はしなかった。(0w0)
    居酒屋でオッサンな上司がガンダムを語る時の様になってしまったが、
    きっと……吉影さんの精神が俺を動かしてくれたんです…。
107邪神?:2007/11/08(木) 03:22:17 ID:fJLOKXRf0
いまごろ気づいた…
肉級ってなんの級だ……(;0w0)
そういえばニクキュウのキュウって球でいいんでしょうか?
犬飼ってたのに無知な俺って恥ずかし…(*ノw0)
108作者の都合により名無しです:2007/11/08(木) 09:09:58 ID:SKk8klwB0
邪神さんは確実に腕を上げてますよ
キャプテンは自分の書きたいものを楽しんで書いてる感じで
この作品はそれ+読んでいる人を楽しませようと工夫されてる感じ

この作品は展開が速いから面白いですしね。吉良もいい感じですね
109作者の都合により名無しです:2007/11/08(木) 23:16:24 ID:8uXNHFN/0
吉良は原作そのままにしぶといなあ
意外とジョジョのキャラの中でも好きなので
彼の魅力があふれてるこの作品も好きです
110作者の都合により名無しです:2007/11/09(金) 09:00:07 ID:JDDlqZ1R0
これは原作に沿って書いてるのかな?完全オリジナル?
ジョジョは絵でちょっと敬遠してた・・・
111背中:2007/11/09(金) 20:47:46 ID:X+7WdjiT0
 突然の来訪者は扉から現れた。
「な、な、なんじゃ!? おぬしらは!」
 開かれた一枚のドア。その先にあるのは、畳が敷かれた小さな部屋。そして立っている
のは一体のロボットと、四人の子供だった。
 無造作に界王星に足を踏み入れようとする五人に、界王が忠告した。
「これ、いかんぞ! おぬしらではここの重力に耐えられ──」
「あ、ご心配なく。ぼくたちテキオー灯をかけてありますから」
「適応……?」
 きょとんとする界王を尻目に、次々にドアを乗り越えてくる子供たち。高重力を物とも
せず、誰もが平然としている。
 頼んでもいないのに、自己紹介が始まる。
「初めまして、ぼくドラえもんです。ネコ型ロボットです」
「こんちは、ぼくのび太です」
「俺はジャイアン様だ。よろしくな」
「骨川スネ夫と申します。お会いできて光栄です」
「源静香です。よろしくお願いします」
 口をあんぐりと開いたまま、呆然とする銀河の監視者。
「おい、のび太。こんな奴で本当に大丈夫なのかよ」
「何が?」
「俺たちの新聞記事だよ!」
 のび太の頭に拳骨が振り下ろされた。
 実は一昨日から、のび太たちは四人で学級新聞を作っていた。新聞の一面には偉い人の
インタビューを載せることになったのだが、取材相手を決めかねていた。
 校長、市長、大臣と、実現性はともかく、次々に挙げられる候補者。
 そんな中、いつものように大きな口を叩いてしまうのび太。
 ──どうせなら、宇宙一偉い人にしようよ。
 この結果がこれである。
 どこでもドアに「宇宙で一番偉い人の所へ」と話しかけ、開けたら界王星と通じてしま
った。
112背中:2007/11/09(金) 20:48:49 ID:X+7WdjiT0
 いくらどこでもドアでも、さすがに大界王や界王神が住む領域はインプットされていな
かったようだ。しかし、界王とて宇宙屈指の権威者である。たかが学級新聞の題材に使っ
ていいような相手ではない。何しろ仮に全宇宙に配達される新聞があったなら、その一面
に毎日取り上げられてもおかしくないような地位にあるのだから。
 だが、下々の住民であるのび太たちに分かるはずもない。
「くそっ、宇宙で一番偉い人っていうからどんなにすごい奴なのかと思ったら、昆虫みた
いなおっさんじゃねぇか!」
「まったくだよ。これならぼくのパパを取材した方がよっぽどいいよ」
「こら、おまえたち。わしを何だと思っておる!」
 子供の口喧嘩のような問答が続き、界王は大見得を切った。
「よし、分かったわい! わしが宇宙一偉いことをおぬしらに証明してやろう!」

 体育座りで見学する子供たちから、疎らな拍手が送られる。なぜか照れる界王。
「さっそく始めるぞ、わしの超能力!」
 近くにあったレンガがふわりと浮く。むろん、念力によるものだ。
「はいーっ!」
 界王が両腕を振り回す。すると、腕の方向に合わせレンガが凄まじいスピードで飛び回
る。
 縦横無尽に直方体が狭い星を行き来する光景に、少年たちは目を輝かせた。飛んでいる
のが、何の変哲もないレンガであることすら忘れていた。
 一転、大きな拍手が界王に浴びせられる。
 これで銀河の監視者としての面目は保たれた。天狗になりつつも、界王はほっと胸をな
で下ろしていた。
 しかし、静香の何気ない一言で状況は一変する。
「でもレンガを動かせることと、宇宙一偉いことってどう関係があるのかしら?」
113背中:2007/11/09(金) 20:50:08 ID:X+7WdjiT0
 回復しかけた威厳が、優等生らしい鋭い指摘によって再び崩された。
 寄り集まって、ひそひそと陰口を叩く子供たち。レンガでのパフォーマンスもこうなる
と、「偉さを示す材料がないことを曲芸でごまかした」と受け取られてしまっている。
 やむを得ない。こうなれば、あの能力を出すしかない。
 界王は決心した。
「おい、今すぐわしの背中にさわるのじゃ! ……おぬしらの言葉を地球中の人間に伝え
てやろう」
 子供たちが一斉に振り返った。

 界王は自らの背中に手を触れさせることで、宇宙中の誰とでも話をさせることができる。
範囲さえ自由自在だ。界王神すら持たぬ高貴な能力であるのだが、今回は界王の面目を保
つためという、もっとも安っぽい使われ方をしようとしていた。
「じゃあ、まずぼくからやってみるね」
 のび太が界王の背中に掌をつけ、話し始める。
「あー、あー、えー、ぼくのび太です」
 無意味な呟きが地球上にばらまかれた。
 世界中の人々がのび太の声に反応する光景が、ドラえもんが出したテレビに流れる。界
王の神秘性が証明された。
 だが、いかに素晴らしい能力だろうが、のび太たちにとっては新しい玩具と大差なかっ
た。
「まだ少ししか話してないよ。もっとやりたいよ」
「のび太の声なんか聞いて誰が喜ぶんだ! 一度世界中に自慢話をしたかったんだ」
「あら、私だってやってみたいわ。自分の声が地球のみんなに伝わるなんて、とっても素
敵だもの」
 ざわつく子供たち。だが、彼らは次の展開を心のどこかで予想しきっていた。
「ええいおまえら、俺様が先だ! 界王のおっさん、次は俺に喋らせてくれ!」
 げんなりする子供たち。喉をいじりながらジャイアンが界王の背中に手を触れる。
114背中:2007/11/09(金) 20:51:39 ID:X+7WdjiT0
 今や地球という球体を包むのは大気でもなければオゾン層でもない。
 絶望だった。
 視力が失われ、両耳は役目を放棄した。体内を行き交う枝、血管と神経は朽ち果てた。
動くことを止めた骨と筋肉は主人(あるじ)の無力を呪いながら腐ってゆく。
 例外はない。
 一分も経たぬうちに、死は地上を覆った。
 人類は今ようやく『人類不滅説』から目覚めたのだ。
 かつて地球を滅ぼす候補といわれた核兵器と環境汚染。
 だが、核兵器が撃たれると本気で心配していた人は果たして何人いただろうか。使われ
ることなく未来永劫、人と核は共存すると楽観していた人がほとんどではなかったか。環
境汚染にしてもそうだ。昔の人が現代に描いたSFのような未来がまるで程遠いのと同様、
環境破壊によって荒廃する未来もまた程遠いと考えていたのではなかったか。
 色々問題は山積みだけれども、結局人類の滅びは永遠にやって来ない。誰もが信仰して
いたこの説は、核兵器とも環境汚染とも違う原因不明の猛烈な毒素によって粉砕された。
 やがて、泥のような屍が地上を埋め尽くした。人間どころか、人の形すら世界から消え
ていた。
 界王を介したことにより、その殺人能力を増幅させたジャイアンの美声。もたらされた
悲惨な結末。
 学級新聞の一面記事が決定した。
 
                                   お わ り
115サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2007/11/09(金) 20:55:34 ID:X+7WdjiT0
今回はうんこではございません!
116作者の都合により名無しです:2007/11/09(金) 21:43:09 ID:0g1R27eA0
サナダムシさんお久しぶりです!
界王の出来る事ってすべてドラえもんにも出来るから
立場ないよなあ

でも、ジャイアンが出た瞬間にオチは読めましたw
申し訳ありませんw
117邪神?:2007/11/09(金) 23:16:16 ID:tqfBK9f+0
ドドドドドドドドドドドド……

この騒音のような耳鳴り……いつも不快だった。
平穏のみ、求めて生きる吉良吉影のピンチにいつもつきまとっていたからな。
だが……今は違う…私が上、奴等は下だ。
私に味方してくれる『運命』が勝利を約束している。

「あっ……姉さァ――――ん!」

この私に背を向けてまで女を守るのか…いや、そうじゃあないね。
小林玉美の発汗量、かなり動揺しているな……チンピラらしい薄着一枚、それでは汗を隠せまい。
まぁ…この状況では仕方ないだろう、このスタンド………段々と消えてきている。
罪悪感とやらが消えればこのスタンドも消滅するようだ。

「……君、他人の心配なんて………してる場合なのかい?」
「テメェ…姉さんになにしやが……」

ピタッ、と玉美の口から言葉が止んだ。
3メートル先に居た吉良が、今は目の前に居る。
1メートルも離れてはいない、そして『キラークイーン』
誰だって彼の能力と性格を多少なりとも知っていれば、最悪の展開を予想できる。

「フゥゥゥ……結構…前の話なんだがね………。
素敵な手をした女性に、名前を尋ねたんだが……。
彼女はヒドいことに…私を無視して色々と質問してきたんだ…。
失礼だと思わないかい…?私が尋ねているのに……疑問文に疑問文で返すんだ…。
今の君…その時の彼女と同じ状況を作っちまったようだ……。
まぁ、君の手なんて汚いから持ち帰ったりはしないがね」

スタンドは、宿主の精神の実像。
至近距離で見た彼の『キラークイーン』は、
キレた由花子と同等かそれ以上に恐ろしかった。
「…君の勝手なのだがね、もう手遅れなのを理解してるみたいだし。
私が代わりに答えてあげると『逃げなきゃ』って思うべきだったんだよ。
でも、逃げていても……君は死んでいたよ…間違いなく。
彼女が死んだ今、私の『シアーハートアタック』は誰にも防げないんだから
ようするに……どっちにしたって君は死ぬ『運命』にあったわけだ。」

押さえつけられている訳でも、動けないダメージを負っている訳でもないのに。
足は全く動こうとはしなかったし、動こうなんて思わなかった。
異常な殺人鬼、吉良吉影に掛けた『錠』は既に消えていた。
先程の罪悪感は消え失せ、これから殺人を犯すことにだって罪の意識を感じていない。
人殺しに慣れてるとかそんなんじゃあない。

高い知能、優秀な才能、神がこの世に居るなら殺人鬼にそんなものを与えたのが間違いである。
だが、それ以上の間違いはこの男に『ドス黒い魂』を与えたことである。
彼にとって殺人は欲求である、食欲や生理と何も変わらない。
『生体維持』に必要はなくとも、『生きる』為には必要なのだ。
ベートーベン……バッハ………フレディ・マーキュリー…。
彼等も『生体維持』に音楽は必要なかったが、彼等の人生から音楽を奪ったなら、
彼等は『生きる』ことが出来ただろうか?それと同じである。

「逃げなかったのが勇気か、それとも見せ掛けだけの有利に溺れて……思い浮かばなかっただけかな?
どちらにせよ……この吉良吉影に一杯喰わせたんだ。
選ばせてやるよ、楽に死にたいなら『キラークイーン』で吹っ飛ばす。
まだ、私に刃向かうなら…私の苛立ちを抑える為のサンドバックになってもらう。
誤解しないでくれよ……暴力は嫌いだがこれだけこっぴどくやられたんだ。
ストレスを残したまま、愛する家族の元へ向かえってのは酷だろう?」

玉美は抵抗を止め、恐怖を少しでも抑える為に目を閉じた。

フン……諦めたか………私はあんなに苦しい思いをしても諦めなかったというのに…。
やっぱり痛めつけてストレスを発散したいが…会社に向かわないとな……。
「それじゃあ…こっぱみじんに吹き飛ばしてやるッ!『キラークイーン』第一の爆…!」

パサ…

「うん?」

なんだ……奇妙な音な音だな………。
音はどこから…聞こえ……。


ドドドドドドドドド……


確かに成長した『ストレイ・キャット』の空気弾を喰らっていた。
たかだか3メートルでは、その威力は失われない。
分厚い辞書も貫く空気弾を心臓の位置する胸元にぶち込んだ。

だが、彼女は確かに地面に座り込んでいた。
倒れていた筈の体を起こし、胸元に大事な物を抱え込むように両手を合わせている。
そして、何故だか理由は分かりかねるが……泣いていた。
その涙は頬を伝い、首筋を流れて制服の内側へと隠れていった。

「馬鹿な……一体…何故…………?」

立ち上がる彼女の足取りは生まれたての小動物の様に頼りなく、
勇猛果敢な先程の彼女とは正反対の姿だった。
涙で濡れた眼には鮮やかな光が差し込み、先程の激昂は影も形も見当たらなかった。

「康一……君」
制服の穴から見えたのは彼女の傷痕や下着なんかではなかった。
黒い光沢、少し安っぽい色を放つそれは学生の使うカバンだった。
小さく切り取られて『お守り』のようになっていたそれには金具がついていた。
空気弾は運よく、丈夫な金具の部分に命中していたのだ。

「『運命』は……アナタの味方かもしれない…。
でも……私には彼の『精神』が味方してくれてる……。
『受け継がれた誠の精神』から生まれる行動は…決して滅びないっ!」

流れる涙は止まったのか、瞳に溜まってはいたが首筋や頬を見る限り乾いて来ている。
再び『ラブ・デラックス』が吉良を拘束する。
吉良は無意識に動きを止めてしまっていた、恐怖ではない。
確かに、これからの反撃に恐怖は感じたが、それを一瞬忘れるほど『美しかった』

凛とした、さわやかで温かな輝きの中に由花子はいた。
吉良を見る眼には、もう憎しみは残ってはいなかった。
ハッキリとした『白と黒』の世界の中、間違いなく彼女は『白』に居た。

「キ……『キラークイーン』!髪の毛を爆弾に変えろォ――――!」

なんだ……あの眼は!
ムカつく眼だ……どことなくクソったれ仗助や康一に似ていやがる。
だが、今すぐに白目を剥かせてやるッ!
あの眼を、この吉良吉影に向ける奴は……敵………私の平穏を乱す者は生かしてはおかないッ!

由花子の髪の毛に触れる『キラークイーン』
彼女には髪の毛が邪魔で見えていないのか、そんな力も残っていないのか髪を抜こうともしなかった。

「終わりだ……山岸由花子、あの世で広瀬康一と仲良くしろォォ――――!!」
 /l_______ _  _
< To Be continued | |_| |_|
 \l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
サナダさんに続けて投下、邪神です( 0w0)
前回同様に吉影さんの叫びで終了。
なんだか最近暇人アピールみたいな状況に……(;0w0)
先週と今週と続けてバイトが少なかったからで……一応NEETではない筈…。
ちなみに一日で済ませられたのは今日は学校お休みだから、朝から暇人だったのです。
ロッキーファイナル見たりして過ごしつつ吉影さんの活躍を妄想。
平穏ですなぁ(*0w0)

ちなみに今回「食欲」を欲求として吉影さんの「殺害動機」も欲求としてますがどうなんでしょうね。
喰わなきゃ死んじゃうから仕方がないって言う人いますけど方法はあるでしょう。
詳しくはないんですが点滴で栄養補給を続けてれば死なないのでは?
植物人間になっちゃったら食うことできない訳ですから。
命を粗末に云々で菜食主義者になった人も植物を生き物とすれば、
命を取ってるので点滴にすれば誰も文句を言いませんよね。
ギネスでも、ほぼ1年水だけで生き延びれたって人がいますし。
水だけよりもずっと栄養値的には楽に生き延びられるけどそんなことする人いないでしょう。
と、いうことは普通に生きてる凡人に罪がないなら彼だってたった48の生命を無駄にしただけで何も殺す事は…。

「食欲」が仕方がないで済むなら「殺人」の欲求も仕方がないような。
確かに吉良吉影は作者の提示する悪「何も知らぬ弱者を自分の都合で踏みにじる」
に該当して殺害を続けてましたが、何も知らぬ弱者って養豚場の豚とかは該当しないんでしょうか?
まぁ教えたって何になる訳でもないし、ってことで何も知らせずミンチにして食う……。
そうなると善人なんて1%以下ですよねぇ、揚げ足とってる感が否めませんが。

〜ちなみに真面目に読むと気分的に損をするかも、今セブンのからあげ食いながらこれ書いてるんで(*0w0)〜

>>108氏 ひょ、ひょっとして成長し(ry

>>109氏 

>>110氏 自分も最初はそうでした、友人も最初はそうでした。
     でも、読んでみれば分かるのです。
>>109氏 抜けてたw折角だから長めにジョジョ語っとくかな…

     ジョジョを買ったのは最近ですがもう何度読みなおしたか…
     特に4部、吉良はなぜシンデレラを知ってたか、とか矛盾も多い。
     でもそんなどうでもよかろうなのだァー!なこと以上にキャラが魅力的。
     3部の脇役はスティーラー・ダンとか全く印象に残りませんが
     4部は何故か残る、アンジェロとか形兆とか…
     出番が3,4話しかないトニオも超残る。
     そんな4部のラスボス吉良吉影、個人的に尊敬すらしてるッ!
     強さと弱さ、愛も持ち合わせている(っぽい映写があっただけだけど)
     そして平穏でいたいという願い…金よりも平和ですよ平和。
     やべ、長くし過ぎたから自重する…
123作者の都合により名無しです:2007/11/09(金) 23:55:58 ID:1uf9kADV0
その印象に残らない脇役、スティーラーじゃなくてスティーリー・ダン(鋼入りのダン)です…
124シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/10(土) 00:44:51 ID:4PXXcen10
『液状と透明 C』


 あの不気味な道化師、ブギーポップとの接触に心を残しつつも、静の後を追って階段を降りたユージンを待っていたのは、
黒いジャージを着た大男と、高そうなワイシャツの上から白衣を着込んだ優男の二人だった。
「黒鋼、ファイ。彼女はどうした?」
 にこやかに手を振る白衣──ファイを軽く無視して問いかけると、黒ジャージの黒鋼が無言で手にした布切れを掲げて見せた。
 それは紺色をした、学校指定のセーラー服の上着。ユージンはそれを無表情に見つめ、しばしの沈黙。
 ややあって、ユージンは極めて不可解そうに、だが無神経なまでの冷静さと生真面目さで念押し。
「……つまり、お前はこう言いたいのか、黒鋼。貴様はその戦闘能力を遺憾なく発揮して彼女の上着を剥ぎ取ることに成功し、
ゆえに静・ジョースターは今現在、上半身は下着だけである、と。……だが僕はそんなことを要請した覚えがないな。
誰が彼女に涼しい思いをさせてやれと頼んだ? それとも──貴様の趣味か?」
 ユージンの発言が狙ってるのか天然なのかは判然としがたいが、黒鋼は見に染み付いた習いによって即応──すなわちツッコミ。
「違ぇーよ! まんまと逃げられたっつってんだよ!」
「うっわー、黒さまってばエッチー。そーゆー趣味だったんだ」
 返す刀でファイにもツッコむ。
「趣味じゃねえ! 黒さまって言うな!」
 くそ、と毒づく黒鋼は、怒り半分と呆れ半分の半眼でユージンを睨む。
「──あいつ、『消え』やがったぞ。ありゃなんの術だ?」
「魔術とかじゃないねぇ。だって魔力とかぜんぜん感じなかったからー」
「彼女がそうした特殊能力の持ち主だったとは僕も意外だったがね……実際のところ、どうだった? お前たちの手には余るか?」
「冗談だろ」
 ユージンの挑発じみた言葉を受け流し、黒鋼は軽く笑った。
「肝心要の本人が気配を隠せてねえ。前の『世界』で鬼児(オニ)と戦ったことがあるが、それよりはヌルいな」
「『前の世界』──。お前たちはここの世界の住人ではなく、異世界を渡る旅人だという例のアレか」
 その微かに茶化したような響きに、ファイが首をかしげてユージンの顔を覗き込む。
「あれー? もしかして優くんオレたちの言ってること信じてない?」
「それが重要なことか? お前たちの与太話を信じようと信じまいと、僕のやるべきことは変わらない」
 ひゅー超クールじゃーん、とかいうファイの歓声など聞こえぬように、暗い廊下の奥を見据える。
「いつか必ずこの世界を滅亡に導くであろう『羽を追うもの』──それを探し出して排除する。それが僕のすべき事柄だ」
125シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/10(土) 00:46:43 ID:4PXXcen10
「とにかく、彼女を追跡するぞ。今度は三人がかりでいく。透明になろうがなんだろうが逃がさぬよう、次は拘束する道具を用意するぞ。
僕が潜伏に利用している時計塔の機関室に連れ込んで、本格的な拷問に掛ける」
 怜悧な面差しでかなり剣呑なことを言うが、黒鋼の声がそれに割り込んできた。 
「しかし、優よ。オレぁ前々から気になってたんだが──」
「なんだ?」
「なにがお前をそうさせているんだ?」
「……意味が分からないな」
「だから、よ──『羽を追うもの』ってのは、どこの誰が言い出したことなんだ、ってことだ。
お前が言い出したことじゃねーよな。お前の言は『羽』を知る者のそれじゃねえ。
お前自身は『羽』のことなんざ良く知らねーが、誰かが『そう』言ったから『そう』してる──違うか?」
 ユージンの瞳がわずかに揺れる。なにか太陽でも見ているような、遠く、眩しいものを見ているような目つきになる。
 そして、無感情そのものだった横顔にうっすらと感情らしきものが浮かび上がる。
 それはまるで、二度と立ち返れぬ美しい過去に思いを馳せているような、どこか切なげな表情だった。
「──『パンドラ』だよ」
 だがそれもあっという間に消え去り、先ほどとまったく同じの、何事にも動じなさそうなふてぶてしい顔に戻ってしまう。
「パンが……なんだと?」
「あ、オレそれ知ってるー。この世界の神話に出てくる女の人の話だよねえ」
 ファイが得意満面に指を立て、胸を張りつつ解説。
「この世界のお勉強してる小狼くんに教えてもらったんだー。
パンドラってゆー名前の女の人が、うっかり匣に閉じ込められてた世界中の災厄を解放しちゃったんだよね」
「うっかりで済む問題か、それ?」
「で、パンドラさんは慌てて匣に蓋をしたんだけど、ほとんど全部の災厄はもう世界中に飛び散った後だったのさ。
でもでも、壷から飛び出さなかった『希望』だけは、今も匣に残っているんだって」
 講釈に耳を傾けながら、眉間に皺を寄せる黒鋼。
「……ダメじゃねえか。それだと『希望』はこの世に無いって話になるだろ。
つーか、なんで『希望』が世界中の災厄と同じ場所に封印されてるんだよ」
 問われたファイも「?」って感じで指を顎に当てる。
126シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/10(土) 00:48:04 ID:4PXXcen10
「……ある説によれば、『希望』が匣に封じられていたというのは、後世になって発生した誤解釈だと言われている。
それによると、『ある災厄』がその災厄の性質ゆえに敢えて匣に残り、
そのため人間にとって最悪の災厄がこの世に蔓延することが免れ、ゆえに人間には『希望』が残された。
そこのところが歪んで伝わり、匣には元々『希望』が残されていたという解釈がいつしか主流になってしまった、というのが真相らしい」
「その災厄はなんだってんだ?」
「む、こうしている場合じゃないな。一刻も早く静・ジョースターを追わなければ」
 さっと踵を返し、ユージンは夕暮れの廊下を歩き出す。
「無視かよ!」
 軽やかにシカトされた黒鋼が声を荒げ、
「まーまー、いじけないの黒さま」
「いじけるか!」
 さらに怒鳴らんとする黒鋼だったが、背を向けたままのユージンがぼそぼそとしゃべりだしたことで口をつぐむ。
「『最悪』の『災厄』──それは『予見』だ。
もしも自分がこの世に解き放たれたら、人間から『希望』が根こそぎ奪われることを、その『災厄』は知っていたんだ。
だから『予見』の名を持つ災厄は匣に残った。
だから人は生きてゆける。どんなに辛いことがあっても、たとえ明日に死ぬとしても、それを知ることは無く、
『明日はきっと良い日だ』だと信じることによって、な」
「ふーん、なんかよく分かんないけどいい話だねー」
「……へっ、オレの国の姫を思い出すぜ」
「それから『パンドラ』という女性だが……彼女は数多の神々によってあらゆる魅力を与えられた存在だった。
その名の意味するところは──『全てを与えられし者』」
 そして今度こそ、ユージンは振り返ることなく廊下を突き進んでゆく。
 後に続きつつその背中を眺め、黒鋼はぼやく。
「結局オレの質問には答えてないんじゃねーか?」
127シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/10(土) 00:49:46 ID:4PXXcen10
 不意に、ユージンがぴたりと歩みを止める。
 後ろを歩く黒鋼を足を止めるが、その後ろのファイが黒鋼の背中にぶつかり、玉突き事故でユージンも黒鋼の体当たりを食らう。
「どしたのー、優くーん」
「……囲まれている」
「なに──!」
「数は五、六……いや、十以上だ」
「うっそお? そんな感じあんましないけど?」
「集中しろ。この希薄な気配は──覚えているか? 僕がお前たちと初めて会ったときのことを」
「あん時ぁ、確か変なやつらの襲撃を受けてたな」
「そう──僕の分析によれば、あれは生命活動が停止しているにも関わらず活発に動く……いわばゾンビィだった。
今、そいつらに包囲されている」
「……えーっと、それってまずくない?」
「ふん、僕にとってはなんら脅威では有得ないな」
 さらっと不敵な返答をするユージンだったが、
「違う違う」
 ファイは大きく手を振ってそれを否定した。
「オレが言ってるのはー、静ちゃんが危なくない、ってこと」
 ぴくん、とユージンに緊張が走るのを、ファイと黒鋼は見る。
 窓の外は日も暮れきっており、光度計と連動している廊下の蛍光灯が、ちかちかと明滅を繰り返す。
 それがやがて完全な点灯状態に移行したその時──先頭に立つユージンは廊下の突き当たりに立つ人物を発見する。
「貴様……」
 ユージンの声音に険悪な響きが混じる。
 腰まで伸びたソバージュ、砂時計のような洗練されたプロポーション、漆黒の瞳。
 胸元が大きく開いた黒のワンピースを身にまとうその女性は、腕に大荷物を抱えていた。
 その大荷物は人間だった。詳しく言うなら上半身は肌着のみで下は紺のプリーツスカート、
髪はややショートでややもすると小学生や中学生にも見える小柄な体躯。
 もっと言うなら静・ジョースターその人だった。
 その手足はだらんと力なく垂れ下がっており、気を失っているか──さもなくば死んでいるかのどちらかだった。
128シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/10(土) 00:51:19 ID:4PXXcen10
「久しぶり、と言うべきかしら、ユージン?」
 静をお姫様だっこするそいつは、街中で旧知と再会したときのような、まるで気安い口調で言う。
「シンフォニ……生きていたのか」
「その名は捨てたわ。今の私は星火(シンフォ)。世界を動かす御方の道しるべとなる、天蓋の漁火。それが今の私よ」
「……知り合いか、優」
「彼女は僕と同じ合成人間だ。僕の『元同僚』と言うべきか……。
だが、かなり以前に、統和機構の方針変更に伴い彼女のようなタイプの合成人間は抹殺されたはずだ」
 そいつ──星火を見据えながら黒鋼に答えるユージンに、彼女はうんうんとうなずき返す。
「そう──ある一体の合成人間の脱走事故、通称『マンティコア・ショック』によって、そいつと同じタイプの合成人間は
『危険度高し』と判断されて片っ端から狩られていった。貴方も抹殺任務に携わっていたのじゃないかしら、ユージン?」
「さあね。僕はその頃、ちょうど別の任務に就いていたからな」
「別の任務ってMPLS狩り? 『進化しすぎた人間』を殺してたってワケ?
まあ、どうでもいいわね。とにかく、その馬鹿のとばっちりを受けて私も殺されそうになったけれど、
ある御方に拾ってもらって命を永らえたのよ。お蔭様でマンティコアタイプの合成人間でありながらも生存している、
かなりのレアケースをこの身で実感中の身の上よ。あ、そうそう、知ってる? あの『百面相(パールズ)』パールも生きているそうよ。
かの『最強』フォルテッシモからも逃げ延びて、今は反統和機構の組織に身を寄せているみたい」
 話の感じだけは近況報告がてらに旧交を温めあってるような雰囲気だったが、その両腕に抱えた少女の存在が異質を放っていた。
「で、さて……貴方がここにいいるということは、統和機構もあの『羽』を狙っていると言うことなのかしら?」
「この件に統和機構は絡んでいないはずだ……と言うより、今の僕は統和機構とは没交渉だ。知らないね。
そんなことより、貴様が抱きかかえているその少女を引き渡してもらおうか」
 ふふ、と小さな囁きが漏れる。それは星火が溜息と共にこぼした微苦笑だった。
「なにがおかしい」
「いえ、ちょっと不思議だったから。とても興味があるわ。良かったら教えてくれないかしら?
なぜ、貴方が統和機構を裏切ったのか、その訳を。そしてなぜ、貴方が『羽』に関わろうとしているのか」
 黒真珠のごとき艶めいた瞳でユージンをみつめ、甘く、ゆっくりと言葉を口に載せる。
「なぜ、ここにいるの?」
 黒鋼は油断無く周囲を警戒し、ファイは目以外で笑いつつ星火を視界に捉え続け──、
「貴様には関係ないね」
 ユージンは殺気のこもった一歩を踏み出した。
「まずその少女をこちらに渡せ。それから僕の問いに答えろ。貴様が『羽を追うもの』か?」
 なおもおかしそうに星火は笑う。
「質問に質問で返すなと誰かに教わらなかった?」
129ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/11/10(土) 01:02:10 ID:4PXXcen10
会話中心で進めると一気に文がダメになるハロイがお送りしました。
不貞寝する。
130作者の都合により名無しです:2007/11/10(土) 08:30:46 ID:fX06xsx90
えらい久しぶりに一気に来たなw

>サナダムシさん
最初は無邪気なのび太たちでしたが、やはりオチは悲惨になりましたかw
ジャイアンボイスは物理的効果もあるのかwあとやさぐれはどうなりました?

>邪神さん
吉良の反撃シーンに移行しましたか。ラブデラックスではとてもキラークイーンに
対抗はできないでしょうが、精神的に不屈の由花子だからわからんな。

>ハロイさん
『』があると、重要なキーワードかと思いますな。少なくともパンドラは今後重要そうだ。
敵陣にも個性があっていいですな。静は主役でもあり重要ファクターでもあるのかな?
131作者の都合により名無しです:2007/11/10(土) 10:14:10 ID:W1IpVq/a0
サナダムシさん復活したし
邪心さんは新作好調だし
ハロイさんは鬼更新だし
ようやくバキスレ好調になりそうだね。

職人さんたち乙!
132作者の都合により名無しです:2007/11/10(土) 17:36:30 ID:6eI8mPH10
ハロイさん、シュガーソウルを一気に終わらせてから
ヴィクテムやネウロを再開するのかな?
3つ同時に楽しみたいというのは贅沢かな
133作者の都合により名無しです:2007/11/10(土) 21:56:29 ID:QgY3dwf70
お疲れ様です、サナダムシさん・邪神さん・ハロイさん!

>背中 (タイトル短いなw)
こういう短編を書くと本当にうまいな、サナダさんは
オチから話を考えるのかな?でも、長編連載も久しぶりに読みたいな

>ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― (長いなw)
吉良の凶暴性と知性が少しずつ現れてきたけど、ユカコも凶暴性なら
負けてないからまだわからんな。終わりは原作と違うくなるのかな?

>シュガーハート&ヴァニラソウル
主要メンバーや重要そうな単語が多くて少しこんがらがってきたw
ハロイ氏の会話シーン、軽妙でちょっとお洒落で俺は大好きだけどな。

134シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/11(日) 13:58:48 ID:bjFbS0kB0
『液状と透明 D』


「質問を質問で返すな、か。それは僕がさっき言った言葉だな。
つまり、貴様はその時点から監視していたんだな。僕か……そうでなければ彼女を」
「その通りよ。私はあの御方の命令でずっとこの子を観察していたわ」
 ひたひたと、得体の知れない気配がユージンたちの周囲に集う。
 それは学生服を着た少年少女たちの姿をしており、手にはそれぞれ武器を握っている。
 奇妙なことに、その集団がぞろぞろとユージンらを包囲しつつあるこの状況になってもなお、
辺りの静謐さ──『無人の校舎』という雰囲気──が少しも損なわれていないことだった。
 まるでそいつらには人としての気配がまるでないような、そんな不気味な感触がこの世界を支配しつつあった。
「……ふん、そうだろうとも。貴様が彼女のセリフを真似てみせたことで、それは容易に想像のつくことだ。
だが、解せないな。彼女自身にそれだけの価値があるとはとても思えない。
それとも、やはり『そう』なのか? 彼女こそが『羽』を──」
「違うわね」
 星火の異論を許さぬ断定に、ユージンは言葉を呑む。
「この子は、貴方が求めてる『羽』とはなんの関係もないわ。──さ、これでもういいでしょ。
貴方がこの子にかかずらう必要は無くなったのだから、後ろのお二人さんと一緒に引き下がってもらえないかしら?」
 しばしの沈黙。星火の言葉の価値を値踏みするように、醒めた目で彼女の腕の中の静を見つめる。
 静・ジョースターの言葉がリフレインする。
 少女は言った。「なぜここにいるのか」と。
 天色優こと合成人間ユージンがここにいる理由、自分が今『羽』に関わろうとしている理由。
 そして少女はこうも言った。「あなたは誰?」と。
 それらは、ユージンがその少女に向かって放った言葉でもあった。
 ──その答は出ていない。
「シンフォニ──それは却下だ。貴様の言うことを信じる理由はどこにもない」
 その一言で、緩慢な緊張に満ちていた場の空気が一変する。
 余裕を崩さなかった星火の目つきがわずかに細くなり、そこに苛立ちが混じった。
「聞き分けのない人は嫌いよ」
135シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/11(日) 14:00:35 ID:bjFbS0kB0
 ユージンたちを囲む者のうち、一つの影が大型のナイフを振りかぶってユージンの右手側から切迫する。
 ユージンは慌てず、たじろがず、花でも積むような所作で己の右手を襲撃者に添える。
 次の瞬間、襲撃者の肉体が爆散した。数拍遅れて、焦げた脂肪の匂いが漂い始める。
 これが合成人間ユージンに与えられた能力──『リキッド』であった。
 掌から分泌される特殊な体液を対象に注入することで、爆発的な反応を誘発する極めて戦闘的な能力。
「あらあら。『ダーク・フューネラル』の『墓守』を一撃で倒すなんて。さすがね。
借り物だからあまり盛大に壊されると私が困るのだけれど」
「知らないね」
 言いざま、跳躍。床を蹴り、次いで壁を蹴って星火の背後に跳び、両手に静を抱えているゆえに無防備なその首筋に貫手を──、
だが、まるでそれをあらかじめ察知していたかのような緩やかな動作で、ユージンの必殺の一撃を回避。
 もう一度手近な壁に蹴りを食らわせ、その反動で再接近、そして再攻撃。
 ユージンは彼女の『能力』を知っていた。探索型の合成人間シンフォニの『能力』は、
瞳から赤外線を照射し、その反射光を感知することで普通人には見えないものの形すら見抜くというもの。
 透明化した静を捕らえることが出来たのも、その能力に拠るものだろう。
 だが、あくまで彼女の『能力』は補助的なもので、反射神経などの戦闘能力は並みの合成人間レベルだったはず。
 この至近距離からの攻撃を、腕に大荷物を抱えた状態でかわせはしない──、
 はずだったのだが、
「なに──!」
 常人なら視認も出来ないほどの神速の一撃を、星火をものの見事に紙一重でかわしてみせた。
 それこそ、あらかじめ攻撃箇所を知っていなければ出来ない芸当であるにも関わらず。
 辛うじてバランスを保ちながら膝立ちで着地したユージンを、にやにや笑いながら見下す星火。
 ポーカー勝負で強ハンドを隠している者が見せる攻撃的なポーカーフェイス。
「……貴様の『能力』は単なる赤外線探知だったはずだ、シンフォニ」
「勘違いしてもらっちゃあ、困るわ。私は貴方の知ってるシンフォニじゃないの。私は星火だと言ったでしょう?
あの御方が私に素晴らしい能力を授けてくれたのよ」
 知りたい? と悪戯っぽくほころぶ艶めく笑い。
「うふふ……教えてあげましょうか。──『予知』よ。私はね、未来のヴィジョンを見通す力を得たの。
そう、それこそ……『パンドラの匣』に残された『希望』のように、ね」
 その瞬間、ユージンの内面で何かが爆ぜた。
136シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/11(日) 14:02:03 ID:bjFbS0kB0
「おおおおおぉぉッ!」
 白く細い首から絶叫が迸る。
 それは今までのユージンの言動からは似ても似つかぬ、感情を露わにした雄叫びだった。
 獰猛な殺意を腕に乗せ、左から横薙ぎに繰り出される手刀を、星火をとんでもない方法で対処する。
 ひょい、と、腕に抱えた静の肉体をそこに差し出したのだった。
「────ッ!」
 反射的に腕の制動を掛けるユージン──ぎりぎりのことろで、盾となる静に命中する前に静止させた。
「なにを熱くなってるのからしら、ユージン? 私、そんなにいけないことを言ってしまったかしら?」
「黙れ!」
「ふうん……これは本当にちょっと興味が湧いてきたわね。ねえ、貴方、どうして統和機構から抜け出したの?」
 ユージンは応えない。微笑を浮かべる星火はちょっと肩をすくめ、
「ま、いいわ。私はこの辺でお暇するから、貴方たちはそこの『墓守』と遊んでて頂戴。
そして、いつか機会があったらお茶でもしましょう。その時こそ、貴方の身になにが起こったのか聞かせて欲しいわね」
「待て──!」
 ユージンが追いすがるその先で、バシュ、という音と共に廊下の蛍光灯が次々に消えてゆく。
 窓の外は既に夜がこの世界を支配していた。
 暗適応しそこねたユージンの虹彩が、彼の視覚野をブラックアウトさせていくその一瞬で、
星火と静の姿はどこへともなく消え去っていた。
「く……」
 消えた彼女の行方を求めるように虚空を睨むユージンの背後から、斧を構えた学生服がそのクソ重い金属板を叩きつけるべく、
全身の硬直した筋肉を無理矢理に引き絞る。
 それに対する反応がわずかに遅れたことに内心舌打ちし、ユージンは後の先を取るカウンター攻撃よりも防御に徹する。
 だが、いくら待っても斧による攻撃は繰り出されなかった。
 そのことを不審に思うユージンの眼前で、学生服がずるりとくずおれる。
 開けた視界の向こう側には、白衣を翻らせてにこにこ笑うファイがいた。
「優くん、大丈夫?」
 その後ろでは、モップを振り回す黒鋼が『墓守』どもをばっさばっさと片っ端から薙ぎ倒している。
「優、あの女を追え! 間違いねえ、あいつ──『羽』に深く関わっていやがる!」
「──なに?」
「それを持つ者に、今まで持ち得なかった『力』を与えるってのは、『羽』の特性の一つだ! ここはオレとこいつが抑えとく、だから行け!」
137シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/11(日) 14:03:12 ID:bjFbS0kB0
 その言葉が引き金のように、ユージンは一直線に廊下の奥へ駆け込んでゆく。
 前に『墓守』が立ち塞がろうとするも、ファイの投げた黒板消しを脳天に食らい、転倒。
 脇目も振らずに闇の中へ溶けていくユージンの背中を見送る黒鋼。
「けっ……世話の焼ける野郎だ」
「でもオレびっくりしたよー。優くん、いきなり怒り出すんだもん」
「……オレには知るべくもないが、あいつにとって大事なものが『そこ』にあったんだろ」
 そう言う一方で、迫る『墓守』をモップの一閃で数メートル向こうまで吹き飛ばす。
「あいつの芯を支えている『なにか』……それがあるからこそ、あいつは戦っていられるんだ」
「黒さま的に言えば知世ちゃんみたいな感じー?」
 『前の世界』で出会った少女のことを持ち出され、黒鋼は軽く鼻白む。
「あいつは『別の世界』の知世姫だろーが」
「でも、黒さまの元いた世界にもいるんでしょ? あの知世ちゃんと同じだけど違う知世ちゃんが。
見た目は同じだし中身も似てるけどやっぱ違くて、でも夢で二人は繋がってるとかなんとか」
「あー、ややこしいこと言ってんじゃねーよ!」
 凶器で武装した集団に包囲されながらも、余裕があるのか単に馬鹿なのか、緊迫感に欠ける二人だった。


 星火は落ち着いた足取りで一階の廊下を進んでいた。
 まだ灯が点いている職員室の前をなんの気負いも無く通り過ぎ、下駄箱へと向かう進路を取る。
 ユージンが自分の追跡を開始したことを、すでに星火は悟っていた。
 そのことに対する焦りは無い。
 いくらユージンが戦闘能力の卓越した合成人間だろうと、自分には『あの御方』に授けられた無敵の『能力』がある。
 『レディ・ゴディバ』──未来の視覚情報を先取りする異能。
 元から備えている赤外線探知能力と併せれば、まさに死角はない。
 いや、この『能力』さえあれば、赤外線なんてチンケなものに頼らずともこの世の全てを見通せる。
 まさに『無敵』──。
「さて、それはどうかな?」
 いきなり降ってきた声に星火が背中に氷を入れられたような気分を感じる。
 いつからそこにいいたのか、保健室の扉の脇の柱にひとつの人影が寄りかかって立っていた。
 ──いや、それはまさしく影だった。
138シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/11(日) 14:05:00 ID:bjFbS0kB0
 メーテルみたいな黒帽子をすっぽり被り、口元には黒のルージュ、黒マント、あまつさえブーツまで黒をしたその異様な装い。
「君の『能力』はどうやら私には通用しないようだ。さもあらん、ただの儚い『泡』たる私には──」
 ゆらり、と幽鬼のように揺れるのを予備動作として、そいつは黒い風となって星火に殺到する。
 『レディ・ゴディバ』を発現させ、そいつの行動を予知──できない!
 咄嗟の反応で、今まで抱えていた静を床に落とし、腕で頭部をガード。
 黒帽子の風を切り裂く蹴りが、そこに命中した。容赦のない一撃だった。びりびりと震える衝撃が、腕を伝って全身に走る。
「──『未来』が無いからな」
 黒帽子はそんな意味不明な言葉を放ちながら、奇妙な仕草を取る。
 それは人差し指と中指を伸ばして自分に向けるといった──子供が遊びで手を銃の形に模り、「バキューン」ってやるアレそのものだった。
 だが、その人を馬鹿にしているような所作に、星火はたまらなく嫌な予感を覚える。
 黒帽子が銃を構えて「フーッ」と強く息を吐いた刹那、星火も大きく手を横に薙いだ。
 星火の手元から、黒く長く細い針が数本放たれる。
 それは頭皮から分離することによって硬質化する毛髪であり、合成人間たる星火が先天的に備えた特殊能力だった。
 人を射抜き殺せる速度で宙を進み、その黒さゆえに闇に溶けて不可視性を獲得したその攻撃が、
それ以上に『見えない』──星火の目にも「なんだか分からないけど見えない力」に遮られ、あらぬ方向へ弾き飛ばされた。
 狙いを大きく外れて壁に突き刺さった毛髪に黒帽子が視線を送り、そして再び星火の方へと向き直ったその時には、星火の姿はこつぜんと消えていた。
「三十六計逃げるに如かず、か……中々に油断のならない相手だ」
 床に投げ出された静に歩み寄りながら、黒帽子──ブギーポップは淡く息を吐く。
「これで彼女のことを諦めたって訳でもないだろうし……態勢を整えた上でもう一度彼女を狙いに来るというのが、
妥当な判断だろうな。さて、どうしたものかな──」
 困っている風でも面白がってる風でもなく、台本を棒読みしてるような口調で呟くブギーポップは、そっと静を抱きかかえた。
139作者の都合により名無しです:2007/11/11(日) 16:16:28 ID:kfpZ5rKV0
ハロイさん鬼更新すげえw

しかし未来のヴィジョンを見通す力って静の能力がまったく通じそうにないな
ブギーポップはナイトよろしく静を守りきれるかな
140乙女のドリー夢:2007/11/11(日) 18:41:14 ID:kkui52do0
>>89
留美は普段、あまりお洒落には気を遣わない。服や髪やアクセサリーといったものには
大して関心がない。関心があるのはあくまでも二次元の美少年たちのみである。
が、そうはいってもやはり年頃の女の子の端くれ。体重計に乗ったら不本意な数字が出た、
なんて時には食事を減らしたり運動して汗を流したりする。
というわけで今朝、早くのこと。留美は眠い目をこすりながらジャージ姿で家を出た。
「はふぅ眠い……」
あくびを噛み殺しつつ、のろのろ走る留美。そんなんで体重減少効果が得られると思ったら
甘いぞとかいう作者の声は聞こえず、留美はゆっくり時間をかけて近所の公園の前まで来る。
そしてそのまま通り過ぎるつもりだったが、見覚えのある男の子がいたので、ふと足を止めた。
松本さんの家に下宿してるとかいう、範馬刃牙君だ。既に相当な距離を走ったのであろう、
トレーニングウェアが湿って重そうなぐらい汗だくの姿で、ゆっくりと呼吸を整えている。
と思ったら軽く拳を握ってパンチ、脚を柔らかく振って流れるようにキック、の練習を始めた。
「へえ……こりゃ意外だわ。学校じゃあんなに大人しそうな範馬君が格闘技だなんて」
しかし、だ。古来より男性の理想像として『文武両道』、女性の理想像として『才色兼備』
が挙げられている。この内の『文』と『才』はすなわち知識・知恵・人格のことであり、
まぁ男女共に同じようなもの。すなわち男女の違いは『武』と『色』。
女の子が「憧れのセンパイに振り向いて貰うために、綺麗になりたいの♪」というような
具体的な目標は特になくとも、それでも綺麗になりたいと思うように。男の子の場合は、
「憎いあの野郎をブッ倒す為、強くなるんだ!」とかいう理由がなくても、強さに憧れるの
であろう。美しさを求めて走る留美と、強さを求めて拳脚を振るってる刃牙と。
「……だよね。範馬君もあたしと同じってことか」
ちょっと刃牙に親近感を覚えつつ、留美は再び走り出した。
『頑張ってね範馬君。あたしも目標体重に到達するまで、スナックやジュースを我慢し……』
ぴた、と留美の足が止まる。妙な音が聞こえたから。いや、聞こえたような気がしたから。
実際に本物を聞いたことはないが、まるで人が思いっきり殴られたような、嫌な感じの音。
留美がその音のした方、刃牙がいる方に振り向くと、
「えっ!?」
141乙女のドリー夢:2007/11/11(日) 18:43:46 ID:kkui52do0
思った通り、刃牙が殴り飛ばされていた。頬を腫らして、唾で薄められた血を口から
吐き散らして、倒れかけたところで何とか踏ん張って体勢を整えている。
すかさず追撃の蹴りが来た……のか、刃牙は中段をガードした。刃牙の体が衝撃に
揺れる。かなり強い蹴りらしい。
が、公園には見渡す限り、刃牙以外誰もいない。刃牙は一人っきりである。なのに?
「シャ、シャドーボクシングっていうんだっけ、これ? ボクサーの人が自分のイメージの中の
相手と戦う練習するっていう……で、でも……」
刃牙の頬は腫れてるし、口から血と唾液を吐いてるし、さっき打撃音が聞こえた気もしたし。
じゃあこれは何なのか? 今、留美の目の前で、刃牙は何をやっているのか?
混乱と驚愕に押し流された留美は、思わず木陰に身を隠した。そこから覗き込んでみると、
眼前で繰り広げられている謎バトルはますます激しさを増し、刃牙は汗やら涙やらを
撒き散らしながら必死に打ち合って打ち合って、その果てに僅かな隙をついて
刃牙のハイキックが相手の顎に命中、脳震盪を起こさせてKO……したらしい。倒れた
相手を見下ろし、刃牙がぜ〜は〜している。
「ふうっ。気分が良かったから、ついリアルシャドーまでやっちゃったけど……ちょっと
苦戦したかな」
と呟いて汗を拭うと、何事もなかったかのように走り去っていった。
残された留美は恐る恐る、公園に入っていく。刃牙がさっき、蹴り倒したっぽい相手が
倒れているらしい場所までいって、地面をつついてみる。が、そこにはやはり何もない。
だけど刃牙が攻撃を受けて怪我したり、ガードの衝撃で体を揺らしたりしてたのは事実で。
「あれは一体……も、もしかして、常人の目には見えない謎の透明モンスター? 
範馬君は、人知れずそんな恐ろしい奴らと戦ってるの?」
留美の顔が恐怖で青くなっている。
142乙女のドリー夢:2007/11/11(日) 18:44:51 ID:kkui52do0
「だから正体を隠す為に、普段学校では格闘技なんかには興味なさそうな、か弱い少年を
装ってる? そういやよく学校休むけど、病気とかには見えないし。あ、それにご両親が
いなくて、松本さんの家に下宿してるって話だっけ。それも何かありそうな設定……」
留美の顔が興奮で赤くなってきた。
「範馬君は、実は異世界からやってきた戦士で、だからこっちには両親不在で家もない
から、秘密の協力者であるヒロインの家に居候してて、人知れず戦闘訓練してモンスターと
戦ってる! そうよ、間違いないわ! まさか現実にこんな男の子と出会えるだなんて……!」
留美の拳が力一杯握り締められ震えている。
「え〜と、こういう設定なら刃牙君には共に戦う仲間もいるわねきっと。そっちはどんな子たち
がいるのかなぁ。どっち側かなぁ。刃牙君は普段大人しいけど、今の様子じゃ意外と熱血も
入ってそうだし。相方にもよるけどあたしの希望としては……って待てあたし、クラスメート
相手にカプ妄想を始めたら末期症状だってのに! あぁでも止まらないいいいぃぃぃぃ♪」
ジャージ姿でくるくる踊ったりエビ反ったり赤面したりしてる留美。幸い他に誰もいないので、
奇異の目で見られてはいない。だが今の留美なら、人目があっても気にはしないだろう。
「と、とにかく。あたしが範馬君の正体を知ったってことがバレたらマズいから、まずはヒロイン
から取材といこっかな。学校に行ったら、松本さんに範馬君のこといろいろ聞かなきゃっ」
留美は、来た時とは比較にならぬ速さで帰っていった。
その胸に、熱く燃える……もとい、萌える想いを抱いて。
143乙女のドリー夢:2007/11/11(日) 18:46:53 ID:kkui52do0
筋トレに喘ぎストレッチに悶え食事制限に歯軋りして早やン年。多分一生続くんだろなぁ。
世の中にはいくら食っても太れない人もいる(私のイトコがそう)というのに。まぁ受験勉強も
甲子園もミスコンも、自分そのままの、素の質が足りない人は努めて力をつけるしかない、と。

>>邪神? さん
一応、由花子って素直で純真で無邪気な女の子……と言えなくもないかと。要は幼さ故の
残酷さってやつですが。しかしこうやってみると、やはり吉良はDIOやカーズみたいに「強い」
ではなく「怖い」ですね。作中の格的にみて、由花子程度に追い込まれるラスボスって何とも。

>>サナダムシさん
地球の神様同様、界王様も何がどう偉いんだかわからん人ですよね。実際、確か戦闘力
3500程度の人ですし、戦い方によってはドラは充分勝てますし。そしてあらゆる人種・民族・
言語・音楽センスなどを超越して殺人音波となるジャイアンソング。流石ジャイアンガキ大将。

>>ハロイさん(凄い執筆速度ですね……私も精進せねば)
さっそく来ました、気絶してお姫さま抱っこ。かつ下着姿。やはり囚われのヒロインポジション
です静。前から言われてるように単に「消えるだけ」では到底通用しない相手も来てるし。
というか現状、承太郎やジョセフでも簡単にはいかなさそう。静のナイトたち、大丈夫か?
144作者の都合により名無しです:2007/11/11(日) 20:25:27 ID:RXH+OsTv0
ふらーりさん、ハロイさんお疲れ様です

ハロイさんの鬼更新とふらーりさんの複数感想を見ると
バキスレ復活してきたという実感があるなあ

ハロイさん、ブギーボップは静を何のために守ってるんでしょうか?
静が世界の安寧の為に必要な存在なのかな?原作読んでみようかな

ふらーりさん、二次元の美少年にしか興味のない留美が怖すぎますw
留美はバキに対して単なる萌え感情だけかな?
ドドドドドドドドドドド……

……この耳鳴りは断じて…私の平穏の終わりを示す物ではない……。
現に奴等より優位に立っていた時にも、この騒音は耳にこびり付いていた…。
それに…山岸由花子の髪に触れた今、スイッチを押せば勝敗は決する!

「くらえっ!『第一の爆弾』ッ!」

カチリ、『キラークイーン』の右手にあるスイッチの作動音が聞こえる。

勝った……忌々しいクソカスどもとの戦いに…ようやく終止符を……ッ!?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


小林玉美、彼は誰がどう見ても他人の為に命を掛ける人間ではなかった。
実際その通りで、スタンドを悪用しての金儲けで仕事なんて就こうとも思わなかった。
自分の為なら他人はいくらでも犠牲にしていい。
そんな正義とは程遠い彼は、自分でも信じられない行動を取っていた。

バカな……奴の目も…由花子……いや…仗助と………!
そんな筈はないッ!私に蹴りをくれておいて、女の背後に隠れるような奴が……。
そんな薄汚いクソカスでさえも……私の平穏を脅かすというのか…!

『キラークイーン』に触られた髪が、彼には見えていたのだろう。
小林玉美、彼は……その髪を『握りしめて』いた。

「ヘヘヘ……何やってんだ?俺?」

腕が内側から崩壊していく、ひび割れた腕の表面が水に濡れた和紙の様に剥げていく。
そして中に見えたのは骨や血ではなく、赤と白の閃光、爆発だった。
爆弾となった髪を掴んだのは左手。
左腕から爆弾化し、上半身の左半分をほぼ吹っ飛ばされてしまった。
そこに居た誰もが、玉美自身ですら信じられない光景だった。

「へへ……ドジっちまったぜ………何一つ…トラブルのない生活を…送りたかった…のに……」
「た……玉美…くん………?」

髪の毛一本では、人間一人を丸ごと吹っ飛ばせる程のスタンドパワーは込められなかった。
由花子には頭を通じて脳を爆破する気でいたが、玉美はそれを左腕で受け止めたのだった。

「あ…姉さん……康一殿の……むね…ん……を」

彼は、最後に殺人鬼に一矢報いたという誇りからか口元に微笑を携えたまま亡骸となった。
彼自身から見ても、らしくない最後だっただろう。
だが、崇高だった。気高かった。
彼も、『誠の精神』の継承者だった。

「バカが…次は無いぞ……もう一発作れば問題は無い!
『第一の爆弾、キラークイーン』!」

素早く髪に触り、即スイッチを入れた。
ブワァッ、という爆風が巻き起こったが…由花子は立っていた。

「大分…呼吸も落ち着いたわ……もうアナタから目を離さない。
『ラブ・デラックス』は遠隔操作も出来るの…触られた髪を切り離したわ。」

………そんな……なっ…ならばシアーハートッ…!

「『シアーハートアタック』は無駄よ……落ち着かないみたいね。
私の髪の毛のパワーは、康一君のスタンドより強いと言った筈よ?」
髪の毛がギリギリと首を絞めつける、息が出来ない。
呼吸が弱まればスタンドも弱まる、『キラークイーン』のパワーも弱まりつつあった。
一切加減をせず首を絞めている、既に髪の毛を振りほどくパワーも残っていない。

「そんな……ありえん……こんな…クソカスどもに…」

呼吸が……まるっきし出来ない……ッ!
なんてことだ……『キラークイーン』のパワーがまるで通用しない…。
そうだッ!『ストレイ・キャット』……もう一度だ…。
腹部ハッチを開いて……空気弾を発射するッ!

「………………」

どうした……オイッ…何故………。

「自分のスタンドを見る余裕も無いのね……『キラークイーン』に入ってたアレ…植物なの……?
日光が無ければ撃てないって訳かしら………」

ぼんやりと薄くなってきた『キラークイーン』へと視線を送る。
腹部ハッチは問題なく開いている、だがビッシリと巻きつけられた髪は日光を遮っていた。

「危なかったわ……本当は巻きつけて開かないようにする気だったけど…。
それも関係なくなったわ……このまま………死ぬのよ…」

駄目だ…もう手立てがない……殺されてしまう…今度こそ……。
いやだ……そんな……私がなにをしたっていうんだ……。
確かに…私の趣味のせいで…何人も被害者を出したのは認める……。
だが…私は生まれつき人を殺さずにはいられない、という性を背負っている……。
性を抑えることなど…誰にもできない筈だ……。
私を裁く権利なんて……誰にもない筈なのに……。
もう……駄目だ…………………。
意識を…………た…もて…な……い…。

……………………………………………………………………………………

………私は……死んでしまったのか?
私は…何も悪い事はしていない筈なのに……。
日々、伸びていく爪を自分の意思で止められる者がいるだろうか?
いない……それと同じく、沸き起こる自分の意思に反した衝動は抑えられる者はいない。
私は……悪くない……。

トゥルルルルルル!

なんだ…この音は……電話?
私は……一体…!?

ふと気がつくと、吉影は自分の携帯を握りしめたまま地面に寝そべっていた。
そして、手の中で鳴り続ける携帯には川尻浩作の妻、川尻しのぶの名が表示されていた。

「……も、もしもし?」
『もしもし?じゃないわよ!会社から電話があったの……。
会社にいってないらしいけど……今どこに居るの?事故にでもあったの?』

一体……私は…山岸由花子はどうなった!?

周囲を見渡すと、爆死した玉美の死体。
そして、地面に転がっている由花子が居た。
安らかな寝顔だった、永遠の眠りを飾るのに相応しい…。

何故……彼女は死んでいるんだ……。
時計は………まだ3時過ぎ……早人はまだ学校か…父ではないのか……?
『聞いてるの!?』
「えっ……ああ、ちょっと…自分でも思い出せないが……頭を打ったみたいだ…。」

何故、由花子が死んでいるのか分からないが、さっさと死体を処理する為。
心配そうに安否を聞いてくる彼女をなだめる。

「心配しないで……すぐ病院にいくよ………。
悪かったね………心配掛けて…。」

電話での会話を終えると、用心深く由花子へ近づく。
呼吸もしてない、脈拍もない、間違いなく死んでいた。

「……そうか、『ストレイ・キャット』の空気弾を撃ち込まれた時に…」

血管に空気が入ると、脳や心臓へ向かっていき空気塞栓を起こす。
10CC以下なら問題なく済む場合もあるが、それを猫草は本能で理解している。

「フフ……ハハ…ハハハハハハハ!
勝った!私は勝ったぞ…『運命』は……私の味方だった!」

終わった……私の平穏は保たれた………。
ヒドイ一日だったが……乗り越えることができた…。
なんてスガスガしいんだ……。

「フゥ……馬鹿笑いしてる場合じゃあ無いな。
さっさと死体を始末して……っと。」

死体を処理する時、人は何を想うのだろうか。
この時、吉良吉影は小林玉美を処理する際。
そこら辺に落ちているゴミをゴミ箱に片付けるように、
自分は路上のゴミを破棄しているんだ、という気持ちでいた。
彼は心の底から他人のことなど、どうでもいいのだ。
「血の方は面倒だな……地面を爆弾に変えるか…。
えーっと…面積は……アスファルトを全部吹っ飛ばして地面が出ないように…」

カチリ、『第一の爆弾』によって死体と血痕を消滅させる。
これで小林玉美は永遠に行方不明者となる。
誰も、殺人鬼の正体を知ることはないし、恨むこともできない。
誰も、彼に殺された犠牲者の魂に尊厳と安らぎを与える事はできない。

「少し地面がへこんじまったが、まぁ…最近の業者は手抜き工事が目立つ、気付かれはしないか」

ハァ……それにしても疲れた…さっさと病院に行かせてもらおう。
モチロン、彼女の手を頂いてから……。

「さっ、由花子さん…君の、愛しの彼を殺してしまったお詫びに一緒にディナーでも……」

彼女の手には、髪の毛が埋め込まれていた。
最後の力で、自分の手に『広瀬康一』と文字を作って。

「くっ……こんな…ふざけた真似をして…なんになるって言うんだ…ええ!?
こんなことで自分の意思を示したつもりか……なんとも………つまらんプライドだッ!」

物言わぬ死体へ蹴りを入れる殺人鬼、普段の紳士的な態度はまるで見られなかった。
息を荒げながら激昂する自分自身のみっともなさが、更に彼を怒らせた。

「この……クソカスがァ――――!私をナメやがって…
お望みどおり…奇麗さっぱり、こっぱみじんに吹っ飛ばしてやるッ!」

山岸由花子も、消えた。
両親は一生、彼女の身を案じるだろう。
そして一生、例えようもない不安に身をよじるだろう。
吉良吉影に殺害された女性の数が今日、49人となった。
だが、彼のせいで心に不安を抱えて生きるようになった人の数……それは誰にも分からなかった。
〜数ヶ月後〜

「いいんですか…浩作さん。」
「ん…何がだい?」
「奥さん……居るんでしょう?」
「フフ…それが、バレないんだな……これが。」
「またまたぁ〜、TVとかでもそんなこと言ってる人って必ずバレちゃってますよ?」
「大丈夫だよ……君はもう…しゃべれなくなるんだからね。」

女が「何を言ってるの?」と聞く前に、彼女は意識を失った。
何も話さず、何も考えず、動くことのなくなった彼女の腕。
ポタポタと真赤な血が垂れていたが、そんなことは気にならなかった。

「ホラ…もう大丈夫だよ……それにその姿…とっても素敵だ………」

そう言ってできあがったばかりの血生臭い彼女に、香水をかけてあげる。
臭いが消えると、二人の間に隔てる壁のない恋人の様に頬ずりをした。

「アッフゥゥ〜〜〜〜〜〜ン………スガスガしいなぁ〜〜〜〜〜」

おや?フフ……少しお手洗いに行きたくなってきたぞ。
早速…彼女にお手伝いしてもらうとしよう。

ジョロロロロロ……
便器に向かって排泄を終えると、トイレットペーパーを巻き取る。
そして、それを彼女の手に握らせると…彼はその手で股間の残尿をふき取った。

「ああっ…そんなところまでしなくていいのに……案外…世話好きなんだね………君は…」

 /l_______ _  _
< To Be continued?| |_| |_|
 \l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
フゥゥ〜、取りあえず終了。邪神です( 0w0)ノ
一応続きを予感させる終わらせ方にしておきました。(AAズレたのはスルーで…)
思い浮かんでまとまったらやるかもしれないので…。
それまでは大人しくキャプテン続けてますね。

〜結局、康一君以外の死人に触れなかったので講座なし、感謝〜

>>ふら〜り氏 >>しかしこうやってみると、やはり吉良はDIOやカーズみたいに「強い」
        ではなく「怖い」ですね。作中の格的にみて、由花子程度に追い込まれるラスボスって何とも。
       吉良吉影涙目…でも最強ってカーズ様ですもんねぇ、時止めても体中に太陽級の波紋を常に…。
       ディアボロだって時を吹き飛ばすのに限界があるし…となると吉影先生しか!
       バイツァ・ダストで吹っ飛ばせれば……まぁ一々質問して捜すお方じゃないから無理か……。
       質問させようとアレコレしてる内に動物新生させて追跡させたり…。
       宇宙に飛ばす以外に勝ち方が思い浮かばないですねぇ。

>>123氏 ……いや、タイピングミスですよ…ホント…。
    ちょっ…ホントですって……マジでマジで。
    いやだな〜覚えてない訳ないじゃないっすか…。
    『運命の車輪』の英語読み『ホウィール・オブ・フォーチュン』
    を覚えたのがジョジョ2週目だった俺でもそんな事全然……。
    余談ですが新造で買ったジョジョがちゃんと『うっおとしい』『ド低能がァーッ!』
    になってたのがうれしい今日この頃。『なにをするんだぁー!』は残念でしたが…。

>>130氏 真っ向勝負で、スタンドが精神による上方修正無しなら勝てませんよね。
    でもパワーBのスタンドで家一つ丸ごと破壊する由花子の精神ならその差もカバー出来る筈。

>>131氏 吉影さんへの敬意が…私を動かしたんです……。
    キャプテンもこんな調子で進むといいなぁ…。

>>133氏 主人公がジョジョじゃなくなっちゃいましたけどタイトルはジョジョ(0w0)
    由花子は愛ゆえに…っていうケンシロウ精神であのパワーなのです。
    終わりはもちろん、ハッピーエンドです。
153作者の都合により名無しです:2007/11/11(日) 23:42:38 ID:3apbwAKx0
邪神さんもこの作品になってから更新がんばってるな。
作品も面白いし。由花子頑張ったのにな…
154作者の都合により名無しです:2007/11/12(月) 08:51:56 ID:4BoqntG70
吉良のキャラってこんな感じだったっけ?
原作あんまり覚えてない・・
155シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 11:31:24 ID:PVv13eYF0
『液状と透明 E』


 夜が訪れていた。
 陽が落ちてなお未練たらしく鳴き続けるひぐらしの声が、時折校舎の中にまで紛れ込む。
 そのか細い囁きよりももっと小さく、特殊な歩法によって押し殺したユージンノ足音が階段を降りてくる。
 星火がそこを通ったのより一分ほど遅れ、彼は正確にその後を辿っていた。
 まだ灯の点いている職員室前を駆け抜け、生徒たちの下駄箱へと差し掛かる保健室の前で、ユージンはそれを発見する。
 人間を抱えた人間の姿。
 闇に閉ざされ輪郭すらもおぼろげだったが、間もなくそれが誰であるかが明らかになる。
「ブギーポップ……!」
 この一分足らずの間になにがあったのか、抱えられる静だけはそのままに、抱えている人物が入れ替わっていた。
 だが構うものか、どうせこいつも敵だ。ユージンは心の中でそう呟き、果敢にそちらへ突進する。
 必殺の気迫をみなぎらせた手刀を繰り出す──かわされる。
 それは予想済みだった。と、言うより──それが狙いだった。
 攻撃を回避したことで揺らいだ構えの隙を突くように、ブギーポップの側頭部目掛けて蹴りを放つ。
 先ほど星火が静を盾にしてみせたことから、それを警戒した軌道で──目標まで一直線に進むものではなく、
大きな弓なりのカーブを描く変幻の──蹴撃だった。
 ここで予想もしないことが起こった。
 確かにユージンは相手の隙を突くつもりで攻撃を加えたが、それにしても、というほどの無防備な態勢で、
ブギーポップは横から伸びてくるユージンの脚を見事に食らい──吹っ飛ばされたのだ。
 腕に抱いた静ごと宙を舞い、頭からもろに壁に叩きつけられる。
 攻撃を避けるつもりがなかったのか? と唖然となるユージンの目の前で、ブギーポップは静かに立ち上がった。
「君……気をつけたまえ」
 思わず眉をひそめそうになるのへ、
「もう少しで彼女に傷かつくところだった」
 なにか壊れ物でも扱うように、あらゆる危険から庇うように、そんな感じで静を抱きとめていることに気が付き──、
「……なんなんだ、お前は」
 なんだかもうやるせない気分というかとにかくどうしようもない気分になり、ユージンは構えを解いて腰に手を当てた。
156シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 11:32:41 ID:PVv13eYF0
「……シンフォニ、いや、星火はどうした?」
「さっきまで静・ジョースターを抱えていた女性のことかな?
彼女ならどこかへ行ってしまったよ。放っておけばいずれ戻ってくるだろうがね」
 意識の戻らぬ静の顔を眺めていたおもてを上げ、続ける。
「しかし、いいところに来たな。実は君に頼みがある。なに、簡単なことさ。放っておかないで欲しいんだ」
「なんだと?」
「彼女がこの静・ジョースターを再び連れ去りに戻ってこないようになんとかして欲しい、と頼んでいるのさ」
「なぜ僕に頼む」
「君にしか頼めないからさ」
 本気で言ってるのか? と問い返したくなるが、おそらくこいつはどこまでも本気なのだろう──知らず、溜め息がこぼれる。
「僕の目的は、この静・ジョースターから情報を入手することだぞ。
ただ出前がかち合ってしまっただけで、本来、星火と対立する理由はない」
 先ほどは殺気立ってまで星火を追跡していたことは棚に上げ、ついそんなことを言う。
「無理かな? この少女を守るためには必要なことなんだが」
「……分からないな」
「ほう? なにがだね?」
「お前が彼女を守る理由だよ」
「ああ、それは簡単なことさ──静・ジョースターは『世界の敵』の可能性を秘めているからな」
 と、いともあっさりと答えが返ってくる。
 だが、ちょっと待て──。
「『世界』の……『敵』?」
「『世界の敵』だ」
 反射的にブギーポップの瞳を覗き込む。
 底知れぬ虚無がそこに渦巻き、その水面にユージンの姿が映っていた。
「お前は、この無力な少女がこの世界をどうにかすると、本当に思っているのか?」
「君は……彼女の『消える』能力をどう思っている? なんの足しにもならない能力だと思うかね?」
「そこまでは思ってないさ。人間が知覚している情報のうち、視覚の占める割合は八〇%にも及ぶ。
だが……その使い手たる彼女に戦闘の素質がない。残りの二〇%で対応可能さ。現時点ではなんの脅威にはならない」
157シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 11:34:08 ID:PVv13eYF0
「では、未来はどうかな? もしも、彼女が真にこの『能力』を支配したら?
さっきの君の言葉だが、裏を返せばこういうことにならないかね? 『世界の八〇%を支配する』能力だと。
いつか彼女が『完全に消える』ことに目覚め、その時、彼女がこの世界に敵対するスタンスを取っていたら?」
「馬鹿な……そこまで言ってしまったらこの世の全てがお前の言う『世界の敵』になる。
実現していない可能性になんの意味があると言うんだ」
「前者は君の言う通りだ。この世の全てが『世界の敵』たる可能性を秘めている。
そして後者だが……君も分かっているはずだ。この世界の水面にいまだ浮かび上がらずとも、
可能性の水底で待ち続けている『なにか』が確かに存在していることを。
そう、かつて君が『予知』に従って『世界の敵』と戦ったときのように」
「貴様……知っているのか!?」
 ユージンは反射的に声を荒げ、ブギーポップの襟首を掴む。
 が、そのすぐ下で静が「ん……」と身じろぎをしたことで、忌々しげにその手を放す。
「残念だが、過去の君の身になにがあって今の君があるのか、私自身は『知らない』。
だが、『泡』の記憶が教えてくれる……君もまた、このろくでもない世界を守るために戦う孤独な戦士だと言うことを」
「ふん……僕はこの世界がどうなろうと知ったことじゃないね。ただ──」
「ただ?」
「そう思わない人たちが、どうやら少なからずいるようだ」
 ユージンはブギーポップにお姫様抱っこされている静に目を落とす。
 意識を失っているというよりはむしろ眠っているだけのような、そんなだらしのない寝顔を見て──、
 少し、笑った。
 それはつい一時間足らず前に静に対して見せたあの気弱そうだが誠実さのこもった笑顔だった。
「君が何者なのか、必ず突き止めてやる、静・ジョースターさん。
……そのためには、お前の口車にも乗ってやるさ。
僕は星火を足止めないしは撃退する。その間に彼女を安全な場所に移しておけ」
 そう言って顔を上げるころには、そこには明確で強固な意志が宿っていた。
 一方のブギーポップはさっきから微動だにしない能面のままで、
「やる気になってくれてなによりだ」
158シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 11:35:40 ID:PVv13eYF0
「……それに、あの『予知』とやらは気に食わない」
「なぜだね?」
「それは、僕の……って、なんでお前に話す必要がある。関係ないだろう」
「もっともだ」
 いちいち生真面目な感じが癇に障る。
 もしかして同属嫌悪なのか? という面白くない連想が浮かんだので、意識的に打ち消す。
 それを平静な視線で眺めるブギーポップがぼそりと、
「だが、なるほど……それが君の『カーメン』か」
「……なにか言ったか?」
「いや、こっちの話さ。彼女のことは私に任せたまえ。武運を祈る」
「思いもしないことを言うな」
「心外だな。私は心から君の無事を願っている」
 これ以上こいつと会話するのはなんか疲れる気がするので、ユージンは無愛想に手を振ってその場から立ち去る。
 静・ジョースターを守るために──それ以上に、『予知能力者』星火と対決するために。
159シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 13:28:39 ID:PVv13eYF0
『液状と透明 F』


 養護教諭、五十嵐初佳は不機嫌だった。
 自分の根城である保健室のボロいデスクにどっかと足を投げ出して座り、一応は勤務中であるにも関わらず
缶ビールの口を片手で開けて琥珀色をした発泡性の液体を喉に流し込む。
 もう片方で手には有害物質を撒き散らしつつ燃えるヴァージニアスリムがあった。
 それを咥えて待つこと数秒、ぷはーっ、と威勢よく煙を吐き出し、ちらりと視線を奥のベッドへ向ける。
 三つあるベッドのうちの一番奥が使用中だった。
 カーテンの引かれたその向こう側から、か細くすすり泣く声が聞こえる。
 淡いピンク色の布地に映る影は、ベッドとそれに横たわる影、その側に置かれた椅子から身じろぎせず座り続ける小さな影。
 床に伏せる少年とその身を案じて泣く少女の姿を想像して、初佳の胸がちくりと疼く。
(いたたまれねーわ、実際)
 それはそれとして、あの二人仲がいいなあ、青春してるなあ、羨ましいなあ、
保健室で看病ってどんだけ据え膳なシチュだよ、などと不謹慎なことを頭の片隅で考える。
 そんな不健全な妄想もその辺りに差し掛かったところで、初佳は自分の不機嫌の源に思考が及ぶ。
「ったく……貴也のやつ最近全然構ってくんないじゃん。
いや、忙しいのは分かってるけどさ、あたしだって人間なわけだし、愚痴ぐらい出てくるっつーの」
 半分以上酔っ払いの据えた目で、ぶちぶちと小声で呟く。
「ぅあー、最近貴也としてないなあ、セッ──」
 勤務中の養護教諭にあるまじき発言がその口から飛び出さんとする刹那、
「五十嵐初佳」
 いきなりの名指しで、初佳は椅子から転がり落ちる。
 どしゃ、とけっこうすごい音がした。
160シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 13:29:56 ID:PVv13eYF0
「いちち……」
 打った腰を撫でさすりながら身を起こす。その目の前に佇立する黒マントの怪人がいた。
「貴也……じゃなくてブギーポップ! ……だよね?」
 貴也──或いはブギーポップは無表情に首肯する。
「『今』はそっちだ」
「……今の、聞いてた?」
「なにがだね?」
 いや、聞いてないならいい、と口の中でごにょごにょ不明瞭に発音しながら立ち上がる。
 ふと、ブギーポップの抱えた大荷物に気がついた。
「──ブギーポップ」
「なんだい」
「なに、これ」
「見ての通りだ」
「見ての……」
 それは、上半身が下着姿の女生徒だった。意識を失っているらしく、力の抜けた感じで抱えられるままになっている。
「そんなことより……申し訳ないがベッドを貸してもらいたい」
「……なんで?」
 初佳の返事を待たずに、手前側のベッドを選んで女生徒を横たえる。
 そして振り向き、極めて真面目な口調で。
「大した事じゃない、ちょっとした身体検査さ」
「しっ……」
「なにか薬品でも仕込まれていたり、催眠暗示でも掛けられていたらコトだからな」
「クスリ……催淫……?」
「おや、どうしたね? 私の目にはなにか君が怒っているように見える」
「で、出てけーっ!」
 手近にあった空き缶を投げつける。
161シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 13:31:25 ID:PVv13eYF0
 てっきり余裕でそれをかわすと思っていたのだったが──、
「え? ……って、アンタ!?」
 ぽす、と力ない音で帽子に当たり、ずり落ちる筒状の布切れの下からそいつの真赤に濡れた額が露わになる。
「ああ……ついさっき、とてもいい蹴りをもらってしまってね」
 まるでなんでもないことのように言うそのそばから、どろっ、と赤い液体が垂れる。
 床に座り込んだままだった初佳は、バネ仕掛けのように慌てて立ち上がって駆け寄る。
 散乱したゴミを蹴飛ばし、パイプ椅子を引き寄せる。
「座りなさい!」
「しかし、私よりも──」
「どう見てもアンタが先でしょうが!」
 有無を言わせず引き寄せる。
 ガーゼで血を拭いながら、傷口を改める。額を切ったのかと思いきや、頭皮の傷だった。
 出血の割には大した傷ではないと知り、やっと安堵。
 ざっくばらんに消毒液をじゃぶじゃぶ掛ける。
「ホントにもう……アンタはいつもこんな無茶ばっかり。あたしの心配なんか知ったこっちゃないってわけ?」
 ブギーポップは黙ってされるがままになっていたが、やがて静かな声で詫びる。
「君には申し訳ないと思う。つまり、このように秋月貴也の身体に傷をつけてしまうことについてだが」
「馬鹿たれ」
 デコピン。
「何をする」
「あたしはアンタの心配をしてるのよ」
 沈黙──やや長い空白のあと、なんの感情もなさそうな声で返答。
「そうか……それは光栄だね」
 応急処置が済んだのを見計らい、ブギーポップは先ほどの女生徒の元へ歩み寄ってなにやらごそごそやる。
 なんかいかがわしいことしてんじゃないでしょうね──と思った矢先に、意外と早い時間で戻ってきた。
「特に問題はないようだ」
「あ、そう」
 再び、わずかな沈黙が訪れる。今度は、初佳がそれを破る。
「今度のは……手強いの?」
「いつだって手強いさ。私は常にギリギリの戦いを強いられている。『世界の敵』とはそうしたものさ。
なぜなら、『世界の敵』自身が既にギリギリで、後がない──と思っているのだからね」
162シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 13:33:18 ID:PVv13eYF0
「……あの子らも、そうだっての? だからいつでも殺せるように近くで張ってるってワケ?」
 初佳の視線の先には、カーテンの引かれた二つのベッド。
「いや……まだ分からない。注意深く監視する必要はあるがね」
「そうやってなにもかもアンタが抱え込む必要はないんじゃないの」
 ブギーポップは答えずに黙秘を保持していたが、散らかり放題のデスクに目を留めた。
「余計なお世話だが、アルコールと煙草は控えたほうがいい。
君の健康に差し障ることはもとより、将来子供を生むときになって母子共々に悪影響を及ぼす」
「は? アンタには関係ないでしょーが」
「関係ないと言えばその通りだが、秋月貴也は仮にも私の『本体』だ」
 その一連の言葉の裏にある、幾つもの前提条件に思い至るや、さっと初佳の顔に赤みが差す。
「な、なにを……」
 初佳の肩がわなわなと震えてるのに気付かないのか、気付いてて言うのか、なおも続ける。
「なんだね? もしかして秋月貴也とは『遊び』──というやつのかね?」
 ぷつん。軽くキレた初佳のチョップが炸裂する。
 すると、
「痛っ!」
 ブギーポップが情けない悲鳴を上げた。
「な、なにするんだよ初佳さん」
 いや、それはもはや冷酷無常な殺人鬼ブギーポップではなく──。
「あー、と……貴也?」
「そうだけど……」
「あ、クソ、消えやがった! 誰が遊びだ! 馬鹿にしてんじゃねーわよ!」
 怒りの持って行き場を無くした初佳が、貴也少年の頭を掴んでごしゃごしゃシェイクする。
「うえええ……」
 やはり五十嵐初佳は現在進行形で不機嫌で、その訳が分からず目を回す秋月貴也だった。
163シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 13:35:05 ID:PVv13eYF0
「……はあ、アホらし」
 ひとしきり暴れて冷静さを取り戻した初佳は、乱れた髪を肩の後ろに流す。
「ねえ、初佳さん?」
「ん?」
「また……ブギーポップが『出た』んだね」
 自分の奇妙な扮装に目を落とし、貴也がどこか暗い表情で呟く。
 初佳はなにか言葉を掛けようと口を開くが、
「…………」
 言葉に詰まる。
 『世界の敵』と戦う代償としてその間の記憶を持ち得ない、いわば世界の生贄として捧げられた少年になにを言うべきだろう。
「あー……、貴也」
「なに?」
「もうちょっとであたしの仕事終わるから、そしたら一緒に帰りましょう。それまでちょっと寝てなさい」
「うん」
 あのブギーポップとは似つかぬ素直さでこっくりと頷く。
「あ、ちょっとストップ! そこダメ!」
「え?」
 制止するにはやや遅く、手前側のベッドのカーテンを引き開けた貴也は、そこに転がる下着姿の少女を見て耳まで赤くする。
「ジ、ジョースターさん……?」
 呆然と漏れる貴也の言葉、初佳はそれを聞きとがめ、
「知ってるの、この子?」
「う、うん。静・ジョースターさん……同じクラスの……転校生……」
「アイツ、そんなこと言ってなかったわよ……いや、いくらアイツでも何でもかんでも知ってるってワケじゃないってことよね……」
「あの……初佳さん?」
164作者の都合により名無しです:2007/11/12(月) 13:45:49 ID:4qC8gjlV0
「液状と透明の回」を一気に終わらせるおつもりかな?
静が主人公たる所以のパートになりそうだから重要な話でしょうね。
貴也は静が好きなんでしょうか?
165シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/12(月) 13:53:01 ID:PVv13eYF0
 一人でぶつぶつ言ってる初佳を不安げに見つめる貴也に、
「よし、分かったわ!」
 ぽん、と拍手の後にびしっと指差し、
「な、なにが?」
「アンタ、この子と仲良くなりなさい!」
「はあ?」
 戸惑う貴也に歩み寄り、その肩を抱いて顔を急接近させる。
「考えてもごらんなさいよ。名前からして帰国子女かなんかでしょ? きっと一人ぼっちで寂しい思いしてるに違いないわ」
「いや、友達できてたみたいだけど」
「話に水を差すな」
 理不尽な叱責。だが反論は許されず、うなだれるしかない。
「で、さあ。そこにアンタが優しい言葉の一つでもかけてみなよ。もう乙女の純情ハートがコロっとイチコロで木っ端微塵よ」
「木っ端微塵……?」
 意味の分からない比喩に首を傾げつつも、話の文脈は理解したらしく、
「クラスに馴染めるよう友達になれってこと? それは構わないけど……初佳さんは嫌じゃないの?」
「……は? なにが?」
「僕が他の女の子と仲良くなるの」
 その答えに代わり、背中をばしんと叩かれる。
「ネクラのくせにそーゆー心配はしなくていいの。実際に篭絡して骨抜きにしてから考えろ」
 あんたじゃどう頑張ってもせいぜい「いいお友達」止まりでしょうよ──というのは本人のプライドのために言わずにおいた。
 ごほごほ噎せる貴也は涙目に、
「な、なにするんだよ」
「いーから寝なさい。真ん中のベッドでね。添い寝してあげようか?」
「い、いいよそんなの」
 開き、そして閉められたカーテンの向こう側で、重苦しそうな衣装を脱ぎ捨てる雰囲気が伝わってくる。
 それを見るとはなしに見ながら、初佳は思う──。
 ブギーポップじゃなくても、世界は救える。ブギーポップはブギーポップなりのやり方で世界を守るように、
自分たちも自分たちなりのやり方で世界を救わなければならない。
 きっとそれが、貴也を守ることにも繋がるのだろう、と。
166作者の都合により名無しです:2007/11/12(月) 15:53:55 ID:Qky9kwOc0
ハロイさん凄い更新力・・。しばらく冬眠してたのが嘘みたいだw

純情なチェリーボーイの貴也と
お嬢さんで処女の静は良いカップルになるかもな
絶対にキス以上は進展しないだろうが・・

この世界は世界を救う力がいくつもあるなあ
167六十六話「愛を取り戻せ!後編」:2007/11/12(月) 17:42:08 ID:jLBgN0N20
〜メルビル宮殿〜
歴史あるメルビル王国で、異例の事態が起こっていた。
街を襲ったサルーインの僕と凶悪なドラゴンを追い出し、平和を取り戻した者。
その偉大な勇者に褒美を取らせるため、玉座の前に呼び出した。
それは当然の名誉である、巨大な魔物との戦いを経験した兵士は少ない。
各地で戦争が起こっている今では、大半の兵士は対人用の訓練しか受けていないのだ。
こうして裏目に出るのは必然だったのかもしれない。

では何が問題なのかと言うと、その失態を救ったのが犯罪者なのが問題なのだ。
何故、王は面会を許可したのだろうか、気が気でない、
しかも悪名高いサンゴ海の荒くれ者、つまりは海賊である。
家臣達が目をギラつかせながら睨みつけるのは、海賊の頭領キャプテン・ホークだった。

帽子を取り、溜まりに溜まったシラミをボリボリとかき落とす。
何か言いたそうな奴が居たがガン飛ばして視線を無理やり逸らさせて無視する。
「おい、褒美ってのはまだか?さっさと船に戻りてぇ。」
無礼にも褒美を催促するホークの態度を戒めるべく兵士が前へ出る。
だが、王の手によってそれを遮られ、引き下がってしまった。

威厳ある態度、だが相手を見下すような眼はしていない。自惚れの無さが器の大きさを表している。
しかし椅子から立とうとはしない、作法の面を欠いているかとも思ったがそれは無いだろう。
贅沢を極めるであろう生活にも関らず痩せた体、疲れが溜まっているのだろうか顔色も冴えない。

「民を守ってくれたこと、感謝している。
海賊であっても善行には等しく恩恵が与えられる。褒美は何が欲しいのだ?」
等しく?これは素晴らしい発言だ。
武器か防具でも悪くないと思ったが、これは英雄と同じ待遇で迎えると言ってるも同然。
実際に街も救った訳だしもっと高額の物を頼ませてもらうとしよう。

王の発言は絶対である、それは逆に軽々しく取り消すなど出来ないということ。
家臣の見守る中で「失言だった」で済ませれば威厳は地に落ちる。
無論、そんな無粋な真似はしそうにない。これは一世一代、最大のチャンスだ。
168六十七話「愛を取り戻せ!後編」:2007/11/12(月) 17:46:50 ID:jLBgN0N20
「帝国の造船技師を集結して最強の海賊船を作ってくれ。」
家臣達が無礼だなんだと抜かしているが、上品な海賊がいてたまるか。
王に断る様に申告している奴も居るが、兵の前で言い訳など出来る筈もない。
器の大きさを見せる為にも、ここはYESと答えなければならないのだ。

王が右手を掲げ、発言の意を示すとピタリと騒ぎは収まった。
「国の命とも言える民を恐怖から救ってくれた者に、
感謝の言葉もなく無礼者呼ばわりしたことを家臣に代わって謝ろう。すまなかった。」

これには流石に驚いた、海賊如きに謝罪の言葉を漏らすとは。
家臣は信じられないといった顔で見ているが兵の目は違う。
これが本来あるべき人の姿だと学び、尊敬の眼差しを向けている。
謝罪の言葉一つで大袈裟だと思うかもしれないが、メルビルの王とはそれ程に民から尊敬と敬意を集める。

「だが、君は我が国の船を奪ってここまで来たのだろう?」
バレた?紋章は外した、原因があるとすれば・・・。

突然、何者かの気配が現れた。
扉の方へ振り返ると、一人の男が物音一つ立てず王室に侵入していた。
「すまない、勝手だとは思ったが船の事は話しておいたぞ。」
やはりケンシロウだったか、こいつの気真面目な所が災いしてしまった。
見慣れぬ服装、そしていつも手ぶらの癖に何故かデカイ袋を背負っていて怪しさ倍増である。

不審者に衛兵が槍を向けた瞬間、指先一つでそれをへし折りジロリと兵士を睨みつける。
怯える兵士を前に特に何をする訳でもなく、そこに立ち尽くす。
一斉に武器を手に取る兵士達だったが、前へ出ることは出来なかった。
眼前の相手に触れられてはならない、危険を通り越した男。
例えるなら存在そのものが災厄。
死を持ち込む種、死神。

「皆、剣を納めよ。その方も街を救った者の一人だ。」
言われた通り剣を納め、ケンシロウから離れる。
169六十七話「愛を取り戻せ!後編」:2007/11/12(月) 17:48:20 ID:jLBgN0N20
ケンシロウを恨めしそうに睨みつけるホーク。
黙ってれば罪人にもならず、褒美だけ頂いて立ち去れたのに。
涼しい顔で視線を合わせると、まるで当然とでも言うように平然としている。
本来海賊ではないケンシロウには当然のことだから仕方ないのだが。

王へ視線を戻すと監獄行きにされるかと思ったが、そうでもないらしい。
側近の一人が王に寄り添い、何か話している。
光術法の魔導師だろうか、煌びやかな装束に身を包んでいる。
やはり病気か何かだろう、付き添っている術師は全員が水か光をシンボルとした装束をしている。
どちらの術も身体の回復に長けている術法である。
休息を取る指示だったのだろうか、それを押し退けると話を続ける。

「だが、罪を帳消しにすれば褒美は思うがままだ。
城下の者たちの悩みを解決してくれれば条件を呑もう。」
イマイチ気が乗らないが仕方ないだろう。
それに住民の悩みの一つや二つで帳消しに出来るなら安い物だ。
家臣たちも刑罰だの、磔刑だーッ!だの叫んでいる。
何か条件を追加されないうちに立ち去るとしよう。

衛兵に若干追い出されるようにして、宮殿の入口まで来て立ち止まる。
「ケンの奴、何しにきたんだ?」

王室では、そのケンシロウと王が話を続けていた。
「腕のいい鍛冶屋に、こいつで上等な斧を作ってくれるよう話をつけてくれ。」
そういって袋からリオレウスの尻尾を取り出す。
船上での戦いの際に千切れた奴だ。
「これは・・・中に紅玉まで、それがお前の望みだな?」
「ああ、友に送ってやる物だ。」

そう言い残すとさっさと背中を向けて出て行ってしまった。
「今日は無礼な者ばかり謁見に来ますな・・・。」
王は不機嫌そうな家臣を無視し、身体を休める為に部屋へと戻っていった。
170六十七話「愛を取り戻せ!後編」:2007/11/12(月) 17:50:18 ID:jLBgN0N20
〜メルビル図書館〜
巨大な棚にずらりと並ぶ膨大な書物、知識の宝庫。
一生を賭けねば全てを頭に入れる事は不可能であろう。
いつもは術師たちが飽くなき探求心を静かに追及しているのだが、
その探求心が静寂を切り裂く鎧の音、そして恐竜の様な顔をした人型の生物に向けられた。
「すげぇな、この世界の武具は原始さを追及しててシンプルで強い。
神秘的で妙な能力を持った魔具も多いみたいだな、是非とも知識を持ち帰りたかった。」
そういって伝承や武器に関連する書物を片っ端から取って行く。

「この世界・・・?やはり、あなたも別の世界から来たのですか?」
ベアの本を半分受け取ると、それを受付まで持っていき荷車に乗せるように頼む。
もう半分を持ったベアが満足気な表情で外の荷車へと持っていく。
「ほぉ、別世界の奴等ってのは・・・やっぱ他にもいるのかい?
ってことはホークの使ってた奇妙な剣、あれもその一つか。
炎を分解してた様に見えたがすげえ技術だ、真似できるのかね?」

王、直筆の勅命書を受け付けに渡すと、兵士が荷車を引いて街を出た。
「これで仲間の所に届くだろう。お前さんは王様から何を貰ったんだ?」
「ジュエルを少々、替えの武器を買う余裕も出来てきたのでスキルを学ぼうと思いまして。」
武術関連の書籍も持ち出していたようですぐにジュエルに反応を示す。

「ほぉー槍術か、お前さんいい腕してたしな、俺でよければ技を教えてやるぜ。
我が帝国に伝承されてきた技は記憶している、真似ろと言われても出来んがやり方は分かるぜ。
それに加えて俺は全ての技を正確に見切ってるし、正確に出来てるかなんて一発うちこんでみりゃ判るもんよ。」

意気揚揚と話しかけてくるベア、知っているのに出来ないとはどういうことだろうか。
だが技には興味がある、ゲッコ族でも腕利きのゲラ=ハ、力には自信があるが閃きや発想が弱い気がする。
後々、聞いてみるとして今はスキルを学ぶ事にしよう。

「興味深いですね、修練が終わったら是非とも御教授させてもらいます。」
任せとけ、と言って笑いながら背を叩くとゲラ=ハが修練所に行ってる間に、
自分は自己流の修行をすると言って街の外へと出て行った。
171六十七話「愛を取り戻せ!後編」:2007/11/12(月) 17:51:27 ID:jLBgN0N20
〜メルビルから少し離れた岩場〜
魔物が増える時期の旅人は、人間の手で生み出された道を外れる事はない。
人が作ったということは人通りが多いということだ、魔物もそれを理解して攻撃を控える。
とはいっても、徒歩で行動するのは金のない貧乏人か自殺志願者くらいである。
あらゆる物体には魂が宿っている、生き物を始めとして、道端の石から植物まで。
周囲のすべてが敵なのだ、少し大きめの草、色の違う石、よく見れば一部だけ粒子が細かい、または粗い砂。

それを魔物だと気付けない者は死ぬしかない。
一部の例外を除いて。

「んー?珍しい植物だな、薬草辞典なら手元に残してたような・・・。」
そういって荷物袋に手を伸ばした瞬間、腕に触手が絡みつく。
珍しい、という事は目立つという事。
この植物は擬態が下手で警戒されがちだったのだ。
そのため、魔物も、人間も食うことが出来ず日光と土中の水分で細々と生きながらえていた。
だが、何かを喰らって強くならなければいずれ食われる、それが弱肉強食の世界。

知識のない人間が近づくことを、神に感謝すべきだろうがそんな知能も持ち合わせていない。
食欲という本能と知識不足は、彼から折角のチャンスを奪ってしまった。
道を外れるということは危険を避けない人間、それなりの腕か余程の馬鹿。
そして金属というものを理解せず鎧の上から攻撃したこと。
高位植物モンスターは良質な土で育ち、地中深く根を張って触れる物を学習する。
そして地中に含まれる金属性の物質までも学習するが、彼は土の感触しか知らなかった。

触手を引っぱって植物を引っこ抜く、未熟な彼には根を張らずに生き延びる方法は無かった。
「なんかピクピクしてるな、念の為に縛り上げてから袋に入れて・・・。
それにしても迂闊すぎたな、久しぶりの旅で気分が浮かれてるのかね。」

ベアが浮かれているのは旅のせいではなかった。
周囲を取り巻く静寂と闘気、今排除された植物以外の魔物は全て危険を察知して逃げ出していた。
その原因を作り出した男へと話しかけるべく、後ろの岩を振り向く。
「待ってたぜ、ケンシロウ。」
172六十七話「愛を取り戻せ!後編」:2007/11/12(月) 18:23:54 ID:jLBgN0N20
岩陰から姿を覗かせるケンシロウ、二人の視線が合うと周囲の静寂が一層強くなった気がした。
「お前、酒場で俺に言ったこと覚えてるか?あの情けない戦いぶりは見てられなかったぜ。」
「そうだな・・・デカいだけのトカゲに手も足もでなかった男ではあるが、お前の言うことは正しい。」
お互いに口の端を引きつらせてニヤリと笑う、獲物を狙う鷹の眼差しのまま。
「中々・・・挑発的な態度だ、闘争心は徐々に芽生えてるみたいだな。
だがよ、闘う力はあっても足りない物が多すぎるぜぇ〜お前はよぉ。」

剣を引き抜き、構えるベア。
それに対してなんの構えも取らず、自然体のままベアを見つめるケンシロウ。
「観察力も悪くないな、確かにこれは戦闘用の構えじゃない。もしお前が、
引き抜かれた剣と、俺の敵意に誘われて攻めてたらパリィで弾いて胴体を真っ二つにしてやったのになぁ。」

スゥ、っと音を立てずに構えを解いて剣を握る腕をブラブラと脱力させ宙づりにする。
闘争の意思は隠していないが、攻撃の意思は隠しつつもチラチラと見せつけてくる。
基本的にパワーで押してくるタイプだが、パリィと呼ばれる防御剣技、そして場の空気を読む力。
攻めか守りか、闘いの組み立てがハッキリしないため、手の内が読みづらい。
見た目の斜め上をいった、パワーで押してくる技巧者だ。
ケンシロウが探りを入れていると急にブンッ、という音が耳に響いた。

「音速剣。言っておくがこんな技ならどの構えからでも出せるぜ。
だが間合いをしくじったかな、浅いみてーだ。」
胴体から腹部にかけて裂傷が駆け抜け、血が噴き出る。
深い傷ではないが出血のため、ガックリと地面に膝をつくケンシロウ。

走り出すベア、身につけた鎧のせいで速くはないが、確実に一般男性の平均ダッシュ速度以上は出している。
「こんな程度で終わるなら・・・お前が『愛』ってのを取り戻す事はこの先無い。
お前は戦いの中でしか自分を見つめられないからな。」

振り下ろされた剣、今度は音速なんて生易しいスピードではなかった。
剣が光り輝き一筋の軌跡を残す、その光は太陽光の反射で出来た物ではない。
光速を超えた剣から生まれる波動、音速剣を上回るスピードと破壊力。
広範囲に照りつける陽射しの様に、剣から衝撃波を撒き散らす究極の剣技。
173六十七話「愛を取り戻せ!後編」:2007/11/12(月) 18:25:03 ID:jLBgN0N20
周囲に拡散する光の破壊を、近距離で当てるとどうなるのか。
頭にピッタリと密着させたショットガンの引き金を引いてみると答えが出るだろう。
「さぁ、見せてみろ!お前の肉体の奥深くから感じた力。
今、ここで引き出せなければ頭が粉々に吹っ飛ぶ!」

切先がケンシロウの頭頂部に達した、それでも剣を止める気は全くない。
ベアの持つ最高の剣技、これを受け止められなくては皇帝の代役は務まらない。

キィン、と得体のしれない音が響き渡る。音の壁を切り裂く光の剣、『光速剣』。
そして異変に気づいたのは音と同時だった。
「強いな、だがこの距離なのが問題だった。この距離でなければかわせなかった。
音速剣の衝撃波は扇状だった、違いが速度と破壊力だけならその剣も広がり方は同じだ。」

先に説明したショットガンを例とすれば、ピッタリくっつけた位置とは反対側の方が大きく砕ける。
つまりは攻撃範囲が狭いので、『見切れる』相手には確実に当てる事は出来ないのだ。
もっとも、光の速さを見切ることなど本来は不可能なので気に留める必要もないのだが、今回は相手が悪かった。

「夢想転生、無より転じて生を拾う奥義。
光には時の概念があるが無には存在しない。」
動けなかった、ケンシロウの声が聞こえているのは背後。
少なくとも後ろを振り向きながら斬るという発想は確実に無い。
背後を取った側の気になれば判る筈だ、後ろを振り向くという動作が如何に無駄が多いか。
足を90度捻り、腰を90度捻り、手を90度捻る。
向こうは手刀一閃、手を振り下ろすだけで全てを終わらせられる。

「何故、殺さない?」
「殺すのが目的なら遠距離から光速剣を繰り出した筈だ・・・敵ではない、俺はそう思っている。」

剣を地面に突き刺して両手を上げる
「流石、まいったねこりゃ・・・。」
174六十七話「愛を取り戻せ!後編」:2007/11/12(月) 18:26:39 ID:jLBgN0N20
地面に突き立てた剣を、鞘に納める。
それと同時にケンシロウも自身から発する闘気を納めた。
「手加減してこれか・・・アンタに本気をださせるには俺じゃ力不足かな?」
「加減ではない、アミバの非道、皮肉にも奴のおかげでこの体に『怒り』は戻った・・・。」

そう言って拳を握りしめるケンシロウ、人々に対する絶望を拭えてはいない。
彼が一番『怒り』を感じていたのは、その己自身の弱さだった。

「フッ、この先どんな敵が待ち受けるかも分からん。
嫌でも取り戻せるだろう、出来なきゃ死ぬだけだ。
・・・おっと、ゲラ=ハに技を教えるんだった。」

ベアは荷袋を背負い、メルビルへと戻ることにした。
帰りの道中、自分から話すことの少ないケンシロウが不意に話を持ちかけてきた。

「お前が技を教えるのはゲラ=ハだけか?」
「んん?そりゃ教師が本職じゃねーからな、ゲラ=ハだけだ。」

そうか、と答えると再び黙って街へと歩き出す。
どうかしたのだろうか、先程からキョロキョロと周囲を見渡している。

「なんだ、岩山なんて珍しくないだろう。ドラゴンでも見かけたのか?」

一応、剣柄に手をかけ戦闘態勢を取っておく。
周りに巨大な気配など感じないが、ケンシロウなら気配を消した魔物を見破れるのかもしれない。
「いや・・・ちょっとホークのことで相談がある。」
「なんだ?立派にリーダーシップも取ってる、信頼できる奴だと思うぞ?」

「指揮に問題はないが・・・実力が伴っていない。
回復術しか取り柄がないし、斧が壊れれば苦手な剣を振り回す。」

そりゃ、御もっともな意見だ。という事でダブルコーチがここに誕生した。
175六十七話「愛を取り戻せ!後編」:2007/11/12(月) 18:27:54 ID:jLBgN0N20
〜街 出入り口〜
「おや、かなり手強い獲物だったみたいですね。」
「ん?よく分かったな・・・鎧に新しい傷はつけられなかったが。」
自分の鎧を確認する、この世界の技術師では相当な腕でなければこの鎧は直せない。
リオレウスとの戦いでも、へこんだだけで済むほど強固な材質と造りである。

「なんとなくですよ、私の準備はできました。」
そういって槍を構える、確かに基礎的な部分が全体的に向上している。
短時間で見違えるほど上達したように見える。
「それじゃあ、俺が手解きしてやるよ。」
「お手柔らかにお願いします。」
「裸の大将についてるコーチと比べたら、ずっと優しいと思うぜ?」

普段は寡黙なゲラ=ハもプッ、と吹き出してしまった。
この一言で、今ホークにどれだけの災難が降り注いでいるか想像してしまったのだ。
「アイツ『愛』は取り戻せなくとも、『愛のムチ』を振るうことになるだろうよ。」

〜製造中の北斗練気闘座〜
「拳のみで石像を造り上げるのだ、気の入っていない像は叩き壊す。」
「あー・・・質問なんだが、これは岩じゃなくて山、もしくは崖じゃないのか?」
眼の前にそびえる岩壁を前に、ささやかなクエスチョンを投げかける。
当然の反応である、誰だってそーする、俺もそーする。

「高低差が100メートルあれば認めるが、この岩は80メートルの高さだ。問題ない。」
大ありだ馬鹿、そう言ってやりたかったが一番に取った行動は逃走だった。

「北斗神拳に『闘争』はあっても『逃走』は無い、性根から叩き直すか・・・。」
冗談を言う眼ではなかったし、冗談を言う相手でもない。
仕方がないので斬り伏せて突破することを選ぶホークだった。

「どきやがれぇッ!」
「そうか・・・岩を砕く方法を教えてなかった。では体に叩きこむとしよう。」
176邪神?:2007/11/12(月) 18:29:47 ID:jLBgN0N20
結構前にケンシロウがおしゃべり、って忠告あったけどスルーせざるを得なかった。邪神です。(0w0)
いや、単に自分のネタの為におしゃべりにさせてるんですがこの先もこんなキャラで通すかも。
原作レ○プとか言われるかもしれませんが、チーム戦の基本は連携なのです。
じゃプライベート映写は黙らせとけ、って言われるとプライベートの時間は好感度上げに使うものでして…。
そんな訳で比較的おしゃべりなケンシロウですが、彼は元から人格像の掴み難い人なのでスルーで。
「それにしてもこのケンシロウ、ノリノリである。」くらいに思ってやって下さい。

最初タイトルミスって66話になってるけど気付かないフリしてね(0w0)
〜久々にちょっとだけ講座&感謝〜

>>153氏 >>邪神さんもこの作品になってから更新がんばってるな。
     作品も面白いし。由花子頑張ったのにな…
      息抜きって大事です、初期の頃の『楽しんで制作する』
      って気持ちを思い出させられました、ホークが苦しくなってたのでw
      由花子は可哀そうですが吉良吉影が幸せになるには仕方のない犠牲です。

>>154氏 自分のイメージですけどこんな人です。
     4部は何度読みなおしても面白いですよ。
     他の部は連続で読みなおすと面白いけど飽きが生じる。
     4部は中毒性がある気がする。人によって好き嫌いは別れるみたいですが。


音速剣 軽い片手剣で使用される剣技、両手持ちの剣では使用不可。
    使い勝手のいい飛び道具。

光速剣 こちらも片手剣で使われる剣技、パワーアップしたのは威力だけではない。
    範囲も広がって完全に別の技、技ポイント(WP)消費が少し激しいが使い勝手もいい。

北斗練気闘座 ケンシロウがラオウと最後に闘った地、大量の石像がある。
       素手で作られたかどうかは定かではないがかなりの大きさ。
       SS内でホークが修行の一環として現在制作させられているが、
       土地はメルビルなので原作の練気闘座との関連性は特になし。
177作者の都合により名無しです:2007/11/12(月) 20:29:25 ID:4BoqntG70
ハロイ氏と邪神氏は何かに取り憑かれたかのように更新してるなw
いや、2人とも乙です。楽しませてもらってます。
久しぶりに勢いが良いバキスレ見られて嬉しい
178作者の都合により名無しです:2007/11/12(月) 22:05:35 ID:asQ4RxM/0
>ハロイさん
戦闘の緊張感とこういう時のコメディタッチがいいですね
貴也⇔静も貴也⇔初佳もありえるけど、原作は後者?
ブギーポップと貴也は静のナイト足りえるのか?

>邪神さん
いきなり究極奥義使うのかよ!w あ、「夢」想転生か。
冗談はさておき、人間味のあるケンシロウも宜しいかな、と。
トカゲと同行してる姿は想像すると笑えるしw
 
179作者の都合により名無しです:2007/11/13(火) 08:45:09 ID:4VqkFslS0
ここ数日で完全にスレがよみがえったな
さいさんは心配だが・・
180シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 14:54:21 ID:BnJqkpgy0
『液状と透明 G』


 視界が開けた。
 星が天を埋め尽くす夜空の下で、そいつはひっそりと立っていた。
 決して届かぬ虚空に思いを馳せるように、煌く空を眺めていたそいつは、今しがた校舎屋上に飛び出してきた少年に振り返る。
「あら、ユージン。私とお茶をしに来た──ってわけじゃなさそうね」
 そいつ──星火の微笑みを無視し、ユージンはつかつかと歩み寄る。
 膝を沈めて跳躍、回転が加えられた態勢から横薙ぎに胴を狙う蹴り。
 するりと後退し、難なく避ける星火の顔には、いまだ笑みが浮かんだまま。
「言わなかったかしら? 私は未来が『見える』のよ? 無駄だって分からない?」
 やはりユージンは答えない。
 答えの代わりというわけか、冷たい視線を真正面から送る。
「怖い目……なにをそんなに苛立っているのかしら」
 無言。
「やれやれ……少し、痛い目を見てもらうしかないのかしら? ねえ?」
 星火の微笑が微妙な変化をみせる。手頃な獲物を見つけた猫科肉食獣の笑み。


 ユージンは思い出す。
 かつて自分が、世界を裏から支配する巨大なシステム『統和機構』のエージェントだった頃のことを。
 中枢(アクシズ)の指令を受け、数多くの『進化しすぎた人間』たるMPLS、合成人間、そして普通人を殺害してきた。
 その頃は、自分がこういう状況に陥ることなど考えもしなかった。
 まず自分が統和機構を『裏切る』という発想すら存在しなかった。
 世界を回すシステムの、「あったら使うけどなくても別に困らない」歯車の一部──だいたいそんな風に自分を認識していた。
 そして今になって思い出す──ユージンの元『同僚』にして元『相棒』の、『最強』の名を冠する男の言葉を。
『お前、考えたことはねーか?』
 「なんのことだ?」と問い返すユージンに、そいつは言った。
『世界が裏返ってしまって、全てが自分に牙を向くときのことを、よ──』
181シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 14:55:42 ID:BnJqkpgy0
 ひときわ大きな音を立て、ユージンの細い身体がフェンスに叩きつけられた。
 夜風が緩やかに、前のめりに倒れた彼の身体を撫でて通り過ぎてゆく。
 その風に乗って、歌うような囁き声。
「ふふ、いいザマね。どんな気分? 単式戦闘タイプの合成人間にしてB9にランクしていたあなたが、
こうして無様にも地面に転がっているってのは」
 傷付いた手足を無理に動かし、おぼつかなくも立ち上がる。
「……どうということもない。これは単なる『過程』だ。貴様を足止めし、あの少女の元へ行かせないためのな」
「ふん、あの子を守る王子様ってわけ? でも残念ね。それはまるきりの無駄と言うものよ。
今は私が『遊んで』やってるだけで、実際のところ足止めにもなっていないのだし、
それに……あの子、きっと貴方を怖がっているわ。そんな貴方があの子の役に立てるつもりなの?」
「関係ない。僕は自分の目的のためにこうしているだけだ」


 思い出す。
『僕は誰かの役に立ったりするなんて一生ないだろう』
 ユージンの投げやりな言葉に、そいつはこう返してきた。
『だがお前はそんなことを言っているが、結局はお前の内部で鳴っている音楽に導かれて、結局はなにかをする羽目になる』
 思い返すに、そいつはとても奇妙な男だった。
 勝手にこちらを友達扱いし、暑苦しいくらいに馴れ馴れしい『そいつ』──。
 彼の視線はどこか遠くを見通していたような気がする。
 自分が所属している統和機構のことなどまるで眼中にないような──。


 助走を付けて加速し、そのスピードを腕に乗せて星火へ向ける。
(フォルテッシモ……君は僕がいつかこうなることを見通していたのか?)
 だが……。
 満身創痍のユージンの繰り出す拳は、もはや誰の目にも捉えられるほどの速度しか出し得なかった。
 それこそ『予知』の力など必要ともせず、星火はそれを受け止めて無造作に足を払う。
 つんのめって膝をつくユージン。数瞬後に、肩から床に落ちる。
(音楽なんて……聞こえないさ)
182シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 14:56:53 ID:BnJqkpgy0
 頭上から降り注ぐ楽しげな声。
「不思議ね……なんで貴方はそんなにもムキになっているのかしら。
そろそろ行かなきゃいけないのだけれど……どうして貴方は統和機構を『裏切っ』たの?
裏切り者同士のよしみでこっそり教えてくれないかしら? そしたら命だけは助けてあげてもいいわよ? んん?」


 心の中で、なにか風の音が鳴いたような気がした。
 その風の細い響きは、次第に大きく膨れ上がっていく。
『ごお……ごおおお……』
 聞こえる──。
 かつて聞いた『未来』の声が。
 天色優こと合成人間ユージンを、数奇な運命の果てに『ここ』まで連れてきた、そのメカニズムの発端が。
 ごうごうと鳴る風は、やがてか細い少女の声へと移り変わった。
『もしも……世界をその手にしたいのなら……わたしを殺せば……それが出来る』

 ユージンは今こそ思い出す。
 自分が統和機構を裏切ったその理由を。
 その時のユージンの任務はMPLS──『進化しすぎた人間』を探索して抹殺することだった。
 そうした人種を炙り出すために仕掛けた罠は、ビルの屋上に放置した札束入りのバッグ。
 その誰も知らないはずの『それ』に辿り着く者こそが、見えないはずのものを見、出来ないはずのことをことをする『MPLS』だと信じて。
 そして現れたのは、五人の少年少女。
 それが抹殺対象。
 だったのだが──。
『あなた、名前は?』
 なにを勘違いしたのか、彼らはそこにいたユージンに手を差し伸べた。
 きっと、自分たちの『同類』だと思ったのだろう。
 しかし、それでも──、
『天色優……です』
 誰かに心からの笑顔を向けられるなど、彼にとって初めての体験だった。
183シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 14:58:18 ID:BnJqkpgy0
 床に伏しながらもがくように伸ばされた手が、星火の足首をつかむ。
「なに──」
 全身を走る狼狽がユージンにも伝わる。
「は、放しなさい!」
 放すはずがなかった。
 たとえこの身がばらばらになろうとも──、
「ここまで接近していては貴様の『予知』とやらも用を為すまい!」
 残る死力を振り絞り、腕を思い切り振る。
 その勢いに流され、宙に舞う星火の身体。
 それを追って跳ね起き、腰から抱きとめる。そのまま疾走。
「な、なにを──」
「未来が『見える』んだろう? そうすればいい」
 だがもちろん、そんな余裕を与えるつもりはなかった。
 屋上を囲むフェンスに開いていた、人ひとり通るのがやっとといった穴に無理やり身体を押し込み、
「ま──」
 星火もろとも、ユージンは夏の夜空に躍り出た。


 廊下に横たわる、文字通りの死屍累々。その中に立つ黒い影と白い影。
「くそったれ、これで全部ノしたのか?」
「みたいだねー」
 朗らかに笑うファイをジト目で睨み、不服そうに唾を吐く黒鋼。
「しかしなんなんだ、こいつらは。どう見ても死んでるくせに動くってのは尋常じゃねえぞ」
「あのお姉さんは『墓守』って言ってたけどー?」
 そのとき、廊下の窓の外を『なにか』が上から下へ横切る。
 それは人間の輪郭をしているように見えた。
 たった一瞬のその影を、驚くべき動体視力で見定めた黒鋼の叫び。
「優!」
 珍しく真面目な口調でファイが言う。
「表だね。行こう、黒さま」
184シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 15:00:04 ID:BnJqkpgy0
 校舎脇の花壇に落下した二人のうち、先に立ち上がったのは星火だった。
「く……」
 落下の衝撃で損傷したのか、右腕をかばいながらよろよろと校舎の壁に背を預ける。
「なんなの、こいつ……イカれてるわ……」
 信じがたいものを見るような、かすかに恐怖の混じった視線で動かないユージンを見下ろす。
「こんなことをしてなんになると言うの……こんな捨て身のやりかたで、未来が『見える』この私に勝てるつもりなの……?
無駄に決まってるじゃない。ちゃあんと私には『見え』たわ。落下の瞬間がね。だから──」
「──『だから受身を取ってダメージを最小限に抑えた』とでも言いたいのか?」
 ぴくりとも動かなかったユージンが、おもむろに顔を上げた。
 そこに浮かぶのは──どこまでも静かで、どこまでも涼やかな表情。
「いや、実際さすがと言うべきだ……。僕は貴様の身体をクッションにしようとしていたが、
貴様はその『能力』でそれを察知したのだろう。見事に逆手に取られてしまったようだ」
 星火とは比べ物にならないボロボロな状態で、それでも、なにか得体の知れない不敵さを漂わせて立つ。
「だが、これではっきりした。貴様は『予知能力者』ではないと」
 その言葉に、星火は心底不可解な顔でユージンを見つめる。
 本当に、彼がなにを言っているのか理解できていない、という風に。
「もしも貴様が未来のヴィジョンが見える能力を持っていて、しかもそれを比較的自在に発現できるのなら──この状況をどう説明する?
屋上から敵と心中する、なんて危機はなんとしてでも事前に回避すべきことではないのか?」
 おぼろげながら理解しつつある──ユージンが言わんとするその意味を。
「おそらく貴様の『能力』は……貴様の危機意識と連動した、認識拡大能力なのだろう。
走馬燈とか衝突事故のスローモーションとかいうアレの強化ヴァージョンさ。
そして、貴様はそれを『能力』発現時の集中による時間感覚の消失に惑わされ、『予め見えていた風景』だと錯覚していたんだ。
実生活でよくあるだろう? 『電話のベルが鳴る直前にそれを察知した』とか『信号機の変わるタイミングが分かる』とかいう類と同レベルの話だ」
「ば、馬鹿な……」
 星火のまとう『余裕』の仮面が、いつしか綻んでいた。
「生憎だが、僕は『予知』というものに一家言があってね。貴様の言動はどう見ても『予知』を知る者のそれではないと、最初から思っていた」
185シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 15:07:40 ID:BnJqkpgy0
「だったら……だったら何だと言うの? それでも私のほうが圧倒的に有利なのは変わらないわ」
 押し付けていた壁から背を離し、まだ力の残っている足取りで一歩ずつユージンに接近する。
 優雅な動作で掲げられた掌が、びしっ、という硬質な音とともに張り詰める。
「今の貴方じゃ私に攻撃を当てられないでしょう?
貴方の忠告はありがたく拝聴させていただいたわ。自分を知るということは大事よね、確かに」
「どんな気分だ?」
「……え?」
「貴様が得意がっていた『能力』が、自意識過剰も甚だしい勘違いだって分かったときの気持ちさ」
「その毒舌が貴方の最後のプライドなの? ……哀れね」
「プライドじゃないさ……貴様の似非能力を目の当たりにするのは、僕の思い出を土足で踏みにじられるのに等しいからな」
 星火の目つきが一変する。余裕も笑みもない、苛立ちと険しさだけに彩られたものへ。
「楽にしてあげるわ。統和機構の『元』殺し屋さん」
 闇夜に振り上げられた、人を殺せる硬度を持つ手がユージンに差し向けられたその時、
「天色くん!」
 『なにか』が両者の間をさっと横切り、ユージンの身体を突き飛ばした。
 虚しく宙を薙ぐ星火の貫手、その闖入者を探す彼女の瞳にはなにも映らない。
 ──ありえない。たとえ『予知』の瞳が勘違いだったとしても、今現在起こっていることが見えないということがあるものか。
 半ば焦りつつ、目を凝らして探知できるレンジを拡大。
 赤外線探査能力が最大限に開放された白黒の世界で──見えた。
 しがみつくようにしてユージンの身体を押し倒している、小柄な少女。
 星火よりもさらに呆気に取られた声音で、ユージンがつぶやく。
「静・ジョースターさん……なのか?」
186シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 18:18:38 ID:BnJqkpgy0
『液状と透明 H』


 ふと目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
「……あれ?」
 目の前には閉ざされた淡いピンクのカーテン、かすかに漂う薬品の匂い、
「あーっと……保健室? なの、かな」
 目覚めたての重い記憶を揺さぶり、この状況の前後関係を再構築しようと努める。
 確か、自分はあの謎の男子生徒から追っかけられて、そしてその仲間らしい二人の教師にも──そして──、
「──あ!」
 がばっと起き上がる。
 なにか妙に涼しいので胸元を見ると、なぜかセーラー服の上着だけが消えてなくなっていて、
花柄レースで縁取られたシュミーズの白さだけが目に入っていた。
「うぇ……なんで……?」
「お目覚めかしら、静・ジョースターさん」
 カーテンの向こう側から、そんな声が聞こえてきた。とても落ち着いた、色っぽい感じの女性の声。
 誰だか分からないが、とりあえず素直に返事をする。
「あ、はい。お目覚めです。……保健の先生ですか?」
「いいえ。彼女は煙草を買いに出かけたわ」
 つまりこの人は留守番かなにかだろうか。
「私は壱原侑子よ。よろしくね」
「あ、はい」
「ところで……大変だったでしょう。大の男三人に追い掛け回されて」
「え」
 言葉の意味を受け取りそこね、一瞬のフリーズ。──再起動。
「え、あの、ご存知なんですか!?」
「そうね。でももう安心よ。貴女はその奇妙な運命の巡り合わせから外れかけている。
事態は、もはや貴女を必要としない局面にまで発展しているのだから」
 と、カーテンの向こうの侑子が言う。
「貴女は、ここで事態が収束するのを待っていればいいわ。それが一番安全」
187シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 18:19:56 ID:BnJqkpgy0
 彼女の言っていることは所々分からないが、つまり「ここは安全な場所だからもう心配はいらない」という意味なのだろう。
 だが──。
「あの……侑子さん」
「なにかしら?」
「わたし、どうしてあの人たちに──」
「貴女が知る必要はないことよ」
 ぴしゃりと遮られた。それこそ、有無を言わせぬ勢いで。
「それを知ると、もう引き返せなくなる。彼らが関わっているのは、そういう危険なことなの。
この事態が終わりを迎えたら、もう貴女に関わることもなくなるでしょう。犬に噛まれたとでも思って忘れなさい。
あの都市伝説くんも、そう願って無理矢理に貴女をこの事態から引きずり出したのよ」
「でも」
 分けも分からず、静は言い返していた。
「でもわたし、知りたいんです。あの人たちは、なにを知ろうとしていたのか」
 そのたった一つの欲求を裏付けるように、後から言葉が湧き出てくる。
「わたし、ある男の子と知り合いになりました。その人は変身ヒーローで、この街を守っているんです。
この学校には『恐ろしい怪物』が潜んでいるって言っていました。今、この街にはなにが起こっているんですか?」
「それこそ貴女には関係のないことよ。
『怪物』を狩るのは王子様の仕事。『どうして私は攫われるんだろう?』と考えるお姫様なんていないわ」
 聞き分けのない子供を言い含めるような、優しくも容赦のない声。だが……怯まない。
「わたし、お姫様なんかじゃありません。わたしはこの街で生まれました。
でも、本当の親の顔を知りません。この街を知りません。知りたいんです。この街のことを。
『わたしはいったい誰なのか』を」
 しばらくの穏やかな沈黙。
 ややあって、カーテン越しに「ふう」という諦めたような、だがどこか微笑ましく感じているような溜め息。
「『時よ止まれ』、ね──」
「……え?」
「『この世界を知る』、たったそれだけのために魂を売った男に、悪魔がその気高さを讃えたセリフよ。
ある意味、貴女にとって因縁のあるフレーズでもあるわ」
「はあ」
188シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 18:21:16 ID:BnJqkpgy0
「そして、その男は……最終的にその悪魔をも出し抜いた。魂を差し出す契約を反故にしたのよ。
『知る』こということの本質は、それだけ苛烈なことよ。
世界に己の心をどこまでも溶かしてゆき、しかしてなお煮詰まることすら許さず、瑞々しくあらねばならない──」
「……ジャム作りみたいな話ですね」
 なんとなくの静の雑感だが、侑子はさもありなんという風に同意。
「そうね。まさしくその通りだわ。──もしも貴女にその心があるのなら、私に願いなさい。
私の口から全てを教えることはできないけれど、貴女の『知りたい』という気持ちを、その行動を助けることはできる」
 静の視線がしばしカーテンの布地の上を彷徨い──『それ』を口にする。
「屋上で出会ったあの人の名前を、そして彼が今どこにいるのかを」
「それを教えるには『対価』が必要よ。でも……貴女は既に差し出しているわね」
 「対価」と聞いてちょっと怖気づいた静だったが、あっさりとひっくり返ったので目を丸くする。
「へ? なにか出しました?」
「彼の『秘密』の対価はやはり『秘密』──『貴女という存在』にまつわるトピックス、確かに受け取ったわ」
 そして厳かに、高らかに宣言される侑子の声。
「その『願い』──叶えましょう」


 静・ジョースターが出て行き、空になった手前側のベッドのカーテンが窓から吹き込む風によってたなびいていた。
 ベッドの人の気配はあれど、他は誰も見当たらない室内で、ゴミが散乱してるデスクの上から声がする。
 当然だがそこに人はいない。ビールの空き缶、吸殻が山盛りの灰皿、あとはファイルがいくつかと小さなぬいぐるみくらいである。
「秋月貴也くん、起きているかしら?」
 そんな侑子の声に応えるのは、
「うーん……初佳さん晩御飯作るの手伝ってよビールばっか飲んでないでさあ……」
 という、真ん中のベッドからむにゃむにゃ混じりの罪のない寝言。
 「あら」と侑子は声だけで笑い、そして溜め息。先ほどのものとは違い、深刻そうな色を滲ませて。
「やはり……彼女は行ってしまったわ。結局、私の干渉など微々たるものでしかないのね。ねえ、都市伝説くん」
「『全て世は事も成し』……というやつさ。無力だな、お互いに。なあ魔女さん」
 というやけに無感動でぶっきらぼうな声が真ん中のベッドから返ってきた。
「そうね、それでも……各々が出来ることをするしかないわ。
──モコナ。サクラを起こしてもらえるかしら。『こっち』より『あっち』のほうが先にカタが付きそうよ。間も無く小狼が目を覚ますわ」
189シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 18:23:37 ID:BnJqkpgy0

「馬鹿な! どうしてここに来た!? 僕は君を──!」
 姿は見えないが、『確かにここにる』重みを胸の上に感じ、ユージンは叫ぶ。
 そう言っている間にも、形相を変えた星火が一足飛びでこちらへ迫る。
「くそ──」
 無我夢中で胸の中の『それ』を抱き締め、横に転がる。
 星火の狙いは外れ、代わりにユージンの後ろにあった若木が圧し折れる。
「ちょ、ちょっと、どこ触ってるの!? そこダメ、絶対ダメ!」
「仕方ないだろう、見えないんだから」
 この緊迫した状況になんという間抜けな会話だ、と呆れ返ったのも束の間で、
「シャアッ!!」
 いわゆるマンティコアタイプ──全ての合成人間のルーツである『天から来た者』の一世代コピーである合成人間の、
怪物じみた身体能力を全開にした星火の鋭い爪が二人を襲う。
 脚でそれを受け止め、跳ね飛ばす──その反動でさらに転がり、距離をとる。
 勢いを付けて立ち上がるころには、なんとか上手い体勢で『見えない』静を抱きかかえることに成功していた。
「……今度は文句ないな?」
「うん……まあ」
 触った感じからして、彼女の脚と背中に手が回っており、また彼女もユージンの首に腕を絡ませているようだった。
「その子をこちらに寄越しなさい。いえ──分かったわ。譲歩しましょう。
貴方の用が済むまでは預けてあげる。だからその後は──ね?」
 びりびりと殺気を漲らせていてはなんの説得力もないのだが、とにかく星火は猫撫で声を装ってユージンに持ちかける。
「勝手なことを言わないでください」
 ユージンが何かを言う前に、静がそう言い放った。
「わたし、あなたに用なんてありません。というか──誰ですか? 邪魔だからどっかへ行って下さい」
 つい数秒前の交錯で戦闘能力の差は歴然だろうに、よくもそう言える──内心で舌を巻くユージンだったが、
「──だ、そうだ。僕の方でも状況はすでに変化している。どうあっても貴様には渡せない」
「死ぬわよ? どちらかが──なあんて、タルいことは言わないわ。両方ともよ。
静・ジョースターさん、知らないようなら言ってあげるけど、私の目は特別なの。『消えた』貴女を見る事だってできるのよ」
 その言葉には虚勢もなにもないだろう、彼女にはそうするだけの能力がある。
 だが──、
「本当ですか?」
 またも強気に言い放つ。
190シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 18:25:14 ID:BnJqkpgy0
「だって、あなた、わたしが近づくの見えなかったんですよね。
だから──わたしが天色くんを突き飛ばすのを止められなかった」
「いい加減にしなさい──それでハッタリをかましているつもり?
さっきは不覚を取ったけれど、今は見えているわ。貴女の『消える』能力より、私の知覚能力のほうがわずかに上回っているのよ」
 やがてユージンは気づく。静の発言は決して強気から出たものではないことを。
 密着した身体からは、その心臓が早鐘を鳴らしていること、そして手足が小刻みに震えてることが感覚されていた。
「天色くん。降ろして」
「なに? おい、それは──」
「出来るって言うなら、見えるって言うなら、やってもらうわ」
「やめろ、あいつの言葉は嘘じゃない。あいつは赤外線を感知できるんだ」
「でも……わたしは天色くんをさっき助けることができたよ。
わたしの『アクトン・ベイビー』なら、きっとその赤外線すらも通り抜けてみせる」
「しかしだな」
 そんな、傍目には声音を変えた独り言みたいな馬鹿馬鹿しい言い争いを眺める星火は──内心、ほくそえんでいた。
 そう、確かに静・ジョースターの『アクトン・ベイビー』という能力は赤外線すらも透過しつつあった。
 だが──完璧ではない。
 モノクロの世界の中でも、わずかにちらちらと蠢く陽炎のようなざわめき──それが、『見えない』静・ジョースターの姿だった。
 それが大きく動いた瞬間こそが、彼女がユージンの保護から離れた瞬間であり、最初にして最後のチャンスだ。
 ユージンによって全否定された『レディ・ゴディバ』という『能力』だが、冷静になって捉えなおしてみれば、それは『使える』能力だった。
 戦局を左右する一瞬を自分の意思で拡大できるなら──ユージンは自分の行動を読んでカウンターを合わせてくるだろうが、
それよりも早く静に一撃を食らわせることが出来る。
(なににムキになってるか知らないけれど……そのどうしようもない『甘さ』が命取りよ、静・ジョースターさん)
「いいから離して」
「おい!」
 そして、その時は来た。
 赤外線探査能力が最大限に発揮された、白と黒の世界。
 その中で大きく動く朧な影。
 そこのみに意識を集中させ、『レディ・ゴディバ』を発現する。
 全てがスローモーションに動く色のない世界。
 星火の腕はその『影』を捉え──その、あまりの手応えの軽さに愕然とした。
191シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 18:30:08 ID:BnJqkpgy0
(これは人体ではない……もっと軽い……布のような……着衣か!)
 深海を進むような感覚。認識能力が拡大しても、身体までがそれに追いつくわけではない。
 では彼女はまだ──?
 ユージンのほうへと意識を移した星火は、そこになにもないことを知る。
(消えた!?)
 ミリセコンドの単位で混乱する星火。
 幾らなんでも『レディ・ゴディバ』を上回るスピードで動けるわけではない。
 すると──残された可能性は──。
 星火の赤外線探知能力と、静の『アクトン・ベイビー』のせめぎ合いの結果は、わずかに静の方に傾いていた。
 だが、囮とするための衣服を手放すまでは星火にも探知できるレベルに留めおき、その後、ユージンもろともに──。
 そこまで考えたところで、星火を自分に接近する『見えない』気配を察知する。
 ギリギリの判断で自ら後ろののけぞる彼女の顎を、神速の蹴りが捉え──振り抜かれた。
「ぐぅっ……!」
 辛うじて致命傷は免れ、だがその衝撃で後ろに吹き飛ばされる。
 校庭の土に背中を擦りつけ、それでも即座に飛び起きる。
 そこに殺到する『見えない』足音──音だけは一人分、だが重さは二倍。
「しがみついていろ、静さん!」
 その言葉の意味するところは、すなわちユージンは彼女を安定して支えることを放棄しているということで、つまり──、
 自由になったユージンの左腕が星火の肩口に突き刺さり、その掌から分泌される『リキッド』が星火の体組織と急激に反応し、
 ──爆発した。
「ぐ、ぐうう……」
 吹き飛んだ己の腕には目もくれず、星火は全力で後退する。
 あの必殺とも言える『リキッド』を、腕一本の被害で済ませたのは『レディ・ゴディバ』による超反応の賜物だろう。
 そして、今度は『見える』姿を察知する。
「優、どこだ!? 生きてんのか!?」
「あの女の人が怪我してるっぽいからー、まだ大丈夫みたいだよねえ」
 『異世界人』──黒鋼とファイ。
(さすがに……こりゃ無理だわ)
192シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 18:36:25 ID:BnJqkpgy0
 荒げる呼吸を整え、出来る限り静かに声を絞り出す。
「お互いに……手詰まりということかしら?」
「……だろうな」
 と、『見えない』声。
 さっきの攻撃は、ユージンにとっても残る全力を尽くした最後のチャンスだったのだろう。
「そこの異世界人さんたちがここに来れたということは……」
 無事な右腕で黒鋼とファイを指差す。
「『ダーク・フューネラル』がどうにかなっちゃってことで……そっちも心配だから私、帰ってもいいかしら?」
 返事はない……と言うか、
「おい、大きな声で言えばいいだろう。……なに? 腰が抜けて声が出ない? 腕?
あのくらい、合成人間にとっては致命傷でもなんでもない。向こうだってピンピンしてるだろう」
 とかなんとか、どこか情けなさそうなユージンの声がどこからか聞こえ、咳払い、
「……貴様が退くことに異論はない──というようなことを彼女は言っている」
 さっきまで血みどろの死闘を演じてたことが馬鹿馬鹿しくなるような返答だった。
 くすり、と笑ってもいいような場面だが、星火は笑わず、しかし口調だけは軽いノリで、
「私に一杯食わせるなんて、可愛い顔してなかなかやるじゃない? 貴女がしてくれたこと……決して忘れないわ」
 その言葉を最後に、星火の姿は月に舞い、そして闇に潜っていった。


 きょろきょろと辺りに首を巡らしながら、黒鋼とファイが駆け寄ってくる。
「優くん、だーいじょーぶー?」
「ああ、問題ない。──ところで、そろそろ透明化を解いてくれると嬉しいんだが。正直、自分の姿が見えないというのは心持が悪い」
「あの……天色くんだけでいい? その、見えるようにするのは」
「……? なぜ君は姿を現さない?」
「いや、だって……元々上着を着てなかったし、さっきスカートまで投げちゃったから……」
 それは知っていた。降ろせ降ろせと口で言う割りには首に回した腕を解かず、
しかもなんかもぞもぞ動く感触で、ユージンは静の意図を見抜き、それに沿うように動いて星火に一撃を与えたのだから。
「だが分からないな……。結局、なにが問題なんだ?」
 腕の中で、『見えない』静の体温が急上昇したような気がした。
「もう! 馬鹿!」
193シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 18:59:50 ID:BnJqkpgy0
 彼女がなにを嫌がっているのかはユージンには分からず仕舞いだったが、
とにかくユージンは『見える』ようにしてもらい、また彼女も半透明でゆらゆら揺れる影としてその姿を晒していた。
「しかし……なんでこんな無茶を?」
 結果的にはなんとかなったが、振り返ってみるに『なんとかならない』可能性のほうが大だったのだから、この疑問は当然と言えた。
「……これが、わたしの『能力』、『アクトン・ベイビー』」
 降りるのも降ろすのも互いに忘れた状態で、息のかかりそうな距離で静の声が聞こえる。
「身を以って体験してもらって、少しは分かってもらえたと思うの。これがわたし。嘘偽りない、本当のわたし」
「あー、と……つまり……」
 心底呆れたように、ユージンは一語一語念を押すように言う。
「……『自己紹介』……だと言うのか? 僕の『君は誰だ?』という質問に対する答えだと? それだけのために?」
 ──腕の中のものが、急にずっしり重くなったような気がする。
「次はあなたの番だよ? あなたは誰なのかしら、天色優くん?」
 彼女は、透明に笑っていた。
 それにつられるように──意識せず、ユージンこと天色優も笑っていた。
「僕は……」


「僕には友達がいた。その友達は皆……『未来を知る能力』を持っていたんだ。
だが、ふとした拍子に『世界を滅亡させる予知』を引き込んでしまい、それに抗うために、僕らは戦った。
そして……今は散り散りになってしまった。二度と会えなくなってしまった人もいる。
『イントゥザアイズ』『アロマ』『ベイビィトーク』『ウィスパリング』そして『オートマティック』。
そんな彼らは、別れを迎える前に、遠い未来の出来事を『予知』した。
それが『羽』にまつわる予知だ。
彼ら一人ひとりの『予知』は不完全で断片的だったけれど、それを突き合わせると、
『ある奇妙な羽を追うものが世界を引っくり返してしまう』……というものだった。
僕はこの世界に対して大した思い入れはないけれど……彼らは違っていた。
この世界が『輝くもの』に満ちていたと信じて、懸命にそれを守った。
だから僕も、『そうしよう』と思った。今はもういない彼らに代わって、この世界を守ろうと思った。
──だからこの街に来た」
194シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/11/13(火) 19:14:38 ID:BnJqkpgy0
 そんな内容の長い話を終え、ユージンは静を振り返った。
「これで全部だ……これが、天色優として生きる僕だよ」
 学校指定のジャージに身を包む静は、ほうっと息を吐いた。
 熱帯夜の時期にはまだ遠く、涼しげな夜風が屋上に吹いていた。
「聞いてくれてありがとう」
 と、繊細そうな微笑を浮かべる彼の顔に、なんとはなしの落ち着かなさを感じて静は下を向く。
 なにか言わなきゃ、という意味の分からない焦燥に駆られ、
「えと、天色くんは……」
「嫌だな、優でいいですよ、静さん」
 そう言う優しげな声は、昼間の極限まで研いだ刃みたいな態度とは百八十度真逆で、目の当たりにする静は戸惑いを隠せない。
「キ……キャラ違うよ……?」
「こう見えて僕も色々と複雑な性格でね、友達にはこう接したいと思ってるんですよ」
 極め付けに自然な所作でウィンクまでされた。
 うわー、というのが静の正直な反応だった。
 白皙の美少年に真正面から見つめられて平静を保てというのがどだい無理な話だろう。
 この自分だけ感じている気まずさはどう振り払ったらいんだろう、と思い悩むが、
「おいコラ優!」
「なんだ、黒わんこ」
「なんで俺にはそーゆーナメた態度なんだ!」
「ふん、僕にとってお前たちはその程度だということだ」
「優くん冷たーい、オレ悲しいなー」
 どうやら友達(?)らしい教師と言い争いを始めたので、そのある意味贅沢な悩みはたちどころに霧散する。

 空を見る。
 今日一日のゴタゴタを労うような、嘘みたいな満天の星。
195ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/11/13(火) 19:20:54 ID:BnJqkpgy0
例によって駆け足展開でした。
「液状と透明」終了です。
後ほど今回の登場人物紹介でも。
196ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/11/13(火) 20:20:09 ID:BnJqkpgy0
ユージン(人間名 天色優)
登場作品「ブギーポップ・イン・ザ・ミラー パンドラ」「ブギーポップ・オーバードライブ 歪曲王」「ブギートーク・ポップライフ」

統和機構の合成人間でありエージェントでもあったが、ある任務を期に生死不明に。
「温厚で人畜無害で女みたいな美少年」「冷徹で冷淡な任務の鬼」という二つの顔を相手によって使い分ける。
特殊能力は掌から分泌し、生体組織を爆散させり特殊体液『リキッド』。
卓越した戦闘センス、そして統和機構内でも『最強』のエージェントから「将来のライバル候補」と目される潜在能力を秘める。
舌の感覚が発達しており、それで生体兵器を分析するほどの性能を誇る。
また、必要とあればなんの躊躇なく幼女にもディープキスをかます氷の心の持ち主。そこにシビれる憧れる。

原作では五人の予知能力者と出会い、彼らに取り入るために『聖痕(スティグマ)』という
『未来の情報が傷として浮かび上がる』能力を詐称する。
だが彼らと行動するうちに友情に目覚め、死ぬことで発動する『最終兵器』たる少女を保護するために『世界の敵』と戦う。
色んなところで名前だけは出てくるが、登場回数が極端に低い。
最強オレ様キャラ「フォルテッシモ」の初撃をかわしたことで見初められ、一方的な友情を押し付けられて辟易したりしている。
197ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/11/13(火) 20:21:22 ID:BnJqkpgy0
黒鋼
登場作品 「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」

様々な異世界に飛び散ったサクラの『羽』を取り戻すべく、異世界を渡り歩く旅人。
出身は日本国(ニホンコク)。現代日本ではなく、戦国ファンタジー風の世界。
好戦的で粗野な性格が主君である知世姫の不興を買い、「武者修行」として異次元世界に飛ばされる。
(後にそれなりの思惑があると判明するが)
忍(シノビ)として桁外れの戦闘力を持っており、強力な剣術の使い手。ゲームの世界で手に入れた「蒼氷」が愛刀。
「日本国に帰る」こと目指して姫から賜った宝剣「銀竜」を次元の魔女に差し出し、小狼、サクラ、ファイの旅に同行する。
パーティーの中では唯一のツッコミ役で、ボケ役のファイに常にからかわれている。
ぶっきらぼうだが、全体を見渡す視野の広さも備えており、精神面で未熟な者だらけのパーティーを支える「お父さん」役。

原作では今現在、色々あって利き腕が機械化。


ファイ(ファイ・D・フローライト)
登場作品 「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」
様々な異世界に飛び散ったサクラの『羽』を取り戻すべく、異世界を渡り歩く旅人。
出身国は魔法と吹雪の国、「セレス」。
呑気で飄々として人当たりのいい好青年──を表に出してるが、その実本心を明かさない策士タイプ。
強大な魔力を持っているが、それを行使することを極端に厭う。というかまったく使わない。
「元いた世界に帰らず逃げ回りたい」ために次元の魔女の元を訪れ、対価として「魔力を封印するタトゥー」を差し出す。
常に笑顔を貼り付けているが、ときおり虚無的な言動や表情を見せる。
それをいち早く察知し、また自分が他人と距離を置きたがることも見抜く黒鋼を苦手に思うことも。
その一方で気配りと優しさを忘れない面があり、厳しい現実に直面する小狼やサクラを励ます「お母さん」役。

原作では今現在、色々あって吸血鬼化。
198作者の都合により名無しです:2007/11/13(火) 20:59:06 ID:tkrimx+o0
ハロイさん今まで冬眠してたのが信じられないほど鬼更新だw

「液状と透明」、文字通り主人公と重要キャラの2人の位置付け関係付けを
ハッキリとさせたパートでしたね。これからの展開に必要不可欠な為、
ハロイさんも駆け足で更新されたのでしょう。

最後はほのぼのとした青春ドラマっぽく締めましたが、嵐の前の静けさなんでしょうな。
199作者の都合により名無しです:2007/11/13(火) 22:12:47 ID:1uBgSdEs0
この作品読んで気に入って
ハロイさんのサイト見に行った
読み切りも憎いほどウマいね
200永遠の扉:2007/11/13(火) 22:42:15 ID:fkBnRZhw0
第024話 「演じるというコト」

『彼女』は寄宿舎での生活を不思議そうに眺めている。
共に行動する機会の多い少女たちは、まさか自分が友人を演じている
とは思ってもいないのだろう。
眼鏡を掛けた理知的な少女も、いつもほんわか笑っている栗毛の少
女も、どこか自分と似ている幼げな少女も、きっと。

時間がきた。

『彼女』は日常を演じるための必要事項を実行するコトにした。
衛生上の必要はない。
信ずる者も命じてはいない。
焦がれる者もまた同じく。
それでも『演じる』コトには不可欠だから、行くコトにした。

ヴィクトリアは浴場につくと、とりあえず中を見渡してみた。
幸い誰もいない。ホッとした心持になるのは百年来の地下生活のもた
らした厭世ゆえか。
地下の静謐に比べればこの地上はうるさくて仕方ない。始めてココに
案内された時など、湯気の中でひしめきあう三ダースほどの少女の人
口過密度に内心反吐を催したものだ。
今は誰もいない。
自分が作り出した地下空間を闊歩するような奇妙な独占感覚があった。
湯気漂う浴場に少女のしなやかな体をなよなよと闊歩させると、やがて
半埋め込み式のかなり大型の湯船に到達した。
先の少女過密事件(と捉えるのは地上でヴィクトリアただ一人だが)が
時間の流れによって時効を迎えた時、がらがらになった湯船へヴィク
トリアは内心なかなかに驚いた。
縦に両断したひょうたんを想起させる変わった形状だ。
ひょうたんの曲線の内側に入浴台があり、他には小さいながらに階段
が二か所あって、その両脇では手すりが新鮮な銀の光を放っている。
201永遠の扉:2007/11/13(火) 22:43:26 ID:fkBnRZhw0
紹介してくれた千里にはまったく豪勢としか感想を述べられず、事実、
実感や本心としてもそうだった。
風呂といえばせいぜい二〜三人が入れるぐらいの簡素な造りだという
のが通念だったが、目の当たりにしたコレはどうだろう。
造りが「豪勢」な上に、広い。思えば少女どもが三十名ばかしそこに溜
まりこんでヴィクトリアに不快感をもたらしたぐらいだから、ともかく広い。
お風呂のお化け、ホムンクルスのくせにヴィクトリアは子供じみた感想
を抱いた。もっとも同じ感想を嫌いな少女がこれまた年齢から逆算すれ
ばお化けじみた胸も露にひっきりなしに叫びまわってしつこく同意を求め
てきたのには辟易したが。

とりあえずヴィクトリアは入浴台に小さなヒップを預けてしばらく太もも
から下だけを湯船に浸してみた。
温度はちょうどいい。人気のない時間だというのにそういう調整を欠か
さぬ者に「ご苦労さまね。でも、光熱費とか考えてるの? 考えなしに
やってると赤字出るわよ」と皮肉を感じずにはいられない。というのも
ヴィクトリアは母・アレキサンドリアとの百年にも渡る隠遁生活を、ニュー
トンアップ女学院なるスクールの地下深くで送ってきたのだが、その時の
水道光熱事情というのが実に吝嗇(りんしょく)極まりなかった。
「アンダーグラウンドサーチライト」という避難壕(シェルター)の武装錬
金で広大な地下空間を形成すれば、住居のスペース的な問題はない。
が、作成できるのはそれまでで、電気や水などは外部から持ってくる
他ない。よって女学院の電気水道を拝借していた。
要するに盗電・盗水の類である。
もちろんそのあたりの後ろ暗さや、むやみに取れば隠遁生活が露見し
てついには憎むべき錬金の戦士に愛する母を殺されたであろう事は
重々承知していたからヴィクトリアはわざわざ女学院に上りこみ、電気
を使うであろうあらゆる機械を点検して総電力使用量を概算し、それで
もまだまだ不十分に思えたから女学院当ての電気料金の請求書をど
こからかくすねたノートにメモし、或いはその余裕がなければ請求書を
盗み、より正確な電気使用量と料金を踏まえた上で「これだけであれば
誤差の範囲で済む」と盗電の量を決定した上で、ようやく電気を頂戴し
202永遠の扉:2007/11/13(火) 22:44:43 ID:fkBnRZhw0
ていた。水道料もほぼ同じく。で、百年ほぼ毎月それを継続して「誤差
範囲」程度の水道光熱費で生活していたというからもはや偉大なる倹
約者として称えるべき姿勢だ。
余談だが、ヴィクトリアにとって夏は実に好ましかった。暑さそのものは
どうでもいいが、暑いが故に冷房や水道水が無尽蔵に浪費される時期
だったため、盗電盗水を多少おおっぴらにやっても「誰かの無駄遣い」で
済むコトを知悉していたからだ。
そんな彼女はいま、銀成学園の寮の浴室で無駄遣いを甘受している。
ミルクを流したように白い肌へ水滴がまとわりついてきて、鎖骨や腹を
しっとりと濡らした。
ちょっと汗ばんでいるかも知れないと思ったので、ヴィクトリアは控え目
な胸にかかった髪を頭上で適当にまとめて湯船に半身を沈めた。

何をするワケでもなく十分ほどぼーっと湯船に浸かっていると冷えた体
にぽかぽかと熱が上ってきて心地よい。
ただ背中に当たる入浴台がごつごつして鬱陶しいので、ひょうたんの
両断部分、要するに直線部分を目指して四つん這いで歩いてみた。
普通に立てば早いが、暖かい湯の抵抗をかき分けながら歩く方がカ
タルシスがある。やがて忌まわしき入浴台のない湯船の壁に背中を
預けると、ヴィクトリアは天井を見上げてふぅーっと息を吹いた。
それから胸元まで体を沈めて、つま先をピーンと伸ばして腕を上げると
いろいろ全身に凝り固まった物がほぐされていく感じがして気持ちいい。
もっともその間、例の筒を通した髪を頭の上でごちゃごちゃとまとめて
いるのはあまり心地いい見た目ではないだろう。
ヴィクトリア自身かなりそう思う。蟹お化けだ。それもゴールドの。
まったく、お風呂のお化けの中にホムンクルスがいて髪型を蟹お化け
にしているなど笑い話にもならず、そぞろに失笑を禁じえない。
これで髪がほどけて変な垂れ方をすればますます下らない。
そろりと頭に手を伸ばし、ほどよく硬い質感を撫でてみる。
大丈夫そうだ。
幸いそれらはよく絡まり合って髪に対して滑り止めの効能を存分に発
揮してくれている。
203永遠の扉:2007/11/13(火) 22:46:45 ID:fkBnRZhw0

「ヘアバンチ」

というらしい。
「そう。あなたが髪に通してるその筒状のアクセサリーの名前」
いつものように髪を梳いて貰っていると、千里がそういうコトを教えてく
れた。
不思議な話、ヴィクトリアは知らなかった。例えばその「ヘアバンチ」と
やらに髪を通すときもどこかに置き忘れて探すときも何かにぶつかり
カチリと鳴って苛立たしく思うときも、総じて「筒」とか「筒みたいなコレ」
とか意識が定義していて、名前を別に知ろうとも思っていなかった。
反面、千里は知っている。
その一時だけで平素抱いている慕情に似た感情が高じてしまい、尊敬
の念すら抱いてしまう。
もしかすると自分の為にわざわざ調べてきてくれたのだろうか、とかお
およ自分らしくない期待に心躍らせたり、いやいや元々の向学心ゆえ
に気になって調べて披露してくれただけだとか意味もなく期待感を抑
えようとしたりもするが、仄かな胸の高鳴りは収まらない。
もし鏡があったら、頬をリンゴみたいにして目を熱っぽく潤ます思春期の
少女を銀光に栄えさせていただろう。
それだけ心で反芻する知りたての単語は心地よく、新鮮だった。
「それにしてもずいぶん古いよね」
きょうびの高校生らしからぬ落ち着きある千里の微笑に対し、何が?
という顔を考えなしにしてしまったヴィクトリアはすぐ気付いた。
ヘアバンチの話に決まっている。それも分からないほどのぼせていた。
「う、うん」
「どれぐらい使っているの?」
「百年ぐらい」
これまたポカだ。まったく猫かぶりの顔が「しまった」というように目を
白黒させて口すら諧謔めいた波線になった。
ヴィクトリアが嫌ってやまない軽々薄々の唾棄すべき天然ボケの栗毛
ならばそこで目を「以上」と「以下」、一対の不等号と化して頭をポカポ
204永遠の扉:2007/11/13(火) 22:48:53 ID:fkBnRZhw0
カ殴るだろう。
嘘はついていないが、だからこそマズい。どこの世界に同じ装飾品を
百年ぐらい使える人間がいるというのか。
「あ、ひょっとして代々使っているとか?」
幸い千里は、その賢明さゆえに勘違い──もっともこの場合は至極
常識的な推理といえるが──をしてくれたので正体は露見しなかった
ものの、
「う、うん。そんなトコロ。あは。あはははは」
ヴィクトリアは空笑いをした後、よれよれとした足取りで自室で戻り、お
ろしたてのベッドシーツの上にしばし突っ伏した。

(本当、何をやってのよ私)

ホムンクルスの自分が寄宿舎にいていいのだろうか。
馴染むたびに思う。
白い風呂椅子に腰かけて、百年生きているのにシミ・シワ一つない滑
らかな肌をタオルで磨いている時も、そう思う。
本題とは関係ないが、ヴィクトリアは石鹸やシャンプーの類は好かな
い。というか女学院から入浴の都度くすねるのが面倒くさかったので
自然とタオルで肌をごしごしするだけになった。
人間の肌というのは不思議なもので、湯水に10分ほど使っていれば
古い角質層が自然と落ちやすくなっている。ホムンクルスのヴィクトリ
アでもそれは同じらしく、ただタオルで磨くだけでもすべすべの肌は保
持できるのだ。そもそも石鹸やシャンプーの類には油汚れを落とす界
面活性剤が含まれているのだが、これを用いると汚れとともに皮膚の
防護機能を司る皮膜までもが洗い流されてしまい、露出した角膜層が
刺激を過敏に感じるようになる。肌の弱いものであればかえって肌荒
れや痒みをもたらしてしまうのだ。
付記すると肌で乳化した界面活性剤の類はやがて消化管に流れ込み
免疫細胞形成用のとある物質の製造を阻害するのだが、こちらに筆を
弄するのはもはや日露戦争にふれるぐらい脇道であり趣味にすぎぬか
ら割愛する。だが諸君、私は日露戦争が好きだ。旅順が好きだ奉天が(ry
205永遠の扉:2007/11/13(火) 22:53:45 ID:fkBnRZhw0
その点ではヴィクトリアの入浴方法は正しいといえるのだが、正しい
コトをやっていても邪魔が入ってくるのが人間世界であるらしい。

シャワーを浴び終え、取り外したヘアバンチの中にボケーっとした表情
でお湯を流して洗っていたヴィクトリアは、ふと何か嫌な物が接近して
くる気配を感じた。
感じただけで、どこからとかどんな物体がとかいう説明はできない。
ホムンクルスだからといって別段聴覚の類が優れているワケではない
のだ。
ただ、漠然と、感じた。
亜空間がらみの武装錬金というつながりで引き合いにだすが、優れた
聴覚を持つ根来がもしこの場にいれば、ヴィクトリアの感じた「接近す
る物体」をこう説明しただろう。

私がホムンクルスの少女の入浴を観察していると、脱衣所の扉が開く
音がした。
入ってきたのは一名。足音からするとどうも小柄な少女であるらしい。
彼女は上機嫌で何やら口ずさみつつ衣服を脱ぎ棄てロッカーに押し込
めると大股で浴室まで歩を進め、やがて扉を開けた。

浴室に響いたのは幼き幼き大音声。開いた扉の向こうからだ。
ヴィクトリアはそれで声の主が何者か断定し、嫌そうなまなざしで一瞬
見た。
いやに熱唱しながら入ってきたのは沙織だ。
彼女はヴィクトリアを認めると、あどけない眼をぱちくりさせて空笑いを
浮かべた後、非常にマズそうな顔をした。
以前からいる生徒のくせにまるで立ち入りを禁じられている部外者が
監視員に遭遇したような。プランに対して綻びを感じたような。
ヴィクトリアが一瞬した表情と同種同様ともいえるが、もっとこう、深刻
な。ただ入浴しにきただけなのに、ひどく致命的な。
もっとも。ひょっとすると。
歌っていたのが「立ち上がれ」だの「戦士よ」だのいやに男性的な歌
206スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/11/13(火) 22:54:53 ID:fkBnRZhw0

詞の目立つ曲だったから、気恥ずかしかったのかも知れない。
ヴィクトリアはそう解釈するコトにした。正否は知らないが、沙織には
なぜかいいようのない嫌悪感を覚えているので別に本心を知りたい
とも思わない。
第一、体がそろそろ火照ってきて上がりたい時期でもある。
まさかホムンクルスが湯あたりするワケでもないが、もしやらかしてし
まえば戦士の笑いものだ。
(でもアイツは笑わないでしょうね。仏頂面だし)
秋水の顔を想像するとどうも楽しい。
その楽しさをバネに沙織へ表面上にこやかな挨拶をして浴室を出た。
沙織もそれをはにかんだ笑みで返してきたから、別に後ろ暗い部分は
ないに違いない。
演じているとはいえ、ヴィクトリアにとってはいちおう一般人の友人なの
だから。

後書き
申し訳ありませんが今回は感想へのレスは控えます……
精神が対外的な部分に対してナーバスになっておりますので……
主因は、ニコ動にある真赤な誓いのMADの再生数とコメント数。
予想より少ないorz 手を入れまくっただけに寂しい。

ただ、SS描くのは楽しいです。武装錬金世界に没頭している時だけは
何もかもが忘れられ、没頭をやめた瞬間現実のもろもろの餌食となり……

けど、さいさんが退院できそうで良かった。
207作者の都合により名無しです:2007/11/13(火) 23:02:41 ID:1uBgSdEs0
スターダストさん乙。
平日に沢山来るとうれしいよ
ヴィクトリア可愛い。

あとさいさん退院出来たのか。良かった
208作者の都合により名無しです:2007/11/14(水) 02:19:33 ID:G8AF23jr0
「シュガーハート&ヴァニラソウル」目的でここに来てるんで
最近は祭りじゃーw
209作者の都合により名無しです:2007/11/14(水) 09:21:29 ID:BmCo9+B30
ヴィクトリアは完全に主役の一人だなあ
210作者の都合により名無しです:2007/11/14(水) 13:14:39 ID:Hi/3gij+0
>ヴィクトリアが嫌ってやまない軽々薄々の唾棄すべき天然ボケの栗毛

ヴィクトリアも結構ボケだよね そこがかわいいんだけど
彼女の場合は天然というより育ちによる部分が大きいけど
211作者の都合により名無しです:2007/11/14(水) 15:51:45 ID:/NjLvqzh0
保管サイト楽しく拝読させていただきました。
柳の外伝、素朴な異作品モノの良さがありました。あれはアナザーヘヴンとのコラボですよね。
平成15年に断筆、とのことですが惜しいです。続きは再開されないものでしょうか。
敵キャラの属性に問題があるなら、拳法集団や生化学団体か何かにでも差し替えれば良いと思いますし。
意外なところで、ジャックと鎬のコンビがあの寄生虫を克服して鬼伝説に則って勇次郎に挑む、
みたいな展開にならないかとご期待申し上げております。元々はリレー小説だったのですし。
バキ、益々格闘マンガ離れしてきましたね。
もう「幽遊白書」でも終盤のS級妖怪クラスに相当するほどの世界観になってきてます。7巻ぐらいで地球がズレてたし。
しかも、地球より前に顔面に喰らったゲバル(かませ犬)が普通の昏倒だけで済んでるし。
ライタイ編の導入に海皇たちが近代兵器を大したことがないように話すシーンがありますが、
あの自信の裏付けが「最終兵器彼女」のチセを皆で凹ってマワしたりした事にあったとかでも違和感がありません。
急激にヘタレ化した柳も、最近のキャラクターと比べたらヘタレに見えないぐらいです。
インフレした末堂と戦っても敗北寸前ぐらいになってたでしょう。初期では本部>>末堂なので、それも違和感がありません。
バキキャラが超常的な敵と戦うSSがもっと読みたいです。
オリキャラのA級妖怪(どこかの国の神の正体だったりする)とかC級妖怪(今の勇次郎にはびょうさつ)とかに差し替えても
違和感がないぐらいの描写が良いです。
今のバキを読むと、昔のバキでも格闘マンガだという感じがしなくなるぐらいですしw
212武装錬金_ ストレンジ・デイズ:2007/11/14(水) 15:56:19 ID:FPUGycAk0
「放課後のデイズ/前編」


 武藤カズキが月から帰ってきてから数週間、彼と、その大切な者たちは平和を満喫している。
 戦団は規模縮小・活動凍結に向けて動き始め、ヴィクター率いるホムンクルス勢も月面への移住計画を着々と進行させていた。
 カズキが駆け抜けていったいった激闘の日々はもはや過去になりつつあり、もうあの少年を戦いに駆り立てるものはどこにもなく、
彼に訪れたささやかな変化、安寧の日々を脅かすものはなにもない。
 ──そのはずだった。

 ここは銀成市の中央に位置する繁華街の、とあるファーストーフード店。
 二階禁煙フロアの奥まったボックス席に、二つの人影があった。
「それで……なんの御用ですの? 防人さ……いえ、キャプテン・ブラボーさん」
 人影その一。その声は優雅にして可憐、野に咲く百合を思わせるような、気高さと強かさを備えたもの。
 私立銀成学園の女子用制服に身を包み、鉄壁のような微笑を浮かべている。
「まずはこれを見て欲しい、早坂桜花」
 人影その二。その声は泰然として無骨、荒野を行く旅人を思わせるような、不屈にして孤高の風情。
 季節感を完全無視して銀色のコートをすっぽり着込み、目深に帽子を被る姿は奇人の一言。
 差し出された数枚の書類に目を通し、人影一──桜花のふっくらとした唇がわななく。
「これは……武藤クンの……!」
「そこに書いてある通りだ。今、武藤カズキは最悪の危機に直面している」
 巌のような声音に悔恨を滲ませる、人影二……ブラボーの宣言。
「……そんな……どうしてこんなになるまで……?」
 たまらず口元にあてがわれる小さな手。
「この街のために戦い続けた武藤クンの……いわば『後遺症』なのですか?」
 それならば時間が問題の解決に役立ってくれる、という、それは桜花の推測と言うより願望。
 だが、ブラボーは首を横に振る、たったそれだけの動作で彼女の一縷の望みを断ち切る。
「違う。この件に関しては明確な因子の存在を確認している。それは君も知っているはずだ……武藤カズキを間近で見ている君ならば」
213武装錬金_ ストレンジ・デイズ:2007/11/14(水) 15:59:33 ID:FPUGycAk0
「ああ……なんてことなの……」
 よよ、と泣き崩れんばかりの勢いで嘆く桜花の背後から突き出される蝶。
 否──それは蝶の仮面だった。それを臆面も無く顔に戴き、さらに全身タイツという出で立ちの、紛うことない変人の姿。
「なんだそれは?」
 頼まれもしないのに首を突っ込む、傍若無人で自己中心的な蝶の妖精──『蝶人』パピヨン。
 固唾を呑む二人の前、桜花の手にした何枚もの紙切れに一瞬で目を走らせ──七割がたのナナメ読み、そして疑問。
「誰だ、この真ッ赤ッ赤のどうしようもない追試確定&単位落第濃厚で、普通の脳ミソを持ってたら
まず取りえない逆の意味で特殊の部類に入る点数が記された答案用紙の数々の制作に成功したのは」
 沈黙──同時に発言、一部だけハモる桜花&ブラボー。
「武藤「カズキ」クン」
 店内を駆け巡る店員の声。
「番号札一番でお待ちのお客様ー」

 自称「武藤カズキのライバル」パピヨンをオブザーバーとして座に加え、
現時点より「武藤カズキの赤点をなんとかする会議」が発足した。
「ふん……会議なんて仰々しいものは必要ないだろう。原因はハッキリしている」
「君も俺と同意見か、パピヨン」
 頷くブラボーにち、ち、と指を振り、
「パピ♡ヨン──もっと愛を込めて」
 そんな意味のない発言で議事進行を滞らせないで欲しいのに
──という反感は精神的にも物理的にも豊かな胸にしまい、笑みを絶やさず相手に合わせた大人の対応を取る桜花。
「それではパピ♡ヨン、その対処はどうすべきかしら」
「貴様のようなブラックストマックにそう呼ばれると怖気がするな」
「…………」
 絶やさぬ鋼鉄の微笑の表面に、なんつーか「イツカ殺ス♡」って感じのパルスが走るのを無視し、パピヨンの単純明快な解決策。
「原因を取り除け。悪性の癌は切除するしかない」

                 _                            _                              _
214武装錬金_ ストレンジ・デイズ:2007/11/14(水) 16:00:49 ID:FPUGycAk0
 私立銀成学園敷地内の寮施設──その一室。
「斗貴子さん」
 そう呼びかけられ、少女はノートに落としていた目線を正面に振り分けた。
 切り揃えられたショートヘア、細い手足、無駄のないすっきりした佇まい──静かに咲く蓮花にも似ている。
 ただ一点、整った顔の中心にざっくり横一文字に走る古い傷痕が人目を引く。本人はあまり気にしていないが。
 ──と、言うか。
「なんだ、カズキ。今は勉強中だ」
「また……触っていいかな?」
「またって……また私の傷にか?」
 無意識的に鼻の頭を手で隠す。なぜだかちょっと身を引いてしまう。
 それを拒絶の意思と解し、カズキの申し訳なさそうな声。
「えっと……ダメかな」
「ダ、ダメ……」
 ダメもなにも、答えは一つしかないことを、斗貴子は知りすぎるくらいに知っていた。
「……じゃ、ないけど、別に」
 知らず、かすかに声が震えていた。
「ん」
 目を閉じて顔を上向きに据える。
 テーブルを挟んだ向こう側でカズキが膝立ちになり、こちらへ身を伸ばしてくるのが気配として伝わってくる。
 そっと斗貴子の片頬にカズキの温かい手の感触が重なる。
 そして、神経が半ば剥き出しのためにやや過敏になっている、鼻の傷痕に指が触れ、ゆっくりと這っていった。
(カズキはこんなことしてなにが楽しいんだ……?)
 と、彼のされるがままに任せながら思う一方、
(しかし……なんだろう、この『イケないことしてる』という気持ちと『もっと触って欲しいかも』といういう気持ちは。
いやいやいや、おかしいだろうただ古傷を触らせてるだけなのになんだこのアブノーマルな『なにか』に没頭してるような感覚は)
 出所不明の背徳感と常識の板挟みにあい、なんだかしっちゃかめっちゃかになった斗貴子の口から意図せず、
「ぅ……ん……」
 と啜り泣きにも似た声が漏れる。
 基本的に犬属性のカズキはそれに怯えたようにさっと手を引いた。
215武装錬金_ ストレンジ・デイズ:2007/11/14(水) 16:02:57 ID:FPUGycAk0
「ご、ゴメン斗貴子さん! 嫌だった!? ねえ嫌だった!?」
 うっすら目を開けた視界からは、心底心配そうに覗き込んでくるカズキの顔が。
「……謝るくらいなら最初からするな」
「スミマセン」
 しゅんとうなだれるその情けない姿に、つい斗貴子はイラっとくる。
「謝るなといってるそばから謝るやつがいるか!」
「え、ゴメ、じゃなくて、えーと」
 具体的にどうすればいいのか思いつかなかったらしく、おろおろと右往左往するカズキへ、斗貴子は再びずい、と顔面を差し出した。
「ほら」
「はえ?」
「『はえ?』じゃないだろう気が済むまで触ればいいだろう」
「いや、でも」
 ここまで来ると「よーするに自分がもうちょっと触っていて欲しいってだけで、その欲求不満でカリカリしてんだろ」
ということくらいは斗貴子自身はほぼ正確に把握していたが、理性の力MAXパワーでその事実から目を逸らす。
「男が一度触ると決めたものを途中で放り投げるなあ!」
 なんだこの理屈、と思いながらも勢いまかせにテーブルを拳で叩く。
 馬鹿か私は、とそっぽを向くも、妙にカズキが静かなのでこっそり上目遣いにそちらを見ると、
「……その通りだ斗貴子さん! オレ間違ってた!」
 なんか肩まで震わせて感じ入っていた。あれで納得できたらしい。
「じゃ……触るよ」
「ん」
 胸に沸き起こる高揚を御しながら、差し向かいのテーブルにわずかに身を乗り出すような態勢で再び目を閉じる。
(…………?)
 今度はなかなか触ってこないなというか両手で私の頬に触れているぞどういうことだまさか傷を触る以外の『なにか』を──、
 爆発寸前まで膨れ上がった乙女心と期待感とその他諸々で斗貴子の心拍数が150/分を超えようとしたその瞬間、
216武装錬金_ ストレンジ・デイズ:2007/11/14(水) 16:04:56 ID:FPUGycAk0
「武藤、いるか?」
 部屋のドアが開き、その向こうには早坂秋水が立っていた。
 こういう時は常に女のほうが速い。ブッちぎりである。
「……どうした、武藤。そのポーズはなんだ?」
「なんでもない、秋水センパイ」
 顔を耳まで朱に染めながらマジでキスする五秒前ポーズのカズキをよそに、
斗貴子は折り目正しく座っており、あまつさえ淹れたてのコーヒーまでしばいていた。
「やあ、津村さん。武藤の勉強を見ているのか」
「ああ。まったく、こいつときたら定期試験で山ほど赤点を取ってきてな。仕方がないから私がレクチャーしているのだ」
 ふむ、と真面目な顔で頷く秋水は懐から折りたたまれた紙片を取り出した。
「津村さんもいるなら都合がいい。実は、君たちに二人に姉さんからの言伝を預かっている」
「桜花センパイから?」
「そうだ」
 自分を柱かなんかと勘違いしてるのか、戸口に突っ立っつ秋水は直立不動の姿勢でがさごそ紙を開き、内容を確認。
 咳払い、朗読。
「『お前ら、ストロベリー禁止』」
 ポク、ポク、ポク、ポク……チーン。
「……以上だ。御清聴感謝する」
 ぺこりと会釈した秋水は、ふと違和感を感じる。
「どうした。君たち信号機のような顔色をしているぞ」
 止マレは斗貴子。ゴンッ、とテーブルに頭を落とし、その天板と零距離会話の敢行。
「分かってたんだ……私がカズキの勉強の邪魔をしているということは……。
だがよりによってあの腹黒女に指摘されるとは一生の不覚……うあああああぁぁぁっ!」
 進メはカズキ。仰向けに引っくり返ってたった一つのシラブルを無限リピート。
「禁止……禁止……禁止……禁止……」
 悶絶するセーラー服と生ける屍という組み合わせの異様さに、質実剛健で鳴らすさしもの秋水も戸惑いを隠せない。
「そ、それでだな、オレは姉さんからの頼みで武藤の勉強の手助けをすることになった。
至らぬ点はあるだろうが、ひとつ宜しく頼む──って、聞いているのか?」
 しかし答える者はない。
 秋水は溜め息ひとつ、窓を見る。
 二人の精神状態の回復を気長に待つしか、話を進める手立ては無さそうだった。
217ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/11/14(水) 16:13:04 ID:FPUGycAk0
sageにしてると分かりづらいかもですが、「武装錬金_(アンダーバー) ストレンジ・デイズ」とゆータイトルです。
後編未定、その後の展望も未定です。まあ息抜きに書いてみたものなので。
218作者の都合により名無しです:2007/11/14(水) 17:09:11 ID:BmCo9+B30
>>211さん
柳外伝は復活はありませんよ・・
作者氏に不幸がね・・

>ハロイさん
連載3本しててなお読みきり!恐ろしい
パピヨンと斗貴子カワイス

しかし錬金本当にSS職人に人気有るなあ
219作者の都合により名無しです:2007/11/14(水) 19:53:55 ID:/m1eRxuF0
永遠の扉、ハロイさんの新作錬金と久しぶりの錬金続きだなw
さいさんと銀杏丸さんが続くと4連発かw

220作者の都合により名無しです:2007/11/14(水) 23:23:31 ID:P7lOGr350
どこまでハロイさん創作意欲が高いんだよw
今までのハロイさんの作品と違って
コメディギャグみたいな感じだね
221乙女のドリー夢:2007/11/14(水) 23:29:28 ID:ZzlIRFAi0
>>142
早朝。いつものジョギングコースを走り終えた刃牙は、いつもの公園にやってきた。
呼吸を整えつつストレッチをしながら、考える。
『そういや前にここでリアルシャドーをやった時、誰かの視線を感じたような気は
してたんだよなぁ。もしかして浅井さんに見られたのかな? あれって普通の人が見たら
思いっきり異常だろうし、浅井さんの中じゃオレはバケモノ扱いされてるのかも……』
頭を抱えつつも、刃牙は注意深く辺りを見渡した。そして気配を探る。どうやら、今朝は
留美は来ていないようだ。
それにしても悔やまれる。油断して、こんなところでリアルシャドーやっちゃったのが間違い
だった。一体、何て説明したらいいのか? ありのままを言ったら余計にアブナイ人扱い
されそうだし。何たって妄想相手に殴り合って血ぃ出すんだもんなぁ。あぁどうしよう。
「どうした? 恋に悩む思春期の少年のような顔をして。まぁ実際君は思春期だが」
と言いつつ、トレーニングウェア姿の男がやってきた。刃牙と同じくジョギングしてきたのか、
汗をかいている。筋骨隆々ではあるが、サラサラの長髪と女性的な甘いマスクの彼の名は、
「……紅葉さん」
「恋愛相談なら乗ってあげるよ。こう見えても、いや、見ての通り私は、経験豊富だから」
得意げに、ちょいとナルシーな仕草で髪をかき上げる紅葉。刃牙は溜息をつく。
「確かに紅葉さんは経験豊富だろうね。でも今オレが抱えてる悩みはちょっと……だから
紅葉さん、相談に乗るよりも軽く相手してくれないかな。悩みを吹き飛ばす為に」
刃牙が拳を握ってそう言うと、紅葉は笑みを浮かべて答えた。
「ふふふふ、望むところさ。実は私も、最初からそのつもりで君に声をかけた」
紅葉も、ぐっと拳を握って刃牙の目の前に突き出してみせる。
「ふぅん? ちょっと意外だな。そういうタイプとは思わなかった」
「本来はそうさ。けど、私にもいろいろ事情があるんでね」
「え。事情って」
「君は気にしなくていい。いくよ刃牙君っ!」
「お、応っ!」
二人は同時に踏み込み、互いに拳を繰り出した。体格には圧倒的な差があるが、刃牙は
技術と速度で体重差を補い、反射と手数でリーチ差も不利とせず、互角以上に打ち合いを
演ずる。
222乙女のドリー夢:2007/11/14(水) 23:32:29 ID:ZzlIRFAi0
二人とも本気ではないが、手を抜いているわけでもない。殺気はないが全力で、
拳と脚とで火花を散らし、全く休みのない高速交錯が三分に達そうかという頃、
「ぅぐっ!」
刃牙の右拳が紅葉の脇腹にヒットした。息を詰まらせて片膝をついた紅葉の鼻先に、
残像すら残さぬ速度で刃牙のサッカーボールキックが……寸止めされた。
勝負あり、と刃牙が足を下ろす。紅葉は冷や汗を拭いながら、ぺたんと座り込んだ。
「ふぅ、参った参った。やっぱり君は強いな」
「紅葉さんこそ。それより、ありがと。おかげでちょっとスッキリしたよ」
清々しく額の汗を拳で握って、刃牙が紅葉に手を貸す。その手を取って紅葉は
立ち上がると、面目なさげに頭を掻いた。
「そう言って貰えると有難いが……立場ないな、私は。さりげなく、わざと、豪快に、
派手に負けるつもりだったのに。つい全力で戦って、実力で負けてしまってはなぁ」
「わざと負ける? 何でそんなことを。そういや何か事情とか言ってたけど、」
首を傾げる刃牙。紅葉はその首に腕を回してヘッドロック、そして刃牙のこめかみを
拳でぐりぐりする。
「えぇいこのラブコメ思春期少年め。この親切なお兄さんの気遣いも知らないでっ」
「い、痛いってば。何の話?」
「私はここに来る途中、目撃したんだよ。ここからちょっと離れた場所にある木に登って、
茂る葉の中に身を隠すようにして、双眼鏡でこの公園を見てる三つ編みの女の子を」
ぴき、と刃牙の顔が引きつる。紅葉にヘッドロックされたままで。
「並々ならぬ熱意をもって何かを注視してる様子だったから、何があるんだと思ってその
方向に行ってみたが、ネッシーもUFOもいやしない。いたのは、公園でトレーニングしてる
君一人だった。つまりあの子は、恥ずかしいのか君本人には近づけず、だが熱心に君を
見つめていたんだ」
「……」
「それで私は全ての事情を察した。だから、ここで君と戦って派手に負け、君の強さを
彼女にアピールしてあげようと思ったんだが」

どごっっ!
223乙女のドリー夢:2007/11/14(水) 23:35:37 ID:ZzlIRFAi0
紅葉を抱え上げた刃牙のバックドロップが炸裂。後頭部をしたたかに打ち付けた紅葉は、
あえなく気絶した。
「な、な、な、な、なんてことをっっっっ!」
しかし、時すでに遅し。
紅葉の目撃した、とある木の上にて。三つ編み眼鏡の留美は、双眼鏡を抱きしめて
幸せに浸っていた。
『はぁ……ちょっと筋肉つきすぎなのが玉に傷だけど、でも綺麗な人よね……あんな人が
範馬君の仲間だったなんて……あの、謎の透明モンスターと戦う為に、共に訓練して
真剣に汗を流し、それが終わった後のじゃれ合いっぷりったらもぅ……あの人はきっと、
顔からするとアレね。最初は範馬君の敵として出てくるクールな悪役なんだけど、範馬君と
戦って敗れて、それ以来改心していい人になって仲間になった。そうに違いないっ』
留美の中で、刃牙の物語とキャラ付けがどんどん進行していく。
『それにしてもあんな綺麗な人が身近にいたんじゃ、とてもとてもあたし(=女の子)なんか、
範馬君の興味の対象外よね。そりゃそうよ、うん、当然当然っ』
留美は嬉しそうに木から降りると、楽しそうにスキップしながら帰っていった。
もっと二人を見ていたいけど、そろそろ帰って支度しないと学校に遅れてしまう。

で登校した留美は、教室の前でばったりと刃牙に出くわした。いや違う、
刃牙が待ち構えていたのだ。
「は、は、範馬君っ?」
「あの、浅井さん。ちょっと話があるんだ。今朝もしかして、オレのこと見かけなかった?」
留美の中で、あれやこれやが駆け巡る。刃牙と紅葉の汗まみれのトレーニング、それが
終わった後のじゃれ合い、その続きは見ていないがきっと二人はあの後シャワーを一緒に
浴びたりなんかしてそれから、ってそもそも時間的にいろいろ不可能なことにまで、
留美の脳内上映会は盛り上がっていく。
なお、留美は今時貴重なほどに真面目で奥手な少女なので、知識・経験・興味ともに、
不純異性交遊には全く掠りもしていない。興味や知識が豊富なのは自分にとっての異性、
すなわち男性による不純同性……
224乙女のドリー夢:2007/11/14(水) 23:38:07 ID:ZzlIRFAi0
「えっと、実はオレ、最近ちょっと太り気味だから運動しなきゃなとか思ってて、それで」
「ななななんにも見てないっ! あたし、範馬君のことは見てない! 人気のない公園で
綺麗な人と会ってたなんて知らないからっ! あ、だけど、あの人との仲については
世間が何と言おうと心から応援するからねっ、というか、いやその、じゃそういうことでっ!」
「え? ちょ、ちょっと待って! 浅井さんっっ!」
真っ赤になった留美は刃牙から逃げるようにして、というか実際逃げた。脱兎の如く。
そして、呆気に取られて立ち尽くす刃牙の肩を、ぽんっと後ろから叩く人影あり。
「ねえ刃牙君。ちょ〜っと詳しい話を聞きたいんだけど」
「こ、梢江ちゃん?」
振り向いた刃牙の目に、壮絶な顔の梢江が映った。
「今の浅井さん……随分とまあ、どういう方向性のものを想像したのか察し易い
恥ずかしがりっぷりだったわね。『綺麗な人と会ってた』っていう説明までつけてくれて。
しかも『人気のない公園で』ねぇ……浅井さんが、あんなに赤面するようなことを……ね。 
で、必死になってそれを否定してたわね刃牙君? 浅井さんに誤解されたくないから? 
浅井さんに、『あの人との仲』のことを言われるのがそんなに嫌なのね? ふぅ〜ん……」
刃牙の肩を掴む梢江の握力が、どんどん増してきた。
「待って待って! オレ、今、二人がかりでよってたかって二重三重に誤解されてる気がっ」
「誤解かどうか、じっくり聞かせて欲しいところね。と言っても人に聞かれると困る、
というより恥ずかしい話でしょうから、ちょっと付き合ってくれる?」
「いや、だから根っから根本的に大誤解なんだってばっっ!」
梢江に引きずられていく刃牙。紅葉の言っていた通り、ラブコメ思春期少年の図であった。
……漫画やラノベでおなじみの、美少女ハーレムものとは少々違うアレなアレではあるが。
225ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/11/14(水) 23:40:37 ID:ZzlIRFAi0
復調復調。さいさんも復調で間もなく復帰、そしたらまた一段と活気づく。
正に漫画のヒーローの如く不死身ですな、ここは。

にしても本作『乙女〜』の時期(最トー前)に紅葉がいてくれて本当に良かった。
刃牙世界で、今回みたいな役が辛うじてできるのは紅葉と天内ぐらいですもんね。

>>ハロイさん
・シュガーハート&ヴァニラソウル
周囲の熾烈激闘時々ラブコメ、をよそに長いこと寝たきりでしたが、少し覚醒しました静。
本人が思う以上に壮大な存在、でも今はサポート役っぽい。いつか十和子を助ける日も?
・武装錬金_ストレンジ・デイズ
女の子の顔、しかも傷を触るってのは、あんなとこやこんなとこを触るよりアブノーマルな
気もしますが。しかしそれで乙女の心拍数してるのは、それがカズキだから……ってワケで。

>>邪神? さん(「幽波紋」だから呼吸云々って、作者も忘れてそうな設定をっっ)
・平穏な生活は砕かせない
玉美の最期、普通は由花子の勝利フラグなのにそこからの逆転。原作ラス戦同様「え? 
どうなった?」からの収束、しかし結果は正反対。アナザーストーリーかくあるべし、です。
・その名はキャプテン…
久々にケンシロウが落ち着いて大物っぽい。元々、精神的にそう大人っぽくはない上に
本作は青二才キャラ入ってますからね。たまにこういう面が出ると、周りとの絡みも面白い。

>>スターダストさん
>暖かい湯の抵抗をかき分けながら歩く方がカタルシスがある。
わかる! 私も銭湯いくとやりますね、腕立て伏せ姿勢で足を浮かせてのそのそ前進とか。
今回はバトルもラブコメもなく、ただおふろ。なのに湯船の豪華さに入浴清潔話に光熱費論
と読み応えあり、唐突に脳裏に出現した幻影根来にコケたりして。毎度流石の面白さでした。

>>219
そこにこんな作品が滑り込むのも、バキスレの面白いとこと思ってやって下され。
226作者の都合により名無しです:2007/11/14(水) 23:53:37 ID:P7lOGr350
ふらーりさんの書くキャラは紅葉もバキもかわいいなw
ふらーりさんの感想2レスになるまでもう少しか
227永遠の扉:2007/11/15(木) 00:08:50 ID:NMIS7LWF0
第025話 「変調(前編)」

後ろ手でぴしゃりと扉を閉めると、ヴィクトリアはひどく荒い息をついた。
部屋の中から千里の声がした。心配しているのだろう。
それを何とか押し込めて部屋から出てこないコトを祈りつつ、ヴィクトリ
アは自室に向かって駆け出した。
変調。
にこやかに話すだけだった平穏でちょっと蒸し暑いだけの夜が、一気に
激しい魔性を帯びて洗いたての肌にまとわりついてきた。

自室を目指してどうするのか。
早く武装錬金を展開して地下に潜れ。
最良の解決策はそれだけだ。

脳内で冷たい老婆の声がリフレインするが、彼女は何をどうすればい
いかまったくわからない、取り乱しきった表情でただ自室に向かっ
て走り続けた。
そう。老婆よりも若々しくも冷酷な声が背後からかかるその瞬間まで。

ただ茫然とアスファルトの上に立ち尽くす他ない。
心に芽生えた寂寥誤魔化し、夜空の星々見上げても、あぁ溢れる涙が
輝くスクランブルエッグを網膜に投影してくるだけである。
「えぇー。秋の日はつるべ落としと昔から申しますがまだまだ九月も初
頭の折り、無銘くんでいうなればくんすかくんすかすぴすぴと常に息づ
くお鼻のように全くまだまだ先頭であるでしょう。しかるに思考に暮れて
おりますれば夕日もまたいつやら暮れてすっかり空も濃紺色。あぁ、
やはり不肖は夜道を行くべきではなかったのです」
人気のない道路に佇む影は本当にどうしようもなく小さい。
タキシードを着てシルクハットを被っている、そんな風体は何かのサー
カスで余興にマジックをやる子供よろしくいかにも「ペットに服を着せる
感覚で大人が子供に押しつけました」という雰囲気が漂っているが当
人自体は純然たる趣味で納得してその服なのだ。
228永遠の扉:2007/11/15(木) 00:10:30 ID:NMIS7LWF0
小札はくすんと涙を拭って、わが身に振りかかった出来事を回想した。

「ダメじゃないか子供がこんな時間に歩いてちゃ」
「こらーっ! 小学生が夜遊びなんかするな!」
「家はどこだ。五時をすぎたら子供は家に帰るんだ」

「うぅ、警官の方々。職務に忠実なのはいいですが」
早く大きくなってほしいと願ってやまない手の甲でまなじりを拭う小札は
「十八歳なのです不肖は」
青菜に塩といった態でしゅんとしながら考え始めた。
「さぁ気を取り直して議題に再挑戦! さてどうすれば早坂秋水どのを
捕まえられるのでありましょう! もりもりさんからのこの依頼、正面きっ
ての正攻法ではとてもとても無理不可能危険無限の大・難・題っ! 
不肖のマシンガンシャッフルがエネルギーを放つ以上、かのソードサム
ライXなる日本刀に吸収されるは火を見るより明らか、そうしてバリアー
を破られますれば不肖は逆胴を喰らい上下に景気よく真っ二つ……」
脳裏に去来するおぞましい光景に、小さな体の輪郭ががぴきぴきーっと
波を立てて震えた。
「まったく戦慄を禁じえませぬゆえに、策を練るのは正に必須! 香美
どのと貴信どのは先日の戦いにより療養中、無銘くんは武装錬金の特
性が割れた以上出撃しない方が得策、もりもりさんはきっと別な策を練
っているに違いありませぬ」
なお小札のいる場所から五分も歩けば寄宿舎に着くが、流石に単騎
殴り込んで秋水をかっさらうほど胆力は強くない。そんな胆力があれば
先ほどの警官に実年齢を強く主張して押しのけただろう。
「実力行使でそれが可能なのは鐶どのぐらい。ちなみに現実には”ウ
ソをつくな”の一言で帰宅を命ぜられた不肖のトラウマいかにすべき
なのでしょうか…… あぁ、ロバなのにトラウマ。不肖はちょっとしたキ
メラ状態」
とても悲しい。キメラな自分よりも身長が伸びずいつまで立っても公共
交通機関を大人料金の半分で乗れる自分の方が悲しい。
229永遠の扉:2007/11/15(木) 00:12:19 ID:NMIS7LWF0
「むむ。さてどうしたものか。お一人で外出してくれれば手の打ちようも
あるのですが……ともかくも不肖は断言するのです、頑張らなくては!
と。ウルトラマン超闘士激伝に出てきたマザロンみたく頑張らなくっちゃ
ーと思うのですえいえいおー!」
後半の声はもうほとんど叫びで、「えいえいおー!」に至っては片手の
マシンガンシャッフルが月に向かって大きく突き上がった。

まひろが月を見上げてしまったのは、カーテンが開けっ放しだったからだ。
自室に戻って電気をつけると窓だけ真黒だった。
閉めようとした。そしたら視線が吸い寄せられるように空を上っていき、
とうとう月を捉えてしまった。
ひどい心痛が走った。胸を押さえながら顔を俯かせ、痛みが過ぎていく
のをひたすら待った。
一過性だ。文字通りの。
いまある痛みの激しさも、「痛みが過ぎていく」という感覚も、等しく一過
性の物で、月にいる大事な存在を取り戻さない限り完全に治らないのは
分かりきっている。
まひろは力なく首を横に振ってから、飛びあがらんばかりに驚いた。
「体調が悪いのか」
秋水の声だ。なんでいるのかとまひろは一瞬で五億回ぐらい反芻して
五億一回目で原因に気付いた。
(あ、そうだ。劇の練習についてきてもらったんだ)
すっかり忘れていた。恐らくまひろの短期記憶についてはキャパシテ
ィが極端に小さいか、それとも星のカービィSDXよろしく非常に飛びや
すいかのどちらかだ。
だからかまひろは、自分の一連の動作を秋水に見られていたと気づく
までさらに数秒を要し、それから固まった。
(……どうしよう。この前みたいにまた気を使わせちゃったら)
躊躇が逆に致命的だった。固まっている間にもカーテンは開けっ放し
で、黒々とした外の気配が流れ込んでいる。
それは表情よりも明確にまひろの心情を秋水に伝達した。
剣において相手の微細な動きから次なる一手を洞察する秋水だ。
230永遠の扉:2007/11/15(木) 00:13:23 ID:NMIS7LWF0
後姿といえまひろの首が夜空の上を見たのを目撃して大体の察しがつか
ない筈がない。
そも、何だかんだと縁を持っているのもまひろの思う「この前」、つまり

「月を見上げて泣いているまひろと遭遇」

したのがきっかけであるから、当然といえば当然か。
秋水もまた躊躇した。話題を避けるべきか否か。
ただし避けたとして解決にはなりえないのは承知の上。
彼には桜花という大切な姉がいるが、二十年足らずの短い人生の中
で桜花を失いかけて絶望に暮れたコトが三度ある。
餓死、病死、失血死。いずれも思い出すだけで恐慌が走る記憶だ。
それを頭の中でたぐるうち、もう一つ新鮮な映像が去来した。

「そういえば、キミにはまだ話していなかったな」
例のフザけた劇練習の後、今後の特訓の予定を聞きに防人を訪ねた
秋水は意外な話を聞かされた。
「武藤まひろは俺が戦士だというコトを知ってるぞ」
だから秋水と防人の特訓を見て、特に疑問を抱かなかったのだろう。
しかしどういうきっかけでなのか。カズキと斗貴子については例の銀成
学園での一大決戦時にまひろたちに戦士であるコトが知れ渡ったと聞
き及んでいるが……
「戦士・カズキが月に消えた後だ」
その事実を防人はまひろと千里、沙織、そしてカズキの友人たちに伝
えた。
雨の日だったらしい。
夏に似つかわしくない寒々とした雨と同じように、まひろは普段の温厚
も明るさも忘れ去り、防人にすがって泣きじゃくったという。
「……正直、俺も辛くてなあ」
まひろは泣きながらなぜ防人がそういうコトを知っているのか、嘘では
ないのかと必死に質問を繰り返してきて、その顔がむかし抹殺を告げた
時のカズキの顔と似ていてますます辛く、それでついつい自分の身分
231スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/11/15(木) 00:16:29 ID:NMIS7LWF0
を明かしてしまったと防人は語り、こう締めくくった。

「それでも、お前と仲良くなってからは幾分表情が明るくなってきている」

一体何をしてやれるのか。何をしてやれているのか。
見当はつかないし、全てを解決してやる術もない。
誇れるのはせいぜい剣技のみ。
それとてかつての主目的を達成させるに至らなかった。
身一つで動くしかない。
実感の籠った言葉でせめて共感だけは伝えたい。

秋水は静かに言葉を紡ぎ出した。

後書き

仕事上でいろいろあって、何とかSSを描くコトで保ってます。
まひろが泣きじゃくったというくだりはアニメ第25話より。
奇しくも今回の話数と同じだと気づいたのはタイトルをつけてから。
アニメ第25話はほとんどオリジナルでしたが、「ああ、カズキ不在の
武装錬金世界ってこんなんなんだなぁ」と非常に印象深く。
特にまひろが泣きじゃくってる場面というのは一切声がなかったのに
逆にそれが悲痛で見ていて息苦しい物がありました。

あ、今回分はすべて帰宅してから描き上げたのですが、コレが本当に
難しい。予定していた分にまったく到達できないという。
このペースを保てるハロイさんや邪神さんはすごい。
232作者の都合により名無しです:2007/11/15(木) 00:36:23 ID:KjF9ZWTW0
ハロイさん面白すぎる。っつか凄すぎる。
アンタ神か。
そのペースとセンスとボキャブラリーを一割でもいいから分けてほしい……!
233六十八話「キャプテン・ホークは憂鬱」:2007/11/15(木) 01:53:09 ID:PcOtcs4Z0
勝てない、何度やっても傷一つ負わせられない。
避けられているのか、受け止められているのか、それすら定かではない。
当たったという確かな感触を手に感じた瞬間、背後から蹴りを喰らう。

「スタミナは中々だが、実戦練習に入れる技量ではない。
大人しく石像造りに励んだ方が、後々楽になるぞ?」

斧を投げて牽制する、かわした時に体制を崩せばスタンの剣で死なない程度に・・・
そう思った矢先、指二本で斧を受け止められ、投げ返してきた。
間一髪、それを回避したホークだが背後の音がとても気になった。

ズドドドドドド・・・ボゴォ!

貫通する音と突き抜けた音だ、周りは岩壁。
安上がりな石斧で、屈強な岩をブチ抜いたのだった。

「化物め・・・小細工は通用しねぇってことか。」
「それと手加減もだ。」

言うが早いか動くが早いか、その区別をつける余裕もなかった。
「北斗八悶九断!」
ボボッ、という拳の加速音が聞こえる。

横に跳んでそれを避けると背後の岩は粉々に砕け散ってしまった。
「また質問なんだが・・・今の当たってたらどうなった?」
「肉体にショック死しない程度に八回激痛を与え悶え苦しませていた。
本来ならば、その後は九つの肉片にする技だが勿論、手は抜いた。」

諦めるしかないようだ・・・
ホークの地獄の特訓、ようやくスタート。
234六十八話「キャプテン・ホークは憂鬱」:2007/11/15(木) 01:54:32 ID:PcOtcs4Z0
「槍ってのは一発で決めないと間合いに入られちまう、そんなスットロいと相手に返されちまうぞ!」
ゲラ=ハの指南を務めるベア、槍の技は扱えないが『見切り』を体得しており、
実際に剣で受け止めると何所がダメか分かるらしい。

「もっと引きつければ威力は上がる、射程に入れても最大威力を出せるギリギリまで相手に突っ込め!」

しかし、ゲッコ族ってのは馬鹿力なんだな・・・。
コイツの場合は知性も優れてるし、覚えも速い。
不器用なせいか、コツを掴むのが遅いが経験だな。

そんなことを考えている内に、正しく教えに従った一撃が迫る。
パリィで槍を弾くには遅い、ゲラ=ハも一瞬戸惑ったが減速するにも遅かった。

身体を後ろに引きながらスピンさせる、鎧を一瞬かすったが怪我はなかった。
「フゥ・・・今のが『見切り』だ。身体で技を覚えちまえばいい。
しかし教えられたのは『チャージ』だけか、まぁその技は応用が効く。」

チャージ、槍を構えたまま敵に向かって突撃する。
それだけの技ではあるが、本人のパワーと突くタイミング。
純粋に力の強いゲラ=ハには相性のいい技である。

「特殊な回避術ですね、リスキーですがすぐ行動に移れる利点もあります。」
「縦薙ぎ、横薙ぎ、突き、投げ、大体の攻撃を回転の力で威力を相殺しながらかわせる。
だが、ミスったら元も子もないからな・・・やるなら、格下相手か逆転狙いの時だけにしとけ。
俺みたいに完全に『見切り』を身につけたなら話は別だがな・・・。」

少し得意気になるベアの足下を、柄の部分で突く。

「痛ってぇ!こ・・・小指を・・・・・っ!」
「足下をお留守にするのが悪いのです、さっさと宿に戻りましょう。」
235六十八話「キャプテン・ホークは憂鬱」:2007/11/15(木) 01:56:40 ID:PcOtcs4Z0
「わ・・・我ながら・・・・会心の出来だ・・ぜ・・・。」
その言葉を最後に、ホークは倒れた。
拳の肉がズタズタに裂け、真赤に染まった手が夕日の下に照らされる。
やりとげた漢の顔、滴る血、そして今にも沈もうとしている夕焼け。

倒れたホークの先には、悪鬼羅刹の面持ちをした一体の像。
ホークの拳から噴き出た血が、見事に名も無き羅刹を彩っていた。

「ホーク、見事だ・・・それでは、10分休んだら次の像に移る。」

やりとげた漢の顔が、目の前の像と同じく悪鬼の形相へと変わる。

「休憩なんかいらないさ、ケン・・・実戦の練習に付き合えェーー!」
トマホークを連続で投げつける、数だけではない。
威力、スピード、全てにおいて、今までのホークの最高の技。
加撃、『ヨーヨー』その名の元は平民の遊具だが、
その威力は、決して侮れるものではない。

「むっ、短時間でここまで成長したか。ならば像の大きさを倍に・・・」
「ケェェ―――――ン! テメェーは死んでろォォォ!」

水術を使って傷を癒す、石像トレーニングの成果だろうか。
一度の詠唱しかしていないのに、いつもより治るのが速い。

「拳に水術をかけながら岩壁を湿らせ、和らげることで負担を減らしていたのか。
インチキではあるが、魔力向上に高い効果があったようだな。」

「それだけじゃ済まさねぇ・・・魔具を使えば相反する術だって思うがままよ!」
本来ならば、相反する属性の術を同時に覚えた場合には、どちらか封印しなければならない。
だが、魔法によって作られた武器を使えば封印されていても思うままに使用できる。
236六十八話「キャプテン・ホークは憂鬱」:2007/11/15(木) 01:59:00 ID:PcOtcs4Z0
「セルフバーニング!」
炎の盾を自分に纏う、相手の火術や攻撃を反射する魔法盾。
物理攻撃、つまり殴る蹴るしかできないケンシロウには対処する術はない。
勝利を確信したホークは今、自分にできる最強の攻撃を仕掛ける。
拳を削り出し、返り血で染まった己の手で編み出した新たなる技。

「ジャ――――ックゥゥ・ハマ――――!」
ジャック・ハマー、通称はバック・スープレックス。
相手を両腕ごとガッチリと抱え込み、ブリッジする様に体を反らして脳天を地面に叩きつける。
通常打撃力や基礎筋力を高めるトレーニングをしていたホークだが、
何故、あえてこの技だったのだろうか、それは誰にも分からない。

「そんなもん・・・投げ技が男のロマンだからに決まってんだろうがァァ――――!」
誰に向かって叫んでいるのか、サッパリ解らないケンシロウ。
だが、技のタイミングや自分をホールドしているホークの腕力。
修行の成果は出ている、これならば確かに実戦練習を続けてもいいだろう。

ロックされた両腕、動かせるのは肘から先のみ。
構え、呼吸、精神力、『闘気』を生むにはこれ等の要素が必要。
この場合、構えが取れないので手に微弱な気を生み出す事しか出来なかったが、
ジャック・ハマーのタイミングをずらし、威力を半減させることは出来るだろう。
それに、ケンシロウは気付いていなかったが飛び道具なので、セルフバーニングに反射されない
ズゴォアッ!

破壊音と共に陥没する地面、周囲にヒビまで入っている。
ケンシロウを地面に埋めて、ようやく冷静になるホーク。
「ハァハァ・・・これ・・・・・俺がやったのか?」

地面に埋まった上半身を引っこ抜いて、地上に顔を出すケンシロウ。
今吹き飛ばしたばかりの地形、ヨーヨーによってスライスチーズのように輪切りになった岩。
「よくやったな、ホーク・・・次からは斧を投げずに使え。
ゲラ=ハ達は明日に備えて休んでいるだろう、行くぞ。」
237六十八話「キャプテン・ホークは憂鬱」:2007/11/15(木) 02:01:20 ID:PcOtcs4Z0
全員で晩飯を食い終わり、部屋へと戻る。
当然、男四人で一つ屋根の下である。
個室を取る余裕なんてある筈がない。

「あぁ・・・傷は治せるのは便利だが、疲れも取れれば最高の術なんだがなぁ。」
上半身をツイストさせると、バキバキと小気味良い音が鳴る。
さっさと寝たいが、今後のことについて色々と話を進めたいのでベッドに飛び込みはしない。
眠気を覚ます為、風呂に入ることにする。

「あーめんどくせぇ、服と一緒に入れば洗濯も済ませられるな。」
目茶苦茶な発想だが忠告する者は居ない、服を着たまま風呂へ浸かる。
だが脱がなければ絞れないことに気づき、ダラダラしながら帯を緩める。
脱ぎ終わる頃には、熱で眠気も覚め、ゆっくり立ち上がるホーク。
服を真一文字にして絞る、船旅で染み付いた塩と泥が音を立てて流れ落ちる。
風呂場には換気の為に窓がついていたので、そこに服を押し込んでおく。
夜風にさらされていれば、すぐ乾くだろう。

入浴を終え、タオルで体を拭きながら服へ手を伸ばす。
ひんやりと夜風に冷やされてはいたが、水気は絞りとっておいたので乾いていた。
火照った肉体に、服の心地よい冷たさを感じながら風呂場を出る。

部屋を見ると、テーブルを囲うようにして3人がカードで暇を潰していた。
「ようやく出たか、話すことがあるっていうから集まったのによぉ。」
「集まるのが遅ぇんだよ、なんだ?ポーカーか、久々にやるか。」

4人部屋とは伝えていたので、椅子もちゃんと4つある。
「さて、これからどうするんだ?」
「フルハウス。」
「ケンシロウさん、空気読んでください。」
238六十八話「キャプテン・ホークは憂鬱」:2007/11/15(木) 02:04:47 ID:PcOtcs4Z0
「どうするも何も、パブか騎士宿舎に寄って事件とかないか聞く。
そいつを解決すれば帝国技師の造り上げる最強の海賊船ができるんだぜ?」

チップは現金のようだ、自分の小遣いをかけているようだ。
ベアは正式に船の一員になった訳ではないので完全に自費。
ケンシロウとゲラ=ハが白熱しているようだ、漁夫の利を狙いたい。

「おいおい、俺は海賊になる為にお前の仲間になったんじゃねぇよ。」
「ん、なんか目的があって俺たちに近づいたのか?」
カードが全員に行き渡る、小遣いより大事な話になりそうなだ。
集中力を使うインチキ技は自重して、二人を見守りながらベアと話そう。

「それを話すつもりだったからな、俺の身内に信頼できる預言者がいてな。
お前がこの世界を救う鍵だって話だ。運命石、持ってるんだろ?」
「・・・そりゃ御伽話だ。」

「スリーカード。」
「私はAのスリーカード、残念でしたね。」
・・・ベアと話していたら取られてしまった。
レートはそこまで高くないようだ、気にしないでおこう。

「持ってるのはアメジスト、幻の運命石だったな。隠しても無駄だぜ。」
「ほぉ・・・腕のいい預言者だな。」
「おいおい、武器を取らなくてもいいだろ・・・邪神の回し者じゃあない。」

少しベアを不審に思うが、剣はベッドの横。
抵抗するつもりは無いらしい、武器を椅子の横に置く。

「まぁ、邪神じゃなくて帝国の回し者だ。メルビルじゃなくてアバロンだがな。」
「聞いたことの無い国だな、まさかお前・・・。」
「ご名答、別の世界から・・・この世界を救うためやってきたのよ。
何の為に?って聞きたそうだから答えてやると、帝国の不祥事の後始末って奴だ。」
239六十八話「キャプテン・ホークは憂鬱」:2007/11/15(木) 02:06:17 ID:PcOtcs4Z0
「不祥事ぃ?おいおい、サルーインが復活したのって・・・」
「そこまでヤバいことしちゃいない、考えようによってはもっとマズいけどな。」

カードが再び配られる、一息つける為にグラスに酒を注ぐベア。

「七英雄、英雄って名乗っちゃいるが過去の話、今は邪悪な化物の集団だ。
帝国は過去に、そいつ等を封印したんだが奴等は滅んでなかった。
こっちの世界に逃げ延びて傷を癒し、魔物を取り込んで更に力をつける気だ。」

捨て札が溜まっていく、ここ等でシャッフルする頃合いだろう。
一戦毎にシャッフルしないのは、捨て札を覚えておき不可能な役を頭に入れる為。
白熱するゲラ=ハとケンシロウ、互いの知力と運をぶつけ合っている。

「ここの世界の情報を集めてるのは、ついで、って奴さ。
デスティニィストーンも持って帰りたいんだがダメか?」
「好きにしろよ、だが俺は邪神となんか戦わねぇ。
封印から千年後のこの世界なんてどうでもいい。」
「フォーカード。」
「おい、引きが良すぎるんじゃあないか?」

盛り上がる二人の間に割って入りたい気持ちを抑える。
いい手札だったのに・・・・・。

「そうか、だが本気でそう思ってるならこの前の竜騎士に手渡したろ?」
「馬鹿いうんじゃねぇ、世界が滅びたのが俺のせいだ、なんて神様に文句言われたらどうする。
冗談じゃねぇぞ、海神ウコムが巻き起こす嵐なんて帝国新造の戦艦だって耐えられるもんじゃない。
どこぞの強ーいお方に渡してスタコラサッサ・・・」

そこまで言葉を口にしたところで左右を見てみる。
ドラゴンの攻撃に真正面から耐えられ、その上光速で剣を振り回すことの出来る達人。
拳一つでそのドラゴンを追い返し、更に船の銛で海の地形を変える男。
「決まったな、俺等でやるぞ。」
240六十八話「キャプテン・ホークは憂鬱」:2007/11/15(木) 02:29:33 ID:PcOtcs4Z0
「おいおい、お前等が神を倒せるってのは思い上がりすぎじゃ…。」
「少なくとも、俺達以上の達人ってのは余りゴロゴロしてるもんじゃないな。」
「ゲラ=ハ、袖になんか見えたぞ。」
「ケン、リストバンドが膨れ上がってますよ。」
「さっきは『さん』で呼んでなかったか?」
「さぁ・・・どうでしょうね。」

このトカゲ・・・引きがいいと思ったらふざけた真似を・・・。
この裸ジャケット・・・真面目そうな面して舐めた真似を・・・。
二人がそんな視線を感じ取っていた頃、ホークは渋い顔でベアと睨めっこしていた。

「なぁ、何も5人でやろう、って訳じゃねぇ。
俺の仲間が2人、ルビーとジェイムズって奴が仲間を探してる。
そして海賊船、お前のことだ、小型船だろう?
こんな少人数で旅してるんだからな、小型船なら10人くらいか。
七英雄もとんでもないバケモンだったが5人で倒せた、いけるさ。」

ハァ、とため息をつくホークだったがスリルが欲しくて海賊をやっていたということもある。
スリルと言うよりは生活の方が強かったが、リオレウスを追い払った時の充実感。
あれを味わえるなら悪くはない、リスキーではあるがつまらない生き方をするよりいい。
実際、近年の海賊はブッチャーのこともあって腐っている。
世界を平和にしてから、というのも悪くはないか。

「分かったよ・・・だが、無理だと感じたら逃げさせてもらうぜ。」
「へっ、そんなヤワな根性してねぇ癖に・・・。」
「Qのフォーカードです、私の勝ちですね。」
「俺もQのフォーカードだ、貴様イカサマをしたな?」
「アナタがしたんじゃないですか?」

緊迫する空気、ベアがふと自分の手札へ視線を送る。
「あっ、俺ロイヤルストレートフラッシュじゃん。」
「「空気を読め!」」
241邪神?:2007/11/15(木) 02:32:28 ID:PcOtcs4Z0
ちょwwww感謝と講座先に書いたらスペースがwwwwwww(無い方がいい、なんて言わないで…)
〜タイトルからハルヒ臭するけどネタの仕込みはなし、だって涼宮キワミの憂鬱しか見たことないもの…〜
>>ふら〜り氏 >>最初は範馬君の敵として出てくるクールな悪役なんだけど、範馬君と
       戦って敗れて、それ以来改心していい人になって仲間になった。
        留美が鋭い…最初は人体実験手術で稼いでた訳ですからねぇ。
        BLはバキではなく兄弟愛を間違った方向にもってけば当たってるしw
        RPG妄想だったら独歩ちゃんならそれっぽい味方に…だがBLしたら阿部さんに…。
        留美の希望を打ち砕くにはピッタリのキャラ、バキ気づけ!

>>スターダスト氏 いえ…自分、学生ですから…。SSを心の支えに…素晴らしい精神。
         やってて確かに面白いんですが誤字ったりして凹むアホの子な俺。
         人気の錬金SSでも人気のスターダスト氏は質で勝負ですな。
         そうなると質と量のハロイさんは間違いなくビッグ・ザ・ブドーですが…。

>>177  キャプテンになってスピードダウン、やる気がない訳ではないですが何故かw
    しかし確かにハロイ氏のスピードはすごい、メイドインヘブンのDISCがINしてるのでしょう。
    さいさんの復帰とかも望める様ですし次スレは遠くはないかも。

>>178  >>あ、「夢」想転生か。
    \(^o^)/ナンテコッタイ 誤字がデフォになってる…。
    こんな注意力じゃスタンド使いとの戦いに生き延びられないッ!
    仗助みたいな鋭い勘が欲しい…承は人の忠告無視してラバーズのアノ人ぶん殴るし、。
    吉良だとバイツァ・ダストは記憶が残らないのをうっかり忘れるし…。
    仗助がベストバランス?(0w0)

チャージ 今まで使ってた普通の突きである閃光突きは、射程ギリギリから突いて先端の刃の部分の威力で突く。
     チャージは走る勢い、体重、筋力も閃光突きより強く影響するが、
     握り、構え、走法をしっかりさせない半端なチャージよりは閃光突きの方が強いので、
     ゲラ=ハはパワー型なのに今まで突撃したりせず、距離を取って先端を使ってチマチマ削っていた。
     急所に当てれば、どちらも巨大な敵でなければ倒せるのは一緒という理由。(勿論、ゲームでは無理)

ジャック・ハマー 敵を抱え込んでぶん投げる、投げ技って…ロマンですよね……。
242作者の都合により名無しです:2007/11/15(木) 09:03:15 ID:v+UVH2y20
>スターダストさん
小札が出てくるとほのぼのとしていいなw
まひろと秋水がまた近づいてストロベリーな雰囲気になっていくのか楽しみw

>邪神?さん
そういやホークは主人公なんだなあ・・
確かにケンはこの面子の中で浮きそうだ。空気読めないだろうなあ、何やってもw
243作者の都合により名無しです:2007/11/15(木) 11:39:27 ID:zhEhI6H20
スタータスト氏、邪神さん乙です

永遠の扉は女性陣が特に魅力的で楽しいですな
まひろ、桜花、ヴィクトリアに小札・・。

逆にキャプテンは男連中が頑張ってる。
ケンシロウはちょっとヘタレだけどw

作者さんたちのカラーですかな
244作者の都合により名無しです:2007/11/15(木) 15:08:14 ID:tCzTBVYL0
武装錬金このスレで人気あるけど、
そのうち誰かエンバーミングのSSも書くかな?

雑誌自体がコケそうだけど・・w
245作者の都合により名無しです:2007/11/15(木) 22:44:39 ID:fKslA30U0
スターダストさんは精神的に大丈夫か
さいさんも心配だけど
246作者の都合により名無しです:2007/11/16(金) 18:37:01 ID:/dQGwOQF0
今日は久しぶりにお休みか
247AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:20:33 ID:9FBalMav0
前回から
「…冗談キツいぜ」
その惨状に、アウトラウンドの一人が恐怖を帯びた感嘆を洩らした。
到る所に銃弾や砲弾の跡が刻まれ、爆発物の跡もまた夥しい。中には、半壊した家屋も見受けられる。
「凄ぇな、戦車隊でも通ったのか…?」
と、ナイザーは呟いたが、それでもこれよりは大人しい筈だ。
其処には明らかに、個人の負の感情が内在していた。
「行くんですかい、おじょ……いえ、No1」
「ええ。恐らく闘っている相手は死んでいるでしょうが、その分消耗しているでしょう」
それだけを告げ、セフィリアは破壊を道標に一人迷い無く突き進んで行った。
………マジか? これをやった相手と殺り合うのか…?
彼女の選択にアウトラウンド達は流石に蒼褪めた。これはもう人間同士の戦いではない、軍事兵器の出番だ。
「何してる? オレ達も行くぞ」
しかし彼らにそれを言うのは許されない。隊長自ら向かうとなれば、それに従うのが戦場のチームだ。
それでも、これに立ち向かうのは異常に過ぎる。先刻トレインの前に立ったのもそうだ。
「……ナイザーさん、何であの人……こんなヤバい事にああも平然と行けるんですか?
 こう言っちゃ何ですが、まるで……」
「その先は言うんじゃねえ」
共にセフィリアの背中を追いつつ、ナイザーは部下の言葉を断ち切った。
「オレ達ァ今お嬢の指揮下に居るんだ、疑いも否定もするんじゃねえよ」
それきり彼らは無言になったが、実際ナイザーもそれは腹の中で思っていた。
お嬢……何でこんなになっちまったんですか
彼の敬愛するジェイドがクリードの手に掛かってから、セフィリアは本当に変わってしまった。
以前の彼女なら効率の為でもこんな酷い策略はしなかったし、危険と判っている状況に敢えて飛び込む様な真似もしなかった。
ナンバーズでも何人かは彼女に否定的な意見も出ていると言うのに、彼女はそれを全く変えようともしない。
だがそれでも、巨視的に見て彼女の選択に間違いは無いので、これ以上何を言える事も無かった。
それに長老会は、彼女の手練に肯定的であり賞賛も惜しみない。ならば中途半端な立場の自分に出来る事は、従うより無い。
親父(おや)っさん……あっしゃあどうすりゃ良いんでしょうか…
悩み苦しみ、ジェイドに何度も尋ねたが、やはり答えは返って来なかった。
248AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:22:32 ID:9FBalMav0
「……? ああ、市庁舎…そうか、判った」
アウトラウンドの一人が、耳に付けた核戦争下でも使用可能な軍事衛星回線インカムに何事か応対していた。
「…ナイザーさん、市庁舎に向かったデイヴ……じゃなくて、No10が隊ごとやられたそうです」
報告を背に受けたナイザーは、一層悩みの積み重なった溜息を吐いた。
「………あの宣伝マンにゃ荷が勝ちすぎたか……。で、相手は?」
「影も形も。ただ、回収班の所見から言うと単独と見て間違い無いと。勿論、オリハルコン武装も死体も回収したそうで」
そうか、と一言返し、一見全く動じる様を見せないナイザーだったが、その内心は複雑だった。
―――頭数合わせの人員とは言え、ナンバーズと一部隊を片付ける手際の相手がクリード側にいる。対してこちらはこれまでに
今殺されたデイヴィッドを含めて、数え4名のナンバーズが殉職している。
如何に道士を狩っていようがそれは所詮主力ではなく、大局にこそ影響は無くもクロノスは劣勢にあった。
そしてそれを埋め合わせる様に奮するセフィリアだが、そのやり口はおよそ褒められた物ではない。
それらがつくづくこの忠臣を悩ませていた。
「………何とかしてくれ、誰か…」
セフィリアの後を追いながら、彼の口から零れた微かな本音が戦場の空気に散って消えた。


――――何とか…ならないの…?
幾筋もの切り傷に刻まれながら、イヴは本音を胸の奥に飲み込んだ。
「お前が目ざといのは判ってる。でも、オレが隙をくれてやると思うか?」
リオンは自身の流血を気にも留めず、ただ双眸を彼女から離さない。良く見れば先刻から動かさない右腕は、妙な方向を向いていた。
彼我の距離は目測で十二メートル、だが二人の能力を考えればそれは眼前にも等しい。
双方傷は夥しい。しかしイヴの傷が時間と共に癒えるとは言え、それをいちいち帳消しにするリオンの攻撃がやや彼女の旗色を
悪くする。結論はイヴの劣勢だ。
249AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:24:51 ID:9FBalMav0
「どうして………?」
彼女に注目していただけに、その悲しげな声は直に届いた。
「どうして…そんなに憎むの…? あなたに何が有ったの…? どうして……そこまでしなくちゃいけないの………?
 どうして………どうして……そんなになってまで戦うの!?」
殺意を曲げず、憎悪を隠さず、傷にも屈さず、懐柔を目論んだ彼女さえも邪魔と判断するや殺しに掛かるリオンが、彼女には
理解出来ない以上にどうしようもなく悲しかった。彼女にはそれが、とても生きている様に見えないからだ。
彼女は其処に、かつての自分と良く似てしかし決定的に違うものをはっきりと感じていた。
対してリオンは、思う所でも有るのか黙り込む。
「………あのな」
……そしてようやっと導き出されたらしい返答は――――――、笑いだった。
それも疲れたようで、だが悪意に満ちた冷たい嘲笑だ。それは彼女に向けてなのか、それとも他の何かに向けてなのか、それは判らない。
しかし、其処に見て取れるのはやはり底無しの憎悪だ。
「お前、自分の人生否定されまくってたのに、良くそんなヌルい事言えるな。
 実は世の中何にも知らないヤツが、一丁前にオレに説教するなよ。イライラするぜ、お前みたいなどっち付かず」
そしてそれは徐々に、イヴへと集約していく。
「……だから、これで最後だ。オレと来い。嫌ならお前は此処で絶対に殺す」
子供特有の幼さで、しかしそれとは決定的に違う冷酷と残忍が、幾千の矢の様にイヴに切っ先を向ける。
250AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:28:05 ID:9FBalMav0
「何で、そんなに…!」
なおも食い下がる彼女に、少年は一層不快を露わにした。
「―――斬れ」
同時に、空気摩擦の匂いさえ感じそうな斬り上げる大剣。咄嗟に受け止めた少女は天高く弾き飛ばされる。
「五人だ、刺せ」
彼女の予想落下位置に小さな円陣を組む鎧達。それらが一斉に長槍を中空の彼女に突き掛かる。
しかし髪の両腕が翼の様に展開、羽ばたいて落下軌道を強引に逸らし槍の襲撃から逃れた。
「叩き落せ」
速度を重視して素手の鎧が、中空のイヴの真上に現れ拳を振り下ろす。
兆速の反応で受け止めるも、彼の宣言通り石畳に叩き付けられたその身が跳ねる。
「…っくあ…!」
「………結局よ、お前とオレとじゃ見てるものが違うんだな。それじゃ判り合える訳無いか。
 いや…人間なんて判り合えないのが常識だよな。もしそうだったら…オレは……」
苦痛に呻くイヴを眺めながら、リオンは冷め切った眼で呟く。しかし、その言葉は彼女へのものだろうか。
「…もう動くな。これ以上はただ痛いだけだ。
 見てるものが違うなら、お前は絶対オレに勝てない。強さとか以前に、ここの差で」
そう言って自らの胸を指差す。其処に何が渦巻いているのか、確かにイヴには判らない。
だがそれは間違い無く今の彼女より大きく、そして遥かに剛い。
251AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:30:18 ID:9FBalMav0
「ブッ叩け」
痛みに焼き切れそうな意識が聴いた言葉に反応し、瞬時に身を起こすや棘付き鉄球のメイスが彼女が背を預けていた石畳を叩き割る。
そして起きる際、抜け目無く握った大き目の石片を力任せにリオンに投じる。
防御もしくは回避させたその隙を突く筈の文字通り一石だったが、彼はその予想を裏切った。
「おおぁッ!」
気声一喝、左手が傷付くのも辞さず叩き落すや彼はイヴへと猛然と奔る。だがそれを見ても、彼女は膝を付いたまま動かない。
降伏の空気でないのは目を見れば判る。しかし、如何な攻撃に転ずると言うのか。
故に万全を期す為、リオンの走りは虎が獲物の退路を塞ぐが如く彼女を大きく迂回し、
「つら……!!」

だが鎧が生じるより速く、黒い盾が激突音と共に視界を遮った。

「!?」
受け止めて消えた盾の向こうには、今なお跪いて彼に横顔を向ける少女。そして、突如地面から生えた金色のツタ…ではなく彼女の髪。
同時に彼女がリオンを見るや、無数の髪の触手が石畳を突き破ってまるで散弾の様に襲来する。
「ふ…っ、防げぇッ!!」
驟雨の様に鎧を打ち据えるブロンドの猛打。更に命令を下しながら、リオンは彼女が地面に髪を打ち込んで奇襲と迎撃の両方に備えて
いた事を確信する。しかし、それでは決め手に欠けるのもまた事実。
敢えて出した鎧の陰から飛び出し、瞬時に彼女への攻撃命令を下す―――――――筈が、彼女は既に眼前まで跳んで来ていた。
「お前…ッ!」
何故かその体当たりを黒い盾は攻撃と認識せず、そのまま二人は激突、組み合ったまま転げ回る。
双方上になり下になり、背に固さが突き刺さるのを耐えながら…………馬乗りの態勢で優位を取ったのはイヴだった。
「くそ…斬…!」
だが命令よりも速く、腕に足に、そして胴に喉に、ブロンドの拘束が絡み付く。そのお陰で骨折した箇所が締め上げられ、
リオンの命令は苦痛に打ち消された。
そして絶叫……も束の間、続いてイヴの体重を乗せた手が彼の視界を塞ぐ形で頭を石畳に圧し付ける。これにより、少なくとも精密な
現出は不可能となり、しかも完全に自由も生死も握られてしまっていた。
252AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:31:39 ID:9FBalMav0
「……悔しいけど、あなたの言う通り私はあなたに勝てない」
彼女が作った闇に、彼女の苦しげでしかし確かな意志の有る声が朗々と冴え渡る。
「でも、負けない事は出来る。折れない事も出来る! 跳ね除ける事も出来る!!
 勝てなくたって絶対に負けない!! あなたに負けたら私の大切なものが無くなってしまうから、だから絶対負けない!!!」
聞いているのかいないのか、自由を得るべくリオンは暴れる。だが、如何に道士の力でも彼女の力と負傷の影響でびくともしない。
「……だからもう、ここで停まって。目が覚めたら、今度はもっと落ち着いて話そ?」
声と裏腹に、喉の圧迫が徐々に強まっていく。但しそれは輪状に締め上げるのではなく、髪の一部がゆっくりと頚動脈を止めようと
しているのだ。
それが締め落とす魂胆だと知った瞬間、リオンの行動は早かった。

「…蹴れ」
253AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:33:49 ID:9FBalMav0
この状況で命令する彼に驚いた次の瞬間――――――、出現した鎧が主ごとイヴを蹴り上げた。
「うあ…!」「ぐ…!」
宙を舞う二人の呻きにも覚悟を決めていた差が生じ、その隙に緩んだ拘束をほどいたリオンの蹴りが腹に捻じ込まれる。
威力こそ手打ちであったものの、二人の距離を引き離し束縛から逃れるには充分な一撃だ。
然るに二人の身は、固い石畳の抱擁に迎えられる。
さながら石でもって全身殴り付けられる様だったが、それでも悲鳴さえ惜しい二人は苦痛を介さず跳ね起きて対峙した。
「…そんな…自分ごと………!」
確かに自分ごと攻撃すれば狙う必要など無い。相手と密着しているのだから、威力は絶対相手も被る。
その証拠にイヴの腕は、衝撃に痺れて動かなくなっている。
だがその代償に、拘束が引っ掛かったのかリオンの折れた腕が彼の物で無いかのように肩から揺れていた。
「……くそ…」
悪態じみた呟きと共に、彼は抜けた肩を一息に握り、
「う…うおおおおぉぉぉおおおああぁ!!!」
咆哮に合わせ、一気に肩関節を填め込んだ。大人でも耐え難い激痛だが、彼は歯を食い縛ってまるで声を上げない。
仰け反ったまま震える身体を硬直させ………再び戻した顔には痛みと怒りで鬼の様な形相。
「…ふざ…けんなよ、こいつ!!」
涙を目に滲ませながら、呼吸も平常ならざる中、彼はそれでも無理矢理イヴを罵った。
「何が『負けない』だ! 何が『折れない』だ!! 何が『落ち着いて話そう』だ!!!
 そんな中途半端で何が出来る!! 相手も自分も傷付けないなんて、そんな夢みたいな方法が有ってたまるか!!!
 何かするには傷付くしか無えんだよ! それしかこの世の中には無えんだよ!!!
 お前にオレの真似が出来るか!? ええ? ……この甘ッタレが!!!」
本当なら気絶してもおかしくない状況だが、彼はそれを意志力で徹底的に抗い通す。
「『大切なもの』だと? ハ! お前に護れるものなんて、この世に有ると思うなよ」
足取りも不確かで、声の座りも悪い。だがそれだけの満身創痍を抱えていながら、リオンから激しいほどに漲る何かを感じる。
対してこちらも似たり寄ったり。押し寄せる重圧が足を萎えさせようとするが、痛みとそれとを締め出す様に奥歯を食い縛る。
一見すれば子供の喧嘩。しかし実態は信念と気迫が咬み合う人外戦闘も、いよいよ最終局面に迫っていた。
254AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:35:07 ID:9FBalMav0
「へえ…なかなか頑張るじゃないか、二人とも」
十六面巨大モニターが映す俯瞰視点の戦場を見ながら、クリードは愉しげにワイングラスを傾けた。
部屋は暗く、且つ広く、光源としてのモニターが如何に濡れる様なヴェルベット地のソファに寛ぐ彼を照らすも、その全容は
明らかならない。後はせいぜい両脇に立つ二人―――…一人は参謀にして道士、シキ。そしてワインボトルを後生大事そうに抱える、
流れる様な長い黒髪を持つ秘書姿の美女くらいのものだ。
「便利な時代になったものだ。居ながらにして遥か遠くの戦場、それも全景を拡大並びに個別化して見れるとは」
「軍事用監視衛星……スパイ衛星と言う奴さ。大気圏外から屋内をも透視可能な現行人類最高最大の眼≠セ。
 どうだい? 文明もなかなか捨てたもんじゃないだろ?」

眼=Aとクリードは喩意したが、実際の所は違う。
それのみならず耳≠ニしての機能も凄まじい。聞こうものなら地下六階のネズミの囁きすら聞き漏らさず、ノイズだらけの
工業都市の内緒話でさえ確実に聞き分ける超指向性集音マイクをカメラに仕込んだ、全世界のピーピング・トムの夢を形にした様な
超高性能のプライバシーゼロ兵器だ。
無論対策は、個人では絶対に不可能。軍属でさえ鉛や対電磁波素材で囲んだ建物に篭城するより他無い。
何故急造のテロ組織が、莫大な資金が無ければ製作も維持も困難な代物を所有するか現時点では不明だが、兎も角星の使徒の
情報収集分析能力と技術力は、充分クロノスの脅威と成り得る域に達していた。
255AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:36:22 ID:9FBalMav0
「……クリード様、宜しいですか?」
「何かな? エスティント」
畏敬と何がしかの感情を消し切れない求めに合わせ、空になったワイングラスを秘書風の美女に向ける。
「先刻のリオン様の発言ですが………あれは、充分反逆と取れる発言かと」「私も同感だ」
間髪入れず、シキが続く。
「あの小僧は我々の邪魔だ。帰還次第、即刻殺そう」
「…一命頂ければ、私が………」
「別にいいよ」
静かに殺気立つ二人を、しかし主は優しく抑え込んだ。
「僕は、ああ言う油断ならない手合いが大好きでね。身近に居るなんて何よりの事だよ」
無論二人は疑問符で応じるばかりだ。それを一瞥もせず肌で感じ取りながら、クリードはグラスに注がれた深い赤を眼で愉しむ。
「…人間いちいち恐れを成して尻尾を振る様になったらお終いだよ。まあ、君達の言いたい事も判る。獅子身中の虫、と言いたいんだ
 ろうがね…結構な事じゃないか」
「しかし……!」「シキ」
更なる異を唱えようとした腹心の言葉を、僅かに声を強めて制する。
「キミはどうも安全策を執り過ぎる。それでは人生面白くないじゃないか。一筋縄でいかないのが当たり前、苦労してこそ世の中だ。
 言うなればこれはそう、予防接種みたいなものさ。この世界と言う壮大な毒を喰う為の。
 僕達が身を置くのも進むのも、温室じゃなくて戦場なんだ。たかが叛乱で目論見が潰れるようなら、僕も組織もその程度だった、
 と言うだけさ」
音も無く朱を喉に流し込む様さえ優美に尽きる。完璧な作法と自然に発散される高貴さに、一人会話から取り残された女は
熱を込めて見守っていた……と、言うより先刻からずっとだ。
「さて、エスティ」
しかしその忘我も一言で現実に引き戻される。
「一番下の隅でいい、尻尾を振った奴を見せてくれないか?」
「は…はい、ただ今」
256AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:38:51 ID:9FBalMav0
クリードの言葉通り場面を切り替えたモニターには、戦場となった街とはまた別の殺風景な屋内が映る。
剥き出しのコンクリートが縦横に広がり、そして一列に直立不動で並ぶあの黒い強化外骨格のサイボーグ達。
それらの前で蹲るのは、この期に及んでも未だ服装で個性を主張するデュラムだ。
『……何故蹴ったかまだ判らんのか? 「サー」はどうした、「サー」は!』
彼の前で、一際大きくマッシヴな強化外骨格――恐らくは分隊長――が仁王立ちで怒鳴り散らした。
『ふざけんなよ…何でオレが、ブリキ人形に敬礼しなきゃなら…!』
今度は顎が、分隊長のトゥキックで跳ね上がる。
『本来なら貴様如き野良犬の一匹など、事故に見せかけて殺してやる所だが……それをきつく禁じた司令に感謝するんだな』
しかし彼の言葉を聴く余裕はデュラムに無い。かつてトレインの蹴りに肉を刻まれ、クリードに完璧に割られ、そして今、加減した
とは言え鉄の足に蹴られた顎の烈痛で悶絶するのが精一杯だ。
『全く……ワシが生身だった頃、戦場で顎を砲弾の破片に吹き飛ばされた時はそのまま機関銃を撃ち続けたものだが………
 お前の場合は交換した方が良いかもな。おい、誰か』
指示に応じた兵士が二人、今もなおのた打ち回るデュラムに近寄ると、彼を軽々と強引に立たせる。
『手術室に連れて行け。総換装をおこな……いや待て、貴様は極力生身でいたいのだったな。
 ではこうだ。顎のみならず、他に故障を見付け次第全て換装しろ』
「イエス、サー!」の返答と共に二人はデュラムを担いで画面の外へと歩いていく。命令内容を聞いたらしい彼が暴れに暴れ
言葉にならない聞き苦しい罵倒で喚き散らすが、二人の足も拘束も何一つ変化は無い。
『元気になったらたっぷり可愛がってやる。泣いたり笑ったり出来なくしてやるから、楽しみにしていろ!!』
その宣言が出る頃には、最早罵倒ではなく懇願になっていた。しかし当然、どちらであろうと取り合う者は一人もいない。
257AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 22:40:50 ID:9FBalMav0
「……何と言うか、大変だね」
既に現在の戦場へと切り替わったモニターを見ながら、クリードはまったく人事の視点で呟いた。
「しかし、良く道を使わないものだね。例の反抗抑制機(ペインチェイン)とやらかい?」
「ええ、首の後ろに埋め込んであります。専用機材とサイバネ医師数人の手でないと、絶対取り出せません。
 分隊長クラスの通信一つで、延髄に直接激痛の信号を打ち込めます。針で刺す程度から意識喪失レベルのものまで可能な代物です」
すらすらと淀み無く答える彼女の眼には、何処か嗜虐の火が灯っていた。
「作戦無視、装備の無断使用、人員損害………これだけの損害を一人で良くせっせと稼いだものだ。
 そしてそれを殺さず、まだ利用価値を見出そうとしているのだから、今度こそ感謝の一つも欲しい所だな」
「……撃てば許す目も有ったんだけどね。
 狂犬気取りの駄犬に、負け犬≠ゥらせめてパブロフの犬≠ノ格上げする慈悲を判ってくれるかな」
シキの言葉に自分の考えを足しながら、クリードは更に杯を重ねた。
258作者の都合により名無しです:2007/11/16(金) 22:48:35 ID:hCFAl7yv0
サナダムシさん、ハロイさんに続いてNBさんきたーー!
俺の好きな職人さんが3連続で復活するとは・・!
セフィリアもイヴも相変わらず素敵だ・・。

前回ね
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/284.html
259AnotherAttraction BC:2007/11/16(金) 23:02:49 ID:9FBalMav0
お美事! お美事にございまする、クレイトス先生!!!(判る人だけ判れば良い挨拶)
彼の所業に比べれば、ホント俺など米粒でノミです。NBです。

いやしかし、随分間を空けてしまいました。「は? 知らね」とか言われそうなくらい。
過労で熱出すわ、上司は山の様に仕事任すわ、クレイトス先生格好良過ぎるわ(?)、大変でしたよあっはっは。

………今回の駄目出しですが…長ぇな、相変わらず。
もっと短く読み易く出来るんじゃねえかな――…とは思うんですがね、未熟ですね。

本当はもっと色々書きたいのですが、明日も仕事で早寝せんとならないので、すいませんが
この辺でここまで、ではまた。
260作者の都合により名無しです:2007/11/16(金) 23:29:32 ID:QA77cmWk0
NBさん相変わらずうめえ!そしてなげえw
完全に原作より上だな、こりゃ。
261作者の都合により名無しです:2007/11/17(土) 00:37:08 ID:3hshOwoG0
お久しぶりですNBさん。3ヶ月ぶりくらい?
前回から白熱してるリオン対イブも次回で決着ですか。
リオンが離反しそうですね。
イブの肉体を使った説得にやられたかな?
今度はもう少し早く復活してね。
262作者の都合により名無しです:2007/11/17(土) 02:55:35 ID:5oG3iHR30
NBさんお疲れです。間が大分空きましたが一番楽しみにしていました!
それにしてもまだデュラムは使われるんですか…
原作じゃ斬られておしまいだったけど、こっちはある種、もっと酷いことになってるw

>>260
矢吹黒猫好きな自分ですが、上っていうよりは全く別モノでしょう
あっちは未熟な作者とダメな編集のベタ王道少年漫画で、こっちはバキスレのHUNTER×HUNTER。
NBさんの作品見てると、パクリとはいえ素材はいいものばっかりだったのに…としか言いようがない
263作者の都合により名無しです:2007/11/17(土) 08:51:38 ID:imO2W9ai0
材料が安い豚バラ肉でも
良い料理人が上手く調理すると
上等な料理になるということだな
264作者の都合により名無しです:2007/11/17(土) 11:33:04 ID:5oG3iHR30
うん、全然違う
265作者の都合により名無しです:2007/11/17(土) 17:40:30 ID:imO2W9ai0
復活多くて嬉しいなあ
これでミドリさんとか復活してくれると嬉しい
サマサさんも結構空いてるんでそろそろ
266作者の都合により名無しです:2007/11/17(土) 23:09:35 ID:54yPqzVH0
今年は5月くらいから半年くらいずっと不調だったけど
ようやく最後になって賑やかになったな
NBさん本当にお帰り
267神曰く、七つである必要はない:2007/11/18(日) 00:37:42 ID:AysG/iI80
 雑居ビルが立ち並ぶ大通り。学校を終えた学生二人が、菓子パンを頬張りながら会話に
花を咲かせている。
「おっ、こんなところにも落ちてる」
「よせよせ、おまえ拾う気かよ」
「だってよ、これ全部集めたら願いが叶うんだぜ?」
「全部って……これが何個あるか知ってんのか、おまえ」
 拾おうとした学生も、それを咎めた学生も、答えを知らない。
 全てを集めると龍が現れ、どんな願いでも叶えてくれるというドラゴンボール。
 直径十センチにも満たない球体に込められた得体の知れない伝説。ロマンをかき立てら
れずにはいられない。
 だが、伝説とは希少価値がなくては成り立たないものだ。
「あそこの木にも引っかかってるぜ。おまえ、あれも取ってくるか?」
「……やーめた。バカらしくなった」
「だろ? んなもん、適当に放置しておけばいいんだよ。吸い殻より多いくらいなんだか
ら」
 この伝説は街中にありふれていた。
 街だけではない。人がいるいないに関わらず、世界中どこにでも転がっている。砂漠で
は水を見つけるよりドラゴンボールを見つける方がたやすい、という諺がある国すらある
ほどだ。
「この後どうする?」
「俺、今日バイトなんだよ。店長が人足りねぇから出ろとかいってきてよ」
「そっか、大変だな」
「まったくだ。早く辞めてぇよ、マジで。くそっ!」
 ローファーに蹴り飛ばされたドラゴンボールが別のドラゴンボールに当たった。
 気に留める者は誰もいない。
268神曰く、七つである必要はない:2007/11/18(日) 00:40:27 ID:AysG/iI80
 国際会議にて、とある事項が採決された。
「──よって、これより全世界は協力し、ドラゴンボール収集に動くことを採択いたしま
す!」
「異議なしっ!」
「異議なし」
「異議なし!」
 満場一致。大喝采のもと、会議は無事閉幕した。
 雑草よりも価値の薄い伝説。ついに公的に「伝説を確かめよう」という動きが起こされ
た。いい加減ドラゴンボールをどうにかして処理して欲しいという世論による後押しがあ
ったことも事実である。
 この日より、全国民が徹底的な伝説狩りを開始することとなる。
 会議で決定したからというより、会議をきっかけにブームが起こったという方が正しい。
ドラゴンボールを拾い政府に届ける。薄謝がもらえる。
「よう、今日いくつ拾った?」
「調子悪いな。五十個くらい。カラオケ代くらいにはなるな、行こうぜ」
「おいおい、いつも月曜はバイトだろ?」
「先週辞めた。本気でやればこっちのが稼げるしな」
 これはいつかの学生の会話である。
 政府に届けられたドラゴンボールは公海にある名もなき無人島へと運ばれる。
 地上に存在する全国家がこのサイクルを遵守した。
269神曰く、七つである必要はない:2007/11/18(日) 00:42:47 ID:AysG/iI80
 あの学生たちがそれぞれ食品メーカーと区役所の課長になった頃、全人類を巻き込んだ
ドラゴンボール収集がついに終わりを遂げた。
 無人島に神龍が出たのである。
「さあ、願いをいえ。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう」
 各国政府から島に集められる、ドラゴンボール管理を委任された担当者たち。彼らは知
っていた。最近国同士の争いがないことを。その理由がどこにあるのかを。
 迷いはなかった。
「全国民から、ドラゴンボールに関する記憶を消してくれ。全て集めると願いを叶えられ
るという点以外を」
「たやすいことだ」
 龍は無数の球に戻り、空に舞った。──またこの願いか、という思考と共に。
 願いを叶えた管理人たちが呟く。
「あれ、我々は何をしていたんだ?」
「いや……全く覚えていない」
「よく分からないが、何か良いことをしたような気分だけ残ってる」
「私もだ」
 余談だがこの惑星では、ここ数百年戦争が一度として起こっていないという。

                                   お わ り
270サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2007/11/18(日) 00:48:17 ID:AysG/iI80
いつもありがとうございます。
石になった龍球が世界中の人々にぶつかり……というオチも考えましたが、
二度続けて滅亡オチはまずいのでこうなりました。

現在の私の状況から完結する自信がないので、長編については未定です。
恐らく中編になると思います。
271作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 11:11:33 ID:v9CHs1FM0
お疲れ様ですサナダさん
なんとなく青春ものを思わせるような
ファンタジーな小編でした

中篇ってどのくらいの長さのもんかな?
272作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 15:08:03 ID:lh0H6T/q0
サナダムシさんお疲れです。
このSS、漫画キャラ出てこないんですね。
でもうまくまとまってる。さすが。


やさぐれは放置?もう少しだから完結させて欲しいな。
273作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 18:04:11 ID:HQnMgzq30
P2!〜after 10 years〜 後篇  (前篇は前スレ422から)

―――そして、ダブルスの試合が終わった頃になって。
「いやあ、よかった!今病院から連絡があってな。眞白の怪我は大したことはなかった。脳挫傷と脊椎損傷、後はちょっと
全員の骨という骨が軒並み粉砕して身体中がありえない方向に折れ曲がって、更にそれが内臓や皮膚を突き破って、出血量
が3000ccを超えちゃっただけだとさ!」
蒔絵の報告を聞き、久瀬北の面々にほっとした笑顔が浮かぶ。この程度の怪我ならば、一週間もすれば完治するだろう。
ちなみにダブルスの山雀(やまがら)・梟宇(きよう)VS紅州青州(こうしゅう・せいしゅう)兄弟は、いちいち書く
までもない普通の試合であり、普通に久瀬北が負けたので割愛させていただく。
まあ一応触りだけ書いておくと、グラウンドにクレーターができたり照明が吹っ飛んだり観客に5名の重軽傷者が出たり
山雀がフェンスにめり込んだり梟宇が観客席にめり込んだり紅州が色々めり込んだり青州がとにかくめり込んだりした
挙句、試合終了後に4人とも血塗れで担架で病院に運ばれていった程度だ。
このくらいは全国レベルでは当たり前のことである。
―――そして迎えたS3.川末VS王華学園卓球部部長・相馬!
その甘いマスクで女性から圧倒的な人気を誇る彼が甲子園を一瞥しただけで、観客席にいた女性の99.1%が恍惚の余り
失神した。
「川末が来たか…だが、スーパー・ウルトラ・ミラクル・スペシャル・グレート・オールラウンダーとなった君であろう
と、今の僕の相手ではない!」
「ハッタリやない…今の相馬さんはホンマに強いで!川末ちゃんは確かにスーパー・ウルトラ・ミラクル・スペシャル・
グレート・オールラウンダーとして覚醒した…せやけど、相馬さんは更に別次元におる…!」
「そんな…スーパー・ウルトラ・ミラクル・スペシャル・グレート・オールラウンダーの川末さんが勝てないなんて、
そんなはずない!」
「いや、藍川。確かにスーパー・ウルトラ・ミラクル・スペシャル・グレート・オールラウンダーの力は絶大だ…しかし、
それすらも覆すのが、王華学園卓球部最強の男、相馬だ…!」
274作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 18:05:13 ID:HQnMgzq30
―――さて、P2!愛読者(略
スーパー・ウルトラ・ミラクル・スペシャル・グレート・オールラウンダー。それは全国大会一回戦でついに明らかに
なった、川末本来の卓球スタイルである。
小学生時代はこのスタイルで無敵を誇った川末だが、小学生最後の試合で、彼は対戦相手を殺めてしまう。その業で
川末は己を縛りつけ、スーパー・ウルトラ・ミラクル・スペシャル・グレート・オールラウンダーとしての力を封印
し、カットマンとして卓球を続けていた。
しかし一回戦の相手、外道学園のあまりの外道っぷり(喧嘩の相手を必要以上にブチのめす・ヤキを入れてやった教師
は二度と学校に出てこない・不味い店で金を払わないのもしょっちゅう・斗貴子さんを萌えないと侮辱する)に、ついに
川末は封印を解いた!
その力はまさに神域!人の皮を被った悪魔としか言いようのない外道学園のクソ野郎共を、全員文字通りの意味で地獄へ
叩き落した。
だが、試合中の事とはいえ殺人は殺人。偶然にも観客席には裁判官・御剣検事・成歩堂弁護士が揃っていたので、急遽
裁判が行われた。
結果、川末は無罪。「斗貴子さんを侮辱するような奴は死んで当然」という成歩堂の主張は満場一致で認められた。御剣
検事、そして被害者の親族も「それじゃあ仕方ないな」と納得。斗貴子さんは偉大なバトルヒロインである。
斗貴子さんを侮辱するという行為に対しては、殺人すら許されるのだとイタリアンギャングも言っていた。
まあ、筆者はまひろの方が好きなんだけどね。だって斗貴子さんより断然可愛いじゃないか。
―――三日後、兵庫県某所で臓物と脳漿をブチ撒けた男の死体が発見された。男はサマサという名でしょーもないSSを
書いていたという事実が警察の捜査によって判明したが、犯人は結局見つからなかった。
余談であるが、昨年(2016年夏)公開された映画版P2!第三作目<戦慄!黄金卓球闘士>では、最強と噂される
乙女座の黄金卓球闘士・チャカを相手にスーパー・ウルトラ・ミラクル・スペシャル・グレート・オールラウンダーの
川末は圧勝。しかもチャカの呪い(タマキンがムレる・タマキンの位置が直しても直しても気になる・皮に毛が絡まる)
を受け、実力の半分も発揮出来ない状態だったにも関わらずだ。
そして川末が倒れ付すチャカに向けて放ったセリフ「タマキンを気にして卓球に勝てるか!」を聞いた観客は皆一様に
スタンディングオベーションをしたとかしないとか。なおこのセリフは2016年度流行語大賞を受賞した。
―――思いのほか長くなったが、とにかくスーパー・ウルトラ・ミラクル・スペシャル・グレート・オールラウンダー
はそんぐらい、とてつもなく凄いのだ!
だが!その川末ですらも、相馬には勝てないのか!?しかし―――
275作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 18:06:33 ID:HQnMgzq30
「そうだな…如何にスーパー・ウルトラ・ミラクル・スペシャル・グレート・オールラウンダーとなった僕でも、あなた
には勝てまい…」
そう言いながらも、川末の口元には笑みが浮かんでいる―――それは、切札(ジョーカー)を隠し持つ勝負師の笑みだ。
「あなたに勝てるとしたら…この男だけだ!」
川末はオーダー表を取り出し、S3の自分の名前の部分をライターで炙り出した。
「こんな時のために、炙り出し文字にしておいて正解だったようだな…」
「な…まさか!」
相馬はそこに現れた名前を見て絶句した。その名は―――
「そう…岩熊(いわくま)さんだ!」
岩熊―――最高のプレイヤーと称されながら、腕の故障により再起不能となった久瀬北の元・部長―――
そして相馬にとって、最高のライバルだった男だ。
「彼ならば…最強のプレイヤーである、あなたにも勝てるはずだ!」
「馬鹿な!あいつの右腕はもう…いや、そもそも奴はこの場にすらいないんだぞ!それを―――」
言いかけて、相馬は気付いた。バックスクリーンの上に、いつの間にか一人の男が立っていることに。
太陽を背にしてガイナ立ち(腕組みして仁王立ち。ガイナックスのロボアニメ・特にガンバスター参照)をする威風堂々
としたその筋骨隆々な男は、そのままの姿勢で大ジャンプし、卓球台の上に降り立った。
「待たせたのお…皆!」
「岩熊さん!」
そう―――それはドイツ(多分)にいるはずの岩熊その人だった!
誰もが岩熊の元に駆け寄ろうとするのを、岩熊は制した。
「色々と積もる話もあろうが…今は試合の方が大事じゃ。すまんな、川末…お前の出番、わしがもらうぞ」
「ええ…任せましたよ、岩熊さん」
「ちょ、ちょっと君たち!無茶言うんじゃない。今さらオーダー表を書き換えだなんて…」
抗議しようとする審判。だがそれを、相馬が抑えた。
「僕なら構わん…望むところだ」
「む…そ、そうか…まあ、両者合意ならいいだろう」
あっさり引き下がる審判。ちなみにリアルで同じことをやった場合、もれなく退場になるのでご注意を。
276作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 18:07:34 ID:HQnMgzq30
そして、向かい合う二人。
「まさか、お前と再び戦うことになるとはな…」
「全く、腐れ縁ということかのお…」
「フ、言ってくれるな…だが岩熊、その砕けた右腕でどこまで戦える?言っておくが、今の僕はお前が知っている頃とは
レベルが違う。あの頃よりも僕は100倍強い…例えその腕が完治していたとしても、お前に勝ち目はないぞ!」
自信を漲らせる相馬。だが岩熊もまた、臆することなく豪快に笑う。
「はっはっは。確かにな、相馬。今のお前さん相手じゃ、わしが全盛期の力を取り戻していたとしても、勝負にもならん
じゃろう。まして、実を言うとわしの右腕は、さっぱり治っておらん…黒男先生もゴッドハンド先生もK先生も、みんな
サジを投げちまうほど、その怪我は絶望的なもんじゃった…しかし」
岩熊は、ゆっくりとラケットを構えた―――右手ではなく、左手で。
「何だと…?」
それを見た相馬は顔を険しくする。
「貴様…僕を侮辱するためにここに来たのか!?利き腕が使えないからといって、よりによって左だと!?そんな苦し紛れ
の付け焼刃が、僕に通じるとでも…」
「そう…付け焼刃じゃ。だが…」
瞬間、相馬のすぐ横を何かが超高速で突き抜けていった。ほぼ同時に轟音が響き渡り、観客席の一部が破壊された。
それを為したのは―――ピンポン玉。そしてそれを放ったのは―――岩熊。
ラケットを振って、ボールを撃ち出す。その一連の動きは、その場の誰にも見切ることができなかった。
「バ…バカな…!」
「例え付け焼刃でも、死ぬ気で鍛えれば業物になる。これが今のわしじゃ」
岩熊はラケットを振り抜いた姿勢のまま、
「相馬、お前さんだけじゃあない。わしもまた、あの頃よりも…100倍強い!」
277作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 18:08:34 ID:HQnMgzq30
―――果たして岩熊は、如何にしてこれほどの力を手にしたのか?
以下、岩熊の回想である。
ヤーさんのベンツを左手だけで持ち上げて組に殴りこみ、壊滅させる岩熊。
ドーバー海峡を左手だけで泳ぎ切る岩熊。
キリマンジャロを左手だけで登頂する岩熊。
塩漬けから蘇った原始人を左手だけで倒す岩熊。
左手だけで逆立ちしつつフルマラソンに出場し、2時間を切る驚異的なタイムで優勝する岩熊。
彼はかくも過酷な試練を乗り越え、レフティ(左利きプレイヤー)として生まれ変わったのだ!

「そういうことか、岩熊…ならば僕も遠慮はしない。全力でいかせてもらおう!」
相馬はパチン!と指を鳴らした。
「来いぃぃぃぃぃっ!トロンベ…じゃなくてロシナンテェェェェェッッ!」
瞬間―――ヒヒィィィィィィン!と嘶きながら、試合場に一頭の巨大な馬が乱入してきた。
その名はロシナンテ。初登場時は可愛いお馬さんだった彼も寄るインフレの波に飲まれ、今では黒王か松風かといわん
ばかりの堂々たる風格を醸し出している。一体何を喰ったんだ、お前は。
そんなロシナンテの背に跨る相馬。
「これが僕の最終戦闘態勢だ!さあ、行くぞ岩熊!」
「おう!こんかい、相馬!」
二人は笑みすら浮かべ、勝負を開始する。…一応言っておくが、馬に乗ったまま卓球をするのはルール違反以前に人と
しての問題です。だがそんな野暮なことをおっしゃるKYなお方は、この場には誰一人としていなかった。
278作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 18:22:43 ID:HQnMgzq30
―――その後の試合は、どれだけ言葉を重ねても表現できるものではない。
荘厳…神聖…究極…それら全てが単なる陳腐な言語の羅列に過ぎないと思い知らされる、そんな凄まじい死闘だった。
そして―――セットカウント2−2。迎えた最終セット。
既に二人の身体は、見る影もなくズタボロだった。全身から出血し、ペンキで塗りたくったかのように真っ赤な姿。
両手はあちこちがありえない方向に折れ曲がり、爪など全て剥がれ落ちている。
最も酷いのはその顔だった。両者ともにアンパンヒーローの如く腫れ上がり、歯はあちこちが欠けている。瞼はもはや
完全に目を塞ぎ、本来の役目を果たしていない。
だが、そんな無残な姿を見ても、誰一人として、彼らを醜いとは思わなかった。それどころか―――
「…なんて…」
見守るヒロムの目から、涙が溢れ出す。その他大勢の皆さんも同様だった。
「なんて…美しいんだろう…!」
一種崇高な空気が流れる中、相馬と岩熊は顔を見合わせた。もはや表情など分からないが、何故かお互いには分かった。
ああ―――いい笑顔だな、と。
「さあ…そろそろ勝負をつけるか、岩熊」
「そうじゃのお…わしの全てをこの一撃にかけよう!」
両雄は空中高く飛び上がり、練りに練り上げたオーラの全てをラケットに込め、最終最後の奥義を繰り出す!
「はああああああっ!銀河終焉(アポカリュプシス)!」
溢れ出す、相馬のオーラ。それは地球全土を包み込み、あらゆる地域で天変地異を引き起こした。
「うおおおおおおっ!邪神王降臨(サモン・アザトース)!」
人間として許された領域を遥かに越えた岩熊のオーラ。それは別次元への扉すら開き、邪悪なる神々を呼び覚ます。
二つの力はぶつかり合い、共鳴し、反発し、融合し、そして、宇宙そのものを消し飛ばした―――!
(一応言っときますが、あくまでイメージ映像です。実際には爆心地である甲子園の半径百Kmが灰燼と帰した程度です
ので、皆さんご安心を)
279作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 18:25:46 ID:HQnMgzq30
「ふ…やるな…岩熊…」
―――真っ白に燃え尽きた相馬が、崩れ落ちていく。
「お前こそ…僕の…ライバル…」
「…ほんまに、のお…」
―――まったく同じタイミングで、岩熊も全身から人体が発するとは思えない音を立てて、倒れ付す。
「相馬…お前がおったから…わしは…ここまで来れた…」
シーンと静まり返った会場。その静寂を打ち破り、審判が高々と宣言する。
「この試合―――両者、勝利!」
どう考えても現実的にはありえない判定を下した審判だったが、彼を非難するものはいない。
この素晴らしい試合を為した二人。敗者など、どこにも存在しないのだ。
まさに審判、nice judge. 中に誰もいないじゃないですか。
言葉様、僕はあなたについていきます。
それはともかく、両校ともに2勝1敗1分けというわけの分からんスコアで迎えた最終戦。ついに!満を持して!
主人公・藍川ヒロムの出陣である!
「藍川…戦う前に一つ言っておく!」
川末がヒロムの肩に手をやって語りかける。
「お前は最後の戦いを勝ち抜くためには最終奥義を会得せねばならないと思っているようだが…別になくても勝てる」
「な、何ですって!?」
いきなり明かされた真実に驚愕するヒロム。
「そしてお前の両親は痩せてきたのでウチの病院に入院させておいた…後はお前が勝つだけだな、ふふふ…」
「はい…分かっています。それはそうと僕もあなたに言っておくことがあります…僕には超人的な動体視力があると
思っていましたが、別にそんなことはありませんでした!」
「そうか…さあ、勝って来い、藍川!」
「ええ、行ってきます!」
ヒロムはまっすぐに、目の前にいきなり現れた石段を昇っていく。
(ようやく僕は登り始めたばかりだから…この果てしなく遠い卓球坂を!)
280作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 18:26:47 ID:HQnMgzq30
―――その頃、病院で眞白は夢を見ていた。
卓球場の中で誰かが呟いた「おやすみ」。
ヒロムの元に集う仲間たち。
プリンセス・ゾノ(前園のこと)。

―――P2!第一部<全国激震篇>完!第二部<地球崩壊篇>もご期待ください!

                      NEVER END
281サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/11/18(日) 18:27:54 ID:HQnMgzq30
投下完了。あまりに投げやりな終わり方ですが、ご容赦を。
しかしP2!打ち切り確定っぽいんですよね…好きだったのに。
最近のジャンプ編集部は全く!

感想をくれた皆さん、本当にありがとうございます。
正直きつい状態から抜け出せてませんが、僕の書いた馬鹿馬鹿しい話も読んでくれてる人が
いるというのは励みになります。
まだしばらくはローペースだと思いますが、どうにかやっていきます。
ではでは。
282作者の都合により名無しです:2007/11/18(日) 22:14:17 ID:0l7Boz3P0
サナダムシさん、サマサさんと続くとなんか嬉しいな

サナダムシさん相変わらず短編うまいです
どうかやさぐれ獅子も続き書いてくだされ

サマサさん結構お久しぶりです。P2は知りませんが楽しめました
でもラストのハオ落ちは少し投げやり過ぎw
283作者の都合により名無しです:2007/11/19(月) 00:15:16 ID:bTVpLM/Z0
サマサさんも復活したかー
短編もいいけど、桃伝の続きも待ってます
284作者の都合により名無しです:2007/11/19(月) 15:09:18 ID:eQNDc+/r0
サマサさん乙
プリンセスハオはともかく、粋な審判の計らいとか
結構さわやかな作品になりましたね。
一度、原作も読んでみます。
スローペースでもぼちぼち更新して下さいね。
285乙女のドリー夢:2007/11/19(月) 21:22:00 ID:3TU2Vqhr0
>>224
刃牙の懸命な説得も、梢江には半信半疑で受け止められたまま放課後。梢江は生徒会
の会議があるからと(刃牙を疑惑の目で見つつ)残り、刃牙は一人で帰路についた。
とりあえず留美に尾行されてはいないようだが、今朝のこともあるから油断はできない。
『はぁ……どうすりゃいいんだか』
夕闇迫る街をとぼとぼ歩いて、人気のない路地に差し掛かった時。刃牙の前に、
大柄な人影が立ちはだかった。と思ったら背後からも。あっという間に刃牙は、
前を三人後ろを四人、七人の男たちに挟まれてしまった。左右は壁の狭い路地、
逃げ場はない。
といっても、実は刃牙は彼らの尾行には気付いていた。殺気があったのでわざと
人気のないところへ誘い、さっさと片付けるつもりだったのだ。
そうしたら案の定というか、姿を現した相手は思いっきり不審者丸出しであった。揃いも
揃って紅葉ほどではないがかなりの筋肉巨漢で、それを誇示するタンクトップ姿、そして
目の部分だけ穴を空けた買い物袋をすっぽり被って。何とも言い難いものがある。
刃牙の正面に立つリーダー格の男が一歩進み出て、胸を張って言った。
「範馬刃牙よ。貴様のような、何の流儀もない小僧が地下闘技場のチャンピオンとして
君臨するなど、あってはならぬこと。よって我々は、貴様に制裁を下すことにした」
「だったら、正々堂々と闘技場でやれば?」
「たわけ。貴様、自分の立場が解っているのか? チャンピオンだぞ。ならば、いつまで
経っても我らに挑戦権など得られるはずがなかろう。また、そういう事情だからこそ、
こうして人数をかき集め、準備万端整えたのだ。一対一の素手では勝負にならんからな」
と言って男たちは、釘つき角材やら金属バットやらスタンガンやらを取り出した。
「どうだ。まだ何か言いたいことはあるか?」
286乙女のドリー夢:2007/11/19(月) 21:23:59 ID:3TU2Vqhr0
「いや、何もないよ。というかあんたら、ある意味男らしいというか潔いというか。
もちろん、情けないことに変わりはないんだけどさ」
「ふっ。褒めても何も出んぞ」
「……頭痛がしてきた」
「ではそのまま脳溢血にでもなってもらおうか。おい、あれを出せ」
リーダーが顎をしゃくると、その隣に居た男が、担いでいたズタ袋を地面に下ろした。
袋の口を結んでいた紐を解き、袋の底を掴んで引っ張り上げる。すると中に入っていた
ものが、勢いよく転がり出た。
「!」
それは、後ろ手に縛られて猿轡を噛まされた制服姿の三つ編み眼鏡の女の子。留美だ。
「どうだ驚いたか。我々の調査によると、この子はお前に随分とご執心らしいではないか。
お前の方がどう想っているかは知らんが」
「んぐ、んぐぐぐぐっ!」(範馬君は、あたしのことなんて何とも想ってないっ!)
喋れない口で、せめて首だけでもと強く振って、必死に訴える留美。
「ふん。どうやらこの子は、自分はお前とは何の関係もないと主張しているようだな」
「んぐぐ! ぐぐぐぐっ!」(当然でしょ! 範馬君は女の子なんかに興味ないのっ!)
留美の一生懸命さに、リーダーは満足そうな高笑いをして刃牙に向き直って言った。
「はっはっはっはっ、何と健気な! 範馬刃牙よ、この健気な少女の命が惜しかったら……」
刃牙はリーダーの目の前、鼻が触れる距離にいた。そして他の六人は地に伏していた。
え? とリーダーが声を漏らすより早く、刃牙の膝がリーダーの股間に突き上げられて、

ごくめりっっ!
287乙女のドリー夢:2007/11/19(月) 21:26:44 ID:3TU2Vqhr0
「はぉうっっ!」
目ぇ剥いてリーダーは卒倒。襲撃者たちはあっけなく全滅した。
そのあっけなさっぷりに留美が目を白黒させている間に、刃牙が手早く猿轡と縄を解く。
そして留美を助け起こし、立たせた。
「怪我はない?」
「う、うん」
「ごめん、変なことに巻き込んでしまって。けど、これで解っただろ? オレに関わってると、
またこういう……」
と刃牙は言いかけたのだが。留美が混乱から帰還して状況を脳内整理すると、
刃牙の手を取って飛び上がらんばかりに喜色満面、興奮して大声を上げた。
「凄い! 凄いよ範馬君! あたしなんかが考えるよりも遥かに強いんだろうなとは
思ってたけど、まさかここまでだなんて凄すぎる! 範馬君ってきっと、ううん、絶対に
プロレスやボクシングの世界チャンピオンよりずっとず〜っと強いよ!」
「う、まあ、それは……その……」
「いや、チャンピオンどころか地球上のどんな生物より強い! 地上最強だよっ!」
と……
「それを言われちゃ、黙ってられねェなァ」
地獄から響いてきたような声と共に、夕日がその男の影を伸ばしに伸ばして、
刃牙と留美の下に届かせた。
いつからいたのか、いつの間にいたのか。その男は、そこに立っていた。
「久しぶりに日本に来たんでな。まだまだ俺が喰うにゃ早過ぎるだろうから、ちょいと
顔だけ見ていくかと思ったんだが……随分と可愛い子に褒め称えられて、
いい御身分じゃねえか、ええ刃牙?」
地上最強の生物、範馬勇次郎がそこにいた。
288ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/11/19(月) 21:30:54 ID:3TU2Vqhr0
>>スターダストさん
珍しく今回は静かなまひろ。と対照的に……いつもの小札節、やはり可愛い! あんまり
可愛いんで持ち帰ろうとしたら幼女誘拐犯。で「報道陣の方々、何卒どうか少女誘拐犯と
称して頂きたく」とか。でもこういう子が意外と見事な策で秋水をギャフンと言わせるかも。

>>邪神? さん
斧で二指真空把かましたかと思えば、黙々とイカサマを仕込む裸ジャケットの真面目ヅラ。
ここんとこケンが元気ですねぇ。いろいろあったけど復活、成長できた模様。そんなケンを
相手に、本来主人公のホークがへろへろなのも何だか微笑ましい。彼も成長できそうな。

>>NBさん(お帰りなさいませっっ! お忙しい中でも変わらぬクオリティに感服安心です)
今に始まったことではないとはいえ、ただ強い奴がゾロゾロいるってだけじゃないんですよね。
組織として兵団として、規模、物量、装備の質。どうやりゃ突き崩せるんだと。しかしやはり
敵側っぽい驕りもちらり。そこがイヴの必死さと対比……と思ったら甘さの指摘もあり。深い。

>>サナダムシさん
ナンセンスギャグでなくブラックユーモアでなく。バトルもしてないし絶体絶命のピンチもなく、
派手豪快な映像もなく。初っ端のアイデア一つでオチがどうなるのかと興味を引いて、綺麗に
ほのぼのハッピーエンド。これ、凄く難度の高い物語だと思います。私には絶対ムリだなぁ……

>>サマサさん(SSを描くことが楽しいと感じられる時に、また描いて下さい。待ってますよっ)
勇次郎どころかもはやZ戦士の域ですな。随所に散りばめられたコアなネタも笑えましたが、
>例え付け焼刃でも、死ぬ気で鍛えれば業物になる。
これ、地道にカッコいいです。形式だけのはずの部分が、言葉としてズンと重みをもった感触。
問答無用な迫力とテンポの良さが、何が起こってるのか解らぬまま一気に読ませてくれました。

>>だからどーしたな話を少々。
留美は同級生男子でカプ妄想までやらかす、立派な腐女子です。が同時に漫画のヒロイン
でもありますので……ちゃんと美少女キャラなんですねこれが。原作では留美を好きになった
一般人男子なんかもいて、留美の腐思考に振り回されたりしてます。その辺り、同じ「ヲタを
主人公にしたラブコメ」でも電車男とはある意味正反対というか、男性キャラと女性キャラ
の扱いの違いというか、読者に求められるものの相違というか……
289作者の都合により名無しです:2007/11/19(月) 22:18:54 ID:wR4kONrf0
ふらーりさん乙。ついに勇次郎登場でますますカオスですなw

>留美は同級生男子でカプ妄想までやらかす、立派な腐女子
さすがにキモくて原作探す気にはならんなw
「むぅ、流石メルビル・・・こいつは掘り出しもんだぜ。」
「大剣なんて誰も使えねぇ、金は有意義な物に使えよ。」
「打槍?叩くタイプの槍なのか、槍ならゲラ=ハが使えるんじゃないか?」
「いえ、戦い方が全く違うので・・・応用は効くと思いますがやはり衝槍でないと。」
「よしっ、プロテクターがあれば鎧のないケンシロウでも弓に対応できるぞ。」
「北斗神拳に弓矢は効かん、戦場格闘術として全ての武器に対応している。」

ポーカーで巻き上げた金を持ちながら、辺りをキョロキョロ見回すベア。
物資の流通の多いメルビルでは様々な種類の武器防具を目にすることが出来る。
その為、知識のない人間に粗悪品を売り付けるような輩も出てくる。
ここにいる全員は武器に対してある程度の知識を持っているので引っ掛かる心配は無いが。

「女じゃあるまいし、さっさと済ませてパブいこうぜ。」
「急かすなよ、そんなことだと女にモテないぜ?」
茶化してホークにウインクを向けてみせる。
正直言ってゴツイとしか言いようのないベアの向けるウインク。
ホークは舌打ちしながら背後を振り向いたが、世の女性には通用するらしい。
乳臭いガキはケンシロウの方にお熱らしいが、ベアは妙齢の美しい女性の視線を集めていた。
一見すると無骨な人間が茶目っ気を見せる、このギャップに惹かれたのだろうか。

「女ってのは・・・分かんねぇもんだな。」
ホークも女に不自由する身ではなかったが、シェリルのこともある。
次の出会いに備えて考案しておく必要がある。
早速、売り物の鏡を手に取って輝くばかりのスマイルを作る。
うむ、我ながらいい男だ。
そして片目を閉じてウインクを決める。

「・・・見えねぇ。」
眼帯をつけたままウインクをすると間抜けに見られる。
というのが彼の収穫だった。
結局、買ったのは武器ではなく鉄鋼などの鉱物だった。
鉱石を鍛冶屋に持っていけば、武具を強化することもできる。
だが、逆に威力が下がったり脆くなったりデメリットも出てくる。
しかも宿に泊まるとき合成品でない武具は砥いでくれるのだが、
強度にムラのある合成武具は壊す恐れあり、と研磨してくれないのだ。
その為、切れ味が悪くなるたび鍛冶屋に寄らなくてはならない。

「おいおい、武器の強化なんて専門家がいなきゃ金をドブに捨てるようなもんだぜ。」
「まぁ、見てろよ。素材には相性があるらしいが、見て気付かないか?」
「あん?そういや・・・光り具合とか似てるような・・・。」
「材質が近いものなら、弱くなるってことはないだろうよ。
それに売ったところで大した金にはならん、武器に使っちまえばいいのさ。」
そういって全員の武器を持って鍛冶屋に入る。
強化した武器が戦闘中にダメになっても、予備の武器を残しておけば戦力は失わない。
いざという時に困ることもあるだろうが、強力な武器は欲しいという訳か。

「先にパブに行っててくれ、俺達は後からいく。」
それだったら買い物なんぞに付き添わせるんじゃねぇ。
そう思ったが、ベアのペースに調子を狂わされて言うタイミングを逃した。
武器を手に、ケンシロウと一緒に鍛冶屋の奥へ進んでいった。
何故ケンシロウが一緒かというと、個人的な用事があるとのことでだ。

さっそくパブで情報を集める。
張り紙からは行方不明者の捜索、マスターから変死事件について聞くことができた。
宿屋の娘が急に居なくなったという話と、道具屋の突然の自殺。
「まっ、どうせ大した事件じゃないさ。二手に分かれて片付けよう。」

ケンシロウとベアが変死事件を探ることになった。
残るホークとゲラ=ハが宿へ向かい、宿を経営している親から話を聞き出す。
「自由に育てて、不満なんてないように育てた筈なんです。
ですが、どういう訳か最近は変な奴等と一緒にいることが多くて・・・きっと奴等です。」
要約すると、刺激に飢えた都会のガキが怪しい奴等の誘惑にかかったということだ。
怪しい、って証言が簡単に手に入ったんだから目撃できれば目立つような奴等だろう。
「ですが当てがありませんね、どこから調べればよいのか。」
「街から出てればお手上げだな・・・一度、合流してお互いに得た情報を確認する。」

娘を見つけてくれるなら、と宿のオヤジも格安で部屋を貸してくれた。
タダで止めてくれない辺り特別な信用はされてないのだろう、海賊だから仕方ないが。
宿に戻ってケンシロウ達の帰りを待つホーク。
一時間もすると彼等は戻ってきた。

早速テーブルを囲い、先日のように話を進める。ポーカーは無し。
「道具屋同士のいざこざが原因だという説があったが多分違う。
勘でしかないが、容疑のかかった道具屋を問い詰めた時に無駄な返答が多かった。
奴の言ってることは信用できるぜ、問題は奴の言っていた怪しい奴だ。」

「怪しい奴・・・。」
「なんだ、心あたりでもあるのか?」
「宿屋のオヤジも同じようなことを言っていた、同一犯じゃねぇか?
周囲に怪しい、って思われる行動を取りながら犯行に出るアホはそう何人も居ねぇ。」
「目的の為ならどーでもいい、って訳か。そもそも、目的があるのかも分かんねぇな。
まぁ、なんにしたってもうちょい情報が欲しい。パブで怪しい奴について調べてくる。」

会話が終了し、席を外すと今まで黙っていた二人の口から言葉が発せられた。
「19だ。」
「残念、ブラックジャック。」

勝手にブラックジャックを始めていた二人、いつからギャンブラーになったんだこいつ等?
ポーカー戦の時の様な熱い戦いを繰り広げそうだが、ここは事件を追うのが先だ。
「ゲラ=ハ、ケン、遊んでないで情報の一つや二つ集めてこい。」
「ハイ、キャプテン。申し訳ありませんが勝ち逃げさせてもらいますよ。」
「・・・仕方ない。」
闘志を抑えてはいたが不機嫌なのは伝わってくる、熱くなりすぎる前に止めてよかった。
ベアはパブへ行くという事で、ケンシロウは店に、ゲラ=ハは民家に聞き込みを行う。
ホークには考えがあった、街から出ていればお手上げなのだ。
先に出て行ったかどうか調べるべく門番に事件日から怪しい人間の出入りを聞く。

思ったとおり、「入れてもなければ出してもいない」という返答が返ってくる。
そうなれば、他の入口から痕跡を辿ればいい。
このデカい街の全域に水を辿らせる為には『水路』がある。
普通の街は井戸なり川で勝手に汲ませるが、ここは天下のバファル帝国、その首都である。
ここまで分かれば再び宿に戻り、全員が返ってくるまでベッドで眠っていればいい。

そして晩飯の時間が来たのでゲラ=ハが起こしにきた。
寝ぼけ眼のままテーブルにつき、質素な食事を口に運ぶ。
「さて・・・食い終わったし、準備を済ませるぞ。」
「準備って、こんな時間にまさか俺にタカって売春宿にでも・・・元気な奴だな。」
「そんな場所にいくのに準備なんかいるか!」
「9とA・・・20です。」
「残念だったな、今度は俺がブラックジャックだ。」

話を無視してギャンブルを続けているので、ケンシロウの役を引っぱたく。
するとカードを重ねて枚数を誤魔化していたらしく、下から別のカードが出てくる。
「ケン、アナタは・・・」

ゲラ=ハの近くのコップに手を突っ込む、鏡を中に入れてカードを隠していた。
飲むフリをして舌で取り出していたのだろうか。
向かい合わせの壁が同じ色なのはよくあることだが、壁にある絵やシミは盲点だったようだ。
「ゲラ=ハ・・・貴様。」
二人を静止し、町の地図を取り出す。

「いいからさっさと支度を済ませろ、今夜は満月だ。
道具屋が殺されたのは満月の日、何かしら動くとしたら今夜しかない。
全員で水路への入口を全て見張るんだ、かならず出てくる。」
段々と家計がピンチに陥ってます、邪神です。(0w0)
バイト先のシフトが奇妙な事態になってて俺も把握出来てないがシフト入れてもらえないw
そのお陰でシフト提出が遅れて更に奇妙な事に・・・。
一食を数百円で済ませる為、100円でインスタントを大量購入。
なんだか元からピザってたのが更にピザってきたような・・・。

まぁそれは兎も角、スレがが復活しつつありますね。
このまま過去に戻りに戻ってザクさんとか復活したらなぁ。
ガンガル好きなもんで・・・月末のGジェネも楽しみだったり。

〜感謝の言葉〜

>>ふら〜り氏 元気にしすぎて原作ブレイカーしてます。
       拳一つで世紀末を乗り切ったと思われた彼もこんな技を身につけていたのです。
       ところで…ごくめりっ!って何の擬音だったか…出てきそうで出てこない…。

>>242氏 思い返してみると戦闘で活躍してるのってケンシロウオンリーですよね・・・。
    それを反省してホークを底力を・・・でもKYケンシロウがそこで出てくるかも。

>>243氏 >>キャプテンは男連中が頑張ってる。
    闘いに女性を意味もなく引きこむなんてゲスな考えは遺憾の意です。
   女性が介入するのは悪くはないんですよ、慈愛とかの精神の強さは女性の方が伝わる物です。
   そこに萌えだのなんだのを無駄に入れるからダメなんですよ…もっとエルメェス兄貴を見習うべき。
   最近のジャンプもそんな傾向が…○ゼロにト○ブルにタイトル忘れたけどいちごの人…。
   3つも方向性被ってるし、ネタでも斬とか入れればいい。(いちごの人は内容見てないけど表紙で伝わった)
   それともネタ系はベルモンドを当てはめているのだろうか、斬のクオリティには一歩及ばない気が…。
   最近はジャガーさんとこち亀とネウロの3つしか読まなくなったので買わないで立ち読みに。
   なんか熱い漫画ないかな…。この手の話題は無駄に長くなるなぁ(;0w0)
295作者の都合により名無しです:2007/11/20(火) 09:13:43 ID:F6nTAqv10
ケンシロウが妙に俗っぽいww
296作者の都合により名無しです:2007/11/20(火) 12:36:11 ID:6uDNmidP0
このままギャンブルファイトに突っ込めば面白いのに
ギャンブルフィッシュや零みたいな
熱い漫画といえば今はギャンブルフィッシュが一番かなあ
297作者の都合により名無しです:2007/11/20(火) 22:24:42 ID:2ASN1dv60
>ふら〜りさん
えらい勇次郎口数多いなw
作品にそって丸くなったかな?原作もそうだけど

>邪神さん
ケンシロウが別人だがこれはこれで面白いw
意外といいトリオかも知れん。
298作者の都合により名無しです:2007/11/21(水) 13:19:35 ID:1o94CvYH0
また止まる・・・?
299作者の都合により名無しです:2007/11/22(木) 22:11:37 ID:a9pEjkGO0
週末には誰が来るだろ
300作者の都合により名無しです:2007/11/23(金) 21:45:10 ID:OyIeaRH+0
えらいラッシュと思ったらまた止まったw
301乙女のドリー夢:2007/11/23(金) 22:00:19 ID:SAbNWpGK0
>>287
格闘技なんかはもちろんド素人で、殺気や闘気を感じ取ることなどできない留美。
もちろん、普通の女子高生……というか、平凡な一般人ならそれが当たり前だ。
だが目の前に立つ男からは、それらが強烈に感じられた。留美の髪を揺らさぬ突風が、
留美の服を濡らさぬ津波が、そして留美を物理的には押し潰さぬ重圧が、絶え間なく
襲いかかってくる。
「……ぅ……」
たった今、刃牙のことを地上最強だと心底信じた留美だったが、その思いはあっさりと
ひっくり返ってしまった。範馬君がこの人と戦っても絶対に勝てない、と確信できてしまう。
刃牙はというと半ば反射的に留美を背に庇う位置に立ったが、しかしそこまでだった。
勇次郎の気迫と視線を受け止め、潰されないようにするだけで精一杯である。
「親父……今、ここで、やる気なのか?」
もし勇次郎が本気でその気なら、どうせ逃げられはしない。ならば応戦するしかない。
そして応戦しても、どうせ勝てはしない。逃げられないのと同じく。だが、今ここには
留美がいる。せめて、何とか留美だけでも逃がさねば。
そう思って刃牙が踏ん張っていると、勇次郎の視線が留美に向けられた。
『むぅ……三つ編み眼鏡っ子……流石は我が息子、なかなかいい趣味をしている……
というか、正直羨ましい……ハート型シールで封をしたラブレターを貰ったのか……?
それとも、トースト咥えて走ってるとこにぶつかったか……? するとあの子は転校生で、
一番後ろの刃牙の隣の席が空いてるからってやつか…………?』
ゴゴゴゴゴゴゴゴと勇次郎の気が熱く大きく膨れ上がっていく。周囲の景色が陽炎で
揺らめく。少々特異な色合いをした陽炎ではあるが。
ともあれその気の流れを察した刃牙が、全身に汗を浮かべて背後の留美に言った。
「浅井さん。俺があいつを食い止めるから、その間に逃げて」
「え?」
「あいつが動き出したらオレなんか多分……悔しいけど、一分も持たない。そして今、
あいつの意識はオレよりもむしろ浅井さんに向けられてる。だから早く!」
と刃牙が言った時にはもう、勇次郎が歩き出していた。二人に向かって。
刃牙に向かってなのか、それともその刃牙の後ろに庇われている留美に向かって
なのか。どちらかというと、どうも留美っぽい……というのを、留美自身が己に
突き刺さる視線から察した。
302乙女のドリー夢:2007/11/23(金) 22:02:27 ID:SAbNWpGK0
「浅井さん、逃げてっ!」
覚悟を決めて刃牙が勇次郎に向かおうとしたその時。
恐怖に固まっていた留美が、まるでバネ仕掛けのように跳んで刃牙の前に立った。
そして両腕を広げ、勇次郎の前に立ちはだかる。刃牙を庇って。もちろん、刃牙以上に
恐怖の汗にまみれた顔をして。
「あ、浅井さん!?」
「……解ってる。こういう時、素直にヒーローの言うことを聞かずに逃げないヒロインって
のは、どうかと思う。それで二人ともやられたらどうする気だって。あたし自身、そういうの
見て苛立つこともある。漫画やアニメでね。けど、実際その立場になってみたら……」
留美は勇次郎をまっすぐ見据えたまま、言葉を続ける。
「あたしにも判るよ、この人の強さが。だから怖いの。あたしを逃がす為に範馬君が
この人と戦って……それで明日、学校で範馬君に会えなかったら……そう思ったら……
そう思ったら……」
「……浅井さん」
「あたし、今、こうするより他に何も考えられないの。だからここを動かない。絶対に」
眼鏡の奥で、留美の瞳が涙に揺れている。その涙は、眼前に迫りくる勇次郎への恐怖に
よるものではない。自分が、自分だけが無事に逃げ延びた場合に対する恐怖だ。
小さな肩も、華奢な腕も、細く頼りない脚も震わせて、それでも勇次郎の前に
立ちはだかる留美。
そんな彼女と視線をぶつけた勇次郎の歩みが、止まった。
「…………なんというか……この状況はつまり……アレか」
脱力して頭を掻く勇次郎。その気迫が、みるみる萎んでいく。
「どうやら俺は、お前らに盛大なフラグを立ててしまったようだな。これで攻略ルートは
固定、いやむしろバットエンドルートは閉鎖、後は告白ED一直線の分岐なし、と」
何やら戦意をなくしたらしい勇次郎の様子に、留美も刃牙も「え?」な顔。
そんな二人を見て、ふん、と鼻息ひとつついて。勇次郎は刃牙に言った。
「こうなっちゃ仕方ねぇ、祝福するぜ二人とも。そこで刃牙よ、お前に言っておく。
強くなりたくば喰らえ。朝も昼も夜もなく喰らって喰らって喰らい尽く……」
「あの空間に浅井さんを巻き込むなああああああああぁぁぁぁっっ!」
刃牙が絶叫、肩をいからせてぜ〜は〜している。
303乙女のドリー夢:2007/11/23(金) 22:03:54 ID:SAbNWpGK0
今度は勇次郎が「え?」な顔。
「何言ってんだお前」
「……い、いや……今、何か、遠い未来の不吉な映像が頭をよぎって」
「? とりあえず、今はお前を喰う気は失せた。またいずれ、な」
ポケットに両手を突っ込んで去っていく勇次郎。後姿に少々未練が感じられるが。
やがてその背が見えなくなった時……留美は倒れた。
「あ、浅井さんっ!? 浅井さん、しっかりして!」
「ぅ、う……ん。大丈夫、大丈夫だから」
そう言う留美の顔は蒼白もいいところ。血の気の失せきった青白い頬が、
冷たい汗と溢れ出た涙で濡れている。
刃牙に抱き起こされながら、留美は汗と涙を拭って訊ねた。
「それより範馬君。さっき、『親父』って言ってたよね。あの人、まさか」
「ああ、オレの親父。実の父親だよ。……その、実はオレは」
ストップ、と留美は人差し指を立てて刃牙の唇に当てた。
「謝るのはあたしよ。興味本位で範馬君に付きまとって、足手まといになって。
それであたし自身がどうなろうと自業自得だけど、範馬君まで危険に晒して
しまったんだもの。本当にごめんなさい」
済まなさそうに、留美は顔を伏せた。
「よく解ったわ。あたしが、何も解ってないってことが。範馬君は、実のお父さんと
まで戦わなきゃいけないような……重い宿命を、辛い過去を、深い思いを背負って
生きて来たのよね……それをあたしは、範馬君の気持ちも知らずに面白がって……」
留美の細い指に口を塞がれたまま、刃牙は黙っている。
「もう、範馬君の戦いに首を突っ込んだりしないわ。ただ、祈ってる。範馬君がこの先、
無事に戦い抜けることを」
そう言って、留美は立ちあがった。もう震えてはいないが、その代わりに止まったはずの
涙が、新たに溢れつつあった。
もちろんこれは、先ほどのような恐怖の涙ではない。
「さようなら……範馬君」
刃牙に背を向けて、留美は駆け出した。振り向くことなく、夕闇の中をまっすぐに。
その背が遠ざかっていくのを、刃牙は黙って見送った。
304乙女のドリー夢:2007/11/23(金) 22:05:09 ID:SAbNWpGK0
その後、時が流れて。
創作系美少年バトルものの同人界において、浅井留美の名は不動のものとなっていた。
特に、クラスメートに正体を隠して謎のモンスターと戦う主人公の少年が大人気。その
少年のファンとなった少女たちによる二次創作作品が、続々と留美に届けられる
有様である。
留美の、その少年に対する丁寧で情感溢れる描写には皆が感嘆の溜息をつき、
「もしかして、実在のモデルとかいるんですか?」
「紹介してくださいよぉ。凄く素敵な男の子なんでしょう?」
と何度も何度も言ってくるのだが、留美はそれについては何も答えなかったという。

『あたしには何もできないけど……陰ながら応援してるからね、範馬君……♪』
305ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/11/23(金) 22:08:45 ID:SAbNWpGK0
今回はいつもより三割増しほど、「ここまでつきあって下さってありがとうございましたっ!」
です。どうしても『妄想少女〜』で描きたくて、つい、その。次回はもうちょっと自制しますんで
御容赦を。……とはいえ「完全」週休二日制で働く私は時間が乏しく。でも必ずやまた!

>>邪神? さん(ごくめりっ、は私も思い出せず。何かの漫画で見たんですが……)
パオさんの本部、サナダムシさんのシコルなんかがそうでしたが、邪神さんもやってくれました。
よもや、こんな可愛いケンが見られようとは。確かに、彼の動きの速さや視力の鋭さを活かせば
イカサマも上手そう。でも今ギャンブルにハマってるのは、やって楽しい仲間だからでしょね。
306作者の都合により名無しです:2007/11/23(金) 22:16:23 ID:OyIeaRH+0
お疲れさんでしたふらーりさん
いい意味でも悪い意味でもwふらーりさんらしい作品でしたw
またの職人としての復帰をお待ちしております


>「完全」週休二日制で働く私は時間が乏しく
でもこれどういう意味だろ?
月6日のローテ休の俺としては完全週休2日うらやましい・・
307ふら〜り:2007/11/23(金) 22:28:32 ID:SAbNWpGK0
>>306
すみません、ちょっと愚痴ってしまいました。今の職場は祝日が休日にならないという
意味です。それでも残業は少なめですし、贅沢言ってはバチ当たりますね。面目ない。
308WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/24(土) 03:32:48 ID:RZMUJWde0
「ッ野郎……」
腹を刺された火渡はガックリと頭を垂れ、うつむいてしまった。
千歳の方へ向けた彼の背中からは銃剣の切っ先が顔を覗かせている。どうみても致命傷だ。
「火渡君!!」
絶体絶命の危機にある親友の姿に、千歳は絶叫した。その悲鳴は彼女には珍しくヒステリックな
響きさえも含んでいる。
火渡は千歳の声に答える様子も無く、串刺しにされるがままだ。

終わりなのか? こんなところで?
火渡の命は目の前で風前の灯と化し、防人は化物に変えられた友人との戦いを強いられている。
孤独と使命感の中で出会い、錬金の戦士となった時から始まった、三人の戦いの旅は
こんなところで終焉を迎えてしまうのか?
千歳の絶望感は涙となって両の眼から溢れ出そうとしていた。

しかし――

「……!?」

――アンデルセンの表情が終幕には早過ぎる事を物語っていた。

圧倒的優位にいる筈のアンデルセンの顔からも笑みが消えている。
その原因は銃剣を握る彼の手にあった。

“何の手応えも無い”

あの肉を突き破る、あの内臓を切り裂く、甘美な感触が伝わってこない。
まるで水か、いや、煙にでも銃剣を刺しているかのように手応えを感じない。
久しく訪れず、ほぼ忘れかけていた“驚き”という感情が、アンデルセンの動きを
しばし止めさせた。
そして、意識しているのかいないのか。
“満を持して”という形容が似合い過ぎる程のタイミングで、火渡がゆっくりと顔を上げた。
獣臭漂う兇悪な笑顔を貼り付けて。
309WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/24(土) 03:34:15 ID:RZMUJWde0

「テメエ、死んだぜ……?」

その言葉が発せられるや否や、銃剣が突き刺さる腹の傷から炎が噴き出した。
炎は瞬くままにアンデルセンの腕や胸に燃え移る。
「ヌウウ!」
当たり前の話だが、彼は知らなかった。火渡の武装錬金の特性を。
数刻前の車上の戦いの際に、“炎を扱う”戦士だとは認識していた。
しかし、それはアンデルセンの認識不足だ。
火渡の“ブレイズオブグローリー”の特性は炎を扱うのではなく、我が身を炎と化す
“火炎同化”だ。
炎を斬れるか? 炎を殴れるか? 炎を狙撃出来るか?
その答えは、先刻のテロリストやサムナー、そしてこの時この場にいるアンデルセンが
身を以って我々に見せてくれている。

「火渡君……! よ、良かった…… 」
復活の狼煙を上げ始めた火渡の姿に、千歳は安堵の溜息を吐いた。
グイと拳で涙を拭い、彼女は決心する。
“火渡君を信じ抜こう、最後まで。火渡君は絶対に負けない”と。
そんな千歳の心持ちが伝わったのか。それともただのアピールなのか。
火渡はしっかりと立てた親指を、千歳が目視できる高さまで静かに上げた。

対するアンデルセンの意識の切り替えは早かった。
火渡の特性・能力を完全に把握し、仕切り直しを図る。
まずは、未だ火渡の腹に収められている銃剣を振り上げようとした、その瞬間。
そうはさせじと、火渡の右手がアンデルセンの手首をガッシリと力強く握り締めた。
ニヤリと不敵に笑う。プラス、サムナー直伝の皮肉が反撃開始の合図だ。
「こういう時は何て言うんだ? 『灰は灰へ』だったか……なァ!!」
人の姿を保っていた火渡は突如“火渡を形作った火炎”に変貌し、アンデルセンの手首を
握る掌も激しい業火と化して彼の腕を昇っていく。
310WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/24(土) 03:35:32 ID:RZMUJWde0
腕や胸辺りの衣服を焦がしていただけの炎が、一気にアンデルセンそのものを包み込む
焦熱地獄となった。
「ヌゥウウウオアアアアアアアアアア!」
廊下中にアンデルセンの叫びが木霊する。
髪の毛は瞬時に燃え尽き、皮膚は焼け爛れて弾け、眼球が水分を蒸発させて萎んでゆく。
それはまるで火葬を早回しで見ているような勢いだ。
再生者といえども、消える事を知らない無限と無間の業火に舐められる苦痛は筆舌に
尽くし難いだろう。
現に“ブレイズオブグローリー”の炎は彼に再生(リジェネレーション)の暇など与えない。
それでも……――

「ブファア! ハハッ! ハハハハハハハ!! ゲァハハハハハハハハハハッ!!」

それでも尚、彼は笑っている。
紅蓮の焔に身を包まれたアンデルセンは、平然と火炎を呼吸しながら哄笑を響かせていた。
喉を焼かれたせいで、しゃがれて掠れた笑い声は、生理的な嫌悪感に満ちている。
肺腑と共に全身をくまなく焼き焦がされながらも、傲岸とそびえ立つアンデルセン。
彼から苦痛を取り去っているものは信仰心か、戦闘意欲か、狂喜か、それとも純粋過ぎる程の
“歓喜”か。
哄笑は廊下中に響き渡り、恐怖と嫌悪に両手で塞がれていた千歳の耳にも入り込んでくる。
それを聞き流しながら、火渡はアンデルセンの手首を掴んでいた右手を離した。
随分と余裕を感じさせる所作である。
そして、その右の拳を弓引き、充分に“溜め”を作る。
「うおるあああああ!!」
豪快な気合いと共に紅蓮の拳が弧を描いた。
火渡の大振りな右フックはアンデルセンの頬を打ち抜き、その巨体を大きく傾がせる。
そこから更に間髪入れず、左のフックを叩き込んで倒れかけた身体を強制的に元の位置に戻す。
簡単には倒れさせない。
ここはもう既に火渡の独壇場だ。
ラッシュというよりも乱打と言った方がピッタリの拳の雨を、火山が噴射する灼岩弾
さながらに浴びせていく。
311WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/24(土) 03:37:29 ID:RZMUJWde0

「オラァ! これが神父サマのお嫌いな“錬金術の力”だぜ!? どうしたァ! 何とか言いやがれ!!」

「くたばれ! くたばりやがれェ! テメエをクソッタレな神サマのとこに送ってやんぞ!」

「テメエみてえな! 信心深え野郎のバーベキューを見たら! 神サマもさぞかし大興奮だろうぜェ!!」

火渡は粗暴かつ罰当たりな台詞を吐きながら、火達磨となったアンデルセンの顔面、胸、
腹、股間を手当たり次第に打ち続ける。
威力もスピードも防人には及ばないものの、拳にまとった炎と気迫はそれを補って余りあるだろう。
一撃また一撃と打ち込まれる度に、ケロイドの部分は炭化し、炭化した部分は渇いた音を
立てて爆ぜてゆく。

「とどめだァ!!」

地面を削り取るのではないかと思われる程の低い軌道を描いたボディアッパーが炸裂すると、
火渡の拳は遂にアンデルセンの胴体を貫通した。
アンデルセンの身体が大きく“くの字”に折れ曲がる。
目鼻の判別も定かならぬくらいに黒焦げた顔面が、火渡の眼前まで下りてきた。
それは、実に絶好の位置(ポジション)だ。

「喰らいィやがれェエエエ!!!!」

渾身の力を込めた右ストレートが顔面を捉える。
それだけでは終わらず、一瞬遅れて火渡の腕から放たれた強烈な紅炎(プロミネンス)の波が
アンデルセンを大きく吹き飛ばした。
2m近い巨体ははるか後方の壁に地鳴りのような音を立てて叩きつけられた。
サムナーの死体が転がり、自身が姿を現した、あの非常階段近くの壁だ。
木炭のように捻れ、捩れ、真黒のアンデルセンは倒れたままピクリとも動かない。
312WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/24(土) 03:42:09 ID:RZMUJWde0
今更、と言うべきか。
この年季の入った古さのビルが、あまりにも遅すぎるスプリンクラーを作動させた。
天井を一直線に走る複数のスプリンクラーは次々に申し訳程度の雨を降らせていく。
無慈悲に遅れた雨は、人間としての原型を留めるのがやっとの焼死体に降り注いだ。
炎の化身から人間としての姿を取り戻し始めた火渡にも。





さいです。お久しぶりです。戻ってきました。
ご心配お掛けして申し訳ありません。
応援して下さった方々、ありがとうございます。
これからまた完結に向けて頑張っていきたいと思います。
では、夜も遅いので今日はこれで失礼します。
313作者の都合により名無しです:2007/11/24(土) 12:28:30 ID:Cdb4PJNP0
さいさんお久しぶりです!
サイトの方でかなり怖い状況みたいだったので心配してました。
SSが読めるのは嬉しいですが、まず体に気をつけて下さいね。

でも、はやる気持ちはわかります。
最終局面間近ですからね。火渡がちょっとチンピラっぽくていいw
314作者の都合により名無しです:2007/11/24(土) 16:00:36 ID:F1xQjeYF0
・ふら〜りさん
連載お疲れ様でした。バキ世界と真逆な留美というキャラが
大暴れで楽しかったです。SSなんて元々趣味に走るもの、
これからも趣味に走りまくったネタを提供してください。

・さいさん
なんか結構大変だったみたいですね。復活うれしいです。
火渡りの魅力が爆発しててアンデルセンもタジタジですな。
でも神父がこのままやられっぱなしとは思えないなあ。
315作者の都合により名無しです:2007/11/24(土) 23:16:45 ID:HZPoBjZP0
さいさん復活されましたか
入院生活から復帰直後のクライマックスの執筆は疲れたと思います
火渡絶好調だけど、次回の神父お仕置きタイムのカマセっぽく感じるなw


ふら〜りさん、完結おめでとうございます。
実際、ふら〜りさんの完結した作品って10本くらいになる?
感想ともどもバキスレの守護神って感じですね。
316作者の都合により名無しです:2007/11/25(日) 03:00:01 ID:fwF8yRnI0
復活は喜ばしいがSSなんて書いてて体は大丈夫なのか…
317作者の都合により名無しです:2007/11/25(日) 23:50:42 ID:eqIXvLp90
週末はさいさん復活が収穫か
ふらーりさんのが終わってしまったが・・。
318戦闘神話:2007/11/26(月) 16:57:28 ID:5m0fNng10
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/396.html
より
part.5
act2

彼のホムンクルスとしての百年を振り返ってみれば、
蝶野の事業そのものが錬金術のために存在していたようなものだ。
人が神の摂理に挑もうとした軌跡である錬金術は、人を辞めるまでに爆爵を魅了したのだ。
しかし、かなしいかな、爆爵の天才をもってしても、独学の限界というものがある。
限界の前であがいている彼の前に現れたのが、L.X.E.本部会議室の盟主の席に置かれた
今移動式治療カプセルの中で澱んだ目をしている男、ヴィクター・パワードその人だ。

「…むーん。
 これはこれは…、彼までもご登場とは。
 ずいぶんと大事でもあったらしいね」

何時ものように飄々とムーン・フェイスは会議室に入った。
定例集会や定期会議以外の特別会合は、概ねドクトル・バタフライが召集をかける。
盟主としての顔をたてての事だが、ムーン・フェイスの隠された目的のためには、
盟主という雑事に塗れた立場はデメリットのほうが大きいのだ。

「ああ、大事だとも…。
 彼の仇が見つかったのだからね」

蝶々髭をしごきながら重厚な面持ちを崩さないが、苦々しさを隠そうともしていない。
そんなバタフライらしからぬ振る舞いに、ムーン・フェイスは少しだけ驚いた。
319戦闘神話:2007/11/26(月) 16:59:09 ID:5m0fNng10

「実は先日から人探しをしてもらっていたのだが…」

水泡の弾けるごぼごぼとした音と重なりながらも、不思議と明瞭なヴィクターの声に、
二人とも彼のほうへと目をやる。
目に付くのは、巌のような巨躯を彩る戦傷の数々だ。
中には未だにじくじくと赤い血潮を治療液に滲ませるものもある、
そんなヴィクターの姿は、痛々しさと同時に、不思議な高貴さをもって見るものの心を打つ。
傷そのものが口をきいたかのような、痛々しく擦り切れた声音で、ヴィクターはいった。

「何らかの手段を講じて、俺を追い詰めた錬金の戦士は存命している。
 居場所までは分からなかったが…」

「むーん…。
 俄かには信じられないねぇ…。
 だいたい、どうして内部事情に近い事を知ることができたのだね」

内心ヒヤリとしたものを覚えながらも、ムーン・フェイスは韜晦する。
こと腹芸に関しては、喜怒哀楽が読み辛い彼はかなりものだが、
その彼をして、先ほどの一言は肝を冷やすものがあった。

「ああ、そういえば紹介が遅れたね」

そんなムーン・フェイスを知ってか知らずか、バタフライがぱちんと指を鳴らすと、
彼の長身の影から小さな少女が現れた。
否、人形である。
320戦闘神話:2007/11/26(月) 17:01:28 ID:5m0fNng10
「はじめましてみなさん。
僕はローゼンメイデン・第四ドール、蒼星石です」

シルクハットを手に取り、優雅に一礼してみせたその人形は、まるで生きているかのようだ。
その動作、その容姿、その相貌、その存在感に比べることができる物などありはしない、
人が生み出した人ならざる乙女、神の細工、悪魔の御業。
ムーン・フェイスの眼に映るのは、絶後の天才と言われた人形師ローゼンの究極の連作の一体なのだ。

「むーん!
 これは…!まさか…、極東で目にする日がこようとは…ッ!
 なるほど、その人形の能力、ということかね」

さすがのローゼンメイデンといえども、呼び出されてみれば化け物の群れの中だったわけで、
ムーン・フェイスの目には動揺が見て取れたが、そこまで人の心そのものである事に彼は驚愕した。
抑えきれない興奮がムーン・フェイスの月顔の下から湧き出す。
無理もないだろう、錬金術に携わる以上必ず耳にする伝説の存在・賢者の石。
その賢者の石を使って生み出された完全無欠の自動人形。
七体の至高の乙女、ローゼンメイデンシリーズ。
曰く、七体全てを手にしたものはあらゆる栄光を手にする。
曰く、七体の乙女は次なる扉を開く鍵。
曰く、七体全てを手にする者には、超常の祝福が与えられる。
曰く、たった一つの完全なる乙女の為の捨石。
曰く、曰くと伝えられ、百年物とよばれる彼をしても事の真贋を確かめることができない程、
伝説化神聖化された存在が、今こうして目の前にあるのだ。
その月顔で尽くを煙に巻いてきた彼であっても、錬金術師としての本能が呼ぶ興奮に彼は震えた。
願わくば、今この瞬間に解体して調べつくしたい。
321戦闘神話:2007/11/26(月) 17:04:03 ID:5m0fNng10
…本当の主のために!

「うむ、集合意識を通じての探査ゆえに、少々時間がかかったがね。
 …さて、そこでだ」

バタフライはヴィクターを促すと、彼は重々しく口を開く。

「潜伏を俺は提案する。
 せっかく修復フラスコが完成したのだ。
 急いて事を仕損じては、この百年が水泡に帰す」

「むーん…。
 慎重に慎重を重ねるのも、悪くはないね。
 だが、先日捕らえた戦士の脳髄から引き出した情報からみると、
 我々はすでに彼らの視野に入っている…。
 慎重に慎重を重ねすぎるのは、得策ではないとおもうのだがね」

ヴィクターの言からしてみると、どうやら戦士が蝶野攻爵と戦った事を重要視しているようだ。
ムーン・フェイスの側としてみては、これは面白くない。
ただでさえ仲間の一人を襲った予想外の事態によって計画の遅延を余儀なくされ、
半世紀前の最高のタイミングを逸したのだ。
ようやく今、二度目のタイミングが巡ってきたのだから、逃すわけにはいかない。
322戦闘神話:2007/11/26(月) 17:08:08 ID:5m0fNng10
そんな本音をおくびにも出さず、ムーン・フェイスは計画進行を提案した。

「然り。
 ヴィクター、君の不安はよくわかる。しかし、ムーン・フェイスの言うとおりだ。
 私としても、蝶野本家が潰れた以上、
 遅延するともなれば新たな資金源の開拓を進めねばならない。
 そうなればなったで、また不確定要因を呼び込みかねん。
 …世知辛い話ですまないが、これ以上の遅延は限界なのだよ」

どうやら、バタフライもまたヴィクターの提案には乗り気ではなかったらしい。
胸をなでおろす。

「…そうか、すまなかった。探し人の件といい、重ね重ねすまない。
 だが、錬金戦団のホムンクルス討伐に対しての執念は、いっそ狂的と言っていい。
 くれぐれも注意してくれ」

このようにあっさりと引き下がる。
323作者の都合により名無しです:2007/11/26(月) 17:13:53 ID:ecwX5zR8O
安芸
324戦闘神話:2007/11/26(月) 17:18:42 ID:5m0fNng10
ヴィクター自身の生殺与奪をバタフライに握られているから、というだけではない。
ムーン・フェイスの言葉はあまりヴィクターに響かないが、バタフライの言葉ならばある程度まで彼は素直に従うのだ。
ムーン・フェイスには理解できないが、この両者には不思議な絆が存在しているらしい。

「むーん。
 さて、話はそれだけかね?
 捕らえた戦士の改造がまだ完全ではないのでね、お暇させてもらうよ」

そういって、ムーン・フェイスは退室しようとするが…。

「ああ、ところでバタフライ。
 学園生の信奉者を一人かりたいが、よろしいか?
 彼(パピヨン)が情報を提示しない場合を考慮しておきたい」

「ふむ、構わないが…」

「なに、保険だと思えばいい。
 いざというときの為の、ね」

ムーン・フェイスが本性を漏らした事に、ヴィクターもバタフライも気がつくことはなかった。


長いこと不在で誠申し訳ございません、銀杏丸でございます…
PCが完全沈黙してしまい、どうにもならんのです
年始くらいには戻ってきたいので、どうか忘れないでくださいまし
では、またお会いしましょう
325作者の都合により名無しです:2007/11/26(月) 20:39:13 ID:z6JNhinQ0
えらい久しぶりと思ってたらそんな不幸がありましたか
戦闘神話も中盤戦に突入していいところなのに悔しいでしょう
待ってるのでちゃんと戻ってきてね
326作者の都合により名無しです:2007/11/26(月) 23:10:49 ID:1Dh2cLce0
ムーンフェイスの口癖はうざいなw
ここで話が止まるのは銀杏丸氏も辛かろう
327作者の都合により名無しです:2007/11/27(火) 00:25:45 ID:pbj+ffH80
まあ気長に待ってるわ
328永遠の扉:2007/11/27(火) 01:39:28 ID:Iv65FiFy0
第026話 「変調(後編)」

一部を除けば意外に片付いた部屋だ。
人の部屋をあれこれ詮索する癖のない秋水でも、素直に感じた。
ここにはひどく清浄な空気が漂っているようにも思われた。
部屋の右手には寄宿舎備え付けの木製ベッドが壁と平行に横づけさ
れており、淡い無地のピンクで統一された寝具一式が、柔らかそうな
感触を放っている。秋水はそれに見覚えがある。寄宿舎転入後ほど
なくして千歳がつきつけてきたブ厚いカタログだ。
新鮮なインクの匂いもすがすがしいカタログには、色とりどりの寝具が
幅やら長さやら価格やらの羅列とともに載っていた。
聞けば布団や枕などの安い備品については各自好きなモノを選べる
らしい。
きっとその時、寝具のついでに選んだのだろう。
少なくても秋水の殺風景な自室にはない、余裕ある物体がベッドボー
ドの間に挟まれている。
三段の引き出しから成る白いカラーボックスだ。
何が入っているかは詮索すべきではないが、一番上にカタツムリの
プリントされたコップやアースカラーで彩られたアナログ式の目覚まし
時計が置かれている。
そこから細長い板を組み合わせた古めかしい床に視線を落とし、更に
左に這わせていくと、チリ一つゴミ一つ見当たらず、最後に壁際の学習
机へと到達する。
これは元々部屋に備え付けのモノで、秋水の部屋にあるものとそう変
わりはない。ただ、机の上で何冊ものノートや筆記用具、果てはなぜか
コンパスまでもが開いたままで放置されているのはあまり感心できない。
桜花ならばすでにてきぱきと課題をこなして、通学鞄に放り込んでいる
時間だ。秋水も同じく。
けれどまひろのノートは、少し凝視すればネコが出来損なった生物が
何匹も飛びまわっており、秋水はさすがに軽く溜息をついた。ふだん接
している態度どおり、あまり勉強には向かない少女であるらしく、わざ
わざ扉の前からまひろのノートを覗き見るのもいい趣味とはいいがた
329永遠の扉:2007/11/27(火) 01:42:24 ID:Iv65FiFy0
い。目の良さは時として命取りになるのだ。震える山にいるパイナップ
ルならそういうだろう。正確には市街地でドンパチやらかしており、名前
も海産物じみているが、これまた本題ではない。

やるべきコトは、他にあるのだ。

薄い扉が濡れたように光る黄金の稜線を走り抜け、軽い衝突音を奏でる。
扉が閉じたようだ。
秋水に背を向けているまひろでもそれだけは分かった。
呼応するようにカーテンを閉めて、言葉を探し始めた。

後ろ手で部屋を外界と隔絶した動作に、何の意味があったか問われ
ればきっと秋水は回答できなかっただろう。
新しい動きが連ならなければ一切活性せぬ無造作で反射的な動作。
口を開いたきり二の句を探しているような状態ともいえる。
寡黙な青年は懸命に言葉を紡がざるを得なかった。

窓と扉。部屋の両端に佇む二人の間で空気が張り詰めるコトしばし。
咳ばらい、ラジオ、CDケースの山がばらばらと床に落ちる音。
他の部屋からの生活音が二人を避けるように駆け抜け、ベッドや机す
ら通り抜けていく。
無音という概念はあれど、実在するか定かではない。
沈黙にすら生活音が割り込み、それが止んだとていつ果てるとも分か
らぬ耳鳴りが世界に響く。
フラットライナーじみた金切音とともに見る後ろ姿は、ただなる可憐の
少女の物であるのに、正体不明の重圧に揺らいで見える。
自分だけ足もとが崩れて奈落に落ちていきそうな錯覚すらある。
緊張、なのだろう。
他者の根幹に関わる言葉を吐く事の重大さを認識すればするほどそ
の「重大さ」が精神的質量を帯びて足にへばりつき、動きを阻害し、ま
たは前述の通り足もとを崩していきそうな錯覚を生産している。
それでも。
330永遠の扉:2007/11/27(火) 01:44:32 ID:Iv65FiFy0
いかなる重圧をも跳ねのけ動かねばならない時がある。
カズキならば葛藤を葛藤のまま放置せず、必ず最後には取るべき行動
を取っていた。
秋水は違う。桜花の危機には何もできなかった。
だからカズキが眩しく見えるし、一つの実感へと帰結してもいる。
(終生及ぶ事はできないだろうな。それでも──…)
開いた拳を愁いの瞳で見る。
かつて彼の握ったそこは、今でも確かな感触を覚えている。
無力と咎の果てに与えられた、たった一つの確かな物。
拳を握る。彼に及ばぬとしても精いっぱい力強く。
秋水は微かに相好を崩し、それから瞳と頬を引き締めた。

「俺も姉さんを失いかけた事がある」
カーテンの前で振りむいたまひろの顔には、軽い驚きが上っていた。
「その時俺は姉さんに何もしてやれなかった。ただそばで弱っていく姉
さんを眺めているだけで、悲嘆に暮れていた。だから──…」
往時を思う青年に向く瞳は、ドロップのように丸く、はたと見張られ、ま
るで雨に打たれた子犬が病人を心配するような色さえ浮かんでいた。
「だから、今の君の気持ちを少しは、理解……できると思う」
まだ言葉を告げるには不慣れで、背中に汗がにじむ。声が震える。
視線を合わせながら言葉を告げているだけの行為が、戦闘とはまるで
違う激しい緊張感をもたらしてくる。
「もしどうしても耐えられなくなったら、俺に話してくれないか。できるコト
は少ないが、せめて聞き役ぐらいは務めてみせる」
やっとの思いで告げ終わっても、まだ終わりではない。
秋水は直立不動の姿勢を崩さぬよう努めながら、まひろの反応を見た。
剣同様、言葉にも相手がいる。ただ投げかけるだけでは不十分だとい
うコトを、最近の秋水は知りつつある。
自分の行動に対する種々の反応に対し、原則から逸脱しない範囲で
更なる反応を返し、更に更に返されて、幾合もの応酬の末に相手が
納得できる結果をもたらさなくては意味がない。
力任せに竹刀を振って相手をいたぶり、時には真剣で背後から刺
331永遠の扉:2007/11/27(火) 01:45:45 ID:Iv65FiFy0
し貫くような好き勝手は、本来世界の中では許されないのだ。
しばし、恐れた。
まひろの言葉を待つ間、秋水の心の中にある弱い部分が恐れていた。
傷つけていないかどうかをまず怖れ、次に頼られないコトを恐れていた。

時をほぼ同じくして、秋水の部屋の扉を叩く者がいた。
その者は数多くのノックの末、殴るような手つきで扉を一打し無遠慮に
引き開けると、誰もいない部屋の暗さに舌打ちした。
そして端正な顔に悪鬼のようなひきつりを浮かべて踵を返し、せわしな
く歩きだした。
後ろにはひどく沈みこんだ同伴者が一名。
機械のような足取りで前の人間についていく──…

「実をいうと、ね」
窓際から一歩も動かないまま、まひろは秋水から軽く目線を外した。
「劇の練習をしてるのは、斗貴子さんのためなんだ」
回答はやや予想した方向よりズレてはいるが、まずは聞くコトにした。
だんだん秋水は、この少女のズレというモノを許容する癖が身について
きたような気がする。
「……ほら、斗貴子さん、いま一番傷ついてるから、せめて何か面白い
コトをやって励ましてあげたくて……えーと。変、かな。こういうの」
困ったように眉をハの字にするまひろに秋水はかぶりを振った。
「正しいと思う」
本音だ。
少々意外だったが、まひろの劇に対する真剣さだけは身近で見て知っ
ている。ただ、それで斗貴子が納得するかどうかは別の話であるが。
「うん。そういって貰えると……嬉しい。喜んでくれたら、いいけど」
嬉しそうな微笑も、どこか弱々しい。
きっとまひろ自身も、劇一つやるだけで全てが好転するとは確信してい
ないなのだろう。
「でね。昔……、夏になるとお兄ちゃんとよく一緒にかき氷を食べてたん
だ」
332永遠の扉:2007/11/27(火) 01:46:39 ID:Iv65FiFy0
回答としてはやや要領をえないが、口ぶりに籠った真剣さからすると
彼女なりに一生懸命筋道を立てているのだろう。
秋水は先を促すワケでもなく、ただ一頷きして沈黙を守った。
「お兄ちゃんは男のコだからメロンでね、私は女のコだからいちごだっ
たんだ。……でもね、昔の私ってわがままで……」
お正月かクリスマスにも門松かツリーのコトでカズキを困らせてしまっ
た記憶がある、と申し訳なさそうにまひろはいって、更に続けた。
「かき氷の時もそうで……私、女のコなのにメロンが食べたいっていっ
たんだ。そしたらお兄ちゃん、食べさせてくれたんだけどワンピースにこ
ぼれちゃって、私、すごく泣いたんだ。でね……お兄ちゃんがなだめて
くれて何とか泣きやんだんだけど、その頃にはもうメロンもいちごも」
「溶けてたのか」
「……うん。だからもし、私があの時泣かなかったら、お兄ちゃん、ちゃ
んと残りのメロンを食べれたと思うんだ」
脇道に逸れてもいるし、傍目から聞けば些細な何というコトのない話だ。
けれど秋水自身、幼いころの負い目は簡単には消えないと知悉して
いる人物の一人である。何故ならば桜花を助けられなかったからこそ
彼女を守れるだけの力を求めて剣術修行にいそしんでいたからだ。
よってまひろの心理が少しずつ分かってきたし、その確証もまひろ自
身の吐露から得るコトができた。
「だからあの日以来ね、お兄ちゃんの前では泣かないコトにしたの。泣
いてワガママいったら、お兄ちゃんのしたいコトが、かき氷みたいに溶
けてなくなっちゃうような気がしたから…… 夏祭りの日だって”長いお
別れ”になるかも知れないっていわれたけど、お兄ちゃん、きっとみん
なの味方だから、止めたらたくさんの人に迷惑がかかる気がして……
でも、でもね」
まひろは肩を落として、スカートの生地を握りしめた。
「そのせいで、斗貴子さんが今一番傷ついちゃってるんだ……」
同時に瞳の表面が俄かに湿った光を帯びるのを秋水は忸怩たる思い
で見た。
「どうしてあの時、”斗貴子さんとだけは別れちゃダメだよ”っていえな
かったのかなって。最近、そればかり思っちゃうんだ」
333永遠の扉:2007/11/27(火) 01:50:59 ID:LSnIpCsL0
ああ、と秋水は眩しいものを見るような目つきをした。
最近のまひろの寂寥は、ただ単にカズキを失っただけではなく、斗貴
子の傷心を作り出してしまったという負い目も混じっていたのだろう。
そういう部分はカズキと限りなく似ている。
やはり兄妹なのだ。
それを実感すると、カズキへの敬意がこの少女への好ましさに転化する
反面、ひどく心痛を覚えてしまう。
秋水自身にそれを説明するコトはできない。
同情か共感なのか、もっとありきたりな、若々しい青年が純朴な少女に
対して覚えるべき感情なのかは、判別がつかないし、つけられたとしても
それを推し進める資格はないと秋水が断ずるにあまりある過去の負債を
彼は未だもって抱えている。
「斗貴子さん、ああ見えて傷つきやすい所があるから、お兄ちゃんに置
き去りにされて平気なワケないよ。でも私は……お兄ちゃんにそういう
コトをいえなくて……」
黒い瞳に滲出した涙が球状になって落ちている。
その光景に秋水はいてもたってもいられず、反射的にまひろへ歩み
寄っていた。
「君のせいじゃない」
学生服のポケットをさぐると洗いたてのハンカチがあった。実はそれは
事前に桜花が渡していた物だから、彼女はこういう事態を予測していた
のかも知れない。
「一言でいえば不可抗力だ。あの時、武藤と津村は一緒にいれば津村
だけが死んでいた。だから彼は、置いていかざるを得なかったと思う」
カズキが月に消えた時の状況は、いろいろな要素が絡みあい過ぎて
いた。
まず敵の存在。ヴィクトリアの父・ヴィクターはその数奇な運命の果て
に得た能力と、果てしない憤怒によりひたすら強大であり、攻撃力だけ
ならば戦団で一・二を誇る

【焼夷弾(ナパーム)の武装錬金・ブレイブオブグローリー】
【全身鎧(フルプレートアーマー)の武装錬金・バスターバロン】
334永遠の扉:2007/11/27(火) 01:54:38 ID:LSnIpCsL0

の猛攻を軽くしのいでいた。
前者が瞬間的にだが周囲五百メートルもの範囲を五千百度の炎で燃
やし尽すコトができ、後者が身長五十メートルの巨大ロボットであるコ
トを鑑みれば、いかに戦団が無力であったか分かるだろう。
その上厄介なコトにヴィクターは、周囲にある総ての生命からエネル
ギーを吸収する生態を備えており、人海戦術で攻めたとしても打撃を与
える傍から回復されるという難点もあった。
よって次に対抗手段の欠乏があり、加えてヴィクターを人間に戻すため
の切り札たる「白い核鉄」すら完全な効力を発揮しなかった。
そこでカズキは咄嗟にヴィクターを命無き月の世界へと放逐するコトを
思い立ったが、同伴の斗貴子を巻き込めば地球圏を離脱する時の重
力か宇宙の真空の中で彼女は息絶えていただろう。
カズキは違う。彼は「不可抗力」によってヴィクター同様の怪物の体質
を持っていた。
正直、上記の点は戦士とは無縁のまひろに説明するのにはあまりに
複雑な内容ではあるが……
秋水は説明した。
額から汗が噴き出るほどに詳細に。
最後に至ってはネコまがいのクリーチャーが乱舞するノートを拝借すら
して、カズキの置かれた状況をできうる限り精密に描きこんだ。
それを部屋中央の床に置き、二人して覗きこむ。
「……そうだったんだ」
「ああ、こういう状況でもなければ、武藤は一つの選択肢だけを選ぶ
ようなコトはしなかった。だから君のせいじゃない」
まひろに続いて秋水が汗でぬめるボールペンを握ったまま視線を左
右させると、まひろはポケットからティッシュを取り出し拭ってくれた。
「感謝する」
「ううん。こっちこそ」
礼をいいあう二人が俄かにハっと顔を赤らめたのは、意外なほどに顔
が接近していたからだ。
ともに座ったまま肩が触れ合い、顔といえば互いの前髪が交差してその
335永遠の扉:2007/11/27(火) 01:55:30 ID:LSnIpCsL0
匂いを味わえるほど近くにいる。
栗色でややぱさついた髪の質感が鼻にふれたような気がして、秋水は
彼らしくもなくどぎまぎした。
秋水は説明の後の虚脱状態で、まひろはそれによって汗ばんだ彼の
手を拭くのに気を取られていて、必要以上に距離を縮めすぎていたようだ。
少し涙で赤くなったまひろの瞳が秋水を映していた。
汗で前髪が濡れ光る秋水の瞳にまひろが捉われていた。
身を固くしながら秋水が横に移動する頃、盛大な音が上がった。
見れば勉強机の下の方、椅子がおかしな方に飛び出ていて、その中に
まひろがおかしな体制で刺さっていた。
勢いよく飛び退くあまり、ミサイルのように勉強机に吶喊していたようだ。
「だ、大丈夫か」
「だ、大丈夫! 私ってけっこう頑丈だから」
というやり取りをしながら脱出を試みたまひろは、机の引出しにまず頭を
思いっきりぶつけた。
「痛い! 大変、もっと早く脱出しないと!」
「ちょっと待て落ち着くんだ。あまり暴れると──…」
「ダメだよこういう時こそ早く避難しな……きゃっ!?」
大きなコブのついた頭を振りまわし身もだえしながら机の下でじたばた
するとどうなるか。
乱雑に散らかった机上から降るわ降るわ。
ノートは子ネコをいじめるカラスのようばらばらはばたきながら栗色で
丸っこい頭を叩きまくり、筆記用具も極小の丸太のようにふくよかな体
をぺしぺし打ちまくった。
さすがにコンパスが鋭い針を光らせながらまひろに向かった瞬間は
秋水は色を成した。
で、思わず手を伸ばして払いのけようとしたら、手の甲に刺さった。
幸い深さはそれほどでもない。
が、彼はコンパスを引き抜きながら困った。
痛みには慣れているが、傷を見られればどういう展開がくるか位は
予想できている。
ここは分からぬよう秘匿して、後で核鉄でも当てようと考えたが、それ
336永遠の扉:2007/11/27(火) 01:57:12 ID:LSnIpCsL0
も手遅れと知った。

机から脱出したまひろが、申し訳なさそうに秋水の手の甲とコンパス
を見比べていた。

秋水は知らない。
ほぼ同時に、別の場所で、ひどく苛烈な人物に所在がつきとめられ、
その所在に対して恐ろしい情念を覚えられたとは。

「すまない」
それは核鉄を当てれば治る程度のケガに、手当をさせてしまったコトに
対してか。もっと別な意味を本来なら込めて、さらになぜ別な意味を込め
るか詳細な説明をするべきなのだが、当面は四文字しか伝えられずに
いる。
「大丈夫大丈夫。かばってもらったし、私は手当するの得意だから」
包帯を巻き終わったまひろは屈託なく笑った。
そこに先ほども影がないのに秋水は安堵したが、まひろの頭の上に
載っているナースキャップには首を傾げざるを得ない。
(そういえば再殺部隊の楯山さんも潜入捜査の際にセーラー服を着たと
いう噂だし、衣装というものはそういうものかも知れない)
要するに女性というのは自らの内実を超えたモノを演じる時、衣装や
化粧といったものに力を借りるのだろう。
桜花などは化粧の他に、「体裁」というのをひどく重んじてその腹黒い
狡猾な気質を見事に「いい生徒会長」のイメージでコーティングしてい
る。それと同じで、一女子高生たるまひろはナースキャップで医療従事
者と化し、二十代も後半に差しかかった千歳はセーラー服を着用する
コトで八年というあまりにも大きな力の壁で世界な闇な年齢差の限界
越えて女子高生になっているのだろう。
「え? 違うよ。趣味だよ! うん」
思惑を告げるとまひろはゆったりとした胸の前で腕組みをしつつ頷いた。
「趣味なのか」
その回答によれば二十代後半のとある女性がひどく奇矯で哀れな存在
337永遠の扉:2007/11/27(火) 02:00:23 ID:LSnIpCsL0
に思えてくるが、本題ではない。
「またありがとうね。秋水先輩」
「また?」
「うん。また。学校から送ってくれた時と一緒だよ」
ああ、と秋水は思い当たった。そういえばあの時、寄宿舎の下駄箱で
秋水をガクガクとゆすりながら「嬉しかった」とまひろはいっていたが、
それか。思い起こせばあの時、桜花の出現で答えが聞けなかったが……
まひろは包帯の残りを救急箱に詰めると立ち上がり、それをカラーボッ
クスの一番下にしまった。
「あの時ね、

──「彼は必ず戻ってくる。君の元へ戻るコトを諦めたりはしない」

っていってくれて、本当に嬉しかったんだよ」
ごく自然に秋水の隣に座ると、ひどくほぐれた笑みをまひろは浮かべた。
「……斗貴子さんのコトはまだ辛いけど、それでもお兄ちゃんが帰って
くるって信じているから。そこだけは大丈夫だよ。本当」
「そうか。それなら、津村のコトは俺が──…」
といってみるものの、秋水はどうもまひろの顔が眩く、そして輝かしく思
えて目が合わせられない。
自分の言葉が何をもたらしたかいざ知ると、表情をいかにすべきか
見当がつかない。どういう感情がいま自分に渦巻いているかすら、
よく分からない。
「あ、もしかして秋水先輩、照れてる?」
ウェーブのかかった豊かな髪を揺らしながら、まひろはすり寄ってきた。
好奇心がそうさせるのだろうが、秋水としてはまたまひろが距離の近さ
に驚いて机に突っ込んだりしてはたまったものではない。
「君がそういうのなら照れているんだろう」
わざとぶっきらぼうな声をだしながら後ずさる。
「じゃあそうだね。でも秋水先輩のそういう顔って珍しい〜」
まひろはまひろで美麗極まる副生徒会長の変化が面白いらしく、膝立
ちで歩を進め──…
338スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/11/27(火) 02:03:00 ID:BcYA88iQ0
背後で扉が開く音がした。
秋水はその一瞬、莫大な殺気が爆ぜるのを感じた。
もし声がかけられなかったら、敵襲と錯覚しまひろをかばいながらソー
ドサムライXを発動していただろう。
もっとも、その必要はなかった。
「探したぞ早坂秋水」
声の主は、当面の味方だ。
当面、というのは以前は敵対関係であり、今もなお相手の心情的には
秋水を敵とみなしているからである。
「……いい身分だな。こんな場所で」
彼女は腰に手を当てながら鋭い眼光で部屋を見回し、最後に秋水を
激しい敵意のこもった下目で睨みつけた。
まひろだけは敢えてその人が自分から目線を放したような気がした。
正確にいうと、申し訳なさと親愛に基づくなんらかの決意の光を本当
に一瞬だけまひろに這わせてから、殺気を爆発させ部屋を見回し秋水
を睨んだような気がした。
「話がある。彼女とともに管理人室まで来てもらおうか」
津村斗貴子は厳然たる面持ちと声でそう告げた。
背後にはヴィクトリア。彼女は彼女でひどく落胆と憔悴した表情である。

あとがき
かき氷のくだりはアニメ第23話にてカズキのいってたアレです。
そしてクリスマスだか正月だかのは、クリスマスの方です。
こっちは/z冒頭から。ほんとはこっちをメインにしようと思ってましたが
/zでのまひろは覚えてないっていってたので、ぼかしてみました。
前々回、前々々回に頂いたレスについてはいずれブログにてお返事を。

>>242さん
現状現時点ではこれが精一杯でありますが、いかがでしたでしょうか。
シリアスよりはストロベリの方が気楽ですw ぶっきらぼうな男というのは
おにゃのことはまた違った趣が。あ、自分はノンケですよ。ええ。本当。
339スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/11/27(火) 02:05:01 ID:BcYA88iQ0
>>243さん
次は男性陣ですね。今回、秋水に違った手ごたえを感じたので、それを
根来や剛太、パピヨンや総角にも適用したく。いま一番描きたいのはなんと
いっても火渡戦士長。アニメ版と//版の性質を混ぜるとかなり良さそう。

>>244さん
もうちょい進んだら描くかも知れません。ただ、キャラが固まっていない時の
二次創作というのはいろいろ怖くありまして……

>>245さん
いまはたぶん大丈夫、かも。まー、あまり暗澹な気分になるなら転職も。

ふら〜りさん
原作ではときおりああいう一面を覗かせているコなのですよ。>まひろ
そんなふだんの明るさとのギャップがたまら……ただの天然ボケじゃない
芯の通った女のコとして好ましい。小札、本当に誘拐されたら言いそうw 
ここからのパートで彼女は重要な役回りをします。策についてはお楽しみに。

>乙女のドリー夢
ある意味では”愛”ですよ。ええ。愛ほど人を強くするモノはない! た
だその解釈がオーガと留美の間ではまったく違ったとはいえ最終的に
それが危機を切り抜ける材料になろうとは。つかオーガさんはいい親父さんw 
それから紅葉に対する留美評も的を射ていて面白いw 

>当然でしょ! 範馬君は女の子なんかに興味ないのっ!

この誤解に基づいた純粋な信頼感が絶妙だと思います。押忍。
340作者の都合により名無しです:2007/11/27(火) 11:53:58 ID:YmLdWjLq0
おおアク禁と言うことでしたが書き込みできましたか
なんとなく面映い描写が多いですがw
やっぱり甘酸っぱい青春はいいですなw
341作者の都合により名無しです:2007/11/27(火) 13:22:20 ID:TXrGpjpn0
意外と包容力あるな、秋水は
ただ寡黙で相手の話をよく聞くだけかも知れんが
恋愛初心者同士のやり取りは微笑ましい
342ふら〜り:2007/11/27(火) 21:46:36 ID:sWrtYPR40
>>さいさん(祝・ここでの再会! 心身にお気をつけて、無理なく楽しく書いて下され)
久々のアンデルセン、期待に違わずイイ恐ろしっぷりです。強敵キャラに苦戦するヒーロー
が、ヒロインの涙を拭うように逆転! というシチュなのに、その敵キャラの更なる逆転を
期待してしまう。とはいえ流石に厳しいか、ここから立ち上がるのは……いや、でも、さて?

>>銀杏丸さん(何と申して良いやら。それでも描き続けるその姿勢に、敬礼! です)
今回は銀杏丸さんのSSのこういうシーンにしては珍しく、威厳や荘厳さがありませんね。
代わりにあるのが不気味さ。そう血生臭い会話ではないのに、「悪組織の、アジト奥深く
の幹部会議」な雰囲気がじんわりと。そしてそのイメージが、最後の数行で固められた感じ。

>>スターダストさん
いやぁ……秋水、きっちりしっかりヒロインを支えてあげてるではないですか。しかしこれだけ
やっといて、今のところ双方恋心らしきものは見えないってのがまた。二人とも、それどころ
でないものを負ってるからか。と考えるとどちらがどちらの支えでもなく、お互いに……かな。
343七十話「KING」:2007/11/27(火) 23:08:26 ID:ZtwGnG3b0
「ゲラ=ハは2階で待機する、誰か一人が見つけたらゲラ=ハに合図をよこして犯人を追え。
合図は弓矢で行う、夜だから狙いをつけ辛いだろうが2階で音がすればそれが合図になる。」
「そして私はこれから行く光の神殿で光の術法を身につけ、それで合図が送られた方を照らします。」

「ほぉ、確かに簡単な術を学ぶ時間はある。だが習いたての術じゃあ光が弱いだろう。
目立つように、俺は使者を送って王に街灯を消すように頼んでくる。」
「宿の娘の生死も確認したい、すぐに殺すんじゃないぞ。」
「何故俺を見ている、北斗神拳は秘孔を突いているだけで腕力で殺しているんじゃない。
急所を外せば問題ない、魔物の秘孔は判らんが魔物だったら手加減すれば済むことだ。」

(それだと腕力頼みになるしコイツの場合はフルパワーじゃなくても地形を変えるからな、
街を破壊して弁償で船がパァになる、ってのだけは勘弁してほしい所だ。なるべく他の奴に当たれよ・・・。)

そんな祈りごとをしながら着々と支度を済ませる。
各々が支度を終えると、各水路の入口付近を見張りにつく。
ゲラ=ハは爬虫類だけあって潜み、息を殺すことに慣れている。
ケンシロウも、北斗神拳は戦場格闘技と同時に暗殺拳としても機能する、ということで隠密に支障はないらしい。
敢てツッコむと、その割には目立つし、暗殺用の拳法だったら見つからないのが前提なので
あそこまで強い必要性は見当たらない、闘気を出す時の周囲への被害が凄まじすぎるのも問題だ。
まぁ見つかったところで止められる人間なんて滅多に居る訳がないから結局それで問題が解決する。
ベアは鎧の音がうるさいので、目立たずに見張れる場所へ。

ホークは空家付近を見張っていた。
水路には魔物も多い、別の街への移動は考えにくい。
ここへ来る時は低地になっているので、別の街の水路からくれば下り坂を利用できる。
だが、出て行く時は隠密のスキルを持ってなければ不可能だし持ってるなら怪しいという証言は得られない。
取りあえず、この予想が正しければ空家と水路を行き来している筈だ。

ガタ、小さな音と同時に人影が蠢く。
当たりだ、影の動きは速い、見失わないようにしなければ。
心配は杞憂だった、空き家は単なる魔物避けにしか使っていなかったのだろう。
すぐ近くに薄汚れた穴があった、あれが水路に繋がっているのだろう。
344七十話「KING」:2007/11/27(火) 23:09:46 ID:ZtwGnG3b0
中に入ったのを確認し、弓を射ると、合図の光術が来るより速く、追跡を再開する。
自分も穴へと入り、影の後を追う。
魔物の姿は見かけなかった、入口付近は奴が片付けたのだろうか?

用途は分からないが扉が幾つもある、これだけあればバレてもカモフラージュできる訳か。
こうして追尾し続けていなければ確実に見失っていた、援軍には期待できそうにない。
扉に入るのが見えた、恐らくここに娘がいる。
扉を斧で斬りつけ、目印をつけてから中に入る。
風で閉まって中が見えなくなってもこれで確認できる。

音で気づかれるだろうが問題はない、この先も隠密行動しようとは思っていないからだ。
ステルススキルを持たないホークが、ここまで気づかれずに追跡出来たのは入り組んだ迷路、
そして遮蔽物に身をひそめることができたからである。
影が部屋を開ける時、扉の先が見えたが通路ではなく部屋になっていた。
もう隠れながら進むことはできないのだ。

なら取るべき道は一つ、強行突破である。
暗闇でも目立つよう深く斬り、扉を開き中へ入る。

「さて、と。悪党の面を拝ませてもらおうか。」
血生臭い臭気、殺した死体を処理せずに放置してあるのだろう。
棺桶をかたどった祭壇、縛られた若い女、素人目に見ても分かる黒魔術の類の儀式道具。
そして目の前の男の姿、昼間これで行動すれば確かに怪しいだろう。
真赤なローブ、顔にも邪悪さを演出する為か、
それとも儀式に必要なのか分からないが不気味な化粧をしていた。

「よく来たな…エロールの犬め。味方に期待するのは止めておくんだな。
既に魔物は檻から解き放った、腹を空かしている分…凶暴だぞ。」
どうやら追われているのは解っていたようだ、だがこの部屋で感じる気配は目の前の男の物だけ。
これなら退かなくとも何とかなるだろう。
345七十話「KING」:2007/11/27(火) 23:12:04 ID:ZtwGnG3b0
「ハッ、随分と自信があるみてぇだな。
なんかの罠か?まさかアンタが俺を倒せるとでも思ってるのか?」

眼の前の男からは邪悪な気配、敵意と醜悪な精神しか感じられず殺意は感じられなかった。
恐らく罠か何かを用意しているか、隠密に適した魔物か暗殺者でも居るのだろう。
眼の前に居る男から滲み出る余裕や殺意の無さから、ホークはそう受け取った、
すると、男はボウガンを取り出しすかさずホークへ撃ちだした。

罠におびき出す為だろう、体重に反応する罠を目の前に仕掛けているのか?
安直な考えだ、少し考えれば分かること。
男は前に出ない、ならば今の自分の距離から男までの間合いを踏まなければいい話だ。

矢をかわして跳躍する。
だがジャンプだけで届く距離ではない、
トマホークを使わなかったのは斧を投げてもかわされる可能のある間合いだからだ。
部屋は広いが柱が幾つかあるこの部屋で刺さってしまえば投げる物がなくなる。
だがジャンプしたところで届かなくては罠を踏んでしまうので意味がない。
そう、届かなくては。

空中での姿勢制御をマスターした者は、鷹のように滑空して低距離を飛行できる技術を生み出した。
本来は剣士の使う技だが、剣と片手斧は重さの比率が似ているので使えないこともない。
その剣技は「ホークブレード」と呼ばれ、足場の安定しない戦場で特に重宝した。
空中での加速、そして急降下しての一撃に目の前の男の頭は真っ二つに割れた。
着地も男の後ろへと廻り込んでいる、思ったとおり後退位置に罠はない。

「ほぉーれ見ろ、アイツ等を待つ必要なんて・・・」
そこまで言いかけて黙るホーク。
どういう原理かサッパリ解らないが、男は生きていた。
脳がボタボタと地面に崩れ落ちている。
だが、立ち尽くして笑っていた。
346七十話「KING」:2007/11/27(火) 23:13:32 ID:ZtwGnG3b0
「うへへへ・・・そんなに驚くな、慌てなくてもこの体は死ぬ。
それより、誰も俺が殺すなんて言ってない。
お前は、これから奴に殺されるんだ。」
そう言って祭壇を指さす。
本物の棺桶だったのか、中からの衝撃で蓋が吹っ飛ぶ。

「これから死ぬのに、何も分からぬまま冥府に行っても不憫だろう。
奴は生前は腕利きの拳士でな、強い者には強い魂が宿る。
アレを復活させる為に生贄を捧げていた訳だ・・・。
一般人の魂で、奴の強靭な魂魄を造り上げるのは不可能だった。
だが、ここで殺害した奴とは別の魂も使って目立たずに造り上げることができたのだ・・・肉体も再使用してな。
そして残念なことに仕上げは貴様だ、俺を殺す時に生じた闘気に反応し、目覚めた。
肉体や魂は造れても、それだけでは闘争心で戦う奴の強さを完全にはできない・・・。
たった一撃で目覚めるとは思わなかったぞ、さて長話はここまでだ、後は勝手にやるんだな。」

何やら分からないが、棺桶の中身について勝手にベラベラと喋り終えると真赤な衣服を残して男は消滅した。
一番の罠は奴自身だったわけか、どんな化け物がでてくるのだろうか。
斧を構える、気配を探ってみるが何も感じない。
空気だけが不自然に蠢く、下水道の中は温かいとは言い難い気温だった。
だが、絶対零度とも思える冷たい空気が背後を横切っている。

後ろを振り向くと、全裸の男が一人。
ホークを無視して床に落ちている男のローブを身につける。
冷たい殺気が全身を覆っていた、男の白髪が揺らめくたび背筋に寒気を感じる。
何時、どうやって自分の背後に回り込んだのか、そして今再び背後を取られれば間違いなく死ぬ。
男の一挙一動が、優れた日本刀を一振りしたかのように空気を裂いていく。

「少し・・・動き辛いが、ウォーミングアップの相手が貴様なら問題なさそうだな。
今の奴が無駄話だけで言ってなかったが、俺の名前はシン。
奴の言う通り、今すぐ死ぬ貴様に教えたところでなんの意味もない・・・。」

男は名を名乗ると、冷たい笑みを浮かべながらホークに向かって歩き出した。
347邪神:2007/11/27(火) 23:15:27 ID:ZtwGnG3b0
北斗の拳の格ゲー公式サイトでユダをクリックして思わず吹いた。邪神です。(0w0)
もうずっと人大杉だったのでギコナビを導入、中々にいいですとも!な性能。
最近はプレイボーイでも取り上げられた戦場の絆に金をつぎ込んでしまい食費がキツイ。中毒性高杉。
〜感謝〜

>>ふら〜り氏 華麗に乙でした。マニアックな勇次郎に吹いたw
       そしてバキの予知能力も…黒歴史を垣間見たのでしょうね…。
       週休が休みにならないのは結構、痛手ですね。
       しかし少ない暇を有効に使ってSS投下したり、職人にコメを残して勇気を与えています。
       怠っている努力なんてないのでしょう、これからも愛と勇気でスレを導いて下さい。

>>295氏 もう彼の人格は軌道修正が効かないのでもっとクセを出して走ってもらうことに。
   健全な若者が壊滅した世界で正気を保つにはギャンブルみたいな楽しみに走るしかなかったんです。
   しかし、本当に彼は戦ってる時以外は寝て食ってるだけの生活なんでしょうか…。
   そんな悲惨な生活を選びつつ平和を夢見るケンシロウは立派な若者です。
   だから悪党の一匹や二匹殺そうと、イカサマの一つや二つしたって許されます。

>>296氏 >>このままギャンブルファイトに突っ込めば面白いのに
    ギャンブルフィッシュや零みたいな
   結構人気みたいですね、見てみましたがチャンピオンらしく無駄に露出狂路線の女性が気になる…。
   しかしまぁ少年誌って言っても内容濃いし、チャンピオンはアレでいいんですがジャンプは(ry
   残念ながらイカサマネタはダービー戦に使われたものぐらいしか知らない…。
   鏡ネタは水槽に隠れたポルポル君から拝借したもの。

>>297氏 余談ですが、ジャンプロワスレのケンシロウは原作の雰囲気が結構出てた気が…。
   知ってる人は知ってるんですが、今やってる殺人事件、かなり序盤のイベントです。
   複数PT作って各地でやらせれば、PT毎に別の楽しみが生まれて更に移動の映写が無くなる。
   と思ったんですがこなす量は同じことに最近気づいて幾つかカットする予定…。
   全てのイベント、とまではいかないけど大体はやりたかったので残念。
   自由度の高いゲームなので、ほとんどのイベントが本編と関係ないのがキツイ。
   それでも最終局面がカット出来ない為、結局パオさん並の長編になるかもw
   質はかなり劣ると思いますが…それより何より俺はこのスレに居ることが出来るのか…。
348作者の都合により名無しです:2007/11/28(水) 08:28:02 ID:Ns5EClie0
懐かしいなあ、シン。
しかしいよいよ北斗に侵食されてきたな
この世界にトカゲがいるかと思うと笑うw
349作者の都合により名無しです:2007/11/28(水) 15:21:55 ID:aTfLKSnw0
ジョジョの方はまだぁ?
350作者の都合により名無しです:2007/11/28(水) 18:19:49 ID:q4tSrPrf0
ホークの口調がテヨギ版蟹セイントみたいだw
351作者の都合により名無しです:2007/11/28(水) 21:47:27 ID:nzP+BMC60
スターダストさんの作品も邪神さんの作品も終わりが見えないなw
来年いっぱいくらい続きそうだ。
いや、長く楽しめるというのはありがたい事だが
352WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/29(木) 03:58:51 ID:P9GBEo6U0

「あ? この水……」

武装錬金を解除した火渡は、己の掌に僅かに溜まった水を見つめながら呟いた。
地獄の焔にも似たる彼の炎を消すにはあまりにも頼りなさ過ぎ、また遅過ぎたスプリンクラーの水。
しかし、その水は火渡にある違和感を覚えさせていた。それが何なのかは理解出来ずにいたが。
掌から眼を離し、前方に眼を遣る。
違和感と言えば、視線の遥か先に倒れ伏す男もまたそうだ。
大戦士長ウィンストンが畏怖し、防人の拳を物ともせず、戦士長サムナーを一蹴した
ヴァチカンの聖堂騎士(パラディン)
四十年近くの長きに渡り錬金戦団を震え上がらせてきた、あの第13課(イスカリオテ)の
アレクサンド・アンデルセン神父がこうも簡単に斃されるものなのであろうか。
防御も反撃もせぬままに。呆気無さ過ぎる。まるで人形か何かのようだった。
「へっ!」
火渡は転がる黒焦げの焼死体を鼻でせせら笑う事で、努めて違和感を振り払おうとする。

クソ神父は死んだ。俺がブッ殺した。
(ホントウニ? ホントウニシンダノカ? タシカニコロセタノカ?)

何てこたァ無え。ホムンクルス以下の雑魚じゃねえか。ウィンストンのオッサン、野郎を買い被り過ぎだぜ。
(コンナハズハナイ。アノバケモノガアレクライデシヌワケガナインダ)

さて、任務は完了。こんな国なんてとっととオサラバだ。ああ、日本食が食いてえ。
(オレハニホンニカエレルダロウカ。イキテ、イキテカエレルノダロウカ)

嫌な汗が背中を伝い、勝利を掴んだ割には優れない顔色のまま、火渡が千歳の方を振り返った。
まるで子供のような笑顔を浮かべ、胸を張って己の勝ちを誇る。
そうするには最大限の努力が必要だったが。
悠々と時間を掛けて千歳の元に歩み寄った火渡は、しゃがみ込んでいる彼女にそっと
手を伸ばした。
353WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/29(木) 04:00:12 ID:P9GBEo6U0
先程の悪鬼羅刹の如き闘い振りを生み出したものとは思えない、優しげな手だ。
「待たせたな、千歳。さあ、防人の野郎のとこに戻ろうぜ」
千歳は涙に潤む眼で、差し伸べられた手を始めとして火渡の身体を見回す。
「だ、大丈夫? 火渡君……。どこも、何ともない?」
「あんな野郎のなまくら銃剣じゃ、この俺様に傷ひとつ付けられねえっつーの。誰の心配
してんだよ、オマエ」
いつも通りの火渡の軽口。
彼の無事と闘いの終結を確信した千歳はホッと胸を撫で下ろし、顔をほころばせて、
向けられた手を取ろうとした。

だが、華やいだ千歳の顔はすぐに曇る事になる。
「ひ、火渡君……?」
「あ?」
彼女の表情を訝しんでいた火渡もすぐに自身の両手、そして目視し得る限りの身体各部位の
異常に気づいた。
あのスプリンクラーの水を浴びた全身が、僅かに金色の鈍い輝きを放っているのだ。
仄明るい発光体と化している火渡を驚愕の眼差しで見つめる千歳。
「これは……」
この不可思議な現象に、胸の内の違和感が再び膨れ上がる火渡。
「何だ……?」

その時――

火渡が背を向けた、廊下の遥か向こうからくぐもった声が聞こえてきた。
聞こえてくる訳が無い声が。聞こえてくるのではないかと恐れていた声が。

「やってくれたなァ……」

「!?」
額に背中に冷汗がドッと噴き出し、火渡は弾かれるように後ろを振り向いた。
354WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/29(木) 04:01:54 ID:P9GBEo6U0
伏臥していた筈のアンデルセンの焼死体が、いつの間にか壁に寄り掛かる形で座っている。
火渡と同様に薄い金色の輝きを放ちながら。
やがて“それ”はコマ落としのような不自然さで、全身をガクガクと不気味に震わせ始めた。
焼死体の特徴である縮んだ肉体は少しずつ膨らみ、黒焦げの炭化部分がひび割れ、そこから
剥き出しの赤い筋肉が覗く。
震えはまるで瘧を患ったかのようにどんどん大きくなっている。
面積を広めつつあるひび割れの中では、海岸に打ち寄せる波のように再生された皮膚が
筋肉の上を走り、包み込む。
萎んだ眼球は徐々に水分を含んで潤いを増し、白く濁った瞳孔は黒い輝きを取り戻していく。
その眼が前方の火渡と千歳を捉えると、未だ総身を黒い炭に覆われたアンデルセンは
ゆっくりと、実にゆっくりと立ち上がった。
二人が見つめる中、アンデルセンはまるで静寂をまとうように佇立し、微動だにしない。

「ハァアアア!!」

突如、アンデルセンは片足を上げると、裂帛の気合いと共に床を大きく踏み鳴らした。
地響きにも似た振動に、火渡と千歳の鼓動がリズムを狂わせる。
そして、それと同時に彼を覆っていた漆黒がバラバラと音を立てて崩れ散り、中からは
無傷らしき肉体が姿を現した。
何故か法衣までもが再生されている。
彼は、アンデルセン神父は、この闘いの場に降り立った瞬間とまったく同じ姿に立ち戻っていた。
再生(リジェネレーション)が起こす奇跡。
眼前で展開されるこの世のものとは思えぬ光景に、火渡も千歳も慄然としたまま動けない。
「あ、あの野郎、マジで不死身なのかよ……」
しかし、まったくの無傷、まったくの同じ姿とは違っていた。
よく見ると、法衣に包まれていない顔や首筋には治癒し切れていない火傷が点在している。
おそらくはその法衣の下の肉体も同様なのだろう。
「……」
アンデルセンは指先で火傷を撫でると、無言で眉を顰めた。
不死身かと思われていた神父のその動作、表情の変化は、火渡にも見て取れた。
355WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/29(木) 04:03:38 ID:P9GBEo6U0
そして、確信する。
この世に不死身なんてものはない。
現に眼の前の再生者ですら確実にダメージを受けている。
殺せない訳が無い。
「ヘッ、面白え! なら死ぬまで焼き尽くしてやるだけだぜ!」
再度、武装錬金を発動させようと、火渡は核鉄を握り締める。

「武装錬金! ブレイズオブグローリー!」

無反応である。
どういう事であろう。
核鉄は火渡の掌中で音も立てず、その形を保ったままだ。
その代わりに、火渡の身体から放たれている光が輝きを増している。
「なっ、何だよ……! どうなってんだ!?」
“武装錬金が発動しない”
絶対に起こり得る筈の無い、またこれまで経験した事の無い事態に、火渡は色を失った。
アンデルセンはその様子を眺めながら、堪えきれないように白い歯を見せている。
「それが“聖水”の味だ、異端者」
蔑みを含んだ声を投げ掛けながら、袖をポンとひとつ払い、元は己の肉体の一部であった
炭の塊を落とす。
「屋上の貯水槽に聖アウグスティヌスの金十字架を投げ込んでおいた。今やこのビルは
巨大な聖水瓶だ……」
何の役にも立たないと思われた遅過ぎるスプリンクラーはその実、しっかりと役割を果たしていた。
アンデルセンの再生を後押しし、火渡の能力さえも封じるという形で。
いや、それだけではない。
聖職者はその力を増し、邪悪なる者はその力を失う。
聖水によって浄化されたこの場は、アンデルセンのホームグラウンドそのものだ。
これ以降も周囲のすべてが彼に味方するだろう。
「最早、貴様らの陳腐な魔術なんぞ何の意味も持たん」
356WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/29(木) 04:05:10 ID:P9GBEo6U0

自分に向けられた言葉が聞こえていないのか、アンデルセンを睨みつける火渡は渾身の力を込めて
核鉄を握り、低く呟いている。
「動けよ……!」
核鉄を握り締める手に、更なる力が加えられた。
噛み締めた歯に小さくひび割れが走り、額には血管が浮かび上がる。
「動きやがれ……!」
「ククククク、無駄だ。諦めろ……」
アンデルセンには不可能な武装錬金発動に固執する火渡が滑稽に見えるのだろう。
何とも愉快と言わんばかりにせせら笑う。

やがて核鉄にある変化が生じた。
火渡を縛る聖なる光に抗うように、強く輝き始めたのだ。

「ウオオオオオオオオオオ!! しゃらくせえってんだァアアアアアアアアアアア!!」

掌握、決意、そして咆哮。
武装錬金発動の根幹を成すそれらは、錬金の戦士であるならば誰しもが行う事だ。
火渡もそれをしただけに過ぎない。
しかし、その強さと密度は、これまでのどの闘いの場面をも大きく上回るものだった。
戦士としての生涯で最強の敵。最悪の窮地。
それが故にもたらされた最高の闘争本能。

火渡の声に反応して、核鉄が火花と電光を散らしながら細かく震え始めた。
展開される核鉄から発せられた閃光が、もうひとつの光を打ち消してゆく。
閃光の眩さが極限に達し、千歳とアンデルセンの眼を刺した時、火渡の全身からオーラの如く
業火が立ち昇った。
再び“ブレイズオブグローリー”が発動されたのである。
357WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/29(木) 04:22:48 ID:eSdP9Sj7O

とはいえ、その代償は大きい。
ぜえぜえと大きく息を切らし、身体を支える足元はまったくおぼつかない。
顔面は滝のような汗が流れ落ち、流れ落ちる端から己の炎で蒸発していく。
まさに“立っているのがやっと”という表現しか見つからない。
神に逆らうその執念は闘いに必要な条件は取り戻したものの、闘いに必要な生命力を
ごっそりと削り取っていった。
それでも、この苦境においても、火渡にとっては“ただそれだけの事”だった。
あれだけ攻撃しても振り出しに戻された。
それも地形効果のオマケ付きだ。
こちとら武装錬金を発動させるだけで体力のほとんどを使っちまってんだぞ。
これ以上、使い続けてたら死ぬかもしれねえな。
けどよ――
それがなんだ?
ああ、ただそれだけの話だろ?
何か闘いに影響があるのか?
「さあ、来な……!」
アンデルセンを射抜く火渡の眼光は鋭さを失っていない。
創造者の生命そのものを糧に燃え盛る紅蓮の炎。
それに照らされたアンデルセンの面持ちは、意外な程に神妙だ。
「ほう……。我が聖水を浴びても尚、異端の力を行使するか。どうやら少しばかり貴様を
見くびっていたようだな。ならば……――」
あの響き渡る高笑いも、あの口角を吊り上げた狂気の微笑も、既に無い。
唇を真一文字に結んだアンデルセンは懐から二本の銃剣を取り出し、逆手に握り締めた。
「――こちらもすべての力を以って相手をしてやろう。油断も、余裕も、お遊びも、一切無しだ。
完璧に殺す。完全に殺す。完膚無きまでに殺す。殺し尽くしてやるぞ……」
358WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/11/29(木) 04:25:27 ID:eSdP9Sj7O

とはいえ、その代償は大きい。
ぜえぜえと大きく息を切らし、身体を支える足元はまったくおぼつかない。
顔面は滝のような汗が流れ落ち、流れ落ちる端から己の炎で蒸発していく。
まさに“立っているのがやっと”という表現しか見つからない。
神に逆らうその執念は闘いに必要な条件は取り戻したものの、闘いに必要な生命力を
ごっそりと削り取っていった。
それでも、この苦境においても、火渡にとっては“ただそれだけの事”だった。

あれだけ攻撃しても振り出しに戻された。
それも地形効果のオマケ付きだ。
こちとら武装錬金を発動させるだけで体力のほとんどを使っちまってんだぞ。
これ以上、使い続けてたら死ぬかもしれねえな。

けどよ――
それがなんだ?
ああ、ただそれだけの話だろ?
何か闘いに影響があるのか?

「さあ、来な……!」

アンデルセンを射抜く火渡の眼光は鋭さを失っていない。

創造者の生命そのものを糧に燃え盛る紅蓮の炎。
それに照らされたアンデルセンの面持ちは、意外な程に神妙だ。
「ほう……。我が聖水を浴びても尚、異端の力を行使するか。どうやら少しばかり貴様を
見くびっていたようだな。ならば……――」
あの響き渡る高笑いも、あの口角を吊り上げた狂気の微笑も、既に無い。
唇を真一文字に結んだアンデルセンは懐から二本の銃剣を取り出し、逆手に握り締めた。

「――こちらもすべての力を以って相手をしてやろう。油断も、余裕も、お遊びも、一切無しだ。
完璧に殺す。完全に殺す。完膚無きまでに殺す。殺し尽くしてやるぞ……」
359さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/11/29(木) 04:31:10 ID:eSdP9Sj7O
連投規制に引っかかってしまい、何とかケータイでと投稿したら変な失敗してしまいました。
スレ汚し、申し訳ありません。
今回は思った以上に長くなり、思った以上に時間がかかりました。
つか、ちょっと出来映えが不満……。
文章が上手くない……。
そして眠い。

では、失礼致します。
360作者の都合により名無しです:2007/11/29(木) 14:50:29 ID:joxd4Lpe0
とりあえず原作でもアンデルセンは死んだので
決して勝てない相手ではないだろうけど
火渡では辛いだろうなあ。スペックが全然違うし。
そのあたりをどう跳ね返すか楽しみにしてます。
361作者の都合により名無しです:2007/11/29(木) 17:17:32 ID:3HWEJX6/0
ようやくこの物語もクライマックスですか。
完結がみえてくると嬉しいけど、淋しいような・・
火渡り頑張ってるけどやはり神父のほうがかっこいいな
362作者の都合により名無しです:2007/11/29(木) 22:00:09 ID:1dc05qy/0
さいさんお疲れ様です。
不死身の神父と、その神父に気おされない火渡の矜持の対決ですね。
どうやらラストも近いみたいですけど、大団円を期待しております。
次作の婦警も楽しみです。
363作者の都合により名無しです:2007/11/30(金) 03:17:50 ID:PKiSAHEU0
9巻でたばっかなので、アンデルセンの応援をするw
火渡さらばだ。さらばだ。然らば!! 死ね!!(インテグラ調で)

>>351さん
気持ちはすっごいよく分かるw
まぁ敢えてどうとは言わんが……
364武装錬金_ストレンジ・デイズ:2007/11/30(金) 10:13:38 ID:TTWy67CY0
「放課後のデイズ_後編」


 銀成市の繁華街に店舗を構えるファーストフード店「ロッテりや」。
 またの名を「変態バーガー」と呼ぶ。
 そこは、銀成市を徘徊する変態どものうちでもトップエリートが集う奇人変人のサバト会場であり、
都市伝説『蝶人パピヨン』との遭遇スポットに、また人との待ち合わせ場所に、はたまた怖いもの見たさのお化け屋敷感覚、
と銀成市民から密かな支持を得ている憩いの店だった。
「いっらしゃいませ」
 開く自動ドアに反応してにっこりスマイルで来客を迎えた女性店員が、彼女の姿を認めると営業用ではない親しみの込められた笑顔を浮かべた。
「あ、こんにちは『ブチ撒け女』さん」
「誰がブチ撒け女だっ!」
 客──斗貴子の怒声をやんわり受け止め、にこにこしながらレジ横を示す。
 そこには斗貴子の姿を模し、様々なポーズをとったミニチュアフィギュア五種類が満艦飾で並べられている。
「蝶人パピヨン全面プロデュースによる『五種類から選べるブチ撒け女セット』の企画、好評なんですよ。
一番人気がこの『脳漿』ヴァージョンで、二番がこっちの『目潰し』ヴァージョンです。
でもわたしのオススメはやっぱりこの『臓物』ヴァージョンですね」
 飲食業に従事する者が決して口にしてはいけないようなグロフレーズを並べながら、一つずつ指差し説明を行う店員。
 店頭におっ立てられたPOPにも、その馬鹿げたオマケ付きセットメニューを薦める文句が踊っている。
 隅の方にちっちゃい文字で「これらのフィギュアに塗布された赤い着色料はハンバーガーのケチャップをイメージしたものです」
と書かれているが、どう見てもセーラー服を着た血塗れの怪人としか映らないのは斗貴子の気のせいだろうか(反語法)。
 そして、「ここまで熱心にオススメしたのだからきっとこのセットを注文してくれるだろう」的な満足顔で、店員のオーダー確認。
「ご注文は?」
「コーヒー」
「ご一緒に──」
「こんなグロいフィギュアなんかいるか!」
 店員は笑顔でオーダーを復唱し、笑顔で代金を頂き、笑顔でコーヒーを淹れ、笑顔でトレーに載せて差し出し、笑顔で一礼した後──
バックヤードで『ブチ撒け女』さんの無下な態度にちょっとだけ涙した。だって女の子だもん。
365武装錬金_ストレンジ・デイズ:2007/11/30(金) 10:15:15 ID:TTWy67CY0
                    _                    _                    _

 コーヒーを載せたトレーを持って二階席へ上がった斗貴子を迎えたのは、『武藤カズキの赤点をなんとかする会』の面々。
 すなわち蝶人パピヨン、
「遅いぞ、『ブチ撒け女』」
「黙れ。人を勝手にフィギュア化するな。貴様の悪ふざけのお陰で道端の子供にすら
『あ、ブチ撒けのおねーちゃんだ』などと指を差される始末だ。──殺すぞ」
 すなわち早坂桜花、
「あらあら、殺すですって。ダメよ津村さん、女の子はもっとお淑やかじゃないいと」
「お前が先にあの下品な自動人形をなんとかしろ。お淑やかにしろなどと私に言えた義理か?」
 すなわちキャプテン・ブラボー、
「け、ケンカはやめて下さい〜」
 ──は急用で席を外したので、その代理人たる謎のガスマスク美少女──毒島華花。
 頭部をすっぽり覆ったガスマスクのせいで素顔は見えないが、美少女然とした雰囲気が隠しようもなく滲み出るおろおろ声で険悪な場を仲裁。
「──ったく」
 挨拶代わりの悪罵も一通り済ませ、荒く鼻息をつきながら斗貴子が着席。
「で、わざわざ私を呼び出すとはなんの用だ?」
「決まってるじゃありませんか。武藤クンのことよ」
 コーヒーに口をつけた斗貴子の顔が、まるで苦いものでも飲んだかのように微かに歪む。
「いや、現に苦いものを飲んでるわけだが」
「はい?」
 不思議そうに首を傾げる桜花に軽く手を振り、
「いや、こっちの話だ。──それに、お前に言われずとも分かっている。私ではカズキにモノを教えるのは向かないと」
 呆れるくらいドSな普段の態度は鳴りをひそめ、代わりになんとも言いがたいネガティヴ感情が斗貴子の小さな肩の上に渦巻く。
「私は──カズキに甘すぎる」
「分かってるなら改善すればいいでしょうに。飴と鞭とを使い分けなさいな」
 ねえ? と桜花は隣の華花に同意を求め、
「い、いえ……わたしはどっちかと言うと鞭のほうが……強い人にいじめられたいって言うか……」
 少女はマスクの先端に据えつけられた排気筒からピーッ、と蒸気を吐いて、微妙に答えになってない返事。
 仮面に遮られてもなお分かりやすいくらいに分かりやすい、もじもじはにかみモードへ。
366武装錬金_ストレンジ・デイズ:2007/11/30(金) 10:17:19 ID:TTWy67CY0
(その発言はある意味問題なのでは?)と、華花以外の三人が同時に抱いた感想。
 なんかおかしいことになってる場の空気を誘導すべく、軽く咳払いの桜花。
「……ま、まあどうぞご安心になって、津村さん。秋水クンに武藤クンの指導をお願いしましたから、とりあえず今回はだけ凌げますわ」
 この女に借りを作るのは嫌だなあという思いと、素直な感謝の入り混じったマーブル状の気持ちでこくんと頷きかけ──、
「安心するのはまだ早いんじゃあないのか」
 と、パピヨンがいきなりそんなことを言う。
「あら、なにがです? 私の人選にミスがあるとでも? 秋水クンなら武藤クンに丁寧に勉強を教えてあげられると思いますわ」
「さて、それはどうかな?」
 薄く笑いながら、ち、ち、と指を振り、
「俺から言わせてもらえば貴様たち姉弟も相当に武藤カズキに『甘い』。案外、二人して勉強そっちのけで別のことに精を出してるかも知れんぞ」
 カズキと秋水の共通点──特訓好き。
 だが、幾らなんでも勉強中に剣道の稽古に励んだりはすまい。
 結局この変態はなにを言いたいのだ? と眉をひそめる斗貴子へ、
「我々も二人を監視すべきだ。実は既にゴゼンを武藤の部屋に忍ばせてある。現在は潜伏待機中のはずだ」
「……ひとの武装錬金を私物化しないでいただけません?」
 ゴゼン──早坂桜花の武装錬金「エンゼル御前」の制御系を担う、無駄に高性能なエンゼル型の自我を持つ自動人形(オートマトン)。
 小さなボディでありながらも一廉の変態であり、変態の王様パピヨンとはとっても仲良し。
「ふん、オレが隠し持っていた核金を使っているんだ。オレが使役する権利は必要にして十分だ。いいからさっさと通信機能をオンにしろ」
「……仕方ありませんわね」
 腹黒さでは彼に負けぬ桜花は、あっさりその監視計画に同意。待機モードを解除して通信装置を兼ねた篭手を装着。
「おい、やめろ馬鹿者。お前たちにはプライバシーというのが無いのか」
「ダ、ダメです、盗み聞きなんていけないことです〜」
 やっと事態を飲み込んだ斗貴子と華花が慌てて制止するが、聞く耳持たず。
「人聞きの悪いことを言うな。これは必要なことだ。早坂秋水がどれだけの指導力を持っているか把握するためにもな」
 うっとり笑うパピヨン──どこまでも純粋な悪意のみで構成された、紛うことなき悪ふざけに満ちた表情。
「そうですわ。ただ二人の勉強を見守るだけですよ。なにも疚しいことをしてるのを見張るわけでもなし」
 くすくす笑う桜花──「秋水クンって私がいないときはどんなことを話すんだろう」という黒い興味に満ちた表情。
「ゴゼン様、聞こえる? ゴゼン様? ……眠ってるのかしら。あら、でも部屋の様子は聞き取れるようね──」
367武装錬金_ストレンジ・デイズ:2007/11/30(金) 10:18:56 ID:TTWy67CY0
                    _                    _                    _


 ノイズ──不鮮明な音声情報。
秋水「違う……それはそこじゃない。ここに入れるんだ」
カズキ「ここかな、秋水センパイ」
秋水「ああ、いいぞ。……しかし、不思議なものだな。君とこういうことをするのは、どうも妙な気分だ」
カズキ「そうかな。オレは嬉しいけど。一人でやるよりかよっぽどいいよ」
秋水「ふ……例のストロベリー禁止令か。──待て武藤、焦りすぎだ。もっと落ち着け。ここは……こうするんだ」
カズキ「あ、ゴメン……オレ、不器用だから」
秋水「オレも似たようなものだ。気にするな」
カズキ「そんなことないって。秋水センパイ、凄く上手いよ」
秋水「そうか? ……まあ、オレと君は相性が良いようだからな」
 ノイズの増加により一時的に通信不能状態に。

                    _                    _                    _


 桜花の腕に装着された篭手にしがみつくようにして聞き耳を立てていた四人が──深く重い沈黙の地層に埋もれる。
 まず最初に反応を見せたのは華花だった。
「ピ─────ッッ!!」
 鋭い風切音と共にガスマスクの先端部からおびただしいまでに蒸気を噴出。
 二階フロアの湿度が一瞬で熱帯雨林並になる。
 蒸気機関のごとく、もくもくと蒸気を吐き続ける華花を、駆けつけた店員が制止。
「おきゃくさまー! 店内での排気行為はご遠慮くださいー! お客様!? おきゃくさまー! ──テンチョー!!」
 その側でゴトッ、と体重の込められた音を立て、桜花が床にくずおれる。
 澄ました微笑を保ったまま、ひっそりと白目を剥いて気絶していた。
 その二人のはしゃぎっぷりに面食らって思考停止に陥っていた斗貴子だったが、
時間の経過とともに『ある理解』がじわじわと彼女の胸に染み込んでくる。
『オレと君は相性が良いようだからな』『相性が良いようだからな』『良いようだからな』
368武装錬金_ストレンジ・デイズ:2007/11/30(金) 10:20:41 ID:TTWy67CY0
 脳内でエコー過剰気味に反響する声が収まったとき、
「カズキイイイィィッ!」
 斗貴子はテーブルを蹴って立ち上がり、弾丸のように階段を駆け下りていく。
 騒々しい足音が遠く消え、華花の発する蒸気音も止み、全てが静まり返り──最後に残ったのはパピヨンだけとなった。
 そして店内を駆け巡る店員の声。
「ベーコンレタスサンドでお待ちのお客様ー」
 すらりとした白い指を伸ばし、パピヨンの挙手。
「ここだ」

                    _                    _                    _


 窓の外はもう夕暮れだった。
「今日はここまでにしようか」
 勉強道具を鞄にしまい、秋水はそう告げた。
 「終わったぁ」と溜め息をつきながら、ノートを放棄するカズキ。苦行から解放された喜びで足を投げ出しながら、
「いやー、数学って難しいね、秋水センパイ」
「だが、『代入式をどこに入れたらいいか分からない』というのはさすがに驚いたな」
「はは……どうも数式を見ると頭がこんがらがっちゃって」
「君は決して頭が悪いわけではないんだから、冷静になって問題に取り組めば大丈夫だ。事実、君は見事に問題を解いた」
「秋水センパイの教え方が上手かったからだよ。ありがとう、秋水センパイ」
「礼を言われるほどのものでもないさ。それに、教えるこっちも勉強になる」
 ピリリリリ。
「む、電話だ。──姉さんからだ。武藤、ちょっと失礼する」
 武士の佇まいでぺこりと一礼し、携帯電話を片手に退室。
 ふと窓が開かれる気配を感じてカズキが振り返ると、
「あ、斗貴子さん!」
 なんでか知らんが窓から部屋に出入りするという悪癖を持つ彼女が、夕日を背にして窓際に立っていた。
 逆光に包まれてその表情は判然としなかったが──まるで全力疾走直後のように顔を赤くして息を荒げている。
369武装錬金_ストレンジ・デイズ:2007/11/30(金) 10:36:43 ID:TTWy67CY0
 真っ直ぐカズキに向けられた切実なまでに深刻な目線、そのただならぬ異様にカズキは漠然とした不安を感じ、
「……斗貴子さん?」
「カズキ、私が勉強を教えよう」
 古代スパルタ人も裸足で逃げ出すドS女神が、光り輝かんばかりの莞爾とした微笑を浮かべた。
 夕暮れの陽光を浴びて、彼女の顔は自ら光を放つような錯覚すら与える。
 ちなみにミケランジェロなどに代表される彫刻作品「モーゼ像」に鬼の角みたいのが生えているのは、
旧約聖書の出エジプト記がヘブライ語からラテン語に訳されたときに「光に輝く顔」を「角の生えた顔」と誤訳したのに起因する。
「なにを隠そう、私は教育の達人だ。みっちりしごいてやる。鞭と鞭と鞭だ。ストロベリーのスの字も言わせん。
勉強のこと以外なにも考えられないようにしてやる。泣いたり笑ったり出来なくしてやる。──ノートと筆記用具を出せ! 駆け足!」

                    _                    _                    _


 後日、武藤カズキは追試を突破し、かくして彼の安寧の生活は守られた。
 その代償として、しばらくの間はシャーペンのノック音や消しゴムの角の部分にすら怯えるような
PTSDを背負込むことになるが──それはまあ思いっきりどうでもいい話。

                    _                    _                    _


 蛇足ではあるが、秋水が桜花と電話で交わした内容を追記する。
「どうしたんだい、姉さん」
「秋水クン──神様って信じてる?」
「……なんの話だい?」
「神様はアダムの肋骨からイブを生み、男と女でひとつの番となされたわ。それが一番自然な愛の形だからよ。
──もちろん、愛にだって色んなかたちがあってもいいと思うの。でも……でも、ねえ、秋水クン。
それでも、ただの興味本位や一時の感情に流されて、神様の思し召しに背くようなことをしたらいけないわ。
もっと自分の身体を大事にして。ね? お願い……」
「……つまり、こういう話かな? 『健康管理に気をつけよう』、と」
「違いますっ!」
370ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/11/30(金) 10:39:52 ID:TTWy67CY0
書いてて思ったけれど、なんだこの話。
次にこれを書く機会があるときは、もっと穏当なネタでも考えときます。
371作者の都合により名無しです:2007/11/30(金) 10:42:52 ID:0aoLh6gn0
ハロイさんは何書かせてもうまいなあw
戦いから離れた日常のヒトコマお見事でした。
こっちの秋水はスターダストさんの秋水より
ちょっと恋愛スキル上がってる?w
372作者の都合により名無しです:2007/11/30(金) 17:57:23 ID:tG6ZLm3L0
変態バーガーいきてえw
秋水とカズキのアッーの話がベタなオチでステキだw
しかしところどころに豆知識が入ってるな。
ハロイさんも頭良さそうだ。
373作者の都合により名無しです:2007/11/30(金) 21:14:14 ID:+xqTLkvQ0
秋水は結構美味しいキャラなんだなあと
永遠の扉を読んで思ってたが
この作品で確信した

乙でした。前後編くらいのボリュームは
さっぱりしててたまにはいいね。
長編の3本も頑張って下さい。
374永遠の扉:2007/12/01(土) 02:20:21 ID:OVG+egyj0
第027話 「動き出す闇(前編)」

まず本稿を描く前に一つの武装錬金に対する注釈を設けておく。

アンダーグラウンドサーチライト。

創造者 … ヴィクトリア=パワード。
形状   … 避難壕(シェルター)。
特性   … 亜空間への避難壕(シェルター)製造。
特徴   … 入口を閉じた状態での発見はほぼ不可能。
        広さと内装は変幻自在。
        (ただし広さや複雑さに比例して創造者への負担は大きくなる)
        水・電気は現実空間の水道管や電線から拝借可能。

秋水が斗貴子に半ば連行される形で管理人室に入ると、すでに見慣
れた顔が卓を囲んでいた。
防人は斗貴子の顔を見ると困ったように頭をかき、千歳はいつものよう
に無表情、桜花は秋水に「まひろちゃんとの会話は楽しかった?」とい
いたげな顔で微笑んで見せて、その横では何故か御前が怒ったように
せんべいをバリバリとやけ喰いしている。
剛太が不在なのは、まだ入院中だと聞き及んでいるから不思議でもな
いが、考えればほぼ時を同じく入院した斗貴子がこうして寄宿舎にいる
のはおかしいといえる。
おかしいといえばヴィクトリアの気配がそうなのも秋水は気づいていた
が、斗貴子が断固として私語を許さぬ雰囲気を漂わせているせいで、
ここまでの道中話しかけるコトはできなかった。
秋水が着座すると、ヴィクトリアも向かい側でそうした。
わずかだけ秋水を見たような気がしたが、真偽のほどはわからない。
「本題から入るぞ」
一座の中で斗貴子だけは棒立ちだ。
本来なら入院中すべき体だから顔色は青く、今にも細い体がくずおれ
そうな気配がある。
375永遠の扉:2007/12/01(土) 02:21:51 ID:OVG+egyj0
だがそれに負けじと瞳が憎悪にひきつりながら一座の一人を捉えた。
秋水ではない。
秋水ならば、彼自身の抱えている様々な問題と照らし合わせたとしても
まだ耐えるコトができた。試練の一つと受け止め、戦うコトができた。
しかし。
斗貴子が見ていたのは。
ヴィクトリアだった。
「お前は敵と内通しているな?」
よく考えればそれを聞きたいが故に連行してきたのだろう。
ホムンクルスに甘言を吐けるような性格でも前歴でも精神状態でもない。

「根拠はなんだ」
一座の中でまず言葉を吐いたのは秋水だった。
瞳の中には言葉半ばで止まる姉や上司がいて、それらより早く行動に
移った自身の対外的な俊敏さに内心驚きもしたが、それどころではない。
頭の中では数万語が沸騰し、必死に論理的な弁護を探している。
ともすれば斗貴子に対する怒りをまず第一に吐き散らかしかねない
ほどに精神は沸騰状態にある。
「彼女がホムンクルスに与する理由はない。前歴を君も知っている筈だ」
戦団の手によってホムンクルスとなり、地下で母と二人百年も過ごして
きたヴィクトリアだ。錬金術の産物なら核鉄であろうとホムンクルスであ
ろうと戦士であろうと嫌悪しているのは、ここにいる者なら誰でも知って
いるコトだ。
「もちろん知っている。だからこそ私たちに与する理由もない」
知悉しているからこそ斗貴子の文言にも一応の筋は立っている。
「だが……」
言葉につまった秋水を見かねたか、御前が軽い調子で言葉を継いだ。
「てかツムリンよー、お前のいう敵って一体ダレ? いろいろいるよなー
L・X・Eの残党だろ、ブレミュの連中だろ、後は大戦士長さらった連中」
ない指を曲げる仕草で敵を数える御前へ涼やかな声がかかった。
「ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズね」
千歳の断定的で神秘的な瞳が斗貴子に向いた。
376永遠の扉:2007/12/01(土) 02:24:22 ID:OVG+egyj0
「あら、じゃあ津村さんが内通を疑ったのはいつかしら」
「数日前の戦闘だ」
「なるほどね。で、裏は取ったのかしら? 内通しているって証拠は?」
「それは今から取る」
桜花は肩をすくめてやれやれと笑って見せた。
「駄目じゃない、裏も取らずに人を疑っちゃ」
「フザけるな」
一座を冷たく凍てつかせる低く押し殺した声が、柔らかな唇から洩れた。
「そいつは人じゃない」
獣を嘲るような声だった。まったく殺意と憎悪しかない冷徹な声だった。。
「今は繕っているがいずれ本性を現すに決まっている。人喰いの本性をな」
ヴィクトリアの肩が一瞬震え、更に俯きが深くなった。
秋水は斗貴子とあまり相性はよくないと思っていた。
相性がよくないだけで、斗貴子本来の性質というのはけして粗暴でも
凶悪でもなく、弱者に対しては決して優しさを忘れえぬ人間だと、敬意
を払うべき人間だとも。
だが今、嫌悪に流された。
斗貴子の言葉でヴィクトリアの影がますます黒くなったのを見た瞬間、
仄かな敬意を激しい嫌悪が押し流した。
まひろの斗貴子に対する配慮が蘇る。
彼女は傷つきながらも斗貴子を気遣って、劇の練習に勤しんでいた。
斗貴子の傷心の原因すら自分にあるとまひろは思い、月を見上げて
泣いていた。
そういうまひろの姿を引き合いに出して、「一体君は何をやっている」と
怒鳴りつけたい気分になる。
が、彼がそれを半ば実行に移そうとした瞬間、別の声が飛んだ。
「今のは失言だぞ。戦士・斗貴子」
不精ひげを生やした気のいい顔が、この時ばかりは厳然と強張り斗
貴子の顔を見据えていた。
どんな心情が場に伝播したからは、御前が一番よく証明していた。
目から涙を丸フラスコ状に垂らしながら「ブラボー怖ぇ」と涙を流しつつ
桜花の後ろへ素早く隠れ、同時に秋水は同じ感想で肝を冷やした。
377永遠の扉:2007/12/01(土) 02:25:33 ID:OVG+egyj0
「しっかりしないか。いかに戦闘で傷つき、不安定な精神だったとして
も、ふだんの君ならああいう失言はしないぞ。少しは落ち着く事だ。で
ないと俺は戦士長の権限において君を病院へ強制送還さざるを得ない」
ヒビ割れと「ぶらぼぅ」という筆字と年季の入った湯呑を口に運ぶと、
防人はそれきり黙った。
気まずい雰囲気が斗貴子と防人の間から部屋中に広がる。
こういう時に場を繕えるのは桜花であろう。そういう『華』を持っている。
「ごめんなさいね。いきなりこんなコトになっちゃって」」
ヴィクトリアに微笑んでみる。
が、相手の表情を見て息を呑んだ。
頬からは血が引き、耐えるように噛みしめた唇はホムンクルス特有の
修復作業が巻き起こり、無機質なパネルがしゅうしゅうと傷を塞いでは
また剥離して回復と損壊のいたちごっこを繰り返している。
瞳は前髪に隠れて見えないが、ひたすら沈みきっているのは明白だ。
そういえば桜花と互角かそれ以上の毒舌家のヴィクトリアがあれだけ
のコトをいわれてなぜ黙っているのか。
沈黙にはどこか肯定の気配すら漂っている。
(まさか、ね…… 津村さんのいうコトが図星なワケないわよね……?)
「とにかくまずは落ち着いて話をしましょう」
密かに芽生えた狼狽ゆえか、千歳の声にすらビクっとした。
とりあえず正体不明の動揺を振り切るように、務めて明るい声を出した。
「まずは『なぜ津村さんが内通を疑ったか』からね。あ、コレは別に津村
さんを責める訳じゃないから。ほら、津村さんの気にしているコトを皆で
考えたら、何かの手がかりを得られるかもしれないし、ね?」
元来は真面目な斗貴子だ。やんわりと自分の意見を肯定されてしまう
と怒り辛くなるらしく、少しだけ張りつめた黒い空気が萎んでいくのが
皆の目に映った。
「それは──…」
斗貴子の口から、一つの武装錬金の名前が漏れた。

「アンダーグラウンドサーチライト」
総角は部屋を見回すと、魔法の呪文のように軽やかに唱えた。
378永遠の扉:2007/12/01(土) 02:27:56 ID:OVG+egyj0
「あんだーぐらうんどさー…ぐにゃっ! 舌噛んだじゃん」
まだ微熱で頬が赤い香美は顔をしかめて舌を出し、指でなで始めた。
「フ。普通噛まないぞそこは。つかいじるな噛んだ場所を。雑菌が入る」
まだいぐさの匂いも真新しい和室だ。
ちょうど八畳で床の間があるが、いずれの上にもまったく何の家具も
調度品もなく、引っ越し直前か直後のようにがらんどうとしている。
予備知識のない者には、まさかここが地下にある部屋で、畳も床の間
も鉄刀木(たがやさん)でできた見事な床柱も、総て武装錬金で形成さ
れた物だとは想像もつかないだろう。
現に香美なども信じていないらしく、何度も何度も総角に質問している。
「なんでこーいうのが作れるワケ? ちっとも分かんないじゃん」
「特性だからな。お前はハイテンションワイヤーがなぜエネルギーを
抜き出せるか説明できるか? できないだろう。それと同じだ」
「あたしにそんなむずかしいコト、できるワケないでしょーが」
そっぽを向いた香美に総角はやれやれとため息をついた。
「でもさでもさ、いったいぜんたいいつこんなの手に入れたのよ? こ
んなんあんならさ、さっきあたしらあんなせまっくるしいところにいなく
ても良かったじゃん!」
やたら平仮名が多い。アークザラッド2に出れば火属性に違いない。
「さっきといっても三日ぐらい前だがな。で、狭い場所は神社だったな。
まー、あの時はこれを入手していなかったから仕方ない」
「ふーん」
香美はヒマになってきたらしい。ネコ耳を出してぴょこぴょこ動かした。
「フ。そういう態度は頂けないな。コレはいちおうお前と貴信の命を救
った武装錬金だぞ」
「んにゅ? それどーゆうコト?」

「数日前…… 私がネコ型ホムンクルスを追い詰めた時」

──貴信を取り囲むように六角形の輪郭が地面に現出した。
──それは一瞬にして穴となり、レンガ壁を覗かせながら貴信の体を地下へと落としていく。
──この現象に、斗貴子は見覚えがある。どころかこの春先と夏に二度も体験した。
379永遠の扉:2007/12/01(土) 02:31:20 ID:clQHgD2B0
「あの総角とかいう男がアンダーグラウンドサーチライトを使って仲間を
助けるのを確かに見た」
語る斗貴子の瞳は屈辱と怒りに燃えている。
思い出すだけでも許せないのだろう。
カズキとの別離のトラウマをアリスインワンダーランドで刺激した総角が。
「だから内通を疑ったというワケね」
桜花は頷き、御前も続く。
「でもよー、なんで内通先がブレミュじゃないかって分かったんだ」
自動車ライトのような瞳が千歳を捉えた。
「簡単な話よ。すでに今の話は聴取済みだから」
「ナルホド」
「しかし、それだけで内通を疑うのは少々軽薄だと思うわ」
実に千歳の発音は滑らかで事務的明瞭さに満ちている。
「総角主税の武装錬金の特性は

『直接見た武装錬金または創造者のDNAを得た武装錬金の再現』

というのは周知の事実。現にこの夏の別任務では、私と戦士・根来は
戦いで流した血を採取され、総角主税に利用される結果になったわ」
こういう会議じみた集まりになると、どうも秋水の発言は少なくなる。
彼は彼で真剣に討議の内容を聞いているのだが、発言すべき内容は
どうも見当たらない。ただ頷くしかないというのが実情だ。
「そういうコトがあるから、彼が武装錬金を使ったからといって内通を
疑うのはあまり好ましくないわ。むしろ、知らず知らずのうちに採取さ
れてしまった可能性こそ疑うべきよ」
「……しかし」
千歳は斗貴子に近づくと、肩に手を当てた。
「いろいろあって辛いでしょうけど、自分を見失っては駄目よ。私には
今のあなたが、ヴィクトリア嬢を責めるためだけに無理に口実を見つ
けているように見えるわ」
「そんなコトは……」
二の句が継げない所をみると、斗貴子自身も自覚があるのだろう。
380永遠の扉:2007/12/01(土) 02:33:22 ID:clQHgD2B0
「まーまー、気にするなってツムリン。早とちりは誰にだってあるさ」
ヒキガエルのような声を洩らしつつ、御前が斗貴子の肩を叩いた。
「そうね。むしろどうやって採取したか考えて、それを防ぐ方が今後の
ためよ。秋水クンもそう思うでしょ」
「ああ。今、これ以上総角にこちらの武装錬金を使わせるのはマズい。
例えば防人戦士長の武装錬金を使われてしまえばそれだけで手だし
ができなくなる」
当の防人もコレには首肯せざるを得ない。
シルバースキンは並外れて硬い上に、攻撃で砕けても即時再生する。
防人のコンディションが十全だったとしても、その超人じみた攻撃力で
破れるかどうかは正直分からない。
「今は戦力が少ない時だから、なおさら……」
軽く付け加えただけの現状説明だったが、秋水はそれで余計な敵意を
浴びる羽目になった。
「負けた私への当てつけか」
斗貴子が苛立った目で睨んできた。
「当てつけではない。俺はただ現状をいっただけだ」
「どうだろうな」
彼女にしてみれば、自分が戦っている間寄宿舎にいた”だけ”の秋水
が許せないのだろう。
さきほど秋水がまひろの部屋で親密そうにしていたのも悪かった。
寄宿舎にいる間ずっとああいう態度だったのではないかという疑念が
生じている。
「……あー、なんだ。戦士・秋水はいざという時の守りの要としてだな、
俺が寄宿舎に割り振った。君が懸命に闘っている時に加勢させれな
かったのは俺の采配が悪いせいだ。あまり責めないでやってくれ」
といってから防人は「しまった」と思った。コレでは秋水だけをひいき
しているといわれるかもしれない。
実際問題、気迫と権力さえ行使すれば斗貴子を抑えるコトはできるが
それでは彼女が鬱屈するのは目に見えている。
「しかしだな。君がかなりの数のホムンクルスを斃してくれたおかげで
今は守りに力を割かなくてもいい。今度闘う時は戦士・秋水に働いて
381永遠の扉:2007/12/01(土) 02:35:01 ID:clQHgD2B0
もらう。それで……いいか?」
ええ、と力なくうなずく斗貴子に防人はふぅっと息を吐いた。
(幾つになっても女の子の扱いが下手ね)
千歳もため息をつきたくなった。
「で、DNAの採取をどうしたかってコトだけど」
「ほらこの前カレーパーティやった時、猫娘がびっきー抱えて飛び込ん
できただろ? あん時さりげなく髪でも取らせてたんじゃね? 総角」

「残念。不正解だ。というか命じられたかどうかぐらい覚えておけ」
ほぼ同刻に御前と同じ疑問を香美にブツけられた総角は胸の前で×
を作った。
「んじゃさ、なんかガラ悪いのをばーんってやった後にさりげなくとか!」
『ああ、逆向凱とやらにニアデスパピネスを撃ち放った時だな!』
ようやく貴信が喋り出した。聞けば眠っていたらしいが本題とは無関係。
「それもない。フ。いくらなんでも初対面のお嬢さんの髪を引き抜くほど
俺は不躾ではないしな。もっとも、小札の頭のてっぺんにほつれ毛が
あればそれを不意打ちで抜いて『ぬぬぬ! この電撃的痛みはよもや
不肖の髪を引き抜かれた痛み! うぅ、そーいうのは事前にいってほし
いものです。不意の痛みに期せずして涙が……くすん』といわせるのは
大 好 き だ が !」
『はーっはっはっは! 分かる! 僕にも分かるぞぉ! 男のロマンだ!』
「だろ?」
ワケのわからないところで意気投合している二人に香美はため息をついた。
「で、どうやってあのコからDNAとったのよ?」
「ああ、それはだな」
この時、襖を前足で開けて無銘が入ってきた。
えびせんべいみたいな色の体毛を短く全身にまぶしたようなこの小さ
なチワワを見た総角は、わざわざ彼の耳に届くように声を大きくした。
「鐶だ。アイツの特異体質のおかげでな、あのお嬢さんのDNAは想像
以上に容易く採取出来たぞ。な、無銘。すごいな鐶は」
「……彼奴が何か。居るのであれば我は退く。断固として地平の彼方迄」
「いやこちらの話だ」
382永遠の扉:2007/12/01(土) 02:35:41 ID:clQHgD2B0
嫌そうな顔のチワワを総角は愉快そうに見た。

「ともかく、ヴィクトリア嬢が的に内通しているという証拠はないわ。今
までもこちらの情報が筒抜けになっているフシはいくつかあったけど」

例えば、千歳が寄宿舎に現れると同時に、総角がアリスインワンダー
ランドでヘルメスドライブ対策を取った事。
例えば、銀成市に到着したての剛太の容貌が、すでに貴信や香美に
割れていた事。

「総角主税がヘルメスドライブを持っている以上は漏洩しても仕方ない
でしょうし、私の到着はヴィクトリア嬢が寄宿舎に来る少し前のコト。内
通していたとしても、情報の流しようがないわ」
つまり、ヴィクトリアの内通している可能性は低い。
低いにも関わらず、彼女は先ほどからまるで反論も抗弁もしない。
「何かいったらどうだ」
斗貴子は高圧的だ。もっともその高圧さというのは今度は自身が糾弾
されかねない立場にあるための、自己防衛が多分に含まれているが。
「……別に」
ヴィクトリアの甘い声が噛みしめた唇の奥から洩れた。
秋水はその顔を注視していて、一つ気づいた。
息が荒い。肩も震えていていったい何をしているのかと指先を見れば
スカートの端を強く握っている。
肌には玉のような脂汗すら散見される。
秋水は、迷った。
気づいた事柄を果たして秋水とヴィクトリアの個人間のみで処理すべ
きか、それとも戦士の関係者がみな集結しているこの場所で指摘すべ
きかどうか。
逡巡の気配。
ヴィクトリアはなぜか秋水を見た。
冷たい冷たい、本性の瞳で。
それはかすかに充血して、いずれ血走りが瞳を真赤に染めるのでは
383永遠の扉:2007/12/01(土) 02:37:40 ID:clQHgD2B0
ないかと思われた。
見えない空気の中、交差する夢と欲望。
瞳の奥に満ちている物から秋水は完全なる確証を得て、知られたコト
をヴィクトリアは知ったようだった。
「一つ、教えてあげるわ」
ヴィクトリアはやおらに立ち上がった。
この時、彼女の右手がスカートのポケットに突っ込まれているのに気
付いた者はいなかった。
「さっきあなたがいったコト、半分は当たっていたわよ」
秋水は後々まで悔やんだ。
もしヴィクトリアの右手を見逃さなければ。
この後、彼女と秋水の間にとても独力では修復不可能な亀裂が生じて
しまうコトはなかった。
「”今は繕っているがいずれ本性を現すに決まっている。人喰いの本性を”
……あなたは正しい。だから反論なんかしないわよ。しても見苦しいだけ」
武装錬金発動の光がスカートから迸った。
そう認識した瞬間、ヴィクトリア=パワードの姿は寄宿舎管理人室から
忽然と消えうせていた。

時系列はやや遡る。
入浴を終えたヴィクトリアがいつものように千里の部屋に入った時。
母親に似ている少女の顔を見た瞬間。
ヴィクトリアの体をおぞましい電流を貫いた。
衝動。
嘔吐をこらえるように口を押さえて後ずさったヴィクトリアを千里は心配
そうに覗きこんできた。
オーバーラップした。母親の顔と。
……ヴィクトリアは百年の間、食人衝動を人を殺す事なく満たしてきた。
その手段は。
母・アレキサンドリアのクローンの捕食。
そして若宮千里はアレキサンドリアに似ている。
クローンのように、似ている。
384スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/12/01(土) 02:40:11 ID:3kt9sXPC0
ようやく真赤な誓いの修正完了。詳細はブログにて。
さて、今回からは割と細かく構想があるので、早く描けるかも?
ココからアレやってコレやって、最後にソレがくるんですよ。
早く描きたい。中盤の終盤は自分的にすごくやりがいがありそうなので……

>>340さん
歳をとるにつれて前回のような甘酸っぱさが貴重に思えてきますねw
描いてる時は少々悶えもしましたが、読む分には好きな描写であります。
ああ、純愛になりそうな関係っていいなぁ。(しみじみ)

>>341さん
そうですね。少なくても相手の話を聞いて解決策を模索しようとする
態度は大事だと思うんです。それにしても恋愛初心者は素晴らしい。
ちょっとした相手の動作にドキドキしたりする、この純情さ。あぁ、いいなぁ。

ふら〜りさん
主人公たるものああでなくては。で、彼らがごく普通の恋人になるかどうか
はどうも自分にも見当がつかないのです。ええ。やはり描いてみないと分
からない。あらかじめ線を引くより状況に応じて動かす方が、より萌えると思うのです。

さいさん(いろいろ、ありがとうございます。頑張りますよ!)
単純な戦闘能力だけでも勝ち目がないのに、その上武装錬金封印という
搦め手まで使ってくるとは…… されどそこに卑小さがないのが流石神父。
結局、殺すための手段の一つにしかすぎないというか。機智謀略の限りを
尽す大怪物ですよ最早。だからこそこのお話のラスボスにふさわしく、
火渡の奮戦も輝くという物です。

ハロイさん
やった。秋水が地味にいいポジション! 本当にですね、彼はSS上じゃ
ボケてよし突っ込んでよしの万能素材ではないでしょうか。>>367はも
ちろんヤマジュン絵で再生しました。てか文章の流れが綺麗だ……
もしや毒島の「いじめられたい」発言は、声つながりでハヤテの瀬川泉でしょうか? 
385作者の都合により名無しです:2007/12/01(土) 12:09:49 ID:e4YNPQ+f0
トキコが嫌なやつだなあw
でも、カズキがいなくなってささくれだってるんだろうね。
秋水がどこのSSでも美味しい役回りで嬉しい。
386作者の都合により名無しです:2007/12/01(土) 19:21:04 ID:E21YMgw70
ヴィクトリアと斗貴子はどことなく似ているな
性格も生い立ちも。同属嫌悪か。

秋水が一番精神的に成長している感じ。
まひろのおかげかな。
387作者の都合により名無しです:2007/12/02(日) 03:01:06 ID:GZjOZXoE0
つぅか、この作品の斗貴子は悪い役どころを一手に引き受けてるよな。
負け役、引き立て役、荒み役、暴走役、心身ともにいたぶられ役。
ここまで見苦しい扱いは初めてみた。
388作者の都合により名無しです:2007/12/02(日) 08:19:46 ID:ZGjXOj7LO
まあその代わり鬼の如く強いが
389作者の都合により名無しです:2007/12/02(日) 10:39:45 ID:GbDTr/w40
黒トキ結構好きだな
390作者の都合により名無しです:2007/12/02(日) 14:42:43 ID:uvDBaZBj0
wikiまとめのトップページにアクセス数って表示していいかな?
391作者の都合により名無しです:2007/12/02(日) 14:56:19 ID:iKJ1t1lr0
>>390
ん? もうでてないか? 真ん中に

baki SS闘士の戦闘回数⇒ 21658

ってあるのがアクセス数じゃ。
392作者の都合により名無しです:2007/12/02(日) 15:03:34 ID:uvDBaZBj0
>>391
スマソ。見落としてた。
393作者の都合により名無しです:2007/12/03(月) 12:42:58 ID:MUAg8KnV0
エンバーミングは雑誌ごと豪快にコケそうだが
誰かSS化してくれるだろうか
394作者の都合により名無しです:2007/12/04(火) 22:36:04 ID:rc7hhEy30
なんかまた停滞?
395作者の都合により名無しです:2007/12/04(火) 22:40:17 ID:rc7hhEy30
何気にVSさんのブログが復活してた
あいかわらずトチ狂っててステキだった
こっちにも書いてくれないかな
396作者の都合により名無しです:2007/12/05(水) 10:03:18 ID:dHyTjo5m0
スターダストさんとさいさんは書いてるみたいだから
停滞はないだろうけどね
他の人にも沢山書いてほしいよね
397作者の都合により名無しです:2007/12/05(水) 11:06:17 ID:cMGBqFvv0
静・ジョースターの登場するオリジナルのマンガがどこかにあったはずですが、
検索しても見当たりません。閉鎖されたのでしょうか。
静が野球の試合をしていたのを覚えておりますが。
398作者の都合により名無しです:2007/12/06(木) 13:24:56 ID:aj2HQ9Jk0
静ジョースターってハロイさんのオリジナルキャラじゃなかったの?
ジョジョ4部までしか知らんから・・
399作者の都合により名無しです:2007/12/06(木) 19:31:57 ID:O3M1at16O
>>398四部知ってるとか嘘だろw
400ふら〜り:2007/12/06(木) 23:02:33 ID:Bip0R4jx0
ぁ〜アクセス規制はツラかった……

>>邪神? さん
おぉ、かつて何のタネも仕掛けもなくケンに圧勝した実績があるシンですか。とはいえ、
そのケンは本作開始以来、原作を凌駕する豊富な種類の戦闘経験を積んでますしね。
いや、シンもシンで原作とは違う能力を得てるのかも。当面のホーク戦、何が起こる?

>>さいさん
期待通りに立ち上がってくれたアンデルセン。のみならず、火渡を更なる絶望へと突き
落としてくれる仕掛けつきで……と思ったら、それを突き破る火渡。何というか、二人
揃って超・超人の域を魅せてくれてます。奥の手と底力を出し尽くし、そろそろ決着か。

>>ハロイさん
音声だけを拾うという展開になった瞬間に、多分こうなるだろうと予想はしましたが……
予想を裏切らず、期待を越えてくれました。女の子たちの反応が、揃いも揃って可愛いっ
たらもう。戦場と世評ではブチ撒け女でも、こういう時はちゃんと一介の女の子してると。

>>スターダストさん
色恋絡みではなく、直接の仇などの戦闘関連の恨みごとでもない、でも根の深い諍いごと。
各人の性格や信条の、良く言えば人間臭さ、悪く言えば短所をチラ見せし、でも単に嫌な
奴には見えないように。萌えや燃えのみならず、こんな高難度シーンも流石の描写でした。
401作者の都合により名無しです:2007/12/07(金) 21:47:32 ID:D73Er6340
また停滞か
402作者の都合により名無しです:2007/12/07(金) 23:14:24 ID:0D/wFTrp0
『世界平和安全協会』というおもしろい動画です。
今日のインチキ宗教団体を考えさせられる動画です。

http://2ch.zz.tc/sagi
403作者の都合により名無しです:2007/12/08(土) 12:15:30 ID:MMRTQkTTO
屍鬼を再SS化できる猛者はおらんのか!!!
404作者の都合により名無しです:2007/12/08(土) 21:34:12 ID:w/ZNGXTE0
あげ
復活したと思ったのにまた調子悪くなったw
405作者の都合により名無しです:2007/12/10(月) 20:55:23 ID:hcIyNIwA0
10日フリーズかw
ま、年末だからな・・。
406永遠の扉:2007/12/10(月) 23:16:01 ID:XHLIgoRj0
第028話 「動き出す闇(後編)」

地下を貫く正六角の通路が真暗な闇の彼方まで煉瓦造りを伸ばし、
けたたましいほどの足音を残響させている。
寄宿舎管理人室から姿を消したヴィクトリアだが、瞬間移動を用いた
ワケではなく、ただ足元にこの空間を発生させ没入したに過ぎない。
そして喘ぐように息吐きながら駆けている。

母の肉片を喰らって生きてきた者が、母に似た少女に食人衝動を覚え
ている。人間じみた情愛を人に抱いたせいで自らの怪物性をより深く
認識する羽目になっている。
今のように地下にいれば良かった。
光のない場所ならいかなる闇も常態として過ごす事ができた。
けれど暖かな景色を知ってしまったから、こうなっている。
いまはただ、一人になりたい。
それを叶えるためには、華奢な足を内角百二十度に窪んだ不格好な床
の上で運動させるほかなく、そのせいか足は時折もつれヘアバンチで
留めた艶やかな金髪も胸の前で乱れに乱れている。
不思議なコトに彼女の背後では避難壕の空間がすうっとかき消え、あ
とは湿った土くれとなっている。
解除しているのだ。アンダーグラウンドサーチライトによって形成され
る亜空間は、根来がシークレットトレイルにて斬り開く亜空間とはまた
異なり、存在さえ知悉すれば誰であろうと侵入は可能である。
現に斗貴子や千歳は特性を知らぬ状態で探し当てた。
だからこそヴィクトリアは逃走に際して自らの通りすぎた道を閉鎖し、
取りつかれたように疾走を続け……

一体どれだけ駆けたか。

「……もう、十分な筈」
立ち止まると肩で息を荒くつき、酸素を何度も何度も取り入れた。
407永遠の扉:2007/12/10(月) 23:17:01 ID:XHLIgoRj0
ひどく体が重く、熱い。走ったせいか、食人衝動の飢餓感と熱ぼったさ
が腹部から全身に広がっている。汗がひどい。止まらない。背中はすで
にぞくりとするほどの脂汗と冷汗に塗れて、肌着が不快に密着している。
六角形の一辺たる壁にもたれる。一瞬冷たく心地いい感触が走ったが
吹き出る汗のせいですぐさま不快な熱へと転じた。
地下は換気が悪い。淀んだ空気に熱が漂うばかりで埒が開かない。
嗅覚を集中するとなぜか仄かに草木の生々しい匂いもしたが、あまり
気休めにはならないだろう。
と判断したヴィクトリアの脇で紺碧の閃光が走った。
正確には壁からせりだしたというべきか。横幅二十センチほどの光が
無機質な煉瓦から現出したと見るや、その二十センチばかり上で同様
の光が発生し、以降厳正なる二十センチの間隔で光の線が上へ上へ
と増殖していく。それは何かのメーターが増大する光景にも似ていた。
ライトグリーンの光が仄かに地下を照らし、ヴィクトリアの影を床に伸ば
したのも束の間。
線の光は壁から生えた真鍮色の金具と化し、ヴィクトリアはそれに手を
掛け、上へ上へと昇り出す。いうまでもなく、アンダーグラウンドサーチ
ライトの特性によって梯子を作り出したのだ。
やがて天井に六角形の亀裂が生じ、ヴィクトリアの身体は地上に出た。

見回すとタイル張りの歩道が足もとに広がっていた。
歩道は曲がりくねっており、その左手には雑草が申し訳程度に生えた
地面が広がっている。
右手では地面が盛り上がって草木をまぶし、視認できる限り全ての部
分で歩道に沿ってなだらかな丘を描いていた。地下で感じた青臭さは
ここに群生する草木の根の匂いだったのかも知れない。
左の地面と歩道の境目には、白地に黒で「銀成市 菖蒲園(予定地)」
と描かれた看板が無造作に設置されている。予定地にも関わらず街
灯が何本か道を照らしているのは、歩道がどこかとどこかを繋いでい
るからだろうか。目を凝らすと歩道の果てに赤茶けた煉瓦造りの建物
がうっすら見えた。
(下水道処理施設……)
408永遠の扉:2007/12/10(月) 23:18:13 ID:XHLIgoRj0
知ったのは数日前だというのに、ひどく懐かしい。
記憶に残っているのは、自分の武装錬金と形が似ているからだろう。
教えてくれたのは千里だ。彼女は街の地理に不慣れなヴィクトリアに
市民だよりか何かのパンフレットを元に教えてくれた。
眼が潤む。戻れる物ならその当時に戻りたいとも思い……

そこで、息を呑んだ。
理屈さえ知っていれば簡単に分かるコトだった。
だから平生であれば冷笑を持ってあしらえただろう。
「ご苦労な事ね」と。
しかしこの時は冷えた瞳孔を引き締めるのが精一杯であった。
影を数える単位とは何であろうか。
枚? 個? 体?
思うに単位というのは管理のためにある。多数ある物の実数を踏まえ
販売や経理、生産に役立てるべく単位が発生するのである。
だが影をそうする者は……いないだろう。
影は影でありなんら実体を持たぬ。持たぬ物を社会規律の中で管理
せんとするのは、幽霊の見世物小屋を作ろうとするほど愚かしい。
よってヴィクトリアが十メートル先、街灯の光のふもとにある景色を下
記のように形容したのは、ある意味で間違いでありある意味では正し
かった。
影が一体、佇んでいる、と。
もちろんそれは影ではなく着衣が黒いせいである。
着衣の黒は見慣れた黒でもあった。
学生服。
それを着た早坂秋水がいた。
彼も彼で走ってきたらしい。
近づいてくる彼は携帯電話片手に眉目秀麗な顔に汗を浮かべ、激し
い息を意思の力で鎮静させつつあった。

千歳は浮かない顔で自分の武装錬金を見た。
ヘルメスドライブ。
409永遠の扉:2007/12/10(月) 23:19:14 ID:XHLIgoRj0
特性は索敵と瞬間移動。見知った者なら画面内で追尾もできる。
ヘルメスドライブで亜空間の中へ千歳が移動する事もできたが、それ
で説得できるかと言えばはなはだ難しい。
秋水に追跡を任せてみようと思ったのは、かつて彼が遠路はるばる
ニュートンアップル女学院を訪ねてヴィクトリアを説得している場面を
目撃したのもあるが、実はもう一つの事情がある。
寄宿舎管理人室には激しい緊張が満ちていた。
電話を切った防人の口から指示が下る。千歳はそれを受けてヘルメス
ドライブ付属のペンを画面に押し当て、寄宿舎管理人室からかき消えた。

ヴィクトリアは驚愕が去ると、追跡の光景がありありと浮かんできた。
この眼前にいる男はおそらく千歳と連絡を密に取り合い、ヴィクトリアが
その背後で空間閉鎖するのをやめるのを見計らって亜空間に突入して
くるつもりだったのだろう。
ただその為にヴィクトリアと同じように地上を疾駆し、あるいは地下の
ように一本道でない地上で必死に狭雑物を避けてヴィクトリア以上の
速度で走っていたに違いない。
戦士がどうしてそこまでするのか。
とるべき態度としては斗貴子の方がまだ正しい。
それが自分に対する罵倒であったしても納得はできる。。
「ホムンクルス」なる錬金術の産物を嫌悪しているという共通項ゆえに。
戦士がホムンクルスを餌場たる寄宿舎に引きとめるコトの是非など、
本来は論ずるまでもない。放逐大いに結構。内通の疑念も正論だ。
なのに秋水はヴィクトリアを追ってきた。
それもきっと斃しにきたのではなく、連れ戻しに。
「……アナタ、いってもわからないの?」
蔑視を送る。送るほかない。この元・信奉者に対する不可解な感情を
不可解なままで留め置く事は、ただ百年来の嫌悪と侮蔑を冷えた眼差
しに乗せる事でしか達せられぬように思えた。
「まだ君が寄宿舎を去る必要は生じていない」
対する学生服の男は毅然とした声である。
苛立たずにはいられないヴィクトリアだ。
410永遠の扉:2007/12/10(月) 23:20:07 ID:XHLIgoRj0
右足で左のふくらはぎをかくような仕草をとりながら、つま先を歩道に
軽く押しつけた。タイルがひび割れた。卵の殻にスプーンを当てるよう
に小気味よく。それでも足らず、鼻を鳴らした。
「生じているわよ。少なくても私にとってはそう」
若宮千里。母親にどこか似ているその少女は、薄暗い感情を抱えた
ヴィクトリアに親切で、いろいろ教えたり髪を梳いたりしてくれた。
だがそのせいで。
ヴィクトリアは千里がひどく愛しく思えてきている。
今から寄宿舎に帰って千里の部屋に入り、まひろがするような自然さで
千里に抱きつきたいと思っている。
そしてヴィクトリアの口はワニのように裂けサメじみた乱喰歯を生やし
て、千里の柔らかな体に突き立てたい。
捕食していた母と似ているからこそ、そうしたくてたまらない。
「だがそれは既に予見できていた事だ。俺が以前伝えた通り、戦団側
でも備えはできている。だから……」
「だから寄宿舎に留まれ、そういいたいのかしら?」
唇を噛みしめて軽く俯いたのは、求めてやまぬ明るい笑顔のせいだ。
知識として、人型ホムンクルスが手の穴から人間を捕食するとは知っ
ている。だがアレキサンドリアのクローンを経口にて百年ずっと摂取し
てきたヴィクトリアは離乳食しか知らぬ子猫のようであり、食物は手先
でなく口で捕食するという未成熟な感覚しか持ち合わせていない。
口で思う存分白くて柔らかい体を堪能したい。
肉を噛み切りはぎ取り尽してミートパイに調理したい。
「俺は君が鎖された世界に戻るのは見逃したくない」
手を伸ばせば届くぐらいの距離にいる秋水を一瞥する。
「断っておくけど、いまさら戦団の力なんて借りたくないの」
因縁を無視し戦団の作る糧秣を食えなどいわれて、頷けはしない。
「だが……」
少し歯切れが悪くなった秋水を押しのけ、少しヒステリックな声を上げた。
「うるさいわね。もういいでしょ。放っておいて」
これ以上話していると自らの暗い部分を話さざるを得なくなる。
それは屈辱だ。
411永遠の扉:2007/12/10(月) 23:22:17 ID:Kzha7S3U0
一世紀以上ぐらい年下で。
元・信奉者で。
今は戦士で。
人間の。
秋水へ心情を吐露するのがひどく憂鬱で恥ずべき行為に思えた。
その間にも嫌な熱が腹の底から湧いてきて、全身が火照る。
耳たぶがかつかつと赤熱する。柔肉を想い、唾液が分泌される。
どこか甘美な感情で母に似た少女を思う。求めてやまない。
ワケも分からぬという態で自らの血しぶきを浴びる千里が見たい。
掠れた声でヴィクトリアを呼ぶだろう。一縷の信頼にすがって。
しかしそれすら罪悪感の要素にはならず、むしろ香ばしいスパイスの
匂いにすら思え、倒錯的な食欲が芽生えてくる。
きっと四肢を欠損して血の海の中で虚ろな瞳を天井に向ける母親似の
少女を見ても、腹部を裂いて消化物の悪臭漂う臓物をすするコトしか
浮かばぬだろう。
人間ならもっと他にいる。
でもよりにもよって一番親愛を覚えて、自分の欠落した部分を緩やか
に癒してくれる人に対して、そんな薄暗い欲求を覚えている。
制止もできない。飢餓が進行すれば血走った眼で千里に飛びかかる。
自分はやはり人喰いの怪物なのだと絶望的な気分になる。
……気づいた時。
秋水が差しのべた手を、跳ねのけていた。
眼が合う。
相手の瞳は怒った様子もなく、ただ何か真摯な言葉を考えているようだった。
わずかだがヴィクトリアは罪悪を覚えた。
認めたくはないが、原始的な感情に哀切じみた罪悪感が確かにあった。
自分をひどく情けなく思ったのは、次の行動である。
三歩よろよろと後退すると、丈の短い青色のミニスカートをはためかせ
ながら踵を返し、無言のまま闇に向かって走っていた。
武装錬金を発動せずそうした理由は分からない。
もしかするとホムンクルスではない、一人の少女としてのヴィクトリアが
逃げていたのかも知れない。
412永遠の扉:2007/12/10(月) 23:23:15 ID:Kzha7S3U0
秋水はそんな彼女を追おうと踏み出し──…

空間におぞましい空気が満ち、そして爆ぜた。

重い音を立てて、何かが崩れ落ちた。
金色の光が地面に溢れ、零れる砂金のように雲散霧消していく。
ヴィクトリアはすでに遠ざかっている。視認はしていないが、背後から
の足音がそう伝えている。
掌には、何かを斬り捨てた手応えと握り慣れた愛刀の柄の質感。
キラリと『足もとからの月光』を反射するソードサムライXの姿を視認し
た時、ようやく秋水は自分が何をしたかを把握した。
無意識化での攻撃。
背後に現れた敵意目がけて身を翻しつつ無音無動作で武装錬金を発
動し、袈裟掛けに斬り捨てていたようだ。
黒い影が前のめりに倒れた。膝をつき、胴体を地に叩きつける。
それはひどく見慣れた衣装だった。
……眼下でさらさらと闇に溶けゆく衣装は洒脱な燕尾服。
汗が噴き出る。
ただなる驚愕と警戒ならばそこまでは出なかった。
(予測できていた事態だ。だが、よりにもよって今、この時……!)
ヴィクトリアの足音がますます遠ざかって行く。
斬り捨てた男は背中しか秋水に向けてはいないが、前面にあしらって
いるボタンの形さえ、顔と合わせて克明に浮かんだ。

「やぁ。久しぶりだね双子の弟」

その男の口調はひどく調子が外れている。
鉤状に裂けた口からは高い不協和音しか奏でられないような気がした。
「いやはや、逆向君から聞いてビックリしちゃったよ。まさか君が錬金
の戦士になっているとはね。あの突撃槍(ランス)の少年への義理かな?」
歩道の向こう、ヴィクトリアが逃走した方角とは正反対から遠くにある赤
煉瓦の建物を背景に影が人さし指を立てつつ緩やかに歩いてきた。
413永遠の扉:2007/12/10(月) 23:23:47 ID:Kzha7S3U0
実に百八十八センチメートルもの長身だがどちらかといえばやせ型で
ひょろひょろとした頼りなさすら漂っている。
だがひとたび戦えばどれほど悪辣な消耗を強いる相手か。
「あ、そうそう。彼にはパピヨン君もずいぶんとご執心だったけど」
街灯の下にひどく戯画的な怪人が佇んでいた。
簡単にいえば、三日月の絵に目鼻をあしらったような男。
「あの程度の戦士の、いったいどこがいいんだろうね?」
「ムーンフェイス」
早坂秋水は静かに呟くと、ソードサムライXを正眼に構えた。
「リラックスリラックス。戦いに来たんじゃないよ。せっかくの再会だから
ね、君にとって耳寄りな情報を持ってきてあげたんだ」
ムーンフェイスはいかにも心外という様子で指を弾いた。
既にその頃…… ヴィクトリアの足音はもう聞こえなくなっていた。

激しい焦燥が全身を駆け巡るのを秋水は感じた。
ヴィクトリアを追わなくてはならない。が、ムーンフェイスも見過ごせない。
放っておけば一般人が喰われる。秋水も背を向ければ命の保証はない。
葛藤で微動だにできない美青年を、白濁した瞳が面白そうに眺めている。
「銀成学園の生徒たちが寝泊まりしている所ってなんていったっけ?」
「寄宿舎」
粘っこく緩やかな口調に対して、秋水の返答はひどく気ぜわしい。
「それそれ。実はだね、もうすぐ──…」
ムーンフェイスはひどく現実味の薄い事を歌うように述べた。
「もうすぐ逆向君率いるL・X・E残党が総攻撃しにいくよ」
「な……!?」
当たり前のようにまひろの顔が浮かんだ。
先程まで平和に語らっていた少女が、ホムンクルスに喰いちぎられる
様を想像し、口の中が渇く思いがした。
「むーん。襲撃開始は午後零時だから……」
秋水はさきほど見た携帯電話の時刻表示を必死に手繰った。
確か十一時二十五分。それから五分は経過している。よって。
414永遠の扉:2007/12/10(月) 23:24:41 ID:Kzha7S3U0
「残りはたったの三十分。早く戻るなり迎撃しに行った方がいいんじゃ
ないかな? あ、そうそう。ちなみにこの件は君の上司たちにも連絡済
みだよ。レーダーの武装錬金を持つ戦士なら、私の話が嘘じゃないとい
うコトは証明できるだろうね。……ほら、噂をすれば何とやら、だね」
秋水の学生服のポケットの中で鈍い震動が走った。
携帯電話に着信がきたらしい。出るべきか。だが目の前には敵がいる。
「おやおや、何もしないよ。安心して出たらどうだい?」
意を決して出ると、千歳の声が耳に響いた。
「戦士・秋水ね。実は……」
「ムーンフェイスなら目の前にいます。大体のあらましも既に」
それで事情を察してくれたようだ。千歳は素早く言葉を継いだ。
「残念ながらムーンフェイスのいう事は真実よ。L・X・Eの残党たちはい
ま、銀成市北西部にある下水道処理施設の地下に待機中。ヘルメス
ドライブでワープして確認したわ。かなりの規模ね。数は百体以上」
「下水道処理施設……?」
秋水はムーンフェイスの後ろに佇む煉瓦造りの建物を見た。
社会に疎い秋水でも、銀成市の施設についてはL・X・E時代に一通り
教えられている。だから気づいた。
「ええ。今あなたのいる場所からなら、五分以内に奇襲がかけれるわ」
それが何を意味しているか、秋水には分かった。

根来と剛太は入院中。
千歳と桜花は直接戦闘に不向き。
防人と斗貴子はまだケガの癒えない体。

(俺が行くしかない。行くしか──…)
それが例え、ヴィクトリアを見捨てる事になろうとも。
葛藤に包まれる秋水をムーンフェイスはひどく面白がったようだ。
「さ、どうする?。もしこのまま判断を誤ったら、大事な大事な君の母校
の生徒たちが、ホムンクルスのディナーになってしまうよ。それは戦士
としてはちとマズくないかい? あ、でもそういえば」
次の言葉を聞いた瞬間、冷たい炎が、喉から丹田に突き抜ける気がした。
415永遠の扉:2007/12/10(月) 23:31:30 ID:Kzha7S3U0
「君も姉といっしょに手引をしていたから、あまり関係ないのかな?」
「黙れ!」
気づけば激情のまま飛びこみ、逆胴を打ち放ち、怪人を上下に両断し
ていた。滑る秋水の体が歩道脇の丘に乗り上げ、木が眼前に見えた。
「むーん。冗談冗談。ひどく緊張しているようだから、ほぐしてあげようと
思っただけだよ。まぁせいぜい頑張るコトだね。集合場所へ奇襲をか
ければ、まだ寄宿舎に被害は少ないだろうから」
新たに現出したムーンフェイスがそれだけ告げて木立の中に消えた。
行くべき道は二つ。
寄宿舎を守るために奇襲をかけるか、ヴィクトリアを追うか。
「……戦士・秋水。分かっていると思うけど」
携帯電話から響く涼やかな声には「はい」としか応えるしかない。
心底からカズキがうらやましい。彼ならばこの二択も叶えただろう。
けれど秋水には寄宿舎を守るという選択肢しか取れない。
無力感に頬が引き攣る。ばらけた前髪から覗く片目に苛立ちの光が灯る。
携帯電話を切ると、手の甲を木の幹に叩きつけた。
蒼い落ち葉が降りしきり、皮膚が破れ、熱い痛みがじんわりと広がった。
(……すまない。本当にすまない)
ヴィクトリアに幾度となく詫び、彼女の消えた方向を数度振り返ってか
ら秋水は下水道処理施設へと駆け始めた。

「はっ! 何というしくじりでありましょう!」
その時、木の上で息をのむ者がいた。
「捕縛には絶好の機会でありながらついついやり取りに気を取られ……」
小さな影がしゅっと地面に降りたって、秋水の後ろ姿にハンカチを振った。
「心情を歌いますれば”さようならー さようならー 元気でいーてーねー”」
で、小札は腕組みをして考え込んだ。
「はてさていかが致しましょう。もしかするとここで力添えをしますれば
早坂秋水どのも我らブレミュに助力をする可能性も……いやはやしか
しどうしたものでありましょう。しかし一つ確かなのは!」
ガタガタと身を震わせながら、小札は思った。
「夜道でみるムーンフェイスどのはひたすら恐ろしいというコト……」
416スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/12/10(月) 23:34:12 ID:Kzha7S3U0
うーむ。実はもう一シーン入れたかったのですが一回の投稿分として
も残り容量としても難しく断念したしだい。
というかまた小札が勝手にでしゃばってきた。ちゃっかりしてる奴ですよ。

>>385さん
少し彼女の立ち位置には思う所もあり…… いいんでしょうかこのままで。
さりとて彼女がこの時期に完全に救われるというのもおかしな気が……
秋水は本当にいろいろと美味しいですね。嬉しくて仕方ないですw

>>386さん
被害の大きさは両者とも同じですからね。その辺り、ちょっと本編でも
描いてみました。そしていざ描いてみると「おお、確かに共通だ」と納得したり。
描かねば分からぬ部分ってありますね。秋水は、もっともっと伸ばしたく。

>>387さん
色々と申し訳ありません。確かに負の役所を引き受けさせすぎているきらいが
ありますね…… せめて敵側にもっと負の要素を配分するべきでした。この辺り
自分の構想の甘さのせいです。だからこそいずれはちゃんとした活躍を……!

>>388さん
容赦のなさでは作中最強だと思います。ただそれに悪ノリしてしまったきらいもあり……

>>389さん
ありがとうございます。ただし今後はある一場面を覗いて自重します。

ふら〜りさん(お気持ち、果てしなく分かります)
人間、二人集えば諍いが生じるとは何かで読んだ言葉。
漫画キャラでもそれはあるように思います。ただ、斗貴子さんだけは
荒ませすぎたかも。本来は優しくも厳しい良い人なのです。本当に。
417作者の都合により名無しです:2007/12/10(月) 23:47:28 ID:6/HjgKKOO
お、俺の好きなムーンがでてる!
変態はいてもド外道はいないブソレン世界中、尤も悪辣な奴だけに
もっと秋水を追い込んで欲しいです
418作者の都合により名無しです:2007/12/11(火) 16:21:41 ID:8Ng2rqKu0
随分久しぶりに作品着たなw

スターダストさん乙です。
前回までとは打って変わりダークな雰囲気ですね。
ムーンフェイスはコミカルなキャラだけど
なんとなく底知れないものもあるので秋水は
苦戦するでしょうな。
419作者の都合により名無しです:2007/12/11(火) 22:44:34 ID:Jz4u8Im50
秋水がなんか熱血キャラになってきた!
少年漫画の主人公みたいだ。
420邪神?:2007/12/12(水) 01:35:00 ID:rP7XUnt7O
携帯からだと見れるのに…書き込めるのに…なぜPCからだと>>393までしか表示しない上に書きこむと人大杉なんだ!そんな訳で続きは出来たけど投下できませんので問題解決をお待ちください…
421作者の都合により名無しです:2007/12/12(水) 08:47:39 ID:2YPjNFn30
専ブラ使いなはれ
422作者の都合により名無しです:2007/12/12(水) 10:11:29 ID:APVAstn9O
ヒント・板移動
423七十一話「猛襲する鷲の爪」:2007/12/12(水) 15:56:13 ID:tPzGwl1e0
「さぁて・・・どう切り刻んで欲しい?」
女のように細く長い指をベロリと舐めながら、死神の形相で微笑んでいる。
しかし、それより気になるのは眼の前の男から感じる気迫だった。
善と悪、白と黒、表と裏、真逆というのはこういうことか。
男から感じる闘気は、ケンシロウと正反対であった。
噴き出す程に凄まじく洗練された闘気は圧力まで感じ取れる。
恐らく、ケンシロウと同レベルの格闘家。

「ん〜迷う、迷うぞぉぉ〜〜!」
口ではそう言っても奴の目が全てを物語っていた。
苦痛を与え続ける為に急所に浅く、神経を深く貫く。
男が突然、走りだした。

何か危険な気がする、技の性質を見抜けないうちはガードに徹する。
小盾を構え攻撃に備える、一方的に攻められるのを防ぐため斧で反撃の構えだけは取っておく。
「南斗流羽矢弾!」
男が拳を振るい、闘気を生み出し発射する。

ケンシロウも同じように闘気を自在に操り、戦闘に使っていた。
盾で防ぎ、そのまま男を迎え撃つのがいいだろう。
衝撃に備えて踏ん張るホーク、だが衝撃はなかった。
闘気を受け止めた盾は一瞬でコマ切れにされてしまった。

「おやぁ〜?防御を固めなくていいのか?」
相変わらずニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。
余裕や油断ではない、遊んでいる。
こいつは、子供がアリを踏みつぶすのと同じ感覚で攻撃の手を加えている。

鉄屑となった盾で攻撃を逸らすべく、腕を払いのける。
だが、それも無駄だった。
指先を舐める仕草、構えから手刀が武器だと思ったがそれだけではない。
手先ではなく、腕に触れた瞬間に覆っている闘気だけで破壊したのだ。
424七十一話「猛襲する鷲の爪」:2007/12/12(水) 16:02:36 ID:tPzGwl1e0
砕け散った盾では軌道を逸らすことは不可能、ならば自分から回避するしかない。
分解された盾を見た感じ、四肢に闘気を纏わせ、突き破るようにして拳を打ち込む闘法のようだ。
拳や指先から相手の体に気を流し込み、内側から破壊するケンシロウとは逆の発想である。
「捉えたぞ!」

ボォウッ と、何かが破裂したかのような音と同時に第二撃が繰り出される。
速すぎる拳の圧力に、空気が爆発したかのような音をたてる。
迫りくる凶刃の如き拳に、ホークは身を屈めることでそれをかわそうとした。

「無駄よぉっ!」
外した手刀の勢いを殺さず、振り回すようにしてホークへ背を向けながらしゃがむ。
位置は勘で分かっているのか、姿勢の低くなったホークへ追撃の下段蹴りを入れる。
胴体か顔面辺りを貫く為、やや上向きに鋭い蹴りが放たれた。
ボォフゥ 聞こえたのはまたも空気を炸裂させた音だった。

地面にベッタリとへばり付くホーク。
無様だがこうしなければ殺されていただろう。
拳のスピードはかなりの物、ならば下手に下がるよりも前にでてかわす。
正面というよりは下面というべきか。

流石にシンも、顔面を地面に張り付けてまでかわすと予測しなかったのか一瞬だが硬直する。
ホークはその隙を逃さず、手の力で体を回転させて回し蹴りを放った。
伸びきっていたシンの脚は、闘気を纏ってはいたがスピードを乗せなければ意味がないらしく、
バチィ!と音をたてて弾かれてしまった。

だが、弾かれた勢いをホークと同じように体を回転させて立ち上がることに利用することでダメージは皆無。
それに帯びていた闘気も、攻撃に使えぬと判断してか肉体を硬化させるため内側へ移していた。
脛を蹴ったのだが表情一つ変えずに立っている、恐らく痺れや痛みは一切感じていないだろう。

「・・・貴様、今のは北斗の動きか?いや、そうだったら俺の経絡秘孔へ攻撃していた筈。
それにどこか独特で野蛮だ・・・面白い。今の防御を評価して少しだけ、俺の拳法について話してやろう。
南斗聖拳、百八の流派が存在する最強の暗殺拳・・・俺はその百八の中でも最強と謳われる南斗六聖の一人。」
425七十一話「猛襲する鷲の爪」:2007/12/12(水) 16:04:04 ID:tPzGwl1e0
「南斗聖拳はお前が体験した通り、闘気を以て相手を外部から破壊する拳法だ。
俺の南斗弧鷲拳は、貫通力を高めることで強靭な肉体であっても突き破ることが出来る。
お前は武器で闘う男、分かりやすく言ってやると俺の腕は拳の速さで振り回される槍と言った所か。」

「ご忠告どうも、だがアンタ、自分を過大評価しすぎなんじゃねぇか?」
減らず口を叩いてはみたが、実際は奴の言う通りだった。
槍にしたってゲラ=ハの使うような安物の石槍じゃあない。
鉄、それどころかドラゴンの鱗やレアメタルで作られた物にも見劣りしないだろう。

「クックック・・・見えるぞ、お前の生への『執念』が。
執念は人を強くする、絶望の淵から這い上がろうとする気力は『愛』なんぞとは比べ物にならん強さだ。
だぁがぁ〜〜〜〜〜〜〜!足りん・・・足りんぞぉ!執念が足りぃぃん!」

助走なしに飛び上がるシン、とんでもない跳躍力で一気にホークの頭上へ迫る。
見た目こそ、ただの飛び蹴りだったがケンシロウのハードトレーニングの成果だろう。
見える、身体全体を鋭い闘気が覆っており、無数の足が残像を残しながらカマイタチを作り出している。
「今度はどうかなぁ〜?南斗獄屠拳!」
攻防一体、足を一本に見せるようにフェイントをかけている。
だが、貫通力を主体とした拳法なら本命は一ヶ所の筈。

今度は何所に、どうやっても回避が間に合わない。
肌に空気で作られた刃が触れ始めた、多少のダメージを覚悟で本命だけを防ぐ。
咄嗟に斧でガードするが、莫大な闘気とスピードを乗せた一撃は、
石斧如き、枯れ木の小枝をプレスマシンに掛けるようにして粉微塵に砕いてしまった。
刃の面積が少なかったので四方に爆散したが、威力を周囲に拡散させない程に正確なシンの一撃は、
岩や壁だったらポッカリと、足跡を残して穴を掘ることも可能だっただろう。

「チッ、奇妙な感覚だ・・・俺の蹴りに耐える金属が存在するのか。」
蹴り飛ばしたホークを貫くことはできなかった。
修業時代、まだ未熟だった頃に物質に感じた『硬い』という感触。
恐らく、灰から蘇らせたジャギの肉体が完全に自分に馴染んでも破壊できないだろう。
「オエッ・・・ぷぅ・・なんて蹴りだ・・・。」
426七十一話「猛襲する鷲の爪」:2007/12/12(水) 16:06:58 ID:tPzGwl1e0
「妙な武器だ、だが武器に頼るというのは油断を生み隙を作る愚かな行為。
貴様、多少は見えていたようだな、面白い・・・クククっ・・・・・・。
だが、まぁだまだぁ!足りんなぁ・・・修練、そして何よりも執念が!」

こちらへ向かって猛スピードで走りだすシン、奴の一撃に力に加え体重が乗ることを考える。
背筋に走る寒気、無意識に下がる足、しかし壁を背にしたままどこへ逃げろというのか。
一か八か、訓練によって体得したにわか仕込みの格闘で対応する。
可能性は限りなく薄いが、虚を突けば勝機はある。

「でえやぁっ!」
シンの第一手は手刀、十分に練られた闘気が人の指先を鋼鉄の槍へと変える。
だが、確実な一撃を加える為か先程の攻防と違い腕部には気が見られない。
手が心臓を貫くより速く、右手で腕を払いのけシンの突っ込む勢いを体当たりで止める。
自分で一流の格闘家を自負するだけあって一瞬で体制を立て直し、顔面へ蹴りが飛んでくる。
体勢を立て直すための一瞬に生まれた余裕で蹴りを潜り抜けてかわすと、初めてシンの背後を取った。
「もらったぁ!」

背骨をへし折るべく、正拳突きの構えに入るホーク。
この状況なら反撃は間に合わない、そう思った時シンに違和感を感じ取る。
軸足を地面から離し胴体の位置を下げる。
外した蹴りは、上段から地面スレスレへと下がりながら膝を曲げて第二撃の準備にかかる。
地面を離れた軸足がホークへ向かって伸びる。
そして地面へ蹴りが放たれると、それが踏み込みとなって軸足は加速する。

「南斗旋脚葬・・・!こいつを受け流すとは、お前の評価を改めなければな。
この俺を相手に数分間、戦い抜いたのだ・・・。」

ワザと背を向け自分の不利を晒し出し、それを餌に相手に隙を作らせ地を滑って蹴り飛ばす。
バックステップで威力を軽減したが、骨が内臓に刺さったのだろう、妙に息苦しい。
軸足を下げる動作を見過ごしていたら死んでいただろう。
しかし、これから死ぬのだから同じことか・・・。
ホークが死を覚悟した瞬間、部屋へ足音が響いた。
427邪神:2007/12/12(水) 16:07:53 ID:tPzGwl1e0
よく考えたらシンは金髪だった…鬱な邪神です。(;0w0)
今回の遅れは>>420&Gジェネのせい、デンドロビウムタソとサザビーの制作に浮かれ過ぎた…。
取りあえずギコナビを再DLしたら治った、メルシー>>421->>422
〜感謝と南斗聖拳講座〜

>>ふら〜り氏 格ゲー技を引っさげて帰ってきた南斗弧鷲拳、原作では名無しの南斗聖拳だったので
       アニメの方を知らない人にも分かりやすく、彼直々に解説してもらいました。
       関係ない話ですが、SFCのクソゲーではサイコクラッシャーがシン最強の必殺技。

>>348氏 彼もイマイチ人格を特定できてないような…格ゲーの印象か無駄に声を伸ばすイメージが自分の中に。
    実家から北斗送りつけてもらおうかな…。

>>349氏 イッツミー?(0w0)
    自分だったら申し訳ないんですがミキタカの使い道を考案中でして…。
    フンガミも本体を見つけられない限り無敵だし、彼等はほぼ一発キャラなので使い難いのですw

>>350氏 セイント…ジャンプ黄金時代の遺産、興味はあるんですが金がないので未購入。
    ニコニコでアニメ版でも見てるかな…でも美味しんぼが90話でストップしてるしそっちが先か。

>>351氏 終わりがないのが終わり…つまり未完(ry
    なんてならないようにしようと思います。

南斗流羽矢弾 格ゲー技。本編ではユダ以外、飛び道具を使わない南斗ですが一応あるみたいです。
       ガードを無視して気絶値を溜める技、ハート様、ジャギ様以外に使うと自分が死兆星を見る。

南斗獄屠拳  原作でユリアと旅立とうとするケンシロウを打ち負かした技。
       空中に飛び上がって蹴るという単純な技だが、すれ違った際に
       ケンシロウの四肢に攻撃を加えた辺り単発の攻撃ではないと予想される。
       格ゲーだとケンシロウに同じモーションの技があり、撃ちあうとシンが勝つ。
       原作への愛が感じられるゲームだが、クソゲーと評する人も多いので購入は慎重に。

南斗旋脚葬  格ゲー技。しゃがんだまま相手に背を向ける位に体を捻り、地面を滑りながら蹴る。
428作者の都合により名無しです:2007/12/12(水) 22:49:18 ID:5e2m0hRq0
どうもドット絵のホークと劇画の北斗キャラの対峙する絵ヅラが
想像できないなw邪神さん乙でした。
429作者の都合により名無しです:2007/12/13(木) 17:07:30 ID:8ZmJBVwL0
邪神さんお疲れ様です!
え・・シンがジャギ様入ってる?
ホークノピンチを救うのはシンの宿敵しかありえないかな?
でも後期ケンとシンじゃスペック違いすぎるからなあ。
430作者の都合により名無しです:2007/12/14(金) 13:06:03 ID:fQo1OL/v0
次スレテンプレはまだ?
431作者の都合により名無しです:2007/12/16(日) 09:41:59 ID:PACmXSbf0
今日1日待って
ハイデッカ氏が作らなければ俺が作るよ
職人さんたちももう書き辛い容量だろうし
432さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/12/16(日) 15:48:48 ID:0PtT/2oz0
こんにちは。
今回は『WHEN〜』はお休みさせて頂いて、ちょっと短編なんぞを投稿します。
ダークな内容が嫌いな方は今回はスルーしちゃって下さい。その方がいいです。
433さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/12/16(日) 15:49:25 ID:0PtT/2oz0

平和。充足。安定。
人の暮らしのより良い形を表すには、まずこれらの言葉が浮かぶだろうか。
武藤カズキはそんな言葉を以ってしても足りない程の幸福感に包まれていた。
絶え間無き変化と闘いに身を投じた高校二年生の数ヶ月間も、最早遠く何年も前の事。
自分の取り囲む現在の環境を考えれば、それは夢だったのではないかとも思う。
しかし、夢ではない。
夢ではない証拠がいつも傍にいるのだから。

キッチンの方に眼を遣れば、妻が食事の準備を進めている。
旧姓から自分と同じ姓に変わり、ひとつ屋根の下に生活を共にする年上の妻。
出会い、命を救われ、共に闘い、愛して、愛されて。
今は武藤家の人間となり、カズキの生涯の伴侶となった斗貴子である。

ふと斗貴子と眼が合う。
特に言葉は無く、お互いに微笑み合うだけだ。
だがそれがいい。
それだけでいい。
斗貴子は微笑んだまま、少し休めた調理の手をまた動かし始める。
キッチンから漂う香りはいつの間にか、食材が加熱された単純な香ばしさから、丁寧に味付けされた
複雑かつ玄妙な匂いに変化していた。
もうすぐ家族揃って食卓を囲む、あの至福の時間だ。
そろそろお腹を空かせた妹も帰ってくるだろう。

まひろが社会人となり、「一人暮らしをしたい」と言い出した時、カズキは随分と反対したものだった。
「少し過保護すぎやしないか?」という斗貴子のやんわりとした説得さえも珍しく撥ね退け、
まひろに自分達と同居するよう強く勧めた。
まひろもそれに押されて渋々、というよりも幾分二人に遠慮する態度で共同生活を始めたのである。
高校生だった頃から二人の事に関してはやたらと余計なところにまで気を回すまひろとしては、
所謂“ストロベリーな二人の生活”を邪魔するのは申し訳無いと考えていたのだろう。
とはいえ、そんなまひろも年月を重ねていくに従って、気遣いばかりしていた態度は良い意味で
遠慮の無いおおらかなものへと変わっていった。
434猿の手:2007/12/16(日) 15:53:51 ID:0PtT/2oz0
家中に明るい笑顔を振りまき、元気な声を響かせ、斗貴子に擦り寄り、カズキにその日あった事を
楽しげに話す。
まるで、高校生の頃のまひろに戻ったかのような変化の仕方だ。
“大好きなお兄ちゃん、大好きなお義姉ちゃん”と一緒の暮らしの方が、とかく孤独や寂寥の念に
囚われがちな都会の一人暮らしよりも遥かに良いものだとわかったからだろうか。
それとも実際はカズキに言われるまでもなく、三人一緒の生活を望んでいたのか。
はたまた元々の楽天的で子供っぽい性格が前に出てきたのか。
それはよくわからない。
よくわからないが、カズキはそうしたまひろの変化に眼を細めていた。
やはりあの時、無理を言ってでも共に住まわせて良かったと。
そして、斗貴子も同様に思っているのであろうと。

さほど大きくもない2LDKのマンション。
夫婦とその妹の仲の良い小さな家族。
冒険や変化とは縁の無い慎ましやかな日常。
彼はこの“三人家族”の幸せな生活に満足していた。



そんなある晩、三人の元に一つの小包が届いた。
発送元には父親の名がある。確か今は出張でイギリスにいる筈だ。
一年のほとんどが海外出張ばかりの両親を持つカズキは、すぐにピンときた。
「また父さんが外国の珍しい物を送ってきたんじゃないかな」
昔からカズキの父は日本に置いてきた二人の子供を思いやってか、行く先々の国で何か興味を
引く物があると土産代わりに送ってきたものだった。
今回もそれに違いないと当たりをつけたのだ。
「よし、開けてみよう!」
「何だろうね? お菓子かな? ほら、お兄ちゃん! 早く早く!」
二人共、既にもう二十代半ばを過ぎているというのに、まるで子供のようなはしゃぎようだ。
まるで身体の大きな子供を二人養っているみたいだなと微笑ましく思いながら、斗貴子はキッチンに
向かった。
435猿の手:2007/12/16(日) 15:55:25 ID:0PtT/2oz0
いつもなら食器洗いを手伝うまひろだが、小包の中身が気になって仕方が無いのか、包み紙を破る
カズキの手元をニコニコしながら見つめたままだ。
斗貴子は皿を擦りながら声を掛ける。
「もしお菓子だったらまひろちゃんはやめておいたほうがいいんじゃないか? 最近、体重が
気になってるようだしな」
言う端から笑い声になってしまい、斗貴子はどうにも困った。
「んもぉ〜、お義姉ちゃんの意地悪〜!」
まひろのほのぼのとした抗議の声が斗貴子のいるキッチンまで響いてくる。

やがてごく短い静寂の後、二人の驚く声が斗貴子の耳に飛び込んできた。
それは予期していたものとは違う、嫌悪を含んだものだったが。
「うわっ!」
「やだ……! 何これ……?」
二人の声を不審に思った斗貴子は洗い物をやめ、エプロンで手を拭きながらリビングに戻った。
「どうした? 中身は何だったん――」
カズキの持つ古そうな木箱の中身を見て、斗貴子もまた声を失ってしまった。
それは、黒い毛に覆われている干乾びた小さな手だった。
手首の辺りから切断され、綿を敷き詰めた箱の中にちんまりと納まっている。
確かに喜びの声を上げるような気持ちのいいものではない。
斗貴子は近寄り、しげしげとその手を観察した。
「これは……何の手だろう。ひどくミイラ化しているようだが……」
さすがに元は泣く子も黙る女戦士だった斗貴子である。
特に動じる様子も無く、目の前の不気味な物体を冷静に分析している。
しかし、横にいる義妹はそういう訳にもいかない。
「うえ〜、気持ち悪いよ〜。お父さん、何でこんなの送ってきたのかなぁ」
その天然っぷりを原動力に常識外れの奇行をやらかしていた女子高生時代なら、目の前の珍妙な品に
眼を輝かすところなのだろうが、さすがにそういった面は“大人”になったのだろうか。
ほとんど泣き声になりながら涙で瞳を潤ませて、手のミイラやそれを観察している斗貴子から
遠ざかっていく。
カズキはカズキで正体不明の贈り物に好奇心をくすぐられたのか、妻に倣うように熱心に
手のミイラを観察している。
436猿の手:2007/12/16(日) 15:56:58 ID:0PtT/2oz0
そして観察を続けていくうちに、ある物を発見した。
「ちょっと待って、手紙みたいなのがあるよ。ほら、コレ」
カズキは綿と箱の内壁の間に差し込まれている紙片を取り出し、斗貴子に渡した。
斗貴子はカズキから紙片を受け取ると、いつの間にかソファの裏に隠れてしまったまひろにも
聞こえるように声に出してその内容を読み上げる。
「ええと、何々……――

『この猿の手のミイラには魔力が宿っており、あなたの願いを何でも三つだけ叶えてくれます。
どんな願いをかけるかはあなたの自由です。ただし、慎重にお使い下さい』

――だそうだ。フーム……」
“魔力”
“三つの願い”
そんな単語が出てきたせいか、斗貴子には猿の手が非科学的でオカルトじみた、ひどくつまらない物に
思えてくる。
「猿の手か……。おそらくどこかの民族に伝わるまじないの品か何かだろう。
まひろちゃん、そんなに怖がる事はないぞ?」
「でも……私、何だか怖いし、気持ち悪いよ。ねえ、それどこかに仕舞って? お願い。ね……?」
どうやらまひろは真剣に怖がっている様子だ。
ソファの裏から顔半分だけを覗かせて、決してこちらに近づこうとしない。
そんなまひろが気にかかりつつも、カズキはまた新たな発見をしてしまった。
それは“発見”と言う程大げさなものではないのかもしれないが、異質さは充分に感じられる。
「……でもおかしいな。この手紙、父さんの字じゃないよ。それに、ほら――」
先程、破いた包み紙に張られている宛名を指す。
「――こっちも父さんの字じゃない。変だよ」
不思議がるカズキだったが、斗貴子はさも当たり前とばかりに一番に考えられる可能性を彼に返す。
「お義父様が忙しくて、誰かに代筆してもらったんじゃないか?」
「そうかなぁ……」
ちょっとした考察と討論を続ける夫婦に向かって、おずおずとした声が掛けられた。
「ね、ねえ……お兄ちゃん、お義姉ちゃん……そろそろ、ホントに……」
もう顔を覗かせる事もしなくなってしまったまひろ。
437猿の手:2007/12/16(日) 16:14:15 ID:0PtT/2oz0
ソファの裏で両膝を抱えて、高校一年生の頃から更に成長した長身を縮ませている姿が容易に
想像できる。
「ああ、すまない。もう仕舞うよ、まひろちゃん」
「ごめんな、まひろ。珍しい物だから、つい……」
斗貴子は箱の蓋を閉めて腰を上げ、カズキはバツの悪い様子で頭を掻く。
斗貴子が木箱を持って夫婦の寝室の方へ姿を消すと、まひろはようやくソファの裏からヒョコリと
顔を出した。
背もたれ部分に両手を掛けて顔だけを覗かせているその姿は、まるで子猫のようだ。
カズキは妹のそんな姿に改めて愛らしさを覚えてしまう。

一方、夫婦の寝室では――
押入れの戸を開けた斗貴子はしばし考えた。
上段には予備の布団が、下段には季節毎の衣類が入った衣装ケースや不用物が入ったダンボールがあり、
木箱を収めるスペースが見当たらない。
「困ったな……」
斗貴子は一人ごちると、やむなく押入れの下段を手前から整理し始めた。

そんな彼女の耳に来客を告げるチャイムの音が届いた。
音の種類からして玄関ではなく、マンションのエントランスのチャイムだ。
「あ、お兄ちゃんは座ってなよ。私が出るから」
おやと身体を戻しかけた斗貴子であったが、リビングから聞こえてくるまひろの先程とは
打って変わった快活な声に、安心して作業を再開する。
まひろがインターホンに向かって朗らかに話す声が遠く聞こえてくる。
内容まではさすがに聞き取れなかったが。
しばらくして、また兄妹の会話が戻ってきた。
「誰?」
「隣のおじさん。また鍵を忘れて締め出されちゃったんだって。オートロックも結構不便だよね」
「あのおじさんかぁ。いつも酔っ払ってるし、無理も無いよ」
438猿の手:2007/12/16(日) 16:15:39 ID:0PtT/2oz0

斗貴子は「またか……」と内心、苦々しく思う。
元来、彼女は酒に飲まれるような輩には絶対に好意が持てない。
斗貴子自身が祭事くらいでしか口にしないし、カズキも普段から酒をあまり飲まない亭主という
事実もその思考に一役買っているのかもしれない。
もののついでではないが、そうなると家の鍵を忘れるという隣人の軽率さ、粗忽さにも苛立つ思いが
込み上げてくる。
これくらいのマンションであればエントランスのオートロックなど当然の事なのだろうし、
鍵の携帯という常日頃の行いをどうして怠るのだろうか、などと。
思考が動作に表れるのか、押入れの中を片付ける挙動が少し乱暴になっている事に、斗貴子は
はたと気づいた。
(いかん、いかん。少し神経質すぎるな。あの二人を見習わなければ……)
性格上、やや頑固で融通の利かない面がある彼女にしてみれば、家庭生活や近所付き合いなどで
骨が折れる場面も少なくないのだろう。
そういう時はあの兄妹の天真爛漫さが少し羨ましくもなる。

押入れの中に顔を突っ込んであれやこれやと苦心しているうちに、どうにか手元の木箱を収納するのに
充分なスペースを確保する事が出来た。
そこに箱を収めて任務完了、と満足気な斗貴子の脳裏に、己の読み上げた手紙の内容がふと蘇る。
(願いを何でも、か……)
眼下にある木箱を、中身を透かすようにジッと見つめる。
見つめているうちに斗貴子は思わず眼を閉じ、小声で呟いた。

「どうか、いつまでもカズキと二人一緒に、幸せでいられますように……」

そう呟いてから、斗貴子はつまらない事をしてしまったと一人煩悶した。
(な、何をしてるんだ、私は……! 馬鹿馬鹿しい……)
こんなオカルトまがいの怪しいシロモノに願いを掛けるという愚かさに気づいたのだろう。
しかし、焦り身悶えてしまう訳は他にもあった。
これまでの人生の半分以上が女性らしさとは縁遠かった自分。
様々な不愉快極まる言葉がそろそろ当てはまる年齢になりつつある自分。
439猿の手:2007/12/16(日) 16:16:32 ID:0PtT/2oz0
そんな自分が何とも乙女チックに願い事をしてしまったという事実が、斗貴子には許せない。
彼女のように願うのは、愛情を向ける対象がいる者なれば当たり前ではあるのだが。
未だその“当たり前”を受け入れられないでいるのか、それとも受け入れられない理由が
新たに芽生えているのか。
斗貴子は含羞と自嘲の念に頬を染めながら、そそくさと箱を押入れの奥深くへと仕舞ってしまった。

箱の蓋を閉められ、暗闇の奥へ閉じ込められた“猿の手”は大人しく沈黙を守る。
決して持ち主に何かを主張したりはしない。
それはそうだろう。
彼の役目は“話す”事ではなく、願いを“聞き”、そして“叶える”事なのだから。
出来るだけ、速やかに。



[続]
440さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/12/16(日) 16:21:40 ID:0PtT/2oz0
こんな感じでした。
ジェイコブズの名作小説『猿の手』を題材に、登場人物を錬金キャラに置き換え、
内容やメッセージ性にアレンジを加えたり。
いわゆるリ・イマジネーションというヤツで。
この作品は全三回に分けて投稿します。次は明日。その次は明々後日。
自分の一番得意な二次創作のスタイルがこんな感じなんで、書いてて楽しいです。
こういうのがお嫌いな方もいらっしゃるとは思いますが。
では失礼します。
441ふら〜り:2007/12/16(日) 18:45:37 ID:Knt8ZHGj0
>>スターダストさん
今の秋水、凄く素直に「正義のヒーロー」なシチュですね。ヴィクトリアの、戦闘どころ
か会話すらろくにないのに深遠ドロドロな描写も良かったですが……罪なき人々を
護る為、今は許せと少女に背を向け、魔物の群れに立ち向かう剣士! あぁ燃える。

>>邪神? さん
うん、シンが期待に違わぬ強さで嬉しい。言動がハイなのは灰から復活のせいか。
>修業時代、まだ未熟だった頃に物質に感じた『硬い』という感触。
これ迫力あります。本来のシンが本来の北斗世界で戦えば、何であろうと『硬い』
なんて感じないと。いつかケンと共闘なんて展開も妄想してしまうほどカッコいい。

>>さいさん
「手」以外はほのぼの日常風景なのに、何とも不気味な雰囲気が漂ってます。「手」
が斗貴子の願い事を叶える為に何を仕出かすか、残り二つでその傷口がどうなるか、
ですね。三つの願い事モノはいろんなパターンがありますが、本作ははたして……
442作者の都合により名無しです:2007/12/16(日) 19:16:08 ID:sqA5OXXZ0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart53【創作】

元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1192630797/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
443テンプレ2:2007/12/16(日) 19:16:52 ID:sqA5OXXZ0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・鬼と人とのワルツ 下・仮面奈良ダー カブト (鬼平氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/258.html
戦闘神話  (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm  
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
上・HEN THE MAN COMES AROUND  下・猿の手(さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1192630797/434-439
上・ヴィクテム・レッド 中・シュガーハート&ヴァニラソウル
脳噛ネウロは間違えない (ハロイ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
ドラえもん のび太の新説桃太郎伝 
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
444テンプレ3:2007/12/16(日) 19:17:28 ID:sqA5OXXZ0
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝 未来への意志 (エニア氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1192630797/10−11
DBIF (クリキントン氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/293.html
ドラえもん のび太と天聖導士 (うみにん氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/tennsei/01.htm
『絶対、大丈夫』 (白書氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/85.html
DIOの奇妙な放浪記  (名無し氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/371.html
るろうに剣心 ー死狂い編ー (こがん☆氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/383.html
“涼宮ハルヒ”の憂鬱  アル晴レタ七夕ノ日ノコト (hii氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/398.html
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
445ハイデッカ:2007/12/16(日) 19:24:01 ID:sqA5OXXZ0
テンプレ遅れて申し訳ない。
アク禁が長かったのと、11月から滅茶苦茶忙しかったので遅れてしまった。

今回、ちょっと慌てて作ったので自信がない。
致命的な間違いはないかとは思うけど、ちょっと新スレ立てる方注意して下さい。
ハロイさんのとこ間違ってるね。「下・」が抜けてる。
新作のアドが一文字分飛び出てるし。
たくさんしばらく来てない作品があるけど、年内は保留で。

ゴート氏が海外に行かれてから作品保存されてないのかな?
ま、年末仕事が楽になったらやるか・・

あとさいさんお疲れ様です。
正直、錬金はあまり呼んだ事ないけど
ジェイコブズの猿の手は好きなので、中篇後編を期待してます。

446脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 06:59:27 ID:nebwu80c0
「──はい、分かりました。それじゃ、来週日曜の十五時、駅前で」
 わたしはそう結んで、携帯の通話ボタンを押す。
 液晶画面が回線の接続が切れたことを教え、そこでやっとわたしはこらえていた溜息を吐くことができた。
 なんとも言えない脱力感と、重荷から開放された解放感との半々の気持ちで、
事務所で一番高価な家具、『トロイ』と呼ばれるデスクへと首を向ける。
「……ネウロー、全死さんと待ち合わせしたよ」
 半分死んでるようなわたしの声に、椅子にふんぞり返ってうとうとしていた男──ネウロがぱっちりと目を覚ます。
 気怠げに軽いあくびをしつつ、ネウロは窓の外に広がる暗闇を見、そしてわたしを見た。
「ふむ……ヤコよ、貴様は飛鳥井全死と何時間電話をしていたのだ?」
 ちらり、と携帯の画面に記された通話時間の表示に目を落とす。
「……99,99でカウントストップしてる……朝の九時ごろから始めて今が夜中の三時くらい」
「ほう、そんなにも一体なにを話していたのだ?」
「……なにも。大したことない世間話か、そうじゃなかったら、なに言ってるかさっぱり分からない難しい話だけ。
アンタに言われた『会う約束』を取り付けるのは、電話を切る前の五秒で済んだ」
「人間の女は長電話が好きとは聞いていたが、これほどまでとはな。もっと他にすべきことはないのか?
魔界の電話は長電話を何よりも忌み嫌っていてな、通話時間が三秒を超えると爆発して半径十キロ内を焦土と化すのだぞ」
「あの人がおかしいだけだってば……飲まず食わずで十八時間とかさすがにないわ……」
 普段なら、その魔界の電話とやらにツッコミを入れるところだが、精神的にも体力的にも消耗し尽くしていたので、素で答えるのが精一杯だった。
「うう……せっかくの日曜だったのに、丸一日潰した挙句に完徹って……わたしの休日はどこいっちゃったの?」
 今日(というかもう昨日)に食べるはずだったあれやこれに思いを馳せ、どうしようもなく惨めな気持ちになってくる。
 そして、そんなわたしの惨めな気持ちに拍車をかけるものがある。
「ねえ、ネウロ」
「なんだ」
「いいかげんに外してよ、これ」
 と、わたしを椅子に縛り付けるチェーンとロープと南京錠を、辛うじて自由な右手で示す。
 魔人の常識外れの力で椅子に緊縛され、その状態で十八時間も意味のない話や意味不明の話に付き合わされる──
ドSなネウロによって様々な拷問を受けてきたわたしだったが、今日のこの仕打ちはトップ3に入るだろう。
 なんでいつもいつもわたしだけがこんな目に遭わなきゃいけないのだろうか。
 真面目に考えると辛いからあまり考えないようにしてるけれど、さすがに泣けてくるものがある。
447脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 07:01:33 ID:nebwu80c0
「もー……勘弁してよ……」
 疲労と空腹と睡眠不足で意識が朦朧としてくる。あとほんの数時間で朝が来て、学校が始まる。
 せめて仮眠でも……と、(椅子に拘束されたままなのはこの際諦めることにして)目を閉じた瞬間、
「寝るなヤコ。寝ると死ぬぞ」
 首がもげそうな強烈ビンタがわたしの頬を一秒で五往復した。
 くわんくわん頭の中で響く衝撃が、わたしの意識を遠のかせるのが自分でも分かる。
 乱れた平衡感覚がわたしの視界を一回転半させ、視界がぼやける。
 このままだと──オチる。
 いや、別に気絶したっていいのだが(ホントはよくないのだろうけど)、この場合「気絶」は「寝る」として見做されるのだろうか。
 このままオチたら死ぬってゆーか、ネウロに殺されるのではないだろうか。
 そんな思考がわたしの内部を駆け巡るが、それを上回る勢いで、わたしの意識はこの宇宙の遥か彼方へブッ飛んでいこうとしていた。
「しかし実際、貴様には悪いことをしたと思っているのだぞ」
「だった……ら、すんな……よ」
 意識を保つためにツッコミを試みるも、ビックリするぐらいの掠れ声。
「本来なら、その右腕も縛りつけ、口にもボールギャグを噛ませなければ、とても緊縛と呼べる代物ではない。
飛鳥井全死との連絡を取らせるために、泣く泣く貴様の腕と口に自由を与えなければならなかった我が輩の心痛……
貴様なら分かってくれるはずだな?」
(分かるか。つーか、拷問に手心を加えることが、ネウロにとっての『悪いこと』なのかよ)
 今度は声にすらならなかった。
「踏んで縛って叩いて蹴って殴って吊るして──それが我が輩の愛だ」
「愛なら仕方ないな──って、ンなわけあるか! 虐めて愛情表現とか小学生か! しかもスケールデカすぎだろ!」
 ──さて、このツッコミはきちんと声になっていたのだろうか?
 この直後に意識がぶっつり途絶えてしまったので、わたしにはそのあたりの事は定かじゃなかった。
448脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 07:03:28 ID:nebwu80c0


 誰かに呼ばれた気がして、目を覚ます。
 時計を見ると夜中の三時だった。
「甲介くん、甲介くん」
 いや──気のせいではなく、確かに誰かが俺を呼んでいた。
 まだまどろみの中にある意識のままに、声の主を探して照明の消えているワンルームの部屋の至るところに視線を漂わせる。
 やがて意識が徐々にはっきりとしてきた頃に、彷徨う視線がベッドの上──というか俺の隣で焦点を結ぶ。
 そこには、全裸の女が座り込み、俺の肩を軽く揺さぶっていた。
 だが、全裸の定義があくまでも「生まれたままの姿」というやつなら、そいつは決して全裸ではなかった。
 顔にはアイマスク、細い首にはチョーカー風の首輪(首輪風のチョーカーではない)、
そして両手首と両足首にはベッドの支柱と鎖で連結された枷。
 ちゃらちゃらと鎖が擦れるリズミカルな音で、俺は完全に覚醒した。
 その女は真銅白樺だった。
「起こしてごめんね、甲介くん」
「……まだ帰ってなかったのか?」
 俺がそう言うと、白樺は肩をすくめてみせたらしく、また鎖が鳴った。
「あのね……君がこの鎖を外してくれなかったら、わたしは帰りたくても帰れないんだけど?」
 完全に覚醒したと言うのは俺の錯誤で、どうやらまだ俺は寝ぼけていたらしい。
 思い出したからだ。
「──忘れてた。悪い」
 思い出してみれば我ながら呆れるしかないが、俺は彼女の拘束を解くよりも先に眠ってしまったようだった。
「ううん、それはいいの。『すっかり忘れ去られた自分』っていうのを実感できて、新鮮だったから」
「そいつは俺には理解しがたい感覚だから、『良かったな』としか言いようがないよ。で、じゃあ、なんで起こしたんだ?」
 そこで気が付いたが、白樺はさっきから膝をすり合わせてもじもじとしていた。
 だがどうやら、それは羞恥心とかそういった類の感情によるものではないらしく──、
「トイレ」
 生理的な欲求によるものだったらしい。
 俺が身を起こして手足と首の戒めを解くと、彼女はベッドからするりと降りぱたぱたとトイレへ駆け込んでいった。
449脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 07:07:04 ID:nebwu80c0
 それを見るとはなしに見送ってから、俺は再びベッドに横たわる。
 すっかり霧散した眠気をかき集めるために、できるだけどうでもいいことを考えようとした。
 その材料として選んだのは白樺のことだ。
 なぜ、彼女は緊縛された状態での性行為を望むのだろうかという点だ。
 そしてまた、なぜその相手に俺を選んでいるのかということ。
 俺自身について言えば、その点ははっきりしている。
 それは白樺が望んでいることで、しかも断る理由が特に思い当たらないからであり、
そして──ここが一番大事な点であるが──それが習慣として、レギュラーとして定着しているからだ。
 別に長く続けるつもりなど毛頭無かったのだが、かれこれ三年くらいになるのだろうか。
 元々、彼女とは中学時代からの知り合いだったが、こういう関係になった、つまり白樺が俺のレギュラーとして組み込まれたのは、
まったくの偶然に当時の彼女のパートナーを殺害したことに起因している。
 俺はその代役として、いわば穴埋めとして納まっているのであり、それは非常に恣意的な推移の結果だ。
 発端はどうあれ、それがレギュラーとして定常化された出来事なら、白樺が俺から離れていくなり或いはお互いの環境が変化するなりして、
やがてその関係性が消滅するときを迎えるまで、俺は淡々とそれを受け入れるだけである。
 来るものは拒まず、去るものは追わず。それが習慣に従って生きていくということだ。
 定期的に人殺すのも、その習慣に従うからこそだ。
 始めて殺したのは六歳のときで、それ以来、殺人が俺の習慣になっている。
 殺害人数が百人に達したら一度打ち切ってみようかとなんとなく考えるが、それはまだ少し先のことになる。
止めるという発想自体に大した意味はないし、先のことを真剣に考える習慣はない。
 鬼に笑われたくはないからだ。
 ──などと、思考が脱線して当初の目的通りにかなりどうでもいい結論らしきものに辿り着き、
睡魔がじわじわと俺の瞼に被さろうとしたとき──いきなり携帯電話の着信音が鳴り響いた。
 闇とレム睡眠の海に満たされた部屋の静寂はその一撃で木っ端微塵に破壊される。
トイレのほうから「うひゃ」という白樺の小さな悲鳴が聞こえてきた。
 念の為に横目で時計の針を捉え、現時刻を確認する。
 やはり三時過ぎだった。
 こんな時間に電話をかけてくる非常識な人間といえば、たった一人しか心当たりがない。
 俺はげんなりした気持ちで携帯電話を取り上げ、通話ボタンを押した。
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「遅いんだよ、この馬鹿! 何時間待たせる気だ! 電話くらいさっさと取れよ! お前は催促嫌いの漫画家か!?」
「……待たせたのはほんの数秒だと思いますけど」
 やはり全死だった。
「嘘こけ! たっぷり三時間は待ったぞ!」
「全死さんは、ダリの作った体内時計でも内蔵してるんですか?」
 俺の突っ込みなどに耳を貸す素振りすら見せず、全死はひとしきり俺を罵倒した後に、
この草木も眠る絶好の呪いアワーな時間に近所迷惑を顧みず電話をかけてきたそもそもの本題を切り出した。
「来週、弥子ちゃんとデートするぞ」
「……おめでとうございます。電話、切ってもいいですか?」
 トイレから戻ってきた白樺が、自前の拘束具をバッグにしまう。代わりに下着を取り出し、身に着けはじめた。
 電話中の俺に遠慮しているのか、それとも今が深夜だということに配慮しているのか、その動作は極力音を潜めたものだった。
「なんで切るんだよ。話はこれからだ」
「その話、長くなるようでしたら明日にしてください。俺は学校があるんです」
「すぐ済むよ。むしろ、そんなお前に渡りに船な話だ──今すぐ、大学まで来い」
「俺は明朝に行きたいのであって、今行きたいわけじゃないですよ」
「関係ない。どの道、用事が済んだら朝になる。冬来たりなば春遠からじって言うだろう?」
 下着に次いで衣服をも着終えた白樺は、最後に眼鏡をかけて身繕いを終了させた。
 俺個人の希望としては行為の最中にも眼鏡をつけていて欲しいのだが、生憎、眼鏡とアイマスクは両立しない。
「その言い回しはおかしい気もしますし、すぐ済むのか朝までかかるのかはっきりさせて欲しいですが、
用件を聞いていないので断言はできませんね。で、俺に大学でなにをさせたいんですか?
──と言うか、全死さん、今どこにいるんです? もしかして学校ですか?」
「そうだよ。だからお前を呼んでんだよ──いちゃいちゃしようぜ」
 その全死の要請と、桂木弥子とデートすることと、なんの関係があるのか俺には推し量ることは不可能だった。
 全死の中ではその両者は明確で整然としたロジックで連なっているのだろうが、
全死のような異常な精神構造を持ち合わせていない俺には知るべくもないことである。
 どの道──答えははっきりしていた。
「嫌ですよ。なに言ってるんですか。それに──全死さん、出来なかったじゃないですか」