新生 えなりの冒険実録

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118ゼロの山賢
しんしんと雪の降り積もる人里離れた山中で赤子の様に安らかな表情で眠り続ける山賢。
だが彼の安寧は佐藤健悦の子守唄に混じる十数匹の獣の唸り声により妨げられた。
山賢が晴れ上がった瞼を何とか抉じ開け周囲を見渡すと、果たして爛々と輝く幾つもの目が
こちらを凝視している。この時二人は自らの流した血の匂いに引き寄せられた餓えた獣の群に
完全に取り囲まれていたのである。
半死半生の重傷を負っている上に大木に荒縄で厳重に括りつけられている今の二人には
只の獣の襲撃を防ぐ手段さえ無い。あえなく二人は襤褸雑巾のように食い散らされてしまった。

獣が去った後、瀕死の重傷を負い再び薄れ行く意識の中で山賢は愛弟子の名を呼び続けた
「‥‥健‥悦‥‥健‥悦‥健‥悦‥‥健‥悦‥‥健‥‥悦‥‥」と弟子の名を呼び続けた。
だが彼からの反応は無く先程までのあの子守唄ももう聞こえない。ふと彼はこのまま死んでしまおうと思った。
いかなる状況でもゴキブリ以上の執念と生命力で生き延びてきた彼が今初めて生きる事に絶望したのだ。

その時、彼は強烈な光に包まれた。強烈な光に包まれて‥‥どこかへと消えてしまった。
後には未だ血生臭い大木の下には犬に弄ばれた襤褸布のように横たわる佐藤健悦のみが残された。


「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ!
 私は心より求め、訴えるわ!我が導きに応えなさい!」
少年少女たちの見守る中、制服の上にマントを羽織った小柄な少女がピンク色の長い髪を靡かせて叫ぶ。
彼女の名はヤマグチ・カナリア・グリーングリーン・ストライクウィッチ・ノボル。通称ゼロのヤマグチ。
大手漫画出版社からするとある意味異世界なMFの「アライブ」における看板作家ながら漫画家としての能力がゼロ
と言う理由で上記の有難くない二つ名を頂戴している。この日は編集部立会いの下で自分の手足となる絵師を
使い魔として召還する儀式を行っていた。そして叫び声と共にいつもの様に巻き起こる大爆発。ただ今回はいつもと
少し様子が違って爆発の中心で何かが蠢いている。儀式は成功だ!そう思って近づいた彼女は酷く後悔する事になる。

身に纏っている衣類らしき物は原形を留めぬ程にボロボロで、身体も満遍なく何らかの獣の爪でズタズタに
引き裂かれている。肉を食い千切られたらしき箇所も複数に及び、右目の眼窩からは目玉が臍の辺りからは
小腸や大腸が盛大にはみ出して大便の臭いを放っている。手足はそれぞれ一本ずつ欠損し、残りの手足も
指は食い千切られ殆ど残っていない。頚動脈からの出血も激しく生きているのが不思議な位だ。

このスプラッタな物体を見たヤマグチは瞬時に気絶したのであった。                         つづく