【2次】漫画SS総合スレへようこそpart48【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1173688295/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss

【作品を読んでいる皆様へ】

去年までの作品の保管はバレ氏のまとめサイトに(一部、今年1月6日まで) 
今年からの作品の保管はゴート氏のまとめサイトに保管されております。
2作者の都合により名無しです:2007/04/03(火) 10:36:47 ID:dup42V7x0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
鬼と人とのワルツ (鬼平氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
Der Freischuts〜狩人達の宴〜 (ハシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/hasi/03-01.htm
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦(スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1173688295/399-402
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html
『絶対、大丈夫』  (白書氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/85.html
3作者の都合により名無しです:2007/04/03(火) 10:39:52 ID:dup42V7x0
上・ヴィクテム・レッド 下・シュガーハート&ヴァニラソウル (ハロイ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
ドラえもん のび太の新説桃太郎伝(サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
狂った世界で (proxy氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/181.html  
タイトル未定 (名無しさん)  ※空条 承太郎のペルソナ世界の物語
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html
ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア (店長氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/78.html
ブルーグラード外伝 (名無しさん)
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1173688295/237-241
涼宮ハルヒの正義 (名無しさん)
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1173688295/254-265
4作者の都合により名無しです:2007/04/03(火) 10:44:04 ID:dup42V7x0
>ハイデッカさん
まさかハイデッカさんがテンプレ屋さんだったとはw
いつもお疲れ様です。

>スターダストさん
横山作品・・という事で真面目なものかと思いましたがw
純粋なパロディとして楽しく読ませてもらいたいです。


5作者の都合により名無しです:2007/04/03(火) 10:51:32 ID:dup42V7x0
ブルーグラード外伝 (名無しさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/215.html
カシオスの冒険 (名無しさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/221.html
涼宮ハルヒの正義 (名無しさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/232.html




すみません、ゴートさんが既に保存されていらしたみたいですw
ゴートさん、いつもありがとうございます。
6作者の都合により名無しです:2007/04/03(火) 13:34:38 ID:QmTzg/vE0
>>1さんお疲れ様です。

ハイデッカさんもいつもお疲れ様ですw
びっくりしましたw

スターダストさん、新連載になるんですかね?
前に書いたものだというお話ですが
氏の横山光輝好きはサイトで知っていましたので
また、愛情が注がれる作品になるんでしょうね。


7作者の都合により名無しです:2007/04/03(火) 19:15:50 ID:KkEjfPxf0
1さん、ハイデッカさん、スターダストさん乙。
前スレペースだとパート50まですぐだな
このスレ1番乗りは誰かな
8シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/03(火) 20:38:15 ID:cbmz9+6R0
『復活のビート Part3 @』

「なにか良くないことが起きるときは──いつもアイツが現れるんだ」

 秋月貴也の通う学校には、女の子たちの間だけで囁かれている、ある奇妙な『噂』がある。
 それは『ブギーポップ』と呼ばれる死神の噂だ。
 そいつは黒のマントに身を包み、メーテルのような筒状の帽子をすっぽり被り、蒼白な顔の唇に黒のルージュを引いた、
とんでもないくらいの美少女(或いは美少年)の姿をしているらしい。
 そいつは人知れず夜の闇を歩き、人知れず人を殺す。
 その人が最も美しいときに、それ以上醜くならないように一瞬で殺してしまう──そんな殺し屋の話だ。
 年頃の感傷的な少女たちにありがちで罪のない、はっきり言ってしまえば下らない都市伝説だった。
 で、さて、その「女の子しか知らない」はずのブギーポップの噂を、どうして男である貴也が知っているのか。
 ──それにはちょっとしたタネがある。

 貴也には恋人がいる。だが、それを周囲に言うことはあまり無い。
 なぜなら相手に問題があるからだ。
 と言ってもそれは人間的にとかそういう意味では全然なく、彼女は貴也の通う学校の職員──養護教諭なのである。
 生徒手帳には生徒間の不純異性交遊を禁じる文言があるが、教師と生徒間についてのそうした記述はない。
 それの意味するところは明白である。
「つまりあたしとあんたの仲を妨げるものはなにもないってことでしょ」
「違うから。当たり前すぎて書く価値がないってくらいにダメなことなんだよ、先生と生徒が付き合うのって。
不文律どころか、それ以前の一般常識なんだ。殺人や強盗を校則で禁止していないのと同じだよ」
「貴也は考えすぎよ」
「初佳さんが考えなしなだけだと思う……」
「なんか言ったあ?」
「いや、なにも」
9シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/03(火) 20:39:26 ID:cbmz9+6R0
 そんな他愛のない会話を交わしながら、二人は朝陽の差す並木道を歩いていた。
 気象庁が梅雨の明けたのを宣言してから数日が経っており、日々を追って激しくなる直射日光は並木に深緑の葉を繁らせている。
 秋になれば枯れて落ちる運命ではあるが、その短い間にも、精一杯の生命を全うしようという意志に満ちているようにも感じられた。
「結局貴也はなにが言いたいの」
「え、いや、だからお互いにもっと節度を持った付き合いを」
「はあん? 要するにあたしと別れたいわけ? 四捨五入して三十路の女と付き合うのは嫌?」
「そ、そうじゃなくて。こうやって一緒に登校するのはまずいんじゃないかって話だよ。全然嫌じゃない」
 意外そうに手を振って否定する貴也に背中からしがみつき、初佳はくつくつ笑った。
「分かってる分かってる。あんたがその辺の胸の無いガキになびくワケがねーわな。ね、巨乳好きの秋月貴也くん」
「な、なんでそういう話になるのかなあ」
「なに、本当のことでしょう」
「……違うよ。別に、胸が大きいからって初佳さんのこと好きになったんじゃないから」
「真顔で言うな、真顔で」
 初佳は貴也の背中を突き飛ばして適切な距離を取り、その尻に回し蹴りを叩き込んだ。
 女の細脚であるしその構えもなってないので、なんの肉体的外傷も貴也に与えられなかったが、だからと言って痛くない訳ではない。
「なにするんだよ」
 貴也は顔をしかめて初佳を睨みつけるが、意外なことに彼女も真顔だった。
 歩みを止めて貴也を見つめるその視線は、物言いたげであった。
「ねえ、貴也。あんた……最近困ったこと、ない?」
「別に無いけど。どうして?」
「ん、いや、大したことじゃないないのよ──」
 語尾を濁し、貴也の先に立って再び歩き出した。貴也も慌ててその後に続く。
「ま、待ってよ!」
 年下の彼氏の力強い足音を聞きながら、初佳は内心で嘆息した。
(まあ、貴也に問題があるわけじゃないものね──『アイツ』が出てくるのは。どっちかと言うと、問題があるのはこの世界、か……)
10シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/03(火) 20:41:14 ID:cbmz9+6R0

 並木道を抜けて駅前の大通りに出るあたりになると、人通りが急に増えてくる。
 二人は黙ったまま、どちらからともなく自然に離れ、他人を装う。
 別に後ろめたいことなどなにもないが、やはり教師と生徒ということを考えると気を使ってしまう。
 貴也の言うことにも一理あるのかも知れない、と初佳は考える。
 だが、初佳も公衆の面前でいちゃいちゃしたくて貴也と同伴出勤をしている訳ではなかった。
 明確で合目的的な理由があるのだ──言わば『見張り番』である。
 『良くない兆し』が貴也の身に現われたとき、真っ先に彼を守れるように。
 ──『アイツ』のほうは自分の助けなど全く必要としていないだろうが。
「……あれ?」
 初佳の三メートル前方を歩いていた貴也が、その進行方向を変えていた。
 通学路から外れ、近くにあったコンビニエンスストアへ足を向けている。
 その足取りはやや急ぎ足だった。
「文房具でも買うのかしら……」
 なにもバカ高いコンビニでなくとも、学校の購買部で買えばいいだろうと不審に思ったが、
とりあえずその後についてコンビニの自動ドアをくぐり、
「え?」
 目を疑った。
 それは普通の朝の光景だった。
 電車の時間と相談しながら立ち読みをする学生、パンやおにぎりを抱えてレジに並ぶ行列、
陳列棚の前に置かれたままの補充中途のカゴ、そして──。
 奇妙な男が一人。
 生後半年くらいの赤ん坊を右腕に、抜き身の柳刃包丁を左手に、レジカウンターの前に立っていた。
 まったく不釣合いなものを同時に抱える、どこまでもアンビバレンスな姿だった。
 どうしようもなく周囲から浮きまくった異様さに、買い物客はちらちらそいつを見ながら心持ち後ろ歩きで、
一人、またひとりとそそくさと店から出て行く。
11シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/03(火) 20:43:27 ID:cbmz9+6R0
 そして、その奇妙な男は叫んだ。
「か、かかか金を出せ! 金だ!」
 その言葉に、店内全ての意識がレジカウンター前に集中した。
 包丁を突きつけられた店員は身動き一つしなかった。ただ、珍獣を見るように男の瞳を覗き込んでいる。
 男の目は黄色っぽく、血走っていた。その瞳孔は極度に収縮していた。
「……まずいわね」
 先に店内に入った貴也の背に追いついたところで、初佳は彼の耳にそう囁いた。
「多分、あいつアッパー系の薬物を服用してるわ」
 たまたま初佳の横を通り過ぎたサラリーマンがそれを聞きとがめ、ぎょっとしたように初佳を凝視する。
ひっ、と短く息を吐いて、駆け足で店から出て行こうとし、開きかけの自動ドアに頭をしたたかに打ち付けてしまった。
「聞こえてねえのかよ! 金だよ金! こ、こここいつにミルクを買ってやるんだ!」
 てんで無茶苦茶だった。
 ミルクごときで強盗に手を染めるなど、正気の判断ではない。
 リスクとリターンが少しも釣り合っていなかった。ミルクが欲しければせいぜいが万引き、というのがまともな判断だ。
 だが男にとってそれは非常に筋道の通った選択なのだろう──だからこそ、幼子と凶器を同時に持つことができるのだろう。
「貴也、出ましょう。それから警察呼ばないと」
 そう言って貴也の肩を引き──初佳は息を呑んだ。
 貴也は、まるで石にでもなったかのようにその場に立ち尽くしていた。その身体はびくともしなかった。
 まるで、どうしても今ここで為さなければならない使命があるかのように。
「貴也……?」
 貴也は初佳の声など聞いていなかった。いや、
「止めなければ……ビート……」
 貴也はすでにここにいなかった。
 いつも人畜無害で大人しそうな顔をしている秋月貴也はすでにおらず、
今、初佳の目の前にいる『こいつ』は能面のような無表情を顔全体に漲らせていた。
「貴也? ……違う、あんたまさか! こんなところで出てくる気かよ!?」
「崩壊の……全てが手遅れになる前に……」
12シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/03(火) 20:47:43 ID:cbmz9+6R0

 秋月貴也はいわゆる二重人格者だった。
 普段は主人格──恋人の扱いに戸惑ったり学校の勉強に音を上げたりする気弱な少年、貴也が『表に出ている』が、
ある条件が揃うことで、『そいつ』は貴也と入れ替わって彼の肉体を支配する。
 その人格の顕現自体は誰にも制御できない。
 世界が絶対的な危機に直面するとき、そいつは世界の根源たる可能性の水底から、
現実という水面まで自動的に浮かび上がってくるのだ。
 それはまるで泡のように。
 ために、そいつは時としてこう呼ばれる。
 『不気味な泡』──。

「『ブギーポップ』……!」
「……君か、五十嵐初佳。この間は悪かったね。
なにも君と秋月貴也の仲を裂くつもりはないんだが……これも決まりでね。私は私の仕事をしなければならない」
「『仕事』……?」
「君も良く知っているだろう、私のことは」
 『そいつ』──ブギーポップは、レジカウンターの方を目線で示した。
「『世界の敵の、敵』──」
 それはまるで感情の篭ってない目で、この世の全てを無価値だと思っているようでもあった。

「私の仕事は、『世界の敵』を殺すことさ」
13ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/03(火) 20:54:16 ID:cbmz9+6R0
>>1乙です。
そして一番乗りさせていただきました。

>スターダスト氏
物凄い笑いのセンスですね。三国志を良く知らない俺でも、読んでてニヤニヤが止まりませんでした。
呂后ってそんなに不細工なんですか? 史実的にも横山的にも。
14作者の都合により名無しです:2007/04/03(火) 23:12:29 ID:YMBAF32q0
おぉ〜、ブギーポップ登場かぁ
アニメ版しかしらんけど、楽しみにしてます
15作者の都合により名無しです:2007/04/04(水) 09:42:32 ID:Bvoas8r80
出演キャラ全員、一癖もふた癖もありそうな連中ばかりですねw
秋月貴也も静や十和子に匹敵するかそれ以上の危険人物っぽいし。
物語にまだまだ裏がありそうで飽きさせないです。
ブギーポップは知らないけど、知らない方が楽しめそうな気がしてきましたw
16作者の都合により名無しです:2007/04/04(水) 11:01:08 ID:SNsdgRZ+0
よくこのハイペースでここまで書き込めるもんだといつも感心する。
貴也も主人公の一角、という捕らえ方でいいのかな?
17作者の都合により名無しです:2007/04/04(水) 20:00:10 ID:Pf86Hqy40
出演キャラが多くてそろそろこんがらがってきたw
18作者の都合により名無しです:2007/04/05(木) 14:45:41 ID:DVH3+5pD0
表題のシュガーハート&ヴァニラソウルは誰かの能力か何かを示してるのかな?
ヴィクテムレッドも、「ヴィクテム」ってのは作品のキーワードだしなあ
19作者の都合により名無しです:2007/04/05(木) 20:47:21 ID:OV4Z1XtB0
そう言えば前スレはNBさん来なかったなあ
まあ、元々月1ペースの方だから心配は無いんだろうけど
前スレは20日で消費してしまったからな
20作者の都合により名無しです:2007/04/05(木) 23:25:52 ID:3llDos3V0
今日はこないか
承太郎とペルソナのやつはまだかな?
21作者の都合により名無しです:2007/04/06(金) 08:52:09 ID:BmvoKSyB0
急に止まったかw
22承太郎とP3の作者:2007/04/06(金) 16:56:50 ID:iKoKeaiXO
>>20
待たせて済まない、一切の証拠がないが本人だ。

現在、一人暮らしを開始したばかりで、手元にPCがない。
PCは明日来るんだが、回線が通るのはまだ先になるだろう。

復帰は早くとも4月末になりそうだ。

大変申し訳ない。
23作者の都合により名無しです:2007/04/06(金) 17:20:00 ID:iff53yQ50
>>22
おっけー
今のうちにいっぱい書いておいて
アップ楽しみにしてます
24ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/06(金) 20:19:16 ID:cfru4Ep50
第二話「準備」

二人はタイムマシンに乗り込み、早速起動させた。
「で、どうやってギガゾンビを追いかけるの?どこに行ったかも分かんないのに」
「それはそれ、今のぼくたちにはこれがある…<CPS>!」
CPS。もはや何度も説明したことではあるが、異世界間すら自在に移動できる超常の装置。ある男の手によって開発
され、今はのび太やその仲間たち数人が所有している。
「これの機能を応用して、ギガゾンビが移動した時空間内の痕跡を探る。そして、そこから追いかけるんだ」
「そして、ギガゾンビとの戦闘開始だね!」
「その通り。今回はぼくとのび太くんの二人だけだけど…覚悟はいいね?」
「もちろん!ジャイアンたちなんていなくたってヘッチャラだって所を見せちゃうもんね!」
「OK。じゃあいくよ…新たなる大冒険の始まりだ!」
タイムマシンを起動させ、二人は旅立っていく。目指すは因縁の敵―――ギガゾンビの元へ。
25ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/06(金) 20:20:04 ID:cfru4Ep50
―――そして、辿り着いた世界。そこは見渡す限りの竹林だった。
風がそよぐたびに、さわさわと笹の葉が揺れる。一見、のどかな風景だった。
「へえ…中々いいところじゃない?」
「うーん、美味しい空気だ。この世界は自然が豊かな場所みたいだね」
思いっきり伸びをして、胸一杯に澄んだ空気を吸い込む。世の中のしがらみから解き放たれ、心身ともに清められていく
ようだ。二人はとてもリラックスできた。
「よし…じゃあ、ドラえもん!」
「ああ、のび太くん!」
「気分もすっきりしたところで帰って昼寝しよう」
「ちぇりおー!」
どっかが間違った掛け声と共に、文字通り鋼鉄の拳をのび太の顔面に叩き込んだ。陥没したのび太のみっともないツラに
向け、情け容赦なく罵倒する。
「だから君はバカでアホで間抜けだというんだ!悪党を倒しにやって来て、いきなり家に帰りたがる正義の味方がどこに
いるんだ!」
「わ…分かってるよ。ちょっとした冗談じゃないか…」
顔面陥没から復活し、よろよろ立ち上がるのび太。如何にギャグシーンとはいえ、特筆物の耐久力だった。
―――その時だった。
「ねえ、ドラえもん。何か…声がしない?」
「え?…ほんとだ。なんだろう、子供の泣き声?」
「ま、まさか、幽霊とかじゃないよね…」
不審に思いながら声のする方に向けて足を運ぶ。すぐに、その声の主は見つかった。
太い竹の根本で膝を抱えて座り込んでいる、まだ三歳かそこらの少女だった。
肩まで伸びた青い髪、頭の天辺には小さな角。弾けるような笑顔が似合いそうなその顔は、今は涙でしわくちゃになって
しまっている。
「…どうしたのかな、あの子」
「さあね。迷子かなあ?」
ひそひそ話をする二人。少女の頭の天辺に角があることは気付いているが、別にそこについては気にする風もない。彼ら
の交友関係のグダグダさ加減から考えれば、今さら頭に角くらいでは驚かないのだ。
26ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/06(金) 20:22:06 ID:cfru4Ep50
少し迷ったが、のび太たちは少女に近づいていった。
放っておいてもよかったのかもしれないが、そうする気にはなれなかった。その少女には、自然と何か、お節介をして
あげたくなる―――そんな雰囲気があったのだ。
「ねえ、君、どうしたの?」
少女は泣き止もうとしなかったが、問いかけは聞こえたようで、ゆっくりと顔を上げる。
「ぐす…おにいちゃんたち、だれ?」
「誰って言われると困るけど…怪しいやつじゃないよ」
「ひっく…あやしいもん…とくに青い方が…」
酷い言われようだったがドラえもんは何も言わなかった。彼も数々の心無い言葉(タヌキ、地蔵、青玉etc…)によって
精神的に鍛えられているのだ。
「まあ、怪しいんだったら怪しいでいいけどさ、何で泣いてるのかなって思って」
「えぐっ…父さまと母さまが、どっか行っちゃった…」
「どうして?」
「ぐすっ…わるい人たちがわるいことしてるって…だから、その人たちをしかってあげないといけないって…それで…
それで、ひいおじいちゃんのとこに置いてかれちゃった…」
言葉足らずだったが、のび太たちには理解できた。ギガゾンビ―――彼はやはり、この世界で侵攻を始めたのだ。
この少女の両親は、それに対して立ち上がったということだろう。
胸のうちに、怒りが湧き上がる。ギガゾンビに一体何の権利があって、こんな小さな女の子を泣かせるというのか。
「…大丈夫だよ。きっとすぐに、君のお父さんもお母さんも戻ってくるよ」
「えっく…でも、そのわるい人たち、すっごくわるくてすっごくつよいって…父さまも母さまもすっごくつよいけど、
だけど…」
「大丈夫、ぼくたちも行くから」
のび太は決然と言い放った。
「何を隠そう、ぼくたちはその悪い人たちを懲らしめにやってきた通りすがりの正義の味方なのさ!そうだよね―――
ドラえもん!」
「ああ、その通り!」
ドラえもんも頷く。
27ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/06(金) 20:23:00 ID:cfru4Ep50
「ぼくたちに任せれば何が起きてもへっちゃらさ!出前迅速落書き無用、どんな事件もチョチョイのチョイだよ!」
やや大げさすぎだったが、逆に少女の目には頼もしく映ったらしい。
「ほんと?ほんとにおにいちゃんたちが、わるい人たちをやっつけてくれるの?」
「ああ、ほんとだとも。そうすればお父さんやお母さんもすぐに帰ってくるから、だから、君も泣いてなんかないで。
そんな顔じゃお天道様に笑われるよ。さあ、笑顔に戻って、あの青空に向かって走り出すんだ!」
ドラえもんは(うわ、古くさっ!)と思ったが、口には出さなかった。
「うん―――分かった。泣かないで、父さまと母さまをまってる」
少女はすっくと立ち上がり、やっと笑った。それはこの年頃だけに許された、何の混じりっ気もない、純粋な笑顔だ。
駆け出した少女は、そしてのび太とドラえもんに向かって叫んだ。
「…ありがとね、おにいちゃん!それに…青いネコさん!」
そして、あっという間に姿が見えなくなった。のび太はそんな少女を微笑ましく思いつつ―――隣にいるドラえもんの
様子に面食らった。
「ちょ、ちょっとドラえもん…泣いてるの、君!?どうしたのさ!?」
そう、ドラえもんは某巨人の星もびっくりなくらいに感動の涙を流していた。
「だって、だって…のび太くん、あの子、ぼくのこと…ネコだって…ネコだって、分かってくれたんだよ…!」
「あ…そういえば、青いネコさんって…」
「そうだよ、のび太くん!やっぱり純真な子供は分かってくれるんだよ、ぼくがネコだということを!」
どちらかというとドラえもんをネコと即答したあの子の感性の方が問題な気もしたが、折角ドラえもんがこんなに喜んで
いるのだから、のび太は口には出さなかった。
「…けど、そんなに喜ぶことかなあ…」
「ふふ、悪かったね…ただ、日々言葉の暴力に傷ついている身としてはね…」
「そっか…ま、とにかく、ギガゾンビは確かにこの世界にいるらしいことは分かったんだ」
「そうだね。あの子のためにも、何としてでも止めなければ!今回のぼくは最初っからクライマックスだぜ!」
それにしてもこのドラえもん、ノリノリである。テンションが変な感じだ。
「じゃ、恒例のぼくの道具を出すとしよう。今回はちょっとしたコネですごいものを用意してきたんだ」
「すごいもの?」
「ふっふっふ…見て驚くなよ。ずばり、これだ!」
ドラえもんがポケットから、異形の物体を取り出した。
それはもふもふした毛皮で覆われた、クマとも何ともつかぬ、謎の生物を模した着ぐるみ―――
「はい!<ボン太くんスーツ>〜!」
28ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/06(金) 20:23:50 ID:cfru4Ep50
「…………」
のび太は三点リーダ四回を返答として、スタスタと歩み寄り、どこからか取り出したハリセンでドラえもんの後頭部を
ぶっ叩いた。
「な、何をするんだ!」
「それはこっちのセリフ!何そのふざけた道具、ふざけてるの!?」
<ふざけた>と二回も言った。そんくらい、その道具は確かにふざけている。
「う…ま、まあ確かに…けれど見た目はともかく、性能は本物だよ?二十二世紀のマイアミ市警ではこれが正式な装備に
なってるくらいなんだから!」
「二十二世紀のマイアミで一体何が!?ていうか、どうやってそんなのを調達してきたのさ!?」
「うん、セワシくんのお隣さんがカナメさんっていう美人なお姉さんなんだけど、その人の友達がこのボン太くんスーツ
の開発者なんだ。名前はえーっと、ソウスキー・セガールだったっけ?ちょっと違う気もするけど…まあとにかく、ぼく
にも護身用にと格安で譲ってくれたんだよ。彼はその時こう言っていた。
<身の危険というものはいつどこに転がっているか分かったものではない。いざ危機に直面した時にああ、十分な準備を
していれば―――と後悔しても遅いのだ。俺の実体験を例に挙げよう。中東において極秘作戦に従事していた時のことだ。
敵は凶悪なテロリストではあるが小規模で、武装は貧弱なものだ。そうタカをくくった同僚は、最低限の装備だけでテロ
グループのアジトへと潜入した。だが違った。奴らは確かに小規模だったが、使用する兵器や機器の類は最先端とまでは
いかずとも、決して貧弱なものではなかった。結果同僚はあっさりと捕虜となり、俺たちに助け出されるまで肉体的にも
精神的にもおよそ考えうる限りの残虐にして凄惨な拷問を受けた。
俺が言いたいのはつまり、いつそのような事態に陥ったとしても即座に対応できるだけの準備はして然るべきということ
だ。そこでこのボン太くんスーツを君にお勧めしよう。これは市街、密林、海中、果ては宇宙まで、あらゆる状況に適応
したパワードスーツだ。そしてどこからどう見てもただのマスコットにしか思えない外見。まさかこれが敵兵だとは誰も
露とも思うまい。まさにこれこそ新時代の平和と治安を担うにたる兵装なのだ>ってね」
「絶対危ないよ、その人!」
のび太は力の限り怒鳴った。
「敵兵がどうこう以前に戦場でこんなもんが歩いてる時点で怪しさ大爆発だよ!ぼくが敵兵ならこいつを発見した時点で
ミサイルをぶち込むよ!」
「まあ、そういう疑問はそっちに置いといて…実際にぼくも試してみたけど、これはすごいよ?何なら実演しようか」
そう言ってドラえもんはボン太くんスーツを着込みだした。そしてのび太に向けて一言。
29ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/06(金) 20:25:22 ID:cfru4Ep50
「ふもっふ!ふもふも!もふもふもっふる!もっふもっふ!(訳・全く、何たるザマだっ!貴様はウジ虫だっ!ダニだっ!
この地球上で最も劣った生き物だっ!ぼくは貴様を憎み、軽蔑する!)
「な…何言ってるのか分かんないけど、すっごい屈辱的なことを言われた気がする…つーか、普通に喋れないの?」
「ふもふもふも!(訳・残念ながら仕様だよ…まあいいや。お気に召さないというなら、これはやめとこう)」
結局ドラえもんはスーツを脱いで、仕舞いこんだ。
「けれど予言しておこう…のび太くん、君はいつかボン太くんスーツによって命を救われるだろうとね」
「そんな嫌な伏線張らないでよ…ほんとになったらどうするんだ。それよりもっとまともな道具出してよ」
「分かったよ…じゃあまずはこれ、スペアポケットだ。使い方はいうまでもないね」
「ドラえもんの四次元ポケットのスペアで、同じように道具を取り出せる…だろ?」
「その通り。そして、これだ―――」
ドラえもんはポケットから、昔風の衣服と、二丁の拳銃を取り出した。
「―――<MUSASHIセット>!これは未来世界で大人気を博したアニメのキャラクターの衣装なんだ。身につけるだけ
で本来の数十倍から、場合によっては数百倍の身体能力を発揮できる上に、例え空中であっても自在に戦うことができる
重力制御装置<フォーリング・バトル・システム>、自動的に全く無駄のない、その場に応じた最適な動きを行うための
<タクワン・ダンス・システム>、そして、専用の特殊弾に加えて、ありとあらゆる銃弾を撃ち出すことができる究極の
二丁拳銃<GUN鬼の銃>―――それら<MUSASHIクオリティ>と呼ばれる数々の特殊機能を搭載した、戦闘に関して
言えば、まさに最強の秘密道具さ!モニターが爆発したかのような臨場感あるバトルが期待できるよ!」
「…なんか、各方面から色々言われそうな道具だね…」
「言うなって。未来世界の子供たちの間ではMUSASHIごっこが大流行なんだよ。みんなおんみょうだんをくらえ〜と
楽しそうなんだから」
「嘘くさっ!…まあ、ボン太くんよりはマシか」
のび太は手早く<MUSASHIセット>を着込むのだった。
「さて、それではまたしても恒例<たずね人ステッキ>で行く道を決めようか!」
「うーん、行き当たりばったりだなあ…」
「そうは言っても手がかりも何もない状態だから仕方ないよ。よし、あっちだ!行くよ、のび太くん」
「了解!」
のび太とドラえもんはタケコプターを付けて、異世界の空を行くのだった。
30サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/04/06(金) 20:38:16 ID:YHvUaizM0
投下完了。前回は
ttp://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/174.html より。

バキスレよ、私は帰ってきた!…一ヶ月ちょいで大げさですね、はい。
励ましてくださった皆様方ありがとうございました。
SSが書けない間はスパロボWばっかやってましたが、今回のスパロボはフルメタ関係がすごい!
かなめとテッサがウィスパードの力で活躍しまくり、さらには捕らわれのヒロインポジションで最後まで
目立ってたり、そして何よりボン太くんが、ボン太くんが熱い!
銀河を股に駆ける悪の軍団、立ち向かうは我らがボン太くん(in宗介)だ!
フル改造してリフターモジュールで空を飛ばせば、ラスボスだって目じゃないぜ!
…なぜ僕はボン太くんについてこんなに熱く語ってるんだろうか。
それはともかくスパロボWは、スパロボに興味ないという人でも、DS持っててフルメタ大好き、という人
なら普通に楽しめると思うので、そんな人は是非。

ドラえもんが言ってる<ちぇりおー!>は西尾維新著・刀語のヒロイン、とがめの口癖。
しかしこの作品に出てくる日本最強の剣士にはびびりました。
主人公との戦闘シーンの衝撃は、未だかつて味わったことがありません。あんなん書ける作家なんて、
そうそういないだろうなあ…。
賛否両論はあるだろうけど、僕は賛の方です。
31サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/04/06(金) 20:39:08 ID:YHvUaizM0
おっと、これを忘れていました。
>>1さん乙です。それでは失礼。
32作者の都合により名無しです:2007/04/06(金) 23:04:20 ID:asVxxGFB0
サマサさんお久しぶり!
なんか事情があって更新できなかったみたいで寂しかったです。
前作、前々作にも勝る大冒険を期待してます。
33作者の都合により名無しです:2007/04/07(土) 00:18:45 ID:IsGzZWTA0
お久しぶりですサマサさん。
ボン太くんスーツとかMUSASHIセットとか出てくるのを見ると
サマサさんのSSだって感じがするなあw
不思議な少女も出てきて、まだまだどういう展開になるか
わかりませんけど異世界の冒険楽しみにしてます。


サナダムシさんも戻ってこないかなあ
34前々スレ371:2007/04/07(土) 02:14:11 ID:ifpI/4oX0
お帰りなさいませ、サマサさん。

>新説桃太郎伝
桃華ちゃんとはまだ通りすがり段階ですか……って、ちょwwwドラえもんwwwwwww
その内、「絶対尊守の強制力を使えるようになる目薬」を仮面と込みで取り出しそうな勢い(w

ところで、ドラえもんと言えばこんなMADが。
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm113962
……しずかちゃんひでぇ。
35作者の都合により名無しです:2007/04/07(土) 08:40:00 ID:LPrJ6aY00
サマサさんお帰り
また、以前のペースで楽しませてくれるとうれしいです
36作者の都合により名無しです:2007/04/07(土) 23:45:50 ID:IsGzZWTA0
急にペース落ちたな
サマサさん帰ってきて嬉しいけど
サナダムシさんとミドリさん、カマイタチさんカムバック
37AnotherAttraction BC:2007/04/07(土) 23:57:38 ID:uCvAaGhj0
前々スレから
「もう一発」
突如イヴの前に現れた鎧が振り下ろす拳槌を、副碗と本来の腕で受け止める。
「…ッッ!!」
迫撃に全身が軋むも、一瞬後には夢幻の如く消え失せる。
こうして正々堂々にして超威力の不意打ちを受け続けて十数分……リオンの宣言通り、全く対処のしようが無い。
走ろうにも飛ぼうにも、突然進路を鎧が制圧し、一撃加えて消失―――それを幾度も繰り返したのだ。
「…だから無理だって言ってんだろ。いい加減諦めろよ」
満身創痍のイヴとは対照的に、疲労すら無くリオンは諭す。
「お前は此処に居ろ。オレ達がこれ以上戦うのは、どう考えても無意味だ」
だがそう有る事は、彼女がようやく見付けた答えが許さない。此処で心が折れれば、まず間違い無くシンディが視た笑わない自分
が現実になる。それらが、彼女に未だ膝を折らせない。
―――しかしどうする? 屈さぬだけで現状を打破出来れば苦労は無い。リオンの力は圧倒的であり、近付く事すら叶わないと言うのに。

悔しいが相手は余りに強大だ。今まで自分より強い相手と戦った事の無いイヴにとって、初めての「どうにもならない状況」が
彼女の胸に弱気を吐かせた。初めから戦闘を放棄したデュラムの時と違い、今回は物理的劣勢に置かれている。
「勝てない…………って貌してるぜ。そう思ってんなら、もう止めろよ」 
言われて慌てて冷や汗を拭うが、気を抜けば泣いてしまいそうな胸中はそう簡単に戻らない。
誓いを忘れて逃げ出したい気分だったが、それをやったら何にもならない。今一度萎えた心を叱咤して拳を握る。
…そもそも彼は加減している。先刻現れた鎧達は武器を握っていたと言うのに、今現れるのは素手ばかり。それでこの有様なのだ。

「大体さ、オレを止めたいなら殺すつもりで来いよ。オレが子供だから…なんて、欺瞞だぜ」
38AnotherAttraction BC:2007/04/07(土) 23:59:24 ID:uCvAaGhj0
胸中を読まれた驚きを噛み殺す様に、彼女の奥歯が軋んだ。
「いちいち驚くなよ。オレはこれから世界を獲る気でいるんだぜ? お前の本気くらい受け止められなくて、簒奪者が務まるかよ。
 それとも何か? お前の仲間でも殺さないと、その気になれないか?」
悪意も敵意も無い、そして或る意味害意すらない残虐な展望に総身が強張った。少年の言葉には嘘もまやかしも無い。そして彼女に
向けられた物ではないにしても殺気は本物だ。

…確かに、その弱い考えは捨てなければならない。そもそも相手が強大である時点で、手加減など出来る訳が無いのだ。
そして今彼女が臨む戦いは、撤退と敗北を許されない部類のものだ。
必勝に到る為手段を選ばない―――――。それは確かに正しい………が、

腹を据えた彼女の手が手近の鉄柵に触れる。
構造変換ナノマシンを掌から通わせるや、鉄柵はそれぞれが蛇の様に身をくねらし、形を変え―――――――十数本の投槍(ジャベリン)へと変貌を遂げる。
「……やっとその気になったかよ」
次の手を察したリオンが、幼相に獰猛な笑みを宿らせて彼女の攻勢を待ち構える。
「来い。そうでなきゃ、何の意味も無い」
返礼と言わんばかりに、投槍がリオンに襲来した。
39AnotherAttraction BC:2007/04/08(日) 00:01:21 ID:q1xDCVxr0
「防げッ!!」
号令と共に現れた盾を構える鎧が、槍を弾き飛ばして消えた。
所詮は命令を終えれば消える存在……それを喰らい続けて理解したか、イヴの投槍は文字通り矢継ぎ早に繰り出される。
「防げ! もっと! もっとだ!!!」
耳に痛烈な金属音が、槍の代わりに突き刺さる。鎧達への命令を上回らんとする回転速度で、彼女は自分の手と髪の副腕で次々と投げて
いるのだ。
「あああぁぁぁ!!!」
既に作った分など投げ切っているのに、それでも投槍は彼女の手から尽きようとしない。それもその筈、投げ付けながら周囲からめぼしい金属をかき集め、後から槍に変えているのだから弾数は本人にすら望外と言って良い。
お………多い!?
命令を必死に馳せるリオンの眼前に、自動防御の黒い盾が突如立ちはだかる。その物量と連射に、遂に何本かは鎧の防衛線を越え出した
……と思いきやそうでは無い。越えたのは物量に押されてではなく、イヴが平行に動いて他方からも投げて来たからだ。
「く…ッ、くそぉッ!!! こっちもだ!」
鎧が立てば確かに攻撃は防げる、しかしイヴは兎も角リオンは一瞬相手を見失うのだ。そしてイヴも、わざわざ彼に合わせて
真正面から投げ続ける必要も無く、射線を次々変えればいい。自分で言い出した事とは言え、リオンは道を得て初めての窮地に
追い込まれる。だが―――――、
―――だけどな………これで勝てると思うなよ!
「防げ! そして…喰らわせッ!!!」
盾を持つ鎧が投槍を防ぐと同時に、イヴの横に組んだ両手を振り上げた鎧が出現した。
しかし彼女は横薙ぎの拳槌を五分の見切りで回避し、なおも投げる手は停まらない。
40AnotherAttraction BC:2007/04/08(日) 00:02:21 ID:q1xDCVxr0
「あああああぁぁぁ!!!」
視界に入る金属と言う金属を槍に変え、リオンを中心に周回する形で射角を変えながらイヴは小型の砲弾とでも言える質量の嵐を
見舞い続ける。
思ったとおり向こうは防戦一方となり、そして時折攻勢に立つが流石に二体以上の鎧は出せても上手く操れないらしく、微妙に出現箇所が
決め手に欠けていた。
――――いける!
幾度と無く喰らい続けて、この能力の欠点(アナ)に気付き始めていた。
それは、リオンが飽くまで冷静に物を見れる立場に無くてはならない事だ。鎧自体の攻撃は有無を言わさず強力では有る、しかし
それを指定の場所に出すのは彼であり、その術者が平静ならざれば鎧は的を微妙に外してしまうのだ。
……彼の道は狙撃に近い。神出鬼没では有るが、予想出来ない訳でもないし、対策が無い訳でもない。
スヴェンがトレイン達を心理の罠に嵌めていたのを思い出しながら、彼女もその要諦を理解しつつあった。
勿論これで倒せると思ってはいない。この連射は単なる威圧、彼を守勢から外さない為のものだ。
そして何より、徐々に近付くのを悟らせないための物だ。

「くそお……ッ! 防げ!! 防げ防げえッッ!!!」
リオンは殆ど動かず防御に回らざるを得ない。
移動しながらの防御はこの道には難しく、出した所で自らが防御から逃れる訳だから其処を狙われたら何の意味も無い。
然るにこの城壁無しの篭城戦を強いられる危惧をしていたとは言え、まさか優勢からいきなりやって来るとは思っていなかった。
しかも何故か、威力と回転速度が少しずつでは有るが増していく。
押し切られ…る…!?
実は今まで優勢ではなく、まさか彼女の手心に助けられていたと言うのか? それとも無敵と自負するこの道は、実は少しの窮地に
錆びた地金を晒す脆弱な物なのか?
だとしても……先刻彼女が並べた甘い展望を思い出すだけに、彼もまた弱い考えを打ち消した。
勝つ、勝たなくてはならない。これはただ相手を戦闘不能に追い込む戦いではない、心を折る戦いなのだ。

「―――ブン、投げろぉッ!!!」
41AnotherAttraction BC:2007/04/08(日) 00:03:26 ID:q1xDCVxr0
命令に応じて立ちはだかったのは、盾を持った鎧ではない。巨大な鎖鉄球を構える鎧だ。遂にリオンも、イヴに対する手心を捨てたのだ。
轟、と風を巻いてイヴに鉄球が迫る。
「はあッ!!」
しかし気合一喝、投槍で無理矢理横に弾くと彼女も策を捨てて一気に距離を詰めた。
「斬れ! 斬れ、斬れ、斬れェッ!!」
次々に生じる剣を握った鎧達。しかも配置はきっちり射角を遮る位置だ。
横薙ぎ。唐竹。逆袈裟。刺突。まるでガントレット(二列に並んだ間を左右の攻撃から無防備で歩き抜ける処罰法)さながらの斬撃の嵐を矮躯を生かして捌き切りながら、イヴの投撃もまた留まる事を知らない。そして近付けば近付くほど、彼女はリオンが弾いた槍をも
拾って投げ付ける。
「潰せェッ!」
遂に僅か五メートル弱に迫ったイヴの前に、大上段で巨大なハンマーを抱えた鎧が現れた。最早先刻の拳槌とは訳が違う、受ければ纏めて挽肉だ。掌中に投槍を握ってはいるが、この超重の前に意味は無い。
しかし彼女は、勝つ為に敢えて身を沈めた。そして、投槍を地面に突き立ててもう一方を強く握った。
転瞬――――槍が爆発的に伸び、鎧の股下を潜った。無論その先には、イヴが離すまいと掴まっている。結果、彼女の行動に驚愕する
リオンは目の前だ。
命令と行動のタイムラグが生じる以上、この距離で彼の道は意味が無い。だが彼女には、肉弾戦が可能なのだ。
まず一撃。自動防御の確かな手応えを確信し、消失に合わせて第二撃のブロンドの拳を放つ。だが…
――――リオンはその攻撃を、素手で℃Jいた。それと挙を同じくして、彼の掌底が深々とイヴの水月にめり込む。
「か……はッッ!?」
掌底を打ち込まれたまま、リオンの手に体重を預ける形でイヴは行動と呼吸を封じられた。
「…残念だったな……忘れたか? オレは道士だぜ。能力と動かないお陰で接近したら勝てると思ったか?」
身体能力は常人の数倍、事実この一撃はその辺の力自慢を上回る威力だ。機も位置も申し分無く、常ならばこれで三日は動けない。
「………知っ…てる…」
だが、苦しい呼吸が戻らないのをそのままに、イヴは無理矢理言葉を紡ぐ。
「…あ?」

「…だから――――――――…掴まえた!」
42AnotherAttraction BC:2007/04/08(日) 00:04:19 ID:q1xDCVxr0
同時に手首を掴まれ、全身にブロンドが巻き付いた。
「はああぁぁぁあああぁぁぁッッッツッ!!!」
リオンの身体は、怒号と共に重力のくびきから解き放たれ、殆ど地面と水平に飛んだ。
「うわあああああぁぁぁ!!!」
絶叫のドップラー効果を道連れに、彼は屋台の一つに激しく突っ込んだ。
…そして、反撃に備えしばらく身構えていたイヴだったが………それ以上動きが無いのを見て取るや、ようやく其処で膝をついた。
43AnotherAttraction BC:2007/04/08(日) 00:08:09 ID:q1xDCVxr0
息が荒い。腹が痛む。全力でナノマシンを総動員して快癒に勤しむが、ダメージが思ったより深く集中し切れない。
だが……勝ったのだ。初めての強敵との戦いに。
やったよ……スヴェン…
いよいよ使い果たした感が有るも、満ち足りた気分だった。これなのだろう、「人間である」と言う事は。
乗り越える事に意味が有り、守り切る事に価値が有り、矜持を貫く事にそれぞれの真実が有る。兵器として生まれ、そう有れかしと強制
された世界には無い本当の生き方に、彼女もようよう目覚めつつあった。
「…行かなくちゃ……皆の所に……」
覚束無かった足元もやっと普通に動ける様になり、彼女は広場を後にしようとしたその時………不意に周囲が暗くなった。
「!」
身の危険を感じて飛び退る一寸遅れで、背後から振り下ろされた大斧が石畳を激しく叩き割った。
着地して先刻リオンを投げた屋台を見れば――――――――其処から自分と同様矮躯の影が起き上がった。
「…良く………判ったぜ…」
その声は臨界間際の憤怒を帯びていた。
「お前が……オレを殺したくないってのが………良く、判ったぜ」
無傷ではない。到る所から血が滴り、呼吸もイヴと同じく負傷に喘ぐ。しかし、それが戦意を削ぐかと言ったらそうではない。
寧ろ一層の殺意を双眸にも漲らせ、その歩みは更に力強い。
リオンを投げ込んだ屋台は食料品や土産物を取り扱っていない。商い物は大小の縫いぐるみだった。
「わざとこんな所に投げ込みやがったな……何処まで甘けりゃ気が済むんだお前…」
これが店舗の壁や石畳、もしくは噴水なら其処でリオンの命は終わっていた。しかしその場所でも、仮にデュラムやギャンザなら其処で
戦闘は終わっていた。如何に緩衝材が有ろうと、あの速度が無傷で済むなど有り得ないからだ。
「そもそも投げるんじゃなくて……刺せば良かったんだよ。それを……舐めやがって……」
策は決して悪くない。相手が彼だと言う事が問題だった。既に彼は、殺さなければ止まらない領域の住人なのだ。
しかしイヴにも、その気迫を受けて萎縮する様は見られない。彼女もまた、死んでも折れない覚悟を決めている。
それを見て取ったリオンは、心底疲れた様に嘆息した。
「そうかよ……だったらお前はそうしてろ。
 オレは………もう、どっちかが死ぬまで決着にするつもりは無いぜ」
まるで空気が怒りに答える様に、彼の髪が浮き立った。
44作者の都合により名無しです:2007/04/08(日) 00:10:19 ID:tFFjv0A/0
NBさんきたああ!!
45作者の都合により名無しです:2007/04/08(日) 00:28:23 ID:tFFjv0A/0
あれ?規制中・・?
46AnotherAttraction BC:2007/04/08(日) 00:30:33 ID:q1xDCVxr0
カラッカラの…ペランペランだ。(by ジャガージュン市)
って言われても良いくらい、バカかオレワ―――――…なNBです。皆さん、こんばんわ。

いや、いつも多いと言われるから、丁度良いのかな―――…とも思いますが、
なにぶん内容の薄いったらありゃしねえ。
一スレ跨いでこの量はちょっと頂けねえよなぁ……
水戸黄門のテーマが聞こえてきそうですね。
♪後から来たのに追い越され 泣くのが嫌ならさあ歩け♪ って風に。

ともあれリオンの戦い方が俺の中で固まるのが遅いの何の、本当はもっと早く終わる筈がこの様です。
あと一番苦労した割にパッとしないのが、イヴの「殺気の無いガチンコ」ですかね。
堤城平も戦いにリアルのどうのと言ってるし……どうも乗れんのですね。

こうやって自分に駄目出ししまくるのは、色んな意味が有る訳ですが、一番はやはり
「駄作出すのに慣れたらお仕舞いだ」が、本当根っこから離れないからです。有難う炎尾先生。
まあここらで俺の駄文もSSも、今回はここまで、ではまた。
47作者の都合により名無しです:2007/04/08(日) 00:47:45 ID:tFFjv0A/0
一ヶ月ぶり、お疲れ様ですNBさん!
前スレは消費早すぎですから仕方ないすよw

イヴのけなげな想いと、可愛さと裏腹な策が素敵ですな
リオンも簒奪者として、子供ながら恐ろしいw

48承太郎とP3の作者:2007/04/08(日) 10:03:38 ID:Y6+FdIAXO
タイトル決定
『ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝 未来への意志』
P3の要素がゼロのタイトルだが、勘弁してくれ。
ついでにちょっと聞いてくれ。
確かに、昨日パソは来た。
が、キーボードがうんともすんとも言わない、不良品だった。何なのかな、これは…。
49ヴィクティム・レッド:2007/04/08(日) 11:09:00 ID:1dik2nif0
 キース・バイオレットの予想に反して、寝台の上のセピアは元気そうだった。
 あくまで予想に反して、というレベルの話ではあるが。
 セピアの収容されている個人病室の、過剰に豪奢な装飾はバイオレットの趣味だ。
 同じく彼女の趣味のコレクションであるマイセンのティーカップに深紅色の液体を二人分注ぎながら、呟くように言う。
「急に倒れたと聞いたから驚いたわ」
「ごめんなさい……お姉さま」
「『お姉さま』はやめなさいと言うのに」
「でも、お姉さまはお姉さまですから」
 ぎこちない笑みを浮かべるセピアの顔は蒼ざめていた。
 その細腕には点滴のチューブが二本接続されている。鎖骨の辺りにさらに一本。
 管を通して彼女の身体に注がれる薬液の名を、バイオレットは知らない。
 カップを載せたソーサーを一つセピアに差出し、もう一つを自分に引き寄せる。
 一口だけすすり、バイオレットは苦虫を噛み潰した顔になる。
「……そんなに、悪いのか」
「え、違いますよう。これはドクターが大げさなだけです。それに、この内の一つはただの栄養ですよ。
ご飯食べなくていいからダイエットにちょうどいいかなー」
 冗談めかして言うセピアだったが、バイオレットは笑わなかった。「なんちゃって……」という声だけが空しく宙に浮かぶ。
「つまり、食事を摂る体力も無いということなの?」
「あの、本当にそんな騒ぐほどのことじゃないです。年に一、二回はこんな感じにちょっと疲れちゃうだけですから」
「セピア」
「いえ、本当に本当の本当です」
 そのなんでもないふうを装う態度の裏に、頑ななまでの意固地さを感じ取ったバイオレットは諦めて息をついた。
 このまま押し問答を続けたところで、セピアは決して「はい、実は心臓発作で死に掛けました」などとは言わないだろう。
それこそ、たとえ心臓が止まっても。
 仕方なく、話題を変える。
「他に誰かが見舞いに来たかしら?」
50ヴィクティム・レッド:2007/04/08(日) 11:10:09 ID:1dik2nif0
「えー、とですね。一番最初に来てくれたのはグリーン兄さまでした。
いきなりヒュパって病室に。看護師の人が凄いびっくりしてました。わたしも口あんぐりでした。
それからシルバーお兄さまも。──あの、これはシルバーお兄さまには内緒にして欲しいんですけど」
「なに?」
「シルバーお兄さまが来たのは病室に入るかなり前から分かってたんですけど、
でもなんか顔合わせ辛くて、寝たふりしちゃったんです」
「なるほど、それは秘密にしておこう」
「それからブラックお兄さまにも来ていただきました」
 その言葉に、バイオレットはわずかに違う反応を見せる。
「……どんな話をしたの?」
「どんなって……『体調はどうだ』とか『ARMSの拒否反応は出ていないか』とか、そういうことです」
 さして期待はしていなかったが、やはり長兄の意図を探る手掛かりは残されていなかった。
「あ、それと、IMCセンターの人──任務のないときに詰めている職場の人、が何人か」
 と、セピアはサイドボードに置かれた果物籠を指し示す。
「まあ……」
 バイオレットは驚嘆半分、羨み半分の気持ちで溜息をつき、飲みかけのカップを皿に戻す。
 かつてレッドにも言ったことだが、彼女は警戒心が強い。そのようにバイオレットには感じられる。
 表面上は常に快活さを失わないセピアではあるが、それが彼女の本心からのものだとはバイオレットには信じられなかった。
 彼女もまたキースシリーズなのだ。その仮面の下には埋めようのない孤独感や虚無感が付きまとっているのだろう。
 セピアがこうして他のキースシリーズには類を見ない良好で微温的な人間関係を築けているのは、
彼女がその血を流す思いで外の世界に切り込んでいるからに他ならない。
 『モックタートル』の機能を用いて、人の感情の変化やその場の空気などといったものを読み取り、
たとえ表面的に過ぎなくとも上手に合わせているのだろう。
 そうしたベクトルでの努力は、ブラックやシルバーはおろかバイオレットですらおざなりであった。
 セピアだけが、ARMSを実生活の役に立てようという知的勇気を持っていた。
51ヴィクティム・レッド:2007/04/08(日) 11:11:09 ID:1dik2nif0
「そう言えば、レッドはどうしたの? 見舞いに来なかったのか?」
 バイオレットとしてはなんの気なしの質問だった。
 見舞いに誰が来た、という話にレッドが出てこなかったことを踏まえての発言だったが、
そんなことは聞くまでもないことで、質問の意図的には「レッドは今どこにいる?」といった意味に近かった。
 だが、そのバイオレットの目の前でとんでもないことが起こった。
 ぼっ、とそれこそ火のつくように、セピアの顔が一瞬で耳まで紅潮したのだ。
「────っ」
「……ど、どうした」
 その突然の変調にうろたえたバイオレットが腰を浮かしかける。
 セピアは彼女の凝視線を防ぐように両手を突き出し、ふいっと顔が胸につく角度で俯いた。
「いえ、あ、あの──いかえ──ました」
「なんですって?」
「お、おい、追い返し……ました。来て、は、くれたんですけど」
「なぜ」
「はず、恥ずかしくて」
 その意味が把握できず、バイオレットは眉を寄せた。
「それこそ、なぜ? レッドと喧嘩でもしたのか?」
「いえ、あの、ケンカとかじゃないんですけど、ある意味それ以上というか」
 セピアは困ったように、いや、困っているとかそういうのとは切り離された、バイオレットには理解できない感情のために、
ぶんぶんと何度も首を横に振って執拗なまでに拒否の意志を明示した。
「む、無理です」
 なにが無理なのかさっぱりだったが、やはり問い質したところで詮のないことなのだろう。
 バイオレットは再度諦めて、冷めたティーカップに口を付けた。
 セピアがなにを考えているか分からないのは、自分が人の心を理解できないからではないだろうか。
 そう思うと、口の中の紅茶はひどく渋く感じた。
52作者の都合により名無しです:2007/04/08(日) 11:11:15 ID:S6nY3wH+0
>NBさん
お久しぶりです。前スレいらっしゃらなかったんで心配しておりました。
氏は内容薄いとおっしゃいますが、相変わらずの戦闘描写は圧巻ですよ。
イブの健気さがその中で際立ってるし。リオンの何処か儚げな狂気もいい。
月一でも構いませんから、またお願いします。

>承太郎とP3の作者氏
「未来への意志」ですか。ジョジョっぽい良いタイトルですな。
投稿お待ちしております。あと、お名前も出来たら。
53ヴィクティム・レッド:2007/04/08(日) 11:11:57 ID:1dik2nif0

 突拍子もないバイオレットの質問に、キース・グリーンはさすがにキナ臭そうな顔をした。
「──心?」
「ああ。あなたはどうだ。なにかを恥ずかしがったり、なにかに泣いたりすることはあるか?」
「はあ? なんで僕がそんな女々しいことをしなければいけないんだよ」
「ならば、なにかに怒ったり、なにかに苛立ったりすることは?」
「やめてよバイオレット姉さん。レッドじゃあるまいし」
 相変わらず屈託のない返答であった。彼女が欲しかったのはそういう答ではなく、
そもそも質問が微妙にズレたかたちで受け取られている。話が噛みあっていないと言っても良かった。
 さすがにこれは予想していたバイオレットだったが、それでも予想と期待は違う。
 胸に沸き起こるなんとも言えない虚脱感を呼気に変えて、身体の外へ逃がす。
「はあ……だからあなたは『坊や』だというのよ、グリーン」
「な、なんだよ、それ」
「──ヒトには心がある。私たち作られた『キース』にも『それ』はあるのか、という話よ」
「ああ、そういうことか。それならそうと言ってくれれば良かったんだ」
 「本当に分かっているのかしら」というバイオレットの疑わしげな視線などどこ吹く風で、
グリーンはふむふむと思案深げに何度もうなずいた。
 そして、やおら顔を上げる。
「でも、なんでそんなことを? 普通人の尺度なんてどうでもいいじゃないか。
あいつらは僕ら優良人種たるキースシリーズを憎んでいるのさ。いずれ滅ぼされるべき僕らの敵だよ。
僕たち兄弟だけが世界で唯一つの味方なんだ。心だなんだなんて下らないよ」
54ヴィクティム・レッド:2007/04/08(日) 11:12:46 ID:1dik2nif0
 バイオレットはしばらく答えなかった。
 黙して自分の爪先に目を落とす姉を眺めて、グリーンは肩をすくめる。
「──紅茶」
「……え?」
「ヒトはよく美味しそうに紅茶を飲むわ。そして笑い、語らう。だから私もよく紅茶を飲むのだが……」
「そんな理由で飲んでいるのかい?」
 呆れたようにグリーンが漏らす。
 バイオレットの美貌は、その時だけは歪んでいた。
 己の喜劇的なまでの稚気を嘲笑っているのか、それともまったく別の痛みをその身に受けているのか、
それはグリーンに分かるはずもなかった。。
「──だが私は、紅茶を美味いと感じたことが一度もないの。……だから、笑えないのだろうか」
 答える言葉を持たないグリーンが沈黙を保ち、そのまま数秒が過ぎる。
「……変な話をしたわね。悪かったわ」
 その無言の空気を振り払うように、バイオレットが話を脱線させたことを詫びる。
 そして、二人は本線の話──、クリフ・ギルバートの引き起こしたサイコハザード『クリフ・ショック』の後始末であるところの、
エグリゴリの超心理学部門の再編成についてに議題を戻した。
 といっても、大まかな変更案はすでにブラックの筋から提出されており、彼女らのやることはその細部を詰めることであった。
 危険度レベルの再評価、外部監視対象者の監視体制の効率化、第三者的な審問期間の設立、研究報告の徹底告示……。
 右から左と書類を捌いていくバイオレットの手が、ぴたりと止まった。
「どうかしたのかい、バイオレット姉さん」
「……この監視対象者」
 どれどれ、とグリーンが横から覗き込む。
「ああ、ESP能力者か。僕も話だけは聞いたことがあるよ。
彼女は対象に接触することでその人の心を読み取ることのできる、『リーディング』と呼ばれる能力の持ち主だよ。
ハーレム住まいで……確か、名前は」
 バイオレットはすでにグリーンの言葉など聞いていなかった。
 ただ、穴の空くほどの鋭い目つきでその書類に添付された写真を見続けていた。
「あ、そうそう。『ママ・マリア』だ」
55ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/08(日) 11:29:54 ID:1dik2nif0
本筋からちょいと離れてバイオレットの話です。

>サマサ氏
だめだ、ビタ一元ネタが分かりませんw
このSSで原作学ばせてもらうつもりで読ませていただきます。
楽しそうなノリで、読んでて飽きません。ぐぐっと引き込まれる魅力があります。

>NB氏
どっちも譲れない意地と気迫を見せていますね。
バトル物の世界では、「殺さずに勝つ>殺して勝つ」という難易度の図式が成り立っていますが、
それでもイヴには初志を貫徹して欲しいです。

>>16
一応、貴也もメインで出すつもりですが、

>>17
まだメインキャラ出し切ってないんですよ。
そのごちゃごちゃ感が多分ブギーっぽさなので、大目に見てください。

>>18
それなりに意味は含んでいますが、向こうと違ってキーワードと連結させる予定は今のところないです。
56ヴィクティム・レッド:2007/04/08(日) 11:42:24 ID:1dik2nif0
>ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝 未来への意志作者氏
タイトルが決まるとなんか一挙にイメージが沸いてきました。
これから楽しみです。一秒でも早くスタンドとペルソナのバトル見たいw
キーボードのことは、不良品掴まされるのはままあることです。早めに交換の手続きをしたらいいんじゃねーでしょーか。
57作者の都合により名無しです:2007/04/08(日) 13:03:17 ID:G0qQxWf30
ハロイ氏お疲れ様です。
今回はヴィクテムの方ですか。両方の作品好きです。

ヴァイオレット姉さん、セピアに対しても凛々しい優しさ。
でもどこはかとなく優しさもありますね。
でも、みんなお見舞いに着たんだなー。シルバーまで。
それぞれのキャラッっぽいお見舞いの仕方ですが。

でも、>>51>>53って1レス抜けてません?
急にグリーンとの会話になったからちょっと迷った。
>>52さんの感想が急に入ったから(責めてる訳ではないです、52さん)
そう思うだけかな
58作者の都合により名無しです:2007/04/08(日) 14:44:29 ID:wS7N83Ol0
>NB氏
ちびっ子対決ですが緊張感あふれてますな。
イヴ、決死の覚悟ですがリオンの執念も恐ろしい。

>ハロイ氏
バイオレットは人間である事を捨てきれない、という感じのような・・
そしてマママリアがついにきた!
59ふら〜り:2007/04/08(日) 16:28:14 ID:KKeiNK4X0
>>1さん ハイデッカさん
どこの誰かは知らないけれど、誰もがみんな知っているテンプレ屋さん、正体見たり
ハイデッカさん、でしたとは。>>1さんともどもおつ華麗さまです! にしても、もうすぐ50
なんですよね。あの時とか、あの時とか、よもやここまで続くと誰が予測できたことか……

>>スターダストさん
両手両足両目両耳とノドを潰した人間を便所で飼ったという呂后。全世界史上でも屈指
のスゴい女だそうですが、また違う意味でスゴい扱いですな本作。みんなで暗殺計画を
練りつつも賑やかな劉邦の臣下たち、史実通りの末路になってもこのノリでいきそうな。

>>ハロイさん
>シュガー〜
おぉこれは我が憧れの一つ、いつかはやってみたいザッピング。で少しだけ色っぽい話に
なったかと思えばまた危なげな空気に。ともあれ、これでメインキャストは揃いましたかね?
>ヴィクティム〜
>セピアだけが、ARMSを実生活の役に立てようという知的勇気を持っていた。
この勇気、彼女にとってプラスとなるか否か。こういうのは弱点になるのが王道なので心配。
今のところはレッドやバイオレットに切り込めてるようですが、いずれ誰かに反撃されそうな。

>>サマサさん(ご帰還めでたし!)
本気で真面目に、ここからボン太くんスーツ使うんだと思ったんですが……いや、きっと
再登場して大活躍するに違いない。ドラなら体型があまり変わらないから、着こなすのも
楽なのでは。そしてドラの猫呼ばわりは原作でも稀な珍事、そりゃもう嬉しいでしょうねぇ。
60ふら〜り:2007/04/08(日) 16:29:26 ID:KKeiNK4X0
>>NBさん
>今まで自分より強い相手と戦った事の無いイヴ
……言われてみれば。イヴ自身が(本人の闘争心の有無はともかく)強いことと、やはり
常にリンスやスヴェンがいることとで、全然考えが及びませんでした。ある意味初陣とさえ
いえるこの戦いで苦戦、でも逆刃刀状態で逆転の彼女。でも次回、更に追い詰められそう。

>>承太郎P3さん
おぉ3部外伝ですか。私は4部以降より1〜3部の方が好きなので嬉しい。待ってますぞっ。
でPCはサポートに電話してみた方が良いのでは。ヘタなことして悪化する恐れもありますし。
 ノートパソコンの箱を開けたら、まな板が出てきた。プラスチック製の白いまな
板で、右側に取っ手の穴があいている。ヤムチャは電器屋に返品に行こうと思った
が、パソコンについての知識がまったくない。ひょっとしたらまな板型のノートパ
ソコンで、電器屋のオヤジに無知のサル呼ばわりされる可能性もある。しばらく考
えて、パソコンに詳しい孫悟空に確認してもらうことにした。

「おいサル」
「オラ悟空だ!」
 悟空は地球の存亡をかけた大決戦の真っ最中だった。ヤムチャは元気玉をこしら
えている悟空にまな板を見せた。
「悟空、これノートパソコンか?」
「オラ闘いで忙しい! 後にしろ!」
「地球なんかいつでも守れるだろ。これノートパソコンか? まな板か?」
「まな板だー!」
「あんがと」
 ヤムチャはまな板を抱えて電器屋に直行した。後ろから悟空の断末魔が聞こえた。

「電器屋ー! いるかー!」
 電器屋のドアを蹴破ったらオヤジがいた。ヤムチャが何か言うより早く、カウン
ターの下から最新のノートパソコンを出した。蓋の上にキャベツが一個のっている。
「分かってます! まずはこのキャベツを千切りにして下さい!」
 ヤムチャは包丁の刃をキャベツに当てた。力を少し入れればキャベツは切れるが、
その下のノートパソコンに傷がついてしまうかもしれない。ヤムチャの額から汗が
流れ落ちて、そして片膝をついた。
「切れん」
「でしょ! 次はそのまな板でやってみて下さい!」
 ヤムチャは言われるままに、キャベツをまな板に載せ替えて包丁を持った。なん
のためらいもなくキャベツを切ることができた。
「あ! 切れた!」
 包丁がリズミカルに音を立てて、山盛りのキャベツの千切りが出来上がった。ヤ
ムチャは少年のような表情でオヤジに言った。
「すごいよオヤジ! あんなに難しかったキャベツの千切りが、まな板にしたらこ
んなに簡単にできちゃった! ふっしぎー!」
「お客さん、ノートパソコンじゃこうはいかないよ! いい買い物したよ!」
「わーい!」
 ヤムチャは小躍りして店を出て行った。1時間後に戻ってきた。
「オレ様は、ノートパソコンが欲しいのである。まな板はいらないのである」
 オヤジはチッと舌を鳴らして、面倒くさそうにノートパソコンを持ってきた。ヤ
ムチャはパソコンを引ったくって、まな板をカウンターに叩きつけた。
「まな板は返してやる! 死ぬまでキャベツをきざんでろクソオヤジ!」
「もう返品はできないよー」
「するか!」
 ヤムチャは正真正銘のノートパソコンを持って、悟空に見せびらかしにいった。
悟空は敵に半殺しにされていたが、ヤムチャが呼ぶとうっすらと目を開けた。
「ごめんなヤムチャ。地球の平和は守れなかったよ」
「そんなもんは守らなくていいから。それよりノートパソコン買っちゃった!」
 ヤムチャは得意そうにノートパソコンの電源を入れた。ウインドウズが起動して、
画面右下にバルーンメッセージが表示された。
「コンピューターが危険にさらされています」
 ノートパソコンにはアンチウイルスソフトが入っていなかった。喜色満面だった
ヤムチャの顔が見る見る青ざめた。
「悟空、これどうしたらいい! パソコンの危険はどうしたら治るの!」
「ア、アンチ……」
 悟空は意識を失った。鼻の穴に指を突っ込んでも豚の生き血を呑ませても、悟空
はうんともすんとも言ってくれない。ヤムチャはパソコンを持ったまま右往左往し
た挙げ句、もと来た道を引き返した。

「オヤジ、アンチなんとかをくれ!」
 電器屋のオヤジはヤムチャをチラリと見て、奥の棚の一番上を指さした。
「あれだ」
「サンキュー!」
 ヤムチャはノートパソコンの上に新鮮なアンチョビサラダを載せて家に帰った。
おしまいなの。
64狂った世界で 序章:2007/04/08(日) 20:59:58 ID:Fr3l8KUm0
「ぐうううう……!」
 血管を浮き出させて、シドウが唸る。
 全身を満遍なく覆ったチャクラが、別の生物のように激しく蠢き、影真似の束縛を振り払わんとしていた。
 シカマルも全力で術をかけてはいるのだが、シドウの力はそれを上回る。
 影真似の持続時間は、長く見積もっても、あと一〜二分ぐらいだろう。
 まったく。敵ながら大した奴だ……シカマルは、心中で感嘆した。
 まさか、影真似からの脱出を一人で成してしまえるほどの力があるとは。
 シカマルは回想する。確か、前にも音の四人衆――多由也に、力技で影首縛りを破られそうになった経験があった。
 ベストを尽くしたつもりだった。それでも、ギリギリまで追い詰められた。
 あの時は……いくら考えても起死回生の一手が浮かばず、絶望したものだ。
 しかし、今回はあの時とは状況が違う。彼女の常人離れした力は、大蛇丸の寵愛の証である呪印での補正あってのものである。
 呪印は身体能力の大幅な強化と引き換えに、体を蝕む。サスケは自分の意志で里を抜けた……と言うが。
 結局は呪印に、大蛇丸に、囚われているだけなのだ、と。そのような話をナルトから聞いた記憶がある。
 だが、この男の力は、呪印に依存していない。チャクラコントロールだけを用いて、ここまでの力を引き出している。
 潜入の都合上、木の葉の中忍の装備を身につけているのだろうが、実力的には上忍クラスと見て間違いない。
 それでも――シカマルの表情に焦りは微塵もなかった。むしろ、勝利を確信したかのように、余裕ですらある。
 そう。シカマルは、チョウジに『大丈夫』と言った。だから、例え影真似が破られようとも負けはしない。
 とは言っても、シカマルの自信は、約束、信念、といった、戦場においては何ら信頼の置けない要素に裏打ちされたものではない。
 勝利への布石を地道に積み重ね、勝つべくして勝つ。それがシカマルの戦闘スタイルなのだから。
 シカマルはシドウに向き直り、バックパックを探ると、そっと、一本のクナイを取り出した。

 シドウの肉体は、自身の意思とは無関係に、目の前にいるシカマルの動作をトレースした。
 結果、シカマルとシドウは、お互い、クナイを構えて向かい合うような格好になる。
 シドウは一刻も早く術から逃れようと、歯を食い縛る。『影真似』と言うフレーズから容易に予想はできたが、やはり厄介な術だ。
 接触予定ポイント付近は木々の少ない、割合見通しの良い場所。利用できそうな地形はない……が。
 シドウが最も恐れていたのは、このまま術が破られれば敗北するだけと判断しての『相打ち狙い』だった。
 影真似の効果がある内に、クナイで急所を一突きされれば、こちらも無事では済まない。
 この状況でクナイを取り出した、と言うのは、つまりはそういう理由なのではないだろうか……!?
65狂った世界で 序章:2007/04/08(日) 21:00:59 ID:Fr3l8KUm0
 戦々恐々とするシドウをよそに、シカマルはクナイをシドウに向かって投擲せんと振り被る。
 シドウもまた同じように、クナイをシカマルに向かって振り被る。
 それにしても、おかしい。今投げられようとしているこのクナイが『相打ち狙い』だと仮定すると……腑に落ちない。
 いかに訓練を積んだ忍でも、相打ち覚悟の一撃ともなれば、発する気配に変化が生じる。
 なのに、今対峙しているこの忍からは、そういった心の揺らぎが、一切感じ取れなかった。
 言葉を交わさなくとも、わかる。こいつは、自分を犠牲にしない。それでいて、俺を『確実に倒す』つもりだ……!
 では、どうやって? この不遜なまでの自信の理由を、事前に看破する事ができれば、或いは対処可能かもしれない。
 ここでシドウが着目したのは、シカマルの『投げる』と言うアクションだった。
 お互い近付いて突き刺すのではなく、あえてクナイを投げる。その行動には、何らかの意味があるように思えた。
 そして。シドウは自然と、一つの結論に思い至る。こいつは……おそらく、投擲から命中までの、タイムラグを利用する作戦だ。
 クナイを全力で投げておいて、命中の瞬間、ギリギリ回避可能なタイミングで、影真似の術を解く。
 術を解く瞬間――行動可能になる瞬間を自分の意志で制御できるのだから、間一髪でクナイを回避する事など容易い筈だ。
 しかし、解除のタイミングが掴めない上、下手をすれば術を解く事すら予想していない俺は、バランスを崩した挙句、クナイの直撃を受ける。
 もし。奴の作戦が、自信の理由が、今予想した通りだとするならば……俺を舐めすぎている。
 命中直前に術を解除する。その可能性さえ頭の片隅にでも置いておけば、何も恐れる事はない。
 奴の動作を逐一観察。全神経を集中して、解除の気配を察知。襲い掛かるクナイの軌道を見切り、即座に反撃に移る。
 大丈夫。一対一の戦いならば、絶対に遅れは取らない相手だ……!

 クナイが、両者の手を離れた。シドウは、そのスピードの『遅さ』に驚く。
 明らかに、本気で投げていない。直撃した所で、致命傷どころか、軽傷を負わせられるかどうかも怪しい。
 そして、シカマルは……シドウの予想に反して、命中の瞬間まで、術を解かなかった。
 軽い衝撃。シドウの肩には、クナイが突き立っていた。出血こそしているが、傷は浅い。
 シドウの見る限り、シカマルも、軽傷と言うにも生温い、掠り傷を負っただけのようだった。
 これでは、以前、移動中に小枝で頬を切ったのと大差ないではないか……!?
 そんな愚にも付かない事を考えていると、不意に影真似が解けた。シカマルはふぅ、と息を吐いて、肩に刺さったクナイを抜く。
66狂った世界で 序章:2007/04/08(日) 21:03:03 ID:Fr3l8KUm0
「舐めるなあっ!」
 影真似が解けるが早いか、肩にクナイを生やしたまま、シドウはシカマル目掛けて突撃した。
 が、二、三歩進んだだけで、足が縺れて、地面に突っ伏すようにして倒れてしまう。
 シドウが全てを理解した時には、何もかも遅かった。全身が痙攣して、満足に声を出す事すらままならない。
「クナイに、麻痺毒を塗布しておいた……悪ぃが、暫く寝ててくれ」
 通常、標準装備のクナイに毒は塗られていない。バックパックの性質上、咄嗟に取り出す時など、取り扱い次第では自滅もあり得るからだ。
 シカマルは任務の内容を聞いた日の夜から、この作戦を……影真似と麻痺毒を塗ったクナイの組み合わせを考えていた。
 シドウは、自分の愚かさを呪う他なかった。影真似にかかった時点で、敗北は確定していたのだ。

 カイとゲンは、先行したフォルテツーの三人を追っていた。
 向こうも巻物を所持している以上、追い縋られぬよう全力で移動しているのだろう。すぐには差が縮まりそうもない。
 ふと、後ろに気配を感じて、カイは振り向く。見れば、早くもトウバが追いついて来ていた。
「フォルテツーは?」
 トウバは、長い前髪を右手で鬱陶しそうにかきあげながら聞く。
「まだ追いついていません……が、時間の問題です」
「奴等もこちらを追ってきている。ペースを上げるぞ。カイは先頭に立て。ゲンは後方索敵を」
「了解」
 カイは言われるまま、先頭に立ち、隊を先導する。だが……何か、違和感がある。何か、おかしい。
 少しばかり考えてみて、カイはその違和感の正体に気が付いた。
 そうだ。おかしいのは、トウバ隊長が出した『指示』だ。
 トウバ隊長は、何故、千里眼を持つ僕ではなく、ゲンに後方索敵を指示した……?
 これは、合理を信条としているトウバ隊長らしからぬ判断と言わざるを得ない。
 仲間が先行している前方より、敵が追撃してきている後方を優先して監視しなければならないのは明白である。
 問い質そうと、再び後ろを振り向く。トウバは、ゲンの隣に陣取っていた。その右手は、バックパックの中を弄っている。
 と。カイは、何気なく見たトウバの所作から『ある事実』に勘付き、愕然とした。
67狂った世界で 序章:2007/04/08(日) 21:04:49 ID:Fr3l8KUm0
 カイが『違和感』を覚えたのは、指示のミスだけではなかったのだ。
 カイの脳裏に、今までのトウバの行動が、走馬燈の如く過ぎる。

 ――額当ての位置を、神経質そうに何度も左手で調節しながら――

 ――トウバは左手を顎に添えて、ううむ、と唸った――

 利き手だ……利き手が違う……!
 疑惑は確信に変わる。それはあまりにも、致命的な見落としだった。
 本来なら、気付けた筈だ。トウバが『フォルテツーは?』と聞いた、その時点で。
 だが、トウバが開口一番『フォルテツー』との単語を口に出したものだから、それで警戒を解いてしまった。
 何たる不覚。『フォルテツー』も『カイ』も『ゲン』も全部……奴等の前で僕らが交わした会話に含まれているではないか……!
 難しい話ではない。ちょっと想像を働かせたなら、前後の台詞から、固有名詞の意味くらいは簡単に推測出来る……!
「千里眼!」
 迷う時間すら惜しかった。咄嗟に、童術を発動する。ポイント付近の索敵で大分消耗していたが、今はそれどころではない。
 カイの瞳に映ったのは……ゲンと、長い金髪をたなびかせた、女の姿。
「ゲン! そいつは、トウバ隊長じゃない!」
「なに!?」
「遅いわ」
 ゲンが声をあげると同時に、その喉元をトウバの(姿をした何者かの)振るったクナイが一閃する。
 頚部を切り裂かれたゲンは、大量の血液を惜し気もなく撒き散らしながら、暗い森の底へと落ちて行った。
68proxy ◆PROXYj6mwM :2007/04/08(日) 21:06:23 ID:Fr3l8KUm0
前話は47スレ229-232です。
合言葉と言えば、死の森での、合言葉は忘れちまったぜ!のあたりが思い返されます。
書いた後で気が付いたのですが、呪印には別に拘束力があるわけではない模様。
何とはなしに、バビディのMマークのような代物を想像していたのですが
パワーを引き出すだけで、呪印を付加した相手を眷属にできるわけではないようです。
69作者の都合により名無しです:2007/04/08(日) 21:42:31 ID:G0qQxWf30
>プロキシーさん
原作の頭脳プレイがそのまま、SSに生かされてますね。
シカマルのかっこよさと頭のよさ。彼の魅力が凝縮されてます。
コンマの中に、心理と策が絡み合う忍者バトルが楽しいです。


>リリカルなのは外伝作者さん
とにかく一言。これだけは言わせて下さい。
   『お帰りなさい、VSさん!』
間違ってたらごめんなさいw でも、多分間違いない。
70作者の都合により名無しです:2007/04/08(日) 23:36:31 ID:S6nY3wH+0
>ハロイさん(52です。投下中のレス、失礼しました)
バイオレットの前では、セピアも子猫のようになってしまいますね。
グリーンのお見舞いの時の、セピアの表現がかわいいですw
ママ・マリアがあの名言をどう伝えるか楽しみです。

>魔法少女リリカルなのは外伝作者氏
もし、VSさんとしたらこれほど嬉しい事はないですね。復活おめ!
確かに、文頭の半角空白とか、本文のデンパぶりとか、ヤムチャとかw
氏の作風です。新人さんでも勿論嬉しいです!

>proxyさん
序章とは思えぬほど、いきなりバトルがヒートしてますね。
本編に入ってもシカマルが主役でしょうか?ナルトは?一線に出て欲しいな。
やられ役のwトウバたち敵もいい味出してますねー!
71作者の都合により名無しです:2007/04/09(月) 00:15:54 ID:FhWpNUys0
>マジカルなのは
もし、これを書いた人がVSさんなら凄いなw
確かブログによると、VSさん30位なのになのはってw
でもお帰り。本物なら麻雀教室何とかして下さい。本当に。

>proxyさん
熱くも冷静なシカマルの頭脳の冴えが伝わってきますな。
軽く序章だけで長編になりそうな勢いですな。
ナルトよりシカマル主役の方が書き応えがあるかも知れませんな。

72作者の都合により名無しです:2007/04/09(月) 11:03:50 ID:bMNSC8mo0

アンドロメダって、歴代は殆ど女性だったんでしょうね。
正式なパーツとしてのマスク、瞬は雄モードとのことで背中にマスクをつけて着用。
バルゴも、歴代から見たら神仏級の強いインドボウズが着任しているのは異例でしょうね。
アクエリアスは本分は水瓶だし、まぁあれでいいんでしょう。

迷路を作り出すというテーマから、100年前の悪玉ダイダロスの手下・牝アンドロメダが俗世で
往年のジャンプにあるような回廊物を主宰する、という設定でリレー小説を提案しようと思います。
コースは、ギャラクシャンウォーズ編の円形の防御と同じ技で作られた円陣を、かなり太くしたもの。
ブロンズを目指す雑兵身分の勇者が、他の小軍団(魔術とかオリジナル)や俗世の戦士(銃兵とか)の
仲間と一緒に、「姫救出ゲーム」という名の姫タッチゲームに参戦。
戦いには観客が居て、トトカルチョも行われている。戦いの間は、聖域にはばれない。
ボスバトルでは、セイントカードを投げるとかのセコイ技も普通に繰り出されてくるしょぼさ。
ダイダロスがライラ級の傑物で、戦いには直接参加しないという設定。
立ちはだかるのは、俗世の騎兵とか罠の類、居合道家、普通の猛獣、鎖の輪を杭が通ってるだけなのに倒れない
立て札に記された謎かけヒントに基づいて解除できる通せんぼの類。

終盤には、マッハ1より速い銃弾や爆風+塩素系の仕込みという、闇社会側の攻撃との戦いも有ったりする。
序盤には酒瓶を投げてチェーンの凄さを知らしめてくれるバカ観客も居たりするw
73作者の都合により名無しです:2007/04/09(月) 12:08:27 ID:U8hlrm7A0
VSさん、相変わらずタイトルと内容が何一つ一致してないなw
復活おめ。


プロキシーさん、猪鹿蝶チームも大好きですが
やはり主人公とサクラもメインキャラにしてほしいな。
74永遠の扉:2007/04/09(月) 18:07:26 ID:mLs4zUmt0
あたしは栴檀香美! 
戦いにきたはいーけどさっ、ご主人気絶しちゃってるじゃん。
だからご主人守らなきゃなんないの! 
だからあたしなりにいっしょー懸命あの垂れ目と戦ってるんだけど!
くしっ! くしっ! んにゃ! あーくしゃみ出た。で、なんだっけ。
…………
…………
ふぎゃああああああ! やばい、まちがえた! 失敗したー!!
枝の上にのぼってさ、手のぶよぶよしたうっとうしい奴から……うん? 名前なんだっけ?
……うーみゅ。分からん。ご主人教えてくれたっけ?
って、考えてる暇なんてないじゃん! ひええ、また飛んできたぁっ!
あああ、あの、あの、あのうっとうしい奴で葉っぱを吸収して、針のよーに撃つつもりだったワ
ケよあたし! 分かる? ねぇ、分かる!
ここ高いし暗いし、メチャクチャ恐いの! あーもう1人じゃ恐い。ご主人早く起きてよ……
でもあたしはこらえてるの! 孤独の雨に打たれても、瞳は明日を見てるのよ!!
枝の上のしげみに隠れてさ、撃って撃って撃ちまくったら楽勝って考えたから!
ほらあたしってすっごく頭いいじゃん! 電話帳一冊ぐらいなら一瞬で暗記できるし!
ま、どういう意味かはちっとも分かんないけど。本当もう、時間とか足し算とか難しすぎ!
考えた奴、ばかじゃん! 難しいコト書いて弱い者イジメするなんてほんっっとーにイヤ!
でもあたしは頭いいから、しげみに隠れて一方的にアイツ撃てば勝てると思ったワケよ!
でもこのザマ!
きぃぃっ、垂れ目むかつく!
だいたいあたし、あんたが吹っ飛ばされたあと手当てして付き添ってたやったじゃん!
ありがとーぐらいいってもいいじゃん。それから戦いやめてくれたら解決じゃん。
あたしはねぇ、できたらケンカしたくないの!
そりゃ弱い者イジメする奴はこらしめるけど、死んだり殺したりはイヤなの!
なのにどーして追い詰めてくるワケ! 負けたって別に死ぬワケないじゃん!
アイツさ!
木の陰にひらひら隠れて針避けるの! んで、針を撃ったあたしに武器投げるの!
そしたら枝がぎゃーしてあたしが落っこちそうになって、ばーっと安全な場所に飛ぶの!
今もそう! 枝がぎゅらーって切り取られてあたしは軽やかにじゃーんぷ! うにゃー!
75永遠の扉:2007/04/09(月) 18:08:32 ID:DLMRNqzE0
お、お? あたしちょっと今、あやちゃん入ってるかも! 小札のあやちゃん風だとさ、

「ふしょー、ぶっ太い枝をたわませつつ軽やかにじゃんぷ! 幸いにしてゆく先には人一人
ぐらいなら辛うじて支えられそうな枝あり! これは松か、はたまた樫か! ともかくも人一人
ぐらいなら辛うじて支えられるコトは確実です! そこへ手を伸ばしがしりと掴み、軸にふわ
りと半回転すれば着地は無事なせるでしょう! おお、目に浮かびまするは、軽捷なる香美
どのならではの絶妙なる体技。正にウルトラC! 実現すればふしょーは10点満点の札を差
し出しだすでしょう」

ってトコ? 

「しかしここでアクシデント発生!」

え?

「枝にはカナブンさんが止まっておりました。このまま枝を握ればつぶすは必定! さー握る
かやめるか、今のお気持ちはどっち!」

や、やめるっきゃないじゃん! 死んだらカナブンかわいそう。で、でも……
わわわわ、落ちる落ちる、下見たけどココ結構高いじゃん! 猫だからってねぇ、奇麗に着地
できるのは2mぐらいまでなんだから恐いに決まってるじゃん!
こうなったら奥の手じゃん。しっぽで枝を……
うがああ! しっぽ痛い痛い! お尻も痛い痛い!
でもどうにか枝にしがみ、ぎゃああ!
な、なんであんたがここにいんのよ垂れ目! カ、カナブン踏んでないでしょーね!
あ、ああ。よかった。飛んで逃げてる。よかったよかった。達者でくらすのよカナブン。
ふぁ? 何よ垂れ目。変な顔して。
さっきの武器を見ろ? うん。見る。でも不意打ちしたらひっかくわよ! いいわね!
うあ、他の枝に引っかかってる。で、なんか蔓がついてて、それが枝のところにぐるぐる巻き。
え? 目がいい? そうでしょそうでしょ。だってあたし猫だもん。目はいいの。
じゃあなんで暗いところが嫌いかというと、暗いところだから。
76永遠の扉:2007/04/09(月) 18:11:13 ID:DLMRNqzE0
目が良くてもね、人間でいうなら懐中でんとーで照らしてるよーなもんだから、暗いのに変わ
りないし。まぁ、正直あんたが来てくれてちょっと安心してるかも……
え、あ。さっきの武器の話?
……ふっふっふ。何いってんの。
電話帳は一瞬で暗記できるのに言われたコトはすぐ忘れるのがあたしよ!
覚えてるワケないじゃない! だからもう1度見る! ゴメンね垂れ目!
ははん。よーするにアレね! 鳩尾の奴がよくつかってる鉤なんとか。
遠い場所に引っ掛けてここまで上ってきたってワケね! ん? でも何か忘れてるよーな。
…………
…………
…………
はっ!

あたし追い詰められてるじゃん。ダメじゃん!
でもそれ以上にやばいの! は、早く移動すんの垂れ目!
違うじゃん! 逃げるとかそういうのじゃなくて、ああもうほら、ミシミシいってる!
何が? きぃぃ! これだけ説明しても分かんないの!
ここは人一人分ぐらいしか支えられないの!
だから……ぎゃあ! 足元がボキリといった! 枝折れた!

あああああああああああああああああああああああああああ!!

落ちる! 落ちる! 恐い恐い! 高いの嫌あああ! ちょっと漏らしたああ!
やだやだ。あたし死にたくない。恐いの嫌……って、止まってる。
お腹のあたりに垂れ目の手がある。
で、あいつ、もう片方の手で蔓握ってる。
あ。
さっきの武器が支えになってあたしと垂れ目が宙ぶらりんだ。
ありがと垂れ目。何とか助かったからさ……

「あたしの負け」
地上に戻ってからあっけらかんと呟く香美に、剛太は唖然とした。
77永遠の扉:2007/04/09(月) 18:12:35 ID:DLMRNqzE0
まるで卵を丸呑みしたようなマヌケな表情だと、自分でも思う。
思いながらも香美の肩口からモーターギアを抜き取り、枝に投げ、括っていたもう片方を回
収した。
(ま、いっか。いつまでもコイツと戦ってても仕方ない。さっさと捕まえて先輩と合流するのが
大事)
「ってワケであたしを逮捕!」
剛太が葛藤する間に、香美は自分の手を正面でぐるぐるに縛った。
先ほどの蔓である。蔓をくわえて最後の結び目をくいっと一引き。
「何やってんだ」
「何って、あたし降伏したから。ん? なんだったらさ、お腹見せながら寝っころがる?」
「いや、そーじゃなくて」
剛太は頭が痛くなってきた。
どうにも現実主義的な傾向だから、気楽な人間というのが受け付けられない。
カズキもそうであったし、香美も然り。
「お前、さっき散々ご主人がどうとか喚いてただろ。それが何で急に降伏とか」
香美は不思議そうに剛太を見つめた。それからしぱしぱと瞬きをして、笑った。
笑うと八重歯が覗いて本当に気楽な表情だ。
「だってあんた、あたしを助けたじゃん」
剛太は焦った。そういえば何故香美を助けたのか。
(放っておきゃあ良かったんだ。だってコイツ、ホムンクルスだぞ?)
戦士の通念上、もはや害獣としかいいようのない存在だ。
戦場でそれを助けたとあれば、査問会に掛けられても仕方ない。
ただ、剛太が枝に移動したとき、香美はカナブンがどうとか本気で心配して、無事な様子を
確認すると心底安心したような表情を浮かべていた。
それを動機に助けたとしたら、すさまじく甘い対処といわざるを得ない。
カズキですら

──武装錬金(コレ)は人に害を成す怪物(ホムンクルス)を斃すための力で、人を殺すた
──めの力じゃない。

といっている。でも剛太はモーターギアを鉤縄のように使って香美を助けてしまった。
(ったく。本当に俺は何やってんだか)
78永遠の扉:2007/04/09(月) 18:14:03 ID:DLMRNqzE0
剛太は腰に左手を当てた姿勢のまま香美から視線を離し、軽く舌打ちした。
「るせぇ。勘違いすんな。てめーには色々話して貰うコトがある。だから殺さなかっただけ」
香美のしっぽがひょこひょこした。
「だったら殺すつもりなかったってコトでしょーが! んで、あたしを殺すつもりないってコトは、
ご主人も殺さないってコトで、あんたはご主人の敵じゃないワケよ。だったらケンカしない。も
りもりからも、戦えって言われてるけど、勝敗はどっちでもいいらしいしっ!」
気楽な様子に、剛太の頭痛はますますひどくなる。
軽くうなだれ、頭に手を乗せた。
(本当分かってんのかコイツ? 尋問終わったら殺されるかも知れないって。キャプテンブラ
ボーや千歳さんならともかく、先輩がコイツを放っておく筈が──…)
ハっと目を見開くと、剛太は慌ててかぶりを振った。
(い、いや。俺がコイツの心配をしてやる必要ないって! 大事なのはコイツを護送して、それ
から先輩と合流する! それだけ!)
同情的な気配を払拭するように、剛太は話題を変えた。
「ところでてめェ。なんで俺の顔を知ってたんだ?」
「んにゃ?」
ぐじゅぐじゅと蔓の端っこを食べながら、香美は猫耳をぴくぴくさせた。
「喰うなよ!」
「っていわれても毛玉吐くのに必要だし」
ごぎゅりと飲み込むと、「何?」っと香美は応じ、今一度の誰何を受けると答えた。
「あ、あれね。あれはね、もりもりから聞いたの」
「もりもり……ああ、総角主税とかいう男か」
「そそ。んで、もりもりはひかり副長から聞いたって。ん? あんたひょっとして知らないの?」
「何がだ」
「だってひかり副長さ、あんたと会ったコトあるらしいけど」
「はぁ!?」
「だってね、実は……」
『ハーッハッハッハッハッハ! 不覚にも気絶していれば香美が途轍もない大失態を
やらかしかけてるなぁぁ!!!』
大砲のような大声が、突如として山中に響き渡った。
剛太は反射的に度を失った。生物的な驚嘆に肩をびくりと震わせるのが精一杯。
反対に香美は喜色満面だ。
79永遠の扉:2007/04/09(月) 18:15:00 ID:DLMRNqzE0
「別に時間かせぎしてたワケじゃないけどさ、ご主人起きた。これで夜道も恐くないっ」
「ご、ご主人……?」
そういえば先ほどの戦闘の最中、ご主人と呼ばれる男の声が随所で響いていた。
山に飛ばされた直後にも、香美は「ご主人が気絶して……」といっていた。
(しまった。まさか敵はこの猫娘だけじゃなく、もう1人……!?)
『駄目だ香美!! それは極秘中の極秘!! すでに6つある割符のうち、5つは僕たちの
手中にあるなんてのは!!」』
森がとてつもない静寂に包まれる。
剛太も、そして香美も、全身から脂汗が溢れる思いをした。
「ちょ、ご、ご主人、それだけはバラしちゃ……」
「本当なんだな」
「え、え?」
急に沈み込んだ声のトーンに、香美はどぎまぎした。
「てめェらが割符を既に5つ持っているというのは!」
『ははは! ウソだ! ちなみにドロボウがよく使う唐草模様の風呂敷は、むかしの家庭に
よくあったもので、忍び込んだドロボウがそれに貴重品を包んで逃走するというイメージの
元に作られたようだ! こっちは本当だぞ! オレンジページの”あなたに代わって見聞帖”
で読んだからなあ! そして割符5つはウソだぞ本当に!』
「ご、ご主人、垂れ目全然話聞いてない! てか飛び掛ってきたあ!」
剛太のこの時の機敏さは、特筆するに価するだろう。
(本当だとすれば一大事じゃねェか……! ボヤボヤしているヒマはねェ!)
よく分からないが敵の声の出所は香美。
香美へのかすかな葛藤もあったが、緊急ともいえるこの事態の前に押しつぶした。
瞬殺狙いで攻撃するのは当然の術理であろう。
もっとも、そういう術理を電撃的に身体へ反映できる者は稀有といえる。
剛太は、稀有であった。
手にしていたモーターギアを踵に移動させ終わる頃には、その身を躍り上がらせ、香美の喉
首目がけて鋭い蹴りを繰り出していた。
手を拘束していてもさすがに香美。慌てて足を後ろに半歩引き、蹴りをかわしていた。
「しゃーっ! さっきの言葉はウソなの!」
『怒るな香美! 戦士としてはむしろ正しい行動だぞっ!!』
「けど」
80永遠の扉:2007/04/09(月) 18:16:48 ID:DLMRNqzE0
『お前を追い込むほどの相手だ! 今こそ交代するぞ、時間を稼ぐんだあ!』
「う、うん。……分かった」
戸惑いの色を含んだ眼差しを、剛太に向ける。
その色はホムンクルスらしからぬ申し訳なさに溢れていて、剛太の胸が一瞬きりきりと痛ん
だ。
「実をいうとさ。あたしの手の中に割符があるワケよ」
縛られたままの手を無理にねじ開いて、剛太に向ける。
「あんたら、コレがないと困るんでしょう?」
事実だろう。
少なくてもその回収を任されている新人戦士の立場からすれば、目前にしながら回収できな
いというのは立場的な死活問題である。
「だから今から……コレを撃っちゃう!!」
「何を」
「忘れたの? あたしの手から射出された物はそこそこ素早いの!」
『そうだぞそうだぞ! 水はウォーターカッターのようにホムンクルスを切断し、葉とて針のよ
うに鋭く飛ぶ! 空気はいわずもがなのカマイタチ! いかに割符が頑丈でも、そんな速度
で木にぶつかったらどうなるか!!』
破壊は目に見えている。
「く…… だったらその前にお前たちを!」
「残念だけど、遅い!」
香美の手から射出された長方形のプレートが、剛太の頬を掠めた。
声にならない呻きで踵を返す。そして踵の戦輪(チャクラム)を全身全速!
急発信の自動車のような無理な重力に上体がさらわれそうになる。
それを力づくで戻し、けして平坦ではない森を疾駆する。
視界の両脇には木のみならず大人が座れそうな石すら点在している。
気持ちの悪い揺れが足からガタガタと立ち上り、至る所が軋み始める。
そんな努力をよそに割符はぐんぐん遠ざかる。
行く先には大木。当たれば粉砕は想像に難くない。
「く…… おおおおおおおお!」
剛太は駆けに出た。
右踵で活動中のモーターギアを心持ち斜め前へ射出! 
右足が動力を失い、左足に引きずられる形になる。
81永遠の扉:2007/04/09(月) 18:18:02 ID:DLMRNqzE0
されどそれは一瞬のできごと。
左踵の戦輪に先ほど射出された右踵のそれががっぎと絡み合い、弾く。
モーターギア、スカイウォーカーモードの回転数は平生のそれを下回る。
なぜならば剛太の自重を支え、かつ、地面との軋轢に力を散らしているからだ。
自然、投擲時の回転数を下回る。
だが!
いいかえれば中空においては踵の回転数よりはるかに早いというコトになる!
そのありあまる回転が、土着疾走の戦輪に絡み合えばどうなるか!
次の瞬間、爆発的な加速が剛太の左踵から誕生した!
彼は一瞬だけ、何の重力の干渉もない本来のモーターギアの回転数を動力としたのだ。
本来なれば追いつけない、割符の飛翔速度をもしのぐ加速を得た!
そのまま彼は飛び上がり、割符目がけて大きく手を広げ──…
掴んだ!
そのまま地面に転がり落ち、服を土塗れにしながらごろごろと転がるコトしばし。
乗り物酔いにも似た吐き気に顔面を蒼白にしながら、剛太は立ち上がった。
「気持ち悪ぃ……」
手に割符があるのを確認する。どうやら蝶の羽を模したらしいレリーフが刻まれている。
もっとも剛太はさほど昆虫に興味がないので、それがどの部分の羽かは分からない。
ちなみに近くには一抱えもある大きな石が鎮座しているが、先ほど弾き飛ばした右踵のモー
ターギアがほとんど埋没した状態で突き刺さっている。
左踵の戦輪を弾いた時の衝撃のすさまじさが雄弁に語られているといえよう。
『ハーッハッハッハ! ナイスだぞ少年!! 身を呈した任務遂行、実に恐れ入る思いだ!』
「そのご褒美に見せたげようか? あたしたちの交代っ」
木々を縫ってゆるやかに現われたのは香美だ。
やや背は高くすらりとしながらも豊かな胸を持つ、ちょっとお馬鹿な猫耳美少女。
『ソフト面ではすでにOKだ! 後はハード面のみ!』
彼女は身構える剛太を物ともせず、手を動かした。
どうやら先ほどの拘束は自力で解いたようだ。ひょっとしたらその時間稼ぎも含めて割符を
飛ばしたのかも知れない。
「ぴしゅう、ぴしゅう、ぴしゅう、ぴしゅう……」
まじないのような声が香美の口から漏れる。
両手の人差し指(猫にあるかどうかは別として、人間でいうところの部分)を彼女は立てた。
82永遠の扉:2007/04/09(月) 18:19:21 ID:DLMRNqzE0
次に左手は腰だめに。
もふもふした右手は、腰からゆるやかに持ち上げた。
そしてそれが肩のやや上まで来ると、剛太に掌が向くようババっと捻った。
「……変身!」
『ターンアップ!』
自らの頭を掴み。
そのまま、力任せに香美は捻った。
ごぎりという鈍い音に一拍遅れ、香美の頭は180度回転した。
「な……?」
異変はそれだけで終わらない。
髪に入った鶯色のメッシュが、周囲の茶色に溶けていく。
のみならず、髪が見る間に縮む。逆に後頭部では髪が伸びる音がする。
そぞろに戦慄を禁じえない。
いったいどう形容すればいい。
現実主義者の剛太だから、見たままそのままをいえば済むはずだ。
だが彼は唖然と目の前の光景を見た。見守るように見るほかなかった。
それまで香美の後頭部だった部分から。
人の顔が現われた。
まず見えたのは顎だ。T字型の無精ひげを生やしている。
唇は火の酒を含んだように赤く、鼻は取り立てて特徴がない。
眼は閉じたままだ。
剛太は微熱の出る思いで、縮みきった髪を、変貌を遂げた香美を見た。
短い茶髪。
ミディアムボブを基調とし、トップから前髪までを左に向かって撫で付けている。
かといっていわゆる「横分け」のように平坦ではなく、ふんわりとしたボリュームがある。
サイドの長さは耳を隠しながら頬の中ほどまで。軽く入ったシャギーが香美を連想させる。
襟足もひょろりと伸び、シャギーがある。
そしていまや体には男性的な変化が訪れている。
豊かな胸はすっかりしぼみ、肩も華奢さを失い、ごつごつとした岩場のような景観だ。
ハーフパンツから覗く脛にもうっすら脛毛が生えている。
だから手足がみちみちとした筋肉に彩られていても、ああそうかと麻痺した脳が思うのみ。
『ふふん。ビックリした!?』
83永遠の扉:2007/04/09(月) 18:20:25 ID:NxvrPbqT0
香美の声がした。先ほど聞こえた『ご主人』のようなくぐもりを帯びて。
それもそうだ。なぜなら彼女の顔のあった部分はいまや後ろを向き、髪に覆われているの
だから。
「激しい雨と風に打たれて、鼓動が俺を呼び覚ます!! ……さーてさてさて!! 貴方と面
と向かって挨拶するのはこれが初めてか!?」
眼が開いた。
レモンを横に貼り付けたような形で、かなり大きい。
全力で見開けばそこから顔がめりめりと裂けるのではないかと思わせるほどだ。
反面、瞳孔は極めて小さい。太いマジックで点を打った程度だ。
「初めてだろうなあ!! ああ、初めてだろうとも!! そーいえば学校でも早坂桜花と顔を
合わさなかったか! 声を掛けただけらかな!」
『ご主人、噛んでるって』
「ふはは。人と顔を合わせるのは久々だから緊張している! よって僕は挨拶をするぞお!!!」
とてつもなく気合の入った暑苦しい言葉がほとばしる。
剛太は期せずして2〜3歩後ずさった。気おされたのだろう。
「僕の名は貴信! 栴檀貴信(ばいせんきしん)!! 香美と体を共有するブレミュ随一の鎖
使い!! 好きな物はゲッターロボの歌だ! 漫画やOVAは見ていない!」
そのまま剛太は駆けた。後ろに向かい。
「ふはは。逃げるか! 『走り出せッ!! 振り向くコトなく冷たい夜を突き抜けろ!』か! 
それもそうだろう、だって僕たちが割符を占有していると知りッ! 今しがた割符を1つ手に
入れた! そして目の前には未知なる敵!!! 戦わずして引き、本隊と合流せんとするの
は戦略上正しい!! 確かに正しい!! だが、向かい合う僕には真逆で間違い、許しちゃ
ならん一大事ぃぃぃ!」
人間のそれに戻った掌がぼこりと隆起し、核鉄を出した。
「熱くなれ夢見た明日を! 必ずいつか捕まえる!!」
貴信は核鉄を握り締め、山を揺るがす大音声で叫んだ。
「武 装 錬 金 ! !」
小銭を落とすような「ちゃり」という音が響くなり、光が大木めがけて伸び退る。
大人が4人がかりでようやく抱えられる野太い幹に、鈍色の金属が纏わりついた。
互い違いに編まれた金属の輪、という方が実体がわかり易い。
その名称──…
「鎖分銅(クサリフンドウ)の武装錬金!! ハイテンションワイヤー!! いぃけええええええええええ!!!」
84永遠の扉:2007/04/09(月) 18:21:46 ID:NxvrPbqT0
貴信が手を引くと、鎖にまとわりつかれた大木が怒号のような音と共に引き抜かれ、轟然と
宙を舞った。
それを力任せに貴信は振り回す。
大木は恐ろしいコトに、枝でホウキのように空掃きつつ2mほどの頭上で旋回している。
やがては加重すら帯び、めりめりと辺りの木々をなぎ倒しなぎ倒し。
逃げる剛太は背後のおぞましい音に怖気を覚えた。
(どうせ割符は手に入れたんだ。早くこの場を離れねェと)
「させるとお思いか! この僕が貴方のお相手つかまつろう!!」
貴信、言葉も終わらぬうちに、「むん!」と背筋に力を込め、大木を剛太めがけて投げつけた。

あとがき
いやはやようやくココまでやってこれました。本当は昨年12月末にやる予定だったのにw
貴信については1年ぐらい前から設定を決めてましたが、容姿は土壇場で決定。
美形にするかそれ以外にするか、悩みました。ちなみに髪型はカズキ役の福山潤さんを参考にしとります。

>>前スレ406さん
その通り。項羽と劉邦は三国志よりずっと前のお話です。このお話に出てくる夏侯嬰もしくは
曹参が曹操の先祖だとか。いいですよ横山作品。古い印象もありますが、例えば伊賀の影
丸なんかは今読んでもなかなか衝撃的。あばれ天童なんかは古さが逆にたまらない!

>>4さん
横山作品のパロ全開で行く予定ですw きっちり完結しているのが多いのでシリアスには描
きづらかったりするのです。武装錬金なんかは打ち切りのおかげで補完しがいがあるのです
が…… もしシリアスを描くとしたら、石倉を主人公にしたあばれ天童か、血笑鴉とサムライうさぎのコラボ。

>>6さん
ちょくちょく手を入れて参りますよ。あれやこれやを補強して、今ならではのネタも盛り込みたく!
うーん。完結してもそれ以外の環境が動いているって素晴らしい。チャンピオンREDのジャイ
アントロボも蝶・サイコー! バンテスおじさんとか殴られる天童が良すぎますね。
85永遠の扉:2007/04/09(月) 18:22:53 ID:NxvrPbqT0
ハロイさん
ありがとうございます。ややこしい話なのですが、呂后を描いた作品には「項羽と劉邦」「史記」
の2つがありましてそのうち前者は美人、後者は似顔絵の通りなのですよ。が、史記の方で
も6巻あたりでは美人だったりするのでややこしい。史実では八面六臂、身の丈5mの牛鬼です。(ウソ)

>シュガーハート&ヴァニラソウル
教師と生徒の恋愛というのは一つのロマンでありますね。「初めての友達、そして転校生 @」にて
逃げた学生服が貴也なのですね。でないとしても強盗は依然として存在していたのは事実なワケで
果たして貴也は何をしていたのか。ブギーポップは未読なので予想だにできず……

>ヴィクティム・レッド
なんだかんだで身内思いなキースシリーズたち。グリーンやブラックはともかく、シルバーが
見舞いにくるというのは意外w で、セピアはすっかり恋愛モード。対するバイオレット姉さん
は理知的。紅茶のくだりにニヤリとしました。そしてマママリアが登場! エピソード0ならではのイベント!

ふら〜りさん
件の場面は伝え聞いていたにも関わらず、マーズよりもショッキングでした。アレを見せられた
息子・盈が不憫で不憫で…… 呂后は武装錬金と横山作品の設定をミックスした強力な敵に
なるかもです。で、韓信なんかはこのテンションで粛清されたら面白いかもw
86作者の都合により名無しです:2007/04/09(月) 19:11:25 ID:FhWpNUys0
お疲れさんですスターダストさん
香美も小札に負けずに可愛らしいキャラですな
気まぐれな猫のような。

しかし、最初から構想全部決めているのはすげえなあ。
87作者の都合により名無しです:2007/04/09(月) 23:08:08 ID:0U+0m8ma0
スターダスト氏乙です。
香美に翻弄される剛太が可愛いな。
剛太はトキコさんに翻弄され、香美にも翻弄されいい男になっていくのか。
貴信も香美に劣らずハイテンションなキャラですな

88作者の都合により名無しです:2007/04/10(火) 00:19:06 ID:Mx/PECE+0
錬金とはここまでスターダストさんやさいさんが惚れ込む作品だったのかな
もう一度読んでみるか。
スターダストさん乙です。剛太は何気に一番好きなキャラなんで、
香美との戦いが終わっても活躍させてほしいな。
89シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/10(火) 05:39:38 ID:MO72Qq5S0
『復活のビート Part3 A』

 世界の敵を殺す、とブギーポップは言った。
 そしてこの場合、殺されるべき敵とは──。
「な、なんだテメエは!?」
 赤ん坊を抱えた男が引き攣れ気味に声を荒げる。包丁を握る手がより固く、その指は白くなっていた。
 あと一歩でもこっち側に踏み込んだら刺してやるぞ、とでも言いたげな警戒心に満ちていた。
 当然の帰結として男の注意はレジカウンターから外れ、その事態の急転に店員の視線が左右に揺れる。
「ちょ、ちょっとブギーポップ」
 初佳が当惑したように貴也──今はブギーポップだが──の腕を引いた。
 その仕草は、『ブギーポップ』を秋月貴也とは乖離された一人格として扱うことになんの抵抗もないという感じだった。
「なんだね。見て分かるとは思うが取り込み中だ」
「うっせえわよ。アンタ、なんか無茶なコト考えてんじゃないでしょうね」
「それはどういう意味かね」
 生真面目かつ冷淡に応答するブギーポップに、初佳はロボットかなにかの相手をしている錯覚に陥る。
「アンタが無茶をすると赤ちゃんが危険に晒されるって分かってんの? それじゃ元も子もないでしょーが」
 初佳の懸念を受け、そいつは深い息を吐く。そして、表情ひとつ変えずにこう言い放った。
「──君は、一体なにを言っているんだ?」
 それはまるで「ものの分かっていない」のは彼女だと言っているようで、事実そう言っているのだろう、
完璧に思考の虚を突かれた初佳は目を白黒させる。
「は。……え? アンタ、赤ちゃんを助けに『出てきた』んじゃないの?」
 今の今まで首だけ捻って応じていたブギーポップだったが、
その質問に対しては、あろうことか強盗に背を向けてまで初佳を正面から見据えて答える。
「君は……いや、君たちは物事を一面からしか見なさ過ぎる。
──どちらかと言うと助けを求めてるのは『彼』の方だと思うがね」
90シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/10(火) 05:40:39 ID:MO72Qq5S0
「な──」
 二の句が告げない初佳にお構いなくブギーポップは先を続ける。
「見て分からないか? 彼は今、自分を『見失っている』だけだ。そんな人間が『世界の敵』になり得るはずがない。
……彼は非常に二価的な存在だ。武器と、守るべきものと、その相反する可能性を等しく心の中に抱えている。
だからこそあんなにも苦しんでいるんだ。そのどちらかを捨てるか、或いはその二つを重ね合わせてしまえば楽になれるだろうに」
 舞台役者の独白のように、朗々と述べている。
 その背後では男の呻き声がした。それは魂の一滴までも搾り出すような、悲痛な声だった。
「その苦しみから解き放たれた者──迷うことを『完全に諦めた』者こそが、私の敵だ」
 そして、ブギーポップは再び前を向く。
 こいつが言うところの『敵』と相対するために、すなわち──。
「そう──君が『世界の敵』だ」
 事態のほぼ中心にいながら、傍観者の誰もが注意を払わなかった『そいつ』、
コンビニエンスストア『オーソン』のレジカウンターに立つ、たった一人の店員と対決するために。

「──なんだって?」
 『そいつ』の言っていることは電波以外の何物でもなかったので、俺は思わず顔をしかめた。
 なにかの悪い夢だと思いたかった。
 生活のためにこうして朝から真面目にバイトしてるのに、コンビニ強盗に遭うわ、
いきなり乱入してきたキ印さんに敵だのなんだの言われるわ、弱り目に祟り目とはこのことだろう。
 だが、今俺の目の前で起きていることは紛れもなく現実だった。
 どう見てもヤク中の強盗は相変わらず胡乱な目つきでうーうー唸ってるし、
女みたいな顔した『そいつ』は不気味なくらいの無表情で俺をじっと睨んでいる。
「『普通ということをどう思う?』」
 『そいつ』は、いきなりそんなことを俺に聞いてきた。
 ……いや、どうやら聞いた訳じゃないらしい。
 というのも、『そいつ』は俺の答を待たずにさらにしゃべり始めたからだ。
91シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/10(火) 05:41:50 ID:MO72Qq5S0
「『普通というのは、そのまま放っておいたらずーっとそのままだということだ。
だからそれが嫌なら、どこかで普通でなくならなければいけない』。──これは、ある夭折した小説家が遺した言葉だ。
君は自分が、自分を取り巻く環境が『普通』であることに真に絶望している。だから、この『能力』を発現させた」
(……『能力』? 『能力』だって?)
 『そいつ』の話し振りだと、俺がなにかをしてるように聞こえる。だけど、
「お、俺はなにもしていないぞ」
 そう、俺はなにもしていない。強盗が目の前にいてもなにも出来ないでいる、それなのに、
「ならば逆に聞こう。どうしてなにもしないんだ?
君の目の前に、店の売り上げを強奪しようとしている男がいる。そうした手合いに対する方策を知らないわけではあるまい?
そもそも、どうして君は一人なんだ? 他の店員はどうしたんだね?」
 言われて初めて気がついた。
 店の中に、俺と同じ上着を着た人間が一人もいないことに。
 強盗が来るまでは接客に追われていてそのことにはまるで気がつかなかったが、
朝のピークの時間帯を考えると、それはとんでもない異常事態だった。
 見ると、補充途中のコンテナがパンの陳列棚の前に置きっぱなしになっている。
 トイレとかゴミ出しかなにかだと思うが、それは俺がただ思っているだけで確かめたわけではなかった。
「……し、知らない。たまたまみんな持ち場を離れているだけだ」
「そうか──つまり君はこう言いたいわけだな。
『たまたま他の従業員の全てが朝の込んだ時間、稼ぎ時というやつに揃いも揃って職場を放棄したその瞬間に、
たまたま赤子連れの押し入り強盗が現れて他ならぬ君に金品を要求し、
たまたま私のような正体不明の怪人が割り込んできて君を殺すだのと物騒なことをのたまっている』、と」
 言葉だけ聞くとふざけて言ってるとしか思えなかったが、『そいつ』は極めて厳しい声音だった。
「『偶然』の一言で片付けるには異常すぎる状況だと思わないか?」
92シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/10(火) 05:43:54 ID:MO72Qq5S0
 『そいつ』がなにを言いたいのか、俺には少しも分からない。
 分からない、分からないが……。
「君の心の奥底に潜む『普通』への憎悪、果てのない渇望が『それ』を発現させた。
その力に誘われて、そこの彼や私のような、アンバランスな者たちが今まさにこの街に集いつつある。
『不透明な存在を呼び寄せる能力』──『テイルズ・フロム・ザ・トワイライト・ワールド』とでも呼ぶべきその力……。
君はあくまでなにもしない、なにもしないまま、世界が混沌の坩堝と化すのを、フェアリーテイルでも読むように眺め続けるのだろう。
絶対の安全を約束された『無責任な傍観者』として、この世界が『普通』ではなくなるのを目の当たりにする──『それ』はそういう類の力だ。
おそらく、『それ』は無意識の能力なのだろう──だからこそ、歯止めの利かない真に危険な能力だ。
いずれ取り返しのつかない『なにか』を巻き込み、君を中心として世界は滅亡するだろう。
兆しはすでに顕れている……世界の終わりは近い」
 分からない、分からない、分からない、分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない
分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない
分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない
分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない
「それを食い止めるために私が浮かび上がってきたんだ。君にこんな長話をしたのもそのためさ。
君を事態の『当事者』たらしめ、『安全圏』から引きずり出すためにね」
「ガイキチが適当なこと言ってんじゃねえ! 俺に恨みでもあんのか!?」
「残念ながら私は自動的なんだ。私の主体性など問題にならない。
私のやるべきことは一つ……君の能力が『崩壊のビート』を刻むその前に──」
 分からないが──、
「君の『生命の鼓動(ハートビート)』を打ち消す……!」
 こいつは──俺の『敵』だ!
「うあああぅ!」
93ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/10(火) 05:48:05 ID:MO72Qq5S0
いきなり電波な展開で面目ないです。
けど、俺の文のお粗末さや思想の浅はかさに目を瞑るなら、ブギーっておおむねこんなノリなんです。

>>58
あ、言い訳させてください。バイオレットお姉さまのプレストーリーとして、
そもそもの「人間性を獲得する」という話をここでやってみようと思ったわけであります。

>ふら〜り氏
ザッピングというか一つの状況を視点の切り替えで再現するという手法は、上遠野浩平の得意技なので、やってみました。
『知的勇気』ですが、「蠅の王」というアンチジュブナイル小説で見かけ、凄い気に入った言葉です。

> 魔法少女リリカルなのは外伝 〜恋は永遠の魔法なの〜 作者氏
なのは関係ねぇwwwww
というか、神の存在を間近に感じました。切れ味の良いナンセンスな文に接することができて気分は爽快です。

>proxy氏
シカマルすげえええええええ! 単純ながらも洗練されたトリックに感心しました。
こっちのシカマルは額面通りの『大した奴』で一安心ですw

>スターダスト氏
読んでて爽やかに悪酔いしそうなハイテンション振りですね、貴信。夢に出てきそうです。
こういう突っ走ったキャラ書いてみたいですけど、根暗な俺じゃ無理無理です。裏山鹿。
武装錬金のネタは尽きるところを知りませんね。そのネタの源泉地を教えていただきたいものです。

そんでシュガーソウルの展開先読み、ご名答です。
これもやっぱり上遠野浩平のお家芸で、「結末や先の展開の一部を前もって提示する」というやつです。
「先は見えてんのになに頑張ってんだろーな、俺たち」とかなんとかウジウジしつつ、
世界の危機に立ち向かう少年少女たちの話なんです。なんつーか、運命とかに対してある意味悲観的なんですね、作品的に。
94作者の都合により名無しです:2007/04/10(火) 10:33:05 ID:KYlftkEQ0
ブギーポップは知らないけど、静の時のような日常のミステリーかと思いきや
「世界の敵」とか、急にマキシマムな話になりましたな
あくまで主役は静と思うけど、貴也とどう絡んでいくのか楽しみです
95Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/04/10(火) 12:31:42 ID:iCbIRVTv0
 走っていた。シグバールは走っていた。ただひたすら距離を縮めようと
必死だった。速く。ひたすら速く。それだけを一念する。
 彼の戦いは、すなわち時間との戦いだった。接近戦、それに持ち込めば、
勝てる自信はある。だが、そのまえに、あの誘導式の銃弾が発射されれば。
 シグバールの聴覚は、つんざくような音を捉えていた。一直線にこちら
に向かっている音だ。それはシグバールに戦慄を覚えさせた。殺気が肌を
通り、全身に伝播する。全細胞が警鐘を鳴らしている。
 あれは、とても恐ろしいものだ。

「おいでなすったな」
 両手のガンアローを一回転=リロード。そして牽制に銃撃銃撃銃撃銃撃。
標的はかくん、と軌道を変え、ジグザグに移動しながらそれを回避。その
まま向かってくる。死を引き連れて。死を撒き散らすために。それはやっ
てくるのだ。

「ケッ! あたらねーとは思ってたけどよ!」
 シグバールはそのまま走る。魔弾を撃墜しようとは思っていない。敵の
位置にこちらが到達するまで、足止め出来れば御の字だ。だから必要最
低限の射撃しかしない。
 それでもあれは、あらゆる障害を踏破し、獲物を追い、殺すだろう。
それは一人の女性が死に抗い続けた抵抗の証だった。彼女の生きる意志が
為しえる奇跡だった。その意思を打ち砕くほどの力がなければ、それを
打倒することはできまい。それも、生き延びたい、という強い感情にだ。
感情が生み出す力は数多くあるが、これを凌駕するものはあるまい。
 そして、自分にはそのような感情からくる強さ絶対にない、とシグバール
は静かに自嘲した。ノーバディなのだ。心がないのだ。まがい物の自分達
には絶対にまねできない強さだった。それをうらやましい、悲しいと思う
こともない。心がないのだから。
96Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/04/10(火) 12:33:07 ID:iCbIRVTv0
「いらだたしい奴、ってハナシだ!」 
 感情の発露は演技でいくらでもごまかすことができた。人間だった頃の記憶を
機械のようにサルベージし、自分がどう笑っていたのか、怒っていたのか、悲し
んでいたのかを再現する。
 だからこれも模倣に過ぎない。どんなに感情豊かに笑って見せても、大声で
激昂して見せても、涙を流して悲しんで見せても、彼らの中は冷えきってい
る。彼らがノーバディとなったあの日から、どうしようもない空洞が空いている。
そしてそれは癒しようがない。いつまでも虚無に蝕まれ続けるしかない。

 リロード。同時に牽制のため射撃。またしても魔弾には当たらず。それが
シグバールに若干の焦りを与えていた。後もう少しでたどりつける程に、距離は
つめた。もはや王手詰みの段階に来ている。頭ではそうわかっている。
 が……もっと深いところで、いうなれば猟師としての経験が彼の内に変化を
生じさせていた。それは波だった。シグバールの深層から表層に一気に吹き出
してくる。そしてそれはいつも彼の全身を、雷撃のように震わせる。

 波が来た。そう感じたと同時に、全身が総毛だった。
 魔弾が消えた。波はこれを予期していたのか。
 これが本当の魔弾。肉眼では捉えられないほどの速さ。
 周囲から音が消え、ただ心音だけが強く響いていた。
   
 右だ。
 本能が訴えてくるこの感覚を、シグバールは大事にしている。
 いつも彼の命を救ってくれるのだから。
 だが、かわすことができるのか。
 かわしきることが無理ならば。
 
 シグバールはわずかに重心を左へ移動させた。彼の心臓を狙っていた魔弾は、
標的の急な体勢の変化に対応できなかった。それでも、その右腕をとることには
成功した。シグバールの身体から引き剥がされたものは、空間制御の恩恵をあずかれない。
重力に引きずられるがまま、彼の右腕は落下していった。
97Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/04/10(火) 12:34:05 ID:iCbIRVTv0
 あまりの激痛に思わず膝を突きそうになるのを寸でのところで踏みとどまる。
 右腕周りに干渉し、重力を制御、出血を止める。
 歯を食いしばる。裂帛の気合を呼気とともに吐き出す。そして、右足を前へ。
 ひたすら前へ。それだけが彼に残された必勝の手段だ。己のすべてをそれに賭
けるしか、他に道はない。
 
 その姿がどれだけ惨めだろうとも、彼は歩みを止めない。前へ進むことを止めない。
 それは生きるための行為だった。自分の存在価値を勝ち取るための行為だった。
 ノーバディは、その存在を否定された者たちだ。彼らは希薄な存在であり、時間がたてば
いずれ消えてしまう。それは人間の一生よりも遥かに短い。上級のノーバディである彼も、
その必滅の運命からは逃れられない。
 彼はその運命に抗っている。自分を否定するものに打ち勝ち、自己を確立するために。
 だから彼は戦いを続ける。だから歩みを止められない。逃げることが出来ない。
 ひゅるっ、と魔弾が軌道を変えた。今度こそ急所を貫き、彼を死に至らしめるために。
シグバールは残った片手を意識を集中させた。痛みを意志の力で押さえつける。残った左腕。
この腕さえあれば、まだ窮地を脱することができる。

 ――勝とう。まだ自分は死ねない。未練がある。ゼムナス――あの友人がどこまで
いけるのか、ノーバディはどこに行くのか、その先を知りたかった。どんな結末に終わるのか
はわからないが、それを見届けることは、賢者の目を欺き、人間を実験台にして心の研究
を始めてしまった自分達の責務だと思えたから。
 そのためにはなんだってしよう。四肢を捧げてもかまわない。
98Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/04/10(火) 12:35:55 ID:iCbIRVTv0
 目を凝らした。視神経が焼ききれるほど凝視した。魔弾の軌道を読むために。
 目が熱かった。意識が何度も断絶しかけた。
 鼻から血が流れ出た。血涙が頬を濡らした。あまりの処理速度に脳髄が悲鳴をあげていた。
 それでもシグバールは止めなかった。
 うっすらと、白い線が見えた。それは心臓のある位置から伸びて、魔弾とつながっていた。
それは魔弾がシグバールの身体を撃ち抜く軌跡がイメージされたものだった。軌道を読むこと
はできた。後にやることは。
 シグバールはガンアローを撃った。魔弾の芯を狙って。白い線をなぞるだけでよかったので、
思いのほか楽だった。次々と命中していくガンアローの光弾。だが魔弾は止まらなかった。
 彼女の牙は大きく、鋭かった。止めることは不可能だった。ただ、勢いは大幅にそがれて
はいた。それが狙いだった。
 シグバールは、魔弾に向かって左手を差し出した。そして、魔弾が着弾するのを待った。
程なくして、魔弾は牙を突きたてた。痛みは不思議となかった。ただ異物が侵入してくる
不快感があった。ずぶずぶと肉をえぐり、骨を砕いた。シグバールはその感触に悲鳴を上
げそうになった。だが、必死に歯を食いしばって耐えた。
 魔弾は心臓を目指していた。それは魔弾にとってなんでもないことだった。人体を破
壊することはたやすいことだった。人間に近い構造を持つノーバディを破壊することもわ
けはなかった。
 だが。このときは勝手が違った。いつもより切り裂くのに勢いがない。
 何故だ――何故何故何故。
 天恵の閃き。この射撃のせいか! この正確にこちらの芯を捉える射撃は、すべて魔弾
を無力化する布石だったのだ!

 気づいたときにはもう遅い。距離をとろうとも、もはや魔弾に肉を切り裂き離脱する
力はない。魔弾は肉の檻に閉じ込められていた。魔弾は心臓に達する前に、シグバール
の体内で動くのを止めた。
 シグバールは絶叫した。
 リップヴァーンは、自分の異能を退けた者を見て、恐怖していた。
 シグバールは彼女の死そのものだった。 
99ハシ ◆jOSYDLFQQE :2007/04/10(火) 12:40:13 ID:iCbIRVTv0
 魔弾無力化。いやぼろぼろですねシグバール。
 KH2本編ではこんなスプラッタ描写はかけらもないのでご安心を。
 ミッキーがキーブレードで敵をめった刺しにしていくなんて
 シーンがあった日にゃ、方々からつるし上げを食らうでしょうし。
「ハハッ! 死んだノーバディだけが良いノーバディだよね!」
 怖すぎる。

前スレ>>299さん
 どうしてあんな泣き虫だったのか、考えてたらこんなんになりました。
 リップの過去。まあ独自解釈なので、話半分ぐらいに思ってくれれば嬉しいです。
前スレ>>310さん
 ハイデッカさんも復活。サマサさんも復活。嬉しいです。まさに不死鳥ですね、バキスレは。
前スレ>>311さん
 あの泣き虫がなければ、ここまで人気を勝ち取ることはなかったと思います。リップは。
 やはり強いだけでなく、どこか悲しさもなければ。
 ゾーリンの人気がいまいちなのはそこにあるのかなー、と思ったり。
100ハシ ◆jOSYDLFQQE :2007/04/10(火) 12:41:45 ID:iCbIRVTv0
サマサさん
 復帰、おめでとうございます! 一スパロボ好きとして楽しんで読んでいます。
 個人的に、デュミナス三姉妹が気になって気になって。
 Rでは悲しい最後をとげた彼女たち、このssではどんな結末をむかえるのか……
さいさん
 しかしこの神父、ノリノリである。いやーまじにエレクトです。神父かっこいい。
 一撃で一切合財決着する、を地にいってますね。もう神父大好き。さいさんのss
 を読んでると、もういなくなってしまった神父の活躍をもう一度見れて、嬉しくなります。
 もっと長く続いてほしい! というのは身勝手な願いですが、どうしても抱いて
 しまいます。や、同じくらいに、セラスとまっぴーも百合も見たいんですが。
 百合は人類が生み出した文化の極みですよね。
ふらーりさん
 必死で弱い自分を隠している、そんな脆い女性がリップだったのかなー、と持って
 前回の奴を書いてました。ただ戦場に出ないことを選択した彼女よりは、強い彼女に
 なっていると思います。だからリップはこれでよかったんだ、と一人納得してました。
ハロイさん 
 え、えいよう……? 今の日々の糧はプリキュアですかね……?(参考になるのかならないのか
 いいでしょう、リップはハロイさんのもの。しかしロリカードは俺のもの。
 むしろ俺はロリカードのもの。そんな感じで!(どぶ川のように濁った瞳で
 ビリー龍! まさかバキスレにケイオスヘキサシリーズを知っている方がいたとは!
 喰っちまいたいぐらい人間が好きな彼、羊の群れに潜む狼、奴はことあるごとに
 俺の涙腺を脅かします。特にジュニアに残した最後の言葉。いろいろと反則です、彼。

101作者の都合により名無しです:2007/04/10(火) 16:38:28 ID:Mx/PECE+0
ハオリさん、ハシさん乙

>シュガーハート
二重人格といい、内からの不気味な声といい、ジョジョのスタンドにも
勝るとも劣らない貴也の力。発動条件があるみたいだけど。
展開は予測不可能だけど、十和子が特に魅力的でお気に入りかな。

>Der Freischuts〜狩人達の宴〜
原作知らないけど、魔弾による銃撃戦がクールですな。
シグバールが確かにボロボロだけど、鋭利な読み合いの上で更に
なんか逆転の秘策があるのかな?負けそうだけど。

102作者の都合により名無しです:2007/04/10(火) 18:16:45 ID:KYlftkEQ0
ハシ氏お疲れです
この作品も原作まったく知らないけど
ハシさんのかっこいい描写を楽しませて頂いております
KH2ってゲームは面白いのかな?
103ふら〜り:2007/04/10(火) 21:29:35 ID:RNtxXLTD0
>>VSさん(……ですか? ですよね? お懐かしぅございますっっ!)
相変わらずのコクとキレ、ご健勝ぶりが窺えまする。Z戦士の中では戦闘力と反比例して
世慣れしてそうな彼ですが、しかしヘタレの血は彼にマトモな活躍を許さないのであった。
でも何気に久しぶりでしたね、そんな彼のそんな姿。また間を置かずこのノリで、何卒っ。

>>proxyさん
おぉおぉ、ちょっと感激。相手を縛っておいて毒塗り刃で攻撃とは。こういうのは卑怯じゃ
なくて忍者らしいカッコよさです(私は吏将好き)よね。子供らしさとプロ意識が両立してた
彼ですが、実戦でしっかりキメてくれて嬉しい。まだまだこの戦い、伏せたカードは多そうな。

>>スターダストさん(♪悪を滅ぼす風になれ〜♪戦隊OP中、個人的ベスト3に入ります)
>「しかしここでアクシデント発生!」
>え?
人道弁えつつ自分突っ込みなネコっ子に萌え。つーかますます剛太側のフラグが濃厚なん
ですケド。高嶺の花のセンパイより、身近なケンカ友達といつの間にか……っての、王道
ですよ? しかし彼女とは、所属組織や種族のみならぬ障害が有。早速対面、どうなるか。

>>ハロイさん
ブギーポップ、予想通りのベクトルでしたが予想を上回る深さでした。言ってることは解ら
なくもないんですが、頭の中で映像化のしようが無い。「普通」とか「傍観者」とか、私には
少々トラウマな言葉。口先でそれを嫌がりつつ、実際はそれに固執してる人、多いですよね。

>>ハシさん
リップもシグバールもクールっぽく感じるけど実は必死で、戦いの内容も速く熱く激しくて。
気合とか悲鳴とか効果音とか(←特に重要)の直接的なものに頼らず、これだけのバトル
を描写できるのはワザですねぇ。ここ二回ほどで一気にか弱く見えてきたリップ、最期……?
104項羽と劉邦:2007/04/10(火) 22:33:51 ID:PJZcECBq0
というわけで劉邦たちは呂后の部屋へ向かった。

「うん? お待ちください、なんで私が駆り出されているのですか?」
韓信は首を傾げた。
「私は百万の兵を使えはしますが、武力はありませんよ。股くぐりですし」
その横で張良は、虫の群れで呂后の似顔絵を空中にペイント中。
「ふふふ漢王まあ見てくれよ。おれはまだボクサーになる夢をあきらめてない! だから右手
の指を折られてからは左パンチの威力をますように訓練した! 黄金の左パンチさ!」
喚きながら壁を殴っているのは蕭何(しょうか)だ。
「な、な? ひどいじゃろ! 愛蔵版三国志の価格設定並みに!」
「おお、桃園の誓い来た。やっぱニンテンドーDSの三国志は最高ですよね」
「聞けよ!」
韓信の手からDSがひったくられ、床へゴーした。
ヤフオクで馬鹿みたいに高騰している玩具もこうなって形無しである。
ヴィクターに当たったソードサムライXよろしく砕け散り、劉邦の足踏みの任すままだ。
「うん? いかがしました漢王。そんなに血相を変えられて」
韓信はいろいろよく分かってないらしい。
「くそう。南極基地の入り口を部下に開けられたヨミの気分じゃ!」
先行きに不安を覚え、とたんに劉邦は情けない顔になった。そこへ。
ズーン。ズーン。
地響き。
廊下の遥か向こうから聞こえるけたたましい笑い。
『…来たかおたまじゃくしめ、今はせいぜい笑うがいい。もうすぐそれもできなくなる……クク』
張良が毒虫の群れでそう書いた。
「うむ… そんな手間かけずに普通に喋れと言いたいが、いよいよ最後の戦いじゃ。
韓信、張良、蕭何。…きゃつは不死身な分、項羽よりも手強いがどうにか頑張ってくれ。
きゃつが死に、項羽を倒せば漢は安泰なのじゃ! では物陰に隠れよ!」
「はっ。生命をかけて働きまする」
深々と辞儀をする韓信の横で、張良はうんうんと頷き、蕭何は叫ぶ。
「さあ来やがれ。こんなケンカももうおしまいかもしれねえからな」

呂后征伐が始まった!!
105項羽と劉邦:2007/04/10(火) 22:35:21 ID:PJZcECBq0

韓信たちが眺めていると、呂后の醜い口姦(指に対し)が始まった!!
劉邦はそれを泣きそうな顔で眺めていた!!
要するに部屋に強引に連れ込まれたのである。

時がたつにつれ劉邦の呼吸が怪しく乱れ…
「おおゥ! まるで馬糞の中にいるような屈辱じゃあ!!」
その口から、かすかなうめきが漏れ始めた!!
「アム…! 長い戦いの人生であったわ……… ア、アム!」

そして、ついに劉邦は呂后を抱きしめ
。oO「こんなブっ細工な脂肪袋など抱きとうないわアホ!! 死ね!」
閨の中でもつれ合いながらため息をついた!!

蕭何はそれをつい立ての影から痴呆のように眺めていた!!
韓信はこんな時でも冷静に状況を判断する男だった。
「なんで兵馬地獄旅のセリフは『!!』が必ず末尾につくんでしょうか」
「ギギギ… ギギギッ ギギィーッ!」
呂后はといえば持参したナスを尻に突っ込んでよがり始めた。
(早く殺せ。なんでロボットモンスターの鳴き声じゃ。一刻も早く殺せ。頼む殺してくれ) 
つい立てから出て見物している張良へ、劉邦はしきりに目配せした。

フレーッフレーッ劉邦 フレーッフレーッ劉邦 

躍動感皆無で踊る張良に、劉邦は涙を流した。
。oO「これでわしの運命は決まった…… つかおまえら腹上死とか忘れてるじゃろ。いい加減
にしろ。そもそも腹上死うんぬんは無理だらけ…臭っ ガス漏れとる! 噴火は近いぞきっと!」

刹那。重い衝撃がつい立てを突き破った。
モロにそれを浴びた蕭何は辺りを見回した。
目に付いたのは床に落ちたナス。それから顔面蒼白の韓信と張良。
状況理解には充分な材料である。
106項羽と劉邦:2007/04/10(火) 22:37:02 ID:PJZcECBq0
「よりにもよってミソつきかいっ! 今こそ欲する我が正義ー!」
気合をかけるとあら不思議。ナスは外へ向かって飛んでった。
おどろおどろしい茶褐色&紫のまだら弾丸は廊下を抜けて通路もすぎて、いよいよ庭を滑
空した。
すると向かう先に少年が座っているではないか。
彼は食事中だ。開いた缶詰を膝において、スプーンを突っ込んでいる。
で、首を軽く捻って振り向いた。
呂后の尻よりはなたれたおぞましい弾丸が、狙い定めるように向かいつつある。
が、彼は意外にも視線を缶詰に戻し、食事を再開した。
ナスは迫る。
5m、4m、3m……
もはや暗中でも色艶が分かるほどの距離に到達した、その時。
さながら磁石に吸い付く鉄のようだった。
ナスはその動きをぴたりと止めた。
同時に一陣の風が吹く。黄砂が巻き上がり、付近の建物を叩く。
それすらも少年の周りに張り付いた。
まるで接着剤を塗りこめたガラスにパウダーを貼るような光景である。
やがて缶詰の中身は総て少年の胃袋に納まった。
軽く伸びをしてから辺りを見まわした少年は、肩をすくめつつ軽くため息をついた。
「そろそろバリアーを解除しないと酸欠になるな……」
ナスが地面に落ち、黄砂もじゃらりと床に散らばる。
それらを踏みしめ少年はふらふらと闇に中に消えていった……
だがそれは今の韓信たちには関係がない。
「おーふぉーとぅーべい、いー! ちゃん! がっ!」
蕭何は喚き散らしている。剣で大きな数珠(いずれも張良が渡した)をぐるぐる回しつつ。
きっと100年ばかり目覚めるのが早かったとかでおかしいんだろう。
そして呂后は劉邦を押し倒し、彼の指(あくまで指とする)を不毛な地獄谷金山(あくまでヘソとする)へ飲み込んだ。

重ねてゆく過ち戦いはまだ終わらない……

劉邦の指をヘソに納めた呂后は
「OH! 気持ちいいわぁ。体の相性は抜群にございますぅブヒィー!」
107項羽と劉邦:2007/04/10(火) 22:39:39 ID:PJZcECBq0
>>106は間違い。すみません。

気合をかけるとあら不思議。ナスは外へ向かって飛んでった。
おどろおどろしい茶褐色&紫のまだら弾丸は廊下を抜けて通路もすぎて、いよいよ庭を滑
空した。
すると向かう先に少年が座っているではないか。
彼イズ飯! 開いた缶詰を膝において、スプーンを突っ込んでいる。
呂后の尻よりはなたれたおぞましい弾丸が、狙い定めるように向かいつつある。
「ずべっ ぐばば! くはー、グリコの缶詰うめぇ! やっぱ鉄人のスポンサーやってだけあっ
てうんめー! もっとこーいう食いもんだせやぁ! 闇の顔ふりかけとかよおお! あの猛が
閉じ込められた穴ぐらん中の、はいずりまわってる虫をあられにすんの! で、喰ったらげーっ
って吐いて、原作再現! ぶはは! 売れるって絶対! カマボコにはどくろのプリントな!
って俺のいってんのお茶漬けじゃねーかよぉお!! どいつもこいつもバカにしやがって! 
リサのヤローも俺がちょっと闇の土鬼に似てるからってバカにしやがって! クソが! アホ
のキッチンドリンカー風情がボケ言語を歴史に塗りたくってんじゃねーぜっ! んなのいった
ら猛とディック牧だって似てるじゃねーかよ! ああ!?  リサ、リサ、どこだあああ! た
わごとほざくクソアマぁ、どこ行きやがったんだあ!」
ナスは迫ったが動きをぴたりと止めた。
「グリコ、グリコ、グゥーリーコー!! げへへ! バリアー最高! 使い続けたら酸欠になる
設定の癖に、島原で俺を小一時間ばかし水の中で生存させてたバリアー最高! 後付けバ
レバレ! ひゃはー。吸着手袋の使いどころのなさってよ、あばれ天童のハヤテに似てるよな!」
同時に一陣の風が吹く。黄砂が巻き上がり、付近の建物を叩く。
それすらも少年の周りに張り付いた。
まるで接着剤を塗りこめたガラスにパウダーを貼るような光景である。
やがて缶詰の中身は総て少年の胃袋に納まった。
軽く伸びをしてから辺りを見まわした少年は、肩をすくめつつ軽くため息をついた。
「白昼の残月が都市部だけ公開ってどーいう了見なんだよぉぉぉ! 田舎者は見るなってか!
先週の土曜日ワクワクしながら地元の映画館調べた俺のトキメキが哀れだよなああ!!」
ナスが地面に落ち、黄砂もじゃらりと床に散らばる。
それらを踏みしめ少年はふらふらと闇に中に消えていった……
だがそれは今の韓信たちには関係がない。
「おーふぉーとぅーべい、いー! ちゃん! がっ!」
108項羽と劉邦:2007/04/10(火) 22:41:55 ID:PJZcECBq0
蕭何は喚き散らしている。剣で大きな数珠(いずれも張良が渡した)をぐるぐる回しつつ。
きっと100年ばかり目覚めるのが早かったとかでおかしいんだろう。
そして呂后は劉邦を押し倒し、彼の指(あくまで指とする)を不毛な地獄谷金山へ飲み込んだ。

重ねてゆく過ち戦いはまだ終わらない……

劉邦の指をヘソに納めた呂后は
「OH! 気持ちいいわぁ。体の相性は抜群にございますぅブヒィー!」
と歓喜の声を上げた。
確かに抜群である。拷問の相性が。
外見とは裏腹の岩のかたまりのような筋肉がぎりぎりと劉邦を締め付ける。
伝わる体温は指が焼けるようであった。
劉邦は苦痛に顔を歪める。
懸命に戚の笑顔を思い浮かべる。すると指に力が戻る
戚は、まぁ歴史的に見たらリ姫(自分の子供を世継ぎにしたいが故に、色々殺した) と似た
ような悪女だが、呂后よりはまだ優しくて美人だから劉邦は愛している。
そもそも呂后は、その父、呂文が押し付けてきたのを貰っただけで、愛情なんざカケラもない。
「劉邦どの、お肉安いですぞ。グラム10銭です。グラムというのは1000キログラムですから
1銭になりまする。いやむしろお金たくさんあげるので持ってって」
という時代考証もクソもない会話で呂后を押し付けられて、何年経ったのだろう。
肉はマズくて喰えたもんじゃないし、閨を共にしないと兵士を陵辱しはじめて士気に関わるか
らいやいや同居を続けている。
余談だが、項羽に捕まった時の呂后は、見張り番の兵士をことごとくレイプして、項羽を閉口
させた。だから返品された。
幸い妊娠はしてなかったので、子供に「ジュチ(客人)」とか名付けなくて済んで良かった。

呂后がガシガシ腰を振り始めると、乾ききった糞便のような匂いが充満した。
指が擦りむけて熱くて痛くて、血が結合部からダラダラ流れる。
飯を口に詰めて湯で流し込むような乱雑な動きで、技巧も恥じらいも何も無い。
戚ならば、奥に当たるのを極度に恐がって腰を中々動かさない。
劉邦が動かそうものなら「きゃ、きゃあっ」と初々しい反応を見せてくれる。
だが呂后は。
109項羽と劉邦:2007/04/10(火) 22:43:09 ID:PJZcECBq0
「ガンガン当たっておりまする! ガンガン当たっておりまする! ハ、ハ、八ァァー! 大腸
気持ちいいィーッ!! きょろぶげばぎゃあー!」
と伝令兵よろしく濁ったノド声をはりあげるばかりで、なんら面白くない。
しかも劉邦が気絶しそうになる度そうになるたび、「お楽しみはこれからですゾ☆」とウィンク
しつつ動きを止める。
劉邦の血は怒りで冷たく沸騰した。
なにがこれからですゾ☆だ、ここで終われ、傍らにあった剣で心臓を刺してやった。
酔って大蛇を殺した時よりも憎悪を込めて刺しまくったが、すぐ生き返る。
そして剣も流血も意に介さず腰をガシガシ振りたくる。
刺されたショックなのか、締めつけは一層キツくなる。辛い。
劉邦は腹上死などクソ喰らえだと思い始めていた。

張良も同じ怒りを覚えている。
張良。今の所は地味で面白味のカケラもない彼だが、実は芸達者である。
横暴なジジイに媚びへつらって手に入れた『三略』のおまけページに武術とか色々載ってた
ので覚えた。
その一つに、変装術がある。顔だけじゃなく身長も変えられる──
例えば子供に化けても、親にすらバレない、影丸に化けたら邪鬼が勘違いする──
そんな見事な変装術で呂后に化けると、張良は彼自身を七節棍で徹底的に打ちすえ始めた。
そうでもしないと腹の虫が収まらないらしい。
蕭何は止めるワケでもなく、流血まみれの偽呂后を、懐から取り出した六角形の鏡でもって映
してあげた。
次の瞬間、派手な音とともに鏡が割れた。それだけ張良の変装はそっくりであり、醜い破壊
力を秘めている。
考え込んだのは韓信だ。
呂后はちょっと調子こいちゃいまいか。
グラム10銭の分際で、権威を長く貪ろうとしてやがる。
腹上死、などという悠長な手段では何もかもが手遅れになるのではなかろうか。

「あのー。ちょっといいですマメ?」
ちょうどそこへ、柴武(サイブ)が入ってきた。地味な男だ。
110項羽と劉邦:2007/04/10(火) 22:45:04 ID:PJZcECBq0
作者が6巻を読み直して「周勃と一緒に散関へ潜入したヤツ? いやそれは陳武か」とようや
く気付いたくらい、地味だ。
関係ないがその日筆者は、文庫版鉄人1〜2巻(各300円)を購入して、画質の凄まじさにヘ
コんでいた。
さて、柴武について、あまり知られていない事が一つある。
この物語より8年後、韓信は謀反を企んだ罪で処刑されるのだが、実は柴武、その処刑を
行っている。
でも地味なせいであまり知られていない。
後世の人々は韓信を評し、「蕭何によってその生涯を閉じた」と語り継いでいる。
実に理不尽な話である。
文庫版鉄人の画質が悪いせいで、楽しみにしていた初期の話がさっぱり分からなかった。
分かったのは完全版を購入してからだ。まったく。
でもエッセイは良かった。完全版にも収録されないものか。
そして柴武はそういう後世のできごとなどは露知らず、韓信へただ報告する。
巾着袋を右手に持ってるが、豆が入ってるだけなので報告とは無関係だ。
「白の庭に怪しげな白服の男が居て、捕まえようとした雍歯(ヨウシ)が赤い光を浴びて死に
かけておりますマメー!」
「青面獣には残念な事をした…」
蕭何が沈痛な面持ちで刀を握り締める。駄洒落である。よってみんな無視した。
だいたいにして雍歯(ヨウシ)は、劉邦をさんざ裏切ったクズだ。だから死ねばいい。
蕭何と柴武以外はみんなそう思ってる。
柴武に至っては、ああ面倒くさいなァ、早く家に帰って豆をむさぼり喰いたいなァ、そう思いな
がら報告している。
「白服の男も
『おいコラ、闇の顔ふりかけいつになったら出すんだよ! 江戸じゃなく古代中国とか設定
無視するのもたいがいにしやがれ! そんなのは某偽だけで充分なんだよ! ああん?』
とワケの分からないコトを言って逃げるだけなので、捨て置いても良さそうマメ! そらっ そ
らっ! さやー!」
マメを中空に投げると、口にかぽりと収めて続ける。
「それからマメね、もう一つ。70数箇所の傷を負った曹参(ソウシン)どのが回復したマメっ!」
豆を一つ、巾着袋から口に運ぶ。韓信はフムと頷いた。
大元帥としての勘が、白服の男を用いるべきだと告げている。豆もちょっと食べたい。
111項羽と劉邦:2007/04/10(火) 22:45:56 ID:PJZcECBq0
「ではその白服の男を探して、呂后征伐に加わるよう説得せよ。曹参どのに関しては、カン
パはやめ、明日快気祝いを……」
張良と蕭何を見る。彼らの思いも同じらしく、力強く頷いた。
「呂后の葬儀の場でとり行う。よって、今夜はゆっくりと休んでもらおう」
「はぁ。じゃあ今から呂后を殺すんですかマメ?」
今から煮豆作るんですか、でも私は炒り豆が好きです。そんな調子で柴武は言う。
豆さえ喰えれば、上で何が起ころうとどうでもいいらしい。
心底からの犬め。
韓信を殺したのも仕事だからであり、その韓信の命令が今は仕事だ。
「後ろに構うな大作少年! お主が成すのは前進あるのみ!」
蕭何が声を上げた。ハイ、と言いたいらしい。
だらだらと腰を振っている呂后を横目で見る。その下で劉邦が泣いている。
泣いている劉邦を見るのは嫌だ。だってみんな劉邦が大好きだから。
大好きだから雍歯の裏切りを憎み、呂后を殺そうとしている。
『つまりはそういう事だマメ』
変装を解いた張良が虫文字を書き、韓信も答える。
「白服の男を捜索せよ。重苦しい口調なのは、部下に命令を下すからです。だからお豆ください」
柴武は差し出された小さな手に豆をたくさんいれた。韓信は食べた。
もぐもぐと咀嚼してから、可愛らしくごくりと飲み込んでにこりと笑った。
「おいしいマメ」
「だろう。ハッハー! この豆うめぇぜー!」
そして自らも豆をドカ喰いしつつ、柴武は去っていった。

蕭何はいずまいを正すと、演説を始めた。
「未来は現在の我々に栄光の光を与えてくれた! そう、ついに総ての恐怖を克服できる
時がきたのだ! 太古には火が(省略) 何の恐れもない夜を我々は手に入れるのだ!!」
指揮者のように仁王立ち、腕をざんざか振りたくる蕭何に韓信と張良も頷いた。
「今度こそ美しい夜を」
『それは幻ではない!』
そして三者は擦り寄ると、腕をにゅらりと絡ませた!! アニメ版三国志の桃園の誓いである!!
112スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/04/10(火) 22:47:30 ID:PJZcECBq0
ああ。三回忌も近いのに何をやってるのか。

>>86さん
なんとも自由気ままな部分がお気に入りですw 一人称が映える映える。
構想といえば、いまある全体のそれはるろうにでいう蒼紫と対決開始あたrでしょうか。別に
貴信が蒼紫というワケではなく、長さ的に。で、長岡サンの浮き足落としが次々回ぐらい。

>>87さん
剛太は頭の悪いコと絡んだ時がいい感じです。例えばさいさんのHPにあるまひろとの絡み
などは極めつけ。ひょっとしたら影響受けたのかも。貴信は登場前はいろいろ悩むところあ
りましたが、いざ出ると動向が浮かぶ浮かぶ。総角より扱いやすいかも。

>>88さん
なにぶん辛い時期も楽しい時期も共有してきたので、つい思い入れが強くなってしまうのかも。
剛太は要所要所で活躍させれたらいいなぁ、と。でも彼が活躍すると今度は秋水が影薄くな
るので配分が難しい。剛太だって主人公に向いているんですが……

ハロイさん
奴を書いているとヘンな汁が脳をドバドバ侵食しちゃいますw
でも迷いも何もなく叫びまくれる彼、自分とは真逆なので羨ましいかも。武装錬金はなるべく
一長一短になるよう! キャラと同じく、万能無敵じゃない方が好きなので! 瑕疵こそ魅力。

>シュガーハート&ヴァニラソウル
確かに傍観は楽ですが、やられる方にとっちゃこの上ない害悪かも。でも傍観側で趣味に没
頭したい自分……むーん。もし「不透明な存在を呼び寄せる」能力がブギーポップに封じられ
るとすれば、なかなかウィットに富んだ展開。だって後で「透明」な能力を持つ静がやってきたワケで。

ふら〜りさん(やっぱ気付かれましたか! 心に印がありますねw)
カナブン見つけた時の顔とか想像すると面白い。お馬鹿なので善行が笑いに転じて、結果
さっぱりした感じになっちゃいますね。てか、剛太と合いすぎ。フラグ立ちまくり。王道すぎ。
でも貴信が邪魔! 抱き合ったら邪魔するかもアイツ。ああ、フルバの十二支の呪いよりタチ悪い。
113作者の都合により名無しです:2007/04/10(火) 23:17:22 ID:Mx/PECE+0
お疲れですスターダストさん
横山光輝の作品は絶対にギャグには向かないと思いましたが
いい意味で楽屋落ち連発で楽しかったです
永遠の扉ともども楽しみにします
114作者の都合により名無しです:2007/04/11(水) 00:18:41 ID:nbiMb6D80
ここの職人さんは全員だけど、スターダストさんからは特に
「自分の好きなものを書いている」というのが
文面から感じられて気持ちいいな。
だからきっと長編のような労力使うものでも続けられるんでしょうね。

お疲れ様ですスターダスト氏。
正直、中国の歴史とかまったく疎いんですが、永遠の扉の
香美とか小札とかと同じ感覚で呂后や韓信とかを楽しく読んでいます。
115作者の都合により名無しです:2007/04/11(水) 08:40:55 ID:OAuE6V1F0
マニアックだな、スターダスト氏w
氏の年齢で横山ファンとは…
116作者の都合により名無しです:2007/04/11(水) 16:15:34 ID:gGVMHjRk0
セラスとまっぴーの百合…
考えただけで鼻血が出そうです。
期待しています!
117作者の都合により名無しです:2007/04/11(水) 21:52:36 ID:CIpZojBtO
そういやスターダストさん、まとめサイトにフラッシュやら載せる予定はないんですか?
118作者の都合により名無しです:2007/04/11(水) 22:58:11 ID:nbiMb6D80
自分のサイト持ってると色々自分の好きに出来るからいいね。
さいさんの所なんてメチャクチャだし。(いい意味で)
119作者の都合により名無しです:2007/04/12(木) 00:56:26 ID:ydU1kjKZ0
三回忌って何の事かと思ったが、作者のことか
確か出火が原因で亡くなったと思ったが?
120作者の都合により名無しです:2007/04/12(木) 08:56:29 ID:/G4ngB/o0
作品が急に来なくなった・・・
121作者の都合により名無しです:2007/04/12(木) 15:16:19 ID:gRPqao1x0
>ハロイさん
>>62-63のリリカルなのはを書いた人のHPです。

ttp://park14.wakwak.com/~usobare/index.html

>>62-63みたいなのがいっぱいあります。
復活されて嬉しい。
122ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/12(木) 23:13:40 ID:9k4+tOt/0
>>121
わざわざありがとうございます。さっそく読んできます。


流れ的にタイムリーな話ですが、
自分の書いたものをとっておく自サイトのようなものを作ってたので、ここ数日はSS書くほうが疎かになっていました。

まあ、なんとか目鼻立ちはついたので数日以内にはSSを投下できると思います。
123作者の都合により名無しです:2007/04/13(金) 08:44:09 ID:GWtmYvif0
ハロイ氏、サイト造ったら教えてね。
124戦闘神話・第三回−宣戦布告−:2007/04/13(金) 11:19:35 ID:R1wTW/GL0
part.2
聖戦終結から四年目になる聖域は、サガ期以降も含めてだいぶ様相を変えた。
皮肉なことだが。サガが政権を握り、以降自己基盤の磐石化を推進した結果は、内部改革につながっていたのだ。
教皇シオンは、たしかに名君だった。だが、その治世において失策が全く無かったかといえば嘘になる。
結果的に失策となってしまった、という件もあるが、その最たるものが「親族登用主義」だろう。
聖闘士は先天的要素に左右されがちだ。
潜在的に、親族登用主義が跋扈する要因足りえたのだろう。
教皇シオンの最初の妻、カシオペア座・セダイラの妹であり、
杯座・クレーターのメディアとの間に出来た三人の子が全て聖闘士となったことも遠因だろう。
結果的に、聖域出身者のみが重用されるこの体制は、サガが掌握した後々まで続くことになり、
完全に払拭されたのは星矢が聖域入りする直前、魔鈴が聖闘士となった頃である。
それでもまだ、名残はあった。魔鈴も星矢も東洋人というだけで侮蔑の対象となったり、
その星矢が聖闘士となるや、シャイナ一党が彼を私刑にかけようとしたのはこれに起因する。

魔鈴たちが聖闘士になった際、
一同に会した白銀聖闘士たちに向かいサガは、
新しい時代の礎となってほしい、
そう語ったそうだが、今となっては皮肉にもならないのが凄まじい。
サガ恩顧の聖闘士は最早一人としていないが、聖域職員にはまだサガの影響は色濃く、
所謂「サガの乱」が、聖域史においては「聖域浄化の戦い」と記され、
サガ自身の功を最大限鑑みられた措置が取られているのは、そういった裏事情が存在した。
確かにサガが自決という形で責を負わねば、
折角改革された聖域はまた以前の旧態然としたものに逆戻りしてしまっただろうし、
最悪、聖域が機能停止に陥りかけなかった。ましてや、本格的な聖戦の序盤にもならなかった頃だ。
聖域の最高幹部たる黄金聖闘士たち、彼らのフラストレーションを高める結果になる事をあえて承知の上、
サガの乱終結時、アテナたる城戸沙織は、サガの自決をもって一切を不問としたのである。
125戦闘神話・第三回−宣戦布告−:2007/04/13(金) 11:21:41 ID:R1wTW/GL0

そんな城戸沙織は、今年十七になる。
アイオロスが命をとして護り、
城戸光政が後生を費やして育てた彼女は、
まさしく凛として咲く華のような乙女だ。
神謀叡智をもって知られるアテナそのものである彼女が、
何ゆえニュートンアップル学園に通う事になったか?
それは虹の彼方を読んでいただくとして、嘘です、冗談です、ごめんなさいミドリさん。

閑話休題

普通の学校生活に憧れていた、というのが主だ。
ニュートンアップル学園。
明治五年、華族の子女の心身の健全なる育成を理念に創設された。
神奈川県横浜市にあるこの学園は、ミッション系の規範の厳しい学園であり、
外部からの進入が難しいという点をはじめとして、
さらには聖域・影の集団・グラード財団特別情報部のグランドスラムによって
出入り業者の全社員の五親等まで調べ上げられるという、
キチガイ沙汰のような徹底した調査に耐えられた唯一の学園でもある。
無論、その過程においてヴィクター一家の存在まで聖域が知ることになり、
聖域諜報部と紫龍に一仕事増えたのはいうまでもない。
錬金戦団という非合法非公開組織は、彼ら自身が思い至る由もない(くだらない)理由から
その存在を地上最強の戦闘集団に敵視されていたのだ。
元々、年三回の外交会談に参加している組織だけに、その素性を明らかにするのは容易いものだったが、
改めて行われた調査結果の末、聖域が彼ら錬金戦団に下した評価は「危険」だった。
「錬金術による一般社会への被害を防ぐ組織」というその業績から信じるに値しない存在意義、
ヴィクター事件以降も隠蔽体質は変わらず、秘密裏の人体実験を繰り返している節もある。
なにより、目撃者に対してのケアが非常に荒っぽいのだ。
この点に関しては聖域もあまり大きな声は出せないのだが、それにしてもなんとなくおざなりな、
という評価はぬぐえなかった。
126戦闘神話・第三回−宣戦布告−:2007/04/13(金) 11:26:40 ID:R1wTW/GL0
世界各国、といいつつも、国連主要先進国のみに限定された支部。
アフリカ大陸やユーラシア大陸中部・中央アジアやイスラム圏などは、
ハッキリいってしまえば手付かずに近い。
イスラム圏に強いコネクションを有する聖域の情報網に、
活動履歴らしきものは何も引っかからずじまいだった。
挙句の果てに、聖域がこの四年の間にイスラム圏で排除した正体不明の化け物十三体の正体が
「ホムンクルス」であると判明したのだ。
幸いにも、青銅聖闘士・ユニコン邪武、ヒドラ市のコンビや、
白銀相当位聖闘士・コーマの盟らによって粉砕されていたが、
聖域の知るあらゆる怪物化け物魑魅魍魎にも該当しないアンノウンの存在は、留意されていたのだ。
さらに南北米・ロシア支部による軍事企業との癒着も明らかにされた。
調査が進むにつれて、核金とホムンクルスの関係が明らかになった時点で聖域が彼らへの評価は
「敵性組織」へと変化していた。
これだけ状況証拠がそろっていれば、錬金戦団なる組織が聖域から「敵性組織」と判断されても仕方ないだろう。
全世界的に流行している「錬金術への憧憬」を鑑みれば仕方ない点もあるのだが、
それを踏まえても、彼らを敵視せざるを得ない大きな理由が二つ存在する。
まず一つ、聖闘士の証である聖衣と彼らの持つ「核金」との類似性である。
闘争本能に比例して形態を変化させ、質量保存の法則すら突き破るこの不可思議な物体は、
聖闘士にとって最も見慣れたものとの類似性を、見出さずにいられなかったのだ。
錬金戦団の活動開始年代が、前々聖戦直後、という点も聖域が注意した点である。
実のところ、前々聖戦は聖域が最も多くの聖衣を喪失した聖戦でもあった。
ゆえに、完全な形で回収できなかった聖衣も数多く存在する。
127戦闘神話・第三回−宣戦布告−:2007/04/13(金) 11:28:35 ID:R1wTW/GL0
主戦力であるが故に、全損を免れなかった白銀聖衣に多く、
例をあげるとヘラクレス座の聖衣など、回収されたのが三割弱でしかなく、
元は黄金聖衣に勝るとも劣らない美麗なフルプレートメイルだったのだが、
胴回りのみしか回収できなかったのである。そこからシオンは苦心して再建したのだ。
他にも、教皇シオンの妻となる女性がまとう杯座の青銅聖衣などは完全に死亡状態であり、
復元こそなったものの、本来の能力である傷ついた聖闘士の回復能力は失われてしまっていた。
その一部が彼らの核金技術の根幹になったのではないか、というのが現時点での結論である。
次に、これこそが最大の要因でもあるのだが、ホムンクルスの存在である。
公的に、それすらも裏だが、ホムンクルスを打倒できるのは核金による攻撃のみとされている。
それが聖域からは疑問視されたのだ。
ありていに言えば、マッチポンプである。
生臭い話になるが、聖域的にはポッと出の新人同業者に、
姑息極まる方法でシェアを奪われる可能性を懸念したのだ。
世界的に流行している錬金術への傾倒がなければ、一笑に付しただろう組織だったとしても、
アメリカにトルフィン・カルルセフニ・トールズソンが入植する遥か以前から、
人類社会を守ってきたと自負する聖域は、面子にこだわるのだ。
ファロス中心主義的組織であるがため、
いかにシオン、サガと言えどもこれだけは改善する事ができなかったのだ。
このあたり、錬金戦団もたいした差がないと思われる方も多かろうが、
それは聖域が己自身を信じているからこそに他ならない。
それが結果として新たな戦端を開く羽目になるのだから、救われない。
128戦闘神話・第三回−宣戦布告−:2007/04/13(金) 11:32:52 ID:R1wTW/GL0

そんな中、城戸沙織は、下校途中のリムジンの中でメールを打つのが日課である。
相手は勿論星矢だ。
グラード財団総帥として、ニュートンアップル学園生徒会役員として、
そして聖域の主アテナとして、彼女は多忙である。
因みにメールの内容は、やれ同級生が転校していって寂しいだの、
やれ先輩とお茶しただの、生徒会役員の一人が自分をあまりよく思っていないだの、
やれ生徒会会長がおっとりとした人で面白いだのといった、年相応の少女らしい取りとめもないものだ。
数々の肩書きをもつ彼女が唯一、生身の「少女」でいられるのは、星矢の前だけなのだ。
星矢だけは、彼女を一人の人間とみている。それが城戸沙織にはとても嬉しかった。

そして、当の星矢がそのメールを受け取るのは、檄に電話を懸ける直前だった。

檄に電話したのは仕事上がりに晩飯に誘おうと想ったからに他ならない。
星矢は、二年前から高宮モータースというバイクショップに勤めている。
彼はモータースポーツが好きなのだ。
経営者は、高宮鋼太郎と高宮鉄兵兄弟。
まだ二十台だが、祖父から受け継いだこの家業を立派に継いでいる。
先代・高宮藤兵衛は、戦後裸一貫でこのバイクショップを立ち上げた好漢で、
息子夫婦が若くして亡くなった後も、男手一つで兄弟を育て上げた偉丈夫である。
若さと野心が満ち溢れた職場環境は、常にエネルギッシュだ。
因みに、店の看板は「TAKAMIYA MORTORS」となっている。
Rが一つ多いが、これは鉄兵が間違えて書いた為だ。兵器という意味があるのだが、
星矢が勤めている事を考えると、あながち間違っちゃいないのが恐ろしい。
職場で星矢ともっとも信頼関係を結んでいるのが、彼、風間虎太郎である。
銀成駅前で檄と合流した星矢に、当然のように同席してることからもその親しさが伺われる。
129戦闘神話・第三回−宣戦布告−:2007/04/13(金) 11:41:41 ID:R1wTW/GL0

「で、檄。ちょっとは進んだのかよ?」

何が、とは聞き返さない檄。

「オニィさんも知りたいねぇ」

とニヤニヤしながら、青い恋愛を楽しむ虎太郎。
風間虎太郎、28歳独身、星矢の同僚である。
高宮モータースに勤める以前は風来坊、つまり住所不定無職だったわけだが、
不思議と機械系に明るく、その人好きのする性格もあいまって、今ではすっかり高宮モータースの一員だ。
星矢と虎太郎が組むと、まるで大きい悪戯小僧のようだとは星華の弁である。
彼らは、馬があうのだろう。

「今日、挨拶したよ!」

「それだけ?」

「それだけだ!」

檄としては、こうして普通に社会人をやっている星矢が不思議でならない。
聖域中枢を成し、いまや聖域最強格の聖闘士の彼がなぜにこうして故国で勤労学生をやっているのか?
星矢の回答を聞いたら檄とて爆笑するに違いない。
星矢は、平穏をしらなかったのである。
130戦闘神話・第三回−宣戦布告−:2007/04/13(金) 11:47:07 ID:R1wTW/GL0
星矢は、平穏をしらなかったのである。
今まで、神の理不尽から必死で地上を守ってきた星矢は、それゆえに平和を、
理不尽のない世界を知らない。
殴られなくても飯を食えるし、血反吐を吐かずとも水が飲める。
そんな世界を知ったのは聖戦が終結した後だ。
星矢の母、星織(さおり)は星矢を生んですぐに死亡し、
以降は姉弟そろって親戚をたらいまわしにされた挙句に、
児童養護施設・星の子学園へと預けられる事になった。
このときの記憶が星矢の中でもっとも平穏に近いのがまたもの悲しい。
その後は知ってのとおりだ。
城戸家に引き取られ、姉ともども城戸姓になったのはまだいい。
だが、高慢ちきなガキ(沙織の事だ)にいびられ、反抗すれば辰巳に殴られ、虐待じみたトレーニングの日々。
それを平穏と呼べるほど、星矢は壊れていない。
聖域入りしてからは文字通り死と隣り合わせだ。
師・魔鈴は一人前の聖闘士を育てるのではなく、即戦力を育てたのである。
死ななかったのは奇跡に近い。
131戦闘神話・第三回−宣戦布告−:2007/04/13(金) 11:51:11 ID:R1wTW/GL0
星矢と同じく魔鈴の弟子になった少年は居たが、そのあまりにきつい鍛錬から逃げ出してしまったのだ。
後に魔鈴に師事することになる貴鬼の他、彼女の元から五体満足で巣立ったものは居ないのだ。
そんな星矢ほどひどくはないが、姉・星華もなかなかに危機的人生を送っている。
城戸家に引き取られてすぐに、二人は別離を言い渡された。
そこまではまだいいだろう、だが、星矢がギリシアに行った事を知った彼女の行動は常軌を逸している。
母が彼女たちの為に残してくれた貯金を崩して旅券を取るや否や、単身ギリシアに乗り込んだのだ。
当時十歳。恐るべきバイタリティである。
後々の星矢を鑑みると、さすがというべきだが、ギリシアにたどり着いたあたりでその体力も息切れした。
ロドリゴ村で雑貨商爺さんの手伝いをしていたものの、魔鈴に拾われるまで彼女は記憶そのものを喪っていた。
その喪った期間を取り戻すかのように、星華は今輝いている。
その姉を見守れる事が、星矢自身の平穏だったと気がついたのは最近なのだ。

だが、星矢自身理解している。
この平穏はかりそめの物だと。
冥王をもってしても殺せなかった己は、まだ平穏を甘受するには程遠い存在なのだと。
檄をダシにしつつも、平穏な日々は過ぎていく。
やがて来る戦の為に。
132戦闘神話キャラクター紹介:2007/04/13(金) 11:59:03 ID:R1wTW/GL0
続きましてー。キャラクター紹介第一回・聖闘士星矢編をお贈りします
・アリエスの貴鬼
13歳
教皇シオンの孫。
聖衣修復者兼黄金聖闘士という師の元で聖闘士としての修行を積み、
星矢本編時点で聖闘士の予備役である「アッペンデクス」になっていた
これは装着者が死亡した場合、戦力低下を防ぐ為に設けられている措置であり、
他にはジェミニのカノンがこれに該当する。最も、当時の彼はまだ力不足であったが。
聖戦当時は戦闘という点に関しては年相応の面が大きかったが、
四年の歳月が彼を真実の黄金聖闘士へと成長させている。
ピスケスのアドニスとは親友兼ライバル

・ピスケスのアドニス(オリジナル)
13歳
先代ピスケス・アフロディーテの甥。母ミュラはアフロディーテの姉。
姉弟仲は非常によく、母子共にデスマスクとも面識があったほど。
アフロディーテは彼らを非常に愛していた。
彼はアフロディーテを敬慕していたのだが、
後に聖域入りしたときにその思いは無惨に散る。
彼への反発から修行に打ち込み、ついには黄金聖闘士になる
だが、その精神は迷い、揺れている。
瞬からネビュラストームを授けられた唯一の弟子であることから、
瞬も彼の苦悩を見抜いていたと思われる。
根は意地っ張り。
133戦闘神話キャラクター紹介:2007/04/13(金) 12:03:11 ID:R1wTW/GL0
・星矢
聖闘士星矢の主人公。
17歳
戦闘神話本編上では姉・星華と共に暮らしており、
昼はバイト(高宮モータース)、夜は銀成学園高校夜間学部に通う勤労学生生活を送っている。
全聖闘士の憧れの的であり、聖闘士の中の聖闘士とも称され、
挙句の果てにはアテナ・城戸沙織からの熱烈なラブコールをうけているが、
本人はそんな評価は何処吹く風と生きている。勤労青年

・瞬
17歳
戦闘神話上では、弟子を多く抱え、綺麗な恋人(ジュネ)をもち、
聖域最強格の実力をもった凄まじい聖闘士
聖闘士の上にたつ聖闘士、女神アテナに最も近しい聖闘士という意味で、
神聖闘士(セイント)という称号をもつ
これは星矢・紫龍・氷河・一輝も同様
聖域中枢をなし、黄金聖闘士が未だ若輩の現在、聖域の大きな支柱となっている
心優しい性格だが、優しさだけでは護れないという戦訓をへて、
覚悟完了した恐るべき聖闘士として戦闘に望む
ジュネさんとはラブラブ
・紫龍
18歳
戦闘神話上では、弟子一人。
エイトセンシズに覚醒したため、潰れていた目は治癒している
龍の如き凄まじい聖闘士であり。その風格・人格から慕う人間も多い
聖域中枢をなすが、同時に聖域の裏の顔ともいうべき集団を率いている
影となり日となり聖域を、この地上を神の理不尽から護る為に闘っている
春麗とは友達以上恋人未満の初々しい関係
精神的には一番大人、でも恋愛素人
134戦闘神話キャラクター紹介:2007/04/13(金) 12:04:20 ID:R1wTW/GL0
・氷河
18歳
神話の地・アスガルドにてエインヘリアルたちと友情を育み、
彼らの先達として友として成長中
外交担当だが、コイツに外交を任せなければならないこと事態が
聖域の人材不足の露呈かもしれない
母・ナターシャ、師・カミュ、兄弟子・アイザックとの戦いを経て
「クールな熱血漢」として成長している
恋人は何故かいない。

・一輝
19歳
未だ旅の空
果たして彼が登場するのは如何なる戦場か?如何なる鉄火場か…?

・風間虎太郎(かざまこたろう)オリジナルキャラ
高宮モータースに勤務する青年
その外見は潮焼けしたジュリアン・ソロそのものである
気のいい兄貴

◆高宮モータース(オリジナル・原典はB'tXの主人公兄弟)
高宮鋼太郎・高宮鉄兵兄弟が経営するバイクショップ
従業員六名の小さな店舗だが、彼らの若い野心が詰まっている
妙にピーキーなチューンや、ほぼ新造に近い大改造など、
高い技術と高い趣味性がウリ
風来坊の虎太郎や、勤労学生の星矢などを雇うあたり、かなりおおらかな職場らしい
尚、おさない頃鉄兵が書いた看板を未だにかけており「MORTERS」とスペルが間違っているが
勤めている人間の素性を考えるとあながち間違っちゃ居ないのが恐ろしい
135戦闘神話キャラクター紹介:2007/04/13(金) 12:07:16 ID:R1wTW/GL0

・ジュリアン・ソロ
二十歳
ギリシアに本拠地をもつソログループの若き総帥にして、ソロ財閥の総代
卓越した政治手腕をもって大洪水の混乱を乗り切り、私財を投入して災害復興援助を行ったことにより
世界各国からの評価も高く、ソロ家の家紋であるトライデントになぞらえてミスター・ネプチューンという
仇名をもって知られるVIP
しかしてその正体は、オリンポス12神次席・海皇ポセイドンの魂と融合した半人半神である
未熟とはいえ黄金聖闘士ふたりを鎧袖一触してみせたその実力は、まさに神
四年前の聖戦の決着に納得がいかず、再び戦端を拓かんと画策している
執念深く情け深く、そしてなによりも負けず嫌い
銀杏丸が好きな悪役要素のうち「カッコイイ悪役」要素を煮詰めたキャラクター

・ソレント
元音大生、二十歳
ジュリアン・ソロの筆頭秘書にして、ジュリアン・ソロの友人
彼の表も裏も知悉したほぼ唯一の人間
海将軍・セイレーンとして完全覚醒しており、
デッド・エンド・シンフォニーはもはや魔技の領域へと達している
影が薄いが今のうち…
生真面目
136銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/04/13(金) 12:10:21 ID:R1wTW/GL0
さて、長らく間をあけてしまいまことに申し訳ございませんでした。
ぶっちゃけ充電してました。
高宮兄弟は車田正美20世紀最後のヒット作、B'tXから。
車田クロスオーバーを考えていたときの名残です

前スレ>>158さん
ジークフリートはこんなツラしてます
ttp://www.tamashii.jp/seiya/seiya/05/index.html
トイの出来も良いのでお勧めです

前スレ>>159さん
無駄に稀有壮大な車田漫画の世界観を愛してやまない銀杏丸です
ジャイアントロボばりの車田クロスオーバーを考えていたときもありました…

前スレ>>160さん
ソンナコトナイデスヨ、マジで、マジで…

>>ハロイさん
すさまじい力をもった英雄が、女に転んで情けなく死ぬってところが
僕がサムソンを好きな理由です
やっぱり、英雄は完全無欠じゃなくてどっか抜けてないといけませんよ
サクラは丹下桜氏じゃないとヤです

>>ブルーグラード外伝さん
ブルーグラードの連中って、聖域の分派というよりアスガルドよりなのだとばかり思ってましたw
設定によると聖域の分派らしいですが…
アレクサーとかナターシャとか、出してみたいがそこまで風呂敷広げると破綻必至…
氷雨は果たしてどうなるのか?期待してます
137銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/04/13(金) 12:20:50 ID:R1wTW/GL0
>>さいさん
あと7日ですね
神父おっかねー超おっかねーよ神父って感じです
若本氏の演技で一番おっかないのは、ハイテンションじゃなくてローテンションでぐぅううっと遣られたときです
いきなり耳元で静かな声で「殺す」とささやかれるようなおぞましさ 、考えただけで失禁ものですよ
女性作家が女性キャラ書くときはおっぱいが大きくなる傾向が高いので、
ハガレンのキャラは巨乳率高いですよ、マジデマジデ

>>スターダストさん
猫はいい、とてもいいです
個人的に、剛太はカズキを裏切るんじゃないのかと
アフターまでヒヤヒヤしながら見守った奴なんで注目されてるのはうれしい限り
そこら辺の感情がオリキャラのアルトリウスにつながっていたりします。
呂后専横を打倒する劉邦遺臣団、(といってもわずか二人)というのは、
史記を読んでた中で一番燃えたあたりです(次に司馬遷の不屈の人生)
魔法少女にツンデレ探偵お銀ちゃんにSFに大河ロマン
改めて喪われた星の大きさに涙せざるを得ません まさか、鉄人28号放送日になんて…
ところで西山って百年超過生きてるっぽいので、もしかしたらもしかするかも知れませんね
ヴィクターが致命傷を負う理由が彼だったりするのかも
最終話はおろかその前回をも見逃したがため、DVD発売がすっげぇ待ち遠しいです

>>ふら〜りさん
実際、どうなんでしょうね?勇次郎の「次」ってのは?
誕生編では虎は強いから虎なんだという隆慶理論バリバリでしたが…
あんまり興味なかった時代を舞台にした話だけに、興味前回でした
次は是非とも剣豪将軍を描いていただきたい

>>ハイデッカの旦那
いやはや、お久しぶりです
ご無事で何より、SS復帰をまってます

では、また!
138作者の都合により名無しです:2007/04/13(金) 15:15:26 ID:sZBTUWQc0
お疲れ様です銀杏丸さん。お久しぶりです。
セダイラ、教皇の妻になりましたかw
キャラ設定見るとなんか瞬が出世頭みたいな感じですな。
また、今度はそんなに間をおかずお願いします。
139ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/13(金) 17:23:14 ID:ovZ3++8t0
>>123
一応、最低限の形にはなったので。
もし良かったら見に来てください。
ttp://contextual-overman.hp.infoseek.co.jp/index.html

つーわけでそろそろSS書きに戻ります。
140作者の都合により名無しです:2007/04/13(金) 23:27:51 ID:YvZcYQ2O0
銀杏丸さん乙です。
戦いとかだけでなく、沙織たちの青春群像も見てみたいですね。
カップルも結構できてるみたいだし。こいつらに失恋ってないのかw


ハロイさん、短編も切れ味鋭いですな。
短編の名手といえばサナダムシさんゲロさんが真っ先に思い浮かぶけど
ハロイさんも素晴らしくうまい。
141作者の都合により名無しです:2007/04/14(土) 00:44:27 ID:RDTjakWu0
沙織さんとジュネさんというと虹のかなたを思い出す・・
ミドリさん帰ってこないかな。
銀杏丸さん、乙。しかし大長編になりそうだねw
142流花:2007/04/14(土) 07:39:05 ID:37gAl1m80
はじめまして。
今週のジャンプに掲載された内水融の読み切り「アスクレピオス」の
短編SSを書きました。
主人公バズの鼻梁の傷跡にまつわるエピソードです。
143傷跡の記憶:2007/04/14(土) 07:41:27 ID:37gAl1m80
すっかり寝静まった夜更けの町。その静寂を破って、石畳の道を蹴るいくつもの蹄の音が響く。
「そっちへ逃げたぞ。追えっ!」
教会から「異端の徒」として追われる二人組の「切り裂き魔」――バズとロザリィは、馬を駆って追ってくる聖騎士の一団から逃れようと、曲がりくねった街路を脇目も振らず駆けていた。
複雑に入り組んだ狭い街路を何度も曲がって進むうち、背後に聞こえる蹄の音は次第にその数を減らし、やがて全く聞こえなくなった。
「ぼっちゃま。大丈夫っスか?」
やや長めの金髪の毛先を立てるようにして頭の後ろでまとめ、白いブラウスに黒いベストと丈の短い黒いスカートを身につけて、網目の粗いタイツに踵の高い靴を履いた気の強そうな
顔立ちの少女、ロザリィが、走る速度を緩めて振り返り、少し遅れて駆けてくる常人並みの体力しか持たない主人を気遣うように言った。
この華奢な体つきをした少女が、手術道具一式を納めた重い鞄を手に苦もなく疾駆することができる理由を知っている者は少ない。
ぼっちゃま、と呼ばれた人物――白い外套に同じく白いフードを被り、目の部分だけをくり抜いた木の仮面を顔に付けて、蛇が巻き付いた意匠の杖を握り締めたバズは、
診察・執刀の際の助手であり、こうした時の護衛役でもあるロザリィに追い付きながら、息を弾ませて答えた。
「ええ、大丈夫……です。ここまで来れば……もう、彼らも……」
追っては来ないでしょう――そう言いかけたバズの前に、路地を別の方向から進んで先回りしていた、勇猛で知られる聖騎士の隊長が馬を駆って忽然と現れた。
突然のことに凍りつくバズ。
聖騎士の隊長は、馬上で腰の剣を抜き放つと叫んだ。
「神に背く異端の徒、アスクレピオスめ。神妙に縄につくがいい!」
叫び終わると同時に、バズの顔を覆っている木の仮面目がけて鋭く剣を打ち込む。
乾いた硬い音を立てて、仮面が二つに割れた。月の光に照らされて露わになった仮面の下の素顔を見て、隊長は一瞬目を疑った。
(子供――!?)
そう、バズ・ディレイルはまだ子供といっていい年齢だった。
あどけなさが残る顔立ちに、心の奥まで見透かされるような深い光を湛えた双眸。隊長自らが振るった剣が付けた、雪に覆われた尾根のように白くくっきりとした鼻梁を横切る
一筋の傷から赤い鮮血が流れ出して、少年の頬を静かに伝い落ちた。
予期しない事態に一瞬我を忘れた隊長の脇腹に、斜め下方から強烈な打撃が加えられた。
「がふっ…!」
猛烈な痛みが走り、息ができなくなる。完全に不意を突かれた格好になった隊長は馬上から転げ落ち、石畳の地面に倒れて意識を失った。
音もなく隊長の後ろに回り込んで先程の蹴りを放ったロザリィが、真剣な面持ちでバズを見つめる。
「ぼっちゃま…今のうちっス」
その眼差しを受け止めて、バズがゆっくりと頷いた。
「こんなことをするのは気が進みませんが……顔を見られたからには、仕方がありません」
144傷跡の記憶:2007/04/14(土) 07:43:50 ID:37gAl1m80
しばらくの後。町外れにある廃屋の一室で、麻酔の効果で眠る隊長が横たわっている寝台を前に、
バズとロザリィが手術の用意をしていた。二人とも一切言葉を発さない。器具の冷たい音だけが響く
室内には、一種異様なほど張り詰めた空気が漂っていた。
やがて、沈黙を破ってロザリィがバズに声をかけた。
「ぼっちゃま。準備OKっス」
その言葉を聞いて顔の傷に止血処置を施したバズが振り返り、深刻な表情で頷いた。

二人組の切り裂き魔を追っていた聖騎士の隊長が行方知れずになってから十数日後。
町外れの道をどこかぼんやりした様子で歩いている隊長を、教区内の見回りをしていた
二人の隊員が見つけた。隊員たちは十日以上行方がわからなくなっていた上官に駆け寄ると、口々に声をかけた。
「隊長!ご無事だったんですね」
「アスクレピオスの奴らはどうなったんですか」
しかし、隊長は当惑したように首を振って、言った。
「アスクレピオス……?すまないが、私には何のことだか……」
そう答える目の前の男に、凛々しく勇猛な聖騎士隊長の面影はなかった。

ロボトミー――バズが隊長に施術したのは、脳の一部を切除して記憶を失わせると同時に、
被術者の性格までも変える禁断の術式だった。

自分たちを追い詰めた人物の記憶を葬り、教会という権力の手を逃れて、バズとロザリィは
今日も旅を続ける。教会が認める「正当の医学」では救えない傷病者たちを助けるために。
145流花:2007/04/14(土) 07:46:17 ID:37gAl1m80
書いてから思いましたが、いくら身を守るためとはいえ、他人を傷つけるために
医術を使うのはこの主人公らしくないかな…という気がしました。
それから、ロボトミーでは記憶を失わせることはできないはずです。
この点はあくまで娯楽短編内のギミックということでお許しください。
146作者の都合により名無しです:2007/04/14(土) 09:59:13 ID:EbR0bYF70
またものすごいストライクゾーンの狭い題材を・・w

流花さんお疲れです。今週号のジャンプをもう一度読み返したくなりましたw
ロボトミーって医科手術は仰るとおりそんな事は出来ないはずですね。
今度は、もうちょっとメジャーな作品を書いてくれると嬉しいな。
147シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/14(土) 12:25:46 ID:xZMRyCpx0
>>92の続き

「うあああぅ!」
 言葉にならない雄叫びを上げて、包丁を振りかざした男がブギーポップに飛び掛かる。
 スウェーして切っ先を避けるその先まで、刃は正確に追尾してきた。
 二度、三度と繰り出される攻撃は、徐々にスピードが上がっていく。
 紙一重ともいえるぎりぎりの距離でそれをかわし続けるブギーポップは、その一方で初佳に呼びかける。
「五十嵐初佳、君は下がれ。彼に『スイッチ』が入った」
「ス、スイッチ?」
「彼の防衛本能が限界まで引きずり出されている。彼の『領域』に足を踏み入れたらたちどころに襲われるぞ。
だがしかし──この状況になっても頑なに自分の『安全』を確保し続けるのか……やはり捨て置けないな」
 最後は独り言のようにつぶやき、男の背後に控える店員の方へ視線を向けた。
 その死角から、驚異的な速度を伴った柳葉包丁が刺し伸ばされてくる。
 だが、ブギーポップはそれを予期していたように、視線は店員に固定したままで男の腕を弾き飛ばした。
 そして、フーッ、と長く息を吐くと、膝を思い切り沈めて跳躍した。
 それはまさに「目にも留まらぬ」というやつで、その場の誰もが動きを視認できないうちに、
ブギーポップは男の肩を踏み抜いてさらに高く跳び上がる。男は床に倒れながらも赤ん坊を庇っていた。
 天井すれすれを通り、中空でさらに身体をひねり、雑技団のような身のこなしでレジカウンターの上に中腰で降り立った。
 だん、とカウンター全体を揺るがせる衝撃に、店員が驚いて顔を上げ──
「消えろ──『泡』のように」
 息を呑む暇すらないままに、ブギーポップの二指から放たれた『なにか』に頭を撃ち抜かれた。
「あ──」
 店員はよろめき、ふらふらと背後にある業務用の電子レンジやらなにやらが置かれた棚に持たれかかる。
 放心したように虚空を見つめるその瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。
 それは、自らの内に潜む巨大な『可能性』が潰えたことへの哀惜なのかも知れなかった。
148シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/14(土) 12:27:27 ID:xZMRyCpx0
「──殺したの?」
 ブギーポップの不可視の攻撃を受けてぴくりとも動かなくなった店員を見、初佳が不安そうに漏らす。
「いや──幸いにも、彼は『当事者』として負けた。彼の『能力』は無自覚であることが大前提だった。
その意味では、私を『敵』として認識した時点で彼の敗北は決定していたんだ。
私がこれ以上なにかをする必要はなかった。単なる形式として、彼に『敗北』を与えただけだ。
今後、彼は『普通』の人間として、悩んだり傷ついたりしながら世界と戦わなければならないだろう──他の大勢の人たちがそうしているように。
だが──」
 ブギーポップはカウンターから降り、経でも読むような平坦な口調で述べる。
「わずかに手遅れだったようだ。
彼の『テイルズ・フロム・ザ・トワイライト・ワールド』は、すでに決定的なレベルに到達していた。
『世界の敵』たる可能性を秘めた存在が、続々とこの街に引き寄せられている。──私も忙しくなりそうだ」
「……相変わらず、アンタは『世界の敵』とかなんとか訳の分かんねー話ばかりね」
「本当に分からないか?」
 ブギーポップは初佳を見つめる。
 それはどこまでも真っ直ぐな瞳で、恋人の貴也のそれにも似ていて、初佳は少しだけどきりとする。
「──君には分かっているはずだ。かつて秋月貴也とともに『世界の敵』と戦い、『泡』の記憶をも持つ君ならば。
『dis beet disrupts(崩壊のビート)』は、ごくごく身近にこそ潜んでいるものだと。核攻撃による世界崩壊モデルなんて御伽噺さ」
149シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/14(土) 12:28:34 ID:xZMRyCpx0
 そして、ブギーポップは店の出口へと向かう。その足運びにはなんの迷いもなかった。
「ちょ、ちょっと。どこ行くの?」
「言っただろう、『私も忙しくなる』と」
 一顧だにせずそう返すビギーポップの背後で、踏み台にされた男がのろのろと立ち上がり、そして店員もふらふらと身を起こす。
 それを指差して初佳が小さく悲鳴を上げた。
「これ、どーすんのよ!」
 そんな声など聞こえぬげにずんずん進んでいくブギーポップだたが、思い直したように初佳へ振り返る。
「『振り出し』に戻っただけだ。好きにさせておくといい。コンビニ強盗が成功するかどうかは私のフォロー範疇にない。
ただ、やはり君は手を出すな。君になにかがあると、秋月貴也が悲しむし──いささか人間くさくはあるが、私も同じ気持ちだ」
「え」
 予期しない言葉に目を丸くする初佳だったが、
そのある意味告白同然のセリフにも気負った素振りを見せず、さらりとブギーポップは続けた。
「ま、そういう訳だ。餅は餅屋と言うし、後は警察の到着を待つといい。
だが、そうだな──もしかしたら、彼の『能力』におびき寄せられたおせっかい焼きがこの状況を制圧してしまうかもしれないな」
 そう言い残し、ブギーポップは新たな『敵』を求めて店から出て行ってしまった。
「ちょ、ちょっとこらあ! 不安になりそうなセリフを残して勝手に一人で行くなあ!」
 だがその声は今度こそブギーポップには届かず、ガラス貼りの向こうに見えるその正体不明の怪人は風のように駆け抜けていった。
150ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/14(土) 12:30:03 ID:xZMRyCpx0
とりあえずここで一区切り。『復活のビート Part3 A』は終了です。
まもなく『復活のビート Part3 B』を投下します。
151シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/14(土) 12:34:25 ID:xZMRyCpx0
『復活のビート Part3 B』


「ったくよ……なんで朝っぱらから……」
「ぼやかないぼやかない」
 朝の並木道を、二人の男が歩いていた。
 片方は不機嫌が黒のスーツを着て歩いているような、髪を短く切りそろえた大男で、
もう片方は暢気さが滲み出ている、大男よりは幾分趣味のいい服装の、無造作に長めの髪を流している優男風だった。
「頑張ってお仕事しないとねー。ねー、お父さん」
「『お父さん』はやめろと何度も言ってるだろーが! てめぇの脳ミソは藁かなんかか!?」
 怒鳴る大男の剣幕を受け流し、優男がへらへら笑う。
「もー、黒ぴーってばホント怒りんぼー」
「この──っ」
 こめかみをぴくぴくさせながら優男の胸倉を掴むのへ、その険悪な空気にそぐわない能天気な声が響き渡った。
「あー! 黒鋼がファイをいじめてるー! いーけないんだ、いけないんだー! せーんせーに言ってやろー!」
「……だから俺らがその『先生』になるんだろーが!」
 大男──黒鋼はその声の主へ振り返る。
 奇妙なことに、UFOキャッチャーの景品でありそうな、真っ白でふかふかのぬいぐるみが宙に浮かんでいた。
 そしてそのぬいぐるみがいきなり口を利く。
「黒鋼、先生になるの!? じゃあモコナも先生になる!」
152シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/14(土) 12:41:33 ID:xZMRyCpx0
「白まんじゅうがなにを教える気だ、ああ!?」
 すると、モコナ──ぬいぐるみでも白まんじゅうでもなく──は、優男の胸の中に飛び込む。
「えーん、黒鋼がいじめるよー。ファイも黒鋼にいじめられたのー?」
「そーだよー。もー、悪いお父さんだよねー」
「家庭内暴力?」
「モコナは難しい言葉を知ってるね。よしよし、お母さんが叱っておくねー。──ダメだぞ、めっ」
 緩みきった笑顔でモコナを撫でなでするファイに、黒鋼は脱力感を露わにがっくり肩を落とした。
「てめぇら……いつか殺す……」
 そんな黒鋼をよそに、ファイがモコナに訊ねる。
「それでどうしたの、モコナ? 今日はサクラちゃんや小狼くんと一緒に学校に来るんじゃなかったの?」
 その言葉がきっかけとなり、モコナの額の宝石がわずかに輝く。
 そしてモコナの小さな口がありえないくらいに大きく開かれ、さらにありえないことに、
モコナの大きさと同じ体積くらいの直方体をそこから吐き出された。しかも二つも。
「二人とも、お弁当忘れた! だからモコナが届けにきた!」
「わー、ありがとうモコナ」
「ほめてほめてー」
「んー、モコナはいい子だねー。……ほらほら黒ぽん、モコナにお礼は?」
「……ああ? 知るか」
 普通の人間だったら恐怖に身をすくませてもおかしくない黒鋼の狂相も、ファイとモコナにはまったく通用しないようで、
「モコナ知ってる! こーゆーの、『恩知らず』って言うの! 黒鋼、恩知らず!」
「そーだそーだ。黒ぴょんは恩知らずー」
 ノリノリで「恩知らず」とコーラスを始めた一人と一匹に、黒鋼が再びキレかけたその時だった。
「──っ!」
 ただならぬ気配を察知した黒鋼がファイの身体を突き飛ばす。
 その瞬間、鈍い音を立ててレンガ造りの歩道にジュラルミンの矢が突き刺さった。
153作者の都合により名無しです:2007/04/14(土) 12:43:05 ID:j8fG6vjI0
規制中?
154シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/14(土) 12:46:16 ID:xZMRyCpx0
 その凶器を、その攻撃の意志を悟ったファイもさすがに顔をわずかに引き締める。
 黒鋼と背中合わせに立ち、全方位をお互いにカバーして襲撃者の姿を探す。
「見えたか?」
「んー、ちょっと分かんないー。矢の方向からしてこっちらへんだとは思うけどー」
「……複数だな。あっちこっちから殺気を飛ばしていやがる」
「この国に来たときに襲ってきたのと同じ人たちかなー?」
「さあな。──来るぞ!」
 二人が同時に飛び、その元いた位置に矢が何本も生える。
 飛んでくる金属性の矢を素手で打ち落としつつ、黒鋼は襲撃者の気配の変化を探る。
 徐々に近づいていた。
 遠距離からの狙撃ではダメージを与えられないことを知り、直接的な近接戦闘に持ち込むつもりだろう。
 つまり、回避不可能な矢の雨を降らせるほどの大規模なグループではないようだ。
 なら一人ずつ潰す──黒鋼はそう判断し、ファイから離れる。
「白まんじゅうの面倒みておけよ!」
「おっけーお父さん」
「『お父さん』はやめろ!」
 ひらひらと器用に矢をかわしながら親指を立ててみせるファイを怒鳴りつけ、黒鋼はまず一人目の気配の元へ駆け寄る。
 そいつは並木の上にいた。黒鋼の見たことのない弓のような装置──ボウガンをその手に携えていた。
 急接近する黒鋼に驚くことなく、そいつは極めて冷静な手つきで矢を繰り出す。
 ボウガンの適正な有効距離に侵入したことで、さすがにかわしきれず、一本の矢が黒鋼の首を掠めた。
「いい狙いしてるじゃねえか!」
 首筋から血を垂れさせながらも、黒鋼は構わず木に駆け上り、そいつを殴り飛ばす。
 足場にした枝から、その向かいの木に立っている別のやつと目があった。
 そいつはすでに黒鋼に狙いをつけてトリガーに指を掛けていた。
 だが、矢を発射する前に「ぐっ」とうめいて肩を押さえ、そのまま木から落ちる。
 下を見ると、地面のから回収した矢を何本も持つファイが「やっほー」と手を振っていた。
155シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/14(土) 12:50:30 ID:xZMRyCpx0
「余計なことをしやがって」
 忌々しげに呟く黒鋼だったが、その顔はあまり嫌そうな感じではなかった。
 笛の音がした。
 それを合図に、今までどこに隠れていたのか、ぞろぞろと人影が湧き出てくる。
 そのどいつもが同じような服装だった。ただ、男と女とでは全く違っている。
(『学校』の制服ってやつだな……小僧と姫が今朝着ていたやつだ)
 黒鋼は目でファイに合図すると、木の上から並木道に降り立った。警戒しながら、再びファイと背中合わせに立つ。
 襲撃者はおよそ十四、五人。どれもがボウガンやらナイフやらで武装していた。
 だが、そんなことよりも黒鋼の気を引いたのは──。
「気にいらねえな、あの『目』」
「どーしたの、黒にゃん」
「あいつら、小僧や姫と同じくらいの年頃だ……それにしちゃあ、『目』に光がねえ。
あのくらいのガキっつったら、良くも悪くも確固たる『意』をそこに宿しているはずだ」
 かつての自分の姿を思い出しながら、黒鋼はその見解を述べるが。
「ああ、なるほどねー。でも──それはどうだろうね──」
 などと、ファイは肯定してるのか否定してるのかよく分からない言葉を返した。
 そいつらは陣形を組み、じりじりと距離を狭めてくる。それは獣の動作にも似ていた。
「白まんじゅう! 刀をよこせ!」
「いいのー? あんま刀を振り回してるとお巡りさんに怒られるって露伴先生に言われたでしょー?」
「知るかよ。先に向こうが抜いてるんだ。警察だかなんだか知らねえが文句は言わせねえ」
 この国のシステムを考えるにそれはさすがに無理のある発言だったが、
それを突っ込めるほど『常識的』な人間はこの場にいなかった。
156シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/14(土) 13:01:11 ID:xZMRyCpx0
「いいから刀!」
「う、うん!」
 ファイの懐に隠れていたモコナが顔を出し、先ほど弁当箱を出したときのように口を大きく広げる。だが。
 二人と一匹を囲む陣形が、いきなり崩れた。そのことを訝しむ間もなく、その理由をも知る。
 いや、今まで『それ』が起こらなかったことのほうが不思議だった。
「……なにをしているんですか?」
 そう──無関係者の目撃、である。
 崩れた陣形の穴の向こうに、一人の少年が立っていた。
 控えめに言ってもかなりの美少年で、もっと余裕のある状況だったら、ファイなどは「ひゅー」とか言っていただろう。
 戸惑うように、その致命的なまでに奇妙で不審な集団を見ていた。
「おいそこの! 逃げろ!」
 思わず、黒鋼は叫んでいた。
「はあ?」
 少年が訳の分からない、といったふうに、気弱に首を傾げてみせる。
 そうしている間にも、崩れた陣形のそもそもの理由──襲撃者の一部が、少年の口を封じるために彼に接近していた。
「ちっ!」
 モコナに刀を急かすのすら惜しく、黒鋼は襲撃者たちの間を飛び越えて少年へ向かって失踪する。
(間に合わねえか!?)
 内心で舌打ちし、だがそれでもさらに足を速める黒鋼の目の前で、
「……僕は、『なにをしている』と聞いているんだがな」
 少年の目がわずかに細められ、そこに情け容赦のない冷たい色が浮かび上がる。
157シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/14(土) 13:02:45 ID:xZMRyCpx0
 そして、数々の修羅場で鳴らした黒鋼ですら目を疑うような光景が起きた。
 少年に襲い掛かっていた襲撃者の一人が、「ぐぎゃあ」という音──それは声ではなく、
あくまで肉体的な反応によって肺から搾り出された音だった──とともに、
 爆散した。
 糸の切れた人形のようにずり落ちるそいつの顔の辺りには、少年の手がかざされていた。
「僕を襲った、ということは僕の敵だ。つまり──」
 淡々と述べる少年の口調は冷え切っていて、まるで人間味を感じさせない、そういう口調だった。
 そして黒鋼は耳をも疑う。
「『統和機構』の追っ手には見えないから──『パンドラ』に予言された、『羽を追うもの』の関係者ということだな」
 ──『羽』、そう言った。
「てめえ……何者だ」
「僕かい? 名乗る必要もないが……まあいいさ。僕の名前は天色優だ。君たちも『羽を追うもの』なのか?」
 少年──天色優は、黒鋼を見据えながら、そう問うた。
158作者の都合により名無しです:2007/04/14(土) 13:21:58 ID:j8fG6vjI0
結構規制長いね
廃スレで支援してましたが
159作者の都合により名無しです:2007/04/14(土) 13:27:23 ID:j8fG6vjI0
途中で申し訳ないです。
今から出ないといけないので、感想だけでも。

リアルタイムで読んでました。
お疲れ様ですハロイさん。

またニューキャラが現れましたね。魅力的で一癖もふた癖もありそうな。
それに、世界の不安を煽るようなキーワードがそこかしこに。
ブギーポップは知らないけど、なんとなくエヴァやガンパレードマーチを思い出しました。
あと、十和子がお気に入りなのでそろそろ彼女と静の活躍も気になるなあ。
160ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/14(土) 13:28:42 ID:xZMRyCpx0
本SS中でおそらく最凶の攻撃能力の持ち主、天色優ことユージン登場の回でした。

>ハシ氏
あー、やっぱ古橋知ってましたか。なんとなく文章からそんな感じがしたので、カマかけてみました。
彼、もっと売れるといいですね。
ジグバールの身体を張った魔弾無力化……読んでてぞわぞわします。

>スターダスト氏
そこかしこに見え隠れするバロディネタににやにやしてます。
こういうのって読んでるほうにも教養が要求されるので気が抜けませんです。

>銀杏丸氏
沙織さんも女の子なんですね……そんな可愛らしいメールを星矢に送ってるなんて……。
可愛いらや星矢が妬ましいやら。

>傷跡の記憶作者氏
元ネタ未読ですorz
オカルト版ブラックジャックみたいな話ですかね?
つーかロボトミーって黒すぎww
161ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/14(土) 13:35:43 ID:xZMRyCpx0
>>159
あ、ごめんなさい。どうもご迷惑を。
えーと、『復活のビート Part3』が終わったら再び静と十和子に話が戻ります。
162流花:2007/04/14(土) 15:08:37 ID:k3m+SQCTO
レスありがとうございます
>>146
作品スレで話しているうちに何か色々妄想が膨らんで
止まらなくなってきたので、思わず寝起きのパジャマ姿のままで
PCに向かって一気に書いてしまいましたw

>>ハロイ氏
元ネタの作品はヒューマニズムあふれる中世のブラックジャック
といったところなんですが、書き手が最近ダークな話に
惹かれているためにSSも鬱展開になってしまいましたw

ここで書いていらっしゃる皆さんのSSは作品の枠を超えた
長編が多いんですね。今度時間があるときにゆっくり
見てみようと思います
新参者ですが、よろしくお願いいたします
163作者の都合により名無しです:2007/04/14(土) 16:45:28 ID:j8fG6vjI0
流花さんお疲れ様です。
作品全然知らないんで、二次創作としてどうかはわかりませんが
一読してみて、かなり書き慣れている方とお見受けしました。
また何か書いて頂けると嬉しいです。


ハロイさん、乱入申し訳ないです。
ヴィクテム共々楽しみにしてます。
あとサイトも見ました。読み切りもうまいなあ!
164作者の都合により名無しです:2007/04/14(土) 19:55:11 ID:ffQeMqPj0
ハロイ氏はすごく話と設定とキャラを作りこんでいるな。
しかもこのレベルで2本同時進行だから恐ろしい。

統和機構とか羽を追うものとか、奇妙なキーワードも
後に生きてくるんだろうな。原作にあるのかも知れないけど。
165ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/14(土) 22:10:22 ID:R1NCe7cj0
第三話「戦闘開始」

そこは鬼ヶ島。かつて説明した通り、太平の世になって五年、鬼族の巣窟たるこの島も平穏そのものであった。
―――そして、今。
五年ぶりの戦渦が、鬼ヶ島を、ひいてはこの世界を巻き込もうとしていた―――。

異形の怪物が大地を揺らし、空を蹂躙する。その爛々と光る眼が、世界を睥睨する。その身体の輪郭は人間のものに近い
が、それは逆に彼らの異様さを際立たせている。
総じて黒色の巨体を持ち、獰猛な唸り声をあげて襲い掛かってくる怪物たち。

対して鬼族は現在、軍勢を二つに分けてその侵攻を食い止めている。
一つはバサラ王の右腕にして名実共に鬼族第二位の実力者、えんま王率いる軍勢。
もう一つはバサラ王の第二子、アジャセ王子が率いている。
現在の所、戦況は鬼族にとって不利なものであった―――。
166ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/14(土) 22:12:06 ID:R1NCe7cj0
怪物たちと鬼族が入り乱れる戦場。
長く美しい黒髪を靡かせて、アジャセは周囲に群がる敵に向かう。彼が手にしているのは、見掛けは特に何の変哲もない
横笛だ。
勿論それでは武器として扱うことなどできないが、特殊な念を込めることで笛の強度を上げることにより、直接怪物たち
を殴り飛ばすことを可能とする。
外見からは想像も付かないが、彼は割と肉体派だった。
(例・険しい山に囲まれた場所に行きたいが乗り物がない→山にトンネルを掘るしかないじゃないか!)
ちなみにこれ、実話である。
それはともかく、雑魚の皆さんをダース単位であしらった彼は、一際大きな身体と翼を持った怪物に対峙した。
「ふふふ…ただの優男かと思っていたが、中々やるな」
「お褒めに預かり光栄だが…お前たちは何者だ。何をしに来た!」
怪物の牙だらけの口が、にいっと歪む。笑ったのだとすれば、それはあまりに醜悪すぎた。
「―――我らはアヤカシ。ギガゾンビ様の忠実なる僕なり」
「アヤカシ…ギガゾンビ…!?」
聞き慣れぬ言葉に困惑するアジャセを尻目に怪物―――いや、アヤカシは続けて名乗った。
「そして我が名はジジョウダ。アヤカシのジジョウダだ!」
言い終わるが早いか、ジジョウダがその大きな翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こす。身を切り裂くかのような風に翻弄
されて、アジャセは身を守るだけで精一杯だ。
そこを狙い、ジジョウダが鋭い爪でアジャセに襲い掛かる。だがその瞬間、突風が向きを変えた。それは逆にジジョウダ
に向かう。
「何ぃっ!?」
驚く間もなく、次はどこからともなく電撃が放たれる。それを翼で防いだジジョウダだったが、たまらず動きを止める。
「今のは…」
アジャセが呟くと同時に、側に二人の大きな鬼が駆け寄る。
一人は青い身体に、大きな袋を手にしている。
もう一人は赤い身体に、背中に沢山の太鼓を円形に繋げて背負っている。
「ぴゅるるるるぅ!アジャセ王子、ご無事ですか!」
「ぐゎらりぐゎらり!風神と雷神、ただいま参りました!」
167ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/14(土) 22:13:25 ID:R1NCe7cj0
彼らは風神と雷神―――その姿をイメージできない人は多分いないと言っていい、あまりにも有名な鬼である。
えんま王直属の配下の中でも、とある一人の別格の男を除けば、特に強大な力を持った二人である。
ちなみにその男については次回登場予定。規制がかかるレベルの変態なので、覚悟しておいてください。
それはそうとして、風神と雷神はえんま王の元にいたはずだった。それが、何故ここに?
アジャセの疑問を表情から見て取ったのか、二人は答えた。
「ぴゅるるるるぅ!えんま様の事ならばご心配なく!」
「ぐゎらりぐゎらり!そのお力により、あちらの怪物共はほぼ全滅しております!」
ほぼ同時に言葉を発する。息の合った二人だった。
「そうか…流石はえんま王だ」
感心しつつ、立ち上がるアジャセ。風神と雷神、そして鬼の兵士たちと共にジジョウダを取り囲む。
だがその時―――大地が揺れた。地面に亀裂が走り、そこから何かが飛び出す。
現れたのは女性の顔を持った、小山ほどもある大きさの蜘蛛だった。
「これは、少々多勢に無勢でありんすねえ…ジジョウダ、ここはアチキも手伝うでありんすよ」
「くっ…新手か!?」
「ぴゅるるるるぅ!何者だ!」
「ぐゎらりぐゎらり!名を名乗れ!」
巨大な蜘蛛は、妖艶な笑みを浮かべてそれに答えた。
「アチキはアヤカシ女王蜘蛛・ガンダダーン。よろしくでありんす」
同時にその口から、白い糸が吐き出され、その場の全員の身体を拘束した。
「ぐっ…!?し、しまった!」
「ぴゅるるるるぅ!なんだ、この糸は!」
「ぐゎらりぐゎらり!う…動けん!
「おやおや…こんなにあっさりアチキの<魔糸(まいと)>にかかりとは、意外とうっかりさんでありんすねぇ…」
ニヤニヤと笑うガンダダーン。それに対し、ジジョウダが苦言を呈した。
「ガンダダーン!貴様、今まで何をやっていた!?」
「申し訳ない。この戦い、中々に壮観だったので、思わず手を休めていたでありんす」
呑気な事を口走るガンダダーン。だが、形勢は既にアヤカシの側に傾いていた。アジャセたちは、まさに料理されるのを
待つだけのまな板の上の鯉だ。
「さて、それではさっさと止めといくでありんす―――」
ガンダダーンの口から、更に大量の魔糸が吐き出され―――
168ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/14(土) 22:14:53 ID:R1NCe7cj0
「―――<ひらりマント>!」
―――それは直撃することなく、弾き返された。
「な…だ、誰でありんす!?アチキの邪魔をしてくれたのは!」
「ぼくだよ」
ひみつ道具<ひらりマント>を構えたまま、青いそいつは答えた。
「二十二世紀のネコ型ロボット…ドラえもんとは、ぼくのことだ!」
ババーン!と名乗ったドラえもん。だが、それに対する反応は―――
「…知ってるか、ガンダダーン?」
「いや、分からんでありんす」
ドラえもんはがくっと肩を落としたが、アジャセはその姿を見て、思わず呟いた。
「青き…神獣…」
「え?青き…なんですって?」
聞き返そうとしたドラえもんだが、その隙をついて再び放たれる魔糸。しかし、それはまたしても阻まれた。
「GUN鬼の銃・特殊弾―――<炎華暴弾(えんかぼうだん)>!」
文字通り暴れ狂うような炎の奔流が、魔糸を焼き尽くす。
「くっ…ま、またしても…今度は何でありんす!?」
「今までの展開を見る限り…そっちの方がギガゾンビの手先、でいいんだよね?」
そこにいたのは、着流しに袴、<MUSASHIセット>を着込んだ眼鏡の少年―――。
「ゴ○ゴもトレ○ンも目じゃない最強ガンマン―――野比のび太とは、ぼくのことだ!」
「…知ってるか、ガンダダーン?」
「いや、分からんでありんす」
―――繰り返しギャグは、いつの時代、どこの世界にも存在する。
「まあいいや…ひとまず、その糸をどうにかしないと。ドラえもん、任せた!」
「オッケイ!<物質変換機>!」
銃のような形をした道具を取り出すと、ドラえもんはアジャセたちの身体に巻き付いた魔糸に向けて引き金を引いた。
その瞬間、魔糸はあっさりと強度を失い、解けていく。
「ぴゅるるるるぅ!これは不思議な…!」
「ぐゎらりぐゎらり!誰かは知らんが、かたじけない!」
「いやあ、そんな…」
活躍できて照れ照れのドラえもん。そんな彼に、アジャセは疑問をぶつけた。
169ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/14(土) 22:16:51 ID:R1NCe7cj0
「我々には計り知れない不思議な道具…それに、あいつらのことも知っているとは…君たちは、一体何者なのだ?」
「うーん、何者って言われても困るけど…それはそうと、そっちこそ、ぼくを見て青きなんたらって言ってたけど、一体
どういう意味なんです?」
「あー、もう、いいじゃない二人とも。今はグダグダ言ってる場合じゃないでしょ!」
のび太がピシャリ、と話を遮った。
「詳しい話は後!とにかくあいつら、ギガゾンビの手下なんでしょ?それと戦ってるんなら…ぼくたちは、味方だよ」
単純な理屈だったが、その通りではあった。ドラえもんとアジャセは一瞬顔を見合わせると、すぐに心得たとばかりに
頷きあった。
今ここに、ドラえもんとのび太、そして鬼族―――即席ながら、共闘関係が成立したのである。
「ふん…よかろう!ならばそこのガキから捻り潰してやる!」
ジジョウダが翼を広げ、空中へと舞い上がった。そしてのび太に向けて、一直線に飛び掛ってくる。
「おっと!」
その一撃をかわしたのび太は、空中を飛び回るジジョウダに向けてジャンプした。数十倍―――下手をすれば数百倍
にまで強化された身体能力が、天高くへの跳躍をも可能とする。
だがそれは、傍目には無謀な行為そのものだった。
「ぴゅるるるるぅ!逃げろ、少年!」
「ぐゎらりぐゎらり!空中では奴には勝てん!」
風神と雷神、そして全ての鬼族がのび太を心配そうに見上げる。
「大丈夫ですよ」
だがドラえもんが、あっさりと言った。
「のび太くんはダメな奴だけど、ぼくの道具があるし…何より、こういう事態にはやたら強いんですよ」
「しかし…」
言い募るアジャセに、もう一度ドラえもんは繰り返した。
「大丈夫ですって。ほら、見てください!」
言われた通り、空へと舞い踊ったのび太へと視線を向ける。のび太は重力を明らかに無視した動きで、ゆっくりと降下
しながらジジョウダと戦っていた。
その爪を紙一重でかいくぐり、GUN鬼の銃で応戦する。
170ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/14(土) 22:17:39 ID:R1NCe7cj0
「ぴゅるるるるぅ!すごいぞ、あの少年…!」
「ぐゎらりぐゎらり!落ちながら戦っておる!」
本当にこの二人、某中学生ダブルスもびっくりの息の合いようだった。今にもシンクロを始めそうな勢いだ。
それはともかくとして、今のび太が見せている動きこそが<MUSASHIセット>に秘められた力の一端―――
まさに<フォーリング・バトル・システム>である!
鬼たちはその動きに感心するやら、見とれるやら、完全にモブキャラと化している。
「陰陽弾をくらえ〜!」
そしてのび太がついに勝負を決めた。二丁の銃から放たれた特殊弾―――<陰陽弾>が、ジジョウダの両目に見事に
命中したのだ。
「ぐわぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!!」
絶叫を上げながら落下していくジジョウダ。そして地面に叩きつけられると同時に、その身体は溶けるように消えて
いった。一瞬遅れて、のび太も着地する。
「ぬう…ジジョウダを倒すとは、やるでありんすね…アチキも本気でいかせてもらうでありんす!」
ガンダダーンが今まで以上の大量の魔糸を放出する。だがその前に、風神が立ちはだかった。
「ぴゅるるるるぅ!何度も同じ手が通じると思うな!<疾風の術>!」
風神が手にした袋から吹き出す疾風。全てを引き裂き、海をも割るかのような風が、魔糸を散り散りにしていく。
「なっ…アチキの魔糸を!」
驚愕するガンダダーン。だが、これでは終わらない。
「ぐゎらりぐゎらり!我が力を見せてくれよう!<雷撃の術>!」
雷神が激しく太鼓を打ち鳴らす。バチバチと雷光が迸り、ガンダダーンへ向けて放たれた。
「うぁっ!」
強烈な雷の一撃に、たまらず悶えるガンダダーン。そして―――
「最後はぼくの番だ!<炎華暴弾>最大出力!」
のび太が放った一撃は、まさに全てを飲み込む大火球。ガンダダーンは断末魔の声すらもなく、ただ溶けていく。
周りに残っていたアヤカシたちは、司令官クラスの二匹を倒されたことにより、散り散りになって敗走していく。
「―――ふう、これで一段落着いたね」
「うん。それじゃあ、改めて。ぼくはドラえもん。こっちはのび太くんです」
「ドラえもん…そして、野比のび太、か」
アジャセは姿勢を正し、頭を下げた。その顔には感謝と、いくばくかの敬意が浮かんでいる。
171ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/14(土) 22:18:36 ID:R1NCe7cj0
「私はアジャセ―――鬼族の王、バサラ王の第二王子だ。助けてくれたこと、感謝する。ついては君たちのことで色々
聞きたいこともあるのだが…」
「ええ、構いませんよ。ただぼくたちもこの世界に来たばっかだから、こっちからも話を聞かせてもらいますよ」
「いいだろう。では、ひとまずどこか落ち着ける場所で―――」
「―――悪いけど、お休みの時間はまだ先だよ」
可憐とさえ言える少女の声が響いた。一斉にそちらへと顔を向けると、そこには三人の少女たちがいた。
小悪魔的な笑顔を浮かべた、活発そうな短髪の少女―――ティス。
弱々しく見えるほどに儚い雰囲気の髪の長い少女―――デスピニス。
その二人と比べるとどうにもインパクトの弱い、影の薄そうな少年―――ラリアー。
「なんか地の文で、酷い紹介された気がするんだけど…」
「気のせいだよ、ラリアー…さて、鬼族の皆さんに、ドラえもん、それに、野比のび太、だっけ?あたいはティス。
男の子がラリアーで、こっちのかーいらしい子がデスピニスだよ。よろしくね」
「あ、どうもよろしく。ラリアーくん、それにティスちゃんにデスピニスちゃんか、二人とも可愛いね。えへへ…」
あからさまに怪しい三人にへこへこ挨拶し、しまいには可愛い女の子とみてデレデレするのび太。ドラえもんが情けない、
と言わんばかりの顔でのび太をつつく。
「のび太くん、言ってる場合じゃないでしょ!あの子たち、多分敵だよ!」
「わ、分かってるよ…」
その様子を見て、ティスは小馬鹿にしたように笑う。
「はん、軟弱そうな野郎だね。ねえ、デスピニス…デスピニス?」
デスピニスは、何故か嬉しそうだった。
「可愛いって言われました…褒められました…」
「…よかったね」
「はい、よかったです…」
172ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/14(土) 22:19:50 ID:R1NCe7cj0
ティスとラリアーは対照的に苦い顔をしていた。例えるなら、トレイで用を済ませた後で紙がないことに気付いたような
顔だ。それでもラリアーは何とか気を取り直し、
「…あなたたちが、ギガゾンビ様の敵ですね?」
「ギガゾンビ―――!やっぱり、君たちもアヤカシとおんなじで、あいつの手下か!」
「その通りだよ―――ただし」
ティスが答え、その瞬間には既にのび太の懐にまで入り込んでいた。
「―――っ!?」
目を剥く間もないスピード。そして、腹部に疾く、重い一撃を受けた。
「うぐっ…」
吹っ飛ばされ、呻くのび太を見下ろし、ティスは笑う。
子供らしく、無邪気な―――それ故に、残酷な笑みを。
それは蝶々の羽をむしる子供の笑顔だ。
「ただし―――あたいたちをアヤカシみたいな雑魚と一緒にされたら、困っちゃうんだよね」
「野比のび太―――それにドラえもん。あなたたちのことは知っています。かつて、ギガゾンビ様と敵対した者たち。
そうですね?」
ラリアーがティスの側に駆け寄り、言う。
「さっき褒めてくれたのは嬉しいです…だけど、ギガゾンビ様の敵であるあなたたちの事は、大嫌いです」
デスピニスも二人と並ぶ。三人は異口同音に言い放った。
「「「ギガゾンビ様のために―――死んでもらう」」」
173サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/04/14(土) 22:40:30 ID:W2DHEgxn0
投下完了。前回は>>29より。
超機神大戦見直してみたら、自分でびびりました。最終決戦の辺り、もはやこれのび太じゃねえよ!

新桃のネタバレ注意。雰囲気だけでも味わってもらえたら…
ttp://amigojam.web.fc2.com/index.html
今世紀最大の問題作・MUSASHIを詳しく知りたい方へ。
ttp://musashigundo.com/

次回のキーワード。変態登場、少女緊縛、のび太踊る、リザドのミスティ、えんま様追悼スレが立つ。

>>32 本当に、色々大変でした…
>>33 最終決戦まではこのおバカなノリで最後までいければと思います。
>>34 それなんてルル様w動画見れねえ…orz
>>35 更新ペース自体は遅くなりますが、一回分の量を増やすことでカバーしようと思います。
>>36 戻って欲しい方々はたくさんいます…
>>ハロイさん
「お姉さま」という言葉にときめく僕は間違いなくマリみてに毒されている…
えー、僕のSSから原作読み取るのはよしたほうがいいかも…捏造の嵐だし(汗)
>>ふら〜りさん
ボン太くんスーツ…一応使う予定です。ただ、あくまで予定なので分かりませんが。
でもあんなもんを独力で造れる宗介って意外に多才だw
>>ハシさん
>ミッキーがキーブレードで敵をめった刺しにしていく KHはやったことないけど、そんなゲームなら100本買いますw
デュミナス三姉妹は大好きです。シナリオが無茶苦茶と批判されがちなRを何周もやれたのは、彼女らがいたから。
親のために悪事に手を染め、最後は魂をなくしても親を守り続けた三人。
死んでいく三人にかけられるデュミナスの「お休み」「疲れたろう」のあたりで、初めてスパロボで泣きました。
このSSでは…どうかな。幸せな結末にしてあげられればいいんですが。
>>流花さん
内水先生…なんでこの人読み切りは神の出来なのに、連載になるとああなるのか…
読み切りのままの路線で何でいかないのか小一時間ほど問い詰めたいところです。
174作者の都合により名無しです:2007/04/14(土) 23:02:13 ID:RDTjakWu0
サマサさん、パソコン直って以前のペースに戻られたみたいだな。
よかったよかった。

超機神の時の終盤戦はのび太別人のようだったけど
この作品はこのノリで最後まで行くみたいだな。それも楽しいですな。
シリアス映画版のび太好きですけどね。
175作者の都合により名無しです:2007/04/15(日) 00:56:49 ID:XipxF8Ka0
>ハロイ氏
ブギーポップはライトノベルかな?
数多くの設定を魅力的なキャラが消化していって大変面白い。
主役のはずの静が、脇が個性的過ぎで目立たないw

>サマサ氏
今回は前作よりサマサ的なギャグがまた多くなりそうだ。
前作のバカ王子に当たるキャラの登場が待たれる。
ギガゾンビの後ろにラスボスがいそうな感じ。
176作者の都合により名無しです:2007/04/15(日) 12:45:55 ID:CSrmdcfQ0
ドラえもんは人一倍詳しい俺だが
ギガゾンビがわからない・・
サマサさん乙。いつも楽しませてもらってます。
177ふら〜り:2007/04/15(日) 23:08:40 ID:3RJDC4J00
アク禁→なんとか解除→次の日またアク禁。あぁもどかしいっっ。

>>スターダストさん(アニメ版横光三国志OPは新も旧も映像がカッコ良くて好きです)
エ、エグい。「永遠の扉」の華やかに対してこのエグさは。まぁ可愛いのもエグいのも好き
ですけど。で「赤龍王」の映像で読もうとしてるんですが、描写は丁寧克明なのに、いや、
だからこそイメージが難しい。怖いもの見たさが醍醐味な本作、やはり「永遠〜」と正反対。

>>銀杏丸さん
アルスラーンとか銀英伝とか、人間一人の脳みその中で「歴史」を創ってしまうなんてスゴい
なぁと昔から溜息ついてたんですが、本作はそれに近いです。原作から時間が流れて本作
の現在に繋がってるのが自然に感じられて。バトルも漫才もなくても味わい深く読めてます。

>>流花さん(また妄想膨らみましたら、ぜひともご披露下されぃ)
多分外国でもそうでしょうが、外科手術って最初は異端扱いされてましたから(故に「外科」を
名乗った)そういう話かと思いきや。脳を抉って記憶・人格改変って……魔法とかなら珍しく
ないですが、なかなかコロンブス卵。読み切りだそうですが、いろいろ見てみたいネタですね。

>>ハロイさん
ひと括りにできるのかどうかまだ不明ですが、とりあえず敵キャラサイドからすると「名も無き
一般人を襲ってみたら実は超能力者で戦闘力ありました」なここ数話。読者視点にしても、
もはやどこからメインキャラ格が飛び出すやら……今まで無かったタイプの先読めなさです。

>>サマサさん
>規制がかかるレベルの変態なので、覚悟しておいてください。
おぉ楽しみ。これまで数多くの濃ゆい変人を描かれてきたサマサさんが、そこまで言われる
とはイカほどの者? で、またしても言われて気付いたのび太たちの知名度。歴戦の勇士
ではあるけれどほぼ毎回違う異世界だから、伝説を知ってる人には普通会わない。成程。
178作者の都合により名無しです:2007/04/16(月) 00:45:16 ID:hxEBCqKM0
サイトの日記見て週末さいさんが
来るかと思ったが来なかったな
179さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/04/16(月) 02:39:35 ID:yuRjHicD0
今も書いてる最中です。たぶん投稿は朝方です。
申し訳ありません。
180WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/16(月) 04:40:15 ID:yuRjHicD0
「さて、そろそろ君達にも見せてあげよう。この私の武装錬金を……」

錬金戦団の五人がビルの入口を目の前にした時、サムナーが立ち止まり、誇らしげな笑いと共に口を開いた。
それに合わせて、何も存在する筈の無いサムナーの頭上にバチバチと青白い電光が発せられる。
その直後には、電光にあぶり出される形で五つの物体が出現した。
「戦術高エネルギーレーザー兵器(THELW)の武装錬金『インヴィジブルサン』だ……!」
それは例えるなら“小さな太陽系”だった。
恒星を思わせる1m程の球体の周りを、四つの小球(ビット)が規則的に廻っている。
「特性は高出力レーザービームの射出。それと武装錬金そのものの光学迷彩カモフラージュ」
インヴィジブルサンの本体と思われるメカニカルな球体は、まるで『スターウォーズ』に登場する
“デス・スター”だ。
そして、本体を周回するビットには一つずつ射出口のようなものが付いている。
大戦士長執務室や先のアンデルセンとの戦いで見せたレーザーは、おそらくここから発射されたのだろう。
「剣だの槍だのといった原始的な武器なんぞお話にならん。銃や焼夷弾、ミサイルランチャーも時代遅れだ。
この私の武装錬金こそが最新鋭! 最強の破壊力を誇るのだ!」
外套を翻し、芝居がかった語調で口上を述べるサムナー。
無言でそれを見つめる四人。

「……じゃ、そろそろ行こうぜ」
見るだけ見てやったからもういいだろう、と言わんばかりに火渡はさっさと歩き出す。
「お、おい! 勝手な行動は慎まんか!」
「オラァ!」
火渡は気合いと共に正面入口の大扉を蹴破った。
非常灯だけがほのかな輝きを点す一階ロビーは静寂、いや沈黙という語句が似合い過ぎる程に
不自然に静まり返っていた。
真正面には来客の為の受付カウンターがあり、それを中心として左右対称に二階へ通じる大階段、
大理石風の柱、各部屋への通路がある。
当たり前の話だが、見渡す限り人影は無い。
「フッ、身を隠してこちらを窺ってるのが見え見えだな……」
サムナーは千歳の方を振り返る。
181WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/16(月) 04:41:05 ID:yuRjHicD0
「戦士・楯山、君の武装錬金はレーダーだろう? このフロアにいる敵の人数と場所を特定しろ」
彼女の武装錬金の特性を微妙に勘違いした命令に、慌て気味の千歳は口ごもりながら応答した。
「え!? あ、あの……。ヘルメスドライブの索敵有効対象は、私が視認した人間のみに限られてるんです……」
「何ィ!? それでは敵と顔を合わせてカフェで仲良くお茶をしてからでないと、その超高性能レーダーには
映りもしないという事か!? ……この役立たずめ!」
「すみません……」
瞳を潤ませてしょげる千歳だが、この場合は彼女に非は無い。
むしろ部下の能力の把握を怠り、適材適所の人員配置が出来なかった上官サムナーの失態だ。
そもそもヘルメスドライブの特性を活かした千歳の得意とする任務形態は、最前線での索敵行動ではない。
変装等による敵地への潜入の後、瞬間移動を駆使して司令部との往復を繰り返し、情報を持ち帰る事によって
敵の実態を丸裸にする。
それこそが戦士・千歳を組み入れた作戦部隊の必勝パターンなのだ。

千歳は自分の能力を否定され、半泣き状態で立ち尽くしている。
そんな彼女の肩に力強く、それでいて優しく手が置かれた。そして、そのまま彼女をズイと横へ押しのける。
火渡だ。
「んな事でガタガタ騒ぐんじゃねえ。俺と防人が行けば問題無えよ。オイ、防人」
「ああ」
火渡の呼びかけに答え、防人は帽子を目深に被り直し、シルバースキンの襟元を顔まで引き上げる。
二人は悠然とロビーの中央に向かって歩き出した。
「き、貴様ら! 勝手な真似は許さんぞ!」
サムナーが、というよりもサムナーの自尊心が罵声を上げるのも束の間、隠れていたテロリスト達が
行動を起こした。
「畜生! 撃て! 撃ちまくれ!!」
ヤケクソ気味の掛け声と同時に、ロビー内のあらゆる方向から自動小銃による一斉射撃が始まった。
「くっ!」
「うわわっ!」
直接攻撃から身を守る術を持たない千歳とジュリアンは、急いで手近のベンチソファの陰に身を隠した。
サムナーもビットを自身の周りに旋回させて防御する。
だが、歩みを止めないこの二人の錬金の戦士に対し、“ただの”一斉射撃など攻撃のうちに入らない。
182WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/16(月) 04:42:24 ID:yuRjHicD0
無数の弾丸は、火炎同化した火渡の身体を空しく通り抜け、防人のシルバースキンの前にパラパラと
BB弾のように弾かれる。
七年の後、精鋭揃いの錬金戦団日本支部において戦士長となるこの二人に、物理攻撃は一切通用しない。
それが通常兵器によるものだろうと、武装錬金によるものだろうと。
絶え間無く斉射される銃弾の中、二人は冷静にその発射元を見極めた。
「受付スペースの中に三人、右の通路の陰に一人、左の通路の陰に二人、左右の柱の後ろに一人ずつ……」
「それに正面の階段の踊り場に三人だ。これでいいっスか? 指揮官殿」
火渡はサムナーの方へ振り返り、小馬鹿にしたように報告する。
「フ、フン……。まあ、君達にも少しは活躍の機会を与えなくてはな」
苦虫を噛み潰した顔で言い放つが、誰が聞いてもサムナーの負け惜しみにしか聞こえないだろう。
だが彼はいつでも、どんな状況だろうと自分に言い聞かせ、他人にもそれを肝に銘じる事を強要する。

“私は、このマシューサムナーは栄えある錬金戦団大英帝国支部の戦士長なのだ”と。

「ではNew Real IRAの諸君! 君達にはそろそろこの舞台からは御退場願おうか!!」
気取った死刑宣告を物陰のテロリスト達に浴びせたサムナーは、心持ち腕を浮かせた前傾姿勢を取った。
「インヴィジブルサン・スタティスティック・オン・ア・ガバメントチャート……」
そうサムナーが呟くと、四つのビットは本体から離れ、大きく旋回しながら天井へと上昇していった。
そして天井付近で静止すると、ウィンウィンとモーター音に似た機械音を立てながらあらゆる
角度・方向へ射出口を向ける。
まるで獲物の位置を丁寧に確かめるが如く。
一瞬の間を置いて、ビットが短く連続的にレーザービームを高速射出し始めた。
雨のように、それでいて精確に、火渡と防人が指し示した場所にレーザービームが降り注ぐ。
その様は流星群にも似ている。
壁や大理石の柱は粉々に砕かれていき、床や木製のカウンターは穴だらけになっていく。
血飛沫も上がらない。悲鳴すら上がらない。
やがて射出を終えたビットがサムナーの元に戻ってくる頃には、ビル内に踏み込んだ時と同じ
沈黙が訪れていた。
やはりこの場合も静寂ではなく沈黙だ。死者の沈黙と言っていいだろう。
程無くロビーの中を肉や髪が焦げる火葬場の臭いが漂い始めた。
「フハハハハッ! New Real IRA、何の事もあらん!」
183WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/16(月) 04:44:33 ID:yuRjHicD0
サムナーはコツコツと靴音を立て、パーティ会場のスペシャルゲストのように優雅にロビーを進む。
防人と火渡を通り過ぎ、穴だらけになった受付スペースのカウンターの前で彼は立ち止まった。
そして、邪悪な笑みを浮かべて呟いた。決して誰にも聞こえぬ声で。四人に背を向けたまま。
「三つ葉計画(シャムロック・プログラム)、始動……」



――地下一階、倉庫スペース。
そこには手錠と鎖で厳重に拘束された半裸の大男と、それを見張る二人のテロリストがいた。
床に座る大男は長い白髪を垂れ下がらせて、ガックリとうな垂れたまま身動き一つしない。
彼はこのアジトに連れてこられた時も、また警戒したパトリックによってここに幽閉されてからも、
自らの意思で行動を起こす事も言葉を発する事も無かった。
そう、今のところは。

見張りの二人は、彼から少し離れた場所に立ってボソボソと言葉を交わしている。
懐からポケット瓶を出してあおったり、火付きの悪いライターで煙草に火を点けようと悪戦苦闘したりと、
任務に熱心という訳でもない。
二人はとっくの昔に、この動かぬ被拘束者の見張りに倦んでいた。

ふと、片割れのテロリストの眼には、何となく大男が動いたように映った。
「お、おい……。今、コイツ動かなかったか……?」
「んあ?」
もう一人が振り返って大男の方を見遣る。
「動いてねえじゃねえか。ビビり過ぎなんだよ、お前は。それより火ィ貸してくれ」
「お、おう」
小さな火を揺らめかせるジッポライターがくわえられた煙草に近づき、

床に落ちた。

「おい、何やってんだよ」
「あ、ああ……あ……」
184WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/16(月) 04:46:05 ID:yuRjHicD0
ライターを落とした手が、指差す。
煙草をくわえたテロリストはもう一度振り返った。
「!?」
大男が立ち上がっていたのだ。相変わらずうな垂れたままで。
やがて彼は細かく身を震わせた。どうやら、この拘束を外したいらしい。
ただし、さほど力を入れているようには見えない。
だが何重にも縛りつけられた鎖は、派手な金属音と共に簡単に千切れた。無論、手錠も左右の手首を飾る
バングルに過ぎなくなっている。
「コ、コイツ……!」
「撃て! 頭を狙うんだ!」
二人は慌てて肩から下げたハイパワーライフル、ウェザビーMkXを構える。
それに反応するかのように、大男はゆっくりと顔を上げた。
その顔が二人の眼に飛び込んだ時、既に彼らの運命は決まったも同然だった。

「ひッ、ひいいいいいいいいッ!!」



「グズグズしている暇は無い。行きましょう、サムナー戦士長」
防人は背を向けたまま立ち尽くすサムナーを促した。
「ああ、そうだな……」
その時、ズシンと地響きのような音を立てて、床が大きく揺れた。
衝撃の直後、ロビー中央部分の床にひび割れが広がっていく。
「な、何だ!?」
驚きと揺れのあまり、ジュリアンは床に尻餅をついている。
更に間髪入れず、もう一度衝撃が走る。
その衝撃によって、床のひび割れはタイルやコンクリートの破片を撒き散らせながら、大きな穴へと変わった。
その大穴からノロノロと一人の大男が這い上がってくる。
「どうやらコイツがテロリスト共の作り出したホムンクルスらしいな……」
口元に手をやり、多少驚いた風を見せるサムナーが声を洩らした。
その掌に隠された唇は微笑を形作ってはいたが。
185WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/16(月) 05:50:28 ID:yuRjHicD0
穴から這い出たホムンクルスは、まるで伸びをするように時間を掛けて立ち上がった。
見ようによっては愚鈍とも受け取れる。
「随分とうすらデケえ野郎だな……」
火渡の呟きは驚きとも呆れとも付かない。
だが、確かに大きい。身の丈3mはあろうか。
人型にしろ、動物型にしろ、人間形体でここまで巨漢のホムンクルスをここにいる誰もが見た事が無かった。
ボディビルダー並みの筋肉質を持つ身体の上には、長い白髪を振り乱した頭が乗っている。
ホムンクルスはゆっくりと自分を囲む五人を見回す。そして、その視線が防人を捉えると
ピタリと動かなくなった。
ただジッと防人を見つめ続ける。
「……!」
防人は無言で重心を落とし、両腕を構えた。
「CAPTAIN BRAVO...」
金属を擦り合わせるような人工的な響きを持つホムンクルスの声が、防人の名を呼んだ。
と、同時に。
ホムンクルスはそれまでの鈍重な動きが嘘のように、巨体に似合わぬ俊敏さを以って防人に襲い掛かった。







今日はここまでです。
またもやずいぶんと間が空いてしまいました。いやホントすみません。
更に申し訳ありませんが、レスへのお返事はまた後程。
連投規制長い。
では失礼します。
186作者の都合により名無しです:2007/04/16(月) 11:31:23 ID:f7z4ZzMF0
さいさんお疲れ様です。
千歳を不器用に励ます火渡りがアンチヒーローっぽくて良いですね
スターダストさんとは違った感じでいいです>千歳
お仕事大変そうで体もストレスたまっているでしょうが
頑張って下さい。
187作者の都合により名無しです:2007/04/16(月) 16:57:44 ID:3SiPT9kk0
さいさん朝方におつかれです
完全攻撃タイプの樋渡に絶対防御の防人、
それに後方支援型の千歳のトリオは強力だと思うけどなあ
サムナーは実力は高いけど錬金に頼りすぎた能力馬鹿見たいな感じだw


全然関係ないけど「小さな太陽系」でバロンゴングのゴードンを思い出した
多分、さいさんは知らないだろうけどw

188作者の都合により名無しです:2007/04/16(月) 18:54:16 ID:E8V0s2LCO
サムナーはあまりの武装の強さ故に、考える必要を無くしたってところか。
まさにサムナーがヤムチャに見えるぜ。
189作者の都合により名無しです:2007/04/16(月) 23:20:11 ID:UHlva8Ny0
やがてサムナーは考えるのをやめた・・・

ところでさいさん、サムナーって原作に出てましたか?
ちょっと武装錬金は疎くて。
でも、さいさんのSSはいつも楽しみに呼んでます。
190シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/17(火) 04:16:54 ID:6SEgqhlF0
『復活のビート Part3 C』


 器質的に言うなら、ユージンは人間ではなかった。
 彼は、ある巨大な『システム』によって作り出された合成人間である。
 そのシステムに名前はない。ただ、便宜上『統和機構』と呼ばれることがある。
 世界を裏から支配する統和機構のエージェントとして、純粋な戦闘用合成人間として生まれたユージンは、
『天色優』という人間名を与えられて様々な任務に従事していた。
 ユージンは優秀なエージェントして、多くの任務をこなし、多くの人間、或いは合成人間を殺してきた。
 だが、ある一つの任務をきっかけに、ユージンはその任務自体を放棄して行方知れずになる。
 そのシステムにとって合成人間とは文字通り歯車の一部であり、あらゆる側面から合成人間を絶対的に従属させていた。
 そのなかで任務放棄は明確な反逆であり抹殺対象となるべきもので、ユージンもそれを熟知していた。
そうした反逆者を抹殺する任務にさえ就いたことがあるくらいである。
 にもかかわらず、彼は統和機構を『裏切っ』た。
 その任務とは『MPLS』──『進化しすぎた人間』を探し出し、場合によっては抹殺すること。
 彼が誰と出会い、どんな話をし、なにをして、なにを思い、なにが彼を、その存在の根底から支配していたシステムから離脱させたのか──。
 それは、彼以外には誰も知らないことだった。


 『羽』という単語を口にしたとき、目の前の『そいつ』が強い反応を見せたことをユージンは見逃さなかった。
 こいつは間違いなく、なんらかの情報を握っている。
 出来れば今すぐにも問い詰めてやりたいところだったが、こいつは今現在、『敵』と思われる集団の攻撃を受けていた。
 高度な情報分析能力を持つユージンには、一目瞭然だった。
 こいつらは、もう人間ではない、と。
 発汗や呼吸などの生理的反応が著しく低下しており、筋肉の動きにも連続性がほとんど感じられない。
 その機械じみた動きは、まるで『無理矢理動かされている』感じで──こいつらの生命はすでに停止していて、
今は外的要因によって代謝や運動機能を持続させられている、いわば『動く死体』も同然だった。 
「先にこいつらを片付けるべきか……」
 呟くと、ユージンはかつて『人間だったもの』の輪の中へ自ら飛び込んでいった。
「おい! 待ちやがれ!」
 『そいつ』の制止の声が聞こえてくるが、当然のように無視する。
191シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/17(火) 04:19:43 ID:6SEgqhlF0
 ユージンは腕を大きく振りかぶり、『敵』の一人に掌抵を叩き込んだ。
 瞬間、『敵』の肉体が爆ぜた。
 まるで爆発物でも投げつけられたように、『敵』の体組織が無残に抉れていた。
 ──これが、戦闘用合成人間ユージンに与えられた特殊能力だった。
 『リキッド』と呼ばれる、生物の組織をずたずたに破壊する特殊体液を手から分泌して敵を死に至らしめる能力。
 その気になれば人間一人を跡形も残さずに爆散させることも可能だった。
 しかも相手は人間を止めたようなやつら……自動的なルーチンワークのようにしか戦えないやつらであり、
どんなに統制されてようが、そのキーとなるパターンを見極めればなんの脅威にもならなかった。
「多少は『強化』されているようだが……普通人など僕の敵ではない!」
 ものの二秒で三人の敵を塵に返す。その動きは淀みなく、手心や情けというものがまるでなかった。
 それこそ花でも摘むように、また一人の胴体に風穴を穿つ。
 瞬く間に三分の一を人数失ったそいつらは、警戒するようにユージンを取り囲む。
「勝ち目がない、というのが分からないか……本当に人間的な思考力が失われているようだ」
 その声には哀れみも怒りもない。ただの事実確認に過ぎなかった。
「いいだろう。いくらでもかかって来い!」
 不敵な言葉とともにかざされた手が、横合いから何者かに掴まれる。
「な──」
 表情にこそ出さなかったが、ユージンは内心で驚嘆する。
 まったく気配を感じさせずに彼の身体に接触できる者など、そうはいない。
 そこに、細く響く笛の音がする。
 それは変哲のない、甲高いリコーダーのような音だった。
 だが、それを耳にした『敵』たちは蜘蛛の子を散らすようにその場から散り散りに逃げ去っていく。
 つい数秒前まではあくまで戦闘態勢を解こうとしなかったにもかかわらず。
 湿気をはらんだ風が吹き、塵にまで分解された『敵』の死体がそれに乗って飛んでいく。
 もはやその場には、ユージンと『そいつ』と、その連れの男しかいなかった。
「……逃げられてしまったじゃないか」
 ユージンは憮然としながら、彼の手を掴んでいる『そいつ』に毒づく。
「人のケンカに勝手に割り込んでじゃねえよ」
 ユージンに負けず劣らず不機嫌そうな『そいつ』は、やはりユージンに劣らぬ険悪な声音であった。
192シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/17(火) 04:21:36 ID:6SEgqhlF0
「そうか。それは悪かったな」
 軽い口調で返しながらも、ユージンの目は『そいつ』の挙動を油断なく窺っている。
 『そいつ』もおそらく高度な戦闘技術の持ち主なのだろう。
 その立ち方には隙というものがほとんど見出せず、『リキッド』を『そいつ』に叩き込むイメージを思い浮かべることが困難だった。
「──ところで、いい加減でその手を離してくれないか」
「こっちの質問に答えてからだ」
「いいや、違うね。離すのが先だ。それに、僕は名乗ったのだから君たちも名乗るべきだ」
「あぁ?」
「僕はなにか間違ったことを言っているかな」
 一触即発の空気のなか、『そいつ』の連れが場にそぐわない緩みきった声で割って入ってくる。
「もー、やめなよ黒ぴん。せっかく助けてもらったのにー」
「俺ぁ助太刀なんか頼んでねーんだよ!」
「どもども、優くんだっけ? 俺、ファイっていいますーよろしくー。で、こっちの目つきの悪いお兄さんが黒わんこちゃんでーす」
「聞けよ俺の話! つか、誰が黒わんこだ!」
「怒っちゃやだー」
 ユージンのことなどそっちのけで、『そいつ』はファイという男と口論を始めた。
 それは──人間の世界でいうところの夫婦漫才に似ている、という印象を受けた。
「ふ──」
 口の端から漏らしてから、ユージンはそれが微かな笑いだったことに気づく。
 『そいつ』とファイも諍いをやめ、珍しいものでも見るようにユージンの顔を見ていた。
 慌てて口元を隠すがすでに手遅れで、自分の内側から毒気がすっかり抜かれているのは疑いようのない事実だった。
 仕方なく、誤魔化すように咳払いをする。
「──それで? 本当の名前はなんなんだ、『黒わんこ』とやら」
193シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/17(火) 04:24:26 ID:6SEgqhlF0


 私立ぶどうヶ丘学園の正門に、一人の小柄な人影がもたれ掛かっていた。
 そいつは学校指定の学ランを着込んでおり、うっすら目を閉じて順調に中天へ近づきつつある太陽の光に身を晒している。
 今はとっくに授業が始まっている時間なのだが、そんな時間帯に校門に居座るそいつを誰も咎めに来ない。
 別にそこが教員の目の届かない盲点的なスポットというわけではなかった。
 授業のない教師が定期的に見回りをする、その巡回コースに正門が加わっているし、
遮蔽物がなく、敷地全体の正面に位置するそこは見晴らしがよく、不審者がいればただちに発見されるようになっていた。
 だが、そんなことなど自分とはまったく関係のない出来事だ、といった風情でそいつは正門前に立ち尽くしている。
 遠くから足音が近づいてきていた。
 そいつは顔を上げず、耳だけを済ませてそれを分析する。
 足音は二人、片方は身長百四十〜五十センチ程度の女性、年齢は十代半ば。
 もしかしたら例の『要接触者』か、とそいつはさらに神経を集中させる。
 もう一人は……身長百六十〜七十の──。
「なんだ……こっちも女性か……」
 そいつは軽く失望のため息を漏らす。お目当ての者はまだ来ないようだった。
 その間にもどんどん近づく足音は、今、そいつの前を駆け抜ける。
「ま、まっ……て、おね、おね……がい、とわ、こぉ……」
「走れ! 走るのよ静! ダーシュッ!」
「も、むり、だから……まってぇ……」
「無理もカタツムリもあるか!
いいこと、日本って国は遅刻に厳しいの、遅刻者はその一日スクール水着で授業を受けなくちゃいけないのよ!」
「ええぇ!? う、嘘でしょ!?」
「あたしがこんな馬鹿な嘘をつくように見えるのかっ!」
「み、見えな、え、どっちだろ」
194シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/17(火) 04:28:07 ID:6SEgqhlF0
 『遅刻に道連れ(アナザーワン・ライズァ・バス)』というやつか、と、そいつは心の中で一人ごちる。
 それはアメリカのアル・ヤンコビックというパロディミージシャンによる、
クイーンのヒットナンバー『地獄に道連れ(アナザーワン・バイツァ・ダスト)』をパロディ化したやつで、
バスにどんどん人が乗ってきて車内が大混乱に陥るというシュールなギャグで構成されている曲だった。
 つまりそいつの目の前で起きている現状にはまったくそぐわないのだが、
それでも「二人仲良く遅刻」という少女たちの光景を見ていると、なんとなくしっくりくるような気がした。
「こら、お前たち! 今何時だと思っている!」
 振り返ってそっちを見ると、ジャージを着た教師が二人の少女のところへと大股で歩み寄っていた。
 背の高い少女のほうは「やれやれ」といった感じで天を仰ぎ見ており、背の低いほうの少女はまるで小動物のように身を縮こませていた。
 ふと、背の高いほうと目が合った。
(──ん?)
 そいつは少女を注視するが、彼女は怒鳴り声を上げる教師のほうに身体を向けたために、
今しがた感じた違和感を確かめることが出来なかった。
(彼女……僕が見えていた? いや、まさかな──)
 そいつは首を振り、再び門に背中を預ける。
「お前たち、こっちへ来い! たっぷり絞ってやる!」
 風に乗って、背の低いほうの少女の小さな声がそいつのところまで届く。
「み、水着をですか……?」
「なにを訳の分からないこと言ってるんだ馬鹿もん!」
 それ対し少女がまたなにかを言ったようだったが、今度は聞き取れなかった。
 そいつは軽く息を吐き、空に視線を移す。
 自分はいつまでここにいればいいのだろう、と。
 まあいい、待つのには慣れている。
 ──少女がスクール水着を着せられないことを祈る。
195シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/17(火) 05:12:42 ID:6SEgqhlF0


 日も高くなって昼も近くなった頃。
「姫、身体は大丈夫ですか」
 小狼の心配そうな声に、サクラは笑顔で応えた。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「でも……今日もなかなか目が覚めないようだったし、疲れているんじゃないですか。
なんだったら『学校』は明日からにしても──」
「ううん。お寝坊はしちゃったけれど、とってもいい気持ち。
わたし、『学校』が楽しみ。すごいわくわくしてるの。小狼くんと一緒にお勉強できるんだもの」
「──そうですか」
 控えめに笑う小狼の眼前に、サクラはすっと顔を近づける。
「小狼くんは楽しくない?」
「……いえ、俺も楽しみです」
「そう」
 ふふ、と面映そうに笑い、サクラは小走りに駆けてくるっとターンしてみせた。
「ねえ、似合ってるかな? 『制服』」
「ええ。──あ、ここですよ。僕らが通う『学校』」
 小狼は、高い塀の向こうにある建物を指差す。
 塀の途切れたところには立派な門が設えられており、門扉が開け放たれていた。
「黒鋼さんとファイさんとモコナは先に着いているそうです」
「……ここに、あるのかな。わたしの『羽』」
 少しだけ表情を曇らせるサクラに小狼は力強く頷いてみせた。
「大丈夫です、きっとありますよ」
196シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/17(火) 05:14:41 ID:6SEgqhlF0
 いざ『学校』に足を踏み入れた二人は、予想以上の敷地の広大さと建物の大きさに肝をつぶした。
「……思ってより、大きいね」
「……ええ」
「人も、いっぱいいそうだね」
「そうですね」
「ま、迷子にならないよね?」
「だ、大丈夫です姫。俺がついています」
 と言う小狼もちょっと声に力が入っていなかった。
 きょろきょろと辺りを見回しながら、とりあえず手近な建物へと足を向けた二人の背後から声が掛かる。
「転校生ですか?」
 振り向くと、いつ現れたのか小狼と同じような服──『制服』を着た人が校門のそばに立っていた。
「いや失礼。なんとなく『どこへ行けばいいか分からない』という感じを受けたので」
 整った顔立ちから発せられるその声はとても理知的で、サクラは舞い上がってしまい、真っ赤な顔でこくこくとしか頷けなかった。
「もしよかったら僕が案内しましょう」
「いいんですか?」
「もちろん。職員室でいいですよね?」
 小狼は『職員室』という言葉の意味を理解するのにちょっとだけ手間取ったが、きっとそれで合ってるのだろうとすぐに思い直す。
「はい。お願いします」
 深々と礼をする小狼だったが、くすくす笑って制された。
「やめてくださいよ。──ああ、そうだ」
 そして、小狼への返礼というわけか、すらりとした手を折り曲げて優雅に一礼した。
「僕の名前を言っていなかったね。僕は奈良崎克巳です」
 その仕草に見とれていたサクラが、慌てて頭を下げる。
「さ、サクラです。えと、じゃなくて、木之本桜です」
「李小狼です」
「木之本さんに李くんか。よろしく」
 克巳はにっこり笑い「さ、こっちだ」と二人を先導した。
197シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/17(火) 05:18:44 ID:6SEgqhlF0
 職員室までの道すがら、克巳は小狼に色々と話しかけてきた。
 それはこの学校の仕来りのことや、この町の名所のことなどだったりしたし、逆に小狼へ質問することもあった。
 サクラはといえば、物珍しそうにあっちやこっちに視線を巡らせ、ときおり「わあ……」などと感嘆のため息をこぼしていた。
「……君たちは、外国の人かな?」
「ええ。旅行者なんです」
「なるほど。色んな国を旅してきたんだね」
「はい」
「なにか珍しい経験などもしたのかな?」
 これまで巡ってきた様々な国、様々な人たち、様々な事件を思い返し、小狼は首肯する。
「でも辛いこともあっただろう」
「そうですね……それでも、たくさんの人たちに助けられました。そのお陰で、今もこうして旅を続けていられます」
「なるほど」
 さもありなんと感じ入った風に克巳が頷く。
「──君の言葉からは、君の旅が単なる物見遊山でないことが窺えるね。
それはきっと、苦難の旅なんだろう。だが、強固な意志に裏打ちされた旅だ。
信じた道を行くのは難しい……時には理不尽な障害が立ちふさがり、迂回を余儀なくされることもあるだろう」
 しみじみと、心底からの言葉が溢れてくるように、淡々と、だが揺るぎない声で克巳は話していた。
「だが、どれだけ迂回しようと……『そこ』に向かう意思があるのならなら、必ず到達できるだろう。
『そこ』へ向かっているのだから。そうだろう?」
「え、ええ」
 なにか、急に話が大きくなったような気がして、小狼は戸惑う。
 その違和感を振り払うように、克巳は明るい口調に切り替えてこんなことを聞いてきた。
「ところで君たちは……いったいなんのために『旅』をしているのかな?」
 ……ここは、慎重に答えるべきだと小狼の理性が告げていた。
「ええ、探し物をしているんです」
「探し物? それはなにかな?」
198シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/17(火) 05:20:24 ID:6SEgqhlF0
「俺の大切な人の、大事なもの──ココロのカケラです」
 一瞬、自分がなにを言ったのか理解できなかった。
「君の大切な人というのは、そこの木之本さんのことかな?」
「はい……俺の幼馴染で、一番大切な……さくらの記憶を取り戻すために、俺は……」
 なにかがおかしかった。初対面の人間との世間話にしていい話ではなかった。
 小狼は、サクラの飛び散った『記憶』の欠片を集めるために、色々な世界を旅している。
 それは『次元の魔女』の力を借りた、『異世界』を渡り歩く旅だ。
 自分の知った『常識』が通用しないこともままある危険な旅だ。
 その旅の性質ゆえ、よく知らない人にここまで具体的に話すことは危険が大きすぎる。
 小狼も、それは頭では分かっていた。分かっていたのだが、
 この奈良崎克己という人間には、そうした警戒心を薄れさせる『なにか』があって──。
「ココロのカケラ、ね──聞いた感じではちょっと分かりづらいね。『それ』は、なにか具体的な形を伴っているのかな?」
「はい……『羽』です……さくらの記憶は……羽になってたくさんの異世界に飛び散ってしまったんです……」


(『異世界』とは俄かには信じがたいが……少なくとも、彼はそう信じているようだ。
そうでなければ、僕の『能力』の影響下でそういったことは言えないだろう……。
そして、『羽』──。なるほど、レインの言った通りだ……これはもう少し詳しく調査する必要があるな)
 合成人間ラウンダバウト──人間名『奈良崎克己』は、隣を歩く少年の放心したような(事実、放心しているのだが)
表情を眺めながら、とりあえず今のところはこれで十分だろうと判断を下した。
「さあ、李くん」
「……え。は、はい?」
「どうしたんだい、ぼーっとして。ここが職員室だよ」
「え、あ……もう着いたんですか?」
「ふふ、おかしな人だな。──それじゃあ、木之本さん、李くん。なにか困ったことがあったらいつでも僕のところに来るといいよ。
高等部の奈良崎、と言えばすぐに分かるよ。けっこう珍しい苗字だからね」
 ラウンダバウトがそう言い、涼しげな顔でウィンクしてみせると、木之本桜は少し顔を赤くして頭を下げてきた。
 あの子、すぐに赤くなるんだな、とラウンダバウトはわずかに微笑ましく思った。
 そして二人に別れを告げ、今回の潜入調査の際に偽った身分に即し、擬装工作を開始するために来た道を戻る。
 すなわち──授業を受けるために。
199ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/17(火) 05:24:09 ID:6SEgqhlF0
とりあえずメインキャラは出揃いました。
静と十和子を基軸にして、他のキャラが入れ替わり立ち代わりで話が進むと思われます。

では、果たして知ってる人間がいるのか不安でしょうがない、
「ブギーポップ・デュアル 負け犬のサーカス」からのキャラの説明を簡素ながらさせていただきます。


・秋月貴也 登場作品『ブギーポップ・デュアル 負け犬のサーカス』

副人格『ブギーポップ』をその身に宿す気弱な少年。
ナーバスで流されやすい性格の持ち主で、初佳の奇行や奇抜なアイディアに振り回されている。
『ブギーポップ』が現れ始めたころの混乱で精神的に追い詰められていたところを、初佳に助けられる。
彼女とはそれ以来の付き合い。本SS内ではラブラブっぽいが、原作ではそこまで表面化していない。
心の底には強い意志を秘めており、原作ラストではブギーポップですら敵わなかった『世界の敵』を倒し、初佳を救う。


・五十嵐初佳 登場作品『ブギーポップ・デュアル 負け犬のサーカス』

貴也と同じ高校に勤める養護教諭。というか、貴也を自分の勤めている高校に編入させた。
『世界の敵と戦う』という傍目には正気を疑うしかない『ブギーポップ』の存在を受け入れている、貴也の唯一といっていい理解者。
性格は豪放ライラック。保健室で酒を飲むつわものであり、普段は「気さくなお姉さん」を演じているが、内面は脆い。
女子高校生だった頃、彼女も『ブギーポップ』であった。
『世界の敵』に負け、恋人だった担任教師を殺されてしまったことが深い傷となって無意識に刻み込まれている。
200ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/17(火) 06:05:50 ID:6SEgqhlF0
・ブギーポップ(貴也ver)

『崩壊のビート』を止めるため、『世界の敵』と戦う都市伝説上の変身ヒーロー。
一人称は「私」で、中性的かつ冷淡な話し方をする。いつも無表情。
性格は真面目一本槍で多少天然入ってる。女子供に対しては甘い(気がする)。
遠気当てのような技(サイコキネシス?) と足技で戦う。「フーッ」と鋭く息を吐くのが口癖。
ちなみに衣装は古ぼけたスーツケースに入れている。

ついでに本家ブギーポップの説明も。

・宮下藤花 登場作品 ブギーポップシリーズ作品のほぼすべて

普段は真面目で正義感の強い、スポルディングのバッグがトレードマークの女子高校生。
世界の危機が近づくとき、彼女の内面からもう一つの人格『ブギーポップ』が自動的に浮かび上がってくる。
藤花自身はブギーポップの存在を『知らない』。ブギーポップが浮かび上がってるときのことは記憶になく、
その間の出来事は無意識で適当にでっち上げて記憶を補完している。
一つ年上の、デザイナーの卵の彼氏がいる。後に浪人する(ブギーポップが頑張りすぎたため)。

・ブギーポップ(藤花ver) 登場作品 ブギーポップシリーズ作品のすべて

『世界の敵』を倒すためだけに存在する、主体のない、自称『世界の敵の敵』。
ロマンチストだが、『世界の敵』には容赦がない。
世界の危機を察知すると自動的に浮かび上がってくるため、自分でなにかを決めたり選んだりとかが出来ない。
初めて戦った『世界の敵』の意見を汲み、登場するときは口笛で『ニュルンベルクのマイスタージンガー』吹くことにしている。
一人称は「僕」で、どこかとぼけたような飄々とした性格。左右非対称の奇妙な表情をよくする。
主な武器は鋼線。まれにナイフも使う。リズムや音に関する独特のセンスを持ち、作中でほぼ万能無敵。
意外と音楽への造詣が深い。原子心母なんてどこから仕入れてきた知識なんだ。
201作者の都合により名無しです:2007/04/17(火) 08:33:39 ID:69g/GyQU0
お疲れ様ですハロイさん。

卵の皮が剥けていくように、少しずつ世界の謎や敵が露わになって生きますなー
キャラ紹介は助かりました。これで、各々の特徴や相関がわかってより作品を楽しめます。
主人公コンビも学園ドラマのように登場して、役者が揃ったって感じですね。
でも、静ちっさw 140センチ台かw
202作者の都合により名無しです:2007/04/17(火) 13:51:39 ID:u3Mkxkws0
十和子の底知れなさが好きだ。
他のキャラもいい感じだけど
なんとなく「女版明るいアカギ」みたいな迫力を感じる

あと、ジョジョファンが喜びそうなネタが
盛り込まれててニヤリとしたw
203作者の都合により名無しです:2007/04/17(火) 17:05:55 ID:7Ga4/igC0
ブギーポップって面白そうだな
いろんなキーワードがわかるとこのSSももっと楽しめそうなので
一度原作読んでみるかな
204五十五話「金の価値、命の価値」:2007/04/17(火) 21:32:48 ID:fDmMvTO30
壁にべったりと張り付いた血は深紅・・・・ではなく汚物を連想させる不純物まみれの緑の液体であった。
「助かったな赤ちゃん。」
ラファエルに向かってそう言うと、青いコートに身を包んだ金髪の青年は銃を床に捨てた。
男が撃ち抜いたのはラファエルの背後に瞬間移動していた使い魔だった。

「ラファエルに代わって礼を言おう、ありがとう。」
「大した腕だな、シールドを目暗ましにジャンプするとは。」
(ガガ、ファーック!俺のセンサーは自分も守れない青いケツしたガキを助けるもんじゃないぜ!)
声が男の脳内で文句を喚き散らしている、男に目暗ましは絶対に効くことはない。
だが男はこれが本音でない事を分かっている。
声の主、ファッツとの付き合いはまだ長くはないが、出会ってすぐお互いを理解しあっている。
男が知る者の中で、本当は誰よりも優しい事を。
だからこんな時の対応も彼への皮肉を込めてこう言うのだ。

「・・・もう俺も歳みたいだな、長生きしすぎて幻聴が聞こえるぜ。」
(この・・・命の恩人を老い耄れのポンコツ呼ばわりするたぁ生まれたてのガキの分際で・・・)
見た目には若々しく、長身だが二十歳までいかない位に見える青年が、
自分の事を老い耄れの様に話す様に困惑するスタン達。

彼の名はブルー。惑星ティノスという星への移民者、生物学上は異星人ではなく地球人である。
もっとも、今の彼が生物学上で「人間」と判断されるかは別の話であるが。

「ゴホン・・・それは私に対する嫌味かね?さっきも君は私の事を幼児呼ばわりしたが?」
テオドールがファッツへの皮肉を自分への物と勘違いしたのか、明らかに不機嫌な面持ちになる。
「フッ、気を悪くするなよ。それよりお前等は何しにここに来たんだ?」
軽く流された事に苛立ちながらも、ブルーのサラマンダーと拳銃、そして自分の剣を拾い上げる。
拾いながらもブルーへの警戒は怠ってはいないが、戦闘中のようにピリピリした闘気は放っていない。

「魔物を討伐しにきたのだ。それよりも君の素性を話してもらおうか。
この見慣れぬ武器、そして物陰に隠れていた我々を見つけた不可思議な術、一体何者なのだ?」
205五十五話「金の価値、命の価値」:2007/04/17(火) 21:34:42 ID:fDmMvTO30
「俺の名はブルー、ここに来たのは・・・まぁ慈善事業の化け物退治さ。それに、
見抜けたのは術なんかじゃねぇよ。あんた達の中で、その優男だけは気配を完全に消せてなかったぜ。」
そういってラファエルを見つめるブルー、だがラファエルの事を気にもかけず険しい表情で見つめる。
あの時のブルーはおそらく全員を見抜いていた。死線を潜って来た老騎士にはブルーの視線を壁越しに感じた。

「すみません・・・テオドール卿、私が未熟なばかりに・・・。」
「・・・気にするな、騎士見習のお前は隠密時の基本を学んではいまい。精進するのだ。」
ブルーの言う事に納得はしてないものの、自分の勘違いということもあるかもしれない。
魔物の討伐も済んでいないのでこの件は後回しとする事にした。

「それでは先を急ごう、夜になればこの辺りは冷え込む。ブルー、だったな。
ラファエルの命を救ってくれたのには感謝しているが、この件が片付いたら君を拘束する。」
その発言は一瞬の緊迫を生んだが、ブルーもある程度予想はついていたらしく首を軽く縦に振った。

「この件が片付いたら、って事は今はどうしてればいいんだい?」
床に落ちていた魔物の剣をブルーに向かって投げつけると、返事もせずに廊下へと進んでいった。
「ふぅ・・・剣より射撃の方が得意なんだがな。でも不審者に武器なんか持たせていいのかい?」
これを聞いたテオドールは振り返る事もせずに答えた。

「慈善事業をする男が後ろから襲うのか?それに、たとえ襲われても年季の違いを見せるだけだ。」
暗く、危険な魔物の巣窟であるダンジョンの廊下へと姿を消していく一人の老人。
何も知らぬ者がこの姿を見ればドンキホーテの様にしか映らぬであろう。
だが、その場にいた誰もが先に待つ魔物を蹴散らす勇敢な騎士を思い描いた。
「やれやれ・・・元気なじいさまだぜ。」
206五十五話「金の価値、命の価値」:2007/04/17(火) 21:37:17 ID:fDmMvTO30
予想通り魔物の血で染まった廊下を歩いて行くと、突然ルーティが立ち止まった。
「どうしたんだ?ルーティ。まさかこんな時にもサーチガルドじゃ・・・。」
スタンを無視してしゃがみ込むルーティ、するとしばらくして突然走りだした。

「おい!ルーティ!?」
追いかけると十字路へと出て、テオドールが進んだと思われる血の海となった正面通路から外れる。
「やっぱりあったわ!」
それを見ると突然走りだした理由が直ぐに分かった。宝箱を発見したのだ。
うれしそうに宝箱へと走り出すルーティをブルーが静止する。
とんでもない力で引きとめられたので肩に痛みが走る。
「痛っつ・・・!ちょっと、なにすんのよ!」

ジロリ、とブルーを睨みつけるが意に介さない様子で床を指さした。
「オイオイ、こういう時は感謝するもんだぜ。」
ふと指さす方を見てみると多少だがヒビが入っていた。
「失礼ね!こんなちゃっちい傷が元で床を踏み抜くほど太ってないわよ!」
そういってブルーの手を振りほどき宝箱へと歩くルーティ。

すると、体重がかかった瞬間ベキベキと音をたてて床が崩れた。
「危ない!ルーティ!」
咄嗟にスタンが飛び出したが既に手遅れで、二人して落ちてしまった。
ラファエルが駆け寄り、二人の無事を確認しようと穴を覗き込む。

「間抜けな譲ちゃんだ・・・自然に入ったヒビじゃないのを見抜けば罠だと大体判るもんだろ。」
その言葉に驚くラファエル、分かっていて見殺しにしたのだろうか。
剣に手を当てブルーへと近づくが、見抜かれて剣に当てていた手を押さえられる。
「くっ・・・何故ルーティさん達を見殺しにした!」
怒りをあらわにしながら吼えるラファエル、未熟な腕だが怒りからくる震えが確かに伝わってきた。
それを察してか、ラファエルから手を離すとバツが悪そうにブルーが答えた。
「見殺したんじゃねぇ、確かに言わなかったのも悪いが、普通あんだけ宝箱に敏感なら罠にだって気付くだろ。」
207五十五話「金の価値、命の価値」:2007/04/17(火) 21:40:11 ID:fDmMvTO30
名前 ルーティ・カトレット 
年齢 18歳 身長157cm 体重46kg 
職業 レンズハンター 通り名「強欲の魔女」

モンスターの体内から取れるレンズと呼ばれる隕石の欠片を集めて生計を建てている。
ズバ抜けた洞察力で床に落ちた僅かな金銭、金目の物を見落とさない。
戦闘においても類い希なる運動能力と、手にした古代兵器、知能ある武器ソーディアン、
「アトワイト」によって攻守、回復を務める。術は深い知識で威力を増すと言われ、
冷静な判断と見かけからは判断出来ない知力から繰り出される攻撃術は、
剣では生み出せない絶大な攻撃力を誇る。
そんな彼女の唯一の弱点は、お金が絡むと警戒心も冷静さも一瞬ですっ飛ぶ事である。

〜騎士団の砦跡地 地下〜
「いてて・・・ルーティ、大丈夫か?」
目の前に座りこんだスタンの姿を見る、朝と違って最悪の気分で目覚める。
「いったぁ〜・・・もっと速く助けないさいよ!どうやって戻る気!?」
助けてもらいながら謝ることなく文句を口にする。彼女は罠に引っ掛かったり自分のミスから来る怒りを
他人にぶつける習性があるので、うまく付き合っていける人間は極僅かだ。
「ごめん、それよりも怪我はないか?」

謝りもしないで八つあたりを仕掛けるルーティに怒る事もせず心配する。
だが、この素直さが彼女を更に苛立たせる。自分のミスで落ちてこんな事になったのだ。
なのに責められた事を受け入れ自分より他人を心配するスタンを見ると逆にムカついてくる。
「ないわよ、そんなもん!怪我したってアトワイトがあるんだから別にアンタが気にする必要ないでしょ!」

怒れば怒る程に不機嫌になっていく、何故この男は自分の事を責めないのか?
どうして、こんなにも素直でいられるのか理解出来なかった。
一人でイライラしている自分への嫌悪で更に苛立っている所にスタンが話しかけてきた。

「そうか、良かった。けど、ルーティは女の子なんだからあんまり無茶しない方がいいと思うよ。」
この一言が何故か頭にきたのか、冷たい目でスタンを睨む。その顔は鬼気迫っていた。
208五十五話「金の価値、命の価値」:2007/04/17(火) 21:41:52 ID:fDmMvTO30
「アンタに何が分かるっていうの・・・?」
「ルーティ?どうしたんだ。」
「・・・アンタってさぁ、本当に世間知らずよね。お節介で、ドジばっかりの田舎者のくせに仲間ですって?
笑わせるんじゃないわよ、アンタの思い込みのお陰で私がどれだけ苦労してると思ってるのよ!」
声の出る限り叫ぶ、18年でこれ以上怒った事はないという位に怒りに身を任せた。
そんなルーティを見て異変を感じ取ったスタンが話しかけてくる。
「なぁルーティ、聞きたい事があるんだけどいいか?」

こんな時に聞きたい事だなんて、やはりどうかしている。
何故、こんなにも余裕なのか、話に耳を傾けながらも座ったまま姿勢を崩していない。
一々仕草にイライラしてたが、それでも沈黙が続くよりはいいとして話す事にした。
「なによ。」

「あのさぁ、ルーティってお金の事が絡むといっつも無茶ばっかりするよなぁ?」
「素直にがめついって言ったら!?なんのために闘ってると思ってるのよ!」
何かと思ったら下らない質問だった、いつも自分が言っている事の再確認をしようと言うのだ。
ただでさえ苛立っているのに嫌味でダメ押しをされるとは思ってもいなかった。
これなら沈黙が続いた方がまだマシというものだ。

留まる事を知らない憤怒を感じ取ってもスタンは話を続ける。
「ひょっとして、自分の事よりもお金の方が大切だ。とか思ってないか?」
「当たり前でしょ!お金より大事な物なんてこの世にないわ!」
ここまで言い切れば少しは黙ると思ったが、そうではなかった。

「それは違うんじゃないか?命に代えられるものなんてないだろ?」
「違わないわよ!目の前に10ガルド落ちてたらアンタどうする?
私は拾うわ!その10ガルドで助かる命がどれっだけあると思ってんのよ!」
息を荒げるルーティを呆気に取られながら見つめるスタン。
そして、ようやく彼女が金銭に執着する理由が分かった。

「まさか・・・クレスタにある孤児院の為に?」
209五十五話「金の価値、命の価値」:2007/04/17(火) 21:46:06 ID:fDmMvTO30
「ちっ・・・違うわ!私は自分の為にやってるの!自分の欲を満たすためよ!」
的中だった、世間知らずの筈のスタンが何故、クレスタに孤児院がある事を知っていたのか?
動揺で言い訳も思い浮かばず目線を合わせないようにして否定するのがやっとだった。

「そうか、そんな理由があって俺がクレスタに行くのを止めたのか・・・。」
普段は鈍感なくせに何でこんな時ばかり感が鋭いのだろうか。
他人に弱みを洩らしたくない一心で、常に秘密にしてきたのも徒労に終わった。
気まずい空気がその場に流れる、これ以上話すことなんてない、ほっといて欲しい。
だが沈黙は、遅い来る試練の数々は、この鈍感な男がいつも打ち破ってきた、そしてこの時も。
「だったら、やっぱり体は大切にしなきゃダメだ!」

思わぬ言葉にスタンの方へと視線を戻す。
曇り一つない青い瞳が少しも揺らぐ事無くこちらを見据えていた。
「たまには帰るんだろ?その時にみんなから「お帰り」って言われた後になんて聞かれる?
怪我がないか、病気になってないか、本当に大丈夫なのか、とか聞かれた事あるだろ!?」

「・・・っ!?」
いつも、そうだった。帰る度に迎えてくれる子供の中には、嬉しさで涙を流す子さえも居てくれた。
そして聞いてくるのだ、スタンに言われた通りの事を。そして無事を伝えるとはしゃぎ出す。
明るい笑顔に救われ、それを失いたくない一心で自分の事など忘れ果てていた。

「なら、帰りを待つ人達の為にも体を大事にしなきゃダメだ。
お金より何より、ルーティの無事の方が大切な筈だろ?」
涙腺が緩むのを感じる、頬が熱くなる、そしてまたもスタンから視線を外す。
今度は、怒りで顔を見るのも嫌だったからではなく、泣き顔を見られるのが辛いから。

「俺も、人の事言えないけどさ。家出して、密航して、
こんな旅してるなんて知られたらじいちゃんやリリスに怒られちゃうな。」
明るく家族の事を話すスタンに、改めて教えられた。
血の繋がっていない家族の想いを無駄にし続けていた事を。
210五十五話「金の価値、命の価値」:2007/04/17(火) 21:48:02 ID:fDmMvTO30
そしてスタンの言葉が終るとまた沈黙が場を包み込む。
困ったようにボリボリと頭を掻きながら再び話しかけようとする。
「ありがとね、スタン。」

びっくりして何か言おうと開けた口を、開いたまま硬直していた。
いつもは場の空気を和ませる側のスタンも、この時は救われたのだろう。
こんなに素直に謝ってくるとは思わなかったためか、急に愉快な気分になって笑い出してしまった。
「なによ、アタシが謝るのがそんなに可笑しい!?」

笑いを堪えながら口をパクパクさせながら初めて会った時の事を話しだす。
「い、いや、だって・・・ルーティが謝ったのなんて初めて会った時の
『ああ〜、どこのどなたかは存じませぬが、ありがとうございます〜』以来だったからさぁ・・・。」

神殿でトラップに引っ掛かっていた時の事を鮮明に思い出し、恥しさで頬を赤くするルーティ。
「ばっ、バカ言うんじゃないわよ!アレは・・・って人の話を聞きなさいよ!」
すっかり仲違いを取り払った二人は、見た目には変化がなくとも以前より強い絆で結ばれただろう。

「さて・・・と、いてててて!」
立ち上がる拍子に腰を押さえながらへなへなと老人の様に膝を崩すスタン。
その様子をみて初めて上を見上げた、この高さで落ちて無傷な筈がない。
「まさか、アンタ・・・私を庇って?」

「へへへ・・・俺は丈夫だからいいんだ。」
自分に体を大事にしろと言っておいて他人を庇って怪我をするなんて。
そう言おうと思ったが、スタンの目を見ると言えなかった。
温かく優しい輝きを持った、赤を上回る熱さと強さを持つ青色の瞳がそれを言わせなかった。

「バカね・・・怪我見せなさい。特別にタダで治してあげるわ。」
そういってアトワイトを握り、地面に座り込んだスタンの手を取った。
211五十五話「金の価値、命の価値」:2007/04/17(火) 21:49:55 ID:fDmMvTO30
ふぅ・・・やっとこさ新しいPCを導入してもらったよ。(0w0)
軽く1年もほっといてスマなんだー!上京したので暇に溢れた高校時代と違いまして、
以前のようにほいほい更新するかは分らないが再びよろしく。
しかし自分の作品読み返してみたけど誤字多いな(;0w0)
これは恥ずい、非常に恥ずいぞ。しかもツマンネとか言われても反論出来ない部分が多々あり・・・。
まぁ新しい方々や古参な方々もどうぞヨロピク。
ちなみに夫婦喧嘩の元はPS2デスティニーのを改編。
カセットあるけど一周しなきゃこの場面にいかない(0w0;)

〜復活のサガ講座をしようと思ったが新しい要素ってブルーしかなくね?って事でブルー講座。〜

ブルー 惑星ティノスで生まれ育った射撃の腕は超一流の16歳の青年。
    登場シーンが死にかけで登場等、ケンシ○ウといろんな場面が酷似している。
    一度死亡してしまうが300年生き延びた事で感情と人類の英知を身につけたコンピュータ「ファッツ」
    と合体する事で新人類、サイバービーイングとなって生まれ変わる。
    黒髪から金髪へと変化し、顔もよりケン○ロウへと近づく。
    悪に情け容赦ない所もそっくりであるが、北斗程の人気が出なかったのかコミックは打ち切り。
    360度への超乱射を可能にする重火器、「サラマンダー」は劇中で一度しか使われなかったが
    ○ンシロウフェイスで雄叫びを上げながら周囲へ剛弾をばら撒く姿はインパクト大。

ファッツ 人類が新惑星ティノスへ到着して間もない頃のコンピュータ。
     荒廃した今のティノスと違い、300年前の頃の優しき人の心をブルーに見出す。
     そして300年で培った知識の全てでブルーと融合を果たす。
     特徴はズングリしたボディと「ファック!」等の汚い口調。
     ロボットの癖に女好きなのか、「いい女じゃねぇか、へっへっへ。」
     等のユニークな発言で俺の心の中で人気。上京する際にコミックを実家に忘れたのが悔やまれる。
212作者の都合により名無しです:2007/04/17(火) 22:42:31 ID:08tF2l6Z0
めちゃくちゃ久しぶりですな邪神さん。
お帰り嬉しいです。正直、投げ出しと思ってました。
また、ルーティたちの活躍を楽しみにしてます。

ちなみに、前回54話はここ。
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/54.htm
213五十五話「金の価値、命の価値」:2007/04/17(火) 22:51:18 ID:fDmMvTO30
コテ書かないと新しい人わかんねっか・・・
まぁついでに講座が長めで書けなかった感謝の言葉も言っとく。

ゴート氏 お初にお目にかかりまする。バレ氏が現在居ないとのことでショッキングでした・・・。
     立派に代役を務めてられるそうで拙者、感服でござるよ。ブランク長いけどよろしくお願いします。

212氏 正直SS書けないと考えた展開が頭からすり抜けてって不安やった・・・。
     これから先もそんな気持ちでいられるかわかんないけどよろしく。
     そして誘導してくれてthx

〜以下、前回表記を五十三話としてしまった五十四話への感想へのほぼ1年ぶりの感謝〜
ちなみにpart41

ふら〜り氏 >テオドール強い、シブい、カッコいい。こういう頼りがいのある年配先輩キャラって好き
ですよ〜。で、それはそうとブルーって、サイバーブルー!? うわぁぁ懐かしい! 記憶
おぼろですが、アレは結構好きでした! ……ので、現状の本作の立ち位置が少々不安。  
 現状って事は蒼天っすか?買いたいけど金がない・・・しかもアニメは映らないで
「テレ朝(だっけ?w)氏ね!」って連呼してたw 痛い子なんていわんといて(ノw0)

201氏 >最強生物というとどうしても勇次郎を思い出す。しかし、良い展開ですね。
スタン主役の場合は本格的なRPG展開になるので読んでて安心。シコルとかがいるとそりゃもうw
 まぁ狙いましたからwコンビニで再販された奴のキャッチコピーを流用しますた。

202氏 >サイバーブルーか!俺の記憶の奥底にある漫画の?
あの、原哲夫のトラウマのwいや、いいけどね好きだし。
ホークは主役をスタンに譲った方がいいかも。スタンのが主人公属性高い。
 若さというハンデを渋さと男気でなんとか・・・orz

267氏 >残念です。でもパソコンがブレイクしたのはともかく、受験は仕方ないですね。
人生での一大事なので。元気にお帰りになるのをお待ちしておりますよ。
 遅れて申し訳ない、展開忘れてるだろうけどよかったら目を通してあげてください。
214邪神?:2007/04/17(火) 22:53:04 ID:fDmMvTO30
改行エラーで結局コテつけれてなかったorz
ごめんね、母さんブランク長いからごめんね。
215作者の都合により名無しです:2007/04/18(水) 00:55:38 ID:N8yUlQ+U0
邪心さんってずいぶん久しぶりだなw
もう、ほとんど忘れてしまったけどロマサガベースの話は
好きだった覚えがある。
またちょくちょく書いてください。
216作者の都合により名無しです:2007/04/18(水) 12:28:35 ID:LY1wLE8Z0
俺はこのスレ着始めて半年くらいだから
邪神?さんという方は知らないけど、ずっと長く連載してた方みたいですね。
テイルズ好きなんで、土日にでも1話から読んで見ます。
しかしサイバーブルーって懐かしいなあw
217作者の都合により名無しです:2007/04/18(水) 17:36:50 ID:l2sRnHa60
復活ブームだな
VS氏に続いて邪神さんもか
218ふら〜り:2007/04/18(水) 21:38:57 ID:elQg4A7F0
>>さいさん
各SSの描写から千歳像を思い描いてる私ですが、時系列のせいか本作の千歳は一際
違いますね。今まで見えた範囲内でなら、何だか私でも守ってあげられそうなヒロインしてて。
ここからサムナーの鼻を明かしつつ、危険フラグ持ちのジュリアンを救うことを期待したい。

>>ハロイさん(そういやバオーはまだまともに読んだことなかったなぁ)
前回の引きから凄く神秘的で善悪不鮮明で、今回冒頭で納得して、さぁどんな超能力……
>特殊体液を手から分泌して
体液かっ! と思わず突っ込みました。他の面々が華やかな(?)超能力を備えている中、
随分とまた地に足の着いた強さですねユージン。この能力でどんな攻防を魅せてくれるか。

>>邪神? さん(お帰りなさいませ。さぞかしネタも溜まったことでしょう、期待してますぞっ)
ブルーらしさが良くでてるなぁ。甘さを抑えた洋画のヒーローっぽい(心配してたのは蒼天では
なくこのSSでのこと。杞憂でした)。かと思えば、スタンの方は甘いというか本作ではあまり
見られない、かなり正統派なラブコメしてますな。酸いも甘いも揃えた復帰作、流石です。
219項羽と劉邦:2007/04/18(水) 23:04:37 ID:z4dXumRw0
閨の屋根は高い。
なぜなら呂后の身長は、決まった数値を持たぬからだ。
場面に応じて映えるよう適宜変わるようになっている。
よって閨の天井は余裕を持って25mほどの高さだ。
そんな広い閨で劉邦は呂后と絡んでいる。絡みたくないのに絡んでいる。
ぶふうぶふうと吐かれる息には潮出版独特のインク臭がまじりやるせない。
しかしどうして潮出版のインクはああもクセがあるのか。
なぜ文庫についてるしおりのキャラは唇がツヤツヤしているのか。
知る良しもないが、ともかく劉邦は首は傾げた。
視界いっぱいをしめる呂后の肩。
脂肪でゆるみきったそこに、黒いまだらがゆらゆらと動いている。
すわ皮膚病かと嫌悪を露にしかけたが、そこは仮にも一国の王。
すぐさま別の物であると気付いた!
頭上25m。
白と薄紫の扇子が一握、開いた状態で蝶のようにふわりと舞っている。
その影だ!
「扇子……はっ!」
瞬間。扇子は2つに分裂した。
否、正確にいうなればもとより重なっていたというべきか。
それが解かれるなり2つの間に人影がにゅうっと現われ出で、中空より呂后に殺到した!
「ふあっ!!」
蕭何が扇を打ちつけ
「どりゃあ!!」
韓信が剣を振り下ろし
『ええい!!』
張良が光線銃を雨あられと乱射。
床はひび割れ、艶かしく湿った布団から羽毛が無残に溢れ、後に残るはもうもうたる土ぼこり。
「やったか!!?」
着地と当時に飛びのく三傑へ答えるように
「舐めてくれたな! だが、そこまでだ!!」
床を突き破って呂后が現れた。
無傷ではあるが激昂ははなはだしい。
220項羽と劉邦:2007/04/18(水) 23:05:45 ID:z4dXumRw0
後年に専横を行うだけありその精神は狭量。
家臣の予想外の謀反に屈辱を覚えたらしく、ブルドッグのような頬をぶるぶる震わせてながら
劉邦をひきつけ、こめかみに指を突きつけた。
「漢王!」
「仕損じていたか!」
『フン。まぁいい。どうせ今の攻撃は……囮だ!!』
呂后の足元で床板が爆ぜた。車田風に吹き飛ぶ呂后。そこに大口を開けた白竜が向かう。
血走った逆上の瞳が蕭何に向かう。彼の手には符。召還者らしい。
呂后のわき腹が軋んだ。鋭い牙が食い込み、真赤な血を流している。
白竜に噛まれた!
そう気付く間に彼は顎(あぎと)をがっちりと閉じ、天にその身を躍り上がらせた。
背中へ蕭何、韓信、劉邦を抱えた張良が順に飛び移る。

けぶる雲さえ手を伸ばせばつかめそうな所を白竜はしばらく飛び。
被害のなさそうな場所を見繕った。
目指すは成皐城近くの森だ。
ゆっくりと降りていく白い影を夜空に認めた一人の男が、ゴーグルをかけてオーラがどうと
か呟いた。
柴武が彼と接触するのはその少し後になる。

白竜つながりで話をしよう。
白竜剣士という作品が初期作品集に収録されてるが、その箱ケースを見るたび腹が立つ。
辞書とかのそれと違って、背表紙の部分がガラ空きなんだ。本を押したら帯を突き破るぞコ
レは。
つか今気づいたが、コレ…… 厚紙にシール貼っただけの代物じゃないか!
しかも微妙に傾いてるぞ。バイトにでも貼らせたか! 貼らせたんだな!!
おのれバイトめ、小学生の工作レベルの不精してないでちゃんと背表紙ふさいで印刷もしろよ! 
シールくれよ!!
しかも裏表紙の音無しの剣と白竜剣士の表記が入れ替わってやがる。フザけんな。
いちいち「裏表紙の表記が入れ替わってますゴメリンコ」なんて注釈を紙に書いて挟んどくな! 
それで初めて気づいたわ!
編集部も気づいたんだったら直せよ! それこそバイトにシール貼らせろ!
221項羽と劉邦:2007/04/18(水) 23:10:20 ID:tgytM9f70
ああ腹立つ!
箱ケースを思うさま広げてハムスターを入れて、「キャタピラ」なる運動会競技のごとく前進さ
せてやりたいこのストレス! あてどもなく胸でもがく、この怒りはどうすりゃいいの!
でも装丁が綺麗だし、初期は初期で面白いから大好きだ。
だって横山先生、作中に出てくるんですぜ。ごろつきにやいやいイジメられたり、するんだぜ!
そして蕭何は呂后に負けた。

催眠術を掛けて眠った所をボコボコにしてやろうかと思ったが、
しかし横山作品で催眠術を掛けた人間は、自分が掛かって自滅というのがセオリーだ。
「あっし村雨健次と言いやす。へぇ。ひょんな事から鉄人28号に関わりあっちゃってね」
と言い残し、すやすや眠り始めた。

ここで
「考えてみればわしまで来る必要はないじゃないか! 帰らせろ」
とゴネ始めた劉邦を、呂后は全裸のままで熱く見つめ、歩を進めた。
「アウアウー!」
理性なくヨダレを垂らす呂后。行為の残り火が再燃し、理性を失しているのは想像に難くない。
「ほれ見ろ! 呂后が人造人間モンスターになりくさったわ! どうせなるならお銀ちゃんに
なれ! もちろん戸田版のな!」
「まぁまぁ。愛されている事はいい事ですし」
「ちっとも嬉しくないぞ韓信! わしが散々な目に合ったのを忘れたか! 未来もきっとそう
だそうに違いない。病床で下らん話題(政治を誰に任せるかという話題)を延々と振られるの
じゃ! ああっ我慢ならん!」
劉邦は頭をガリガリとかきむしり、やがて叫んだ。
「死んで欲しくてさあ!! 偽りの偶像とかポイント4とか、どんなにマイナーでもいい…… 戚
とのんびり横山談義がしたくてさあ!! さあ早く斬れ! 生かしておいては今度は呂后が呉
を滅ぼすぞォォ〜〜〜!!!」
『やれやれ。呉はとうに滅んでますし、別作品や関羽のセリフを叫ばれなくてもちゃんと斬り
ますよ』
「うん?」
虫で作られた文字の向こうに、剣を構えた張良がいた。
「いや待て。お前は説客という設定…」
222項羽と劉邦:2007/04/18(水) 23:11:35 ID:tgytM9f70
言葉が終わらぬうちに、張良は呂后の背中に霞切りを叩き込んでいた!
「な、あの距離を一瞬で!」
しかしさほどダメージのない呂后、振り返りざま岩石のような拳を迫らせた。
『やはり一撃では無理か。だとしても、だ……』
涼しい顔で剣を振り下ろす。
拳ごと小手がヘシ折られ、ついで呂后のノド笛がカウンターで打ち据えられた。
『霞切りの基本形を叩き込むのみ』
「グハァ…!」
カウンターが効いたらしい。血を吐きのけぞる呂后を見て、劉邦は目をキラキラさせた。
「おお! 強いぞ張良! 強いから許すぞ張良っ」
「だから言ったでしょう。漢王は張良どのの腕前をご存知ないと。三略さえ読んでいれば張良
どのは始皇帝を暗殺できたのです。ああ、ちなみに強いのに項羽を倒さなかったのは劉邦
どのの名実のためです。多分」
韓信が説明しているうちに、みたび霞斬りが呂后に炸裂した。
『さぁ前座は終わりだ。次からは私の領分で思うさま苦しめ。 いかに不死身といえど、消耗の
果てに待つのは暗黒の死だ!』
孔明顔が酷薄な笑みを浮かべ、呂后は劉邦を思い股を濡らし、ヒマな韓信は地球の燃え尽
きる日の展開を予想したが、無駄なのでやめた。
筆者ごときの凡庸な想像力では到底及ばぬ作品なのである。

霧が出てきた。
夜風が木の葉を巻き上げ、どこかへ運ぶ。

入れ替わるように集まってきた虫の群れが森を黒ずませる。
ハエのようだったりよく分からない形状だったり、一見すると統一性はないが、しかし、ある一
つの共通項を以ってこの群れどもは群れたりえている。

毒虫。
人は彼らをそう呼び、張良もそう認識しているからこそ呼んだ。

その虫たちに目を刺され、呂后は空を仰いで絶叫した。
223項羽と劉邦:2007/04/18(水) 23:13:59 ID:tgytM9f70
『天に吼えるな。星が汚れる』
張良はペっとツバを吐くと剣を放り捨て、呂后に背を向け跳躍した。
やがて木々の間を赤い閃光がギュンギュンと乱れ走った。
「なぁ韓信、張良があんなに跳ぶ必要あるのか?」
「闇の土鬼文庫版上巻の在庫よりは。戦国獅子伝文庫版1巻でも可です」
「分かりづらいのう……」
減速した光から体をピンと伸ばしきったニコニコ顔の張良が飛び出し、枝をブチ折り青葉を
抜けて、夜空を泳ぎ月をバックに羽毛のごとく宙返り。
重力に身を任せると、ゆったりとした服がはためき、眼下の森がだんだん大きくなっていく。
澄んだ夜気が頬を撫でた。
朝をこの手で必ずや…! 張良の瞳の熱は、始皇帝暗殺をもくろんだ時のそれ。
枝を何本か折りながら着地。片膝を立て両手を下向きに交差させる。
『じわりじわりと確実に削ぎ続けてやる』
袖口から両手へと滑り落ちるは薄い金属の輪。
包帯が巻かれた持ち手以外の縁には、鮫の背びれのような鉤刃がまばらについて、くすん
だ姿をいっそう後ろ暗く見せている。
「戦輪(チャクラム)の武装錬金、モータギ」
寝言をいう蕭何の頭に蹴りが叩き込まれた。
「たわけ! そーいうネタ振りたいのならさっさと永遠の扉描け!」
「本当は輪(りん)といいます」
持って戦うコトもできるが本来の用途は──…
投擲!
距離にして10歩。呂后のノドめがけビューっと飛んでく輪たち! 28個!! (デンデンデン)
「駄目じゃ、いかに速度と鋭さがあろうともあの脂肪の弾力では裂けぬ…!」
哀れ、輪は肉に弾んで地面に落ちた。だが。
「いえ、裂くのではなく打つ。呼吸困難を狙った同点一極集中です」
残りの27輪すべて呂后のノドをしたたかに打ち据えた。
訪れしは激痛の閉塞。
耐えかねた呂后が輪以上の手刀でノドを切り開き、強制的に酸素を確保。
その全身を縄が縛る。
224項羽と劉邦:2007/04/18(水) 23:17:56 ID:tgytM9f70
劉邦が韓信の説明にフムと頷く頃に状況は三転していた。
「ユゥゥゥゥダァチノヒトゴォミデェェ、フリカエエルゥゥゥゥ!!」
必死にもがくが手足の束縛は微動だにしない。まるで岩にでもくくりつけられているようだ。
ビリビリと震える縄を見事に御しながら、張良はすぅっと目を細めて、虫は字になる。
『さて暗闇地獄の始まりだ。書いても見えないだろうが書いてやる』
縄の上にコマが現われた。無論、張良が転移させたものである。
それは猛然と回転しながら縄をつたい。やがて呂后の腹へめり込んだ。

     ( ̄!ー─--、
      〉 /\__/ヽ`i
.      /  〉     ||
     |: / __  __ |   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    (^Y ´━  i ━`|  < この辺りの描写は飛ばします。
     ヽ_,     」 . |   \簡単に言えばコマが血やら脂やら飛ばしたというコトです
     /'ヽ  -─- /       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    /\.,,ヽ ── 、

だが窮鼠の爆発力を生む!
呂后は縄を引きちぎり、電光一閃、間合いを詰めて張良を殴り飛ばした。
「ああ張良!」
「ご安心を」
吹き飛ぶ張良が虫の群れに変わった。そしてこんな文字列にもなった。
『ハズレだ。どうして私が貴様と正面きって戦う必要がある。 いっただろう?

陰に潜んでじわりじわりと確実に削ぎ続けてやる。

と。……フン。漢王への節義を持たぬ化物に礼節など誰が尽くすか! 机上の美徳より確実
性を選んで何が悪い!! 田単(デンタン)が楽毅(ガクキ)に真っ向から挑んだか? 浩一
くんや正太郎くんが模範的な真人間か? 違うだろう』
田単は楽毅を離間で遠ざけ、与しやすい無能を呼んだ。
225項羽と劉邦:2007/04/18(水) 23:28:08 ID:tgytM9f70
浩一くんはヨミの部下を平気で人質にするし、正太郎くんはロボットに苦戦したら操縦者を狙う。
とても褒められた人間ではない。
『だがその美徳なき確実性こそ敬うべきなのだ』
長ったらしい文字列に、韓信は満足げに頷いた。
「ちなみに回避をしましたのは比翼の術、変わり身の一種にございます」
「なぁ、なんか原作と違わないか? うまくは言えんが」
「比翼と書いた方がカッコいいので比翼です。それに原作うんぬんで考えるならこのSSなん
て私が周瑜と竜鳳とか言い出した段階で既に破綻してますよ。ハハハ」
「相も変わらず恐ろしい虫使い…」
蕭何は寝言を言った。
『しかしだ。貴様好みのハムとまではいかなくとも、多少の傷を期待していたが──…』
「いや、話の繋がりが分からん」
劉邦は眼前で手をパタパタふり、韓信はうんうんと頷いた。 呂后は手を開いた。
その中には、うっすらと光を反射する細い線が数本。
「何じゃあれは?」
「銀線にございます。髪の毛よりもほそい鋼でできた糸のようなものでこれを相手の手足にま
きつけひっぱると手足が切れまする。闇の土鬼中巻P209参照です。張良どのは呂后が突っ
込んでくるのを見越して、距離を取りつつ仕掛けていたのです」」
「ああなるほど。縦横無尽に跳んでいたのはその布石だったのじゃな」
劉邦は感心したように声を上げたが、すぐにトーンが下がった。
「じゃがそれも突進だけで……」
「そうです。目を潰して隠蔽し、輪も縄もコマも隙間をかいくぐらせ、温存していた銀線ですが」
『よもや無傷で寸断されようとはな。それだけは予想外だったぞ』
呂后の頬に邪悪な笑みが張り付いた。
分かりやすい例えだと、項羽にウソの道を教えた農夫のような。

あとがき。
色々考えた末、勇気を持って晒してみます。

http://grandcrossdan.hp.infoseek.co.jp/koumi.jpg

香美のキャラクターノートを! 絵はありませんけど、それっぽく!
226スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/04/18(水) 23:30:27 ID:tgytM9f70
>>113さん
学園モノならけっこうギャグ向きかもです。サリーちゃんとかコメットさんとか。
あばれ天童なんかも前半はけっこうほのぼの。ああそれにしてもマニアック
なネタばかりなり。はっはっは(手を前に突き出す笑い)

>>114さん
ありがとうございます。思い入れが知らず知らずににじみ出ているのかも……w
中国史は面白いですよ! 史記という作品では、いろいろな人物のいろいろな
人生が垣間見れます。ただ、マンガのクセに字が多いのが困りもの。

>>115さん
はっはっは。そりゃもうマニアックですよスターダストおじさんは。
ハルヒでも司馬遼太郎も大好き。今は社会心理学や大極剣(拳ではなく)に興味あり。

>>117さん
くそみそテクニックverのテイルズオブシンフォニアOPなども作ったのですが、HDクラッシュ
時に紛失しておりますw 惜しいかな蜀。HPへのうpは諸事情によりできませんが(すみません)
ニコニコ動画にあるものならばどうぞ。星のカービィばかりですが。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm120096
http://www.nicovideo.jp/watch/sm126654
http://www.nicovideo.jp/watch/sm121367
http://www.nicovideo.jp/watch/sm129388

>>119さん
ええ。寝タバコが原因で……

銀杏丸さん
>戦闘神話
作品設定の共有というか統一というのでしょうか。クロスオーバーの基本ですね。
てか、要約したら「平和を守るのは自分たちだけで充分」てな理由で戦団を敵視する聖域……
改革されても陋習はいまだ抜けずといった態。星矢と沙織が普通の少年少女になれるのは遠そう。
227スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/04/18(水) 23:31:27 ID:tgytM9f70
おお。あの下りをご存知とは! そういえば黄金時代で刎頚の友についてふれられておりましたね!
陸カ先生の献言から一気に逆転に向かっていく過程は本当に燃え。でも周勃は後で投獄されるのが可哀想。
呉起や田単、楽毅なども良いです。臥薪嘗胆も最高。負けた国が着々と力を蓄えるのがスゴい。
話は変わり、一心同体発言の頃は、剛太が暗黒面に堕ちる展開を期待してたりw いえ、和月先生の描く
黒い展開がけっこう好きなので…… が、再殺部隊相手に啖呵切るトコもいいです。総じて、剛太大好き。
西山君は謎が多いので、アリかもです。彼の背景やムーンの謎が明かされるのはいつの日か。

ハロイさん
>シュガーハート&ヴァニラソウル
意外に優しいブギーポップ。きっとツンデレ。でも目的以外知ったこっちゃないというのがステキ。

>私を『敵』として認識した時点で彼の敗北は決定していたんだ。

うむ。一見漠然抽象としているようで、こーいうロジックが秘められている能力は大好きです。
なお、ツバサはアニメを少し見ただけですが、モコナの声が脳内ですんなり再生されております。お見事!
いよいよ役者は揃い次の段階へ! ツバサ集めと世界の敵の存在が二柱でありますね。

内心では、あばれ天童のパロは分かりづらくないかと戦々恐々。いい作品なのですが、いかんせんマイナー。
うーむ。予備知識なしで楽しめるものを描いてこそ! と思いながら、指先は蝦蟇とか隻眼の竜ネタをチョ
イスするこの矛盾。ええい止まるのじゃ。あわわ止まらぬ。ひーっ。ガイアー!

ふら〜りさん(どちらのOPも馬がどどーっと走ってるのが中華チックで大好き。特に後期の出だし最高)
あまりリアルに絵がつくと、かなり嫌かも知れませんw 少なくても自分は……いや、見たいのですけど
見たくない。原作はあっさりした絵柄なので、焼死体とかドクロとか、体にめり込むコマとかが幾分緩和。
緻密な書き込みだと、エネルギー衝撃波をくらうヨミさまがえらいコトに! しかし少年少女が中心で、萌え
も意識している永遠の扉に比べると、なんともすえた匂いのする本作w だからこそ、大好き。

さいさん
策士なのにけっこうお茶目な戦士長。しかし破壊力に頼るのはあながち間違いでも。
複雑怪奇で発動に手間がかかる能力よりは圧倒的火力でぐんぐん殲滅できる能力の方がはるかに実践的。
でも個人的な能力と、部下を統率する能力は別物。性格的にサムナーは統率を取るより乱す方かも。
なぜにシャムロックに防人を襲わせるのか。うーむ…… 
228作者の都合により名無しです:2007/04/18(水) 23:58:56 ID:N8yUlQ+U0
スターダスト氏健筆で何より。
香美だけでなく、小札も作ってほしいな。
229作者の都合により名無しです:2007/04/19(木) 00:54:30 ID:6tcj4DfW0
お疲れ様です。
中国史を舞台にしたナンセンスギャグというか悪ノリSSというかw
完全に趣味に走っていて素敵です。
永遠の扉と共に、スターダストさんが楽しんで書いているみたいでいい感じです。

香美のカードも凝ってますね。
しかし「ばいせん」なんて絶対に読めん。漢字難しすぎw
230作者の都合により名無しです:2007/04/19(木) 15:02:52 ID:rLPvNs4f0
ギャグの中に何気に豆知識っぽいのがあるスターダストさんの得意な形式ですね。
韓信たちの活躍?をこれからも楽しみにしております。
231作者の都合により名無しです:2007/04/19(木) 20:01:37 ID:4JI1qTZ30
うーん、中国史知らない俺としては項羽がどうとかわからん・・
永遠の扉は錬金好きだからすっごい楽しめているんだけど。
こういうSSこそキャラ紹介(というか人物紹介)して欲しい。
スターダストさん、気を悪くされたらすみません。
232五十六話「騎士の在り方」:2007/04/20(金) 02:31:18 ID:FrJAS/Fj0
「そうか・・・だが、あの二人なら生きていれば救出は後でも出来る。
戦力の低下は否めないが、救出の目途も建たん。ここは我々だけで行くしかあるまい。」
ラファエルが、がっくりと肩を落とす、横にいるブルーも責任を感じていた。

「ソーリー、しかしあの位置からお宝を見抜く人間があんなトラップに気付かないとは思わなかったんだ。」
(だよなぁ、センサーもついてねぇ人間がどうやったら見えない宝に気付くんだよ。)

「・・・分かりました、今はあなたを信じる事にします。それに、ここで立ち止まっていても
スタンさん達を助けられる訳ではありませんからね。さぁ、先を急ぎましょう。」
そう言って重い足取りで先へと進むラファエル、未熟なれどそれを補う精神がある。
だからテオドールも見習いのラファエルに供をする事を許したのだ。

(よかったじゃねーかブルー!周りが甘ちゃんばっかで助かったな。)
「そうだな、少なくともお前みたいなポンコツはいねぇよ。」
(ピーガガ、ガガファーーック!ファーーーーーーーーーーック!!)
「また読み込みが遅くなったのか?勘弁してくれよ、これ以上ボロくなったらお守だって出来ないぜ。」
頭の中で騒ぎ続けるファッツを無視してラファエルへとついて行く。

「むぅ・・・奴等め、小癪な真似をしてくれる。」
突きあたりを左に曲がったテオドールは、かつて高地にある砦から下界を見下ろすために観測用に
3階に観測と詰所の両方の役割を担わせた、魔物の襲撃時に高い実用性を示したが最近は治安も悪くないので
維持費を渋った上位騎士達が使用を取りやめたのだ。高地から雪崩のように勢いをつけ、
街を魔物に襲撃されては街の壊滅は免れないと反対したのだが、
ハインリヒ以外には極一部にしか賛同者がおらず、こうして荒れ果ててしまった。
「おそらく、この先にいるのだが・・・・どこからこんな鉄格子を持ち出したのだ。」

塞がれた通路、知能の高い魔物が人の知恵、技術を身につけてこのように通路を塞ぐ事がある。
しかし、加工難度の高い金属を持ち出されたのは初めての事であった。
大抵の場合、木や粘土によるカモフラージュを中心とした物でここまで頑丈な物は作らない。
「サルーインの復活が近づくにつれて、魔物もその影響を受け始めている様だな・・・。」
233五十六話「騎士の在り方」:2007/04/20(金) 02:32:58 ID:FrJAS/Fj0
「どうなさったのですか、テオドール卿?この先に敵がいるのではないのですか?」
引き返して来たテオドールに疑問を抱くラファエル。
「通路が塞がってたんだろう。」
その問に答えるより先にブルーが言い当てる。

その言葉に頷くと、本来めざす部屋の逆方向へと歩いて行く。
「ここに留まって魔物の戦力を削る。日が沈む位に時が経てばハインリヒが援軍を送ってくれるだろう。」
それを聞いたブルーがラファエルに聞こえないように声を潜めて話しかける。
「おいおい、アイツがそんなに体力持つとは思えないぜ。
スタン達を助けるか引き返すかした方がいいんじゃないのか?」

それを聞くと、わざとラファエルに聞こえるように言ったのか大声で答える。
「見習でも騎士は騎士。名誉を守れれば命を惜しむ必要は無い。」
その言葉にピクリ、と一瞬体を硬直させると、若き騎士は吠えた。

「そうです・・・未熟であっても私は騎士!余計な心配など無用です!」
眼には闘志の輝きが見て取れるほどに充実していた。
だが、張り切りすぎた素人程、戦いには危険を伴う。
「心配されるのが嫌か?じゃあ言うが、足を引っ張られたくないんだ。
お前の剣は優しすぎる、非情になれないなら家に帰りな。」

悔しさに歯噛みする、大切な人を守るために身につけた剣。
騎士となって民衆を守るために身につけた剣。
それ故に攻めに徹することが出来ず、疲弊する事となる。
例え相手が魔物であっても、自然と体は守る方へと動く。
普段なら、ここで押し黙っていただろう、だが煮えた闘志が消えないのを感じ取ると、
若く、未熟な騎士は己の覚悟を本物と信じることにした。

「私を信用出来ぬ事は承知しています・・・ですがチャンスを!私を剣で試してください!」
234五十六話「騎士の在り方」:2007/04/20(金) 02:35:07 ID:FrJAS/Fj0
「おい、足を引っ張る上に無駄に体力を使わせる気か?オッサンも引き留めろよ。
それとも若い奴に無駄に命を浪費させるのが騎士って奴なのかよ?」
目を見開きブルーをみつめる。そして厳格で、威厳のある声で言い放つ。

「騎士であれば、生を与えられてから今日に至る時に関係なく、名誉に命を費やさなければならない。
そして、騎士でなくとも挑まれた戦いから背を向けるのは恥と知れ!」
テオドールの喝にも微動だにせず、深いため息を漏らすブルー。
ラファエルの方へ振り返り、剣の握りを直して向き合う。

「オーケー、カマン!赤子の手を捻るのは気が進まねぇけどな。」
腰を捻り、下半身を横にしたまま上半身を相手の方へと向ける。
両手で握った剣を上に掲げつつ、手首を捻って刀身は下へと向ける。
流れるようにしなやかな腕を伸び縮みさせ、刀身も下から上へ、左へ右へ、
常に構えを変える事で攻にでるか守にでるか、予測をさせない様にジリジリと詰め寄る。

「行きます!」
ブルーとは違って剣と盾によって攻防のバランスを配慮した構え。
その優雅な振舞いは、凛々しい顔立ちと相まって歌劇を見てるかの様だった。
素早く距離を詰める、テオドールと違い軽装に身を固めているので動きも速い。

「おいおい、そよ風じゃ俺は切れないぜ。」
だが目線も剣の軌道も正直すぎて受ける必要はない、血の滴る音などせず風を切る音しか聞こえない。
連続で斬り込んでくるが武器のリーチを体で把握出来ていない。
しかも焦りで力みすぎたのか、軽い剣だというのに体制を崩してしまう。
当然、それを見逃す様なヘマはしない。横腹に強烈な蹴りを入れダウンを奪う。

「ぐぅっ!」
すぐに立ち上がるがダメージは大きい、魔物との戦いで疲れている上に格上のブルーが相手では仕方がない。
再び真正面から挑みかかる、自分の力で勝ってみせる、騎士として小細工に頼る訳にはいかない。
「バテるの速いぜ、こんなベビーナイトじゃ守られるお姫様の方が子守りで大忙しだ。」
ラファエルの剣撃を受け止めるどころか、かすりもせずにかわしていく。
235五十六話「騎士の在り方」:2007/04/20(金) 02:37:41 ID:FrJAS/Fj0
「黙れ!それでも僕は・・・僕は!」
疲れがピークに達したのか剣を真っすぐに振れない、それでも必死さから気力で剣を振り抜き剣速が上がる。
軌道が直線から曲線に変わる、疲れで隙は大きくなったがうかつに近づけば当たる可能性も出てきた。
(ブルー、当たるって言っても10〜20%だぜ。気にせず畳んじまえよ。)
(いや、相手が鉄クズだったら俺もそうするが、こいつは何かしそうな気がするぜ。)

大雑把な唐竹割を出す際に、足に来たのか体制を崩す。
ここならば当たるという確信を持ったブルーが止めの一撃を放つ。
「さぁ、良い子はおねんねの時間だぜベビーナイト・・・ッ?」
咄嗟に投げた盾がブルーの目に直撃する。
行動予知、戦闘力の計算にセンサーを使っていたので姿を一瞬見失う。
咄嗟にサーモグラフィーにするが、既に間合いから離れていた。

「守りたいものが、あるんだぁぁぁ!」
咆哮を上げながらブルーへと剣を向ける。
敵を殺める覚悟を決めた、それでいて殺気のない一撃。
出来たら生かしたいという甘さを捨てるため、そして相手を必ず活かす為に、お互いの心を殺すのだ。
極限まで高められた精神が生む、斬撃にして突きの鋭さを持った剣技。
針の一刺しの様に軽く、剛槍の如き鋭い剣。
心の強さを形とした一撃、『心形剣』を無意識のうちに放ったのだ。

「見事だ、ラファエル。」
疲れ果ててその場に倒れ込むラファエルをのぞき込み、賞賛の言葉を贈るテオドール。
「俺が敵だと見なされてたら、折れたのは剣だけじゃすまなかったな。」

そういって自分の剣を見つめる。ブルーの剣はテオドールの拾った幻獣剣である。
曲刀という東洋の技術のルーツとされる魔物の武器。この剣には魔力が込められており、
相手に幻を見せて攻撃する力がある上に、本体の武器も高い威力を持った業物であり、
刀に近い形状をしながら、刃と刃がぶつかると重量で相手の剣が折れる様になっている。
それに引き換えてラファエルの武器はディフェンダーと呼ばれる最低ランクの長剣である。
練習には適しているが切れ味は最低でこれを下回るのは、
使い果たされゴミとして分類されるジャンクソードしかない。
236五十六話「騎士の在り方」:2007/04/20(金) 02:40:01 ID:FrJAS/Fj0
「経験の差も、武器の差も、絶望的なまでの実力の差を心で埋める。
お前の様な若者が私達の後を継いでくれれば騎士団は安泰だ。」
そういって転がるラファエルを仰向けにしてやる。

「まったく・・・俺が利用されるとは思わなかったぜ。」
不満気に頭をボリボリと掻き毟るブルー。振り返るテオドールは、
ラファエルの成長を心から祝しているのだろう、厳格な面持ちが笑顔で満たされている。

「君のような人間が必要だった、騎士団の同志と戦わせてもルールに守られてしまう。
追い込ませる事が必要だったのだ。みすみす才能を優しさに殺させる事は避けたかった。」
再びラファエルへと視線を戻す。眠る若騎士を見つめる老騎士の姿は、まるで息子と父親のようだった。
父を知らないブルーには、それがなんとも微笑ましかった。

「どうしてくれるんだよオッサン、あんな技みせられちゃ、もうベビーナイトなんて呼べないぜ。」
二人でラファエルの寝顔を見守りながら、これ以上ない笑顔で笑いあった。
しばらくして陽が沈みかける頃に、ようやくラファエルが目覚めた。
「うっ・・・痛っ・・。」

ブルーに蹴られた脇腹を擦る、折れてはいないが痣が出来ていた。
「おっ、騎士殿の目が覚めたみたいだな。」
そういって立ち上がるブルーの手には銃が握られていた。
テオドールはそれを目にしても特に反応を示さない。

「お前に剣を折られちまったからな、オッサンが返してくれたよ。」
そう言ってサラマンダーをコートにしまうと拳銃の方も取り出して見せた。

「テオドール卿、不審者に武器を与えてよいのですか?」
テオドールの方を振り向き本当か確認するラファエル。
笑顔のまま頷いている、滅多に笑わないテオドールに何があったのか?
それを知るのは本人とブルーの二人だけであった。
(ファーック!俺も聞いてたのを忘れてんじゃねーよシャバ僧がぁ!)
237五十六話「騎士の在り方」:2007/04/20(金) 04:40:29 ID:FrJAS/Fj0
陽が沈み切り、月明かりだけが周囲を照らしている。
「ランタンを用意しとくとは流石だな、じいさんよ。」
「伊達に年を取ってはおらん、それより年寄り呼ばわりするんじゃない。身体はまだまだ30代のつもりだ。」
「おいおい、自分で年を取ってるって言ったのにそれかよ。頭はやっぱり老人だな。」

二人のやり取りを見て笑いを堪えるラファエル、
不機嫌そうなテオドールが見えて直ぐにいつもの真面目な顔に戻る。
「しかし、鉄格子と逆側に行ってどうしようってんだ?何もねぇんだろ?」
「窓がある。そこから街の観測手にこの光を見せれば気づくだろう。」
「テオドール卿!危険です、外の魔物がここに集まってしまっては打つ手が・・・。」

ラファエルと目を合わせる、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなる。
親と子のような関係であると共に、主従の関係も持ち合わせた二人は、
男女よりもずっと複雑な関係かもしれない。

「お前まで情けない声を上げるんじゃない、陽が沈んでもこないとは今の騎士は腰ぬけばかりだ!
どうせ我々を死んだ事にして出陣を渋るに決まっている、なんの為に有望な若者に苦難を与え、
騎士の精神を説いたと思っているのだ!腐りきった上層部を・・・せめて数年前にでも見抜ければ・・。
今の奴等ならばこの灯りも罠と言張るだろう。だが一人でも決起してくれれば希望はある!」
抑えこんでいた不満を爆発させながら、窓の外にランタンを吊下げる。

予め、こんな事態を予期していたのだろう。予備のオイルが大量に用意してある。
(ファッツ、弾の生産を頼む。少しばかり長い夜になりそうだぜ。)
(長い夜だなんて気取ってんじゃねーよ赤ちゃんがよ。言われなくても弾は精製中だぜ。)

ラファエルは少しでも戦力となるようテオドールの教えを受けている。
構え、打ち込む際の注意点等を指南をしているが、疲弊しないように冗談交じりに注意を促す。
「じいさん、あんまりはしゃぎ過ぎて一番にバテたら騎士引退になりかねないぜ。」

結局、この言葉に触発され逆に張り切る事となってしまったのだが。
238五十六話「騎士の在り方」:2007/04/20(金) 04:41:21 ID:FrJAS/Fj0
〜騎士団の砦跡地 地下〜
「う〜ん、こんな時にディムロスがいれば火を起こせるのになぁ。」
落とし穴の真下を少しでも離れると暗すぎて進むことが出来ない。
どうすればいいだろうか迷っているとルーティが何か思い浮かんだのか寄ってくる。

「フフン、周囲を探索するくらいどうって事ないわよ。」
自信に満ちた表情、何か分からないが信じてみたくなる笑顔にすっかり騙さ・・・
いや、仲間を信じて希望を託すことにした未来の英雄、スタン・エルロン。
そしてルーティの口から出てきた言葉は・・・。

「さぁ、アンタの財布よこしなさい。」
「よし、分かった。」
この状況下で財布をよこせと言うのもどうかと思うが、
何の疑問も持たずに渡すのはもっとどうかしている。

「で、どうするんだ?」
何やらゴソゴソと財布を漁ると金を取り出し地面に撒いて行く。
「なるほど、こっちの世界のお金は持ち帰っても意味ないもんな!」
「バッカねぇ!後でちゃんと拾うわよ、ちょっと待ってなさい。」

そう言い残すと暗闇へと溶け込んでいく。黒髪な上に衣服を黒で統一しているので、
アッと言う間に見えなくなってしまった。
「おーい、ルーティ!危なくないかー?」
返ってくるのは頼れるパートナーの声では無く、自分の声だけだった。
仕方がないので信じて待つことにしたその数分後。

「・・・アンタのその性格がホントに羨ましいわ。」
たった数分で眠りについてしまった未来の英雄。レム睡眠ではないのは、ほぼ確実だ。
魔物に襲われる事は考えなかったのか、疑問は色々あるが取りあえず起こす事にした。
239五十六話「騎士の在り方」:2007/04/20(金) 04:43:15 ID:FrJAS/Fj0
「・・・zzz、いってぇ!」
キングオブ低血圧と呼ばれるだけあって寝起きは最悪。
眠りながら歩く事など、彼ぐらいのレベルに達すれば造作もない事である。

「スタン?ちゃんとついて来てる?暗闇に紛れてヘンな事するんじゃないわよー。」
「ヘンな事って?」
「それは・・・ホラ・・色々あるじゃな・・・・・って何言わせる気よ!」
今度の怒りは何からくるのかサッパリ解っていない様子で、寝ぼけ眼をゴシゴシ擦る。
純粋すぎる心とは、時として不便な物である。

「まったく・・・女の経験も無い田舎者はこれだから・・・。」
「女の経験って何だ?もしかしてスカートとか着るのか!?」
「そういう意味じゃないっての!」

スタンの無知っぷりに慣れた今、ツッコミも完全にマスターしてしまった。
『強欲の魔女』がこれでは、お笑い芸人と間違えられるレンズハンターが存在しても不思議ではない。
きっとどこかに居るのだろう。気にせず道しるべに置いてきたお金を拾い集める。

「田舎者に経験がない・・・じゃあ都会育ちのルーティは男の経験ってあるのか?」
「バっ・・・馬鹿いってんじゃ無いわよ!それは・・その・・。」
「乱暴な所とかあるし、結構男らしいと思うんだけどなぁ。」
「誰が乱暴よ!そういう意味じゃないって・・・ハァ。」

さっきのように険悪なムードに包まれるのは金輪際ゴメンだが、
こんなアホな会話を続けるのを一刻も速く止めなければ。さもないと何かうつる気がする。
そんな気持ちに後押しされ、自然と足も速くなる。

「ほら、ここが出口・・・あれ?お金が落ちてないわね・・・。」
さっき落ちた反対側の通路にも落とし穴があったのか、脆い天井から光が漏れていた。
その光が映し出したのは行き止まりと魔物の鋭い眼光であった。
240五十六話「騎士の在り方」:2007/04/20(金) 04:44:17 ID:FrJAS/Fj0
「・・・こっちに落ちなくて良かったなぁ〜。」
「いいからさっさと行きなさい、よっ!」
後ろから蹴りを入れ、スタンを前へと押し出す。

魔物の群れが、よろめくスタンに一斉に襲い掛かる、しかしこんな事は慣れっこである。
素早く体勢を立て直すと、腕にはめたガントレットと剣で攻撃を弾き飛ばす。
鎧は丈夫だが腹部を覆わないようにして軽量化を図った物であるため、
弾く攻撃は腹部から下への攻撃だけとする。周りの魔物に一撃で鎧を破壊できるような上位の魔物はおらず、
武器を弾かれても冷静を保てる知能を持った者も居なかった。
それを暗闇の中で瞬時に見抜く洞察力は、流石、一流の冒険者である。

高速で剣を振り抜き、加速をつけて体を回転させる事で自らを竜巻と化して敵を切り刻む。
「いくぞぉっ!断空剣!」
余りの剣速に広範囲に空気の刃が生じ、台風の目である自分が高く飛ぶ事で刃も上へと向かう。
無数の真空に切り刻まれ、上空に打ち上げられた息も絶え絶えな魔物に悪寒が走る。
最も、それが本当に冷気を帯びてくるとは思わなかっただろう。

「当てにくいわね、もっと上手く出来なかったの?」
文句を言いながらも氷で作った棘で魔物を全て串刺しにする。
無数に飛ばすがどれもスタンに当たる事はない。
ソーディアンを扱うマスターの力あってこそ、晶術の範囲は制御出来る。
特に被害もなく、魔物を全滅させる事に成功した。

「う〜ん、片付いたけど・・・何でこんな所に?お金を目印にしてルーティが間違うなんて、熱でも・・。」
「その言い方ムカつくわね・・・でもホントになんでかしら。」
ガツン、と音がする。何かを蹴とばした様だ。天井が戦いの衝撃に耐えきれなかったのか崩れてくる。
落とし穴用の床である上に、戦闘で大気を振動させたせいだろう。
そうして出来た穴から少しだが光が差し込む。
「なんだこれ?宝箱?」

嫌な予感のするスタン、後ろを振り返ると、乙女の様に目を輝かせたルーティがそこに立っていた。
「なるほど・・・これが原因か。ハァ・・・。」
241邪神?:2007/04/20(金) 04:45:31 ID:FrJAS/Fj0
早速続きを投下。しかしまとめる能力が低下してるような・・・。
長くなっちゃったけど読みにくくってゴメリンコ。
ラファエルで中の人ネタやってみたけどネタ性に欠けるな。
台詞も一部しか合ってないから分かり難いし、もっとふざけた場面で使わせてあげたかった。
つーか俺はなんでこんな時間まで起きてるんだろう?

〜今回も講座なしで感謝の言葉〜

ふら〜り氏 いやぁ、ネタは考えたりしてたんですがメモを消失して考え直しです。
      このスレを心配ですか、ヤムスレ等みたいに衰退する事もあるかもしれないですからね。
      この先もきっとそういった事があるのでしょうが、氏の激励があれば
      大半の事はなんとかなるでしょう。バキスレらしくバキに例えると、
      職人側=バキ として 感想人=梢 みたいな感じでしょうか。
      みんな勇気をもらっている筈です。そして裏返っている筈です。
      ・・・いや、悪意はありませんよ?(0w0)

215氏 ちょくちょく書いてますが宿題の方に手が回らな(ry
     しかし一応はやってるからまだ大丈夫、まだ。
     それよりある先生の講座を聞いてると先生の声がベジータに聞こえてくるのが・・・。

216氏 テイルズキャラは多分もうちょっと出るかも。人気キャラ大体集めてちょっとした乱闘させよう
     とか考えてたんですがメモをなくしてアイデアの捻りなおしなので。つーかこの進行状況から
     メモ通りにやってたらかなりの長期連載になってしまう・・・。まぁ既に泥沼ですが。
242作者の都合により名無しです:2007/04/20(金) 08:53:17 ID:sriWSY5N0
サイバーブルーって記憶の片隅にしか残ってない・・w
確か、北斗と慶次の間に生まれたあだ花だったようなw
でも、このSSでは活躍しそうな感じですね
主役のキャプテンがなかなか目立ちませんがw
243仮面奈良ダー カブト:2007/04/20(金) 09:56:25 ID:dI40/fyP0
第零話 誕生仮面奈良ダー



カナキーヲロックシテ AYB JYB  トタイプスル ソレガコノSSノ メッセージ

この物語は一人の少年が巨大な力を手に入れるところから始まった。



「う・・・くうう、く、くる」

彼は体の奥からみなぎり、溢れ出そうとしている力に必死に耐えている。

ここで耐え切らなければこれまでの彼の仕事は全て無駄になってしまう。

その作業は一流の料理人が最後に振る一握りの塩、一振りの刀に命を迸らせる刀鍛治の焼き入れの作業にも似る。

臨界まで耐えに耐えた後の仕上げの瞬間にこそ意味があるのだ。

その瞬間にこそ神は宿る。

かつてファウスト博士も恍惚の時をさしていったではないか「時よとまれ、お前は美しい」と。

少年はその瞬間のために待っているのだ。

己の時を止め、さらに天へと通じる扉を開くために。

244仮面奈良ダー カブト:2007/04/20(金) 09:57:47 ID:dI40/fyP0
だがしかし後少しというところで、彼は絶望に包まれた。

(な、ない・・・ティッシュがねぇ)

いつもなら、数多くの経験によって練り上げられた構造理論に基づく、最適のポジションに置いてあるはずのティッシュがないのだ。



「ち、ちくしょう、耐えろ、耐えるんだ、マイサン」

部屋の中にはゴミこそあれ、受け止めさせるに足るものは見当たらない。

ティッシュとはそれほど高貴で、優雅で、完成された存在なのだ。

(お、俺の子供たちを絨毯なんかにくれてやる訳にはいかん、塩田に捧げる大事なチルドレンなんだ)

しかし、部屋の中には何もないのだ。

キッチンペーパー、シャツ、雑巾なども存在するがそれらにくれてやるわけにはいかない。

こんにゃく、カップラーメン、アーモンドの袋なども置いてあるがそれらではやはり不満がある。

「く、ここまでか、天は我を見捨てたもうたかーーーーー!」

(もはや自刃もやむなし。塩田・・・さ、最後に口で受け止めてもらいたかった)
245仮面奈良ダー カブト:2007/04/20(金) 10:01:22 ID:dI40/fyP0
そういって自らの口で受け止めることを覚悟した瞬間である。

苦悶に叫ぶ少年の視界に飛び込んでくるものがあった。

それはベッドの端に顔をのぞかせていた。

まるで、取り付く相手を待ち受けるかのように。

それは赤い三角のボディ、黒く鋭い目をしていた。

(こいつなら・・・こいつならきっと何とかしてくれる・・・)



手にしたそれは暴君ハ○ネロであった。

(否、ただのハバ○ロにあらず・・・)

それは既に夏季限定大型とんがりコーン型なのだ。 (作者注:そんなものは存在しません)

一年前に発売されたそれは、大きすぎると不評のためすぐに販売中止になっていた。

考案者たちがその考案のために削ったであろう命(およそ煙草一本分)はいかほどのものであったろうか。

少年は"それ"に運命を賭けることにした。
246仮面奈良ダー カブト:2007/04/20(金) 10:03:07 ID:dI40/fyP0
硬くて熱い
ティッシュという柔らかな素材に慣れ親しんだ者にとって、この物体は・・・

「おおおおおおおおお、おめでとう谷良子ーーーー」


みなぎる力はかつて制御したいかなる力をも上回った。
炎の力をその身に受け入れ、彼は表に飛び出していた。
その力で、いつしか彼は充血し赤い体に変身を遂げていた。

どこぞの一向に海賊行為を行わない海賊やわかめ野郎と似たような要領だ。



「キャスト・オフ(脱皮)」
着衣がバラバラに吹きとび、己のクロスを表面に晒す。

身に着けているのは漆黒のパンティー、そして前ホックブラジャーである。

通りを行く人々に見せ付けているのだ。

「これがぁぁぁぁ俺のゴオールドクロスだーーー」

羞恥心という名の鎧を脱ぎ捨てることで身軽になった、彼の新たな戦闘形態である。

Change Beetle !
ピンと彼のカブトに力が彼に宿る。
247仮面奈良ダー カブト:2007/04/20(金) 10:06:43 ID:dI40/fyP0
今、立ち上がり敏感さを増したサインホーン@股間が犯罪を感知した。
少年は走り出す。


一人の中年男が幼女に手を伸ばしていた。
でっぷりと太り、顔全体が脂ぎっている。
かけている瓶底眼鏡が曇るほどだ。

「いやだ、助けて、行きたくない、誰か助けて」
少女の叫びに応えるものは誰一人としていない。
中年男はがっしと幼女の手を掴み、ゆっくりと撫で回した。

「ひぐ、う、いやぁ、らめぇ」

「さあ、一緒に来るんだ、おとなしく言うことを聞きなさい!」

すわや幼女の危機。



そのときである、中年男の目に走りこんでくる何かの姿が飛び込んできた。

同時に自分の腕に嫌な感触を覚えた。
十字に切った髪らしき物体が腕に刺さっていた。

その何かは走りながら、息を嬉しそうに荒らげながら呟く。

「奈良カッター」
その口元は卑猥に歪んでいる。
そう、2部後半の夜神月の計画通り顔にも似た表情だ。

248仮面奈良ダー カブト:2007/04/20(金) 10:42:15 ID:dI40/fyP0
目の前に突如現れた存在に、中年男は面食らった。
赤黒く怒張した体に、十字に禿げた髪。
身に纏う漆黒の女性下着と白い靴下。

「お、お前は・・・」



少年、奈良重雄はゆっくりと両手を上に上げていく。
本能が教えてくれる、今ひとつの力。
「クロック・アップ」
両手を頭の上で交差させ、腰で大きく円を描き、最後に前に一突きする。
そのとき、周囲の人間の時間がほぼ停止した。
人は見てはならないものをみてしまったとき、一時的に思考停止に陥ることがある。
彼が行ったのはこれであった。
奈良重雄は漆黒のゴールドクロスをその身に纏う戦士である。

彼はそれまで桜井美保の下着を纏った自分は完全体であると信じて疑わなかった。

ゴールドセイントの証たる光速の動きには遥か及ばないにも関わらず・・・である。

だが炎の力を受け入れた彼は今、光速に肉薄していた。
およそ光速の10000000分の1という猛スピードである。

周囲の時間がゆっくりと流れるのを感じた。

舞い落ちる桜の花びらはとまって見え、(路上駐車してある)自動車に落書きをすることも、彼を見て時の止まった小学生の耳に息を吹きこむのすら容易い。

時間(周囲の人間の思考)をゆがめるほどのパワー。
249仮面奈良ダー カブト:2007/04/20(金) 10:43:40 ID:dI40/fyP0
(みなぎる、コ、コスモを感じる・・・!)

思わず歌いだしてしまう。

「だ〜きしめた〜こーこころのこすも〜 つたえ〜ああた〜はるかなぎんが〜」

何も問題はない、時間は止まっているのだ。




動きの止まった中年男性に彼はゆっくりと肉薄していき。

そっと抱きしめ、耳元でささやく。

「痴漢は犯罪ですよ」

そして耳に息を吹き込んだ。

ゆっくりと、中年男性は地に倒れこむ。

奈良はそれを支えながら。

「安心したまえ、ゆっくりと、優しくフォールしてあげよう」

やさしく、聖母のように抱きかかえながら、ゆっくりと気を失った男性の体を俯せに横たえる。


「クロック・オゥヴァ(そしてときは動き出す)」
250仮面奈良ダー カブト:2007/04/20(金) 10:45:12 ID:dI40/fyP0
電子音声風につぶやくと我に帰った彼は、彼は幼女の近くにいた。

「見たかなお嬢ちゃん、悪いおじさんは退治したよ」
天使のように無垢なつもりの笑顔で少女に話しかける。
「ところでこの俺の真・完全体どう思う?」

腰までの背しかない幼女にグングンとカブトゼクターが近づく。
少女の顔は恐怖に歪み、少年(26歳)の顔はサディストの笑みを浮かべる。
じりじりとにじり寄る恐怖に耐え兼ねた少女は泣きだしてしまった。

「おとうさーん」

(ちっ親子だったか・・・どうする・・・ここは)

目の前の奈良への恐怖に泣きながら父親の中年男性の屍に走りよろうとする彼女の耳にそっと息を吹き込んだ。

「大丈夫みねうちだ、今度はお父さんを困らせるんじゃないよ、お兄さんと約束だ」

そういいながら少女の手をさすりながら取り上げ、

「はい、指きりげんまん嘘ついたら○○○の〜ます、指切った」

まるでダウンロード直後の才賀勝@からくりサーカスのような笑顔で場をごまかすと、(社会的に)人間離れした動きで走りさった。
251仮面奈良ダー カブト:2007/04/20(金) 10:46:23 ID:dI40/fyP0
「くそ」
ガァンとごみバケツがひっくり返る。
「ええい、人の善意には御褒美にほっぺたにちゅうくらいくれるのが人の道じゃろ、仁義じゃろ」
ぶんぶんと腰を振りながら家に戻る。
近所の目への恐怖はアドレナリンとエンドルフィンと途中で買った牛乳のトリプトファンが化学反応を起こしてスパークしたため消えている。
「ええい、むかつく餓鬼じゃ、社会常識なめんなや」
げしげしとマキバオーのぬいぐるみに八つ当たりをはじめたが、ふと思いあたることがあった。
彼は時間を止めたのだ。
彼は決めた、この力は正義のために使おうと。

「そして俺は新世界の神になる」


眼鏡という名の仮面の下に本当の心を隠しつつ、彼の厳しい戦いが始まった。



「俺が仮面奈良ダーだ」

この物語は、奈良重雄とそのライバルたちの熱く、壮絶な戦いの物語である。
252鬼平:2007/04/20(金) 10:55:19 ID:dI40/fyP0
あれ、なんだか改行がおかしいな

というわけでこんなん書いてみました
第2話までで終了です
鬼と人のワルツはバキ本編が落ち着いたら続きを。。。

登場人物紹介1
奈良重雄

 ロリコン、ホモ、吉六会会長。

 彼の実績は「変態 最強」で検索すれば直ぐにわかる。

 私見では恐らく全漫画変態統一王者。

 少なくとも3強の一人には数えられるであろう男。

 殺し屋1に出てくる変態たちでも多分厳しい。

 彼らは異常な世界で変態故にある意味正常、しかし奈良はごく普通の日常世界でぶっちぎり。

 登場漫画:幕張

 


253作者の都合により名無しです:2007/04/20(金) 11:26:25 ID:F7YikxeRO
まさか、とうとうバキスレに幕張が出てくるとは……
254作者の都合により名無しです:2007/04/20(金) 11:34:59 ID:MjP0r9Ew0
>>「安心したまえ、ゆっくりと、優しくフォールしてあげよう」
ガーレン乙。
255作者の都合により名無しです:2007/04/20(金) 12:09:48 ID:WIhOfJNh0
邪神さんに続き鬼平さんも復活かぁ。
お2人ともこれからますます頑張って下さい!
256作者の都合により名無しです:2007/04/20(金) 18:01:00 ID:67lFsMa20
>邪神氏
スタンとルーティのコンビが帰ってきましたね
新キャラのサイバーブルーチームとどう絡むか楽しみです。

>鬼平氏
奈良重雄とゆかいな仲間たちですかw
あの、下ネタとパクリネタだらけの幕張世界をどう書くのかw
257作者の都合により名無しです:2007/04/20(金) 23:05:01 ID:xIVylC520
変態というと奈良より鬼面組の一堂 零の方を思い出すなあ
多分、ふら〜りさんもそうだ
258作者の都合により名無しです:2007/04/21(土) 17:12:02 ID:2ViYh+os0
涼宮ハルヒの正義、結局未完のままか?
頼むぜしぇきさん。
259作者の都合により名無しです:2007/04/21(土) 23:21:09 ID:urfNUH3y0
しぇきさんは消えたり戻ったり
バキスレの職人たちに全員言えることだが

消えたまま戻らない人も多いけどな。
サナダムシさんやミドリさんがそうならない事を切に祈る。
260作者の都合により名無しです:2007/04/22(日) 12:35:41 ID:ByXGXJ0P0
投稿ペースが落ちてるな
今日、たくさん来るのを期待

ジョジョの新作のやつそろそろ来ないかな
261ふら〜り:2007/04/22(日) 18:08:25 ID:Yyu/jWu60
>>スターダストさん(このサイズでは小札ならずとも……って他は皆このレベルとか?)
>車田風に吹き飛ぶ呂后。
アニメ版星矢だったら、吹っ飛ばされつつ顔面でコンクリートを掘るアレですか。
で今回は張良一人奮戦してますな。超人ではあれど超能力者ではない、ニンジャ
ではなく忍者。これまた「永遠〜」と対照的ですが、高速罠バトルは共通事項かな。

>>邪神? さん
父と兄と弟って感じですな。先輩的立場で被りがちな父と兄との差を、はっきり区別
できてて見事。スタンたちは引き続きギャルゲ的イベントを展開してる、と思いきや、
やる時はやって魅せてくれました。それでもやっぱり硬軟両極端な2チームですけど。

>>鬼平さん
確かに、ものごっつい変態ぶりではある。が、一応最初の動機は人助けなワケだし、
>人の善意には御褒美にほっぺたにちゅうくらいくれるのが
この辺は意外なほどマトモというか健全。前半もまぁ健全でないとは言えず。ちなみに
私はずっとカナ入力。職場で他人のPCを使う時面倒で……日本人なら日本語使えっ。

>>257
そこまで見抜かれると何か嬉しい。でも変態って言葉の意味、変わりましたよね。奇面組
はああ見えて、男の子の下ネタも女の子の露出もほぼ皆無だったなぁと振り返る今日。
262作者の都合により名無しです:2007/04/23(月) 00:54:46 ID:l8NpAPzE0
ふらーりさんもまたなんか書いてね
263作者の都合により名無しです:2007/04/23(月) 16:53:37 ID:KkRxNIKE0
ちょっと小休止?
264シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/23(月) 22:29:16 ID:WBdY53Gk0
『赤ん坊を待ちながら @』


 静がぶどうヶ丘学園に入学してから一週間が過ぎた。
 外国人の自分が新しいクラスに馴染めるか当初は不安でしょうがなかったが、
血統的には純然たる日本人である静の大人なしめながらも愛嬌のある面立ちや、変に『外国かぶれ』した雰囲気のないこと、
ニューヨーク育ちでありながらも日本語が堪能なことが周囲に親しみやすさを感じさせおり、
静・ジョースターは『季節外れの転校生』としてクラスでおおむね好意的に迎え入れられていた。
 だが、問題がないわけではなかった。
「ねえねえジョースターさーん、静ちゃんって呼んでいいかな?」
「あ、うん」
「『しずしず』とかは?」
「え、それはちょっと、どうだろう」
「今日はあたしたちと一緒にお昼しない? ほら、この学校のこと教えてあげたいし、アメリカの話も聞きたいし」
「うん、喜んで。あ、十和子とも約束してるから、一緒にでいいかな」
「……トワコって、トオノトワコだよね」
「そ、そうだけど」
「──あのさ、悪いこと言わないけど遠野とだけは付き合わないほうがいいよ」
「どうして?」
「どうしてって、それはその、ねえ?」
「……?」
「だってえ、遠野ってば変なことしか言わないし、ぜんっぜん協調性ないし、それに──」
265シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/23(月) 22:30:34 ID:+jtC/WIl0


「ねえ十和子」
「なーに、静」
「『ヤリマン』って、なに?」
 静がそう訊くと、十和子はストローで啜ってた紙パックの牛乳を「ぶっ」と威勢良く噴き出した。
 そのせいで乳白色の飛沫が膝の上の弁当箱にかかり、ヒジキの胡麻和えが濁った灰色になってしまう。
「……あんた、どこでそんな言葉覚えてきたの?」
 二人が昼食を摂っているのは、学園敷地内の中央に位置する時計搭の内部、一般生徒は立ち入りできないはずの機関室だった。
 そこが立入禁止だというのを説明してくれたのは十和子自身なのに、なぜ堂々と立ち入っているのかは甚だ疑問だったが。
 真っ直ぐに伸ばした安全ピンとヘアピンで難なく鍵を開錠した十和子は、ドアに掛けられている「立禁止」という看板を指差して
「こいつは座って飯を食うぶんにはなんの問題もないってトンチなのよ」と説明してくれたが、
漢字に弱くトンチという概念も今イチ理解できていない静にはちょっと分からない話だった。
 それはともかく、『その単語』を口にしたときの十和子の反応が予想外だったので、静はうろたえながら手元のサンドイッチに目を落とす。
「ど、どこでっていうか、ついさっきクラスで」
「はあん? 誰よ? ……あー、いいや。だいたい察しが付くから。あたしが『そう』だって言ってたワケね」
「……うん」
「ったく、あいつらロクなことを教えやがらないんだから」
 十和子は苛立たしげに長い髪を掻き揚げる。
 静にも『その単語』がなにか侮蔑的な言葉だということは薄々分かったが、十和子はそうした自分の評価に憤りを感じているというよりは、
静の口からそんな言葉を言わせたことが気に食わない、それはそんな感じの仕草だった。
 十和子がそれ以上なにも言わないので、静も黙ったままサンドイッチを口に運ぶ。
 下宿している広瀬宅の夫人が毎日持たせてくれる弁当は良く出来ていて、静にとって学校生活の楽しみの一部だったのだが、
今だけはとてもパサパサした口当たりでとても不味く感じた。
 だが残すのも忍びないので、無理にオレンジジュースで喉に流し込む。
266シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/23(月) 22:32:15 ID:WBdY53Gk0
 顎を手の甲に乗せて遠くを眺めていた十和子だったが、ややあって、ぽつりと口にする。
「さっきの意味ね」
「え?」
「エス・エル・ユー・ティー、よ」
 それは非常に日本語訛りの強い発音で、静の言語中枢がそのスペルを単語として理解するにはわずかなタイムラグがあったが、
それだけに、その意味が脳内で結像したときは──強烈だった。
 今度は静が飲みかけのオレンジジュースを噴き出してしまい、それどころか、気管に入って激しくむせてしまう。
「ああもう、なにやってのよ」
 身体をくの字に折り曲げてごほごほと咳を繰り返す静の背中を撫でながら、
十和子はポケットから取り出したハンカチでジュースで汚れた口元まで拭ってやった。
「ご、ごめん。でも」
 どちらかというと温室育ちの静にとって、それは映画やドラマの中にか存在しないある種の専門用語のようなもので、
実際にそうやって他人を辱めるために使われるのを聞いたのは生まれて初めてだった。
 顔を紅潮させながらやっとのことで息を整えた静へ、十和子は呆れ半分の仕草で肩をすくめてみせた。
「あんたがそんなに驚いてどーすんのよ」
 そう言う十和子の口調はどこか他人事のようだった。
 まるで、自分とは関係のない『誰か』の悪口を言われているような。
「……十和子」
「うん?」
「悔しくないの?」
「べっつにー」
 それは事実だからなのか、という考えが一瞬静の脳裏をよぎったが、口にするのは憚られた。
 だが、
「言っておくけどね、あたし処女よ」
「だ、誰もそんなこと聞いてないもん」
「ダメよ。『カスタード・パイ』に嘘はつけないのよ、静。疑心暗鬼の匂いがぷんぷんするわ。青錆びた銅と腐葉土の匂い」
 そして「なんでもお見通しだ」とでも言うように指を振る十和子を見て、静の胸中に名状しがたい苛立ちが沸き起こる。
267シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/23(月) 22:34:19 ID:WBdY53Gk0
「……でも、でも十和子、そんなひどいこと言われて平気なの? わたしだったらやっぱり怒ると思うし、十和子がそう言われてるのも、なんか嫌だよ」
 口を尖らせて言い募る静へ、十和子は「ふ」と細く笑った。そしてがしがしと乱暴に静の髪を撫でる。というかくしゃくしゃにする。
 それはまるで、他愛なくも微笑ましい子供の言い草を目の当たりにした母親のような微笑みと手つきだった。
「あんたは良い子だねえ、静」
「な、なによ馬鹿にして」
「いやいや、あんたがそう言ってくれんのは身に余る光栄ってやつさ。なんなら涙だばだば流して感謝してやってもいい。でもね──」
 そっと、冷たい手のひらが静の頬を撫でる。
「どーだっていいのよ、そんなこたぁ──他人からどう思われるかってのは、本当にどうでもいい、あたしにとってはこれっぽちも価値のないことなの」
 静はなんとはなしに寒気を感じた。それは十和子の手の冷たさだけではないような気がした。
「……ね、静」
「なに?」
「分かったとは思うけど、あたしってばクラスの嫌われもんなの。あたしとつるんでたら、あんたもクラスから孤立するわよ。
だからさ──あたしと話すのはほどほどにして、もっと別のやつと友達になるって選択肢もアリだと思う」
 ふと、静は彼女の瞳に『なにか』を見た。
 それは漠然としていてはっきりとは捉えられなかったが、この世界からたった一人ぼっちで切り離されたような『孤独』のようにも思えた。
「あ──」
 静はなにかを言おうとしたが、それは喉に引っ掛かって言葉にならなかった。
そのことに我ながら驚いた次の瞬間には、なにを言おうとしていたのかが綺麗さっぱりと消えてなくなっていた。
「あの──」
 十和子は静かに答えを待っていた。その佇まいは静謐すぎて逆に凄みを感じるような、刑の執行を待つ死刑囚の雰囲気にも似ていた。
 どんどん身体が冷えていくような気がした。まるで自分の生命が、十和子の氷のような手を通じて向こうに流れているようでもあった。
 永遠とも思える時間が過ぎ、十和子は再び「ふ」と微かに笑う。
「冗談よ。そりゃ、クラスの中には仲の悪いグループもいるけど、だからってあんたにとばっちりがいくほど険悪ってわけじゃあないわ。
上っ面のつきあいには違いないけど、それなりに上手く立ち回ってるから、ね」
 十和子の細い指が静の頬を這い、唇をさっと撫でた。
 やはり彼女の手は冷たくて、静はつい「ふぁ」と声を漏らしてしまう。
268シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/23(月) 22:35:16 ID:+jtC/WIl0
 なんか釈然としない気持ちで、十和子の低い体温が残る唇を指でなぞる静だったが、
「──そこでなにをしている? ここは立入禁止のはずだ」
 機関室の戸口に若い男性教師の一団が立っていた。
 照明は切れっぱなしで採光の窓などもないその部屋では、一人ひとりの顔を判別することは出来なかった。
「うげ」
 とあからさまに嫌そうな声を上げた十和子だったが、見ている静が呆然とするくらいの変わり身の早さで先頭の教師に頭を下げた。
「ご、ごめんなさい川尻先生! 転校生の人を案内してて、最初は入るつもりなんてなかったんですけど、鍵が開いてたからつい魔が差しちゃったんです!」
「おかしいな……鍵は閉まっていたはずだがな」
 つい反射的に、静がそれに答えてしまう。
「あ、はい、閉まっ──」
「このバカ」
 静はすぱーんと後頭部をはたかれるが、そっちを向くと満面の笑みを浮かべた虫も殺せないような美少女がそこにいるだけだった。
「ん? なにか言ったかね?」
「いいえ、誰もなにも言っていません」
 涼やかな声音ではきはきと答える十和子へ、静は半眼で苦情を言い立てる。
「な、なんでぶつの?」
「あーら、なんのことですか?」
「いいから早く出なさい。その前に氏名とクラスを──まあいい、この暗がりだ。『見なかったこと』にしておこう」
 手を振る教師に追い立てられるように、二人は戸口から足を踏み出す。
 そのドアにちらりと目をやった十和子は、
「あ、前々から気になってたんですけど、どうしてこの看板『立禁止』なんですか? 普通は『立入禁止』ですよね?」
 すると、薄闇の向こうから、なにかをひどく懐かしがるような声が返ってきた。
「ああ……それはこの学校のOB……私の先輩でもある方が『もういらない』と言うので学校に寄贈してくれたんだ。
確かに看板としては使い物にならないものではあるので、こうしてここに保管場所代わりに据え付けてあるんだ」
 この教師も昔は学生であり少年だったはずであることが不意に思い起こされ、静はなんとなく不思議な気持ちになった。
自分も十年後、二十年後には、こうしてなにかを懐かしんで思い出に浸るのだろうか、と。
「かつてこの町には守護精霊がいたことの──その黄金の輝きを偲ばせる──記念品、さ」
269ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/23(月) 22:36:58 ID:+jtC/WIl0
……あー、書くことねーや。とりあえず「ぼくらの」がマイブームです。
OPの「アンインストール」が俺的ヒットです。「持ってけ! セーラーふく」と同じくらい何度も聞いてます。
杏仁ソース アーニーソーン♪ こーのーほーしーの むーすうの ちりの♪
鬼頭莫宏、上遠野浩平、谷口悟朗と中二病御三家を信奉している俺としては今回のアニメ化は嬉しいです。
かどちんはメディアミックスには恵まれないのに、もひろんの打率ときたらもう。GONZOってのが一抹の不安要素ですが。
この調子で「ヴァンデミエールの翼」のアニメ化もお願いします。
長々とここで書くことじゃねえか。でも書いたけど。書くことあるじゃん。

>サマサ氏
捏造の嵐なら俺だって負けていませんよ!
軽快なテンポから緊迫した状況に一転して目が話せません。
ギガゾンビって日本誕生のあいつですよね? 大長編のボスのなかでも特に小物感が全開だった覚えがあります。

>さい氏
超強力な武装錬金っぽいのになぜでしょう、
哀れな弱者を見るようにサムナーを生暖かく見守っている自分がいます……ww
とりあえず俺の(←ここ重要)千歳のヘルメスドライブを軽んじた時点で、
彼になにか取り返しの付かないフラグが立ったのは確実でしょう。

>邪神?氏
元ネタ分かりませんでしたorz
最近こんなんばっかで自分の勉強不足が骨身に染みます。
とりあえずファッツに惚れました。
270ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/23(月) 22:38:41 ID:WBdY53Gk0
>>202
アル・ヤンコビックで三部ラストのジョセフ復活を連想するようであれば末期的なジョジョ厨であると言えるでしょう。

>>218
十和子のキャラ造形には、バオーのヒロイン、スミレも一枚噛んでます。
直接的なモデルにしたわけじゃないですが、
こういうアンモラルながらも自分の「ルール」を理解している気高い女性像は前々から書きたいと思ってました。

>スターダスト氏
ちょwwパロディの嵐www腹筋釣って死ぬwww
小林信彦「唐獅子株式会社」を読んで以来、怒涛のパロディの連続ような話を考えてたのですが、
正直かなり嫉妬してます。

>鬼平氏
これまた濃厚なパロディですねww
俺の少年心にトラウマ的な爪痕を残した奈良が変身ヒーローって……。
下ネタの破壊力を今さら思い知らされています。
271ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/23(月) 22:40:06 ID:WBdY53Gk0
む、>>218はふら〜り氏でした。大変失礼しました。
272作者の都合により名無しです:2007/04/23(月) 22:45:11 ID:l8NpAPzE0
お疲れ様ですハロイさん!

牛乳噴出したりオレンジジュースでむせたりと結構ベタですが
なんか可愛いですなー。
十和子も処女ですか。静が温室育ちのせいのに対して、
十和子はその辺の男じゃとても太刀打ち出来ないからでしょうね。

でも川尻って、あの川尻でしょうか?

273作者の都合により名無しです:2007/04/24(火) 01:01:36 ID:ZlVDMdC30
ついに吉良始動か?
静は主人公のはずなのに、十和子の方が美味しいなw
しかし面白い。
十和子の妖怪サトリのような能力が
どう物語に関連するか楽しみだ。
274作者の都合により名無しです:2007/04/24(火) 08:34:25 ID:P6pwMRnO0
静と十和子は名コンビだなあ
お嬢様と不良(?)、清純派と派手派で。
この2人のやり取りが楽しくて好きだ。
275作者の都合により名無しです:2007/04/24(火) 12:42:05 ID:0a5lwK830
吉良じゃなくて川尻早人だよな?
276作者の都合により名無しです:2007/04/24(火) 22:46:13 ID:+ELFE7m90
個人的に十和子は処女じゃない方がよかったな
ヤリマンは嫌だけど、既に酸いも甘いも経験済みで
清純な静との対比が・・

って、ここは18禁じゃないですねw
十和子のルックスはすらっとしてて相当いいみたいだけど
芸能人でいえば誰だろ?
吹石一恵を個人的にはあてはめてる
277作者の都合により名無しです:2007/04/25(水) 09:00:20 ID:5L5b4tqx0
サナダムシさんはもう来ないのかなあ・・
278作者の都合により名無しです:2007/04/25(水) 17:31:53 ID:xo49HVLh0
ヴィクテムはそろそろ終盤っぽいけど
シュガーハートはまだまだ序盤って感じで楽しみだ
ハロイさんはキャラ造詣がうまいな。

ジョジョ好きとしては、この作品と
もうすぐ連載されるだろう承太郎×ペルソナに
非常に期待してる。
279三部外伝の作者:2007/04/25(水) 18:42:58 ID:LWshZfcaO
期待されると困ってしまうが、作者登場。
本日より、約三週間後にネット開通だそうだ。
流石にそれまでは開きすぎなので、5月の4日か5日に2話を投下すると宣言する。
実家にゃネット環境があるからね。
280三部外伝の作者:2007/04/25(水) 18:55:08 ID:LWshZfcaO
ちなみに現在P3Fプレイ中。
フェスのネタもぼちぼち入れる予定。
281作者の都合により名無しです:2007/04/25(水) 22:37:17 ID:Y/j4jqx00
楽しみだなー!>三部外伝
序章がよかっただけに。
282五十七話「二つの幻」:2007/04/26(木) 15:19:31 ID:yEBuGct00
紫色の目をキラキラ輝かせながら宝箱をいじくり回す18歳の美少女。
しかし、彼女がお金を求める理由を知った今、スタンにそれを注意する事なんて出来なかった。
「グフフ・・・中々の重さねぇ。何が入ってるのかしらぁ〜。」
まぁ、花も恥じらう可憐な乙女が『グフフ』なんて言っていいのかは注意したかったが。

カチッ、と音がすると同時にアメジストの様な目の輝きがさらに光を帯びた。
暗闇にも大分慣れてきたのでハッキリとまでは行かなくともそれが分かる。
「さぁ、お宝ちゃ〜ん。でておいで〜。」

この荒んだ時代、古びた宝箱一つでここまで幸せそうな顔が出来るものだろうか。
帰りを待つ子供たちのために、雀の涙だろうと拾い集めなければならない。
まだ18歳だと言うのに。神が居るというならば、彼女に背負わせている物は過酷過ぎるのではないか。
いや、ある意味そこらの貴族などより幸せなのかも知れない。
金銭を目にした時の彼女の活き活きした表情、18という若さで幸せとは何かを理解しているのだろう。
箱を開け、お宝を手にした彼女の喜びようを脳裏に浮かべると涙腺が熱くなる。
駄目だスタン、泣いてはいけない。笑って彼女と喜びを分かち合うのだ。
そして白い手が箱に触れる、頑張れスタン。作り笑いでもいいから見守るんだ。

「ハァ?何これ・・・。」
入っていたのは小銭と大量のゴミであった。ようするにハズレである。
「とんだ期待外れだわ!大体あんな雑魚が後生大事に取っておいた物なんてこんなもんよ!
ああぁ〜、宝箱の場所だけじゃなくて中身を見抜けるように出来ないのぉ・・・?」

重かったのは箱の重量だったのだ、怒りを箱にぶつける為、思いっきり蹴飛ばす。
「いったぁ〜!」
飛ぶには飛んだが無理して蹴りあげるので足にダメージを受ける。

ほんの少し浮き上がった箱は、縦ではなく横に回転しながら洞窟の奥へと消えていった。
だが何故か箱が消えても回転音が止まない。重そうな箱が見えない所で回転し続けている。
「おい、ルーティ・・・?」
「まぁ・・・何も起こらないうちに逃げるのが一番っしょ!」
スタンの手を掴んで暗闇を走る、数秒遅れてガコッ、という音が背後に響いた。
283五十七話「二つの幻」:2007/04/26(木) 15:21:33 ID:yEBuGct00
〜騎士団の砦跡地 2階〜
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
騒音のレベルを遥かに上回る大音量で、ブルーと愛銃サラマンダーが吠える。
次々と砕け散っていく魔物の群れ、マグナム弾の威力にマシンガンの連射力。
「ファーック!これでも喰らって、汚ねぇ尻の穴から脳ミソ吐き出しやがれ!」

突然、銃を解体したかと思えばそうではない、分離させたのだ。
太いコードで繋がれているが使い慣れたブルーには邪魔にはならない。
全方位への射撃を可能とした究極のマルチウェポン。
そのとてつもない範囲への射撃を前方180度に集中させた時の凄まじさ。

「こんな恐ろしい男を相手にしていたとはな・・・。」
撃ち漏らした相手を片づけながら改めてブルーの力を認識する。
構造の理解できない武器だが、大気の振動で分かる。

恐らくブルーの両腕には、常に多大な負荷がかかっている筈だ。
鉄製の武器で硬い地面を全力で叩いた時の感触。
ビリビリと衝撃が手から体の方まで伝わってくる。
それに近いものを連射してる限りは腕から離れない筈。

「ボサっとしてんなボーイ!またベビーナイトって呼ばれたいか!?」
サラマンダーの力を把握していなかったラファエルも、その力を目の当たりにして呆気に取られていた。
普段ならラファエルに喝を入れるのだが、そんな事も忘れる位にブルーに見入った。
初めて会った時はこんな速度で撃ってこなかったが、もし今の様に正面を弾で覆われたら・・・。
かわすも何も、鎧ごとミンチにされてしまうのが目に見えている。

(なんだよ、余裕すぎて弾があまっちまうぜ。お前のハニー達は長い夜にしてくれそうにねぇな。)
数だけで大したことのない敵ばかりなので暇なのか、ファッツが意味もなく話しかけてくる。
だが、ブルーは感じ取っていた。段々と危険が身に迫りつつある事を。
(黙って弾薬の精製を続けな。嫌な予感がするぜ・・・。)
284五十七話「二つの幻」:2007/04/26(木) 15:23:28 ID:yEBuGct00
「終わった・・・・のか?」
死屍累々と横たわる魔物達を、夢でも見てるかのような虚ろな目で眺める。
死肉が床中に広がり、別種の魔物の血と混じり合って肉ではなく粘液となっている。

「いや、階段を降りる音が聞こえる。足音からして・・・・一人、いや人間じゃねぇ。」
素早く銃のリロードを終えると同時に正面に構える。
ブルーは一体何者なのだろうか、魔物の群れを一掃する事で静寂を取り戻した。
しかし、それでもここから反対側の鉄格子に阻まれた扉との距離はかなりある。
音の反響しやすい建物内とは言っても、ここから階段を降りる音を聞き取るのは不可能だ。
アサシンとしての修練を積めば可能になるかもしれないが、アサシンギルドは遠い昔に壊滅した筈。
まさか、サルーインの復活に先駆けて再興したのだろうか?

「速い・・・馬・・・・・・・?違う、蹄の音が洒落にならねぇデカさだ!来るぞ!」
部屋に飛び込んできたのは、雷に身を包んだ白馬の姿をした獣だった。
美しい毛並みは見る物を魅了し、頭にある雄々しい角は美しさと裏腹に見る物を恐怖させる。
姿形から立ち振る舞いに至るまで、それが神に愛された生き物である様に思わせる。
これ程までに美しい生き物は、全世界を探し回っても存在しないと言い切れる。

「キリン・・・幻獣キリンか!」
幻獣キリン、目撃例の全くない正体不明の生物。
太古から変化の見られない原始的で強力な、生体の解明の進んでいないモンスターは古龍と呼ばれる。
その為、分類は古龍種だが龍とはかけ離れた姿をしており、例えるならば
神話の聖獣ユニコーンの様な姿をしている。
しかし、その美しい姿と裏腹に性格は極めて凶暴で、自在に雷を操る魔物である。

息を荒げながら、毛並みと同じ真っ白な目を鋭くして3人を睨みつける。
白光の獣が定めた生贄は、年老いた堅牢な騎士だった様だ。
285五十七話「二つの幻」:2007/04/26(木) 15:25:17 ID:yEBuGct00
後ろ足で大地を蹴る、身に纏った雷撃を周囲に振り撒きながら突撃してくる。
人が操れる生き物で馬より速い生物はこの世界には存在しない。
馬の姿をした魔物が姿を似せることで、実力まで擬態させている事を思い知る。

「ぬううううあぁっ!」
直前でシールドで突撃を防ぐが、全ての衝撃は受け流せない。
更に雷撃が盾から全身へと駆け抜け、身を焦がす。

(シイット!奴の体中に広がった雷でスキャンが出来ねぇ、戦闘力は未知数だぞ!)
「おい、年寄りは大事にしな!駄馬じゃ物足りねぇがロデオなら俺がしてやるよ!」
サラマンダーを連射するが全て弾かれてしまう。
しなやかに見えて鋼鉄以上に固い肉体は易々とは貫けない。

「ヒヒィィーーーン!!」
生態系は馬と酷似しているのか、雄々しい鳴き声は名馬のそれの如く周囲に響き渡る。
角がバチバチと音を立てて光り輝くと同時に天から光が降り注ぐ。
「うううおおおおっ!」
雷がブルーを直撃し、膝を地面についたまま動かなくなる。

「ブルーさん!しっかりしてください!」
「無駄だ、雷に打たれて生きていられる者など・・・・。」
唖然とした表情で立ち尽くす二人の目には、平然とした表情で立ち上がるブルーが映っていた。
それを見た幻獣が敵意をブルーに集中させ、一層激しく体を雷で光らせる。

「へっ、肩こりを治すには丁度いいな。」
雷が直撃したにも関らず、いつもの様にへらず口を叩く。
無理をしている様には見えない、本当に平気そうにしている。
ゴムの様に電気を遮断する装備をつけていれば別だが、身につけている服は革素材。
どう考えても防ぐ事は出来ないのに、何故生きているのか。
286五十七話「二つの幻」:2007/04/26(木) 15:27:04 ID:yEBuGct00
「ボサッとしてんな!こいつは雷を完全にコントロール出来てない筈だ。
正面以外は一度落とした場所には雷は落とせない、間を潜り抜けて角を折れ!」
まだ一度しか見ていない落雷を何故、見切れるのかは分らない。
だが、今はブルーを信じるしか道はなかった。

「ぬうりゃあ!」
全身の筋肉をフルに使って重い一撃を振り下ろす。
キリンの背に直撃するが硬くて弾かれてしまう。
体には傷一つ負わなかったが、切られた事が気に入らなかったのか、
ブルーから視線を外すと顎を引き、テオドールに角を振り上げる。

間一髪、横に転がり角を避けると今まで居た場所に雷が落ちる。
少しでも遅れていたら死んでいたというのに、心は舞い上がっていた。
「何年ぶりになるか・・・この緊張感、忘れていたぞ!」
テオドールを引き離した幻獣は標的をブルーに戻そうと振り返る。

横から鉄の光を感じ取り、目を向けてみると若騎士の姿があった。
ハヤブサの如き速力を剣に宿らせる、先手を取るため威力を捨てた斬撃『ハヤブサ斬り』
軽い一撃を角に正確に命中させると、同時に幻獣が雄叫びを上げ雷を落とす。
キリンの側面に回り込み、正面への雷をなんとかして避けることに成功した。

「ボーイ、横にも雷が来てたらアウトだったぜ。運がよかったな。」
軽口を叩くブルーの腕に握られたサラマンダーが火を噴いた。
雷を落とす際に両足を上げる習性がある事を見抜いたブルーは、
その瞬間は確実に移動しない事を確信していた。
炎の精霊の名をもつ銃から、死を撒き散らす鉛の塊が次々とあふれ出した。

鉛弾が次々と顔面を捉え、何発かが角へと当たるとキーンと高い音と共に、
角の真ん中からへし折れて少量の血が噴き出ていた。
287作者の都合により名無しです:2007/04/26(木) 15:32:17 ID:dnfZnZXW0
「北斗の拳妄想伝」の2スレはどこでしょう?
288五十七話「二つの幻」:2007/04/26(木) 15:41:02 ID:yEBuGct00
(なっ、俺の言ったとおり弱点だったろ?)
「ああ、かなり効いてるみたいだが・・・こっからどうするんだファッツ?」
もう脳に声が響く事は無かった、苦笑いしながら目の前の幻獣を見つめる。

ブルル、と息を吸い込むと更に体を光らせ、雷が力強さを増す。
「角と雷が関係ないとは、古龍学者に知らせたら喜びますね・・・。」
「生きて帰れると言い切る様になるとは、成長したなラファエル。」
二人の騎士も苦笑いしながら、余り笑えないジョークを言い合う。

死を覚悟したその時、一筋の希望の光が差し込む。
「お〜い、みんなぁ〜!」
間の抜けた声で走り寄ってくるその姿に、期待せずにはいられなかった。
「スタンさん、ルーティさん!無事だったんで・・・」
思わず声を失うラファエル、期待はスタン達の後ろを走り抜ける生き物を見ると潰えた。
「助けてくれ・・・ってもう一匹!?」
「ちょっと!これどうなってるのよ!?」

「そりゃこっちの台詞だよ、厄日だぜ今日は・・・。」
走り抜ける白光に身を包んだ白馬、その頭部には稲光する雄々しい角。
間違いなく、超稀少な生物である筈の幻獣キリンだった。

「学者はやはり信用出来ん、何が目撃例の少ない生き物だ・・・。」
二匹の幻獣が怒りに任せて大地を蹴る、一匹でも苦戦する相手が二匹。
突撃の速さに加えて二体いる事で安全地帯が絞られる。
そのうち一匹がテオドール目掛けて駈け出した。
多少のダメージを覚悟し、老騎士は受け止めて少しでも動きを止める事にした。

今度は見誤らずに受け止めるので衝撃は少ない、電撃はやはり多少喰らう。
どうやら電撃によるダメージはそこまで深刻ではないようだ、問題は手の痺れ。
目の前にいる敵を見逃す訳にはいかない、痺れが力を半減させるが精一杯の力で剣を振り抜く。
顔まで固い皮膚で覆われているが、胴体よりは効果があるのか幻獣の体が横に傾く。
289五十七話「二つの幻」:2007/04/26(木) 15:41:59 ID:yEBuGct00
ふら付きながらも体制を保つその姿は、その美しさに似合わず弱々しいものだった。
どうやら体力は多くないようだが、念のため一度距離を取る。
すると、何故かテオドールにそっぽを向いて一人の男へと狙いを定めた。

「なんで二匹とも追いかけてくるんだぁ!」
全力で逃走するのは最強の剣の持ち主、ソーディアンマスタースタン・エルロン。
最も、ソーディアンを失った今ではそこそこ腕の立つ普通の冒険者である。
二匹の幻獣が力強く大地を蹴りながらピッタリと後ろに張り付く。

「ハイハイ、みんな今のうちに回復するわよ。ヒールは一回1000金、ナースは5000金ね。」
本当だったらガルドで払ってもらうのに、そんな事を心の奥で呟きながら
みんなが答えるのも待たずに回復晶術、ナースを唱える。
周囲に水の精霊たちが現れ、注射器によく似た針を突き刺してくる。
その針に痛みは全くなく、むしろ心地よさを感じるくらいだった。

「ルーティ・・・もうダメ・・なんとかして・・・・。」
息も絶え絶えに、今にももたれそうな足で走り続けるスタン。
少しづつ距離を詰める二匹の幻獣、彼等もゆっくり走る事でスタミナを整えていたのだ。
本気で走ればいつでもスタンを跳ね飛ばしてズタズタに出来た。

「こっちも準備が出来たぜ。スタン、受け取れ!」
ブルーが手にした物体をスタンに向けて全力で投げつける。
咄嗟に手を出し、受け取ると同時に体制を崩して転ぶ。
そして二匹の幻獣が走るのを止め、両前足を高く上げて雷を呼び寄せる。

「ちょっ・・・あんな状況で変な物渡すんじゃないわよ!スタン!?」
焼け焦げた地面、巻き上がる煙の中で男が一人立っていた。
ビリビリと眩い光をその手に従え、炎のような闘志を空のように蒼い目に秘めた男が。

「間に合ったな、奴等の角で作った剣。刀身の色と纏った雷から紫電と呼ばれる業物だ。」
(この世界の情報はメルビル図書館とやらで大体インストール済みだぜ。役に立ったろ?)
290五十七話「二つの幻」:2007/04/26(木) 15:44:53 ID:yEBuGct00
「この剣・・・これならいけるぞ!」
柄には耐電処理がされて尚、腕を微弱な電流が駆け抜ける。
その微弱な電流が筋肉を刺激し、痛覚を麻痺させ筋力を増幅する。
そして、刀身には決して触れることの許されないキリンの角を削り出し、加工した刃。

幻獣の角は通常ならば絶対に折れないとされ、死体から切り取るしかない。
死して弱まった電力でも獲物を仕留める力が宿っているからだ。
しかし、サラマンダーの圧倒的な火力を持って折った角には、
死んだ角とは比べ物にならない雷が宿っていた。

「アンタ、いつあんなもの作ったの?」
「剣の秘密はお互い様さ。お前の剣ほど怪しくねぇよ。」
そういってウィンクするとサラマンダーの標準をキリンへと定める。
スタンに当たらないよう注意しながら三点バーストに切り替えて頭部を撃ち抜く。

ガンガンと音を立てて弾かれていくがダメージは大きい。
やはり体よりは柔らかいようで一部の弾が皮膚を突き抜け、血が吹き飛ぶ。
苦痛に顔を歪め、ブルーを睨みつける。
これでよかった、本当の狙いはダメージではなく注意を引くことだ。

「スタン!さっさとその剣試してみな!」
「うぉぉ!魔王、炎撃波ぁ!」
激しく稲光する剣で一閃、キリンの角で作られた刃が容易く強固な胴体を切り裂く。
だが、手応えがいつもと違う。がっちりと手に獲物を捉えた衝撃が無い。
おまけに胴体を切り裂く事は出来たが雷は全て吸収されている。

「バカ!そんな細身の剣で大振りしてどうすんのよ!」
魔王炎撃波、ソーディアンディムロスの生み出す業火によって敵を焼き払う奥義。
だが、炎の代わりとして激しい雷をその身に宿してはいても相手を切り裂く際にしか放出していない。
相手を包み込む様な攻撃が出来ない上にディムロスの様な剛剣では無いので大振りする意味がないのだ。
291五十七話「二つの幻」:2007/04/26(木) 15:46:02 ID:yEBuGct00
「なるほど・・・炎じゃなくて雷、つまり魔王電撃波!」
「0点、ダサすぎて話にならないわね。どうでもいいからしっかり戦いなさい!」
結局の所、普通の剣技しか使えないのでガッカリのスタン。
しかし紫電の力に疑いの余地はない、相手との相性は最悪だが。

「スタン、電撃は奴に吸収されちまうから意味がねぇ。逆に剣で奴の電撃を受け止めろ!」
バースト連射を続けながら的確に指示を出すブルー。
一方でブルーの連射を潜り抜けた片方の幻獣は、二人の騎士によって行く手を阻まれていた。

「ラファエル!まだ手を出すな、奴の攻撃を見切ってから仕掛けるのだ!」
「わ、分かりましたテオドール卿!」
左右にジャンプしながら軽快に近づいてくる、回避と攻撃を兼ね備えた攻撃法。
熟練ハンターでも回避は難しく、咄嗟に受け止める事で生存率を上げる。
ガッチリとテオドールが強力な突撃を受け止め、一瞬の隙が出来る。

「・・・・そこっ!」
ラファエルが目を見開き獣を見据える、しかし本当に開いているのは心の目。
次の攻撃へ移るまでの時間を的確に『心形剣』で捉える。
針の様に鋭い一撃が、既に折れた角の下半分を粉々に砕く。

「ヒィーン・・・!」
ガクガクと震える脚で、必死に逃げようとラファエルに背を向ける。
だが、逃走経路で立ち塞ぐ老騎士はそれを許さなかった。

「砕けちれえぇぇぇい!」
両腕で握りしめた大剣を、下から上へと全力で振り抜く。
それだけの技だが並の戦士では遠心力によって加速した大剣の重さに両腕が耐えられず、
無理をすれば内側の筋肉と同時に骨ごと千切れてしまう事もあるという技と呼べぬ一撃。
老いて尚、その身に健在する剛力から放たれた『アッパースイング』がキリンの顎を吹き飛ばした。

ビチャビチャと音を立てて肉片が飛び散る、皮膚に残った雷で、くっついた肉がピクピクと痙攣している。
その場に息も絶え絶えに座り込む二人の騎士と骸となって横たわる幻の獣、残る幻獣は後一匹。
292邪神?:2007/04/26(木) 15:48:02 ID:yEBuGct00
腹減った・・・。がリアルで口癖になってきた邪神です。(0w0)
一人暮らし、食事が肉に偏るから野菜生活で補おうとしたけどダメでした。
ニンジンをジュースに、っていう考えがありえない。アレはカレーに入れるもんだよ。
そんな訳で紫の野菜を試してます、これで下痢が治らなかったら野菜生活もう飲まねぇ。
俺のお腹の具合はどうでもいいですな、それでは適当に講座にいきましょ。

〜 今更言うけど作者の勝手な見解とか本編に関係ない情報も含まれてる講座 〜
魔王炎撃波 スタンのソーディアン、ディムロスの炎の力を利用した奥義。
      魔王の吐息の如き炎で相手を焼き尽くす。
      手にしたディムロスを大きく振って爆炎を撒き散らす。
      普通に進めていった場合、スタンの覚える初めての奥義であり、
      それだけに使いやすく、見た目にも中々カッコいい。
      PS2版でもお気に入りだった技。

古龍    古くから生態を変えていない原始的な龍。何故かトラップに引っ掛からない。
      進化しなかったというよりする必要が無かったのか、
      普通の龍とは比べ物にならない体力、攻撃力を兼ね備える。
      しかも体は頑丈で苦手な属性で攻撃しなければ角や尻尾を破壊出来ない。
      彼等の素材から作られる武器、防具は神具として扱われる物まである。

キリン 素敵な白馬なのだが、最高にデカい子は、松風、黒王サイズになる。
    乗りたいが乗る事は不可能、常に体には電気が通っているから。
    美しく、華奢な外見に反してとてつもなく頑丈な上、嫌らしい攻撃パターン。
    苦戦は免れないが、それだけに取れる素材は高価であり貴重。
    稀少な生き物という設定のため、討伐クエストが受注出来ない時がある。
    だが村で討伐出来る小さいキリンは、弱い上に可愛いので人気。
    そして分類が古龍なので捕獲することが不可能、尊い命を奪われる。
    早く絶滅危惧種に認定してやれよと言いたくなる位に殺害される事もしばしば。
    ちなみにゲーム中では何度攻撃しても角は折れない。

紫電  キリンの角を加工して作られた剣。刀身には常に電撃が這いまわっている。
    幻獣の素材以外にも、ゴム素材によって使用者を雷撃から守る必要がある。
293作者の都合により名無しです:2007/04/26(木) 16:33:11 ID:xf79yTXDO
モンハンのモンスターがよく出るねえ。
次に出てくるのはクック先生かい?
294邪神?:2007/04/26(木) 16:53:07 ID:yEBuGct00
〜書きそびれた感謝の言葉〜

ふら〜り氏 ブルーは本作でもいい兄貴キャラでやりやすかった感が。
      スタン組はルーティが生まれる時を間違えてましたからね・・・。
      ツンデレブームな現代でリメイクしたのは正解だったと思う今日この頃。
      そのせいかPS2ではイベントが青春しすぎ感に満ち溢れてますが。

ハロイ氏 どうも初めまして(0w0)ノ
     ヴィクティム・レッドを一話だけ見ましたがキース・レッドが主役とは。
     中々に通好みなチョイスですな、個人的な信念として高槻のモミアゲこそ真の主役。
     そして余談ですがPS2のアームズのレッドは強すぎ。グリーンはハメ技マンセー。
     逆にキース・ブラックは可哀そう。後半ボスなのにガシュレー以下とか救えない。
     更に余談ですが中二病作品を信仰されてるんですか。

     最近、ギオンティック・フォーミュラを見てみたんですがすごいオリジナリティーですね。
     あの青メインの胴体にくっついた魅力的な2個のビー玉。
     ウイングガンダムの2倍って意味ですかね、目はジム・クゥエルっぽいけど。
     おまけに、敵の腕を自分の腕にするなんてエヴァ初号機もびっくりですよ。
     本当にどうでもいい上に長話でした、ゴメリンコ。

242氏 キャプテン・・・うっかりロマサガを実家に置いてきちゃったよorz
     ここはスクエ二にロマサガ2のリメイクを出してもらうしかないな。

256氏 とりあえずブルーは色々絡ませたいですね。
     名作なのに単行本3巻で終わるという悲劇、ストーリーをもうちょい捻れば・・・。

287氏 ナイス支援。詳しくは知らないけど誘導してもらいたいなら誘導スレへ。

293氏 ロマサガが手元にないからボスキャラ以外は使いにくいのですよ。
     飛龍討伐訓練でお馴染み、鬼教官クック先生も視野には入れております。
295戦闘神話・第三回宣戦布告:2007/04/26(木) 17:37:56 ID:NgcbgILE0
聖域中枢、教皇の間。
白い顔をさらに青白くしたニコルは、グラード財団からの出向で聖域に入ってもらっている男、
マース・ヒューズと内密の会談をしていた。
元イギリス陸軍諜報部所属、非公式作戦の功績から20代で中佐に昇進したという辣腕(らつわん)の情報将校である。
彼はグラード財団の招きに応じてあっさりと除隊。
愛妻家にして家族主義者である彼は、危険度の高い割りに給料の低い軍に見切りをつけ、
条件の良いグラード財団情報処理部門の特別顧問へと華麗に転職していた。
一児の父にしてよき夫、日本風の言い方をするならば一家の大黒柱。
そんな彼は、何の因果か欧州史上最悪のタブー「聖域」へ出入りする身分となっていた。
情報を制すものが世界を制す。
聖域は持ち前の機動力を生かした情報網を世界各地に張り巡らせている。
ありとあらゆる権力者、時には犯罪者すら利用して聖域はその知覚を広げていったのだ。
結果、欧州出身の組織では非常に稀なイスラム系組織との強固なパイプを持つことが出来たのである。
だが、いかに優れた情報網を有していたとしても、扱う者がいなければ宝の持ち腐れだ。
サガの乱に伴い粛清された人材の補填の為、マース・ヒューズが引き抜かれたのはそういった理由がある。
無論、聖域の厳格な審査に通過した人物だから、といった面も大きかったが。

聖域に内通者がいる。それも中枢に近いところに。
決して表沙汰にできない推論をニコルは抱いていたのだ。
それは、非公式文書及び未整理文書すら目を通したヒューズも同じ見解だ。
事が事だけに、大きな声をだせない話だ。
だからこそニコルは、二十世紀の聖域の生き字引とも言うべきギガースにも一言たりとも漏らしていない。
聖域からの離反者は、実のところ居なかったわけではない。
元寇の決定打となった台風を引き起こした聖闘士、矢座・サジッタの魔矢。
ナポレオンを挫折させた冬将軍を呼び込んだ聖闘士、白鳥座・キグナスのイワノフ。
彼らは、聖域からの出奔者なのである。
故国を護る為、あえて聖域から離反を選択したのだ。
だが、今回の一件はそういった離反者とは違う、卑劣な裏切り者だ。
296戦闘神話・第三回宣戦布告:2007/04/26(木) 17:40:45 ID:NgcbgILE0

「…で、この件での費用なんだが。
 聖闘士ってのはこんなに医療費かかる物なんかね?」

「ありえないな。
 この時期はそもそも聖闘士自体の数が少ない」

1917年から1945年まで増加傾向にある医療費。
だが、その28年間は黄金聖闘士一人、白銀聖闘士二人という、
聖域史上五指に入る聖闘士の空白時代なのである。
故に、聖闘士の医療費が増加する理由などないのだ。
教皇シオンがその手腕をもって第二次世界大戦を乗り切った時期だが、
シオンノートと呼ばれる彼の手記以外に、当時を記した資料は僅かに過ぎない。
聖闘士の活動がほぼ無かったのだから当たり前、そう思い込んでいた節もある。
だが、その期間こそ、聖域が最も危険視している組織「トゥーレ協会」が誕生し、
衰亡していった時期でもあるのだ。

「まだあるぞ、17年前の5月から翌年8月までの公式医療費記録。全部デタラメだ。
 非公式文書保管庫の中に放り込んであった各年の下書きと比べりゃ一目瞭然だよ。
 いやぁ、悪筆で苦労したぜ。
 たしか、サガとアイオロスが教皇命令によって代行職務を行い始めたのがこの頃だったはずだが。
 まさかそんなズサンな真似はしないだろ…?」

ニコルは、その指摘に弾かれたようにヒューズを見た。
その時、彼ら若き黄金聖闘士の指導担当だったはずの人物に思い至ったからだ。

「ヒューズ!他言無用だ、アテナにも、だぞ?
 彼らの公職記録が殆ど無い!サガにはこれを処分する理由はないはずだ!」

教皇シオンの弟子であり、当時はシオンの代行業務も行っていたはずのその人物。
聖域二十世紀の生き字引ともいうべき人物。
不穏は、ゆっくりと鎌首をもたげていた。
297戦闘神話・第三回宣戦布告:2007/04/26(木) 17:47:22 ID:NgcbgILE0

さて、どうしよう…。

「あの…」

被った。
貴鬼も、少女(制服から学生だと気が付いた、セーラー服という奴だ。
星の子学園で美穂が着ていたのを、貴鬼は過去に見たことがあった。
どうでもいいが、美穂姉ちゃんは十七歳なのに色気なさ過ぎだと思う。
もうちょっとオシャレとかすれば良いのに、星矢振り向かないぞ)も気まずい事に、第一声が被ってしまった。

「初めまして。
 オイラの名前は貴鬼。君の名は?」

とりあえず、自己紹介からはじめよう。
人間関係の第一歩は名前を知ることから始まる、そうムウさまも仰っていた。と、貴鬼は思い出す。

「私は、巴。
 柏葉巴」

どうみても日本人に見えな鎧姿の少年が、流暢な日本語で自己紹介したのに面食らったのか、
巴はすんなりと名乗ってしまっていた。
298戦闘神話・第三回宣戦布告:2007/04/26(木) 17:50:01 ID:NgcbgILE0

「信じてもらえないかもしれないけれど、オイラはその人形。ローゼンメイデンを探して居たんです。」

で、仲間と一緒に探索中に、と続けようとしたとき、彼女の表情が変わった。

「雛苺を…?」

警戒を露に、緊張した表情に。
下手打った。立ち居振る舞いからしてもう少し年上かと思ったら、ほぼ同年代だったらしい。
今まで泰然としていたのは、単に気丈だったからではなく。状況を理解できなかったからだろう。
いっそのこと幻魔拳でも打ってズラかるか、と、
貴鬼の胸中で、アテナの聖闘士として有るまじき思考が鎌首をもたげる。
鍛え抜かれた肉体に不可能はないなんて!そんな訳無いじゃないですか魔鈴さん!
そんな貴鬼の危機を救ったのは、以外にも二人の話題となっていたローゼンメイデン・雛苺だった。
とっとっと、と、軽い体重の者特有の跳ねるような足取りで貴鬼に駆け寄ったのだ。

「へんな眉毛なの〜」

貴鬼の右足を軸にしてくるっと彼の前に回りこみ、下から貴鬼の顔を覗き込むや否やの一言。
雛苺というらしいローゼンメイデンの失礼な一言で、巴が緊張を解いたのだ。
あまつさえ、笑っていた。
年頃の少女らしく、ころころとかわいらしく笑っていた。
酷ぇ、と貴鬼は思うがとにかく、緊張が削がれたのが良かった。
オイラがこの部屋に居るのは、ローゼンメイデンと戦闘したためで、全く持って不可抗力。
直ぐに出て行くから、出来たら騒ぎ立てないでほしい。
そういう説明をする事ができたのは、他ならぬこの雛苺のおかげだった。
299戦闘神話・第三回宣戦布告:2007/04/26(木) 17:55:01 ID:NgcbgILE0

「ぃいよっし!
 水銀燈は無事!」

モニターから飛び出してきた少年は、ジュンの当惑も真紅の緊張も知ったことではないとばかりに、
腕の中で気を失っている水銀燈に外傷が無いことを確かめ、声をあげた。

「なんなんだよ、おまえ…」

かすれるようにジュンは呟いた。

「ニホンゴ?
 そうか、ここ日本、師匠の故国なのか…?」

そこでこほん、と咳払いをした少年は、ジュンに向かって名乗りを上げた。

「僕は誇り高きアテナの黄金聖闘士!ピスケスのアドニス!」

ジュンの呆けた顔、真紅の怪訝な顔を受けても尚、彼は胸を張って真っ直ぐに立っていた。
アドニスは気が付いていない。一般的な日本人にとって、黄金聖衣をまとった聖闘士がいかに珍妙な存在かを。

「コスプレ?」

ジュンの呟きは、見事に的を射ていた。
300戦闘神話・第三回宣戦布告:2007/04/26(木) 17:57:06 ID:NgcbgILE0

「いや、違うって」

すかさず突っ込みを入れるアドニス。
このあたり実にノリが軽い。黄金聖闘士に求められる重厚さとはまったくもって対極だが、
嘗て伝説の聖闘士とよばれた教皇と老師もまた、若き日には似たようなもんだったから、
まぁ、そんなものかもしれない。

「いいか!日本人!
 僕は聖闘士だ!」

聖域近郊でもないかぎり、基本的に聖闘士の存在は眉唾物、下手すればペテン師と大差ないのだが、
しかし、日本ではギャラクシアンウォーズの一件もあってそれなりに知られていた。
と、いっても熱しやすく冷めやすい日本人の民族性を考えると、「ああ、そんなのもあったね」扱いなのが事実だ。
文庫版しかしらない人に「何をするだー!許さん!」というのと一緒である。
もしくはドアノブを捻じ曲げられて驚く勇次郎。

「せいんと?
 聖人っていうより星人だな…」

混乱していたのか、当のジュンもわけの分からないことを言う。

「無粋な格好ね」
301戦闘神話・第三回宣戦布告:2007/04/26(木) 18:02:57 ID:NgcbgILE0

真紅も辛辣だ。
「古代ギリシアの遺産なんだけどさ…」と、ちょっとへこんだ声音でアドニスが呟くが、
真紅の姿を見咎めるや態度を一辺させる。

「ところで日本人。その人形、ローゼンメイデンだな?」

いきなり纏う空気を豹変させたアドニスに、ジュンの腰が落ちた。

「…?
 あ、悪い。悪気はないんだ」

ジュンは腰を抜かしたのだ。
しまったとアドニスは内心舌打ちした。
いきなり現実世界へと帰ってきたせいか、どうにも調子が変だ。
聖闘士と名乗りをあげたのも不味かったが、いきなり一般人を脅かしてどうする。
そこでアドニスは重大な事実に気が付いた。
体に何の不調もないのだ。
302戦闘神話・第三回宣戦布告:2007/04/26(木) 18:05:14 ID:NgcbgILE0
千切れ掛けた脚も快癒どころか、傷一つない。多分貴鬼も同じだろう。舐めた真似してくれやがる。
しかし、そんな感情の波をおくびにも出さず、アドニスはジュンに向かって手を差し出した。
「立てるか?」といった意味だ。
そんなアドニスに面食らったのか、ジュンは、彼にしては素直に手を握った。
なんか暖かい手だな、と、ジュンは思った。
アドニスもまた、優しい手だと思った。争いなど知らない手だとも思った。

「僕は、桜田ジュン。
 こっちは真紅。」

なんとなく、素直な気持ちになってジュンは自己紹介した。
生物としての格が違うのだから、変に片意地張っても仕方ない。
そんな諦めにも似た気分が妙なすがすがしさをジュンに与えていた。
そして、真紅は、アドニスの腕の中で眠る水銀燈をじっと睨みつけたままだ。
真紅の厳しい視線に、アドニスもジュンも気が付くことはなかった。
303戦闘神話・第三回宣戦布告:2007/04/26(木) 18:10:40 ID:NgcbgILE0
あんまり進んでませんが、part.2act2でした!
聖域内部もなにやら不穏がたちこめてまいりました
マース・ヒューズは鋼の錬金術師のキャラです
まぁ平行世界の同一人物的ノリでここはひとつご容赦を

そして冥王神話LC、またしてもやってくれました。
予想を裏切り、期待を裏切らない展開。次に続く者たちの為に先達が散る。
自己犠牲の美しさ。最後の最後に光を取り戻したアスミタは、この世の希望を知って逝ったのでしょう
数珠を振るうアスミタの見開きと祈るようなバルゴの聖衣で、この銀杏丸久々に震えが来ました
不肖銀杏丸、己の未熟が恥ずかしい

>>138さん
セダイラじゃなくて黄金時代未登場の彼女の5コ下の妹です。
黄金時代がもうちょっと続いてたら多分出てました。
当時は出来る限りオリキャラ出さない方針でやってましたんで未登場で終らせましたが
登場してたらたぶんラブコメってたでしょう

>>140さん
あれだけ激戦を生き抜いて失恋までしたら可哀想すぎますので
そこだけはファンの贔屓目ということで…
青春群像、書いてみたいなぁ…

>>141さん
度々いってますが、大長編です(泣
前半13回の中で盛り込まなきゃいけない要素と、後半13回で消化しなきゃいけない事柄とか
ジュンとカズキと星矢がああなったりこうなったりアドベンちゃったりさせなきゃいけないしとか(泣
泣き言言っても仕方ないので、ガンバリマス
304銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/04/26(木) 18:16:54 ID:NgcbgILE0
>>ハロイさん
いやぁ、いいですね!ジョシコーコーセー!
なんて書くと俺もオッサンだなぁと思う次第…
静もそうですが、十和子も鮮烈ですね、素晴らしい
マイスタージンガーを口笛で吹くって結構とんでもない気がします

>>さいさん(キリバンSSは後ほど、実は難航しております申し訳ない)
いいなぁ、サムナー。こんなユカイな悪役僕も書いてみたいです
ヘルシングOVA、二回見直して「あのシーン」に気が付きました。
映像で見るとおおぉおおお!って感じですね。
しかし芳忠さんの厭味ったらしい演技は素晴らしい、あんな悪役出してみたい
305銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/04/26(木) 18:19:01 ID:NgcbgILE0

>>スターダストさん(今更ですが、総角主税ってヴィクター・パワードの意訳かと思ってました)
項羽と劉邦で好きなシーンは、虞姫を娶ろうともじもじする項羽です。
蓋世の英雄の意外な姿、きっと虞姫もそんな姿に参ったんでしょうなぁ
あとは延々韓信の軍事改革について薀蓄語った後「読み飛ばしていいですよ」とのたまう横山先生
横山作品は小学生のときから読んでますが、読み始めが三国志とか徳川家康とかだったもんで
横山先生がSFも書いていたと知ったときは驚きました、
なにより魔女っ娘モノの始祖・サリーちゃんの原作者だとは思わなかった!
個人的に呂后は西太后みたいな外見だったんじゃないかと思ってます、
以前図書館で西太后の写真みましたが、極フツーの中国人のオバちゃんで怖かった。やっぱあの国底知れないわ
時の行者は横山作品の中じゃ五指に入るほど好きな作品です。あの無常感がたまらない。

>>ふら〜りさん
頭の中で歴史を作るというのは、ぶっちゃけ、ガンプラ延々作ってたり、
小林源文先生からの影響です。お恥ずかしい。
ハッピータイガーとか東亜総統特務隊とか、
ユニバーサルセンチュリー0079から0153までの流れとか、
SD頑駄無戦国伝なんかはまさにサーガ。∀すらその歴史に取り込んで流れていくので、実に素晴らしい。
自然と歴史の流れみたいなモンを勝手に想像する癖が付いてしまいました。
サーガものとか大好きなのはそこらへんに起因します。
幸いにもヴィンランドサガやキングダム、チェーザレに
ナポレオン〜獅子の時代〜なんていう傑作歴史漫画が隆盛しているので是非ともご一読の程を

では、またお会いしましょう!
306ふら〜り:2007/04/26(木) 21:40:10 ID:IuEHpEEf0
>>ハロイさん
>静の口からそんな言葉を言わせたことが気に食わない
なんとなく解るなぁこういう気持ち。女の子から見ても保護欲をそそられる女の子ってこと
ですかな静。でもって十和子は十和子で、エラくまた男前。さっぱりはっきりしてて男っぷり
がいい。何だかんだで見事に似合いのカップルしてる美少女二人、今回は平和でしたね。

>>邪神? さん(私は一人暮らしの時、キャベツとニンジン生齧りで野菜補給してました)
改めて、ブルーが凄過ぎる……と感心。使える奴、といえばこれ以上使える奴もいないの
では? 学者の知識名鍛冶屋の技術、もちろん戦闘力も折り紙つきで。個人的にSFキャラ
VSファンタジーキャラって図式ではSF側が強いのが好きなので、そういう点でも嬉しいです。

>>銀杏丸さん
おぉ。以前言っておられた、「G財団だってSPW財団みたいなことができるはず」をやって
おられますな。だからこそ描ける、現実なら生じ得る事件がある、と。リアルな緊張感です。
>しかし、日本ではギャラクシアンウォーズの一件もあってそれなりに知られていた。
た、確かに。するてぇと日本では、聖闘士=派手なプロレスラーみたいなものって印象が?

>>三部外伝さん
もどかしい状況お察しします。それにもメゲず、その間にじっくりと練り練りされた
ご力作、お待ちしておりますぞ。

>>262
光栄の行ったり来たりです。一応、また「刻」を考えてるんですが、まだまだお披露目は
先になりそうです。でも、いずれ、必ずっっ。
307作者の都合により名無しです:2007/04/26(木) 22:29:00 ID:e4ItaqZK0
しばらくハロイさん以外に来なかったけど、今日当たり一気に着そうw
他にもさんさんとかスターダストさんとかw

>邪神さん
スタンはなんだかんだでルーティにベタ惚れって感じですな。
ブルーは凄いな。対サルーイン戦での主力って気もする。

>銀杏丸さん
聖域内部にも問題がおきて、ますます長くなりそうな感じですなw
ところでアミスタたちはこのSSには関係はないんですよね?
308ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 22:47:03 ID:7Tt63d2T0
第四話「DORAの奇妙な冒険〜満喫でJOJOを一気読みしました」

「なんてろくでもないサブタイだ!それはともかくのび太くん、大丈夫!?」
ぶっ飛ばされたのび太の元に駆け寄り、心配そうに声をかけるドラえもん。
「だ、大丈夫…だけど、ドラえもん。あの子たち、本気でぼくたちを殺す気だよ。見てよ、あの目を…養豚場の豚でも
見るかのように冷たい目…残酷な目だよ。『可哀想だけど明日の朝にはお肉屋に並ぶ運命なのね』ってかんじの!」
「そりゃいい例えだね」
ティスはのび太を見下ろし、嘲笑う。
「まあともかくね…ギガゾンビ様に逆らうってのはあたいたちとしては<メチャ許せんよなぁぁ!>ってわけなのさ。
さっきも言った通り、あんたたちには気の毒だけど、死んでもらうよ」
ティスとデスピニス、そしてラリアー。彼らは三者三様の威圧感を持って、のび太の前に立ちはだかった。
「ううっ…凄い殺気だ!まるでケツの穴にツララを突っ込まれた気分だ…」
少々お下品な例えでびびるのび太。
「今!ためらいもなくあんたを惨殺処刑したげるよ!」
「―――待て!」
だがのび太とティスたちの間に、割って入る者たちがいた。アジャセ率いる鬼族の面々だ。
「事情はよく分からないが…彼らは先ほど我々を救ってくれた者たちだ。その敵だというのならば…我ら鬼族一同、
容赦せん!」
「あ、アジャセさん…かっこいい…!」
先ほど出会ったばかりの自分たちのためにここまで言ってくれるアジャセに感激するドラえもんだった。
「よっ大統領!つーわけで、後はお願いしますということで…」
そして混ぜっ返すのび太。既にこの場を鬼の皆さんに任せる気満々だ。実に他力本願である。
「はっ…まあいいや。どの道ギガゾンビ様に逆らう奴らは全滅させる予定なんだからね。順番が変わろうが、大した
問題じゃないよ」
「…私たちは、ギガゾンビ様の敵を排除するだけです」
「申し訳ありませんが―――皆さん、死んでいただきます」
309ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 22:47:59 ID:7Tt63d2T0
ジリジリと近づく三人。対するのび太たちは彼らを迎え撃つため、全身に緊張感を漲らせる。
「お待ち下さい!」
いきなり四人の鬼が飛び出してきた。ビックリする一同の前で、彼らは言い放った。
「私は銀の鬼!」
「金の鬼!」
「パールの鬼!」
「そして金銀パールプレゼントの鬼!」
「ファミコン版初代桃伝かよ!」
のび太は分かり辛いツッコミをかました。だがそれに構わず銀の鬼がまず口を開く。
「皆様方が出るまでもありません!ここは私たちにお任せを!」
どう考えてもお任せできないセリフを吐いた!そして金の鬼!
「敵はたかだか子供が三人!心配はいりませぬ!」
相手を過小評価し始めた!さらにパールの鬼!
「ここらでお遊びはいいかげんにしろってとこを見せてやりましょうぞ!」
某バトル漫画十八巻で雑魚と相打ちになった時のあの男と同じセリフをかましやがった!
そして最後、金銀パールプレゼントの鬼!
「長年鍛えた私のムエタイ、存分に味わいなさい!」
つーかこの世界にもあるのかよ、ムエタイ!
―――とにかく、この四人の役割を端的に表すならばこうである。ではスピードワゴンさん、お願いします。
310ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 22:48:57 ID:7Tt63d2T0

    , -──- 、
 /::::::::::::::    ::\
/:::::::::::        ::∨ト、        こいつらはくせえッー!
::::::::::          :: レ'ノ
::::::::::::::        ::: レ'⌒ヽ     カマセのにおいが
ヽ-───i===i─-}ァ'  ノ    プンプンするぜッ─────ッ!!
、` ー-===-゚---゚==‐' /
、`¨フ>;''ニニゞ,;アニニY´; )     こんなカマセには出会ったことが
_、;;)¨´,ニ=゚='" ,.ヘ=゚:く {ッリ'        ねえほどなァ────ッ
i1(リ        r;:ドヽ K
ヾ=、     に二ニヽ `|; )      環境でカマセになっただと?
_,ノ| i.     {⌒゙'^ヽ.{  i;; ヽ        ちがうねッ!!
_,ノ!i ヽ、  ヾ二ニソ ,';;;  ;;冫=:、
_;(|.!.  \   ‐っ /!;;; ;;/ 、''"\__  こいつらは生まれついてのカマセだッ!
'ト、\.   ,ゝ、.二..イリ\ / ー1\'ニゝヽ_
:ヽ  `ニア   ,. -┴‐‐'  ー-:l :=ゞ=ソ」=ヽ   ティス、デスピニス、ラリアー
:::::\ ニ=ト、.i___`ー-┴-、ノ .   l __l| ,ニト、くヽ
l::::::::::\ー:ト      __}/ト、゙ ー-‐| ,ニ|ゞ=ハ `¨´ー-  早えとこ
;ニ=ー:::::::ヾト、._    ̄ ノ|::ヽ ニ._‐-ゞ=' .ノ ::|:::::::::::  カマセちまいな!
:\:::::::::::::::ヽ   ̄ ̄ !:|:::::    ̄ ̄  ::::|::::::::
311ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 22:49:45 ID:7Tt63d2T0
―――つーわけで、二分後。
四人はティスたちにボコボコにされた。彼らは完膚なきまでにやられることにより、敵の強さを身を持って示してくれた
のである。
「なっ何をするだぁーーーーーーッゆるさんッ!」
仲間を傷つけられ、怒りに燃えるアジャセだったが、微妙にセリフを間違っていた。
「ぴゅるるるるぅ!だが、奴らのあの力…!」
「ぐゎらりぐゎらり!決して侮れぬ…!」
冷や汗を流す一同。そして―――
「それじゃあ、雑魚を片したとこで、行くとするか―――野比のび太!あんたはあたいが相手してやるよ!」
ティスがのび太に向けて飛蹴りを放つ。咄嗟に迎え撃とうとしたのび太だったが、あるモノに目が釘付けになった。
彼女の服装は、ヒラヒラしたミニスカワンピースである。そんな格好で正面から飛蹴りを放てば―――
「うお、まぶしっ…ゲフッ!」
男の子のサガとして眩い物体(くまさんパンツ)に気を取られ、隙だらけで顔面に足裏を喰らった。
「はっ!そんなにあたいのパンツが魅力的だったかい?」
「うう…わ、我ながら面目ない…!」
本当になかった。
「のび太くん!…うわっ!」
助けに行こうとしたドラえもんだが、目の前を手刀が襲い、反射的に身をかわす。
「邪魔はさせません。野比のび太…彼のことも調べています。普段のダメっぷりとは裏腹に、土壇場で思いもよらない
底力を発揮するタイプ―――そういう手合いは、真っ先に消しておくべきですから」
デスピニスが手刀を振り下ろした態勢のまま、告げる。
「その間は、あなた方の相手は僕たちが務めましょう。残念ですがあなた方の助けがなければ、野比のび太が一対一で
ティスに勝つことはまずありえませんから」
ラリアーもまた、冷酷な事実を語る。だがドラえもんは挫けずに言い返す。
「それなら―――さっさと君たち二人を倒して、のび太くんを助けにいくまでだ!」
そんなドラえもんの側に、風神と雷神、そしてアジャセが並び立つ。
「ぴゅるるるるぅ!ドラえもんとやら!」
「ぐゎらりぐゎらり!我らも助太刀いたそう!」
「こやつらの好きにさせるわけにはいかぬ!」
「そうですか―――では、まとめて相手をしてあげましょう!」
今、戦いの火蓋が切って落とされた―――!
312ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 22:50:44 ID:7Tt63d2T0
そして、のび太はというと―――
「う、うぐぐ…!」
ティスに羽交い絞めにされ、腕を捻り上げられていた。
「はん―――こんなあっさりあんたをぶっ潰せるとは思わなかったよ」
「く、くっそお…」
悔しそうに唸ってもどうにもならない。少女の細腕とは思えない力でのび太の身体は押さえ込まれていた。
「さて、野比のび太―――問題だよ。この状態から如何にして脱出するか?」
ティスはのび太の耳元で囁く。
「答え@ハンサムなのび太くんは突如反撃のアイデアが閃く。けどあんたハンサムじゃないね…。これは却下だ。
答えA仲間が来て助けてくれる。あんたが○をつけたいのはまあこれだろうけど、あんたの仲間はデスピニスとラリアー
の相手で手一杯だから、これも却下。さっきデスピニスたちと戦いを始めた連中がこの数秒の間にここに都合よく現れて
アメリカン・コミックヒーローのようにジャジャーンと登場して『待ってました!』と間一髪助けてくれるってわけには
いかないよ。逆にあいつらも既に苦戦してるかもね」
「…くっ…!」
持ち前の他力本願精神により、答えAを痛切に願っていたのび太はその可能性が皆無であることを非常に論理的に説明
されて、グウの音も出なかった。
そして、残る答えは一つだけ―――
「最後に―――答えB助からない。現実は非情である―――ってね!」
そしてティスはのび太の腕を折ろうと、力を込めて―――
「…え?」
全く身体が動かせないことに気付いた。
「な…なんでさ!?」
自問しても答えは出ない―――だが、ティスの視界の隅。自分の影を見て、ティスはあることに気付いた。
影に、バラが刺さっている。まるで地面に縫い付けるかのように―――
そしてどこからともなく声が響く。
<フフフフッ…いかがです?これぞ秘術<影縫い>…!>
「な…誰だ!こそこそ隠れてないで、出てきなよ!」
<フフフフッ…いいでしょう。私の美しき姿、お見せしましょう!>
313ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 23:04:49 ID:7Tt63d2T0
ティスとのび太の目の前で突如、どこからともなく現れたバラの花びらが舞い踊る。そして、それは次第に一人の男の
姿を為していった。
やがて現れた男に、のび太もティスも、一瞬にして目を釘付けにした。
「フフフフッ…ところでお嬢さん。先ほどの答え、四つ目が抜けていますよ」
その男は、一言で表すならばまさに<美>。頭部に二本の角を持つ異形でありながら、それ以外に言葉が見つからない。
緩やかにウェーブのかかった髪。切れ長の目。全てが完璧に整っている。
彼こそは、えんま王直属の配下の中でも別格の男。あの風神と雷神ですら、一対一では彼にはとても敵わないだろう。
「答えC―――強く賢く、そして―――美しき男が助けに来る!」
そう、まさしくアメリカン・コミックヒーローのようにジャジャーンと登場して『待ってました!』と間一髪のび太を助けてくれた
その男は、まさに美の化身!
「私の名はあしゅら―――この世で最も美しき男、あしゅら!」
そして、全裸だった!
「「変態だーーーーーーーー!」」
のび太とティスが同時に叫ぶ。もはや敵も味方もなく、二人の心は一つとなった。
「む?この美しき私をつかまえて、変態とは失敬な!」
「やかましい!てめえ、なんで全裸なんだよ!?ちっきしょう、モロに見ちまったじゃないのさ…!」
「少しは隠そうとしてよ!」
二人から非難されても、男―――あしゅらは何処吹く風だった。
「これは異な事を…ちゃんと絹を身に付けているではありませんか」
そう言って首にかけた、ヒラヒラした細長い絹を指し示す。確かにそれによってギリギリやばい部分は隠れていたが、
それがなんだというのか。ちょっと動いたり、風が吹けば、まるで意味を成さない代物だ。
鬼族屈指の実力者、あしゅら。確かに彼は別格だった。主にダメな意味で。
「まあ、それはともかく、のび太さん…でしたか?今この私が助けてさしあげましょう」
「嫌だ!あんたに助けられるくらいなら、ぼくは死を選ぶ!」
「フフフフッ…遠慮なさらず!さあ、こっちへ!」
「やめろ!ぼくに触るな!やめてくれー!」
―――十秒後、<やめてくれ>と十三回言ったところでのび太はティスの羽交い絞めからあしゅらの手によって助け
出された。だが精神に負った傷を考えれば、腕を折られていた方がマシだったかもしれない。
314ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 23:06:52 ID:7Tt63d2T0
「汚された…変態に汚された…」
のび太はさめざめと泣きながら、泥水で口を拭っていた。それを見たあしゅらは怒りに燃えた。
「うぬぬぬっ…これは余程恐ろしい目に合わされたようですね…お嬢さん、許しませんよ!」
「てめえにだけはあたいをどうこう言う資格はねー!つーかてめえ、全く何の前振りも伏線もなく、いきなり出てきて
場を掻き乱してんじゃねー!」
「前振り?それならあったでしょう。前回に」
「あれのどこが前振りだよ!元野球選手がなぜかアメフト協会理事長になってるくらい唐突だよ!」
「フフフフッ…そういう各方面から批判を受けそうなセリフはほどほどにするとして―――そろそろ影縫いの術も効力
が切れる頃です。そろそろ戦闘開始といきましょうか?」
言われてティスは、自分を拘束する力が弱まっていることに気付いた。試しにちょっと気合を入れると、呆気なくバラ
は粉々になり、身体に自由が戻る。
「はん…動けるようになりゃこっちのもんだ。あんたの自慢のお顔を、素敵に整形してやるよ」
腕をほぐしながら、ティスはじりじりとあしゅらに近づく。対してあしゅらは、妖艶な笑みを浮かべた。
「フフフフッ…昔の偉人は言っていました。<戦いは顔で決まる>と。あなたも中々美しい顔ではありますが―――
残念ながら、私の美しさには勝てない!」
ティスはそれには答えず、一気にあしゅらの元へ飛び掛った。隙だらけに見えるその姿に向けて、拳を繰り出す。
―――だがそれはあしゅらの罠だった!
「むぐっ…!?」
ティスは再び動けなくされているのに気付いた。またもあの<影縫い>とかいう術か―――!?いや、違う。ティスの
身体には無数のバラの蔓が巻きついていたのだ。
「フフフフッ…バラを使わせたら私の右に出るものはいませんよ。これくらいは軽いものです」
「ち…ちくしょう!」
「精々暴れてください。あなたは私の強さを見せ付けるために攻撃してきたんですからね」
「悔しいっ…こんなバラさえなければっ…」
ビクビクッ!と身を震わせて呻くティス。
「よかったではないですか、バラのせいにできて!」
「んんんんんんんっ!」
「フフフフッ…他のお二人も呼んできなさい。まとめて倒してさしあげましょう!」
下卑た笑みを浮かべるあしゅら。ああ、このままティスはクリ○ゾンな展開でヤられてしまうのか!?
315ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 23:07:40 ID:7Tt63d2T0
「いー加減にしなさい」
「ぐふっ!?」
あしゅらは背後からのび太の蹴りを喰らい、地面に顔面から突っ伏した。しかして流石というべきか、すぐさま立ち
上がってのび太に抗議する。
「ななな、何をなさりまするかっ!この美しき私に何たる無礼なっ!」
「いや…あんたの方が少女を手篭めにしようとする悪党に見えたから、つい…」
「何ですと!?侵略者を倒さんと華麗に戦う私をなんと心得ておるのです!」
「黙れ変態」
ピシャリと反論を遮った。
「とにもかくにも服を着ろ!どこぞの蝶々仮面だってそこまで突き抜けた格好はしてないよ!」
「服…ですと?」
あしゅらは眼尻を持ち上げた。
「フフフフッ…愚問ですね。この私のっ!」
ズバッ!とかっこよくポーズを決めるあしゅら!
「美しき肉体っ!」
更にポーズ!
「服など着て隠す方が美への冒涜っ!」
ババーーン!と後光が射すほどの勢いでポーズ!
「…………おんみょうだんをくらえー」
のび太はGUN鬼の銃を構え、陰陽弾を弾切れになるまで撃った。
「うおおっ!?」
思いっきり上体を仰け反らせて(俗にマトリックス避けという)それをかわすあしゅらだった。
「ままま、またしても何をなさりまするかっ!はっ!まさか私のあまりの美しさに嫉妬して…」
「いや…急激にあんたに対する殺意がMAXを越えたからつい…もういいから、とりあえずこの場はすっこんでてよ!
このままあんたを戦わせてたらこのSSが有害指定図書になっちゃうよ!」
もはや手遅れな気もしたが、のび太は言わずにはおれなかった。あしゅらものび太の意を汲んだようで、それ以上の
反論はしなかった。
316ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 23:08:42 ID:7Tt63d2T0
「フフフフッ…そこまで言われてはいたし方ありませんね。では、私は一先ず休ませていただくとしましょう…おっと、
先ほどの戦いで私の美しい身体が埃塗れになってしまった…海の水で清めるとしますか」
あしゅらは絹をも脱ぎ捨てて全裸になると、何故か突如出現した海へとその身を晒した。ちなみに陽光によって大事な
部分は隠されていたので映像化の際も安心だ。
「フフフフッ…美しい…!私は何と美しいのか…!」
「……」
どう見ても変態ですありがとうございました。
もうツッコむことすらままならない。あしゅらさん、あんたはここに留まるような男じゃない。悪いことは言わないから
ギリシャにあるという聖域で蜥蜴座の白銀聖闘士にでもなってこい。そしてペガサスにやられてこい。
「つーか、バラ使いなら魚の人ネタでいくべきだろ…常識的に考えて…」
あと、星矢ネタはインキ…いや、銀杏丸さんにお任せするべきだ。
「それはともかくさあ、野比のび太…」
バラから開放されたティスが起き上がりながら、のび太に声をかけた。
「ここは一旦協力して、あの変態を真っ先に消し去るってのはどうよ?」
「…却下だけど、正直頷きたい気分だよ…」
「そうかい…ま、いいや。じゃあ続きといくかい?」
「やっぱそうなるか…ならぼくも、本気でいくよ!」
のび太は奇妙な構えを取る。そして、叫んだ。
「奥義―――<賢者の舞>!」
そして、どこからともなく聞こえてくる軽快な音楽―――
♪チャッチャラッチャ〜チャッチャラッチャ〜チャッチャラッチャ〜チャ〜チャ〜ジャンジャンジャジャン(イントロ)♪
そんな軽快な音楽と共に、のび太は拳銃をくるくる回し、不可思議な動きを始めた。
参考動画
ttp://www.youtube.com/watch?v=rpCL092EPSA
はたから見るととんでもなく間抜けな光景ではあったが、のび太の顔は真剣そのものだ。その迫力に押され、ティスは
手出し出来ずにただただ固唾を飲んでそれを見守るばかりだった。
そしてのび太はティスに向けて一気に間合いを詰める!
317ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 23:09:33 ID:7Tt63d2T0
「ガッダイ!テツジョウ!」
何の意味があるのかよく分からない掛け声と共に、のび太は銃で直接ティスを殴り飛ばした!
「うああっ!」
吹っ飛ぶティス。そのまま地面に叩きつけられるかと思ったが、そうはならなかった。彼女は固い地面ではなく、
誰かの腕によって受け止められていた。
「ティス…大丈夫?」
「ティス!」
「さ…サンキュー、デスピニス。ラリアー」
そう、向こうでドラえもんや鬼の軍勢と戦っていたはずの二人だった。
「こっちはこっちで、結構てこずってね…ここは一旦退いた方がいい」
「少々、甘く見ていました…準備不足が悔やまれます」
二人の意見に、ティスも少しだけ逡巡し、すぐに頷いた。
「残念ながら、今回は撤退した方がよさそうだね―――こいつらを侮っちゃいけないってことはよく分かった」
「なんだと!?逃げる気か!?」
「待て!逃がすもんか!」
その声に振り向くと、ドラえもんたちがこちらに向かって駆けてくるところだった。そして三人を鬼の軍勢で取り囲む。
もはやティスたちは袋の鼠もいいところだったが、その顔には焦りはない。
「おやおや、こーんな可愛らしいガキンチョ三人によってたかってご苦労なこったね」
「どう言われてもいいが―――ここは諦めて投降しろ。命まで奪う気はない」
アジャセが呼びかけるが、三人は答えない。そして、ラリアーが懐から何かを取り出す。
318ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 23:10:30 ID:7Tt63d2T0
「ドラえもん、それに野比のび太―――あなたたちならこれが何か分かるでしょう?」
「!あれは―――!」
「そう…<こけおどし手投げ弾>ですよ!」
言うが早いか、それを地面に投げつける。強烈な閃光に、一瞬視界が奪われた。
「しまった…!」
視界が戻ると、既にティスたちは包囲網から抜け出していた。こうなっては、もはや追いかけることは難しいだろう。
彼女らの身体能力自体が半端ではない上に、他にも未来の道具を持っている可能性がある。逃げの一手を打たれれば、
為す術はない。
「くそっ…待て!」
「待てと言われて待つ奴はいないってね…ま、こっちよりはむしろ、えんま様の方を心配しなよ。なんせあっちにゃあ
<とんでもねーの>が行ってるからね」
えんま様?誰のことだろう。のび太は思ったが、今は聞けるような状況ではないようだ。
「じゃーね、みなさん。また近いうちに会いにくるよ」
「それまで、どうかお元気で―――」
「さようなら…」
それだけ言い残し、彼らは立ち去っていった―――。
319ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 23:12:06 ID:7Tt63d2T0
「さて―――アジャセさん、でしたっけ?あいつらは逃がしちゃったけど、ひとまず落ち着いたところで話を聞いても
いいですか?」
そう言ったドラえもんにアジャセは屈みこみつつ頷いた(普通に立ってると目線が全く合わないからである)。
「ああ、答えられることなら何でも話そう」
「じゃあ、あの―――あしゅらって人、なんなんですか?」
これはのび太である。彼にとってはあの変態が一番気になるところだった。
「あしゅらか?彼がどうかしたのか?」
「その…助けてもらって感謝はしてるんですが…あまりにも危なすぎるというか、なんというか…」
「はて。そんなに問題のある男ではないと思うが。何しろ私がほんの子供だった頃からああだった」
「…………」
嫌すぎる話だった。もうこの話題には触れない方がよさそうだ。
「のび太くん、それよりもっと聞くべきことがあるでしょ?アジャセさん、ぼくを見て<青き神獣>って言ってた
でしょ?あれは、どういう意味なんです?」
「青き神獣か…青き珍獣だったらピッタリだったのにね」
のび太が混ぜっ返すと、アジャセもプッと吹き出した。どうやら彼もそう思っていたらしい。
「すまない、失礼をした―――実はだ」
憮然としたドラえもんに、アジャセは平謝りして説明を始める。この世界を支えるかぐや姫の事、彼女が数日前に
なした予言のこと、その予言の通りに現れた敵、そしてのび太とドラえもん―――
「かぐや姫様に、かつて鬼退治をした桃太郎さんか…どうやらこの世界、例えていうなら御伽噺の世界ってとこだね」
「それっぽいね…とにかく、話の流れからしてぼくたちがその予言の戦士ってことか。それと、あの三人が言ってた
えんま様って、誰のことなんですか?」
「えんま王―――我が父である鬼族の王バサラの右腕。簡単に言えば鬼族の中でも現在第二位の権力者だ。風神に雷神、
そしてあしゅらは彼の直属の部下でもある」
「へえ…すごい人っぽいけど、なんか<とんでもねーの>が相手してるみたいな話でしたよ。大丈夫なのかな…」
「問題はなかろう。あの方の強さは風神と雷神、そしてあしゅらが束になっても敵わぬほどだからな。そうそう勝てる
相手などいるはずが…」
「―――アジャセ王子!」
会話を遮って金切り声が響いた。見るとそこでは一人の鬼が盛大に息をついている。何かを伝えるため、大急ぎでやって
きた―――そんな有様の彼に、アジャセは訝しげに返事を返す。
320ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 23:13:04 ID:7Tt63d2T0
「どうした!何事だ!?」
「そ…それが…えんま様が…えんま様が!」
ドラえもん、のび太、そしてアジャセは一斉に<!>な顔をした。丁度彼の話をしていたところに、どう見ても不吉な
報せを持ってきたとしか思えない様子の伝令。
「とにかく、こちらへ!」
言われるがままにそちらへ向かうと、そこには人だかり(鬼だかり?)ができていた。
「ぴゅるるるるぅ!えんま様、しっかりなさってください!」
「ぐゎらりぐゎらり!えんま様が…ばかな…!」
「うぬぬぬっ…一体誰がこのようなことを…!」
中心にいるのは風神雷神、それにあしゅら。三人は一人の大きな鬼に寄り添い、悲痛な声を漏らしていた。
「ドラえもん、ひょっとして、この人が…」
「うん、多分そうだよ。それっぽい格好だもの」
その鬼は、一般的にイメージされる<閻魔大王>そっくりそのままな姿だった。本来ならば威厳に満ちているであろう
厳めしい顔つきが、今は苦痛に喘いで痛ましい限りだ。
「そんな…えんま様!しっかりなさってください!」
アジャセが駆け寄ると、えんまはゆっくりと目を開き、自嘲を漏らす。
「ア…アジャセ王子。も…申し訳…ない…」
「な、何を…一体何があったのですか!」
えんまは息も絶え絶えに語り出した。
「<アヤカシ>とかいう化物どもを倒したまではよかったのですが…その直後に…恐ろしいまでに…強い…男が…まるで
女子のように美しい姿をしていたが…その中身は、まさに剣神というほかない。手も足も、出ませんでした…軍は全滅し、
わしもこのザマです…奴に、傷一つ付けられず…!」
ごくり、とのび太は唾を飲み込んだ。鬼の大軍、さらには鬼族の序列第二位、凄まじい力を持つというこのえんまが、何も
できずに敗れ去るほどの相手。想像するだけで恐ろしい話だ。えんまは話を続ける。
321ドラえもん のび太の新説桃太郎伝:2007/04/26(木) 23:14:10 ID:7Tt63d2T0
「名は…錆白兵(さびはくへい)と名乗っておりました…!」
「錆…白兵…!」
この戦いを続ければいずれ出会うであろうその強敵の名を、のび太たちは胸に刻み込んだ。できればそんなおっかない
相手と顔を合わせたくはないが、そうも言ってられないだろう。
「そして奴は…何故かやたらと<拙者にときめいてもらうでござる!>と言っておりました…」
「…………」
出会うのが、もっと嫌になった。そんなセリフをやたらとかますような奴が、どう考えてもまともな人格とは思えない。そして
えんまは動かなくなった。どうやら気絶したらしい。
「と、とにかくこの人の怪我をどうにかしなくちゃ…<治療灯>!」
ドラえもんは電気スタンドのような道具を取り出し、それで気絶したえんまを照らし出した。
「個人差もあるけど…安静にしてればこれで二、三日で回復するはずです」
「かたじけない…しかし、大変なことになってきたようだ」
「ええ。できるだけ早く、対策を練りたいところですね」
アジャセは顔を俯かせたが、すぐにドラえもんとのび太に向き直った。
「ひとまずは私の父に―――バサラ王に会ってほしい。話はそれからだ」
322作者の都合により名無しです:2007/04/26(木) 23:32:15 ID:gFXNMbZ40
れ、連投規制解除?
323作者の都合により名無しです:2007/04/26(木) 23:41:07 ID:FCa56CMs0
支援支援支援
324サマサ氏の代理:2007/04/27(金) 00:07:37 ID:G1KrSVxJ0
投下完了。前回は>>172より。
パソ直ったと思ったらアクセス規制…やりきれねえ…。
サブタイトルの通りです。結果、この有様。JOJOネタがいくつ使われているのか、正解した方には
サマサオリジナルグッズを進呈…はしません。ごめんなさい。

あしゅら。新桃太郎伝説においてえんま様と並ぶ最強キャラ。やり方次第でラスボスすら楽勝。
えんま様。新桃で文句なしに最強キャラ(無限行動のバグ技ありなら)。バグなしでも二回行動可能と強い。
でもえんま様、ストーリー上はカマセっぽいイメージが僕の中ではあります。
(外伝では最初のボスにあっさり返り討ちにされてたり、新桃ではバサラ王にあっさり幽閉されたり)。

ちなみに錆白兵は西尾維新「刀語」のキャラ。日本最強の剣士。主人公とのバトル描写は未だかつてなかった
と断言できます。でも刀語、面白いけど薄い上に値段が…。

>>174 最終的にはかっこいい劇場版のび太も出したいですね。
>>175 まあ元ネタの一つ<ギガゾンビの逆襲>でもそうでしたし、ねえ…
>>176 のび太の日本誕生。名作です。
>>ふら〜りさん
ただ、<魅力的なキャラ>と<ただの変な奴>は違うので難しいところ。和月先生はこういう意味でも偉大です。
>>邪神?さん
お久しぶりです。テイルズチームも死刑囚たちも大好きなので、また楽しませてもらうでシコ(むかつく語尾)。
>>ハロイさん
JOJO一気読みはシュガーハート〜を読むためです。しかし改めて読み返すと、JOJOのセリフ回しってすげえw
荒木先生、どうやったらあんなぶっ飛んだセリフの数々が浮かぶんでしょうか。
ギガゾンビは…確かに小物感抜群でしたが、個人的には熊虎鬼五郎が最高に小物だと思います。
だってただの拳銃持った犯罪者だしなあ…ドラの道具が奪われてたわけでもないし、何故あんなにてこずったん
でしょうか。
>>銀杏丸さん
やはり星矢ネタはあなたにお任せするべきでした。無理矢理すぎて苦しい…
あと聖闘士で一番かっこいいのは蟹の人。これは譲れない。
325作者の都合により名無しです:2007/04/27(金) 00:35:51 ID:G1KrSVxJ0
一気にいっぱい来過ぎだよw

・邪心さん
サイバーブルーなんて大抵の人は知らないと思うけど、
このSSではファッツと共に重要キャラになりそうですな
どんどんキャプテンの影が薄くなる・・w

・銀案丸さん
最近、多目の投稿でしたが今日はちょっと少ないねw
ローゼンメイデンは知らないけど、可愛らしいけど
キャラの個性が強そうな連中ですな

・サマサさん
SSの中にところどころにある小ネタが好きです
閻魔大王とかがピンチだと、桃伝シリーズという気がしますな
最近、バキスレでジョジョネタ流行りだなw
326作者の都合により名無しです:2007/04/27(金) 14:14:11 ID:IjZVaB3+0
サマサ氏はのっている時だとパロディが多くなってすぐわかるから面白いw
最近更新少なかったけど、今回沢山読めて満足です。
327WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/28(土) 00:16:04 ID:ZUkrwn1G0
「来い!!」
震脚で床を強く踏みしめて迎え撃つ防人。
両腕を広げて殺到するホムンクルス。
防人は充分に重心を落として腰を捻り、ホムンクルスに向かって一撃必倒の力を込めた拳を放った。
その拳はストレートというより正拳突きに近い。ただし、スピードは軽量級ボクサーのジャブさえも
遥かに凌駕する。
しかし――
パァンと乾いた音を立てて顔面に炸裂した突きであったが、ホムンクルスは数瞬、その動きを止めただけで
然したるダメージも負ってはいない。
その証拠に、ホムンクルスは打撃を受ける前とまったく変わらぬ勢いで防人に突進し、
勢いよく両手を振り下ろしてくる。
原因は明白。
「くっ……!」
シルバースキンに覆われて見えないものの、右の太腿に巻かれた包帯には血が滲み出している。
アンデルセンの銃剣に貫かれた傷だ。
その貫通創は強烈な痛みと下肢筋力低下を防人に与え、彼の最大火器である直接打撃の威力を奪ったのだ。
そして、激痛と焦りが防人の反応を曇らせた。
振り下ろされる化物の両手に対し、反射的に己が両手を突き上げてそれを受け止めてしまった。
勢い、手四つの力比べに似た姿勢を強いらされる防人。
「CAPTAIN BRAVO……」
ホムンクルスの容貌は長い白髪に隠され、窺い知る事は出来ない。
威嚇の雄叫びも気合いの唸りも上げず、ただ目の前の敵の名前を静かに呟くだけだ。
「うっ、うぅおおおおお……!」
むしろ防人の方が奥歯を噛み締め、搾り出すようにして苦悶の声を洩らしている。
(このホムンクルス、とんでもないパワーだ……!)
両手を組み合った二人の筋緊張は極限まで高まり、全身の細かい震えは周囲の空気まで
振動させているかのような錯覚を他の者に覚えさせた。
328WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/28(土) 00:17:25 ID:ZUkrwn1G0

ここで狡猾に眼を光らせた人物は、言うまでもない。
“指揮官”マシュー・サムナー戦士長だ。
二人が膠着状態に陥ったと見るや、サムナーは電光石火に行動を開始した。
まずは居丈高な大声で防人とジュリアンに命令を告げる。
「戦士・ブラボー! そのホムンクルスは君に任せたぞ! これより二手に分かれる!」
防人は一瞬も力が抜けない。サムナーの方へは顔を向けず、ただ「ハイ!!」とだけ怒鳴った。
「パウエル! お前は戦士・ブラボーを援護するんだ!」
防人から少し離れ、震えながらライフルを構えるジュリアンの眼にはありありと恐怖の色が浮かんでいる。
だがサムナーに与えられた“戦う力”に後押しされて、やや高めのオクターブではあったが応答の声を返す。
「りょ、了解……!」
次にサムナーは不敵な笑みを浮かべながら、火渡と千歳を見遣る。
「戦士・火渡! 戦士・楯山! 我々三人はパトリック・オコーネルを始末する! ついて来い!」
「了解!」
「……」
千歳は切迫感に満ちた応答を返し、火渡は相も変わらずの態度だ。
三人は中央の大階段へ向かう。
その途中、千歳は足を止めて振り返り、防人に声を掛けた。
出来るだけ大きな声で。彼の耳に届くように、彼の心に残るように。
「防人君! 気をつけてね!」
だが声が届かなかったのか、それとも返事をする余裕が無いのか。
防人は一言も発さずに眼前のホムンクルスを睨みつけながら、パワーショベルクラスの力比べを続けている。
千歳はなおも防人を見つめて何かを訴えようとしていたが、やがて身を翻してサムナーと火渡の後を追った。

そしてこの場に残されたのは三人。いや、二人と一匹。
錬金の戦士とホムンクルス。それに、怯えを隠し切れない非戦闘員。
そのジュリアンに向かって防人は叫んだ。集中力が途切れ、力比べが劣勢に回るのは承知の上だ。
「ジュリアン!」
「ハ、ハイ!」
「お前は隠れてるんだ! ぐぅおおっ……! こ、こいつは普通の武器ではッ……手に負えない!」
「そんな……! 僕だって戦えます!」
329WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/28(土) 00:18:19 ID:ZUkrwn1G0
だが、これは超人的な力に超常の兵器を併せ持つ戦士と、異形の化物の戦いだ。
たとえある程度の訓練を受けていようとも、生身の人間が何の変哲も無いただの銃を撃ったところで、
死体が余分に一体増えるだけだろう。
少なくとも“今のまま”では。
「僕だって戦う力を――わあっ!」
懸命に己の戦いへの意志を訴えようとするジュリアンの足元で突如、火花が散った。
見ると右側の通路で、一人のテロリストが銃を構えている。
サムナーは一階の敵全てを射殺した訳ではなかったようだ。
それがわざとなのか、それともそろそろ露になってきた彼の粗忽なのか、どちらかはわからない。
「よくも、よくも俺達の仲間を……!」
怒りに燃えるテロリストは誰彼といわず、ロビー中央に向けてライフルを乱射した。
組み合ったままの防人とホムンクルスにも銃弾は雨のように浴びせられたが、それはシルバースキンや
体表で弾かれ、それぞれどちらも物ともしていない。
しかし、ジュリアンは別だ。
腰を抜かしたように這い回り、銃弾から身を遠ざけようと必死になっている。
「わわっ、うわわわ……」
「逃げるんだ! 早く!!」
「ハッ、ハイィ!」
今は既に“戦う意志”も秘めた“武器”の存在も忘れ、ジュリアンは左側の通路に向かって
只々つんのめりながら駆け出した。
この姿を笑う者もいるだろう。謗る者もいるだろう。
だが少しでも超人や狂人、人外の戦いを見慣れてしまったと思う者は、これだけは覚えておいた方がいい。
戦士でも騎士でも兵士でも闘士でも、ましてや化物(フリークス)でもない。
これこそが我々の世界に溢れかえる“人間”の姿なのだ。
フロアの奥へ逃げ出すジュリアンの姿を見たテロリストは、腰の無線機を抜いて怒鳴った。
「コーネリアス! サミュエル! そっちに一人行ったぞ! 殺せェ!!」
彼のこの無線連絡で、一階には更に生き残りのテロリストがいる事が判明した。最低でもあと二人。
「な、何だと!? ……ウオオッ!」
度重なる集中力の欠如に、防人は遂にホムンクルスの勢いに負け、床に片膝を突いてしまった。
更にそのショックで大腿に激痛が走る。
330WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/28(土) 00:19:21 ID:ZUkrwn1G0
「くっ……! お、お前の……」
しかし、痛みなどよりも遥かに熱いものが身体中を流れていく。
もう、誰も死なせたくない。誰かが死に、誰かが泣く世界なんてまっぴらだ。
ジュリアンは、共に戦う仲間だ。自分の尊敬に足る人物が愛する者だ。遠い異国で出会えた友だ。
絶対に、絶対に死なせない。
どうしても守り抜かなければ。

「お前の相手をしてる暇なんて……――」

防人の両腕、いや両掌にこれまで以上の力が込められる。
相手をねじ伏せようとする腕力でもない。身体を踏ん張ろうとする脚力でもない。
それは、握力。

「――無いんだァアアア!!」

防人の怒号と共に、ホムンクルスの両手は一度にグシャリと握り潰された。
手掌も指もバラバラに千切れ飛び、床に落ちる。
「……」
ホムンクルスはやはり無言だ。自分の身に起きた異常な事態に戸惑っているように見えなくもない。
動きを止めて、手首から先が消失した両腕を眺めているのだから。

この、一瞬。

防人は敵が見せたこの隙を逃す程、お人好しでもなければ、戦士として無能でもない。
片膝を突いた姿勢から一転、勢いよく立ち上がり、凄まじい速度で両の拳を繰り出した。
「粉砕! ブラボラッシュ!!」
赤銅島事件の際に開発・命名した防人の必殺技だ。
幾重にも残像を発した拳が、次々にホムンクルスの身体を連打する。
それはまさに拳の弾幕。しかも、威力はマシンガンどころではない、バズーカそのものだ。
見る見るうちにホムンクルスの全身がへこみ、捻れ、捩れていく。
331WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/28(土) 00:21:36 ID:ZUkrwn1G0
「ウォオオオオオオオオオオ!!!!」
10ダース以上もの拳を撃ち込んだ防人は、ワインドアップを思わせる勢いで大きく振りかぶり、
とどめとばかりにホムンクルスの頬を強烈に撃ち抜いた。
3mを超える巨漢がまるで風に舞う塵か芥の如く、軽々と吹き飛ぶ。
吹き飛んだその先は壁と、立ち尽くすテロリスト。
「ちょ、嘘だろ……」
ホムンクルスは一階全体に響き渡る程の轟音を立てて、壁に叩きつけられた。
その巨体とひび割れた壁の間から見える人間の腕はピクリとも動かない。

だが防人はすぐに驚愕の光景を見る事になる。
壁に叩きつけられてものの数秒もしないうちに、ホムンクルスがスクリと立ち上がったのだ。
ノーダメージを誇示する訳でもなく、ノックされたドアを開けに行くように、ただ何の気無しという風情で。
「CAPTAIN......BRAVO......」
そして相変わらず標的の名を静かに呟く。
防人の頬を冷たい汗が伝わり落ちた。
「何てタフな奴なんだ……」
驚愕の光景はそれだけでは終わらず、更に続きを見せる。
「……!?」
ホムンクルスは突然ビクビクと痙攣を始め、体表面がモザイクのように変化していく。
動物型ホムンクルスに見られる、人間形体から動物形体への変身だ。だが、どこかおかしい。
通常のホムンクルスなら一瞬で変身を済ませる筈。
なのに目の前の化物は徐々に時間を掛けて、しかもこれまで見た事も無い生物に変身しようとしている。

眼がグロテスクに大きくなっていく。それは何千個もの眼球が魚卵のように密集した“複眼”だ。
それと同時に下顎が縦に二つに割れ、おぞましい口となった。
胴体部分が胸と腹に大きく分かれ、全身を硬い“殻”が覆い尽くす。
背中からとても飛行には使えなさそうな申し訳程度の羽が突き出てくる。“羽”と言うよりも
“翅”と言った方がいいのかもしれない。
振り上げるのは“鎌”のような二本の腕。更にその下には巨大な“鋏”を有した二本の腕。
四本の後脚はしっかりと安定して床を踏み締めており、尻に当たる部分からは“糸”に似た
粘液が垂れ下がっている。
332WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/28(土) 00:23:11 ID:ZUkrwn1G0
不思議と身体のどのパーツも、防人には幼い頃に見慣れているような気がした。
「こ、こいつ……」
加えて通常のホムンクルスと同じように、胸に浮かび上がった人間形体の顔。荒い縫い目だらけの顔。
糸のように細い右眼と、まぶたが捲れ上がって大きく見開かれた左眼。
鼻は削げ落ちたように見当たらず、二つの鼻腔だけが顔の中心に空いている。
唇の無い口は歯茎と前歯が剥き出しだ。
そして、額には、三つ葉のクローバー(シャムロック)を連想させるかの如く、ホムンクルスの証である
“章印”が三つに連なっていた。

「一匹だけじゃ、ない……!?」



影が一つ。息せき切って走る。追い立てられるように。
後ろを振り向き振り向き、小柄な身体をふらつかせながら、もはや“走る”とは形容し難い速度で。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハァッ……」
やがてジュリアンは立ち止まり、壁に手を突きながらひたすらに荒い呼吸を繰り返す。
恐怖と全力疾走で失った酸素を取り戻すかのように。
逃げた。
逃げ出してしまった。
巨大な化物から。テロリストの銃弾から。そして、何よりも死の恐怖から。
防人が「逃げろ」と言ったから、その場から離れた。
そんなものは言い訳にしかならない。
自分の声によく似た声が気安く話しかけてくる。

『お前も戦うんじゃなかったのか?』
「うるさい……」

『そんなに恥じるなよ。殺されたい奴なんかいないさ』
「うるさい……!」
333WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/28(土) 00:24:40 ID:ZUkrwn1G0

『お前は戦いになんて向いてないんだ。戦闘は戦士に任せときゃいいんだよ。
ジョンや、サムナー戦士長や、防人サンに』
「うるさい! うるさいうるさいうるさい! うるさい!!」

『でも、男になりたいんだろ?』
「!!」

恐怖と混乱に満ちた頭蓋の中に、一条の光が射した。
やや盛り上がった懐に意識が向き、服の上からそれに手を遣ると、確かに心強い感触が触れた。
戦士になりたかった弱い自分にもたらされた“武器”。戦士になれなかった弱い自分が望んだ“戦う力”。
「そ、そうだ! サムナー戦士長がくれた“武器”だ! 僕にはこれがあっ――」
「いやがった!」
突然の荒々しい声によって、希望に満ちた笑顔は打ち消された。
声がした方向に移したジュリアンの眼には、曲がり角から姿を表した二人のテロリストが向ける
アーマライトAR‐18の銃口が映った。
撃たれる。撃たれちゃうよ。
身体が動かない。早く身体を動かせ。早く動かさないと――
ジュリアンはとっさに一番手近なドアに向かって駆け出した。
「うぐぅ!」
身体中に強烈な異物感が刻み込まれるのを感じながら、ジュリアンは後ろ手にドアを閉め、そのまま倒れ込んだ。

何発の銃弾が身体を貫いたのか、何発の銃弾が体内に残っているのか、そんなものは知る術も無い。
身体中が濡れている。胸も、腹も、背中も、脚も。
気分が悪い。喉の奥から鉄臭い何かが次々に湧き出てくる。
「ごほっ……! うぅ、痛い……痛いよ……」
ジュリアンの震える手は上着の懐をまさぐり、ゆっくりとゆっくりと“箱”を取り出した。
「ぶ、武器……。早く……早く、武器を……」
早く開けよう。中から武器を取り出して戦うんだ。化物に苦戦してる防人サンを助けるんだ。
血で滑る手を懸命に動かしながら、ジュリアンは“希望”の詰まった箱の蓋に爪を立てる。
334WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/04/28(土) 00:26:11 ID:ZUkrwn1G0
やがて、固く閉ざされていた蓋が、小気味の良い音を立てて外れ、床に落ちた。
「あ、あはは……。開い、た……」

箱の中身が眼に入るなり、ジュリアンの時間が止まった。
身体も表情も驚きのあまり動かない。動かせない。
思考も脳裏に大きなクエスチョンマークが浮かんだまま止まってしまった。
「え……?」
箱の中を蠢いている3cm程の物体。
「パミイイィィィ……」
胎児のような外観。大きく突き出た頭部。長い尻尾。機械を思わせる無機的な質感。耳障りな奇声。
コレは。
見た事がある。
いや、“見た事がある”では済まされない。
“見慣れている”
戦団の研究所(ラボラトリー)で。ホムンクルスや信奉者のアジトで。脳ではなく末端部から巣食われた人間の身体で。
コレは、コレは、コレは、コレは、コレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレは。

“ホムンクルス寄生体”

「パミィイイイイイイイイ!!」
ジュリアンを認識した寄生体は喜びの声を上げながら、彼の額に向かって素早く飛びすがった。
まるで母親の胸に飛び込む幼い子供のように。

「うわぁああああああああああ!!!!」





次回《EPISODE11:Hear the trumpets,hear the pipers,one hundred million angels singing》
お楽しみに。
335さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/04/28(土) 00:27:17 ID:ZUkrwn1G0
>>前スレ320さん
神父書きたさ故に前倒し気味に登場させてしまいました。
ちなみにこの回の必須アイテムはHELLSING原作と日本語版・英語版の聖書。

>>前スレ321さん
神父登場シーンは原作6巻P53〜56を、私流解釈で絵から文章に変換。
日本人はキリスト教には馴染みが薄いですしねえ。

ふら〜りさん
原作でもOVAでも神父登場シーンは「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」なのですw
あとジュリアン救えませんでした(‐人‐)AMEN

>>前スレ323さん
いやいやいや、私なんぞには勿体無いお言葉。
日記ではすぐに悩んで醜態を晒してますし。ただ努力はしていきたいな、と。

ハロイさん
自分では突っ走ってるのか、すっ転んでるのかわからない、取り留めの無い展開になってるような気もw
千歳はハロイさんのものか……。ならバイオレット姉さんは私のものどぅおああああ!

スターダストさん
サムナーの人気に嫉妬。作者なのにw こんなキャラにする筈じゃなかったのに。
そういや韓信は原作(司馬先生の方ですが)の“テーブル拭き拭き”のシーンが印象に残っとります。

ハシさん
そんなに喜んで頂けると書いた甲斐があります。照れ臭いですが……。
百合いいですよね百合。18禁SSも書きたくなりますわ。
336さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/04/28(土) 00:29:06 ID:ZUkrwn1G0
>>116さん
私は勃○しそうです。いや、しました。我○汁も出ました。
死ねばいいのに。俺が。

銀杏丸さん(あまり無理をせずにマイペースでね(はぁと))
遂にミソージになりますた。若本御大の演技に関しては、私はまだまだ認識が甘かったですね。
もっと色々観まくらなくては。オッパイオッパイ

>>186さん
仕事辞めてSS書いて日々暮らしていければいいんですがねえ。
やはり働かざる者食うべからずですわ。

>>187さん
『バトルロワイアル』描いてる人が、昔チャンピオンで描いてた漫画としか……。
結構、知らない漫画やアニメが多いのです。

>>188さん
何故にヤムチャ!?Σ(゚Д゚;)

>>189さん
サムナーは私の作ったCV大塚芳忠さんなオリジナルキャラです。



短すぎるお返事で申し訳ありません。やはり後回しは良くないですね。
でわまたいずれ。
337作者の都合により名無しです:2007/04/28(土) 01:23:25 ID:m9P7pVGx0
お疲れ様ですさいさん
そろそろ終盤に物語りも差し掛かり
熱いバトルの連続ですな。
パンドラの箱が開いたかな?
338永遠の扉:2007/04/28(土) 14:39:57 ID:kRA9pFqw0
第015話 「降り注ぐ数多の星に思い馳せて」

彼女の前には中身を平らげた丼が3つ。それからいま攻略中の丼が1つ。
秋水は思わず箸を止め、見入ってしまっている。
それだけまひろの食べ方は威勢がいい。
レンゲいっぱいに豆腐や名称不明のペーストを掬いとっては、子犬がドッグフードにありつく
ようにがふがふと咀嚼して飲み込んでいる。
「君はもう少し、噛んで食べた方がいい。胃に負担がかかる」
「ふひゃ?」
真正面で勢いよく顔を上げたまひろに、秋水はあやうく噴出しそうになった。
頬はハムスターのように左右対称に膨れている。
可憐な唇も台無しだ。麻婆豆腐のタレが幾筋もたれて、顎に糸を引いている。
(このコは繕うという事を知らないのだろうか)
桜花とのあまりの落差に自制を要した。かなりの自制を。
奥歯を噛み締め丹田に力を込め、心情を整えた。
秋水は最近、剣道を通してそういう行為に慣れようとしている。
剣道というのはある程度熟達すれば後はもう、精神の問題なのである。
相手が正面から仕掛けてくるのが大前提である以上、相手は常に緊張と洞察の中にいる。
よって力だけでねじ伏せようとすればすさまじい抵抗が起こり、勝利は困難だ。
だから実力者同士の戦いとなれば、いかにして相手の精神を揺るがし、そこをつくかという
部分に重点が置かれる。
いかな強者であれど虚をつかれれば脆く、弱者であっても揺るがなければ持ち応えられる。
これはある意味、戦争や兵法にも通じる部分がある。
日露戦争において優勢を誇っていたロシアが、日本海海戦でのバルチック艦隊全滅という
史上まれにみる大惨敗に衝撃を受けて講和を申し込んだように、あるいは古代中国の斉に
おいて、田単(でんたん)が名将・楽毅(がくき)の城攻めを知略において凌いだように、勝敗
というのは物量や武力よりも、人の精神に依るところが往々としてあるのだ。
筆者はここで旅順要塞における莫大な死者と戦略的効果の釣りあいについて言及したくは
あるが、この項においては本題でないゆえ省く。少年少女の楽しい食事風景から前世紀の
血なまぐさい戦争に飛躍しては読まれる方はたまったものではないだろう。
というコトで本題に戻る。
339永遠の扉:2007/04/28(土) 16:21:51 ID:/7JprC+J0
かつての秋水は、力を以て敵を排す項羽よろしくの暴虐思想で剣を握っていた。
相手の機微や精神に着目するようになったのはつい最近だ。
剣道部で他の部員に稽古をつけていくうち、徐々に剣道本来の教義というか、ともかく力押し
での攻めより精神を尊ぶ精神を身につけつつある。
ひょっとしたら自らの濁った目を克服しようとする意志が、剣へにじみ出ているのかも知れない。
そしてその意志はいま、まひろの珍妙な顔に対する笑気を抑えるために用いられている。
まったく精神力の無駄遣いといえよう。別に抑える必要はないのだ。
くすりと笑ったとして、よくある少年少女の会話光景で終わる。
にもかかわらず秋水は莫大な精神力を投じて、まひろを笑わないよう務めている。
生真面目もここまでくればむしろ滑稽であり、愛嬌の一つといえかも知れない。
口の中の麻婆豆腐を飲み込んだまひろは、口も拭かずに拳を固めて力説する。
子犬が吼えるような忙しい声だ。
「大丈夫! 私の胃は頑丈だから! 魚の骨だってプラスチックだって何だって溶かしちゃう!」
「君はプラスチックも食べるのか」
「もちろん! お兄ちゃんと斗貴子さんにお弁当作ったときに味見したよ!」
会話がかみ合わない。なぜそうなる。
(このコの胃袋は魔女の釜か何かか)
珍しく洒落っ気のある形容をしたはいいが、そういう自分に気付くとますます臨界点が近くなる。
耐え切れない。せめてもの抵抗として、無言でハンカチを差し出した。
手もハンカチも小刻みに震えている。受話器越しの声も震えている。
まひろはちょっと面食らって、しばらく「いいの?」と誰何していたが、受け取った。
その小さな手の神妙さが、何とも秋水には心地よい。
「うん?」
口を拭くなりまたレンゲをくわえたまひろは、しぱしぱと瞬いた。
横山作品ではないので、ここでぐわわーとか血を吐いたりしない。毒殺されたりしない。
「ねー秋水先輩、いま揺れなかった?」
「さあ」
秋水は感じ取れなかったが、その時、大地には微細な振動が走っていた。

寄宿舎より五kmほど離れた山の中腹。
巨木が落ちて、地響きを起こした。
全長約三十m。幹は大人が数人がかりで輪を作ってようやく抱えられる太さだ。
340永遠の扉:2007/04/28(土) 16:23:17 ID:/7JprC+J0
それらとガサガサした木肌から判断すると、どうもクスノキのようだ。
新装開店のアニメイトが武装錬金トレカを仕入れていなかったコトで有名な三重県四日市の
「市の木」たるクスノキである。まったく恨みは晴れん。仕入れとけよ。
「はっはっはっは!! 怒れ竜の戦士よ! 悪の野望を叩き潰せ!!」
びーんと張り詰めた鎖を握り締め、貴信が吼える。
瞳は大きい。頭蓋骨に中途半端な肉付けをしたような瞳だ。
だが保護欲をかきたてる丸さなどはなく、むしろ肉が腐り落ちた生首のような欠落含みだ。
それが血走り、小さな瞳孔がさらに収縮している上、掌などは胸を落ち着き泣く掻き毟ってい
るから正気には見えない。
「巨木を放った僕の膂力はナイスだ! もっとも!!」
ばさりと樹上で葉が散ると、鋭いうねりが2つ飛び出した。モーターギアだ。右肩下がりで貴
信に向かっている。
「初撃失敗!! やはり不意打ちのような真似は成功しないなああ!!! 大方、巨木が向
かってきた瞬間に戦輪(チャクラム)を射出! 同時に鎖を狙い撃って軌道を逸らし!! 直
撃だけは避けたという所か!! 違うか、どこかに隠れてる新人戦士! 違ったらゴメンだ!」
木陰で剛太は舌打ちした。貴信のいう通りだ。
いわれてない部分といえば──…
右踵からの疼痛に顔を歪めた。左のふくらはぎも内出血をきたしている。
(クソ。情けねェ。足だけ下敷きになっちまった)
なんとかそこから抜け出したはいいが、立っていられるのが奇跡に思えるほど、痛みは激しい。
手近な木にもたれて、脂汗交じりに熱ぼったい息をつく。
(逃げるのは無理か。けど、早く先輩に合流して、割符のコトを知らせなきゃ──…)
ともかく、手にしていた割符をポケットにしまい。なくしたら大変だ。
しかし服の様子ときたらひどい。あちこち飛んで転がったせいでホコリまみれだ。
血のシミだって二ヶ所や三ヶ所ではない。
割符をしまいがてら、ポケットをぱんぱんとはたいた。
いっそ全身をそうしたいが、逼迫した状況だから余裕はない。
(たく。なんで私服を汚さなきゃなんねェんだ。コレなんかより制服を先に支給しろっての)
掌に返ってくる硬い手ごたえに愚痴がこぼれ──…
「…………」
何かを思い出したように手が止まる。剛太はかすかな驚きを以ってポケットに視線を留めた。
341永遠の扉:2007/04/28(土) 16:24:23 ID:/7JprC+J0
(待てよ。逃げるのは無理でも、方法は──…)
すばやく木陰から顔半分を覗かせ、貴信の様子を観察する。見られていない。
密かに手を動かす。気取られないように。目論みが悟られないように。
「回避からこの攻撃につなげたのは見事だが!!!」
貴信は笑った。頬肉をあらん限り水平に伸ばしてくつくつと。そして手首を返す。
通常、人型ホムンクルスの掌には穴が開いている。
香美などはそこから水や空気などを射出していたが、学術的に見ればそれは誤った使い方。
本来は人間を捕食する器官としてのみ扱うのが正しい。
もっとも香美と体を共有する貴信にそういう常識はないらしい。
驚いたコトにハイテンションワイヤーなる鎖分銅の武装錬金は、掌の穴より生えている。
接続している、と捉える方が正しいか。ともかく、鎖は貴信の掌に呑まれていく。
ワンタッチで収納可能な掃除機のコードを想像してほしい。
収納ボタンをぽちっと押されたようなひっきりなさで、鎖が一気に巻き戻る。
巨大なクスノキからほどけ、じゃりじゃりと咬合部分をうち鳴らし、宙を舞い。
今度は貴信の正面で旋回を始めた。こちらは扇風機を想像して頂ければ幸いだ。
金属のぶつかる耳障りな音がした。モーターギアが接触したのだ。
そこで信じ難い光景が、巻き起こる。
「な……!」
位置を悟られるのはマズいと思いながらも、剛太は声を漏らさずにはいられない。
通常なれば、回転中の鎖に当たった戦輪は弾き飛ばされただろう。
だがモーターギアは。
鎖に触れるやいなやブレた。
もっと映像的に明確な表現をしよう。
衝突の瞬間、全く同じ形の光が内側からにゅるりと引きずり出された。
形は同じと描写したが、例えば刃に彫られた円形の溝はない。
陰影や凹凸が皆無の、ツルリとしたライトグリーンの光。
霊なるものをこねて輪郭と大きさのみを真似たような発光体。
それが歪み、避雷針にあたった雷よろしく鎖を伝い落ち、やがて消滅。
残されたのは力なき戦輪(チャクラム)。
だらしくなく地面に落ちる姿は、突然死を遂げた蚊のようだ。
剛太はますます自身の不利を知る。
貴信の眼光が明確に射抜いてきたからだ。位置を知られた。
342永遠の扉:2007/04/28(土) 16:25:48 ID:/7JprC+J0
「そこにいたか! だが顔色と姿勢から察するに、足を損傷したな!!」
『え、そーなの垂れ目!! は、早く手当てしなきゃ大変じゃん!!』
「るせぇ! 誰がてめェらなんかの指図を受けるか」
威勢よく啖呵を切ってみるものの、足の状態は思わしくない。
声を出すだけで痛む。腫れもひどい。スタイリッシュな足が象になるかも知れない。
『あ、そ。じゃあご主人と一緒にあんたを倒すわよ! それから手当てすれば解決じゃん!』
「本末転倒じゃねェかそれ!」
「ともかく!!」
貴信が手を横なぎに一閃すると、剛太の頭上やや上に風が走った。
恐ろしく伸びた鎖に薙がれた! 
ようやく気付いたのは、身を預ける木の上半分が地面に落ちた頃である。
幸い、剛太とは逆方向。怪我はない。が、予期できなかった攻撃に身震いする思いだ。
「僕のハイテンションワイヤーを前に、こそこそ隠れるなど不可能!!」
(その通りだ…… あの馬鹿力をみる限り、その気になればたぶん岩でも砕ける! ちくしょう
せめてモーターギアさえ回収できれば…………って! 落ちてるし!!)
剛太は足元に目を釘づけた。大工が愛想の金槌を見つけた表情に近い。
歯車じみた台形のギザギザ付の戦輪(チャクラム)など、地上にそうはない。
間違いなくモーターギアだ。
『感謝すんのよ垂れ目! ご主人は優しいから、さっきの攻撃のときに返してたのよ!』
何もしてないくせに高慢ちきな猫の声に、剛太はムカっときた。
待望の武器ではあるが、拾うのは憚られる。
「胡散臭ェ! 絶対お前ら何か仕組んでるだろ!?」
垂れた目を更にじっとり垂らし、三十メートル先の貴信を睨む。
元は整った顔の剛太だが、表情を崩すと途端に軽薄でだらしのない印象だ。
もっとも戦団でそれを悔やむ女性は斗貴子を筆頭として一人たりともいない。
でも学校に通えば同級生のメガネ少女ぐらいは、たぶん。
「はーっはっは!! 心外! 心外だぞぉぉっ! 疑心など一つたりともないぞ僕はぁ!!
その証拠にホレ! 何一つ豆知識を披露していないっ!!」
「くそ、暑苦しいなてめェ! というか豆知識とウソがどう関係……」

「豆 知 識 が 欲 し い か !! 
343永遠の扉:2007/04/28(土) 16:27:46 ID:/7JprC+J0

ならばくれてやる!! 野菜にかけるドレッシングは意外に砂糖が多めだ! ウソだと思う
なら原材料を見ろ! 二番目だか三番目だかに必ずいるッ!! 恐ろしいな!!」
「何だコイツ。ちっとも話が進まねェ」
『まー、ご主人こんな調子だからさ、あたしが代わりに話そっか垂れ目』
「勝手にしろ」
げんなりした声で剛太は香美を促した。
内心では助かったという気持ちだが、ホムンクルスへ素直に出せようはずもない。
『よーするに、さっきのままじゃさ、弱い者イジメになるから武器を返したワケ! どよあたし
の説明。感心したらさ、ノドなでてちょーだいノド。気持ちいいから触られるの大好きじゃん!』
「その通り! やはり男は真っ向勝負に限る!! その中で心身を鍛えるべきだ!!」
「あー。分かった分かった」
段々分かってきた。気のない様子でしゃがみこみ、モーターギアを回収しながらもう一度反復。
相手はどちらもバカだ。
それもどうしようもなく手のつけようがないバカどもだ。
「悠久の命を持ちつつ怠けていいのか!? 否!! 学理を収め技を磨くコトこそ肝要だ!!」
剛太はモーターギアを眺めた。流れてくる声はなるべく聞かないコトにする。
「魂が震える! 立ち上がるんだ!! 勇気はあるか希望はあるか!」 
というかココはとても静かなところだ。ああそうだ。開演三分前のコンサート会場だ。
「目的なき人生は精神を黒ずませる! 半端なる目的の人生も精神を黒ずませる!!」
いまだ痛む踵にモーターギアを着装。地面を滑って逃げよう。静かな場所だが逃げよう。
「女! 酒! ギャンブル! そして人喰い! いずれも目的にしちゃならん!!」
足元に鎖分銅が突き刺さった。喚きながらもしっかり監視しているらしい。
(うわコイツ、マジうぜェ! つか、少なくても最初のは目的にしたっていいだろうが!!)
斗貴子が大好きな剛太としては声を大にして反論してやりたいが、するだけ無駄だろう。
相手を見ずに喚くほど、剛太は馬鹿ではない。
斗貴子が絡めばどんな無茶だってするが。
そう。あれは斗貴子がカズキに一心同体宣言をした直後のコト。
剛太は火渡率いる再殺部隊と遭遇した。彼らの再殺対象はカズキ。そして彼に与する斗貴子。
344永遠の扉:2007/04/28(土) 16:39:55 ID:/7JprC+J0
だから剛太はなんと、単身で彼ら6人を相手取り、かつ、逃げ延びた。
以下はそのあらまし……
「若人ならば何かやるのだ! 乾いたノドで荒野を目指せ! 欲望なんて解き放て!!」
あらましが大声にかき消された。
剛太はしんどくなってきた。考えど考えど、わが暮らし楽にならざり。じつと手を見る。
モーターギアを核鉄に戻して足に当てれば回復できるとか一瞬考えたが、さすがに香美の言
を全面的に信じるワケにもいかない。
「ははは! 貴方の考えしかと読んだぞ! 香美を信じて武装解除した瞬間、がーっと捕食
されるのを危惧したな!」
剛太は半ば気おされる思いで貴信を見た。「さとり」なる妖怪をみた木こりの心境だ。
「もっとも貴方自身、実際にはないと断定してはいる!! が、性格上、ありえない現象を想
定の範囲内入れるのがクセだから、足の回復を先延ばしにしてまで僕と相対しているな!?」
いいだろう、と貴信は早口で喚き散らす。口からは唾が飛び散って、汚い。
「よろしい! ならば僕も一歩たりと動かず戦おう!!」
「な……」
剛太は色を成した。いくらなんでも舐められた条件だ。
貴信との間は前述の通り三十メートル。長距離だ。剛太のモーターギアの領分だ。
ゆるやかなサイドスローを右手で描く。
「ふざけてんのか? 確かに鎖は届くようだが、こっちにゃ……」
指先から戦輪が離れた。空をぎゅらぎゅら切り裂き、貴信に迫る。
鎖が楯のようにまた旋回。先ほどより心持ち大きめだ。
接触。またもや金属音。またもや動きを失うモーターギア。
ライトグリーンの光が鎖の表面を伝い落ち、消滅した。
謎めいた現象に息を呑んだ剛太だが、初見の時ほど深刻ではない。
「ははは! 確かに貴方の方が有利だ! 数的にな!! 鎖は一本! 戦輪は二つ! 攻
め手の多さを利すれば、例え弾かれようと止められようと、隙はある!! 例えばこっちに!」
貴信は振りかえりもせず、鎖の先を肩の後ろへ放った。
それについてる分銅は鈴型よりもやや大きめ。大人の握りこぶしほどか。
形は戯画的な星マークを金太郎アメ状に引き伸ばした感じだ。
それが火花を散らした。弾かれるモーターギア。鎖を伝い落ち消滅するエネルギー。
345永遠の扉:2007/04/28(土) 16:41:47 ID:/7JprC+J0
『こっそり攻撃したようだけど、無駄じゃん垂れ目!』
(ちっ。一投目に混ぜてみたけど無理か。そういや──…)

──『ははは! そして僕たちに死角はない!』
──「そゆコト! ご主人がいる限り、不意打ちなんて通じないわよおっかないの!」

先ほど香美たちがこういっていたのは、、片方の顔が必ず後ろを向いているせいなのだろう。
(なんだよコイツら。ヘンな体! だいたい、1つの体を共有するホムンクルスなんて聞いた
コトもねェっての。動物型ホムンクルスは寄生した宿主の意識を殺すんじゃなかったのかよ)
八つ当たり気味に悪態をついてみるが始まらない。敵の情報を探る方がまだ得だろう。
「……てめェの武装錬金、そりゃひょっとすると」
「ふははお見事! よく気付いたな! その通り!!」
鎖を引き戻す。先にはモーターギアが絡まっている。それが剛太の足元に投げられた。
もう片方も然り。やり方はなかなかに水際だっている。
地面に落ちているモーターギアの端をまず分銅で叩く。すると反対側が浮き上がる。
そこに鎖をヘビのように這わせて分銅を突っ込み、絡める。そして剛太へ。
「僕のハイテンションワイヤーは、触れたモノ総てのエネルギーを抜き取る! 触れさえすれ
ばどういうタイミングでもだ! ちなみに十円玉の汚れはぽん酢でもけっこう落ちる!! ぽ
ん酢の”ぽん”はオランダ語で柑橘を示すポンスだというのが有力だ!!」
「何だ。大したコトねェな。運動エネルギーを吸収する武装錬金なら、信奉者でも持ってるぞ」
秋水の武装錬金のコトだ。
ソードサムライXはエネルギーを絡めた攻撃を総て吸収する。
「違う!! 総ての、だ! 静止してようと人間だろうと劣化ウラン弾だろうと、何でもだ!!」
「すげェな。で、他に何ができる」
「吸収などという生易しいものじゃあない! 流れるエネルギーをそっくりそのまま抜き取って、
動きを強制的に止めるんだぞ!! カッコいいだろ!! この特性の前には銃弾だろうと爆
弾だろうと劣化ウラン弾だろうと水風船も同然だ!! なぜなら中に流れる危険なエネルギ
ーだけをそっくりそのまま抜き取って無効化できる!! つまり導き出せるのは!!」
モーターギアを片手で2つとも拾うと、剛太は残った手で頬を覆った。
346永遠の扉:2007/04/28(土) 16:42:44 ID:/7JprC+J0
生あくびを噛み殺した? 違う。引き出した情報から策を得た会心の笑みだ。
「エネルギーというのは物事を物事たらしめるいわば真髄! 流れねば動作などなく、いかな
る動きも生じない!! それを反転して考えた! そして結論! モーターと発電機のような
逆説かつ相互的な考え方ッ! 物事の術理さえ身の内に取り入れれば、エネルギッシュな生
き方ができる筈なんだ!! だから学理を収め技を磨くコトこそ肝要だ! 真髄を捉え真髄
を沸き立たせてこそ男は輝く! 目的なき人生のように黒ずまないッ!」
一方香美は髪を食べた。
「僕の武装錬金も然り! フゥ、フゥゥゥゥ〜ッ……!!!」
力いっぱい鎖を握り、オーバースロー気味に打ち下ろす貴信。
「『総ての真髄を捉える』ッッ! 」
”ひ”の字に大きくたわんだ鎖が、剛太めがけて一直線に軌道を変える。
「それこそがッ! ハイテンションワイヤーだあああああああああ!!」
魔弾の速度が、突き抜けた。
森を、三十メートルほどの空間を、そして剛太の右胸を。
(見え……なかった)
生暖かい灼熱の液体が、ノドの奥からこみ上げてくる。
堰を切る、という現象を初めて唇で味わった。
吐血が強制的に口をこじ開け、地面にこぼれる。
右胸に突き刺さった分銅を剛太は虚ろな目でみた。
(早すぎんだよ。見えてたって、今の足じゃ避け……られ……)
無機質な鉄色に粘性の高い朱の滴りが絡み、滑り落ちる。局所的な血の雨だ。
痛い。苦しい。
あばらにヒビがいっているのかもしれない。ヘタをすれば折れて肺に刺さっている可能性も。
呼吸ができない。痛みに感覚がオーバーフローしている。
だからなのか、脳が意識を天へ捨て始めた。
ケガをしていた足も支えの意志を失った。左膝ががくりとうなだれ、右足が連鎖的に崩壊。
剛太はゆるやかに倒れ始めた。
倒れまいと手を動かす。そこには何もない。つかめそうなものなど何一つない。
「ははは! 一歩も動かずともコレぐらいは軽い! まずは一人目!」
分銅が剛太の胸を離れ、鎖がしなる。一秒とせぬ内に血なまぐさい星が掌に巻き戻る。
「さぁ、まずは貴方の手当て! そして次は、あの女戦士だ!」
「……させねェ」
347永遠の扉:2007/04/28(土) 16:44:07 ID:/7JprC+J0
がぎと鈍い音がした。
木肌に何かがめり込んだ。
「何!」
貴信は見た。
モーターギアを手近な幹にめり込ませ、立っている剛太を。
ただ漠然と刺しているのではない。
(掴めるものがないなら、作ればいいだけ!)
刃の部分を握り締め、斧か肉斬り包丁を扱うすさまじい力で叩き込んでいる。
「ノン気に寝てるワケにはいかねェんだ! 先輩はいま辛い思いを味わっている!」
掌はざっくりと裂けて、血がとめどなく溢れている。放置すれば命に関わる勢いだ。
(こんな傷ぐらいなんだってんだ! 先輩は、先輩は……)

カズキが月に消えた直後、臆面もなく涙を流し続けていた。
ただひたすら、普段の強さも何もかもをかなぐり捨ててて……

(泣きじゃくっていた。きっとまだ、時々そうなんだろうな)
彼女はもう何もかも尽き果てていたワケの分からない暗闇に、光をそっと灯してくれた。
(だから、しばらく戦いから離れてて下さい。こーいう時ぐらい普通の女のコに戻ってて下さい。
でなきゃ辛いだけですよ)
深く静かな微笑を、どこにいるか分からない斗貴子に向ける。
それだけでいかなる痛みも失意も引き受けられる強い気分になれる。
やるべきコトが、分かる。
「あまり喋らない方がいいぞ!! 先ほどの手応えからすると、貴方のアバラは確実に砕」
「だからってハイそーですかと伸びてられっか! 俺に先輩にしてやれるコトなんか、いくつも
ねーんだ! 悔しいけど、いまはまだアイツに比べたら! けど、だからこそ、ココで敵の一
体や二体斃しておかなきゃ、申し訳がたたねェ!」
『う、うわ。何よこの気迫。まるでさっきと別人…… てか、じっとしてなきゃ危ないって!』
「おい猫娘。さっき確か、お前もご主人守るとかいってたよな」
『そーだけど』
「お前の気持ち、少し分かるわ」
(な、なんのなのよコイツ。ほんっとわかんない。でも大事な人がいるならあたしと同じワケで
……ああもう。なんでこう気になんのよ! きぃ!)
348作者の都合により名無しです:2007/04/28(土) 16:47:48 ID:rQC9fAhl0
支援
349永遠の扉:2007/04/28(土) 16:51:38 ID:/7JprC+J0
「けど……行くぞ!!」
戦輪が掌から踵へとすべりおち、旋回する。
(どうせ投げたって無駄なんだ! なら接近戦で──…)
視界の外で景色が流れ、距離が縮まる。
二十メートル。十五メートル。十メートル。
「玉砕覚悟か! しかしそれでやられるほど、僕もハイテンションワイヤーも甘くない!!」
腕の横なぎ、鎖の伸張。それらが同時に起こって、剛太を撃つ!
はずだった。
「やると思ったぞ!」
傷だらけの足が土をすべりながら、急停止。
「てめェの性格なら、正面切って攻めてくるのは丸分かりだ!」
鎖は剛太の胸の前で弾かれ、後方に跳ね上がった。
原因は……地面と垂直に浮かぶモーターギア。二つ見事にかみ合い回転していた。
投擲に用いるべき戦輪(チャクラム)が、踵から飛び上がっていた。
楯の役目を果たしていた。
「先輩直伝の防御法! 本当は手足を捨てて急所だけガードするけど、必要なかったな!」
いまだ回転するモーターギアを持ち、左右にすいっと押し広げる。
奇妙だ。それは鎖に当たったというのに、エネルギーを抜き取られていない。
(やっぱ真赤なウソじゃねェか)

──僕のハイテンションワイヤーは、触れたモノ総てのエネルギーを抜き取る!

(でも俺は大木を投げられたとき、鎖にモーターギアを当てて軌道を反らした! つまり触れ
さえすれば何でも抜き出せるというのはウソっぱち! どうせ──…)
「気付いたようだな! そう! エネルギーを抜き出せるのは一瞬だけ!! 深く激しく熱くッ!
そんな男ならではの強烈な打撃の瞬間のみ!! 今は不意をつかれ、弾かれたがな!!」
予期せぬ衝撃の余韻。背後に鎖分銅がたわむ。手首が硬直。
そこをモーターギアが一閃!
手首が宙を舞い動く。握ったままの鎖が重傷蛇のように暴れ狂う。
背後の闇に戦輪が吸い込まれると、貴信は静かなまなざしをした。覚悟を決めたのだろう。
「ところで話は変わるぞ! 抜き出したエネルギーはどこに行っているのだろうな!?」
350永遠の扉:2007/04/28(土) 16:56:28 ID:/7JprC+J0
思考と咆哮がいりまじる間に、両者の距離は五メートルをすでに切っている。
剛太の後ろで鎖の落ちる音がした。
もはやハイテンションワイヤーはそれを操る手首ごと剛太の背後。
弊害はクリア済み。
「大気に拡散などはしていない! はーっはっは! 実は!!」
笑う貴信がどうっとゆらめいた。ふくらはぎにモーターギアが刺さっている。
先ほど手首を斬り落としたモーターギアだ。
Uターンするようインプットされていたらしい。
それに傷を負わされた足では即座に回避しがたい距離だ。残り三メートル。
「モーターギア、ナックルダスターモード!」
大きく踏み込む。掌で猛回転する戦輪をブチ込むために。
それを見据える貴信の顔から、笑いが消え。
「エネルギーは僕の体内に吸収されている。鎖を伝って、な」
静かな口調で手を突き出した。剛太の眼前に。まだ残っている掌が重なり。
そこにぼっかりと空いた穴に、ライトグリーンの光が収束した!!
「流星群よ!! 百撃を裂けぇぇぇぇ!!!!」
まばゆいばかりの光が剛太を灼いた!
掌から射出されたのは、小石ほどある光のつぶて。
剛太の服が裂ける。皮膚が微細に断裂する。
果てしないかすり傷から薄い血がじゅくじゅく流れ、つぶてに裂かれ吹き飛んでいく。
さながらピラニアの大群に襲われた野牛だ。
モーターギアは光との激突に金属疲労をきたして、割れ落ちる。
「忘れてもらっては困るな!! 掌から吸収した物を射出できる…… 香美の特技は、体を
共有する僕でも使用可能だというコトを!! もっとも僕は香美とは違い、体内からエネル
ギーすら射出し、攻撃に転用できるがな!!」
剛太の体が勢いよく倒れこんだ。
動かない。身じろぎ一つする気配がない……
351スターダスト(鳥がいない):2007/04/28(土) 16:58:49 ID:/7JprC+J0
長らくの時を経てようやく執筆完了。にしても長いなぁ。つめこみすぎだなぁ。
しかしこれでも分割しているのです。ああ。
それとDVD四巻で湯気が取れていなかったのが悔やまれてならない今日この頃。
まひろの武装錬金講座で一まとめなソードサムライXとエンゼル御前にも涙。
永遠の扉の方ですが、登場人物一覧に偽キャラクターファイルを貼ってみました。
http://grandcrossdan.hp.infoseek.co.jp/long/tobira/character.htm
いまは小札と香美の名前をクリックすると見れます。

>>228さん
てなワケでどうぞ!
http://grandcrossdan.hp.infoseek.co.jp/long/tobira/kozane.jpg
しかし……ドラマCDの書記のコを小札に仕立てていいのか……w

>>229さん
我ながらもはややりたい放題ですな。 しかしREDのジャイアントロボはこれよりはるか上だ
から恐ろしい。ともかくも横山作品ネタを押し通すのみ! 香美のカードはいろいろな戸惑い
と萌えへの希求が入り混じっております。いずれはWA5のレベッカみたいな格好させたい。

>>230さん
申し訳ありません…… 実は田単とか輪とか銀線も横山作品ネタでして…… ただし、催眠
術をかけた側が必ずやられるというのは確固たる豆知識。本当です。牛馬飲みのイカサマを
指摘したら枝に生首を乗せられるというぐらい、確実! も

>>231さん(申し訳ないです。まとめページはまた折りをみて)
劉邦と項羽は、古代中国で覇権をかけて争った人たちです。武装錬金でいうなれば、
項羽というのはヴィクターっぽい人。めっちゃ強いけどついてくる人がいない。爆爵ポジ
ションな笵増(はんぞう)って軍師すら追放しちゃった人なのです。劉邦はカズキ。みんなに
慕われ、みんなの力で勝利した人。韓信・張良・蕭何は三バカみたいなものですね。
呂后は劉邦の正妻にして中国三大悪女の一人。劉邦の浮気相手をダルマにした人です。
ポジと性格的に、斗貴子さんみたいな人を想像してくだされば分かりやすいかと。
352スターダスト(鳥がいない):2007/04/28(土) 17:00:27 ID:/7JprC+J0
ふら〜りさん(桜花88 まひろ・千歳85 ヴィクトリア79 斗貴子78であります)
よく考えてみると、一人で戦うのは変かも。暗殺だから韓信とか加勢する方が自然ですよね……
むむむ。あ、永遠の扉の高速バトルは、横山作品に感化された部分がけっこうあります。
バトルはテンポよく終わるのがいいのです。なのに最近のジャンプ漫画ときたら(ry

ハロイさん
VIPの匂い! 週末はスパロボソングの垂れ流し聞くのがマイブームであります。
お褒めいただきありがとうございます! 他作品に走ると「自重しろ俺www」などと思いながら
誰に求められない。仕方ないのでガンダムとジョジョとカイジ封印でなんとか!

>シュガーハート&ヴァニラソウル
懐かしいです。ザ・ハンドにやられたアレ。くれたのは仗助かはたまた億泰か。紳士から囚
人へと段々悪くなった歴代ジョジョに比べると、静は良くも悪くも品がいい。康一くんみたいに
変態どもに好かれるかもw あ。匂いといえば噴上さんですけど、十和子との関係やいかに!

銀杏丸さん
虞姫に対しちゃとことん弱いですからね彼。別れの前の語らいはとても切ない……
てかブッちゃけ、別板でコレ描いてた時などは虞姫がフェ……うほん。いきなり作中に出てく
る横山先生はなんかもう楽しいw 別にナレーションだけでいいのになんで自画像www し
かしああいう読み手を思う優しい気持ちに溢れているのが横山作品。殺伐とした作品も多い
けどユーモラスな作品も同じだけ大きい。コメットさんもサリーパパも可愛い。時の行者で一
番鬱なのは鬼勘解由。アレはなさすぎ…… 尾張のお庭番のコも可哀想。

>戦闘神話
ヒューズさんきましたな。軍を抜けた方が彼的には幸せ。陰陽師のローゼンverを見てようやく
ドールたちの風貌がつかめてきた今日この頃。気になるのは雛苺。陰陽師のローゼンverで
いっつも花のように楽しく笑ってるのがツボ。本作でもさっそく貴鬼をほぐしてますし。
>ころころとかわいらしく笑っていた。
ああ。雛苺可愛いよ雛苺。
353作者の都合により名無しです:2007/04/28(土) 17:07:13 ID:rQC9fAhl0
>さいさん(前回さんさんと書いてすみません)
最終決戦前って感じかな?ブラボーが目立ってるけど
なんか最後は多数の死人が出そうなそんな感じ・・。
ジュリアンのヘタレっぷりから、次回復活する様を期待してます。

>スターダストさん(リアルタイムで読んでましたけど、力作ですねw)
剛太が貴信とトキコを思いながら死闘を繰り広げている間、
主役とヒロインはストロベリってますなあw
まひろはせっかくの美貌がその奇異な行動で台無しだw
354作者の都合により名無しです:2007/04/28(土) 23:55:22 ID:4sTU6Djp0
スターダストさん、サイトで結構難産してたようですが
その苦しみに見合う力作ですな

ゴウタの奮闘振りと、秋水とまひろのほのぼの振りの
対比が楽しい。
まひろの天然と秋水の生真面目さがお互いに無いもの同士で
惹かれあうのかも。
秋水もこれから大変だろうけど…
355作者の都合により名無しです:2007/04/29(日) 01:40:39 ID:iGZbLCtG0
さいさん、スターダストさん力作お疲れ様です。

>WHEN THE MAN COMES AROUND
殺到するホムンクルス軍団の中、奮戦するサムナーや防人たち。
強い連中はそれでも戦えてますけど、ジュリアンは危ないですね。
男気はあるけど、最後もピンチでヒキですし。
8連休らしいですが、もう一度くらい投稿していただけるのかな?

>永遠の扉
なんとなく原作でもこのSS内でも不遇な剛太に親しみを感じます。
バトルまたバトルの連続で、その中でも叶わぬ先輩への想いを感じて不憫。
貴信の能力がどうやら剛太よりかなり上っぽいんでどう逆転していくのか。
アク禁大変そうですけど、続きを期待してます。

しかし小札のプロフィール、上手いこと加工されますねえ。


356作者の都合により名無しです:2007/04/29(日) 17:56:52 ID:85WIajFL0
小札、小学生みたいな体格とプロポーションで可愛いなw
貴信といい香美といい、異常にハイテンションですなw
357作者の都合により名無しです:2007/04/30(月) 02:14:14 ID:KgBRqnUW0
スターダストさんとさいさんの執筆意欲には恐れ入ります。
サイトの日記もお2人とも凝りまくってるし。
(自分の感想は>>355に書きました)

ゴールデンウィークは沢山作品来るといいなー。
サナダムシさんとかミドリさんとかカマイタチさんとか復活しないかなー。


358作者の都合により名無しです:2007/04/30(月) 22:18:04 ID:5cJ90QJI0
うーん来ないなー
あげ。
359ふら〜り:2007/04/30(月) 22:48:00 ID:/q0+n/3J0
>>サマサさん
そういえば静香ちゃん、裸は頻繁に見られてるのにパンチラは殆どなかったような。新鮮さ
に虚を突かれたか少年。で、あしゅらは見事に期待以上でした。ここまでアホでこれほど強い
と……頼もしいんだかタチ悪いんだか。敵方もまだまだ層が厚そうで、今回も大所帯ですな。

>>さいさん
「寄生獣」でもありましたね。バケモノ同士の戦いを目撃してしまった人間の反応。バケモノ
ならぬ身なれば、恐れ怯え逃げるのが自然で当然。しかし逃げても助からない、どころか
事態が悪化してしまったジュリアン。防人も苦戦してて上司はアレで、希望材料がない……

>>スターダストさん(「とびかげ」か「ひえい」かの世代差。♪お前 護る 盾に なるさ〜♪)
>もっとも戦団でそれを悔やむ女性は斗貴子を筆頭として一人たりともいない
↑ほらやっぱり剛太にふさわしいヒロインは……とか思った矢先、姫君への想いを胸に苦境
から立ち上がる騎士をやってくれました彼。これが出れば負けないでしょうな。攻防において
死角なく、性格も卑怯とは縁遠いから負け・死にフラグが極薄という強敵が相手でも。多分。
360作者の都合により名無しです:2007/05/01(火) 16:53:39 ID:KYm4tO2+0
そろそろ一気に来てもいいはずだけどな
361五十八話「灼熱の翼」:2007/05/01(火) 18:48:39 ID:tJkz9Ium0
「よし、向こうは片付いたぞ!」
「一気にいくのよ、スタン!」
二人の激励を背に受け、力強く跳躍する。

「虎牙破斬!獅子、戦吼!」
短いジャンプで上下と素早く2連続で斬りつけ、着地と同時に闘気を放つ。
2連斬りで怯み、弱みを見せた所に強烈な打撃を与えるこの連撃。
もっていた剣がディムロスであったら幻獣といえども吹き飛ばせたかもしれない。

全ての攻撃に重さがないので、吹っ飛ばしてダウンを奪ったりする戦いは出来ない。
小型の剣というものは切れ味を重点的に強化してあるので、
全身を引き裂いて出血によるダメージを狙わなければいけない。
今まで長剣、斧、槍とある程度の重量があるものしか扱ってこなかったので、
小型剣の使い方を理解できていないのだ。

(ファッツ、何かスタンにアドバイスを・・・。)
「だから大振りじゃダメっていってるでしょうが!剣の先端を当てて少しづつ体力を削るのよ!」
ブルーよりも速く、スタンへと的確な指示を出す。
二人の方がつき合いが長いのだから当然に見えるかもしれないが、
こんな事は普通なら出来る事ではない、旧型とはいっても300年に渡って自分を改造したファッツ。

ちょっとした調べ物程度なら、その驚異的なテクノロジーによって脳に命令が下った瞬間、
ファッツに記憶された全ての情報の中から1秒とかからず検索が完了する。
ルーティの剣も見た感じは曲刀がベースの長剣だが、青龍刀と違い細身なので扱いは小型剣と似てるのだろう。
身体で覚えた技術を瞬時にパートナーに伝えた、コンピューターを上回る速度で。

(オイオイ、このクソ女!俺の仕事とっちまったぜ!)
(厄日から一転したな。ラッキーだぜ、これでポンコツとお喋りしなくて済むんだからな。)
脳内で「ファック」を連呼しているのが聞こえるが当然無視。
362五十八話「灼熱の翼」:2007/05/01(火) 18:50:53 ID:tJkz9Ium0
「所で、さっきの治療用の魔術、残りは何回くらい使えるんだ?お譲ちゃん。」
「人が集中してる時に話しかけない!まぁ、お金さえ貰えれば何回でもやってやるわよ。」
ラファエル達を治療してから動いていない筈なのに、額からは汗が滲み出ている。
おそらく術を使用する為に魔力を溜め続けていたのだろう。

「その様子じゃ、それが最後の術みたいだな。」
「・・・いいからスタンを援護してなさい。」
目を閉じ、全神経を手にしたソーディアン、アトワイトへ集中させる。
はめ込まれたレンズに魔力が集まり、それを所持者がコントロールする事で武器を通して術を放つ。
武器によるが、これは普通の魔術より強力なのだが練度を問われる。

自分の体の中に魔力を取り込める体質であれば、肉体を使えば比較的だが容易に操れる。
だが、自分の神経の通っていない武器で魔術を使うのだ、構造を理解したり、
何度となく実践して身につけなければ成功する事は無い。
しかも、ソーディアンには『感情』がある。
心を通わせなければ少し切れ味がいいだけの平凡な剣である。

《いいわよ、ルーティ。いつも以上に集中出来てるわ。》
ルーティの頭に妙齢の女性の声が響き渡る。
その声は母の様な温かさと、女性としての魅力を兼ね備えた天使の様な声だった。
声の主、彼女が知能を持つ剣、絶対零度の冷気と母胎のように暖かな癒しの水の力を持ったソーディアン。
「アトワイト?久々にアンタの声聞いたわね。今までどうしてたの?」
《あら、そんな事気にしてていいの?スタンさんを助けなきゃ。》

美しい獣が殺意に満ちた裁きの雷をスタンへと向ける。
だが、殺意は通じる事は無かった。
ブルーが電撃を内部へと帯電させる仕組みを持たせた紫電は、
切れ味では本物の達人が削り出したものに及ばないかもしれないが、電力と雷属性対策を完全と成していた。

「なるほど、案外扱いやすいんだなこれ。」
段々と扱いに慣れ始めるスタン、元々戦士としての素質が高い上に扱いやすいとされる片手剣。
落ち着いた環境で戦っていればもっと速く慣れていたに違いない。
363五十八話「灼熱の翼」:2007/05/01(火) 18:53:22 ID:tJkz9Ium0
だが、厳しい戦いの最中でしか見えない物もある。
ディムロスがあれば如何に幻獣キリンといってもここまで苦戦することはない。
一匹であればソーディアンが二本もあれば片づけられる。
しかし、今はディムロスを手にしていない。
本人の力のみで戦う時に、相手との実力差が開いていると起こりうること。
それは生きる術を『閃く』ことである。

「でえりゃあっ!」
普段と変わらない、変化があるとすれば武器だけだった。
何気ない一撃、アドバイスを参考に切り続けていただけ。
この攻撃を終えたら回避に移るべき筈だったのに、体は自然と前へと動く。
頭で考える事を全て無視して体がスタンに命令する ″飛びあがれ″ と。

「シィット!空中じゃ身動きがとれねぇ!」
「急いで、アトワイト!」
幻獣の嘶きと共に天空から死を運ぶ光の雨が降り注ぎスタンを打つ。
真上に落ちる雷は防げても、右や左に少しずれた雷がほぼ同時に落とされる。
幾ら紫電が避雷針の役割を受け持っているとはいえ、全ての雷を引き寄せられる訳ではない。
そうなれば幾つかの雷がスタンの生身の肉体に直撃してしまう。
「ううおおおおおおおおっ!」

雷を一つ、紫電に受け止める。
雷を二つ、紫電が中に蓄える。
雷を三つ、紫電から溢れ出る。

どうみても限界だった、しかし溢れた雷は四散する事無く『姿』を持った。
剣から次々と溢れる雷は、あろうことか英雄に『翼』を与えてしまった。
「焼き尽くす!紅蓮の翼の中で!」
剣から雷が溢れていたように、スタンからも闘気が溢れていた。
赤い炎のように燃え盛る闘気が二枚の美しい翼を作り出し、
その翼に剣から飛び散る雷が纏わりつく。
364作者の都合により名無しです:2007/05/01(火) 18:53:29 ID:3LTQn4j20
【テンプレ】
       |
       |
   ぱくっ|
     /V\
    /◎;;;,;,,,,ヽ   そんなエサで
 _ ム::::(,,゚Д゚)::|   俺様が釣られると思ってんのか!!
ヽツ.(ノ:::::::::.:::::::.:..|)     【From】●●板
  ヾソ:::::::::::::::::.:ノ      【2ch歴】●●年
   ` ー U'"U'      【お魚No.】●●●●匹目
            【釣られた回数】●回
          【釣られた時の餌】●●●●●
365五十八話「灼熱の翼」:2007/05/01(火) 18:54:45 ID:tJkz9Ium0
岩石の沸点を上回り、床や天井がみるみるうちに溶けていく。
ルーティの前に立ち、襲い来る熱の盾となる事でその凄まじさを目と体の両方で感じ取る。

「紫電にあんな機能つけてない筈だ、闘気で無理に雷をコントロールしてやがる。
それにしてもとんでもねぇ熱量だぜ・・・ファッツ、計測出来るか?」
(無理いうんじゃねぇよ!ありゃ本物の炎じゃねぇが触れただけで蒸発しちまう!)

全てを焼き尽くす業火の如き闘志、炎のソーディアン。
ディムロスのマスターとして彼以上の人間は存在しない。

そしてもう一つのソーディアン、アトワイトに十分な量の力が溜まった。
《今よ、ルーティ》!
「シャープネス!」
集めていたレンズの力は、荒れ狂う炎を潜り抜けスタンの元に集う。
それは癒しの力でも冷気による攻撃でもなく、『力の増幅』を行う物だった。

回復して力尽きるよりも、スタンを強化する事で戦闘の短縮を試みたのだった。
しかも、それは唯のシャープネスではない。
十分に力を練る事で効果を何倍にも高め、
並の戦士を一撃で鋼鉄を砕ける豪傑に変えるほどに精錬されていた。

雷をも従えた鳳凰の翼を身に纏ったその姿は、
誰かが与える訳でも無く、人々が自然にこう呼ぶだろう【英雄】と。

危険を感じ取ったのか、背を向けて走り出す獣。
だが、鳳凰の怒りから逃れる事は許されなかった。
灼熱に包まれた腕が、触れた者のいない角へと延びる。
近寄る者全てを拒絶する爆炎を帯びた魔手が、神秘的な輝きを持った角を握りつぶす。

激痛に倒れ込む獣を、執拗に追撃する魔手に爆炎ではなく雷を集めて光と成した。
そして、英雄の咆哮が周囲へと響き渡ると同時に、獣の姿は光の彼方へと消えた。
366邪神?:2007/05/01(火) 18:57:05 ID:tJkz9Ium0
グッドゥイーブニング、諸君。飲み会で同席者の全員が絡み酒だった邪神です。(0w0)
あれね、紳士である自分としては酔っ払ってあんな風になりたくないね・・・。
やはりお酒は楽しく優雅にマナーを守って飲むものですな。

〜テイルズ関係な講座〜

虎牙破斬 切り上げから切り下しに繋げる二段切り。テイルズシリーズお馴染みの技。
     シリーズを通して言える事はその使いやすさ。広めの攻撃範囲は、
     大抵の状況下で高い効果を発揮する、コンボの起点としてもオヌヌメ。
     序盤に覚える技だがゲームの性質上、後半でもガンガン使っていける。

獅子戦吼 闘気を相手に叩きつける格闘チックな特技。これまたテイルズお馴染み。
     シリーズによっては一発でボスからダウンを奪うほど強烈。
     リーチは普通の特技に比べるとイマイチだが十分すぎる威力でカバー。

シャープネス またもやテイルズお馴染みの攻撃力アップ術。
       効果の程はシリーズによって違ってくるが、使って損はない支援術。

ナース ここまでくれば言う必要なし。大量の看護婦さんをどこからともなく召喚。
    そして全員の体力を回復してくれる上に、エフェクトがシリーズ毎に違うというこだわりが見える。
    ナムコにはナース好きが多いのだろうか、個人的には触手(ry
367邪神?:2007/05/01(火) 18:58:04 ID:tJkz9Ium0
グッドゥイーブニング、諸君。飲み会で同席者の全員が絡み酒だった邪神です。(0w0)
あれね、紳士である自分としては酔っ払ってあんな風になりたくないね・・・。
やはりお酒は楽しく優雅にマナーを守って飲むものですな。

〜テイルズ関係な講座〜

虎牙破斬 切り上げから切り下しに繋げる二段切り。テイルズシリーズお馴染みの技。
     シリーズを通して言える事はその使いやすさ。広めの攻撃範囲は、
     大抵の状況下で高い効果を発揮する、コンボの起点としてもオヌヌメ。
     序盤に覚える技だがゲームの性質上、後半でもガンガン使っていける。

獅子戦吼 闘気を相手に叩きつける格闘チックな特技。これまたテイルズお馴染み。
     シリーズによっては一発でボスからダウンを奪うほど強烈。
     リーチは普通の特技に比べるとイマイチだが十分すぎる威力でカバー。

シャープネス またもやテイルズお馴染みの攻撃力アップ術。
       効果の程はシリーズによって違ってくるが、使って損はない支援術。

ナース ここまでくれば言う必要なし。大量の看護婦さんをどこからともなく召喚。
    そして全員の体力を回復してくれる上に、エフェクトがシリーズ毎に違うというこだわりが見える。
    ナムコにはナース好きが多いのだろうか、個人的には触手(ry
368邪神?:2007/05/01(火) 19:00:40 ID:tJkz9Ium0

〜感謝〜

>>ふら〜り氏 生野菜の生搾りっすか?逞しいですなぁ・・・。
       今回は銃しか使ってないけど実は遠、近距離の両方得意なブルー。
       おまけに武器製造までついて、いたれりつくせり。
       でもこれもファッツがあってこその能力。
       300年の英知が欲しい・・・。

>>サマサ氏 お久ブリーフですな、語ろうスレ見てきました。
      自分もバイバイさるさんって言われたw
      シコの出番は当分先ですが活躍は多めかも。
      四天王なんて大がかりなイベントに絡んでますし。

>>307氏 スタンは鈍感、ルーティはツンデレ。でもお互いにベタ惚れ。
      んー、プレステ世代の設定じゃないなやはり・・・。
      ナムコは時代を先取りしすぎたw
      逆にブルーは斬新差が足りなかった。
      まぁ作品評価はどうでもいいですな。

>>325氏 >>どんどんキャプテンの影が薄くなる・・w
      いやいやいやいや、ノーノーノーノー。
      愛があれば報われるさ、きっと。
      まぁ話は変わってキャプテンのステータス調査。
      攻略本曰く『力と精神は伸びやすいが愛の成長はイマイチ』
      ・・・ステータスに愛なんてイミフwな物があるのがロマサガの魅力さ。
369邪神?:2007/05/01(火) 19:02:09 ID:tJkz9Ium0
うお、同じ内容が2つ、しかもなぜ1分置いてそんな真似を・・・。
本当にすまない・・・。
370作者の都合により名無しです:2007/05/01(火) 23:50:26 ID:cUM7qmke0
お疲れ様です邪神さん。
ルーティとファッツ、トラブルメーカー同士珍道中になりそうですね。
復活してから好ペースで嬉しい限りです。
完結まで先は長いと思いますがのんびりとがんばってください!
4月20日 影時間

承太郎と月光館学園の生徒らは、影時間にのみ聳える異形の塔、
タルタロスへ足を踏み入れた。

「おお…、中もスゲェな」
「でも、ヤッパ気味悪い…」

順平とゆかりがそれぞれ呟いた。
入った先にあったのは、広い円形のホールとその中央から伸びる階段、
そしてその周りを囲む、ギリシャ調の柱。

「外も外だが、中も中だぜ…」

承太郎は辺りを見回してからポツリと呟いた。
階段の前まで来たところで、美鶴が前に進み出て、こちらに振り返る。

「ここはまだ『エントランス』だ。
今後、タルタロスに挑む時は、ここが攻略の基本となる。
この階段を上がった先の入り口を越えてからが、本格的な迷宮という訳さ。
…宜しいですか?空条先生」

美鶴が確認するように承太郎に視線を投げかけてくる。
承太郎は、黙って頷き、了解の意を示した。
美鶴は納得したように頷き、改めて口を開いた。

「今日はそう深く探索する予定はありません。
時間もありますし、このあたりでお互い自己紹介をしておきましょう。
まず私から。先ほども名乗りましたが、私は桐条美鶴(きりじょう みつる)。
月光館学園、高等部の3年生です。次は…、お前だ、明彦」

そういって美鶴は赤いベストの青年に話を振る。

「俺は真田明彦(さなだ あきひこ)。美鶴と同じく3年です」

真田明彦と名乗った青年はそう言ってから頭を下げた。
それに続いて、帽子を被った髭の青年…、順平が一歩出てくる

「じゃー、次、オレオレ!オレは伊織順平(いおり じゅんぺい)ッス!
先輩たちと同じで、ツキコーに通ってます。
あ、学年はイッコ下の2年っす。ヨロシクお願いしまっす!!」

被っていた帽子を取り、勢いよく頭を下げた。ちなみに帽子の下は坊主だった。
順平の隣に立つ、チョーカーを身に着けた少女が、溜め息を吐いてから口を開いた。

「はぁ〜。なにテンション上げてんのよ、順平。
ええっと、あたしは岳羽ゆかり(たけば ゆかり)です。
順平とそこの彼と一緒で月光館学園2年です。
ホラ、最後、君の番だよ」

ゆかりは顔の半分を前髪で隠した青年に挨拶を促す。

「月光館学園高等部2年、天道阿虎(てんどう あとら)です」

付けていたイヤホンを外して、小さく頭を下げた。
その後、またすぐにイヤホンをしていた。
こういうやつをイヤホンマンと言うらしい、と承太郎は頭のどこかで思った。
承太郎は、全員の顔をゆっくり見た後で、自己紹介を始める。

「俺は空条承太郎。
明日、話があるだろうが、月光館学園で教師をする事になっている。
担当は生物だ。2年と3年の両方で教える事になる。
さて、幾つか質問させてもらうが、構わんな?」

承太郎は、そう言って美鶴を見る。
先のやり取りから彼女が纏め役であろうと見当をつけたからだ。
美鶴は腕を組んだままの姿勢で軽く頷き、質問を促した。
「まず一つ。お前たちは、何の目的を持ってここに来た?」

承太郎の問いに、美鶴は視線を下げ、少しの間考えてから、口を開いた。

「影時間を消す手がかりを掴む為にここに来ました。
我々はこの塔に巣食う『シャドウ』から人々を守る活動をしています。
『シャドウ』というのはこの塔の中にいる化け物の総称です。
シャドウが活動するのは影時間だけです。
シャドウは多種多様な種類がいますが、全てこの塔の中から現れます。
シャドウを生み出し、影時間のみに現れるタルタロス。
影時間の存在と何か関係がある、と考えたわけです」

確かに、両方とも影時間という共通点を持っている。
承太郎は、確かに繋がりがありそうだと思い、頷いて見せた。
次の質問に移ろうとした所で、真田が美鶴を捕まえ、こそこそと後ろに下がっていった。

「おい、明彦、何をする?」

美鶴は急に腕を掴んで、引っ張っていく真田に抗議の声を上げた。
真田は腕を放すと、美鶴の問いには答えず、逆に美鶴に対して詰め寄る。

「何を、じゃないだろう。むしろ、お前が何をやっているんだ。
部外者にペラペラとシャドウの事なんて喋りやがって」

美鶴は小さく溜め息をついてから返答する。

「ふぅ…。お前の言う事も尤もだがな、明彦。
空条先生は影時間に適応している。その証拠に混乱が見られない。
それに考えてもみろ。
普通、赴任してくる教師が、深夜、それも0時前に学校に来ると思うか?
彼も我々と同じく、目的を持ってここに着たんだ。
そんな彼に対して、知らぬ存ぜぬで通しても、また同じような事態になる。
と言うより、我々をマークするだろう」

仕方無さそうに、しかしスラスラと言ってのける美鶴に対して
真田は眉間に皺を寄せ、唸る様に話す。

「『素質』がありそうだから、仲間に引き込んだほうが得策だ。そう言いたいのか?
分からんでもないが、理事長にどう言い訳するつもりだ?」
それに対し美鶴は笑って答えて見せた。

「会議室で、紙面を相手にしているわけじゃない。
現場で、イレギュラーな事態が発生するのは、仕方がない事だ。
現場の指揮を任されているんだから、これ位はいいだろう。
それに。お前だって相談無しに伊織を連れてきた。違うか?」

伊織順平は真田が適性があるのを見つけ、勝手にスカウトしてきたのだ。
うまく切り返されて、何も言えなくなった真田を尻目に、美鶴は承太郎達の方へ戻る。

美鶴が真田に捕まっている間、順平、ゆかり、阿虎の三人が承太郎に近づいてくる。
もっとも、阿虎は付いて来ただけのようだが。

「センセー。今日、理事長と一緒に、高校来てたっしょ?」

「ああ」

そう言って話しかけてきたのは、順平だ。
承太郎は言葉とともに、首をわずかに上下させた。
ゆかりは順平を嗜めるように、口を開く。

「もー、順平!何だってアンタは、誰彼構わず馴れ馴れしいのよ、まったく。
先生なのよ、せ・ん・せ・い。?ソコ、分かってんの?」
それに対し、順平は唇を尖らせて反論した。

「えぇー、いいじゃんよー。多分、これから仲間になるんだし」

「まだ決まってないでしょ?…まぁ、あの人の事だから、仲間に誘っちゃうんだとは思うけど。
結構、強引だからね」

ゆかりは溜め息を吐くように誰に向かってでもなく話した。
承太郎は言葉の後半から、ゆかりの表情が曇るのを見逃さなかった。

「影時間に適応できてるって事は、『素質』アリってことっスよ!
新戦力、期待してますよー!くぅー、これでオレにも後輩が!
…つっても年上だけど。
戦う事になったらバッチリフォローしますから安心してくださいよ!!」

バシッとサムズアップで決める順平に、ゆかりのツッコミが入る。

「…アンタもまだ、実戦未体験でしょーが」

その後2、3、他愛の無い事を話しているうちに、美鶴が戻ってくる。
3人は美鶴と入れ替わるように少し後ろに下がる。

「すみません、お待たせしました」

そう言って承太郎に頭を下げる。

「いや、いい。質問の続きだ。
影時間に立っている棺…、あれはこの時間を認識できない奴らがなる、そう思っていいのか?
それともう一つ、お前たちは、シャドウとやらと戦う術があるのか?」

「はい、棺が現れるあの現象は『象徴化』と呼んでいます。
認識はそれで結構です。
それと、戦う術ですか…」

美鶴はそこで言葉を切ると、腰の辺りに手をやる。
そこには学生服に似つかわしくない拳銃が収められたホルスターが取り付けられていた。
そこからゆっくりと、拳銃を抜き取る。
承太郎が、それについて訊ねようとする前に、
美鶴は自分のこめかみに押し当て、躊躇いなく引き金を引いた。

ガァンッ!!

  『ジャラッ…パリンッ!』

エントランスに銃声が響き渡る。
だが、彼女の仲間たちは少しも動じる様子を見せない。
承太郎は響く銃声に混じり、小さく鎖を引くような音と、ガラスの割れるような音を聞いた気がした。

「これが『戦う術』です」

傷一つない美鶴の側に寄り添うように、甲冑を纏った女性型のヴィジョンが現れる。

「これは…」

『スタンド?』と承太郎が続ける前に、美鶴が説明を始める。

「我々はこのチカラを『ペルソナ能力』と呼んでいます。
自分の心が鎧を纏って形を成した物、と思ってください。
ここにいる全員が、ペルソナ能力者です。

ちなみに私のペルソナの名前は『ペンテシレア』。
氷結とサポート能力に特化しています」

言い終わると同時に、ペンテシレアが姿を消す。
しばし考えると、承太郎は疑問をぶつける。

「氷結とサポート?一人が一つの能力を持っている、という訳ではないのか?」

その問いに、美鶴は首を振って答える。

「いいえ。特化した部分を持つことはありますが、一つだけ、という訳ではありません。
また、ある程度経験を積みますと、力が強化されたり、新たに覚えたりもします。

例えばそこの岳羽ですが、彼女はガル系、風の属性の力と回復の力を使う事ができます。
伊織は力…格闘のスキルとアギ系、炎の力を得意としています。
明彦はジオ系、電撃を得意としていますが、今は怪我の為戦いには参加しておりません。
ちなみに、私の得意とする氷結の力は、ブフ系といいます。
そして天道ですが…彼は少々特異な力を持っていますので、詳しい説明はまたの機会にさせてください」

承太郎はそれを聞き、溜め息をつくように言った。

「やれやれ。まるで、RPGの様だな」

承太郎がプレイした事があるのではない。
杜王町にいる時に、仗助たちがそんな話をしているのを聞いた事があった。

「ふふっ、確かにそうかも知れませんね」

それから美鶴は、自分達が『特別課外活動部』と名乗り、理事長の幾月の元で活動している事、
表向きは普通の部活動だという事、最近急増している無気力症(※)の原因がシャドウにある事、
特別課外活動部(SPECIAL EXTRACURRICULAR EXECUTE SECTER)の頭文字を取って、
『S.E.E.S.』と書いた腕章を全員がしている、と言う事などを承太郎に話した。
ついでに、幾月は影時間に適応しているが、ペルソナは使えない、という事も聞いた。
「…その拳銃のようなものは?」

一通り話を聞いたあとで、承太郎が尋ねる。

「これは『召喚器』です。召喚の詳しい原理は、未だに解明出来ていませんので
説明する事は出来ませんが、これにより安定してペルソナを召喚する事ができます」

承太郎は、小さく頷くと、口元に手を当て、ゆっくりと問いかけた。

「召喚器を使わずに、呼び出した場合は?何か不都合でもあるのか?」

その問いを受けて、美鶴は、神妙な顔で頷く。

「…最悪、『暴走』する危険性があります」

承太郎は、その答えを聞き、口元に手を当てたまま、ペルソナについて考えを纏める。

(スタンドほど出し入れが自由ではなく、暴走の危険も孕むか。
だが、成長性と一個体の持つ多様性には目を見張るものがあるな…

そして、この塔を殆んど攻略していない、という言葉から見るに、
まだまだ成長の可能性があるんだろうな)

深く溜め息をついた。

(それにしても…やれやれ。
どうやら俺は、『高校生』と言うものと、よくよく縁があるようだぜ。
それも10年おきに。どうやら、今回もヘヴィな事になりそうだぜ…)

思えば、自分が高校生の時、その10年後、仗助が高校生の時、
さらにそれから10年後の今、また厄介事が起きている。
それに関わりがあるのは、また高校生だ。
考え込んでいる承太郎に、美鶴が声をかける。

「空条先生。影時間に適応できる者はペルソナを召喚する『素質』があります。
お貸ししますので、試してみてください。

…今、我々は戦力に乏しく、一人でも多く、戦えるものを探しているんです」

そう言って、召喚器を差し出してきた。
承太郎は、差し出した手を、召喚器を掴むほんの手前で、少し止めた。

(二十年前…拘置所で似たような事をやったな。
あの時は実弾を吐き出す代物だったが…。

思えばあれが全ての始まりだったのかも知れんな。
そしてまた、同じ行為で新たな幕開けを告げるか…)

こんな考えが浮かんできて、承太郎はほんの小さく笑った

「ふん…」

どこか懐かしい様子で笑う承太郎を見て、美鶴が怪訝な顔をする。

「どうかされましたか?」

「いや…。なんでもねーぜ」

承太郎は、口元を少し上げるような、小さな笑顔のままで軽く首を振ると、
美鶴に習って、召喚器の銃口をこめかみに押し当てた。

そして、一瞬の間の後、躊躇う事無く、引き金を引く。
エントランスに、銃声が響き渡る。
引き金を引いた瞬間、承太郎は、自身の精神、スタンドに変調を感じた。
鎖つきの楔が打たれ、そのまま引きずり出されそうになる、そんな感覚を覚えた。

(ヤロウ…)

そう言った、『〜される』というような感覚は、承太郎が最も嫌うところである。
身体の内で、引き摺り出そうとするモノを引き千切ろうと、スタンドに力を込める。
その刹那、スタンドを襲っていた感覚は消えた、引き金を引いてから、殆ど一瞬での事だった。

承太郎の側に、何の像も現れない様子を見て、美鶴は、

「…どうやら、駄目なようですね」

と、非常に残念そうな声で言った。

「どうやら、そのようだな」

そう言いながらも、承太郎は考えていた。

(『スタンド』に『ペルソナ』。両方とも精神を拠り所にする能力だ。
大方、勘違いして、引っ張り出そうとしてきたってところだろう。

スタンドが闘争心や、自己防衛の本能が形を持ったものだとするならば…。
ペルソナとやらは、心の奥深い部分が形を持ったものなのかも知れんな。
でなけりゃ、楔を打ち込んで引き摺り出すなんて真似はしなくても済むだろう)

と、予想を立てていた所で、美鶴の声がかかり、思考を中断する。
「…非常に残念ですが仕方ありません。
我々の都合を知っていて、同じ時間を過ごせる大人が見つかった。
それだけでも十分に喜ばしい事ですから」

先程よりか、幾分気を取り直した美鶴に続くように、
次々と承太郎に言葉が投げかけられる。

「教師という立場の仲間がいる、という事はありがたい。
正直、理事長じゃ、なかなか話しにくかったりしますから。
これから、よろしくお願いします。空条先生」

「ペルソナ使いじゃなかったのは残念っスけど、しゃーないっスね。
こんな事してる訳っスから、授業中寝てても見逃してくださいよ?」

「もう…何でそういう事言うかなぁ。あ、これからお願いしますね」

「…よろしく御願いします」

真田、順平、ゆかり、阿虎の順番に声を掛けていった。
一通り終わったあとで、美鶴が指示を出す。

「探索の話に移るぞ。それではメンバーだが…」

なんとなくだが、蚊帳の外の承太郎。
聞いていると、どうやらあの3人組が探索に行き、
怪我をしている真田と、サポート役の美鶴はエントランスに残る事になったようだ。

どうやら、あのイヤホンマン、阿虎がリーダーに選ばれたようだ。
実戦経験者、と言うのが選ばれた理由らしい。

それから、阿虎が片手で扱えそうな剣、順平が日本刀のような長剣、
ゆかりが弓道で使うような弓を持って、迷宮に入っていった。
今日は、ほんの触りだけだったらしく、5分としないうちに、3人が戻ってくる。
エントランスの右手にある、よく判らない装置の力で戻ってこれるのだそうだ。

(まったく…。よく判らんものに頼りすぎだ)

承太郎は少し憮然とした表情で思った。
確かに、ペルソナも、それを呼び出す力も、この迷宮から帰還する力も
すべてが『よく判っていないもの』だ。

そんな承太郎を他所に、順平が興奮したっ表情で喋っている。

「スゲェ、自分の『力』ってのを実感したぜ。マジぶっ飛び?」

そこで、緊張感が途切れたのか、急に疲れた表情になる。

「でも…なんでだ?
なんか、ミョーにカラダがシンドいんスけど…」

そこにゆかりが厭きれたような顔で突っ込みを入れる。

「単なるハシャギ過ぎじゃないの?」

順平は、ゆかりを見て言葉を返す。

「んな事言って…ゆかりッチだって、もろバテ気味じゃんか」

「バテるってか、なんか、息苦しいような…。なにコレ…」

自分を襲っている感覚がはっきりしないのか、困惑した顔で順平に答える。
その二人に、美鶴が、影時間は普通よりも何倍も体力を消耗する、と伝えた。
だが、直に慣れるそうだ。

「しかし・・・、想像以上に行けそうじゃないか。
明彦も、うかうかしてられないな」

心持ち明るい表情で美鶴は言った。

(一階だけでバテてんのにか?このクソ高い塔を上りきるのに何年かかるのやら…)

顔には出さなかったが、心の中でそんな事を思っている、承太郎だった。

「フン、ぬかせ」

真田が不敵な表情で、美鶴に言葉を返したところで、美鶴がこちらに歩いてくる。

「今日はもう引き上げる事にします。詳しい事は、明日にしましょう。
済みませんが、明日、仕事が終わってからで構いませんので、我々の寮までご足労願えませんか?
住所は―――」

と寮の場所を教えてきた、なにやら、作戦本部も兼ねているらしい。
承太郎は、メモを取ると、無言で頷いた。

頷いたのを確認すると、美鶴は仲間のほうへ戻っていく。

「それでは、今日は解散にする。
…疲れたからといって、明日学校を休むなよ?」

その言葉を聞いた面々は、思い思いに話しながら、エントランスを後にしようとする。
だが、その時。まだ、階段に背を向けていない承太郎は、見た。
タルタロスへの入り口から、黒い塊が飛び出してくるのを。

「ガルルルルルッ!」

獰猛な声を上げる黒い塊…シャドウは、S.E.E.S.の五人の背後から飛び掛らんとする。

「何ッ、シャドウ!?」 「しまった!」 「ヤベッ?!」 「キャア!」 「…ッ!!」

銃を引き抜き、押し当て、引き金を引き、攻撃、という流れをこの一瞬で行うのは無理がある。
それに5人のうち3人は疲労してバテている。全員が、”最悪”を想像して、目を閉じそうになる。

だがそこに、いつの間にか現れた、承太郎が5人を守るように立ちはだかる。

『一瞬の間にどうやって』、『ペルソナ使いでもないのに無茶だ』、など考える前に、雄々しい声が響き渡る。
               スター・プラチナ
「おぉぉぉおおおおおッ!『星の白金』ッ!!」

その刹那、シャドウは無数の拳打を受け、宙に溶けるように消滅した。

「…安心しな。もう大丈夫だ」

承太郎が振り返ると、他の一同は、一様に驚いた顔をし、酸欠の金魚のように口をパクパクさせている。
そんな中、一番早く冷静さを取り戻した美鶴が、承太郎の側で佇む像を指差し、質問をする。
388作者の都合により名無しです:2007/05/03(木) 00:56:29 ID:Yz01ZY6W0
キター!

支援
「や…やはり空条先生もペルソナ使い?しかし、先ほどは何故…?」

承太郎の横に立つ、そのヴィジョンは、古代ローマの拳闘士の様な風体で、
宙にたゆたう髪、力強そうな五体、そして精悍な顔立ちをしていた。
何より、朽ちる事のない白金の様な、揺ぎ無い誇りと気高さを感じさせた。

「いいや…」

承太郎は、『ペルソナ使いに間違いない』という周囲の期待を裏切る言葉を吐く。

「俺は…スタンド使いだ」

『スタンド使い』という、耳にした事の無い言葉に、一同は呆気に取られる。
そんな様子を見て承太郎は、

「…やれやれだぜ」

と、帽子のツバを、クイッ、と下げて呟くのだった。

 /l_______ _  _
< To Be continued | |_| |_|
    \l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

※無気力症
無気力症とは、シャドウに精神を食われた人間が陥る症状である。
すべてに対しての活力を失い、日常会話はおろか、誰かの手を借りなければ、生存すら不可能である。
以上投稿終わり。
この前、4日か5日に投稿すると言ったが、…スマン、ありゃ嘘だった。

主人公の名前はペルソナ2の天道連から、天道。
アトラスを文字って、阿虎。

あと承太郎の声は三部ゲーの声。ここは譲れない。
391作者の都合により名無しです:2007/05/03(木) 01:13:11 ID:Yz01ZY6W0
お疲れ様です。
承太郎、最初からパーフェクト超人振りを発揮しててかっこいいですw
ペルソナ使い対スタンド使いか。
どんどんお話の間口が広がりそうな感じですね。
バトルになったらどんな感じになるんだろう?
承太郎以外にもスタンド使いは出るのか?
ディ・モールト楽しみだw
392作者の都合により名無しです:2007/05/03(木) 07:53:22 ID:lxJHpZWk0
お、再開楽しみにしてたんだ。
導入だけどすっげえ面白そう。ゆっくりでもいいんで定期的に続きお願いするよ。
393作者の都合により名無しです:2007/05/03(木) 10:43:36 ID:R0ycQfa20
おお、スタープラチナカッコええ!

しかし承太郎36,7歳なんですね、でも6部のイメージよりは3部外伝だけに3部の頃の姿の方がしっくりきます。
394作者の都合により名無しです:2007/05/03(木) 11:32:04 ID:OduGqX9r0
>キャプテン
ルーティとスタンのコンビは相変わらずいい感じですけど
ファッツがまたいい味を出してますね。
確かブルーはいろんな能力取り込んだり進化したりしたと思ったけど
サルーインに対しての切り札的存在になるんでしょうか?

>未来への意志
まずは本格連載開始おめでとう&ありがとうございます!
承太郎は数多い漫画の主役の中でも俺の理想的なヒーローなので
期待してしまいます。ちょっと年を重ねた承太郎シブいですね。
スタープラチナがペルソナ世界で炸裂するのが楽しみw
395作者の都合により名無しです:2007/05/03(木) 16:24:08 ID:uoYsxXa40
ああ、いいなあ。このSS本当に先が楽しみだ。

希望は三部の頃の承太郎ベースで行ってほしいな。
六部の頃の方がこのSSの承太郎に年齢が近いんだろうけど、
六部の承太郎は微妙に性格ヘタレたし、弱体化も激しかったし。
三部外伝だから、無敵の承太郎でいてほしい。

主役があまりにも強すぎると作者さんは話作り大変でしょうけどねw
ま、ジョジョオタの勝手な希望です。もちろんお好きに書いて下さい。
396作者の都合により名無しです:2007/05/03(木) 18:40:05 ID:kI1Ou2uT0
ジョジョ大好きなだけに楽しみだ>未来への意志
ペルソナ、やったことないけどやってみようかなあ。
397作者の都合により名無しです:2007/05/04(金) 00:17:59 ID:FBWjzA2i0
邪神さんのSS読んで久しぶりにテイルズがやりたくなった
ルーティ、好きだったなあ。
前回はhttp://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/227.html
ゴートさん、保管ありがとうございます。

この感覚は前に一度体験した事がある。

ハルヒがやたらと不機嫌だったあの日。
ベットの上で寝ていたはずなのに、何故か俺とハルヒしかいない世界へ連れて行かれたあの日。

まるで意識だけがそのまま何処かへ移動したかのような・・・、感覚。

決して俺は夢を見ていたわけではない。
でも・・・、もしかしたら夢かもしれない。

そんな事を一日中考えさせられた・・・、あの体験。
今度は見紛う事無く目の前の現実で起きている。

―――長門の言葉と同時にブラックアウトした意識。
あのときの感覚。あのときの体験が今再び。

「こ、ここは・・・。」
俺は取り戻した意識を確認しながら月並みな言葉を呟く。
全く見知らぬ風景―――いや、見知らぬ室内。
どうやら俺達は、ハルヒが創り出した閉鎖空間内に来ている様だ。

「あれは・・・、確か・・・。」
「銀色の鷹のエンブレムですね。そういえば、あれを見ると何か思い出すものが・・・・。」

しかも、その場所には見覚えがあった。
だからといって、そこが決して俺達の世界ではない事も分かっている。

そう、ここは最悪にして最強の秘密結社が住まう―――

「あのう〜、ここってどこでしょうか?」
「現在位置の情報を収集中。周辺の状況、目の前のエンブレムから・・・・。」
「まあまあ皆さん落ち着いて。何、ちょっとショッカー基地にやってきただけですよ。グウたちは。」

―――ショッカー基地なのだから。

「しょ、ショッカー基地!?
確かにあのエンブレムは『見た事があるな〜。』なんて思ったけど・・・。」
「グウちゃんの言っている事は嘘ではない。」
「長門・・・。って、グウちゃんって!」
「本人からそういう様に言われている。コミュニケーション上の問題は見受けられない。」
いやいや、お前の『〜ちゃん』付けは結構レアだと思うぞ。俺は・・・。
「まだ何か?」
「あ〜、もういい。」
とりあえず長門が否定しないところを見ると、ここがショッカー基地だという事実は確かなようだ。
ということは、『本物の怪人』もわんさか居るに違いない。
「あれ〜、この椅子って結構安物なんですね。」
「苦労しているんですね〜。」
そうなると長居は無用だ。さっさとこの場所から移動しなくては。
「みんな!ここは危険だ。早く何処かへ逃げよう。」
観光客のように騒いでいる皆に向かって、俺は一声かける。
当のハルヒが出てこないのも心配だが、今は安全な場所に隠れなければ。
「で、どこに隠れるのだ?」
「えっと・・・、それは安全な場所だよ。」
俺の言葉を聞いて真っ先に反応したのは、今日始めてあったばかりのグウという少女。
コイツのせいで状況が悪化したのは、まさしくブルータス並だ。
「ふむ。それならば、ここから移動した方がよっぽど危険だろう。
幸いこの場所にはグウ達以外は誰も居ない。
寧ろ誰か来るまで移動しない方が得策だと言えんか?」
「む、むう・・・。」
グウの言葉に俺は押し黙る。
確かにコイツの言う事は正しい。
しかし、ここはショッカー基地という、血も涙も無い怪人の巣窟なのだ。

もしも凶悪な怪人がこの部屋に来たら・・・。

「キョン吉よ、そう心配する事も無い。何といってもこの場には長門っちやグウも居る。
余程の事が無い限り大丈夫なはずだ。」
「あっ!そういえばそうだな。反則キャラが二人も・・・。」
本当に俺は何の心配をしていたんだか。
この二人の力を持ってすれば、ショッカー基地すらないことに出きるはず。
とりあえず俺達の身は安全なはずだ。

うむ、これで安全面については確保したと。
そうなると次は・・・。

(う〜ん、今度はこの世界をどうにかしなくてはならないのだが・・・。)

俺はそう考えながら、この場にいる面々を見回す。
やはりこういったことは彼女が適任だろう。
前に閉鎖空間が俺達のいた世界を飲み込もうとした時も、彼女が色々と助言をくれたんだしな。

「なあ長門。お前ならここから元の場所に帰れる方法を知っているよな?」
「分からない。」
「はっ?いや、お前とか・・・・、朝倉涼子もこういった場所を作れるんだろ?」
長門の言葉はいつも簡潔で語数も少ない。
だから聴いた瞬間は一瞬だが『理解』が遅れる。
ようは簡単すぎて理解が出来ない・・・、違うな。
今回の場合は理解したくないんだ。

都合が悪すぎる言葉に・・・。

「この閉鎖空間は確かに涼宮ハルヒの願望によって造られたもの。
閉鎖空間の発生理由として、今回は怪人キョン吉――――つまりアナタに気絶させられた時に
発生した『生理的嫌悪感』から生まれたモノだと彼女の性格から推測できる。
しかし、それが理由だと貴方からこの空間が生まれた説明がつかない。
これが『分からない』点。」

・・・何だ、長門の奴。
『分からない』と言った割には、空間の発生源までわかっているじゃないか。
創られた理由が分かっていれば、長門の言う『分からない』は解消しなくてもいいじゃないか?

例えば・・・そう、ハルヒを満足させればどうにかなるんだろ?
それなのに妙な箇所を『分からない』だなんて。

「では長門さん。涼宮さんは怪人を倒したという満足感を得られれば良いんですね?」
「分からない。」
物凄く的を得ているような古泉の言葉にも、長門は『分からない』の一言で斬って捨てる。
うーむ、一体何が違うんだ?

・・・いや、長門は『分からない』と言っている。
確かに俺や古泉の考察は、この状況とハルヒの能力―――思ったとおりの世界や事象を具現化する力――――
を考えれば普通に出てくることだ。
しかし、これに対する答えが全て『分からない』。
これは俺達の考察が間違っているのでもなく、『正解なのかが分からない』という事では。

それでは、こんな質問はどうだろうか。

「なあ、長門。」
「何。」
「ああ・・・、例えば古泉が言ったとおりハルヒが心底満足したら、俺らは元の世界に帰れるのか?」
ほんの僅かだが、長門の顔付きが変化する。
まるで『二度も三度も同じ答えの質問をするな!』と言わんばかりの顔付きだ。

やっぱりこの問いに対する答えも『分からない』のか?

「帰れない。」
「へっ?」
「全く〜、キョン吉もダメですな〜。」
「な、何がだよ。って、お前!そんな某戦闘員みたいな覆面はどこから。」
「そこのタンスにあったぞ。ほら、キョン吉もグウと一緒に戦闘員・・・、あっ!もう怪人か〜!
スマンスマン。グウったらうっかり者!てへっ!」
グウはそう言って自分の頭を軽く小突く。
いわゆる『うっかりちゃんポーズ』である。

はあ〜・・・、ここらではっきりと言っておくか。

「・・・・ここではっきりと言っておくが、お前がいくら可愛い仕草をしたって全く似合ってないからな。
後、この姿はお前のせいだろ!いい加減さっさと俺の姿を元の人間に戻して欲しいものだがな。」
俺は心底嫌味を込めながらグウに物を言う。

しかし・・・。ここはやはりと言うべきか。
グウの奴は俺の言葉を聞くどころか、古泉達の方を向いて・・・、

「さあさあ、皆さんもグウとご一緒に!『キキィ!キキィ!』」

はあ・・・。まったくコイツの思考回路は良く分からん。
話も噛み合わん。大体コイツは何者なんだ?
俺をツッコミ死させるために天が使わした死神か?

「じゃあ僕たちは帰れないんですか?長門さん。」

そうそう。また話しが脇道にそれてしまった。
早く長門から、『ハルヒを満足させても帰れない理由』を聞かねば。

「な、なあ長門。ハルヒを満足させれば帰れないって理由は・・・・、何でだ?」
「もしも仮に涼宮ハルヒの欲求を昇華させても、彼女がここに居たいという考えが増大すると予想される。
そのため彼女の欲求を迂闊に昇華させると私達のいた世界は消滅。
つまりここが新たな世界になる可能性がある。」
「あれ・・・?そういうことは確か前にも・・・。」
「そう、前と同じ。」

そうだ。そうだった。

前にハルヒが創りだした世界は、退屈を解消したいが為に生み出されたモノだった。
そして、神人という彼女の精神状態の異常から生み出される物体が、実際に彼女自身の目の前に現れ、
如何にも現実離れをしたその様が、彼女を―――ハルヒをその創りだした世界にいたいと思わせた。
その結果、俺らがいた世界は崩壊しかけたんだったな。

ハルヒが心底満足していた、あの時の様子が頭に過(よ)ぎる。
うむ・・・、確かに長門が言うことは最もだ。
この世界でハルヒが満足してしまえば、俺達のいた世界は彼女にとって不必要なワケだしな。

んっ・・、まてよ・・・?
じゃあ、一体どうしたら元の世界に・・・。

「しかし、帰れない可能性が無いわけでもない。」
「お、おい。それはどうやって・・・。」
「ああ、前みたいに・・・ですね。」
俺の言葉を掻き消すように、耳元に古泉のしたり声が響く。
だから俺の顔に自分の顔を近づけるなって・・・。

・・・はい?
『前みたいに』って・・・。

まさか、前にハルヒを元の世界に帰りたいと思わせた・・・・、

『俺はポニーテール萌なんだ。だからあの時の髪型は反則的に似合っていたぞ!』
『あ、あんた何を言って・・・、んぐ!!』

あれ・・・ですか?

「前みたいにって・・・・、お、俺はもうやらんぞ!!あんな事!!」
「何を動揺しているのですか?
でも、いざと言う時はあれくらいのことをして貰わないと・・・。」
「だから『あれ』はもう無理だって!」
俺は必死に両手を振りながら古泉の意見を拒否する。
いくら俺達のいた世界が消滅しようと、出来ない事は出来ないのだ。

―――朝比奈さんが居る前では尚更・・・。

「あのう〜、一体何の話ですか?キョンくんもやたら顔が赤いし・・・。」
「えっ・・!あ、朝比奈さん?」

あ〜、俺達の会話にパニックを起こさなかったのはいいが、まさかここで口を開くとは。
いやいや待て待て。
今はそんなことを考えている場合じゃないぞ。

兎も角!今は俺がハルヒにナニした・・・。
違う!それじゃあ俺が変なことをしたみたいに!

「キョンくん?またどうしたんですか。どんどん顔が赤くなっていますよ。」
「あっ・・・、いや・・・その・・・。違うんです!!俺は何も!!」
不思議そうな表情で覗き込んでくる朝比奈さんに対して、俺は慌てて体裁を取り繕う。
い、いや、別に悪い事はしてないのだがな。
「はあ・・・、そうですか・・・。分かりました。今はそれどころじゃないですもんね。」
これ以上の問答は不毛だと思ったのか、朝比奈さんは俺の言葉に満足しないながらも1歩後って身を引く。
それにしても・・・。そんなに俺の顔は真っ赤だったのか。
自分なりにポーカーフェイスを勤めていたのだが・・・。

ご、ゴホン!まあいい。
とりあえずこの状況を打破しなければ。

「じゃ、じゃあ長門。これからどうする?
やっぱりハルヒが『この世界にいたくない』ように思わせなくちゃいけないのか?」
俺は長門に、今考えられる最善の方法について聞いてみる。
やっぱり複数の視点から見た方が、解決策も見つかりやすいってもんだ。

しかし、そんな俺の考えに長門が返した答えは・・・・。

「考える必要は無い。」
「でも、このままじゃ・・・。」
長門の意外な発言に、俺は肝と一緒に緊張感も抜かれる。
流石に何も考えないという訳にはいかないだろう。
「お〜い。お〜い。」
そして、さらに追い討ちをかけるかのように、グウの奴がニヤケ顔でこちらへやって来た。

「状況を打破しちゃいましたぞ。」

不吉だ・・・。不吉過ぎる!
ったく、グウの奴・・・。今度は一体何をやらかしたんだ?
それよりも、俺の体を早く元に戻して欲しいもんだ。

「隣の部屋に行ったら、グウと同じカッコをした人達が一杯いましたから連れてきました。ちゃら〜ん!」

本当だよ。コイツのおかげで俺は人間じゃなくなくて、蜘蛛男なんかにされたんだからな。
見ろよ!今じゃ、六本も腕があるんだぞ!
これじゃあ目の前にいる戦闘員どもを統べる怪人じゃあ・・・。
「あ・・・、あれ・・・?」
「あ、あの全身タイツの人達は何なんですか〜?」
「未知の生体構造を持った個体が複数出現。観察、内部構造の解析を開始・・・。」
「いや〜、ここがショッカー基地ならばこの状況も至極当然。
うっかりしていましたね。はっはっはっは!」
「笑い事かーーー!!!!」
俺は古泉へのツッコミとは裏腹に、心底肝を冷やしていた。
―――甘く見ていた。
まさか実物の戦闘員が、ここまでの威圧感を兼ね備えているとは思わなかったからだ。
この様子を見ると、いくら長門やグウでも完勝という訳にもいかないだろう。

そうだ。今、俺達の目の前に居るのは、決して長門が創りだした『モドキ』では無く、
暴力でこの世を支配しようとする――――

「キキィ!!キキキィ!!」

本物の・・・・『悪』の軍団・・・・。

――――――――――涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン・3――――――――――
ハルヒの能力によって創り出された世界――――ショッカー基地にやって来た俺達は、
ショッカー軍団の中で一番有名な戦闘員に取り囲まれていた。
その数総勢十数人。
一人一人にまったく個性がなく、その目的の為に命を捨てるその姿は、ある種昔の日本兵を思わせる。

果たして本当に俺達は、コイツ等を相手取って闘えるのか?
さっきはグウの言葉に思わず納得してしまったが、いざ相対してみると威圧感や存在感が圧倒的ではないか。
これが悪の軍団――――ショッカーの末端員なのだから、いくら長門やグウといえど、
無事にここから帰れるとは・・・。

「キキ?キキィ!!」

ま、まあ、言葉だけ聞くと完全に猿であるが・・・。
い、今はそれどころではない。
とりあえず戦闘が行える三人にどうするか尋ねなければ。
「長門!グウ!古泉!どうするんだ。完全に囲まれたぞ。どうするんだ?
それと特にグウ!お前が連れてきたんだから、お前が何とかしろよ!
大丈夫なんだろ?」
「むう〜、まさかここまでとは・・・。グウにもさっぱり。」
おいおい、いきなりそんな台詞をはくなよ。
ここには闘う術を知らない俺や、朝比奈さんだっているんだぞ。
いや、俺は怪人になっているから少しは闘えるのか?
「てっきり戦闘員の声を聞からして、猿回し宜しく戦闘員回しが出来るかと思っていたんだが・・・。
残念無念。あっはっは。」
「めちゃくちゃ嘘っぽい口調で言うな!
それに戦闘員回しなんか出来るかそんなモン!!声繋がりなんて文章で一番分かりづらいわ!」

はっ!しまった。思わず大きな声でツッコんでしまった。
この声で戦闘員達が襲ってこなければいいが・・・。
「本当はこういう風に、火の輪を潜ってもらう予定だったんだが・・・。
いや〜、グウとした事が。失敗失敗〜。」
俺の心配を余所に、グウは自身がやりたかったと豪語する『戦闘員回し』を始める。

それにしても見事な回しっぷりだ。
グウの奴が火の輪をズボンから取り出すと、一目散に一列になって飛び込み始めるんだからな。

ほら〜、戦闘員が一匹〜。戦闘員が二匹〜。
―――って、本当にやってる〜!?

「キキキキィ!!キキィ!」
というか、台詞だけ見たら本物の猿まわしじゃないですかグウさん!!
おい!そこの戦闘員!!小さな声で『あちい・・・。』とか言うな!!

ちょっと!普通に覆面を取らない!

「あ〜、だる・・・。」
「そうだよな〜。時給650円だし。」
「おい、次はお前があの火の輪を潜る番だろ。ズルすんな!」
「え〜、だって『今日のグウさん』ちょっとSなんだもん。」

だるくねえ〜〜!!

あーーー!!
この瞬間、全国の子供の夢は壊れた〜。
ついでにショッカーの現状が垣間見れた〜。

「まあまあ、今日はこれで上がりだから!さあ!グウの出す輪を潜るのだ〜!」
「だからお前は何もんだーー!!それに『今日のグウさん』って何?
ちょっとSって、いつもはMか!!
それにあれか?お前はちょっとしたショッカーの偉い人か!?
微妙に最後まで死なない幹部とか、実は主人公の妹でした的存在か!!
そ・れ・と・も!真のラスボスは人間だ!とかいう、自称世界を救うためにやってました系かーー!!」
「キョンくん・・・。」
「ふええ〜、キョンくん・・・。」
「怪人キョン吉の血圧が200を突破。顔色は青以上の点から、30分以上の休憩を要請する。」
「ガッテム!!」

はあ・・・。はあ・・・。
ヤバイ、ヤバイぞこれは。
このままでは俺は『ツッコミ死』という危篤な死に方をしてしまう。

勿論、葬式では『昔から面倒見が良くて』・・・。
とか言ってくれるんだろうな?
谷口とか古泉は!

―――はあ・・・、はあ・・・・。
いや、それ以上に現状の方が大問題だ。

だいたい何だ!この戦闘員どもは!
覆面を取ったら全員が全員、職に溢れた普通のおっさんではないか。
俺等はハルヒの創った閉鎖空間に閉じ込められたはずだぞ。
アイツがこの世界で怪人を倒したいが故に、ショッカー軍団がいる世界を願ったのではないか?

だったら何でこんなおっさん達が・・・。
それとも・・・、やっぱりこれは夢か幻。

「なるほど。まったく涼宮さんも面白い方です。」
「ほえ、何がですか?」
「ええ、朝比奈さん。この世界は、確かに涼宮さんが怪人を倒したいが故に創られた世界ですが・・・。」
俺はその言葉を耳に入れた瞬間、普段のキャラも忘れて古泉に詰め寄った。
「古泉!!俺もその話が聞きたい!『ツッコミ死』する前に!!」
「はは・・・、分かりました。それじゃあ・・・。」
いつも笑顔を崩さない古泉が、珍しく俺の言葉で表情を変える。
そんなに俺の顔は酷かったか?
「いえいえ。決してキョンくんの顔が怖かったとか思っていませんよ。」
なあ古泉よ。


――――――――――涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン・4――――――――――
「・・・という事なんでしょう。まったく・・・、涼宮さんらしいというか何というか。」
「じゃ、じゃあ、ここにいる全身タイツの人達は、私達を襲わないんですね。」
「おそらく・・・ですが。まあ、例えそうでも僕や長門さんがいますから。安心してください。
それに怪人のままのキョンくんもいますから。」
「・・・・好きでなったわけじゃないけどな。」
グウが戦闘員どもと戯れている間、俺と朝比奈さんは古泉の『この世界に対する考察』のようなモノを聞いていた。
古泉が話した考察の具体的な内容を要約するとこうだ。

ハルヒは無意識のうちに自分の都合の良い世界が創れる。
しかも自分が望んでいる一般常識とはかけ離れた世界をだ。
しかし、彼女の中にどうしても現実とかけ離れた事を拒否する心がある。

この部分が、目の前にいる戦闘員達を現実の戦闘員―――つまり、テレビの撮影と知っている人間や、
ヒーローショーに出演している人達と置換しているという事らしい。

「キキィ!あちい!!」

・・・まあ、あの様子を見ればそれも信じれるな。

「やっべ、アイツのケツ焦げてね?油が滴ってるよな。」
「今日は強火か。気合を入れなくてはな。
だ・か・ら喋るなって。

・・・・もういい。

今はこの世界をどうにかしないと・・・。
というか、何でハルヒの奴は一向に姿を見せないんだ?
ここはアイツの望んだ世界なんだから、真っ先にこの場に現れて、
戦闘員達をとっちめてもおかしくないんだが・・・。

仕方ない。ここはもう一度長門に相談するか。

さっきは『考える必要は無い』と言われたが、やはり状況が何も変わらない以上は、
相談と論議で事を進めるしかないだろう。

「目標物の構造解析を終了。成分・・・。」
「何だ長門。まだそんなことをやっているのか?どうせ唯の人間だよ。」
俺は長門へ気軽に話しかける。
古泉の仮説を否定する必要が現状に無い以上、こいつらは普通の人間であろう。

だから長門の苦労も徒労に・・・。

「成分は不明。」
「へっ?」
長門の言葉は、俺に驚愕と焦りを感じさせ始める。
「成分って目の前のグウと火の輪潜りをしている戦闘員達の事だろ?」
「そう。」
確か古泉の言う事が正しければ、彼等は唯の人間でしかないはず。
それなのに、対有機生命体ヒューマノイドの長門が分からない物となると・・・。
「ほ、本物の戦闘員・・・。」
「違う。これは涼宮ハルヒが戦闘員という架空の人物を欲した時に、
通常の人間とは別の構造としたいと思った名残り。」
あ〜、俺はどうやってこの言葉を理解すればいいんだ?
本当にコイツの説明は訳が分からん。

だから一体何を言いたいんだ?
「要はアレですか。
さんざん妄想して理想の敵役を創った割には、その正体等は一切考えてなかった。
勿論、構造なんて論外です。
つまり彼女は仮面ライダーのことを大して詳しく無いんですよ。
きっとこの世界が出来たのも、唯単に怪人がいる世界で思いっきり闘いたかった。それだけでしょう。
それにこの場所や戦闘員の『あやふや』具合から見て、彼女が要している知識は僕達と同程度。
テレビで放映していた、番での記憶を頼りに構成されたとしか思えませんね。」
「・・・・そう。」
なるほど。たまに古泉は分かりやすい説明をしてくれる。
少々長たらしいのが玉に傷だが。
ふう〜、これが毎回だったら苦労はしないんだがな。

それにしてもハルヒの奴・・・。
何で仮面ライダーに詳しくないのに、こんな世界なんか望んだんだ?
長門の創った怪人にどんな不満があったんだか。

「でも、これで一歩前進しましたね。さすが長門さんです。」
またか・・・、古泉よ。
何故にお前や長門は、一つの事で十も百も理解できるんだ?
これじゃあ、まるで俺が心底馬鹿みたいじゃないか。

確かに成績では俺が一番下だが・・・。

「そう。これで涼宮ハルヒを呼び寄せる事が出来る。」
次はお前か長門よ。呼び寄せるって何を言っているんだ?
まるで、ちょっとしたランプの精を呼び出す的な言い方は。
「あのう〜、それはどういったことで・・・。」
朝比奈さん。
その役は確かに板についていますが、アイツを呼ぶことは貴方に不幸が降りかかる事とイコールなんですよ。
今は黙っておきましょう。
どうせすぐに分かるから。
「まあ、百聞は一見にしかず。やってみせましょう。さあ、朝比奈さん!
思いっきりセクシーな声で『助けて〜!仮面ライダーハルヒ〜!』と言ってみてください。」
「えっ!私が言うんですか?」
「ああー!なるほど。そういうことか。」
俺は朝比奈さんと古泉の会話を聞くことで、ようやく彼等が言いたい事を理解する。

つまりだ。
ハルヒの奴がさっきから姿を現さないのは、特撮物の王道をやりたいからなんだ。
その一例が怪人退治。
それに今思えば、アイツはキックでの攻撃しかしていない。
ライダーにだってパンチや投げ技があるというのに。

しかし、それも仕方が無いのだろう。
なんたってアイツには、仮面ライダーの知識などほとんどないのだから。
おそらく一般人と同程度の知識しか所有していない。
まあ、これは古泉がさっき言っていたが。

ともかく、アイツが無い知恵を絞って、自分を仮面ライダーとして演出しようとするならば、
やはり王道を進むしか道は無いのだ。
特撮ヒーローの18番ともいえる、朝比奈さんこと『ヒロインのピンチにヒーローが登場』を行うしか。
そして、この部屋には幸いにも蜘蛛男(俺)や戦闘員がいる。

全く・・・、これほどヒーローが出てきそうな状況もないだろう。

唯一つ分からないのは、ハルヒがそんな状況を心底『望んだ理由』だ。
『非日常』を好むアイツの挙動から想像すれば、『唯の気まぐれ』と片付けるのは簡単だが・・・。
「で、でも・・・、『セクシー』にって一体どうやったら・・・。」
古泉の言葉を上手く理解できないのか、朝比奈さんは少し困った顔で頬を赤らめる。
おそらく彼女の脳内では、自分のことをそれほどセクシーな人間だと思っていないのだろう。
しかしながら朝比奈さん。
貴方が悲鳴を一声でも挙げれば、例えロミオでもジュリエットを捨てて、こちらへやって来ますよ。

それくらいセクシーですよ。貴方様は。

「別にそんな気張らないでください。
本当にいつも通りでいいですよ。ほら、涼宮さんにスカートを掻き揚げられた時の様に!」
こ、古泉よ。
確かにその言葉は正しいが、それは酷というものでは。
「む、無理ですよ!!あれはワザと悲鳴をあげているわけではありませんし・・・。」
「そうですね・・・・、じゃあ、キョンくんにスカートを掻き揚げていただきましょう。」
「えっ!」
なっ!この俺が朝比奈さんのスカートをめくるなんて!
したい! いやいや、したくない!
大体そんなことをしなくたって、単純に大声で呼べば良いじゃないか!

「こ、古泉。確かにお前が言う事も一理あるが、それは流石に・・・。
そもそも単純に大声で叫べば来るだろ?」

よしよし。上手く心の内を隠せたぞ。
そうだ!決して、ハルヒを呼ぶために朝比奈さんのスカートをめくるなんて男として・・・。

「いえっ!何をおっしゃるのですか!!」
古泉は俺のまともな意見に対して、物凄い勢いで異論を入れる。
こ、コイツがこんなテンションなのは初めてだな。
「どこの世界のヒーローが本当の悲鳴と嘘の悲鳴が聞き分けられないのでしょうか!
きっと仮面ライダーハルヒも、本当の美少女の悲鳴を求めているはずです!」
「どこにいるんだよ。そんなヒーロー。
開始一話目にPTAの抗議で降板してしまえ。
それにヒーローを呼ぶんだったら、ヒロインのピンチで十分じゃないか。」
「な、なるほど。じゃあ、蜘蛛男姿のキョンくんが朝比奈さんを抱きしめてあんな事やこんな事・・・。」
「そんなことはダメに決まって・・・、ってお前!キャラはどうした!!一種の作画崩壊か!!」
全く・・・。何を考えているんだ古泉の奴。
そんなことを一瞬でもやってみろ!俺は変態ロードをまっしぐらだぞ!

はあ・・、早いこと朝比奈さんにハルヒを呼んで貰わなくては。

「朝比奈さん。とりあえず古泉は無視してハルヒの奴を呼んでみましょう。」
「そ、そうですね・・・。スカートはまた別の機会に・・・。」
雄としては大変嬉しい申し出ですが、そんな機会は二度と無いように祈っています。
勿論、人として。
「じゃあ、いきますね。」
朝比奈さんは大きく深呼吸を二回する。
そして次の瞬間、彼女はありったけの声でハルヒを――――仮面ライダーハルヒを呼んだ!!

「た、助けて〜〜!!仮面ライダーハルヒ〜〜〜!!!」

「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」

朝比奈さんなりに思いっきり叫んだのであろう。
しかしながら、か細く可愛らしいその声は、どう考えてもこの部屋の半分にも伝わらない大きさだ。
現に、俺達とは少し離れているグウの耳には聞こえていないようだし。

これじゃあ、とてもとてもハルヒの耳には・・・。

「みくるちゃん!呼んだ!?」
「天井裏!?っていうか、この部屋に居たのか!!」

俺は初めて見た。
ヒロインのピンチに、元からその部屋に居たヒーローを。
しかも天井裏って・・・。

「ふふ・・・。相手はさっきの蜘蛛男ね!!この恨み、一兆倍にして返してあげるわ!!」
「おい!ヒーローが私怨で闘うな!って、違う!
俺は蜘蛛男じゃなく・・・・。もう!!長門!どうする?」
「知らない。」
そんな!この場に来て無責任な。
・・・・そ、それにハルヒを呼んだからって、俺はどうすればいいんだ?
『この世界に居たくないと思わせる方法』も考えてないし・・・。

「俺・・・どうする?」
「さあ〜、知りませんな〜。」
「グウは黙ってろ!大体、いつの間にこっちへ来たんだ!!」
「無論徒歩ですよ。全くキョン吉は訳の分からない事を・・・。」

こうして、ハルヒと俺の闘いが始まるのだった。
やれやれ・・・。


――――――――――涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン・5――――――――――
ヒロインの悲鳴を聞きつけて、颯爽と現れた自称仮面ライダーこと涼宮ハルヒ。
勿論彼女が変身など出来るはずも無く、学校の制服のままで登場だ。

そして、彼女と闘うのは俺feat.蜘蛛の着ぐるみ。
しかしその正体は、グウにいつの間に改造された本物の怪人である。
当然、本物というだけあって、一般人一人なら簡単に葬れるくらい・・・。

「ぐはっ!!はあはあ・・・、やるわね蜘蛛男!!」
「は〜っはっはっは!どうだ、仮面ライダーハルヒ!
って、おい!!俺は何もしてないぞ!!」
一体何をやってんだコイツは?
いきなり天井裏から出てきたと思ったら、今度は一人で倒れるなんて。
「仕方ないでしょ!アンタがカメラ目線で独り言をずっと言ってんだもん!
だからアタシが状況を進めてやったのよ!
全く・・・、キョンみたいな事をするんだから。」
「だから俺はそのキョンだっつーの!!」
「はん!その手には乗らないわよ!『一見知り合いのような格好をして、こちらの油断を誘い攻撃する。』
こんな常套手に乗るアタシではないわ!!
そう!私は敵の策略に全く引っかからず、ただひたすら敵を撲殺するヒーローを目指しているのよ!
すごいでしょ!」

捨ててしまえ。そんな理想像。

大体、それなら別にピンチを演出しなくてもいいんじゃないのか?
例えば怪人が現れた瞬間に、自衛隊の全武力を総動員して射殺するとか。
もしくは予め決闘場を指定しておいて、地雷源に誘き寄せるとか。
ひたすら敵を倒すヒーローならそれくらい目指さないと。

「何よその目は!!どうせ『怪人が現れた瞬間に自衛隊の全武力を総動員して射殺する』とか、
『予め決闘場を指定しておいて実は地雷原だった』とか考えてるんでしょ!
ふう・・・。底が浅いわね。」
「な、なんだよ!!だったらお前はどうやってその目標を目指すんだよ!」
俺の急所を一気に貫くハルヒの言葉。
コイツ・・・、まさか俺の心を読んでいるんじゃないだろうな?
「ふふん!そうね〜、私だったらこうやってアンタをぶっ飛ばすわよ!へ〜んしん!!」
ハルヒは一声そう叫ぶと、胸から趣味の悪いサングラスを取り出して自分の顔にかける。
サングラス・・・?
ああ、ウルトラマンセブンが変身する時は、サングラスのような眼鏡をかけて・・・。

―――そうか!ハルヒの奴は巨大化をするのか!
確かに、今まで巨大化して怪人を踏み潰したライダーの話は聞いた事がない。
JとかZOとかが似たような事をしたかもしれないが、サングラスをかけて巨大化するのは彼女が始めてだ。
まさに新感覚ヒーローだ。二十一世紀に旋風を巻き起こすぞ!

しかもその最初の犠牲者が俺!
全くもって光栄な話。・・・って、冗談じゃない!!
ここは何としても巨大化を防がねば。

「待て!そのサングラスをかけてはいけない!それに巨大化はウルトラマンの特権だぞ!!
円谷プロに業界的圧力をかけられて、二期の製作が断念しても知らないぞ俺は!!」
「うっさいわね!今時巨大化しないヒーローなんて古いのよ!
今はこれよこれ!巨大化して小さな怪人を踏み潰す!
なんて効率のいい倒し方かしら〜。うおおっ!体が急に!!」
俺の言葉に全く耳を貸さないハルヒは、サングラスの効力によって急速に巨大化していく。
―――数秒後。
彼女はあっさりと天井を突き破る大きさまで巨大化した。
「うわっ!天井が崩れ始め・・・。」
俺は周囲の様子を確認しながら、崩れ始めた天井の破片を必死で避ける。
ったく!このままでは全員ショッカー基地に埋もれてしまう。

ともかく、今はみんなの安全を・・・。

「ふええ〜、キョンくん助けてくださ〜い!」
背後から聞こえる愛らしい声。
しかし、俺はその声を聴いた途端、悪寒が体中を駆け抜けた。
「ま、まさか・・・。」
そして嫌な予感と共に声の方へ振り向くと、そこには瓦礫に足を取られた朝比奈さんが!
「朝比奈さん!今助けます!」
俺は反射的に彼女の元へ駆け出す。
早く!早く助けなければ!!
「空間座標を固定・・・、物質の構成を解除。」
「あ・・・れ・・・?瓦礫が・・・。長門さん・・・?」
偶然にも彼女の近くにいた長門が、抑揚のない声で何かを高速で紡ぐと、
瓦礫は一瞬にしてこの場から消えうせる。

おおっ!長門。さすがだ!GJと書いてジージェーだ!
これで朝比奈さんは助かった!後はここから脱出を。

「キョンくん。残念なお知らせです。」
「今度はお前か古泉!用件は早くしろ!ハルヒが巨大化したせいで、この場所が崩れるぞ!」
俺は声を荒げて古泉の方へ振り向く。
如何せん急いでいるものだから、多少の言葉の強さにはご理解いただきたい。
「では完結に・・・。え〜と・・・、ここから出られないようです。」
「な、なにーーー!!本当か!古泉。」
「ええ。
きっと涼宮さんは、ショッカー基地の中でもテレビで放映されると決まって映る、
幹部たちが集うメインルームしか知らなかったのでしょう。
その証拠にキョンくん。
彼女が巨大化することによって開けられた、あの天井の穴を見てください。」
俺は古泉の言葉に従って、ハルヒが開けた天井の穴を見る。
すると中身が見えるはずの天井の内部は、まるで黒一色の混沌した空間に変化していた。
「ほら。彼女は天井裏に潜んでいたはずなのに、その天井の中身が見受けられません。
恐らくこの世界自体が『あやふや』なのでしょう。
そう、先程の戦闘員さんの構造と同じ理由です。
彼女は仮面ライダーのことを大して知らない。
その付け焼刃な知識で生まれた、いい加減な世界なんですよ。ここは。」
「付け焼刃って・・・、古泉!俺達は一体どうすればいいんだ!
このままじゃあ、逃げることも隠れる事も出来ないじゃないか!」
俺はこの事実を知ると同時に、自身が置かれてる状況の絶望さ加減を理解する。
確かに長門やグウが居る限り、俺以外の安全は保障されているかもしれない。
しかしだ。怪人と勘違いされている俺はどうなのだろう。

きっとアイツの事だ。巨大化し終わったら、真っ先に俺を踏み潰してくるはず。
でも、そのとき関係ない皆にまで被害が及んだら・・・。

ヤバイ。ヤバイぞ。
俺もどうにか巨大化して、ハルヒの意識をこっちに向けさせなければ。
って、どうやって巨大化すればいいんだ?

―――はあ・・・、全く・・。
これじゃあ状況の進展はおろか、益々危険な状況になっているじゃないか!

本当に俺達は元の世界に帰れるのだろうか?

「そんなに悩まないで。安心してくださいキョンくん。」
俺が一人で状況を打破しようと模索している時に、再度古泉が話しかけてくる。
「どうした!何か策でも・・・。」
「いえ、貴方はきっと長門さんの力で僕達は無事。
怪人姿の貴方は涼宮さんにやられる。それを変えようと悩んでいると思うんですが・・・。」
全く相変わらず前置きが長い奴だ。
「早く結論を言ってくれ!ハルヒの巨大化がそろそろ終わりそうだぞ。」
「分かりました。では・・・、ゴホン。キョンくんにはこの方を紹介しましょう。」
「なっ!お、お前は!!」
古泉の後ろから、一つのシュルエットが意気揚々と姿を現す。

そう、それは・・・・。

「ほっほっほ。怪人研究家のグウです。」
「まんまグウかよ!!普通はそこで変装とか何かするだろうが!!」
「ほう・・・、ではちょっと着替えを。」
「そんな暇は無い!!大体お前はいつもいつも状況を荒らして!!」
俺は息を荒立ててグウに怒鳴り散らす。
今はお前の遊びに付き合っている暇は無いんだ。

―――無視をさせてもらうぞ。

「いつもいつもって、お前に会ったのは今日が初めてだが。」
「ぬっ・・・、そんなことはどうでもいいんだよ!!
ともかく俺はこの状況をどうにかしなくちゃいけないんだよ!じゃあな!」
「たわけ!!」
俺がグウに見切りをつけて背中を向けた瞬間、本日二回目の水平チョップが俺の頭に炸裂する。
「つつっ・・・、いってえ〜な!!何すんだよグウ!!」
「ふむ、どうみてもハレに似ているなお前は。」
「だ、誰だよ。ハレって・・・。」
「グウの友達だ。」
気の毒な奴だな・・・、心の底から同情するぜ。
そのハレって奴には。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「うっくしゅ!!」
「どうしたのハレ?」
「いや、なんか僕の噂をしているような・・・。」

――――――――――――――――――――――――――――――――

「何かまた変な回想が入ったぞ。」
「気にするな。ともかくお前はそいつに似ている。
何もかも自分で抱え込んで被害者面して騒ぐあたりがな。」
「ぐっ・・・。」
グウの指摘が俺の心を小さく抉(えぐ)る。

確かにハルヒと出会ってからの俺の日常は、間違いなく非日常となった。
彼女に翻弄。そして奔走させられる毎日は夢で無く現実。
しかし、それは辛いが楽しいと感じる事もあった。

まあ、確かに彼女の起こす騒動の後始末を、俺自身の手だけで解決しようとした事は何度もあったが・・・。

「もっとグウ達を信用しろ。キョン吉。」
「グウ・・・。」
「グウと長門っちでこの場をどうにかすればいいのだろう。」
「で、出来るのか!?」
俺はグウの言葉に光明を見た気がした。
本当にコイツはとんでもなく鬱陶しく、つかみ所の無い奴だが、妙な力は使える。
そもそも俺の姿を怪人にしたのはコイツだしな。

ならば・・・、期待できる!!

「当たり前だ。ハルハルが巨大化したのだから、グウ達も巨大化すればおあいこだ。
とりあえずは時間稼ぎが出来る。」
「た、確かに。」
「しかもあっちは一人で、こっちはグウを入れて・・・。」
グウはこの場にいる人数を数え始める。
一応明確にしておくが、この場にいるのは俺を入れて、朝比奈さん・長門・古泉・グウ・戦闘員十名。
計15人だ。
「人間が3人で後は未知の生物12匹だな。」
「嫌な言い方するな!!
それに人間の3人って俺と朝比奈さんと長門と古泉、そしてお前で五人だろうが!」
「ノンノン。長門っちは人間じゃないし、キョン吉は怪人だから数には入らないのですよ。
まったくもう〜。」
グウはそう言いながら、くたびれた様子で両腕と首を左右に振る。
いわゆる『しょうがない奴だな〜』といったポーズだ。

それにしても長門の正体を既に見抜いているとは・・・。
いや、そもそも長門に呼ばれてここに来たんだよな。

これなら尚更のこと期待できる!

「分かった分かった!分かったから早いとこ俺らを巨大化させてくれ!」
「えっ〜、本当に分かった〜?」
ぐっ・・・、しつこいヤツめ。
コイツは今の状況を本当に理解しているのか?
崩れ落ちてくる天井を、長門が食い止めていなければ今頃・・・・。
「分かったから早く!!」
「しょうがない。ではこのビックライトで・・・。」

グウはポケットから懐中電灯みたいのを取り出し・・・、

「っておい!!お前それはヤバイだろ!!せめて如意光にした方が・・・。」
「ふう〜、いちいち文句の多い奴だ。ならばこれはどうだ。
ほらっ!『幻覚の世界では大きくなる薬』〜!」
「何か露骨にヤバ〜イ!!や、やっぱりそのビックライト・・・、で良いです。」
「ふん・・・、まあいい。今はキョン吉をからかっている場合じゃないしな。
いくぞ!!まずはお望みどおりキョン吉、お前からだ。ビックライト〜!!」
やっぱり俺をからかっていたのか。
しかしもう腹も立たん。今はこのライトの効果で巨大化するのを・・・・。

ん・・・・?
何だか周りの風景が段々小さく・・・・。

「しまった。間違えてキョン吉にスモールライトの光をかけちゃった。テヘッ!」
『テヘッ!』じゃねえ〜〜!!
ていうか、みんなが滅茶苦茶でっかい・・・。
あ、朝比奈さんのパンツが丸見え。

しかし黒では・・・・。
「きゃああ〜〜!!キョンくんのエッチ!!」
小さくなった俺の視線に気づいたのか、朝比奈さんは顔を真っ赤にしながら足をジタバタさせる。
あ、朝比奈さん!!そんなに暴れたら俺が潰れる!!

そうだ!グウだ!
グウに元に戻してもらって・・・。

「グウ!!早くもとに戻して・・・・。」
「えっ?このままが良い?もう蟻のように小さくなって何も考えたくないって。
仕方が無い。キョン吉がそこまで言うならば、グウは最早何も言わん。
長門っちや戦闘員達がハルハルと闘ってくれるにように交渉してくる。」
「おい!そうじゃねえだろ!俺を元に戻せって!おい!聞いてるのか?グウ〜〜!!」
俺の言葉を無視して、グウは長門達の方へ歩みだす。
だいたい長門達が闘うって、ハルヒは元々俺を狙ってるんだぞ。
それに元の世界に戻す方法だってまだ・・・。

ま、まさか!?グウはこの世界を元に戻し方を思いついたのか?
そうだ。そうに違いない。

その案の中では、俺の存在が邪魔だってことだ。
それならば納得がいく。

いや、そうなってくれ!グウよ!頼んだぞ!!

「じゃあ、長門っちがゴーグルレッド。みくみくがゴーグルブルー。
で、そこのスマイリーがジパンでどうだ。」
「一人だけジャンルがちが〜う!!」

期待した俺が損した。
やっぱりグウの奴は唯単に遊んでいるだけなんだな。

はあ・・・、本当に神がこの世にいるならば、是非ともこれを夢にしていただきたいものだ。

「キョン吉よ。そう絶望するでない。これはほんの戯れ。
ちょっとした冗談だ。では行くぞ皆の衆。」
「は、はい!」
「いつでもどうぞ。」
「いい。」
グウの言葉に、皆が了解の旨を伝える。
ん・・・?そういえば、このままだと皆がハルヒと闘う事になるのか?
おいおい、それは流石にヤバイだろ。
長門や古泉はともかくとして、朝比奈さんはどう見てもアイツの餌食に・・・。
「これからグウのビックライトで巨大化した後、長門っちが今から作る強化スーツを着て、
仮面ライダーセブンハルハルとガチンコ対決だ!」
「おいグウ!!
朝比奈さん達にそんなことをさせて、怪我でもしたらどうするんだ!
巨大化させるのはいいが、絶対闘わせるなよ!いいな!!」
「ふう・・・。何だかハエが五月蝿いですな〜。ほ〜れ!」
グウは突然右足を宙に上げると、徐に俺の頭上で静止させる。
「ん・・・?」
そして、満面の笑顔でおもいっきり振り下ろした!!
「どすこ〜い!!」
ようは俺を潰しに来たのである。
「うわっ!!」
俺は寸前のところで転がるようにして避ける。
はっきり言って、この怪人の身体能力がなければ死んでいたところだ。

本当に・・・、まじで死んじゃう五秒前だったぞ。

ふう、それにしてもコイツ・・・、まさか俺を殺す気では。
・・・それとも、今のは唯の冗談。
いや、冗談でも笑えないんだが。

「ちっ・・。」
「今、『ちっ』って言ったよね!俺を踏む気だったよね!!
本気と書いてマジだったよね!?」
「じゃあ、ビックライトを照射するぞ〜!準備はいいか〜?」
くう〜〜!グウの奴はどこまで俺を無視する気なんだ?
それにいくらこの状況でも、ハルヒと闘うなんて皆がやろうとするはずが・・・、

「これしか方法がないんだったら・・・。私、やります!」
へっ?朝比奈さん?

「仕方ないですね。なんとか涼宮さんを大人しくさせて、元の世界に戻る方法を考えなくては。」
いやいや、その考えは半分正しくて、半分間違っていると思うぞ。古泉よ。

「了解・・・。」
それだけか長門よ!!
一体皆はどうしたんだ?
そんなに闘いたいのか、ハルヒの奴と!

「じゃあ、いくぞ〜!ビックライ・・・。」
「どうしたの!怪人キョン吉!姿を現しなさい!!」
正にグウがビックライトで皆を巨大化させようとした瞬間。
上空からハルヒの声が辺りを劈いた。
どうやら彼女の巨大化は無事完了。
つまり、仮面ライダーセブンハルヒが誕生したというワケだ。

これは一刻の猶予も・・・、ここはやはり怪人の力を得た俺が!!

「グウよ!!早く俺を巨大化してくれ!
そして皆は俺がハルヒと闘っている間に、この世界を元の世界に戻す方法を!!」
「む、悪が巨大化を完了したようだ!もう一度いくぞ皆の衆!!ビックライト〜。」
グウは俺の言葉を華麗に無視して、ビックライトのスイッチを躊躇無く押す。
――――ビックライトの先端から照射される光。
それは長門達を包み込むよう照らすと、彼女達の身長を物理法則など知らぬ存ぜぬな速度で増大させた。

「お、おっきくなってる・・・。」
「凄いですね〜。」
「身長の巨大化を確認。これより戦闘スーツを構成する。」

お〜、本当に皆が大きく・・・って!

皆が無事に大きくなったのは良いけれど、俺は一体どうなるんだ?
この小さいなりのままでは、崩れゆくショッカー基地と運命を共にしてまう。
肝心のグウは当てになるはずも無いし・・・。

「ほれ。キョン吉はグウと一緒にいろ。」
「ぐ、グウ!?」
グウは小さくなった俺の体を、自身が着ているマフラーの中に置く。

・・・まさか、グウが小さくなった俺を拾ってくれるとは。
いや、小さくなったのはグウのせいだが。

「ともかくここで見ていろ。グウが見事にお前達を元の世界に戻してやる。」
「グウ・・・。」

よかった・・・。
グウは元の世界に戻る方法が分かったんだな。
今まで変なツッコミばっかり入れてゴメン。

―――だからグウ。

「頑張ってくれよな。俺はここにいる事しか出来ないけど応援してるぞ!」
「任せておけキョン吉。お前がツッコミ死するくらいの世にも面白いものを見せてやる。
今まで見たことの無いような闘いに追加して、著作権を全く無視した放送コードぎりぎりの・・・。」

グウは半笑いの表情を作りながら、親指を誇らしげに立てる。
う〜む。やっぱり俺がどうにかしなくては。


――――――――――涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン・6――――――――――
あと残り半分あるのですが、どう考えても残りバイトが足りないので次スレで投稿します。
前回の返礼は、そのときにまとめて書きたいと思います。

では失礼・・・。
433作者の都合により名無しです:2007/05/04(金) 15:50:37 ID:gBH4SN/k0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart48【創作】


元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1175563943/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss



【作品を読んでいる皆様へ】

去年までの作品の保管はバレ氏のまとめサイトに(一部、今年1月6日まで) 
今年からの作品の保管はゴート氏のまとめサイトに保管されております。
434作者の都合により名無しです:2007/05/04(金) 15:51:15 ID:gBH4SN/k0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
上・鬼と人とのワルツ 下・仮面奈良ダー カブト (鬼平氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/258.html
Der Freischuts〜狩人達の宴〜 (ハシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/hasi/03-01.htm
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦(スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html
『絶対、大丈夫』  (白書氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/85.html
435作者の都合により名無しです:2007/05/04(金) 15:52:02 ID:gBH4SN/k0
上・ヴィクテム・レッド 下・シュガーハート&ヴァニラソウル (ハロイ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
ドラえもん のび太の新説桃太郎伝(サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
狂った世界で (proxy氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/181.html  
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝 未来への意志 (名無しさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html
ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア (店長氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/78.html
ブルーグラード外伝 (名無しさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/215.html
カシオスの冒険 (名無しさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/221.html
涼宮ハルヒの正義 (名無しさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/232.html
傷跡の記憶 (流花さん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/246.html
その名はキャプテン・・・ (邪神?さん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
436ハイデッカ:2007/05/04(金) 15:58:19 ID:gBH4SN/k0
大体、あってると思うけどちょっと時間が最近なくて推敲足りなかった。
氏がさんになってたりとか、些細なミスだけど。
流花さんは読み切りだと思うけど、短編で続くかも知れないから
入れておきました。連載もして欲しいしね。

しばらく忙しくてテンプレが遅くてすまん。
430KBあたりでやるべきだった。誰かスレ立てて下さい。立てられなかった。



しぇきさん、ハルヒ知らないけどしぇきさんの作風は昔から好きでした。
この作品は次で終わるみたいですが、またちょこちょこ書いて下さいね。
さいさんもハルヒ気に入ってるみたいだし、読んでみようかなあ。
437作者の都合により名無しです:2007/05/04(金) 17:12:17 ID:PJcKt63h0
新スレ立てておきました。
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1178266038/l50
438作者の都合により名無しです:2007/05/06(日) 00:14:03 ID:P8NX3e8/0
保守
439作者の都合により名無しです
保守