「でぃ、お」
自身が流した涙には気づかぬまま、綾は主の登場に感情を落ち着かせつつあった。
「DIO…………ッ!!」
反比例して感情を高ぶらせたのは、ケンシロウ。
「久しいな、ケンシロウ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、と不穏な空気が周囲を包む。
吸血鬼二人と傷だらけの男が一人、一触即発な雰囲気の中で、いがみ合うでも争うでもなく、ただ視線を交差させている。
これから起こり得るであろう展開は、当事者達にしか分からない。
だが、進む道は一つ。
ケンシロウとDIO――二者が顔を合わせた時点で、終息までの一本道は形成されたのだ。
「予定通り……あまりにも予定通りの筋書きで安心したぞ、ケンシロウ。
お前は必ず、再度このDIOの前に立ち塞がる……例え死に掛けの致命傷を負っていたとしてもだ。
事実、お前はウォーズマンとの戦闘を終えた直後であるにも関わらず、このDIOを追ってここまで来た。
ククク……それほどまでに憎いか? それほどまでに危機感を持っているというのか? なぁケンシロウ――」
「御託はいい。言ったはずだ。貴様は、この俺が倒すと」
二人の激突は、脇を逸れる出来ない絶対直線の一本道を進むかの如く回避不能。
悪を絶対に許さぬケンシロウと、自らを悪と自覚し、帝王を名乗るまでの誇りを持つDIO。
共存の道はない。あるのは、衝突の道が一つ。
進むのは、必然。綾という架け橋が、二人をこの道に誘ったのだ。
「御苦労、AYA。お前はそこで見ているがいい……このDIOと、『ザ・ワールド』が持つ絶対的な力を。
マミーの時などとは比べ物にならないほどの、極上の安心感を与えてやろう」
DIOは綾に労いの言葉をかけると、自ら前面に躍り出てケンシロウと対峙した。
――これで、綾の目的は達成された。
あとは全て、DIOに任せておけばいい。
ケンシロウの、綾が信じて疑わなかった『愛』を否定した奴の、駆除を。
これで安心できる。そう思った矢先だった。
頬を流れる熱いものに気づき、綾は動揺した。
涙。当に失ったと思っていた水の雫が、蘇っている。
あの時と、つかさを自らの手で殺めた時と一緒だ。
感情を揺さぶられたまま、周囲の環境は綾を取り残して、用意された道を直進していく。
ケンシロウVSDIO――避けられぬ必然の闘争が、今。
「俺は、貴様から全てを奪い取る!
自身の力に驕り偏った『安心』!
他者を脅かす害としかならない貴様の『生命』!
そして、貴様が縛っている東城綾という『人間』を!」
「やってみろケンシロウ! WREEEEEEEEYYYYYYYYYYYYYッ!!」
開幕した――
暗雲と無数の大木によって光を遮断された暗い世界で、二人の男が戦いを始める。
片や世紀末を生き抜く拳闘士、片や人間を超越した吸血鬼。
実力的には共に人外の位に立つ二人が、己の肉体を駆使し、拳と拳で殴り合う様は――正に、男の戦い。
「あたぁッ!」
「フン、無駄ァ!」
ケンシロウが飛び蹴りを仕掛け、DIOがそれを寸前で回避、身代わりに木が一本へし折れる。
カウンターに繰り出されるのは、DIOの分身であるスタンド、『ザ・ワールド』の拳。
的確にケンシロウの米神を狙った一撃は、回避行動を取った標的の鼻っ面を掠め、空を切った。
ケンシロウの反撃。振り被られた『ザ・ワールド』の腕に狙いを定め、指先を突き刺す。
秘孔と呼ばれる人体急所を狙った、北斗神拳必殺の一撃。
決まりすれば、防御不能の内部破壊を引き起こす――はずも、やはり当初の危惧通り、
「無駄無駄無駄ッ!」
(『スタンド』に、秘孔は存在しない――ッ!?)
人型をしているとはいえ、本来ならば常人には見ることも叶わぬ霊体のような存在、それが『幽波紋(スタンド)』。
ダメージは使い手であるDIOに直結して伝わるが、人体のある一点を的確に狙う北斗神拳の真髄は、スタンド越しては発揮されない。
加えてDIO本体も、ウォーズマンと同じくただの人間ではない。
吸血鬼に秘孔が存在するのか――結論を出す暇もなく、DIOの猛攻は降り注ぐ。
1――2――3、とテンポのいいリズムで繰り出される拳の連撃は、執拗にケンシロウを付け狙う。
パワー、スピード、テクニック。あらゆる面で秀でた『ザ・ワールド』の格闘能力に、さすがのケンシロウも防御を強いられた。
途切れぬ連続攻撃は防御側に焦りを煽り、決死の反撃をも無駄な行為にしてしまう。
闇雲に放ったケンシロウの拳は『ザ・ワールド』の拳に迎撃され、新たな隙を生む。
1、2、3、と速まるテンポに呼応して、『ザ・ワールド』の拳は威力を上昇させていく。
「ぐっ!」
遂には防御を崩され、ガードごと後方に弾き飛ばされるケンシロウ。
休むことなく追撃するDIOと『ザ・ワールド』に成す術が見い出せず、瞬間的に回避に移った。
「どうしたケンシロウ! 防御と回避だけでは、このDIOを屈服させることはできんぞォ!!」
一際大振りな拳が、ケンシロウの頭部を打ち砕かんと放たれる。
――この一撃。この一撃を待っていた。
自身の力に絶対の安心を覚え、決定打を狙わんとする隙の生じやすい攻撃――反撃を狙うのに、これほど効果的なタイミングはない。
「うあたたぁ!!」
刹那、音速に匹敵するほどのスピードでケンシロウの拳が三打、『ザ・ワールド』に打ち込まれる。
これまでの防戦一方は、相手を油断させるための演技――そう言わんがばかりの攻撃力を持った刹那の三連撃に、『ザ・ワールド』ごとDIOの身体が吹き飛ばされた。
「ぱべらぼっ!? …………グヌゥッ」
それまでの愚直な攻勢を悔いるように、一転してDIOはケンシロウから距離を取る。
ケンシロウも、反撃が成功したからといって無理に追撃を仕掛けることはしない。
戦況を冷静に判断し、より効果的な攻撃を放つ。
それが単なる殴り合いの戦いだとしても、勝負の世界には決して無視することが出来ない、場の流れというものが存在するのだ。
それを的確に把握して初めて、勝利への切符を手に入れることが出来るのだ。
「いい……ッ! いいぞケンシロウ!! マミーなどとは力の質がまるで違う……このDIOに歯向かうだけのことはある!」
「黙れ外道。俺は貴様を倒すため、ただ拳を振るうのみ」
ケンシロウを強敵と賞賛するDIOから、『絶対に勝てる』『絶対に負けない』という『安心』は未だ消えない。
あくまでも帝王の貫禄を持って、軽く遊戯をこなすかのように、北斗神拳継承者と相対する。
「あたぁ!」
「無駄ァ!」
ケンシロウ、DIO、双方が再度ぶつかり合う。
繰り出される北斗神拳の拳技を全てスタンドの拳で受け、攻撃を的確に捌いていくDIO。
穿ち合う拳と拳は、次第に血を噴出し、皮を裂く。
直接殴っていないとはいえ、スタンドからのダメージを直通で感じているDIOは、徐々に傷ついていく己の両拳に、不快感を覚えた。
だが、劣勢は微塵も感じていない。
「どうしたケンシロウ!? お前の拳……昨夜相手をした時には背筋を凍らせるほどの豪拳に感じたが……
今のお前の拳は、連戦連敗中の崖っぷちボクサーの一撃にしか感じぬぞ!」
ウォーズマン、そして洋一に負わされたダメージは、確実にケンシロウから勢いを奪い取っていた。
全身を軋ませるほどの痛み、拳の振りを遅らせる疲労、共に怒りで忘れているとはいえ、戦いには確実に影響を与えている。
それでも、感情が拳を振るわせる。
満身創痍であるにも関わらず、例え崖っぷちに立たされようとも、ケンシロウは拳を放つ。
「あぁたたたたたたた!!」
「ごぱら!? ぐおご!? ひでぶ!?」
気合の発声が高まるごとに、技のキレも増していく。
渾身の鉄拳を、『ザ・ワールド』の拳撃の間を縫うように繰り出し、スタンド越しにDIOを追い詰める。
鼠は隅に追いやれば追いやるほど、より反抗的に向かってくるもの。
ケンシロウも、劣勢になればなるほどパワーを発揮するタイプだったのだ。
「ぐっ……この破壊力! スタンド越しでも感じ取れるぞ……まだやれる、そういうことだなケンシロウ!?
面白い。ならば、次はあの時の技でこい! 今度こそ、『ザ・ワールド』の力が最強であるという証明をしてやる!!」
ケンシロウを挑発するようなポーズを取り、DIOは余裕の笑みでスタンドを前面に押し出した。
易々と挑発に乗るわけではないが、ケンシロウは『ザ・ワールド』の正面に構える。
繰り出すのは、あくまでも拳。これは、ケンシロウも『ザ・ワールド』も変わらない。
「あぁたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁっ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
互いの拳が衝突し合い、短くも豪快な音を奏でながら周囲の木を揺らす。
巻き起こった衝撃波は地に敷かれた落ち葉のカーペットを容易く引っくり返し、突風で吹かれるかのように宙を散布した。
ケンシロウが『北斗百裂拳』で攻め、DIOが『ザ・ワールド』でそれを迎撃する。
超高速で繰り出される拳と拳の連撃合戦は、両者の初対決の際にも行われた。
あの時は僅かにケンシロウの拳が勝ったが、今回の状況を見れば、どちらが優勢かは一目で分かる。
傷を負い、疲弊しきったケンシロウの方が、圧倒的に不利だった。
はずなのに。
「あぁたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた
たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁっ!!!」
「む、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――ッ!!?」
ケンシロウの拳は限界を迎え衰えるどころか、一発一発新たな拳を打ち放つごとに、その勢いをましていく。
八十、九十、百――百打を越えても、ケンシロウの拳は止まらない。
「ああぁたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた
たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた
たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁぁっ!!!」
(ぐ、ぐぅ〜……ケンシロウのこの、底力! 認めたくはないが、確かに凌駕している……ッ!
パワー、スピード、テクニック――どれもこれも、我が『ザ・ワールド』の上をいっているというのかァー!?)
鬼気迫る猛攻を見せるケンシロウと正面から打ち合い、DIOは初めて、『劣勢』を感じた。
孫悟空等と対峙した時にも覚えた、久しぶりの屈辱感。
それは、これまで成功続きだった帝王のプライドをズタズタに裂き、怒りを及ぼすほど。
このままではマズイ。このまま打ち合いを続ければ、『ザ・ワールド』の、DIOの拳が砕かれる。
襲い来る危機感と己の誇りを天秤に掛け、DIOは打開策を練る。
悪の帝王に、敗北は許されない。
(生意気にも、このDIOに冷や汗をかかせた罪として――貴様を断罪するっ! 我が最強のスタンドの、『真の力』を駆使して!!)
「たたたたたたた――」
なおも降り止まぬ拳の豪雨。その一撃と一撃の間を縫い、DIOが真の力を解放する。
「ザ・ワールド(時よ止まれ)!」
――世界の時間が、停止した。
ケンシロウが打ち続けていた拳も、DIOの鼻先でピタッと制止。
強面の表情のまま、間抜けな棒立ち姿を作って硬直している。
今から数秒間、世界で動き回ることが出来るのは、DIOただ一人のみ。
時間を止める最強のスタンド能力――これこそが、『ザ・ワールド』の真骨頂なのだ。
「――ふぅ、危ない危ない。冷や汗なんてものをかいたのは随分と久しぶりだぞ、ケンシロウ。
人間は窮地に立たされることで限界以上の力を発揮する……うっかり忘れるところだったな。
思えば、ジョジョも人間でありながらこのDIOに煮え湯を飲ませていた。
人間風情が、と甘く見てはならない。人間を超越した絶対君臨者として、敗北は許されないのだからなぁ。
さてケンシロウ――と呼びかけても聞こえてはいないだろうが。
この時の止まった世界でお前を攻撃し、死に至らしめるほどの致命傷を与えるのは容易いが……それではつまらん。
波紋もスタンドも持たず、自らの肉体のみを信じて歯向かってきた功績を考慮し、お前にはより屈辱的な死を与えてやろう。
それこそ完璧なまでに。あの世の果てで後悔し、三日三晩憂鬱で寝込むほどの完全なる敗北感を味あわせてやる。
おっと、さすがに無駄話が過ぎたな。
このDIOとて、時を止められる時間は僅か10秒にも満たん。
出勤前のサラリーマンのように、慌しく行動してはいけない……時間を支配する者として、無駄のない行動をしなければ。
やるべきことは全て済ませた。再び時が動き出した際の布石を整え、そしてケンシロウ。
今の内にお前に別れの挨拶でも済ませておくかな……ククク」
――そして、時が動き出す。
「――たぁっ!?」
拳の連撃回数がもうすぐ二百に到達しようかというところ。
ここにきて、ケンシロウの攻撃が初めて空を切った。
今の今まで眼前にいたDIOが、消えている。
0.0000001秒前までには確かにそこにいて、拳を繰り出していた対戦者が、忽然と姿を消した。
手を止め背後、左右と確認するケンシロウだが、DIOの姿はどこにも見当たらない。
これは、つかさを殺害し逃亡する際に見せたあの能力と同じ――自分の姿を霞のように消し去り移動する妙技(とケンシロウは錯覚していた)。
速いなんてものじゃない。DIOは瞬間移動でも使えるのだろうか。
まさか相手が時を止め、その間に移動したなどという異常な考えを思いつくはずもなく、ケンシロウはDIOを完全に見失った。
そして、第二の異変に気づく。
今の今までDIOに放っていた両拳――その片方である右腕が、『凍っている』。
いったいいつの間に。DIOの消失と同じく、こちらの現象も不可解すぎて答えが出ない。
この右腕が、時間停止中にDIOが『気化冷凍法』で凍らせたものだということも分からず。
パキッ。
足元の落ち葉を踏む音が、静かに響いた。
周囲一帯には、これまでの騒がしい戦闘音が全てまやかしだったのではと思えるほど静寂が広がっている。
(DIOはどこに消えた。DIOはどこから俺を狙っている?)
逃げたわけではない。一旦戦場外に退き、機会を窺っているだけにすぎない。
ケンシロウは己の全神経をフルに活用し、DIOの気配、殺気、足音を探る。
僅か数秒の隙。その僅かな間に、DIOはどんな仕掛けを施したのか。
考えが及ぶはずもないほど、答えは単純でいて、ケンシロウを窮地に追いやるのだった。
「――!」
微かな羽音を察知し、ケンシロウが上空に視線をやる。
丁度頭上、背の高い木から飛来した巨大な影が、ケンシロウを覆いつくさんばかりにと降ってくる。
視覚で確認した当初、ケンシロウはその正体を理解することができなかった。『それ』は、あまりにも意外な物だったから。
DIOではない。『ザ・ワールド』でもない。
もっと黒く、もっと大きな、潰されればただでは済まされないほどの、巨大な影――
「護送車だッ!」
――馬鹿な。木の上から、黒塗りの車が降ってきた。
DIOが抱えた護送車は、勢いづいたままケンシロウに激突。
「あたたたたたたたたたたたッ!!」
ケンシロウは回避を放棄し、自らの拳で捻じ伏せようとする。
が、凍結した右腕が使えぬ以上、どうしても今までどおりの百裂拳を打つことは叶わない。
それでも、例え左腕一本でも。ケンシロウは、DIOへの抵抗をやめない。
「もう遅い! 脱出不可能よッ!
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――ッ」
護送車の上から、DIOが『ザ・ワールド』のラッシュを繰り出す。
連打の衝撃が圧力となり、下に位置するケンシロウを執拗に追い詰める。
「ウリイイイイヤアアアッー! ぶっつぶれよォォッ!」
『ザ・ワールド』のみならず、DIO本人からも渾身の一撃が叩き込まれる。
既に拉げ壊れた護送車は、無情にもケンシロウ身体を押し潰し、その巨体を完璧に地に押し込んだ。
ドグシャアァッ、という嫌な衝撃音が鳴り響き、DIOの猛攻が止む。
「まだだ! 蓋だけではなく栓もしなければ――最後まで安心はできんッッ!!」
護送車に潰され、既に姿を残していないケンシロウに叫び、DIOは身近に聳えていた大木を引っこ抜く。
人間を超越した怪力を発揮し、ケンシロウに最後のとどめを刺すため大木を振るう。
巨大な釘のように真っ直ぐと振り下ろされた大木は、根っこから護送車の残骸を襲撃し、刺し潰す。
全てが終わりを告げた。
轟音を送り続けた森林内も、やっと元の静寂を取り戻す。
「やった……………………」
最後に立っていたのは、DIO。
潰された男と君臨し続ける男、どちらが勝者かは明白だった。
「終わったのだ! 『北斗神拳』は、ついに我が『ザ・ワールド』の前に敗れ去った!」
哂う。悪の帝王を名乗るに相応しい、王者の高笑いを浴びせる。
「不死身ッ!! 不老不死ッ! スタンドパワーッ!
フハハハハハハハハハ! これで何者もこのDIOを越える者はいないということが証明されたッ!
取るに足らない人間どもよ! 支配してやるぞッ!! 我が『知』と『力』の前にひれ伏すがいいぞッ!」
圧倒的。あまりにも圧倒的だった。
力はもちろんのこと、貫禄、残酷性、あらゆる点において、DIOはケンシロウの上をいったのだ。
――やっぱりだ。やっぱりこういう結果になった。
あれだけ大層な口を叩いておきながら、ケンシロウはDIOに敗北した。
所詮、人間が吸血鬼を倒すことなどは不可能。
勝者こそ真実。敗者こそ偽り。
やっぱり、私は間違っていなかった。私の『愛』は、正しかったのだ。
このままDIOが勝ち進み、優勝する。
そして、西野さんは生き返って私は死んで、真中君と一緒。
こんな平和な解決方法が、他にある?
西野さんは真中君のことを忘れて私に生きろって言うけれど――それはやっぱり間違っている。
私にはもう、生きる資格なんてものはないのだから。
だからせめて、私が迷惑を掛けてしまった強敵(とも)には、生きてもらおうと――
恋する少女は盲目で、友達の声も聞こえない。
自分の『愛』を絶対だと信じ、それ以外の『愛』を否定する。正に、盲目。
東城綾は、盲目なまでに、恋をしているのだ。
「……西野さんも、ケンシロウさんも、みんな、『愛』を履き違えてる」
好きな人みんなに幸せになってほしい。
その一念こそが、『愛』ではないか。
♪
「あ、ア――――ッ!?」
そこはいったい、どういった世界なのか。
名で表せば、それこそ無限大のバリエーションがある。
天界、霊界、あの世、地獄、超人墓場etc……
分かるのは、そこが『世界から外れた世界』であるということ。
その片隅で、黒尽くめのボディを持った男が一人、モニター越しに焦りの混じった叫びを上げていた。
「け、ケンシロウが負けてしまったァーーー!!」
その男の名は、人呼んでファイティングコンピュータ・ウォーズマン。
生前、ケンシロウと魂震わす激闘を繰り広げ、誇らしく散っていた戦士である。
「この俺の『氷の精神』を利用し、多数の参加者を苦しめた男……DIOほどの悪党を倒せるのは、ケンシロウしかいないと思っていたのにーッ!」
苦悶しながらも、ウォーズマンはモニターから目を放してはいなかった。
スクラップと化した護送車は、未だケンシロウの亡骸を覆って映さない。
「い、いや、まだだ! ケンシロウほどの男なら、きっとまた立ち上がる! 奴と直に拳を合わせた俺が言うんだ、間違いない!
俺はお前にエールを送り続けるぞ――ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ!」
既に退場してしまった男が、今正に退場していこうとする男を応援する。
その声援が届くことは決してないが、或いは、奇跡が起きることがあるかもしれない。
DIOという手の余る悪を倒すには、魂ある拳の制裁が必要だ。
それを下せるのは、北斗神拳継承者であるケンシロウしかいない。
ウォーズマンは、そう信じて疑わなかった――
♪
『ウヌには北斗七星の脇に輝く、あの星が見えているか?』
――見える。見えるぞラオウ……。
薄れゆく意識の中、ケンシロウは死の片鱗を感じていた。
圧倒的な圧力に屈服しながらも、未だ脳は活動をやめず、心臓も動き続けている。
タフな生命力、と言ってしまえばそれまでだが、彼を生かし続けている要因は、いったいなんなのか。
DIOに対する怒り、DIOを始末せねばならないという義務、
止めなければならない少女、迎えに行かなければならない少年、協力しなければならない仲間達――
やるべきこと、やらねばならぬことは、まだ結構残っているではないか。
『ケンシロウ……ウヌは、この拳王に唯一膝を着かせた男。帝王などと名乗る斯様な小僧に負けることは、絶対に許さん』
――強敵(とも)よ、この俺に、まだ死ぬなというのか。
幻聴は、走馬灯のように駆け抜ける。
今までにケンシロウが拳を突きつけてきた、数々の男達。
その勇士が蘇るごとに、ケンシロウの闘志は再燃し、奮い立たせる。
北斗神拳とは、即ち『愛』。
北斗神拳が敗北するその時、『愛』は崩れ去る。
――俺はまだ、東城綾に『愛』を叩きこんでいない。
魂を燃やし、教えてやらねば。
思い人であるユリアを『愛』し、強敵(とも)であるラオウを『愛』した、あの素晴らしい感情の真意を――
♪
「も、燃えているッ!!?」
そのあまりの熱と衝撃に、護送車は破片を巻き散らしながら燃え、飛んでいく。
DIO、そして綾も、その映像が信じられず、夢か幻影の類だろうと思い込んだ。
しかし、これは現実。
護送車の残骸から帰還し、微かな炎を帯びた大地に立っているのは、光り輝く鎧を着込んだ男。
不死鳥の如く蘇った、ケンシロウ。
「……言ったはずだDIO。俺は、貴様から全てを奪い取ると」
安心、生命、東城綾。姑息な悪党に残すべきものはなにもない。
炎の復活を遂げたケンシロウは、未だ死なず。
なおも、DIOの障害として立ち塞がる。
「俺を倒したいなら、貴様自身の拳で、魂を叩き込んで向かって来い。そうでなければ、俺は倒せん!」
一歩、DIOに歩み寄る。
幽鬼の如く近づくケンシロウに、DIOはあとずさることさえしなかったものの、確かに威圧されていた。
それ自体ありえないこと。恐怖や不安などという概念は、当の昔に超越している。
DIOが恐れるものなど、何も存在しない。
「……護送車でも『ザ・ワールド』でもなく、このDIO自身の拳で来いというのか……面白い!
だがケンシロウ、これだけは心得ておけ!
人間を超越した存在であるこのDIOの拳が――既にモンキーに耐えられる次元の威力ではないということをなぁ!」
DIOは恐れず、前に進む。
スタンドを消し、自らのフットワークと怪力を使って、ケンシロウを全力で殴りにかかった。
――この人は、なんで。
突き進むDIOの後方、静観を続けていた綾は、妙な気持ちに全身を蝕まれていた。
ケンシロウは何故諦めない。何故倒れない。何故敗北を認めない。
分からない。理解できない。DIOの方が上だというのは明白なのに。
それが分からないほど、お馬鹿なモンキーなのだろうか。
自分の『愛』が間違っていると、何故気づけないのか。
なんで――
一瞬で間合いまで接近したDIOが、スウェーを駆使しながらケンシロウの顔面目掛けて拳を振るう。
「見せてやるぞ、ゴロツキどもがやる貧民街ブース・ボクシングの技巧をな!」
バキッ、鈍い音が響く。
コンクリートをも容易く破壊する吸血鬼の攻撃を、顔面からモロに喰らったのだ。
当然、骨は砕け脳はグチャグチャに噴出されることだろう。
顔面に一撃。この一撃だけで、ゲームはDIOの勝利。常識で考えればそう、なのだが。
「んなっ!?」
確かに顔面で受け止めた。そのはずなのに。
ケンシロウは、微動だにせずその場に君臨している。
「……これが、貴様の魂を込めた一撃か?」
骨は折れていない、脳もぶちまけていない、鼻血すら出ていない。
DIOの拳を正面から受けて、まったくのノーダメージ。
「ぐっ――ありえん!」
すぐさまケンシロウから距離をとり、体制を整えるDIO。
「このDIOのパンチを受けて、まったくの無傷だとォ!? ありえん、絶対にありえん!」
「貴様の拳など、所詮はこの程度だということだ……」
DIOの拳をノーガードノーダメージで済ませたケンシロウが、新たに構えを取る。
今度はケンシロウが攻めに転じる番――そう感じ取ったDIOはそこで初めて、凍結させたはずのケンシロウの右腕が、元通りになっていることに気づいた。
(こ、この男……沸騰している!)
護送車を爆散させ炎を撒き散らしたのは、全てケンシロウの闘気から来る熱が原因だった。
怒りの感情が、人間であるケンシロウに頂上的パワーを与えたとでもいうのか。
もしくは、彼の纏ったフェニックスの聖衣に何か秘密があるのか。
DIOが真相を知る術はない。
目の前の男は、もうDIOを倒すことしか頭にないのだから。
「覚悟しろDIO! 腐りきったその思想ごと……貴様の生命、我が北斗神拳が破壊する!!」
「ありえん! ありえんぞケンシロォォォォォォッ!!!」
恥を忍んで、あえて認めよう。
自身を悪の帝王と称し、人間を超越した存在であるDIOは――この時、確かに恐怖心を抱いたのだ。
目の前に聳える巨大な闘気の塊、その宿主であるケンシロウに対して。
「見よ! 真の北斗神拳を―― 北 斗 剛 掌 波 !! 」
ケンシロウの翳した掌から、凄まじい闘気の帯が放出される。
過去にDIOが受けた、かめはめ波にも似た技。
波紋ともスタンドとも異なる、圧倒的なエネルギーの塊。
力を超越した『力』が、一直線に伸びる。
悪の吸血鬼を討ち滅ぼさんと、DIOに襲い掛かる。
「UURYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY――ッ!!!」
奇怪な叫び声が上がったのは、ほんの一瞬。
♪
恥の多い生涯を送ってきました。
自分は、愛しいあの人が死んだ時点で、生きることを放棄しました。
それでもすぐに死のうとしなかったのは、まだこの世に強敵(とも)がいたから。
恥を背負って、自分は生きている。
死んだ人を思い続けて、友達を殺して、歪んだ愛だと罵倒されて。
間違っているなんて、やっぱり思えない。
疑問を抱いてしまったら、それまでだから。
信念って、貫くから強いんだよね。
夢って、諦めないから叶うんだよね。
私、もう迷わないよ。
真中君、西野さん。
あなた達がどう思おうと――私は、『AYA』として生きることを選ぶ。
♪
微かな火種は既に消滅し、森林内は元の静寂を取り戻しつつあった。
立ち上る煙と、薙ぎ倒された数々の木。
男達の戦いがどれほど壮絶であったか、その情景が物語っている。
だが、戦いはまだ終わりを迎えたわけではない。
「…………DIOは、殺させない」
ケンシロウの放った北斗剛掌波は、DIOを屠ることができなかった。
確実に命中したと思われた技は、寸でのところで反れ、いくつかの大木を薙ぎ倒す結果に終わる。
DIOが回避したのではない。ケンシロウが、自ら技を外したのだ。
斜線上に、東城綾が乱入したから。
「……それがお前の答えか、綾」
「そう。私は、私の『愛』を貫く。DIOを優勝に導き、西野さんを生き返らせる――それが、私が殺してしまった最愛の強敵(とも)への『愛』」
悪に対しては非情を徹する北斗神拳も、悪でない者には……ただの盲目な恋する少女には、振るうことはできない。
例えケンシロウと綾の『愛』に対する考えが違ったとしても、それはどちらが『正義』でどちらが『悪』とも言えない。
『愛』に、明確な答えなど用意されていないのだから。
「例え真中君が認めてくれなくても、西野さんが認めてくれなくても……!」
吸血姫。
石仮面を被り、破滅の運命を背負った彼女は、それでもDIOとは違った。
友達を思う、人間らしい感情をその内にまだ宿している。
「私は、自分の『愛』を信じる! WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY――ッ!!!」
――この宣言から、ケンシロウは綾に対する認識を改めた。
彼女はもう、西野つかさの友達などではない。
DIOという絶対悪に仕える、北斗神拳を振るうに相応しい、一人の『悪』だ。
ケンシロウもう、AYAを倒すことも厭わない。
非情に徹し、この二人の吸血鬼を打ち滅ぼす。
「――君の決意、しかと受け止めたぞ」
発狂したAYAの後方、平静を取り戻した吸血鬼の親玉が、前に躍り出た。
ケンシロウとDIO。最後の決着をつけるべく、因縁の二人が再度まみえる。
「ならばAYA。ここでもう一度誓ってくれ。――このDIOに、永遠の忠誠を誓うと。
このDIOを絶対に裏切らないという、極上の『安心感』を与えてくれ」
その言葉に、AYAは跪いての服従のポーズで示した。
完璧なる意思表明。DIOのカリスマはやはり圧倒的なのだという、瓦解寸前だった自信の再構築。
――やはり、このDIOこそ、悪の帝王に相応しい器なのだと。
「もう、茶番はなしだ! このDIO、持てる全ての力を出し尽くし、勝利を掴む!
ケンシロウ、最後の勝負だッ! WRYYYYYYYYYYYYYYYYYY――ッ!!!」
「来い、ディオォォォォォッ!!!」
最後の衝突が始まる。
最後の輝きを放つフェニックスの聖衣。
その輝きが、太陽を忌み嫌うDIOへの挑発となる。
「仮定や道筋などはどうでもいい! この能力こそ、誰にも攻略不可能なDIOの力なのだ!」
3メートル、2メートル、1メートル、互いの距離が近づく。
その間、発現したDIOのスタンドはおぞましい躍動を見せ、ケンシロウの拳が伸びようとしたその刹那、
「世界(ザ・ワールド)!」
――時を、再び止めた。
拳を突き出したまま、停止した時間の中に取り残されたケンシロウ。
スタンド使いでもない彼に、この『ザ・ワールド』を打ち破る術はない。
「ケンシロウ、貴様に人間を越えた生命力を与えているのは、おそらくその鎧!
このDIOに討ち滅ぼせないものはないと、止まった時の中で思い知れぇ――ッ!!」
――DIOの世界にて、DIO以外に動ける者なし。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
一点集中。
フェニックスの聖衣が当てられたケンシロウの胸部目掛けて、『ザ・ワールド』のラッシュが叩き込まれる。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
ケンシロウに、抵抗する術はない。
自身が攻撃を受けているという自覚もないままに、胸を砕かれる。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――ッッ!!!」
時が再び動き出そうとしたその直前。
『ザ・ワールド』の拳は、フェニックスの聖衣ごとケンシロウの胸を貫いた。
――時が、再び動き出す。
「お前はもう、死んでいるぞケンシロォォォォォッッ!!!」
動き出した時の中でAYAが目にしたのは、胸に風穴を空け、鮮血を垂らすケンシロウの姿だった。
「…………ごっ」
微かな呻きを漏らし、ケンシロウの巨体が崩れ落ちる。
DIO、AYA、二人の吸血鬼が見届ける中、男は地に伏したのだった。
一秒、十秒、静寂の世界が舞い戻る。
言葉なくその闘争の行く末を見届けたAYAは、DIOの勝利という覆しようのない事実に歓喜し、心を震わせていた。
勝者こそ真なり。これで、AYAの『愛』が真実だと、ケンシロウの『愛』を凌駕するということが証明された。
「……やった」
搾り出した声で再度喜びを得ようとしたのは、ケンシロウが倒れて一分が経過した頃だった。
その一分が、彼に再生の時間を与えた。
「そんな……嘘……?」
信じられないことに、また立ち上がった。
人間でありながら、不死鳥の如く羽ばたく男、ケンシロウ。
その男が、今正に眼前で、
「嘘でしょ――ッ!?」
再び、蘇った。
驚くAYAを歯牙にも掛けず、真っ直ぐにDIOを見つめている。
――まだ、戦うというのか。
この人の『愛』は、それほどまでに強いというのか。
人間を超越した力を『愛』が生み出す――なんて素敵な御伽話。
でもこれが、北斗神拳の底力だというのだろうか――
「……刻んだぞ、ケンシロウ。貴様と、北斗神拳の名を」
再度立ち上がったケンシロウは、拳を突き上げようとはしなかった。
DIOも、消したスタンドを再発動させようとはしなかった。
その様子に違和感を覚えたAYAは、そこで初めて気づく。
ケンシロウが、既に死んでいることに。
♪
――彼が立ち上がったのは、執念の賜物なのかもしれない。
悪の前で倒れることは許されない、とか。
最後の最後まで闘志は消さない、とか。
そんな、男性特有の闘争本能。
彼を突き動かしたのは、正にそういった感情なのだろう。
だからDIOも彼に経緯を払い、立ったまま逝かせてあげることにした。
「んん〜……イイ! このジョースターの奴等にも似た荘厳なる血の躍動……馴染む! 実によく馴染むぞケンシロウッ!!」
立ったままDIOに血を吸い尽くされたケンシロウは、それでも誇り高い表情を保ったままだった。
我が生涯に一片の悔い無し!!――と言わんばかりの満足そうな顔つきは、戦いで散っていった武人の顔なのだろう。
「ンッン〜〜〜〜♪ 実に! スガスガしい気分だッ!
歌でも一つ歌いたいようなイイ気分だ〜〜〜フフフフハハハハ!」
ケンシロウの血を得たDIOは、さっきとは打って変わってご機嫌だった。
血が馴染む、というのは私にはよく分からないのだが、そんなにいいものなのだろうか。
「100年前に不老不死を手に入れたが……これほどまでにッ! 絶好調のハレバレした気分はなかったなァ……
フッフッフッフッフッ、ケンシロウの血のおかげだ! 本当によく馴染む!!
最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハハハハハハハハーッ!!!」
……西野さんの血は、私に馴染んでいるのだろうか。
少なくとも、私は西野さんの血で最高にハイにはなれない。
真中君、真中君のだったら……なっちゃうかも。
「――DIO、これからはどうするのですか?」
食事を終えたDIOに、私が尋ねた。
「うんん〜……そうだな、空はまだ曇り、太陽が照らし出す気配は一向にない。
次なる獲物を探す意味も含めて、ここは一旦アジトへ帰還するかァ」
「彼の亡骸は、どうしますか?」
「そこに置き捨てておけば良かろう。このDIO、もはや恐れるものはなにもない……立ち塞がるもの、全て捻じ伏せてやろうじゃないかッ!!」
素晴らしい。私は単純にそう思った。
この圧倒的な余裕。そんに余裕かまして、いつか痛い目見るんじゃないか、という不安は全然感じない。
絶対的な安心感。私が望んだもの。私の『愛』が真実であるという安心感。
DIOが、全部与えてくれた。
「……DIO。私は、貴方に一生着いて行きます」
「ククク……当たり前じゃあないかAYA。このDIOの傍にいれば、何も恐れるものはない。
西野つかさも、きっと蘇ることができるさ、なぁ……」
ああ、なんてカリスマ。
私は、計画成就への確かな手ごたえを感じ、
これからもDIOに付き従う。
恋する少女は、盲目なんかじゃない。
愛する人の嘆きや、友達の声も、全部耳にして。
それでも尚且つ、私は『吸血鬼AYA』として生きる道を選ぶ。
♪
――ハー、ハー、
呼吸を、整えろ。
――ハー、ハー、
今、自分が目にした光景を整理しろ。
――ハー、ハー、
殺されたのは誰だ、殺したのは誰だ。
――ハー、ハー、
ケンシロウ、そして金髪の男。
――ハー、ハー、
熱くなるな。冷静に、先の先を読め。
――ハー、ハー、
よし、状況を再整理だ。
――ハー、ハー、
ケンシロウが、吸血鬼に血を吸われて死んだ。
「……マジ?」
春野サクラがその光景を目にしたのは、まったくの偶然だった。
仙道の熱を治めるため、薬になりそうな植物を探しに出て数時間。
雨が止んだこともあって少し調子に乗ったのか、気づけば琵琶湖から少し離れ、岐阜県の外れに位置する森まで来てしまった。
多少時間を浪費したが、遠くまで脚を運んだかいあって、薬草は無事入手。
さぁ帰ろう、と琵琶湖に歩を進めたその瞬間。
人間のものとは思えない狂った雄叫びと、大音量の戦闘音を耳にしてしまったのだ。
無論、無視できるはずもない。
警戒しながら接近を続け、当事者達に接触したのは、全てが終わった頃だった。
立ったまま微動だにしないでいるのは、愛知県で出合ったケンシロウ。
ケンシロウに指を突き刺し、不気味に微笑んでいるのは、おそらく彼が『倒さねばならぬ敵』と称していた男。
サクラはその男について詳しく聞かされていなかったが、次の光景を見て確信した。
この金髪の男が、『吸血鬼』なる偶像の存在であるということを。
人の血を吸い、自らの糧とする魔の生物。
そんなものが実在するのかどうかは、定かではない。
だが否定は出来ない。現にケンシロウは目の前で干乾び、生気を失ったのだから。
その異様な光景に恐怖を覚えたサクラは、知り合いが目の前で殺された怒りを必死に内に留め、忍としてクールに立ち回ろうとした。
DIOとAYAが去った後、呼吸を落ち着かせ、これから成さねばならないことを整理する。
ケンシロウは、確かに死んでいる。あの逞しかった肉体は、ボロボロに傷つき、血色を失っている。
哀れに思ったが、今は供養や埋葬をするべき時ではない。
一番問題なのは、ケンシロウを殺した人物が西――琵琶湖に向かったという事実。
あそこには、ダメージを負ったアビゲイルに、疲労困憊の仙道と香がいる。
もし彼等と鉢合わせるようなことが起きれば、激突は必至。もちろん、みんなが無傷で生存なんて結果は望めないだろう。
「……アビゲイルさんに、早く知らせないと」
結論を出したサクラは、立ち尽くすケンシロウの亡骸に一礼し、その場を駆け出していった。
まだ生きている仲間を、危機から救うため。
悲しみに塞ぎこんでいる暇などない。
♪
ケンシロウという名の男がいた。
北斗神拳という名の暗殺拳があった。
その事実を知る者は、この世界に僅か数名。
その中で、北斗神拳に『愛』を覚えた者は、僅かに一名。
例えその思想が違えど、『愛』貫くという信念に、揺ぎ無し。
【岐阜県南西部/森林/午後】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:体力90パーセント、最高に「ハイ!」な気分
[装備]:忍具セット(手裏剣×8)@NARUTO−ナルト−
[道具]:荷物一式×6(五食分と果物を少し消費)、マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢(半壊)
[思考]:1.琵琶湖の小屋に移動。付近の地形(湖など)を使った戦闘方法を考える。
2.太陽が隠れる時間を利用し、『狩』を行う。雨が止んだら近くの民家に退避。
【東城綾@いちご100%】
[状態]:吸血鬼化。波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた。マァムの腕をつけている。
[装備]:双眼鏡
[道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[思考]:1.DIOに絶対の忠誠。DIOの望むままに行動する。
2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
3.真中くんと二人で………。
【春野サクラ@ナルト】
[状態]:ナルトの死によるショック小(悲しんでいる場合ではない)
[装備]:マルス@ブラックキャット
[道具]:荷物一式(二食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)
[思考]:1.アビゲイルに危機を伝える。
2.薬草を届け、仙道に薬を飲ませる。
3.琵琶湖周辺で秋本麗子、星矢を捜索。
4.四国で両津達と合流。
5.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
6.洋一を心配。
7.ヤムチャは放っておこう。
【ケンシロウ@北斗の拳 死亡確認】
【残り30人】
>>348 九行目
>怒りの感情が、人間であるケンシロウに頂上的パワーを与えたとでもいうのか。
↓
>怒りの感情が、人間であるケンシロウに超常的パワーを与えたとでもいうのか。
>>356 八行目
>この圧倒的な余裕。そんに余裕かまして、いつか痛い目見るんじゃないか、という不安は全然感じない。
↓
>この圧倒的な余裕。そんなに余裕かまして、いつか痛い目見るんじゃないか、という不安は全然感じない。
>>360 サクラの状態表
【春野サクラ@ナルト】
[状態]:ナルトの死によるショック小(悲しんでいる場合ではない)
[装備]:マルス@ブラックキャット
[道具]:荷物一式(二食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)、薬草
[思考]:1.アビゲイルに危機を伝える。
2.薬草を届け、仙道に薬を飲ませる。
3.琵琶湖周辺で秋本麗子、星矢を捜索。
4.四国で両津達と合流。
5.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
6.洋一を心配。
7.ヤムチャは放っておこう。
362 :
新能力:2006/11/08(水) 11:37:58 ID:bAninMH10
突然現れたヤムチャは、カインの方へ向かっていく。
「久しぶりだなッ!!小僧ぅぅ!!毎度毎度、俺の研究を邪魔しおってぇぇ!!」
仙道は、面識があるのか、ヤムチャに向かって怒りを露にする」
ヤムチャはそんな仙道を無視し、カインの前に立ちふさがる。
「てめぇが、タカヤの部下って奴か。3秒で片付けてやる」
ビュン!!!
ヤムチャは、一瞬でカインを肉縛した。
363 :
新能力:2006/11/08(水) 11:47:50 ID:bAninMH10
カインも必死に抵抗する。
「ほう、やるじゃねぇか、俺の予告時間を全て使い切らせたのはお前が始めてだ」
ヤムチャは、少し間合いを取る。
「てめぇみたいな雑魚に、この能力を使うはめになるとはな」
ヤムチャの左肩のアザが、怪しく光る。
ジュドーン!!! ジュパッ!!!!
ヤムチャの片から、何かが具現化していく。
「閃け!!!! 狼嵐―ウルフハリケーン―」
それは、一瞬でカインを激しく食した。
…
その光景を見ていた仙道は、中指を真正面に突き立て驚愕する。
「あ、あれは ブ ラ ン ド ッ!!!ま、まさか…
奴も使えるのかッ!!!?」
DIO「ブランド-ですが何か」
仙道「仙道波紋疾走」
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険 死亡確認】
【残り29人】
ほしゅ
支援
支援
支援
支援
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ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
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