「……殺してあげるよ!!」
「…!?なっ!!?」
その蹴りは、努力マンと同等と評された事もあった友情マン。
その全力の蹴りから放たれるシュートならば、相手が一般人であれば間違い無く確実に命を奪う程の代物。
「僕のために!死ねぇーーーッッ!!!」
翼のシュートより遥かに強力。
ただのスポーツ選手のそれとは全く次元の違う、悪魔のごとき殺人シュートが放たれる!
「見えッ…!?」
絶望的なまでの速さで襲いかかるそのシュートは、翼の脳が判断する間も全く無く一瞬で眼前に迫る。
翼が確実な『死』を感じた瞬間には、それはもうすでに回避もガードも不可能な距離。
死ぬ。
その言葉を、ようやく頭が理解した。
ガ ッ !!!
鈍い音が、辺りに響く。
ボールは翼の頭で跳ね、真横の木の幹に突き刺さる。
「………そんな………馬鹿なッッ!?」
ボールが跳ねたその場所に、立ったままである翼の体。その片腕が、真横に伸ばされている。
腕の先には握りこぶし。こぶしの先には、幹に埋まるボール…!
「空手パンチで……僕のシュートを…防いだ!?そんな馬鹿なっっ!!」
―――まったく……世話が焼けるな、翼。
翼の体にダブる、ある男の影。
友情マンには見えない。翼の目にも映りはしない。
「………若島津君は…毎日毎日、こんなシュートを受けてきたんだ…!」
「君は……君は、一体…!?」
友情マンの目に映るは、王の姿。
四角いフィールドに君臨する……“世界”の、大空翼の姿。
「僕らは、一緒の……一緒の世界で……繋がってるんだ!」
幹から転げ落ちたボールは、翼の足元に。
―――へへっ!行こうぜ!翼!
―――オレたちのサッカーは、あんなヤツには絶対に負けはしない…!
翼を挟む、二人の仲間。
「行こう……石崎君……日向君……!」
それは、目には見えない『絆』。
翼の信じる、サッカーを通じた絆。
「あ………あ………?」
「食らえええッ!トリプル――シュートオオーーーッッ!!!」
「うわ……うわああああーーーッッ!!?」
三人の心が、一つのボールを通して繋がる。
ボールは稲妻となり、金色の光を放つ。
…翼の足は、砕けた。木製のボールが翼のスポーツ生命を絶ってしまった。
ド ツ ッ
「……………え?」
――翼の額に、ナイフが生える。
「…………な…ん…」
ゆっくりと、前のめる。
思考が定まらず、目の前が白く染まる――
「………君の、負けだよ」
ホワイトアウトしていく視界の端に映ったのは、何事も無かったかのように無事な姿である友情マンの姿と――
「やれやれ……死ぬかと思った。ま、僕に最後の切札を使わせたんだ……立派な物だよ……」
“光の封札剣”で地面に串刺しにされた、彼らの“絆”の姿だった…。
【インフェルノ//〜神薙〜】
もはや、どんな者にも止められない。
拳は血を噴き、体は泥にまみれ。
殴って、蹴って、頭突いて、投げて。もはや体裁も何も無い。
二人の戦いは、もはや見るに耐えない泥試合。
「ウリャアアアッッ!!」
「だりゃあああッッ!!」
透き通る。
何の雑念も、思惑も無い。
汗が煌めき、舞い上がる。
「隙だらけだぞ!ダリャアッ!!」
「グヘッ!?くっ、そっちこそ!!」
「ガハッ!?このお…ッ!!」
もう駆け引きも何も無い。あるのはただの意地と意地。
殴って、殴って、殴る。
終りの見えない拮抗。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
拳が互いの腹を撃ち抜き後ろによろめいて間合いが離れると、二人とも肩で息をして睨み合う。
「ハァ…ハァ…そろそろ…ハァ…限界なんじゃ…ねえのか、ルフィ?」
「ハァ…んな…わきゃ…ハァ…ねえだろ…」
虚勢を張るのも、意地の張り合い。
「ハァ…おい…ルフィ、…ハァ…そろそろ…一番…つえぇ技で…ハァ…ケリを、着けようぜ…!」
「ハァ…ハァ…そうだな…悟空…!」
お互い口には出さずとも、すでにどちらも体が限界に近い。
二人は背を向け数歩分距離を離すと、再び向き合い顔を合わせる。
「……次で、ほんとの最後だ。覚悟はいいな?」
「……ああ…悟空を倒す覚悟なら、とっくに出来てる」
薄く笑みを向け合い、両者とも腰を落として深く構え直す。
「界王拳ッッ!!」
残り少なかった悟空の気が膨れ上がる。体を纏うオーラが目に見えて増加。
「確か、こんな感じだっけ……?」
ルフィは自らの意思で足首を潰すように縮め、そしてそこを一気に解放。
すると大量の血液が無理矢理下半身から心臓付近に送り込まれ、半ば消えかけていた体からの煙が再び勢いを増し始める。
「……おめぇなら…いい『仲間』になれたと思うんだけど……残念だよ、ルフィ」
「………」
悟空は両手を腰の後ろに構え、ルフィに静かに語りかける。
ルフィは無言のまま両手をグルグル回した後、一気に遥か後方へと両腕を伸ばしていく。
「かぁ……めぇ……」
「ゴムゴム……」
「はぁ……めぇ……!」
「ゴムゴムの……!」
息が止まるほどの静寂。
視線は相手の姿だけを映し合い、そして……!
「はあああああーーーーーッッッッ!!!」
「バズーカアアアアアーーーーーッッッッ!!!」
悟空の放った極大かめはめ波を貫くルフィの両腕。しかし貫いたとはいえ、その接触部は激しい熱を受けて焼けただれていく。
「おおおおおおおおおッッ!!!」
「アアアアアアアアアッッ!!!」
どちらの奥義も、止まらないどころかどんどん威力と勢いを増してゆく。
叫ぶ咆咬は天を揺るがし、神をも引き裂く。
「ごぉぉくぅぅうウウウウウウーーーーッッッッ!!!」
「ルゥゥフィィイイイイイーーーーーッッッッ!!!」
二つの“信念”は交錯し、二人の戦士に喰らいつく。
―――きりきり…きりきりと、何かが削れる音がする。
最初のそれは“地球人”を削る忌まわしい金属音だった。
再びそんな音がする。
―――悟空…?
オレさ、馬鹿な事、しちゃったんだ。
取り返しのつかない…馬鹿な事さ。
死んじまったから、償う事も出来ないんだ。
苦しいよ……悟空。
……けどさ、悟空。
お前は、まだ生きてるんだ。
お前は、まだ償えるんだ。
だからさ、頑張ってみてくれよ。オレの分まで。
いいじゃねえか、オレとお前の仲だろ?
これくらい、頼まれてくれよ。
これだけが、お前に対する…最後のワガママさ。
いつもはお前がワガママ言う側なんだから、最後くらいはオレが言わせてくれって。
……じゃあな、悟空。もうお前には二度と会えないんだ。
楽しかったよ。お前と一緒にやってきた人生。
もし叶うなら、生まれ変わっても……また、会おうな。
だってお前は、オレの、一番の………
きりきり、きりきりと、それは何かを巻き戻す音。
止まった指針が、巻き戻る。
狂った時計が、巻き戻る。
壊れていたなら、直せばいい。
直ったならば、ネジを離そう。
時間が再び、動き出せるように―――
【インフェルノ//〜奴隷は眠らない〜】
友情マンは、気配を殺して隠れていた。
物陰から見つめるその先、背負う男と背負われる男。
(……なんてこった……全部…無駄になってしまった…!クソッ!!)
ルフィが歩く。その背には、気絶した悟空の姿。
(まさか…カカロット君が負けるだなんて…!あの麦わら君、そこまで強かったのか…)
軽く舌打ちし、自分の計画破綻を嘆く。
ルフィたちはどんどん遠ざかっていき、ついには姿が見えなくなる。
(完全に……僕の計算ミスだな。今麦わら君とはち合う訳にはいかないし……何か新しい手を考えないと…)
折れた左腕がズキリと痛み、口元を歪ませる。
(まあ、とりあえず……何か食べよう)
空腹と戦いの疲れで足がもう動かない。
友情マンは壁にもたれてズルズルと腰を降ろし、ブチャラティたちから奪った食料を広げ始める。
(……食べ物があるって、素晴らしい事だなぁ……)
ミジメに耐えるだけだった胃袋に久々の補給を与えつつ、友情マンは次の一手を模索し始めた―――
―――ブチャラティは、まだ生きていた。
何本も刺さるナイフからはとめどなく血が溢れ、上半身の火傷は息をしただけでも酷く痛み出す。
しかしまだ、辛うじて生を取り留めてはいた。
(……戦いは……どうなったんだ……?)
意識を取り戻した時、すでに戦いは終わっていた。
辺りからは雨粒が地上に落ちて奏でる不規則なリズムしか聞こえてこない。
(モンキー・D・ルフィ……ツバサ……な…ツバサッッ!?)
自分の隣に眠る、大空翼。
安らかな寝顔は赤い血で覆われ、彼が絶命している事はブチャラティにも一目瞭然だった。
(………すまない、ツバサ……)
守れなかった。その事実が胸を痛みで押し潰す。
(……オレももうじき……死ぬ。ツバサ、オレも君と共に行こう。だが、せめて、君だけでも……!)
動かない体に最後の力を振り絞りスタンドを発現させ、翼の首筋へとスタンドの手を添わせる。
(………ベネ[良し]。やはり生命活動を停止した体からなら……首輪は外せた。ツバサ、君はこれで“奴隷の呪縛”から解放されたんだ)
翼の首からいとも容易く首輪を外せ、その成功に薄く微笑みを浮かべる。
(人は皆…眠れる奴隷だ。だが、それは“誰か”に決められた事では無い。あの主催者たちだろうと…だ。
…オレたちの運命を勝手に決める事など…誰にも出来はしない!)
口を固く結び、天を見上げる。
(ハルコ……ツバサ……カズマ……オレたちは“家族[ファミリー]”だ。
あんな“ブジャルド・ソダリッツィオ[偽りの友情]”とは違う、本物の“絆”で結ばれている……)
ブチャラティの瞳が閉じられる。スタンドは薄く透けてゆき、握る拳が緩んでゆく。
(……魂は……受け継が…れる…。なるべくしてなった……これで……いい……)
シトシトと、雨が降る。
洗い流すは男の生。
ブチャラティの手に握られた忌まわしき束縛の首輪は、横で真っ二つに割られていた。
運命の束縛から解放された二つの魂は今…ようやく自由を得る―――
【東京〜埼玉の県境付近/昼】
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]:両腕を初め、全身数箇所に火傷。疲労・ダメージ大。空腹。
:ギア・2(セカンド)を習得
[装備]気絶した悟空
[道具]荷物一式(食料半日分・スヴェンに譲ってもらった)
[思考]1:ブチャラティたちと合流
2:ルキア、ボンチューと合流する為に北へ
3:"仲間"を守る為に強くなる
4:"仲間"とともに生き残る。
5:仲間を探す
【孫悟空@ドラゴンボール】
[状態]:顎骨を負傷。出血多量。各部位裂傷
:疲労・ダメージ大
[装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料無し、水残り半分)
:ボールペン数本
:禁鞭@封神演義
[思考]1:気絶中
2:不明
※カカロットの思考は消滅しました。
【東京都/昼】
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:腕を骨折
:全身に強い打撲ダメージ
[装備]遊戯王カード@遊戯王(千本ナイフ、光の封札剣、ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴は全て24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(水・食料残り七日分)
:千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
:スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
:ミクロバンド@ドラゴンボール
:ボールペン数本
:青酸カリ
[思考]1:休息を取る
2:次の作戦を考える
3:参加者を全滅させる
4:最後の一人になる
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険、大空翼@キャプテン翼、死亡確認】
※ブチャラティの手には翼の首輪(ドーナツ状に真っ二つになっている)が握られています。※千本ナイフにより具現化したナイフはすでに消滅しています。
【残り39人】
ギュイーーーーン ゴゴゴゴゴ…
斬の周りに禍々しい空間が作り出される。
それは、とてつもなく凶悪な死の世界。
「これが、オレの精神世界。すなわち斬の世界!!」
空からは無限の日本刀が降り注いでいる。
地には、一帯に黒炎が広がる。
周りは真っ黒、魔人ブウクラスの妖怪がうようよ潜んでいる。
おまけに重力は1000倍。
これが斬の世界。
ポルタと真吉備は、この世界に耐えられず、あっという間に即死。
タカヤは痛感した。
「この男にだけは、手を出すんじゃなかったな」
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
>>335>>337>>376 内の“ブジャルド・ソダリッツィオ”を“ソダリッツィオ・ブジャルド”に、友情マンのセリフ「ブジャ…?」の部分も「ソダ…?」に修正します。
>>365 ×「やれやれ……死ぬかと思った。ま、僕に最後の切札を使わせたんだ……立派な物だよ……」→
〇「魔法カードを、発動したよ。君のボールは“封札”された。やれやれ……死ぬかと思った。ま、僕に最後の切札を使わせたんだ……立派な物だよ……」
に修正します。大変申し訳ありません。
「流星、嵐を切り裂いて」の
>>295-299を破棄し、修正版を投下します。
――やったよ石崎さん。
ついに、ついに藍染を倒したんだ。石崎さんの仇を取ったんだよ。
ざまあみろ。これがたくさんの人たちを騙した報いだ。
キルア、おまえも見てるか?
おまえを苦しめた藍染は、この俺が倒してやったぜ。
礼なんていらないさ。聖闘士として、当然ことをしたまでだ。
それに麗子さん。あの人にももう悲しい思いはしてほしくないからな。
そうだ、麗子さん。それに両さんやダイも。
仲間が待ってる。早く勝利を報告に行かないと――
『『『騙されるな星矢! それは幻想だ!』』』
「――ハッ!?」
歓喜に打ちひしがれる星矢の耳に、所在不明の忠告が響いた。
今の声は誰だ?――サガ?――デスマスク?――それとも一輝か?
いずれも聞き覚えのある声。それが三重になって――馬鹿な。三人とも既に死んだ。でなければこれは幻聴――
(幻聴?――まぼろし――――まさか!?)
我に返り、星矢は見た。
目の前に、拉げた土くれが散乱する姿を。クレーター状に広がった大地の上、立っているのは自分だけだということに。
――藍染惣右介がいない。生体も。死体も。
(馬鹿な、奴は流星拳で塵に――違う! 何を勘違いしていたんだ!? 流星拳は、『誰にもあたってなんかいない!』
あれはあの時の――そう、マヌーサだ。藍染はあれを使って――逃げたのか?)
幻想から覚めた星矢は、自らの愚かさを悔いるように奥歯を噛み締める。
全てまやかしだった。渾身の力で放ったペガサス流星拳は、『幻の藍染』を捉えたに過ぎなかったのだ。
(どこに行った藍染――! こ、この小宇宙は!?)
取り戻した感覚をフル活動させ、星矢は近隣の小宇宙を感じ取る。
すぐ近くに、よく知る小宇宙が四つ。そしてその四つに襲い掛かるかのごとく、もう一つ、忌々しい小宇宙が――
「――墓穴を掘ったな藍染! おまえのマヌーサは、『悪い幻』だけじゃなくて『良い幻』も呼び寄せたみたいだぜ!」
そう空へ言葉を吐き捨て、星矢は藍染の小宇宙を追う。
あの幻覚は間違いなくマヌーサの効果によるものだったとして、果たしてあの幻聴も藍染が招いたものなのだろうか?
考えている暇などない。今は一刻も早く、前へ――
「やった! 星矢が藍染のヤローを倒したぞ!」
「本当両ちゃん!? ……よかった。本当に、よかった……!」
鉄塔から降り、勝負の行く末を確認した両津とダイは、麗子にその全容を告げた。
星矢が繰り出した最後の必殺技。ペガサス流星拳は確かに藍染の身体を捉え、分子レベルになるまで粉々にした。
そして現在星矢は勝利の雄叫びを轟かせている。雨が降っていなかったら、ここからでも聞こえてきそうなほどだった。
「さあおまえら、これから改めて四国入りだ! 星矢を迎えに行くぞ!!」
「うん……うん!」
「はははっ、麗子さん泣きすぎだよ」
よほど星矢の生存が嬉しいのだろう。麗子はボロボロと涙を流し、その場に崩れてしまった。
麗子だけでなく、まもりと両津も同様に身を屈ませる。
みんな喜びすぎだよ、とダイが注意を払おうとした次の瞬間、ダイ自身もその異変に気づいた。
「え…………?」
寒気がする。空気が異様に重苦しい。
何が起こったのかと仲間たちの顔を見渡してみると、皆一様に苦しそうな表情を浮かべていた。
「な、なにこれ…………息が、うまくできない……」
「ぐぅ……なんだこりゃぁ……胸が締め付けられるように痛え。なにか、なにかが……」
悶える麗子と両津、そして言葉もなく蹲るまもり。
この突然の異変の中、唯一無事だったダイは、警戒した。
尋常ではない空気は、両津ら一般人を苦しめるには十分のものだった。
その存在だけで、人が殺せるほどに。
「アバンの書によれば、雷の呪文、ライデインは勇者にしか扱えない特別な魔法だったそうだ」
その元凶は、静かに歩み、ダイの下に姿を現す。
「先ほどの落雷でピンときたよ。星矢君が言っていた仲間というのは、やはり君のことだったか」
冷たく重い霊圧の中、ダイ同様に平然とした佇まいでいられる男。
「そんな……なんで、おまえが」
「マヌーサという呪文を知らないわけはないだろう? 落雷の瞬間、僕はそれを使ってあの場から抜け出したのさ。彼は絶対に情報をくれそうになかったからね。星矢君は今も、幻影を倒したことに喜んでいるのかな」
いるはずのない男、いてはならない男が、ダイの目の前にいる。
「ハーデスを知る聖闘士より、バーンを知る勇者を選んだ。ただそれだけのことだが――『おまけ』のことを考えると、この選択は正解だったようだ」
おまけと呼び視線を廻らせたのは、地に伏す三人の常人。
「そんな……星矢ちゃんの頑張りは、無駄だったっていうの……?」
「ふざけんなよ……どこまで卑劣なんだこのヤローは」
「…………」
ダイ、両津、麗子、まもり。
四者の視線は一人の男に集中し、驚きと怒りを個々にぶつけていた。
「さて…………君からは色々聞きたいことがある。マヌーサの効果は鏡花水月ほど万能じゃないからね。いつ星矢君が邪魔しに来るとも限らない。なるべく手短に頼むよ」
スーパー宝貝『盤古幡』を手に、男は笑みを浮かべる。
「――アイゼェェェェェェェンンンンンン!!!」
「――噂をすれば影、か。思ったよりも早かったな」
星矢の憤怒の雄叫びが響いた。ダイたちの下に現れたその男――藍染惣右介目掛けて一目散に走り寄ってくる。
マヌーサにより一度は標的を見逃した星矢だったが、その後に感じた小宇宙を頼りに、逃げる前に追いつくことが出来た。
逃げる前に――そう、思っていた。
しかし違う。藍染と、藍染の霊圧に打ちひしがれる三者の様子から、現在の状況が最悪であるということを理解したのである。
間髪いれずに撃ち込もうとした彗星拳を引っ込め、星矢は停止する。
場には、異様な空気が流れていた。
地に立つ男が三人、地に伏す男が一人、女が二人。
『立』と『伏』。この状況が、そのまま強者と弱者の違いを明白にさせていた。
「どうした? かかってこないのかい?」
「グッ…………!」
「さすがに、この状況を理解できないほど莫迦ではないらしい。少し見直したぞ」
「藍染……ッ!」
睨みつつも決して手は出さず、星矢と藍染は対峙していた。
包み込む霊圧は、星矢の臆するほどのものではない。が、藍染の手には『盤古幡』が握られている。
「星矢…………!」
「動くなダイ! この野郎、麗子さんたちを人質にするつもりだ! 動けば即重力を倍化させられるぞ!!」
一歩踏み出そうとしたダイを、星矢が呼び止める。
「なかなか分かっているじゃないか」
藍染はフフフと微笑み、硬直したダイに向き直る。
「軽率な行動は死を招く――君たちはともかく、他の三人は何倍の重力まで耐えられるか。考えられぬわけではなかろう?」
逆らえば即座に重力を上げ、人質を死に至らしめる。男の脅迫は、そう意味だった。
「……下衆ヤローが!」
せめてものの抵抗として、星矢は藍染に罵りの言葉を放る。
だが藍染は気にも留めない態度で微笑を浮かべるのみだった。
何がそんなに可笑しいのか。ダイには分からなかった。
藍染惣右介。ダイはこの男とは初対面だが――その雰囲気は、ダイのよく知る『死神』の存在と被る。
その存在とは、『死神』と同時に『道化師』の肩書きも持つ、魔王の配下キルバーン。
底知れぬ自信と余裕を漂わせ、何を企んでいるか計れない――そんな印象を感じた。
「一つだけ教えろ藍染! おまえはあの時、逃げようと思えば逃げることも出来た……それどころか、俺を攻撃することだって。なのにおまえはそのどちらもしなかった。おまえの目的は、いったいなんなんだ!?」
落雷時に唱えたマヌーサにより、藍染は『攻撃』と『逃走』、どちらも可能な時間を得た。
優勝を狙っているのなら、間違いなく星矢を攻撃していたはず。体力が乏しいのであれば、逃走を選んでいたはずだ。
なのに藍染が選択したのは、『尋問』。どうやってダイたちのことを知ったのかは分からないが、藍染がそこまでして情報を求めようとする理由はなんなのか。
「愚かな質問だな。時間稼ぎのつもりかい? ……だが、答えてやるのも一興か」
藍染は五人の視線に囲まれながら、不気味に語りだす。
「僕は他者の生死などに興味はない。もちろん邪魔者はあの男――石崎、だったかな? 彼のように容赦なく殺害してみせるが」
「貴様……!」
「滾るな。つまるところ、僕は君が生きていようがいまいがどうでもいいのだよ。むしろ情報を引き出すまでは生きていて欲しいとさえ思う」
――まぁ、僕にあれほどの苦渋を与えた人間だ。それなりの制裁は与えるつもりだが――という本心は言わず。
「僕は主催者の情報を欲している。そのためにも、『聖闘士』である君、『竜の騎士』であるダイ君の存在は貴重だ。
君との戦いも魅力的だったが、あのまま戦っていても君は僕の知りたいことを教えてくれそうになかったからね。
だから僕はハーデスを知る君ではなく、バーンを知る彼に接触を試みた」
藍染惣右介という男は、星矢のように恨みの感情で動くことはしない。
如何なる時も冷静に物事を見つめ、自分にとって最善の選択肢を選び出す。
「なら、なんでおまえはダイたちがここにいることに気づいたんだ?」
まさか、聖闘士のように小宇宙を感じることが出来るわけでもあるまい。
「簡単なことだ。君が纏うその鎧だよ」
藍染は星矢が身につけているペガサスの聖衣を指差し、言葉を続ける。
「君は言っただろう――『仲間が託してくれた』と。加えてあの落雷だ。あの理不尽なタイミングから見て、『誰かが君をサポートした』と考えるのが普通だろう?」
「だからってダイとは限らないじゃないか」
「いや、僕は知っているのさ。雷を落とせる呪文があること、そしてそれが魔王と敵対する勇者のみに使える呪文だということもね。
当てはまる人物は、一人しかいない。開幕の際、バーンに向かっていった少年――つまり、君だ」
藍染が示すのは、勇者であり竜の騎士、そしてバーンと確かに敵対する少年、ダイ。
「だからこそ僕は君へのとどめを刺さず、情報を優先した――そして、事態は思った以上に好転しているよ。なんせ、こんな『おまけ』まで付いていたのだから」
『おまけ』というのは、やはり両津たちのことだった。
藍染も馬鹿ではない。勇者と呼ばれるほどの存在に疲弊したからでは挑みたくないし、星矢も近くにいる以上、『ダイ一人』だったら諦めて黙認するつもりでいた。
だが、三人もいた『おまけ』を見て、藍染は勝負に出た。
「わざわざ仇討ちに来るような君が、仲間を見捨てるはずはないだろう? 彼と行動を共にしているダイ君、君もまた然りだ」
霊圧にプレッシャーを感じた三人の存在があったからこそ、尋問の成功率は高いと読んだ。
それゆえの接触。それゆえの余裕。それゆえの自信である。
「利用できるものは利用し、邪魔者は殺す――それが僕の行動理念さ。石崎という男も、僕に逆らわなければ死ぬことはなかっただろう――」
星矢が絶叫しそうな台詞だった。
しかし嘘ではない。実際、藍染は過去にも無差別な殺戮は行っていない。
石崎が殺されたのも、その用心深さゆえの過ちだったと言えよう。
「…………」
「さて、そろそろ『尋問』に戻ろうか。雨脚も強まってきたことだしね」
藍染は振り向き、わざとらしく星矢に背中を向ける。
星矢がなにも出来ないと分かった上での行動。星矢は激しい憤慨の念を抱いた。
打開策が見つからない。
藍染に隙が見当たらない。
いかに星矢といえども、制限がかけられたこの世界では、速度で藍染を完全に圧倒することは出来ない。
仕掛けるなら、重力の増加を覚悟しなければならなかった。だがそれは、直接仲間の死に繋がる。
(両津さんなら少しは耐えられるかもしれない……だけど麗子さんやまもりさんは間違いなく死ぬ! 俺が手を出したら……みんなは!)
何もできない自分が悔しい。これはダイも同じ心境だった。
沈黙の時間は長くは与えられない。いつかは、口を開かねばならない。
(生死には興味がない……もしそれが本当なら、バーンの情報くらい……)
ダイは妥協案を考えつつも、未だそれを決行に移せていない。
藍染が、あの『死神』と同じように『道化』であるならば――正解は、どの選択なのか。
【兵庫県/二日目/午前】
【藍染惣右介@BLEACH――生存確認】
[状態]重度の疲労(盤古幡使用可能。しかし、二十五倍程度が限界)、戦闘によるダメージ(軽傷)
[道具]:荷物一式×2(食料残り約5日分)、盤古幡@封神演義、首輪×2
[思考]1:両津、麗子、まもりを人質に、ダイと星矢から情報を聞き出す(星矢が気づくまでに終わらせたい)。
2:情報を聞き出せたなら即逃走。危ない橋を渡るつもりはない。
3:L一行を探し出し始末、斬魄刀を取り返す。
4:興味を引くアイテムの収集(キメラの翼・デスノート優先。斬魄刀の再入手は最優先)
5:ルーラの使い手、バーンと同世界出身者を探す
6:能力制限や監視に関する調査
7:琵琶湖へ向かう(斬魄刀を手に入れてから)
8:琵琶湖に参加者が集まっていなかった場合、新たな実験の手駒を集める
【四国調査隊】
共通思考1:四国に向かう(数十分後、到着予定)
2:仲間が死んでも泣かない
3:出来る限り別行動はとらない (星矢は別)
4:ハーデスに死者全員を生き返らせさせる
【両津勘吉@こち亀】
[状態]睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]マグナムリボルバー(残弾50)
[道具]支給品一式×2(二食分の食料、水を消費)両さんの自転車@こち亀(チェーンが外れている)
爆砕符×2@NARUTO、中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター、焦げた首輪
[思考]1:藍染をどうにかする
2:姉崎まもりを警戒
3:仲間を増やす
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
[状態]中度の疲労、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]サブマシンガン
[道具]食料、水を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:藍染をどうにかする
2:まもりに僅かな不信感を抱いている
3:四国へと向かう
4:藍染の計画を阻止
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]健康
[装備]クライスト@ブラックキャット
[道具]荷物一式(2食分消費)、トランシーバー、出刃包丁
[思考]1:藍染に情報を提供するかどうか悩んでいる
2:姉崎まもりの監視
3:四国へと向かう
4:ポップを探す
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]:中度の疲労。殴打による頭痛、腹痛。右腕関節に痛み。(痛みは大分引いてきている)
:右肩の軽い脱臼。不退転の決意。藍染の霊圧によるプレッシャーを感じているが、割と冷静?
[装備]:魔弾銃@ダイの大冒険・魔弾銃専用の弾丸(空の魔弾×7、ヒャダルコ×2、ベホイミ×1)@ダイの大冒険
[道具]:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン、ベアークロー(片方)@キン肉マン、装飾銃ハーディス@BLACK CAT、荷物一式×4、食料五人分(食料、水は三日分消費)
[思考]1:不明
2:両津達3人に着いていく。大量殺戮のチャンスを狙う
3:殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない
4:セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)
5:セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
6:セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生して貰う
【星矢@聖闘士星矢】
[状態]極度の興奮状態、中程度の疲労、全身に無数の裂傷
[装備]ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[道具]食料を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:なんとかこの場で藍染を倒したい
2:四国へと向かう
3:弱者を助ける
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
394 :
作者の都合により名無しです:2006/09/13(水) 14:24:10 ID:cF63yGWJO
ろーっこうおろしにさぁっそぉぉと
395 :
ギギ・・・・:2006/09/13(水) 20:24:59 ID:jDkA2IS00
/⌒ヽ
⊂二二二( ^ω^)二⊃
| / ブーン
( ヽノ
ノ>ノ
三 レレ
血が止まらない。
背負った新八の右腕からにじみ出る血液は越前の右肩を染め続けていく。
(失血死って苦しいっていうよね……)
嫌な事実を思い出してしまい慌てて思考を切り替える。
(……乾先輩……)
先程の放送で、ついに呼ばれてしまった最後の一人。
いっつも飄々としていて、嬉々として怪しげな汁ばっか作ってて、人のデータがどうとか言ってて、俺があんまり好きじゃないって知ってるのに牛乳飲めってうるさくて。
…………そういえば、俺が初めて声を出して応援したのは、アンタだった。
(……アンタのテニス、嫌いだけど嫌いじゃなかった)
……やっぱり、もっと違うことを考えよう。
今、乾先輩のことなんか考えたら足が止まってしまいそうだ。
(そういえば、あの女の人は一体何だったんだろう)
ああやって襲ってきたっていうことはこの殺し合いに乗っちゃったってことなのかな。
なんだか妙な武器を持っていたけど……。
そう言えばどうしてあの人は俺たちにあの場でとどめを刺さなかったんだろう。
なにか理由があったのかな。
こんな風に俺が考えたって答えがでるわけじゃないけど。
自分より大きな新八を背負う越前の歩みは遅々として進まず、その遅さが新八の命を削っていっているようで焦りが更に疲労を上乗せする。
それでも足を止めるわけにはいかない。
今のところあの危険な女は追ってきてはいないようだけど……追ってこない確証などないのだ。
「……ね、うえ……」
聞いたこともないような頼りない声で、新八が何事かを呟いた。
ずれ落ちかかる新八を背負い直し、越前は真っ直ぐに前を見据える。
肩に、背に、腰に、足に、かかる負担はそのまま人一人の命の重さで……今まで考えたこともないような重い枷となり容赦なく越前を地に倒そうとする。
だけど。
(死なせない……絶対に……。死なせてたまるか……!)
進む先に当てなんかない。
ただただ、新八をどうにかしてくれる人間に出会いたい。
こんな簡単な止血よりも効果的な……できれば劇的な治療をしてくれる人物に。
最悪の状況の中、それでも負けることを嫌うテニスの王子様は一歩一歩、確かに進んでいく。
ほんの数時間前に……先輩の乾が、今の越前と同じように仲間を背負って走り続けたように。
今、門は閉じられた。
選んだ赤き修羅門は斗貴子の胸の奥へと沈み、決意の火となってその心を照らす。
道に転々と続いていく血痕。
それはまるで斗貴子を人ならざる世界へと誘う篝火のようで。
(スカウターを使うまでもないな……)
スカウターのスイッチを切り、血痕の続く先を見やる。
荷物は拾った。銃も手にした。
もう、立ち止まっている理由はない。
しばし血痕を見つめ、斗貴子は、ふ、と息を吐くとそれに沿って歩き始める。
もう、躊躇はしない。
殺す。
今度こそ。
確実に。
そう思いながらも心の片隅で深手を負ったであろうあのメガネの少年の安否を気にしてしまう。
いや、はっきりと「無事であればいい」と思ってしまい、そんな自分を嫌悪する。
傷つけたのは――――殺そうとしたのは、しているのは自分なのに。
決意したばかりだというのにどうしてこう自分は弱いのだろう。
――――――――『最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない』
誰よりも尊敬する戦士長の言葉が胸をよぎる。
この腐ったゲームに巻き込まれた全員を……カズキを日常に帰すためならば。
そのためなら、どんなに蔑まれようと構わない。
「私は……悪にでもなる」
唇を噛みしめ呟く。
緩やかだった歩みが速まり、徐々に斗貴子はスピードをあげる。
血痕はまだ続いている。
――――――――新ちゃん、新ちゃん
――――――――おい、新八
――――――――新八〜新八〜
あああうるさいなもう!
嫌になるほど聞き覚えのある沢山の声が一斉に僕の名を呼ぶ。
ああもう。またですか。またこのパターンですか。
いい加減起きろよ、僕。
今けっこうなピンチなんだからさ。
って――――――――――――――――――――。
「僕まだ生きてるゥゥゥゥゥううううう?!」
「……一応ね。耳元で怒鳴らないでくれる?うるさいから」
「あれ?越前くん?あぁ……やっぱあれは夢だったんだ……。よかった……。そうだよな。必殺凶悪ミニスカセーラー狂戦士に突然襲われるなんてありえな……」
「それ現実だから」
「そんなあっさり希望を消さないでェェェ!」
「てゆ〜か起きたんなら降りて。重いから」
「…………ハイ。スイマセンでした」
呆れたような越前君の声に僕は慌てて越前君の背中から降りた。
と言うか、慌てて降りたせいで転んでしまい、怪我した肩を強打して転げ回った。
「痛ってェェェェェ!痛いよコレちょっとやばいよ!」
肩も腕も痛いけどなんか頭もぼーっとしてて、今ならいろんな見えちゃいけないモノが見えちゃいそうだ。
「……貧血だね。当然といえば当然だけど」
そう言って越前くんは僕の隣に座り込む。
僕の腕を押さえ、もう一度布をきつくまき直してくれる。
出会ったときと同じ様な容赦のない治療に悲鳴を上げつつ、僕は改めて周囲を見回した。
よく見てみればここは林の中。
しかも茂みの影になっていて、向こうから見た限りではかなり僕たちは見つけづらいだろう。
「越前くん!肩!」
ぐっしょりと赤く染まった越前くんの肩が目に入り、心臓が止まりかけた。
越前くんも怪我をしてたんだろうか。
「……あぁ。……アンタの血だから、これ」
あっさりと言った越前くんの言葉に安堵しつつ、僕は越前くんの肩がこうなってしまったわけに思い至った。
越前くん……僕を背負ってきてくれたんだ。ここまで。こんな小さな体で。
よく見たらすごい汗かいてるし。
「そういえば君の怪我は?!」
「平気。かすっただけだし」
そう言うけど、切られていたいわけはない。
でも越前くんは弱音なんか漏らさない。
意地っ張りなのか本当に強い人間なのかはまだよくわからないけど。
「越前くん……。ありがとう……」
「……別に」
僕の言葉に越前くんはプイ、とそっぽを向いてしまった。
照れてるんだ、ってことがわかり越前くんに気付かれないように小さく笑う。
肩は物凄く痛いけど、なんだかちょっと気分がいい気がする。
「僕、ここに来て最初に会えたのが君で良かったよ」
「……そ」
相変わらず越前くんの返事は素っ気なかったけど、そんなことはどうでもいいや。
「もう少し休憩したら、行くよ」
「……うん」
頷いて僕は、ぐらぐらする頭を我慢しながら空を見上げた。
「……ねえ、越前くん」
「なに?」
「朝の放送……誰が呼ばれた?」
「…………」
「……そっか」
夢であればいいと思ってたけど……やっぱり現実だったんだ。
「……ナンバー2……」
僕の呟きに、越前くんも曇り空も、誰も何も答えなかった。
突然、アスファルトに残っていた血痕が途切れた。
足を止め、斗貴子は逡巡する。
あのメガネの少年の血が止まったのか。
それとも進路を変えたのか。
前者であればいい、と反射的に思ってしまい何度目かの自己嫌悪に陥る。
さっきからこの繰り返しで、そのことも斗貴子の自己嫌悪に拍車をかける。
頭を振り、無理矢理に思考を切り替えた斗貴子はスカウターのスイッチを入れた。
「…………」
いくつかの反応を見、眉を寄せる。
斗貴子の今いる場所からわずかに左手側にある反応は、数字の小ささからみてあの少年達だろう。
問題はその先。
ここ、京都から十分に近い所……おそらく大阪と思われる辺りに4つの反応が固まっている。
そのうち3つはたいした数字ではないが……残りの一つははっきりと斗貴子よりも高い戦闘力を示している。
そのうえ。
(なんだ?こっちへ向かってくるこの4つの反応は……)
まとめて4つ。高めの数字を持つ人物3人+そこまで高くない数字の人物1人が、かなりのスピードでこちらへ向かってくる。
(4人で走って行動している?……いや。それは無理がある。……そうか、電車か!)
今までまったく頭になかった移動手段がここにきて使われているというのか。
恐らくは……あの放送のせいだろうが。
(このままいくとこの2つのグループは遭遇する)
それが一体どのような意味をもたらすのか。
大きなグループができあがるのか……それとも血で血を洗う戦闘が起こるのか。
しばし考えるも答えは見えない。
「……今は」
今はとりあえず、“人数減らし”に集中すべきだろう。
そう思い斗貴子はショットガンをしまった。
距離を考えると微妙なところだが、発砲音を聞きつけられないとも限らない。
ここは安全に確実に――――。
「バルキリースカートで……」
心の奥底では、人を殺すために使いたくなかった自分だけの武器で。
私は。
人を殺す。
気配を消し、足を踏み出す。
数メートル進んだところで、気配を殺していたのが馬鹿らしくなるような会話が聞こえてきた。
「だから僕はこう叫んだんだ。『ノーパンになって得られる平和なんか俺は認めんぞォォ!!』って」
「……ふーん」
「だってそうだろう?!姉上はどう考えたってSなのにMになんかなれるわけないんだよ!」
「……ふーん」
(……一体何の話をしているんだ)
趣旨のよくわからない話に毒気を抜かれてしまい思わず足を止める。
木の影に隠れそっと茂みの中を覗き込むと、2人の少年の背中が見えた。
間違いない。あの子達だ。
真面目なのかふざけているのか判断を付けかねる彼らの会話はなおも続いていく。
(私は何をしているんだ!)
さっさと、バルキリースカートの刃を彼らの背中に突き立てればいい。
卑怯者らしく、悪者らしく、あっさりと。
「……誰?そこにいる人」
いつ気付かれたのだろう。
小柄な少年の鋭い瞳が、茂みの中からこちらを睨み付けていた。
沈黙が広がる。
あの木の影にいる人は動かない。
「出てくれば?」
決して気の長い方じゃない俺の言葉に姿を現したのは、予想通りの人物だった。
あまり、いや、かなり再会したくなかったオネエサンだ。
「で?オネエサンは俺たちを殺しに来たの?」
さりげなく腰を上げ、新八さんを庇える位置に移動しながら目前の人に尋ねる。
新八さんの顔色は未だに物凄く悪い。
土気色っていうだっけ?こういう色。
乾汁を一気に10杯くらい飲んじゃった感じだ。
「……ああ。私は……君たちを殺しに来たんだ。……それが……君たちのためだから」
うわ。なんかこの人すっごい眉間に皺寄ってる。……部長といい勝負。
思い詰めてます、って顔は見ていて痛々しいくらいに怖い。
「は?意味わかんない」
視線はそのままに、俺はいつでも駆け出せるように心を準備する。
武器も何にもない今、このオネエサンと戦って勝てるとは思えない。
それに俺にとっての勝利はここで戦って勝つことじゃないし。
俺にとっての勝利は、無事に帰って全国制覇をすること。
テニスを、またすること。誰も殺さないし、殺されない。
これ以外にはない。
「許してくれとは言わない。憎んでくれて構わない。私は――――――――――――」
キチキチと変な音がする。
オネエサンのスカートが少しだけ持ち上がり、中から鈍く光る刃物が姿を現す。
完全に刃を伸ばしたらしいその鎌の切っ先が俺たちに向く。
空気がピリピリして、全身に悪寒が走る。
「君たちを殺す」
「やだ」
一言言い返し、俺は立ち上がるときに持っていた土をオネエサンに投げつけた。
思わぬ目くらましを喰らって、オネエサンの注意が一瞬だけ逸れる。
その隙に新八さんの腕を掴んで俺は全速力で走り出そうとして――――――――――――。
「無駄だ」
確かに背後にいたはずのオネエサンが、どうやったのか俺たちの目の前にふわりと舞い降りた。
「……必ず後で生き返らせる。だから今だけ我慢して私に殺されてくれ……」
「どういうことですか?!」
何言ってんのアンタ、と言おうとした俺の言葉を遮って、新八さんがオネエサンに詰め寄った。
「生き返らせるって、優勝するってことですか?でもアレ、生き返るのは一人だけで、それだってインチキくさいじゃないですか」
「……全員が生き返って、元の世界に戻れる方法があるんだ」
「……なにそれ」
何言ってるの、この人?
頭がやられちゃったんだろうか。
「何かわけありみたいですね。話、きかせてくれませんか?」
思いっきり疑いの目を向ける俺を退けた新八さんの言葉に、オネエサンは一瞬迷った後「わかった」と頷いた。
「馬鹿じゃないの?」
予想通りの反応だが、言われた言葉は予想よりも率直なモノだった。
ポカンと口をあけたままの志村にも、肩をすくめる越前にも、もう何も言うつもりはない。
こうなることはわかっていた。
自分だって初めてこの話を聞いたときは頭から疑っていたのだ。
『7つそろえると竜型の神が現れ何でも願い事を叶えてくれる玉』
お伽話の中に出てくる夢話と同じくらい不確かな存在。
だが――――。
(私は、この小さな希望に賭ける……!!)
全員を救うために。今。この二人を。
「アンタだって、本当は信じてないくせに」
まったく予想外な言葉に、動きかけていたバルキリースカートがピタリと止まった。
「……どういうことだ?」
「そのまんま。本当はアンタも信じていないんでしょ?そんな話。だから」
「だから……僕たちを殺すことをそんなに躊躇っているんでしょう?」
越前の言葉を引き継ぎ、志村が口を開く。
彼らを殺すことを躊躇っていることを見抜かれ、私は彼を睨み付けた。
「……そんなことはない……!」
「だったらどうして僕たちを見つけた瞬間に殺さなかったんですか?」
「それは……!」
「それに、どうして僕たちにこんな話をしたんですか?本当にドラゴンボールの話を信じているんなら僕たちを殺してさっさと次を探しに行けばいいのに。こんな話をする必要なんかないのに」
志村の言うことはもっともだ。
本来ならば一刻も早く人を減らし……ピッコロを見つけ、優勝してもらわなければならないはずなのに。
「……信じてないから、だから誰かにこの話を肯定して欲しかったんじゃないですか?」
「…………」
初めてこの話をした人はリサリサという名の女戦士だった。
そして、つかさ。ケンシロウ。サクラ。アビゲイル。
皆が皆――――言った。『そんなことはありえない』のだと。
唯一人、クリリンと同じ世界からきたヤムチャだけがドラゴンボールの存在を信じ……いや、知っていてあっさりと計画に乗ってはいるが……。
ヤムチャ以外は、誰一人この話を信じてくれなかった。
一度ホムンクルスになった人間が、もう元には戻れないのと同じように……死んだ人間はもう生き返らないのだと、本当は心の中では、私は…………。
「それでも……私は希望を捨てることはできない……!!」
「現実を認めるのが怖いの?」
「なっ……!」
「新八さんの言うとおり、本当にその話を信じてるんならアンタは俺たちをあの小屋で殺してなくちゃいけなかったんだ。なのにここまで来てもアンタはそれができない。アンタは弱いんだ。仲間が死んだ現実を認めることも、嘘みたいな話を本気で信じることもできない」
自分よりも幼い小柄な少年の瞳が、私を真っ直ぐに射抜く。
頼りなさそうなメガネの少年の瞳が、私を真っ直ぐに射抜く。
ギリギリと奥歯を噛みしめてしまうのは、この二人の言うことが正しいからか。それでも。
「……『最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない』。だから私は最後まで……!」
貫き通す。
自分の信じた希望を。
例えこの信念が悪なのだとしても。
「アンタみたいな弱い人間に、信念なんか貫けない」
「…………れ……」
俯いた自分の声は思ったよりも低く、感情が膨れあがる。
(私は決めたんだ!もう覚悟をしたんだ!)
なのにどうして。
どうしてこんなに、心が乱れるのか。
キチキチと小さな音を立て、死神の鎌が持ち上がる。
だが、越前は退かない。
志村も退かない。
「アンタみたいに弱い人間に、俺は絶対に殺されてなんかやらない」
「…………黙れ…………!」
志村の視線が、越前の言葉が、私の心に突き刺さる。
認めたくなかった、気が付きたくなかった自分の心が晒され、そこに言葉の刃が突き立てられる。
「俺は……絶対に負けない――――――――――――――――!!」
「
「黙れ――――――――――――――――――――っっ!!」
「越前くん…………!!」
鋭い刃が越前の眉間に一直線に向かう。
狙いは違わない。バルキリースカートの最大の特性は高速精密機動だ。
歯を食いしばり、越前は真っ直ぐに自分を睨み続けている。
逃げられないのか?いや、彼は……!
――――――――越前の眉間の皮膚に後3oというところで、刃の動きが止まった。
「……なぜ……」
ようやく出せた声は、自分でも驚くくらいに震えていた。
動けなかった、のではなく避けなかった越前は、なおも私を睨み続けている。
「なぜ……」
なぜ、私は迷ってしまうんだろう。
何度も何度も覚悟を決めたと、全てを捨てるのだと、そう思ってきたのに。
カズキを、全員を日常に帰すためならばと決意したはずなのに。
「簡単な事じゃないですか」
越前の隣にいた志村が、一歩踏み出した。
握りしめた拳が震えているのが見て取れた。
「自分の心に嘘ついたまま信念なんか貫けっこないんだよ!!アンタそんな簡単なこともわかんないんですか!!」
僕の絶叫が林の中に響き渡る。
大声を出したせいでまた頭がグラグラするけど、そんなのに構ってる場合じゃない。
目前のお姉さん……津村さんが呆然とした顔で僕を見る。
さっきまで地獄の鬼より怖い顔をしてたのに、今はその目が少し潤んでいる。
「それでも……私はもう引き返せないんだ……」
「引き返せないわけがあるかボケェェェェェ!そんなこと死んでから思え!!」
「ちょっと新八さん……」
びっくりしていた越前くんが僕を抑えようとするけどそんなことどうでもいい。
腹が立って仕方がない。
「何『自分だけが不幸』みたいな顔してんだ!大切な人を亡くしたのはあんただけじゃないんだよコノヤロォォォォォ!!」
「……」
呆然としたままの津村さんの胸ぐらを掴み、僕は思いつくままに叫び続ける。
ドラゴンボールが全てを解決してくれるなら僕だって信じたい。
でも死んだ人はどうしたって生き返らないんだ。
だから僕たちは。
「死んじゃったら生き返れないから!だから!気合いいれて生きてるんでしょ?!一回しかないから!」
叫んだせいで息があがる。
ただでさえ貧血だったのに酸欠までプラスされてきてない、これ?
「もう……私に構わないでくれ……」
俯いた津村さんが小さな声を出した。
「は?」
言っている意味がよくわからず聞き返す。
それでも津村さんは顔を上げない。
「今なら君たちを殺せない……。一人で考えたいんだ……。だから……」
「嫌です」
むかついたから即答してやった。
何言ってんだ、この人。
「あんた放っておいたら何するかわかんないだろ!それに……」
心臓よりも大切な器官があるって言ってましたよね、銀さん。
頭っから股間を真っ直ぐ貫く大切な器官があるって。
それは、自分の魂に収めた……折れてはいけない刀。
もう、僕は誰も目の前で死なせたくない。
誰にも誰かを殺させたくない。
この、津村さんにも。
「それに……そんな風に泣いてる女の人、放っておけませんよ……」
言われて初めて気が付く。
私の頬には、いつのまにかいくつもの涙が流れていた。
【京都府 朝】
【志村新八@銀魂】
[状態]:重い疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。上腕部に大きな切傷(止血済み)。
顔面にダメージ。歯数本破損。朦朧。たんこぶ多数。貧血。
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)
毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
[思考]:1、斗貴子を止める 。
2、藍染の計画を阻止。
3、まもりを守る。
4、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
5、主催者につっこむ(主催者の打倒)。
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:非親衛隊員。重い疲労。脇腹に、軽度の切傷(止血済み)
[装備]:線路で拾った石×1
[道具]:マキ○ン
[思考]:1、切れた新八を止めたい。
2、新八の傷を治してくれる人を捜す。
3、藍染の計画を阻止。
4、死なない
5、生き残って罪を償う
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:肉体的、精神的に軽度の疲労。左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました)
顔面に新たな傷、ゲームに乗る決意:核鉄により常時ヒーリング
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険、 ショットガン
真空の斧@ダイの大冒険、首さすまた@地獄先生ぬ〜べ〜、『衝突』@ハンター×ハンター、
子供用の下着
[思考] 1、新八の言葉に動揺
2、ドラゴンボールについてもう一度考えたい
>>299 こちらこそ何か不愉快にさせたんだったらスマンカッタ
いい加減な妄想で辻褄合わせたり抜け道探したりするの好きなんだ・・・