2/4【こち亀】○両津勘吉 /○秋本麗子 /●中川圭一 /●大原大次郎
1/4【NARUTO】●うずまきナルト /○春野サクラ /●大蛇丸 /●奈良シカマル
2/4【DEATHNOTE】●夜神月 /○L(竜崎) /○弥海砂 /●火口卿介
2/4【BLEACH】●黒崎一護 /○藍染惣右介 /●更木剣八 /○朽木ルキア
2/4【ONE PIECE】○モンキー・D・ルフィ /●ニコ・ロビン /○ウソップ /●道化のバギー
1/4【銀魂】●坂田銀時 /●神楽 /●沖田総悟 /○志村新八
1/4【いちご100%】●真中淳平 /●西野つかさ /○東城綾 /●北大路さつき
1/4【テニスの王子様】○越前リョーマ /●竜崎桜乃 /●跡部景吾 /●乾貞治
2/4【アイシールド21】○小早川瀬那 /●蛭魔妖一 /○姉崎まもり /●進清十郎
0/4【HUNTER×HUNTER 】●ゴン・フリークス /●ヒソカ /●キルア・ゾルディック /●クロロ・ルシルフル
2/5【武装錬金】●武藤カズキ /○津村斗貴子 /●防人衛(C・ブラボー) /●ルナール・ニコラエフ /○蝶野攻爵(パピヨン)
1/5【SLAM DUNK】●桜木花道 /●流川楓 /●赤木晴子 /●三井寿 /○仙道彰
1/4【北斗の拳】○ケンシロウ /●ラオウ /●アミバ /●リン
1/4【キャプテン翼】○大空翼 /●日向小次郎 /●石崎了 /●若島津健
2/4【キン肉マン】○キン肉スグル /○ウォーズマン /●ラーメンマン /●バッファローマン
3/4【ジョジョの奇妙な冒険】○空条承太郎 /○ディオ・ブランドー /●エリザベス・ジョースター(リサリサ) /○ブローノ・ブチャラティ
2/4【幽遊白書】●浦飯幽助 /○飛影 /○桑原和馬 /●戸愚呂兄
0/4【遊戯王】●武藤遊戯 /●海馬瀬人 /●城之内克也 /●真崎杏子
1/4【CITY HUNTER】●冴羽リョウ /●伊集院隼人(海坊主) /○槇村香 /●野上冴子
3/4【ダイの大冒険】○ダイ /○ポップ /●マァム /○フレイザード
1/5【魁!!男塾】●剣桃太郎 /●伊達臣人 /●富樫源次 /●江田島平八 /○雷電
1/4【聖闘士星矢】○星矢 /●サガ /●一輝 /●デスマスク
1/4【るろうに剣心】●緋村剣心 /○志々雄真実 /●神谷薫 /●斎藤一
3/6【DRAGON BALL】○孫悟空 /●クリリン /●ブルマ /●桃白白 /○ピッコロ大魔王 /○ヤムチャ
0/4【封神演義】●太公望 /●蘇妲己 /●竜吉公主 /●趙公明
0/4【地獄先生ぬ〜べ〜】●鵺野鳴介 /●玉藻京介 /●ゆきめ /●稲葉郷子
0/4【BLACK CAT】●トレイン・ハートネット /●イヴ /●スヴェン・ボルフィード /●リンスレット・ウォーカー
1/4【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】●ダーク・シュナイダー /○アビゲイル /●ガラ /●ティア・ノート・ヨーコ
0/5【ジャングルの王者ターちゃん】●ターちゃん /●ヂェーン /●アナベベ /●ペドロ・カズマイヤー /●エテ吉
2/4【とっても!ラッキーマン】○ラッキーマン(追手内洋一) /●勝利マン /○友情マン /●世直しマン
2/4【世紀末リーダー伝たけし!】●たけし /○ボンチュー /●ゴン蔵 /○マミー
41/130 (○生存/●死亡)
生存者
2/4【こち亀】○両津勘吉 /○秋本麗子
1/4【NARUTO】○春野サクラ
2/4【DEATHNOTE】○L(竜崎) /○弥海砂
2/4【BLEACH】○藍染惣右介 /○朽木ルキア
2/4【ONE PIECE】○モンキー・D・ルフィ /○ウソップ
1/4【銀魂】○志村新八
1/4【いちご100%】○東城綾
1/4【テニスの王子様】○越前リョーマ
2/4【アイシールド21】○小早川瀬那 /○姉崎まもり
2/5【武装錬金】○津村斗貴子 /○蝶野攻爵(パピヨン)
1/5【SLAM DUNK】○仙道彰
1/4【北斗の拳】○ケンシロウ
1/4【キャプテン翼】○大空翼
2/4【キン肉マン】○キン肉スグル /○ウォーズマン
3/4【ジョジョの奇妙な冒険】○空条承太郎 /○ディオ・ブランドー /○ブローノ・ブチャラティ
2/4【幽遊白書】○飛影 /○桑原和馬
1/4【CITY HUNTER】○槇村香
3/4【ダイの大冒険】○ダイ /○ポップ /○フレイザード
1/5【魁!!男塾】○雷電
1/4【聖闘士星矢】○星矢
1/4【るろうに剣心】○志々雄真実
3/6【DRAGON BALL】○孫悟空 /○ピッコロ大魔王 /○ヤムチャ
1/4【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】○アビゲイル
2/4【とっても!ラッキーマン】○ラッキーマン(追手内洋一) /○友情マン
2/4【世紀末リーダー伝たけし!】/○ボンチュー /○マミー
41/130 (○生存/●死亡)
もう間もなく二度目の陽が昇る。
この世界の太陽は残酷である。
夜が来れば、より殺戮は進むというのに――構わず沈む。
朝が来ればその深い悲しみが嫌応なく親しかった者たち全てに知らされてしまうというのに――構わず昇る。
太陽は全てを照らす。それが仕事なのだと言うならば、嘘も甚だしい。
この世界の太陽は、悲哀の影を生み出すためだけの存在なのだから……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その名を体現するかのように、飛影は闇の中にある町を軽やかな影の如く進んでいた。
アビゲイルに他県に飛ばされてしまった事など気にも留めていない。
そもそも彼はただ強い者と戦う事を望んでいるだけなのだ。相手の生死など気にも留めぬ。アビゲイルが憎くて戦った訳でもない。
――出来るならばあれ程の強さを持つ者、再戦の機会があればそれに越した事はないが…無いなら無いでそれもまた巡り合わせ。
飛影はまた新たな強き者を探すだけなのである。
「……そういえば……」
ふとある事を思い出して道路脇で足を止める。
アビゲイル戦で武器を失って、飛影にとってその意義は食料を収めるためだけの袋になっていたデイバックを久方ぶりに開け、中から参加者名簿を取り出し久しぶりに眺めてみる。
「あの馬鹿はまだ生きてるんだったな…」
死者の名前に印を付けている訳ではないのだが、記憶を辿ってみる限り、その人物――桑原和馬が放送で呼ばれた記憶は飛影に無かった。
桑原に関して特に感慨は無い。死んだら死んだでそれまで。
幽助亡き今自分を知る者は桑原だけになった事を思い、初めて少しだけ桑原の事に考えをやる。
(幽助さえ簡単に死ぬこの世界…奴にはもしかして、実力のある仲間がいるのか?)
飛影が戦った桃やアビゲイルも自分と肉薄する実力の持ち主であった。もし戦ったのが自分でなくあの馬鹿な人間ならば、まず間違い無く負けて死んだのは桑原の方。
ならば今だ生き延びている桑原には、もしかしたら強い仲間がいるのかもしれない。
(そもそも奴は馬鹿正直な奴だから、お人好しな奴なら仲間に引き込むのは得意だろうしな)
桑原の気性を考えるなら、ゲームを隠れてやり過ごそうなどとは考えない無駄に正義感だけは強い男であるのは飛影も知っていたし、ならば放送で聞いた『四国と九州にいるゲームを隠れてやり過ごそうと企む者たち』の中にもおそらく桑原はいないだろうと考えられる。
(……探してみる、か……)
それはただの気まぐれ。
手掛りもゼロ、別に見付からなくとも問題は無い。
しかし、強い敵を探す以外これといった目的もなく、そのちょっとした行為が今までの戦いより更に楽しめそうな戦いに繋がるかもしれないのならば、それもまたありかもしれない……飛影はそう結論付けた。
無意識に薄く口元に笑みを作り再び移動を開始しようとしたその瞬間、ふと芽生えた今の“らしくない”自分の感情に気付く。
(…フン…感傷などない。奴を見付けたとしても、あいつの仲間を殺す事になるんだ、俺は…)
まるでその不要な感情を無理矢理押し込めるように、自らを諭すかのように、虚空を睨みつける。
そして再び飛影は走り出す。その空虚な心を満たしてくれる存在を探すために――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「――クソ!クソッ!クソォオッッ!!!」
――吠える。
行き場無く我が身の内で暴れ狂う…怒り、苛立ち、憤り。それらをぶつけるかのように、草木を燃やす。枝を叩き折る。岩を蹴り飛ばす。
理由など無い、それはただの無駄な行為。
「クソガアアアァッッ!!!」
千切れ飛んだ葉がひらひらと舞い踊る。
「あんなクソガキどもに…この俺様が…またしても…ッ…!!!」
その怒れる異形の者の名をフレイザードと言う。
三時間ほど前にあったボンチュー・ルキア戦は、フレイザードの心に大きな『しこり』を残す結果に終わった。
「北海道での決闘(デュエル)野郎……ピッコロ……麦わら小僧……ルキアとかいうしつこいメスガキ……黄金聖衣とかのあの男……!」
頭の中に現れては消える、その憎々しい対象たちの姿。
過去、フレイザードに“恐怖”を与えてきたその者たちの勝ち誇る笑い声に囲まれているような幻が脳裏に焼き付いて離れない。
「俺は戦うのが好きなんじゃねぇ………“勝つ”のが好きなんだよオッッ!!」
怒りのまま、己の胸にかかるメダルに手を掛け、己の体に巻き付いている鎖ごと強引に引き千切る。
暴魔のメダル――
この世界で手に入れた物ではない、唯一フレイザードが最初から所持していた自身の持ち物。
何の役にも立たない、ただ、フレイザードの過去の栄光を示すだけの代物である。
ただの雑魚であったはずの、ちっぽけな二人の人間。その者たちから“恐怖”という屈辱を与えられたという有り得なかった事態に、フレイザードは燃え猛る暴火のごとき憤怒を押さえきれないでいた。
結果としては、完全に負けた訳では無い。
あの二人との戦いではリスクを省みない博打技でピンチは脱したが…なにせあのようなハデな大技、彼らの仲間たちがそれを察してすぐにでも救援に現れてしまう可能性も高く、あの後二人の生死確認は出来ずにすぐ退却した。
ルキアもボンチューもすでに息絶えていた可能性はある。それならば敗者は死んだ彼ら、勝者は生き長らえたフレイザードとなるはずである。
しかし……彼にとって、重要視されるのはそこではない。
何より彼をここまで苛立たせているのは――
未知の力を持つ勇者でもなく、恐るべき高みにいる大魔王でもない…ただの脆弱な人間などによりここまで幾度となく苦汁を味あわされてきたという事実の積み重ねが、フレイザードの逆鱗に触れてしまっていた。
「俺様は確実にここでどんどん強くなっている!今の俺ならば、例えあの魔王ハドラーであってもいい勝負……いや!もはやハドラーすら凌駕しているはずだぁッッ!!!」
――吠える。
遠き天に向けてその自信を力の限り示し、フレイザードは立ち尽くす。
「ハァ…ハァ…」
いや、本当は彼も気付いていた。
幾度も激しい命のやり取りをこの舞台で経て、通常の訓練などでは考えられない膨大な経験値をこの短期間で一気に得ている実感があり、それによりみるみる成長出来ている手応えを自身で感じている今…それは当然の事。
――周りも、そうなのだ。
最初に会った時のルキアなど、ただの雑魚Aとでも言うのか、完全な狩られる側の弱者であったはず。
それがどうだ、あの変貌ぶりは。
…あの戦いぶり、もはや立派ないち戦士のそれである――
「ハァ………ハァ………」
すでに生存者は半分以下。これまで生き延びてきたという事は、生存者は皆それなりに大なり小なり命を賭した戦闘を経ているはずなのだ。
しかも仇敵勇者ダイはまだ死んでいない。もし勇者もめきめき成長しているならば、優勝はさらに遠くなるかもしれない。
――だったら…――
氷炎将軍……炎のような狂暴性と、氷のような冷静な狡猾さの二面性を合わせ持つ悪魔。
怒りのままに叫び荒れていたのも…それゆえ。
余りにも膨れ上がってしまった憤怒――炎側の感情を、氷側の思考が対応した、つまり、発散させたのだ。
「だったら……強い奴らに、潰しあってもらおうじゃねえか…!」
ようやくバランスの取れてきたその頭が、一つの結論に達する。
フレイザードの今一番の危惧は、優勝ダイと………ピッコロ大魔王。
あの忌々しいピッコロとはいずれ戦わねばならない定め。ピッコロに対する対策もずっと悩んでいたが、これなら勝てる確率がグンと上がる。
『ピッコロをダイに引き合わせる』
もし二人が戦いになれば、どちらが勝とうが確実に無傷では済まない。そうすれば後は残った方を潰すだけだ。
二人が遭遇するまでの間にピッコロが自分に牙を向く危険は確かにあるが、どうせいつかは戦らねばならぬのだ。これは賭け。
少し前に一人で隠れている所を世直しマンに見付かってしまったような不本意な由々しき事も、二人で行動していれば避けられる確率が上がる。
不慮の戦いになってしまっても、もちろんピッコロをけしかけて捨て駒にする事も、少しでも弱らせるための…あの前世の実を使わせる機会を増やさせる事も出来る。
ならば取る道は一つ。
「戦いが好きなんじゃねぇ………勝つのが好きなのさ!最後に立ってた奴が勝者、ってなァ!ヒャハハハハハハハーーッッ!!」
フレイザードは歩き出す。進路は北、ピッコロとの合流予定地点へ。
フレイザードが姿を消してのち、その誰もいなくなった荒らされた場には醜く握り潰されたメダルだけが残されていた――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
――朝が近くなり、小さくさえずる小鳥の声にピッコロは目を開ける。
深くダメージを受けた体の回復に完全に集中するため、あの後長い時間微動だにせず身を休めていた。
元来の回復力も手伝い、体力はなんとかほぼ本来の値程まで戻りきっていた。
「……フレイザードめ……来ぬつもりか……?」
白ばみ始めたまだ暗い空に視線をやったまま、ふと小さく呟く。
放送で呼ばれなかった事により、フレイザードの生存は間違い無い。しかしこれだけ待っていても一向に姿を現す気配もないフレイザードに対して少なからず苛立ちを覚えていた。
(フン……24時間も猶予を与えたのは間違いであったかもしれんな。体はもう十分回復出来たしな……)
湖に映る自身の姿を見つめ続けつつ、無表情のまま考えを巡らせ始める。
フレイザードがまだ生きているならば、姿を見せないのは何か理由があっての事かもしれない。
あの麦わらの小僧どもにこっぴどくやられた体の回復に時間がかかっているのかもしれない。
そうでなくとも、あれからまた違う戦闘を行っているため遅れているのかもしれない。
奴ならばおそらく、傷付いた体のままこのピッコロ大魔王の前に姿を現すのは避けるだろう。ならば到着が遅れているだけの可能性は高い。
「クックックッ……。このピッコロが優勝最有力候補なのは、奴自身の体がよく知っているはずだしな…!」
――まさか逃げる訳もあるまい。奴もそこまで馬鹿ではあるまい…
ピッコロはフレイザードを遥か上の天から見下ろしているような気分に浸りながら笑いを噛み殺す。
もし逃げたなら、自分が不利になるだけ。フレイザードが後々まで一人で生き延びたとしても、再び相対した時にボロボロの満身創意では話にもならない。
ならば多少の危険を伴ったとしても、行動を共にして利用しようとした方がまだ希望が見える。実力差は明白、そうするしかフレイザードに勝ち目はない。
「クックックッ……なら、もう少しだけ待ってやるとするか……」
フレイザードは必ず来る、とのある種の確信を抱き、再び瞳を閉じる。
間もなく流れる放送にフレイザードの名前が入っていなければ、確実に合流は成る。そう確信する。
(……合流したら、例の蒸気機関車とやらで島の中央に向かうのも悪くはないか……これだけこの場に留まっていても誰も通らぬのだ、すでに生き残りは中央に集まりつつあるのかもしれぬしな……)
朝の穏やかな空気に身を任せたまま、ピッコロは再びその空気に体を溶け込ませていった――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
笑う。泣く。嘆く。走る。etc…etc……。
一つ一つが違う色、違う模様のカケラたち。
どんな模様に見えるのかは見る度に移り変わる。
全てを見通し、その様々な生のカタチを一度に堪能する。
まるで、そう――万華鏡のように。
その場所は、常に慌ただしく動いていた。
このゲームの参加者たち全ての首輪から得られる音声データ等を一同に取り扱う、主催者側の要の施設の内の一つとも言えるような、その小さな部屋。
兵士たちが常にせわしなく働き続けているその後方――バーンは壁に背を預けたまま、瞳を伏せて佇んでいた。
「…………」
兵士たちの働きを見ているのではない。中央モニターに次々と浮かんでは消えていく文字や数字の羅列を眺めているのでもない。
ただ、聞いていた。
参加者たちの断末魔、嘆きの声、小細工の様、そして笑い声を――
「……フリーザ王、何の要件かな?」
「フフ……さすがバーンさん。こんな所にいらっしゃったのですか」
バーンの横の出入り口の向こう側、音も気配も無くいつの間にかその向こうに立っていた人物の気配を見る事もなく察知し、姿勢を変えぬまま視界にも入れず、バーンは小さく声だけ発する。
気配を殺していたフリーザはその言葉に少し驚いたかのように小さく笑みをこぼすと、穏やかな笑顔を浮かべてゆっくりと部屋に足を踏み入れ、バーンの隣に立つ。
「いえいえ、そろそろ放送の時間も近いですので…バーンさんを探していただけですよ」
「そうか……」
バーンの返事を聞き、モニターを眺めたまま満足げに口を閉じるフリーザ。
「……………おやおや、確かこの大きな声は、あなたの部下だったフレイザードさんの物ですね…頼もしい限りです。フフフフ…」
「フ……最後に立っていた者が勝者…か。確かにその通りだな…」
「フレイザードさんが優勝した暁には、さぞあなたも鼻がお高いでしょう。優秀な部下をお持ちのようで、羨ましい限りですよ、ホホホ…」
「余はそう簡単にもいかないと思うがな?フリーザ王」
「……と、おっしゃいますと?」
横目でバーンのその静かな表情を伺うフリーザに、バーンは顔を上げて小さく口を開く。
「……ゲームにあらがう者たち……」
そう呟きどこか遠い目をして前を見つめるバーンに視線を向けた後、クク…と笑みを漏らしてうつ向く。
「無駄ですよ、無駄。可哀想ですが、彼等には脱出する手段も首輪を解除する方法も、絶対に得られないんですから」
「………」
バーンは返事をしない。遠い目をしたまま、兵士たちの事務的な声が飛び交うのみ。
「バーンさんも心配性な方だ、フフ。……さて、では参りましょうか。ハーデスさんは既に来ていらっしゃいましたから、あまりお待たせしてしまってもいけませんからねぇ」
「…そうだな、では参ろうか、フリーザ王…」
壁から背を離し、フリーザの後に続いて部屋を後にする。
「“種”は芽吹きつつあるが、な……」
「……?……何かおっしゃいましたか?バーンさん」
フリーザが足を止め振り返った先、瞳を伏せてうつ向くバーンの姿。
「………いや、何でもない、独り言だ」
「…そうですか。フフ、おかしな方だ」
「………」
特に気に留める事も無く、再びフリーザは歩き出す。
――二日目の朝の放送は、もう間もなく。
【滋賀県/早朝】
【飛影@幽遊白書】
[状態]全身に無数の裂傷
[道具]荷物一式
[思考]1:強いやつを倒す
2:桑原(の仲間)を探す
3:氷泪石を探す(まず見付かるまいし、無くても構わない)
【山形県/早朝】
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]ダメージ・疲労、共に大(前回戦闘時よりはやや回復)。氷炎合成技術を実戦経験不足ながらも習得
[装備]:霧露乾坤網@封神演義
:火竜ヒョウ@封神演義
:核鉄LXI@武装練金
[道具]荷物一式
[思考]1:ピッコロと合流し、ダイの元へけしかける
2:氷炎同時攻撃を完全に習得する
3:優勝してバーン様から勝利の栄光を
【秋田県、田沢湖湖畔/早朝】
【ピッコロ@ドラゴンボール】
[状態]ほぼ健康
[道具]:荷物一式
:前世の実@幽遊白書
[思考]1:フレイザードを待つ
2:合流後に機関車でミニ日本中央部へ向かう
3:世直しマン・イヴ・悟空を殺す
4:フレイザードを利用
5:主催者を殺す
前スレラストのSSが切れているので、避難所の◆7euNFXayzo氏のSSを転載します。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜以下本文〜〜〜〜〜〜〜〜〜
死神の鎌は首を探す。斬り落とすべき首を探している。
新世界の神が命を落とした世界になっても、正義の傍へと『死神』の影はちらついている。
正義が鎌を跳ね除けられるか、再び命を断たれるか、或いは二度と、それらが相対する事などないのか。
その答えは、知れない。
【岡山県北西(藍染のスタート地点)/黎明】
【藍染惣右介@BLEACH】
[状態]やや疲労(睡眠により回復。盤古幡使用可能)
[道具]:荷物一式×2(食料残り約5日分)、盤古幡@封神演義、首輪×2
[思考]1:L一行を探し出し始末、斬魄刀を取り返す。
2:興味を引くアイテムの収集(キメラの翼・デスノート優先。斬魄刀の再入手は最優先)
3:ルーラの使い手、バーンと同世界出身者を探す
4:能力制限や監視に関する調査
5:琵琶湖へ向かう(斬魄刀を手に入れてから)
6:琵琶湖に参加者が集まっていなかった場合、新たな実験の手駒を集める
新ちゃん
新ちゃーん
かすかな声が聞こえる。子供をあやすような優しげな、ここにいるはずのない姉の声。
新八はごろりと固い床に寝返りをうつ。自分は夢を見ているのだ。そうでなければ、幻聴だ。
耳を傾ければ懐かしく心温かくなれる。けれど、所詮は夢。朝鳥の鳴く声が聞こえる。
意識の底で、そろそろ目覚めの時であることを知る。
固い床、薄い夏用の毛布。無用心だからと、ベッドに寝るのはやめて部屋の隅に寝ようと
言ったのは越前であったか。新八は浅いまどろみの中でぼんやりと思い出す。
そうだね、2人だけベットを使うのは悪いもんな。彼らが帰ってきたら休ませてあげなくちゃ。
ドアの前にはイスや机で侵入者対策のために作ったバリケートがある。
バリケートといっても、いずれ戻って来る若島津とまもりのことを考え、
家具を寄せて作っただけの至極簡易的なものである。まったく無防備で休むというのも、さすがに
こりていたから。
さあ、起きよう、と目を開けようとしても、全身の疲労やだるさがまだ残っており
生温かい泥のようになって新八の意識を覆う、夢の奥に引きずり込もうとする。
相反する意識と無意識のあいだを、新八はうつらうつらと漂っていた。
ほんの少し開けておいた窓からは朝の冷気が流れ込み、毛布から露出した顔や手足を冷やしていく。
隣の越前もまた、小さなくしゃみをし、なにか形にならぬ寝言を呟いて、また元の眠り世界へ
帰っていった。前日の疲れが、まだ残っているのだ。
疲労が意識の覚醒を阻み、意識が覚醒を促す、その繰り返し。
落ち着けない居心地の悪さが新八を責める。
――――いい加減、本当に早く起きないと。
新八は鉛のように重い手足を奇妙に感じながら、これまた鉄のような重量を感じる毛布を動かした。
(ああ、昨日の疲れが取れないんだな・・・)
渾身の力、気力を振り絞って座る。それだけの作業で新八は何kmも走ったかのようなだるさを感じた。
隣りを見やると、越前らしき毛布の塊がある。
カタツムリのように丸く石の様に眠っている。
新八は異常な体力の消耗に疑問を抱きながら、相方を起こそうと、
彼の毛布を引き剥がしに掛かった。
「さあっ、・・・越前くん、朝だよ。起きて!」
しかし、毛布は貝のように堅く閉ざされており、毛布の裾をいくら引っ張ろうとビクともしない。
新八は渾身の力を入れた。
「ぐぐぐんがぐぐ・・・!!!」
一方、繁みに身を隠しながら津村斗貴子は前方の小屋の様子を窺っていた。
(ここの反応は動かないな・・・やはり、眠っているのだろうか)
琵琶湖湖畔。あの小屋は観光客のための簡易宿泊所といったところか。
黒尽くめの男が消えた後のこと、斗貴子は京都方面へ向かおうとした時、スカウターの索敵範囲に
ある2つの生命反応に気付いた。琵琶湖近くに2人の人間(?)がいる。
滋賀を離れる前にやらなくてはならないことができた。
人減らし。なんとも嫌な響きのある言葉だ。
気になるのはスカウターの数値だ。反応がやけに低い。
(まさか、子供か・・・いや、わかっていたことではないか)
ケンシロウの探し人、リン。ライトの仲間だったイヴ。彼らの語りでしか知りえぬ存在だったが
いづれも年端もいかぬ、幼い少女だったと聞く。斗貴子は歯噛みをし、思考する。
(見逃すか・・・?子供がいつまでも生きていられる環境ではない。私が殺さずとも・・・)
(他の誰かが・・・しかし、)
確かに、ここまで生き延びた人間なら躊躇なく殺す人間もいるだろう。
そういう奴等に出会えば簡単に命を奪ってくれる。とてもあっけなく。吐き気のする方法で。
仮に殺されなかったとしても、暴力の捌け口や、交渉の道具、酷い目に会わない保証はない。
まともな者に保護された場合。しかし所詮1人2人しか助からないシステム、裏切りの末に殺されるのは
戦う力のない子供になるのは目に見えている。・・・どう考えても?どう考えても、だ。
斗貴子はショットガンを握り締めた。皮膚が破れるほど力を込めて。
(・・・・・・いま、ここで殺しておく)
朝露に湿った草の上を、斗貴子は慎重に歩いていく。
核金は発動させず、銃だけを持って小屋に近づいた。眠っている間に片付ければいい。
もしも、起きていたら・・・?
説明して理解してもらうか?、今死ねば後で生き返らせてあげる、と。
「それは無理だ。」斗貴子は呟く。だから彼―――クリリンはあんなにボロボロになった。
身も心も。誰にも理解されず、かつての大切な仲間すら手にかけて。
斗貴子はバルキリースカートを発動させ、小屋の窓に近づいた。
カーテンの隙間から中を覗くと、ベットの向こう側、まだ薄暗い部屋の隅に2つの毛布の塊があった。
それは斗貴子の予想より大きい物であったが、気分は晴れるはずもなく、険しい顔をしたまま
ふと、窓が少し開いている事に気付く。無用心さに呆れながら、斗貴子は音を立てぬよう慎重に
窓を開けた。塊たちは動かない。窓際に体重を乗せ、バルキリースカートの武装を解除し部屋に侵入した。
身軽な斗貴子はたいした音も立てず床に着地し、部屋の内部を見渡した。
入り口はテーブルやベットで封されている。急いで作ったのか、向こう側から強い力で押せば
簡単に敗れてしまうような出来である。子供の手ではこれが精一杯なのだろう。
斗貴子は首を振り(子供子供と、考えすぎだ)ポイポイカプセルに入れておいたショットガンを手にする。
残弾は残り少ない。
(一瞬だ。眠っているあいだに片付ける)
斗貴子は眠っている2つの塊に銃口を向けた。
――――んが、ぐぐぐぐ、越前くん、起きて、起きてってば もう朝だよ !!
後ろから、笑い声が聞こえた。聞き覚えのある声音だが、新八は構わず、振り向かない。
新八の姉 妙が、江戸に居た頃と同じ優しい声で語りかけてくる。
『新ちゃん。どうしてこっちを向いてくれないの?』
――――いや、だって夢なんでしょ。気絶するたびに出てくるもの。いい加減、わかるってば。
『いいじゃない、夢だって。新ちゃん。人間夢を持たないと生きていけませんよ』
――――それは起きてる人だけがみれる志ある夢でしょう。この「夢」とは違います。
ほら、越前くん。いい加減起きなさいって。
起きてNO.2とまもりさんを探さなきゃならないんだから!
ふんぬらばァァァ!!
・・・ってアレ?毛布は?越前くんは?どこいったの
『新ちゃん、そんな浮き輪みたいな軽い頭で考えたって 答えは出ないわよ』
――――浮き輪みたいな軽い頭って僕の頭!?夢でも辛辣だな、オイ。
でも姉上、夢といえどもここは危険な戦場です。早く家に戻ってください。
僕はもう 大丈夫ですから。
『今日は新ちゃんの力になろうと思って来たの』
――――力!?申し出はありがたいですけど、姉上を巻き込みたくありません
(相談事があったって いつもは自分の力で何とかしろって障子と一緒に外へ蹴飛ばすくせに!
どっかで頭でも打っちゃったのか?頭パーンて)
『新ちゃんがいなくちゃ家の家計 火の車でしょ?
そしたらこの人が力を貸してくれるって』
『ニコツ やあ。』
ご機嫌な妙の後ろから、涼やかな、和装の似合う好青年が現れた。
――――藍染じゃねーーかァァァ!!姉上ッ!!そいつは悪人です、すぐ離れて今すぐーー!!
『だいじょうぶよ、新ちゃん。全てこの人に任せればなにもかも上手くいくわ。
不思議な妖術を使って新ちゃんや皆さんを脱出させてくれるんですって』
――――コロッと騙されないで下さいぃ!だいたいなんなんですか不思議な妖術って。
あからさまに怪しいじゃないですか、深夜放送の通販番組より信じられませんよ!!
『プ』
てめぇぇ!笑ってんじゃねェェ!!メガネかけて好感度でも上げたつもりかーー!!
『藍染さん、あんなことを言う弟を悪く思わないで下さいね』
『気にする必要はない。他ならぬ お妙さんの弟くんだからね。』
藍染は動じた様子なく笑い、妙の肩を抱きよせた。
――――てめェェェェ!!姉上から離れろぉ!なんだ「お妙さん」て?俺は許さねーからな!
『私、この人の店で働く事にしたの』
――――なんでそーなるのォォ!?おま、馬鹿も休み休みにしとけって!そいつ悪人だって、
さっきから口酸っぱくして言ってるだろ!まだ酸っぱくさせたいのか、お前!?
『なに、簡単な仕事さ』 藍染は優雅に微笑んだ。
『ちょっとノーパンになってしゃぶしゃぶを作ってもらうだけだからね』
――――そんな懐かしネタどっから拾ってきたぁぁ!ああ、チクショーそうだよ、
連載第一回からこれだったよ!って、駄目ですよ姉上、ホント、
そんなんやったら月刊アダルトジャンプに飛ばされますって
『無理強いするつもりはないよ。他にも仮装SM喫茶や面白ソープ茶屋とか幅広い選択肢が・・・』
――――選択も何も結局全部風俗じゃねえかぁぁ!!
荒れる新八に、妙が言う。
『だって、人の命には代えられないわ。新ちゃんもそう思うでしょ?』
――――そんな・・・、だからって間違ってますよ、姉上が犠牲になって、それで助かっても
僕は嬉しくない、納得も出来ません!考え直してください!
『新ちゃん。貴方だけじゃなく、いま生きてる人 みーんなが家に帰れるのよ?よく考えてみて。
・・・だから、これで、いいのよ。』
――――でも・・・!それじゃあ、姉上はどうなるんですか!?姉上の気持ちは!心は!?
妙は少し黙った後、菩薩のように微笑み、こう答えた。
『平気よ、ちょっとマゾになれば』
――――バ、バカヤロォォォォォ
「んぐっ・・・がぁ〜〜」
銃口を向けた瞬間、静寂が支配した部屋に、間抜けなイビキが轟いた。
斗貴子の目の前の毛布の塊。少年が壁に背を持たせ座ったままコクリ、コクリと頭を揺らす。
年の頃、中学生か。詰襟ではなく、和装である。剣道でもやっているのだろうか?
殴られたのか、顔が少し腫れ、痛々しい傷痕が見えた。それでも涎をたらし、朝日に照らされて
気持ち良さそうに眠っている。
斗貴子は自分が標的から銃口を外している自分に気付く。
(決意はしたはずだ。なのに、なぜ、私は少年から銃口を外しているのだ?)
(・・・これ位のことで動揺してどうする)斗貴子はフッと小さく呼吸し、ショットガンを構え直した。
と、今度は隣りに眠る、もう一人の少年が大きくゴロンと寝返りをうった。
はだけた毛布の中身は予想通り子供であった。斗貴子の想像より大きかったが、それが何の慰めに
なるだろうか。年の頃、12、3。青いジャージ。デイパックの上に置いてある青い帽子も
彼のものだろうか。(余計な事だ)考えまいと首を振る。
しかし斗貴子はまた自分が銃を下ろしていることに気付く。
(余計な事を考えすぎだ、殺す事だけに集中しろ)詮索など不要。彼らがどこでどんな目に遭遇してきたかなど。
自分には、いや、自分の任務には関係のないことなのだ、迷うな。
(・・・もし、ピッコロの居場所を知っているとしたら?)そして、唐突に、疑問の芽が顔を出す。
それは、ないだろう。斗貴子はすぐに考えを打ち消す。
彼―――ピッコロが現在どこにいるかは知らないが
あの孫悟空並の戦闘力持つ彼と仲間になれば、身の安全のため、彼からは離れないはずだ。
こんなところで2人きり寝ているわけがない。
(ん・・・?)斗貴子はその考えに何か引っ掛かりを感じた。
ピッコロ。ドラゴンボールを作った張本人。彼はこの計画の事を知らない。
彼を優勝させ、ドラゴンボールでゲーム自体をなかったことにしてもらうのが、
クリリンと斗貴子の狙い、・・・願いだ。
『製作者ならとっくに気付いているんじゃないか?』
ドラゴンボールを知り尽くしたいるはずの製作者本人が気付かないなど、ありえない話だ。
彼もまた、参加者減らしに躍起になっているのだろう。そうでなければ、困る。
斗貴子は手元のショットガンと、少年らの顔を交互に見る。
(情報を聞く必要などないか。彼に出会っていたら、ここにいるはずがない。か)
願望の入り混じる推理を終え、斗貴子の銃は、また止まる。
少年らの安らかな寝息が響くこの部屋だけが、ゲームから切り離された別世界のようだ。
銃を構えた自分だけが異質、いや、滑稽にも思えてくる。
この木造の小屋は、あの寮を連想させる。任務のためともぐりこんだあの学園。
古めかしい作り。借り物のシーツに、粗末なベッド、夜も途切れない人の気配。
(・・・嘘だ、そんなに似てないじゃないか、でたらめだ)
記憶の引き出しから溢れてくる、懐かしい記憶の断片を、斗貴子は振り払う。
お前が殺そうとしてるのは何の力もない、ただの人間だぞ。そんな声が心の奥から聞こえる。
(うるさい、そんなことはわかっている。どうしようもないことなんだ。)
眠っている人間を撃つという非人道的な行為が、戦士として生きてきた斗貴子の思考を
掻き乱す。
(皆が助かるにはこの方法しかないんだ。誹るなら誹れ。今さら、逃げ道を走ろうなんて思わない。)
じゃあ、なぜ、あの黒尽くめを見逃した。
(強者は強者同士で潰しあえばいい)
そんな悠長なこと言ってる場合か。肝心のピッコロが死んだらどうする気だ。
お前が見逃した黒尽くめのアイツに、ピッコロが殺されたら。
(馬鹿な。ピッコロは強い。簡単に殺されるはずがない。奴は、何もかも吹っ飛ばして逃げた、
あの凶暴な孫悟空と互角の実力を持っているんだ、死ぬはずがない)
『強い奴が生き残るとは限らない』それはケンシロウに言った言葉だったか。
(優先順位を考えろ!ここで確実に2人消えるんだ、誰も殺さないわけにはいかないんだよ!)
ケンシロウを見逃し、アビゲイルを見逃し、黒尽くめを見逃して、か。
(連中の動向ならスカウターがある。泳がせてるだけだ!ここを終わらせたらすぐに向かう。
監視して弱みを見つけ次第、すぐに殺す、それで問題ない。余計な事ばかり考えるな!)
弱いものは食われる。それが摂理だものな。
(違う、私は、そんなことが二度と起きないよう錬金の戦士に・・・)
じゃあ、今していることは?
・・・堂堂巡りだ、もう。考えるのはやめろ。考えても仕方ないことだ。
私がこう考えてしまうのは手を汚したくないからか?馬鹿な。彼の躯の前で誓ったはずだ。
この銃を当てて、引き金を引く、それだけの動作が、何故出来ない。
戦闘の時はあれほど軽やかに、自分の思い通りに動かせていたのに。
今さらここにきて葛藤などと。
撃てないなどと、誰にいえる。子供が怖いなら目を閉じて撃て!
「駄目れす。そんなこと、考えちゃ」
(・・・起きていたのか!!)
咄嗟に声の主のほうに銃口の向きを変える。
しかし、和装の少年は答えない。相変わらず涎をだらだら垂らし、目を閉じている。
(寝惚けて・・・いるのか)
少年はゆらりと顔を上げ、呂律の回らぬ喋りで唐突に語り始めた。
「駄目たらだめれす。貴女が犠牲になっれも僕は嬉しくないれす
たとえみんな助かっても、だれも嬉しくないれす 貴女が苦しんだって
だれも喜びませんて なんれそんなこともわかんないんれすか 情けらい」
(・・・寝惚けているだけだ、)
斗貴子は相手が寝惚けているのを承知で口に出した。吐露せずにはいられないことを。
勿論、目の前にいる少年にかろうじて聞こえるだけのかすかな呟きで。
「もう、これしか方法がないんだ。だから、・・・許してくれ」
いつもよりずっと上擦った自分の声に、斗貴子は自分が泣きそうになっていることに気付く。
斗貴子は少年の肩を抱き、少年はくすぐったそうに斗貴子の肩にもたれかかる。
「あね、うえ」
斗貴子は少年の心臓に銃口を押し当てた。一瞬だ。たのむ、苦しむなよ。
そう願った刹那、斗貴子は、少年の言動に、己の耳を疑った。
「まだパンツははいてますか〜〜?」
「・・・はあ!?」
少年は呆気に取られる斗貴子に構わず、幽鬼のように立ち上がった。
「・・・パンツを履いて下さいィィ!!ノーパンになって得られる平和なんか俺は認めんぞォォ!!」
言うなり少年は、 スパァーーーン!!と、斗貴子の横っ面を引っ叩いた。
少年の不可解な言動、叫びが、戦士斗貴子の思考をきっかり2秒を奪い、その瞬間、彼は
神速に達する素早さで突っ込んだのである。寝ぼけた人間に攻撃されるほどやるせないものはない。
この怒りどうしてくれようか。しかし、斗貴子は冷静であった。
彼女は子供を手にかけなければならない、事の重さに苦しんでいた。
せめて眠っているあいだに済ませようと腐心していた。それが裏目に出てこの有様だ。
とにかく少年を気絶させようとショットガンを振りかざしたが、またも神速のタックル――といっても
そもそも2人のあいだの距離が短いのだが――いや、神速の抱擁が斗貴子の腕と銃身をすり抜け少年の顔面が
斗貴子の腹に吸い込まれるように激突した。バランスを崩した斗貴子がベッドの柵に脚をとられ
少年と共にベッドシーツの上に雪崩れ込んだ。その拍子に標的から大きく逸れた銃の引き金
斗貴子の指が引き、天井に向かって放たれた弾丸が照明を破壊する。
音をたてて砕けた照明は、粉々に、部屋に細かなガラス片が降り注ぐ。
斗貴子は咄嗟に銃を投げ、ガラス片から少年を庇うが、すぐ苦い顔をして自分の周りの破片を振り払い、
力の入らぬ体勢のまま、少年の頭を叩く。
それでも正気に戻らぬ少年は斗貴子の腹に顔をつけたまま喚く、喚く。
「ちょ・・やめ、やめなさいっ!!こら!」
「姉上ぇ!!その男はやめてェェ!!そんなハズレクジ捨てて生きてェェ!」
そんなんに嫁いだら身も心もボロボロにされたあげく遊郭に売られちゃうんだ〜、と意味不明の寝言は続く。
昔これと似たようなことがあったような、なかったような。怒りや、懐かしさや情けなさをない交ぜに
しながら、斗貴子は少年を引き剥がそうに力を入れる。昔、寮でもこんなことはあったっけ。
ホムンクルスに操られた寮生が、あの時いきなり誰かに抱きつかれて私は困ったんだ。
馬鹿馬鹿しい。今思い出すことじゃないだろ。思い出など捨ててしまえ。
そうしなきゃ、誰一人助けられないんだ。冷静になれ。慌てる場面じゃないだろ。
(こ、この子は寝ぼけてるだけだ・・・!早く、今のうちに)
バルキリースカートを発動させるのも忘れ、斗貴子は銃を探す。
「何、やってんの?アンタ、誰?」
知らぬ間にジャージ姿の少年が、斗貴子たちを見下ろしていた。
手には斗貴子の落としたショットガンが握られている。
「それを返しなさい!!」
斗貴子はそう叫ぶなり、銃を奪い返そうと、少年が腰に巻きついたまま手を伸ばした。
ジャージ少年は身軽に避け、2人は部屋が揺れるほどの衝撃で床に転げ落ちた。
うつ伏せになった斗貴子の背中から、不機嫌な少年の声がかかる。
「アンタらさあ・・・朝っぱらから、なにやってんの?」
「うるさい!!君たちこそなんだ!?朝っぱらから寝ぼけて、馬鹿か!?」
いきなり新八の絶叫で叩き起こされたと思ったら、次は発砲音、そして見知らぬ顔の女性。
越前は寝起きではっきりしない頭を搾って考えた。
彼女が新八の言っていた(・・・寺門通さん、かな。)何か違う気がして昨夜の記憶をたぐる。
考えてるあいだにも、女性は越前を射殺しそうな瞳で睨みつけている。
(アイドルが寺門通で、男が若島津。じゃあ、このひとが姉崎まもりさんか)
(なんでこんなに怒ってんだろ。寝惚けた新八さんに抱きつかれて発砲したのか)
(短気な人だね)
考えながら越前は、女性が何か言うのも構わず、ショットガンをベット下に蹴りいれた。
「アンタこそ、今までなにしてたの?若島津さんは、トイレ?眠いんだから勘弁してよ」
「うるさいい!!」
斗貴子の叫びが窓ガラスを震わせた。
それでも斗貴子の腹にしがみついた新八は力を緩めず
たんこぶだらけになりながらも、何故かスッキリした顔でしつこく眠り続けていた。
放送まで、あとほんの少し。
【滋賀県 琵琶湖畔の小屋/早朝】
【志村新八@銀魂】
[状態]:疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。
顔面にダメージ。歯数本破損。キレた。熟睡。たんこぶ多数。
[装備]:拾った棒切れ
[道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)
毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
[思考]:1、半覚醒(思考:藍染のメガネを叩き割る)→熟睡
2、若島津が戻るまで待機。朝になっても戻らないようなら探しに行く。
3、藍染の計画を阻止。
4、まもりを守る。
5、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
6、主催者につっこむ(主催者の打倒)。
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:非親衛隊員。軽く混乱。
[装備]:線路で拾った石×4
[道具]:荷物一式(1日分の水、食料を消費)
サービスエリアで失敬した小物(マキ○ン、古いロープ爪きり、ペンケース、ペンライト、
変なTシャツ )
テニスラケット@テニスの王子様(亀裂が入っている)
[思考]:1、状況を把握したい。女性に対して少し警戒。
2、藍染の計画を阻止。
3、情報を集めながらとりあえず地元である東京へ向かう。
4、乾との合流。
5、生き残って罪を償う
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:肉体的、精神的に軽度の疲労。左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました)
核鉄により常時ヒーリング
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険、
真空の斧@ダイの大冒険、首さすまた@地獄先生ぬ〜べ〜、『衝突』@ハンター×ハンター、
子供用の下着
[思考] 1:少年らに困惑、怒り。自己嫌悪。
2:参加者を減らし、ピッコロを優勝させる。
3:友情マン、吸血鬼を警戒。
4:もう知り合いには会いたくない。
5:近くの5人組を警戒。
*ショットガンはベットの下に落ちています。
戦況は、タカヤに分がある。
ヤムチャは追い詰められていた。
そして悩んでいた、100パーセントへの開放を。
「へっ、だが死ぬよりはいい!!」
ウオオオオオオオオオ!!!!
「なに、こ、これは!!!」
タカヤの目の前に、光球が跳ね返ってくる。
「こ、これが100パーセントというものなのか…」
タカヤの体が、赤い光に包まれる。
絶望的な状況だ。
そんな中、タカヤは一人の女性の名を呼んだ。
「渚…もう一度お前を…」
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
【2日目 黎明〜早朝 福岡県】
夜。肌に心地よい、冷えた空気と、遠くから微かに響く虫の声。
青年、こと大魔道士ポップは、気合を入れなおすように大きく伸びをすると、目の前に聳える建物を見据える。
「いや、改めて見ると、デケェ建物ばっかだな、ここは。ベンガーナのデパートといい勝負だぜ」
彼の、いや彼らの眼前に聳えるのは九州の門戸が一つ、博多駅。元々は歯牙ない武器屋の息子であり、
また、元いた世界でも巨大な建物といえば基本的に城な(例外的にデパートなども在ったが)彼にとっては、
この世界で見るものに改めて圧倒され…そして、自分が見知らぬ異世界にいるのだということを否応にも意識させられる気分であった。
「フン…まぁ、福岡はモデルとなった世界でも、上から数えて九番目の人口を誇る県だからな。この島…九州では、最も多くの人間が
住んでいた場所だ。そこそこには栄えているのも当然だろう」
言葉を継ぐは、蝶人、ことパピヨン。
あまり興味を喚起されないような素振りで、眼前の駅舎を見据えると、大きく息をつく。
「だが、所詮は九番目。人間が集まるとしたら、まず間違いなく東京…もしくは大阪だろうな」
「なんでだ?」
蝶人の言葉に反応したのは、異様な鼻を持った青年にして、偉大なる嘘吐きキャプテンウソップ。
「異世界から来たという貴様等が気付かないのも無理は無いが…名簿を見てみろ。過半数の名前が、
オレが元いた世界…元いた国の法則で付けられている。そいつらが、オレと同じ世界から来たのならば…
やはり、東京に向うだろうからな」
蝶人の言葉は真実半分、虚言半分。
彼の考えでは、事ここに至って、恐ろしさ、我が身可愛さに隠れているような連中はほぼ一般人と考えて間違い有るまい。ならば、たいした利用価値も無い。
利用価値の無い連中は、駒にすらならない。…つまり、首輪や食糧を複数手に入れた今、ソイツ等に用は何も無い。
「しっかし、なんでアンタの世界からだけ、こんなに人間が集められたんだろうな」
「さぁな…だが、オレの知っている限りでは、オレの世界には貴様のいう悪魔の実といったものも、呪文といったものも無かった。
卵が先か鶏が先かといった話になるが、過半数が同じ世界の出身だからこそ、このミニ日本という舞台が選ばれたのだろうな。
あらかじめ、舞台の知識があるというのは大きな強みになる。それこそが、確率的には一般人が多いと推察される同郷…というべきか、
その連中にとっての最大の支給品だったんだろう」
ウソップとパピヨンの会話は続く。連なるは言葉。覆いかぶさるは、未だ晴れない夜の帳。そして、輝くは、ウソップのもつ支給品、【賢者のアクアマリン】。
「例えば、先程の車窓から、夾竹桃の並木が見えた。ソイツの葉には強心配糖体という毒物が含まれている。体内に入ると神経細胞の興奮、筋肉の収縮が起こり、肝機能が低下。
その結果、下痢・嘔吐・目まい、更には心臓麻痺を惹起するという極めて強い毒素だ。致死量は0.30mg/kg…青酸カリより強いといえば、幾分は通じるか?
夾竹桃は、オレの元いた世界ではありふれた植物のひとつだが…貴様等のいた世界でもそうとは限るまい。
知ってさえいれば、そのようなものでも恐るべき武器になり得るだろう?」
「ひぇぇ、おっかねぇなぁ」
続く、続く、言葉は続く。新たな声が割り込む、その瞬間まで。
「ウソップ!パピヨン!何やってんだ!!さっさと列車掴まえて、ホンシューとやらに渡ろうぜ!」
見過ごせないのだろう、襲われている人を。立ち止まらせないのだろう、胸の決意が。
何かに追い立てられているような身振りで、ポップは二人を急かす。辺獄の入り口たる、駅舎に向って。
本州に渡れば、更なる地獄をみることが確実だろうと、彼の意思を挫くことは出来ない。彼の覚悟を砕くことは出来ない。
亡くしてしまった、大切な人の思いが。使徒の証たる、その勇気が。
彼に立ち止まることを許さないのだから。
おしゃぶりを噛み締めつつ、駅舎へ駆けていく背中を見送って、ウソップがポツリと言葉を零す。
「なぁ、パピヨン。アンタ、電車は6時間に一本だって、ちゃんとポップに伝えたか?」
「………」
暗闇に響くは、遠く幽かな虫の声――――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【2日目 早朝 福岡県 博多駅駅舎】
【ポップ】
俺たちは次の列車を待つ間、駅員室とやらでパピヨンの考察に付き合っていた(一騒動はあったものの)
直ぐにここを発ち、徒歩ででもホンシューに向うべきだと主張した俺。次の列車が来るまで待ち、万全の体勢でトーキョーに向うべきだと主張したパピヨン。
険悪な雰囲気にもなりかけたが……案外、ウソップのヤツは大物なのかも知れねぇ。なんか、まだ首の周りがむずむずしやがる。
俺の首には、妙に鼻が長い骸骨の落書きが載っている、不恰好なスカーフが巻かれている。ウソップが言うには、ウソップ海賊団の証らしい。
似てる似てると思っていたけど、やっぱりチウのヤロウを思い出させるヤツだ。
―――――チクリ、と、胸を刺すのは郷愁。グサリ、と、心を抉るのは懺悔―――――
チウ、すまねぇ…。俺は、マァムを護れなかった。情けないヤツだと嗤ってくれても構わねぇ。
―――――ざくり、と、身を刻むは悔恨。ぞぶり、と、魂を貫くは今は亡きヒトの変わらぬ面影―――――
……マァム……
すまねぇ…。会わせる顔なんて在るわけがねぇ。許してくれなんて言えるハズもねぇ。
でもよ…、バーンの野郎は、俺が必ず倒すから。いや、俺達が絶対に倒すから。俺だけじゃない。ダイだってこの悪趣味な舞台とやらの中にいる。
ウソップもよ、ナリは妙だが、結構頼もしいヤツなんだぜ。まぁ、面と向っては言わねえけどさ。
完全には信用できねえが、パピヨンも頭脳だけなら認めてやってもいいかもな。
だからよ、安心して…眠っていてくれよな、マァム。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜<小休止>〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
パピヨンに渡されたものは、奇妙な六角形の金属片(核鉄というものらしい)。これで何かの実験を行いたいんだそうだ。
(で、決意、掌握、そして咆哮…だったか?)
「武装錬金!!」
――――――静寂――――――
未だ薄暗いなか、何故か室内を一陣の風が舞い…いたたまれなくなった俺は、憮然とした面持ちでパピヨンの野郎に金属片を突き返す。
だが、まるで応えるそぶりも無く、この変質者野郎は流れるような動きで、核鉄とやらを股間に収納しやがった。
「て、何してやがんだ、テメェッ!!!」
うわッ!!!!!思い切り握り締めちまった!!何だ?!何しやがんだ、コイツ!
しかも、俺をサラリとシカトしやがると、徐に呟く。
「武装錬金」
その一言で、野郎の背中に、再び巨大な蝶の羽が現出する。
―成程、あの野郎の能力は、核鉄ってヤツが……って違ぁぁう!いや、違わないが、これだけは言わせやがれ!
「何処にしまった?股間か?股間にしまったよなこの野郎!!まさか、今までも股間にしまってたのかこの野郎?!」
「…何だ?この素敵なスーツの収納場所に、何か不満でもあるのか?」
「不満があるかじゃねぇ!!掌握っつうから、思いっきり握り締めちまったじゃねぇか!つうか、本当に
なんだその衣装?!」
「フン、この衣装の御洒落さが分からんとは哀れなヤツだな」
分からんでいい。
「まぁ、どうしてもというなら、セクシャルバイオレットな衣装に着替えてやらんことも無いが?」
「セクシャルバイオレットな衣装だぁ?」
「蝶のワンポイントが入った蝶お洒落なビキニパンツだ」
「やめろ!!なんでビキニパンツ一つなんだよ?!」
「何を言っている?トランクス一つだけでは浪漫飛行もままなるまい」
「突っ込みどころ、違ぇよ!!」
…前言撤回だ。こいつ、本当に信用できるのか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【同時刻 福岡県 博多駅駅舎】
【パピヨン】
(フム…考察通り、武装錬金は発動しないか)
「さて。まず言っておくことがある」
―一呼吸の間。
「オレは人間ではない。人間を超えた存在…ホムンクルスだ」
―沈黙。同行者を見据えつつ、続ける。
「通常、ホムンクルスは錬金術の力を帯びた攻撃で無ければ、決して死ぬことは無い。病気だろうと、老衰だろうとな。
例え銃弾だろうと、オレにダメージを与えることは適わない…はずだった。
まずは一つ目。つまり、ここではオレの防御能力、再生能力が著しく制限されている」
オレに蹴りを入れた金髪のガキと、それによって負ったダメージを思い出す。
「あぁ…俺も、魔法力が制限されているのは感じてる」
「偉大なるキャプテンウソップのパチンコは、こんな舞台でも益々冴え渡ったぜ?」
予想通り、尚且つ期待通りの答えに、僅かに口の端を持ち上げつつ。
「そうだ。オレも、自身の能力、ニアデスハピネスの爆発力自体に制限は感じられない。つまり、火薬の爆発…物理的な現象には制限がかかっていない。
オレ自身に由来する、総量、および補充力は大きく制限されているがな。これが二つ目」
「つまり?」
「つまり、何らかの生命に由来する能力が制限されているのではないか、とオレは考えている。参加者の戦闘能力を均質化する方向でな」
二度目の沈黙。首筋をなでながら、周囲に注意を払い―そして。
「さて、本題だ。美的感覚を制限された哀れな大魔道士殿に、オレのお洒落の秘訣を教えてやろう。メモをとる準備をしておけ」
言葉と共に、黒い砂、ニアデスハピネスで文字を紡ぎだす。
あくまで、口から流れ出る言の葉は絶やさずに。無意味な言葉をBGMに、開かれるは密やかな会談。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【同時刻 福岡県 博多駅駅舎】
【ポップ:ウソップ:パピヨン】
(まずは基本。
禁止エリアに入った参加者の首輪は爆発し、愚かな参加者は屍を晒すことになる…という設定だ。
……ここまではいいな?)
黒色火薬が滑るように虚空に文字と、簡略な図を示す。
わざわざ、【爆発】と注釈を入れているあたり、結構細かい芸当ではある。
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○<ヒデブ!!
☆←爆発
+
∧
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□■■■■■■■■■■■■■
□安全エリア ■禁止エリア
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(現在、必要な情報は三つ。その一。死体の首輪も爆発するのか。
先ほども話したとおり、主催者に生命自体に干渉する能力者がいるのならば
主が生命を失った首輪は、爆発しない可能性がある。
…正確に死者を判別しているあたり、なにか生命を感知する機構がついているのは確実だろうしな。
―まぁ、可能性は頗る低いとは思うが)
語るは、蝶々覆面の変質者。
(可能性が低いってのは?)
相槌を返すは、偉大なる大魔道士と、七つの海を股にかける大いなる嘘吐き。
(簡単な話だ。まさか貴様は、首輪を調査しようとしているのがオレ達だけと思っているわけでもあるまい?
既に、オレ達以外の参加者にも、目先の聞く奴ならこの首輪を調べてみようと思っているハズ。
死人の首輪がガラクタと化すならば、一度他人の首輪を手に入れてしまえば、解体し放題だろう?
少なくとも、オレが主催者ならば、そんな愚は犯さない
解体しようとしたならば、必ず何がしかのペナルティがあるだろう。つまり、それがその二だ)
蝶々覆面の言葉は朗々と続き(実際には無音で紡がれているわけだが)、偉大なる嘘吐きが疑問を挟む。
(誰かの首輪が爆発したら、ある程度近くの連中の首輪が誘爆するってのはどうだ?)
(いや、それもあるまい。首輪同士が誘爆する場合、獲物を追い詰めた狩り手が、偶発的に死亡してしまう事態が
発生しかねない。このようにな)
---------------------------------------------------------------------------
ワガジンセイニイッテンノクイナシ!!>○ ○<ウワラバ!!
☆ ☆
強者→ + +←弱者
∧ ∧
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□■■■■■■■■■■■■■
---------------------------------------------------------------------------
(先程いったように、この世界は奇妙なところで公平に出来ている。ならば、禁止エリアに入っていないものが
このような形で死ぬことは、主催者にとっても望ましい事ではないだろう)
実際に、赤木晴子が命を落としたとき―――誇り高きギャングの能力で、首輪を取り外そうとしたとき―――
ブチャラティの首輪は誘爆しなかったという事実もあるが、それはこの三人の与り知るところではなかった。
(というかさ、首輪が誘爆するっていうなら、最初の広間で全員爆死してるはずだろ?
爆発でじゃなくて、首輪自体が外から解体されようとすると、解体された首輪も、近くの連中のソレも爆発するんじゃねぇか?
魔力を受けることで爆発する爆弾なら、バーンの十八番だぜ?)
大魔道士の脳裏に浮かぶは、悪名高き滅びの欠片……黒の結晶。
(フム…着火装置が機械式のものだとしたら、それが一番可能性が高いとは考えていたが…魔法的なものでもそうか。
確かに、戦闘の際の偶発的な爆発を防げるうえに、解除もまず不可能だからな。つまり、こういうことだろう?)
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○<タニンノクビワヲカイセキシヨウ!!
+
∧
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↓↓↓↓↓
○<アベシ!
☆<フセイナアクセスヲケンチシマシタ!!
+☆<フセイニアクセスサレマシタ!
∧
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(例え、首輪が解析できたとしても、解除が出来ないなら意味は無い。このようにな)
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○ ○<クビワヲハズシテアゲヨウ
+ +
∧ ∧
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↓↓↓↓↓
ITEッ>○ ○<救命阿!
☆ ☆
+ +
∧ ∧
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(それに――――――)
(――――――一番ヤバイ可能性がまだ残っている…だろ?)
冷静に、冷静に。蝶人と大魔道士の会話は、冷たい熱を帯びていく。
(その通りだ。主催者がこちらを監視していて、人的手段で違反者を見つけ次第爆破している可能性がまだある。
つまり、首輪の調査を行うに当たっては、起爆のトリガーの判別が、どうしても必要となる。
そして、トリガーを判別させるには、爆発の威力を知る必要が有る…列車の中で言ったようにな。これがその三だ)
(そして、その四だ)
流れを継ぐは、大魔道士。
(パピヨン、アンタは知らねぇかもしれないが、俺のいた世界には「呪い」ってモンがあってよ)
(「呪い」、だと?)
(あぁ。「呪われた」ものを装備すると、「呪い」を解くまで外すことが出来ないってヤツだ)
(では、この首輪が「呪われている」という根拠は何だ?)
(逆に聞くぜ。なんで、主催者たちは首輪なんてものを俺たちに付けたんだ?)
(自身の安全のためだろう?誰でも自分のことが一番可愛い。自分の命を握られていれば、生き延びるためにゲームから脱出するより、
ゲームに乗ったほうが安全だと考えるやからが出てきても可笑しくない)
火薬はジルバを踊るかのように文字を描き、大魔道士のメモ帳は見る間に黒く塗りつぶされていく。
(テメェのだけじゃねぇ。自分の大切なヤツの命を握られているからこそ、積極的に狩る側に回るやつも増えるだろう?
それに、【二十四時間誰も死ななかったら】…)
(!…そういうことか。確かにな。ソレがなければ、あえて殺し合いを選ばずに、時間をかけて集団で脱出の方策を練る…いや、
ここで生活することを選ぶ連中が出てきても可笑しくはないな)
(そうだ。つまり、この首輪は二重の安全装置なんだよ。主催者共の安全と…ゲームの円滑な進行のな)
・
・
・
会談は続いていく、しめやかに、密やかに。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【早朝〜朝 福岡県 博多駅駅舎】
【ウソップ】
オイオイ、こりゃ中々イケるんじゃねぇか?
あの二人、もう少し仲がよけりゃぁ、最高なんだけどなぁ。
――新生ウソップ海賊団の栄えある団員一号、二号を眺めつつ、関心の吐息を漏らすはウソップ。
まったく、駅の中でガンの付け合いを始めたときにはどうしようかと思ったぜ。
キャプテンとして、機転と、自信作「ウソップ・マフラー」のプレゼントで、その場は丸く治めたけどな。
――駅の中で。再び険悪な空気を漂わせた大魔道士と蝶人。その空気を払ったものが、それ。
三人の首に巻かれている、海賊旗を模したようなマフラー。収集したガラクタを使って、ウソップが
苦心惨憺して作成したものである(実際には二人のやる気を削いだだけだが)
まぁ、天才的な芸術センスをもつオレの作品だから当然か。こりゃ、我ながら中々の出来だ。
残りの二つは、ロビンとルフィ用だな。いや、ポップの仲間のために、もう幾つか作っておくのもアリか?
そろそろ出発の時間だし、材料集めなら早めにしねぇと…ルフィ、ロビン…二人とも、近くにいればいいけどなぁ…。
おっかねぇ連中が近くにいなけりゃいいけどなぁ…。
―放送まで休息をとり、体勢を整える。しかる後、線路沿いに東京に向かい、列車が来れば乗り込む。それがウソップの提案した行動指針。
ポップとパピヨンの希望の折衷案。膠着状態に陥っていた二人は、仕方なしにそれを受け入れた。
あぁ、行きたくねぇなぁ…。でも、ここまで来て引き返すわけにもなぁ…
―奇妙な三人。実質的に舵を取っているのは偉大なる船長を名乗る男。
彼らの船出は、嵐に向けて―――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【福岡県/早朝】
【ウソップ@ワンピース】
[状態]:健康
[装備]:賢者のアクアマリン@ハンター×ハンター
:いびつなパチンコ(特製チクチク星×5、石数個)
:ボロいスカーフ(団員の証として)
:大量の輪ゴム
[道具]:荷物一式(食料・水、残り3/4)
:死者への往復葉書@ハンター×ハンター (カード化解除。残り八枚) 参號夷腕坊@るろうに剣心
:スナイパーライフル(残弾16発)
(手作りのアイテムはボロいスカーフでした)
[思考]1:線路沿いに本州へ(電車が着たら乗り込む)
2:ルフィ・ロビン・ポップの仲間との合流
3:アイテムを信じて仲間を探す
【ポップ@ダイの大冒険】
[状態]:健康 (MP微量消費)
[装備]:魔封環@幽遊白書 、アバンのしるし@ダイの大冒険
:ウソップ作の仕込み杖(投げナイフを使用) 、死者への往復葉書@ハンター×ハンター(ウソップから譲って貰った)
:ボロいスカーフ(仲間の証として)
[道具]:荷物一式×3(食料・水、一日分消費) 首輪×2 ※玉藻、跡部の荷物を回収しました
[思考]1:脱出の鍵を探す。線路沿いに本州へ(電車が着たら乗り込む)
2:ダイ・ウソップの仲間との合流
3:夜になったら死者への往復葉書を使ってマァムに手紙を書く。
4:フレイザードを早めに倒す
5:パピヨンはやはりあまり信用していない
【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康 核鉄で常時ヒーリング
[装備]:核鉄LXX@武装錬金(ニアデスハピネス少量消費)
:ボロいスカーフ(首輪から監視されていた場合への対策)
[道具]:荷物一式×4(食糧二食分消費)首輪×2、ベアクロー(片方)@キン肉マン ※ヒソカ、一輝の荷物を回収しました
[思考]:1:武藤カズキを生き返らせる。手段は問わない。ただし主催者の思い通りになるのは拒否
2:首輪を調べる。爆破実験は迂闊に行うべきではないと思っている(少なくとももっと脱出の為の駒が集まってから)
3:線路沿いに本州へ(電車が着たら乗り込む)首輪の解除に役立つ人間またはアイテムを探す
4:蘇妲己と接触し、ツリ目の少年の情報を得る。ツリ目の少年は見つけ次第殺す
5:他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない
<首輪の調査案 その@>
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.死体の首輪で爆発力を調査(調査トリガー:情報不足のため、脱出の目処がつく/有力な仲間ができるまで保留)
1.1 死体の首輪が爆発しなかった場合 → 外部から首輪を破壊する(首輪が誘爆するかは不明)
2.項目1の結果を受けて列車の中で、起爆トリガーの調査
2.1 禁止エリアがトリガーだった場合 → 列車内の調査
2.2 主催者側の監視がトリガーだった場合 → 予備の首輪の爆破実験を行い、主催側の視界の調査
3.項目1で破壊した、首輪の破片の分析(パピヨン・ウソップ)
4.「呪い」の調査、及び対処法の考案(ポップ)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
時間は、僅かに遡る。
−姉崎まもりに対する見解−No.1:青銅聖闘士星矢の場合
見開かれてる、キルアの眼。くっきり開いてる、キルアの眼。――それなのに、もう何も映さない、キルアの眼。
こいつのこんな姿、見たくなかった。こいつだけじゃない、誰にもこんな、酷い姿になってほしくなかった。
そんなに長い間、一緒にいた訳じゃない。むしろ本当に、僅かな間だ。たまたま出会ってすぐに分かれた、そんな程度の関係。
……それでも、ショックはショックだ。
せめてもと思って眼を閉じてやりながら、オレはさっきの、滅茶苦茶驚かされた言葉を思い出していた。
『わたし、この少年に襲われました』
あの時は麗子さんがヤバそうだったから、両津さんと二人がかりで止めたけど――正直な話、オレだって麗子さんと同じ気持ちだった。
聖闘士のオレがこんな事を思うのは変なのかもしれないけど、知り合いが人を殺しましたなんて言われて、すんなりそのまま信じられるほど、
オレは薄情でもないしバカでもない。……つもりだ。
けど、まもりさんの言うことが嘘だったとして、何でオレ達に嘘を言う必要がある?
オレ達は仲間なんだから、嘘をつく理由なんか何処にもないのに。
そういう事を考えると、もう、訳が分からなくなる。
オレが思ってた、キルアのイメージが間違ってたのか。
まもりさんが、何かの事情で嘘を言っているのか。
今のオレには、何にも分からない。
分からないまま、オレにはただ、キルアに土を被せてやることしか出来ない。
……やっぱりオレは、バカ、なんだろうな。
No.2:勇者ダイの場合
こんなに頭を使ったのは、太公望との棒倒し以来だ。まだ、昨日の話だけど。
両津さんが言うには、まもりさんはこのゲームに乗り気の悪い人かもしれないらしい。
まもりさんを追いかけていた男の人の見た目は、両津さんがこの世界で出会った、ヤムチャっていう人にそっくりで、
でも両津さんの話によると、ヤムチャさんはそう簡単に人を殺せるような人間には見えなかった。だから、
まもりさんはオレ達に嘘をついているかもしれない。両津さんの考えはそういうことだった。
その話を聞いた後だと、今回のことは、オレにも何かおかしいなって思える。
死んでしまったキルアは、星矢と麗子さんが一緒にいた人。進んで人を殺すような人間じゃない。でもまもりさんは、キルアに襲われた。
……両津さんが言った、ヤムチャさんの話と、近いんだ。
当然、こんなことはオレの考え過ぎなのかもしれない。
元々オレは、太公望のように頭が良いわけじゃないし、たまたま気付いた偶然に、意識が向いてるだけなのかもしれない。けど――
――気になる。
もう一度、両津さんとじっくり話し合ってみよう。それから、……星矢にも、この話をしてみよう。
フェミニスト、だっけ。両津さんは星矢のことを、そう言っていたけど。まもりさんの一言に、星矢も少しは、思うところがあったはずだ。
オレだってそんな簡単に、まもりさんが人殺しだなんて思えない。でも、そんな簡単に、信じ切ることも出来ないんだから。
みんながそれは、同じのはずなんだ。みんなが――
No.3:葛飾区亀有公園前派出所勤務、秋本・カトリーヌ・麗子巡査の場合→省略。
No.4:同上――
時間は、現在へと舞い戻る。
「……墓石の一つでも、立ててやりたかったがな」
少し盛り上がっただけの土の下。そこが、キルア=ゾルディックが永遠の眠りに就く場所となった。
その死は自分達に様々な波紋を残していくこととなったが、若くして失われた命を悼むことだけは、忘れたくなかった。
それが、大人である自分に出来る、せめてもの勤めだと思った。
「行くぞ。麗子、まもり」
「はい」
「…………」
両津達の穴掘りを少し離れたところで見ていたまもりと、その横で蹲っている麗子の二人へと声を掛ける。
まもりの反応は素早かった。足元に下ろしていたデイパックを即座に担いで、準備は完璧と言わんばかりである。
その一方、泣き腫らした眼で顔を上げた麗子は、緩慢な動作でどうにか立ち上がることは出来たが、
まもりと同じように傍に置いていたデイパックを拾い上げて、背負おうとしたところで軽くよろめいたりして、見ていて非常に危なっかしい。
「……歩けるか、麗子?」
「……ごめん、なさい……」
問いかけに対する返答の声も、覇気がまるで感じられなかった。心此処に在らず、とはこういう状態を言うのだろう。
越前リョーマ捜索の期限に定めた午前二時はとうに過ぎている。これ以上の時間のロスは、四国への到着を更に遅らせてしまうだろうが――
――世話の焼けるやつだ、まったく。
デカい貸しにしてやる。
……もう、疲れた。
この世界は、狂ってる。
どれだけ人を苦しめるのか。どれだけ人を悲しめるのか。
どれだけ人を、殺せば気が済むのか。
キルアちゃんが、あんな姿で。あんな姿になって、死んでしまうなんて。
酷過ぎる。
友達のために、こんな危ない世界を駆け回ったキルアちゃんが、殺される。
こんなの、おかしいじゃない。不公平じゃない。
キルアちゃんが、死ぬくらいなら。
……私が代わりに、死ねたらよかった。
何の役にも立たない私。
みんなの足を、引っ張る私。
そうよ。
誰が見たって、もう私なんか、生きていたって仕方ない。
力もない。
知恵もない。
そんな私が生きていたって、誰も、喜ばない。
両ちゃんが、私を見ている。何か言おうとしている。
何を言われるんだろう。消えろ? 邪魔だ? 死ね?
それとも――殺してやる?
何を言われてもいい。私は言われたとおりにしよう。何を言われても――
「よーしお前ら! ここらでいっちょ休憩の時間だ!」
……え?
一体何を言っているんだろう。2時が過ぎたら四国へ行く、そう言ったのは両ちゃんなのに。
休憩の時間? 休むってこと? 私のせいで時間がないのに、どうしてそんな――
――私のせい?
「……両ちゃん、もしかして――」
「ああそうとも、あちこち歩き回ったせいで足がくたびれて仕方がない! ここらで休めんと疲労骨折を起こしてしまいそうだ!」
「両津さん、それって歳じゃないの?」
「やかましい星矢! ほら、あの家なんか良さそうだぞ! それとももう一歩も動けんか? だったらわしより不健康だな、麗子!」
「…………」
――私は……。
思い出していた。
この世界で、私が何をやってきたのかを。
キルアちゃんが死んだって聞いた時、私は何度も何度も泣いた。忘れもしない、あの三回目の放送の時だ。
泣きじゃくって、何も考えられなくなって、両ちゃんが何度も呼んでくれるまで、周りのことに気付きもしなかった、あの時。
部長の時は、ショックで身体がまともに動かなかった。そのせいで、星矢ちゃんにも、キルアちゃんにも迷惑を掛けた。
何だろう。こうして一つ一つを見返すと、凄い情けない。自分の事なのに。
けれど――何処かで一度、転機があった筈だ。くよくよするな、前を向けって、自分で自分に言い聞かせることが出来たときが、あった筈だ。
――思い出した。
圭ちゃんの時。あの時確かに、私は自分で立ち直れたんだ。星矢ちゃんに迷惑を掛けたくない、その思いで私は頑張れたんだ。なのに――
私はどれだけ、同じ悲しみを繰り返しているんだろう?
バカみたいに泣き喚いて、その度にみんなの足を引っ張って、ようやく進むことが出来たと思っても、すぐに歩みを止めてしまって。
私のどこが大人だろう。何が警察官だろう。星矢ちゃんやダイちゃんに比べたら、私の方がどう見たって子供だ。駄々っ子だ。
何も出来ないで、誰の役にも立たないで、疲れた? 死にたい?
――冗談じゃないわ。
――リョーマちゃん。
本当は一人でも、あなたを探しに行きたい。
両ちゃんにどれだけ反対されても、あなたの元気な姿を見たい。キルアちゃんと、同じ目に遭ってほしくない。
けど、それは私の我侭になる。これ以上、私のせいでみんなの足を引っ張りたくない。
……この気持ちだって、言い換えてみれば我侭になるのかもしれない。皆のために、リョーマちゃんを見捨てる。そんな我侭に。
こんな私を、許してほしいなんて言わない。言う資格はもう、私にはない。
私があなたに言えることは、もうこれ以外にない。
「――私は普通に歩けるわよ。両ちゃんが運動不足なだけじゃないの?」
リョーマちゃん。――ごめんね。
「なにぃ〜!? 言ったな麗子! サンダル勤務は伊達じゃないぞ!」
「全然自慢になってないじゃない! 骨が折れるって騒いでたのはどこの誰よ?」
「さっきのは例えだ! たかが一日歩き回っただけでそう簡単に骨折するほどわしの足腰は貧弱じゃないぞ!」
「わああもう、話し始めた途端にこれなんだから!」
「ほっとけよ。しばらく見てようぜ、ダイ」
「…………」
今の私には、謝らなくちゃいけない人が沢山いる。
両ちゃん。星矢ちゃん。ダイちゃん。キルアちゃん。そして――リョーマちゃん。
――みんな、本当に、ごめんなさい。
「……無理すんなよ、麗子」
――それこそ無理よ、両ちゃん。
……やれやれ。何だかんだで不安は残るが、ひとまずは解決したみたいだな。
時計が巻かれた左手首を胸の高さまで持ち上げて、両津は時間を確認した。
2時37分。今から順調に歩いていけば、放送の少し手前には四国に着くことが出来るだろう。
しかし――
「ウホン! みっともない言い合いはこの位にしよう。……そうだな、時間は今から大体一時間くらいにしておくか」
「あれ? 両ちゃん、本当に休む気だったの?」
「何を言っとるか。お前が元気になったのはいいが、ダイや星矢達のことも考えてみろ! いい加減、子供の足じゃガタが来る頃だろうが」
「生憎だけどな両津さん、聖闘士のオレはそこまでヤワな身体してないぜ」
「――あ。そ、そうだよ両津さん! オレもちょうど、少し休みたいなぁーなんて思ったりしてたんだ!」
「何だよダイ。竜の騎士ってのも案外体力ないんだな?」
「え、えーと……うん。その……うん」
――両津勘吉巡査長の場合。
(ご、ごめん! 咄嗟に言ったからその後のこと何も考えてなくって!)
(気にするな、嘘を付くのが下手なのはむしろ自慢するべきことだ。それよりも、ナイスフォローだったぞ)
申し訳なさそうな顔のダイを小声で褒めてやりながら、前を行く小さな背中へと視線を送る。
その先にいるのは、ついさっきまで両津と麗子の口喧嘩を呆気に取られた顔で眺めていた、姉崎まもりの姿。
ちら、と横目で表情を見た限りでは、彼女は突拍子もなく始まった自分達の言い争いに驚いていると、そう読み取ることしか出来なかった。
けれど、本当にそうだろうか? ヤムチャの話をした時も、キルアの話をした時も、彼女は一切の動揺も見せずに事の顛末を語ってみせた。
その全てがもし嘘偽りだとするならば、この程度の演技などお手の物だろう。油断はまだ、出来ない。
当然、まもりがゲームに乗った者であると決まったわけではない。しかし、今回の件で彼女に対する疑念が高まった事も、また事実だ。
この世界ではもう、何が起きても不思議ではないのだ。まもりのような純粋無垢に見える少女であろうと、警戒する事を怠っては、ならない。
そして――今ならば。麗子と星矢にも、キルアがまもりを襲ったという、二人にとっては信じ難い言葉を聞いている、今ならば。
今ならば、この二人にも注意を促せるのではないか? まもりが本性を現す前に、何らかの対策を練る事が出来るのではないか?
四国にいる乾達の安否は、確かに気になる。けれど、彼らの下へと向かう前に、こちらが全滅してしまっては何の意味もない。
休憩の一言は、当然麗子を立ち直らせる意味も持っていたけれど、同時に自分達の安全を確保するための、策でもあるのだ。
――あの鳩の奴が見つけてきた、『情報』のことも話しておく必要があるしな……。
そうだった。ある意味これが、最も重要な案件なのだった。
太公望。ダイ達と行動を共にしていた、大いなる知恵を持つ軍師だったという男。
この『情報』は、その男が自分達に齎してくれた天恵とも言える。
もしも、これが真実であるなら――自分達は本当に、脱出への糸口を掴んだかもしれないのだ。
太公望。彼は頼れる存在だったという。自分は結局、顔を見ることも話すことさえもなかったが――
――脱出だの、裏技だの、そういう"悪"知恵だったらな。
わしとてお前に負ける気はないぞ、太公望?
「両ちゃん、何ニヤニヤしてるのよ?」
「わはははは、後で教えてやるから気にするな! わはははは!」
「もう……さっきから、変な両ちゃん」
――"種"は芽吹きつつある。
その事を、自分は広め、伝えなければならない。
そうすれば、希望の水はすぐに注がれていくだろう。
誰かの手によって。
家の中へと入ってすぐに、両津さんの指示で荷物はまとめてリビングに置いておこうということになった。
だから、今は5人が丸腰の状態で、何も置かれていないテーブルの前に座っている。
自分達の部屋に置かせないのは、まもりさんを警戒しているからか……。
まもりさんも、その提案には当たり前のように従っていた。変に嫌がって注意を引くのが嫌だったのか、それとも――どうなのか。
休憩ってことになったのはいいけど、どうやってまもりさんから目を離さずに、両津さんともう一度話し合えばいいんだろう。
とりあえず、少しの間だけでも両津さんにまもりさんを見てもらって――先に、星矢に話をしようか?
そうすれば、オレと両津さんが話し合いをしている間に、まもりさんの行動を星矢が見ていることが出来る。
けど、オレに星矢を納得させられるような説明が出来るだろうか。
両津さんとオレ、話に説得力がありそうなのはどっちかって言えば、決まってる。両津さんだ。
そもそもこの休憩は、本当にまもりさんへの対策を練るためだけのものなのかな?
さっきのヘラヘラしてた両津さんは、何か、もっとこう――"希望"を見ていたような気がする。
まもりさんが人殺しだっていう、はっきりとした証拠を見つけた? ――違う。あの喜び様は、そんな感じじゃない。
この世界で、この状況で、両津さんをあそこまで浮かれた感じにさせるもの――
――"脱出"だ。ターちゃんの鳩、太公望の情報!
そう言えばさっき、キルアの墓を作る少し前に、両津さんはオレに何か言おうとしてたっけ。
きっと、この休憩の間に、両津さんはオレ達にその話をするつもりなんだ。これはそのための休憩なんだ!
「さーて、休憩の前にわしから一つ、お前らに伝えておくべきこ……」
「わーっ、両津さん!」
早速話を始めようとする両津さんを慌てて止める。そんな大きい声で話しちゃ駄目だ!
オレが思い出したのは、太公望との棒倒しのこと。
あの時太公望は、脱出のために必要な考えを口で言わないで、棒倒しに例えていた。
それは間違いなく、太公望の考えをバーン達に悟られないようにするためだ。
太公望の考えが正しいなら、今この瞬間もバーン達は、オレ達の声を少しも逃さず聞いている、はず。
両津さんが話そうとしていることは、きっと脱出の方法と深く関わるようなこと。そんなことは絶対、奴らに勘付かれちゃいけない!
いきなり大声を出したオレを、不思議な顔で皆が眺めている。
……うわ、どうしよう。何て言ったらいいんだろう。"バーン達が聞いてるかもしれないから話しちゃ駄目だ"って?
そんなこと言ったら、余計あいつらに警戒されるに決まってるじゃないか! 聞かれるのが嫌だったら、もっと何か別の方法で――
――紙に書く、とか。
……そんなので、本当に大丈夫なのか?
考えろ。ここで判断を間違えたら、きっとオレ達は失敗する。太公望のような知恵を、少しでもオレが持たないと。
バーン達は一体どうやって、このゲームを動かしている?
魔法やアイテムをフルに使って、オレ達のやることが全部バレてるとしたら、脱出なんてきっと不可能になる。
この首輪を外そうとするところとか、何かの力でこの世界から抜け出そうとする時とか、
そんなのが全部見えているのに、放っておく奴なんか誰もいやしない。そして、普通ならそうやって、オレ達を常に見続けているはず。
……でも、それはそいつが『普通』の奴だったらの、話だ。
ハーデス、フリーザ。バーンと手を組んでるこの二人がどんな奴かは、オレには分からない。
けど。オレの知っているバーンは――オレ達がこんな、作り物の世界で勝手に死んでいくことだけを望むだろうか。
『強い者には敬意を払う』、あの大魔王の性格なら。
打倒主催者を狙うオレ達に、ある程度の自由を残しておくんじゃないか……?
……都合の良すぎる、発想だ。第一、バーン以外の二人の事なんか、まるで考えてない、穴だらけの予想だ。けど。
そうでも思わなくちゃ、オレ達はせっかくの希望も扱えなくなる。今目の前にある希望を、みすみす手放すことになる。
ターちゃんが、太公望がオレ達に残してくれた希望を。不意にするわけには、いかない。
すぐ傍の僅かな可能性に、オレは――賭ける。
「……探し物が、あるんだ。ちょっと、待ってて」
ぽかんとしている両津さん達へと、唇の前で人差し指を立てる。それからジェスチャーで、『紙とペンが欲しい』ということを訴えた。
オレはこの、日本っていう世界の文化を詳しくは知らない。そのせいで、どこに何が置いてあるのかとか、そういう事はまるで分からない。
だから、探し物は両津さん達にも協力させてもらうことにした。
最初にオレの意図に気付いてくれたらしい両津さんが、きょろきょろと辺りを見回して、隣の部屋へと向かっていった。
すぐに戻ってきた両津さんの手には、しっかりと希望通りの物が握られていた。
『オレ達の会話は、バーン達に全部聞かれているかもしれない。だから、脱出に関わる話をする時は声を出さないで』
そう書かれた文章を目の当たりにして、両津は先刻までの自らの迂闊さを思い返し、思わず肝を冷やした。
主催者達の盗聴。考えてみれば、その程度の用心は成されて当然の事である。脱出という目の前の希望に、目を取られすぎていたらしい。
……この情報を、まもりに対しても話すべきことなのかは迷った。しかし、まもりにだけ黙って他の三人に伝えることは不自然であるし、
具体的な脱出方法のきっかけになるかもしれないこの話を聞かせてやれば、彼女がこちら側へと転向する可能性もある。楽観的な考えだが。
中々緊張する一瞬だ。すう、と一つ深呼吸をして、ペンを手に取った。
『これはあの鳩が持ってきた、脱出に関する重大な情報だ』
誰かがごくり、と息を呑んだのが分かった。当然だろう。
『太公望は動物を使って、この世界におかしなところは無いのか、という事を調べていたらしい。
空を飛ぶことが出来る鳥や、地面へ潜ることが出来るモグラとか、そういう連中を使ってな。
さっきの鳩が持ってきた情報ってのは、他の鳥達からもらった話も全部まとめた物だそうだ』
我ながら実に前置きが長いが、皆一様に真剣な表情でメモを見つめている。続けて書いた。
『まず、このミニ日本の構造なんだが、海の向こうが何処までも続いているというわけではないそうだ。
ある程度のところまで進んでいくと、透明な壁に阻まれてそこから進めなかったらしい。恐らく、この世界はドーム状をしているんだろうな』
『ってことは、その壁をブチ破ればオレ達はこの世界から出られるってことか?』
『いや、それは無理だろうな。壁を壊した先にあるのが、わしらの元の世界とは限らん。あの主催者の間かもしれないし、何もないかもしれん』
『じゃあ、どうするんだ?』
漢字が苦手なのか、平仮名で書いた文章を差し出してきた星矢を制す。伝えられた内容がそれだけならば、両津も希望を抱きなどしない。
本題は、ここからだ。
『これは、南の方へ向かった鳥からの情報なんだがな――』
『沖縄を、見たそうだ』
『――沖縄? 何言ってんだ両津さん、日本なんだから沖縄があるのは当たり前だろ?』
星矢がそう書く一方で、麗子は事の重大さに気が付いたようだった。即座に『本当なの?』と聞き返してきそうな顔をしている。
『その通りだ星矢。ここは日本なんだから、沖縄があって当然だ。けどな、よく思い出してみろ』
『何をだよ』
『このミニ日本の地図の中には、沖縄は存在しないんだよ』
「あ」
星矢がハッとして、驚きのあまりか短くそう漏らした。
地図には存在しなかった、当然存在するべき場所、沖縄。これこそが、動物達からの情報で得られた最大の収穫。
今思えば、地図を見た時点でどうして妙だと思わなかったのだろうか。地図にある場所を全てだと思い込むなどとは、ゲーマー失格である。
主催者達に隠蔽された島、沖縄。それがどういう意味を持つのかは、今のところは分からない。
だが、地図に載っていなかったこと、そして実際に存在したこと。この二つには、何かが隠されている筈だ。このゲームを終わらせる、鍵が。
それこそ――
『両津さん! もしかしたら、ハーデス達は沖縄にいるんじゃないか!?』
――という、考え方も出来る。
だが、いくら推測をしたところで、結局のところは沖縄まで出向かなければ何も分からない。
もしも沖縄に主催者達がいたところで、首輪を外しもしないままで挑めば、即座に自分達は首を飛ばされてあの世行きだ。何より――
『――だが、その沖縄も、透明な壁の向こう側なのだ』
――逆に言えば、だからこそ沖縄が怪しいとも考えられるんだがな。
目の前にわざわざバリアを張り巡らせ、地図にも載せず、けれど沖縄はそこにある。まるで不自然の塊だ。
それだけの事をしてまで守らなければいけない何かが、きっと沖縄には存在するのだろう。
けれど、沖縄へ辿り着くために、成さねばならないことは多い。首輪の解除、主催者打倒の人数集め、そして見えざる壁の突破。
どれもこれも、一筋縄ではいかない大仕事だ。しかし――
『――そんなもの、オレの小宇宙で打ち砕いてやる!』
勇敢な聖闘士の、少年。
『そうよ、両ちゃん。きっと行けるわ!』
責任感の強い、同僚。
『……死んでしまったマァムや、まだ生きているポップ、そして参加者のみんなのために。オレも、やります! 両津さん!』
竜の騎士の、勇者。
希望は確かに、存在する。
そう、すぐ傍に。
各々が部屋へと戻っていくその時まで、姉崎まもりはペンに手を付けることさえなかった。
彼女からは、終始、何も感じ取れなかった。
「……ふああ、っと」
文章で会話するなんて慣れないことをしたせいか、気が付いたら少し眠くなっていた。
時計を見る。3時13分。四国への出発は4時からってことに決まった。つまりは残り50分程度。寝るには半端な時間だけど。
朝にちょっと寝たくらいだしな。ちょっとの間だけどいいや、おやす――
ノックが二度鳴った。
「星矢。起きてる?」
――おいおい、タイミング悪いな!
別に鍵も掛けてないんだからそのまま入ってくればいいのに、返事をしないでいると控えめなノックの音ばかりが続く。
まさか返事するまでずっと叩いてるつもりじゃないだろうな。地味にうるさい、眠れねえ。
「……起きてるよ」
「話があるんだ」
扉越しに聞こえるダイの声はやけに真剣で、眠いから後にしてくれなんて言えないような重みがあった。
訝しげになりながらもドアを開けると、廊下には両津さんと麗子さんの姿もあった。何だよ、全員でする話ならさっきのうちにやれば……ん?
「……まもりさんは?」
「そのまもりの話だ、星矢」
まるで話が読めない。麗子さんの方を見てみると、こっちもどうして呼ばれたのか分からないっていう顔をしている。
ってことは、またダイと両津さんの話になる訳だ。今度は一体何を聞かされるっていうんだ?
「……中、入れば?」
とりあえず、その時のオレにはそう言うことしか出来なかった。
両津さんが上がりこみ、その後ろに麗子さん。何故だかダイは、リビングの方へと戻っていく。
そして、部屋の中でオレは、ある意味さっきの話を上回るような衝撃を受けることになった。
「な……何だって!? まもりさんがゲームに乗ってる!?」
「嘘でしょ両ちゃん!」
「バカ! お前ら、声がデカいんだよ! 部屋にいるまもりまで響いたらどうする!!」
そういう両津さんもデカいじゃないか、とは流石に言えなかったし言う気もなかった。
部屋へ上がり込むなり自前の推理をつらつらと語り始めた両津さんの顔は、最初っから最後まで本気の目をしていたからだ。
ダイがリビングへと戻っていったのも、まもりさんは今部屋に篭もりきりだけれど、念のために荷物番に向かったためということらしい。
考えすぎだろって思うところもあった。けれど、話す内容のところどころで、オレが思っていたことと一致するところがあったのも、確かだ。
しかし――やっぱり、信じられない。
「……じゃあもしかして、キルアちゃんを殺したのも……?」
麗子さんの悲痛な問いかけに、両津さんは神妙な顔のままで答えた。
「……それは分からん。キルアの件に関しては、わしも正直自信がないんだ。
まもりはキルアの魔弾銃を知っていたんだからな。どういった形にしろ、二人が一度は出会っているのは間違いない」
「でも、キルアちゃんが人殺しなんか!」
「だったら麗子。お前はあのまもりが人殺しに見えるか?」
「それは――」
「……そういう事になるんだ。疑おうと思えば、いくらだって疑えてしまう。まもりもキルアも、どちらもな」
両津さんの言う事は理に適っていて、麗子さんも口をつぐむしかなかった。
オレの方はというと、信じたいと思う気持ちと、ありえないと思う気持ちがぶつかり合って、結局こんな言葉しか浮かばなかった。
「で……でもよ、仮にまもりさんがオレ達の命を狙っているとして、オレ達は一体どうしたらいいんだ? まもりさんを――」
――殺す、のか?
「……今はそこまで考えるな。ただ、まもりの動向には常に気を配っておくんだ。
確証も無いし、放り出すことも出来ん以上、今のわしらに出来ることといえば、そのくらいだ」
……オレもまた、何も言い返せなかった。
短針が一の音を刻む。
短針が二の音を刻む。
短針が三の音を刻む。
短針が四の音を刻む。
徒(いたずら)に流れ続ける時間の中で、姉崎まもりは、一人きりの部屋の中、ただじっと、膝を抱えている。
短針が一の音を刻む。
短針が二の音を刻む。
短針が三の音を刻む。
長針が死の音を刻む――。
そうして迎えた、午前四時。一行は、四国への移動を再会した。
希望と疑念が織り交ざる中、もう命の火が消え去った、場所への歩みを。
【滋賀〜京都府・三重寄り/早朝】
【リョーマ捜索隊】
共通思考1:四国に向かう(放送後の朝に到着予定)
2:仲間が死んでも泣かない
3:出来る限り別行動はとらない
4:リョーマを探す
5:ハーデスに死者全員を生き返らせさせる
【両津勘吉@こち亀】
【状態】睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷
【装備】マグナムリボルバー(残弾50)
【道具】支給品一式×2(二食分の食料、水を消費)両さんの自転車@こち亀(チェーンが外れている)
爆砕符×2@NARUTO、中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター、焦げた首輪
【思考】1:姉崎まもりを警戒
2:鵺野先生が心配(四国へと向かう)
3:仲間を増やす
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
【状態】中度の疲労
【装備】サブマシンガン
【道具】食料、水を8分の1消費した支給品一式
【思考】1:まもりに僅かな不信感を抱いている
2:四国へと向かう
3:藍染の計画を阻止
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
【ダイ@ダイの大冒険】
【状態】健康
【装備】クライスト@ブラックキャット
【道具】荷物一式(2食分消費)、トランシーバー、出刃包丁
【思考】1:姉崎まもりの監視
2:四国へと向かう
3:公主を守る
4:ポップを探す
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【星矢@聖闘士星矢】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】ペガサスの聖衣@聖闘士星矢、食料を8分の1消費した支給品一式
【思考】1:まもりがゲームに乗っている……?
2:四国へと向かう
3:弱者を助ける
4:藍染の計画の阻止
5:藍染を倒す
6:沖縄へと向かう
7:主催者を倒す
【姉崎まもり@アイシールド21】
【状態】:中度の疲労。殴打による頭痛、腹痛。右腕関節に痛み。(痛みは大分引いてきている)
右肩の軽い脱臼。不退転の決意。
【装備】:魔弾銃@ダイの大冒険・魔弾銃専用の弾丸(空の魔弾×7、ヒャダルコ×2、ベホイミ×1)@ダイの大冒険
【道具】:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン、ベアークロー(片方)@キン肉マン
装飾銃ハーディス@BLACK CAT、荷物一式×4、食料五人分(食料、水は三日分消費)
【思考】1:不明
2:両津達4人に着いていく。大量殺戮のチャンスを狙う
3:殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない
4:セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)
5:セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
6:セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生して貰う
更に修正です。
>>69の『……死んでしまったマァムや、まだ生きているポップ、そして参加者のみんなのために。オレも、やります! 両津さん!』
のところは、『……死んでしまったマァムや、まだ生きているポップ、そして参加者のみんなのために。オレもやるよ、両津さん!』
に変更お願いします。すみません…。
『白川 渚』、それはタカヤが、この世で唯一愛した魔界の魔女。
今から、3000年前、まだタカヤが人間に転生する前の物語。
その頃、タカヤは魔界の君臨者、魔輝四帝王に所属していた。
これは調査で、同じ四帝王の仲間、ポルタと一緒にナメック星を訪れた時の事。
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
地平線から朝日が昇る。
暗闇を塗り替えていくように空が赤く、紅く、染まる。
陳腐な表現をするならば、それはこの地で流された血の色だとでも例えようか。
――そうでは無い。
例えこの忌まわしき舞台が幾多もの血で汚されようが、血では暗き闇をさらにどす黒く、醜悪に塗り潰すだけだ。
この赤は希望の赤。
生き残る希望――仲間の生を信じぬく希望――悪夢を断ち切らんとする希望――
最後の一人になれるまで、殺し抜く希望――
――良い朝だ、諸君。
ではこれより余が定例の報告を行うとしよう、聞き逃さぬように。
まずは脱落者からお伝えしよう。
――うずまきナルト、ニコ・ロビン、西野つかさ、乾卓治、ラオウ、アミバ、若島津健、江田島平八、緋村剣心 、桃白白、蘇妲己、竜吉公主、鵺野鳴介、トレイン・ハートネット、イヴ、スヴェン・ボルフィード、世直しマン、たけし――
…以上の18名が今回の脱落者である。
このゲームも折り返しを迎え、今回も中々の実力者たちが多く舞台から降りてしまったようだ。
いまだ健在な諸君、もはや皆誰もが充分“強き者”。誇るが良い、フフフ……
……おはようございます、皆さん。
ではこのフリーザが新しい禁止エリアを発表します。そろそろ禁止エリアも増えてきましたから、移動はさらに注意深く行った方が良いですよ?フフ……
――新しく増える禁止エリアは、『岩手県』『和歌山県』『佐賀県』です。
さて、ハーデスさんからは今回も特に皆さんにお伝えするべき用件は無いとの事ですから、これで最低限のお伝えする報告は終わった訳ですけれど……
一応皆さんに、あの件を教えて差し上げましょうかねぇ……
本日の午前中、どうやら天候が安定しないようです。
今はまだ晴れていますけど、これから後は曇りのち雨、所により雨足が強まる恐れがあるでしょう。お勤めに向かう際には傘の用意をお忘れなく。ホホホ……
……ではまた六時間後。
皆さんのご武運を、心よりお祈りしていますよ。
【現在二日目/朝/午前六時過ぎ/残り41人】
×乾卓治→〇乾貞治
に修正します
(…!?この小宇宙は!)
制限されているとはいえ、聖闘士は小宇宙を感じる事で敵の接近を察知できる。
この世界では小範囲ならスカウターいらずの便利な能力と言った所か。
長かった夜は終わり、久しぶりに太陽が顔を出した。辺りを照らす光とは対照的に星矢の心は晴れなかった。
何かいやな予感がする…この嫌な小宇宙は誰のものだ?昔のサガじゃない。デスマスクとも違う。そうだ!この邪悪な小宇宙はあいつの…
と、そう確信したところで放送が流れ始めた。すかさず地図と名簿とペンを手に取る。このゲームが始まってもう5回目の放送だ。流石に放送前の手際は良くなっている。
――良い朝だ、諸君。ではこれより余が定例の報告を行うとしよう、聞き逃さぬように。
低く、癪に障る声で主催者の1人、バーンが脱落者を次々に読み上げていく。何と言うことはない。これまでと同じ事だ。
いつものように誰かの死を嘆き、悲しみ、そして立ち直る。これまでと同じ流れになるだろう。オレ以外は。
だが、オレは黄昏てる場合じゃない。本当の危機はすぐそこまでやってきているのだから。
前回両津さんに忠告されたばかりだ。
―――油断するな―――と
84 :
あの男との邂逅:2006/08/27(日) 10:23:04 ID:W8qNx1Cm0
案の定、まもりを除くメンバーは四国全滅の報に呆然として暫くの間開いた口が塞がらなかった。
麗子と直接面識があった人物が亡くならなかったのは不幸中の幸いか…
しかし、乾、鵺野、公主と立て続けに四国防衛組の名が呼ばれたのでは、太公望の言葉に逆らい、うかつに四国を飛び出し、人捜しに行った自分たちの行動が如何に愚かであったかが良く分かった。
「鵺野先生…乾…前の放送でわし達が戻っていれば…守れなかった。守れたはずの仲間を…」
今回ばかりはゲームが始まってからの知己を失い、何度も地面を叩くなど、今まで比較的落ち着いていた両津も取り乱せずにはいられなかった。
「両津さん。落ち着いて。何も両津さんが謝る事はないよ。ターちゃんが第一陣を退けた後、第二陣が来たのかもしれないし、
何より主催者さえ倒せば公主さんやターちゃん、他に殺された大勢の人も生き返るんだから。」
「あぁ。勿論だ。彼らの想いはわし達が受け継ごう。
よし、再出発だ。彼らを殺した犯人の手がかりが残っているかもしれないしな。」
両津はクリスチャンでは無かったが、死んでいった仲間のために十字を切って祈った。もう、こんな悲劇は最後にしてくれよ。
両津たちの心を繋いでいたのが、全員を復活させる事ができるという、主催者であるハーデスの能力だったのは皮肉な事なのだが、今はその希望に頼る他はない。
幾多もの仲間の死を乗り越えてきた彼らにとって、これ以上、仲間の死によって精神が傷つく事はなかった。
(今のわしらが奏でる事のできる鎮魂歌は乾たちの敵討ちをする事くらいだろう。
警官としては不本意だが、殺人者に出会った場合、わしはマグナムを急所にぶち込む覚悟が出来た。)
「あの…みんな。ちょっと話があるんだけど。」
85 :
あの男との邂逅:2006/08/27(日) 10:25:02 ID:W8qNx1Cm0
何かを決意したような声で話す星矢に他の4人は、既に四国へ向けて踏み出しかけていた足を止めた。
「何だ?小便ならさっさと済ませて来い。」
「そんな下らない事じゃないよ。ここからすぐ近くにとんでもない邪悪な小宇宙を持った奴がこっちに来ているんだ。」
嫌な予感がして、場を和ませる意味もこめてわざとふざけて聞いた両津だったが、やはり、と言うべきか、すぐにその重大さに気付き、尋ね返す。
「ま、まさか。その邪悪なコスモの持ち主とやらは、お前が以前話していたあの…」
「そう、石崎さんを殺し、オレ達の支給品を奪った後、キルアを力で従えさせ、一回は太公望さんの力もあって捕まったけど、妙な呪文で逃亡し、その後姿を眩ましていた男、
“藍染惣右介”」
その名前を聞いた後、その場にいる全員は頭に雷でも落ちたようなショックを受け、息も出来ない程に凍りついた。
何だかんだ言ってまもりを除き、ここにいる者全員がここまで本格的な戦闘を行っていなかったからだ。強力なマーダーの出現に戸惑うのは無理もない。
「それで…四国を襲った可能性のある藍染を全員でぶっ飛ばそうって言うんだな。
ふふふ。いよいよわしの射撃の実力をお目にかける時が来たか。ウデが鳴るぜ。」
このゲームを憎んでいた両津だったが、1日目は歩きっぱなしで戦闘などしておらず、喧嘩やサバイバル・ゲームが大好きな彼にとっては“殺し合い”というルールでなければ結構性に合っているのかもしれない。
それとも麗子やまもりら女性陣に配慮してわざと明るく振舞ってるのか…
ともかく、両津はドラ○エの主人公になった気分でマグナムを構えたり、拳で空を切り裂いたり、指をパキパキと鳴らしたり、まるで子供のようにはしゃいでいた。
「その事なんだけど…藍染はオレ1人に殺らせてくれないか?
あいつはオレの友達を殺した。是非このオレの手で止めを刺したいんだ。」
86 :
あの男との邂逅:2006/08/27(日) 10:26:47 ID:W8qNx1Cm0
とんでもないことを聞いた両津は眉を吊り上げながら、怒鳴りたい感情を必死でこらえ、マグナムをホルスターに入れ、星矢をなだめる。
「星矢…悔しいのはよく分かる。わしもあいつが乾らを殺した犯人なら先を争って止めを刺そうとするだろう。
しかしだな。1人では危険すぎる。お前も単独行動をしたためにこの舞台からいなくなった仲間を何人も見ただろう?
お前はハーデスやバーンとの戦いに欠かせない戦力だ。万に一つの危険でも警戒をした方がいい。」
「そうよ。みんなで戦った方が安全よ。星矢ちゃんだけ危険な目に遭うことはないわ。でも、いつもの両ちゃんらしくないこと言うわねぇ。」
確かに、通常の両津ならこんな“石橋叩き”戦法など取るはずがない。これは彼が最も嫌っていた行動であり、また既に死んでしまった大原部長の好きな行動だったからだ。
しかし、このゲームが始まってから、彼は変わった。今となっては部長の行ってきた行動が如何に正しいか良く分かる。
そして、自分と同じような性格を持つ星矢を放っては置けない。
「心配してくれてありがとう、両津さん。麗子さん。でも、オレにも理由があるんだ。1人の方が都合がいい――ね。
一つは奴の支給品。重力を操る能力を持っているみたいだ。
最低でも10倍までは上げられるらしい。
ダイはともかく、両津さんや麗子さんが耐えられるとは思わない。
そして、もう一つの理由は…」
まるで他人事のように余所見をして遠くを見つめていたまもりの方にチラリと目をやる。今の行動で感のいい三人はみんな気付いたらしく、納得のいく表情をしていた。
(なるほど…超重力発生装置かなんかを使ってわし達の動きを止められている間に、あらかじめ戦闘を避けていたまもりが裏切って魔弾銃でこちらを襲ってくるかもしれんということか。
この娘が獅子身中の虫である可能性が強いと予想される今、そんな事は防ぎたい。
後ろから飛んでくる矢が一番怖いのは昔からの鉄則。ここは星矢の意見を聞いておくべきか。だが…一応保険はかけておくべきだろう。)
87 :
あの男との邂逅:2006/08/27(日) 10:28:27 ID:W8qNx1Cm0
何かを閃いた両津は“あること”をダイにそっと耳打ちして、星矢の意見に賛同した。
「よし、お前の覚悟の強さは良く分かった。わしらはこれから藍染との接触を避けるため瀬戸内海沿岸を通って行動する。
決して死ぬんじゃないぞ。危なくなったらプライドなんか捨てて逃げろよ。」
「任せといてよ。必ず奴に殺されたみんなの仇はとってやるから。
そっちこそ気をつけてよ。まだ四国に殺人者がいるかもしれないんだからね。
こっちが片付いたら必ず駆けつけるから。」
こうして両津たちは山陽道の更に南の道を通り、四国を目指す事となった。
名残惜しそうに両津たちが見えなくなるまで手を振り続けていた星矢だったが、
完全に姿が見えなくなると、顔を引き締め、女神の血が染み付いた聖衣を纏い、臨戦態勢に入った。
雲行きが怪しくなり、雷音が轟き始める。
間もなく奴がやってくる。あの悪魔が…
市街地のため、数百メートル先も見えない。
あと300メートル…
200メートル…
100メートル…
そして、とうとうあの男は秋風が吹くこの地に姿を見せ始めた。
先に発見され、前の時みたいに逃亡されるのを恐れた星矢は近くの建物に身を潜め、じっとその機を伺っていた。
そして、十分に引き付けると、ぱっと建物から飛び出し、威風堂々と名乗りを上げた。
88 :
あの男との邂逅:2006/08/27(日) 10:31:02 ID:W8qNx1Cm0
「久しぶりだな、藍染。オレの名は女神の聖闘士、ペガサス星矢。多くの人々の命を奪った罪、その身で償ってもらおう。アテナの名の下に、藍染惣右介、貴様の命、頂戴する!」
突然の出現に多少たじろいでいた藍染だったが、すぐにもとの冷静さを取り戻し、星矢を煽り始める。前の時みたいにキレてくれた方が攻撃を避けやすいからだ。
それに、斬魄刀が無い今、危ない戦闘は避けたかった。また、前回の放送で聖闘士とやらに一人復活の話が本当かどうか聞きたいと思っていた所だ。
ある程度情報を引き出した後、前みたいに盤古幡を使いつつ、マヌーサでこの場から立ち去るか。何しろ、こんなところで無駄な戦闘はしたく無いからね。
今は実力差もあり、ちょっと苦しいが、斬魄刀さえ手に入ればこんな少年など鎧袖一触、殲滅も容易い事だからね。
「君はたしか…昨日、この僕に動きを封じられた少年…どうした?今日は仲間はいないのかい?いくら君とて1人では僕に勝てない…」
「ヘッ!昨日のオレと今日のオレを一緒にするなよ。オレの命の炎はいつも以上に燃え盛っているんだからな!」
―――ついに、伝説の聖闘士と、死神の戦いが幕を開ける。―――
89 :
あの男との邂逅:2006/08/27(日) 10:33:34 ID:W8qNx1Cm0
【二日目兵庫県/朝】
【四国調査隊】
共通思考1:四国に向かう(数十分後、到着予定)
2:仲間が死んでも泣かない
3:出来る限り別行動はとらない (星矢は別)
4:ハーデスに死者全員を生き返らせさせる
【星矢@聖闘士星矢】
【状態】軽い興奮状態
【装備】ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
【道具】食料を8分の1消費した支給品一式
【思考】1:藍染を倒す
2:四国へと向かう
3:弱者を助ける
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
【藍染惣右介@BLEACH】
[状態]やや疲労(睡眠により回復。盤古幡使用可能)
[道具]:荷物一式×2(食料残り約5日分)、盤古幡@封神演義、首輪×2
[思考] 1:星矢を尋問した後、逃亡する。
2:L一行を探し出し始末、斬魄刀を取り返す。
3:興味を引くアイテムの収集(キメラの翼・デスノート優先。斬魄刀の再入手は最優先)
4:ルーラの使い手、バーンと同世界出身者を探す
5:能力制限や監視に関する調査
6:琵琶湖へ向かう(斬魄刀を手に入れてから)
7:琵琶湖に参加者が集まっていなかった場合、新たな実験の手駒を集める
90 :
あの男との邂逅:2006/08/27(日) 10:38:41 ID:W8qNx1Cm0
【両津勘吉@こち亀】
【状態】睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷
【装備】マグナムリボルバー(残弾50)
【道具】支給品一式×2(二食分の食料、水を消費)両さんの自転車@こち亀(チェーンが外れている)
爆砕符×2@NARUTO、中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター、焦げた首輪
【思考】1: 星矢のためにある事をする。
2:姉崎まもりを警戒
3:仲間を増やす
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
【状態】中度の疲労
【装備】サブマシンガン
【道具】食料、水を8分の1消費した支給品一式
【思考】1:まもりに僅かな不信感を抱いている
2:四国へと向かう
3:藍染の計画を阻止
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
【ダイ@ダイの大冒険】
【状態】健康
【装備】クライスト@ブラックキャット
【道具】荷物一式(2食分消費)、トランシーバー、出刃包丁
【思考】1: 両津からある事を聞かされ、その実行
2:姉崎まもりの監視
3:四国へと向かう
4:ポップを探す
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
91 :
あの男との邂逅:2006/08/27(日) 10:42:39 ID:W8qNx1Cm0
【姉崎まもり@アイシールド21】
【状態】:中度の疲労。殴打による頭痛、腹痛。右腕関節に痛み。(痛みは大分引いてきている)
右肩の軽い脱臼。不退転の決意。
【装備】:魔弾銃@ダイの大冒険・魔弾銃専用の弾丸(空の魔弾×7、ヒャダルコ×2、ベホイミ×1)@ダイの大冒険
【道具】:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン、ベアークロー(片方)@キン肉マン
装飾銃ハーディス@BLACK CAT、荷物一式×4、食料五人分(食料、水は三日分消費)
【思考】1:不明
2:両津達3人に着いていく。大量殺戮のチャンスを狙う
3:殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない
4:セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)
5:セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
6:セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生して貰う
今回の調査というものは、ナメック星で暗躍している謎の組織―ロケット団―の動向を探ること。
全くと言っていいほど、奴らのデータは闇に包まれたいる。
ポルタの恋人のサクライが先に潜入して、状況を探っているはずだが。
「確か、ここら辺だったはずじゃが…」
ポルタと一緒に洞穴を探っていると、
プチ、ピキキキキキキキ
「ありゃー、血管が怒っとるのぉー」
ポルタの頭から、幾千もの血管が噴水のように溢れ出した。
そのまま、ポルタはあっさりと天に召されてしまった。
「こ、これは…」
すると、タカヤの後ろに一人の男が立っていた。
「てめぇがロケット団か…」
「うん。Kとでも名乗っておこうか」
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
ピカデリー梅田かよ!
「 な ん で だ あああああああああああああああああああ」
東京ドーム付近から発せられたその叫びは、誇張無く東京中に響き渡った。
「あああああああああああああああああああああああああああああ」
胸の内に湧き上がる、やり場のない怒りと悲しみとを、ただひたすらに吐き出す。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
しかし、その声は辺りに虚しく響き渡るばかりだった。
これまで、仲間と共に様々な冒険を繰り広げてきた。
ピンチも何度もあったけれど、仲間と一緒に乗り越えてきた。
今回だって、誰一人欠けることなく切り抜けられる。
そして、これからも。
そう、どこかで高を括っていた。
「きっと仲間と共に何とかできる」と。
しかし、現実はその儚い願いを無情にも打ち砕いた。
ルフィ達は、世直しマン達とは別行動をとり、ロビンを探しながら東京タワーに向かっていた。
だが、結局ロビンを見つけることはできず、集合場所の東京タワーにも、第五放送よりも前に到着してしまったのだった。
スヴェンは、世直しマン達が到着するまでの間、東京タワー周辺でロビンの捜索をすることを前もって提案していたが、東京タワーに興奮したルフィがそれを何処まで覚えていたかは甚だ怪しいものである。
それとも、『高いところから探した方が、ロビンもすぐに見つかる!』というルフィなりの考えがあったのだろうか。
「うお〜〜〜、たっけ〜〜〜〜!!」
タワーの展望台で、東京の町並みを見渡すと、南には海が見え、西には富士山が見える。日本が縮小されているせいなのだが、この眺めは本物にも勝るとも劣らない。
「ん〜、でもやっぱ一番上まで登んねぇとな!」
そう思いつくや否や、ルフィはタワーの外へと飛び出した。もちろん目指すはタワー頂上の先端部。
そのとき、ふと下を見ると、タワー入り口までは一緒にいた筈の二人の姿が見えない。
「あれ?お〜〜〜い、イヴ〜〜〜〜〜!! スベ〜〜〜〜〜〜〜ン!!」
大声で呼んでみたものの、返事は無い。東京タワーの構造上、階段は外部に通じているので声は聞こえるはずだし、エレベーターに乗っているならエレベーターが動くのが見えるはずなのにもかかわらず、である(もちろんルフィはそんなことまでは考えてはいないが)。
「おっかし〜〜な〜〜?あいつらだけでどっかに行っちまったのかぁ?」
考えながらもルフィはタワーの頂上を目指してサルのように鉄骨を登ってゆく。
「そ〜いや、二人の仲間と近くで待ち合わせしてるとか言ってたな〜〜 じゃ、二人で迎えに行ったんだな!」
一応の結論を得て納得はしたものの、そこから新たな不安が生まれてくる。おれがいない時に、もし敵にでも見つかったら・・・
「でも、まぁ、あの二人なら大丈夫だろ。」
イヴは一見子供だけれど、羽を生やせたり、ハンマーを生やせたりできる。
スヴェンは、そのイヴより強いってイヴが自分で言っていた。
それに、トレインって奴は、スヴェンと同じか、もっと強いらしい。
だから、あいつらに何かあるワケがない。
そう、高を括っていた。
ルフィは、あっという間にタワーの頂上まで登りきった。
「お〜〜〜い!ロビ〜〜〜〜〜〜ン! イヴ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! スベ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!
聞こえてたら返事しろ〜〜〜〜〜〜!!!」
遥か彼方まで届くであろう大声で呼びかけたものの、返事は無い。
そして驚異的な視力のルフィが目を凝らしても、辺りで動くものといえばカラスとスズメとノラ猫ぐらいしか見当たらない。
「あいつら・・・どこ行ったんだ!?」
ルフィが途方に暮れている、その時。
「カッ」
眩い閃光と共に
「ズッドオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォン!!!!」
耳を劈くような爆音が轟き
そして、北の空に、巨大なキノコ雲が立ち上った。
「・・・まさかっ!」
ルフィはイヴとスヴェンが誰かと戦っているのだと直感した。
そして、全速力で、正に飛ぶ勢いで爆発のあった場所へと駆けつけた。
爆発からものの数分。だが、そこには巨大なクレーター以外何も残ってはいなかった。
クレーターの周辺は凄まじい熱気が立ち上り、時折瓦礫が崩れる音が、遮蔽物の消滅した周辺へと響き渡る。
辺りには、人――というよりも、生物の気配は全く無い。
もしこの爆発に巻き込まれていたのなら、誰であっても無事には済まないだろうことは明らかだ。
それでも、まだ2人が巻き込まれたかどうかは分からない。
きっと、2人とも無事だ。
そう、高を括っていた。
いや、そう信じていたかっただけだ。
そして、放送の時間が訪れた。
――良い朝だ、諸君。
呆然とクレーターに立ちすくむルフィの耳に、バーンの声が響く。
――まずは脱落者からお伝えしよう。
底知れぬ不安と、わずかな希望。呼ぶな。呼ばないでくれ。
――ニコ・ロビン、
「 ! 」探し求めていた仲間の死。だが、それはまだ始まりに過ぎない。
――トレイン・ハートネット、
「 !! 」直接は会ったことは無かったが、イヴとスヴェンの仲間の死。
――イヴ、
「 なんで・・・ 」その身を案じていた、仲間の死。
――スヴェン・ボルフィード、
「なんでだ・・・!?」さらに、追い討ちをかけるような、仲間の死。
――世直しマン、
最後に、ルフィの心に止めを刺すかのような、仲間の死。
そして、
堪えていた何かが、溢れた。
その感情が悲痛な軋みに耐え切れず、一気に爆ぜた。
「 な ん で だ あああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
バッファローマンが死んだときに、もう誰も仲間を失くさないと、
仲間を守ると心に誓った筈だった。
だが、あれから数時間のうちに、これだけの仲間が死んでしまった。
ロビン。すぐ近くにいる筈だったのに。探せば見つかる筈だったのに。
イヴとスヴェン、そしてトレイン。一緒に、"偉大なる航路"に行くんじゃ無かったのか?
世直しマン。強くて頼りになるやつだったのに。
皆死んでしまった。
なんでだ。
同じ疑問が、ぐるぐると頭の中を駆け回る。
なんでなんだ。
怒り。悲しみ。後悔。無力感。あらゆる負の感情が押し寄せてくるようだ。
何よりも仲間を大切に思っていた。
絶対に守るんだと決めていた。なのに。
なのに。
なんでだ。
なんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだ
なんでなんだ。
同じ疑問が、ぐるぐると頭の中を駆け回る。
――『ウソになっちまったのは、おれが弱かったからだ』――。
その時ふと、自分がイヴに言った言葉を思い出した。
・・・そうだ。
答えなんてはじめっから知っている。
おれは弱い。仲間を守れる力も無い。
だから。
おれは。
仲間を守るためには。
もっと。
もっと。
「もっと強くならないといけねぇんだ!!」
「…おれには強くなんかなくたって一緒にいて欲しい仲間がいるから……!!」
「おれが誰よりも強くならなきゃそいつらをみんな失っちまう!!!」
そうだ。おれには止まっているヒマなんて無いんだ。
放送では、昨日闘ったバケモノ――たしか、ペッコロとフレなんとかだったか?――の名前は呼ばれなかった。
ということは、あいつ等は死んでないってことになる。
世直しマンがやられたのなら、相手はあいつらか、他の相当強い奴ってことだ。
ルキアとボンチューも、生きていても無事かどうかは分からない。
そうだ。おれはにはやることがある。
守らなければならない仲間がいる。
倒さなければならない敵がいる。
なら、こんなところでゆっくり待っている場合じゃない!
なにより、じっとなんかしていられるワケがないっ!!
「 ゴムゴムのぉ・・・バズーカ!!! 」
どごぉぉぉぉん・・・・!!
ルフィはそれまでの落ち込みを吹き飛ばすかのような勢いで、クレーターの中心の地面を思いっきり殴りつけた後、北へと走り去った。
ルキアとボンチューの元へ。仲間の元へ。
そして、後にはひとつの記号が残されたのだった。
( ↑ )
ド―――――z____ン!!
それは、待ち合わせた仲間が来たときのための、書置き。
東京ドームそばの、巨大なクレーター。
その中心には、北を指した、巨大な矢印が刻まれていた。
ルフィが北へと走り出したのと同時刻、同じく北へと走る者がいた。
友情マン、全宇宙でもっとも"仲間"が多いヒーローである(尤も、彼にとっての"仲間"はルフィにとっての"仲間"とは意味が異なるのだが)。
ルフィの咆哮は、悟空の元へと走る彼の耳にもはっきりと聞こえていた。
(今の叫び声・・・やはり何者かがいるようだな。東京ドームを迂回して正解だ。
さて、あんな大規模な爆発の中でも生き残っている者となれば、ただ者ではあるまい。
爆発が支給品によるものであるか、自身の能力のものであるかは分からないが・・・
危険な存在があの場所に今も「生きて」うろついている可能性は非常に高い。
これはどうあってもカカロット君と潰しあって貰わないといけないな・・・)
【東京都・東京ドーム周辺/早朝・放送直後】
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]:両腕を初め、全身数箇所に火傷
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(食料半日分・スヴェンに譲ってもらった)
[思考]1、ルキア、ボンチューと合流する為に北へ。
2、"仲間"を守る為に強くなる。
3、"仲間"とともに生き残る。
4、悟空・仲間を探す。
5、悟空を一発ぶん殴る。
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:肉体的、精神的に軽度の疲労、空腹(野草を食べてほんの少しは回復)
[装備]:遊戯王カード(千本ナイフ、光の封札剣) (ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴、は24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(食料なし)、ペドロの荷物一式(食料なし)、勝利マンの荷物一式(食料なし)、青酸カリ
[思考]:1.悟空を東京ドームへとけしかける。
2.食材・食料の確保。できれば力づくで奪うような手段は取りたくない。
3.悟空をサポート、参加者を全滅させる。
4.最後の一人になる。
*東京ドーム周辺には巨大なクレーターができ、中心には北を指した巨大な矢印が残っています。
修正。
3スレ目、15行目頭の余白削除。
時間を 早朝・放送直後 → 朝・放送直後
失礼。
185 : ◆8ANllGuljM :2006/08/29(火) 15:09:16 ID:AjKDOEMV0
抜け駆けしたもん勝ちの書きやすいシチュでしたが、
ルフィっぽさを出せるようにがんばりました。
ぽっと出の新人ですが以後よろしくお願いします。
192 : ◆8ANllGuljM :2006/08/29(火) 18:02:41 ID:AjKDOEMV0
抜 け駆けしたもん勝ちの書きやすいシチュでしたが、
ル フィっぽさを出せるようにがんばりました。
ぽ っと出の新人ですが以後よろしくお願いします。
ごめん。荒れちゃった。
∧
< >二ゞ
= ()二)V・∀・)←
>>185 \ヽ ノ )
ノ(○´ノ ガッ
(_ノ(__)
Kと名乗った男は、タカヤに近づく。
「オレ様の力は、突き抜けし能力―ドリーマーズ・ハイ―」
Kはクンと指を立てる。
ジョバアァァッ
タカヤの脳髄が、エレベーターのように天高く突き抜けた。
上空に移動したKは、タカヤの空っぽの頭部に狙いを定める。
「突き抜けろ!!」
Kの体から、無数の骨が突き抜けて、タカヤを襲う。
しかし―
それは、一筋の太陽の光に邪魔をされた。
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
脱出派とマーダーの間でなんだかんだあったが
ついに脱出派は主催者のいる沖縄に一人だけを送り込んだまま、マーダーと相打った。
送り込まれたのは、追手内 洋一(らっきょ無し)。
「おれって・・・ついてね〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
-完-
◎名無し先生の次回作にご期待ください
がたんがたん、がたんがたん
黒塗りの汽車が黒煙を吐き出しながら線路を飲み込んでいく。
車輪が鉄の道を噛み締め、巨大な車体を東へ東へと運び続ける。
三人の賢者を激戦の地へと運んでいく。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
車内は静寂が支配していた。
普段はムードメーカーとして話を振る役割のウソップが、俯いたまま沈黙しているためだ。
ポップはそんなウソップを横目でチラチラと見ながらも、かける言葉が思いつかずに困り果てている。
パピヨンは全く気にせず景色を楽しんでいた。
第五放送。
五回目に流された放送は、ウソップの心を深く抉った。
ロビンの死。
一緒に旅を続けてきた、仲間の喪失。
その衝撃は、ウソップから言葉を奪い去っていた。
放送が流されてからウソップは一言も喋っていない。
汽車に乗り込むときも終止無言だった。
当然、仲があまり良くないポップとパピヨンが和気藹々と話し合うわけもなく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
場に沈黙が舞い降りる。
「なあ、ウソップ」
沈黙に耐え切れずポップが声をかけるが、ウソップは黙ったまま。
顔を上げようともしない。
「放っておけ」
パピヨンが冷たく言い放つ。
人一人の死で立ち直れなくなる奴など生き残るわけがない。
足手まといは必要ない。
第三放送では俺が。
第四放送ではポップが。
それぞれ乗り越えてきた道だ。
ウソップに乗り越えられないわけがない。
自力で乗り越えられなければ、死ぬだけだ。
ポップも自分が口を出すべきではないと悟ったのか、それ以上話しかけることはなかった。
代わりにパピヨンに話題を振る。何か話していないと落ち着かないのだろう。
「今汽車が走っている所はどんな所なんだ?」
汽車は丁度岡山県に足を踏み入れたところだった。
線路の周りを並木が囲んでおり、遠くには瀬戸内海が見える。
本来、山陽本線から瀬戸内海は見えないはず。
ミニ日本と現実の日本は、やはり決定的に違うらしい。
「岡山か・・・。降水量が日本一少ないから、『晴れの国』などと呼ばれているな。
他に有名どころといえば・・・『桃太郎』あたりが知名度は高いだろうな」
「桃太郎って何だ?」
ポップが疑問を発する。彼の世界にはない単語だ。
「桃が突然変異を起こして人型の生物となり、食料を使って畜生共を手懐ける物語だ。
物語の最後ではとある島を襲って住人を叩き伏せ、宝を奪い取ってハッピーエンドだ」
「凄い話だな・・・」
ポップは偏見に満ちた説明を聞き、感心している。
ああ、ここに桃太郎を押し込み強盗と勘違いする人間がまた一人・・・
そんな話を聞いていたウソップがボソリと呟いた。
「楽しかったなァ・・・」
ウソップは呟き続ける。
「俺の海賊団もよ、宝奪って逃げたんだよなァ。空島から、数億ジェニーもするお宝をな」
ポップとパピヨンはいつしか雑談をやめ、静かに耳を傾けていた。
「あァ、そういやあれがロビンと初めてした冒険だったなァ。あいつ、強かったのに・・・死んじまったんだよな・・・」
ウソップは壊れたカラクリ人形のように言葉を発し続ける。
その目に、人形には有り得ない光が宿った。
それは、決意の光。
「そうだ、鐘を鳴らそう」
「「ハァ?」」
ポップとパピヨンがハモる。
直後に凄く嫌そうな顔をしてお互いに顔を見合わせたたが。
「鐘だよ、鐘。全部終わった後、この島で死んじまった皆の為にとむらいの鐘を鳴らしてやる!」
それは、空島の冒険の最後に聞いた鐘の音のような。
それは、自分が島から旅立つときにルフィが鳴らしてくれた鐘のような。
大きく響く、島中に響く、鐘を鳴らそう。
「鐘なんかどこにあると言うんだ?」
パピヨンの無粋な突っ込みにもウソップは動じない。
「無ければ作ればいいんだよ!天才ウソップ、腕が鳴るぜ!」
既にウソップの決意は固いようだ。
パピヨンは呆れた顔をし、ポップはウソップが立ち直ったことに安堵する。
鐘を鳴らそう。大きな鐘を。
ロビンの魂がきちんと天国に行けるように。
「おい、プラットホームに誰かいるぞ!」
最初に気付いたのはウソップだった。
完全に立ち直り、落ち込んでいる様子は微塵も見えない。
「しかも・・・パピヨン、お前のお仲間だ・・・」
「何だと?」
お仲間?
もう生き残っている知り合いは津村斗貴子しかいないが・・・
仲間などという間柄ではない。
それに、一目見ただけで俺の仲間だと判断できるだと・・・?
考えを巡らせるパピヨンに気付かず、ウソップが呟く。
「俺、ファッションセンスに自信がなくなってきたぜ・・・」
プシューーーーーーーーーッ
汽車が岡山駅に止まる。
プラットホームにいたのは全身を包帯で覆った男だった。
ポップが軽く引いた。
(世の中には変わったセンスを持った人間が多いんだな・・・)
その包帯男は、二人の男によってパピヨンの同類としてカテゴライズされたことには全く気付かず、
包帯に覆われた、その焼け焦げた口で”再会”の挨拶をした。
「よう、一日ぶりだな蝶々仮面」
志々雄真実は口元を吊り上げる。
「お前こそな、包帯男」
パピヨンも不適に応えた。
その手は股間に伸ばされ、核鉄を掴んでいる。
ポップがゲンナリしながら一応注意する。
「パピヨン、その体勢はやめろ。手を離すか、核鉄を完全に取り出すかどちらかにしろ・・・
って、戦闘態勢に入ったってことは、この包帯男はつまり・・・!?」
「ああ、こいつはゲームに乗っている」
一瞬で空気が硬質化する。
ウソップとポップが慌てて武器を構えた。
見知らぬ人物に一応警戒していたが、挑発しないように武器を隠していたのだ。
だが、ゲームに乗っている者だとわかったのなら遠慮は無用。
一対三。
この状況においても志々雄はまだ余裕の笑みを崩していなかった。
余程自分の力に自信があるのだろう。
岡山駅に張られた緊張の糸は、キチリ、と強く張り詰めて――――
「やめだ」
糸を張った張本人、志々雄真実の言葉によってアッサリと切られた。
「何だと・・・」
「言った通りだ。お前らと戦うつもりはねえ」
困惑するポップ達とは裏腹に、志々雄は落ち着いたものだった。
本当に戦うつもりはないようだ。
パピヨンは静かに思考する。
(昨日会ったときはすぐに戦いを挑んできたのに、どういうつもりだ・・・?)
いや、確か昨日は俺のムラサメブレードを狙っていたのか。
好んで戦いを仕掛けてきたのは・・・志々雄の相方の更木という剣士。
それにヒソカが応じ、戦いになったのだ。
見たところ、今の志々雄は腰に西洋の大剣をぶら下げている。
武器を手に入れた後はもう他人を襲う必要はないということか?
ふん、馬鹿らしい。
使わないで何が武器だ。
志々雄がゲームに乗っているのは間違いない。
更木のような好戦的な輩を連れ歩いていたことから、他人を利用する策士タイプなのかもしれない。
どちらにせよ、油断はできない。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ
汽笛が鳴り響く。
「おい、もう発車するんじゃねェのか?邪魔だからそこをどきな」
志々雄は汽車の入り口で構えている三人に命令する。
それに対してパピヨンが残り二人に何ごとか囁き、結果、三人は身を引いた。
元の席に座り直す。
志々雄も汽車に乗り込み、三人から少し離れた席に座った。
プシューーーーーーーーーッ
扉が閉まり、汽車が動き出す。
車輪がゆっくりと回転し、徐々に速度を上げてゆく。
がたんがたん、がたんがたん
窓の外には、後方に流れる朝の風景。
動き出した汽車の中で、三人の賢者が議論を開始する。
三人集まれば文殊の知恵と言うが、船頭多くして船山に登るとも言う。
果たして彼らはどうだろうか?
(おいパピヨン、何で汽車に入れるんだよ!?あいつゲームに乗っているんだろ?)
(ああ、それは間違いないが、今戦う気がないというのもおそらく本当だろう。どういうつもりかは知らんがな)
(でも危険じゃねェかな・・・)
(無闇に手を出すつもりはない、戦う気がないなら好都合だ)
(見逃すってのか?これから他の参加者を殺すかもしれないのに?)
(フン、他の参加者など知ったことか。簡単に死ぬ奴が脱出に役に立つと思うか?)
(だがよォ・・・)
後者だった。
首輪の構造などの科学的(もしくは魔法的)な問題に対しては妙な結束力を発揮するのに、
倫理的な問題になると、価値観の違いが前面に出て意見がバラバラになる三人であった。
しかし論理を伴った議論ならば、島中で彼らの右に出る者はそうそういないだろう。
議論は続く。
(俺達の目的を思い出せ。ゲームに乗った者を倒すことが目的ではないはずだ)
(あくまでも脱出が目的、か・・・)
(別にここで始末することもできるが、それなりに犠牲は出るぞ?そこまでするメリットは見受けられないな)
(こっちは三人なのに、そんなに苦戦するのか?)
(奴は剣士、しかも相方の剣士の戦闘から察するに相当の実力者だ。さっきのような至近距離での戦闘は分が悪い)
(確かにこっちには接近戦のプロがいないな・・・)
岡山駅での対面時、一番ホーム側にいたウソップとホーム上の志々雄との距離は2m前後。
実力がある剣士に対して2mなど無いも同然だ。
(しかも汽車内での戦闘は更に狭い空間での戦闘を強いられる。ウソップの射撃はあまり役に立たない)
(俺の魔法やパピヨンの爆破も威力が高すぎて使えないな・・・ちょっと待て。今の状況ってマズくないか?)
そう、今襲われたら対抗する手段がない。
魔法や爆破は強力だが、自分達にも被害が及んでしまう。
しかしパピヨンは、ああそんなことか、とでも言いたげに答えを提示した。
(そのときはウソップを盾にして、ウソップが斬られている隙にウソップごと爆破する)
「待てェ!じゃあアレか?さっき俺をホーム側に突き出していたのは盾にするためかァ!?
今俺が座っている席が一番包帯男に近いのもそれが理由か!?ってか『それなりの犠牲』って俺のことか!?」
(声が大きい。奴が剣以外の道具を使うかどうかは俺が注意して見ているから安心して犠牲になれ)
「ざけんなクラァ!」
大騒ぎになった。
その騒動を映している瞳が四つ。
包帯に埋もれた瞳が二つ。鉄に埋もれた瞳が二つ。
鉄に埋もれた瞳がギョロリと動き、騒動の元である三人には聞こえない程度の声を出す。
声をかけた対象は、自らの持ち主。
―――志々雄の旦那ァ、四国の時とは随分態度が違うねェ。どういった心変わりで?
声を出したのは”人”ではない。
世にも不思議な喋る大剣、飛刀である。
その疑問に対し、志々雄は小声で答えを返した。
「言った筈だ、関東に着くまで休息するってな。ま、あいつらは運が良かったってことだ」
もちろん、これは真実ではない。
志々雄は、機会があれば参加者を減らす心積もりが出来ていた。
だが、相手が三人では勝手が違う。
一人相手なら、短期決戦に持ち込むことができる。
こちらに駒がいれば、自分は手を下さずに相手を倒すことも可能だ。
一体三はまずい。
戦闘に勝つ自信はあるが、時間が掛かりすぎてしまう。
そもそも志々雄はゲーム開始当初から、自分が積極的に戦う気はなかったのだ。
志々雄真実は更木剣八のような戦闘狂ではない。
更木と同盟を組んだのも自分が手を下さずに参加者を減らすことが狙いだった。
緋村剣心と戦ったときは指名されたため。
玉藻京介と戦ったときは勝てる可能性が高い戦いだったため。
跡部景吾と戦ったときは確実に勝てる戦いだったため。
ラーメンマンと戦ったときは、武器を手に入れるためだった。
四国の戦いでは、自分はほとんど戦っていない。
せいぜいトドメを差したくらいだ。
それでも、昨日今日と動きすぎた。
優勝への道程は長く、身体に無理はさせられない。
武器や食料を手に入れた今、無理に戦う必要は感じられなかった。
とはいえ、参加者を減らす絶好の機会に巡りあえば殺人を行う気はあったが。
まだ誰にも知られていないことだが、志々雄が全力で戦えるのは15分が限界だ。
これは、志々雄の最大の弱点である。
飛刀にすら明かしていないこの弱点のことを知られたら、ゲームで優勝することはかなり難しくなる。
休息を先延ばしにしてまで抜刀斎を始末することを優先したのは、この弱点に結びつく情報を根絶するためでもあった。
抜刀斎は志々雄の過去を知っている。
その情報を聡い知略家が検討でもすれば、弱点に辿りつく可能性もあったのだ。
しかし、抜刀斎は死んだ。
懸念が一つ消えたわけだ。
だが、弱点自体が消え去ったわけではない。
15分が戦闘時間の限界という現実は残る。
その戦闘時間を少しでも延ばす為に北へと向かっているのだが・・・
(蝦夷、陸奥に続いて陸中も閉鎖されたか・・・。九州の閉鎖といい、どうやら主催は参加者を中央に集めたいみてェだな)
このまま北へと向かうのは得策では無いかもしれない。
いくら長く戦えても、戦う相手がいなければ意味が無い。封鎖されたら追い出されてしまう。
ならば、中央でゲームの動静を見守ったほうが効率がいいのではないだろうか?
(ふん・・・)
この思考は一先ず置いておこう。
志々雄の懸念はもう一つあった。
無限刃だ。
あの刀がなければ第一の秘剣も第三の秘剣も使えない。
そして、この懸念のために汽車に乗ったと言っても過言ではない。
この汽車には三人の”敵”がいる。
今は戦う気がないようだが、いつ襲ってくるとも知れない相手だ。
いざと言うときは窓から飛び降りるかキメラの翼を使えばいいが、それでも危険なことに変わりは無い。
なにせ相手の一人である蝶々仮面は、見たことも無い技を使っていた。
残りの二人に至っては全く情報がない。
異様な能力を持った人外が集まるこのゲームで、正体不明の三人を同時に相手をして無傷で済む。
そう考える程、志々雄は馬鹿ではなかった。
それでも汽車に乗り込んだのは無限刃の情報収集のためだ。
三人のうち誰かが無限刃を持っている可能性もある。
昨日のように物々交換、又は掛け試合が出来るかもしれない。
志々雄は飛刀に、声を出すな、と命令した後、まだ取っ組み合っている三人に声を掛けた。
「おいてめェら、ここで会ったのも何かの縁だ。情報交換といこうじゃねェか」
その言葉に真っ先に反応したのはパピヨン。
そう、パピヨンも情報目当てで志々雄を車内に招き入れたのだ。
長い間九州に引き篭もっていた自分達は本州の状況を何も知らない。
たとえゲームに乗っている人間が相手であろうとも、少しでも情報を得ておく必要があった。
虎穴に入らずんば虎児を得ず、というやつだ。
しかし、だ。
「断る。本当かどうかわからん情報など邪魔なだけだ」
交渉の基本として、下手に出たほうが足元を見られる。
じらすだけじらして、交渉自体が失敗するギリギリのところまで有利な条件を追求することが必要。
わざわざ自分から情報交換を持ち出すくらいだから、そう簡単には諦めないだろう。
パピヨンはそう思っていた。
だが、しかし。
彼は言葉の選択を失敗した。
『ゲームに乗っている人間と交渉などできない』と言うべきだったのだ。
志々雄は証拠が作りにくい『状況』ではなく、物品自体が証拠となる『道具』の情報を欲していたのだから。
「ああ、お前の言う通りだ。だから交換するのは道具だけにしようぜ」
志々雄が我が意を得たり、といった表情で答える。
パピヨンは軽く舌打ちをしながら、それでも流れを引き寄せようと策を巡らす。
そんな交渉相手を知ってか知らずか、志々雄は自分のペースで話し続ける。
「俺が欲しいのは刀だ。侍なんでな、両刃剣じゃあちっとばかり使いにくいんだよ」
これはカマかけだ。
いきなり『無限刃が欲しい』などと言えば、弱みを握られてしまう。
とりあえず、相手が”刀”を持っているかどうかの確認。
それに対してパピヨンは―――
「勝手にそちらのペースで進めるな。自分の要求だけ言って、はいおしまい、か?ふざけろ」
物凄く身勝手、かつ理不尽であった。
交渉する気などハナからないような態度。
主導権を握るためには強気の態度が必要である。
志々雄はパピヨンの言葉に苦笑すると、デイパックの中に手を入れる。
相手に呑まれず、自分のペースを貫くことも重要だ。
ここはこちらも交換材料を示して、相手の反論の芽を摘めばいい。
(さて、どれにするかな)
物々交換のカードとなるアイテムを選別する。
青雲剣・・・・・・この妖刀は使い道がありそうだ。
拳銃と弾丸・・・・・・飛び道具も役に立つだろう。
キメラの翼・・・・・・緊急脱出用に取っておいたほうがいいな。
これらのアイテムは残しておこう。
交渉の展開次第では出すことになるかもしれないが・・・
(となると、これか)
使い道がいまいちわからない金色の羽根と銀色の羽根。
子供用のおもちゃ。
二つのアイテムを取り出す。
「そうだな・・・もし、俺が気に入るような刀を持っていたら、これと交換してやるよ」
志々雄としては、半ば冗談のつもりだった。
訳のわからない羽根や、子供のおもちゃなど欲しがる奴がいるとは思えなかったからだ。
そしてこの冗談が、パピヨンの敗因となる。
「そんなもの・・・」
パピヨンが馬鹿にする前に、連れの二人が叫んだ。
「それはアバン先生のっ」
「俺のパチンコッ」
普通の人間にとってはハズレでしかないアイテムも、
特定の人物にとっては大当たりとなる。
パピヨンの核鉄しかり。
ウソップのパチンコしかり。
ポップのゴールドフェザー&シルバーフェザーしかり。
だから二人が思わず声をあげてしまったのも無理なからぬことだった。
それが大失敗だったとしても。
「もういい。勝手にしろ」
パピヨンは深く溜息をつくとさじを投げた。
ここまで弱みを見せてしまったら、主導権を握れる筈もない。
後は二人に任せることにする。
案の定、足元を見られた二人は、刀を持っていないことを知られてしまった。
ならばもう用はない、とばかりにアイテムを片付ける志々雄を、二人は必死に引き止める。
二人にとっては喉から手が出るほど欲しいものなのだろう。
「ちょっと待ってくれ!ええっと・・・これだ、ウソ〜〜〜〜〜〜〜ップレターセット!
さあさあ奥さん、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!不思議な不思議な葉書だよォ!
なんとこの手紙、あの世の人間と文通ができるのだァ!」
ウソップが懸命に死者の往復葉書をアピールしている。
物々交換のカードとして使うつもりなのだ。
その言葉に・・・志々雄は変わった反応を示した。
「お前ら、『地獄』ってやつを信じるクチか?」
ポップとウソップは顔を見合わせる。
これは何を狙った問いかけなのだろう。
死者の往復葉書に対する探りだろうか?
ウソップが恐る恐る返答する。
「この葉書が存在するってことはあの世が存在するってことだけど・・・地獄があるかどうかはわかんねェよ」
その言葉を受けて、志々雄は哂う。
「実言うと、俺は地獄を信じてんだ」
「戦闘凶の死神に、同じく戦いにしか興味がない道化師。死神との戦闘をも辞さないブタ鼻に、復讐に駆られる子供。
惨劇の末に朽ち果てる狐に、身の程を知らずに戦いを挑み斃れるボウズ。虚言に踊らされて死を選ぶ辮髪。
一人残され狂気に囚われるガキと、戦いの果てに絶望する流浪人。死に向かいながら引き金を引こうとするメガネ。血塗れの五つの死体」
「こんな血で血を洗う修羅共が蠢くこのゲームこそ」
「地獄と呼ぶにふさわしくないか?」
空気が、震えた。
圧倒的な威圧感。
これぞ修羅。
ポップもウソップも声を出すことができない。
(・・・これは、認識を改める必要があるな)
パピヨンが志々雄に手を出さなかったもう一つの理由。
それは、どれだけ強かろうが所詮『たかが人間の剣士』という認識だった。
近距離でしかまともに戦えない侍など、ニアデスハピネスや魔法、狙撃で楽に殺せる。
故に生き残っていても脱出の障害にはならないと判断したのだ。
相手が襲い掛かってこない以上、自分達に不利なフィールドで無理に戦う必要はない。
しかし、その認識は間違っていたようだ。
志々雄真実は”人間”ではなかった。
全ての情を捨て去り、数多の死線を潜り抜けた”修羅”だった。
”修羅”相手に”人間”の常識は通用しない。
(早急に対策を練るべきだな。例え今すぐに戦わないとしても無駄にはなるまい)
パピヨンの中で志々雄真実は『放っておいても問題ない敵』から『警戒すべき危険人物』へと格上げされていた。
最小限の犠牲でどうやって志々雄を倒すか。
この列車内で戦うことは論外としても、いつかは戦うことになるかもしれない。
(早く情報収集の拠点を見つけなければな。広く、見渡しがいい場所が理想だ)
そう、自分達が最も得意とする戦術は中・遠距離戦。
逆に、接近戦はあまり得意とはいえない。
戦いやすい場所を見つけなければ、それだけ危険は増すだけだ。
めげずに交渉を再開するポップとウソップを尻目に、パピヨンは窓から空を見上げる。
さきほどまで晴れていた空は、今は雲で埋まっている。
(何が『晴れの国』岡山だ)
舌打ちをして、曇天極まる東の空を睨みつけた。
汽車は走る。
黒煙を撒き散らしながら。
乗客を、嘆きの雨降る修羅の巣窟へと運ぶために。
【岡山県/汽車内/朝】
【志々雄真実@るろうに剣心】
[状態]:全身に軽度の裂傷
[装備]:衝撃貝の仕込まれた篭手(右腕)@ワンピース、飛刀@封神演義
[道具]:荷物一式 八人分(食料、水二日分消費)、コルトローマンMKV@シティーハンター(ただし照準はメチャクチャ)(残弾1)
:青雲剣@封神演義、パチンコ@ONE PIECE(鉛星、卵星)
:ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険、キメラの翼@ダイの大冒険
:弾丸各種(マグナムリボルバーの弾なし) 、ソーイングセット、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
[思考]:1:無限刃を手に入れる。
2:無理に戦う気はない。誰かを利用して参加者を減らせるなら、それが理想。(15分の時間制限のため)
3:強力な敵や多人数と戦う場合は、作戦を立てて対抗する。できれば無限刃を持った万全の状態で挑みたい。
4:長時間戦える東北へ向かう・・・?
5:少しでも多く参加者が減るように利用する。
6:全員殺し生き残る
【ウソップ@ワンピース】
[状態]:健康
[装備]:賢者のアクアマリン@ハンター×ハンター
:いびつなパチンコ(特製チクチク星×5、石数個)
:ボロいスカーフ(団員の証として)
:大量の輪ゴム
[道具]:荷物一式(食料・水、残り3/4)
:死者への往復葉書@ハンター×ハンター (カード化解除。残り八枚) 参號夷腕坊@るろうに剣心
:スナイパーライフル(残弾16発) ボロいスカーフ×2
[思考]1:なんとかしてパチンコを手に入れたい。
2:ルフィ・ポップの仲間との合流
3:アイテムを信じて仲間を探す
4:全てが終わった後、死んだ参加者のためにとむらいの鐘を鳴らす。
【ポップ@ダイの大冒険】
[状態]:健康 (MP全快)
[装備]:魔封環@幽遊白書 、アバンのしるし@ダイの大冒険
:ウソップ作の仕込み杖(投げナイフを使用) 、死者への往復葉書@ハンター×ハンター(ウソップから譲って貰った)
:ボロいスカーフ(仲間の証として)
[道具]:荷物一式×3(食料・水、一日分消費) 首輪×2 ※玉藻、跡部の荷物を回収しました
[思考]1:脱出の鍵を探す。なんとかしてゴールドフェザーとシルバーフェザーを手に入れたい。
2:ダイ・ウソップの仲間との合流
3:夜になったら死者への往復葉書を使ってマァムに手紙を書く。
4:フレイザードを早めに倒す
5:パピヨンはやはりあまり信用していない
【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康 核鉄で常時ヒーリング
[装備]:核鉄LXX@武装錬金(ニアデスハピネス微量消費)
:ボロいスカーフ(首輪から監視されていた場合への対策)
[道具]:荷物一式×4(食糧二食分消費)首輪×2、ベアクロー(片方)@キン肉マン ※ヒソカ、一輝の荷物を回収しました
[思考]:1:武藤カズキを生き返らせる。手段は問わない。ただし主催者の思い通りになるのは拒否
2:首輪を調べる。爆破実験は迂闊に行うべきではないと思っている(少なくとももっと脱出の為の駒が集まってから)
3:大阪・名古屋・東京のいずれかの大都市で汽車を降りる。首輪の解除に役立つ人間またはアイテムを探す
4:志々雄を危険視。対策を立てる。自分達が有利な広いフィールド、又は拠点の捜索。
5:ツリ目の少年の情報を得る。ツリ目の少年は見つけ次第殺す
6:他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない
<首輪の調査案 その@>
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.死体の首輪で爆発力を調査(調査トリガー:情報不足のため、脱出の目処がつく/有力な仲間ができるまで保留)
1.1 死体の首輪が爆発しなかった場合 → 外部から首輪を破壊する(首輪が誘爆するかは不明)
2.項目1の結果を受けて列車の中で、起爆トリガーの調査
2.1 禁止エリアがトリガーだった場合 → 列車内の調査
2.2 主催者側の監視がトリガーだった場合 → 予備の首輪の爆破実験を行い、主催側の視界の調査
3.項目1で破壊した、首輪の破片の分析(パピヨン・ウソップ)
4.「呪い」の調査、及び対処法の考案(ポップ)
――『オラ』、は。
目に見える全てが黒だった。右を向いても、左を向いてもそれは変わらない。
夜なのだろうか。それにしたって、この場所はあまりに暗過ぎる。これでは、まるで――
闇、そのものではないか。
「ようやくお目覚めかい、『オレ』。おっと、最早オレとも違う存在なんだったな。ソンゴクウ、とか言うんだったか?」
闇が、奇妙に蠢いた。
『そこ』から現れた男の顔は、灯の存在しないこの空間において、異様にくっきりと悟空の眼へと焼きついた。
……オラと、同じ顔だって……?
「何を呆けている? まさか今更、都合よく記憶がありませんで済ませるつもりじゃないだろう。
そんな真似をしたところで、奴らは許しちゃくれないぜ」
――奴ら?
「オレとお前が殺した、あの地球人どもの事さ。ゴクウ」
――――――――。
――あ、あ、あ。
「いやぁ、元々地球人如き、オレ達サイヤ人の敵じゃあないんだが――お前の身体は大したもんだよ。実に楽に殺ることが出来た」
――オレ、達?
――お前の、身体?
――オラの身体を、こいつが使って。オラの身体で、人を、殺したのか? オラの、力が?
「下等生物を蹴散らすのは気分が良いなぁ。サイヤ人の血が騒ぎっ放しで、自分の事ながら参っちまう。お前もそうだろう、なぁ?」
――こいつは、何、言ってんだ。
――こいつの言ってることは。オラのアニキだとか言ってた、あのラディッツってやつや、ベジータの言ってたことと、おんなじだ。
――オラのアニキは、サイヤ人で。オラにも、その血が流れていて。オラの中にも、戦闘民族の、サイヤ人の、血が――
「メシも食ったし、起きたらまた思いっきり暴れようぜ。地球人は皆殺しにする、そうオレと誓っただろう、ゴクウゥ……?」
もう一人の自分が手を伸ばしてくる。逃れなければ、理性が必死にそう忠告をしている。にも拘らず、身体が言う事を聞かない。
狂気に満ちた笑顔が見える。『人殺し』の、笑顔が見える。けれど、それは自分自身の顔で。
この表情で、自分は人を殺してきたのだろうか? これが自分の、本性なのだろうか? これが――オラ、の――?
『自分』の手が、自分の視界を塞いだ。唯でさえ闇の中にあった世界が、一層その濃度を増して、黒へと包み込まれていく。
意識の途切れるその間際、誰かの叫びが耳に届いた。聞き覚えのある声だった。
その瞬間、震えていたのは明らかに自分の喉だったというのに、何故だかそれを、自分の声だと思うことが出来なかった。
その声も、その声を聞いているこの聴覚も、聴覚を司るこの意識も、何もかもが。
もう、自分自身だと思えなくなっていた。
「……く、ははっ」
長かった。あの甘ちゃんの意識の底でずっと止まっていた時間が、ようやくこの手に戻ってきたのだ。
眠りに着く前までは、悟空の人格をベースに自分の思考が働いていたという状態だったが、今では奴の存在の片鱗も感じない。
この宇宙最強の肉体が、完全に自分の物になったのだ。いや、取り返した、というのが正しいのだろうか。
地球人の掃討。それこそが、自分達サイヤ人に課せられた使命。その本来の任務を果たす時を、自分はずっと待ち焦がれていた。
だというのに、『自分』は愚かにも、その地球人と交友関係を持っていたらしい。
『クリリン』という名前が先の放送で呼ばれた時、既に消えかけていた悟空の意識が、
大きく揺れ動いたのをカカロットは思い出していた。
悟空の記憶を辿っていくうちに、その男が地球人であり、また悟空にとっての掛け替えのない親友だったこともその時に知った。
まったく、『我』ながら吐き気のする話だ。下等生物である地球人に、そこまで『自分』が歩み寄っていたとは。
最強の戦闘民族である自分が、遥かに能力の劣る地球人などと手を組む必要は無いというのに。
――それとも、その程度のことも理解出来ないほど、お前は地球の文化に染まってしまったのか、ソンゴクウ?
「…………」
試しに呼びかけてはみたが、やはり何も返ってはこなかった。
孫悟空という名の『地球人』は、完全にこの世界から消え去ったのだと、カカロットはそう、確信した。
窓の向こうに光が見えた。暫く眠っていた間に、この世界は朝を迎えていたらしい。
友情マンの姿が見えない。そもそも、ここは一体何処なのだろうか。
自分が眠りに就いたのは、屋外のことだった筈だが、いつの間にか自分はベッドの上にいる。
孫悟空の意識を完全に刈り取るきっかけとなってくれた、あの信頼に足る宇宙人。彼が、ここまで運んでくれたのだろうか。
流石は『友情』マン。食料まで奪い取った自分にここまでの配慮が出来るとは、大した『友達』だ。
ならば、自分はその友情に報いなければなるまい。
空腹も満たし、疲れも癒えた。彼の邪魔になる地球人どもは、この手で殺し尽くしてやるとしよう――。
……よ、ようやくここまで戻ってきた……。
腹の虫が一向に鳴き止まない。せっかく野草で得られた栄養も、数十分に及ぶ全力疾走のせいですっかり消え失せていた。
だがもう少しの辛抱だ。この扉を開け、カカロットを起こし、先刻の大声の主を彼に倒してもらえば、晴れて自分の食料も手に入る。
貧困生活ともようやくお別れだ。溢れんばかりの期待を込めて、友情マンはカカロットを放り込んだ家のドアノブへと手を掛けた。
その瞬間、目の前のドアが内側から破壊された。
「どあっ!?」
強烈な衝撃と粉々になった破片をまとめて身体に受けて吹っ飛ばされる。コンクリートの地面に尻餅を搗く羽目になってしまった。
ド、ドアが壊されてどあっなどという悲鳴を上げてしまうとは……これじゃあ天才マン並のギャグセンスじゃあないかっ!
「――よう友情マン。探しに行く手間が省けたな」
「カ、カカロット君……!?」
すっかり見通しのよくなった玄関から出てきたのは、放送前に眠りに就いた筈のカカロットだった。眼を覚ましたのか。
口調に若干の違和感を感じるが、これは彼の中にいた二つの人格が完全に統一されたということなのだろうか。
どうやら、好戦的な人格の方が肉体を支配したらしい。これは好都合、存分に暴れてもらうとしよう。けど食料は分けてね。
立ち上がり、ひとまず尻の埃を払う。自然と咳払いが漏れた。相手が誰であろうと尻餅を搗いた姿のまま会話をするのは情けない。
「――僕も、君を起こす手間が省けて良かったよ」
「いたのか? 地球人が?」
食いついた。心底ホッとしたという表情を取り繕いつつ、内心でほくそ笑む。後は言葉で釣り上げるのみ。
「ついさっき、南の方で大規模な爆発があってね。僕が見つけた人間は、おそらくその戦闘での唯一の生存者だ。
きっと強い、僕の力では到底太刀打ちできないと思う……力になってくれるかい?」
「強い、か。――で、そいつは地球人なんだろうな?」
「ああ。間違いない」
殆どデタラメだ。けれど、断言しておけば確実にカカロットは動く。そいつと相対させてしまえば、後はどうとでも有耶無耶に出来る。
そして思った通り、カカロットは満足気に表情を歪めて、自信満々にこう言ってのけた。
「フン……いいだろう、すぐに殺してやる。そいつの居場所は一体どこだ?」
「ここから走って数十分の巨大な街に、一際目立つ白い円状の建物がある。東京ドームというんだけどね。おそらくその辺りさ。
既に奴はその場を立ち去っているかもしれないが、あれだけの爆発があったんだ。様子を見に現れる他の参加者もいるだろう。
その時は、そっちを始末してくれればいい」
「東京ドーム、か。――案内は任せるが、戦闘の時は下がっていろ。下等生物が幾らいようが、オレ一人で充分だ」
「……そうか、すまない。頼りにしているよ、カカロット君」
――これでいい。何もかもが計画通りだ。散々好き放題やってくれた分、しっかりと働いてもらおうじゃないか。
フフン、ようやく僕にも運が巡ってきたということか? ラッキーマンの代わりに、僕の頭上に幸運の星が輝いていたりして、ね。
内心でそうして浮かれていると、玄関を出て傍へと歩み寄ってきたカカロットが、不意にこう言った。
「友情マン、お前は面白いな」
「――そうかい?」
「そうさ。人畜無害の弱者を装い、オレに食料を分け与えるその一方で、あくまでも立場はオレと対等であろうとする。
何らかの自信を持っていなければ出来ないことだ。――本当は強いんだろう?」
「……買い被りだよ、それは」
唐突過ぎるその問いかけに、思わず背筋がヒヤリとする。
――バレたのか? そんなバカな、尻尾を出した覚えなどない。
人格の再統合が成されたとはいえ、僕に対してそこまでの不信感を持つには至っていない筈だ。
これは単に、サイヤ人の血とかいう彼が持つ本能がそう思い込んでいるだけなのだろう。笑顔を崩すな、畳み掛けろ。
「僕は弱者さ。けれど、死にたくない。だからこそ、君の力が――『友達』が必要になるんだ。分かるだろう、カカロット君?」
「…………」
カカロットは無表情で黙っていたが、やがて元通りの獰猛な笑みを浮かべると、軽く鼻を鳴らしてみせた。
「……まあいいさ。お前が楽しい奴だということに、変わりはないんだからな。
『友達』も、そう、悪くはない。――さあ、行こうか」
「――ああ。よろしく頼むよ」
地面を蹴って、目指すは東京ドーム。『腹が減った』と主張し続ける胃袋達へと鞭打って、友情マンはカカロットを連れ駆け出した。
……ふぅ……。
思わず内心で溜息が漏れた。いやまったく、彼との会話は毎度の事ながら心労が大きい。一つの悩みをクリアしたと思えば、
すぐさま別の悩みが突きつけられる。頼り甲斐のある『友達』だが、やはり性格も『友達』を選ぶ上では大切だなと、改めて思った。
――『友達』か。
偽りの友情野郎、いつだか自分のことをそう評していたのは何処のモブキャラだったか。飛田君を治していた辺りのことだったか。
すっかり、『そこ』まで堕ちてしまったな――と、気が付けば自嘲気味に、笑いが込み上げてきていた。
主催者が告げた死者達の中に、桃白白の名前があった。ニコ・ロビンの復讐は、ここに完遂されたのだ。
桃白白が命を落としたことで、残されたヤムチャはどう動くだろうか。
『スティッキィ・フィンガーズ』の能力で脅しを掛けた際の対応と、奴らの協力体制はあの場限りのものだったであろうことを考えると、
ロビンのように敵討ちを考えてこちらへ逆襲を仕掛けてくる可能性は薄い。奴の存在は、暫く警戒せずに済みそうだ。
放送から意識を切り離し、前方へと視線を向けると、先を行く翼の足が止まっているのに気が付いた。
翼の仲間も、今の放送で呼ばれたのだろうか。一向に動こうとしない背中へ、ブチャラティは静かに声を掛けた。
「――辛いのか、ツバサ」
「……若島津君は」
サッカーの日本代表選手だという彼の、がっしりとした肩が震えていた。振り向きもせずに、翼は続けた。
「凄いキーパーだったんだ。サッカーの中に空手の技を取り入れた、三角飛びっていう鉄壁のディフェンス技を持っていて……。
石崎君も日向君も、みんな優れたプレーヤーだったんだ。それなのに、みんな……みんな死んでしまったんだ! う、ううっ……」
「――ツバサ」
大切な者を失った人間に対する適切な言葉など、ブチャラティは知らない。そもそも、適切な答えなど存在しないのだろう。
弱気の背中へ、感じたことをそのまま投げかけた。
「オレはお前を、少々誤解していたようだ。
お前は確かに『クレイジー』だが、仲間を尊ぶその思いは本物であり、お前の誇りでもある。
誇りを持つ者を、オレは決して無碍にはしない。そしてお前には、その誇りを磨いてほしいと思う」
「――『誇り』?」
「そうだ。お前の仲間は、このクソッタレな『ゲーム』に殺された。そしてこの先も『ゲーム』は続く。
この世界にいるあらゆる連中の誇りを削ぎ落とすまで、この『ゲーム』は終わらない。ツバサ、お前はこの『ゲーム』をどう思う?」
「…………」
翼がようやく振り向いた。目頭に浮かんでいた涙を手の甲で拭い、力強い眼差しをブチャラティへと向けた。
「……許せないと、思う」
「ベネ(良し)。――もう行けるな、ツバサ?」
また力強く、翼は頷いた。それが合図だった。どちらが先という訳でもなく、二人は再び歩みを進めんと、前へと向き直った。
――『意志』の力だな、とブチャラティは思った。
仲間を失い、自身も傷付いて、それでも尚前へと進もうとする『意志』。それが残っているうちは、まだ人は戦い、抗えるのだと。
「――あれ?」
移動を再開してから、数十分が経過した頃。翼が再び、唐突にその足を止めた。
今度は何だ、スタミナ切れか? いや、一流のサッカー選手である翼の方が、自分よりも体力はある筈だ。
「どうした?」
「見えないの? 向こうから……誰か来る」
「――むっ」
フィールド全体を把握する必要のある『キャプテン』故か、視力は自分よりも上のようだ。真剣な表情で、正面をじっと見据えている。
東京タワーを目指すブチャラティ達がその時差し掛かっていたのは、埼玉県の某駅前。立ち並ぶビルの谷間から、
二人を除けば無人の道路に朝日がちらほら差し込んできていた。南下する彼らの真正面から向かってくる者がいるというのなら、
相手は埼玉県の南部、あるいは東京都あたりから移動してきた者だと考えられる。
――もしかしたら、あの爆発と関係のある参加者かもしれない。
放送の直前、『トーキョー』方面で発生した巨大な爆円。如何なる原因でそれが起きたのか推測する術は無かったが、
『トーキョータワー』がその爆心地の近くなのだと翼から聞かされて以来、ずっと意識し続けていた事項だった。
これから向かってくる相手がゲームに乗っていない者ならば、詳しい話を聞くことが出来るかもしれない。
だが、そうでない場合は――最悪の場合、あの爆発を引き起こした元凶である可能性も有り得る。
気が付けば、ブチャラティの眼にもその人影は認識出来るようになっていた。――麦藁帽子を頭に被った、細身の少年。
『スティッキィ・フィンガーズ』を即座に出せるよう、気を引き締めて待ち構える。はっきりと表情まで見えるようになったその時、
「おぉーい! 君はもしかして、ルフィ君じゃないのかぁーっ!?」
警戒心のまったく感じられない爽やかな笑みを浮かべた翼が、走ってくる少年へと駆け寄って、あろうことか手を振っていた。
バカな。『クレイジー』な奴だということは聞いていたが、この行動は無防備に過ぎる。一体何を考えている――!
「ツバサッ! 何をやっているッ!!」
「ブチャラティ君、彼は僕達のチームメイトだよ! 世直しマンの言っていた――」
「どぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおけえぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええッ!!」
バシィィィィィッ あ〜〜っとつばさくん ふっとばされたぁ〜っ!!
言葉を続ける前に、翼の身体は猛烈なスピードで突っ込んできた麦藁の少年によって吹っ飛ばされた。……恐れていた事がッ!
ビル街であるというのに、何故だか太陽を背に宙を舞った翼の安否を確認する余裕は無かった。暴走機関車を思わせる勢いで、
直線上にいたブチャラティまでもをこの少年の体当たりは巻き込もうとしている。
半歩身体を横に逸らして、思考する。この少年に何があったのかは知らないが、このまま放って走らせておく訳にもいかないだろう。
とはいえ、適当に足を引っ掛けただけで止まる速度ではない。むしろこちらの足を持っていかれる可能性すらある。と、なれば――
「――出ろ」
いつでも出せるように準備していた『スタンド』を、伏せの格好ですぐ傍らへと出現させる。
まともに迎撃するつもりはない。この少年が翼の知る人物だというのなら、必要なのは傷も負わせず、逃しもせずに制止することだ。
少年が迫る。狙いは一点。『射程距離』まで、3、2、1……今だッ!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「『スティッキィ・フィンガーズ』ッ! 彼の『足』を止めろッ!」
体勢を低くして放たれた『スティッキィ・フィンガーズ』の拳が、無我夢中で目の前を駆け抜けようとする少年の両足首を捉える。
『スタンド』の拳を通して伝わる感触がやけに柔らかいのが気になったが、構わずに『能力』を発動した。
「走れジッパーッ!」
ブチャラティが命じたのと同時に、少年の足に取り付けられた『ジッパー』が急速に開く。
足首を完全に一周したその瞬間、足首は完全に少年の身体から切り離されて、地を踏み締めるべき脚力を失った彼は――
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお……おわ、なんだこりゃ!? だあぁっ!」
顔面からコケた。派手に。
「……まったく、凄まじいな……」
廃墟、という呼称が最も相応しい光景だった。何一つ命の痕跡がない、瓦礫と灰に埋もれた大地。
この場所で誰が争って、誰の手によってこの空間が生み出されたというのか。推測出来る材料もまた、そこには存在しなかった。
ただ一つ、今の彼らにとって重要な事柄は――
「――周囲をあらかた探ってみたが、ネズミの気すら感じ取れないぞ、友情マン。本当にここで地球人を見たのか?」
「既に移動した後だったか……すまない、カカロット君。どうやら君に、無駄足を踏ませてしまったようだ」
――殲滅すべき、地球人の姿が見当たらないということ。
よくよく思い返してみれば、放送直後に聞いたあの絶叫は、放送に対する怒りを純粋に表したものだったように思える。
親しい者の死を告げられて、じっとしているような人間ならば、そもそもこんな所でいつまでも足を止めている理由などないのだ。
腹が空きすぎて、そこまで頭が回らなかったな――そんな言い訳をしてみたところで後の祭りだ。う、思い出したらまた腹の虫が。
「――来な、友情マン」
いつの間にか先を歩いていたカカロットが、振り向きもせずに呼びかけてきた。彼が立っているその場所は、クレーターの、中心地。
その視線は、草木一つも残っていない抜け殻の地面へと釘付けになっている。言われるがままに歩み寄り、そして、それを見た。
( ↑ )
「……これ、は」
「どうやら、完全に無駄足ってわけじゃあなさそうだな――」
カカロットが、野獣のような笑みをより深くした。
「――事情は理解したつもりだ、モンキー・D・ルフィ」
「だったらこの足、元に戻せよ」
「だが断る」
「…………」
四肢まで切り離していた数刻前までのことに比べれば、これでもマシになった方だろう――と、ブチャラティは思う。
この少年は両足の自由が利かなくなった後も、残された両腕を『伸ばす』ことによって小一時間散々暴れ回ったのだから。
吹っ飛ばされながらも無事だった翼が『世直しマン』という人物の名を出したことで、どうにかその場は収まったが、
依然としてルフィが『仲間の下へ行く』という態度を崩さない以上、『ジッパー』の効力を解除するわけにはいかない。
「『トーキョータワー』に戻るぞ、ルフィ。ツバサが言うお前の仲間――『ルキア』と『ボンチュー』の二人ならば、
今頃はカズマ達によって護衛されている筈だ。お前が一人で、合流地点を飛び出してまで会場を探し回る必要はない」
「待てねェ」
「…………」
「もう、目を背けたくねェんだ」
麦藁帽子の下の双眸が、強烈にブチャラティを射抜いていた。
睨み付けられている、というのではない。この瞳に宿っているものは、生半可な思いでは、秘められないような――
「……こいつならきっと平気だとか! あいつは強ェから大丈夫だとか!
そんな思い込みがあったから、おれの知らねェところでみんなは死んじまったんだ!
あいつらはおれの仲間だって、胸を張って言えるようになるには!! おれがあいつらを守ってやらなきゃいけねェんだッ!!」
――『覚悟』だ。
ルフィの決意は、論理的とは言い難い判断だ。雷電も桑原もれっきとした実力者であり、
その二人に守られたルキアとボンチューがそう簡単に命を落とすとは考えにくい。
待ち合わせ場所までも指定して、既にこちらはその地点へと向かっていたところなのだ。
予定通りに彼らを待ち、安全に合流すればいい――正確な判断力を持った人間ならば、普通はそうするのだろう。
しかし――
「モンキー・D・ルフィ。『海賊王になる男』だと、そう言ったな」
「ああ。それがどうした」
「――言うだけのことは、あると思ってな。そこにいるツバサ、そしてカズマもそうだったが――お前もまた、
立派な誇りを持っている者のようだ。仲間を守る、そう断言したお前の顔には『ウソ』が無かった。
オレは決して、本物を見誤らない――『スティッキィ・フィンガーズ』ッ!」
『スタンド』へ送るその思念は、ほんの一日前に出会ったジャパニーズ・ヤンキーに対して行ったことと同じ。
身構えたルフィの右足首に括り付けられた『ジッパー』に、『スティッキィ・フィンガーズ』の指を掛けた。
空いている方の手で、分断された足先を掴んで、足首へと押し当てる。怪訝そうな表情を浮かべるルフィの見ている前で、命じた。
「閉じろジッパーッ!」
『スティッキィ・フィンガーズ』が『ジッパー』を滑らせて、双方の間に出来た隙間を完全に縫い合わせる。
そうして『ジッパー』が掻き消えた時、分かたれた筈の足首は、断面の痕を微塵も残さず元の姿に戻っていた。
左足にも、まったく同様の動作を遣って退ける。ルフィの身体が五体満足を取り戻すのは、一瞬のことだった。
「――お前の掲げる確かな決意を、オレは尊重するとしよう」
正しい『覚悟』を押し退けてまで、道を選ぶのが『論理的』だというのなら。――そんな『論理』は、クソ喰らえだ。
「……いいヤツだな、お前って」
「――気紛れなだけだ」
カズマや承太郎辺りがここにいれば、ここぞとばかりに笑われていたかもしれないな――ふと、そんな下らない事を思った。
「――悪いがツバサ、そういう事になった。来た道をわざわざ後戻りすることになるが――ツバサ?」
それまで黙っていた翼に声を掛けると、彼はこちらへと目もくれず、先刻にルフィが向かってきた、東京の方へと視線を向けていた。
てっきり話に割り込まないよう黙っていたのだと思っていたが、そういう訳ではなかったらしい。つくづく行動の読めない男だ。
肩でも揺さぶってやれば気付くだろうかと歩み寄ろうとしたとき、彼の唇が小さく動いた。
「――う君だ」
「何? すまないツバサ、よく聞き取れなかった。何と言ったんだ?」
「悟空君が、いる……」
「――『ゴクウ』だと? それは――」
「何ィ!?」
何者だ、そう詰め寄ろうとする前に、大きな反応を見せたのはルフィの方だった。
翼の方へと素早く駆け寄ると、二人して同じ方向を凝視する。会話が成立しそうにない。
仕方無しに、ブチャラティも彼らの視線が向かう先へと向き直った。
橙色の胴着を着た黒髪の男と、その横にいるのは――『スタンド』か? 違う、あれは――人間でないことは、間違いないようだが。
どうなっている? こいつらは、一体――『何』だ?
「――いやがった」
麦藁帽子の少年にとって、それは全力でブン殴るべき相手。
「――やっと、見つけた」
稀代のサッカー狂にとって、それは勧誘すべきプレーヤー。
「…………」
ギャングの幹部の青年にとって、それは警戒すべき参加者。
そして。
「久しぶり、そして始めましてか――『地球人』ども。会いたかったぜ」
戦闘民族サイヤ人にとって、彼ら三人の存在は――
「死にてぇのは、どいつだ?」
――『餌』だった。
【群馬県・農村/早朝】
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右腕喪失・全身に無数の裂傷、腹部に軽傷(応急処置済み)
[道具]:荷物一式×3、千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
:スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険、ミクロバンド@ドラゴンボール
[思考]1:悟空と友情マンを警戒。
2:必ず仲間の下へ帰る。
3:首輪解除手段を探す。
4:主催者を倒す。
【大空翼@キャプテン翼】
[状態]:精神的にやはり相当壊れ気味、全身各所に打撲、軽度の火傷
[装備]:拾った石ころ一つ、承太郎お手製木製サッカーボール
[道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)、クロロの荷物一式、ボールペン数本
[思考]1:悟空から、日向の情報を得る。そしてチームに迎える。
2:ブチャラティ達と再度北上、雷電たちと合流。
3:仲間を11人集める。
4:主催者を倒す。
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]:両腕を初め、全身数箇所に火傷
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(食料半日分・スヴェンに譲ってもらった)
[思考]1、悟空を一発ぶん殴る。
2、ルキア、ボンチューと合流する為に北へ。
3、"仲間"を守る為に強くなる。
4、"仲間"とともに生き残る。
5、仲間を探す。
【孫悟空(カカロット)@ドラゴンボール】
[状態]顎骨を負傷(ヒビは入っていない) 出血多量 各部位裂傷(以上応急処置済・戦闘に支障なし)
全身に軽度の裂傷 カカロットの思考。
[装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@ドラゴンボール
[道具] 荷物一式(水・半分消費、食料なし) ボールペン数本 禁鞭@封神演義
[思考]1、目の前の三人を片付ける。
2、地球人を全滅させる。
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:肉体的、精神的に軽度の疲労、空腹(走り回って結局胃の中はすっからかんになった)
[装備]:遊戯王カード(千本ナイフ、光の封札剣)
(ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴、は24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(食料なし)、ペドロの荷物一式(食料なし)、勝利マンの荷物一式(食料なし)、青酸カリ
[思考]:1.悟空にブチャラティ達を始末させる。
2.食材・食料の確保。できれば力づくで奪うような手段は取りたくない。
3.悟空をサポート、参加者を全滅させる。
4.最後の一人になる。
すみません、訂正があります。
>>139 >【群馬県・農村/早朝】
↓
>【埼玉県・駅前/朝】
に訂正です。失礼しました……。
『狂殺万華鏡』の
>>21にあるフレイザードの状態表[道具]に
:パンツァーファウスト(100mm弾×3)@ドラゴンボール
を入れ忘れてしまっていました。申し訳ありませんが修正お願いします。
「い、生きていたのか…ポルタ」
タカヤが見上げた先には、太陽と同化したポルタがいた。
「な、何だあの姿は…それに奴はおっ死んだはずだ!!」
考えながら、Kは一つの結論にたどり着いた。
「これは、幻術。オレが能力を使う前に、奴は仕掛けていたんだ!!」
(ご名答。わしの力は『パーフェクトシーフ』。あんたの心を盗んだんじゃ)
ポルタは、Kの心に語りかける。
「無駄だ!!しゃらくせーんだよ!!!」
Kの体から無数の蛇が飛び出してきた。
それは突き抜けたKのエクトプラズマ。
あっという間にポルタをなぶり殺した。
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
>>110 の上から四行目の「ジェニー」を「ベリー」に変更します
すみません、修正お願いします
〔AM6:08 福井県と京都府の県境付近の交差点〕
「マジかよ・・・あれだけ偉そうなこと言っといてもう死にやがったよ桃白白の奴・・・」
放送を聞いた後、ヤムチャは一旦足を止めて一人ごちた。
「まあ、元々あんまり期待してなかったけどな。所詮ザコだし」
そう言った後、自分の台詞に陶酔する。
『元々あんまり期待してなかったけどな。所詮ザコだし』
『所詮ザコだし』
『所詮ザコ』
『ザコ』
『ザ・コ!』
メ・チャ・メ・チャ・気分がいい。
フフン、ザコめ。結局お前はこの程度か。
ああ、なんて優越感・・・
何度でも言うぞ。
桃白白のザコ。ザーコ。ザ・コ!ヘタレ!役立たず!噛ませ犬!
実力者だらけの場で場違いなんだよ!お前一人で何とかなると思っていたのか?ヘ・タ・レ!ヘ・タ・レ!
あれ・・・なんか涙が・・・
これは歓喜の涙だ・・・。俺は・・・ついに・・・ついに・・・
いや、待て待て待て。
まだだ。調子に乗るな。まだ足りない。
イメージしろ。俺の輝かしい姿を・・・
ブチャラティやアビゲイルなど無数の強敵を屠る悟空とピッコロ。
無論二人の敵ではないが、それなりに疲労は溜まっている。
『ふう・・・キリがねえな。オラ、腹が減っちまったよ』
『我慢しろ孫悟空。まだまだ一般人が沢山残っているんだぞ』
『オラ・・・やっぱり弱い一般人を殺すのは・・・』
そこに颯爽と現れる俺。
『心配するな。一般人は全員俺が始末しておいたぜ!』
俺を褒め称える悟空とピッコロ。
『おお、悪いなヤムチャ。オラ、見直したぞ!』
『フン・・・よくやった、とだけ言っておこう』
三人で肩を並べて笑いあい、お互いの健闘を称える―――
「お、おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!いいぞいいぞいいぞおおあああぁぁぁ!」
なんて素晴らしい光景!
悟空やピッコロと肩を並べる俺!
俄然やる気が出てきたぜ!
思わずダッシュで移動を開始する。
身体が軽い。どこへだって行けそうだ。
ほら、足元がよく見えない森の中だってまるで競技場を走るように颯爽と―――
と、そのとき。
ジャリ、と何かを踏んだような感覚。
身体のバランスが崩れる。
思い出すのはバスケットボールの悪夢。
ヤムチャの身体はそのまま前のめりに―――
「甘い!」
両手で地面を突き、空中でクルリと一回転。
華麗に着地。成功。
「フフフ・・・・・・もう足元がお留守とは言わせないぜ!」
振り向き、俺を転ばせるのに失敗した敗北者に指を突きつける。
指の先には、朝日に照らされて燦然と輝く金銀財宝。
「・・・・・・マジかよ」
周りを見渡す。誰もいない。
周囲を警戒しながら財宝との距離を詰める。到達。
誰も見ていないことを確認した後、急いで財宝をデイパックにかき入れた。
(俺、運が良すぎないか?)
この幸運が未だに信じられない。
あの鎧の男との戦いから、全てが良い方向へと進んでいる。
うん、勇気を出すことは大切だ。
これだけ天が味方しているなら、協力者も必要ないか?
俺一人でも悟空とピッコロ以外の参加者を全滅させることができるかもしれない。
いやいや待て待て調子に乗るな。
斗貴子と協力したほうが効率がいいに決まっている。
だが――両津達の助けは必要ないか。
第五放送によると、鵺野と乾は死んでしまったようだ。
やはり一般人は脆い。おそらく無惨に死んでしまったのだろう。
きっとサクラもアビゲイルによって酷い目に・・・
だとすると、両津も危ないな。
斗貴子や鵺野と違って完全な一般人である両津は人数減らしにはそれほど役に立たないだろし。
むしろ、すぐに死んでしまいそうだ。
(見つけたら、苦しまないように殺してやるのがせめてもの慈悲ってもんか)
餓狼は軽く頭を振り、高速での移動を開始する。
そう、ヤムチャは《仲間想い》だったのだ。
〔AM6:22 大阪市内交差点〕
「・・・・・・・・・」
飛影は一つの死体を見下ろしていた。
腹から槍を生やした、学生服の青年の死体。
強敵を求めてアテもなく彷徨い、奈良、滋賀、京都を転々とし――
ここ、大阪で二つの死体を発見した。戦いの末、相打ちしたようだ。
戦闘後大分時間が経っているようで、烏達に食い荒らされた死体は無惨なものだった。
無言で、その死体の腹から槍を抜き取る。
ぐぼり、と墓土から杭を引き抜くような音がして槍が抜けた。
死後数時間経っているらしく、鮮血は全く飛び散らなかった。
代わりに黒い塊を撒き散らしながら、慣性の赴くまま死体は地面を転がる。
「・・・・・・・・・」
飛影はそんな死体を一瞥すると、その身を空中へと躍らせた。
一つの影が地面を走り、遠ざかる。
やがて影は消え去り、何の痕跡も残さない。
後に残されたのは、たった二つの死体のみ。
〔AM7:04 河原町今出川交差点〕
「このあたりは綺麗に区画整理されてるなぁ」
ヤムチャが道を駆ける。
〔AM7:05 烏丸丸太町交差点〕
「・・・・・・・・・」
飛影が道を駆ける。
〔AM7:06 河原町丸太町交差点〕
「うお、でっけえ森!何だこれ?」
ヤムチャが道を駆ける。
〔AM7:07 烏丸今出町交差点〕
「・・・・・・・・・」
飛影が道を駆ける。
〔AM7:08 烏丸丸太町交差点〕
「ふーん、御所、か・・・よくわからん」
ヤムチャが道を駆け抜ける。
〔AM7:09 河原町今出川交差点〕
「・・・・・・・・・強い奴は、どこだ」
飛影が道を駆け抜ける。
二人の道は交差せず、しかし向かう先は二人とも同じ。
死ぬまで続く、屍の道。
自ら手を下した犠牲者の血肉で作られる、屍の道。
【京都府/御所付近/朝】
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)左小指に"ジッパー"
超神水克服(力が限界まで引き出される)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料、バスケットボール@スラムダンク、六億円相当の財宝@ジョジョの奇妙な冒険
[思考]:1.関西・中国・中部地方で人減らし。両津を見つけたら、苦しまないように殺す。
2.参加者を減らして皆の役に立つ。
3.あわよくば優勝して汚名返上。
4.悟空・ピッコロを探す。
5.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【京都府/御所付近/朝】
【飛影@幽遊白書】
[状態]:全身に無数の裂傷
[装備]:魔槍の槍@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式
[思考]1:強いやつを倒す
2:桑原(の仲間)を探す
3:氷泪石を探す(まず見付かるまいし、無くても構わない)
「――隊長が行方不明?」
尸魂界 (ソウル・ソサエティ)と呼ばれる世界があった。
現世で一生を終えた者、そして死神と呼ばれる存在が住まう、いわゆる霊界の一種。
尸魂界は貴族や死神達が住む瀞霊廷と、その周囲にある死者の魂が住む流魂街に分かれており、暮らし向きや待遇などが厳然と区別されている。
には、尸魂界の護衛及び現世における魂魄の保護、虚の退治等の任務をこなす実動部隊である護廷十三隊が置かれ、
その中でも更木剣八が統括する十一番隊は、荒くれ者ばかりて構成された戦闘部隊として名を通している。
「うん。剣ちゃんがどこ探してもいないのー」
そんな十一番隊の副隊長、草鹿やちるはまだ幼児だ。
見た目は十歳かそこらがいいところ。副隊長を勤められるほどの実力は持っているのだが、如何せん子供なので威厳は感じられない。
やや大きめの死神装束を持て余しつつ言葉を振る相手は、同じく死神装束を身につけた坊主頭の男。
十一番隊第三席・副官補佐の位に就く死神、名を斑目一角という。
「またどっか一人で特訓でもしてんじゃないですか? あの人ときたまフラフラっといなくなることあるし」
「えー! でも絶対おかしーよー! だってもう丸一日姿を見せてないんだよー!? きっとどこかで迷子になってるんだよ!」
「……誰かさんじゃあるまいしそんなわけねー……」
ボソッと呟いた一角の言葉を聞いて聞かずか、やちるは頬をぷくっと膨らませてそっぽを向いてしまった。
尸魂界の空は、本日も晴天。この空を見ていると、ここが死後の世界であることなど嘘のようにさえ思えてしまう。
「あっ」
っとやちるが口を開いた瞬間。
空を翔る白い影を視覚に捕らえた。
「あん……? ありゃ六番隊の朽木隊長じゃねーか。なにやってんだあんなところで」
屋根から屋根へ、瀞霊廷内を高所で移動しているのは、白の死神装束を身に纏った男。
剣八と同じく『隊長』の位に就く、六番隊の朽木白哉だった。
「あっ、行っちまった」
視界に入ったかと思ったのも束の間、白哉は忙しない速度で屋根の上を駆け抜けていく。
なにやら慌てているようにも見えたが、十一番隊には特に報告は来ていない。少なくとも事件ではないだろう。
「……びゃっくんも誰か捜してるのかな?」
遠ざかっていく白哉の背中を見つめながら、やちるが唐突にそんなことを言った。
「はっ? 捜してるって、誰を?」
「う〜ん……わかんない」
根拠も何もない。ただそんな気がして出た言葉だった。
かくいう自分も、気がつけば剣八を捜している。
どうせその内ひょっこり顔を出すだろうと思いつつも、何故か心はざわついていた。
(剣ちゃん……?)
この漠然とした不安はなんなのか。答えは出てこない。
それも仕方がないこと。いかにやちるが死神とはいえ、全ての死を知り得るわけではないのだ。
別世界に『DEATH NOTE』を持つ死神が存在するように――死神もまた、一種ではない。
更木剣八は、どこに行ってしまったのか。
(なんなのだ……この得体の知れぬ予感は)
屋根の上を疾走しながら、朽木白哉は正体不明の不安と戦っていた。
昨日より今日まで、妹である朽木ルキアの存在が感じられない。
たかが一日、姿を確認できなかっただけ。
ひょっとしたら現世に赴いているのかもしれないし、流魂街の方に出かけているという可能性も考えられる。
(――――違う)
見つからないのではなく、『感じられない』。
まるで世界から『朽木ルキア』という存在が抜け落ちてしまったように、影も形も、音も声も見当たらない。
(どこにいる――――ルキア)
衝動が、白哉を突き動かす。
既にそこにはいない、『存在』を追い求めて。
決して見つからない捜し人を捜して。
『三人の王』の、嘲笑う声も聞こえずに――
――誰もが皆、彷徨い人だ。
――死神でさえ、知らない死がある。
――世界がそれに気づいても、それはまた別の世界のお話。
――この事態を打破するには、その世界に住まう当事者たちが何とかする他にはないのだ。
――だからこそ――希望は大切なんだ――
――鳴介、トレイン・ハートネット、イヴ、スヴェン・ボルフィード――
(名前…………)
――世直しマン、たけ――
(皆の、名、が…………)
それを耳にした者は、どれだけの悲しみを得るだろう。
ただ名を告げるだけの言葉に、意味はない。
当事者たちだけが知っている、その名前の意味。
――死亡者の通告。
あまりにも無情で、
あまりにも非常で、
あまりにも悲惨な、
現実。
「うっ……」
搾り出すような唸りを上げて目を開けると、そこは静かな住宅街だった。
フレイザードと戦った薄暗い森ではない。朝日も昇っている。あれからどれだけの時間が経過したのか――
「目覚められたか」
「…………」
ルキアが眠りから覚めると、真っ先に髭面の男が出迎えてくれた。
太い眉毛に太い首。がっしりとした肉体。目覚めに良いといえる姿ではない。
(あれは……なんと読むのだ? 大……往……生……ダイオウジョウ?)
ぼんやりとする頭を振って、男の額に注目する。
漢字が三文字、並んでいた。
『大往生』
刺青か何かだろうか。
寝起きでまだ頭が覚醒しきっていない。
だから初めにどうでもいいことを考えてしまった。
時が経つにつれ、脳は本来の活動周期に戻る。
そして、再度思考を始める。
「……………」
――――この男は誰だ?
朽木ルキアが刃を抜いたのは、初めは『動揺』が理由だった。
目覚めていきなり現れた、濃い髭面の男。もちろん初見。
見ず知らずの人間が眼前にいれば、動揺するのも当然といえた。
「なっ!? 貴様何者だッ!? 私が寝ている間に何をしようとしたのだ、この虚けが!!」
寝起きだというのに、ルキアは顔を真っ赤にした状態で刀を構える。
「むぅ。目覚めたばかりでまだ混乱しているのか……まずは刃を納めよルキア殿。拙者に敵意はない」
「黙れこの狼藉者が! 寝こみを襲うとしておいて何を馬鹿な……ッ!?」
第二に、刃をすぐ収めなかった理由として、男の傍に転がっていた『承太郎』が原因だと考えられる。
半身を火傷で覆い、ボロボロな状態で横たわっているその姿。ルキアの怒りは急激にボルテージを高めていく。
まさか、死――――そこまで考えつくのに数秒、敵意は男に放たれた。
「破道の四、白雷!」
ルキアの指先から放出される白い雷の閃光。男を完璧に敵と見なした攻撃が炸裂した。
鬼道の中でもレベルの低い技であったのが幸いしたのか、男はこれをなんと回避する。
自分の身体をスレスレで通り過ぎていった雷を目に、男は一言。
「ぬぅ……あれが世に聞く『鬼道』! まさか実在していたとは……」
【鬼道】
死神が用いる霊術の一つ。決まった言霊を詠唱した後、術名を叫ぶことにより術が発動する。
相手を直接攻撃する「破道」と、防御・束縛・伝達等を行う「縛道」があり、
それぞれに一番から九十番台まで様々な効果を持つ術が多数存在する。
数字が大きい術ほど高度で強力であり、高位縛道の中には、ただ相手の動きを封じるだけでなく、
その状態から更に攻撃ができる「封殺型」に移行できるものがある。
また、高度な術者になると術名のみ(詠唱破棄)での即時攻撃も可能になるが、
数字が大きい術ほど威力の保持が難しくかなりの鍛錬が必要。
民明書房刊『尸魂界観光ガイド〜基礎知識編〜』
などと冷静に分析している暇はない。
男はなんとかルキアの誤解を解こうと会話を試みるが、
「舞え、『袖白雪』!」
ルキアは自身の斬魄刀、『袖白雪』を解放。その切っ先を男に向けていた。
おそらく、フレイザードとの戦いで高揚した戦意がまだ治まりきっていないのだろう。だから冷静さを失いかけている。
「ええい、落ち着かれよ!」
これは言葉だけでは弁解不可能と判断し、男はルキアに対抗すべく刀を取り出す。
その刀は、ルキアの斬魄刀と同種であって同種ではないもの。
それを知らぬ者が見たら単なる刀にしか見えないが、死神であるルキアには分かった。
「斬魄刀……」
男の握る刀は、紛れもない『斬魄刀』。
男自身は死神ではないため始解の状態には至らないが、なんとなく、感覚で分かってしまうのだ。
「まさか……」
名を聞くことはできない。それは、所有者である彼にしかできないことだから。
ガラが袖白雪を知ることが出来なかったように、それもまた、持ち手である死神にしか知りえることではない。
その刀はもう、二度と本来の姿を取り戻すことはない。
だって――彼は――死んでしまったから。
「一護の…………残、月」
確証はなかった。
ひょっとしたらこの世界に住まう別の死神――更木剣八や藍染惣右介のものかもしれない。
だが、予感がする。男の持つ斬魄刀が、一護の残月であるという予感が。
「…………」
男の持つ斬魄刀を見た瞬間、ルキアはそこから一歩も動けなくなってしまった。
そして、タイミングよく一人の男が覚醒する。
「…………これはいったいどういった状況だ?」
軋む身体を無理やり起こし、ルキアではなく男に説明を求める学ランの長身――空条承太郎が目を覚ました。
これで誤解は解けるだろう。
だがルキアにはそんなことより、
男の持つ残月が気になって、
(……一護)
死んでしまった友人を思い出してしまったことが、
痛かった。
朽木ルキアと空条承太郎。
二人が気絶している間に、放送が流れたらしい。
「死亡者は?」
「うずまきナルト、ニコ・ロビン、西野つかさ、乾卓治、ラオウ、アミバ、若島津健……江田島平八、
緋村剣心 、桃白白、蘇妲己、竜吉公主、鵺野鳴介、トレイン・ハートネット、イヴ、スヴェン・ボルフィード、
……世直しマン、たけし、以上で18名でござる」
放送を聞き逃した承太郎とルキアのために、彼らを背負って東京に向かっていた男――雷電が死亡者を告げる。
「残り……41人か。翼やブチャラティ、カズマは無事らしいな。主催者は他になにか言っていたか?」
「今日の午前中、強い降雨があると仄めかしておった」
「雨か。奴らが言うなら、本当に降るんだろうな……」
会話をするのは雷電と承太郎、二人のみ。
その間ルキアは口を開けず、ただ一点を見つめていた。
真中淳平、浦飯幽助、クロロ・ルシルフル、そして――黒崎一護の墓前である。
墓前といっても墓石があるわけではない。不自然に土の盛り上がった埋葬後が残るだけ。
だが、この下には紛れもなくルキアの仲間である一護が眠っている。埋葬した雷電本人が言うのだから間違いない。
「拙者はその一護殿とは直接の面識はなかったが……塾長の話では、仲間思いの立派な男だったそうだ。最後も、きっとその本懐遂げたのであろう」
「……………………そうか」
長い沈黙の後、ルキアはゆっくりと振り返り、墓前に背を向けた。
そして、懐から一枚のカードを取り出す。
「『青眼の白竜』……桑原が教えてくれた情報が本当なら、もうこのカードは使えるはずだな」
「むっ……確かにそうでござるが、いったいなにをなされるつもりだ?」
近くに敵がいるわけでもない。雷電と承太郎はルキアが『青眼の白竜』を取り出した理由が分からず、首を傾げる。
「この竜に乗っていけば、東北に舞い戻ることも容易いだろう。あの助平が早まらぬ内に、私が行ってやらねば……」
「ルキア……まさかおまえ……」
その言葉だけで、二人はルキアの考えを察知した。
承太郎がルキアの誤解を解いた後、ルキアの希望で進路を一部変更、一護の死体があったという栃木県まで移動することになった。
その間雷電は、二人が気絶している間に起こったことを説明。
ブチャラティと翼がヤムチャを追跡していったこと。桑原とボンチューがフレイザードにとどめを刺しにいったこと。みんな勝手な行動ばかりだった。
あれだけの規模を誇っていた大団体は、フレイザードとアミバが齎した大災害によって無残に瓦解してしまった。
翼あたりなら、「チームワークがなってない」と怒り出すかもしれない。まあ、当の本人も勢いで暴走しているのだが。
そしてこの気絶中の出来事の中でも、ルキアが特別許せなかったのはボンチューの勝手な行動。
「フレイザードは……私たちの共通の敵なのだ。世直しマンにバッファローマン、ルフィ殿にイヴ、海馬や銀髪天然パーマの男……それを、あやつだけに任せておくわけにはいかない」
「ルキア、おまえの気持ちは分かるが、それはあまりいい判断とは言えないぜ。いくらその竜の力が強大だとはいっても、今のおまえじゃ……」
承太郎もルキアも、先の戦闘で重傷の身。
この期に及んで更に戦闘を迎えるなど、愚行もいいところだった。
「分かっておる……分かっておるのだ!」
ルキアがはち切れんばかりの声で叫んだ。
「自分の身体のことくらい……自分で分かる。今の私では……満足には戦えない」
身体の痛みは未だにやまない。
雷電に鬼道を放った時にも、信じられないほどの疲労を感じた。
体力には自信があったのだが……一日目の激戦で、大分消耗していたらしい。
「それに私は…………」
本当なら、こんな言葉も言いたくはない。
「私は、死神なのだ」
――バッファローマンは、気にするなと言ってくれた。
――しかしそれは、覆しようのない事実ではないか。
「銀髪天然パーマの男に始まり、海馬瀬人、バッファローマン、世直しマン、そしていつの間にかスヴェン殿とイヴまで死んでしまった……皆、私に関わったから……」
「自暴自棄になるなルキア。なにもおまえに責任があるわけじゃあない」
「そうかもしれない。だが」
ルキアは後方――一護の眠る大地を振り返り、
涙した。
「私はもう……守られてばかりは嫌なのだ」
尸魂界に幽閉された時、助けに来てくれたのは一護と仲間達だった。
ルキアはただ助けを待つばかり……いや、待ってさえいなかった。
自ら処刑されることを受け入れ、助けを望まなかった。
だが、彼らは来た。
身をボロボロにしながら、大切なものを失いながら、死ぬ思いをしてまで。
――なんで私の周りは……こうも馬鹿ばかりなのだ。
そんな仲間がいてくれるのは嬉しく思う。
しかし、そんな仲間が死んでいくのはもう、耐えられない。
「私は、ボンチューも桑原も死なせたくない……私を気遣って戦っているというのであれば、なおさら私が行かないでどうする」
ルキアの決意は固かった。
もう誰にも死んでほしくはない。
ボンチューにも、桑原にも、承太郎にも、雷電にも、翼にも。
――彼らが死ぬくらいなら――私は――
「ならぬ!」
カードを掲げ、竜を召喚しようとしたルキアを止めたのは、知り合ったばかりの雷電だった。
「ボンチュー殿は、なによりもルキア殿の無事を祈った! だからこそ拙者にルキア殿の身を預け、一人戦場へ赴いたのだ! そなたはそんなボンチュー殿の意思を踏みにじるというのか!?」
「違う……その心遣いが間違っているんだ……そうやってみんな優しさを見せるから、みんな……」
「ボンチュー殿はカズマ殿と共に、必ず帰ってくる! 拙者はそれまで、身命にかけてルキア殿を守る約束をしたのだ!」
まただ。また、『守る』。
「もう……その言葉は聞き飽きた……」
ルキアは、今まで多くの人に守られて生きてきた。
だが、ルキアを守ろうとした人はみんな――ことごとく死んでしまったではないか。
このままではきっと――ボンチューや雷電だって――
「私は行く。行かせてくれ、雷電」
「いかん!」
「どうしても……どうしても行かせてはくれぬのか!?」
「男と男の信義でござる! 違えるわけにはいかぬ!」
ルキアと雷電。二人の意思はあまりにも強く、だからこそ激しくぶつかり合う。
こうなってしまっては承太郎にも止めるすべはなく、あとは雷電に託して、静観するのみだ。
(やれやれ……)
ルキアの頑なな精神は凄いと思うが、それでも意見は雷電と一緒だった。
願わくば、彼女には妥協してほしい。承太郎自身もボンチューと桑原が気にならないわけではなかったが、ルキア一人を行かせてどうこうなる話ではない。
焼け焦げた半身を、不甲斐なく思う。
戦えぬ者は、ただ守られるしかないのだ。
「なら……私にも考えがある」
雷電の頑固なまでの制止に嫌気がさしたのか、ルキアは強硬手段を取ることにした。
斬魄刀を抜き、雷電に構える。
「行かせてくれぬというのなら……この場で二人とも氷付けにし、足を止めさせてもらう」
「……正気でござるか?」
「もちろんだ……」
そこまで――――。
強固すぎるルキアの決意に、雷電は心中で敬服した。
ルキアの仲間を思う意思は、男塾魂に通じるところがある。
だからこそ尊重してやりたい。ルキアの思いも。ボンチューの思いも。
「………………あい分かった。拙者、完全に負け申した」
一歩も引かぬルキアに、雷電はついに降伏を宣言した。
「ルキア殿の決意がそこまで固いというのであれば、最早なにも言うまい。拙者、心してその背中を見送ろうぞ!」
「雷電殿……すまぬ」
「しかしその前に……これはルキア殿が持っているべきであろう。餞別として受け取ってくだされ」
戦地へ赴こうとするルキアに雷電が託したのは、もう一本の斬魄刀・斬月。
持ち主でないルキアの手には余るものだが、それでも一護が傍にいるような気がして心強い。
「ありがとう…………雷電殿。この恩はいつか必ず……」
刀を収め、斬月を受け取るルキア。
恵まれた仲間に最高の感謝を送り、そして、自分は仲間のために奮闘しよう。
今ここで誓うんだ。もう、仲間は失わないと。
「ルキア殿……」
雷電はそんなルキアを見て、居た堪れない気持ちになった。
この少女の決意は、あまりにも強い。
強すぎるが故に、危険なのだ。
(いつか……彼女自身の気負いが身を滅ぼすことになりかねん)
雷電は男として、ボンチューから託されたルキアを守らなければならない。
たとえ恨みを買おうとも。
その結果ボンチューがどうなろうとも。
これは、ボンチューが望んだことなのだ。
「………………すまぬ、ルキア殿」
「え」
シュタッ、と肉を打つ音がした。
ありとあらゆる拳法に精通し、三面拳一の業師と謳われた雷電の神速の手刀が、ルキアの首元に命中したのだ。
気を失い倒れゆくルキア。雷電は、その華奢な身体を静かに受け止めた。
「……いいのか? 雷電」
「……男と男の信義、やはり違えるわけにはいかぬ」
無意識に、ルキアの身体を見回す。
ボロボロだった。滑らかだった皮膚は埃に塗れ、戦闘で作った傷は痛々しくその跡を残している。
やはりルキアは行かせられない。こんな状態のルキアを行かせては、ボンチューとの信頼を裏切ることになる。
「安心めされい、ボンチュー殿。ルキア殿は、この男塾一号生、雷電が身命に懸けて守り通す。だから」
早くも曇ってきた、北の空に目をやる。
あの二人は、既に戦闘を始めているのだろうか。
そこは雷電の知るところではない。
だからこそ、祈ることしか出来ない。
「――おふた方も、必ず帰られよ」
言葉が届くことはない。
吹き荒らぶ風は、無常しか運ばない。
――おまえはいつだって気張りすぎなんだよ、ルキア。
(一護…………私は)
――おまえは確かに死神だ。そりゃ分かるさ。
(……そうだ。おまえが死んだのも……全ては私が……)
――あー、いや、違う。そういうことじゃないんだよ。
(……? どういうことだ)
――おまえは死神だけど、そういう意味の死神じゃなくてだな、なんつーか、えーと……
(…………言葉を整理してから出直してこい、馬鹿者が)
――な!? そんな言い草はねえだろうが! 要するにだな、俺の言いたいことは……
(分かっているさ)
――え?
(一護やボンチュー……承太郎や雷電殿が言いたいことは、全て分かっている)
――だったら……
(だが、やっぱり私は守られるのが嫌いだ)
四人の死者が眠る墓をバックに、ルキアと一護はそんな会話を交わした。
死んでまで語り掛けに来てくれた一護が言うことは、他の皆と差ほど変わりないものだったが。
――励ましのつもりか、馬鹿者め。
思い出したら、余計に悲しくなってしまうではないか。
時が刻まれる。
死神は、本当に死を招く生き物なのだろうか。
答えがどうであれ、ルキアが死神であることには変わりはない。
ただ、
守られるだけのヒロインにはなりたくない。
どうせなら、誰かを守るヒーローになりたい。
あの二人がそうだったように。
ルキアもまた、ボンチューと同じ願望を胸に抱いていた。
【栃木県/2日目・早朝】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左腕骨折・肩に貫通傷・全身各所に打撲・左半身に重度の火傷(以上応急処置済み)
[装備]:シャハルの鏡@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式(食料二食分、水少量消費)・双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢・らっきょ(二つ消費)@ラッキーマン
[思考]:1.東京タワーに向かい、仲間と合流。
2.悟空、仲間にできるような人物(できればクールな奴がいい)、ダイを捜す。
3.主催者を倒す。
【雷電@魁!!男塾】
[状態]:健康
[装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂、斬魄刀@ブリーチ(一護の衣服の一部+幽助の頭髪が結び付けられている)
[道具]:荷物一式(水と食料を一日分消費)
[思考]:1.ルキアと承太郎を守りつつ、東京タワーに移動。
2.何があっても仲間を守る。翼のことはブチャラティ殿に任せる。
3.ルキアが目覚めたら『青眼の白龍』を返し、使い方を説明する。
【朽木ルキア@ブリーチ】
[状態]:気絶・重傷・重度の疲労・右腕に軽度の火傷
[装備]:斬魄刀(袖白雪)@ブリーチ・コルトパイソン357マグナム(残弾21発)@シティーハンター
[道具]:荷物一式・バッファローマンの荷物一式、遊戯王カード(青眼の白龍・使用可能)@遊戯王
[思考]:1.ボンチューを助けに行きたい。
2.ゲームから脱出。
3.第五放送が終わったら東京タワーに行く。
4.いつか必ず、フレイザードとピッコロを倒す。
>>164 一行目、四行目、十二行目の「残月」を→「斬月」に修正。
ご迷惑おかけします。
『任せとけってばよ!なんせ俺ってば火影になる男だからよ!』
『まだキン肉マンとランチを食べてないさ』
『四国へは……拙者が一人で向かうでござるよ』
蘇るのは、死んでいった者たちの別れの言葉。
今となっては懐かしいあの声、あの姿。
もう――二度と聞くことはない声。見ることはない姿。
うずまきナルト、たけし、緋村剣心。
Lたちがなにより生存を願った三者は皆――死んでしまった。
「……う、っ…………わぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁあぁああぁぁ!!!」
「っ、たけすぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
大阪市外にて、セナとキン肉マンの悲痛な雄叫びが反響する。
彼らはなぜ泣いているのか――放送が流れたのだ。仲間の死を知らせる、忌まわしき放送の五回目が。
「ちょ、ちょっとぉ……そんな大声出したら誰かが寄って来ちゃうじゃないのよぉ……」
「…………」
大泣きするセナとキン肉マンに対し、ミサは困惑、Lは黙りこくったまま顔を俯かせていた。
「ねぇL、あんたからもなんとか言ってやってよ。ねぇ……L? Lったら!」
「…………ミサさん。すいませんが少しご静粛に願いますか」
Lは難しい顔をしたまま、「チッ」と舌打ちしてミサの呼びかけを遮った。
(な、なによぉ〜! 騒いでるのはこの二人じゃない! なのになんでミサが怒られなきゃならないのよぉ!)
Lのあんまりな対応に、ミサは心の中で不満をぶちまける。
当のLはミサなどに構っている余裕はなく、必死にこの『第五放送』について考えていた。
四国へ向かったナルト、それを捜索に行った剣心、そして志々雄に攫われたたけし。
最悪だ。死んではいけない人物が三人も死んでしまった。
(これら三人の死について……順を追って考察する必要がありますね)
その1――――うずまきナルトの死について。
ナルトは前回の第四放送で死亡を告げられた、蛭魔妖一と共に四国へ向かった。
しかし第四放送時点――二日目の午前零時の時点では、まだ生存じていた。片割れのヒル魔は死んでいたのにだ。
ナルト自身の戦闘能力はヒル魔よりも高かったようなので、当然ヒル魔よりは殺される可能性も低い。これ事態はおかしなことではない。
問題は、第四、第五放送間に死んだという事実。
刀を持たぬとはいえ、相当な実力者である緋村剣心が救援に駆けつけたであろうこのタイミングに死亡……いったい何があったのか。
その2――――緋村剣心の死について。
たとえば仮にだが――実はナルトが本性を隠したステルスマーダーだったとして、ヒル魔と二人きりになったその瞬間を狙って殺害を働いたとしたらどうだろうか。
そう考えれば、ヒル魔が死亡したタイミングについても納得がいく。
そしてその後、剣心と遭遇――本性を暴かれ、戦闘に突入。結果が相打ちだったとしたら――物事はスマートに進む。
もちろん複数のマーダーによって、連続的に攻め立てられたとも考えられる。
たとえばヒル魔を殺害したマーダーをナルトが撃退。しかし新たなマーダーが現れ、ナルトを殺害。
そのマーダーに剣心もやられてしまったのだとしたら。
これも十分あり得る可能性だ。推論なんてものはいくらでも組み立てられる。
真実を知るためには、現地に赴いての調査が必要だろう。
だがもしナルトや剣心を殺したマーダーがまだうろついているとしたら――調査は危険すぎる。
その3――――たけしの死について。
これが一番不可解だった。
そもそも、志々雄がたけしを誘拐した理由はなんなのか。
無力な七歳児を誘拐――ともなれば、普通は身代金目当ての犯行だと考えられる。
だが、現在行われているのは仮にも殺し合い。金目的でそんな面倒なことはしないだろう。
だとすれば人質か。しかし人質としても腑に落ちない。
たけしを人質にするのであれば、キン肉マンと更木剣八が試合をしていたその時に実行すればよかったはず。
そうすれば、心優しいキン肉マンは手が出せず、試合などに拘らず楽に殺せただろう。
たけし誘拐の目的――これが不明確のままでは、死亡の理由が分からない。
たけしが自力で反抗して、志々雄が已む無く殺したというのはどうか――それほどの価値ならば、もっと早く殺しているだろう。
志々雄自身が他のマーダーに襲われ、たけしを盾にした、もしくはたけしだけ殺された――この可能性も十分にあり得る。
役目を終えたので、殺した――これが最も納得のいく答えだが、その『役目』がなんなのか分からない。
三名の死については、どれも推論の域を出ない。『情報』が不足している。やはり『調査』が必要か。
(考えなければならないのは……今後について。私としては脱出のための計画を進めたいですが……さて、私の『仲間』たちならなんと言うか)
セナの場合――
『今すぐ四国へ行きましょう! ヒル魔さんやナルトくん、緋村さんが死んだ原因をつきとめなきゃ!』
仲間の死の原因を知りたがるかもしれない。まだそこに凶悪犯がいるとも考えずに。
Lとて真相が知りたくはあったが、そのために『同行』を使うのはあまりにも惜しい。
剣心たちには心苦しいが、ここは心を鬼にしてでも勝利のための切り札を温存しておきたい。
正義は絶対に勝つ――今は亡きムーンフェイスに、それを立証するために。
キン肉マンの場合――
『志々雄を捜すんだぁ! たけすぃの仇を取るんだぁ〜〜!!』
仲間の超人の死に、あれだけ大泣きしていたキン肉マンだ。
今もラーメンマンとたけしを殺害した(と推測する)志々雄への怒りを滾らせていることは間違いない。
ミサについては問題ないだろう。彼女は月と自分以外のことについては、あまり感傷的にはならない。
そして考えなければいけないことはまだある。
藍染惣右介について。
『初心』によって飛ばされたポイントがどこかは分からないが、もし近場――関西付近なら、間違いなくLたちを追って報復にくるはず。
相手の力量が読めぬ以上、接触は避けたい。そのためには一刻も早く関西から離れたいが、キン肉マンが納得してくれるかどうか。
なにしろ志々雄真実はまだ生きている。たけし死亡の詳細を知るため、また仇を取るためにも、キン肉マンは捜索の続行を望むはずだ。
(ミサさんの時のように、『首輪を解除した可能性がある』と言うのは無駄でしょうね……)
次の一手についても悩みものだったが、それよりなにより、悲しみにくれる二人をどうにかするのが先決だった。
さて、どうするべきか。とLが決めかねていた矢先、ミサが逸早く二人に声をかけた。
「大丈夫だって〜! きっとその緋村さんやナルトくんやタケスィーくんって人たちも、月みたいに首輪の解除に成功したんだよ、うん!」
思わず、「あ、ばか……」と声を漏らしそうになった。
それでは駄目なのだ。その言葉では、今の二人――というよりもセナか――は納得してくれない。むしろやぶへびだ。
「……………………………」
セナの泣き声が徐々に収まっていき、涙ぐんだ瞳はゆっくりとミサの方を向いていく。
ミサはそのぐじゅぐじゅの顔に若干引き気味だったが、アイドルらしい満面の作り笑顔で応えて見せた。
向かい合った笑顔と泣き顔。先に口を開いたのは、セナだった。
「…………そんなわけ、ないじゃないですか」
か細い声で発せられた言葉は、一瞬の内に不穏を呼ぶ。
悲しげだった周囲の雰囲気はおどろおどろしく変化し、次第にキン肉マンも泣き止んだ。
「……放送で呼ばれた人は、みんな死んだんだ。進さんも、緋村さんの知り合いだった薫さんや斉藤さんも、
ヒル魔さんもナルトくんも緋村さんも! キン肉マンの仲間だったラーメンマンもちゃんと死んでた……
だからちゃんと名前を呼ばれた! ミサさんの彼氏だっていう月さんも……死んだから名前を呼ばれたんだよ!」
か細い声は一転して大声へと変わり、少年を激しく興奮させた。
そして……少女もまた。
「…………やだなぁ、そんなわけないじゃん。だって月は天才なんだよ? あたしだけの王子様なんだよ? 首輪なんてチョチョイのチョイで……」
「Lさんにだって解除できないものを、そんなに早く解除できるわけないじゃないか!」
不穏な空気は更に濃度を増していく。
原因は激しい興奮状態に陥ったセナとミサ。
さっきまで泣いていたキン肉マンも二人を前に「あわわわ……」と声を漏らし、巨体を震わせていた。
「……ごっめーん、さっきの言葉やっぱり訂正するね。緋村さんもナルトくんもタケスィーくんも、きっと誰かに殺されちゃったんだよ。
そりゃそうだよね。月みたいに頭が良くて格好いいパーフェクトな人間ならともかく、侍とか忍者とか七歳児なんかに、首輪が解除できるわけないよねっ」
「……そうだよ。みんな、誰かに殺されたんだ。……緋村さんもナルトくんもたけしくんも、もちろん月さんも!」
「は? 何言ってんの君? ミサの言ったこと聞いてなかった?? ……『月は生きてる』。他の人と違って天才だから。神さまだから」
「死んだんだよ! だから放送で呼ばれたんだ!」
「死んでないよ。首輪を解除したから、主催者が死んだと勘違いしただけ」
「違う! 死んだんだ」
「だから死んでな…………」
「死んだんだ!」
二人の口論は、徐々にエスカレートしていく。
セナは過酷な現実に対し、我侭を言う子供のような視線で立ち向かった。その標的にされたのが、ミサ。
周囲を気にしていたミサ自身も、既にそんな心配は考えなくなり、ただ、感情の赴くままにセナを睨みつける。
Lとキン肉マンは――二人の気迫に圧倒され、ただ静観することしかできなかった。
「死んだんだ! 死んだんだ!! 死んだんだ!!! 放送で名前を呼ばれた人は全員、死んじゃったんだよォ!!!」
「っ……………………れっ」
セナは再び泣き出し、大いに喚いた。
声は周囲の建物に反響し、広範囲に響き渡っているだろう。近くに危険な輩がいないことを祈るのみ。
「みんな、みんな、みんな! 進さんも! 薫さんも! 斉藤さんも!」
「…………………………れ」
「ヒル魔さんも! 緋村さんも! ナルトくんも! たけしくんも! 月さんも!」
「…………………………れ」
「みんな、死ん」
「 だ ま れ ッ ッ ! ! ! 」
あまりの怒声に、電柱の上のカラスが飛び去った。
Lとキン肉マンもびっくりして腰を抜かし、尻餅をついてしまう。
その間も、ミサの怒りは収まらなかった。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙レッ!」
――ミサの心の中で『何か』が崩れ落ちる音がした。
ほとんど感情の勢いに身を任せ、ミサはセナの胸ぐらを掴む。
そして、間髪いれずに拳を振るった。
「がっ……」
セナの口から痛みを主張する声が漏れる。
が、ミサはそんなことはお構いなしに殴り続ける。
セナの頬へ。アイドルだというのに外面も気にせず、渾身のグーパンチで。
「月はねッ! その辺の人なんかとは全然違うんだから! Lなんかよりも頭がいいし、こんなウルトラマンみたいな奴なんかよりぜんっぜんっ、強いんだから!」
殴る。拳にありったけの怒りを込めて。
「他の人と一緒にしないで! あんたの知り合いはみんな死んだかもしれないけど、月は生きてるのよ! だって月なのよ!? ミサの旦那様になる人なんだよ!?」
ミサ自身、『月が首輪を解除した』というLの言葉を信じきれずにいた。
だからこそ、セナの言動が許せない。せっかく自分が希望を抱いていたというのに、この少年は、あろうことかその希望をぶち壊しにしてくれた。
「月が死ぬわけないでしょッ! ふざけたこと言わないで!」
「っ痛い……痛い……」
女性であるミサの拳など、それほど痛くはない。跳ね除けようと思えば、簡単にできる。
それでもそうしなかったのは、ミサの痛みを知ってしまったからか。自分と同じ境遇にいる彼女に、セナが同情してしまったからか。
「ええいクソッ! やめんかおまえら〜!!」
見かねたキン肉マンが、ついに飛び出した。
セナから無理やりミサを引き離し、羽交い絞めにする。
それでもミサの激情は収まらぬようで、身体を拘束されてなお、怒りの矛先であるセナに罵詈雑言をあびせる。
「あんたの知り合いなんて、みんな弱い奴ばっかなんだ! そんな奴らは月にも見放されて、どこかで可哀想に死んでいくんだッ!!」
アイドルの面影もない、醜く歪んだ形相が、そこにあった。
「あんたみたいな神を侮辱する奴は、みんな死ねばいい! キラの裁きにかかって、死ねばいい!」
「お、落ち着けお嬢ちゃん!」
「月は生きてる! 生きてるったら生きてる! 生きてるんだァァァァァァ!!!」
――弥海砂は生涯最高の声量で、そう断言した。
志々雄を捜すとか、『同行』を使って四国へ行くとか、そんな場合じゃなくなってしまったL一行。
Lは大阪の『ある場所』へと歩を進め、セナとミサは一言も喋らぬままその後をついていった。
キン肉マンは一番後方で、二人がいざこざを起こさぬよう監視する形で歩いている。
しかし参った。あの二人があそこまで激情に駆られるとは。
これでは仲間同士で信頼を得るなんて話どころではない。信頼どころか、このチームは瓦解寸前だった。
キン肉マンがいてくれたおかげで何とかセナもミサも大人しくしてくれているが、L一人ではどうなっていたことか。
悩みの種が尽きぬLはやれやれとぼやきながら、後方をチラッと振り返る。
セナは俯いたまま、暗いムードを漂わせて歩を進めている。
その歩みは弱々しく、時々小石に躓きそうになり、歩いているのがやっとという感じだった。
これはおそらく、ミサに殴られたことよりも大事な仲間を失った悲しみのショックが原因だろう。――L自身では、どうすることも出来ない問題だった。
対してミサはというと、アイドルとは思えない険しい表情のまま、しきりに何かを呟いている。
セナを睨みつけたりは知らなかったが、決して視線を合わせようとはしない。
と、なにを思ったか、突然身を屈め、道路脇に転がっていた小石を拾った。
そしてなんということか、路地を通りがかった野良猫に投擲。
あたりこそしなかったものの、野良猫は驚いて路地裏に隠れてしまった。
その光景を目にしたLとキン肉マンは、この怒りの感情に塗れた醜いアイドルに、少なからず恐怖した。
(まずい……非常にまずい)
セナはともかく、ミサの存在はチーム内の雰囲気を悪くするばかりだった。
打開するにはやはり、ミサを宥められる程の人間――月のような人格者が必要だ。
(だが……彼はもう……)
夜神月は死んでおらず、首輪を解除し生存している――僅か5パーセントの希望。
L自身、いくら月とはいえ、そんな短期間での解除は不可能――そう考えていた。
生きていてくれれば、嬉しく思う。キラ事件の決着もちゃんとした形で付けられるし、今のミサを任せるには月しか適任が思いつかない。
月以外に――ミサを救える人物はいないのだ。
歩くこと数分。道中ほとんど会話のなかったL一行は、目的地に到着した。
「……ここは駅?」
「そう。駅です」
会話をするのはキン肉マンとLのみ。セナとミサは依然として口を開こうとしない。
一同の目の前には、大都市大阪のものとは思えない簡素な駅舎と、果てしなく続く線路が広がっている。
第三放送でバーンが言っていた、日本列島を走っているという列車――その駅だった。
「ふむ……次の電車は上りが八時ですか……ちょうどいい時刻ですね」
「お、おいL。まさかおまえ、このまま列車に乗るとかぬかすんじゃないだろうな〜」
熱心に時刻表を眺めるLに対し、キン肉マンは心配そうに尋ねる。
関西にはまだ志々雄がいるはず。それを捨て置いて他の地方に移動しようなどとなっては、たけしの仇を討つ機会がなくなってしまう。
「いや、乗りませんよ。私がここに来た理由は他にあります」
「うん……えーと……列車に乗らないんなら駅でなにするっていうんだ? 駅弁でも食べんの?」
「いいですね、駅弁。大阪でしたらカツ弁当や浪花御膳、穴子やうなぎなんかも美味しいでしょうね……まあ主催者がそんなもん用意してくれているとは思いませんが」
「わたしは牛丼が食べたいのぉ……」
さりげなくムードが和やかになるような会話をしてみるも、後ろの二人からはなんの反応もない。
仕方がないか……とLはため息を吐き、さっさとここに来た目的を話すことにした。
「我々はここで、次に来る列車を待ちます。ただし、乗車はしません。あくまでも『待つ』だけです」
「? そんなことしてなんになるんじゃ? ひょっとして列車が見たいだけなんて言うんじゃ……」
「違いますよ。私の狙いは、『列車に乗ってやってくる乗客』との接触です」
「???」と首を傾げるキン肉マンに、Lは分かりやすさを考慮してさらに説明を進める。
「いいですか? まず、この名簿に注目してください」
Lはデイパックから支給された名簿を取り出し、キン肉マンの前に披露する。
死者の名には赤い印でチェックが記され、生存者と死亡者が分かりやすく判別できるようになっていた。
「これはあくまで、『名前』と今までに入手した『情報』を元にした推理ですが……現在生存者は41名。
その中で、日本人と思わしき名前の人物は『30人』もいます」
この人数には、キン肉マンの情報から日本を知っているというウォーズマン、名前からは分かりにくいが日本人であるというマミーやボンチューも含まれている。
「私たちを除いても『26人』……これだけ日本の交通システムを理解している者がいれば、一人くらい列車を使おうと考える人間がいるとは思いませんか?」
「な、なるほど〜〜! つまりLは、列車に乗って移動してくる参加者と会うために、ここで列車を待つって言うんだな〜〜〜……って、なんのために?」
「さらなる『仲間』の獲得、そして『情報』の入手のためですよ」
もちろん誰も乗っていないという場合も考えられる。だが挑戦してみる価値はある。
先の放送では、主催者が「雨が降る」と言っていた。それを見越して列車での移動を考える者も少なくはないだろう。
Lは駅舎内に備え付けられたベンチに座り、興味深げに訊いてくるキン肉マンに返答する。
「まず列車に乗っている人物がゲームに抗う者であれば、そのまま我々の仲間に迎えます。
もちろんそうでない者……ゲームに乗った参加者が乗り込んでいる可能性もあるので、その時はキン肉マン、あなたのお力をお借りします」
「おう! 任せておけ! そうだよねぇ〜仲間は大いにこしたことはないもんねぇ〜〜〜」
Lの妙案にほくそ笑むキン肉マンは、チラリと後ろにいる二人を見た。
依然として自分の世界に入り込んでいるセナとミサ……二人がこんな状態であればこそ、ムードを盛り上げる仲間は必要だ。
「それに狙いはもう一つ……次にやってくる列車は、西からの上り電車です。ともなれば、九州や中国地方……四国から乗り込んでくる者もいるはずです」
「おおっ! ということはまさかぁ……」
「……運がよければ、緋村さんが消息不明となった四国の状況を知っている者が乗車しているかもしれない」
「え、Lはそこまで考えていたというのか〜〜〜〜〜っ!!!」
どっひぇ〜と大袈裟に驚いてみるキン肉マンだったが、やはりセナとミサは反応を見せてくれない。
キン肉マンのオーバーリアクションが多少虚しさを残しつつも、Lは会話を進める。
「……もちろん、その四国の状況を知る者は……マーダーの可能性が高いです。何しろナルトくんや緋村さんは、放送では『死亡』と告げられているのですから」
(!!! え、Lぅ〜、そんなこと言って大丈夫なのか!?)
キン肉マンが小声でLに話しかけるも、心配したセナの反応は無いに等しいものだった。
挑発的な言葉に対してもこの態度。どうやら思ったよりも重症のようだ。
「……とりあえず、次の列車が来るまではここで待機です。みなさんも、それでいいですね?」
「は〜い………………ほ、ほら、セナとお嬢ちゃんも、は〜い…………」
事実上、賛成したのはキン肉マンだけだった。
セナとミサは肯定でも否定でもなく、ただ黙ったまま。
(はぁ……)
Lの口から、またため息が出た。
セナとミサのこの惨状。『同行』を使わない結果になったことは喜ばしいが、チーム内の雰囲気は最悪。希望も逃げ出してしまいそうだった。
本当にキン肉マンが居てくれなかったらどうなっていたことか。自分一人ではあの場面を止められず、もっと醜い争いに発展していたかもしれない。
それは……考えただけでも恐ろしい。
(願わくば、この状況を改善できるムードメーカーが欲しい……キン肉マン一人ではさすがに酷だ。小早川君の友人と言う姉崎さんという女性なら、あるいはどうにかなるだろうか)
とにかく、セナとミサの関係については完全に『お手上げ状態』。
世界最高の頭脳とはいえ、人間の負の感情までもはコントロールできないようだった。
そんなLの苦労も知らず、当の二人は未だ自分の世界を創っていた。
「……………………………………………………………………………………」
セナはひたすらに無言。
その胸中ではなにを考えているのか。
剣心たちを殺した殺害者への怒りか、なにも出来なかった自分への憤慨か、まだ生きている姉崎まもりの心配か。
「月は生きてる月は生きてる月は生きてる月は生きてる月は生きてる月は」
ミサは誰にも聞こえないような小声でそればかり繰り返し、腹の底では『月は死んだ』というセナに対して怒りを込み上げていた。
自分の中の絶対神を冒涜された恨み……ミサを包むドス黒い感情の矛先は、Lとキン肉マンを挟んだベンチの向こうに座る、セナに対して。
この感情が爆発しないことを、Lはただただ願った。
このアンバランスな関係は、今にも音をたてて崩れ落ちそうなほどに危うい。
これを修復するには、世界最高の頭脳の他に、別の要因がいる。
彼らはそれを、未だ見つけられずにいた。
【大阪府・駅舎内/2日目・朝】
【L@DEATHNOTE】
[状態]右肩銃創(止血済み)
[道具]:ナッパの荷物一式の中身(地図など。食料無し、水ペットボトル一本)
:デスノートの切れ端@DEATHNOTE
:GIスペルカード『同行(アカンパニー)』@HUNTER×HUNTER
:雪走り@ONEPIECE
:斬魄刀@BLEACH
:核鉄XLIV(44)@武装練金
[思考] 1:大阪駅で次の上り列車(八時着)を待つ
2:列車の乗客と接触し、情報交換。仲間に相応しい人物であれば、そのまま仲間に加える
3:現在の仲間たちと信頼関係を築く
4:沖縄の存在の確認
5:ゲームの出来るだけ早い中断
【弥海砂@DEATHNOTE】
[状態]中度の疲労、精神不安定(重症)
[道具]荷物一式
[思考]1:セナに対して殺意に近い怒り
2:月と合流する
3:夜神月の望むように行動
4:月は生きてる月は生きてる月は生きてる
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]顔面に軽傷、精神不安定(重症)
[道具]:荷物一式(食料残り1/3)
:野営用具一式
[思考] 1:不明(四国へ向かいたい?)
2:無力感
3:まもりとの合流
4:これ以上誰も欠けさせない
【キン肉スグル@キン肉マン】
[状態]健康
[道具]荷物一式
[思考] 1:大阪駅で次の上り列車(八時着)を待つ
2:列車の乗客と接触し、情報交換。マーダーであれば、撃退する
3:志々雄を倒し、たけしの仇を討つ
4:セナとミサを元気付けたい
5:ウォーズ・ボンチュー・マミー・まもりを探す
6:ゴン蔵の仇を取る
彼女の前には二つの扉。血塗られた修羅道へと続く、真っ赤な扉。光に溢れる日常へと続く、山吹色の扉。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『
……ではまた六時間後。
皆さんのご武運を、心よりお祈りしていますよ。
』
脳裏に響く、忌まわしい主催者たちの言葉。
その言葉は、屋内にいた三人に、三者三様の反応をもたらした。その声は―
(若島津って人が、死んだ?!殺された?!)
一人の少年には、警戒心を。
クールな態度を崩さないまま、取り出したのはラケット。後ろ手に隠すは、3個の飛礫。
「ムニャ……て、何だこの状況ォォォォォ?!って、お姉さん誰ェェェェェ?!」
一人の少年の眠りを覚まし。
「動くな、動かなければ、楽に殺してやる」
一人の少女に、その決意を取り戻させた。
それは、刹那の出来事。一瞬にも満たぬ間が流れ、交錯。
飛び退るように、新八が後ろに下がり。
斗貴子の脚より展開された、死神の鎌の一つが新八の右腕を深く抉り取り。
越前が打ち込んだ、数個の飛礫が、残り三つの死神の鎌により、空しく弾き飛ばされ。
一呼吸の間のあと、長方形の部屋の中。越前と新八は、斗貴子を中心とした点対称な位置に移動していた。
其々に向けられるのは、一対の切っ先。それは、戦乙女の装束。戦意の具現。処刑鎌、バルキリースカートのロボットアーム。
またも、静寂。それも、数瞬。
「イッッッッッッッッッッッデェェェェェェェェェェェェェェェェッッッッッッッッッッッッ!!なんじゃこりゃぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!」
静寂は、叫びによって破られる。と、同時に、斗貴子は全力でバルキリースカートを床に叩きつけ、反動で宙に舞う。
その姿は、まさに北欧神話のヴァルキリーのようで。死者を迎える、死神に似た姿を一瞬だけ晒し、そのまま二人の視界から消え失せる。夢幻の如く。
「上から来るぞ!気をつけろ!!」
「まだまだだね!!」
降り注ぐ、二対の処刑鎌。荷物を上に放り投げ。転がるように、いや、実際に転がりつつも、天より降りた死の腕をかわそうとする越前。
灼熱感。脇腹が裂け、鮮血が舞う。が、かろうじて致命の一撃を避けることには成功。
放り投げた荷物は身代わりとなり、文字通り八つ裂きに。その臓物である越前の支給品や、支給食糧の焼きビーフンをブチ撒ける。
そのまま転がりつつも新八の傍に行き、斗貴子を睨めつける。瞳に宿るは、涼しげで、それでいて強靭な、意志の光。
「ねぇ、違うと思うけど、アレが姉崎サン?」
「違うよ!姉崎さんは…なんというか、もっと母性に溢れた…そう、ヒロインみたいな人だよ!!」
「じゃぁ、あれは姉崎サンじゃないんだね」
「あんな地獄のテロリストなヒロインがいるかぁぁぁぁ!!あんなのが居たら、即打ち切りだよ!!最終回は赤丸ジャンプならぬ、革マルジャンプ行きだよ!!!」
「何言ってんの?」
「とにかく、アレは姉崎さんじゃない!地獄の偽乳特戦隊!!」
―似ている。
それが、斗貴子の感想。メガネの少年が、野球帽の少年が(何やら聞き捨てならない単語が聞こえた気がしたが)
彼らの瞳の奥に輝く、強い意志の輝きが、あの、若い…いや、幼い錬金の戦士と。
だからだろうか、先程、メガネの少年を、野球帽の少年を殺しきれなかったのは。
未だに、自分の中には迷いがあるというのだろうか。そんなものは、あの青年…クリリンを殺した際に、疾うに何処かへ捨てたはずなのに。
目まぐるしく互いの位置は入れ替わり。
扉を背にした斗貴子。窓を背にした、新八と越前。
翼を広げるかのごとく、バルキリースカートを拡げると、斗貴子は身体を沈める。
狩りが、はじまる―――
―――その前に、二人の少年は、またもや、転げるように窓から飛び出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
走る、走る、ひたすら走る。二人は走る、ただ走る。
琵琶湖に沿って走り、走る。血の道標を道程に刻んで、それでも。それでも逃げるために。命を長引かせるために。
逃げるために。仲間に、危険を知らせるために。仲間の命を、長引かせるために。
「アンタ、ドナウ川の水底みたいな色になってるよ、目が。乾センパイの特製ドリンク飲んだ連中みたいに」
「毒性ドリンク?ハハ…ウチの姉上じゃないんだから…」
「やっぱ、少し休んだほうがよくない?」
浅くない傷を負っているのは新八。深手の上での全力疾走。彼の右腕からは少なくない量の血が流れ、素人目にも危険なことは見て取れた。
先程の凶悪女が追ってきていないことを、それとなく確認し、小休止。力なく崩折れる新八を見て、かろうじて持ち出したマ○ロンと破いたTシャツで応急処置を施す。
気休めに過ぎないと分かってはいても、越前はそうせざるにはいられなかった。
「夢を…見てたんだ。姉上に会う夢を」
傷が熱を持ちつつあるのか、うわ言のように喋りだす新八。
「誰かが犠牲になって平和が戻ってくるのなら、そんなの安いものだって姉上は言ってた…」
口を挟むことなく、応急処置を続ける越前。もはや、誰かが聞いていようと聞いていまいとどうでもいいのか、新八の言葉は止まらない。
「だから、僕は言ってやったんだ。そんな平和、僕は認めないって」
「そんなの、オレだって認めない」
もはや、声が耳に届いているのかも定かではない。自分の腹にも端切れを巻きながら、それでも、越前は言葉を紡ぐ。
「オレだって、まだやらなきゃいけないことがある。俺が殺した子供に謝らなきゃいけない。守れなかった、竜崎のことも謝らなきゃいけない。
死んじゃった、乾センパイの分まで、青学を支えていかなきゃいけない。誰かのための犠牲になるなんて真っ平だ」
その言葉を皮切りに、新八の身体を担ぐ。体格の差は歴然。だが、それでも―
「オレのための犠牲もいらない。アンタが死ぬコトだって、認めない」
昨日、琵琶湖で会った連中、そのうち一人は警察官だといっていた。
ならば、ただの中学生に過ぎない自分よりも怪我の対処には詳しいだろう。
「生きて、帰ろう…新八サン」
大地を踏みしめ、彼等の逃避行は続く。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
斗貴子が直に少年たちを追わなかったのには、理由がある。
少なくとも、彼女はそうだと思い込んでいる。理由があるからこそ、あの少年たちを追わなかったのだと。
理由の一つ。それは、散弾銃。野球帽の少年に、ベッドの下に蹴りこまれたソレは非常に有用な武器だ。回収していかなければ、今後の行動に支障が出る。
理由の一つ。それは、彼女の左目に装着されたスカウター。これさえあれば、少年たちがどれだけ逃げようと、たちどころに捕捉することが出来る。
理由の一つ。それは、少年たちがいずれも手負いであるということ。傷を抱えたままでは、例え斗貴子がこの場で些か時間を費やしたとて、スカウターの有効範囲から逃れるは不可能。
ならば、万全を期すため。この場で散弾銃を回収し、彼等の体力が尽きたところで殺す。確実に、殺す。
(カズキ…こんな私をみて、君はいったいなんと言うのだろうな…)
完膚なきまでに堕ちた自分の思考を省みて、薄く笑う。己の顔の傷跡を、微かに擦りながら彼女の独白は続く。
(何が苦痛を与えずに、だ。結局、年端もいかない少年二人に傷を負わせ、あまつさえ好都合と考えている自分がいる。
全員を救うためといいつつ、やっていることは他人に不幸を振りまく蛮行。まるで、ホムンクルスのような、な。それでいて、覚悟が足りないために
あの少年たちに要らぬ苦痛を強いている…錬金の戦士としても、人間としても、もう、私にはキミの傍にいる資格は無いな)
彼女の前には二つの扉。血塗られた修羅道へと続く、真っ赤な扉。光に溢れる日常へと続く、山吹色の扉。
彼女が選ぶは獣道。死んで死なせて、殺して殺される畜生道。彼女が閉ざすは、焦がれて焦がれた、日常へ続く蜘蛛の糸。
ロボットアームが持ち上げられる。死の先端が、彼女の頬に触れ、そのまま、斜一文字に鮮血を散らす。
少女の貌に刻まれたのは、醜い一筋の傷跡。本来の傷跡とあいまって、彼女の顔には十字架のような紅が顕れる。
「これは、決別の証だ。カズキ…キミとの。望み続けた、平和な日常との。
もとより、私にそんな資格など無かった…でも!!キミの…クリリン君の…月君の…あの少年たちの…皆の日常は、必ず取り戻す!!」
行くのは、もう、戦乙女などではない。
戦いに赴くのは…征くのは、十字架を背負った、死神が独り。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「オイ、志村!」
―なんだ、No.2じゃないか。今まで何処に言ってたんだ?
「なんだじゃねーよッ!オマエこそ、今にも死にそうじゃねーか!!」
―そうだ!No2、姉崎さんも!!あの小屋に戻っちゃ駄目だ!地獄凶悪ミニスカ殺人少女にSATSUGAIされるぞ!!
「なんだその属性の数?!…て、すっかりオマエに毒されちまったな」
―寺門通ちゃんの魅力は世界を超えるんだ!!ならば、寺門通ちゃんファンクラブの我々の価値観が融合していくことなど、至極当然!!
今まで何を聞いてたんだ、No2!さぁ、素お通ちゃんコールを10セット追加だ!さぁ!L! O! V! E! お! つ! う!!はい!!
「ハハ、それだけ元気ならわざわざ来ることもなかったな」
―オイ、No2?!No2?!
「若島津だ…じゃあな、隊長。生きろよ」
―No2?
「誰がNo2だ、誰が」
―ゲゲェーッ!?No2が銀サンに!?てことは、何?これ走馬灯か何か?
「いや、悩めるオタク少年にアドバイスを…て、痛!お前、何殴ってんの?折角来てやった、皆の銀さんにヒドくない?!」
―悪・霊・退・散〜〜〜〜〜〜ッ!!僕はまだ死ねないんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「フフフ…この銀サンを退けても、第二、第三の刺客が…」
―なんかキャラ違くないですか?て、刺客ゥゥゥゥゥゥゥ〜〜?!
神楽ちゃん?冴子さん?って、キャサリンお前はまだ死んでねぇだろぉがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!
というか、お登瀬さん!アンタ、年が年だけに洒落になんねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!何コレ?イジメ?!志村新八握手会か何か?!
「新八…どれだけのヤツが、オマエに生きていて欲しいと思っているか…よく考えて、そして背負えよ」
―銀サン?カッコつけるのはいいけど、この長蛇の列をなんとかしてからいけぇぇぇぇぇぇッ!!!銀サン?!銀サン?!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
越前に背負われ、朦朧とした意識で歩くは、侍の血を継ぐ少年、志村新八。彼の瞳から、一筋の涙が流れた(心労で)
【滋賀県〜京都府 朝】
【志村新八@銀魂】
[状態]:重い疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。上腕部に大きな切傷。
顔面にダメージ。歯数本破損。朦朧。たんこぶ多数。出血多量。
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)
毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
[思考]:1、半覚醒
2、若島津との合流(眠っていたため、若島津の死亡宣告は曖昧な認識)
3、藍染の計画を阻止。
4、まもりを守る。
5、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
6、主催者につっこむ(主催者の打倒)。
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:非親衛隊員。重い疲労。脇腹に、軽度の切傷
[装備]:線路で拾った石×1
[道具]:マキ○ン
[思考]:1、新八を死なせたくない。なんとか出来る人物を探す。
2、藍染の計画を阻止。
3、情報を集めながらとりあえず地元である東京へ向かう。
4、乾の死を悼む
5、落ち着くまで、新八に若島津の死は伝えない
6、生き残って罪を償う
【滋賀県 琵琶湖畔の小屋/朝】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:肉体的、精神的に軽度の疲労。左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました)
顔面に新たな傷、ゲームに乗る決意:核鉄により常時ヒーリング
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険、 ショットガン
真空の斧@ダイの大冒険、首さすまた@地獄先生ぬ〜べ〜、『衝突』@ハンター×ハンター、
子供用の下着
[思考] 1:少年らを追跡、殺害
2:参加者を減らし、ピッコロを優勝させる。
3:友情マン、吸血鬼を警戒。
4:もう知り合いには会っても躊躇はしない。
193―201は無効です。
仙道、香の二人は静岡が封鎖されているため、山梨を脱した後、長野を経由して道らしい道の無い山道を進んでいた。
「やっぱり、山道は大変ね。このペースでは滋賀県までたどり着くのはかなり遅くなりそうよ。」
「大丈夫ですよ。名古屋まで行けば駅があります。電車を使えば時間を短縮できると…」
と、会話の途中だったが、ここで放送が入り、死者及び禁止エリアの確認のため、しばしの間足を止める。
――良い朝だ、諸君。
ではこれより余が定例の報告を行うとしよう、聞き逃さぬように。
まずは脱落者からお伝えしよう。
「―――蘇妲己に竜吉公主。マーダーも脱出派も一人ずつ減ってしまいましたね。」
「ええ。全体の人数も3分の1にまで減っているわ。さっさと仲間を見つけて合流しないと、殺した参加者の支給品を強奪して装備を固めたマーダーに殺されかねないわね。」
この二人の仲間は一日目を終えた時点で既に全滅した。今の彼らに放送を聞き、悲嘆に暮れるような人物は洋一を除けばもはや存在しなかった。放送が終わり、名簿へのチェックが終わると再び行動を始める。
とはいえ、香は足を捻挫していて早く行動する事ができない。何とか岐阜県を越えた頃には放送から1時間が経過していた。
「香さん。大丈夫ですか?まだ名古屋市内に着くまで距離があります。少し休みますか?」
「大丈夫よ。電車がいつ来るのかも分からないし、仙道君に迷惑をかけるわけにもいかないわ。」
仙道は香の体が悲鳴を上げている事に気付いてはいたが、本人の熱意によって、名古屋への行軍続行を決意した。
だが、両者とも殆ど休息をとっていないうえにろくに整備もされていない山道を満身創痍の体で通り、仙道ですら息を切らし、香は足を引きずりながらも、なんとか名古屋にまで到着した。
「やっと着いた…あ、そうだ。電車の到着時刻は…と。午前九時。後1時間ほどか。よかった。間に合ったか。」
そう呟くなり、仙道はプラットフォームのベンチに倒れるようにもたれ掛かった。いくらスポーツマンの仙道でも、こう連続で動き続けていては体力が持たない。電車が来るまでの間、少し座って休んでおくつもりだ。
香も少し眠りはしたが、精神的にも肉体的にも疲れ果てていた。だが、ここで眠ってしまってはもしかしたらマーダーに襲われるかもしれない。
必死で眠気を堪え、仙道の隣に座る。
でも、どうやって1時間を潰そうか。う〜ん。やっぱり、話でもするしか無いわね。
「仙道君。まだ起きてる?」
「起きてますよ。何もしないまま死にたくはありませんから。向こうに着くまでは何が何でも目を開けておくつもりです。」
仙道も同じことを考えていた。いくら疲労が溜まっていても、安全地帯に行くまでは眠るわけにはいかない。ここで寝る事は雪山で寝るのと同じくらい危険だと思っている。
「ねぇ、そろそろ“六芒星の呪縛” を使ってから24時間経つわよね?」
「えぇ、前回使ったのが8時の終わりくらいでしたから、そろそろ復活するはずです。」
「そう。だったら問題ないわ。もし、9時以降に使ったのだったらキケンな電車の旅になりそうだったから。」
(電車がここに来るのは9時。それにマーダーが乗っている可能性もある。一方でこちらの武器といえば仙道君のカードのみ。それが使えなかったらこっちの負けは確定だったわね。よかった…)
暫くの沈黙…ただ、極度の疲労により、やって来る汽車を待っているだけの無気力状態…これでは精神まで萎えてしまう。そう思った仙道は何か話題を探す。
「…香さんはどう思っていますか。脱出について。」
「え?どう…って?」
「え、えーと、例えば、首輪を外して元の世界に戻りたい。とか、みんなで主催者を倒して、仇を討ちたいとか。」
(しまった。俺は何を考えてるんだ。香さんに辛い事を思い出させてしまったじゃないか。)
拳で自分の頭を殴りながら恐る恐る香の方を振り向いた。だが、予想に反して彼女の目に涙はなかった。
「私は…ひとりリョウ達のいない世界に帰ったところでしょうがないと思ってるわ。
力の無い私にできることは何も無いのかもしれない。ただ、紙屑のように散っていくのが運命なのかもしれない。
だけど、何か私にできること。どんな小さなことでもいいから何かできることがあるなら、私は、主催者達と戦う。」
(香さんはとても綺麗で、どこか悲しそうな目をしていた。俺は、こんな強くて綺麗な女性を見たことが無い。もしも、昨日の化け物みたいに香さんに手を出すような奴がいたら、俺はそいつを許さない。徹底的に潰してやる!)
がたんがたん、がたんがたん
名古屋の町に電車がやってきた。丁度日本の中心地のため、上りの方からも電車はやって来ている。だが、あくまで仙道たちが行くのは琵琶湖。
向こう側の電車の事は考えない。
電車は寸分違わず、ホームに止まり、その後、
ゆっくりと、ドアが開いた―――
【愛知県名古屋市/駅/午前】
【仙道彰@スラムダンク】
[状態]:眠気、疲労大、負傷多数(致命傷ではない)。軽度の火傷。太公望から様々な情報を得ている。
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:支給品一式(食料一日分消費)
遊戯王カード
「真紅眼の黒竜」「光の護封剣」「闇の護風壁」「ホーリーエルフの祝福」…二日目の真夜中まで使用不可能
「六芒星の呪縛」 五光石@封神演義、トランシーバー×3(故障のため使用不可)、兵糧丸(3粒)@NARUTO
[思考]:1、何があっても香を守り抜く
2、琵琶湖、四国と巡り、太公望の仲間と接触。太公望からの情報を伝える。
3、追手内洋一を探す。
4、首輪を解除できる人を探す。
5、ゲームから脱出し、仲間とともに主催者を倒す。
【槇村香@CITY HUNTER】
[状態]:眠気、疲労小、右足捻挫。少し走れるほどには回復した。太公望から様々な情報を得ている。
[装備]:ウソップパウンド@ONE PIECE
[道具]:荷物一式(食料三人分)、アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険 (弾切れ)
[思考]:1、琵琶湖、四国と巡り、太公望の仲間と接触。太公望からの情報を伝える。
2、追手内洋一を探す。
3、首輪を解除できる人を探す。
4、ゲームから脱出し、仲間とともに主催者を倒す。
ポルタを殺したKは、タカヤに向き直った。
「これからが、本当の地獄だぜぇぇぇ」
「おいおい、スマートに行こうや!!」
「な、何ぃぃ!!!」
Kが振り向くと、そこには死んだはずのポルタと一人の少年が立っていた。
「お、お前は、真備!!!」
四帝王の一人、魔界最強のサイコ・ライター吉備真備。
領域『Dr・サイコ・フォース』は全てのモノをよみがえらせることができる。
「…というは奴も来ているのか」
四帝王の最後の一人が、真備の背後から姿を現した。
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
『 ……ではまた六時間後。
皆さんのご武運を、心よりお祈りしていますよ。 』
嘘だろ。
何がショックかって、アイツの名前が呼ばれたことだよ。
別にアイツが死のうが生き残ろうが俺には関係ねぇ。
でも、心のどこかで絶対に生き残ると思ってたんだ。
俺はアイツの強さを知ってるから。
『リーダー』はいけ好かねぇけど、アイツは強かったから。
だからアイツが死ぬなんて信じられなかったんだ。
「これが『弱肉強食』だよ、マミー」
まただ。
またDIOが俺に話しかけてきやがった。
ムカツク。コイツがなんか喋るごとにカチンとくる。
できることなら同じ部屋なんかには居たくねぇ。同じ空気も吸いたくねぇ。
「フフフ……隠しても分かるぞ。知り合いが死んだのだろう? 『たけし』。放送で呼ばれた最後の名に、おまえは確かに反応した」
「…………」
「『たけし』というのはよほど親しい友人だったのか? 今のおまえの瞳、まるで『旅行に行く際、友人に預けたインコを死なされた愛鳥家』のようだぞ」
……やっぱコイツの言動は何度聞いてもムカツクな。
ワケわかんねぇところとかマジにムカツク。
放送終了後、ほどなくしてウォーズマンが帰還した。
「ご苦労ウォーズマン……そうか、手に入ったのは腕だけか。これだけでは半身の治癒には至らないが……まあいいだろう」
手土産はDIOが指定したとおりの女の両腕。昨日喰らった女格闘家のものらしい。
新拠点の候補については琵琶湖付近の小屋が挙げられた。が、まだ移動はしない。午前中に、『追っ手』がやって来ないとも限らないからだ。
「これでいいかなAYA? 女性の腕にしては少しばかり筋肉が発達しているようだが……それとも、せっかくなら『西野つかさ』の腕がよかったか?」
「いえ、無駄な気遣いは無用よDIO。私には、これで十分……」
どこか悲しげな瞳を落としながら、AYAはウォーズマンから両腕を受け取った。
これが新たな自分の右腕となる。なんだか変な気分だった。
右腕をなくし、吸血鬼になり、こんなにも簡単にまた右腕が手に入る――
つくづくこの世界は異常なのだと思える。
(感謝してよね……西野さん。あなたみたいな普通の人間は、こんなところにいちゃいけない。
あなたは死んで、あとで生き返る。私はあっちの世界で真中くんと一緒。これが、お互いにとって一番の幸せなの)
放送で確かに呼ばれたその名に、AYAは少なからず心を痛めていた。
吸血鬼になったとはいえ、ヒトの心を全て失ってしまったわけではなかったから。
吸血鬼とは、実に恐ろしいものだ。
失くした右腕をいとも容易く取り戻し、他人から命を奪う忌まわしき存在。
反吐が出る。
なんじゃそら。
マミーは、吸血鬼が嫌いだった。
DIOもAYAも、おかしな力を使う奴はみんな。
「マミー、人間は何のために生きるのか考えたことはあるかね?」
DIOの声質が嫌いだ。
DIOの言葉が嫌いだ。
DIOの語りが嫌いだ。
「『人間は誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる』
名声を手に入れたり人を支配したり、金儲けをするのも安心するためだ。
結婚したり友人を作ったりするのも安心するためだ。
人のために役立つだとか愛と平和のためにだとか、全て自分を安心させるためだ。
安心を求めることこそ人間の目的だ」
DIOの喋りが嫌いだ。
DIOの申し出が嫌いだ。
DIOの全てが嫌いだ。
「そこでだ……私に仕えてみないか? 私に仕えるだけで他の全ての安心が簡単に手に入るぞ」
「…………」
「今のおまえのように死を覚悟してまで私に挑戦することの方が不安ではないかね?
おまえは優れた人間だ……意地など張らず、私に永遠に仕えてみないか? 永遠の安心感を与えてやろう」
――こいつ、とうとう本性現しやがった。
「――安心なんて、クソくらえさ」
――ようするに、俺を利用したいんだろう? だから俺を殺さず、あんな回りくどい方法取ってきやがった。
――そして今度は正攻法で誘ってきやがった。誰が乗るかっつーの。バーカ。
「ククク……そういうと思ったよ、マミー。なに、気にしないでくれ。気まぐれで言ってみたまでさ……」
――どうだか。
マミーはつくづくDIOが嫌いだった。
こんな奴、とっとと殺してしまいたい。だがまだ機会は訪れない。
マミーは辛抱強い方ではなかったが、軽率な行動が死を招くことくらいは心得ている。
今はまだ――その時ではない。
「なぁ、DIOよ」
「なんだね」
珍しく、マミーの方から話しかけてみた。
「吸血鬼がスゲーってのは、アンタに会ってよく分かったよ。簡単に傷を修復したり、他人から血を吸ったりする……マジでバケモンだ」
「分かっているじゃないかマミー。人間にはない『魅力』があるだろう? なんなら、おまえもなってみるか? 吸血鬼に」
「だがな」
マミーはDIOが嫌いだ。
だから馴れ合うこともしない。
どうせいつかは殺し殺される関係。
「俺は……『悪魔』に勝ったことがあるぜ」
嘘ではない。
たけしやボンチューと共に赴いた魔界での激闘――マミーは既に、人外の敵を葬ってきた経験を持っている。
だからDIOや吸血鬼に恐れることなどなにもない。
いつか必ず殺す。
この信念は、たけしが死んでも揺るがない。
「…………おもしろい!」
DIOは嘲笑ではなく、純粋な笑みをこぼした。
マミー。やはり殺すには惜しい。
スタンド使いではないが、スタンド使いにも負けぬ『気高き精神』を持っている。
DIOを恐れぬその精神。その牙は誰に向けられるのだろうか。
「それはそうとDIO……これからまた日が照らし出すけど、私たちはどうするの?」
心配そうにAYAが尋ねる。
時刻は既に六時を回った。吸血鬼が嫌う太陽はとうに顔を出し、これからの活動を制限することだろう。
「そうだな……参考までにAYA、君は昨日の日中、どうやって過ごしていたのだね?」
「私はずっと洞窟に隠れていたわ」
「賢明だな。太陽は我々にとって忌むべき存在……だがこの二日目は、その太陽も幅を利かせてはいられぬようだ」
「どういうこと?」
首を傾げるAYAに、DIOはフフフと笑みをこぼした。
「『雨』さ。主催者が言っていただろう? 『天候が安定しない』と。
私の予測では、午前中の天気かなり荒れる……それこそ『雲で太陽が隠れるほどに』な」
そう。太陽さえ隠れてしまえば、夜であろうと昼であろうと関係ない。
「しかし危険じゃないかしら。主催者が嘘をついているとも限らないし、その雨もいつ急に止むか分からないわ」
「その通りだAYA。個人の勝手な決め付けに、完璧に身を委ねてはならない。
動くのはあくまで『午前中』。それも付近を散歩する程度だ。
……なーに問題はないさ。『雨は必ず降る』。その時こそ……再び我々の時間が到来するのさ」
小屋の外では、既に暗雲が立ち込めていた。
間もなく、夜にも近い闇が訪れる。
太陽を隠し、吸血鬼を歓迎する闇が。
午前中という限られた時間。
その短い時間に訪れるであろう激闘の予感を信じ――DIOは震えた。
(追って来いケンシロウ。このDIOは逃げも隠れもしないぞ)
果たせなかった決着は、もうすぐつく。
今度は万全の体制で迎えてやろう。
DIOと、DIOのスタンド『世界』が――。
【愛知県と長野県の境・山中の廃屋/朝】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:忍具セット(手裏剣×7)@NARUTO−ナルト−
[道具]:荷物一式(食料の果物を少し消費)
[思考]:1.太陽が隠れる午前中を利用し、『狩』を行う。
(活動範囲は隣県程度まで。雨が止んだら帰還。ケンシロウが来たら迎え撃つ)
2.綾、ウォーズマン、マミーを利用する。
【東城綾@いちご100%】
[状態]:吸血鬼化。波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた。ちょっとブルー。
[装備]:特になし
[道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[思考]:1.DIOと共に行動。
2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
3.DIOに協力する。
4.真中くんと二人で………。
【マミー@世紀末リーダー伝たけし】
[状態]:極度の怒り
[装備]:フリーザ軍戦闘スーツ@ドラゴンボール、手裏剣@ナルト
[道具]:荷物一式(食料と水、一食分消費)
[思考]:1 DIOを殺す。それまでは絶対に死なない。
2 強者に君臨するため、もっと強くなる。
3 誰が相手でも殺られる前に殺る。
4 誰が相手でももう絶対にビビらない。
【ウォーズマン@キン肉マン】
[状態]:精神不安定・体力微消耗
[装備]:燃焼砲@ワンピース
[道具]:荷物一式(マァムのもの)
[思考]:1.DIOに対する恐怖/氷の精神 *
2.DIOに従う。
* 氷の精神には極小だが亀裂が入っています。
気が付くと、アビゲイルは暗い道を歩いていた。
周りを見渡しても、誰もいない。何も見えない。
そして、歩く道の先には、さらに冥い、巨大な何かが蠢いていた。
あれは・・・まさか、破壊神アンスラサクス!?
そう思ったとたんに、その影はみるみるとその姿を変えてゆく。
そして、気が付けば、そこには最初からそうであったかのように、破壊神・アンスラサクスの姿があった。
なぜか、その物体は、アンスラサクスそのものである、という、奇妙な確信が持てる。
そしてアビゲイルは気付いた。
これはただの夢なのだと。
あの冥い物体は、ヘルマン・ロールシャッハの示した不規則図形と同質のものだ。
そう気付けば、かの忌まわしき破壊神も、何のことは無いオブジェも同然。
私としたことが、とんだチープな夢を見るものだ、と己を嘲笑する余裕も出る。
そこで、アビゲイルはもう1つのことに気付いた。
そして、背筋が薄ら寒くなる錯覚を覚える。
私が夢を見ているということは、
私は眠ってしまっている!
* * * *
アビゲイルはハッと眼を覚まし、周りを確認した。
もう夜は明けている。時間は早朝・・・放送直前といったところか。気付かぬうちに眠ってしまっていたらしい。
昨夜は狂気の戦士・斗貴子との対峙で、これまでに蓄積していた疲労が限界を超えたようだ。以前では考えられないことだが、魔素の薄いこの世界の影響なのかもしれない。
いつ何時敵に襲われるかもしれないこの現状で、無防備に眠ってしまうとは、不覚極まりないことだ。しかし、だからこそここで充分な休息をとれたことは、今後を見越せば大きな意味があるだろう。
横に眼をやると、サクラは既に名簿と鉛筆を手にしている。どうやら独り眠らずに、絶えず周囲を警戒していたらしい。流石はガラと同じ、忍者を自称するだけのことはある・・・
と、サクラが、私が起きたことに気が付いたようだ。
「あ、おはようございますアビゲイルさん。」
「おはようございます。うら若き女性を差し置き惰眠を貪ってしまってお恥ずかしい限りです。」
「いえ、アビゲイルさんは怪我も酷かったし、私はあんまり疲れていませんでしたから、お気になさらないでください。」
「そう言っていただけると恐縮です。おかげさまで大分身体も休まりました。」
――良い朝だ、諸君。
そして、会話を続ける間もなく、放送が始まった。
今回の脱落者は不運にも自分の知るものが多く含まれていた。うずまきナルト、乾貞治、鵺野鳴介はサクラから聞いた名であったし、桃白白はブルマ、トレイン・ハートネット、イヴ、スヴェン・ボルフィードはリンスの、それぞれのもと居た世界にいた人物だった。
特にトレイン、イヴ、スヴェンは、リンスの話では各人特殊な能力をもった実力者であったそうなので、実際に会うことができず残念だ。
その後のフリーザの禁止エリア等の話を聞きつつ、出発の準備を始めようとする。
と、ふと気付けば、サクラの様子がおかしい。
動き出すわけでもなく、虚空を見つめ、放心しているように見える。
「サクラさん、お仲間が亡くなられた様で心中御察しします。しかし今は心を鬼にして、一刻も早くこのゲームを終わらせる為に行動を開始致しましょう。」
「・・・」
「サクラさん?」
「あ、すいません、そうですね、早く移動できるように準備を・・・」
アビゲイルの知識では、忍者の特徴はその戦闘能力だけでなく、徹底されたその行動理念にある。目的を達成する為には、あらゆる手段を講じる精鋭集団。
相手と一対一で戦う騎士道精神が尊ばれた時代にあって集団戦法や暗殺術を用い、仲間の犠牲があっても非情に徹して任務を遂行する。そしてその強靭な精神力は、このような極限状態を生き抜く上では、この上ない武器になり得るだろう。
これまでのサクラを観察する限り、彼女は忍者としては申し分ない能力を備えている。軽い身のこなし方や体力、応急治療の技術や冷静な思考力、そして特殊な治癒能力と、どれをとっても忍者としては充分な水準に達している。
そして、忍者である彼女にとって、今は仲間の死に悲嘆する間を惜しんで行動することこそが彼女に求められる行動のはずだ。
鍛え上げられた忍者ならば、それに必要な精神面での鍛錬も積んでいるに違い無い。
だが、今、サクラは、明らかに仲間の死に対する動揺を隠し切れずにいる。
顔色は蒼白、筆記用具を鞄に戻すその手は微かに震えているようだ。
その手から参加者名簿がするりと滑り落ちた。
アビゲイルの足元に舞い落ちたその名簿の、うずまきナルトの名前は、未だ消されてはいなかった。
冷酷な忍びが仲間の死にここまで心を乱される筈は無い。では、何故こうもはっきりと動揺するのか・・・
最初に思い浮かんだのが、その者が『仲間以上』の存在だったのではないか、という可能性だ。
「・・・サクラさん、失礼ですがこの ”うずまき ナルト” という方は・・・あなたの恋人か何か、大切な方だったのですか?」
「ば、馬鹿なこと言わないでください!!あんなデリカシーの欠片も無い奴、死んでせいせいしたってもんですよ!」
力いっぱいに否定するその声は、少しうわずって、震えている。
「アイツとは昔からの腐れ縁でしたけど、いっつも私達の足引っ張って、サスケ君と喧嘩ばかりして・・・」
どうやら私の推測は外れてはいなかったようだ。そして迂闊だった。藪蛇とはまさにこのことだ。
「それより仲間の乾さんと鵺野さんが亡くなって、両津さんが心配です。両津さんと合流するためにもすぐにでも四国に向わないと・・・」
精一杯の元気を搾り出しているその様が、痛ましい。居た堪れなくなり、サクラの言葉を遮る。
「申し訳ない。失言でした。これで涙をお拭きになってください。」
「えっ?」
差し出したハンカチの意味を、サクラはすぐには理解できないようだった。
そして、今気付いた、という様子で頬を拭うサクラの眼からは、大粒の涙が無数にこぼれ落ちていた。
「あれっ、おかしいな、悲しくなんか無いのに、悲しんでる暇なんか無いのに・・・」
涙を見せまいと、荷物をまとめて歩き出したサクラの肩は、背中越しに小刻みに揺れているのがわかる。
「悲しくなんか・・・ナルト・・・私・・・」
「サクラさん・・・」
声をかけようとしたが、止めた。
かける言葉が無いとはこのようなことを云うのだ。
その後、サクラとアビゲイルの2人は名古屋駅に向った。一刻も早く四国に行き、両津と合流したいという、サクラの希望だった。
サクラは気丈に振舞ってはいるが、最初に出会ったときのような、健やかな力強さには陰りが見える。
幸いにも駅は名古屋城の近くにあった。しかし、時刻表を見ると、次に電車が来るのは9時。まだまだ時間がある。
そこで、サクラに自分の計画を伝えることにした。
「サクラさん、私から提案があるのですが・・・電車が来るまでの間に、行きたい場所があるのです。」
「えっ?確かにまだ列車が来るには早いですけど・・・一体どちらに?」
「まずはこれをご覧ください。」
言うなり、大型の懐中時計のような、レーダーを取り出す。
「私のこのオリハルコンレーダーが、参加者に支給された『オリハルコン』という貴金属の在り処を察知できるということは、昨晩に述べたとおりです。そしてこの名古屋の、比較的近い場所にその反応があるのです。」
「でも、その反応の場所に、オリハルコン”だけ”があるとは考えにくいんじゃないですか?むしろ、その持ち主がいる可能性のほうが高いんじゃ・・・」
「おっしゃるとおりです。ですが、それはつまり、相手に気付かれずに相手に近づけるということになりますね。」
「まさか・・・こっちから攻撃をしかけるんですか?」
「いいえ。相手がどれほどの戦力を持っているか分からないまま打って出るなど、愚の骨頂です。」
「じゃあ、どうするつもりなんですか?まさか、ただ見るだけって事は・・・」
「ズバリ、その通りです。」
解せない、というサクラをさておき、アビゲイルは説明を続ける。
「このオリハルコンレーダー、それぞれの光点に番号を振り、記憶させておくことができます。ご覧ください、今、7個の光点がありますね?
このそれぞれに番号を振ります。」
そしてアビゲイルがスイッチを押す。それぞれの光点に番号が浮かぶ。
@:アビゲイルの持つディオスクロイ
A:サクラの持つマルス
B:まもりの持つハーディス
C:ダイの持つクライスト
D:欠番
E:斗貴子の持つダイの剣
F:承太郎の持つシャハルの鏡
G承太郎の持つ双子座の聖衣
H:ケンシロウの持つフェニックスの聖衣
I:ボンチューの持つ蟹座の聖衣
J:聖矢の持つペガサスの聖衣
(注:当然、アビゲイルとサクラが見ているのは番号だけである)
「この@が私の持つこのトンファー、Aがサクラさんに渡した拳銃です。そして、Eが、昨晩お会いした斗貴子さんの持つ剣の反応になります。」
「! それって・・・」
「そう、このレーダーがあれば、オリハルコンを持つもののおおよその動きが判るのです。」
「!!・・・すごい。」
「例えば、このB、C、Jは、昨日は別々の場所にあったのが、今は1つにまとまって動いています。これが意味するのは、複数の参加者が行動を共にしているか、強力なマーダーが参加者の持ち物を奪いながら行動しているかのどちらかです。
・・・おや、Jが少し離れましたね。どうやら前者が正解のようです。
それと、昨日あったDの反応が無くなっているのですが・・・これは何があったのかは理解しかねます。」
サクラは感心しながら、アビゲイルの説明を聞いているようだ。
「そして、これらの情報に、反応を示すアイテムの持ち主の情報が合わされば、さらに大きな意味を持ちます。
つまり、このEの反応には迂闊に近づくべきではないし、逆にこのA、B、Jには積極的にアプローチをかけるべきだと判るわけです。
まぁ、集団行動するものが脱出派だというのは、その可能性が高い、というだけで警戒は必要ですが。」
「アビゲイルさんがおっしゃることはわかりました。つまり、近くにあるこのGの反応源を特定できれば、以後の危険がぐっと減らせる、というわけですね?」
「ご名答です。例えばアイテムの持ち主が変わったりするだけでも、色々と推測する材料になり得ますからね。
我々の目的は、あくまで偵察。接触や、ましてや戦闘などではありません。そして、9時までにこの名古屋駅に戻り、列車に乗る。そして、サクラさんの希望通り、四国を目指すのです。」
「・・・わかりました。じゃあ、私もご一緒します。万が一戦闘になったら、2人のほうがいいでしょうし。」
「・・・痛み入ります。」
そして、2人でオリハルコンの反応のある地点へと向うことになった。
しかし、アビゲイルがサクラに伝えなかった険難事項が2つある。
まず1つは、サクラの精神状態について、である。
今のサクラは、悲しみを見せまいと気張ってはいるが、アビゲイルが判断するに、昨夜までの緊張の糸が外れてしまっている。厳しい見方だが、とても戦闘をこなせる状況とは言えない。
そして2つ目は、列車にマーダーが乗っている可能性である。一度に2便の列車が駅に集まり、さらに名古屋駅から列車に乗ろうとするものが自分達以外にもいるやも知れない。
そのような危険な場所に、今のサクラを無防備に招き入れるのは余りにも危険だ。少なくとも、列車と駅の安全を確認した上で列車に乗り込まなくてはならない。
アビゲイルの希望としては、このオリハルコン反応を示す地点に信頼に足る人物が居り、その者と共に行動し、サクラの危険を少しでも減らすことであるが・・・それがかなり淡い希望であることは、アビゲイルも理解している。
(私としたことが・・・なんと無力。なんと無様なことか。)
アビゲイルは人知れず無力感を噛み締めていた。この世界に来て、3人の女性に出会った。しかし、そのうち2人は自分の目の前で絶命し、1人は悲しみに暮れている。
(こうして行動するうちに、サクラさんの気が紛れれば良いのだが、そう上手くもいくまいな・・・女性の扱いに長けたDSならどうするだろうか・・・?)
だが、アビゲイルはそこでその思考を止めた。そのDSとて最早この世にはいないのだ。
* * * *
名古屋東部。昨夜、ケンシロウとDIO達が闘った場所から、少し離れた森の中。そこに、ケンシロウと洋一が身を隠していた。
ケンシロウは、眠りはしないものの、静かに身体を休めている。その傍らでは洋一が寝息を立てている。
北斗神拳を極めたケンシロウと違い、洋一はただの高校生である。しかも、火傷や銃創やらと傷だらけで、ここまでほとんど休み無しだったという。その洋一を気遣って、ケンシロウは朝まで休息することにしたのだった。
朝になれば吸血鬼のDIO達の行動も制限され、洋一を託せる人物も探しやすくなるはずだ。
ケンシロウの心は、高ぶる感情に打ち震えていた。
先ほどの放送で告げられた名が、その原因である。
西野つかさの名が告げられた時は、己の無力さ、DIO達への怒りが湧き上がった。
だが、その直後にあり得ない人物の名が告げられた。
――治、ラオウ、アミ――
「ラオウ、だと!馬鹿な!!」
世紀末覇者にして拳王、我が宿敵にして実の兄、ラオウ。そのラオウが自分と出会わずして果てるとは。
そして、あのラオウに謀殺や不意打ちは通用しない。
ならば、考えられることは一つ。
ラオウを屠るほどの猛者がいる、ということだ。
ラオウを倒した者とは一体誰なのか。ラオウとの決着が永遠に付かなくなった今、ケンシロウはその疑問が膨らんでゆく。
兄は、悔いることなく逝くことが出来たのだろうか。
(つかさ・・・ラオウよ・・・せめて安らかに眠れ・・・)
静かに眼を瞑るケンシロウからは、眼に見えぬ、オーラと呼べるモノが滲み出る。
怒りと、悲しみと、無念さと、そしてそれらの絡みあった複雑な感情が、凄まじいプレッシャーとなり、周囲に立ち込める。
もちろん、その被害を一番被るのは隣で眠っている玉葱少年なのだが。
「う〜ん、なんだ、この重圧は・・・俺ってついてね〜〜、う〜ん・・・」
洋一は、折角の休息時間であったが、当然のように悪夢に魘されていた。
その具体的な夢の内容はわからなくても、推測は容易だ。
彼のなすことが、全て裏目、裏目に出る悪夢。そう、正に現実と同じ展開。
彼には、例え夢の中であったのしても、安息の時は訪れないのだろうか。
* * * *
アビゲイルとサクラは、レーダーの力もあって、労せずケンシロウを発見することが出来た。
しかし、物陰からケンシロウの様子を窺うものの、次の行動が定まらない。
「むぅ・・・あの体つき、そしてあの形相・・・あまり平和的な方には見えませんね。」
「え、あ、そうですね・・・」
本来なら、『アンタが言うな!!』と内なるサクラが突っ込むところだが、その元気は今のサクラには無い。
「しかし、側にいる少年は寝ているだけのようです。あの男性がマーダーならば、あの無力そうな少年を生かしておく理由が判りませんね・・・」
そのとき、ふとサクラがあることに気付いた。
「あの胸の傷・・・あの人、斗貴子さんが言っていた、ケンシロウっていう人じゃ・・・!?」
「ケンシロウ?それはどういった方なのですか?」
「いえ、斗貴子さんのお仲間で、胸に7つの傷のある、とても強い方だとしか・・・」
「ふむ、ならば尚のこと腑に落ちませんね。あの少年を殺すわけでもなく、斗貴子さんとは完全な別行動をとっている。」
アビゲイルは、ケンシロウの人物を測りかねている。彼がマーダーである可能性と、対主催者、脱出派である可能性・・・
そして、眼前の男からは、異様な、そして圧倒的な存在感が立ち込める。
彼が味方につけば心強いが、敵となるならば絶対に見つかってはならない。
「あ・・・」
そのとき、サクラが声を漏らした。
「あの人・・・泣いている・・・」
見ると、男の頬に一筋の涙の跡がついていた。
仲間の死に心を痛めているのだろうか。
「アビゲイルさん・・・私、あの人はマーダーでは無いと思います。話だけでもしてみませんか・・・?」
「ふむ・・・しかし、斗貴子さんの計画に乗り、不本意ながらも人を殺めてしまったことを悔いているのかもしれません。現状ではまだなんとも・・・」
「でも!あの人も誰かの死を悲しんでいるんですよ!?」
「・・・サクラさん、声が大きいですよ。」
いけない。サクラの動揺が悪いカタチで判断を鈍らせている。サクラの言い分もわかるが、ここは感情だけで動くべきではない。
しかし。
「・・・そこに居るのは誰だ?」
気付かれた。アビゲイルの心配も虚しく、判断の決定権は自分達の手から失われることになった。
* * * *
「・・・そこに居るのは誰だ?」
ケンシロウが眼を開けると、観念したように、大柄の男と、若い女が物陰から姿を現した。
新たな敵か?身構えるケンシロウに、女が話しかける。
「あなたは・・・ケンシロウさんですよね・・・?」
「どうして俺の名を知っている?」
「斗貴子さんから窺いました。あなたは・・・斗貴子さんのお仲間・・・ですよね?」
その問いに、ケンシロウの胸が疼く。
それは修羅の道へ走った、少女の名。
「ああ、仲間”だった”。だが・・・お前達も、斗貴子の仲間なのか?」
すると、女の代わりに大男が、女を遮るように答えた。
「いいえ。それどころか私達は昨晩彼女に襲われましてね。そんな危ない方と、あなたは”今も”お仲間なのですか!?」
「ちょっと、アビゲイルさん!?」
「・・・」
また、胸が疼く。彼女はやはり凶事に手を染めているのか。
「・・・いや、仲間ではない。」
ケンシロウは苦悶の表情を浮かべて言葉を並べる。
「だが、彼女は必ず俺の手で止めてみせる。」
だが、その答えを聞いた大男は、嬉しそうに答えた。
「ほう!なら、我々とあなたは同じ志を持った仲間、ということになりますね!」
その言葉に対して、怪訝な表情でケンシロウは返す。
「・・・どういうことだ・・・?」
「いえ、私達も元々は斗貴子さんの仲間だったのですが、彼女のやり方に賛同できず、袂を分かつことになったのです。ですが、彼女をこのままにして置くのは危険すぎますので、共に彼女を説得する仲間を探しておりまして。あなたも、我々と共に行きませんか?」
「・・・俺は・・・」
* * * *
アビゲイルの言葉は、ある種の博打だった。
ケンシロウが、マーダーではない、ということに賭けたのだ。
そして、アビゲイルは賭けに勝った。運良く、である。
あとは、ケンシロウがアビゲイルたちと共に来てくれれば言うことは無い。
だが・・・
「俺にはまだ倒さなければならない敵が居る。斗貴子は気がかりだが、その敵を放って行くことはできない。」
「むむ・・・それは残念ですね。」
そうは上手くはいかないようだ。さらに・・・
「・・・できれば、この少年も君達と一緒に連れて行ってはくれないだろうか。俺の戦いに、彼まで巻き添えにすることは出来ない。」
逆に、この少年の保護を頼まれてしまった。現状で、サクラに加えてこの少年の面倒まで見るのは少々骨が折れる。
どうしたものだろうか。アビゲイルは考える。
「ふむ・・・そうですね、ではこういうのはどうでしょうか。私達は、列車で関西方面へ行きたいのですが、その列車にマーダーが乗っていないとも限りません。そこで、ケンシロウさん、名古屋駅まで我々の見送りに来て頂けないでしょうか?」
「む・・・」
寡黙なケンシロウに饒舌なアビゲイルが畳み掛ける。
「勿論、列車の安全が確保されれば、この少年をつれて関西方面へ行き、サクラさんの仲間と合流致しましょう。次の列車が駅に到着するのは9時ですのでお時間は取らせません。どうでしょうか・・・?」
ケンシロウは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「いいだろう。駅まで共に行こう。この少年を頼む。」
「これは有り難い。そうと決まれば善は急げです。彼にも説明しないといけませんね。」
アビゲイルの計画は、完全に望み通りではなかったが、それに近いものになりつつある。こうして関西へ行き、オリハルコン反応の固まった集団に合流できれば、この世界からの脱出に大きく前進できるだろう。
どうやら運が向いてきたようだ。そうアビゲイルは考えた。
「むにゃ、う〜〜ん」
だが、それらを吹き飛ばす不運の源が、ここには存在する。
「・・・し!もしも〜し!起きてくださ〜い!!爽やかな朝ですよ〜〜!」
「う〜ん、むにゃ、あ、おはようございま・・・・・・」
ぬ〜〜ん。アビゲイルの不気味な顔面が洋一の顔に肉薄していた。
「・・・ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
夢からの目覚めと同時に、至近距離からのアビゲイルの顔面。洋一にとっては何処までが悪夢で何処からが現実かわからないだろう。
そして、彼にとっての真の悪夢は、今始まったに過ぎない。
「もういやだ〜〜〜〜〜〜!!」
洋一の恐怖と混乱が絶頂に達したのだろう。洋一は失禁しながらいきなり走り出した。
度重なる疲労と、無数の傷。足には銃創があり、歩くことでやっとの彼のどこに、これだけの力が残されていたのか。
「な!!」
「あっ!」
そして、その場に居る3人が止める間もなく、洋一は森の中へ消えていった。
「これは・・・参りましたね・・・」
アビゲイルが呟く。そう、これで台無しだ。
列車の到着時間が迫っている。洋一を探している時間は無い。そして・・・
「いかん・・・悪いが、今の話は無かったことにしてくれ。俺は彼を探す。君達はこのまま駅へ向ってくれ。」
そう、ケンシロウは彼のために残るだろう。そして、駅には結局2人で行かねばならない。
折角うまくいきかけた話が、これでご破談になってしまう。
「・・・駅までだけでも、ご一緒できませんか?」
アビゲイルが最後の譲歩を望む。
「・・・このあたりには昨日であった敵がまだ居るかもしれない。彼を独りには出来ない。」
だが、やはりそれも退けられた。
「すまない。俺は行く!」
そして、ケンシロウも洋一を追って森の中へと走り去った。
後には、アビゲイルとサクラだけが残された。
「・・・しかたありません。ケンシロウさんと出会えただけでも良しとしましょう。では、駅へ向うとしましょうか。」
「・・・ええ。でも、ケンシロウさん一人で大丈夫でしょうか・・・」
洋一は森の中を無我夢中で走っていた。
あのままあの場所に留まってさえいれば、頼もしい保護者と共に、より安全な場所へと移動できたかも知れない。
しかし、彼の不運はそれを許さなかった。
そして、彼の不運は留まるところを知らないのだろうか。
「ハァ、ハァ、疲れた・・・ん?あんなところに家がある・・・ちょうど良かった、雨も降りそうだし・・・ラッキー」
彼の頭上には、その不運を具現化したような、黒い暗雲が立ち込めていた。
【愛知県/午前】
【アビゲイル@バスタード】
[状態]:左肩貫通創。全身、特に右半身に排撃貝の反動大。無数の裂傷(傷はサクラによって治療済み)、
[装備]:雷神剣@バスタード、ディオスクロイ@ブラックキャット、排撃貝@ワンピース、ベレッタM92(残弾数、予備含め31発)
[道具]:荷物一式×4(食料・水、十七日分、一食分消費)、首輪、ドラゴンレーダー(オリハルコン探知可能)@ドラゴンボール、超神水@ドラゴンボール、
無限刃@るろうに剣心、ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数は不明)
[思考]:1.名古屋駅で列車に乗る。敵との遭遇を危惧。
2.サクラを護る。
3.なるべく早い内に斗貴子を止めたい。
4.レーダーを使ってアイテム回収、所有者の特定。
5.首輪の解析を進める。
6.協力者を増やす。
7.ゲームを脱出。
【春野サクラ@ナルト】
[状態]:ナルトの死によるショック大
[装備]:マルス@ブラックキャット
[道具]:荷物一式(二食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)
[思考]:1.四国で両津達と合流。
2.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
3.ケンシロウ、洋一を心配。
4. ヤムチャは放っておこう。
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:健康。
[装備]:マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾
[道具]:荷物一式×4(五食分を消費)、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢、手裏剣×1@NARUTO−ナルト−
[思考]:1、洋一を探す。その後、洋一を預けられる人物を探す。
2、DIOを倒す(他人は巻き込みたくない)。
3、つかさの代わりに、綾を止める。
4、DIO討伐後、斗貴子を追い止める。
5、ラオウを倒した者を探す。
6、ダイという少年の情報を得る。
【愛知県と長野県の境・山中の廃屋/朝】
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折、全身数箇所に火傷、左ふくらはぎに銃創、背中打撲、軽度の疲労
[道具]:荷物一式×2(食料一食分消費)、護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障) @DEATH NOTE、双眼鏡
[思考]:1、どこかに逃げて隠れたい。
2、できればケンシロウに協力したい。
3、でもやっぱり死にたくない。
雪原の丘陵に蹲り、大魔王はただ、秋(とき)を待っていた。
野に降る雪。宵の頃より滔々と降り続く雪は、いつしか視界を、銀の世界に染めた。
今も、曇りなき漂白色の雪は、大魔王の躰に、肩に、ただ積もり続ける。
この躰、寒さに震える事を知らない。ただ、心を焦がす焔が、あるのみ。
抑え切れぬ憎悪。堪え切れぬ破壊の衝動。そして自由への渇望。
古の記憶が甦る。ユンザビット高地、孤独、迫害。
手に入れた永遠の若さ。されど、呪わずにはいられぬ宿命。
「おのれ・・・」
歯軋りをしていた。遅い、まだ来ないのか。
彼奴が来ぬせいで、考えなくても良いことまで、考えてしまうのだ。
「フレイザードめ。何をしておる」
氷炎を纏う、異形の魔人。
暴虐を振り翳し、如何なる残虐な行為も躊躇せず、勝利の為には手段を選ばぬ。
何か、分かる気がした。或いはフレイザードは、何処かでこの大魔王と近いのやもしれぬ。
おもむろに、ピッコロは、躰に纏わり付いた雪を、毟り取り、口に含んだ。
世直しマンが死んだ。いや、あの世直しマンを倒した者が何処かにいる、と思うべきだ。
立ち上がるピッコロ。すると躰に降り積もった雪が、音を立てて地に落ちてゆく。
ここの雪も、直に見納めになるだろう、と思った。それは、もう予感ではなかった。
この屈辱は、必ず雪ぐ。
〜〜弐〜〜〜〜〜〜〜
果てしない吹雪の原野、前傾姿勢で疾走する三つの影。
影達は、荒れ狂う豪雪を、まるで鋭い鉈で断ち割るかの様に駆け続けた。
蹴り上げた雪が舞い上がり、冷えて強張った頬を何度も撫でた。
踏み込んだ足は、くるぶしまで埋まり、踏み出す足は、鉛のように重く。
しかしフレイザード。目の前に居る。ようやく追い着こうとしている。
世直しマンの仇、バッファローマンの仇、伸ばせば手の届く場所にいる。
全身の血が、どうしようも無い程熱く湧き返り、皮膚から噴き出してきそうだった。
もう誰も死なせねえ。ルキアに、仲間達に降りかかる火の粉は、オレが払ってやる。
フレイザード、ボンチューは胆の底から声を上げた。
桑原のすぐ前を走るボンチューの、咆哮が聞こえた。
舌打ち。桑原は、吹雪の狭間から微かに覗く、フレイザードの後姿に視線を戻した。
追跡を開始し、北へ逃走するフレイザードの姿を捉えてから既に、三十分程の時が経過していた。
後ろを駆けながら桑原、リーゼントに張り付いた雪を乱暴に払った。
明らかにボンチューは、冷静さを失っていた。
「おい、ボンチュー。少しは落ち着きやがれ」
「うるせえっ」
雪の強行軍。極寒のマラソンは容赦なく、彼らの体力を奪い続けた。が、フレイザードとの距離は、確かに狭まっていた。
両者の距離は、凡そ50m程。しかしこの吹き荒ぶ雪の嵐、最悪の視界。加え、先だっての戦いによる負傷。
追い付いたとして、果たして戦いになるのか。
前方を駆けるボンチューの、鞴(ふいご)の様な呼吸が聞こえる。
限界が近い筈だ。自分より、ボンチューの負傷の方が大きかった筈だ。
「ぐっ、ばかやろう。オメーも、もう息が上がってるじゃねえか」
「オレは、オレは刺し違えてもヤツを倒す」
「ちっ、友情マンよォ。今なら分かるぜ、てめえの気持ちが」
いつの間にか、高い崖に挟まれた谷間に入っていた。
谷の道は大きく曲がっていて、見通しは悪い。しかし、駆けた。
曲がった先、フレイザードの姿が見えた。
こちらを向いて、中指を突き上げている姿が見えた。
顔も見えた。その口元が歪んで、甲高い笑い声が聞こえた。
ボンチューが、声にならぬ声を上げた。
桑原との差が開き始めた。嫌な予感がした。
「バカ野郎、挑発に乗るな。ボンチュー」
その時、爆音が耳を劈いた。
熱風が巻き起こり、雪と土くれが視界を遮っていった。
桑原、爆風に叩きつけられ、意識を失った。
〜〜参〜〜〜〜〜〜〜
雪原に、噴煙が立上っていた。
フレイザードは口元を歪めた。忍び笑いが漏れて来る。
フレイザードはパンツァーファウストの次の弾を装填し、再び、雪煙の中心に照準を合わせた。
全身に、檻のように堪る疲労と、数々の負傷が、寒さに対する抵抗力を奪っていた。
その中での逃亡戦。身を隠せるような場所は、何処にも無かった。
このままでは追いつかれる。そう確信したフレイザードはここで博打に出た。
敵を谷間に誘い込み、パンツァーファウストで狙い撃ちにしたのだ。
殺ったはずだ。だが、まだ油断するな、フレイザードは心にそう言い聞かせた。
合わせた照準が揺らいだ。意識が、朦朧としてくる。
(やめなさい、フレイザード。これ以上戦ったら、あなた本当に死ぬわよ)
そんなことは、分かっていた。
(うるせえ、博打は外れたら、痛い目を見るから面白れぇんだよ)
炎の半身が、痛み(寒さ)に悲鳴を上げていた。
(なんて哀れな人。戦い以外に自分の存在を証明できるものがないなんて)
同情なんて、いらねえよ。
(勝利の瞬間の快感だけが、仲間の羨望の眼差しだけが、このオレの心を満たしてくれるんだ)
そうだ、ここは戦場だった。殺し合いをする処だった。
噴煙が晴れてきた。
雪が蒸発して、剥き出しになった土壌が見えてきた。
フレイザードは愕然とした。
黄金色の鎧が見えた。それは、傷ひとつ付いていないように見えた。
ボンチュー、顔の皮膚が、半分焼け爛れていた。
そうだ、爆発の衝撃は防げても、熱までも防げるわけが無い。
しかし、ボンチュー、生きていた。鬼神の如き形相で、こちらに駆け始めた。
〜〜肆〜〜〜〜〜〜〜
パンツァーファウスト。二発目が飛んできた。
黒煙を垂れ流し、迫る砲弾。
回避できる場所は、無い。
「走りやがれ。ボンチュー」
桑原の声。無事なようだった。この黄金聖衣が、爆発の衝撃をほぼ完全に遮断した。
ボンチューは駆け出していた。そうだ、回避など、する必要が無い。ただ前へ進め。
「『落合流・首位打者剣』」
起き上がった桑原が、背後で小石を拾い、霊気の剣で打ち放った。
ジャストミートされた小石は、フレイザードの放った二発目の飛弾に命中し、遥か前方で爆発が巻き起こった。
ボンチュー、と、爆音に混じり、桑原の叫びが背中に届いた。
「オレぁもう何も言わねえ。
必ず倒せよ。フレイザードを、倒してみやがれ」
フレイザードの顔が近づいてきた。間に合う。次の弾を込めるまでに、この拳が届く。
たけしも、死んだ。イヴも、夜に出会った眼帯の男も死んだ。
だが、桑原、恩に着る。お前のお陰でここまで、来れた。
力が溢れてくる。全身が焼かれた筈なのに、痛みはない。
フレイザードが、パンツァーファウストを慌てて背後に投げ捨てた。
ボンチューは気力を振り絞った。
ここまで付き合ってくれた桑原のためにも、必ずフレイザードは倒す。
「ボボン・・・!!」
フレイザード、氷の剣を出した。
〜〜伍〜〜〜〜〜〜〜
潰れたようなツラの方も、こちらへ駆け始めた。
そしてボンチュー、目の前に来た。揺れる肩、歪む相貌。笑ったのだと分かった。
フレイザードも胆を据えた。前へ踏み出す炎の左足、それが新雪に埋まり、蒸気が上がった。
「チュラアアァアアァアァァァァアァァ!!!」
一撃目、フレイザードの振り下ろした氷の剣と、ボンチューの拳が、激突した。
氷の剣、根元から折られた。血と、汗と、氷の破片が飛び散って、微かに覗く日光に、反射して瞬いた。
二撃目、下からの渾身の一撃に、フレイザードのガードは、弾き飛ばされた。
残された力を振り絞った。それが弾き飛ばされた。体勢も崩された。
吹雪を背に受けて、ボンチューが、見下ろしてくる。
黄金聖衣の隙間から覗く、顔や腕は焼け爛れ、握り締めた拳からは、血が溢れ出ていた。
「終わりだ、フレイザード」
「クッ、ククク。寝言抜かしてんじゃねえよ、このクソガキが」
三撃目、がら空きになったフレイザードの顎に、ボンチューの必殺の拳が、迫る。
この時を待っていた。勝算は薄い。だが、最後の大博打に出てやる。
―――バーン様、このオレに勝利と栄光を。
高々と、フレイザードは両手を広げ、その技の名を叫んだ。
「『弾岩爆花…!』」
その時、ボンチューが吹き飛んだ。
見えない壁にでも、弾かれたかの様な、吹き飛び方だった。
呆然とするフレイザード。その背後に、ピッコロがいた。
〜〜陸〜〜〜〜〜〜〜
緑の魔神。
その巨躯が纏いし、禍々しき漆黒のオーラは、たじろぎを憶えた。
益々荒れ狂う吹雪の中で、微塵も揺らぐ事無く仁王立つ姿に、神の風格をも感じた。
その圧倒的な威圧感は、まさに魔王の中の魔王。かつてない程の戦慄が、四肢を突き抜ける。
話には聞いていた。自らを大魔王と称し、友情マンの友、ペドロという男を屠り、
更に、バッファローマンというボンチュー達の仲間をも殺した、悪の権化。
「フレイザード、貴様はそこで見ておるがよい」
その大魔王が、威厳に満ちた声で命を下せば、フレイザードが無言で後方に退く。
よろめきながら立ち上がったボンチューが、桑原の側に来て言った。
「桑原、オレがこいつらを食い止める。その隙に、とっとと逃げやがれ」
「とぼけた事言ってんじゃねーよ、バカ」
嗜めてから、それでも逃れられはしないだろう、と桑原は思った。
ボンチューが、殺気を放ち始めた。止めても無駄だろう、かつての自分の様に。
桑原は奥歯をかみ締めた。やるしかねえ。
「とくと見せてやろう。このピッコロ大魔王の凄まじさをな」
厳かに告げる魔王。それが戦いの狼煙となった。
先陣を切って走り出すボンチュー。ピッコロが悠然と迎え撃った。
北の大地に雪が舞う。
雪は、降り頻る。散って逝った参加者の、墓と躯のその上に。
雪は、降り注ぐ。東北の地に取り残されし、彼等が最後の舞台の上に。
今頃、あいつらは東京タワーに着いたのか。
また、あいつらに会える時が来るのか。
浦飯、もうすぐそっちへ行くかもしんねーけどよ。
ハデにやられてみせるぜ。胸張って会えるようにな。
桑原も駈け出す。すぐ前を走るボンチューの背中を見ながら、霊剣を出した。
肌を刺すのは、死の予感。それは何処か、心地良さに似ていた。
〜〜漆〜〜〜〜〜〜〜
ボンチューは、攻撃と見せ掛け、大地に拳を叩き込んだ。
雪が煙幕のように舞い上がり、ピッコロの視界を完全に遮った。
「ぬ」
その隙にボンチューは、一瞬でピッコロの背後に回りこんだ。
隙だらけの背中が、ボンチューの眼前に晒される。
「ボボンチュゥ!!」
「くだらん真似を」
「ぐぉあっ!」
連打を叩き込もうとした刹那、ピッコロの裏拳が、ボンチューの顔面を捕らえた。
鼻血を噴出し、仰け反るボンチュー。
「まるで話にならんな」
ピッコロ、握り締めた両手を、ハンマーのように振り下ろす。
後頭部に鈍い衝撃が走った。
・・・なんで、だよ。
ボンチューは、頭から雪の中に突っ伏した。
連携を図る事も出来ぬまま、ボンチューが、一瞬で倒された。
駆ける桑原。ピッコロの巨体が桑原を見下ろす。
気圧されるな。裂迫の気合を込めて、霊剣を切り下げた。
「ぬるいわ」
桑原は愕然とした。ピッコロが、片手で霊剣を掴んでいる。
直後、膝蹴りが桑原の腹部を直撃し、桑原は悶絶して地に跪いた。
「どうした。もう少し楽しませてみろ」
「ぐっ、伸びろ、霊剣」
刹那、雪の中を潜行させた霊剣が、ピッコロの足許から飛び出した。
必殺の間合い。雪の中から飛び出した霊剣が、完全に油断していたピッコロの躰を貫く。
「何ぃ?」
「残念だったな」
手応えがない。残像。桑原、振り向く前に、背中に重い蹴りを浴びせられ、吹っ飛んだ。
その勢いで雪の中を、暫く転げ、やがて止まった。
「ふん、未熟者めらが。気配を隠す術も知らないとはな」
ピッコロの声が遠い。
腹部と背中に、稲妻の如く走る激痛。口に、血の味が広がってきた。
・・・みんな、すまねえ。こいつめっちゃ強いわ。
「さて、フレイザード、そちらに転がっているガキに止めを刺しておけ」
「チッ、しょうがねえな」
足音が近づいてきて、氷の手に頭が鷲掴みにされた。全身の体温が奪われていくのを感じる。
薄れ行く意識の中、桑原は立ち上がるボンチューの姿を、見たような気がした。
〜〜捌〜〜〜〜〜〜〜
助けてーっ。ゴホゴホ・・・。
(中に、中に妹がいんだよ、助けてくれよ、お願いだよ、助けてくれよ)
助け、て、お兄ちゃん・・・。
(何もいらない、オレは何もいらないから、神様どうかメグを救ってください、どうかメグを)
祈り。祈りなど、何の役にも立たないと、あの時に知った。
力さえあれば、どんな状況でも打開できると信じた。
だからオレは『スーパーヒーロー』になりたかった。
だけど、オレは今更気が付いた。
オレは、ただ守りたかっただけなんだ。
―――ただ、メグを。ルキアを、仲間を。
フレイザードが桑原の全身を氷漬けにし始めた。
それを一瞥し、向き直った大魔王は感嘆の声を上げた。
「ほう、まだ息の根が止まっておらんのか」
「・・・あんまり、図に乗ってんじゃねーぞ、コラ」
ボンチュー、立っていた。
荒い息をつき、ピッコロを睨み着けてくる。
全身から、血が滴り、雪に朱い斑点を作ってゆく。
「見上げた根性だ。だが、どう足掻いても貴様に勝ち目はない。
逃げられもせん。死の道しか残っておらんようだぞ」
嘯きながらピッコロは掌を向けた。気が集約する。まあよい、この一撃で消炭にしてくれる。
「呪うなら、己の運命を呪うがいい。私の様にな」
「おあ!!!」
ボンチューが、気合と共に大地に拳を叩きつけた。
揺れる大地、舞い上がる雪。ピッコロは軽い失望を憶えた。
「血迷ったか。何度やっても無駄だぞ」
愚かな。気を消し去らぬ限り、このピッコロ様に、不意打ちなど通用するものか。
ピッコロは目を閉じ、ボンチューの気を探った。しかし、見つからない。
いや、見つけた。ボンチューの気、遠ざかってゆく。ピッコロは瞠目して叫んだ。
「フレイザード。ヤツの狙いは貴様だ」
〜〜玖〜〜〜〜〜〜〜
どうしようもない状況というのが、世の中にはある。
桑原。結局、お前の言った通りだった。
やっぱりピッコロは強くて、オレは『スーパーヒーロー』に、なれなかったけど。
せめて桑原、お前だけは生き延びてくれ。
お前だけは生きて、ルキアを守ってくれ。
そしてまた仲間を集めて、いつか、ピッコロを倒してくれ。
巻き込んで、すまなかった。せめて、お前だけは助けてみせる。
「何ィ?」
その時フレイザードは、氷像と化した桑原を粉砕するために、腕を振り上げていた。
「―――フゥゥゥレイザァァァドォォォォォーーーー・・・・・・・・・!!!」
直後、ボンチューの咆哮。天が震えたような気がした。
見えた。鬼神の如き形相で駆けてくる、ボンチューの姿態。更にその後ろからピッコロも来た。
閃光が奔った。ピッコロが指先から、光線を放ったのだ。
レーザー、ボンチューの右肩に命中した。黄金聖衣の肩当てが吹き飛び、血と肉が弾けた。
しかしボンチュー、倒れない。フレイザード、またボンチューが叫んだ。
首が竦んだ。ボンチューは絶対に死なない。そんなふうにすら思えた。
レーザー、ボンチューの後頭部に命中した。揺らいだ、しかしボンチュー、止まらない。
ボンチューが迫る。本当にここまで来る。恐怖、フレイザードは悲鳴を上げていた。
「下がれ、フレイザード。
こうなれば二人まとめて、消し飛ばしてくれるわ」
怒りに震える、ピッコロの声が聞こえた。
氷に閉じ込められた桑原から、慌ててフレイザードが遠ざかった。
ピッコロの拳の光が、みるみる膨れてゆく。
「『 爆 力 魔 破 !!!』」
光が、放たれた。その瞬間、全ての音が、消えた。
ボンチューは振り返り、両手を広げ、氷像と化した桑原の前に立ちはだかった。
狂い舞う雪の影が、光に呑まれ、揺らぎ、消えていった。
視界が更に白くなって、ボンチューは、目を閉じた。
〜〜拾〜〜〜〜〜
泣いている少女がいた。
「お願いします。お兄ちゃんを、助けてください」
泣きながら懇願する少女。心が震えた。だが桑原は、どうすることも出来なかった。
フレイザードにより氷の中に閉じ込められ、呼吸も出来ず、身じろぎ一つ取れないのだ。
「助けてください。どうかお兄ちゃんを、助けてください」
少女は桑原に縋り付いて、何度も、何度も請い願う。
桑原には見えていた。ボンチュー、戦っている。自分を助けるために。
―――そうだ、桑原。てめェ、しっかりしやがれ、バカ野郎ォ。
全身に、熱いものが駆け巡り始めるのを、桑原は感じた。
みしり
亀裂が走るような音が、聞こえた。
―――ここで底力出さねェでよォ、いつ出す気だこの野郎ォ。
突如、全身を覆う氷の圧力が、一気に弱くなった。
無意識に発動した霊剣が、脆くなった氷を貫いたのだ。
いける、と思った。
「がぁーーーーーーーーーー!!!」
霊剣の刀身、黄金色に輝いた。
桑原は、雄叫びと共に、輝く霊剣を一気に振り下ろした。
ばきばきと音を立てて、身を包む氷が割れてゆく。
全身に氷の破片が降り注いできた。
完全に氷の呪縛から開放されて、桑原は気がついた。
空間が、切れていた。裂け目から、何処かの景色が見えた。
「『 爆 力 魔 破 !!!』」
その時、ピッコロが、巨大な気の塊を放出した。
迷う暇は無かった。桑原は咄嗟にボンチューの体を掴んで、その空間の断裂に飛び込んだ。
刹那、爆発。大地が揺れ、空に黒煙が膨れ上がった。
〜〜十壱〜〜〜〜〜〜
野に降る雪。流れる鮮血が、雪を紅に染めていた。
死が、抱きしめてきた。ボンチューにはそう思えた。
そう、オレはもう死ぬ。だが、桑原は生き延びるだろう。それは救いだった。
あの時、桑原が切り開いた時空の裂け目のお陰で、ここまで離脱できた。
ボンチューは、雪に埋もれながら、仰向けになって、空を見ていた。
また少し、雪が強くなったか。そうだ、もっと降れ。その冷たさは、むしろ心地良い。
「死ぬな、死ぬなよボンチュー」
桑原が、顔をくしゃくしゃにして、ボンチューの肩を掴んだ。
「てめーが死んだら、オレはルキアになんて言やいいんだよ」
そこを突かれると、痛い。マジで。
「なあ、桑原。一つ頼まれてくれねえか」
ボンチューは、声を絞り出した。
何だよ。と言って桑原が顔を寄せてくる。
その時、ボンチューの、黄金聖衣が輝いた。
「おおっ?」
「へっ、なかなかお似合いだぜ」
桑原の全身に輝く、黄金色の光。
どうやら蟹座の黄金聖衣は、桑原を新しい主と認めたようだ。
これでいい。ボンチューは、また空を見た。
―――世直しマン。オレは、ヒーローになれなかったよ。
〜〜十弐〜〜〜〜〜〜
桑原は、奇跡を見た。
なあ、ボンチュー、てめーにも見えるか?
あー、見えてるよ。
二人の瞳には、空から舞い落ちる雪と共に、ゆっくりと降りてくる少女の姿が、見えていた。
仰向けに倒れるボンチューの傍らに、ふわりと降り立つ少女。
ボンチューの顔を覗き込み、小さな手を差し出した。
見詰め合う兄と妹。少女の半透明の躰を、雪が、すり抜けていく。
やがて、メグ、と搾り出すように言ったボンチューの目から、涙が溢れ出した。それは、とめどなかった。
少女は微笑んで、泣きじゃくるボンチューの手を取った。
・・・なあ、教えてくれよ。桑原。
ボンチューが、流れる涙をそのままに、掠れた声で言った。
あ?
人間て、死んだらどうなるんだよ。
あ、ああ。霊界っつーのがあってな、死んだらみんなそこへ行くのさ。
そうか。なら、またいつか、おまえや、あいつらにも、会えるよな・・・。
桑原は、自分も泣いていた事に気が付いた。
へっ、どうかな。オレはしぶてェぜ、おい。
桑原が言うと、ボンチューが笑った。
ボンチューとメグの魂が、空に帰ってゆく。
桑原、直立し、新しい姿に生まれ変わった、光る霊剣を掲げた。
ボンチューと、メグ。二人の魂が、いつしか空の彼方に消えてしまっても、
黄金聖衣と、光の剣は、静かな輝きを放ち続けていた。
―――その後、桑原はボンチューの亡骸を埋葬した。
新たに生まれた霊剣は、『次元刀』と名付ける事にした。
〜〜終幕〜〜〜〜〜〜
【山形県・雪原/午前】
【桑原和真@幽遊白書】
[状態]:全身各所に打撲、戦闘によるダメージ大、重度の疲労、軽度の火傷。
次元刀が覚醒。しかしまだ不安定。
[装備]:蟹座の黄金聖衣@聖闘士聖矢
[道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)
[思考]1:悲しみ。
2:ブチャラティ達との合流。
3:ブチャラティ、翼のことが気になる。ブチャラティなら翼を護ってくれると思っている。
4:友情マン達との合流、(友情マンに対し多少の罪悪感)
5:さらにフレイザード、ピッコロを倒す仲間を集める(飛影を優先)
6:ゲームの脱出
【秋田県・雪原/午前】
【ピッコロ@ドラゴンボール】
[状態]ほぼ健康、気の消費半分ほど
[道具]:荷物一式 、前世の実@幽遊白書
[思考]1、不明
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]疲労、負傷大。氷炎合成技術を実戦経験不足ながらも習得。
核鉄による常時ヒーリング。
[装備]:霧露乾坤網@封神演義 :火竜ヒョウ@封神演義 :核鉄LXI@武装練金
:パンツァーファウスト(100mm弾×1)@ドラゴンボール
[道具]荷物一式
[思考]1: 不明
※ボンチューの遺体は埋葬しました。
※ピッコロとフレイザードは、桑原が次元刀で、戦場を離脱するところを見ていました。
【ボンチュー@世紀末リーダー伝たけし! 死亡確認】
【残り40人】
『オレには歴史が無い。
ハドラー様、いやハドラーがオレを造ってから、まだ一年足らずしか経ってねえ。
だからオレは手柄が欲しい。
例え何百年生きようと、何千年生きようと手に入らねえくらいの手柄がな』
窓ガラス越しに差してきた、強い日差しに、瞼を抉じ開けられた。
視界の焦点が、徐々に合わさってゆく。
バスの待合所。その入り口に、ピッコロが腕を組んで立っているのが見えた。
目覚めたフレイザードの気配に気付いたのか、ピッコロが、首だけを向けて言い放つ。
「ふん、命拾いをしたな」
「ククッ、お蔭さんでな」
とりあえず悪態をついたものの、フレイザードは遅れて事態を思い出し、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
意識を失ったのは、この場所に辿り着いた途端だった。まるで糸が切れたように、眠ってしまっていた。
「チッ、情けねえ」
無用心にも程がある。寝てる間に、止めを刺されててもおかしくなかっただろう。
しかしピッコロは、わざわざ自分の意識が戻るのを待っていた、ということになる。
何故だ。フレイザードが呆然としていると、ピッコロがにやりと笑った。
「それだけの減らず口が叩ければよかろう。出ろ」
「お、おい」
ピッコロの巨体が動いたため、待合所の中から、外が良く見えるようになった。
すっかり晴れ渡った空と、遥かなる雪原が何処までも広がっていた。
「南下する。愚かな人間共は、恐らく中央に集まっている」
「ちょっと待てよ。取り逃がしたクソガキ共は、どうする」
「構わん。野垂れ死にか、良くても暫くは戦闘不能だろう」
「クッ」
一方的な命令。込み上げて来た反抗心を、フレイザードは押さえつけた。
雪原を、先にピッコロが歩き出した。大きな足跡が点々と刻まれてゆく。
後、何人殺せば。ふと、フレイザードは考えようとして、やめた。
余計な思いは、この雪の下にでも埋めてしまえ。
雪原には、まず左半身から踏み出した。
足が着く前に、炎気に触れた雪が、一瞬で蒸発した。
いける。オレの躰だ、と思った。
「優勝するのは、オレだ」
顔を上げて、フレイザードは呟いた。
ピッコロに聞こえないように、小さく。しかし強く。
「皆殺しにして、優勝してやる。
オレには、歴史がねぇんだからな」
一陣の風。降り積もった雪が、砂塵のように舞い上がった。
【秋田県、雪原/昼】
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]体力、負傷共に全快時の4割ほどまで回復、氷炎合成技術を実戦経験不足ながらも習得
核鉄による常時ヒーリング。
[装備]:霧露乾坤網@封神演義 :火竜ヒョウ@封神演義 :核鉄LXI@武装練金
:パンツァーファウスト(100mm弾×1)@ドラゴンボール
[道具]荷物一式
[思考]1:ピッコロと合流し、ダイの元へけしかける
2:氷炎同時攻撃を完全に習得する
3:残り人数が10人以下になったら同盟解除(だが隙あらば・・・?)
4:優勝してバーン様から勝利の栄光を
【ピッコロ@ドラゴンボール】
[状態]ほぼ健康
[道具]:荷物一式 、前世の実@幽遊白書
[思考]1:機関車でミニ日本中央部へ向かう
2:悟空他、参加者皆殺し。
3:フレイザードを利用
4:残り人数が10人以下になったら同盟解除(今の所、フレイザードを闇討ちするつもりはないようだ)
5:主催者を殺す
※ピッコロとフレイザードは、桑原が次元刀で、戦場を離脱するところを見ていました。
※二日目昼。雪は止みました。
(1):アビゲイルの持つディオスクロイ
(2):サクラの持つマルス
(3):まもりの持つハーディス
(4):ダイの持つクライスト
(5):欠番
(6):斗貴子の持つダイの剣
(7):承太郎の持つシャハルの鏡
(8):承太郎の持つ双子座の聖衣
(9):ケンシロウの持つフェニックスの聖衣
(10):ボンチューの持つ蟹座の聖衣
(11):聖矢の持つペガサスの聖衣
(注:当然、アビゲイルとサクラが見ているのは番号だけである)
「この(1)が私の持つこのトンファー、(2)がサクラさんに渡したナイフです。そして、(6)が、昨晩お会いした斗貴子さんの持つ剣の反応になります。」
「! それって・・・」
「そう、このレーダーがあれば、オリハルコンを持つもののおおよその動きが判るのです。」
「!!・・・すごい。」
「例えば、この(3)、(4)、(5)は、昨日は別々の場所にあったのが、今は1つにまとまって動いています。これが意味するのは、複数の参加者が行動を共にしているか、強力なマーダーが参加者の持ち物を奪いながら行動しているかのどちらかです。
・・・おや、(11)が少し離れましたね。どうやら前者が正解のようです。
それと、昨日あった(5)の反応が無くなっているのですが・・・これは何があったのかは理解しかねます。」
サクラは感心しながら、アビゲイルの説明を聞いているようだ。
「そして、これらの情報に、反応を示すアイテムの持ち主の情報が合わされば、さらに大きな意味を持ちます。
つまり、この(6)の反応には迂闊に近づくべきではないし、逆にこの(2)、(3)、(11)には積極的にアプローチをかけるべきだと判るわけです。
まぁ、集団行動するものが脱出派だというのは、その可能性が高い、というだけで警戒は必要ですが。」
「アビゲイルさんがおっしゃることはわかりました。つまり、近くにあるこの(9)の反応源を特定できれば、以後の危険がぐっと減らせる、というわけですね?」
「ご名答です。例えばアイテムの持ち主が変わったりするだけでも、色々と推測する材料になり得ますからね。
我々の目的は、あくまで偵察。接触や、ましてや戦闘などではありません。そして、9時までにこの名古屋駅に戻り、列車に乗る。そして、サクラさんの希望通り、四国を目指すのです。」
「・・・わかりました。じゃあ、私もご一緒します。万が一戦闘になったら、2人のほうがいいでしょうし。」
「・・・痛み入ります。」
四帝王最後の一人、それは魔界最強の剣神、斬。
その斬の姿を見て、タカヤは冷や汗を流す。
「あ、あいつにだけは…適わない」
当時、四帝王の一角だったカインを惨殺し、その座を剥奪。
その後も四帝王のトップに君臨し続けた。
剣を抜くだけで、相手はアポーン確定。
それが、斬の掟だ。
斬は、Kに向かって静かに歩み寄る。
「始 め よ う か。 昇 天 の 儀 式 を」
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
・修正1
>>232>>233の地文の頭に全角スペース挿入
・修正2
>>238の13行目
× その巨躯が纏いし、禍々しき漆黒のオーラは、たじろぎを憶えた。
↓
○ その巨躯が纏いし、禍々しき漆黒のオーラに、たじろぎを憶えた。
・修正3
>>253のフレイザードの状態表の思考1
誤 1:ピッコロと合流し、ダイの元へけしかける
↓
正 1:ピッコロを、ダイの元へけしかける
よろしくお願いします。
260 :
巨人の時代:2006/09/08(金) 17:50:31 ID:/Hrm3p/k0
突如空が裂け、数十人の人間が降って来た。金本知明と鳥谷隆もその中にいた。
「おう、鳥谷。早速始めるで。阪神に歯向かったボケ共を粛清するんじゃ。」
「分かったで、アニキ。特に味噌の連中には頭に来てたんだ。ハデに殺してやりやしょう。」
愛媛県北部。番場蛮も新たに召喚された人間の一人だった。祖国である四国の地を踏みしめ、物思いに耽っている。
「何故、巨人はあそこまで弱くなってしまったんだろう?俺が愛したジャイアンツ野球はもう見れないのか?」
「そうだ。だが、全員が落ちぶれたわけでもない。貴方のような偉大な投手も残っている。」
番場が振り返った先には、中日ドラゴンズの不動の2番打者井端弘数が立っていた。そして、番場に悪魔の囁きを始める。
「どうだ。我がドラゴンズに入らないか?貴方が経験した35年前のジャイアンツ野球は今、中日が引き継いでいる。
今の巨人にかつての栄光は微塵も残っていない。貴方も強いチームで勝ちたかろう?」
「俺は…あのチームに勝ちたい。いいぜ。中日ドラゴンズ。俺の第二の野球人生の始まりだ。」
中日と巨人。球界が誇る2大癌の巨頭が手を組んだ。しかし、その野望も長くは続かない。正義の使者による裁きが待っていたからだ。
砂浜に響き渡る無数の銃声。それが鳴り止んだ時、井端は息絶えていた。撃ったのは、阪神史上最強の4番打者、金本。
「哀れなり。番場蛮!貴様は最下位球団に入団し、巨人を倒す事を夢見たんじゃなかったんか?
それが巨人の一員となり、戦力の劣る他球団に勝ち、優越感に浸る。更には巨人の勢いがなくなると強い球団に寝返る。
貴様はサムライなんかやない。人間のクズや。ここで死ねや。」
「黙れ!貴様が、貴様が阪神にさえ行かなかったら、我が巨人は今も球界の盟主として君臨していたんだ。貴様さえいなければぁああああああああああ!」
番場も支給品のウージーを放つ。だが、金本はそれを難無くかわしてみせる。
「ふん…散々他球団の選手を強奪しておいてよく喚く…今の巨人は日本人の象徴やないわ。今では川上以来続く伝統の4番も朝鮮人に渡してしまったやないか。」
「黙れ!貴様ら阪神は金満補強をしなかったというのか?」
「だから暗黒時代を迎えたんや…」
「我ら正義の大巨人軍がどん底へ叩き落したんだ。阪神は何かとうざかったんでね。」
この後に及んでも強気の姿勢を崩さない番場。しかし、ウージーを撃ちつくした瞬間、鳥谷の銃が火を吹く。
「ぐああああああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜」
261 :
巨人の時代:2006/09/08(金) 17:51:44 ID:/Hrm3p/k0
番場の体に散弾が飛び散り、臓器が辺りに散乱し、魔球男はやがて息絶えた。
「ようやった。鳥谷。この調子で他球団の選手を殺していくんや。汚物は消毒せなあかんからな。」
「はい。次はどこへ行きますか?」
「そうやな。便器掃除に福岡まで行こう。大阪を裏切ったホークスの最後や。便器どもに綺麗な花火を見せてやろうやないか。」
【2日目午前愛媛県】
【金本知明@阪神タイガース】
「状態」健康
「装備」ウージー(残弾30発)、AK―47(残弾25)
「道具」支給品一式×2
「思考」阪神以外の選手を殺す。
【鳥谷隆@阪神タイガース】
「状態」健康
「装備」猟銃(残弾14)
「道具」支給品一式
「思考」アニキに着いて行く。
【井端弘数@中日ドラゴンズ】
【番場蛮@侍ジャイアンツ】
死亡確認。
262 :
広島の執念:2006/09/09(土) 13:19:32 ID:NR0gaaHD0
瀬戸大橋を通り、福岡に向かう。途中、広島があるが、アニキはそれには目も暮れない。
「広島はわし等の2軍じゃ。潰す必要は無いわ。」
そう思って通り過ぎようとしていたら、1発の銃弾がアニキの額を掠めた。
「今撃ったんは誰じゃボケぇ!出てこいや!わしがぶっ殺し足るわ!!!」
「おう、今姿を拝ませてやるけぇ。」
少年の声だった。アニキの頭にはは怒りのあまり血管が浮き出ている。鳥谷は畏縮して声が出なかった。
血まみれになった少年の姿が見えた。手には何者かの首がぶら下げられている。そして、その後ろには眼鏡をかけたあの選手の姿があった。
「その首は…井川、井川やないか。ワレェ!井川を殺ったんか?」
「そうじゃ。阪神の選手はワシが許さんわ。散々広島から強奪しといて、今年は黒田さんも奪おうとしとろうが!特に金本。貴様は広島の裏切り者じゃ。この中岡元が殺しちゃるわ!」
ゲンは隠し持っていたナタでアニキに飛びかかる。アニキは左腕に傷を負うも、その鋼の肉体の前では致命傷には到らない。
「黙れ!ワシはもともと阪神ファンだったんじゃ!今はこの身を阪神に捧げるただの一兵士じゃ。この前、広島時代は空白の11年じゃ言うたろうが?」
アニキはウージーを構え、ゲンのこめかみに向け…
「この腐肉が…お前は地獄に落ちればええんじゃあああああああああああああああ」
撃った。
一撃だった。既にゲンは物言わぬ屍と化していた。
「アニキ!あの眼鏡が撃ってきます。気をつけて下さい!」
見るとヤクルトスワローズのPM、古田がボウガンを構えている。
「おや?いけませんねぇ。スパイ球団が逃げ回っては。ゲン君に殺されていればよかったものを。中日に一方的にやられる君たちはセ・リーグの火を消す張本人なのですよ。」
矢は鳥谷の頭の上を通り過ぎていった。身を屈めていなければやられていたかもしれない。
「黙れ。巨人の犬が。貴様らはこの阪神様の糧になればええんや。それを分かってるのは横浜だけや。
犬ルトの選手は生きる価値すらないわ。死ね。」
263 :
広島の執念:2006/09/09(土) 13:20:40 ID:NR0gaaHD0
古田には銃器すら必要なかった。アニキの無敵の肉体は古田の中年のものと違い、生命力で溢れていた。
ボウガンを払いのけ、首を絞める。ボキッと鈍い音がして、古田は抵抗すらできず、首の骨を折られ、死んでいった。
「ほな、出発しよか。井川の墓を建ててからな。」
【2日目午前広島県】
【金本知明@阪神タイガース】
「状態」額と左腕に掠り傷。行動に影響なし
「装備」ウージー(残弾29発)、AK―47(残弾25発)、鉈
「道具」支給品一式×2
「思考」阪神以外の選手を殺す。
【鳥谷隆@阪神タイガース】
「状態」健康
「装備」猟銃(残弾14)、ボウガン(残弾10発)
「道具」支給品一式×3
「思考」アニキに着いて行く。
【中岡元@はだしのゲン】
【古田厚也@東京ヤクルトスワローズ】
【井川圭@阪神タイガース】
死亡確認。
日本列島に訪れた二度目の夜明け。薄らと罅割れた仮面に映る。
ファイティング・コンピュータ、ウォーズマン。
無慈悲に対戦相手を打ち貫く彼の非情さを目の当たりにし、競技解説者は言った。
「奴は戦闘マシーンじゃない、殺人マシーンだ」と。
誰も否定する事は出来なかった。するつもりもなかった。
彼らは差別を知らない。
彼らは飢餓を知らない。
彼らは暗闇を知らない。
敵を貫き、殺す事で自分は生かされている。
立場の違う人間相手に何を言っても、通用しないことを彼は深く理解していた。
打倒・キン肉マン。
野垂れ死ぬだけの運命だった自らを拾ってくれた英国人ロビンマスクの与えてくれた使命。
冷酷・冷徹・冷血。痛みさえも恐怖さえも凍らせた、悪魔の心得。
ソビエトの風土が培った氷の精神は、完全無欠、絶対不敗の筈であった。
あの時、あの瞬間までは。―― キン肉マンとの死闘を迎えるまでは!
ガサッ。草を踏む音を察知し、燃焼砲の引き金に手を添える。
前方から伸びてくる、男の影。鋭い瞳に哀しみを秘めた暗殺拳の使い手。
―― ケ・ン・シ・ロ・ウ。
不完全ながら、DIOと彼が交戦した時の戦闘データは、既に得られている。
対象の本分は、恐らくは接近による格闘戦。長距離からの不意打ちは、効果的である可能性が高い。
サーチ・アンド・デストロイ。勝ち名乗りは、相手の死を以って行う。あの頃の自分に、戻っただけだ。
やがて、引き金は絞られ、森林に炎の嵐が渦巻いた。
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「あの二人を見回りに出して、いいのでしょうか?」
光の差さぬ暗闇の中。廃屋の書庫。東城綾は、おずおずと質問を投げ掛ける。
放送での主催者の発言とは裏腹に、天気こそ崩れ始めたものの、雨は直ぐには振り出しはしなかった。
太陽――人ならざるものと化した自分が、最も恐るべき存在は、確かに其の姿を厚い雲の向こうに隠してはいるが、
本当にこのまま外に出ていいものかどうか、『こうなってしまってから』日の浅い綾には判断出来ない。
そうこうしているうちに、筋肉質の子供、マミーと言ったか、の方が歩哨に出ると言い出し、
後を追うように真っ黒な男も外に飛び出してしまった。
そうして、4人を名目上は束ねている筈のDIOと言えば、
何所から見つけてきたのかゆったりとした椅子に腰掛けては、挙句、分厚い本を広げて読書を始めてしまった。
正直なところ、東城は例の二人の事を信頼してはいなかった。
DIOを生かし西野を生き返らせて貰う。
単純明快な物語の結末は、DIOが最後に一人で生き残る事で綴られなければならない。
東城自身に関しては、問題はない。命を捧げる覚悟は、既に終わっている。然し、あの二人は……?
『私達』に牙を剥かないだろうか。『私達』の存在を他に知らしめないだろうか。
漠然とした不安が胸を騒がせて止まなかった。彼らは、本当に、歩哨に出てくれただけなのだろうか……?
挿げ替えた腕が、未だ血色を取り戻しておらず、酷く気持ち悪かった。
あれだけ本が好きだった筈なのに、書庫に溢れかえる本の一冊に手を伸ばすと言う考えさえ浮かばなかった。
永遠のように感じられる静寂。焦燥に押し潰されそうになる。
「真の強者とは、何だと思う?」
「え?」
漸く与えられた応えは、期待したものとは大きく懸け離れ過ぎていて。
思わず、間抜けにぽかんと口を開けて、聞き返してしまった。
血も涙もない吸血鬼と化してしまったとは言え、隙を見せた東城綾の表情は、花のような光を帯びる。
フフ、とDIOが笑ったのを目に留め、僅かに頬を赤く染めながら、少女は答えに頭を巡らせる。
「……力。他を圧倒し、追随を許さないほどの、圧倒的なパワーを持つもの。
優れた格闘能力とか、最新鋭の武器とか、……、」
思いつくままに、並べ立ててみる。ゲームに勝利するために必要な要素。
試されている、と感じた。DIOの機嫌を損ねないように、最良の回答を。
「もちろん、そのような圧倒的な力を適切に行使出来る、頭脳も必要じゃないでしょうか。
後は、他者を従えうるカリスマ……、全て、貴方が持っているもの」
開いたままの本から目を離し、興味深そうに東城を眺めていたDIOが、次の一呼吸の前に口を挟む。
口元には邪悪なる微笑を讃えて。
「だからDIO、貴方こそが真の強者です ……とでも言いたいように思える。
ある意味で其れも正解だろう。けれど、私の考えは少しだけ違う。AYA」
言葉の先を読まれ、身を竦めた少女の頬を、吸血鬼の人差し指が撫ぜるように伝う。
「私には君も知っての通り、"特別な能力"がある。人類の全てをぶッちぎりで凌駕した、帝王の力だ。
けれど、其れはイコールで強者であるとは言い難い。
―― このDIOでさえ、立ち向かわなければならないものがある。避けられぬものがある。
運命、と言う名の、悪魔だがね」
「……運命」
「ああ。運命だ。巡り合わせだ。"乗り越えなければならない"ものだ。
真の強者になるための試練へと言ってもいい。
数多くの英雄達が、不幸な巡り合わせの犠牲になって、消えて行ったのだ。
カエサルも、ナポレオンも、一度はこのDIOでさえ」
遠い敗北。運命の名の元に、味わった屈辱的な100年間。
DIOは過去に思いを馳せた。だが然し、
あの出来事自体が、ジョースターとの出会い自体が、自分を帝王の座まで上り詰めさせた。
「彼らの不在に心が騒ぐようならば、こう考えるといい。
……彼らも、彼らの運命と対峙しに行ったのだ。其れは避けられぬことなのだよ。我々の思惑如何に関わらずに。
何よりも……、君は一度、運命を"乗り越えている"。友を其の手にかけた、其の瞬間に。
だから安心していていいのさ。
『一つの運命を乗り越えた君』は、紛れもなく、強者なのだから」
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「ぶびべべーえええ!(ついてねええええ!)」
「ちッ。カスを掴んじまったよ。何でテメエ、生きてんだ、このクソ!」
募る苛々に、傷顔の少年は握り締める掌に、更に握力を込めた。
掌に掴まれているのは、人間の顔面。食み出しているのは玉葱型の毛髪。洋一である。
ケンシロウと別れ、安全そうな小屋を見つけたと思った瞬間、当然のように彼を不幸が襲った。
顔面に走る深い傷跡。ウェーブ掛かった長髪。何よりも、発育した体躯。
唐突に現われ、問答無用に自らを鷲掴みにした不良少年が、まさか自分より遙かに幼い小学生であろうとは、
無論、洋一にも想像だに出来なかった事だった。只、怖かった。只、痛かった。
一方、望んだ幸運に恵まれなかったと言う意味では、加害者である少年、マミーも同じであった。
彼が求めているのはこんなカスとの遭遇じゃあなかった。
DIOを倒し、何れは主催者を打倒する。そのために、必要な力を、自分に思い出させてくれる存在。
戦闘。血の沸き踊るような闘争。血で血で洗うような戦争。
―― たけしは死んだ。何故だ?
簡単だ。リーダー達の掲げる、理想という名の馴れ合いは、現実では力不足だったからだ。
「ぎゃああああああああああああああ!」
ぎしりと掌に力を込め、洋一の頭蓋を鳴らした。響き渡る悲鳴にも眉一つ動かさなかった。
耳を塞ぎたくなるような苦痛の訴えの中、マミーは、漸く、笑みを浮かべ、辿り付いた。否、思い出した。
退屈な日常に、飽き飽きしていた頃の自分を。
暴力だけが、殴り合いだけが自分の心を満たしてくれていた、あの頃の事を。
不動の山のように聳え、圧倒的な力を見せ付けた拳王と名乗る男を思い出した。
雄弁で小理屈をこね、そのくせ卑怯な能力で無茶苦茶やりやがるDIOのことを思い出した。
……戦えた。俺は、最後まで戦うべきだった。
勝ち負けは関係なかったのだ。尋常じゃない世界に放り込まれ、死ぬか生きるかと言う言葉遊びに誤魔化されていた。
……負けて死んでもいい。相手に自分の事を忘れさせねえ程の、印象を、衝撃を与える事が出来れば。
「ふふ……、ははっ、何だこれ、俺の望んだ世界じゃねえか」
―― 理解(ワカ)れば、一気に、心が清清しく、満ち満ちてくる。
ゴウウウウウウウウ
視界の隅に映るのは、舞い上がる炎。例の黒仮面が、どうやらおッ始めやがった様子。
相手はケンシロウと言う男だろうか。相当の猛者と聞く。ならば、面白ェ。
「ククク……ハーーッ、ハッハッ!」
洋一の身体を放り出し、力強く歩き始める。高く高く、マミーの哄笑が響き渡った。
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木々を巻き込み、吹き上がる炎。奇襲は失敗に終わった。
予め気付かれていたのか、気付かなかったにも拘らずに回避可能だったのか。
事実を検討する時間を、跳躍し、距離を詰めるケンシロウは与えてはくれなかった。
内臓された高性能コンピュータが、ケンシロウの移動速度に対する認識を改め、対処法を構築する。
接近とともに徐々に大きくなる目標に狙いを定め、ニ射目の引き金を引く――
「アタァッ!」
其れさえも、間に合わない速度。蹴りの一撃の前に、大きく弾け跳ぶ燃焼砲。
「アータタタタタタタタタタタタタタタタタッ!」
続けざま、高速で撃ち出されるケンシロウの拳の一つ一つを、注意深く、交わし、受け、流す。
一撃一撃が全て必殺である拳を、瞬く間に百放つ―― 北斗百烈拳。
戦闘データから放たれる拳の軌跡を先読みし、驚異的な回避行動を行うウォーズマンではあるが、
迫り来る巨大な拳の全てを、嵐のように打ち込まれる破壊の連打の全てを、防御し続ける事など不可能だ。
ぢ ぢ ぢ
紙一重、避け損ねた拳の雨は次第に、だが確実に、ウォーズマンの表皮を削り取り始める。
七十、八十、九十、……降り注ぐ拳の前に、遂に、微かに体勢が、崩れる。
無論、其の隙をケンシロウが見逃すはずもない。
「アタァ!」
岩をも砕く剛拳が、腹部に命中する。
だが、ケンシロウの拳を以ってしてさえ、超人の鍛え抜かれた腹筋を貫く事は、容易ではない。
スピード・パワー・タクティクス。
超人レスリング界屈指の業師と恐れられたロビンマスクの技の全てを伝授された唯一の超人。
ウォーズマンの戦闘技術もまた並大抵の物ではなかったのだ。
インパクトの瞬間、身体を後方に逸らし、衝撃を和らげる。再び二者の間には、間合いが生まれた。
仮面の男を見据える、ケンシロウの瞳が鋭さを増す。
放ち尽くした百の拳は、只の拳の乱舞を撃ち放つものでは在り得ない。
人体に708存在する経絡秘孔の内、人体破壊に通じる100を刹那の内に突き放つ拳。
――即ち、内部破壊を目的とした拳。仮面の男が、真っ当な人間であれば、既に息の根は止まっている。
DIOと同じく吸血鬼か、或いは。
ケンシロウは、ウォーズマンの放つ拳の中に、一種の迷いを感じていた。理由の察せぬ、戸惑いを。
ケンシロウを映し出す、ウォーズマンの瞳は、輝きを失っている。
けれど、何かを思い出そうとしていた。何かが狂い始めようとしていた。
ケンシロウの拳。ケンシロウの声。ケンシロウの魂。――。何所かで、彼に。
判らぬまま、思い出せぬまま、握る拳に、力を込める。
無言で戦いの意思を伝えるウォーズマンに応えるように、ケンシロウも拳を握り締める。
哀しみを、瞳に宿して。
タッ タッ タッ
先に駆け出したのはのは、どちらだったか。何時の間にか、降り出した雨。
辿り着けば、交差するのは、拳と拳。互いに放った右のストレートが、互いの頬に直撃する。
呻き声、苦悶の表情。双方、忘れてしまったかのように。
ゴ ガアアアアアアアアアアアアン
雷鳴がが轟く。
竜虎相見える二人の元に、燃焼砲から放たれた業火が迫り来るのは、其の次の瞬間だった。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------
「お、俺は……、助けようと思って」
青褪めた表情で、燃焼砲を取り落としたのは、鼻の折れた追手内洋一だった。
マミーの手から逃れ、彷徨っていた洋一。拾い上げた燃焼砲。目前で、繰り広げられる激しい戦闘。
洋一の言葉は、本心だった。漸く手に入れた、武器らしい武器で、ケンシロウの援護をしようとしたのだ。
其れだけの、筈だったのに。
彼は、本当に、ついてない少年だった。
ケンシロウの大きな背中が、赤く焼け爛れている。
一方、黒仮面の男の負傷は、微々たるものだ。
「…………」
「ひい、お、俺は、こ、殺さないで〜!!」
陰から覗く仮面の男が、洋一を睨みつけたような気がして。
情けない悲鳴をあげ、洋一は一目散に駆け出した。いつももの、ツイテナイ、を叫ぶ暇もなく。
突然の乱入者が立ち去った後の静寂。
ウォーズマンは、伏し倒れた男の身体を抱き起こした。
今なら、確実に止めをさせる。
DIOに与えられた使命。殺し合いに疲れ果て、彷徨っていた自分を拾い上げてくれた、DIO。
けれど――。
再生されるのは、炎の渦が、二人を襲った瞬間。自分の前に、立ち塞がった、ケンシロウの姿。
偶然かもしれない。只、たまたまケンシロウの方が火炎の方に近かっただけかもしれない。
けれど、繰り返されるメモリーが、凍りついた精神を、揺さぶり始めたのも事実だった。
……何故、助けられた。
男の声が、誰かの声と重なる。
氷の海に凍えていた自分を、確かな暖かさで、救い出してくれた、過去の友と。
意識を失った男を、慎重に抱え上げる。
背中に広がる、重度の火傷。だが、降り始めた豪雨のためか、男の頑健さのためか、未だ息がある。
治療出来る場所へ。本意を、聞きだせる場所へ。
暗い森の中を、彷徨える超人は、歩き始めた。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
「よお」
街中で偶然再会した友人に、かけるような緊張感のない声。
降り出した雨の中を進む吸血鬼たちの前に現われたのは、傷顔の少年、マミーだった。
身を竦ませてDIOを見る綾。DIOは答えはしなかった。只、不敵に唇を歪ませる。
どちらの様子も気に留めた様子も無く、マミーは馴れ馴れしく、言葉を続ける。世間話をするような口調で。
「ウォーズマンって言ったっけか。あの仮面の男、逃げちまったぜ。ケンシロウって男と一緒に。
アンタのカリスマってヤツも、全然大した事ねえな。笑えちまう」
無論、出鱈目だ。二人の戦闘の顛末など、マミーは確認してさえいなかった。
ただ、仮面の男がケンシロウと戦ってる今ならば、直接拳を交わせる。そう考えただけだ。
"紳士面した"このクソ野郎は、間違っても綾にだけ手を汚させる事はしない――。予想は、正しかった。
DIOは、掌を、余裕ありげに胸の前に翻しながら、
「愚かだな。マミー。君の中の黄金の精神には、敬意を払っていたつもりなんだが。
チャ――」
「おりゃあああああああああ!」
「―――――!」
言葉は、最後まで語られる事はなかった。語らせるつもりも無かった。
勢いよく放たれたマミーの拳を、間一髪で、発現した「ザ・ワールド」が受け止める。
マミーは、ニヤリと笑う。DIOのペースに乗せられるのは、もう、止めた。
「いちいち、いちいち、煩えんだよ、テメエは」
たん、地面を踏みしめながら、少年は言い放つ。
自分は、誰にも屈さないと。何にも惑わされないと。気に入らねえヤツは、ぶん殴ると。
「フ、フフフフ、ハハハハハハハハ。最高だ、最高だよマミー。
俺は飼い犬には甘んじない、というわけだ……なるほど、なるほどッ」
ぱち、ぱちと「ザ・ワールド」の後方で手を叩き、満面に笑みを浮かべる帝王。
反旗を翻されたとは言え、DIOには未だ余裕がある、否――、
そもそも、マミー一人程度、最初から只の捨て駒に過ぎない。
「"退屈"を恐れていたな……、マミー。よかろうッ!
駄賃代わりに教えてやる……、真の充足を! 真の帝王の姿を!
我が「ザ・ワールド」の真の能力は、それはまさに世界を支配する能力だという事を! 」
一つの闘争が終わり、新たな闘争が始まる。
傷付き、生き延び、戸惑う。様々な人間の思惑を包み込む雨は、けれど、何の確執も洗い流さなかった。
――如何なる強者。如何なる賢者であろうと。
彼らを包み込む運命を止める事は、誰にも出来ないのだ。
【愛知県と長野県の境/午前】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:忍具セット(手裏剣×7)@NARUTO−ナルト−
[道具]:荷物一式(食料の果物を少し消費)
[思考]:1.マミーと戦闘。終了次第、ケンシロウを追う。
2.太陽が隠れる午前中を利用し、『狩』を行う。
(活動範囲は隣県程度まで。雨が止んだら帰還。)
3.綾、ウォーズマン、マミーを利用する。
【東城綾@いちご100%】
[状態]:吸血鬼化。波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた。ちょっとブルー。
[装備]:特になし
[道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[思考]:1.DIOと共に行動。
2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
3.DIOに協力する。
4.真中くんと二人で………。
【マミー@世紀末リーダー伝たけし】
[状態]:DIOへの憤怒
[装備]:フリーザ軍戦闘スーツ@ドラゴンボール、手裏剣@ナルト
[道具]:荷物一式(食料と水、一食分消費)
護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障) @DEATH NOTE、双眼鏡
[思考]:1 DIOを殺害する。いいようにされるのは、殺されるよりも屈辱的である。
2 強者に君臨するため、もっと強くなる。
3 誰が相手でも殺られる前に殺る。
4 誰が相手でももう絶対にビビらない。
※洋一をシメた際に、洋一のカプセルを奪いました。
【愛知県/午前】
【ウォーズマン@キン肉マン】
[状態]:精神不安定・体力微消耗
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(マァムのもの)
[思考]:1.ケンシロウに真意を問い質す。
2.DIOに対する恐怖/氷の精神 *
* 氷の精神には極小だが亀裂が入っています。
※燃焼砲@ワンピースは、愛知県の森林に転がってます。
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:背中一面に大火傷。気絶。
[装備]:マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾
[道具]:荷物一式×4(五食分を消費)、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢、手裏剣×1@NARUTO−ナルト−
[思考]:1、洋一を探す。その後、洋一を預けられる人物を探す。
2、DIOを倒す(他人は巻き込みたくない)。
3、つかさの代わりに、綾を止める。
4、DIO討伐後、斗貴子を追い止める。
5、ラオウを倒した者を探す。
6、ダイという少年の情報を得る。
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折、全身数箇所に火傷、左ふくらはぎに銃創、背中打撲、軽度の疲労、鼻が折れた
[道具]:荷物一式×2(食料一食分消費)
[思考]:1、どこかに逃げて隠れたい。
2、できればケンシロウに協力したい。
3、でもやっぱり死にたくない。
「いいかダイ。わしら警察官は、一人の犯人に対して一人で向かっていくような馬鹿な真似はせん。
必ず複数でチームを組み、より確実に犯人を確保するために協力し合うのが普通だ」
「分かるよそれ。俺のいた世界でも、モンスターと戦う時はパーティーを組むのが普通だったから」
兵庫県――南部に位置する市街地を抜け、両津たちは瀬戸内海沿岸に歩を進めていた。
「だが星矢の場合は違う。藍染とかいうヤローは確かに悪党だ。本当ならわしらが束になって捕まえるべき相手ではある。
しかしだ。藍染は悪党であるよりも先に、星矢の因縁の相手でもある。仲間の仇っていう名目のな」
動かす歩のスピードは若干の早足で、余裕が見当たらない。
先頭を行く両津とダイもそうだが、後ろをいく女性陣二人――特に麗子は、しきりに後ろを振り向きおろおろとした表情を見せる。
大方、単身藍染を迎え撃とうとする星矢が心配なのだろう。リョーマとの合流に失敗し、キルアの死体を見てしまった後だからなおのことである。
「男と男の一騎打ちだ。わしらが手を出していいもんじゃない。祭りと喧嘩は江戸の華――昔からよく言ったもんだが、星矢は心意気ってもんを知ってる」
「でも両ちゃん、私やっぱり心配だわ……だって星矢ちゃんはまだ子供なのよ? もし万が一のことがあったら、私は……」
キルアを守れなかった麗子だからこそ、星矢を気にしないことができなかった。
星矢は言った。自分は聖闘士だから。ただの子供じゃないから。麗子を守ってやれるほど強いから。と。
しかし実際に星矢の実力を確認したわけでもない麗子にとっては、そんなものは単なる強がりにしか思えなかった。
キルアだって、強ぶっておきながら死んでしまったのだ。子供はやはり、守られるべき存在なのだ。
「心配するな麗子。わしだってアイツのことは信頼しているが、まったく心配していないわけじゃない。だからこうやって、『ある場所を探しているんじゃないか』」
両津たちが目指す場所は、『四国ではない』。
一人残り、宿敵藍染との決着をつけようとしている星矢を、誰が放って置けようか。
仲間思いの警官と勇者のパーティーは――約一名、不気味に佇む少女を除いて――『とある場所』を目指す。
兵庫県市街地を、一陣の風が駆け抜ける。
見た目は白く、それでいて中身は禍々しいほどまでの黒さを漂わす、死神の風。
それを追うは、さらなる一陣の風。
黄の輝きに身を包み、超高速のスピードで死神の『瞬歩』に縋りつくは、聖闘士の風。
「ここまで来ればいいだろう」
市街地を抜けたところで、二つの風が停止した。
舞台はコンクリートで構成された建造物地帯から深い雑草が生い茂る草原に移され、停止した風はいよいよ対峙する。
「戦うのなら、このような広大なスペースの方がいいだろう? ここなら誰にも邪魔はされない」
死神――藍染惣右介が場所を移したのは、物陰に隠れた伏兵を恐れての配慮だった。
またいつぞやの時のように、五、六人に袋叩きにでもされてはたまらない。雑兵とはいえ、集えば百万の大群にも匹敵するものだ。
「好都合だ。場所がどこだろうと関係ない。藍染惣右介……アテナの名の元に、このペガサス星矢が貴様を倒す!!」
「あまり吼えるな……弱く見えるぞ」
死神と相対するは、女神に選ばれし聖なる闘士。
ペガサスの聖衣を身に纏い、今、万全の状態で決戦が始まる。
開戦の合図を灯すように、空を暗雲が包み込んでいく。
本日午前の天気は、曇りのち雨。黒雲は不穏な音を響かせ、縮小日本に大規模な影を作り出す。
時刻はもう朝なのに、まるで夜が再来したかのようだった。
草原に生い茂る雑草が、風に吹かれて音を立てる。津波のように撫でられながらも動きは微弱。
正に、嵐の前の静けさか――
(心地のいい小宇宙だ……)
一日目、星矢は何もできないまま、数多もの死者を出してしまった。
刻々と減っていく参加者への嘆き、指を咥えて見ていることしかできない自分への憤り、藍染ら殺人者への滾る小宇宙。
そして迎えた二度目の朝。星矢は、いよいよ聖闘士としての役目を果たす機会に遭遇した。
久しぶりの戦場の感覚。身に纏ったペガサスの聖衣が、やたらと頼もしく思えた。
ズン
途端に、空気が重くなる。
(ぐ……この小宇宙は……藍染!)
間もなく開戦の時――敵方、藍染惣右介もそれを心得ているのだろう。
自ら小宇宙(コスモ)――正しくは『霊圧』だが――を高め、星矢にプレッシャーを与える。
尸魂界に模範を企て、天の座に着こうとせし死神――藍染惣右介。
その力の全容は未だベールに包まれ、計り知れない不気味さを漂わせていた。
彼にとっては小さなことなのかもしれない。
この殺し合いというゲームも、今始まろうとしている星矢との対決も。
天を目指す死神にとっては、些細な小事にすぎないのだ。
「嘗めるなよ藍染! アテナの祝福を、聖闘士の底力を!」
それでも、聖闘士である星矢は霊圧などには屈しなかった。
藍染は霊圧などとは比べ物にならないほどの重圧、すなわち本物の重力を操ることができるはず。
それを頭に入れて弾き出した答えは、先手必勝。高速戦闘を得意とする聖闘士の十八番とも言える戦法だ。
正面から突撃し、拳による連打を叩き込む。重力を操作する暇は与えない。
圧倒的なパワーと速度で勝る、近接戦闘型の星矢。対して藍染は、得意武器である刀を失い打つ手なしと思われた。
しかし藍染は、星矢の拳を受け流す。流水のような流れる体術で。
「素晴らしい速度だ。体術だけならば二番隊の砕蜂君と同格、もしくはそれ以上か」
藍染が駆使するのは、『白打』と呼ばれる死神特有の攻撃体術である。
斬魄刀による攻撃を主とする死神にとって、素手での戦いは望むところではない。
だがこの状況では致し方ないだろう。武器を持たぬ藍染は果敢にも、聖闘士相手に素手での近接戦に望んでいるのだった。
もちろん、単純な殴り合いならば聖闘士に分がある。藍染も星矢の動きを見てそれを理解していた。
だからこそ攻撃には転じず、『白打』に移動補助体術『歩法』を加え、回避と防御に専念する。
優勢であることに変わりはない。しかし藍染の不適なまでの立ち振る舞いは、星矢に動揺を誘った。
「くっ!」
星矢が拳を撃ち出すごとに、藍染はをそれを弾く。
カウンターを恐れた星矢は更なる追撃を繰り出すが、それも弾かれ力はあらぬ方向へと流される。
流れる肢体は、決して掴むことのできぬ風のようだった。死神の二大基本体術、『白打』と『歩法』を最大にまで活用した結果が、今の藍染なのだ。
攻撃は命中しているのに、決定打を与えられない。星矢は未知なる敵との戦いに、焦りを見せ始めていた。
(落ち着け俺……! 藍染はこっちのスピードについてくるのもやっとのはず。一撃に集中すれば、奴は仕留められるはずなんだ!)
星矢の焦りの原因は、この世界における制限にあった。
ペガサスの聖衣を取り戻し、完全な力を取り戻したと確信した矢先の戦闘。
実施に拳を振るってみれば、思ったよりも鈍速。馬鹿な。星闘士のスピードはこんなものじゃないはずだ。これは驕りなんかじゃない。俺はもっと、速かったはずだ。
実際に体感してみる『制限』の重圧に苦しめられ、星矢は本来の動きを取り戻せずにいた。
ただでさえ藍染は防戦一方、攻めに転じないので、星矢の拳を突き出す速度も、無意識に早まってしまう。
速度を求めれば、その分変則性を削ぐ結果となるのは必定。当然、防御も容易くなる。
「――!」
星矢が己のミスに気づいた時にはもう遅い。
繰り出した正拳は安直な軌道を描き、藍染ではなく空を切る結果に終わる。
受け流されたのではなく、完全に避けられた。藍染は訪れた好機を見逃すつもりもなく、『歩法』の最終形、『瞬歩』により星矢の背後に回りこむ。
首筋がゾクリとした。背後に死神を背負う感覚――霊圧でも小宇宙でもなく、もっと単純な『嫌な予感』を感じる。
人間が持つ危機回避能力が星矢を突き動かした。高速戦闘において敵に背後を見せることは、死を招くことに変わりないのだから。
「破道の四“白雷”」
青白い稲妻の閃光が、星矢の身体を通過する。
藍染による予想外の放出攻撃に一瞬戸惑った星矢だったが、受けてみればなんてことはない。聖衣に包まれた身体は、ほぼ無傷で現存している。
「ほう……低級の鬼道とはいえ、ダメージはほとんどなしか。速度だけでなく、防御も優れているらしいな」
自分が劣勢だとは、露とも思っていないのだろう。藍染は防御に重点を置きながらも、冷静に聖闘士なる存在の力量を測りながら戦っている。
「だがやはり、僕と戦うには力不足だ」
ゲーム開始から、現在までにおける藍染の目測。その全てには、ある共通点が存在していた。
崩玉の奪取に成功し、尸魂界全土の死神を欺いた藍染ゆえの――『自信』である。
いつでも脱出できるという『自信』。主催者すらも鏡花水月で翻弄できると思った『自信』。世界最高の頭脳をも欺けると考えた『自信』。
この戦いにおいても、聖闘士という未だ全貌が明らかになっていない相手に対し、絶対に勝利できるという『自信』を持っている。
このまま星矢を殺すことも容易いだろう。だが、あえてそれはしない。藍染は、決して『自信』に溺れているわけではないから。
今回の戦闘における目的は、あくまでも情報収集。星矢の名乗る肩書き、聖闘士といえば、第四放送でフリーザが口にしていた名だ。
死者の蘇生――嘘だと思うのなら、聖闘士に聞いてみろ、と。
おそらくは主催者の一人、ハーデスと関係がある人物なのだろう。だとすれば、殺すには惜しい。
主催者の能力、蘇生は本当に可能なのか、そしてハーデスとやらに監視の術はあるのか。
鏡花水月を取り戻した時のためにも、これらの情報は今入手しておきたかった。
「力不足だって? ハッ、笑わせるなよ藍染。こっちはやっと調子が戻ってきたところなんだ……力不足なんて言うのは、これを見てからにしろ!」
その瞬間、藍染は完全に虚をつかれた。
星矢の拳が発光する。何かが来る。死神である藍染が、悪寒を感じるほどの何かが。
「ペガサス彗星拳!」
星矢の拳が一点に集束し、一直線に伸びる。
レーザーのように照射されたのは、紛れもない星矢のパンチ。ただし、百発前後の。
本来、聖闘士の繰り出す拳のスピードは、一番下級に位置する青銅聖闘士のものでも音速、黄金聖闘士クラスは光速にも上る。
このゲームにおける制限下ではその力もままならないが、聖闘士の拳が常人の目にも止まらないことは変わりない。
藍染は今、確かにその片鱗を見た。
ビュッという瞬く間の轟音を残し、頬が風を感じた。
両眼が思わず横を向く。そこにはなにもない。今は。
既に通過した拳は、藍染に触れることはなく。代わりに背後の地面を破壊した。
振り返らなくとも分かる。今巻き起こった轟音は、藍染の背後を粉砕した音に違いない。
破砕した地面からの土煙が身を包み、それでも藍染は動くことなく佇んでいた。驚きを隠せぬ瞳に、笑う星矢を映して。
「チッ、こっちに来て初めての彗星拳だったから、狙いが外れちまったぜ」
自嘲気味の笑み。彗星拳を外したのは、果たして故意か偶然か。
ペガサス彗星拳――秒間百発超にも及ぶ拳の連撃を一点に集中し放つ、星矢の必殺技である。
――見えなかった。恥を捨て、素直にそう認めよう。
(……どうやら、認識を改める必要があるようだ)
藍染は垣間見た星矢本来の力量に、底知れぬ畏怖を覚えた。
情報だけ入手して逃走する? とんでもない。この少年は、この先明らかな障害となる。
藍染は気を引き締め――それでも決して『勝てない』とは考えず――再び星矢に向き直る。
霊圧は冷たく、狂おしいほどに増していた。
「君の能力は理解した。その上で問おう。君のその『支給品』はなんだ」
ペガサス彗星拳を目の当たりにしてのからの第一声が、それだった。
能力と支給品の詳細を訊く。藍染がこのゲームで幾度となく繰り返してきた行為が、星矢にも実行された。
戦闘中であるにも関わらず、この男は何を血迷ったことを言い出すのか。思い出すだけでも腹ただしい。
星矢の支給品、雪走りは、他でもない藍染自身が石崎を殺害し奪い取った。まさかそれを忘れているわけではあるまい。
不快に思った星矢だが、笑みを零して悠々と答えてやった。
「これは、『ペガサスの聖衣』さ! 仲間が俺に託してくれた、大切な力だ……。聖衣を纏った聖闘士に、勝てると思うな藍染!」
藍染が興味を惹いたのは、現在星矢が装備しているペガサスの聖衣についてだろう。
初遭遇時には、星矢はこんなものは付けていなかった。だから、星矢の強さがこの聖衣にあると睨んだのだ。
「やはり、この世界における『支給品』はどれも魅力的なものばかりだな。……まだここを出るには惜しい。精々楽しませてもらうとしよう」
「世迷いごと言ってんじゃねぇ! 藍染! 貴様は俺がここで倒す!!」
星矢が再びアタックを仕掛ける。
彗星拳の一撃で確かな手応えを感じた星矢に、もはや戸惑いはない。制限がどれほどのものかも理解し、その上で藍染を潰しにかかった。
「ペガサス彗星け――」
音速の領域に住まう聖闘士の攻撃。超速度により生み出されるパワーは、当たれば一撃で終わる眉唾物の破壊力だ。
もちろん、その力を理解したのは藍染も同じ。だからこそ、油断はしない。
「破道の三十三」
聖闘士に音速の拳があるなら――死神には超高速移動術『瞬歩』がある。
彗星拳を撃とうとした星矢は、瞬時に移動した背後の藍染に気づき、行動を攻撃から回避にスイッチする。
「“蒼火墜”」
星矢の立っていた地点に、蒼の爆炎が巻き起こる。星矢は、既に移動した後だった。
雷の次は炎か、と星矢は藍染の攻撃の多彩さに感服する。が、それも当たらなければ意味がない。
先ほどの白雷という技も、威力はないに等しいものだった。聖衣を身につけた聖闘士には、もはや下級の鬼道などでは対応できない防御力が備わっていたのだ。
炎を回避した星矢は間髪入れず振りを変え、拳の矛先を藍染に構えた。
今までの戦いで、気づいたことが一点ある。それは、藍染の使う『瞬歩』は連続では使用できないということ。
死神の中でも使い手は希少な、高等な移動術。星矢は直感でそのカラクリを見破り、ならば間を入れる必要はない、と連撃を加えにかかった。
しかし、藍染が反撃を予期していないわけがない。
「縛道の一“塞”」
藍染の正面、その拳を振り下ろそうとした星矢の身体が――停止した。
縛道は、攻撃に用いる破動と違い、主に伝令や移動系などの補助に用いる鬼道。
その中でも一番最下層に位置する“塞”は、ほとんどの死神が使用できる基本中の基本だった。
効果は、対象の捕縛。もちろんその効力は絶対とはいえないし、制限下、加えて聖闘士が相手では、止められる時間も精々0.3秒がいいところ。
だが星矢にとって、この僅かな時間が死を招くこととなる。
一瞬の停止から解放された星矢が次に味わったのは、地に落とされる感覚だった。
まるで航海船の積荷を一片に背負わされたかのように、途端に身体が重くなる。倒れこそしなかったものの、肩が落ち、腰が折れ、拳は止まってしまった。
瞬間的に、自らの身に起こった現象を理解した。思い出されるのは、麗子と共に藍染に奇襲をしかけた際の展開。
(これは……藍染の重力操作!)
重い。身体だけではなく、身に纏う空気自体に重圧を感じる。
星矢の周囲に生えた雑草は見事に地ベタを撫で、上方向から来る力に抗うことなくペタンコになる。
これが『重力の増加』なのだと、思い知らされるようだった。
重い瞼を大きく見開き、前を見る。
黒球が、握られていた。両手では収まりきらない巨大な黒の塊に、あたりを散布する小型の黒球の群れ。
藍染はスーパー宝貝『盤古幡』を起動し、天より星矢を見下ろしていた。
「『支給品』の力は、その使い手と用途により大きく左右される。この『盤古幡』もまた、私だからこそ扱える代物だ」
星矢の動きが鈍ったことを確認し、藍染は悠長に語りだす。業者が家畜を見下ろすような、冷めた視線を送りながら。
「これが、私と君の差……天に立つ者と、地に伏す者の違いだ。飛ぶ術を持たぬ輩が身体を浮かせてみたところで、地に落とされるのは必然。この『盤古幡』は、実によくその事実を証明してくれる」
藍染の顔に、動揺や焦りの色は見られない。星矢から反撃が来るとは思いもしていないのだろう。
完璧なる余裕。藍染のそれは、既に勝利を確信した男の佇まいだった。
(くそっ……この重圧感、たぶんあの時くらった10倍の重力よりも重い! いったい藍染は何倍まで重力を上げられるんだ……!?)
スピードを殺され、一転して窮地に立たされた星矢は、打開策が思いつかないまま静かに藍染の顔を睨みつけていた。
もちろん、動こうと思えば動ける。だがやはり、10倍以上の重力の中では聖闘士本来の速度を発揮できない。
そんな中で動けば、反撃を食らうのは必至。ただでさえ藍染には『瞬歩』があるのだ。『盤古幡』が発動したところで、速度の優劣は完全に逆転したと考えていい。
なんとか、藍染が余裕という油断をしている内になんとかしないと。
「……どうやら、無闇やたらに動く気はないようだな」
「嘗めるなよ藍染。これくらいの重力で、俺がへこたれると思うな」
膝を折らなかったのは、星矢のプライドが許さなかったのか。
身体は沈んでいるものの、確かに二本の足で立っている。ここで倒れたら負けと、星矢はそう考えていたのだ。
「ちなみに、今君に課している重力は15倍だ。キルア君でも辛うじて歩くことがままなる倍率だったが……君ならその状態で私に攻撃することも出来るだろう?」
「…………」
「――やはり、か。君は強い。この僕を本気にさせるほどの実力を持っているのは確かだ。だが」
沈黙の中、星矢は拳を握り締めた。
もはや重力など関係ない。目の前にムカツク男が、仇討ちの対象がそこにいる。どうして殴れずいられようか。
星矢は小宇宙を集中させ、感覚を研ぎ澄ませる。相手が慢心している今がチャンス。
もう一度渾身の彗星拳を繰り出し、今度こそ仕留める。それで石崎の無念は晴らされる。
星矢が滾る思いを爆発させようと、
「これが『100倍』になっても――君は耐えられるかな」
した矢先だった。藍染が思いも寄らぬことを口走ったのは。
(なん……だ、と?)
百倍なんて、とても耐えられるものじゃない。動くどころか呼吸をすることも不可能、即座に身体が潰れ終局になる。
最悪の想像をしてしまった星矢は、思わず拳を引いた。藍染の言う百倍が、くだらぬ虚言とも分からずに。
そして、隙を突くことにかけてはこの男は一流だった。
人差し指をちょんと突き出し、その切っ先が星矢の身体に触れる。
たったそれだけ、たったそれだけで、
「破道の九十“黒棺”」
星矢の身体は、崩れ落ちてしまった――
「ふむ。やはり九十番台の詠唱破棄ともなれば、本来の威力を発揮させることはできないか」
全九十九種存在する破道の中でも、最も高ランクな九十番台に位置する“黒棺”。
対象を霊気で構成した黒の箱に閉じ込め、身を破壊する、攻撃力に特化した鬼道だった。
「がっ……は……」
全身に傷を負い、地に仰向けとなった星矢は吐血しながら苦しんでいた。重力は、現在7倍の環境である。
「ほう。狛村くんをも一撃で仕留めた黒棺を受けて、なおも息があるか。これはこの世界の制限が齎した結果か、それとも君自身の実力なのか。……まぁ、どちらでもいい。生きているというなら好都合だ」
いかにペガサスの聖衣といえど、全身を覆う霊気の波には対抗できなかった。それでも所持者の命だけは死守し、破損もそれほどではない。
問題なのは、星矢自身。拳はまだ動く。頭も機能している。重力が若干抑えられたことも幸運だった。
しかし、立ち上がる気力が湧いてこない。
「君には、色々と聞きたいことがある。ハーデスという人物はいったい何者なんだね?」
星矢は答えない。虚ろな視線で、天に立つ藍染を見上げていた。
これが、天地の差。
ひとえに『盤古幡』の力が強大すぎただけでは、説明が付かない。
女神に選ばれし聖闘士である自分が、なぜこうも劣勢になっているのか。
戦い方を誤ったのだろうか。堂々と正面から向かうことなどせず、小宇宙を感じたところで奇襲をかけていれば。
今は悔やんでいる時ではない。身体は動くのだ。藍染を倒さなくてはならない。
空を覆う暗雲は、なおも増していく。薄暗さが、その後の展開を危ぶむようであった。
「答えたまえ、聖闘士星矢。沈黙は――死を招くぞ」
倒さなくてはならない、仲間の仇。
その仇が、今は死神にも思えてきた――
「あった! お誂え向きな場所に建ってやがったぜ!」
両津を先頭に海岸沿いを進む星矢の仲間たち。
先ほどから、すぐ近くで鳴り響いている轟音に不安を覚えつつも、両津の言う『ある場所』を信じて足を走らせていた。
「両ちゃん、あれって…………廃棄された送電鉄塔じゃない!」
両津が着いたと明言する傍らで、麗子は異議を唱えた。
目の前に聳えるのは、天高く突き上げるような三角錐の建物。廃棄済みで電線の通っていない、鉄塔だった。
こんなところに来てどうするのか。麗子が説明を求めるものの、両津は聞く耳持たずに鉄塔を昇り出してしまった。
「ダイ、おまえはわしと一緒に昇って来い! 麗子、おまえはまもりと一緒に下で待ってろ! もし『誰かが落ちたり』したら、危ないからな!」
耳を裂くような怒鳴り声が、頭上から振り下ろされる。既にダイは両津の指示通りに動き、鉄塔を昇り始めている。
目的は見当もつかないが、二人とも考えあってのことなのだろう。変に『誰かが落ちる』という部分を強調した両津の言葉は、部外者による邪魔を恐れる意味があったと考えられる。
部外者とはもちろん、麗子の横で無表情を浮かべているまもりのこと。要するに、麗子の役目はまもりの見張りなのだ。
もしまもりまで鉄塔に昇り、後ろから誰かを突き落としたりなんかしたら洒落にならない。鉄塔には碌な足場もなく、相当身体能力が高くないと昇れなさそうなので無用の心配にも思えたが。
「うおお! やっとるぞやっとるぞ! あそこで星矢と藍染が戦ってるぞ!」
やがて、鉄塔を昇り切った両津は徐にあたりを見渡し、目的の二人を見つけ出した。
「本当、両津さん!? ……小さくてよく分からないよ」
「わしの視力をあまく見るなよダイ! 子供の頃から眼鏡なんてものとは無縁。超健康視力のわしの目を信用しろ!」
二人の大声会話は、下に残った女性二人にも十分聞こえる。
鉄塔の上から、星矢と藍染の戦いが見えるのだろう。戦況を知りたくなった麗子は、両津に呼びかけようとするが、
「あっ!? 星矢の奴が変な箱に閉じ込められたぞ!」
「えぇ!?」
声に出そうとした矢先、両津の口からショッキングな実況が告げられた。
思わずハラハラしてしまう麗子を知ってか知らずか、両津は声に出すことをやめない。
「箱が消えた! ……が、星矢がズタボロだ! マズイぞこれは、藍染のヤロー星矢のすぐ傍まで来てる! とどめを刺すつもりかあのヤロー!?」
「ちょ、ちょっと両ちゃん! それどういうことよ!? 星矢ちゃんは無事なの!? ねぇ、ねぇってば!?」
麗子が喋りかけても、両津は返事をくれなかった。
野球観戦に夢中な頑固親父のようなふてぶてしさで目を見開き、しきりに「あ、馬鹿」とか「やめろコンニャロー」と叫んでいる。
「ええい、やはりもう黙ってはおけん! ダイ! さっき言ったとおりに作戦決行だ!」
「うん、両さん!」
両津の合図を受けて、ダイが天に手を翳し、なにやら集中し始めた。
ますます訳のわからない麗子は再度声を荒げようとするが、それよりも先に、今度は両津から話しかけた。
「なぁ麗子、空を見てみろ!」
「空?」
なんのことかと思いつつも、言われた通り空に目をやる。
暗かった。時刻的にはもう少し明るくてもいいはずの空は、真っ黒な雲に覆われ今にも雨を吐き出しそうだった。
というか、今正に降り出した。ポツポツと雫が垂れる様子から、あっという間に勢い旺盛な豪雨へ変貌する。
フリーザの天気予報に偽りなし。午前中、雨は確かに降り始めたのだった。
「ヒデェ天気だよなぁ。傘なんて用意する暇もないし、風も強い。これは下手すりゃ嵐になるぞ」
「? なんなのよ両ちゃん! 何が言いたいのよ!?」
麗子は、両津相手に天気の話をする気など毛頭ない。今はそれよりも、星矢の安否の方が重要なのだ。
「嵐ともなれば、風が吹いて洪水になって、あと カ ミ ナ リ ! とかも落ちるだろうなぁ! こりゃあ大変だぞ!」
一部分をやたらに強調して、両津は雨を相手に子供のように喜ぶ。
その様子が変におかしくて、そしてさすがに気づいた。両津とダイが決行しようとした、『ある事』の正体が。
「でもちゃんと主催者が降るって言ってたんだからな! 突然落雷とか起きても、俺たち参加者は文句言えねぇよなぁ! そうだろダイ!? そう思うよな麗子!」
「両ちゃん……あなたまさか……」
両津が回りくどい仕草で何を言おうとしているのか、ダイが何を行おうとしているのか、全て理解できた。
その上で、さすがは両津勘吉だと敬服してしまった。
「……もう、両ちゃんったら! 本ッッッ当にワル知恵が働くんだからっ!」
「褒めるな麗子! さて…………今だダイ! やってくれ!」
両津の指示を受け、ダイが手を振りかざす。
自然界の法則すらも捻じ曲げる、魔の言霊を放ちながら。
「ライデイィィィィィィィン!!」
火事、地震、洪水、落雷等。
災害なんてものは、自然が気まぐれに起こすイタズラみたいなもの。
人間はただそれを恐れ、いつ起こるか分からない厄災に注意を払うしかない。
いつ起こるか分からないのだから、厄災なのだ。
たとえ真剣勝負の最中に落雷が起こったとしても――不思議ではない。
雨粒は大きく、豪雨の勢いは増すばかり。
藍染惣右介は、雨が嫌いだ。天から降り注ぐ水などに、なんの意味があるのか。
降雨など天に立つ者には無縁の現象。端正なオールバックを塗らす水滴が、煩わしいことこの上なかった。
「……黙、か」
「…………」
尋問対象の星矢は、依然として口を割ろうとしない。
主催者の一人について聞き出すチャンス、できれば殺したくはなかったが、このまま黙秘を続けるようであれば、制裁が必要だろう。
「残念だよ星矢君。君ほどの人物なら、きっと最後まで生き残ることも可能だったろうに。……だが、この僕を怒らせたがまずかったな」
「…………」
最終宣告だ。
星矢は悟った。藍染がとどめを刺しに来る。
(すまない麗子さん……どうやら、俺はみんなのところには帰れないみたいだ)
心の中で、弱音を吐いている自分がいる。
アテナの聖闘士にあるまじき惨めな行為。いったい何が星矢の心を折ったというのか。
(俺は、みんなのところには帰れない。でも。きっと。いや絶対)
――星矢の小宇宙は、まだ燃え尽きてしまったわけではない。
ただで殺されてたまるか。今の重力下なら大したことはない。技も問題なく繰り出せる。
たとえここで全ての力を使い果たしても、ハーデスを倒す力を消費したとしても、藍染は倒す。
相打ちをも恐れぬ星矢の小宇宙は、静かに、だが雄雄しく燃え上がっていた。
(藍染は倒す。この俺の、ペガサス星矢の小宇宙にかけて)
星矢が最後の力を振り絞り、起き上がろうと力を込める。
反撃が来るのは覚悟の上だ。回避されたとしても、何度も攻撃を撃ち続ける。藍染が倒れるまで、俺は倒れない。
粉骨砕身の決意が、星矢を奮い立たせた。そんな時だ。
ごろごろごろごろー………………ぴしゃーん
空が、鈍く鳴った。
空が、一瞬光った。
空が、何かを落とした。
「――――何?」
藍染が上を見る。
落ちてくる。地に立つ者を恐怖させる、大自然の厄災が。
どごーん
耳がはち切れんばかりの落下音。その最中、星矢は見た。
藍染が、厄災の餌食になるところを。
「ぐ……馬鹿な!? 落雷だと!?」
天から降り注いだ突然の閃光――落雷は、藍染目掛けてその猛威を振るった。
直撃こそ避けたものの、立っていた地面はクレーターを作るように萎み、全体を真っ黒に焦がす。
突然の『不運』に動揺する藍染の視界の外、星矢はその身を起こして笑っていた。
(ダイだ……)
藍染目掛けての落雷なんて、あまりにも都合が良すぎる。なにか裏があると考えるのが普通だった。
そういえばダイは雷の呪文を使えると言っていたな、とそんなことを思い出しながら理解した。
この落雷はダイの仕業だ。
手を出すなと、一人でやらせてくれと言ったのに、あの連中は今もどこかでこの勝負を観戦しているのだろうか。
両津は、星矢と藍染の一騎打ちを邪魔したくはなかった。
だが、脱出を目指すチームとして、星矢という仲間を失うわけにはいかない。
加勢したいが、それには星矢の誇りと意地、そしてまもりという不安要素が邪魔だ。
そこで両津が考えたのは、『自然災害に見立てての遠方からのサポート』。
落雷ならば、邪魔されても文句は言えまい。まもりも何もすることができないはずだ。
――どうだ星矢。これならちゃんと生きて帰ってこれるだろう。
――? わしらはなんもしとらんぞ。ありゃ事故みたいなもんだろ。地震雷火事オヤジってのは、いつ起こるか分からないからこそ怖いんだ。
そんなメッセージが聞こえてきそうだった。
星矢は笑みを抑えられずも、この好機を棒に振るつもりはなかった。
仲間が作ってくれた一世一代のチャンス。必ずモノにする。
「うおおおおおおおおお!!! 燃え上がれ、俺の小宇宙(コスモ)!」
星矢の全身が、光を帯びて燃え上がる。
今度こそ全力全開だ。重力も制限も関係ない。聖闘士の本領、とくと味わえ!
「くらえ藍染!―― ペ ガ サ ス 流 星 拳 !!! 」
聖矢の拳が原型を失い、光の速さになって藍染を襲う。
秒間百発を越える無数の乱打。ただの連続パンチではない。その威力は、さながらビッグバンの再発も思える程。
降り注ぐ光の拳は、藍染の顔を、腕を、脚を、肩を、身体中の至るところに炸裂し、無様な姿へと拉げてしまう。
光速の拳は本当の光を生み、砕いたものを光と同化させる。
「ぐはあああああああああ!? こ、この僕が、この藍染惣右介がこんなところでェェェ!!?」
藍染の醜い悲鳴が、光に溶けて虚しく消える。
ペガサス流星拳をその全身に浴びた藍染は光となり、跡形もなく消滅した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
今――全てが終わりを告げた。
豪雨の中、立っているのは星矢ただ一人。石崎を殺し、数々の参加者を苦しめた藍染は――死んだ。
「やった……やったよ石崎さん……」
勝敗が決したのだ。仇討ちが終わったのだ。仲間の無念を晴らしたのだ。
星矢は喜びに打ちひしがれ、吼えた。
藍染打倒に高揚した今となっては、痛いほどに降り注ぐ雨すら心地いい。
最後まで誇りを捨てなかった、若き聖闘士の死闘。
それは、勝利という形で幕を落とした。
【星矢@聖闘士星矢】
[状態]極度の興奮状態、中程度の疲労、全身に無数の裂傷
[装備]ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[道具]食料を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:歓喜
2:四国へと向かう
3:弱者を助ける
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
【藍染惣右介@BLEACH 死亡確認】
【残り39人】
「やった! 星矢が藍染のヤローを倒したぞ!」
「本当両ちゃん!? ……よかった。本当に、よかった……!」
鉄塔から降り、勝負の行く末を確認した両津とダイは、麗子にその全容を告げた。
星矢が繰り出した最後の必殺技。ペガサス流星拳は確かに藍染の身体を捉え、分子レベルになるまで粉々にした。
そして現在星矢は勝利の雄叫びを轟かせている。雨が降っていなかったら、ここからでも聞こえてきそうなほどだった。
「さあおまえら、これから改めて四国入りだ! 星矢を迎えに行くぞ!!」
「うん……うん!」
「はははっ、麗子さん泣きすぎだよ」
よほど星矢の生存が嬉しいのだろう。麗子はボロボロと涙を流し、その場に崩れてしまった。
麗子だけでなく、まもりと両津も同様に身を屈ませる。
みんな喜びすぎだよ、とダイが注意を払おうとした次の瞬間、ダイ自身もその異変に気づいた。
「え…………?」
寒気がする。空気が異様に重苦しい。
何が起こったのかと仲間たちの顔を見渡してみると、皆一様に苦しそうな表情を浮かべていた。
「な、なにこれ…………息が、うまくできない……」
「ぐぅ……なんだこりゃぁ……胸が締め付けられるように痛え。なにか、なにかが……」
悶える麗子と両津、そして言葉もなく蹲るまもり。
この突然の異変の中、唯一無事だったダイは、警戒した。
尋常ではない空気は、両津ら一般人を苦しめるには十分のものだった。
その存在だけで、人が殺せるほどに。
「アバンの書によれば、雷の呪文、ライデインは勇者にしか扱えない特別な魔法だったそうだ」
その元凶は、静かに歩み、ダイの下に姿を現す。
「先ほどの落雷でピンときたよ。星矢君が言っていた仲間というのは、やはり君のことだったか」
冷たく重い霊圧の中、ダイ同様に平然とした佇まいでいられる男。
「そんな……なんで、おまえが」
「マヌーサという呪文を知らないわけはないだろう? 落雷の瞬間、僕はそれを使ってあの場から抜け出したのさ。彼は絶対に情報をくれそうになかったからね。星矢君は今も、幻影を倒したことに喜んでいるのかな」
いるはずのない男、いてはならない男が、ダイの目の前にいる。
「ハーデスを知る聖闘士より、バーンを知る勇者を選んだ。ただそれだけのことだが――『おまけ』のことを考えると、この選択は正解だったようだ」
おまけと呼び視線を廻らせたのは、地に伏す三人の常人。
「そんな……星矢ちゃんの頑張りは、無駄だったっていうの……?」
「ふざけんなよ……どこまで卑劣なんだこのヤローは」
「…………」
ダイ、両津、麗子、まもり。
四者の視線は一人の男に集中し、驚きと怒りを個々にぶつけていた。
「さて…………君からは色々聞きたいことがある。マヌーサの効果は鏡花水月ほど万能じゃないからね。いつ星矢君が邪魔しに来るとも限らない。なるべく手短に頼むよ」
スーパー宝貝『盤古幡』を手に、男は笑みを浮かべる。
「沈黙や軽率な行動は死を招く――君はともかく、他の三人は何倍の重力まで耐えられるか。考えられぬわけではなかろう?」
逆らえば即座に重力を上げ、人質を死に至らしめる。男の脅迫は、そう意味だった。
「では、まず何から教えてもらおうか――」
その男――藍染惣右介は、凶悪なまでに完璧だった。
【兵庫県/二日目/午前】
【藍染惣右介@BLEACH――生存確認】
[状態]中程度の疲労(盤古幡使用可能。ただし三十倍程度が限界)
[道具]:荷物一式×2(食料残り約5日分)、盤古幡@封神演義、首輪×2
[思考]1:両津、麗子、まもりを人質に、ダイから情報を聞き出す(星矢が気づくまでに終わらせたい)。
2:可能であれば支給品も奪う。
3:L一行を探し出し始末、斬魄刀を取り返す。
4:興味を引くアイテムの収集(キメラの翼・デスノート優先。斬魄刀の再入手は最優先)
5:ルーラの使い手、バーンと同世界出身者を探す
6:能力制限や監視に関する調査
7:琵琶湖へ向かう(斬魄刀を手に入れてから)
8:琵琶湖に参加者が集まっていなかった場合、新たな実験の手駒を集める
【四国調査隊】
共通思考1:四国に向かう(数十分後、到着予定)
2:仲間が死んでも泣かない
3:出来る限り別行動はとらない (星矢は別)
4:ハーデスに死者全員を生き返らせさせる
【両津勘吉@こち亀】
[状態]睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]マグナムリボルバー(残弾50)
[道具]支給品一式×2(二食分の食料、水を消費)両さんの自転車@こち亀(チェーンが外れている)
爆砕符×2@NARUTO、中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター、焦げた首輪
[思考]1:藍染をどうにかする
2:姉崎まもりを警戒
3:仲間を増やす
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
[状態]中度の疲労、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]サブマシンガン
[道具]食料、水を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:藍染をどうにかする
2:まもりに僅かな不信感を抱いている
3:四国へと向かう
4:藍染の計画を阻止
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]健康
[装備]クライスト@ブラックキャット
[道具]荷物一式(2食分消費)、トランシーバー、出刃包丁
[思考]1:藍染をどうにかする
2:姉崎まもりの監視
3:四国へと向かう
4:ポップを探す
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]:中度の疲労。殴打による頭痛、腹痛。右腕関節に痛み。(痛みは大分引いてきている)
:右肩の軽い脱臼。不退転の決意。藍染の霊圧によるプレッシャーを感じているが、割と冷静?
[装備]:魔弾銃@ダイの大冒険・魔弾銃専用の弾丸(空の魔弾×7、ヒャダルコ×2、ベホイミ×1)@ダイの大冒険
[道具]:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン、ベアークロー(片方)@キン肉マン、装飾銃ハーディス@BLACK CAT、荷物一式×4、食料五人分(食料、水は三日分消費)
[思考]1:不明
2:両津達3人に着いていく。大量殺戮のチャンスを狙う
3:殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない
4:セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)
5:セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
6:セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生して貰う
【星矢@聖闘士星矢】
[状態]極度の興奮状態、中程度の疲労、全身に無数の裂傷
[装備]ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[道具]食料を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:歓喜(倒したのが藍染の幻影だということにはまだ気づいていない。勝利の喜びで若干判断力が鈍っている)
2:四国へと向かう
3:弱者を助ける
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
300 :
便器掃除:2006/09/10(日) 15:31:21 ID:3Gw3TbQq0
「着いたで。ここが九州や。しかし、いつ見てもスペースワールドは貧相やな。まあ、日本一のテーマパークUSJと比べるのはちょっと酷かもしれんが。」
アニキと鳥谷は福岡の街を行く。きっと便器の汚物共が沢山いるはずだから。日本の良心大阪の選手としてはそういうものを排除する義務がある。
「早速見つけたで。あれは味噌の立浪と便器の川崎や。ん?虎のユニフォームを着た娘が襲われとるやないか。グズグズしとる場合や無いな。行くで鳥谷。」
「あ、あんた等なんやねん。うちに何の用があるの?」
襲われている少女の名は御堂春。大の虎党だ。阪神を神格化し、阪神と共にこれまで生きてきた。自分が嫁ぐ先も阪神の選手と決めている。
「可愛いねぇ御譲ちゃん。おじさんと楽しい事しようよぉ」
いたいけな少女に付き纏っている変人の名は立浪一義。汚らわしい味噌の選手だ。そして、もう一人地元便器の選手川崎宗徳も一緒になって強姦を企んでいた。その顔に似つかず、内面は野獣そのものだ。
「た、立浪さん。早くやっちゃいましょうよ。ひ、人が来るかもしれませんから。」
「い、嫌や。助けてぇ。中川さ〜ん。」
「へへへへへ。無駄だ。そんな奴はここにはいな〜い。おとなしく股を開け。」
「待てや。球界の面汚しが。その娘に代わってこのワシが相手をしたるわ。」
「そ、その声はまさか、アニキですか?うちを助けにきてくれはったんですね?」
御堂にとって金本は神のような存在だった。生まれて初めて優勝を見せてくれた立役者。そんな人が自分を助けてくれる。それだけで胸が一杯になった。
アニキの行動は素早かった。まず、立浪を自慢の豪腕で一撃の下に粉砕すると、逃亡を図った川崎を鳥谷が撃ち殺す。完璧なコンビネーションで御堂の危機は救われた。
「ほんまに助かりました。あ、あともう一つ頼みたいんやけど…ご飯ちょっとくれまへんか?立浪等から逃げるときに荷物全部すててしもうた。あはは…」
アニキの魅力は強さだけではない。その優しさにもあった。自分の支給品のパンを惜しげもなく御堂に与える。キリストのようなお方だ。
「わぁ〜アニキ、おおきに。このパンおいしいねん。」
「喰ったなら行くぞ。次の目的地は聖地甲子園や。金の亡者と化したノリらに制裁を食らわしにいくんや。」
301 :
便器掃除:2006/09/10(日) 15:31:59 ID:3Gw3TbQq0
【2日目午前福岡県】
【金本明憲@阪神タイガース】
「状態」健康(傷完治)
「装備」ウージー(残弾29発)、AK―47(残弾25)、鉈
「道具」支給品一式×2
「思考」阪神以外の選手を殺す。
【鳥谷隆@阪神タイガース】
「状態」健康
「装備」猟銃(残弾13)、ボウガン(残弾10)
「道具」支給品一式×5
「思考」アニキに着いて行く。
【御堂春@こち亀】
「状態」満腹
「装備」なし
「道具」なし
「思考」アニキに着いていく。中川を捜す。
【立浪一義@中日ドラゴンズ】
【川崎宗徳@福岡ソフトバンクホークス】
死亡確認。
盤古幡の重力が重く圧し掛かる。体力が自慢の両津もさすがに何倍もの重力には耐えられない。
かつて竜騎将バランに仕掛けたポップの重圧呪文ベタンを足止めにもならなかったように、
ダイならある程度は耐えられるだろうが……それでは仲間を見殺しにしてしまう。
かといって藍染の言いなりになる訳にはいかない! 断じて!
「そうだな、まず、大魔王バーンとは何者なのかね?」
「……地上を消滅させ、魔界に太陽をもたらそうとしている大魔王だ」
「ほう、地上を消滅……興味深い。そういえば君はあの大広間で不思議な力を使っていたね。
あれはいったいどんな力なのかな? ぜひ拝見してみたいところだが……」
「…………」
「ペガサスの少年が戻ってくるまでに手早くすませたい。
黙る事は許さない、……盤古旛、重力2倍!」
ズシンッ。自重に押し倒される麗子こまもり、両津はぎりぎり踏ん張っているが時間の問題だ。
どうする? どう打開する? 答えは出ない。
「仕方ない、君が答えないのであれば、人質を一人殺そう」
「そんなっ……!」
人質とは生きていてこそ価値を発揮する。
だが人質が複数いる場合、人質を殺すリスクは軽減されるのだ。
「ゆ……許さない……そんな、事……」
搾り出すような声で麗子が言った、それは己への死刑宣告であった。
「では、君から殺させてもらおう。『彼』が戻ってくる前にすませたいし、君には特別な力を感じない。
――殺す事にためらいはないよ」
藍染の手が麗子に伸びる。
「れ、麗子……!」
両津も声を絞り出し、一歩、歩み出し……。
「重力3倍」
押し潰された。
「さあ、大魔王バーンの情報でも、君自身の情報でも、君の世界の情報でもいい。教えてもらおうか」
藍染の圧倒的優位の前にダイは己の無力さを噛み締めていた。
3倍の重圧はダイの動きをも鈍らせ、反撃の隙を無慈悲にも潰す。
(ちくしょう……竜の紋章よ、おれには、おれにはこの程度の力しかないのかっ!
竜の騎士は、竜の騎士は……本当にそんなに弱いのか!?
仲間一人守るぐらいの力さえも出せないのかぁっ!!)
藍染の麗子の首を掴もうと手を伸ばす。
刹那――ダイの時間が凍る。
そこはアルキード王国。父バランをかばい、母ソアラが身をていして守った姿。
『……竜の騎士の人生は戦いの連続』
それな亡き父の声。
『その血塗られた歩みに囚われ悲劇にみまわれた女性は確かに少なくないかもしれない。
お前の母も……残念ながらその一人だった。だが! 過去の歴史がどうあれお前はお前だ!
お前の手で過去の竜の騎士の悲しき宿命をも断ち切ってみせろ、ダイ!
初めてレオナを助けた時を思い出せ。お前はただの竜の騎士ではない、
私の魂をも受け継いだ全く新しい超騎士なのだ! 起て! 起ちあがれっダイよっ!!』
「――父さんっ」
凍った時間が氷解する。そうだ、初めて紋章の力に目覚めたのもレオナを助けた時だった。
ふりしぼるんだ、自分の中の未知の力を……あの時のように!
「おれと父さんの力はっ……まだこんなもんじゃなあぁいっ!!」
盤古旛の重力を一瞬にして吹き飛ばし、竜の騎士ダイ、起つ!
その構えた両の拳には竜の紋章!!
――そうか、そういう事か。
水晶球に映されたダイの姿を見て大魔王バーンは確信する。
竜の騎士が生涯を終える時、使命を果たした紋章は聖母竜の宿す新たな生命へと受け継がれる。
だがダイは竜の騎士と人間の混血であり、生来竜の紋章を持っていた、
その上に死を迎えたバランの紋章か継承された。神々すら予想だにしんかったろう超戦闘能力が誕生したのだ。
「……言わば……双竜紋!!!」
「その紋章が……君の力か」
「うおおおおおおーっ!!」
ダイは両の拳を交差させ、物を投げるようにして振り下ろす!
「紋章閃!!」
避けられるはずの攻撃だった。
だがライデインを受け、ペガサスから逃れ、スーパー宝貝盤古旛を使用した疲労がそれを許さない!
藍染の胸元に二つの竜の紋章が刻まれる!
「ぐはっ!」
重力から解放された両津達は反撃のチャンスだと悟る、だが、仲間の協力を必要とせぬほど今のダイは強い!
ダイはクライストを両手で握り締め、竜闘気をめぐらせる。
通常の武器なら竜闘気に耐え切れず燃え尽きるが、オリハルコン製のクライストはそれに耐えて見せた!
今こそ竜の騎士の真価が発揮される!
「アバンストラッシュ!」
竜闘気の塊が藍染の全身を焼き払い、身体の表面を黒焦げにする。
「あ、ああ……この、私が……」
よろめきながらも藍染は呪文を詠唱していた。これほど自分と相性のいい呪文に出会えた事を藍染は幸福に思う。
「マヌーサ」
霧が現れ、藍染の姿が無数に現れる。
だが闘気を察知するダイは幻覚に惑わされない。
「ルーラ!」
ダイは瞬間移動呪文で即座に藍染と麗子の間に割ってはいる。
それを見て藍染は致命的な隙を作った。追い求めていたルーラの使い手が今! 自分の前で牙を剥いている!
「大地斬!」
横薙ぎに放たれた竜闘気の斬撃を避けられたのは僥倖だった。
もはや立つ力さえ失った藍染が、偶然にも腰を落とした。それだけの出来事だった。
そして藍染が尻餅をつくよりも早く、彼を背後から誰かが支える。
「聖闘士に二度も同じ技は通用しないってのに、これじゃ一輝やサガに笑われちまうな」
「お前は――!」
ペガサス星矢。
「ダイ、お前の小宇宙、しっかり感じたぜ! そして藍染!
これが、今度こそ! 石崎さんの仇討ちだぜー! ペガサスローリングクラッシュ!」
星矢が藍染と共に天高く飛翔する!
星矢は空中で何回転もして遠心力を存分につけ、地面に叩きつける!!
「馬鹿な……この私が、こんな所で……」
頭から地面に突き刺さった藍染の頭蓋は砕け、首の骨もへし折れた。
今度こそ幻でも何でもない、ペガサス星矢は、石崎の仇討ちを成し遂げたのだった。
そしてダイは双竜紋に目覚めた。脱出派は大きな前進をしたのだった。
「――浮かない顔ですね、バーンさん。あのダイとかいう坊やがそれほど気にかかりますか?」
「…………あやつは地上で唯一余に逆らいうる力を持つ者の力を『継承』したのだ」
そう、それは『闘いの遺伝子』と呼ばれるもの。
歴代竜の騎士が数百年の激闘を繰り広げた戦闘経験値全てをダイは引き継いだのだ。
参加者の中には数多の激戦を潜り抜けた猛者がいた。
しかしそれらの経験を圧倒的に凌駕する経験値をダイは一気に引き継いだのだ。
「竜の覚醒……これもまた一興かもしれん」
バーンは感じていた。ダイはついに、自分と同等の領域に駆け上ったのだ。
【四国調査隊】
共通思考1:四国に向かう(数十分後、到着予定)
2:仲間が死んでも泣かない
3:出来る限り別行動はとらない (星矢は別)
4:ハーデスに死者全員を生き返らせさせる
【両津勘吉@こち亀】
[状態]睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]マグナムリボルバー(残弾50)
[道具]支給品一式×2(二食分の食料、水を消費)両さんの自転車@こち亀(チェーンが外れている)
爆砕符×2@NARUTO、中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター、焦げた首輪
[思考]1:藍染を倒し安堵
2:姉崎まもりを警戒
3:仲間を増やす
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
[状態]中度の疲労、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]サブマシンガン
[道具]食料、水を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:藍染を倒し安堵
2:まもりに僅かな不信感を抱いている
3:四国へと向かう
4:藍染の計画を阻止
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]健康・双竜紋覚醒
[装備]クライスト@ブラックキャット
[道具]荷物一式(2食分消費)、トランシーバー、出刃包丁
[思考]1:双竜紋に感慨深いものを感じている
2:姉崎まもりの監視
3:四国へと向かう
4:ポップを探す
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]:中度の疲労。殴打による頭痛、腹痛。右腕関節に痛み。(痛みは大分引いてきている)
:右肩の軽い脱臼。不退転の決意。藍染の霊圧によるプレッシャーを感じているが、割と冷静?
[装備]:魔弾銃@ダイの大冒険・魔弾銃専用の弾丸(空の魔弾×7、ヒャダルコ×2、ベホイミ×1)@ダイの大冒険
[道具]:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン、ベアークロー(片方)@キン肉マン、装飾銃ハーディス@BLACK CAT、荷物一式×4
、食料五人分(食料、水は三日分消費)
[思考]1:不明
2:両津達3人に着いていく。大量殺戮のチャンスを狙う
3:殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない
4:セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)
5:セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
6:セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生して貰う
【星矢@聖闘士星矢】
[状態]極度の興奮状態、中程度の疲労、全身に無数の裂傷
[装備]ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[道具]食料を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:今度こそ藍染を葬った事による安堵
2:四国へと向かう
3:弱者を助ける
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
【藍染惣右介@BLEACH 死亡確認】
【残り39人】
――死にてえのは、どいつだ?
すでに空は灰色雲に覆われ始めている。冷たい風に揺れる枝葉が、これから訪れるであろう闘いの激しさを予感させていた…。
【インフェルノ//〜友達≠仲間〜】
「…ご、悟空君?言ってる意味がよく分からないんだけど…?」
目前に立つ悟空から放たれる不穏なオーラ。それは非戦闘員とも言える一般人であるはずの大空翼でさえも、はっきりとした“悪意”として凍てつくような寒気を感じていた。
「………」
張り詰める空気。誰も言葉を続ける事が出来ない。
不敵な笑みを浮かべる悟空……困惑に眉を潜める翼……最大の警戒で悟空たちを見つめ返すブチャラティ……悟空の斜め後ろで立ち尽くす無表情の友情マン……
そして――
「……悟空」
――ルフィ。
ついに再会した二人。
悟空を見据えるその瞳は、微かに赤い熱を帯びている。
「ん?地球人風情がこのオレを呼び捨てか?クク…」
「………」
もはや、ルフィの知る孫悟空ではない。
まるで道端にひれ伏す物請いを見下すかのような、冷酷な嘲笑。
「……悟空」
「……ヤツはもういない。オレは『カカロット』だ」
一歩前に出るルフィ。
麦わら帽子を深く被り直し、コキリと指の骨を鳴らす。
「もういない?何を言ってるんだ悟空君!もしかして…また前の時みたいにパニックになってしまってるのかい!?」
以前承太郎と翼の二人が悟空と遭遇した際、確かに彼は酷く混乱していた。
問答無用で襲いかかってきたかと思えば、一転して爽やかで人畜無害な青年に変わり、そしてまた狂人へと変貌したかのように絶叫しながら一人逃げ去った。
「ツバサ、“前の時”だと?」
「あ……そうだ!悟空君!あれからずっと君に聞こうと思ってた事があるんだ!」
ブチャラティに返事する間もなくある事をとっさに思い出した翼は、勢いよく前に出てルフィの隣に立つ。
「聞きたい事?なんだ?命ごいなら却下だぞ?」
「悟空君がそんなパニック状態になってしまったのは、もしかしたら『日向君』が原因じゃないのかい!?」
「……ヒュウガ?」
あの時……悟空が再び変貌してしまった時流れていた『日向小次郎』の死を伝える放送。翼はどうしてもその事があれからずっと気になっていた。
「もしかしたら、僕と同じようなユニフォームを着てたかもしれない。心当たりないかい?」
「………」
日向小次郎。
悟空がこの舞台で最初に殺した二人の『地球人』の内の一人。
悟空に日向の名の記憶は無い。彼が覚えているのは『桜木花道』の名のみ。あの時日向は名乗っていないからである。
「………ああ、そういや確か…そんなヤツもいたな。安心しな……苦しむ間もなく一瞬で『殺して』やったからな」
「…………え?」
翼の表情が固まる。
――殺してやったからな――
確かに悟空はそう言った。
……殺した?誰が?……違う……そんなわけ……
「オレは弱っちいやつをいたぶる趣味はねぇからな。つえーやつなら楽しいだろうが、あんなザコならサクッと殺すに限る」
「………」
「……悟空」
そう。その時を、確かに見ていた。
仲間である悟空が、大切な仲間である孫悟空が、二人の罪無き者を残酷に殺したあの時。
ルフィは、彼を止める事が出来なかった。
仲間を…止められなかった。
「何回言わせりゃ分かるんだ?オレは悟空なんて名前じゃねえ……」
「………悟空」
「……ん?そういやお前……確かあん時にいた……」
ふと悟空の表情が変わる。
確か、この麦わらの男には見覚えがある。記憶の奥底からこの男の事がうっすらと浮かび上がってくる。
――そうだ……この耳障りな声、確かに聞き覚えが……
『悟空ぅ〜!』
『悟空っ!?』
『悟空…』
『待てよ悟空ーっ』
『大丈夫か悟空!』
「悟空……!」
――そうだ、思い出した。
オレがまだ孫悟空だった頃の、親友。そいつに似た声を持っている……麦わら帽子の男、ルフィだ。
「……思い出したぞ。ルフィじゃねえか。久しぶりだな?」
「え!?カ、カカロット君!?」
ルフィに対して急に親しげな声を掛けた悟空に対し、驚きの声を返す友情マン。
このルフィという敵とカカロットが仲の良い知り合いであった場合――
もしかしたら戦闘が回避され『強敵をカカロットに根こそぎ消してもらい、最後に彼を毒殺して優勝する』という計画が根本から台無しになってしまうかもしれないという危機を感じ、『マズい』と声を荒げてしまったのだ。
そのルフィ、一転して無口。
帽子のふちで隠された表情からは、何の反応も伺えない。
「体がゴムみてーに伸びる変なお前が弱っちい地球人なわけ無いもんな。どこの星出身だ?」
「………」
返事は無い。
ルフィは相変わらず無感情に、無表情に、悟空の前にじっと立ち尽くす。
「……ゴクウ、と言ったな?お前のターゲットは『地球人』に限る、というのか「ザコ地球人は黙ってろよ」
「……!」
ルフィたちの後方に立つブチャラティへ目を合わせることもなく、悟空は彼の言葉をピシャリと遮る。それはルフィに対してとは全く違う、低く冷たい響きの言葉であった。
(……やはり『地球人』を敵と見なしているのか。ならばヤツは、間違いなく敵。しかも…ただ者ではない予感がする……)
ブチャラティは言葉を飲んだまま考える。
――向こうは二人。行動を共にしているという事は、おそらくあのもう一人のスタンドのような姿を持つ奴も強い可能性が高い。対してこちらは……戦闘力はおそらく皆無のツバサ、そして連戦続きでダメージの深い自分。
実質こちらはあのモンキー・D・ルフィしかまともに戦えまい。
そんな実質『二対一』という絶望的なこの状況に気付く。
「……なあルフィ、おめーはどうすんだ?お前なら友情マンみたいに『友達』になってやってもいいぜ?」
「………」
「……お前は地球人じゃない。オレたちの『仲間』さ」
仲間。悟空の口から出たその言葉に、初めてルフィはピクリと肩を動かし反応を見せる。
「そうだ。来いよ一緒に。なんならこの気に食わないゲームも一緒にぶっ壊そうぜ?」
「………の…」
「ま、地球人を一人残らず消してからだけどな………ん?」
悟空の笑顔が止まる。目の前のルフィに異変を感じ、不審な気配を敏感に察知。
「……!?」
見ると、ルフィにあるはずの両腕がどこにも無い。
その奇妙な姿。そして前傾姿勢。これは…!
「……“回転弾”(ライフル)ッッ!!!」
ズガッッ!!!
ルフィの遥か後方まで伸ばされ何重にもねじられていたゴムの左手が、反動により目にも止まらぬミサイルのような速さで悟空に襲いかかる!
顔面にクリーンヒットしたその凄まじい衝撃は辺りに反響し、悟空の体は見事に宙を舞い――
「…なッ!?」
だがブチャラティは見た。
その拳は寸前で止まっていた。
右の手のひらでルフィの拳を軽々と受け止め、僅かにのけぞらせた上半身を前に戻し…ニヤリと冷たい笑みを再び浮かべる。
「そうか……これがおめぇの答えか…!」
今の一撃に全く動揺を見せる事もなく、受け止めていたルフィの拳を横に払う。
しかしその払った拳は悟空の肩を掴み――
「“鐘”(かね)ェエッッ!!!」
「なにッ!?」
肩を掴んで伸びた腕を一気に縮ませ、悟空の顔面目がけてロケットのような音速にも及ぶかの勢いで頭突きを仕掛ける!
再び大きな激突音を響かせるが、それも悟空は右腕の横っ面でで瞬時にガード。
「“銃弾”(ブレッド)オッッ!!!」
後ろに残していた伸びきった右腕を引き戻し、銃弾を遥かにしのぐほどの重い一撃を至近距離から悟空の腹部目がけて撃ち放つ!
「無駄だッ!!」
しかしそれさえも悟空は左手でいとも容易く掴んで受け止めてしまう。
回転弾(ライフル)、鐘(かね)、銃弾(ブレッド)の三連撃も悟空には全く通用せず。
「……あのDIOってやつに手も足も出なかったお前程度が、オレに敵うはず無いだろ?」
至近距離で対峙する顔と顔。
悟空は汗一つかかない余裕の笑み。一方のルフィは…
「……なんでかな……」
「ん?」
ルフィは怒るでもなく、悲しむでもなく、焦るでもなく…
ただ、静かな瞳で悟空を見つめていた。
「……確かにあの変なオッサンには負けちまったけど……」
「悟空はその変なオッサンに勝ったけど……」
「今の悟空には、さっぱり負ける気がしねェ」
支援
ルフィが悟空を見るその静かな瞳の奥には、様々な者たちの姿が映っていた。
――人の言葉が話せなくとも、誰よりも“仲間”を大切にする心は自然と伝わってきたエテ吉。
――最後まで“仲間”の身を案じて死んでいったバッファローマン。
――“仲間”のため、その身を投げ出してまで敵を倒そうとしたイヴ。
その他にもまだまだ沢山いる、かけがえの無い大切な仲間たちの立派な姿。
「目ぇ覚まさせてやるよ、悟空…!」
「……上等だ……ウリャアアアッ!!」
「うわあッ!?」
ルフィのその言葉に口端を小さく吊り上げ、腰を落としてその体を両手で掴んだかと思った瞬間、力の限りの勢いで空へとルフィを放り投げる悟空。ルフィの体は遥か遠くの空へと粒になっていき…
「力の差ってやつを思い知らせてやるぜルフィ!ハアッ!!」
舞空術で自らも舞い上がり、そのルフィを追って飛んでいく。
「な…ちょ!カカロット君ッ!!?」
友情マンの驚く声にも見向きもせず、悟空はその場から去っていった。
「………悟空君を……追わなきゃ」
「…ツバサ?」
それまで今までの流れにも呆然と立ち尽くすだけであった翼が、まるで糸の切れた操り人形のようなおぼつかない足取りで悟空たちの飛んでいった方角に向けて足を踏み出す。
「……あんな嘘…付いちゃった理由……悟空君に…聞きに行かなきゃ…!」
「待て!ツバサ!」
日向を殺した。悟空のその言葉は翼の心に重くのしかかっていた。
「………そうはさせない」
その翼の前を遮る――友情マンのその体。
(仕方ない。悟空君のワガママ勝手ぶりはまあ…大体計算の内だ。ならば僕も自分の仕事をするとしよう。…見たところ、何の力も無さそうなひ弱な青年と…片腕も無い、ダメージの深そうな半死の男。彼ら程度なら僕でも簡単に…)
「…やはりお前も、敵という訳だな」
「敵?……違うよ。君たちも、僕にとっては“友達”さ!友達なら…僕のために、友達のために…命を投げ出す事も仕方ないだろう?」
にこやかに、爽やかに。友情マンはブチャラティと翼に語りかける。
その胸に掲げた“友情”の二文字が、彼らの前に立ちはだかる。
【インフェルノ//〜二重奏(デュオ)〜】
ポツポツと、しずくが肩に落ちる。
空を行く悟空の体が徐々に湿り気を帯びてゆく。
「……邪魔が入らねえようにって思ったけど、さすがにちと飛ばしすぎちまったかな……」
飛んでいくルフィの姿がようやく肉眼で捉えられる。場所は埼玉から再び東京へと戻っていた。
普段は呼吸をする程度の気軽さで行える舞空術も、なぜかこのゲームの舞台では思ったより疲労が溜る。
「…む!?」
一瞬意識から逸れたその瞬間、目の前に捉えていたルフィの体が急に風船のように大きく膨らみ、飛んでいたスピードを落として真下へと落下し始める。
笑みを携えたまま、悟空はその落下地点目がけてスピードを上げる――
――対峙する、二人の男。
場所は東京池袋。本来は人・人・人で溢れかえるこの都会も、今は人っ子一人いない。
硬いコンクリートジャングルの地面でも、ゴム風船のように舞い降りたそのルフィの体はもちろん無傷。
あれほど飛ばされたというのに、その麦わら帽子は無くすこと無くしっかりと頭に被さっている。
「ふぅ〜、だいぶ飛んできちまったなぁ……やっぱ悟空はスゲェや」
「ハハ、今から戦う相手を誉めるのか?ルフィ」
飛んできた方角の空を眺めて目を細めるルフィ。そこにはすでに太陽の姿はなく…シトシトと降りしきる雨の粒がルフィの目の中に入り、パチパチとまばたきしながらかぶりを振る。
「ん?大丈夫だ。俺は悟空よりツエーから」
「……クックッ……ハッハッハッハッ!やっぱお前は面白ぇヤツだなぁ!」
臆面無くそう堂々と語るルフィに思わず悟空は心底から大声で笑いを上げる。
心優しき悟空から冷酷なカカロットとなった今でも、変わることの無いある共通の本能。
『強いヤツと戦いたい』
それこそが、孫悟空という者の体をつき動かす最大の精神。
地球人は弱い。しかしそうでない者は強敵へと変わる可能性を秘めている。
そんな根拠の無い理論さえ、今のカカロットにとっては疑う事もない真理。
「クックックッ……よぉし、んじゃ始めるとするか。今さら命ごいしてもムダだぞ?」
「しねェよ。悟空こそ、泣いて謝ったって許さねえ」
互いに準備は万端。どちらともなく構えを取り、口をつむぐ二人。
静かに、シトシトと雨が降る。
止まる二人の時間。道に植えられた木の青い葉に雨露が溜まり……露は大きな粒となり、重力に引かれて岩棚に弾ける。
「「うおおおおおおッッ!!!」」
ぶつかる互いの拳と拳。
その衝撃は周りの木々に溜まりつつあった雨露を全て弾き飛ばすほど。
「ゴムゴムのぉ…ッ!」
「ハアッ!!」
「グッ!?」
両手を後ろに伸ばしたルフィの横っ腹を、悟空は見逃さず回し蹴り。
しかし構わず!
「“銃乱打”(ガトリング)ッッ!!」
「避わすまでも無いぞ!ハアッ!」
瞬時に悟空の手のひらに光が集まり、小さな気弾がルフィのガトリングラッシュの中央に向けて放たれる。
「どわっ!?アチッ!!?」
「もう一発ッ!!」
いくらゴムの体で打撃がダメージに繋がらないとはいえ、その気弾の持つ熱までは防げない。
ガトリングの拳に気弾がぶつかり、拳を焼く。
痛みに怯んでラッシュが止まったその一瞬の隙、顔面に一直線に向かってきたもう一発の気弾を避わす事が出来ず、小規模ながらも派手な爆発がルフィの顔に直撃。
「そらそらそらそらアッッ!!!」
ダメージで吹き飛ぶルフィの全身に休む間もなく次々に襲いかかる大量な小さな気弾の弾幕。
なす統べもなく全てはルフィの足・腕・顔・腹…五肢全てに次々と着弾し、雪崩のごとき連続爆発によりルフィの体はダンスを踊るかのように暴れ回る。
「オリャアアアアッッ!!!!」
煙を纏い宙を舞うルフィの背にトドメとばかりに大きく踏み込んで掌底をぶち込み、凄まじい衝撃をモロに受けたルフィは矢のような速さで吹き飛ばされてビルの壁に叩き付けられる。
「ガ……は……ッッ!?」
ルフィが直撃したコンクリートの壁は派手に崩れ落ち、ルフィの半身を瓦礫の破片がガラガラと埋めていく。
「……ふぅ……。少しやりすぎちまったか?おいルフィ!まさかもう終わりだなんて言わねぇよな?」
両掌を軽くはたきつつ、ゆっくりとルフィの元へと歩み寄る悟空。
「……へへ…そうこなくっちゃあな…!」
瓦礫をものともせず、ルフィはゆっくり立ち上がる。
その肌は至るところに黒い焦げ痕を残し、口から少し血が流れてはいるが…その瞳からは闘志は全く衰えが見られない。
「……まだ、おめーをぶん殴るまでは……このくらい屁でもねぇよ」
「ぶん殴る?…そうだな、せめて一発くらいは当ててみせな。そうじゃなきゃ面白くねぇ」
悟空は首を軽く振りコキリと音を鳴らして、そのルフィを挑発するように手を突き出し人差し指をクイクイッと自分に向けて動かす。
それを見たルフィは「こんにゃろ」と小さく洩らしつつも口元には笑みが浮かび、右手の五指に力を込めてパキパキと骨を鳴らす。
「……ゴムゴムのぉ…!」
「またそれか?バカの一つ覚えみてぇに…」
また右腕を後ろに伸ばしていき、悟空に狙いを定めてずっしりと腰を据えて構える。
「鎌(かま)アッ!!」
しなる長い腕が途方もない射程のラリアットを繰り出す。
悟空はその腕を一歩も動かずにそのまま片手で受け止め…
「鞭(むち)ィッッ!!」
「おっと!」
続け様に悟空の足元をなぎ払う長い足払いをそのまま軽く宙に飛び、軽やかに回避する。そして…
「同じ手は二度も通用……しねえッッ!!」
「くっ!?ウワッ!!?」
腕を掴む悟空目がけて一気に腕を縮ませつつ射程内に飛び込み連続攻撃を仕掛けようとしたルフィを確認すると、ルフィの腕を両手で掴み強引に一本背負いの要領で後ろに投げつけ頭から叩き落とす。
「ぶへッッ!?いってぇ…ッ!クソッ!!」
砂で汚れた顔を手で拭うと、直ぐ様立ち上がり構える。
あの悟空相手に、畳み掛けられる隙を与える事が致命的なのは本能で知っていた。
「ん?どこ行った悟空ッ!!」
すぐに悟空の場所に目を移すも、姿が無い。
右、左、前、後ろ、どこに視線を向けても悟空がいない。
……いや!
「うえだああぁッッ!!」
「クッ!?」
ルフィの頭上から襲いかかる悟空。その手には長い『凶器』が握られていて…!
「潰れちまえッ!!」
「グアッ!!?」
ルフィの脳天を押し潰さんとぶつけられたその凶器、それは大きな電柱。
悟空は道に生えている電柱を一本抜き取り、舞空術でルフィの真上から強襲したのだ。
凄まじい力で電柱の底をぶつけられるも、何とか両手で受け止めたルフィ。しかしそれでも、悟空はその“宇宙最強”の途方もない力で押し込もうとする。
「ぬ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎぃぃぃ〜〜ッッ!!!」
「うおおおああああッッ!!!」
ゴムは、どんな衝撃も吸収する。しかし…輪ゴムも力いっぱい引き延ばせば千切れるし、ゴムマリだって車に引かれれば破裂する。
そう、それはルフィの体であったとしても…!
「グァァアアア…ッッ!!」
その体が悲鳴を上げ始める。
傷から血が滲み出し、節々が徐々に激しい痛みに襲われる。
「中々粘ってくれたけど…これでおしめぇだ!あばよっ、ルフィッ!!」
「グッ、おおぁああァァッ!!」
両腕両足がコンクリートの地面ごと押し潰されていく。
メリメリと音を立てつつ、その電柱の底がどんどんルフィを圧迫してゆく。
――ダメだ。やっぱ悟空はつえぇや……すまねぇみんな、オレの力じゃあ悟空を殴れなかった――
ルフィの心が…少しづつ、諦めの色に染まっていく。
すまねえ、牛のおっさん。すまねえ、猿、イヴ。
ゾロ、サンジ、ナミ、ウソップ、チョッパー、ロビン。
…ごめん、オレ、死んだ。
「これで……終わりだああッッ!!!」
最後の力で剛腕が電柱を押し込む。ルフィの頭はひしゃげ、ついには両手も電柱から離れて。
…ルフィの最後に見た景色は、その頭に乗っていた麦わら帽子が電柱によって醜く潰れていく様で……
――必ず、返しに来いよ、ルフィ。
ドクン
……ダメだ。やっぱ、まだ、死ねねぇ。
あの男との誓い。それを果たせぬままでは、死ねない。
「………う……お……お…お…ッ…!」
再び指先に力を込め、電柱の底に指を掛ける。
小指、薬指、中指、人差し指、親指。順番に、順番に、力を込めていく。
まだ死ねねえ。そうだ。何を血迷ってんだオレは。
男の約束を果たす。“友達”との約束を果たすんだ。
このままじゃ…牛のおっさんや、猿や、イヴに向ける顔が無えじゃねぇか。
「う…お、お、お、オオオオッッッ!!!」
「くっ!?しぶてぇッ!」
「オオオリャアアアアアアアアッッッッ!!!!」
どこにそんな力があったのか。いや、先ほどまでは実際に無かった。
ルフィの胸に宿った、友との約束を果たすという覚悟の意志。それがルフィの背を押す。ボロボロの体に、新たな力を宿す。
バキャッッ!!!
「な……なにいッ!?」
凄まじい力と力のせめぎ合いに耐えきれなくなったのは、電柱の方だった。真ん中から割り折られ、下半分がスローモーションで地面に吸い込まれるように…倒れ落ちる。
「……俺は、負けねえ」
――倒れた電柱から立ち上る砂塵
「……仲間が、いるから」
――そこから現れる、誇り高き男
「……大切な、仲間がいるから」
――半ば潰されかけていたその四肢は元に戻り
「……大切な友達が、俺を待ってるから」
――その怒りは、現実に姿を纏ってルフィの体から噴き出し
「だから」
――その男に、新たな“力”を授ける。
「俺は……絶対!負けねえッッ!!」
【インフェルノ//〜友情の聖域〜】
二人対一人。
しかし、現状では二人の方が敗色濃厚。
そのふざけた見た目からは信じられないような友情マンの速い動きと重い攻撃に、ブチャラティたちは防戦一方であった。
「ガハ……ッ!クソッ!スティッキィー・フィンガーズ!」
「おっと!危ない危ない。君の能力はもう把握したよ、その拳に当たるわけにはいかないね!」
実質、一対一の構図。
もう一人の仲間、翼をかばうように立ち回りつつ、さらにこの予想以上の強さを持った敵と渡り合うには……ブチャラティは今までの幾度と無い激しかった戦いで、もう体が傷付き過ぎてしまっていた。
「くっ…!」
忌々しげに歯噛みするブチャラティ。
五体満足の状態であったとしても、この友情マンの重い蹴りはスタンドでも防ぎきれるかどうか五分五分といったところか。
しかし今、傷付きダメージの深いブチャラティの体は…友情マンの攻撃を防ぐどころか、ガードすら間に合わない状態であった。
「ブチャラティ君っ!」
「来るなツバサ!君はそこにいるんだッ!」
ブチャラティの後方、そんなブチャラティの姿を見て心配の色を満面に浮かべて走り寄ろうとした翼を、ブチャラティは振り返らないまま強い口調で制止する。
「そんなに焦らなくても、ブチャラティ君の次は翼君の番さ。友達思いはいい事だけど、まあ慌てないでゆっくり待っててよ………すぐ、終わるからさ」
そんな翼に向けて微笑み返し、再びブチャラティに視線を戻す。
地面に両手を突いて激しく咳き込むブチャラティの様子を見て、友情マンは「やれやれ」と小さく自嘲ぎみに呟く。
「友達が苦しむ姿を見るのは、やっぱり僕も辛いよ。下手に抵抗するからいけないんだよ……せっかく、苦しまずに楽に殺してあげようとしてるのに…」
「……まれ」
「ん?」
低く、聞き取りにくいその小さな声に眉を潜め、友情マンはブチャラティを不思議そうに見つめ返す。
「何か言ったかい?」
「……黙れ、と言ったんだ。“ブジャルド・ソダリッツィオ”」
「ブジャ…?……何だい?それは」
聞き慣れない言葉に首を傾げ、友情マンは一歩一歩、ブチャラティに近付いていく。
「……答える義務は…無い!スティッキィー・フィンガーズッッ!!」
地面に膝を突いたままだが、近寄った友情マンに向けてスタンドを発現させ、右ストレートを放つ。
しかし友情マンはその射程距離を完全に見切っているかのように、スタンドの拳が届く寸前で足を止めて一歩下がる。顔前で止まる、スタンドの拳。
「危ないなぁ……無駄だよ無駄!僕の『分析力』…甘く見てもらっちゃあ困るよ」
「…くッ…スタンドの射程距離さえも、完全に把握したと言うのか…!?」
「ふふ……どんな人種、どんな性格、どんな能力を持つ人だろうと『友達』になる一番の近道を…最適な手段を、瞬時に分析するのは一番の得意技さ!そのくらいは当然だろ?」
余裕浮かぶ笑みを携え、朗らかにそう話す。しかししばらくその場に固まり、う〜んと首を捻ると…懐から一枚のカードを取り出して、それをブチャラティたちに見せ付けるように掲げる。
「…いくら半死半生の君とはいえ、やっぱりその不思議なジッパーの能力は厄介だね。よし、こいつで引導を渡してあげる事にするよ!」
「……?カード…だと?」
『引導を渡す』の言葉に不吉な予感を覚えたブチャラティだが、見せられたカードの背の茶色模様からは何のカードなのか窺い知る事は出来ない。
だが不吉な予感は拭えない。力を振り絞り、よろめきながらも立ち上がる。
「フフフ……やっぱり、持つべき物は友、だね。これをくれた桑原君には感謝しなきゃ」
「クワバラ…だと!?」
耳にしたのは、よく知る名。思わぬ所で聞いたその名前に驚き、目を見開く。
「そうさ。彼も僕の数多い友達の内の一人さ。そして………君が殺した『ガラ』君も、僕の友達だったんだ…!」
「!!」
それは、忘れる事も無い……ブチャラティが命を賭けて戦った、あの男の名前。
「………仇討ち、という事か?」
「………フフ…違うよ。確かに彼があんなに何の役にも立たないまま殺されちゃったのは不本意だったけど……」
「………」
「……どうせ彼にも、最後には死んでもらう予定だったんだ。君が憎いわけじゃない。…君だって、僕の“友達”なんだから」
……狂人とは、本人に自覚が無いからこそ狂人。
目の前のイカれた格好の男は、まさしく頭の中までイカれている『狂人』であると、改めてブチャラティは思い知らされた。
「……“ブジャルド・ソダリッツィオ”……」
再び唇が呟く。そして震える膝に喝を入れ、ブチャラティはしっかりと両足で大地を踏みしめる。
「…だから、それは何の言葉なんだい?おまじないか何か??」
「……答える義務も……義理も無いッッ!!走れ!ジッパーッ!!」
射程外の友情マンに向け、腕を振り上げて地面に長いジッパーを取り付ける。
「ウワッ!?」
射程の外だと少し油断していた友情マンの足元までジッパーは伸び、驚きで口を大きく開いて慌てて飛び退く。
「くっ!リバースカードオープン!『千本ナイフ』発動ッ!!」
飛び退きすぐ手に持つカードを反転。そう叫んだ友情マンの背には空中に無数のナイフが出現する。
「飛び道具か…!」
「そうさ!使えて安心したよ…『ブラックマジシャンが場に存在しないと使えない』だなんてカードには書いてあるけど、一応単体でも使えるみたいだね」
全てのナイフがブチャラティを狙う。友情マンのGoサイン一つでブチャラティを確実に抹殺するであろう無数の悪意。
(普通の手段では、奴をスタンドの射程距離内に捕えられないろう……さらにヤツはもう完全に最後まで“射程外”からの攻撃だけで俺を仕留めるつもりのようだ。ならば……普通でない手段を使うまで!BETするのは…オレの命ッ!)
「……君の能力、おそらく体に受ければ十分に殺傷能力を持つんだろうね。だからこそ『ガラ君の斬魄刀を回収しなかった』。やはり僕の予想は正しかったみたいだね」
対峙する、悪意と決意。その両者の瞳に互いに映るのは、自分とは相反する全く異なる男の姿――
「どこに逃げても回避は不可能さ!千本ナイフ!ブチャラティ君を攻撃っ!!」
掛け声と同時に発射される幾多のナイフ!全てがブチャラティだけを狙い、一直線に風を切る!
「ウオオォッ!閉じろジッパァーーッッ!!」
「なっっ!?」
友情マンの予想とは全くの逆。
右に逃げる?左に逃げる?
違う!なんとブチャラティは地面に付いた友情マンの足元まで伸びているジッパーを伝い、地面スレスレで一直線にナイフの真っ只中へと自ら突っ込んでゆく!
「ウオオオオオオッッッ!!」
顔だけをスタンドの腕でかばい、地面を腹で滑るように友情マン向けて飛び込んでいくブチャラティ。
ついにはナイフの雨あられと交錯し、ブチャラティの腕や背・足へと何本ものナイフが鈍い音を立てながら刺さっていく。
「な……なぜ自分からっ!!?」
ブチャラティの行動は完全に友情マンの予想の範疇を越えていた。
頭を守る腕以外は、急所を守るだとかナイフを避けるだとか、そんな小細工も全くしていない。噴き出す血潮は滝のように。その決意を鬼神のごとき形相に現し、ついにブチャラティは友情マンを射程距離に捕える!
「食らえッッ!スティッキィー!フィンガーズッッ!!!」
ズドンッッ!!!
―――体が、吹き飛ぶ。
激しい衝撃と共に、その体はまるでコマ送りのようにゆっくりと、地面に吸い込まれる。
「―――ブチャラティくぅぅーーんッッ!!!」
翼の叫び声が、雨の中こだまする。
「ハァ……ハァ……あ……危なかった……!」
――地に伏すは、ブローノ・ブチャラティ。
その上半身は真っ黒に焼け焦げ、背に生える無数のナイフが無情な暗い光を放つ。
「ハァ……ハァ……」
ブチャラティの誤算は、たった一つ。
ナイフによる遠距離攻撃を放ったすぐ後に相手の間合いに飛び込めさえすれば、カウンターが成り立つという戦略。
しかし、誤算。友情マンの持つ、もう一つの遠距離攻撃――太陽光線。
ナイフと光線の二段構えの連続遠距離攻撃を前に、ブチャラティの拳は友情マンに届く事が叶わなかった。
「ハァ………おや?」
大の字でうつ伏せに倒れ伏すブチャラティの指が微かに動く。それを見た友情マンは、顔を上げて息を整えるべく…大きく息を吸い、吐く。
「フゥ…。まだ息があるのか…」
足元に落ちている一本のナイフを拾い上げ、友情マンはブチャラティの方へ体を向ける。
「…友達なんだから、ちゃんと楽にしてあげるよ。これ以上、君が苦しむ姿は見たくないしね…!」
右手に白銀のナイフを握り締め、降りしきる雨の中をブチャラティの元へとゆっくり近付いていく。
水溜まりを蹴り、砂利を踏みしめ、そして――ブチャラティを頭上から感情の伴わない瞳で静かに見下ろす。
「さよなら、ブチャラティ君。この雨が…僕の、涙雨。もう苦しむ事は無いんだ…」
軽くしゃがみ込み、手に持つナイフを振り上げる。
そして……ナイフは、降り下ろされた。
―――その瞬間、友情マンの思考が、白く染まる。
まるでそれは、脳髄を刺し貫く閃光の様な衝撃。
「グアァッッ!!?」
何かが友情マンの頭を撃ち抜く。真後ろからその大きな衝撃は後頭部へモロに直撃し、小さく血しぶきを飛び散らせながら友情マンは地面に倒れる。
「グッ……アッ…!!な、何が…ッ!?」
ブチャラティに達しなかったその小さなナイフは離れた地面にカランと音を立て舞い、頭を押さえながら緩慢に上半身を起こし、そして焦点の合わない両の眼で――見た。
――地面を跳ねながら、持ち主の元へと帰還する、その正体。
木目浮く、サッカーボール。
それを足の裏で地面と挟んで止める、その男の姿を。
「――許さない」
そうしっかりと、その男が口にした。
強い意志の力を眼(まなこ)からほとばしらせた、大空翼という名のその男が。
【インフェルノ//〜ギア・2(セカンド)〜】
砂塵から姿を現す、強い生きる意志を胸に宿したルフィ。
その体から溢れ出す、まるでそれは、ルフィの“覚悟”が具現化されたかのように。
ルフィの全身からは――強い水蒸気の様な煙が、大量に立ち昇っていた。
「よっ…と。………なんなんだそりゃ?ルフィ」
「…………ん?何がだ?」
ルフィの体に起きている異変。悟空は折れた電柱を隣に投げ捨てると、ルフィの前方10メートル程の地面に降り立つ。
「おいおい…勘弁してくれよ。まさか派手に自爆して、道連れにしようとか考えてるんじゃねぇか?」
「………は?」
体全体から溢れ出る白い煙。
ルフィの肌は40℃以上の高熱が出ているかのように赤みがさし、悟空の言葉の通り…今にも『大爆発』を起こしそうにも見える、異常な風貌である。
「なに言ってんだよ悟空………って?ウワッ!?何だ何だ!?どーしちまったんだよ、オレの体…!!」
自身の異変に気が付かないほどの興奮状態だったのか、悟空の問掛けが理解出来ないといったような侮然とした面持ちで自分の両腕を顔前に掲げて見、そこで初めて『それ』に気付き慌てふためく。
両腕からも次々に煙が立ち上り、それは自分の意思で止める事も抑える事も出来ない。
「………わざとじゃねえのか?………フハハハハッ!やっぱお前、おもしれーカラダしてんだなぁ!」
「わざとなワケねぇじゃねーかッ!なんか体がアチーし!?おい!止まれ!止まれったら!!」
ルフィは必死に体のあちこちを掌で押さえて煙を止めようと試みるが、その現象にはまるで効果は無く。
「ハッハッハッ!!いーじゃねーか!何か強そうに見えるぜ?『燃える男』って感じで」
「………燃える男?…強そう…?」
「ああ」
楽しげに笑いを上げながらの悟空のその指摘に、ルフィの目の奥で一瞬…怪しい光がキュピーンと光る。
「よし!!ならいい!!さ、続き始めようぜ悟空!」
鼻息を荒くし、満面の笑みを浮かべて腕をグルグル回すルフィ。
「おーし!仕切り直しだな。今度こそ、オレを楽しませてくれよ?」
「ざけんじゃねぇ!へへ…!」
ルフィは回す腕を止めて両拳を顔の前でガキ!と合わせ、再び戦闘体勢に入る。
悟空も、そしてルフィも、笑顔。
どちらも、悲壮さの微塵も感じさせない…期待に満ちた笑顔を向け合う。
もしこの場に第三者がいたとするなら、この二人を見て『狂ってる』とでも吐き捨てるかもしれない。しかし、それでもこの二人は気にも止めないだろう。
強き敵と戦う。それは、悟空にとっては至高の喜び。ルフィにとっても、小細工無しの力比べは楽しくて仕方のない物。
二人を止める事の出来る者はこの世に存在しない。
激しさをさらに増していく豪雨さえも、二人の障害にはなりもしない…!
「今度は……オレから行くぞッ!!」
「来い!悟空ッッ!!」
初めて悟空が先に仕掛ける。地を強く蹴りつけて一直線にルフィ目がけて突進。
対するは、真上に両腕をグングン伸ばしていくルフィ。
「自分の技…食らってみろッ!!」
ズンッ!!!
悟空は光のごときスピードで突進し、一瞬でルフィの鼻先まで迫る。そしてルフィの頭に直撃する、悟空の岩をも砕くヘッドバッド。
…いや、砕けたのは…ルフィの背後の壁。コンクリートの壁に悟空のその石頭をほとんどめり込ませ、そこを中心に花が咲くように巨大な亀裂が走る。
「ゴムゴムのッ!」
「ふん!上かッ!?」
豆腐の壁から出るかのように容易く頭を出し、その頭上を見上げる。
ルフィはビルの屋上のフチに指を掛け、腕を一気に縮めて急上昇していた。
すぐに屋上から指を離し、自由落下しながら右足を振り上げる。
「伸びる踏みつけだな!?あめぇッ!!」
「…“スタンプ”ッッ!!」
ルフィの位置から攻撃の軌道を瞬時に判断し、それに当たらない角度を付けて斜めに舞空術で急上昇!
ドガンッッ!!!
「…………な……?」
悟空の予定通り、真下に伸びた足は悟空には当たらなかった。
しかし……
「………あれ?」
ルフィは、悟空が斜めに飛び上がる様を見てこちらも軌道を予測。飛ぶ悟空と伸びる足の軌道が交わるように、攻撃を繰り出した。
「………何だ、今のスピードは…!?」
伸びた足は、悟空の頭上をかすめ、コンクリートの地面に突き刺さった。
今までのルフィの数々の技とは比べ物にならない…ルフィ自身が思いもよらない次元の違う“超速度”で足が伸び、悟空に当たる事無く地面に突き刺さったのだ。
「今の“スタンプ”……なんなんだ…!?」
「たまげたぜ……ルフィ!」
「よし!もういっちょ!ゴムゴムのォ…!」
地面から離れた左足が縮みきるのを待つ間も無く反対の右足を振り上げて頭上に伸ばし、狙いを再び定める。
「…!!させねえっ!!」
そのルフィの動作を中断させるべく、悟空は一気に間合いを詰めんと舞い上がる。
「…“斧”(おの)オオッ!!」
「……く!!?」
ズドン!!!
「………か……は…!?」
悟空の右肩に、ルフィのカカトが食い込む。
もはやその“斧”は“光の斧”。
伸ばした足を一気に縮めて放つその強力なカカト落としは、悟空に全く回避の余裕を与えずに人知を越えたスピードで突き刺さった。
「ぐ……!また…はえぇ…ッ!?」
「うおおおおッッ!!」
「クッ!?」
悟空が顔を上げた先、ビルの壁を足蹴にしてロケットのように突進するルフィの姿。
「“銃”(ピストル)ッ!!」
「ガッ!!?」
ルフィの肩口に構えられた拳が姿を消し、一瞬で悟空の腹部へと衝撃が走る。
「カハ…ッ!ちッ!“太陽拳”ッ!!」
さらなる追撃を防ぐべく両手を額にかざし、掛け声と共に放たれる鋭い閃光。
「うわっ!?目がッ!!?」
その閃光は見開かれていたルフィの両の目に焼き付き、一時的に視力を奪う。
「セヤァーーッッ!!」
「グ、は…ッ!?」
悟空は目をかばいうつ向いたルフィの腹部に蹴り上げを放ち、思いきりつま先をねじ込んだ体を勢いのままビル壁へと叩き付ける。
「か、め、は、め……」
「クゥ…!ゴムゴムのぉ……」
そのまま流れるような動作で必殺の構えに入り、掛け声を始める悟空―――壁に叩き付けられ空中に跳ね返った勢いを殺さぬまま全身をクルクル回転させ始め、徐々にその回転速度を上げていくルフィ…!!
「波ああああああああッッッ!!!」
「“花火”いいいいいいッッッ!!!」
目が見えずとも関係の無い、360度全方向が射程の両手両足による無差別ラッシュが悟空の顔に、腹に、肩に、ぶち込まれる。
しかしその凶悪な“花火”の中心であるルフィ本体に巨大な気の大砲が直撃し、ルフィはビルの窓を突き破り、さらには奥の壁をも容易く貫通して遠くに吹き飛ばされていく…!
悟空の体はかめはめ波を中断させられ真下の大地へと力無く落ちてゆき……
ルフィの体はビルを抜けた向こうの林の中へと消えてゆく……。
――――あー、楽しいなあ…。
ルフィのヤツなら…あんなんじゃまだくたばっちまうはずもねぇ。
オラやっぱ、つええヤツと戦ってる時が……
………“オラ”?何言ってんだ、オレは。
きりきりきりきりきりきり。
どこかで聞いた覚えのある、耳障りな音が聞こえてくる。
――いてえ。なんかまた頭がいてえ。
きりきりきりきりきりきり。
――なんだよ、分かってるって。地球人さえ全部殺しちまえば…このモヤモヤも、スッキリするんだ。
地面に大の字に寝そべったまま、その全身に雨を受け続ける。
孫悟空の身に宿りし地獄の業火の化身は、狂おしいまでの熱量の猛りをいまだ陰らせもせず――
「―――ルフィ」
「ん?…あ、悟空」
強い雨風に揺られる木々に囲まれた土の地面に倒れるルフィの、その横に降り立つ悟空の姿。
ルフィは「よっ」と勢いを付け立ち上がり、麦わら帽子を地面から拾い上げる。
「ルフィ、最後にもう一度だけ聞く。……オレと一緒に来ないか?」
強い風にかき消される事も無い、透き通るような声で語りかける。
「いやだ」
「………頑固なヤツだなあ、おめぇは。……なんでそんなに地球人なんかの肩を持つんだよ?おめぇと違って、何にも出来ねえ脆弱なやつらじゃねえか。
あんなヤツらは仲間にする価値もねぇ」
帽子を大切そうに手に持ち、軽く砂を払い頭に乗せる。
ルフィは少し空を見上げ、降り続く雨をぼんやりと見つめる。
「オレは、なんにもできねえんだ」
「………」
「料理も作れねえし、病気や怪我も医者みてえに治せねえ。航海術も知らねえし、嘘もつけねえし、頭もわりぃ」
悟空には視線を向けぬまま、空に向けて淡々と話し続ける。
「オレは仲間に助けてもらわねえと、生きていけねぇ自信がある」
「……言いてえ事が、よく分かんねえよ」
構える事もなく、ルフィのその顔をじっと見つめ続ける悟空。
――悟空、そんなのも直せねえのかよ?情けねえなぁ…ハハハ!ちょっと貸してみろって!
――悟空さ〜!晩飯が出来ただよーっ!?
――孫君、ほら、ここを押したら……ね?簡単でしょ?この光ってるのが四星球よ。
(………なんだ、今のは)
脳裏をよぎる、どこかで聞いた声たち。いつの日かの、遠い過去の景色。
「………るせえ……!」
「……ん?」
「……うるせえって言ってんだ!!」
前ぶれもなくいきなり怒号を上げ、ルフィの頬に大振りの拳を叩き付ける。
「ギッ…!?このやろッ!!」
「ガッ!?」
拳をモロに打ち込まれながらも、ルフィもお返しとばかりに悟空の横っ面に拳のカウンターを決める。
吹き飛ぶ両者は互いに尻餅を突き、服を泥まみれにする。
「く……、もういい!ルフィ!決着を着けてやる!おめぇも!地球人も!みんなみんな皆殺しだッッ!!」
暗雲に小さく轟く雷鳴は、その獣の咆吼を飲み込んで唸り続けていた。
【インフェルノ//〜フィールドの王〜】
頭に。腹に。脇に。腕に。足に。
その弾丸は絶え間無く浴びせられる。
「ッッ!!がッ!!グアッ!!」
「食らえエエッッ!!」
「やめ…グハアッ!?」
それはまるで、サッカーの壁蹴り練習のように。
木製サッカーボールは寸分たがわず的確に友情マンの体に激突し続け、そのボールは必ず持ち主の場所にリバウンドする。
最初に後頭部への強烈な一撃を受け、友情マンの平衡感覚は失われていた。
最初のダメージ自体はそれほどでもない。本来ならばその脳へのダメージも、時間が経てばすぐに収まる程度の軽い脳震盪(のうしんとう)である。
しかし、時間が空く事無く続け様に第二撃。第三撃。
回避も抵抗もままならず、翼の蹴るボールはサンドバッグのように一方的に友情マンの体を痛め付けている。
(やばい!何だこれは!?あの無力そうだった彼が…まさか、こんな…!?か、回避を…!!)
肺の辺りにも直撃し、呼吸もままならない友情マン。
その顔は腫れ上がり、唇が切れて血の味がしていた。
「ヤアッッ!!」
「グアッ!?う、腕が…ッ!?」
迫り来るボールに向けて手を差し出して直撃を防ごうとするが、焦点の合わない目ではボールが分裂しているかのように見えてしまい距離感も掴めない。
キャッチに失敗したボールが友情マンの左腕に当たり、腕が有り得ない方向に曲がる。
(死ぬ、死んでしまう!!有り得ない!何なんだ彼は!?こんな硬いボールが有ってたまるか!なんで彼の脚は平気なんだ!?)
「ブチャラティ君の……カタキだあああっっ!!!」
翼の顔は怒りに染まり、その怒りは黄金の右足に伝導する。
弧を描き帰ってきたボールめがけて飛び上がり、バク転。空中からのオーバーヘッド!
(何とか、何とかしないと!!)
焦燥に駆られ、足が勝手にじりじりと後退していく。
このままだと、確実に死ぬ。友情マンはこの怒れる青年に“恐怖”すら覚え始めていた。
体の隅々まで行き渡る焼けつくような痛みはまるで地獄の業火のようであり、それは友情マンを今にも焼きつくさんと蝕んでいく。
それ以上足を動かす事も事も叶わず…
ズドン!!!
「……………」
「……え…?」
友情マンの足元に埋まる球状の凶器。
そのボールは地面の泥をえぐり、目の前で止まっていた。
「………ボールは…人殺しの道具なんかじゃない……ボールは『友達』なんだ…!」
――大空翼は、泣いていた。
雨の中を立ち尽くし、やり場の無い怒りと悲しみを噛み締め、ただ…涙していた。
(わざと…外したのか?いや、どちらにしろこれはチャンスだ!)
攻撃がようやく止まり、安堵と殺意が顔を出す。
おぼつかない足取りで前に出てしゃがみ、ボールを持ち上げる友情マン。
「優しいんだね、君は……」
「ウ……ウゥ……ッ!」
次々と流れ出す悲しみ。
目の前でブチャラティが死んだという現実により、翼はようやく“死”というものを受け入れ始めていた。
――石崎君も、日向君も、若島津君も、ブチャラティ君も……
みんな、もう二度と一緒にサッカーが出来ないんだ。死んでしまったんだ…。
翼は、現実から逃げていたのかもしれない。
殺人ゲームなどという非日常。
こんな場所に突然放り込まれ、殺し合いなどとは無縁の人生だった翼が『まとも』でいられるという方が無理な話だったのだ。
「……もう、誰も…死んでほしくないんだ……ウウ……!」
「………」
止まらない涙は頬を伝い、雨に流され地に落ちる。
友情マンは憂いに満ちた表情で、翼の方へと足を進めて…
「…来ないでくれ!」
その友情マンを睨みつけて叫ぶ。
「君は……ブチャラティ君を、殺した。命は…奪わないけど、許す事は出来ないよ……」
悲しみ深いその瞳は、友情マンの足を止める。
「……そうか、分かった。これ以上近寄らないよ」
「………」
「でも…このボールは君の物なんだろ?」
無言の翼に木のボールを見せる。
しばらくの沈黙。
「………チームメイトが、作ってくれたんだ」
「手作りなのかい?なら、これは君に返すよ」
友情マンは地面にボールを落とし、軽く足を後ろに引く。
「……サッカーで……」
「…え?」
―――違う。
引いた足は、頭より高く上がる。
「……殺してあげるよ!!」
「…!?なっ!!?」
その蹴りは、努力マンと同等と評された事もあった友情マン。
その全力の蹴りから放たれるシュートならば、相手が一般人であれば間違い無く確実に命を奪う程の代物。
「僕のために!死ねぇーーーッッ!!!」
翼のシュートより遥かに強力。
ただのスポーツ選手のそれとは全く次元の違う、悪魔のごとき殺人シュートが放たれる!
「見えッ…!?」
絶望的なまでの速さで襲いかかるそのシュートは、翼の脳が判断する間も全く無く一瞬で眼前に迫る。
翼が確実な『死』を感じた瞬間には、それはもうすでに回避もガードも不可能な距離。
死ぬ。
その言葉を、ようやく頭が理解した。
ガ ッ !!!
鈍い音が、辺りに響く。
ボールは翼の頭で跳ね、真横の木の幹に突き刺さる。
「………そんな………馬鹿なッッ!?」
ボールが跳ねたその場所に、立ったままである翼の体。その片腕が、真横に伸ばされている。
腕の先には握りこぶし。こぶしの先には、幹に埋まるボール…!
「空手パンチで……僕のシュートを…防いだ!?そんな馬鹿なっっ!!」
―――まったく……世話が焼けるな、翼。
翼の体にダブる、ある男の影。
友情マンには見えない。翼の目にも映りはしない。
「………若島津君は…毎日毎日、こんなシュートを受けてきたんだ…!」
「君は……君は、一体…!?」
友情マンの目に映るは、王の姿。
四角いフィールドに君臨する……“世界”の、大空翼の姿。
「僕らは、一緒の……一緒の世界で……繋がってるんだ!」
幹から転げ落ちたボールは、翼の足元に。
―――へへっ!行こうぜ!翼!
―――オレたちのサッカーは、あんなヤツには絶対に負けはしない…!
翼を挟む、二人の仲間。
「行こう……石崎君……日向君……!」
それは、目には見えない『絆』。
翼の信じる、サッカーを通じた絆。
「あ………あ………?」
「食らえええッ!トリプル――シュートオオーーーッッ!!!」
「うわ……うわああああーーーッッ!!?」
三人の心が、一つのボールを通して繋がる。
ボールは稲妻となり、金色の光を放つ。
…翼の足は、砕けた。木製のボールが翼のスポーツ生命を絶ってしまった。
ド ツ ッ
「……………え?」
――翼の額に、ナイフが生える。
「…………な…ん…」
ゆっくりと、前のめる。
思考が定まらず、目の前が白く染まる――
「………君の、負けだよ」
ホワイトアウトしていく視界の端に映ったのは、何事も無かったかのように無事な姿である友情マンの姿と――
「やれやれ……死ぬかと思った。ま、僕に最後の切札を使わせたんだ……立派な物だよ……」
“光の封札剣”で地面に串刺しにされた、彼らの“絆”の姿だった…。
【インフェルノ//〜神薙〜】
もはや、どんな者にも止められない。
拳は血を噴き、体は泥にまみれ。
殴って、蹴って、頭突いて、投げて。もはや体裁も何も無い。
二人の戦いは、もはや見るに耐えない泥試合。
「ウリャアアアッッ!!」
「だりゃあああッッ!!」
透き通る。
何の雑念も、思惑も無い。
汗が煌めき、舞い上がる。
「隙だらけだぞ!ダリャアッ!!」
「グヘッ!?くっ、そっちこそ!!」
「ガハッ!?このお…ッ!!」
もう駆け引きも何も無い。あるのはただの意地と意地。
殴って、殴って、殴る。
終りの見えない拮抗。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
拳が互いの腹を撃ち抜き後ろによろめいて間合いが離れると、二人とも肩で息をして睨み合う。
「ハァ…ハァ…そろそろ…ハァ…限界なんじゃ…ねえのか、ルフィ?」
「ハァ…んな…わきゃ…ハァ…ねえだろ…」
虚勢を張るのも、意地の張り合い。
「ハァ…おい…ルフィ、…ハァ…そろそろ…一番…つえぇ技で…ハァ…ケリを、着けようぜ…!」
「ハァ…ハァ…そうだな…悟空…!」
お互い口には出さずとも、すでにどちらも体が限界に近い。
二人は背を向け数歩分距離を離すと、再び向き合い顔を合わせる。
「……次で、ほんとの最後だ。覚悟はいいな?」
「……ああ…悟空を倒す覚悟なら、とっくに出来てる」
薄く笑みを向け合い、両者とも腰を落として深く構え直す。
「界王拳ッッ!!」
残り少なかった悟空の気が膨れ上がる。体を纏うオーラが目に見えて増加。
「確か、こんな感じだっけ……?」
ルフィは自らの意思で足首を潰すように縮め、そしてそこを一気に解放。
すると大量の血液が無理矢理下半身から心臓付近に送り込まれ、半ば消えかけていた体からの煙が再び勢いを増し始める。
「……おめぇなら…いい『仲間』になれたと思うんだけど……残念だよ、ルフィ」
「………」
悟空は両手を腰の後ろに構え、ルフィに静かに語りかける。
ルフィは無言のまま両手をグルグル回した後、一気に遥か後方へと両腕を伸ばしていく。
「かぁ……めぇ……」
「ゴムゴム……」
「はぁ……めぇ……!」
「ゴムゴムの……!」
息が止まるほどの静寂。
視線は相手の姿だけを映し合い、そして……!
「はあああああーーーーーッッッッ!!!」
「バズーカアアアアアーーーーーッッッッ!!!」
悟空の放った極大かめはめ波を貫くルフィの両腕。しかし貫いたとはいえ、その接触部は激しい熱を受けて焼けただれていく。
「おおおおおおおおおッッ!!!」
「アアアアアアアアアッッ!!!」
どちらの奥義も、止まらないどころかどんどん威力と勢いを増してゆく。
叫ぶ咆咬は天を揺るがし、神をも引き裂く。
「ごぉぉくぅぅうウウウウウウーーーーッッッッ!!!」
「ルゥゥフィィイイイイイーーーーーッッッッ!!!」
二つの“信念”は交錯し、二人の戦士に喰らいつく。
―――きりきり…きりきりと、何かが削れる音がする。
最初のそれは“地球人”を削る忌まわしい金属音だった。
再びそんな音がする。
―――悟空…?
オレさ、馬鹿な事、しちゃったんだ。
取り返しのつかない…馬鹿な事さ。
死んじまったから、償う事も出来ないんだ。
苦しいよ……悟空。
……けどさ、悟空。
お前は、まだ生きてるんだ。
お前は、まだ償えるんだ。
だからさ、頑張ってみてくれよ。オレの分まで。
いいじゃねえか、オレとお前の仲だろ?
これくらい、頼まれてくれよ。
これだけが、お前に対する…最後のワガママさ。
いつもはお前がワガママ言う側なんだから、最後くらいはオレが言わせてくれって。
……じゃあな、悟空。もうお前には二度と会えないんだ。
楽しかったよ。お前と一緒にやってきた人生。
もし叶うなら、生まれ変わっても……また、会おうな。
だってお前は、オレの、一番の………
きりきり、きりきりと、それは何かを巻き戻す音。
止まった指針が、巻き戻る。
狂った時計が、巻き戻る。
壊れていたなら、直せばいい。
直ったならば、ネジを離そう。
時間が再び、動き出せるように―――
【インフェルノ//〜奴隷は眠らない〜】
友情マンは、気配を殺して隠れていた。
物陰から見つめるその先、背負う男と背負われる男。
(……なんてこった……全部…無駄になってしまった…!クソッ!!)
ルフィが歩く。その背には、気絶した悟空の姿。
(まさか…カカロット君が負けるだなんて…!あの麦わら君、そこまで強かったのか…)
軽く舌打ちし、自分の計画破綻を嘆く。
ルフィたちはどんどん遠ざかっていき、ついには姿が見えなくなる。
(完全に……僕の計算ミスだな。今麦わら君とはち合う訳にはいかないし……何か新しい手を考えないと…)
折れた左腕がズキリと痛み、口元を歪ませる。
(まあ、とりあえず……何か食べよう)
空腹と戦いの疲れで足がもう動かない。
友情マンは壁にもたれてズルズルと腰を降ろし、ブチャラティたちから奪った食料を広げ始める。
(……食べ物があるって、素晴らしい事だなぁ……)
ミジメに耐えるだけだった胃袋に久々の補給を与えつつ、友情マンは次の一手を模索し始めた―――
―――ブチャラティは、まだ生きていた。
何本も刺さるナイフからはとめどなく血が溢れ、上半身の火傷は息をしただけでも酷く痛み出す。
しかしまだ、辛うじて生を取り留めてはいた。
(……戦いは……どうなったんだ……?)
意識を取り戻した時、すでに戦いは終わっていた。
辺りからは雨粒が地上に落ちて奏でる不規則なリズムしか聞こえてこない。
(モンキー・D・ルフィ……ツバサ……な…ツバサッッ!?)
自分の隣に眠る、大空翼。
安らかな寝顔は赤い血で覆われ、彼が絶命している事はブチャラティにも一目瞭然だった。
(………すまない、ツバサ……)
守れなかった。その事実が胸を痛みで押し潰す。
(……オレももうじき……死ぬ。ツバサ、オレも君と共に行こう。だが、せめて、君だけでも……!)
動かない体に最後の力を振り絞りスタンドを発現させ、翼の首筋へとスタンドの手を添わせる。
(………ベネ[良し]。やはり生命活動を停止した体からなら……首輪は外せた。ツバサ、君はこれで“奴隷の呪縛”から解放されたんだ)
翼の首からいとも容易く首輪を外せ、その成功に薄く微笑みを浮かべる。
(人は皆…眠れる奴隷だ。だが、それは“誰か”に決められた事では無い。あの主催者たちだろうと…だ。
…オレたちの運命を勝手に決める事など…誰にも出来はしない!)
口を固く結び、天を見上げる。
(ハルコ……ツバサ……カズマ……オレたちは“家族[ファミリー]”だ。
あんな“ブジャルド・ソダリッツィオ[偽りの友情]”とは違う、本物の“絆”で結ばれている……)
ブチャラティの瞳が閉じられる。スタンドは薄く透けてゆき、握る拳が緩んでゆく。
(……魂は……受け継が…れる…。なるべくしてなった……これで……いい……)
シトシトと、雨が降る。
洗い流すは男の生。
ブチャラティの手に握られた忌まわしき束縛の首輪は、横で真っ二つに割られていた。
運命の束縛から解放された二つの魂は今…ようやく自由を得る―――
【東京〜埼玉の県境付近/昼】
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]:両腕を初め、全身数箇所に火傷。疲労・ダメージ大。空腹。
:ギア・2(セカンド)を習得
[装備]気絶した悟空
[道具]荷物一式(食料半日分・スヴェンに譲ってもらった)
[思考]1:ブチャラティたちと合流
2:ルキア、ボンチューと合流する為に北へ
3:"仲間"を守る為に強くなる
4:"仲間"とともに生き残る。
5:仲間を探す
【孫悟空@ドラゴンボール】
[状態]:顎骨を負傷。出血多量。各部位裂傷
:疲労・ダメージ大
[装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料無し、水残り半分)
:ボールペン数本
:禁鞭@封神演義
[思考]1:気絶中
2:不明
※カカロットの思考は消滅しました。
【東京都/昼】
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:腕を骨折
:全身に強い打撲ダメージ
[装備]遊戯王カード@遊戯王(千本ナイフ、光の封札剣、ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴は全て24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(水・食料残り七日分)
:千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
:スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
:ミクロバンド@ドラゴンボール
:ボールペン数本
:青酸カリ
[思考]1:休息を取る
2:次の作戦を考える
3:参加者を全滅させる
4:最後の一人になる
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険、大空翼@キャプテン翼、死亡確認】
※ブチャラティの手には翼の首輪(ドーナツ状に真っ二つになっている)が握られています。※千本ナイフにより具現化したナイフはすでに消滅しています。
【残り39人】
ギュイーーーーン ゴゴゴゴゴ…
斬の周りに禍々しい空間が作り出される。
それは、とてつもなく凶悪な死の世界。
「これが、オレの精神世界。すなわち斬の世界!!」
空からは無限の日本刀が降り注いでいる。
地には、一帯に黒炎が広がる。
周りは真っ黒、魔人ブウクラスの妖怪がうようよ潜んでいる。
おまけに重力は1000倍。
これが斬の世界。
ポルタと真吉備は、この世界に耐えられず、あっという間に即死。
タカヤは痛感した。
「この男にだけは、手を出すんじゃなかったな」
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
>>335>>337>>376 内の“ブジャルド・ソダリッツィオ”を“ソダリッツィオ・ブジャルド”に、友情マンのセリフ「ブジャ…?」の部分も「ソダ…?」に修正します。
>>365 ×「やれやれ……死ぬかと思った。ま、僕に最後の切札を使わせたんだ……立派な物だよ……」→
〇「魔法カードを、発動したよ。君のボールは“封札”された。やれやれ……死ぬかと思った。ま、僕に最後の切札を使わせたんだ……立派な物だよ……」
に修正します。大変申し訳ありません。
「流星、嵐を切り裂いて」の
>>295-299を破棄し、修正版を投下します。
――やったよ石崎さん。
ついに、ついに藍染を倒したんだ。石崎さんの仇を取ったんだよ。
ざまあみろ。これがたくさんの人たちを騙した報いだ。
キルア、おまえも見てるか?
おまえを苦しめた藍染は、この俺が倒してやったぜ。
礼なんていらないさ。聖闘士として、当然ことをしたまでだ。
それに麗子さん。あの人にももう悲しい思いはしてほしくないからな。
そうだ、麗子さん。それに両さんやダイも。
仲間が待ってる。早く勝利を報告に行かないと――
『『『騙されるな星矢! それは幻想だ!』』』
「――ハッ!?」
歓喜に打ちひしがれる星矢の耳に、所在不明の忠告が響いた。
今の声は誰だ?――サガ?――デスマスク?――それとも一輝か?
いずれも聞き覚えのある声。それが三重になって――馬鹿な。三人とも既に死んだ。でなければこれは幻聴――
(幻聴?――まぼろし――――まさか!?)
我に返り、星矢は見た。
目の前に、拉げた土くれが散乱する姿を。クレーター状に広がった大地の上、立っているのは自分だけだということに。
――藍染惣右介がいない。生体も。死体も。
(馬鹿な、奴は流星拳で塵に――違う! 何を勘違いしていたんだ!? 流星拳は、『誰にもあたってなんかいない!』
あれはあの時の――そう、マヌーサだ。藍染はあれを使って――逃げたのか?)
幻想から覚めた星矢は、自らの愚かさを悔いるように奥歯を噛み締める。
全てまやかしだった。渾身の力で放ったペガサス流星拳は、『幻の藍染』を捉えたに過ぎなかったのだ。
(どこに行った藍染――! こ、この小宇宙は!?)
取り戻した感覚をフル活動させ、星矢は近隣の小宇宙を感じ取る。
すぐ近くに、よく知る小宇宙が四つ。そしてその四つに襲い掛かるかのごとく、もう一つ、忌々しい小宇宙が――
「――墓穴を掘ったな藍染! おまえのマヌーサは、『悪い幻』だけじゃなくて『良い幻』も呼び寄せたみたいだぜ!」
そう空へ言葉を吐き捨て、星矢は藍染の小宇宙を追う。
あの幻覚は間違いなくマヌーサの効果によるものだったとして、果たしてあの幻聴も藍染が招いたものなのだろうか?
考えている暇などない。今は一刻も早く、前へ――
「やった! 星矢が藍染のヤローを倒したぞ!」
「本当両ちゃん!? ……よかった。本当に、よかった……!」
鉄塔から降り、勝負の行く末を確認した両津とダイは、麗子にその全容を告げた。
星矢が繰り出した最後の必殺技。ペガサス流星拳は確かに藍染の身体を捉え、分子レベルになるまで粉々にした。
そして現在星矢は勝利の雄叫びを轟かせている。雨が降っていなかったら、ここからでも聞こえてきそうなほどだった。
「さあおまえら、これから改めて四国入りだ! 星矢を迎えに行くぞ!!」
「うん……うん!」
「はははっ、麗子さん泣きすぎだよ」
よほど星矢の生存が嬉しいのだろう。麗子はボロボロと涙を流し、その場に崩れてしまった。
麗子だけでなく、まもりと両津も同様に身を屈ませる。
みんな喜びすぎだよ、とダイが注意を払おうとした次の瞬間、ダイ自身もその異変に気づいた。
「え…………?」
寒気がする。空気が異様に重苦しい。
何が起こったのかと仲間たちの顔を見渡してみると、皆一様に苦しそうな表情を浮かべていた。
「な、なにこれ…………息が、うまくできない……」
「ぐぅ……なんだこりゃぁ……胸が締め付けられるように痛え。なにか、なにかが……」
悶える麗子と両津、そして言葉もなく蹲るまもり。
この突然の異変の中、唯一無事だったダイは、警戒した。
尋常ではない空気は、両津ら一般人を苦しめるには十分のものだった。
その存在だけで、人が殺せるほどに。
「アバンの書によれば、雷の呪文、ライデインは勇者にしか扱えない特別な魔法だったそうだ」
その元凶は、静かに歩み、ダイの下に姿を現す。
「先ほどの落雷でピンときたよ。星矢君が言っていた仲間というのは、やはり君のことだったか」
冷たく重い霊圧の中、ダイ同様に平然とした佇まいでいられる男。
「そんな……なんで、おまえが」
「マヌーサという呪文を知らないわけはないだろう? 落雷の瞬間、僕はそれを使ってあの場から抜け出したのさ。彼は絶対に情報をくれそうになかったからね。星矢君は今も、幻影を倒したことに喜んでいるのかな」
いるはずのない男、いてはならない男が、ダイの目の前にいる。
「ハーデスを知る聖闘士より、バーンを知る勇者を選んだ。ただそれだけのことだが――『おまけ』のことを考えると、この選択は正解だったようだ」
おまけと呼び視線を廻らせたのは、地に伏す三人の常人。
「そんな……星矢ちゃんの頑張りは、無駄だったっていうの……?」
「ふざけんなよ……どこまで卑劣なんだこのヤローは」
「…………」
ダイ、両津、麗子、まもり。
四者の視線は一人の男に集中し、驚きと怒りを個々にぶつけていた。
「さて…………君からは色々聞きたいことがある。マヌーサの効果は鏡花水月ほど万能じゃないからね。いつ星矢君が邪魔しに来るとも限らない。なるべく手短に頼むよ」
スーパー宝貝『盤古幡』を手に、男は笑みを浮かべる。
「――アイゼェェェェェェェンンンンンン!!!」
「――噂をすれば影、か。思ったよりも早かったな」
星矢の憤怒の雄叫びが響いた。ダイたちの下に現れたその男――藍染惣右介目掛けて一目散に走り寄ってくる。
マヌーサにより一度は標的を見逃した星矢だったが、その後に感じた小宇宙を頼りに、逃げる前に追いつくことが出来た。
逃げる前に――そう、思っていた。
しかし違う。藍染と、藍染の霊圧に打ちひしがれる三者の様子から、現在の状況が最悪であるということを理解したのである。
間髪いれずに撃ち込もうとした彗星拳を引っ込め、星矢は停止する。
場には、異様な空気が流れていた。
地に立つ男が三人、地に伏す男が一人、女が二人。
『立』と『伏』。この状況が、そのまま強者と弱者の違いを明白にさせていた。
「どうした? かかってこないのかい?」
「グッ…………!」
「さすがに、この状況を理解できないほど莫迦ではないらしい。少し見直したぞ」
「藍染……ッ!」
睨みつつも決して手は出さず、星矢と藍染は対峙していた。
包み込む霊圧は、星矢の臆するほどのものではない。が、藍染の手には『盤古幡』が握られている。
「星矢…………!」
「動くなダイ! この野郎、麗子さんたちを人質にするつもりだ! 動けば即重力を倍化させられるぞ!!」
一歩踏み出そうとしたダイを、星矢が呼び止める。
「なかなか分かっているじゃないか」
藍染はフフフと微笑み、硬直したダイに向き直る。
「軽率な行動は死を招く――君たちはともかく、他の三人は何倍の重力まで耐えられるか。考えられぬわけではなかろう?」
逆らえば即座に重力を上げ、人質を死に至らしめる。男の脅迫は、そう意味だった。
「……下衆ヤローが!」
せめてものの抵抗として、星矢は藍染に罵りの言葉を放る。
だが藍染は気にも留めない態度で微笑を浮かべるのみだった。
何がそんなに可笑しいのか。ダイには分からなかった。
藍染惣右介。ダイはこの男とは初対面だが――その雰囲気は、ダイのよく知る『死神』の存在と被る。
その存在とは、『死神』と同時に『道化師』の肩書きも持つ、魔王の配下キルバーン。
底知れぬ自信と余裕を漂わせ、何を企んでいるか計れない――そんな印象を感じた。
「一つだけ教えろ藍染! おまえはあの時、逃げようと思えば逃げることも出来た……それどころか、俺を攻撃することだって。なのにおまえはそのどちらもしなかった。おまえの目的は、いったいなんなんだ!?」
落雷時に唱えたマヌーサにより、藍染は『攻撃』と『逃走』、どちらも可能な時間を得た。
優勝を狙っているのなら、間違いなく星矢を攻撃していたはず。体力が乏しいのであれば、逃走を選んでいたはずだ。
なのに藍染が選択したのは、『尋問』。どうやってダイたちのことを知ったのかは分からないが、藍染がそこまでして情報を求めようとする理由はなんなのか。
「愚かな質問だな。時間稼ぎのつもりかい? ……だが、答えてやるのも一興か」
藍染は五人の視線に囲まれながら、不気味に語りだす。
「僕は他者の生死などに興味はない。もちろん邪魔者はあの男――石崎、だったかな? 彼のように容赦なく殺害してみせるが」
「貴様……!」
「滾るな。つまるところ、僕は君が生きていようがいまいがどうでもいいのだよ。むしろ情報を引き出すまでは生きていて欲しいとさえ思う」
――まぁ、僕にあれほどの苦渋を与えた人間だ。それなりの制裁は与えるつもりだが――という本心は言わず。
「僕は主催者の情報を欲している。そのためにも、『聖闘士』である君、『竜の騎士』であるダイ君の存在は貴重だ。
君との戦いも魅力的だったが、あのまま戦っていても君は僕の知りたいことを教えてくれそうになかったからね。
だから僕はハーデスを知る君ではなく、バーンを知る彼に接触を試みた」
藍染惣右介という男は、星矢のように恨みの感情で動くことはしない。
如何なる時も冷静に物事を見つめ、自分にとって最善の選択肢を選び出す。
「なら、なんでおまえはダイたちがここにいることに気づいたんだ?」
まさか、聖闘士のように小宇宙を感じることが出来るわけでもあるまい。
「簡単なことだ。君が纏うその鎧だよ」
藍染は星矢が身につけているペガサスの聖衣を指差し、言葉を続ける。
「君は言っただろう――『仲間が託してくれた』と。加えてあの落雷だ。あの理不尽なタイミングから見て、『誰かが君をサポートした』と考えるのが普通だろう?」
「だからってダイとは限らないじゃないか」
「いや、僕は知っているのさ。雷を落とせる呪文があること、そしてそれが魔王と敵対する勇者のみに使える呪文だということもね。
当てはまる人物は、一人しかいない。開幕の際、バーンに向かっていった少年――つまり、君だ」
藍染が示すのは、勇者であり竜の騎士、そしてバーンと確かに敵対する少年、ダイ。
「だからこそ僕は君へのとどめを刺さず、情報を優先した――そして、事態は思った以上に好転しているよ。なんせ、こんな『おまけ』まで付いていたのだから」
『おまけ』というのは、やはり両津たちのことだった。
藍染も馬鹿ではない。勇者と呼ばれるほどの存在に疲弊したからでは挑みたくないし、星矢も近くにいる以上、『ダイ一人』だったら諦めて黙認するつもりでいた。
だが、三人もいた『おまけ』を見て、藍染は勝負に出た。
「わざわざ仇討ちに来るような君が、仲間を見捨てるはずはないだろう? 彼と行動を共にしているダイ君、君もまた然りだ」
霊圧にプレッシャーを感じた三人の存在があったからこそ、尋問の成功率は高いと読んだ。
それゆえの接触。それゆえの余裕。それゆえの自信である。
「利用できるものは利用し、邪魔者は殺す――それが僕の行動理念さ。石崎という男も、僕に逆らわなければ死ぬことはなかっただろう――」
星矢が絶叫しそうな台詞だった。
しかし嘘ではない。実際、藍染は過去にも無差別な殺戮は行っていない。
石崎が殺されたのも、その用心深さゆえの過ちだったと言えよう。
「…………」
「さて、そろそろ『尋問』に戻ろうか。雨脚も強まってきたことだしね」
藍染は振り向き、わざとらしく星矢に背中を向ける。
星矢がなにも出来ないと分かった上での行動。星矢は激しい憤慨の念を抱いた。
打開策が見つからない。
藍染に隙が見当たらない。
いかに星矢といえども、制限がかけられたこの世界では、速度で藍染を完全に圧倒することは出来ない。
仕掛けるなら、重力の増加を覚悟しなければならなかった。だがそれは、直接仲間の死に繋がる。
(両津さんなら少しは耐えられるかもしれない……だけど麗子さんやまもりさんは間違いなく死ぬ! 俺が手を出したら……みんなは!)
何もできない自分が悔しい。これはダイも同じ心境だった。
沈黙の時間は長くは与えられない。いつかは、口を開かねばならない。
(生死には興味がない……もしそれが本当なら、バーンの情報くらい……)
ダイは妥協案を考えつつも、未だそれを決行に移せていない。
藍染が、あの『死神』と同じように『道化』であるならば――正解は、どの選択なのか。
【兵庫県/二日目/午前】
【藍染惣右介@BLEACH――生存確認】
[状態]重度の疲労(盤古幡使用可能。しかし、二十五倍程度が限界)、戦闘によるダメージ(軽傷)
[道具]:荷物一式×2(食料残り約5日分)、盤古幡@封神演義、首輪×2
[思考]1:両津、麗子、まもりを人質に、ダイと星矢から情報を聞き出す(星矢が気づくまでに終わらせたい)。
2:情報を聞き出せたなら即逃走。危ない橋を渡るつもりはない。
3:L一行を探し出し始末、斬魄刀を取り返す。
4:興味を引くアイテムの収集(キメラの翼・デスノート優先。斬魄刀の再入手は最優先)
5:ルーラの使い手、バーンと同世界出身者を探す
6:能力制限や監視に関する調査
7:琵琶湖へ向かう(斬魄刀を手に入れてから)
8:琵琶湖に参加者が集まっていなかった場合、新たな実験の手駒を集める
【四国調査隊】
共通思考1:四国に向かう(数十分後、到着予定)
2:仲間が死んでも泣かない
3:出来る限り別行動はとらない (星矢は別)
4:ハーデスに死者全員を生き返らせさせる
【両津勘吉@こち亀】
[状態]睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]マグナムリボルバー(残弾50)
[道具]支給品一式×2(二食分の食料、水を消費)両さんの自転車@こち亀(チェーンが外れている)
爆砕符×2@NARUTO、中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター、焦げた首輪
[思考]1:藍染をどうにかする
2:姉崎まもりを警戒
3:仲間を増やす
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
[状態]中度の疲労、藍染の霊圧によるプレッシャー
[装備]サブマシンガン
[道具]食料、水を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:藍染をどうにかする
2:まもりに僅かな不信感を抱いている
3:四国へと向かう
4:藍染の計画を阻止
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]健康
[装備]クライスト@ブラックキャット
[道具]荷物一式(2食分消費)、トランシーバー、出刃包丁
[思考]1:藍染に情報を提供するかどうか悩んでいる
2:姉崎まもりの監視
3:四国へと向かう
4:ポップを探す
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]:中度の疲労。殴打による頭痛、腹痛。右腕関節に痛み。(痛みは大分引いてきている)
:右肩の軽い脱臼。不退転の決意。藍染の霊圧によるプレッシャーを感じているが、割と冷静?
[装備]:魔弾銃@ダイの大冒険・魔弾銃専用の弾丸(空の魔弾×7、ヒャダルコ×2、ベホイミ×1)@ダイの大冒険
[道具]:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン、ベアークロー(片方)@キン肉マン、装飾銃ハーディス@BLACK CAT、荷物一式×4、食料五人分(食料、水は三日分消費)
[思考]1:不明
2:両津達3人に着いていく。大量殺戮のチャンスを狙う
3:殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない
4:セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)
5:セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
6:セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生して貰う
【星矢@聖闘士星矢】
[状態]極度の興奮状態、中程度の疲労、全身に無数の裂傷
[装備]ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[道具]食料を8分の1消費した支給品一式
[思考]1:なんとかこの場で藍染を倒したい
2:四国へと向かう
3:弱者を助ける
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
394 :
作者の都合により名無しです:2006/09/13(水) 14:24:10 ID:cF63yGWJO
ろーっこうおろしにさぁっそぉぉと
395 :
ギギ・・・・:2006/09/13(水) 20:24:59 ID:jDkA2IS00
/⌒ヽ
⊂二二二( ^ω^)二⊃
| / ブーン
( ヽノ
ノ>ノ
三 レレ
血が止まらない。
背負った新八の右腕からにじみ出る血液は越前の右肩を染め続けていく。
(失血死って苦しいっていうよね……)
嫌な事実を思い出してしまい慌てて思考を切り替える。
(……乾先輩……)
先程の放送で、ついに呼ばれてしまった最後の一人。
いっつも飄々としていて、嬉々として怪しげな汁ばっか作ってて、人のデータがどうとか言ってて、俺があんまり好きじゃないって知ってるのに牛乳飲めってうるさくて。
…………そういえば、俺が初めて声を出して応援したのは、アンタだった。
(……アンタのテニス、嫌いだけど嫌いじゃなかった)
……やっぱり、もっと違うことを考えよう。
今、乾先輩のことなんか考えたら足が止まってしまいそうだ。
(そういえば、あの女の人は一体何だったんだろう)
ああやって襲ってきたっていうことはこの殺し合いに乗っちゃったってことなのかな。
なんだか妙な武器を持っていたけど……。
そう言えばどうしてあの人は俺たちにあの場でとどめを刺さなかったんだろう。
なにか理由があったのかな。
こんな風に俺が考えたって答えがでるわけじゃないけど。
自分より大きな新八を背負う越前の歩みは遅々として進まず、その遅さが新八の命を削っていっているようで焦りが更に疲労を上乗せする。
それでも足を止めるわけにはいかない。
今のところあの危険な女は追ってきてはいないようだけど……追ってこない確証などないのだ。
「……ね、うえ……」
聞いたこともないような頼りない声で、新八が何事かを呟いた。
ずれ落ちかかる新八を背負い直し、越前は真っ直ぐに前を見据える。
肩に、背に、腰に、足に、かかる負担はそのまま人一人の命の重さで……今まで考えたこともないような重い枷となり容赦なく越前を地に倒そうとする。
だけど。
(死なせない……絶対に……。死なせてたまるか……!)
進む先に当てなんかない。
ただただ、新八をどうにかしてくれる人間に出会いたい。
こんな簡単な止血よりも効果的な……できれば劇的な治療をしてくれる人物に。
最悪の状況の中、それでも負けることを嫌うテニスの王子様は一歩一歩、確かに進んでいく。
ほんの数時間前に……先輩の乾が、今の越前と同じように仲間を背負って走り続けたように。
今、門は閉じられた。
選んだ赤き修羅門は斗貴子の胸の奥へと沈み、決意の火となってその心を照らす。
道に転々と続いていく血痕。
それはまるで斗貴子を人ならざる世界へと誘う篝火のようで。
(スカウターを使うまでもないな……)
スカウターのスイッチを切り、血痕の続く先を見やる。
荷物は拾った。銃も手にした。
もう、立ち止まっている理由はない。
しばし血痕を見つめ、斗貴子は、ふ、と息を吐くとそれに沿って歩き始める。
もう、躊躇はしない。
殺す。
今度こそ。
確実に。
そう思いながらも心の片隅で深手を負ったであろうあのメガネの少年の安否を気にしてしまう。
いや、はっきりと「無事であればいい」と思ってしまい、そんな自分を嫌悪する。
傷つけたのは――――殺そうとしたのは、しているのは自分なのに。
決意したばかりだというのにどうしてこう自分は弱いのだろう。
――――――――『最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない』
誰よりも尊敬する戦士長の言葉が胸をよぎる。
この腐ったゲームに巻き込まれた全員を……カズキを日常に帰すためならば。
そのためなら、どんなに蔑まれようと構わない。
「私は……悪にでもなる」
唇を噛みしめ呟く。
緩やかだった歩みが速まり、徐々に斗貴子はスピードをあげる。
血痕はまだ続いている。
――――――――新ちゃん、新ちゃん
――――――――おい、新八
――――――――新八〜新八〜
あああうるさいなもう!
嫌になるほど聞き覚えのある沢山の声が一斉に僕の名を呼ぶ。
ああもう。またですか。またこのパターンですか。
いい加減起きろよ、僕。
今けっこうなピンチなんだからさ。
って――――――――――――――――――――。
「僕まだ生きてるゥゥゥゥゥううううう?!」
「……一応ね。耳元で怒鳴らないでくれる?うるさいから」
「あれ?越前くん?あぁ……やっぱあれは夢だったんだ……。よかった……。そうだよな。必殺凶悪ミニスカセーラー狂戦士に突然襲われるなんてありえな……」
「それ現実だから」
「そんなあっさり希望を消さないでェェェ!」
「てゆ〜か起きたんなら降りて。重いから」
「…………ハイ。スイマセンでした」
呆れたような越前君の声に僕は慌てて越前君の背中から降りた。
と言うか、慌てて降りたせいで転んでしまい、怪我した肩を強打して転げ回った。
「痛ってェェェェェ!痛いよコレちょっとやばいよ!」
肩も腕も痛いけどなんか頭もぼーっとしてて、今ならいろんな見えちゃいけないモノが見えちゃいそうだ。
「……貧血だね。当然といえば当然だけど」
そう言って越前くんは僕の隣に座り込む。
僕の腕を押さえ、もう一度布をきつくまき直してくれる。
出会ったときと同じ様な容赦のない治療に悲鳴を上げつつ、僕は改めて周囲を見回した。
よく見てみればここは林の中。
しかも茂みの影になっていて、向こうから見た限りではかなり僕たちは見つけづらいだろう。
「越前くん!肩!」
ぐっしょりと赤く染まった越前くんの肩が目に入り、心臓が止まりかけた。
越前くんも怪我をしてたんだろうか。
「……あぁ。……アンタの血だから、これ」
あっさりと言った越前くんの言葉に安堵しつつ、僕は越前くんの肩がこうなってしまったわけに思い至った。
越前くん……僕を背負ってきてくれたんだ。ここまで。こんな小さな体で。
よく見たらすごい汗かいてるし。
「そういえば君の怪我は?!」
「平気。かすっただけだし」
そう言うけど、切られていたいわけはない。
でも越前くんは弱音なんか漏らさない。
意地っ張りなのか本当に強い人間なのかはまだよくわからないけど。
「越前くん……。ありがとう……」
「……別に」
僕の言葉に越前くんはプイ、とそっぽを向いてしまった。
照れてるんだ、ってことがわかり越前くんに気付かれないように小さく笑う。
肩は物凄く痛いけど、なんだかちょっと気分がいい気がする。
「僕、ここに来て最初に会えたのが君で良かったよ」
「……そ」
相変わらず越前くんの返事は素っ気なかったけど、そんなことはどうでもいいや。
「もう少し休憩したら、行くよ」
「……うん」
頷いて僕は、ぐらぐらする頭を我慢しながら空を見上げた。
「……ねえ、越前くん」
「なに?」
「朝の放送……誰が呼ばれた?」
「…………」
「……そっか」
夢であればいいと思ってたけど……やっぱり現実だったんだ。
「……ナンバー2……」
僕の呟きに、越前くんも曇り空も、誰も何も答えなかった。
突然、アスファルトに残っていた血痕が途切れた。
足を止め、斗貴子は逡巡する。
あのメガネの少年の血が止まったのか。
それとも進路を変えたのか。
前者であればいい、と反射的に思ってしまい何度目かの自己嫌悪に陥る。
さっきからこの繰り返しで、そのことも斗貴子の自己嫌悪に拍車をかける。
頭を振り、無理矢理に思考を切り替えた斗貴子はスカウターのスイッチを入れた。
「…………」
いくつかの反応を見、眉を寄せる。
斗貴子の今いる場所からわずかに左手側にある反応は、数字の小ささからみてあの少年達だろう。
問題はその先。
ここ、京都から十分に近い所……おそらく大阪と思われる辺りに4つの反応が固まっている。
そのうち3つはたいした数字ではないが……残りの一つははっきりと斗貴子よりも高い戦闘力を示している。
そのうえ。
(なんだ?こっちへ向かってくるこの4つの反応は……)
まとめて4つ。高めの数字を持つ人物3人+そこまで高くない数字の人物1人が、かなりのスピードでこちらへ向かってくる。
(4人で走って行動している?……いや。それは無理がある。……そうか、電車か!)
今までまったく頭になかった移動手段がここにきて使われているというのか。
恐らくは……あの放送のせいだろうが。
(このままいくとこの2つのグループは遭遇する)
それが一体どのような意味をもたらすのか。
大きなグループができあがるのか……それとも血で血を洗う戦闘が起こるのか。
しばし考えるも答えは見えない。
「……今は」
今はとりあえず、“人数減らし”に集中すべきだろう。
そう思い斗貴子はショットガンをしまった。
距離を考えると微妙なところだが、発砲音を聞きつけられないとも限らない。
ここは安全に確実に――――。
「バルキリースカートで……」
心の奥底では、人を殺すために使いたくなかった自分だけの武器で。
私は。
人を殺す。
気配を消し、足を踏み出す。
数メートル進んだところで、気配を殺していたのが馬鹿らしくなるような会話が聞こえてきた。
「だから僕はこう叫んだんだ。『ノーパンになって得られる平和なんか俺は認めんぞォォ!!』って」
「……ふーん」
「だってそうだろう?!姉上はどう考えたってSなのにMになんかなれるわけないんだよ!」
「……ふーん」
(……一体何の話をしているんだ)
趣旨のよくわからない話に毒気を抜かれてしまい思わず足を止める。
木の影に隠れそっと茂みの中を覗き込むと、2人の少年の背中が見えた。
間違いない。あの子達だ。
真面目なのかふざけているのか判断を付けかねる彼らの会話はなおも続いていく。
(私は何をしているんだ!)
さっさと、バルキリースカートの刃を彼らの背中に突き立てればいい。
卑怯者らしく、悪者らしく、あっさりと。
「……誰?そこにいる人」
いつ気付かれたのだろう。
小柄な少年の鋭い瞳が、茂みの中からこちらを睨み付けていた。
沈黙が広がる。
あの木の影にいる人は動かない。
「出てくれば?」
決して気の長い方じゃない俺の言葉に姿を現したのは、予想通りの人物だった。
あまり、いや、かなり再会したくなかったオネエサンだ。
「で?オネエサンは俺たちを殺しに来たの?」
さりげなく腰を上げ、新八さんを庇える位置に移動しながら目前の人に尋ねる。
新八さんの顔色は未だに物凄く悪い。
土気色っていうだっけ?こういう色。
乾汁を一気に10杯くらい飲んじゃった感じだ。
「……ああ。私は……君たちを殺しに来たんだ。……それが……君たちのためだから」
うわ。なんかこの人すっごい眉間に皺寄ってる。……部長といい勝負。
思い詰めてます、って顔は見ていて痛々しいくらいに怖い。
「は?意味わかんない」
視線はそのままに、俺はいつでも駆け出せるように心を準備する。
武器も何にもない今、このオネエサンと戦って勝てるとは思えない。
それに俺にとっての勝利はここで戦って勝つことじゃないし。
俺にとっての勝利は、無事に帰って全国制覇をすること。
テニスを、またすること。誰も殺さないし、殺されない。
これ以外にはない。
「許してくれとは言わない。憎んでくれて構わない。私は――――――――――――」
キチキチと変な音がする。
オネエサンのスカートが少しだけ持ち上がり、中から鈍く光る刃物が姿を現す。
完全に刃を伸ばしたらしいその鎌の切っ先が俺たちに向く。
空気がピリピリして、全身に悪寒が走る。
「君たちを殺す」
「やだ」
一言言い返し、俺は立ち上がるときに持っていた土をオネエサンに投げつけた。
思わぬ目くらましを喰らって、オネエサンの注意が一瞬だけ逸れる。
その隙に新八さんの腕を掴んで俺は全速力で走り出そうとして――――――――――――。
「無駄だ」
確かに背後にいたはずのオネエサンが、どうやったのか俺たちの目の前にふわりと舞い降りた。
「……必ず後で生き返らせる。だから今だけ我慢して私に殺されてくれ……」
「どういうことですか?!」
何言ってんのアンタ、と言おうとした俺の言葉を遮って、新八さんがオネエサンに詰め寄った。
「生き返らせるって、優勝するってことですか?でもアレ、生き返るのは一人だけで、それだってインチキくさいじゃないですか」
「……全員が生き返って、元の世界に戻れる方法があるんだ」
「……なにそれ」
何言ってるの、この人?
頭がやられちゃったんだろうか。
「何かわけありみたいですね。話、きかせてくれませんか?」
思いっきり疑いの目を向ける俺を退けた新八さんの言葉に、オネエサンは一瞬迷った後「わかった」と頷いた。
「馬鹿じゃないの?」
予想通りの反応だが、言われた言葉は予想よりも率直なモノだった。
ポカンと口をあけたままの志村にも、肩をすくめる越前にも、もう何も言うつもりはない。
こうなることはわかっていた。
自分だって初めてこの話を聞いたときは頭から疑っていたのだ。
『7つそろえると竜型の神が現れ何でも願い事を叶えてくれる玉』
お伽話の中に出てくる夢話と同じくらい不確かな存在。
だが――――。
(私は、この小さな希望に賭ける……!!)
全員を救うために。今。この二人を。
「アンタだって、本当は信じてないくせに」
まったく予想外な言葉に、動きかけていたバルキリースカートがピタリと止まった。
「……どういうことだ?」
「そのまんま。本当はアンタも信じていないんでしょ?そんな話。だから」
「だから……僕たちを殺すことをそんなに躊躇っているんでしょう?」
越前の言葉を引き継ぎ、志村が口を開く。
彼らを殺すことを躊躇っていることを見抜かれ、私は彼を睨み付けた。
「……そんなことはない……!」
「だったらどうして僕たちを見つけた瞬間に殺さなかったんですか?」
「それは……!」
「それに、どうして僕たちにこんな話をしたんですか?本当にドラゴンボールの話を信じているんなら僕たちを殺してさっさと次を探しに行けばいいのに。こんな話をする必要なんかないのに」
志村の言うことはもっともだ。
本来ならば一刻も早く人を減らし……ピッコロを見つけ、優勝してもらわなければならないはずなのに。
「……信じてないから、だから誰かにこの話を肯定して欲しかったんじゃないですか?」
「…………」
初めてこの話をした人はリサリサという名の女戦士だった。
そして、つかさ。ケンシロウ。サクラ。アビゲイル。
皆が皆――――言った。『そんなことはありえない』のだと。
唯一人、クリリンと同じ世界からきたヤムチャだけがドラゴンボールの存在を信じ……いや、知っていてあっさりと計画に乗ってはいるが……。
ヤムチャ以外は、誰一人この話を信じてくれなかった。
一度ホムンクルスになった人間が、もう元には戻れないのと同じように……死んだ人間はもう生き返らないのだと、本当は心の中では、私は…………。
「それでも……私は希望を捨てることはできない……!!」
「現実を認めるのが怖いの?」
「なっ……!」
「新八さんの言うとおり、本当にその話を信じてるんならアンタは俺たちをあの小屋で殺してなくちゃいけなかったんだ。なのにここまで来てもアンタはそれができない。アンタは弱いんだ。仲間が死んだ現実を認めることも、嘘みたいな話を本気で信じることもできない」
自分よりも幼い小柄な少年の瞳が、私を真っ直ぐに射抜く。
頼りなさそうなメガネの少年の瞳が、私を真っ直ぐに射抜く。
ギリギリと奥歯を噛みしめてしまうのは、この二人の言うことが正しいからか。それでも。
「……『最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない』。だから私は最後まで……!」
貫き通す。
自分の信じた希望を。
例えこの信念が悪なのだとしても。
「アンタみたいな弱い人間に、信念なんか貫けない」
「…………れ……」
俯いた自分の声は思ったよりも低く、感情が膨れあがる。
(私は決めたんだ!もう覚悟をしたんだ!)
なのにどうして。
どうしてこんなに、心が乱れるのか。
キチキチと小さな音を立て、死神の鎌が持ち上がる。
だが、越前は退かない。
志村も退かない。
「アンタみたいに弱い人間に、俺は絶対に殺されてなんかやらない」
「…………黙れ…………!」
志村の視線が、越前の言葉が、私の心に突き刺さる。
認めたくなかった、気が付きたくなかった自分の心が晒され、そこに言葉の刃が突き立てられる。
「俺は……絶対に負けない――――――――――――――――!!」
「
「黙れ――――――――――――――――――――っっ!!」
「越前くん…………!!」
鋭い刃が越前の眉間に一直線に向かう。
狙いは違わない。バルキリースカートの最大の特性は高速精密機動だ。
歯を食いしばり、越前は真っ直ぐに自分を睨み続けている。
逃げられないのか?いや、彼は……!
――――――――越前の眉間の皮膚に後3oというところで、刃の動きが止まった。
「……なぜ……」
ようやく出せた声は、自分でも驚くくらいに震えていた。
動けなかった、のではなく避けなかった越前は、なおも私を睨み続けている。
「なぜ……」
なぜ、私は迷ってしまうんだろう。
何度も何度も覚悟を決めたと、全てを捨てるのだと、そう思ってきたのに。
カズキを、全員を日常に帰すためならばと決意したはずなのに。
「簡単な事じゃないですか」
越前の隣にいた志村が、一歩踏み出した。
握りしめた拳が震えているのが見て取れた。
「自分の心に嘘ついたまま信念なんか貫けっこないんだよ!!アンタそんな簡単なこともわかんないんですか!!」
僕の絶叫が林の中に響き渡る。
大声を出したせいでまた頭がグラグラするけど、そんなのに構ってる場合じゃない。
目前のお姉さん……津村さんが呆然とした顔で僕を見る。
さっきまで地獄の鬼より怖い顔をしてたのに、今はその目が少し潤んでいる。
「それでも……私はもう引き返せないんだ……」
「引き返せないわけがあるかボケェェェェェ!そんなこと死んでから思え!!」
「ちょっと新八さん……」
びっくりしていた越前くんが僕を抑えようとするけどそんなことどうでもいい。
腹が立って仕方がない。
「何『自分だけが不幸』みたいな顔してんだ!大切な人を亡くしたのはあんただけじゃないんだよコノヤロォォォォォ!!」
「……」
呆然としたままの津村さんの胸ぐらを掴み、僕は思いつくままに叫び続ける。
ドラゴンボールが全てを解決してくれるなら僕だって信じたい。
でも死んだ人はどうしたって生き返らないんだ。
だから僕たちは。
「死んじゃったら生き返れないから!だから!気合いいれて生きてるんでしょ?!一回しかないから!」
叫んだせいで息があがる。
ただでさえ貧血だったのに酸欠までプラスされてきてない、これ?
「もう……私に構わないでくれ……」
俯いた津村さんが小さな声を出した。
「は?」
言っている意味がよくわからず聞き返す。
それでも津村さんは顔を上げない。
「今なら君たちを殺せない……。一人で考えたいんだ……。だから……」
「嫌です」
むかついたから即答してやった。
何言ってんだ、この人。
「あんた放っておいたら何するかわかんないだろ!それに……」
心臓よりも大切な器官があるって言ってましたよね、銀さん。
頭っから股間を真っ直ぐ貫く大切な器官があるって。
それは、自分の魂に収めた……折れてはいけない刀。
もう、僕は誰も目の前で死なせたくない。
誰にも誰かを殺させたくない。
この、津村さんにも。
「それに……そんな風に泣いてる女の人、放っておけませんよ……」
言われて初めて気が付く。
私の頬には、いつのまにかいくつもの涙が流れていた。
【京都府 朝】
【志村新八@銀魂】
[状態]:重い疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。上腕部に大きな切傷(止血済み)。
顔面にダメージ。歯数本破損。朦朧。たんこぶ多数。貧血。
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)
毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
[思考]:1、斗貴子を止める 。
2、藍染の計画を阻止。
3、まもりを守る。
4、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
5、主催者につっこむ(主催者の打倒)。
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:非親衛隊員。重い疲労。脇腹に、軽度の切傷(止血済み)
[装備]:線路で拾った石×1
[道具]:マキ○ン
[思考]:1、切れた新八を止めたい。
2、新八の傷を治してくれる人を捜す。
3、藍染の計画を阻止。
4、死なない
5、生き残って罪を償う
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:肉体的、精神的に軽度の疲労。左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました)
顔面に新たな傷、ゲームに乗る決意:核鉄により常時ヒーリング
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険、 ショットガン
真空の斧@ダイの大冒険、首さすまた@地獄先生ぬ〜べ〜、『衝突』@ハンター×ハンター、
子供用の下着
[思考] 1、新八の言葉に動揺
2、ドラゴンボールについてもう一度考えたい
>>299 こちらこそ何か不愉快にさせたんだったらスマンカッタ
いい加減な妄想で辻褄合わせたり抜け道探したりするの好きなんだ・・・