ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.9

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1作者の都合により名無しです

このスレは週刊少年ジャンプのキャラクターで所謂バトルロワイアルのパロディをしようという企画スレです。
これはあくまで二次創作企画であり、集英社や各作品の作者等とは一切関係ありません。
それを踏まえて、みんなで盛り上げていきましょう。

※ここはSS投下専用スレになります。感想、議論は下のスレでお願いします。
ジャンプキャラ・バトルロワイアル感想議論スレ PART.19
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1147417300/
2作者の都合により名無しです:2006/05/21(日) 23:56:05 ID:GOVBNWIf0
前スレ
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1143723647/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.7
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1141575538/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.6
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1139506098/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.5
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1137897651/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.4
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1132239130/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1123891185/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1121088002/
ジャンプキャラ主人公&ヒロインバトルロワイアル
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1115216913/
ジャンプキャラ・バトルロワイアルSS投下専用スレ PART.1
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1119971124/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル準備スレ PART.2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1116767239/
ジャンプキャラバトルロワイアル準備スレ PART.3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1117638620/
3作者の都合により名無しです:2006/05/21(日) 23:57:00 ID:GOVBNWIf0
4作者の都合により名無しです:2006/05/21(日) 23:57:51 ID:GOVBNWIf0
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
 開催場所は作られた「ミニ日本」であり現実世界ではない。海上に逃れようと閉鎖空間の壁にぶつかり脱出は不可。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランダムアイテム」

 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。
 「地図」 → 白紙、禁止エリアを判別するための境界線と座標のみ記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。 (デスノートへの記入含む)
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。 (ただし写真なし。デスノート対策)
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが一つ入っている。内容はランダム。

※「ランダムアイテム」は作者が「エントリー作品中のアイテム」と「現実の日常品」の中から自由に選んでください。 
 必ずしもデイパックに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
5作者の都合により名無しです:2006/05/21(日) 23:58:38 ID:GOVBNWIf0
【「首輪」と禁止エリアについて】
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 開催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。
 「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。 
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。

【放送について】
 放送は6時間ごとに行われる。放送は魔法により頭に直接伝達される。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」「残りの人数」
 「管理者(黒幕の場合も?)の気まぐれなお話」等となっています。

【能力の制限について】
 超人的なプレイヤーは能力を制限される。 また、超技術の武器についても同様である。

 ・攻撃制限例(ドラゴンボール)
  エネルギー弾の威力→普通の拳銃レベル
  かめはめ波の威力→マグナムよりは強い。大木が1本倒れるくらい。
  元気玉の威力→……使えるのか?使えたとして、半径50m位のクレーターが出来る。

 ・耐久度制限例
  一般人の強さを1として
  一般人→1
  超人→3(普通の銃では致命傷にならない。ショットガンクラスが必要)
  人外→5 (拳銃程度なら怯むだけ。マグナムクラスで気絶)
6作者の都合により名無しです:2006/05/21(日) 23:59:27 ID:GOVBNWIf0
・超人的な再生、回復能力を持つキャラの制限(※一般人には適用されません)
  軽度の銃創…安静にしていれば数十分で癒える。
  骨折…安静にしていれば数時間で癒える。
  重度(目や肺)の銃創…安静にしていれば1日で癒えるが体力消耗
  切断(腕や脚)…切られた部分をくっつけて置いて、安静にして丸1日を要する。
  再生…瞬時に再生できるが体力を相当消耗する。 体力回復は1日や2日では無理
  切断(胴や首)、銃弾心臓or脳貫通…シボンヌ
 
・魔法や気などの威力制限案
  エネルギー弾の威力→普通の拳銃レベル。連発も可能。
  必殺技の威力→木が1本倒れるくらい。けっこう消耗する。
  超必殺技の威力→一般家屋破壊。消費も凄まじい。1日1発が限度。

【舞台】
主催者3キャラの作った仮想空間が舞台で
面積は東京23区の半分程度(80u)
地形は日本列島(沖縄県、他島は除く)
   季節は北海道 冬   日本海側 秋
      太平洋側 秋  九州、四国 夏 

乗り物は列島の端と端をつなぐ無人蒸気機関車が定期的に走っている。

都市部はあるが無人。主催者側が人間の世界を模して作成したものなので
実際に生活できるようには作られていない。人の痕跡なし。ガス、水道、電気
食料なし。建物が密集しており隠れるのに最適……かもしれない。

海は移動禁止区域。入ると脱出者とみなされて首輪爆発。
7作者の都合により名無しです:2006/05/22(月) 00:09:30 ID:2XglNvIV0
【NGについて】
・ssが投下された後、
 @48時間以内に正当な理由あるNG審議要請が出され、
 Aその要請に基づいて皆で議論し、NGが妥当とされた場合、
作者は48時間以内に意思表明をする。
そして修正する意思があるならそこから48時間以内に修正ss投下。
規定時間内に意思表示がなされなかった場合、該当ssをNG認定する。
・ただしNG認定後、当該SS登場キャラに
新しい動きがないうちに修正SSを書き上げたなら自由に投下可能
・スレの意志の大半に支持されて修正要請がされて48時間以内なら何回でも修正は可
8作者の都合により名無しです:2006/05/22(月) 00:13:18 ID:2XglNvIV0
2/4【こち亀】○両津勘吉 /○秋本麗子 /●中川圭一 /●大原大次郎
2/4【NARUTO】○うずまきナルト /○春野サクラ /●大蛇丸 /●奈良シカマル
2/4【DEATHNOTE】●夜神月 /○L(竜崎) /○弥海砂 /●火口卿介
2/4【BLEACH】●黒崎一護 /○藍染惣右介 /●更木剣八 /○朽木ルキア
3/4【ONE PIECE】○モンキー・D・ルフィ /○ニコ・ロビン /○ウソップ /●道化のバギー
1/4【銀魂】●坂田銀時 /●神楽 /●沖田総悟 /○志村新八
2/4【いちご100%】●真中淳平 /○西野つかさ /○東城綾 /●北大路さつき
2/4【テニスの王子様】○越前リョーマ /●竜崎桜乃 /●跡部景吾 /○乾貞治
2/4【アイシールド21】○小早川瀬那 /●蛭魔妖一 /○姉崎まもり /●進清十郎
0/4【HUNTER×HUNTER 】●ゴン・フリークス /●ヒソカ /●キルア・ゾルディック /●クロロ・ルシルフル
2/5【武装錬金】●武藤カズキ /○津村斗貴子 /●防人衛(C・ブラボー) /●ルナール・ニコラエフ /○蝶野攻爵(パピヨン)
1/5【SLAM DUNK】●桜木花道 /●流川楓 /●赤木晴子 /●三井寿 /○仙道彰
3/4【北斗の拳】○ケンシロウ /○ラオウ /○アミバ /●リン
2/4【キャプテン翼】○大空翼 /●日向小次郎 /●石崎了 /○若島津健
2/4【キン肉マン】○キン肉スグル /○ウォーズマン /●ラーメンマン /●バッファローマン
3/4【ジョジョの奇妙な冒険】○空条承太郎 /○ディオ・ブランドー /●エリザベス・ジョースター(リサリサ) /○ブローノ・ブチャラティ
9作者の都合により名無しです:2006/05/22(月) 00:15:01 ID:2XglNvIV0
2/4【幽遊白書】●浦飯幽助 /○飛影 /○桑原和馬 /●戸愚呂兄
0/4【遊戯王】●武藤遊戯 /●海馬瀬人 /●城之内克也 /●真崎杏子
1/4【CITY HUNTER】●冴羽リョウ /●伊集院隼人(海坊主) /○槇村香 /●野上冴子
3/4【ダイの大冒険】○ダイ /○ポップ /●マァム /○フレイザード
2/5【魁!!男塾】●剣桃太郎 /●伊達臣人 /●富樫源次 /○江田島平八 /○雷電
2/4【聖闘士星矢】○星矢 /●サガ /●一輝 /○デスマスク
2/4【るろうに剣心】○緋村剣心 /○志々雄真実 /●神谷薫 /●斎藤一
4/6【DRAGON BALL】○孫悟空 /●クリリン /●ブルマ /○桃白白 /○ピッコロ大魔王 /○ヤムチャ
4/4【封神演義】○太公望 /○蘇妲己 /○竜吉公主 /○趙公明
1/4【地獄先生ぬ〜べ〜】○鵺野鳴介 /●玉藻京介 /●ゆきめ /●稲葉郷子
3/4【BLACK CAT】○トレイン・ハートネット /○イヴ /○スヴェン・ボルフィード /●リンスレット・ウォーカー
1/4【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】●ダーク・シュナイダー /○アビゲイル /●ガラ /●ティア・ノート・ヨーコ
0/5【ジャングルの王者ターちゃん】●ターちゃん /●ヂェーン /●アナベベ /●ペドロ・カズマイヤー /●エテ吉
3/4【とっても!ラッキーマン】○ラッキーマン(追手内洋一) /●勝利マン /○友情マン /○世直しマン
3/4【世紀末リーダー伝たけし!】○たけし /○ボンチュー /●ゴン蔵 /○マミー
62/130 (○生存/●死亡)
10少女の選択1/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:31:02 ID:l742VLml0
「クリリン君、待て! 行くなッ!」
 数瞬遅れて呼びかけた声は、『魔』と刻まれた小さな背中へと届くことなく、闇の中で掻き消えていく。
 離れていくその姿は、見る見るうちに夜の向こうへと溶けていく――。
「――クソッ!」
 厳かに聳え立つ名古屋城の下、津村斗貴子は己の短慮に向けて悪態をついた。
 予想外だった。クリリンの背負った悲壮な覚悟は、自分が思っていたよりもずっと、重い。己の怪我すら、意に介さない程。
 ――追わなければ。リサリサと呼ばれていたあの女性、疲労が溜まっていたとはいえ、
 斗貴子に気付かれることなく罠を張ることが出来るその立ち回りと油断の無さは、相当な実力者である事を意味している。
 今のクリリンでは、否、万全であっても苦戦を強いられる相手である事は間違いない。
 そして彼女は、一度襲い掛かってきた相手に容赦をする事など、決してしないだろう。
 彼女と闘えば、クリリンは、殺される。――それを放っておく道理など、何処にもなかった。
 ――ケンシロウ、済まない。入れ違いになるかもしれないが、必ず私は、彼を連れてここへと戻ってくる!
 クリリンの走り去った方角をしっかりと見据えて、斗貴子は粛々と続く石畳の道を駆け出した。
 その視線には、志を同じくした仲間の命を、絶対に手放すまいという決意も込もっていたのかもしれない。
 遥か頭上で、大天守上の金鯱が、月明かりに照らされて一層強い威光を放っていた。
 斗貴子を嘲笑うかのように。




 ――殺さなきゃ。ボールはみんなを救うためだけに使うんだ。ボールの存在を知った奴はみんな殺さなきゃ――。
 それは義務感にも似ていた。思えば最初から、自分はそれに急き立てられてここまで生きてきた気さえしている。
 どんな願いも叶えてくれる、魔法の玉、ドラゴンボール。一度失われた命でさえも、現世へと呼び戻すことが出来る奇跡の力。
 その存在を思い出す事が出来たのは、自分一人だけだった。
 自分の発想で、自分の手で、参加者全員の命を救うことが出来る。その事実に気が付いた時の感動は、今も強く胸に残っている。
 そうして自分は、何人もの参加者をこの手に掛けてきた。共に苦難の冒険を切り抜けた仲である、旧知の女性でさえも。
 ――もうあんなことやめて違うんだよ脱出する方法を探す違うんだってだからもうやめて黙れ拒否拒否拒否拒否拒否拒否拒否――
 ――分かってくれよ、ブルマさん。みんなを殺すことが、みんなを助けることになるんだ。――オレは、間違って、ない。
 クリリンは駆けた。一心不乱に駆けた。計画の邪魔となる存在を追いかけるために。
 ――残された自我を飲み込もうとする、何かから必死で逃げるために。
 ゲーム開始から、丸一日が経とうとしている。その期間に、無数の命を奪った心へと圧し掛かる、『罪の意識』という名の重荷。
 崩壊寸前のところで噛み合っていた歯車が、本人さえも気付くことなく、クリリンの中で外れかかっていた。
11少女の選択2/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:32:12 ID:l742VLml0
 鬱蒼とした木々の群れ、判然としない足元の様子が、順調な移動を妨げている。
「――わっ!」
 もう何度目になるだろうか、地面から突き出した根に足を取られ、躓き、前のめりにバランスを崩す身体。
「――大丈夫、つかさ?」
 横から差し出される優しい手によって、転ぶ寸前のところで支えられるのも、何度目になるだろうか。
「……ごめんなさい、リサリサさん」
「気にする事はないわ。――少し休みましょう、朝を待った方がいいかもしれないわね」
 そう言って、彼女は空を見上げた。薄暗がりの中で辛うじて見えるその表情から、何を思うのか窺い知ることは出来ない。
 月の光が届かない程、深く生い茂ったこの森は、まるで世界から忘れ去られたようで。
 西野つかさは肩に掛けていたデイパックを下ろして、それへともたれかかるように腰を下ろした。当たり前のように溜息が漏れる。
 立ち直ると心に決めたのはいいが、その時からずっとリサリサには迷惑を掛けっぱなしだ。
 ――『息子には…息子なら、決して甘くはしないけれど。フフ…』――
 穏やかな笑みと共に告げられたその言葉だったが、今ではむしろ、その言葉を盾に自分の方が彼女に甘えているような気さえしている。
 単なる女子高生であるつかさと、一流の戦士――というか、そういった類のものに属するリサリサの間には、
 相当な身体能力の開きがあることは重々承知しているが――不甲斐ない事には変わりがない。
「はぁ……」
 二度目の吐息は少し大きめになってしまって、それに気付いたらしいリサリサの視線がこちらへと向く。
 その瞳にはやはり、非難の色など微塵も混じっていない。――聖母様みたいだと、思った。
「疲れたのかしら?」
「あはは、少し……本当、ダメですね、あたし。ずっと、リサリサさんやマァムさんの足引っ張っちゃってて」
 思っていた事を正直を伝える。彼女を相手に強がってみたところで、全部見抜かれてしまう事が一緒にいるうちに分かってきていた。
 娘の事なら、何だってお見通し。そんなところまで、母親のようなのだ、この人は。
「気を落とす事はないわ。並大抵の神経では、とっくに参っているような状況――ここまで休まずに歩いて来れたことを、誇ってもいいわね」
「そうですか? あたしには、わかんないですけど……」
「そう。つかさ、あなたは強いのよ。私やマァムがいなくても充分に、ね」
「でも――やっぱり、リサリサさんにもマァムさんにも、傍にいてほしいな」
 我ながら本当に、言うことがころころ変わっているなと思った。一人でも大丈夫だと言えるようになりたいのか、頼っていたいのか、どっちだ。
 ――ほら、結局私はまだ、一人立ち出来ない『娘』のままなのだ。
 リサリサもその言葉には、やれやれと言った調子で笑みを浮かべる他になかったようである。
「フフッ――そうね。そんな事を言っているうちは、危なっかしくて一人にはさせられないわね」

 直後、彼女は鋭い目付きになって近くの茂みを睨み付けた。
12少女の選択3/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:33:50 ID:l742VLml0
「やれやれ、来訪者の多い夜だわ――戦うつもりなら容赦はしない。姿を見せることね」
 油断無く身構えるリサリサの姿を見て、慌ててつかさも立ち上がりポケットのワルサーを引き抜く。初めてまともに握ったそれは、重い。
 言うまでもないが、接近されていたことにはまるで気が付かなかった。こういうのも達人ならではの能力なのだろうか。
 草木を掻き分けて現れた長身の影に、ワルサーを持つ手が強張る。お互いがお互いを慎重に意識しあう中、相手が口を開いた。
「――悪いが、取り越し苦労だ。オレに敵意はない」
「あなたは――」
 多少の驚きを含んだ声をリサリサが放つのと同時に、つかさも気が付いた。
 強靭な筋肉で全身を覆った、精悍な顔立ちの男の胸には、北斗七星を思わせる七つの傷痕。この人は、斗貴子の言っていた――
「ケンシロウ、ね」
「――何故オレの名を?」
 警戒心を高めたように語気を強め、当然の疑問を述べるケンシロウとは対照的に、リサリサは静かに構えを解いて、種を明かした。
「先程、あなたのお仲間と鉢合わせしたのよ。津村斗貴子。知っているでしょう」
「斗貴子と……そうか」
 合点がいったというように向こうも緊張を緩めて、ぴんと張り詰めた空気が和らいだ。つかさもほっと息をついて、ワルサーを挿し直す。
「その子は?」
「……オレにも分からん。出会い頭に気を失われてしまったのでな」
 よく見ると、彼の大柄な背中には――たまねぎ、とでも言えばいいのだろうか。うん、たまねぎだ。たまねぎ頭の少年が背負われている。
 ケンシロウの顔と気絶している少年の顔を見比べて、相当怯えてたんだろうなぁと、現場の様子がありありと浮かんできた。失礼ながら。
13少女の選択4/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:35:28 ID:l742VLml0
「彼女なら、名古屋城であなたを待ってるわ。私達には別の『目的』があるの、もう行きなさい」
 既に戦う気はないようだけれど、突き放すような口調でリサリサが言う。斗貴子の仲間ということから、協力を持ち掛ける気はないらしい。
「ああ」
 ケンシロウもそれを察したのか、それだけ言うと踵を返して去っていく――かのように思えたが。
「……悪いが、一つだけ聞いておきたい」
 一度背を向けたところで足を止めて、再度こちらへと向き直り問いかけてきた。リサリサが怪訝そうな顔をする。
「まだ、何か?」
「斗貴子は冷静だったか?」
 どういう意味だろうと、頭の中で無数の疑問符が渦巻いた。斗貴子に冷静さを失うような何らかの要素があるというのだろうか。
「どういう意味かしら」
 リサリサが見事に、つかさの疑問とまったく同じ言葉を紡いだ。ケンシロウはちら、と虚空へと視線を向けてから、その問いに答える。
 今彼の瞳に映ったのは、このゲームの中で出会った、戦士と名乗る少女の姿だろうか。その姿は、彼にどのような印象で残っているのだろう。
「オレはこの殺し合いが始まってすぐに彼女と出会い、そして6時に名古屋城で待ち合わせる約束をして、別れた。
 それから今までの間に、彼女の仲間が二人、死んでいる。彼女は強い女性だが、まだ若い――心に傷を負ってはいないかと、心配になった。
 ……妙なことを聞いたな。済まない」
 照れたような様子一つなくそう言ってのけるケンシロウに対して、――優しい人だ。そう、つかさは感心していた。
 この人、顔は怖いけど、こんなゲームの間もちゃんと、仲間の気持ちをを考えてあげられるんだ。
 ――あれ? でも、斗貴子さんは、その死んだ仲間を――。
「あなた、ドラゴンボールのことは何も聞いていないの」
「ドラゴンボール? 何だそれは――」
 訝しむような表情になって問い詰めるケンシロウの背後から――

 眩しい光の凶弾が、リサリサ目掛けて飛んできた。
14少女の選択5/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:37:42 ID:l742VLml0
「……ッ!」
 眼前へと迫ってきていた弾丸を、寸での所で上体を逸らし回避する。その反動でバック転をする事によって、体勢を立て直した。
 無数の枝がへし折れて、落下する音が背後から聞こえる。今の攻撃によるものであるのは間違いない、避け損なえば間違いなく死んでいた。
 夜であることが幸いした。日中であの奇襲を喰らっていれば、太陽光が保護色となって飛んでくる弾に気付けなかったかもしれない。
 だが、今はそんな仮定に思考を費やしている余裕などない。この場で考えなければならないのは、
 未知の攻撃方法を持つ襲撃者が目の前に潜んでいるという事実、その一点のみ。
 ケンシロウがつかさへと駆け寄り、任せたと言って背負っていた少年を下ろす。そして茂みへと向き直り、リサリサと並ぶようにして立った。
「つかさ、その子を連れて下がりなさい。――ケンシロウ、今の技に覚えは?」
「いや。初めて目にする」
「そう。なら質問を変えるわ。何故――襲撃者は、『背を向けていたあなたを狙わなかった』のかしら?」
「む……」
「――そりゃあ、ケンシロウさんはオレたちの味方だからさ、お姉さん」
 返答は、茂みの中から聞こえてきた。
 現れたのは、闇に紛れる紫色の胴着に身を包んだ、小柄で禿頭の、額に6つの小さな円を描いた青年。
「探したよ、ケンシロウさん。斗貴子さんは6時に待ち合わせって言ってたのにさぁ、いくら待っても来ないんだもんなぁ? 参っちゃったよ」
 そう言って頭を掻く青年の顔は、本当に"困った"時の表情をしていた。人一人を撃ち殺そうとした直後の顔が、これだ。
 この青年は、危険だ。リサリサは直感でそう判断した。
「オレはお前など知らん。何者だ」
「ん? ああそっか、そっちはオレのこと知らないんだっけ。斗貴子さんの仲間さ、クリリンっていうんだ。よろしくな、ケンシロウさ――」
「何故彼女を攻撃した?」
 暢気な調子で自己紹介を始めた青年――クリリンの言葉を、ケンシロウが遮った。
 リサリサは思考を巡らせる。やはり――同じ斗貴子の仲間であるにも関わらず、ケンシロウとクリリンはお互いの素性を知らない。
 ケンシロウは斗貴子とゲーム序盤で出会ったと言っていたが、その時はまだ、斗貴子はドラゴンボールの存在を知らなかったのだ。
 だから斗貴子はケンシロウに対し、仲間の身を案じるような言動を切り出したし、ドラゴンボールの話をする事もなかった。
 斗貴子がドラゴンボールの存在を知ったのは、ケンシロウと別れたその後のことなのだろう。さしずめ、
 ケンシロウの思案通りに仲間の死によってショックを受けていた斗貴子を、死んだ人間を蘇らせることが出来るという、
 ドラゴンボールの話を吹き込んで利用しようとした第三者がいる、というところか。
 そしておそらくは、今目の前にいる襲撃者、クリリンこそが――
「決まってるじゃないか。ドラゴンボールは死んだみんなを生き返らせるために使うんだ、それ以外の目的で狙うやつがいちゃいけない……」
 後に連れて独り言のように小さくなっていく声とともに、彼の翳した右手には眩いばかりの輝きが溢れ、刃のようなものが形作られて――
「こんなゲーム、全部なかったことにしてやるんだ……! 他の目的に使わせるわけには、いかないんだぁぁぁぁあああああああ――ッ!!」
 絶叫とともに、再度――否、光の弾は形を変え、万物を切り刻む斬撃となって、リサリサへと襲い掛かった。
15少女の選択6/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:41:43 ID:l742VLml0
馬鹿の一つ覚え――ではなかった。飛んでくる気の斬撃と並走するようにクリリンが突っ込んできている。
 おそらくは時間差攻撃、斬撃が先かクリリンが先か――その形状から察するに斬撃は命中すれば致命傷、
 波紋防御で防ぎきれるかどうかは読めない。斬撃を凌いで、カウンターの波紋でクリリンを迎え撃つのがBESTか。
 死神の鎌の如く鋭利なその一撃を、リサリサは右側へと僅かに身体を傾けて躱した。そうして、続けて向かってくるクリリンの攻撃を――
「――ッ!」
 迎撃の態勢を取るよりも早く、クリリンは既にリサリサの懐へと潜り込んできていた。腕への波紋の伝達が間に合っていない。
 甘く見ていた。気を飛ばす『能力』だけに意識が向いていたが、この青年、体術だけでもかなりの実力を――!
「死ねぇぇ――ッ!!」
 あらん限りの咆哮とともに突き出された抜き手が、無防備なリサリサの心臓を――
「むん!」
 ――貫く寸前、その指先は、堅牢無比の闘気に包まれた男の掌によって防がれた。
 鬼気迫る形相で肉薄していたクリリンの表情が、驚愕へと変わる。その隙を見逃さず、リサリサは攻めへと転じた。力強く、踏み込む。
 ――コオオオオオオオオオオオオオ……!
 深く吐き出した呼吸の音が、密林を揺らすかのように闇夜の中で響き渡る。己が内に流れる血液は緩やかな波となって、力となる。
 それは肉体に宿りし奇跡。血液の流れから生み出される無限のエネルギーを引き出す神秘の呼吸法。月夜に迸る太陽の波紋――
サンライトイエロー・オーバードライブ
「 山 吹 色 の 波 紋 疾 走 ッ !!」
 強烈な熱の籠った一撃が、がら空きになっていたクリリンの下顎へと突き刺さった。
 骨を砕くには至らなかったが、確かな手応えを感じた。青年の顔が苦痛に歪み、幾つかの歯と血反吐を撒き散らす。
「がああ……っ!」
 掠れた呻き声を上げて、小柄な身体はそのまま無抵抗に吹っ飛び、元いた茂みへと半ば突っ込むようにして、止まった。




「う……」
 口の中で、折れた歯が一本か二本ほど転がっている。血が止まらない。打たれた顎のダメージはそこまで酷くないらしいが――
 思考回路が上手く働かない。何かを考えようとするだけで、何度も脳味噌を揺さぶられた痛みが頭の中を駆け巡る。
 ――ちくしょう。
 こいつは、強い。今のオレじゃ、勝てないかもしれない。
 オレはみんなを、助けなきゃいけないのに。ドラゴンボール。ピッコロを、優勝させる。そのために、危ないやつは、少しでもオレが――
 ――殺さなきゃ、いけないのに。
16少女の選択7/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:43:48 ID:l742VLml0
「――『借り』が一つ出来たわね」
 自分のすぐ横に立っているケンシロウの、クリリンの一撃を容易く受け止めてみせた右手へと視線を向けて、言った。
「気にするな、痛みはない。――それよりも、まだ終わってはいないようだ」
「そのようね――」
 険しい表情を崩さないケンシロウの視線を追いかけた先に、血走った目の青年が地に手をついて立ち上がる姿があった。
 大した『執念』だ――そう思った。人間に対する波紋の効果が、吸血鬼へのそれに比べて遥かに劣ることは当然ながらよく知っている。
 それにしても、相当量の波紋を籠めた一撃だった筈だ。脳震盪でも起こしていてもおかしくはないのだが――
「な……んでだ、よ。ケ、ケンシロウさん、そいつを……」
 途切れ途切れの言葉を、搾り出すように吐き出している。瞳の焦点が合っていない。どうやら、波紋の影響は少なからずある様だった。
 ――だが、不死の悪魔達を例外なく天へと還す太陽の輝きも、青年の奥底に蠢いている闇を晴らすまでには、至らなかったらしい。
「そう、か。説明不足、だったんだよな? すげえんだよ、ドラゴンボールは。そいつがあれば、どんな願いも、叶うんだぜ。
 ここで死んだ、みんなだって、生き返らせる、ことが、出来るんだよ。はは、フリーザのやつ、バカだよな。ざまあみ、ろってんだ、はは、は――」
 紅に染まった口元を不気味に歪め、クリリンはふらつく足取りでこちらへと近付いてくる。背後で、つかさが息を呑むのが分かった。
 ――口の端から滴り落ちる血を拭おうともしないその姿が、自らの倒すべき敵である吸血鬼達と重なって、見えた。
 この青年と吸血鬼は、似たようなものなのかもしれない。己の吸血衝動が赴くままに人の生き血を啜る奴らと、
 己の目的を達成するために見境なく人の命を奪うこの青年。しかも彼の質の悪いところは、それを正しいと心の底から思い込んでいること。
 強固な『意志』を持っているからこそ、彼は立ち上がることが出来るのだろう。自らの掲げる主義主張に、欠片の疑いも持っていないから。
 ――『哀れ』だわ。






 うわー、随分おっかない目するなぁこの人。ケンシロウさんはこっち来ないし、一体何がどうなってんだ?
 ……ん、ははーん? ああそっか、そういうことかぁ! ケンシロウさんがオレのこと信じてくれない理由、分かっちゃったよ。
 そっか、こんな簡単なことだったんだ。なんで気付かなかったんだろうなぁー、オレってホント頭悪ぃなあー、っへへ。
 この人が、ドラゴンボールを独り占めしようとしてケンシロウさんにテキトーなことを吹き込んだんだな。そうだよ、そうに決まってる!
 オレの言ったとおりだろ、斗貴子さん。ボールのことはなるべく秘密にしなきゃいけないんだよ。次からはマジで気をつけてくれよ?
 え? あぁ、今回のことは別にいいって! バレちゃったもんは仕方ないよ、どうせ――

 オレが殺すんだからさぁ。
17少女の選択8/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:45:55 ID:l742VLml0
「……ケンシロウ、斗貴子との合流は諦めなさい」
 幽鬼の如くにじり寄ってくるクリリンから、視線を外さないまま、言った。
「――何?」
「あの青年は殺し合いに乗っている、そして彼は斗貴子の『仲間』――どういう意味か理解できるでしょう? 彼女も『警戒』する必要がある」
 規則的な呼吸を繰り返し、蓄積されていく波紋エネルギーを両の掌へと集中させる。
 打撃では致命傷にならないと、先刻の一撃で悟った。クリリンの肉体は、見た目からは想像が出来ないほど丹念に鍛え上げられている。
 だから、攻撃方法を切り替える事にした。――人間に流す波紋というのは、高圧電流と似たようなものである。
 両手に溜めた渾身の波紋を胸部へと叩き込めば、彼の身体は心臓麻痺を起こして、物言わぬ亡骸と化す――筈だ。
「斗貴子も殺し合いに乗っているというのか? 待て、奴が斗貴子の仲間だという証拠など――」
 ケンシロウの声に、若干の戸惑いが混ざっている。その間にもクリリンはまた一歩、リサリサ達との距離を縮める。
「斗貴子は、私達にドラゴンボールの話をしてくれたわ。7つの玉を集めればどんな願いも叶えることが出来る、そんな素敵な『御伽噺』を。
 そんな馬鹿げた話をする人間が、この会場で他に何人いるというのかしら」
 距離が縮まる。波紋を溜める。
「先刻の問いに答えていなかったわね。斗貴子が『冷静』だったか、答えは『NO』――。失くした命が二度と戻らないのは当然の話でしょう?
 彼女にはもう、その程度の判断もつかなくなっているのよ。だから『夢物語』にも縋り付く――」
 距離が縮まる。波紋を――
 ――溜め切った。今現在でリサリサが放てる、最大級の波紋の一撃を。
 何か察するものがあったのか、クリリンが足を止めて腰溜めに構える。またしても、例の『気』の攻撃を放つつもりだろうか。
 そう何度も、同じ技に翻弄されるつもりはない。クリリンは見る限り既に満身創痍――次の一撃で、全てが決まる。
「――その『夢』を断ち切るということは、『彼女』を断ち切るということと同意義ッ! 私はここでッ! 津村斗貴子の『希望』を断つッ!!」
 予想出来る気弾の射線上から身体を外して、リサリサはクリリンへと向かって一直線に駆けた。彼の鮮血で汚れた口元が吊り上がって――



「――止めろぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ――響き渡った怒声によって、クリリンの掌で急激に膨れ上がった光が、ライトが明滅する時のようにすぐさま掻き消えた。

 僅か一瞬ではあったが、その場一帯をはっきりと照らし出したその明かりの奥から、彼女は現れた。

 ――津村、斗貴子。
18少女の選択9/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:47:50 ID:l742VLml0
荒い呼吸を整える事に意識の半分を回しつつ、状況を確認することに努めた。戦場と化していた森には、今のところ静寂が訪れている。
 虚ろな眼差しを向けているクリリンの顎は、夥しい量の血によって肌色の部分が見当たらない。
 既に、一戦を交えてしまっていたか――胸中で失意の念が広がりかけたが、彼は、まだ生きている。後は説得が上手くいくかどうかだ。
 その後方、先刻遭遇した時とはまるで印象が違う――凄まじい威圧感を持ってこちらへと対峙しているリサリサには、目立った外傷はない。
 ただ、心を射抜かれるような鋭さを持ったその視線と、目を合わせることが出来ない。
 ――養豚場の豚でも見るかのように、冷たい目だ。 『可哀想だけど明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね』とでも言うような。
 苦し紛れに逸らしたその視線の先に、救いがあった。胸に七つの傷を持つ男。この殺人ゲームの中で最初に出会った、頼れる仲間。
「ケンシロウ! 無事だったのか、よかっ――」
「感動の再会が出来る状況ではないことくらい、分かっている筈よ」
 踏み出しかけた足が、冷淡な声によって静止する。ケンシロウが何かを言い淀んだのが分かったが、どうする事も出来なかった。
 大柄な背中の向こう側には、困惑しきった様子の少女――西野つかさと、その足元で仰向けになっている、たまねぎ頭の少年の姿がある。
 暗闇の中ではっきりとした判別は付かないが、こちらも外傷が見受けられないので、単に気を失っているだけのように見えた。
 この場にいる人間は、それで全員。――死人こそ出てはいなかったけれど、一触即発の状態は、まだ、続いている。
 やはり、来るのが遅過ぎたのだろうか。リサリサから発せられている敵意は、もはや『警戒心』などという言葉で言い表せるそれではない。
 何とかして、話し合いの成り立つような態度へと移行させなければ――



「斗貴子、さん」



 その声を意識が捉えたとき、得体の知れない何かが背筋を這い上がってくるような感覚に陥ったのは、多分気のせいではなかった。
 各々が、様々な態度で声の主である青年へと向き直る。
 リサリサは氷のような視線を絶やさず、ケンシロウの表情は硬い。つかさは、顔を引き攣らせて後ずさっている。
 名前を呼ばれた張本人である、斗貴子は――動けなかった。斗貴子だけを真っ直ぐに見据える、濁り切った双眸から、逃れられなかった。
「言っただ、ろ? ドラゴンボールのことを、知った奴は、殺すしかないって、さ」
 青年が右手の指先を血塗れの顎へと押し付けて、離す。指先はあたかも、絵の具を付けた筆のように真紅へと染まった。
「ほら、オレの、手、見てよ。こんなに、赤くなってるじゃんか。ほら」
「――キミは、何を、言ってる」
 身体中に戦慄が走るのを、止める事が出来ない。名古屋城の一件から今まで、然程時間も経っていないというのに、この変わり様は一体何だ。
 今のクリリンの言動は、まるで――狂人のそれではないか。
19少女の選択10/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:49:57 ID:l742VLml0
「でも、別に、構わないよ、な? みんな、死ねば、助かるんだから、さ。いくら、手が汚れたって、みんなのために、やってるんだから、さ」
 血潮に濡れる指先は、それぞれが異なる方向を向いて捩れてしまっている。ケンシロウの強健な手掌によって、弾かれた結果。
 おかしいな。こんなにあっさり折れちゃうのかよ? あの時は、めちゃくちゃ上手くいったのにさぁ。
 ――ブルマさんは、ずっと簡単に、殺せたのに。
「……もう、いい」
 そう言った斗貴子は、何かを耐え忍ぶかのように、遣り切れなさそうな表情を浮かべている。
 ――何を耐えている?
 このゲームにおいて、苦しむことなど何もないのに。どうせ全てがやり直せるのだから、心を痛める必要も、艱苦を味わう必要もないというのに。
 自分達は、正しい。命を救うために命を奪うことは、正しいのだ。正しいことをしているのだから、非難を浴びる謂れなど何処にもない――

 ――『足掻いて、足掻いて、最後まで足掻いて。絶対に、脱出する方法を探す。だから、もう――やめて』――

 その通りだよ、ブルマさん。オレは今まで、ずっと足掻いてきた。みんなのために、必死で足掻いて、考え抜いた結果がこれだったんだ。
 オレは間違ってない。みんな助かるんだから、いくら殺したっていいじゃないか。ピッコロが最後の一人になったら、オレだって潔く死んでやる。
 最後の一人になったピッコロが、みんな生き返らせてくれる。そうしたらみんな、オレのやってきたことは正しかったって、気付いてくれるんだ。
「みんな、助けてやったら、さ。みんなも、ブルマさんも、オレのこと、許してくれるよ、な。そうだろ? オレが、助けるんだよ」
「……もう……いいんだ、クリリン君……!」
「オレがやるんだ。オレがやる。オレが、オレが、オレがオレがオレがオレがオレがオレがオレが――オレがぁぁぁぁぁぁあああぁぁああっ!!」



 静寂の森に、嵐が吹き荒れる。それは、この殺戮劇の中で、誰よりも救いを与えようとした男の、悲痛な叫び声。

 ――誰よりも、救いを求めていた、男の。

 そして三度、彼の掌からは、命を刈り取る光の球が放たれた。

 たった一つの使命感によって、その身体は突き動かされていた。



 ――殺さな、きゃ。
20少女の選択11/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:54:05 ID:l742VLml0
振り向き様に放たれた殺意の閃光は、一発目の攻撃を銃弾とするならこちらはバズーカ砲か、そう思える程に巨大な光の束で、
 クリリンがこちらに背を向けていたことと、想像を、文字通り――大きく上回る質量を持った砲撃だったことが、リサリサの回避を遅らせた。
 ――それが、『かめはめ波』と呼ばれる亀仙流秘伝の気功術であることなどリサリサには知る由もなかったが、
 消耗しきったクリリンに残された、全身全霊の気の一撃は、横っ飛びに逃れようとしたリサリサの両足を飲み込んで――
 ――吹き飛ばした。
「……ッ!」
 途方もない高熱と激痛が、残された上半身へと広がっていく。受身も取れずに砂石が転がる地面の上へと打ちつけられて、呼吸が、乱れる。
 用意周到に腕へと練り集めた波紋は、たったそれだけの事で、消失した。
「……なんて……こと……」
 呟いた声は、自分の耳にすら届かない程か細い。意識とは無関係に、身体が断続的な痙攣を起こす。
 焦げ付いた胴体の断面からは、乾き切った大地へと数多の"赤"が注がれている。
 考えるまでもなく、完全な、致命傷だった。
「リサリサさん! やだっ、そんな――!」
「……つかさっ……!」
 気丈な意思を振り絞って、駆け寄ってくる気配を、制する。彼女が来たところでどうしようもない、攻撃が続けば彼女も巻き添えを――



「……武装、錬金」






 ――結果として、追撃が来る事はなかった。
 見上げた視線のその先に、理由は広がっていた。
 緩慢な動作で視線を下ろした青年は、己が肉体の中心点で起こっている止め処ない血液の噴流を眺めて、その場に立ち尽くしていた。
 青年の胸には、四本もの尖鋭な刃物が突き立てられていて――違う。背中から、その肉体は、貫かれている。
 それぞれの切っ先を辿れば、金属の可動肢はいずれも一人の少女のたおやかな太腿に取り付けられているということが理解出来る。
 青年の背後で、津村斗貴子は静かに佇んでいた。その瞳に、何の感情も宿さないまま。
 刃に血漿を付着させた、繊細な銀の処刑鎌が雲散霧消した途端、青年の身体は支えを失ったように膝からくず折れた。
21少女の選択12/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:56:33 ID:l742VLml0
胸が熱い。それでいて、途轍もなく、痛い。四つも穴が開いているのだから、当然のことか。
「……皮肉なものだ。この言葉を最初に告げる相手が、キミになるとはな」
 何処かから声が聞こえる。とても遠くからのような気もするし、とても近くからのような気もする。分からない。ただ、声が聞こえる。確かな声が。
「キミのことは、必ず生き返らせてやる」
 それは自分が、何度も繰り返してきた台詞。時に言葉で、時に胸中で。
 チャイナ服の少女へ、『ブラボー』を口癖にしていた男へ、サングラスを掛けたスキンヘッドの男へ、そして――
「……そうだ……よ」
 地に手を突いた両腕に、まるで力が入らない。芋虫のように這い蹲った姿のままじたばたともがいて、横倒しになった身体が仰向けになる。
 暗闇の中で、命の鼓動が弱まっていく。空へと真っ直ぐ向き合ってみても、そこには何の輝きもない。月明かりは、自分を照らしては、くれない。
 そうだ。自分はずっと、それだけを目的として戦ってきたのだ。悪戯に命を奪ってきたのではない。この手は、血に染まりきったこの手は。
 何もかもを、救うために。全て終わらせたその時に、救いがあると、信じて。
「オレが……死んだら、みんなは、一体、何のために……」
 ――オレは殺すためだけに殺したんじゃない。オレがみんなを助けるんだよ。助けなきゃいけないから、だから、そう、オレは、ずっと、殺して。
 誰も助けられないまま、死ぬなんて、イヤだ。それじゃ、オレは――ブルマさんにも、誰にも許されないままで――
「オ、オレ、を……オレを、みんな、許して……」
「――クリリン君」
 血の海の中心で横たわる自分のすぐ横に、斗貴子がしゃがみ込んでいる。
 自分と鏡合わせの存在。己にあらゆる罪の枷を嵌め、辛酸を嘗めて生き抜いてきた錬金の戦士。
 この殺し合いの舞台で唯一、自分の気持ちを理解してくれるだろう――そう思うことが出来た、少女。
「キミは一人でよくやった。本当に、よくやったんだ。誰よりも重い志を、誰よりも重い罪を背負い込んで、ずっと、一人で、ここまで――」
 斗貴子の華奢な指先が、クリリンの顎に触れている。クリリンの血で――罪深き血で汚れた顔を、拭ってくれている。
 その指先はまるで、クリリンの身に覆い被さった罪の重圧をも洗い流すかのような、優しさを持っていて――
 ――ああ、そうか。オレは自分で、本当のことが分かっちゃいなかった。
 オレが斗貴子さんに全てを打ち明けたのは、人を殺したことの辛さを分け合うためなんかじゃない。
 ただ、オレが抱えてた重みも、悩みも、苦しみも全部――『この人』に、許して欲しかったんだ。
 この人は、オレと、同じだったから。オレが間違ってなかったことを、他の誰でもない、オレ自身に、証明して欲しかったからだ。
「――今度は、私が背負おう。君の分の決意も、覚悟も、その全てを……私が、引き受ける」
 ――違うよ。そうじゃない。オレが望むことはそうじゃない。許してくれた、もういいんだって、そう言ってくれた斗貴子さんに、オレが望むのは――
「――だから、もう、休んでいいんだ。クリリン君――」
 伝えたかった。このまま自分が終わってしまうその前に、ようやく気付くことが出来た本心を。
 それなのに、薄弱な意志が最期になって、どこまでも穏やかな彼女の言葉に引き摺られてしまって――
 そして、そのまま、世界は途切れた。
22少女の選択13/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 00:59:11 ID:l742VLml0
魂の抜け落ちたクリリンの遺体から指を離して、斗貴子は立ち上がった。事の成り行きを見つめていた、精悍な顔立ちの男と向き合う。
「――これが私の選択だ、ケンシロウ」
 そう告げる自分の口調が、思いのほか淡々としていることに斗貴子は気付いていた。
 引き返せない道というものも、一度踏み出してしまえば、案外楽に渡れるものなのだろうか。そんな事を思った。
「私はこれから名古屋城に戻り、先に出会った仲間を待つ。放送までに現れなかった場合は、彼らの仲間がいるという兵庫へと向かう」
「――何故、そんな話をオレにする?」
 その問いかけが、今の自分とケンシロウの関係を示す、決定的なものだった。斗貴子とケンシロウの歩んでいく道は、分かたれたのだ。
「警告だ。ゲームに乗ると決めた以上、誰に対しても容赦はしない――だが、キミとは戦いたくないという気持ちがあるのも、また事実だ。
 私の行き先を知った上で、尚も私を止めると言うのならば――私はその、最後の情をも捨てる」
「君では、オレに勝つことは出来ん」
「どうかな。私自身、今更になって気付いたことだが――このゲームは、真に強い者が最後まで生き残るというワケでもなさそうだ」
 その言葉には、ある程度の自嘲も含まれていたのかもしれない。力無き自分を例にした、虚しいだけの、悟り。
 ――そして、真に生き残るべき者が生き残るということもないのだろう。戦士長に続いて、カズキまでもが命を落とした今になっても、
 私はおめおめと生き延びて、この手を罪で汚そうとしている。
 けれど、全ては、必要な罪だから。
 だから君も、苦しみに耐えて、一人で背負い続けてきたのだろう――
「もう一度言う。これが、私の選択だ」
「斗貴――」
「……来るな、ケンシロウ。――さよなら」
 道を違えた屈強の青年へと突きつけたのは、苦し紛れの願いを添えた懇願と、はっきりとした、決別の言葉。
 踵を返し、草叢の奥へと駆け出した自分を、追いかける足音は、聞こえてこなかった。



 ――これが、永遠の別れと願う。

 それは奇しくも、かつてケンシロウが抱いた思いと、真逆を向いたものだった。
23少女の選択14/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 01:01:10 ID:l742VLml0
そうして、争いの終結した森に残されたのは、七つの傷を胸に刻んだ拳士、傷心の少女、気絶したままの不幸な少年、そして――

 これから死ぬ、誇り高き一族の血統を宿した女性。




「……彼女は、もう、行ったのかしら……」
 まだ意味を成す言葉が吐けることに、自分自身で感服していた。最早波紋の呼吸どころか、荒くなる気息を整えることすら出来ないというのに。
 唯でさえ真っ暗闇に包まれた視界はぼやけてしまって何が何だか分からない有様で、すぐ近くから聞こえる声も、だんだん、遠く――
「……さん、リサリサさんっ! 起きてよ、やだ、死なないで――!」
 ――遠くなっていく、けれど。
 まだ、届いている。
「……つか、さ……」
 ほんの少しだけ、生に取り縋ることが出来た身体で、その名前を呼ぶ。
 たった一日という、僅かな時間。半世紀を生き抜いてきた自分にとっては、本当に僅かなその時間の中で出会った、守るべき対象。
 母親としては、甚だ未熟だった自分に与えられた、とても大切な娘の名前を。
「そんな、ザマで、は……駄目だと、言った筈、よ……」
 出来ることなら、手を伸ばしてやりたかった。あの時と同じように抱き寄せながら、この言葉をかけてやりたかった。
 けれど、それも叶わない。伸ばすべき手には何の力も籠らず、抱き寄せるべきつかさの身体は、もう、リサリサの目には、何処にも――
「……あなた、は……強いのよ、つかさ……」
「強くなんか、ないよ……!」
 否定の言葉はとても弱々しい涙声で、もう見えなくなってしまったつかさが、嫌々をするように首を振っているような気がした。
「あたし……っ、傍にいてほしいって、言ったのに! リサリサさんだって、まだ一人にさせられないって、そう言ったよ! 覚えてないの!?」
「……つかさ……」
「淳平くんも、リサリサさんも、みんなあたしを置いてっちゃう……! 行かないでよ、あたし、弱いよ、無理だよ……イヤだよっ……!」
 冷え切っていく、力無き手が握り締められる。泣きじゃくる声と蹲る心が、終わりへと近付いていくリサリサを縛り付けて離そうとしない。
 自分は死ぬ。間もないうちに事切れる、この世から完全に断ち切られる存在。
 ならば、自分に掴まったままのつかさは、共に堕ちていくことになるのだろうか。
 自分は、それを、許せるのか。
 ――結局私には、こうする事しか出来ないということかしら。
 呆れ顔の"息子"が、何処かで自分を見ているように思えた。
24少女の選択15/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 01:04:22 ID:l742VLml0
「……自分の、弱さを、言い訳にして……私に、甘えるという、の、つかさ……」
「……え……?」
 沈黙が支配していた森に、その時、風が吹いた。木々が揺れ、枯れ枝が軋む。そのざわめきは、何故だか、怒っているようで。
 何となく気圧されたように涙を拭ったその直後、びくりと身体を震わせることとなった。
 血溜まりに眠るリサリサの、力強い意志が籠められた視線が、真正面からつかさを見据えていた。
 何度呼びかけても、どれだけ待ち望んでも向いてくれなかった瞳が、思いがけない言葉と共に――厳しさを、持って。
「私は……死ぬの、よ。歩けも、しない。力も、ない」
「……そんな、の」
 語りかけてくる一つ一つの言葉は、何もかもが紛れもない『現実』のことで、胸が締め付けられるように、痛い。
 ――そんなの、分かってる。
 本当は全部分かってる。リサリサさんがいなくなっちゃうことも、あたしが駄々を捏ねてるだけで、もうどうしようも、ないことも。
 でも。だって、リサリサさんは。いつだって強くて、カッコよくて。あたしを、守ってくれて。……あたしは、守られて、ばっかりで。
 もうダメだって、そう思ったときに立ち直れたのも、リサリサさんがいてくれたからなんだよ。
 抱きしめてくれて、暖かくって。優しくって、それが、本当に、――お母さん、みたいで――
「今の、私、は……『弱い』わ。……そんな私に、助けを、求めて、生き延びる……それが、あなたの、『選択』だと、いうの?」
「……!」
 息も絶え絶えに、自らのことを『弱い』と言ってのける、『強さ』。それも、憧れだった。
 それは、ほんの少し前に自分で考えた問いかけ。一人でも大丈夫だと言えるようになりたいのか、頼っていたいのか、どっちだ。
 その答えを、出す時が来ていた。『選択』の時が。あの津村斗貴子と同じように、これから進むべき自らの道筋を、選ぶ。
「……あたし、は」
 即答することが出来ないのは、気持ちが足りなかったから。道は選べても、その先へ踏み出そうという気持ちが、足りなかったから。
 そう。道なんて最初から一つしかない。ずっと前から、彼女の優しさに触れたその時から今まで、その道を進むことを自分は望み続けていた。
 今の自分に欠けているものは、初めの一歩。不安に怯える心が求めているのは、背中を押してくれる、一押し。
 ……リサリサさん、――ごめん。本当に、これが最後だから。後一回だけ、甘えさせて。
 最後に、あたしに、自信をください。立ち上がれる。前に進める。ダメになりそうでも、頑張れる。そんな、力を、どうか――
「あたしは、強く、なれるかなぁ……?」
「……言った筈、よ」
 握り締めた手に熱はなく、流れ出す血すらもう、止まっていて。もう、傍らに、それは迫ってきていたけれど。

「あなたは、強いのよ。つかさ――」

 彼女はそう言って、微笑んで、くれた――
25少女の選択16/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 01:07:03 ID:l742VLml0
「やっぱり、斗貴子さんを追いかけるんですか?」
「……いや。彼女は確かに放っておけないが、それは君も同じことだ。この世界には危険が多過ぎる」
「あたしのことなら、大丈夫です。武器もあるし、やらなくちゃいけないことも、あるから」
「ならば、オレがその力になろう」
「ケンシロウさん……でも」
「酷なことを言うようだが――戦える術を持っていることが、必ずしも勝利に繋がるという訳ではない。
 真に強い者が生き残るとも言えない。斗貴子はそう言っていたが――力無き者が淘汰されているのも、事実だ。
 オレには、その事実を見過ごすことなど出来ん。それ故にオレは、君に力を貸す。それでも、駄目か?」
「……分かりました。でも、一つ約束して下さい」
「何だ?」
「あたしのしたいことが全部終わって、斗貴子さんを追いかけようってことになった時は――あたしも、連れていって。
 あなたが、あたしに力を貸してくれるなら――あたしも、あなたの力になりたいんです」
「……ああ。約束しよう――」

「――ところでこの人、いつになったら起きると思います?」
「……」


「……俺って……出た意味ねぇー……むにゃ」







 一人の女性が死んだ。
 その身は別たれ、血に埋もれて、酷く傷付いていたが――美しく、安らかな死に顔をしていた。
 彼女は一人の少女を救い、歩き出すための力を与えた。
 怨念に呑まれし少女の呪いも振り解く、真に『強く』なるための力を。

 ――さようなら、リサリサさん。
26少女の選択17/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 01:09:35 ID:l742VLml0
【愛知県/密林/真夜中】
【西野つかさ@いちご100%】
[状態]:移動による疲労
[装備]:ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[道具]:荷物一式×2
[思考]1:洋一が目覚めるのを待つ
    2:マァムと合流
    3:綾と話し合う
    4:↑が終わり次第、ケンシロウに協力する

※リサリサの荷物を回収しました。

【ケンシロウ@北斗の拳】
 [状態]:健康
 [装備]:マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾
 [道具]:荷物一式×4(4食分を消費)、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢
 [思考]:1:洋一が目覚めるのを待つ
      2:つかさに協力する
      3:↑が終わり次第、つかさと共に斗貴子を追いかける
      4:ダイという少年の情報を得る

※クリリンの荷物を回収しました。

【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
 [状態]:気絶、右腕骨折、左ふくらはぎ火傷と銃創、背中打撲、疲労
 [道具]:荷物一式×2(食料少し消費)、護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障) @DEATH NOTE、双眼鏡
 [思考]:1:気絶中
      2:ケンシロウに恐怖
      3:死にたくない
27少女の選択18/18 ◇7euNFXayzo(転載):2006/05/22(月) 01:11:43 ID:l742VLml0
【愛知県/真夜中】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:軽度の疲労。左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました) 核鉄により常時ヒーリング
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし!、首さすまた@地獄先生ぬ〜べ〜
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険、ショットガン、真空の斧@ダイの大冒険、子供用の下着
[思考]1:0時まで名古屋城で待機、ヤムチャ達の帰りを待つ。その後、兵庫で両津たちと合流。
    2:参加者を減らし、ピッコロを優勝させる。
    3:友情マン、吸血鬼を警戒。



【クリリン@ドラゴンボール 死亡確認】
【リサリサ(エリザベス=ジョースター)@ジョジョの奇妙な冒険 死亡確認】
【残り62人】

※クリリンとリサリサの遺体は埋葬されました。
28掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:21:45 ID:2XglNvIV0
日が落ち、薄暗くなった茨城県の診療所の中で二人の男の言い争いの声が響く。
一方の男がもう一人の男を糾弾しているのだが、その言葉に表れているのは怒りではなく、心配。
「お前は相変わらず無茶ばっかしやがって!腕が千切れたのもこれで二度目だろうが!」
「あーもう、うるせえってスヴェン。いーじゃねえか済んじまったことなんだしさー」

相棒の無茶に呆れつつ、その行為を批判しているのはスヴェン・ボルフィード。
その言葉を野良猫のようにいなし、飄々としているのはトレイン・ハートネット。
殺し合いの舞台で奇跡的に相棒に出会えたことにお互い喜び合った後、トレインの片腕がないことに対するスヴェンお得意の説教が始まったのだ。

聞けば、腕は先程出会った筋肉ダルマとの戦闘で失ったもので、回避しようがなかったらしいが――
それにしても片腕を失って平然としているのはおかしい。もっと痛がるとか苦しむとかあるだろうが。
「なんでそんなお気楽なんだ!?お前は両利きだが、片腕じゃまともに戦えねえじゃねえか!」
「そこが問題なんだよなー。どーしたモンかな、今回はドクターもいないしなー」

いくらクロノナンバーズで一番の銃の名手とはいえ、片腕だけで戦いを続ける程このゲームは甘くない。それは十分思い知った。
元の世界で腕を失ったときは、ドクターと言う道使いがすぐにくっつけてくれたが、今はそんな便利キャラはいない。
そんな状況だというのに未だ緊張感が足りないトレインに、スヴェンは説教を続けることを諦める。

御気楽者を諌めることよりも大切だと思ったのか、スヴェンは当面の問題を考え出した。
「武器がウルスラグナしかないのが問題だな、アタッシュウエポンケースは壊れちまったし・・・」

そう、今自分達が持っていて、尚且つ使える武器はウルスラグナだけだ。自分の愛用していたアタッシュウエポンケースは先程の戦闘で壊れてしまった。
そのウルスラグナにしても、バズーカという気軽に使いにくい武器の上、残弾数一発。
ハンマーとしても使えるが、うまく使いこなすには相当の膂力が必要となる。
杏子の持っている短刀も一応武器にカテゴライズされるが、敵と渡り合うことは出来ないだろう。
つまり、かなりの危機的状況。二人のレディーを護るには、戦力不足も甚だしい。

頭を抱えて思案する根っからの苦労人を、御気楽猫は笑顔で慰める。
「そうカッカすんなって、イヴもリンスも無事みたいだしな」
29掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:23:06 ID:2XglNvIV0
その言葉によって、不安に満たされたスヴェンの心にほんの少しの安らぎが生まれる。
まだ、色々と自分達に協力してくれた性根はお人好しの泥棒も――
自分が護るべき少女、イヴの名前も第三放送では呼ばれていなかった。
それがわかったときは心の底から安心した。何せ今回の死者は24人、飛躍的に増大した死者に仲間が含まれていなかったのは喜ぶべきことだった。
しかし、今度の放送でも無事だとは限らない。このゲームには危険すぎる参加者も潜んでいるのだ。

自分達が戦いを繰り広げた大男もその一人。正直、誰も死ななかったのは奇跡に近い。
また奴と会ったとき、今度こそ仕止めなければならない。あんな殺人者を野放しにしておくことなど掃除屋の名折れ。
そのことについては自分よりも相棒のほうが真剣だったようで、飄々とした態度を一変させ、怒りに満ちた声で言い放つ。

「・・・あいつだけは、絶対に倒す。それが、幽助に対するせめてもの手向けだからな」
放送で呼ばれた名前――浦飯幽助。探偵である少年は、どのような最期を遂げたのだろうか。
あの大男が殺したのは間違いない。ならば生き残った自分達がその恨みを晴らすのは当然のこと。
大切な人を守るため――仲間の仇を討つため――戦い続けよう。それが、自分達の務めなのだから。



ラオウとの戦闘の後、傷の手当てをするために医療施設を探して南西に向かっていたトレイン達は、古ぼけた診療所を発見した。
薬などはほとんどなくなっていたが、それでも一般家屋よりは設備が整っているということで一時の拠点としたのだ。
トレインとスヴェンは応急処置をした後、食料を食べながらこれからの方針を話し合っていた。
武器も少なく、負傷も酷い。状況は決していいとは言えないが、それでも決して諦めるわけにはいかない。
自分達だけならともかく、今は二人の女性の命も背負っているのだから。

杏子は殺されかかったショックからだろうか戦闘後に気絶してしまい、今はベッドで寝ている。
こんな少女が死にそうな目にあったのだ、気絶するのは当然。むしろそうさせてしまった自分の無力さに腹が立つ。
容態を見守ることしか出来ない自分に苛立ちながら、看病をしているロビンに話しかけた。
「ロビン、杏子の様子はどうだ?」

杏子と共に立ちはだかり、自分達を守ってくれたロビンはこの診療所に付くまでの間、ほとんど言葉を発しなかった。
スヴェンとしては聞きたいことは山ほどあったのだが、女性から無理矢理聞きだすことは礼儀に反する。
自分から話してくれるまで待つことにしよう。トレインはその辺りは全く興味はないらしい、相変わらずデリカシーのない奴だ。
30掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:25:11 ID:2XglNvIV0
「ええ、今は眠ってるみたい」
ロビンは、ベッドの上で横になっている杏子を見る。
この中で最も脆弱な身体でありながら、勇気を振り絞って強大な敵の前に立ちはだかった少女。
おそらく仲間の死を告げたであろう放送の後でも、決意の光をその眼に込めた、強い少女。
仲間を欲し、仲間を恐れる自分なんかよりもよっぽど強い――

やはり、別れよう。
私は――この少女と共にいる資格などないのだから。

眠っている間に去るのは礼儀知らずかもしれないが、構わない。どうせ、別れの言葉なんて思いつかない。
最後に眠れる少女の顔を眺め、部屋を出ようとすると案の定――
「ロビン、外へ行くのか?もう夜だ、よしたほうがいい。女性の一人歩きは危険だ」

お人好しの紳士さんが呼び止める。
この人の人の良さはもう異常のレベルに達している。これまで何も聞いてこないのがいい証拠だ。こんな私にここまで――
罪悪感を覚えつつ、厄介だとも思う。紳士さんのことだからきっと付いてくるだろう。どうしようどうしよう、そうだ――

「トイレよ。ここの診療所にはトイレがないから」
女性に対するデリカシーを逆手にとる。こう言ってしまえば無理についてくるとは言わないだろう。
「そ、それは失礼。ならせめてトイレの前まで送って・・・」
それでも食い下がってきた。敬服に値する紳士っぷりである。
しかしここで折れるわけにもいかないので更に追い討ちをかける。

「あら、女性が用を足すのについてくる気?そんなんじゃ紳士失格よ」
「いや、しかし・・・」
「あなたも傷が酷いんでしょう?今はゆっくり休んで。心配しなくても自分の身は自分で守れるわ」
私の身は私が守る。降魔の剣と千年ロッドが壊れた今、いつ裏切るともしれない仲間など必要ない。
自分のことを気にかけてくれるのは嬉しいけど、それよりもこの少女を守って欲しい。

「じゃあ私がついていきます」

そう、この少女を――――え?
31掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:26:36 ID:2XglNvIV0
杏子がいつのまにか目を覚ましていた。

「私なら同じ女性だし、ケガもしてないわ。問題ないでしょう?」
などと言っているが、そんな問題ではない。誰かがついてくることが問題だというのに。
だけどこの少女は素人、何とでもごまかせるか――
少なくともプロの紳士さんがついてくるよりはマシかしら?

「・・・ええ、わかったわ」
私は少女の同行を了承することにした。一人にするのは危ないけど、ここからあまり離れなければ問題ないわ――

当然のように紳士さんが口を挟んでくる。どこまでも心配性だ。
「ちょ、ちょっと待った!それならせめて護身用の武器を・・・」
「スヴェン〜、ウルスラグナなんか持ったら逆に重くて邪魔なだけだと思うぜ〜」
また漫才が始まった、本当に仲が良い。思わず笑ってしまう。

「クスッ、心配性ね紳士さん。ちょっとすぐそこの民家のトイレを借りるだけよ」
ああ、この殺し合いのゲームの中でこんなにも心穏やかな時間を過ごせるなんて思わなかった。
できればずっとこのままでいたい――けれど、それはできない。できる筈がない。

紳士さんはようやく引き止めることを諦め、それでも心配なようで外で待っているという。
それは自分にとっても好都合だ。自分はここに戻る気はないが、この少女だけは保護してもらわないと。
その少女はというと、紳士さんの相棒と何やら話し合っていた。
どうやらナイフの使い方を教えて貰っているようで、熱心に相棒さんの講義に耳を傾けている。
微笑ましい光景だ、掃除屋さん達には少女を守って欲しいと心から願う――


心配そうなスヴェンに見送られ、二人は診療所から外に出た。
32掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:28:24 ID:2XglNvIV0
目指す民家は少し離れた場所にあり、そこまで少し歩くことになる。
「・・・泥棒さん」
その間に少女が話しかけてきた。まだ呼び名は泥棒さん。
真実だからそう呼ばれることに文句はないのだが、やはり気が抜けるので名前を教えておくことにする。
自分の名前を告げる――何故だろう、名前を告げ終わった後、こんなにも晴れ晴れとした気持ちになったのは。
そうボンヤリと疑問を抱いていると、少女の声が耳に入ってくる。
「・・・ロビンの仲間は無事だったの?」

仲間?ああそうか、そういえば船の同行者が参加していたっけ。
けれど、彼らも決して信頼できる『仲間』ではない。
海軍が総力をあげて襲ってきたら、私なんか見捨てるに違いない。昔、私を匿ってくれた村人や海賊のように――
所詮、皆自分が可愛いのだ。批判はしない、自分もそうだから。
普段どんなに優しい人でも、金がかかったり危険が迫ったりすると『仲間』なんてすぐに捨ててしまう。
だから彼らは『仲間』ではない。

「ええ、船長さんに長鼻さん、知り合いは二人とも無事だったわ。・・・あなたも、酷なようだけど今は自分が生き残ることに集中したほうがいいわ」
態度から薄々判っていたけれど、少女は知り合いを亡くしたようだ。
だけど、それにいつまでも拘っていても生き残るのは不可能。
『遠くの知人より近くの他人』だ。知り合いのことは忘れて、あの掃除屋さん達と協力していくのがこの子の為。

「・・・うん、それはわかってる。わかってるけど・・・」
だけど、少女は忘れない。『仲間』のことを。

「・・・うぅ・・・遊戯ぃ・・・」
嗚咽が漏れる。私は、そんな少女にかける言葉を持っていない。私は、何も持っていない――


診療所から少し離れた一軒の民家に入る。トイレのドアを開けつつ、ロビンは言った。
「そのあたりの部屋で待ってて、すぐに済むわ」
もちろん嘘だ。私がなかなか出てこないことを不信に思った少女がトイレのドアを開けても、そこには誰もいない。
別れの言葉をメモ帳に書く。これを見れば自分の意志でいなくなったことは一目瞭然、無理に探そうとはしないだろう。
33掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:37:37 ID:2XglNvIV0
メモをトイレに置き、トイレの窓を開けて外に出る。
音を立てないように裏庭に着地し、息を殺す。
そのまま柵を乗り越え森の中に入り、走り出そうとしたとき、



「やっぱり・・・一人になる気だったんだね」



杏子が、いた。
私はこの少女を嘗めていた。この少女は本当に強い決意を持っている――

「・・・お見通しだったみたいね。回り込まれるとは迂闊だったわ」
精一杯強がってみせる。心臓はバクバクしており焦燥も極まっているのだけれど、表面だけは取り繕っておかないと。

「ねぇ・・・どうして?どうして仲間から離れようとするの?」
そんな私に少女は尋ねかける。仲間はは最も信じられるものだとでも言うように。
よっぽど良い友達に恵まれたのだろう。あなたは、まだ人間を知らない。まだ、私を知らない。
私がしたことは泥棒だけではない。私を知れば、あなただって私を捨てる。

「・・・私には、仲間を作る権利なんて、ないのよ」

ロビンはゆっくりと歩きながら独白を続ける。
「だって、そうでしょう?私はあなたたちにたくさん酷いことをしたんですもの」
だから、私は受け入れられない。
「あなたからはアイテムを奪ったし」
まず一つ。目の前の少女から物品を強奪した。
「それに紳士さんにはもっと酷いことをしたわ」
そして二つ目。最低な罪を、私は犯した。
「紳士さんは優しいから詳しくは聞いてこないけど・・・私は紳士さんを操ったのよ」
34掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:39:02 ID:2XglNvIV0
後悔はしていない。けれど操られた本人にしてみれば、これ程最悪なことはない。
「操って戦わせようとした。いえ、殺し合わせようとしたんだわ」
殺し合わせた、本人の意思を無視して。それが最低の罪。

紳士さんが死ななかったのは偶然に過ぎない。実際に『彼』のように死ぬ可能性もあったのだ。
ああ――何と言う皮肉だろう。この場所は『彼』が最期を迎えた場所ではないか。

ロビンが歩いていく先、そこには勝利マンの死体があった。
ロビンはそっと死体の傍にかがみこみ、その腕からミクロバンドを外す。
「この腕輪はね、小さくなることが出来るの。そうしてこの腕輪を使わせて奇襲させて・・・」
攻撃させた、あの大男に。
「結果、勝利マンは死んだわ」
このザマだ。こればかりは今でも後悔している。せめて敵の実力をもう少し敏感に察知していれば――勝利マンは死ななかった。

「決して裏切らない仲間?御笑い種だわ。そんなものは本当の仲間じゃない」
自嘲気味に笑う。私が『本当の仲間』を語る?それこそお笑い種だ。
「そんなものは・・・傀儡人形と、それを操る哀れな道化だわ」
道化。これ程私に似合う言葉はないのではないか。不幸を呼ぶ呪われた道化――自分にピッタリだ。
「そんな道化に、仲間を作る権利なんか・・・あるわけないじゃない」

「そんなわけない!」

杏子が叫んだ。力強い叫びだった。
――何故、この子はこんな道化にここまで必死になれるのだろう。

「そんなわけないよ!だってあの時、トレイン君達があの化け物に殺されそうになった時、
ロビンは一緒になって立ち塞がってくれたじゃない!自分が死ぬかもしれないのに!」
違う。あれは違う、思い返せば何故あんな行為をしたのか自分でもわからない。
仲間でもない人の為に命をかけるなんて――
『…気に入らないのよ、私も。これ以上勝手に奪われるのは』
思考がフラッシュバックする。奪われる?何を?誰を?一体私は何を思って――
35掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:41:09 ID:2XglNvIV0
「本当の仲間じゃなきゃあんなこと出来ないよ!だからあの時、ロビンも私達の仲間になったんだよ!」
本当の仲間?私が?
何故。否定しなければ。道化。裏切り。罪。降魔の剣。勝利マン。紳士さん。少女。泥棒。仲間――
ダメだ、思考が纏まらない。落ち着かなければ。
未だグチャグチャな頭で、それでも言葉を紡ごうとして口を開く。

「・・・私は」


しかし、ロビンの答えを杏子が聞くことはなかった。



銃声が、響き渡る。



女性の身体がゆっくりと倒れる。
その胸に赤い、赤い穴を開けて。
血を撒き散らし、地面に落ちる。
その目に既に、まばたきはなく。
彼女の呼吸音は、止まっていた。

「これでまた一人・・・軽いものだな」
そこにはジャギのショットガンを構えた桃白白。
ゲームに乗った、非情の殺し屋。

「心配するな。お前もすぐに同じ所に送ってやる」
無力な獲物を嘲笑うようにもう一人の女性に照準を定める。
トリガーを引けばまた死体が増える。これで六人目、六十億か。悪くないペースだ。
手に入る報酬額に笑みがこぼれる。その時、突然ショットガンがはたき落とされた。
はたき落としたのは、自分の背中から生えた、三本の手。
36掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:42:11 ID:2XglNvIV0
「”三輪咲き”」
無力だと侮っていた女性が牙を剥く。桃白白は知らなかった、女性が自分と同じ暗殺者であるということを。その女性をとてつもなく怒らせてしまったことを。
そして彼女の能力、『ハナハナの実』の恐ろしさを。
背中から生えた手は更に両腕、首を拘束する。
「死になさい」
そのまま首をヘシ折るべく力が入る。

「うおおおおおおお!?」
桃白白はとっさにカプセル化しておいた脇差を出現させる。
それは背中に生えた手に刺さり、手が反射で一瞬ひるむ。
その隙を逃さず桃白白は全力で手を振り払うと、全速力で逃げ出した。
女から離れれば手は消えるだろうという推測からの逃亡だったが、果たして推測は当たっていたようで、女の視界から消えることで背中の手は消えてしまった。


――何だ?何だあれは!
桃白白は女の奇怪な能力に戦慄する。
格闘家の防御というものは、敵の攻撃をどのように避けるか、受けるか、捌くかが焦点である。
そしてそのどれもが見切りを必要としている。
よって相手の動作がなく、いきなり来る攻撃には対処できないのだ。
孫悟空など一部の規格外を除けば、の話だが。
まして桃白白は今現在貧血気味、力づくで振りほどくことなど出来るはずもない。
食料も食べるには食べたが、すぐに血液に変わるわけではない。
血だ、血が足りない。体調が万全ならあんな女――
桃白白は逃げる、今は逃げる。その眼から暗殺者の誇りは全く失われていなかった。

37掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:42:55 ID:2XglNvIV0
絶対に逃がさない。
死ぬべきはこの少女ではなく、私だった。この少女が殺されなければならない理由は何もなかった。
こんなに強い意志を持った人間が、こんなに簡単に死ぬことは許せない。殺した奴を討てば、少しは慰めになるだろうか?
いや、考えるな。私に出来ることはもうそれしかない。
桃白白を追おうとしたロビンは、その前に杏子の死体に黙祷する。胸に大穴が穿たれた無惨な死体。
せめて、苦しまなかったら良かったのだけれど。心からそう願う。
私を、こんな私を仲間と呼んでくれたあなたには感謝してる。――だから、あなたの仇は絶対にとるわ。
トドメは杏子のナイフで刺すことにする。自己満足だということは解っているけれど。

――名前を告げた時、気分がすっきりした理由がようやく解ったような気がした。
私は、多分杏子と仲間になりたかったんだ。
頭ではいろいろ理屈付けて否定しけいたけれど、心の底ではこの強い少女に憧れていた――
だから『泥棒さん』ではなく『ロビン』と呼ばれることを無意識のうちに望んでいたのだろう。
ああ、私は本当に馬鹿だ。今頃こんなことに気付くなんて。
だけど、少女はもう死んでしまった。自分が傍を離れようとしたせいだ。
やっぱり自分は仲間をつくる資格などないのだろう。私は、呪われた女なのだから。
紳士さんを思い出す。お人好しで、心配性で、自分のことを気にかけてくれた人。だけど――
「紳士さん。・・・ごめんなさい、やっぱり私はあなたの仲間になる資格はないわ」
そう、私は――――たった一人。






銃声を聞きつけたスヴェン達は、慌ててロビンと杏子を探した。
しかし、向かった先の民家の中に二人の姿はなく、銃声が発せられた位置を特定し、駆けつけた頃には全てが終わっていた。
地面に落ちていたのは硝煙をあげるショットガンと、二人分の人影。一つは奇怪な衣装をした男の死体だったが、もう一つは――
胸に大穴を開けた、物言わぬ杏子の死体。
38掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:56:10 ID:2XglNvIV0
「杏・・・子? チクショオッ!どこのどいつだぁっ!」
トレインが叫ぶ。
傷の手当てをしてくれた優しい少女、仲間の死に強がりながらも涙を堪えられなかった仲間想いな少女。
守れなかった。この少女だけは守ろうと思った――けれど、守れなかった。
昔助けられなかった女性の姿が少女の死体に重なる。自分がその場に居合わせなかったせいでクリードの凶刃の前に散った女性。
一体俺は何をやっているんだ。もう失わないと決めたはずだったのに――

「く・・・そ・・・やはりあの時俺が無理矢理ついていけば・・・」
同じくスヴェンも悔恨の念に打ちのめされていた。
これは明らかに自分のミスだ。女性を二人だけにするなど――紳士失格、自分が情けない。

杏子の身体の上に乗せてあったメモを見る。ロビンからの、置き手紙。
『敵を追う これは私の責任 さようなら紳士さん』

――あのバカッ!一人で背負い込みやがって!
自分のせいで杏子が死んだと思って一人でカタをつける気だ。
『敵』。こいつが杏子を殺した犯人だろう。得物は、ここに落ちているショットガンか。
ロビンは戦いの素人ではないようだが、それでも女性を一人で戦わせるような真似はできない。もう、ミスは繰り返したくない。
せめて彼女は守りきらないと――胸を張ってイヴに会えそうにないな。

一人の女性の死によって怒りに震える黒猫と、一人の女性の身を案じる紳士は、この場所で起こった出来事の当事者達を追って走り出した。
後に残されるのは、殺人者の凶弾に打ち抜かれた杏子の死体。

無数の岩に全身をメッタ撃ちにされ、ボロボロの肉の塊になった海馬。
女の子を守ろうとして無惨に殴り殺された城之内。
闇のゲームで妖狐に魂を喰われた遊戯。

数々の苦難を共に乗り越えた最高の仲間達は、遂にこの殺人ゲームで互いに出会うことはなかった。
バラバラになった千年パズルのように離れ離れにされた彼らは、結束の力を発揮することは出来なかったのだ。

遠く離れた列車の中、デイパックの中で千年パズルのピースが擦れ合い――カラリと悲しげな音を立てた。
39掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:58:10 ID:2XglNvIV0
【茨城県と群馬県の県境付近/一日目・夜】
【スヴェン・ボルフィード@BLACK CAT】
 [状態]:肋骨数本を骨折、胸部から腹部にかけて打撲(全て応急処置済み)
 [装備]:ジャギのショットガン(残弾19)@北斗の拳
 [道具]:荷物一式(支給品不明) (食料一食分消費)
 [思考]1:ロビンを追う
    2:イヴ・リンスと合流

【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
 [状態]:左腕、左半身に打撲、右腕肘から先を切断。行動に支障あり (全て応急処置済み)
 [装備]:ディオスクロイ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾1)
 [道具]:荷物一式 (食料一食分消費)
 [思考]1:杏子を殺した犯人を追う
    2:ラオウを倒す
    3:主催者を倒す

40掃除屋達の挽歌(修正) ◆UJ2a0/5YGE :2006/05/22(月) 01:59:25 ID:2XglNvIV0
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
 [状態]:右腕に刀傷
 [装備]:千年ロッドの仕込み刃
 [道具]:荷物一式(二人分) 、ミクロバンド@ドラゴンボール
 [思考]:1:桃白白を追い、殺す
     2:アイテム・食料の収集
     3:死にたくない

【桃白白@ドラゴンボール】
[状態]:気の消費は中程度・血が足りない。傷は白銀の癒し手によりふさがったが、安静にしてないと開く
[装備]:脇差し
[道具]:支給品一式(食料二人分、二食分消費)
[思考]:1 ロビンから逃げる
    2 参加者や孫悟空を殺して優勝し、主催者から褒美をもらう

【真崎杏子 死亡確認】
【残り67人】
41作者都合により名無しです:2006/05/23(火) 11:24:30 ID:ka1n4mVO0
age
42D’Rag〜on〜Ball ◆2rx96IYrCY :2006/05/25(木) 13:57:15 ID:nkk+crOP0
ヤムチャは変貌した。
目は赤く染まり、体は黒い体毛で覆われ、頭からは1メートル程の角を出している。

ハシューッッ

タカヤは驚愕した。
一瞬の内に、自分の四肢が明後日の方向に折られている。

ピタッ
ヤムチャの指が自分の首に触れる。

もがれた。

タカヤは『死』を確信した。
43D’Rag〜on〜Ball ◆2rx96IYrCY :2006/05/25(木) 13:59:30 ID:nkk+crOP0
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:スーパーウルフ化
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@生存確認】
44作者の都合により名無しです:2006/05/25(木) 22:32:29 ID:/xOEilRH0
まとめサイトのssはまだ2月頃の奴を最近うpしてるようだけど
単にうpするのが遅いだけでこの企画は進行中だよね?
なんか他にもジャンプバトロワスレあったのだが・・
45作者の都合により名無しです:2006/05/25(木) 23:45:39 ID:SbbT/ijv0
>>44
進行してるよ。
他のスレ・・・詳しいことは以下参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/
46覚醒DEATH OUT ◆6cin8NmHN2 :2006/06/04(日) 15:50:28 ID:oz1qDN1I0
バギャァァァ
突然、ピッコロのを突き破り―何か―が飛んでいった。

生首状態のタカヤ、
その口元に―何か―が入っていく。

ZUGOOOOOON!!!!!!!!

突然の爆発、後に現れたのは、黒い翼を持ち、5メートル程の巨体と化したタカヤがいた。

「さっき、食ったのは前世の実。
 オレの正体は、300年前世界を荒らした魔王サタンの子供。
 あのS級妖怪でさえ、何百匹いようが指一本であしらえるぞ」
47覚醒DEATH OUT ◆6cin8NmHN2 :2006/06/04(日) 15:52:05 ID:oz1qDN1I0
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:スーパーウルフ化
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@生存確認】
【ピッコロ@死亡確認】
48黒猫の心は黒に蝕まれ ◆NAUEK414ks :2006/06/08(木) 22:03:38 ID:+ikh2fBc0
夜の街を影法師が蠢く。
影法師の数は二つ。
片方が先行し、ビルの影に隠れて周囲の様子を伺う。
もう片方は先行した方の合図を待ち、その後に続く。
一人はバズーカを背負った男。片腕が見当たらない。
一人はショットガンを持った男。片目が見当たらない。
『何か』を失った掃除屋達が東京の街を駆ける。

先行している方の影法師が地面を調べている。足跡を探しているようだがもはや日は落ち、確認は出来なくなっていた。
「くそっ、完全に見失った」
スヴェンは歯噛みした。
――早く追いついて護ってやらなければ……
焦る気持ちとは裏腹にロビンの足取りは一向にわからない。
どちらの方向に行ったのかもわからないので、闇雲に走り回るしかないのだ。
合図を出したが、来るはずのトレインがなかなか来ない。見ると足を止めて息を切らしている。
「ハアッ、ハッ……」
――トレインの疲労が激しいな……
無理もない。応急処置をしたと言え、重傷の身。
更に片腕が無いとなれば身体のバランスが取れないから、バズーカを背負った状態では疲労が溜まっていく一方なのだろう。
無茶な行動はトレインの疲労を加速させるだけか――
「トレイン、少し休むぞ」
俺は「そんなことより杏子を殺した奴を捜す」と言って聞かないトレインを無理矢理近くのレストランに引きずり込む。
少しは休憩しないとこいつの身が持たない。
案の定もう限界だったらしく、トレインは椅子に座ると同時に荒い息を整え始めた。
この間にさっき拾ったショットガンの整備をしておくか……銃はメンテナンスが最も大事だ。前の持ち主は怠っていたようだが。
ショットガンのメンテナンスをしている俺に、ようやく呼吸が整ってきたらしいトレインが話しかける。
「……聞くの忘れてたんだけど、スヴェンの支給品って何だったんだ?」
その言葉に俺は自分の支給品のことを思い出す。あの使えないにも程がある支給品を――
49黒猫の心は黒に蝕まれ ◆NAUEK414ks :2006/06/08(木) 22:04:44 ID:+ikh2fBc0
無言でデイパックの中からカプセルを取り出すと、その中身を出現させる。
出てきた物は小指サイズよりも更に小さい黒い玉。
トレインが「それが支給品か?冗談だろ?」という感じの目で見てくる。俺も冗談だと思いたい。
ただしこの支給品に対する感情は、トレインが感じている「失望」ではなく「恐怖」そのものだが。
「黒の核晶というものらしい。その正体は――凶悪な爆弾だ。
このサイズの物でも家を三つくらい軽く消滅させる程の破壊力だそうだ。つまり――完全に使えないアイテムということになる。
そんな威力の爆弾を使ったら、使った本人も巻き込まれて消し飛んじまう。間違いなくハズレだな」
こんな物、持ってるだけで危険極まりない。本当は捨てたいところだが、何も知らない参加者が拾うことを考えるととても捨てられない。
使うにしても、手動で作動させてから数秒後に爆発する仕組みらしいのでまず逃げられんしな。
――ん?何やら冷たい視線が……
トレインが俺を非難の目で見ている。あれは「何そんな危険な物を軽々しく出してんの?」という目だ!
――いかん、気まずい雰囲気を打破しなければ。
「トレインの支給品はウルスラグナだったんだろ?羨ましいぜ、大当たりじゃないか」
その言葉にトレインは冷たい目を悲しそうな目に変えた。あれ、もしかして地雷踏んじまったか俺?
「俺の支給品は本当は鉄甲だったんだよ。ウルスラグナは幽助の支給品で――」
しまった、藪蛇だったか。幽助といえば確かあのデカブツに殺されたトレインの仲間だったな。
と、何故かトレインが考え込んでいる。
……あまり余計なことは言わないほうがよさそうだな――


スヴェンはトレインを気遣い、銃のメンテナンスに集中する。
だから彼は気付かなかった。トレインが自分の荷物から黒の核晶を掠め取ったことに――


しばらくしてから、話を切り出した。
50黒猫の心は黒に蝕まれ ◆NAUEK414ks :2006/06/08(木) 22:05:41 ID:+ikh2fBc0
「悪い……まずいことに傷が開いちまった。こりゃロビンの捜索はできそうにねえわ」
俺の言葉にスヴェンが焦る。
「……く、まずいな。早くロビンを見つけないといけないのに……」
予想通りの反応。こちらも用意しておいた言葉を返す。
「そんなに心配なら、一人で捜しにいけばいいんじゃないか?……俺はここで待ってるからさ」
俺の無責任な言葉。普段のスヴェンなら違和感に気付くはずだが――
「そうか、すまない!ロビンを捜し出したら戻ってくるから、ここを動かないでくれよ!」
だけどスヴェンは気付かない。全く、少しも、気付かない――
俺は走り行くスヴェンの背中に声をかける。
「姫っちのことも頼むぜー!アイツ、多分お前のこと待ってると思うからな!あとリンスもな!」
スヴェンは振り返らずに力強く答えた。
「当然だ!」
俺はその言葉に安心する。アイツなら――俺の最高の相棒ならきっとやってくれるに違いない。
もう、思い残すことはない。決着をつけに行こう。


俺は歩く。東京の街を歩く。
持っているデイパックの中には黒の核晶。
傷など開いてはいない。おとなしくレストランでスヴェンを待つ気などない。
俺の目的は――あのデカブツを倒すこと。
今の状態ではあいつに勝つことは出来ない――しかし、黒の核晶を使えば相打ちには持ち込める。
どうせこの身体ではゲームで生き残ることは出来ない。ならば――せめて最大の障害を撃破しよう。
スヴェンやイヴ、リンスの為に――犠牲になるのも悪くはない。
――幽助、杏子、見ていてくれよ。すぐにそっちに行くかもしれねえけどな……



しかし、運命は彼の覚悟を嘲笑うかのように――
その遭遇は残酷で――
51黒猫の心は黒に蝕まれ ◆NAUEK414ks :2006/06/08(木) 22:06:36 ID:+ikh2fBc0
前方から派手な格好をした女が歩いて来る。
その女は俺を見つけると、小走りに駆けて来て馴れ馴れしく話しかけてきた。
「人を見つけることが出来て良かったわぁん。ねえあなた、わらわと仲間になりましょうよぉん。他の仲間と逸れて心細かったのぉん」
その瞳は魅力的で蠱惑的で、思わず頷きそうになって――

歯車は静かに廻る――
その繰り手は悲劇を紡ぐ――

自らの目的を思い出し、その首を横に振った。他人の世話を焼いている暇はない。
「お断りだ」
冷たくそう言って女の横を通り抜ける。あのデカブツを捜さなければ――

彼は最大のミスを犯した――
女の目が細められる――

「そう……わらわの誘いを断るのねぇん……」
背中越しに聞こえた女の声は、ゾッとするほど冷たかった。
非戦闘員だと思って警戒していなかったことを後悔すると同時に急いで振り返る。
振り返った瞬間――俺の左胸に女の手が突き刺さった。
女の手は皮膚を突き破り肉を貫通し肋骨を押し広げすり抜け俺の心臓を激痛激痛激痛
「が……あ……」
呼吸が出来ない息が吸えない吐き出せない身体が動かせない手が動かせない足が動かせない動かない
そんな俺の様子を女は薄笑いを浮かべながら見ていやがる。俺の胸に突き刺さっていない方の手には黒い鉄の塊が――
「少し気になってることがあるのよねぇん。丁度いい機会だから試してみようかしらぁ」
そう言って女は――俺の左胸の肉を剥ぎ取り掻き分け抉り取り、心臓にその鉄の塊をねじ込んだ。
心臓が破壊され、血が滝のように溢れ出る。
――ちくしょう……ここで終わりかよ……

それが俺の最期の思考には――ならなかった。
心臓を潰され、尚俺は生きていた。
52黒猫の心は黒に蝕まれ ◆NAUEK414ks :2006/06/08(木) 22:14:39 ID:+ikh2fBc0
……何で…俺は…生きて…るんだ…?
心臓は確かに潰された筈――ならば、俺の左胸で脈動している”これ”は一体何なんだ!?
「まだ生きてるわねぇ……やっぱりカズキちゃんはこの黒い核鉄で動いていたみたいねぇん。霊珠みたいな物かしらぁ……」
女は一人で納得していて、もう俺のことなど眼中にないようだ。
「……クソ女……一体…俺に何しやがった……」
女が俺を見下ろす。一瞬で――圧倒――された。この目は――絶対に人間の目じゃねえ――
「まだ自分の置かれている立場がわかっていないようねぇん。いいわよぉん、妲己ちゃんが優しく教えてア・ゲ・ル」
女は自分の荷物からテレビを取り出し、うつ伏せに倒れている俺の目の前に置いた。
そのまま背中にのしかかり、両手で俺の頭を固定してくる。指で瞼を無理矢理開けるので、目を閉じることも出来ない。
抵抗――出来ない。
「さあ、人間観察ビデオ『黒の章』始まり始まりよぉ〜ん」
目の前に映し出される、映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像
男女子供若者老人白人黒人黄人病人怪我人善人悪人人人人人人人人人人人人人人人人人
血血血血血血血血血血血血血赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
虐虐虐虐虐虐虐虐虐虐虐虐虐殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺死死死死死死死死死死死死死
目が乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く!
頼むお願いだ止めて已めて病めてくれ目を閉じさせてくれ頼む頼む頼む頼む頼む頼む!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ブツン、と唐突に映像が途切れた。



自分の吐瀉物でドロドロになっている俺を見下ろしながら女が言う。
「ま、こんなところかしらぁん。結構楽しめたからありがとねぇん。お礼にこのパズルをア・ゲ・ル。
電車の中で挑戦してたんだけどもう全然ダメ。ヒマ潰しはなると思うわよぉん」
カツンカツンカツンカツンカツン
パズルのピースがアスファルトで舗装された道路の散らばった。
その耳障りな音を聞きながら、俺は息も絶え絶えに女に尋ねる。
「……テメエ……何故……俺を殺さないんだ……こんなことをして……一体……何が目的だ……?」
女は少し考えるようにして――本当に少しだけ考えて答えを返した。
53黒猫の心は黒に蝕まれ ◆NAUEK414ks :2006/06/08(木) 22:15:20 ID:+ikh2fBc0
「そうねぇん…………強いて言うなら、

気・ま・ぐ・れ、かしらぁん?

じゃあ、精々頑張ってねぇ〜ん」
女は、その姿を闇の中に消した。



俺は見せられたテレビの内容を思い出す。
これでも闇の世界の人間だ。人間の汚い部分は知っているし、この世の地獄と呼ばれる光景も何度も見てきた。
だが、しかし、それでも――
人間って、あんなことが平気で出来るものなのか――?
わからないわからないわからないわからないわからないわからない――
自分の左胸を見る。
肋骨の隙間からは”V”と刻印された黒い鉄が覗いていて、心臓は――ない。
――本当に……何で死んでないんだろうな、俺。
丁度”]V”のタトゥーの横に並んでいるから、合わせて16か。ああ、これじゃあ不幸を運べないな。
ふと、そんなどうでもいいことを考えた。
花が揺れている。誰も地に伏している男を見ていない。
鳥が鳴いている。誰も地に伏している男を見ていない。
風が吹いている。誰も地に伏している男を見ていない。
月が輝いている。誰も地に伏している男を見ていない。
千年パズルに刻み込まれている装飾の眼だけが、地に伏している男を見つめていた――

54黒猫の心は黒に蝕まれ ◆NAUEK414ks :2006/06/08(木) 22:16:00 ID:+ikh2fBc0
【東京都/一日目真夜中】
【蘇妲己@封神演義】
 [状態]:少し精神的に消耗・満腹・上機嫌
 [装備]:打神鞭@封神演義・魔甲拳@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式×4(一食分消費)、ドラゴンキラー@ダイの大冒険、黒の章&霊界テレビ@幽遊白書、GIスペルカード『交信』@ハンターハンター
 [思考]:1.仲間と武器を集める
     2.仲間が集まったらLか太公望と連絡をとる。
     3.本性発覚を防ぎたいが、バレたとしても可能なら説得して協力を求める
     4.ゲームを脱出。可能なら太公望も脱出させるが不可能なら見捨てる

【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
 [状態]:左腕、左半身に打撲、右腕肘から先を切断。行動に支障あり(全て応急処置済み)、左胸に穴(中身の核鉄が覗いている)
 [装備]:ディオスクロイ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾1)、黒い核鉄V(左胸で心臓の代わりになっている)@武装錬金
 [道具]:荷物一式 (食料一食分消費)、黒の核晶(極小サイズ)@ダイの大冒険、千年パズル(ピース状態)@遊戯王
 [思考]1:人間にかなり失望。これからの予定は決めていない


【埼玉県/一日目真夜中】
【スヴェン・ボルフィード@BLACK CAT】
 [状態]:肋骨数本を骨折、胸部から腹部にかけて打撲(全て応急処置済み)
 [装備]:ジャギのショットガン(残弾19)@北斗の拳
 [道具]:荷物一式(食料一食分消費)
 [思考]1:ロビンを追う。ロビンに追いついたら説得して連れ戻し、トレインとの待ち合わせ場所であるレストランに戻る
    2:イヴ・リンスと合流
55黒猫の心は黒に蝕まれ ◆NAUEK414ks :2006/06/09(金) 00:07:28 ID:JaPQAioL0
修正

【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
[装備]:ディオスクロイ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾1)

             ↓

【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
[装備]:ウルスラグナ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾1)
56つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:22:33 ID:hvf4NBb30
 今日、初めて人を殺した。
 本当は殺したくなかった。
 でも殺さざるをえなかった。
 だって、参加者名簿にセナの名前があったから。
 私はあの子に死んで欲しくない。
 だから、私はあの子を守る道を取った。
 セナ以外の全員を殺す。
 完璧な防衛方法だ。
 でも、本当にそんなことが出来るのだろうか?
 なんの力も持たない非力な私に、セナ以外の全員を抹殺することなんて。
 もちろん最初は不可能だと思った。
 それでも、やれば出来るものだった。
 一人目を殺した時――私はやれるんだ、セナを守れるんだという自信を手に入れた。
 だから、大阪で出合った銀髪の少年に武器を奪われた時には大そう絶望した。
 それまで私が三人もの人間を殺すことが出来た力が、一瞬にして全部喪失してしまった。
 私は新たな力を求めた。
 するとどうだろうか。
 私の前に、神様は新たな力をよこしてくれた。
 それは以前のものに比べると随分使い勝手が悪かったが、どれも強力なものには違いなかった。
 私は歓喜し、嬉しさのあまり四回目の殺害におよんでしまった――あの子のことは、あえてそう解釈しよう。
 そして、私は新たな出会いを果たした。
 ――するべきことは、決まっている。
57つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:23:18 ID:hvf4NBb30
 なのに、彼らはまた私を迷わせるような言葉を吐いた。
 脱出。
 このゲームから抜け出せる。
 セナも、私も。
 二人、一緒に。
 私は悩んだ。
 彼らはその具体的な脱出方法というものを知らないらしいが、脱出を提案してきた藍染惣右介という人はやけに自信満々だったそうだ。
 信用できるだろうか。
 私はその藍染という人のことを何一つ知らないし、彼がどんな手を使って脱出するのか想像も出来ない。
 琵琶湖に大人数を集める。
 その先に待っているのは本当に脱出だろうか?
 ひょっとしたら、罠ではないか。
 脱出に縋るような弱者を大量に集めて、虐殺しようとしているのでは。
 その考えに至って、私はある一つの手を考えた。
 私のデイパックに潜んでいる、高性能時限爆弾。
 これを活用するのはどうだろうか。
 まず実際に琵琶湖で藍染と会ってみて、本当に脱出ができるようなら脱出する。
 もし無理のようなら……その場にいるであろう大量の参加者を巻き込み、爆弾を使う。
 これならどちらに転んでも大丈夫。
 問題はもし罠だとした場合、爆発に巻き込まれない範囲までセナを逃がすことが出来るかだけど……
 あ、セナ。
 そうだ。
 この計画には、セナの存在が絶対だ。
 もし本当に脱出できるのだとしたら、絶対にセナも一緒でなければならない。
 そこまで考えてから、私は新たな問題に気づいた。
58つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:23:59 ID:hvf4NBb30
 セナを探さなければならない。
 そして、セナと合流しなければならない。
 ……私が?
 悪夢だった。
 私に、セナと顔を合わせろと?
 もちろん私だってセナには会いたい。
 セナだって、今頃私を探し回っているかもしれない。
 でも、今の私を見て、セナはどんな顔をするだろうか。
 今の私は、もうセナの知っている姉崎まもりじゃない。
 人を四人――無力な子供から、知人まで殺した凶悪犯だ。
 そんな私を見て、セナはどんな顔をするか。
 考えたくない。
 考えられない。
 私は気が狂ってしまいそうだった。
 時々、若島津さんが私を気にかけてくれた。
 またこのパターンだ。
 初めは優しく接して交友を築いても、結局は私が殺してしまう。
 なら最初から殺してしまえばいい。
 下手に仲良くなる前に、未練が残らぬうちに。
 でも、今の私の手持ちでは、そんな簡単にはいかなかった。
 それに脱出の件も残っている。
 私は極力この人たちに甘えないように注意を払いながら、行動を共にした。
59つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:24:40 ID:hvf4NBb30
 琵琶湖に辿り着いた。
 藍染という人が語る、脱出志望者の集合地点。
 しかしそこには誰も居らず、ただ飲み込まれそうになるくらい黒光りした湖が、私の視線を奪っていた。
 当の藍染という人まだ来ていないのか、それともどこかに潜んでいるのか。
 私は細心の注意を払いながらも、巨大な水面に月を反転する琵琶湖を凝視していた。
 琵琶湖の水深って、どのくらいだろう。
 ひょっとしてこの二人、カナヅチなんてことはないかな。
 私は琵琶湖の美しさに触れてまで、人間を殺す方法を考えていた。
 うん、私は正常だ。
 やがて、私たちは湖畔に位置する小屋で休息を取ることにした。
 志村さんの友達の越前って子もまで来ていないみたいだし、なにより二人とも疲労が蓄積している。
 夜も遅いし、そろそろ一休みしてもいい頃だろう。
 でも、私は休むわけにはいかない。
 どうしよう、どうやって殺そう。
 でも、もし脱出が本当にできるんだとしたら。
 希望という名の可能性が私の行動を拒む。
 藍染という人は、できるだけ多くの参加者が集まることを望んでいる。
 ここで二人を殺してしまったら、脱出の計画に支障が出てしまうのではないか。
 それに、私はセナに会うわけにはいかない。
 だとしたら、どうやってセナを連れてこよう。
 どうやって、琵琶湖に行けば脱出できるかもしれないと伝えよう。
 どうすれば……
60つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:30:33 ID:hvf4NBb30
 しばらく考えて、私は思いついた。
 思いついてすぐさま、行動に移すことにした。
「越前君まだ来てないのかなぁ……もう夜も暗いし、道に迷っていなければいいけど」
 志村さんは、もう一人の仲間の行方を案じている。
 私に注意はいっていない。
「しっかし今日は疲れたなぁ。あー早くこんなとこオサラバしてぇ」
 ここまで志村さんを担いで来たせいだろう、若島津さんは誰よりも疲れ果てていた。
 私に注意はいっていない。
 今なら、やれる。
 今なら、逃げ出せる。
 私は咄嗟に駆け出し、小屋の扉を開いた。
 その拍子に吹き込んできた風に反応してか、二人が同時に振り向く。
「――――」
 何か呼びかけているような気がした。
 もちろん私にだろう。
 でも、私は振り向かなかった。
 小屋から抜け出し、夜へと溶け込んで行く。
 二人から離れ、再び殺戮の世界へと舞い戻る――
61つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:32:30 ID:hvf4NBb30
 〜〜〜〜〜

 やっと骨休めができると思った。
 と思ったのに、いきなり予測外のことが起きた。
「っ!? おい、どこ行くんだよ!?」
 姉崎まもりが、小屋を出て行ってしまったのだ。
 何も告げずに、駆け足で。
 トイレ……じゃないよな。
 俺が呼び止めても姉崎は止まろうとしなかった。
 なんの目的があってか知らないが、こんな真夜中に一人で行動するのは危ない。
「ックソ、どうしたってんだよ!? 志村、おまえはここにいろ! 俺が連れ戻してくる!」
「へ!? あ、ああ、分かった」
 俺はまだ体調が万全ではない志村を残し、小屋を飛び出した。
 俺だってもう走りたくなんてなかったが、さすがに動かずにはいられなかった。
 あー! ったく、こっちはさっさと休みたいってのに!
 あの女はいったい何を考えているのか。
 世話が焼けると思いながらも、俺の脚はなんだかんだで速かった。

 〜〜〜〜〜

 姉崎さんが突然出て行ってしまった。
 なんだろう、トイレかな?
 すぐに追いかけようとしたけど身体が思うように動かず、若島津ことナンバー2が率先して追いかけて行ってくれた。
 やるじゃないかナンバー2。
 隊長の身体を気遣い自ら前へ出るなんて。
 お通ちゃんへのラブはまだまだだけど、あいつは将来性あるよ。
 それにしても越前君、本当にどうしちゃったんだろう。
62つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:33:54 ID:hvf4NBb30
 別れたのが昼頃だから、もうとっくに着いててもおかしくないんだけど。
 他の小屋にいるのかな。
 それともまさか……いやいやそんなまさか。
 頭の中に押し寄せた悪いイメージを振り払っていると、ふとテーブルにメモ書きのようなものが置かれていることに気づいた。
 なんだろうと手に取ってみると、そこにはヘタクソな字でこう書かれていた。

 /
 これはちゅうこくのてがみです
 このびわこにきたひとにはふこうがおとずれます
 あいぜんというひとがびわこにひとをあつめているのです
 あいぜんはあくにんでひとをころしたりものをうばったりします
 これはうそではありません ほんとうです
 ぼくのともだちのいしざきさんはあいぜんとであったためしにました
 このてがみをみたひとはなかまやであったひとたちにつたえてください
 /

 ……………………。
 
 ええええええええええええええええェェェェェェェェェ!?
 ウソ、ちょ、これ、ウソォォォォォ!!?

 〜〜〜〜〜
63つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:34:45 ID:hvf4NBb30

 彼が私を探している。
 どちらの彼だろう。
 私は暗闇に隠れ、目を細めて顔を確認する。
 ……若島津さんだ。
 私にジャージを貸してくれた、優しい人。
 話によれば、あの人もヒル魔くんたちのようにスポーツをしているらしい。
 確かサッカー選手だったかな。
 きっと有望な選手なんだろうな。
 行動力はあるし、優しいし、男の人としても魅力的だと思う。
「動かないで」
 できればもっと違った出会い方をしたかった。
 こんな殺人劇の舞台ではなく、普通の日常で。
「……な!? なんの真似だよ、姉崎!?」
 私が背後から銃を突きつけると、彼は案の定驚いた顔をしていた。
 そりゃそうか。
 何しろ今まではおとなしい非力な女の子を演出していたのだ。
 そんな娘にいきなり銃を突きつけられれば、驚くのも当然か。
「振り向かないで、私の話しを聞いて。そうすれば、今は殺さないでいてあげる」
「…………」
 私がそう言うと、若島津さんは押し黙ってしまった。
 よかった。
 ここで強攻策にでも出られたら、たまったものじゃない。
 私が彼に向けている銃、ハーディスは、私が扱うには強すぎる代物だ。
 反動を考えれば、私のひ弱な肩くらい簡単に外れてしまうかもしれない。
 まあでも、この距離なら確実に相手の命は奪えるだろうけど。
64つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:35:54 ID:hvf4NBb30
「いい? あなたに一つ、やって欲しいことがあるの」
「…………」
 若島津さんは私の言いつけどおり無言を保っていた。
 本当に利口で助かる。
「あなたに、小早川セナという参加者を探して欲しい」
「…………」
「そして、その子も一緒に脱出させてあげて」
「…………」
「もし、万が一脱出が嘘だった場合……あなたは命懸けでセナを守って」
「…………」
「絶対に死なせちゃ駄目。自分の命を捨ててでも、セナを守って」
「…………」
「それともう一つ。私のことは、一切セナには内緒。名前も出しちゃ駄目」
「…………」
「もし、この中の約束を一つでも破った場合……」
「…………」
「私が、あなたを殺しに行く」
「…………」
「どこにいようとも、必ず追いかけて殺しに行く」
「…………」
「逃げたって無駄。私が、必ずあなたを殺す」
「…………」
「……分かったなら、約束して」
65つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:47:35 ID:hvf4NBb30
 ……ふぅ。
 一人で淡々と喋っちゃったけど、ちゃんと私がして欲しいこと伝わったかな。
「……銃、下ろせよ」
「駄目」
 若島津さんが発言した。
 ……ひょっとして分かってもらえてない?
 もし若島津さんが分かってくれないなら、仕方ないけど……
「おまえは、どうするんだよ」
 若島津さんが訊いてきた。
「私……?」
「そうだよ、おまえ。おまえは脱出しないのか? そのセナって奴も、一緒に探したほうが早いだろ?」
「私は……駄目」
「なんで」
「私は、人殺しだから」
「ッ!?」
 若島津さんが目を見開いた。
 相当驚いているようだ。
「私は……既に四人もの参加者を殺した。立派な人殺し」
「…………」
「こんな私が、今さらセナに会えるわけないじゃない。ううん、会っちゃいけない。会っちゃ……」
 本当は、会いたい。
 でも、会いたくない。
 セナに、人殺しの姉崎まもりなんて見せたくない。
「本当は会いたいんだろ?」
 会いたくない。
66つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:48:26 ID:hvf4NBb30
「会いたいって言えよ。涙流しながら言ったって、説得力ねーんだよ」
 うるさい。
 会いたいに決まっている。
 だから涙も出る。
 こんな嘘つきたくない。
 でも、会えないんだから仕方がない。
 ……ああ、そうか。
 この時、私は気づいた。
 これは、私が犯した罪に対する罰なんだ。
 四人もの人を殺して、その人に関わる全ての人に悲しみを与えて。
 今さら自分だけが幸せになれるもんか。
 私は、脱出もできなければ生き残ることも出来やしない。
「私は、セナを助けて」
 それが、私がやらなければいけないこと。
「私は、このゲームで死ぬ」
 それが、
「……償いだから」
「…………」
 若島津さんは、無言で聞いてくれた。
 助かる。
「…………じゃーね。約束、ちゃんと守ってね」
 私は銃を向けながら、ゆっくりと後ずさる。
 最後まで、若島津さんは振り向こうとしなかった。
「あなた達が無事に脱出できることを祈ってる」
 嘘じゃなかった。
 こんな私が言うのもなんだけど、二人には生きて欲しい。
「……セナを、よろしくね」
67つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:49:40 ID:hvf4NBb30
 〜〜〜〜〜

 ……なんだったんだよ、今のは。
 姉崎が去ったあと、俺はしばらくその場で呆けていた。
 姉崎が人殺し?
 セナを探して守れ?
 このゲームで死ぬ?
 償い?
 ワケわかんねぇよ。
 あいつはなんでそんなに重苦しいもん背負ってんだよ。
 セナってのはそうまでして生かしたい奴なのか?
 俺にはわかんねぇよ。
 わかんねぇけど。

「……あんな悲しそうな顔した奴、放って置けるかよ」
 俺は走った。
 疲れとかそんなもん、全部無視して。
 あの悲痛な女の目を覚まさせるために。
 どんな理由があれ、人殺しなんて許せるか。
 しかも人を殺したから自分も死ぬなんて、バカじゃねーの?
 姉崎、おまえバカだよ。
 俺はおまえの思い通りににゃならねーぞ。
 セナって奴も、おまえも、絶対一緒に脱出させる。
 そんでもって、おまえに一言ってやる。

「……バカやろう」
 こちとら疲れてるんだよ、チクショー。
68つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:51:39 ID:hvf4NBb30
【滋賀県 琵琶湖畔の小屋/真夜中】

【新! 寺門お通ちゃん親衛隊】
【志村新八@銀魂】
 [状態]:重度の疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。
     顔面にダメージ。歯数本破損。キレた。
 [装備]:拾った棒切れ
 [道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)
     毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
 [思考]:1、星矢の残したメモの内容に激しく動揺。
     2、越前・若島津が来るまで待機。
     3、藍染の「脱出手段」に疑問を抱きながらもそれを他の参加者に伝え戦闘を止めさせる。
      (新八本人は、主催者打倒まで脱出する気はない)
     4、まもりを守る。
     5、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
     6、主催者につっこむ(主催者の打倒)。
69つぐない ◆B042tUwMgE :2006/06/09(金) 12:52:22 ID:hvf4NBb30
【滋賀県 琵琶湖畔/真夜中】
【若島津健@キャプテン翼】
 [状態]:重度の疲労。拳に軽傷。顔面にダメージ。前歯破損。寺門お通ちゃん親衛隊ナンバー2。
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式(食料一日分消費)、ベアークロー(片方)@キン肉マン
 [思考]:1、まもりを探し、連れ帰る。
     2、セナを探す(まもりの約束に従うかは未定)。
     2、翼と合流。
     3、主催者の打倒。

【姉崎まもり@アイシールド21】
 [状態]:殴打による頭痛、腹痛。右腕関節に痛み。(痛みは大分引いてきている)
     以前よりも強い決意。
 [装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT
 [道具]:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン
     荷物一式×3、食料四人分(それぞれ食料、水は二日分消費)
 [思考]:1、殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない。
     2、若島津とセナが無事脱出してくれることを祈る。
     3、セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)。
     4、セナ以外の全員を殺害し、最後に自害。  
70黒猫の心は黒に蝕まれ4(修正) ◆NAUEK414ks :2006/06/10(土) 02:04:58 ID:fYGicKlE0
前方から派手な格好をした女が歩いて来る。
その女は俺を見つけると、小走りに駆けて来て馴れ馴れしく話しかけてきた。
「人を見つけることが出来て良かったわぁん。ねえあなた、わらわと仲間になりましょうよぉん。他の仲間と逸れて心細かったのぉん」
その瞳は魅力的で蠱惑的で、脚が勝手にフラフラと動く。俺は何かに操られるように頷きそうになり――

歯車は静かに廻る――
その繰り手は悲劇を紡ぐ――

駄目だ駄目だ駄目だ!一体俺は何を考えてるんだ?あのデカブツを探さなければいけないのに!
この女の目だ!この目を見ると引き摺られる!この目を、見てはいけない!
「お断り…だ」
そう言って、思わず目を閉じてしまった。この時、俺は絶対に目を閉じてはいけなかった。

彼は最大のミスを犯した――
女の目が細められる――

「そう……わらわの誘いを断るのねぇん……」
聞こえた女の声は、ゾッとするほど冷たかった。
ヤバイヤバイヤバイ!目を開けてバックステップで距離を取り、ウルスラグナを、
全てが、遅かった。
目を開けた瞬間――俺の左胸に女の手が突き刺さった。
女の手は皮膚を突き破り肉を貫通し肋骨を押し広げすり抜け俺の心臓を激痛激痛激痛
「が……あ……」
呼吸が出来ない息が吸えない吐き出せない身体が動かせない手が動かせない足が動かせない動かない
そんな俺の様子を女は薄笑いを浮かべながら見ていやがる。俺の胸に突き刺さっていない方の手には黒い鉄の塊が――
「少し気になってることがあるのよねぇん。丁度いい機会だから試してみようかしらぁ」
そう言って女は――俺の左胸の肉を剥ぎ取り掻き分け抉り取り、心臓にその鉄の塊をねじ込んだ。
心臓が破壊され、血が滝のように溢れ出る。
――ちくしょう……ここで終わりかよ……

それが俺の最期の思考には――ならなかった。
心臓を潰され、尚俺は生きていた。
前半に追加

「そうねぇん…………強いて言うなら、

気・ま・ぐ・れ、かしらぁん?

じゃあ、精々頑張ってねぇ〜ん」
ま、このビデオ見たなら他の人間に助けを求めたり、わらわの情報を言ったりしないだろうしぃ……
それにコイツが暴れまわってるところをわらわが逃げ惑って助けを求める、ってのもアリかしらぁん。
やっぱり何かアクセントがあったほうが仲間を作りやすいしねぇん。でないと今回みたいに失敗しちゃう。
あんまり邪魔なようだったら、また核鉄を返してもらえばいいわぁ。
あ、他の人間が襲われているところを助けて恩を売るってのもい・い・か・も。
クスクスと笑いながら、女はその姿を闇の中に消した。
72 ◆NAUEK414ks :2006/06/10(土) 17:21:14 ID:fYGicKlE0
71は無効です。

うーん、ダッキは難しいなあ。
73作者の都合により名無しです:2006/06/10(土) 19:45:11 ID:NTP7zx25O
ようするに>48-55は無効です
前半に追加

「そうねぇん…………強いて言うなら、

気・ま・ぐ・れ、かしらぁん?

じゃあ、精々頑張ってねぇ〜ん」
女ははその姿を闇の中に消した。

「あの……ヤロウ、一体……何のつもりだ……?」
男は気付かない。既に自分が、最悪の策士の糸に絡め取られてしまったことに。
自分が妖狐の手の平で踊る、一体の傀儡に過ぎないということに。
いや、それは仕方がないことなのかもしれない。
所詮、彼女にとっては人間など唯の駒なのだから。
駒が棋手に逆らうことなど、有り得ないのだから。
75 ◆NAUEK414ks :2006/06/10(土) 21:43:58 ID:fYGicKlE0
ああまたミスが

女ははその姿を闇の中に消した。を
女はその姿を闇の中に消した。に修正
76いいですとも ◆bKU4CMb/nc :2006/06/11(日) 01:56:39 ID:JDKbBeWM0
悪魔と化したタカヤは、中指を突き立てる。
「美しく死んでくださいね」

―闇 世 界 昇 天 殺―

一瞬のアクション。

ヤムチャという生物は消滅した。
77いいですとも ◆bKU4CMb/nc :2006/06/11(日) 01:57:52 ID:JDKbBeWM0
【タカヤ@生存確認】

【ヤムチャ@死亡確認?】




      『これは、限りある時間の中で、未来への輝きを守るために
       その儚き命を燃やし、運命の道標に立ち向った者達の、物語』



吹き荒ぶ風に草原が波立っていた。俗に八ヶ岳おろしと呼ばれるこの地域特有の強風である。
長野県と山梨県の境界にあるこの高原を、故人は清里高原と名付けた。
正確には山梨県北杜市高根町。縦横に広がるこの大草原に立つ者がいれば、彼方に八ヶ岳連峰と呼ばれる日本国最高峰の山郡の壮大な連なりを臨むことが出来るだろう。

だが、現実にこの景色を愉しむ程、心に余裕がある者は勿論この場所には居ない。
誰もがただ、目前に繰り広げられる、あまりの現実離れした光景の前に、呑まれる様に立ち尽くすのみである。
言葉を失う仙道と槇村香の横で、デスマスクが呻く様に呟いた。

「と、とんでもねぇ事になっちまったな」

一瞬の出来事だった。見上げる程の巨大な植物が、眼前にそそり立っていたのだ。
全高は二階建ての建造物程はあるか。天へ向かい伸びる茎は、どんな千年樹の幹よりも圧倒的に太く、
縦横に放射状に広がる無数の草葉は、一枚一枚が自分達全員を軽々と覆い尽くせる程広く、長かった。
これが『妖怪仙人』(動植物・鉱物の化身)の元型、趙公明の真の姿である。

「待て、驚くのは早いぞよ。アレを見るのだ」

太公望の指し示す先、趙公明の化けた巨大植物の頂点部に、槇村香はこれまた巨大な、花の蕾のようなものが蠢くのを見た。
やがて徐々に開き始める花弁。そして槇村香は息を呑んだ。夜空に咲いた巨大な山百合、その中心には趙公明の場違いなほどの爽やかな相貌が、くっきりと刻まれていたのだ。
直後、そこから趙公明の声が大音響となり、深夜の清里高原に響き渡った。
『 さ あ っ 、戦 お う じ ゃ あ な い か 。 ハ ーーッハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ 』

悲鳴が聞こえた。
・・・あたしの悲鳴だった。

「さて、帰るか」
「うっす、帰りましょう」
「まてい」

槇村香が悲鳴を上げている。悟ったような表情で、揃って踵を返しかけたデスマスクと仙道の肩を、太公望はむんずと掴んだ。
帰りたくなるのも無理はない。いや、むしろわしだって帰りたい。しかし、趙公明をこのまま放置しておく危険性は、誰よりも太公望が理解していた。
あらゆる意味でおぞましく、且つ恐ろしい趙公明の元型。しかし制限のためか、かつての規格外の巨大さはない。
うねりながら伸びてきた趙公明の触手を、太公望は真空の刃を放ち切り裂いた。未だ唖然としている者達を叱咤する。

「たわけが、ボサッとするでない。このままほっとけばネズミ算式に増え続けるぞ」

ようやく事態が呑み込めたのか、我に返り身を硬くする三者を横目に太公望は考える。
やはり、収集がつかなくなる前に、なんとしても決着を着けたい。

「よいか、わしが策を授けよう。心して聞くのだ」

頷いて、固唾を呑みながら言葉を待つ三名に、太公望は口早に作戦を伝え始める。
長野県と山梨県、両県の全域を巻き込むことになる激闘が、今、ここに幕を開けたのだった。

〜2〜〜〜〜〜
『見 給 え 見 給 え 、 こ の 僕 は 更 に 更 に 美 し く 華 麗 に 分 裂 す る 』

高らかに笑う趙公明の巨大花。そこから撒き散らされた『種』は、強風にも助けられ、瞬く内に清里高原の大草原に散っていった。
大地に落ちた種はとてつもない速さで、地に根を生やし、茎を伸ばし、葉を広げ花を咲かす。
それらは各々が趙公明の『下僕(しもべ)』ともいえる存在で、意思を持つかの様に標的に襲い掛かり、また大地の養分を吸収してさらに増殖する恐るべき兵器であった。
既に趙公明の『元型』、巨大花の周辺は密林と化していた。本体の位置に近い程、『下僕』の成長も早いということなのか。

「くっ、きりがねえぜ」
「た、耐えるのだ。これはおぬしにしか出来ぬことなのじゃぞ」

ボロボロの衣服、全身には無数の浅手。確かに仙道や香を守ってやる余裕などなかっただろう。
絡みつく触手を引き千切り、涎を滴らせた巨大な食虫植物に気孔波を叩き込む。
デスマスクは太公望と共に、趙公明の『元型』とその『下僕』達の猛攻を凌ぎながら、密林を掻き分け中心部に向おうとしていた。
鞭のように、撓りながら襲い掛かる棘の付着する蔦を辛うじて避わし、太公望が叫ぶ。

「危なっ。ふう、よいか、虎穴に入らずんば虎児を得ず。わしらの狙いは『首輪』の付いておるやつの『顔』じゃ」
「あ、ああ、何度も云うな。解ってるよ。くそっ」

太公望の真空刃により、足元に散らばった触手を踏み越え、デスマスクは悪態をついた。
話によると、趙公明の顔がそのまま『核』となっているという。そこを一気に叩き潰すのが作戦である。
だが中心部まで後10m程、四方を趙公明の『下僕』達に囲まれながらそれを乗り越え、本体まで辿り着けることができるのか。
舌打ちしてデスマスクは伸びてきた触手を断ち切った。全ては仙道と香の働きにかかっていた。

〜3〜〜〜〜

竜の咆哮、鍵爪が一閃し、又一つ趙公明の『下僕』を屠る。
仙道と香は『元型』のある密林から50m程の距離を保ちながら、撒き散らされた植物達を各個撃破しつつ、風上に回りこんでいた。
大粒の汗が仙道の額に浮かんでいた。細心の注意を払いながら『真紅眼の黒竜』を操る。
既に密林に突入したデスマスクと太公望の姿は見えない。背後でウソップパウンドを振り回し、生まれかけの『分身』と格闘している槇村香に、仙道は声を掛けた。

「香さん。オレとこいつ(『真紅眼の黒竜』のこと)から離れないでください」
「大丈夫よ仙道くん。あたしの100トンハンマーの威力を知らないな?」

香が振るうのはハリボテのハンマーであったものの、香本来の(怪)力もあり、出る杭を打つ程度の役割は充分に果たしていた。
『元型』から吐き出された『種』は、風に流されて殆どは逆方向に飛んで行った。個別に点在する『下僕』もあるにはあるが、単独で来る分には『真紅眼の黒竜』の敵ではなかった。
さらに風上に移動する仙道と香。一刻も早く太公望より与えられた策を実行に移さねばならない。

「きゃあ」

不意に聞こえた悲鳴に仙道は振り返り、仰天した。
見落としていたのか、或いは何処かに潜んでいたのか、突如地中から巨大な蝿取草のような植物が湧き出し、鎌首を擡げ香に襲いかかっていた。
ひと呑みにされようとしているのにも関わらず、一歩も動かぬ香。その右足に蔦らしき物が、絡み付いているのを仙道は見た。
愕然とした。『真紅眼の黒竜』の黒炎弾でも、最早間に合わなかった。

〜4〜〜〜〜

『フフフフフ、キミ達の考えは全てお見通しさ。
風上に回り込もうとしている人間達には
僕の『下僕』達を幾つか放っておいたよ』

大音量で衝撃の事実を告げる趙公明。隣で奮闘しているデスマスクが、凍りついたのが分かった。
太公望の耳にも香の悲鳴は届いていた。密林の中心部まであと5m程か。一層苛烈になる植物の波状攻撃に、懸命に耐えながら機を待っていた矢先の事である。
気が付けば、無数の触手が完全に二人を包囲していた。幾体もの巨大な食虫植物がバリケードさながら、粘着性の触手を揺らめかせ、二人と巨大花の狭間に立ち塞がっている。
デスマスクが荒い息を吐きながら言った。

「聞こえたか太公望」
「うむ、まずいことになってきたのう」
肩で息をしながら悔やむ太公望。疲労が圧(の)し掛かる。
デスマスクの奮闘を盾にさしたる外傷はないが、俄仕込みの真空呪文を連発してきたのだ。
正面突破と見せかけて、太公望の真の狙いは即ち『火計』であった。デスマスクと太公望が囮となり中心部に進入。
その間に仙道と香は『分身』の掃討をしていると見せかけ、風上に回りこみ、『真紅眼の黒竜』にて火を放つ。
植物は火に弱く、ましてこの風である。成功すれば労せずに『元型』を分身もろとも葬ることが出来た筈だった。
しかし策は看破され、仙道達の消息は知れず、自分達は視界を埋め尽くす程の触手に包囲されている。

「まさに四面楚歌じゃな。やむを得ぬ。こうなったら第二の策じゃ。ぬ?デスマスク」

最早一刻の猶予もならぬ。
迅速に新たな策を伝えようとして、しかし太公望はデスマスクの異変に気が付いた。

〜5〜〜〜〜

「デスマスク。しっかりするのじゃ」
「・・・」

迫り来る無数の触手の気配も感じてはいた。太公望の切羽詰った声も耳に入ってはいた。
冷静さを失っていたわけではない。ただ、遠隔視の能力で、事態の確認をしていたのである。
見えた、仙道と香。趙公明の言うとおり、確かに二人は食虫植物に囲まれ、今にも捕食されようとしていた。

『デスマスクさん。俺を助けてください』『デスマスクさんが俺の力になってくれると嬉しいっす』
『OKだ。おめーに付き合うぜ』

このままでは仙道が殺される。守ってやると誓った。それなのに、側にいてやることすら叶わない。
あの時交わした約束はなんだったのか。仙道に感じた希望はなんだったのか。

「デスマスク、一体どうしたというんじゃ」
自分の力ではどうにもならない歯痒さ。紫龍がこんな気持ちだったのかもしれない。ふとデスマスクは思った。
かつての十二宮で戦いの最中、紫龍の無事を祈る女(春麗のこと)を、超能力で滝壺に落としてやったことがある。
デスマスクの脳裏にその時の戦いが甦る。あの時の紫龍の絶望と哀しみの表情ときたら、それなりに傑作ではあった。

『オレ達はムウに小宇宙の真の意味を語ってもらった。究極の小宇宙は第七感(セブンセンシズ)だと。人間誰しもが持っている六感を超える能力の事なのだと。
その意味とは人から人へ教えられるものではなく、己自身が戦いの中で自覚し、高めていくものだからだ』

それは紫龍の声。以降、豹変した紫龍の逆襲にあい、無様な敗北を喫した。
そこまで思い出して、目が覚めるような気持ちにデスマスクはなった。

・・・フッ、そうか、オレ様はそんな事も忘れていたのか。

〜6〜〜〜〜

『 そ ら っ 、 ア ン ・ ド ゥ ー ・ ト ロ ワ 』

太公望を絶望の念が包み込んだ。趙公明の盛大な掛け声と共に、無数の触手が、一斉に襲い掛かかる。
視界を埋め尽くす程の触手に対し、未だ微塵も動かぬデスマスク。避けられぬ。死を覚悟した刹那、太公望はデスマスクに身体を突き飛ばされていた。
次の瞬間、閃光が奔った。

『 ト 、 ト レ ビ ア ー ン 』

デスマスクの耳に、驚愕に震える趙公明の声が届く。
硝煙を漂わせながら、絡みついていた触手が、ばらばらと地に落ちた。
今ならわかる。何故、黄金聖衣に見捨てられ、格下の青銅戦士ごときに敗れたのか。
「お、おぬし」

尻餅を着いて驚愕の表情で見つめている太公望に一瞥をくれて、デスマスクは向き直った。
あえて触手を全て身に受け、小宇宙を爆発させることで、一瞬にして焼き尽くしたのである。
眼前に聳える巨大花を指差して、デスマスクは静かに言い放った。

「趙公明、お前はこのデスマスク様の逆鱗に触れたぜ」

〜7〜〜〜〜

『ブラボー、マーベラス。最高だよ。こんなエレガントな戦いができるなんて』

巨大花が揺れ、恍惚とした趙公明の声が響き渡る。『元型』の傍らにて、枝を鞭の様に振り回していた大木が、又一本薙ぎ倒された。
彼の全身を朧気に包む光はなんなのだろう。おそらくは、デスマスクの中で何かが目覚めたのだ、と太公望は思った。
眼前に繰り広げられる桁違いの攻防を横目に、倒れていたウェイバーを立て直す。
凄まじい速度で跳び回るデスマスク。暗闇より無数に飛んでくる針のような棘を拳の弾幕で叩き落し、背後から槍の様に突き出される鋭い木の枝を紙一重で避わす。

「やるのう」

思わず声が漏れていた。デスマスクの動く先、止まる先で趙公明の植物達が消し飛んでゆく。
だが趙公明も間断無く種子を撒き散らし増殖を図る。破壊と成長、両者の攻防は互角に見えた。

「加勢するぞよデスマスク」

太公望が声を掛けると、デスマスクは一瞬動きを止めて棒の様な物を放(ほう)ってきた。
何時の間に拾っていたのか。化す前の趙公明が捨てた武器(如意棒のこと)だった。
刹那、デスマスクと視線が交錯した。
「・・・」
「・・・」

哀しみ、それにも似ていたがそれ以上の深い何かを湛えた不思議な目だ、と太公望は思った。如意棒を掴む。

「おぬしは」
「仙道達を、頼むぜ」

それだけを言い残し、再びデスマスクは巨大花を守るように群がる植物達に突っ込んでいった。
ここは任せろ、とデスマスクの背中が言っている。確かに仙道等を救出すればまだ『火計』も可能であるし、勝機も見える。
遊戯王カードとやらの召還の制限時間は15分という、まだ時は残されているはずだった。

「わかった。趙公明はおぬしに任せるぞ」

そう告げて、太公望はウェイバーに跨り、直後には走り出していた。
死ぬなよ、その声が届いたかどうかは解らなかった。
仙道と香を救出するため、緩んだ包囲網を突き抜け、悲鳴のした方角へ草原を疾走する太公望。
冷たい風が頬を打ち付けていた。

〜8〜〜〜〜

『アハハハハ、アハハハハハ。素晴らしい強さだよデスマスクくん』
「チッ、やかましい」

上空から雨霰と降らせた鋼鉄の様に堅い木の実は全て弾き返され、直後に大地から槍衾さながら突出させた筍(たけのこ)は事も無げにへし折られた。
デスマスクという男、信じられない強さだった。疲労があるとはいえ、この『元型』に戻った自分と生身で互角なのだ。
たった今、太公望が離脱したようだが、それは最早どうでもよくなっていた。
戦いたいから戦う。趙公明にあるのはただそれだけだった。
「アイツらに頼るまでもねえ。そろそろ決着を着けてやる」
『フフフ、最早無敵のこの僕を、どうやって倒すというのだね』

攻撃を繰り出しながらデスマスクが不遜に言う。虚言ではない。現にデスマスクの周囲の空気が変わり始めていた。
元より趙公明も勝負を急ぐ事に依存はなかった。火を放たれたら、と考えると流石に悠長に構えてもいられないのだ。
名残惜しいが、そろそろ決着を着けよう。心に決めて趙公明は大地の養分を吸い上げた。

〜9〜〜〜〜

・・・高まれオレの小宇宙よ。

小宇宙が更に高まったようだ。この現象に最も驚いたのは他でもないデスマスク自身だった。
『セブンセンシズ【第七感】』それは小宇宙の真髄。人間の持つ五感(視覚・味覚・聴覚・触覚・嗅覚)+第六感(精神)を越えた第七感。いわば究極の小宇宙である。(第七感に目覚めているのは黄金聖闘士だけである)
本来の力には遠く及ばぬものの、この身を縛る制限を打ち破り覚醒した小宇宙。デスマスクは負ける気がしなかった。

「フッ、さあ趙公明よ。この『積尸気』を通ってあの世に行け」

デスマスクは右手を空に翳し、小宇宙を集中させた。
力こそ正義。いまだその信念に揺らぎはない。しかし、その力を生み出す源が何なのか、自分は本当に理解してこなかったのだと思う。
気が満ちる。総攻撃を仕掛けようとする趙公明に、デスマスクは裂帛の気合を込めて小宇宙を放った。

『 積 尸 気 冥 界 波 』
『 な 、 な に ? 』

直後、巨大花を純白の光が包み込んだ。
やがて光が消えた時、趙公明の巨大花は見る影も無く萎び、枯れ木のような色彩に変わっていた。

〜10〜〜〜

『なぜだ、僕の『下僕』達が動かない?』
信じられない事が起きていた。趙公明の呼びかけに対し、蒔かれた植物達が全く反応しないのだ。
鉛のように重たい疲労に支配され、趙公明は何をされたのかを悟った。

『今のは、僕の精神を攻撃する技だったのか』

答えずに鼻で笑うデスマスク。直後、追い討ちを掛ける様な事態が起こった。
後方から火の手が上がったのである。

「フッ?あいつら」
『し、しまった』

悪夢であった。
風上に放たれた火の手は、凄まじい勢いで趙公明に迫る。
さらにデスマスクの技により、植物達との交信も、増殖を図ることも封じられてしまった。
趙公明の『分身』である植物達は、あるものは萎れ、ある物は枯れ果て、あるものは炎に呑まれて始めている。
強まるばかりの火勢に対し、趙公明は全く打つ手が見つけられなかった。

〜11〜〜〜

熱が伝わってくる。デスマスクは膝を着きそうになるのを堪えていた。『積尸気冥界波』によるデスマスクの疲労も予想以上だったのだ。
だが、休息を取る余裕などあるはずもない。炎に囲まれ、今にも退路を絶たれようとしているのだ。
既に密林は燃え始めていて、ただ巨大花のみがデスマスクと向かい合っていた。それも最早、生ける屍である。

「おめえはもう戦闘不能だ。念仏でも唱えてろ」
『お、恐ろしい男だキミは。『積尸気冥界波』といったね。蟹座の散開星団プレセペは中国では『積尸気』と呼ばれているらしい。
『積尸気』とは積み重ねた死体から立ち昇る鬼火の燐気の事。そう、つまりプレセペとは地上の霊魂が天へと昇る穴。
そして僕が見せられたのは『黄泉比良坂』。それは死の国への落とし穴。冥界の入り口に来た亡者共が黙々と入っていく坂。あそこに落ちたら二度と蘇(ry』
趙公明のお喋りはそこで終わった。突如、趙公明の巨大花の中心部に大穴が開いていたのだ。
デスマスクの隠し持っていた石弓(ボーガンのこと)。それより放たれた鉄球が趙公明に命中したのである。
轟音と地響き、倒れた巨大花を、容赦なく炎が包みこんでいった。

「マンモス哀れなヤツ」

言い捨ててデスマスクは、燃え盛る巨大花に背を向けた。

〜12〜〜〜〜

深夜の清里高原が紅に染まっていた。強風に煽られ、草原を舐めるように炎が侵食してゆく。
たった今15分の制限時間が過ぎ『真紅眼の黒竜』が消えた。

仙道と香は、戦場より風上の小高い丘で、目を凝らして戦況を確認しようとしていた。
思ったより火の巡りが早い。濛々と立ち上る煙により、既に巨大花の姿を捉えるのは困難になっている。

燃え盛る炎。流れる汗を拭いながら仙道は思い出す。あの時、太公望が来なければどうなっていたことか。
香を襲った食虫植物を遊戯王カード(光の護封剣)にて封じたのも束の間、直後に現れた大量の新手に囲まれ仙道達は進退窮まっていた。
太公望がウェイバーに乗って現れたのは、死を覚悟したまさにその時だった。その後は協力して周囲を一掃し、共に風上まで移動し、『真紅眼の黒竜』にて火を放った。

「ここまで来れば大丈夫っす。香さん」

仙道の声に笑い返す槇村香。蔦が解けても立てなかった香に、先程、遊戯王カード『ホーリー・エルフの祝福』を発動させた。今は辛うじて歩ける程には回復している。
強いひとだ、と仙道は思った。足の痛みにも、心の痛みにも、決して弱音を言わない。或いは、自分に気を使っているのかもしれない。
お互いに、知り合いを全て亡くしていた。自分だけが、泣くわけにはいかないと思っているのだろうか。

・・・ちくしょう。
着ている試合着で口元の汗を拭く。今は指を咥えて二人の帰還を待つことしか出来ない。
何も出来ない悔しさと、どうにもならない諦めのようなものが、同時に仙道の心にはあった。

「あの二人なら大丈夫よ、きっと」

傍らで勇気付けるように笑う香。相槌を打って、再び仙道は視線を遠くにやった。
苦笑いが漏れて来る。心を見透かされていたのは自分だった、ということか。
そう、太公望はもうここにはいない。全てを見届けてから、再びデスマスクの救援に向かったのだ。
燃え盛る炎に目を奪われながら仙道は、太公望に託そうとして拒まれた、最後の遊戯王カードを握り締めた。

〜13〜〜〜〜

来るんじゃねえ、とデスマスクの叫び声が木霊する。しかし、太公望にウェイバーの速度を緩める気はなかった。
倒れた趙公明の巨大花は、炎が引火して凄まじい勢いで燃え上がっていた。だが、趙公明が本当に死んだのならば、この事態はどう説明できる。

燃え広がる炎の合間を、縫うようにデスマスクに接近する太公望。一刻も早くデスマスクを救出しなければならぬ。
煙幕を抜けるとデスマスクの姿がはっきりと見えた。どうやら触手に絡み付かれ、動きを封じられているようだ。
尚も接近しようとする太公望に向かい、デスマスクが衝撃の事実を告げた。

「良く聞け太公望、オレ様は確かにこいつの『核』を(ボーガンで)潰した。だが、ぐPっ」
「なにっ?」
『そこからは僕が説明するよ。天国(ヴァルハラ)の土産にね』

不意にデスマスクの声が遮られ、その背後から巨大な影がむくむくと起き上がった。
一回り小さくなった巨大花。既存の物とは若干違う形態。そういえば位置も違うか。
しかし、紛れもない趙公明、その表情が刻まれた『元型』がそこにあった。

趙公明、人質とばかりにデスマスクの首を締め付ける触手。密着されている。太公望は唇を噛んだ。
懐には既にリミッターを解除した宝貝『五光石』が忍ばせてあった。が、ここで撃ってもデスマスクを盾にされてしまう公算が高い。
止むを得ず太公望はウェイバーを止め、降りた。足元にも注意を払いながら、慎重に進んでゆく。
デスマスクは趙公明の『核』を潰した、と言った。どういうことだ。『元型』は一体ではなかったのか。
炎のはぜる音が、近くなってきた。太公望はしっかりと趙公明を見据えて言う。

「趙公明、おぬしの望みはわしと戦うことだろう」
『フフフ、まあ聞きなよ』

顎の先から汗が滴り落ちる。舞い上がる火の粉を掻き分けるが如く、太公望は如意棒を構えて徐々に間合いを詰めた。
両者の距離は歩幅にしておよそ二十歩程。尚も接近する太公望を制し、趙公明は語りだした。

『何故、僕が生きているのか。その疑問に答える前に、まずキミ達の健闘を称えさせてもらうよ。
太公望くんの機転、デスマスクくんの強さ。どれをとっても素晴らしかった』

『さて本題に入ろう。先程デスマスク君の精神を攻撃する技を貰った結果、僕の『下僕』達は完全に機能しなくなってしまった。
更にこの僕の精神も深い傷を負い、種子を飛ばし増殖を図ることも封じられた』

『フフフ、さすがの僕もこれで終わりかと思ったよ。だがね、忘れないで貰いたい。
本来、<僕らは一心同体>。全てを同時に滅ぼさなければ意味がない。それは太公望くんもよく分かっている筈だよ』

『僕は残された精神力を振り絞り、鉄球が命中する直前に転移したのさ。もう少し遠くに行こうかとも考えたのだがね。
あえて最も手近な、この場所を僕が選んだことには勿論理由がある。分かるかい?』

『転移するにも、遠くの植物達と交信ができなくなっていたからなのさ。
精神力を消耗した状態では、この場所に転移するのが関の山だった、というのが正確な答えかな。
それに決闘を途中で放棄するのも、紳士として相応しくないじゃないか?』

「もうよい」

一際強い風が吹き抜ける。太公望は遮って如意棒を趙公明に向かい突きつけた。
幾らほざこうがデスマスクを救い出し、趙公明を倒す事に何ら変更は無い。だが趙公明は挑発に乗らず、一笑して続けた。
『アハハハハ、まあ、待ちなよ。理由はまだあるのさ。いいかい?
僕が転移したこの植物は食虫植物と言ってね、本来は飛び回る昆虫や微生物を捕えて消化吸収する植物なんだが・・・』

何を今更、と言いかけて太公望は息を呑んだ。趙公明の巨大花がぱっくりと口を広げたのだ。
朱色の口腔に大量の唾液を滴らすその穴は、人間一人をひと呑みにするには充分な大きさだった。

「まさか、おぬし」
『そう、デスマスクくんは、人質ではなかった、ということさ。
感謝したまえデスマスクくん。キミは僕と“ひとつ”になって、この世に華麗な“華”を咲かすことができるのだから』

話が終わる前に太公望は走り出していた。趙公明の触手が、もがくデスマスクを担ぎ上げている。
今にも趙公明に飲み込まれようとしているデスマスク。逃げろ、とその眼が言っていた。

『さあ、僕と“ひとつ”になろうじゃないか』

うっとりと開く趙公明の口元に、デスマスクの身体が運ばれる。
全力で走りながら太公望は思う。
また、間に合わないのか。また、犠牲者を出してしまうのか。
死に逝く者達の表情が脳裏をよぎる。
残された者達の慟哭が胸を締め付ける。


「もう誰も、死なせはせぬ」


駆けながら太公望は、如意棒を振り翳し雄叫びを上げた。
【長野県と山梨県の県境、清里高原/一日目夜中】

【太公望@封神演義】
 [状態]:中疲労。 完全催眠(大阪の交差点に藍染の死体)バギ習得、軽度の火傷
 [装備]:如意棒@DRAGON BALL 
 [道具]:荷物一式(食料1/8消費)・五光石@封神演義・鼻栓 ウェイバー@ワンピース
    トランシーバー×3(故障のため使用不可)
 [思考]:1、デスマスクを救い出し、火の手から脱出する
2、趙公明に対処する
     3、新たな伝達手段を見つける
     4、妲己から打神鞭を取り戻す
    (趙公明を追い詰めて原型化させたのは魔家四将の対策と同じ理屈です)
    
【仙道彰@スラムダンク】
 [状態]:やや疲労
 [装備]:遊戯王カード
     「光の護封剣」「真紅眼の黒竜」「ホーリーエルフの祝福」…使用済み
     「闇の護風壁」…未使用
     「六芒星の呪縛」…二日目の午前まで使用不可能
 [道具]:支給品一式
 [思考]:1、(ちくしょう)
     2、首輪を解除できる人を探す
     3、ゲームから脱出。

【デスマスク@聖闘士星矢 】
 [状態]:少しのダメージ、疲労大。食虫植物に飲み込まれようとしている。
 [道具]:支給品一式
 [思考]:1、逃げてくれ太公望
     2、仙道を・・・
【槇村香@CITY HUNTER】
 [状態]:触手に絡み取られ右足が捻挫したが「ホーリーエルフの祝福」により回復した。若干後遺症あり。
海坊主、冴子の死に若干の精神的ショック
 [道具]:ウソップパウンド@ONE PIECE。荷物一式(食料二人分)
 [思考]:1、仙道、デスマスク、太公望の無事を祈る
     2、追手内洋一を探す

【趙公明@封神演義】
 [状態]:原型化(伝説の巨大花)。超度の疲労、『積尸気冥界波』により、増殖した『分身』の操作不能。
     現在、手近の食虫植物に転移済み。デスマスクを捕えた。
 [思考]:1、デスマスクを取り込んで体力を回復する
     2、戦いを楽しむ
     
 ※制限による趙公明の原型の変更点
 1、弱点の存在・・・趙公明の顔がついた花が「核」であり、そこを破壊されると趙公明は死亡する
           首輪もその花についており、爆発すれば趙公明は死亡する
           「核」は趙公明の植物が制圧している場所なら移動可能
 2、増殖力の制限・・原作程の増殖力はない
           趙公明の体調が万全の場合、一日で県一つ制圧できる程度
           ただし、増殖力は趙公明の状態に大いに依存する
 3、大きさの制限・・最初の大きさは家と同じくらい

備考:黒炎弾の炎が凄まじい勢いで燃え広がっています。
備考:趙公明の荷物一式×2(一食分消費)神楽の仕込み傘(弾切れ)@銀魂、は地面に落ちています
備考:アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険とアイアンボール×2は趙公明の脇に落ちてます。
備考:ウェイバーは趙公明の巨大花から20歩程の場所に放置されています。



望ちゃん。
何かを成すには誰かの犠牲がつきものなんだよ。
それが大きな事であればあるほど犠牲の数も比例する。
でも僕らは決して自分を棄てた訳じゃない。
自分で決めたことだから、同情も憐れみもいらない。
ただ、悲しんでくれればいい。


――― 普賢、またわしは繰り返してしまうのか。


火の海。風圧と舞い散る火の粉に、太公望は瞼を閉じかける。
大地に突き刺した如意棒がぐんと伸び、先端にしがみついた太公望を運ぶ。

届け。願いを込めて、太公望は決して屈強とはいえぬその腕を、精一杯に伸ばした。
デスマスクも触手の狭間から辛うじて手を出し、縋り付こうとした。

「――――!」

太公望は天を呪った。二人の指先はあと一寸の差で繋がった筈だった。
だがその時、その刹那、デスマスクは趙公明の食虫花に呑み込まれていた。

次の瞬間、太公望は伸びた如意棒と共に、趙公明の『元型』をも飛び越え、頭から炎の中に突っ込んでいた。
転げながら火を打ち消し、なんとか炎から逃れた太公望の視界に入ったのは、デスマスクを完全に呑み込んだ趙公明と、その身に起こる異変だった。

「やめろ、やめるのだ。趙公明」
太公望が叫んだのと同時、大地が揺れ、大音響が響き渡った。
直後、身体が宙に浮いた。地面を突き破り突如現れた何かが、太公望に激突したのだ。
弾き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられ、その衝撃に胃液が逆流した。
太公望を直撃したのは、趙公明の『元型』より生えた凄まじい速度で成長する樹根であった。
振動と轟音は止まるを知らず、太公望は身を伏せて事態を見届けることしか出来なかった。趙公明の周囲にたちまち新たなる森が形成されてゆく。

やがて振動が収まった時、そこには第二の密林があった。
流石に規模は、遥かに縮小していたが、目論見どおり趙公明はデスマスクを養分として取り込み、失った体力を回復させたのだ。

「―――、――趙・・・公明」

再び種子を撒き散らし始める趙公明の巨大花。
更に迫る炎の手の中で、太公望は悲鳴を上げる四肢を叱咤し、如意棒を支えにして立ち上がった。

〜2〜〜〜〜〜

『【バックドラフト】のように燃え上がる戦場。なんて素晴らしい舞台(ステージ)なのだろうか』

見渡す限り朱色、灼熱地獄と化した草原。その美しさに趙公明は声を上げた。
眼下には太公望が如意棒を振り回し、無数の『下僕』達と格闘を続けている。
何故、彼はこうまでして戦うのだろうか。趙公明は悪戯心を覚え、問いかけてみた。

『何故、人間なんかに拘るんだい?逃げる事も出来たはずだろう、キミ一人なら』

無言で如意棒を振るい立ち向かってくる太公望。大方、予想が付いているのだろう。
もし太公望が逃げる素振りを見せれば、避難している二人の人間に、この自分が何をするのかを。
性格も、手の内も知り尽くした間柄だった。企んでる事は分からないが、心の底に抱いている想いは分かる。

『可哀想に、キミはいつも、抱えきれない程の重荷を背負い込んでいるんだね』
聞こえたのかどうか、返事代わりに太公望が飛ばした真空波が、趙公明の巨大花を掠めた。
そう言えば、前にもこんなことを聞いたか。だが当時、返ってきた答えは趙公明の中に釈然としないものを残した。
今、改めて聞いたのは、ささやかな好奇心である。趙公明は、やれやれと肩を竦めた。つもりだった。

『ところでキミは、気付いているかい?世界を裏で操る何か・・・
僕らを砂の城でも作るかのように操作し、生かし、殺す。その“存在”に』

その言葉に、太公望が僅かに反応を見せた。その瞬間、今度は『下僕』の飛ばした手裏剣の様な木の葉が、太公望の額を掠める。
呻き声を上げ、傷口を押さえる太公望。直後に如意棒が一閃し、趙公明の操る植物がひとつ両断され地に落ちた。

『大いなる意思の前には、あらゆる力も、祈りも、努力も、無力に過ぎない。
 所詮僕達は、運命の道標に抗う事などできないのさ』

太公望が、切り刻まれた上着衣をばさりと脱ぎ捨てた。どうやら、こちらの話を聞くつもりは無いようだ。
あくまで攻撃の手を緩めず、趙公明は物思いに耽る。或る日、気付いた途方も無い“存在”。
所詮自分も駒に過ぎないのなら、自分の生とはなんなんのか、死はなんなのか。
一体、自分は何処から来て、何処へ行くのか。結論は出なかった。それならば、と前置きして趙公明は続ける。

『僕は悟ったよ。どうせ、踊らされる運命なら、楽しまなければ損じゃないか。
誰かの荷物を背負って、息苦しく生きるのが幸福と呼べるのだろうか』

態度にこそ出さぬが、デスマスクを喰らったとはいえ、趙公明の消耗は深刻だった。増殖力も低下し、思うように植物達を操れない。
しかも火の手が、もう間近の『下僕』達に移り始めていた。そろそろ転移を始めなければ、手遅れになりかねなかった。
だが、太公望の疲労は自分の比では無い筈だった。まさに多勢に無勢、四方から繰り出される植物達の波状攻撃に、太公望は徐々に追い詰められてゆく。
食虫植物のひとつになんとか如意棒を突立てた太公望。その血塗れの顔がにやりと笑って言った。

「やはり、何万年立ってもおぬしとは意見が合わぬのだろうな」
死を、恐れている目ではなかった。
むしろ、あの二人の人間が助かるのなら、自分はどうなっても構わないと、そう考えているのか。
くだらない。全くもって理解できない。だがこれこそが太公望であり、また趙公明の目論見通りでもあり、
それでいいじゃないか。と趙公明は思った。

『そうかもね。それでもキミは足掻くのだろうね。
誰かの意思で戦い、誰かの荷物を背負わされ、誰かの意思で死ぬのだとしても』

不意に太公望が倒れた。足元へ伸ばした植物の蔦が、太公望の片足を浚ったのだ。
追い討ちを掛けるように、幾本もの樹根が、続々と太公望に絡み付いていった。
成す術もなく、根の中に呑み込まれてゆく太公望。もう充分だろう。趙公明は勝利を確信した。
そのまま窒息死するのが先か、炎に巻かれるのが先か。

『アディオース、好敵手よ。トレビアーンな戦いをありがとう』

遂に自分の身体にも火が移り始めた。太公望の最後を、拝めないのが無念であるが、ここまでが限界だった。
勝利の祝砲でも上げたい気持ちを辛うじて押さえ、『核』を安全な場所へ『転移』させるために、趙公明は精神を集中させた。

〜3〜〜〜〜〜

「うぐっ」

呻き声を上げる太公望。幾本もの樹根に締め上げられながら、意識を手放すまいと精神を奮い立たせた。
しかし、それは絶望的な戦いだった。身動きの取れぬ太公望に続々と絡みつく樹根。
凄まじい強さで圧迫され四肢が軋む。最早、呼吸をすることも困難になっていた。視界も霞む。
わしは、ここまでなのか。

遠ざかる意識の中で太公望は思った。思えば、趙公明の言にも一理あるやもしれぬ。
結果的に、みんなを脱出させることも、主催者を倒すことも出来なかった。
挙句の果てに趙公明にやられ、そもそも自分には荷が重すぎたのか。

―――――(寝てんじゃねえよ太公望!!)太公望さん!!

不意に聞こえた自分を呼ぶ声。一瞬、デスマスクの声が重なったのは気のせいか。
一体どれだけ意識を失っていたのだろう。大きな、温かい手が太公望を捕まえていた。
そのまま一気に身体が引き上げられる。抱きとめられて、まず目に入ったのは、忘れもしない針ネズミのような髪型。
その男、仙道が、真っ黒になった顔でにっこりと笑った。

「おぬしは、何故」

呆然と呟く太公望を包むかのように、火の粉が舞い上がる。背後で趙公明の『華』が音を立てて炎上していた。
しかし、燃えているのは、いわば蝉の抜け殻と言っていい。既に『核』そのものは、何処かへ転移してしまったのだろう。

それにしても仙道。遊戯王カードとやらの最後の一枚(闇の護風壁)。それを使ってここまで来たのか。
身をわきまえて、避難しておればよいものを、何故わざわざ死地に赴いて来た。
太公望は拳を握り締めた。殴ってやろうか、とも思った。

「何故・・・」

伝えなければならぬ事もあった。
だが、それ以上、言葉が出ず、太公望はうつむいた。

〜4〜〜〜〜〜
「急ぐのだ仙道とやら。熱くて叶わん」
「太公望さん。まだ、慌てるような時間じゃないっす」

仙道はぼろぼろの太公望を背中に背負い、炎上する森の中を駆けていた。
駆け抜けた直後、燃え盛る大木が音を立てて傾き、背後に倒れた。その衝撃で巻き起こる熱風が身体を打ち付ける。
趙公明の森を脱出すると、炎が草原を覆い尽くしていた。しかし、良く見るとまだ、風下に火が弱い場所がある。
そこを通り、大きく迂回すれば、香の待つ風上の丘へ辿り着けるかもしれない。その方向を指差して、仙道は言った。

「あそこを抜ければ」
「うむ、だが趙公明がまだ潜んでいるやも知れぬ。用心するのだ」

走りながら仙道は、ちらりとデスマスクの事を考えた。聞くことは、許されない雰囲気だった。
いつか、話してくれる時が来るまで、仙道は待とうと思った。今は生き残る事だけを考えよう。
火を避けながら無我夢中で走る仙道。正直疲れていた。だが、まだ走れる。生きている。
止まれ、という太公望の声が聞こえる前に、仙道は足を止めていた。正面に立ちはだかる者がいたのだ。

『なんとなく、だったのだがね。驚いたよ。本当に、キミは僕を楽しませてくれる』

〜5〜〜〜〜〜

炎を背景にして、趙公明の巨大花が揺らめいていた。
まさかというべきか、やはりというべきか。何処までも一筋縄ではいかぬ相手だった。
勘のいいヤツ、と太公望はひとりごち、仙道の背中から降りて、趙公明と向かい合った。

「もうやめにせぬか、趙公明」
『この期に及んで、野暮なことは言わないで欲しいね。太公望くん』

愚問だった。ここまで来て見逃すようならば、はなから待ち伏せなどする筈が無い。
全く持って迷惑な話である。仙道の前に立ち、太公望は如意棒を構え、嘆息をついた。
「最早、何も言うまい」

如意棒を低く構え間合いを詰める太公望。触手を揺らめかせ、今にも攻勢に出ようとする趙公明の巨大花。
懐に忍ばせた『五光石』が切り札だった。転移直後の、植物の守りが手薄な今なら、命中させられる筈だ。
同じ世界から連れ去られ、そして再会したふたり。まさに腐れ縁だった。だがそれもこれで終わる。

おそらく勝負は一瞬。紅が、津波の様に広がりゆくこの清里高原で、ふたりの時間が止まった。

〜6〜〜〜〜〜

二つの影が同時に、炎の向こう側に倒れるのを、少し離れた場所で、槇村香は見ていた。
胸騒ぎに負けて、様子を見に来てしまったのだ。
悔やんでも悔やみきれなかった。何故、仙道を信じて、待っていることが出来なかったのか。
そうすれば少なくとも、自分だけは、死ぬことはなかったのに。
全てが手遅れだった。既に燃え広がる炎は、完全に四者を包囲している。脱出は絶望的になった。

太公望と趙公明の戦いは、相打ちだった。

太公望が放った石の様な物(五光石)が趙公明の『核』に命中したのと同時。
趙公明が大地より飛び出させた、槍の穂先の様に鋭い木の根が、太公望を串刺しにしていた。
枯れ木が傾くように、まず趙公明が地に伏した。太公望も胸板を貫かれ、ゆっくりと倒れた。

仙道が太公望に駆け寄り、必死に声を掛けている。香はそれを眺めている事しかできなかった。
隠れている香の存在に気付いていたのは、趙公明だけ。しまったと思った時には、捕らえられていた。
今も香は樹根に巻きつかれている。全身を束縛され、もがくことはおろか、声を出すことも出来ない。
趙公明が倒れた今も、その呪縛が弱まることはなかった。

その時、影がひとつ、起き上がった。
見る影も無くひび割れた巨大花。その中心で趙公明の相貌が歪んだ。

『まだ、だよ。まだ僕は、戦える』
〜7〜〜〜〜〜

激痛に遠のく意識を奮い立たせ、食虫花の触手を太公望に向けて伸ばした。
デスマスクを捕食したように、太公望を喰らい、生命力を回復させてやる。

『さあ、仙道くん、だったかな、おとなしく、そこを、退き、たまえ』

声が切れ切れになる。痛みは激甚という言葉でしか表せなかった。制限の解除された『五光石』が、もろに『核』に命中したのだ。
趙公明は、明滅する意識の中で、『転移』が出来るほどの精神力が、もはや残されていないことを自覚した。
生命力が尽きるのが先か、炎に焼かれ燃え尽きるのが先か。だが、趙公明にはまだ起死回生の策が残されていた。
それは賭けだった。太公望を喰らえば、また新たな場所に、『転移』が出来る程度には回復するかもしれない。

『悲しむことは無いよ、太公望くん。僕の中で、デスマスク君も待ってくれているから』

仙道が、何かを言ったようだが、趙公明にはよく聞き取ることが出来なかった。
視覚も聴覚も乱れ、致命傷に近い傷を負わされながらも、趙公明を支えていたのはただ、執念だった。
眼下には、太公望を懸命に助け起こそうとする仙道の姿が、微かに見える。無駄なことを、と趙公明は嗤った。
既に完全に炎に取り囲まれ、脱出など不可能である。戦う力を持たない、生身の人間に何が出来る。

「オレはバスケットマンですから」

荒んでも、沈んでもいない声が、趙公明へはっきりと届いた。霞んだ視界の焦点が徐々に合わさってゆく。
静かな、それでも毅然とした意思の光を発する仙道の瞳に、趙公明は微かなたじろぎを覚えた。

〜8〜〜〜〜〜

「さあ、いこーか」

冷たくなり始めた太公望を、地面にそっと横たえて、仙道は歩き出した。腕には如意棒が握られている。
不思議と心は落ち着いていた。仙道は趙公明の巨大花を見上げて、声を張り上げた。
「一緒に連れてこられたオレの知り合いは、みんな死にました」

何故、戦わなければならないのか。何故、死ななければならないのか。自分達が一体何をしたというのか。
人は死ぬ。そんな当たり前のことを、知らない世界にいた。だが、それを嘆く事に、意味もなかった。

「香さんもオレと同じです。大切な人を失って、苦しんで、それでも一生懸命、前を向いて生きようとしてます」

デスマスクも太公望も、身体を張って自分達を守ろうとした。三井は、襲撃者から香を庇って殺された。
香は、大切な人達を失った悲しみと戦い続けている。趙公明はおし黙っていた。仙道は続ける。

「みんな、何かを守るために精一杯、戦ったっす。だから、こんなオレでも、って」

手当をしても、助からないかもしれない。炎の中で、焼け死ぬことに、変わりは無いのかもしれない。
それでも、命を懸けて自分を守ってくれた人達のために、少しでも報いることができるなら。

「ここからは絶対に抜かせない。その根っ子を掴んでもな」

そう言い放ち、仙道は如意棒を構えた。
剣道を真似たつもりなのだが、我ながらぎこちない構えである。笑うなら笑え、と思った。
やがて、暫し口を閉ざしていた趙公明が、ゆっくりと話し出した。

『誰が何と言おうと、キミは、正真正銘の戦士だ。この僕の、最後の相手に相応しい』

〜9〜〜〜〜〜

明らかに慣れない手つきで如意棒を振り回し、絶望的な戦いを繰り広げる仙道を、槇村香は涙を流しながら見ていた。
趙公明の攻撃が仙道の身体を捉え始める。何度倒れたか解らない。それでも仙道は趙公明に立ち向かっていった。

『殺し合うのが戦だ、弱い者が死ぬのが戦だ、大切な人が死ぬのが戦だ』
心底、楽しそうに趙公明が叫んでいる。ぎりり、と香の首元を締め付ける樹根の力がさらに強まった。
どうやら、最後まで見届ける事も叶わないようだ。絶望感と共に、香の意識は闇に堕ちた。

――――おまえは、それでいいのか。

一面の闇。前触れも無く聞こえた、覚えのある声に、香は驚いた。
声は聞こえど、姿は見えず。だがその声は、紛れも無いデスマスクのものだった。

デスマスク。何処にいるの?

香の叫びが闇の中に木霊する。やがて、何者かの姿が、徐々に浮かび上がった。
切れ長の瞳、人を食ったような表情、靡く銀髪。紛れも無い、デスマスクの姿だった。
どうして、と呟いた香に向かい、デスマスクはこれまでの経緯を簡潔に話し始めた。

――――オレは、死を司る蟹星座の黄金聖戦士・・・

そう前置きをして、淡々と話すデスマスク。溢れる気持ちを抑え、香は黙って聞いていた。
趙公明と太公望達の会話から推察はできたが、やはりデスマスクは趙公明に取り込まれてしまったらしい。
しかしそのおかげで、こうして趙公明の内部から、現実の世界に干渉ができるのだ、とデスマスクは言った。

――――それももう長くは無いがな。じきにオレの意識も消えちまう。だがその前に、おまえに受け取って欲しかった。“これ”を、

デスマスクが両手で差し出す“それ”を、香は無言で受け取った。直後、小さく声を上げる香。
重量のせいか、それとも重圧のせいか、香は“それ”の重みに耐え切れず、膝を落としてしまった。

――――『アイアンボールボーガン』だ。感謝しろよ、鉄球は詰めてある。

ぶっきらぼうに言い放つデスマスク。ボーガンのあまりの重みに跪く香を、無言で見下ろしていた。
しばしそのまま、見詰め合った。彼の表情の中に、微かな自嘲が見え隠れし、深い理由も分からず、香は胸が痛くなった。
やがて、香の心境を感じ取ったのか、デスマスクが諭すように言う。
――――まあ、どうせ早かれ遅かれだ。気楽にやりな。

そう、命中するかどうかも分からない。そして、もし趙公明を倒したとしても、この炎の中から脱出する術は無いのだ。
無駄な事を、させられようとしているのかもしれない。それでも、香はボーガンを抱え、しっかりと立ち上がった。

「ありがと、デスマスク」

片目をつぶり、香が微笑むと、デスマスクも、にやりと笑った。
ごめんね。最後まで世話をかけて。今度はあたしが、仙道君を守るよ。
あばよ、と言って闇の中に消えてゆくデスマスクに向かい、香はもう一度、ありがとうと叫んだ。
直後、暗闇に光が指した。眩しさに眼が眩む。熱い、眩しさの正体は、立ち上る炎だった。

気が付くと、初めからそうであったかのように、香は炎の原野に立ち尽くしていた。

夢だったのか。だが、全身を締め付けていた樹根は解け、力なく足元に散らばっている。
そして、腕の中に抱かれた、ずっしりとした重量感が、全てを物語っていた。

鉄球が込められた『アイアンボールボーガン』、それが香の両腕にしっかりと抱えられていた。

〜10〜〜〜〜

趙公明と仙道の戦いはどうなったのか。
眼を移すと、血塗れになった仙道が、肩で息をしながら、倒れた太公望と、趙公明の狭間で仁王立ちしていた。
何かを叫びながら、趙公明が触手を伸ばす。仙道はもう、立っているのもやっとのようだった。一刻の猶予も無い。

腰を落とし、香はボーガンを構え、趙公明に照準を合わせた。
香が人を殺す事を、誰よりも拒んでいた“あの人”はもういない。でも、言い訳なら彼の世でできる。迷いは無かった。
「―――!」

ボーガンの引き金を引いた。発射の衝撃に身体が弾き飛ばされる。
背中から、ふわりと地に倒れた。誰かが支えてくれたと思ったが、柔らかい草叢の中に倒れただけだった。
そのままの姿勢で、飛んでいく鉄球の軌跡を眼で追った。

放たれた鉄球は、趙公明の巨大花の中心に、吸い込まれるように向かっていった。

〜11〜〜〜〜

趙公明であったモノが地に倒れる振動を、仙道は全身で感じた。
同時に吹き付ける熱風、狂い舞う火の粉。それに耐えられず仙道は片手で顔を覆う。
傍らには、胸板を貫かれた太公望が、大きな岩に凭れ掛かっている。
夜空に立上る業火は、容赦なくその包囲の輪を狭め、着実に仙道達の元へ迫っていた。

「香さん」

来ていたのか。煙の中から出てくる槇村香に仙道は手を上げた。
状況はよく解らないが、趙公明を倒したのは彼女なのだろう。
待っていろ、と言ったにも関わらず来てしまった香。しかし彼女を責める事は出来なかった。
自分と同じ気持ちで、ここまで来たのだろう。香は強風に靡く黒髪をたくし上げ、舌を出してはにかんだ。

「ごめんね、仙道君。あたし、戻ってきちゃった」

そう言って、香はしゃがみこむ。倒れて動かぬ太公望を抱きしめ、取り出した布で、すすと血で、汚れた顔を拭き始めた。
少し、きれいになった顔で、眠るように横たわる太公望。結局、それが関の山だった。
そして自分達も、最早幾許も無く、生きたまま火葬されようとしている。せめて、一緒に死んでくれる人が居て。
それは果たして救いと呼べるのか。ただ、香の表情はどこか、晴れ晴れとしていた。
「香さん、すいません。太公望さんも、デスマスクさんも、守りきる事が出来ませんでした」

頭を下げる仙道に、香が婉然と微笑んだ。ずきりと胸が痛む。言わなくてもいいことを、言ってしまったようだ。
己の無力さも、惨めさも、噛み締めてきた。きっと、想いは同じ。だから、それ以上、言葉はいらない。
仙道も、香の傍にしゃがみこんだ。まるで他人事の様に、目前に迫り来る炎を眺める。綺麗だな、と思った。

「くぁ」
「もう、こんな時に」

あくびが出てきた。それを見て香が、くすりと笑う。だって、考えても見ろよ。丸一日、寝てないんだぜ。
それでも練習をサボったと、田岡監督は怒るのだろうな。

「帰ったら、釣りに行きたかったなあ」

のんびりと言って、大の字に横たわる。
目を閉じれば、太陽に煌く湘南の海が、今でも鮮明に瞼の裏に浮かぶ。
それにしても、疲れたな。全身が傷だらけだ。もうきっと、立つことは出来ないだろう。

「・・・虹鱒(ニジマス)は、釣れるのか」

不意に聞こえた声に、仙道は仰天して起き上がった。
見ると、薄目を開けた太公望が、力なく苦笑していた。

「仙道君。あれは」

太公望の目が、指が、何かを指し示していた。その方角に“あるもの”を見て、まず香が声を上げ、そして走り出した。
仙道は太公望に視線を戻した。太公望も仙道を見た。その顔に浮かぶ何ともいえない苦笑いに釣られ仙道も、にっこりと笑って言った。

「美味しい梭魚(カマス)が釣れます。そうなったらもう、アツい夏の始まりですよ」
〜12〜〜〜〜

香と仙道が運び、大岩に固定され立掛けられたウェイバー。そこから噴出する竜巻以上の豪風により、炎の中に道が切り開かれた。
その道を、支え合う様に走り行く仙道と香、その後ろ姿が遠ざかるのを、太公望はぼんやりと眺めていた。
燃え盛る炎は既に、足元へ達しようとしている。そして、もはや空気も燃え尽きたのか、呼吸をすることも困難になってきていた。

誰かが、エンジンを掛け続ける為に、残らねばならなかったのだ。そして、彼らはわかってくれた。
『五光石』に根こそぎ体力を奪われ、趙公明に致命傷を与えられたこの体に、せめて出来ることはそのくらいだった。
四国にいる協力者、愛染という男の謎、そして富士山へ向かう目的。始めに出会った時に、伝えなければならぬ事は伝えてある。

・・・最早、わしがおらんくても大丈夫だろう。

煙のせいか、視力がなくなってきているのか、二人の姿はもう、見えなくなっていた。次第に意識も遠のき始める。
ふと視線を足元に落とすと、一輪の花がそこにあった。それは趙公明の名残、小さな小さな山百合の花。
風に散り欠けた花弁、熱に焦げた葉、しなだれた茎。それでもこの炎の中で、美しい花だと太公望は思った。

ほれ、ホイミ♪

心の中で試しに念じてみると、淡色の光が山百合を包み込んだ。若干であるが生気を取り戻したように見える。
ささやかな奇跡。喜びが孤独なものだと、分かったような気がした。

太公望は幻を見た。

青い空、芳しい香りが鼻腔を擽る。薄い霧に包まれた花畑に、太公望は立っていた。色とりどりの百合の花が、地平線の彼方まで咲き乱れている。
苦しさは何処にもない。徐々に霧が晴れてきて、やがて、目の前に立つ人影があることに、太公望は気がついた。

『太公望くん。僕はキミに改めて問う』

それは人型に戻った趙公明。この期に及んでか、とげんなりする太公望に、
趙公明は両手を広げ、微笑みながら、語りかけてきた。さすがに敵意は無いようである。
『何故、キミはそこまでして、人間に拘るんだい?
 この閉ざされた世界から、抜け出せたところで、どうなる。
 人間達は、いや僕達ですら、所詮は大いなる意思に操られるマリオネットに過ぎないのに』
 
しかし、趙公明は答えを待たず、気障な仕草でフッと微笑み、でもね、と言葉を被せた。

『もっとも、今なら分かる気がするよ。あの仙道くんと、もう一人のマドモワゼル(香のこと)。
僕はあの二人を、所詮は力も持たない人間と決め付けていた。だが、彼等が勝負を決めた』

デスマスクくんも素晴らしい強さだったけどね、と趙公明は付け加え、まだ話を続ける。太公望は眼を逸らし、唇を尖らせた。

『太公望くん。キミは、彼らの気持ちが、何者かに操られた結果ではなく、
あの者達の内から出て来たものであって欲しいと・・・』

太公望は目を閉じた。思い出が、走馬灯の様に甦る。富樫との出会いを、共に過ごした時間を、そして別れを。
ダイの真直ぐな瞳。四国に集った者達の願い。デスマスクの捻くれた優しさと仙道と香の勇気を―――。

『―――そう思うのだね』

趙公明が、天使達に囲まれ、満足そうに微笑みながら昇天してゆく。
最後まで派手に、光の中に消える趙公明に向かい、拳を突き上げ、ちゃうわいボケ!と叫んでやった。ざまあみろ。

やがて、花畑に太公望は、独り取り残された。深く息を吸い、改めて思う。
この悲劇に救いは、終わりはあるのだろうか。現状では、正直難しいかもしれぬ。
だが、楽観的過ぎるだろうか。このアホらしいゲームを、それでも仙道ならきっと、
もとい、残された者達、意思を継ぐ者達が、きっと何とかして、終わらせてくれるのではないかと・・・。

「さらば、生きとし生けるものよ」

声に出して、呟いた。花畑の中、太公望の身体も、ゆっくりと天に昇っていく。
いい友がいた。共に生き、力の限り駆けた。

「さらば」

上を向くと、純白の世界が待っていた。
柔らかな光の中へ、太公望は溶け込んでゆく。

「さらば輝ける日々」

光の彼方、太公望は微かな懐かしさを覚えた。
自分が笑ったのが、わかった。


〜13〜〜〜〜

柱に掛けられた時計の針は着実に時を刻み、程無くして二廻り目の終焉を迎えようとしている。
主催陣の集う城塞。最上階のテラスにて、何処からともなく流れる西洋芸術音楽の旋律に身を任せ、大魔王バーンは浅いまどろみの中にいた。
設けられた玉座。その傍らの円状の小机には、ささやかな嗜み。葡萄酒の小瓶と杯が置いてあった。
ふと、大魔王バーンは、階段を上って来る者の気配を感じ、顔を上げた。

「報告します。長野県と山梨県の境界にて、大規模な火災が発生いたしました。
ただ現在は降雨により、火災は収束の方向に向かっている模様です。
尚、現地にて行われた戦闘により、デスマスク、趙公明、太公望以上三名の死亡が確認されております」
片手を挙げて労いの言葉をかけると、短く返事を残し、兵士は音も無く退出する。
既に半数の参加者が脱落していた。戦いに果てた者も、予想外の裏切りに命を落とした者もいる。
そこには善も悪も無く、ただ現実があった。人の想いなど押し潰し、絶望も希望も呑み込みながら、運命の車輪は廻り続ける。

「もののふは死んでゆく」

詠うように呟いて大魔王は、視線を彼方にやった。視界に入るのは、晴天の夜空に、何処までも流れる星屑の河。
大魔王は思う。かつて、星に名を名付けた者に敬意を表そう。風情に理解を示す魔族など、魔界広しといえども一握に足らぬ。
常闇の世界で戦に明け暮れ、明日をも知れぬ日々を送る我等が眷族に、趣など幾ばくの糧にもなりはしないからだ。

「・・・」

まもなく放送である。洋杯を置いて玉座を立ち、本日最後の一瞥を天にくれた。
この空の下に、数々の生が、死が流れていった。そしてこれからも流れ続けるだろう。
星屑の如く、閃光の如く、人は生まれ消えてゆく。

それでも星の名は受け継がれるだろう。
名付人の名も、星に馳せた想いも、いつかは悠久の時の流れの果てに、葬り去られるのだとしても。
それでも余は忘れることはない。
限られた時の中で、閃光の様に輝き、散っていった儚き生命の賛歌を。

頭を振り、いざ任地へ向かわんと、足を踏み出したその刹那。
大魔王は、夜空に広がる満天の星空に、一筋の流れ星を見たような気がした。
【長野県と山梨県の県境、清里高原/一日目真夜中】

【仙道彰@スラムダンク】
 [状態]:疲労大、負傷多数(致命傷ではない)。軽度の火傷。太公望からさまざまな情報を得ている。
 [装備]:如意棒@ドラゴンボール
 [道具]:支給品一式
遊戯王カード
     「光の護封剣」「真紅眼の黒竜」「ホーリーエルフの祝福」「闇の護風壁」…二日目の真夜中まで使用不可能
     「六芒星の呪縛」…二日目の午前まで使用不可能
     五光石@封神演義、トランシーバー×3(故障のため使用不可)※脱出前に太公望から貰った。
 [思考]:?

【槇村香@CITY HUNTER】
 [状態]:右足捻挫。少し走れる程には回復した。太公望からさまざまな情報を得ている。
 [道具]:ウソップパウンド@ONE PIECE。荷物一式(食料三人分、※太公望から貰った。)
アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険(弾切れ)
 [思考]:?

備考1:デスマスクと趙公明の支給品一式、太公望の鼻栓、ウェイバー@ワンピース、
神楽の仕込み傘(弾切れ)@銀魂、アイアンボールボーガンの鉄球×2@ジョジョの奇妙な冒険、は炎に呑まれた。
備考2:真夜中現在、降雨により、炎は鎮火の方向に向かっています。

【デスマスク@聖闘士星矢 死亡確認】
【趙公明@封神演義 死亡確認】
【太公望@封神演義 死亡確認】
【残り59人】
112勉強男 ◆drwetRDQqY :2006/06/12(月) 07:43:42 ID:BmDn7FwlO
無効です
113作者の都合により名無しです:2006/06/12(月) 21:19:18 ID:z8NYA6DI0
>>112
ついに自分の存在価値を完全に無効化したか
114黒猫の心は黒に蝕まれ5(修正) ◆NAUEK414ks :2006/06/13(火) 00:13:02 ID:a9F+/woR0
……何で…俺は…生きて…るんだ…?
心臓は確かに潰された筈――ならば、俺の左胸で脈動している”これ”は一体何なんだ!?
「まだ生きてるわねぇ……やっぱりカズキちゃんはこの黒い核鉄で動いていたみたいねぇん。霊珠みたいな物かしらぁ……」
女は一人で納得していて、もう俺のことなど眼中にないようだ。
「……クソ女……一体…俺に何しやがった……」
女が俺を見下ろす。一瞬で――圧倒――された。この目は――絶対に人間の目じゃねえ――
「まだ自分の置かれている立場がわかっていないようねぇん。いいわよぉん、妲己ちゃんが優しく教えてア・ゲ・ル」
女は自分の荷物からテレビを取り出し、うつ伏せに倒れている俺の目の前に置いた。
そのまま背中にのしかかり、両手で俺の頭を固定してくる。指で瞼を無理矢理開けるので、目を閉じることも出来ない。
抵抗――出来ない。
「さあ、人間観察ビデオ『黒の章』始まり始まりよぉ〜ん」
目の前に映し出される、映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像映像
男女子供若者老人白人黒人黄人病人怪我人善人悪人人人人人人人人人人人人人人人人人
血血血血血血血血血血血血血赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
虐虐虐虐虐虐虐虐虐虐虐虐虐殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺死死死死死死死死死死死死死
目が乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く乾く渇く!
頼むお願いだ止めて已めて病めてくれ目を閉じさせてくれ頼む頼む頼む頼む頼む頼む!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ブツン、と唐突に映像が途切れた。


俺は見せられたテレビの内容を思い出す。
これでも闇の世界の人間だ。人間の汚い部分は知っているし、この世の地獄と呼ばれる光景も何度も見てきた。
だが、しかし、それでも――
人間って、あんなことが平気で出来るものなのか――?
わからないわからないわからないわからないわからないわからない――
自分の左胸を見る。
肋骨の隙間からは”V”と刻印された黒い鉄が覗いていて、心臓は――ない。
――本当に……何で死んでないんだろうな、俺。
丁度”]V”のタトゥーの横に並んでいるから、合わせて16か。ああ、これじゃあ不幸を運べないな。
ふと、そんなどうでもいいことを考えた。
115黒猫の心は黒に蝕まれ5(修正) ◆NAUEK414ks :2006/06/13(火) 00:15:51 ID:a9F+/woR0
【東京都/一日目真夜中】
【蘇妲己@封神演義】
 [状態]:少し精神的に消耗・満腹・上機嫌
 [装備]:打神鞭@封神演義・魔甲拳@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式×4(一食分消費)、ドラゴンキラー@ダイの大冒険、黒の章&霊界テレビ@幽遊白書
     GIスペルカード『交信』@ハンターハンター、千年パズル(ピース状態)@遊戯王
 [思考]:1.トレインを使って首輪を調べる
     2.武器を集める
     3.ゲームを脱出。可能なら太公望も脱出させるが不可能なら見捨てる

【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
 [状態]:左腕、左半身に打撲、右腕肘から先を切断。行動に支障あり(全て応急処置済み)、左胸に穴(中身の核鉄が覗いている)
 [装備]:ウルスラグナ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾1)、黒い核鉄V(左胸で心臓の代わりになっている)@武装錬金
 [道具]:荷物一式 (食料一食分消費)、黒の核晶(極小サイズ)@ダイの大冒険
 [思考]1:人間にかなり失望。妲己に従う


【埼玉県/一日目真夜中】
【スヴェン・ボルフィード@BLACK CAT】
 [状態]:肋骨数本を骨折、胸部から腹部にかけて打撲(全て応急処置済み)
 [装備]:ジャギのショットガン(残弾19)@北斗の拳
 [道具]:荷物一式(食料一食分消費)
 [思考]1:ロビンを追う。ロビンに追いついたら説得して連れ戻し、トレインとの待ち合わせ場所であるレストランに戻る
    2:イヴ・リンスと合流
116 ◆NAUEK414ks :2006/06/13(火) 00:17:46 ID:a9F+/woR0
そして>>52-55 >>70-75は無効です。
117 ◆NAUEK414ks :2006/06/13(火) 00:20:23 ID:a9F+/woR0
しまった、>>70は無効じゃありません。
118 ◆NAUEK414ks :2006/06/13(火) 01:34:16 ID:a9F+/woR0
先走ってしまった。重ね重ね申し訳ない。

【蘇妲己@封神演義】
 [思考]:1.不明
     2.ゲームを脱出。可能なら太公望も脱出させるが不可能なら見捨てる

【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
 [思考]:1.不明

に修正
119傾心の妖女 ◆Ksf.g7hkYU :2006/06/13(火) 12:52:40 ID:fL9qp/xt0
軽やかな声が脳に流れ込む。
「あらん、本当に人間って弱いのねん。こんなモノで壊れちゃうなんて」
嘔吐物で汚れた地面には目もくれず、艶やかな指先でトレインの髪を撫で上げながら、妲己はくすく
すと笑みを零していた。子を包み込む母のような優しい手つき、――暗く緩い思考しか持てないトレ
インの脳がじんわりと温まってゆくようで。
「ねぇ、人間って汚い?」
長く伸びた爪で押し開けられていた瞼から、一滴の血が眼球へと落ちる。視界が赤に染まる。


…目の下に焼きつくおぞましい人間の『真実』、
黒色の世界は血の赤をもってしても、塗り替えることは出来そうにない。



縦に振られた頭が一瞬だけ、女の指先を離れて戻った。
「そう…。でも、あなたはもう人間じゃないわ」
左胸に埋め込まれた黒い塊を細目で見下ろし、妲己はトレインの首筋に手の甲を這わせる。くいっと
首の裏側を押して、一度鉄核から離れた目線を再びそこに戻させると、男の体が大きく震えた。
「だ・か・ら、あなたは汚くないってことねん」
画面に映っていた『汚らしいモノたち』と自分とは、まったく異種の存在なのだ。そう思うだけで喉の奥
から笑いが生まれる。震えは恐怖でも絶望でもなく、何物にも代えがたい歓喜であった。

「おめでとう。これであなたもわらわの『仲間』よん」
ほら、わらわの目を見て。

120傾心の妖女 ◆Ksf.g7hkYU :2006/06/13(火) 12:53:28 ID:fL9qp/xt0
震えを止められぬまま口元に笑みを張り付かせてトレインが振り向くと、そこには大きく見開かれた
女の瞳がある。
(綺麗、だ…)
到底人間のものとは思えない、鋭く、そして美しい瞳。先ほどもこの目に吸い込まれかけたのだと思
い出して、男は顔を覆う不気味な笑みをいっそう濃くした。


何故、拒絶してしまったのだろう。こんな瞳を持つ存在を。
(俺は一体誰のために、誰を倒そうとしてたんだ?
汚い人間が一人死のうが二人死のうが、俺には関係のないことじゃないか!)
俺を汚い人間であることから解放してくれた美しい存在が、自分を『仲間』と呼んでくれている。
だからもう二度と、この存在を拒絶してはいけない。心にそう刻み付けて。


至上の幸福の中で、抗うことなど思いつきもしない、小さな小さな男。
そこにはもう、誇り高い黒猫の姿はなかった。





121傾心の妖女 ◆Ksf.g7hkYU :2006/06/13(火) 12:54:43 ID:fL9qp/xt0
恍惚といった表情に沈む男を微笑ましく思いながらも、妲己の思考はすでに他のところに向けられて
いた。手の甲に触れる冷たい金属、男にもそして自分にも巻き付いているこの首輪について。
(これは一体、『何』に絡みついているのかしらん?)
遊戯との一件を思い出す。
(所有者が死ねば首輪は機能をなくす。これはまず間違いないわねん)
それはキルアとカズキの戦いをその目で見、遊戯を『食した』妲己だからこそ分かる事実であった。
カズキが肉片となったとき首輪もともに崩壊したが爆発することはなく、彼女は遊戯の対応に追われ
る最中であっても、そこから上の説を導き出していたのだ。
(わらわが遊戯ちゃんを倒しちゃったあと、首輪はちゃーんと止まったものん)
さらに遊戯の死後、彼女は本当に首輪が機能を失っているかの確認をしている。すでにこれは仮説
ではない事実として、妲己の頭の中に収められていた。
(このコには悪いけどん…、わらわも受身でいるばかりじゃいけないと思わない?)
にっこりとトレインに天使のような笑顔を向け、妲己は黒の核鉄と首輪とを同時に視界に入れる。
頭の中でいくつもの仮説を組み立てて──



まずはカズキちゃん。
この鉄がもともと心臓の代わりだったみたいだから、これが奪われたり壊されるイコール死亡、として
首輪が認識するようセットされていた。…たぶん、こんなところねん。

次に遊戯ちゃん。
最後に面白い芸を見せてくれたけど、体はごくごく普通の人間だった。大半の参加者は何分以上の
心停止で首輪が死亡認識、ってところかしらん。

そして、目の前のこのコ。
とくに心臓以外の何かで生命を維持してる風でもないし、遊戯ちゃんと認識の仕方は同じなはず。そ
して死亡認識で重要な心臓はわらわが潰しちゃった、ってことは…
122傾心の妖女 ◆Ksf.g7hkYU :2006/06/13(火) 12:55:18 ID:fL9qp/xt0


(この首輪は今、動いてない可能性もあるわん)



正直なところ、妲己はもう自らの素性を隠してまで仲間を作る気がほとんどない。
カズキはキルア戦においては役に立ったものの、それが仇となって遊戯との関係が崩れ、あのよう
な難戦に巻き込まれた。
太公望やLから信用を得るための仲間の存在は必要だが、あまりに自分の足を引っ張るような仲間
であれば不要だ。下手に力を持っていて、信念ゆえにメリットデメリットを考えず、自分の本性を知る
と牙を向けてくる、頭の固い仲間は特に。
そう考えると妲己はラオウに拒絶されて正解だったのかもしれない。

誰かの死を知って泣く。こんなつまらない映像で壊れる。そんな弱い仲間を自分が宥めてまで助ける
ような時期は既に過ぎていた。
脱出するにしろ優勝するにしろ、そろそろ自分の実となる仲間を見つけ出さねばなるまい。
(でもねん、わらわのためになるコなら『仲間』にしたいのん)
だから今目の前にいるこの弱い男は、間違いなく『仲間』だ、と。


123傾心の妖女 ◆Ksf.g7hkYU :2006/06/13(火) 12:59:44 ID:fL9qp/xt0
自分の素性を知りながらも、目的に賛同し協力してくれる『仲間』。
もしくは自分に何の疑いも持たず、無条件に従ってくれる『仲間』。
妲己が求めるものはこのどちらか、もしくは両方である。
そして弱い者を後者に仕立て上げることは、今の妲己にはあまりに容易なことだった。




さあ、この動いているかいないか分からない首輪をどうしよう。妲己は笑う。
動いているのに無理矢理外せば、自身を巻き込んでの大爆発が起こってしまうだろう。
けれど動いていないのならば、色々と次に繋げることが出来そうだ。

(まだ時間はたっぷりあるわん。…役に立ってね、綺麗な人間さん)

放送が近い。
124傾心の妖女 ◆Ksf.g7hkYU :2006/06/13(火) 13:07:01 ID:fL9qp/xt0
【東京都/一日目真夜中】
【蘇妲己@封神演義】
 [状態]:少し精神的に消耗・満腹・上機嫌
 [装備]:打神鞭@封神演義・魔甲拳@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式×4(一食分消費)、ドラゴンキラー@ダイの大冒険、黒の章&霊界テレビ@幽遊白書
     GIスペルカード『交信』@ハンターハンター、千年パズル(ピース状態)@遊戯王
 [思考]:1.トレインを使って首輪を調べる、トレインを仲間として引き連れる
     2.放送を聞いてから『交信』のカードをどう使うか考える
     3.ゲームを脱出。可能なら太公望も脱出させるが不可能なら見捨てる

【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
 [状態]:左腕、左半身に打撲、右腕肘から先を切断。行動に支障あり(全て応急処置済み)
      左胸に穴(中身の核鉄が覗いている)
 [装備]:ウルスラグナ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾1)、黒い核鉄V(左胸で心臓の代わりになっている)@武装錬金
 [道具]:荷物一式 (食料一食分消費)、黒の核晶(極小サイズ)@ダイの大冒険
 [思考]:1.人間にかなり失望
      2.妲己に従う
125泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:05:22 ID:Hnm0ghg80
 痛い痛い。
 足が痛い。
 痛い痛い。
 耳が痛い。
 痛い痛い。
 心が痛い。
 痛い痛い。
 目頭が痛い。
 イタタタ…………。



「――――――………………………グスンッ」
 大きな木の下で、子供が泣いていました。
 とっても体の大きな子です。
 その子は涙を流していました。
 涙は眼から出るものです。
 しかしなぜでしょう?
 その子は鼻からも涙を流していました。
 ……失礼。鼻水のようです。

 この鼻水を垂らしながら泣いている子供の名前は、スグルいいます。
 キン肉星という惑星の王族に生まれ、ゆくゆくは王位継承を約束された、いわば王子様です。
 キン肉星の王子と言えば、超人なら誰もが知っている有名人。
 気は優しくて力持ち。友達思いで頼りがいのある、非の打ち所のない正義超人。
 もっとも、そんなものは単なる民衆のイメージにしかすぎません。
126泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:06:29 ID:Hnm0ghg80
 スグルは、本当は弱い子でした。
 戦いは大嫌い。痛いのも大嫌い。
 超人になんてなりたくなかった。
 王子になんてなりたくなかった。
 なんで正義超人は戦わなければいけないの?
 悪魔超人が悪さをするから?
 分からないよ。
 僕は毎日寝て起きて牛丼食べて寝て起きて牛丼が食べられればいいよ。
 スグルは弱虫でした。
 キン肉王族の誇りを忘れ、戦いから逃げてばかり。
 誰かが悲鳴を上げれば、聞かぬフリをして。
 誰かが逃げ惑えば、一緒に逃げ出して。
 弱虫いじけ虫のヘタレ野郎でした。
 そんなスグルに、声をかける人がいました。
「坊や、なにを泣いているんだい?」
 優しく声をかけるその人は、スグルの何倍もの巨体を持つ超人でした。
「友達の牛さんが死んでしまったんだ」
 スグルは涙の訳を説明します。
「牛? 君は超人だろう? なのに牛が友達なのか?」
「牛さんを馬鹿にするな! 牛さんは頭に角が生えてるけど、あれでも立派な超人だぞ! 超人強度1000万パワーだぞ!」
「ははは、すまんすまん。少し言い過ぎたよ。で、その牛さんとやらはなんで死んでしまったんだ? 狂牛病か?」
「違うわい! 牛さんは、牛さんは………………」
 後に続く言葉が出てきません。
 牛さんは、なんで死んでしまったのか。
 分かりません。
 あんなに強かった牛さんが、なぜ。
 何故。
127泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:07:06 ID:Hnm0ghg80
「……牛さんは、誰かに殺されたんだ」
 行き着いた結果が、スグルの胸を残酷なまでに締め付ける。
 殺された。
 誰かに。
 この世界で。
 この、
 コロシアイノセカイデ。
「もう嫌だよ……こんなとこ…………」
 スグルは、再び泣き出してしまいました。
 天下のキン肉王族ともあろう者が、メソメソと。
 泣くなスグル。
 誰かが叫んでいる気がする。
 泣くなスグル。
 知るかい。
 泣くなスグル。
 黙れい。
 泣くなスグル。
 うっさいわ。
 泣くなスグル。
 泣くなスグル。
 泣くなスグル。
 ゲゲェー! し、しつこい。

「立ち上がれキン肉マン」

 スグルは顔を上げました。
 誰かが名前を呼んだから。
 スグルではなく、キン肉マンの名前を呼んだから。
128泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:07:55 ID:Hnm0ghg80
「俺と戦ったキン肉マンは、そんな泣き虫野郎だったか? そんな腑抜けだったか? そんな臆病者だったのか?」
 違うわい。
「悪魔超人だった俺に、正義超人の友情パワーを見せてくれたのは、他ならぬキン肉マンだったはずだ」
 ゲゲッ、なんちゅう昔の話を。
「俺は一度たりとも忘れたことはないぜ。おまえとのファイトを」
 わ、わたしだって忘れたりなんかしてないぞ。
「なら立ち上がれ。おまえはもう昔のキン肉スグルじゃねぇ。残虐超人の非道なファイトや、悪魔超人の卑劣な愚行にビビってた頃のおまえじゃないんだ」
 当たり前だ。わたしを誰だと思っている。
 わたしは……
「キン肉マン。俺はおまえは託すぜ。おまえなら、絶対に――――やってくれる」
 わたしは第58代キン肉大王、キン肉スグルだ!


 〜〜〜〜〜


「確かに聞こえたぞ、バッファローマン」
  
 眠りから覚め、キン肉マンは再び歩みだす。
 まどろみの中で、夢を見た。
 大きな身体の割に弱虫な王子と、力持ちの牛さんの夢だ。
 夢の中では……やっぱりやめておこう。語るに恥ずかしい。
129泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:08:54 ID:Hnm0ghg80
 第三放送で、ついに仲間の名前が呼ばれてしまった。
 バッファローマン。牛角がトレードマークの正義超人。
 超人強度は1000万パワーを誇り、また、その豪力の扱い方にも長けていた。
 そんなバッファローマンが、死んでしまった。
 殺されたのはリング上ではない。
 殺したのは超人ではない。
 殺したのは、おそらく人間。
 正義超人が守るべき、人間。
 人間が、なぜ超人を殺さねばならないのか。
 それは、今が殺し合いの真っ最中だから。

「わたしには分かるぞ、バッファローマン。おまえは人間を守り抜き、最後まで正義超人として戦った」

 夢の中で、魂の声が聞こえた。
 死者の魂が化けて出たのではない。
 仲間の魂の声が、語りかけてきたのだ。
 
「まったく、散々言いたいこと言ってトンズラこきやがって。せめて誰に殺されたとか、どこで殺されたとか言っとけばいいのに」

 魂の声は、確かに届いた。
 たけしのように、仲間がどこで死んだのかまでは分からなかったが。
 魂の声は、確かに届いた。
 
「大きなお世話なんじゃ、まったく。わたしはもう昔のわたしではないと言うのに」
 
 酷く子供扱いをされたような気がする。
 それでも、魂の声は、確かに届いた。
130泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:12:10 ID:Hnm0ghg80
 不満たらたらだが、嬉しかった。
 友の、最後の言葉が聞けた。
 絆が生み出した、メッセージだ。
 夢の中でバッファローマンは確かに言った。


 なんとかしろ。


 曖昧なんじゃボケェー!


 〜〜〜〜〜
 

 仮眠を終え、キン肉マンは行動を再会する。
 仲間の死は彼に甚大なショックを与えたが、それでも彼は挫けなかった。
 夢に出てきた王子のような、みっともないマネはしない。
 仲間が死んだというのなら、大いに悲しもう。
 仲間が死んだというのなら、大いに嘆こう。
 仲間が死んだというのなら、大いに怒ろう。
 仲間が死んだというのなら、大いに泣こう。
 仲間が死んだというのなら、大いに「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんなんで死んだんじゃバッファローマンのバカヤロー!」と叫ぼう。
 成長はしても、彼は心優しい超人であることに変わりはない。
 だから、悲しんで嘆いて怒って泣いて叫んだ。
 でも、
 キン肉マンは、
 俯かなかった。
131泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:13:07 ID:Hnm0ghg80
 王子は、立派な大王になったのさ。


 〜〜〜〜〜


 しかし、失敗だったかもしれない。
 バッファローマンの死に悲しみ、大泣きしたのは事実である。
 泣き疲れて、グッスンちょっと休も、とうつらうつらしてしまったことも認める。
 だからといって、
「…………まぁ〜ったく誰にも会わーん」
 この仕打ちはあんまりではないだろうか。
 細い日本、直進すれば誰かに会えるはずだ。
 そう思って走り続けたが、実際は出会いの欠片もない一人行脚になってしまった。
 助けを求めるか弱い女の子もいなければ、ゲームに乗った冷酷非道のマーダーすら見当たらない。
「グムー。剣八のヤツ、本州に行くと見せかけて実は四国にでも行ったんじゃなかろうか」
 その予想は、あながちハズレてはいない。
 キン肉マンには知る由もないが、その俊足で遥か先方を駆けた死神は、四国で既に屍となっている。
 彼がそのことに気づくのは、もう少し先のお話。
 時間で言えば、あと一時間ほど。
 時刻は、午後十一時を回ろうとしていた。

                             …………キン肉マン

 ふと、誰かに呼ばれた気がした。
 キン肉マンは反射的に顔を振り辺りを見渡すが、そこには誰もいない。
 でも、確かに呼ばれた気がした。
132泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:14:04 ID:Hnm0ghg80
 気になって、周囲を散策してみた。
 ひょっとしたら、誰かいるんじゃなかろうか。
 バッファローマンの死も重なり、すっかり人恋しくなったキン肉マンは、胸を躍らせる。

 出会いの、前兆のような気がした。
 遭遇の、香りがした。
 鼻がピクピク唸る。
 なにかに反応している。
 誰かが、わたしを呼んでいる。
 予感が収まらない。
 だれ?
 答えはない。
 誰?
 答えはない。
 どこ?

                               …………こっちだ

 聞こえたような気がした。


 不思議だった。
 自分の身体が、まるで操り人形のように動く。
 こっちへこい、と誰かに操作されているようだ。
 キン肉マンは、その予感に逆らわなかった。
 その路地を曲がれば、いるような気がしたから。
 キン肉マンの、探していた――――
133泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:15:16 ID:Hnm0ghg80
「あったぁぁぁー! 牛丼屋ちゃんだぁぁぁ!」

 キン肉マンは、牛丼屋を発見した。
 牛丼と言えば、キン肉マン唯一無二の大好物。その愛は、自作の歌を製作するほど。
 殺し合いという空気の中で、支給された不味いメシなんて喰えるかぁー、という心境だったキン肉マンにとって、この発見は大きい。
 久しぶりに好物にありつける、と駆け出してみたが、

「なんで牛丼がないんじゃぁぁぁ!」
 
 絶叫は一分で聞こえてきた。
 牛丼屋店内はもぬけの殻、店員もいなければ材料も水もない。
 仕方がない。これがこの殺し合いのルール。食料は、支給された分だけで我慢するしかなかった。
 もちろん、支給された食料に牛丼などあるはずもないが。


 〜〜〜〜〜
 
 
 まったく迂闊なことに、大王は初めて気づいたのです。
 牛丼屋からトボトボと出てきた、その時に。
 目の前には、桜の木が聳えていました。
 花は咲いていませんが、とても大きく、目立っています。
 嫌がおうにも視線は奪われます。
 そして、とりあえず全体を見渡すことでしょう。
 仕方がありません。誰だってそうするでしょう。
 仕方がないことなんです。ここに来たことも。
 仕方がないことなんです。ここに導かれてきたことも。
 牛丼と、友が呼んだのです。
134泣き虫大王の大切なともだち ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:16:27 ID:Hnm0ghg80
 桜の木の根元では、友達が死んでいました。


 〜〜〜〜〜


 なんで、

 ラーメン、

 死んでるの?

 大王は首を傾げます。
 仕方がないことなんです。



【岡山県/海岸沿いの町・桜の木の根元/真夜中】
【キン肉スグル@キン肉マン】
 [状態]:あ然
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1、???
     2、牛丼食べれると思ったのに。

135正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:21:09 ID:Hnm0ghg80
 時刻は、午後十一時を回る。
 約束の時間を、一時間も越えてしまった。
 なのに、待ち人は現れない。
「……ヒル魔さん」
 午後十時に再び集合する。それがヒル魔との約束だった。
 あちらは香川へ。こちらは兵庫へ。
 姉崎まもりやその他の参加者と合流を果たすため、意を決しての別行動だった。
 しかし今、それが裏目に出ようとしている。
「もう、約束の時間を一時間もオーバーしてる」
「彼らになにかがあった……と考えるのが妥当でござろうな」
 頭では悪い予感しか考えられない。
 あのヒル魔に限って、自分の提案した約束を破るなどということはありえない。
 それは、同じチームメイトであるセナが一番よく知っている。
「……もう待てないよ! 緋村さん、やっぱり探しに行ったほうが……!」
「そうでござるな。ここで手を拱いている今も、彼らは危機に直面しているかも知れぬでござる」
 別れた仲間の身を案じていたのは、セナの同行者である剣心も同じだった。
 ヒル魔、ナルト組と別れたのはほんの数時間前。だが、この世界ではそのほんの数時間で何が起こるか分からない。
 時間は無駄に出来ないと、自らも四国行きを決意するセナと剣心だったが、

「――私は賛同しかねます」

 その場にいた第三者が、彼らにストップをかけた。

「確かに、あなた方の心配はもっともだ。最悪の事態に陥っているかどうかはともかく、彼らが何かしらのトラブルに直面しているのは間違いないでしょう」
 淡々とした口調で、しかしながらも説得力のある言葉でセナ達の足止めをするのは、兵庫で見つけた収穫。
 残念ながら姉崎まもりではなかったが、その者は味方としてはこれ以上とない能力を秘めた人物――世界最高の頭脳を持つと言われた、Lだった。
136正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:23:40 ID:Hnm0ghg80
 彼らが接触を得たのは、ほんの一時間前。片や探し人の捜索、片や九州入りを目的とした双者の出会いは、幸運な偶然だった。
 セナ達にとっての幸運は、Lが脱出を望んでいるとのこと。しかも、そのためのプランもいくつか検討中らしい。さすがは世界最高の頭脳と賞賛すべきだろう。
 Lにとっての幸運は、セナと剣心、両者とも九州からやって来たということ。これにより自身の持つGIカード、『同行』の使用が可能となった。しかも彼らにはまだ二人の仲間がいるという。彼らの仲間になったメリットは大きい。
(これでいつでも九州に行くことが可能となった。まずは彼らの仲間と合流し、下地を整えなければ)
 しかし、早々幸運な出来事ばかり起こるものではない。この一時間で一応の信頼は得たつもりだが、まだ見ぬ二人の仲間がゲームに乗っていないとも限らない。
 善人の皮を被ったステルスマーダー……話によると残りの仲間は、一人がセナと同じ高校生。一人が忍者の少年だという。
 忍者という肩書きに激しく疑心感を覚えたLだったが、このゲーム出合った紳士的な月のことを思えば、そうとも言ってられなかった。
 それに、この緋村剣心という人物。話によれば、彼は明治時代から来たというではないか。趙公明のような明らかな異世界人の他に、過去世界からの参加者もいるというのには驚いた。
 彼らを完全な仲間として迎え入れるには、まだ情報が足りない。そう判断したLは、まだ自分の胸のうちを全て打ち明けてはいなかった。『交信』ともう一つのGIカードのことはもちろん、もう一つ、Lはとんでもない爆弾を抱えている。
 デスノート。切れ端とはいえ、これは確実に論争の火種となる……いや、仮にも人が殺せるノートだ。問題が起これば、論争などでは済まないだろう。
 さらに、鹿児島へ向かう目的も内緒のままだった。盗聴を恐れたのもあるが、この意図を告げるには、時期尚早と判断したからだ。
 情報を打ち明けるのは、確実な信用を得てから。ムーンフェイスという協力者を失い一人となったLは、物事を慎重に進めようとしていた。
「最悪の事態を想像するなら、四国にはなんらかのトラブル要素があるといっていい。だからこそ、ヒル魔君という方も帰ってこない」
 二人の神経を逆なでしないよう、既に殺されたのかもしれないという思いは口に出さなかった。
「こう言ってはなんですが、戦闘能力が皆無と言っていい我々三人が彼らの後を追うというのは非常に危険です。緋村さんの剣術の腕前は聞きましたが、さすがに鞘だけでは限界があるでしょう」
「じゃ、じゃあどうするんですか!?」
「このまま放送まで待ちます。そしてもし万が一……彼らの名前が呼ばれるようなことがあれば、私たちはここを離れた方がいいでしょう」
 心配が募りいてもたってもいられないセナに、Lは冷酷な口調で告げた。
「本気でござるか? 今も助けを欲しているかもしれない彼らを見捨てろと?」
「見捨てろと言っているわけではありません。自分達の安全を優先すべきと判断したのです」
 もし本当に、四国で最悪の事態が起こっているというのであれば。
 Lの言うとおり、自分達の力ではどうにも出来ないかもしれない。
 しかし、だからといって。
「…………くっ!」
 一瞬、自分だけでも四国に向かおうと思った剣心だったが、それもできるない。
 セナを守る。これは、心に決めたことだ。一時の采配で過ちを犯すわけにいかない。
 心と心が鬩ぎ合う。どちらの思いを優先させればいいのか、分からない。
137正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:25:06 ID:Hnm0ghg80
「放送を確認し、彼らが健在であると証明されれば我々も四国に向かいましょう。お二人を心配する気持ちは分かりますが、ここは堪えてください」
「…………そんなの、薄情だよッ!」
 残酷な決断を下すLに、セナは自分の感情を抑えきれなかった。
 セナが他人に対して怒りをぶつけたのを、はじめて見たような気がする。どこか弱々しかったが、真の通った声だ。
 セナはおそらく、自らの危険も顧みず彼らを探しに行きたいはずだ。自分とは違い、既に決めているのだ。剣心は一瞬、セナに不思議な劣等感を覚えた。
(……信頼を得る、か。今さらだが、なかなかに難しい)
 人類全てが利口に出来ているわけではない。だからこそ、衝突が生まれる。分かってはいたが、Lは歯がゆさを覚えた。
 こういうことなら、夜神月のほうが向いているかもしれない。彼は大学でも人気者だったし、自然に人間関係の輪を作れる能力がある。それに比べ自分は、まず第一に結果を見てしまう。
 そして結果を求める際、邪魔となる感情は一切除外してしまうのが悪い癖だろうか。仕方がない。どう考えても、この状況で四国に向かうのは危険なのだ。そこにどんな人間的感情があろうとも、問題は覆らない。
 互いの信念をぶつけ、対立するセナとL。剣心はどっちつかずの態度で、どうすればいいか決めかねていた。
 そんな時である。
 突如として、大音量の大人の泣き声が聞こえてきたのは。


 〜〜〜〜〜


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんなんで死んでんじゃラーメンマンのバカヤロー!」

 それは、警戒とか罠とかとはまったく無縁のものだった。
 泣きたいから泣く。悲しいから叫ぶ。巨体に似合わない、純粋な子供のような行動を取っている。
 だから、異様に声がかけづらかった。一緒に血まみれの死体があったせいもあるが、泣き声の主があまりに大量の涙を流していたため、若干引いてしまったのだ。
 率先して声をかけたのは、Lだった。参加者の死を素直に悲しんでいるところから、危険ではないと判断したのだろうか。確かに、セナと剣心の目から見ても、こんな大泣きがマーダーとは考えられない。
 大音量の嘆きにLのか細い声はなかなか気づいてもらえなかったが、泣き声の主の背後に立つとやっと気づいてもらえた。
 その顔は涙で濡れ、鼻からも水が出ていた。顔面がぐしょぐしょの状態になっている。
 とりあえず、Lは自分の名を名乗った。すると彼も名乗り返し、

「わたしは、グスンッ、第58代キン肉グスンッ、大王グスンッ、キン肉スグル、人はわたしをグスンッ、キン肉マンとグスンッ、呼ぶ」
 解読するのに数秒かかった。
138正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:27:40 ID:Hnm0ghg80


 〜〜〜〜〜


 キン肉マンと名乗る男との出会いにより、状況は一変した。
 この岡山県海岸線沿いの町に倒れ死んでいた、彼の仲間が残したと思しきメッセージのためである。

  『四国にいる太公望と協力し、趙公明と志々雄を倒せ』

 血文字で地面に書かれたそのメッセージ。キン肉マンへ、とは書いてなかったが、彼の仲間――正義超人というらしい――に宛てられているのは間違いなかった。
 趙公明と志々雄を倒せ。おそらくは、これを達成できないまま息絶え、仲間に思いを託したのだろう。
 さらに、これはダイイングメッセージとも読み取れる。もしかしなくても、この死者、ラーメンマンを殺したのは趙公明か志々雄のどちらかだ。
「ラーメンマン……おまえほどの超人がやられるなんて……クソー! やったのは趙公明とかいうヤツか!? それとも志々雄……なにぃー!? 志々雄じゃとぉぉ!?」
 すぐには気づけなかったが、志々雄といえばあの更木剣八に同行していた包帯男ではないか。しかも、たけしを連れ去って逃亡中の身だ。

「キン肉マン殿。おぬし、志々雄真実を知っているのでござるか?」
「あいつとは九州で会った。更木剣八という男との試合中、わたしの仲間のたけすぃが誘拐されたんだ」
 聞けば、キン肉マンはその連れ去られたたけしを追っている最中だという。
 しかも、セナと剣心はキン肉マンよりも早い時間、同じ二人に襲われた経験がある。加えて、志々雄は剣心と同じ時代を生きた人間であるということが判明した。
 変な偶然だったが、ラーメンマン死亡に関する情報はこの一つの出会いで必要以上に齎された。
 これはLの見立てだが、死体を見るに殺されてからそれほど時間は経っていないということ。
 時間の流れから見ても、本州に向かった志々雄が偶発的に遭遇したラーメンマンを殺した可能性が高いということ。
 志々雄真実という男が、国盗りを目論むほどの悪党であるということ。さらには、
「趙公明が犯人という確率はまずゼロです。なぜなら、私は夕方頃、愛知県で彼に襲われましたから」
 Lのこの証言により、志々雄の有罪はほぼ立証された。
 では、ラーメンマンはなぜ趙公明を倒せなどと書き記したのか。
「趙公明は、非常に好戦的な輩です。運が悪ければ、私も死んでいておかしくなかった。おそらく、ラーメンマンは一度趙公明と戦ったのでしょう。そして敗れた。その傷が祟って死んでしまったという可能性もあります」
 Lの考察は、恐ろしいほどに的を射ていた。
139正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:30:07 ID:Hnm0ghg80
 趙公明に志々雄。ラーメンマンが倒せなかった悪。このメッセージは、友にその願いを託したかった証拠に違いない。
「たぶん、志々雄からわたしのことを直接聞いたのかもしれんのぉ。バッファローマンといいラーメンマンといい、バカばっかじゃ」
 今なら分かる。
 あの時、キン肉マンを呼んでいたのは牛丼などではなかったのだ。
 友の魂の声。それを聞き取れるのは、固い友情で結ばれた正義超人だけだ。
「まったく……どいつもこいつも簡単に死にやがって…………」
 泣いていた。
 みっともなく泣き叫ぶことはしなかったが、先程よりも悲痛な涙が、キン肉マンの頬を塗らしているのが見えた。
「キン肉マンさん……」
 この人も、仲間の死に直面している。
 セナは他人事のように思えなかった。数時間後には、自分もキン肉マンと同じ思いをしているかもしれない。
 そう思うと、
(苦しい……)
 押し寄せる心配という重圧に、セナの小さな心臓は押しつぶされそうだった。
 


 その後、剣心とLの力を借りてラーメンマンを埋葬した。
 それぞれの胸中には、いったいどんな思いが渦巻いているのか。
 悲しみは当然として、悲しみの裏に潜む感情はなんのか。
 この時には、誰も分かっていなかった。


 〜〜〜〜〜
 
140正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:32:28 ID:Hnm0ghg80
 その後、暗いムードの中情報交換が行われた。
「それじゃあ、Lたちはこれから四国に行くのか?」
「いえ、検討中です。この際だからはっきり言いますが、今四国に行くのは非常に危険です。力を持たない私たちだけでは」
「キン肉マンさんは四国に行くんでしょう!? なら、僕も連れて行ってください」
「セナ殿!?」
 Lの言葉を遮り、セナはキン肉マンへ同行を申し出た。
 ラーメンマンのメッセージよれば、四国には太公望なる人物がいる。どんな人物かは知らないが、協力という言葉から察するに、信頼に値する人物なのだろう。
 ならば、キン肉マンが四国に行かない理由はない。しかし、
「いや、残念だがそれはできん」
「え……どうして……」
「ラーメンマンには悪いが、わたしは四国に行っている暇はない。志々雄が想像以上に危険なのだと分かった以上、一刻も早くたけすぃを助け出す必要がある」
 キン肉マンの言うことももっともだった。志々雄がなんの目的で七歳児の誘拐に及んだのかは不明だが、いつ殺されてもおかしくない状況にあることは確かだ。
 だが、それでは、
「そんな……じゃあ、ヒル魔さんは……」
「キン肉マン、でしたら私も同行させてはくれませんか?」
 落胆するセナに、Lが追い討ちをかけるような提案をした。
「L殿!? それはどういうつもりでござるか!?」
「そうじゃ。おまえさんの仲間は四国で行方不明なんじゃろう? だったら一刻も早く行ってやるべきだ」
「ですから、先ほども言ったように我々だけでは危険なのです。それに、あなたは志々雄だけでなく趙公明も倒すつもりなのでしょう? あいつは……私の仲間、ムーンフェイスの仇です」
 仇、という言葉が重く感じられた。
 普段あまり感情を表に出さないLも、怒りに震えることがあるのだろうか。付き合いの浅い一同には分からなかったが、だからこその利点もある。
「私の最終目標は脱出です。ですが、できることならその前に……趙公明に一矢報いたい。他ならぬ、ムーンフェイスのために」
 この言葉も、Lの計画の一端に過ぎない。
 自分に人を惹き付けるカリスマが欠けていることは理解している。もはや自分の言葉ではセナの思いは動かせないだろう。
 だから、キン肉マンを利用させてもらった。話によれば、彼は志々雄がどこに潜伏しているかは知らないという。ならば、四国に行くよりもマーダーに遭遇する確率は低いはず。
 仮に運悪く遭遇したとしても、正義超人なるキン肉マンと行動を共にしていたほうが、生き残れる可能性は高い。
 ここまで言って、セナが心変わりをしてくれれば幸いだと思う。だが、最悪彼らが単独で四国に向かったとしても支障はない。 
 なにせ、キン肉マンも九州から来たのだから。
141正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:34:17 ID:Hnm0ghg80
(……これはさすがに不謹慎でしたね)
 もちろん、これ以上犠牲は出したくない。
 だが、計画を円滑に進めるにはある程度妥協する必要がある。
 自分に人を動かせる能力があればいいのだが……残念なことに、正論だけでは罷り通らない人間が多いらしい。
(人間の感情というものは本当に難しい)
「分かったでござる。セナ殿、残念だが四国行きは諦めよう」
「――!? 緋村さんまで!?」
 Lの言葉が伝わったのか、剣心は早くも妥協してくれた。
 大局を見た判断だとLは思う。しかしセナはやはり納得してくれなかった。無理もない。知り合いの生死が気にならないはずがない。
 それでも、さすがに一人で四国に向かうなどとは言わないはずだ。この少年、真は通っているが、気質は臆病者のように思える。
(すいません、姿も知らぬ仲間たち。今は、より確実で安全なルートを選びたいのです)
 やや強引だったが、物事はLの思惑通りに進んだ。
 と思いきや、

「四国へは……拙者が一人で向かうでござるよ」

 緋村剣心が笑顔でそう言った時、Lは眉を細めて不快な顔を作り出した。


 〜〜〜〜〜


 独りとなった剣客が、下津井瀬戸大橋を行く。
 目的地は四国香川県。消息不明の仲間を求め、剣心は単独での捜索に躍り出たのであった。
「あと数分で放送でござるな……それまでになんとか四国入りしなければ」
 死の宣告は、足音を立てず近づいてくる。剣心がその放送で嘆くのは、まだ先の話。
 今は一刻も早く、ヒル魔とナルトを探し出す。仲間を救う。
 殺人剣を捨て、活人剣を取った剣客は、仲間の死を望まない。
 もう、誰かが死ぬのはたくさんだ。
142正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:35:38 ID:Hnm0ghg80


 〜〜〜〜〜


 剣心が提案した、単独でのヒル魔捜索。
 もちろん、それを聞いて良案と判断した仲間はいなかった。
「緋村さんが一人で? 正気ですか? 今、四国は非常に危険なのですよ」
「心配無用。拙者も自分の腕前は弁えているでござる。例え鞘だけでも……十分自分の身は守れるでござる」
 逆を言えば、自衛の手段しか持たぬと言っているようなものだ。
 それこそが、剣心の言葉の意味。仲間を守る余裕はないが、自分一人ならなんとかなるという自信から来るものだった。
「で、でも! やっぱり一人じゃ危険ですよ……」
「一人だからこそ、危険も薄れるのでござるよ」
 剣心の心のうちが読み取れなかったセナは、彼の言葉を受け入れることが出来なかった。
「でも、もし緋村さんもヒル魔さんみたいに戻ってこなくなったら……」
 それが、一番怖い。
 剣心とは一日行動を共にした仲だ。命も救ってもらった。できることなら、自分も助けになりたい。
 でも、なにもできないのが小早川セナの現実。
「セナ殿」
 そんなセナの思いは、誰よりも分かっている。
 守られてばかりが嫌なのだ。力を求め、自分も戦いたい。そうまでは思わなくても、少年は守られてばかりの自分を嫌っている。
 だからこそ、余計に守らなければならない。
「拙者は、必ず帰る」
 今は、この言葉を信じて待っていて欲しい。
「緋村さん……」
 今度は、ちゃんと伝わった。
 剣心がなにを思い、決断したのか。
 傍にいるだけが、守ることではない。
143正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:39:51 ID:Hnm0ghg80
「緋村さん、あなたの考えはよく分かりました。しかし、やはり危険なことに変わりはない。それでも行くつもりですか?」
「申し訳ない。L殿の言い分も分からなくはないが、拙者はやはりこういう人間なのでござる」
 Lの確認を兼ねた言葉に対し、剣心は苦笑気味に答えた。やはり決意は変わらぬようである。
「……分かりました。では、万が一の時に備えてこれを渡しておきましょう」
 Lもついに折れたのか、溜息を吐いてから剣心に物を渡す。
 それは、万が一の場合を想定しての切り札。セナたちには未だ明かしていなかった、GIカードであった。
「これは?」
「私の支給品です。『初心(デパーチャー)』という魔法のカードで、対象を選択し使用するだけで、その対象となった参加者をスタート地点……おそらくは、『この日本に連れて来られて最初に立っていた地点』に移動させることができます」
 実は列車のデイパックから得たものであるということと、『同行』『交信』の存在は伏せ、それを差し出した。
「おそらく、とは腑に落ちない言い方でござるな」
「それは表記が『スタート地点』となっているからです。十中八九この日本に最初に降り立った場所と考えられますが、ひょっとしたら……あの『主催者がルール説明を行った部屋』という可能性もあります。まぁ、その可能性は限りなくゼロですが」
 一同の脳裏に、スキンヘッドの爆破シーンが再現される。
 スタート地点に舞い戻るカード。このスタート地点というのが具体的にどこを示すのかは分からないが、万が一主催者の目の前にでも出れば洒落にならない。
 Lの予想では、そんな都合のいいカードが支給されるはずはないと思っている。だとすれば、スタート地点とはこの日本のどこかのことだろう。
「スタート地点……L殿の予想が正しければ、拙者の場合は鹿児島県に移動するということでござるな」
「はい。もし万が一あなたがゲームに乗った参加者に襲われ、窮地に立たされた場合にお使いください。一瞬で鹿児島まで移動できるはずです。ところで、鹿児島のどの付近だったかは覚えていますか? 例えば海岸線だったとか」
「いや、普通の町でござったな。それが何か?」
「そうですか。いえ、特に意味はありません。忘れてください」
 鹿児島……もしかしたら沖縄の存在が確認できるかもと思ったが、有益な情報は聞きだせそうになかった。
「しかし、鹿児島となれば日本の最南端。L殿たちとの合流が難しくなるでござるが……」
「それでも、命を取られるよりはマシです。それに、もし襲ってきた相手が一人だった場合には、相手に対して使ってみるのもいいでしょう。名前が分からなければ使えませんがね」
「ふむ」
「それと一つ注意を。もし対象にした参加者のスタート地点が禁止エリアとなっていた場合には……どうなるかお分かりですよね?」
 考え得る『初心』の扱い方を伝授するL。このカード、融通は利かないが、自衛には向いている。
 そんな有益なものを、なぜLは手放すのか。簡単である。剣心に死んで欲しくないからだ。
 Lとて、仲間の死は望まない。計画の達成は大事だが、彼の目的は脱出による完全勝利。誰かを犠牲にした上での勝利など、好ましくない。
 そして、全てを聞き終えた上で、剣心は差し出されたカードを拒絶した。
「これは受け取れないでござる」
「なぜ?」
「これは、とても応用が利く代物でござる。使い方を誤らなければ、多くの参加者を生かすことが出来る。それを拙者一人のために使うなんて、勿体無い。これは、L殿が持っているべきでござろう」
144正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:42:22 ID:Hnm0ghg80
「心配するな剣心。セナ達はわたしが必ず守り通す。じゃからこれはおまえが持っておくべきじゃ」
「キン肉マンの言うとおりです。武装が鞘だけでは、我々も安心して送り出せない」
「そうだよ緋村さん! 頼むから、これ持って行ってよ!」
 三者から『初心』の所持を求められても、剣心はそれを頑なに断った。
 しきりに「大丈夫」と口にし、笑顔ではあったが頑固な態度を示す。
 いつまでもこうしていては時間の無駄なので、半ば強引に出発してしまった。


 〜〜〜〜〜


 そして、現在に至る。
 剣心の頼れる武器は斉藤の刀の鞘のみ。
 それでも怖気づいたりはしない。
 剣心には、帰るべき場所がある。
 死ぬつもりはない。
 ヒル魔とナルトを連れ、セナたちの下へ帰る。
 守る。
 自分で立てた、誓いのために。


 〜〜〜〜〜

145正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:44:18 ID:Hnm0ghg80
「では、我々はたけすぃ君を探しに行きましょうか」
 剣心を見送り、残された三人は志々雄に連れ去られたたけしの捜索に出ることにした。
「そうじゃな。早くせんと、たけすぃがどんなエライ目に遭うかわかったもんじゃないわい」
「いや、そう焦らなくても大丈夫だと思いますよ。ラーメンマンを殺したのが志々雄だというのはまず間違いないとして、彼が死んだのはほんの一、二時間前だと推測できます。
昼から歩き尽くめ、さらに実力者との戦闘、そして子供連れともなれば、疲労もかなり溜まっていることでしょう。緋村さんの話では、彼はあなたと違って普通の人間のようですし」
「む……つまりどゆこと?」
「この近隣……おそらくは関西近辺で休息を取っている可能性が高いということです。既に夜も遅いですしね。人気のある民家を虱潰しに探せば、おそらくは」
 Lの推理に、キン肉マンは深く感心した。たった一つの死体と簡単な情報から、そこまで想像してしまうとは。
「なるほどのぅ……いや〜、しかしLは頭がいいのぉ! わたしも心強いぞ!」
「恐縮です」
 キン肉マンはLの背中をバンバン叩き、ラーメンマンの死のショックなど忘れてしまったかのように笑い飛ばす。
 どうやらかなり気に入られたようだ。Lとしても実力のある仲間ができるのは嬉しいが、どうにも付き合いづらい人種である。
「…………」
 意気揚々と前を行く二人の後ろ、セナは一人頭上に暗雲を立ちのぼらせていた。
 やはりまだ心配が尽きぬのか、しきりに振り向き自分が通ってきた道を見返す。
「……小早川君」
「……なんですか?」
セナから返ってきたのは、警戒しているようにも聞こえる冷たい声音だった。
 どうやら酷く嫌われたようだ。やはり信頼を築くというのは難しい。Lは人間関係に頭を悩ませながらも、言葉を発した。
「先ほどは私も言い過ぎました。知り合いの安否を確かめたいというあなたの気持ちは当たり前の感情です」
「Lさん……」
「ですが、どうか私を信用して欲しい。私はいくつか脱出のためのプランを考えているといいましたが、それには仲間の協力が不可欠です。だから、私は緋村さんにも小早川君にも死んで欲しくない。もちろん、ヒル魔君とナルト君の二人にも」
 これが、Lの出せる精一杯の表現方法だった。
「それは……分かってますよ」
 セナも、別段頑固な性格という訳ではない。Lの行動や言動も、全ては最終的な目標のため。それは理解している。
 ただ、自分がそこまで利口に生きられないだけなのだ。
(駄目だよね……こんなんじゃ)
 セナは、心中で静かに自分を叱咤した。
146正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:45:22 ID:Hnm0ghg80
「大丈夫か、セナ? 疲れたなら、わたしが担いでやるが」
「いいえ、大丈夫です。僕、これでも体力には自信あるから」
 そう言って、セナは先頭に駆け出した。
 心配は止められない。
 それでも、前を向こう。
 ヒル魔に笑われないように。
 彼の無事を祈ろう。
 大丈夫。
 泥門デビルバッツの司令塔が、簡単に死ぬはずない。



 ――少年は願う。
 自分を守ってくれた、二人の存在。
 その無事を。
 今は先を進もう。
 だから、
 必ず後から追いかけて――

147正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:46:50 ID:Hnm0ghg80
【岡山県・下津井瀬戸大橋/真夜中】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、精神中度の不安定
【装備】刀の鞘
【道具】荷物一式
【思考】1.香川を重点的に、四国でヒル魔とナルトの捜索。
    2.二日目の午前6〜7時を目安に、大阪市外にてセナ達と合流。
    3.姉崎まもりを護る(神谷薫を殺害した存在を屠る)
    4.小早川瀬那を護る(襲撃者は屠る)
    5.力なき弱き人々を護る(殺人者は屠る)
    6.人は斬らない(敵は屠る)
    7.抜刀斎になったことでかなり自己嫌悪
   (括弧内は、抜刀斎としての思考ですが、今はそれほど強制力はありません)


【岡山県/真夜中】
【小早川瀬那@アイシールド21】
 [状態]:健康
 [装備]:特になし
 [道具]:支給品一式 野営用具一式(支給品に含まれる食糧、2/3消費) 特記:ランタンを持っています
 [思考]:1、Lと共にキン肉マンの志々雄打倒に協力する。
     2、剣心、ヒル魔、ナルトと合流(二日目午前6〜7時を目安に、大阪市街で待ち合わせ)
     3、姉崎との合流。
     4、これ以上、誰も欠けさせない。
148正論と願望、対立する思い ◆B042tUwMgE :2006/06/15(木) 00:47:37 ID:Hnm0ghg80
【キン肉スグル@キン肉マン】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1、志々雄を倒し、たけしを助け出す。
     2、剣心、ヒル魔、ナルトと合流(二日目午前6〜7時を目安に、大阪市街で待ち合わせ)
     3、趙公明を倒す。できれば太公望とも合流したい。
     4、更木を追い、今度こそ仲間にする。
     5、ゴン蔵の仇を取る。
     6、仲間を探す(ウォーズ、ボンチュー、マミー、まもり)

【L(竜崎)@デスノート】
 [状態]:右肩銃創(止血済み)
 [道具]:デスノートの切れ端@デスノート・GIスペルカード(『同行』・『初心』)@ハンターハンター ・コンパス、地図、時計、水(ペットボトル一本)、名簿、筆記用具(ナッパのデイパックから抜いたもの)
 [思考]:1・キン肉マンの志々雄打倒に協力。関西方面を重点的に捜索。
     2・剣心、ヒル魔、ナルトと合流(二日目午前6〜7時を目安に、大阪市街で待ち合わせ)
     3・現在の仲間達と信頼関係を築く。
     4・沖縄を目指し、途中で参加者のグループを探索。合流し、ステルスマーダーが居れば其れを排除
     5・出来るだけ人材とアイテムを引き込む(九州に行ったことがある者優先)
     6・沖縄の存在の確認
     7・ゲームの出来るだけ早い中断
 [備考]:『デスノートの切れ端』『同行』『交信』の存在と、鹿児島を目的地にしていることは、仲間にはまだ打ち明けていません。仲間が集まり信頼関係が十分に築ければ、全て話すつもりです。
149ウェミダー ◆XjTXHm0/3E :2006/06/15(木) 10:32:22 ID:NgeLDLO40
「丸太か!!」

そうヤムチャは忍術を使って、この場を回避した。

「へへへ、丁度いい。
 あの技を見せてやるぜ・・・」
ヤムチャから青白いオーラが湧き上がる。

「スタンド!!”キャッツ オブ ブラック カオス”」

雄たけびと共に、青い体毛を逆立て、赤く染まった目を持ち、
体は3メートルはあるかのプーアルが出現した。

そして、一瞬の内にダークタカヤを肉縛した。
150ウェミダー ◆XjTXHm0/3E :2006/06/15(木) 10:34:03 ID:NgeLDLO40
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:スーパーウルフ化
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@生存確認】
151作者の都合により名無しです:2006/06/15(木) 11:20:13 ID:IbmYTGAdO
1―150は無効です。
152勉強男 ◆drwetRDQqY :2006/06/15(木) 12:07:41 ID:U5U3azmaO
>>1ー151は無効です
153清里高原大炎上戦修正1/2 ◆PN..QihBhI :2006/06/15(木) 13:10:09 ID:0Uz/DIVL0
清里高原大炎上戦T&Uの修正を投下します。

変更点1>>78 25行目と28行目
「待て、驚くのは早いぞよ。アレを見るのだ」→「待て、驚くのは早いぞ。アレを見るのだ」

やがて徐々に開き始める花弁。そして槇村香は息を呑んだ。夜空に咲いた巨大な山百合、その中心には趙公明の場違いなほどの爽やかな相貌が、くっきりと刻まれていたのだ。
↓(見ずらいので改行)
やがて徐々に開き始める花弁。そして槇村香は息を呑んだ。
夜空に咲いた巨大な山百合、その中心には趙公明の場違いなほどの爽やかな相貌が、くっきりと刻まれていたのだ。

変更点2>>80 太公望のセリフ二ヶ所
「た、耐えるのだ。これはおぬしにしか出来ぬことなのじゃぞ」→「た、耐えるのだ。これはおぬしにしか出来ぬことなのだぞ」

「危なっ。ふう、よいか、虎穴に入らずんば虎児を得ず。わしらの狙いは『首輪』の付いておるやつの『顔』じゃ」

「危なっ。ふう、よいか、虎穴に入らずんば虎児を得ず。わしらの狙いは『首輪』の付いておるやつの『顔』だ」

変更点3>>82 太公望のセリフ二ヶ所
「デスマスク。しっかりするのじゃ」→「デスマスク。しっかりするのだ」
「デスマスク、一体どうしたというんじゃ」→「デスマスク、一体どうしたというのだ」

変更点4>>84 1行目と2行目
趙公明のお喋りはそこで終わった。→趙公明の声はそこで途切れた。
デスマスクの隠し持っていた石弓(ボーガンのこと)。→デスマスクの隠し持っていたアイアンボールボーガン、
154清里高原大炎上戦修正2/2 ◆PN..QihBhI :2006/06/15(木) 13:11:02 ID:0Uz/DIVL0
変更点5 Uのタイトル
『清里高原大炎上戦U』マグレだとしても。→『清里高原大炎上戦U』プラネタリウムに花束を。

変更点6 >>104の9行目10行目
あばよ、と言って闇の中に消えてゆくデスマスクに向かい、香はもう一度、ありがとうと叫んだ。

あばよ、と言って闇の中に消えてゆくその男の背中に、香はもう一度、ありがとうと叫んだ。

直後、暗闇に光が指した。眩しさに眼が眩む。熱い、眩しさの正体は、立ち上る炎だった。

直後、暗闇に光が指した。眩しさに眼が眩む。熱い、眩しさの正体は、迫り来る業火だった。

変更点7 >>105の下から2行目
そして自分達も、最早幾許も無く、生きたまま火葬されようとしている。

そして、まもなく自分達も、生きたまま火葬されようとしている。

変更点8 >>111のUの仙道と香の状態表の思考両方
?→前向き

以上。CGI氏マジすいません。
155作者の都合により名無しです:2006/06/15(木) 17:31:55 ID:IbmYTGAdO
149―150は神です
156第四放送[二日目00:00] :2006/06/16(金) 23:54:54 ID:6crS5Ju60
終わった。
戦乱と騒乱と狂乱と悲劇と喜劇と惨劇を均等に等分に分明に
混ぜ合わせ潰し合わせ選り合わせた一日目が終了した。
夜空に輝くのは満天の星。
殺戮遊戯の舞台に第四放送が響き渡る。




――初日を生き残った皆さん、おめでとうございます。
お元気ですか?私フリーザが第四放送を担当します。
それでは現在までに脱落した者の名と午前二時からの禁止エリアを発表しますので、お聞き逃しの無いように。
ああ、バーンさんのような詩的な台詞がなくてすみませんね。フフフ……


――夜神月、蛭魔妖一、更木剣八、ラーメンマン、リサリサ、真崎杏子、マァム、伊達臣人、デスマスク
クリリン、太公望、趙公明、リンスレット・ウォーカー、ティア・ノート・ヨーコ、ターちゃん――


以上15名が第三放送から第四放送までの間の脱落者です。
前回の放送よりもだいぶ減ってしまいましたね……
それでも一日目で半数以上の脱落なら上出来です。及第点といったところでしょうか。

しかし脱落者が少なくなっていくのは遺憾であり、残念無念極まりない。


そこで、ですね。


慈悲深い私は優勝者に『ご褒美』を与えることにしました。
丁度一日目も終わりましたし、生き残った皆さんへのささやかなお知らせですよ。
とてもとても殺る気の出る、ね――
157第四放送[二日目00:00] :2006/06/16(金) 23:57:33 ID:6crS5Ju60
今回新たに追加する優勝者への『ご褒美』は誰か御一人の『蘇生』です。
まあこのゲームの参加者限定の話ですけどね。
あ、全員蘇生というのは無しですよ?あくまで御一人限定ですから。

信じられない方もいらっしゃるでしょうが、
こちらのハーデスさんはあの世を支配する冥王ですからね。
期待してもらっていいですよ?
もし近くに聖闘士の方がいらっしゃるなら聞けばわかります。――ねえハーデスさん。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ああ。




……とまあこんなわけです。では皆さん、頑張ってください。
それと特別にハーデスさんのお気に召した方は―――


―――――待て。


ああ、そう言えばそうでしたね。あなたが見たいのは唯のご機嫌取りではないと、そういうことでしたね。
―――そんなに睨まないでくださいよハーデスさん。フフフ……

158第四放送[二日目00:00] :2006/06/16(金) 23:58:34 ID:6crS5Ju60










―――二人とも、下らぬ諍いはやめよ。

果敢に戦い、激情に焼かれ、無限に苦しみ、怨嗟を叫び、壮絶に散っていった
もののふ達の名を呼ぶときに、愚劣なことをするな。


ヒトの命とは儚いものだ。流星のように一瞬で燃え尽きるのみ。
その過程は激動と狂気と暴走に満ちているだろう。
だが、それ故に美しく、高潔なものだ。ヒトよりもはるかに長寿な魔族のほとんどが、
その一瞬の輝きを得ることも出来ずに朽ちていく。
命の輝きという意味では、ヒトは魔族よりはるかに優れた種族なのだ。




―――おや、バーンさん。いらしてたんですか?
今回の放送は私の担当の筈ですから、あなたはてっきり星を肴に晩酌でもしているものかと。



―――少々気が変わってな。生き残った戦士達に一言、言いたくなった。
159第四放送[二日目00:00] :2006/06/16(金) 23:59:31 ID:6crS5Ju60
一日目を生き残った戦士達よ、ご苦労であった。
いずれも劣らぬ強靭な者達ばかりで余は満足だ。
この蠱毒の舞台で最後まで生き残った者は、
精神的にも肉体的にも比類なき強さを備えた最強の戦士となるだろう。

それでは戦士達よ、健闘を祈る。



―――私も見ているだけで十分楽しかったですよ。二日目にも期待しています。



さて、バーンさんの御高説を承ったところで午前二時からの禁止区域を発表します。
そうですね……今回から禁止エリアは三つにしましょう。
『ご褒美』を貰うにはそれなりの代償が必要なのですよ……


今回の禁止エリアは『青森県』『徳島県』『長崎県』です。
このエリアに滞在中の人は早々に出たほうがいいですよ?
特に四国と九州にいる人、このゲームを隠れて乗り過ごそうなんて、虫が良すぎますよ。
では、第五放送でお会いしましょう―――






【二日目開始  残り59人】
160リンスレット・ウォーカーの脳内モルヒネ:2006/06/17(土) 11:40:01 ID:KeEivT220
パチ
「ここは、どこ?」
リンスがいたのは何もない空間、目の前に一人全裸の男がいる。

「目覚めたかい?リンス・レットウォーカー」
その男は、あまりにも美しすぎる笑みをもらし、わたしに語りかけた。

「あ、あなたは・・・タカヤ様?」
その男、タカヤはわたしを優しく抱きしめた。

「わたしの為に、闘ってくれないか?」

O S 『リ ン ス レ ッ ト ・ ネ ク ロ マ ン サ ー』発動

161リンスレット・ウォーカーの脳内モルヒネ:2006/06/17(土) 11:45:13 ID:KeEivT220
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:スーパーウルフ化
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:ダーク化
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.ヤムチャをころす。
    2.リンスを操る。
162作者の都合により名無しです:2006/06/18(日) 16:25:09 ID:0L7R7z9LO
1―160は無効です。ご苦労さん。
163 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 12:51:57 ID:AH/ZORRD0
栃木県の森の中、微かな月光が木々の隙間から差し込み夜の林道に斑模様を作っていた。
その光と闇が交差する回廊を危なげな歩調で歩いているのは男塾に復讐を誓う男。
江田島達に敗北し、反撃の作戦を練る拳法使いアミバである。




――くそっ、何も思いつかん!
考えれば考える程一筋縄ではいかない相手だということがわかるぜ畜生が!

敗残兵は悔しそうに歯噛みして、もう一度復讐の作戦をシミュレートする。
まず江田島平八――こいつと真正面から戦うのは無理だ。
天才の自分としては信じられないが、おそらく歯が立つまい。全く腹立たしい!
次に男塾三面拳雷電――こいつも弱くもないが、天才たる自分の敵ではない。
先程は邪魔が入ったが、あのまま戦えば自分が勝っていたはずだ。
和真と呼ばれていた男も、戦闘のノウハウがあるとはいえ所詮雑魚だ。
雷電との戦いを邪魔した二人も大した奴ではないだろう。

それでも数が多いと厄介極まりないわ!

一般人であろうガキを除いても合計五人。しかもそのうち一人は江田島平八。
夜に乗じての奇襲も通じそうにないし、手持ちの武器は弾切れのニューナンブ一丁とテニスボール二個。
打つ手なし……


嘘だ、俺様は天才なんだ。あんな奴らなど敵ではない!必ず皆殺しにしてやる、必ずだ!

天才の決意はしかし、ただただ虚しいだけだった。

164受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 12:53:23 ID:AH/ZORRD0
復讐には周到な準備が必要である。
アミバは江田島達に復讐するために、新たな獲物を探し始める。
目的は武器と回復アイテムの収集。

その眼が一人の男の後ろ姿を捕らえた。
歓喜の表情を隠しながら新たな獲物に近づき、ニューナンブの銃口を向ける。
弾は入っていないが十分な脅しになる。
銃を向けられれば人間は冷静ではいられない。
その隙を自慢の北斗神拳で突けば、殺すことなど造作もない。
だから、余裕で声をかけた。


「ククク…お前も運が無い。天才たる私に殺されたくなかったら持ち物を全て置いていくんだな」

声をかけられた男は振り返らないまま
腕を目に見えない程の速さで振り
その手刀はニューナンブを縦に綺麗に真っ二つに、割った。

そしてその巨大な身体で振り返り
悠然と返答を返した。


「それは、我を拳王と知っての物言いか?」


アミバが狙いを定めた獲物は、
こともあろうにアミバが部下として仕えていた世紀末覇者であった。

165受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 12:54:10 ID:AH/ZORRD0
ここで確認しておこう。
世紀末覇者の性格は残虐非道。
たとえ部下と言えども、拳王に銃を向けた相手はどうなるか。
もはや言うまでもないだろう。

つまり、天才拳法家は絶体絶命と言うことだ。


――バ、バカなああああっっっ!!?天は天才を見捨てるのかああっ!?
内心では死を覚悟しながら即座に平伏する。
「け、拳王様とは知らずとんだ御無礼をっ!」


こんな謝罪では助かろう筈がない。
いや、どんな謝罪でも助かる筈がないのだ。
本来ならば。


――しかし、いつまでたっても拳が来ない。
不思議に思い恐る恐る顔を上げると、拳王は天を見上げていた。
その目は遠く離れた星空を見上げており、アミバなど眼中に入っていないようだった。

どうやら命は助かったらしい。
アミバは安堵すると同時にピンと閃いた。
拳王を江田島達にぶつけてみてはどうだろうか。
俺様にも拳王だけは殺せない。流石に格が違う。
――しかし、あの集団と戦った後の拳王ならば、俺様にも勝機はある。
江田島達に復讐も出来るし一石二鳥、やはり天は俺様に味方している!
166受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:04:38 ID:AH/ZORRD0
災い転じて福と為す。
棚からぼた餅を奪い取る。
転んでもただでは起きない。
バイタリティは間違いなく一流の天才であった。


「あ、あの、拳王様。お話があるのですが…」
アミバは覚悟を決め、夜空を見上げるラオウに話しかける。
拳王はどうでもよさそうな態度でアミバのほうを見ようともしなかったが、
その口からはアミバの望んだ言葉が飛び出た。
「…申してみよ」
――よし、乗ってきた。さあ、江田島め、地獄を見るがいい!
アミバは先程出会った集団のことを話した。
その集団と戦ったこと。その中には強い戦士が何人も含まれていること。
その集団に自分の顎骨が砕かれたこと。

そしてその集団に江田島平八が含まれていること。


拳王は暫く沈黙していたが、やがてその腰を上げた。
「…いいだろう。案内せよ」
その言葉にアミバは心の中でファンファーレを鳴らした。
――ククク…ハァッハーッ!江田島ァ、これで終わりだあっ!
江田島の死を確信して、案内の為に前に立つ。
戦いの後こっそり後をつけたので、あの集団が潜伏している民家はわかっている。
間違えてスキップでもしてしまいそうな気持ちだった。
167受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:11:38 ID:AH/ZORRD0
しかしラオウには、先に立って案内するアミバなど眼中に入ってはいなかった。
その目が見続けているものは、北斗七星の横に輝く一つの星。
――まさかこの拳王が死兆星を見ることになるとはな。
この死兆星は我が末弟との戦いを暗示したものか、それとも、
――江田島、ウヌとの戦いを暗示したものなのか?
どちらにせよ、此度の再会でわかることだ。ウヌとの戦いでな。

拳王は歩を進める。その心を満たしているものは戦いへの自信か、それとも期待か。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

江田島達の一時の拠点となっている民家。
第四放送が流され、その放送について話し合おうと休息中の五人の男が話し合っていた。

「桑原君はどこのポジションがいい?DF…いや攻撃的だからFWかなあ。
MFってのもいいかもしれない。でもやっぱり本人の希望に沿った方がいいよね!」
翼が桑原にサッカーチームの具体的なポジション決めについて話を振れば、
「こんな時に何言ってやがんだ…」
桑原がその話の内容に呆れ、
「やれやれだぜ」
承太郎が溜息をつく。
絶妙なコンビネーションを発揮する三人だった。


桑原がまだ話し足りなさそうな翼を無視して話をサッカーから第三放送へと戻す。
「一人だけ生き返らせることが出来るって話だがな…
ありゃ本当だと思うぜ。玄海ってバーサンが生き返った事例がある」
その言葉を聞いて承太郎が即座に切り返す。
「桑原、お前はゲームに乗るのか?」
あまりにも直接的な言葉に翼が思わず息を呑んだが――
168受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:14:12 ID:AH/ZORRD0
桑原はさも心外だと言わんばかりに首を振る。
「冗談じゃねえ!あんなクソ野郎どもの言いなりになんかなるか!
浦飯の奴もそんなことは望んでねえよ」

その言葉に承太郎は納得したかのように頷いた。翼も胸を撫で下ろす。

と、このように三人は今回の放送では知り合いの名前が呼ばれなかった為、
比較的余裕を持って話し合っていた。
ただ、桑原にしてみれば夜神月という青年の名前が呼ばれたことにより、
同行している友情マンが心配ではあったが。



しかし、残りの二人――男塾の面々はそうではなかった。


伊達臣人。
男塾の中でもトップクラスの実力を誇る一号生の名前が呼ばれたのだ。
「伊達殿が…信じられん」
特に伊達をリーダーとして慕っていた雷電は動揺を隠しきれていない。
その一方、江田島は特に動揺した様子も見せずこれまでのように言い放つ。
「男として戦いの果てに力尽きることは本懐である!伊達も見事な戦いの末に力尽きたに違いあるまい!」


その言葉に反応したのは、本来全く関係ないはずの男、桑原和真であった。
「おい…おっさん。知り合いが死んだってのにそれはねえだろう?
すぐ傍に悲しんでいる人間がいるってこともわかんねぇのか?」
真っ直ぐすぎるヤンキーに、江田島の無神経な言葉を看過することが出来るわけがない。
169受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:15:16 ID:AH/ZORRD0
江田島はその言葉に全く怯まない。

「我が男塾生にそのような軟弱者はおらんのである!」

自らの意見を曲げる気は更々ないらしく、そのまま民家の外に出て行く。
その態度に激昂して立ち上がり、江田島の後を追おうとした桑原を雷電が抑えた。
「待たれよ和真殿!」
しかし桑原は止まらない。抑える雷電を撥ね除けんばかりの勢いだ。
「離せ!あんたも悔しくねえのか!
俺はあいつみてえな人の心や命を何とも思っていねえようなクソッタレが大嫌いなんだ!
一発殴ってやらねえと気が済まねえ!離しやがれ!」
そうして二人が押し合いへし合いしていると、



「ぬおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっっっ!!!」



外から大気を震わす叫び声が聞こえてきた。
同時に何かが砕け散るような破砕音。
(敵襲か?)
民家の中にいた四人は急いで外に出る。


するとそこにいたのは敵ではなく――粉々に砕け散った岩と、
その前に立つ江田島平八であった。
その後ろ姿からはもう何も感じ取ることは出来ないが、
岩を砕いたのが彼であることは容易に想像がついた。
その姿を見て桑原は悟った。江田島が決して悲しんでいなかったわけではないと。
いままで溜め込んでいた怒りや悲しみを、岩を砕くことで発散したのだと。
170受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:16:15 ID:AH/ZORRD0
「塾長にとって塾生は我が子も同然。
その塾生が死んだことは塾長にとって如何程の苦痛か想像もつかぬ。
しかし塾長は決して泣き言を言わぬ。
何故同行者の士気を下げるようなことが言えようか!
今まで誰が死のうと塾長は、その感情を自分の胸の中に封印してきたのだ。全く恐れ入る…」
雷電が尊敬の眼差しで江田島を見つめる。


――おっさん…あんた漢だ、感心したぜ。
さっきはアンタのことをクソッタレなんて言っちまったが訂正する。
そこまで仲間のことを…チッ、目から汗が出てきやがったぜ…
桑原は目を擦りながら漢の背中を見続ける。
――監督…そこまでチームの士気のことを考えていたなんて…まさに監督の鏡だ!
その横にいた翼も感動で目を潤ませていた。
またもや空気に取り残された承太郎が溜息をつきながら告げる。

「やれやれ…お取り込み中のところ悪いが”お客さん”だぜ」




木の影から現れるのは、巨躯の男。
戦意を隠そうともしない姿に、外に出ていた全員が厳戒態勢を取る。
しかし、その男――ラオウは他の人間には見向きもせず江田島だけを相手に言葉をかける。
「ウヌと会うのは一日ぶりといったところか」
江田島はその男を覚えていた。まだ二人の少年と行動を共にしていたころの鮮烈な遭遇を。

――この男は確か昨日出会った……
この殺気、わしとの決着をつけにきたか!
ちょうどよい、少々暴れたかったところである!
171受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:26:38 ID:AH/ZORRD0
不敵に笑みながら言葉を返す。
「もう一日になるか、元気そうで何よりである!」
ラオウはその言葉に苦笑する。
――我の傷だらけの身体を見て言い切るとは皮肉か?まあどうでもよいわ。
本題に入る。


「江田島、ウヌは北斗七星の横に輝くあの星が見えているか?」

「わしの視力は30.0である!」


――肯定の返事。戦いを止める理由は、もうない。


「江田島、決着をつけるぞ」

「望むところである!」

二人は向かい合い構え合う

昨日のやり直しのように

特に気張った様子もなく

静寂の中対峙する



戦いが、始まる。

172受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:37:07 ID:AH/ZORRD0
ラオウの構えを見て雷電が唸った。
「むぅ……あれは世に言う北斗神拳!!」
「知っているのか!?雷電!!……のおっさん」
「うむ、あれこそ人体を内部より破壊する恐るべき暗殺拳よ!!」


北斗神拳

一子相伝の暗殺拳で地上最強と呼ばれる拳法。 北斗神拳の真髄は極限の怒りと哀しみであるといい、愛を象徴とする。
その極意は経絡秘孔(経絡とは血の流れ、神経の流れで秘孔とはその要。経絡秘孔は全部で708あり、深く突けば血の流れを異常促進させ細胞を破壊し
柔らかく押せば体内の治癒力を活発化させる)を突くことで、身体を外部からではなくむしろ内部から破壊することにある。
また、常人には30%までしか使えない人間の潜在能力を100%使い切ることが可能で、それにより超人的な能力を発揮する。
北斗神拳はその凄絶な力と創始者の悲話ゆえに一子相伝とされている。伝承者争いに敗れた者は自ら拳を封じて隠居するか、
拳を破壊もしくは記憶を奪うことによってその拳を使えなくなるようにするという掟がある。
この拳法の創始はおよそ1800年前、三国志の時代に遡る。まだ小勢力であった西方の浮屠教徒(仏教徒)たちが、群雄割拠する乱世にあり、
その教えを守り生き抜くためにあみだした秘拳であった。発祥地は修羅の国(中国)西の砂漠にある泰聖殿。
修羅の国で古代に発祥した北斗宗家の拳から発展、成立したものらしい。分派に北斗劉家拳(北斗琉拳)、北斗孫家拳、北斗曹家拳がある。
あまりに凄絶なその秘拳は太平の世には死神の拳法として忌避され、20世紀にはただ伝説として語られるのみであった。
民明書房刊『暗殺拳――その血塗られた歴史――』より




雷電の説明が終わると同時に翼が大声をあげた。
「大変じゃないか!監督が死んじゃう!みんなで加勢しないと!」
その言葉に残りの三人の男は――動こうとしなかった。
173受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:37:45 ID:AH/ZORRD0
「いいか?タイマンってえのは喧嘩の華だ。ガチンコ勝負は邪魔するもんじゃねえよ」
桑原がヤンキーの論理を言い、
「翼、物事は”時”と”場合”と”その人間の覚悟”によって変化する。
今はその全てがこう言っている”手を出すべきじゃあない”」
承太郎もその意見に賛同し、
「左様!今、拙者達に出来ることは塾長を信じて待つことのみ!」
雷電が結論を出した。
ブチャラティは気絶中。
かくして翼の提案は賛成一、反対三、棄権一となり、この戦いに他者は関わらないことが決まった。





江田島とラオウは互いに睨み合っている。その間に言葉はない。

男の勝負に言葉は不要。後は拳で語り合うのみ。

先の先、後の先、そんな小細工など微塵も存在しない。

存在するのは、自分の肉体へ比類なき自信。

それは過信でも妄信でもなく、確信。
174受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:38:42 ID:AH/ZORRD0
「ハァッ!」
最初に動いたのはラオウ。身体をひねるようにして拳を繰り出す。颶風を纏った拳が唸る。

「ヌン!」
受け止めるのは江田島。皮膚筋肉神経全てに気合を入れ、身体全体に力を込める。

激突。

「む……」
江田島の胸を抉りラオウの拳がめり込むが、肋骨を数本砕いただけで拳は停止。突き破るには至らない。

「こんどはこっちの番じゃ!」
その隙を逃さず江田島は繰り出された左腕を自分の右腕で捕まえ絡め取り固定してラオウに接近。
ラオウは右拳を構えて迎撃体制。

「わしが男塾塾長、江田島平八である!」
江田島は拳も脚も使わず――その石頭を使っての頭突きを繰り出す。

「何!?」
左のパンチをフェイントにして意表を突いた攻撃に、回避できないラオウ。
二人の頭がぶつかり合い火花を散らす。

「ぐ……」
石頭対決は――江田島の勝利。額から血を噴出させて仰け反るラオウ。

「おまけである!」
すかさず江田島のコークスクリュー気味の左ボディーブロー。
仰け反りつつあったラオウの上体が前のめりになる。

「――」
しかし、頭突きを喰らったとき、既にラオウの脚は動いていた。
175受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:39:28 ID:AH/ZORRD0
無想陰殺。殺気を読み、相手との間合いを見切り、無意識無想に繰り出される必殺の蹴り。

「ぬおっ!?」
蹴撃が江田島の左足に炸裂し、そのバランスを崩す。決定的な隙。

「ウヌの左腕を貰う!」
ラオウの指がボディーブローの為に伸ばされた左腕の秘孔を突く。
捻じ曲がり、断裂し、動かなくなる江田島の左腕。

「いかん!」
江田島の右腕とラオウの左腕は最初の攻防で組まれており、両者とも使用不可。

「終わりだ!」
左腕が使えない江田島の頭に、破壊の権化であるラオウの右拳が迫る。

「まだ終わりではないわ!」
と、ラオウの股間に衝撃。勃起した江田島のムスコが人体の急所を襲撃。

「な!?」
絶対に予想できない攻撃にラオウの右拳の照準が狂う。

「全く、つくづく親孝行なムスコじゃわい!」
その拳を首を捻ることだけで避け、江田島は大きく口を開ける。

「これでおあいこじゃい!」
狙うは自分の右腕を固定しているラオウの左腕。その強靭な顎でその左肘を食い千切る。
要である関節を失った腕はもう使い物にならない。

「おのれ……!」
これで二人とも左腕が使えなくなり、間合いは超至近距離。繰り出される二つの右拳。
176受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 13:44:00 ID:AH/ZORRD0
「砕けよ!」
「わしが男塾塾長、江田島平八である!」
二人の拳が交差する。渾身の一撃はそれぞれの顔面にクリティカルヒット。
弾け飛ぶ歯、血、肉、骨。

「がっ!?」
「ぐうっ!」
その衝撃に両者とも後ずさる。間合いは中距離。しかし二人にとっては必殺の距離。




共に片腕を失い
満身創痍で傷も深く
いつ死んでもおかしくない出血量
決着の時に辿り着き
確実にどちらかが息絶える段階になって






それでも二人は笑っていた。

まるで戦いを終わらせるのが惜しいかのように。



177受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 14:03:09 ID:AH/ZORRD0
――天よ、感謝する。ここまでの男を我の前に現れさせたことに――
「北斗――」ラオウの右掌にオーラが集中する。


――これほどの男がまだいたとは――是非男塾に入って欲しいものである!
「千歩――」江田島の右拳に気が溜められる。


二人の間のオーラは既に飽和状態。その均衡が今、破れる。



「剛掌波!!!」
「氣功拳!!!」



衝撃波がぶつかり合い、充満したオーラが大爆発を起こす。

地面の土は吹き飛び、周りの木は根こそぎなぎ倒される。


「翼!伏せろ!」
承太郎はスタープラチナを出現させ、翼を余波からガードする。
桑原、雷電も各々の方法で防御。

余波が去っても土煙が辺り一帯を覆い、周りが何も見えなくなるが
時間と共に段々と視界が回復してくる。
土煙が晴れ、そこに現れたのは
地面に穿たれた巨大なクレーターと未だ対峙し続ける二人の男。
178作者の都合により名無しです:2006/06/19(月) 14:03:53 ID:AH/ZORRD0
一瞬の静寂。

その静寂を破ったものは、辺り一帯に響き渡ったであろう大声。




「我は世紀末覇者、拳王ラオウなり!!!」

「わしが男塾塾長、江田島平八である!!!」




その大声に、僅かに残っていた樹木の葉が全て吹き飛んだ。
耳を塞ぐ見学者四人。


そして訪れる本当の静寂。

江田島とラオウは対峙したまま、
もうその静寂を破るものはない。


「どうしちまったんだよ一体…」
桑原があまりに動かない二人に疑問を抱く。
「いや待て、あれは……」
承太郎が違和感を感じる。
「こ、これはぁーーーーー!?」
そして雷電が、気付いた。
179作者の都合により名無しです:2006/06/19(月) 14:04:32 ID:AH/ZORRD0



「し、死んでいる………」



江田島とラオウは仁王立ちのまま、その呼吸を止めていた。
死してなお戦意を失わないとは――まさに鬼人。




「そ、そんなあーーーーっっ!!
監督、一緒にチームを作るって誓ったじゃないかあーーーっっ!!」


翼が号泣する。
折角見つけた監督。チームメイトも集まってきてこれからというところだったのに。

ロベルトのことを思い出す。
監督はいつもいつも僕を置いてどこかにいっちゃうんだ。
監督の……バカ。


「塾長…見事な大往生でした!!!」
雷電も涙を滝のように流しながら敬礼する。
男として見事すぎる死――――


しかし、その死に様に泥を塗る愚か者が、まだ残っていたのだ。
180受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 14:06:25 ID:AH/ZORRD0
その愚か者は影のように二人の死体に忍び寄ると
死体が持っているデイパックを掠め取った。
そのまま逃げ出す愚か者――アミバは走りながら哄笑する。
「ヒャハハハハーーーーー!!!思い知ったか江田島ァ!!!
これが天才たる俺様の策略よおおーーーっっ!!」


うまくいった!この上なくうまくいった!やはり天は俺様の味方だ!
この手で殺せなかったのは多少残念だが、ほとんど俺様が殺したようなものだ!

江田島め、見ているがいい!
これから貴様の仲間を一人一人ジワジワと嬲り殺しにしてくれるわ!
この天才を怒らせてしまったこと、あの世で後悔するんだな!


アミバは走りながら奪った支給品の説明書を読む。

江田島の支給品は人形爆弾で、拳王の支給品は――仕込み盾か!
大当たりだぜヒャアッハーーーー!!
俺様の快進撃は――ここから始まるのよ!


アミバは駆ける、一切合切の不安なく。自分に追い風が吹いていることを確信しながら。





逃げ出すアミバを追いかけようとする者が一人、いや二人。
181受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 14:08:44 ID:AH/ZORRD0
まず先に駆け出したのは桑原。
――あのヤロウ、まだ生きてやがったか。
漢と漢の真剣勝負に水をさすなんて男の風上にもおけねえ。
やはりあの時トドメをさしておくんだったぜ。ヤロウ、絶対に逃がさねえ!

情と義に厚いヤンキーが卑劣な悪党を見逃すことは、ない。


そして走り出したもう一人は、誰であろう、一般人である大空翼であった。

――いけないなあ、他人の物を盗むのはよくない。泥棒は犯罪だよ!
サッカーで汗を流してサッパリすれば泥棒なんてしないはずだ!
あの身のこなしなら良いMFになれる。
いなくなった監督のためにもキャプテンである僕が頑張ってチームメイトを集めなきゃ!

流石クレイジー翼である。サッカーのことしか頭にない。



「やれやれだぜ」

承太郎は溜息をつき、駆け出した二人を追いかける為にデイパックを背負い直す。
そして背後にいる、今にも駆け出そうとしている雷電に向かって声をかけた。
「あいつらの世話は俺がする。
雷電は家の中で寝ているブチャラティを頼む。あんたには悪いがこの役割分担のほうがいい。
翼の扱いは俺の方が慣れているからな。それじゃあ”また会おう”雷電」
そう言い残すと雷電に背を向け、桑原と翼の向かった方角へと走り出す。

雷電は走り去る三人の後ろ姿を見ながら、心中で塾長に語りかける。
182受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 14:27:22 ID:AH/ZORRD0
――塾長、どうやら我々はとんでもない仲間を持ってしまったようですな…
あの三つの背中に写るは真の男!
三人とも男塾に入るに相応しい資質を持っている!
あなたが遺していった男塾の精神は、しっかりと受け継がれておりますぞ――


この状況で即座に駆け出す真の男達。その姿に雷電は期待を隠しきれなかった。



『ぐわははははははーーーーー!!塾長死すとも男塾魂は死せずである!!』



果たしてそれは空耳か、雷電には今は亡き塾長の大声が聞こえたような気がした。


【栃木県/二日目深夜】
【アミバ@北斗の拳】
 [状態]:顎骨破砕
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式×6(食料四日分消費)、ジャスタウェイ@銀魂、テニスボール@テニスの王子様(残り2球)
    :クリークの大盾(防毒マスク付き、炸裂手裏剣弾残弾5、槍弾残弾不明)@ワンピース    
 [思考]:1、夜を生かして殺しまくる。雷電、桑原、翼、承太郎、ブチャラティを優先。
     2、皆殺し。
183受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 14:27:57 ID:AH/ZORRD0
【大空翼@キャプテン翼】
 [状態]:精神的にやはり相当壊れ気味
 [装備]:拾った石ころ一つ
 [道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)、クロロの荷物一式、ボールペン数本 
 [思考]1:アミバをスカウトする。
    2:悟空を見つけ、日向の情報を得る。そしてチームに迎える。
    3:仲間を11人集める。
    4:主催者を倒す。

【桑原和真@幽遊白書】
 [状態]:左肩、背中に銃創(処置済み。戦闘には支障なし)
 [装備]:斬魄刀@BLEACH
 [道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)
 [思考]1:アミバを追いかけ、ぶっ飛ばす。
    2:ブチャラティのことが気になる。
    3:ピッコロを倒す仲間を集める(飛影を優先)
    4:ゲームの脱出

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:肩、胸部に打撲、左腕骨折、肩に貫通傷(以上応急処置済み)
 [装備]:シャハルの鏡@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式(食料二食分・水少量消費)
    :双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢
    :らっきょ(二つ消費)@とっても!ラッキーマン
 [思考]1:アミバを追いかけ、再起不能にする。
    2:悟空・仲間にできるような人物(できればクールな奴がいい)・ダイを捜す
    3:主催者を倒す
184受け継がれる魂 ◆bV1oL9nkXc :2006/06/19(月) 14:29:41 ID:AH/ZORRD0
【雷電@魁!!男塾】
 [状態]:健康
 [装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂
    :斬魄刀@BLEACH(一護の衣服の一部+幽助の頭髪が結び付けられている)
 [道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)
 [思考]1:気絶中のブチャラティを背負い、仲間を追う。
    2:何があっても仲間を守る。

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:右腕喪失・全身に無数の裂傷(応急処置済み)・気絶・全身の関節が外れている
 [道具]:荷物一式
    :スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
 [思考]1:気絶
    2:首輪解除手段を探す
    3:主催者を倒す


【江田島平八 死亡確認】
【ラオウ 死亡確認】

※塾長とラオウの死体は仁王立ちで向かい合ったまま放置されています。
※承太郎・翼・桑原チームと雷電・ブチャラティチームに分かれました。
※MH5の弾は乾の支給品「弾丸各種」の中に入っています。
185作者の都合により名無しです:2006/06/19(月) 15:26:31 ID:v/Erhdzj0
【残り57人】
186刻 ◆qE.bka4F6E :2006/06/21(水) 13:19:53 ID:OYEYCW5k0
リンスの腕が伸びる、
ジュショッ・・・渋い音の後には顔のないプーアル。
しかし、その後ろにはヤムチャが身構える。
でこピンの風圧で、プーアルごとリンスを粉々にする。
しかし、そのスキをついてタカヤ。
相手の鼻の穴に指をえぐり込み、そのまま地下30メートルほどまで、ヤムチャを叩き落す。
その一方で、残った内臓から下半身だけ再生するリンス。
プーアルも霊体化し、タカヤに襲い掛かる。
その時、地中から何者かの手がタカヤの足を掴む。
がびゅびゅ・・・タカヤの足は恐ろしい音を立て千切れる。
その間にタカヤの両目をつまみ、そのまま相手の顔を引き抜くプーアル。

その光景はまさに地獄絵図であった。
187刻 ◆qE.bka4F6E :2006/06/21(水) 13:23:52 ID:OYEYCW5k0
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:スーパーウルフ化
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:霊体化プーアル
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:ダーク化
    右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:リンス・レットウォーカー
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.ヤムチャをころす。
    2.リンスを操る。
188ヘタレ放狼記〜籠球の罠〜 ◆pKH1mSw/N6 :2006/06/23(金) 00:42:40 ID:O1iSN0A00
森の動物達が慌しく動き回っている。
森の中がガサガサバキバキ騒がしいからだ。
葉や枝が薙ぎ払われ、幹や根が踏み砕かれる音が連続して発生している。
その騒音の元である男はひたすら東へと向かっていた。
その速度は頗る速く、正に韋駄天と形容してもいいほどのスピード。
しかし走る姿はみっともなく、無様極まりない。
何かに焦り、後ろを何度を確認しながらの疾走はどうしようもなく不恰好だった。



後ろからは誰も追ってこないだろうな?
あの気味の悪い男はヤバイ。
あのレーザーは超ヤバイ。
ヤバイヤバイヤバイ。
(ああくそ悟空、ピッコロ助けてくれ!もうこの際クリリンでもいいから――)

しかし、男の望みは断たれた。
疾走中の耳に飛び込んできた、第四放送によって。


――ク、クリリン、太――


――おい、ちょっと待て。
俺の耳がおかしくなったのか?
今確かクリリンの名前が呼ばれたような…
クリリンは悟空やピッコロには及ばないにしろ、地球人の中では一番強い。
そのクリリンが殺された!?
俺より強いのに殺された?
クリリンが殺される程のゲームで、俺は、俺は一体どうすれば……
189ヘタレ放狼記〜籠球の罠〜 ◆pKH1mSw/N6 :2006/06/23(金) 00:43:50 ID:O1iSN0A00
走っている最中の考え事はたいへん危険である。
ヤムチャも例に漏れず、前方と足元の確認を怠っていた。
それが災いしたのか、彼の足は地面と木の根っこ以外のものを踏みつけてしまった。

グニュ

踏みつけたものは球。
桃白白が捨てたバスケットボールだ。
地面ならいい。滑ることはない。
木の根っこでもいい。摩擦がかかるから足が安定する。
しかしヤムチャが踏んでしまったものはそうはいかなかった。

球(Ball)…ある 1 点から等距離にある点(球面)およびその内部の点からなる集合。
      とくに、3 次元空間にあるものをさす。
      地面に触れる箇所が一点に限られる為、ほぼ摩擦がかからない。

よく弾むように空気が調節されたバスケットボールは、
上にヤムチャの足が乗ると同時に横向きの力を受けて転がる。
当然球面は回転し、ヤムチャの足が乗った面は上面から側面へと変化。
全体重を支えている、前に踏み出した足はその変化にバランスを崩す。
結果、

ズルッ

コケる。

「ぐおっ!?」
ヤムチャは派手に仰向けに倒れ、後頭部を地面で強打した。

「あがががが……」
頭を抑えて転がり回るヤムチャ。
もし誰かがこの光景を見ていたならこう言ったに違いない。
190ヘタレ放狼記〜籠球の罠〜 ◆pKH1mSw/N6 :2006/06/23(金) 00:44:51 ID:O1iSN0A00

『足元がお留守ですよ』

しかし今は誰もいないのでツッコミはなし。


ようやく痛みが引いたのか、ヤムチャはよろよろと起き上がる。
逃走行為を止めたことで少し冷静になったヤムチャは、これからの方針を考え出した。

スカウターがなくなったから悟空探しは難しくなった。
それに加えて敵と遭遇する確率も上がる。
そしてその中にはクリリンを殺した強敵も含まれている。
怖い。
名古屋城に戻って斗貴子と合流するにしても、途中で敵に会ったらどうしよう。
その前に、もう0時だから彼女は四国に行っているだろうか?
四国まで一人で行く……
怖い怖い怖い。
もう嫌だ。何で俺がこんな目に。
いっそのことその辺りの民家に隠れてゲームが終わるのを待つか?
それがいい。そうしよう。
きっと悟空とピッコロが何とかしてくれるさ。
俺は何の役にも立たないよ。


隠れる民家を捜そうとして、周りを見渡す。
ふと、目に標識が飛び込んできた。
それ見たヤムチャは驚愕する。

(宮城県!?こんな遠くまで来てたのか!)
自分が幾つもの県を越え、長距離を走り続けてきたことに今更ながらに気付く。
俺にそこまでの体力とスピードがあっただろうか?
その疑問の答えはすぐに思いついた。
191ヘタレ放狼記〜籠球の罠〜 ◆pKH1mSw/N6 :2006/06/23(金) 00:45:27 ID:O1iSN0A00
(超神水か……)
そう、俺は超神水の試練を乗り越えたんだ。
戦闘力は格段に上昇しているはず……
待て。
ちょっと待て俺。
俺って実はかなり強いんじゃないか?
そうだ、両津さんも言ってたじゃないか。俺は強いんだ!
今まで負けてたのは、大蛇丸の術のせいだ!
慌てて腹を見ると、五行封印の紋様が薄くなってきている。
封印解除が近い。

よし、よしよしよしよし!
俺は役立たずなんかじゃない。
これはチャンスなんだ。
今の俺は超神水のパワーで相当強い。
今こそ汚名返上のとき。
悟空とピッコロの役に立って、認めさせてやる。
いやむしろ俺が優勝した上でピッコロを生き返らせ、ドラゴンボールで皆を復活させてやる。
悟空が何だ!ピッコロが何だ!
(もうヘタレとは呼ばせないぜ!)


餓狼は勇ましく一歩を踏み出す。

その足の先には当然のようにバスケットボール。
192ヘタレ放狼記〜籠球の罠〜 ◆pKH1mSw/N6 :2006/06/23(金) 00:46:07 ID:O1iSN0A00
仰向けのヤムチャは、星空を見ながら痛む頭で再度冷静に考える。
(やっぱり無茶はよそう……危なくなったら逃げればいいや)

餓狼の覚悟は三秒で崩れ去った。


【宮城県/二日目深夜】
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない、まもなく解除)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料、バスケットボール@スラムダンク
[思考]:1.参加者を減らして皆の役に立つ
    2.あわよくば優勝して汚名返上
    3.悟空・ピッコロを探す
    4.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)
193枯れ尾花かく語りき(1/7) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 11:53:54 ID:VOGt+u6P0
幽霊の正体見たり枯れ尾花、などと市井の人々は強がって言うかも知れない。
けれど、星明りだけが頼りの闇の中、奥の見えぬ橋の上に立ち、周りを静脈血のような海で囲まれれば、誰だって気味が悪いと思うだろう。
このような闇の中では亡霊の1つでも出てくるかもしれない。

――まさかな。

在り得ない。京の市中で闇夜に紛れた人斬り働きを幾度となく繰り返してきた剣心にとって亡霊は迷信に過ぎない。

――何を弱気になっているのでござるか。

迷信が頭を過ぎるのは気弱な証拠。成る程、武器と呼べる物が鞘しかない状態では不安も当然の事である。
不安をかき消すように全長250mの縮小瀬戸大橋の上を駆け渡り、香川県に入る。
この時、定時放送が流れた。


  ――夜神月、蛭魔妖一、更木剣八、ラーメンマン、リサリサ、真崎杏子、マァム、伊達臣人、デスマスク
  クリリン、太公望、趙公明、リンスレット・ウォーカー、ティア・ノート・ヨーコ、ターちゃん――


  以上15名が第三放送から第四放送までの間の脱落者です。
194枯れ尾花かく語りき(2/7) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 11:54:55 ID:VOGt+u6P0
惨事を酒の肴の余興としか思わぬふざけた声で、確かに呼ばれた仲間の名、蛭魔妖一。
また間に合わなかった。
――「剣一本でも、この瞳に止まる人々くらいなら、なんとか守れるでござるよ」
そう言って自らの力を信じ闘ってきたはずの剣心。
一度ならず二度までも、守るべき人を失った。

一度目は神谷薫。
二度目は蛭魔妖一。

自分は何をしている、時代の苦難を乗り越えてきた飛天の力に底など無かったのではないのか。
なのに何だこの体たらくは。
もう二度と、決して人を死なせてはならない。
ふざけた余興で未来を生きる権利が奪われるのを見過ごす訳には行かない。

再度決意を固めつつも、掌中にあるのは頼りない鞘一本。
薫殿やヒル魔殿だけではない、結局は誰一人救えないのではないか。

駄目だ駄目だ、このような弱気では。
鞘一本でも多くの人を救ってみせる。そう決意したのは偽りではないのだ。
右拳に鞘を握り締め、剣心はもう一度決意を固めた。
195枯れ尾花かく語りき(3/7) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 11:55:28 ID:VOGt+u6P0
意を固めたなら考えなければならない。
より多くの人々を守るため、自分が進むべき道は前か、それとも後ろか。

前に進んでナルトを守る。
後ろに戻ってセナを守る。

正解はどちらだ。セナにはキン肉マンやLがついている。ならば進むべきは前か。
再び前に進もうとした時、前方の暗闇から青白い光が見えてきた。
光はタバコと白い手袋を照らし出す。
白い手袋は慣れた手つきでタバコに火をつけた。

(青白いタバコの火とは奇妙な……)

そう思いながらも、剣心は物陰に姿を隠す。
しばらくして、タバコの火は持ち主の素顔を照らし出した。

「斎藤……」

それは剣心が最も良く知る男の顔。うっかり声を上げてしまったが、小さい声だ。
大丈夫聞こえない。そう考えながら、再び物陰で気配を殺す。
狐狸の類か。それとも斎藤が生きていたのか。

「隠れてないで出て来い抜刀斎」

その声に、観念して姿を現す剣心。
196枯れ尾花かく語りき(4/7) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 11:56:18 ID:VOGt+u6P0
「お主、生きておったでござるか」
「フン……」
斎藤はタバコを吹かすだけで答えない。
「前に進むか、後ろに戻るか。今しがた悩んだ問いの答え半分は正解だ」
代わりに剣心の心を読み、それに答える。
(馬鹿な、拙者の考えが読まれた。やはり、この者斎藤ではござらん)
鞘を握る拳に力を込める。

「相変わらず臆病な男だ」

剣心の拳を見て、斎藤が鼻で笑う。
よく似ている、と剣心は思う。

「お主、半分正解とはどういう意味でござるか」
「前に進むことが正解だということだ」
「そうでござるな、前に進みナルト殿を守る。もうこれ以上の人死には御免でござるからな」
「それが半分の不正解だ」
「ナルト殿を守ることがでござるか」

剣心は握り締めた鞘の切先をゆっくりと持ち上げる。

「そう怒るな、Lの言葉を覚えているだろう。四国は危険地帯だと」
「あぁ、だからこそ守る」

なぜLを知っている。この者油断出来ない。
剣心は鞘の切先を相手の咽喉の高さまで上げる。臨戦態勢だ。
197枯れ尾花かく語りき(5/7) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 12:12:23 ID:VOGt+u6P0
「守るとは違うな」
斎藤が言う。
「四国が危険地帯なら、そこには必ず"悪"がいる。かつて俺やお前達(維新志士)が共有した只一つの正義、悪・即・斬、それを遂行する為にお前はナルトの元へ行くんだ」
「違う、拙者の正義は人を守ることでござる。より1人でお多くの笑顔と、より1つでも多くの幸せをこの世に灯す為、拙者は闘うのでござる」
「所詮、流浪人の戯言だな」

剣心は鞘の切先で相手を見据えたまま、前に出る。
切先は相手の咽喉下につけ、敵を牽制するために使う。剣術二百余派全てに通ずる切先の心得。
剣客、剣心はタバコしか持たぬ斎藤に対しても油断が無い。

「お主が何もしないのであれば、拙者はこのまま進むでござるよ」
「抜刀斎、桜田門外の変を覚えているか」
またも剣心の言葉に答えず、斎藤が言う。

「あの時を境に幕府御三家である水戸藩は倒幕派に傾いていったと言ってもいいだろう。
 幕府は味方である筈の御三家から裏切られ、維新はお前の知る結果となった」
「よく囀る口だ」
剣心は斎藤を無視して進もうとする。

「まあ待て抜刀斎。お前が守ろうとする者の中に"水戸藩" −裏切り者−がいるかも知れんぞ」
「何を言っている」
198枯れ尾花かく語りき(6/7) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 12:14:20 ID:VOGt+u6P0
斎藤の言葉に剣心が一瞬切れ掛かる。が、すぐに落ち着かせる。人斬り抜刀斎を出してはいけない。

「お前が守りに行くナルトが裏切り者かも知れん」

斎藤が矢継ぎ早に言葉を繰り出す。

「そのような戯言は許さんでござるよ」

剣心は動揺を悟られまいと、声を荒げて反論する。

「考えても見るがいい、蛭魔妖一が四国で殺され、うずまきナルトが生きている。
 そしてナルトは忍びの者だ。容易に1つの結論が導かれる」
「忍びの者とは言え、ナルト殿はまだ幼い」
剣心の語尾から『ござる』が消える。彼の心の昂ぶりを本人も気付かぬ僅かな語調の変化が示す。
「阿呆が、お前は十四で人斬り働きをしていただろうが」

返す言葉が見つからない。咽喉下に付けた切先が揺れ動く。
剣心は切先を動きを見て自身の昂ぶりを知った。

「たとえお主がなんと言おうと、拙者はナルト殿を守る」
辛うじて搾り出したその言葉は既に説得力を持たない。
199枯れ尾花かく語りき(7/7) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 12:15:46 ID:VOGt+u6P0
斎藤は震える剣心の切先を見てニヤリと笑った。

「所詮、人斬りに許されるのは修羅道のみ。
 魂に絡みついたお前の宿業が消える日は永久に来ない。
 昔のお前―抜刀斎―に期待してるぜ」

そう言い残し、斎藤は消えてしまった。
消えた所には青白い炎だけが揺らめき残っている。
幻覚だったのか。
草木も眠る丑三つ時には人々はあらぬ幻覚を見るという。丑三つ時には早いが今も漆黒の闇に包まれた全てが眠る時間であるのに変わりない。
なるほど、そう考えれば斎藤が剣心の心中を読み取ったことや、L、ナルトなどの事を知っていたことも説明がつく。

しかし、幻覚が消えても剣心の鞘はまだ揺れたままである。
人斬りと新撰組が共有した正義、悪・即・斬。 彼はそれを『天誅』と呼んだ。
ナルト殿が裏切り者であれば、自分は天誅を下すのか。

暗闇を見つめると、斎藤が立っていた所に青白い炎が煌く。
炎が照らす道の先にいるのは、天誅を下す人斬りか。それとも不殺の流浪人か。
炎は答えを示さぬままに消えた。
200枯れ尾花かく語りき ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 12:18:49 ID:VOGt+u6P0
【香川県/真夜中】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、精神中から重度の不安定
【装備】刀の鞘
【道具】荷物一式
【思考】1.香川を重点的に、四国でナルトの捜索。
    2.二日目の午前6〜7時を目安に、大阪市外にてセナ達と合流。
    3.姉崎まもりを護る(神谷薫を殺害した存在を屠る)
    4.小早川瀬那を護る(襲撃者は屠る)
    5.力なき弱き人々を護る(殺人者は屠る)
    6.人は斬らない(敵は屠る)
    7.抜刀斎になったことでかなり自己嫌悪
   (括弧内は、抜刀斎としての思考ですが、今はそれほど強制力はありません)
   (斎藤の幻を見たことで精神が不安定になっています)
201 ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 14:12:32 ID:VOGt+u6P0
>>193-200
は無効です。
202幻影回廊(1/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 23:51:20 ID:VOGt+u6P0
幽霊の正体見たり枯れ尾花、などと市井の人々は強がって言うかも知れない。
けれど、星明りだけが頼りの闇の中、奥の見えぬ橋の上に立ち、周りを静脈血のような海で囲まれれば、誰だって気味が悪いと思うだろう。
このような闇の中では亡霊の1つでも出てくるかもしれない。

――まさかな。

在り得ない。京の闇夜で幾度となく人斬りを繰り返してきた剣心にとって亡霊は迷信に過ぎない。

――何を弱気になっているのでござるか。

迷信が頭を過ぎるのは気弱な証拠。成る程、武器と呼べる物が鞘しかない状態では不安も当然の事である。
剣心は不安をかき消すように全長250mの縮小瀬戸大橋の上を駆け渡り、香川県に入る。
この時、定時放送が流れた。


  ――夜神月、蛭魔妖一、更木剣八、ラーメンマン、リサリサ、真崎杏子、マァム、伊達臣人、デスマスク
  クリリン、太公望、趙公明、リンスレット・ウォーカー、ティア・ノート・ヨーコ、ターちゃん――


  以上15名が第三放送から第四放送までの間の脱落者です。
203幻影回廊(2/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 23:52:59 ID:VOGt+u6P0
惨事を酒の肴の余興としか思わぬふざけた声で、確かに呼ばれた仲間の名、蛭魔妖一。
また間に合わなかった。
――「剣一本でも、この瞳に止まる人々くらいなら、なんとか守れるでござるよ」
そう言って自らの力を信じ闘ってきたはずの剣心。
一度ならず二度までも、守るべき人を失った。

一度目は神谷薫。
二度目は蛭魔妖一。

自分は何をしている、時代の苦難を乗り越えてきた飛天の力に底など無かったのではないのか。
なのに何だこの体たらくは。
もう二度と、ふざけた余興で未来を生きる権利が奪われるのを見過ごす訳には行かない。

そう思いながらも、掌中にあるのは頼りない鞘一本。
薫殿やヒル魔殿だけではない、結局は誰一人救えないのではないか。

駄目だ駄目だ、このような弱気では。
鞘一本でも多くの人を救ってみせる。そう決意したのは偽りではないのだ。
右拳に鞘を握り締め、剣心はもう一度決意を固めた。
204幻影回廊(3/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 23:54:20 ID:VOGt+u6P0
意を固めたなら考えなければならない。
より多くの人々を守るため、自分が進むべき道は前か、それとも後ろか。

前に進んでナルトを守る。
後ろに戻ってセナを守る。

正解はどちらだ。セナにはキン肉マンやLがついている。ならば進むべきは前か。
再び前に進もうとした時、前方の暗闇から青白い光が見えてきた。
光はタバコと白い手袋を照らし出す。
白い手袋は慣れた手つきでタバコに火をつけた。

(青白いタバコの火とは奇妙な……)

そう思いながらも、剣心は物陰に姿を隠す。
しばらくして、タバコの火は持ち主の素顔を照らし出した。

「斎藤……」

それは剣心が最も良く知る男の顔。うっかり声を上げてしまったが、小さい声だ。
大丈夫聞こえない。そう考えながら、再び物陰で気配を殺す。
狐狸の類か。それとも斎藤が生きていたのか。

「隠れてないで出て来い抜刀斎」

その声に、観念して姿を現す剣心。
205幻影回廊(4/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 23:55:09 ID:VOGt+u6P0
「お主、生きておったでござるか」
「フン……」
斎藤は煙草を吹かすだけで答えない。
「前に進むか、後ろに戻るか。今しがた悩んだ問いの答え半分は正解だ」
代わりに剣心の心を読み、それに答える。
(馬鹿な、拙者の考えが読まれた。やはり、この者斎藤ではござらん)
鞘を握る拳に力を込める。

「相変わらず臆病な男だ」

剣心の拳を見て、斎藤が鼻で笑う。
よく似ている、と剣心は思う。

「お主、半分正解とはどういう意味でござるか」
「前に進むことが正解だということだ」
「そうでござるな、前に進みナルト殿を守る。もうこれ以上の人死には御免でござる」
「それが半分の不正解だ」
「ナルト殿を守ることがでござるか」

剣心は握り締めた鞘の切先をゆっくりと持ち上げる。

「そう怒るな、Lの言葉を覚えているだろう。四国は危険地帯だと」
「あぁ、だからこそ守る」

なぜLを知っている。この者油断出来ない。
剣心は鞘の切先を相手の咽喉の高さまで上げる。臨戦態勢だ。
206幻影回廊(5/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 23:56:12 ID:VOGt+u6P0
「守るとは違うな」
斎藤が言う。
「四国が危険地帯なら、そこには必ず"悪"がいる。かつて俺やお前達(維新志士)が共有した只一つの正義、悪・即・斬、それを遂行する為にお前はナルトの元へ行くんだ」
「違う、拙者の正義は人を守ることでござる。より1人でお多くの笑顔と、より1つでも多くの幸せをこの世に灯す為、拙者は闘うのでござる」
「所詮、流浪人の戯言だな」

剣心は鞘の切先で相手を見据えたまま、前に出る。
切先は相手の咽喉の高さにつけ、敵を牽制するために使う。剣術二百余派全てに通ずる切先の心得。
剣客、剣心は煙草しか持たぬ斎藤に対しても油断が無い。

「お主が何もしないのであれば、拙者はこのまま進むでござるよ」
「抜刀斎、桜田門外の変を覚えているか」
またも剣心の言葉に答えず、斎藤が言う。

「あの時を境に幕府御三家である水戸藩は倒幕派に傾いていったと言ってもいいだろう。
 幕府は味方である筈の御三家から裏切られ、維新はお前の知る結果となった」
「よく囀る口だ」
剣心は斎藤を無視して進もうとする。

「まあ待て抜刀斎。お前が守ろうとする者の中に"水戸藩" −裏切り者−がいるかも知れんぞ」
「何を言っている」
207幻影回廊(6/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/24(土) 23:57:34 ID:VOGt+u6P0
斎藤の言葉に剣心が一瞬切れ掛かる。が、すぐに落ち着かせる。人斬り抜刀斎を出してはいけない。

「お前が守りに行くナルトが裏切り者かも知れん」

斎藤が矢継ぎ早に言葉を繰り出す。

「そのような戯言は許さんでござるよ」

剣心は動揺を悟られまいと、声を荒げて反論する。

「考えても見るがいい、蛭魔妖一が四国で殺され、うずまきナルトが生きている。
 そしてナルトは忍びの者だ。容易に1つの結論が導かれる」
「忍びの者とは言え、ナルト殿はまだ幼い」
剣心の語尾から『ござる』が消える。彼の心の昂ぶりを本人も気付かぬ僅かな語調の変化が示す。
「阿呆が、お前は十四で人斬り働きをしていただろうが」

返す言葉が見つからない。咽喉下に付けた切先が揺れ動く。
剣心は切先を動きを見て自身の昂ぶりを知った。

「たとえお主がなんと言おうと、拙者はナルト殿を守る」
辛うじて搾り出したその言葉は既に説得力を持たない。
208幻影回廊(7/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/25(日) 00:00:27 ID:MEBUrnnn0
斎藤は震える剣心の切先を見て笑った。

「神谷薫が助かるかも知れんのにか」
「薫殿が……」

ふぅっと、煙草で一息つき斎藤は続ける。

「先の放送を聞いたろう。優勝者は死んだ者を1人蘇生する事ができる」
「……」
「お前が悪・即・斬の下、参加者全員を斬り殺せば全て丸く収まるはずだ」
「何を馬鹿なことを、拙者はそのような事を望まんし、薫殿もそうまでして生き返りたいと願う女性ではないでござる」

斉藤もどきの非常識な発言で、剣心は逆に自分を取り戻すことができた。
このような化かし合いで心を惑わされる訳にはいかぬ。

剣心が斎藤を無視して進もうとした時、背後から
「剣心」
と彼を呼ぶ声が聞こえた。

「剣心、助けてくれないの」

薫殿の声、馬鹿な。そう思いながらも振り返る。
そこには縁によって作られた薫の擬似死体が転がっていた。
209幻影回廊(8/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/25(日) 00:01:25 ID:MEBUrnnn0
亜ァ亜亜亜亜亜亜ァァア……!!
幻、幻、幻だ。幻覚に過ぎない、化かされるな。薫殿の死体がここに在る筈がない。
剣心は逃げるように、その場から走り去る。
走る、走る、神速と言われる脅威の足をもって四国の山中をひた走る。

もう十分走った。
そう思った時、鞘を持つ右手が重い事に気付く。

右手を見ると、そこには鞘ではなく倭刀が。
倭刀の先には薫の死体。

幻覚だと分かっていても、体が震える。
全身に冷や汗をかきながら、刀を手放し、後ずさる。
木の根に足を絡ませ、転んでしまう。
転び、仰向けになったまま、それでも後ろに進む剣心。
嫌だ、来るな。そう願うのも届かず薫の死体は刀を胸に刺したまま、立ち上がり剣心の前まで来た。

「私を見殺しにするのね、助ける方法を知りながら」
「違う、違う。拙者は薫殿を……」
210幻影回廊(9/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/25(日) 00:02:32 ID:MEBUrnnn0
剣心の知る神谷薫は決して、このような事を言わない。
だが、錯乱した剣心は頭ではそう考えながらも、心で
「確かに、拙者が闘えば薫殿は助かるかも知れん」
と考え始めた。

かつて、落人村のオイボレが言った。
  『敵討ちは彼の真実ではないからのう。どんなに叫んでも彼の心までは届きゃせんよ。
   けれど、助けを呼ぶ声ならば必ず届く。それが彼の真実だから、彼はその声に応えるべく必ず立ち上がる。
   如何なる呪縛をも断ち切って、彼は必ず立ち上がる』

そう、助けを求める声ならば喩えそれが幻覚であったとしても剣心には届く。
そう、助けを求める声があれば、喩え如何なる犠牲があったとしても剣心には届く。

本来の彼であれば、こんな事は無かったかも知れない。
けれど、バトルロワイアルの極限状態の中、京の市中に身を置かれたとき以上に精神を蝕まれた今の彼であれば話が変わってくる。
本人も気付かぬうちに、夜の帳が、死の恐怖が、身中の殺人鬼が彼の精神に重圧を与える。

「私を助けて……」
211幻影回廊(10/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/06/25(日) 00:03:33 ID:MEBUrnnn0
薫の声を最後に幻覚は消えてしまった。
剣心は暗闇の中で震えている。右手に握っていた倭刀は既に鞘に戻っている。
けれど、彼の心は戻らない。

助けを呼ぶ声が、初めて人斬り抜刀斎を望んでいる。
人を斬り殺すことが愛する人を救うことにつながる。
自ら殺人鬼と恐れ、絶対の禁忌としていた人斬りと、流浪人の目的が初めて一致する。

人生初のこの事実に、彼の心は揺れ動く。

彼が選ぶのは、愛する女性の命か。それとも、交流少ない弱者達の命か。
漆黒の闇の中揺れ動く彼の心は行き着く先を見失ったままである。
212幻影回廊 ◆PXPnBj6tAM :2006/06/25(日) 00:04:13 ID:MEBUrnnn0
【香川県/真夜中】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、精神重度の不安定
【装備】刀の鞘
【道具】荷物一式
【思考】1.ゲームに乗り薫を救うかどうか思案中。
    2.小早川瀬那たちとの約束と薫の救出のどちらが優先か検討中。
   (斎藤と薫の幻を見たことで精神がかなり不安定になっています)
213幻影回廊 ◆PXPnBj6tAM :2006/06/25(日) 00:07:04 ID:VOGt+u6P0
【香川県/深夜】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、精神重度の不安定
【装備】刀の鞘
【道具】荷物一式
【思考】1.ゲームに乗り薫を救うかどうか思案中。
    2.小早川瀬那たちとの約束と薫の救出のどちらが優先か検討中。
   (斎藤と薫の幻を見たことで精神がかなり不安定になっています)
214最高に逝っております ◆qE.bka4F6E :2006/06/25(日) 12:44:21 ID:ms1UvEEb0
「鬱 陶 し い わ ー!!! 散 れ ぇ い い!!!」
タカヤがついにブチ切れた。

人間達磨状態のタカヤの体から、無数の血管が這い出してくる。
「第一奥義―黒 呼 滅 殺 花 終 曲―」

それは、世界中のモノというもの全てを切り裂いた。
ヤムチャを除いて。

「なっ!?」
タカヤの視線の先、そこには第2の変身を遂げたヤムチャの姿があった。
215最高に逝っております ◆qE.bka4F6E :2006/06/25(日) 12:46:46 ID:ms1UvEEb0
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:第2形態
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:霊体化プーアル
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:ダーク化
    右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:リンス・レットウォーカー
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.ヤムチャをころす。
    2.リンスを操る。
    3.目の前の状況に唖然
216悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:29:46 ID:A23UXFGS0
 君はこんな私を見て、どう思うだろう。
 君はこんな私を見て、どんな顔を浮かべるだろう。
 私には、予想もつかない。
 いや、こんな言い方は卑怯だな。
 私には、考えられない。もしくは、考えたくない。
 だって、目に見えているじゃないか。
 君が何を思い、私にどんな顔を浮かべるかなんて。
 それでも、私は蛇の道を行く。
 我ながら、分の悪い賭けだとは思うよ。
 でも、もしかしたら救えるかもしれないんだ。
 全てを。
 それは、ほんの一握りの可能性だ。
 でも、救えるかもしれない。
 全てを。
 もちろん、


 カズキ、君も――――


 〜〜〜〜〜

217悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:30:41 ID:A23UXFGS0
 死者への執着。
 戦士としては恥ずべき所業と、笑うべきだろうか。
 笑いたければ笑うがいい。今の私は、全てを受け入れた上で背徳行為に臨んでいるのだから。
 私が殺した人のことは、忘れない。
 彼がどんな思いで、どんな決意で虐殺を繰り広げてきたのか。
 私は信じたい。
 彼に、そうまでさせた希望を。
 ドラゴンボール……龍が眠りし七つの宝玉。
 いくら考えても、御伽話にしかならない戯言だな。
 違う。
 戯言で希望が生まれるものか。
 戯言で人が殺せるものか。
 彼とて戦士。
 皆を守るため、最善の策を取ろうとした戦士だ。
 私は忘れない。
 彼の思い、彼の希望、彼との約束。
 クリリンという心優しい戦士の名を背負い、私は、使命を果たす。

「待っていたよ」

 仲間は要らない。
 私の使命に、悲しみは不要だから。
 悲しみの種は、もういらないんだ。


 〜〜〜〜〜

218悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:31:30 ID:A23UXFGS0
 アビゲイルと春野サクラ。
 ドラゴンボールが使えない可能性がある。これをクリリンに伝えるため、二人は名古屋城へと訪れた。
 もし、本当にドラゴンボールが使えないというのなら、今までのクリリンの所業はすべて無駄になる。
 殺した死者はもう元には戻らない。それでも、これ以上犠牲を出さないために。
 
 名古屋城を視野に確認し、その城内に続く階段の上方で待ち構えていたのは、一人の少女だった。
 小柄な坊主頭、クリリンではない。サクラが言っていた、クリリンの計画に賛同した者、津村斗貴子であった。
 まず二人には、一つの疑問が過ぎる。
 クリリンはどこに行ったのか? 視界には、斗貴子一人しか映っていない。
 そして、もう一つの疑問。
 斗貴子の脚部には、銀の光沢を闇夜に光らせた、金属製の刃が見える。数は六。右足に付けられた三つの矛先は、サクラに。左足に付けられた三つの矛先は、アビゲイルに。
 闇夜でも、はっきりと判別できた。斗貴子が翳すその刃は、日本刀でも西洋の剣でもない。
 処刑鎌。英語で言えば、デスサイズ。その使用目的は、罪人の処刑がほとんどである。
 罪人――ホムンクルス――以外に、向けてはならない代物だった。
 これが、もう一つの疑問。
「あちらのお嬢さんが、津村斗貴子さん……彼女はなぜ、私たちに武器を向けているのでしょうか」
「分かりません」
 斗貴子とは初対面であるアビゲイルはもとより、彼女と一度会話したことのあるサクラでも、その意図は掴めなかった。
 クリリンはどこに行ったのか。
 斗貴子はなぜ、自分たちに武器を向けるのか。
 答えは、すぐには出てこない。
 考えている最中も、時は流れる。

 そして、三者が顔を合わせて八秒ほど、
 一日目の終わりを告げる、放送が流れた。


 〜〜〜〜〜

219悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:32:13 ID:A23UXFGS0
 私は、今日のこの日を『魔の一日』と名づけましょう。
 ブルマさんにリンスレット・ウォーカーさん。
 そして、あろうことかティア・ノート・ヨーコさんまで。
 私の信愛すべきお嬢さん方が、この一日で三人も死んでしまった。
 よもや、『私に関わった女性は早死にする』というようなジンクスでもあるのでしょうか。
 だとしたら、サクラさんも危ない。
 何が危ないって、今正にそのジンクスが立証されるかもしれないのです。
 放送で呼ばれた名には、私の知るお嬢さん二人の他、ある男性の名前も呼ばれました。
 クリリン。
 私はその一瞬でピンときましたね。
 彼女、津村斗貴子さんが私たちに刃を向ける訳。
 それもまた、正義ゆえ、なんでしょうなぁ……


 〜〜〜〜〜


「クリリンって……ウソ」
 放送を聴いたサクラは、驚愕した。
 つい数時間前まで、新たな志を共にした仲間。それが、ほんの少しの時間別れていた間に、死んでしまった。
 これが、このゲームのトラップとも言える現実。別離は死を招き、悲しみを呼ぶ。
「斗貴子さんッ! 今クリリ――」
「クリリン君は、私が殺した」
 サクラが言いたいことを先読みし、言い終える前に答えは返ってきた。
 クリリンハワタシガコロシタ。
 クリリンは、津村斗貴子に殺された。
 何故?
「どうしてですか!? なんであなたが……」
「限界だったんだ、彼は」
220悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:36:38 ID:A23UXFGS0
 斗貴子の淡々とした言葉は、サクラではなく空に向けて放たれる。
 本当に、何故あんなことをしたのか。
 まるで自分に言い聞かせるように。
「彼は、十分に戦士としての役目を果たした。それこそ、自分の身が滅びるほどに。そんな彼を、これ以上戦わせることなどできなかった」
 そうだ、だから、自分が受け継いだ。
「だから私は、殺した」
 孤独な戦士の使命を。
「クリリン君の意思を継ぎ」
 繋がらない言葉に意味はない。だが、斗貴子の放つ一言一言には、確かな意味があったのだ。
「私が救う」
 それは、使命と呼ぶにはあまりにも重い、戒めようなもの。
「全て救ってみせる」
 語る斗貴子の顔には、表情がない。
「皆、生き返らせる」
 喜びも、怒りも、なにもない。
「クリリン君の代わりに、私が」
 それは、使命に従順な、戦士の表情だった。
「錬金の戦士として」


 意味が分かりませんよ。
 素直にそう思った。
 しかし、サクラはそれを言い出せずにいる。
 意味深な言葉の連続に、具体性はない。唯一つ分かるのは、クリリンは斗貴子が殺したのだということ。
 そして、その理由は斗貴子の放った一つ一つの言霊に詰まっている。理解できるか理解できないかは問題ではない。
 斗貴子の言葉は、単なる説明のためのものではないのだから。
221悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:37:43 ID:A23UXFGS0
「事情は分かりました」
 斗貴子の決意に圧倒され発言できずにいたサクラだったが、その隣人は違う。
 アビゲイル。彼は、物事を利己的に考えることが出来る人間だ。それでいて、感情というものもよく理解している。
「まずはご挨拶をしましょう。私の名はアビゲイル。先ほどこちらのサクラさんとお会いし、ここまで行動を共にさせてもらいました」
 喋りだすアビゲイルだったが、彼の言葉を受けても、斗貴子はただ一点に視線を集中させるのみだった。
 その一点とは、虚空。傍から見れば、上の空とも取れる。
「それというのも、彼女達がおもしろい計画を持っているというからです。なんでも、ドラゴンボールという玉を使えば、このゲームをなかったことに出来るとか」
 斗貴子は無言。
「しかし、その計画を持ち出したというクリリンなる人物。実は彼、私の仲間のお嬢さん――ブルマさんを殺害したマーダーでしてね。危険人物としてマークしていたんですよ」
 斗貴子は無言。
「ですがドラゴンボールですか。なるほど。確かにそんなものがあれば、彼が知り合いを殺すという奇行に走った理由も理解できます。ですがね」
 斗貴子は無言。
「あなたは本当にそんなことができるとお思いなのですか? 仮にドラゴンボールの話が真実だとしても、主催者がその存在を封じている可能性もあります」
 斗貴子はやはり無言。
「優勝したとしても、ドラゴンボールは使えないかもしれない――先ほどの放送で言われた、『蘇生』についてもそうです。参加者にあらぬ希望を持たせ、殺戮に走らせようとしている」
 アビゲイルはなおも喋り続ける。
「あなたは主催者に踊らされているだけだ。今からでも遅くはない、考え直すべきです」
 そこで、アビゲイルの語りは途絶えた。
 しかし、やはり斗貴子は無言を貫き通し、
 二人に、刃を向ける。
222悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:39:27 ID:A23UXFGS0
「そんなことは分かっている」
 斗貴子には、初めから興味がなかった。
 アビゲイルの存在にも、言葉にも。
 ドラゴンボールが嘘?
 ドラゴンボールが封じられている?
 そんなことは百も承知だ。
 だからこそ、分の悪い賭けなのだ。
「それでも、私はドラゴンボールに懸ける」
 ギャンブルは好きではない。
 でも、その先に希望があるのなら。
「小さな希望に、懸けてみせる」
 それが例え、『他者の命』というチップが必要なのだとしても。


「……なるほど、よく分かりました」
 アビゲイルのいつもと変わらぬ口調は、その場の空気を張り詰めた。
 冷たく、静かで、重い声。苦渋に感じながらも、認めてしまったのだ。
 津村斗貴子を、ゲームに乗った者と。
「そんな、斗貴子さん……!!」
 斗貴子に駆け寄ろうとしたサクラを、アビゲイルが鋭い眼光で制した。
 もはや説得は無駄。
 斗貴子には、もう迷いは見られなかった。

 そして、バルキリースカートの矛先は二人から離れない。
223悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:40:23 ID:A23UXFGS0
 いつの間にか、アビゲイルも雷神剣を抜いていた。
 それは、他ならぬ交戦の合図。サクラはアビゲイルの下した決断に納得が出来ない。
 割り切れない。それでも戦いは始まる。
「抵抗はするな……そうすれば、楽に終わる」
 バルキリースカート――戦乙女の名を持つ戦具を翳し、戦女は舞い降りる。
 上段からアビゲイルのいる下段まで、段差を歯牙にもかけないスピードで駆け下りてくる敵。
 斗貴子の走りには、確かな殺意が込められていた。
 雷神剣を前に待ち構えるアビゲイルは、その刹那に大粒の汗を垂れ流す。
 刹那に確認できた斗貴子のスピード、これは常人のものではない。明らかな戦士の脚力。
 異質な形態をとるあの扱いづらそうな武器も計算に入れると、斗貴子は戦闘のプロであることが窺えた。

 思考は一秒。
 決断を下すまでに一瞬。
 勝算はある。
 ここは、この手しかあるまい。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 大きく息を吸い込み、アビゲイルは顔を膨らませて行動に移る。
224悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:42:28 ID:A23UXFGS0

「……見逃してください!」
 その言葉で、さすがの斗貴子も動きを止めた。
「なっ……」
 驚愕の表情を見せたのは、仲間と敵である二人の女性。
 戦闘は避けられないと覚悟した刹那、一人のおっさんは雰囲気をぶち壊すような戯言を吐いたのだ。
 一時の間が生まれ、瞬間、その場から殺意が失せた。
 チャンス。アビゲイルは狙い通りの展開に、怒涛の追撃を図る。

「もちろんただという訳ではありません! あなたが今後ドラゴンボールを使った計画に従事するというのなら、私たちはそれを一切邪魔しません!
 他の参加者にも他言無用、あなたのことも、ドラゴンボールのことも知らぬ存ぜぬで通します! あ、そうだ! なんならこれも差し上げましょう!
 このカードは『衝突』と言いましてね、まだ会ったことのない参加者の下に一瞬で移動できる魔法のようなカードなのですよ! 
 ドラゴンボールを使うなら、いつかはピッコロという方と接触する必要があるでしょう? その時になったら、是非お使いください! 
 参加者が減ってからなら、遭遇する確率もグンと高くなりますよ! 
 あ、これでも不満があるというのであればアビゲイル・コレクションの中からいくつか武器を……」

「いや、いい」
 アビゲイルの怒涛の追撃は、言葉攻め。
 早口で見逃して欲しいと進言するアビゲイルの無様な格好に呆れたのか、斗貴子とサクラはポカンとした表情で戦意をなくしていた。
 これこそが、アビゲイルの狙い。
 相手がまだ人の心を失っていない心優しいマーダーだからこそできた、アビゲイル秘伝、戦闘回避の法。
「見逃してくださるのですか?」
「……妙な命乞いをする人だな、あなたは。見たところ相当の実力を持った戦士のようだが、なぜそうまでして戦いを拒む?」
「年を取ると疲労が激しくてね。お嬢さんのような若い方とはやりあうだけで四苦八苦なんですよ。それに、私は戦いを望みません」
「そうか……」
 ゲームに乗ることを決意した斗貴子に、アビゲイルは笑顔を向ける。
 この笑顔も彼の計算のうちなのだろう。喰えぬ男だ。
 そう思いながら、斗貴子は内心で苦笑していた。
225悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:47:57 ID:A23UXFGS0
「分かった。それほど言うのなら、この場は見逃そう。だが、そのカードは貰っていく」
 そう言うと斗貴子は刃の矛先を二人から外し、アビゲイルが喋ると同時に取り出した一枚のカードを示した。
『衝突』。使用者をこのゲーム中で会ったことのない参加者の元へ飛ばす効力を持ったカード。
 これを使えば、計画の要となる人物、ピッコロとの遭遇も容易になる。
「おお、話の分かるお嬢さんで助かります。どうぞどうぞ」
 一歩、二歩。
 カードを受け取るため、アビゲイルと斗貴子の両名が歩み寄る。
 アビゲイルの左手には、『衝突』。右手には、雷神剣。
 そして斗貴子の太ももには、未だバルキリースカートが装着されている。
(えっ……?)
 横から見ていて気づいたが、この二人はまだ、武器を装備しているではないか。
 サクラは一瞬嫌な予感を感じ、表情を曇らせた。
 が、その間も一歩、二歩、二人の距離は狭まっていく。
 距離にして、一メートルあるかないか。
 お互いの手と手が交差する位置まで到達し、カードの受け渡しが行われる。
 と、思った直前。

 無粋な鉄の可動音が鳴り響いた。
226悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:49:21 ID:A23UXFGS0
「なっ……!?」
 一瞬の出来事で、サクラは声をかけることもできなかった。
 瞬きの間に動き出したバルキリースカートの刃は、アビゲイルの喉、各関節、腹部へと、動きを封じるように全身を指し示している。
 アビゲイルはというと、手に持っていた雷神剣を地に毀れ落とし、「参りましたね」と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「…………やはり喰えぬ人だ。今の一瞬、私から戦力を奪おうと画策していただろう?」
「よく分かりましたね」
「一瞬だったが、視線が私のバルキリースカートを見渡していたからな」
「いやはや、お嬢さんの綺麗なおみ足を拝見していたことがあだに……もとい、珍しい形態の武器だったのでね。仕組みを読み取るのに苦労したんですよ」
 寸でのところで刃を突きつけられたまま、苦笑するアビゲイル。
 今の一瞬、あわよくばバルキリースカートを破壊できないかと企んでいたが、どうやら狙いはばれていたらしい。
 スピードの点でも斗貴子は上を行き、結果アビゲイルは絶体絶命の窮地に陥った。
「アビゲイルさん!」
「君は動くな。君が少しでもおかしな行動を見せれば、私は即彼を切りつける」
 アビゲイルの危機を感じ、飛び出そうとしたサクラにも制止をかける。

(…………………まるで悪党だな)

 そのまま数秒の間が発生し、斗貴子は自分の所業を見つめなおして、そして笑った。
 人々を守るべき錬金の戦士が、このような悪態を行っている。
 恥ずべき行為だ。だが、そんな恥じがなんだというのか。
 悪党と呼ぶなら呼べ。
 罪人と汚すなら汚せ。
 そうでなければ、クリリンの意思は継げない。
227悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:49:54 ID:A23UXFGS0
「さて、あなたは私に嘘をついたわけだが、なにか弁解はあるか?」
「なにも。今の勝負、完全に私の負けでした。やはり若さには勝てませんな」
 命の危機に晒されているというのに、アビゲイルはどこか余裕を見せている風だった。
「斗貴子さん、もうやめてください! こんなこと、馬鹿げてます!」
「サクラか……そういえば一つ訊きたいのだが、ヤムチャさんはどうした? 君は彼と一緒に行動していたのではないのか?」
「う……ヤムチャさんは……」
 私を見捨てて逃げました。
 あまりにも情けない事実に、サクラは言葉を詰まらせた。
「言わなくても分かる。彼も、どこかで人数減らしに駆け回っているのだろう。彼とクリリン君は苦楽を共にした戦友だったと聞く。ドラゴンボールに見た希望も、同等のものだったのだろう」
 クリリンにヤムチャ。この二人は、疑うことなくドラゴンボールの力を信じていた。
 それこそが、ドラゴンボールの持つ力の証明ではないか。主催者が封じているなど、誰が言い切れるものか。
「とにかく! アビゲイルさんを離してください! そのカードは持っていっていいから!」
「この期に及んで、まだ私に見逃せと?」
「そうしてくれるとありがたいのですがね」
 そう言ったアビゲイルの顔は、未だ薄ら笑っているようだった。
 こんな状態になって、まだ策があるとでも言うのか。
 アビゲイルからは、不思議と不気味な何かを秘めているように感じがする。
「…………そうだな、ではもう一つ交換条件を出そう」
 アビゲイルの不敵な笑みに臆したのか、斗貴子は刃を進めようとはしなかった。
 代わりにさらなる交渉を申し出たのだ。
「サクラ、君が持っているそのアイテム……スカウターだったかな。それも譲ってくれえれば、今の一瞬は全て水に流そう」
「え……スカウターを、ですか?」
228悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:50:41 ID:A23UXFGS0
「不服か?」
「い、いいえ! これで見逃してくれるって言うんなら、持っていってください!!」
 サクラはスカウターを外し、斗貴子の方へと放る。
 それを掴んだ斗貴子は、緊張する空気の中、徐々にバルキリースカートを離し始めた。
「……今度こそ、見逃してくれると解釈してもいいのですかな?」
「あなたも、今度こそ何もしないだろうな」
 互いに警戒しながら、距離を広げていく斗貴子とアビゲイル。
 交渉は一応の成立を果たし、斗貴子の手には、戦利品であるスカウターと『衝突』のカードが握られていた。
「一つ、忠告しておく」
 去り際、斗貴子が二人に最後の言葉を吐いた。
「次に会った時は、容赦はしない」
 短く、それだけ。
 アビゲイルとサクラはその言葉に頷きもせず、ただ冷や汗を流しながら斗貴子が去っていくのを見送った。

 名古屋城での交錯。
 戦闘には至らなかったのが幸いか。
 それでも、最悪の出会いだ。
 悲劇の戦士の去り際は、夜風に舞って冷たく終わる。


 〜〜〜〜〜

229悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:51:17 ID:A23UXFGS0
 斗貴子が去り、 アビゲイルとサクラの両名は名古屋城近くの民家で身を休めていた。
「はぁ〜」
 不意に、溜息が毀れる。
 二人の肩には、戦闘をしたわけでもないのに重度の疲労感が圧し掛かっていた。
「いやはや、しかし運がよかったですねぇ。もし彼女が強攻策にでも出ていれば、私たちもただでは済みませんでしたよ」
 数分前の邂逅。もし斗貴子が血も涙もないマーダーと化し、交渉の余地なく襲ってきたら、二人揃っての生還はできなかったかもしれない。
 もちろん負傷の身とはいえ、アビゲイルとサクラが二人がかりで交戦すれば、斗貴子は退けただろう。
 だが、それはアビゲイルの信念が許さなかった。
 理由はどうあれ、斗貴子はあれで正義に準じているだけなのだ。
 ドラゴンボールという一欠片の希望に縋りつき、皆を救おうとしている。
 そのために、孤独な惨劇を繰り広げようとしている。
 そんな可哀想なお嬢さんを、傷つける気は起きなかった。
「出来ることなら、もうお嬢さん方の傷つく姿は見たくない……」
 それは、サクラにも言えたことだ。
 ブルマにリンス。守ると誓った二人を死なせてしまった。男として、こんなに嘆かわしいことはない。
「私は救いますよ、斗貴子さん。今度会ったときには、きっと私が止めてみせます」
 空に浮かぶ、月に誓う。
「もちろんサクラさんも死なせはしません! 今度こそ、私がこの手でお嬢さんを守ってみせます!」
 腕を大きく突き上げ、男は決意を新たにした。

「あのぉ〜……その恥ずかしい決意はいいですから、これからどうするか決めませんか?」
 隣では――おそらくこのアビゲイルが原因であろう――精神的に疲れ果てたサクラがいた。
230悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:52:52 ID:A23UXFGS0
「おお、これは失礼。そうですな……私としては傷を癒し、どうにかして斗貴子さんを止めたい。それに、首輪の解析も進めたいですな」
「じゃあ今日はもう休みましょう……いい加減疲れましたから」
 時刻を見れば、もう零時を回っている。大勢の参加者が死んだ一日目が終わり、既に二日目が始まっていた。
 当初の目的であった悟空との合流は、スカウターを失ったこととヤムチャの離脱により困難になった。
 予定より早いが、ここは一刻も早く両津達と再合流し、これからの方針を練り直すべきか。
 いや、それともヤムチャを探し出して馬鹿なことは止めさせるべきだろうか……。
(……いや、腹が立つからしばらく放っておこう)
 サクラは、未だ見捨てられたことを根に持っていた。


 〜〜〜〜〜
 
 サクラが寝静まり、アビゲイルは一人思案していた。
 これからのこと。ドラゴンボールのこと。首輪のこと。考えるべきことは、山ほどある。本音を言えば、寝る間も惜しい。
 しかし、現実を考えればそうもいかない。お嬢さんを守るため、自分はベストのコンディションでいなければならない。
 不意に、改造したドラゴンレーダー――オリハルコンレーダーに目をやる。
 数分前、ここ名古屋から北西に向かって一直線に移動する光点があった。
 おそらくは、斗貴子の持つなんらなかのオリハルコンアイテムのものだろう。
(この光点から目を放さなければ、少なくとも斗貴子さんの居場所は把握できますが……)
 彼女はどこに向かっているのだろうか。
 スカウターを駆使すれば、参加者との接触も容易だろう。もちろん、それを利用しての奇襲も。
 マーダーの居場所が分かっているというのに、何も出来ない自分。
(不甲斐ない)
 できれば、津村斗貴子は殺さずに止めたい。
 彼女が既に説得が通じない領域にいるということも分かる。
 それでも。
231悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 20:59:38 ID:A23UXFGS0
 走る女戦士は、夜を恐れない。
 新たに手に入れたスカウターは、他の参加者の場所を察知できるアイテムだ。
 使い方によれば奇襲も容易く、交戦を回避することも出来る。
 斗貴子が選ぶ使い道は、もう決まっていた。
「…………なかなか、冷酷にはなれないものだな」
 先ほどの邂逅。やろうと思えばやれたはずだ。
 二人相手では確かに分が悪かったが、それでもどちらか一人くらいは仕留められたはず。
 それをやらなかったのは、効率を計算してのことだ。だが、それは単なる『逃げ』の理由でしかない。
 斗貴子は、未だ冷酷な殺人鬼にはなれなかった。
 進む道を北西に定めたのもそのためだ。
 愛知県付近にはケンシロウや西野つかさ、関東方面には桑原和馬がいるはず。
 できれば、もう知り合いには会いたくない。アビゲイルとも、サクラとも。
「次に、誰かに会った時は……」
 殺す。確実に。
 躊躇いは、これで最後にしよう。
 甘えは、これで最後にしよう。
 そして、殺そう。
 そして、生き返らせてあげよう。

「……朝まで休むか」
 決意は固まった。
 核金のおかげで傷は癒えたが、『残酷になる』という決意を抱かせるまでの精神的疲労は癒えることはない。
232悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 21:00:38 ID:A23UXFGS0
「ブルマさん、リンスレットさん。あなた方のような悲劇を繰り返さないためにも、私が守ります」
 サクラも、斗貴子も。


 死んでしまった者は、もう戻らない。
 絶対に。
 人の命は儚く、尊い。
 だからこそ、守るべき価値がある。
 守る。
 言うは簡単だが、実行は難しい。
 アビゲイルは、既に二回失敗した。
 守れる距離にありながら、守れなかった二つの命。
 それだけではない。
 自分の知らぬ所で死んでしまった、三人の仲間の命。
 残された者は、新たな命を守ろうとする。
 それが勤め。
 生き返らせようなどとは、思ってはいけない。
 死者への執着など、愚かだ。


 〜〜〜〜〜
233悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 21:01:12 ID:A23UXFGS0
 走る女戦士は、夜を恐れない。
 新たに手に入れたスカウターは、他の参加者の場所を察知できるアイテムだ。
 使い方によれば奇襲も容易く、交戦を回避することも出来る。
 斗貴子が選ぶ使い道は、もう決まっていた。
「…………なかなか、冷酷にはなれないものだな」
 先ほどの邂逅。やろうと思えばやれたはずだ。
 二人相手では確かに分が悪かったが、それでもどちらか一人くらいは仕留められたはず。
 それをやらなかったのは、効率を計算してのことだ。だが、それは単なる『逃げ』の理由でしかない。
 斗貴子は、未だ冷酷な殺人鬼にはなれなかった。
 進む道を北西に定めたのもそのためだ。
 愛知県付近にはケンシロウや西野つかさ、関東方面には桑原和馬がいるはず。
 できれば、もう知り合いには会いたくない。アビゲイルとも、サクラとも。
「次に、誰かに会った時は……」
 殺す。確実に。
 躊躇いは、これで最後にしよう。
 甘えは、これで最後にしよう。
 そして、殺そう。
 そして、生き返らせてあげよう。

「……朝まで休むか」
 決意は固まった。
 核金のおかげで傷は癒えたが、『残酷になる』という決意を抱かせるまでの精神的疲労は癒えることはない。
234悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 21:01:50 ID:A23UXFGS0
 次に目覚めた時、そこに心優しい戦士はいない。
 ただ、人を殺すことに準じる、悲しい戦士がいるだけだ。
 たった一握りの希望に懸け、人を殺す戦士が。
 錬金の戦士は、夜に消えていく。





【滋賀県/深夜】
【津村斗貴子@武装練金】
 [状態]:肉体的、精神的に軽度の疲労。左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました) 核鉄により常時ヒーリング
 [装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@ドラゴンボール
 [道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険、ショットガン、
     真空の斧@ダイの大冒険、首さすまた@地獄先生ぬ〜べ〜、『衝突』@ハンター×ハンター、子供用の下着
 [思考]1:朝まで休息。その後、関西、中国地方を中心に人数減らし。
    2:参加者を減らし、ピッコロを優勝させる。
    3:友情マン、吸血鬼を警戒。
    4:もう知り合いには会いたくない。
235悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 21:02:20 ID:A23UXFGS0
【愛知県/深夜】
【アビゲイル@バスタード】
 [状態]:精神力体力疲労大、左肩貫通。全身、特に右半身に排撃貝の反動大。無数の裂傷 (傷はサクラによって治療済み)
 [装備]:雷神剣@バスタード、ディオスクロイ@ブラックキャット、排撃貝@ワンピース、ベレッタM92(残弾数、予備含め31発)
 [道具]:荷物一式×4(食料・水、十七日分)、首輪、ドラゴンレーダー(オリハルコン探知可能)@ドラゴンボール、超神水@ドラゴンボール、
     無限刃@るろうに剣心、ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数は不明)、『漂流』@ハンター×ハンター
 [思考]:1.朝まで休息。
     2.サクラを護る。
     3.なるべく早い内に斗貴子を止めたい。
     4.レーダーを使ってアイテム回収。
     5.首輪の解析を進める。
     6.協力者を増やす。
     7.ゲームを脱出。

【春野サクラ@ナルト】
 [状態]:若干の疲労 チャクラ小消費
 [装備]:マルス@ブラックキャット(アビゲイルから譲渡)
 [道具]:荷物一式(一食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)
 [思考]:1.朝まで休息。
     2.四国で両津達と合流。
     3.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
     4.ナルトと合流する
     5.ヤムチャは放っておこう。
236悲しい戦士のギャンブル ◆B042tUwMgE :2006/06/25(日) 21:06:23 ID:A23UXFGS0
失礼。投下する順番を間違えました。
>>231は除外してお読みください。
237一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:18:06 ID:biFgvZ0z0
刻む。
針が刻む時を刻む切り刻む。
かちかちかちかち
長鼻の男が部屋の隅でガラクタをいじっている。
かちかちかちかち
魔法使いが部屋の角でおしゃぶりをしゃぶっている。
かちかちかちかち
蝶々仮面がドアにもたれかかっている。
かちかちかちかち
針は刻む廻り刻む挟み刻む。
カチカチカチカチ
二つの針は近づき近づけ身を重ねる。
カチリ
長針と短針が時計盤の中央で一つになった。
ポッポーポッポー
部屋に配置してあった柱時計の扉が開き、場違いな鳩が踊り始めた。

午前零時。島中のスピーカーからザリザリと耳障りな音が流れ出す。


――初日を生き残った皆さん、おめでとうございます――
第四放送が列島に響き渡る。
――それでは現在までに脱落した者の名と午前二時からの禁止エリアを発表します――
次々と朗読される参加者の名前。
――夜神月、蛭魔妖一、更木剣八――
ポップは祈る。彼女の名が呼ばれないことを。
――ラーメンマン、リサリサ、真崎杏子――
しかし、祈りは届かず、
――マァム――


その名が、呼ばれた。
238一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:19:01 ID:biFgvZ0z0
『私、マァム。この森の東にあるネイルの村の者よ』
強く、気高く、誇り高く、美しかった女性。
『…私…ポップの事…好きよ。大好き』
自分が愛した、女性。
『未来のために!今まで通り力を合わせてこの戦いをのりきりましょう!!いっしょにっ!!』
死んだ。死んでしまった。

「畜生…チクショオオオォォォォッッッ!!!」

目の前が暗転する。
どうしようもない状況に絶望しそうになったとき――光が、覗いた。

――慈悲深い私は『ご褒美』をあげることにしました――

それは悲しみに染まった心に差し込む一条の光。
心を黒く塗り潰す暗黒の光条。
殺せ――
内なる自分が囁く。これは殺人ゲームだ。人を殺しても仕方がない。
殺すんだ――
愛する女の為に命をかけることこそ男の醍醐味じゃないのか?優勝してマァムを生き返らせることが……
殺――


「何をやっている?俺を殺すならさっさとかかってきたらどうだ?」


部屋中に響く声がポップの思考を断ち切った。
まるでポップの心を見通したかのようにパピヨンが言い放つ。
その口調はポップの思考がさも当然であるかのようで……しかしその感情には何の興味もないようで。
無言のままお互いに睨み合う二人の周りを漆黒の蝶が飛び回る。
ブンブンと飛び回る黒蝶々は、まるでドブ川に群がる蝿の如く。
239一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:20:10 ID:biFgvZ0z0
(何故俺の考えていることが…)
ポップの表情が驚愕に歪む。
更にその思考も読んだかのようにパピヨンは薄く笑いを浮かべる。
「どうやら図星のようだな。ん?何か不可解なことでもあるのか?凄い顔になっているぞ」
パピヨンは別にポップの考えを否定する気はないようだった。
「ああ、さては『何故俺がお前の考えていることがわかったのか』と思っているな?」
哂いの表情を作りながら、全く慌てずに会話を続ける。
目の前の男が自分を殺そうとしたと解っているのにだ。
「ふん、そんなことはすぐにわかるさ。
貴様の目が俺と同じ”腐ったドブ川のような目”になっているからな。
世界全体を恨んでいる目の奴がロクなことを考えているわけがない」
パピヨンは余裕の態度を崩さない。
なぜなら、この思考を持つ奴はよく知っているからだ。
自分のことを理解出来ない程パピヨンは馬鹿ではなかった。

(そう、こいつの思考は第三放送のときの俺と同じだ。全てを破壊したくなるあの激情と)
そのことを解った上で、尚パピヨンは説得をしようとしない。
激情に身を任せて殺人鬼になるのもまた良し。ただし……


俺に害を為すようなら遠慮はしない。


「お前が大魔王バーンとやらの思惑に乗って、殺し合いをしようがしまいが俺には関係ない。
貴様の意志にも決定にも干渉はしない。好きに殺し合え」
そう、俺はこいつがどうなろうと構わない。
「何なら俺が相手をしてやろうか?遠慮はしてやらないがな。
さあ、来い。昨日の決着をつけてやろう」
パピヨンは顔を嘲りの形に歪めたままで、戦闘を促す。
いつ暴走するとも知れない危険な駒は早めに片付けておくに限る。
幸いにも駒はもうひとつあるしな。
240一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:23:31 ID:biFgvZ0z0
ニアデスハピネスを全面展開。ポップの死角にあたる場所に数匹を忍ばせ必殺の陣を敷く。
数匹を突撃・爆発させて戦いの火蓋を切ろうとしたとき、ポップがおもむろに杖を地面に置いた。

「…悪かった。今回ばかりはアンタが正しい。バーンの思惑に乗るのはゴメンだ」

その言葉にパピヨンは拍子抜けした。
(暴走寸前だと思ったのだがな)
ポップの言葉と態度に興を殺がれたのか、蔑むような目をしてニアデスハピネスを核鉄に戻す。
「つまらん」退屈そうに呟いた。
何とも言えない空気の中、一人蚊帳の外だったウソップが空元気見え見えの態度で騒ぎ出す。

「う、うむ!よくケンカを止めてくれた!もう午前0時だ!ポストに手紙が届いてるはずだから取りにいくぞォ!」
その言葉に思い出す。武藤からの返事が来ている筈だ。
「よし、ウソップ、案内しろ」
「だから俺はキャプテンウソップであってパシリストウソップじゃないと何度言ったら……ヒィ、わかったよ!案内するよ!」
脅され、ブツクサ不満を言いながら先導するウソップの後ろをパピヨンが歩く。
その後ろに続くのは、一人の大魔道士。

空には月が浮かんでいた。
月は狂気を加速させると言うが、幸いなことに大魔道士は月の魔力から開放されたようだ。

一行の最後尾についたポップは拳を握り締め、覚悟を決める。
――マァム…俺はホント駄目だな…少しは成長できたと思ってたんだけどな…
(せめて……バーンはこの手で倒すよ。お前の分まで頑張るから、だから安心して成仏してくれ)
その足取りには、もう危うい雰囲気は感じられなかった。

〜〜〜ここまでの冒険を記録しますか? 〜〜〜

>はい
 いいえ

【冒険の書2】共用   セーブ
241一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:24:57 ID:biFgvZ0z0
冒険を再開しますか?

>はい
 いいえ

【冒険の書3】パピヨン ロード

『蝶野!元気でやってるか?』

武藤カズキからの手紙の出だしはこうだった。
いきなり肩の力が抜ける。天然だとは思っていたがここまでとは…
いや、『死んでいる自分が生きている相手に送る手紙の書き出し』など、どう書けばいいのか誰にもわからないか。
「何呆れてんだパピぐべらぁッ!?」
横からバカが覗き込もうとした。プライバシーを侵害する奴は取り敢えず殴って黙らせる。
地面の上でのた打ち回るウソップを見下しながら手紙の続きを読む。

『いきなりお前から手紙が来てビックリしたぜ。えーと、拝啓蝶野様、でいいのかな。
ごめん、こっちの用事で悪いんだけど蝶野に頼みたいことがあるんだ。
図々しいことはわかってるけど、大切なことだから聞いて欲しい。
蘇妲己って人と武藤遊戯って奴が俺の仲間なんだ。
俺がこんなこと言える義理じゃないんだけど、見かけたら護ってやってくれ。二人とも本当にいい人なんだ』

――ふん、最初から他人の心配か。とことん偽善者だなこいつは……
無論俺は護るつもりなどない。一緒に居ながら武藤を死なせてしまった奴らなど知ったことか。

『それと、斗貴子さんも……護ってくれとは言わない。だけど、出会っても争わないでくれると嬉しい』

――津村斗貴子か。まだ生き残っているらしいが、正直あまり興味はない。
争うなと言われても向こうが戦闘を仕掛けてきそうではあるがな。
つらつらと偽善者的な言葉が並ぶばかりで俺が聞いた事柄が全然出てこない。
いい加減イライラしてきたところで遂に本題に入った。
242一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:26:10 ID:biFgvZ0z0
『俺を殺した奴だけど、ツンツン髪でツリ目の少年だった。掌からの電撃と心臓を抉る手刀でトドメを刺されたよ』

ツリ目の少年か……
見つけたら必ず殺す。人の獲物を横取りする奴は許せん。
武藤カズキを殺していいのは俺だけだ!そして俺を殺していいのは武藤カズキだけだ!
その武藤カズキを殺した相手を俺は絶対に許さん!

手紙によると、ゲームに乗ったらしい少年が戦闘を仕掛けてきて、
武藤は一番最初に殺されたらしい。だから武藤は仲間の安否を知らない。
遊戯という名前は第三放送で武藤と一緒に呼ばれたから、恐らくそいつもそのガキに殺されたのだろう。
別にそいつのことはどうでもいいが。
ということは……鍵となる人物は蘇妲己。この名前は放送で呼ばれていない。
おそらくその場から逃げたのだろう。何とか接触してツリ目の少年の情報を得たいところだ。

俺が聞いたもう一つのこと――首輪の解除やゲームの脱出については何も知らないらしい。まあ期待はしていなかったが。
その後にはいくつかの情報が書かれていた。
趙公明という強敵のこと、弥海砂という少女のこと、そして――


『……蝶野、結局決着をつけることが出来なくてすまない。――生き残れよ――』


――謝るなよ、偽善者。



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【冒険の書3】パピヨン セーブ
243一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:28:02 ID:biFgvZ0z0
冒険を再開しますか?

>はい
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【冒険の書1】ポップ ロード

ガタンゴトンと列車が揺れる。俺達は鹿児島の駅から電車に乗って本州に向かっている。
丁度禁止エリアの宮崎県を通っているときにパピヨンがおもむろにデイパックから首輪を取り出した。
どうやら首輪の考察を始めるらしい。俺とウソップを手招きしている。
三人で身を寄せ合うように座り、パピヨンの考察が始まった。

「この首輪に使われている技術は現代のものではないな。おそらく地球上の技術ですらないだろう」
小声で囁くパピヨン。
しかし、パピヨンが本当に言いたいことはこんなことではない。
大体、俺達三人以外に誰もいない列車内で身を寄せ合う必要など皆無だ。
本命は空中で文字を形成する黒色火薬。
パピヨンのニアデスハピネスが文字を紡ぎ出す。
(さて、俺達は現在禁止エリアの上を通っているわけだが、首輪は爆発していない。
この現象に対する俺の見解は三つある)
パピヨンは残りの二人を見回し、俺が続きを促す。

(第一の見解は禁止エリア自体がハッタリという可能性。
だが、これはまずないだろう。あそこまで宣伝しているからには虚言の可能性は低い)
その意見には俺も同意だ。嘘である理由がない。

(第二の見解は首輪に『エリアを認識する装置』がついていて、
その装置が禁止エリアに入ったと判断し、爆発に繋げる可能性。
その場合、この列車に装置を無効化する仕掛けがある可能性がある。
うまく使えば首輪解除に繋げることができるかもしれん)
244一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:29:22 ID:biFgvZ0z0
思わず列車内を見渡す。
目に見える範囲にはそのような装置はないようだ。
あるとしたら列車の底の部分か?
(慌てるな)
パピヨンの作った文字が目の前に表れ、思わずパピヨンのほうを見る。

(第三の見解だが…これが一番まずい。
第三の見解は主催者が監視を行っていて、禁止エリアに入った参加者を見つけ次第爆破している可能性。
この場合、非常に厄介だ。ニアデスハピネスを使った会話も見られている可能性がある。
このように身を寄せ合って文字を隠すことでどこまで回避できるものか…)

監視。
当然の可能性としてある手段だ。だが、どうやって監視している?
パピヨンが自分の見解を述べる。
(監視が行われているとしたら、超小型の偵察機か魔術的な方法による監視の線が濃厚だな。
ただ、ミニサイズとはいえ日本全体を把握できるほどの魔術的な監視方法があるのかという疑問はある)
確かにそれは言える。
ここまで大人数を一斉に監視できる魔法などいくらバーンといえども使えないだろう。
(巧妙に隠された監視カメラということはない。細心の注意を払って捜してみたが見つからなかった。
ただ、超小型の偵察機も発見できてはいない。迷彩能力を使っている可能性がある)
迷彩ねえ…
そういえばレムオルっていう透明化呪文があったけど…

パピヨンは監視装置の特定は後にまわして考察を続ける。
(禁止エリアでの爆破を何が判断しているのか調べる方法は簡単だ)
その文字に俺とウソップが息を呑む。
パピヨンは列車の窓を開け放つと一言。

(ここから首輪を放り投げればいい)

どういうことだ?
245一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:30:20 ID:biFgvZ0z0
黒文字は朗々と紡がれる。
(もし主催者が監視映像を完璧に把握しているなら首輪を爆発させる必要はない。
もし爆発させるとしても、殺し合いを促進させる列車を傷つけることはしたくないだろうから、
列車から少し離れた場所で爆発させることだろう。窓から外に出た瞬間爆発させたら、列車がダメージを受けるからな。
万が一列車が止まって、俺達が『禁止エリアの中の安全地帯』に取り残されることは主催者にとっては望ましくない)

…なるほどね。
首輪が禁止エリアの中に入ってすぐに爆発しなければ、少なくとも監視が行われていることが確定するって寸法か。
だが、その実験を行うには…
(無論、今すぐ行うというわけにはいかん。爆発の威力が想定より高かったら巻き添えを食ってしまうからな。
実験の為には首輪の爆発がどれほどのものか確かめる必要があるから、首輪がひとつだけでは足りない。
新しい首輪を手に入れなければならないな。
となると…福岡で大規模な戦闘があったはずだから寄っていくとしよう。
死体が幾つかあるだろうし、もしかしたら武器が落ちているかも知れん)
パピヨンの提案に俺とウソップが同意して、とりあえずの方針が決まった。
列車は進む。
……しかし、窓から入ってくる夜風が冷たい。パピヨンは何故こんな露出が多い格好で平気なのだろう?


〜〜〜ここまでの冒険を記録しますか? 〜〜〜

>はい
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【冒険の書1】ポップ セーブ
246一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:32:05 ID:biFgvZ0z0
冒険を再開しますか?

>はい
 いいえ

【冒険の書3】パピヨン ロード

福岡県の廃ビル群。再びヒソカの死体の前に立つ。
俺のオシャレを理解してくれた同盟相手――しかし今は唯の肉の塊だ。
俺と奇妙な連帯感を育んだ道化師は、もういない。
「…糧にさせてもらうぞ」
その首を引き千切り、首輪を抜き取る。
その生首を投げ捨てようとして――思い止まる。食人衝動は無いが……こいつなら食うのも悪くない。
掌に『口』が開く。その口はヒソカの頭を分解し吸収し、遂には肉体の一部としてしまった。

――旨いな……さて、俺に食人衝動はないはずなのだがな。

パピヨンは返す手でヒソカの残りの身体をも喰らい、その場を後にする。
後には、中身を喪失した道化服だけが転がっていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その後、廃ビル群を回り、ヒソカと戦ったと思われる少年の死体を見つけ、荷物と首輪を回収。
そして廃ビルの一室に放置されていたスナイパーライフルとベアクローを入手。
他には何も無さそうだったので付近を探索しに行ったウソップとポップを合流場所で待つ。
最初に来たのはポップ。こいつは北のほうに行っていたはずだ。

「トンネルの中に二人分の死体があったから首輪を回収したよ…
このゲームで死体を見たのは初めてだけど、正直胸糞悪くなったぜ。
一人、いや一匹は狐型モンスターだったけど、死体は二つとも惨たらしい状態だったな」
狐、ね。狐型ホムンクルスだろうか?
「一応トンネルから引っ張ってきて、外の地面に埋葬したんだが……マァムも彼らみたいにに無惨に死んだのか…?」
俺が知るか。
247一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:33:55 ID:biFgvZ0z0
「マァム…」
ポップは女の名前を呟きながらネックレスを見つめている。女々しい奴だ。

――ポップの胸元で、跡部の死体から回収したアバンのしるしがキラリと光った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それから更に数十分。
「遅い!ウソップのバカは何をやっている!集合時間はとっくに過ぎているぞ!」
ウソップが帰って来ない。よし、置いて行こう。
ポップは心配そうにしている。
「確かに遅いな…まさか敵に!?」
だったら尚更置いて行きたいが…


その時、森の中から巨大な影が覗く。
現れたのは明らかにホムンクルス。
俺のニアデスハピネスとポップの呪文がスタンバイ。
と、ホムンクルスが叫んだ。ん?何か聞き覚えがあるような…
「ま、待てィ!俺だ俺だァ!」
何と、ホムンクルスの口の中からウソップが這い出てきた。寄生虫かあいつは。
ウソップは再度ホムンクルスもどきの体内に引っ込むと、ホムンクルスもどきが歩き出す。
あいつが操作しているのか?


そのホムンクルスはウソップが見つけた機巧人形で、中から操作が出来るらしい。
で、その操作を覚える為に遅くなったということか。
カプセルにして持ってくればいいところを…
まあ、努力を続けることは悪くはないがな。
248一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:35:36 ID:biFgvZ0z0
そのウソップは俺が渡してやったスナイパーライフルを見て更にはしゃいでいる。
狙撃手だというからくれてやったのに本当に大丈夫だろうか?
そう思っていると、いきなりウソップがポーズを決めて叫び出した。
ライフルを掲げて歌舞く。
「ウソ〜〜〜〜〜〜ップライフル!」
前から思っていたのだが、何故こいつはこんなに自己主張が激しいんだ?
そしてホムンクルスもどきの腕を大きく振り上げて格好をつけ、
「ウソ〜〜〜〜〜〜ップフロッグ!」
普通、蛙は直立歩行しないし、その機巧人形はどう見ても蛙じゃない。まだ蛙井のほうが蛙らしい。

二人分の冷たい視線をものともせずにウソップは喋り続ける。
「ウソップフロッグの中に入ってれば相手の攻撃をほぼ無効化できるし、
ウソップライフルを使えば遠距離攻撃も朝飯前だ!
本当はあんまり銃は好きじゃねェんだけど、この際仕方がねェ。
なァに任せとけ。俺は”狙い”に関しちゃすげェのさ!」
ポップが凄く不安そうにしている。激しく同感だ。


バカの声を後ろに俺は改めて今後の方針を再確認する。
――主催者を倒して、武藤カズキの蘇生法を奪い取る。
主催者め、『一人蘇生ボーナス』をチラつかせて殺し合いをエスカレートさせるつもりだろうが、そううまく行くと思うなよ?
――生憎、俺は他人を利用することは大好きだが、利用されるのは大嫌いなんでね。
例え……俺以外の参加者全員を利用しようと、
俺以外の参加者全員を踏み台にしようと、
俺以外の参加者全員を犠牲にしようと、
目的は達成してやる。
武藤カズキ以外の世界になど興味はない。後ろの二人も首輪解除の為の唯の道具だ。
主催者達よ、俺を本気にさせたこと、後悔させてやるぞ!

〜〜〜ここまでの冒険を記録しますか? 〜〜〜
249一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:37:05 ID:biFgvZ0z0
>はい
 いいえ

【冒険の書3】パピヨン セーブ


〔トラブルが発生しました〕

〔データが壊れています〕
〔データが壊れています〕
〔セーブ動作は実行不可能です〕
〔セーブ動作は

《デンデロデンデロデンデロデンデロデンデデン》


〔残念ながら冒険の書1は消えてしまいました〕
〔残念ながら冒険の書2は消えてしまいました〕
〔残念ながら冒険の書3は消えてしまいました〕

〔データが壊れています〕
〔セーブ動作は実行不可能です〕
〔冒険の書は作れません〕
〔冒険の書は写せません〕
〔冒険の書は消せません〕
〔設定を変えることができません〕

〔データが壊れています〕
〔データは壊れています〕
〔ここから先、『やり直し』はできません――――〕
250一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:37:57 ID:biFgvZ0z0
【福岡県/黎明】

【ウソップ@ワンピース】
[状態]:健康
[装備]:賢者のアクアマリン@ハンター×ハンター
   :いびつなパチンコ(特製チクチク星×5、石数個)
   :大量の輪ゴム
[道具]:荷物一式(食料・水、残り3/4)
   :死者への往復葉書@ハンター×ハンター (カード化解除。残り八枚) 参號夷腕坊@るろうに剣心
   :ガラクタで作った手作りの作品(五個)、スナイパーライフル(残弾16発)
[思考]1:電車で本州へ
   2:ルフィ・ロビン・ポップの仲間との合流
   3:アイテムを信じて仲間を探す

【ポップ@ダイの大冒険】
[状態]:健康 (MP微量消費)
[装備]:魔封環@幽遊白書 、アバンのしるし@ダイの大冒険
   :ウソップ作の仕込み杖(投げナイフを使用) 、死者への往復葉書@ハンター×ハンター(ウソップから譲って貰った)
[道具]:荷物一式×3(食料・水、一日分消費) 首輪×2 ※玉藻、跡部の荷物を回収しました
[思考]1:脱出の鍵を探す。電車で本州へ
   2:ダイ・ウソップの仲間との合流
   3:夜になったら死者への往復葉書を使ってマァムに手紙を書く。
   4:フレイザードを早めに倒す
   5:パピヨンはあまり信用していない
251一日遅れで幕は上がり ◆bV1oL9nkXc :2006/06/28(水) 00:38:30 ID:biFgvZ0z0
【パピヨン@武装錬金】
 [状態]:健康  核鉄で常時ヒーリング
 [装備]:核鉄LXX@武装錬金(ニアデスハピネス少量消費)
 [道具]:荷物一式×4(食糧二食分消費)首輪×2、ベアクロー(片方)@キン肉マン ※ヒソカ、一輝の荷物を回収しました
 [思考]:1:武藤カズキを生き返らせる。手段は問わない。ただし主催者の思い通りになるのは拒否
     2:首輪を調べる。爆破実験は迂闊に行うべきではないと思っている(少なくとももっと脱出の為の駒が集まってから)
     3:電車で本州へ、首輪の解除に役立つ人間またはアイテムを探す
     4:蘇妲己と接触し、ツリ目の少年の情報を得る。ツリ目の少年は見つけ次第殺す
     5:他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない

※玉藻、跡部の死体を埋葬しました
※ゴンの釣竿@ハンターハンターは損傷が激しい為、ゴミと見なされ廃棄されました
252ジル・ア・フォービドゥン ◆qE.bka4F6E :2006/06/29(木) 14:01:00 ID:pLCxIN3o0
ヤムチャの第2段階、それは体が一回り小さくなっただけの至ってシンプルなものだった。
タカヤも、そのの姿に油断する。

「あんまり、ビビッて無いようだね。
 うん、そうだな。試しに僕の今の力を見せてあげようか」
そう言うと、ヤムチャの体が一瞬霞んだ。
そして2秒程で、元に戻った。
しかし、ヤムチャの指には何か指人形のようなものが突き去っていた。

「あ、あがががが・・・そ、それは」
タカヤはそれを見て驚愕する。

「フリーザくんに、ハーデスくん。それに大魔王バーンちゃん。
 往復に一秒かかったから、実質一秒くらいかな料理にかかった時間は」
ヤムチャの周りには異常なオーラで溢れていた。

253ジル・ア・フォービドゥン ◆qE.bka4F6E :2006/06/29(木) 14:01:37 ID:pLCxIN3o0
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:第2形態
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:霊体化プーアル
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:ダーク化
    右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:リンス・レットウォーカー
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.ヤムチャをころす。
    2.リンスを操る。
    3.目の前の状況に唖然
254吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:16:14 ID:Ot9ogRgd0
「はじめまして」
「やあ、はじめまして」
 挨拶は、人と人との関係を作る基本的な作業だ。
 朝ならばおはよう、昼ならばこんにちは、夜ならばこんばんわ。
 そして初対面に人には、はじめまして。
 これで、関係が生まれる。
 挨拶を交わしたもの同士は顔見知りとなり、さらにその者の名前を知ることで知人となる。
「君の名前は?」
「東城綾。あなたはDIOね?」
「その通りだ」
 この二人は、"挨拶"を交わし、互いの"名"を知り合った。
 この時点で、二人に関係が生まれる。
 最初は顔見知り、次に知人。そこから友人、同士、恋人と、ありとあらゆる関係へと発展していく。
 挨拶を交わし、名を知る。
 交流。
 これは、なにも人と人との間だけで広まった文化ではない。

 吸血鬼たちも、また。


 〜〜〜〜〜

255吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:16:51 ID:Ot9ogRgd0
 放送を間近に控えた、その瞬間。
 二人の吸血鬼は、運命の遭遇を果たした。
 DIO。
 東城綾。
 どちらも"人"ではない存在。
 橋渡しをしたのは、機械の超人。彼もまた、人ではない。
 人外の者たちの会合。
 その場に一人、取り越されたように居座る人間が一人。
 マミー。
 吸血鬼でもロボ超人でもない、純血の人間。
 静かに聞き耳を立てれば、吸血鬼たちの団欒の声が聞こえてくる。
 不気味に笑ったかと思えば、不気味に笑い、不気味に動いたかと思えば、不気味にこちらの様子を窺っている。

「どうした? 予期せぬ来訪者に困惑したかな、マミー? なに、焦らなくてもチャンスは来るさ。私を殺せるチャンスがな」

 マミーは聞いていないフリをする。
 今の彼は暗い小屋の中、薄汚れた寝床で機会を窺っているのだ。
 DIOを殺すチャンスを。
 殺られる前に殺る。
 そのチャンスを。

「……そこで寝ている彼は?」
「なに、気にすることはない。私は彼に寝床を提供しただけなのだから。ククク……」

 笑っている。
 ムカツク。
256吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:17:22 ID:Ot9ogRgd0
 マミーにとって、東城綾とウォーズマンの出現は予想外の出来事だった。
 DIOとの一対一の密室。
 そこで繰り広げられる命の懸け合い。
 それを予想していた。
 弱肉強食の理念が頭に根付いていたマミーには、DIOに仲間がいるなど考えもつかなかった。
 なぜだ?
(何故DIOは、仲間がいることを隠して俺を招き入れた?)
 マミーの幼い脳が思考を廻らせる。
 分からない。
 DIOの考えが、分からない。
「…………」
「…………」
 二人の話し声が聞こえる。
 会話の内容が頭に入ってこないのは、何故だ。
(三人がかりで俺を殺す気か?)
 そうではない。
 薄目を開けて、他の三人の様子を確認する。
 DIOという名が判明したマミーを招き入れた男は、女と話をしている。
 東城綾と名乗った片腕のない女は、DIOと話をしている。
 ウォーズマンと呼ばれた黒ずくめの男は、笑っている。
 不気味だ。
 不気味すぎる。
 なぜこんにも不気味なんだ?
257吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:17:55 ID:Ot9ogRgd0
 怖いもの知らずであるはずのマミーが、背筋を振るわせた。
 恐怖……?
 分からない。
(分からない)
 DIOの狙いも、この感情も。
 ただ、
(こいつらは不気味だ)
 そう思った。
(まるで、人間じゃないみたいだ)
 鼓動が高鳴る。
 心拍数が上昇する。

「――――――……―――……。――――、……」
「――、……………。――――――?―――――」
 話し声が聞こえる。
 話?
 ただ、声が聞こえる。
 笑い声と、感嘆の声と、それから、
(不気味だ)
 気味が悪い。
 分からない。
 DIOの狙いはなんなのか。
 こいつらの正体は。
 俺の
 不気
 鼓動が
 ――
 DIO
258作者の都合により名無しです:2006/06/29(木) 20:21:39 ID:XhGDYTASO
支援
259作者の都合により名無しです:2006/06/29(木) 20:22:08 ID:3Z4IoXC+0
支援
260吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:27:03 ID:Ot9ogRgd0



     「マミー」



 呼ばれ


        !
  て
        !!!

        !?!
   でぃおに
          !?
 

    殺られる



 〜〜〜〜〜
 
261吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:29:10 ID:Ot9ogRgd0
「どうしたマミー? 酷く興奮しているようだが」

 フー、フー、

「呼吸が荒いぞ? それに凄い汗だ。少し暑いかな?」

 フー、フー、フー、

「DIO、彼は……」

 フー、フー、フー、フー、

「心配することはない。彼の手に握られている物は、"私"が与えた武器だ。"私"を殺すための」

 フー、フー、フー、フー、フー、

「この"私"、この"DIO"を殺すための」

 フ……

「――DIO!?」





 ただ、脳裏に弱肉強食の四文字だけが映し出された。
262吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:30:01 ID:Ot9ogRgd0


 〜〜〜〜〜


 しばらくして、一日目の終了を告げる第四放送が流れた。
 その放送に耳を傾けたのは、四人。
 一人は、着々と減る参加者にほくそ笑んでいた。
 一人は、主催者の思わぬ言動に心を揺るがしていた。
 一人は、放送を聞いても何も感じなかった。否、何も考えられなかった。今は。
 そしてもう一人は、
(ラー、メン……)
 閉ざされた心のどこかで、懐かしい思い出を見たような気がした。
 ただ、それだけ。


 〜〜〜〜〜

263吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:30:53 ID:Ot9ogRgd0
「さて、これから二日目……新しい夜が始まるわけだが、綾、君は何を望む」
「DIOの優勝。そのためにも、私はこの力を試したい」
「ほう。自分で優勝するつもりはないのか?」
「私はあなたに会う前から、死ぬつもりだったわ」
「それはそれは」
「私はDIOの力になる……その代わり、私の願いを聞いて欲しい」
「なんだね?」
「さっきの放送で言っていたでしょう? 優勝したら、ご褒美に誰かを蘇生させてもらえる」
「君は、誰か蘇生させてほしい参加者がいるのかね?」
「いるわ」
「それは?」
「西野つかさ」
「西野つかさ……おや? その者はまだ死んでいないようだが」
「私は彼女の居場所を知っている。今から、私が殺しに行く」
「自らの手で殺し、再び生き返らせるというのか。なぜそのような面倒なことを?」
「それは言えない。あなたに言うほど重要なことでもないもの」
「そうか。ではこれは好奇心で訊ねるのだが、その西野つかさと君の関係は?」
「友達。でも嫌いな人」
「複雑だな」
「そうかしら。ああそれと、さっきの放送……どうやらあなたが気にかけていた波紋使いの女性は死んでしまったみたいよ」
「そのようだな。リサリサ、だったかな。その波紋使いの名は」
「ええ。彼女は西野さんと一緒にいたはずなのだけれど……誰に殺されたのかしら」
「まあ、この世界では誰がいつ死んでも不思議ではない」
「そうね」
「そうだ」
「うふふふ」
「クククク」
264吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:31:46 ID:Ot9ogRgd0
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「クククククククククククククククククク」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「クククククククククククククククククク」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「クククククククククククククククククク」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「クククククククククククククククククク」

 夜は吸血鬼たちの団欒の時間。


 〜〜〜〜〜


 俺は、いったい何をしているんだ?
 俺は、ここになにをしに来た?
 殺すためだろう?
 俺の前に現れた、あのいけ好かないヤローを?
 あのヤローに、強者と弱者の関係を示してやるんだろ?
 なのに?
 なんでなんだ?
 
 なんで俺は、DIOを殺せていないんだ?

 俺はあの時、確かに手裏剣をヤロウの喉元に切りつけたはずだろ?
 あっちから笑って向かってきたから、すんなり行ったはずだろ?
 まさか、直前で避けられたのか?
 ちげーよバカ、あれは避けられたんじゃねぇよ?
 例えるならあれだよ、えーと、なんだ?

 時が止まった?
265吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:37:35 ID:Ot9ogRgd0
 バカか俺は?
 でもあれは、あの一瞬はそうとしか思えねぇんだよ?
 じゃなきゃ、なんでDIOは生きてんだよ?
 俺がしくじったからだろ?
 なんでしくじったんだよ?

『それはな、マミー。おまえが私よりも"弱い"からだよ』

 違うだろ?
 ありゃあれだろ?
 インチキだろ?
 じゃなきゃ納得いかねぇぞ?
 俺がテメーより弱い?
 ふざけんなよ?

『ふざけてはいない。おまえは"弱者"だ。だからおまえは、私を"殺せなかった"』

 だから?
 いつまでもふざけたこと言ってんじゃねぇよ?
 何様のつもりだテメー?

『"強者"さ』

 ?

『おまえが"弱者"だとしたら、おまえが殺すことのできなかった私は"強者"だ』
266吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:39:03 ID:Ot9ogRgd0
 ??
 
『この世は弱肉強食。誰しも"弱者"と"強者"に分類される』

 ???

『解らないか? "弱者"でないのなら、その者は"強者"なのだ』

 弱者?
 俺が?

『そうだ。この世界では、DIOが"強者"、マミーが"弱者"』

 ふざけんな?
 ふざけてねぇのか?
 嘘だろ?
 嘘じゃねぇのか?
 だよな、俺はDIOを殺せなかったんだし。ん?
 俺が弱者?
 弱い?
 弱ければ……死ぬ?
 死ぬ?
 俺死ぬ?
267吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:39:35 ID:Ot9ogRgd0
『いや。私はおまえを生かす』

 強者なのに?

『強者だからだ。強者だからこそ、弱者の処遇を自由に出来る』

 なんで殺さないんだよ?

『それは』

 マミーはDIOを殺せなかった。
 DIOはマミーよりも強かった。
 DIOはマミーを殺さなかった。
 マミーはDIOより弱かった。
 ただ、それだけ。


 〜〜〜〜〜


 吸血鬼が吸血鬼と出会い、
 少年が強者と弱者を知り、
 二日目の夜が始まった。


 〜〜〜〜〜

268吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:40:51 ID:Ot9ogRgd0
 子供の頃から、物語を読むのが大好きだった。
 それは童話に始まり、今は小説へ。私という存在が見ることが出来る、唯一の『夢』へと昇華していった。
 読書量だったら誰にも負けない。伝記物からノンフィクション、冒険ファンタジーから恋愛モノまであらゆるジャンルの本を読破した。
 その一文一文字は全て私の頭の中に刻まれている。少し、記憶の引き出しを整理してみよう。
 改めて検索してみたが、さすがに今のリアルに勝る物語はなかった。
 なにせ私が今体験しているリアルとは、『人間の殺し合い』という私が読んだ書物の中でも極めて稀な題材なのだから。
 人の死。これは別に殺し合いをテーマにしていない作品でも、割と起こりえる展開だ。
 男女の恋愛を描いたお話でも、最後にヒロインが死んでしまうような悲恋譚は世にごまんとあるし、ファンタジー小説なら世界観が壮大だから、仲間の一人や二人が死ぬことも多々ある。
 それらのジャンルが違う物語でも、人の死という展開はある程度ポピュラーなものなのだ。
 では、その展開の先にあるものはなにか。
 まず、悲しみである。所詮、紙の上のキャラが死ぬだけのことではあるが、思い入れが強ければ、人という人間は創作上のキャラにも感情移入をしてしまうものなのだ。
 死に至るまでにその人物に対してやたら印象的なエピソードが挿入されるのは、読者の感情移入の度合いを強める狙いがある。
 私も、お気に入りの小説で好きなキャラが死んでしまい、酷く落ち込んだことがある。その時の関連人物の精神描写がまた秀逸で、思わず涙を流してしまったことも少なくない。
 しかし、やはり物語は物語。現実には敵わない。
 例えば、真中君の死。それを知った時の私の心境は、とても文章などで表せるものではなかった。もちろん小説のキャラクターの死などとは、悲しみの度合いが比べ物にならない。
 やはり、現実と物語は違う。小説家を志す私が言うのもなんだが、普段こういう心境に立たされているキャラクターのことを考えると、胸が痛くなる。
 だがその一方で、私が今いる世界が実に現実とかけ離れていたのもまた事実である。
 まずいきなり殺し合いを共有されるという時点で非現実的だ。主催者にどんな目的があるかは知らないが、人殺しを公共的に認めている国などあるわけがないし、さらに強制ともなればそれは違法などというレベルではない。
 実現不可能という点でもそうだが、参加している人間達も非現実的だ。
 宇宙人に時代錯誤の海賊、機械人間に吸血鬼と、私が知る他の参加者達はどれも常軌を逸している。さらに私自身まで吸血鬼と化してしまっては、非現実を越えて夢のワンシーンとでも取るのが普通だろう。
 でも、これは確かに現実なんだ。二日前までは普通に暮らしていて、新しい作品のストーリーを創作していた私が言うんだから間違いない。
 現実にいた私が、いきなり非現実に連れてこられた。この時点で既に物語の設定としては十分である。
 ただ、私は主人公ではない。集められた百人相当の、登場キャラクターの一人に過ぎない。
 異界で不思議な力を獲得し、知り合いの死に悲しみ、他の重要キャラクターと一喜一憂する。どこにでもいる、平凡な物語のキャラクターだ。
 それも、カテゴリーに分類するなら『悪役』に違いない。なにせ私はこのゲームで人を殺し、これからまた他のキャラクターを殺そうとしている。
 主人公側のキャラクターであれば、ここは主催者打倒を目指したり、仲間を集めての脱出を試みたりするのだろう。
 だが、悪役も悪役で悪くはないと思っている。どんな物語でにおいても、悪役という存在はストーリーを構成する上での重要なポジションであり、人気も高い。
 私の場合は、悪役という種の中でも極めて外道な性格に違いない。殺した参加者はまだ一人だが、他者を利用し、身勝手な愛のために殺戮を慣行しようとしている。
 主人公からは偉く嫌われるタイプだ。逆に読者人気は高かったりするが。
269吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:41:49 ID:Ot9ogRgd0
 私はそうだとして、DIOはどうだろうか。
 彼はゲームに乗ることは苦に思っていないようだし、私と同じく悪役にカテゴライズされているのは間違いない。
 それも、彼の風格からいえば最後の最後で出てくる親玉……言うならば、ラスボスという地位がよく似合っている。
 彼も一参加者であることは間違いないのだが、私とはキャラクターとしての格が違う。吸血鬼としてもそうだが、先ほどマミーに見せたあの『時を止める能力』。まるで、ラスボスだけが持つ優遇された特殊能力のようではないか。
 凄まじい非現実。小説と言うよりは、もはや少年漫画の世界だ。
 このDIOとの接触で、私は思ってしまった。
 この世界は、私が知る物語以上にフィクションだ。
 なんでもありと言ってしまえば、本当になんでも起きてしまうかもしれない。
 だから、主催者が死んだ参加者を『蘇生』させられると言っても、別段驚きはしなかった。
 私だって、一度は死んだようなものだ。何しろ片腕をなくしているのだから。それが、吸血鬼となったことで今は平然としていられる。
 もはや、何が起きようと疑う余地はない。ある意味、悟りを開いたといっても言い。
 ここまでくれば、やはり死後の世界も存在するように思える。真中君が逸早く旅立ってしまったであろう、死後の世界が。
 私は、そこで人間として真中君に再会する。吸血鬼ではなく、人間で。
 初めは、私が優勝して真中君を蘇生させてもらおうとも思った。しかしそれでは、私はどうなる。片腕を失い、血色は悪くなり、何より人間を止めてしまった私を、真中君はどう思うか。
 考えたくもない。私が真中君と対等に向き合える場は、もはや死後の世界しかないのだ。
 しかし、それには西野さんが邪魔だ。私と真中君の世界に、彼女はいらない。だからこそ、私は彼女に生き残ってもらおうと思った。
 だが、やはりそれは難しいだろう。彼女はただの人間だし、彼女と行動を共にしていたリサリサという女性も死んでしまった。私が彼女を守り続けるわけにもいかないし、彼女を優勝させるのは困難極まりない。
 だから、私はより確実な方法を取ることにした。
 強き者を優勝させ、西野さんをあとで生き返らせる。
 その点では、DIOは適任だ。実力は申し分ないし、優勝する気もある。私に吸血鬼の情報を教えてくれたし、私の力を欲しているから、交渉の余地もある。
 何より話が分かる。非道な悪役なら、私を利用するだけ利用していらなくなったらポイッだろうが、DIOからはそういう風潮が感じられない。特に生き返らせたい参加者がいないという点も重要だ。
 DIOなら、きっと私の望みを叶えてくれる。そのために、私は彼に力を貸そう。
 この殺し合いが一つの物語として、私が悪役らしい最後を迎えるというのなら望むところだ。
 だが、結末はDIOの勝利であって欲しい。予定調和の物語ならば悪役の完勝などはまずありえないが、主人公不在のこの物語では、そうとも言えないだろう。 
 待っててね、真中君。あなたに会う前に、私は立派に物語を盛り上げてみせるから。
 だから、私のことは東城綾ではなく『キャラクター』として見ていて欲しい。
 AYAという名の、悪役を見ていて。
270吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:46:13 ID:Ot9ogRgd0


 〜〜〜〜〜


「では夜が終わらぬ内に我々は狩りに出かけるとしよう」
 彼らが動ける時間には、限りがある。それを無駄にしないためにも、DIOはすぐに行動を起こすことにした。
 同行者は、彼の忠実な下僕であるロボット超人。そして、愛に準じる吸血姫。
 彼らを見送るのは、未だ人間を貫き通す少年。人知を超えた存在に恐れ戦き、恐怖に駆られる純粋な人間。
 子供ながら、彼の精神はよく出来ていた。だが、やはり人間は人間。
 弱肉強食には、逆らえない。
 世の理を知った人間は、より強くあろうと、より強く存在しようと努力する。
「君はどうする、マミー? いや、聞くだけ無駄か」
 DIOの言葉を聞き流し、マミーは空虚な瞳を浮かべていた。
 知ってしまった弱肉強食の位置関係に絶望したのか、彼は放心したまま小屋の隅で座り続ける。
「もし君が生きたいと望むなら、私の下に来るがいい。私は、例え誰であろうとも拒んだりはしない。そう、例え弱者であってもだ」
 マミーから返事は返ってこない。それでも、DIOはマミーに言霊を投げかけ続ける。
「だが、やはり今すぐには無理か。人間とは、もろく崩れやすいものだな」
 それを最後に、DIOはマミーから視線を外した。
 時間は重要だ。例え時が止められようとも、それは絶対ではないのだから。
「行こうか、綾、ウォーズマン。夜は……我々の時間は、まだこれからだ」
 吸血姫と機械人間を連れ、DIOが退出する。
 あとに残されたのは、あまりにも弱い、弱すぎる人間。


「DIO……」
 一人きりで、その名を呟く。
 弱者として、強者の名を。
 DIOの世界に染められた存在。年齢一桁の子供には、過酷すぎる現実だった。
271吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:49:12 ID:Ot9ogRgd0
【愛知県と長野県の境・山中の廃屋/深夜】

【マミー@世紀末リーダー伝たけし】
 [状態]:精神重度の不安定、放心状態、弱肉強食の理を悟った
 [装備]:フリーザ軍戦闘スーツ@ドラゴンボール、手裏剣@ナルト
 [道具]:荷物一式(食料と水、一食分消費)
 [思考]:1 DIOに対する恐怖。
     2 DIOに従う……?


【愛知県と長野県の境/深夜】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:健康
 [装備]:忍具セット(手裏剣×8)@ナルト
 [道具]:荷物一式(食料の果物を少し消費)
 [思考]:1.綾と共に愛知県へ向かい、狩りを行う。
     2.綾、ウォーズマン、マミーを利用する。
     3.朝までにはマミーのいる小屋に戻る。
272吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:49:54 ID:Ot9ogRgd0
【ウォーズマン@キン肉マン】
 [状態]:精神不安定・体力微消耗
 [装備]:燃焼砲@ワンピース
 [道具]:荷物一式(マァムのもの)
 [思考]1.DIOについて行く。
    2.DIOに対する恐怖/氷の精神
    3.DIOに従う。


【東城綾@いちご100%】
 [状態]:吸血鬼化。右腕なし。波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた。最高にハイな気分。
 [装備]:特になし
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1.愛知県へ向かい、西野つかさを殺す。
     2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
     3.DIOに協力する。
     4.真中くんと二人で………。
273吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ◆B042tUwMgE :2006/06/29(木) 20:55:38 ID:Ot9ogRgd0
>>270の最後の行を修正。


 DIOの世界に染められた存在。年齢一桁の子供には、過酷すぎる現実だった。
    
    ↓
 
 DIOの世界に染められた存在。年齢僅か十一歳の子供には、過酷すぎる現実だった。
274消えた絶望、生まれた希望:2006/06/30(金) 23:52:54 ID:8kaSthS50
リョーマと太公望を探すために和歌山へと向かっていた勇者一行は、すでに大阪にまで辿り着いていたが、例によって定期的に流れてくる放送を聞くために、しばらくの間、歩くのをやめた。
できることなら藍染や他のマーダー以外の人は一人も死んでほしくない。
と、そこにいる4人が4人ともそう思っていた。
しかし、その希望は最悪の形で裏切られることになる。
――初日を生き残った皆さん、おめでとうございます――
今回は宇宙の帝王、フリーザが担当していた。このパーティにはハーデス、バーンの情報はあるが、フリーザとは面識が無いので(両津が会ったことはあるのだがそれはまた別の話である。)、その冷酷な発言に全員が背筋が凍る思いで聞いていた。
やがて、放送の中でかつての仲間が次々と登場してくる……
(た、太公望さんが……そんな……まさか?それに、地上最強であるはずの聖闘士も俺以外全滅してしまったとは……)
(マァムが死ぬなんて……ターちゃんや太公望さんも……僕が出しゃばらなければ…あの時太公望さんを止めていれば……)
(ターちゃんが死んでしまったのか。くそっ!麗子や星矢と合流できると分かっていたなら、わしが無理についていくことも無かったのに……)
(リョーマちゃんはとりあえず無事みたいだけど……太公望さんが死んじゃったら何にもならないじゃない!!!)
かつて無い衝撃が4人を襲った。ゲーム参加前の知り合いを初めて、或いは全員喪った者、先程出会ったばかりの仲間を喪った者と、それぞれダメージは異なったが、何よりも一番の不幸は太公望の死だ。
数多くの作戦を思いつき、多くの仲間を探し出し、多くの者の希望の対象であったカリスマの死は、今回の行動目標を元から無意味にするものだった。
「畜生!畜生っ!!何でみんな殺しあうんだよ!!何で協力してあいつらに挑もうって気にならないんだよッ!!!!!」
275消えた絶望、生まれた希望2:2006/06/30(金) 23:55:01 ID:8kaSthS50
星矢の一言を皮切りに両津を除く三人の叫び声が大阪中に響き渡った。そして、その叫び声はとどまる所を知らず、何分もの間、延々と続いた……。
しばらくして業を煮やした両津が、
「うろたえるな!!!小僧共!!!!!!!!」
と、一喝し、その迫力に圧倒されたのか、三人は泣き叫ぶのを止めた。その後、再び大阪に静寂が訪れた。
「いつまでもギャーギャーギャーギャーわめき散らしやがって。てめえらここに来てどのくらい経ったんだ?
放送のたびどいつもこいつも大声を張りあげやがって!!ここで大声あげる意味が分かってるのか?マーダーだっておそらく何人かいるだろう。
そんな隙だらけの格好で襲われていたらひとたまりも無かったぞ!!いい加減環境に適応しろ!!」
4回目の放送。ここまで現実社会では有り得なかったリーダーシップを発揮し、乾や鵺野などを引っ張ってきた両津がついにキレた。
もともと短気な彼の性格上、ここまで感情を抑圧できていたのは奇跡に近いことであった。
しかし、両津の言ったことは全てこの状況では当たり前のことだった。いちいち味方が死ぬたびに大声をあげられては全滅の憂き目を見るのは明らかなことだからだ。
「ごめんなさい、両ちゃん。でも、これまでに足を引っ張ってたのは私ひとりよ。星矢ちゃんはここまで私を支え続けていてくれたわ。それに、彼はまだ子供なんだから許して頂戴。お願い……。」
そう言って再び麗子は泣き出した。(一応、さっきの両津の言葉を聞いていたようで、できるだけ声を抑えてはいたが。)
276消えた絶望、生まれた希望3:2006/06/30(金) 23:57:11 ID:8kaSthS50
「そ、そうか。そりゃすまんことをしたな。許してくれ、星矢。」
さすがの両津も女の涙には弱く、できるだけ麗子を傷つけないよう配慮した。
「いや両さんの言うとおり、地上の人々を守らなければならない俺たち聖闘士が泣いてちゃいけない。両さん、ありがとう。オレ、絶対にみんなを守るよ。」
この後、星矢に続き、ダイも自分の行いを恥じ、両津に謝った。
「分かってくれればいいんだ。それより、これからは誰が死んでも決して、弱味を見せるな。マーダーは必ずそこに漬け込んでくるからな。」
「あぁ!!」3人が同時に叫ぶ。この4人に友情が生まれた瞬間だった。
「それと……これは星矢に聞きたいが、ハーデスは死人を生き返らせることが出来るってのは本当か?」
放送を聞いていて、ご褒美について疑問を持っていた両津は星矢に尋ねた。(聖闘士が近くにいるなら聞いてみろ。と、言ったのは実質わし達に対する言葉だろう。)
「え…あぁ、うん。確かにハーデスは死人を生き返らせることが出来るよ。それも何十人も同時に…。」
と、そこまで言って星矢は、はっ。と閃いた。いや、星矢だけではない。そこにいる全員が今の言葉で気づいてしまった。
「ハーデスをぶちのめして死んだ参加者を生き返らせる!!」
これは意外な盲点だった。今まで死は絶対的なものであり、一度失ったものは二度と戻らない。と、思っていたのだから。
今の発言で、先程まで絶望感に打ちひしがれていた者の目の色が変わった。
これまでのショックなど無かったかのように生気に満ち溢れた顔に戻っていた。皮肉なことに主催者がゲームを円滑に進めようと言い放った言葉は逆に両津たちの結束を強め、士気を高める結果になったのだ。
「フリーザは蘇らせることができるのは1人までとか言ってたけど、それは嘘なのね。でも、その餌に釣られてマーダー化する人がいるかもしれないし、油断は禁物ね。」
「あぁ。そして、いくら生き返らせることが出来るからと言っても、今生きている者を疎かにしてはいかん。よって、しばらくの間、大阪近辺で生き残りの参加者を探したいと思う。
麗子たちと一緒にいたリョーマという少年が主な目標だ。」
これにはみんなが喜び、全員でしばらく相談した結果、捜索時間は2時間ということが決定した。
277消えた絶望、生まれた希望4:2006/06/30(金) 23:58:08 ID:8kaSthS50
理由は、明るくなる前に四国に行っておきたいと言うことと、単に大阪は狭いから、それだけあれば十分だ。ということだった。
ちなみに四国への帰還を優先させなかったのは、戦死者がターちゃん一人だけだったので、おそらくマーダーと相打ちになったか、鵺野に倒されたかのどちらかという結論に至ったからだ。また、琵琶湖の方は藍染に挑むのは人数が多いほうがいい。と、言うことで先送りになった。
行動方針は、大阪北部から捜索を開始して、そこから時計回りに進み、リョーマを見つけた時点で四国へ向かうことに決定した。
幸いなことに月が出ており、捜索はいくらか探しやすい状況だ。危険であることには違いないが。
「いくぞ。出来る限り固まって行動するんだ。ここまで散っていった戦士たちと同じミスを繰り返さないためにもな。」
ここで言うミスとは、別行動のことである。4人とも大勢いた仲間と別れたがために味方を次々と失っている。
こうして、安全、かつ効率よく捜索するための準備が整えられ、月夜の下、両津を中心とした勇者達による越前リョーマ捜索が開始された。
278消えた絶望、生まれた希望5:2006/06/30(金) 23:59:38 ID:8kaSthS50
【二日目大阪市北部深夜】
【リョーマ捜索隊】
共通思考1・仲間が死んでも泣かない。
2・出来る限り別行動はとらない。
3・リョーマを探す
4・ハーデスに死者全員を生き返らせさせる
【両津勘吉@こち亀】
【状態】健康 額に軽い傷
【装備】マグナムリボルバー(残弾50)
【道具】支給品一式(一食分の食料、水を消費)
【思考】1・鵺野先生が心配(一刻も早く四国に向かいたい)
2・仲間を増やす
3・三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する。
4・主催者を倒す。
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
【状態】中度の疲労(若干行動に支障あり)
【装備】サブマシンガン
【道具】食料、水を8分の1消費した支給品一式
【思考】1・リョーマが心配
2・藍染の計画を阻止
3・主催者を倒す。
【ダイ@ダイの大冒険】
【状態】健康
【装備】出刃包丁
【道具】荷物一式(2食分消費)、トランシーバー
【思考】1・四国の死守(一刻も早く四国へ向かいたい)
2・公主を守る
3・ポップを探す
4・主催者を倒す
279消えた絶望、生まれた希望5:2006/07/01(土) 00:00:09 ID:8kaSthS50

【星矢@聖闘士星矢】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】ペガサスの聖衣@聖闘士星矢、食料を8分の1消費した支給品一式
【思考】1・弱者を助ける
1・藍染の計画の阻止
2・藍染を倒す
3・主催者を倒す
※2日目開始直後、大声が大阪中に響き渡りました。
280その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 00:54:59 ID:kFS6Ais+0
二日目の開始を告げる放送は、日本各地に衝撃を与えていた。
世直しマン達がいる福岡県も例外ではない。

今回の放送の内容は三つ。
『死亡者の発表』
『禁止エリアの増加』
『一人蘇生ボーナス』

世直しマン達の話題は当然『一人蘇生ボーナス』に集中した。

「人体の蘇生か…完全に死亡したヒトの蘇生など、宇宙広しと言えども存在せんな」
「左様、世直し殿の言う通りだ。人間が死した後、魂魄はソウル・ソサエティに逝くのみ。
生まれ変わるならともかく逆転現象など起こるはずがない。主催者共の罠と考えるべきだろう」
「成る程…蘇生を餌にして殺し合いを加速させるって寸法か。いけすかねェな」
「あの三人組、絶対にぶっ飛ばしてやる!なあイヴ………あれ?」

主催者に対する怒りを募らせたルフィは、そこで気付いた。
イヴが話し合いに参加していない。

見ると、イヴは部屋の隅で震えていた。
その細い体躯をガタガタと揺らしながら、少女は目を瞑っている。
その原因は、呼ばれた脱落者の名前に在った。


―――夜神月―――
―――リンスレット・ウォーカー―――
呼ばれた仲間の、名。
このゲームで出会い、共に行動した青年。
もういない。
元の世界で自分に優しくしてくれた女性。
もういない。
281その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 00:56:34 ID:kFS6Ais+0
仲間が死んだ。仲間が、仲間が―――
怖い怖い怖い
必死に止めようとしたが、震えは全く治まる気配はない。
一層強くなる震えを、

両肩に置かれた、力強い手が止めた。

驚いて目を開けると、目の前にいたのはルフィだった。
決して太いわけではないルフィの手は、それでも確かな存在感を持ってイヴの両肩に存在した。
「イヴ、大丈夫だ。お前には俺達がいるじゃねェか」
ルフィはイヴの両肩をしっかりと握り締め、力強く笑いかける。
その後ろには、ルフィの言葉に頷く三人の姿があった。
ああ、この笑顔を見るとどうしてこんなに安心するんだろう―――
イヴはルフィの目をまっすぐ見て、力強く応える。
「うん、大丈夫。………ありがと」
ルフィの力強い笑みが満面の笑みに変わる。
もう、身体の震えは止まっていた。



その光景を微笑ましく見ていたボンチューは、ふと表情を険しくする。
蟹座の黄金聖衣が入った荷物を手繰り寄せ、椅子から立ち上がった。
「おいルキア、世直しマン。気付いてるか?」
話しかけられた二人も既に椅子から立ち上がっていた。
「うむ、家の外に人の気配がするな」
「しかもこの気配はわざと出しているようだな。まるでこちらの反応を待っているかのような…」
世直しマンはそういいながら読心マシーンを荷物から取り出す。
相手の考えなど、この道具を使えば簡単に判明する。
マシンを起動させ『不審者』の思考を読む。
282その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 00:57:27 ID:kFS6Ais+0
(―――らかに人が複数いる家。おそらくロビンは他人と行動しないだろうからロビンとは無関係か。
ロビンを見たかどうか聞きたいところだが、もしゲームに乗った集団だったら俺一人ではかなりヤバイ。
リンスレットも死んでしまったし、俺もそろそろ危ないか……いや、まだやるべきことが残っているうちは死ねん。
情報を求めるか、それとも安全を期すか。俺の気配に気付いて出てきたところに声をかけて判断す―――)

世直しマンは『不審者』の思考を読み終わると、安心したように読心マシーンを荷物の中にしまった。
「大丈夫だ。どうやらゲームに乗った人間ではないらしい。ロビンという人物を探しているようだが…」
「なァにィ!?ロビンだってェ!?」
世直しマンの話を聞いていたルフィが叫び、韋駄天の速さで外に駆け出す。
「待てルフィ!いきなり出て行ったら警戒され…」
ボンチューが静止の台詞を言い終わる頃には既にルフィは家の外に飛び出していた。
「ロビンはどこだァァァァァァッ!」
ルフィの大声が家の中にまで響き、世直しマンが軽く溜息をついた。


「おっさん!ロビンがどこにいるのか知ってンのか!?」
「な、何だ君は!ロビンのことを知っているのか!?」
外で言い争いのことが聞こえてきた。
その声を聞いてイヴがハッとする。
「その声……スヴェン!」
ルフィに続いてイヴも外に飛び出して行き、残された三人は狐に抓まれたような顔をしている。
「どうしたってんだ…?」
「儂等もゆくぞ。ゲームに乗った者でないなら問題なかろう」
ボンチューとルキアもそれに続き、世直しマンだけが家の中に取り残された。
外から聞こえてくる騒音はますます大きくなる。

「スヴェン!会いたかった!」
「イヴ!?無事だったんだな!」
「だから、ロビンはどこにいるんだァァァァァァッ!」
「落ち着け二人とも!見苦しいぞ!」
「ルフィ落ち着け!暴れるなグハァッ!」
283その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 00:58:15 ID:kFS6Ais+0
「やれやれ」
世直しマンが今度は深い溜息をついた。


〜〜〜〜〜〜〜


家の前での騒動が収まった後、居間では情報交換が行われていた。

「イヴ、よく無事だったな。怖かっただろ?」
スヴェンの言葉を、イヴはゆっくりと首を振って否定した。
「ううん、平気だった……信頼できる仲間が、いたから」

腕を組んで佇んでいる鎧を着た剛健な男。
やけに偉そうに構えている黒装束の少女。
照れ臭そうにそっぽを向いている少年。
そして、今にも仲間を捜しに行こうとしている麦藁帽子の少年。

(そうか、良い人間に巡り合えたんだな、イヴ)
スヴェンは万感の思いでイヴを見る。
こいつも成長したんだな…
そして改めてイヴの仲間である四人に礼を述べた。

「イヴが世話になったようで礼を言う。
イヴがまだこんなに元気なのは、あなた方のおかげだ。感謝してもしきれない」
それに対して世直しマンが代表として答える。
「いや、我々もイヴには助けられて…」
「鎧のおっさん、イヴは仲間なんだから当たり前じゃねェか。
それよりも俺はロビンを捜しに行くぞ!この辺にいるんだろ?」
ルフィは、とにかくロビンを捜したくて仕方ないようでそわそわしている。
その様子にイヴがクスリと笑った。
284その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 00:59:23 ID:kFS6Ais+0
ルフィをこれ以上待たせるのは可哀相だと思い、イヴはスヴェンを促す。
「じゃあスヴェン、一緒にロビンさんを捜そうよ」
スヴェンは少し思案した後、皆に提案を出した。
「ひとつ、提案がある。2チームに分かれないか?」
スヴェンの理論はこうだ。
六人もの大パーティーで移動していると敵に発見され易い。
戦闘時に互いの動きが把握しきれない。
ロビンを捜すには、2チームに分かれたほうが効率がいい。
そして最も大きな理由は、いつのまにか荷物から消えていた黒の核晶だ。
もし六人で固まって歩いているところで黒の核晶の爆発に巻き込まれたら、一気に全滅してしまう。
それだけは何としても避けたいところだった。
       スリーマンセル
「ということで三人一組を提案するんだが、どうだろうか?」
その言葉を受けて世直しマンが他の四人を見渡す。
「いいと思うぜ。俺はもう足手まといになるつもりはねェしな」
「うむ、それがいい。幸い戦闘が出来る面子が揃っておるしな。儂も文句はない」
「スヴェンがそれでいいなら私もいいよ」
「ロビンが見つかるならそれでいいや。早く出発しよォぜ!」
他の四人の意見は賛成。
世直しマンは僅かな不安を感じながら決定を下す。
「皆がそれでいいなら俺も文句はない。
では、チーム分けはどうする?」
その言葉に一瞬の沈黙が流れ……
皆が好き勝手なことを言い始めた。

「儂はボンチューの見張りを志願する。この助平がもしイヴと二人きりになったら何をするかわからんからな
285その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 01:00:08 ID:kFS6Ais+0
「テメェルキア!まだ昨日のこと根に持ってやがるのか!しつこいぞお前!」
「ふん、事実であろう」
「だからそれは誤解だって……」
「それに隊長格の死神である更木剣八も戦死しておるのだぞ?おぬしは放っておくと不安だからな」
「俺が弱いと言いたいのかァ?上等だ……お前とは一回決着をつけなければいけねえと思ってたぜ……」
「カッカッカ、儂に口で勝てると思うておるのか?」
「私はスヴェンと一緒がいい…」
「俺ァどっちでもいいから早く決めようぜ…」

皆の意見を参考に世直しマンはチーム分けを考える。
ルフィ・ボンチュー・ルキアでチームを組むと保護者役がいなくなるから…
「ではAチームが俺、ボンチュー、ルキア。
Bチームがルフィ、イヴ、スヴェンでいいな」
これならボンチューとルキアの面倒は自分が見れる。
Bチームはスヴェン氏に期待しよう。

チーム分けが終わったところで集合場所を決定する。
集合場所は東京タワー。
次の放送が流されたら、一先ずそこに集合する予定だ。
出発する時になって、しばしの別れの挨拶を交す。

「鎧のおっさん、気をつけろよ。ウォンチューも死ぬんじゃねェぞ」
「だから俺の名前はウォンチューじゃねェって何度言ったら………」
「行くぞウォンチュー」
「またねウォンチュー」
「ルキアッ、イヴッ!お前等までッ!」
「んじゃ、そろそろ行こうぜ。イヴ、スベン」
「違うよルフィ。スベンじゃなくてス・ヴェ・ン」
「コライヴ、俺のときは訂正しなかっただろ!」
「騒ぐな、見苦しいぞウォンチュー」
「ルキアァァァァッ!」
286その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 01:01:02 ID:kFS6Ais+0
じゃれあう四人を眺めながら保護者二人は静かに笑う。
「少年少女の未来を護るのも、俺達大人の仕事だよな」
「その通りだ。スヴェン、そちらの二人は任せたぞ」
「あんたこそ、幸運を祈るぜ」
「そちらこそ、な」
絶望だけが支配するこのゲームで覗いた一条の光。
その光の名は、希望と言う。

【福島県北部/深夜】
【世直し組・Aチーム】
【世直しマン@とってもラッキーマン】
[状態]:小程度のダメージ、小度の疲労
[装備]:世直しマンの鎧@ラッキーマン
[道具]:荷物一式 、読心マシーン@ラッキーマン
[思考]:1、ロビンを捜す。
    2、ラッキーマンを探す。
    3、ゲームから脱出し主催者を倒す。
    4、第五放送が終わったら東京タワーに行く。

【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]:右腕に軽度の火傷
[装備]:コルトパイソン357マグナム 残弾21発@City Hunter
[道具]:荷物一式、バッファローマンの荷物一式、遊戯王カード(青眼の白龍・使用可能)@遊戯王
[思考]:1、ロビンを捜す。
    2、ゲームから脱出。
    3、第五放送が終わったら東京タワーに行く。
287その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 01:01:38 ID:kFS6Ais+0
【ボンチュー@世紀末リーダー伝たけし】
[状態]:ダメージ小、小度の疲労
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料ゼロ)、蟹座の黄金聖衣(元の形態)@聖闘士星矢
[思考]:1、ルキアを守る。
    2、ロビンを捜す。
    3、もっと強くなる。
    4、これ以上、誰にも負けない。
    5、ゲームから脱出。
    6、第五放送が終わったら東京タワーに行く。

【世直し組・Bチーム】
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]:両腕を初め、全身数箇所に火傷
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(食料ゼロ)
[思考]1、ロビンを捜す。
   2、"仲間"とともに生き残る。
   3、悟空・自分の仲間を探す。
   4、悟空を一発ぶん殴る。
   5、第五放送が終わったら東京タワーに行く。
288その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 01:03:03 ID:kFS6Ais+0
【イヴ@BLACK CAT】
[状態]:胸に刺し傷(ナノマシンでほぼ完治)、小度の疲労
[装備]:いちご柄のパンツ@いちご100%
[道具]:無し
[思考]1、ロビンを捜す。
   2、"仲間"とともに生き残る。
   3、もっと強くなる。
   4、ゲームの破壊。
   5、第五放送が終わったら東京タワーに行く。

【スヴェン・ボルフィード@BLACK CAT】
 [状態]:肋骨数本を骨折(応急処置済み)
 [装備]:ジャギのショットガン(残弾19)@北斗の拳
 [道具]:荷物一式(食料一食分消費)
 [思考]1、ロビンを捜す。
    2、イヴを護る。
    3、東京付近に着くことになったら、待ち合わせ場所のレストランでトレインと合流する。
    4、第五放送が終わったら東京タワーに行く。
289その光の名は ◆pKH1mSw/N6 :2006/07/01(土) 01:36:44 ID:kFS6Ais+0
最初の
世直しマン達がいる福岡県も例外ではない。を
世直しマン達がいる福島県も例外ではない。に修正

ルキアの一人称を儂から私に変更

お手数かけます…
      
290作者の都合により名無しです:2006/07/01(土) 20:01:26 ID:kFS6Ais+0
世直しマン達がいる福岡県も例外ではない。
は280の二行目です


があるのは282の20行目
284の16行目と25行目
285の6行目です。
291クリフト鳥 ◆HQBGlqi3aQ :2006/07/02(日) 12:55:44 ID:WeJqTrwu0
「これが、本来の僕の姿だよ」
ヤムチャの周りに、真っ赤な狼を象ったオーラが溢れる。

「SPモード『ハイパーウルフ』
 またの名を、超ウルフ人SPARKING」

そして静かに構える。
「狼 牙 風 風 拳 S P A R K I N G!!」

「お、おのれぇぇぇ!!!
 第二奥義  即 死 暗 殺 魔 葬 術!!」
タカヤも必死に反撃する。
しかし、力及ばず、天高く吹っ飛ばされた。
292クリフト鳥 ◆HQBGlqi3aQ :2006/07/02(日) 12:59:39 ID:WeJqTrwu0
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:第2形態
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:ダーク化
    右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.ヤムチャをころす。


293男が壁にぶち当たった時 ◆B042tUwMgE :2006/07/02(日) 22:29:50 ID:Tj+IxYHM0
 脅威は去り、小屋の扉が閉ざされる。
 それでも粗末な建て付けのせいだろうか、閉まったと思われた扉は風に吹かれてギィと軋み、一人きりの小屋を不気味な音で満たした。
 閉め損なわれた扉から微かに漏れるのは、夜の闇。周囲が廃屋というのも原因の一つだろう、黒の領域は深淵と呼べるまでに拡大している。
 それはどんな黒よりも黒く。顔を覗かせても、黒しか見えない。先が見えない、絶対の黒。
 黒の闇、その奥に待っているものはなんなのか。普通に考えれば、外だ。家の外は外、至極当たり前の答えである。
 しかし、本当に外だろうか。ここが室内である以上、扉が何を隔てているかなど、子供でも分かる。
 それでも、夜という時刻の外は特別だ。普段人間が活動をする昼とは真逆の時間帯に位置し、活動時間外であるはずの人間がそこに足を踏み入れるのは、一種の禁断行為にも思える。
 もちろん、マミーは夜を恐れたりなどしない。彼は夜十時には決まって寝付くような良い子というわけでもないし(彼の年齢から考えれば、そうだとしてもおかしくはないのだが)、今は就寝時間に文句を言っていられるような状況でもなかった。
 彼が恐れたのは、夜に飲み込まれていった存在。
 人間と違って夜を活動時間とし、夜に好かれた高貴な種族。
 吸血鬼。果たして、本当にそんなものがいるのだろうか。
 一般的な吸血鬼の特徴といえば、人間の血を吸い、太陽光に弱く、十字架を嫌い、昼間は棺桶で寝ている。あとはニンニクが苦手というくらいか。
 イメージとしては、タキシードに蝙蝠マント、雷鳴の刺す古城などがピッタリなのだが、先ほど遭遇した自称吸血鬼どもは、どちらもマミーの知る吸血鬼の印象とはかけ離れていた。

 しかし、本人が吸血鬼と言うのならたぶんそうなのだろう。
 イメージなど所詮はイメージに過ぎず、マミーは本当の吸血鬼に会ったことなどないのだから、真相は確かめようがない。
 問題なのは、吸血鬼という存在がこれほどまでに恐怖を放つ存在なのか、ということだ。
 自慢ではないが、マミーとて人外の種族に相対するのは初めてではない。かつて、このゲームに参加しているたけし、ゴン蔵、ボンチュー等と共に悪魔と呼ばれる存在と戦ったことがある。
 今思えば、その悪魔の連中もマミーの知るイメージとはかけ離れていた。DIOのように人間の形態を取っていた奴がほとんどであったし、思考も割と人間じみていた記憶がある。
 それでも、彼等の持つ力――魔力は、確かに人間を超越した能力だった。
 物質を溶かしたり石化させたり、中には口から悪魔を産むような奴もいた。それを考えれば、DIOの『時を止める力』も一種の魔力なのかもしれない。
 だが、DIOは魔力を持った悪魔ではない。吸血鬼――人知を超えた存在であるという点では悪魔とそれほどの差異はないが、ならば何故こうも怯えを感じるのか。

『それはおまえが"弱者"だからだよ、マミー』

 扉の向こうから、DIOの声が聞こえたような気がした。
 空耳だ。奴はもうここにはいない。そうは思っていても、視線が扉に向いてしまう。正確には、扉の隙間に覗く闇に。

「……DIO、吸血鬼……」
294男が壁にぶち当たった時 ◆B042tUwMgE :2006/07/02(日) 22:31:33 ID:Tj+IxYHM0
 自分を弱者、DIOを強者と、弱肉強食の関係を決定付けた存在。
 二度も殺す機会を損ない、二度も生かされた。DIOに思惑がなければ、既に二回も殺される機会があったのだ。
 DIOは強い。自分ほどではなく、自分よりも。確実に。たけしやボンチューとは、また違った次元の強者だ。
 思えばマミーは、あの時も壁にぶち当たった。魔黒――悪魔との戦いの際、今までとは違った力を扱う敵に、それまでマミーが誇ってきた暴力は何一つ通用しなかった。
 では、あの時も自分は恐怖に支配されていただろうか。
 違う。あの時は、敗北による怒りと悔しさで感情が爆発していたはずだ。強大な敵を倒すため、負けを取り戻すため。そのために、いけ好かないリーダー軍団とつるんでまで敵地に突撃した。
 敗北は向上心を引き出し、勝利を掴むための糧となる。今までだって、そうやって強くなってきたはずだ。

『弱音が俺の肩に手ぇ回してきたからよ、背負い投げでブン投げてやったよ』

 いつか、ボンチューが言っていた言葉だ。あの男は妹の死という壁にぶつかった時、そうやって乗り越えた。
 弱音をブン投げるなんて、馬鹿な話だ。馬鹿だが、えらく男らしい。

「……上等じゃねーか」

 マミーは、たけしのようなカリスマ性を持ったリーダーではない。
 マミーは、ボンチューほど志が強くない。
 それでも、負けん気では。敵を恐れぬ精神力では、マミーは誰よりも強かったはずだ。

『やりましょうよマミーさん!』
『マミーさんなら楽勝ですよ!』
『誰もマミーさんには適いませんよ!』

 ファミリーの連中は、そんなマミーを慕い、ついてきたはずだ。
 それが、マミーだったはずだ。

「DIOがなんだってんだよ……あんな奴、安藤に比べりゃ、たけしに比べりゃ、ボンチューに比べりゃ……」

 俺に比べりゃ、
 雑魚じゃねーか。
295男が壁にぶち当たった時 ◆B042tUwMgE :2006/07/02(日) 22:32:07 ID:Tj+IxYHM0

 〜〜〜〜〜


 拳を振るう。
 夜という闇を、未知という恐怖を隠した扉を、

「――うぅぅぅるぅあああああァァァ!!!」

 その手で、粉砕する。
 粉々に砕け散った扉は、小屋と外の境界線を失くし、マミーにありのままの外の世界を見せた。
 そこは、闇と、ほのかな蒸し暑さと、天から射す月光と、ただそれだけの世界。
 恐怖の元など、何もない。いつも見てきた、ただの夜だった。

「このオレ様が、テメーごときにビビるとでも思ってんのか。ああ?」

 既に遥か先を行っているであろう吸血鬼に対し、メンチをきる。
 この世が弱肉強食であるというのならば、それに従おうじゃないか。
 だが、マミーは決して弱者にはならない。その上に強者がいるというのなら、這い蹲ってでもそいつを蹴落とす。
 そして、自分が強者に君臨する。
 それが、弱肉強食というものだろう。

 マミーはDIOを『絶対に越えなければいけない壁』と定め、夜を歩き出す。
 このゲームの結末がどうあれ、DIOは必ず倒す。この、自分の手で。
 それまでは、絶対に死なない。屍になっても、DIOをぶちのめしに行ってやる。

「覚悟して待ってやがれ! この吸血鬼ヤロオォォォォォォ!!!」

 解き放たれた狂犬が、月夜に吼えた。

 男は壁にぶち当たった時、挫折し弱音を吐く。
 そこから這い上がれるかどうかで、男としての器量が試される。
296男が壁にぶち当たった時 ◆B042tUwMgE :2006/07/02(日) 22:32:44 ID:Tj+IxYHM0
 〜〜〜〜〜


 最初から、DIOはマミーを従えるつもりなどなかった。
 もとよりあの手の人種……単細胞とでも言い表せばいいか。そういう輩が、人の言うことを聞くはずもない。
 マミーはそれに加えて、負けず嫌いでもある。自分よりも上に立つ存在を絶対に許さない、意地でも自分が頂点に行こうとする、そういう人種。
 例え自分の命を蔑ろにしても、DIOに逆らうことは明白。だからこそ、彼にあった扱い方をしてやることにした。
 マミーはおそらく、DIOを殺すために意地でも強くなろうとするだろう。
 そのためには、死ぬことも許されない。相手を殺してでも、生き延び、強くなろうとするはずだ。
 首輪を付けられない狂犬など、放し飼いにしておけばいい。そうするだけで、うまく働いてくれるはずだ。
 DIOがマミーに望んだことは、生き延びるために他者を殺すこと。
 DIOは、種を植え付けただけにすぎない。マミーという煮え切らなかった少年に、絶対に死ねない理由を与えただけだ。
 強くなるため、宿敵を倒すため、マミーはうまく働いてくれるだろう。
 
 しかし、DIOは一つ、重大な見落としをしている。
 それは、マミーという男の根性を諮りきれなかったこと。
 絶対的な力を持つ自分に対し、ただの人間であるマミーなど、恐れるに足らない。そう認識していた。
 本当にそうだろうか。狂犬は、飼い主に噛み付かないと絶対に言えるだろうか。
 DIOは知らない。
 マミーという男を、まだ半分しか。


【愛知県と長野県の境・山中の廃屋/深夜】
【マミー@世紀末リーダー伝たけし】
 [状態]:極度の怒り
 [装備]:フリーザ軍戦闘スーツ@ドラゴンボール、手裏剣@ナルト
 [道具]:荷物一式(食料と水、一食分消費)
 [思考]:1 DIOを殺す。それまでは絶対に死なない。
     2 強者に君臨するため、もっと強くなる。
     3 誰が相手でも殺られる前に殺る。
     4 誰が相手でももう絶対にビビらない。
297全国レベルの中学生(1/9) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:23:16 ID:gFugezhp0
「なかなか寝付けないってばよ」
「そうか、ならば1つ面白い話をしてやろう」
 九尾と竜吉公主の2人。会話を聞くだけならまるで親子のようである。しかし、その実態は殺人狐と仙人。
 仙人は人に対する害意を持たないが、殺人狐には害意十分。仙人が隙を見せたところで、この屋敷にいる全ての住人に被害が及ぶであろう。

 しかし、そんな両者の思惑は周囲からはまるで感じられない。2人とも自分の心中を隠したまま、会話を続けている。

「私達が閉じ込められたこの空間についての話じゃ」

 公主はそう切り出し、この狭い空間の歪さを説明し始める。
 動植物のアンバランスさ、地下水脈の不整合、数々の能力に対する制限等の太公望が見つけ出した法則について語る。
 九尾はその話を聴き

「なんだか難しいってばよ」

(この女、只者ではないな。この分析力・洞察力、敵に回すと厄介かも知れない)
(すまぬ、太公望よ。お主の洞察力を利用させてもらったぞ)
298全国レベルの中学生(2/9) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:23:55 ID:gFugezhp0
 深夜23時頃。結局ナルト─九尾─は公主の話が難しすぎると言って眠ってしまった。
 無論、本当に寝入ったわけではない。狸寝入りならぬ狐寝入り。万一、本当に寝てしまってもチャクラの回復になるだろうし問題はない。

(さて、私も寝るとするか)

 ナルトが横になった姿を見て公主も横になろうとする。
 そのとき──
「二人が寝ている姿はまるで親子ですね」
──と言って鵺野が現れた。

 彼は現れるや否や
「公主さん、夜遅くすいませんが、お話があります」
と言って公主を手招きする。

 しかし、反応したのは九尾が先。
「何の話があるんだってばよ」
「君はもう夜遅いから眠りなさい」
 鵺野は教師として当然の言葉でナルトを拒絶する。
「分かった、もう寝るってばよ」
 そんな事を言いながら九尾は再び狐寝入り。
299全国レベルの中学生(3/9) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:24:40 ID:gFugezhp0
 会議室と書かれた部屋に鵺野、公主、乾の三人が集まる。

「さて、公主さん。オレが気絶している間に入ってきたあの少年は誰なんです」
「あの子はうずまきナルトという少年じゃ。忍者と言っておったな」

 鵺野は俯きながら首を振る。

「あの子は人間ではない。恐らくは金毛玉面九尾の狐」
「何じゃそれは」

「古くはインド・中国の王朝に最後は800年前の日本・鳥羽上皇の妻、玉藻前として3つの国の王朝に忍び込み、災いをもたらした史上最強の妖狐です」

 鵺野が静かに、しかし、全身に来る震えを押さえきれない表情のまま語った。

「なんと、あのナルトの正体が数百年も前から暴れておる妖怪だと言うのか」

 人は見かけに拠らぬと言うが、このゲームにはなんと恐ろしい化け物がいるのだろう。
 妖怪仙人の恐ろしさを知る公主はナルトがいかに恐るべき化け物であったかを再度認識させられた。
300全国レベルの中学生(4/9) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:25:43 ID:gFugezhp0
 しかし、そんな時、中学生の乾は冷静に対応する。
「鵺野先生。ここには様々な世界の住人が集められています。
確かに先生のいた世界には、そのような化け物がいたかも知れませんが、ナルトが同じ化け物だという保障はどこにも無いですよ」
「その通りだ。だが乾、オレの霊感ではナルトから途方も無い霊気が感じられるんだよ」
「私も鵺野先生と同じくナルトからは大きな邪気を感じておる」
「……」
 霊感と言うものとは全く無縁の乾には分からぬ話。だが、公主と鵺野の震える様子から乾もナルトが只ならぬ少年だと理解し始めてきた。

 そして、突然──
「そういう事なので2人はここから逃げてください。後は霊能力者のオレが何とかします」
──逃げろと言い出す鵺野。


 そのとき、3人がいる部屋の扉が開いた。
「何か面白い話してるんなら、俺も仲間に入れてくれってばよ」
 そう言ってナルトが突然話に加わってきた。
 凍りつく3人。ナルトは無邪気な表情を見せて近づく。
301全国レベルの中学生(5/9) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:28:10 ID:gFugezhp0
 ナルトが一歩近づく。
   その顔に狐の髭を模した模様が刻まれる。
 ナルトが一歩近づく。
   その背中から狐の尻尾が二尾生えてくる。
 ナルトが一歩近づく。
   その全身を狐を象ったオーラが包む。

 ナルトが一歩近づくごとに殺気が膨れ上がるのが分かる。
 九尾の狐と人間・仙女。
 捕食者と被捕食者。
 両者の力の差は歴然としている。ナルトがただ歩くだけで、3人はその事を痛感した。


「なんでそんなに怯えてるんだってばよ」
 言葉だけは無邪気に、けれど殺気は隠さず九尾が問う。
 3人は答えない。代わりに鵺野が経を唱え始める。

「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音」
「公主さん、鵺野先生が引き付けている間に逃げましょう」

「我が左手に封じられし『鬼』よ、今こそ、その力を示せ」

 鵺野の手に唯一の闘う武器、『鬼の手』が現れる。
 ナルトの目が『鬼の手』に注視する。
 瞬間、公主と乾はその場から離れた。
302全国レベルの中学生(6/9) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:28:59 ID:gFugezhp0
「貴様らのような妖怪がいるから、俺の生徒が殺されたんだ」
 鬼の手の出現とともに、表情までも鬼のように変える鵺野。
 生徒をなくし、ライバルをなくし、妻さえも亡くした25歳の青年はもうかつての優しさを持っていない。
 鵺野は『鬼の手』を出した瞬間、九尾に襲い掛かる。

「くくく、どっちが殺戮者だか分からんなぁ」
「黙れ!」

 『鬼の手』がナルトを四方八方から襲う。中学水泳で全国五位だった鵺野の運動神経は九尾に反撃の隙を与えず拳撃を繰り返す。

 『鬼の手』が九尾の足を掠める。
 『鬼の手』が九尾の腕を掠める。
 『鬼の手』が九尾の顔面を掠める。

 一撃でも喰らえば九尾とは言え、致命傷は避けられぬ破壊力を持つ手。
 けれど、九尾は笑いながらそれを避けている。

(ククク、この者。何故かは知らんが人間がベースになっておる。同族の手さえ避けていれば何も怖いものはない)

 鵺野の運動能力は人間としては一流。
 25歳という年齢、元全国区の運動能力、さらに体育の授業のため運動を欠かさないこともあって、人間として最高峰の力を持っている。
303全国レベルの中学生(7/9) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:29:45 ID:gFugezhp0
 けれど、所詮は人間。
 九尾がかつて闘った剣八のように人外の運動能力はない。

「どれ、遊んでやるか」

 刹那、九尾が人間の動きを超える。
 鵺野の視界から消え去り、背後から軽い蹴り。
 一撃で鵺野は弾き飛ばされてしまった。

「脆弱じゃ、脆弱じゃ」

 鵺野の力などナルトでさえ脆弱と感じるであろう。
 両者の力の差は歴然。
 鵺野の凶器は左手だけだが、九尾の凶器は全身。
 さらに、九尾は不得意とは言え忍術も使える。
 彼が負ける要素は1つもないと言ってよい。

 人間の限界を軽々と超えた動きで鵺野を翻弄する九尾。
『鬼の手』は虚しく空を斬るばかり。

 けれど、鵺野は諦めない。
「俺の生徒は活発で明るい女の子だった。だが、貴様ら殺戮者のせいで殺されたんだ」

 九尾が殺戮者ではない可能性を考慮しない鵺野。
 本来の彼ならば、たとえ妖怪であったとしても無条件で悪とすることはない。
 けれど、今の彼はもう、そんな余裕は全く持っていなかった。
304全国レベルの中学生(8/9) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:30:29 ID:gFugezhp0
 鵺野と九尾が闘っている家から少し離れた暗闇の中。
 公主と乾の2人が戦況を窺っている。

「公主さん、鵺野先生の意思を無駄にしないためにも逃げた方がいいですよ」
「なら、お主は1人で逃げよ。私は闘う」

 公主はそう言って青雲剣を握り締める。

「私には宝貝という闘う力が与えられておる。乾、お主は無理をせずともよい。後は私達に任せよ」

 闘う力。
 確かに乾にはない。
 ならば逃げるのが正解か。

 だが、そう思って公主を見ると、息をするのさえ苦しそうにしている。
 香を焚いた部屋から出てしまったため、彼女は恐らくここにいる誰よりも貧弱な体をしているに違いない。
 なのに、剣1つを持って闘う力があるという。

 ナルトに立ち向かう鵺野も同じこと。
『鬼の手』などと言う大仰な武器を持っているが、体は人間。九尾との差は歴然ではないか。
 結局のところ、この場に、九尾と闘う力を持っている者など1人もいないである。
305全国レベルの中学生(2/9) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:31:25 ID:gFugezhp0
 右手に握り締めたコルトローマンを見つめ乾は考える。

 俺は闘う力を持っている。何を躊躇っているのか。逃げる必要などない、闘えばいい。
 先生を助けられるのは、俺と公主さんしかいない。

「公主さん。俺も戦います」

 鵺野と公主の2人で闘えば負けなど見えている。しかし、自分の力が加われば勝機が見えるかもしれない。

「けれど、突入するのはまだです」

 青雲剣を手に、今にも飛び出しそうな公主を制する。

「ナルト、データを集めさせてもらうぞ」
 そう言って乾は暗がりから鵺野と九尾の闘いを見つめる。

 元青春学園No.3。データテニスの乾貞治。
 彼もまた、鵺野と同じ全国レベルの中学生だ。
306全国レベルの中学生 ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:32:15 ID:gFugezhp0
【香川県のダム/真夜中】
【竜吉公主@封神演義】
 [状態]:疲労進行中、お香焚きこめ中
 [装備]:青雲剣@封神演義
 [道具]:荷物一式(一食消費)、アバンの書@ダイの大冒険、お香(残り9回)
 [思考]:1.四国を死守
     2.ナルトと闘う。鵺野を守る。
     3.呪文の取得(『フバーハ』か『マホカンタ』が候補)
 [備考]:キアリーを習得

【乾貞治@テニスの王子様】
【状態】健康
【装備】コルトローマンMKV@シティーハンター(ただし照準はメチャクチャ)(残弾30)
【道具】支給品一式。(ただし一食分の水、食料を消費。半日分をヤムチャに譲る。)手帳、 弾丸各種(マグナムリボルバーの分は両津に渡してある)
【思考】1、ナルトと闘う。鵺野を守る。
    2、越前と合流し、脱出を目指す。
    3、脱出、首輪について考察中

【鵺野鳴介@地獄先生ぬ〜べ〜】
【状態】健康
【装備】御鬼輪@地獄先生ぬ〜べ〜
【道具】支給品一式(水を7分の1消費。)
【思考】1、九尾を倒す
307全国レベルの中学生 ◆PXPnBj6tAM :2006/07/06(木) 00:34:42 ID:gFugezhp0
【うずまきナルト@NARUTO】
 [状態]:九尾の意思 重度の疲労 全身に軽度の裂傷 チャクラ消費大
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式×2(一つは食料と水を消費済み、ヒル魔から奪取) ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
    :ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
 [思考]1、鵺野を殺害後捕食。
    2、戦闘後はしばらく休息。
    3、剣心、セナとの接触は避けたい。
    4、サクラを探し、可能なら利用。不可能なら殺害
    5、術者に能力制限を解かせる
    6、優勝後、主催者を殺害する
[備考] (ナルトの精神は九尾の部屋で眠っています。肉体的に瀕死、
またはナルトが外部から精神的に最大級の衝撃を受けると一時的に九尾と人格が入れ替わります)

*玉藻の封印は、玉藻の死亡と、九尾のチャクラの一部によって解除されたと言う見解です。
 そのため、今のナルト(九尾)はナルトのチャクラ+九尾のチャクラ15%程度のチャクラが上限です。
 ただし、九尾のチャクラも使いこなせます。
 あと、九尾は基本的にナルトの口調で喋ります。
308シリアスパクライ ◆7TyfpTGtv. :2006/07/07(金) 11:55:51 ID:bTbaa3U00
「これで、とどめだよ!!
 躁 気 弾―E V O R U T I O N」
ヤムチャがタカヤに向けて、必殺技を放とうとした。

「こ、このままで・・・すむと思うなよ」
指先に引っかかった大魔王バーンがボソボソと言っている。

「黙ってろ・・・小僧が!!」
ヤムチャは笑いながら言い返した。

一方、タカヤは。
「ふふふ、いまこそ悪魔の外殻を取るべきか・・・
 わたしの真の姿、それはこの世界の頂点に立つ神なのだよ!!!」

第3奥義 ―破 壊 十 二 邪 神 超 覚 醒!!―

空が金色に光った。
309シリアスパクライ ◆7TyfpTGtv. :2006/07/07(金) 11:57:54 ID:bTbaa3U00
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:第2形態
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:ダーク化
    右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
    2.ヤムチャをころす。

310作者の都合により名無しです:2006/07/07(金) 12:17:50 ID:rKIEl3KD0
ヤム子たんハァハァ
311九尾総力戦 -前編- (1/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:40:44 ID:+E5/34HJ0
 屋敷の明かりが周囲の明暗を分ける。文字通り、明かりと暗がり。
 暗がりの中にいる乾と公主からは、明かりの中にいる鵺野と九尾がハッキリと見える。

「この位置がいいんです。今はまだ動かないでください」

 自信ありげに語る乾を信じ、公主は動かない。


 屋敷の中では、鵺野と九尾が闘っている。
 いや、闘いではなく、一方的な暴力。
 『鬼の手』の攻撃は全て空振り。九尾の攻撃は全て命中している。
 九尾の拳が鵺野に襲い掛かる。その全てが面白いほど命中している。

「一方的じゃな……待っていても状況は変わらぬではないか」

 我慢しかねて公主が言う。けれど乾は冷静に答える。

「状況は変わっています。ナルトの、九尾の動きが単調になっている。
九尾から危機感が消え、彼の動きは人形を相手にしているように単純です。
最初の攻撃は蹴りを織り交ぜていたのに、今は拳のみを使っている。
それに、『鬼の手』の避け方もいつも同じ反時計回りに避けるだけです」
312九尾総力戦 -前編- (2/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:41:48 ID:+E5/34HJ0
 言われてみれば、九尾の動きは単純極まりない。
 鵺野の攻撃を右に飛んで避けている。攻撃も、利き手である右手のみで行う。
 高速な動きに惑わされてしまうが、動きそのものは至って単純。

「どんな動物も自分が死ぬかもしれない、という緊張感がなければ攻撃は単調化します。
百獣の王ライオンが兎を狩る例え話も、ライオンは兎を食べられなければ死ぬために真剣になっているに過ぎません。
けれど、あの九尾には死の緊張感がない。
圧倒的な実力差が生む、油断です」

 確かに、乾の言うとおり九尾の動きは単調で、九尾の表情は余裕で、とても死の緊張感があるとは思えない。

 だが──

「だが、あのままでは鵺野先生は死ぬぞ」

──公主の言葉は当たり前の事。
313九尾総力戦 -前編- (3/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:42:39 ID:+E5/34HJ0
 そもそも、死の恐怖を感じぬ程に実力差が開いているのだ。
 鵺野が勝てないのは当然ではないか。

 屋敷の明かりに包まれた戦場では、九尾の拳が雨のように降り注ぐ。
 九尾の攻撃は単調さを極め、打撃は全て右拳のみ。回避は全て右回り。

 九尾の体の持ち主、ナルトならばこのような単調さは無かったであろう。
 けれど、今体を動かしているのは九尾。圧倒的な実力差が生み出す驕りからは、戦術と言える様なものは何一つ窺うことが出来ない。

 そしてさらに、

(九尾の動きは、もう一段階、単調になる)

 乾はそう確信していた。
314九尾総力戦 -前編- (4/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:43:34 ID:+E5/34HJ0
「もう耐え切れん」
 公主が飛び出そうとするのを、乾は右腕をがっしり掴んで阻止する。

 そして、待ちに待ったチャンスが来た。

 鵺野の攻撃を、九尾がバックステップでかわしたのだ。
 さらに、九尾はもう一度後ろに下がり、鵺野との間合いを大きく広げる。その距離は10メートルほど。

   止めを刺す気だ。

 その場にいる誰もが気付いた。
 方法は至ってシンプル。鵺野まで直進し、右拳を突き入れるだけ。

 九尾の突撃は、人間の動きを超えたスピードで行われる。
 反応できない。

 公主は鵺野の死を確信した。
315九尾総力戦 -前編- (5/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:49:27 ID:+E5/34HJ0
 だが──

「鬼の手70%」

──突然、『鬼の手』の形が変わる。その形は直刀。反りのない真直ぐな刃。

 その刃が九尾に向かって伸びる。
 伸びるスピードは九尾以上。

 刃が九尾の体を貫く。一瞬早く、九尾がかわした為、刃は左肩を貫くだけであった。

(油断しておった。この同族、まだ力を隠し持っていたのか)

 九尾の顔に焦りが浮かぶ。
 同時に、彼から油断が消えたのが分かる。

「御鬼輪を使えば、俺は『鬼の手』の能力を100%発揮することが出来る。
 お前のような妖怪は絶対に許さん」

 鵺野は全身に傷を負いながら、吼える。
316九尾総力戦 -前編- (6/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:50:28 ID:+E5/34HJ0
「乾、お主はこうなる事が読めていたのか」
「えぇ、闘いはここからが本番です」

 御鬼輪を使い、100%鬼の力を出せると言いながらも、70%までしか発揮していない鵺野。
 九尾と言われながらも、二尾しか出していないナルト(九尾の狐)。

 どちらも、まだ本気ではない。
 本気のデータでなければ意味がない。

 かつて、乾は氷帝学園との戦いの時、試合中に敵のデータを取得して戦うという荒業をやってのけた。
 結果は敗北。
 今回、同じ結果は許されない。
 かつて起こせなかった奇跡を起こす必要がある。

 乾の視線が2人に注がれる。
317九尾総力戦 -前編- (7/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:51:39 ID:+E5/34HJ0
 屋敷の中では、鵺野と九尾が対峙している。
 鵺野の左手にあった刃は消え、代わりに二本の触手が生えている。触手の先には鋭い爪がある。『鬼の手』の力をさらに解放したのだろう。

 一方の九尾は印を組む。
「忍法、影分身の術」
 その言葉と共に、数十体のナルト(九尾)が屋敷を埋め尽くした。


 ナルト(九尾)達の攻撃が始まる。
 先ほどまでの単調な攻撃ではなく、四方八方からの同時攻撃。
 鵺野の正面、背後、頭上、様々な角度から攻撃する。

 けれど、鵺野は一歩も動かず、『鬼の手』の触手を振り回すだけで、全ての九尾を駆逐した。

 小さな音を立てて九尾たちが煙のように消える。
「っち……」
 鵺野に真正面から突撃していった九尾だけが残り、舌打ちする。


「鬼の手80%、貴様は殺す」

 そう言った鵺野の周りを『鬼の手』の触手が囲む。
 彼の表情はまさに『鬼』。彼は生徒を亡くし、ライバルを亡くし、妻を亡くしたため、既に人の心を無くしてしまった様な表情をしている。
318九尾総力戦 -前編- (8/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:52:13 ID:+E5/34HJ0
 妖怪にさえも寛容だった鵺野鳴介という男はもういない。
 そこにいるのは、殺戮者を屠るという意思を持った、もう1つの殺戮者のみ。
 鵺野の明確な殺意は九尾にも伝わっている。

 一方の九尾は殺意を失いかけ、逃げることも視野に入れている。
 鵺野が思った以上の力を持っている。『鬼の手』に守られている今は、先程のように攻撃を加えることはできまい。

 逃げるか、それとも、殺して食うか。

 九尾に迷いが出た一瞬、鵺野が攻撃を仕掛ける。
 触手と化した『鬼の手』の波状攻撃、九尾の動きをはるかに超える『鬼の手』。
 先程までと異なり、今度は九尾が防戦一方となる。

(この速さ、逃げることも出来んか……)

 九尾は再び、印を組む。二度目の影分身、今度は屋敷を覆い尽くす、いや、破壊してしまうほどの多量の分身体。
 それらの分身体はなだれ込むように、一点に集中していく。
 拳でも、蹴りでもない、体当たりを主体とした分身たちの猛攻。
319九尾総力戦 -前編- (1/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:53:00 ID:+E5/34HJ0
「鵺野先生は大丈夫なのか」
 公主が心配そうに言う。

「大丈夫です」
 乾は確信を持って答える。
「分身体が一点になだれ込んでいます。あれは攻撃をしている証拠です。
同時に、先生が無事である証拠でもあります」

 なるほど、と公主は感心する。乾の分析力は凄まじい。
 公主は知らないが、彼は分析力を主体として全国レベルの中学で第3位にまで上り詰めた天才テニスプレーヤーである。
 その能力は常人の比ではなく、もはや人外の領域に達していると言っていい。

 乾はある一体の九尾に注目する。
 分身体の多くが、鵺野に突撃する中、その一体だけは動かない。
320九尾総力戦 -前編- (10/10) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:53:33 ID:+E5/34HJ0
 なるほど、と乾は微笑む。
 一度目の影分身では本体も突撃したが、今回は鵺野の力に恐れを感じて本体だけは安全な場所にいる。
 単純な策だ。

 さらによく見れば、鵺野の背後にある分身体ほど減りが激しいのが分かる。
 おそらく、九尾の分身体は主に鵺野の背後から攻撃しているのだろう。
 単純に死角からの攻撃を繰り返しているだけ。

 乾は戦闘を観察し、こう結論付ける。
   九尾に高い知能はない。
 攻撃も、作戦も単純なものが基本であり、決して複雑な行動は取らない。

「もう見るべきものはないな」

 乾はそう言って、公主に一言告げる。

「今からが、反撃のチャンスです」
321九尾総力戦 -前編- ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:54:26 ID:+E5/34HJ0
【香川県のダム/真夜中】
【竜吉公主@封神演義】
 [状態]:疲労進行中
 [装備]:青雲剣@封神演義
 [道具]:荷物一式(一食消費)、アバンの書@ダイの大冒険、お香(残り9回)
 [思考]:1.四国を死守
     2.ナルトと闘う。鵺野を守る。
     3.呪文の取得(『フバーハ』か『マホカンタ』が候補)
 [備考]:キアリーを習得

【乾貞治@テニスの王子様】
【状態】健康
【装備】コルトローマンMKV@シティーハンター(ただし照準はメチャクチャ)(残弾30)
【道具】支給品一式。(ただし一食分の水、食料を消費。半日分をヤムチャに譲る。)手帳、 弾丸各種(マグナムリボルバーの分は両津に渡してある)
【思考】1、ナルトと闘う。鵺野を守る。
    2、越前と合流し、脱出を目指す。
    3、脱出、首輪について考察中

【鵺野鳴介@地獄先生ぬ〜べ〜】
【状態】全身に裂傷。戦闘に支障なし。
【装備】御鬼輪@地獄先生ぬ〜べ〜
【道具】支給品一式(水を7分の1消費。)
【思考】1、九尾を倒す
322九尾総力戦 -前編- ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 01:55:22 ID:+E5/34HJ0
【うずまきナルト@NARUTO】
 [状態]:九尾の意思 重度の疲労 全身に軽度の裂傷、左肩負傷 チャクラ消費大
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式×2(一つは食料と水を消費済み、ヒル魔から奪取) ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
    :ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
 [思考]1、鵺野を殺害後捕食。
    2、戦闘後はしばらく休息。
    3、剣心、セナとの接触は避けたい。
    4、サクラを探し、可能なら利用。不可能なら殺害
    5、術者に能力制限を解かせる
    6、優勝後、主催者を殺害する
[備考] (ナルトの精神は九尾の部屋で眠っています。肉体的に瀕死、
またはナルトが外部から精神的に最大級の衝撃を受けると一時的に九尾と人格が入れ替わります)

*玉藻の封印は、玉藻の死亡と、九尾のチャクラの一部によって解除されたと言う見解です。
 そのため、今のナルト(九尾)はナルトのチャクラ+九尾のチャクラ15%程度のチャクラが上限です。
 ただし、九尾のチャクラも使いこなせます。
 あと、九尾は基本的にナルトの口調で喋ります。
323清里高原大炎上戦修正追加3/4 ◆PN..QihBhI :2006/07/08(土) 11:35:05 ID:0o0v+pOI0
清里高原大炎上戦の修正です。>>153>>154に加えてこれもお願いします。

>>78の五行目
正確には山梨県北杜市高根町。縦横に広がるこの大草原に立つ者がいれば、彼方に八ヶ岳連峰と呼ばれる日本国最高峰の山郡の壮大な連なりを臨むことが出来るだろう。
↓(改行)
正確には山梨県北杜市高根町。縦横に広がるこの大草原に立つ者がいれば、
彼方に八ヶ岳連峰と呼ばれる日本国最高峰の山郡の壮大な連なりを臨むことが出来るだろう。

>>85の五行目
「おぬしは」→カット

>>86の8行目(改行と微修正)
『セブンセンシズ【第七感】』それは小宇宙の真髄。人間の持つ五感(視覚・味覚・聴覚・触覚・嗅覚)+第六感(精神)を越えた第七感。いわば究極の小宇宙である。(第七感に目覚めているのは黄金聖闘士だけである)

『セブンセンシズ【第七感】』それは小宇宙の真髄。人間の持つ五感(視覚・味覚・聴覚・触覚・嗅覚)+第六感(精神)を越えた第七感。
いわば究極の小宇宙である。(尚、第七感に目覚めているのは黄金聖闘士だけである)

>>90の12行目13行目
『フフフ、さすがの僕もこれで終わりかと思ったよ。だがね、忘れないで貰いたい。
本来、<僕らは一心同体>。全てを同時に滅ぼさなければ意味がない。それは太公望くんもよく分かっている筈だよ』

『さすがの僕もこれで終わりかと思ったよ。だがね、忘れないで貰いたい。
本来、<僕らは一心同体>。全てを同時に滅ぼさなければ意味がない。かつて太公望くんが実践したようにね』
324清里高原大炎上戦修正追加4/4 ◆PN..QihBhI :2006/07/08(土) 11:36:53 ID:0o0v+pOI0
>>97の下から4行目
「うぐっ」→カット

>>98の五行目
―――――(寝てんじゃねえよ太公望!!)太公望さん!!

―――――(まだ諦めるのは早いぜ、太公望)太公望さん!!

>>103の3行目
――――おまえは、それでいいのか。

――――まだ手は残されている。後はお前次第だがな。

>>108の10行目
太公望は目を閉じた。略〜

太公望はゆっくりと目を閉じた。略〜


以上です。個人的には結構悔いが残ってる作品なのでまた修正するかもです。
CGI氏すみません。そしてガンガレ!
325アビゲイルvs飛影修正 ◆PN..QihBhI :2006/07/08(土) 13:07:02 ID:0o0v+pOI0
今更ですが、『アビゲイルvs飛影』の『後編の一番最後の部分(状態表直前)』に修正を入れます。
〜〜〜〜修正前〜〜〜〜

「―――フッ、くだらんな」

笑わせるぜ、今更何を考える。最早あの場所に求める物など無かろうに。

過ぎ去りし日々、戦うことだけが残された。力尽くまで闘って、そして散るのもいいだろう。
心の空。どうせ死に逝く運命ならば、暗い夜空のままでいい、と飛影は思った。


     『牀前月光を看る 疑うらくは是れ地上の霜かと
       頭を挙げては山月を望み 頭を低たれては故郷を思う』
                                  ― 李白 ―
〜〜〜〜修正後〜〜〜〜
「―――フッ、くだらんな」

笑わせるぜ、今更何を考える。最早あの場所に求める物など無かろうに。
かつて、ささやかな拠り所があった。だが、いつしか全てが離れ、戦うことが残された。
それだけの話だ、と呟いて飛影は木から飛び降り、歩き出した。もう休息は充分だろう。

夜露に濡れた草木を踏み越え、森の中を暫く進むと、やがて横手に小さな石碑が現れた。
刻み込まれた文字、舞い落ちる木葉に半ば埋もれ、深緑の苔に覆われた先人の遺文。
月明かり、朧気に浮かぶ書跡に束の間その目を止めたものの、飛影の歩みが止まる事はなかった。


     『牀前月光を看る 疑うらくは是れ地上の霜かと
       頭を挙げては山月を望み 頭を低たれては故郷を思う』
                                  ― 李白 ―
以上ですCGI氏超スマソ
326九尾総力戦 -中編- (1/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:18:10 ID:+E5/34HJ0
「公主さん、あそこに移動してください」
 乾は鵺野の背後を指差して言う。
「分かった」
 と、公主は青雲剣を片手にそこへ移動する。

 公主の移動と同時に、放送が始まる。
 けれど、その場にいる誰も動きを止めようとはしない。

 ――初日を生き残った皆さん、おめでとうございます。
 主催者の1人、フリーザの声が脳内に響いても、闘いはとまらない。

 公主が鵺野の背後に移動する、乾がコルトローマンを九尾本体に向けて発砲する。

  威嚇射撃。 当たらずとも良い。

 九尾は暗闇からの突然の発砲に驚き、咄嗟にその場所から逃げ出す。
 逃げ方は鵺野を中心とした反時計回りの動き、そのまま安全な場所、鵺野の背後へと回りこむ。

 けれど、そこには既に公主がいた。
 青雲剣の斬撃が九尾に襲い掛かる。
327九尾総力戦 -中編- (2/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:18:56 ID:+E5/34HJ0
 九尾は体を捻って何とか斬撃をかわすも再び左腕に攻撃を受けてしまった。

(もう、この腕は使い物にならんか……)

 ならば、逃げるしかない。
 同族の予想を超えた力。
 突然現れた不思議な剣を持つ女。
 そして、遠方から威嚇射撃を行う少年。

 全てが九尾にとって不利に働く。

(逃げる)
 そう決意し、九尾は再び印を組み、3度目の影分身。

 放送はまだ流れている。


 ──それでは現在までに脱落した者の名と午前二時からの禁止エリアを発表しますので、お聞き逃しの無いように。


 九尾が影分身をすると同時に、多くの分身体が鵺野と公主に襲い掛かる。遠方の乾は無視。
 そして、一体の九尾のみが分身体に隠れて、逃げ出そうとする。

(馬鹿の一つ覚えだな……)
「鵺野先生、奥にいる九尾を狙ってください」
328九尾総力戦 -中編- (3/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:19:32 ID:+E5/34HJ0
「分かった」
 乾の声を聞き、鵺野は周りにいる分身体を一通り蹴散らすと、ただ一体の逃げようとする九尾にのみ攻撃を集中させる。

 『鬼の手』の触手が伸び、その九尾を背後から切りつける。

(逃げられん)

 九尾は自分が追い詰められている事に気付く。
 ここにいる3人を全滅させない限り、自分には生き延びる道が無い。

 九尾は完全にぶち切れた。

 人間ごときに追い詰められている。
 無論、1人は人間と言うよりは仙人だが、それでも人間より非力と言っていい存在だ。
(この程度の奴らにワシが追い詰められるだと)
 ありえない。自分は1つの郷を窮地に陥れた最強の妖狐だ。
 そうとも、本気で戦えばこの程度の奴らなど問題ではないのだ。

 九尾は両腕を前足に見立て、四本足で立つ。
 もう人間の器に拘ってはいられない。必ず勝つ、九尾の誇りにかけて。人間どもを全滅させ全てを喰う。
329九尾総力戦 -中編- (4/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:20:17 ID:+E5/34HJ0
 九尾は、四足のまま唸り声を上げ3人を威嚇する。
(本気になった)
 鵺野と公主はそう感じた。その威嚇には説得力がある。これからの九尾は、今までとは違うはず。

 けれど、乾は驚かない。

 威嚇したと言うことは、こちら側に恐れを感じたと言うこと。
 逃げ出さないと言うことは、逃げることすら諦めたと言うこと。

 勝負は8割方決した。

「公主さん、左斜め後ろ10歩移動してください。先生はそのまま右へ移動してください」

 乾の掛け声と共に公主・鵺野が移動する。
 同時に、九尾も動く。今度は司令塔の乾目掛けて突撃。
 分身体も何も使わない単純な攻撃。

「終わりだ、九尾」

 コルトローマンを両手に持ち、照準を合わせる。
 二度目の射撃。当たれば終わり、外れても終わり。


 放送はなおも続く。
 ――夜神月、蛭魔妖一、更木剣八、ラーメンマン……
330九尾総力戦 -中編- (5/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:22:29 ID:+E5/34HJ0
 コルトローマンの2撃目。
 また外れた。

 けれど構わない。九尾は射撃の音に驚き、そのまま体を旋回させる。
 そしてそこには鵺野がいた。

 また、読まれた。

 『鬼の手』の一撃が九尾の体を貫く。腹部への一撃。放って置けば致命傷。
 さらに、3人の攻撃は続く。背後から公主が迫って来る。

(殺される)

 九尾は直感した。それは生物全てが持つ生存本能。
 けれど、その予感は裏切られる。

 公主の脳内に響く放送、その言葉はありえない『死』を伝えてくる。

─伊達臣人、デスマスク、クリリン、


そして
         太公望
331九尾総力戦 -中編- (6/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:23:36 ID:+E5/34HJ0
(馬鹿な、太公望が……死んだだと)
 公主は放送に聞こえた言葉が信じられない。
 一瞬、彼女の動きが止まる。

「公主さん、今は戦闘中です」

 乾の声が響く。けれど、反応したのは九尾のみ。
 体を反転させ、背後にいる公主の方へと向きを変える。
 そして、なけなしのチャクラを乗せた攻撃。
 公主も何とか反応して、剣を振るおうとするが遅い。

 九尾の攻撃が先に命中し、彼女は弾き飛ばされた。

 乾のデータが狂い始める。
 テニスでは絶対に起こりえない外部からのノイズ。

 呆然とする公主に九尾の追撃が迫る。
332九尾総力戦 -中編- (7/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:24:38 ID:+E5/34HJ0
「先生、九尾を止めてください」
 乾はそう叫びつつ、同時に自分もコルトローマンを構える。
 今度は外さない。

 3度目の射撃。しかし、乾の決意虚しく弾丸はあらぬ方向へと飛んでいく。

 九尾は右拳を振り下ろし、公主へと迫る。
 公主は剣を盾に使い、その攻撃をなんとか防ぐ、けれど、続く九尾の蹴りを避けきれずに再び弾き飛ばされた。

「今度は俺が相手だ」

 なおも公主に襲いかかろうとする九尾の前に、鵺野が立ちふさがる。

「鬼の手90%」

 『鬼の手』がさらに形状を変える。より巨大化し、本数を増やした触手。
 もはや、逃げる事も、闘う事も九尾には不可能。

 乾のデータは若干狂った。
 けれど、この『鬼の手』から九尾が逃げられる確率は1%未満。

 脳内に放送が続く中、乾と鵺野は勝利を確信した。
333九尾総力戦 -中編- (8/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:25:41 ID:+E5/34HJ0
 『鬼の手』の触手が九尾に襲い掛かる。
 1撃、2撃……連撃だ。見る間に血塗られていく九尾。

 人の形をした生き物が、死に行く瞬間。

 誰もが勝利を確信した。



 けれど、
「俺、俺、何も悪いことして無いってばよ」
九尾の表情が一変する。九尾の意識が気を失ったため、宿主のナルトが意識を取り戻したのだ。

「助けてくれ。俺が悪い事したなら、謝るから、許してくれってばよ」

 そういいながら、ナルトは命乞いをする。
 突然、放り出された死の直前と言う場面。15歳の少年は素直に命乞いという手段をとった。

 そして、その行動は鵺野の中に僅かに残った人の心をくすぐる。
334九尾総力戦 -中編- (9/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:26:49 ID:+E5/34HJ0
「君は……君は人間なのか」
 九尾の体から妖気が消えた。信じがたいことに、先程まで化け物だったモノが、今ではただの少年になっている。
 鵺野は目の前の現象が信じられない、と言った気持ちで攻撃をやめた。

「俺、怖かったんだってばよ。何もして無いのに、みんな死んでいくから、もう死んでいく人たちは見たくなかったんだ」

 そう言って、ナルトは鵺野に近づいていく。
 鵺野はその体を優しく抱きとめた。

「すまなかった」
 鵺野はそう呟く。その時、ナルトが笑った。
 瞬間、九尾の妖気が戻ってくる。ナルトから九尾へと意識を変える。

 九尾の攻撃が鵺野の腹部を直撃した。
335九尾総力戦 -中編- (10/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:27:48 ID:+E5/34HJ0
「っち」
 乾は舌打ちし、咄嗟に銃を連射する。
 拳銃は両手で構え、狙いは正確に定める。そして連射。

 1、2、3……何発撃っても拳銃は当たらない。

 どうなってるんだ、そう思いながらも乾には撃つ以外に手段が無い。
 彼は気付かない、このコルトローマンの照準が完全に狂っていることを。

 そして、九尾が乾のほうを振り向く。
 走る。人を超えた動きで、乾に襲い掛かる。

 乾も懸命に連射するが、全く当たる気配が無い。

 彼の誤算は3つ。

  1つは放送。
  1つはナルトの意思。
  1つはコルトローマンの照準。

 天才テニスプレーヤーの計算は完全に狂った。
336九尾総力戦 -中編- (11/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:28:38 ID:+E5/34HJ0
 当たらない拳銃。
 倒れた2人の仲間。
 襲い掛かる化け物。

 乾は自分の死を予感した。



 駄目か……

 そう思ったとき、どこからか、人の声が聞こえる。

「飛天御剣流……」

 赤毛、赤服の剣客が突然、自分の頭上を乗り越えて現れる。
 そして、そのまま、

「龍槌閃」

 彼は上段に振りかぶった鞘を化け物に叩き付けた。
 九尾はそのまま、地面に叩き伏せられる。
337九尾総力戦 -中編- (12/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:30:06 ID:+E5/34HJ0
 乾にとって4度目の誤算。けれど、今度は喜ぶべき誤算。
 誰かは知らないが、突然の来客により自分の命は助かった。

「ありがとうございます。助かりました」
「まだ、終わっておらんでござるよ。油断するな」

 赤毛の剣客はそう呟く。
 九尾は起き上がり、後ろに大きく下がって間合いを取る。

「拙者の名前は緋村」
 あえて名前は名乗らない。

「故あって、うずまきナルト殿を探していたのでござるが……
あの様子。ただ事では無いのでござるな」
「えぇ、彼は人ではなく、ただの化け物。オレも仲間達2人も彼に殺されそうになりました。
緋村さん、助けてください」

 乾は今初めてあったばかりの剣客に協力を請う。
 彼の助けがなければ、九尾を倒すことなどできない。
338九尾総力戦 -中編- (13/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:30:54 ID:+E5/34HJ0
 大丈夫。
 誤算が続いたが、まだ修正できる。
 緋村という男が助けてくれれば、自分達が勝つ。

「……」
 緋村は少し考えているようだ。
 だが、すぐに結論を出す。

「分かった。おぬし達を助けるでござるよ。
けれど、期待されては困る。拙者の武器は鞘1つ。それに、もうヒビが入っている」

 よく見ると、緋村の手には鞘が一本。
 そして、先程の一撃のせいだろうか、それにはヒビが入っており、もう武器としてはほとんど機能しない。

 乾はそれを見て、緋村に指示を出す。
「緋村さん、俺の名前は乾と言います。
あそこにいる女性、今は気絶していますが彼女が持っている武器を使ってください」
 乾が指差す先には倒れた公主がいる。
 公主の持つ武器、青雲剣。剣客緋村にとっては、これ以上無い武器だ。
339九尾総力戦 -中編- (14/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:31:47 ID:+E5/34HJ0
 九尾と緋村が対峙する。
 互いにまだ一歩も動かない。

 緋村の鞘は壊れかけ、九尾はチャクラが尽きている。
 お互いに決定打をなくしている状態。

 緋村が青雲剣を取れるか、それとも九尾が阻止するか。
 勝負はそこにかかっている。



 一方、戦場の外れでは鵺野が仰向けに倒れている。
 彼の意識はまだある。
 けれど、彼の精神は既に破壊されたといっていい。

 彼の中で、最後に残された優しさ。
 それは、幼い子供達に対する愛情。

 けれど、その愛情は最悪な形で裏切られた。
340九尾総力戦 -中編- (15/15) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:33:07 ID:+E5/34HJ0
 鵺野の左手の御鬼輪が割れる。
 鬼の力が100%解放される。

 そこには、もう人などいない。

 鵺野鳴介という名の人間は既に死んだといっていいかも知れない。
 彼は身も心も鬼に成り下がった。

 闘いは最終局面を迎える。

 放送はいつのまにか、終わっていた。
341九尾総力戦 -中編- ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:34:17 ID:+E5/34HJ0
【香川県/深夜】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、精神重度の不安定
【装備】刀の鞘(ヒビ入り)
【道具】荷物一式
【思考】1.ゲームに乗り薫を救うかどうか思案中。
    2.目の前の敵、九尾を倒す。
    3.小早川瀬那たちとの約束と薫の救出のどちらが優先か検討中。
   (斎藤と薫の幻を見たことで精神がかなり不安定になっています)

【竜吉公主@封神演義】
 [状態]:気絶中
 [装備]:青雲剣@封神演義
 [道具]:荷物一式(一食消費)、アバンの書@ダイの大冒険、お香(残り9回)
 [思考]:1.気絶中
 [備考]:キアリーを習得

【乾貞治@テニスの王子様】
【状態】健康
【装備】コルトローマンMKV@シティーハンター(ただし照準はメチャクチャ)(残弾30)
【道具】支給品一式。(ただし一食分の水、食料を消費。半日分をヤムチャに譲る。)手帳、 弾丸各種(マグナムリボルバーの分は両津に渡してある)
【思考】1、ナルトと闘う。鵺野を守る。
    2、越前と合流し、脱出を目指す。
    3、脱出、首輪について考察中
342九尾総力戦 -中編- ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:35:29 ID:+E5/34HJ0
【うずまきナルト@NARUTO】
 [状態]:九尾の意思 重度の疲労 全身に軽度の裂傷、左腕は使用できません。チャクラ無し
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式×2(一つは食料と水を消費済み、ヒル魔から奪取) ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
    :ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
 [思考]1、鵺野を殺害後捕食。
    2、戦闘後はしばらく休息。
    3、セナとの接触は避けたい。
    4、サクラを探し、可能なら利用。不可能なら殺害
    5、術者に能力制限を解かせる
    6、優勝後、主催者を殺害する
[備考] (ナルトの精神は九尾の部屋で眠っています。肉体的に瀕死、
またはナルトが外部から精神的に最大級の衝撃を受けると一時的に九尾と人格が入れ替わります)

*玉藻の封印は、玉藻の死亡と、九尾のチャクラの一部によって解除されたと言う見解です。
 そのため、今のナルト(九尾)はナルトのチャクラ+九尾のチャクラ15%程度のチャクラが上限です。
 ただし、九尾のチャクラも使いこなせます。
 あと、九尾は基本的にナルトの口調で喋ります。
343九尾総力戦 -中編- ◆PXPnBj6tAM :2006/07/08(土) 23:40:14 ID:+E5/34HJ0
【鵺野鳴介@地獄先生ぬ〜べ〜】
【状態】全身に裂傷。鬼の意思
【装備】無し
【道具】支給品一式(水を7分の1消費。)
【思考】1、九尾を倒す
344闇に眠り光を待つ ◆Ksf.g7hkYU :2006/07/09(日) 10:03:21 ID:uEIQWWx10
ニコ・ロビンはひたすらに前を見据えながら、襲い来る悲しみを憎しみで打ち消そうともがいていた。

しばし前に耳へと響いた第四放送、フリーザとやらの人を嘲るような声。
──そして、読み上げられた少女の名。
「杏子・・・」
走り通しの荒い息の中に微かな声が混じる。手に持つナイフがまだ明けぬ闇に鈍い光を放ち、ロビンの
頬を一瞬だけ明らめ、照らした。伝う一筋の涙を拭いもせずに、ただ駆けて。

(褒美に誰か一人を生き返させる?フッ、お気楽なものね)
一人の蘇生が可能ならば、二人でも百人でも同じじゃないの。そんな馬鹿げた話、あってたまるものか。
自身が数々の破滅と死をもたらして来たと影を背負うロビンだからこそ、失ったものはもう戻らないことを
胸に焼き付けている。歯痒かった。


髭面の男、あのような近くに来るまで気配を察させなかった、実力者。
おそらく気配を絶つことに長けた暗殺者か何かであろう。
しかし何故か、その男の残した痕跡が森の彼方此方に散らばっている。
罠だ、と一時間も追えばすぐに分かった。けれどロビンは追うことを止めはしない。

憎むべきあの男を殺すまで、この涙を拭い、悲しみに浸ることはせずにいようと、誓う。



345闇に眠り光を待つ ◆Ksf.g7hkYU :2006/07/09(日) 10:04:02 ID:uEIQWWx10
桃白白は女に追いつかれぬよう不定の方向へ、そのお下げを振り乱しながら逃げ続けている。いや、罠
を仕掛けつつ撒いている、といった方が正しいか。
ロビンが杏子へ黙祷をし、スヴェンたちへの手紙を書くほんの少しの時間で、彼はかなりの距離をすでに
引き離していた。理解しがたい相手からの攻撃が、桃白白に焦りと恐るべきスピードをもたらしたのだ。
しかし焦りと緊張が抜ければ、桃白白の頭は着実に暗殺者としての冷静さを取り戻してゆく。
(要はあんな女、一撃で仕留めれば良いだけのこと)
体調が万全ではないからこそ、戦闘に持ち込むことは避け、不意打ちの攻撃で殺せば良い。
よって女を待ち伏せるに相応しい場所を見つけ出そうと、桃白白は目聡く景色を見渡しつつ走っていた。
(わたしを見つけられず追って来ぬなら、それはそれで良いがな)
森を抜け農村に辿り着くと、その僅かな家屋の一つ一つにまで跡を残し、相手の目を晦ます前準備を始
める。その場でほんの少し体を休め、禁止区域の新潟には足を踏み入れぬよう、日本海側へと直進して
いた動きを横へ方向転換した。
自分を追って来れる程度のわずかな痕跡だけを残し、餌をばら撒くように。


――初日を生き残った皆さん、おめでとうございます。

余裕を持ち始めた桃白白の耳に響くのは第四放送、フリーザの声だ。
(一日で五十億、悪くない計算だな。あの女の分は・・・それでも四十億か)
自分を癒し、そして自分に殺されたティア・ノート・ヨーコのことを思う。勿論彼女の名を桃白白が知ってい
るわけはなく、顔でさえもぼんやりとしか思い出せはしなかったが。
346闇に眠り光を待つ ◆Ksf.g7hkYU :2006/07/09(日) 10:04:38 ID:uEIQWWx10

──今回新たに追加する優勝者への『ご褒美』は誰か御一人の『蘇生』です

(くだらん。どいつかを蘇生させて報酬を要求するか?)
金を求める彼に蘇生させて欲しい仲間や友がいるはずもなく、フリーザの言う褒美にもさしたる魅力を感
じない。だが利用できるものは利用せねばと、放送も終わらぬ内に優勝後の皮算用をし始めていた。
(だがそいつが金を持っているとは限らんしな。無駄なことをするくらいならあの女を蘇生させてやるか)
雇い主から『礼』を貰うことを生業とする桃白白だからこそ、自身も『礼』を返そうという気が少しはある。自分に損がない程度の『礼』なら、あの殺した女に与えてやってもいいような気がした。

放送から思考を逸らすと、足の動きが徐々に緩くなっていく。貧血気味の脳がぐらりと揺れたように感じ、
桃白白は木にもたれ掛かるようにして倒れこんだ。
「くっ」
休め、と体が訴えている。休むべきだ、と本能も言う。
(あの女をもう少し生かして治療させるべきだったか)
先ほど『礼』として蘇生させてやろうかと思った女を、今度はもう少し利用すれば良かったと後悔する桃白
白。矛盾するように思える二つの思考も、彼の内部では無理なく同居する一つのものである。
桃白白とは、そういう男であった。
(空が白むまでは、あの女も追いつけはしないだろう。少し、休むか)
真夜中を過ぎたばかりの月明かりの下で、一人の男が木の根元に座り込む。デイパックから出した水を
口に含むと、乾いた喉が冷たいと痛んだ。




347闇に眠り光を待つ ◆Ksf.g7hkYU :2006/07/09(日) 10:05:10 ID:uEIQWWx10
農村には確かに多くの痕跡が残されている。
しかしここを一歩でも出れば闇のもと、それを見失う恐れも大きいとロビンは判断し、追跡の足を止めた。
(罠なら私をこのまま誘き寄せなさい。夜が明ければ、望みどおり捕まえて殺してあげる)
桃白白の荒らした民家の扉にもたれかかって、彼女はそっと瞳を閉じ眠る。夜の休戦、激情を抑えた冷静な判断をしなくては、あの男を殺すことなど出来ないだろう。


涙が乾いて張った頬には、最後まで触れることさえしなかった。



【群馬県の農村/深夜】
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
 [状態]:右腕に刀傷
 [装備]:千年ロッドの仕込み刃
 [道具]:荷物一式(二人分) 、ミクロバンド@ドラゴンボール
 [思考]:1:夜が明けたら桃白白を追い、殺す
     2:アイテム・食料の収集
     3:死にたくない

【長野県(群馬県寄り)/深夜】
【桃白白@ドラゴンボール】
[状態]:気の消費は中程度・血が足りない。傷は白銀の癒し手によりふさがったが、安静にしてないと開く
[装備]:脇差し
[道具]:支給品一式(食料二人分、二食分消費)
[思考]:1:少し休み、夜が明けたらロビンを待ち伏せ殺す
    2:参加者や孫悟空を殺して優勝し、主催者から褒美をもらう
348闇に眠り光を待つ ◆Ksf.g7hkYU :2006/07/09(日) 10:25:32 ID:uEIQWWx10
すみません、改行しくじりました。


>>346 8行目
雇い主から『礼』を貰うことを生業とする桃白白だからこそ、自身も『礼』を返そうという気が少しはある。
自分に損がない程度の『礼』なら、あの殺した女に与えてやってもいいような気がした。

>>347 4行目
桃白白の荒らした民家の扉にもたれかかって、彼女はそっと瞳を閉じ眠る。夜の休戦、激情を抑えた冷
静な判断をしなくては、あの男を殺すことなど出来ないだろう。
349愛 ◆Jw0zokRAmo :2006/07/09(日) 13:05:57 ID:LAhVKzvZ0
金色の空から異形の者達が降りてくる。

「な、なんだ・・・あれは」

異形の物の一人が静かに語る。
「我々は12タカヤ、そしてわたしの名はタカヤ・ミカエル。
 この世界の全てを浄化しに来た」

「まぁ、3時間くらいあれば全宇宙を無に帰すことができるんですよ」
タカヤ・ラファエルと呼ばれる者が言った。

「まずは、このじゃかあしいガキをどうにかせんとあかんなぁ!!」
タカヤ・メタトロンと呼ばれる者から激しいオーラがあふれ出し、ヤムチャを包んだ。
350愛 ◆Jw0zokRAmo :2006/07/09(日) 13:08:03 ID:LAhVKzvZ0
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:第2形態
    右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
    2.悟空が見つからなくても、零時までには名古屋城に向かう。
    3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
    4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
    5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
    6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。

【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:十二タカヤ
    右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
    2.ヤムチャをころす。
351九尾総力戦 -後編- (1/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:27:45 ID:DaEEeOAX0
「緋村さん、あの女性の所まで何秒で行けますか」
「15……いや、10秒あれば」

 10秒かきついな。と乾は思う。
 自分を飛び越えた緋村の跳躍力は超人級だが、それでも九尾の運動能力には及ばない。
 九尾なら恐らくあの距離まで5秒ほどで着く。

 緋村が剣をとるまで10秒、往復だと20秒か。
 その間、乾が九尾の相手をするしかない。

(怖い……)

 この闘いで、乾は初めて恐怖を感じる。
 自分が戦う。武器はあたらない拳銃と、テニスで培った運動能力のみ。
 頭脳など、肉弾戦では役に立たないだろう。
352九尾総力戦 -後編- (2/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:28:46 ID:DaEEeOAX0
 元の世界にいた頃、乾はテニスをやっていた。
 負ければ、敗退。中学テニスが終わる。

 けれど、今度の勝負で負ければ『人生』が終わる。

 正直言って怖い。

 でも、今までと違って自分が闘うほかは無い。
 深呼吸する、九尾を睨む。

「緋村さん、俺が九尾を引き付けます。その間に剣を取ってきてください」

 そう言って、乾は九尾に特攻する。
 乾の時代より50年ほど前、乾とほとんど年の変わらぬ若者達が勝てぬ闘いへと挑み散っていった。
 人はそれを神風特攻隊と呼んだ。

 乾の心中も同じ。

 勝算など一つも無い。
 緋村が剣を掴めば、九尾を倒すことが出来る。
 けれど、その勝利は恐らく自分の命と引き換えの勝利。
353九尾総力戦 -後編- (3/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:30:01 ID:DaEEeOAX0
 乾が九尾に特攻する。
 決死の、いや必死の特攻。

 パンチを出す。  かわす。
 パンチを出す。  かわす。
 パンチを出す。  かわす。

 攻撃の全てが空振り。慣れていない攻撃。乾は足を絡めて転んでしまう。
 けれど、諦めない。20秒、たったそれだけ闘えば自分が勝つ。
 少ないながらも、希望は確実にあるのだ。

 そんな乾の思いを打ち砕くように、九尾の攻撃が炸裂する。
 乾の左肩へ、強烈な一撃。

 鎖骨が逝ったか……けれど、そんなことは構わない。
 緋村のほうを見ると、既に剣を取って戻ってきている。

 やった、勝てる。あと残り10秒を切った。
 乾は勝利を確信した。

 けれど、そんな彼を嘲笑うかのように、九尾の一撃が鳩尾に炸裂する。

「あと一歩で、あと一歩で勝てるのに……」
354九尾総力戦 -後編- (4/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:30:54 ID:DaEEeOAX0
 そんな事を呟きながら倒れていく乾を九尾の拳が弾き飛ばした。

「乾殿……」

 青雲剣を片手に持った剣客の足元に、気を失った少年の体が転がる。
 緋村は迷いを捨て、心に決める。
 この少年を、いや、目に留まる全ての人々を守る。
 自分の中の『真実』は守ると言うこと。

「拙者の名前は、緋村剣心。化け狐よ、今度は拙者が相手でござる」

 そう言って、緋村は九尾に突撃する。
 九尾も受けてたつ。もはや、逃げようなどとは微塵も思っていない。

 チャクラの残っていない九尾にできることと言えば、肉弾戦以外に無い。
 けれども、彼には最強妖怪としての誇りがある。

 九尾は緋村に襲い掛かる。
「ワシは人間ごときには負けん、絶対にワシは負けんのだ!」

 意地か。
「そんなしみったれた強さでは拙者は倒せんよ」
355九尾総力戦 -後編- (5/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:34:38 ID:DaEEeOAX0
 九尾と剣心の間合いが詰まる。

 一方は忍の里を恐怖に陥れた人外の化け物。
 一方は京の都で正義の剣を振るい、今も目に留まる人々を守ろうとする剣客。

 化け物の攻撃が剣客を襲う。
 けれど、剣客は持ち前の読みと神速の動きでそれをかわす。
 剣客が剣を振るう。
 化け物は同時に襲い掛かる3つの斬撃を避けきれない。

 勝敗は明白であった。
 今までの戦いの為、大きく疲弊した九尾では緋村剣心に勝つ手段など無かったのである。

 一撃、一撃ごとに九尾の動きが悪くなる。
 緋村剣心も、宝貝という武器に力を吸い取られているが、その消耗は九尾よりも遅い。

 一分も経たぬうちに、九尾はその場に力尽きて倒れてしまった。
356九尾総力戦 -後編- (6/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:35:36 ID:DaEEeOAX0
「はぁ、はぁ」
 戦闘終了後、剣心は肩で息をしている。

 どうやら、この剣は持ち主の力を吸い取ってしまうらしい。
 その代わりに剣閃を複数に分割する能力を持っている異能の武器。

 これは武器として使えるのかどうか、微妙なものだ。
 そう考えながらも、この戦いに終止符を打たねばならない。

 緋村剣心は動かなくなった九尾を足で押さえつけ、咽喉下に剣を当てる。
 自分の持つ剣は人以外のものを容赦なく切り刻む。
 剣心は九尾の喉を貫こうとした────




────が、突然、強い力により彼は弾き飛ばされてしまう。
357九尾総力戦 -後編- (7/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:37:15 ID:DaEEeOAX0
 ゆうに10メートルは飛ばされたであろう。
 一体、何が起こったと言うのか。
 突然の強い衝撃により、剣心の体は自由が利かなくなる。

 何者かが戦闘に乱入してきた。
 弾き飛ばされ、中空に投げ出されたとき、剣心は自分を殴ったモノの正体を見た。

 それは『鬼』
 巨大な鬼。比喩などではなく、本物の鬼。
 鬼の攻撃が緋村剣心を襲う。
 緋村は可能ならば、その場から逃げ出したいと思う。
 けれど、自分の側にいる少年を見つめて、思い直す。
 拙者が守らないで、誰が守ると言うのか。

 鬼の追撃を何とか、剣で防ぐ剣心。
 『読み』と『神速』で何とか防ぐ、そしてかわす。

 けれど、持っているだけで消耗してしまう武器と、巨大な鬼を前にしては何時までも避け切れるわけではない。
358九尾総力戦 -後編- (8/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:39:27 ID:DaEEeOAX0
 そんな剣心を見つめる者が1人いる。
 それは、かつて九尾と呼ばれた少年。今はナルトと言う。

 九尾の意思は完全に眠ってしまった。
 そして、何故だろうか。全身傷だらけで、チャクラも全く残っていない。

 ナルトは起き上がる。
 傷だらけの体を無理矢理起き上がらせる。

 逃げたい。

 荒れ狂う鬼と、闘う剣客。
 自分は逃げる以外に道が無いではないか。

 ナルトは懸命に動きながら、その場を去ろうとする。
 その前に、1人の女性が立つ。
359九尾総力戦 -後編- (9/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:40:26 ID:DaEEeOAX0
 その女性は竜吉公主。ナルトの体から邪気が消えたことを悟った彼女は優しい言葉で
「お主はこの場から早く去るがいい。後は私たちが決着をつける。」
といった。

 公主はお腹を痛そうに押さえながら、苦しそうに息をしている。
 いかにも虫の息、と言った状態。
 なのに、彼女は『鬼』と闘おうとしている。

「なぜ、戦いに行くんだってばよ」

 公主は答える。

「あの鬼は私の仲間だった。
そして、赤毛の剣客は一時とは言え私達のために闘ってくれた者だ。
どちらも見捨てるわけにはいかんよ」

 そんな公主は武器も持たない状態。
 勝てるわけが無い、あの『鬼』に。

 ナルトは止める。
「戦いに行っても勝ち目はないってばよ」
360九尾総力戦 -後編- (10/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:42:04 ID:DaEEeOAX0
「勝つ、勝たないではないのだよ。私は彼らに命を救われたのだ。
だから今度は、私が彼らを救うために闘う」

 そう言って公主は『鬼』の下へと進んでいく。
 仲間を救うために。

 かつて、3代目火影が大蛇丸と戦ったとき、年老いた火影に勝ち目は無かった。
 なのに彼は闘った。里を救うために。

 憧れていた火影とあの女性は同じではないか。
 勝ち目の無い戦いに、傷ついた体で、武器1つ持たず向かっていこうとする。
 その姿は火影と同じではないか。

 ナルトは思い出す。自分の憧れていたものを。
 そうだ、俺は火影に成りたかったんだ。

「お姉ちゃん、俺が守ってやるってばよ」

 ナルトは決意した。
 自分の憧れを取り戻してくれた女性のために、もう一度闘うことを。
 たとえ、チャクラが無くとも。命を懸けて闘うことを彼は決意した。
361九尾総力戦 -後編- (11/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:42:38 ID:DaEEeOAX0
 剣客と鬼の戦いは、鬼が圧倒的に有利だった。
 剣客は辛うじて鬼の攻撃を剣で防いでいた。

(たとえこの身が滅びようとも、この少年だけは守る)
 剣心は乾を守る、その一心で闘っている。
 それが自分の真実だから。剣心は引かない。

 刹那、鬼の目玉に石が投げられる。
 それは、ナルトが投げた石。

「おっちゃん、俺が代わりに闘うから、今すぐ逃げるってばよ」

 鬼の視線がナルトに注がれる。

「その代わり、おっちゃんにはあの姉ちゃんを守って欲しいってばよ」

 言いながら、ナルトは鬼に向かって突撃する。
 チャクラの尽きた身では、影分身も変化の術も、螺旋丸も使えない。
 肉弾のみ。
 大丈夫、自分は体だけでも、闘える。忍びは体術も磨いているのだ。
362九尾総力戦 -後編- (12/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:44:03 ID:DaEEeOAX0
 ナルトの攻撃、鬼は蚊を振り払うようにして跳ね除ける。
 剣心の攻撃、数多の刃も意に介さず鬼は軽く蹴飛ばすだけ。

「何やってるんだよ、おっちゃんは逃げてくれってばよ」
「断る。拙者が逃げれば、そこの少年が殺される。もう二度と、人は殺させん」
「なら、一緒に闘うか」

 忍者と流浪人の即席パーティ。

 チームワークなど無い、バラバラの攻撃。
 けれどお互いの心は1つ。
 『人を守る』という事。

 荒れ狂う鬼を前に、全く歯が立たない2人。
 けれど、同じ目的をもって闘う2人には奇妙な連帯感が生まれる。

「このまま、お主と死ぬまで闘うのもいいかも知れんな」
「同感だってばよ」

 そんな2人に公主も加わる。

「私も一緒だ」

 3人は揃って、鬼に立ち向かっていく。
363九尾総力戦 -後編- (13/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:47:19 ID:DaEEeOAX0
 けれど、鬼の力はあまりに強大で、絶望的で、3人の攻撃を全く感じていない。
 まず、3人の中で最も力のある剣心が飛ばされた。
 続いて、ナルト。そして、公主。

 全員が鬼の力によって、叩き伏せられ、弾き飛ばされ、闘う力を無くしてしまった。

 そして、鬼はその中にいる最も弱き者へと近づいていく。
 それは意識をなくして、倒れている乾。

 剣心が叫ぶ、「ヤメロ」と。けれど、その声は鬼には届かない。

 鬼の手が乾に振り下ろされる。
 誰も止められない。

 乾が死ぬ。
 全員がそう思ったとき、辺りに女性の声が響いた。

「鵺野くん、いい加減にしなさい」

 その言葉を聴き、鬼の動きが止まる。
 そして、
「うがぁあああ」
苦しそうに叫び声を上げる。
364九尾総力戦 -後編- (14/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:48:28 ID:DaEEeOAX0
 鬼の腹から女性の顔が現れる。
「鵺野くん、忘れたのですか。覇鬼の力は私とあなたで押さえているんです。
意識を取り戻しなさい。鬼に負けてはいけません」

 鬼が苦しむ。
 鵺野は僅かながら意識を取り戻す。
 そして、意識を取り戻した彼が、見たものは気絶した少年。

 身の内にある鬼は、その少年に止めを刺そうと拳を振り下ろす。

「やめろおぉ」 「やめなさい」

 鵺野と恩師・美奈子の2人が内部から鬼の動きを止める。
 本来の覇鬼であれば、2人の力でも完全に止めることはできないであろうが、この世界は覇鬼も制限している。
 2人は協力して、覇鬼の動きを止めた。
365九尾総力戦 -後編- (15/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:49:19 ID:DaEEeOAX0
「美奈子先生が生きてた……」
 鵺野は先程まで、この世界で全てを失い、守るべき者からも裏切られたと考えていた。
 けれど、違った。
 失っていないものが只1つ。自分の体の中にあった。

 それは、恩師の美奈子。

 鵺野が小学校教師を志す切欠になった人物。
 その人物が自分の体の中にいたのだ。

 鬼と化した鵺野の体が人間に戻る。
 鬼の体は元通り、鵺野の左手だけに納まる。

「俺は全てを失ってなどいなかった」

 自らの左手を抱きしめる。
 そこには、只1人生き残った鵺野の知人、恩師がいる。
366九尾総力戦 -後編- (16/16) ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:50:21 ID:DaEEeOAX0
「闘いは終わったのでござるか」
 鵺野が人に戻ったのを見て剣心が言う。
「そのようじゃな」
 鵺野から邪気が消えたことを確認して公主が言う。
「これで皆助かってばよ」
 ナルトがまとめた。


 九尾、鬼との闘いに参加した人間は5人。
 気絶した者もいるが、奇跡的にも死者の数は0である。


(太公望よ、おぬしは死んでしまったが、ここにいる者は皆お主に負けぬほどの希望を抱かせてくれるものばかりだ)

 この殺し合いの世界の中で、死者を一人も出さずに闘いぬいた者たちを見て公主は思う。
 大丈夫だ。
 私達は決して、主催者の企みに負けない。
367九尾総力戦 -後編- ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:51:09 ID:DaEEeOAX0
【香川県/深夜】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷
【装備】青雲剣@封神演義
【道具】荷物一式
【思考】1.流浪人として、目に留まる人を助ける。
    2.二日目の午前6〜7時を目安に、大阪市外にてセナ達と合流。

【竜吉公主@封神演義】
 [状態]:疲労進行中、全身に軽度の裂傷
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式(一食消費)、アバンの書@ダイの大冒険、お香(残り9回)
 [思考]:1.四国を死守
 [備考]:キアリーを習得

【乾貞治@テニスの王子様】
【状態】気絶中、全身に軽度の裂傷、左肩の鎖骨骨折
【装備】コルトローマンMKV@シティーハンター(ただし照準はメチャクチャ)(残弾20)
【道具】支給品一式。(ただし一食分の水、食料を消費。半日分をヤムチャに譲る。)手帳、 弾丸各種(マグナムリボルバーの分は両津に渡してある)
【思考】1、越前と合流し、脱出を目指す。
    2、脱出、首輪について考察中
368九尾総力戦 -後編- ◆PXPnBj6tAM :2006/07/09(日) 23:52:55 ID:DaEEeOAX0
【うずまきナルト@NARUTO】
 [状態]:重度の疲労 全身に軽度の裂傷、左腕は使用できません。チャクラ無し
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式×2(一つは食料と水を消費済み、ヒル魔から奪取) ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
    :ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
 [思考]1、しばらく休息
    2、サクラを探す。
 [備考]:九尾は肉体的に瀕死になったため、気絶しています。

【鵺野鳴介@地獄先生ぬ〜べ〜】
【状態】全身に裂傷
【装備】無し
【道具】支給品一式(水を7分の1消費。)
【思考】1.美奈子先生を守る。
    2.参加者のうち、小さい子供達を守る。
369プラズマと呼ばないで:2006/07/10(月) 01:54:53 ID:RlAGIbqQO
「はっ………!?」
青年はその両の眼をしっかりと見開き、辺りを見回す。
そこは無機質な白い空間。自分はベッドの上に寝かされていた。
「つつ……」
足に走る激痛に吐き気を覚え、微睡んだ意識が嫌が追うにも次第に覚醒されていく。


今まで見た(体験した)のは夢?……

青年は先ほどまで意識していた死闘を思い起こす。
タカラ…?
名ははっきりと思い出せないが、全力を賭け戦った少年の名を呟く。
しかし、その少年の痕跡などあるはずもなく、
今まで感じた事のない恐怖と充実感。彼は現実の世界では出会えなかったライバルを見付け、戦った。
様々な世界から集められた人間。そこで殺し合いをさせられた。
まさか自分が少女に殺されそうになるとは。
我が夢ながら恐ろしい。

しかし意識が戻るにつれ、現実世界に思考が集中しだす
そうか、俺は天津飯に負け意識をお留守にしてたんだっけ………

「俺がベッドの上でうなされている間に、天下一武闘会はどうなった?」
ナースに詰め寄り、彼は今孫悟空と天津飯の決勝戦が始まった事を知る。
ヤムチャの長い夢は覚めた、ピッコロ大魔王というの悪夢が始まる事を
彼はまだ知らない……

バトロワ完
370作者の都合により名無しです:2006/07/10(月) 02:42:10 ID:G00jZTHj0
上手い
371作者の都合により名無しです:2006/07/10(月) 03:13:41 ID:8MUD5Z9RO
>>369感動のフィナーレに全米が泣いた
3725%の希望  ◆HDPVxzPQog :2006/07/10(月) 04:15:45 ID:d0ThbE3s0
盛る炎を間にして、二つの影が座り込んでいた。
筋肉自慢の超人が掻き集めてきた薪に、無理矢理カンテラの炎を移しただけの薄暗い炎。
其れでも、兵庫に渦巻く暗闇から、照らし出してくれる。休息が必要だった。明かりが、会話が。
向かい合いながら、沈黙を保ったままの二人の横顔。放送後、ずっと。

――蛭魔の名前が呼ばれて以来、セナは、口を閉じてしまった。

引っ込み思案で虐められがちだった自分を、唯一光の下に連れ出してくれた存在。
悪魔的な、狡猾な、暴力的とさえ言える手段ではあったが、日陰のまま終わるはずだった少年の人生を、
輝かしい物語の世界――、アメリカンフットボールの世界に誘い込んでくれた、先輩。
蛭魔妖一は、最早、居ないのだ。わけのわからぬ殺人ゲームに巻き込まれ、死んでしまった。

栗田さんは、武蔵さんは。
共にクリスマスボールを目指し、地獄の特訓を潜り抜けてきた仲間達の、夢は。
そうだ、「彼」と言う主軸を失って、泥門デビルバッツは、――

――GAMEOVER

誰の者とも判らぬ声が脳の中に、響き渡る。
終わりだ。終わりなんだ。お前達は、終わりなんだと。

がち がち ッ

其れが恐怖なのか怒りなのか、或いは全く別の感情であるのか、
自らの打ち鳴らす歯の音が鳴り止まない理由を、少年自身にも理解する事は出来なかった。


-------------------------------------------------------------------------
3735%の希望  ◆HDPVxzPQog :2006/07/10(月) 04:17:22 ID:d0ThbE3s0
炎の向こうにある、震える少年の姿を目に捉えていながら、掛ける言葉も思い浮かばなかった。
世界最高の頭脳――、賞賛である筈の言い回しも、今は一層皮肉げに思える。
一度出会い、そして分かれた友人の死。近しき者の死は、時に人をメランコリックにする。
只でさえ不安定だった筈の少年の心は、蛭魔妖一の死によって、耐え難い絶望の中に叩き込まれているのだろう。
他者の死を引き金にした鬱症の治療には、長期に渡る治療と、特殊な薬が有効だ。加えて、献身的な言葉も。
――只一つも、この場には、存在しない。小早川少年の心を、確実にケアする手段は。

人間である自分達を休息させ、今は歩哨に立ってくれているキン肉マンが戻れば、或いは、違うのだろうか。
一星の王であると自らを称するあの男には、なるほど、確かに、ひとを惹きつけるカリスマ――、あるように感じる。
理屈が通じる相手には思えなかったが、けれど彼の大らかさにこそ、人の痛みを癒す力があるのではないか。


(……言い訳、か)


数刻前に知り合っただけの自分に何が出来る、とまで思考が及び掛けた瞬間に、
Lはこの状況における自分の無力さを悟った。
笑顔を向ければ良いのだろか?
優しい言葉を、例えば、主催者の放送は嘘であり、蛭魔妖一は生存している、等の言葉を探し出せばいいのだろうか?
優勝者に与えられる褒美の話を利用するか?自らが信じても居ない事を。
尤もらしい嘘を語る事は不可能ではなかった。
世界規模の大犯罪者を相手にしたって、交渉ごとなら負ける気はしない。
如何なる場合も、真実を。正義を。突きつけるべき相手に突きつけるのがLの遣り方だ。
けれど、この場合(ケース)は。相手は悪の犯罪者ではなく、善良かつ無力な少年である。

最善の策が偽りの笑顔による、仮初の希望だとしても、不器用な自分には、其れを演じる事が出来ない。
自らの無力を感じながらも、Lは沈黙を保つ以外に術を知らなかった。
3745%の希望  ◆HDPVxzPQog :2006/07/10(月) 04:19:05 ID:d0ThbE3s0
ふと、空を見上げれば、何時の間にか月が真円を描き出している。
曲げた膝に掌を重ねた日頃からの姿勢のまま、丸い月を見上げれば、考えるべき事を、思い出した。
死んだのは、蛭魔妖一だけではないのだ。太公望、趙公明、――夜神月。

生者と死者の綴られたリストを瞳の先に描きながら、思考の深い海に、沈んで行く。
或いは、幸運にも、静寂。与えられた可能性のパズルを組み合わせる邪魔をする輩は、誰も居ないのだから。

そう、思っていた。絹を引き裂くような、彼女の声を耳にするまでは。


「――Lッッッッ!!」
「……アマネ、ミサ」

暗闇に浮かび上がる少女の姿に、神の与えた過酷な運命に、呟くように、世界最高の頭脳は、長い息を、吐く。

----------------------------------------------------------------------------------------
3755%の希望  ◆HDPVxzPQog :2006/07/10(月) 04:20:11 ID:d0ThbE3s0
「藍染さん!! 来て!! Lが、Lがいるの!」
瞳を血走らせながら、少女は大きく手を振り、"誰か"へと呼び掛ける。
突然の事態に、ビクッと身体を竦め、顔色を伺うように眺めてくるセナを手で制したLは、静かに、ミサの動向を見守る。
歓迎出来ない事態だ。『今』、アマネミサには会いたくはなかった。
――夜神月の死が放送で告げられた、直後には。

「聞いてください、アマネさん。声を、潜め……」
「煩い!」

事態を収める為に投げ掛けたLの言葉も、半狂乱に叫び続ける少女には届かずに、一蹴されてしまう。
美しかった瞳は血走り、髪も幾分乱れ、天使のような可憐さも、今は失われ掛けていた。
予想出来たことだ。彼女が唯一愛する絶対的な存在、夜神月の死亡は、告げられたのだから。

――彼女の叫び続ける名前、藍染と言ったか。
アマネミサは衝動的な感情を、咄嗟には制御出来ない少女だ……夜神月の言葉でもない限りは。
参加者の誰かに遭遇し、行動を共にしていたのだろうが、夜神月の死を知り、錯乱して飛び出してきたのだろう。
大声で叫びに叫んではいるが、錯乱して走ってきたミサが正確に『藍染』の位置を把握してるとは思い難い。
じゃじゃ馬の暴走に巻き込まれた不運な『藍染』とやらは、彼女を探していれば、直ぐにここを嗅ぎつけるに違いないが、
長ければ到着までに数分の余裕は得られる可能性は高いと感じた。
其の前に、少しでも情報を得ておかねば。Lは持ち前の無表情で、人差し指を口元に当てる。

「……聞いてください、アマネさん。夜神月君のことです」

騒ぎ立てるミサの声に比べれば、蚊の鳴くが如き小さな声あったが、彼女にとって"彼"の名は大きな力を持っていた。
只一言で子供のように叫び続けるのを止めた少女は、泣き腫らしたのか赤い瞳は、Lの言葉に興味を惹かれる。

「……月の、こと? 何……、生き返るって言う話なら、ミサは、信じないから……」
3765%の希望  ◆HDPVxzPQog :2006/07/10(月) 04:28:42 ID:d0ThbE3s0
優勝商品として与えられる、死者の復活。
ミサが何も知らぬ只の少女ならば、或いは彼女の性格ならば、信じ切ったかもしれない。
けれど、ミサは普通の少女とは違うと同時に、"ある程度普通の"世界の住人だ。
"デスノート"なる幻想を可能とする特殊な世界であってさえ、彼女が会った死神たちの全てが、死からの復活を否定した。
"ならばそれは不可能な事なのだ"とミサは思う。
彼女の知る最大限の不可思議を以ってしても不可能な事象を可能にする事は、最早、現実ではない。
"デスノートがあるから、人を生き返らせる事の出来る事の出来るノートもあるかも"と楽観的に思えるほどには、
ミサと言う少女は愚かではなかった。"便利な魔法にも不便なルールがあることを知っていた"のだ。
――勿論、僅かな可能性は、若しかしたら、と言った望みのようなものは、心の奥でくすぶっていたけれど。

ミサの思惑を探りながら、Lと言えば淡々と、

「……其の通り。夜神月を生き返らせることは不可能です。
 主催者の発言は、参加者を仲違いさせるための罠だと思った方が賢明だ。
 ただ、貴方は勘違いをしています」

『不可能』の辺りで、力任せに掴みかかるミサの腕を感じながらも、一つの『可能性』を示した。

「勘違い……? まさか、L、貴方が、月を……」
「勿論、違います。私は、どんな世界であろうと人を殺したりはしない。相手が月君なら尚更ですが。
 私が言いたいのは、夜神月の名前が放送で呼ばれたからと言って」

可能性は、可能性にしか過ぎない。けれど、甘い言葉の筈だ。少女にとっては。

「イコール、彼が死んだとは限らないと言う事です」
「どういう……話? L……頭、可笑しくなっちゃった?」
3775%の希望  ◆HDPVxzPQog :2006/07/10(月) 04:30:17 ID:d0ThbE3s0
相変わらず何を考えているのか理解し難いLの顔を困惑気味に眺めながら、締める手を緩め、話の続きを促す。
Lは初めは無言で自らの首――首輪を指示し、

「首輪、ですよ。夜神月は、或いは、首輪の解除に成功したのかもしれない。
 主催者は、恐らくは、この首輪で我々の生死を確認している。無論、他にも手段は用意されているでしょうが。
 首輪の解除に成功し、尚且つ主催者達の目を欺く事が可能ならば、夜神月は、――記録上、死亡したことになるでしょうね」

可能性は5%ですが、と続く言葉を少女の前では飲み込む。
セナの前では滑らかに動く事はなかったLの舌は、今こそは淀みなく、ある種の『希望』について雄弁に語っていた。
1つには、L自身も考えていた方法である事。1つには、或いは、夜神月なら本当に可能だったのではないか――?
と言う、微かな可能性を完全には否定出来なかったからである。
故の5%であるが、少女の瞳の色を変えるには、十分過ぎたようだ。ミサは見る見ると頬を高潮させ、

「首輪の解除……、やっぱり、月ってすごい!
 そんなの、ミサは考えもしなかった……!」

自分の騎士(ナイト)の活躍を瞳に描き、興奮を隠せないようだ。
ミサにとって月は万能の、神。主催者は信じずとも、夜神月の可能性は、直ぐに希望へと変換することが出来た。
たとえ、真実は時に残酷であろうとも。

「……本当の話なんですか、L、さん」
はしゃぎ回るミサをおずおずと眺めながら、セナは、小さく尋ねた。
首輪の話が本当なら。死を宣告された、自分の先輩も――、淀んだ瞳に、微かな希望が、宿るのを、Lは見る。

「……可能性は、ありますよ。君も、諦める事はない」
「……そうですか」

抑揚のない声だが、はっきりとLは、告げる。嘘は、言わなかった。可能性を信じろと、其れだけだ。
少年は俯くように、再び腰を下ろした。影は深く、表情は伺えない。
これが、自分の精一杯だ、とLは感じる。後は、少年に委ねるしか、出来ない。
絶望に囚われた心が、在りし日の輝かしさを取り戻すには、本当の、……希望が必要なのだ。
3785%の希望  ◆HDPVxzPQog :2006/07/10(月) 04:31:49 ID:d0ThbE3s0
Lは決意すると、ミサに、告げる。

「藍染と言いましたか。貴方の遭遇した参加者に、会ってみたい。
 ……少なくとも、貴方から見て協力を仰げる人間なら、と言う前提でですが」

月は翳るとも、知恵者は踊り続ける。
希望を求め、正義を翳し、真実を突きつける青年の向かう先にある者が、
またも、死神の縁にあるものであることを、Lはこのとき、まだ知る由もなかった。
3795%の希望  ◆HDPVxzPQog :2006/07/10(月) 04:40:50 ID:d0ThbE3s0
【兵庫県/真夜中】
【小早川瀬那@アイシールド21】
 [状態]:精神不安定
 [装備]:特になし
 [道具]:支給品一式 野営用具一式(支給品に含まれる食糧、2/3消費) 特記:ランタンを持っています
 [思考]:1、Lと共にキン肉マンの志々雄打倒に協力する。
     2、剣心、ナルトと合流(二日目午前6〜7時を目安に、大阪市街で待ち合わせ)
     3、姉崎との合流。
     4、これ以上、誰も欠けさせない。

【弥海砂@DEATHNOTE】
 [状態]健康
 [装備]なし
 [道具]荷物一式
 [思考] 
 0.夜神月の生存を信じる。
 1:藍染と別れた後夜神月と合流し、藍染の事を伝え、共に脱出する。
 2:夜神月の望むように行動

3805%の希望  ◆HDPVxzPQog :2006/07/10(月) 04:50:37 ID:d0ThbE3s0
【L(竜崎)@デスノート】
 [状態]:右肩銃創(止血済み)
 [道具]:デスノートの切れ端@デスノート・GIスペルカード(『同行』・『初心』)@ハンターハンター
      コンパス、地図、時計、水(ペットボトル一本)、名簿、筆記用具(ナッパのデイパックから抜いたもの)
 [思考]:
     0.ミサに従い、藍染と会う。
       (藍染がミサを追ってこなければ、歩哨に出たキン肉マンを待ってから。
        追ってくれば、どの道不可避な出会いであると考えている)
     1・キン肉マンの志々雄打倒に協力。関西方面を重点的に捜索。
     2・剣心、ナルトと合流(二日目午前6〜7時を目安に、大阪市街で待ち合わせ)
     3・現在の仲間達と信頼関係を築く。
     4・沖縄を目指し、途中で参加者のグループを探索。合流し、ステルスマーダーが居れば其れを排除
     5・出来るだけ人材とアイテムを引き込む(九州に行ったことがある者優先)
     6・沖縄の存在の確認
     7・ゲームの出来るだけ早い中断
 [備考]:『デスノートの切れ端』『同行』『交信』の存在と、鹿児島を目的地にしていることは、
      仲間にはまだ打ち明けていません。仲間が集まり信頼関係が十分に築ければ、全て話すつもりです。

【兵庫県/深夜(歩哨中)】
【キン肉スグル@キン肉マン】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1、志々雄を倒し、たけしを助け出す。
     2、剣心、ナルトと合流(二日目午前6〜7時を目安に、大阪市街で待ち合わせ)
     3、ゴン蔵の仇を取る。
     4、仲間を探す(ウォーズ、ボンチュー、マミー、まもり)

※藍染がミサを追ってくるか、或いはL達が藍染のところに辿り着けるかは次の書き手さんにお任せします

早くも訂正>>379の【兵庫県/真夜中】を【兵庫県/深夜】に訂正
381 ◆PXPnBj6tAM :2006/07/10(月) 15:22:00 ID:U+AFGdh50
382作者の都合により名無しです:2006/07/11(火) 00:26:27 ID:cLtPvIoU0
>>381
ドンマイ
383作者の都合により名無しです:2006/07/11(火) 00:44:50 ID:JVZvD9QE0
>>381
乾の描写とか俺は好きだったぞ。
今回は残念だったけどめげずにがんばって欲しい。
(個人的には前中編まで無効にされてしまうのは非常に残念なんだが。)
無意味に煽ってる嵐もたくさんいるし、あんま気にするな!
五十パーセントといったところか。
六時間、体力の回復に努めたフレイザードのHPである。
あの忌々しいゴム人間――ルフィにやられた傷跡は決して消えることはないが、どうにか動けるまでには回復した。
砕けた岩石の肉片は、いつか果たす怨念の証。今度会った時こそ、あのゴム人間を殺す。
決意を胸に秘めたフレイザードは、なおも力を蓄える。
炎と氷、決して相容れぬこの二つの魔力を使いこなすために。
生きるためへの執念というのは凄いものである。この六時間、ひたすらに努力した結果は着々と実を結ぼうとしていた。
こちらの完成度はまだ三十パーセントといったところだろうか。
「基礎はできてるんだ……あとは安定さえすれば……あん?」

洞窟内で一人黙々と氷炎を繰るフレイザードの耳に、人の声が聞こえてきた。
近くに誰かいる。それを知らせるには、大きすぎる音量で騒いでいる輩が。
フレイザードは洞窟内から顔を出し、周囲を確認する。
洞窟の周りは深い木々で覆われていたためこちらから見つかることまずないだろうが、もしかしたら、声の主はカモになるかもしれない。
体力の半分は回復しているのだ。やってやれないことはない。
もちろんピッコロクラスの化け物を相手にするのは無理だが、もしも雑魚だったら、軽く殺して支給品を奪うくらいは……
「な!?」
その存在を視覚に入れたフレイザードは、驚愕した。

「だぁーかぁーらぁー! いつまでもウォンチューウォンチューうるせぇんだよ! 俺の名前はボンチューだと何度言やぁ……」
大声の主である三人組の一人目は、見知らぬ若造だった。
「ふん、ならばまた助平と呼んでやろうか? 私だけでなくイヴにまで働いた狼藉、忘れてはおるまいな?」
大声の主である三人組の二人目は、北海道で殺したはずの小娘だった。
(あの小娘……生きてやがったのか!?)
「二人ともよさないか。この近くには真崎杏子という少女を殺した輩がいる可能性がある。視界が悪い場所ではあまり騒ぐな」
大声の主である三人組の三人目は、鎧を身に纏った男だった。
(あいつぁたしか……ピッコロと戦ってた野郎じゃねぇか!? あいつまで生きてやがったのか!?)
ルキアと世直しマンが共にいることにも驚くべきだが、それよりもまず、死んだと完全に思い込んでいた二人が生きていたことに驚いた。
ルキアについては確かに生死は確認しなかったが、世直しマンのほうはピッコロが確かに倒したはずだ。
こちらも確認こそしなかったものの、ピッコロが自分以外の参加者に負けるとも思えない。
その証拠に、ピッコロはまだ生きている。第四放送でも、その名前は呼ばれていない。
ということは、
(ピッコロの奴はあいつと引き分けた……それも、あの鎧野郎のほうは見る限りピンピンしてやがる! あいつのほうが優勢だったってことか!?)
だとすれば、今のピッコロは満身創痍の疲弊状態である可能性が高い。
あれほどまでに自分に煮え湯を飲ませた、あのピッコロが。
(こりゃあチャンスだぜ……ピッコロは今でも合流地点で身を休めてるに違いねぇ……だとすれば、奴を出し抜くのは疲弊している今しかねぇ……いや、まてよ)
一瞬の間に、フレイザードは妙案を考え付く。
今は、自分とて負傷の身だ。ダメージを負っているとはいえ、『前世の実』を隠し持っているピッコロに自分が立ち向かうのは危険。ならば、
(あの野郎にピッコロの潜んでいる場所を教えて……野郎はヒーローとかぬかしてたからな。是が非でもピッコロに止めをさしたがってるはずだ)
悪者らしい思考は、さらに加速する。
(問題は交渉が成立するかだな……当然俺も見逃しちゃぁもらえねぇだろうし……いっそあの二人を人質に取るってのも手か……)
「楽しそうに何を考えているんだ? フレイザード」

「――!?」
ほくそ笑みながら悪知恵を働かせるフレイザードの名を、誰かが呼んだ。
その偉そうな口調から一瞬ピッコロの顔が浮かんだが、それはありえない。この場にいるのは、フレイザードと、
「そこに隠れているのは分かっている。隠れていないで出て来い」
世直しマン――!!
気づかれた。フレイザードは身を潜めていたことを気づかれた事実より、なぜ自分の考えていることがバレたのかに疑問を持った。
だがその疑問も一瞬、フレイザードは瞬く間に立たされた窮地を自覚し、その場を立ち去る。
本当ならこの場で全員八つ裂きにしてやりたいが、今は無茶は禁物だ。

「世直しマン、フレイザードとは……」
「ルキアを襲った、炎と氷のバケモンか!?」
「ああ、間違いなく草葉の陰から私たちを監視していた。読心マシーンで読み取った思考からしても、まず間違いないだろう」
宿敵の一人が、すぐ近くに。ルキアとボンチューは、この事実に身体と心を震わせる。
「見つけてしまっては、逃す理由もないだろう……奴とて満身創痍のはず。今度こそ、とどめを刺す!」
「おお!」「うむ!」
三人は、決意を改めフレイザードを追撃する。

ふははははは〜好調好調、絶好調!

――ついに宿敵、江田島平八を倒した。
――この手で倒せなかったのは残念だったが、あれはこの天才の策略により齎された死。言うならば、作戦勝ち。天才の知略が江田島に勝ったと考えれば完全勝利も同意!

江田島平八、そしては目の上のたんこぶのような存在であった拳王ラオウ。
アミバにとっての邪魔者を、二人まとめて始末することができた。
そして手に入れた新たな支給品、そしてのこのことアミバのあとを追ってきた江田島の仲間。
既に奴らを葬る新たな策は考えている。あとはそれを実行するだけ。
「恐るべきは天才の知能! 恐るべきは天才の戦略! 所詮凡人が天才に勝るなど、無理なことなんだよぉ〜!!」
笑いながら疾走するアミバは、どこか間抜けな姿だった。
だからだろうか。辺りが木の生い茂った森林地帯でも、簡単に見つけることが出来た。
「おい、そこのおまえ」
「――ん?」
突然、声をかけられた。
「んな!?」
振り返り、その姿を見て唖然とした。
そこにいたのは、ある意味拳王や江田島よりも威圧的な姿……身体を縦真っ二つに仕切り、炎と氷で構成された人型の化け物だった。
「な、ななななななんだ貴様はァァ!? こ、この天才になんのようだ!!?」
初めて見るモンスターの姿に戸惑いを隠せないアミバ。それもそのはず、アミバとフレイザードの住む世界では、あまりに環境が違いすぎる。
人間が覇権を争う世界に住むアミバにとって、魔物の存在など受け入れられるはずがない。
「おおっと、あんまりビビるんじゃねぇよ。見たところてめぇも誰かに追われているようだが、ちょっくら俺様に協力してくれねぇか?」
「きょ、協力だとぉ〜?」
あまりにも唐突だった。
突然現れた異形の怪物、何者かは知らないが、その形相からして只者ではあるまい。
天才とはいえ、少なからず身の危険を察知したアミバは、ある妙案を思いつく。
「……う、うむ。おもしろい。どうやらおまえも誰かに追われているようだな。この天才に力を借りたいというのなら、喜んで協力しようじゃないか」
天才たるもの、常に臨機応変に。
アミバはとりあえず、フレイザードの話を聞いてみることにした。
この化け物、戦闘能力は高そうだが、頭のほうは悪そうである。ならば、この天才が遅れをとることはない。
未だ笑みを浮かべながら、アミバはフレイザードと共に並走していく。

「ド畜生!! どこに行きやがったあの野郎ォ!?」
「撒かれちゃったのかなぁ……足はかなり早いみたいだね」
アミバを追っていた二人、桑原と翼は、標的の姿を見失ったことに怒り狂っていた。もっとも、翼の胸中はほのかな期待感が占めていたようだが。
「熱くなりすぎだ二人とも。もっと冷静になって対処しなければ、見えるはずの敵も見えなくなるぞ」
そして、もう一人。ほぼ二人のお守り役として同行してきた、空条承太郎である。
「奴がこの近くにいることは間違いない。だとすれば、どこかで俺たちを狙い撃とうと画策しているかもしれない」
「へっ、っつっても奴の持ってた銃は弾切れだぜ。俺たちから逃げたのも、もう打つ手がねぇからだろうが」
「忘れたのか和真? 奴は江田島平八塾長の荷物を持ち去った。あの中には、高性能爆弾であるジャスタウェイが入っているはずだ。それに弾切れの銃にしても、まだ予備の弾丸を隠し持っている可能性がある」
ホットな二人とは対照的に、唯一承太郎だけは、クールな立ち回りを見せていた。
あの手の謀略を廻らせるタイプには、冷静な対応が必要だ。この二人だけに任せては、そのうち怪我をしかねない。
いや、このゲームにおいての油断は怪我をお通り越して死を招く……二人が熱ければ熱いほど、承太郎は冷静でいる必要があった。
「しかしよぉ、この暗闇じゃあ奴がどこに潜んでいるかなんて分かったもんじゃねぇぜ。それとも、奴を追うのは諦めてここから尻尾巻いて逃げろとでも言うつもりかよ?」
三人の周囲は、現在多くの針葉樹によって覆われている。頭上あたりに位置する枝からは、梟らしき鳥類の鳴き声も聞こえる。
それに加え深夜という時間帯。深く高く聳える木々は月光を覆い隠し、視界を無力化させるほどの闇を形成していた。
正に闇討ちにはもってこいの環境といえる。そんな状況での深追いは危険だと感じつつも、桑原の気持ちは治まらなかった。
「止めても無駄だぜ、空条。俺ぁ、この手であの下衆ヤローをぶっ飛ばしてやらなきゃ気がすまねぇんだ。大空、てめぇもそうだろ?」
「うん、監督の荷物を泥棒したのはいけないことだけど……でも、彼ならきっといい選手になれると思うんだ! 健脚もさることながら、あの攻撃的なダッシュ力はフィジカル面からしてみても……」
「おめぇ……今がいったいどういう状況か分かってんのか?」
桑原と翼の会話は、微妙に噛み合っていなかった。
と、桑原が翼の言動に呆れかえっている間際。承太郎は、迫る三つの気配を察知した。

「そこにいる奴ら、俺らに用があるならとっとと出てきな」
承太郎のこの言葉で、残りの二人も一斉に顔を向ける。
集まった視線の先はやはり闇で覆い隠され、一瞥しただけでは何者なのかが判別できない。
が、今回は相手の方から積極的に接触してきたため、襲撃者であるかもしれないという心配は早々に晴らされた。
「警戒する必要はない。私たちは"ゲームに乗っていない者"だ。おまえもそうだろう?」
闇の草むらから姿を現したのは、鎧姿の男。その後方に、まだ若い男女二人が付き従うような形でこちらを警戒している。
世直しマン、ボンチュー、ルキア。承太郎、桑原、翼。
それぞれ異なった敵を追う三組は、深夜の森にて接触した。
余談だが、この時翼は警戒よりも先に、初めて見る鎧姿の男にピッタリなポジションを考えるのに悩んだという。


夜空に浮かぶ月と、それの眼下に佇む広大な植物地帯。すなわち、森である。
そこから一点、突出して盛り上がった丘が見える。周囲に聳える木の全長を微かに上回る丘の頂上は物陰に邪魔されることなく、月から放射される光を一身に受け止めていた。
そこに、立つ姿が二つ。
「あそこにいやがるだろう? あれが俺様を追い回しやがった連中さ」
炎と氷、二つの自然物質を司る魔人――フレイザードと、
「ほう。一緒にいる残り三人はこちらに見覚えがあるぞ。思惑通り、のこのことこの天才を追ってきたようだなぁ……ククク」
世紀末に生まれし天才――アミバだった。
数分前に接触を交わしたこの二人は、フレイザードから持ちかけた同盟の話を元に、互いの標的を付け狙っていた。
両者とも追われる身であり、両者共に相手を利用してやろうという思惑があったため、こういう形になったのである。
(ふふふ……この怪物、どうやらなにか企んでいるようだが……この天才を出し抜こうなど笑止! あの拳王すらを手駒とした我が知略に、狂いなどない!)
自ら天才を名乗るアミバは、追ってきた三人の凡才、さらにはフレイザードとその追撃者三名もを一片に葬り去ろうと思考をめぐらせていた。
武器ならある。策もある。だが、駒が足りない。だから、フレイザードの存在は実に都合がよかった。
この頭の悪そうな怪物を使い、皆殺しを敢行しよう。そう考え付いたアミバだからこそ、フレイザードの協力要請にも瞬時に答えを出したのだ。
決して、決してフレイザードの異形に圧倒されたからではない。
「おまえさんの気に入らねぇ奴と、俺の敵が一緒にいるってことか。そいつぁ都合がいい。アミバとか言ったな。ここは一つ、俺様の作戦に付き合わねぇか?」
「なに?」
二人が立つ高台の丘からは、世直しマンら六人が一同に集っている姿が確認できる。
闇を恐れたのだろう。周囲の木々を何本か切り倒し、月光を受け入れやすいよう環境を整えた場が形成されている。
その分、木よりも高地に位置するここからは丸見え。フレイザードが高台の丘に移動したのは、そういう狙いがあった。
「俺様の支給品を使えば、奴らを一網打尽にできるのよぉ……どうだ?俺に任せて協力してみねぇか?」
「……ふん、いいだろう。おまえの言う作戦とやらに乗ってやろうじゃないか」
怪物が浅知恵を……フレイザードが何かを企んでいるということは十分に感づいていたが、アミバはそれでも余裕を保っていた。
所詮、誰であろうと天才を出し抜くことは出来ないのだ。
「で、具体的にどうするというのだ?」
「こいつを使うのよぉ――」
両者共に己の内側は見せず、フレイザードは一枚のカードを取り出す。
元は大原大次郎に支給されたマジック&ウィザーズのカード、その最後の一枚である。

「――なるほど。全て合点がいった。確かにあんたらはゲームには乗っていないようだ」
世直しマンから借りた読心マシーンを返し、承太郎は一人納得した表情を浮かべる。

先刻、闇夜の森で接触を果たした三人二組。
世直しマン側は読心マシーンがあったため、相手が人畜無害な集団であるということがすぐに分かった。
しかし、承太郎側は違う。ただでさえ油断がならないこの状況、例え相手が友好的でも、警戒は必須。
その確認のためにも、承太郎は世直しマンの持つ読心マシーンを試させてもらった。結果として、承太郎の心配は杞憂に終わったようである。

双方、敵意がないことを確認した後、揃って情報交換が行われた。
世直しマン達が追う、フレイザードなる怪人。
承太郎達が追う、アミバなる外道。
ニコ・ロビンという名の探し人。
世直しマンが、桑原の知る友情マンの仲間であるということ。
数多のキーワードから、両サイドの情報を纏めにかかる。
「しっかし、フレイザードねぇ……ピッコロの野郎、友情マンの仲間を殺しただけでなく、そんな野郎ともつるんでやがったのか」
「だが桑原の話によれば、友情マンもピッコロを追っている可能性があるな。それだけでも希望が持てた」
桑原の齎した情報によると、友情マンはピッコロと一度接触したらしい。さしもの大魔王も、ヒーロー二人から目をつけられているとなれば、大っぴらな行動は控えるだろう。
「フレイザードもそうだが、承太郎達の話を加えると、この周囲には二人のゲームに乗った者がいることになるな」
マーダーがもう一人……この事実に、ルキアが難しい顔で唸る。
「アミバって野郎は大したことねぇさ。野郎は影からチマチマ狙ってくるような腰抜けだ。今度見つけたら俺が直々にぶっとばして……」
「忘れたのか和真?奴は塾長の爆弾を持っていったと言っているだろう。油断は禁物だ」
味方と呼べる人間に出合ったせいだろうか。未だ敵への認識を改めない桑原に、承太郎が諭すように言った。
「けっ、へぇへぇそりゃ分かってるよ。それでも、俺は野郎を放っとくような真似はしないぜ。もちろんそのフレイザードとかいう奴もだ」
承太郎がクールでいる一方、桑原の感情はまだまだホットだった。
ただでさえ情に厚く、気に入らない奴にはとことんまで喧嘩を売るような性格の桑原。その執念も頑なだった。
(やれやれ、ブチャラティといいこいつといい、どうにも熱い。なかなかクールな奴が揃わないな……)
心中で吐き捨てると共に、クールな仲間が欲しい承太郎は世直しマンの方に視線を向ける。
宇宙を舞台に、悪の手から人々を守るヒーロー。肩書きは妙だが、少なくとも承太郎が今までに出合ったどの人物よりも冷静な判断が出来そうな人間に見えた。
「ったく、そうなってくるとまだまだ身体は休めそうにねぇぜ。アミバにしてもフレイザードにしても、一体全体どこに逃げやがったんだ?」
ちょうど椅子くらいの長さに切られた切り株に腰を下ろし、桑原は愚痴をこぼす。
ちなみにこの切り株、桑原が自慢の『霊剣』で切断したもので、周囲にはその残骸と思わしき枝付きの丸太が錯乱していた。
情報を交換するなら、少しでも明るくしようと思っての配慮だった。が、これが原因でフレイザードたちに居場所を知らせるようになったことを、桑原は知らない。

だが承太郎は違う。木を切り倒した際に起こる轟音、不自然に明るくなった一部分、相手が馬鹿でもない限り、そこに人がいるであろうと思うのは道理。
そこが狙い。追うのではなく、今度はこちらが"誘き寄せる"。
このまま追いかけ逃げてのいたちごっこを繰り返していても埒が明かないし、なによりあのアミバという輩は、今までの行動パターンからして既になんらかの罠を張っている可能性ある。
もちろん、相手が誘いに乗ってこないのであればそれはそれでいい。ここにいる全員、体力的にも満足といえる状況ではないし、避けられる戦闘は避けるべきだ。
現に、休息を取りながら談笑しているように見える今でも、承太郎は警戒を解いたりなどはしていない。それは世直しマンも同様で、さりげなく周囲の気配を探っていた。
(ざっと周囲を見渡してみたが、やはり近くにそれらしき影はないな。俺の考えていることはちゃんと伝わっているか? 伝わっているなら、眼で合図してくれ)
声には出さず、心中で思う承太郎に対して、
(……そうか。私から見ても、なんら他者の気配は感じられない)
読心マシーンで承太郎の思考を読み取り、世直しマンはアイコンタクトを取る。
もし、近場で誰かがこの状況を見張っているとするなら、会話で作戦の打ち合わせをしては相手に警戒されてしまう。
それを危惧しての、世直しマンと承太郎だけによる読心マシーンを応用しての作戦だった。
しかし敵もこの大人数に臆したのか、なかなか気配を見せない。もしかしたら、既にこの場を離れたのだろうか。

ひとまずの安全を得た一行は、このまま情報を交換しつつしばしの休息を取ることにした。とはいっても、近くにマーダーが潜んでいる恐れがある以上、そう易々と緊張感を解けるものではない。
中でも一番ピリピリしていた桑原に翼が、
「桑原君」
「あん? なんだ大空」
「さっき木を切ったそれ、霊剣だっけ? すごいねそれ」
「お、分かるのか。この桑原様ご自慢の霊剣の凄さが……」
「でもさ」
「?」
「それ、サッカーじゃ使っちゃいけないよ。ルール違反になるから」
「…………あ、ああ」
そんなことを言いながら、翼は新たなメンバーのポジションに悩んでいた。
そういえば、これでメンバーの総数は8人。翼の目指す11人まで、いつの間にかあと3人となっていた。
(やったね。これで世直しマンたちの仲間も入れたらちょうど11人。悟空君やアミバ君が加わってくれたら控えも充実する)
膨れるドリームチームへの夢で、翼の胸は一杯になっていた。


「――――召喚」
その名を呼び、フレイザードは一枚のカードから一体のモンスターを呼び出す。
現れたのは、巨大な陸亀。身体の各所を機械で覆った、半機械の陸亀型モンスターだった。
特に背中の甲羅部分が印象的で、そこには何かを射出するための装置のようなものが備え付けられている。
「こいつの名前は大砲亀っていってよぉ」
出てきたモンスターについて、フレイザードがアミバに説明をする。
「背中の甲羅から炎の弾丸を打ち出すことができるのよぉ。その射程といったら相当のもんだ。これでここから狙い撃ちすりゃあ……」
「なるほど。これが貴様のいう作戦というやつか」
度重なる異形の出現に少々驚きながらも、アミバはフレイザードの説明を耳に入れる。
「だが一つ難点があってな。こいつを動かすには、高度な操縦技術と頭脳が必要なんだ。そこで、あんたの出番ってわけだ」
「このアミバ様に、こいつを操縦しろと?」
「天才、なんだろう?」
フレイザードとアミバ。互いが牽制するように笑い合う。
(――なるほど)
その胸中で、天才アミバはフレイザードの狙いを瞬時に解析していた。
(私を利用し、この亀を動かそうという魂胆か。だが、やはり詰めが甘いな)
フレイザードの狙い。それは、アミバを利用し多くの参加者を殺すこと。
(これが天才にしか動かせぬというのなら、俺様以外にこいつを動かせる奴はおらんだろうな。……おもしろい。ならば天才たる私が、存分に使ってやろうじゃないか)
もちろん、フレイザードの思い通りになるつもりなど微塵もない。
(とくれば、試し撃ちをする必要があるな……ふ、考えるまでもないか。すぐ近くに格好の標的がいるというのに)
天才にしか動かせない大砲亀――その最初の獲物は、既に決まっている。
(やはり、こいつは凡才を通り越してただの馬鹿だな。この天才が、手厚く葬ってやるから安心しろ)
胸中では、早くもフレイザードに向けて手向けの言葉を投げかけていた。
(ふふふ……ふははははははははははははははっはははははははははっはははははははは〜〜〜〜〜〜〜)
心の高笑いは、フレイザードには聞こえず。
「それで、こいつはどうやって操縦するんだ?」
「直接背中に乗ってくれ。そこから大砲亀に命令を下せば、とりあえずは反応してくれる」
アミバはフレイザードの言うがままに、大砲亀に跨る。すると
『オオオオオオオオオオオーン』
「うおっ!?」
大砲亀がわずかに首を上げ、静かに唸り声を上げた。
「おお、どうやら大砲亀がおめぇを主として認めたようだぜ。やっぱり天才は違うな」
「ふふふ……この天才の素晴らしさを瞬時に見抜くとは。亀のクセになかなかやるではないか」
ほくそ笑むアミバに、フレイザードがさらなる操作を促す。
「何か命令してみな。天才のおめぇなら、大砲亀はなんでも従うぜェ」
「ほう……なんでも、か。では……」
まずは、初期動作の確認から。
「大砲亀よ、あの連中を狙うのだ!」
試し撃ちの前に、大砲亀の動きを見るために承太郎たちのいる方向を促す。
しかし、大砲亀はアミバの命に反応せず、微動だにせぬまま欠伸をかくだけだった。
「う、うん? どうしたというのだ?」
単純にのろまというわけではなく、本当に1ミリも動かない。
話が違うじゃないか、と不審に思うアミバが顔を振り向けたそこに、
「――――セット」
極上の――気味が悪い――笑顔を浮かべたフレイザードがいた。
「な、な、なんだ!? か、身体が動かん!?」
その瞬間、アミバの身体が固定されたかのように動かなくなった。
否、本当に固定されたのである。アミバが跨る、大砲亀――これはフレイザードが適当に付けた名前で、真名は『カタパルトタートル』という――の甲羅の射出カタパルトに。
「おい、どういうことだこれは!?」
「あぁ?天才様はこんな簡単なこともわからねぇのか?」
焦るアミバに、フレイザードは不適な笑みを見せる。
何かが狂いだした。それがなんなのか、自分を『天才』と誇るアミバには理解できなかった。
「この『カタパルトタートル』は俺が召喚したモンスターだ。端から俺の言うことしか聞かねーよ。ヒャハハハ」
笑い声が、狂気に変わる。何かが、起ころうとしている。
それを感じ取ったアミバは、冷や汗を流しながらフレイザードの顔を睨みつける――未だ自分がはめられたことは理解せず。
「こいつの効果は今から教えてやるよぉ……実践って形でなぁ」
アミバは、未だ状況を理解できていない。
天才が、馬鹿と思いこんでいた異形の怪物に出し抜かれたということ。
それが原因で、今現在のピンチを生んでいるということ。
天才が、よりにもよってこんな形で。
「ふ、ふざけるなぁ〜! 貴様、今すぐ俺様を離せ!! 俺を誰だと思っている!? 俺は天才……」
「天才アミバ様だろ? そいつぁもう嫌ってほど聞いたんだよ。ただ、テメーが天才だってんなら俺様は……」
ニタァっと、フレイザードは口が裂けるほどの笑みを見せる。
「超天才ってところか」
「ちょ、超だって……!?」
不覚にも、アミバはその時劣等感を感じてしまった。
たかが『超』を付けただけだというのに、天才である自分が負けた気がしてしまった。
実際にはアミバの完全敗北なのだから、今さらとも言えるが。
「じゃぁな、アバヨ」
「ま、待て……」

「アミバを生け贄に……」
「お、俺は……」

「カタパルトタートルの効果を発動」
「……天才、アミバ様だ」

「――発射!」
「――ぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

アミバの最後の言葉は、カタパルトタートルの効果発動後、空中に身を投げ出されても途切れることはなかった。
その衝撃音で、六人十二の視線が一斉に同方向を向いた。
「――――!」
驚きの声を発している暇などなかった。
見えたのは、猛烈なスピードでこちらへ飛来してくる何か。
鳥か――――否!鳥よりももっと大きなもの。
銃弾か――――否!銃弾の大きさではない。
大砲か――――否!大砲の弾よりも巨大だ。
では何か――

(――――人!?)
それの正体に真っ先に気づいたのは、反射的に己のスタンド、『スタープラチナ』を発現させた承太郎だった。
(――アミバ――あの丘に立っている人影は――フレイザードとかいう奴か?)
その強靭な視力で敵の存在を確認、人がこちらに向かってくるという事実に驚いている暇はなく、考えるよりも先に身体を動かす。

「スタープラチ――――」
その場の何人が適切な対応を取れただろうか。
フレイザードがカタパルトタートルで打ち出したアミバという弾丸は、標的に向けて伸び、
そして、


「うわらば―――――――!?」


爆発した。
【カタパルトタートル】
[攻撃力 1200][守備力 2000]

自軍のモンスター一体を生け贄に捧げ、相手モンスターに打ち出す効果付きモンスター。
その攻撃力は生け贄に捧げたモンスターの二倍であり、同時に壁・砦破壊の効果も持つ。

これが、カタパルトタートルの基本能力。
仲間を犠牲にして他者を攻撃するという使いどころの難しいこのカードに、フレイザードはずっと頭を悩ませていた。
仲間といっても既に他のモンスターカードは使い果たし、自分よりも高い戦闘能力を持ったピッコロを弾にすることなど叶うはずもなく、かといって単に手駒として扱うには少々勿体無かった。
しかし今回、アミバと言う動かしやすい駒の登場により、このカードを有意義に活用することに成功した。だからこその一時的同盟。
今を思えば、アミバの敗因はフレイザードを甘く見たという一点に限る。
その戦闘向きな体躯と怪物のような面からは想像できないが、仮にも炎氷将軍の肩書きを持つフレイザード。その地位は、なにも戦闘能力だけを買われて手に入れたものではない。
他者を騙し利用する狡賢さと、それ相応の知略があったからこその話。

慢心した天才は、より高みを目指そうとする悪の将軍に完敗したのだった。


そしてこれはマジック&ウィザーズの基本知識になるのだが、ゲーム内で生け贄――破壊されたモンスターは、自軍の墓地へと置かれる。
その際モンスターに付けられた装備カードの類は手札に戻ることはなく、そのままモンスターと一緒に墓地に送られる。
つまりは、アミバの装備も一緒に。
ここで問題なのは、アミバの持っていた荷物。クリークの大盾はともかく、中にはとても衝撃に弱い代物が混じっている。
ジャスタウェイ――ちょっとの衝撃でも爆発は免れない、紛れもない"爆弾"である。
本来なら狙った標的一体に対し、生け贄にしたモンスターの攻撃力×2だけだが、今回はそれにジャスタウェイの爆発力が加算され……

「ヒャハハハハハハハハハハー!!! こいつぁスゲェ! 予想以上の威力だぜ!!」
結果、周囲を巻き込むほどの大爆発を巻き起こした。
あたり一面焼け野原とは、よく言ったものだった。
周囲には木々の残骸と燃え上がる炎、どす黒い硝煙に覆われ、数秒前までの森の形は見る影もなかった。
「ぐ……っくしょ……う」
倒れた木々の残骸から、立ち上がる人影が一つ。
「っ痛つ……ったく、一体何が起こったってんだ?」
荒っぽい動作で地表に立ち上がったのは、あの瞬間アミバの(フレイザードの)標的となっていた世直しマンから一番遠く離れていた人物、桑原和馬だった。
爆発の衝撃の際に身体を打ったのか、全身が軋むように痛む。あの一秒にも満たない一瞬の中で、桑原は動くことしか出来なかった。といっても、完全に逃げ通せたわけでもない。
助かったのは、運がよかったとしか言いようがない。桑原はチッと舌打ちをしながらも、周囲を見渡し被害の状況を確認する。
「あ……うう……」
幸運なことに、すぐ近くの足元には翼が転がっていた。
桑原と同様に木の下敷きになっているが、どうにか自力で抜け出せる程度だ。もしかしたら、この木がうまく爆発の衝撃を和らげてくれたのかもしれない。
「……無事か? 和真、翼」
桑原が翼を助け起こしている横から、三人目の生存者が姿を現した。
「JOJO君。よかった、君も無事で……」
「――空条!?」
空条承太郎は常の平然とした姿――とは言いがたかった。
もしかしなくても爆発による被害だろう。承太郎の左半身は焼け焦げ、むき出しになった左腕は見るに耐えない火傷で覆われていた。
「騒ぐな二人とも。少々しくじっちまったが、見た目ほど酷くはない」
「でもそれ……ひょっとしたらJOJO君、俺たちを守るために……?」
「な、そうなのかよ空条!?」
「JOJO君のスタンドなら、できるよね?」
珍しく、翼に感づかれた。
「……さすがにあれは俺としても予想外すぎたんでな。どうにか時を止めて、転がっていた大木を盾代わりにするくらいしかできなかった。それで自分をカバーしきれなかったってんだから、笑っちまう」
そう言いながら、承太郎は苦笑する。
あの一瞬、『スタープラチナ・ザ・ワールド』で時を止めた承太郎は、どうにか防御だけでもと思い、『スタープラチナ』のスピードを生かして身近にいた二人を大木で守った。
自分の左半身に当たるところまで防げなかったのが手痛いが、どうにか命は取り留めている。問題なのは、『スタープラチナ』でもカバーしきれなかったあちらの方。
「世直しマンは……世直しマンたちは無事なのか!?」
叫ぶ桑原に、反応は返ってこない。次第に黒煙が晴れていき、
「……くっそ」
「一体……何が……」
大事無い身体で静かに起き上がるボンチュー、ルキアと、

「………………」
その二人を覆うように仁王立ちした、世直しマンの姿があった。

「世直しマン……?」
その存在に気づいた者が、一人二人と声をかける。しかし、それらの返事は返ってこない。
よく見れば、世直しマンを覆っていた煌びやかな鎧は継ぎ接ぎのように剥がれ、半壊していた。
ピッコロとの戦闘においても損傷らしい損傷のなかった、あの世直しマンの鎧が。
「世直しマン……?」
鎧の半壊は、爆発による威力の大きさを物語っていた。
そして、鎧を半壊させるほどまでの衝撃を受けた中身――世直しマンは無事なのかどうか。
「世直しマン……!」
返らぬ返事が、一同を不安にさせた。


「………………がはっ」

静かに漏れた呻きと共に、宇宙をまたに駆けるヒーローの足は、折れた。

「世直しマァァァァァァンッ!!!」
絶叫が木霊した。
「……説明してくれ、空条。さっきの一瞬、一体何が起こったってんだ?」
状況の解析を求める桑原ら四名の視線が、『スタープラチナ』を通して全てを見ていた承太郎に向いた。
「あっちの方角に反りたった丘が見えるだろう? あそこから俺たちが追っていたアミバが飛んできた」
「飛んできたって……?」
「そのまま文字通り、"飛んできた"んだよ。その丘の上には、ぼんやりとだが人影も確認した。おそらくは」
「フレイザード!」
該当する人物は、もはや一人しかいない。
「おそらくは何か特殊な支給品を使ったはずだ。あの姑息な自称天才が、自分の身を捨ててまで俺たちを殺そうなんて思うはずもないからな」
「となると……全部そのフレイザードって奴がけし掛けたってわけか」
「………………許せん!」
結論は推測の域を出ないが、『スタープラチナ』の見た先に誰かがいたというのなら、そいつが黒幕である可能性が高い。

「……お? おいッ!? どこ行くんだボンチュー、朽木!?」
そして、そいつは紛れもなく。
「……フレイザードは」「俺たちの敵だ」
穏やかに、それでいて底知れぬ怒りを含めた声で、ボンチューとルキアが言う。
二人が足を向けた先は、アミバが発射された方角。まだそこにいるであろう、まだ殺しの余韻を味わっているであろう真の悪に、怒りをぶつけて。

「まさか……戦いにいくつもりか!?」
世直しマンを襲った突然の悲劇に、二人の感情は押さえが利かなくなっていた。
もちろん、この男も。
「……おもしれぇ! なら俺も行くぜ!! この桑原和馬様をコケにしたヤローだ、直々にぶっ飛ばしてやらなきゃ気が……」
「カズマ、おまえは駄目だ」
意気揚々と戦意を向上させる桑原に、承太郎の冷静な横槍が入った。
「っなんでだよ空条!?」
「今の爆発で他の誰かが寄ってくる可能性がある。ここからはさっさと離れた方がいい。おまえは世直しマンを運んでやってくれ」
「そんくらいテメー……!」
言いかけて、桑原は気づいた。
承太郎の焼け焦げた左半身。そうなのだ。彼とて重傷の身。今でこそ平然と話しているが、ダメージは確かに負っているはず。
重傷二人を翼に任せて放置など、危険極まりない。
だったらいっそ全員で、とも思ったが、ボンチューとルキアはもはや承太郎の言うことなど聞くつもりはなかった。
今、もっとも"ホット"なのはこの二人。桑原の方が、まだ微かに"クール"だった。
「ちっ、しゃあねぇな」
妥協した桑原は、気持ちを落ち着かせてボンチューの方を見やった。
「ならせめて、これを持っていきな。いくらなんでも丸腰じゃあつれぇだろ」
「……こ、これは――!?」
桑原はボンチューに向けて渡したかったのだが、その刀に驚嘆の声を漏らしたのは、死神を名乗るルキアだった。
斬魄刀。死神が虚を狩るために用いる専用の刀である。

「これを私に貸してくれ!」
ルキアはやや強引に斬魄刀を奪い取ると、すぐに刀との『対話』を始めた。
通常、死神の持つ斬魄刀は『始解』を行うまでは皆同じ形状で留まっている。故に、死神は刀と『対話』をし、名前を聞くことでその斬魄刀を誰のものか識別するのである。
「……やはり私の持つ『袖白雪』!」
その刀の正体は、ルキアが愛用する現在尸魂界で最も美しいとされる斬魄刀だった。
「なんだぁ? こいつは元々朽木の刀だったのか? だったら遠慮することはねぇ。持っていきな」
「すまない……だがこれがあればなんとも心強い。恩に着るぞ!」
そう言って、ルキアは斬魄刀を握り走り出していった。
あとに続こうとするボンチューが、
「…………世直しマンのこと、頼んだぜ」
「わぁってるよ。俺の名にかけて、死なせやしねぇ」
桑原にそれだけ言い残し、去っていった。


そんな光景を影から覗く男が一人。
「…………」
近場で起こった爆発に引かれ、様子を窺う男は、どうするかを思案していた。
(……相手は四人。しかも全員怪我人じゃないか)
これはさすがに有利すぎる……絶好のチャンスともいえる。
(どうする……やるか? 俺にやれるか?)
悩む男は、志半ばに散っていった友のことを思い出し、

(……いや、俺がやらなきゃいけないんだよ)
意を決して、影から飛び出した。
ボンチューとルキアが去って数分後。
「やいやいやいやいやい!」
世直しマンを担ごうとしていた桑原達の前に、新たな来訪者が現れた。

「あとで絶対に生き返らせてやるから、ここは黙って俺に殺されな!」
拳法着に身を包み、意気揚々とおかしな発言をする男に、皆は訝しげな視線を送る。
特に桑原は、ヤンキーらしい睨みを利かせた目つきで牽制する。
「……誰だテメー」

「俺様の名前はヤムチャ! 地球人の中で一番強い男だ!!」

電波かなにかなのか。それとも、翼と同じように『クレイジー』な人種なのだろうか。
心中で早くも「やれやれだぜ」と呟く承太郎の横で、押さえが聞かなくなった男はついにぶちギレた。
今回は承太郎が止める理由はない。というよりもむしろ、ここを満足にやり過ごすには桑原の力が不可欠だった。

「……俺は今最高にキテるからよ……あんまふざけたこと言ってると……」

ぷるぷる震える桑原の拳を見て、承太郎はまた呟いた。

「ぶっ飛ばすぞゴラアアアアアァァァァァァァァァァアァァ!!!」


「…………やれやれだぜ」

舞台は再び薄暗い森の中へと突入していた。
どこかに潜んでいるであろうフレイザードを探し、疾走するボンチューとルキア。
暗闇からの奇襲など恐れず、目指すは敵の影唯一つ。かならず見つけ出し、今すぐ倒す。

『オオオオオオオオオオオーン!!』
「――!」
けたたましい雄叫びと共に、併走する二人の横合いから、一体の巨大な陸亀が飛び出してきた。
重厚ながらも速度にはかける陸亀の突進をかわし、すぐさま臨戦態勢を取る二人。フレイザードの影は、未だなかった。
「ちっ、なんだコイツは!?」
「うろたえるな! こやつはおそらく、フレイザードの使役するモンスター! まだ海馬瀬人のカードが残っていたのか!」
事態の把握を迅速に済ませ、現れた陸亀を敵と認識して構えなおすボンチュー。拳を繰り出す。

「ボボンチュー!!」
のろまな陸亀相手に、ボンチューの連続パンチは一つも外れることはなかった。が、
「っぐ……硬ぇ!?」
その装甲に、ボンチューの拳は弾かれてしまった。
カタパルトタートル。攻撃役よりも防御に特化したモンスター。守備力2000は伊達ではない。

「馬鹿者! 甲羅といえば亀の身体を覆う一番硬い部分! 小学校の理化で習わなかったのか!?」
「るせぇ!! 俺はまだ7歳だっつーの!」
戦闘中ながらも、ボンチューに学がないことをいじるルキア。だがそれは余裕の表れでもある。

「君臨者よ!」
この手の敵、少し考えれば弱点など一目瞭然。
「血肉の仮面、万象、羽搏き、ヒトの名を冠する者よ!」
虚との戦いで培ってきた観察力は、ルキアの手を早める。
「焦熱と争乱、海隔てて逆巻き南へと歩を進めよ!」
両の掌を翳し、陸亀へと向けて放つ。

「破道の三十一、赤火砲!!」
ルキアが放った死神の攻撃手段、『鬼道』は陸亀の足元を狙い撃ち、その身体を衝撃で浮かせる。
一瞬、陸亀の身体が起き上がり、腹を見せた。甲羅に覆われていない、腹が。
「今だ!」
ルキアの掛け声と同時に、ボンチューが詰め寄る。
そして、相手の腹部目掛けて、

「ボーン!」
強烈なアッパーカット。陸亀の天地を完全に逆転させ、
「チュー!」
上空から、握り合わせた両拳をハンマーのように打ち下ろす。
それを無防備な腹部で受け止めた陸亀は成す術もなく、咆哮を最後に消滅した。
幻獣王ガゼルの時と一緒だった。召喚されたモンスターはその生を終えた時、カード共に消滅する。
そして、カードの弾ける音はすぐ近くで聞こえた。

「ヒャハハハー! やるじゃねぇか、だがこれで終わりだぜェ!!」

草葉の陰で、フレイザードがパンツァーファウストを構えて笑っていた。

撃ち出された100mm弾は、森を燃やし赤くする。
その場には、笑う炎氷将軍と、
「ヒャハ?」

周囲の炎以上に、怒りに身を滾らせる男女が一組。

「フレイザード……!」
因縁の戦いが始まろうとしていた。

「霊剣!」
桑原が突き出す刺突は、一直線に伸びながらヤムチャへと放たれる。
「な、な、な!?」
「もっとだ!もっと伸びやがれ霊剣!」
それをバックステップで後方に避けようとしたヤムチャだったが、霊剣は伸びることをやめず、しつこく迫ってくる。
(なんだコイツの武器は!? 悟空の持っていた如意棒みたいに、伸縮自在なのか!?)
ならば、回避方向は横しかない。ヤムチャは霊剣の刺突を左にかわし、すぐさま桑原へと駆け出す。
「ぬらぁっ!!」
だが、今度は横合いから霊剣の薙ぎ払いがきた。かわすのは雑作もないが、なかなか相手との距離を縮めることが出来ない。
(クソッ、ならここは一発、遠距離から特大のかめはめ波で……って、まだうまく気が引き出せなかったんだよな俺!)
攻めあぐねいているヤムチャを尻目に、桑原は霊剣による攻撃をやめない。

戦況は桑原の優勢に思えたが、傍観者である承太郎は一人難しい顔をしていた。
「……マズイな」
「なにがマズイの、JOJO君? 桑原君の方が優勢に見えるけど」
疑問に思う翼に、承太郎苦しそうな息を吐いて答える。
「表向きはそう見えるが、カズマの方はだいぶ疲労が溜まっている。このままじゃあいつか息切れをおこすぜ」
考えてみれば、桑原は一日目が始まってから碌に休息を取っていない。重傷を負うような戦闘はなかったが、体力は既に限界が近いはずだ。
「それにあのヤムチャという男、力の全部を出し切っているようには見えねぇ。まだいくつか、切り札を隠し持っている風だぜ」
霊剣を避けながら不恰好なダンスを踊るヤムチャにも、承太郎は眼を曇らせたりはしなかった。冷静に分析して、あの男は強い。ならば、打開策が必要だ。
そう考えている矢先、ついに均衡が破られた。

「狼牙風風拳!」
ヤムチャの狼を模した拳の連激は、懐から桑原を強打する。
いつの間に懐まで間合いを詰めたのか、やはりこの男、計り知れない。
だが、この攻撃の成功に一番驚いているのは、他ならぬヤムチャ本人だった。
(……今のスピード……)
一瞬だったが、足が不自然に軽くなったような気がした。
(……ひょっとして、大蛇丸の封印が解けたのか?)

立ったままダメージに耐える桑原を尻目に、ヤムチャの表情は徐々に緩み始めていた。
「……翼、突然だがサッカーでは、特にキャプテンの地位に立つ者には、フィールドの状況を正確に判断し、的確な指示を出すことが出来る観察力と判断力が必須だ。そうだろう?」
「え? う、うん。その通りだよ」
承太郎から急に振られるサッカーの話に戸惑いながらも、翼は無碍に聞き逃したりはしなかった。サッカーとなれば、翼が黙っているはずもない。
「おまえのその観察力を見込んで訊きたい。あの敵を見て、何か気づいたことはないか?」
「気づいたことって……体術はすごいけど、どこか危なっかしいって言うか……」
「そういうことだ。どんな些細なことでもいい。奴の動きから弱点を捜し当て、勝機を見つけるんだ。じゃなけりゃこの戦い、負けるぜ」
承太郎とて、なにも桑原に全てを任せるつもりはない。この場を凌ぐには、桑原、承太郎、翼、三人の力が必要だ。
普段サッカーで培われた観察力を生かし、翼はじっとヤムチャを注視する。

「おらおらおらぁ! どうしたどうした! 攻撃が止まりだしたぜ!」
「ちぃ、あんま調子乗んじゃねぇぞ!!!」
戦況は一転し、桑原は防御に徹していた。
それをいいことに怒涛のラッシュを仕掛けるヤムチャの手は、眼にも留まらぬ速さだった。確かに、この男は強い。先ほど承太郎が言った台詞も頷ける。
「あっ」
そこで、翼は気づいた。
ヤムチャの、弱点と呼べる一点に。

「足元がお留守だ」

翼の呟き元に、承太郎はヤムチャの足元へと視線をやる。
「なるほど……あのヤローは攻撃に集中する一方、妙にフットワークが悪い。そこをつけば、勝機はあるな」
分析を迅速に済ませ、承太郎は次なる策にでる。
「翼、おまえにこれを渡しておく」
「え?これって……!」
承太郎の差し出したそれに、翼は思わず眼を見開いた。
荒々しい木目の残る、凹凸塗れのかろうじて球と呼べる物体。大きさはちょうど、『翼の友達』と同程度。
「忘れたか翼? 俺の『スタープラチナ』は精密作業をも得意とする。これくらい朝飯前さ」
それは、爆発の際に破砕した木を利用して作った、承太郎お手製簡易サッカーボールだった。
「おまえにはこれを使ってあることをやってもらう……わかるな翼?」
「うん! 任せてよJOJO君!」
立ち上がり、翼はピッチに立つ。
戦場という名のフィールドに、一人のキャプテンが降り立った。

「ヒャダルコォ!!」
凍てつく氷の礫が、ボンチューとルキアを襲う。
「――なめんなよ!」
「貴様の手の内など、もはや完璧に把握しておるわ!」
繰り出される攻撃にも、ボンチューとルキアは焦らず対処した。フレイザードが炎と氷を扱うことは既に今までの戦闘で分かりきっている。ならば、幾分か避けやすい。
「ちぃ! テメーら、あんま調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
敵は雑魚二人――だからこそ、フレイザードはこうやって堂々と姿を現し、血祭りに挙げたやることを選択した。
疲弊を抑えるため、なるべく大技は使わないよう攻撃は中級呪文に限定し、宝具も使わないよう努力したが、
「ボボンチュー!!」
「赤火砲!!」
(こいつら――想像していたよりも強え!?)
まったくのイレギュラーな事態に、フレイザードは頭を困惑させていた。
このまま二人を相手にするのは、さすがに骨が折れる。追撃してこないところ見ると世直しマンは再起不能のようだし、ここは一度引くべきか。
(こんな奴ら、いつでも殺せる。こんなところで無駄な体力使っている暇は……)
思案中にも、相手は攻撃の手を休めない。

「ボボン!!」
高速でフレイザードの後方に回り込んだボンチューは、怒りという重さを乗せたパンチを叩き込む。
「チュラアアァアアァアァァァァアァァ!!!」
一撃、一撃、一撃、一撃、また一撃。
常人離れしたボンチューの拳は、フレイザードに確実なダメージを負わせていく。
「くそぉ!」
纏わりついたボンチューを腕で薙ぎ払い、フレイザードは体制を整えようとするが、

「舞え、『袖白雪』」

生憎――敵は一人ではない。

フレイザードの前方には、斬魄刀『袖白雪』を解放し、その白い刀身を振るっているルキアの姿があった。
その穢れのない白き一閃は、フレイザードを縦に一刀両断する。
もちろん避けた。が、中途半端に避けたためか、ルキアの一閃はフレイザードの身体を斜めに傷つける形となった。
「グギャアッ――!!?」
血こそ流れなかったが、その痛みと苦しみは、人間が感じるものとほぼ同種。フレイザードは、確かな深手を負った。
「皆の仇――今ここで取らせてもらう!」
ルキアの猛攻は、まだやまない。
刀の切っ先を地に向け、苦しむフレイザードを囲うように円形に斬激を与える。
これが、『袖白雪』の能力発動に於ける布石。

「初の舞・月白」

その声と共に、円形に覆われ天地を、フレイザードごと氷付けにしてしまった。
氷雪系斬魄刀『袖白雪』。その純白のイメージ通り、氷を操る能力を持つ。

一瞬の内に、その強大な冷気がフレイザードを閉じ込める。完全凍結とまではいかなかったが、十分なほどに自由は奪った。
そう、元より、氷を支配し炎の半身を持つフレイザードに、『袖白雪』の能力だけで勝てるとは思っていない。
相手の身動きを封じ、確実な打撃を与える一瞬を得る。それこそが、ルキアの真の狙いだった。

「フレイザード……」
氷で全身の八割を覆われ、身動きをとることができないフレイザードに、ルキアが幽鬼のように歩み寄る。
「あの天然パーマの男……海馬瀬人……エテ吉……そして、世直しマン」
彼女を支配する感情は、怒り唯一つ。
フレイザードはこの時、生命に死を齎す絶対的存在――『死神』を前にしたのである。

「皆の仇、今ここで取る!」
死神、朽木ルキアの刃が迫る。
悪行を重ねてきた絶対悪を打ち砕こうと、迫る。

――あ、あ、あ、

栄光が、遠ざかる音が聞こえた。
勝利が、崩れ去ろうとしていた。
バーン様の、蔑む顔が見えた。

――俺は、こんなところじゃ終われねぇ!

フレイザードの強さは、その残虐までな執念と、栄光への執着心にある。

――俺はまだ、強くなる!

どこぞの天才のように慢心し、愚直な行動を取ることなどなかった。
この戦いにも、勝算があったから臨んだはずだ。

――メラ!

迫る刃から眼を離さず、フレイザードは唱える。

――ヒャド!

練習どおり、今まで積み重ねてきた努力を重ねる。

――混ざって、弾けろ!

途端、
フレイザードを覆っていた氷が、爆散した。
その閃光と衝撃に、刃を振り下ろそうとしたルキアは吹き飛ばされた。
地べたに尻餅をつき、何が起こったかを確認するため、視線を前方に向けると、
「なっ…………!?」
驚愕と共に、フレイザードを包んでいた氷が、跡形も無く消え去っていたの見た。

「メラ! ヒャド!」
氷付けから解き放たれたフレイザードが、さらに唱える。
「メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド!」
何回も唱え続け、乱暴に魔力を繋ぎ合せる。炎と氷、二つの下級呪文を。

「ルキア、なんかヤベーぞアイツ! 早くそこから離れろ!!」
フレイザードすぐ傍にいるルキアに対し、ボンチューが忠告するが、
「何を言う! こやつにとどめを刺すのは、今しかない!!」
ルキアはあと一歩というところまで追い詰めた標的から、退こうとしない。
再び『袖白雪』を振り上げ、フレイザードに斬りかかろうとするその刹那、

フレイザードが、笑った。
「――完成だ」
「――ッ!?」
フレイザードの右手のと左手、そこに集まった炎と氷の魔力が合わさり、弾け、放出される。
ルキア目掛けて。


「ルキアァァァァァ!!!」

ボンチューの叫び声があがった頃には、ルキアはその身を地に転がしていた。
合成された魔力の波動を一身に受け、甚大なダメージを負って。
「……やった」
ボンチュー絶叫の最中、フレイザードは小さく呟く。
「……やりやがったぜ」
そして、笑う。
「やりやがったぜェェー!! さすがは俺様だァァァ!!!」
呵呵大笑しながら、はしゃぎ回る。
もう一人の敵など、歯牙にもかけず。

――……おい、嘘だろ?

ボンチューは、自分の眼が見た光景に信じられず、思わず問いかける。

――守るって、決めたんだよ。

――失わないって決めたんだよ。

――誰にも負けないって……。

悲しみと怒りが、人の死に対する当たり前の感情が、湧き上がる。
ボンチューの場合はそれに加えて、守れなかったことへの背徳感――否、『敗北感』をいっそう滾らせて。
再び、叫ぶ。

「…………フゥレイザァァァドォォォォォ!!!」

その怒声により、フレイザードはやっとボンチューを視界に入れる。
「ヒャハハハ、そういやもう一匹いたんだったな。いいぜ、こいつの試し撃ちに使ってやる!」

戦いは、第二ラウンドを迎えようとしていた。

「うおぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
けたたましい雄叫びと共に、翼が駆け出す。
足元には、承太郎が『スタープラチナ』を使って作り出した(削りだした)お手製サッカーボール。
サッカーボールと呼ぶにはあまりにも粗末で、重さ、強度、弾力性から見ても、とてもスポーツとして使うボールとは認められない。
だが、問題ない。これを叩き込む先は敵チームのゴールではなく、敵プレイヤーの足元――つまり、ヤムチャの。

翼の足元に火花が散ったような錯覚が見え、同時に懐かしくもどこか違った感触を思い出す。
大空翼必殺のドライブシュート。その鋭い弾道と回転力は、常人の眼に留まるものではない。
「ん、なんだ?」
常人と呼ぶにはあまりに逸脱しているヤムチャだったが、『足元がお留守』な彼は、地面擦れ擦れを飛ぶ木製サッカーボールに気づくことができなかった。
「おわっ!?」
ただでさえ夜の森は視界が悪い。加えて翼の正確無比なコントロールは、狂うことなくヤムチャの足を狙い、命中させた。
結果として、ヤムチャはすっ転んだわけである。

「ってて……いったいなんだっていうんだ?」
浮かれてはいたが、多少は戦闘中であるという緊張感があるのだろうか。すぐさま起き上がり、体制を整える。
そして気づいた。さっきの一瞬、攻撃を加えるには絶好のチャンスであったにも関わらず、対戦者の桑原は何もせず、自分から距離を取っていたことに。


「足元がお留守だぜ」


不意にした声は、すぐ後ろから聞こえた。
いつの間に――と思う刹那、

    ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


「そして、後方不注意だ」

振り向くと、そこには学ランの男ともう一人――フリーザの仲間とも思える、宇宙人のような人物がいた。
「オラァ!」
その名を『スタープラチナ』。
本来、スタンド使いでなければ見ることも叶わない影の分身は、"敵"に向けて拳を叩き込む。
ただひたすらに、持てる全ての力を出し切り、この男を行動不能にするために!


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!」

まだ、まだ足りない。ここは自分の生命をすり減らしてでも、黙らせる。この男を!

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!


――叩き込まれる拳。その全ては、ヤムチャへと命中した。
『スタープラチナ(星の白銀)』。ずば抜けたパワーとスピード、そして正確さを誇る、空条承太郎のスタンド。
その真骨頂こそが、この連打(ラッシュ)なのだ。


しかし、反動で遠く吹き飛ばされるヤムチャを見て、承太郎は言う。

「なんてヤローだ……俺がこんな状態であるとはいえ、『スタープラチナ』の攻撃を六割も防御するとは……」

その不用意な発言に、翼は「えっ?」と声を漏らす。
だが、承太郎の言うことは嘘偽りなく真実。その証拠として、

「ぐ、ぐぐぐぐ……」
顔面を歪まされた状態に陥りながらも、ヤムチャは立ち上がった。
恐るべきは超神水の引き出すパワー。この男、単純な戦闘能力だけなら最早……

「"地球人最強"か。どうやら、その肩書きはあながち嘘でもないようだな……やれやれだぜ」
承太郎のぼやき、溜息を吐くが、決して慌ててはいない。
「しぶてぇヤローだ! なら今度は俺が……」
「そこを動くなカズマ。奴は既に負けている」
とどめを刺そうと勇みだす桑原を声で制し、承太郎はヤムチャへと目をやる。

「テメーの敗因は……まあ色々あるが、一番致命的だったのは"注意力"の欠如だ」
「な、なんだと!? ま、まだ俺の足元がお留守だって言うのか!?」
不細工顔で抗議するヤムチャは、見た目こそ酷いがそれほどのダメージを受けているわけではなかった。
『スタープラチナ』の攻撃をまともに受けて、ここまで平然としていられる"生身の人間"も珍しい。
「違う。"足元"の話をしているわけじゃあない。もっと、全体的な"場"を見る注意力が欠けていると言ったんだ」
「? どういう――」
首をかしげて、ヤムチャは嫌な予感を感じた。
漠然とした、嫌な予感。
承太郎の言う、注意力。
そして、本能的に感じたこの"気"。

「よ……な……」

今なら、承太郎の言葉の意味が全て分かる。
「おまえは初めから、敵を"一人"しか見ていなかった。だから翼のシュートも避けられなかったし、俺の『スタープラチナ』による攻撃が布石であることにも気づかなかった」

承太郎から八メートル右、そこには、両の指を突き立てた世直しマンが。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉしッッ!!!」



「…………この勝負、俺"達"の勝ちだ。"地球人最強"」

思えば、あの時もそうだった。
強大な敵に立ち向かう非力な俺に、アレは力を貸してくれた。

「なんだ? なんだ、テメーのその支給品はァ!?」

負けたくない。その思いに、コイツは答えてくれた。今回も。
でもな、今回はただ『負けたくない』だけじゃねぇ。守って、帰りてぇんだよ。
仲間の下に。

「――蟹座の黄金聖衣だ! よく覚えて、それから死にやがれクソヤロー!!!」

黄金の鎧を身に纏ったボンチューが、神速の動きでフレイザードに詰め寄る。
本来、黄金聖闘士だけが身に纏うことを許されたこの衣も、今のボンチューを確たる主として認めていた。
その気高き心に反応し、力を貸す。ピッコロ戦の時の様に。

「ボボンチュー!」

だが、今回はピッコロ戦の時に比べて『思い』が違う。
求めたのは単なる強さだけではなく、守る強さ。
生き残りたいという意思も、仲間を思えばこそ。

「ボボン」

その上昇し続けるスピードとパワーは、フレイザードを圧倒する。
抗う暇も与えず、『スタープラチナ』にも匹敵しそうなほどの連打を、


「チュラァアアァアァアアアアアァァァァアァアアアアアアァァァァァァアァ!!!」


――浴びせる。
今度こそ。
ルキアが果たせなかったとどめの代行を担ったボンチューは、最後の拳にありったけの力を込めた。
これで、フレイザードという悪に完全なとどめを刺す。ボンチューの小宇宙(コスモ)は、未だ滾ることをやめない。

「グッ!」
悶絶しながらぶっ飛ばされたフレイザードは、震える足腰で迫るボンチューに向き直る。
「…………今度こそ、仕舞いにしてやる」
短く言ったボンチューに、フレイザードは恐怖を覚えた。
もはやボンチューは、雑魚などではない。もちろんルキアも。自分の体力が全開であったら勝てただろうが、現状では敗北は免れない。
それでも、
「……俺は、俺様は……死なねぇ!!」
フレイザードは、再び呪文を唱える。
「メラミ! ヒャダルコ!」
今度は中級呪文で、魔力の合成を試みる。

「遅ぇ!!」
ダッシュでとどめを刺しにくるボンチュー。だが、問題ではない。
土壇場に陥った炎氷将軍の恐ろしさは、並大抵のものではないのだから。
「喰らいやがれェェェ!!」
フレイザードはボンチューの手よりも逸早く、魔力を放出した。
ただし、それはボンチューではなく、

(――――ルキア!?)
攻撃先には、ルキアがいた。
それも震える身体を起こし、今にも立ち上がろうとしている。
(――――生きてた!)
歓喜する暇もなく、ボンチューは駆け出した。
悪の魔の手が向けられた、大切な仲間を守るために。

(――――今度こそ、守るんだよぉぉぉ!!!)
「承太郎君……」
戦い終わりし後、翼はすっかり疲弊した承太郎を心配そうに見遣る。
思えば、彼も重傷の身でよく戦った。承太郎がいなかったら、今ここには誰も生存していなかっただろう。
「……少し、無理をしすぎたな。いいかげん休みてぇ気分だ……」
体を倒し、身を休める承太郎の意識は、今にも消えかかっていた。
「翼……カズマ……俺は少しばかり休ませてもらう。あとのことは、頼んだぜ……」
「うん……うん……」
「……無茶しやがって。大馬鹿野郎だよ、テメーは」
涙ながらに頷く翼と、ぶっきらぼうに返す桑原。
そして、一番の功労者であるヒーローに語りかける。
「あんたも……さすがは"ヒーロー"だな、世直しマン」
未だ立ったままのヒーローに、承太郎は言葉をかけるが、
「……世直しマン?」
声が、返ってこない。

一同が心配そうに見る中、数秒して、一言。

「ルキアとボンチューを……頼む」

その一言がどんな意味を持つのか、考えるのは難しくなかった。

「よ(4)、な(7)」
「……か……め」

世直しマン最大の攻撃『よなおし波』発動の合図と、
亀仙流最大の必殺技の掛け声が、重なる。
そこにいた三人、誰もが「まさか」と思っただろう。
だが、これが地球人最強の底力。


「お(押)ぉぉぉぉぉし!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ぶつかる衝撃と衝撃。相殺しあうエネルギーとエネルギー。
力の質量はほぼ互角。お互いが綺麗さっぱり打ち消しあって消えたのだから、間違いない。
かめはめ波とよなおし波のぶつかり合いは、相打ち。
だが、それを放った世直しマンは、

「世直しマン……」
「死んでる……監督みたいに、立ったまま」
「…………ド畜生ッ!!」

その攻撃が、限界だった。
宇宙をまたにかける正義のヒーローは、世を正す正義のヒーローは、

「…………やった」

自称、地球人最強に敗北した。

「やったぞぉぉぉ!! 俺は、俺は勝ったんだー! やったぜ、クリリィィィン!!」
今までにない最上級の功績に、ヤムチャは歓喜の咆哮をあげた。
ドラゴンボールを使い、皆を後から生き返らせるため、まずは人数を減らす。
クリリンの残したこの壮大な計画に、ヤムチャはこれ以上ない形で貢献したのだ。

浮かれるヤムチャの一方。どうしようもなく消沈する三方は、半ば絶望にも近い憤りを感じていた。
桑原も怒りに任せて飛びかかろうとしたが、あのかめはめ波の威力を考えれば、自分に勝ち目がないことを認めざる得なかった。

「おいおい、何しみったれた顔してるんだよ!? どうせあとでみんな生き返るんだから、そんなに落ち込まなくても……」
「『スティッキィ・フィンガーズ』!」
「――へ?」
浮かれるあまり、反応が遅れた。
ヤムチャの後方から迫った襲撃者に、後れを取った。
背後には、二つの影。おかっぱヘアの男と、宇宙人のような人間。まるで、先ほどの『スタープラチナ』の再現のような。
ヤムチャは、この存在が『スタンド』という名であることを知らない。
「うわっ、と!?」
後方からの奇襲をギリギリで避けるも、また転びそうになってしまうヤムチャ。だが、今回は足元がお留守とは言わせない。

「な、なんだおまえは!?」
「なかなかの反射神経だ。だが、『スティッキィ・フィンガーズ』の攻撃は確かに"当たった"。見えるか? おまえの"小指"に取り付けられた"ジッパー"が」
この突然の奇襲に、ヤムチャは困惑する。だが、自分の左小指を見た途端、その困惑はさらに加速することとなる。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
そこには、紛れもなく"ジッパー"が取り付けられていた。あの、服についてる"ジッパー"だ。
「その"ジッパー"を引けばどうなるか……まさか分からなくはないだろう?」
おかっぱの男は、ヤムチャに歩み寄る。
「なんなら、もっと"ジッパー"を増やしてやろうか? 身体が"ジッパー"塗れになる様を……俺に見せてみるか?」
「ひっ……」
ヤムチャは、このおかっぱの男の今までにない異質な能力に、これ以上ない恐怖を覚えた。

「……きょ」
あと三人……あと三人だったが、もう少しと言うところで一人増えた。
その一人は、謎の力を秘めた能力者。冷静に考えて、浮かれている場合ではなかった。
「今日のところは見逃してやる! 次にあったら、このヤムチャ様があの世に送ってやるからな〜! 覚えてやがれ!」
限界を感じたのか、それとも『スティッキィ・フィンガーズ』の異能に恐怖したのか。
ヤムチャは、宇宙のヒーローを葬ったとは思えない逃げ足で去っていった。
「ブチャラティ……」
「JOJO――空条承太郎、だな? まさか俺の顔を、忘れてはいないだろうな」
ヤムチャが去り、おかっぱの襲撃者――ブローノ・ブチャラティは、承太郎と邂逅する。
この二人、数時間前までは些細な誤解から激闘を繰り広げた間柄である。しかも同じ『スタンド使い』。結果は承太郎の勝利に終わったが、今はあの時とは立場が逆転している。
「無様だな。"ボス"と同じような『スタンド』を持ってしてこれとは、情けない」
「仕方がねぇさ。なんたって相手は、"地球人最強"だ」
「ふん。あの時は後れを取ったが、今やったら"100%"俺が勝つな」
「おい、まさかブチャラティ……」
その攻撃的な言葉から、桑原は嫌な風を感じた。
あの時のいざこざ。まさか、今ここで『スタンド使い』同士のバトルを再現するつもりでは……。

「心配はござらん、カズマ殿。ブチャラティ殿にその気はない」
事が起こる前にブチャラティを止めようとした桑原を、遅れてやってきたもう一人の仲間、雷電が制した。
「雷電さん!」
「遅れて済まぬ、翼殿。もっと早く駆けつけるつもりだったが、ブチャラティ殿と『話』をしていたら遅くなってしまった」
「……事情は雷電から全て聞いた。おまえ達が俺と同じ思想を持っているということ、既にカズマはその仲間入りをしたということもな」
複雑そうな顔で語るブチャラティ。どこかしら後ろめたさがあるのだろうか。特に桑原とは眼を合わせようとはしなかった。

「カズマ殿、ブチャラティ殿はちゃんとこちらの話に賛同してくれたぞ」
「それじゃあブチャラティ……」
「おっと、再会を喜び合うのはまだ先だカズマ。生憎だが、"すぐにやらなければならないこと"ができた」
「やらなければならないこと?」
ブチャラティの加入に喜んだのもつかの間、彼は"また"突拍子もないことを言い出した。

「さっきの奴――ヤムチャだったか。俺は奴を追い、この手で倒す」
「なんだと!?」
そこ言葉に驚きの色を見せる桑原だったが、 ブチャラティは至って平然とした顔で、
「奴は危険だ。この先少なからず、俺たちの障害となる。倒すなら……疲弊し、"ジッパー"の能力を恐れた今が好機だ」
「じゃ、じゃあ俺も行くぜ!」
「言うと思ったよ、カズマ。だが、おまえは駄目だ。これは俺が一人で行く」