【2次】漫画SS総合スレへようこそpart35【創作】

このエントリーをはてなブックマークに追加
422マジカル・インベーダー
>>358
あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。数時間か、それとも数日か。
マリネラ宮殿内の病棟。その一室のベッドで、D=アーネは目を開いた。
体が重くて痛い、動かない。そういえばこの国に来てから二度目の目覚めだが、
二度とも手ひどくやられてぼろぼろになって、死んだような眠りからの目覚めだった。
いつも宇宙レベルの強敵とハデにやり合ってるから、負傷することには慣れている。が、
これほどの立て続け重傷はさすがに珍しい。
身に染みて解った。この地球という星には、日本以外にもとんでもないのがゴロゴロして
いるらしい。この星の制圧は、やはり並大抵のことではないようだ。これでは陛下が……
「! へ、陛下……痛っ!」
D=アーネは勢いよく身を起こし、その痛みで顔をしかめ体を縮めた。
自分で自分の体を、そっとさすってみる。いつの間にか病衣に着替えさせ
られており、丁寧に手当てがされ、幾重にも包帯が巻かれていた。そういえばここ、
随分豪華な病室のようだが一体どこだ?
「あ……そうか。あの時、この国の王様が。えと、確かパタリロ=ド=マリネールって」
「そう、ぼくだ」
D=アーネの声が聞こえたのか、ノックもせずにパタリロが入ってきた。
「気がついたようだね。医師たちが言うには体組織の基本構造が地球人に非常に近い
から、おそらく地球人と同じ処置で大丈夫だろうということだったが」
「……大丈夫みたい」
「それは良かった」
パタリロはベッドの脇の椅子に腰掛ける。
「さてと。実は、各国には秘密だが、我がマリネラには多数の異星人が住んでいる」
「え?」
「一般の地球人に紛れているわけではなく、居住区を区切ってのことではあるがね。
気候も治安も良く、国王もこの通り人格者なものだから、出稼ぎとかがよく来るんだ。
たまに来る遭難者も保護してるから、今はもう何百人もそこで暮らしてる」
当たり前のようにパタリロは語る。実際、ここマリネラにおいては当たり前なのだ。
423マジカル・インベーダー:2006/03/16(木) 21:50:08 ID:ESD70HpU0
「君たちみたいな、外見上は地球人と見分けがつかないなんてのはむしろ小数。普通の
地球人から見たら、グロテスクなバケモノでしかない人たちが、我がマリネラでは
仲良く暮らしてるんだ。だから、君たちが移住してきたって何の問題もない」
「い、移住? ちょっと待って、なんでそれ、そのこと、」
「君が連れてきた犬君に聞いたんだ。治療の為にも君たちのことを知る必要はあったし、
今後の為にもね。そう、その今後の話だ」
パタリロはD=アーネの目を見つめて、真面目に話した。
「さすがに、一国丸ごとは無理だけど。でも、君の国王陛下とその武官文官、百人ぐらい
なら受け入れられるよ。丁度、区画の拡張は検討してたところだし」
「! そ、そ、それじゃ……陛下が……この、地球に……来られるの?」
「国際親善、ならぬ星際親善だ。互いの発展の為にも、この国の王として歓迎するよ」
パタリロが手を差し出した。その手と、パタリロの顔とを交互に、何度も何度も
見て、それからD=アーネはパタリロの手を強く握った。
「あ、あ、ありがとう! いや、ありがとうございます、王様!」
「はははは。いや、実際君とヒューイットには助けられたわけだし」
その言葉を聞いて、D=アーネは顔色を変えた。
「そ、そうだヒューイットさん! ヒューイットさんはっ!?」

D=アーネが目覚めた病室から少し離れた別の部屋。そこに、ヒューイットが眠っていた。
そっとドアを開けて入ってきたD=アーネは、寝息を立てているヒューイットを
起こさないよう、静かに近づいていく。
パタリロが言うには、「普通の人間なら間違いなく死んでるところだったそうだ。ま、
あいつも救いようのない重度変態的少女愛好家ではあるが、あれでもCIAの
超一流エージェントだからな」ということらしい。
D=アーネも、ホテルで眠っていた時のことは、犬1号からも話は聞いている。確かに、
まだ十三歳の自分に対して真剣に恋するというのは、大人の男性としては異常なのかも
しれない。
424マジカル・インベーダー:2006/03/16(木) 21:50:49 ID:ESD70HpU0
でもこの人は、軍隊が攻撃を躊躇するような相手に対して、何のためらいもなく向かって
いったのだ。一度殺されかけ、辛うじて助かった直後にも、魔法の支配力から脱してまで
その相手に向かっていった。到底敵わないってことは、充分承知していたはずなのに。
「……私はずっと陛下のことが大好きだから、見返りは期待できないって言ったのに……」
ヒューイットのそばに立ち、見下ろすD=アーネ。生気の無い、青白いその顔色が、
今のヒューイットの衰弱ぶりを示している。
こんなになりながらも、結局カーズには掠り傷一つ負わせられなかったのだ、彼は。
「私なんかの為に……地球の男性って、みんなそうなの……?」
D=アーネは身を屈めながら目を閉じて、心の中で陛下に詫びた。これほどの恩を
受けた以上、口先だけのお礼などでは済ませられない。ヴァジュラムの、いや
自分自身の誇りにかけて。だから、感謝のしるし……

…………ちゅ……

『ごめんなさい、陛下。でも……許して下さいますよね』
数秒後、D=アーネは吐息の糸を引きながらヒューイットの顔からそっと離れると、
そのまま部屋の出口に向かった。
ドアを開けて、振り向く。ヒューイットはまだ、変わらず寝息を立てている。
「落ち着いたら、一緒に遊園地に行こう。……ね、『お兄ちゃん』」
D=アーネは部屋を出て、静かにドアを閉めた。
425マジカル・インベーダー:2006/03/16(木) 21:51:25 ID:ESD70HpU0
パタリロたちはまだ当分入院していた方がいいと言ったのだが、D=アーネは
聞き入れなかった。
「一刻も早く、このことを直に陛下にお伝えしたいので!」
と言い残し、来た時と同じように犬1号を体に縛りつけ、太平洋に飛び込み泳ぎ出した。
ジェット機を出すからと言いかけたタマネギたちの目の前で、マッハ二桁に乗るんじゃ
ないかって速さで、D=アーネは水平線の彼方へと消えてしまう。
来た時と同じように、いや、来た時以上のスピードで、D=アーネは太平洋を
突っ切っていく。ひとたまりもなく犬一号は気絶するが、D=アーネは元気元気。
『これで陛下は助かる、助かる、助かる、助かるんだっっ!』
魚雷のように泳ぐD=アーネの歓喜の涙が、波飛沫の中にどんどん溶けていった。

その頃、日本のD=アーネ隊基地では。
「もしもし、もしもし犬1号! 犬1号! 応答しろってんだバカ犬っ!」
「どうだ?」
「全然ダメだ。あンの犬畜生、何を呑気に寝こけてるんだ。ったく!」
「でもさ。通信が繋がったら、このことをD=アーネ様に言わなきゃならないんだよな」
「そ、そりゃそうだろ」
「……D=アーネ様、陛下をお救いする為にあんなに傷だらけになってきたのに……」
「言うなっ!」
D=アーネ隊の秘密基地で、下っぱたちが重苦しい空気に包まれていた。ヴァジュラム
本国から届いた情報を、D=アーネに伝えようとして伝えられなくて。
そして伝えた後の、D=アーネのことを考えて。
「解ってるだろ。悔しいけど、俺たちには……何もできやしないんだ」