【リレー小説】えなりの奇妙な冒険〜冨樫の遺産編第27部

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221パッチワーク・ロマンス
>>134 前スレ142他)


畑「うーん、キユ君トイレに行ったっきり帰ってこないなあ。
 矢吹様、僕キユ君を迎えに行っていいですか?それとも散歩に出かけたのかな」

コロッセオやスタジアム跡の真上にくっついている矢吹専用展望室ティールームでは、
真下から流れてくる黒煙やらなんやらに包まれ煤だらけになっていたが、
中でのんびりお茶している矢吹のところまでは煙は届いていなかった。

矢吹「なに、彼もわかっているさ。気が済んだら帰ってくるとも。
 それよりスタジアムの方の映像が繋がりにくいと運営に伝えておけ」
ハーブティを嗜みながらのんびり試合中継2つを楽しむ暇人矢吹。
しかし大会運営スタッフへの電話を終えた執事・畑健二郎からの報告を聞いて眉をぴくりと動かした。

畑「あの、この艦の総合火葬場から妙な報告が来てるんですけど・・・
 その、先日大会予選を行ったじゃないですか。そこで大量に死者が出たわけですが、
 彼らの・・・バラバラで現在身元検分中の遺体を保管してあったカプセルに、
 妙な反応があるので調査班を送って欲しいと・・・その」
神妙な顔つきの畑に、矢吹は『ああ、そんなのあったね』とは到底口に出せなかった。
矢吹「反応とはなんだ?漫画家の死体を集めると核融合でも起こるのか」
もちろん冗談で言った矢吹だが、畑は大真面目な顔になり。

畑「僕・・・久米田師匠に聞いた事があるんです。
 いろんな漫画と漫画家を混ぜ合わせて練成する、禁断の錬金術があるって。
 様々な漫画の特性を持った、フランケンシュタインみたいな化け物が生まれるって!
 確かナントカ漫画家と呼ばれた恐ろしい合成生物が・・・なんだっけ」

何かホラーの見すぎじゃないかと笑い飛ばす矢吹だが、心に引っかかるものを感じた。
矢吹「ははは・・・いや、そうだあの場所には『10年前』の瓦礫が一部置いてあったな。
 キユがそいつの反応に気づいて近づいてしまうと、少々厄介な事になる。
 畑、火葬場に連絡して今すぐカプセル内の死体を全部灰にしろ。火力最高でだ」
222パッチワーク・ロマンス:2006/03/32(土) 02:31:01 ID:Qd5FgJgo0
10年前とは<キユドライブ>の事。巻来が“ロケットインパクト”と呼称したものと同じ事件。
面倒なことは大会が終わってからにしてほしいと心底願う矢吹だった。



キユ「おじさん・・・おじさん、起きてよ。怪我は治したでしょ」
薄暗い闇の中、黒猫と血まみれの男を背中に乗せてふらふら移動する少年・キユ。
先ほどの余湖軍団襲撃に巻き込まれるのも面倒なので、
自分を庇って倒れた真船医師を治療するべく再び焼却炉脇の通路に戻ったのだ。

キユ「(健二郎くんもそうだけど、ここには変な人が多いや。
 彼らもロックの心を持っているのかもしれない。だとしたらぼく達は・・・仲間?)」
なるほどねと心のモヤモヤががストンと抜けたキユ。
彼の判断基準は色々曖昧である。ふと、キユが何かを察知してキョロキョロし始めた。
そして真船を背中から降ろして、人通りの多そうな廊下の壁にもたれ掛けさせた。
キユ「(気持ち悪い気配を感じる)・・・ぼく行くね。おじさんはここで寝てていいよ。猫くんは?」
黒猫・横内は嫌そうな顔をしつつ、黙ったままキユの肩に飛び乗った。



指示を出した後もいやに落ち着かない矢吹。何か気になる事があるのだろう。
矢吹「畑よ。先程言っていた合成生物について詳しい話を知らんか」
受話器を持ったままの畑は顎に指を当てながら「うーん」と記憶の糸をたぐり寄せる。

畑「あ、そういえばそいつの特徴がですね、何名もの<クリエイター>のバラバラ死体から、
 気に入った部分を繋ぎ合わせているとか。まるでゾンビですよね」
矢吹「バラバラ死体・・・予選で死んだダメ漫画家たちのプール・・・何が起きてもおかしくないな」
畑「気にしすぎでは?試合でも見てゆっくり―――」
してください、と畑が口に出す前にけたたましく鳴り出す電話。
慌てて出た畑の表情が一瞬で強張る。
畑「どうしました?・・・え、火葬場で・・・大量殺人!?カプセルから悪魔が出てきただって!?」
矢吹は畑の狼狽を見て即座に受話器を奪い取った。
223パッチワーク・ロマンス:2006/03/32(土) 02:32:11 ID:Qd5FgJgo0
矢吹「どうした、死体は灰にできたのか」
焼場『それが・・・窯に火をともした直後、カプセルが膨張して中から人間が出たんです!
 あの中には原型を留めない漫画家たちの“部品”が混在しているだけで、
 人間そのものは入っていないんです!あれは死体の中から生まれたんです!
 さっきの妙な反応は恐らく、奴が生まれる時の熱反応だったんです!!』

電話先の従業員は務めて冷静に事態を伝えようとするが声が上ずっている。
焼場『それでその死体が私たちを次々と惨たらしく殺して・・・ちくしょう!!
 あいつは「俺様みたいな漫画界のエリィィィィィトの食事になれるだけ、
 ありがたいと思え」なんて言いながら従業員の足をぶった切ったりして食うんです!
 ほら矢吹様にも聴こえますでしょう、あいつの胸糞悪い笑い声が!!』
矢吹「・・・・・・なんだ、こいつは」


  ? 「 ピ〜〜〜〜〜ヒョロ……!! ピ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ヒョロ〜〜〜〜〜〜………!! 」


嫌悪感を憶えるほどのかまびすしい奇声。受話器越しだと言うのに、
直接頭蓋骨にまで響いてくる。恐らく若い男の声だが、どんな笑い方をしたらあんな声が出るのか。
矢吹「・・・久米田は色々“もの”を知っているな。今救援をよこす。
 私も行けたら行く。5分後に火葬場周辺の区画を前面封鎖するので全員脱出せよ」
そう言って受話器を下ろす矢吹。同時に隣に立つ畑がぽむんと手を打ち鳴らした。

畑「あ!!ゾンビの名前、思い出しましたよ・・・!!
 それはあらゆる創作物のアイディアを表層のみパクってそのまま流用する“天然危険物”!
 永遠にアイデンティティを得られず彷徨う、堕落した作家の魂の集合体『ツギハギ漂流作家』です!!」
矢吹「ツギハギ・・・それが人気漫画の錬金術から生まれた異形の名か?」
畑「そうです、そしてあらゆる手段を使って実際に漫画家になってしまったツギハギがいるんです!
 奴の名は――――西公平!通称・ハム平!奴にとって全ての漫画は己の肉体の構成材料なんです!!」

矢吹「ふん、他人の死体を借る狐か。私はこの手の輩が大っ嫌いなんだ。消し炭にしてくれる」
慨然とした矢吹は残ったハーブティに目もくれず、畑を引き連れ事件現場へと向かった。