(イッテエ…!!何で機関銃程度の攻撃が……普通に致命傷になっちまってるんだよ!!?)
さらに次々に打ち込まれてくる段幕から必死に距離を取り、木の影から影へと素早く移動を続ける。
しかし、そのスピードは普段よりはるかに低迷。
その原因にもなってしまっている、受けてしまった致命的なダメージは『わき腹』『右手中央』『右太もも』の三カ所。
いずれからも血が次々に流れ出ている。
「貴様はすでに手追いのウサギ!素直に降伏するんだな!」
「くっ!そんな訳にはいかないんだっ!!」
いくら逃げても巨漢の敵は恐ろしい程正確にクリリンの居る位置めがけて射撃を打ち込んでくる。
このままではジリ貧と悟り、残り少ない気を使いきる覚悟でマシンガンの狙いが定められぬよう舞空術を用いて不規則なジグザグで一気に上空へと上昇する。
「ハア…ハア…!(ちくしょう!今の体の調子じゃあまともに戦えない!どうすりゃいいんだ!?逃げるか!!?)」
ズガガガガッ!!!!
「うわあッ!!?クソッッ!!!」
敵から距離を取り少し安堵したのも束の間、海坊主は軽々とマシンガンを頭上に掲げて上空めがけて引き金を引く。
「…その『魔』の一文字をどういうつもりで背負ってるのかは知らねぇが、それ相応の報いってやつを受ける覚悟くらいはあるんだろうな!!」
「…!!!」
マシンガンを打ち続けながら叫んだその海坊主の言葉を聞き、クリリンは自分の着ている服に視線を落として歯を食いしばり、つい先ほど自分の頭に繰り返し言い聞かせていた誓いを思い出す――
『助けるため――』
「…へへ…、そうだったな。俺、今悟飯の道着を着てたんだっけ…!」
笑みが、こぼれた。
半ばパニックに陥っていた頭が冷静さを取り戻していく…。
(…悟飯、お前の…ピッコロから教わったっていう生き様、それを写した大切な道着なんだよな)
左手を腰の後ろに下げる――
(…筋違い、かもしれねえけど……俺に少し力を貸してくれよ、悟飯…!)
左手の手のひらに――強い光が集っていく…
「…!?何をする気だ…?」
異変を感じ、いったん撃ち方を止めてジッとその様子を見る海坊主。
「か…め…は…め…!」
(俺は……今、負けるわけには…)
「……波アアァァアーーッッッ!!!!」
「な、にイッ!!?」
ズキュウウゥーーッ!!!!
片手で撃ち出した渾身のかめはめ波が一直線に海坊主を襲う。
ズドオォオーーンッッ!!!!!
「負けるわけには…いかないんだあアアーーッッッ!!!!」
海坊主を完全に飲み込んだかめはめ波は、全てを飲み込んでいくかのように地面に炸裂し、無数の石や砂ぼこりを吹き上げて轟音を轟かせる。
「………く…!」
炸裂の余韻が未だ残る中、クリリンは気を使い果たした反動で力無く地面に向かい一直線に自由落下していく。
ドサ!と地面に倒れ込むようにたどり着き、そのショックや数多くの酷い怪我で激しく痛みを訴える全身にムチを打ってゴロンと仰向けに寝そべる。
「………勝っ…た…、勝て…たぁ…!」
「……チェックメイトだ」
クリリンの頭に突きつけられる銃口。
砂ぼこりが薄くなり、そこに姿を現したのは―――全身至る所に擦り傷を作り右肩から血を流しつつも、力を失っていないその根太い声と共にしっかりと地面に両足を踏みしめた…海坊主であった。
「……負け……か。悔しいなぁ…」
「間一髪でかわせなけりゃあ、俺の負けだったがな」
「…あれをかわされたなら…俺の完敗だよ。……早く…楽にしてくれ…」
ゆっくりと両目を閉じ、クリリンは最後の瞬間を待つ。
「…断る。死にたいなら、他を当たれ」
「…え?」
予想もしてなかった返答に戸惑い、目を開けて海坊主の顔を見上げる。
「…自殺志願者の願いを叶える、なんてボランティアをする趣味はねえ」
「ぼ…ボランティアあっ!!?」
思わず情けない声が出てしまい、口をあんぐりと開いたまま呆気に取られる。
「死に際がそんなに潔い無差別殺人者なんてありえねえ。何か理由があったんだろ。ま、そんなの聞く気はねぇがな…。じゃ、あばよ」
銃口を下げ、背を向けて歩き出す海坊主。
「………ちょっと、待ってくれ」
「なんだ?」
自分を呼び止める声にぶっきらぼうに反応して背を向けたまま立ち止まる。
「みんな…助かる方法が、ある」
「……何だと…!?」
全く意図していなかった言葉に強く反応し、再びクリリンの方に体を向けて立ち尽くす。
力を振り絞り、よろめきながらも何とか立ち上がり、海坊主の顔を見上げる。
「ある参加者が優勝すれば…一人残らず、みんな…生き返れるんだ」
「……いまさらそんな思いつきの嘘なんてつくのは、フェアじゃねえな」
「嘘じゃないさ。あんたには借りができちまったからさ、まだ死ねなくなっちゃったよ。あんたの事も助けたい…俺が諦めたら、あんたも助けられなくなる…だから…」
「………」
苦い顔で微笑を浮かべながら一歩一歩、海坊主に歩み寄る。
「だから……できればやっぱり…」
「…?」
「今、死んでほしいッ!!!」
「なッ!!!?」
ヒュッ…!
恐ろしい素早さの抜き手を海坊主の心臓めがけて突き出す。
「…………え……っ…!!!?」
抜き手は、海坊主を貫く事無く…胸の前で音も無くピタリと止まる。
「クソッ!!不思議なバリアでも張ってるのか!!?」
不可解な攻撃無効化を受けて焦りの色が隠せず、大きくバックステップで間合いを離すクリリン。
「…どういうつもりだ?」
一見、臭い芝居でもしたのかとも海坊主は感じたが…明らかに殺気をはらんだ一撃であったため、そうではなく『本気』で殺りに来たのだと直感した。
「やっぱりあんた…普通の奴じゃないんだな…!」
「…確かに『普通』だなんて、言われた事はねえ」
緊迫した空気の中、海坊主は先ほどのクリリンの不可解な攻撃の事を考えていた。
(奴が本気だった事が事実である限り、今の寸止めには絶対理由があったはずだ)
「…あんたの名前、聞かせてくれよ」
「……ファルコン、だ」
「俺はクリリン。あんたとはこんな形では会いたくなかったなぁ…」
「………」
再び、二人の間に重く緊張した冷たい空気が流れ始める。
「さあ、来な。分からず屋のお前さんをぶちのめした後で、さっきの話の続き…洗いざらい吐いてもらうぜ…!」
「やって……みなよ!!ファルコン!!!」
死闘の第二ラウンドが今、始まる。
【福井県/日中】
【伊集院隼人(海坊主)@シティーハンター】
[状態]全身に軽い擦り傷・右肩負傷
[装備]:排撃貝(リジェクトダイアル)@ワンピース(胸ポケットに収納。本人はただの貝殻だと思っている)
:ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数は不明)
[道具]:荷物一式(食料・水、九日分)
:超神水@ドラゴンボール
[思考]1:クリリンに勝利して情報を引き出す
2:銃火器類を探す
3:香・冴子・リョウを探す(放送は信じず)
【クリリン@ドラゴンボール】
[状態]:疲労困ぱい、気はほぼ空
:わき腹、右手中央、右太ももに重傷
:精神不安定
[装備]悟飯の道着@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料・水、四日分)
:ディオスクロイ@BLACK CAT
[思考]1:ファルコンを殺す
2:できるだけ人数を減らす(一般人を優先)
3:ピッコロを優勝させる
400 :
修正:2006/01/20(金) 08:49:23 ID:qmiIVHFkO
>>394を以下のように修正します。
「…奇襲でいきなり人を殺そうとしやがった悪党なんだ、それ相応の報いってやつを受ける覚悟くらいはあるんだろうな!!」
「…!!!」
マシンガンを打ち続けながら叫んだその海坊主の言葉を聞き、クリリンはふと無意識に自分の着ている服に視線を落とす。背中には『魔』の一文字。歯を食いしばり、つい先ほど自分の頭に繰り返し言い聞かせていた誓いを思い出す――
『助けるため――』
「…へへ…、そうだったな。俺、今悟飯の道着を着てたんだっけ…!」
笑みが、こぼれた。
半ばパニックに陥っていた頭が冷静さを取り戻していく…。
(…悟飯、お前の…ピッコロから教わったっていう生き様、それを写した大切な道着なんだよな)
左手を腰の後ろに下げる――
(…筋違い、かもしれねえけど……俺に少し力を貸してくれよ、悟飯…!)
左手の手のひらに――強い光が集っていく…
「…!?何をする気だ…?」
異変を感じ、いったん撃ち方を止めてジッとその様子を見る海坊主。
「……DIO」
男が吐いた名前を、我も知れずにウォーズマンは繰り返していた。
悠然と椅子に腰掛け、肘掛けに凭れ掛かっては、自分を興味深そうに見詰めて来る。
永遠に溶け出さない氷のような眼差し。――見透かされている。心を。恐怖を。
「怯える事はないのだがね。
我が館――と言っても貧乏な兎小屋のように貧相な小屋に過ぎん場所だが、
騒々しく現れた訪問者とただ、話をしてみたいと思っただけなのだから」
男は腰を埋めた椅子から逃れる気配も、攻撃を仕掛ける気配も見せなかった。
組んだ指を組み替え、真昼の訪問者が、武器を持った殺戮機械が如何な手品を見せてくれるのか、
――楽しみにしてるようにさえ。
問われた名さえも返さずに憮然と沈黙を保っている機械の男を前に、DIOは話を続けた。饒舌に。
「大事そうに抱えている筒は、誕生日のクラッカーにしては洒落ている。
我が祖国では、クラッカーと言えば二人で紐を引き、中の品物を取り合う遊びの道具だった。
そう―…綱引きのようなものだ。片方の紐に、菓子が付いている」
コーホー……
コーホー……
ククと喉を鳴らし、吸血鬼の顔が愉悦に歪む。
「無論、これから殺し合いをさせようと言う輩に、クラッカーを配る無能もいまい。
其の筒は"確実に人を殺す能力を持つ道具だ"し、
君は筒の殺傷能力を"十分に知っている"
然し其れでもなお、クラッカーと共通していると言える点がある。
引き金を絞れば、ボン!
――破裂音と共に、勝者が定まる」
男は歌うように口ずさむ。
ウォーズマンは握り締めた殺戮兵器を、見せ付けるように、どんと足を鳴らし、
「……其の通りだ。
コイツは燃焼砲(バーンバズーカ)
オレが指をちょいと動かすだけで、筒の先にあったものを黒焦げにしちまう。
……アンタもそうなりたいのか? 薄汚く焦げた灰によ!」
黒いメタリックに包まれた腕は震えながらも、燃焼砲の標準を合わせていた。
そう、自分は燃焼砲の威力を"十分に知っている"――悲鳴と断末魔が、脳裏を走る。
少女の悲鳴が。青年の断末魔が。可能ならば、二度と使いたくはない、使うべきではない兵器。
けれど男から放たれる邪悪なオーラが、忍び寄る恐怖が、武器を持って威嚇をせずにはいられなくする。
恐ろしい武器だ。殺戮兵器だ。匂わないのか、この筒から漂う、絶望的な死の香りが。
臆病な兎が、精一杯身体を大きく見せるように、相手が自分から逃げ出してくれるように。
ウォーズマンは、敢えて声を荒げ、口を醜く歪ませた。――今は戦いたく、ない。
然し、兎の努力は一蹴される。相手は、虎だったのだ。
「使いたければ、使うといい」
「……エ?」
思わず聞き返した。間抜けにも。
引き金を引く―― 其れは、青年の、二の舞を意味すると言うのに!
戸惑う機械の男を瞳に写し、端正な男の顔が歪んだ。
「使えばいい、と言ったのだ。単純に、シンプルに。
サーチ・アンド・デストロイ、ガンホー、ガンホー。クク……
"ルール"を聞かなかったわけではあるまい。機械の男は人間の言葉が判らないのか?
与えられた武器を使って、最小限の損害で全ての敵を殲滅する。
甘っちょろいヒューマニズムを後生大事に抱えて居る輩から全てを失い、脱落する――
おっと」
DIOは言葉を留めると、恭しく訂正する。
「人間主義(ヒューマニズム)と言うのは軽率だったな。
無論、"我々は人間ではない"――そうだろう?
脆弱な人間のルールに縛られる筈もないし、そんなものは"既に超越してしまっている"
だから"初対面の相手に躊躇なく引き金を引けるし、心も痛まない"」
「ふ……、ふざけるな!
オレは正義超人!ファイティング・コンピューター・ウォーズマン!
戦うことはあっても其れは世のため人のため……、貴様などと一緒に……」
否定、出来る筈だった。
自分は人間でこそないが、仲間と共に正義を志した、人間の味方であると。
然し、否定の言葉は喉元で引っ掛かり、解き放たれることはなかった。
――殺した青年のケロイド化した面立ち。非難の目で見詰める、少女の瞳。
――血の滴る鍵爪。へし折った背骨の数々。貫いた脳髄。オレは、オレは……
「何が違うというのだ?
黒光りするボディ。悪魔の如き仮面。機械の身体――
クク……、素晴らしいなウォーズマン。夜泣きした糞ガキも一発で泣き止むぞ!
何処から見ても人間には見えん。フフ……このDIOの方が未だ人間の面影を残している。
とうの昔に人間を辞めてしまったこのDIOの方がなッ!!
其の上、世のため人のためだと哂わせてくれる。
お前は、人間どもに尽くさねばならんと感じているようだが、
一体全体、人間が何をしてくれたと言うのだ?」
吸血鬼の声が遠く背景音楽のように響き渡る中、過去のメモリーがフラッシュバックする。
――醜い醜いロボ超人のウォーズマン。ロボでも人間でもない、仲間外れのウォーズマン。
醜い顔を紙袋で隠し、其れでも尚、子供に石を投げられる。
迫害。嘲笑。裏に見え隠れする、異質な者に対する恐怖。
「人間と言うのは都合の良い生き物だ。善人面しておきながら、平気で裏切る屑どもだ。
自分達と少しでも違うものを心の底では排除したがる。
ウォーズマン。お前を見る人間達の目を、覚えているか?――果たして、其れは正常なものだったか」
火炎放射器の炎の向こうに、人影がゆらりと立ち塞がり、黒焦げの男が、涙目の少女が非難する。
――生きたかったのに。何もしてないのに。死にたくなかったのに。
殺したくなかった。武器の性能も威力も知らなかった。威嚇するだけのつもりだった。
懺悔した。謝りたかった。償いたかった。大丈夫、許してくれる筈。許して――、なら、何故逃げた?
――怪物だ。残虐な、血を好む、怪物だから。怪物は許して貰えないから。
黒焦げの青年が、
涙目の少女が、
石を投げた子供達が、
リングを取り囲む観客が、口々に、口を揃えて――自分を責め立てた。
罪悪感に苛まれ弱り切ったウォーズマンの意識に浮かんでは消える忌まわしき幻影。
其の中には――、自分が信じるべき、疑ってはならぬ筈の正義超人の姿も、あった。
輝かしき正義超人の御旗。彼らは、果たして、自分を許してはくれるだろうか。
罪もなき人間を殺した、自分を。
「……オレは……オレは如何したら……!!!」
カランと燃焼砲を手から零し、膝をついてしまったウォーズマンの傍らに、足音が近づく。
透明な声が壊れかけたウォーズマンの耳に入り込む。帝王はヘルメットに唇を近づけ、妖艶に。
「仕える相手を間違えたのだよ、ウォーズマン。人間などと、正義などと。
――どれもこれも束縛されることを前提にしている。仕えるものの自由は存在しない。
"永遠の安心感"もだ。唯1つの失態を犯しただけで、全てを剥奪される。"彼らには寛容さがない"
けれども"悪"は違う。
武器の引き金を引くのにいちいち"躊躇"したりはしないし、"後悔"もない。
悪こそが真に自由だ。何者にも縛られないし、全てを"許す"」
友情さえ及ばぬ罪をこの男は許すと言う。何て甘美な、誘惑。
神にも、否、悪魔にも縋るような面持ちで、ウォーズマンは傍らの男を見据えた。
「オレを許してくれるのか……?
オレを嘲笑ったりしないのか?」
「ウォーズマン、君に足りないのは"覚悟"だ。
"覚悟"を持たぬものは幾ら"強者"であっても他人の良いように扱われる。
――殺せ。簡単な話だ。君を嘲笑う奴は、全部だ。"其の力が君にはある"」
「コロス……コロス……」
不敵に笑むDIOの面立ちには、恐怖を孕んだ強引さには、思い出されるものがあった。
ウォーズマンを育て上げたトレーナー・バラクーダ。またの名を、英国の超人ロビンマスク。
キン肉マンを倒ス為の訓練で教え込まれた残虐性が、沸々と湧き上がる。懐かしく心地良い記憶だった。
石を投げた子供達。恨めしく見詰める黒焦げの青年。泣き叫びながら非難する少女。
殺してしまえ。自分を嘲笑うヤツは、殺してしまえ。殺してしまえ。殺してしまえ!
「コロス……コロス……!」
封じた筈の、冷血・冷酷・冷徹の氷の精神。ぎぎぎ……と口元が悪魔の笑みを浮かべ始める。
「このDIOに忠誠を誓うというのなら、真の自由を――
誰もお前に与えてやれなかった"永遠の安心感"を約束しよう」
「ア―……アアアアアアアア!!!!」
響き渡る咆哮は覚醒の叫び。もう、考えるのは止めてしまった。心地良い言葉に、身を任せたかった。
求めていたのは道を示してくれる者。バラクーダのように、キン肉マンのように。
血に飢えるファイティング・コンピュータの傍らで、闇の帝王だけが唯静かに、邪悪に笑んだ。
――夜が、待ち遠しい。
【愛知県と長野県の境(山中の廃屋)/日中】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右肘部から先を損失、腹部に貫通傷(出血は止まっている)
[装備]:忍具セット(手裏剣×9)
[道具]:荷物一式(食料(果物)を少し消費)、
[思考]:1、日が暮れるまで廃屋で身を隠す。
2、参加者の血を吸い傷を癒す。
3、悪のカリスマ。ウォーズマンを利用する。
[備考]:廃屋の周囲の血痕は消してあります。
【ウォーズマン@キン肉マン】
[状態]精神不安定
[装備]燃焼砲(バーンバズーカ)@ワンピース
[道具]無し(荷物一式はトイレ内に放置)
[思考]DIOに対する恐怖/氷の精神
DIOに従う。
(進さんが…死んだ…?)
少年、小早川瀬那は、呟く。細く、細く、吐息のように。流れる言葉は虚ろに響き…
「嘘だ!」
自らが発した怒声により、霞の中へと消えていく。
「嘘だ…嘘だ…嘘だ!進さんは約束したんだ!!クリスマスボウルで会おうって!!!」
認めたくない。認められない。
自分が死ぬのなら、まだ分かる。自分の弱さは、誰よりも分かっている。でも。それでも!!
信じられない。信じたくない。
何故?どうして死ななければならなかった?昨日までに。今までに。これまでに。
夜の帳の中、命を落とした18人もの人達に。眩い朝日の下、命を落とした14人もの人達に。
殺されなければならないほどの、一体どんな罪があったというのか。
これから命を落としていく人達に、一体どんな咎があるというのか。
「約束…したんだ…」
その言の葉に、力は無く。その表情に、生命無く。
ただ、呟く。彼にとって、神聖な約束を。彼の仲間、彼のチームメイト達にとって絶対の約束を。
皆で、全国大会決勝(クリスマスボウル)で戦う。
それは、塵へと消え行く、夢の欠片。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「薫…殿…」
去って逝くのは、在りし日の姿。幸せの残滓。木漏れ日のような、暖かい日々。胸が締め付けられるような、神谷薫の後姿。唯一つ。
(薫…ッ!!)
浮かび来るのは、戦いの日々。修羅の幻影。地獄に等しい、京都での日々。胸が焼きつけられるような、緋村抜刀斎の後姿。唯一つ。
神谷薫が死んだ。この世から、涅槃へと。一人、ただ一人、何も言わずに旅立ってしまった。
神谷薫が殺された。現世から、幽世へと。一人、ただ一人、何も言わずに連れ去られてしまった。
「おおおオオおぉぉぉぉおぉおオオオォおおぉおぉっ!!!」
吠えた。ただ、ひたすらに。ただ、ひたむきに。剣気に弾かれ、舞う木の葉はまるで粉雪のように。
大切な、人だった。一番、護りたい人だった。剣で人を護るなどという信念が、甘っちょろい戯言と言われもする、その心が
なによりも、なによりも美しい人だった。
…彼女に会えば、自分の心も定まる、そう想っていた。
では、彼女を失ったなら…?
(剣は凶器。剣術は殺人術。どんな綺麗事やお題目を唱えようと、それが真実)
「何故、何故、薫を殺したァッ!!(お前が殺さなかったからだ)」
(お前が殺さなかったから、神谷薫は死んだ。お前が殺せなかったから、志々雄はまた誰かを殺す。お前が殺せなかったから、更木もまた
誰かを殺す。誰かを殺され、恨みに燃える誰かが、また、誰かを殺す。お前が殺さなかったから。お前が殺さなかったから。お前は、
もう、人殺しのくせに。数え切れない幸せを、その手で汚してきたくせに。お前が、自分の手を汚すことから逃げようとするから。)
(お前の、弱さが、神谷薫を、殺した)
「おおおオオおぉぉぉぉおぉおオオオォおおぉおぉっ!!!」
吠える。ただ、ひたすらに。ただ、ひたむきに。殺気に弾かれ、舞う木の葉はまるで粉雪のように。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…ったく、状況分かってんのか、糞チビに糞ゴザル」
幾許かの時間が流れ――蛭魔妖一が言葉を発した。一見、その顔に精彩は無く。瞳だけは翳ることなく。
「まず、糞マネについてだ」
そこで、一瞬。剣心の顔を一瞥すると、続ける。
「緋村サンの捜していた人ってのは、結構腕が立つ人だったんだろ?」
「ああ…そうでござる」
「進もだ。日本最強のラインバッカーとか言われてたが、その名に恥じない身体能力をもっていやがった。だが。
あの糞マネは頭はキレるが、一般人だ。バケモンとやりあえるほど強くもねェし、バケモンに追われて逃げ切れるほど早くもねェ。
さっきの糞手巻きミイラや糞ウニ頭みたいな奴に見つかったなら、もうとっくにくたばっててもおかしくねェ。
かといって、バケモン連中に襲われている奴を見過ごして、自分が隠れていられるような奴でもねェ。なら、だ。
いままで、一人で生きてこれたってことは、」
「まもり姉ちゃんには、誰か、心強い仲間が居る…」
「それか、運よく今まで誰にもあってないのかもしれねぇがな。まぁ、急ぐに越したことはねぇが、糞マネのことは、怪我人二人抱えて
強行軍する理由にゃ、少し足りないってこった」
そこで、一息。頭上には、抜けるような青空。遠くで聞こえる、鳥の声。草いきれ。穏やかな風。
だが、薄硝子を一枚挟んだかのような、違和感のある世界。その中心に聳えるかのように立ち、蛭魔は続ける。
「俺と糞チビは、体を休めながら、やっぱ東京に行く。この糞ゲームに乗らされた奴は、日本出身者が多いみたいだしな。
もしかしたら、なんかこの糞ゲームから抜ける方法を知ってる奴もいるかもしれねェ」
「え。ヒル魔さん、日本人が多いって、どうしてそんなことを…?」
「それは…「それは、名簿を見ればわかるでござるよ」」
セナの問いかけに被せるような形で、剣心は言葉を発する。穏やかな風が、もう一陣。
セナは痛ましげな視線を送り、蛭魔は無言で剣心から目を逸らす。
「お前は少し頭を使え、糞チビ!…で、だ。緋村さん、アンタはどうすんだ?」
「拙者は…(俺は…)」
「オレとしては、アンタに抜けてもらいたくはねェ。オレ等二人で生き延びるのも、結構キツそうだしな」
「拙者は…(俺は…)」
「でもな、流石に無理強いはしねェよ。状況が状況だしな(強請るネタもねェしな)」
「蛭魔さん…緋村さん…」
「ただ、アンタが一緒について来てくれたら、心強いってのは確かだ。よかったら…」
笑み。剣心の顔に、微笑が浮かぶ。虚ろな。確かな。
「蛭魔殿、瀬那殿。拙者、ここまできて、投げ出すつもりはござらんよ
(―――薫を殺した奴を、許すつもりも無い―――)」
立ち上がると、剣心は歩き出す。その足取りに、危うさは無く。だが、まるで、自分の中の声から、必死で逃げているかのようで。
(これ以上、拙者の目の前で、誰かを傷つけたりははさせないでござるよ。この目に映る人だけは、護って見せる。
この目に映る人達が、護りたいと思っているものも、護って見せる。絶対に。絶対に。絶対に。)
―――どうやって、だ―――
瘧のように現れ消える、言葉に答える術は無く。
確かなことは。自分の中に人斬りがいるということ。自分の中の人斬りが、目を覚ましつつあるということ。
これ以上、命を失えば、もう、抜刀斎を、抑えきれないということ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(まもり姉ちゃんは、死なせない。蛭魔さんも。緋村さんも)
少年、小早川瀬那は、呟く。強く、強く、祈りのように。
(みんなで、みんなで、生きて帰るんだ。幸せな日常に……)
みんなとは誰なのか。幸せとは何なのか。
そして。生きて帰るということは可能なのか。
流れる言葉は 決意に 満ちて………
【山口県/昼過ぎ】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、軽度の疲労、精神重度の不安定
【装備】刀の鞘
【道具】荷物一式
【思考】1.姉崎まもりを護る(神谷薫を殺害した存在を屠る)
2.小早川瀬那、 蛭魔妖一を護る(襲撃者は屠る)
3.力なき弱き人々を護る(殺人者は屠る)
4.人は斬らない(敵は屠る)
(括弧内は、抜刀斎としての思考ですが、今はあまり強制力はありません)
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]:健康
[装備]:特になし
[道具]:支給品一式 野営用具一式(支給品に含まれる食糧、2/3消費)
[思考]:1.薫、斎藤、姉崎との合流
2.これ以上、誰も欠けさせない
【蛭魔妖一@アイシールド21】
[状態]:右肩骨折、夷腕坊操作の訓練のため疲労
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考]:1.薫、斎藤、姉崎との合流。
2.東京へ向う
「足跡? あのお嬢ちゃんがいた辺りにか?」
「ああ。それも妙にいびつで大きめのやつだ。あとはあの少女の足跡だけだったな」
ごく一般な家のごく普通な木製の食卓。
ただ、そこに居るのはごく普通じゃない姿をした二人だった。
「あの子を見つけたとき、既に意識は無かった。私にはそこがどうも腑に落ちなかった。
彼女は少なからず負傷、しかし付近には戦闘の跡が見られない。
───さてバッファローマン、どういうことか分かるか?」
一人目、世直しマン。全身を山吹色の鎧に包まれた謎のヒーロー。
十の角が伸びる兜の奥から、鋭い眼差しが時折光る。
「……さあ、言いたいことが全く見えてこねえな。どういうことだ?」
そしてもう一人、バッファローマン。二本の巨大な角を冠した半裸の超人。
破格の巨体を、頷きと共に机越しの世直しマンへと寄せて耳を傾ける。
「北海道から彼女を狙った襲撃者がこちらに渡ってきた可能性がある、ということだ」
世直しマンの言葉に「なるほど」と、バッファローマンは顎をさする。
つまり先刻の緑男に加えて、付近にゲームに乗る存在が増えるという事。
最悪そのどちらか、いや、両方同時に交戦することさえ有り得る。それだけは避けたかった。
なにしろこちらには戦いの際、格好の標的となってしまう怪我人がいる。それも二人。
ボンチューの容態は良好になってきたものの、いまだ癒えぬ生傷が多く、疲労の色も強い。
世直しマンが連れて来た少女に至っては未だ何も分からない。
ボンチューに介抱を任せた今、この二人にできることは少女のいち早い回復を願うことほか何も無いのだ。
「しかし……こんなもので戦うことができるのか?」
そう言って、バッファローマンは一枚のカードを手にする。
「青眼の白竜」。絵の中のモンスターは強そうだが、それ以外はどう見てもただのおもちゃにしか見えない。
「もしかしたらハズレかもしれんが、何か使い方があるかもしれないだろう」
「でもなあ……まあ、あっちのお嬢ちゃんなら使い方知ってるかも」
「そうだな、知っている限りの事を聞き出さねばな。起きるまで待たねばな」
「おいおい…お姫様のお目覚めまで待つってワケかい? 今起こしても大丈夫だろ」
「そうはいかん。彼らは人間なのだ。それこそゆっくり回復を待つしかない……」
そう世直しマンが言いかけたとき。突如隣の部屋から声が響いた。
女の声、それも苛立ち気味の。二人の超人は顔を見合わせる。
「…なんだ、やっぱり元気じゃねえか、あのお姫様」
軽く皮肉を飛ばし、「さっさと聞きに行こうか」とバッファローマンは立ち上がる。
それに応じて、世直しマンは懐に手を伸ばした。
情報の真偽を確認するに一番早い手段、それは相手の心理を読むこと。
それを手軽に知ることができるのがこの機械、『読心マシーン』。
元々は世直しマンが相手を服従させる手段として利用していた。
弱みを知り、動きを読み、完膚なきまでに叩き潰す。過去の彼はそんな使い方が主だった。
あの三人の首謀者としては、おそらくこのバトルロワイアルのゲーム性を高めるために仕込んだアイテムだったはず。
相手の心理が読める。それはどれだけ危険で、どれだけ恐ろしい甘く香しい美酒となるだろう。
裏切りがわかる。戦いが有利になる。もはや必勝の方程式さえ必要としないアイテムとなりえる。
もしこの読心マシーンが第三者の手に渡ることがあれば、この戦乱は混沌を極めていただろう。
だが今の世直しマンには正義がある。守るべきこともわかっている。
その自信が彼を動かす原動力となっている。
だから、今の彼には人の秘密はあまり欲しい情報ではなかった。
───それは一角しか見えぬ、心の奥の巨大な氷塊。
「……世直しマン? おいどうした、早く……」
バッファローマンが目の前の男に声をかける。しかし反応が無い。
「…………おい、先に行くぞ」「いや」
刹那、世直しマンが制止する。
「少し待とう……これは私たちの出る幕ではなさそうだ」
「……はあ?」
「とりあえず今後の方針はあとで伝えることにしよう。もう名前も目的もわかったからな」
世直しマンの言葉の意味が理解できず、頭の上にハテナを浮かべ当惑するバッファローマン。
ただひとり、世直しマンは隣の部屋で起こっている事の顛末を読心マシーンで聞いていた。
ルキアが目覚めてからしばらく経過していた。
部屋の隅で正座するルキア。どことなくツンとした表情をしている。
一方、ボンチューは疲労困憊だった。
相手が落ち着いてくれたところを、ボンチューは必死に説明を試み続けていた。
が───
「あのな、俺は敵じゃねえんだ。行き倒れだったお前をここで介抱してた、ホントにそれだけ―──」
「ほう、行き倒れを襲うとは随分と姑息なのだな。この助平が」
「だッ、誰がスケベだ!!」
「助平で無いなら何だ? 獣か? ほう、キサマなら犬が似合いだな。この犬めが」
流れるような罵倒の嵐。
「んだとッ!!」と大声を張る手前、ボンチューは言葉を飲み込む。
少し前から続けているこの問答。ボンチューには何一つ手ごたえがなかった。
そう、この女は揚げ足取りが異様なまでに巧い。見た目に合わぬ老獪さがあるのだ。
口ではこの調子だと永遠に敵わない―─―だから論議は切り上げるほうが賢明と取った。
大きく、ボンチューは溜め息を吐く。
先刻の誤解が痛かったようで、ルキアは一切の聞く耳を持たない。
下手に言い訳するだけ自分は不利になっているだけ。こちらの言い分を説明することさえ叶わなかった。
───実はあなたが妹に見えて、思わず───なんて言えば、まるでどこかの変態だ。
他人との協力が必要なこの状況で、相手を説き伏せる時間も弁もボンチューには足りない。
ボンチューは額に手を当て、自分の不甲斐なさにうんざりとしていた。
ふと、ボンチューの視界の端でルキアがキョロキョロとしていた。
時折、顎を引いて悩みこむような姿も見える。
なんだ?と顔を向けたボンチューに、ルキアが「あ、そういえば」といった顔を作り、口を開く。
「なあ、私の荷物はどこに置いてある?」
人の事は聞く耳持たぬくせに、自分の事は教えろってか。ああ、女ってのはなんて厚かましい───
そう胸の奥で毒づくボンチュー。
ただ彼は満身創痍ゆえに、もう口論をする気力も残っていなかった。
「……そっちだ」
ボンチューは素直に一つの戸を指で示す。世直しマンたちが居る部屋を。
「…では私の荷物、返してもらおうか。持ってきてくれ」
直ぐにルキアは言葉を返す。
ああ、女ってのは───
再び毒づこうと、ルキアを見計るボンチュー。
しかし、一瞬目を疑う。
ボンチューは、数多くの喧嘩で人を見てきた中で、腐った奴とそうでない奴を知っている。
腐った奴。それらは特徴的な堕落の気配を纏う。
そして目の前の女も。其の腐った奴らとは少し違うが、まさに今それに近い「堕落」を漂わせているのだ。
「…どうした? アンタ、なんかさっきまでと雰囲気違うぜ」
思わず、問いただす。
そこに先程まで自分を茶化していた女の、気配以外に見せるわずかな変化。
白い眼差しに黒味が増し、嘲りの口元が締まり、己の緩めた姿勢が無意識に引き締められる。
なぜだろう。一瞬で彩られたその姿は、ひどく悲しい。
「……何がだ?」
ルキアが言葉を少しだけ紡いだ。
ボンチューは再び目を疑うか、また一瞬、少女からは「堕落」の瘴気を感じなくなった。
「ただ私の荷物を返して欲しいと言っただけだろう…?どうかしたか」
「………あ、いや…なんとなく気になってな」
まるで狐につままれたよう。
いつの間にか、先刻の「堕落」は微塵もなく消え去った──気のせいだったか。ボンチューは思う。
しかし気のせいだけで済ませられないような、胸の底で拭えぬ何かがある。
もしかしたら別に深く考えることでもないのかもしれない。ただ、ボンチューの中で磨かれてきた
「野生の勘」がそれだけに終わらせてくれない。
「…おい、何を呆けておるか!」
ルキアは怒声を飛ばす。その声で、ボンチューはとりあえず思索を巡らせるのを止めた。
「あ…わりい、荷物だったか?」
「……私はここで待つから、早く頼むぞ」
瞬間、なぜか止めたはずの思考が再び働きはじめる。
かちり、と。ボンチューの意識下で、何かが嵌まる音がした。
微かな疑問。そう、納得がいかなかった「堕落」の正体。
ルキアは再び停止した男を睨みつけた。しかし反応は無い。
全くもってふざけた態度をしておる。そう心中で憤怒した。
───この男はどこか抜けておる。まるで何処かの死神代行のように。
───いきなり抱きついてきてくるは、延々と言い訳を垂れてペコペコとへつらい……実に女々しい。
───まあ、心はもう決まっておる。例えうつけ者でも、どんな御素晴らしい方であろうとも。
少し一喝でも入れるか。そうルキアは一息吸い込む。
「何を──」もたついておる!と怒鳴るつもりだった
「まさか……オマエ逃げる気か?」
目の前の男が言葉を遮る。
ルキアの喉から出かけた声は口から外に出ることなく、そのまま飲み込んだ。
驚いたせいだろう。当たっているのだから。
「……『はい』でいいんだな? 黙ってるって事は。何を企んでる? 別に逃げる必要ねえだろ?」
不穏に匂わせていた軽薄な雰囲気が、だんだんと重くなりはじめた。
緊張が張り詰める。言い訳が出るか、真相を語るか。
両者の間で言葉すらない攻防が繰り広げられる。
その空気を崩したのはルキアだった。ルキアがふう、と息を零したのだ。
「……どうやら、キサマもただの助平では無いのだな。」
足を崩さず、ボンチューを真っ直ぐに、そして真剣に見据える。
次第に空気が張り詰める。ただその場を縛る威圧感とは違う、歴史を漂わす悲壮感。
ボンチューは悟る。やはり相手も、見た目どおりの少女でないということを。
「……何者だ、オメー?」
「知りたいか? なら教えてやろう、私は死神なのだ。
──その意味を真になぞらえた、な」
場の空気が急速に冷え込んでいく。
さっきまでの上塗りの言葉とは違い、重く、そして切に痛さを孕む。
その全てが二の口を必要せずに真実と悟らせる。
「…死神?」
「ああ。信ずるも信ぜぬも貴様の自由だがな。それと言うことが一つある……
私に付きまとうな。それだけだ」
ルキアは一拍置き、半ば自棄気味に突き放す。
悲しみに浸ることの無い少女の表情。ボンチューはただ黙って聞いていた。
「……私の力が及ばぬせいでな、二人もの命を失せてしまった。
わかるだろう?私は死を振りまく死神なのだ。……私の近くに寄るな」
本当は違う。死神とは現世に蔓延る虚を退治する存在。
しかし、一々説明するほど今のルキアに余裕は無かった。
だから簡単に、凶を纏ったイメージの死神で誤魔化す。
実に皮肉なものだ。
死神とは例え其の使命が正しき事だとしても、何時も其処には死が付き纏う。
──かの男、志波海燕。誇りに懸け、自刃にて葬った死神がルキアの頭をよぎる。
逃げたかった。関わり無い命を巻き込まないように。
逃げたかった。これ以上、死者を出さぬために。
逃げたかった。今の、この弱い自分から。
───私は、醜い
「知るか」
そのとき、ボンチューが口を開いた。
偶然か。ルキアにはまるで頭の中の海燕が語っているように見える。
目の前の男と同じ言葉を。かつての逞しい姿のままで。
「人の生き死にに、あーだこーだ口出しはしねーけどよ」
入隊当時、朽木の名に誰も近寄ろうともしなかった私に。
ただ一人だけ、真っ先に私と普通に接してくれた時のように。
「オマエが例えなんと言おうとな、これだけは変わらねえ」
朽木の名に悩み、自分の居場所を見つけられず。
私に少しだけでも凡庸な日を過ごさせてくれた時のように。
「少なくとも俺はオマエの味方だ。忘れんな」
ボンチューはそう言って支給された水を口に含み、「休んどけ」と一言だけ言い放ち、反対側を向いて横になった。
ああ、似ている。私の知る者達と。
本当にいらぬ世話で。私の心に土足で踏み入り、私を救おうとする。
ルキアは静かに、感謝の意を込めた礼をした。
いつかは野良犬とまで罵った男に。月に吼えた野良犬の影を重ねて。
そしてしばしの休息を取ることにした。
【青森県/昼】
【ボンチュー@世紀末リーダー伝たけし】
[状態]ダメージ大、回復中
[装備]なし
[道具]荷物一式、蟹座の黄金聖衣(元の形態)@聖闘士星矢
[思考]:1:目の前の女を守る
2:これ以上、誰にも負けない
【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]:右腕に軽度の火傷、気絶中?
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:不安定。できれば他人を巻き込みたくない。
【世直しマン@とってもラッキーマン】
[状態]健康
[装備]:世直しマンの鎧@ラッキーマン
:読心マシーン@ラッキーマン
[道具]荷物一式
[思考]:ルキアが回復次第、情報交換
【バッファローマン@キン肉マン】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]荷物一式
[思考]:世直しマンの行動待ち
※ルキアの武器と荷物一式は世直しマンとバッファローマンが預かっています。
主催者たちによる放送の少し前……二人の男が京都と大阪を臨む兵庫に立っていた。
「どうしますかィ。俺ァどうも鼻が利かねえもんで。旦那にお任せしやすぜ」
大蛇丸を追う二人は、日本の地理に詳しくない者なら地図の中心地域に行くと踏んで近畿まで進み、
更にここで京都か大阪かどちらへ進むか停まっていた。
沖田に決断を委ねられた斉藤は即座に一言でそれに応えた。
「大阪だ」
「そりゃ何か理由でも?」
その問いにも一言だけ「勘だ」と応えると、沖田は嬉しそうな顔をした。
「勘ですかィ。そりゃいいや。旦那の勘はなんだかあたる気がしまさァ」
わずか半日ではあったが、二人の間には信頼関係が生まれていた。特に共通の目的に対する強い意志。
このことだけは互いに理解しあい、信頼しあっていた。
そして放送……斉藤の知る人が亡くなったことに沖田は気付いたが、斉藤が何も言わない以上それに触れる必要はないと判断した。
相棒に気を遣われたその当人は、神谷薫の死よりも寧ろそれを知った抜刀斎―緋村剣心のことが気になった。
気になるといっても心配するわけではなく抜刀斎がどうなるか、例えば怒りで人斬り時代に戻るか、
それとも絶望で廃人となるか、そういった興味であった。
禁止エリアを確認し、二人は大阪市街地へ入っていった。
更に放送から少し後……ヤバイ雰囲気の男をやり過ごした少年、キルア・ゾルディックは大阪の探索を続けていた。
誰も知る由のないその心の内は親友ゴンに対する心配だけではなかった。
(『選別』……主催者との決戦の際、足手まといとなる人間……)
彼も一度は考え直そうとしたが、やはり来たるべき時の万が一のことは考えておかねばならない。
既に死者が出ている以上全員でそろって脱出はどう考えても無理である。貴重な戦力が削られるのも、ぜひ避けたいところだ。
そうなると足切りは必要不可欠。とは言え、かなり無茶な発想だ。すぐ実行に移ることもできまい。
(……『選別』を想定した上での交渉ぐらいならやる価値はあるか…)
そんなことを考えている内に向こう側から二人組の男が大通りの真ん中を通ってやってくるのが見えた。
前を歩く痩身の男も、後に続く栗毛の青年も武装こそしているが、自分よりも実力は劣るように感じられる。
キルアは考える。この二人なら後ろをとっての尋問も可能だろう。それなら――
考えをまとめ、段取りを決める。
そしてキルアは収縮した脚の筋肉を弾くようにして一気に飛び出した!
「動いたら殺す。喋っても殺す。俺の質問にだけ答えろ」
一瞬で二人の背後に近づき、肉体操作で爪を伸ばしたキルアはそれを相手の首筋に突きつけ、又殺気の篭った声でそう言った。
男達の表情こそ見えないが、栗毛が明らかに動揺しているのに対して、痩身の方は冷静を保ったままである。
「質問に答えるのは…栗毛のアンタだ」
キルアは突きつけた爪に一層力をこめ、質問を始めた。
「まず一つ目、アンタ達はゲームに乗ってるのか?」
「俺ァ、女子プロレス見るのは好きですがねィ、こんな血生臭いゲームにゃあ興味ありやせんぜ。旦那も同じでさァ」
この男、この状況下で冗談まで吐いている。動揺の様子はあったが、意外と肝が座っているらしい。
もう一方も依然落ち着いたままである。もしかしたら何か……
「次の質問だ、アンタ達のことと今までに出会った奴等のことをいってもらおうか」
「そいつァ、できねェや。俺のことだけならまだしも、何処の誰ともわからない野郎に仲間のことは言えやせんぜ」
キルアはこの男が保身のために簡単に情報を売り渡すような男なら『選別』も考えていた。
又仲間という表現からかなりの確率でチーム――おそらくは打倒主催者の――を組んでいると判断し、
信用してもいいかもしれない、と考えた。
「最後に一つ、嘘は言ってないな?」
キルアは殺気を最大限に放って確認の問いを投げかけた。
「嘘なんざ言うわけないでしょうがィ。疑い深いお方だな」
男は疑われたことについてか、不満そうな声で答えた。その声に気負いは一切感じられない。
命に関わる嘘を吐くとき、どんな詐欺師でも必ず決意じみたものを感じさせる。その点から考えても、
この男の言葉に嘘はない、そして今までの答えにも。
とりあえずは情報が必要だ。そのためにはこちらの正体は明かさねばならない。
一度殺気を静めてから、少年は男達の後ろをとった時のように、一瞬で前に回りこんだ。
子供!? 沖田は自分達を尋問していたのが自分よりも幼い子供であることに驚愕した。
それに対して斉藤はやはりな、というような表情を浮かべた。
「おれはキルア。兄さんたち悪かったね、こんな真似して…ここに来てすぐ襲われたからさ…」
キルアが自分の名と言い訳を言い終わる前に一人がその名に反応した。
「キルア、てぇと、もしかして太公望の旦那が言ってた…」
もう一人に確認するように言うと、そのもう一人は無言で頷き返事をした。
「太公望!?アンタ達太公望と会ったのか!?」
太公望という信用に足る人物のおかげで互いの間にあった不審感は一気に取り除かれた。
その後の情報交換は淀みなく速やかに行われた。
自分達のこと、四国での戦闘、ダイの武器、公主の容態、星矢と麗子の動向、それらが互いの知るものとなった。
専らそれはキルアと沖田で行われ、斉藤は黙って聞いているだけであった。
太公望と富樫は無事か… キルアは主催者と戦うとするならば、確実に必要になるであろう人物も無事に安堵した。
又そのことを思うと同時にあの計画のことを意識してしまった。
この二人は自分ほどではないにしろある程度は腕が立つ。それに度胸もあるようだ。『選別』の対象にはならないか、
そう考えるうちにこの計画の必要性を薄く感じるようになっていった。
この世界に呼ばれた人間にはそれほど邪魔になるようなやつはいないのかもしれない…
そう考えていたところに、初めて斉藤が口を開いた。
「さっきの話にもあったが、俺たちは大蛇丸という男を追っている。色白で髪の長い奴だ。女みたいな喋り方をする。
雰囲気でいうと…蛇、だな。そういう男に心当たりはないか」
斉藤の質問の中の『蛇』という言葉にキルアは先程のヤバイ雰囲気の男を思い出した。
あの男をか!?キルアには信じられなかった。自分よりも実力の劣る者たちがあの男を追っている。
話のようすだと何かを盗られたのではなさそうだし、襲ってきた男と実は仲間だったとも思えない。
ゴンのような純粋な人間ならば、他の人間を想って打倒にのりだすかもしれない。
だがこの男達――話によると元の世界では警察業をしていたようだ――がそんな野生児のそれをもってはいないだろう。
キルアにとって、この男達の行動は自分の常識を外れていた。
「蛇みたいな奴だったらさっきこのあたりで見かけたよ。ヤバそうだったから関わらないようにしたけど」
その言葉に沖田は満足そうな顔をみせ、斉藤に話し掛けた。
「旦那の勘、当たってましたね。流石ですぜィ」
「阿呆が…この程度で喜ぶな。さっさと行くぞ」
斉藤はすぐにでも出発しようと沖田を促す。
沖田はキルアに礼の言葉を言ってその場を去ろうとした。
しかしキルアは二人に声をかけ引き止めた。
「ちょっと待ってくれ。アイツと闘りあうつもりか?やめたほうがいいぜ。アンタたちじゃ返り討ちがオチだ。
変な正義感なんかでそんな無謀なことしたら…」
「…生憎だが、貴様の考えている程度のものじゃあないんだよ、俺の正義はな」
キルアの言葉を遮ったのは今度は斉藤であった。
「あれだけ邪悪な匂いを漂わせている男、放って置くのは新撰組三番隊組長の名が許さん」
馬鹿げている。勝ち目の無い戦いなど馬鹿のすることだ。
「アンタはどうなんだ。まさかアンタも同じ考えって訳じゃないだろ」
この世界で出会っただけの沖田と斉藤が同じような思想の持ち主とは考えにくい。
そう思い、キルアは沖田に問い掛けた。
「俺ァ、旦那ほど立派な正義は持っちゃいねェんでね。でも旦那のためなら命懸けてもいいかなって思うんでさァ。
ここだけの話、自分がこの世界で生き残れるたァ思えねェんですよ。かといってゲームにのるきもしねェ。
だったら、気に入った人のために命張ってみるのも面白ェんじゃないかってね。
旦那は態度は冷たいが、懐にでっけェもんを抱えてる。俺ァ、そういうでっけェもん持ってる人が好きなんでさァ」
馬鹿げているのを通り越して狂っている。これでは死にに行くようなものだ。
すると、死に行く人間にならあの計画を話してもいいかもしれない。
否定されて振り切れるならそれでも構わない。悩んでいてもどうにもなるわけでもない。
そんな風にキルアの思考は移りかわっていった。
「ちょっと、話があるんだけどさ―――
『選別』計画を話し終えたとき、キルアは今までのモヤモヤした気分を振り払うことができた。
話してしまってよかった。一人で考え込んだために必要以上に悩んでいたのだ。
沖田の表情を見れば、これがどれだけ馬鹿げていて突拍子の無いことだったのかよくわかった。
しかし斉藤がここで信じられないことを口にした。
「確かに足手まといはいらんな。邪魔なだけだ」
キルアは否定を求めてこの話を打ち明けたのだ。それなのに肯定されるとは。沖田もさすがに眉をひそめている。
だが斉藤の言葉にはまだ続きがあった。
「…特に貴様みたいな殺し屋並に腕が立つ臆病者はな」
臆病者という言葉はキルアの自尊心を傷つけ、殺し屋という言葉はキルアの驚愕を誘った。
自分よりも劣る人間に臆病者呼ばわりされ、太公望達にも話していない自分の前職に気付いている。
いったいなぜ?
「ほう、自分でも気付いていないのか。さっきの忠告の礼に教えてやろう。――貴様は臆病者だ。
なぜそう思ったのかも聞かせてやる。まず最初に尋問の応答者を指名したことだ。きっと俺達の態度の差で決めたんだろう?沖田には動揺が見えたからな。
簡単に背後を取れた上に自分の方が強いと思っているのなら、その程度で警戒しなくてもいい。その時点で貴様が慎重にことを運ぶ奴だと分かる。
まあ俺達が街の中央を通ってきたことから、何らかの奥の手があると判断したのかもな。しかし慎重ということは間違いない。
次に貴様の大蛇丸への対応の内容からだ。放送の直後だったのかもしれないが、それは俺達も同じ条件だ。ゴンとやらが心配なのにもかかわらず大蛇丸には
手を出さなかった。それは勿論自分の身に危険が及ぶ可能性が高いから。しかも俺達に何らかの奥の手があるとも考えていたのに、尋問をそれよりも優先させた。
そこから貴様が実力の違いだけで大蛇丸を通過したのではなく、奴の威圧感に押されたことが予想される。要するに奴から尻尾をまいて逃げたわけだ、貴様は。
最後に大蛇丸を追う俺達への対応だ。何度も俺達の考えを確認したところを見ると、俺達の考えとは相容れない考え――危険をおかしてまで悪を討つつもりはない
の持ち主らしいな。自分の仲間が襲われていると考えたら居ても立ってもいられない、そんなお人好しばかりと出会ったが、貴様はそうじゃない。
見えないところのお友達よりこの場の自分と安全のほうが大切な人間だ。このことから貴様の臆病さがよく分かる。どうだ、自分はそんな人間じゃないといえるか?」
斉藤の言葉は、淡々とキルアのこころにのしかかっていった。
「ああ、殺し屋と判断したのはその身のこなしと殺気の出し方
あと危険と利益を天秤にかけるその思考回路からだ。これで説明はすべてかな…」
沖田には斉藤がなぜこのようなことを言うのか分からなかった。
しかし斉藤が無闇に他人を傷つけるような人間ではないのは分かっていた。
そして行き着いた答えは、キルアの計画を止めさせること。
それ以外には沖田には考えられなかった。
「それじゃァ、いきましょうかィ、旦那。キルア君もゴン君と会えるといいっすね」
そうして壬生の狼は大蛇を討つべく大阪市中へ進んでいった。
キルア・ゾルディックの頭のなかには今までとは異なるはっきりした考えが生まれていた。
それは『選別』は必要不可欠であること、そして今の自分にその資格は無いこと。
自身の念の師であるビスケット・クルーガーに指摘された自分の欠点。
自分は強者と戦うとき、少しでも自分より優れている点が相手にあるとき、
一気に勝利への執念を失うのである。
それを克服しない限り、自分には資格は存在しない。
『選別』も、ゴンとの再会も許されないのだ。
そうしてキルアは壬生狼に来た道を、大阪のそとへ歩き始めた。
凶悪な思いつきを、最悪の誤解で固めて。
【大阪/市街地/日中】
【チーム名=壬生狼】
【斉藤一@るろうに剣心】
[状態]健康(腹部はほぼ完治)
[装備]魔槍の剣@ダイの大冒険
[道具]荷物一式(食料一食分消費)
[思考]1:大蛇丸を追う
2:ダイの使える武器を探す
3:主催者の打倒
【沖田総悟@銀魂】
[状態]健康(鼻はほぼ完治)
[装備]鎧の魔槍(右鉄甲無し)@ダイの大冒険
[道具]荷物一式(食料一食分消費)
[思考]1:斉藤に付いていく
2:主催者の打倒
【キルア@HUNTER×HUNTER】
[状態]:少々のダメージ。戦闘に支障無し。
[装備]:なし
[道具]:爆砕符×3@NARUTO、荷物一式 (食料1/8消費)
[思考]:1.自分の弱点克服
2.1達成後、ゴンを探す
2.1達成後、『選別』開始
「あのガキ…死んでなかったのか?!」
青年、夜神月は考える。ここは森の中。福島県。あの後、月は脇目も振らずに…とはいえ、警戒は怠らぬまま、南下していた。
何故、森の中なのか。それは、自身の安全のため。町の中では、殺人者に襲われる可能性がある。何故なら、殺しをしたくてたまらないような連中は、
少しでも人の集まる場所に向おうとするだろうから。それでも、森の中にいるようなヤツは、何かの目的を持っていると考えてもいい。
先程は向こう見ずなガキのせいで交渉は決裂したが、自分ひとりなら、目的を持った殺人者の一人や二人、何とでも切り抜けてみせる。
森の中にいる一般人は、きっと自分と同じように誰かから逃れてきた人物の可能性が高い。それを狙った殺人者が森の中にいることも考えたが…確率の問題だ。
少し頭を働かせれば、獲物の数が多いほうへと向うに決まっている。獲物の分母の問題。このような頭を働かすことが出来ない馬鹿は、早々に脱落していく。
あの、火口のように。
「クソッ、悪運だけは強い…」
月は考える。あのガキ、イヴが生き残っていたらどう思うか。半死半生の傷を負っているはずだが…翼が生えたりするような女だ。もしかしたら、
生命力も異常なのかもしれないが…。目が覚めたらどう思うか。そこに居るのは彼女一人。あの雪女は水になって消えてしまった。ならば、彼女は
自分が裏切られたと感じるだろうか。
「いや、それはないな」
あのガキが馬鹿でも、この惨劇は自分の先走りが招いたものだとは理解できるはずだ。夜神月は、悲劇に心を痛めながら、涙を噛み殺し、使えるものを
回収して、先を急いだ。そう言いくるめることは十分に可能。
と、そこで。夜神月は気付いた。誰かが自分の行く手に居る、ということに。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(カズキ…カズキ…カズキカズキカズキ…キミは一体何処に居るんだ!?)
「カズキィッ!キミはここに居るのか!!」
少女、津村斗貴子は焦燥に苛まれていた。先程の放送。14人の犠牲者。呼ばれた名、防人衛。
あの、戦士長が殺された。人間離れした身体能力を持つ、あの戦士長が。折れることの無い正義を持つ、あの戦士長が。
斗貴子には、戦士長が負けるなどと、想像し難かった。
斗貴子には、その放送を聴いて、武藤カズキがとてつもなく深く傷つく、ということは想像するまでも無かった。
早く、早く会いたい。先程の、頭の無い死体がリフレインする。
もし、あれがカズキだったら…と思うと。まるで、身が引き裂かれるような想いを振り払うように、彼女は進む。
群馬県には居なかった。長野県では死体を見つけた。なら、ここ、福島では…?身が引き裂かれるような想いを振り払うように、彼女は進む。
そして。行く手に誰かが居る、ということに気付くと同時に。一つの声が響いた。
「唸れ、真空の斧」
――突風――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(さて、初手は上手くいったな)
青年、夜神月は駆ける。木々の合間を縫って。目の前の、突風に服をはためかせ、白い下着を覗かせている少女に向って。
だが、目の前の少女は微塵も動することも無く、燃えるような瞳でこちらを睨めつけると同時に、片手に下げていた散弾銃を
容赦なく発砲してきた。
だが、それも月の想定の範囲内。このような障害物の多い場。相手の射線上に立たないよう、立っても常に間に障害物を挟むように
していれば、簡単に被弾することは無いはず。
月は駆ける。駆ける。蛇行しながら。かつ、一直線に。目の前の少女に向って。炸裂音と共に、踊るように。
…まるで、誰かの心に滑り込むかのように。そして。
少女が動いた。まるで、爆発するかのような気合とともに。爆風のような瞬発力を用いて。
散弾銃を放ると、鞘に入った剣とともに、凄まじい勢いで疾駆する。その様、禍々しきこと、死神の如く。
(散弾銃では捉えられないと踏んで、肉弾戦か)
月は、それに応じるように、斧を構える。が、実力の差は歴然。身体能力ではなく、それは、ただ単に、踏んできた
場数の差。
月が次に言葉を発したのは、首筋に冷たい剣の鞘を押し当てられたとき。
…これも、月の想定の範囲内。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
月の計画。今回は、頼りがいのある人物だと思われるわけには行かない。何故なら、今、自分は
三人分の食糧を持っているから。傷を負っていないから。目の前の少女のほうが、自分よりも実力を持っているから。
他人の食糧を手に入れる手段は二つ。奪うか、与えられる。奪うには、相手を圧倒できる力か、確実に逃げ切る速さが必須。
どちらも自分には無い。そして、眼前の少女も、それはすでに察知しているはず。
ならば、与えられる。これも不可能。このような命を懸けた場で、他人に施すような馬鹿は考えにくい。
そして、自分が施しを受けるような、納得に足る理由も思いつけない。施しを受けたのに、施しを与えた当人が、自分と一緒に行動していないというのも
不自然に過ぎる。何か、自分と同行できない理由が出来た?その理由を即興で考えても、情報が足りない以上、どうしても、後々違和感が生じてくるのは
確実。ならば。
最初の計画通り、自分は化け物に仲間を殺された。情けなく、哀れな存在。そして力がないため、誰も護ることができないという無力感を噛み締めている男。
錯乱し、誰かを襲ってしまった、護るべき人間。このように振舞うのが最善。そして、相手に同行を頼むか、最悪でも、相手から何か武器を入手しておきたい。
(欲を言えば、そのショットガンが欲しいんだがな…)
流石にそれは望みすぎだろう。そう、自分に結論付け、月は言葉を発する。眼光鋭く、こちらを圧する少女に向けて。
「すみません…仲間を、殺されてしまい…気が動転していたんです」
「仲間を…殺された?」
「えぇ。黒い格好をした殺人鬼が襲ってきて。あっという間に…」
「それなら、何故キミは生きている?見たところ、たいした怪我も無いようだが…」
「それは…情けない話ですが、僕は隠れていたんです。最初から、最後まで、何も、何も、できずに…」
演技は一流。斗貴子はさして疑うことも無く、月の言葉を受け入れる。
この青年はダメだ…という言葉が浮かぶが、このような殺し合いの場に突然放り込まれれば、それも当然のことだろうと思い直す。
改めて、主催者達に対する怒りが込み上げる。この青年も、ただの一般人ではないか!平和な生活を、誰かの幸せを、このような形で
奪うこと。決して、許されることではない、悪魔の所業。斗貴子の闘志が、さらに燃え上がる。黒く、熱く。
「無作法なのは承知で、お願いします。貴方は、強い。どうか、僕に力を貸していただけませんか?」
月は斗貴子を見つめる。真摯な瞳で。一点の曇りも無い眼差しで。
「貴方に会えたのも、何かの運命だと思うんです。僕は、僕は…仮にも警察官を目指すものとして、このゲームを止めたい!!」
それは、迫真の演技。それを受けて、夜神月に対して抱いていた印象は
(この青年はダメだ…)
から、
(この青年は、正しい資質を秘めている…)
へと、180度転換した。これも、月の演技力の賜物か。その様子を鋭敏に嗅ぎ取り、月はその場に荷物を広げる。
「これが、今の僕の手の内、いや、僕と仲間の全てです」
その場に広げられたもの、それは三人分の食糧。共通の支給品。そして、真空の斧。アピールするのは、自分が相手を
無条件で信用しているということ。この少女は、直情径行型、ならば、このような方法が一番効果的なはず。
それが、月の計算。だが、斗貴子から帰ってきた返答は、月の想定の範囲外の言葉で。
「待て、キミのポケットに入っているものは一体なんだ?」
…子供用の下着。
(ク、忘れていた…)
刹那、月の心に動揺が奔る。斗貴子はそれに気付くことなく、無造作に月の上着のポケットをまさぐる。
まさぐった。出てきた。それは、子供用の下着。しかも女性用だ。どうみても、目の前の青年の所有物とは思えない。
蝶々仮面を被ったホムンクルスの姿が脳裏をよぎるが、目の前の青年からは、そのホムンクルスのような危うさは感じ取れない。
…感じ取れないからこそ、性質が悪いのかもしれないが。だが、一端、その想像を思考から外し、他の可能性を考える。
(彼は支給品を仲間の死体から集めてきたといった。だが、それは難しい。死体があるということは、殺害者が居るということ。
そして、殺害者は、往々にして略奪者でもある。食料品、支給品に手もつけずに去る略奪者が居るものか)
斗貴子の脳裏に浮かぶ情景は。誰も居ない森の中、動かない少女の亡骸から、そっと下着を抜き取る
痩身の青年、夜神月の姿。変質者に対して、ある程度の耐性は持っているつもりだった彼女の心にも、悪寒が走る。知らず、剣にも力が篭もる。
だが、彼は警察官を志ているという。
どうみても犯罪者です。本当にありがとうございました。
一瞬、脳裏をよぎった謎のフレーズを振り払い、斗貴子は月に対して抱いていた印象を訂正する。
(この青年はダメだ…)
から、
(この青年は、正しい資質を秘めている…)
に。そして、
(…コイツは、もうダメだ。)
へと。
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(参ったな…、あのガキ、つくづく疫病神だったんだな)
目の前の少女の雰囲気の変化を感じ取り、月は内心でそう独りごちる。忘れていた、あのガキが生きているということに
気を取られすぎて。先程までは、自分の思惑通りにことが進んでいたというのに。
まず、少女が独り、怯える風も見せずに歩いていたことで、相手の実力を察した。
カズキという名を読んでいた時点で、無差別な殺人者の可能性は低いと踏んだ。
そして、人探しをしている以上、何の情報もこちらから引き出さずに殺す確立は少ないと考察した。
一度、会話の切欠を作り出せば、懐柔は容易…そう考えていた。しかし。これは、明らかに自分の失策、だが、挽回できぬものではない。
「それは…僕の仲間のものです」
月が苦しげにもらした言葉に、斗貴子は我に帰る。が、何故仲間の下着をこの青年が後生大事に抱えているのか。
「今まで有ったことを、少し話してもいいでしょうか…」
月は語る。これまで有ったことを。一片の嘘を交えることも無く。決して全てを語ることは無く。
語り終える頃には、斗貴子から感じていた、先ほどまでの警戒心は幾分薄らいでいた。決して消えてはいなかったが。
…何故仲間の下着を後生大事に抱えているのか。
「可笑しいでしょう…でも、捨てられないんです。まるで、自分に対する戒めのような気がして。仲間のことを想うと、どうしても…」
仲間のことを思えば、処分したほうがいいのではないか…そう想いながらも斗貴子は先を促す。
世の中には色々な変態がいる、そう感慨にふけりながら。
(クソッ、これじゃ、もう簡単にこの下着を処分するわけにはいかなくなった!)
月は、内心、臍をかみながら。
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しばらくの休息。そして情報の交換。
月が得た情報は、二つ。目の前の少女には、探し人がいるということ。
目の前の少女は、名古屋城に仲間を集めようとしているということ。
そして、この会場には、ホムンクルスと呼ばれる、人食いの化け物が潜んでいる、ということ。
先日までの月なら、まるで信じられないような言葉。だが、今は違う。
(もし、Lがそのホムンクルスとやらと同行していれば、色々とやりやすいんだがな…)
戯れに、そんなことを考える。だが、実際、その可能性は低いだろう。ならば、人食いの化け物とやらがLを食い殺してくれることでも
祈っておくほうが、まだ可能性がある。まぁ、考えても詮無いことではあるが。
月の思惑。少女の思慕。全てを飲み込み、森は、ただ佇んでいる…
【福島県南西部/日中】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]健康
[装備]:ダイの剣@ダイの大冒険
:ショットガン
:リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし!
[道具]:荷物一式(食料・水、四人分)
:ワルサーP38
[思考]1:人を探す(カズキ・ブラボー・ダイの情報を持つ者を優先)
2:ゲームに乗った冷酷な者を倒す
3:午後六時までには名古屋城に戻る
【夜神 月(ライト)@DEATH NOTE】
[状態]健康
[装備]真空の斧@ダイの大冒険
[道具]荷物三式 (三食分を消費)
[思考]1:目の前の少女との交渉。名古屋城にいくかを決断する。
2:弥海砂の探索 。南下。
3:使えそうな人物との接触
4:竜崎(L)を始末し、ゲームから生き残る