【2次】漫画SS総合スレへようこそpart29【創作】
「序章――“神の蛇”」
異変は唐突に観測された。
マリアナ海溝の底の底にある海底国家ムー連邦、首都―――――――。
その郊外にある連邦首相私邸に、電波を通して緊迫した兵士長の声が響き渡った。
「緊急事態です!至急出動を!」
重い腰をあげる。しかし、その後の行動は迅速だった。家族との語らいの時間。
それは彼にとっては多忙の間を縫っての久しぶりの休暇のはずだった。しかし、
国家を束ねる連邦首相という重大な任務についている限り、それは休暇であって
休暇ではない。ごくありふれた報告を受け、連邦の機密軍事施設へと出頭する。
ムー連邦に関わる膨大な軍事情報を一括管理しているコンピュータールーム。
ムー連邦の生命線へと続く、丹念に磨き上げられた通路に緊迫した足音が響く。
首相は傍らにいる若き兵士長に“緊急事態”において最も重要なことを尋ねた。
「被害は・・・?」
「現状、水位の上昇等もなく、周囲に被害はないようですが・・・」
「水位・・・?この広大な海域の水位に影響を与えるほどのものが・・・?」
目的の場所へと辿りつく。長官は目を見開いてうめいた。
「こ、これは・・・!?」
ルームの扉が開き、モニターを眺め―――――――長官はすぐに悟った。
事態が決して“ありふれたもの”などではないことを。
コンピュータールーム内は、いつにもまして緊迫感に満ちている。
「固定監視カメラの映像から、探査艇手動の映像に切りかえます。」
「光量ゼロ!」「温度極めて低温!」「深度3000メートルより停滞!」
「映像から観測される推定質量はこの一帯だけでも大変なものになります。」
「しかし、重量は計測できません!・・・重量・・・・ゼロ・・・!」
黙して事態の把握に努めていた首相が、思わず言葉をさしはさむ。
「重量ゼロだと!?これだけのものが幻というわけもあるまい。」
モニターに映し出された“影”―――――――
それは広大な海底をくまなく覆い尽くすかのごとくうねり、広がっている。
「方位Kの3869!・・・この“影”が取り巻く中心に位置するのは・・・・・
ま、間違いありません・・・・・!」
首相は唇を噛み締めながら、うめく。
「ぬう・・・“鬼岩城”のあった場所か・・・!」
兵士長が言葉をはさむ。
「例の“ネオ・アトランティス”との関連は・・・?」
「わからん。だが・・・」
「突然出現した海底を覆いつくす重量を持たぬ影・・・」
「しかし、これはまるで・・・・」
モニターに“影”が既に海底全土に出現していた場合の推測図が浮かび上がる。
その影はまるで巨大な――――――
「“蛇”・・・! ・・・伝説の・・・!」
“伝説”。兵士長の言葉を受けて首相はそっと目をつむり、おもむろに語り出す。
「・・・ムーの歴史書の最後に記された未来を予言した一節―――――」
究極の破壊の神の幼生あらわる 幼生孵化せしそのとき
この世の全ては彼方へと消え去るであろう 幼生の御名それは―――――
「 全世界質量―――――――“神の蛇”・・・! 」
海底国家ムー連邦の若き戦士、“兵士長エル”は、モニターに写る巨大な影を
睨みながら、胸に抱いた大きな不安を隠せぬままに呟いた。
「・・・いったい・・・何が起ころうとしているんだ・・・・・!?」
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「ぅあっちょお〜!」
青い空。白い雲。冬が近いわりには随分と穏やかな陽気のいつもの空き地に
ジャイアンの、ジャイアンらしからぬ甲高い奇声が轟いた。
「のび太!罪もない市民をいじめるなんてこの俺様が許さねえぞ!」
「そうだそうだ!」
ニタリと邪悪に笑いながらジャイアンが理不尽にいきりたつ。傍らの虎の威を
借るスネオが無責任に煽る。さながらタチの悪いチンピラ2人組のようである。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってよ。僕なんにも悪いことしてないよ。
いじめてるのはそっちじゃないか!」
「うるさい!汚い悪党はいつだってそう言うのさ。だが、ドラゴンの正義の
怒りはおさまらない!覚悟しやがれ!」
ジャイアンはとても正義の味方とは思えぬ凶悪な笑みを浮かべてのび太に
迫った。なにやらスネオの家で見たばかりのカンフー映画の真似事らしい。
アクションスターであるドラゴン・リーの勇ましいアクションに影響を受け、
さっそくのび太を相手に実戦訓練というわけである。
シャキシャキと無駄に素早いトリッキーな動きで、
肘や裏拳をビシバシのび太の体に叩き込み、最後はいつもの右ストレート。
まともにくらったのび太はあえなくその場に舌を出して失神してしまった。
“正義のカンフーマスター”ジャイアンは満足して意気揚々と引き上げていく。
気絶したのび太をほったらかしたまま―――――――
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―――――意識が暗い闇の底へと沈んでいく。
(あれ・・・?僕、どうしたんだろう・・・。そうか。ジャイアンに・・・
殴られて・・・・・)
目覚める。闇の中を。のび太はおぼろな意識のまま、闇の先に奇妙な光景を
見た。何かの儀式だろうか。黄色と赤を基調とした派手な細工が施された謎の
祭壇が設置されている。その不思議な祭壇の中央に艶やかな法衣を身に纏った
一人の少女が武道の演武にも似た鋭い舞を舞っている。
少女はまだ幼く、年のころはのび太とそうはかわらないだろう。しかし、その強い
意志を秘めたまなざしと、凛とひきしまった口元、整った鼻筋は大人びて見えた。
少女の舞は時がたつほどに、流れるように迅く、美しく、研ぎ澄まされていく。
(・・・?あの動き・・・カンフー・・・?)
鋭い舞の中繰り出される大仰なアクションは確かにド派手なカンフー映画を
連想させた。しかし、それよりもなによりも印象深いのはその整った顔立ち。
(誰だろう?気の強そうな大きな瞳。引き締まった口元・・・・でも・・・
・・・かわいいなあ・・・・・・)
そんなことを思いながら、のび太の意識は再び暗い闇の底へと落ちていった。
―――つまりこの場合、ようやく失神から目覚めたのである。
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