【2次】漫画SS総合スレへようこそpart25【創作】

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530おとめごころ
>>502
時は夕刻、場所は大阪の港近くの山中。ここに、自然の洞窟を利用した志々雄一派
の密輸品倉庫がある。先ごろ、京都へ向けて荷を送ったばかりなので、今は殆ど
空っぽだ。が、もちろん警備兵は常駐している。
敵が、ここと港のどちらを襲うか判らないので、とりあえず警備兵と打ち合わせを
する為、蝙也と鎌足はやってきた。麓で馬車を帰らせ、夕闇の山道を上っていく。
鳥や獣の声以外は何も聞こえない中を二人は黙々と歩き続けて、やがて洞窟(に
見える倉庫)に到着した。
そして見つけた。無残に切り刻まれた、警備兵たちの肉塊を。
そして感じた。無数に蠢いている人の気配、重く渦巻く殺気を。
「まあ、予想はしていたが。どうやら結構な数のようだな」
蝙也が、漆黒の外套の内側で、手甲剣の装着具合を確かめる。
「上等。手柄の立てがいがあるってものよ」
鎌足も、肩に担いでいた大鎌を下ろして、両手で握って構える。
それから二人は、左右に分かれて歩き出した。二人とも、戦法が広範囲攻撃型
なので、近いと互いの攻撃の巻き添えになってしまうからだ。
「武運祈るぞ」
「それはいいから、恋愛運祈って。お風呂でいろいろ考えて、大体の計画は纏まった
のよ。女の子のカラダでの、志々雄様へのご奉仕の仕方」
「……出陣直前に、そういうことを真顔で言わんで欲しいのだが」
蝙也の頭の中に、浮かんできた。浴場で見た鎌足女の子Verの、予想以上の
綺麗さというか可憐さというか……艶っぽさが、その。もやもやと。
思いっきり首を振って、雑念を払うべく努力しつつ、蝙也はスタスタ歩いていく。
一方、そんな彼の苦闘など知らず、鎌足は張り切って大鎌をぶんっ! と一旋回させる。
「さ〜、かかってきなさいっ!」
その声に応えるように、周囲の殺気が実体化した。隠れて隙を窺っていた黒ずくめの
暗殺者たちが、姿を現したのだ。その数、約二十。
「志々雄とやらの組織は、余程人材不足らしいな。お前のような小娘を戦わせるとは」
「ふっ。小娘、ですって? やあねぇ勘違いしちゃって。私は……っと、」
531おとめごころ:2005/05/12(木) 21:23:07 ID:xTe5HeQ50
着物の裾を捲り上げようとした鎌足が、手を止めた。そして鎌を構えなおす。
「やめとこっと。だって今の私は、ほんとの小娘になれるしね〜ふふふのふ」
「? ほんとに小娘……に、なれる? 何を言ってる?」
「い〜からい〜から。あんたたちはサクサクっ、と私に刻まれちゃいなさい♪」
鎌足は極上の笑みを見せて、暗殺者たちに殺気を叩き返した。
「京都に帰ったら、明治鎌客浪漫譚が始まるのよ。任務大成功で、志々雄様に
褒められるところから、ね。その為にも、派手にキメさせて貰うわよっ!」
「?? 何が何だか解らんが、とりあえずお前は死ねっ!」
暗殺者達が剣や手斧を構えて、あるいは手裏剣や吹き矢で、鎌足に一斉攻撃を仕掛けた。
それら全てに向けて、愛に燃える死神の大鎌が、光の軌跡を描いていく……

外套を蝙蝠の羽根のように広げて、火薬を爆発させたその爆風を利用して舞い上がる。
そうやって敵の頭上の死角を突くのが、蝙也の戦闘術「飛空発破」。並の武術家・
暗殺者風情では、これを破ることなどできない。
今回も、例外ではなかった。蝙也の手甲剣に刻まれて、あるいは直接爆撃を受けて、
黒ずくめの暗殺者たち十数人はあっと言う間に壊滅と相成った。
「……つまらんな」
手甲剣の血糊を拭いつつ、蝙也が呟く。するとその足下で、瀕死の暗殺者が言った。
「い、いい気になるなよ。我らの真の力は、こんなものではない」
「ほほう。それは心強いことだな。では真の力、見せてみろ」
「ふん。言われずとも……いいか、我らはいわば訓練生のようなもの。本来の、
主力部隊の十五人は、来るべき大会に備えて、本部で特訓中なのだ。ここには
来ていない。来るまでもない、ということでな」
「そうやって俺たちを侮った結果が、これか」
「ああそうだ。だがな、」
血塗れの顔で、暗殺者がニヤリと笑った。
「我らの頭が、我らの成果を直に確かめる為、遅れてここに来られることになっている。
もう間もなく、到着される頃だ……」
と言って暗殺者が眼を向けたのは、今鎌足が戦っている方。発破の爆風に巻き込まぬ
ようにと蝙也がかなり距離を取ったので、遠くてよく見えないが。
532おとめごころ:2005/05/12(木) 21:23:44 ID:xTe5HeQ50
「お前たちの頭、と言われてもな。期待はできん」
「そう言うな。期待していいぞ……誇り高き我ら、…………の頭…………様の強さ……」
「っっ!」
蝙也が、硬直した。慌てて暗殺者の襟首を掴んで引っ張り起こす。
「おい! 今、何と言った!? お前たちが何だと? 頭の名、もう一度言え!」
と叫んで揺さぶってみたが、返事はなかった。もう絶命したようだ。
蝙也はその屍を捨て、慌てて走り出した。
『まさかこいつらが、あの……くそっ、待ってろよ鎌足! 俺が行くまで無茶するな!』

バラバラ死体の中に、一人佇む鎌足。その手の大鎌からは血が滴り、鎌足本人も僅か
だが返り血を浴びている。鎌足は、その血を少し指で掬い取ってみて、
「この程度の水じゃ、反応しないみたいね。それとも生温かいから、お湯扱いなのかな」
と呟いた。呟きながら、くるりと振り向く。
「で、あんたは何なの?」
そこに、いつからいたのか知らないが、一人の男が立っていた。
暗殺者たちとは対照的な、白一色の装束を身に纏い、胸には蛇と髑髏の不気味な紋章。
長い紅い髪は燃え上がる炎のようで、額に煌く黄金の鉢金を見事に映えさせている。
だが何より印象的なのは、気品と殺気の同居した、刃のような鋭い眼。その眼で男は、
鎌足によって築かれたバラバラ死体の絨毯を一瞥して、言った。
「……礼を言っておこうか。将来足手まといになるであろう、素質なき者どもを
処理してくれたことに対してな」
低い重い男の声には、言葉通り怒気はない。眼と同様、殺気は満ち溢れているが。
「ふうん? その言葉から察するに、あんたはこの役立たずちゃんたちの親玉?」
「そうだ。今言った通り、こいつらの仇を討とうなどという気は毛頭ない。だが、
我が結社の名誉を守る為、何より受けた依頼を果たす為、お前には死んで貰う」
男が、パチンと指を鳴らした。するとその背後の茂みの中から、男の身長と
同じぐらいの直径の黒い玉、というか何かの塊が、ゆっくりと転がり出てきた。
鎌足は驚きつつ警戒して、数歩後ずさる。
533おとめごころ:2005/05/12(木) 21:25:04 ID:xTe5HeQ50
「な、何なのそれ」
「お前を地獄へと誘う使者だ。……行けいっ!」
男の号令に応え、玉はいきなり加速して転がり、跳ねて、鎌足に跳びかかってきた。
何だか判らないがとりあえず鎌足は鎌で迎撃する。と、鎌が当たる寸前、塊はまるで
爆発したかのように四散した。
だがそれは、爆発したのではなく、塊の構成物が自らの意志で散開したのだ。そして
飛び散った水しぶきのように、鎌足の周囲に落ち、鎌足を取り囲む。
「っっ!」
鎌足は息を飲み、硬直した。今鎌足を取り囲んでいるもの、先の塊の構成物とは……
総勢数百に及ぶ、毒蛇の群れだったのだ。
男が、その包囲網の外から、言った。
「名乗りがまだであったな。我は地上最強の暗殺結社である宝竜黒連珠の主頭、
ケ 呼傑(とう ふうけつ)。大鎌を使う娘よ、我が手にかかること光栄に思うがいい」
「……私は本条鎌足。あんたの言う通り、大鎌を使う、『娘』なんだけど……」
鎌足は、額に滲む汗を無視して、取り囲む蛇たちを睨み返しながら答えた。
「そう呼ばれたからには、負けられないわね。何があっても、私はここで死ぬわけには
いかない。勝って帰って、志々雄様に『娘』の私を見て……感じて貰うんだから」
鎌を握る、その手も汗ばんできた。はたしてこの鎌で、この無数の蛇たちに対抗できるか?
そんな鎌足を見て、呼傑も静かに構えを取った。それに応じるように、鎌足を取り囲む
蛇たちが鎌首をもたげ、威嚇の声を上げ始める。
「ゆくぞ!」
呼傑が、両腕を振り上げた。それを合図に蛇たちが、前後左右のみならず跳躍して
上空からも、とにかく全方位から一斉に、鎌足めかげて牙を剥き襲いかかる。
鎌足は、瞬時に蛇たちのその動きを見極め、大鎌とそれに連なる鎖分銅とを、
最大半径最高速度で旋回させた。
「本条流大鎖鎌術、乱弁天っ!」