【2次】漫画SS総合スレへようこそpart22【創作】

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523殺人鬼とオーガの鬼事
ここはアメリカのとある場所。人目を忍び、いかにもその筋、といった男たち十数人が密談を交わしていた。
『ほらよ。約束のモンだ』
『どれどれ・・・』
一方の男たちが差し出した荷物を、もう一方の男たちが確認する。―――それは、麻薬であった。
そう、彼らは麻薬の取引をしているマフィアたちであった。いかにも、なシチュエーションである。
と―――そこに。
「よお、あんたら―――ちょいと教えてほしいことがあるんだが」
この場にはそぐわない、陽気な声が聞こえてきた。マフィアたちが振り向くと、そこにいたのは奇妙な少年だった。
身長は150cm以下とかなり低い。派手な色に染めた長髪を髪の後ろで縛っており、耳にはストラップなんかを
ジャラジャラつけている。着ている物はハーフパンツに黒いタクティカルベスト、手にはハーフィフィンガーグローブ、
足には無骨な安全靴。
それだけなら特別変わったファッションではないが―――彼の顔面の右側には、禍々しい刺青が彫ってあった。
それが少年の端整な顔立ちをやや台無しにしている。
マフィアたちはこの突然の闖入者への対処をたちどころに決定した―――目撃者は、消せ。彼らは服の内側に手を入れ、
そこにあった黒い鉄塊―――拳銃に手をかけた。
しかし当の少年はそんな彼らの様子を気にかける様子もなく、能天気ともいえる声で喋り続ける。
「実は道に迷っちまってな―――ちょいと教えてほしいんだが。つっても別にあんたらに人生説いてもらいたい、って
わけじゃあないぜ」
かはは、とつまらない冗談をかます少年に、マフィアの一人が発砲した。それは確実に少年の命を奪うはず―――だったが。
「おいおい、危ねーもん撃つんじゃねーよ。死んだらどうすんだよ。あーあーあー、この早漏野郎が」
少年はその弾丸をあっさり回避し―――その直後。発砲した男が、突如悲鳴を上げた。
男の指が、一本ずつポタポタと地面に落ちた。それだけではない。彼の腕も、脚も、腹も、内蔵も、首も―――
全てがバラバラと、地面に落ちた。
―――その光景を、マフィアたちは驚愕して見ることしかできなかった。恐る恐る、少年を振り返る。
少年はにやにや笑っているだけだ。何もした様子はない―――なのに。
『て、てめえ―――なんなんだ、これは、てめえがやったのか、ああ!?』
『おい!何とか言え!』
少年はそんな男たちに対し―――
「わりい。俺むつかしい英語は分かんねーんだわ。ハローとかセンキューなら分かんだけどな」
そして少年は突如マフィアたちに向かって走り出す。その手にはいつの間にか、短いナイフが握られていた。
一瞬、だった。一瞬でマフィアたちは全員喉を切り裂かれ、その人生の幕を閉じた。
524殺人鬼とオーガの鬼事:05/01/28 23:09:14 ID:P7w+V7+v0
「・・・あっちゃあ、悪りい。殺しちまった。まあそっちも殺す気マンマンだったってことで、
おあいこってことにしようや」
少年は相変わらずにやにや笑いながら、すでに死体となったマフィアたちに声をかける。
―――少年の名は零崎人識(ぜろざき ひとしき)。
その目はまるでこの世の全ての汚濁を混ぜて煮詰めたように、深く暗い。
今この場で十数人の命をゴミのように蹴散らしたことなど、何とも思っていないかのよう―――いや、
本当に何とも思っていないのだ。
零崎人識は殺人鬼であり、その存在意義に従って人を殺す。彼にとって、殺人とは呼吸と同義だ。
彼はかつてある人物にこう言った。
<呼吸をするように人を殺すというよりは、人を殺さないと息苦しい>―――と。
趣味ではなく、義務でもない。殺す理由もない。殺して心が落ち着くだの、興奮するだの、そんな感覚もない。
ただ―――何も考えなくとも生きているうちは心臓が動いているように、彼は人を殺している。
彼だけではなく―――彼の二十数人からなる<家族>もそうだった。
―――彼の属している家族の名は<零崎一賊>。家族以外のあらゆる他人を殺す、殺人を生き様とする者たち。
<殺し名七名>と呼ばれる七つの存在の中でも、<匂宮><闇口>に次ぐ第三位の序列と目される殺人鬼集団。
異端を極めた殺人能力と異端を極めた仲間意識を誇る、<悪>とすらも表現できない、<最悪>の一賊。
家族を守るためなら世界すらも敵に回す、この世でもっとも醜悪な群体にして、この世で最も最悪の軍隊。
しかしながら彼にとってそんなことはどうでもいいことではあった。
「あーあ・・・どうすっかなあ・・・どっかの流浪人みたくいかないもんだ。いきなり不殺の約束破っちまったよ。
あの赤い女に知れたら、今度こそ殺されっかなあ・・・」
にやにや笑いつつも、困った様子でその場で十秒ほど考えていたが―――
「ま、そん時はそん時考えよう」
そう独り言を呟きつつ、彼はその場を後にした。
525殺人鬼とオーガの鬼事:05/01/28 23:10:40 ID:P7w+V7+v0
数日後―――アリゾナの刑務所。その一角に、刑務所とは思えない豪華な部屋があった。
そこにいるのはこの部屋の主オリバ・ビスケット―――そして。
「勇次郎・・・この事件を、キミはどう思う?」
「ふん・・・マフィアが殺されたなんざ、どこにでも転がってる事件だろうが。いつも通りてめえがさっさと
犯人をブッ殺して終いにしちまえよ」
人呼んで<オーガ>・・・範馬勇次郎であった。つまらなそうな勇次郎に対し、オリバはニイっと笑う。
「マフィアがやられた、ってだけならどうこうってことはナイ。ただ、今の世の中、調べようと思って調べられない
事ってのハ、そうそうないんだゼ?」
「はっ。何が言いてえんだ?てめえ」
「ゼロザキ」
その言葉に、勇次郎の顔色が変わる。
「零崎―――殺人鬼集団の、零崎一賊か!」
「そう、これをヤったのは、その一人のようダ・・・どうダ?タイクツしてると思って、こんな話を持ってきた
ワケだガ・・・」
「そいつの居場所は分かってるのか?」
話の腰を折られて、オリバはふうっとため息を漏らした。
「セッカチだな、勇次郎・・・。まあ、見かけが相当派手な奴らしいカラ、目撃情報にゃあ事欠かない。大体の
居場所なら・・・」
「案内しろ。行くぞ」
そう言って勇次郎はさっさと歩いていってしまう。オリバはそんな我儘な友人に肩をすくめつつ、楽しくなってきた、
とでも言いたげに笑った。
「殺人鬼とオーガ、カ・・・。こりゃあとんでもねエカードだゼ」
地上最強のオーガと地上最悪の殺人鬼。二人の怪物の激突は、近い。