【漫画】創作ストーリースレへようこそpart14【SS】

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686人魚姫
機械仕掛けの人魚姫 後編 第六話 >>642

背中から胸への貫通痕の痛みが、わたしの意識を殺ぎとろうと暴れだす。
だがわたしはその痛みに、むしろ愛着すら覚えた。
わたしが僅かに人である、数少ない証だからだ。こころの痛み、肉体の痛み。
もし完全なる機械ならば、この痛みは感じないだろう。そう思ったからだ。

死ぬことは怖くは無い。むしろ一種の救いだと思っている。
だが、決着は付けなくてはならない。結末は見ねばならない。
わたしが果たして、人間に受け入れられるべき存在か。
この奇妙な運命は、どこへ流れ着いていくのか。
そして人でも機械でもないこのわたしは、いったいなんなのか。

そんな事を考えていると、痛みで霞んだ頭が少しクリアになってきた。
冷静に考えるとかなりヤバい。
あの男が言っていた通り、死ぬほどのケガでは無いが、戦えるほどは軽くない。
いや、動く事すらままならぬ状況だ。最悪、といっても良い。
わたしは鉛と化した体を引きずり、力を振り絞って空を舞った。
ここからならそう遠くない。なんとか辿り着けるだろう。

ドクターゲロ以外で、わたしを治せる唯一の人間が住む場所へ。
687人魚姫:04/07/03 00:50 ID:yMfKMLiq
世界最大の西の都へと、わたしは何とか辿り着いた。
着地をした後、背中を曲げてぜいぜいと息を吐く。我ながらみっともない姿だ。
ギリギリの状態。だが、街の中心地の目的地へ行ける体力は残してある。
目的地まで飛んで行こうかとも思ったが、騒ぎになるのを避けたのだ。
そしてわたしは目的地である、世界一の巨大カンパニー目指し歩き始めた。

十数分後、何とかそこへ辿り着く。わたしは着くなり不審に思った。
以前一度だけ来た時には、中心地の割には金持ちばかりの場所らしく、
閑静な場所だった。この世の多くの貧乏人が寄れる場所ではなかったからだ。
だが、今は多くの人間に囲まれている。どうやら記者連中らしい。

その記者の一人が、わたしにマイクを差し出してこう言った。
 「これは美しいお嬢さん、あなたはこのカプセルコーポレーションと
  そのようなご関係ですか?」
不遠慮に質問する記者の態度に、一瞬殺意を覚える。吐き捨てるように言った。
 「社長の愛人だよ、わかったらさっさとどけ」
おお、と記者たちから喚声が上がり、不躾なフラッシュが焚かれる。キレた。

わたしは右手の人差し指にエネルギーを小さく集め、次々とブタたちの持つ
カメラ目掛け放っていった。あっという間に総てのカメラがガラクタになった。
突然の事態に、慌てふためく記者たち。何が起こったか理解出来ないらしい。わたしは溜飲が下げ、その場所から立ち去ろうと正門を潜った。
正門はわたしと確認すると、無言で開いた。戸を潜ろうとするわたし。
そのわたしの背中に、我に返った記者が質問を浴びせ掛ける。
 「待って下さい、関係者でしょう? カプセルコーポレーション幹部が
  関与していると言われているワイロ事件に、何かコメントを」
688人魚姫:04/07/03 00:51 ID:yMfKMLiq
ワイロ事件? その言葉にわたしは記憶を手繰り寄せる。 …そうか、あれか。

 政治家Sのワイロ疑惑高まる。カプセルコーポレーションも関与か?

以前見た新聞に載っていた記事だ。そうか、それでこの大騒ぎか。
ご苦労な事だ。ワイロのひとつふたつで騒げる平和ボケした頭がうらやましい。
後ろの正門がオートで閉まった。邸内に入る。庭先で、知った顔に逢った。

 「何しにきやがった人形がッ。殺されたいかッ」
出逢った相手は、べジータ。戦闘民族・サイヤ人の王子、とやららしい。
わたしとは一度、一年前に戦り合っている。その時はわたしが勝った。
だが、その後こいつは信じられないほどパワーを上げた。もう勝てないだろう。
正直、絶対に会いたく無い相手だった。
皮肉なものだ。会いたい者には逢えず、会いたく無い者には容易く出逢う。

 「あんたの奥さんに用事が会って来たんだ。見逃してくれ」
胸の傷を抑えながら言う。万全でも適わない相手だ。やり過ごすしかない。
 「フン、なんだその傷は。貴様ほどの怪物が、やられたのか」
べジータの興味は、わたしから傷をつけた相手に移ったらしい。ラッキーだ。
考えてみれば当然だろう。こいつの戦闘能力は、わたしより遥かに高い。
わたしよりも、わたしを傷付けた相手に興味が沸くのは当然だ。
 「教えろよ機械人形。誰にやられたか。そいつはどこにいるんだ?」
689人魚姫:04/07/03 00:51 ID:yMfKMLiq
その言葉に、わたしは迷った。こいつがわたしの味方になるのはありえないが、
わたしがセルジュニアの生き残りの事を話せば、喜んで倒しに行くだろう。
教えた方が、わたしに有利に働く。だが、わたしはそれを拒んだ。
決着は自分の手で付けるべきと思うからだ。例えそれがどんな結末になろうと。
 「転んだんだよ。悪いが、もうふらふらだ。奥さんに逢わせてくれ」

わたしの言葉に虚仮にされたと思ったのか、ベジータは激してしまった。
 「ふざけるなッ。何なら、力ずくで吐かせてやってもいいんだぞッ!!」
ベジータの怒号が響き、その後に静寂が訪れる。火花散るわたしとベジータ。
だがベジータの大声を聞き、家の中から人が現れた。わたしはほっとする。
 「何を大声出してんのベジータ。 …あれ、あんた」

この家に来た目的の人物、カプセルコーポレーションの娘・ブルマだった。
ベジータはチッと舌打ちをする。サイヤ人の王子でも、苦手な女はいるらしい。
 「あんた、18号だったわね。何それ、酷いケガしてるじゃない」
そういうとわたしはブルマに案内され、この会社のラボへと連れられていった。

ラボ(研究室)の椅子に腰掛ける。 …疲れた。疲労困憊だ。激しくだるい。
わたしには永久エネルギー装置がある。論理的に疲れる事など無い。
だが今は、肉体には甚大なダメージ、こころには迷いがある。ブルマは言った。
 「久しぶりね。 …その様子では、まだ見付かってないみたいね」
690人魚姫:04/07/03 00:52 ID:yMfKMLiq
わたしは以前、一度この会社を訪れた事がある。
その時のわたしは、例えるなら生まれて始めてのデート前の少女、だろうか。
あの人に逢いに行く、と決めるまでの数週間。わたしは迷いに迷った。
あの人もきっとわたしを想ってくれている、という甘やかな希望と興奮。
いや、人造人間と人間が、所詮結ばれる訳は無い、という不安と絶望。

その想いが葛藤し、わたしの中で爆ぜた時、わたしは逢いに行く事を決意した。
だが、それからがわたしの絶望の始まりだった。
亀ハウス。カプセルコーポレーション。孫 悟空の家。思いつく総てを訪ねた。
だがどこへ行っても、あの人はいなかった。
避けられている? …とも思った。だが、聞けば行方知れずになったらしい。

わたしの彷徨い(さすらい)が始まった。彷徨えば彷徨うほど、想いは募った。
そして、自分とあの人は決して結ばれないだろうとも、分かってしまった。
あのひとはにんげんで、わたしは、じんぞうにんげん、だから。

 「クリリンくん、どうしちゃったのかしら。もう一年にもなるのに」
部屋のホワイトボードに背中をあずけ、ブルマが言った。わたしは言った。
 「あの外の記者、あれは何だ? 本当に、汚職事件に絡んだのか?」
意地の悪い質問だが、わたしはその質問でわざとブルマの問いを外した。
ブルマはバツが悪そうに顔をしかめて言った。
 「ああ、あのワイロ事件ね。 …あれね、ヤムチャのせいなのよ」
691人魚姫:04/07/03 01:05 ID:yMfKMLiq
ヤムチャ? 誰だそれ? そんなのいたっけ?

わたしはそう問おうとしたが、まずは自分の記憶の引き出しを探る事にした。
そう言えば、孫 悟空の仲間に、極端に戦闘力の劣る非・戦闘員がいた。
確かあいつがそうだ。どうでもいい奴過ぎて、一瞬分からなかった。

無理も無い。エネルギー吸収タイプの19号や20号なら手頃なエサだが、
わたしにとっては中途半端な戦力、というイメージしか無く、忘れてしまった。
その男の顔もよく思い出せない。わたしにとって、空気や背景と同じだからだ。
ブルマは、そのカプセルコーポレーションワイロ事件の事を説明してくれた。
どうやら、こういう事らしい。

ブルマをベジータに寝取られたヤムチャは、今に見てろと2人に見返しを誓う。
だが、戦闘ではたとえ1000人いてもベジータには適わない。
そこで仕事で見返してやると、ブルマの父に頼みカプセルコーポレーションに
入社したが、コピー1枚すらまともに取れない始末。ヤムチャは焦った。
そこで会社から金を持ち出し、一発逆転を狙って政治家に近付いたが、
それがマスコミにバレて会社ごと叩かれ、西の都を逃げ出して消息不明らしい。

 「犬だって3日エサやれば恩を忘れないのに、逃げ出すとは。クズだな」
わたしはブルマの説明に素直な感想を吐いた。ブルマはやれやれと首を振る。
 「ま、お腹が空いたら帰ってくるでしょ。あの人何も出来ないし」
わたしは笑い出した。こんなに笑うのは久し振りだ。やがてブルマが言った。
 「さ、お話はここまで。はやく、その傷を治さないと」
692人魚姫:04/07/03 01:07 ID:yMfKMLiq
わたしは上着をたくし上げ、上半身はだかになってブルマに傷を見せる。
 「うらやましいわあ。こんな綺麗な肌、見た事無い。クリリンくん幸せね」
その言葉にわたしの頬は赤くなる。だがブルマの表情は傷を見て厳しくなった。
 「これ、すぐには治らないわよ。一週間はじっくり治さないと」
 「駄目だ。今日中に、いや3時間で治してくれ」

わたしの言葉に、ブルマはため息をつく。首を振りながら言った。
 「無理よ。そんな小さな傷じゃない。この故障を直すには・・あっ」
慌てて口を塞ぐブルマ。 …故障、か。その通りだ。何も気にする事は無い。
わたしは、人形なのだから。わたしはブルマのその言葉に触れずに言った。
 「応急処置でいい。動きさえすれば。頼む、3時間でやってくれ」 

しばらく、わたしの目を覗き込むように見るブルマ。搾り出すように言った。
 「無駄みたいね、何を言っても。分かったわ。でも、戦闘は避ける事。
  それが応急処置をする条件よ。守れる?」
 「ああ、守るよ。わたしだって死にたくはない」
みえみえの嘘に、ブルマはうなずいてくれた。おそらく見抜いていただろうが。

麻酔を打たれ、まぶたが重くなる。朧げになるわたしの視界にブルマが映る。
だが、もう一人いる。どうやらシルエットからして、ベジータらしい。
わたしはブルマの「そんなの駄目よ、ベジータ」の声を聞き、眠りについた。

目が覚めたら訪れる最後の決戦に、備えるために。