【バキ】漫画SSスレへようこそpart11【スレ】
納得している訳が無い。
伊達はこの世界へ戻る為に、必死で体術を身につけ、数多の死闘をくぐってきたのだ。
しかし、世界に戻ると今度はその技と経験の為、自分は社会から追い出されている。
自分の技術が社会では無用の長物なのだという事実。伊達もそれは分かっていた。
しかしそれを認めることは、己のこれまでの人生を否定したも同然である。
そうしたやりきれない思いが、常に伊達の頭にあった。
そこまで考えて、ふと気づいた。
もしかすると、雷電も過去に同じ経験があったのではないか?
伊達は雷電に疑問をぶつけた。
「どうして俺にそこまで固執する?」
「さあ、拙者にも分からぬ。だが、仮にそれを知ったところで、お主の判断に変わりはあるまい」
雷電は明確な回答を避け、質問をはぐらかした。伊達もそれ以上は突っ込まない。
「……さて、伊達臣人よ」
雷電は再び名前を呼んだ。口調が元に戻っている。
「お主の進むべき道は2つに1つ。
1つ、このままぬるま湯の現代社会の片隅でひっそりと生きるのか、
1つ、拙者と共に、満ち足りた熱き『生』の道を生きるのか、
望む方を選ばれよ。」
「いたたまれぬのでござろう。お主には、この現代のぬるま湯の如き『生』が」
いつの間にか、雷電は伊達の傍らに腰を落としていた。
「そして、少しでも覇気ある『生』を求め、あの<男塾>の門をくぐったのであろう?」
「何故それを知っている!?」
驚く伊達。雷電は伊達の制服を指差した。
「その学ラン、ボタン。ひと目で男塾と分かり申す。
しかし男塾でも、お主を納得させる事はできなかったようだな」
「ああ、あそこも結局は同じぬるま湯だった」
伊達は嘆息まじりに呟く。
雷電もそれに同意するように頷いた。
「男塾とて所詮、学校の一形態に過ぎぬ。
そして学校である以上、世間の常識からは逃れられぬ。
これまで修羅の道を歩んでいたお主にとっては、さぞ退屈であったろう」
その通りだった。
生死を賭けた闘いの人生が当然であった伊達から見れば、地獄と言われる男塾の
シゴキさえも、児戯のように映っていた。おそらく、あの新人教官がいなかったとしても、
伊達はそのうち男塾を辞めていたであろう。
「さて、そこで伊達臣人とやら…」
雷電が、初めて伊達の名を呼んだ。
「もし拙者が、お主でも退屈せぬ世界を知っているとしたら、どうする?」
しばらく路地を歩いていると、突然、横から声をかけられた。
「よう、あんちゃん」
伊達が振り向くと、見知らぬ男がこっちを向いていた。
『喧嘩上等!』の白刺繍の入った学ラン姿。典型的なヤンキーの格好だ。
男は左手を伊達に差し出してきた。
「金、貸してくれんか?」
(‥‥‥‥)
身も蓋も無い台詞に、伊達は相手する気も起きず、そのまま無視して通りすぎようとする。
「ちょっと、無視するなや」リーゼントをかけた別の男が、伊達の行く手を遮る。
「お兄さぁん、ちょっと財布の中身を見せてくださぁい」
また別の茶髪の男が、ジャックナイフをちらつかせながら近寄ってくる。
見れば伊達の周囲を、数人のヤンキーが取り囲んでいる状態となっていた。
(まあ、ストレス解消にはなるか)
伊達は男達の顔を見ながら、そんな事を思っていた。
無性に暴れたい気分だった。ちょうどいい。
――1分後。
通りには、うめき声をあげる不良少年たちの山ができあがっていた。
ある者は骨折、ある者は血泡を吹きながら。
一方、伊達は近くの自販機で購入した缶コーヒーを啜っている。
多対一とはいえ、伊達の敵ではなかった。
「恨むなよ。俺に喧嘩を売った貴様らが悪いんだ。コーヒー代は御馳になるぜ」
空になったコーヒー缶を投げ捨て、伊達はその場を去ろうとする。
「お待ちなされい」
伊達が声に反応するより速く、雷電の両腕が伊達の腰に巻きつく。その姿勢で雷電は
腰を少し落とし、そして一気に伊達の身体を抱え上げる!
雷電の身体が見事なアーチを描きながら、伊達の身体を後方へと投げ飛ばす。
プロレスで言う『ジャーマン・スープレックス・ホールド』。
「大往生!」
伊達の体が上下逆さまになり、頭から地面へ落下する。咄嗟に伊達は両手で頭部を抱え、
受身の姿勢を取る。
プロレスのマットならば、それで十分凌げたであろう。
しかし残念ながら、これはプロレスではなかった。
ズシン
伊達の頭部がコンクリートの地面に叩きつけられ、同時に2人分の体重が頸部へと
のし掛かる。
受身などクソの役にも立たなかった。頚骨骨折は避けられたものの、頭頂部から全身へと
痺れるような衝撃が走る。視界は歪み、意識は暗転する。
「どうかな。心の闇は見え申したか?」
立ち上がった雷電が、静かな口調で伊達に語りかける。
伊達臣人の意識は既に無い。