【バキ】漫画SSスレへようこそpart11【スレ】

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5522.15の夜
 納得している訳が無い。
 伊達はこの世界へ戻る為に、必死で体術を身につけ、数多の死闘をくぐってきたのだ。
しかし、世界に戻ると今度はその技と経験の為、自分は社会から追い出されている。
 自分の技術が社会では無用の長物なのだという事実。伊達もそれは分かっていた。
 しかしそれを認めることは、己のこれまでの人生を否定したも同然である。
 そうしたやりきれない思いが、常に伊達の頭にあった。
 そこまで考えて、ふと気づいた。
 もしかすると、雷電も過去に同じ経験があったのではないか?
 伊達は雷電に疑問をぶつけた。
「どうして俺にそこまで固執する?」
「さあ、拙者にも分からぬ。だが、仮にそれを知ったところで、お主の判断に変わりはあるまい」
 雷電は明確な回答を避け、質問をはぐらかした。伊達もそれ以上は突っ込まない。
「……さて、伊達臣人よ」
 雷電は再び名前を呼んだ。口調が元に戻っている。

「お主の進むべき道は2つに1つ。
 1つ、このままぬるま湯の現代社会の片隅でひっそりと生きるのか、
 1つ、拙者と共に、満ち足りた熱き『生』の道を生きるのか、
望む方を選ばれよ。」
5532.15の夜:04/01/21 09:32 ID:6KU9LvzI

「いたたまれぬのでござろう。お主には、この現代のぬるま湯の如き『生』が」
 いつの間にか、雷電は伊達の傍らに腰を落としていた。
「そして、少しでも覇気ある『生』を求め、あの<男塾>の門をくぐったのであろう?」
「何故それを知っている!?」
 驚く伊達。雷電は伊達の制服を指差した。
「その学ラン、ボタン。ひと目で男塾と分かり申す。
 しかし男塾でも、お主を納得させる事はできなかったようだな」
「ああ、あそこも結局は同じぬるま湯だった」
 伊達は嘆息まじりに呟く。
 雷電もそれに同意するように頷いた。
「男塾とて所詮、学校の一形態に過ぎぬ。
そして学校である以上、世間の常識からは逃れられぬ。
これまで修羅の道を歩んでいたお主にとっては、さぞ退屈であったろう」
 その通りだった。
 生死を賭けた闘いの人生が当然であった伊達から見れば、地獄と言われる男塾の
シゴキさえも、児戯のように映っていた。おそらく、あの新人教官がいなかったとしても、
伊達はそのうち男塾を辞めていたであろう。

「さて、そこで伊達臣人とやら…」
 雷電が、初めて伊達の名を呼んだ。
「もし拙者が、お主でも退屈せぬ世界を知っているとしたら、どうする?」
5542.15の夜:04/01/21 09:33 ID:6KU9LvzI
 しばらく路地を歩いていると、突然、横から声をかけられた。
「よう、あんちゃん」
 伊達が振り向くと、見知らぬ男がこっちを向いていた。
 『喧嘩上等!』の白刺繍の入った学ラン姿。典型的なヤンキーの格好だ。
 男は左手を伊達に差し出してきた。
「金、貸してくれんか?」
(‥‥‥‥)
 身も蓋も無い台詞に、伊達は相手する気も起きず、そのまま無視して通りすぎようとする。
「ちょっと、無視するなや」リーゼントをかけた別の男が、伊達の行く手を遮る。
「お兄さぁん、ちょっと財布の中身を見せてくださぁい」
 また別の茶髪の男が、ジャックナイフをちらつかせながら近寄ってくる。
見れば伊達の周囲を、数人のヤンキーが取り囲んでいる状態となっていた。
 (まあ、ストレス解消にはなるか)
 伊達は男達の顔を見ながら、そんな事を思っていた。
 無性に暴れたい気分だった。ちょうどいい。

――1分後。
 通りには、うめき声をあげる不良少年たちの山ができあがっていた。
ある者は骨折、ある者は血泡を吹きながら。
 一方、伊達は近くの自販機で購入した缶コーヒーを啜っている。
 多対一とはいえ、伊達の敵ではなかった。
「恨むなよ。俺に喧嘩を売った貴様らが悪いんだ。コーヒー代は御馳になるぜ」
 空になったコーヒー缶を投げ捨て、伊達はその場を去ろうとする。
「お待ちなされい」
5552.15の夜:04/01/21 09:34 ID:6KU9LvzI
 伊達が声に反応するより速く、雷電の両腕が伊達の腰に巻きつく。その姿勢で雷電は
腰を少し落とし、そして一気に伊達の身体を抱え上げる!
 雷電の身体が見事なアーチを描きながら、伊達の身体を後方へと投げ飛ばす。
プロレスで言う『ジャーマン・スープレックス・ホールド』。
「大往生!」
 伊達の体が上下逆さまになり、頭から地面へ落下する。咄嗟に伊達は両手で頭部を抱え、
受身の姿勢を取る。
 プロレスのマットならば、それで十分凌げたであろう。
 しかし残念ながら、これはプロレスではなかった。

ズシン

 伊達の頭部がコンクリートの地面に叩きつけられ、同時に2人分の体重が頸部へと
のし掛かる。
 受身などクソの役にも立たなかった。頚骨骨折は避けられたものの、頭頂部から全身へと

痺れるような衝撃が走る。視界は歪み、意識は暗転する。

「どうかな。心の闇は見え申したか?」
 立ち上がった雷電が、静かな口調で伊達に語りかける。
伊達臣人の意識は既に無い。