917 :
1:
「星の体温って知ってるかい?」
コリッツ博士は突然僕に尋ねた。
「知りません。」
「見てごらん。」
僕は博士の覗いていた顕微鏡をそっと覗く。
「わぁ」
小さなハート型の何かのかけらが
それぞれが違ったリズムで鼓動を打ち泳ぎ回っている。
「どうだい。おどろいただろ。」
「ええ。」
「星はね、それが無数に集まってできてるんだ。」
「これが、ですか?」
「そうだよ。」
「これは一体何なんです?」
「それは…」
ドォォォォォン!
何かの落ちる音。
博士はまたか、といった顔をする。
918 :
2:03/02/23 06:13 ID:7AwTSZFH
こんな夜中に落ちて来るものと言えばあれしかなかった。
そうロケットだ。
僕と博士、たった二人で続けているこの研究所に落ちてきては困るのだ。
また厳しく叱ってやらなくちゃいけない。
「博士僕行ってきます。」
「いや、今日は私もついて行こう。」
「いいですよ。叱るくらい僕一人で。」
「君は分かってないな。喧嘩っ早いっていうのかな。
好戦的な態度は相手を怒らせるだけなんだ。」
「…はい。分かりました。」
博士と二人、研究所を出る。
「うん、今日も月がきれいだね。」
クレーターがはっきり確認できる。
919 :
3:03/02/23 06:14 ID:5P9InvSd
引いては返す波の音。
「博士、研究所を海の側に移動させて正解でしたね。」
「ああ。本当によかった。」
博士もうっすらと目を開けて波の音に耳を傾けている。
ロケットが見えた。
研究所の裏山にそれは見事に斜めの方向に突き刺さっていた。
「あーあ。もったいないな。」
裏山はここ最近の墜落事故でロケットの残骸だらけだった。
裏山を駆け上がって僕と博士はロケットの入り口にやってきた。
ブシューーー!という大きな音とともに扉が開いた。
中から出てきたのは、やはりロボットで
よたよたと入り口から這い出てきた。
920 :
4:03/02/23 06:15 ID:RaIMoyJu
人間はみんな墜落のショックで息絶えているだろう。
「だめじゃないか!博士の研究を台無しにする気か?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
何度も謝るロボット。
「いつになく素直な奴…。」
ロボットの間接はギシギシ音を立てて
いつ分解してもおかしくなかった。
「このやろっ」
僕はおなかの部分をけっとばしてやった。
「だめだよフレッドくん。」
博士がもう一発浴びせようとしてる僕を止めた。
「このロボットにも命はある、体温はあるんだから。」
僕はそっと金属のパーツに触れる。
確かに熱い。
921 :
5:03/02/23 06:16 ID:1lGleIfZ
でもこれは、体温なんて言えるものだろうか?
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
ロボットは相変わらず謝り続けている。
博士はやれやれといった声の調子で言った。
「仕方ない。直してやるとしようか。」
「え?」
「ほら、フレッドくん。担ぎたまえ。」
「えー。修理するって本気ですか?」
博士は前にも何度か地球に落ちてくるロボットを
修理しようとした。
でも成功したことなど一度もなかった。
「今日は…成功しそうな気がするんだよ。」
僕はしぶしぶ今にも機能が止まりそうなロボットをかつぎ上げた。
922 :
6:03/02/23 06:16 ID:KDPl7VZd
「じゃあ、行こうか。」
博士は山を下り始め、僕はその後ろをついていく。
「ふう、フレッドくん。見たまえ。」
「見てますよ。」
見ないではいられない。
今日は滅多にないくらい月がはっきりしている。
「あと、30日…ですね。」
「ああ、少し休んでいこうか。」
僕たちは山の中腹で腰を下ろした。
かすかに聞こえる波の音。
博士はゆっくりと口を開けて言った。
「…それにしても人間は残酷なものだよ。」
「どうしてですか?」
「…顕微鏡で見たもの、何だか分かるか?」
「さぁ…。」
923 :
7:03/02/23 06:17 ID:Cg1jQBwf
「あれは『いのち』だよ。」
「いのち?」
「お前は最近やってきたからわからないか。
無理もない。」
「…なんとなく分かる気がします。」
僕はそっと傍らにある壊れたロボットに手をやった。
確かにあったかい。
それが、生きてるってことなんだ。
地球だってまだ捨てたもんじゃない。
月が迫っている。
ひょっとすれば半月で衝突するかもしれない。
僕と博士は最後までこの星に感謝することに決めたんだ。
完
924 :
622 ◆ckS5RXZUBg :03/02/23 06:18 ID:19ibHiHk
以上。漏れのストーリーでした