「おはよ〜う、つかさ〜」
「こなちゃん、話しかけないでくれる?私たちが友達って思われたくないから」
「ご、ごめん……」
「あはは、冗談だよ。こなちゃん、どうしたの?」
「そ、そうだよね。それでこの前かした漫画だけど……」
「この前の漫画ってちっちゃい女の子が男の人にひどいことされてる漫画のこと?」
「え?わ、私そんなもの貸してな……」
「こなちゃん、流石にあれは私でも最低だってわかるよ。それに学校でそんな漫画の話するなんて本当に分別無いんだね」
「だ、だから私は……」
「もう、話しかけないでよこなちゃん。私までそんな趣味持ってるって思われたくないから」
「ご、ごめん……」
(痛っ……)
「な、なにするの、つかさ……みゆきさんまで……」
「え?ゴミ箱にごみを捨ててるだけだけど……ああ、そっか。投げ捨ててたら行儀悪いもんね。わざわざありがとうこなちゃん」
「つかささん、おそらく泉さんは、ゴミにゴミを投げ捨てても意味は無いと言いたいんじゃないでしょうか?」
「あはは……つかさもみゆきさんも冗談きついよ。私にゴミ投げつけても意味無いじゃん」
「それはもう私が言いましたよ?泉さん」
「もういいじゃない、ゆきちゃん。言われたとおりゴミはゴミ箱に捨てよ?」
「ええ、そうですね」
「ちょっと二人ともなにす……」
「え?ゴミをゴミ箱に捨てるだけだよ?」
「重いですねぇ、このゴミは」
「……」
「あ、こなちゃん今日弁当なんだ?一個貰っていい?」
「うん、いいよ」
「じゃあいただきま〜す」
「では私もいただきます」
「どう?二人とも」
「う〜ん、なんか気持ち悪いかな……」
「え……」
「すみません、私も……」
「みゆきさんまで……」
「これ腐ってるんじゃないの?」
「私もそう思います」
「え……普通の味じゃん……。も〜、二人ともたちの悪い冗談やめてよ〜」
「え?こなちゃん腐ったものがおいしいの?それは少しどうかと思うな……」
「ああ、泉さんからでる腐乱臭はそのせいだったんですね」
「……」
「こなちゃん帰ろ〜」
「あ、つかさ。悪いけど先に行ってて」
「うん、わかった」
「ごめんね〜つかさ。待たせちゃって」
「ううん、全然気にしてないよ」
「じゃあ帰ろっか……っ!」
「どうしたの?こなちゃん」
「靴はいたら……何か刺さったみたいで……」
「靴脱いでみたら?」
「うん……」
「うわっ、足真っ赤だねこなちゃん。それコスプレって言うんだっけ?」
「いや、これは靴に画鋲が……」
「学校でもバイトの練習するなんてこなちゃんえらいな〜。将来は仕事上手になれるよ」
「……」
「……ただいま」
「お〜、おかえりこなた。なんだ?もう寝るのか?」
「うん……最近ちょっと徹夜続きで疲れてて……」
「ははは、今日はしないってことはクリアしたんだな。次はお父さんに貸してくれよ?」
「うん、攻略法も教えてあげるよ〜。お休み〜」
「ああ、お休み」
「……」
「こなた、何か困ったことがあったら必ず言うんだぞ?お父さんが絶対、それこそ命を賭けてでも解決してやるから」
「うん、覚えておくよ。でも一生頼ることは無いだろうけどね〜。もちろん、いい意味で」
「そうか……」
「じゃ、お休み〜」
「つかさ……みゆきさん……」
「私、何か悪いことしたかな……?」
「私が悪いなら、謝るから……」
「だから……昔みたいに……」
「ん……」
目が覚める。
昨日いろいろ考えているうちにいつの間にか眠っていたみたいだ。
大きく欠伸をする。
何故か今日は心も体も軽い。
まるで昨日願ったことが全て叶うんじゃないかと思うくらいに。
「いってきま〜す!」
「おう、行ってらっしゃ〜い」
学校に着くと、目覚めたときとは違い少しだけ憂鬱になった。
教室に入ると、つかさに近づく。
挨拶をしても挨拶をしなくても、結局遠まわしに責められる。
いつもどうせならと、少しでも関係の修復の可能性のある挨拶をする方を選ぶ。
でも今日は少しだけ違った。
「あ、こなちゃんおはよ〜う」
「あ、お、おはよう」
驚いたことにつかさから挨拶をしてきた。
「珍しいね、つかさから私に挨拶するなんて」
「うん、そのことなんだけどこなちゃん……」
「どうしたの?」
「今まで、ごめんね」
嬉しさで、心臓が飛び出るかと思った。
「昨日ゆきちゃんと話したんだけど……もうこなちゃんに突っかかるのはやめよて謝ろうってことになったの」
「そ、そうなんだ。私はすっごい嬉しいけどどうして?」
「ゆきちゃんも私もね、本当はこなちゃんと仲直りしたかったの。前みたいに本音で話し合いたかったの。でもお互いがこなちゃんと仲直りするのは許さないんじゃないかって思ってて……そのことを思ったらすごく怖くって……」
「今まで言い出せなかったんだ?」
「うん……。いまさら、こんなこというのは都合がいいかもしれないけど……」
つかさの目から涙がこぼれる。
私は言葉だけでも体が張り裂けそうなくらいに嬉しかったけど、つかさの涙でそれが嘘ではないとわかり気が狂うくらいに嬉しかった。
「こ…なちゃん、ごめ…んなさい……。いままであんなひどいことして、ごめんなさいぃ……」
「もう、いいよつかさ。その言葉だけでうれしいよ……。私は気にしないから、これからは昔みたいに楽しい毎日を送ろう?」
「ありがとう……ありがとう、こなちゃん……」
今日はまるで夢のような日だった。
その後みゆきさんも私に謝って、昔のような関係になることを約束してくれた。
友達であることを否定されない、ゴミのように扱われない、靴に画鋲が入っていない、そんな当たり前のことがとても幸せだと気づく。
友達が、親友がいることの幸せに、気づく。
「ねえ、こなちゃん」
「泉さん」
ドクン。
「「私たち……」」
ド ク ン。
「親友だよね?」
「親友ですよね?」
ド ク ン 。
目の前に暗闇が広がる。
ここは何処だろう?
さっきまでつかさとみゆきさんが一緒にいたのに。
「っ……!」
画鋲が刺さっていた足がひどく痛い。
それが原因で気づく。
「そっかぁ……夢だよね……全部……全部……あははははは……」
そうだ、全部夢だったんだ。
だっておかしいじゃない。
あんなに痛かった足がたった一日で完治するもんか。
あんなに一瞬で学校にたどり着けるもんか。
あんな都合よく、私の理想どおりに動くもんか。
「はははは……は……はははははは」
壊れた玩具のように笑い、目からは涙がこぼれる。
今日は何があるんだろう、今日はどんな風にいじめられるんだろう。
寝ていないとそんなことばかり考えてしまうので、私はもう一度夢に希望を託した……。