[なんでも]SS、小説投稿スレ2[来い]

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1名無し2LT ◆BiueBUQBNg
落ちたので立てた。誰でもどうぞ。
よかったらお付き合いください。
2通常の名無しさんの3倍:2010/06/14(月) 22:01:21 ID:???
前スレ
[なんでも]SS、小説投稿スレ[来い]
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/x3/1198949741/
3名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/06/14(月) 22:02:18 ID:???
[session21]

 「女の子、売るよ!」
 シャングリラ・コロニーのスラムには似つかわしくない、薄暗い、上等の調度品を整えた、ルゥム・ボッサ
の流れるバーに、スパムメールの暗号に吸い寄せられた陰気な中年男が入ってきた。奥の仕切りで彼を待ち構えていたのは、如才ない、
見かけの割に老けた声をした少年であった。少女が二人、奥に座っている。
 「処女かね?」
 黒い少女は顔を紅くして小さく頷いた。白い少女は動ぜずゆっくりと首を横に振った。
 「惜しいな。だがどうとでもごまかしは利く…なにより上玉だ。気にいった。キャッシュで5万だそう」
 「10万だ」
 少年が直ちに異議を挟む。結局、8万で折り合いがついた。
 
 薄暗い開放ダクト(コロニーの港部によくある気密されていない宇宙船用運河)を、中年男と少女二人
はノーマルスーツを着て横切っていく。少女は二人ともスーツケースを左手に掴んでいた。300m遊泳して対岸についた。
エアダクトを開け、侵入する。
入った先はサイド6当たりから密輸入されたと思しきトリップ・シガー(要するにアヘンである)の煙が
立ち込め、ピンクの室内灯が眼を眩ます健全な社会人全てが拒否反応を起こしそうな怪しげな部屋
だった。
 「連れてきたぞ」
 「おや美少女ぞろいじゃないか。稼げるな」
 中年男がやや年下の男と言葉を交わす。
 「ええっと、名前は…」
 だが眼をそらしていた一瞬の隙に、二人とも姿を消していた。
 白い少女は、二人の男の心を掌中にしているかのように巧妙に、黒い少女の手を引き、テーブル、
カウンター、椅子の下を掻い潜り、奥の廊下へと侵入していたのだった。
 入って3番目の扉を開ける。
 「これはひどい」
 白い少女は呟いた。黒い少女は、眼をそむけている。彼女らより2,3年下とみられる全裸の少女が、四つん這いになっていた。
彼女の顔はよく見えない。同じく四つん這いになった、染みだらけのたるんだ老人の尻に、顔を突っ込んでいたからだ。
 白い少女は、比較対象として老け声の少年との毎夜のプライベートな営みを反射的に想起した。あまりにも、ギャップがありすぎる。
 「おい何をしてる!」
 遠くから叫び声が聞こえる。老人は何の反応もない。痴呆だとは、部屋に入る前から白い少女は
理解していた。
 「向こうはまかせました」
 「は、はい!」
4名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/06/14(月) 22:03:00 ID:???
[session22]

 黒い少女は、自分のスーツケースを開けた。大慌てでUZIを取り出し、弾倉を装填する。
 「ごめんなさーーーい!!!」
 謝りながら弾丸を廊下にばらまきだした。だが、弾道は高めであることから、射殺ではなく、頭を押さえつけておく為だけの射撃だとわかる
。その様子に安心した白い少女もまた、自分のスーツケースを
開けた。優雅な手つきAK74を取り出し、排泄器官に与えられる快感に恍惚となっている老人のこめかみに、銃口を押し当てた。さすがに驚いて
顔を銃口に向けてきた。即座に銃を回転させ、銃床で顔面に強烈なのを一撃くれてやる。
 爆音が聞こえた。
 「ますたーはどう、したの…?」
 「貴方に御主人(マスター)なんかいないの。もう誰にも、貴方を苦しめたり、痛いことをしたりなんてさせませんから、安心して、マリーダ」
 白い少女は銃のスリングを肩にかけると、ためらいなく、先ほどまで見るもおぞましい行為を行っていた
オレンジ色の髪をした全裸の少女の唇に、自分の唇を重ねた。
 「……なあ、とりあえず二人ともシャワー浴びた方が良いんじゃないか?いやその前にうがいだな」
 少年の老けた声が、部屋の入り口から投げられる。
 「ですよねー」
 白い少女は答えた。苦笑を返すと、少年は部屋にあった固定電話を手に取った。
 「ああ、4番隊隊長?終わったから。つかやだねこういうの。じゃ、恐喝写真と客の財布と機械、約束通り持ってっから。んじゃね〜」

 電話の向こう、赤い戦艦の中、茶髪の少年は通話モニター(但し、先ほどの通話では映像は映らなかった)のスイッチを切り、ため息をついた。
 「シャクティになんていえばいいんだよ。そして連絡士官として派遣されただけの僕が、どうして4番隊
隊長なんて呼ばれているんでしょうか?」
 一人愚痴ると、ブリッジに通話を始めた。総帥は満足している。

 「戦利品の件、よろしいのですか?あれでは与えすぎかと」
 「構わんさ。これがデュオ・マックスウェルならその場にいる全員の尻の毛まで毟っていくだろうし、ジュドー・アーシタなら売春宿ごと持っていくに違いない。
安くついた方さ、まだ」
 「さほどの大物は、予想通り居ませんでした。なぜこれほどのリスクを冒してまで……」
 「最強のニュータイプのたっての希望だ、彼女は、味方につけておきたいからな。それに」
 「それに?」
 「いや」
5名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/06/14(月) 22:04:19 ID:???
[session 23]

 「総帥は少女に、肉欲を超えた格別の愛情を持たれているからな。余人の察しうる所ではないのだよ」
 機械の左手をギシギシと軋ませつつ、「紅の騎士団」先任参謀ヘルベルト・フォン・カスペン少将が勿体つけた口ぶりでいった。
 「そう、かのルイス・キャロルのように。やはり総帥ほどの天才となると、我々凡人とは住む世界が違うようで」
 慇懃に過ぎる声が高慢に響く。
 3番隊隊長アンジェロ・ザウバーも頷いてはいるが、表情にはやや複雑なものを隠しきれずにいた。2番隊隊長ギュネイ・ガスはというと、
最早軽蔑の視線を隠してすらいない。
 「ギュネイ、それは敵を見る目だ」
 司令官専用のソファーで足を組んだまま、総帥はいった。
 「私が、シャクティ・カリン嬢目当てにウッソ・エヴィンを4番隊隊長に取り立てた、などと貴様が触れまわっているということぐらい,
私が気付いていないとでも思ったか」
 立ち上がる。低重力空間でこれほど優美に起立の姿勢をとれるのは、この男以外いない。
 「だが貴様は何も分かっていない」
 憎らしくなるぐらいに整った所作で部下の元に近づき、顔を寄せる。右手の人差し指を鼻先に突きつけた。落ち着き払った口調が、突然閃光を放った。
「そもそも幼姦には萌えがない!!! ブルマーは脱がしてもスクール水着は脱がすな!!
 たとえ落下中の小惑星が突如上昇しようとも!! 絶対絶対これはロリ業界の鉄則だあああぁあああ!!!
 いいかよく聞けオールドタイプども。成熟した女性と幼女の違いは何か。そう、性的能力の有無だ。
 つまり性的な匂いから解放されていてこそ、初めて幼女は幼女なのだ!!!
 それを理解せず、幼女と無理な性交渉を行うことがロリコンだと思い込んでいる貴様らはオールドタイプ!! アースノイドと同じだあああぁ!!
 貴様全員を矯正するッ!! 歯を食いしばれええぇええぇえ!!!先ほどルイス・キャロルを引き合いに出したな。例えばここに美しい幼女がいたとする。
 幼女の美しさと一言に言ってもその裾野は広すぎる。それについて貴様らに講義することは ジムから這い出てきた連邦兵どもにジオン魂を1から説明
することより困難この上極まりない。 だからここでは最も普及していると思われる制服系で説明することとする!!
 制服系の御三家と言えば何か!!!答えてみろ!!そうだな、制服、体操服、スクール水着だろう。
 なおセーラーかブレザーかの好みの違いは制服にカテゴライズするものとする。 勿論、ブルマーかスパッツかの違いも同様!!
 スク水も紺か白かの違いはあれどカテゴリーは同じ扱いだ!!! どうだ、これだけでも甘美な響きがするであろう?!!
 ではお前ら3人がこれらの内の一つずつが好みであったと仮定しよう!!
 おいカタワ!!お前は制服だ!男娼!お前は体操服、そして養殖ニュータイプはスク水だ!!!
 頭に思い描け、時間は3秒!!!描けたか?妄想くらい自在に出来ろ、気合が足りんやり直せッ!!!
 ではお前らの望む衣装が登場するHビデオがここにあるぞ、あると思え、あると信じろ気合を入れろ!!返事は押忍かサーイエッサーだ!!!
 馬鹿者それでも軍人かッ!!!! よおし描けたようだな次に進むぞ。
 それらの萌え衣装が、貴様らの馬鹿げた欲情に従い一糸纏わぬ姿にひん剥かれたと思うがいい、だがおいお前らよく考えろ!!!
 全部脱いだらもうそりゃただの未完成な痛々しい痩せた裸体じゃないかッ?!?!最近そういう詐欺紛いなペドフィリアが増えているが実に嘆かわしい!!
 服を全部剥いだらもうそれは高貴な趣味としてのロリータではない、人面獣心だ!!全裸にしか欲情できないと思い込む貴様らはザビ家派だ!!
 私の華麗なバズーカでもくらってアステロイドベルトへでも失せろ!!!ゲットバックヒアー!!
 ちなみに最近のデタントに従いアースノイドのなかでもロシア系AVが大量に上陸しているな。そんなことも知らんのか愚か者!!
 ロリータとロシア系を組み合わせたロシア美少女などという、コア・ブロックが抜けてそもそも稼働できないガンダムのような水と油な組み合わせが出ているようだが
 本官は断じて認めたりはしないぞッ!!!ロリータはスペースノイドの文化だ芸術だ!!!地上のウジ虫どもにコントリズムの大義など分かりはしない!!!
 貴様ら聞いているのか、軟弱スルメどもがああぁ!!!歯を食いしばれ、今日は徹底的にしごく!!!
 貴様らが自分の妄想でご飯三杯行けるまで今日は寝られないと思ええ!!!はいいぃいい指導指導指導ぉおおッ!!!!
 
 …ってここはどこだあああ!!!」
6名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/06/14(月) 22:09:21 ID:???
[session24]

熱弁に没頭する総帥を台車に載せて営倉に転がしこむのは、実に容易であった。
 そして主役の抜けたレウルーラのブリッジは、白けきった空気に満たされていた。
 「あの…余り、お気を落とさないで…」
 アンジェロはナナイ・ミゲルに声をかけた。話しかけられた方は水をガブ飲みしていた。
 サイド3の偏執的な技術の成果の一つに、抗老化薬がある。副作用がなく、極めて安価に精製できることが分かると、
まだ総帥にはなっていなかったものの既に実権を掌握していたギレン・ザビは、あたかも虫歯防止のフッ素でもあるかの
ようにたやすく、それを水道水に混ぜ込むことを指示したのであった。移民を呼び込む政策の一環としてである。とはいえ
彼自身は、蒸留水の詰まった軍用水筒を身から離すことは決してなかった。そしてその水に若返りの効果はない。
 なお、彼女が最低でも週に2度は朝総帥の私室からブリッジに向かっていることは誰もが知っている。

 「ええいクーデターか?やはりナナイの仕業か!?あの声からして怪しいとは思っていたのだが…」
 「仕事してる横で騒がないでください!」
 「4番隊隊長か…。無様なところを見せてしまったな。すまない、引き続き職務に精励してくれたまえ」
 「僕はただLO(連絡士官)として派遣されただけです!大体4番隊隊長って何ですか!?スタッフは僕だけで、
協力機関から配属された部隊の指揮ってやたら面倒臭いんですけどォォォ!いくら目的が目的でも、
シャクティを説得するの大変だったんですよ!」
 「そうか君もLO、我らが高尚な趣味の理解者であったか…」
 「聞いちゃいねえよコイツ」
 「だがこの程度の事態、私が想定していない筈がなかろう!」
 「いいですから、もう。僕の叔母を幸せにしてあげてください。マジで」
 「食らうがいい。超必殺コントリズムアタック!」
 
 左足を抱え込む。靴底が開く。物入れになっていた。小さなカプセルを取り出す。潰して鉄格子から廊下に投げ込んだ。
それと同時に白いガスが噴き出てくる。
 総帥は既に、右の靴底から取り出した粘土のようなものを鍵に塗りつけていた。部屋の奥の壁に背中を付け、
袖口から取り出した吹き矢をそこに打ち込む。軽い衝撃波が走ったかと思うと、煙の中で無残に破壊された電子錠が火花を散らしていた。
 「ガスなんか捲かないでください!こんな宇宙船の中で!」
 「実はこのレウルーラ長いことほったらかしになっていたから内部の隔壁はかなりガタがきているのだ!」
 「ガタガタなの!?」
 手早く軍服の内ポケットから携帯防護マスクを取り出し、装着する。たまらず出てきたウッソ・エヴィンにも予備を渡してやった。
 「空気清浄機のパイプにもカプセルを放り込んだ。これで、しばらくはみな昏倒したままだな」
 「あーもう突っ込みませんよ」
 「しばらくはクルー全員総帥侮辱罪で謹慎処分にしてやる」
 「そんなのあったんですか…」
 「今作った」
7ブタ:2010/06/15(火) 19:24:55 ID:???
お、新スレたったのか。
ドキュモ規制抜けてやっと書けるかとおもったら既にスレ落ちてやがってまったくまいってたんだよ。
気が向いたらまたお邪魔します。
8名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/06/21(月) 00:02:06 ID:qIRiLXpV
[session25]

 サイド2を恐慌状態に陥れた大規模テロ事件が行われたその日も終わりかけたとき、初めてヒイロ・ユイは狼狽した。
股間に顔を近づけられたときどうすればいいかなど、彼の受けてきた過酷なテロリストとしてのカリキュラムには含まれていなかったからだ。
チャックを開けられたとき彼はようやく我に還り、少女をコクピットのハッチに向かって突き飛ばした。
 少女がただぶつかっただけとは思えない苦しみ方をしたので
 「傷でもあるのか?」
 と事務的に問いつつ彼女を膝の上に座らせ、シャツをめくり上げて背中を見た。
 大きな、鞭の痕らしい紫色の痣が斜めに4本流れている。煙草を押しつけられたらしい火傷の痕が12個、蚯蚓腫れは無数。
 「お前の所属は?この前、『サートゥルヌス』の最後の残党がグラナダで摘発されたときに大規模な戦闘があったが、お前もそこにいたのか?」
 震える少女から、無造作に服をはぎ取る。血の滲む新しい傷跡に薬を塗りこみつつ、無遠慮な観察を続ける。全身に傷跡が認められた。
テロリスト或いは兵士として数多の戦場を駆け巡った彼以上に、少女の華奢で未成熟な肉体は、傷ついていた。しかしその眼は、
それと不釣り合いなほどに怯えを見せている。
 女を、知らないわけではなかった。ある時Dr.Jと風呂に入った後、
 「色を知らなければならない年だな」
 といわれ、小奇麗な店に連れて行かれた。事が終わった後感想を聞かれ、
 「下らん」
 と答えたら、もう連れて行かれることはなくなった。それ以降、彼が抱きたいと思った女は一人しかいない。
その女を抱こうとしたことはないが、殺そうとしたことは何度かある。
 故に、彼が少女の両足を割って(妙に抵抗しなかった)
 「…一体何があった!?」
 と、まるで骨折でもみるかのように聞いたのも、仕方のないことだろう。
9通常の名無しさんの3倍:2010/06/27(日) 00:23:05 ID:ZT0dZjs7
ほすあげ
10通常の名無しさんの3倍:2010/06/29(火) 19:11:59 ID:???
まぁいい(汗) 今後も調べていこう なにかの足しになるでしょう

>>88 三尉殿

いや〜まことに遅くなってしまい、全レス宣言がどうしたぁ!となりそうでしたスイマセヌ(汗)

>小説スレ

 復帰早々ものすごいことになってますね(汗) ォィィィカスペン大佐〜〜〜いや今は少将か…(汗)
 ぶっちゃけ杉でござるよ!(汗)なんか専用ゲルググのブタバナから妙な排気が出てるYO!(汗)
 …だがまぁ、マリーダはまぁ… アレでソレでコレな悲惨な娘を出せば冨野っぽいとでも思ったのかしら福井(汗)
 だから安彦先生に見限られて3巻以降表紙以外降板されたんDA…(汗)

 総帥、太子っぺぇ言動のわりに流石コズンっぽく(汗)

 〜スゥイートウォーター演説前日〜

 総帥「ともかくダミーバルーンでもいいからとっとと作るんだ!(ゲシゲシゲシ ←シャアキック
 庵auダミーバルーンでいいんですかァ!?」
 総帥「いそげ!ともかくあしたまでに作るでおま!」 仙波「メガ粒子の描き方を後々に活かすか…」
11ブタ:2010/07/06(火) 10:11:05 ID:xNkQiyFF
────ララァ、を

問われて不思議と、あれほど身近に、いや、もはや空気のごとき存在するが当然ですらあったあまりにも漠然としたララァの存在の欠如の違和感にアムロは気付いたように感じた。
同時に、錯覚のようなシャアとの意識と意志との共有を、互いに目前に対峙するシャアもアムロも、一瞬にして無意識的にそうした。
────アムロ、何か───奇妙──な──ものだな─
鍔迫り合いをアムロのガンダムがまたもや余裕で押し返しつつ飛び退き飛び上がり距離をとる。
─ララァが───憎しみ────か──
──ああ、───何か───な──
そして頭部バルカン砲をあらぬ方向へ放つあまりにも見事にすぎる牽制に、シャアの赤いザクの稲妻のごとき機動が僅かに鈍る。
いい───さ、──もう────
そこへ更に対象を未来予測的な急角度でのガンダムの機動が、瞬時にザクとの距離を詰めつつ、上方からの斬撃を見舞うと同時に左のマニピュレーターが背部のもう一本のビームサーベルの柄を握った。
──シャア・・・───────貴様は─────────
素直に上方からの斬撃を赤熱するヒートホークで受けざるを得ないザクが、ガンダムのビームサーベルをぎりぎりのところで受け止めると、同時にもう一方の斬撃がザクのヒートホークを握る右腕を肘関節の僅かに上から切り落としていた。
12ブタ:2010/07/06(火) 11:07:25 ID:???
──今──更──わかっ───てる──
シャアのザクの右腕とヒートホークが地に落ちる少しの衝撃と、無性に腹立たしい自身とシャアに、互いは互いに陶酔したような意識を現実に引き戻した。
「アムロ!!」
互いは互いに、すべてを分かり合えていた気がしていた。
「シャア!!引くんだ!」


「・・・・・・・・・・・・・・」
言葉を失っていた。
数分前には怒りと混乱と恐怖の為か、何やら叫び、冷静さを失っていたがしかし、また別の驚き衝撃がまた彼を更なる困惑に陥れ、自身の中で整理がつかないでいた。
「まてまてまてまて!!・・・・・」
右腕を切り落とされた赤いザクと、ビームの刃の形成を解き柄だけを握り締めつつ立つガンダム、互いに僅かな距離をとり、呆然としたようにただ立ち尽くす。
そんな奇妙な様子を見ながら、テム・レイはやっとのことでそう言葉を吐き出し息を荒げた。
そして数分前を冷静に振り返ってみるよう努める。
(そうだ、アムロのやつが勝手にガンダムに乗り込み・・・退避したんだな、ここに。すぐさま突風に煽られ・・・・そして目の前であの・・・
・・・あれは・・・・・あの赤いモビルスーツ、ザクは・・・・噂にきく赤い彗星ではないのか?)
理解の出来ない光景が目の前で次々と展開されたのだ。
冷静に考えてみる。
息子の、子供のアムロがガンダムに乗り込み、見事に、あまりにも見事すぎる程に、彼の知る限り初めてモビルスーツになぞ乗るはずのガンダムを操縦していた。
13ブタ:2010/07/06(火) 13:32:02 ID:???
赤い彗星、先のルウム戦役で・・・5隻もの戦艦をたった一人で沈めたという、ジオンのトップエースだという。
ジオンのザクのおおよその性能から、対するガンダムの性能、その歴然とした両機体の性能の差は誰よりも良く把握しているという自負はある。
どの部分をとっても、ガンダムがザクに劣っているところなど何一つない。
しかし、このモビルスーツという人型兵器が、それを扱う人間によって、カタログスペックでは決して語ることのできない異常な戦果を、性能を発揮するという事実も、心情的に認めたくはないのだが頭では一応、現実の出来事として理解している。
事実どうだ、突如あらわれた赤い彗星の操縦するとおもわしき赤いザクのその機動は。
戦場の断片的な記録映像や拿捕したザクの性能から導き出されたCGシミュレーション画像などからは比べるべくも、及びも考えもつかないような有り得ない恐ろしい機動を目の前で展開したではないか。
対するガンダムも、そんな化け物のようなザクにその高い性能を遺憾なく発揮し対処していたのだ。
が、しかしこれが解せない。
まるで記録映像で見た、モビルスーツに習熟したベテランパイロットの搭乗する機体のような、あるいはそれ以上の、まるで己が手足のごとく操縦される、目の前で展開されたガンダムの機動が。
14ブタ:2010/07/06(火) 13:40:54 ID:???
とてもではないが、初めてモビルスーツに乗る人間が操る機体の機動ではなかったのだ。
あの恐ろしい機動を見せたザクを、いくらガンダムが破格の性能を持つ最強のモビルスーツ(テムはそう自負している)とはいえ、16・・・あ、いくつ・・・だったか・・・15、6歳の息子・・・のアムロが、打ち負かすなど有り得ないだろう。
・・・・・しかし・・・・アムロのやつ、「父さんのガンダム」などと・・・ふふっ、いつのまにそんな歯の浮くような世辞をさらりと・・・
・・・・たまに家に帰って姿を見掛けたかとおもえば・・・寝ているか機械弄りでもしているか・・・返事もロクにせんバカ息子にと・・・・それが・・なぁ・・・親はなくても子は育・・・・あいやいや!
しばし遠い目をしてもの思いに耽たのも束の間、首を横に振り、2体のモビルスーツの動静を見守りつつ、未だ整理のつかぬ事項を分析する作業に努めた。
第一にまず、何故アムロがガンダムのことを知っているのか・・・・
まさか・・・無断でデータを自宅に持ち帰った時が数回あった・・・が、しかし、う〜む
しかし、アムロがこうも見事にガンダムを操縦できるのは・・・・
15ブタ:2010/07/07(水) 16:50:44 ID:???
「・・・理由などないはずだ、最早な、私と貴様が憎しみ合うなど・・・・」
「・・・何、を・・・・・・・・・・」
シャアのどこか、アムロの中で想定の外であった静けさと返答に、気勢を削がれたアムロは自身の内に静まりゆくものと何かくすぐったいような心地良さを感じていた。
「・・・何かを・・・・・」
「シャア、何をしようというんだ・・・・・・・」
惚けたかのように対峙するガンダムと赤いザク。
そこには、先程まであった殺伐とした敵意も、無機質でありながら烈火のごとき戦いの熱をも瞬時に霧散したかのような、不思議な静寂が存在するばかりであった。
(・・・・ギ・・ヵ゛・・・ッ・・・少・・・・少佐!!・・シャア少佐・・!・・)
ただただ、惚けた静寂の中に茫然と時を流し続ける二人に割って入った通信に、シャアとアムロは辛うじて意識を傾けた。
(・・・・少佐!やりました!!ジー・・・・曹であり・・・す!!たった今、敵、新造戦・・、木馬を制・・しました!!只今、ブリッジに・・ライフ・・を突・・きつけ・・・)
「・・・?・・!?」
(・・・ギ・・・逸るな!ジーン・・・少佐、申し訳・・りません・・デニム曹長であります・・・現在・・たった今・・流したスレ・・ダーと残敵の・・討中でありま・・・・ぬお・!・・ガ・・・)
「・・・・・・・デニムか・・・あいや、よくやった、油断するな、貴様は引き続き残敵の掃討と、ジーン軍曹、出来る限りでいい、予定通り木馬を無傷で抑えろ、私もすぐそちらに向かう」
「・・・な、なんだって?」
陶酔から意識を現実に引き戻し、シャアはオール回線で3人の部下に落ち着きを払いそう通信し、対照的にアムロは事態の変化に戸惑いを露わにした。
16ブタ:2010/07/07(水) 18:17:27 ID:???
シャアはザクを、ガンダムなどまるで視界に存在しないかのごとく徐に少々前進させ、片膝をつき切断された右腕からヒートホークをとりあげ残ったザクの左手に握らせた。
「・・・・来るか?ともに」
片膝をつきながらの体勢で、ザクの頭部を右に向けながらシャアはアムロのガンダムに向かいそういった。
「・・・待てよ、シャア!!・・・・どうなってる、さっきの通信・・・ホワイトベースが・・・ホワイトベースを制圧したっていうのか!?」
そうなるだろうか、冷静に考えれば、本来ならば自分が倒していたはずであった2体のザクはここにはいなかったのだ。
ではどこに消えた?
何もせず逃げ去ったわけでも、出撃もせずに搭載艦で居眠りでもしていた、というわけでもなかったわけだ。
「うむ、どうやらな、上手くやってくれたらしい」
アムロにとってシャアという男はいつもこうだ。
虫が好かないというのか、自分を嘲笑うかのように、常に先回りをした行動をとられ翻弄される。
「どういうつもりなんだ・・・何が目的だ」
「・・・いっただろう、私の同志になれ、と・・・しかしアムロ、貴様とは同志というよりも良き友人になれたら、などとおもうのだが、今ならばな」
「・・・・・・・・・・・」
なんと応えたらいいのやらアムロは数瞬、言葉が見つからない、といった具合に沈黙しつつ、沸々と何かが込み上げる。
「・・・・ふ、ふざけるなシャア!・・・いきなり・・・・いきなり不意を突いて本気で殺すつもりで斬りつけてきたかとおもえば・・・同志になれとか・・・友人だって?・・・なにを・・」
「・・・・・・・・・・・」
シャア自身、そう素直な怒りというのか苛立ちというのかをアムロにぶつけられてみて、確かに理不尽で少し不条理な話ではあるな、と少々申し訳ない気持ちになり考えに耽った。
17ブタ:2010/07/07(水) 19:47:38 ID:???
「・・・・・・アムロ・・・順を追って説明したい所なのだがな・・・今は作戦行動中ということもあり・・・」
シャアは柄にもなく困ったような、言葉に詰まったようにぎこちなく何とか間を繋ぐように次ぐ言をさがした。
「・・・うむ、手短に説明するとこうだ、まず、すまなかったな、確かに、最初は貴様を、ガンダムを、本気で仕留めるつもりだった」
「そうだな、漠然と今のアムロ・レイを、貴様を感じてはいたが、自信がなかった」
「・・・わからないか?もし、そのガンダムに乗る者が今の貴様ではなく・・・・一年戦争時代の・・・危険な兵器、兵士でしかない、これからニュータイプとして覚醒する危険なアムロ・レイであるとしたら・・・」
少しアムロは複雑な表情を浮かべながら返す。
「・・・殺す以外になかった、ってわけか、貴様が・・・時を遡ったシャア、貴様が何か、目的を果たすのに障害となるかもしれない、一年戦争時代のアムロ・レイをいち早く・・・」
「そうだ、ガンダムとアムロ・レイはそれほどの脅威だった・・・しかし、まだニュータイプとして覚醒する前段階であるアムロ・レイであったなら殺せる、と」
複雑な表情に苦笑いを貼り付けたアムロがまた返す。
「・・・あまり気分のいい話じゃないな、しかし、それだけじゃ説明がつかないだろ、不意を討って斬りつけたのが、シャア・アズナブルと同じくして時を遡ったアムロ・レイ、俺だったら・・・・」
「フフッ、だとしたら問題あるまい、あの程度の攻撃でむざむざ殺られるような貴様ではないだろう」
いつものらしい不敵な笑いを浮かべシャアはそう返した。
「そして私のよく知るアムロ・レイ、貴様であったのなら、貴様をなんとしてでも籠絡する腹積もりだったよ」
「・・・じゃあすべて計算づくってことか、シャア、貴様ってやつはどうしてそう・・・いや、そんなモビルスーツでガンダム相手によくも・・・俺が手加減しなかったら死んでいたかもしれないのに」
「そこは信じていたさ、意外とアムロ・レイという男も律儀だと・・・サイコフレームの貸しもあることだしな、とは冗談で、そこは賭けだったよ」
呆れたな、という顔を浮かべつつ、アムロは次の不可解を問おう、という機先を制しシャアが続けた。
18ブタ:2010/07/07(水) 21:13:28 ID:???
「分かり合えないか?・・・・私と貴様は敵である時が長過ぎた、これは事実だ」
核心に迫る、一つ言葉を踏み外し間違えば危険な、賭けでもあるかのような、問うシャアも対するアムロも、互いにそんな張り詰めたものを感じていた。
もうとっくに、互いに痛々しいほどに分かり合えてはいたのだろうに。
しかし、何か、ララァのこともそうではあった、が、何かが引っ掛かってしまうのだろうか。
「シャア、人は・・・不自由だよ、ニュータイプであれ・・・簡単なようで簡単じゃない、当たり前だ」
シャアは仮面の奥で少し寂しいようで哀しいような視線を僅かに下げると、極めて微弱な嘆息を一つついてからいい放った。
「・・・私はこれから木馬の制圧に向かう、逐次、予定通りの作戦行動で艦船から既にこちらに向かっている制圧部隊と合流する手筈となっている」「・・・シャア・・・・・」
踵を返すように赤いザクの背を無防備に晒すとまたシャアが続ける。
「・・・これは・・・・・・・・生き直す・・・・いや、最早語るまい、アムロ、また私を止めるつもりなら遠慮はいらん、私は私の信念で動く、貴様もそうしろ、まあいわれるまでもないだろうがな、ではな」
「待て!・・・待てよシャア・・・」
「・・・何だ?」
ザクのバーニアを吹かし、一気に跳躍しようという矢先にアムロがいった。
「・・・無理だ、シャア、貴様はどうしてそう・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・少し、考える時間の余裕くらいあってもいいだろう」
シャアが仮面の奥で会心の不敵な笑みを浮かべたであろうことが伝わってきてしまったアムロは、何やら妙にくやしくもあったが、別に不思議とそう悪い気もしなかった。
「・・・・フッ、もし来るのであれば、同志ではあるが、形式上は私の部下としてしっかり働いてもらうことになるがいいのか?」
「まだ貴様に味方するなんて一言もいっちゃいない、貴様がまた暴挙に出るなら、俺が貴様を討つ、かもしれない」
「いったはずだ、各々の信念で動けと、かまわんさ、先にいく・・・・期待している」
そういい終わるかどうか、といったタイミングでシャアはザクのバーニアを吹かすと、その渾名のごとき速さで港の方角に翔び去った。
19ブタ:2010/07/07(水) 23:11:51 ID:???
「・・・・・・・さて・・・・・・・・どうしたものか・・・・・あ」
敵として戦い、一時は味方として戦いもした、終生のライバル、または不倶戴天の敵、とでもいうのであろうか?シャア・アズナブルという男。
結果、決して相容れることのない存在、とお互いに認識していたはずであった。
はずが、死を覚悟した刹那、俄かには信じ難い、とても現実とはおもえない、時空を超えるという超常現象にアムロは遭遇した。
時間にして、僅か1日にも満たぬ、そんな短時間で、アムロとシャアは分かり合えてしまった?はて?分かり合えたのであろうか?
シャアは・・・兎にも角にも、これからジオン公国軍に、シャア・アズナブルというジオン公国軍の少佐の下に・・・うまくやれるだろうか?
などと、宇宙港の方角に去ったシャアのザクを見届け、その方角を茫然と見つめながらもの思いに耽るアムロは、一人の少女のことを不意に思い出した。
「そうだった、フラウ・・・」
周囲の様子を探るが、辺りには人の気配すらないようだ、そうだ、父さんも・・・。
アムロは、ガンダムの音声、振動、熱源、といったセンサーの感度を上げ、広範囲に様子を探る。
戦闘は終了したのであろうか?とりあえずは爆発の振動等の大きな戦闘の様子を捉えることはなかった。
「ふぅ・・・終わった・・・のか、まずはフラウ・・・・・・父さん・・・無事に逃げてくれているといいが・・・・」
アムロは軽くバーニアを吹かし、フラウ・ボウの待つ退避カプセルへとガンダムを向かわせた。


「!?!?」
遠くへ跳び去るガンダムを、離れた物陰から茫然と見送る男がいた。
「・・・どういう、どういうことなのだ・・・・むぅ・・・まさか・・・・・・いや・・・アムロが・・・・いや・・・しかし・・・・・・」
20ブタ:2010/07/08(木) 00:28:29 ID:???
携帯通信機を使い、テム・レイは数分前に母艦ホワイトベースとの、辛うじての通信に成功していた。
しかし何せ、ミノフスキー粒子の干渉が強く、携帯通信機の出力が小さいので、断片的で一方的な発信と受信ができた程度ではあったのだが。
繋ぎ合わせ推測すると、おおよその事態はこうである。
ザクの強襲、機数は2機以上、または不明、乗組員が陸戦で迎撃に出るも歯が立たない、ブリッジに銃口を向けられ降伏、おそらくザクのマシンガンであろう、こんなところであった。
テムは、ガンダムと赤いザクとの交戦を見守りつつ、散漫的にではあるが通信を試みていたのであった。
「まずい・・・まずいぞぉ・・・・・」
ノーマルスーツのヘルメット越しに頭を抱え、テム・レイは混乱の極みにあった。
アムロの乗るガンダムの、予測を越えた働き、しかしながら、あの赤いザクをあと一歩まで追い込みつつも、そこで戦闘を中断、しばしの対峙の後、赤いザクの飛び立つのを何もせずそのまま見送るように立ち尽くしていた。
そしてその数分後、徐にガンダムもどこかへ飛び立ってしまった、それがつい先程だ。
「・・・・!?う〜む・・む・・・!!・・・1号機・・・・・・・あれまで・・・ジオンに渡すわけには・・・・・・」
頭を抱え、テム・レイの出した答え、行動はこうであった。
まず、アムロは、ジオンの工作員に狙われ、サイド7のどこぞで密かに洗脳教育を受けジオンの工作員に仕立てあげられ、モビルスーツの操縦、ハッキングの技術を身に付け、有事の際にはガンダムを奪取する手筈となっていた。
モビルスーツ、ガンダムの開発の責任者である自分の、テム・レイの息子であることは、工作員にとって絶好の隠れ蓑ではないか。
今考えると、アムロは引きこもりのようであり、人をなかなか寄せ付けず干渉を嫌うような、どこか普通の子供とは異質であった。
家で機械弄りをして引きこもっていると見せ掛け、密かに抜け出し訓練を受けたり、来たるべき日の為の下準備をしていたのではないのか。
こんなことは考えたくもないのだが、こうすると恐ろしいほどに辻褄が合ってしまう。
覚悟を決めるしかなかった。
急ぎ向かう先のそこ、幸いにして、ガンダム1号機の部品の格納庫のある軍需工廠はジオンの急襲によりそれほど大きな被害を受けていない様子であった。
ここには高出力の通信機器も用意されていたので、まずテムは連邦軍の宇宙要塞ルナツーに通信を試み、危急の事態と救援を求めることにしたのであった。
21ブタ:2010/07/08(木) 02:59:38 ID:???
連邦軍の最新鋭戦艦、強襲揚陸艦ホワイトベース。
連邦軍のモビルスーツの母艦としての機能を有する試作艦でありながら、その戦闘能力と耐久性能は連邦軍の宇宙戦艦マゼランと比してもなんら遜色はない。
どころではない、ミノフスキー・クラフトという大気圏内での浮遊飛行システムから、単独での大気圏突入、加えてなんと単独での大気圏の離脱の能力までも有する、最新鋭の技術を詰め込んだ破格の超高性能試作艦である。
サイド7、その宇宙港に数時間前に入港した、件の超高性能試作艦ホワイトベース、そのメインブリッジは現在、戦々恐々としていた。
「・・・・何か・・・何か手立ては無いものだろうか・・・・・せめて・・・・迎撃に出た者に抵抗をやめ全面降伏や負傷者の救護を呼び掛けることくらいできんものか・・・」
ホワイトベースのメインブリッジに、モビルスーツザクを駆りザクマシンガンの銃口を突きつけるジーン軍曹。
その指示により、艦長、パオロ・カシアスは最も窓際、ザクマシンガンの銃口が細部まで観察できる程の目の前に直立不動を強要され、身じろぎひとつとれない状態で悲痛に呻くしかなかった。
「・・・・・現状でこちらからの通信は・・・・・・あのパイロット、かなりナーバスになっているようにおもわれます・・・・あまり刺激しないほうがよろしいかと・・・ブライト・・・あれから何かないのか・・・外からの通信は・・・・」
そのすぐ後ろで、悔しさを露わにしたがっしりとした脂肪太りだけではない、筋肉太りの青年、リュウ・ホセイは奥歯を強く噛み締め小さく唸るようにそういった。
「・・ああ、何度も言わせるな・・・迎撃に出た者は・・・技師、軍人、ともに全滅だそうだ、死者や負傷者の数も不明・・・3機ものザクに急襲されては・・・定かではないがレイ博士かららしき通信で・・・もう1機・・・赤い色のザクがどうとかってさっき・・・」
列の5番目に並ばされたブライト・ノアは、通信機器から一番近い位置におり、ジーンの回線をOFFにしろとの指示を素直にきかずに機器のモニターの電源を切り、外部出力音声の微量な音量調整にする機転を利かせ、外からの通信は受信可能状態ではあった。
ザクのパイロット、ジーン軍曹は、お肌の触れ合い回線の状態で、ブリッジのクルーへの恫喝をしていたのであるが、これがまた厄介でストレスな状況であった。
何せ常に目を光らせていなければならない箇所が多い、ブリッジのクルーからは絶対に目が離せないのは当然として、いつ、どの角度から自分の機体が狙い撃ちされるかもわからないのである。
最初こそ一番乗りの大手柄、と意気揚々と声高にマシンガンを突きつけたものではあったのだが、デニムとスレンダーは残敵の掃討に追われており、自分の身は自分で守りつつ、制圧を続けなければならなかったのだ。
お肌の触れ合い回線で、定期的にブリッジのクルーを恫喝しつつ、周囲に注意を払い警戒を怠らない。
実際のところ、ザクのセンサーは外部に向けられており、大声で叫ぶならともかく、ブリッジのクルー達が注意を払う程に、小声の密談などに耳を傾けるような余裕はジーンにはなかったのだ。
22ブタ:2010/07/10(土) 02:08:48 ID:???
今さっき書こうとおもったら、なんかまたドコモ規制くらって書けなくなっちゃいました。
またレス代行で書いてもらってます。
需要ありましたらまた規制解除で再投下しようかとおもってます。
よかったらどなたかその日まで保守お願いしますです。
23通常の名無しさんの3倍:2010/08/12(木) 18:33:04 ID:???
保守
24通常の名無しさんの3倍:2010/08/16(月) 11:42:55 ID:???
解除だよー
25通常の名無しさんの3倍:2010/08/21(土) 12:35:31 ID:???
昔々あるところに、アムロとシャアが住んでいました。アッー
アムロが山へ柴刈りに行った日のこと。シャアが川で洗濯をしていると、川上からアクシズがドンブラコドンブラコと流れてきました。

つづく
26通常の名無しさんの3倍:2010/08/21(土) 17:46:13 ID:???
シャアはアムロと食べようと思い、家に持って帰りました。
早速、アムロがガンダムで割ってみると、中から赤ん坊が出てきました。二人はその子をアクシズと名付け、大事に育てました。
27通常の名無しさんの3倍:2010/08/21(土) 19:17:24 ID:???
「アムロ、シャア、おら、二人のお陰でこんなに大きくなっただ。聞けば近頃は鬼がやってきては村に迷惑を掛けるというんで、みんな困っとるらしい。んで、おら、鬼退治しようと思う。人の役に立ちたいだ」
そのまま出かけようとするアクシズを引き止めると、シャアは急いで核団子を作り、渡してやりました。
「行け、アクシズ!忌まわしい記憶と共に!」
28名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/08/22(日) 21:08:17 ID:LDPFHsLM
[Session 26]

 一瞬の狂熱の後に決まって訪れる、気怠い妙に冴えた気分。こんな時私はいつも、ゴロワーズに火をつけることにしている。
肉体的な欲求から解き放たれた意識は自然と浮世離れしたことを考え始めるもので、その日の私のテーマは、友情だった。
私は、生まれてから一度も友というものを欲したことはない。偽装された親愛によって罠に嵌めた相手ならば2人いるが。
数ある私の中でも最もよく知られている名の本来の持ち主と、坊や。
 …そんなことをした私には、友を求める資格などないのだろう。だが本来友人というものは、資格や欲求に関係なく、
運命というか腐れ縁というか、とにかく抗い難い力によって何となく結び付けられているものではないだろうか。
そんな相手は私にいるか?
 ―白い悪魔が、脳裏をよぎった―
 成程。友といっていいかどうかは分からないが、少なくとも離れられない仲ではある。彼は、まるで私の影法師のように
―いや、私が彼の影なのか?―ともかく切っても切れない相手だ。もしこれで相手が異性だったら?答えは簡単だ。
即座に婚姻届を提出するべきだろう。
 そういえば、と思い、私は傍らで未だに汗だくになって上下に息づく乳色の背中に眼をやる。女の少ない軍隊暮らし
とはいえ、以外と長く続いている。あるいは。亜麻色の髪の毛を愛撫しながら、私はそのあとに続く言葉を探していた。
すると、ナナイが枕に埋めていた顔を私の方に向けてきた。
 「…好奇心で聞くのですが…総帥の知っている中で、一番『強い』パイロットは誰ですか?」
 どうやらナナイも似たような精神状態にあったらしい。おかげで一つの可能性を摘んでしまった。若い者がよくいう、
「フラグクラッシャー」という言葉はこういうことを言うのだろうか。
 「モビルスーツの性能の差が戦力の決定的違いにならないように、パイロットにも、厳密には強い弱いの概念はない。
 エースにはエースの、列兵には列兵の、それぞれ己の特性を生かした適材適所がある。それが、『生きる』という
 ことだ」
 ベッドサイドの灰皿に灰を落としながら、私は自分の想う所を正直に答えた。
 「…聞き方が悪かったですね。子供の『ドモン・カッシュとサイ・サイシーはどっちが強い?』なんてレベルでは」
 聞いている間に隙が出来てしまった。煙草を口から奪い取られる。
 「それと、健康に悪いから禁煙するよう、前々から申し上げているはずですが?」
 「長生きなど興味はない。むしろ、出来るならすぐにでも死んでしまいたい気分だ」
 煙草を取り返そうと手を伸ばしたが、反対側に腕をのばされた。それを追って、自然、再び彼女の上に覆いかぶさる
形になる。やれやれ。煙草を取り返して、片手で灰皿に擦りつけて消す。軽く唇を合わせる。
 「『強い』かどうかはともかくとして、相手にしたくない男なら一人いるな。だが彼には、兵士として最も必要な
 素養が欠けていた。生存本能がなかったんだよ。自分の命よりも、任務達成を優先する。危なっかしくて、エゥーゴ
 にいた時は運用に困ったものさ。だから私たちは彼を、『ナンバー・ゼロ』と呼んでいた。愛機の名称にも因んでね…
 君も、見たことはあるだろう?天使のような翼をまとった、美しいガンダムを」
 で、私は2回戦に没頭することにした。
29通常の名無しさんの3倍:2010/08/29(日) 12:54:55 ID:???
保守
30名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/08/29(日) 22:52:46 ID:???
[Session 27]

 「くすん、くすん…」
 ぼくのだいすきなおんなのこが、ないている。
 ぼくはまっしろいべっどのうえにいる。なんでこんなところにいるんだろう。
 「どうしたの?なにか、いやなことがあったの?」
 おんなのこは、ぼくのかおをみておどろく。
 「ごめんなさい…ほんとうに、きらにはひどいことを…」
 「?」
 ぼくにはなにもわからない。

 3時間後。
 ドアを開けた時に”ドグワシャア!”という音が出る筈がないが、ラクス・クラインの耳にははっきりと
そう聞こえた。ジオン公国ともアクシズとも微妙な連携をとって外宇宙航路の利権を確保し、なおかつ連邦
にも籍をおいて地球復興事業にも参加し(外交面における大きすぎるほどの譲歩に対する国内の反感と、
蝙蝠外交に対する各国からの反感がザフト成立の直接的原因であるとされる)サイド3にも匹敵するほどの
経済的存在感を有するに至ったプラントの最高権力者らしく、地味ながらも趣味のいい執務室のマホガニー
製の大扉に、亀裂が入った。
 「キ、キラ…もう体はいいんですの?」
 「うん。これまでになく力が体中に漲っているよ。頭も最高に冴えている。何も問題はない」
 といいつつ、なぜかキラ・ヤマトは穏やかな笑みを浮かべたまま、Tシャツを脱いだ。シャツを色あせた
ペルシャ絨毯の上に放り捨てた。服の上からでは分からないたくましい陰影を誇る筋肉が露わになった。
ドアを閉めて鍵をかけると、ゆっくりと、ラクスの元に歩き始めた。彼女の顔は罪悪感と恐怖に引きつっていた。
 「落ち着いてください。私は本当に…」
 「悪気があったわけじゃないことは分かってるよ。ファイルは全部見た。ああするしかなかったって、
 分かるよ。でもね」
 歩きながらベルトに手をかける。ラクスは中腰で後ずさっていった。彼女の後ろには豪華なピンク色の
ダブルベッドがある。
 「うん。やっぱりすっきりしないんだ」
 「貴方とカガリさんを傷つけてしまったことは本当にすまないと思っています。だから、落ち着いて…!」
 「君が悪く思う必要はない。すぐに、どうでもよくなるけどね」
 キラの瞳は異常なまでに澄んだ光を湛えていた。それでもその顔は優しげなまま、ラクスの滑らかに輝く
髪に手を伸ばし、一撫でするとそのまま脇の下に手を入れた。美術品でもとりあつかうように丁寧な仕草
で持ち上げ、ベッドの上に座らせる。ラクスは固まったまま、されるがままになっていた。
 「落ち着いてるさ。それに…」
 頬をなで、ズボンのチャックを下ろす。自らもベッドに上がり、四つん這いになってラクスの体を覆った。
 「他のことなんか、すぐどうでもよくなるから」
 
 異変に気付いた警備員が居室のドアをこじ開け、ベッドの上で全裸で人事不省に陥っているラクスを発見した
のは15時間後のことであった。
31名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/08/29(日) 23:36:07 ID:???
[session 28]

 サイド2、16バンチ。
 携帯電話をポケットに入れたティファ・アディールは、ほっと一息をついた。
 アンティーク・ショップも兼ねている上品な薄暗いヴィクトリア様式の喫茶店の2階の
テラスである。噴水の池に泳ぐカルガモの群れが飛び立つのをしばらく眼で追った後、彼女は
両手で大きなカフェ・オレのカップを持ち上げ、口に持っていった。右横では
無表情のマリーダ・クルスが凍りついた青い目を正面に向けている。氷水の入ったグラス
は汗をかいたまま、動かされることはない。
 ティファと対面して座っているシャクティ・カリンがチャイ(インド風ミルクティー)が
入れられた上品なマイセンのカップを口から離し、ソーサーに置いた。
 「引き取ってくれるところは、見つかったんですか?」
 「ええ。サイド3の、トリエさんが通っている施設で面倒を見ていただくことになりました。
 医療施設も整っている所ですので、心配ありません」
 「そう、それは…」
 よかった。といおうとして、シャクティは口をつぐんだ。既に済んでいる簡単な診断の結果は、
あまりにも過酷なものであったからだ。
 「私、彼女の声がずっと聞こえていたような気がします。空間に溶け込んだ、とても悲しいリズム。
 今では薄くなっていますから。眼に入っていたのに、そういうものだと思って、なんとも思わないで…」
 「私も、あの夢を見るまでそうでした。人の心が分かるからいつの間にか鈍感になっていたんだと思います」
 「夢…?」
 答えの代りにティファは眼を伏せた。内容は思い出したくもない。目覚めたとき、ガロード・ランは冷静に
武装を整え、殴りこみの準備をしていたのであった。
 「戦いがなくなればいい。そういって、私は逃げていたのかもしれません」
 マリーダを見つめながら、答えた。
 「逃げるだなんて、そんな」
 「戦わなければいけない事。それがなくなることはないのでしょう。とても悲しいことですが…
 でも、私たちならできる、私たちにしかできないことがある。彼女は私にそれを教えてくれました」
 二人は無言のまま、再びカップに口をつけた。
 風の音が強くなった。シャクティが視線をライトブラウンの水面から再び正面に戻したとき、
ティファはマリーダを見ていた。かに見えた。彼女は外を見つめたまま、無表情で固まっていたのだった。
口からカフェオレが垂れている。思わず同じ方向を見て、シャクティは盛大に茶を噴出した。

 コロニー内の統制されているはずの気流が乱れていた。
 そしてそこには、カルガモの群れの代りに、大量の女物のパンツが乱舞していたのだった。
32通常の名無しさんの3倍:2010/09/11(土) 17:23:21 ID:???
うしさん うしさん どこいくの

ぐるぐる ぱらぱら たのしいな

夏のお日様で からだが焼けるよ

くちゃくちゃ もぐもぐ しょうにゅうどう

お水のなかは たのしいな

トンネルとおって さようなら

はえさん はえさん こんにちは
33名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/09/19(日) 11:30:33 ID:Kdz/HGGZ
pixivに前スレの分を上げときました。
ttp://www.pixiv.net/series.php?id=9391
34通常の名無しさんの3倍:2010/09/19(日) 19:19:13 ID:???
海のなかに母をみる
35通常の名無しさんの3倍:2010/09/21(火) 21:03:01 ID:???
面白いな
36名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/09/22(水) 07:34:37 ID:???
[Session 29]

 「…で、前回はどこまで話したんだっけ?そうそう、俺とクリスがサイド3から出て行ったところまでだったね。
軌道エレベーターのコストを賄うために木星航路を連邦に渡せといわれて、ザビ家シンパどころか独立に反対
していたような人たちまで連邦討つべしとか言い出したんだ。クリスが辛そうな顔するようになってね…ホント、
なんでああなっちまったんだろ。小隊長…いや、今は辺境伯閣下か、随分心配されたよ。ウラキ大尉(当時)も元は連邦軍だったからね。
 で、サイド2に引っ越したんだ。その矢先にあの事件だよ(笑)
 お宅まで爆笑してどうするwwwOKとりあえず冷静になろう。
 その頃俺たちはオカルト雑誌の編集部で働いてたんだ。目が3つある鬼とか、どれだけ傷つけられてもすぐ再生する不死身の人間とか…
そんなもんさ。で、休日にデパートまで買い物にいったって訳さ。そしたら行く途中に…wwww
 クリスは立ち止まったまま『ぱんつ…いっぱい…』なんていって、大量のパンツに押しつぶされるしwwwwww」
 「あそこには、謹慎後まだ復職が許されず、休暇中だったギュネイ・ガスもいたそうですが?」
 「彼も見かけた。後で写真を見てすぐに分かったよ。やはり錯乱していて、『俺はジャガーだ!サバンナに帰る!』とか、
『希望の最後は死にあらず!』とか、意味不明な事を叫んでいた。
 …しかし、キラ准将も気晴らし半分とはいえ、とてつもない真似をしたもんだね」

‐『宇宙百年史』取材ファイルけー665より‐
37通常の名無しさんの3倍:2010/09/22(水) 20:36:47 ID:???
グッジョ!>名無しLT2さん

>「俺はジャガーだ!サバンナに帰る!」
吹いたwww(汗
38通常の名無しさんの3倍:2010/09/25(土) 23:48:33 ID:gHWNg0kb
第一章 ”ドアが開かない”
俺のベイビーたちがわめいている。
どうやらトイレのドアが壊れてトイレにいけないようだ。
どうしようかと一瞬迷ったが俺はある方法を思いついた。
俺は彼女たちを集めてこう言った。

「俺のけつの穴にうんこしろ」

彼女たちはそれを聞いたとたん歓喜で舞い上がった。
一部はそうでもなかった。
なぜなら早くやりたいからだ。
早速俺は彼女らに俺のけつを差し出した・・・

「ふう、腹ん中がぱんぱんだぜ」

1時間後、ケツベンキも終わり、彼女らは万遍の笑みを浮かべながら
寝ていた。
俺も寝るか・・・
39通常の名無しさんの3倍:2010/09/25(土) 23:49:56 ID:gHWNg0kb
第2章 ”まだ開かない”
俺のベイビーたちがまたわめいている。
どうやらトイレのドアがまだ直ってないようだ。
俺は彼女たちを集めてこう言った。

「俺のけつの穴にしっこしろ」

彼女たちはそれを聞いたとたんまたまた歓喜で舞い上がった。
早速俺は彼女らに俺のけつを差し出した・・・

「ふう、腹ん中がぱんぱんだぜ」

1時間後、ケツベンキも終わり、彼女らは万遍の笑みを浮かべながら
俺に抱かれていた。
俺も寝るか・・・
40通常の名無しさんの3倍:2010/09/25(土) 23:50:59 ID:gHWNg0kb
第3章 ”強盗登場”
窓が割れる音がした。
彼女たちは寝ている。
なんだろうと思い、見に行くとそこには不審な男がいた。
男は俺に向かって銃弾を撃った。
頭に2発。腹に5発。両腕に7発。チンコに1発。

俺は痛みで気絶した・・・
41通常の名無しさんの3倍:2010/09/25(土) 23:52:02 ID:gHWNg0kb
第4章 ”俺の彼女らが危ない”
俺はおきた。
まわりを見渡すと血まみれ。
彼女らの死体が転がっている。
俺は立ち上がろうとした。が、頭と両腕と腹とチンコが痛い。
俺はがまんして立ち上がった。

廊下へ向かうとそこにはあの男がねていた。
俺の彼女と。

俺は怒り狂った。
俺は男の首を絞めた。
しばらくすると男の頭は破裂した。

「ははは、いい気・・・味・・・だ」

俺は意識がなくなり、死んだ・・・
42通常の名無しさんの3倍:2010/09/25(土) 23:52:58 ID:gHWNg0kb
第5章 ”ジョン登場”
ボディーガードのジョンが旅行から帰ってきた。
ジョンは驚いた。
裸の女が死んでいるのだ。
ジョンは性欲に耐えられず、とうとう・・・

〜3時間後〜

ジョンはおきた。
周りには警官がいた。
ジョンは察した。自分は性犯罪者だと、
そして死体プレイをしたいあまり寝ぼけて殺人鬼を呼んだことを・・・

終了
43ブタ:2010/10/14(木) 01:54:43 ID:???
「──きこえるか?私はジオン公国のシャア・アズナブル少佐である──不躾ではあるが艦長と話がしたい───」
港に侵入し、シャアのザクはホワイトベースを確認するや、すぐさまブリッジにとりつきやや高圧的にそう触れ合い回線でブリッジのクルー達に告げた。
「・・・・・パオロ・カシアス中佐、この艦の艦長だ、かの名高い赤い彗星につけ狙われるとは私の不運であったな」
やや気弱な文言とは裏腹に、その深い年輪を伺い知れる重厚な貫禄を漂わせつつ鋭い眼光を赤い一つ目に突き刺す。
「──なに、こちらも僥倖ではあったさ、いや、これは交渉ではない、貴官のような歴戦の勇士なればこそと見込んでの賢明で簡潔な返答をいただきたい──」
傍らの緑色のザクに目配せするかのような具合に赤いザクをそうするシャア、それに応えジーンのザクは油断なくザクマシンガンでブリッジに一層の威嚇をする。
「・・・・・・・・・・・・・・」
計ったかのように都合良く、眼下にジオンの工兵であろうノーマルスーツ姿の部隊が艦にとりつきつつあるのを確認したパオロは口惜しく重い言を吐き出す。
「・・・降伏しよう・・・ただし、生き残った部下達の生命の保証と、負傷者の救護にあたらせていただきたい・・・・」
「艦長!?!」
傍らに控える若年の者達、リュウ・ホセイとブライト・ノアの2名が特に声を荒げそう叫び、また何か訴えかけようとするのをパオロが制した、が。
「──承知した、といいたいところではある、が申し訳ない、いったはずだ、交渉ではない、と
───貴官の、および部下の生命は保証しよう、がしかし、危険は侵せないのも理解していただきたい、負傷者の救護はサイド7の民間人にやってもらうことになる」
有無をいわせぬ威圧に屈する以外の選択肢がないのを悟るかのようにパオロはいう。
「・・・致し方ない、か、我々は虜囚の身になる、では赤い彗星の名において約束してもらいたい、負傷者の救護をできる限り早急に、ならば降ろう」
「──賢明な勇気に感謝する、赤い彗星の名に誓って負傷者の救護と生命の保証を約束しよう───」
誰に見せるでもない毅然とした敬礼をし、シャアはそういった。
44通常の名無しさんの3倍:2010/10/14(木) 04:00:06 ID:???
規制解けたのかい?おめでとう。待ってたよ
45ブタ:2010/10/14(木) 18:01:17 ID:???
>>44ありがとう。

だいぶ前に規制解除されてたんだけど、なんか書こうとおもうとドコモ規制されててまた書こうとおもうと規制されてて・・・
なんてのの繰り返しがあったから少し萎えちゃっててさ。
よかったらまた書き続けてみます。
46ブタ:2010/10/15(金) 01:53:46 ID:???
──これ─上の──抗は無───民間人─有──救───っ───
軍需工廠内に併設された簡易ながらも高出力を誇る通信施設室内においてテム・レイは、コロニー内全域に繰り返し流される放送を耳にしてからというものの焦燥感を更に加速させていた。
「・・・やはり・・・・・ホワイトベースは陥ちたというのか・・・」
戦闘の終結、連邦兵への降伏の呼びかけ、ホワイトベースは陥落、パオロ艦長以下生き残ったクルーは捕虜となり、民間人に先の戦闘における負傷者の救護を呼びかける、そういった旨の放送が先程から繰り返し流されていた。
焦りを抑えつつテムはルナツーとの交信を試みようと慣れない機器を半ばあてずっぽうに弄くり回し、暫し首を捻りながらも遂になんとかルナツーとの交信に成功した。
「・・・おっ・・・・きたか・・・・・ああ、SOSだ、こちらはサイド7の秘匿施設に駐留するテム・レイ技術大尉、そちらはルナツーで間違いないな?SOSだ、至急、ルナツーの司令部まで繋げていただきたい、非常事態だ」
モニター越しに乱雑な女性通信士らしき姿の映像が映し出されるやいなや、焦りを隠せないテムは少々それらしくない言の通信をおこなった。
「──はい?─こちらルナツー第31採掘施設の──といいますか、ええと、司令部への通信でしたらこちらではなく──ええ、外部通信専門系の部署かぁ──ルナツー参謀本部?経由にお願いしたいんですが───どうぞ」
とりあえずこめかみの辺りでなにか音がしたような気がしたテムは、その気だるそうな口調と態度と不可解な返答をする通信士に少々狂乱状態で鬱憤を晴らすかのように一通り怒鳴りまくし立ててから司令部へ通信を経由させると危急の事態を告げた。
「───了解した、しかし──あのパオロ中佐をして────赤い彗星か────」
「あれを・・・・V作戦の全貌をジオンの手に渡すはいかんのです、あれには連邦の・・・・・・兎に角、至急手立てを、くれぐれもお願い致します、ワッケイン司令」
敬礼するテムに、あまり人相のよいとはいえないといった感のある堅物のエリート風の青年将校は、何やら内に期したかのような眼差しと答礼で応えると最後にいう。
「──何分、ご存知だとはおもうが──こちらも状況が余談を許さないのだが──出来うる限りの───最悪、アレを使ってでも断じて──いや、参謀達とはかり迅速に全力を上げて対処する、あまり期待はせんでくれ」
「・・・はい、では」
通信を切るとひとつ大きな溜め息をついてからテムは次なる仕事に取り掛かろうとその部屋を後にした。
47ブタ:2010/10/15(金) 20:07:43 ID:???
──少々困ったことになった。
アムロはガンダムのコクピットでこれからの我が身の行く末に考えを巡らせていたところに突如として救難通信を、父親と、あれはルナツーのワッケイン司令だった、とのやり取りの一部始終を傍受していた。
先刻、フラウの待つ退避カプセルに彼女を迎えにいき、扉を開き彼女を見つけるや、思い切り泣きながら抱きつかれたのにも少々難儀したが・・・
恨めしそうにこちらを見る視線が逆に、そのなんとも嫌な目つきで睨んでくるハヤトに彼女を任せておけば安心だろうと彼にその場を頼み、再びガンダムに乗り込み宇宙港を目指すことにしたのだ。
しかし、何か今一歩どうしたらよいのやら、どこか気まずいような気分になり、途中でガンダムを立ち止まらせてしまった。
暫くの間、もの思いに耽っていると、ジオン、シャア等がコロニー公社の施設でも制圧したのであろうか、市街の所々に設置された街宣スピーカーから盛んに繰り返し戦闘終結等の声明が流れ出したのを漠然と聴いていたその矢先の事であった。
──まいったな、親父のやつ──これ───モビルスーツの工場のあたりか───
ここに留まったとて兎にも角にもなんともはや、といった具合でもあったのでアムロは、先刻シャアと戦ったあの近辺、軍需工廠のある方角へとガンダムを飛び立たせた。
到着し辺りを見回してみると、先の戦闘の爪跡が色濃く、残っていたのは以前に知る歴史のそれであり、目の前の光景の施設は殆ど無傷のような状態であり、しかしながらモビルスーツの戦闘が付近でおこなわれたこともあってか、そこには人の気配は感じられなかった。
さて、通常の出入り口はIDカードでもなければ破壊するかでもなければ侵入不可能であろう、工場の物資搬入搬出口であろうか、コンベアレールの続くその先の入り口は開いてはいるようであるが・・・・暫し様子を伺っていると
─────?!
港の方角から2機、モビルスーツらしき機影を確認したアムロは無意識に身構える。
近付きつつあるその内の1機が赤い機体であるのを確かめるとアムロは小さく一息ついた。
48ブタ:2010/10/15(金) 22:12:03 ID:???
──アムロか?木馬のブリッジで救難通信を傍受したのだが──事情はわかっているか?──
赤いザクからの通信にアムロが応える。
「──ああ、シャア、偶然というのかな、俺もきいたが──それでここに───────」
──スレンダー、貴様はこのままここで待て、私はこの白いモビルスーツのパイロットと共に施設内を探る───
身構えるもう1機、緑色のザクに待機するよう指示し、白いモビルスーツが味方であるとあらためて念を押してからシャアは愛機から軽快に地に降り立った。
それに倣うかのようにアムロもガンダムを片膝立ちのような状態にしてハッチを開放すると素早く滑り降りた。
「シャア、あそこから侵入できそうだが・・・」
アムロは施設の外壁に隠れるようにしながらシャアと合流すると、物資搬入出口を指差す。
「・・・貴様と違ってこの手のことはなかなか得意なものでな、ついてこい」
簡易でも工作用の装備が一式あれば俺だってこのくらいのこと、などと一瞬おもってしまったが呑み込むと俊敏にシャッターの開放された搬入出口に向かうシャアに続いた。
施設内部に入ると程なく厳重な2枚目のシャッターに行く手を阻まれた2人であったが端にある扉を確認すると、扉の向こう側を慎重に探る。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・物音がする、機械・・か・・・何かを動かしているようだ・・・・・」
扉やシャッターの向こう側から──ひゅーん、カッ、キュリキュリキュリキュリ───といったような、明らかに何か機械を動かしているような音を確認したアムロがいう。
「・・・・・なんともお粗末なIDロックのようだが・・・これならロックを爆破して侵入できる、いいか?」
シャアは取り出した少量の爆薬と信管、リード線を手早くロックに仕掛けると爆破を避ける体制に入る、が、爆破の前に隣のアムロに予備の拳銃を差し出す。
「まさか丸腰で軍事施設に不法侵入、しかも強行突入、というわけにもいかんだろう」
ほんのり苦笑いをするアムロが拳銃を受け取りながら応える。
「では、お借りしますよ、シャア・・・少佐」
「期待しているぞ、アムロ・レイ少尉」
「??・・・少尉?」
「非常に優れた力のある民間人の登用、で戦時任官としてはまあ妥当なところだろう、貴様ならすぐ手柄を立てて元の大尉以上にでもなれるだろう、今作戦の報告書に添えて色々と上申しておくとしよう」
首を窄め冗談めかしてから、アムロとシャアは目配せで合図をする
「・・・・・3、2、1」
49ブタ:2010/10/16(土) 19:26:53 ID:???
─!!────
ハッ、と、小さい爆発音のような音に、背中に冷や汗のような脂汗のようなものとが一瞬にして浮かび上がると同時に全身をびくりとさせたテム・レイは、手元の操作レバーを手放す代わりに腰に差した拳銃を右手に握り咄嗟に身を屈める。
身を屈めながら恐る恐る小さな爆発音らしき音のした方向を確認しにコンテナや機械の物陰を隠れながらそそくさと進む。
「・・・くっ・・・あと少しのところを・・・やはりこちらを先に・・・・」
100メートル弱程先のシャッターの脇に確認できる扉が小さく煙を上げながらだらしないように半開きになっているのを発見するや、少し判断を誤ったか、と悔いるテムであったが、焦燥感の中で携帯無線機を使用する安っぽい閃きが突如都合よくというのか浮かんだ。
先程きた物陰を順に後戻りしながら、工具箱を目指し辿り着くと急ぎ開く。
次に無線機の有線で繋がるマイク部分を、道具で有線部分を根元から綺麗に切断すると、ひとつ大きく息を吸い込み吐き出してから徐に工場内の広い空間に姿を晒す。
「・・・何者だね?・・・そこに潜んでいるのはわかっている・・・・姿を見せたらどうかね?・・・・」
左手には先程切断した無線機のマイク部分を胸元に、右手には拳銃を持ち、小さな震えを隠せないテムは少しばかり虚勢を張るようにそう声を上げた。
おそらく、いや、間違いなく侵入者はジオンの兵であろう。
しかしながら技術士官であり、それらしい訓練など受けていない自分には華々しい銃撃戦などを披露したところで万に一つも勝機などある道理があるまい。
加えてこちらは一人きり、敵の人数や装備なども皆目わからない、とれる手段は・・・駆け引き、交渉、ハッタリ、時間稼ぎ、逃走、くらいのものか。
様々におもい巡らせていると、左手前方の物陰から拳銃を右手に持ち両手を高く上げた赤毛の───テムには見慣れた少年がそこから落ち着きを払ったかのようにゆっくりとあらわれた。
「・・・・父さん・・・・・・」
「・・・アムロか!!・・・・おまえというやつは!!・・・・」
何か複雑でどこかにやり場もないかのような、喪失感とも近からず、どうにもしようがない不明瞭な感情の高ぶりに、テムは我が子に対しそう怒鳴りながら、ほんの少し目に汗のようなものが滲むのを感じていた。
50ブタ:2010/10/17(日) 01:28:47 ID:???
こちらの姿を確認するや大きく目を見開き少し驚いたような表情を見せた父、が次には哀しみともつかぬ険しい眼差しを銃口と共に向けられる。
「・・・どうやら私は・・・・いや、私は決しておまえにとっての良き父親とはいえなかったな・・・・・・それはすまないとはおもっている・・・・しかし何故だ、アムロ・・・おまえのような子供がジオンに与する理屈がわからん・・・やはり父親である私への・・・」
父の、自分に対する何か少々の曲解があるのと軽いショックというか興奮状態であるのがアムロには伝わりはした、しかしどうしたものか?
事実をありのままに話したとて到底理解してはもらえぬであろうこと、しかし、この事態を収拾せねばならぬ。
まさか父親を撃つなどというわけにもいかず、然りとて同行するシャアにとってはそのような事情はアムロだけの問題であり、ただ敵を倒す、というのが一番手っ取り早くというか事態を収拾する当然の行動である。
ジオン側から見れば敵の士官でしかない父を救いたい、というのか見殺しにしたくないというのか、アムロの置かれた状況や立場から苦心し複雑なおもいが、自らを晒すという無謀ともいえる行動に自然と駆り立てたのか。
「・・・・銃を・・・床に置きますよ・・・・」
アムロはゆっくりと膝を突き足元に拳銃を置くと、少しばかり足で横に蹴り滑らせた。
「・・・・これで丸腰です、父さん、落ち着いて話・・・」
「動くな!・・・それ以上こちらにきてはならん!・・・これが何かわかるか?・・・工場の爆破スイッチだ、これを押したが最後、ここにあるモビルスーツも部品も、私もおまえも木っ端微塵だ」
テムは左手に持つ爆破スイッチ、もとい無線機のマイクをくぃっと軽く己の胸の前でひとつ上げ下げし、そうハッタリをかけた。
「・・・・少し誤解があるけど・・・俺が今、ついさっきからなんですが・・・ジオン軍に身を置くことに決めたのは・・・別に父さんが悪いとかそんなことではないんです・・・・いや、今はそんなことを話しても理解してはもらえないですよね・・・」
そんなことを洩らすアムロは、テムの背後、僅かに右の角度に位置する死角の、10数メートル離れたコンテナの陰から合図とサインを送るシャアの姿を視界に捉えていた。
他に敵の姿はなし、時間を稼げ、といったようなサインをシャアは出していたようである。
「・・・アムロ、おまえはここに何をしにきたのだ?・・・・・まあいい、私はガンダムの・・・連邦のV作戦の責任者でもある・・・そうだな・・おまえがここにきたということは・・・・間も無くジオンの部隊がここに・・・」
少し渇いたような自嘲をしたテムは、少し視線を落とすとそう言葉を切った。
「・・・父さんもきいたでしょ・・・ホワイトベースは陥落して・・・父さんが要請したルナツーの救援はそんなすぐにはやってきません・・・ジオンに抵抗して命を粗末にするようなそんなこと・・・お願いします、投降してください!」
「・・・ふっ・・・そうだな・・・・・責任はとらねばならん・・・息子がジオンの兵士だったとも気付かず・・・V作戦はジオンの手に渡ってしまった・・・」
「・・・だから父さん、今は・・・・」
「・・・・・・父さんのガンダム・・・か・・・アムロ、今日はな、ほんの一瞬ではあったが父さんはな、少し嬉しかった・・・人に自慢できるような孝行息子に成長してくれた・・・と、私の誤解というか錯覚でしかなかったのがつくづく残念でならないのだが」
徐に、テムは右手に持つ拳銃をこめかみに当てると、悲しい微笑みをアムロに向け真っ直ぐに視線を合わせた。
「!─??!──父さん?!──なに!?」
「・・・・アムロ、父さんはたとえおまえがどんな人間であったとしても父親として愛しているということを忘れないでほしい・・・それと・・・もし地球にいる母さんに再会することがあったら・・・いや、未練だな、・・・・では、さらばだ、アムロ」
「やめ!──とぉさぁぁん!!」
──ガァン─────
アムロの悲痛な叫びと銃声とが殆ど同時に重なり辺りに響き渡った。
51通常の名無しさんの3倍:2010/10/17(日) 12:33:12 ID:???
南無ーテムからすればこうせざるをえんだろうな。やりきれねー
52ブタ:2010/10/18(月) 00:55:04 ID:???
──────?!
右の二の腕、に銃撃を受けたのであろうか、その手に握られた拳銃は瞬時の痛みと衝撃からか、弾かれたかのように小さな放物線を描き乾いた音を立てて床を跳ねつつ横方向に滑った。
同時に膝を突きうずくまったテムは、傍目で見る限り意味をなさぬとおもわれるが穴の空いたノーマルスーツの上から反射的にか左手を患部に添える。
驚き右後方、背後を振り返るとそこには、異様なマスクとヘルメットを被った奇妙な身なりの男が拳銃をこちらに構えゆっくりと近付いてきている。
「・・・うっ・・な・・・ん・・・・・・く、くるな・・止まれ・・・・」
やっとそれだけ声を捻り出すとテムは、左手にまだ握られていた効果のない爆破スイッチでその男を威嚇する。
「・・・テム・レイ技術大尉ですね?V作戦を統括する責任者と伺っております、私はジオンのシャア・アズナブル少佐だ」
シャア・アズナブルと名乗った男は、テムの威嚇など毛ほども感じぬ様子でまったくお構い無しといった具合に近付いていく。
「・・・よ、よせ!止まれ!・・これを・・・爆破スイッチを押すぞ・・・・」
ふむ、と3、4メートルの位置までテムに近付いたシャアは、足を止め顎に手をあてると
「・・・それが押せるのであればもう疾うに押しているのではないか?そもそも貴方には、たとえそれが本物の爆破スイッチであれ、押せない事情もあるのでは?」
困った、捕虜となるのはテムにとっては最悪のケースである、そのような事態も軍属となるにあたりほんの少しは考えぬでもなかったが、そうなった場合、執拗な尋問、拷問に耐えることなどは当然ながら無理である。
「ここには御子息のアムロ君もいる、が何より、貴方は自身の仕事に誰よりも自信と誇りをお持ちのはず、己が才の結晶ともいえるモビルスーツをいとも容易く無惨な残骸にはできぬのでは?」
すべて見透かしたようにそう言い切るこの男、・・・ああ、先程もシャアと、赤い彗星、ジオンのプロパガンダ放送で・・・あの奇妙な格好が確か・・・・しかし、
心血を人生を捧げる覚悟で取り組んだV作戦をその敵に強奪され、その上、その全貌まで自らの口で喋らされるなどとは。
屈辱、などとぬるいものではない、死んだほうがいくらかマシ、というものだ、と、つい先程、僅かにであれ責任をとる意味でも自決の道を選んだばかりだというのに。
状況とは如何ともし難い、もはやどうにもならぬ、いよいよもって追い詰められるとは・・・。
そして更にシャアは続ける。
「・・・ご同行願えませんか?・・・・貴方には私達の為にもやってもらわねばならぬことがあります、御子息のアムロ君と共に・・・いえ、誓って悪いようには致しません」
ふん、と、虚勢を張るようにしてテムがいう。
「・・・私は何も喋らんよ、たとえ拷問されようが殺されようがね、技術者であれ、腐っても私は連邦の軍人でもある、ジオンに利する行為などは御免だ」
「うむ、いいでしょう、今はそれで結構、それと貴方に危害を加えるつもりはない、・・・先程は少々手荒ではあったが・・・では、木馬・・・ホワイトベースまで大人しくご同行を願います」
自決した、とおもわれた父と、シャアの介入で目まぐるしく流れる状況を呆けたように見ていたアムロが、唐突に声を上げる。
「・・・シャア・・・父さん・・・怪我は・・・・・いや、シャアどうするつもりだ?」
うん?と、アムロを見るとシャアがいう。
「・・・そうだな、平たくいえば・・・・今の私には一人でも多くの同志が、協力者が必要だ、ということだ、アムロ、お前の父上はこの時代では稀有なモビルスーツ開発の第一人者だろう」
・・・いったい・・この男は・・アムロまで・・・さっきから・・・・何をいっているのだ?
「・・・近しい存在、身内であればもしや、などとな、アムロ、どうにかして成らぬものをも成すようにな、お前の努力に期待してみるさ、宜しく頼む、というつもりだ」
どうにも随分と色々とご都合主義の無理矢理な話ではある、が、アムロにとっては父の命をとりあえずは救えた、そんな安堵が張り詰めた糸を切り大きく息をついた。
「・・・もはやどうにもならんか・・・捕虜の扱いは南極条約に則って・・・いや、好きにするがいい・・・」
自決を覚悟までしたその反動もあろうか、何やら色々と多すぎてか、面倒な気分にもなったテムはそういうと、無意味な爆破スイッチを傍らに放り投げ、右手をダラリと下げ左手を上げた。
53ブタ:2010/10/18(月) 01:09:27 ID:???
>>51
あいや、すまんね(苦笑)
死ぬ展開だよ、どうかんがえても、自分で書いてておもったが
一応、テムには今退場されては後々困る理由があったんで
まあ無理無理な展開が今後も続くけど、無茶というか暴挙を連邦にやってもらう予定だったり
そうでもせんと成り立たんので勘弁してください
54ブタ:2010/10/18(月) 21:29:34 ID:???
一段落、といいたいところではあるが、事態は差し迫っている。
今後のまず一番の問題は、ルナツーからの派兵であろう、今すぐに脱兎のごとくここから逃げ出し、ジオンの制宙権、少々距離はあるが遠くソロモンに帰還するのならばそう難しいことではないだろう。
しかし、勝ち取り獲た折角の戦果をみすみす捨てるなどとはできない相談である。
ここから暫くは時間との戦いでもある。
シャアの対応は迅速であった。
まずは数名の兵を呼び、テム・レイの連行、ホワイトベースの警戒にデニム曹長のザクを残し、連邦製モビルスーツやその武器、部品の回収をザクとアムロのガンダムを使いおこなう。
また自らもホワイトベースへと善後策を練りに、ホワイトベースの離陸、臨戦態勢を整えに帰還する、大まかにいうとそのような指示を無線を介しおこなったようだ。
「・・・アムロ・・・・これは・・・ガンダムに間違いないな?やはりもう一機あったのだな」
ノーマルスーツをはだけさせたテムの応急手当てをしながらアムロが、シャアの問い掛けに振り返る。
テムのほうはというと、幸いにも、というのか、シャアの腕がいいのか、銃撃を受けた右の二の腕は少し出血はあったものの皮を抉った程度の比較的軽傷であった。
丁度、テムの腕に包帯を巻き終わったアムロが、工場内に中途半端にクレーンで宙吊りにされたその上半身を見上げいう。
「やはり?とはどういうことだ?・・・まあ、見ての通り顔はガンダムだが・・・」
カラーリングこそ、アムロの駆るガンダムを白、次いで赤や青を基調とするのであれば、これは黒、そして赤や白を基調としており、少々派手なイメージのあるガンダムらしからぬ色調ではある。
が、その形状はガンダム、RX-78そのままであるように見える。
「何かの本でな、前に・・・一年戦争期の、まあ、ゴシップ雑誌紛いの下らん記事ではあったが・・・見出しにつられてな、流し見た程度のことだが・・・」
アムロがまた、父親の方に向き直り何か問う、機先を制しテムがいう。
「なんだ!アムロ、私はなにも喋らんぞ・・・」
困ったように顔をしかめるアムロをよそに、少々辺りを見回した後、ニヤリ、と彼らしい嫌な笑いを浮かべるとシャアは、クレーンを操作するコントロール機器へと足早に駆け寄り、パネルやレバーを弄りまわした。
ヒューン、と、宙吊りのそれは横方向に移動をはじめた。
その先には膝を折り地についた格好のような機械の下半身があるようだ。
腰の部位には折りたたまれた例の戦闘機が埋め込まれている。
最後にシャアが器用にレバーを操作すると、寸分のズレもなくクレーンに吊られた上半身が膝を折る下半身の上に乗る。
そして独特の起動状態を示すその双眼が光を放つ、と同時にクレーンが切り離された。
人型となったそれにシャアは悠然と歩みを進めると、先程よりも更に笑いを歪め、アムロとテムの方を振り返る。
「・・・・一度試してみたいとおもっていたのだ」
55ブタ:2010/10/20(水) 00:37:32 ID:???
「では、アムロ・レイ少尉、命令を伝える、2機のザクとガンダムを使用し、急ぎV作戦のモビルスーツ、及び部品、武器弾薬の木馬への回収作業に取り掛かれ」
そう唐突にいうとシャアは、満足げに目前のガンダムらしきモビルスーツを見上げると続ける。
「作業に関する一切は貴様に一任する、ザクのパイロットのスレンダー、ジーン、両軍曹と他3名と協力を密にし、迅速におこなえ」
ひとつ視線を落とし手元を覗き込んだ後に更に続ける。
「・・・うむ、リミットは迫っている、フタヒトマルマルジャストにサイド7を出航する、30分前までにはすべての作業を終え木馬に乗り込み、出航時には第一戦闘配備でガンダムに搭乗し臨戦態勢をとれ、以上だ」
敬礼するシャアに答礼し、アムロが応える。
「了解!アムロ・レイ少尉、これより回収作業に取り掛かります!」
そしてアムロもまた、手元を覗き確認する。
(・・・・時間がない・・・あと3時間と少しか・・・・・)
「うむ・・・ところで・・・・テム・レイ大尉・・・これには1、とあるが・・・これはシロイヤツよりも性能が劣るのか?・・・あれにはRX-78-2、とあったはずだ・・・残念ながらこちらは旧式、ということか・・・」
よく見て気付く程度に、機体に刻まれたRX-78-1、の型式番号らしき文字を見つけ見つめるシャアが気持ち僅かに沈んだかのような声色で問い掛けた。
「何をいうか!旧式などと・・・1号機であれガンダムはキサマ等ジオンのザクなどすべての面において問題にもならん機体だ!・・・その機体は通称、プロトタイプ・ガンダムと呼ばれ型式もRX-78-1、とされてはいるが2号機と基本的には何もかわらん・・・
いや、むしろ、1号機の試作テストの過程において露呈した継戦能力と安定性の僅かな不満点を解消する目的でその点を重視し補填し少し手を加えた仕様の2号機と比べると実質的な出力や機動性は2号機よりも・・・!?」
「うむ、テム・レイ大尉、博士の言によるとこれはむしろ私好みの機体、ということか」
何か、今日は色々とあって、あり過ぎてきっと疲れているのだ、そうだ、きっとそうだ、そうに違いない、そのように、テムは頭を抱えた。
巧みにパネルを操作し、シャアは開放されたプロトタイプ・ガンダムのコクピットへ颯爽と乗り込みハッチを閉じ、そして外部出力音声でいう。
「──程なく必要な人員が到着するはずだ───ではな、アムロ、よろしく頼む──ゲートを、シャッターを開いてくれ───時間はあまりない、遅れるな───」
いうなり、モビルスーツには少々低い工場内を、機体を少し屈ませ進むシャア、その様子に今気がついたかのようにアムロは慌てて工場内機器の操作パネルに駆け寄り急ぎ開放をおこなった。
外へ出たシャアのプロトタイプ・ガンダムの姿はザクに乗るスレンダー軍曹を一瞬驚愕させたが、2、3無線通信で命令を下すと入れ代わるようにザクは工場内に消えていった。
次いで木馬、ホワイトベースへも通信をおこない一区切りつけると、またシャアは口元を歪ませつつ独り言ちる。
「・・・これがガンダムか・・・・悪くはない・・・・意外にしっくりくる・・・!!」
いうなり、慣らしもそこそこ、バーニアを全開に吹かし、赤、くはない黒い彗星となりコロニーの中空を暫し飛翔する、と元の軍需工廠地区へと舞い戻る。
そして、会心の笑みを浮かべた後に、自らが先程まで搭乗した赤い機体をプロトタイプ・ガンダムで力強く抱え上げると、ホワイトベースの待つ宇宙港に向けまた飛び立った。
56通常の名無しさんの3倍:2010/10/20(水) 13:06:19 ID:???
プロトガンダムシャアかっけぇ!
57ブタ:2010/10/21(木) 00:01:15 ID:???
──予定通りにはいかないものだな───
手元の時計に視線を落とすと、アムロは少々の苛立ちを感じ、爪を噛みそうになる自分に寸前で気付き苦笑いする。
ガンタンクのA、Bパーツ1組、ガンキャノンのA、Bパーツを2組、コアファイターが4機、ここまでの機体を運搬する作業に時間の半分以上を費やしてしまった。
ガンダム関係の部品、武器、弾薬、だけはほぼ残らず回収が終了していた、が、ガンキャノンとガンタンクの部品、武器、弾薬の回収作業が間に合いそうにない。
最悪の事態を想定し、もしもの予備戦力の足しにでも、と欲張ったのがいけなかったか、ガンキャノンは1機でコアファイターは2、3機でもよかったか?などと考えながらも、今はリミットぎりぎりまで作業にひたすら従事するしかない。
先刻、ジオンの兵士に連行されていった父、テムが、少々元気がなかったのも気になってはいたが、そう問題もないだろうか。
「───アムロ!─っと少尉殿?──次はこのコンテナでいいんですかい?───」
───まったく──このジーン軍曹がもう少し手際よくやってくれてたら────
と、愚痴はよそう。
「───ああ、それは次でいい、こっちを頼む」
ガンダムのマニピュレーターで指差すと、ジーン軍曹のザクは、了〜解、と無意味な敬礼のアクションをとりコンテナを担ぎ上げた。
突然の新参者少尉で、姿はガキだからってこりゃ酷い、まあ少し階級が上ってだけで素直に従うなんて逆に弱々しいパイロットもなかなかいないものだが。
反対に、スレンダー軍曹はよくやってくれている。
「・・・・あとこのくらいか・・・・・こっちが・・・ガンキャノンの余剰パーツ・・・・武器に弾薬・・・ちぃっ、惜しいがあとは・・・処分するほうがいいか・・・・・」
迫るタイムリミットに苛つき過ぎている、と、一つ深呼吸し、アムロはスーパーナパームの設定を確かめた後、ホワイトベースに通信を繋ぐ。
「──こちら──ガンダムのアムロ・レイ少尉だ、シャア少佐を頼む───」
初顔のジオン兵士がモニターに映し出され、軍服も着ない自分の、少年の顔に戸惑ったのか、ややあってから返答がくる。
「──────はっ、少佐は只今──なんといいますか──取り込み中──といいますか──あ─」
苛立ち少々噴火寸前、といったタイミングでシャアが通信機器の前に直接あらわれた。
「───どうした、アムロ──」
「──ああ─あ、いえ──申し訳ありませんシャア少佐──回収作業が滞っています──回収の間に合わない物を処分しようとおもいますが──?!───?」
(あ、れ・・・・・・)
「──了解した───おおよその報告はこちらにも届いている──最低限の確保が済めばそれでいい──のこのことあらわれた連邦にわざわざ何か残してやる義理もないだろう────許可する、頼む────────うん?──」
シャアの後ろ、モニターに映る、肩ほどに伸びた綺麗な金色の髪、軍艦に似つかわぬ軍服ではない私服の後ろ姿からでしかないがあれは・・・。
「────あ、─────はっ、了解──回収作業終了後、直ちに焼却処分をおこないます─────」
慌ててもの思いに、呆けそうになるのを引き戻しつつ通信を終了し、何故か先程までの苛立ちが幾分か抜けたような気分で、残りの作業にまた追われることとなった。
58ブタ:2010/10/21(木) 22:12:09 ID:???
───遡ること2時間余り、といったところであろうか。
シャア・アズナブル少佐はホワイトベースに帰還すると様々な事柄に着手、多忙を極めることとなる。
四方八方に少ない人員を効率的に配し、迫る危機に備えるため奔走する、まさに時間との戦いであった。
一通りの指令を下し終えるとシャアは、まず外、サイド7コロニーから離れること約30キロに位置する空域に待機、監視につくムサイ、ファルメルのドレン少尉を呼び出した。
「───ドレン」
「──はっ、少佐、首尾は上々のようですな──」
少々肥満気味ではあるが、にやりと不敵な笑いを浮かべる奥に潜む鋭い眼光と厳格で貫禄のある声色が、彼が生粋の叩き上げの軍人であるのを象徴している。
「───レーザー通信回路を開きこちらに中継しろ──ドズル中将を呼び出したい──」
「───はい」
ここ、サイド7の位置するL3点は、宇宙攻撃軍を率いるドズル・ザビ中将の堅守する宇宙要塞ソロモンのある、かつてサイド1コロニー群の存在したL5点まではかなりの距離があるので、このような面倒を踏まねばならない。
「──夕べはな!貴様の作戦終了を祝うつもりでおった───貴様がもたもたしてくれたおかげで晩餐の支度はすべて無駄になったんだ、え!?」
モニター越しにもわかる、人間離れした巨躯とその顔つきに疵面、対する何者をも圧倒するであろうその存在。
国力比30:1以下とされる劣勢のジオン軍を否が応でも奮い立たせ、ここまで奮戦させた、軍の一翼を支えてきた武の漢。
「──連邦軍のV作戦をキャッチしたのです、ドズル中将───」
しかし、対するシャアには臆するところなど見当たらない。
「──なに!V作戦!!?」
「──はっ、モビルスーツの開発──それに伴う新造戦艦を同時にキャッチしたのであります──」
「──フフフ、さすが、赤い彗星のシャアだな。で、何か?」
表情をその仮面の下に隠すシャアが、そこで不敵に口元を笑わせた。
「───帰還途中であり、武器弾薬が心もとなくもありましたが───まず結果から申し上げますと───これ以上ない戦果を獲た、と───」
ガシャシャ、と興奮し反射的に勢い余り立ち上がり椅子を後ろに倒したドズルが問う。
「───なんだと!?勿体つけるな!!────既にそのV作戦を奪取したとでもいうのか?!」
「───はっ、首尾よく──しかし、その全貌は──途方もなく危険な作戦であると判明致しました──我々ジオンにとって──」
「───むう」
「───詳細は追ってデータと書面をそちらに転送致します──ただ───現在、我々の部隊は危機的状況にあります───」
歪ませた口元を直し、シャアは現在迫り来る危機的状況を具に報告し伝えた。
「───そうか──厄介だな───しかし!なんとしてでも切り抜けろ!!───V作戦の機体を持ち帰るのだ!!────貴様の要請は承知した、迎えが──救援が欲しいのだな?とびきりのヤツらをすぐにそちらにまわす───」
感謝と安堵の敬礼を送るとシャアはいう。
「───幸いであります、必ずや───ご期待にそえますよう全力を上げます───」
「──うむ、うまくやれよ──頼むぞ──」
と、通信を終えた。
再度、ドレン少尉を呼び出すと、新たに幾つかの指令を託す。
あとは次、シャアは残る気掛かりを解消すべく、連邦の負傷兵、死傷者が多数搬送されているであろう、宇宙港から程近い臨時の野戦病院へと向かうことにした。
59ブタ:2010/10/22(金) 23:18:36 ID:???
野戦病院、とはいっても、そのほとんどがサイド7の民間人の有志により簡易なテントの設営からはじまり、従事する者は民間の医師やボランティアのような人々の寄せ集めであった。
先の戦闘により、連邦軍人は衛生兵から軍医までもが戦闘に巻き込まれ戦死、または重傷、という散々な有り様であり、パオロ中佐に対し協力はできない、としたもののシャアは軍医1名と衛生兵2名をここに従事させ、彼等が中心となりこの場の指揮をとっていた。
戦闘は一方的でありながら連邦軍の抵抗の意志は強く、手加減などできぬザクによる徹底した殲滅戦となり連邦側の被害は甚大なものとなっていた。
野戦病院での主な仕事は、おもわず目を覆いたくなるような重傷者の現場での処置、及びその患者の民間の病院への搬送の手配や、既に事切れた戦死者、遺体の回収であった。
時間の針に追われるシャア・アズナブル少佐は、何か確信めいた衝動に動かされるようにその天幕を訪れていた。
中は医師や救護班の喧騒や患者の呻き──緊迫した空気の中、額に汗を滲ませ患者に包帯を巻く一人の女性にシャアは目をとめる。
金色の髪に美しい瞳、その稀有な美貌はどことなしか気品すら放つ、その女性の向かいに患者を挟み片膝を突くとシャアがひとついう。
「・・・手伝おう」
「!?・・・・・・あ、すみません・・・・・・そちらを押さえていただけて?・・・・・・・?」
異様のその仮面の姿に、彼女はほんの一瞬だけその美しい瞳を驚かせ、妙な違和感に戸惑いを見せたが、すぐに患者の手当てに集中したようだ。
「・・・・・・ふぅ・・・・」
手当てを終え、一息ついた彼女は、先程感じた妙な感じを確かめるかのように仮面の男を見つめると、次にはその驚きを隠せないかのように瞳を見開いた。
しっ、と、その唇にシャアは人差し指をそえると
「・・・・・久しいな・・・・・・・・外で少し・・・話せるか?・・・・・・アルテイシア・・・」
と、小さく、そして優しく彼女にいった。
ゆっくりと天幕の外へ歩み出るシャアの姿を、先程アルテイシアと呼ばれた女性がややあってから呆然と立ち上がり後を追った。
天幕から少々離れた瓦礫の陰でシャアと彼女は向かい合うと、シャアは徐にそのヘルメットと仮面を脱ぐ───
と、やや強めの平手打ちがシャアの頬をひとつ打った。
「・・・・兄さん・・・!・・・・・キャ・・・バル兄さん・・・・・生き・・・てたな・・・・今・・まで・・・どう・・・し・・・・」
意志の強さを示し他者を寄せ付けるのを嫌うかのような、その美しい瞳が突如として潤み、堰を切ったように涙に濡れると、高まった感情に言葉が詰まり上手に喋ることができない。
「・・・・アルテイシア・・・・すまなかったな・・・・・」
その仮面の下の素顔の貴公子然とした美男子は優しく微笑みそういうと、泣きじゃくる彼の妹をそっとその逞しい胸に抱き寄せた。
60ブタ:2010/10/23(土) 00:52:37 ID:???
───生死すらも不明であった───感動の再会に暫しの───かたや──道を違えた──時間を辿った─────かつての兄と妹───
落ち着きを取り戻した頃合いで、シャアは別れてよりの今日までの苦難から、ジオンに潜入し、シャア・アズナブルと名乗り、今はその軍の少佐であること等を語った──さすがにこれから歩む歴史や、時を辿ったことは伏せたが。
「・・・・・兄さんは・・・・・・・・・ザビ家に復讐を?・・・・・・」
鋭い妹だ、シャアは少しばかり苦笑する。
「・・・・・そうだな・・・そのつもり、だった・・・いや、そうした・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・?・・・・」
「・・・・・いや、復讐・・・・・など下らん、などとはいわん・・・・・・・・しかし、もういいのだアルテイシア・・・・・・今の私には成すべきことがある・・・成さねばならん志がな・・・・・・・」
妹の瞳に寂しさや不安の色が浮かぶのをシャアは感じた。
「・・・・・兄さんは・・・・何故軍になんか・・・・・争いはまた新たな復讐を、憎しみを生んで・・・・・また私たちのような・・・・・・・頭のいいキャスバル兄さんがそんなことわからないで・・・・・ザビ家はどうあれ結局・・・・・・・・兄さんのやっていることは人殺しよ!・・・・・・」
「・・・・・そうだな・・・すまない・・・アルテイシア・・・・・・」
沈む刹那の沈黙に空気が澱むと、俯き妹は呻く。
「・・・・ごめんなさい・・・・・・私・・・そんなつもりじゃ・・・・・・・」
「・・・・・綺麗事をいうつもりはない・・・・私は確かにお前のいう通りの人間だろう・・・・・しかしな、アルテイシア・・・・・それでも成さねばならぬのが志というものだ・・・・だから私についてこい」
突然の兄の申し出に驚き、顔をあげる妹に更に続ける。
「・・・・・・汚名でも罵声でも甘んじて受けよう・・・・・・・・・・今はな・・・・例えるなら今は僅かな光・・・ひとつ間違えば膨大な闇に容易く呑み込まれるだろう・・・・・しかし私には信頼できる同士もいる・・・・・・・・」
「・・・・・兄さんは・・・・大人になったのかしらね・・・・私の知ってる・・・・・・何でも一人で背負いこむキャスバル兄さんが・・・・・そんなこというなんて・・・・・・・」
何故か、今日再会してはじめて笑顔を見せる妹に、シャアは一層優しく微笑みかえした。
「・・・・難しいことはいい・・・・・必ず目的は果たす・・・・何一つ確約などできんがな・・・・・・・・・・お前にも力を貸してもらいたい、そのためにこうして会いにきた」
「・・・・・私にできることなんて何も・・・・・迷惑を・・・かけるだけよ・・・・・・・・・・」
「・・・・・・それでいい・・・私も迷惑をかける・・・・・」

踵を返すとシャアは乗ってきた軍用バギーに向かう、その後を妹が追って二人はそれに乗り込むとまたホワイトベースへと戻っていった。
61ブタ:2010/10/23(土) 12:27:00 ID:???
「・・・・・・・ぇヲ・・・・・おぅ・ぅ・・・ぇゲ・・・」
「カ、カイさん・・・・」
───冗談じゃ─ねえや───
先刻、ジオン軍の放送をきいた、飄々としたやや細身の不良気取りの少年カイ・シデンは、やや冷やかし半分に民間人の有志からなる救護に参加することにしたのだった。
「いってみようぜ?・・・・・・おもしろそうじゃない?え?ハヤトくん」
「・・・で、でも・・・・・」
「・・・・・・・・・・私・・・・・・・・私にも何かできないかしら・・・・」
決して乗り気ではなかった小柄なほうの少年、ハヤト・コバヤシではあったが、フラウ・ボウも参加するとあっては渋々というのか、ついていくのだった。
何故か、ハヤトはあまり仲のよくないお隣さんのアムロ・レイに、内心仄かにおもいを寄せているフラウを託されていた。
フラウのほうはというと、何かとアムロに世話を焼き、好意を寄せているのが明らかにわかっているのに、なんとも人の恋慕の情とはいかんとも複雑なものである。
兎にも角にも、3人は軍の放送の呼び掛けに従い、有志達の集まる現場へと向かったのだった。
女性であるフラウはテントの中へと案内され、負傷者の手当ての手伝いをするという。
そして男性陣2人はというと、肉体労働に頑張ってもらおう、ありがとう、よろしく頼むよ、と、なんと戦死者、遺体の回収作業に駆り出されることとなったのである。
最初こそ悪乗りで虚勢を張っていたカイではあったが、半分ザクに踏み潰されたのであろうか、凄惨な遺体を目の当たりにした直後には激しく後悔の念に襲われた。
一目散に物陰に走り出すと、胃の中から込み上げるものを堪えることができず吐き出してしまったのだった。
どうしてか、心配して後を付いてきたハヤトのほうはというと、不思議と何でもなく、激しく嘔吐するカイを気遣っている。
「・・・・・ぅえ・・・・・へっ、まあな・・・・・もうじゅうぶんに楽しめたからさ、すんげえもん見ちまったな・・・ま、これも人生経験・・・ってね・・・・・・・・・・・・なんかかったるいな・・・・帰ろうぜハヤト?」
「ちょ、ちょっとカイさん・・・・」
徐にふらりと立ち上がりその場を去ろうとするカイ、それに追いすがるように付いていくハヤト。
「・・・・・しっかしね、ハヤト、おまえよく大丈夫だな・・・・・」
「・・あ・・いや・・・・・だって・・・・・」
などとどうでもいい会話をしつつ歩くカイが急に足を止め、物陰に隠れるとハヤトがそれに倣う。
「・・・なんです?・・カイさ・・」
「しぃっ、あれ・・・・」
派手な赤を基調とした趣味の悪い軍服、身分の高そうな金髪の男はジオン軍の者であろうか、と、美しい金髪の、民間人らしき女が何やら親しげに話をしている。
「・・・あいつ・・・・たしか・・・セイ、セイラとかいう・・・お高くとまったいけ好かない女だぜ・・・・・」
「・・・え・・・・カイさんの・・・知り合い?なんですか?」
「そ、そんなんじゃ・・・・・ねえけどよ・・・・・あ!」
金髪の男が踵を返し、2人の隠れる方向へと向かってくる、反射的に物陰に更に体を屈めて身を隠す2人ではあった、が男とセイラは付近を素通りし、軍用とおもわれるバギーに乗り込み、男は奇妙な覆面とヘルメットを被ると、宇宙港のある方向へと消えていった。
「・・・・・ふ〜ぅ・・・・・あの女・・・きっとジオンのスパイだぜ・・・・あいつが手引きしてジオンの連中を招き入れやがったんだ・・・・・ゆるせねえ・・・」
見つからず一安心、といったところで、身を起こすとカイはそう嘯いた。
「・・・そんな・・・まさか・・・・・あの、セイラ?さん・・・・て人、真面目で優等生なお嬢様だって誰かが・・・・いってたような・・・」
「・・・へっ、その真面目で優等生なお嬢様がさ、ジオンの兵隊になんの用があるってんだよ?・・・・それによ、やに親しげだったじゃないですか?ねえ、ハヤト?・・・・・・・やっぱり何か臭うとおもわねえか?」
「・・・・まあ・・・・そうです・・・かね・・・・・」
好奇心と妙な義心に駆り立てられたのか、カイは目を鋭く輝かせるとバギーの向かった方向を目指し走り出す。
「・・・・いってみようぜ・・・・あの雌狐の化けの皮を剥いでやるぜ・・・・・」
「ちょっとカイさん!まってくださいよ・・・」
振り返り、半分追いすがろうかというハヤトにカイがいう。
「・・・・何ビビってんだよ、だらしねえなあ・・・・いいからこいって!」
「あ、相手はジオンの兵隊ですよ・・・・危険ですっ・・・・・ちょっとカイさん!てば!・・・」
再び走り出したカイに結局渋々ついていくハヤトだった。
62ブタ:2010/10/23(土) 20:20:15 ID:???
────総員に告ぐ──予定通り10分後──21:00時に出航する──第一戦闘配備のまま待機せよ───繰り返す───10分後──────
シャア・アズナブル少佐の艦内放送が響く中、アムロは急ぎジオン製のノーマルスーツを着込み終えたところであった。
コロニーの外で待機するムサイから、コムサイに搭乗したドレン少尉以下数十名の人員とその私物や生活物資と共に、わざわざアムロ用の軍服やパイロット用ノーマルスーツを運んでくれたようだ。
ドズル・ザビ中将よりシャアが授かったムサイ級・ファルメルにはギリギリ航行のみできる数名程の人員を残し、ジーン、スレンダー、両名のザク2機と僅かに残ったザク用の部品までもがホワイトベースに運び込まれていた。
いざとなればムサイを捨て石にもする算段であることは明白である、が、そのような必要もなかったようである。
一方、シャアの方はといえば、妹を自分の秘書官として無理矢理に仕立て上げ、士官服を着せるとセイラ・マス准尉として傍らに控えさせたりと、他にも仕事に忙殺されていた。
ルナツー方面の観測につくムサイからは、未だ出航する敵影を発見したという報告は上がっていなかった。
連邦宇宙軍の主力、マゼラン級戦艦、及びサラミス級巡洋艦の足を考慮すると、悠々と逃げおおせる余裕をもった出航である。
シャアの計算は完璧であるといえた。
ホワイトベース出航5分前を告げる艦内放送をブリッジに付くジオン兵士が流そうか、といった矢先の出来事である。
突如として緊急事態を示す警報が鳴り響いたのだ。
「何事だ?!」
シャアはこのタイミングでの事態に、さすがに少々の苛立ちを隠せない様子でブリッジのクルーに問い質していた。
「は、はっ!・・・詳細は・・・不」
「・・・・シャア少佐!木馬のクルーが・・・・元クルーだった者達が脱走したようです・・・」
「・・・・くっ・・・ドレン、総員警戒と鎮圧に当たらせろ、私は下にいく、外の監視を怠るな」
いうや、シャアは急ぎ銃を確認すると、まずはパオロ艦長以下数名の捕虜を監禁する房へと走った。
房の扉は開け放たれ、警戒を怠らずにそこに近付くと、中では数名の兵士に銃を向けられた、パオロ中佐が両手を上げていた。
「・・・シャア少佐!・・・士官候補生のブライト・ノアとパイロット候補生だったリュウ・ホセイ、他、元オペレーターのオスカ・ダブリン、マーカー・クランの計4名が脱走を・・・・・」
──!!?─────
小さく爆破音が耳についたシャアは、また急ぎそちらの方向に向かおう、というところを、パオロ中佐が呼び止めた。
「・・・・待ってくれ・・・・・・・彼らの暴走は・・・・私の責任でもある・・・・説得を・・・彼らの説得に当たらせてはもらえないだろうか?・・・・・・若い者の命を・・・無駄に散らすのは忍びない・・・・!?」
ガツン、と傍らのジオン兵士に銃床で頭を殴られたパオロ中佐がうずくまる。
「・・・よせ!・・・・パオロ中佐・・・・・よろしければご同行を願いたい・・・」
「・・・・すまない・・・・・・」
シャアは爆破音の方向に走り出すと、パオロ中佐がよろめき立ち上がり続き、小銃で武装したジオン兵達が後に続いた。
───まずいことになったやもしれん─────
途中に一方は殴られ、もう一方は肩を打ち抜かれ負傷したジオン兵士が2名、それに銃撃を受け既に事切れた捕虜2名を一行は発見した。
オスカ・ダブリン、マーカー・クランの2名であった。
そして、エンジン管制室の扉の手前に阻まれた2名のジオン兵士に混じるアムロ・レイの姿をシャアは見つけた。
63ブタ:2010/10/23(土) 22:14:23 ID:???
「・・・・・ちくしょう・・・・・ジオンめ!!・・・・オスカ・・・・マーカー・・・・」
「・・・・リュウ・・・・・・・」
忙しさもあろうか、つい気が緩んだのであろうか、小銃を持ったたった1人の兵士だけが面倒そうに居丈高に5人分の食事を運んできたのをリュウ・ホセイは見逃さなかった。
隙を見て襲い掛かり、小銃を奪い取ると、とりあえずの善後策を練ろう、というところであったがしかし、肝心のパオロ中佐は参加せず、逆に脱走を止められる始末であった。
困り果てた若い4人ではあったが、リュウ・ホセイに率いられる形で行動に出た。
そして、サブブリッジに向かう予定の脱走者4人、しかし警報が鳴り響き不可能と判断、ならばせめてとエンジンの破壊工作に向かった一行であった。

途上で、エンジン管制室から警報をきき何事かと飛び出していたジオン兵士2名と交戦、オスカ、マーカーの両名は銃撃戦にて死亡、リュウは腹に銃撃を受けていた。
逃げ込んだエンジン管制室内、リュウとブライトには、奪った小銃が2挺、手榴弾が1発、が手元にあるのみである。
進退極まった2人のとった行動は、エンジン管制機器の破壊、であった、というよりも降伏かその程度の事しか選択肢は残されていなかったのであるが。
エンジンが暴走して爆発、などといった絶大な効果など見込めるはずもないが、安全装置でも働きエンジンの緊急停止、足止めくらいはできるかもしれない。
まずはありったけの銃弾をコントロール機器にぶち込み、最後にピンを引き抜くと、物陰に身を潜め手榴弾を投げつけた。
─?!──────小さな振動を僅かに伴い、狙い通りにホワイトベースのエンジンは緊急停止をはじめたようであった。
「・・・・・・・」
「・・・・・やった・・・・か・・・・・・」
今頃になって苦痛に顔を歪めるリュウ、2発の銃弾を受け、もはや長くはないであろう、自身の致命傷を悟っていた。
傍らのブライトと顔を見合わせると、遠のきそうな意識を繋ぎとめ、にやりと笑い親指を立てる。
ボッ─────暫くすると、扉が破壊されたのであろうか、小さな爆破音が響き、ゆっくりと扉が開かれていく。
2人はそれぞれに覚悟を決めた。
64通常の名無しさんの3倍:2010/10/23(土) 22:36:20 ID:???
支援
65ブタ:2010/10/24(日) 02:43:51 ID:???
「アムロ!」
「シャア!・・少佐・・・捕虜が脱走したって・・・さっき爆発音がこの中から・・・・」
すぐに2人の兵士が扉の爆破に掛かる。
「・・・・下がってください!3、2、1」
濛々と煙を上げ、扉のロックが破壊されると、他の兵士が扉をこじ開けた。
注意深く中を覗くと、恰幅のいい男が銃を構えこちらを睨んでいる。
「・・・・・リュウ・・さ・・・」
おもわず呟いたアムロであったが、その小さい呟きが、この時まだ面識のないリュウ・ホセイに届くことはなかった。
「・・・無意味な抵抗はやめたまえ・・・命を粗末にするな、降伏しろ」
シャアの降伏勧告、そして多数の銃口がリュウに向けられていた。
そして、その背後からブライト・ノアもまた銃を手にこちらを睨みつけていた。
「・・・・リュウ君、ブライト君・・・・もう十分だろう・・・・・降伏してくれ・・・」
「・・・か、艦長・・・・・」
パオロ中佐の懇願に、ブライトがその手の小銃を取り落とした、と、その一瞬の隙を見たのか、リュウは突進をする。
「ぬああああ!!」
「いかん!」
一斉に、ジオン兵士達の銃口が火を噴いた。
咄嗟に飛び込んだパオロ中佐の背に無数の銃弾が撃ち込まれていく。
リュウにもパオロ中佐の防ぎ切れなかった銃弾が容赦なく襲いかかった。
「・・・やめ!!撃ち方やめぃ!!」
シャアの怒声ともつかぬ号令に、兵士達の銃撃がやむと、同時にパオロ中佐はその場に崩れ落ち、リュウもまた力なく膝をつき倒れた。
「・・・・リュ、リュウ?!・・・・艦長!!・・・・・・」
奇跡的に、パオロ中佐とリュウとの陰に入ったのであろうか、かすり傷ひとつ負うことのなかったブライトが、すぐさま倒れた2人に駆け寄った。
が、3人のジオン兵士も一斉にブライトに跳び掛かり、銃床で殴りつけると手際よく後ろ手に廻し拘束具をはめた。
「・・・くっ・・・・貴様等ぁ!・・・・」
アムロは駆け寄り、倒れる2人の首の脈を確認すると、瞑目し首を横に振った。
「・・・独房にぶち込んでおけ・・・・」
シャアは短くそういうと、涙を流し怨みの目を向けるブライトを兵達に連行させた。
「・・・・・酷い有り様だな・・・・・すぐに整備班を呼んでくれ・・・」
滅茶苦茶に破壊された機器を確認したシャアは、残る兵士にそう命令した。
「・・・・ああ・・・・ホワイトベースのエンジンのセーフティが働いたみたいだ・・・・このままじゃ・・・・・・」
暗く沈む2人、しかし、タイムリミットはとうに過ぎていた。
66ブタ:2010/10/24(日) 04:04:34 ID:???
リミット1時間を過ぎても、復旧の見通しはつかない、との整備班長の報告にブリッジは静まり返っていた。
「・・・・何分、連邦製の軍艦でしかも新鋭艦でもあり・・・・・機器の配線や回路に不明な部分が多く・・・只今、全力を上げ・・・・・」
「・・・・泣き言をききたいんじゃない!!そんな暇があるなら結果を出せ!結果を!!」
「・・・・少尉」
困り果てる兵士を怒鳴り散らすドレン少尉に、シャアは静かにいう。
幸いにして、というのか、外の状況はまだ変化を見せていない、ファルメルの監視班からはまだ、ルナツーからの艦影を確認したという報告がないのがせめてもの救いであるといえた。
「・・・・アムロ少尉はどうしている?」
「・・・・・はい、モビルスーツデッキでガンダム2機の整備、補給とチェックをおこなっているようです・・・」
「・・・・ん?・・」
傍らに控えるセイラ・マス准尉が、初めて秘書官らしき事をいったのに気付いたシャアは、この張り詰めた空気に僅かばかりの刹那的安堵感を感じた。
「・・・・うむ・・・・アムロ少尉をブリッジに呼んでくれ・・・・あいや、私がいこう、ドレン、頼む」
というと、シャアはモビルスーツデッキへと下りていった。
「・・・・そこ!ビームライフルの予備は右側に頼む!・・・・それはシャア少佐用のだ!もっと慎重に扱え!」
「・・・・やっているようだな」
活気づくモヒルスーツデッキにてノーマルスーツを上半身はだけて整備の指揮をとるアムロにシャアが周りを見渡しながら早速声を掛ける。
「・・・・茶化すなよ・・・」
振り向きシャアを見つけたアムロがどこかぎこちなさそうに苦笑した。
「まあそうだな・・・こうでもしていなければ気が紛れんか」
「・・・・まだ、かかりそうなのか?・・・・それと、ルナツーに動きは?」
「・・・・・あまり状況はいいとはいえんようだ・・・・・幸いルナツーの方ももたついてくれているようだが・・・・・・アムロ」
シャアがアムロに向き直り、改まっていう。
「・・・・・整備班がかなり難儀している・・・・・そこで、だ・・・・うむ・・・・テム・レイ博士に・・・・」
「・・・ああ・・・・・・しかし親父のやつ・・・あれで結構頑固だから・・・・・」
「・・・無理を承知でいっている・・・・・・頼めないか」
手に持つスパナを工具箱に放ると、あまり乗り気ではないがといった具合にアムロはガンダムのコクピットから滑り降りてきた。
テム・レイ技術大尉はホワイトベースに連行されるや独房入りとなったが、シャアの配慮で士官用の個室に兵士1名のみの監視を立て軟禁されることとなっていた。
先刻の脱走騒ぎの際にもまったく騒ぎ立てるようなことすらなく、至って大人しく静かなものであったとの報告をシャアは受けていた。
シャアとアムロはその部屋へと向かっていった。
67ブタ:2010/10/24(日) 06:25:24 ID:???
─────コッ、コッ──
「・・・・テム・レイ博士、シャア・アズナブル少佐です・・・少し宜しいでしょうか?」
「・・・・ん・・・・・・・・・・・入りたまえ」
冷めた紅茶を啜りぼうっと呆けるテムは、声のする扉の方を振り向くこともなくそう告げた。
「・・・・・なんだ・・・・アムロも一緒か・・・・・で、何かね?」
入室する2人にやっと振り向き、アムロを見るや露骨に不機嫌そうにそういう。
「・・・・余り時間がないので要点だけ申し上げます・・・・力をお借りしたい・・・ホワイトベースのエンジン管制室が爆破されエンジンが緊急停止、復旧に難儀しているのが現状です・・・・・どうか宜しくお願いします」
ソファにシャアと並びテムの正面に座り、沈黙し父親を見つめるアムロは、どこかシャアは変わったな、などと漠然と今は見当違いなことをおもっていた。
「・・・ああ・・・・・・何故・・・この私がジオンに協力しなければならないのかね?・・・」
それにね、とテムは更に続ける。
「・・・私にとっては結構なことではないか・・・私の要請したルナツー艦隊が時期あらわれる・・・」
「・・・・・父さ・」
「ええぃ、アムロ!おまえは黙っていろ、だいたいおまえのような親不孝者の顔など見たくもない・・・・・・・・・・」
「・・・・博士・・・・・無理を承知で、筋違いなお願いに上がりました・・・・・・・・・貴方の事情も色々とおありでしょう・・・・しかし、そこを曲げてどうにかお願いします」
再度頭を下げるシャア、やはりこの男、変わった、あの猜疑心の塊のような、搦め手からしか物事をおこなわない男が何故こうも。
──コッ、コッ───
ノックする音がすると、
「失礼します」
とセイラ・マス准尉が3人分の紅茶を運んできた。
「・・・・いいかね?・・・仮に、だ・・・・私がそれを承知したとする・・・・・で、修理するフリをして細工をしたり・・・・更に酷く修復不能なほどに破壊したりでもしたら・・・・どうするのかね?」
「・・・どうぞ・・・・・・・そのようなこと・・・・・・・なさる方でしたら・・・・・そうはいわないとおもいます・・・・・失礼しました」
うん?と、横から口出しする金髪の美しい女性兵士をテムは一瞥する。
「・・・・秘書官が失礼を申し上げましたが・・・・私も同感です・・・」
「・・・・・・む、これは・・・・いい香りだな・・・・うまい・・・・こんな紅茶は地球にいた時以来だな・・・・」
「・・・ありがとうございます・・・・・・私が地球のセイロンから取り寄せた茶葉をこの艦に勝手に持ち込んだんです」
横で見ていたアムロが胸を高ならせた、一瞬にして華麗な花の咲いたような微笑を見せるセイラ。
これ───母さんが───入れてくれた紅茶に───
「・・・・父さん・・・・俺からも頼む・・・・このままだと・・・・」
「ええぃ!だからおまえは黙っていろと!・・・・まったく・・・・・せっかくのうまい紅茶を楽しんでいるときに・・・・無粋なバカ息子だ・・・・・・・・・・・で・・・・・少佐・・・・どうするね?」
うむ、と、一息ついてからテムは続ける。
「・・・・私はモビルスーツに関してであれば誰にも、少なくとも負けはしない程度の自負あるつもりだが・・・・・こと艦船に関してはそれほど精通しているとはいえんのだ」
「・・・・うむ・・・いや、ホワイトベースは連邦の艦だ・・・少なくとも我々ジオンの、私の部隊の整備班に任せるよりは幾分かマシでしょう」
フフ、とテムは笑いを堪えるのが精一杯で応える。
「・・・・幾分かマシ・・・・・か、ハッキリいうな少佐・・・いいだろう、やってみよう・・・・・」
「・・・・やっていただけますか・・・・感謝します」
「・・・・・すみません・・・ありがとう、父さん・・・・」
「だから!別におまえのためにやるわけでも・・おまえに頼まれたからやるわけでもない!・・・・そこの・・・・・お嬢さんにうまい紅茶をご馳走になったしな・・・・お礼みたいなものだ・・・・・ああ・・・お嬢さん、貴女のお名前はなんというのかね?」
「失礼しました・・・セイラ・マス准尉であります、テム・レイ博士」
「・・・・セイラ准尉、ありがとう、本当においしい紅茶だった」
セイラの見せる笑顔に、テムもまた笑顔で応えた。
68ブタ:2010/10/24(日) 17:36:51 ID:???
復旧作業に取り掛かったテム・レイ博士の手際は、それまで頭を抱えていた整備班達を驚かせるほどであった。
状態を確認するや、すぐさま必要な部品を書き出し整備班に調達を指示した。
「───少佐──これは難しいかもしれん──」
ブリッジに連絡を入れるテムがシャアにいった。「───復旧のほうはさほど問題なかろう──もう少し時間をくれ────しかし、緊急停止時の反動だろうか、エンジン自体に不具合が生じているようだなこれは────」
「───うむ───直るのか?───」
「───う〜む、推力を100%に拘るのならば無理だな、専用の設備のあるドックで修理が必要だ───現状では恐らく──50%まで引き出せればいいほうだろう───それ以上無理をすればまたセーフティが掛かるか───最悪、爆発もありうる」
「───そうか──では引き続き───」
「・・・シャア少佐!」
ブリッジの通信士が突然声を上げた。
「・・・・・なんだ」
「・・・・・監視班から通信が入っています・・・繋ぎます」
「───シャア少佐!!ルナツー方面より多数の機影を確認!!予想以上の大部隊のようです!───およそ2時間20分後には戦闘可能宙域に達すると予想されます!──」
「・・・・・・間に合わんか・・・わかった」
「───博士、きいての通りだ──あと1時間で頼む───」
「───無茶をいうな───2時間、だな───いや、1時間──半───それまでには出航できるくらいまでにはしよう──それ以上は無理だ───」
「────わかった、では頼む──」
暗く沈むブリッジでドレン少尉が声を上げる。
「・・・・・・まずいですな・・・・木馬を放棄して・・・・ファルメルに機体と物資を移送しては・・・・・」
「・・・・・同じだろう、今からでは間に合わん・・・・それよりも・・・・・一戦して退けた後に逃げおおせる算段でもしておけ」
シャアの言に、にやりとするドレン、迫り来る強大な敵を目前に絶望するどころか不敵に笑う、このような状況では一段と頼りになる男だ。
扉が開き、アムロが敬礼をしてブリッジに入ってくる。
「シャア少佐、モビルスーツの整備は万全です、いつでも出れます・・・・ただ・・・・少佐のザクだけは右腕のパーツがないので使えません」
「・・・うむ・・・・・わかった・・・・・こちらは残念な知らせだ、先程ルナツーより出航する敵影をキャッチした・・・かなりの大部隊だという・・・今から約2時間15分後には接触するだろう、追って部隊の規模等の詳細が入るはずだ」
「・・・・・やはりか・・・」
「出航は・・・・1時間半後だ、パイロット及びモビルスーツ整備班は各員それまで第二戦闘配備で自由にしていい、10分後に主だった者を集め作戦会議を開く・・・・お前も会議室まできてくれ」
「了解!!」
再び敬礼しブリッジを後にするアムロ、周囲の空気もいよいよ、といった中、束の間の息抜きをする者、時間一杯任務に没頭する者、それぞれであった。
69ブタ:2010/10/24(日) 19:28:04 ID:???
「───わかった、ありがとう、博士────」
「───くれぐれもな、出力は42%までだ──それ以上は保証できん───私は部屋に戻る───ではな──」
やはりか、とひとつ小さく息をつくとシャアはいう。
「・・・・・やはり、これでは追いつかれるな・・・・Aプランでいくしかなさそうだ」
傍らのドレンが頷く。
「・・・・はっ、しかし、あのような・・・・」
「・・・・いうなよドレン、荒唐無稽な作戦・・・だろうが、やれるさ」
先刻の作戦会議においてのドレンの憤慨が思い浮かびシャアはひとつ苦笑する。
ホワイトベース出航約15分前、アムロは割りあてられた自室、個室にて手早くシャワーを浴び終え、再びノーマルスーツを着込んでいる最中であった。
──?───
何か、おかしな感覚を感じたようなアムロは、その違和感のある自室のデスクを一瞥すると、ゆっくりと拳銃を手にとった。
「・・・・・おい・・・・デスクの下から汚い服がはみ出てるぞ・・・・隠れん坊なんてしてる気分じゃないんだ・・・・撃たれたくなかったらゆっくりと両手を上げて出てくるんだ」
ヒッ、といったような短い悲鳴じみた声と共に、両手を上げて
「・・・ご、ごめんなさい・・・う・・撃たない・・・で・・・」
と、やや細身と短身の、民間人の2人の少年がブルブルと震えながら恐る恐る這い出てきた。
「・・・・え?」
「・・・・・ぁ・・・む・・・?・・・」
三者、互いに驚きと混乱を見せるが、アムロが、動くな、と再度警告をすると、再び少年2人は震え上がり両手を高々と上げて直立不動となった。
「・・・・・おい・・・なんで・・・・・なんでこんなとこに・・・・・・いるんだ・・・・ハヤト・・・カイまで・・・・どうしたんだ・・・・」
「・・・・・あ、いや・・・ハヤトが、さ・・・へへ・・・・」
「・・・な・・・・カ、カイさんが・・・いこうって・・・・・」
───ホワイトベース────出航10分前───各員、第一戦闘配備にて待機せよ───繰り返す───ホワイトベース────
「・・・兎に角・・・・2人とも・・・・まずいぞ・・・・どうする・・・・・・おい、他にもいるのか?2人の他に・・・」
「・・・・い、いや・・僕達2人で・・・・・」
「・・・・・そうそう、そうなのよ・・・俺達2人でさ・・・あの・・・・セイラ・・とかいうジオンのスパイを追って・・・・・あ!・・・いや・・・・・」
なんだってこんなときに、と、頭痛のするアムロであったが。
「・・・・・もう間もなく・・この艦は出航する・・・今更降りることなんてできないからな・・・・困った・・・」
ホワイトベースの命運にかかわる一刻の猶予もないこんな時に、出航時間を遅延させるような、これ以上問題はおこせない。
「ハヤト・・カイ・・・君達は他の兵士に見つかったら即撃ち殺される・・・部屋に外からロックを掛けておくから・・・・頼むから・・・静かにしていてくれ・・・・後で何とかするから・・・まったく・・・」
じゃあ、と、ヘルメットを手に取ると、急ぎ部屋にロックを掛けモビルスーツデッキ、ガンダムのコクピットへと走った。
「・・・おい!少尉さんよ!遅いじゃねえか!!」
といったお叱りの怒声を整備班長に浴びせられ、すみません、と凹むアムロ。
息を切らし、やっとのおもいでガンダムのコクピットに逃げ込み、ハッチを閉じた。
「───アムロ──2分25秒の遅刻よ────」
「──すみません──セイラさん──」
「───もういいわ──時間は厳守───次は懲罰を覚悟しなさい──」
「───了解──あれ、セイラさん──通信もやるんですか?」
「───皆ができることを精一杯やらないと───今回──あなたには特別頑張ってもらわないといけないわ───」
「───やれますかね───俺に──」
確信に近い自信があったアムロであったが、何故か懐かしい励ましをどうしてもききたくて無理に誘導じみたことをいってみたのだ。
「───大丈夫──あなたにならできるわ──」
70ブタ:2010/10/24(日) 21:27:17 ID:???
「・・・ワッケイン指令!」
「・・フッ・・・・・中尉・・・私は既にルナツー指令を解かれた身だよ・・・今はこの艦隊の指揮官にすぎん・・・・まあ・・・・その分、一階級上げて中佐にはしてもらったが・・・」
キャプテンシートに座したワッケイン指令、少佐、改め中佐は、傍らに控える副官の中尉にそう洩らした。
ワッケインの年齢を考慮すれば、連邦軍内においてこの規模の艦隊を率いる中佐であれば決して不満などあるはずもなく、むしろ出世トップクラスのエリートともいえた。
では何故、ワッケイン中佐が気持ち沈んでいるのかといえば、それはある事件の発端からの一連の出来事にある。
「・・・・いや、すまない、このような時、指揮官というものは毅然と構えていなければな・・・で、中尉、何事か?」
「はっ!先程、監視班より、サイド7コロニーから出航する奪われた我が軍の新鋭戦艦とおもわれる艦影を捉えたとの報告がありました」
「・・・なに?・・・間に合わなかったか・・・で、追い付けるか?」
「・・・・はい・・・しかし・・・・・何か妙です」
「・・・・どういうことだ?」
「・・・・我々の艦隊との相対速度と手元の新鋭戦艦のデータを照合し計算すると・・・・およそ6時間40分後に戦闘可能距離に達します・・・」
「・・・うむ・・・我が艦隊は全機全艦、増加ブースターを装着しているからな」
「・・・・はい、いかな新鋭戦艦といえどもこれなら追えます・・・・しかしながら・・・・敵は逃げる気配を見せていません・・・・・・こちらが追いつくのを待っているかのような・・・・」
むう、と考え込むワッケイン。
こちらの、連邦軍の宇宙艦隊は航宙機セイバーフィッシュを主力としており、この宇宙戦闘機はいかに増加ブースターを装着しているとはいえ、何せ航続距離が短い。
常識的に考え、もし戦うのであれば、そこを突き、逃げるだけ逃げた後、少しでも息切れした所を急速反転、攻勢に出るのが常道であろう。
敵はあの赤い彗星だという、それ程の男が、正面からの決戦を、敵に数倍する戦力を相手にするであろうか?
マゼラン級戦艦2隻、サラミス級巡洋艦6隻、セイバーフィッシュ戦闘機30機、トリアーエズ戦闘機10機、鹵獲兵器のザクTが3機、圧倒的な戦力差である。
この圧倒的な戦力の艦隊を、敵も捕捉していることは間違いないだろう、ならば何故?
「・・・何か特別な・・・・罠があるとでもいうのか・・・」
「・・・交渉・・・・または降伏、ということは考えられませんか?」
「・・・いや・・・赤い彗星のシャア・・・そのようなことを申し入れてきたのなら・・・・・それこそが罠、ではないのかな?かなりの策略家ときいている」中尉、とワッケイン中佐はひとつ、ゆっくりと目を閉じるといった。
「・・・・・・・・・こうしてな・・・・あれこれ余計に考えを巡らせている事自体がな・・・・・既に赤い彗星の術中に陥っているのだ」
「・・・・ワッケイン・・・中佐・・・・」
「・・・・簡単なことだ・・・・・これだけの・・・・ただ圧倒的な戦力差をぶつけ・・・確実に押し潰すだけの戦いだ・・・・犠牲など顧みてはならん・・・ただただ確実に勝つ・・・・子供でも解る理屈だよ・・・」
───そう──────そのために───あれを─────
71通常の名無しさんの3倍:2010/10/24(日) 21:32:11 ID:2aYqz22F
あ、シレイってこっちか×指令
○司令
まちがえた
72ブタ:2010/10/25(月) 00:18:15 ID:???
────馬鹿げてる
ルナツーを出た艦隊、その戦力は途方もない大部隊であった。
その数、機影にして40以上、マゼラン級戦艦が2隻、サラミス級巡洋艦が6隻、航宙戦闘機多数、単純に見て、十倍近い戦力差、まさに絶望的な戦力差である。
上官である赤い彗星ことシャア少佐に、ドレン少尉はある種の信奉に近い絶大な信頼と畏敬の念を抱いていた。
今回のV作戦奪取という絶大な戦果により、その念はますますもって強固なものとなっていた、はずであった。
───しかし────いや、もうよそう──
「・・・・・・きます!!7分後に接触します!!」
「・・・・よーし!!距離8000まで引き付けたらありったけのミサイルと主砲、メガ粒子砲をぶち込んでやれ!!メクラ撃ちでかまわん!敵は多数だ!撃てば当た〜る!!各銃座用〜意!!蟻の子一匹近づけさせるな!!」
常識的に考えれば、V作戦の戦果を全て処分、ムサイで全速力で逃げるべきであったろう、しかし、もういい、人間いつか死ぬものだ、それが今であれば死ぬ、それだけのことだ、あとはもうやるだけだ。
「・・・・ほう・・・退屈していたのだな・・・整備兵は・・・・・」
「・・・シャア少佐!気に入っていただけましたか!?アムロ少尉の指示です!・・・・あとこちら・・・・整備記録です・・・少佐好みに調整した、とのことです」
シャアの見上げたその先、二つ目のモビルスーツの、元は白と銀であった部分が赤系の色に塗装されていた。
「・・・・・うむ・・・まあ・・・・気に入った、といっておこうか」
「・・・ありがとうございます!!」
コクピットに、無重力を流れ軽快に滑り込むとシャアはハッチを閉じた。
右手にハイパーバズーカ、左手にビームライフルをそれぞれ1本ずつ持ち、左腕にシールドを固定、背部にはハイパーハンマーが括り付けられている。
シャアの搭乗するガンダムは両足をカタパルトに接続させた。
「───に─あ、シャア─少佐──気をつけ──いえ───頑張ってください────」
「───ああ、心配ない─ありがとう──セイラ准尉──期待してくれ───シャア・アズナブル、ガンダム出るぞ──────」
シャアの駆るガンダムは赤い彗星となった。
そして、数分後には、ルウム戦役以来の、いや、それを遥かに凌ぐ恐怖の赤い彗星と白い悪魔が連邦艦隊にこの世の者とはおもえない悪夢をみせることとなる。
73通常の名無しさんの3倍:2010/10/25(月) 00:44:38 ID:???
イヤアアアア!!アムロとシャアのコンビネーションとかイヤアアアアア!!
74ブタ:2010/10/25(月) 20:42:19 ID:???
「───ちっ─────おい!!」
後詰めを厳命されたヤザン・ゲーブル少尉は苛立っていた。
「───は、はっ──なんでありましょうか隊長────」
ヤザンの部下の1人である曹長は、恐る恐るといった具合に、この野獣のごとき凶暴な隊長に問い返した。
「────つまらん─────」
「────はい──自分もそうおもうです───」
ヤザンの、吐き捨てるような呟きに応え、もう1人の部下の軍曹がいった。
ルナツーの、鹵獲兵器によるモビルスーツ試験部隊にとって、これは2度目の出撃であった。
先の、威力偵察の名目で襲撃した戦闘では、ヤザンがザクUを3機、軍曹がザクUを1機、共同でムサイ級巡洋艦を沈め、損害は曹長のザクT小破のみ、という戦果を上げていた。
その彼等、特に隊長であるヤザン、好戦的な性格の彼にとって、後方での後詰めなどは退屈そのものであった。
あと数分もすれば先鋒の戦闘機部隊は交戦状態に入るであろう。
敵は赤い彗星であるという、その格好の獲物が目の前で有象無象に寄ってたかってなぶられ討たれ、かっ攫われるのを坐して待てという。
我慢ならん、いや──────俺の獲物はどこだ?
「───くそったれ────いくぞ!!─ついてこい、9時の方角から大きく迂回する!!──」
「────はっ?!────ヤ、ヤザン隊長?──しかし───後詰めに専念せよ──と───」
「──曹長──隊長がそうおっしゃってんですよ───いいからついていきやがればいいんですよ─くくくっ──」
ヤザンは不敵に笑い高揚し、軍曹はいったい何がおかしいのかどこか興奮し、置いてけぼりになりそうだった曹長は必死で後を追うのだった。
ヤザン・ゲーブル少尉率いるザクT小隊の迂回するほぼ正反対の宙域に、ひとつの岩塊が漂っていた。
当然ながらダミー隕石であることはいうまでもない。
その岩塊の中、偽装を解くその時を静かに待つアムロの乗るガンダム。
───?!─────
ほどなく、メガ粒子ビームの多数の光条を確認する。
白色のその機体は、暗黒の宇宙に流星の如く一条の光の線を描くように闇を切り裂いた。
75ブタ:2010/10/26(火) 01:17:35 ID:???
「・・・・・・さてドレン、上手くやれよ・・・・・」
既に戦いは始まっていた。
まず、ファルメルのミサイル射撃、次いでホワイトベースからの一斉射撃がおこなわれ、それは全弾、連邦艦船を無視し、迫り来る戦闘機部隊に向けて放たれた。
一見、先手必勝、などとおもいがちではあるが、そう単純にはいかぬ複雑さ、難しさがミノフスキー粒子散布下の艦隊戦にはある。
攻撃を受けた側は、射撃の光条から敵の位置を割り出し、より正確な位置へと攻撃、反撃を集中できる。
私はここですよ、と、敵がわざわざ教えてくれているようなものだ。
お返し、とばかりに連邦艦船からの一斉射撃が降り注ぐところではあるが、未だ有効射程圏内に入っていない連邦艦船からの反撃はなかった。
しかしながら、一斉射撃受け、敵の位置を知った戦闘機部隊が、砂糖に群がる蟻のようにジオン側の艦船を目指し一斉に襲い掛かる。
一斉射撃を受けた戦闘機部隊がある程度の損害を出したのは当然ではあるが、それは先頭をきるトリアーエズ部隊を約20%、続くセイバーフィッシュ部隊を10%足らず、その程度の損害を出しただけであった。
しかし、撃墜ではなく、怯む敵の足止め、速度を落とす、陣形を崩す、といった目的が本命、狙いである。
最初の役目を終えたファルメルは、ミサイルを撃つや早々に大型隕石の陰に連邦艦船の射角を外れるよう隠れた。
ホワイトベースもまた、それに倣うかのように大型隕石に身を隠した。
大型隕石の存在、この陣取りは当然、計算の内である。
しかし、ここからが、ドレン少尉が憤慨し、馬鹿げていると嘆いた荒唐無稽、であったのだ。
味方の一斉射撃がやむと同時に、シャア少佐の駆るガンダムは戦闘機の大部隊の内へと単機突貫した。
残る3機、デニム、ジーン、スレンダーのザクはやや味方艦船に近い位置にて散開、敵を抜けさせぬよう陣取った。
正面からの、約、35対4、の無謀な戦いである。
「・・・フフ・・・・・機体の性能の差が・・・戦力の決定的な違い・・・・・・・・・・となることを私が証明せねばならんとはな・・・」
赤いモビルスーツの突進、その姿に半恐慌状態に陥る者、一斉射撃からまだ立ち直れていない者もいる中、2機のトリアーエズが、今回の赤い彗星の最初の撃墜スコアとして記録されることとなる。
AMBACシステムというモビルスーツの独自性を生かし、すれ違い様に姿勢を変化させ戦闘機の背後をとると、ビームライフルの1発で串刺しにされたかのように2機のトリアーエズが爆散する。
続いて右腕を上げハイパーバズーカを構えると空虚な宇宙に1発放つ、と引き寄せられたかのように1機のセイバーフィッシュがバズーカ弾に衝突し宇宙の光となり消えた。
──!?───
シャアの内に稲妻のような感覚が走り、ガンダムを急速上昇させると、0コンマ数秒前まで赤いガンダムの存在した空間に数発のミサイルと速射砲の雨が注がれた。
「・・・・・うむ・・・・・やはりこれは小さい的には使い勝手が悪いな・・・・」
続け様にまたビームライフル、ハイパーバズーカ、と放つとまたセイバーフィッシュが2機、爆散する。
恐慌状態に陥り、カミカゼのごとき特攻を、操縦を誤りする1機のセイバーフィッシュ。
ハイパーバズーカを放り出すとシャアのガンダムは背部の、刺の付いた鎖で繋がれた鉄球、ハイパーハンマーを右手に持った。
セイバーフィッシュは滅茶苦茶に速射砲を放つが、シャアのガンダムは避けようともシールドを構えようともせず、その装甲で何も感じぬ、といった具合に弾き返し、ミサイルを発射したのと同時にハイパーハンマーでミサイルごと押し返すように戦闘機を押し潰した。
あっという間の出来事であった、しかしこれがまだ赤い彗星の見せた連邦兵にとっての悪い夢のすべてではなかった。
76ブタ:2010/10/26(火) 20:37:15 ID:???
「────25o機関砲がまったく通用しません!!───ミサイルで対応していますが─────だめです!!──────ディック大尉機の撃墜を確認!!──以降は自分が指揮を─────」
報告によれば、トリアーエズ戦闘機9機、セイバーフィッシュ戦闘機13機の撃墜が既に確認されたという。
「───なに?────40機からなる大部隊が─────馬鹿もの!!──既に損害が50%を越えているというのか?!───馬鹿も休み休み────」
「・・・・・・・あれほど厳命したにもかかわらず・・・・・3分ともたずに半数を失ったというのか・・・・・たった1機のモビルスーツに・・・・・・・やはり・・・・・・・・・中尉」
「・・・・・はい・・・・・・おききの通り・・・・・・」
艦隊指揮官であるヴォルフガング・ワッケイン中佐は瞑目し、胸中に秘めた不退転の覚悟をあらためて固めていた。
「・・・・ガンダムの・・・・モビルスーツの性能を・・・・パイロット達に公開しなかったのが裏目に出たかもしれんな・・・・・・・」
浮き足立ち醜態を晒す部下達を頭ごなしに責めるつもりはない。
数的有利、圧倒的な戦力差に高揚し勝ち戦に臨むという兵士達の心理の隙を消せなかった事が指揮官であるワッケインには悔やまれた。
それには仕方のない一面もある、先に述べた通りの圧倒的戦力差であるとの盲目的な認識、戦いを知る兵士もそう多くはなく新兵が多数を占めていたこと、しかし何よりも連敗続きの連邦宇宙軍は勝利に飢えていたのだった。
しかし、今度の戦争を生き抜いてきた兵士達で構成されていたモビルスーツ試験部隊も命令に反し独断専行をしているという。
ワッケイン中佐の戦術は単純であった。
まず、戦闘機の大部隊、トリアーエズ戦闘機を先頭に、悪く言えば盾代わりに、全機ホワイトベースに突撃、セイバーフィッシュ戦闘機がミサイルランチャーで波状攻撃をかける。
モビルスーツ試験部隊は戦況を見て後、遊撃隊、または艦船の護衛。
艦船が援護射撃、一斉射撃、戦況により艦隊特攻をかける。
よしんば討ち洩らしたとしても、後発する第二波の艦隊のためにできる限りの損害を敵に与えるのがワッケイン艦隊の任務であった。
指揮官の戦術が殆ど実行されていない事実に、様々な意味にて落胆し憤慨したいところでもあるが、それを許さないのが戦場である。
「・・・・・中尉、航宙戦闘機部隊に部隊の立て直・・」
「───なんだと?───シロイ?ヤツ?────もう1機──だと─────ガンダムなのか?!──────」
「・・・・猶予はないようだな、中尉、部隊の立て直しを・・・時間を稼がせろ・・・・・・アレの用意は万全だな?」
「・・・・・は・・・・ですが・・・・」
ワッケイン中佐は数時間前に下された極秘の指令を、そのときのことを暫しおもい返していた。
77ブタ:2010/10/26(火) 23:17:03 ID:???
「────わからんのか?───ジャブローは本気なのだよ──────」
ルナツー司令室にて只一人、秘匿回線にて密談をする者、司令のヴォルフガング・ワッケイン少佐である。
彼は本来ならば、ルナツー司令などという不相応な高い地位に就ける者ではなかったのであるが、一週間戦争、ルウム戦役等における連邦宇宙軍の甚大な人的損害、相次ぐ高級士官の戦死により便宜上その椅子を預けられたのであった。
将官はといえば、地球至上主義である連邦軍内に宇宙に孤立した自軍の要塞の司令になるなどという貧乏クジを進んで引く者などいるはずもなく、地球の各地に配された高級士官も同様であった。
「───ですが、ジャミトフ大佐───それに───アレは南極条約によって───待ってください、レビル大将とティアンム中将はなんと────」
「───ふん───責任を取って退役──辞任する意向だそうだ──但し────状況いかんによっては───だが」
「───なんですと!?───」
蛇のような恫喝する鋭い視線をモニター越しに伝えるジャミトフは、ワッケインに対し有無をいわせぬ構えを崩すことなく続ける。
「────タカ派の2人の将軍が揃って辞任──ともなれば最悪の事態になるのは貴様にでもわかるだろう────偽りの和平───その次に待っているのはギレン・ザビによる地球の粛清─────それに」
「───ルナツー、サイド7は貴様の管轄下にある───ティアンム中将麾下の貴様はジャブローのモグラどもにとっては煙たい存在だともいえる───」
「────軍法会議で極刑──という筋書きだろうな──連邦議会に対し、責任を現場に全て押しつけ保身を────蜥蜴の尻尾切り───というやつだよ───やつらはそこまでやる」
「───そ─そんな馬鹿な───」
あまりの理不尽と、しかし、認めざるを得ないジャミトフの言におもわず立ち上がり、そういってしまう。
「───レビル大将も─ティアンム中将も──貴様自身でさえも───そして地球連邦そのものでさえ───今救えるのは貴様だけなのだ──」
「───なりふりなど構っていられる余裕は今はないのだ───すべては貴様にかかっている───後の事はこちらで上手くやる」
「────ですが──サイド7を──というのは────」
「───おお、そうだった───サイド7コロニーへの軌道を流れる巨大隕石の存在を観測したとの────情報が入った────」
冷酷、というよりは狂気の悦楽を内包したような寒気のする笑いを口元に張り付けるとジャミトフはそういった。
「───これを排除するために───ルナツーの3基の核ミサイルの封印解除を許可するというジャブローの決定だ────」
「─────いいな?──V作戦などというものは最初から存在しなかったのだ───すべてを闇に葬らねば────連邦は終わりだ────」
「───いや──色々いったが──どうか宜しく頼む───ワッケイン中佐───事の成った暁には───私と共に貴様を───ゆくゆくは将官まで引き上げるつもりだ────」
また表情を変化させ一転して懇願する風なジャミトフ。
「────わかりました─────全力で努力は致します─────はて?中佐?──」
「───いっただろう?そのつもりだと──お互いに泥を被るのだ────功には報いるのが当然だ────作戦終了後にはもうひとつ階級章が増える───それと司令の任は解く、後にしばらくはジャブロー勤めだ」
「──────」
「───重ねて頼む──いいな?」
「───はい」
通信を切ると後、ワッケインは人員を召集、志願者を募る等、迅速に行動に移したのであった。
このような密約じみた口約束が果たされるなどとそうそう甘い話などありはしないであろう事はワッケインも当然理解していた。
しかし、そのうちの何割かは彼の内でおもうところもあり、受けた命令ではあった。
「・・・・・中尉、マゼラン2番艦にも伝えよ・・・・核ミサイルのセーフティ解除・・・・・・発射口開け」
禁忌の扉が開き、引きずり込まれた彼には最早、退路など残されてはいなかったのだ。
78ブタ:2010/10/28(木) 00:00:37 ID:???
目前に迫った幾つもの爆発やビームの光を、まるで気にもとめることもないかのように一直線に進む白い光。
「・・・・・・シャア?・・・・・・・・か?」
現在、敵味方が交戦中の戦域に、どこか異質な感覚をおぼえたアムロは、それがシャア・アズナブルであると断定できない不可思議を感じていた。
──────?!────
ゆっくりとガンダムの左腕に握られたビームライフルを構えると、虚空に一線のメガ粒子ビームを放つ。
肉眼では決して捉えられぬ距離からの射撃、しかし敵はビーム攻撃を受け爆散していた。
数瞬の後、アムロの眼前には戦場が広がり、ガンダムのビームライフルに狙いをつけると2発、それを放ち宇宙に2つの残酷なる華を散らせた。
「───アムロ───きたか───ここは私ひとりでも事足りたかもしれんな────」
「─────シャア──」
漠然と、漠然とではあるのだが、アムロにとってのシャアは、どこか違っていると感じてならないのだった。
今のシャア・アズナブルは、以前のシャア・アズナブルではない、人が素なようであり、どこにも迷いがない、とでもいうのか。
事実どうであろう、以前のシャアは戦場を、戦いにどこか拘りを持ち、それでいてどこか自分自身も含め否定的であったようにアムロはおもう。
しかし目の前の光景と感覚は、ただただ、端から見れば理詰めに、残酷なまでに戦っているかのような。
これが感じていた違和感であると、今更に気づいたようにおもうアムロは戦慄をおぼえた。
────今の───────今の俺に────シャアを────止められるのか?─────────?!──
夢から醒めたかのようにアムロは、内側に稲妻の走るような感覚で現実に引き戻されると、ガンダムを半ば急旋回させ頭部のバルカン砲を放ちまた1機の宇宙戦闘機を撃ち落としていた。
「─────ここはもういい───予定通り貴様は大物をやれ────」
「────ああ──そうする────?!──シャア───気をつけろ────何か強い意識を感じる────ニュータイプじゃないが───」
「──うむ───2つ─────だな────貴様こそな────」
殆ど壊滅状態となった宇宙戦闘機の大部隊をまるで無視するかのように、赤と白の機体はそれぞれの、新たな敵を捉え強力な意志へと導かれるかのごとく各々が定めたところへと向かっていった。
79通常の名無しさんの3倍:2010/10/28(木) 07:59:20 ID:???
迷いを捨てたシャアが最強キタコレ
80ブタ:2010/10/29(金) 21:00:57 ID:???
───ホワイトベース
異様な歓喜と興奮にブリッジは騒然としていた。
「・・・・・またもや敵戦闘機の撃墜を確認!シャア少佐の撃墜スコアはこれで20に達しました!!」
ついほんの数分前まで、居心地悪くも逃げ場のない、嫌な空気が艦内を支配していた、それが今やどうだ。
クルー達は皆が口々に、、凄い、どうなってるんだ、等と呆然と感歎する者、或いは半ば奇声を上げ或いは指笛を鳴らす等して興奮を隠せない者、様々であった。
「・・・・・戦闘中に何を馬鹿騒ぎしておるか貴様等!!・・・各々の任務を全うせんか!!・・・・引き続き対空監視を怠るな!!・・・まったく・・・・・」
部下達を怒鳴りつけるドレンではあったが、俄に信じられない光景と現実に、彼自身が沸き立つ興奮を抑えるのに難儀していたほどであった。
そしてドレン少尉は、作戦前の会議をふとおもいだすと、ひとつ苦笑というのか含み笑いを洩らし鼻を鳴らしていた。
「・・・・・で、いいな?ドレン」
「・・・・・・・・はい・・・」
会議室内で、返答を促されたドレンはゆっくりと頷いた。
室内には5人、部隊の長であるシャア少佐、艦長のドレン少尉、モビルスーツザクの小隊長であるデニム曹長、アムロ少尉、秘書官のセイラ准尉、がディスプレイデスクを囲んでいた。
「・・・・・では次にモビルスーツ・・」
「・・・・シャア少佐・・・・・・少し宜しいでしょうか?」
ドレン少尉は唐突に自身の中で堪えかねていた様々な不服に、つい語尾を荒げて上官であるシャアの言に水を差していた。
「・・・・・・なんだ、ドレン」
「・・・・・・はい・・・・・・このような重要な席に相応しくない者がいるのではないかと・・・・」
殺気すら感じる程の形相でアムロとセイラを露骨に睨みつけるとまたドレンは続けた。
「・・・・この少年・・・アムロ・・・少尉が・・・・少佐の戦前からの友人であり・・・・訓練を少佐自ら施したと・・・・・それに・・・・・セイラ准尉もまた旧知の友人、とか・・・それはわかりましたが・・・・」
「・・・・しかし我々・・・少佐の部隊にとっての・・・・・このような正体の判らぬ輩が重大事を決するこの場に列席しているのが・・・・やはり納得できませんな・・・」
「・・・・・ドレン・・・」
腕を組み、ふぅ、と小さく嘆息するシャアに続いて、デニム曹長が口を開いた。
「・・・・差し出がましいようですが・・・・・・・私も・・・・・ドレン少尉と同意見です・・・・・どこの馬の骨とも判らぬ者を突然連れてこられて・・・・いきなり上官だといわれましても・・・・」
「・・・・・・従って貰う以外ないな・・・・このアムロ・レイ少尉のパイロットとしての能力は私と同等かそれ以上だ・・・・この戦いに勝つつもりならばアムロとガンダムの戦力は不可欠だ」
ドレンに睨まれ、鬼の形相を逸らさず真っ直ぐに睨み返し沈黙を貫いていたアムロがいう。
「・・・・・今は・・・・余計なことはいわない・・・・戦って示す・・・・結果で判断してくれ・・・・・・」
ふん、と鼻を鳴らすドレン。
「・・・・いいでしょう、シャア少佐がそこまで仰るなら・・・・・・しかし・・・・セイラ准尉は・・・・・」
うむ、とデニムも頷く。
セイラは無表情に正面を見据え、皆の視線がシャアに注がれた。
「・・・・・うむ・・・・・彼女は・・・・・・・セイラ准尉は私の秘書官だ・・・・・それ以上でもそれ以下でもない・・・・いや・・・・・信用できる女だ・・・・そこは信じてもらうしかないな、申し訳ないのだが・・・・・・」
あ───ああ、とドレンもデニムもそれとなく察して、シャアの意図したおもい違いをしてくれたようであった───女、か、と。
少佐もお若いからな、と、それに、そう納得してしまえるほどにセイラはな美貌に加えどこか気品までをも併せ持つ稀有で魅力的な女性であった。
「・・・・・まだ、何かあるか?」
視線を真っ直ぐに平然とそう言い放つシャアの様が開き直った風に見え、少々毒気を抜かれたようなドレン、と、まあ、と引き下がったデニムが応える。
「・・・・いえ、とんだご無礼を・・・・・・会議を中断させてしまい申し訳ありません・・・・・続けましょう」
「・・・少佐のご命令に従います」
このガキが、女が何者であれ、注意、監視を怠らずおれば、いずれとんでもない化けの皮が剥がれることもあるかもしれん、しかし今はそんな事よりも目前の危機が重大事である、とドレンは頭を整理したのだった。
そして、シャアは周辺宙域を模したディスプレイデスクを指し次の作戦行動を順に説明した。
81ブタ:2010/10/29(金) 23:54:47 ID:???
「・・・・・・・・・・・・・待ってください!少佐!!・・・・それでは・・・・正面からくる大軍を・・・・・・たった4機のモビルスーツで・・・・・」
「・・・・・・何かいかんか?・・・・・少なくともその内の半数以上は私が引き受けよう・・・・・・それに敵は恐らくただの宇宙戦闘機の群れと時代遅れの戦艦だけだ」
ドン、と激したドレンは無意識に拳を強く握りディスプレイデスクに叩きつけていた。
「・・・・・正気ですか・・・・・敵は・・・・・敵は先程確認できただけでも戦艦含め40以上ですぞ!!・・・・・・・いくら少佐といえども・・・・」
敵が正面からの正攻法の戦術をとった場合の対応、しかしそのあまりの無策に憤慨するドレンはまた何かいいかけていたがシャアがそれを制した。
「・・・・ドレン・・・・・ルウム戦役だ、例えるのであればな・・・・・ガンダムの性能、それに加え優れたパイロットの戦力は常識では計り知れん・・・・それまでの常識が覆っての先の戦での破格の大勝ではないか」
シャアは自信たっぷりににやりと笑うと、この一見、荒唐無稽な戦術、というには少々お粗末な正面決戦を主張した。
「・・・・・・それはしかし・・・・・」
「・・・・・ドレン少尉はどうも、ガンダムを侮っているようだな・・・・・私は極めて冷静な戦力分析の上での十分な勝機ある戦いだとおもっている」
他にも、アムロのガンダムをダミー隕石に伏しての奇襲、後方攪乱等が話し合われた。
加えて、敵の戦術による味方の対応、敵が戦力を分散してくるのであれば、じわじわと小出しに波状攻撃を仕掛けてくるのであれば、艦隊特攻を仕掛けてくるのであれば、等の想定もおこなわれた。
が、そのどれもが2機のガンダムの戦力を大きく見積もった、その上でしか到底成り立たない、必勝の奇策などありはしない、この大軍を相手するにはあまりにも無策な戦術であった。
────しかし────この───ガンダムというのは───────
大戦果に沸き立つホワイトベースのブリッジを、突如として緊張の色に染め上げる報告がはしる。
「・・・・・艦長!!2時の方向より3つの物体が接近!・・・・」
「・・・・なに?・・」
「・・・・・30秒後に有効射程内に入ります!・・・・・あ・・・・しかし・・・・・これは旧式のザクのようです」
緊張も束の間、ブリッジを安堵の空気が包み込み皆が胸をなで下ろしたのだが、ドレンは何やらきな臭い気配を感じた。
「・・・・・・・馬鹿もの!!・・・・・・識別信号のデータは照合したのか!!・・・・・・・・このあたりにいるジオンの軍など我々くらいのものだ・・・・・恐らくは・・・・・敵の鹵獲兵器だろう・・・・」
「・・・・・・・データの照合・・・・・ありません・・・」
「・・・・・・・総員対空戦闘用意!!・・・各銃座弾幕を張って対処しろ!!・・・・・・・・・この艦に近付けさせるな!!」
やはり、ここからが正念場だろう、ドレンは覚悟を新たにした。
82ブタ:2010/10/30(土) 18:18:01 ID:???
??!─────
伝わる爆発の衝撃に、ホワイトベースに不本意に乗り合わせた各人らもそれぞれに何かを感じとっていた。
「・・・・・・・おい君・・・・ホワイトベースが攻撃を受けているのかね?・・・・・・・ガンダムは・・・・どうなっているのだ?」
「・・・・・・・・何も申し上げられません・・・・・・・」
「・・・・そうか・・・では・・・ブリッジに案内してもらえるかな?」
「・・・・・そのような命令は受けておりません・・・・」
「・・・・・君はつまらん男だな、伍長・・・・・では悪いが・・・・勝手にいかせてもらおうか」
徐に扉に向かい歩き出すテム・レイに、監視を命ぜられた伍長は慌てて前に立ちはだかる。
「・・・・・・・そ、それは・・・・困り・・」
「・・・・・ええい、そこをどきたまえ・・・・・・構わんだろう、どの道逃げ場などないのだ・・・ここで死ぬことになるかもわからん・・・私の造ったガンダムがどうなったのかを知る権利くらいはあるだろう・・・」
グイと鬱陶しそうに監視の伍長を押しのけるテム。
「・・・・それにな、ホワイトベースのエンジンだって私が見てやったからこうして出航できたのではないか・・・・・・固いことをいうな」
この監視を命じられた伍長は、シャア少佐自らに、ある程度自由にしてもらって構わない、くれぐれも粗相のないように、と含められていたのもあり、テムをこれ以上制止することができなかった。
何やらぶつぶつごちゃごちゃと、焦りテムにいいながらもついていくしかできなかった。
───独房
ジオンの兵士に取り押さえられた仕官候補生ブライト・ノアは、取り調べを受ける間もなくここへ閉じ込められていた。
パオロ中佐の制止を振り切り、自分達の取った、やや軽率で結果的には、さしたる意味もなかったかのような行動が、彼以外の全員を死に追いやってしまったのだ。
独房でひとり、悲しみと絶望に打ちひしがれる青年、ブライトは暗く頭を垂れ悲嘆に暮れていた。
しかし突然の爆発の振動を感じたブライトは顔を上げ、独房にしては珍しく艦外を小さく覗き見れる窓に、何事かと取り付き外の様子を窺った。
「・・・・・なんだ・・・・連邦の攻撃がはじまったのか?・・・・・・・」
───そして、アムロの部屋に閉じ込められた2人、カイ・シデンとハヤト・コバヤシもまた、爆発の振動を感じると、我先にと窓に2人して張り付いた。
アムロに見つかってからの彼らは、見つかったら即銃殺、というアムロの言葉に怯え、あまり意味のあることともおもえないのであるがクローゼットに身を潜めていたところを、恐る恐る這い出てきたのだった。
「・・・・・か、カイさん・・・・これ・・・・・」
「・・・・・お、おい・・・・・・外はどうなってんだ・・・・・まさか連邦軍の攻撃かよ?!・・・・大丈夫なのか・・・・この艦はよ・・・・・・・・・」
それぞれに、これからおこる恐ろしい何かを予感したかのように、彼らは不安に煽られ、その身にその何かを、彼らはニュータイプではないにせよ感じたのかもしれない。
83ブタ:2010/10/30(土) 20:35:32 ID:???
「────いやがったぁ!!──」
大きく戦域を迂回していたヤザン・ゲーブル少尉率いるザクT試験小隊は、無線機から時折流れる断片的な意味のよく伝わらぬ断末魔のような通信から、味方の劣勢、窮地を察知していた。
しかし、それがまたかえってヤザンの、まだ見ぬ赤い彗星の部隊に対して戦いの血をたぎらせることとなっていた。
そこに、ミノフスキー粒子の高濃度宙域の中、巨大隕石の陰から覗き見える白い戦艦を視界に捉えたのであった。
「───バカめ!!────仲良く寄り添っていやがる!────正面から入るぞ!!───ムサイがいるだろう?それを利用して敵の火線の内側へ敢えて入れ!!───同士討ちを恐れて撃ってこれんはずだ!!────────いくぞ!!」
激しい炎の如く燃え盛り高揚しつつも、瞬時に冷静な状況分析と判断をおこない獲物を追い詰めていく、それがこのヤザンという男の恐ろしいところであろう。
加えてこの若さ、二十歳そこそこにして既に、後年、ティターンズ最強の一人とも目され、トップエースとなりオールドタイプにしてニュータイプパイロットと互角以上に渡り合ったモビルスーツパイロットとしての腕前の片鱗を見せはじめていた。
隊長のヤザンを先頭に、ムサイの艦橋から左舷へと旋回し、弱まった敵の砲火に、はっはっは、と豪快に笑うと、不規則な運動を繰り返しながらホワイトベースに急速接近、今度は急降下し下側に回り込む。
そして歪な螺旋を描きながら、ザクTの手に持つ105oマシンガンの弾をホワイトベースの下部にしこたま喰らわせた。
続く曹長も数発のマシンガンを、軍曹は280oバズーカ弾を左エンジン部分にぶち込んだ。
「────なんだと?!────あれだけ喰らわせてもビクともせんとは!!───なんて──頑丈な艦だ!!────」
ムサイ級あたりであれば、もう少し当たりどころがよければ撃沈しても不思議はない程の打撃を与えたにもかかわらず、この白い最新鋭戦艦は被弾箇所の一部に小さな爆発を引き起こしたのみで、変わらず悠然とその姿を保っていた。
「─────た、隊長!!────22時の方向から熱源体接近!!───お、おそらく──ザクです!」
旋回し、再度の攻撃に入ろうとしたヤザンの小隊に水を差す通信が曹長からもたらされた。
旗艦より襲撃の報をきき急遽駆けつけた、ホワイトベースから一番近くに位置していたジーン軍曹のザクである。
「────ちっ、邪魔をしようってのか!!───お前らは白い戦艦に波状攻撃をかけろ!!───いいか!エンジンだけを狙え!!─────そいつは俺が落とす!!」
───急ぎ駆けつけたジーン軍曹の前に、1機のモビルスーツが立ちはだかった。
「────なんだ───報告通り旧式のザクじゃないか───しかし──1機だけとは─────舐めやがって!!」
「────ジーン!!待て!!よすんだ!!───もうすぐそちらに到着する────それまで───」
「────そんな悠長なことをいっていたらホワイトベースが落とされてしまいます!!─────へっ──敵を倒すには早いほどいい、ってね───」
シャア少佐の鬼神の如き大戦果にあてられた勢い、油断と、手柄を焦る色々な心理が、ジーンの命運を分けることとなったのか、しかし、この恐ろしい野獣を目の前に、それは遅いか早いか、それだけの違いであったかもしれない。
84ブタ:2010/10/31(日) 01:56:19 ID:???
ジーン軍曹はデニム曹長の制止を、到着を待てとの指示をきかずに、立ちはだかった旧式のザクに真っ直ぐ突進し、ザクの手に持つ120oマシンガンを浴びせかけた、が、しかし
「────なっ───どこ───に────」
ジーンには目の前の、旧式と侮ったザクが、一瞬にして消え去ったように見えていた。
ヤザンは、敵がマシンガンを撃つよりも一瞬だけ速く、機体を斜めに急速上昇させると、更に左、前、左、といった具合に、敵の視界から消えると、また旋回し瞬時に背後を捉えていたのだった。
そして、にやりと笑うとヤザンは、背後から蹴りをザクの頭部に喰らわした。
「───ぅお゙?───ぐあ────!?────────くっ───くそ──どこ──?」
その蹴りの衝撃にコクピットのジーンは、一瞬意識を飛ばしかけるほど強烈に周辺機器に頭をぶつける、が、何とか意識をつなぎ止めヘルメットの中で頭から血を流しながらも周囲を探る。
「────ちっ──────雑魚が!!」
3割り程度死んだモニターの映像の正面にジーンは、マシンガンを構えこちらに銃口を向けるザクTの姿を見つけた。
「────あ゙ああぁぁぁ!??────」
ジーン軍曹の最期の叫び、それと同時にヤザンは至近距離から105oマシンガンを飛び退きながら連射、その弾はジーンのザクを激しく貫いた。
数瞬の後、核融合エンジンに直撃を受けたジーンのザクは激しく爆散し、やがて宇宙の塵となった。
その光景を、一足遅れて到着したデニム曹長が見つめていた。
「───ジーン!!────ええい!───よくもジーンを!!!────」
部下を殺られた怒りに激しく燃えるデニムは、狙いを定めると仇のザクへとマシンガンを乱射した。
しかし、ヤザンはその攻撃を軽々と回避すると同時に、新たに現れたその敵へとマシンガンを連射した、が
「───あ?───おい!?───ちぃ──ジャムりやがった!!───このポンコツが!!」
1発放ったところで弾が詰まりマシンガンが使い物にならなくなってしまう。
その1発はデニムのザクを捉え、棘の付いた左肩、ショルダーアーマーを少し破壊したものの、致命傷には至らなかった。
ヤザンは、使えなくなったマシンガンをデニムのザクに放り投げ、素早く腰に吊り下げられたヒートホークを握り締め突進する。
「────こ、こいつ─」
「───けっ───いいのを持ってるじゃねえか!!──そいつを俺によこしな!!」
投げつけたマシンガンを払いのけ回避する一瞬の隙、ヤザンはそこを見逃しはしなかった。
また不規則な運動で視界から消えると、気がついた時にはデニムのザクの右手に握られた120oマシンガンは、その右腕ごと赤熱したヒートホークにより、すれ違い様に切り落とされていた。
「─────死ねえ!!──」
「───ぬおおお!!!──」
ヤザンはザクを急速旋回させ、デニムのザクも振り向き様にヒートホークを残った左手に握り振りかぶる、そして2機のザクはまたもや交錯する。
交錯の後、ヤザンのザクの手にはヒートホークは握られてはいない、代わりに、切り落とされたデニムのザクの右腕とマシンガンを左腕に抱えていた。
ヤザンのヒートホークはデニムのザク、その腹部、コクピット部分に深々とめり込んでいた。
「────ついでにこいつも貰っておこうか!!───」
既に動きを停めたデニムのザク、その左手からヒートホークを引き剥がすと、ヤザンは己のザクの腰部にそれを吊り下げた。
そして、新たな武器を手に、意気揚々とまたホワイトベースの攻略の戦列に戻ろう、とした矢先、部下の、軍曹のザクTが爆散した。
85ブタ:2010/10/31(日) 10:58:16 ID:???
「─────墜ちやがれ───っつうんだよぉ!!」
ザクバズーカを構え、ホワイトベースの左エンジンに狙いを定め放とう、としたその瞬間であった。
直撃、一瞬動きの止まったヤザンの部下である軍曹のザクは、一条のビームによって前面から腹部を貫かれ、そして爆散した。
「─────赤い──モビルスーツか!?──────しかし────一撃で──ただの一撃で撃破───だと?───」
呆然とその光景を一瞬見つめていたヤザンは、遠くに赤いモビルスーツの機影を確認するや、はっ、と我に返りいう。
「─────気をつけろ曹長!!───白い戦艦は後回しだ!────動きを止めるな!!────くそったれがあ!─────あのモビルスーツめ───戦艦並みのビーム砲をもってやがるのか────」
ヤザンと残った部下の曹長は、一旦ホワイトベースから離れ、的を絞らせないよう不規則な運動を繰り返しつつ、漆黒の宇宙に悠然とたたずむ赤いモビルスーツへと向かった。
「────た、隊長!?───」
「────ああ─────誘っていやがるのか?───こいつ───舐めたマネを!!──」
接近する2機のザクを正面に見据えたまま、赤いモビルスーツは攻撃をすることもなければ動こうともしない。
ヤザン率いる2機のザクは、その赤いモビルスーツの左右へと回り込んだ。
そして、曹長のザクが狙いを定めマシンガンを連射すると、ヤザンの予測通り急速上昇し軽々とそれをかわす。
「────もらったぁ!!──赤い彗星ぇ!!───」
一瞬の軌道を読んだヤザンの、数発の120oマシンガンの弾丸が、赤いモビルスーツの胸部から腹部を確実に捉えていた、直撃、である。
「───────どうだ!!──────ば、馬鹿な─────直撃のはずだ────」
「─────うむ──────やはり、さすがはガンダムだ───当たったところでどうということはない────今回はいいデータが取れた───────────?!」
圧倒的な性能の違いにヤザンは焦燥の色を隠せない、対照的に、シャアは余裕であった。
なんと、機体のデータ取りに意図的にザクマシンガンを受けていたのである。
「────火力が────違い過ぎる───なに?─────」
突如として、赤いモビルスーツが見当違いの方向に半ば離脱し、左腕に装着されたシールドをこれまた見当違いの方向に構えた。
違和感を感じたヤザン、次の瞬間には無意識に部下の曹長のザクの陰に入り、赤いモビルスーツがシールドを構えた方向へと曹長のザクの両肩を掴み向き直らせていた。
「─────隊──長?────な?────────」
86ブタ:2010/10/31(日) 12:53:34 ID:???
────一方
2隻の戦艦と6隻の巡洋艦を攻略すべく、向かう白いガンダムを駆るアムロは、嫌な予感がますます確信へと変わりつつある自身の感覚に焦りを隠せないでいた。
「─────あれか!!」
艦影を捉えたアムロは、最大出力にガンダムのバーニアを吹かし艦隊に向かった。
「──────1時の方向から何かくるようです!!───急速接──────が、ガンダムです!!」
焦る通信士の報告に、しかしワッケイン中佐はあくまでも淡々と命令を下した。
「・・・・・・・・・・旗艦マゼランを除き、全艦ミサイルを一斉射撃!!・・・目標は敵艦の隠れる巨大隕石だ・・・」
傍らの副官である中尉が命令を復唱する。
「・・・・・・・・マゼラン2番艦に伝えよ・・・ミサイル一斉射と同時に核ミサイルを紛れ込ませ発射せよ、目標は同じだ・・・・とな・・・」
「・・・・・・・10秒後に一斉射だ、カウントダウンを・・・」
緊張に空気が張り詰める中、淡々とカウントダウンが開始する。
「・・・・・3、2、1、発射!!」
「・・・・・・・さて・・・・中尉・・・・・旗艦マゼラン・・・・右舷に60度回頭せよ・・・」
「・・・・・・やはり・・・・」
「・・・・・中尉!!」
何かいいかけた副官の中尉であったが、それを強く制すワッケインに、淡々とまた命令を復唱するのであった。
─────?!!────
8隻からなる艦隊からのミサイル一斉射撃、アムロはその中に、異質の嫌な違和感を感じた。
「──────なんだ?───あれ───────」
射出された数十のミサイル群の中にひとつ、それを捉えたのであった。
「──────核───か?!─────ちぃ!───あれは条約違反じゃないか!!───」
そうひとり洩らすより早く、アムロはガンダムを急速旋回させ、目標に追いすがった。
ふと、10年程昔、オデッサでの記憶が蘇っていた。
──まさか───連邦まで────
「─────間に合ってってくれ!!─────」
ガンダムのバーニアを、リミッターを越えレッドゾーンを振り切った状態にまで吹き上げる、ホワイトベースでの整備でリミッターを解除しておいたのが幸いした。
ぎりぎりに追い付くとハイパーバズーカを放り出し、背部のビームサーベルを右手で抜くと、アムロは一気に先端部を切り落としていた。
ミサイルは暫くふらふらと奇妙な飛行を続けると、核爆発を引き起こすことなく爆散した。
「────やった────か───────!??─────まさか?!─────そんな!!───ダメだ!!!」
マゼラン級戦艦のうちの1隻が、ゆっくりとおかしな方向に回頭する。
そして、何かが射出されていた。
その、何かが向かうその先────そこは巨大な円柱状の人口の建造物、スペースコロニーが漆黒の宇宙に浮遊していた。
87梅茶漬け:2010/10/31(日) 13:19:06 ID:C6xQneju
絶対に有り得ない僕の妄想劇

僕は奏魅(かなみ)。
高校1年生、東京生まれの東京育ち。
特に目立つことも泣く普通に過ごしてきた。
普通に過ごして普通に彼女ができて普通に仕事して普通に結婚・・・するはずだった。

だけど、僕の運命は生まれた時から決まっていた。
僕は、生まれた時から自称100年に一人というぐらいの、不細工なのである。
自分で思うくらいなのだから相当だ。

だがこんな僕でも友達が二人いる。類は友を呼ぶというが本当にその通りだろう。
一人は16歳にして100キロ以上の隆。
あえて100キロ以上にしておいたが、その100キロにまだ何十キロもの重さが乗っかる。
だがあえて100キロ以上だけと言うことにしておこう。
いくら友達だからと言ったってプライバシーというのがある。
隆は小さい時から体が弱く、心配した親や親戚やらがたくさんの食べ物や物を与えた。
だから今がこの様だ。

そのせいか自分を責めず自分を太らせた親を恨んでいる。
もちろん隆はモテない。
それはそうだろう。
小中高生はだいたい見た目で判断をするからな。
俺も痩せてはいるが顔の形でこいつと同類の扱いだ。
88ブタ:2010/10/31(日) 14:35:48 ID:???
「・・・・・我々は・・・・・・」
「・・・・・いうな中尉・・・・・・意味はある・・・・あの位置からの爆発の余波で・・・・・無数のデブリがホワイトベースを襲うだろう・・・・・・赤い彗星のガンダムも・・・・・恐らく・・・ただでは済まんはずだ・・・・味方の部隊もな・・・・・」
表情なくゆっくりとひとつ瞑目するとワッケイン中佐が続ける。
「・・・・・ジャブローの決定は絶対だ・・・・我々にはそれに従う責務がある・・・・」
やや自嘲を含むその物言いに、副官の中尉は黙って射出されたミサイルの行方を追うことくらいしかできなかった。
「・・・・・・しかし・・・・・こちらの艦船にはそれ程の被害は出るまい・・・・・そのためにこれだけの距離の位置を取り今まで動かず耐えたのだ・・・・・・全艦、衝撃に備えろ・・・・・中尉」
「・・・・・・約・・・60秒後でしょう・・・」
「・・・・・55秒後に衝撃波がくる、それに耐えた後、全艦、順次艦隊特攻をかける!!・・・・目標は敵に奪われた我が軍の新造戦艦だ!!」
──────だめだ─────間に合わない!!────
────?!──
「──────アムロか?!────む?────ドレン!!回避行動をとれ!!核だ!!サイド7だ!衝撃波がくるぞ!!」
「・・・・・はっ?・・・岩陰?に?」
「────シャア少佐からです!!敵が核兵器をサイド7に!!回避行動を!!」
シャアもセイラも感じていた。
ドレンは、通信士のセイラの報告に瞬時に、コンマ数秒で頭を整理し、操舵士に回避行動を命じていた。
少々の距離のあった、サイド7コロニーは、次の瞬間光を放っていた。
20秒程の時間があったのであろうか?次には夥しい数のコロニーの大小の破片が周辺宙域に高速で広がり、撒き散らされるように飛び散り、全ての者、物、に襲いかかった。
シャアに散々に掻き回され、引くも戻るも逡巡していた残り僅かな宇宙戦闘機がまず、デブリの波にのまれてその全てが爆散した。
数瞬遅れて、アムロのガンダム、ワッケインの8隻の艦隊にもその余波が降り注いでいた。
「─────さ───サイド7が────」
シールドを構え、デブリを受け流したアムロのガンダム。
光と、破片の爆散が収まったその中心、サイド7コロニーは、半分何か巨大な爪にでも削り取られたかのような無惨な姿を、静まり返る宇宙に晒し漂っていた。
「─────ひどい────────────────こいつらああああ!!!」
ガンダムから最も手近な場所に位置したサラミス級巡洋艦は、アムロの黒い怒りに煮えたぎるビームライフルの数条の光に貫かれ、エンジンに直撃を受け爆散した。
89ブタ:2010/10/31(日) 16:14:17 ID:???
ホワイトベースの艦内は、どこも誰もが呻いていた。
まさにぎりぎりの回避行動であっただろうか、左舷後部にデブリの雨を受けたホワイトベースではあったが、撃沈は免れたようである。
しかし、左のエンジンにダメージを受けたことにより、既に出力は20%を切るような有り様であった。
半壊したコロニーを一瞬、呆然と皆が見つめていた。
「・・・・ハヤト・・・・おい・・・・・」
「・・・・・・なんだ・・・・・これ・・・・・サイド7?・・・・・・・・・みんなは・・・・フラウは!?・・・・」
「・・・・・落ち着けってハヤト!!・・・・・わかんねえよ・・・・・わかるわけねえだろ!」
不本意にホワイトベースに乗り合わせた者も同様であっただろうか。
「・・・・・何があった・・・・どうなってるんだ・・・・・・・・サイド7が・・・・破壊されたのか?・・・・・」
独房のブライトは状況を把握しきれていないようであった。
「・・・・・・は、博士・・・」
「・・・・・む・・・・・何があった・・・・・」
ブリッジの扉の手前で伍長と押し問答を繰り広げていたところで、衝撃に揺られ少々背中を打ったテムと頭を打ちつけた伍長であった。
テムがゆっくりとブリッジに侵入すると、そこは大騒ぎの、まさしく戦場であった。
ブリッジから望める、無惨なサイド7の姿に、テムは絶句していた。
「───む─────左の腕がイカレたようだな───」
少々ひしゃげ凹んだシールドをそのままに、左腕の動かなくなったガンダムで、シャアは周囲の様子を探った。
大小無数のデブリが漂い、自分以外に生存者がいるような雰囲気はまったくなかった。
「────どうなった?────ドレン、そちらは無事か?────ドレン───」
「─────少佐───なんとか───只今、艦内の機密チェックと破損状態を調査中であります───ファルメルは運良く隕石の陰で事なきを得たようです─────少佐の方こそ───」
「───フフ───あの程度でやられはせんさ───左腕がイカレただけだ───スレンダーはどうだ?───アムロは────敵の様子は?」
「────スレンダー軍曹のザクの識別信号が確認できません──この状況では恐らく絶望的でしょう────アムロ少尉は──ガンダムは健在です───現在交戦中のようです────敵が──敵艦隊が艦隊特攻を仕掛けてくるようです!」
応えたのは通信士のセイラであった。
「─────スレンダーはダメか────いや、アムロなら問題ないとはおもうが─────まだ敵がアレを温存しているとしたら─────ドレン、私も敵艦隊の殲滅にあたる────そちらは頼むぞ」
大きなデブリを回避しながら、赤い彗星は残りの連邦艦隊の殲滅に向かった。
そんな、無数のデブリの漂う中に紛れ、四肢と頭部を失い、半分暗礁宙域と化した空間を同様に漂うモビルスーツの残骸があった。
「・・・・・・くそったれえ・・・・・・・・・・赤い彗星め・・・・・・ガンダム・・・とかいったか・・・あのモビルスーツ・・・・・化け物め・・・・・・・・俺はこんなところでは死なんぞ・・・・・・・」
機体にこれだけのダメージを受けながらも、コクピット周辺部は無傷であり、しかも核融合エンジンの暴走での爆発を免れていたのはまさに奇跡と以外いいようがなかった。
類い希な悪運の強さと執念、野獣の生存本能、ヤザン・ゲーブル自身のパイロットとしての高い技量が、今までこの戦争を生き延びてきた根底にはあった。
復讐の黒い炎と不屈の闘志が、気まぐれな運命の神が、彼を救うのか、憐れな死に様を晒すのか、それは今は誰にもわからなかった。
90ブタ:2010/10/31(日) 17:59:50 ID:???
「─────サラミス5番艦に続き───2番艦、3番艦が撃沈!!───────────化け物か────」
あっという間の出来事であった。
艦隊特攻を仕掛ける間もなく、既に4隻の巡洋艦がたった1機のモビルスーツによって沈められたのだ。
「・・・・・構うな・・・・想定内である!!・・・中尉、命令を・・・全艦全速力!!目標に突撃せよ!!全砲門開け!!・・・・簡単に沈んではならん!!せめてミサイルを撃ち尽くすまでは!!」
再び巨大隕石の陰に隠れたジオンの2隻の艦船であったが、その巨大な天然の盾にもそろそろ限界が近づいていた。
先の数十発のミサイル一斉射撃に、核の余波である大型デブリの衝突、崩壊寸前であるのは誰の目にも明らかであった。
元々、最低限以下の人員しか配置されていない上に、ムサイは艦隊戦の撃ち合いにおいてはサラミスと同程度かそれ以下の戦力でしかなく、ホワイトベースは現在、ザクT小隊とデブリから受けたダメージから立ち直れていなかった。
この天然の盾が崩壊すれば、あっという間に両艦とも沈む危険性があった、加えてシャアが予見した通り、まだ1発の核ミサイルをこの連邦艦隊は温存していたのだ。
「─────まだ────やるのか──────」
護衛のない戦艦がどんな末路を辿るのか、それは宇宙世紀におけるこの一年戦争でも既に立証済みであったし、古くは中世紀、ニッポンの、当時は世界最強といわれた戦艦ヤマトが無数の航空機に無惨に沈められたという事実もあるのだ。
ホワイトベースの方角に残り4隻、全艦隊が突撃するのを察したアムロは、火線の弱いサラミス級巡洋艦から戦力を削ぎ落とすように向かっていった。
最初の1隻目こそ、怒りに任せて無駄に過剰なビーム攻撃をおこなってしまったアムロであったが、今は冷静さを取り戻していた。
対空機銃の掃射を難なくかい潜り、艦底部に潜り込むと左腕でビームサーベルを引き抜き、艦底部のエンジン部分を狙いざっくりと切り裂くと素早く退避する。
次の瞬間には傷を負ったエンジンは暴走し激しく爆散し沈む。
「────5つ目──────?!──────あれか?───嫌な感じの正体は──」
先頭に突出する、マゼラン級戦艦、ワッケイン中佐の座乗する旗艦マゼランであった。
「────きます!!───ガンダムです!!!」
「・・・・弾幕を張れ!!・・・ミサイル全弾発射!!・・・・メガ粒子砲撃て!!」
旗艦マゼランの抵抗は凄まじく、アムロはビームライフルの連射でミドルレンジからのエンジン部分のピンポイント射撃で数発直撃をさせた。
数発のミサイルと、メガ粒子砲の一斉射撃は、ジオン艦船を今まで守り通してきた巨大隕石を崩壊させていた。
「・・・・・ふっ・・・・勝った・・・手痛い打撃を受けたが・・・・一手違いだ・・・・戦いがまだ・・・・混迷を極めるこの時に・・・我々は・・・・後に続く者達への礎となるのだ・・・・・中尉・・・すまんな・・・・・・」
「・・・・いいえ・・・・・・寒い・・・時代ですな・・・・・・」
「─────総員退避いいいい!!!────」
旗艦マゼランは大きな火球となり、漆黒の宇宙に光を放つと激しく爆散し、周辺宙域に無数に漂うデブリと同化した。
「──────違う?!──────こいつじゃない!!─────やられた!!────本命はあっちか!!」
もう1隻のマゼラン級戦艦のミサイル発射口から、今にも射出されそうな、禍々しい悪魔の口から吐き出されそうな地獄の炎が、ホワイトベースを捉えていた。
91ブタ:2010/10/31(日) 23:44:05 ID:???
「───────これ以上やらせるか!!─────」
そういきり立つのではあったが、アムロのガンダムの位置する遠い距離からの射撃では、結果どうなるかが確実ではない。
ただ撃ち落とせばいい、というわけではないのだ。
正味の話、この距離であれば、それをする技量ならばアムロには十二分にあった。
しかし万一、当たりどころが悪ければ、ミサイルの設定次第では、瞬時に反応を開始し、核爆発を引き起こす可能を完全には否定できないのだ。
だから先程もマニュアルデータに従い、先端部分の切断、という手法を取ってミサイルを破壊したのだった。
しかし、もう迷っている時間はない、少ない最悪の可能性には目を瞑り、遠距離からの射撃によるミサイルの撃墜、を決心し、アムロはビームライフルを構えた。
────?!─────シャア────
アムロは咄嗟に狙いをマゼランのブリッジに変更し、一撃する、続く攻撃をエンジンに定め、数発撃ち込み、メガ粒子ビームでエンジンを貫いた。
マゼラン級戦艦は、ブリッジを潰されエンジンから激しく発光し爆散する、その爆発から逃れるが如く、核ミサイルはホワイトベースへと一直線に宇宙空間を飛翔していく。
そのミサイルの軌道に、突如として現れた赤い彗星が交錯すると、先端部分を切断された核ミサイルは錐揉み状態となり、やがて小さく爆散した。
「─────あとひとつ!!────」
白いガンダムは漆黒の宇宙を切り裂き、サラミスのブリッジ、先端、エンジン、とビームライフルを放つと、最後の死の華を戦場に咲かせ、やがて宇宙の塵となった。
「─────アムロ──────やったようだな────少々危なかったが───」
無線から流れるシャアの通信に苦笑いするとアムロが返した。
「─────ああ────助かったよ───終わった────引き上げよう────敵の第二陣がいつ現れるかもしれない────」
「───そうだな────────急ぎ戦域を離脱するのが賢明だろう────」
犠牲は払ったものの、敵の大部隊は全滅、結果的に見れば大戦果、大勝利であった。
ホワイトベースに2人が帰還すると、モビルスーツデッキではまず沢山の兵達がお祭り騒ぎで迎えてくれた、その中にはセイラやテムの姿もあった。
「────貴様等!!───まだ仕事は残っているだろうが!!──浮かれるのはそれが終わってからにせんか!!────」
大音量でのドレン艦長の艦内放送には皆が肝を冷やしたが、
「────シャア少佐!!────ああ──それにアムロ少尉は───お疲れだ!!───ゆっくり休ませて差し上げろ!!───以上だ!!」
と、続けた彼らしからぬ言葉に皆が苦笑すると、それぞれの持ち場に戻っていったのであった。
92ブタ:2010/11/01(月) 00:02:59 ID:???
ああ、とりあえず序盤、ここまで書いてみて、意外と長くというかダラダラと話が全然進まないのが自分自身で困った
戦闘機とか宇宙戦闘機とか航宙戦闘機とかなんかまったく統一性がない表記が多々あるのはあんまり考えてないからだから、もし読んでくれた人がいたらそのあたりは脳内で整理してください
原作のセリフをけっこう引用してるのは、考えたセリフだけだとなんかそれっぽくなくなっちゃって別人になっちゃいそうとか、ちょっと悪戯とかオレの勝手な趣味とかなんでゴメンナサイ
あと、ヤザンのキャラが全然掴めなくって、なんか変な人になっちゃってるかもしれないですけど、それもスマンです
とりあえず、あまりにも目障り、とか否定的な感想が多すぎるてことにでもならなければしばらく書き続けてみます
93通常の名無しさんの3倍:2010/11/01(月) 18:58:06 ID:???
カッコいいカッコいいよー
これからどうなるか楽しみー
94ブタ:2010/11/03(水) 23:04:36 ID:???
>>93
ん?
どれかわからんが支援ありがと
95ブタ:2010/11/03(水) 23:06:37 ID:???
束の間の勝利の喜びも、ひと時の息抜きでしかなかったかのようにホワイトベースでは問題が山積していた。
まずは先の戦いで被害を受けた左舷のエンジンであるが、20%程度まで低下した出力での航行では、いつ現れるかもわからぬ連邦の追撃から逃げ切れる保証はなかった。
しかしエンジンの修復作業などと悠長なことをしている余裕や、その施設などあるはずもなく、ひたすら自軍の宇宙要塞であるソロモンを目指す以外になかった。
先刻、ソロモンからの通信により、コンスコン少将率いる4隻からなる救援艦隊を派遣したとの連絡を受けてはいたのだが、接触には約42時間程度かかる予定であった。
モビルスーツは量産型のザクを全て失い、シャアのザクは右腕欠損、ガンダムはシャア機が左肘の可動部にダメージを負い、補給の後にすぐ稼働できるのはアムロ機のみとなっていた。
「・・・・・ではな、頼む」
「・・・・・はっ!!」
「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・シャア少佐・・・・・・少し・・・・・・・宜しいでしょうか?」
今後の対応を協議し、シャアが、ガンタムの修理と補給、念の為に予備のコアファイターを換装しガンキャノン2機を稼働状態にするようアムロに指示を出し、会議が終了したところであった。
ひとり一番に会議室から退室するところであったドレンが振り返りじろりと一瞥するのに焦りを感じたアムロではあったが、すぐにブリッジへと向かってしまったのを確認するとシャアが問い返した。
「・・・・・なんだ?」
「・・・・・いや・・・・・・奇妙な巡り合わせ・・・・というのか・・・・・・・おかしな客が来ている・・・・・今は俺の部屋に閉じ込めているんだが・・・・・・」
「・・・・・おかしな客?」
怪訝そうな面持ちで傍らのセイラが首を傾げる。
「・・・・・シャアも知っている2人なんだが・・・・・来てもらえないか・・・・・・・・・・・・」
カイ・シデンとハヤト・コバヤシがアムロの部屋に閉じ込められていると、何か下らない訳あって忍び込んだらしきことを適当にアムロが説明しながら3人は部屋へ向かった。
アムロは用心に拳銃を抜き外からのロックを解除すると、中に声を掛け扉を開けた。
室内ではハヤトがうなだれて胡座をかき、カイはアムロのベッドに腰をかけていた。
「・・・・・・あ・・・・」
カイがシャアとセイラを小さく指差し何か言いかけたが、同時に3人が室内に入るとまた扉を閉じた。
「・・・・・・?!!」
うなだれていたハヤトがゆっくりと振り返り、シャアの姿を確認するや突然立ち上がり、掴みかかりジュードーの技でシャアを投げ飛ばそうとした。
「・・・・お前た!ちが?!?」
しかしシャアはその動きを読み、逆にハヤトの左腕を一瞬で後ろに締め上げていた。
「・・・・・ハヤト・・・・か・・・・・いきなりご挨拶だな・・・」
「・・・・・・う・・・・お前たちが・・・フラウ・・・・サイド7を・・・」
「・・・・・・?!・・・・・・サイド7に核ミサイルを・・・・・・・・・・・あれをやったのは連邦艦隊だ・・・・・ハヤト・・・・・すまん・・・・・俺の力が足りないばかりにサイド7を守りきれなかった・・・」
フラウ、ときいてハッと表情を暗くしたアムロが俯いて応えた。
「・・・・核?ミサイルってあれ・・・・・・おい・・・・アムロ・・・・じゃあサイド7の連中はみんな・・・・・」
カイの問い掛けにアムロは瞑目し無言で首を横に振り、皆が暗く沈む中、カイが立ち上がりセイラを指差し続けた。
「・・・・いったい・・・・いったい何がどうなってやがんだよ!・・・・セイラ・・とかいったよな?!・・・・あんた・・・・何者なんだよ!!・・・・・お前らジオンが・・・・ジオンがサイド7に来てさえいなけりゃ!!」
「・・・・私はただ・・・・いえ・・・・アムロの・・・・いった通りよ・・・・連邦艦隊が核ミサイルをサイド7に・・・・あの状況では生存者は・・・・」
「・・・・・・答えになってねえよ!!」
いつの間にかカイの頬を涙が伝っていた。
「・・・・・・そんな不良みたいな口のききかた・・・・私にだって!・・・・サイド7に・・・・親しくしていた人はいたわ!!」
「・・・・・・どうなっちまうんだ・・・・・帰るとこもない・・・・・・みんな・・・・・みんな・・・・・死んじまった・・・・・・・」
カイは再びベッドに力なく腰を落とすと、この世の終わりとばかりに嘆くかのようにうなだれ大粒の涙をこぼした。
「・・・・・・・あなた・・・・・男でしょ!?・・・・・・・しっかりなさい!!軟弱者!!!」
セイラはカイの頬をひとつ強く平手で打つと、泣き崩れるカイをまるで聖母であるかのように優しく抱き寄せ、自らも涙を流していた。
96ブタ:2010/11/04(木) 01:23:53 ID:???
───モビルスーツデッキ
先程まで、ガンダムの修理、補給、整備、そしてガンキャノンの喚装が行われていたのだが、アムロの的確な指示の為か、予定よりも早く全てが仕上がっていた。
「・・・・・アムロ!・・・少し話せるか?・・・・・・いや、見せてもらったよ・・・・先程受けとった戦闘データなんだが・・・・・」
疲れ切ってうっかりそのままガンダムのコクピットで居眠りをしていたアムロは、下からきこえた父親の声でハッと目を覚ました。
「・・・・・あ・・・・・・父さん・・・・どうしたの?」
はぁ、とひとつ欠伸と伸びをしてから、アムロはコクピットから無重力を流れ降りた。
「・・・・うむ・・・ああ、いや・・・・・シャア少佐と・・・・それにアムロ・・・・お前たちの反応速度がな・・・・・普通じゃないな・・・・・凄いやつらだ」
「・・・・・?」
「・・・・・・・なんといったらいいのかな・・・・・お前たちには・・・・敵の動きが事前に解るのか?・・・・そうとしかおもえんのだ・・・・・」
そうそう、それとな、と更にテムは続ける。
「・・・・・それでいて出来るだけ機体に負担がかからないよう初動を緩やかに操縦しているだろう?・・・・・うーむ・・・・・要するにだ・・・・・ガンダムの反応速度がお前たちの操縦に追い付いていないのではないか?」
「・・・・いや、父さん、ガンダムは最高の機体だよ・・・・」
ふふ、とテムは一瞬にんまりとすると慌てて襟を正した。
「・・・・嘘をいうな!・・・・・データは嘘をつかんのだ・・・・だいたいな、この1号機と2号機が私の中でのガンダムの完成型ではないのだからな」
「・・・・・え?じゃあ・・・・父さんはこのガンダムよりももっと性能のいいガンダムを・・・・・」
「・・・・無論だ、まあ・・・・・・構想の段階でしかないが・・・・・私の知人にモスク・ハンという男がいてな・・・・まずやつの考案したマグネ・・」
「・・・父さん・・・・・・」
アムロはおもい立ったように真摯に父親を見つめると徐に語りかけた。
「・・・・・ジオンに・・・・・・亡命してもらえませんか?」
テムは一瞬、アムロの言葉に目を丸くするが、何事もなかったかのように語り出した。
「・・・・・でな・・・・マグネット・コーティングだったか、その技術はジャブローの工廠で既にガンダム3号機に実装されたらしく、実は私の手元にもそのデータ・・」
「・・・父さん!!」
「・・・・なんだ・・・・大きな声を出しおって・・・・」
「・・・・すみません・・・でも・・・・」
「・・・・ああ・・・・・その話ならな・・・・・もう既にシャア少佐からきいたよ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」
「・・・・ああ!・・・・・今更な・・・・・連邦に戻れるはずもあるまい・・・・・それとも何か?・・・・軍事法廷で極刑してもらうためにわざわざ連邦に戻れとでもいうのか?・・・・ジオンの窮屈な収容所暮らしというのも気が滅入りそうだしな・・・・」
テムは少し照れ隠しするかのような仕草で、ガンダムを見上げ続ける。
「・・・・・それとな、あのシャア少佐・・・・・私は彼を気に入ったよ・・・・・あの若さでなかなかどうして大した男だ・・・・・彼な、お前を誇れる友人だといっておったぞ・・・・息子の友人の頼みでもあればな・・・・」
何かこう、アムロにとっては不倶戴天の敵であり続けたかつてのシャアが、今はこうも違うとしっくりこないというのか、首を傾げてしまう。
「・・・・・ジオンのモビルスーツ研究は連邦より10年進んでいるというからな・・・・その技術を垣間見れる私はある意味幸運だ・・・・・同時に私の持つ技術をジオンのモビルスーツに流用することができれば借りは返せるだろう」
「・・・・・ねえ、父さん・・・・・・・・・もし・・・・・・・・いや・・・・・・やっぱりいい・・・・この戦争が終わったら一度一緒に地球の母さんに会いにいこう」
こういう事をいうのは不吉なような気がしないでもなかったが、何故かアムロはそう父にいいたかった。
「・・・・・・そうだな・・・・・・まあ・・・・・それは・・・・うむ、シャア少佐が今後亡命の件に関しては色々と便宜をはかってくれるようだ・・・・・先々のことはまだわからんが、私のできることをジオンでやってみるつもりだ」
先の戦いでは、アムロもフラウをはじめとする大事な人間を失っていた。
しかし、本来の歴史であれば憐れな最期をとげる父親テム、せめて生き延びた者だけでも、些細でもいい、幸せをと願わずにはいられなかった。
97ブタ:2010/11/20(土) 14:08:15 ID:???
ルナツーを発進した第二陣の艦隊、その旗艦であるマゼラン級戦艦タイタンへと、1機の高速シャトルが今まさに着艦しようとしていた。
「────シャトル213────着艦しました──」
「・・・・・む・・・」
地球からの旅を終えた軍用高速シャトルから、明らかな威厳を放つ口髭を僅かにたくわえた精悍な男がゆっくりと降り立った。
デッキにて整然と居並ぶ連邦士官、兵士達が一斉に敬礼し出迎えたのは、このマゼラン級戦艦タイタンの主、マクファティ・ティアンム中将その人である。
「・・・・・・提督!!遠路遙々・・」
「・・・余計な挨拶はいい、状況を知らせろ・・・・」
やや不機嫌にそう、先程まで旗艦の代理艦長を務めていた大尉に言い放つと、ティアンムはひとつ咳払いしてから言葉を続ける。
「・・・・いや、すまん・・・・・総員、出迎えご苦労だった・・・・」
居住まいを正し答礼したティアンムに、先程の大尉が返した。
「・・・・いえ・・・・お察しします・・・・状況ですが・・・・あまり芳しくはありません」
大尉は表情を曇らせると、ブリッジに足早に向かうティアンムに付き従い続ける。
「・・・・第一陣は全滅・・・酷い有り様で・・・・ワッケイン司令、いえ、ワッケイン中佐以下、その殆どが戦死・・・・生存者は・・・・」
「・・・・・ワッケイン・・・・・・・・か・・・・惜しい・・・男を亡くしたな・・・・・・・」
俯いたティアンム、彼は、ワッケインのやや杓子定規な性格ではあるが、先の一週間戦争でも高い指揮能力を発揮し危機を脱したことからも見て取れる、その才覚を買っていた。
それ故に先々の連邦を支える将兵に何れ育ってくれるであろうことも見越しての、彼をルナツー代理司令に推薦した一人がティアンムであった。
「・・・・殆ど、といったが・・・生存者は?」
「・・・・はい、発見できたのはたったの1名でしたが・・・・2時間程前に救難信号を拾ったというトリアーエズ戦闘機パイロットのシロー・アマダという少尉が・・・艦列を離れ独断で・・・・」
「・・・・・・??」
「・・・生存者は連邦軍のモビルスーツ試験部隊の隊長、とのことでしたが・・・機体は酷く損傷し極度に興奮しており・・・・今は艦列を離れる違反を犯したシロー・アマダ少尉共々、独房に監禁しています・・・・」
ティアンムは小さく嘆息すると、大尉に対して諭した。
「・・・・大尉・・・・軍規に忠実なのは君の良くもあり悪くもあるところだ・・・そのシロー・アマダ少尉をすぐに房から出して後で私のところに来るように伝えてくれ・・・・それとその・・・生存者とは話せるのか?」
「・・・・はぁ・・・あ、いえ、健康面は恐らく問題ないかとはおもわれますが・・・・ドクターチェックすら受けさせられるような状態でもなかったので・・・・」
「・・・・わかった、構わん、少しでも情報が知りたい・・・シロー・アマダ少尉共々、2人を私の部屋に寄越してくれ・・・・15分後にな・・・」
「・・・・・・承知しました・・・その他に生存者は・・・・・あの惨状では・・・・核ミサイルの直撃を受けたコロニー、その住民は絶望でしょう・・・・撃破された第一陣の者も・・・生存者はいないでしょう・・・・」
ティアンムは、急に表情を険しくして大尉に小さく唸る。
「・・・・・らしくもないな大尉、あれは・・・・コロニーの隕石衝突事故なのだよ・・・・ジャブローでも連邦議会でもそう把握している・・・・間も無くメディアを通じ全世界に向けて公式発表があるはずだ・・・・滅多なことは口走らんことだ・・・」
「・・・・・は、はい・・・」
「・・・・・すまんが大尉・・・・・私が急遽、宇宙に上がってきた意味と理由を考えてもらえると助かる・・・・まあ尤も、悪意のある左遷とも和平派にとっての厄介払いとの意味するところが多くを占めているのは否めないがな・・・」
尻拭いは自分達でしろ、とな、と、自嘲を含んだ言い回しをするとティアンムは、タイタンのブリッジの扉が開くとキャプテンシートに無重力を流れ座した。
そして傍らの大尉に手渡された資料、報告書にさっと目を通す。
─────少ない、少なすぎる──
シャトルの窓から伺い見えた自艦隊の数に、先程眉をしかめたのではあるが、第一陣を無残に全滅させた敵を追討するには余りにも少ないのではないか。
マゼラン級2隻、サラミス級3隻、セイバーフィッシュ20機、トリアーエズ10機、改めて報告書に目を通し愕然とする。
加えて第一陣とは違い、核武装もしていない。
尤も、現時点でこれ以上の戦力を割いてはルナツーの防衛、存続自体が怪しくなるのは当然、ティアンムも理解しているのだが。
「・・・・・・ジャミトフごときが・・・・・・賢しい真似を・・・・」
多難な追討作戦に、そんな悪態をつくしかないティアンムは、苛立ちを抑えるしか今はできなかった。
98ブタ:2010/11/20(土) 17:54:08 ID:???
「───赤い彗星などと謳われる者がな───迎えの艦隊がなければ家にも帰れないなどとドズル中将に泣きつくとは────自分をみっともないとはおもわんのか?───」
ホワイトベースのブリッジ、味方艦隊との通信回線を開くや、いかめしいでっぷりとした体躯、もみあげに口髭をたくわえた中年の男、コンスコン少将のあからさまな嫌みがシャアに注がれた。
「───若者をいじめないでいただきたい───などと返したいところですが────救援に感謝致します───コンスコン少将──」
嫌みを少しも気にする素振りを見せることなく整然と敬礼をし、仮面の下に穏やかな笑顔すら伺えそうなシャアに、やや予想外、と面食らったようなコンスコンが返す。
「────ふん──V作戦の戦果は我々ジオンにとって非常に有益なものだ───貴様に感謝されるなどという筋合いの話ではないわ───まったく──何かあれば私の手際を見せてやる、よく見ておくのだな──」
ばつが悪そうなコンスコンにシャアがいう。
「────早速で申し訳ないのですが───悪い知らせです───敵の第二陣が迫っています───計算によれば4時間25分後には戦闘可能距離に追いつかれるようです───」
「────間に合わんな────このままでは──」
「────は、現状の速度では少将の艦隊との接触予定時刻は5時間40分後───こちらは拿捕した最新鋭戦艦のエンジンのダメージが酷くこれ以上は────しかし──少将の旗艦である高速重巡洋艦チベの──」
「─わかった───みなまでいうな────チベだけなら全速力でとばせばぎりぎり間に合うかもしれん───それと───こちらには精鋭の高機動型ザクがあり優秀なパイロットが多数いる───」
「────ほう」
「────たかだか1隻というな───青い巨星の異名をもつランバ・ラル大尉に───白狼シン・マツナガ大尉──このアナベル・ガトー大尉など何れもドズル中将推薦の一騎当千の強者揃いだ──5機ばかり引き連れて先行する───」
傍らに控える髪をオールバックにした銀髪の男を得意げに親指で示しながらコンスコンはいった。
「───は、期待します───正直なところ───危機的状況といわざるを得ません───この局面の少将のご活躍如何でジオンの行く末が大きく左右されましょう───何卒宜しくお願い致します───」
「───ふっ────尻の痒くなるような世辞はいい──わかった───時間があまりないのでな───急ぎ取り掛かるとしよう───」
そう通信を切ると、ひとつ、ふぅと息をついてからコンスコンは洩らした。
「・・・・・・あのシャアという若造・・・・もっと生意気なガキだときいていたが・・・・・しかし・・・・・いや・・・・ガトー・・・奴はなぜマスクをはずさんのだ?」
「・・・・はて・・・ひどい火傷とかで・・・・美男子だとの噂もありますが・・・・・謎の多い漢です・・・・・・しかし屈強のジオンの勇士であることは間違いありません」
「・・・・まあ・・・よいわ・・・いつか奴の化けの皮を剥いで見せる・・・してザクは?」
「・・・は、万全です・・・して、私とマツナガ大尉とラル大尉・・・後の2名の人選は・・・・・」
「・・・・・・ふっ・・・貴様の部下の若いの・・・カリウスといったか・・・・やつはどうだ?」
「・・・・はっ!!非常に優秀な男であります!!・・・此度の精鋭部隊の末席にでも加えていただけるのであれば彼も喜びます!!」
ガトーは自分の名誉のように歓喜し、大きく敬礼した。
「・・・・・ふふっ・・・・よかろう・・・但し、あのシャアという若造の手前、私に恥をかかせるようなことだけは困るぞ・・・・あとの1人はランバ・ラルに任せるとしよう」
「・・・はっ!!誓って少将の名誉を汚すような戦いは致しません!!カリウス共々、粉骨砕身、連邦の無能共にジオンの恐ろしさを、悪夢にうなされるまで刷り込んでやります!!」
「・・・・うむ・・・・頼もしい、期待するぞ・・・・ところでガトー・・・・クワメルに繋留しているアレには確か・・・増加ブースターが装着されているという話だったな・・・」
喜色満面、といった先程までのガトーの表情が難色を示した。
「・・・・少将・・・・しかしアレは・・・全てが試作段階の・・・・確かに・・・此度の強行軍にケリ・・・もとい・・・増加ブースターを装着した新兵器モビル・アーマーであれば追従できるかもしれませんが・・・・」
「・・・・戦力は限られている・・・・使える物は全て使う・・・・時間がない・・・すぐにパイロットと技士に確認と、出撃が可能であれば準備を急がせろ・・・・」
V作戦を巡る連邦とジオンの戦いは間近に迫っていた。
99ブタ:2010/11/20(土) 22:24:24 ID:???
「・・・・あ!・・・・ああわ!?・・・・・うわぁあああ?!!」
カイ・シデンの搭乗するガンキャノンのコクピットを赤色のザクのヒートホークが無惨に抉った。
「・・・・まあ・・・こんなところか・・・・」
と、洩らすアムロ。
アムロとテムの共同作業により作成されたより質の高いシミュレーターの中で撃墜、戦死の判定を受けたカイが、ゆっくりと這い出てきた。
「・・・・勘弁してよ・・・・データとはいえ・・・・素人の俺がシャア少佐に勝てるわけねえだろ・・・」
「・・・・そんなことない・・・・運動性と格闘戦以外の性能はガンキャノンの方が圧倒的に上なんだから・・・・やりようによっては簡単に勝てる・・・所詮はデータだからね」
「・・・・そんなこといったってよぉ・・・」
せっかくの新品のアンダーシャツとジオンの軍服が汗で湿って気持ち悪い、といった仕草をみせてからカイは襟元を緩めた。
アムロの部屋でセイラに抱かれ大泣きしてからのカイの立ち直りはおもいのほか早かった。
シャアやアムロ達の勧めでジオンの軍属になるのを何故か二つ返事で承諾したのが、カイ・シデンという男を知るシャア、特にアムロからすればかなり意外であった。
一方のハヤトはといったら、
「・・・・・犯罪者として裁かれるか軍属になるか・・・・軍属でいればフラウの敵、連邦を討てるかもしれない」
と、少々歪んだ動機で軍属となった。
2人共に、軍曹待遇のパイロット候補生という待遇を得ていた。
もうひとつのシミュレーターからゆっくりと這い出てきたハヤト。
「・・・・・シャア少佐のザクを撃墜したよ・・・・」
「・・・・・・・・・・え」
ハヤトの言葉に一瞬にして固まるアムロ。
「・・・・・あれ・・・・・ホントだ・・・・やれば出来るんだねえ・・・・」
「・・・・・何をいっておるか・・・・ただのデータの不具合ではないか・・・ほれ、この動きをトレースする場面で必ず0.4秒程度の間、不自然に動きが止まるんだ」
テムが携帯用PCのディスプレイを開き説明をはじめた。
「・・・・・・と、ここでハヤトが狙い撃った、わけだな・・・・まあ・・・・新しいデータを今インストールするからな、少し待て」
「・・・・なんだよ・・・・・やっぱりね、ハヤトなんかがデータとはいえシャア少佐のザクを撃墜したなんて・・・」
「・・・いや、そうともいえんぞ・・・・この、不具合であったにせよ僅かな隙を見つけ出してそこを狙い撃ったハヤトの動きを読むセンスは大したものだ・・・・とても今日初めてシミュレーターに乗った者とはおもえん・・・うむ」
テムの言葉に、年齢からも下の立場に見ていたハヤトに先んじられた気がしたカイが慌てて反論する。
「・・・なんだよ!・・・ちょっと!・・・・コレ見てよ、コレ!・・・ハヤトは10回のシミュレーションで撃墜スコアが6、でしょ?で、被撃墜が7・・・」
テムの携帯用PCをポポンと軽快にタッチして説明する。
「・・・で、俺は撃墜スコアが同じ6だけどね、被撃墜が3よ?・・・てことは、だ、俺のほうが生き延びる率がね・・・死んじまっちゃ・・・ねえ」
アムロは悪気ないカイの言葉に、アムロの知る歴史でのカイ、ハヤト両名の行く末を暗示しているかのようで漠然とした不安を感じてならなかった。
後に、ペンとジャーナリズムで戦う道を選んだカイ、戦いを続け戦死したハヤト、成り行きもあったにせよ、2人を戦争に巻き込んでしまった形になって、果たしてこれでよかったのだろうか?と。
まだ何やかんやと騒ぐカイの言い訳を聞き流していると、そこに一人の青年がゆっくりと近づいてきた。
100通常の名無しさんの3倍:2010/11/20(土) 22:31:29 ID:???
続きキタコレ
名だたるメンバー勢揃いですな〜
101ブタ:2010/11/21(日) 12:11:40 ID:???
「・・・・テム・レイ博士、アムロ少尉と共に10分後にブリッジにと・・・シャア少佐からの伝言です・・・」
敬礼し、一番理解に苦しむ選択をした男が、ジオンの士官服を身に着け一同のもとにあらわれた。
「・・・・・お、ブライトく・・・と、ブライト少尉、だったな・・・その軍服もまたなかなか似合っているではないか」
地球出身で、その生涯を退役まで連邦軍に捧げた、無論、シャアの反乱以降のことをアムロが知る由もないが、連邦軍人の生ける伝説となった英雄、ブライト・ノア。
その彼が今、ジオンの軍服を着ている事実はアムロにとっても、自身の現状よりも更に違和感を感じてならなかった。
「・・・・いえ・・・そんな・・・」
「・・・・ブライト少尉、もう少し肩の力を抜いたらどうかな・・・・・・君には君の事情があるのだろうから同じく亡命者同士、とはいえ適切なアドバイスにはならんかもしれんがな・・・」
ブライトもテムと同じく、コロニーに対し核兵器まで使用した惨劇、事件、V作戦に深く関わる連邦軍側の当事者である。
恐らく、連邦に帰れば軍法会議にかけられ生きてはいられまい、そしてジオンでは収容所送りの身分である。
シャアと、似た境遇であるテムの説得に、たったひとつ残された苦渋の選択肢を選ぶ以外になかったのだった。
「・・・・ところで・・・・どうかね?君もシミュレーションをやってみるかね?」
盛んにコミュニケーションするテム、艦内放送で呼び出せば済む事を、わざわざブライト一人を新参者の集まる中へ寄越して伝言させたシャアの意図を、テムもアムロも半ば理解していたからだ。
「・・・・・いえ・・・・・自分は戦闘機の適性も低かったので・・・・・より高度なモビルスーツの操縦などはとても・・・・」
「・・・・・どうだいブライト?・・・ドレン艦長は?・・・・色々と難しい人だからなあ・・・」
とりあえず今、ブライトはシャアの計らいで艦長であるドレン付きの副官見習い、といったポジションに配されていた。
ドレンと同じ少尉で少々違和感のある話でもあるのだが。
今回の作戦を無事生き延びたのであれば、ドレン少尉は十字勲章二階級特進が半ば約束されたシャアの部隊のナンバー2であったので、頭ごなしに怒鳴りつけても命令を下しても現場ではまったく違和感がなかった。
「・・・・あ、ああ・・・・しかし、優れた軍人だよ・・・皆からの信頼も厚いようだし・・・シャア少佐の懐刀だけのことはある・・・学ぶべき事も多い・・・」
「・・・・そうだな・・・・・父さん、そろそろブリッジに上がろう・・・ブライトも一緒に・・・どこで油を売ってたんだ!・・・なんて、ドレン艦長にどやされる前にね・・・お互い新参者の辛いところさ」
顔を見合わせ互いに肩をすくめるアムロとブライト。
「・・・うむ、ではカイ、ハヤト、今度はザクに乗ってシミュレーションをな・・・私達はブリッジへ上がる・・・対モビルスーツ戦闘と対戦闘機戦闘を交互に繰り返しおこなっておくんだ」
「・・・うへ・・・まだやるのかよ・・」
「・・・はあ・・・」
「・・・?!・・・馬鹿者!!死にたくなかったら寝る間も惜しんで訓練せんか!!・・・・その場で腕立て100回!!はじめ!!・・・まったく・・・近頃の若い者は・・・」
テムに怒鳴りつけられ渋々腕立て伏せをはじめる2人をそのままに、3人はブリッジへと向かった。
彼らの、自分達の先のことはまだわからない。
しかし暗い未来を想像し不安に煽られるよりも、今は出来ることを出来る限りやる、ここにいる全ての者に、それ以外のことで道は開けてはこないであろう、そんな至極当然のことをアムロは感じおもっていた。
102ブタ:2010/11/21(日) 16:14:34 ID:???
「・・・・・シャア少佐!!・・・・・・敵艦隊、あと10分で戦闘可能宙域に到達します!!」
ホワイトベースのオペレーター席に座る索敵担当からの報告に、ブリッジにはまた一層の緊迫した空気が張り詰めていた。
「・・・・コンスコン少将のチベはどうか」
いつもの如く冷静なシャアが淡々と問い返す。
「・・・・間に合いません・・・・このままの速度を維持しつつ航行すると仮定すれば27分後に接触できますが・・・・」
「・・・・敵に背後を狙い撃たれますな・・・・予定通り5分後に急速反転し反撃に出る!!・・・・少将のチベは戦闘開始から約25分遅れで戦域に到着、でいいか?」
ドレンが口を挟んだ。
「・・・・はっ、あ・・・・」
「・・・・コンスコン少将のチベより入電です、回線開きます」
通信士のセイラがそういい取り次いだ。
「────シャア──すまんな───少しの間耐えてくれ───できるな?」
相変わらずのふんぞり返った態度とでっぷりした体躯のいかめしい人相に少々の不快感がブリッジに漂うのだが、今は救いの主であることに間違いはない。
「───やれます───私もこれからすぐモビルスーツで出ます──」
「───ほう──自ら出るとは相変わらず殊勝な心掛けだが───大事な戦果を落とされるなよ───私が到着したときには戦果の全てが宇宙の塵になっていましたでは話にもならんからな───」
「───フフッ──そこは申し上げた通り少将のご活躍如何です─────」
「───いうではないか───心配するな───10分後にモビルスーツ部隊を射出する──それに取って置きの新兵器、モビルアーマーを先行させる───」
キャプテンシートを離れモビルスーツデッキに向かおうとしたシャアが動きを止めた。
「────モビルアーマー?──」
この時、既に実戦配備されていたのか?と。
「───型式番号MA-05、通称ビグロ、熱核ロケットエンジンを採用した高機動、高速戦闘用の機体だ──高出力のメガ粒子砲にミサイルランチャー、2本のクローアームを備え───戦力はモビルスーツ1個中隊以上に匹敵する───そうだ」
手元の資料を眺めながら頬杖をつき一通り説明すると、まあ、MIP社製の試作機ではあるが、と最後に付け足し、コンスコンは資料を棒状に丸め、ポンとそれで手のひらを叩いた。
「───ビグロが少将の艦隊に配備されていたのですか───頼もしい──それは僥倖です───」
「───パイロットは対高速戦闘の特別な訓練を受けたケリィ・レズナー中尉だ、問題なかろう───しかし、貴様ビグロの存在を知っていたのか──抜け目がないな──さすがは赤い彗星だと誉めておこうか───」
ふん、と鼻を鳴らすコンスコン。
「───ありがとうございます───戦果に期待します───」
そうシャアは毅然と敬礼をすると、コンスコンが答礼し、通信を切るとドレンに2、3指示を出しモビルスーツデッキへと降りていった。
「・・・・・よおし!!反転と同時にモビルスーツを射出する!!・・・・・・セイラ准尉、本当に新米の2人は使えるのか?」
「・・・・・ええ、アムロがフォローするそうです、それに、ガンキャノンの性能と装甲なら大丈夫だと・・・・それにホワイトベースがこんな状態ですから・・・」
「・・・・護衛は多いに越したことはない・・・か・・・他にパイロットもおらんしな・・・・ブライト・・・貴様が私ならどうする?」
「・・・・は?・・・あ、はい・・・同様です・・・敵は大軍ですから・・・まずは傷ついたホワイトベースの護衛が第一かと・・・援軍の到着まで時間を稼いで・・・・しかし・・・」
ちっ、とドレンが舌打ちする。
「・・・・・いいとこ30点だ、まるで素人だな・・・大軍相手に守りに入りジリ貧になってどう状況を打開するのだ?・・・敵の戦力、性能を、味方の状況をもっとよく考えろ・・・援軍はアテにするしかないだろう・・・」
何割かは愚痴のようにドレンはブライトにいう。
「・・・・・積極的に攻勢に転じての護衛だ・・・抜けてきた戦闘機など弾幕を張って近づけさせるな、ではない、気合いで叩き落とせ!!・・・状況が悪ければ悪いほど毅然としていろ!!」
「・・・いいか?指揮官の弱気は部隊全体の損害損失から壊滅全滅へと繋がっていく・・・・端からそんな奴らがまず戦場で死んでいくのだ・・・それを忘れるな・・・」
「・・・・・はい・・・」
巡り合わせとはおかしなもの、違った歴史では、指揮官同士、敵として合いまみえ、勝って生き延びたブライトが、負けて宇宙に散ったドレンに説教をされるとは。
間もなく戦端が開かれようとしていた。
103ブタ:2010/11/21(日) 19:59:18 ID:???
会戦を遡ること約3時間前、艦隊旗艦、マゼラン級戦艦タイタンのブリッジ。
キャプテンシートに座したマクファティ・ティアンム中将の傍らで、半ば懇願するように纏わりつく2人の若者がいた。
「・・・・提督!!何故俺の戦闘機に予備パイロットが乗ってるんですか!!」
「・・・・うるせえ!!お前みたいな名前の通りの素人の下手クソのことなんざあどうだっていい!!・・・この艦には他に何か機体はないのかよ!?」
「・・・・なんだと?!命の恩人に向かって・・・・俺は素人じゃない、シローだ!!下手クソは機体をあんなにしたお前のほうだろ?」
「・・・・あ?・・・なんだと・・・この野郎・・・上等じゃねえか・・・」
「・・・き、貴様らぁああ?!!提督に向かって・・・・なんだその態度は!!!」
副官の大尉が叫び、今にも飛びかかるのではないかといった勢いのヤザン・ゲーブル少尉に、ブリッジのクルーが立ち上がり、シロー・アマダ少尉と2人を牽制する構えを見せた。
「・・・・・総員、持ち場に戻りたまえ」
そう短く、威厳を放つ声色でゆっくりと告げると、皆はそれぞれの持ち場に戻り、副官の大尉もシローも、ヤザンですらも少々落ち着きを取り戻した。
若い2人と大尉の怒声にもまったく眉ひとつ動かさずキャプテンシートに座し肘掛けに頬杖をつきものおもいに耽っていたかのようなティアンムがまた言葉を続ける。
「・・・・・ヤザン少尉・・・その・・・・先刻の赤いガンダムの話は本当なのかね?」
「・・・・は?・・・嘘はいってね・・ませんよ・・・」
「・・・・うむ・・・・シロー少尉の持ち帰った君の試験ザクの記録データを調べさせてもらったが・・・先戦いで君は・・・独断専行して部隊を勝手に動かしていた・・・証言と少々の食い違いがあるようだが」
「・・・て、てめぇ・・・いつの間に・・・・」
肩をすくめとぼける仕草でヤザンをからかうシローに、頭に血が上りキレそうになる寸前でティアンムが抑える。
「・・・落ち着きたまえ・・・・・非常に素晴らしい戦績のようだ・・・・同時に君の資料を調べさせてもらったが・・・随分とザクを撃破しているようだ・・・連邦軍内でもトップクラスのエースパイロットではないか」
将軍にそう評され、まんざらでもないヤザンは気を取り直し、シローは、へぇ、と感心した。
「・・・・・しかし・・・・その気性が災いして・・・・ガンダムのテストパイロットに名前が上がったものの・・・書類選考で弾かれた要注意人物でもあるようだが・・・」
ぷぷっ、と今度はシローが堪え切れずに吹き出していた。
「・・・・シロー少尉、君もなかなかどうして大したものだ・・・・非力な戦闘機でザクを5機も仕留めているそうだな・・・・しかし・・・・少々内面的に偏向したところがあると・・・やはりブリティッシュ作戦で君の・・・」
ブリティッシュ作戦、ときいてシローが表情を曇らせたのをティアンムは見逃さず言葉を切った。
「・・・いや・・・すまなかった・・・・嫌なことを思い出させてしまったようだな・・・まあ、兎に角・・・・2人共・・・・機体が欲しいのだったな?・・・・・あるにはある・・・・うむ・・・一応、ガンダムがな・・・・」
「・・・・ガ、ガンダムだと?!」
「・・・・あるんですか?」
困ったような複雑な表情をしてからティアンムは続けた。
「・・・待て・・・RX-78ガンダムそれがヤザン少尉、君の戦ったガンダムだ・・・ジャブローではな、そのRX-78の高性能化の為に徹底した品質管理をおこなった、そこで規格落ちした余剰パーツ、つまり使えない部品だ、それが大量に出た」
身内や直属の部下でもない一介の士官に機密を話すティアンムに、副官の大尉が何かいいかけるのをティアンムは右手で抑えるような手振りをし黙らせた。
「・・・その使えない部品を何か有効利用できないかとな、RX-79という企画が持ち上がってな・・・ジャブローの工廠で現在、宇宙空間戦闘装備を排し陸戦に特化したガンダムを量産しているのだ・・・」
このような機密レベルの相当に高いであろうことを容易く話すティアンムの意図は計りかねるが、先のサイド7の戦いで条約無視の禁断の核まで使用したと真しやかに囁かれるこの艦隊では些事であるとすら感じる。
「・・・・・ルナツーの工廠ではな・・・・私の一存でその余剰パーツを用いて機体を3機完成させた・・・・ジャブローの決定は、ガンダム本来の重要なコンセプトであった高い汎用性を捨てるという本末転倒なものであったからな」
しかしそれはレビル将軍にも少々窘められたよ、と前置きしてから更に続けた。
104ブタ:2010/11/21(日) 22:06:46 ID:???
「・・・・・型式番号RX-79S[G]、便宜上、量産型ガンダムと名付けた・・・汎用性を維持する為に空間戦闘装備はそのまま・・・高いポテンシャルを捨てるのも惜しいので機体の安定性を目的とした域でのリミッターも設定していない・・・」
では、RX-78と何が違うのであろうか?という話をきく2人の疑問にティアンムが応える。
「・・・・欠陥部品でそのまま組み上げただけではただの不良品だ・・・・流用できるパーツはそのまま流用し、手を加えるべきところは加え、場合によっては新たに作成した・・・結果、完成したのが量産型ガンダムだ・・・」
やや自嘲を含んだような声色に対する違和感、その疑問にもティアンムは応えた。
「・・・・量産型・・・・というよりも、高コストの劣化型ガンダムというべきか・・・RX-78とあまりそう違わないコストがかかる機体でな・・・改めてレビル将軍に一晩、愚痴と酒に付き合わされたものだ・・・素人考え、生兵法は怪我のもと、だ」
「・・・でな・・・レビル将軍の計らいで汚点を残さぬよう全てなかったことにするよう廃棄する寸前に今回の騒ぎだ・・・とりあえず今はタイタンの格納庫に封印してある・・・しかも2機だ・・・」
少々じれたヤザンがいう。
「・・・で?・・・その量産型ガンダムとやらを使っても構わんのですか?」
ヤザンの決して良くはない態度に、副官の大尉がまた何かいいかけるのを制してからティアンムは、厳しく恫喝するような態度に変貌して口を開く。
「・・・・ヤザン少尉、それにシロー少尉・・・今回の一連の事件を含め、貴様らは少々知り過ぎてしまった・・・・・悪いが貴様らに選択肢などない・・・嫌でもそのガンダムに乗ってもらうことになる」
「・・・・なんですか・・・ちょっと待ってくだ・・・」
「・・・・なんだ?びびってんのか?アマチャンよ?面白れえじゃねえか・・・だがな・・・俺を・・」
「・・・同じ船に乗ったからには一蓮托生・・・退役も、無論、脱走など許さん・・・暗殺専門の特殊部隊が地球圏のどこへ逃げても貴様らを追うだろう・・・心配はいらん・・・同士は沢山いる・・・この艦のクルーなどはすべてそうだ」
人物として名高いティアンム中将の、突然のあまりの変貌ぶりに青くなるシロー、対照的に状況を楽しむかのようなヤザン。
「・・・まあ、そう悪い話だけでもない・・・V作戦は現在頓挫してしまったが・・・徹底抗戦派の内々では既に新たなモビルスーツ計画が持ち上がっている・・・場合によってはそれに君等を参加させよう」
厳格でありながら温厚、そんな紳士然としたティアンムに戻った彼はそう告げた。
「・・・但し・・・念を押すが・・・背くことは許さん・・・軍法会議で極刑、を覚悟しておけ・・・・・・ヤザン少尉、君は今から私の戦時特権で大尉としよう、シロー少尉も中尉としてヤザン隊長のモビルスーツ部隊を編成する、2人とも頼んだぞ」
「・・・・・はっはっは!!了解しました!!ティアンム中将!!・・・では早速、俺のガンダムを拝見するとしよう!!・・・いくぞ、シロー中尉!!」
「・・・・・くっ・・・従う以外にないみたいだな・・・いいさ、どうあれ敵はジオンだ・・・おかしな具合になったが・・・やることは同じだ・・・了解です・・・」
敬礼するシロー、その背中をバンバン、と高笑いしながらヤザンが叩き、2人は共にブリッジを後にした。
「・・・・宜しいのですか?・・・・あのような・・・」
「・・・・素直で扱い易い者だけではない・・・人とはそういうものだろう・・・これからは厳しい戦いとなる・・・ジオンとも・・・連邦軍内でもな・・・優秀な、使える人材は有効に使わんとやっていけんだろう・・・」
副官の問い掛けに、素直な心情を述べるティアンムは、改めて厳しい現状を噛み締めていた。
105ブタ:2010/11/22(月) 01:20:49 ID:???
封印を解かれ格納庫から出された2機の量産型ガンダムは、会戦までの時間の余裕を見つつ、すぐさま慣熟飛行に入った。
規格落ちの余剰パーツを中心に製作された機体とはとてもおもえない高い運動性、機動性、そして安定性をも発揮したこの機体は、ヤザン・ゲーブル少尉、改め大尉の期待を十分に満足させるものだった。
コアブロックシステムを廃したこと、標準装備のビームライフルを100oマシンガンとした以外に、RX-78と比してもそう大きな差のない高性能機体であった。
RX-79計画に採用の歩兵制圧用の胸部バルカンではなく、威力の高い頭部バルカンを、RX-78と同タイプのシールドをも採用しているところがティアンムの拘りである。
ティアンム中将が自嘲するほどの高コスト機体は、コストに見合うだけの高い性能を有していたのだった。
但し、とても量産機体とは呼べぬ、高級機体であったのも否めないのだが。
「────ヤザン機──ターゲット設定の隕石に着弾!───命中率87%──良好です」
「──ああ?!ふざけんな!!───照準が甘いじゃねえか!!──14時の方向に僅かにズレているぞ!!あとで修正しておけ!!」
「───りょ、了解───────シロー中尉───そちらは───」
「───待ってくれ───こちらは今日初めてモビルスーツに乗ったんだ───そう簡単に───」
まだ操縦に苦戦するシローを嘲笑うように、ヤザンは自在に機体を操りシローの背後を取ると、シローの量産型ガンダムの頭部をマニピュレーターで掴み、触れ合い回線でいった。
「───だいぶ苦労しているようだなアマチャン───宇宙での操縦のコツはな──感じることだ!!──機体を操ろうとするから振り回されるんだよ!──」
むっ、としたシローが、頭部からヤザン機の手を払いのける。
「───いわれなくたってわかってる!!───操縦の複雑さに慣れがないだけだ!!───見てろ!!」
ターゲット設定された隕石に不規則な運動を繰り返し向かい、想定予定距離を維持したまま擦れ違い様に100oマシンガンを放った。
「──相対速度よし!──シロー機───ターゲット設定の隕石に着弾!!───命中率93%です!!───お疲れ様でした!───2人共──3分後に着艦です──速やかに帰還してください───」
「────ほう!──アマチャンのクセになかなかやるじゃねえか!───今日初めてにしちゃあ上出来だ!」
「────アマチャン、アマチャンて煩いんだよ!!───俺はシロー・アマダだ!!───」
「────君達──バルカンとビームサーベル───それと今のマシンガンの具合はどうだ?───」
下らないやり取りの通信をしつつ、機体の運動で慣らしをしていると、ティアンム中将からの通信が入った。
「────あ──中将───バルカンもビームサーベルも扱い易く使い勝手がいいようです───マシンガンも予想以上の威力で───これなら実戦でも──」
「───だからアマチャンだってんだよ!!───赤い彗星のガンダムはな───こんなもんじゃない───だが!!───この機体ならやれないことはない───」
テストデータの結果に目を通しながら、2人の言葉におもわず口元をにやりとさせたティアンムは、想定外の戦力に満足していた。
計算によると、敵が援軍と接触する前に一撃を加えられる、一撃離脱で勝負をつける想定であったが、敵の要である2機のガンダムの始末をどうするかが頭の痛いところであったのだ。
彼らには悪いが、少しでも時間を稼ぎ、敵のガンダムを引き付け、防衛ラインを抜く際の捨て石になってさえくれればティアンムにとっては御の字である。
あとは戦闘機の集中攻撃でせめて一矢、ホワイトベースだけでも沈め悠々とルナツーに引き上げる算段であった。
会戦まで1時間を切ったであろう、このタイミングでやっとティアンムは、見えた勝機に手応えを感じていた。
106ブタ:2010/11/23(火) 09:41:16 ID:???
投下しようとしたらまたドコモ規制くらってました
またレス代行さんにお願いしてレスしてます
どなたかよかったら規制解除まで保守お願いします
107通常の名無しさんの3倍:2010/11/23(火) 11:51:08 ID:???
保守
108名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/11/25(木) 22:51:45 ID:???
[session 30]

 「俺は、俺のことを全く知らない。いや、一つだけ確かなことがある。
 俺は、日本人だ」

 ヒイロ・ユイは休養していた。ラテン語だという、聞きなれたような名前の地下組織と
手を組んだ『五賢人』からの命令されたオーブ制圧作戦支援の任務は終了し、
 「まあしばらくのあいだ、ゆっくりすることだな。知人をだまし討ちにしたんだ。
 気が晴れるまでは休んだ方がいい」
と、Dr.Jに言われ、古いヨーロッパの街並みを模したサイド2は16バンチでゼロの整備
をしつつ、久しぶりのバカンスを楽しんでいたのだった。
 『知人』とはいっても、ロンド・ベルで何度か顔を合わせただけの関係でしかない。
それが互いに切っても切れぬ因縁に発展することは、まだ彼しか知らない。
 あいつの驚く顔を見れたら100ドル出したっていいぜ、と同僚の一人が言った。
 1000でも構わん、ともう一人が。
 何があっても彼がうろたえることなんてないですよ。さらにもう一人。
 まあ、生きている間は無理だろうな。また一人が言って、その話は締めくくられた。
 そして彼らの全員が、ヒイロのバカンスにつき合わなかったことを後悔した。本屋やブティック
の立ち並ぶ石畳の散歩道を、コーヒーの紙コップ片手に歩いていた彼は、完全に周囲に溶け込んでいた。
周囲の観光客や住人と全く同様に、口をだらしなく開け眼を見開いていたからだ。
 空を飛ぶ大量のパンツを見ながら。

 しかしすぐ正気に戻った。レーザービームが髪を焦がしたからだ。咄嗟にスウェイバックして
致命傷を避ける。右足元の石畳に穴が開いた。反射的に左上を見上げる。人影が、ホテルの部屋の
窓を離れるのが見えた。魂を抜かれたように立ち尽くしている人々の合間を縫って走り、ホテルの
入り口にタックルした。
 ―誘っているのか?―
 地下へと向かう階段がある方向から盛大な足音が聞こえた。誘いこまれているようにしか思えない
が、追う以外にない。懐から拳銃型のレーザーガンを取り出し、警報機に叩きつける。周囲を圧する
轟音が鳴った。20秒待つ。が、誰も来ない。外で起きている異常極まりない事態に、誰もが
凍りついているに違いない。軽く舌打ちして、地下に人影の後を追った。
 降り初めて3秒後、完全に嵌められたことに気がついた。シェルター・ハッチが自動ドアのように
スライドして階段を閉鎖し、あたり一面が真っ暗になったのである。だが沈着に懐から暗視ゴーグル
を取り出し、装着する。
 ―世界が白くなった―
 「ざまあねえな、てめえも」
 「その声は…っ」
 「覚えててくれたのかい。ありがてえこって」
 そこは、地下の結婚式場だった。一斉に点灯されたシャンデリアに照らされながら、人影はアサルト
ライフルをヒイロに向け、発砲した。が、当たらない。眼を潰されながらも反射的に右横に体を滑らせた
ヒイロが、偶然肩にふれた椅子を彼に投げ付けたからだ。
 「いてえいてえ。だが、そんなもんじゃ倒せない。この俺は倒せない」
 人影は手りゅう弾をポケットから取り出し、ヒイロの立てこもった会席用丸テーブルの下めがけて
投げ込んだ。
 「知っての通り便利な体質でね。こんなもの屁でもねえさ。けどてめえにゃ…」
 勝ち誇った声が止まった。ガスが晴れて見えた、テーブルの上に立ちあがって拳銃を構えたヒイロは、
ガスマスクを着けていたからだ。
 「用意がいいなあ、オイ!」
 ライフルを居銃し、射撃を再開する。視界を取り戻したヒイロは左側に走りながら、発砲した。どちらも当たらない。
 「復讐に何の意味がある!キラ・ヤマト!!」
 倒した丸テーブルを即席の壕にしたヒイロが、わずかに顔を出し、叫んだ。
 「誰のためでもねえ!自分の運命に決着をつけるためだ!てめえをボコらなきゃ、夜も眠れねえんだよ!」
 「その行為が秩序を乱すだけだと、なぜ分からない!?」
 「もう飽きたんだよ。愛とか、平和な世界とか。そんな綺麗ごとをのたまったところで、傷ついた
 奴が許してくれる筈なんざねえ。だから!」
 「チイッ!」
 最早言葉は意味を持たない。ヒイロはシャンデリアの付け根目がけて発砲した。盛大な音を立てて
床に叩きつけられる。3回繰り返され、再び結婚式場は真っ暗になった。
109名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/11/27(土) 01:00:30 ID:???
[session 31]

 暗闇の中を、指先に触れる椅子や机の感触のみを頼りに這いまわる。足音を手掛かりに、
距離を少しずつ離して行った。だがどれだけ注意しても、自分自身も音を立ててしまう。
そして足音は近付きつつある。相手の気をそらすため、声を上げた。距離感を混乱させる
ためボリュームを変えつつ。
 「人は何のために生きるか分かるか?」
 「そんな哲学を語る場合かよ」
 「人は誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる。働くのも、結婚するのも、
 全て自分を安心させるためだ」
 「何がいいてえんだよ」
 「他国への恐怖から戦争が始まる。地獄への道は善意で舗装されていると、コキュートス
 への最短ルートを作った男がいった。自分の安心だけを優先させるから…」
 「調子くれてんじゃねえ!」
 レーザービームの発射音が聞こえると同時に、ヒイロの眼の前50cmの位置に焦げた
穴が出現した。どこまでも厄介な男だ、と不意に脱力感が走り、もっと朝食を食べておく
べきだったと妙な事を思った。
 「てめえの理屈なんざどうでもいい。カガリは!今!泣いてるんだ!」
 一瞬閃光と轟音が走った。
 フラッシュグレネードを使われたか!?椅子の下に、芋虫のように丸まって隠れた。だが、
後に続くものは、ただ静寂だけだった。
 暗視ゴーグルをつけてキラが離脱したことを確認した後で、入ってきたのとは別の階段を
使ってロビーに上がった。一刻も早くここから離れることだ。しかし、路上を走っている筈
の車両は、全て止まっていた。空(といってもコロニー内部だが)を大量の女性用下着が
飛び回るという空前絶後の異常事態に、都市機能は完全にマヒさせられていたのであった。
これだけ長い間浮遊に向かない形状のものを飛ばせているとは、上部(コロニーの芯と
いった方が正確だが)気流を操作しているに違いない。気象制御には、どのコロニーでも
厳重極まりないプロテクトが掛けられている。
 「やはりあの男の仕業か…っ!」
 初めてストライクガンダムに搭乗した時、モビルスーツに乗ること自体初めてであったのに
OSをその場で書き換えた、電算特化型コーディネーターでもなければそのような芸当は
不可能である。
 だとすれば、少なくともこの近辺の交通機関も抑えられているに違いない。ヒイロは、
軍病院に隣接した大きな公園に向かって走り出した。
 呆けたように凍りついた人の群れを縫って1km走り、公園の入り口を入ってすぐの広場の
中央で立ち止まった。携帯電話を取り出し、ダイヤルする。通話するでもなく再びポケットに
入れた。そして、パンツが落下し始めた。気流が乱されている。風を切る音。そして
 「ゼロ」
 鉄の羽根をまとったモビルスーツが、少年の直上で止まった(今更言うまでもないことだが、
コロニーの芯においては自転による疑似重力の影響はほとんどないのだ)。取っ手付きのワイヤー
が降りてくる。つかまってすぐ、ヒイロは愛機へと引き上げられた。
 「まだ慣れないな」
 軽く息をつく。最近急に背が伸びたため、コクピットを大幅に改造したのだ。結果操縦かん
等のレイアウトの変更を余儀なくされていた。
 問題はまだある。外港(コロニー外部を航行する船に乗るための駅)も使い物にならない
可能性が高い。ならば、非常用エアロックにー
 そこまで考えたところで、ヒイロは大きくため息をついた。
 「なるほど、ここまで読まれていたか」
 ロンド・ベルでは、機体ごとに固有のサインビーコンを与えていた。接近しているモビルスーツ
は、間違えようもない。
 ストライク・フリーダムだ
110名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/11/30(火) 20:47:43 ID:aHDujYIc
[session 32]

 アナベル・ガトーはその日も仕事をしなかった。
 そもそも彼にデスクワークをやらせようということ自体がおかしいのだが。
ジオン共和国は地球連邦に所属する以上、宇宙世紀憲章第9条に基づき、自治権を
大幅に削減されていた。保有モビルスーツも旧型が主で未だにハイザックが主力な有様
であり、当然数も少ない。共和国が彼の功績に報いて与えるべき地位は、ズムシティ
周辺を管轄とする第1旅団隷下の第1工兵大隊長しかなかったのだ。そして彼は、
大隊長室に閉じこもるよりも現場で『兵士と共にある』ことを選ぶ性質である。
その為彼の業務を補佐する大隊庶務課長(通称大隊秘書、大尉か中尉が就任することが
多い)は例外なく胃薬を友とし、長続きする者はなかった。アルフレッド・イズルハ
中尉もガトー中佐の姿を見て、自分もそうなるだろうと確信を育てていた。大隊長は、
その日に限って締め切った大隊長室の中、訓練視察も計画の決済も行わず、
 「うわはははははははははははははははははははは」
テレビを見ながらソファーの上で笑い転げていた。
 「皆私と同じことをしていたに決まっている。何も問題はない」
と後にガトーは語った。アルには悔しいことに、それは事実であった。
 「繰り返します!これは映画ではありません。現実に起こっていることです!!」
 アナウンサーが絶叫した。一般的にニュース番組は漫才の相方ではないと考えられて
いるが、中佐はまた違った説を唱えているらしい。
 「wwwww当たり前だ!こんなモンわざわざ撮影するアホがいるかwwwwwww」
 「あの、大隊長…」
 「イズルハ君、君は優秀な士官だが一つだけ欠点があるな。少しは空気を読みたまえ。
 こんな時にマジメな奴がいたら、その方が狂人だ」
 (そりゃそうだよな…)
 中尉は画面を見ながら、ザクがガンダムを撃破したのを見たとき以上に、自分の精神
を構成する思い込みのネットワークがガラガラと瓦解するのを感じていた。
 画面の中では、青空を背景に、安らぎすら感じさせるほどののびやかな編隊飛行をしていた
のである。
 大量の女性の下着が。
111名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2010/11/30(火) 20:48:24 ID:aHDujYIc
[session 33]

「申し訳ありませんが大隊長、これだけは目を通していただかないと」
 「ん?なんだ?」
 大隊長はいうだけあって、空気の読める男だった。アルは厚紙状の書類パッド(モニター
に書類が描かれている)を差し出した。書類には以下のように書かれていた。
 『故ククルス・ドアン大尉へのジオン白百合勲章授与を達する。同氏は宇宙世紀70年
 旧ジオン公国軍に入隊、74年モビルスーツパイロットに指定。79年の一年戦争
 において一時行方不明となるも、翌年の1月サイド3に帰還。共和国軍に入隊し、
 教官として10年以上に渡って精励した。特に、情勢不安定な中、訓練生に『牙なき人
 の明日のためにこそ戦え』と軽挙妄動を戒め、共和国の安定に寄与した。病床においても
 なお見舞いに来た同僚に教えを垂れ、軍の政治的中立性を訴えた。この功績を多とし、
 ここに白百合勲章を授与する』
 (…脱走兵扱いになっていたことはうまく誤魔化したとは思うが…)
 書類に目を通すガトーを見ながら、アルは考えていた。が、上官は意外な事を言った。
 「私がトリントンで聞いた話では、ドアン大尉はソロモンの時には軍に復帰していた
 筈だが?」
 「いえ、私が見舞いに行ったとき、確かに1月だったと本人から聞きましたが?」
 「君は耳が悪いようだな」
 といいつつ、ガトーは何故か、『軍事六法』を大仰な造りの本棚から取り出した。
開いて彼とテレビの間にあるテーブルの上に置いた。それは、旧公国軍人恩給法のページ
だった。彼が指差した個所には、次のように書かれていた。
 ≪第5章 遺族年金≫
 (中略)
 ≪第71条 以上に定められた遺族年金は、当該者が脱走兵の場合は支給されない≫
 いったんは脱走したと認められても、自ら出頭した場合は脱走兵として定義されない
とは、一年戦争中、脱走兵の多さに手を焼いた公国軍務省の苦肉の策としてよく知られる
ことである。
 「…はい、確かに聞き間違えていたようです」
 戦災孤児を3人引き取って苦労していたロラン・ドアンの顔を思い浮かべつつ、アルはいった。
 「書きなおしてくれ」
 立場がどうであろうと、アナベル・ガトーは理想的な兵士であった。
 ガトーは再びテレビに釘付けになったが、5分ほどして再び口を開いた。
 「ガンダムファイトが行われるのは今年だったか?」
 「去年あったので、次は3年後の筈ですが」
112通常の名無しさんの3倍:2010/12/08(水) 16:31:06 ID:???
保守
113ブタ:2010/12/26(日) 14:09:17 ID:???
「───心配いらないわ──落ち着いて───アムロが先行してフォローするから──」
「───は、はい───ハ、ハヤト──ガンキャノン出ます!!───」
敵艦隊との接触予定時刻3分前、まずアムロのガンダムが先行し、続く2人のガンキャノンが射出されようというところであった。
「───やれやれ──戦力ったってこれだけかよ──敵は大軍だぜ?───え?セイラさん──」
「───すぐにシャア少佐のガンダムも出るわ───戦力的には自信を持って──いいわね?──」
「───へいへい──セイラさんは気休めがお上手で─────ぬおぉっっ─」
彼独特の悪ぶり捻くれた言い回しが終わるや、カタパルトに接続されたカイのガンキャノンも射出された。
「・・・・・さて・・・・・・シャア少佐のガンダムを射出後に後退する!!・・・いいか!?逸るな!!・・・命令があるまで撃ってはならん!!こちらの位置を知らせるだけだ!!」
ブリッジではドレン艦長の怒号に近い命令が飛び交っていた。
「・・・・・艦長・・・・敵・・・は・・・本当に核を使用しないのでしょうか・・・」
まだややぎこちないかのようなブライトの問いにドレンが返す。
「・・・・さあな・・・・少佐がそういわれたのだからそうなのだろう?」
キャプテンシートに座し正面を見据えたまま、視線を合わせずにドレンは続ける。
「・・・・私はそんな大局の見える人間ではないが・・・・・ほんの短い間に人類の半数が死んだのだぞ・・・・ルールのない殺し合いでな・・・・なんの為の南極条約だ・・・・やはりアレは禁断の兵器・・・そういうことだろう」
殺し合い、戦争などやっている人間がルール、などとは滑稽な話ではあるがな、という自嘲の念は辛うじて口に出さずにドレンはそれを飲み込んだ。
先のサイド7での核兵器の使用は、地球連邦にとってとてつもないリスクを冒す、後の様々な影響を考慮すれば大局すら左右しかねないであろう危険な一大事であった。
大義名分や正義、戦争目的、軍の士気や忠誠心、民心、世論、様々なものを揺るがし瓦解させる危険性、そんな程度であればまだ救いがあるかもしれない。
最悪のシナリオを想像すれば、ジオンもまた一度廃棄した核兵器をモビルスーツに、艦船に、月からの超長距離核ミサイルを配備するであろう。
競って連邦も核兵器をつくり、今度は人類が滅亡するまで核を撃ち合うこととなろう。
地球全土に核の雨が降りそそぎ、コロニー国家のジオン、サイド3など数日、ことによっては数時間で全てが宇宙を漂うデブリと化してしまうかもしれない。
そんな最悪の切り札をそう何度も切れる道理があろうはずはなかった。
しかし、恐ろしいことにティアンム中将は、核兵器が今この艦隊に配備されていたのであれば、今回に限っては使用を躊躇わなかったであろう。
ティアンム中将には、ルナツー防衛の切り札、奥の手、として、1基の核ミサイルは彼だけの裁量で自由にできる禁断の兵器としてルナツーに厳重に封印されていたのであった。
先の戦いにおいてワッケインは、そのティアンム管轄の核ミサイルの使用権をルナツー司令としてティアンムに一任されていたのであるが、結局それを使用することはなかった。
戦いの以前に司令の任は解かれてもいたし、自らの裁量で禁断の兵器に手を染めることには、最終的にやはり躊躇いもあったのだ。
結果、ワッケインはジャブローの決定事項であった別の3基の核ミサイルのみの使用を断行したのだった。
ともあれ、様々な者の思惑や事情によりルナツーの核の封印が再度解かれることがなかったことは、一部の者を除いては幸いであった、といえたのではなかろうか。
「・・・・・きます!!・・・戦闘機のようです!!敵部隊が先行したアムロ少尉のモビルスーツ隊と接触しました!!」
114通常の名無しさんの3倍:2010/12/26(日) 16:18:43 ID:???
続きキター!乙乙
115ブタ:2010/12/26(日) 17:30:50 ID:???
──?──!!───
「───カイ!!ハヤト!!──両翼30キロの位置まで下がってくれ!!────2人はできるだけ戦闘機を抜けさせないよう各個撃破で頼む───」
「───ちょっ────」
「───話が違うじゃねぇか!!───アムロの後方で支援をって────」
「───事情が変わった────説明している時間はない!────くる!!───」
確信に近い違和感を感じたアムロが、カイとハヤト両名に予定外の指示を出した次の瞬間、暗闇を切り裂くが如く接近する1機、それに追従するかのようなもう1機の人型兵器を3人はモニターに捉えた。
「───まさか────ガンダム?───なのか?───カイ!ハヤト!───指示通り離れてくれ!──2人を守りながら戦える相手じゃない!!」
無機質な銀一色の全身に双眼だけが不気味に赤く光る機体、それはアムロの駆る機体、ガンダムと外見上の形は同一に見えた。
加えて、以前に感じたことのある嫌な感覚、強烈な敵意を放つ危険なプレッシャー。
アムロの強い口調と鬼気迫る異様な空気に気圧されてかカイもハヤトも引き下がり、2機のガンキャノンはアムロの指示通り後退していった。

「・・・・・ティアンム提督・・・」
───連邦艦隊旗艦、タイタンのブリッジ──会戦を目前にして──
「・・・・・なにか?」
キャプテンシートに座するティアンム中将の傍らで、先刻のテストデータと資料とを捲り見直し、眉をしかめた副官の大尉がふとわいた疑問をティアンムに問う。
「・・・・あ・・・いえ・・・・何といいますか・・・これほどの機体を何故、提督は・・・・」
座したまま表情を何も出さずにティアンムが返す。
「・・・・・大尉・・・・不満か?あれを彼らに託したことが」
「・・・・・正直、それもありますが・・・・あの機体・・・これほどの機体を提督は何故今まで格納庫に?・・・・テスト結果からも十二分に実戦に耐えるものであると・・・」
ふむ、と、ひとつ頬杖をつき直してからティアンムはいった。
「・・・・ロクに調整もしておらん機体が何故そのようなテスト結果を出したのか・・・・君は不思議におもわんのかね?」
モビルスーツに関し博識とは決していえぬ、この副官の大尉にはこの上官の言に対する妥当な返答が見つからず、黙して次の応えを待った。
「・・・・シロー・アマダが持ち帰ったあの・・・・ヤザン・ゲーブルという男の乗っていたザクの試験データ・・・あれをすぐさま技士に解析させたのが正解だった」
「・・・・ガラクタだったよ・・・・・それがなければな・・・・バカバカしい話にきこえるかもしれんが・・・まともに動かん機体がヤザン・ゲーブルの試験データ1つで虎の子の兵器に様変わりした・・・」
押し黙ったままの副官はただひとつだけ、ううむと小さく唸る。
「・・・・我々連邦にはモビルスーツに関する、その運用は当然として、機体制御のノウハウすらデータが決定的に不足している・・・鹵獲機体やスパイから得られたデータだけでは・・・やはり・・・」
「・・・・加えて派閥間、軍内外での秘匿やら、モビルスーツに否定的な輩が足を引っ張るどころか足元をすくおうなどという愚行を水面下で画策する始末ではな・・・」
少し話が逸れたな、とひとつ咳払いしてからティアンムは続ける。
「・・・・使える、だろう?あのヤザンという男・・・それに・・・シロー・アマダも今日初めて乗ったモビルスーツに見事に対応している・・・・・うむ・・・・兎に角、この戦いが終わってからの話だ」
「・・・ひとつの可能性を、選択肢を増やす布石としてな・・・大尉、理解してくれ」
「・・・・・・・はい」
「───敵部隊と接触します!!──ヤザン大尉とシロー中尉のガンダムが先行しすぎているようです!!」
索敵観測担当のオペレーターからの報告に、ひとつ歎息をつきたいのを危うく抑えてから、ティアンムは襟を正し戦闘開始の一喝をブリッジに発した。
116ブタ:2010/12/26(日) 21:07:26 ID:???
ヤザン・ゲーブル大尉の駆る量産型ガンダムは、旗艦タイタンを発進するや、バーニアを全開に吹かし真っ直ぐに敵、彼にとっての獲物を目指し、その目指す獲物の彗星の如き速度で加速していった。
「────邪魔だ!!どいてろ!!───」
追従するもう1機、シロー・アマダ中尉はその加速に顔を歪めながらも堪え、やっとのことで猛スピードで戦闘機部隊を引き裂くように追い越していくヤザンに付いていく。
「───くっ───ヤザン大尉!!───先行───しすぎだ!!」
「───はっは!!───アマチャン!!──無理についてこなくてもいいんだぜ?───」
「───誰が!!───?!─────11時の方向に──3機!!──」
「───む─────赤い彗星───か?─────」
センサーが捉えた3機のモビルスーツ、データによると1機はガンダム、追従するかのような後の2機はガンキャノンという両肩にキャノン砲を装備した中距離支援タイプの機体であるようだった。
しかし、ヤザンがモニターの視界に敵を捉えたといったその刹那、追従する2機のガンキャノンは急速に後退していった。
「───ガンダム!!───しかし赤い彗星じゃない!!───やつはど?──くっ──」
「───よけた?─────やる!!」
高速で接近する機体、先頭の銀色のガンダムにビームライフルを一閃、完全に捉えた狙いの一撃、アムロの攻撃を、ヤザンはぎりぎりのところでかわした。
回避した勢いそのまま、しかしヤザンは不規則なジグザグといった具合の回避運動をとりつつも、白いガンダムに狙いを定め100oマシンガンをお返しとばかりに放った。───!?─────
「────なに?!──」
捉えた、とおもったヤザンの射撃は、あたかも事前に攻撃を察知したかの如く回避され、何もない宇宙空間に弾丸をバラまいただけであった。
「────気をつけろ!!───このシロイヤツ───!?──」
「───!?───こいつ!!────」
アムロの中で稲妻のような感覚が走り、同時に急速に左上方向へと機体を回避させた。
次の瞬間にはヤザンの機体からはまったく見当違いな別方向からの100oマシンガンの弾丸が、白いガンダムの存在した空間に注がれていた。
「────よけた??!───照射がズレてる?──いや───!!──くああ!!───」
「───アマチャン!!───クソがあぁぁあ!!!」
万に一つも逃さないであろう、シローの中で必殺の一撃、回り込んでの奇襲、を放ったのが、有り得ない回避をされ驚愕した一瞬の隙、そこに逆にアムロはビームライフルの一閃を放っていた。
直撃、しかし、用心の為にシールドを構えていたシローの慎重さが彼を救った。
真っ直ぐにコクピット部分を貫く軌道に放たれたメガ粒子ビームは強固なルナチタニウム製のシールドに阻まれ、軌道を曲げられシールドの4分の1程度を破壊したにとどまった。
「───ちっ──油断しやがって───手強いぞ!!──兎に角動け!!止まったら殺られる!!───連携して叩くぞアマチャン!!」
「────シールドで!!───ジムなんかとは───やはりガンダムなのか──くっ!────ビームの威力を調整してなければ────」
アムロは前回の整備で、ビームライフルの弾数を稼ぐ為に意図的に威力を抑え持久力を重視するカスタマイズをビームライフルに施し、今回はそれを携帯していた。
一射につき30%程のメガ粒子ビームの照射量のカット、ビームの減退のほとんどない宇宙空間ではこれで十分な威力を発揮する計算であった。
ひ弱な戦闘機相手にビームライフルの威力は完全なオーバーキルであったし、大軍を相手に少数で戦うには継戦能力に重きを置かざるを得ないのは仕方のない、苦肉の選択でもあった。
一撃の威力が売りのビームライフルにこのような細工を施すのは本末転倒で愚かである、といえなくもないが、現状が現状なだけに仕方のない側面もあったのだった。
それに、ルナチタニウムの装甲とシールドを持った強敵、モビルスーツが現れるなどアムロにとっては完全に想定外であった。
間の悪いことに、背部に固定された予備のビームライフルも同仕様であったのも今となっては悔やまれた。
「───うわあぁああぁ──」
「────こ、こいつら!!─」
それぞれに散開したガンキャノンの2人も交戦状態に入ったようであった。
「───!!───カイ───ハヤト──すまない────踏ん張ってくれ──くそ、シャアは───」
そして、2機の銀色のガンダム、その内のより強烈なプレッシャーを放つ1機を起点とした巧みな連携攻撃がアムロを襲う。
117ブタ:2010/12/27(月) 00:04:38 ID:???
「────や、やったあ!!───────!??──うわあぁああ!!────」
迫り来る10機を上回る戦闘機を前に恐慌状態の中、半ばむちゃくちゃに両肩のキャノン砲を乱射したカイ・シデン軍曹のガンキャノン。
偶然か、先刻ぎりぎりまで散々にやらされたシミュレーションの成果か、カイの放ったそのキャノン砲は2機のトリアーエズ戦闘機を撃破していた。
しかし、次には2機のセイバーフィッシュ戦闘機による連携攻撃、25o機関砲とミサイルランチャーによる攻撃がガンキャノンに降り注いだ。
しかしその攻撃は直線的であり、カイは焦りながらもその攻撃を回避することに成功した。
そこにもう1機のセイバーフィッシュからのミサイル攻撃であった。
放たれた2発のミサイルの内の1発がガンキャノンの胸部に直撃したのだった。
直撃させ歓声を上げた連邦軍のセイバーフィッシュの小隊長はとどめの一撃を、と機体を旋回させ再びガンキャノンに迫る、迫ろうとしたその時であった。
「────な、な、───なめんじゃ────なめんじゃねえぞ!!───お、おれだって!───」
ホワイトベースの撃破、その目的を忘れ、血気に逸ったセイバーフィッシュの小隊長、その2人の部下、誰もが目を疑った。
ミサイルの直撃を受け、ただで済むはずがない、そう、そのはずであった。
だが、ほとんど無傷の状態でその赤いモビルスーツは悠然とその姿を宇宙空間に留め、またもやカイはキャノン砲を放つと、小隊長のセイバーフィッシュは漆黒の宇宙に爆散した。
ザクであれば、あの間合いでのミサイルの直撃を受ければその一撃で撃破されていたかもしれない。
が、ルナチタニウム製であり、ガンダム以上の重装甲を誇るガンキャノンの装甲を破壊することはできなかった。
「────く、くそっ─────敵の足を止めることもできやしない───だいたい───たったの1機じゃ────」
3機の戦闘機を撃墜、しかし、カイにとってはそれで己の任務が果たせたわけではなかった。
最初に撃墜した2機のトリアーエズ、ガンキャノンを撃墜しようと挑んできた3機のセイバーフィッシュ小隊、以外の戦闘機部隊は、カイのガンキャノンなどには目もくれず一路、ホワイトベースを目指して通り抜けていったのだ。
遠のいていく多数の戦闘機のエンジンが放つ光、それに追いすがろうとするカイを、小隊長を殺やれた憎悪に黒く燃える残った2機のセイバーフィッシュが機関砲で牽制しつつ阻む。
「───こいつら!?────ちくしょう!!───どうすりゃ────どうすりゃいいんだよ!!」
───一方、ハヤト・コバヤシ軍曹の方も似たような状況であった。
こちらでは予め、1機のセイバーフィッシュ、3機のトリアーエズによって巧みに翻弄されたハヤトのガンキャノンは、残り全ての戦闘機の通過を許してしまっていた。
20機を越える戦闘機の波状攻撃に晒される傷ついたホワイトベースの命運は、まさに風前の灯火であるかのようだった。
最後の防衛ラインに立ちはだかるシャアのガンダムがいくら奮戦しようとも、捨て身となった戦闘機部隊に一気に攻められればホワイトベースはもたないであろう、ダメージはそこまで深刻な状態であったのだった。
118ブタ :2011/01/12(水) 23:37:31 ID:???
ええと、またドコモ規制で書けないみたいです
需要あったらどなたか保守お願いします
すいませんです
119通常の名無しさんの3倍:2011/01/13(木) 05:03:00 ID:???
保守
120名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/01/16(日) 22:54:01 ID:???
[[session 34]

 ウイングゼロの武装は、主兵装であるツインバスターライフルと、近接戦闘用の
バルカン砲とビームサーベルだけだ。コロニーの内部でバスターライフルを使える
筈がない、常識的に考えて。一方ストライク・フリーダムの兵装は護身戦闘用から
対艦隊殲滅用まで多種多様である。単純に破壊力という点からいえば二機の戦闘能力
はほぼ互角であるが、地形的特性は、ヤマト准将に圧倒的なアドバンテージを
与えていた。
 しかしキラ・ヤマトは、それを全く生かさなかった。
 バルカンで迎え撃つのはフェイズシフト装甲の前に無意味である以上、ビームサーベル
で切り裂く以外の選択肢はない。が、接近はビーム砲で阻まれる事が目に見えている。
側面から回り込もうとするも、あたかもニュータイプであるかのようにこちらの行動
は読まれ、正面が向けられる。
 (やはりコーディネーター、生物としての性能は向こうが上だな。そして機体性能
 は、現在のところこちらがごくわずかに有利、嫌な仕事だ…)
 そこまで考えたところで、ヒイロ・ユイは苦笑した。弱気になっている自分を
感知するのは、もう10年ぶりだからだ。
 ーだがー

 「『ガンダム』は敵ーーーっ!」
 ミルクティーを口から垂らしたまま放心状態にあったティファは、この絶叫でようやく
現実に引き戻された。そしてまた正気を失いかけた。マリーダは、ティファのカラシニコフ
をいつの間にか掠め取り、眼の前で格闘する2体のガンダムへと突進していたからだ。

 ヒイロは後になってよく思い返したものだが、どちらが先に装甲への異常を感知
したかが、この泥仕合の勝敗の分かれ目となった。
 一般的に言って、中学生の少女は通常突撃銃を持って喫茶店の2階のベランダにある
席から飛び降りはしないし、モビルスーツに突然銃撃もしない。故にその状況を
どう利用するかも普通は思いつかないが、ヒイロはその点幸運だった。
 右足装甲への物理的攻撃がモニターに表示されるや否や、ヒイロは少女を右
マニピュレーターですくい上げ、握った。死なない程度に、強く。
 ビームサーベルを蜻蛉に構え、今まさにウイングゼロを両断せんとしていた
フリーダムは、凍りついた。
 「ド汚え野郎だぜ…!そうやって何人、無関係な人を犠牲にした!?」
 「お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
 マリーダを握り、メインカメラの前に掲げたまま、ヒイロは冷たく応答した。
 「俺にはまだ任務がある。用があるなら『帝国』に来い」
 翼をもったガンダムは、そのまま飛び去り、やがて視界から消え去った。
キラ准将は、ただ拳をコクピットの壁に、叩きつけた。
 「畜生…わざわざパンツ買い占めたのに、こんな結果かよ…」
121名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/01/16(日) 22:55:06 ID:???
[session 35]

 「すまなかったな」
 ヒイロ・ユイはどのような時でも、コロニーに行く場合は非常脱出用のエアロック
を選定し、セキュリティをマヒさせることにしている。宇宙空間に出て、コクピット
の中に入れておいたマリーダに最初にかけた言葉が、それだった。
 「だがお前も悪い。そもそもお前の所属はどこだ?俺もキラ准将も敵に回す陣営
 など、思いつかないな」
 服を強引に脱がせた。彼女の身体能力は極めていびつで、2階から飛び降りて
受け身をとれるぐらい敏捷なのに、少し走っただけで息を切らせていたのを不審に
思ったからだ。そして見えたのは、大量の生傷だった。
 考える間もなく、常備してある軟膏を取り出し、塗りつけた。
 「よほど、厳しい戦場をくぐりぬけてきたのだろうな」
 「あり、がとう…」
 「気にするな。俺にも、お前を巻き込んでしまった責任が半分ある」
 「あの、私もう口しか使えなくて、お礼といえばこんなことしか…」
 そして、ヒイロは傷だらけの少女を壁に叩きつけたー

 「…男女の出会いとしては最悪でしょう?」
 濃厚なロイヤルミルクティーの香りに包まれながら、私は本当にひどい話を聞いて
しまった。
 彼女は、驚くほどに優秀な女性だ。全く、私が紅茶好きだとどうして知ったのだろう。
微かに上等なブランデーの香りもする。ここまでされると、やれやれとしかいいようがない。
 「…提督は、奥さまとどう知り合ったのですか?」
 「サンドイッチが取り持つ縁ですね。この話が終わったら、話しましょうか?」
 「ふふっ」
 春風のような笑みが返ってきた。
 「すいません。でも、常勝の辺境伯閣下に唯一土をつけた魔術師にしては…
 なんか、学校の先生みたい」
 「そうなるためにこの仕事をこなさなくてはいけないんですよ…ああすいません、
 もう、寮に戻らなくてはいけない時間ですね」
 「じゃ、また来週に、話の続きを。…これは、私が『歩き出す』物語。
 肉体的に、という意味ではなくて、壊れたダッチワイフのプル・トゥエルヴから、
 一人の少女へと…義父からもらった名前が、マリーダ・クルスです。
 本当に…最初から最後まで、私を助け、護ってはくれたけど、愛してはくれなかった男、
 ヒイロ・ユイと出会ったことで…」
122名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/01/16(日) 23:04:22 ID:???
マリーダのキャラ壊れすぎですいません。
123通常の名無しさんの3倍:2011/01/17(月) 19:07:52 ID:???
otudesu
124SIN:2011/01/23(日) 23:37:06 ID:???
ガンダム小説書きました。
機動戦士ガンダムα
http://ip.tosp.co.jp/bk/TosBk100.asp?I=sin5963&BookId=2
125ブタ:2011/01/25(火) 02:23:52 ID:???
「・・・・さて・・・・やはり戦況はおもわしくないようだな・・・・・・」
まるで他人事のようにそう一人洩らしたシャアは、ミノフスキー粒子の干渉により明瞭ではない断片的な味方の通信から、先行した3機の苦戦を読み取っていた。
既に肉眼で捉えるのが困難な位置にまで遠ざかった、深手、といっても差し支えないであろう、損傷の決して軽くはない母艦ホワイトベース。
なんとしてもホワイトベースを落とされるわけにはいかない。
現在、急速反転し迎撃態勢を、と敵に一旦見せ掛けておいてからの再びの反転しての戦域からの全速力での艦船のみの離脱、当初からの予定通りの行動であった。
ファルメルを盾、捨て石にするかの如く追従させ、一路、コンスコン少将率いる援軍との合流を急ぐ作戦行動である。
先行したガンダムと2機のガンキャノン、中間の防衛ラインに位置取った部隊の長であるシャアのガンダム、彼等を置き去りに戦域を離脱する2隻の艦に、賢明な者ならば違和感を感じずにはいられまい。
少し考えてみると恐ろしい話である、母艦や味方のセンサー範囲の及ばぬ宇宙空間に単機で迷子になれば、長距離の航行能力も長期間の生命維持装置もないモビルスーツで宇宙に取り残されればどうなろうか。
戦闘行為を行う為に出撃している4機である、たとえ敵を撃破殲滅したとしても、戦闘での損傷による機体の様々な不具合、通信機器の故障、推進剤切れ、航行不能状態、いや、考えたくもない。
帰還できる母艦があってはじめてモビルスーツは活躍できるのだ。
常道ではこのような無謀な、正気すら疑いかねない作戦など有り得ない、このようなパイロットの命を軽視した下策などあってはならないのだ。
或いは援軍であるコンスコン少将が予定通りの行動を取れぬ事態に陥ったのであれば?はたまた予定通りの行動を意図して取らなかったのならばどうなろうか?
速力も出ず、護衛機もいない手負いの孤立した2隻の艦は簡単に撃破されよう。
悪く考えれば切りがない。
援軍はアテにするしかないだろう、と艦長のドレンが愚痴った真意はこのあたりにあった。
シャアにとっても、ここは正念場であり、非難され後ろ指さされてでも乗り切らねばならぬ、ある種の賭けでもあったのだ。
最大の戦果ですらある2機のガンダム、そしてシャア自らの命すらも捨て石になりかねない、そんな作戦など尋常ではない、故に敵を欺き心理の裏を突く奇策であった。
前線のパイロットが戦端を開いたと同時に母艦が全速力で離脱、という愚策、でもある。
「・・・・・現れたようだな・・・・・・」
待ちわびる援軍の機影よりも先に、漆黒の宇宙にセンサーが捉えたのは無数の敵戦闘機であった。
この奇策愚策は事実、敵指揮官のティアンムの予想の外であり、敵を欺くにはまず味方から、という古典に従ってパイロットで初陣でもあるカイとハヤトには伏せられており、シャア、アムロ、ドレンの3人以外には全貌は伏せられていたのだった。
───!?──────
「────ぁ──せ───?──シャア少佐───でありますか!?────そこの赤いモビルスーツ!!──」
シャアは沸き立つ感覚と、通信と同時に後方より高速で接近する大型の熱源体を捉えた。
「────こちらはモビルアーマー──ビグロのパイロットのケリィ・レズナー中尉であります!!──戦況は?!──」
不気味な姿で宙を切り裂き接近する緑色の巨体に、それまでの暫しの苦悩がまるで杞憂であったかのようにシャアはお馴染みの嫌な笑みを口元に浮かばせると彼、待望の援軍に応答する。
「───シャア・アズナブル少佐だ────救援に感謝する、中尉───先行している部隊が苦戦しているようだ───待ちかねた───共同して一気に叩くぞ────」
戦闘速度まで減速しつつあるビグロにあわせるかのように、シャアはフットペダルを踏み込み自機の赤いガンダムを急速に機動させ、共に敵部隊に向かい加速していった。
126通常の名無しさんの3倍:2011/02/12(土) 01:07:33 ID:???
あけ
127通常の名無しさんの3倍:2011/02/13(日) 09:10:18 ID:???
過疎ってるんで新規住人求む


シン総合クロススレ
http://jbbs.m.livedoor.jp/b/i.cgi/anime/5461/
128名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/02/13(日) 21:38:47 ID:???
ルルーシュとエヴァ出すっつったら怒るか?
129通常の名無しさんの3倍:2011/02/13(日) 21:40:25 ID:???
勝手にしろよこんなスレ
130通常の名無しさんの3倍:2011/02/13(日) 23:49:23 ID:???
こんな過疎ったスレで好き放題したって文句言う奴なんかいねぇよ
つまりやっちまいな
131名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/02/20(日) 23:17:46.61 ID:???
[Session 36]

 たいていの場合がそうであるように、教科書の記述のみからでは、歴史の動きは理解しがたい。
むしろ一層理解に苦しみ、混乱する場合すらある。特に一年戦争の場合がそうだ。ハイスクール
やギムナジウムの教師は生徒に対し、ジオンが開戦に踏み切った理由については「経済制裁」と
答える以上のことは望まないものである。誰もが思ったことであろう―その程度のことで、何故
アースノイドの半分を殺さなくてはいけなかったのか?何故自らが依って立つ大地であるスペース
コロニーを使い捨て出来たのか?と。
 大学の一般教養で宇宙世紀史を学ぶという偶然に恵まれた者のみが、その二つの問いに対し答え
を与えられる。(それ以外は大体問いを抱いたこと自体を忘れる)「経済制裁の結果、20億人
いたサイド3の人口が1億2千万人まで減ってしまった」からだ。経済制裁はかくも過酷なもの
であった。そして、空いたコロニーには困らなかった。
 地球連邦政府にとってサイドの一つが独立を宣言したことは大した痛手ではなかった。しかし
それが地球圏全体に波及することは、一つのサイドに人口を偏らせる事を防ぐための(地球連邦
創設の理念を想起されよ!)地球圏全体の統制された発展の阻害、ナショナリズムという厄介な
因子の発声、そして官僚の天下りポストの減少といった理由により、防がねばならなかったのだ。
経済制裁はそのための見せしめでありそれ以上でもそれ以下でもなかったのだが、効果が覿面に
過ぎた。
 その当時では、スペースノイドといえども、魂も肉体も重力に半ば捕えられていた。例えば
食糧。宇宙世紀当初、スペースノイドの食糧は半分が月の連邦公営プラントで生産され、もう半分が
各サイドの私企業によって供給されていた。(地球からの輸出はコスト面からいって論外である。
現在でも、大気圏を行き来するペイロードの87%は人間の体重によって占められているのだ。
宇宙で手に入る物質で生産できるものを運搬するには、地球の重力を超えることは高くつき過ぎる)
月からの供給がなくなった結果サイド3における食料の価格は高騰し、極端な例では米1キロが
3000ドル(現在の物価に直すと28セステルティウス、一般的な労働者の3日分の稼ぎに
相当する)にまでなったバンチすらある。また地球へのビザ制限(意外なことに、この当時はまだ
スペースノイドの地球への引き上げは無制限で許可されていた)は却ってムンゾから地球への
人口逆流を引き起こした。自然重力の中で育った世代は、大地と切り離される事を病的に恐れた
のだ。
 だがその帰結は皮肉なことに、空いたコロニーの食糧生産基地への転換と残留した市民の
エリート意識の涵養であった。サイド3は自己完結した一つの国家へと生まれ変わった。
 
 即ち、ジオン公国。
132名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/02/20(日) 23:36:10.11 ID:???
[Session 37]

 好き好んで戦争を起こそうなどという人間は、まずいない。いるとしたら精神病
患者ぐらいのものだ。ここまでは、誰もが知るところである。困ったことに、大常識人
であることを要求される政治家という人種ほど戦争回避のために努力するということを、
誰も理解しようとしない。ここにで中世紀における『静かなる朝の妖怪』金正日を思い出して
頂きたい。如何に極悪非道な政治を行おうと、彼ほど体制の維持、ひいては無秩序の回避
に才能を発揮し、心血を注いだ人間はいないだろう。軍人もそうだ。彼らは基本的に
平和主義者であることを忘れてはいけない。自分が真っ先に戦争で死ぬからだ。とはいえ、
それ以外の選択肢が国益を大きく損なうと判断した場合は別である。己の存在意義に
かかわる問題だからだ。
 戦争を起こすのは誰か?それは政治家でも軍人でもなく、一般大衆である。0079年、
サイド3では誰もがギレン・ザビに忠誠を誓った。そして数年後、シャア・アズナブルを
歓呼の声で迎えた。アースノイドにしてもそうだ。1週間戦争の直後レビル将軍のいうことに
耳を貸さず終戦協定にサインしていれば、アースノイドの犠牲は、全体の半分ではなく
3分の1に抑えられたであろう。
 では、この時国体護持のため最も苦悩していた男について研究を進めよう。
133名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/02/20(日) 23:56:20.86 ID:???
[Session38:童貞なのに娘が出来た件について]


1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:0090/06/15(木) 19:55:36.78 ID:rEBeLL10n

どうすればいいんだ…

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:0090/06/15(木) 19:56:30.27 ID:c0metrEd
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 ひんにう!つるぺた!
 ⊂彡

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:0090/06/15(木) 19:56:58.85 ID:rEBeLL10n

>>2
そりゃ幼女だけどさ…
漏れ小さい会社経営してるんだ。で、今度同業他社と業務提携することになったんだが…
業務提携の証ってことで、相手の会社の創業者一族の娘を漏れの養女にすることになってしまった
どう接すりゃいいの


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:0090/06/15(木) 19:56:30.27 ID:nAINa1m1geRu

まさかとは思いますが、この「つるぺた」とは、あなたの本来の嗜好ではないのではないでしょうか。
もしそうだとすれば、あなたは実は子供を欲しがっており、その欲求がこのような形で出たことがほぼ間違いないと思います。


134名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/02/21(月) 00:20:52.56 ID:krYqU/qZ
[session39]

 「ええい当てにならん!」
 少年は、彼に悪意をもつものからはカマキリとさえいわれるほど華奢な体には似合わない太い声で
絶叫した。
 「差しあたって急を要しないことに目を向けて気を紛らわせたい気持ちは分かるが、とりあえず
 落ち着け。それより食え、冷めるぞ」
 老女のように落ち着いた口ぶりで、少女がピザを少年に差し出した。
 「食っとる場合かーー!!!」
 少年は頭を抱えた。が、2秒後、頭痛の原因は解消された。彼の母親と弟が拘束されて運ばれてきたのだ。
 「陰謀の証拠も確保した。どうするかは、君次第だよ」
 少年より頭一つ背の高い、栗色の癖っ毛をした少年が、二人を床に転がしていった。
 「弱きもの、汝の名は女…よくいったものですね、母上。貴方の国の詩人は」
 「貴方は!父も母も裏切る気なのですか!」
 「貴方がた親は、私と妹を捨てた。弟ともども、我が前から消え失せてください」
 「兄さん…嘘、だよね。僕に、消えろなんて…」
 幼さを残した、彼の弟が震える声で言った。
 「五月蠅い!俺はお前が大嫌いなんだ!本当は殺したいんだよ!」
 縛られた二人の顔は凍りついた。癖っ毛の少年は、無言で首を振ると、二人を部屋の外に連れ去るよう
SPに命じた。
 数分の沈黙ののち、彼は口を開いた。
 「よかったのかい、これで」
 「国家のためだ」
 「いや、君にとってさ」
 「…何を今更、女々しいことを…っ!」
 癖っ毛の少年は一つ溜息をつくと、打って変って晴れやかな表情を作った。
 「気分転換に麻雀でもどうですか、陛下。と総理がいってるよ」
135通常の名無しさんの3倍:2011/03/01(火) 13:58:04.88 ID:???
>>125

続きは?
136ブタ:2011/03/17(木) 21:44:51.71 ID:???
>>135
お、レスありがと
近いうちもう少ししたら書くわw
137通常の名無しさんの3倍:2011/03/17(木) 23:28:35.46 ID:???
生きてたか
よかった
138通常の名無しさんの3倍:2011/03/28(月) 00:24:31.72 ID:???
age
139ブタ:2011/03/30(水) 23:11:07.87 ID:???
厳めしくも苦々しくも感じる表情そのままにキャプテンシートに座し正面を見据えたまま微動だにしない、そして重厚であり険悪でもあるかのような空気を漂わせる艦長のドレン。
「・・・・・宜しいのですか艦長・・・・・本当にこれで!・・・・・・」
内側で憤慨するのを抑えきれなかった副官の若者ブライトは、傍らに立ち拳を強く握り締め、唸るかのように声を半ば荒げ、ドレンに投げかけた。
先刻、距離を取り後退、といった命令を出したその後突然に、急速反転、最大船速で戦域離脱、といった命令がブリッジに響き渡った時、誰もが耳を疑ったのである。
しかし、再度命令を復唱した艦長のドレンの怒声に、総員が黙しその命令に従ったのだった。
戦域を離脱していく最中、ミノフスキー粒子の干渉によりホワイトベースのセンサーが捉えきれなくなり、まずアムロのガンダムがレーダー半径から消える。
それを確認したブライトは、ついに自身を抑えることが困難となってしまったのであった。
「・・・・何か問題でもあるのか?・・・・・・・これは打ち合わせ通りの作戦行動だ」
鋭い眼光を向けそう言い放つドレンに一瞬気圧されたブライトではあったが、一気に堰を切ったようにまくし立てる。
「・・・だったら尚更でしょう!!・・・・・・味方を・・・・前線のパイロットを捨て石にでもするつもりですか!!・・・シャア少佐ならまだしも・・・
・・・彼らのような・・・まだ子供ではないですか・・・つい先日まで民間人だった・・・・カイ軍曹にしろハヤト軍曹にしろ・・・アムロ少尉にせよ・・・それを置き去りに・・・」
「・・・それをいうならブライト・・・貴様とて子供だろう・・・事情があるにせよ強要などしておらん・・・・自ら望んで軍属となったのだ・・・軍属となったからには命令に従う責務がある・・・」
まるで吐き捨てるかのようなそのドレンの言に、気圧されていたブライトは睨み返しついに激昂する。
「・・・そういうことではないでしょう!!・・・・そんな話では!!・・・・・・・・・・・・・・・彼らが・・・・それとも彼らが新参者だからですか・・・ジオンの人間ではないからですか!!・・・彼らの命をなん・・っ?!・・・」
ブライトの左頬に強く拳がめり込み、無重力を流れセイラ准尉が座る通信士のシートの後部にぶつかると僅かに跳ね返り止まる、そして彼は痛みと衝撃によろめき尻をついた。
それまで微動だにしなかったドレンがキャプテンシートから立ち上がり、右の拳を食らわせたのだ。
行き場のない怒りとも言に対するやるせなさともつかぬ心情に震え、そしてゆっくりとブライトに歩みを進めると、強く握られた右の拳を開き、驚く彼の左肩にその手を置いた。
「・・・作戦行動中だ・・・しかし貴様を拘束したりも独房にぶち込んだりもせん・・・・・引き続き任務を遂行しろ・・・・その上で私が貴様を殴った意味をよく考えろ・・・・・・」
左肩に置かれた右手に力を込め強く握り、ひとつ掌で叩くとキャプテンシートに向き直り再び歩み、ドレンはそこに座し何事もなかったかのように正面を見据えた。
驚き振り向いていたブリッジのクルーの面々もそれに倣った。
「・・・・ブライト少尉・・・貴男のいったことの半分は・・・・他のみんなもきっと同じおもいでしょう?・・・当然、ドレン艦長も・・・」
手元の画面や通信機器から目を離さずに背後のブライトにセイラがそういった。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・でもあとの半分・・・最後のは・・・・・私がドレン艦長でも殴っていたわ・・・・いえ・・・・・・さっきのドレン艦長のよりももっとおもいっきり何発も・・・・」
「・・・・っ!・・・やはり・・・痛いな・・・殴られるというのは・・・」
複雑で恥ずかしいような表情の苦笑いをし、ブライトはそういった。
「・・・・弱気は禁物よ・・・ブライト少尉・・・」
「───1時の方向より高速熱源体接近!!───5つです!!──距離12000──」
突然の観測班からの報告にブリッジがどよめく。
「───映像、間もなく出ます!!───」
ブリッジの巨大なディスプレイにズームアップされた映像が映し出されると、そのどよめきは歓声に変わった。
規則正しい編隊を組むかのように、左右両翼に緑色のザクを2機ずつ従え、先頭を翔る白色のザクがそこには映し出されていたのだ。
140ブタ:2011/04/02(土) 12:39:47.17 ID:???
型式番号MS-06R-1、通称、高機動型ザクII初期量産型、宇宙空間戦闘に特化した高性能機体である。
一般的に最もスタンダードなザクと呼ばれるF型をベースとしたのではなく、高機動プロトタイプであるRP型、試製高機動型ザクIIから得たテストデータを元に全体的に再設計をおこなった機体。
高性能ながらも、乗り手を選ぶ扱いの極めて難しい機体であり、そのためにこの機体はたったの22機しか生産されなかったとの記述が後に残されている。
その内の10機は、白狼、シン・マツナガ専用機に代表されるような、MS-06R-1Aタイプと呼ばれる高機動型ザクII改良型、に改修されたという。
その記述の真相の程は定かではないが、今ここに4機の緑色の高機動型ザクII量産型と、1機の白色の高機動型ザクII改良型が存在し漆黒の空間を高速で切り裂いている。
「───なん──てぇ!──速度──だ───ル大尉!───ラル大尉!────これ以上は危───」
コンスコン少将の座乗する旗艦、チベから出撃して後、白色のザクを駆り先頭を悠々と飛翔する今作戦の精鋭モビルスーツ部隊の隊長であるシン・マツナガ大尉。
その左翼に位置し緑色のザクに乗ったアナベル・ガトー大尉は、通信で何やら先程から時折、小難しい言葉を吐いて意気揚々としている、ようではあるのだが。
白色のザクの右翼に位置し先をいく、同じく緑色のザクに乗ったランバ・ラル大尉をやっとのことで追従する、このコズン・グラハム少尉には上手く聞き取ることができなかった。
「───コズン!!───貴様らしくもない──泣き言をいう余裕があるのなら私の動きを追う事に集中するのだな!───」
「───やってますよ───しかし連邦のやつらに墜とされる前にこれじゃあ漂う隕石にでも───ははっ──格好がつきませんぜ──しかしなんてピーキーな機体だ───少し操作を誤ればすっ飛んじまいそうです──」
ランバ・ラル大尉の下、ルウム戦役よりこっち旧式のザクIで数々の戦場を潜り抜けてきたラル隊のパイロットのNo.2である彼にも、この高機動型ザクはやや持て余し気味で、コズンはそうやや自嘲し愚痴り苦笑いを零すしかなかった。
「───そっちの伍長さんは──大丈夫かい?───カリウス?伍長?──」
先程からただ一人、押し黙ったままガトー大尉に淡々と追従するかのようなカリウス伍長にコズンが問い掛けた。
「───お〜い──────伍長?────」
「────青き巨星──────ランバ・ラル大尉の部隊も────噂程ではないようですね────」
「─────なっ?!─」
「───!!?──カリウス!!───ラル大尉──コズン少尉──部下が失礼を────」
「───いやいや、ガトー大尉お気になさらず────そうだぞコズン──情けないぞ──」
「───うむ──皆それだけいえれば大したものだ───連邦のやつらも災難だな───カリウス伍長───少し肩の力を抜け──気負いが過ぎれば戦場では己が力量を存分に発揮できんぞ──」
そういい窘めた、隊長であるマツナガ大尉は、経験の浅いカリウス・オットーという若者にこの部隊の面々の中で最も余裕がないことを理解していた。
「───はっ!!───有難う御座います!!───あ──いえ、ランバ・ラル大尉、コズン・グラハム少尉───失礼を──申し訳御座いません!!───」
便宜上、この変則な急造の精鋭部隊の隊長となったマツナガ大尉は、この部隊が最も効率的に機能するであろうことを考慮し、敢えて命令系統を隊長である自分に一本化しなかった。
階級の同じラル大尉とガトー大尉ではあったが、宇宙攻撃軍を統べるドズル・ザビ中将の最も信頼の厚い腹心で半ば義兄弟のような間柄であり、ジオンにおける名家であるマツナガ家の出でもあるマツナガ大尉を隊長とするのには何ら違和感も不服もなかった。
しかし、やはり一癖ふた癖どころではない癖のある面々の集まる変則急造部隊に阿吽の呼吸、などといった連携は恐らく期待できぬであろうことを見越し、ならばとそれぞれの部下の指揮を両大尉に委ねたのだった。
個々の特性や戦闘能力を無理に一束に纏めるよりも、一騎当千といった言葉が違和感なく当てはまるそれぞれの者達に、ある程度自由に戦わせたほうが効率的であると判断したのだ。
攻勢、守勢、退却、等といった部隊の大まかな決定権は最終的にはマツナガにあるのだが、マツナガ自身にしても、そのほうがやりやすかった。
「───見えたぞ!!──1時の方向─────────むっ?!?───」
ラルが、暗い宇宙を漂うかのような古代エジプトのピラミッドに佇むスフィンクスのような形状をした白い戦艦を遠方に捉えたのだ。
「───ほう──どうにか───間に合ったようですな──────ラル大尉?───」
そう応えたガトーが、ラル機の挙動の違和感に気付く。
141ブタ:2011/04/02(土) 21:55:45.21 ID:???
運がいい、だけで1月3日の開戦以来の大激戦を生き延びてこれたなんてことはないだろうが、俺は運がいい、はずだ。
少尉は運がいい、などと人にもいわれるし、自分でも多少そうおもっている。
開戦の報をきいたその時には、ジオン公国だなんて数ある中のたかだかひとつのコロニー群しか持たない棄民どもの集まりが勝手に独立宣言などと、ただの反乱軍のくせに寝言をほざきやがってと正義と使命感に燃えたもんだ。
そうやって意気揚々と戦場へ向かっていったのは俺だけじゃない。
ジオン公国総帥を自称する宇宙棄民の首領、独裁者ギレン・ザビの宣戦布告の放送を、俺の所属した大隊の大隊長の大尉、あの糞野郎にいつものようにゴマをすりながらはやし立ててきいてたっけな。
すぐにティアンム中将麾下の俺たちの大隊にも、反乱軍の画策するコロニー落とし、ブリティッシュ作戦、を阻止する作戦命令が下った。
何やらおかしいとおもっていたが、事前に反乱軍との戦いが始まるのを連邦軍も察知していて、実弾を使った演習、訓練、の名目で俺たちは既にルナツーを出撃していた。
しかしザク、あんな中世紀の、いつだったかネットの動画サイトで見たくだらないアニメの人型ロボットみたいな兵器があんなにも恐ろしいもんだと解った俺の初の実戦だった。
ティアンム艦隊全体で70%もの損害を受けて、大隊はあの日に壊滅し、俺とハラ中尉のトリアーエズだけがなんとか生き延び他は全員死んだ、まあ、あの糞野郎大尉は死んでくれてよかったが。
同僚の死に悲しんで、なんてほど俺は部隊のヤツらと親密じゃなかったが、間もなく次の戦場、ルウム戦役に他の部隊との再編成、補充としてハラ中尉と共に編入された。
レビル艦隊の後方での予備戦力との名目だったが、連邦宇宙軍はルウムで敗れてレビル将軍は敵にとっ捕まり、転進する俺たちティアンム艦隊も反乱軍の追撃部隊と戦闘になった。
早々に左の翼に被弾し小破した俺はすぐに味方のコロンブス補給艦に着艦した。
ハラ中尉は殿部隊として反乱軍の追撃部隊と最後まで奮戦して死んだと後できかされた時には、ひとり取り残された気がして少し悲しかった。
それからルナツーに帰還し、防衛部隊として新しくセイバーフィッシュ戦闘機をあてがわれた俺は、先の戦いでただの1機の撃墜スコアもないにもかかわらず、軍曹から曹長に昇進した。
ルナツーに引きこもり過ごした日々の中、あれは反乱軍の威力偵察部隊であったのだろうか、撃墜され死んだやつもいた3回の出撃、小競り合いをまた生き延びた俺は少尉に昇進した。
普通は下士官から士官へ昇進するなど平時では有り得ないのだが、軍にも色々と苦しい裏の事情があるようだ。
ハイスクール卒業以外になんの資格も免許もない俺が、オヤジのコネで連邦宇宙軍の伍長、パイロット候補生待遇で軍に入り、糞野郎大尉へのゴマすりで特例としてみんなの憧れ戦闘機パイロット、軍曹となった。
ハイスクールを出て2年もプラプラとしてた俺みたいなヤツが突然、軍に入ってから2年足らずで、戦時中の今ならともかく、そう悪くはないだろうか。
それが今はまあ、士官にまで昇進するとか、しかも無試験で、まったくよ。
で、今回のサイド7コロニーに迫る巨大隕石破壊作戦だ、その混乱に乗じた反乱軍による我々連邦のモビルスーツ強奪事件を含む一連の騒動。
先発した第一陣は核ミサイルによって巨大隕石を破壊しようと奮闘したのに、反乱軍の背後からの卑劣な奇襲により残らず全滅、結果、巨大隕石の衝突を阻止できずコロニーに衝突して住民は皆死んだそうだ。
第一陣はただひとりの生き残りを除いて誰ひとり生きてはいなかったそうだ。
この第一陣に参加していれば俺も死んでただろう、危なかった。
そして、俺は第二陣に参加している。
今回の出撃では、さっきも、敵の赤いモビルスーツが行く手を遮って肩の大砲を散策に浴びせかけてきたのに、ただの一発も食らうことなくすり抜けてしまった。
あの赤い彗星の攻撃すら俺には当たらないのだ。
142ブタ:2011/04/02(土) 23:48:28.78 ID:???
そんな運のいい俺の目の前に今、白い一つ目の巨人が斧を振り上げている。
現実に思考が取り残されると時間の経過が物凄く緩やかになって、今までの人生を振り返ったりできるとか?死の瞬間?に?それが走馬灯がどうしたとか?そんな話をきいたことがある。
死?いや、やはり運がいい、この角度ならコクピットを巨大な斧が直撃することはない、右の翼をそっくり切り取られるくらいで済むか。
ああ、ええと、エンジンが破損箇所から誘爆しない内にキャノピーを開放して緊急脱出だ、けど、その操作をする俺の手までこうスローモーションなのは、ああ、まずいな、ああ。
「───我が一撃!!──受けてみよ!!──」
赤熱したヒートホークで切り裂かれた瞬間に偶然に触れ合い回線となったのか、ただの気のせいだったのか、白狼、シン・マツナガ大尉のそんな雄叫びをきいたような気がした。
マツナガ大尉に追従するガトー大尉、カリウス伍長の3機の高機動型ザク、彼らを相手に10機余りのセイバーフィッシュ部隊が全滅するのにそう時間はかかりそうもなかった。
「───連邦軍──時代遅れの戦闘機ばかりのようだが───よく統制がとれている─────しかし所詮───この高機動型ザクの餌食に過ぎん!!───」
そういいながらガトーは120oマシンガンで既に2機のセイバーフィッシュを墜としている。
「──刻み込め!!───白狼の名を!!──」
ホワイトベースを目指す、目指したいセイバーフィッシュ部隊ではあったが、3機の高機動型ザクが互い連携するかのようにそれを許さない。
抜けようと突出した瞬間に3人の内の何れかに狙い撃たれ爆散し数を減らしていく。

────連邦艦隊旗艦タイタン
「───白い?──ガンダムのことではないのか?───白いザク?だといったのか?!──もう新手が!?──バカな───もう敵の援軍が現れたとでもいうのか!?!───少尉!!少尉!?───」
「────バケモノとはなんだ?!──高速で?!──速くて───視認できん?───おい!!───」
「・・・・・大尉・・・・直ちに交戦中の全部隊に撤退命令を・・・・・発光信号を上げろ・・・・」
「・・・・・し、しかしそれでは・・・」
喧騒、といったような怒声の如き通信や指令が飛び交うタイタンのブリッジにてキャプテンシートに座し、ひとつ大きく息をついたティアンム中将は副官の大尉にそう指示した。
「・・・・してやられたよ・・・・我々の負けだ・・・・ここに至っては退き際が大事だろう・・・・心配はいらん・・・今なら敵の追撃もな・・・・」
「・・・・・・・・残念です・・・・・・・」
副官の大尉は撤退と発光信号打ち上げの指示を出す。
「・・・・なに・・・これでジャブロー向けの格好はついた・・・・・モグラどもの議会への言い訳もどうにかなろう・・・・・こんな戦略的に意味の薄い戦いにこれ以上・・・貴重な戦力を浪費することはない・・・」
143ブタ:2011/04/05(火) 00:17:26.40 ID:???
空虚な闇の中を、無機質な銀色と無駄に派手な、2体と1体の人型が交錯しては離れ飛翔し、時折、小さく光を放っている。
その光景を、少々視点を引いて遠目で観察している者がいたとするのであれば、それを美しいとさえ断ずる感性を持つ者もいたかもしれない。
そんな、幻想的で、ある意味での芸術的ですらあるような情景を描き出す者達には、当然ながらそんな意識などありはしない。
互いの命の明滅、消滅を互いに力ずくで競い争うなどという、常なる人であれば愚かしいといわざるを得ない行為に、このような華麗な華のようなある種の美が存在するというのも皮肉な話である。
「───くぅっ!────」
言葉にならない、と、正にそれそのままのシロー・アマダ中尉、彼の搭乗する機体、銀色の量産型ガンダムの構えるシールドは、原型が最早何やら解らぬ程に破損し裂かれ変形していた。
構える、といった表現には少々誤りがあろうか、肘関節部から先を小破し稼働しない左のマニピュレーターに引っ掛かるように付いてコクピット部を遮っている風であろうか。
機体の右の脚部の踝から先を失い、損傷の程度は小破から中破へと至らんとする過程であったが、右のマニピュレーターにしっかりと握られた100oマシンガンが彼の未だ衰えぬ闘志を証しているかのようであった。
───!?─────
「───あ──れを?!────やはりだ──間違いない!────ヤツには!!────何かが見えていやがる───」
何度目であろうか、何人であれ逃れられぬであろう間合いでの連携からフェイント、フェイク、牽制、などを織り交ぜた多角的射撃、その悉くが防がれ、或いは回避されたのだ。
その内の幾つかが不可解な敵の挙動に起因してのことであり、それはあたかも自分の思考を読まれていたかのようであり、はたまた確実な未来予知であるかのようだとヤザンは感じてならなかった。
ヤザンにせよ、当然ながら敵の攻撃、反撃を未来予測するように機体を操り、それに加えて回避運動に不規則な挙動などを混ぜ込んで敵の狙いを外している、しかし、この敵は違うのだ。
ヤザンの予測はあくまでも予測であり、この敵のおこなっているとおもわれる、確かな未来予知とは似て非なるものなのだ。
それが証拠のように、ヤザンはギリギリの回避で自機の頭部の右側はかすめた敵のメガ粒子ビームで僅かに焼け溶け頭部バルカンに不具合が生じ、シールドの半分を破壊されている。
対する敵の機体、妙に派手な塗装を施したガンダムは殆ど無傷の状態で、マシンガンやバルカンを防いだシールドに凹みや歪みや破損が少し出来た程度である。
「────発光信号?─────て、撤退?───ヤザン大尉!──」
遠方に打ち上がった光、それは後方の艦隊からの、全機撤退を意味する発光信号であった。
「──な─なんだと!?────このまま──引き下がれと?!!───ここまで───なすすべもなくヤラれたまま───」
己が技量力量に裏打ちされた自信と自負はあるが、自身を過信しているつもりなどヤザンにはない。
故に、意気揚々と赤い彗星を討つと優れた性能の機体で出撃した挙げ句に、どこの馬の骨ともわからんその手下にいいようにヤラれたまま引き下がるなど、彼にできる道理があるはずもなかった。
回避運動を繰り返しながらも刹那の思考の中、ヤザンは己の意地とプライドを賭けた、決して無謀なだけでなく勝機ある特攻をかけるという答えに必然的であったのか、辿り着いたのだった。
144ブタ:2011/04/06(水) 00:13:17.40 ID:???
「───!?──────撤退の発光信号?──か?──」
奇妙な宙返りのような軌道での回避運動をおこないながら、アムロはビームライフルを手強い方の銀色のガンダムに一射した直後に、遠方に発光信号らしき光を捉えたが、敵に撤退の気配はなく、僅かな戸惑いを見せたように感じた程度であった。
敵の動きを牽制する為のこの一射は当たりはしないが、もう一押しで墜ちそうなもう片方の敵へのフォローを入れさせぬには十分な射撃である。
続いて頭部のバルカンを放ちシールド防御で僅かに動きの鈍った隙を見、急速旋回をすると、練度の低さを感じる小破させた方の敵へと迫る。
敵は距離を保とうと機体を機動させるが、やはり不慣れなのだろうか、読み易い軌道を描きつつマシンガンを乱射してくる。
「────そこっ!────悪いがやらせてもらう──!?──────ちぃ!!──」
散撒かれた弾を回避し、そのいくつかをシールドで防ぎ、ビームライフルを僅かな時間差で2発放つと敵の左マニピュレーターとシールドは破壊される。
とどめの一撃を、とのタイミングで、後方から妙な物がアムロのガンダムに迫ってきたのだった。
「───しまった!?──無理をさせすぎたのか!!────っ!─」
しかし、それをシールドで弾き防御の姿勢をとろうとしたその刹那、アムロのガンダムのシールドを装備した左マニピュレーターは反応しない。
先程から巧みに敵の連携攻撃を回避し防ぎ続けてきたのであるが、際どい危険な攻撃を防ぐ為に繰り返し機体にかなり無理な負荷のかかる動きをさせ続けてしまっていたのだ。
一年戦争時代に何度か経験のある機体のオーバーヒートの予兆を示す嫌な違和感を時折感じていたのではあるが、ついに可動部の一部に限界がきたのだろう。
「───こんな時に─────もう少しもってくれ!!─」
アムロは機体の左側面を前面に向けるよう姿勢を制御し、迫る妙な物、弾丸を無茶苦茶に四方八方当てずっぽうに散撒きながら回転し向かってくる、マシンガンであろうか?それに備えた。
動かなくなった左マニピュレーターに装着されたシールドが、そのマシンガンに対し向けられた格好となっている。
そうして理不尽な弾丸に備えると、それをビームライフルで撃ち抜き破壊する。
──!?!─────
「───特攻?──くるのか?!────何故そこまでする!!───もう退けばいいだろうに!───」
マシンガンを破壊した小さな爆発の中、光から飛び出すように迫る強烈なプレッシャーにアムロはビームライフルを数発撃ち込むが、その銀色の機体の突進は止まりはしない。
これまで巧妙な回避運動で戦闘をおこなっていた手強い敵が、突如としてシールドを前面に構え、被弾するのも顧みずに真っ直ぐにメガ粒子ビームを受け止めながら向かってきたのだ。
数発のメガ粒子ビームにシールドはほぼ破壊され、防がれなかった1発が敵機体の左方を僅かに削るようにかすめる。
間近に迫る刹那の間合い、アムロはビームライフルを投げ捨て、背部のビームサーベルを抜きビームの刃を形成した。
145通常の名無しさんの3倍:2011/04/06(水) 10:17:16.26 ID:???
新聞小説のように楽しみにしてます!
146ブタ:2011/04/07(木) 01:07:09.35 ID:???
恐ろしく不快な汗が吹き出している、歯を食いしばり目前の危機、恐怖に向かい合いながらも何とか平静を保とうとする。
彼、シロー・アマダ中尉の搭乗する機体のコクピットのモニターには、着弾したメガ粒子ビームの飛散した光、そして機体の一部の欠損を警告するアラートがけたたましく鳴り響いていた。
「───!!──────」
死───さらに距離を詰め迫り来る敵が、自分に確実な止めを刺しにくるのを察した彼は、それを覚悟しないわけにはいかなかった。
「───やらせるか!!──」
先刻から幾度も彼の窮地を救っていた男、ヤザン・ゲーブル大尉がまたもや横槍を入れたお蔭でシローは命を拾った。
ヤザン機に何かを投げつけられ、そちらに向き直った敵のガンダム、その隙にシローは敵との距離をとった。
「───ヤザン大尉?!─────何を!?!───」
シールドを構え回避もせず、敵のビームを食らいながら突進するヤザンにシローは戦慄した。
「───このままでは埒が明かん─────────アマチャン!!───貴様には貸しがあったな?────獲物をくれてやる────上手く仕留めろ!!───」
シールドをボロボロにされながらもヤザンは敵との間合いを瞬時に詰めていった。
「──!?──馬鹿なことはやめろ!!───大尉!!──」
敵はビームライフルを投げ捨て、背部のビームサーベルを抜き、ヤザンの機体を迎え討つ構えをとった。
「───ぬぉおぁああああ!!!──」
─!!─?──衝突────刹那の攻防、ヤザンの機体は敵のビームサーベルによって前方に構えた左マニピュレーターをシールドごと切り裂かれ、そのまま肘関節からやや上の部分を払うように切り落とされた。
「──左の!!──腕くらいならくれてやる───!!─────」
敵はそのまま返す刀でヤザン機の胴の部分を薙ぎ払うように切り裂く────ことが出来ない、ヤザン機の残る右手にがっしりと腕を掴まれ、2機は密着するような格好となった。
「───残念だったな───左腕が使えんのだろう?────しかしこの───ヤザン・ゲーブル様をここまで追い詰めるとは!!────貴様──何者だ!?───」
「────ヤザン?───ヤザン・ゲーブルといったのか?──貴様が───俺はアムロ・レイ───」
触れ合い回線状態となり、敵味方の2機はそのように互いの声をきいた。
その敵の声はヤザン機を介しシローの機体にも届いた。
「───アムロ?レイ?───だが!終わりだ!!────逃さんぞ──詰めが甘かったようだな──────アマチャン!!何してやがる!!───とっとと──」
ヤザンは狙い通り、敵の動きを封じることに成功した。
攻撃が読まれ当たらないのであれば、当たるように敵を抑えつけて動けなくすればいい、馬鹿馬鹿しい程に単純であるが、これ以外にこの敵を倒す手段が見つからなかったのだ。
しかし────
「───ここは───退いてくれ!!──アムロといったか?!───ヤザン大尉も!!─」
「───?!────馬鹿が!?──何をいってやがる?!───」
マシンガンを構え狙いを定めたシローではあったが、彼にはそれを撃つことが躊躇われた。
ヤザンが命懸けでつくったこの恐ろしい敵を倒すまたとない絶好の好機、しかし、味方ごと敵を撃つなどということは、このシロー・アマダという男にできることではなかったのだ。
147ブタ:2011/04/07(木) 01:27:02.43 ID:???
>>145ありがと
最近は公式設定とか史実とかとの辻褄合わせ考えるとなかなか大変
一年戦争年表やら機体とか性能とか色々と調べるほどなんか話作りとか今後の展開とか伏線づくりの構想とかが難しくて困ってしまう
なるべく世界観に忠実にいきたいもんだけどまあパラレルだし
まあ無理無理の俺解釈から捏造までガマンできたら読んでみてください
まあ少しずつ書きすすめてくよ
148ブタ:2011/04/07(木) 09:46:52.89 ID:???
あ、いかん
×貸し、じゃなくて
○借り、だわ
シローに救助されたことを指してるんだとおもってください
149通常の名無しさんの3倍:2011/04/07(木) 14:04:24.69 ID:???
最近活発な書き手の中では十分すごいほうだって
150ブタ:2011/04/08(金) 02:06:07.32 ID:???
まさかこういう手でくるとは───単にビームサーベルによる格闘戦を挑んでくるのだろう、との油断であった。
可動する残った右マニピュレーターは敵に抱え込まれるように掴まれ、密着状態で動きを封じられた格好となってしまった。
試しに数発膝蹴りを食らわしてみるが、その程度でこの体勢からは脱出できそうもなかった。
仕方ない、バルカンでもこの至近距離であればかなりの───痛撃を与えて、敵機の爆発の巻きぞえを避ける為にAパーツ、ガンダムの上半身部分を強制排除して離脱──瞬時にアムロは考えを巡らせる。
しかしながら───
「──────ここはお互い退いてくれ!!──アムロ・レイ?!───俺はガンダムのパイロットのシロー・アマダ中尉だ!────
───約束する!素直に退いてくれるなら撃ちはしない!!───こちらも退く!!──ヤザン大尉も!!────きこえてるんだろう?!────たのむ───」
──??───この敵────
アムロにとっては悪くない申し出である。
この2機、目の前の敵を撃墜するのが目的ではない、ガンダムとホワイトベースが、皆が無事で味方の援軍の艦隊と合流するのが目的なのだから。
「────わかった──シロー・アマダ中尉?──────アムロ・レイ少尉だ───こちらもこれ以上の戦闘行為は望んでいない───そちらがそのつもりなら───こちらも退く──」
何故か、このシロー・アマダという敵の声色か、雰囲気からなのか、アムロはこの敵の申し入れは信用ができると漠然と感じられたのだった。
ニュータイプとしての感覚でも、彼から黒い殺気や暗い情念を感知することがなかったからなのだろうか、アムロはそのように返答していた。
「────ふざけるな!!───遠慮はいらん───いいからはやく撃て!!────この機を逃したら─────」
「───ふざけてるのはおまえだろヤザン!!───こんな──味方を犠牲にしてまで───嫌だ───こんな不愉快な勝ち方───俺は認めない!!」
「───────どうする?────ヤザン・ゲーブル───」
出方によっては、と、今度は油断なく何時でもバルカンを発射し、Aパーツを強制排除する用意を怠らず、そうアムロはヤザンに促した。
「───────ちっ─────馬鹿が!!───アムロ・レイ!!───といったな───忘れん───次は仕留める───」
ややあってからそうヤザンは返答した。
「────そうか─────ヤザン・ゲーブルの名は覚えておくさ────シロー・アマダ中尉もな───」
───したたかだな、アムロは、ガンダムのセンサーに引っ掛かった、高速でこちらに接近しつつある大型の熱源体を確認すると、ヤザン・ゲーブルという男をそう感じた。
直接は知らないが、ティターンズのヤザン・ゲーブルの名はアムロも過去に耳にしたことがあった。
今日見せた、その腕前と執念、間違いなく奴は一年戦争時代の、あのヤザン・ゲーブルなのだろうとわかった。
それ以上は何もいわず、ヤザンは突然に勢いよくアムロのガンダムから離れると警戒を怠らず、シローは約束通り何もせず、共に素早く離脱していった。
151ブタ:2011/04/08(金) 02:21:31.24 ID:???
>>149お世辞でもそんなふうにいっていただけると励みになります
ありがとう、先長いけど気長に完結めざして書いてみます
152ブタ:2011/04/09(土) 01:05:04.50 ID:???
「────────まいったね────こりゃどうも───」
暗い宇宙を漂うモビルスーツ、赤色の塗装を施し、両肩に大砲を担いだようなその姿、カイ・シデン軍曹のガンキャノンである。
彼は今回の出撃が初陣であるにも拘わらず、既に5機もの宇宙戦闘機を撃墜していた。
戦果だけを見れば、これはシャアやアムロが期待した以上のものであったといってもいいだろう。
敵部隊は既に撤退を開始し、自軍は追撃戦に入ろうか悠々と母艦に帰還しようか、といったところである。
先程からカイは、盛んに通信で味方に呼び掛けをおこなっていたのであるが、それに対する返信はなかった。
セイバーフィッシュ戦闘機との戦闘で、ミサイルの直撃を3発ほど受けたカイのガンキャノンではあったが、大方の見た目には損傷などは見当たらない。
しかし、コクピットのモニターの表示が示す通り、通信機器のセンサーに不具合が生じていた。
焦り判断に迷ったカイは、戦闘で多量に浪費し、残り僅かであった推進剤を使い無闇に当てずっぽうにではあったが、味方を捜索することにしたのである。
ミノフスキー粒子の影響によりレーダーは乱れ、慣れない宇宙での戦闘の最中で自分の位置や方向を見失った彼は、明後日の方向へと捜索に向かっていった。
やがて推進剤を使い果たし漂流するしかなくなったカイではあったが、意外に平静を保っていた、いや、平静を装っていた。
─────一方、ホワイトベースでは
「────ランバ・ラル大尉のザク───着艦します───」
推進機器に不具合が生じ、機体の左右の推進バランスががたがたになりながらも、それでもコズン・グラハム少尉と共にホワイトベースの護衛に付いていたのであるが、戦況が落ち着いた頃合いを見て着艦許可を求めたのであった。
「────情けないのは私のほうであったようだなコズン────いや、ランバ・ラル───高機動型ザク──着艦する────」
ラル大尉の搭乗する機体、R-1タイプと呼ばれる高機動型ザクII初期量産型。
後の記述によれば、ジオニック社製のこの機体、自社製の推進機器には不具合が多く、改良型となるR-1-Aタイプにはツィマッド社製の推進機器が使用されたほどである。
そして此度、強行軍で相当に推進ロケットエンジンを酷使したのだ。
ランバ・ラル大尉ならずとも、この推進機器の不具合は必然であった。
しかし、着艦の後に訪れる、ラルにはおもいもよらぬ金髪の女性との邂逅、それは必然であったのかそれとも偶然であったのか、それは誰にもわからぬのだが。
153ブタ:2011/04/09(土) 09:49:32.74 ID:???
ランバ・ラル大尉も貴女のような美しい女性に迎えられたほうが、いやいや、等といった具合に、ホワイトベース艦長ドレンの許可を得てモビルスーツデッキへと降りたセイラ・マス准尉であった。
通信をおこなっていた彼女は、ランバ・ラル、の名をきいて幼い頃の記憶に思い当たっていた。
機体の推進機器のトラブルが酷いので着艦したい、という話になるや、ラル大尉に話を伺いたい、とのセイラの申し出、名目上ではあろうがシャアの秘書官でもある彼女である。
その職務に従事するに近しい要望を拒否する然したる理由もないドレンは、いまだ戦闘中ではあったものの代わりの者に通信士を命じてから許可を出した。
「・・・・すまんな、右側の推進ロケットエンジンの調子がどうも良くないようだ」
要領よく整備用ハンガーに機体を固定すると、ラルはハッチを解放し無重力を流れ降りてから敬礼をし整備班長とそのように少しやり取りをしていた。
興味津々、といったように、テム・レイ博士が高機動型ザクに近寄り機体を観察している。
「・・・・ご苦労様ですランバ・ラル大尉・・・・・シャア・アズナブル少佐の秘書官を務めさせていただいておりますセイラ・マス准尉です」
整備班長とのやり取りの済んだ頃合いを見計らってから、セイラはそうラルに近寄り話し掛けた。
「・・・・・・あいや、御迷惑をかけて申し訳ない・・・ランバ・ラル大尉ですセイラ・マス准尉、貴艦の救援に駆けつけておきながらこのような・・・・汗顔の至りである、といったところです・・・・・・・・?・・・」
と、互いに敬礼し答礼する。
「・・・・機体のほうは?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ラル大尉?・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・いや・・・・・暫くかかりそうだとのことで・・・・何分、希少な難しい機体のようなので・・・・・」
「・・・・了解です、少々お待ちを・・・ドレン艦長に報告致します」
セイラは踵を返すと近くの通信機でブリッジのドレンとやり取りをし、それからまたラルに歩み寄りいう。
「・・・・ラル大尉、お疲れでしょう?・・・非常に質素で簡易で申し訳ありませんが食事と飲み物くらいありましてよ、ドレン艦長から、ブリッジへの挨拶は後で・・・まずは御自身の補給をおこなってください、とのことです」
「・・・・傷み入ります・・・・・・・・ところで貴女・・」
「・・食堂へご案内致します・・・・・どうぞこちらへ・・・」
ラルの言葉を切るように踵を返しそういうと、セイラはラルを促すように無重力を緩やかに流れ出した。
「・・・・・・・・・・アルテイシア様では?・・・・・」
それに倣うようについていくラルはその最中、先刻からの期待というのか疑念というのか、それを堪え切れずに、前をいく美しい金髪の女性に投げかけていた。
その言葉に振り返った、その女性の気品、気高さは隠しようがない、己の記憶に目の前の姿が繋がり、確信に至ったラルは一気に堰を切るようにたがが外れ感動に声を上げた。
154ブタ:2011/04/09(土) 18:16:59.04 ID:???
「・・・・・や、やはり・・・・・・・ひ、姫、ひ、姫様か・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・間違いない、アルテイシア様に違いないな・・・・・私をお忘れか?あなたの父上ジオン・ダイクン様に御仕えしたジンバ・ラルの息子・・・ランバ・ラルですぞ・・・」
セイラは立ち止まり、ひと呼吸した後に告げる。
「・・・・・アルテイシアと知って・・・・・ランバ・ラル・・・・貴方はどうなさいますの?」
その凛としいい放つ彼女の姿に、ラルは大きく目を見開き、そして小さく震え、また瞳を僅かに潤ませた。
「はっ・・・やはり!!・・・・・・・・で、では何故?・・・・・何故このような所に・・・・・この艦に・・・?・・・姫様はジオンの軍に身を置いているのですか?・・・」
ラルの記憶にある昔の面影を確かに残しながらも美しく成長したその姿、しかしそのジオンの姫がジオン公国軍の士官服に身を包んでいるその違和感に戸惑った。
「・・・・・地球でも追われ・・・・サイド7・・・・そこに先日まで身を寄せていました・・・・・・今はある御方の為に・・・・私はここにいます・・・・」
「・・・・・ある御方?とは?・・・・・・事情が・・・・・何か目的がおありなのですな?・・・・・・」
セイラは慎重に言葉を選んでいた。
かつて父、ジオン・ズム・ダイクンに仕えた縁での、過去には主従の間柄であったとはいえ、ランバ・ラルは今はザビ家の支配するジオン公国に所属する大尉である。
彼女、アルテイシア・ソム・ダイクンはジオンを追われた身であり、ジオン公国を牛耳るザビ家にとって、アルテイシアは危険な反乱分子の旗印ともなりかねないお尋ね者であった。
しかし、多くの協力者が必要だといった兄の助けになればと、敢えて危険を承知でラルの心の内を探り試し、あわよくば協力を得られないかと接触したのだった。
「・・・・・・・・ランバ・ラル・・・・貴方にはまだ・・・・ジオン・ズム・ダイクンに対する心は残っていますか?」
しかし既に半ばラルの心は理解できていた。
「・・・・・・・・どうお答えすればよいのやら・・・・・・・・・父をはじめダイクン派と位置付けられその心を最後まで曲げなかった者の多くはザビ家に粛正され・・・生きる為に・・・・・・私はそれを逃れる為にとはいえ・・・・」
ザビ家によるダイクン派の粛正、旧ジオン共和国首相ジオン・ズム・ダイクンに近しかった者達の中には、国を追われ、濡れ衣を着せられ投獄、或いは処刑された者もいた。
表向き臣従し難を逃れたものの、今もダイクン派として冷遇されくすぶり続けている者も、ジオン公国内には少数派ながら、彼、ランバ・ラルのように存在していた。
「・・・・・よいのです・・・・・父に仕えていた者の多くに・・・・後にどのような苦難や屈辱があったのか・・・・貴方の父・・・・ジンバ・ラルの・・・言葉ではなく姿を見て・・・・おもい返せば今なら容易に想像できるつもりです・・・」
「・・・・・姫様・・・・・」
「・・・・・ランバ・ラル・・・・兄の力になってくださいませんか?・・・・キャスバル・レム・ダイクンの・・・・・」
セイラは核心に迫っていく。
「・・・・・キャスバル様?・・・・・若様は・・・・噂ではキシリアの暗殺部隊によって・・・・・・・・そのお命を・・・と・・・・」
「・・・・・ジオンの赤い彗星のシャア・・・・御存知ですわね?・・・・・この部隊の指揮官です・・・・・・・・・彼が・・・・・彼の仮面の下の素顔が・・・・もしも兄のキャスバルだとしたら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま・・・・・まさか・・・・・・まさかそんな・・・・・・」
セイラ、アルテイシアの美しい唇から出た再びの真相の告白に、これ以上ない驚きに震えるラルであった。
155ブタ:2011/04/09(土) 21:18:57.77 ID:???
ホワイトベースに向かい抜けようとする10機程の戦闘機を、ケリィ・レズナー中尉のビグロと共にあっという間に殲滅したシャアであった。
すぐさま、ケリィのビグロを最前線のアムロへの援軍とし、自らもまた別の方向へと向かったのだった。
22時の方角、レーダーに1機の機影を捉え、識別信号によりそれがハヤト・コバヤシ軍曹の搭乗するガンキャノンであると判明する。
「─────ハヤト軍曹──私だ───無事か?──────軍曹?」
「─────くそう─────何をやってるんだ────」
更に距離が近付き、明瞭に通信が可能となるや、ハヤトの暗いような悲しみをも怒りをも内包したような声が、シャアの搭乗する赤色のガンダムのコクピットに響いた。
「──ハヤト!───無事なのだな?!──シャア・アズナブルだ───」
右肩のキャノン砲が破壊されているのを確認すると、再度ハヤトにそうやや大きな声色で通信した。
「───シャア少佐───申し訳ありません──────敵にいいように────情けないです───」
「───何をいう────無事で何よりだろう───────初陣で戦果など欲張り過ぎというものだ────」
「───大事な機体を壊してしまいました────戦闘機をたったの3機しか────シャア少佐は前回の戦いでは何十機も墜としたって───それにアムロだって──」
「────ほう───ハヤト────幸い機体の損傷は軽微なもののようだ───気にするな────初陣で3機撃墜ならば普通なら大したものだろう───」
このような、まだ戦域でもある宙域で愚痴られようものなら、本来なら部下であるハヤトを一喝し早急に撤退する局面であろう。
にも拘わらず、こうしてナーバスになっているハヤトを気遣うシャアには、この無謀な作戦に初陣の彼を出撃させた贖罪というのか、後ろめたさがあったのも否めないところであろうか。
「────ガンダムとでは機体の性能の差もある───それにな────アムロはニュータイプだ───私もな──」
「───ニュー?タイプ?───て───あの?確かジオ─」
「─ハヤト軍曹、まだ戦闘は続いている───私についてこれるか?──」
「───は、はい───弾薬は残り少ないですが───ビームライフルもあと3、4発分のエネルギーなら───」
「────上出来だ──ではいくぞ───────ニュータイプとは人類の革新だという───しかし戦場では最強の兵ともなる───」
そういいながら、シャアは機体を軽快に旋回させまた発進する。
「───私やアムロと自分を比べるのであれば───己をもっと磨いてからにするのだな───それを怠る者は───戦場という無惨な闇に呑まれ立ち所にして命を落とす────わかるな?ハヤト軍曹──」
「────はい、少佐───有難う御座います───」
多感な少年期であるこのハヤトにとって、戦場とは厳しすぎる現実であり、故に、その内の一事が些事であれ後の人生をも左右しかねないであろう。
そのハヤトにとって、良き先人でもあらねばならぬ、それが大人というものの責任でもあろう、そうシャアは感じ心苦しかった。
156ブタ:2011/04/10(日) 01:32:04.36 ID:???
「・・・てめ!?!っ!!」
「・・・・こっ!!・く・・・が・・」
2人の男が揉み合い取っ組み合っているようである。
此処、ティアンム中将の旗艦タイタン、モビルスーツデッキ、というには少々お粗末であろうか。
その理由、ティアンム中将の主導するビンソン計画、それは一週間戦争等で多大な被害を被った連邦宇宙艦隊の再建計画である。
連邦軍のモビルスーツ開発計画、V作戦と並行し同時期に開始したこの計画では、新たに建造される、または従来の、戦艦、巡洋艦にモビルスーツ搭載能力を備えることを視野に入れていた。
今後開発されるであろう連邦軍の量産タイプのモビルスーツの母艦、としての運用を見据えてのことである。
タイタンでは、艦内部を一部改修し、モビルスーツデッキとなるスペースを確保していたのではあるが、運用等にノウハウのない現状もあり、急造感の否めない中途半端な造りのものとなっていた。
「・・・・貴っ様が!!・・・・何度も同じことをいわせ・・・やがっ!・・・って!・・・だからアマチャっ・・・おっ・・」
2、3発殴りつけたが、掴みかかってきたシロー・アマダ中尉に肘打ちを食らわせるヤザン・ゲーブル大尉、だが鳩尾に膝を食らう。
「・・・・あのっ!!・・・状況でっ!・・・・・あんな馬鹿馬鹿しい!・・・・付き合っ・・・・ぅ・・」
膝の苦しみにうずくまっていくところに追い打ちの殴打をかけたシロー、だが、今度は逆にヤザンの頭突きがシローの鳩尾にヒットし、2人はまた倒れ込み揉み合うような体勢となった。
整備担当のメカニック達は作業の手を休め、止めに入るわけでもなく、呆れるというよりもむしろ楽しそうに、いいのが入った、アレは痛い、いや苦しいんだよ、等とその様子に見入っていた。
「────2人共──まだ続けるかね?────うむ───随分と派手に機体を壊してくれたそうだな───礼をいおう──」
妙に冷静で上機嫌な風の声色のティアンム中将の、ブリッジからモビルスーツデッキへの艦内放送である。
不気味な空気を感じたヤザンとシローは、お互いにとりあえず手を止めた。
「───いや───そのまま続けてくれて構わんよ───気が済んだら───ヤザン大尉とシロー中尉───共にブリッジに上がるように──────ガッ!!カッ───ピー」
モニターでモビルスーツデッキの様子を伺いながらティアンムはそういうと艦内放送用のマイクをモニターに叩きつけ、周囲を一通り見回してから咳払いをし、一言だけ、すまん、といった。
「・・・・・キレて・・・・た・・?・・・」
「・・・・・あ・・・・・・ああ・・・・・」
とりあえず休戦し、彼らは共に戦闘記録データを整備担当に手渡し謝罪した後にブリッジへと恐る恐る向かっていったのだった。
戦闘は終結、戦闘宙域からの残存戦力の全てが撤退を終了し、現在は一路ルナツーへと帰還する過程であった。
投入戦力の多数を撃破撃墜され、帰還した者は、ヤザンとシローのガンダム、トリアーエズが1機、セイバーフィッシュが2機、のみであった。
対して、味方はただの1機も敵を撃破出来ずに撤退、大敗であった。
しかし、シャア少佐が後に潔い退き方だと洩らしたように、ティアンムの撤退命令が迅速であった為、追撃を受けることなく艦船に被害はなかったのだった。
157ブタ:2011/04/10(日) 03:17:06.45 ID:???
ケリィ・レズナー中尉のビグロと合流したアムロは、各戦闘宙域での味方の大勝を知り、戦闘が終結したのを悟った。
しかし、カイ・シデン軍曹の識別信号が付近に確認できない事に焦りを隠せなかった。
手分けをし、ケリィと共に付近を捜索したのではあるが、カイのガンキャノンは一向に発見できなかった。
「───すまん──アムロ少尉───一時帰還する──」
と、稼働時間を越えてしまうケリィのビグロは帰還するしかなく、アムロは単独で捜索を続けていた。
「───カイ────」
激しい後悔の念、実戦経験のない、カイ、ハヤト両名のガンキャノンを、この辛い戦いに出撃させるのを提案したのはアムロであった。
焦り捜索を続ける最中、不意に2機の機影をセンサーに捉える。
「────カイ!!────無事なのか?───カイ!!」
その片方の識別信号に一瞬、アムロは胸をなで下ろしたのだが通信しても応答がなく、また不安にかられたアムロはその2機の元へとガンダムを急がせた。
「────私はコンスコン少将率いる救援部隊のモビルスーツ隊隊長、シン・マツナガ大尉──そちらは何者だ?────カイ・シデン軍曹は───機体の推進剤を切らしているが───問題ない──無事だ」
もう片方の識別信号の機体であろうか、どこかきき覚えのあるような声?からの応答に、今度こそ胸をなで下ろしたのだった。
「────こちら──シャア・アズナブル少佐麾下のアムロ・レイ少尉───面倒をかけてすみません──救援に感謝します──」
肉眼でも2機を捉えたところで、そうアムロは応答した。
推進剤を使い果たしてしまい、白いザクに引かれるような格好でいるガンキャノンに接近し、そして触れ合い回線でカイに通信する。
「────カイ!──どこに───いや──すまなかった───兎に角───無事でよかった──」
「────アムロ!───ひでえや───いや──まあ───どうってことなかったけどな──へへっ、5機も戦闘機を撃墜したぜ───」
案外いつものように元気に悪ぶっているが、声にどこか元気がないようにアムロは感じた。
「────もう大丈夫なようだなカイ軍曹───何やら訳がわからん程に泣き叫ばれてほとほと困ったがな───発見した時には───」
「────あ!!───いや───マツナガ大尉!!───そりゃ──ないすよ──」
「────うむ──私はそろそろ戻ってもいいか?───アムロ少尉──後を任せるが大丈夫か?──」
「────はい───マツナガ大尉、有難う御座いました───」
「───なんの───味方の識別信号を遠くで偶然拾ってな───更に離れていくそれに違和感を感じたのだ───危なかったな────ではな──」
そういい、宇宙にその白い機体を再び飛び立たせようとした矢先、カイが声を上げる。
「───あ!!大尉!!───大尉は命の恩人です!!────本当に有難う御座いました!!────いや、流石は有名人す───
──白狼、シン・マツナガ大尉はネットなんかでもかなりの人気で───あいや──あのなんといいますか───そのうち改めてお礼をいわせてください!!」
────白狼──狼?──ウルフ──グレイ・ウルフ?──いや、まさかな───
「───ならばせめてそれまではな、命を大事にするのだぞ───では───」
闇の宇宙に消えていく白いザク、マツナガ大尉を見送りながら、アムロはガンダムでカイのガンキャノンを引き、ホワイトベースを目指した。
158ブタ:2011/04/10(日) 15:37:18.79 ID:???
「────はい───これで───」
「─────しかしな───あのティアンムだったとは───とり逃がすとは惜しいことを────」
戦闘は終了し、全てのモビルスーツの艦船への帰還が終了していた。
ホワイトベースのブリッジにて、チベのコンスコン少将と通信をしているシャア少佐の姿である。
「───いえ──潔い退き方でした───あれだけの被害を受けておいて───なかなかできることでは─────あれでは追えません───」
「───うむ───敵ながら天晴れ───といったところか────」
戦闘中、敵の通信を傍受していたシャアは、そこから敵の指揮官が連邦のティアンム中将だということを確認していた。
「───では───ランバ・ラルとザクは───とりあえずそちらで面倒をな───」
「───はっ───申し訳ありません───亡命したテム・レイ博士のたっての頼みで───どうしても──と──」
「───何、構わんよ───技術者という連中はな───どうもそういう人種のようだ───その高機動型ザクを寄越したエリオット・レムのヤツも───」
「────エリオット・レム中佐?ですか?──あのザクの開発者という───」
「───不完全な物を寄越しおって───高機動機体の実戦テストだなどとぬかしてな───まあその分──その機体と実戦データとを引き換えに次期主力モビルスーツの優先配備を約束されているがな──」
コンスコン少将は得意気ににやりと笑う。
「───ジオニックとツィマッドの開発競争は知っているだろう?───前回、宇宙空間戦闘における高機動高性能量産機体のコンペティションではな───
──高機動型ザクは高性能ながらもその生産性や操作性の難しさで敗れ───それに勝利した機体───それがリック・ドムという機体だ──」
「───ほう──」
「───高機動型ザクと一言でいってもな、そのコンペに出された機体は今ある高機動型ザクとはまるで別物の更なる高性能機体だったらしい───
───うむ──話は長くなったがな───そのリック・ドムだ──とりあえずウチにそれが大量に配備される手筈となっている──」
「───リック・ドムですか────連邦がモビルスーツを開発してきたということは───量産タイプは少なくともザクを上回る性能でしょう───我々ジオンも更なる高性能機体の配備を急がねばなりませんな───」
シャアは腕を組み右手を顎に当て考え込むような仕草をする。
「───今回、私は───連邦の開発した試作モビルスーツのガンダムに自ら乗ってその恐ろしさを身を持って体験しました───そして──今のジオンにガンダムを上回る性能の機体が果たしてあるのか──と───」
「───それ程なのか?───ガンダムというのは──」
「───はい───この破格の高性能試作モビルスーツの性能から──今後開発されるであろう量産機体にフィードバックされるその性能は───空恐ろしいものであるといわざるを得ないでしょう」
「───ううむ───」
「───少将のリック・ドムの件にしても───ツィマッド社を裏から後押しし、一方でジオニック社とも懇意にしている────その御方とドズル中将の確執からの骨折りではと───心中お察し致します──」
「───いや──まあ──だからこそ私のような者がドズル中将を補佐せねばならんのだ───しかし───だな─」
そういい、不敵で横柄なコンスコン少将らしからぬ苦悩の表情を垣間見せた。
「───膠着状態の長く続く苦しい戦況の中で───今こそジオンが一丸となって奮起せねばならんというこの局面で───まだ派閥争いなどとな─────いや──今のはきかなかったことにしてくれ──」
「───いえ───私も少将と同じおもいです───」
シャアの言葉をきくと、またいつもの横柄な表情に戻りコンスコンはいう。
「───ふっ───ではな──お互いまだやることも多かろう───ドズル中将への報告書も纏めねばならん───」
「───はい──お互いにソロモンへの凱旋の旅を満喫するとしましょう──」
と、通信を終えたのだった。
159ブタ:2011/04/10(日) 18:17:48.17 ID:???
────今こそ!───卑怯卑劣で冷酷なジオンの虫けら共に無惨に殺された同朋の無念を!──怒りを!!────彼らの尊い犠牲に報いる為にも───
ホワイトベースのブリッジ、クルー全員がその映像に見入っている。
────トフ・ハイマン少将の演説でしたが────軍事評論家のトーゴ・アリアケさんにお話を───
「・・・・・酷い・・・まるで出鱈目じゃないか・・・・」
拳を握り締めそう憤慨する青年、ブライト・ノア少尉である。
───ヨハン・エイブラハム・レビル大将のアジア方面軍への─────────に関し陰謀説を唱える一部のゴシップ雑誌やデマに────
「・・・・・レビル将軍が・・・・・元帥を辞して左遷というのはやはり・・・」
「・・・・・ジャミトフ・ハイマンががここで台頭してきたということは・・・それに関しては信用してもいいだろうな・・」
アムロの呟きにシャアがそう応えた。
「・・・・・民間のテレビ放送局の全てを報道管制しておいて・・・さもそれが真実であるよう見せ掛けて大衆操作を、世論操作をする・・・中世紀から世界中でおこなわれている・・・・嘘でも真実に変えてしまう・・・薄汚い使い古された手法なんだがな」
と、吐き捨てるようにドレンがいい、シャアがそれに応えた。
「・・・・・しかし民衆というのはそういうものだろう・・・愚かな上に無知である、とでもいってしまえばそれまでだが・・・文明というものが始まって以来の・・・何かに依存せねば己すらも保てないという人類の性ともいえる・・・」
政府、軍隊、権力者、企業、資産家や富裕層がメディアを悪用し大衆操作をする。
なまじ、メディアとは自らを平等で真実で中立であると装い、それを大衆に信じこませるよう、ある種の洗脳をおこなっているところが質が悪い。
その刷り込み洗脳を大多数の人間が信じ込んで疑念すら持たなくなるのだ。
反面、その性質の為に個である人が統制され、秩序が保たれるという大衆にとっても都合の良い面もあるのだが。
────ジオン公国では英雄として讃えられている彼ですが───自分の功績の為には民間人がどれだけ犠牲になろうがそんなことは構わないんです───戦争屋なんて人種はそんなもんですよ───絶対に許せませんよね──浅ましい限りです───
辛口毒舌コメンテーターとして知られる男にそう評されたシャアは苦笑する。
───ですが、私はワッケイン中佐のような──独断で法や条約を破ったかもしれない──しかし英断であったと──民間人の為に尽くそうとした───彼のような人物こそが本当は英雄として讃えられるべきであると───
連邦国内で流れる報道の内容は大方こうである。
サイド7コロニーに巨大隕石の衝突が迫り、それを破壊する為にワッケイン中佐が独断でルナツーに封印されていた3基の核ミサイルを封印解除し破壊に向かった。
その混乱に乗じて、連邦軍が極秘開発中のモビルスーツをジオン軍のシャア少佐の部隊が強奪。
巨大隕石の破壊に向かうワッケイン艦隊、その作戦中、背後をシャア少佐が急襲しワッケイン艦隊は壊滅。
隕石衝突は阻止出来ずにサイド7コロニーに衝突し、コロニー住民は全員死亡。
といった具合である。
ブライトならずとも、あまりの真実との相違、出鱈目な作り話、連邦の御都合に合わせた嘘のシナリオに、この艦に居合わせた皆が憤慨したいのは当然であろう。
「・・・・・・酷いものですな・・・シャア少佐・・・・・」
「・・・・・・シャア少佐・・・ランバ・ラル大尉から今後についてお話ししたいことがあるようです・・・・少佐のお部屋までお願いできますか?・・・」
徐にラル大尉とセイラ准尉がシャアに歩み寄りそういった。
「・・・・・私の部屋?・・・わかった・・・・セイラ准尉、君は何か飲み物でも用意していただけるかな?」セイラの少し普段と異なる雰囲気に、何かを感じとったシャアは素直にそれに従った。
160ブタ:2011/04/10(日) 21:50:20.21 ID:???
「・・・・・・すごいぞこれは・・・・・・F型など・・・・う〜む・・・・」
ラル大尉の高機動型ザクのコクピットに入り込み、何やら唸っている男がいる。
「・・・・・脚部と胴体のインテグラルタンクが・・・・なるほど・・・・・・・・・・いかめしいフォルムだけではなく・・・・・ジオンとはこれほど・・・・・・・・・・伝導ケーブルとサーキットが確かF型では・・・・・・・」
テム・レイ博士の漏れ出す独り言を、外から呆れた顔で眺める、彼の息子のアムロである。
「・・・・・父さん・・・・この機体は別の部隊の物なんだから・・・・」
「・・・・・うん?・・・・なんだアムロか・・・・邪魔をするな!・・・・・私は忙しいんだ・・・・・」
相変わらずといった具合に邪険にされるが、中を覗き込んでみる。
「・・・・?・・・・と、父さん!・・・・・何バラしてるんですか!!・・・・ぁ・・・・まずいよ・・・・・・」
「・・・・・ちっ・・・・煩いやつだ・・・・開けて見なければわからんだろうが・・・・・お前は何もわかっておらんのだな・・・・さあ!あっちへいけ!・・・・まったく・・・・」
色々とやり取りをしている父と息子の元に、厳つい体躯に髭を生やした、いかにも、といった軍人の男が無重力を流れてくる。
────いい目をしているな────しかし戦場で会ったらこうはいかんぞ──頑張れよ──アムロ君────────兵士の定めがどういうものか───よくみておくんだな─────
忘れるわけがない、彼、アムロにとって、ガンダムの掌の中で壮絶な死を遂げた、この男は。
───あの人に勝ちたい、初めて人というものの大きさを知ったような、厳しさも強さも優しさすら内包していたと、アムロはおもう。
ランバ・ラル、アムロは彼の中に自らのおもい描く父の姿を見ていたのかもしれない、とも。
しかし今、実の父は目の前で取り憑かれたようにザクを弄くりまわし、息子の自分は邪険にされている、複雑な気分である。
「・・・・・どうかな?機体の調子は?」
「・・・・・おお、ラル大尉・・・・・推進ロケットエンジンな・・・・・やはりダメだな・・・・・申し訳ないが基本構造の問題のようだ・・・・応急的には直したが・・・そこをやり直さん限りどうにもならんよ」
アムロの肩に手をやり、まるで無視するかのようにコクピット内を覗き込むように父テムと話すラルであった。
「・・・・アムロ・レイ少尉です・・・ランバ・ラル大尉・・・・」
「・・・・・・・うん?君が?・・・・ああ・・・・博士のいっていた息子さんか・・・・・・冗談だろう?君みたいなボウズがパイロットとは・・・」
敬礼をするアムロに対し、ぽん、と肩に置かれた掌で軽く叩くと、またテムと話しはじめるラル。
完全に舐めているその無礼な態度に、少々頭に血が昇ったアムロはラルを睨み付ける、と瞬間にラルがアムロに振り向いた。
「・・・・・いい目をしている・・・・が・・・・・・・・あまり感心はできんな!!」
というや、ラルはアムロにボディブローを見舞う、が、瞬時にアムロは飛び退き距離をとる。
「・・・・・いきなり何を!・・・・っ!・・」
距離を詰めコンビネーションパンチを放つラルに対し、スウェーバックからダッキングで回避するとそのままアムロは体勢を崩すような格好からラルに左足で足払いをする。
「・・・・・ほう!・・・・ボウズのくせになかなかっ!・・・」
「・・・・・誰が!!」
足を払われバランスを失ったところにアムロは右膝を突き上げる、そこをラルはがっしりとガードする、が、強烈な左フックをアムロが放つ。
「・・・・・気に入ったよ・・・・・君はいい兵士のようだなアムロ!!」
「・・・・・・ぐっ・・・・」
入った左フックはアムロのおもった威力が出ていない、逆に、今度は強烈な右フックがアムロのガードを突き破って左頬に炸裂した。
ロクに鍛えていない少年の肉体に、最後はアムロのイメージがついてこなかったのだった。
161ブタ:2011/04/10(日) 21:53:17.64 ID:???
無重力の中での奇妙な格闘戦はそこで終わった。
無重力の中での格闘戦というのは想像以上に難しい、ブーツ裏のマグネットを有効活用したり、僅かな手掛かり足掛かり、壁や角度を利用し体勢や重心移動で己の体を制御しながらの戦いとなるのだ。
「・・・・痛っ・・・・」
「・・・・大したものだな・・・・・正直驚いたよ・・・これほどの格闘術をいつ身に付けたのだ?」
格闘技にはかなりの自信のあるラル、に、こんな年端もいかぬ少年がまともに渡り合った現実に驚き感心していた。
驚き戦いを見守っていたテムがいった。
「・・・・う〜む・・・アムロ・・・・こんなことまで・・・やはりシャア少佐は大したものだな」
「・・・・キャス・・・・・シャア少佐に?・・・・モビルスーツの操縦以外も・・・いや、博士、息子さんに申し訳ないことをした・・・・なかなかやるのでつい力が入ってしまった」
先刻、ラルはシャア、キャスバルと会見したのであったが、アムロ・レイという少年を殊更買っていたのが気になっていたのだった。
そこでラルはこのような形で彼を試したのであった。
「・・・・・いやいや・・・殴られもせず一人前なった者などおらんよラル大尉・・・・私が甘やかして育ててしまったものですからな・・・・大人に対する礼儀を知らんのです・・・いい薬になります」
にやりと笑い、爽快な笑顔で右手をアムロに差し出したラル。
「・・・・・・大尉もなかなかやりますね・・・・青き巨星の名は伊達じゃない・・・といったとこですか」
「・・・・・ふっ・・・・・こやつ・・・」
それをがっしりとアムロは掴み返した。
162ブタ:2011/04/11(月) 00:28:39.94 ID:???
────宇宙要塞ソロモン
元は連邦軍のルナツー基地と同様、小惑星帯から資源採掘用に運ばれたものである。
それが、一年戦争前に改装され要塞化し、現在はかつてサイド1のあった宙域、L5点に運ばれていた。
その独特のやや歪んだ菱形のようなシルエットを持つその姿は、違った歴史では一年戦争後には連邦軍により摂取されコンペイトウなどという呼び名に改名されていた。
中世紀のニッポンにナンバンから伝わった、語源はポルトガル語のコンフェイトだという、そのお菓子の金平糖に形が似ているからコンペイトウとしたらしい。
しかし、あまり金平糖に似ているように見えないのは気のせいであろうか?それとも表面の奇妙な突起が金平糖を連想させるからなのであろうか。
ソロモンといういかめしく格好のいい名から、コンペイトウなどといういい加減な、格好の悪くすら感じられる名に改名されたのは、勝者たる連邦の、敗者たるジオンへの蔑みがあったからなのかもしれない。
ともあれ、此処、ソロモンに今、コンスコン少将の4隻からなる救援艦隊、シャア少佐率いる2隻の艦隊が入港しようとしていた。
連邦軍の極秘モビルスーツ開発計画、その多大なる破格の戦果を持ち帰っての、堂々たる凱旋である。
「────待ちかねたぞ!!──シャア!!───よくぞやった!!!」
ホワイトベースのブリッジにて、入港を今かと待てずにいた男、宇宙攻撃軍を率いる、この宇宙要塞ソロモンの主であるドズル・ザビ中将、彼の大声が響き渡ったのだ。
「────はい──有難う御座います───しかし──重要なのはこれからです───」
「────むぅ───わかっておる!!───報告書と上申書の件をいいたいのであろう?!────しかしだな──まずは戦勝くらい祝わせんか!!」
「────ふふっ、皆、晩餐会の料理を楽しみにしております───ロクなものも食わずに奮闘した兵たちも労ってやれたらと────」
シャアの最初の応答に少しへそを曲げそうだったドズルであったが、また上機嫌になりいう。
「────当然だ!!───兵たちが働いてくれるからこそ勝利があるのだからな!!───今夜は皆で──皆で掴んだ勝利を祝う無礼講だぞ?!──はっはっは!!!──」
シャアはおもう、このドズル・ザビという男は決して悪い人間ではない、自分の周囲の人間を大切にしすぎるのだ、と。
かつて、彼の弟のガルマ・ザビを死なせたことで酷く恨まれ絶交状態となり、左遷や嫌がらせじみたことをされもしたのだが、それでも彼を悪くおもえたことなどなかった。
勇猛な彼が人の上に立つ軍人としてこうも魅力的で慕われる所以であろうか。
しかし、その気性故の、己を決して曲げぬ頑固さや、裏と表を巧みに使い分けられない不器用さが彼にとって、人の上に立つ者として決定的に不足してもいるのだ。
「─────ところでな、シャア───ガルマの件───今一度、先に確認したいのだが────」
「─────は?──それは追々───」
上機嫌から一転し、ドズルは困った表情を見せる。
「─────う〜む──それがな───明日中にはソロモンに到着するなどと───あやつ──何を焦っておるのか──気が早くて困ったものだと───」
「───しかし────北米を離れるのをキシリア閣下がよくお許しになったものだと───」
「────ああ!!───それをいうな───だから困っておるのだ────」
「────はあ─────」
シャアは少し考えに耽り、その明晰な頭脳で刹那の状況分析と計算をし、これを好機、とやがてくる不退転の決意の意志を今固めたのであった。
163通常の名無しさんの3倍:2011/04/13(水) 18:24:20.24 ID:???
更新速度いいねぇ
164ブタ:2011/04/14(木) 20:59:41.91 ID:???
「・・・・・よし!・・・・・・・・・・・・・・・あ?・・・・・?!??・・・・」
突然に、これまで広大な宇宙空間を描いていたCG映像が闇となり驚くシロー・アマダ中尉、次に目の前が開き室内の灯りがコクピット内に差し込んだ。
「・・・・・よお!・・・・・頑張ってるじゃねえかアマチャン!」
嫌味な笑みを見せ顔を覗かせながらそういった男、ヤザン・ゲーブル大尉である。
「・・・・・この前の続きがやりたいのなら・・・・・・いつでも相手になるぞ・・・」
「・・・・・いい度胸だ・・・・・・今度は手加減せんぞ・・・・・と、いいたいところだが・・・・・・戦場では頭に血が昇り冷静さを欠いた馬鹿は死ぬだけだぞ?!・・・・はっは!!」
ルナツーの重力ブロックの一角、モビルスーツ研究開発関連の施設の片隅に設置された戦闘シミュレーター、そこからシローは這い出してきた。
「・・・・・・ヤザン大尉・・・・・これだけは言っておく・・・・・」
「・・・・・・・おうおう・・・・・・恐いねえ・・・・・中尉・・・・」
シローの刺すような鋭い目に、ヤザンも口元は笑いに歪ませながらも身構え、目からはその笑みは消え失せた。
「・・・・・・俺たちは・・・・チームで動いているんだ!!・・・・・各自の勝手な行動で誰かが死んだり・・・・最悪、味方が全滅することだってある!!・・・・・戦闘中、いくら英雄的な行動をとっても・・・・死んでしまっては何にもならない・・・・」
「・・・・・・・・・・・ちっ・・・・・・・・」
「・・・・だから・・・・絶対に死ぬな!!・・・・俺も戦死することのないように・・・・・一層努力する・・・・・同じ隊の仲間として・・・・一人でも欠けることなく生還し・・・勝利の喜びを共に勝ち取ることを切望してやまない!・・・・以上です!大尉!!」
予想の外であったシローの言動、その敬礼する姿に、少し拍子抜けでヤザンは肩をすくめた。
「・・・・・・泣けるぜ・・・・・・・何を一人で熱く語ってやがる・・・・馬鹿か貴様は・・・・・・」
「・・・・・お前がどうおもおうとも構わないさ・・・・・・・・・人にいわれたくらいで自分のやり方を変えるつもりはないだろうしな・・・・お前がそうなように・・・・ただ俺も自分の信念に従うだけだ!!」
「・・・・・・・・わかったよ・・・・・さっきは邪魔して悪かったな!!・・・・・・だがな・・・・・・貴様なんぞにいわれんでも・・・・俺はあんな程度では死なん・・・・」
ヤザンはややうんざりしたような仕草と表情とでそうシローにいった、が、それが彼の照れ隠しなのかはわからない。
「・・・・・・ああ、そうだ、それは兎も角・・・・・ティアンムの野郎が呼んでるって話でな・・・・・・どうやら貴様と俺は連邦軍本部ジャブローにいくことになりそうだ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それをはやくいえよ・・・・・」
やり取りもそこそこに2人は、ルナツー総司令、マクファティ・ティアンム中将、彼の待つ私室へと向かっていったのだった。
165ブタ:2011/04/15(金) 00:01:25.62 ID:???
先日まで極東方面軍を取り纏めていた男が、今は連邦軍本部ジャブローの自身のオフィスにて、帰ってくるなりその日の内に来客を迎えていた。
「・・・・・・・・・・・・ジャブローのオフィスはもっと快適だったはずだが・・・・・この不快感はなんであろうか?・・・・・・・・・・・・貴様いったい何を企んでおる?」
不愉快な態度を隠そうともしない彼、イーサン・ライヤー大佐に対し、表情なく返答する男、ジャミトフ・ハイマン少将である。
「・・・・・・ライヤー大佐・・・・・いや准将・・・・貴公が・・・・誰よりも私に賛同してくれるものと・・・・・勝手に期待していたのだがね・・・・」
「・・・・・・・・・・安く見られたものだなこの私も・・・・・価値のない勲章ひとつで・・・・・・・・・貴様ごときの手駒に使えるとでもおもったのか?」
一転し、表情なくライヤーは、豪華な小箱に飾られた勲章を右手の2本の指で摘まみ上げると、目の前のデスクにそれを投げ捨てた。
退役、戦死、それを問わず、この将官を意味する珠玉の勲章を得る為に馬鹿げた大金を積む高級士官やその遺族までいる、これを自らの胸に飾れる連邦軍人など殆どいない。
「・・・・・・レビル将軍の異動先に貴公の極東方面軍を選んだのにはな・・・・意味がある・・・・」
「・・・・・・下らん・・・・今一歩・・・八分通り攻略の目処を立てたところで貴様の都合で全てをレビルに・・・・・お膳立てをしただけの私はまるで道化ではないか・・・・貴様に貰わんでもそのくらいの勲章は自分でもぎ取っておったわ」
投げ捨てられた勲章をジャミトフは手に取り、彼に差し出した。
「・・・・・悪かった・・・・・などといったところで貴公は納得するまい?・・・・・承知しているよ・・・・こんな勲章では自らを誇れん・・・・・それはこの私とて同じこと・・・・・
・・・・ならばこそ、このガラクタを本物に変えねばならんだろう・・・・・・・・・・・・それには・・・こんな物であっても貰っておいて損にはならん・・・・・」
一向に受け取る気配のないライヤーではあったが、構わずジャミトフは勲章を元の豪華な小箱に丁寧に収めるとデスクの上に静かに置いた。
「・・・・・・貴様は何か見当違いをしているのではないか?・・・・レビルは私にとってな・・・嫉妬を抱きそれを隠すこともせぬほどのな・・・傑物だ・・・・・あれほど優れた男など他におらん・・・」
「・・・・・ほう・・・・意外だな・・・」
「・・・・・確執や好敵手、等といった類のものではない・・・・・畏敬、だな・・・・・ジャブローから遠ざけ・・・・あやつを極東に押し込めて・・・・まずは・・・・・・・・・オデッサか、貴様の狙いはそんなところだろう?」
その言をきいたジャミトフはにやりと笑う。
「・・・・・やはり意味はあったであろう?・・・・・他におらん・・・・全てを見透かし、その上でも理解と協調・・・・道を共にできる有能な男など・・・・貴公という力を得なければ志は遂げられん!!」
「・・・・・志とはどの口がいうのか・・・・・こうなっては仕方があるまい?・・・せいぜい貴様を利用させてもらうとしよう・・・ゴップ元帥には?・・・・神輿であれ挨拶代わりくらいしておかんとならんからな・・・」
ライヤーが不敵に笑い右手を差し出すと、ジャミトフはしっかりと右手で握り返した。
「・・・・・・ワイアット大将やコリニー中将ではなく・・・・・何故ゴップ大将だと?」
「・・・・・・日和見で傲慢な紳士気取りのプライドばかり高い愚物と・・・・力の足らない優れた男・・・・話にもならんだろう・・・・・正解だよ貴様の選択は・・・・レビルが失脚した今・・・まず穏健派や和平派を抑えるのが先決であろう?」
異様な光景であった。
2人の男が、オフィスでただ高々と笑っているだけなのであったが、それがどうあっても異様で異常にしか見えない歪んだ光景なのであった。
166通常の名無しさんの3倍:2011/04/15(金) 22:45:37.64 ID:???
167名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/04/16(土) 00:43:47.54 ID:???
[session 40:disease]

 木材が疎らに転っている、沿岸の更地…だったか?いや、更地ではない証拠に、いかにも田舎の
観光地に立っていそうな、古びたホテルがある。だがもう営業してはいないだろう。一階部分だけ
とはいえ、壁も内装も完全に剥ぎ取られ、赤い鉄柱をむき出しにしているようでは。
 海に目を転じた。白砂青松、を絵に描いたような景色だ。沖合いにそそり立つゴツゴツとした岩
は、どれだけ多くの人の目を楽しませてきただろうか。海の中にコンクリートらしい四角い塊が
3つほど、傾いておかれている。何だろ、あれ?
 「堤防でした。殿下」
 堤防?そんなものないじゃないか。
 「ここには<帝国>でも最も大きな堤防があったのですよ。残骸しかありませんが」
 これのことかな?コンクリートの、高さ5メートルはありそうな堤が地上に長々とそびえていた。
堤の内と外をつなぐために開けられている車道を歩いて渡った。
 もつれ合う漁業用の網、泥にまみれた書籍、足元に散乱する写真、傾いだ漁船、そして、もはや
往時の情景を想像するよすがもないが、確かに家が立ち並んでいたことを証明するセメントの基礎
と山のようなモルタルの破片。ポツポツとこじんまりとした家が、傾いてはいるが健全な姿を見せている。
だが玄関らしいものは見当たらない。なぜかな?2階建て家屋の上部のみが流されたからだ。
 そこかしこにマスクをつけた軍人たちがひたすら瓦礫を持ち上げ、何かを探しているのが見える。
何をそんなに、一生懸命探しているんだろうか?
 遺体だ、ということを知ったのは、それから何年もたってからだった。
 こんな状況だというのに空は奇妙に澄み渡っている。それすらも恨めしく思えた。
 道路のみはすでに瓦礫が取り払われ、茶色くすすけているもののアスファルトが顔を出していた。
 路上には、普段なら黒い仰々しい車が待っているはずだが、その時は緑色と茶色を混ぜたような
よどんだ色のやけに大きい4輪駆動車が待機していた。窓が妙に小さい。
 「気を落とすでないぞ、息子よ。臣民を思え」
 待っていた父がいった。そして、答えた。
 「僕は…ジオンをぶっ潰す!」

 …そう、あの時はまだ、父とは通じ合っていたような気がする。どこで間違えたのだろう?

 日系市民が多いということもあり、<帝国>はコントリズム運動初期はサイド3に対して好意的だった。
しかしサイド3が木星航路に代表される地球連邦の統制下にあった利権を独占し始めるや、その姿勢
は真っ先に連邦による指弾の対象となった。外国から后を迎えるのは前例のないことであったにも
関わらず父帝がユーラシアの反対側にある<王国>の王女を娶ったのは、<帝国>お得意の土下座
外交の芸術的とさえいえる発露だったろう。二人は仲睦まじかったが。
 それまでの経緯はどうあれ、公国のコロニー落としにより<帝国>沿岸にも大津波が遅い、合衆国
やオーストラリアとは比べ物にならないほど軽微ではあるが、甚大な損害を蒙った。<帝国>はそれ
以来熱烈な反コントリズムの思潮に覆われている。

 …方向性はどうあれ、俺は、父と似たような道をたどっているのだろうか。
 帝はそこまで考えると追憶を打ち切った。ユウナ・ロラ・セイマンの演説を聴くために、テレビを
つける。足元に下着姿で転がってピザをかじっている長髪の少女は全力で無視しつつ。
168名無し2LT ◆BiueBUQBNg :2011/04/16(土) 01:38:02.30 ID:qALw/yPv
[session41:orphans]

 休暇からの帰還に使用する予定だった貨物船とは、宇宙空間でコンタクトした。ウイングゼロの
修理についてエゥーゴで何度か顔をあわせた事もあるサルサミルというメカニックに指示を出すと、
ヒイロはマリーダの待つ、デスクとベッドだけの質素な船室に戻り、ベッドに倒れこんだ。
 「今まで生きていて、あれ程驚いたことは…いや、あったか」
 右手の甲で目を覆い隠したまま、かすれ気味の声で呟いた。非常識な光景を見た驚愕と戦いの昂揚は収まらずに
眠りを妨げる。ヒイロは、自然と幼いころを思い出した。

 どこだったかも知らない。幼すぎて、自分の住所も覚えていなかったのだろうか。寒い季節だったことだけは
覚えている。山の中で夢中で遊んでいて、戻ったら町が消えていた。銀行は1階以外無事だった。診療所は
建物の形は残っていた。それ以外は、何もかもが崩れていた。町の端っこでは火の手が上がり、山の木まで
燃え上がっていた。
 親を探して歩き回っていると、襟に士官候補生のバッジをつけた迷彩服の青年(アマダと呼ばれていた
気がする)に抱き上げられ、そのまま学校の体育館に連れて行かれた。いずれ自分が通うことになるであろう
学校の建物には傷ひとつついていなかったが、グラウンドには一軒屋の2階やら外板が新聞紙のように
クシャクシャになった自動車やらが堆積していたことを覚えている。
 …そこからのことは、覚えてはいるがよくわからない。あちこちたらいまわしになった挙句、気がついたら
ドクターJのもとで訓練を受けていた。彼に言わせると、自分は日本人で間違いないそうだ。なぜなら、
唯ひとつの持ち物だった山で見つけてポケットに入れっぱなしになっていた古い札は大昔日本で使われていた
ものだから。自分の過去など、それで十分だ、と思った。
 柔らかいピアノ音のメロディが流れた。手の甲をどけると、壁にはめ込まれたモニターが光をともしたのが
見えた。タイミングよく、ドクターJからの通信である。
 「大笑いだったなヒイロ、機体の損傷はどうかね」
 呑気な声が妙に苛立つ。
 「軽微だ。ビームサーベルであちこち炙られてはいるが、部品交換の必要もない。だが脚部に小銃弾
 が13発命中して、応急で修復してはおくが、装甲を取り替えたほうがいいといっていた」
 「手配しておこう。それで、そこのお嬢ちゃんじゃが身元が分かったぞ」
 ヒイロはベッドの上で上半身を起こしたまま、デスクの前の椅子に無言のまま腰掛けている少女を
横目で眺めた。
 「…グレミーの使っていたクローン、か。ティファ・アディールがあの場にいたが?」
  クリムゾン・ナイツ
 「紅の騎士団の要請で娼館から救出し、サイド3に連れて行く途中だったそうじゃ」
 「ならサイド3に連れて行くか?」
 「いや、しばらくお前さんが預かっておいてくれ」
 「ハァ?」
 「ロリコン総帥は何故か彼女の身の上を案じておいてでな、クックッ我々保険として使える」
 お前は甚だしい勘違いをしている。「ロリコン」は英語で、「総帥」は日本語だ。そして
保険ではなく人質だ、と言いたかったが我慢した。
 通信が切れると、ヒイロはベッドの上に腰掛け、マリーダに向かって話し始めた。
 「…お前も俺と同じ、か。お前をこんなことに巻き込んでしまったのは、俺にも責任がある。
 カタがつくまで、ありとあらゆる危険からお前を守り通そう」
 「…はい、マスター…」
 両肩に優しく手を乗せてやった。
 「マスター、はよせ。ヒイロでいい」
 そしてヒイロはポケットから取り出したペンダントを開き、次なる戦いに備えて決意の言葉を一言だけ
口にした。
 「パンツだけは、許さない」
 ペンダントの中では、聖徳太子がアルカイック・スマイルを浮かべていた。
169ブタ:2011/04/16(土) 02:10:08.40 ID:???
────喧騒、笑い、歓声や歓喜、響めきや叫びまでもがその場を包み、そして楽しげな音楽と共に流れていた。
晩餐会、物静かな紳士淑女達の絢爛豪華なディナー。
そのような嗜みしかできぬ者達には到底理解のできぬ、混沌とした愉快な宴が開かれていたのだった。
要人の接待を想定して造られた豪華な広間は開け放たれ、長いテーブルを幾つも並べたその上には絢爛豪華な料理が皿の上にぎっしりと盛られ置かれ、そして食い散らかされていた。
酒類は戦時中ということもあり、ソロモン要塞内の全ての者に一杯のみ配られドズル中将の乾杯の音頭で振る舞われたのであるが、酒の勢いを借りるまでもなく、参加者達は異様なほどの盛り上がりを見せていた。
「・・・・命の恩人であります大尉に・・・こ、光栄でありますです?!!・・・・あの・・・・もし宜しければこれにサインを!!・・・・だめ・・・ですか?・・・」
「・・・・・さ、サインといわれてもな・・・・」
「・・・・・いえ!!・・・・・大尉は御存知ないかもしれませんが!・・・白狼関連のグッズは!・・・・大尉が使用したヘルメットとかグローブとかが・・・ネットオークションで非常に人気で・・・・・マニアの間では高値で取り引きされているくらいで・・・・・あ、いや・・・・・・
・・・・・エースパイロットを語るアングラ掲示板やサイトでマツナガ大尉は1、2を争う人気なんですよ・・・・・ホントに・・・・ごめんなさい・・・・」
「・・・・・・ううむ・・・」
命の恩人であるマツナガ大尉と初めて顔を合わせたカイ軍曹が訳のわからぬ話になっていた。
「・・・・・君のような少年が・・・・・失礼、初陣で戦艦をそんなに・・・・その上・・・・・核ミサイルまでとは・・・・・・よかったら後程、君の戦闘データを見せてはくれないか?」
「・・・・・おい、ガトー・・・無理をいったらアムロ少尉が困るではないか・・・・」
「・・・いえ、ケリィ中尉、そんなこと・・・・・・・・構いませんよ、ガトー大尉」
先の戦場で会ったケリィ中尉に、彼の友人だというガトー大尉を紹介され、アムロ達は話し込んでいた。
「・・・・・・いや、今日こそは・・・・」
「・・・・・・少将は酒に酔っておられるようだ・・・」
「・・・何をいうか!!若造がきいた風な・・・私は酔ってなど・・・・」
「・・・・・・・・わかる・・・がな、コンスコン・・・・・そればかりはどうも・・・・・」
片や別に3人で語り合うシャア少佐、コンスコン少将、ドズル中将の姿もある。
「・・・・・盛大な宴ですな・・・・ジオンとはこのような砕けた楽しみも許容するのですか・・・・素晴らしいことです」
「・・・・・ドズル中将だからこそ、ですよ博士・・・・・故に中将を慕う者も多い・・・・」
「・・・・・強面ではあるけど・・・・・・悪い人ではなさそうですわね・・・」
テムとラル大尉にセイラ准尉である。
「・・・・・・・・・ラル隊をナメたツケは払ってもらうぜ・・・・・こいよ」
「・・・・・アームレスリング、ですか・・・・・恥をかいても恨まないでくださいよ・・・・」
どこからか持ち出した木製の箱に肘を突き、挑発する仕草をするコズン少尉と、腕を捲ってそれに応えようというカリウス軍曹の姿も確認できる。
レクリエーション、などといって殴り合いをはじめたい2人ではあったが、互いに愉快な空気を読んでの力比べに気合いを入れている。
「・・・・・・やっぱり僕は・・・・・」
「・・・・・・ガキの癖に酒など飲むからだ・・・・・しかし・・・・お前はもう少しポジティブに物事を考えられんのか?・・・・少佐も気にかけておったぞ・・・」
と、ドレンに肩を叩かれるハヤトが片隅にいた。
他も同様である、末端の二等兵から司令官のドズルに至るまで、同じ料理を食い肩を並べて、今日を生き延びた困難や緊張、様々でそれぞれな重荷を、今だけは降ろして宴に浸り楽しみ味わっていたのであった。
そんな愉悦の時は刻々と進み、宴もたけなわ、といったタイミングで、ドズル中将も驚くサプライズが待っていたのであった。
いや、ドズルにとってそれが良い意味であるのかどうであるのかは難しいところかもしれない。
突如として何者かがステージに現れ、先刻、ドズルが乾杯の音読をとった際に使用したマイクを小指を立てて持ち、前髪を弄りながら、彼はこういった。
「────やあ諸君──楽しんでいるようだね────不躾で申し訳ないのだがどうしても────私の良き友人であるシャア・アズナブル少佐に対し────彼の多大なる戦果とその功績を讃え───私からも祝辞を送りたい──」
170ブタ:2011/04/16(土) 23:04:10.11 ID:???
「・・・いよう、シャア!・・・・流石だな、連邦軍の最新鋭戦艦とモビルスーツを無傷で手に入れるとは!!」
「・・・・少々驚いたよ、到着は明日だときいていたのでな・・・いや、ありがとう、また君に会えて嬉しい・・・・しかし相変わらず派手なことが好きだなガルマ・・・・・いや、地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐とお呼びすべきかな?」
「・・・士官学校時代と同じガルマでいい」
ザビ家の末弟、ガルマ・ザビ大佐の突然の登場に、皆が拍手と歓声で迎える中、彼はゆっくりとシャアに近づいていく、そして彼らはそうお互いに挨拶を交わした。
ガルマは戦前から国民、特に女性に人気があったのだが、その人気に着目した者達が国営のプロパガンダ放送から民放の番組が特集や特番を組むまでに広くメディアに露出させたことで、彼の人気は今や一層知れ渡り高まっていた。
そのエリート然としたルックスと存在感、末弟という微妙な立ち位置も母性をくすぐるスパイスとなっているのか、そして女性を酔わせる甘いマスクは芸能関係を生業とする歳若い男性と比してもまったく遜色はない。
そして、男性、軍人からも、彼が軍籍にあり士官学校出だからでもあるのか、それなりの支持があるのがガルマのすごいところなのだ、勿論、同性愛者だけがその内のすべてではなく。
「・・・しかし、これからの事と次第によっては・・・そうもいかなくなるかもしれないな?」
「・・・いや、うん、今や赤い彗星と言われるほどの君から・・・・まさかあのような申し出があろうとは・・・・・君にはいつも驚かされる・・・」
「・・・わざわざ君がソロモンまで出向いてくれたということは・・・・良い返事を期待してもいい、ということなのか?」
ガルマは、また前髪を弄り甘い笑みを浮かべるとシャアに応える。
「・・・いや、友人として君の勝利と功績を讃えに来た、それだけでもいい、シャア・・・」
その、一見はぐらかしたような返答に、シャアは被ったマスクの口元を笑わせ応えた。
「・・・では、上申書や報告書、記録映像等には全て目を通して貰えたのかな?」
「・・・ああ、無論だ、そこから推測できるあらゆる状況、可能性、展望、恩恵、等々な・・・・私なりに計算した上で君と直接話がしたいと・・・いや、一刻もはやく行動に移さねばとな・・・気がついたら高速シャトルに飛び乗っていたよ・・・」
「・・・その言葉を心強くおもう・・・しかし、この壮大な計画を全て実現するのは・・・ジオン十字勲章を得るよりも遥かに困難であることは保証する・・・・」
シャアは厳しく口元を締めそういって襟を正した。
「・・・いや、だからこそ、大きな価値があり・・・我々が成さねばならんのだろう?・・・・・・ありがとう・・・これで私を一人前にさせてくれて・・・・姉に対しても私の男を上げさせようという心遣いでもあるのだろ?」
「・・・フフ、はははは、ははは」
「・・・笑うなよ、兵が見ている」
驚いたまま固まり、呆然と2人のやり取りを眺めていたかのような、巨漢の男が、そこで突然に叫ぶ。
「・・・ガ、ガルマ・・・お、お前というやつは・・・・・・お前というやつはああああ!!!?!」
その人間離れした巨漢に比して、あまりにも華奢な、その彼の溺愛する弟の両肩を大きな両手で掴み、ドズルはガルマと向き合った。
「・・・ドズル兄さん・・・いいたいことはわかります・・・・しかし・・・・しかし!!・・・あれをドズル兄さんも見たのでしょう?!・・・・許可なく北米を離れた責めは何れ必ず負いましょう・・・・だけど今は・・・・
・・・・長く苦しい戦いが続く今は・・・・こうして手を拱いているような時ではないはずです!!・・・・私はその今が好機だと・・・ジオンの命運を左右する時であると・・・・・ですから私は・・・・私に出来る全てをこれに賭ける決心です・・・・」
「・・・・・・ガルマ・・・」
ドズルは複雑な表情でそう洩らし弟を見つめるくらいしかできなかった。
ドズルの突然の大声に皆が一度は静まり返り注視したのであったが、ドズルが弟の両肩から手を離し広間を後にすると、宴は少しずつまた元のように再開していった。
171ブタ:2011/05/08(日) 03:41:41.36 ID:???
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・どうおもう?」
ティアンム中将の私室を後にし、シローはヤザンのやや右後方を徐に歩みを進めながら問い掛けた。
「・・・・あ?・・・どうもこうもないだろう?・・・・・・より性能のいい機体をくれるってんだから貰っとけばいい」
「・・・・・・そんな単純な話じゃないだろ?・・・・・そう都合良くいけば何もいうことはない・・・」
シローは先刻のティアンムの私室でのやり取りを思い返していた。
「・・・・・・・・・・技術的には問題はないはずだが・・・・・保証はできん・・・何せ全てが試作段階であってそれに加えての最新鋭技術だからな・・・・」
「・・・・・兎に角だ・・・・・中将も俺の機体データは見たんでしょう?・・・・・もっとだ・・・・あの赤い彗星やアムロとかってやつのガンダムに対抗するには!!・・・・今の機体では・・・・まだ反応が鈍い・・・」
「・・・・・・無限大、とかって話は流石に眉唾ものですけどね・・・・しかし・・・・・ヤザン大尉なら乗りこなせるかもしれません・・・・」
ディスプレイに映し出された多数の設計図はガンダムタイプのモビルスーツのシルエットを描き、余白には所狭しと様々な数値や数字、記号、或いは専門的な用語が記入されている。
「・・・・・・・マグネットコーティング、ですか・・・・」
「・・・・・・しかし、だ・・・・・もう一度整理しよう、先程もいった通りG-3・・・3号機は今やレビル将軍や私の管轄ではないのがな・・・・・間の悪いことに今はジャブロー、軍内で暗躍しているジャミトフ大佐、いや少将の管轄となっているようでな・・・
・・・我々が持つモビルスーツの宇宙空間戦闘の実戦データとテストデータとの交換を条件に・・・譲渡するといってはいるがな・・・・」
ティアンムはゆったりとしたソファに座り頬杖を突きながら渋い表情をする。
「・・・・・約束も守らんような糞野郎なんですか?・・・・そのジャミトフってのは・・・・」
「・・・・そうではない、といいたいところではあるが・・・・何をどう取り入ったのか・・・レビル将軍が辞任した今や元帥として軍の頂きに居るゴップ大将の懐刀のような顔をしている奴のことだ・・・・素直に引き渡すとは到底おもえん・・・」
「・・・・・しかし・・・・3号機に搭載されているって話の教育型コンピューターに優れた稼働データを蓄積させないことには・・・・ジム?でしたっけ?・・・これから連邦軍の量産型モビルスーツに稼働データをフィードバックできない、と・・・・」
シローは、ティアンムの左前に設置された5人掛けの長い高級ソファに腰を下ろしながら口を挟んだ。
「・・・・うむ、しかし、ヤザン大尉が3号機に乗らずとも何れ他の何者かが乗りデータの収集はおこなわれるであろうが・・・・・まあ、他にもデータ収集を目的とした部隊は連邦軍全体で見れば幾つか存在してはいるのだがな・・・・
・・・・V作戦の頓挫をきっかけに新たに新設される技術試験部隊もあるようだしな・・・・しかし・・・そう単純ではないのだ・・・・・」
「・・・・・馬鹿どもが・・・・・・・・お偉方は戦争に勝つことよりもテメエ達の権力や勢力争いが大事だ、とかって話だろ?・・・・下らん・・・・おっと、中将閣下を前にいう台詞じゃありませんでしたな?」
味のあるクラシックな棚に幾つも収められた高級そうな蒸留酒を勝手に物色しながら、ヤザンはわざとらしくそう悪態をついた。
「・・・・・大尉!」
「・・・・・いや、いいんだ中尉、その通りだからな・・・・ただな・・・・これまではそのような内側の争いによる様々な不都合の摺り合わせをレビル将軍がなんとか統制し緩和し微妙なバランスを保っていたのだ・・・その箍が外れた今・・・
・・・状況がどう転ぶかわからんのだよ・・・モビルスーツひとつとってもな・・・・その開発から生産、戦果に至るまで、その功績、功名の争奪戦は悪い意味でもな、激しくもそして陰湿にもなっていくだろう・・・・・」
「・・・・・軍派閥内外での秘匿、隠蔽・・・・そして独占・・・・ですか・・・・・・」
「・・・・・うむ・・・・・・レビル将軍や私個人には誓ってそのような愚かなことに興味はない・・・・が、そうでない者に対しては相応のカードを用意して対処せざるを得ない・・・
・・・己の利得にばかり強く執着するような輩の勝手に軍を、そして自らをも任せておいて事態が好転する道理などあるはずもない・・・・私の主導するビンソン計画においてモビルスーツはなくてはならんものなのだ・・・」
シローは歯軋りし、ティアンムはそう苦悩した。
172ブタ:2011/05/08(日) 03:52:52.45 ID:???
なんか変だなシローのセリフ

×これから連邦軍の量産型・・・・
○連邦軍の量産型・・・・

でいいや
173通常の名無しさんの3倍:2011/05/08(日) 15:32:13.20 ID:???
待ってた
174ブタ:2011/05/08(日) 17:13:27.52 ID:???
「・・・・・小難しい話はいい・・・・要はその3号機を受領してテストから実戦をおこなって・・・データを取って送れ、ってことでしょう?・・・・ジャブローではウッディ大尉と・・・・・ああ・・・・・・・なんとかって女・・」
「・・・・・マチルダ中尉・・・・・・・大尉・・・・・・俺達が地球に降りて世話になる部隊の隊長なんだからさ・・・・まったく・・・・」
「・・・しかし君に可能かね?・・・実戦において君はまったく問題ないだろうが、ヤザン大尉・・・だが、テストパイロットというものは簡単ではないという、要求された事を要求された通りに応えねばならぬというあたり、ある意味では実戦よりも難しい、ときく」
ティアンムの視線が鋭く冷たい。
「・・・・・やれますよ」
「・・・・・大尉がダメなら俺がやります・・・」
「・・・ああ?!」
「・・・・・・・それだ・・・・君はその・・・・何というのか・・・その若さが抜ければもっといいパイロットになるぞきっと・・・・まあいい・・・・だが・・・3号機を横取りせんとするような輩に足元をすくわれんよう常に注意を怠るな・・・・」
ティアンムはガックリと眉間に右手を当て大きく嘆息するとそういった。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・何も心配などいらん」
シローは、そういったヤザンの返答にものおもいから引き戻された。
「・・・・明朝には出発だったな?俺はそれまでゆっくりとさせてもらうとしよう・・・・・貴様はまたもう少し戦闘シミュレーションでもやっておけ・・・・・何時間やった?」
「・・・・?・・・・20時間、てとこかな・・・しかし意外なことをいうんだな・・・・大尉はあれからシミュレーター訓練に参加してないからね・・・・どうせ無意味だとかって軽視してるのかとおもってたよ」
シローは歩きながらおどけるような仕草で頭の後ろに手を組み、それから準備運動をするように伸びをしてヤザンの表情を覗き込んだ。
「・・・・・他の訓練はしている・・・・しかしあんなものをいくらやったところで今更俺には何の足しにもならん・・・・」
「・・・・・基本動作の習得にはいいとおもうけどな・・・・・しかし大丈夫なのか?・・・・・・そんなんでテストパイロットが務まるのか・・・・」
「・・・・・その為にいざとなれば貴様がいるんだろう?」
「・・・・・嫌味かよ!・・・・まあいいさ、俺は俺でバッチリ訓練して大尉以上の腕を身に付けて・・・・あわよくば3号機の正規パイロットに・・・」
「・・・俺がいる限りそれは無理だ、あきらめるんだな・・・まあ・・・・それをいうならせめてシミュレーションを100時間くらいやってからいえ・・・・」
「・・・・・やっぱりか、大尉はもうとっくにシミュレーター訓練をしてたわけだ・・・・」
「・・・・・さあな、貴様には有効であれ、俺には下らん遊戯だとそれだけのことだ」
「・・・・いうね、だけど、この俺だってもうこの前よりはずいぶんと腕を上げたはずだぜ?」
と、シローは片目を瞑り親指を立て自らを指した。
「・・・・期待している、そうでないとこの前のようにまた足手まといになるからな」
ひゅっ、と小さく口笛を鳴らし両手の掌を上にむけ首を竦めるシローを残し、ヤザンは真っ直ぐに通路の十字路を進み、ややあってからシローは右に、シミュレーターのあるモビルスーツ開発研究施設の方向へと歩んでいった。
175ブタ:2011/05/10(火) 00:22:46.03 ID:???
───ホワイトベース
今は宇宙要塞ソロモンのドックで昼夜を問わず、技術者や整備兵がほぼ総出で補給と補修作業がおこなわれていた。
「・・・・・ブライト!」
「・・・・・?・・・・・・・アムロか・・・・どうかしたのか?」
持て余したかのように、離れた距離からそのホワイトベースの補修作業を漠然と眺めるブライトに、アムロは少しだけ元気に声をかけた。
「・・・・・いや、昨日の宴の席でも見掛けなかったからな・・・・・この辺で見たってさっきカイにきいてね・・・・」
「・・・・・ああ、いや・・・・・・」
「・・・・・・元気がないようだな・・・・まあ・・・・色々あった・・・・連邦の軍人だったブライトにはすぐに皆と打ち解けるのも難しいだろうしな・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・ブライト・・・・リュウさんやパオロ艦長のこと・・・・・・やはりジオンが憎いだろう・・・」
ジオン軍にとって、V作戦奪取は破格の戦果であった。
しかし、多くのものを失ったブライトにとってはまったく違ったであろう。
その戦果を祝う宴の席にブライトが現れないのは当然といえた。
だからといって、この蟠りに折り合いをつけられぬままの彼を、何れ遠からず破綻するであろう彼を、このままで放っておく訳にはいかなかった。
そう感じ、蓋をしてしまいたい事を敢えて開け、抉り出してでもブライトの蟠りを僅かにではあっても緩和させようと、アムロは唐突にそういったのだった。
「・・・・・・?!・・・・アムロは・・・死んだリュウのことを知っていたのか?」
「・・・・・・ああ・・・・・・」
「・・・・・?・・・・・そうか・・・・あいつはいいやつだった・・・・・」
「・・・・・・そうだな・・・」
「・・・・・・・!?・・・・・・・・・からかっているのか?」
「・・・・・かつて彼からは多くの事を教えられた・・・・命をも救って貰った・・・・」
釈然としない不明なことをいわれ、ブライトは少々声を荒げたのであったが、余りにも真剣な目でそういったアムロに、彼はどこか奇妙な真実味を感じてしまった。
「・・・・・今の・・・・ブライトには戦う理由があるのか?・・・シャアが君に何をいったのかは知らない・・・・俺には俺の戦う理由・・・信念があるから戦っている・・・・シャアが再び道を誤った時には俺の全てをかけてやつを阻止する・・・」
「・・・・・・・いったい何をいっているんだ?・・・・・」
「・・・・・戦う理由があるのかときいたんだ!」
「・・・・・・・・・・だから何を・・・・お前のいうような明確な信念と理由がなければ戦ってはいけないのか?・・・・・待てよ、だいたい、そんなことをお前に話す理由など・・」
「・・・・・あるさ、今は・・・・・これ以上は語れないが・・・・・・・・・・すまなかった、ブライト・・・・」
「・・・・・訳がわからん・・・」
アムロ自身、何を血迷って違った歴史のかつての出来事を絡めた話に激していたのか不明であった。
「・・・・・ランチを食いにいかないか?・・・・第11居住ブロックに安くて絶品のイタリアンを食わせる店があるみたいなんだ・・・・・」
「・・・・・せっかくだが・・・」
「・・・だめだ、付き合ってもらう、ガトー大尉とケリィ中尉と11時半に待ち合わせをしているんだ・・・・ブライトが来ると2人にも伝えてある・・・・・」
「・・・・・あの・・・たしか・・・救援艦隊でパイロットをしていた?」
「・・・・・・アースノイドのブライトがスペースノイドである2人とは仲良く食事はできない、だなんて差別意識はないよな?
・・・・ギレン・ザビの選民思想や連邦の地球至上主義・・・・互いの戦意高揚の為のプロパガンダにそのまま踊らされるような、君は愚かな男じゃないとおもっているんだが」
「・・・・・強引なやつだな・・・・わかったよ、少し腹がすいたところだ・・・・地球を出てからこっち、正直、あまりいいものは食ってないんでな・・・」
訳のわからぬ事を散々にいわれ、更には半ば強制してランチに付き合え、というアムロにすっかり呆れて何やらどうでもよくなったブライトではあったが、それが逆に重苦しい内側の錘を一時にせよ外されたような気持ちになれていた。
すべてを越えて人と人とが分かり合えること───ならば今すぐに──と、かつて不倶戴天の敵であったあの男にいわれもした、そんなに都合のいい事などあろうはずもない。
この、今のブライトのように、朧気で限定された、ただの個でしかない者の一歩かそれ以下でしかないかもしれない歩み寄りに、その内にこそ確かな、かつて見た希望のような光の欠片が宿されているのではないのか。
そうであってほしい、だからこそ人は分かり合えるのだと皆が証してほしい、アムロはそう内側の奥底で感じていた。
176通常の名無しさんの3倍:2011/05/19(木) 10:33:14.63 ID:4PFoDNfk
http://www.nils.ne.jp/~st3104/dkr/colum/trial/trial_1.html
アニメを200文字にするやつ。

激難...なんもおもいうかばん。
177通常の名無しさんの3倍:2011/06/15(水) 00:29:28.12 ID:???
age
178通常の名無しさんの3倍:2011/06/15(水) 00:44:02.82 ID:???
179通常の名無しさんの3倍:2011/06/15(水) 22:21:49.77 ID:???
DNA

更新、1ヶ月ないので、新規参入します。

0001 
「シュウ・レイクさんではありませんか?」
三人の少女の一人が、栗色の髪をかきあげながら、男に声をかけた。
スペースエアポートの待合室で、古風な紙の本を読んでいた男は顔をあげた。
薄い色のサングラスをかけたその顔は、表情をよみとらせない。
「実写版のガンダムで、赤い彗星のシャア役をおやりなってた。私、ファンなんです。」
「私もです。あらから一年戦争のこととか、いっぱい調べたりして」
今から三年前、一年戦争終結から30年を記念して作られた映画のことを
一気に話はじめた少女達に向かって、男は片手をあげて話をさえぎった。
「人違いです」
よく響く涼やかな声が、さらに苦笑とともに言葉を続ける。
「よく、間違えられるんですが。」
「すみません」
少女達は顔を赤らめて謝った。
「いや、おかげでこんにかわいいお嬢さんと話すきっかけにもなりますから」




180通常の名無しさんの3倍:2011/06/15(水) 23:02:47.24 ID:???
DNA
0002

男の口元に浮かんだ微笑は、冷たく整った顔に人間らしい温かみを与えた。
「そうそう。こいつはシュウ・レイクのおかげで逆ナン率が異様にあがったんですよ」
少女たちの背後にいつのまにかいた別の男が声をかけた。丸い眼鏡がその男に愛嬌を添えていた。
「オリビエ、遅いぞ」
サングラスの男が少しいらだった声をだした。
「手続きに少々手間取ってな」
丸眼鏡の男は、少女達にウィンクすると、椅子にドカリと座った。
「出航予定は1時間後だ。くつろいでいる暇はないぞ」
サングラスの男が立ち上がる。仕方ないなというように肩をすくめ、オリビエと呼ばれた男も立ち上がった。
二人は声をかけてきた少女達に笑いかけながら席を離れた。
しだいに小さくなっていく男達の背をながめながら言った。
「でもあの人。シュウ・レイクそっくりというより本物の赤い彗星のシャアにそっくりじゃない?」
181通常の名無しさんの3倍:2011/06/15(水) 23:16:32.57 ID:???
DNA 0003

 小型宇宙艇を手動から自動に切り替えるとオリビエは操縦席から離れた。
「だけど、あの映画から、よくおモテになるね。少佐?」
「少佐はよせ。私はレーヴェ大尉だ。」
自らをレーヴェと言った男はため息をついた。
「親が恨めしいな。アズナブルというファミリーネームだからといって、シャアとわざわざ名づけたのだからな」
「まあまあ、ミドルネームでよかったじゃないの」
ドリンクパックをレーヴェCA(シャア・アズナブル)に投げながらオリビエは言った。
「だけどな、そんなに、いやなら赤着るの止めたら?コスプレしてるとしかおもえないぞ」
「・・・オルシーオ艦長に言え」
オリビエはこれから向かう母艦の艦長を思い浮かべた。
あごひげをたくわえた強面の艦長は、スジガネいりのガンダム、
(いや、MSとジオンのといったほうが正しかろう)マニアだった。
レーヴェCAが嫌がるにもかかわらず、赤をなるべく着ろと強要し(着ないならボーナス査定を低くすると脅し)
本来ならブルーグレイに、青のさし色が基本の隊服を、レーヴェにだけピンクグレーに赤のさし色に変えさせているのだ。
艦長室には、関連書物(学術的なものからジャンクものまで)とプラモ・フィギュアが並べられている。
レーヴェ・C・Aが艦長の最大のコレクションだというのが、乗組員の一致した意見である。
182通常の名無しさんの3倍:2011/06/15(水) 23:45:06.35 ID:???
DNA 0004

だが、実際、とオリビエは考える。
レーヴェ・シャア・Aは赤い彗星はかくあったろうを思わせる、卓抜したモビルスーツパイロットだと。

視界に大型の宇宙艇が見えてきた。白く輝く船体はかつてホワイトベース(木馬)と呼ばれていた
船に似ていなくもない。
レーヴェ・シャアとオリビエの母艦【ケイローン】である。
ケイローンはギリシア神話の半人半馬の獣神。種族全体の名はケンタウルス。
荒々しく猛々しい性(サガ)を持つ。ただ、ケイローンは違う、力と智を兼ね備えたケンタウルスの賢者。
「俺にふさわしかろう」と艦長は言う。
豪放磊落な姿と性格と同時に、艦長は博覧強記の人だった。いくつかの博士号も持っているとのことだ。
「私など、とても及びませんよ」
いかにも切れ者といった風情の副長が舌を巻くほどだ。

白く輝く船体に、青いサファイア色の十字が記されている。
民間護衛集団にして宇宙(ソラ)の傭兵
とも呼ばれる「ブルークロス」の象徴がスクリーンいっぱいに広がる。
レーヴェ・シャアとオリビエの船は母艦に滑り込んだ。
183通常の名無しさんの3倍:2011/06/16(木) 00:59:12.39 ID:???
DNA 0005

【ブルークロス】は、およそ百年前に設立された。
もともとは、とある会社が、税金対策のため立ち上げた、宇宙空間における民間救急救命組織だ。
遭難した宇宙船の救助や救急医療、行方不明となった船の捜索、コロニー事故の対処などを行っていた。
しかし、宇宙はしだいに不穏なものとなり、一年戦争時には、丸腰で航行できるものではなくなっていた。
「ブルークロス」は、それまでの実績を楯に連邦に所属船の武装と自衛権の行使を認めさせ、
さらにグリプスの内乱時に、護衛する船を守るという名目のため、交戦権までも獲得したのである。
度重なる小規模な戦争を経て、その目的は、宇宙を行く船の護衛、およびカウンターテロの
のプロフェッショナル集団となったのである。
その卓抜した戦闘力は、民間組織にして、連邦の一個艦隊に並ぶとまで言われるようになった。
現在、10のデビションを持ち、1つのデビジョンごとに主艦と副艦が2つという編成で
30余りの武装宇宙艇をもっている。
中でも、レーヴェ・シャアとオリビエが所属する第一デビジョンは、艦の装備も人的能力も高く、
トップを張っていた。
艦隊戦となれば、【ケイローン】のオルシーオ艦長が艦隊司令官として、作戦行動をするため
【ブルークロス】のカエサル(皇帝)とあだなされていた。
そして、レーヴェ・シャアとオリビエは第一デビジョンの誇る2大エースだった。
184通常の名無しさんの3倍:2011/06/16(木) 07:51:13.58 ID:???
乙でした
185通常の名無しさんの3倍:2011/06/16(木) 22:40:26.47 ID:???
DNA 006

「お勤めゴクローさん」
モビルスーツデッキにいた整備士の一人が、レーヴェ・シャアとオリビエに少々おどけた敬礼をしてきた。
[オルシーオ艦長とセイエン副長が首を長くしてお待ちだよ」
二人も軽く敬礼を返す。
ブリッジに上がるエレベータに向かう二人の後ろでクルーの軽口が聞こえる。
「補充物資の購入なんて2大エースのすることじゃないのにな」
「いや、オルシーオ艦長の暖かい親心ってやつさ。そうでもしないと息抜きもなかなかしそうもないじゃないかCAは」
「固すぎるんだよな。やつは」
「いやーでも、あの容姿でオーリ並みに軽かったら俺は、幻滅するぞ。」
それを聞いたレーヴェは
「勝手なことを」
とつぶやいた。

「オリビエ・ジタン」
「レーヴェ・C・A」
「「ただいま帰艦しました。」」
二人はブリッジの中央に座しているオルシーオ艦長とセイエン副長に敬礼をした。
「積荷の詳細はすでに資材管理班に報告済です」
副長が軽くうなずき問いかけた。
「グラダナの様子はどうでした?」
「いたって平穏でしたよ」とオリビエ。
「キャッチしたテロ計画はガセということですかね」
副長は首をひねった。護衛とカウンターテロを売り物にする「宇宙(そら)の傭兵」のトップデビジョン。
その二人のエースがグラナダに降りたのは、資材の調達のためだけではなかった。
グラナダにあるインストリウム社。そこは【ブルークロス】と多年度契約を結んでおり、
そのインストリウム社がテロリストに狙われているとの情報が【ブルークロス】の本部にもたらされたがゆえだ。
もっとも近くにおり、かつ急な仕事もない【ケイローン】に調査するよう指令が下ったのは5日前のこと。
186通常の名無しさんの3倍:2011/06/16(木) 22:54:03.51 ID:???
DNA 007

「いえ、その情報はほぼ正確でしょう」
とレーヴェが言った。
「ただ、テロは本社を狙ってのことではなく、」
レーヴェが言葉を継ぐ前に、オリビエがオペレーターに情報用ディスクを渡した。
ディスプレイに一隻の宇宙艇が映し出された。
「二日後にグラダナから出港予定のニルヴァーナです」
「この船にアナハイムとインストリウム社が技術提携をして開発された新型モビルスーツが載せられるということです。おそらくこのモビルスーツの奪取がテロリストの目的と思われます」
「新型モビルスーツか」
今まで黙ってレーヴェの報告を聞いていた艦長が身を乗り出した。
「うーむ。どんな姿で、どんな性能なんだろうな。見たいし、触りたいし、乗りたいもんだ」
少年のようなやや上ずった声を上げる艦長を無視してレーヴェは話を続けた。
「乗せられる機体は6機。2対一組で、やや仕様がちがうそうです。技術者がそっと漏らした情報では
最新鋭とされる機体より、1.25倍の性能をもつとか」
「発注者は?」
セイエンが尋ねた。
「発注者の情報は、契約上機密扱いということで教えてもらえませんでした」
ですが、とレーヴェが続ける。ディスプレイの画面が切り替わり【ニルヴァーナ】の予定航路が示された。
「目的地は火星か」
「正しくは、火星の衛星、デイモスです。【ニルヴァーナ】はその後、火星まで降りるそうです。インストリウム社およびアナハイム社は我々にグラダナからデイモスまでの護衛を依頼してきました」
「火星までではないんだな」オルシーオは言った。
「デイモスにつけば迎えがくる手はずだそうです」
187通常の名無しさんの3倍:2011/06/16(木) 22:59:57.90 ID:???
DNA 008

「先方の提示額は?」とセイエン。
またディスプレイが切り替わり、0の並んだ数字が現れた。
ヒューと誰かが口笛を吹いた。
「一台につきこの金額を払うということで、購入費の約10分の1らしいですよ」
「並みの新品モビルスーツの倍ですか。さすが新型ですね」
「新型の画像(エ)はないのか?」
オルシーオ艦長が期待をこめた目でレーヴェを見た。
「残念ながらそれも機密だそうです」
「なんにせよ、上の指示もありますし、これを受けないという手はありませんね」
基本、クライントの依頼を受けるか受けないはデヴィジョン単位で決定される。
あまりに無茶な要請は断る自由もあるのが【ブルークロス】の傭兵と呼ばれるゆえんだ。
「もちろん、新型モビルスーツを拝む機会を逃すものか」
うれしげに艦長が言った。
「すみません。通常なら護衛する船に我々も乗り込むところなんですが、情報漏えいを防ぐために【ニルヴァーナ】への乗船は非常時のみという話でした」
心からガックリきた顔で、艦長は肩を落とした。
188通常の名無しさんの3倍:2011/06/16(木) 23:40:52.88 ID:???
DNA 009

レーヴェとオリビエの出会いは、4年前になる。
連邦軍を除隊したオリビエは【ブルークロス】の採用試験を受けることににした。
モビルスーツに乗る同じような仕事なら、民間組織である【ブルークロス】の方が給料が断然高いという、やや下世話な理由だ。完全に実力主義の【ブルークロス】では、新参者がいきなりの上級士官も夢ではない。
連邦の退役時には、少尉だったオリビエはできるならそれ以上を望んでいた。
筆記、面接、モビルスーツの操作などの試験を終え、最終テストは宇宙から地球で行われる。
二人のパイロットがモビルスーツに乗り、互いに模擬戦をしながら、地球へ降下するのだ。
その相手こそが、レーヴェ・シャア・アズナブルだった。

船から投げ出されたかと思うと、前にはライバルのモビルスーツが迫っていた。
ビームピストルが続けざまに撃ち込まれる。
「速い」
オリビエはとっさに機体を止めて、間一髪で直撃を回避した。
いや、避けきれず足先にビームがかすめた。
模擬戦用のものだ。むろん出力は落としてある。しかし、背筋がヒヤリとなった。
体勢を崩しながらも、ビームピストルを相手に撃ち返す。
レーザーがむなしく虚空へと消えた。
189通常の名無しさんの3倍:2011/06/16(木) 23:47:52.60 ID:???
DNA 0010

ざわりとプレッシャーを背後に感じ、下方へと動く。
背後に回ったライバルの機体がビームピストルを撃ってきた。
「この俺が後手、後手か」
連邦に所属していたころは、モビルスーツ戦では、向かうところ敵なしといっても過言ではないほどの勝率だったのだ。
「ままよ」
オリビエは思い切って、ライバルの懐に飛び込み、機械の腕で相手の腕をつかんだ。
膝部を曲げて、相手の胴体を蹴り上げる。
当たった。
すると相手の機体はその力を利用して、上部に一回転するとつかんだ腕をもぎ放す。
ガッ、ガッ、ガッ。
瞬く間に相手の蹴りが機械の体に入る。衝撃が機体を伝い、オリビエの脳を揺さぶった。

数度の攻防を繰り返すと地球の引力が強くなってきた。
ライバルより早く重力に囚われ、落下が始まった。戦えるのはあと数分。追いかけるように相手の機体が落ちてくる。
ビームが双方の間で行き来するが、致命傷にはならない。
模擬戦用の古い機体だ。大気圏突入の仕様はない。相手との高度差はなくなっていた。オリビエはやむなくバリュートを開いた。
パンと膨らんだバリュートに衝撃がきた。ライバル機が放ったビームピストルはバリュートのもっと脆い部分を正確に当ててきた。
「死んだな」
自嘲の笑いを浮かべる。相手はいまやっとバリュートを開いていた。
190通常の名無しさんの3倍:2011/06/16(木) 23:54:37.51 ID:???
DNA 0011

ユーラシア大陸のほぼ中央に広がる広大な砂漠地帯に【ブルークロス】の地上基地はあった。
砂礫の大地に降り立つと同時に地上戦が始まった。
宇宙でのそれとは異なり戦いは重力に縛られる。
が、またしても相手は自分を上回った。重力を実にうまく活用するのである。
何度か有利な反撃を行うことはできたが、結果はオリビエの完全な敗北だった。
モビルスーツから降りてきた相手にオリビエは握手を求めた。これほどの戦巧者にあったのは始めてといってよく、純粋にうれしかったのだ。相手は握手を返そうとヘルメットを脱いだ。
「赤い彗星・・・」
金髪に碧眼の相手をみてオリビエがつぶやいた。すると、今ではおなじみとなったやや不機嫌な顔をして相手は言った。
「レーヴェだ。レーヴェ・C・A(シーエー)」
君は?と即されてオリビエも名乗った。
「オリビエ・ジタン」
「君が私の腕を捕ったとき、蹴るのではなくビームピストルを撃たれていたら、死んでいたのは私のほうだったろう」
レーヴェはその後、めったに見せることにない、素直な笑みを浮かべて言った。
その日から3ヵ月後、試用期間を終えた二人は、【ブルークロス】のカエサル、ロレンツォ・オルセーオの船【ケイローン】で再会した。
191通常の名無しさんの3倍:2011/06/17(金) 00:38:18.22 ID:???
DNA 0012

「しばらく、自分より年上だと思ってたよ」
【ニルヴァーナ】の出航までつかの間の自由をもらったレーヴェ・シャアとオリビエは
娯楽室で同僚達とポーカーをやっていた。
金を賭けるのはご法度なので、かわりにビールの缶を賭けている。テーブルには封のしてあるビールが並んでいた。
今のところオリビエが一番勝っていた。レーヴェはあまり賭け事に強くない。
無敵のポーカーフェイスだが、勝敗にあまり頓着しないのだ。
「自分もです」とレーヴェのパイロットチームの一人クロムが言った。
「レーヴェ大尉のほうが年上だと思ってました」
トルコ系ドイツ人のくりくりと大きい目が、さらに名前を知ってびっくりしましたと無言で語る。
「私もオリビエが私より年上とは思わなかったよ」
「オーリ大尉はね、外見は大人ですけど、心は子供ですからね」
「何だよ、それは」
「少年の心を持っているってホメてんですよ」
「バカにされてるような気がするんだが?」
「そんなことないですよ」とクロムは笑って手札を捨てた。
「少年の心といえば、オルシーオ艦長は大丈夫だろうな」
クロード大尉が言った。4つあるモビルスーツ隊のひとつを率いる隊長の一人である。
ちなみに、レーヴェもオリビエも隊長である。ただ、モビルスーツ隊全員で動くときは
自然、レーヴェがリーダーになっていた。
192通常の名無しさんの3倍:2011/06/17(金) 00:58:14.80 ID:???
DNA 0013

「何がだ?」
とレーヴェ・シャア。
「それこそ艦長は、モビルスーツに関しては永遠の少年ですよ。そこへ新型のモビルスーツ」
クロムが言えば、
「猫に小判、泣きっ面に蜂ではなくて、猫にまたたび、オルシーオ艦長にモビルスーツってところか」
とクロードが引き取る。
「確かに、今回は機密機密とうるさいからな。護衛する船の乗船拒否など普通はありえん」
レーヴェが嘆息した。
「昔から、スポンサーは無理難題をおっしゃる。・・・コール」
クロードが札を開いた。フルハウスだ。これでオリビエとクロードのビールの数が並んだ。
「自分は、オルシーオ艦長がニルヴァーナにこっそり忍び込まないか心配で」
札をかき集めながら、クロムが言った。
「艦長もそこまで愚かではないだろう」とレーヴェ・シャアがかばった。
他の三人はレーヴェを凝視した。お前、本気で言ってるの?
「とは完全には言い切れないか」
自らの体験をかえりみて、レーヴェが言った。コクコクとうなづく三人。
「セイエン副長には私から忠告しておくよ。もっとも副長が一番そのことを懸念しているとは思うが」
とひとつ間をおいてレーヴェが言った
「みんなも、オルシーオ艦長から、目を離さないように」
「おうよ」
力強い返事が娯楽室に響いた。
193通常の名無しさんの3倍:2011/06/17(金) 22:01:28.14 ID:???
DNA 0014

「前方に熱源体発見。数、8機、うち5機がモビルスーツと思われます」
月を出航してから、11日目。【ケイローン】の艦内に緊張が走った。
「第一戦闘配備、各員持ち場へ急げ」
オルシーオ艦長の声が響く。ブリッジにいたオリビエとレーヴェ・シャアはモビルスーツデッキへと降りていこうとした。
「まて、俺も行こう。セイエン、指揮は任せる」
身軽に艦長席を降りて、オルシーオは言った。
「艦長!!!」
制止するセイエン副長の声。
「たまには実践させろ。体がなまっちまう」
言い捨てて、艦長は二人と共にモビルスーツデッキに降りた。

「ロレンツォ・オルシーオ、ガイウス、行くぞ」
オルシーオ艦長を先頭に次々と【ケイローン】のモビルスーツがカタパルトから飛び出していく。
「アーサー・クロード、ガズエル・改、行きます」
「リック・ディアスV、オリビエ・ジタン、出るよ」
「レーヴェ・C・A、コーラルペネロペー出るぞ」

数キロ先を行く【ニルヴァーナ】に、
見慣れないモビルスーツとコアファイターが近づいていた。
自分達が近づくのを気づいたそれらが、いっせいにビームを放ってきた。
194通常の名無しさんの3倍:2011/06/17(金) 23:02:12.01 ID:???
DNA 0015

「ステルスタイプか」
ミノフスキー粒子のはさほど濃くない。敵機が気づかれずに近づけたのは、
機体そのものが、レーダーに捕らえにくくしたステルス機能を搭載しているとしか考えられなかった。
それは、地球連邦軍の最新鋭モビルスーツのはずだ。
 まさか、連邦軍のインテリジェンス部隊がからんでいるのか?
レーヴェはコアファイターの攻撃を避け、それを撃沈する。
かすかな違和感を感じる。
オールビューのモニターの向こうで、オルシーオ艦長のガイウスが2機のモビルスーツーと対戦していた。
艦長のガイウスはあろうことか、片足を失っていた。
2機に追われるようにガイウスは【ニルヴァーナ】へ流れて、船体にぶつかった。
「何をやっているのだ、あの人は」
やや前方にいたリック・ディアスVの肩部に機械の手をかけて、接触回線を開く。
「助けるぞ、オリビエ」
「OK」
二人は艦長を襲うモビルスーツに駆逐する。
ガイウスは、【ニルヴァーナ】の外甲板にいた。
「ミスターオルシーオの入船を許可します」
【ニルヴァーナ】から唐突に通信が入った。ガイウスが、開かれたハッチに入ろうとしていた。
レーヴェがそれを阻止しようとしたが、反対にガイウスに捕まり引きづりこまれた。
195通常の名無しさんの3倍:2011/06/17(金) 23:40:11.22 ID:???
DNA 0016

【ニルヴァーナ】のモビルスーツデッキには、新型と思われる機体が並んでいた。
オルシーオ艦長がガイウスのコクピットハッチを開けて、外に飛び出していた。
「敵が来襲しているんだぞ!!」
怒声が聞こえた。艦長が並んだモビルスーツに無理やり乗り込んでいた。
「どけ」
モビルスーツから威圧感のある声がデッキ中に響いた。人に命令し、従わせるのに慣れた声だ。
【ニルヴァーナ】のクルーが、いっせいに動いた。
「カタパルトデッキの入り口を開けろ」
カエサルの命令にクルーの一人が緊急用のハッチを開ける。
オルシーオ艦長を乗せた新型モビルスーツは、緑の残像を残して宇宙(そら)へ出て行った。
「さてと」
レーヴェはゆっくりとハッチを開けて、【ニルヴァーナ】のデッキへ舞い降りた。
ヘルメットを脱いで、髪を振りたてる。遠巻きに見ているクルーをゆっくりと見回した。
「私はブルークロスのレーヴェ・シャア・アズナブル大尉である。
艦長、およびこの事態を招いた人物に面会を申し込みたい」
196通常の名無しさんの3倍:2011/06/19(日) 00:32:13.21 ID:???
DNA 0017

「ブリッジに上がってくれたまえ」
11日前に、スクリーン越しに挨拶をした【ニルヴァーナ】のフェルナンド艦長がレーヴェ・シャアに
声をかけてきた。
一目で軍人上がりとわかる姿勢のいい、50がらみの男だ。
「艦長自ら、デッキにいらっしゃるとは思いませんでした」
「この騒ぎを見物せずにはおられんだろう?」
フェルナンドは笑った。謹厳実直な風貌のわりには
「存外に、好奇心旺盛でいらっしゃる」
レーヴェ・シャアは、少々の嫌味をこめて言った。
「こちらへ、アズナブル大尉どの」
フェルナンド艦長はどこ吹く風というように、レーヴェをブリッジに上がるエレベーターにいざなった。

【ニルヴァーナ】のメインモニターには、5機のモビルスーツと交戦する仲間の姿が映し出されていた。
「さすが【ブルークロス】の第一デビジョンですな。攻守ともに無駄がない」
「お褒めにあずかり恐縮ですが、フェルナンド艦長。無人のモビルスーツであそこまで戦わせるとは、
そちらの技術力は目を見張るものがありますよ」
ほう!とフェルナンド艦長が感心した声を上げた。
「無人であると気がつきましたか。さすがはニュータイプですな」
「ニュータイプでなくとも、ある程度経験を積んだモビルスーツパイロットなら分かることです」
もっとも、とレーヴェは言葉を続けた。
「うち、新型とおぼしき2機には人が乗っているようですが」
オルシーオ艦長たちもこれが【ニルヴァーナ】の人間が仕組んだお遊びと気がついている。
ために攻めあぐねて、足を獲られた。もっともそれだけのためではないだろうが。
スクリーンでは、新兵との訓練のようなモビルスーツ同士の一騎打ちが続いていた。

一時間後、5機のモビルスーツを捕獲したオルシーオ艦長たちが【ニルヴァーナ】に乗り込んできた。
197通常の名無しさんの3倍:2011/06/19(日) 01:08:45.09 ID:???
DNA 0018

「まったく、バカにされたものです」
【ニルヴァーナ】のブリーフィングルームに入ってくるなり、セイエン副長は言った。
室内にいるのは、オルシーオ、レーヴェ、オリビエ、セイエンの4人である。
他のものは、艦長、副艦長が一時的に不在になるため、【ケイローン】へ戻った。
副長は、事態の説明をしたいとのフェルナンドの申し入れを受けて、ここへ乗り込んできたのだ。
「そう怒るなって」
新型モビルスーツの性能を存分に楽しんだオルセーオはすこぶる上機嫌だっだ。
「みなさん、お集まりすな」
フェルナンドが濃紺のスーツを着た男を伴って入ってきた。
彼はトマス・スチーブン、弁護士であると告げ、握手のため手を差し出した。
一人、握手を返したのはオルシーオのみだった。

「ご存知の通り、我々はクライアントとの契約に縛られて、あなた方を艦内に入れることはできなかった」
事前に、レーヴェ・シャア・アズナブル大尉には簡単な説明をしておいたのだが、という前置きをして
フェルナンドの話は始まった。
(レーヴェのやつ、フルネームを名乗ったのか)
オリビエは横に座るレーヴェを見た。サングラスの向こうの表情は伺えないが
静かな不快感を発しているのは分かる。
「しかし、護衛のために雇った【ブルークロス】の方々を乗り込ませないなどとは、
本末転倒であるのは自明の理でありましょう」
フェルナンドは一同を見回した。
「そこで我々は考えた。契約には非常時を除いてとの一文がある」
「だから、この茶番を仕組んだとおっしゃいますか?」
セイエン副長が、ものやわらかな笑顔を浮かべた。
得たりとフェルナンドはうなづく。
198通常の名無しさんの3倍:2011/06/19(日) 01:42:37.72 ID:???
DNA 0019

「君達のとっても任務を遂行する上でやりやすくなったと思うのだが?」
「確かに」
と副長は首肯した。
「ですが、我々への攻撃は戦場の殺気こそありませんでしたが、本格的ではあったと聞きおよんでおります。
実際にわが隊は、多少の損害もでております」
にこやかなまま、セイエン副長は相手にたたみかける。部屋に入ってきたときの不機嫌さは微塵も感じさせない。
「それについては、」
トマスが声を上げると
「あれくらいの攻撃など、【ブルークロス】のケイローンのパイロットなら無傷で迎撃できると思っておりましたの」
オリビエ達の背後から滑らかな女性の声がした。後方のドアから音もなく入ってきたその女性は正面に回った。
「アティア」
副長が低くつぶやいた。

黒髪をきっちりとまとめた華奢な女性は、アティア・セラマチと名乗った。
東洋系の切れ長の目は明らかにこの状況を面白がっていた。
「オルセーオ艦長、エイエン副長、ご無沙汰しております。初めまして、アズナブル大尉、ジタン大尉」
東洋の挨拶であるおじぎをして、女性は席に座った。
「君が謀ったんですか」
セイエン副長が言った。
「謀ったなんて人聞きの悪い」
かわいらしく女性は首をかしげた。
「テストに少々スパイスを振りかけただけですわ」
「テストで艦長のガイウスの足をもぎ取ったというわけですか」
「あら、だってガイウスの足は、お言葉を借りて言えば、そちらが謀ったことでしょう?」
女性はオルシーオ艦長に問いかけた。
オルシーオ艦長は何も言わない。
199通常の名無しさんの3倍:2011/06/19(日) 21:37:03.95 ID:???
DNA 0020

「映像で戦闘の模様はリアルタイムで拝見させていただきました。オルシーオ艦長は、ビームサーベルの攻撃を
あえて避けずに左足で受けていらっしゃいましたよね」
女性はオリビエとレーヴェに視線を投げてきた。
「そちらのおふたかたもオルセーオ艦長を助けるのを数秒ですがためらっていらっしゃった。自機を少々壊してオルシーオ艦長と
共に【ニルヴァーナ】に入り、艦内を視察するおつもりだったと推測したのですが」
「いや、艦内に入るのは俺一人のつもりだったにだがな」
オルシーオ艦長が言った。セイエン副長が横目で艦長をにらんだ。
「では、とっさの判断でアズナブル大尉が【ニルヴァーナ】に入ることしたというわけですね」
オルシーオ艦長が【ニルヴァーナ】に入りたがっていた。新型のモビルスーツを見たいがためだ。
それはオリビエとレーヴェにもわかっていた。阻止するか、助けるか一瞬悩んだが、後者を選択した。
オリビエも一緒に乗り込もうとしたのだが、【ニルヴァーナ】の対応が早く、レーヴェ一人が艦長と共に中に入った。
だが、今は阻止すべきだったと悔やまれる。
そうしていら、オルシーオ艦長が、新型モビルスーツを強奪するのを免れたのだから。
「まさかオルシーオ艦長が我々のモビルスーツに無理やり乗り込んで、戦闘を再開するとは思いもしませんでしたわ」
「どうですかね」
オリビエの耳に副長の小さなつぶやきが届いた。女性はクスリと笑い、追い討ちをかける。
「ましてやその戦闘で、マニュピレーターを打ち落とされるなんて」
そこが・・・問題だった。
オルシーオ艦長は遊びすぎたのだ。本来ならものの10分で片付けられるだろう相手だ。
新型モビルスーツでの戦闘を楽しむ余りに、戦闘を長引かせ、結果、左のマニュピレーターを撃たれた。
副長が、艦長不在の艦を離れて【ニルヴァーナ】に着たのもそのためだった。
艦長がそんなヘマをしなければ、この交渉は限りなく【ブルークロス】側に有利に運ぶはずだった。
報酬額の値上げや、新型モビルスーツの【ブルークロス】への供与もありえたかもしれない。
200通常の名無しさんの3倍:2011/06/19(日) 22:13:38.61 ID:???
DNA 0021

「戦闘データをできるだけとらせようとの配慮だったんだがなあ」
「なら、もう少し本気になって欲しかったですわ」
優しげな外見に似合わず、容赦がない。オルシーオ艦長は大仰に肩をすくめた。
「認めたくないものだな。自分自身の若さゆえのあやまちというものを」
「あなたはもう若くないでしょう。確か今年で45才でしたよね」
セイエン副長がその場にいた誰もが思っただろう台詞をはいた。
フェルナンド艦長とトマスは少々あきれた顔をしている。
「相変わらずですね。お二人は」
心から楽しげな笑いを含んだ女性の声が、その場のきまり悪さを救ってくれた。

結局、新型機の修理代を今回の報酬から差し引くことで話が決まった。
オルシーオ艦長のガイウスは自腹を切らざるおえない。
ただし、護衛のための【ニルヴァーナ】の外甲板の使用と補充のためのモビルスーツデッキへの出入りは許可された。
トマスが用意していた契約書に新たにサインをして、手打ちとなった。
フェルナンド艦長とトマスは【ケイローン】のメンバーと握手をして室を出て行った。
アティアという女性だけが残った。
「モビルスーツデッキまでご一緒しますわ」
オルシーオ艦長とアティアが並んで動き始めた。
「アティアはこの艦で働いているのか?」
「いいえ、私は今回、新型モビルスーツの開発に携わってます。そして、開発・購入した組織の外部との折衝役といといったところです」
「どんな組織とは教えてくれないんだよな」
「守秘義務がありますからね」
「他のモビルスーツは見せてもらえんのかね」
「艦長が乗られたビリディアンと同系統の機種ならお見せすることも可能ですが。」
そうそうは見せられないとアティアは言った。
201通常の名無しさんの3倍:2011/06/19(日) 23:31:06.40 ID:???
DNA 0022

「で、どうでしたか?ビリディアンの乗り心地は?」
アティアがオルシーオ艦長に尋ねた。
「すばらしかったさ。反応速度が速くなって機動性が増してる。装甲も従来より良くなってるよな。
そして何よりあまり複雑な操作がいらない」
「最近のモビルスーツは機器操作が多すぎてかえって性能を落としている感じましたので。加えて人がコンピューターに頼りすぎていますし」
「サイコミュもなかったな」
「サイコミュは便利なものですが、人体に負担がかかりすぎますでしょ?適正の問題もありますし。ビリディアンは汎用モデルなので搭載はしなかったんです」
「搭載機もあるってことか?」
「試作品ならありますわ」
「全身サイコフレーム使用なんてのは、まさかないよな?」
「幻のUCタイプですか。ほとんどうわさの域しかでてない代物ですし、
人体への過負荷を試算したら、稼動時間は数分ですもの。実践的ではないと結論ずけたんですよ」
オルシーオ艦長とアティアの二人は楽しげにモビルスーツ談義を続けていた。
セイエン副長は押し黙っている。オリビエも前をいく副長を押しのけてまで、アティアに話かけられなかった。

モビルスーツデッキには3体のモビルスーツとセイエン副長の乗ってきたコアファイターが並んでいた。
では、最後の挨拶をしようとしていた5人に頭上からいきなり声がした。
「アティア」
二人の子供が、アティアめがけて飛んでくる。
アティアは一人の子供を抱きとめたが、一人はキャッチできなかった。
かわりにレーヴェがもう一人を受け止めていた。
「タケル、あぶないでしょ。」
アティアは自分の抱いていた少年を叱りつけ、床におろす。
レーヴェに抱いている子供を引きとろうと両手が差し伸べられた。
「ありがとうございます。アズナブル大尉」
その台詞をきいたとたん、子供達が歓声をあげた。
202通常の名無しさんの3倍:2011/06/20(月) 00:19:48.75 ID:???
>184 自分に言ってくれたんすよね。
    書きなぐってたので、気がつかなかった。すみません。そして、ありがとう。
あと、かなり好き勝手やらせてもらってる。寛容な住民の皆さんにこころから感謝する。

DNA 0023

「やっぱり、この人がシャアなの?」
「ほんとに本物そっくりだね」
「ぼくら、1年戦争の【連邦とジオンの光栄】それからグリプス内乱の【宇宙を継ぐもの】を見まして、」
「ブルークロスの人がシャアそっくりだって聞いて会えるの楽しみにしてたんです」
やつぎばやに言う二人の子供にアティアが声をかけた。
「ミコト、まずアズナブル大尉から降りてさしあげて。それからちゃんとしたご挨拶をしなさい。
こちらの方々にもね」
状況から置いてけぼりをくった3人の男達をアティアは顧みた。
「ごめんなさい」
レーヴェの腕の中から子供が降りた。二人は並んで男達に挨拶をした。
「ミコト・セラマチです」
「タケル・セラマチです」
その様子に、オルシーオ艦長は破顔した。
「はじめまして、私が【ケイローン】の艦長、ロレンツォ・オルシーオだ。でこっちが、ジュール・セイエン、
オリビエ・ジタン、それからレーヴェ・シャア・アズナブル」
目を輝かせて少年達は、レーヴェを見つめた。
「どうだ?うちの赤い彗星は、ステキだろう?」
「ステキです!!」
オルシーオ艦長は実にうれしげだ。レーヴェの姿、そして名前を聞くと人は何らかのリアクションをするのを
オリビエは多々見てきたがこんなに素直な反応は初めてだった。
203通常の名無しさんの3倍:2011/06/20(月) 22:58:04.62 ID:???
DNA 0024

レーヴェといえば、表情を消していた。憮然としているというほうが正しいのだろうか。
その雰囲気を察してか、双子の少年たちは、先ほどの勢いはなくなり、レーヴェとアティアを交互に見た。
「艦長、そろそろ戻りませんと」
セイエン副長が母艦へ帰るのを即した。
オルシーオは副長にうなづき、少年たちの頭をなでた。
「モビルスーツが好きならば、うちの【ケイローン】に遊びにおいで。アニメもムービーもフィギュアも関連本もあるぞ。
そうそう、赤い彗星が好きなら、ダカールの演説も、スイートウォータの自軍への演説もあるし」
さらに胸をはっていう。
「アストロイドベルトに潜伏していた時の写真とか、スイートウォーターに総帥としていたとき、リニアカーで、一般市民達と一緒に移動していた時の動画もあるんだぞ」
・・・そんなものまであるのか。
オリビエはオルシーオ艦長のマニアっぷりを過小評価していた自分に気がついた。
しかし、これ以上は、その特定事項における博識ぶりを披露するのを、止めてほしいと切実に願った。
「艦長。」
短く、するどく副長が言った。
「わかったよ。じゃあ、またな。ミコトくん、タケルくん。【ケイローン】に来たときには、
このシャア少佐に艦内を案内させてあげるからな。あ、艦にくる時は、アティアも一緒にな」
「はい」
「わかりましたわ」
微笑みながら答えるアティアをオルシーオ艦長は引き寄せて軽く抱きしめた。
「いくぞ、セイエン、オリビエ、シャア少佐」
オルシーオ艦長が床を蹴ってモビルスーツに乗り込んだ。みなもそれに習う。
その時、無敵のポーカーフェイス、レーヴェが
「私を少佐と呼ぶなら、ふさわしい給料を払ってもらわんと、わりにあわん」
とつぶやいたのをオリビエは聞き逃さなかった。
204通常の名無しさんの3倍:2011/06/20(月) 23:08:21.27 ID:???
DNA 0025

昼食用のトレイを持って、オリビエは目的の人物を探していた。
整備部門を統括するウルリヒ・アシェンバッハ少佐である。席を探しながら周りを見渡すと、ほどなく見つかった。
おあつらえ向きに、みんなとは少しはなれた席で一人でいる。
「ここいいですか?」
答えを待たないで、アシェンバッハ少佐の正面に座った。遅れてきたレーヴェ・シャアがひとつ離れた席に着こうとしていたのを、こっちに来いと手招きした。素直じゃないなとオリビエは心の中で苦笑した。
呼ばれたレーヴェはオリビエの横に腰かけた。
しぜん、話は昨日の偽装襲撃の話になる。
「相手のモビルスーツ、ほとんどが無人だったんですけど、けっこうシビアな設定でしたよ」
「だが、2機はパイロットが乗っていたんだよな」
「まあね。けっこういい腕だったかな。マシューとほぼ互角くらいの腕だから」
そんな話の流れの中でオリビエはアシェンバッハ少佐に尋ねた。
「アティアって女性、アシェンバッハ少佐は知ってます?」
「やっとその質問がでたな」
アシェンバッハ少佐はニヤリと笑った。
「あ、バレてましたか?」
「当たり前だ。でなきゃお前らが俺と相席なんぞするわけないだろ」
「いや、そんなことありませんよ」
まあ、それはいいとアシェンバッハ少佐は言った。
「オルシーオ艦長ともセイエン副長とも面識があるようでしたが」
レーヴェが口をはさんだ。
「古くからこの艦に乗ってるやつはみんな知ってるさ」
「以前に別件でのクライアントだったとか?」
「いや、クルーだったのさ。お前らが配属される3ヶ月くらい前に辞めたんだがな」
205通常の名無しさんの3倍:2011/06/20(月) 23:13:24.15 ID:???
DNA 0026

「この艦に乗ってたんですか」
少々おおげさにオリビエは驚いてみせた。
「俺んとこの整備部にいたんだよ。」
「今も新しいモビルースーツの開発に関わってるっていうし、機械工学の専門士官だったんですか」
「まあ、それだけじゃないけどな。医学系の資格も持ってて、はじめはDr.サキの医療部にいたんだよ。
というか、Drの紹介で医療・技術の士官候補生として、【ブルークロス】に入って、【ケイローン】に士官として配属されたんだ」
「Dr.サキの紹介なんですか。艦長と親しいからそっちの線かと思ったんですけどね」
オリビエは言った。
「艦長にとっちゃ、秘蔵っ子であり、同好の士でもありってとこかな。モビルスーツばかの艦長とタメを張るくらいの知識を持ってかつ情熱をこめて話あえるという」
「モビルスーツの知識なら、アシェンバッハ少佐だって負けてはいないでしょう」
「俺は、どちらかといえば、機械屋さ。作ることと修理はできても、基礎研究やら開発やらは他の人間に任せたい口だ」
機械屋というアシェンバッハ少佐の言葉に、オリビエは少しのテレと大きな誇りを感じた。
「それに俺は、モビルスーツの歴史的意義とかどうでもいいし。芸術とか文学、歴史やら哲学やらとも相性が悪い。そこらへんもオルシーオ艦長とアティアが気があう理由じゃないか」
ああ、とレーヴェがうなづいた。
「艦長は、ギリシア古典文学についての著書があるのでしたね」
「【ロマン主義におけるギリシア古典と哲学の発掘】とかいうタイトルだったよな?」
とオリビエはレーヴェに聞いた。
「そうだと思う。見かけによらず、艦長はロマンティストだからな」
「一年戦争からの権力抗争も、どちらかといえば敗者のジオン軍に肩入れしてるしね」
「まあ、俺たちもスペースノイドだしな。ジオンに心情的に少々傾くのは仕方あるまい。
確か、アティアと共著で一年戦争から、ネオジオンの抗争、それも主にジオンについての考察を書いたヤツもあるぞ。」
206通常の名無しさんの3倍:2011/06/20(月) 23:21:36.92 ID:???
DNA 0027

「もしかして、彼女、シャアマニアン?」
隣を気にしつつ、オリビエは聞いてみた。あの双子のレーヴェへの反応っぷりを見てもその可能性はある。
アシェンバッハもちらりとレーヴェを見てから、おもむろに言った。
「いや、いわゆるジオンのシャア・アズナブルを理想化・崇拝してるシャアマニアンとは一線を画してはいると思う。
特にあの一連のムービー以来、急増したようなヤツとはな」
3年前で増えたファンは、どちらかといえば俳優であるシュウ・レイクのファンだしなとアシェンバッハは言った。
「アティアのは、世界状況におけるヤツの行動の意味を分析するような、もっと学術的というか、知的好奇心ってやつだろう」
「なんだか、ヤケに詳しいですね」
オリビエが聞くと、アシェンバッハ少佐は、実はオルシーオ艦長とアティアの共著の考察を読ませてもらったことがあると告白した。
・・・やはり、オルシーオ艦長の影響ははかりしれない。
船にいる限り、毎日オルシーオ艦長のモビルスーツへの愛を感させられるのだから、同然の話だ。
朱に交われば赤くなるってことだな。とオリビエは思う。
「アティアによると、シャアは、生前からフィクショナイズされていて、実像がわかりにくいと言ってたな。
もっともそこが多くの人間の研究心を刺激するらしい。だが、実存としては、
というか男としてはマザコンでシスコンでロリコンな男はおよびじゃないそうだ」
言ってから、アシェンバッハ少佐はしまったという顔をした。
その名前に迷惑はしているが、それなりにシンパシーを感じている男がここにいるのだ。
オリビエには、隣の席の温度が低くなった気がした。オリビエはアシェンバッハに問いかけた。
「それ、彼女が口にして言ったんですか?」
「いや、アティアの文章を読んだ俺の感想だよ。」
そして、レーヴェへのフォローのつもりか言葉を続けた。
「口にだしては、性格はともかく、外見はわりと好みだと言ってたぞ」
あまりフォローにはなってはいないが、まるっきりの否定意見ではないのにホッとしたオリビエに、
さらにアシェンバッハ少佐の爆弾発言が投げられた。
「まあ、現実にはセイエンがいたしな」
207通常の名無しさんの3倍:2011/06/20(月) 23:32:19.53 ID:???
DNA 0028

「「セイエン副長!?」」
オリヴィエとレーヴェは同時につぶやいた。
アシェンバッハ少佐は急に声を小さくした。
「お前ら、【ニルヴァーナ】で二人が再開したときに一緒にいたんだろ?」
二人は顔を見合わせた。
「「はい」」
「セイエン、いつもと違ってなかったか?」
「そういえば、いつもよりは。話し合いでも、ほとんど反論せず、一方的に押されていましたね」
「だろう?アティアが絡むと奴はいつものホホエミ仮面が剥がれ落ちんるんだよ。アティアも奴には妙にかまうしね」
「つきあっていたと?」
「そこまでなっちゃいないだろうが、お互い憎からずってやつだな。アティアがこの船に初めてきたのは、十代だったし、
艦内のモラルのこともある。第一、27の男が、十代の子になかなか手は出せんだろ。」
そうですねとオリビエとレーヴェはうなずいた。
「アティア、近々こっちに挨拶にくるんだって?」
「ええ、そのような話をオルシーオ艦長とされていました」
「そうか、楽しみだな」
アシェンバッハ少佐は話を切り上げて立ち上がった。出入り口から、セイエン副長が入ってきたからだ。
二人は座ったまま少佐を見送る。
最後のコーヒーを飲んだ後、オリビエはレーヴェに聞いた。
「お前、ちょっと傷ついてる?」
いや、とレーヴェは首を振った。
「自分自身の性格に、当たらなければどうということはない」
208通常の名無しさんの3倍:2011/06/21(火) 23:07:36.30 ID:???
DNA 0029

アティアと双子らは、約3日後に【ケイローン】を訪れた。
オルシーオ艦長はわざわざモビルスーツデッキまで降りて、訪問者、4人を出迎えた。
双子とアティア、そして送ってきたパイロットが一人。
オリビエは、デッキの上方をぐるりと囲む回廊から一人、下を眺めていた。
レーヴェはセイエン副長とブリッジに残っていた。
モビルスーツを降りたアティア達は、艦長を中心に、顔見知りのクルーと談笑していた。
(ああしていると、ごく普通のかわいい女性ってかんじだよな)
ファーストインプレッションとアシェンバッハ少佐の話は、オリビエをして偏見とはいかないまでも
少々、構えさせるものだった。
もっとも、この【ケイローン】に乗船している女性クルーは総じて個性が強い。
医療部のDr.サキとそのチームの看護士、ミシェール、ガブリエラ、キャサリン、パルヴィーン、
メグミ、マーガレット、オペレータのトリアとメイリン、整備部のゲルダとエリーゼとモニカ。
そして、4番目のモビルスーツチームを率いるセルゲイ・ミハイロフ大尉の妹、タチアナの11人である。
顔もスタイルもよいうえ、男女が5対1の比率である。当然競争率も高い。
それにトラブルを起こさないためにか、艦内恋愛は禁止とまでいかないが、
クルーたちは、そうなるのを心理的に避けているふしがある。
オリビエも、コロニーに寄ったときにもらう休日には、女性クルーを食事に誘ったりしているが、
深い関係にいたるまではいかない。

眼下では、クルーたちが餌をまかれた魚のように、アティアたちに群がっている。
「すごいな、まるでスターのようだ」
いつの間にか隣にきたアーサーが話しかけてきた。
「みんな娯楽に飢えてるからね」
とオリビエは返した。
209通常の名無しさんの3倍:2011/06/21(火) 23:20:01.23 ID:???
DNA 0030

「アーサーは彼女のこと前から知ってるんでしょ?」
「いや、あまり詳しくはないんだ。俺が一番最初に乗ったのは、同じ第1デビジョンでも、副艦の【イアーソン】ほうだったうえ、
時期も3ヶ月も満たないくらいしか重なってない」
デビジョンごとに主艦に2艦の副艦がつく【ブルークロス】の編成だが、いつも同じ任務に
ついているとは限らない。現に、いまも【イアーソン】と【カストール】は別行動をしている。

人だかりを掻き分けてオルシーオ艦長とアティア達が、ブリッジに上がるエレベーターに乗った。
「あっちの赤毛(ストロベリーブロンド)のほうは有名だったけどな」
「ああ、レディ・ハリケーン、イリーナ・スルツコヴァか」
後から入った自分も知っていた、【ブルークロス】の有名な女性パイロットだ。
「でも、なんでレディ・ハリケーンがアティア達と一緒にいるんだ?」
「艦に入ったときから一緒だったって言う話だ。うわさだとアティアはいいとこのお嬢さんで、
イリーナは家がつけたシャペロン兼ボディガードらしい」
「そんないいところのお嬢さんがなんで、【ブルークロス】へ?」
「普段は忘れているかも知れないが、【ブルークロス】の母体は救急救命組織だぞ?
それに即した医療系のハイスクールや大学も経営している。コロニーの70%に支部があり、
地球のヨーロッパと日本にすら、拠点がある。スペースカンパニーの護衛やカウンターテロで
稼いじゃいるが、収入の20%は寄付金だろ」
「そういや、そうだったな。本部とかには淑女な女性職員が多いものな。」
「さて、俺たちも行こう」
とアーサーがあごをしゃくった。
「どこへ?」
「ブリッジに決まってるだろ。セイエン副長もそこにいるんだし」
どうやら、アーサーもセイエン副長とアティア嬢のロマンスなうわさを知っているらしい。
「野次馬根性、旺盛だね」
「人のこといえるのか?それともお前は来ないのか?」
「もちろん、行きますとも」
オリビエも娯楽に飢えているのである。
210通常の名無しさんの3倍:2011/06/23(木) 00:01:54.33 ID:???
DNA 0031

意に反して、ブリッジにはセイエン副長はいなかった。オルシーオ艦長とアティアとイリーナもだ。
かわりにいたのは、レーヴェ・シャアだった。その両脇に双子がくっついていた。
レーヴェは、【ケイローン】のブリッジについて双子たちに説明をしていた。
「こんにちは、ぼうやたち。よく来たね」
オリビエが挨拶すると、二人は「こんにちは」と挨拶を返した。
「でも、僕たち、ぼうやじゃないです。」
「ああ、すまない。ミコト君とタケルくんだったね」
一方の少年が少し首をかしげた。
「はい、僕、タケルです。あなたは、確かオリビエ・ジタン大尉ですよね」
「ああ、そうだ。よろしくな」
手を差し出してオリビエは双子と握手をした。ついでアーサーが挨拶を始めた。
オリビエは傍らにいるレーヴェに尋ねた。
「艦長たちはどこへ?」
「艦長と副長は【ニルヴァーナ】の客人と一緒に艦長室に行ったよ。
なんか相談していことがあるんだと」
レーヴェが答えるより早く、オペレーターの一人が言った。
「レーヴェ大尉に小さなお客人の案内を頼んでね」
「オルシーオ艦長、レーヴェに艦内の案内させるって、二人に約束してたものな。」
オリビエの言葉にレーヴェが言った。
「よければ、代わるが?」
「いやいや、そんなことしたら、お客人ががっかりするだろ。な、ミコト君にタケル君?」
「がっかりとまで、いきませんけど、残念な気はします、ねタケル?」
「はい。僕もミコトもすごく楽しみにしてきたので。オルシーオ艦長のお約束もありますけど、
アティアもレーヴェ大尉は、信頼できるかたみたいねって言ってたし」
「一般公開での案内役、人気ナンバーワンって、オルシーオ艦長からきいたみたいで、
自分もできるなら、一緒に説明してほしいくらいだっていってたし」
211通常の名無しさんの3倍:2011/06/23(木) 00:07:51.08 ID:???


DNA 0032

そこまで言われては、案内役を他人に譲ることなどできないだろう。
本気で双子にまとわりつかれたくなければ、最初からブリッジに上がらなければよかった話だ。
レーヴェの好奇心が、この事態を招いたのだ。
それに、民間団体【ブルークロス】は年に一度の艦のドック入りの時に、
艦内を一般公開しているのである。一般公開といっても、【ブルークロス】の主旨に
賛同し、寄付をしていただいた方からの公募の中から抽選で、ではあるが。
レーヴェが案内をした翌年から、寄付金の人数と額、公募が30%増しになったとか。
もちろん、オリビエも同期なので、レーヴェと同じ年に案内役をおおせつかった。
なので、いくらかは跳ね上がった数字に貢献していると自負していた。
それはともかく、オリビエはレーヴェ一人に双子を任せておく気にはなれなかった。
「じゃあさ、俺が一緒に行くのは迷惑かい?案内人はレーヴェ大尉一人でなきゃ
絶対にだめなのかな?」
「そんなことないです」
「オリビエ大尉も一緒なら、もっとうれしいです」
オリビエはにっこりと笑った。
ありがたいという風にレーヴェはオリビエに向かって首肯した。
さらに、オリビエはお前はどうすんの?とアーサーに視線を投げた。
「遠慮しとく」
とアーサーが答えた。
「では、行こうか」
レーヴェが双子に声をかけた。双子はすぐには動かずに言った。
「ブリッジスタッフのみなさん、ぼくらにブリッジの見学をさせてくださって」
「ありがとうございました。とても勉強になりました」
丁寧に双子は、ブリッジにいたクルーにお辞儀をした。
この礼儀正しさはなかなかよかった。
212通常の名無しさんの3倍:2011/06/23(木) 23:52:03.39 ID:???
DNA 0033

「どこに行きたい?といっても、見せてやれるところは限られているけどね」
オリビエが、双子たちに尋ねた。
「医療ブロックは大丈夫ですか?」
「ああ、平気だが。」
とレーヴェは答え、アシェンバッハ少佐が言っていたことを思い出す。
「Dr.サキに会いたいのか?」
「はい、アティアがよく言ってたんです。自分の恩人がいるって」
「とってもすごい人だって」
レーヴェはすごい人という言葉に心の中でうなづいた。
主艦18名、副艦2つにそれぞれ、12名、総勢42人の医療チームに君臨するDr.サキ。
年の三分の一は、本部で後進の指導に当たり、関連の大学では、
名誉教授として講義も行っている。
【ブルークロス】医療組織部門の顔の一つでもある彼女の影響力は計り知れない。
船から下りて、後進育成と研究に専念してほしいという上層部からの依頼を
「救急救命医が現場を離れて、どうするんだ」
という台詞で退け続けている。
その仕事ぶりの厳しさで、Demon for medicalと呼ばれていた。
それは、Dr.サキが目を光らせているため、女性の看護士に、なかなか近づけない男達が
少々の恨みと多大なる敬意を込めてつけた愛称でもあった。

いくつかのブロックを通りすぎ、目的の医療ブロックへと入る。
Dr.サキには艦内用のハンドフォンで連絡をしてあった。
通りかかる医療スタッフがものめずらしげにレーヴェ達4人を眺めていく。
213通常の名無しさんの3倍:2011/06/23(木) 23:59:07.17 ID:???
DNA 0034

「お忙しいところ失礼します」
よう、というようにDr.サキが手を上げた。
ふわふわとした栗色の巻き毛を一つくくりにした化粧っ気のない顔は年齢不詳だ。
「喜ばしいことにあまり忙しくはないよ」
警察と軍隊、そして医者(ひいてはブルークロスも)が暇なのが一番というのがDr.サキの持論なのである
「それは何よりです」
レーヴェは微笑んで答えた。サングラスは入る前にはずしていた。Dr.サキに
相対するときは必ずそうしている。初めて会った時に、サングラスをしていて、
人に対する礼儀がなってないとこっぴどく叱られたためだ。
「こちらが面会を申し込んだ、ミコト・セラマチくんとタケル・セラマチくんです」
レーヴェは双子を紹介した。
「はじめまして、Dr.サキ」
「お会いできてうれしいです」
「はじめまして。ではないけどね。お前さん方は覚えていないだろうが、2歳の時に会っている」
双子は顔を見合わせた。その話は初耳だったらしい。
「まあ、お座り」
Dr.サキに手招きされて、言われるままに双子は席についた。
オリビエも遅れて、少し離れた席に座ったが、レーヴェは立ったまま壁にもたれて腕をくんだ。
「よく来たね。会えてうれしいよ。だけど、今、この船で会えるとは思わなかった。アティアにも
お祖母さんからも、君たちの話は聞いていたんだけどね」
「お祖母さまも知っていらっしゃるのですか?」
「そうだよ。よく知っている。テルナ、君たちのお祖母さんは、一時は【ブルークロス】の運営にも関わっていたしね。
アティアが【ブルークロス】の【ケイローン】で働いていたことは知ってるんだろう?」
「はい」
「アティアが僕らを養子として引きとるときに、支援してくれたのも【ブルークロス】の
慈善事業部門だったと聞いています」
双子はさらりと自らの生い立ちについて語った。
214通常の名無しさんの3倍:2011/06/24(金) 00:04:42.64 ID:???
DNA 0035

この二人は孤児だったのか
オリビエは、同じく血のつながりのない人間に、育てられた自分と双子を重ねあわせた。
1年戦争以来、度重なる戦いの中で親を亡くす子供は多かった。
反対に子供をなくした親も数知れずだ。
【ブルークロス】はそんな身内を亡くした者たちに、新しい家族をコーディネイトする部門もある。
「アティアは、あまり身内には縁がない。だから、君たちを引き取ると聞いたときには驚きも、喜びもしたよ。お祖母さんのためにもな」
「アティアが言ってました。ドクターは恩人でもあり、師でもあり、年の離れた姉妹のようでもあるって」
双子は真摯な目でDr.サキを見つめた。
「なんだい、おおげさな。テレちまうじゃないか」
実際、Dr.サキの耳は赤くなっていた。そんな表情をするDr.をオリビエは初めて知った。
「だから、今日はお礼にきたんです」
Dr.サキは双子の言葉に怪訝そうな顔をした。
「僕らのアティア、・・・マーを助けてくれて」
「あなたがいなかったらマーは今ここにはいなかったでしょう」
「僕らとマーを会わせてくれて」
「自分たちはあの人を親と呼べるのがとってもうれしいんです」
双子たちは立ち上がって、テーブルを回るとDr.を両側から抱きしめた。
「「ありがとうございます。Dr.サキ」」
彼女はうれしいような、こそばゆいような表情をしてから、二人をしっかりと抱き返した。

感動的なシーンだった。
驚きつつも、ほほえましく思っていたオリビエに、双子を放したDr.サキが言った。
「なに、ホウけた顔をしてるんだい、特にそこでかかしみたいに突っ立ってる男」
レーヴェに向かってDr.はあごをしゃくった。
「油を売ってないで、仕事に戻りな。この子たちはしばらく私が預かってやるから。そうだな、二時間もしたらアティアと一緒に引き取りにおいで」
オリビエはすぐに立ち上がり、レーヴェと共にDr.サキの命令通りに部屋をでた。
215通常の名無しさんの3倍:2011/06/24(金) 05:40:22.37 ID:???
乙です。
216通常の名無しさんの3倍:2011/06/25(土) 01:00:16.50 ID:???
DNA 0036

「もう一度言っていただけますか?」
レーヴェは信じられないというニュアンスをこめて言った。
「二人に、ミコト・セラマチとタケル・セラマチの教育係を命じます」
セイエン副長が淡々と同じ台詞を繰り返す。
「話がよくみえないんですけれど?」
オリビエがオルシーオ艦長とセイエン副長を交互に見て言う。
「つまりは、しばらくミコト君とタケル君をうちの船で預かることになったんだ。その間に
モビルスーツの訓練をほどこしてもらいたいという依頼がアティアからあったわけだ」
とオルシーオ艦長が言った。
「モビルスーツは子供の玩具ではありません。」
レーヴェはここでいったん言葉を切って、アティアを見つめた。
くっきりとした二重の下の瞳が、黒い星のように輝いている。
「第一、今は貴方の乗る【ニルヴァーナ】を護衛している最中です。
その中で子供に訓練をほどこすなど無理な話です」
アティアが少し首をかしげた。そのやや後ろにショートヘアの赤髪の女性が立っていた。鮮やかなエメラルドグリーンの目がレーヴェを見つめている。
イリーナ・スルツコヴァ。前代の【ケイローン】のトップエース。180センチ近い長身にメリハリの利いたボディラインは
色気という言葉で表現するには不足な、強烈な雰囲気を発していた。
「二人には、私がモビルスーツの基本動作を教えました。コロニーでの訓練も
ここ半年ほど行っています。宇宙空間の飛行訓練も5度経験済みです」
イリーナが姿にふさわしい、ややハスキーな声で言った。
「ただし、宇宙では綱つきですけどね」
アティアが補足した。
217通常の名無しさんの3倍:2011/06/25(土) 01:07:35.22 ID:???
DNA 0037

「初期訓練は済んでいるということですか。」
「もちろんだ。そうじゃなかったら、いくら俺でも無茶だと断るさ」
オルシーオ艦長がうなづいた。
「ですが、今まで訓練をなさっていたイリーナ中佐が、続けて行ったほうがよいのでは」
とレーヴェが言うと、イリーナが苦笑した。
「私は今、中佐ではないよ。レーヴェ・アズナブル大尉。【ブルークロス】の階級は返上したのだから」
「失礼しました」
「そして返上して、すでに3年が経つ。アティアは現在も現役である人物に、
訓練をしてもらいたいと望んでいるんだよ」
「それにこれは正式な依頼なんだな。規定の報酬が【ブルークロス】に支払われる」
オルシーオ艦長があごひげをなでながら言った。
「ですが、我々が子供相手の訓練など・・・」
レーヴェは、できそうもないと首を振ってみせた。
「ミコトとタケルのご指名なのさ。それに確か、教育係には、別個に報酬を支払うとまで言ってもらっている。確か給料の3ヶ月分だったよな」
オルシーオ艦長がセイエン副長に確認した。
「ええ。そうです。どうします?レーヴェ大尉、オリビエ大尉、他へ譲りますか?」
二人は一瞬ためらった後、言った。
「了解です。サー」
218通常の名無しさんの3倍:2011/06/25(土) 01:15:28.02 ID:???
DNA 0038

「私は、セルゲイたちのところへ行きますよ」
艦長室から出るとイリーナは言った。セルゲイはイリーナと同時期に【ブルークロス】に入った
チームメイトだという。
「Dr.サキとお話が済んだら、ハンドフォンに連絡をください」
廊下を右と左に別れた。
「我々のような人間に息子さんたちを預けるのは不安ではありませんか?」
オリビエが問いかけると、アティアは、あら、というような顔をした。
「誰が二人が私の子供だってことバラしたのかしら?」
「本人たちですよ。もっとも直接聞いたわけじゃなく、Dr.サキとの会話で、ですけれど」
「Dr.サキはお元気?」
「必要以上にね」
「以前とかわりなくってことですね。なら、よかった」
うれしげにアティアが笑った。
「不安は、ありません。【ブルークロス】のオルシーオ艦長率いる船に預けるんですから。
ましてや、現役の2大エースにモビルスーツの操縦を教えてもらえるんですもの。
私もそばにいて見ていたいくらい」
ホメ殺しである。それに見たいというなら、見てもらったほうがこちらとしても、意欲がわく。
「でも、【ニルヴァーナ】で、モビルスーツのシステムの微調整があって無理なんですけれど」
残念だが、仕方のないことである。
「モビルスーツ、本当にお好きなんですね」
「モビルスーツだけじゃなく、機械全般が好きなんです。中でもモビルスーツって操縦がダイレクトに反応しますよね。だから一番、惹かれてしまうんですわ」
それは、モビルスーツ乗りにしか解らない感覚だ。機械の四肢で宇宙を飛翔(ゆ)く時、
自分とモビルスーツが次第にひとつになっていく。戦闘ともなれば相手の動きと心にまで呼応する。
相手が強ければ強いほど感覚は研ぎ澄まされ、別の次元へと引き上げれるかのようにさえ思えた。
「貴方も相当にモビルスーツに乗るんですね」
「たしなむ程度です。【ブルークロス】では、モビルスーツに乗れることが正規採用の最低条件ですもの」
219通常の名無しさんの3倍:2011/06/25(土) 01:26:07.31 ID:???
DNA 閑話

やはり見ていてくれる人がいるとわかるとうれしいものです。
ありがとう。

オリジンのアニメ化の話を聞いて、少々複雑な気持ちだ。
うれしいような怖いような。声優陣も鬼籍に入られた方が多くおられるので。
が、アニメ化するなら、よきものを望みたい。

閑話休題
220通常の名無しさんの3倍:2011/06/25(土) 16:41:09.32 ID:???
オリジンアニメ化楽しみですね。原作はリアルで見た世代ではないので覚えているのは映画の方が大きいです
221通常の名無しさんの3倍:2011/06/26(日) 23:22:02.05 ID:???
DNA 0039

「二人を【ブルークロス】へ入れたいと思っておいでなのですか?
だから、我々にミコト君とタケル君の指導を任せたいとお考えになったとか?」
先を行っていたレーヴェが振り返って問いかけた。
「【ブルークロス】に、入るかどうかは二人が決めることですわ。
少し特殊な組織ですから、入りたくても入れないということもあるでしょうし。
ただ、人生は何が起こるかわかりませんでしょ?
自分が身動きができる間に、あれもこれもやらせておきたい、とつい考えてしまうんです。
それに、ミコトもタケルも今現在は、モビルスーツに非常な関心を持っていますから。
このチャンスを逃す手はないと思いましたの」
「お母様がモビルスーツの開発に関わっていて、身近に優秀なモビルスーツパイロットが
いるわけですから、関心も強くなるのは当たり前ですが、少々早すぎませんか?」
レーヴェが言った
「関心以上の興味を持って、暴走したりしたら、それこそ大変ですもの。
子供の好奇心はあなどれません。それに万が一の偶然で、モビルスーツに乗らなければ
ならなくなる可能性もゼロではないでしょう?」
アティアは、言外に、アムロ・レイ、カミーユ・ビダン、
ジュドー・アーシタなどの存在を匂わせた。
「それは、その通りですが」
「かなり、強引に指導役を引き受けさせてしまって申し訳なく思っています。
けれど、あの年の子がスペシャリストに教えてもらう機会はそうそうありません。
それにイリーナだと、二人を小さいころから知っているためか、少し甘いところがありますし、
教えるという作業はあまり向いてないように思えるんです。論理ではなく、
感性で操縦をしているというか・・・」
「チャンスの女神は前髪しかないって言いますからね」
とオリビエは言った。
「俺は、親と本人たちがリスクあるのを知っているなら、問題ないと考えてます。
そして、アティアさんはそれを十分ご承知のようだ。
ならば、この訓練は双方にとって得がたい経験になると思いますね」
「そう言っていただけると、ありがたいですわ」
オリビエとレーヴェは笑いあい、レーヴェはいつもの無表情で答えた。
222通常の名無しさんの3倍:2011/06/26(日) 23:28:51.01 ID:???
DNA 0040

「アティア」
満面の笑みを浮かべて、Dr.サキが両手を広げた。
「Dr.サキ」
アティアがためらいなく、その腕の中に飛び込んでいく。
ひとしきり挨拶の抱擁をして、二人は身を離す。
「イリーナも来てるんだろ?」
Dr.サキは【ニルヴァーナ】からのもう一人の客人の名前を出した。
「セルゲイ達のところへ寄ってます。後から私を迎えに来るときに挨拶しますって」
「逃げたな。敵前逃亡は重罪だぞ」
「Dr.サキは敵ではありませんでしょ」
「あの医者嫌いのことだ。私を天敵と思っているだろうよ」
レディーハリケーンもDr.サキが苦手なのかと思い、オリビエは彼女に少しだけ
親近感がわいた。
「ところで、アティア、相変わらず、細っこいね。ちゃんと食べてるのかい?」
「食べてますよ。ミコトとタケルがうるさいですからね」
「アティアはね、放っておくと、ビタミンパックだけで一日を過ごそうとするんですよ」
双子が、Dr.サキに訴えた。
「だから、僕らこんなに若いのにお料理上手になっちゃったんです」
「この二人のオムレツは絶品なんです。私よりずーっと上手」
母親としてはどうなんだろうという台詞とアティアが堂々と言った。
「アティアは気が向かないとお料理しませんから。イリーナのほうがよく作ってくれます。
すごくおいしいし」
「別に、アティアの料理がおいしくないわけじゃないです。作れば味はいいです。
めったに食べられないからありがたみも増すってものです」
Dr.サキはからから笑った。オリビエとレーヴェも、思わず忍び笑いをもらす。
「まあ、私の料理の腕のことは置いといて・・・。Dr.サキ」
アティアは表情を改めて言った。
223通常の名無しさんの3倍:2011/06/26(日) 23:53:17.17 ID:???
DNA 0041

「ミコトとタケルをしばらく【ケイローン】に預けることになりました。
ドクターにもご迷惑をおかけすることになると思います。この通り、生意気なところもありますが、
そこも含めてよろしくご指導お願いします」
「了解した。できる限りのことはするよ。アティアはこちらに移らないのかい?」
残念ながらとアティアは首を横に振った。
「【ニルヴァーナ】で、いろいろやることもありますので」
「働きすぎなんじゃないのかい?」
「昔、ある人に言われたんです。自分の無力を嘆く前に、やるべきことをやれと。
あと、まず、動け、働け、休みなら死んでからいくらでも取れるって」
「誰だい、そんな乱暴なことを言ったやつは」
オリビエにもレーヴェにもその人物が目の前にいることが分かった。
自分たちも一度ならず言われたことがある台詞だったからだ。
「それから、レーヴェ大尉とオリビエ大尉にミコトとタケルの教育係を引き受けていただきました」
見れば、双子が無言で顔を合わせて、うれしげに手を取り合っていた。
Dr.サキといえば、オリビエ達がいるのを初めて気がついたような顔をした。
「お前らが教育係ね。せいぜい、二人に成長させてもらえよ」
「「イエス、サー」」
二人は敬礼をドクターに返した。オルシーオ艦長とセイエン副長の前より殊勝な態度だった。
224通常の名無しさんの3倍:2011/06/27(月) 23:47:09.94 ID:???
DNA 0042 

双子は、レーヴェとオリビエの向かいの部屋に入ることになった。
部屋にはすでに二つの小さなトランクが運び込まれていた。
双子に部屋の簡単な掃除と荷物の整理を言いつけて、レーヴェ達は先刻、
アティアとイリーナを見送ったモビルスーツデッキへと戻った。
双子の訓練用にと、トランクと共に、ビリディアンが2台、残されたのだ。
新型といってもビリディアンは、【ニルヴァーナ】の護衛用であり、
機密事項には抵触しないという。
デッキでは、アシェンバッハ少佐を筆頭に、メカニックが新機種のモビルスーツに群がっていた。
開発コード、MS-101、高さ18.2メートル、重さ32.75トン、ビームライフル、ビームサーベル、
バルカン砲を備え、鮮やかな緑を基調に黒でアクセントをつけた機体は、ジム系の
スタイルを踏襲していた。
「外塗装に、インジウム化合物の皮膜を塗布してますね。さらにグラスファイバー
を粉状にしたものを吹き付けてある」
「仕様書では、オプションで、サイコミュの搭載も可能」
「両手両足部分の可動域が18.パーセント増しか、こりゃすごい、
より人間に近い動きができるってことか」
「可動域が広がる分、やわな構造になってないだろうな」
アシェンバッハ少佐が尋ねた。
「膝部、肘部の補強は二重にしてあって、約23パーセント増しいるようです」
レーヴェは、アシェンバッハ少佐に声をかけた。
「整備はすんでいるのですか?アシェンバッハ少佐」
アシェンバッハ少佐が振り返って答える。
「もちろんだ。もっとも、アティアの送り込んできた機体だ。整備の必要なんてほとんどないがな。
最初からエネルギーも満タンだ」
225通常の名無しさんの3倍:2011/06/27(月) 23:54:47.71 ID:???
DNA 0043

ほらよとアシェンバッハ少佐が作動マニュアルを放り投げてきた。
「紙ベースの作業マニュアルですか」
「なんか、そこんところはアナクロなんだよな。アティアは。お前らと気があうんじゃないか?」
レーヴェもオリビエも、電子書籍ではなく、前時代的な紙の本を好んで読んでいるのを
アシェンバッハ少佐は知っていた。
もっとも、オルシーオ艦長が趣味で買い集めた古書がライブラリにそろっているのも、紙の本を
手にとりやすくしているゆえんではある。
「とりあえず、試乗してみよう、レーヴェ。基本操作はどのモビルスーツでもいっしょだろ。
オルシーオ艦長がいきなり操縦してたんだし」
パラパラとマニュアルを流し見していたオリビエが言った。
「そうだな。ミコト君とタケル君に教えるのに、こちらが乗りこなせなかったら問題だな」

レーヴェはコクピット内に入って、OSを立ち上げた。
外に聞こえるようにスピーカーをオンにする。
モニターに緑の文字が現れた。
パスワードを入力する。【ケイローン】のパイロットが使用できるよう、生態認証機能
はオールユーザ仕様となっていた。
「正常稼動、オールスタンバイ。みんな離れてくれ」
メカニックが離れるのを確認して、カタパルトハッチへと向かう。
「ビリディアン、ハッチを開けるぞ、1号機、2号機用意はいいか」
管制から確認の通信が入った。
肯定信号を返すと、カタパルトへのハッチが開いた。
「進路、オールクリア」
管制の声がして、射出が始まった。
「レーヴェ・C・A。ビリディアン 1号機 出る」
ビリディアンはレーヴェと共に【ケイローン】の外へと飛び出した。
226通常の名無しさんの3倍:2011/07/01(金) 22:28:15.28 ID:???
DNA 0044

レーヴェが飛び出して行くのを見送り、オリビエは続いてカタパルトへと乗った。
「オリビエ・ジタン、ビリディアン 2号機 出るぞ」
先行するレーヴェは【ニルヴァーナ】へと向かっていた。パトロールも兼ねようと
事前に打ち合わせしてあった。
ビリディアンの性能を確かめながら、【ニルヴァーナ】の周りを一回りし、母艦の近くまで
戻った。
「さて、はじめようか」
レーヴェの通信が合図となり、模擬戦を開始した。
サイコミュ未搭載機のため、昔ながらの機器操作が必要になってくる。
だが、いつもの機体より、反応がよく、俊敏に動く。
駆動機器の配列が実に旨く配置されていて、動きに無駄がでないのだ。
レーヴェとの対戦が次第に本格的なものになっていく。これもビリディアンの操作性が
よいためだろう。
レーヴェのスピードは相変わらずで舌をまくほどだった。
しかし、スピードに自信があるせいか、動きが大きく、やや攻撃が散漫になり勝ちなきらいがある。
そこが、オリビエのねらい目だ。
発射されたビームをかいくぐり、一気に相手のふところに飛び込む。
すかざず、ビームサーベルで相手の機械の腕と足をを凪ぎ払った。
これで、38勝、64敗だ。ダブルスコアまで少し足が遠のいた。
「やるな、オリビエ」
接触回線でレーヴェが声をかけてきた。
「俺のほうがこのタイプの機体に慣れているだけさ」
「確かに私は、サイコミュの力に頼りぎているきらいはあるな。どうする、もう一戦するか?」
「したいのはやまやまだが、そろそろタイムリミット。双子たちのところへ戻らないとな」
「やれ、やれ。自分は子供相手向きではないのだがな」
「大丈夫。そうやって、人は変わっていくものだろう?」
227通常の名無しさんの3倍:2011/07/01(金) 22:31:41.19 ID:???
DNA 0045

双子の部屋へ行くと、そこに二人の姿はなかった。
代わりに
「オルシーオ艦長に模擬戦をみないかと誘われたので、ブリッジに行きます」
とメッセージが残されていた。
二人はブリッジに上がった。
双子はオルシーオ艦長の脇に立って待っていた。アシェンバッハ少佐の顔もある。
「お帰りなさい。レーヴェ大尉、オリビエ大尉」
双子がうれしそうに敬礼してくるのに、レーヴェとオリビエは軽く敬礼を返してやる。
「戦闘データです」
レーヴェはセイエン副長にディスクを渡した。オリビエもそれにならう。
「ビリディアンはどうだった?」
一日の長があるオルシーオ艦長が問いかけてきた。
「アシェンバッハ少佐から報告があがっているとは思いますが、手足部分の可動域が広がって
いる分、より人体に近い動きが可能になっているのを確認しました。
ビームガンの狙いがより正確になり、無駄玉も少なくなるでしょう。
非常に効率的かつ経済的な仕様ですね」
とレーヴェは答えた。
「機体操作の反応速度がサイコミュ機とあまり差がないのですね。とくにオリビエの方は」
データを見ていたセイエン副長が言った。
「そこがビリディアンのすごいところですね。」
とオリビエが言った。
「実に操作がしやすいんです。もともとモビルスーツのコクピット配列は、人間行動学に
基づいて設計されているんですが、それをさらに改良されているのが如実に分かりましたよ」
「だろう?」
とオルシーオ艦長が自分の手柄のように言った。
228通常の名無しさんの3倍:2011/07/01(金) 22:34:37.18 ID:???
DNA 0046

「ですが、」
とレーヴェは双子を見た。
「ミコト君とタケル君には現時点では、ビリディアンに乗せるべきではないと考えます」
「どういうことだ?」
「性能がよすぎるのですよ。あれが当たり前だと思われると、他機に乗ったときに
苦労する」
「俺もレーヴェに同感です。双子にはまビリディアンは早すぎる」
「じゃあ、どうする?」
「俺とレーヴェの機体に乗せるとか?」
「そりゃ、お前らがビリディアンに乗りたいだけじゃないのか?」
少々の揶揄を込めてオルシーオ艦長が言った。
「いや、オリビエ。我々の機体も少し特殊すぎる。特に私のコーラルはサイコフレームを
多く使用しているしな」
「んじゃ、おれのガイウスとセイエンのベータロメオはどうだ?」
レーヴェは首を振った。
「ガイウスもベータロメオも私のコーラルよりはサイコフレームの使用は少ないですが、
それに、副長の機体はファンネルも搭載してますし」
「俺のリックディアスVは、サイコフレームの使用率は5%くらいだぞ」
オリビエが言った。
229通常の名無しさんの3倍:2011/07/01(金) 22:39:27.41 ID:???
DNA 0047

「予備用のアシモフがあるぞ。それを使ったらどうだ?」
よこからアシェンバッハ少佐が言った。
アイザックを【ブルークロス】で改良したモビルスーツである。
確かにそれならサイコミュはついていない。
「アシモフですか・・・。」
レーヴェはあごに手をやり少し考えた。
「そうですね。アシモフ二台をミコト君とタケル君に、
我々二人は、ビリディアン1台と自分の機体に交互に乗る」
「そうすると、ビリディアンが1台空くな」
「他の奴もビリディアンで遊んでみたいでしょう?」
オリビエがいうと、オルシーオ艦長も違いないと答えた。
「じゃ、訓練は早速、明日からな。がんばれよ。ミコト、タケル」
オルシーオ艦長が二人に笑いかけた。
自分たちの訓練について、大人たちが話し合うのじっと聞いていた二人は、
ほっとした表情で敬礼ながら言った。
「了解しました」
大人たちも敬礼を返した。
230通常の名無しさんの3倍:2011/07/02(土) 22:07:54.10 ID:???
DNA 0048

「そういえば、ミコト君とタケル君は、今年で12歳だって?学校はどうしている?」
早めの夕食を一緒にしながら、オリビエは聞いた。
「通信教育を受けています」
「昨年までは、学校に通ってたんですけど」
「もろもの事情で行けなくなってしまったので」
「でも、ジュニア・ハイはどこかのコロニーか、ひょっとしたら、地球の学校に行くようになるかも
しれないってアティアが言ってました」
交互に答える、双子は12歳という年よりかなり、幼く見えた。
「そうなったら、アティア、お母さんも一緒に地球へ?」
「たぶん、行かないと思います」
「僕らは来てほしいんですけど」
「ああ、一緒じゃないと、君たちもさびしいものな」
「「いいえ、アティアが寂しがると思いますから」」
そこだけは、きっぱりと二人そろって言った。
「火星ははじめてかな?」
レーヴェが話題を変えた。
「いいえ、半年ほど前に、2週間滞在しました」
「お母さんと一緒に?」
「アティアのこと、お母さんって呼ぶの止めてくれないでしょうか。自分たちも呼んでないですし」
ミコトが言った。
「だが、マーと」
「マーは、和名のファーストネームにちなんでいるんです。お母さんって意味じゃなく」
とタケルが言った。
「ジャパニーズネームのファーストネームは、めったに人に呼ばせないです。アティア。」
「何か、日本の風習らしくて」
「家族と恋人以外には呼ばせたくないみたいなんです」
231通常の名無しさんの3倍:2011/07/02(土) 22:14:23.05 ID:???
DNA 0049

「では、ミズ・アティアは、君たちと離れて暮らすわけだ」
「そんなの、今までも一緒ですよ。一年中、宇宙を飛び回っていて」
「ただ、今度は、火星に新型ドームを作る計画に関わっているから、
火星との行き来が多くなるのかな」
「新型ドーム?」
「えーっと、ニュースにもなりましたよ。知りませんか?」
「ああ、ヴァンダイク・コンツェルンがハナビシ重工と提携して作るやつか、今回初めて、
月のフォンブラウン、グラダナのように本格的な居住区を併設した、大型ドームを作るんだったな」
オリビエは、この仕事を請け負ったときに、調べた火星の最新情報を思い出した。
「着工は、1年後のはずだが?」
レーヴェも調べていたらしい。
「そうですけど、なんかその前にいろいろお仕事があるみたいで。アティア、企業のプランナーじゃなくて・・・企業間のコーディネーターとかいう仕事もしてるんです」
「ミコト、それアティアにあまり人に話すなて言われてたろ。」
「あ、そうだった。・・・ごめんなさい。これ、他の人には内緒にしてくれます?特にアティアには」
オリビエとレーヴェは、もちろんと言って請合った。
「ミズ・アティアも、ミコト君もタケル君も日系なんだな」
レーヴェが食後のコーヒを飲みながら言った。
「いわゆる、ミックスってやつです。日本風にいうとハーフ?」
「アティアはほぼ、純粋な日本人ですよ。というか、日本って、旧世紀の価値観が残ってて、
わりと、同国人同士で結婚するみたいですけど」
「日本は少々特殊な国だからな」
レーヴェがうなずいた。
232通常の名無しさんの3倍:2011/07/02(土) 22:19:02.02 ID:???
DNA 0050

「ジオンの独立を問う地球自治区代表の投票でも、棄権票を投じた、6つの自治区の一つだっけ?」
オリビエが言うと
「あ、それ習いました。ジオン・ダイクンが行った共和国宣言のときの投票のことですよね」
タケルが、自分の知識を披露した。
「でも、一年戦争では、連邦に協力してたんでしょ?」
「その時はジオンは公国化してたし、コロニー落としとかもあったし。でも、非武装地帯の中立宣言をしたんじゃなかったけ?双方への人道的支援を表明して。ブルークロスと同じように。
ですよね?レーヴェ大尉?」
名指しで、聞かれたレーヴェはそうだ、と答える。
「おかげで、一年戦争時も、その後も被害が最小限で済んでいる」
「日本は、戦略的に、地理上も資源上もうまみがあまりないから、ほっと置かれたという事情も
あるって、先生が言ってました」
「でも、そんなことないはずなんですよね。日本は、今でもコローニーや宇宙船の基幹部分の
部品を作っているわけだし。」
「だからこそだよ、ミコト。基幹部分を作っている日本の工場が破壊されてしまったら、双方とも
戦争を続けられないだろう?生活ができなくなるんだから」
「生活ができないと、戦争もできないか」
「戦争の延長線上に生活があるんじゃない。生活の上に戦争が乗かってくるのさ。すごい重圧でね」
まだまだ、続きそうな一年戦争における日本の立場論争をオリビエがさえぎった。
「君らの議論は、聞いてて面白いけどね。そろそろ部屋に戻ろっか。食事も終わったし、明日の支度もあることだしな」
レーヴェとオリビエを忘れて、話に夢中になっていた双子は、はっとした顔をした。
「はい。そうします」
「ごちそうさまでした」
233通常の名無しさんの3倍:2011/07/03(日) 16:12:03.83 ID:???
DNA 0061

双子を部屋に戻して、オリビエはレーヴェに視線を投げた。
これからどうする?
「明日からの、双子のスケジュールをまとめる。お前も付き合え」
「まじめだね。まあ、お付き合いしましょう」
二人はレーヴェの部屋に入った。
クルーは全員が個室を与えられ、備え付けの冷蔵庫も各部屋にある。
連邦軍では、新米兵は四人部屋、冷蔵庫も2部屋で1つなどという艦もめずらしくない。
そこは、民間組織との違いだろう。
艦内の部屋の作りはほぼ一緒だったが、
オリビエ達は士官なので通常より多少広くなっている。
オリビエは勝手に冷蔵庫を開けて、ビールを取り出す。
液体が飛び出さないよう慎重にふたを開けた。艦全体に、重力がかかっているとはいえ、
微力だ。液体がぶちまかれた時には、えらい騒ぎになるのだった。
レーヴェの分はとらない。彼が仕事を終わらすまでは、アルコールを口にしない主義だと
いうことを知っているからだ。
「昨日のうちに組んだ、双子と我々のスケジュールだ」
PCの画面に、細かに組まれたスケジュール表が浮かんだ。
レーヴェの肩越しにデイスプレイをのぞく。
「午前中は、二人の勉強時間に当てて、午後からモビルスーツ訓練を一日おきにやらせるか、
基本的にはいいんじゃない。俺たちも、通常の任務があるわけだし」
「モビルスーツ訓練のないときには、医療チームで看護の基本、整備チームでモビルスーツ
の手入れを学んでもらう」
234通常の名無しさんの3倍:2011/07/03(日) 16:17:07.35 ID:???
前、0051だった 申し訳ない。

DNA 0052

「だがさ、モビルスーツの訓練を90分続けて、ってのは少し問題じゃない?」
「我々の訓練が、2時間から3時間。それよりだいぶ短くしたつもりだが」
「相手は、12歳、いや、まだ11歳か。そんなに集中力が続かないと思ったほうがいい。
45分を2回、途中で15分程度の休憩を挟んでというほうが、効率がいいと思うぞ」
「そうだな。ここは変更しておこう」
「Dr.サキとアシェンバッハ少佐への連絡は?」
「もう、済んでいる」
「さすがだね。仕事が速い。それから、一つ相談なんだが」
レーヴェが、PCを操作する手を止めずに聞いてきた。
「何だ?」
「明日の訓練は、補助席に俺たちが座って、まず俺たちが、二人のレベルを確かめる
ことにしない?」
「イリーナとミズ・アティアの話だと綱つきなら、一人で乗せても問題ないと思うが」
「綱が必要か必要じゃないかを、判断するためさ。期間はあと40日あまりだろ。
それだと20日ぐらいしか、二人に訓練をほどこしてやれないし、万一襲撃が
あったら、訓練どころじゃなくなるからな」
「わかった。合理的だな。アシェンバッハ少佐に補助席をつけてもらうよう話しておこう」
「実は、もう頼んであるんだ」
「お前」
「事後承諾で、悪いな。」
オリビエが言うと、レーヴェは微苦笑をもらした。
「なら、私もビールを飲むかな」
オリビエはレーヴェのために、ビールを取り出してやった。
「我々の小さな生徒たちの成長と」
「航海の無事を祈って」
二人は、軽くビールを掲げた。
235通常の名無しさんの3倍:2011/07/03(日) 16:23:49.77 ID:???
DNA 0053

「おはようございます」
朝になったら双子を起こそう思っていたオリビエは、その双子の声に起こされた。
「早いな」
双子を部屋に向かいいれながら、彼は言った。
双子は、興味深そうにあたりを見まわしていた。
「レーヴェのところには行ったのか?」
「レーヴェ大尉は自分できちんと起きてこられると思ったので」
「まず、オリビエ大尉のところに来たんです」
この評価のちがいはなんだろうと、オリビエは、丸眼鏡の位置を直しながら思った。
「あと、なんとなくレーヴェ大尉は部屋の中には入れてくれなさそうな感じがして」
「オリビエ大尉は気さくな方だから」
子犬のような、4つの瞳がオリビエを見上げていた。
自分のほうが親しみやすいということか、レーヴェは無愛想だからなと納得する。
「ちょっと、ソファにかけて待ってろ。着替えるから。それからレーヴェに声をかけて
朝食をとろう」
「「はい」」
と元気のいい声が部屋に響いた。

食堂には、すでにけっこうな人数のクルーがいた。双子が通り過ぎるクルーたちに
「おはようございます」と挨拶をしていく。
「レーヴェ大尉、ここ空いてますよ」
レーヴェ隊のクロムが声をかけてきた。4人はありがたく、そこに腰を下ろした。
「ミコト君とタケル君だよね。レーヴェ大尉の部下で、モビルスーツパイロットの
クロム・バーレン、よろしくな」
「おなじく、ウェル・アーネット、よろしく」
差し出された手を握り返しながら、双子は「よろしくお願いします」と言った。
236通常の名無しさんの3倍:2011/07/03(日) 16:28:05.92 ID:???
DNA 0054

「で、あっちにいるのが、オリビエ大尉んとこの、マシューとロドリゴ」
名前を呼ばれたのを聞いたのか、一つ向こうから二人が手を振ってきた。
双子は、ペコリとお辞儀を返した。
「あと、【ケイローン】には、2つのモビルスーツ隊がいてね、アーサー・クロード大尉
とセルゲイ・ミハイロフ大尉は、今、巡回中だから、後で紹介するよ」
とウェルが言った。
「アーサー大尉とは、ちょっとだけお話しました」
「じゃ、うちのモビルスーツチームの隊長で、顔を知らないのは、セルゲイ大尉だけか」
「はい」
好奇心旺盛なクロムとウェルは双子に次々と質問をしていく。
「昨夜はよく眠れた?」
から始まり、
「ここの料理、どう思う?」
まで。
双子はひとつひとつ丁寧に答えていく。
そんなにぎやかな食事が終わり、レーヴェは二人に言った。
「これから、ライブラリに案内する。ミコト君とタケル君は通信学校の課題があるのだろう?
そこで、自習してもらうことになる」
「わかりました」
「じゃあ、俺がライブラリまで案内しますよ」
とクロムが申し出た。
「そうか、助かる」
レーヴェが立ち上がりながら言った。
「んじゃ、お兄さんと一緒に行こうか」
クロムが双子の肩に手を置いていう。
「はい」と双子は人なつこい笑顔で答え、クロムと共に食器を片付け、食堂を出て行く。
237通常の名無しさんの3倍:2011/07/03(日) 16:31:57.39 ID:???
DNA 0055

残った三人は、自分のモビルスーツ整備のため、モビルスーツデッキへと向かった。
マシューとロドリゴも合流した。
「君たちは子供の扱いに慣れているな。特にクロムは」
レーヴェが言うと、ウェルが答えた。
「奴は、大家族で育ってますからね。一つのフラットに親兄弟と従兄弟の家族を入れて
総勢、15人で育ったとか」
「それはすごいな」
「コロニーが一時期、激減しましたから。親戚同士寄り添って、生きてかなきゃ
ならなかったって言ってましたよ。それに、自分も弟と妹がいますし」
「俺んちは、兄貴と姉貴」
とマシューが言った。
「自分は、真ん中で、姉と妹と弟がおります」
とロベルトも言う。
「大尉たちはご兄弟はいないんですか?」
とマシューが尋ねた。
238通常の名無しさんの3倍:2011/07/03(日) 16:46:44.34 ID:???
DNA 0056

オリビエは少し諮詢してから答える。
「いる。いや、いたってのが正しいかな」
「・・・お亡くなりに」
一瞬、場が暗くなったが、オリビエはいやいやと手を振った。
「違うさ。俺って、放蕩息子だったから、愛想つかされて、絶縁状態」
「なるほど」
「そこで、深くうなづくなっての」
「レーヴェ大尉は?」
ロドリゴがちらりとレーヴェの方を見た。普段だったら、自分のことは
語りたがらない男が珍しく言う。
「私も、オリビエと同じに、早くに両親を亡くしてからは、家族というもに縁がない」
「まあ、天蓋孤独っていえば淋しいが、独立独歩って考えれば、けっこう平気なものさ。
気楽だしね」
「そうだな」
オリビエの台詞にレーヴェが相槌を打った。
「舅も姑もいないから、結婚相手としては好条件だと思うんだけどな、
なぜか、いまだに嫁さんも、もらえん」
と、オリビエがいうと
「えっ、結婚する気でいたんですか?」
とマシューがおおげさなリアクションを返した。
「馬には乗ってみよ、人には添ってみよっていうだろ?」
なあ、とオリビエはレーヴェに水を向けた。
「まあな。私もオリビエも独身主義ではないな。もっとも、この男所帯だ。出会いも少ない」
三人の部下に、(艦内、いや【ブルークロス】で一、二を争うモテ男に言われても・・・)
という表情が浮かんだ。
だが、一番大人な、ロドリゴが
「そうですよね」と相槌を打って、話を仕舞いにした。
239通常の名無しさんの3倍:2011/07/03(日) 17:01:00.85 ID:???
DNA 0057

「さて、お手並み拝見」
少しおどけた口調で、オリビエはタケルに向けて言ってやる。
アシモフに同乗したタケルが、コクピットで少し緊張しているからだった。
あちらは、大丈夫かなとオリビエはレーヴェ組を心配した。
上手く、ミコトをリードしていればいいが。
「OS立ち上げます。・・・システム、オールグリーン。いつでも動かせます」
「OK。じゃあ、まず、カタパルト用ハッチまで、移動してみてくれ」
「了解しました」
タケルは危なげなくアシモフを動かし始めた。ミコト達の機体も動きだす。
ハッチが開いた。タケルはためらいなく、外へと出る。
「タケル、用意はいいか?」
管制がタケルに声をかけてきた。
「OKです」
「進路、オールクリア、射出まで、あと20秒」
カウントダウンが始まった。
「タケル・セラマチ。アシモフ、行きます」
数秒後には、宇宙空間へと飛び出した。
「なかなか、いいぞ」
「そうですか」
オリビエに答える声はまだ固かった。無理もない。
「少し、加速して、進路を2時の方向にしてみようか」
射出時の慣性の法則で、進んでいるが、次に出るミコトとレーヴェのために
進路を空けておかなくてはならない。
「了解しました」
機体に、Gがかかった。ここまでは順調だ。
進路を空け、ホバリングをして、ミコト達を待った。
ほどなく、ミコト達の乗るアシモフが追いついてきた。
打ち合わせどおり、平行して艦の周りを一周する。
「タケル君、ミコト君のアシモフと手を繋げるか?」
「やってみます」
240通常の名無しさんの3倍:2011/07/03(日) 17:11:26.64 ID:???
DNA 0058

機械の腕が、ミコト達のモビルスーツに差し伸べられた。
相手も同じようにしている。
繋がった。
次にも一方の手も繋がせて、向かい合わせにさせた。
「ミコト」   「タケル」
接触回線で、お互いに名前を呼ぶ双子の声がコクピット内に響く。
「これからどうする?」とレーヴェが聞いてきた。
「ダンスでも踊らせるか?」
双子はくすくすと笑った。
いいことだ。笑いは緊張を解きほぐす。
「ワルツは、無理でも、もっと簡単な踊りならやれそうだよな。やってみるか?」
「ダンスは、よくわかりませんけど」
「ラジオ体操なら分かります」
「ラジオ体操?」
レーヴェのいぶかしげな声が伝わってきた。
「何?それ」
オリビエはミコトに尋ねた。
「日本で、A.D.の20世紀に作られた体操です」
「朝、6時30分に集まって、みんなで体操するんです」
「おもしろそうだな。やってみて」
「オリビエ」
「どれくらい自由にモビルスーツを動かせるか、てっとりばやくわかるだろ」
レーヴェの制止を封じこめる。
「音がないと少し物足りないんですけどね」
「自分たちで、口ずさめばいいんじゃない?ミコト」
「そうか。じゃ、いちにのさんで始めよう」
「うん」
双子は二人で打ち合わせて、動きだした。
「まずは、手首の運動から」
耳なれない曲を楽しげに口ずさむ子供の声が、コクピットに流れ始めた。

「不思議の国、日本」
一連の動作を終えて、再び手を繋ぐと、レーヴェの声が聞こえた。
オリビエもまったく同感だった。
241通常の名無しさんの3倍:2011/07/04(月) 21:50:45.46 ID:???
DNA 0059

モビルスーツから降りると、デッキにいたみんなが一斉に拍手をした。
「なかなかよかったぞ」
「やるじゃないか」
「だが、あの動きは何だったんだ?」
などと言われて、双子は次々に肩をたたかれる。
「日本のラジオ体操だよな」
パトロールから帰っていたセルゲイが、双子のかわりに答えを言った。
双子は、一様にセルゲイを見上げた。
「私も、日本にはいささか関わりがあってな。自己紹介が遅れた。
セルゲイ・ミハイロフ大尉だ。以前の言葉でいえば、ロシア系日本人と
いうところだな」
「妹のタチアナよ。よろしくね」
「僕は、アショーカ・ミトーバです。こんにちは」
「セルゲイ、あの体操のこと知ってたの?」
オリビエは問いかけた。セルゲイ兄妹のこげ茶の髪と瞳は言われてみれば
東洋の血を感じさせるものだった。
「まあな。小学校は日系だったから。夏休みになると校庭に集まって
クラスの奴と体操したもんだよ」
身長、190センチを超えるセルゲイである。精悍な容貌の今の姿からは、小学生の
ましてや、あの体操をしているところなど、想像もつかない。
「ということは、タチアナさんもあの体操をしてたんですか?」
ウェルがタチアナに言った。
「最初の3年だけね。その後、コロニーを移ったから」
妹のタチアナの子供姿は容易に想像できた。さぞやかわいい少女だったろう。
クロムとマシューが双子に声をかけていた。
どうやら、あの不思議な体操を教えてくれと言っているらしい。
クロムは21、マシューは19、隊の中でもとびぬけて若い二人には、
後輩ができたようで、うれしいのだろう。
242通常の名無しさんの3倍:2011/07/04(月) 21:52:56.20 ID:???
DNA  0060

その様子を見ていたレーヴェが言った。
「クロム、マシュー、二人でミコト君とタケル君にモビルスーツの整備の仕方を教えてやってくれ」
「イエス、サー」
名指しされた二人はレーヴェに向き直って答えた。
「では、自分たちは何をすればよろしいですか?」
ロドリゴがオリビエに尋ねた。
「ビリディアンに乗って、【ニルヴァーナ】のパトロールだな」
「え、ビリディアンに乗れるんですか?」
ウェルがうれしげな声をだした。クロムとマシューが少し残念そうな顔をする。
「明日は、お前たちにも乗ってもらうさ。あと、アーサーとセルゲイのパイロットチームは
もちろん、整備チームにも。なレーヴェ?」
「ああ、その予定だ」
隊長たちには、セイエン副長を通して話が行っているはずだが、隊員たちにはまだだったらしい。
一斉に顔を輝かせた。
「じゃあ、あとは任せたぞ。」
オリビエとレーヴェはその場を離れて、艦長室へと向かった。
243通常の名無しさんの3倍:2011/07/04(月) 21:58:42.91 ID:???
DNA 0061

ずらりと、戦艦やらモビルスーツの模型が並ぶ艦長の机と書棚。
相変わらず、濃い空間である。
透明な壁の向こうに見えるシンプル・イズ・ベストな副長の部屋とは似ても似つかない。
「訓練は見せてもらった」
オルシーオ艦長が話を切り出した。
「思った以上に、双子たちのレベルは高かったな」
「ええ、ですが、やはり緊張していたのでしょう。ミコトはいつもより饒舌になっていました」
「タケルは緊張していたが、そんな風にはならなかったぞ」
「レーヴェが一緒だったから、興奮していたんじゃないのか。どちらかといえば、
ミコトのほうが赤い彗星の強烈なファンのようだし」
とオルシーオ。
「性格の違いでしょう。ミコトは行動的、タケルはやや内向的のようですから」
「ラジオ体操とかいうのをやっていたときには、二人とも生き生きしてましたよ」
オリビエは笑いながら言った。
「あれには、かなり驚いた。なあ、セイエン?」
オルシーオ艦長は黙っているセイエン副長に話を振った。
「そうですね。宇宙空間で、あの動きを見ることになるとは、私も想像がつきませんでした」
「日系の学校で習う体操らしいですよ」
と言って、オリビエははっと気づいた。
「セイエン副長もご存知だったんですか?」
レーヴェも気がついたらしく、セイエン副長に尋ねた。
「セイエン副長も日系なのですか。」
「いや、厳密にはチャイナですよ。ただ、祖先は、日本のチャイナタウンにいたらしいのでね」
「副長の身の上話ってはじめてききましたよ」
「話して聞かせるほどの話もないですから。それより、ミコト君とタケル君には、
パイロット適性はありそうですか?」
セイエン副長が核心にふれてきた。
244通常の名無しさんの3倍:2011/07/04(月) 22:10:19.53 ID:???
DNA 0062

「まあ。かなり」
「適性はあると見受けられます」
パイロット適性、ちまたではニュータイプ適性とも呼ばれている資質である。
ニュータイプといえば、宇宙生活に適応するため、認識能力が拡大した人間ということだが、
一般では、ニュータイプ=アムロ・レイなどを代表する、モビルスーツの操縦能力に
特化したパイロットという意味に使われているのが現状だ。
【ブルークロス】では、パイロット適性、もしくはニュータイプ適性と言えば、おおよその意味で、
サイコミュ搭載のモビルスーツに乗ることのできる能力と定義されている。
【ブルークロス】のモビルスーツパイロットは、能力の差異はあれど、サイコミュを搭載した
機体に乗ることができる者たちばかりで形成されている。
なかでも、セイエン副長とレーヴェが、NT能力の高さでは、特出していた。
セイエン副長のファンネルでの戦闘は、流麗そのもの。【ブルークロス】では、セイエン派
などといわれるシンパがいるらしい。
レーヴェはファンネルこそ使用しないが、なにせ、【ブルークロス】の赤い彗星の二つ名を
持つ男である。サイコフレームを多様した機体を駆り、スピード感あふれる操縦で、これまた
ファンが大勢いるという。
オリビエ自身はサイコミュに頼る戦闘を好まないため、申し訳程度しか、サイコフレームを
使用していなかった。
「アティアは、二人のNT能力については、何も話していなかったな。セイエン?」
「彼女はNT能力を特別視するのを、好んでいませんからね」
オルシーオ艦長は、セイエン副長の言葉に少しの間、考えていた。
「俺としては、最終的には、サイコミュ搭載機に乗せてみたいと考えているんだが、どうだろう?
レーヴェ、オリビエ」
「反対です」
「賛成です」
正反対の答えが問われた二人からでた。
「サイコミュは思念波を使って、自分の体の質量の何倍ものモビルスーツを動かすものです。
まだ、体も出来上がっていない少年にその負荷をかけるのはいかがなものでしょう」
レーヴェが言葉を続けた。
「それに、ここには、NT(エヌティー)マスターがいません」
245通常の名無しさんの3倍:2011/07/04(月) 22:12:53.68 ID:???
DNA 0063

NTマスター、それは【ブルークロス】での階級の一つであり、思念波を、効率よく発露させる
ために、特定の資質およびメソッドを持った人物のことである。
【ブルークロス】では、NTマスターとの精神的交流をもって、NT能力を開花させるという
独自のメソッドを実践しており、それは門外不出とされていた。
作られたニュータイプといわれる強化人間の精神を安定させるための「主人」としての
マスターではなく、導き手というほうが近いだろう。
現在、NTマスターは4人いるが、すべて本部にいる。
「レーヴェかセイエン副長がマスター役を行えばいいじゃないですか」
オリビエは提案した。
「そうか、二人は、マスター研修を受けていたな。」
セイエン副長とレーヴェは、将来のNTマスターとなる資質があるとされ、何度か
特別研修を受けていた。
名指しされたレーヴェと副長は互いを見合っていた。
「ですが、我々はマスターとして正式に認定されているわけではありません」
セイエン副長が言うと、レーヴェも疑念を示した。
「外部の人間に勝手にメソッドをほどこすなど問題にはなりませんか?上層部とも保護者とも」
「アティアは、強くは反対せんだろう。【ブルークロス】のやり方を十分承知して、我々に
預けているんだから」
一応、確認は取ってみるがな、とオルシーオ艦長は言った。
「問題は、組織のおえら方のほうだが」
「そんなに深刻に考えることもないでしょ。資質は十分だし、機械に意識を差し伸べる
最初の手助けをしてやればいいだけですよ」
「ミコト君とタケル君は、実働レベルの一歩手前にいるということですか?」
セイエン副長がオリビエに聞いた。
246通常の名無しさんの3倍:2011/07/04(月) 22:15:22.26 ID:???
DNA 0064

「ミコト君はわかりませんが、少なくともタケル君の方は。俺はそう感じました」
「お前がそう言うならな」
オリビエは、能動的NT能力は、セイエン副長・レーヴェに劣るが、受動的能力は、
二人と並ぶかやや上と目されていた。
戦闘でもその能力を発揮して、敵の攻撃を避けるのを得意としている。
そのおかげで「逃げのオリビエ」などという、あまりありがたくない二つ名もいただいている。
「遊びで乗せているうちに、サイコミュが発動レベルまで、能力開花しちゃったので、本人
たちのために、メソッドほどこしまた、ってことでいいじゃないんですか?」
「まあな、すべてに杓子定規にすることもないか」
少しは、定規を使ってくれというような目でセイエン副長がオルシーオ艦長を見たが、
オルシーオ艦長は意に介さないようだった。
「いつから、サイコミュ搭載機に乗せれるかな」
「あと、3回ほどアシモフに乗せて、それから、ビリディアンに4、5回乗せてやれば、
いけるんじゃないですか?」
「なら、その間に、セイエン達に第一レベルのメソッドを受けさせて」
「ああ、サイコミュ機に乗せるときは、今日のように補助席をつけて一緒に
乗ってやったほうがいいと思いますよ」
沈黙している二人を尻目に、オリビエとオルシーオ艦長は話を進めて行った。
「じゃあ、そういうことで、よろしくな。セイエン、レーヴェ」
そして、オルシーオ艦長は、最後まで口をはさませず、セイエン副長とレーヴェに
マスター役を承知させた。

「スケジュールを組み直さねばならんな」
艦長室をでるとレーヴェがやや恨みがましく言った。
「臨機応変ってことでよろしくな」
オリビエの答えを聞いて、レーヴェは軽いため息をついた。
247通常の名無しさんの3倍:2011/07/05(火) 23:01:54.26 ID:???
DNA 0065

「さて、」
とセイエン副長が双子を前にして言った。
ライブラリの隅にあるテーブル席に腰掛けているのは、双子とセイエン副長の3人である。
レーヴェは、やや離れてオリビエと一緒の席に座っていた。
本来なら、事前のレクチャーは、セイエン副長一人でもいいはずなのだが、
「お前ら教育係だろ」
というオルシーオの言葉で、2人も同席することになったのだ。
「ニュータイプという言葉は二人も知っていますよね」
双子がそろってうなづいた。
「ジオン・ダイクンが、人は宇宙において革新するって言って、その革新した人類がニュータイプっ
てことですよね」
ミコトが言った。
「そうです。ただ、今回、我々が教えるメソッドは、残念ながら、人類すべてを革新すると
いうものではありません。NT能力の開花を目的にしているものです。」
「NT能力とニュータイプって違うものなんですか?」
今度はタケルが聞いてきた。
「【ブルークロス】では、そう定義しています。」
「【ブルークロス】では?」
「ニュータイプという言葉が出て以来、人はさまざまにその現れ方、あり方を
論議してきました。しかし、現状では明確な答えはでていません。ただ、モビルスーツ
を駆って戦場に立つパイロットの中には、通常では考えられない働きをする人達が
でてきましたよね。
それは、人類の新たな進化の萌芽かとも思われましたが、
残念ながら、戦場以外での顕著な能力を示したものはいません」
「ですので、【ブルークロス】にNT論を導入しようとしたときに、以前から組織内で
行われていた、肉体の鍛錬と精神修養の論理で説明、定義づけられたんです」
「肉体の鍛錬と」
「精神修養」
ミコトとタケルが言うと、セイエンはにこりと笑った。
「日本人の血を引くあなた達なら、わかりやすいのではありませんか?”道”という考えを」
「”道”ですか。剣道とか柔道とかの?」
「ええ、アティアから聞きました。二人は、剣道をたしなんでいるそうですね。」
「ほんの少しです。」
248通常の名無しさんの3倍:2011/07/05(火) 23:17:31.69 ID:???
DNA 0066

「”道”とつく、武芸一般は戦うことを知って、体を鍛錬し、それにより人格をも完成させるという
考えで行われています。西洋のスポーツとは少々赴きが異なることに、【ブルークロス】
は着目しました。」
12歳に満たない子供たちには難しい概念ではないだろうか?レーヴェは危惧を抱く。
「禅を大元の一つにしている武道の精神を受け、【ブルークロス】での訓練は設立当初から、
”道”を究めるという目的をもって、行われていたのですよ」
しかし、双子は真剣にセイエン副長の言葉を聴いていた。
「禅とは、言葉にならない教えを伝え、読み解くこと。物事や人を誤解なく認知しうる能力というNT能力とよく似ているでしょう?」
「はい」
「そして、禅修業で、自己を内観するときと、武道で試合に臨むときの感覚は似ているのではないかと【ブルークロス】は考え、実際に、脳波を調べてみると似たような波形が検出できたのです」
「そうなんですか?」
「ニュータイプという概念が出てきたとき、その能力は戦場で大きく現れることを
知った我々は、NT能力とは、今お話した試合における脳波が、戦場で生き残るために、
より強力で特殊なサイコウェーブとなったのだと結論づけをしました。
とくに、無限に広がり、音も光もなき、宇宙での戦闘では、より強くなるのだろうと」
そして、とセイエン副長は言葉を切った。
「サイコミュとサイコフレームへのサイコウェーブの伝わり方を研究する過程で、一定の脳波を
もつ人間が、他の人間のNT能力の強化を促すことに気づいたのです。それが、NTマスターと呼
ばれる人達です。また、効率よく能力強化をするために、いままで行ってきた武道鍛錬を
組み込んだメソッドを作りあげました」
「すごい」
「でも、なんで、それをみんなに教えてあげないんですか?」
タケルが疑問を放った。
「戦争に、利用されないためにですよ。【ブルークロス】は救命救助のため作られたのです。
その力と知恵が、命を救うことに使われず、命を殺すことに使われるのは掲げる
主義主張に反しますからね」
双子は、納得したというように大きくうなずいた。
「そうそう、このメソッドには、名前があります」
「どんな名前ですか?」
「【スカイウォーカー・プロセス】といいます」
249通常の名無しさんの3倍:2011/07/06(水) 23:57:39.46 ID:???
DNA 0067

「貴方たちの保護者であるアティアから、本格的な指導は、自分にきちんと説明
してからにしてほしいと言われてます。ですから、今日は純粋に、体の鍛錬のために、
この武道の型を教えます。」
ライブラリで最初のレクチャーをした翌日、セイエンと双子、そしてレーヴェとオリビエ
はジムにいた。
無重力で、筋力が衰えないためのジム器具スペースとは別に、
バスケットができるくらいのスペースが設けてある。
難破船の救助などの緊急時には、避難者がここで一時的に寝起きしたりもする。
ひとしきり、レーヴェとオリビエが双子に基本の型を教える。
双子はそのほとんどを一度で覚えた。というより、初めから型を知っている動きだった。
「どうやら、ミコト君とタケル君はこの武道を知っているようですね」
セイエン副長が双子の動きを見て言った。
「はい。イリーナが」
「3回くらい、教えてくれていたのと同じです」
「では、今、教えた型を私が通しで試演をしますから、よく見ていてくださいね」
セイエン副長は、一礼をして、動きだした。
いくつかの型を順番に流すそれは、武術というより、舞に似ていた。
副長の手足が、空気を切り裂くたびに、両手につけられたリングが淡く発光する。
サイコリングと名づけられたそれは、サイコフレームの技術を応用し、NT能力が発動させる
脳波を感じて、光るよう設計されていた。
若草色の光が、セイエン副長の動きの軌跡を形作っていく。
試演が終わるとミコトとタケルはいわずもがな、レーヴェとオリビエも拍手をしていた。
レーヴェ達もこの型の動きは熟知していたし、上手いとも人から言われるが、セイエン副長の
流麗な動きは、芸術的といってさしつかえない。
「きれいでした」
「すごいです」
ミコトとタケルの賞賛の声に「ありがとう」と答え、副長は双子に、今見せた一連の動きを
自分たちでやってみせるよう指示をした。
双子たちは、ややぎこちなく、型を演じ始めた。
250通常の名無しさんの3倍:2011/07/07(木) 00:09:05.58 ID:???
DNA 0068

「保護者である自分への説明と双子たちの意思を直接確認したい。それまでは
【スカイウォーカー・プロセス】を本格的に指導するのを待ってほしい」
との連絡があった6日後、レーヴェは、アティアを【ニルヴァーナ】まで迎えに行くことになった。
「女王さま扱いだな」
レーヴェはクロムに言った。
「大切なクライアントですからね。調整中で、使用できるモビルスーツがないってことですし」
「イリーナさんも一緒なんですよね」
ウェルが、どことなくうれしげな口調で言った。アティアもイリーナもかなりの美人だからだろう。
しかも、アティアは子持ちではあるが、人妻ではない。
古参のクルーは、元仲間である二人にもともと好意的だったが、
双子が孤児だった自分達の身の上を屈託なく話すうえ、双子の礼儀正しさや素直さが、
好感を呼び、双子を養育しているアティアとイリーナの評判は、面識のない
クルーのうちでもすこぶるよかった。
【ニルヴァーナ】に近づくと、外甲板にノーマルスーツを着た二人の姿があった。
レーヴェは、右のマニピュレーターを差し出した。アティアがその手のひらに乗った。
「お迎えありがとうございます」
アティアはコーラルペネロペーに付けられた補助席に体を納めた。
「いえ、任務ですから、お気になさらず」
レーヴェはいささか儀礼的な口調で言った。
「ミコトとタケルがほんとにお世話になってます。レーヴェ大尉もオリビエ大尉も
すごく優しくしてくれると、うれしそうな通信がきました。淋しくならないようほとんど
一緒に食事を取ってくださっているのですって?」
「私たちだけではありません」
双子と食事では、クロムやウェル、マシュー、ロドリゴも混じることがあるし、
他のクルーやオルシーオ艦長、セイエン副長、時にはDr.サキも一緒になったりもしていた。
双子の周りはいつもにぎやかだった。
「いや、父親役わりの経験もいいと思っています」
これは、社交辞令ではなかった。自分で考えていたより、双子との交流を
楽しんでいた。
オリビエのように気楽に屈託なくとまではいかない性分ではあるが。
251通常の名無しさんの3倍:2011/07/07(木) 00:23:12.40 ID:???
DNA 0069

「父親代わりなんて、そんなお年ではないでしょう?」
「ミズアティアもお若いのに、母親をやっておられるのですから」
おあいこですよと言外に言った。
「母親・・・オリビエ大尉には、大丈夫です、なんて強がりを言ってしまったんですけれど、
やはり、母親としては、気がかりにはなりますね」
「それは当然のことでしょう」
「離れて暮らすことは、いままでもありましたし、【ケイローン】の雰囲気、自由闊達な空気はよくわかっていますから、そこは心配ではなかったんですけど」
「では、なにをご心配だと?」
「ミコトとタケル自身です。あの二人、仲がよすぎますでしょう」
「相手と自分を同一視したがる?」
「ご明察です」
彼女は苦笑いをもらした。
レーヴェも、気になっていたことだった。
二人は時々、我彼の区別がなくなる傾向がある。
そっくりな二人が交互に話す姿は愛らしいが、お互いを同一視している表れの一つだ。
レーヴェは言葉を続けた。
「モビルスーツに乗れば、二人は切れはなされ、否応なく個別に対応していかなくては
ならない。まして、両者で対戦となれば、相手を明確に意識するようになる。優しく言えば
ライバルとして、厳しくいえば、敵としてですか」
「かなり強引な方法ですけどね。モビルスーツに乗れば、相手の顔も見えませんし。
ただ、サイコミュ搭載機に乗るとなると」
アティアが少し首をかしげた。
だから、彼女は、待ったをかけたのだ。
NT能力の開花が、分かれようとしていたミコトとタケルの意識を、
反対に強く結びつけるのを恐れて。
レーヴェは彼女の心の震えを感じた。双子を思う気持ちが伝わってくる。
「そんなにご心配なさることはないと思いますよ」
レーヴェは優しく言った。
「だと、いいのですが」
252通常の名無しさんの3倍:2011/07/07(木) 23:36:26.01 ID:???
DNA 0070

【ケイローン】のモビルスーツデッキに降りると、双子を従えオリビエが待っていた。
おかえり、というようにオリビエと双子が手を振ってきたので、レーヴェは軽くうなづいた。
先に降りていた、クロムとウェル、そしてイリーナがこちらを見ていた。
アティアは、双子の頬に軽くキスをした。双子の笑顔がより一層、うれしそうになった。
「では、オルシーオ艦長のところへ行きましょうか」
レーヴェが言うと、オリビエがマシューを呼んで、双子を頼んだ。
双子たちは、僕らも一緒にと抗議してきた。
「大人には、大人だけで話合わなきゃいけないこともあるのさ」
オリビエが二人の抗議を却下した。
「ミコト、タケル。私は、オルシーオ艦長達と話すためにきたの。分かっているでしょ?」
アティアが諭し、
「後で、二人との時間もとる」
とイリーナも言った。
「はい」
「わかりました」
と双子は、マシューと共にモビルスーツの整備のためにモビルスーツハンガーへと向かう。
「大人しく待ってろよ」
とオリビエが声をかけた。双子が振り向き
「「僕たち、大人じゃないですからー」」
という元気な声が返ってきた。
やれやれとオリビエは肩をすくめ、レーヴェも苦笑した。イリーナが軽いため息をつくと
アティアは少し困ったように笑った。
253通常の名無しさんの3倍:2011/07/08(金) 23:46:44.41 ID:???
DNA 0071

艦長室に付随しているブリーフィングルームで、双子をサイコミュ搭載機に乗せるかどうか
話し合うことになった。
オルシーオ艦長の趣味はここまで、侵食していない。セイエン副長が死守しているからだ。
「まずは、こちらを見てください」
レーヴェは機器を操作して、双子が、武道の型を習っている風景をディスプレイに写した。
「セイエン副長がマスター役を?」
どうやら、アティアはそのことは知らなかったらしい。
双子は、【スカイウォーカー・プロセス】については、【ケイローン】のクルー以外には、
言うなという教えを忠実に守っていたようだ。
「ええ、私が引き受けました」
セイエン副長とアティアの視線が絡み合った。
「そうですか」
アティアが先に視線をはずした。
「事前の適性検査はしてみましたよ。NT能力の潜在的資質はレベルAということです。」
「青竜の型を教えていたんだ、いずれサイコミュ搭載機には
乗せるつもりだったんだろう?」
オルシーオ艦長が言う。
「ええ、そのつもりはありました。でも」
アティアは、レーヴェにもらした不安を一同に打ち明けた。
話を聞いて、オルシーオ艦長が耳の後ろを人差し指で掻いた。どうするべきか迷っているときの
艦長の癖だった。
「最初は、俺もその点について、いささか疑念を感じていたんですけどね」
オリビエが言った
「でも、今は心配してませんよ」
「なぜです?」
「戦闘における攻守のバランスがあきらかに違いますからね。」
セイエン副長が説明を始めた。
254通常の名無しさんの3倍:2011/07/10(日) 00:16:48.45 ID:???
DNA 0072

「ミコトはどちらかといえば、アタッカー気質ですね。攻撃を最大の防御と考えるタイプと
言っていいでしょう。反対にタケルはディファンダータイプです。相手の攻撃をかわして
カウンターで攻撃をしかける方法を好んでとっているようです。今、二人は、お互いの違いを
意識しあっていますよ。アティア、君の考え通りに」
セイエン副長は、かすかに微笑んで提案した
「百聞は一見にしかずです。数日、【ケイローン】にいて、二人を観察したらどうですか?」
「そりゃあ、いい。双子もアティアと久しぶりに会って、はい、さよならじゃ、寂しいだろう」
「まだ、十日ですけど」
「子供にとっての十日は長いぞ」
アティアは隣にいるイリーナを見上げた。イリーナが賛意を示してうなづいた。
「分かりました。オルシーオ艦長、セイエン副長。3、4日ご厄介になります」
「では、【ニルヴァーナ】には私から、その旨を伝えておきましょう」
「ええ、お願いします。セイエン副長」
話は終わったとオルシーオ艦長が立ち上がる。続いてイリーナが部屋を
出て行く。
セイエン副長がアティアをブリッジへといざなった。
レーヴェは二人の距離が心持近い気がした。
「さてと、双子のとこにいきますか。」
「ああ、二人も、アティアとイリーナがしばらくいると知ったら喜ぶだろう」
「艦のほかのみんなもな」
「お前も含めてか?」
「もちろん、美人は大歓迎。お前もだろ?」
「まあな」
255通常の名無しさんの3倍:2011/07/10(日) 11:53:23.74 ID:???
乙です!
256通常の名無しさんの3倍:2011/07/10(日) 20:36:02.46 ID:???
DNA 0072

その日の夕食は、いつにもましてにぎやかだった。
双子に加えてアティアとイリーナがいるというので、当直のアーサー隊を除いた
パイロットチームとオルシーオ艦長、セイエン副長、Dr.サキと看護チーム数名、
アシェンバッハ少佐まで加わって、食堂の一角を占領していた。
「まるで、宴会ですね」
「酒はないし、食事もいつもどおりのやつだけどな」
双子はマシュー達と今日の訓練の様子を楽しげに語っていた。近くにいる
オリビエとセイエン副長もその会話に混ざっている。
オルシーオ艦長とアシェンバッハ少佐とDr.サキは、アティアとビリディアンに使われている
新技術の話をしていた。
アシェンバッハ少佐の隣に座っていたレーヴェは、中身の濃すぎるMS談義にややついていけず、
イリーナを囲んだ、セルゲイ達とこれから向かう火星の話をしていた。
「実は、私初めてなんだ、火星」
レーヴェは反対側の隣に座っているタチアナに顔を向けた。
いつものサングラスはしていない。
「歓迎会みたいなもんなんだし、無粋でしょ」
とオリビエに取り上げられていた。
「セルゲイも初めてか」
イリーナが聞いた。
「すぐそばを通ったことはある。アステロイドベルトの索敵に行ったときに」
セルゲイは、反連邦政府組織の捜査、ネオジオンの残党狩りを行っているロンド・ベルに所属して
いた時期がある。
7、8年ほど前のマフティー動乱がきっかけで、除隊をしたという。
「いま、火星には、3つの資源採掘用のドームがあるのよね」
「メリディニア平原に1つ、タルシス高地に2つだ。以前は、6つまで増えたんだが」
とイリーナが言った。
257通常の名無しさんの3倍:2011/07/10(日) 20:39:10.44 ID:???
DNA 0073

「一年戦争で、人口が激減して、採掘する資源の需要が落ちこんで、企業が撤退したから
減ったんだ」
「入植者もそれに伴い、月や地球圏のコロニー戻ったんだったな」
レーヴェは、以前に読んだ火星の時事通信記事を思い出していた。
「月でもコロニーでも地球が見えるところが、人気だものね。月で居住するなら、フォン・ブラウン
が一番だっていうし」
「コロニーだと、地球は見えないけどな」
「そのために、展望台をわざわざ作ってあるんでしょ。告白とプロポーズの人気スポットに
もなってるのよ」
「【宇宙の中心で愛をささげる】か」
セルゲイがUC世紀の初期に爆発的に流行ったムービーのタイトルを言った。
難病に冒された少女に恋人が、地球の見える展望台で、
『宇宙の中心で愛を君にささげるよ。あの地球に誓って』
と結婚を申し込むというシーンがあるのだった。以来、展望台で愛を告白をするのが
定番になって久しい。
「火星にも、そんな場所ある?」
タチアナがイリーナに聞いた。
「あるよ。地球が見えるわけじゃないけどね。恋人たちがよく行くらしい」
イリーナも女性ということか、ロマンチックな情報に意外と詳しかった。
「イリーナも行ったことがある?」
「火星ではないな」
「じゃあ、それ以外の、月とかコローニーとかでは、展望台に行ったことあるんだ」
「それは、何度かね」
「お相手は?」
タチアナが笑いながら問いかけた。
「一番多いのは、ミコトとタケルかな。プロポーズもされたよ。大きくなったら僕たちと
結婚してくださいって。アティアと一緒に、ね」
イリーナは、隣にいるアティアに話を振った。
「そうね。確か、グラナダだったかな。二人は、もう覚えてないでしょうけど」
アティアの言葉を聞いたのか、
「今でもそう思っているよ」
「地球に誓ったからね」
と双子がすまして答えた。
テーブルについていた大人達はその台詞にどっと笑い声をあげた。
258通常の名無しさんの3倍:2011/07/10(日) 20:48:46.84 ID:???
DNA 0074

「さて、まず二人に確認しましょう。今日まで数日間、NT能力についての
レクチャーと【スカイウォーカ・プロセス】の前段階である、演武、【青流】の型を教えて
きましたが、君たちは、自らの意思をもって、NT能力の開発をしたいのかどうかを」
穏やかなセイエン副長の声。双子はためらいなく答えた。
「はい」
「したいです」
「何故、そう思ったのですか?」
「強くなりたいから」
「大切なものを守るために」
子供らしい答えだった。少年の頃は、誰しも力(パワー)が欲しいと願うものだ。
「でも、それだけでじゃないです。」
「演武をしていると、心がきれいになっていくというか。」
「落ち着いてくるんです」
「それから、もっと自分を知りたい。」
「相手をしている人のことも知りたい」
「って気持ちになって」
「心の手を伸ばしているような」
「錯覚かも知れないですけど、お互いに手を繋ぎあったときのような」
「「そんな気持ちになるんです」」
NT能力の発露がすでに双子の中で起こり始めたということだった。
その感覚をすでにつかみかけているということは、さすがにレベルAの潜在能力と
いうところか。
「アティア」
と双子が、自分らの母親たる女性を振り返った。
「「僕らは僕らのしたいこと、そしてしなければならないことをするよ。
それが、今はいない者たちへの手向けなのでしょ?」」
「アティーア」
イリーナが小さく彼女の名前を呼ぶ。ためらいと希望が交錯しているのだろう、
アティアの気持ちを希望へと傾かせるように。
「貴方たちがそれを望むのなら」
アティアが、静かに言った。
259通常の名無しさんの3倍:2011/07/10(日) 21:07:14.99 ID:???
閑話
読んでいてくれてありがとう。
前出で、「青竜」としてあった武道は「青流」が正しい。よって訂正します。

ここのところ、1stから、改めて見ている。
映像は、1stからCCAまで、とターンA
小説は、閃ハサ(ユニコーン含む)までの時代しか読んでないので、
その後とアナザーも手をだすか・・・
それにしても、やはり、1stはいいよな。胸がときめく。

閑話休題
260通常の名無しさんの3倍:2011/07/11(月) 23:25:33.14 ID:???
DNA 0075

セイエン副長は、手にしていた二組のサイコリングをミコトとタケルに渡した
「では、これをつけて、今まで習った【青流】の型をやってごらん」
双子は、すぐさま、首と両手にそれをつけて、演武をはじめた。
小さい手足を懸命に動かすさまは、何度みてもほほえましかった。
しかし、サイコリングは少しも光っていない。
動きに気をとられすぎているのだろう。
一連の動きを終えると、双子はセイエン副長に、両手を合わせて礼をした。
「動きはとてもいいですよ。上手くなりましたね」
セイエン副長が二人をほめた。
「ですが、サイコリングに意識を流すことを忘れていたでしょう?」
「はい」
「サイコミュは、我々【ブルークロス】のサイコミュ搭載機は、思考波のみで機体を
動かすようにはできていません。モビルスーツを動かすには、手と足と思考を同時に
操ることができなくてはならないんです」
「体と同時に、心でもモビルスーツを動かす・・・」
「そうです。首のリングには、思考波を増幅するチップが、両手のリングには
その思考波をキャッチするチップがそれぞれ組み込まれています。モビルスーツの
ファンネルを基にした技術を使って。リングと思考波が同調するとリングが光り、
体を動かさなくてもリングが正しい動きに導いてくれるような感覚になるはずです」
「機械に操られるってことですか」
「そうではないですよ、ミコト。まず、先に人の意思ありきです」
双子が心配するのも無理はない。初期のサイコミュ搭載機は、自らの意思を押しつぶし、
戦闘マシーン化するよう設計された機体もあったのだから。
それは、今でもひそかに行われているという噂される人工的なNT能力の付与の研究。
軍が、いや人が他人を道具としても、敵に勝ちたいという欲望ゆえに作りだされた、
強化人間という供犠。
261通常の名無しさんの3倍:2011/07/11(月) 23:29:56.73 ID:???
DNA 0076

「強化人間という存在を知るがゆえに、NT能力があったとしても、【ブルークロス】では安易に
サイコミュ搭載機には乗せません。そして、【スカイウォーカー・プロセス】はその悲劇を
繰りかえされないためにこそ、行われるのですよ」
「ブレーキの利かない車にしないためにですね」
とタケルが言った。
「よくわかっているようですね。では、これから私と対峙して型を流しましょう。まずはタケル君から」
「今まで通り、相手の動きを感じ取るようにしてください」
「リングを操りながらですか?」
「初めはとても難しいことに思えるでしょう。けれど、慣れればそうでもないですよ。
相手の呼吸に合わせるように動くのがコツです」
タケルとセイエン副長が演武をはじめた。
慣れとセイエン副長のリードが上手いおかげでもあるだろう、タケルは先ほどより滑らかな
動きになっていた
セイエン副長は、続けて二回づつ、ミコトとタケルの相手をした後、レーヴェとオリビエを呼んだ。
「少し休憩します。君たちがミコトとタケルの相手をしてください」
「俺もですか?」
オリビエが言った。
「演武の相手をするだけなら、君でも十分でしょう」
セイエン副長は早くなさいとばかりに手でおいたてた。
レーヴェとオリビエは、双子と向き合った。
「はじめ」
セイエン副長の声を合図に演武が始まる。
さすがに4度目だった。動きに迷いはない。
レーヴェとオリビエに双子の真剣さが伝わってきた。
手刀を避け、足技を返し、双子をより感じるよう意識する。
まっすぐな心根が、大人二人の精神を洗っていった。
演武が終わり、4人は最後の礼をした
「とても、よかったです。どうです?アティア、イリーナ」
満足げなセイエン副長の声が響いた。
262通常の名無しさんの3倍:2011/07/12(火) 05:53:08.40 ID:???
乙です。
実はOO見てなかったり。
小説は、閃ハサまでですねー
263通常の名無しさんの3倍:2011/07/13(水) 00:01:48.98 ID:???
DNA 0077

「オリビエ大尉って、笑いながら闘うんですね」
食堂で、オリビエとレーヴェ、双子の四人はお茶を飲んでいると、ミコトが言った。
訓練が終わって、オリビエが他のものを誘ったのだ。
セイエン副長と女性二人は、オルシーオ艦長と話すことがあると別行動だ。
「笑っていたか?」
「はい、笑ってました。」
とタケルも言う。
「ミコトとタケルが相手だったからかもな。一生懸命でかわいかったし」
かわいいと言われて、双子はムッとした顔をした。
男の子だなと、オリビエはまたかわいく思う。
「私と闘(や)っているときも、お前は時々笑うぞ」
とレーヴェ。
「そうか?自分じゃ気づかなかったが、癖なのかもね。・・・怖いか?」
オリビエはミコトとタケルに聞いてみた。
「「カッコいいです!!」」
二人が同時に、間髪いれずに答えた。レーヴェがよかったなという表情をした。
「怖いというわけではないですけど、レーヴェ大尉のプレッシャーはすごいですね」
「特にモビルスーツに乗っているときにはね」
「手加減してくれているのは分かるんですけど、檻の中のライオンみたい」
的確な表現だった。オリビエもレーヴェと対戦する時に、するどい牙を持った肉食獣の
イメージを感じていた。
「動物が好きなのか?」
レーヴェが尋ねた。
「好きです。特にライオンとか豹とかの大型肉食獣なんて、一日中見ててもあきません」
とミコトが答えた。
「僕は鳥のほうがいいな。白鳥とか鶴とかもいいけど、隼の獲物を狙って急降下するところ
なんてワクワクする」
タケルがケーキ用のフォークを上に立てて力説した。
264通常の名無しさんの3倍:2011/07/13(水) 00:14:41.89 ID:???
DNA 0078

「グラナダのアルフォンス・パークには行った?」
オリビエは地球圏でもっとも有名なテーマパークの名前をだした。そこには宇宙で最大の
動物園がある。
「行きました!!」
「あそこ、檻をできる限り、地球の住環境に似せてあるんですよね。」
「繁殖期には、肉食獣の赤ちゃんを抱かせてくれるし」
「ここのとこ、アティアと一緒に宇宙を行ったりきたりしてるから、しばらく行ってないんですけど」
「レーヴェは、アルファオンス・パークの年間パスポートを持ってるんだぞ」
オリビエはレーヴェのささやかな秘密をバラした。
不意打ちをくらったレーヴェがドリンクのカップを落としそうになった。
「オリビエ、お前」
いろいろな女の子に誘われてよく行くので、レーヴェが年間パスポートを購入しているのを
オリビエは知っていた。
固い顔してやることはしっかりやっているのが、レーヴェという男なのだ。
「いいなー僕らも年間パスポート欲しいよね」
「うん、アティアもイリーナも意外とああゆうとこ好きだしね」
双子はレーヴェの年間パスポートを本気でうらやましがっている。女の子とのデート代節約の
ためとは露ほども思っていないらしい。まだまだ幼くてかわいいとオリビエは
笑いを噛み殺しながら思った。
265通常の名無しさんの3倍:2011/07/14(木) 00:39:43.19 ID:???
DNA 0079

ミコトとタケルのビリディアンを6体のモビルスーツが取り囲んだ。
レーヴェとオリビエのパイロットチームの六人である。
2体のアシモフには、ロドリゴとウェルが乗り、アティアとイリーナを同乗させていた。
午前中に行われた【スカイウォーカー・プロセス】で、双子は7割の確率で、サイコリングを
輝かせることができた。後、数度プロセスを踏めば、サイコミュ搭載機に双子を乗せることが
できると、セイエン副長は結論づけた。
その前に、ビリディアンに乗せておこうというわけで、初の機乗となった。
【ケイローン】と別れた後も、双子はビリディアンタイプのモビルスーツに乗ると聞いたせいもある。

ミコトとタケルは出力を最大限に落とした、ビームサーベルを取り出した。
軽くサーベルを触れ合わせ模擬戦が始まる。
予想通り、ミコトが先に動いた。
一気に近寄り、相手の胴をなぎ払う。
タケルの機体は攻撃を左に避けて、出されたマニピュレーターを狙った。
ミコトが身を引いてサーベルでそれを防いだ。ビームサーベルが強くぶつかり合う。
タケルのサーベルが跳ね返されたが、果敢にタケルは相手の機体の下にもぐりこもうとした。
それを嫌って、ミコトが上方へと跳んだ。
タケルのサーベルが垂直にあがった。
ミコトが反転して背後を取る。
サーベルが振りかぶられ、タケルのモビルスーツに叩き込まれた。
サーベルはタケルのモビルスーツの肩部をかすって、光を放つ。
直撃はしていない。振りかぶった分だけ動作が遅くなり、タケルに避ける余裕を与えたのだ。
ミコトは攻勢を緩めない。
タケルは攻撃を受け、流し、相手の隙を狙っていた。
・・・だが、突然、二人の動きが停止した。
周りを取り囲んでいたモビルスーツが一斉に動きだしたからだ。
266通常の名無しさんの3倍:2011/07/14(木) 23:20:39.39 ID:???
DNA 0080

『10時の方向に、戦艦らしき熱源体あり。ニルヴァーナに向かって進んでいます』
【ケイローン】からの緊急連絡が入った。
同時に、一条の閃光が、円陣を組むモビルスーツの間を貫いた。
場の空気が、一気に戦場のものへと変わる。
続けざまに、ビームが打ち込まれた。視認すると黒い影のようなモビルスーツが
3体、虚空の中に浮かんでいた。
「ウェル、ロドリゴ、双子を連れて【ケイローン】へ戻れ」
ビリディアンをかばいつつレーヴェは指示を出した。
オリビエとクロム、そしてマシューが敵との間の壁になり、アシモフを後方へ下がらせた。
『ニルヴァーナより通信。モビルスーツ4機とモビルアーマ1機に攻撃を仕掛けられてよし
至急救援を請う』
ミノフスキー粒子がまかれ始めたのだろう。【ケイローン】からの通信は後半が聞こえづらかった。
「レディ達をお送りしたら、自分のモビルスーツに乗って戻ってこいよ」
その中で、オリビエがロドリゴ達にむけた通信が入った。
アティア達が離脱するのを確認し、レーヴェも出力を最大にして通信を行う。
「オリビエ、ここは任せる。クロムついてこい」
三対二だが、オリビエとマシューの腕なら互角以上と見て取ったレーヴェは、
最大速度で【ニルヴァーナ】へと向かった。

【ニルヴァーナ】は弾幕をはり、敵襲をかわしていた。その中でアーサー達が、5機の敵機と
戦闘をしている。
レーヴェは【ニルヴァーナ】に取り付こうとしているモビルスーツに向かって
ビームライフルの引鉄を引く。
レーヴェの放った閃光は見事に敵の左手部を捕らえた。
「何?」
通常ならば、敵機のマニピュレーターはもぎ取られるはずだった。
「対レーザー装甲を備えているのか」
レーザーを拡散させる機能を持っているモビルスーツならば、接近戦でカタをつけるしかない。
瞬時に判断し、レーヴェは【ニルヴァーナ】の砲撃を避けながら、敵に近づいた。
267通常の名無しさんの3倍:2011/07/16(土) 00:02:12.03 ID:???
DNA 0081

こちらが近づくのを察知しているだろうに、敵機はこちらを向かない。
よほど自らのモビルスーツの装甲に自信があるらしい。
この距離なら、対レーザ装甲といえど、損傷を与えられると判断した
レーヴェは再び引鉄を引いた。
敵のモビルスーツが反転して攻撃を避けた。ふりむきさまにレーヴェに向かって、レーザー
ピストルが打ち込まれた。
速い。そして正確だ。
攻撃を予測していたにも関わらず、レーヴェはギリギリのところでしかよけられなかった。
相手の意識が、【ニルヴァーナ】からレーヴェへと移ったのが分かる。
身体を押し戻されるような感覚がレーヴェを包んだ。
精神の圧力に抗い、レーヴェはライフルを、みたび撃った。
かわされた。が、それは承知の上だ。その隙にレーヴェは敵機との距離をつめた。
手足の4つの間接部に狙いをさだめ、つづけざまにライフルを発射する。
相手も同時に撃ってきた。
二発はかわされ、二発は的中した。狙った関節部ではなく、肩と腰にだったが。
しかし、レーヴェも左のマニピュレーターに着弾をしていた。
おそるべき正確さである。
敵はレーヴェのライフルを撃つ反動さえ、計算していたのだ。
「ファンネル」
レーヴェは搭載されているファンネルを繰り出した。
6つの粒子の光が敵を襲う。
光が交錯し、黒と見えていた相手のモビルスーツが、深く濃い、黒紅色であると知れる。
6条のビームが繰り出される中を敵機はくぐりぬけ、こちらへと向かってきた。
「来る」
黒紅のモビルスーツのビームアックスが、繰り出された。シールドで防いだレーヴェは、
サーベルを突き出した。互いの距離が近すぎて、ファンネルはもう使えない。
装甲の厚さは向こうが上だが、機動力ならこちらが上であった。
持ち前の敏捷さで対応しながら、攻守を交える。
しかし、アックスのパワーに押され、レーヴェのサーベルが、機械の手ごと吹き飛ばされた。
敵の殺気が高まった。
「来る」
レーヴェは身構えた。
268通常の名無しさんの3倍:2011/07/16(土) 00:12:36.79 ID:???
DNA 0082

だが、予想していた攻撃は来なかった。
ふいに相手からの圧力が遠のいた。黒紅のモビルースーツはレーヴェのコーラルペネロペー
を飛び越えて、戦線から離脱し始めた。
敵をほふったオリビエとマシューが到着し、【ケイローン】も砲撃が届く距離まで近づいていた。
レーヴェが相手をしていた黒紅のモビルスーツが威嚇射撃を放ち、【ケイローン】のモビル
スーツ隊と自分の味方の機体を引き離した。
敵のモビルスーツが次々に撤退を始めた。
【ケイローン】のモビルスーツ隊は追わなかった。
レーヴェ達の任務は【ニルヴァーナ】を護衛することで、襲撃者の殲滅ではなかったからだ。



「あれは、クローノスか」
遠ざかる敵機の後背をモニターを見ていたオルシーオが低くつぶやいた。
「やはり、といったところですか?アティア」
セイエンは後方に座っているアティアとイリーナを振り返った。
二人は、双子をモビルスーツデッキのクルーに預けて、ブリッジへと上がってきていた。
アティアが唇の端だけをあげたアルカイックスマイルでセイエンに答えた。
「敵は撤退したようですね」
イリーナが言った。
「ミノフスキー粒子が拡散したら、【ニルヴァーナ】に連絡を取りたいので
よろしくお願いします」
「それはかまわんが」
オルシーオが答えると
「ありがとうございます」
とアティアが礼を言いながら、席を降りていた。イリーナもだ。
「どこへ行くつもりですか?」
ブリッジを出て行こうとする二人にセイエンは声をかけた。
「ミコトとタケルのところに。それから【ニルヴァーナ】と連絡が取れたら、
向こうへ戻ります」
この状況の説明もしないでですか?と言いかけてセイエンは途中で止めた。
守秘義務をたてに彼女は何もいわないだろう。
ブリッジにいるのは古参のクルーばかりだ。クライアントの事情など知らなくても
任務を遂行するのが当然と思っている。
セイエン自身も常ならばそうしている。
だが・・・
269通常の名無しさんの3倍:2011/07/17(日) 00:13:45.08 ID:???
DNA 0083

セイエンはブリッジを出て行く二人の後を追った。
「アティア」
エアグリップを握り、廊下を流れていくアティアの肩をつかんだ。
浮いていた彼女の身体が、床に下りる。
「先に行っていて、イリーナ」
アティアが言うとイリーナは無言でうなづいた。イリーナの姿が廊下の向こうに消える。
「説明しろとは云わないですよね?」
アティアが少し首をかしげて言った。
「もちろんです。と普通なら答えるんですけどね」
「普通ではないと?」
「クローノスが出てきてはね、【ブルークロス】を雇ったのは、
新型のモビルスーツを守る護衛のためだけです。とは強弁できないでしょう?」
「当方としても予想外のことでした。という答えで納得してくださいます?」
「アティア・・・」
嘆息をこめた、息を吐き出すような声でセイエンは彼女の名を呼んだ。
「あの男の行動をお前が、いや少なくともイリーナが把握していないはずはないだろう?」
「ですます調が崩れてますよ。セイエン副長」
からかいを含んだ声。
「お前は」
言いかけるセイエンの言葉にかぶせるようにしてアティアが言った。
「2ヶ月前までは、だいたいの居所は分かっていたのですけれどもね。急に足取りがつかめなくなって。
本気になった彼らが隠密行動を起こしたら、そうそう追えるものではないでしょう?」
「向こうではお前の行動は把握していたようだな」
「別に私は逃げ隠れしていたわけじゃないですもの。・・・・行きますよ」
唐突にアティアが会話を切り上げた。
廊下の向こうからクルーがこちらに向かってくるのが見えた。
「内緒の話は、また、あとでね。」
柔らかいアティアの声が耳に響く。
結局、肝心な話は何もしていなかった。
「冗談ではない」
セイエンは舌を鳴らしたいような気持ちで取り残された。
270通常の名無しさんの3倍:2011/07/17(日) 23:36:05.96 ID:???
DNA 0084

結局、アティアとイリーナは、すぐには【ニルヴァーナ】戻れなかった。
敵の再度の来襲に備えて、出撃したモビルスーツ隊が、警備のため、
【ニルヴァーナ】に留まることになったためだ。
【ケイローン】のパイロット用にと、自船のモビルスーツデッキ脇の簡易宿泊室を特別に開放するとフェルナンド艦長が提案した。
足を失った形で二人は、【ケイローン】に足止めされた。
その夜、セイエンは、艦内用のハンドフォンを使ってイリーナを呼び出した。
アティアを交えず話がしたいと。

「たいしたことは話せない。」
セイエンの部屋に入ってくるなり、イリーナは言った。
「守秘義務ですか?」
「いや、アティアがそれを望んでいないからさ」
「相変わらずの、アティア優先主義ですね」
「自分がそうしたくても、立場上できないからといって僻むな」
どさりとイリーナはベットに腰をかけ、椅子に座っているセイエンを見上げた。
セイエンはイリーナのために、ウイスキーの水割りの缶をさしだした。
ためらいなくイリーナはそれを飲み始めた。以前から、たとえ出撃の前の日でもアルコールを
取るのをやめない。飲みすぎることはもちろんなかったが。
セイエンも同じ缶をあけた。しばらく、二人は黙ってアルコールを飲んでいた。
「で?何を知りたい」
先に口を開いたのは、イリーナだった。
「いろいろありますけどね。まず、モビルスーツのほかに何を運んでいるのか。
クローノスが狙っているのは、何故なのかですね」
「全部じゃないか」
「契約上の機密はモビルスーツの形態、性能、そして、発注者の情報でしょう?」
契約上には、他の荷物のことについては何も言及されていない。
イリーナは、赤い髪をかきあげた。緑の瞳がセイエンをまっすぐに見つめる。
「聞けば後戻りできなくなるぞ?」
「何をいまさら」
先ほどセイエンはイリーナに向かってアティア優先といったが、それは、最優先ではない。
彼女が何よりも優先するのは、アティアのガードにイリーナをつけた雇い主の意思である。
セイエンは嗤った。【ブルークロス】に警護を頼んだのは、イリーナとその雇い主のはずだ。
アティアではない。
セイエンがそう断じると、イリーナは、分かったというように片手を挙げた。
「人と箱だよ」
271通常の名無しさんの3倍:2011/07/18(月) 20:08:39.31 ID:???
閑話

やっと相手方をだすことができて、ほっとしている。

また、閃光のハサウェイとガンダムユニコーンを読んでいない方が、
万が一これを読むことがあったら、
すまん。
内容について、ネタバレありだ。特にこれから先は、ストーリに、けっこう絡んでくること
を了承して読んでいただきたい。

閑話休題
272通常の名無しさんの3倍:2011/07/18(月) 22:33:50.85 ID:???
DNA 0085

「本来なら、個室を用意したいのですが」
【ニルヴァーナ】のクルーが、申し訳なさそうに言った。
モビルスーツデッキの近くにある、2つの簡易宿泊室には、それぞれ6台、
計12台ののベットが並べられていた。
「いや、ベットがあるだけでも十分だ」
レーヴェが首を振った
「そうそう。修羅場になれば、モビルスーツ内で仮眠なんてことありうるからね」
オリビエがオレンジのメッシュの入った髪を左右に振った。
部下の6人は一つの部屋に、隊長3人が、もう一つの部屋という部屋割りに
なり、8時間の3交代制で、当直を行うことになった。もちろん、非常時には
たたき起こされるのが前提だ。
とりあえず、最初の当直は、オリビエ隊に決まった。
アーサーがベットの具合を確かめるように、ごろりと横になった。
レーヴェは横になる気はせず、ベットに腰をかけた。
オリビエは、ベットメーキングをし直していた。
「けっこうみんな、苦戦してたな」
アーサが気楽な調子で言った。だが、目は気楽などというものではなかった。
生来の向こうっ気の強さがにじみでている。
「すごいパイロットだった」
レーヴェは素直に相手の技量を認めた。
「お前の機体を損傷させるくらいだからな」
「相手が本気だったら、俺はここにはいなかったかもしれん」
「そこまでか」
アーサーの声までに、真剣みが帯びる。
「もっとも、ハンディがなければ、互角だとは思うが」
「【ニルヴァーナ】が質に取られていたからな。」
敵の背後に【ニルヴァーナ】があった。味方の船を傷つけるわけにはいかない。
銃撃も慎重にならざるおえなかった。
それに、【ブルークロス】では、まず、機械の手足を狙って、相手の戦意を削ぐのを第一としている。
単なる殺し合いなら、狙撃の命中精度は格段にあがるし、勝利するのも楽になる。
軍から【ブルークロス】に入ったときに、一番苦労したことがそれだった。気を抜くと
相手をしとめるように身体が動く。
273通常の名無しさんの3倍:2011/07/18(月) 22:38:42.87 ID:???
DNA 0086

「オリビエ、双子との演習中に、襲ってきたやつらはどうだった?」
アーサーが、ベットメーキングをして、部屋を出ようとしていたオリビエに声をかけた。
「しばらく交戦して、不利と見るや、すぐさま撤退したよ」
オリビエは足を止めて言った。
「おそらく今回の襲撃は、我々の戦力を把握するために仕掛けられたのだろうな」
レーヴェは最初、双子たちと一緒に襲われたのは、自分たちを足止めするための陽動かと思った。
が、それにしては、引き際が良すぎるのだ。
「なら、また襲ってくるな」
「確実にな」
やだねーと言いながら、アーサーが身を起こした。
「勝てるかね」
「本気で殺し合いをすればな」
「そこが問題なんだよ。若い奴らは、戦闘は知ってても、戦争はを知らないからさ」
「アーサーは、ダカールが、ドバイの末裔に襲われた時に、その場にいたのだったな」
「まあね。戦闘には参加してないけどね。参加してたのは、セルゲイのほう。
俺はスウィートウォーター出身だからな。」
レーヴェは黙り込んだ。オリビエもドアノブから手を離して、アーサーを振り返った。
「シャアの反乱が俺の初陣さ。・・・ネオジオン側でね。あの時、俺は二つ年上の18だと偽って、
戦闘にでた。今でも時々考えるよ。あの時、我々が勝利していたら、
世界はどう変わっていったのかってね」
レーヴェは、かすかに眉を寄せた。自分と同じ名前の男が起こした闘争は、
世界を良くも悪くも変えた。
連邦は、シャアに味方したスイートウォターの住民に対して、ジオン公国に比べ、
はるかに温情ある措置を取った。
ラサへの隕石落としが、連邦の政治機能を麻痺させていたことと、政府高官が
シャアから賄賂を受け取ったという負い目もあった。結局、アクシズが地球に落ちずに
いたことも、有利に働いた。
274通常の名無しさんの3倍:2011/07/18(月) 22:49:14.21 ID:???
DNA 0087

コロニー住民にも投票権が順次、付与され、コロニー出身の政治家の連邦政府への
参閣も認められはじめたが、アースノイドとスペースノイドの感覚の齟齬は
広がっていくようだった。
シャアの反乱から三年後のドバイの末裔のダカール襲撃は、アースノイドに近しい人間といえども、
連邦政府に弓引くものがでるという事実を、連邦に改めて認識させた。
そして、マフティー・エリン。連邦の英雄の息子がテロリストとして処刑された一件は、
宇宙に衝撃を走らせた。
その後、繰り返されるテロと弾圧。マンハンターによる地球の違法住民狩り。
しかし、コロニーの経済に依存している連邦政府は、
表立ってコロニーとの対立はしなくなっていた。
政治の腐敗と空洞化は加速度をましていると言われ続けている。
「ネオジオンの勝利が、よきことだけをもたらすわけではないだろうが、人類すべてが宇宙に
あがっていることは間違いないだろう」
レーヴェはそれしか言えなかった。
「案外、シャア自身が、次は地球回帰を提案して、地球寒冷化の早期収束実現させるすべを
模索しているかもな」
人の世は何が起こるかわからんものだから、とオリビエが笑った。
「そうだな」
アーサーも笑い返した。しかし、その笑い声は痛みとに苦さを伴っていた。
275通常の名無しさんの3倍:2011/07/19(火) 22:19:45.63 ID:???
DNA 0089

レーヴェ隊とオリビエ隊は、二日間【ニルヴァーナ】にいたあと、戦闘の翌日に帰投したアーサー隊と【ケイローン】の守備をしていたセルゲイ隊と入れ替わりに【ケイローン】に帰投した。
休むまもなく、幹部クラスの士官が集められ、今後についてのミーティングが行われる。
「彼らは何者なんです?」
レーヴェはいきなり核心に触れた。
少なくとも、オルシーオ艦長とセイエン副長は、その正体を知っているとふんだからだ。
数泊の沈黙の後、オルシーオ艦長は質問に答えた。
「【クローノス】。お前たちも知っているんじゃないか?」
「ティターンズの特殊部隊の生き残りですか」
連邦の内乱であるグリプス戦役でほぼ壊滅したティターンズ。
その中で、インテリジェンス(情報・諜報)活動と特殊部隊として戦闘を担った隊の呼称であった。
特筆すべきは、そのメンバーすべてが、元ジオン公国に関わりのある人間だということである。
連邦の敵として戦った人間を、今度はかつての味方の掃討に使う。
連邦への忠誠心を試されていると考えた元ジオン兵部隊は、作戦の際、
苛烈というにふさわしい戦いぶりを発揮した。
いつしかその隊は、連邦軍内でギリシア神話の子を食らう神【クローノス】と呼ばれるようになった。
ティターンズの崩壊後、一時は軍を追われたが、続くハマーンカーンの第一次ネオジオン抗争時に
連邦軍に復帰し、中枢部に食らいこんでいる。
かのマフティーの処刑でも、【クローノス】の息がかかっていると噂されていた。
【ケイローン】の古参の士官たちは、その名を聞いても驚きはしていない。
「何故、【クローノス】が出てきたのか・・・」
誰とはなしにつぶやかれたレーヴェの言葉にオルシーオ艦長が言った。
「あいつらの実行部隊の隊長がな、アティアにご執心だからだよ」
一気に室内の緊張がなくなる。
「あの男、引き際が悪すぎるよ。」
「何度追い払っても、性懲りもなく、周りをうろうろしてな」
「あいつ存在が、アティアとイリーナが【ブルークロス】を辞めた理由の半分だし」
と古参のクルーが次々に言った。
276通常の名無しさんの3倍:2011/07/19(火) 22:40:25.92 ID:???
DNA 0090

「まあ、冗談はおいといて」
オルシーオ艦長が、古参のクルーに笑いながら言った。
「冗談だったんですか?」
とオリビエは思わず聞いていた。
「いや、半分は本当だ。そのあたり、詳しく知りたきゃ、セイエンに聞いておけ」
指名されたセイエン副長は、苦虫をかみつぶしたような顔になった。
「【クローノス】が出てきたとなると、積荷は当然、新型モビルスーツだけじゃ
ないってことになるな」
アシェンバッハ少佐の言葉に、オルシーオ艦長がうなづいた。
「一番確立が高いのは、連邦政府ににらまれている著名人や運動家ってとこか?」
「テロリストを匿っていると?」
レーヴェがあからさまに非難のこもった口調で言った。
「マフティーの一件以来、連邦政府と軍の言論への監視、規制はきつくなったろ」
「ええ、まあ」
「政府への批判記事は、電波域を無駄なく使い、悪質な流言飛語を取り締まるため
とかいう理由で作られた、情報通信法で規制されちまうのが現状だ」
オルシーオ艦長の言葉に
「だがな、例の一年戦争を題材にした映画もヒットしてるし、ジオンのことも、見直そうって空気もでてきてるだろ?」
アシェンバッハ少佐が反論めいた発言をした。
「ありゃ、連邦政府のガス抜きとプロパガンダだよ」
オルシーオ艦長が断言する。
「強く極悪非道なジオン公国軍に立ち向かう、少年、アムロ・レイ。宿命のライバルは
卓抜な技術で、赤い彗星の異名を持つパイロット。一枚も二枚も上手の敵に、
連邦の未来の英雄は勝利を重ねていく。連邦軍としちゃ、最高のシナリオだ」
「そのライバルもザビ家のやり方には、賛同していない。サビ家の内部崩壊を望む
がごとき行動を取り続ける。ジオン公国=悪、連邦軍=善という図式ができあがる
って寸法か」
さすがに、艦長の著作を読んでいるだけのことはある。アシェンバッハ少佐が、艦長の
言葉を引き取った。おまけに、とオルシーオ艦長は話を続ける。
「グリプス戦役の映画では、シャアのダカールの演説も、カミーユが精神的負担で
退行現象を起こしたこともなかったことにされてんだぞ。」
277通常の名無しさんの3倍:2011/07/21(木) 01:36:57.46 ID:???
DNA  0091

オルシーオ艦長は口惜しげに言った。
「だいたい、1年戦争の当初のアムロは、たまたま乗り合わせた民間人の15歳の少年だ。
その少年に、モビルスーツを操縦させて人殺しさせてんだぞ」
「でも、私たちだって、ミコトとタケルをモビルスーツに乗せてますよ」
情報士官であるメイリン少尉が言った。
「あれは、あくまで訓練だ。保護者の依頼を受けてのな。子供を実戦に出すなんてことは、
【ブルークロス】では、金輪際ありえん。大人は子供を守るものなんだ」
「大人と子供の定義ってどこら辺なんでしょう?」
「年を食っただけの、子供のような輩も多いからな。」
オルシーオ艦長がそういうとみなは、微妙な顔をした。
「まあ、俺が考えるに、大人と子供の境は、だいたい18歳だな。」
「なぜ18なんです?」
「俺が初めて、女性と同衾した年だからだ」
堂々と宣言するオルシーオ艦長に、男たちは苦笑をもらした。
「笑うな。大事なことだぞ。18なら万が一のことがあっても結婚できるが、
それ以下じゃ、できんのだぞ」
「オルシーオ艦長って独り身ですよね?」
「宇宙船乗りは、結婚には向かないからな。いったい何人の女性を泣かせたか」
脱線し続けるオルシーオ艦長を引き戻すべく、セイエン副長が咳払いをした。
「オルシーオ艦長の武勇伝は、機会があれば、個々で聞いてもらうことにして、
これから艦長としては、【クローノス】への対応についてどうお考えですか?」
「襲ってきたら、追っ払う」
オルシーオ艦長の答えは単純明快だった。
「でも、相手は一応、連邦軍に所属しているんですよね」
メイリン大尉が言った。
「連邦の名をだせないからこそ、連中はこんなところで襲ってきてるんだろ」
オルシーオ艦長は、みなの顔を見回した。
「では、身元不明の襲撃者として取り扱うということでよろしいのですね」
セイエン副長が、確認する。
「実際、そうだろ。ちがうか?」
オルシーオ艦長の言葉に、ふっとセイエン副長は微笑んだ。
「では、他に何か意見のある人はいますか?」
278通常の名無しさんの3倍:2011/07/21(木) 02:19:59.09 ID:???
寝ぼけてて、メイリン少尉を2階級、特進させてしまった。
彼女には悪いが、降格させてもらいます。

DNA 0092

「運んでいる荷物の情報は?」
レーヴェはオルシーオ艦長に向かって言った。
「知る必要があるのか?だが、どうやって手に入れる?アティアを拘束して
締め上げるか?」
それは、少し楽しいかもしれんがとオルシーオ艦長はうそぶいた。
「ですが、必要以上の秘密主義は、警護をするうえで不利益になりえます。
お互いの疑心暗鬼を生むことにもなるのではないでしょうか」
レーヴェはオルシーオ艦長とセイエン副長を順に見た。
「本当に守りたいものが理解ってなきゃ、対応も後手後手になるかもしれませんよ」
オリビエも賛同した。
周りの空気も、ややレーヴェの意見に同調気味だった。
「そこまで言うんなら、情報公開の交渉はお前らに任せるよ。期待してるぞ。
オリビエ・ジタン、レーヴェ・シャア・アズナブル」
オルシーオ艦長は、少々人の悪い笑顔を作って二人に言った。
それから、ミーティングは具体的な戦術の検討に入った。


「さて、どうする?」
オリビエは、レーヴェに問いかけた。
オルシーオ艦長の言葉は、全権委任といえば聞こえはいいが、つまりは知りたければ
勝手にやれということだ。
「最終的には、アティアに直接聞くしかないだろう」
「おや、搦め手の好きなお前にしては珍しい」
「外堀を埋める作業はするさ」
「だから、さっきから、PCをいじっているわけね」
279通常の名無しさんの3倍:2011/07/23(土) 01:22:28.95 ID:???
DNA 0093

「古い【ケイローン】の名簿にアクセスしてみた。アティアとイリーナの履歴を知りたくてな」
レーヴェはキーボードをたたきながら言った。
「だが、我々の権限で、アクセスできる部分には、イリーナの名はあったが、アティアの
名前はなかった」
実は、初めてアティアに会った直後、オリビエも一度は調べてみていた。
ただ、名簿にないのを確かめて、それ以上の詮索はやめていた。
「お前のことだ。そこで終わりにはしなかったんだろ?」
「メイリンに頼んで、本部の名簿を調べてもらった。公式な部分にはデータはゼロだ」
「じゃあ、非公式な部分にはあったわけか」
「アシェンバッハ少佐の話がヒントになった。艦長のZG(ジオン・ガンダム)ファイルの
中に、論文が残っていた」

『人類が、本格的に宇宙に進出して、すでに一世紀が経とうとしている。
地球の汚染と人口爆発がおこすであろう地球上での争いを、回避するために作られた
コロニーが、新たな火種となって人々に戦争を起こさせたことは記憶に新しい。
その原因とこれからについて考えるために、少々の文章をここに連ねたい。

ジオン公国の独立運動は、歴史を鑑みるに、起こるべくして起こるものであった。
植民地(コロニー)と名付られたのは、予見であったとさえ思える。
いや、先年発見されたとされる、憲章が本物とすれば、連邦政府は当初、
将来の自治独立を考えたがゆえに、コロニーと名付けたのだ。
新しい希望の世紀であったUCは、ゆがんだ支配欲だけで始まったわけではない。
コロニーと地球の共栄共存。ゆるやかな連合こそが、理想であったはずだ。
では、なぜ、一年戦争という悲劇が起こったのであろう?
旧世紀の植民地をモデルとしたかのような、コロニー政策がもたらすうまみを、
手放したくない権益者が独立を認めなかったという部分もあるだろう。
しかし、一年戦争が起こる以前、コロニーの経営は比較的上手くいっていた。
一時的に経済危機に陥ったサイド3さえ、持ち直し、
自前の軍を整え、強化できたことがそれを証明している。
280通常の名無しさんの3倍:2011/07/23(土) 01:29:10.91 ID:???
DNA 0094

衣食住が足りていれば、強烈な不満は抑えられる。
漠然とした不平不満は感じていても、深刻な対立は生まれていなかった。

UC以前を知る人々が生きているまでは。

地球連邦という奇跡ともいうべき、人類初めての統一政府。それを作り上げた
労苦を知る人が減り、その痛みと流された血と涙の重さを人は忘れた。
コロニーは連邦の中枢の人々にとって、あって当たり前のもの、
そして、宇宙にいる人間には、地球の疲弊は遠く目に見えないものであった。
減った人口にあわせて、表面的には地球は回復し、旧世紀を知らぬものたちの間
で対立が深まり、搾取される側の人間であるコロニーの住民が不満をもつのは
当然の帰結である。
そこへ、ジオンのニュータイプ論が提唱される。
「宇宙にでた人類は革新しうる」というジオンの言葉は、地球連邦の精神のくびきから
人々を解放するための鼓舞であったと私は考える。
その言葉は、宇宙に出た人は、宇宙で生きることに適応し、満足し、いたずらに地球という枠に
とらわれるべきではないという意識の改革を、人類全体にもたらすはずだった。

しかし、ジオンは見誤ったのだ。
人類の地球への帰属意識の強さを。そして、多くの人は過去を忘れるものだということを。

もちろん、ジオンとて、地球への郷愁はあったであろう。しかし、それは彼にとっては簡単に
押さえ込めるものであった。宇宙に暮らすものはもとより、地球に暮らす人間も(宇宙に
あがりさえすれば)、そうなると考えていたのだろう。
人の意識は、そこまで達しえると考えたがゆえに、「ニュータイプ論」を展開していったのだ。
が、彼はその理論の危険性に気づいていなかった。

「宇宙に出たものは、認識力が増し、それに見合ったやさしさを持つ人間が、誤解なく分かり合えるようになる」

なんと希望に満ちた、人類という種の可能性を信じた優しい言葉だろうか?
彼は「地球連邦」という奇跡を起こせた人類ならば、さらなる飛躍を起こせると信じていたのだろう。
その思想は、エレズム(地球聖地論)とコントリズム(コロニーの自治確立)を伴い、
「人は宇宙の子であり、宇宙の民として生きていこう」
という輝かしいスローガンとなるはずだった。
しかし、宇宙に住む人も地球に住む人もその言葉を、ありのままには受け取らなかったのである。
281通常の名無しさんの3倍:2011/07/23(土) 01:46:05.19 ID:???
DNA  0095

宇宙に住む一部の人にとって、それは自らの優越性を示すものであり、
地球を支配する根拠となった。
地球に住む人はそれを自分たちへの攻撃と考えた。
悲しいかな、人類はまだ、ニュータイプには成りえていなかった。

ジオンが亡くなったあの日、彼が行うはずであった演説を聴きたいと私は切望する。
「人類の宇宙の民としての、真なる心の自由」を
提議するものであったのではないかと推論するからだ。
連邦政府との架け橋になりえるものではなかったか。
だからこそ、彼は暗殺されたのではないかと。
実際は、積極的な暗殺ではなかったかも知れない。ジオン・ズム・ダイクンの不調は、
周りのものも知るところであったし、それを押しての激務の日々だった。
ほんの少しバランスを崩してやれば、彼が倒れることは分かっていたはずだ。
倒れて後、適正な医療をほどこさなければそれでよいのである。
ともかく、あの日、ジオンは死んだ。
ジオンの名が自由から束縛の代名詞と変えられた日である。

一年戦争の始まりと終わりは、多くの人の知るところであり、ここに改めて記すことも
ないであろう。
ザビ家の野心と所業は非難に値するものだが、悪名高きギレンであっても、
「人を正しい道へ導く」という理念があったことを私は否定しない。
グリプス戦役のティターンズさえも、「宇宙における人類の意識の改革」を目指していたと
いう検証がでている。
ただ、ハマーン・カーンの第一次ネオジオンは、やや趣を異にする。
もちろん、ニュータイプの世界を作るというイデオロギーはある。
しかし、公国を追われた流浪の姫君(ミネバ)に同情同調した若者たちが、公国の再建
を最大の目的にして行ったものではないだろうか。
ハマーン・カーンは、その冷徹な言動の裏側に、女らしいロマンティシズムを持っていた
ようだ。
282通常の名無しさんの3倍:2011/07/27(水) 23:13:24.03 ID:???
DNA 0096

では、シャア・アズナブルは?
ジオンそのものより高名でさえあるその息子は?

彼は、卓抜した武(行動)の人であったといえる。
思考的にも能力的にも武に優れた人であったことが、彼の長所でもあり、短所でもある。
有名なダカールの演説も、どことなくこなれていないのは、本来の意図とは微妙なズレがある
のはもちろんだが、言葉より行動で示すほうを好んでいたからだとも思う。
本人も政治向きではないと考え、パイロットである自分が一番好ましいと考えていた
らしい逸話が散在する。
もっとも、あの演説の後、コロニーにも地球にも彼を支持する人間は大勢いたし、
彼が政治活動をすれば、遠くない将来に連邦の中核を担う政治家になりえていただろう。
その志、「全人類を宇宙にあげる」を完全に達成できるかは別として。
民主主義という政治形態は、目的を迅速に行うには、不向きである。
故に、かの「シャアの反乱」が起こったといっても過言ではない。
しかし、そのときの行動は、矛盾に満ちていた。
彼は、本気で勝利を願っていたのか?
行動を細かく追っていくと、答えはイエスともノーとも言える。

彼の行動を阻止するには、何度かチャンスがあった。
ウォータセブンが彼の進駐を拒み、宇宙に住む人々が、地球への制裁を望まなければ。
ラサへの攻撃をリークした際に、連邦が地球に住む人々を宇宙にあげ、
人々の命を守ることを優先していれば。
そして、何より、連邦政府が、賄賂を受け取って、アクシズをネオジオンに売るという、人民を裏切り
個人の欲望を満たそうする行為をしなければ。
彼は、人々の望みを問い、誠意を問い、連邦政府のモラルを問いながら、地球の寒冷化への
道筋をたどっていく。
「ならば、今すぐ愚民どもに叡智を授けてみろ」
アムロ・レイに放ったという言葉は、
地球寒冷化という悪行を行うこと決めた、自分自身を含めての宇宙に住む人々のエゴ、
寒冷化を宣言しても、なお、地球に住み続けることを選択する人々のエゴ、
なにより公僕たる者が、(ラサで、真っ先に逃げたのが政治家と役人ということも含め)、賄賂を受け取るという政府の腐敗とエゴへの糾弾であろうが、
何故、このようなことを、私は、人類は、しなければならないのだという悲鳴にも聞こえる。
「UC」とは、人類のエゴを捨て、地球を、他の生物を優先させるがために始められた
世紀であるのに。
283通常の名無しさんの3倍:2011/07/28(木) 05:55:27.47 ID:8AbktqWU
age
284通常の名無しさんの3倍:2011/07/29(金) 20:53:45.11 ID:???
DNA 0097

フィフィス・ルナをラサへと落とすとき、
「人が人を粛清できると思うな」
とのアムロ・レイ言葉に
「シャア・アズナブルが粛清しようというのだ」
と答えたという彼。
それをアムロ・レイが叫んだとされる
「個人に人類の粛清をする権利はない」と、言い切っていいのか、筆者はわからない。
シャア・アズナブルという仮面をつけつづけることを望むものは、宇宙にも地球にも大勢いた。
・・・アムロ・レイ本人さえ、それを望んで、ダカールの演説に協力したのではなかったか?
もちろん、アムロはシャアをして、ネオジオンの総帥となすべくそれを行ったわけではない。
シャア・アズナブルを本質的には優しいと語れる彼だからこそ、
その優しさを他人に示し、何故、粛清ではなく、救世を志す指導者とならないのかと考えたはずだ。
アムロが、グリプス戦役の直後、宇宙にあがり、クワトロ・バジーナ(シャアのエゥーゴでの名前)と
邂逅していたら歴史は異なったものになったかもしれない。
しかし、クワトロは去り、アムロの前に現れたのは、総帥となったシャアであった。
(彼がジオン再興の旗頭となったのは、ミネバ・ザビがジオンの名を継ぐのを嫌ったためだともいう。
ハマーン・カーンからミネバを奪ったのも彼の仕業であったという噂もある。幼い少女にジオンの
名を負わせるのは、あまりに思い荷物だと考えたのだろうか)

とまれ、彼はジオンの名を継ぐと宣言した。
そして、シャア自身の思想、望みとも重なっていたためでもあろうが、
地球寒冷化という粛清をシャアは、権利ではなく、義務として行うことを決意する。
同時に、それは自分の思想と自分を押し上げた人々の行為を、歴史へ問いかけるものでもあった。

シャアがサイコフレームを含むモビルスーツ用の新技術を連邦軍へリークしたという事実がある。
アクシズを落とす作戦の出撃間際、側近にリークしたと話し、
「なすべきことはした。後は天命を待つ」
ともらしたという。
自らの立てた作戦が成功するために行動しながら、失敗することを望んでいる。
本人でも気がつかないままに。いや、気づかない振りをしていただけかもしれない。
成功は、ネオジオンの総帥、シャア・アズナブルとしての勝利。
失敗は、地球の汚染を拒むクアトロとしての勝利。
それは彼個人を越えて、人類そのものの葛藤でもあるだろう。
なすべきかなさぬべきか?
285通常の名無しさんの3倍:2011/07/31(日) 21:18:19.61 ID:???
DNA 0098

だが、もしことを成し得ていたら、彼は地球から流出した難民をどこへ受け入れるつもりだったのか?
ここに一つの資料がある。
スウィートウォーター政庁に残されていた試案書だ。
そこには、火星への計画的な移住が提案されている。
火星のテラ・フォーミング化と移住については、A.D時代から論議されてきた。
氷もあり、薄いとはいえ大気もある火星の開発が遅々と進まないのは、月軌道上にコロニーという
人口の地球衛星を作る技術が開発されたためだ。
宇宙に出ても、故郷たる地球を眺めていたいという人の心理が働いてもいるだろう。
シャア自身もアステロイドベルトより帰還した身である。
地球が、夜空の点ほどの大きさになる火星へのいきなりの移住は、長年地球に暮らしてきた
人々には酷だと思ったのであろう。
自ら、その案を保留、もしくは次世代を段階的に、と答えたと伝えられている。
ここには、地球に対するシャアのこだわりと前出アムロの言う本質的な優しさがかいま見られる。


ところで、私はシャアの地球寒冷化の作戦を肯定するつもりはない。
それは、地球が人間のものであるという、傲慢の上に成り立っているからだ。
人が自らを裁く覚悟はあってもよいが、それは他の生物を巻き込むべきものではない。
自然な生物同士の生存競争の範疇に入るものならまだしも、人の業で地球上に存在する
動植物達を巻き添え、抹殺するという行為に憤りを感じる。
極端に言えば、人類の業を背負い、それを払うというならば、人類だけを抹殺する手段を
考えなければならないだろう。
ただし、動植物が生存できる環境は、人間も生存できるという環境である。
ならば、どうすればよいのか?
人が文化的に生きていくのに必要なインフラを破壊すればよいのである。
復興の追いつかないスピードで、施設を破壊できれば、人的被害も最小限、いや、やり方に
よってはほぼゼロで、地球に人間、少なくとも、地球の汚染を行う部類の人間を淘汰できる
であろう。
もっとも、そのような作戦は、当時のシャアの統括する組織では無理な話であったし、
それこそ、連邦軍と互角に渡り合えるほどの軍事行動ができる、ニュータイプの部隊でもない限り、ほとんど不可能である。
また、宇宙に身体的に適応できない人も少なからずいる。その人々を強制的に宇宙に上げる
ことはできない。
286通常の名無しさんの3倍:2011/07/31(日) 23:50:52.77 ID:???
もうやめてくれ
流石に論文の主張が痛すぎるわ
小学生の「ぼくのかんがえたいいよのなか」みたいな幼稚な考え方見せられるのは勘弁してくれ
ラノベぐらいでしかイデオロギーとかに触れた事のないのが丸分かりの文章で論争調に手を出すなよ
287通常の名無しさんの3倍:2011/08/01(月) 21:56:42.17 ID:???
DNA 0099

やはり、シャアはあまりにも性急だったといわざる得ない。
政治家として立ち、手にした軍事力を背景に交渉し、少しずつ、事を成して行く手段もあったはず
だからだ。
その間に、宇宙に住む者たちを先にニュータイプへと導く手段を模索する。
この場合のニュータイプとは、強制的に作り上げていく、強化人間ではない。
彼らの、負荷を与える強化人間を生み出すべきではないと考える。
ある程度の自我を保つために、強烈に他人を必要とするメンタリティは、多くの悲劇を生み出してきたからだ。
(軍事力を持つこと自体に、反対はしない。なぜなら、連邦と対等に伍するためには、軍事的組織がなければ、つぶされるからである)

彼はあまりに、武人としての才能がありすぎた。その才が、早急な武断に傾むかせた。
武人としての名声がなければ、あそこまで、人々の支持を集めることができなかったことも事実だが、
外交と政治とは、刃のない戦いであり、それに勝利することが、真実、
「戦いの中で人を救う方法」ではないだろうか?
戦争は、すべての手段を取り上げられた人間の最後の切り札としてとっておくべきだろう。

最後に、シャア・アズナブルは、よく自らを「道化」という揶揄していたと伝えられている。
彼自身は、「愚か者・滑稽な役回り」といった意味で使ったにすぎないであろうその言葉の
喚起するイメージは、シャア・アズナブルという存在を表すのに、言い得て妙だ。
道化には、愚かしい言動をして人を面白がらせるというほかに
王にすら、言いたいことをいうことをを許された存在でもあった。
仮面をつけた異形の姿で、機能不全となった秩序を撹乱し、賦活させるという
役割もまた与えられている。
そして、道化には人々から、何かしてくれるのではないかという期待をもたれ続ける役目でもある。
人類とニュータイプという理念に仕えた「赤い彗星」と呼ばれた道化の真の顔はいったいどこに
あったのだろうか。
288通常の名無しさんの3倍:2011/08/02(火) 00:46:06.56 ID:???
DNA 0100

「・・・火星への人類の移住、連邦と対峙できるほどの戦力を持ったニュータイプ部隊か」
オリビエが低くつぶやいた。
「【ブルークロス】は、NT能力の素養を持つ人間の駆け込み寺なうえ、末端支部の事務員まで、
モビルスーツを操縦することができる。そして、今まさに我々は火星へ、新型のモビルスーツ
を運んでいる最中だ」
ディスプレイから目を離したレーヴェは、オリビエに向き直った。
「【ブルークロス】の全勢力を結集すれば、ここに連なる、リソー的な宇宙移民を強行できるかもしれないってわけか」
オリビエが肩をすくめた。
「外交手段を模索するのがベストと書いてあるが、武力行使を完全否定しているわけでもない。
本当に地球のためを思うなら、人類は死んだほうがよいと言っているようにも取れる」
「連邦ににらまれているのは、アティア本人という可能性もあり?ってことだね」
オリビエの言葉にレーヴェはうなづいた。
「彼女が純粋というか、理想主義なのは、あの若さで、親を亡くした子供を養子にしている
ことでも分かる。そして、新型モビルスーツを発注できる経済力をもった組織ともつながりを持っている」
「・・・その上、かなりのNT能力を持っているみたいだよな」
初対面のとき、アティアは、オリビエにもレーヴェにも、存在を察知させずに室内に入ってきた。
気配を殺せるほどに、NT能力をコントロールすることができるのは。
「マスタークラスと見ていい」
「これ、オルシーオ艦長のファイルにあったんだよな」
「ああ、少なくとも彼女の思考を艦長が知っているのは間違いない」
深刻そうな顔をするレーヴェにオリビエは言った。
「まあ、これは、ずいぶん昔に書かれた、私的な文章にすぎないからな。ニュータイプは万能ではない、
ということを、Dr.サキの元にいたのだったら、叩き込まれているはずさ」
しかし、純粋さは過激さにも通じる。彼女は長年【ブルークロス】を離れていた。
レーヴェはそれを危惧した。
289通常の名無しさんの3倍:2011/08/02(火) 20:51:53.55 ID:???
乙です。
290通常の名無しさんの3倍:2011/08/04(木) 22:32:21.61 ID:???
DNA 0101

【ニルヴァーナ】に提供された仮眠室から出てくると、そこには、セルゲイが立っていた。
「自分も行こう」
セルゲイはレーヴェが、【ニルヴァーナ】の艦内を偵察しようとすると、先読みしていたらしい。
アティアは、今、【ニルヴァーナ】にいない。双子と共に【ケイローン】に留まっていた。
送り迎えをするモビルスーツの不足を理由に、【ニルヴァーナ】への帰投を、
フェルナンド艦長が待ったをかけたままだったからだ。
「当直はどうした?」
本来なら、パイロットチームの一つが交代でモビルスーツデッキに待機しているはずだ。
「タチアナも行けと言ってな。何かあれば、すぐ駆けつければいい」
これだから、ニュータイプは・・・
【ケイローン】の、特にパイロットチームの人間がそばにいるときの隠密行動は、かなり難しい。
「だが・・・」
レーヴェがためらうと、セルゲイは予想外のことを言ってきた。
「オレビエでないと嫌なのか?」
「何?」
「いつも二人でつるんでいるのでな。相棒はオリビエと決めているのかと」
「そういうわけでは断じてない。というより、どこからそんな発想がでてくるのだ」
「いや、以前に女性が嘆いていたのだ。二人が仲良すぎて、なかなか割り込む
隙がない。まるで兄妹か恋人同士みたいだと」
「・・・兄妹はともかく、何で、コ・・・と形容されるのかが分からん」
レーヴェの中の緊張感が著しく低下した。
「さあ。女性が何を考えているのかは、男にとって永遠のミステリだからな」
「そんなミステリなどいらん」
レーヴェは心底げんなりとした。
「まあ、オリビエとばかり一緒にいないで、私と一緒にいてほしいという、熱いメッセージ
と受け取っておけばいい。・・・さあ、行こうか」
完全に毒気を抜かれ、レーヴェはイニシアティブをセルゲイに取られていた。
291通常の名無しさんの3倍:2011/08/04(木) 22:53:29.85 ID:???
DNA 0102

艦内に上がるエレベーターの前には、歩哨が一人立っているだけだった。
「これからのことについて、フェルナンド艦長にお話があるのだが、取り次いでもらえるかな」
レーヴェが言うと、相手はあっさりと納得し、艦内用のハンドフォンをブリッジに繋いでくれた。
「ええ、そうです。少々時間を取っていただきたい。できれば、余人を交えずフェルナンド艦長だけと
話したい」
電話越しに、レーヴェはフェルナンドと交渉した。フェルナンドは初め難色をしめしていたが、
結局レーヴェとの面談を了承した。
フェルナンドが、レーヴェの容姿と名前に非常な興味を持っていることを、レーヴェは感じていた。

クルーの一人に案内されて、レーヴェとセルゲイは【ニルヴァーナ】の艦長室に入った。
重厚な雰囲気の室内だった。オルシーオ艦長のそれに慣らされたレーヴェには、
少々堅苦しく思える。
「かけてくれたまえ」
レーヴェとセルゲイは示されたソファに座った。
フェルナンド艦長は、自らの執務用の椅子に座ったままだった。
「担当直入にお聞きします。フェルナンド艦長は、【ニルヴァーナ】が襲われることを
真実、予測しておられましたか?」
「地球圏を出れば、連邦軍の目はなかなか届かない。海賊行為をする船もある。当然
ある程度のリスクは覚悟していたよ。」
模範的な回答だった。
「ある程度のリスク。やはり、襲撃の可能性は低いと考えられていたのですね」
フェルナンド艦長の表情にやや険が走った。うかつだと責められたと感じたらしい。
「実は我々も、可能性は低いと見ていました」
自分たちも同じ考えだったと安心させる。
「クライアントの代理人である、アティア・セラマチが、ご子息の訓練を我々に依頼してきた
くらいですし」
油断を招いたのは、フェルナンドではなく、アティアの行動に問題があったと匂わした。
フェルナンド艦長は、かすかに首を縦に動かした。
292通常の名無しさんの3倍:2011/08/05(金) 00:01:44.53 ID:???
閑話

原文では、襲撃者は「サトゥルヌス」だったのだが、先達が使用しておられるので
「クローノス」とさせていただいた。

先達の文章を読んで・・・3秒以内なのかと、考えたものである・・・

また、読んでくれている人が思いがけずいたなというのが、今の感想だ。

広げた風呂敷をたたまないで、終わらせるのもなんなので、よろしければ、もうしばらく
おつきあいいだだければと思う。

閑話休題
293通常の名無しさんの3倍:2011/08/05(金) 01:38:11.20 ID:???
GジェネDSやったことないし知識無いけどぼちぼち読んでます。
完結まで頑張ってください
294通常の名無しさんの3倍:2011/08/07(日) 20:47:26.00 ID:???
DNA  0103

「彼女たちは、とても優秀な女性だ。」
フェルナンド艦長は、女性という言葉に力を込めた。レーヴェはその態度に自分の勘が
正しかったことを知った。
フェルナンド艦長は、アティアとイリーナの優秀さを認めながらも、自分より年下で
女性の彼女らに指示されることに違和感を感じている。
レーヴェ自身にも多少は思い当たる、男特有の、女性にサポート役を期待してしまう感覚だ。
軍というやや前時代的で、圧倒的に男性が多い組織に所属していると、
その感覚がより強まる傾向がある。
モビルスーツ部隊を【ニルヴァーナ】に引き込み、優秀なモビルスーツパイロットで
戦闘経験が豊富なイリーナと共に、アティアを【ケイローン】に留めるよう配慮したのは、
これからの指揮を自分が取るという意思の表れであろう。
ならば、【ケイローン】のパイロット達に、自分がアティアとイリーナよりも、
話が分かる男であると示したいと思っているはずだ。
「ええ、ミズ・アティアは、とても優秀で、優しい女性ですね。そしてミズ・イリーナは、アティアの
守護神たらんとしている」
「彼女は、守られるに足る人間だよ。あの年で、孤児を引き取り養育するなど、なかなかできること
ではない。・・・私は、彼女が双子と共に、火星から地球に無事に帰るまでの、責任を負っている」
フェルナンド艦長は、机に肘をつい指を組んだ姿勢で言った。
「上に立つものの義務と責任の重さは、軽輩ではありますが、部下をもつ身として
感じるところがあります。・・・・・・だから、私も、何を守るべく戦闘するのか分からないまま、
部下に命をかけろとは言いたくはない」
セルゲイも然りとうなづいた。
レーヴェはサングラスを外して、フェルナンド艦長を見つめた。
「この船が、モビルスーツ以外の何を運んでいるか、艦長はご存知なのですか?」
295通常の名無しさんの3倍:2011/08/07(日) 20:58:13.38 ID:???
DNA 0104

フェルナンドは、レーヴェ大尉の素顔を見つめた。
黄金の髪に青い双眸。その容姿は、人を、スペースノイドの心を波立たせる。
「君は・・・」
シャア・アズナブルなのか?と問いかけそうになり、フェルナンドはあやうく自分を押しとどめた。
本人ではありえない。彼は若く、シャアのダカールの演説時に近い年頃だろう。
だが、似すぎている・・・。
「君は、それを知ってどうするつもりなのかね」
かなりの間を空けて、フェルナンドは問いを返した。
「情報がなければ、何もしようもありません」
レーヴェ大尉がわずかに唇をほころばせた。
「よりよい行動を行うために、正確な情報が欲しいというところです。
【ニルヴァーナ】にとっても【ケイローン】にとっても。そして二人の女性が、知らずして、トラブルに
巻き込まれていたら、それを回避させたいと思っております。ですが、艦内の配置すらわからぬ
現状では動きようがない」
【ニルヴァーナ】の船主は、インストリウム社である。
モビルスーツの発注者ではない。
上層部から発注者の代理人たるアティアに最大限の便宜を図るよう、指示されているが、
モビルスーツ以外の荷物は、インストリウム社にとっては無関係である。
しかし、もう一つ、アナハイム社から追加されたコンテナがあった。
スペア用の備品とされていたが、中身を確認したわけではない。
そして、それを運び入れたのは、トマス・スティーブン、アナハイム社の弁護士である。
少々、うろんなものを感じて、非常時条項を利用し、【ケイローン】のパイロットを、せめてモビルスーツデッキまでは出入りできるよう、アティアに提案したのは、フェルナンド自身だった。
年若い者の経験の不足を補うのが、艦長であり、年長者である自分の責務であると考えたのだ。
「確かに、トラブルは未然に回避できるのが一番望ましいが、積荷の開示は現時点では
無理な相談だ。」
二人の【ブルークロス】のパイロットが、目を見合わせた。視線が自分に戻るのを待って
フェルナンドは言葉を続けた。
「ただし、万が一、艦内に襲撃者が入り込んだ場合を想定して、積荷の置き場所を確認したい
という意向はもっともだ。したがって、艦内の視察をパイロットチームの大尉、
4人に限って許可しよう」
296通常の名無しさんの3倍:2011/08/10(水) 00:37:41.23 ID:???
DNA 0105

【ケイローン】が襲撃を受けること予想して、アティアとイリーナ、そして双子の4人は
緊急時の脱出ハッチ脇の部屋に移った。
万が一の場合、MSパイロットの一人が、護衛につくことになる。
イリーナは人員をさくことはないと一度は断ったが、双子もいることを強調して、セイエン副長が
強引に決定していた。
オリビエが、新しい部屋をのぞきに行くと、そこにはアティアが一人でいた。
PCに向かって何かを書いている。
双子とイリーナは、アシェンバッハ少佐の手伝いに行っているという。
「何かご不自由はないですか?」
「特段は」
アティアは首を振って答えた。
「お仕事ですか?」
「納期はそうそう延ばせませんもの」
言いながら、アティアはPCへ向き直った。話は終わりという態度だ。
オリビエは背後から、アティアに問いかけた。
「モビルスーツ関連の?」
「いえ、これは玩具用のプログラミング。ハロはご存知でしょ?」
「知らない人のほうが少ないでしょう」
「汎用のハロのプログラミングを、個人用のスペシャルバージョンとしてカスタマイズ
しているんです。ごく個人的なサイドビジネスですわ」
「仕事の幅が広いんですね。以前、【ケイローン】にいたときは、医療と整備をこないしていたとか」
アティアが、キーボードを打つ手を止めて、オリビエへと向き直った。
「私に興味がおあり?」
「好奇心が旺盛な性質(タチ)なもので。あなたのことは、とても興味深く思ってます」
アティアが小首をかしげた。
「それは、個人として?それとも役目として?」
「・・・個人としてもですが、今は役目を果たしませんと」
「今はどんな役目を、果たそうとなさっているのかしらね」
アティアが少々芝居ががった台詞をはいた。
「今の私は、【ブルークロス】のパイロットで、それ以上でもそれ以下でもありません」
「あら、ご謙遜。【ケイローン】のエースともあろう方が」
「こういう会話は、プライベートでは、大歓迎なんですがね」
オリビエは肩をすくめてみせた。
「今は時間がない。」
297通常の名無しさんの3倍:2011/08/12(金) 20:24:20.88 ID:???
DNA 0106

【ニルヴァーナ】の艦内視察の内諾を得た二人は、フェルナンドと共に艦内を見て回った。
「ここから向こうが、ミズ・アティア達の部屋、その脇の二つがトマスとその妻女の
ミズ・アイーシャがいる部屋だ」
「トマス氏には会えるのですか?」
レーヴェはフェルナンド艦長に問いかけた。
「事前に部屋に連絡すれば可能だろう」
「トマス氏に、ぜひお話をうかがいたいのですが」
フェルナンドは渋面を作った。
「先ほども言った通り、積荷の開示は、クライアントの代理人のミズ・アティアの立会いも必要になる」
「いや、ですが、弁護士たるトマス氏と先に話あっておきたいものです。
それに、襲撃があった場合の対処方などお教えできると考えているのですよ。我々は」
セルゲイが言った。
トマス・スティーブンとの接点は、今までほとんどないに等しい。
どのような人物か知っておく必要を二人は感じていた。
「できれば、奥方も一緒にお会いしたほうがよろしいでしょう。」
セルゲイのゆったりした口調は、その容貌とあいまって、説得力をもって人に聞こえる。
案の定、フェルナンド艦長は、「トマス氏に話をしてみよう」と譲歩した。
「敵は待ってはくれません。このままお部屋をお尋ねしたい」
レーヴェはフェルナンド艦長に畳み掛けた。セルゲイも同調する。
「部屋の目の前まで来ているのです。時間を節約したほうがよいのではありませんか?」
フェルナンド艦長も必要性は感じていたのだろう、交互に、二人の大尉を見たあと、
よかろうとうなづいた。
298通常の名無しさんの3倍:2011/08/12(金) 21:16:53.59 ID:???
DNA 0107

「レーヴェはああみえて、情が深く直情型だ。そして【ケイローン】をよりどころ
にしている。その【ケイローン】に不利益をもたらす人間がいれば、敵とみなして
全力で排除しますよ」
オリビエが言うと、アティアは唇の両端をあげた。
「クライアントと対立しても?」
「違法な物資を運んでいたとなったら、我々はたばかられていたことになる。
それを告発するのは、倫理上も契約上もなんら問題はない」
「違法なものね。たとえば?」
「いろいろありますがね。一番の危険物はあなたですよ。アティア」
オリビエは、ずれてもいない眼鏡の位置を直した。
「勝手ながら、貴方の経歴を調べさせてもらいました。アティア・セラマチなる人物は
【ケイローン】はおろか【ブルークロス】に在籍した記録がありません。あなたがかつて
この艦にいたことは、みな知っているのにね」
「名簿の不備ではないのかしら?」
「本社の記録にもなかったのに、でもですか?」
「本社に問い合わせしたの?」
「直截にはしていませんが。データの一部が破損したので、新しいデーターをもらっただけです。
この辺境からデーターが取り寄せられるなんて、テクノロジーの賜物ですね」
2キロほどの岩石を一定間隔で固定させて、レーザー通信網を引くという構想は、
ハマーンカーンがいた、第一次ネオジオンのものであった。
地球圏から遠く離れ、情報が隔絶されたアステロイドベルトで生活していた、
彼らならではの発想だった。
「もし、あなたの入隊手続きが正式でないものだとしたら、それを行った、オルシーオ艦長と
Dr.サキにも塁が及ぶことになる」
オルシーオとDr.サキの名前をだされたアティアが、初めて表情を揺らがせた。
299通常の名無しさんの3倍:2011/08/16(火) 20:40:45.64 ID:???
DNA 0108

トマスとの面談は、あっさりと実現した。
フェルナンド艦長が、ハンドフォンで面談を申し入れるとすぐに、部屋の扉が開き、
中背で、やや恰幅のよいトマスが、室内に3人を招きいれた。
スウートのつくりになっている客室には、スカーフで髪の毛を隠した女性がいた。
「妻のアイーシャです。」
女性が軽くうなづいた。
「【ブルークロス】のレーヴェです」
「同じく、セルゲイです」
男四人がソファに腰をかけると、やや離れた場所にある椅子にアイーシャが座った。
「お仕事とはいえ、弁護士さんも大変ですな。火星と月の往復の上、襲撃にまで警戒しなければ
ならないのですから」
セルゲイが口火を切ると、トマスは首を振った。
「いや、【ブルークロス】のお仕事に比べれば大変というほどのことでもありませんよ」
「それで」とトマスが話を即した。
「先日の襲撃で、明らかに【ニルヴァーナ】が狙われているのは分かりました。また、
狙っているのは、連邦軍と深いかかわりを持っている組織だということも」
レーヴェは連邦軍とは断定しなかった。
トマスは黙っていた。表情にも動揺の色は見られない。
連邦軍と聞いて顔色を変えたのは、トマスではなくフェルナンド艦長の方だった。
「私達は、ビリディアンに乗りました。確かに性能は向上しているが、革新的な技術が使用されて
いるわけではありません。ビリディアンを汎用、基本としたバリエーションならば、
民間の護衛用の域をでていない。その民間の護衛用モビルスーツを奪うために、
連邦軍の最新鋭のモビルスーツをぶつけてくる海賊などいません」
「襲撃側のそれが、連邦軍の最新鋭のモビルスーツと、なぜ断言できる?」
フェルナンド艦長が言った。レーヴェはそれに答えた。
「私は、4年前に【ブルークロス】に入るまで、月面部隊で、連邦軍のMS開発部門の
テストパイロットを兼任していました。そのとき研究・開発の初期段階だったモビルスーツと
襲ってきたモビルスーツの性能は酷似しています」
300通常の名無しさんの3倍:2011/08/21(日) 19:34:03.68 ID:???
DNA  0109

「我々のモビルスーツが目的でないとしたら、何のために、【ニルヴァーナ】を
狙うというのですかね」
トマスは、自分にはまるで覚えがないという口調だった。
「・・・アティア・セラマチ」
とレーヴェは低い声で言った。部屋にいた他の4人の注意が、レーヴェに注がれるのを感じる。
「モビルスーツの開発者で、アナハイム社とインストリウム社にモビルスーツの開発を依頼できる
ほどの企業の代理人。これからの火星開発に関わるであろう彼女の人脈と頭脳を欲する
組織はそれこそ、コロニーの数ほどいるでしょう」
「だからと言って、連邦軍が民間船を襲撃など」
「連邦の正規軍ならば、そんなことはしないでしょう。しかし、ティターンズのためしもある。
連邦軍に関わるもののすべてが倫理をもって行動するとは限りませんよ」
レーヴェはトマスを見つめ、それからゆっくりとフェルナンド艦長、アイーシャへと視線を移した。
彼女は両手を固く握り締めている。トマスがレーヴェの視線を追って振り返った。
彼は心配ないというように、アイーシャに向かってうなづいた。
301通常の名無しさんの3倍:2011/08/21(日) 19:37:36.83 ID:???
DNA 0110

「レーヴェ大尉の意見は推測にすぎませんな」
トマスは顔を戻して言った。フェルナンド艦長も同意した。さらにレーヴェは言葉を重ねようとした。
彼女のおかれている危険性を認知してもらい、【ニルヴァーナ】のすべての積荷の開示、および
艦内ブロックの開示を承諾させる。
最悪の場合、【ケイローン】への新型モビルスーツの積替え、アティアとイリーナの拘束すら
視野にいれねばならないだろう。
302通常の名無しさんの3倍:2011/08/21(日) 19:39:59.30 ID:???
DNA 0111

「艦長とドクターはあくまで貴方をかばうでしょう。そして、【ケイローン】のクルーも同様に。
しかし、【ブルークロス】は、大きな組織です。完全な一枚岩にはなりえない。
そこへ入隊手続きの不備と連邦軍とのいざこざ公になれば、いかな【カエサル】と
【アスクレピオス】でも、処罰はまぬがれない。レーヴェはそれを恐れている」
オリビエはたたみかけた。
「二人に処罰はありえません」
何を根拠にと言いかけたオリビエをアティアは手で制した。
「ですが、次回の総長選出の際の交渉に、利用される可能性はありますね」
アティアは、椅子から立ち上がると部屋のドアを開けた。
「で、いつまでそこで、待ってるつもりなのかしら?イリーナ?」
オリビエが目をやると、イリーナが軽く肩をすくめた。
扉の外に彼女がいるのはオリビエも気がついていた。彼女はアティアと比べて
気配を殺すのが上手くない。
アティアの手がイリーナの腕を捕らえて、部屋の中に引き込んだ。アティアの視線にイリーナは言った。
「オリビエ大尉、心配はもっともだが、レーヴェ大尉の動向は、セルゲイが把握して
くれている」
「セルゲイが?」
オリビエの問いにイリーナは笑って答えた。
303通常の名無しさんの3倍:2011/08/21(日) 19:51:06.41 ID:???
DNA 0112

「レーヴェ大尉」
セルゲイがレーヴェに待ったをかけた。
「現時点での問題は、【ニルヴァーナ】の主要箇所に【ブルークロス】の人間が自由に出入り
できないこと、積荷が我々への申告より多いことだ」
「積荷が多い?」
トマスの呈した疑念にセルゲイが説明をはじめた。
「インストリウム社から運び込まれたのは、6機のモビルスーツと予備部品の
大型コンテナが二つ、さらにアナハイムから1つの大型コンテナが追加。
アティアの預かるハロ用の小型コンテナが一つ」
セルゲイは積んでいる荷物を数えあげた。
「乗船するのは、【ニルヴァーナ】のクルー40名と発注企業の代理人とその秘書、
アティアとイリーナアナハイムの弁護士、一名」
つまり、とセルゲイは続けた。
「ミズ・アイーシャ、貴方は我々に提示されたリストに載っていない。
したがって、貴方の持ち込んだ荷物も貴方自身も【ブルークロス】の保護下にはないということです」
304通常の名無しさんの3倍:2011/08/21(日) 19:54:09.01 ID:???
DNA 0113

今まで落ち着き払っていたトマスの顔が変わる。フェルナンド艦長も驚いた顔で、セルゲイを見つめていた。レーヴェ自身もセルゲイの言葉に驚いていた。
「わたくしが密航者だとおっしゃるのですか?」
アイーシャが口を開いた。感情を押し殺した抑揚のない声だった。
「少なくとも【ブルークロス】の契約では、リストに載っていないあなたを拘束監視する義務が
生じます」
トマスが立ち上がり、アイーシャのそばへと行こうとする。
「レーヴェ大尉、トマス氏の確保を」
セルゲイが指示をする。レーヴェはトマスの腕を取り拘束をした。
「何をする!!」
トマスは拘束を逃れようとした。存外に力強い抵抗をする。
その間にセルゲイがアイーシャに近づいていた。
「【ケイローン】へご同道願えますか?」
あくまで物柔らかなセルゲイの口調だった。アイーシャは拘束されているトマスを
見て、静かに言った。
「分かりました。参りましょう」
305通常の名無しさんの3倍:2011/08/24(水) 20:23:16.49 ID:???
DNA 0114

「お聞きわけくださってありがとうございます。単なる書類上の不備かも
しれませんが、今は確認の取りようがありません。ご不便ですが、
お二人を【ブルークロス】の監視下におかせていただきます」
セルゲイがそういうと、トマスも抵抗を止め、大人しくなった。
しかし、レーヴェは拘束を緩めなかった。事情がはっきりと分かるまでは、
彼らを全面的に信ずることはできないからだ。
セルゲイがハンドフォンを使用して、タチアナ達を呼び寄せた。
フェルナンド艦長も、警備担当のクルーを呼び寄せる。
「これから、詳細をお聞きするため、【ケイローン】にお二人をお連れしますが、よろしいですね?」
疑問形だが、有無を言わせぬ口調でセルゲイがフェルナンド艦長に確認した。
身分証を確認、乗船を許可したのは艦長たるフェルナンドである。その責任は相応
にかかってくる。フェルナンド艦長としては自分達で、話を聞きたいところだろうが、
負い目があるため強くでられぬのを見越した発言だった。
ほどなく、【ニルヴァーナ】のクルー3名と共に、タチアナとアショーカがやってきた。
【ケイローン】のパイロット達は、弁護士夫婦の荷物を手早く詰め込んだ。
「では、参りましょうか」
セルゲイとタチアナは、突きつけるまではいかないものの、銃を手にして
トマス達をモビルスーツデッキまで降りるよう指示をした。
306通常の名無しさんの3倍:2011/08/24(水) 20:38:57.15 ID:???
DNA 0115

デッキに下りると、2台のモビルスーツと緊急用の脱出カプセルを用意した。
カプセルをモビルスーツで運ぶのだった。
「レーヴェ大尉、タチアナと一緒に【ケイローン】までお二人を運ぶのをお願いする」
セルゲイの言葉にレーヴェは黙ってうなづいた。
聞きたいことは、山ほどあったが、【ニルヴァーナ】のクルーの前で話すことではない。
「身の回りのお荷物は、我々が交代する際に運びます。」
セルゲイは言いながら、トマス達をカプセルへと入らせた。
「いない間は、レーヴェ隊の指揮を私がとるということで、いいか?」
自分が、【ケイローン】へ行くなら、どのみちそうするしか方法はないが、セルゲイは
律儀に指揮権の一時的な委譲の確認をした。
「ああ、よろしく頼む」
サングラスを外して、レーヴェはコーラルペネロペーへと上がった。
「大尉、パイロットスーツは?」
クロムがスーツを持って追いかけてきた。受け取って操縦席の下へと放り込む。
「レーヴェ大尉」
「たいした距離じゃない。わざわざ着替えるまでもないさ」
機体の中に滑り込んで、ハッチを閉ざした。
307通常の名無しさんの3倍:2011/08/24(水) 20:48:13.43 ID:???
乙です
308通常の名無しさんの3倍:2011/08/24(水) 21:01:34.78 ID:???
DNA 0116

「イリーナ」
セルゲイの名前を聞いたアティアが軽くイリーナをにらむと、赤い髪を掻きあげて
イリーナは言った。
「文句ならいくらでも聞く。だが、アティアが危険を冒すのを阻止するのが、私の
役目だ」
「たいした危険とは思えないけれど?」
「自らを餌に【クローノス】を呼び込むのが?」
「曲がりなりにも、連邦軍の一部よ。犯罪者でもない私に手出しはできないでしょう?」
「・・・だが、奴は、連邦軍を名乗らず、襲ってきたぞ」
「でも【ニルヴァーナ】を船体ごと捕獲するには、ある程度の戦力と公的資格が必要でしょう。
私はそれを期待しているのだけれど」
アティアの言葉にオリビエは耳を疑った。自らが守るべき船を捕獲させる?
「いいのか?そこのトッチャンボウヤが聞いてるぞ」
イリーナが、オリビエを視線で示す。
「ここまできて、秘密にしても意味がないでしょう。イリーナもプロフェッサーも【ブルークロス】を
巻き込む気満々で、オルシーオ艦長もセイエンも巻き込まれる気満々なんですもの」
309通常の名無しさんの3倍:2011/08/24(水) 21:28:57.67 ID:???
DNA 0117

アティアがゆっくりとオリビエを振り返る。
「こうして、火中の栗を拾う人も現れてしまうし。余計な荷物まで載ってくるんですもの。
少々、想定外。でも、長年の懸案を一気に片付けるチャンスでもあるかしらね」
星の輝きを宿した瞳が、まっすぐにオリビエを捕らえた。
「直接、私に踏み込んだんですもの。ご協力、願えますでしょ?」
それは、お願いではなく、けしてノーと言えない命令だった。
「・・・で、何をすればいいんですか?」
「とりあえずは、お姫様のおもりを」
あなたのことですか?と言いかけてオリビエは危うく口をつぐんだ。
310通常の名無しさんの3倍:2011/08/24(水) 21:43:01.24 ID:???
閑話

火星で、塩水の流れた後が見つかったらしい。
遠い未来に、火星移民が実現するかもしれん。
その際に、宇宙世紀(UC)と本当になったら、うれしい。
(ただし、惑星間戦争はフィクションのみにしてほしいものだが)

書き込んでいる最中にリアタイムでの 乙は、まさしく想定外でした。

閑話休題
311通常の名無しさんの3倍:2011/08/28(日) 21:56:21.04 ID:???
DNA 0118

「ようこそ、【ケイローン】へ」
ブリーフィングルームに入ってきたトマスとアイーシャにオルシーオ艦長は言った。
「ご苦労さまです」
セイエン副長が二人の背後に立つレーヴェとタチアナに声をかける。
パイロット二人は短く敬礼をして部屋を出て行こうとした。
「待ちなさい、レーヴェ、タチアナ。二人にもこの話し合いに立ち会ってもらいます」
「イエッサー」
タチアナがすぐさま答えるのにやや遅れて、レーヴェも承知の返答をした。
「どうぞお座りください」
オルシーオ艦長が椅子を指し示すと二人はあいまいにうなずいて、椅子に座った。
艦長と副長、ドクターサキとアティアが座り、レーヴェとタチアナはドアの前に、
オリビエは艦長と副長の背後、イリーナはアティアとドクターの後ろに立った。
予期せぬ客人達は、固い表情でそのさまを見ていた。
「さて、あなた方は、火星までの渡航において、正式な手続きを【ブルークロス】に対して行って
いない、つまり、契約違反と身分詐称の疑惑をもたれているわけです」
セイエン副長が話を切り出した。
「私達の身分証明証は正式なものだ。妻の同行は急に決定したので、【ブルークロス】への
通達が遅れてしまっただけです」
トマスが言うと、副長はアティアに問う。
「ミズ・アティア、半年間のアナハイムとインストリウムでの勤務および交渉の間
トマス・スティーブン氏と会ったことはないというお話でしたね」
「ええ」
312通常の名無しさんの3倍:2011/08/28(日) 22:03:03.62 ID:???
DNA 0119

「ミズ・アティアは技術者ですよ。法務畑の私と面識がなくて当然でしょう。まして、私は
緊急入院した前任者の代理として、【ニルヴァーナ】に乗ることになったのですから」
「確かに、代理の申請はいただいております。ご提出の身分証明も本物でした」
セイエン副長はトマスの言葉を肯定した。
「ならば・・・」
「しかし、貴方、ミスタートマスとは、私どもと、以前にお会いしましたね」
セイエン副長が横にいるアティアをちらりと視線を投げながら言った。
「もう五年近くも前になるでしょうか?あの時はわたくしどもも別の名前を名乗っておりましたが。
貴方がご健在で、うれしく思いますよ。そうでしょう?アティア」
副長の言葉には、皮肉ではなく、真実、無事をを喜ぶ響きがあった。
その声に答えてアティアはかすかにうなづいた。
「お久しぶりです。トマス、いえ、マフティーのカラスとお呼びしたほうが話が早いでしょうか?」
ごくゆっくりとアティアが言った。
マフティーの名を聞いて、レーヴェとオリビエは視線を合わせた。
ホワイトベースの元艦長、ブライト・ノアの子息であるハサウェイ・ノアが処刑されたのは、
UC105年、今から8年前である。その後、マフティーは地下へと潜伏し、表立っての大きな活動は
していない。どこで、アティアと副長は彼らと会ったのか。
「私達は・・・」
否定の言葉を言いかけて、トマス氏はセイエンとアティアの顔を見比べて、困ったような、怒った
ような複雑な表情をして黙り込んだ。
部屋の中に沈黙が降りる。やがて、ため息をついてトマスが言った。
「・・・今、初めて、あなた方の正体が分かりましたよ。ドクター、お嬢さん」
313通常の名無しさんの3倍:2011/09/01(木) 01:36:15.36 ID:???
DNA 0120

黒紅のモビルスーツから降りたパイロットが灰銀色のヘルメットを脱いだ。
白とみがまうばかりの淡い金髪が肩先に落ちる。
「お疲れ様です。ダクラン中佐」
氷のような青灰色の瞳が士官に向けられ、ヘルメットが放られた。
技術士官はそれを受け止めた。ヘルメットの中には、サイコフレーム式の情報チップが
埋められ、戦闘データが蓄積されている。
そのデータを使用すれば、パイロットの体感そのままに、戦闘が再現される。
「ニュクス・ガンダムの性能はいかがでありましたか?」
ブリッジに上がるダクラン中佐を追いかける形で、技術士官を束ねるチェン少佐が尋ねた。
「試作機にしてはまあまあだ、チェン少佐」
低く、硬質な声が響いた。
「最大級のホメ言葉ですな」
チェンは自分より10歳は若い上官の言葉に満足げに笑った。
「敵のモビルスーツの性能もなかなかのものだった。パイロットも悪くない腕をしていたがな」
「噂の”ケイローンの赤い彗星”でありますか?」
「おそらくは」
だが、まだ子供だと、ダクランは薄く嗤った。
314通常の名無しさんの3倍:2011/09/06(火) 23:13:43.70 ID:???
DNA 0121

「さて」
出撃したパイロット達を集め、ダクラン中佐が言った。
「【ブルークロス】の第一デビジョンとは以前に共同の作戦を行ったことはあるが、対峙するのは
初めてのことだ。今回の戦闘でみながどう感じたか、忌憚ない意見を述べてもらいたい」
「噂に違わぬ勘の良さでありました」
最初に口を開いたのはコンラート・ベルガー大尉だった。
「我々、自分とテオドールとイルマリの三人は、円陣を組んだモビルスーツを背後から
撃ちましたが、ことごとくかわされております」
「円陣の中心には、新兵がいて、その訓練をしていたにもかかわらず、あらかじめ
攻撃を知っていたようなすばやさでした」
とイルマリ・ライネン少尉が言った。
「速やかに、二機に新兵を守らせつつ退避させ、二対三で我々と対峙、二機は【ニルヴァーナ】へ
向かう連携は見事です」
賞賛を口にしつつもテオドール・ヴィルケ曹長は、疑念を呈した。
「ですが、あまり怖い相手とは思えませんでした」
「確かに、以前ほどの強さとプレッシャーは感じられませんでしたね」
興味深げにダクラン中佐がイルマリ少尉の顔を見た。
「中佐と我々が知る【ケイローン】は、4年以上前のメンバーであります。情報によりますと
レディ・ハリケーンと呼ばれていた、イリーナ中佐は退職しており、ジュール・セイエン中佐も一線を
退いているとか。そのあたりが原因かもしれません」
「ネヴィルらはどう感じたか?」
ダクラン少佐が、【ニルヴァーナ】へ攻撃をかけた一同に水を向けた。
315通常の名無しさんの3倍
DNA 0122

「我々も、上手いとは感じましたが、強いとは思えませんでしたな」
やや薄くなってきている赤茶の髪を振り立てるようにネヴィル・イエーガー大尉は首を振った。
「闘っているというよりは、訓練を受けているような、相手がコクピットの直撃を避けて
攻撃してくるせいでもありましょうが」
ハインリッヒ・バーダー少尉、セシル・コルベール少尉、ジョージ・サザーランド曹長もうなづいた。
ニコラ・モンフォール中尉だけが、かすかに眉をひそめた。
「ダクラン中佐が相手をしていた、赤いモビルスーツは、かなりの腕と見受けました。
相手は、コクピットを狙わずに我らと対峙できる腕をもっているということです。甘くみるのは
禁物です」
然りと、ダクラン中佐がうなづく。それに力を得るようにニコラ中尉が言う。
「彼らは、【ブルークロス】だ。宇宙にただ一つの組織化された、ニュータイプ部隊といえる。
彼らは我々の殺気のなさを感じとったればこそ、本気にならなかったのかもしれん」
ニ敵を軽んじる向きに釘を刺した形の意見だった。
「ですが、我々とて」
テオドール曹長が言いかけた言葉をさえぎるように、ダクラン中佐が言葉をかぶせる。
「もちろん、君らも次代を担う、「ニュータイプ」、いや、ホモ・サピエンス・エボリューションともいうべき資質を持っている。その能力をもって、宇宙に秩序をもたらそうという諸君らの自負は、尊重されるべきものだ」
常には硬質な声音と違い、やや熱を帯びた口調であった。一同はその声音に自尊心をくすぐられ
心を高揚させた。
「しかし、【ブルークロス】は、ニュータイプを利用する術においては、我々より一日の長がある。
NT能力があるものを見分け、取り込み、自分らの組織へと組み込むその術は、狡猾といっていい
ほど見事なものだ」