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葉隠:
武士道といふは、死ぬ事と見付けたり。
二つ二つの場にて、早く死ぬ方に片附くばかりなり。
別に仔細なし。
胸すわって進むなり。
図に当たらぬは犬死などといふ事は、上方風の打ち上がりたる武道なるべし。
二つ二つの場にて図に当たるやうにする事は及ばざる事なり。
我人、生くる方が好きなり。多分好きの方に理が附くべし。
若し図にはずれて生きたらば腰抜けなり。この堺危きなり。
図にはずれて死にたらば、犬死気違いなり。恥にはならず。これが武道に丈夫なり。
毎朝毎夕、改めては死に、改めては死に、常住死身なりて居る時は、
武道に自由を得、一生落度なく、家職仕果すべきなり。