ディアナ・ソレルのよしなに日記 in2007

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640番外編・1
姉がディアナ様の代わりに月へ旅立つとすべてのことが自分の身に降りかかってきたことに気が付いた
鉱山の方はすっかり機械人形堀がメインになってしまいグエン様がいなくなってからはリリ様と富を分け合う形になっていて
収益の方は問題ないのだけど何か物足りない毎日
親しい人達がどんどん自分の周囲から去ってしまい、今では病気の母と使用人だけの寂しい家
それでもまだ母が居てくれるだけでどれほど気が紛らわされていることか

ある夏の日、一本の電話が鳴りそれを母が受けていた
ノックスで倒れられた頃よりかなりよくなって今では日常会話も問題なくいつ父の死を伝えるかだけが問題になっていた
「あら?本当に?私おばあさまになってしまうの?」
母の喜ぶ声を聞いて驚いた、母はまた妄想を口にしているのだろうか?
慌てて駆け寄る母が私に受話器を渡しながら
「ソシエさん、キエルさんが妊娠ですって、まあどうしましょう」
母の目には涙が浮かんでいた

電話の受話器を受け取った私は複雑な心境で言葉をいろいろと選んでいた
「ソシエさんですか?私母親になることになりまして、その報告を、まさかこんなにうれしいものだとは」
姉の代わりに地球に残ったディアナ様がとてもうれしそうな声だった
なんだかわからないけど私も涙が出てきて、苦労されてきたディアナ様に心からおめでとうと思う気持ちと
ロランが本当に遠いところへ行ってしまった気持ちと、自分だけが取り残されてしまった気持ちと
よくわからないけど泣きながらディアナ様に
「おめでとうございます、生まれてくるお子様のためにもお体にお気をつけください、栄養のあるものをたくさん食べて。。」
「ありがとう、ありがとうソシエさん。。。」
ディアナ様もつられてしまったのか涙声でした
641番外編・2:2008/05/26(月) 11:28:53 ID:ar9Oxauo
その晩、ガレージでロランが置いていった自転車やかばんを見ていた
あの頃は楽しかったなあ、父上が居て母も元気で、姉も身近にいたし何よりロランがいたし
本当に寂しくなってしまったなあ、もしギャバンが生きていたならば私はどうしたのだろうか?
あのまま実感のないまま結婚してそれなりに幸せに暮らしていたのだろうか?
今の私ならばそれでも幸せと感じらるけどあの頃の私はその幸せに気付けるのだろうか?
ロランのかばんを開けるとそこには月から持ってきたという金魚のおもちゃが入っていた
元々ロランとの出会いはこの金魚だったなあ、でもあの時もお姉さまと一緒だったし
成人式の時だってこの金魚と一緒だったロラン、月でも地球でもロランはずっとこの私が今抱いている
孤独を感じていたのかしら?
おぼれてまで無くしたくないと思っていたこの金魚を今では置いていけるなんて、きっともう孤独ではないのね、ロラン

「ミリシャに居た頃はよかったなあ」
最近ため息と共に良く出るこの言葉が口癖のようになってしまっていた
戦争が怖くて仕方なかったクセに父上の仇と信じ込みディアナカウンターと戦うことだけを考えていればよかったあの頃
いつから歯車が狂っちゃったんだろう?
大好きだったロランがムーンレイスで、お姉さまだと思っていた人がディアナ様で、本当のお姉さまが仇の総大将をしていて
死ぬことと隣合わせだったのにみんな生き生きしていて魅力的だったなあ
私もあの時が一番幸せだったんだろうか?
もしギャバンが生きていたら、今でもあんなに生き生きして居られたのかな?
母は部屋で編み物をしている、自分のまだ見ぬ孫のために、でもその子は本当の母の孫じゃないんだよ
母に本当の孫を見せられるのはだれ?
今まで逃げてきた現実が今日私の喉元に突きつけられてしまった

自転車に乗り坂道を下る、私の今までの人生も自分で歩んできたつもりでも本当はだれかが作ってくれていた坂道を
こうやって下っていただけなのかもしれない
「わーーーーーーーーーーーっ」
よくわからないけど大きな声で叫んでいた
目の前には初めてロランと出会った川、楽しかったあの頃の思い出が走馬灯のように流れていく
金魚を川に向かって投げた、ただただ水の流れに流れていく金魚、まるで無力な私みたい
「わーーーーーーーーーーーっ」
また叫んだ、そして泣いた
ロランを拾った川で、その原因となった金魚を拾わなかったことにして流しても、思い出は流れていかなかった
何度も叫び、何度も泣いた、でもだれも助けには来てくれなかった

気が付けば歩いていた、孤独の淵から這い上がるように夜更けの坂道を自分の力で登っていた
「本当にさようなら、ロラン」