ギレン死せず2

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744通常の名無しさんの3倍
何でこのスレが荒らされてるんだ?
745通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 06:53:06 ID:???
荒らしはパー速池!
746通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 16:55:11 ID:???
マツコ・デラックスが乗車
747通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:00:14 ID:???
序章「訪れの始まり」

 上空にあるのは澄みきった紺碧の色のみだった。そこに雲はなく、ただ原色のような色を広げている。
 その空の下、満開の花々に彩られた桜並木がある。道の始まりにある門柱には尊秋多学院≠ニの文字が刻まれていた。
「確か、このあたりのはずだったけど……」
 呟く声は変声期を終えたばかりのような、僅かな高さの残るテノール。
 少年の名前を、草壁桜と言った。
   ●
「うわ〜、やっぱりすごいおっきいね〜」
「……ドクロちゃん、どうしてあなたはここにいるの?」
 ドクロ、と呼ばれた少女は頬に手を当て、
「……こ、高校デビューを記念して公開野外プレイ?」
「どんな記念だよ! 野外ってチクチクするって雑誌に書いてたじゃないか! それにどうしてドクロちゃんがここにいるの!?」
「やだな〜桜くん、ボクも一緒に高校受験したじゃんっ」
 言われて桜が思い出したのは、私立高校受験日翌日の新聞の一面だった。尊秋多学院で行われた普通科一般受験の面接教官が、ことごとく行方不明になったという内容だった。
 後日、答案に名前しか書いていなかった筈のドクロが首席で合格した直後に、行方不明だった教官が山中で発見された。
 ……世の中って力さえあればどうにでもなるのかなぁ。
「桜くん、桜くん。あの人たちじゃないかなっ」
 隣の廃テンション馬鹿天使が指差すのは、図書館の前に広がる芝生だった。中央あたりに座るのは男子の制服と女子の制服が一人ずつ。
 五人の中央に展開されているのは大きめの重箱が一つ。
 両サイドに白髪の特徴的な髪型をした男が重箱から角煮を摘み、口に入れる寸前で目が合った。
「……おや、もしかして草壁・桜君かね」
「は、はい」
 別に脅されているわけではないが、言葉に詰まる。なんとなく、他の人にない雰囲気を持った人だ。
「私は佐山・御言。尊秋多学院の生徒会会長にして世界の中心だ。ああ、別に私が高貴だからといって卑屈になる必要はない。楽にしたま……」
「ごめんね。この人、頭がかなり変だからあんまり真面目に聞かないでね? ボクは新庄・運切、生徒会の副会長をしてます」
                                                                              
「ふ〜ん♪ふふふ〜ん♪」
上条当麻は機嫌が良かった。銀髪シスターに邪魔されず、ビリビリ電撃娘に喧嘩を売られることなく、超高級黒蜜堂最高級プリンを頬張っていたからだ。
「んにゃ〜こいつはうまいぜよ」
「わは〜!土御門!お前ホントいい奴だな!」
実は級友の土御門元春が奢ってくれたモノなのだが。
「んでかみやん、頼みがあるのだぜよ」
「なんだい、元春くん?喜んで承ろうじゃないか」
久々に幸せメーターの降りきった上条は、自分の不幸頻発体質を省みず言った。
「ちょいと正義の味方を」
「へ?」
と、言ったとき、窓のガラスが破れた。
「……………へ?」
昆虫みたいな、生き物。
「…………へぇ?」
ただし、めっさデカイ。
「………はぁ!?」                       
しかも上に人乗ってる。                                    
「ほんじゃなーかみやんー。そいつを追って変な奴来るけど、引き渡しといてやー」
「アホー!?!出来るかー!!」                               
ぎろり、と虫の上の少年が上条を睨みつけた。土御門は消えている。        
「アンタも……アンタも邪魔すんのかぁ!」                         
「わ、わ、わ!待たんかってば!」                     
逃げる上条。店の外へ連れだして助けを……           
ズドン!!                                
「う、うわっ………!」                         
大砲の轟音。虫に穴があいたのか体液がだくだくと流れている。
「手間をかけさせるなよ、三下が」
声の元を見ると漆黒のコートを着た少年が、これまた虫がくっついたようなグロテスクな銃をぶら下げていた。
                                                                   
それは最強の虫憑き・かっこうと    
異端の能力者・幻想殺しの線が交わる、
絶好で絶悪のハードボイルドストーリー!!
                           
748通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:02:33 ID:???
「幽霊?」
「うん、そうなんだよ佐山くん。ほら、校庭のオブジェわかる? あの卵型してるヤツ」
新庄の話に、佐山は頷きながら新庄のボディラインをチェック。
うむ、今日も新庄くんは素晴らしい。
「ああ、消滅したかと思われたご老体が憎らしいことに帰ってきたその日に校庭に設置したあの卵型だか何かわからないものだね。
 生徒会にも何件かアンケートが寄せられているよ。
 『ジャマだ』『消えろ』『頼むから副会長を大人しくさせてください』『XYZ──校舎の前にて待つ』
 ははは、なかなかオリジナリティにあふれているね?」
「ごめん佐山くん、そのアンケートは多分関係ない」
そうかね、と答えつつ佐山はネクタイを締める。
やはり新庄の前ではいつも真面目でいなければなるまい。
「つまり──その卵型のようにうるわしい赤ちゃんが欲しいのだグァ」
「ああごめん佐山くん、ネクタイが緩んでたみたいだったから」
息苦しい視界の中で新庄の笑顔は晴れ晴れと輝いている。
「とにかくそのオブジェの前に人が現れたとか消えたとか騒ぎが起きてるんだよ。
 風見さんたちにも相談したけどわからないみたいだし」
「ふむ」
新庄の絞首刑から解放されて一息。
「では飛場と美影くん、原川とヒオくんで調査をしてもらおうか」
                                      
「我々UNCLET一行は突然正体不明の敵の攻撃を受k・・・」
カメラ目線でモノローグを始めた女子中学生(のようなもの)にビキニタイプの甲冑
を纏った猫耳少女が突っ込みを入れる                           
「エーックス!わざとらしい説明セリフはやめろt・・・」                  
そこに合いの手を入れるのはライダースーツの少女と車椅子の少女        
「おい、内輪もめしてる場合じゃねえぞ」                          
「どうやら新手が来たようです」                               
見上げた空から鬣と羽を生やした黄金像が降下してくる                 
「オシリス殿、一体何の騒ぎです?」                   
黄金像が話しかけたのは腰から下が球根状になった全身緑色の美女だ
「あからさまに怪しい連中が山に入ってきたので正体を確かめようとしたのだがな」
予想外に手強くて難儀していると語る植物美女の言葉に黄金像も緊張した雰囲気になる
「容易ならぬ相手のようですね・・・」
植物美女が触手を伸ばし黄金像が目から怪光線を放つ
猫耳少女が大剣を振り回し車椅子がホバリングダッシュしながらミサイル発射
爆煙と火柱が交錯する修羅場から少し離れた場所にスーツ姿の美女と学生服の少年がいた
「みんな楽しそうですねえ首領」
「あれは本気で戦ってますよ!大体ただのピクニックのはずだったのに何であんなのが
出てくるんですか!?!」
暗闇の中を駆ける佐山は、己の判断を明確にするべく、走る。
一息をつくとともに浮いた身に緊張をみなぎらせ、着地とともに飛び、また大地を蹴る。
その動きは疾走というよりもベクトルをただ進行のみに振り絞った跳躍に近い。
「先ほどから聞こえる地響き…こちらか」
この空間、先ほどからすれ違う人々は全く身動きもせず固まっている。
時の停止した世界? ならばなぜ自分は動ける?
脳裏に浮かんだ疑問は保留して、走ること数分。
暗闇の中に仄かに明るい影が二つ。
一つは、巨大な赤ん坊のごとき丸々とした物体、それはもう一つの影へと駄々をこねるようにパンチを繰り出している。
もう一つの影は、少女だった。
長身痩躯のその身は揺らめく炎のごとき灼い髪をなびかせ、そして手にはその身の丈もありそうな日本刀が握られている。
日本にこのような人物がいたとは佐山は聞いたことがない。その少女は身軽に、人間とは思えぬ跳躍を繰り返しながら『赤ん坊』の攻撃をかわしている。
だが、決定打になっていない。そしてまた少女は怪物の攻撃をかわす。
「よければその刀を貸して欲しい。」
「ダメ、これはあんたなんかに扱えるものじゃない」
「ならば、きみにトドメを頼もう」
応答の間に赤ん坊がガラガラとビルの中から這い上がってくる。
「彼は困ったことに元気満点のようだ、あと五秒で答えたまえ。あれはなんだ?5・4・3・2・1・0・1・2・3・4・5、いかん十秒数えてしまった」
己の聡明な頭を抱える佐山にあきれるように半眼になりながら、灼眼の少女は問いをつむいだ。
「…オマエ、一体なに?」
「──悪役を希望している」
749通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:04:51 ID:???
―ただし吹き消すのではなく―吸い上げた。
明らかに、「喰って」いるように見えた。
「戯言、だろ」
いくらなんでもこれは―インパクトが有り過ぎだ。
痩せ細り弱っていく灯りの中に、ぼくは完全に取り残されていた。
だが人形どもはどうやら、こちらに気づいたようだった。
話の内容からすると、興味を持ったらしかった。
というか、喋っている。人形が。
キューピーの巨大な腕が、ぼくの身体を鷲掴みにする。
「いただきま―――す!!!」
ぱっくりと開いた大口を瞬きもせずただ見据えるぼくの目の前にその時、
                                             
紅蓮の火球が、墜ちて来た。                          
刹那、キューピーの腕ごと斬り飛ばされて地面に叩き付けられるぼく。
「ぐえ」                                        
まだ腕に掴まれたままなので、受身どころじゃない。          
ま、緩衝材の役割をしてくれたのは有難かったが。        
バウンドしてそのままごろごろと転がる。            
むせながら、どうにか解けた指を押しのけて起き上がる。      
―と、ぼくの目に映ったのは、                
火の粉を散らして燃え立つ、赫く目映い、長い髪。     
次の瞬間ぼくは、他のあらゆる感覚も状況も忘れて、     
黒衣を纏い佇むその圧倒的な存在に、           
小柄な体躯に不釣合いな大太刀を提げたその少女に、    
何よりそのあまりに神々しい灼熱の双眸に、      
ただただ、魅入られて―見入って、いた。        
「君は、誰」                           
ぼくは問う。                         
「私は、フレイムヘイズ」                 
彼女は答えて、躊躇なく容赦なく刀を振り下ろした。 
勿論ぼくは、目を閉じることはなかった。         
「悪役…?」                         
「まだあくまで悪役希望でしかないがね。」    
口ぶりに不機嫌と焦燥を瞳に宿らせる少女を佐山は無視。今は彼女と見つめあうよりもすることがある。
四つんばいになった怪物がこちらを見ている。                                   
心の中で佐山はふむと頭をひねる。この不思議空間、特に重力が変わっているわけでもない。だがこのような場所を作るということは彼らにとって有益があるに違いない。
(それはおそらく、この時間停止ということだろう……ならばなぜ自分は動ける?)                                                       
情報がないこの状態では思考は堂々巡りにならざるをえない、佐山は空間の不備は自身には及んでないとだけ結論づける。                           
「おまえぇぇ、なんだぁ〜?」                                                             
問いを投げかけてくる怪物に答える義理はない。一度背後の少女に眼をむければ彼女はしっかりと両手で刀を握っている。
「オマエ!燐子(ソレ)はあんたなんかが相手にできるやつじゃない! 引っ込んでて!」
「そうはいかない」
答えて、前に出る。
物質が不可解な燐光を発するこの空間、己と、少女と、怪物だけが動く。
怪物にはこちらの格闘はたいした効果を与えられず、少女はもしかしたら自分ごと怪物を叩ききるかもしれない。
難儀なことだ、実に難儀だ。だが、歩みは止めない。
「ここでならば、私は全力を出せるかもしれないのだから」
「このやろぉ、こたえろよぉ〜」
気の抜けた声とともに赤ん坊が動く。その身は声に反して、いや質量に反して軽快だ。
四つんばいだというのにまるで風のようにこちらに向かってくる。その怪物に、佐山はある動作をとった。
背を向けたのだ。
「!? オマエ! 何してるの!」
何かの手品か火を纏う少女のほうへと、佐山は手を振り、笑顔を見せる。
「なんだぁ、降参かぁ?」
「いいかね、これより彼に痛い目を見せる」
怪物が音をたてて向かってくる。
「動きを止めたら、斬りたまえ」
地響きが近づいている。風の音がする。
「つぶれちゃえ!」
佐山のその身を背後から巨大な短い腕が押しつぶした。
750通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:06:35 ID:???
「つぶれた、つぶれたぁ」
ケラケラと笑う赤ん坊、その手は先ほどまで青年がいた場所を張り手で押しつぶしていた。
「…! アイツ!」
「えへへぇ、次はオマエの番だぞぉ、フレイムヘイズぅ〜」
「フン、あんたなんかにワタシがやられるものか! ……アイツもね!」
「なんだ…ぉぅ!?」
少女の声に合わせるように、大砲の音にも聞き間違えそうな蹴音が響いた。
のけぞる赤ん坊、その下には
「──斬りたまえ!」
スーツのトップスを脱ぎ捨てた黒髪に白のメッシュの青年。
「フンッ!」
面白くなさそうに少女は大太刀『贄殿遮那』を両手で構えて跳躍。
相互の距離を一瞬で無きものとした少女は、大きく空中で赤子の腕を斬断する。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!! うで、うでぇぇ〜〜」
ぼぅ、と裂け目から炎が走る。
「よくやった、素早い判断を下してくれたことに感謝する」
振り返ればそこに、拍手をこちらに捧げる青年の姿。
「だが、とどめは刺さないのかね?」
「オマエは黙ってて! こいつには聞くことがあるの!」
フムと少年は一息しながら破けた上着を拾い上げる。
彼は攻撃の刹那で上着を脱ぎ捨てながら背後に下がったのだ。そうして懐に飛び込んだ上で腹部に蹴りを放って仰け反らせた。
一つ間違えればそれこそ死に値する行為、それをやりとげた佐山もだが、その行為に気づく少女の眼力も常人の域を超えている。
「オマエ! 主人の名前はなんというの!」
 堅牢な扉があった。
 その前に立つのは二人の人影。
 片や白のワンピースを纏う少女、片や黒で統一された服を纏う中世的な男性。
 少女が男性を見ると、彼は意図を察したのか前へ一歩歩き、扉の横につけられたインターホンを鳴らす。
 間を置かずして機械からは声が返り、男性は機械越しにいくつか応答をすると元の立ち位置に戻った。
 一呼吸置いて、扉が音を立てて開きだす。
 少女は満足そうにそれを眺め、男性は少女の様子を見て小さく嘆息する。
 扉が完全に開くと少女は足を踏み出す。
 それを迎えたのは眩いほどの光だった。
「なっ……なにっ!?」
 真目麻耶が扉を潜り、屋内に最初の一歩を踏み入れた途端、襲い掛かってきたのは目を開けていられないほどの光。
罠だったのかと身構えるが、次に飛んできたのは銃弾でも刃物でもなく、言葉だった。
「あぁっ、しまったっ! フラッシュを炊きすぎて目を瞑られてしまったぞ! も、もう一回だけ! もう一回だけチャンスを! あの子の生写真を撮るチャンスなんて一生に一回あるかないかだからーっ」
 最前列にいた者たちが哀願するように声を出すが、彼らは前に出ようとする2列目のもの達によって後ろに放り投げられて。
「うるせぇ! それは誰だって同じなんだよっ。さぁさぁ退いた退いたっ、戦場では一瞬一秒が大切なんだからな」
「まったくその通り。前も同じ状況だったというのに、君達は学習能力がなくていかんなあ。まあ一番最初の初々しさというのもいいんだが、それを撮るには高度な技量が必要故、やっぱり凡人のわしらは2枚目で勝負」
 前に出てきた2列目の者達、その中央に立つ、一際目立つ白衣の老人が呟くと周りのものが同意するように頷く。みなの同意を得られたことに気を良くしたのか彼は微笑を浮かべながら対戦車砲と見まがえる巨大なレンズをつけたカメラをこちらに向ける。
 ようやく麻耶は混乱から冷静を取り戻すと、自分が置かれている立場を理解する。自分は取引相手の本拠地に招かれ、そして何故か今撮影をされているということを。
「というわけで気を取り直して、2枚目に行かせてもらうでな〜」
 老人の言葉と共に、前に出たものたちが姿勢を変える。自分達がもっとも得意とする撮影の姿勢に。
 ファインダー越しの視線が集約してくると麻耶は息を飲み、
「ちょ、ちょっとお待ち――」
「はい・ち〜ず」
 反射的に麻耶が背筋を伸ばすと同時に、先ほどよりは控えめのフラッシュ、そしてシャッター音が鳴り響いた。
 巨大なカメラを持つ老人は嬉しそうに笑みを浮かべて、手に持ったカメラを下ろし、
「ははは、驚かせてすまんなあ。真目家のご令嬢、ようこそ日本UCエッ――ぐほっ」
 何かを言おうとして、前に出てきた3列目の者達によって奥のほうへと追いやられていった。
「……怜、ここは確か……」
 この異常な状況になれたか、麻耶は後ろに控えている自分のお目付け役に言葉を発する。
「はい……遺産に関わっていない、かつ真目家とも関わりを持っておらず、しかし協力関係を結ぶことで我々の利となる可能性のある組織ということで選出しました日本UCATです」
 その言葉に嘆息すると、来る前に目を通してきた資料を彼女は思い出す。
751通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:09:45 ID:???
佐山は改めて周囲を見回す。
相変わらずの暗い世界。その中でもやけに輝いているのは少女の髪だ。
(炎のように赤い髪……明らかに光を放っているのはこの不思議現象を関係があるのだろうか)
「アラストール、どう?」
「ふむ、徒ではないな。ただの燐子だ」
「なら、主の名くらいは聞かせてもらおうかしら」
赤ん坊の前で刀を突きつけながら少女が何かを話している。
その声の中には明らかに少女とは違う質のものが混じっている。
大刀を振るう少女の周囲には誰もいない。とすれば、
「いかんな、このような歳から空想と会話するなど……精神病院通いか。ふむ……
 少女、白い家、サナトリウム、満天の星……」
「うるさいわよオマエ!」
空想少女の声で妄想が引き裂かれる。
少女がこちらに向けているのは大刀だ。健全な市民にまで凶器を振るうとは、よほど通院歴が長いに違いない。
見れば、既に刀を振るった後なのか、先ほどの赤ん坊はズダズダに千切れ散乱している。
だが、見かけがそれほどグロテスクでないのは、
「……骨も何もない? これはどういうことかね」
「”燐子”は存在の力を食らいて生きる常世の理ならぬもの。紅世の徒の作り出した下部だ」
目の前の少女から声がする。
よく見ればその少女の胸にぶらさがっているものがある。
宝石と二つのリングの交差で作られているそれは傍目から見ても高価なものだ。
ましてやうっすらと光を放ち、声も放つ。
「意思ある宝石…と見てよいのかね、相当の年季を感じる声だ」
「オマエ! さっきからぶつぶつとうるさい!」
いかん、さすがに無視しすぎたか。ならあ挨拶といこう。
「ごきげんよう、少女よ。私の名は佐山御言、世界の支配者である」
発言した瞬間に風が首元をなぎ払った。
その少女は突然あらわれた。
「あなたは もうすぐしんでしまう。」
雪のように真っ白な少女だった。右の肩にへんな黒猫が乗っていて、手には大きな鎌を持っていた。
「へっ?」
と僕が変な声を出すと、彼女はこう言った。
「わたしにはなにもできない。けど、」「?」
「あなたはきっと、たいせつなものをまもれるとおもう。だって、」
「ちょっと待ってよ」
さっきから、何を言っているのかわからない。僕は、彼女と鼻がくっつきそうになるぐらい近寄って、
「僕はそんな、いきなり突拍子もなく…」
とそのとき、後ろからどす黒いオーラと共に、
「さぁ〜くぅ〜らぁ〜くぅ〜ん」というこえが……
「ド、ドクロちゃんッ!?」
「何でそんなにお顔を近付けていたのっ!?だいたい、ボクずっと部室でまっていたんだよっ!
それなのに、ボクをほっといてここでなにやってるのさ!その女の子とへんなことしてたのっ!?」
「いやいやいやいやいやっ!これはちがいますっ!」
よくみると、彼女は給食着をきて木工ボンドをもっています。
 「ボク、ずっとさみしかったんだから……ッ」
ドクロちゃんは給食着のそでで涙をぬぐった彼女が僕に向けたのは鋼鉄バット『エ
スカリボルグ』。刹那、僕のカラダは<ズドン>という音をたてて、グズグズの原
形をとどめない肉塊になりながら遠くまでトンでいきマッス。
少女が泣いていました。少女の肩の黒猫が目をおおっていました。「サクラくん!」                                          ぴぴるぴるぴるぴぴぴるぴ〜♪ 
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
「へ〜、モモは死神なんだ。僕は草壁サクラ。よろしくね。さっきは怖がらせて
ごめんね?ドクロちゃんってあんな人なんだ」                       
「そうなんだ。でも、サクラ君は強いね」「なんで?」                   
「だって、ドクロちゃんのような人と毎日過ごしていて精神異常をおこさないで      
いられるのは、サクラ君だけだとおもう」                           
そう言うと、モモはとても綺麗に笑いました。その綺麗な笑顔をみながら、僕は       
ふと、人を撲殺するドクロちゃんより、モモの方が天使みたいだと思いました。          
そして、「ドクロちゃんの方が、死神みたい……」                         
そのこえをスルドク聞き付けたドクロちゃんは、                       
「サクラ君のバカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!!!!!」                                         ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪
752通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:14:09 ID:???
佐山は大太刀をスウェーバックで回避すると、かすった顎を抑えながら少女に言葉をかける。
 「さすがに今のは私も死を覚悟したよ…いい振り切りだった」
 「かわすんじゃない!」
 なかなか無茶を言う少女がさらなる斬撃を放つ前に、佐山は掌をまっすぐと突き出した。
 「待ちたまえ」
 声に、少女は止まらない。
 だが、この場にいるのは、少女と彼だけではない。
 「待て、この者の話を聞こう」
 「アラストール!?」
 ──”アラストール”。そう呼ばれた”声”が少女の動きを制した。「この者、封絶の中でこうして動いている。
  徒でもなく、フレイムヘイズでもないものがこのように何の意も介さずに正気を保っている。
  興味がある、一度話を聞いてみてもよかろう」
 「…アラストールが、そう言うなら」
 渋々と少女はその刃を構えたまま、だが一応攻撃姿勢をといて見せた。よほどこの”声”には逆らいがたい恩義があるのだろう。あるいは、契約か。
 「口添え感謝する、ご老人……で、よいのかね?」 「構わぬ。人間、佐山といったな。いい胆力を持っている」
 「なに、山猿に自然の中でしごかれて何度か死にかけている。これくらいはどうということはない。
 そういえばあの山猿め、人間の生活を忘れさせてやろうと、蜂蜜をまぶして熊の巣に縄でまいて落としたというのに、まだ生きているのだから困ったものだ」
 「…アラストール、コイツ、やっぱり変」
 そうつぶやく少女に、宝石から「同感だ」との声があがるのを佐山ははっきり耳にした。
 「とりあえずこの空間はどうにかならぬのかね。暗いとも明るいとも言いがたいので新手のお化け屋敷のように思うのだが」
 尋ねると、少女と宝石はなにやら言葉を交わす。
 「アラストール、徒の気配は?」
 「付近にはないな。だが、佐山、お主が元いた場所はどこになる?」
 「この商店街を抜け出た尊秋田学園の三階だが」
!?
 少女の顔に明らかな驚きが走った。
 それは、封絶の不自然な大きさへの驚きでもあるが、それだけではない。
 (コイツ……そんな場所からわざわざココへ来たの?)
 「…お主が突然いなくなったということになるが、構わぬか?」
 「私の特技に瞬間移動が増えてうれしい限りだ。構わぬよ」
 「ならば、よかろう」
 宝石からの声に明らかな肯きが含まれると、少女がコクリと肯いた。
 やがて、ビルの瓦礫に巻き込まれたらしい母娘の姿を見つけると、何事かをつぶやいてから指先を空にかざした。
 「この二人、もう助からないわ。この二人でいいわね」
 ──何のことだ?
 佐山が疑問に思うよりも早く、先ほどの怪物がしたと同じこと。
 ほのかな”火”が親子の体から抜け出て少女の指先に集まってゆく。
 やがて、小さな粒子となった”火”が周囲を舐めるように燃え移ると、先ほど崩れたビルなどが元通りに修復されてゆく。
 「これは……」
 「修復が済み次第、封絶を解除する。
  人気のない場所へ移動したほうがよかろう」
 厳然としたアラストールの声に、佐山は軽く息を吐いた。
 「全ての話はその後か。ならばよい場所がある、人がなぜか来ない特等席が」
 「なら、そこでいいわ」
 少女が移動に窮屈なためか、大太刀を外套に収めながら了承したのをみて、佐山は続けた。
 「私の部屋だ」
 尊秋田学園の昼休み。
 生徒たちは一部を除いて学生食堂へと駆けて行く。
 その廊下を往来する途中で、英語教師である女性はどうしたものかと小首をかしげていた。
 今日の昼から登校するはずの転入生が来ないのだ。
 確か予定では母とともにこちらへ来るとのことだったが…。「心配ですねぇ……」
 「何を心配しているかね、大樹先生」
 びびくっ、と背筋を震わせて教師が振り返ると、そこには端正な顔の少年の姿。
 「び、びっくりしたなぁもうっ。いきなり何ですか、佐山くん」
 「その前に先生、いったいいつの生まれかね。確か帰国子女ではなかったか?」「えへん、先生は勉強熱心なのです」
 そうか、ご苦労なことだと佐山は応える。
 「あー、そういえば佐山くん、さっき授業時間中に何したんですか? 風見さんと出雲くんが騒いでましたよ」「あの二人が騒いでいるのはいつものことなので気にしなくていいではないか」
 それもそうか、と女教師はうなずく。     
 「それよりも何か心配事があるようだったが、自分の成績の悪さに飛び降り自殺でも考えていたのならやめておきたまえ。
 教師として先生は尊敬される対象であるべきだ」                                              
753通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:17:03 ID:???
「アラストール、なんであんなヤツの言うとおりにしてるの? アイツ、なんか嫌い」
「落ち着くのだ」
ここは尊秋田学園、その学生寮の一室。佐山一人に割り当てられた二人部屋だ。
見晴らしもよく、快適そのものの部屋の一室には現在来客である少女の姿がある。
ただ、少女の髪と目は”封絶”の中と違い黒の色をたたえている。
「あの人間、佐山の胆力と身体能力は中々のものだ。それに封絶の中へと紛れ込んだ」
「”トーチ”でもないみたいだった。それにすっごく変」
「単なる人間か、それとも特殊な道具、あるいは何らかの徒と関係している可能性がある。もしかすると紅世の王に作られた特別製のトーチかもしれぬ」
「……アラストール、その場合どうなる?」
「もしそうならば彼奴の近辺に創造者がいるはずだ。それを探す為にもこの町にしばらくいたほうがよかろう」
「ああ、それで」
それで、”滑り込ませ”たんだ、と少女は納得する。
話は終わった。だから少女は黙り込む。
彼女は必要以上に話をしない、必要以上に言葉や思いを話さない。
彼女の王たる“天壌の劫火”アラストールの刃であり道具、それがフレイムヘイズ”炎髪灼眼の討ち手”のあるべき姿。
少しの静寂と休息の中で、少女は景色と一体化する。
陽の光の中で、黒髪の少女が壁に背を預けるその姿は不思議と絵になっていた。
「さて、待たせてすまなかったね」
野暮用だといって出て行った佐山が戻ってきたのはほんの五、六分ほど後だ。
ずかずかと入ってきて購入物らしき袋を置くとすかさず少女の前に座り、
「さぁ、お客人、まずは尋問といこうか」
「アラストール、コイツ切りたい」
「ははは、物騒だね、少女よ」
今にも外套の中から先ほどの大太刀を取り出しそうな少女に、佐山は大笑を返す。
その動作があまりに癪に障るので、少女は大太刀を本当に取り出してやろうかと思った。
「だが佐山よ、その前に一つ知りたい」
「ふむ、何かなご老人」
あくまで態度を崩さない佐山に対し、その何倍の生を生きるものは一つの問いかけを行う。
「お前はなぜ、われらと関わろうとする?」何故空は青いのか?こんなだれもが子供の頃戯れに、しかし真剣に考えたことがあるであろう疑問に対して、
光の粒子について語って聞かせることに、果たしてどんな意味があるだろう。
たとえどれだけ詳しく蒼天や紅夕について語ったとしても、そんなものは所謂無駄知識に過ぎないばかりか、むしろ補足トリビア程度の扱いでしかない。
なぜなら――そんなことは至極明白で、今更語るべき価値もない無駄な意見に過ぎないのだが――そんなことを知っていても、生きるうえにおいてなんの価値もないからだ。
「空が青い」なんてことは当たり前のことであって、今更取り立てて騒ぐようなことではない。
たとえ「空は青いんだ!」と街中で主張したとしても「へぇ、そうだったんだ」なんて思う人間はひとりもいるはずがなく、
十人中十人が「そんなのは当然だろう」と思うであろうことは想像に難くない。
しかし何故、空が青いことが当然なのだろうか。空は、青い。水は、流れる。氷は、冷たい。リンゴは、落ちる。生きていれば、死ぬ。
それらに因果や運命なんてものを引き合いに出すのはいささか大仰過ぎるだろう。何故? と問われたら答えは一つしかない。

そういうものだから。

そこにはどんな物理法則も介入する余地はなく、そのため人々はそれに抗うこともできない。当たり前のこととだから、そうなるのは当然だから、それはそういうものだから、どうしようもない。
そんな力のことを、なんと言うか知っているだろうか?ただ一人として抗えず、ただそういうものだからと否応無く納得させられる絶大な力。
人はそれを、概念と呼ぶ。
だからこれは、概念の物語だ。
当たり前のことを当たり前にこなすだけの、なんの味気も無い、淡白で無味乾燥な詰まらない物語だ。
誰一人の行動としてそこに意味は無く。全ての事象に複線なんてものは潜んでいない、
数多の概念がひしめき合う世界で、ただ当然のように生きる人たちの物語だ。
しかしその、『当然そうであること』が崩れ去ってしまったとき。
ぼく達はいったいどうすればいいのだろう。
当然そこにあるべき物が、当たり前のように消失してしまった時、ぼくはどうなってしまうのだろう。
そもそも、そんな問いに意味はあるのだろうか?
だって、『そこにあるはずのものがそこにない』なんて矛盾した存在が有り得るわけ、無いのだから。
そう、愚かしいことに、そのころのぼくは、そんな幻想を疑うことなく、まるで狂信者のように信じていたのだ。
この後世界が、概念の重みで転覆してしまうことも知らずに――  
754通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:18:13 ID:???
 哀川潤。
 人類最強の請負人。
 しかしそれは、どの世界の人類のことなのか。
 それは言うまでも無く、彼女の属する世界の人類を指すのだろうが。
 ということはつまり、別の世界において、彼女は最強ではないのだろうか?
 いや、そもそもその世界が人類の支配する世界ではないかもしれない。
 街行く人々全てが人外。そんな世界があるかもしれない。
 まぁそんな世界があったとして、この人がそう簡単に負けるわけ無いのだろうが。
 そもそもこの人が負ける姿を想像できない。
「ドラゴンとかロボットにすら、素手で立ち向かいそうだからな、この人は」
「なんか言ったか?」
 左隣、運転席から聞こえた赤い声に、ぼくは嘘をつく。
「いったいこの車、どこに向かっているんですか?」
 現在ぼくは車上の人。哀川さん所有のコブラによって高速道路を爆走中だ。
 前方を走る車をビュンビュン追い抜いていくこの車は、確実に法定速度を超過していること間違いない。
 哀川さんはその顔に満面の笑みを浮かべながら言った。
「東京」
「あぁなるほど、日本の首都ですねって えぇ!?」
 東京。
 いわずと知れた日本一の大都市。
 東京タワー、六本木ヒルズ、フジテレビ、100メーター道路。
「最後のは名古屋だ」
「アレ? そうでしたっけ。……って!勝手に人の心を読まないでください! つーかなんで東京なんですか、いきなり人を拉致しておいて!」
 深い深い睡眠から目覚めたとき、すでにぼくはコブラの助手席に乗り込んでいた。理由を聞いたぼくに哀川さんは一言「拉致した」ってアレ? 前にもこんなことがあったような? 記憶がいまいち定かではない。
「正確には東京奥多摩、IAI東京総合施設」
「IAIって……あの絶対売れなさそうな新製品ばっかり開発してるのになぜか大儲けしてる大企業ですか?」
「出雲航空技研。まぁ裏があるっちゃぁ裏がある企業だな」
「裏……ですか?」
「あぁ、じきに分かるよ」
 言って、哀川さんは前を向く。
 って、この人今までよそ見しながらこのスピード出してたのかよ!
 なんとも恐ろしいドライブだ。これならぼくが運転した方が幾分マシに思えてくる。
 哀川さんはさらにスピードを上げ、頬に刻んだ笑みをさらに深くする。
 なにも口にしないと言うことは、もうこれ以上話すことはないと言うことだろうが、
しかしぼくの方にはまだ話すべき事柄が山ほどある。
「依頼者は?」
「IAI」
「依頼内容は?」
「IAI内で発足した極秘プロジェクトへの協力。詳しくは同社東京総合施設内で」
「報酬は?」
「前金としてこれだけ、プロジェクト終了時にはさらにこれだけ」
 言って、指を閉じたり広げたりする哀川さん。
「……そんな大金、どこが出すんですか?」
「そりゃ、IAIだろ?」
「それぜったいアブナイ仕事ですよ。哀川さ――潤さんともあろう方がどうしてそんな依頼を」
「貸しがあるのさ」
 そこで哀川さんは、顔にシニカルな笑みを貼り付けたままフっと遠い目をする。
 ぼくの知らない、哀川さんの過去。
 少し気にならなくも、ない。
「貸し?潤さんがたかが一企業に貸しを作るとは思えませんが。逆ならともかく――」
 ぼくの言葉をさえぎり、哀川さんは言う。
 昔を慈しむように、彼女にはまったく似合わない、過去を夢見るような瞳で、哀川さんは、前方を睨んだ。
「ちげーよ、貸しがあるのはIAIじゃねぇ」
 そこで哀川さんは、言葉を区切る。
 芝居がかった口調で、愉しそうに、悦しそうに、続けた。
「悪役の姓を持つものに、さ」
 
755通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:22:36 ID:???
何故我らと関わろうとする、か。
佐山は己の中で問いを反復する。
「確かに、正気の沙汰ではないかもしれないね。所詮私は騒ぎに巻き込まれたものであり、元々君たちと何の関わりも持たないはずだった」だが、
「既に私は関わってしまったのだよ。あの時間の停止した空間──”封絶”というのかね、あの中で私は動いていた。」
「何かの偶然かもしれぬぞ、その偶然でお主は人生を捨てるというのか」宝石からの意思の声に、佐山はかぶりをふった。
「ご老人、偶然とは仮想の定義だ。起こってしまったことはこういうのだよ、必然とね。」
加えて言う。「それに仮に偶然だとしよう。喋る宝石に、自分の背丈以上の刀を振るう少女、そして時間の止まったずれた空間に、巨大な赤ん坊……
ははは、まるで映画のような光景だね。上映会社には慰謝料を請求せねばならんね。私に対する人的被害を含めて一億四千万程だ」
「アンタ、いちいち話が長い。なぜ関わるのか、アラストールが言うのだからそれだけ答えればいいのよ」
「私は予備知識が欲しいだけだよ、少女、そしてご老人」話が長くなったのは詫びよう、と佐山は座った姿勢で頭を下げる。
「世の中困ったことに一度前例があると二度目三度目がありうる。臆病な私はそれらに備えておきたい」
「……なるほど」宝石の声には納得の頷きを含んでいた。だが、少女はじろりと佐山を睨み上げる。
「なにかね?」アラストールとと共にある少女は小さな肢体とは裏腹な威圧感をもって視線で佐山を責めた。
それは、佐山というこの男がくどくどとうるさいことからの嫌悪感もあるが、ほんの少しだけ違う意味合いが混じっていた。「アンタ、まだ一つ言ってない」
ふむ、と首を小さくかしげる青年に苛立ちをぶつけるように声を出す。「あのときの言葉、あれはどういう意味なのか」
「悪役を希望している、と言っていたことかね」少女は肯いた。
フレイムヘイズの役割とは、他でもない。己の欲望のために存在の力を食い、世界を歪ませていく紅世の徒──その存在を定義するならば悪とよべる輩を阻み、大いなる災厄が訪れぬようにすることだ。
そのフレイムヘイズたる少女の前で彼は言ったのだ。悪役を希望するものだと。人間の悪など本来些細なものだ、紅世の徒に比べれば相手にするまでもない。だが、(もしアラストールのいうとおりに、こいつが徒の作り出したやつだったら、ここで始末する。)
少女は外套の下で拳を握り締め、彼の答えを待つ。張り詰めた空気が、寮室を満たしている。緊迫した空気の中で、佐山が動く。
彼はやれやれ、と眉根を寄せると、苦笑してみせた。「なるほど、誤解を受けているようだね、私は」
そう、誤解だ。何事かわからぬが、彼女は誤解をしている。
その誤解は佐山の知ることではないところからの先入観、あるいは思惑からくるものなのだろう。ならば、彼のとるべき行動は一つ。「率直に言おう」
少女の真剣な目線をしっかりと見据え、彼は言った。
「──馬鹿め」

──バカにして!
少女は、どこかでこの男を信じていたことを心底恥じた。
外套から大太刀を取り出す選択は一瞬。
だが、その間にも言葉が続く。
「一度では足りぬなら、二度目も告げよう。馬鹿め、と」
「っ!」
二度目の言葉、だがそれは少女の誇りを傷つけるのではなく、哀れみをもった目線で差し向けられている。
いいかね、と佐山は前置きする。
「私はあくまで情報の交換を持ちかけている。先ほどまでに開示した情報で足りぬのならば、私も語りようがある。
だが、君は私が知りえぬ、あるいはわかりえぬ推測と知識を元にこちらを疑っている。
私がいかなる弁明をしようとも、最終的に君は私を殺すだろう。
そのような相手を馬鹿と呼んで何が悪いかね!」
的を射た発言だった。
それは、確かに少女の行動を的確にとらえたものであった。
佐山は続ける。  
「君たちがどこの誰であるのかも明かさぬまま、一方的にこちらから情報を搾取し、最後には殺す。
 そのような状況で語る言葉など、時間の無駄に過ぎない」
「アラストールを──」
「ならば名乗りたまえ!」
続くはずの文句が佐山の、ただの人間の一喝で雲散霧消する。
フレイムヘイズ、誇り持つ炎の護り手は、完全にこの場の主導権が人間に移ったことをようやく理解した。
この男の論説、これだけの弁論能力が発揮されていれば、逆にこちらだけが情報を搾取されていた可能性を、知ったのだ。
「……我らの負けだ、佐山」
胸の奥から響く声が、改めて少女に状況を認識させた。
「無礼を詫びよう、佐山御言。
誠意をもってこちらの質問に答えたお主を信じようともしなかったことを許して欲しい。この者もこういった物言いには慣れていないのだ」
756通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 18:26:08 ID:???
屈服させられた──。
誇り高きフレイムヘイズと、王たるアラストールが、人間に詫びるなどもってのほかだ。
「お主も詫びるのだ」
……これは、王の命令だ。
そう、王に詫びるような手間をかけさせた私への詫びだ、人間への詫びではない。
そうだ、私は人間には詫びない。
「ごめんなさい…」
深深と頭を下げた。申し訳ないという思いを込めて、だがアラストールへと詫びる。すると、
「──」
何か、動く音がする。
それは、文字で現すならばカシャという音であり、加えて言えばこの音を少女は聞いたことがある。(シャッター音…?)
顔を上げると、佐山が何か満足そうに笑顔を向けていた。「うむ、寛大な私は写真一枚で許そう」──写真?
すごくいやな予感が、フレイムヘイズとしてではなく、失ったはずの人間の直感が届いた気がした。
「では仲直りの証というわけではないが、昼食はいかがかね。私も多少空腹だ」
そういうと、佐山は先ほどから横にあった袋からいくつかの食物を取り出す。
先ほど佐山が部屋からでていたのは購買へ行くためだったようだ。袋から転がり出てくるのは掌ほどの大きさのメロンパンが二つに牛乳が二つ。
「君がメロンパンを頼んだので私も、」
サッ佐山が言葉を紡いでいる間に、シャナが二つのメロンパンを手元に寄せる。
「二つとももらうわ、ありがとう」
言うが早いか、一つを懐にしまいこむともう一つの包装を破り、満面の笑みで食しはじめる。
かぷり。
「……アラストール王、これはどのような仕打ちかね」
もぐもぐ。
「佐山、このコはこの食物に本当に眼がないのだ。すまぬ」
んくんく。
「アンタが買ってきたわりには。……ん、なかなか美味しいわ、このメロンパン。あむ。」
一回に口に入れる量はそれほど多くはないのだが、次々と口にいれていく。
小さな口の中に精一杯にパンを食む姿はなんとなくリスのそれに似ている。
「……仕方が無い、私は後でまた何か食べるとしよう」
佐山がメロンパンを諦めたことを尻目に少女は次々とその丸い菓子パンを腹に収めていく。ごくり。んぐんぐ。
「まぁ、このコなりの仕返しもあるのだろう。我も先ほどの物言い、王として何も傷つかなかったわけではない。特に我がフレイムヘイズは気難しいのでな」
ぷは。もくもく。
「王ならばいつまでもそのようなもの引きずるのではなく飲み込みたまえよ。
しかしこうしてみているだけだと思春期真っ盛りの少女だね。美味そうに食べる。」
んまんま。
「メロンパンは…あむ…ん、やっぱりこのカリカリとほくほく感がいい。…あむ。」
これまでの憤りなどを忘れて少女はメロンパンを独り占めにしていた。
「畜生、今度ばかりは年貢の納め時かな?」
「ヴァラキアのイシュトヴァーンともあろう者が随分と弱気なことを言う」
「でもねえグイン、この状況は洒落にならないと思うよ」
そう、実際三人は絶対絶命だった
グインは言うに及ばずイシュトヴァーンも、そして普段はお調子者のマリウスも剣を持てばなまなかの騎士など相手にしない腕である
だが今三人を追い詰めているのは体格はグインにも匹敵し鋭い爪と牙、短い毛の生えた尻尾を持ったイシュトヴァーンが評するところの
「セムとラゴンの相の子」のような半獣人の集団だった
彼らの武器は先端に尖った石をはめ込んだ粗雑な木の棍棒だが獣人の腕力をもってすればマリウスの細剣など一撃でへし折れてしまう
じりじりと包囲を狭める獣人から距離を保つべく後退を続ける三人はとうとう壁際に追い込まれた
壁を背にしたグインの剣を構えていない方の手がせめて隙間か亀裂でもないかと壁を探る
その時不気味な唸りをあげ壁が−彼らが壁と思っていた巨大な古代機械が−作動を始めた
洞窟内に稲妻が飛び交いエーテルの嵐が吹き荒れる
ひときわ眩い閃光にその場にいた全員が目を瞑って蹲り光と音の洪水がピタリと止んだとき
(ここは何処じゃ?)
耳に心地よい、しかし偉そうな女性の声が聞こえた。というより直接頭の中に届いた
そこにいたのは全身緑色で腰から下が植物の根のように枝分かれした触手になった目の醒めるような美女だった
「ねぇ、裕一………」「ん?」「フィギュアスケートって、カッコいいね」
それはまた異なることを。里香は時々、説明もなしに妙なことを口走る。
林檎を剥くという慣れない作業をしていた手を休め里香を見ると、里香は、僕がごみ置き場から拾って修理した古めのテレビに釘付けだった。
「あぁ、そうか。もうすぐトリノオリンピックだね」「裕一」「………ん?」
                              
これが、僕と里香の、なんでもなくない旅行の始まりだった。
757通常の名無しさんの3倍
それは見るからに珍妙な、あるいは悪夢的と言ってもいい一行だった。
傭兵と吟遊詩人、この組み合わせは珍しくはあるがまだ人知の及ぶものだ。
だが豹頭の巨人とくれば少なくとも見る者は我が目を疑うだろうし
緑の肌の植物美女に至っては不幸な目撃者は土下座して神に祈りを捧げ出すこと請け合いである。
「ねえグイン、彼女どこまでついてくる気なんだろうねえ?」
「さて、俺には何ともいえん。只我々の命の恩人である以上素気無く扱うわけにも行くまい。」
それに腕ずくで追い払おうとすればこちらが只では済まんしなと告げる豹頭の戦士の顔は大真面目だ。
実際オシリスと名乗った植物女−名前以外は思い出せないそうだ−の力は地下迷宮の戦いで目に焼付いている。
謎の古代機械の力で何処からともなく転送されて来た異形の姿にパニックに陥った獣人は一斉に棍棒を投げつけた。
だがしかし、オシリスの触手から瞬時にして生えた葉が盾となって棍棒を弾く。
(無礼者が!)
さらにヒドラの如く鎌首をもたげた触手の先端から紫色の光線が放たれる。
それはあまりに一方的、光線が命中すると獣人も石作りの床も等しく異臭を放ちながら溶け崩れ崩れていく。
あっという間に獣人を追い払ったオシリスはここは陰気臭くて気に入らんと言うが早いか目の前の石の壁を触手でもって
それこそバターにナイフを入れるように穿ち始めあれよあれよと言う間に地上への出口を開通させてしまったのだ。
少女が居住まいを正し、もう一度佐山と向き合う。
宝石から意思が響く。そしてその声に少女も続く。
「改めて名乗ろう。我が名はアラストール、常世(ここ)とは別の世界、紅世の王”天壌の劫火”アラストール」
「私はそのフレイムヘイズ、燐子や他のフレイムヘイズからは”炎髪灼眼の討ち手”、あるいは”『贄殿遮那』のフレイムヘイズ”と呼ばれることもある」
ふむ、と佐山はこちらも居住まいを正し、
「遠方からのお客、この世界の代表として歓迎しよう。
 アラストール王と──ふむ」
 <フレイムヘイズ>を呼ぼうとした佐山はやや思索する。今の言い分から察するに、少女の他にもフレイムヘイズという存在がいるようだ。
 となればこの名前は呼び名にふさわしくはない。
「アラストール王、彼女には名前はないのかね?」
 何か呼び名を探そうとするこちらに、少女は口を挟む。それは、高音で、しかし氷壁のように他者を寄せ付けない声で、
「フレイムヘイズに名前なんていらない。私たちはただの討滅の道具なのだから」
「そうか、道具かね?」
コクリと少女は頷く。
「……くだらない。私はただのフレイムヘイズ、それで十分。名前なんていらない」
己の存在を確かめるように、しかし他者を拒絶する。
そう、フレイムヘイズはそうしたものだ。
常世を乱し己のために動く紅世の徒を倒すために人間であることを捨て、王とともに生きる討滅のために生きる存在(モノ)。
「では、君のことはシャナと呼ぼう。贄殿遮那のフレイムヘイズなのだから、シャナと」
「! オマエ!」
「何かまずかったかね?」
 冷笑が佐山の顔に張り付いている。みくびるな──。
「人の話を聞いてるの? 私は名前なんていらない!」
 むかつく、コイツムカツク。
ずけずけと人の言葉を無視して、私を笑いものにして……許せないっ。
今すぐに斬ろうとしたそのときに、また、佐山の言葉は響いてくる。
「道具ならば、名を受けることもあるのだよ、シャナくん。
いいかね、道具とは人に左右されるものだ。愛でられることもあり、あるいは暴力の解消に使われることもある。
シャナくん、君の持ち主、アラストール王は前者ではないかね。
そして大切にされた道具は意思をもつ、わかるかね?
私はアラストール王が大事にされている宝物たる君が、他のものと同じものとされるのとても不便なので、愛称をつけようと申し出たのだよ。
シャナ、という愛称はいかがかね?」
まただ。
この男は口から先に生まれたのではないだろうか。
そんな疑問が浮かぶほどに、またペラペラと喋る。その理屈は論理的な屁理屈で、こちらの闘志を削っていく。
この理屈でいえば、少女に反論はできない。
彼は何も否定をしていない。
彼女を道具と肯定し、その彼女の意思はアラストールが大切にされたから持つことができたものだと続けた。そしてアラストールに敬意を込めて道具に名をつけた。
つまり、この名前は少女に送られたものだというのに──アラストールが判断するべきことなのだ。
また、この人間に、フレイムヘイズは負けるのだろうか。そう思った数瞬後。
「佐山、その言葉は詭弁だ」
アラストールの声がきっぱりと佐山の申し出をなぎ払った。