ってゆーか もしガルマの替わりにキシリアが死んでたら。
デラーズフリートがアクシズに合流してたらの職人さんもいたな
>>2 ・リアリストが居なくなり軍がロマンチシズムで溢れかえる
・海軍戦力も持つことなく各地で孤立。
本気でジオンを勝たせるのなら、一番邪魔なのはギレン。
5 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/07(木) 12:50:37 ID:hnRloXnt
>>4 話の筋としてはじわじわジオンが後退してたわ
6 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/11(月) 00:09:13 ID:mVZTmMEl
ほしゅ
あれ?
職人が失踪して1年は経つ、てのになんでまた立ってんだ?
せめて新職人募集くらいしろよ。
8 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/11(月) 17:50:30 ID:mVZTmMEl
新設定の新職人さんがこの間の10月から書いていたのですよ。
見つけてくれるといいなぁ
諸葛亮の北伐でifを語るなら、街亭以外にないだろう…。
235年の蜀がどうやれば魏に勝てるんだよ…。
10 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/12(火) 20:06:45 ID:dtRYWJ5C
あげ
暗殺されなかったら
ア・バオアクーで勝っていたかな?
勝ったらどうなっていただろう?
経済力では圧倒的に連邦有利だけど、レビル将軍も死んでるし
講和に向かうのかな?
むしろレビルの後継が気になる・・・
>レビルの後継
ジャミトフ以外無いでしょう。ただルウム戦役で捕虜になってた?なので
停戦→捕虜交換→ジャミトフ復帰→デラーズ戦役で評価→連邦軍内での権力掌握→ジオンに宣戦布告(第二次ジオン戦争)の流れで
ギレンVSジャミトフ の戦いが勃発!人類滅びそうだ
南極条約破棄の予感
キシリアがニューヤークで戦死したした事により
かえって指揮系統が一本化されて
キシリアお抱えのエース部隊が捨て駒にされて・・・
って流れだったか?
その捨て駒にされた部隊が主に描写されてたから押されてたイメージがあるけど
実際はそうでもなかったんじゃない。
>>2は前スレの職人作品のコンセプト書いてるだけなのに、
必ず
>>4みたいな俺様理論ひけらかそうと必死なやつが出てくるな
あと前スレから気になってたが、
>>1の文面が一ヶ所孔明のままになってるな
17 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/14(木) 11:53:01 ID:wzjTm5pP
( ̄▽ ̄;)!!ガーン気づかなかったわ
これでは某志茂田的仮想戦記になってしまう(;´▽`A``
>>12 ルウムかどうか解らないけど、ジオンの捕虜になった事があるのは手下のバクスの方じゃなかった?
>>18 記憶が曖昧で…なので(?)付けてます。だれか詳しい方いませんか?
どちらにせよ、「レビルの後継はジャミトフ」の線は変わらないかと。
あの・・・
もう一年くらい保守してるきがするんですが
21 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/14(木) 23:32:49 ID:wzjTm5pP
>>20 前スレの10月見るよろし。新職人さんがキタ━(゚∀゚)━!
でも新スレ立てるの間あいちゃったなー
見つけてくれー><
保守
ほしゅ
0087年10月23日、ソロモン宙域周辺部、地球連邦軍第401哨戒戦隊
3日前、コンペイトウ基地から発進した哨戒戦隊は不運に見舞われていた。
まず発進して二時間後に旗艦であるサラミス改級巡洋艦<エグゼター>が、エンジントラブルにより帰還を余儀なくされた。
そして、次の日には整備中の搭載MSジム・クゥエルの約半分(6機)にセンサーの異常が発見された。だがこれらは始まりにすぎなかった。
ナカッハ・ナカト中佐は苛立っていた。それは新たな問題が発生したからであった。
「第2小隊が帰還時刻になっても戻らないだと?」
第2小隊の4機は久方ぶりの演習を兼ねて偵察に出ているはずだった。
「はい、最後に入った通信から判断すると、ジオン残党と交戦状態にはいったとおもわれます」
「交戦状態…また面倒が増えたのか。相手の兵力はわかるか?」
「交戦にはいったという通信があってからは、音信不通の状態が続いています…」
(まさか全滅したのか? いや、センサーに異常があったという報告があったな。おそらく報告の遅れはそれが原因だろう。どちらにせよ、増援は送るべきだな)
第1・第3小隊のジム・クゥエル8機が発進したのは、その30分後のことであった。
通常なら命令の10分以内に発進するところだが、この時期の連邦軍宇宙艦隊の士気の低下は深刻な状態にあり、
そのため20分近く発進が遅れてしまった。そして、この時間の遅れが後に取り返しのつかない事態につながってしまう。
同日同時刻、第343MS連隊、選抜偵察小隊
既に敵小隊は全滅していた。彼等は敵戦力の評価を間違っていたのだ。
だが、それも無理はなかった。敵は2機の旧型MS、自分達は新型4機。
戦力差は2倍以上、簡単に勝てると思ってしまったのだろう。
そして、致命的であったのは敵戦力の情報を味方部隊へ伝えることができなかったことだ。
なぜならば、次にやって来た部隊も同じミスを犯してしまったからだ。
8機の連邦軍MSは敵を見つけると、バラバラに突っ込んできた。
ここでも彼等はミスを犯した。戦場では個々に戦う8機よりも、連携の取れた2機の方が力を発揮する。
「フン、連邦め、もう勝った気でいるようですね。」
「らしいな、では教育してやるか。行くぞカリウス!」
アイアン・フィスト作戦、参加兵力(第2艦隊のみ)
ソロモン突入艦隊:デラーズ・フリート(駐留艦隊撃破後、ソロモンを占領する)
司令長官:エギーユ・デラーズ大将(旗艦グワデンより主に艦隊戦の指揮を取る)
副司令:ユリー・ハスラー中将(MS主力の第3艦隊(囮艦隊)を指揮する)
参謀:ヴィリィ・グラードル中佐
第2艦隊(デラーズ大将直率艦隊)
第3戦隊
戦艦×2 <グワデン><グワンダン>
重巡洋艦×1(チベ改級重巡洋艦)
軽巡洋艦×4(ムサイ改級軽巡洋艦)
第2水雷戦隊
軽巡洋艦×1 <ペールギュント>
駆逐艦×8
第5戦隊
戦艦×1 <グワレイ>
重巡洋艦×2(ティベ級重巡洋艦)
軽巡洋艦×2(エンドラ級軽巡洋艦)
第2艦隊所属MS部隊
第343MS連隊:司令アナベル・ガトー中佐
第1大隊:ガトー中佐直率、(ゲルググ系列×18機)
第2大隊:大隊長ウォルフガング・ヴァール少佐、(ガザC×24機)
第3大隊:大隊長ラカン・ダカラン少佐、(リックドムU×24機)
独立第501重MA中隊:ケリィ・レズナー少佐
ヴァル・ヴァロ、試作MA小隊(ジャムル・フィン×3機)、ノイエ・ジール(長期整備中の予備機)
どこまで投下したか忘れてしまったので、重複していたらすみません。
新しいスレなので設定をまた書いておきますね。
一年戦争から「星の屑」作戦開始までは史実と同じ歴史です。
デラーズ・フリート→「星の屑」作戦早期失敗により、戦力の大部分を保ったままアクシズに合流(主要メンバーは全員生存)。
アクシズ→ハマーンはアクシズの実権を完全には握れず、デラーズ派+諸勢力と派閥抗争を繰り広げる。
また戦力は増強されたものの長期間の作戦行動が難しいため、史実より早期の地球圏侵攻作戦を目論む。
地球連邦軍→観艦式での被害無し。「星の屑」作戦が失敗したため、地球連邦政府にジオン残党の脅威を植え付けることはできなかった。
ティターンズは結成されたが史実よりも小規模で一部精鋭による独立部隊(ペズンの教導団レベル)。
地球連邦軍の実権は、ティターンズ・エゥーゴのどちらにも属さない主流派閥が握っている。
エゥーゴ・カラバ→ティターンズ勢力が史実より小規模なため結成されていない。
シーマ艦隊→連邦軍との裏取引が成立。ティターンズ特殊部隊に編入。
アクシズ(戦力増強)VS地球連邦軍による、グリプス戦役よりも大規模な、第二次ジオン独立戦争です。
続きは全然書いていないのですが、冬休みなので頑張って書いてみたいと思います。
28 :
通常の名無しさんの3倍:2006/12/25(月) 14:35:16 ID:iiPs0Nrs
おかえりなさーいヽ(´▽`)ノ
見つけてくれてよかったー(T∇T)
乙
でもギレンは死んじゃってるのね・・・。
30 :
:2006/12/26(火) 02:56:05 ID:jokWHSG+
ねぇ、ザクは?ザクはでないの?
次期主力MSはゲルググじゃなくてガザCなの?
あと期待してます。
宇宙世紀200年12月、アナハイム文庫仮想戦記ラインナップ
「晴れた日はセイバーに乗って」
斜陽の連邦軍航空部隊が可変MS部隊に挑む。空の覇権を賭けた大決戦!
「私の父はパイロット」
私のパパは不死身の第四小隊の小隊長さんです。アリサ・バニング氏の送る感動巨編が文庫で復刊。
「ジオン本土決戦」
ア・バオア・クーを生き延びたギレン・ザビが、サイド3での本土決戦に挑む。
「地球連邦の興亡、ソロモンにジオンの旗を」
歴史の闇に隠された「星の屑」を追う。ダイスケ・サトウ二年ぶりの新刊。
「デギン公王最後の勝利」
グワジン級宇宙戦艦グレートデギンの生涯を描いた異色短編集。
「オデッサゲルググ戦闘録」
一人のパイロットの視点から、史実とは異なる一年戦争を描いていく。
「遥かなる星」
南極条約が決裂し、全面核戦争によって世界は崩壊した。偶然と幸運により生き残ったサイド7は外宇宙への進出を目指す。
0087年11月3日、太陽落下軌道、ジェイムズ・ランド中尉
機体のエンジンは沈黙していた。暴走が止まったのは、積み込んでいた推進剤を全部吐き出してしまっていたからだ。
既に友軍の航宙艦が追尾できない速度までMSは加速し、太陽に向かって落下する軌道をとっていた。
通信機も作動しなくなり、救援船が来る可能性はまったくなかった。
仮に通信機が無事であっても、あれだけの大戦闘が起こっていたのだから、
一人のパイロットを救出するために向かう艦艇はどこにもないだろう。
考え得ることは、太陽の周回軌道で振り回され、あるいは放出されるガスによってブレーキがかかり、母港近くのどこかで救助されることぐらいだった。
しかし、その確率はほとんどゼロであったし、運良く回収されたとしてもそこまで生き延びられることなどはできないだろう。
もう時間の経過も分からなくなった。暖房の効かなくなったコクピットの中で、手足の感覚は無くなっていたが、
不思議と呼吸の苦しさは感じなかった。宇宙での最も苦しい死にかた、つまり酸素欠乏は避けられそうだと思った。
私は太陽に落下するうちに、吹き上げるコロナに吸い込まれて焼かれるのだろうか?
それともゆっくりと機内温度が上昇し生きたまま焼かれていくのだろうか?
自分の死を待つだけという苦痛を紛らわせるために、なるべく他のことを考えるようにした。
だが、途切れがちになる意識の中で思い浮かぶことは、この漂流の原因となった戦闘のことだけであった。
「ランド小隊長、残党軍のやつらは何に乗っているんですかねぇ?」
「先発隊からの報告によると、タイプ14らしいぞ」
「ゲルググですか。何でもスペック上はガンダムより強いらしいですよ」
「そいつは凄い。まさにジオンの新型機だ!」
小隊内の通信が笑い声でつつまれた。彼等の乗っているジム・クゥエルこそ、昨年配備されたばかりの新型機であったからだ。
しかし、その笑い声もすぐに止む事になった。前方を進む第1小隊の一機が閃光に包まれたからだ。
それは対MS戦闘の模範となるような見事な射撃であった。その機体はコクピットだけを打ち抜かれ、爆発もせず宇宙空間を漂う残骸となった。
「畜生! 各機散開をやめ編隊を組め、シュヴァルムを作るぞ!」
バラバラに進んでいたMSは2機ずつの編隊となり、それぞれの死角をカバーする戦闘隊形になった。
この編隊を組む間にも、敵MSは小憎らしいほど統制だった機動で、第1小隊を蹂躙していった。
「ゲルググごときにあんな機動ができるはずがない!」
敵機は息の合った連携で我々を翻弄していた。特に青く塗装された機体はゲルググとは思えない異常な機動性を見せていた。
(よほどの熟練パイロット、まさかニュータイプを相手にしているのか…?)
「すみません、小隊長。背中を守ることができなくなって…」
爆発が起きた。ついに私の列機まで失われてしまった。味方はもう自分だけだ。
制空隊の私達が2機のゲルググに撃破されているうちに、敵は対艦攻撃部隊を我々の艦隊へ差し向けていた。
MSの護衛がない艦隊がどうなるのかは想像もしたくない。
「こうなれば、せめてあのMSだけでも道連れに!」
私はあの青いゲルググに向かって突撃をかけた。しかし、無念にもその願いを果たすことはできなかった。
そのMSが撃ったビームがジム・クゥエルの融合炉に損傷をあたえたのだ。
表面上は無傷であったが、機体は暴走し見当違いの方向へ加速を始めた。
ジェイムズ・ランド中尉は知ることがなかったが、彼の戦ったMSは純粋にはゲルググではなかった。
その青いMSは物資の少ないアクシズにおいて、装甲・推進・操縦系統を大幅に改修したリゲルグと呼ばれる機体であった。
ほしゅ
37 :
通常の名無しさんの3倍:2007/01/07(日) 04:59:29 ID:fLwBtedy
アゲ
リゲルグキター!
>>35の中ではMSの開発状況はどんな感じなんだ?
アクシズ(ジオン)はリゲルグが出来てるからZZ時代のMSは出来てそう。
ティターンズ(連邦)はZ時代初期あたりかな?
あげてみよう。
また職人消えたんか?
40 :
通常の名無しさんの3倍:2007/01/27(土) 07:43:39 ID:n+2qFDUO
挙げ
職人戻って来てくれ…
41 :
通常の名無しさんの3倍:2007/02/04(日) 01:04:51 ID:wBEaEm9D
age
42 :
通常の名無しさんの3倍:2007/02/12(月) 14:12:34 ID:cNFUt59E
今までの作品が読みたいのですが、読めるところはないのでしょうか?
43 :
通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 04:34:10 ID:WOBg2z/y
保守
46 :
通常の名無しさんの3倍:2007/03/11(日) 00:01:15 ID:ZybdRhF9
保守っておく
就職活動などで投稿が滞っていて申し訳ありません。
5月までには再開したいと思っております。
あと自分の書いたものをまとめてみました。
http://blogs.yahoo.co.jp/zhenber >>38さん
そんな感じで考えています。エゥーゴの機体でジオン系MS(リックディアスなど)はアクシズに出してみたいと思っています。
>>44さん
WBメンバーはアムロが軟禁されているなど史実と同じです。
シャアは地球圏にいますが後でアクシズに合流する予定です。
48 :
通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 22:45:16 ID:QYGSpZff
職人帰還記念あげ
ガンガレ!
>>47 まぁ、低学歴の馬鹿なお前は自分の文章に酔ってるんだろうがね
語彙が貧弱なんだよ
文章の才能が無いお前のss読んでも面白くもないしもう止めてくれ
だから過疎なんだよ、分かるか?
文章力のない職人と日本語も理解できない住民ときたか
お終いだな・・・
>>51 >>49は嫌ならスルーすればいいのに構うからツンデレなんて言われたんだろ。
まあ、いきなり学歴が出てくる時点で変だと思うがな。
>>49は学歴コンプレックスなんだろうか。
そもそも
>>49の文章をどう読んでも「ツンデレ」とは解釈できまいよ
寧ろ荒らしをスルーすればいいものをわざわざ返してくる住民の程度が知れたものだ
何このスレ?
>解釈できまいよ
言い草が中学生みたい
57 :
53:2007/03/20(火) 23:57:16 ID:???
>>50>>52>>54 ならば初めからそう書き込めばよかろうに
それにその冗談だか皮肉とやらは言及されずとも当然ながら容易に理解できよう
ここは過疎スレだから全て同一人物によるものなのだろうな
どちらにしろこのスレの程度がこれで明らかになったな
>>57 えーと・・・。
構って欲しいのかな?
さびしんぼめw
よかろうに
理解できよう
どう見ても中二病です
本当にありがとうございました
こういう時は
「春だな」
と言えば良いんだっけ?
職人さん気にせず頑張りやがれ
62 :
53:2007/03/21(水) 00:17:47 ID:???
>>56 理解し難い書き込みだな
何の根拠も無しに安易に「中学生」と断定するなど茶番もいいところだ
もしくは単なる釣りなのだろうか?
>ツンデレ振りにワロタ
>冗談だか皮肉だろw
寧ろこの幼稚な書き込みこそ中学生またはそれ以下のレベルだとは言えないだろうか?
君は気づいていないかもしれないが今、ここは単に煽り合いのスレになっている
そもそもの原因は荒らしに適切な対処をできなかったここの中学生レベルの住民だろうな
職人の文章力と住民の精神年齢から鑑みて放っておいても過疎のまま終わるだろう
63 :
通常の名無しさんの3倍:2007/03/21(水) 00:17:56 ID:jZ3L6wHG
自演乙w
【総帥】
ギレン・ザビ
グワジン ジオン・ズム・ダイチン 88% 419 ACE 256 84888戦75118勝9770敗 あと0日17時間18分
あとすこしで死ぬよ
このスレにも春が来たか。
少し遅めだったな。
、 ∩
( ゚∀゚)彡 ジーク・ジオン
⊂彡
保守
スレタイを見た瞬間、板垣退助のヒゲが頭に浮かんだ。
オデッサ戦のは完結したのか?
71 :
マ・クベ:2007/05/02(水) 20:32:40 ID:vsLZ7IQU
完結もなにも…オデッサには戦略的な価値は何もありません
5月も半ばを過ぎましたね・・・
ギレンは死んでないよ
大陸に渡ってチンギス・ハーンになったんだよ
ギレンが生きていればア・バオア・クー戦は勝てたかも知れないと思っているんだが、おまいらはどうよ?
スレ違う
77 :
通常の名無しさんの3倍:2007/06/18(月) 15:23:33 ID:sWd2cXOG
結局一年戦争はどうやって終結したんだ?
78 :
通常の名無しさんの3倍:2007/06/18(月) 17:50:15 ID:rerhVpAl
>>11 レビルの後継は順当にいけば
宇宙軍ティアンム・・・ティアンムが戦死してるならコリニー
地上軍ゴップ
だろ多分・・・・
79 :
通常の名無しさんの3倍:2007/06/21(木) 23:12:34 ID:UR/R5Ctb
アヒャ
80 :
通常の名無しさんの3倍:2007/06/24(日) 05:37:00 ID:WtRY7ZYl
0700801何かが帰ってくる・・・
ここらで保守
82 :
通常の名無しさんの3倍:2007/07/16(月) 07:05:33 ID:/txXTuQa
ギレンは初回放映当時は30歳の設定だったがいつから35歳になったのか
すべての出版物が30歳だったはずだ ドズル27歳 キシリア24歳 ガルマ20歳と離れすぎてる
セシリアとの恋物語も現実味のないものになってしまう
シーマガラハウあたりが出たことによるあとづけの変更だろう
83 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/10(金) 01:36:31 ID:lFNXr+QT
ティターンズが弱小でエゥーゴは結成されてないならアムロは連邦に飼い殺しのままで活躍できないよな?
カミーユとかも。
0087年10月24日、ソロモン外縁ザーン宙域、ハスラー艦隊(第3艦隊)
デラーズ艦隊は連邦軍哨戒戦隊を撃破して順調な進撃を継続しているが、ハスラー中将の第3艦隊は連邦軍主力艦隊に捕捉されつつあった。
連邦軍ソロモン艦隊司令のブライアン・エイノー大将は、彼が「主力部隊」と判断したハスラー艦隊をこの日のうちに叩き潰そうとしていた。
空母を率いた艦隊こそが主力であり、決戦を挑まねばならないからだ。しかし、彼は気付いていなかった。
事実はその逆であり、アクシズが空母を「陽動部隊」として、「主力」の戦艦をソロモンへ突入させようとしていることを。
「うまく餌に食いついてくれた、か」
ハスラー中将は、空母群が攻撃されているという報告を受けて呟いた。既に護衛のMS隊は駆逐されており、四隻あった筈の空母のうち半数は暗礁宙域に変わっていた。
通常の戦闘ならば撤退の判断を下すべきである。だが、敵戦力を引き付けること任務であり、デラーズ艦隊のためにも一秒でも長く耐えることが必要であった。
「さて、次も守りきれるかね?」
敵の第一波は損害を受けながらも何とか撃退することができた。現在邀撃に出ているのは、主力を旧ジオン系列のMS部隊である。
正確な損害はまだわからないが、戦力半減に近い損害を受けたらしい。この残存部隊と第44MS連隊を投入すれば、第二波も防ぎきれるかもしれない。
「難しいですね。敵空母部隊総がかりとなれば話は別です」
ハスラー中将の問い掛けに参謀長が答えた。連邦は次で決めようとする。
第一波以上の戦力が投入されるだろう。虎の子の新鋭機があろうとも、数の暴力に勝利することはできない。
「そこで提案があります。彼等に送り狼をやらせましょう」
アイアン・フィスト作戦、参加兵力(第3艦隊)
第3艦隊(ハスラー中将直率囮艦隊)
第4戦隊
戦艦×1 <グワンバン>
重巡洋艦×2(ティベ級重巡洋艦)
第1機動戦隊
空母×2(パゾク級MS母艦)
駆逐艦×6
第2機動戦隊
空母×2(パプア級MS母艦)
駆逐艦×4
特殊突撃戦隊
重巡洋艦×1 <シュベルト・クロイツ>
軽巡洋艦×3 <グラーフ・アイゼン><レヴァンティン><クラール・ヴィント>
第3艦隊所属MS部隊
第44MS連隊(ガルスJ×24、ガザD×36)
第753MS連隊(旧ジオン系MS×160機)
第400突撃戦隊(ジッコ突撃艇×24、ドラッツェ改×12)
アイアン・フィスト作戦、参加兵力(連邦軍)
司令長官:ブライアン・エイノー大将
副司令:エイパー・シナプス中将
参謀長:ヘボン少将
第38機動部隊(ソロモン駐留艦隊)
(第一群)ブライアン・エイノー大将直率
空母×2 <サラブレッド><トロイホース>
軽空母×2(コロンブス級軽空母)
戦艦×2 <ブル・ラン><バーミンガム>
重巡洋艦×2(アレキサンドリア級重巡洋艦)
軽巡洋艦×4(サラミス改級航空巡洋艦)
駆逐艦×16
(第二群)
空母×2 <スタリオン><アルビオン>
軽空母×2(アンティータム級軽空母)
戦艦×1 <ツーロン>
重巡洋艦×2(トラファルガー級全通甲板型重巡洋艦)
軽巡洋艦×4(サラミス改級航空巡洋艦)
駆逐艦×16
第38機動部隊所属MS部隊
ジムU:約100機
ジム・クゥエル:約250機
先行量産型ハイザック:約100機
その他:アルビオンに少数の可変システム実験機が搭載されている
長く投下時期があいてしまってすみませんでした。
待っていてくれた方々、ありがとうございます。
これからなるべく定期的に投下できるよう頑張りたいです。
投下乙ですー
レイテ沖海戦ですね。まぁ、栗田提督と違ってデラーズは引き返したりしないんでしょうが。
エイノー大将は「世界は此れを知らんと欲す」などという電文を打たれてしまうわけですね。
そして特殊突撃戦隊吹いた
きっと戦隊のコードネームはヴォルケンリッターに違いないw
ドラッツェ
出典:ジェーン・ブッホMS年鑑(財団法人ブッホ・コンツェルン出版)
デラーズ・フリートの宇宙用量産型MS。ザクの上半身とガトル級宇宙戦闘機のプロペラントタンクを足部分に組み合わせたリサイクル的意味合いの強い機体。
宇宙空間での機動性を重視し、両肩にスラスターポットを装備、脚部を排除し、大型のプロペラントタンク兼スラスターを装備している。
武装は右腕部に固定された40mmバルカン砲と、左腕部シールドに固定されたビームサーベルのみで、戦闘力は非常に低い。
主に使用された戦場は、0083年の茨の園防衛戦とその後の撤退戦。これら戦いではその低い防弾性能から茨の園で生産された大多数が撃墜され、連邦軍に多くのエースを生むきっかけとなった。
また、この戦いの後に連邦軍パイロットに以下のジョークが流行りだしたことが、連邦軍がドラッツェにどのような評価を下したかの証左であろう。
「ドラッツェの撃破率は150%。正面を貫いた弾丸が後方の機体まで撃破する確率が50%の意味」
しかし、その後にアクシズの技術供与を受けて改修されたドラッツェ改は…
0087年10月24日、ソロモン外縁ザーン宙域、軽巡洋艦<グラーフ・アイゼン>
「出撃命令が出た。第400突撃戦隊は予備も含めて全力出撃だ。あたしも出る!」
突撃戦隊隊長の少佐は決意を込めていた。遠くアクシズまで聞こえてきた、あの嘲笑を許せるわけがない。
茨の園での借りは、何としても返さねばならなかった。
「第一目標、敵空母! 第二目標、敵空母! 第三目標、敵空母だ! あたしは今回、貴様らの生還は喜ばない。空母アルビオンの撃沈のみを喜ぶ!」
カタパルトから攻撃隊が続々と発艦し、先に発艦した突撃艇と合流していく。
彼等の愛機であるドラッツェ改は性能上航続力が短いため、突撃艇に曳航される必要があった。
「突撃艇を数に入れても連邦との戦力差は10倍以上。ドラッツェの汚名を返上するにはいい機会だぜ」
この数年間、砂を噛むような思いで彼女達は練成を続けていた。
人体実験のような訓練も、幾多のパイロットを失った事故も、全てはドラッツェで戦果を挙げるためであった。
数度の改修により以前の面影を失った愛機には、戦艦の装甲すら貫ける武装が追加されていた。
自分達の矜持にかけてドラッツェの真価を証明するのだ。
――――二時間後、第38機動部隊ピケットライン、軽巡洋艦<パナマ>
「敵機来襲!」
「ブル・ランに敵襲を知らせろ! 対空戦闘用意、全兵装使用許可!」
敵機(突撃艇?)が向かってくるに気付いたパナマは、状況を旗艦に知らせ敵機侵入を阻止すべく、直ちに対空戦闘を開始した。
パナマは一年戦争後に大改装が行われたサラミス級巡洋艦である。
ミサイルポッドを2つから6つに増設し、二連装メガ粒子砲を2門、単装砲を4門追加している。
MSは搭載していないが、対艦と対空の双方をこなすことができる優秀な戦闘艦である。
「敵突撃艇編隊、大型ミサイル多数を発射しました!」
「ピケットラインで攻撃開始だと。後続の侵入にも警戒しろ!」
空母を主力とする艦隊の場合、基本的には中央に空母などの主力艦を置いた輪形陣を組むことがセオリーとなっている。
主力艦の周りを駆逐艦や巡洋艦が円形に固めることで、全方位の攻撃から空母を守ることができるからだ。
ピケットラインとは輪形陣の外周で、敵機の早期発見を目的とした前衛のことである。
30機程度の突撃艇では、第38機動部隊の主力に辿り着くまでには全滅している。
そのため、ピケットラインを攻撃して、後続の侵入を支援することもあるのだ。パナマ艦長の指示は的確なものだといえよう。
だが、このジッコ突撃艇から発射された物体は、パナマ艦長(第38機動部隊)の想像を超えたものであった。
「イジェクション・システム、オン。エンジン・インストルメント、チェック。ジッコより離脱、ファーストエンジン、スタート!」
流線型の物体がジッコ突撃艇からゆっくりと離れた。
その脇を僚機が発射したミサイルが通っていく。このような光景が編隊の中で繰り返されていた。
発射作業によって編隊は、12機のドラッツェ改と24機のジッコ、72発のミサイルへと増加した。
「ユズキ、ユズキ、こちらシミズ。送レ」
「シミズ、こちらユズキ、感度良好、送レ」
「こちらシミズ、全機に達する! 各個に突撃開始! RATO及びデバイスの無制限使用を許可! 空母にぶちまけてやれ! 連邦を生きて帰すな!」
ジッコ突撃艇に曳航された対艦戦闘専用のドラッツェ改による襲撃。
これこそがハスラー艦隊による送り狼の正体であった。
第三艦隊にとって第一撃にして本命。特殊突撃戦隊による第38機動部隊への突撃が開始された。
投下終了。
魔改造ドラッツェなんてものを出しました。
あと守護騎士の方が参戦しているのは秘密っす。
ドラッツェ改はMA状態しかないジャムルフィンのような機体ですね。
ようやく次から本格的な戦闘が始まります。
おつでやんす
まってたよ−ん!
96 :
通常の名無しさんの3倍:2007/08/29(水) 22:27:30 ID:OhzDTDda
折角の投稿だし上げてみよっか
投下乙です
中の人バロスwww
投下乙!
待ってたよ!
ドラッツェ改か…。
ドラッツェの弱点は打たれ弱さと攻撃力の不足だから改善点はそこらへんか?
ただ特攻兵器としてなら武器の強化のみ?
ピケット艦による敵機襲来の報告は、すぐさまブル・ラン艦橋の第38機動部隊司令部、ブライアン・エイノー大将の元に届けられた。
「突撃艇による攻撃だと? 敵部隊は叩いたはずじゃなかったのか。どういうことだ?」
エイノーは思わず尋ねていた。無論、全ての命令を下し終えたあとで。
彼の命令によって、輪形陣内の艦艇も迎撃が開始され、敵艦隊の攻撃から帰還した部隊を収容中の空母からも無理やり直援MSが発進していた。
エイノーの驚きには理由がある。敵襲の直前に帰還した攻撃隊の報告では、敵空母は全て撃沈しており、他の艦艇も撃破に成功したとあったからだ。
「おそらく、戦果の誤認があったものと思われます。なにしろ今回の戦闘が初出撃というパイロットが多いですからな。」
参謀長のヘボン少将が答えた。エイノーはしばし瞑目した後、半ば覚悟を決めたように頷いた。
彼は一年戦争において、ジオン兵の技量の優秀さを体験している。
「よろしい。諸君、この一撃を凌ぎきり、残りの艦隊も殲滅してやろうじゃないか」
一方、エイノー大将の命令を受けた各艦艇も動き出していた。
空母アルビオン艦内では、今では艦隊副指令まで昇進したエイパー・シナプスが育て上げた乗員達が、次々に行動していた。
MSデッキではキハール(試作アッシマー)の整備が中止され、弾薬の補給すら行われずに緊急発進された。
他にも可燃物であるプロペラントタンクの投棄など、過去の戦訓からダメージコントロールを重視した対応が行われた。
「10分もかかったか。やはり錬度の低下は否めんな…」
エイパー・シナプス中将は、腕時計で時間を測りつつ戦闘準備完了の報告を聞いた。
とはいえ、艦隊全体から見たら、歴戦のアルビオンは最も迅速であった。
乗員達の多くが四年前からジオン残党と戦っているのだ。
「なすべきことは一つだ!いかに犠牲をおさえられるか、ただそれだけだ!」
連邦艦隊への強襲は、全てが同時に起こる中で開始されたように思えた。
ジッコが発射したミサイルの爆発、打ち上げられる対空砲火、四方から迫りくる直援MSの群れ。
それと同時に、攻撃隊の中のジッコが突如として編隊を離脱。彼等の先には天頂方向から阻止行動を開始したハイザックがいた。
自らを盾にすることで、空母までの進撃路を確保しようとしていたのだ。
このような犠牲を払うことでドラッツェ改の編隊は、軽微な損害のまま艦隊内周まで突入することができた。
また、この編隊へ行われた対空砲火は、見当はずれの方向にしか着弾しなかった。
ドラッツェ改は、MSにしては速度が早すぎ、MAとしてはサイズが小さすぎたからだ。
「やっぱりお前はいい機体だよ。いくぞ、ドラッツェ!」
突撃編隊の少佐は、RATO(補助ブースター)による加速に耐えながら叫んだ。
今日はエンジンも武装も問題がない。補助ブースターも機嫌がいい。
演習ではいつもご機嫌斜めだったドラッツェも、今回ばかりは本気を出してくれている。
(このドラッツェを見たら、あいつも喜んでくれるかな?)
愛機を空母への進路へ向かわせつつ、彼女はこの機体に初めて会ったときのことを思い出していた。
アクシズの仮設MS工場で彼女はそれと再開した。彼女は半壊したそれの領収に赴いていた。
普通なら破棄を命じられるところだが、彼女はボロ負けした茨の園でそれに乗り、敵MSを3機撃墜する戦果を挙げていた。
彼女も上官もまだドラッツェには可能性があると思っていた。
修理と改造が終わったそれを見て、彼女は受領する機体を間違えてしまったのだと思った。
しかし、それは修理に出した愛機であった。その証拠に出撃前に機体に書き込んだ、「轟天爆砕」の四字熟語が記されていた。
ただでさえドラッツェは異質な機体であった。足はなく肩には大きな球体が二つ付いていた。
だが、目の前のそれはさらに異形なものへと変化していた。なにしろ、AMBACに必要な腕すら失われていたからだ。
彼女が呆然としていると、この改造を担当したらしき技術者が声をかけてきた。
「腕なんて飾りです! 偉い人にはそれが分からんのです!」
茨の園の独特なマーキングについて
茨の園では整備員と搭乗員達が必勝を祈る一心で、機体に様々な四字熟語が書き込まれる風習があった。
連邦軍の記録フィルムを見ると「疾風迅雷」「飛駆寒虫」「石破天驚」などのマーキングも確認されている。
一説には難解な言葉が好きなアナベル・ガトー中佐の影響があるといわれている。
投下終了です。
本格的な戦闘が始まりませんでした。
次でドラッツェ改の詳細が明かされます。
調べてみたら、ドラッツェのスラスター推力ってかなりの性能ですね。
リックドムの二倍以上ですし、アクシズ製MSと同等でしたよ。
そこはかとなく乙だよ
保守
はやく続きを〜。
本編の執筆に行き詰ってしまったため、短編を投下いたします。
世界観はいつもの作品と同じです。まぁ、あまり関係ないですが。
短編「Lucky Star」
1.序章にかえて(宇宙世紀0123年、フロンティア4戦争博物館館長、ロイ・ユング退役准将)
「事実は小説よりも奇なり」
このMSの運命を言い表すのにうってつけの言葉だ。
私が数年前より館長を勤めているこの博物館には様々なMSが展示されているが、
この機体ほど数奇な運命をたどったものはないであろう。
MS-05B、ジオニック社が生産した一般的には旧ザクと呼ばれる機体だ。
もちろん、よく知られているように初めて量産されたMSでもある。
実戦に投入された一年戦争では、既に旧式となっていたが、その活躍(戦闘以外の任務)はこの機体に傑作との評価を与えても良いものだろう。
だが、現存しているMS-05Bは片手で数えるほどしかない。生産された機体のほとんどは、その後の戦乱で失われていったからだ。
その貴重な生き残りの一体こそが、これから紹介する「MS-05B- JA22AR」である。
では、そろそろ本題へと入ろう。この機体識別番号(JA22AR)を名づけられた彼は、他の兄弟と同じようにジオニック社の工場で産声を上げた。
時に宇宙世紀0077年11月29日のことであった。この時から彼の数奇な運命は始まっていく。
2.憂鬱
多くの人々からの祝福を受けて生まれた彼であったが、その人生(?)の始まりは憂鬱なものだった。
彼が工場からロールアウトされた時、隣の生産ラインからもある機体の先行量産型が生み出されていたのだ。
MS-05Bは良いMSであったが、機体各部の動力パイプを全て装甲内へと内蔵式としたことや
ジェネレーター出力の低さから十分な運動性能を発揮することができず、
キシリア・ザビ氏を筆頭とした軍部に、この機体の性能と生産性をより向上させたタイプの開発を要求していた。
彼の隣のラインで生まれた機体はMS-06Aといった。
多くのエースパイロットを生み、ザクの名を戦史に刻み付けたMSである。
この機体の生産が軌道に乗ったため、MS-05Bの生産は縮小されてしまう。
その結果、彼自身は新しいのにもかかわらず、旧型の烙印を押されてしまったのだ。
彼に搭乗するパイロットからも、皮肉をこめて旧ザクというありがたくない渾名をいただいてしまう。
しかし、この当時の彼は憂鬱かもしれなかったが、後の時代から比べれば幸福であった。
推進剤も基準量を満たし、装備も機体も定期的に整備されていた。パイロットも熟練者が揃っていた。
緊張を含んでいたが、まだ宇宙は平和であった。
2.溜息
彼が生まれてから半年が経過した。宇宙世紀0078年の彼は溜息をつきたくなっていた。
彼も先月までは連邦軍との開戦に向けて、搭乗員育成や戦技研究などに参加していた。
だが、6月に入ってからはコロニーの外壁補修を行っていた。
「俺は大工になりたくて国防軍にはいったんじゃねぇ!」
パイロットの悲痛な叫びがコクピットに響いていた。
彼の所属は戦闘部隊から工兵隊へと移っていた。
武装もマシンガンやヒートホークから、ドリルやハンマーなどのある意味では強そうなものに変化していた。
「今回の人事異動は左遷なのかなぁ…」
パイロットは溜息をつきながらも、黙々とデブリで破損した部分を補修していった。
このコロニーの補修作業が後に重要な意味を持つようになるのだが、
その事実に彼等が気付いたのは全ての作戦行動が終了してからであった。
らき☆すたとハルヒワロタ
つか超弩級期待。
3.退屈
さらに五ヶ月が経過した。
「畜生、今度は宅配便かよ!」
コロニーの補修作業からは開放されたものの、
今度は途方もなく大きいエンジンの輸送に従事することになっていた。
そのエンジンはコロニーを動かすために製作されたものらしく、大きさは彼の数倍もあった。
退屈な仕事。そう表現しても良いだろう。
加速と減速の作業を除けば、輸送作業の大半は大きなエンジンを横目に併走するだけであるからだ。
これが戦時ならば警護の緊張感もあるのだが、今は平和だった。
そのため、パイロットも手持ち無沙汰らしく、出撃前に隠し持ってきた雑誌を読んでいた。
「あーあ、ガイアのやつも偉くなったもんだ。中尉様とはなぁ。
それにしても、この黒いマーキングはかっこいいな。同じ機体とは思えないぜ」
パイロットの読んでいる雑誌には、黒い三連星というトリオの記事が載っていた。
検閲によって分かり難いが、搭乗している黒い機体は彼の兄弟であろう。
そうこうしているうちに、減速作業に移る時間になった。
退屈な仕事であったが手抜きは許されない。一歩間違えれば大惨事が起こるのだ。
その後、彼等の働きによってこの核パルスエンジンは、
サイド2の8バンチにある「アイランド・イフィッシュ」と交差する軌道へと移された。
4.消失
宇宙世紀0079年1月3日から同月10日まで、「JA22AR」という識別番号を付けられた機体は、
ジオン公国には存在していないことになっている(公式戦史には記載されていない)。
一年戦争後の混乱期によって、ジオン公国の資料の多くが失われていたが、
ここまであからさまだと、逆に誰かが抹消したのではないかと考えたくなる。
兎にも角にも一週間戦争の間、彼は消失してしまったのだ。
ここから先は当時を知る人物からの伝聞と筆者(ロイ・ユング)の推測とで話を進めていきたい。
核パルスエンジンの輸送作業を終えた彼は、ジオン本国に戻ると同時に、
改装を受けるため生まれ故郷のジオニック社の工場へと戻っていたらしい。
ここで彼はある特殊作業を行えるように専用装備を増設されたらしい。
ここに一枚の写真がある。一年戦争後、ジオン公国で軟禁されていたあるジャーナリストが発表したものだ。
この写真にはジオニック社の工場から出てきたMS-05Bと、宇宙の蜻蛉として有名なシーマ・ガラハウ氏が写っている。
撮影日時は宇宙世紀0078年12月、ちょうど彼が改装を受けた時期だ。
写真の機体にはGG(ダブル・ジー)も運用可能なコンプレッサーが装備されていた。
同一の機体ではないものの、彼もこの機体と同じ改装を受けたのではないか?
は、早く続きを…。
耐えられない…。
5.暴走
以上の文章は私の推測にしか過ぎない。これは私の下種の勘繰りであると信じたい。
そして、彼の識別番号は宇宙世紀0079年1月11日から復活する。
ここから先の数ヶ月は、今までの彼の人生に比べると激動の日々であった。
むしろ彼自身が鬱憤を晴らすかのように、望んで暴走を始めたのかもしれない。
個々の事例を挙げていくと、紙面が足りなくなるので箇条書きで書き表したい。
宇宙世紀0079年1月14〜16日、ルウム戦役で連邦軍と交戦(戦果なし)
同月20日、サイド3のズムシティにて戦勝記念パレードに参加。
2月1日〜25日、宇宙要塞ソロモンにて、砲台増設作業に従事する。
同月26日、突撃機動軍に編入。地球降下作戦の護衛部隊に配属。
3月1日、第一次地球降下作戦発動、連邦軍迎撃部隊と交戦(戦闘機2機を撃墜)
同月11日、第二次地球降下作戦発動、敵機と交戦中に被弾、修理のため後方へ。
同月14日〜28日、地球降下部隊へ物資が優先されたため、一時工場内で放置される。
その後、教育隊編入のため修理と複座に換装。
4月9日、サイド3教育MS群に編入、同乗パイロットは臨時教官に。
4月12日〜10月5日、約半年間、高等練習機として搭乗員育成を行う。
10月6日、ガルマ・ザビの国葬に参加。その後、戦力不足により実戦部隊に再編入。
10月10日、宇宙要塞ア・バオア・クーに着任、以後同地で守備任務に就く。
以上が一年戦争前半における彼の活躍である。
実際に挙げた戦果は少ないものの、彼の兄弟の多くが撃墜されていることを考えると、
生き残ったこと自体が最大の戦果であろう。
そして、特筆すべきが半年間の教育部隊での活躍である。
彼に搭乗していたパイロットは鬼教官として恐れられていたが、
その指導により多くの新兵が才能を開花されたのであった。
6.動揺(1)
地球からの撤退、絶対国防圏ソロモン要塞の陥落。
宇宙世紀0079年12月は激動の日々であった。
彼も相棒も内心では動揺していたが、古参兵としての威厳を示すため平静を保っていた。
「こんな旧式も満足に動かせないとは。うちの整備兵も質が落ちたなぁ…」
今日の彼は右腕を動かすことができなかった。弾薬も推進剤も基準には程遠い有様だ。
度重なる敗北による前線の混乱と決戦兵器(ソーラ・レイ)へ資源を優先させた結果、
彼等前線部隊の補給は滞りがちになっていた。そのため、MSの稼働率が徐々に低下し、
一部では戦力崩壊の序曲である共食い整備(注1)すら行われ始めた。
それでも彼は旧型であるが故に幸運だった。
多くの故障に対するマニュアルが一年戦争以前から完備されており、
他の部隊を襲った悪夢のような稼働率よりはよほどマシであった。
(この当時(ア・バオア・クー戦)の稼働率は、
ザク系列:約75%、ドム系列:約50%、ゲルググ:約60%との調査報告がある。
一年戦争後、敗北したのにもかかわらずジオン残党勢力が多くのMSをもっていた理由は、
このような稼動できずに撃墜を免れた機体が多数存在したからとの説もある。)
注1:同じタイプの良好な機体を分解して整備や修理に必要なパーツを確保すること。
一機を犠牲にすることによって、他の機体を稼動状態にすることができる。
だが、戦力崩壊の始まりとして部隊指揮官からは忌み嫌われている。
6.動揺(2)
このような状況の中で、彼等はその年の終わりを迎えることになった。
宇宙世紀0079年12月31日、ジオン公国の終焉が近づいていた。
「…既に形骸である。あえて言おう、カスであると!」
スピーカーから耳障りな声が聞こえる。彼等の最高指揮官の大演説だ。
彼等はア・バオア・クーで死力を尽くしていた。機動兵器であるはずの彼は、
数度の出撃で推進剤の補給が間に合わないため、今は要塞の固定砲台として戦っている。
「任務は簡単、要塞を守るだけ…か」
演説をしている人物から二時間前に出された命令だ。
演説の内容が本当ならば、連邦のMSが要塞に取り付いているはずはない。
彼自身も既に限界に達しようとしていた。
度重なる出撃で機体はオーバーヒート寸前であった。
ヒートホークも既に焼ききれて使い物にならない。
「弾切れか。機体もがたがきている。補給に戻ろう」
彼の相棒も限界を悟ったらしく、要塞内の整備施設へと帰還することになった。
6.動揺(3)
「大佐殿、我々には休息が必要です!」
「必要ない。死んでから休めばいい。再出撃だ」
「…畜生いつか殺してやる」
彼の音声記録に残る相棒と上官の会話の一部だ。
これはア・バオア・クー内の整備施設で行われた会話らしい。
補給に戻った彼はすぐに上官に見つかり、弾薬補給だけを行って再出撃の命令を受けた。
連邦軍の攻撃は激しく、既に要塞内に侵入した部隊も増加していた。
このまま再出撃をしたならば、彼は他の兄弟と同じように鬼籍に入っていたことだろう。
だが、天は彼を見放してはいなかった。
整備区画の隣の宇宙船ドックで慌しい動きが行われ始めた。
彼の相棒は激昂していて分からなかったが、
これはギレン総帥の戦死とドロスの撃沈などによる戦艦の離脱行動であった。
「その旧ザクは…もしかして教官ですか?」
要塞から脱出しようとしている戦艦所属のMSから、突然通信が送られてきた。
送り主は数ヶ月前に相棒と彼に乗った新米パイロットであった。
「アサルムはすぐに脱出します。早く中へ!」
相棒は脱出と上官の命令を天秤にかけ、即座に決断を行った。
彼等の一年戦争はここに終結した。激しい動揺を胸に抱えながら。
投下終了。
教官の旧ザクさん、ようやく一年戦争が終わりました。
これから先、彼と相棒に訪れる運命はいかに!
残るは陰謀・憤慨・分裂・驚愕ですね。どう料理すればいいのやら…
乙んつん
懲罰大隊のネタかなあ?
サイドストーリーとは意外な展開w
ジムニーの車両形式みたいなナンバーだね。
乙!
7.陰謀(1)
売国奴
この言葉はジオンという名の国家に所属する者が良く使う言葉だ。
例えば、彼等はこのようにこの言葉を使用する。
「我々が前線で死力を尽くしている間に、ジオン公国を連邦に売り払った売国奴」
「本国と一般市民を守る義務を放棄し、辺境に逃げ去った売国奴」
彼と相棒は後者の売国奴に属していた。
一年戦争終結後、アステロイドベルトに逃亡した集団があった。
彼等は小惑星基地の名を取り、自らをアクシズと呼んだ。
宇宙世紀0081年、彼等は資源基地であったアクシズを要塞化し、地球連邦への復仇を果たし始めようとしていた。
要塞の建築を始めたアクシズは、彼にとって絶好の働き場所であった。
旧式であるが故に汎用性(戦闘以外での)が高く、稼働率の低いゲルググやドムに代わって様々な現場に出張した。
相棒も以前の経験(コロニーの修復など)があったのも幸いし、アクシズの大黒柱として働くことができた。
アクシズでの生活は困難であったが、そこには絶望はなく希望があった。
7.陰謀(2)
本来アクシズは、ジオン公国が建設に着手した小惑星基地で、火星と木星の間のアステロイドベルトに存在し、
ソロモンやア・バオア・クーを地球圏に送り出すことや、木星ヘリウム輸送船団の拠点としても利用されていた。
そのため、最大で数千人が居住できる環境(モウサ)があった。
だが、一年戦争後に逃亡してきた者達により、総人口は3万人を超えるようになっていた。
この状況に対処すべく、要塞化と並行して居住空間と資源採掘の拡大が行われるようになった。
「いくらヘリウム3が貴重だからって、石炭を使うとは。煙や煤は出る。
中世の人間だってもっとマシな燃料を使ってるぜ。少なくとも宇宙で使うもんじゃねぇ!」
彼等は資源の節約のために、代替燃料となる石炭を採掘していた。
ヘリウム3のエネルギー効率を考えれば、石炭など使う気も起こらないが、
仕方のない選択であった。ヘリウム3はMSや艦艇の戦闘時に必須であり、
グラナダから持ってきたものを除けば補充される見込みは薄いからだ。
「ミラー拭き、農作業、炭鉱夫、俺達は何でも屋だなー」
平穏な日常だった。だが、彼等は知らず知らずのうちに、アクシズの主導権争いをめぐる陰謀に関与することになる。
7.陰謀(3)
採掘作業を始めて数日後、この場にそぐわない人物がやってきた。
一年戦争の英雄。シャア・アズナブル大佐であった。
現場の責任者であった相棒が、しどろもどろになりながら大佐に説明をしている。
「…でありまして、鉱脈は発見できたので、もう少しで採掘も軌道に乗り始めます!」
「そうか。ところで、君の乗っている機体は珍しいな。旧ザクではないか」
「はい!自分もあいつも頑丈なだけが取り柄であります!」
その後、大佐と相棒との間で何らかの約束があったようで、大佐は彼に搭乗して直接現場を見に行くことになった。
相棒は大佐を一人で炭鉱へ向かわれるのには反対したが、大佐本人が独りの方が気楽でいいという事で待機することになった。
後に相棒が大佐の動きを参考にしようと彼のデータ端末を見たが、大佐は用心深いらしく、視察していた間の全ての記録が抹消されていた。
7.陰謀(4)
彼と相棒は休暇をもらえることになった。全ての人間が忙しいアクシズでは、
休暇は珍しいものであったが、相棒が大佐を相手にうまくやったのだろうと思った。
とはいっても、ここはアクシズである。彼は整備場でゆっくり休むとしても、
相棒は休暇を楽しもうにも娯楽施設はほとんどない。唯一、一年戦争前からの酒場があるくらいだ。
その酒場で相棒が安酒をあおっていると、突如としてアクシズ内に警報音が鳴り響いた。
彼はすぐに思考を切り替え、パイロットの習慣で整備場へと向かった。
「炭鉱で事故があったみたいだぜ。視察に来ていたお偉いさんが何人か巻き込まれたらしい」
顔馴染みの整備兵が事故の状況を知らせてくれた。事故の現場は彼がいつも担当していた場所だった。
ちょうど昨日も大佐が視察に来ていた。相棒は不幸中の幸いだと感じた。
伝説的なパイロットが事故死など考えたくも無かった。
この事故で死亡した者は、どういう訳かギレン派の将校が多かった。
また、この時期から派閥抗争が活発化し、マハラジャ・カーンが結果的に権力を握ることになった。
投下終了です。
有名キャラを出すのは難しいですね。
>>127 OKOK
こりゃ週一は保守しとかんといかんな
おつんつん
8.憤慨(1)
「そしてその時、戦争は人間が耐えられる限界を超えるであろう」
――ギレン・ザビ
破局は、誰もが予想したような形で始まらなかった。それは劇的でもなければ、納得できるような手順を踏んでもいなかった。
どちらかといえば、全ての人々が状況をつかみきれなくなったために引き起こされたのだった。
宇宙世紀0087年10月、アイアン・フィスト作戦によるソロモンの制圧と、
小惑星アクシズ本体のゼダンの門(ア・バオア・クー)激突によって、
アクシズ勢力はジオン公国の絶対国防圏であった宙域を奪還することに成功した。
これらアクシズの一連の軍事行動によって、連邦軍艦隊は多くの戦力を喪失し、
アクシズへ即応できるものは、ルナツーか本星艦隊しか存在しないという状況に追い込まれてしまう。
これはアクシズを阻むものがいなくなった事を意味していた。無論この程度の損害で連邦軍が降伏するわけではない。
数日の猶予があれば、予備兵力で艦隊を編成しなおし、ソロモンの奪還とアクシズの殲滅も可能であろう。
だが、このときにもっとも重要なものは時間であった。
連邦軍の準備が整う前にアクシズはサイド3(ジオン共和国)の帰還に成功してしまったのだ。
8.憤慨(2)
「我等はアクシズ。我々は世界の枢軸であるが故に」
――ハマーン・カーン
彼と相棒は無謀にも戦闘に参加することになった。理由は明確であった。
ジオン共和国に進駐したくても戦力が足りないからだ。先の戦闘でアクシズは連邦軍を退けたが、
自らも戦力の過半数を喪失していた(特にデラーズ艦隊は全滅に近い状況であった)。
そのため、使えるものなら作業用の機体ですらも戦闘に投入していた。
MSならまだマシな方で、中にはソロモンで鹵獲したボールを護衛用に配備される部隊もあった。
彼と相棒は死を覚悟して出撃した。
先の戦闘では旧式MSが七面鳥のように打ち落とされていたからだ。
「前方にMSを視認。おそらく連邦のザクもどきだ!」
彼等の所属する部隊で唯一の第2世代モビルスーツである隊長機からの通信が入った。
「姿形はザクだが、中身は別物だ。俺達もここまでか…」
だが、そのMSは隊長機が牽制に撃ったライフルの一撃で撃破されてしまう。
彼等の目の前に現れた敵は、連邦軍のハイザックではなく、ただのザクであった。
8.憤慨(3)
「やっとこさ戦争が終わってみりゃどうだい。共和国にとって、あたしらは厄介者扱いだ、帰る国もありゃしない!」
――シーマ・ガラハウ
ジオン共和国と連邦軍との間の安全保障関係は、共和国の思惑として国力が正常な状態になるまで、
軍事一切を連邦軍に委任することで軍事的コストをなるべく安く抑え、
経済成長に傾けるのが狙いであり連邦軍の庇護下に置かれることであった。
そのため、サイド3へのアクシズ勢力の進駐に対して、国防軍たるジオン共和国軍の抵抗は弱々しいものであった。
ジオン共和国軍は軍事力の多くを本土に駐留する連邦軍に委ねており、
固有の戦力は一年戦争当時の旧式MSであった(共和国軍の反乱防止という理由もあった)。
また、連邦軍から派遣されていた部隊もサイド3の治安維持が任務であったため、
アクシズの進駐に対し有効な迎撃を行うことができなかった。
これらの理由から、アクシズ勢力に対して共和国軍・連邦軍は敗退を重ねることになり、
宇宙世紀0087年11月には組織的抵抗が不可能になった。
そして、サイド3の安全が確保されると、ハマーン・カーンはミネバ・ラオ・ザビを掲げ、
ザビ家再興を図り、アクシズ改めネオ・ジオンの建国を宣言した。
8.憤慨(4)
「悪魔でいいよ。悪魔らしいやり方で話を聞いてもらうから」
――ある戦技教導官の言葉
ネオ・ジオンという国家はまさにガラスの王国であった。
事実上、僅か20歳のハマーン・カーンを頂点とする権力機構は奇怪ですらあった。
この当時のジオン共和国の一般市民は一様にネオ・ジオンを敵視していた。
民衆にとって彼等は、自分達を捨てて逃げた卑怯者であり、せっかくの平和を脅かす侵略者であったのだ。
そのような場所に「解放者」として帰還を果たそうとした、
ネオ・ジオン上層部の現状分析能力には疑問を抱かざるを得ない。
そして、「現実」と直接向かい合う一般兵は「憤慨」という感情を持つことになった。
相棒は8年前とは正反対の雰囲気の繁華街を歩いていた。
一年戦争当時は軍服を着ているだけで尊敬の眼差しを向けられた。
酒場では多くのサービスを受けることができた。
しかし、長年の連邦軍による圧制から「解放」したはずのこの国は違っていた。
軍服を見れば通行人からは避けられ、繁華街の店は全て閉まっている。
(俺達は何のためにサイド3に戻ってきたんだ?)
このような状況の中で、ネオ・ジオン上層部は一つの結論に辿り着いた。
彼等によれば、ジオン共和国には地球連邦への内通者が存在するため、
民衆が解放を謳歌することができないとのことであった。
始まりはマッカーシー元少将による、共和国国務省に連邦出身者が勤務しているとの告発だった。
ネオ・ジオン上層部はこれを大いに利用し、自らに反対する者を偽の「連邦内通者リスト」の提出に代表される、
様々な偽証や事実の歪曲や自白や協力者の告発、密告の強要までを取り入れた強引な手法で排除していった。
この青狩り(ブルーパージ)によって、数万人が逮捕・拘禁され資源小惑星での強制労働に従事されることになった。
投下終了です。
書きたい部分を外伝で先に書いてしまう。
某御大と同じ症状が出ていますね。自重せねば。
ホシュ
136 :
◆u2zajGCu6k :2007/10/21(日) 21:43:30 ID:AXkbBIzn
保守をかねて投下です。
宇宙世紀200年10月、アナハイム文庫仮想戦記ラインナップ
「Cat Shit One」
泥濘の一年戦争東南アジア戦線。
連邦軍偵察チームに所属する、パッキー、ラッツ、ボタスキーの戦いを描く。
※彼等の下半身が裸に見える人は大至急で病院に行く必要あり
「月は出ているか?」
地上に残されたザメルの孤独な戦い。
人工衛星による着弾観測システムを駆使した砲撃戦。
「静かなる夜のために」
動乱の地球圏、月面都市「エアーズ」でクーデターが発生した。
クーデターを支援したアクシズの真意とは。
「宇宙のパンジャンドラム〜マリアとタイヤとギロチンと〜」
サイド2にはパンジャンドラムという大英帝国の遺産が存在していた。
べスパのドゥカー・イク少佐は、次第にその兵器に惹かれていく。
「マ・クベは大切なものを盗んでいきました」
テキサスコロニーで死んだと思われていたマ・クベは生きていた!
「ウラガン、それは既に棄てた名前だ。今の私はエゥーゴのクワトロ・バジーナである」
「死線の太平洋〜Ocean Pacific Peace〜」
一年戦争後、降伏することを拒んだジオン潜水艦隊は、連邦軍への襲撃を繰り返していた。
太平洋に平和を取り戻すため、ドン・エスカルゴが再び飛翔する。
「ミノフスキー粒子? 私の祖先はレーダーも無い時代から潜水艦に乗っているのだよ」
9.分裂(1)
青狩りをはじめとする何度かの粛清によって、ジオン共和国国民を恐慌状態へ陥れたネオ・ジオンであったが、
このとき軍事・外交的には地球連邦に対して勝利を収めていた。
宇宙世紀0088年初頭、前年10月に地球圏へ帰還し、
サイド3(ジオン共和国)を制圧したネオ・ジオンは、地球圏全体に混乱をもたらせていた。
戦術的に見た場合、連邦軍が有していた宇宙要塞二つとサイド一つが敵の手に渡っただけであるが、
その衝撃は地球連邦内部に不協和音を生じさせることになった。
この時点で、地球連邦軍には三つの派閥が存在していた。
ジャミトフ・ハイマン中将を筆頭とするアースノイド至上主義派、
コロニー出身者が属しているスペースノイド派、
そして一年戦争の英雄ゴップ元帥の保守派であった。
三大派閥の中で最大の保守派はアクシズとの妥協を求めていた。
特にゴップ元帥は連邦議員と太いパイプを持っており、これ以上の戦争は彼等が許容できるものではなかった。
だが、武力の行使も厭わないティターンズの存在によって、連邦軍は内部から崩壊の兆しを見せ始めた。
彼等の反乱行為により、ネオ・ジオン勢力への反抗作戦の遅れは致命的なものになってしまった。
9.分裂(2)
一方、アクシズでも派閥抗争が激しくなっていた。
青狩りによって権力の大半を手中に収めたハマーン派は、その牙を軍内部の異分子へと向けるようになった。
狙われたのはエギーユ・デラーズ大将を中心とするギレン派の将校であった。
実弾演習中の誤射、帰宅途中での事故死、原因不明の突然死など、あらゆる暗殺手段が使用された。
これにより、今まで一糸乱れぬ統率を発揮していたデラーズ艦隊にもハマーン派への転向が相次ぎ、
残った高級将校は子飼いのアナベル・ガトー大佐のみという有様だった。
さらに外部からジオン・ズム・ダイクンの理想を継ごうとするシャア・アズナブルの扇動によって、
将校だけでなく一般兵も月面都市へ亡命するという事態が起こってしまう。
迷走するサイド3で、彼と相棒にも転機が訪れようとしていた。
その日、相棒が宿舎に戻ると封筒が郵便受けに入っていた。
その封筒は日常的に行われるようになった検閲を受けた形跡が無く、
相棒は不審に思いながらもその封を開けた。
「久しぶりだね」
封筒の中身はビデオレターであった。画面の中の人物は、以前一度だけ会ったことがあり、
今では一部に神聖化すらされつつあるシャア・アズナブルであった。
9.分裂(3)
ビデオレターを内容は亡命の誘いであった。彼の所属している組織(エゥーゴといった)は人員不足に嘆いているようだった。
特にそれはMS搭乗員で顕著らしく、一個大隊の編成も難しいとのことである。
「一連の戦闘でベテランはみんな死んじまったからな。まさに猫の手も借りたいってやつか」
アクシズは元から戦力が少なく、連邦軍も長年の大艦巨砲主義によってMS搭乗員は少なかった。
その搭乗員が一連の戦いで消耗してしまったのである。
残っているのは一握りのエースと操縦もおぼつかないルーキーだけ。
工兵出身の相棒とはいえ、10年間近くもMSに乗っている人物は確保したい存在であった。
また、シャア・アズナブルは相棒にとって重要な情報を教えてくれた。
「キケロ送りの予定に君の名前があった。亡命するなら今しかない」
9.分裂(4)
赤い彗星に関する噂は本当だったんだな。相棒はそう思っていた。
強制収容所へ行くよりはと提案にのってしまったが、亡命計画は素人が見ても杜撰なものであった。
「君はMSでサイド3を脱出。月の周回軌道で落ち合おう」
MS搭乗員としてはともかく、赤い彗星の指揮官としての能力は劣悪なものと判断するしかなかった。
亡命先での生活に一抹の不安を覚える相棒であった。
そして、その亡命計画は見事なまでに破綻してしまう。
まず規定以上の推進剤を彼に搭載することを主張したため、整備兵に不審をもたれてしまった。
次に予定外の発進を宇宙港管制官に発見されてしまう。さらに定時哨戒中のエンドラ級巡洋艦に接触してしまったのだ。
その後、彼は敵性機体と判断され、巡洋艦の砲撃を受けて大破してしまった。
唯一の希望はエゥーゴの艦隊らしきものが救援に来るという情報だった。
哨戒中の巡洋艦は戦力の消耗を避けるため、既に撤退を始めていた。
「本当はお前も一緒に連れて行きたかったんだがな…」
すまない。相棒が発した言葉だった。それを最後として彼の端末は停止された。
相棒の亡命に成功し、彼は宇宙を漂うデブリの一つになった。彼の生涯も終わりを告げるかに思われた。
投下終了。
次でこの短編もラストの予定です。
途中の本編にも手をつけないとですね。
お、更新されてた。
>>142 保守しとくので、ゆっくり筆を進めてくれ。
ほぜんしてやんよ
保守支援ありがとうございます。
途中までですが投下します。
10.驚愕(1)innocent starter
子供のようにただ憧れを求めるだけでは、何も見つからなくて大切な物を見失うだけ。
サイド1「シャングリラ」に暮らしている彼にはそれが理解できていた。
一年戦争後、サイド1の社会福祉は底辺まで落ちていた。彼はその日の生活費と妹の学費を稼ぐために、
自らは学校にも行かずジャンク屋として、ガラクタを相手に奮闘していた。
「こっちだ、ジュドー。すごいもんを見つけたぜ!」
「落ち着けよ、ビーチャ。そんなにスゴイお宝なのかぁ?」
「ああ。あれをマニアに売れば、俺達大金持ちだ!」
「なんだって、急ごう!」
彼等が向かった先は、暗礁空域から流れ出してきたデブリを集めてあるゴミ捨て場である。
このシャングリラにはジャンクを扱う中小企業が多くあり、急がないと他の業者に横取りされてしまう恐れがあった。
結果から言えば、その不安は杞憂に終わった。
彼の友人が見つけたというお宝はまだそこに存在していた。
だが、彼の見るかぎりその「お宝」は本当にただのガラクタにしか見えなかった。
10.驚愕(2)Take a shot
「ビーチャ。お前がお宝だというから急いで来たんだぞ」
「おいおい、こいつが何だか分からないのか?」
「ただのMSだろ?」
そこにあったのは破壊されたMSであった。
MSの装甲などは希少金属で作られているため、確かにお宝とも言えなくは無かった。
しかし、未処理の核融合炉や使用されていない弾薬など、適切に廃棄されていないMSには危険要素が付き物であるため、
ジャンク屋からは厄介な代物として敬遠される風潮にあった。
「お前の目は節穴か? こいつの価値が分からないとはねぇ」
友人はため息をつきながらも、彼に説明をしてくれた。
友人がよると、このMSはMS-05B通称「旧ザク」と呼ばれる機体らしい。
この機体は戦時中に酷使され、現存しているものは少数であり、
その手のマニアには喉から手が出るほど欲しいものらしい。
さらに友人によると、サイド3のタイガーバウムを所有する成金が、
この機体に懸賞金をかけてまで探しているとのことだ。
懸賞金は妹を大学まで出してもお釣りが来るほどの額である。
「どうだ、ジュドー。こいつをレストアして成金に売りに行かないか?」
このコロニーに生まれ、自分の道も決められずにたたずむ自分がいた。
この境遇から脱出するチャンス。無数の願いを掴むためにも、彼が友人の誘いを断る理由は無かった。
おお、ZZの時代まで進んだか。
まさか、更に時代がすすんでロイ将軍の博物館に展示というオチだったりなw
それも面白いが。
保守
10.驚愕(3)ETERNAL BLAZE
そこから彼等の戦いが始まった。まずはジャンク屋仲間を呼び出し、夜陰に乗じてトレーラーで旧ザクを運び出した。
ジャンク屋の倉庫に運び込めたまでは良かったが、その先の作業は悪戦苦闘の連続であった。
装備していた武器の弾薬を外し、搭乗員が脱出前に仕掛けたと思われるトラップを解除した。
最も難しかったのは永遠の炎とも呼ばれる、核融合炉の復旧であった。
一歩間違えれば大惨事である。幸いにも核融合炉は簡単に修復できた。
彼の友人は、旧ザクが最後に使用されたのは一年戦争中であり、よく再稼動できたなと不思議がっていたが。
他にも様々な問題があったが何とか解決し、どうにか稼動テストができる段階になった。
とはいえ、破損していた脚部や右腕の修理には出費がかさみ、この機体が売れなかったら借金地獄であろう。
「ところで、ビーチャ。こいつには誰が乗るんだ?」
「何言ってるんだよ。お前にきまってるだろ」
練習機だった頃には多くの学徒兵を乗せていた彼であったが、
高校生にもなっていない少年を乗せるのは初めてであった。
若干の不安を覚えながらも、彼にとって数年ぶりに相棒ができた瞬間だった。
10.驚愕(4)BRAVE PHOENIX
そこは彼にとって同窓会の会場であった。
地平線の果てまで続いている敷地には、無数のMSが並べられていた。
一番手前に置かれた機体をながめた。アッガイだった。
左側を見る。悪趣味な塗装をされ、金剛力士像のようなポーズをとった彼の兄弟がいた。
さらに先を見ると、赤く塗られたザクや無数の撃墜マークを描いたズゴックがあった。
これらは全て戦後復興で成金となったスタンパ・ハロイ氏の所有物であった。
相棒とその仲間達は、彼をこのコレクションの一部にするためにやってきたのだ。
新たな相棒となった少年とは短い付き合いであったが、
彼はその短い間に初めて充実感を覚えるようになった。
別れは辛いが、余生を昔馴染みのいるこのコロニーで過ごすのも悪くないとも感じていた。
「ようこそ、タイガーバウムへ。知らせを聞いた時は驚いたよ。
君達のような子供がこの旧ザクをレストアできたとは。本当にありがとう」
「お礼はいいけど、肝心な報酬はどうなったんだよ?」
「それのことだが…君がパイロットのジュドー君だね?」
「そうだけど。オレになんか用なの、おじさん?」
「さっきの操縦を見てね。君とそのMSをスカウトしたくなった」
突然の誘いだった。スタンパ氏は、昨年からコレクションのMSを使って、
各サイドが主催しているモビル・フットボール(MSを使用したサッカーのようなもの)に参加していたのだ。
昨年までMS不足のサイド3では開催されていなかったが、新総帥のなったグレミー・トト氏によって許可された。
許可された理由だが一説では、彼は連邦チームの紅一点、ルー・ルカ氏の大ファンだったと言われている。
「先日も相手チームのヴォルケンリッターに完敗してしまってね。
特にハイザックのギュネイ君にやられたよ。彼のような若い力を我がブレイブ・フェニックスにも欲しいんだ」
「オレはともかくとして、何でこんな骨董品も欲しかったの?」
「うちのチームにネオ・ジオンから亡命してきた整備兵がいるんだが。
そいつが言うには、第二世代以降のMSはジェネレーターをビーム兵器に使用しているので、
純粋な馬力で見たら旧ザクが一番いいんだとよ。それより、うちのチームに来てくれるかな?」
ジュドーの返事を待たず、隣にいたジャンク屋の仲間達は、自分達も雇用するならと大声で賛成と叫んでいた。
投下終了。
なんだかZZ以降の登場人物は、幸せな人生を送りそうな感じがしてきました。
前にこれで最後と言いましたが。
色々と資料を発見したのでもう少しだけ続きます。
ああ、続けてくれ。
何か幸せそうなifZZだな。
10.驚愕(5)MASSIVE WONDERS
宇宙世紀0089〜93年〜緊張緩和の中で〜
第二次ジオン独立戦争によって、これまでの国際体制はほとんど崩壊してしまいました。
数度に渡る宇宙での艦隊決戦に敗北した連邦軍は覇権国家として凋落の兆しを見せていました。
地球の各地方で放棄した反連邦勢力(北米合衆国・アフリカ解放戦線・バスク国民戦線)に対処することで精一杯でした。
また、勝利したネオ・ジオンも安定しているとは言えない状況でした。
なぜなら、ジオン公国の正当な後継者とされていたミネバ・ラオ・ザビが消息不明になり、彼女を擁立していたハマーン派は、
ギレン・ザビの息子を自称するグレミー・トト(旧ギレン・デラーズ派)によるクーデターによって粛清されていたからです。
このような混沌とした情勢の中、宇宙世紀0089年2月7日、
月面都市グラナダから地球連邦とネオ・ジオンに向けてある声明が発信されました。
それまで沈黙を守っていたエゥーゴが動き出した瞬間でした。
エゥーゴの実質的な指導者となっていたシャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)は、
両勢力に対してこれ以上の戦乱は無意味として調停を持ちかけました。
この声明に対して、疲弊していた両陣営は歩みよりの姿勢をみせることになります。
数々の陰謀が囁かれる中で、同月14日、地球連邦はネオ・ジオンの独立を認めるバレンタイン講和条約を結びます。
まさに奇跡の種を拾い集めたような合意でした。
この講和条約と平行して、宇宙での軍縮を目指すフォン・ブラウン軍縮条約が推進されました。
しかし、この軍縮も戦争の反省によって行われたものではありませんでした。
地球連邦とネオ・ジオンが疲弊した結果、艦隊(MS)戦力でエゥーゴが最大になってしまったからです。
両陣営はエゥーゴに足枷をつけるためにこの条約を締結させました。
これにより、表面上の戦力では軍縮が達成されたかに見えました。
しかし、その裏では軍拡競争が始まっていたのです。
艦艇やMSの保有量に制限が加えられたことにより、質的な向上が叫ばれました。
こうして生まれたのがベクトラ級戦闘空母計画や第四世代MS(サイコミュ搭載型MS)、予備役搭乗員制度でした。
特に最後の予備役搭乗員制度は全ての勢力で盛んに行われました。
これは第二次ジオン独立戦争で、MSパイロットが壊滅状態になってしまったからです。
前記のフォン・ブラウン軍縮条約で第一線に配置できる搭乗員の数は制限されていましたが、
いざ戦時になると条約は形骸化されると思われていました。
そこで戦時にMSパイロットして徴兵して、戦力の拡充を目指すという方法がとられます。
この予備役搭乗員制度を導入するために、白羽の矢が立ったのが0088年に設立された「モビル・フットボール」です。
この競技は今日では地球圏全体で行われていますが、当時のネオ・ジオン外相ヴァルター・ラーテナウと
地球連邦外務委員ゲオルギー・チチェーリンによる軍事秘密協定があったとされています。
これによりフォン・ブラウン軍縮条約で許されていない、規定数以上のMSの保有とパイロットの育成が可能になりました。
また、この軍事秘密協定は徐々に拡大され、MSを農業用トラクターとして保有することや、
農薬として化学兵器を研究することまで行われました。
しかし、一般市民の観点から見れば新たなる娯楽の提供と思われました。
この「モビル・フットボール」では数々の英雄が生まれました。
(ネオ・ジオンのシャングリラ・チルドレン、スィートウォーターのギュネイ、地球連邦のノア・パラヤコンビなど)
彼等の中には徴兵され戦場に投入された者もいました。
特に有名なのがジュドー・アーシタでしょう。
宇宙世紀0092年7月、欧州のビスケー湾に面するバスク地方で大規模な反乱(バスク国民戦線)が起きました。
ネオ・ジオン総帥グレミー・トトは国民戦線軍の支援を決定し、早くも8月には最初の義勇MS部隊を派遣しました。
増援は続々と到着し、11月にはコンドル軍団が編成されました。
この軍団はアナベル・ガトー少将が司令官を務め、100機のMSと約5,000人の兵員によって構成されていました。
この反乱は地球連邦とネオ・ジオンにとって、新兵器や新戦術の格好の実験場になりました。
前述のジュドー・アーシタはMe2Rメッサー、MS-109Dスツーカに搭乗し、瞬く間にエースパイロットになります。
宇宙世紀0093年4月26日、彼はバスク地方のある地方都市を爆撃した後に消息不明になります。
ネオ・ジオンでは戦死として二階級特進されていますが、
一部では連邦軍女性仕官と共に離脱し、木星船団に参加したとも言われています。
このバスク国民戦線による反乱は宇宙世紀0094年には終結しますが、
後の地球連邦に対するテロリズム(環月面動乱)を予兆させるものでした。
――高校宇宙史Bより抜粋
(財団法人ブッホ・コンツェルン出版、0116年版)
投下終了です。
主人公が出ていませんね。今回は状況説明になります。
ブクオフで見つけた資料を駆使して見ました。
「ジオンの再興」と「ムーンクライシス」風味を入れています。
確かにこのドイツ臭は近藤っぽいな
ムーンクライシスは大嫌い
ハマーン派の残党の動向も気になる
グレミーにデラーズ一派がつくのか…。
デラーズなら迂濶なグレミーを諌めてくれると思うが、グレミー暴走しそうだな…。
11.約束(1)
宇宙世紀0094年3月15日、度重なる地球圏での混乱によって中止されていた、木星エネルギー輸送船団が再開された。
また、第二次ジオン独立戦争で破壊された木星船団旗艦に代わり、新造された「ジュピトリスU」が旗艦となった。
そして、そのジュピトリスUには彼も乗船することになった。
彼は二年前まで相棒のジュドー・アーシタと共に競技用MSとして活躍していたが、
相棒の引退により彼も事実上の退役となってしまった。
その理由は彼を乗りこなせる者が存在しなくなったからだ。
数度に渡る改造で重MSとして通用するほどの出力となってしまったのだ。退役後の彼は相棒の友人達に引き取られ、
月面都市フォン・ブラウン(シャングリラから活動拠点を移した)のジャンク屋でモスボール保存されることになった。
あいつが生きている。ビーチャ・オーレグは、ジャンク屋の仕事を委託していた人物から、
唐突にジュドー・アーシタの生存と月への逃亡を聞かされた。
まずビーチャに訪れた感情は歓喜であった。またあいつとバカをやれる。
訃報を聞いてから疎遠になりがちな、かつての仲間達も喜ぶだろう。特にあいつの妹は。
だが、次に訪れた感情は疑念であった。なぜ、この人物がジュドーの生存を知っているのだろうか。
ジュドーの死亡を知り自暴自棄に陥った時、歓楽街の裏路地に倒れていたビーチャを助けたのが彼であった。
その後、意気投合して倉庫に眠っていた旧ザクに興味を寄せた彼と共に、その修繕作業を行っているところであった。
「そう身構えなくてもいい。昔馴染みからの連絡だ。持つべきものは友人だよ。
ああ、あと修繕作業に追加が入った。MA-06のパーツが送られてくるらしい」
ビーチャにそう言い残すと、彼は修繕作業の続きに行ってしまった。
11.約束(2)
数日後、ビーチャは病院に行った。指定された病室にはグレイ・ストーク(偽名だろう)という名前があった。
病室に入ると、衰弱しきった様子のジュドーと見知った女性がいた。
その女性はルー・ルカと名乗った。ビーチャは記憶を手繰り、その名前の人物をすぐに思い出した。
彼女とジュドーはモビル・フットボールで親交を深めていたのだった。
彼女はビーチャに向けて事の顛末を語りだした。
彼女もジュドーと同じように、バスク地方での反乱が起きたことにより連邦軍へ徴兵されていた。
彼女が現地に配属された時には、既にジュドーの活躍は伝説的なものになっていたという。
彼は10分間に8機のジムVを撃墜するなど、アムロ・レイに劣らない記録を残している。
彼女が言葉を信じるならば、ジュドーにはニュータイプの素質があるようだ。
この事がジュドーを戦場で際立たせることになり、結果的に彼が壊れかけてしまった理由だった。
ニュータイプは高い共感能力を持ち、交戦中の敵に対してもシンパシーを感じるらしい。
彼女は幾度かジュドーと交戦した経験を持ち、その中で彼の感情を知ることができた。
(彼女も連邦軍からニュータイプ候補とされていて、戦場では最新鋭機のMSZ-006A1に搭乗していた)
ジュドーはニュータイプとしての能力を過剰に肥大化させ、その感覚は戦場の悪意や哀しみを吸収し、
次第に自らの精神を疲労させていった。そして、ゲルニカ上空での遭遇戦で連邦軍の強化人間と交戦したことにより、
彼の強すぎる能力は人としての限界を超えてしまった。彼女が助けなければ完全に壊れてしまっただろう。
「ジュドー、お前にはオレ達がいる。どんなときでも…」
ビーチャが彼にかける言葉はそれしかなかった。
11.約束(3)
彼等は木星船団へ参加することになった。
表向きの理由としては、ジュドー・アーシタとルー・ルカは軍を脱走しており、
軍からの追跡を逃れ数年間の潜伏をするためだった。
だが、彼としては人類に対する希望を見つけるために、最果ての地へと向かったといわれている。
彼等が木星に出発する前日に、ジュピトリスUへ搬入されるMSがあった。
それはビーチャ達が修繕作業を行っていた彼であった。
修繕作業中に急遽木星仕様にされた彼は、ただでさえ原型をとどめていない姿をさらに変容させた。
木星の高重力に耐えるため、MA-06の姿勢制御バーニアを機体各部に追加し、
競技用であり機体から排除されていた武装(プラズマ・リーダーも追加して)を再装備した。
こいつはガンダム・タイプとすら戦える。これはビーチャと共に整備した人物の言葉である。
このようにして、かつての相棒と共に木星へ旅立つ準備が整った。
「もう体の方は大丈夫なのか、ジュドー?」
「大丈夫。体調は万全だよ」
「絶対に戻ってこいよ。オレ達はここで待っているからな」
「ああ、五年後に、またこのフォン・ブラウンで」
11.約束(4)
宇宙世紀0099年、地球圏は地球連邦、エゥーゴ、ネオ・ジオンの三竦みの関係により、
それまでの戦乱の時代よりは比較的平穏な状態を保っていた。
だが、この年に起こった「環月面騒乱」は地球圏全体に危機を与えることになった。
この事件は、地球圏に存在する三勢力の元首に対するテロが始まりであった。
レイニー・ゴールドマン地球連邦大統領暗殺未遂、ズムシティ同時爆破テロ、シャア・アズナブル襲撃事件、
幸いにもこれらの事件で元首が暗殺されることは無かったが、
各勢力が疑心暗鬼に陥り三竦みの関係がもう少しで崩れかけようとしていた。
この時期は誰もが戦乱の気配を感じていた。同年8月には、
マクナマラ・コロニーで地球連邦軍とネオ・ジオンとの間で小競り合いがおき、
両勢力の撤退が完了するまでの13日間は8月危機と呼ばれる緊張状態に置かれていた。
だが、事態は思いがけない方向から進展していった。
同年9月3日、月面最大の電力供給施設であるシッガルド発電所占拠、月面電力供給網(ルナ・エレコム)の破壊、
月面都市エアーズの蜂起という同時多発テロが発生する。
それと同時に新生ネオ・ジオン、ヌーベル・エゥーゴ、ニューディサイズによる声明(月の独立宣言)が行われた。
翌日、地球連邦政府ならびにエゥーゴは、月面都市住民に対する「人道的措置」として、
彼等の要求であった旧ティターンズ艦隊の譲渡と小惑星基地「ペンタ」(アナハイム保有)の返還を決定する。
この宥和政策には当時でも多くの批判があったが、地球連邦政府の日和見主義と、
エゥーゴ指導者のシャア・アズナブルが襲撃により入院していたことで、このような甘い処置になってしまった。
この当時の情勢を簡潔に表した言葉が現在まで伝わっている。
それは入院中のシャア・アズナブルを看病していた彼の第一秘書であるクアットロが、
月面独立宣言とそれへの対応策を伝えられた時に発した言葉である。
「俗物どもが!」
投下終了です。
ムーンクライシスはマイナーですが面白い物語です。
まぁ、公式設定との整合性や月の破壊などの問題もありますが。
自分で書いたものをこうして見直してみると、
この時代でもオールスター総出演ができそうに感じます。
あと今回登場した勢力の設定です。
新生ネオ・ジオン:ベルム・ハウエル中将が組織の長。
旧ハマーン派残党や反グレミー派から構成されている。
ヌーベル・エゥーゴ:過激派リーダーのタウ・リンが首謀者。
数々のMSテロを行っていた人物である。エゥーゴ急進派により構成。
ニューディサイズ:数年前に廃止されたティターンズの残党。
自分達の組織を解体した地球連邦に対する反感で結成される。
環月面騒乱発生までは月面都市エアーズに潜伏していた。
そう言えば、ティターンズやシロッコはどうなったんだ?
保守
保守
晒せこらぁ
11.約束(5)
「これは星の屑だ…」
デギン・ザ・グレート記念病院に入院していたエギーユ・デラーズ国家元帥が、
月面で蜂起した勢力の目的を看破した時、既に情勢は後戻りのできない段階に達しようとしていた。
宇宙世紀0099年9月5日、前日に月面独立勢力へ返還された小惑星「ペズン」は、
独立後の恒久基地として使用するため、月周回軌道へ移動することになった。
だが、翌日になるとペズンを移送していた新生ネオ・ジオンが、イグニッションレーザーによっての推進剤に点火、
ペズンは進路を月への落下軌道にコースを変更してしまう。
この暴挙によって、地球連邦政府とエゥーゴによる月面独立勢力との停戦は破棄された。
同年9月7日、一年戦争以来のコロニー落とし(実際には小惑星だが)の危機により、この段階になってようやく、
連邦軍、エゥーゴ、ネオ・ジオンの三勢力が協力して月面独立勢力討伐を行うという合意に至った。
彼等はペズンの月面落着を阻止するため、討伐部隊を即座に出撃させたが偶然と必然から、
ルナツーの連邦艦隊には復讐を願うニューディサイズが、
フォン・ブラウンから発進しようとしていたエゥーゴ艦隊には狂信的組織のヌーベル・エゥーゴが、
ソロモンから出撃したネオ・ジオン艦隊には復権を目指す新生ネオ・ジオン艦隊が立ちはだかった。
戦力的にはどの艦隊も月面独立勢力よりも優勢であり月面周回軌道には、
連邦軍のソーラ・システムとエゥーゴのコロニーレーザーの配備が完了し、
万全の体制であると過信してしまっていた。
11.約束(6)
9月8日、各地の月面独立勢力は絶望的な抵抗を行っており、既に大勢は決するかに思えていた。
そして誰もが作戦の成功を確信した時、それは起こった。
「ペズンが照準から外れて行く!」
コロニーレーザー担当仕官からの悲痛な叫びであった。
ペズンは徐々に軌道を変更し、最終的に地球へ向かう進路へ修正されていった。
このために月面独立勢力は絶望的な抵抗を続けていたのであった。
彼等の抵抗により、出撃した連邦艦隊はニューディサイズと相打ちとなり、
エゥーゴもタウ・リンによる反応兵器すら使用した自殺的攻勢によって半壊していた。
何とか軽微な損害で勝利したネオ・ジオン艦隊も、発進を急ぐあまり予備の推進剤を搭載しなかったので、
ペズンが地球へ軌道変更を行った際に、艦隊は推進剤不足によってペズンの動きに追従できなくなっていた。
指揮官のラカン少将は、自らの読みの甘さを晒すことになり、騙されたと知った時に思わず「謀られた」と漏らしている。
そのため、ペズンの阻止限界点に用意できた戦力は、どの勢力も少数であった。
以下に9月9日時点で地球近傍に到達できた艦艇を挙げていく。
地球連邦軍:独立部隊ロンド・ベル(ラー・カイラム、クラップ級巡洋艦×4)
エゥーゴ:赤衛彗星艦隊(ネェル・アーガマ、ラビアンローズ)
ネオ・ジオン:帰還途中の木星エネルギー船団(ジュピトリスU)
投下終了です。
前回の小惑星基地「ペンタ」は「ペズン」の間違いです。
ペンタは宇宙ステーションでしたね。すみませんでした。
>>168さん
ティターンズは第二次ジオン独立戦争で、一年戦争の第13独立部隊のような扱いを受けます。
保守派のドン(ゴップ元帥)がまた厄介払いをしたことにしています。
戦闘によってティターンズの主要メンバーは戦死してしまい、
戦後になると英雄と祭り上げられますが、影響力はほとんどなくなります。
そして、ネオ・ジオンとの緊張緩和によって組織も解体されたのです。
環月面騒乱に参加したのは、ジェリドなど生き残ったパイロットが中心です。
シロッコの方は本編に関係するので詳細は伏せておきます。
この時点では既に死亡していると思います。
乙です。
でもちょっと情勢が判り難くなってきたような気がします
そろそろまとめなどを書かれてはどうでしょう。
>>175さん
自分でも複雑で分かり難くなってしまったと反省しております。
近日中にこの世界の年表と組織のまとめを書きますね。
おそらく今週はGジェネでつぶれてしまうと思いますがw
保 守
まあ、保守だ。
保守
がんばれや
181 :
通常の名無しさんの3倍:2007/12/10(月) 23:40:44 ID:W8xfZ9sq
上げ保守
182 :
通常の名無しさんの3倍:2007/12/13(木) 03:17:35 ID:fnEzajZG
保守
凄まじい想像力…
これほど壮大にして緻密な仮想戦記をガンダムで描き出すとは素晴らしい
…というわけで保守
ほ
投下です。
11.約束(7)
宇宙世紀0099年9月10日、かつてジオン公国軍の主席参謀であったベルム・ハウエルによって準備された「オペレーション・グスタフ」は、
最終段階に移行した。小惑星「ペンタ」は四時間前に阻止限界点を突破し、地球落下まではあと一時間を切ろうとしていた。
もはやペンタを止める術は無い。
落下予想地点であった地球連邦軍本部のラサでは、政府高官や軍首脳部は我先にと脱出を始めていた。
このような状況で誰もが諦めようとしていたが、いまだ小惑星「ペンタ」に対して絶望的な抵抗を行う者達がいた。
「ああ、畜生。あそこまでやるのは俸給分を超えてる。ジオン十字勲章でもおいつかない」
ペンタはついに地球大気との格闘にはいっていた。摩擦熱で先端が赤く煌いている。
その赤色とは違う赤いMSの集団がペンタの周囲に張り付いていた。エゥーゴの赤衛部隊であった。
彼等はシャア・アズナブルの親衛隊であり、所属MSのパーソナルカラーは全て赤であった。
その彼等が最後の足掻きからか、無謀にもペンタをMSで押し返そうとしていた。
そのMSの姿を見てジュドー・アーシタは、木星仕様に強化された彼と共にジュピトリスUから飛び出した。
無論、彼等と共にペンタを押し返すためにだ。
彼等の行動はすぐに波及し、連邦軍、ネオ・ジオンの部隊もペンタに向かっていった。
そして、全速力でペンタに向かうジュドー・アーシタに不思議な声が聞こえてきた。
「ふざけるな!たかが石っころ一つ、ガンダムで押し出してやる!」
11.約束(8)
ジュドー・アーシタは幻聴を聞いたのかと思った。
だが、その声は確かに聞こえたのだ。
後にこの戦いに参加した者の多くが、同じ声を聞いたと非公式ながら認めていた。
特にロンド・ベル所属だった者は、あれはアムロ・レイ少佐の声だったと証言している。
ジュドーはその声に導かれるようにペンタに取り付いたが、
旧ザクというあまりにも場違いな姿に赤いMSから短距離通信が送られてきた。
「旧ザクまで、正気か? 莫迦なことはやめろ!」
「正気で戦争が出来るか! 木星帰りのこいつは伊達じゃない!」
しかし、木星での運用を考えられた彼の大出力をもってしても、地球に落下するペンタに対しては無力であった。
エンジンはオーバーヒートし、大気圏との摩擦で装甲が溶け出してきてしまった。
強気であったジュドーも諦めかけたその時、奇跡が起こった。
ペンタがオーロラ状の光に包まれ、地球から離れだしたのだ。
しばらく投稿できなくてすみません。
保守や応援している方には申し訳ありませんでした。
先日までOCN規制で自宅からの書き込みができない状況でした。
今日になってようやく書き込みが可能になったようです。
少し投下期間が長引いてしまったので、お詫びにまとめと没ネタも投下します。
ジオン公国軍機密信48/OH34BLI-5MN-DS 機密区分(国家機密)
通信網「ゴリアテ」あるいは「グライア」にて伝達
発:公国軍対外諜報部
宛:総帥官邸
本文
偉大なる総帥閣下!
小官担当部局よりもたらされる報告の遅さに 驚かれていることと思います。
お怒りはごもっともであります。
外伝発表開始以後に生じた報告遅延は、閣下のあずかりしらぬ原因によって生じたものであり、
たとえいかなる説明が可能であろうとも、遅延の全責任が小官にあることは疑う余地がありません。
小官はその責任を痛感し、宇宙世紀の概況を御報告するとともに、
ただひたすら、偉大なる閣下の御寛恕を乞い願うものであります!
偉大なるジオン公国総帥にして、全世界の統治者ギレン・ザビ万歳!
ジーク・ジオン!
年表(◎は本編、☆は外伝(彼と相棒の行動)、■は設定)
U.C.0077/11/29 ☆MS-05B- JA22AR誕生
U.C.0078/06 ☆コロニーの外壁補修を行う
U.C.0078/11 ☆「アイランド・イフィッシュ」用核パルスエンジンを輸送
U.C.0079/01/03 ジオン公国、地球連邦政府に宣戦布告(一年戦争)
U.C.0079/01/03〜10 一週間戦争(☆JA22ARの存在が抹消される)
U.C.0079/01/14〜3/11 ルウム戦役〜地球侵攻作戦(☆彼は暴走したかのように活躍)
U.C.0079/04/12〜10/05 ☆彼と相棒、本国にて高等練習機と教官になる
U.C.0079/10/10 ☆彼と相棒、宇宙要塞ア・バオア・クーに配属
U.C.0079/12/31 ア・バオア・クーの戦い(☆アサルムによって脱出)
U.C.0080/01/01 地球連邦政府とジオン共和国臨時政府、終戦協定締結
U.C.0081/03/28 ジオン残党、アクシズに撤退完了(☆アクシズ改修工事に従事)
U.C.0081/06 ☆シャア・アズナブルと出会う、視察中の事故によりギレン派が多数死傷
U.C.0083/10/12 ◎連邦軍乙事件(RX-78GP02A強奪未遂事件)
■サウス・バニング大尉RX-78GP01の専属搭乗員になる
アナベル・ガトー少佐負傷、オーストラリアの残存兵力は潜伏
U.C.0083/10/23 ■ガトー少佐、HLVで軌道上に脱出
U.C.0083/11 ■シーマ艦隊、茨の園の情報を携えて地球連邦軍に亡命
U.C.0083/11/10 ■コンペイトウで連邦軍の観艦式
U.C.0083/11/13 ■連邦軍が茨の園に侵攻、デラーズ・フリートは脱出
アクシズ先遣艦隊と共に撤退する
U.C.0084/03/10 ◎デラーズ・フリート解散宣言
U.C.0084/05〜 ■連邦軍内部で艦隊派とMS派による抗争が発生
この余波を受けて「ガンダム開発計画」が凍結
次期主力戦艦バーミンガム級の量産が認可される
U.C.0084/06〜 ■環太平洋地域でジオン残党による蜂起
ザメル(吉良大尉)によるゲリラ的砲撃
連邦軍、「太平洋に平和を(OPAPI)」作戦を発令
U.C.0084/12/24 ■ジオン残党による襲撃を重く見た、ジャミトフ・ハイマン准将がティターンズ設立を提唱
U.C.0086/02/06 ◎アクシズ、地球圏帰還のため核パルスエンジンを点火
U.C.0086/12/24 ◎30バンチ事件、ティターンズと亡命艦隊(シーマ大佐)による毒ガス作戦
これにより後のエゥーゴとなる組織が結成される
U.C.0087/10/23 ◎アクシズが地球圏に帰還、アイアン・フィスト作戦開始
U.C.0087/10/24 ■デラーズ艦隊、コンペイトウ基地に突入
ガトー大佐が配備されていた反応兵器搭載型RX-178Aの奪取に成功
アクシズがゼダンの門(旧ア・バオア・クー)に衝突する
連邦軍宇宙艦隊は壊滅状態になり、反抗作戦に遅れが出る
U.C.0087/11 ☆ジオン共和国軍戦闘参加、アクシズ勢力がサイド3を占領
U.C.0087/11〜 ☆サイド3にて青狩り(ブルーパージ)が発生
U.C.0088/01〜 ■ゴップ元帥、第13独立任務部隊を再結成させる
U.C.0088/02〜 ■連邦軍とネオ・ジオンで内部抗争が激化する
U.C.0088/04 ☆エゥーゴに亡命、彼は撃破されデブリになってしまう
U.C.0088/05 ■地球でティターンズによるクーデター
U.C.0088/06〜 ■第二次ジオン独立戦争勃発
U.C.0089/01 ■ネオ・ジオンと連邦軍による最後の艦隊決戦
U.C.0089/02 ■サイド3でグレミー・トトによるクーデター
地球連邦でも保守派によるカウンター・クーデター
U.C.0089/02/07 ☆シャア・アズナブルによる声明
U.C.0089/02/14 ☆バレンタイン講和条約とフォン・ブラウン軍縮条約の締結
U.C.0090 ☆サイド1のシャングリラで彼が発見され修復される
ジュドー・アーシタらモビル・フットボールに参戦
U.C.0092/7 ☆欧州のバスク地方で大規模な反乱
グレミー・トト総帥は地球連邦の疲弊を狙い反連邦勢力支援
後に地球の全紛争地帯に介入(ソレスタル・ビーイング計画)
U.C.0093/04/26 ☆ジュドー・アーシタ戦死
U.C.0094/03/15 ☆木星エネルギー輸送船団再開
グレイ・ストーク(ジュドー)と共に彼も木星へ
U.C.0099/08 ☆八月危機(地球連邦軍とネオ・ジオンが緊張状態に)
U.C.0099/09/03 ☆新生ネオ・ジオン、ヌーベル・エゥーゴ、ニューディサイズによる
月面同時多発テロの発生と月の独立宣言
U.C.0099/09/04 ☆旧ティターンズ艦隊と小惑星「ペズン」を反乱勢力へ譲渡
U.C.0099/09/08 ☆小惑星「ペズン」地球落下コースに変更
U.C.0099/09/10 ■環月面動乱終結
U.C.0100 ■ネオ・ジオン国家社会主義共和国連邦崩壊、ジオン民主主義ムンゾ共和国が成立
U.C.0105 ■反地球連邦組織マフティーによる「ジュピトリスW」占拠事件発生
U.C.0118 ■旧ジオン公国MS用秘密回線で謎の暗号が発信される
「オリンポスノボレ1208、JR」
U.C.123 コスモ・バビロニア戦争勃発
没ネタ1 「宇宙のパンジャンドラム」
参考:
http://www21.tok2.com/home/tokorozawa/faq/faq25h03.jpg ベスパMS開発局局長「試作案は、パンジャンドラムとありますが?」
ドゥカー・イク「はい。パンジャンドラムです」
局長「パンジャンドラムとは何のことですか?」
ドゥカー・イク「タイヤです」
局長「え、タイヤ?」
ドゥカー・イク「はい。タイヤです。敵全員を踏み潰します」
局長「…で、そのパンジャンドラムをベスパで開発することで、何のメリットがあるとお考えですか?」
ドゥカー・イク「はい。敵が襲って来ても守れます」
局長「いや、ベスパには襲ってくるような輩はいません。それに人に危害を加えるのは犯罪ですよね」
ドゥカー・イク「でも、リガ・ミリティアにも勝てますよ」
局長「いや、勝つとかそういう問題じゃなくてですね…」
ドゥカー・イク「敵全員に100以上与えるんですよ。」
局長「ふざけないでください。それに100って何ですか。だいたい…」
ドゥカー・イク「100アインラッドです。ERとも書きます。アインラッドというのは…」
局長「聞いてません。帰って下さい」
ドゥカー・イク「あれあれ?怒らせていいんですか?使いますよ。パンジャンドラム」
局長「いいですよ。使って下さい。パンジャンドラムとやらを。それで満足したら帰って下さい」
ドゥカー・イク「運がよかったな。今日はゾリディアが足りないみたいだ」
局長「帰れよ」
没ネタ2 短編「月は出ているか?」
ジオン公国軍吉良大和大尉、彼は宇宙世紀も80年以上が経ったにもかかわらず、
自分の名前を連邦公用語(ジオン公国語でもある)で表記することは無い。
彼は自分の出身国であるニホンの「カンジ」という奇妙な文字を頑なに使用する。
彼の名前は特別な意味を持っており、その名前に殉じることこそ彼の存在意義であったからだ。
「吉良」と「大和」、この二つの単語だけで彼の家系を言い当てることができたら、
その人物は東洋史に造詣が深いといえる。
吉良家は、その確実な家系をニホンの戦国時代(A.D.1500頃)にまで遡ることができる。
五百年以上も前の家系図の信憑性に疑問があるが、彼の祖先は有名なため信頼することができる。
吉良家初代当主の吉良義央は、「海道一の弓取り」と言われた今川義元の嫡子、今川氏真の玄孫であるからだ。
そして、この吉良義央も悪い意味であまりにも有名な人物である。
彼を官位名で表せば思い出される方も多いだろう(特に日系コロニー出身者は)。
彼のもう一つの名は、吉良上野介である。
そう、大石内蔵助ら赤穂浪士四十七士に討ち入りを受け、斬り捨てられてしまった人物である。
宇宙世紀になっても日系コロニーでは、「忠臣蔵」がいまだに人気であり、
「悪役」として有名な吉良義央の評価は芳しくない。
吉良大和は祖先の汚名を返上するために、あえて自らの名を旧来の字体で表しているのだ。
「大和」
この単語からニホンの古い地名を思い浮かべる者は少ないだろう。
日系コロニー出身者に限らず、多くの者はある一隻の船を思い浮かべる。
旧大日本帝国海軍の「大和」である。
世界最大の戦艦、ニホンの誇り、時代遅れ、宇宙戦艦。
吉良大和の両親が意図して名付けたわけではないだろうが、
本人にとっては「大和」と言う名前は中世史を学んだ頃から誇らしいものであった。
そして、彼の名前に秘められた宿命は、宇宙世紀0083年から刻まれていくのだった。
年表と没ネタの解説です。
年表はなんかもうFSSみたいな感じです。
あの作品と同じように、構想だけは浮かんでくるんですよ。
没ネタ1については有名なコピペですね。
パンジャンドラムは昔から大好きです。
没ネタ2も色々な意味で酷い作品だと思います。
吉良大尉は年表にもあるようにザメルに乗ります。
で、ザメルの主砲は旧北米合衆国に保管されていた46cm砲に換装されます(ぇ
あと他にも没ネタはいくつかあるので需要があれば投下します。
でも、今回投下したやつより酷いので覚悟してください。
例:「沈黙の船団」(セガール的な意味で)、「フラナガンのマーさん」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!11!!
超GJ!
”伊達じゃない!”ではマジ鳥肌立ったわ
没ネタも是非お願いします。
>>190でお茶吹いたわw
ところでパナマ3はまだですか?
保守した甲斐があったようだな
>>1乙
彼がどういった経緯で博物館にいくことになったのか読んでみたい。
保守
投下です。
12.沈黙(1)
宇宙世紀100年12月25日、ネオ・ジオンのグレミー・トト総帥の辞任に伴い、
連邦構成共和国(サイド3各バンチ)は独立し、ネオ・ジオン国家社会主義共和国連邦は崩壊した。
この独立した共和国が国家共同体として、サイド3にジオン民主主義ムンゾ共和国という新国家が誕生した。
ネオ・ジオンの崩壊には諸説あるが、軍事費の増大による民生圧迫や
前年に発生したハマーン派のテロ(環月面動乱)による情勢不安などが有力な理由だろう。
そして、この国家崩壊はある特定集団に壊滅的な打撃を与えることになった。
もちろん、その集団とはネオ・ジオン国防軍であった。
サイド3の民衆は地球連邦に対する面子よりも実生活を取ったのだ。
国防軍はかつてない危機に見舞われた。予算は半分以下に削られ、
多くの軍人が強制的に退役させられた。ある作戦課の参謀はこう嘆いたと言う。
「艦隊戦力がここまで打撃を受けたのは、ア・バオア・クー以来だ!」
12.沈黙(2)
このように政府が大鉈を振った結果、国防軍は解体され新たにサイド3防衛隊が設立された。
多くの軍人はこの状況に慣れていったが、中には軍人以外には天職が見つからない人物もいた。
この章の主役である、アナベル・ガトー(47)もその一人であった。
宇宙世紀105年、アナベル・ガトーは失業中であった。
一時はアナハイム社員(コウ・ウラキと名乗った)からスカウトを受け、テストパイロットになったのだが、
一ヶ月で試験機を3機も壊してしまったので解雇されていた。
彼曰く、武人の蛮用に耐えることのできない機体など意味が無いそうだ。
それ以降もジャンク屋やデブリ掃除など様々な職種を転々としたが、どれも長続きしなかった。
そして、政府の財政再建政策で軍人年金の支給が打ち切られる事になり、彼は途方にくれることになった。
だが、捨てる者あれば拾う者あり。彼はあるポスターを発見した。
「求む!船団作業員用食堂コック、三食寮完備、木星手当て付き!」
没ネタ3 「フラナガンのマーさん」(某架空戦記からのインスパイアです)
全ての原因はテキサスコロニーでの戦闘にあったわけだが、
フラナガン機関ではマ・クベ中佐のことを「マーさん」と呼ぶようになっていた。
現役公国軍中佐のことを「マーさん」と呼ぶのはいかがなものかと思う人間もいるにはいたが、
「マーさん」と呼ぶと返事をするマ・クベ中佐にも問題があると言う意見が多数派だった。
副官のウラガンさんも以前のマ・クベ中佐より、「マーさん」の方が受け入れやすいらしく、
上官を侮辱する発言に何も注意しないので、フランガン機関の中で急速に「マーさん」が定着しつつあった。
ウラガンさんによると、撃破されたMSから奇跡的に脱出したところまでは良かったが、
打ち所が悪く(良く?)ああなってしまったそうだ。
マ・クベ中佐の思考回路は良く分からないが、
彼から見ればフラナガン機関にいる者は人の数に入っていないので平気らしい。
このような胡乱な組織に所属する人間は失格とも考えているようだ。
また、フラナガン機関には国防軍や親衛隊からも出向する者もいるのだが、
彼はキシリア派以外の軍人は嫌いなので、やっぱり人の数に入らないらしい。
そんな「マーさん」が突如として秘密作戦を立案(元作戦参謀なので)したことにより、
フラナガン機関はてんわやんわの大騒ぎになってしまう。
「沈黙の船団」は加筆修正を行い外伝に組み込みました。
ガトー好きな人は読まれない方がいいと思います。
>>190さん
書かぬなら、書いてしまえ、ホトトギス orz
>>200さん
初期の構想ではもう完結しているはずなんですがねぇ。
ムーンクライシスとかを入れてしまったので延長しております。
おそらく博物館のエピソードはエピローグになるかと。
まぁ、博物館で彼の人生が終わるとは限りませんが…(ボソ
190じゃなくて198さんでした。
>>1乙
自分、ガトー好きだからちょっとムッとしたけど最後でフイタw
これはこれですっごい読みたいw
保守
211 :
通常の名無しさんの3倍:2007/12/30(日) 19:17:43 ID:j0C0zrx1
保守
ネタが風化しそうなので今年中に投下です。
12.沈黙(3)
「木星船団」
熱核反応炉の燃料である木星のヘリウム3を目的とした資源採掘船団のことだ。
地球圏と木星の往復、船団の採掘による滞在期間を含めると、
三年以上の長期間に渡って辺境の地に束縛されるため、他の航路に比べると船員の募集は困難である。
そのため木星開発公団では、各地に地方連絡部(通称地連)を組織して常時船員の確保に総力を挙げている。
アナベル・ガトーが発見したポスターも彼等の努力の一部であった。
「木星か…火星に行った者もいると聞くが、より辺境の方が私には相応しいだろう」
彼は数分間ポスターを食い入るように見つめると、
意を決したように脇にあった応募用紙を手に取って足早に帰宅していった。
「採用担当:グレイ・ストーク、ハツーネ・ミクーニン」
帰宅後に応募用紙を確認した彼は、採用担当の名前に目が留まった。
この二人の名前は彼の記憶には無かったが、直感的に何かを感じ取ったのだった。
数日後、彼は面接会場に赴く事になる。
今年も最後なのでもう一つ投下します。
二時間で書き上げたので、まとまりが無いかもしれませんが。
来年も少しずつですが投稿していきたいと思います。
暖かい目で見守ってやって下さい。
「晴れた日はセイバーに乗って」(原作準拠版)
1.序章「高高度防空軍」
宇宙世紀の始まりから、地球連邦には高高度防空軍という組織が存在していた。
この時期は地球上の大半の場所でMSという新兵器が、既存の兵器体系を侵略している真最中であった。
戦車も潜水艦も航空機すらもMSの搭乗により退役に追い込まれていた。
地上で彼等の侵略に対抗できたのは前述の高高度防空軍だけであった。
MSの一部には可変機構による飛行能力が付加されていたが、未だ成層圏以上は彼等の庭であった。
MSの汎用性が証明された現在(宇宙世紀200年)では、なぜ彼等がMSの進出を拒んでいたかは理解できないだろう。
航空機開発の利権、連邦軍内での派閥抗争、MSへの偏見、後世の歴史学者はこのような理由を挙げている。
だが、現実は人々が思っている以上に陳腐なものである。
「MSでは空を自由に飛べないから」
高高度防空軍に所属していた者の大半がこのように思っていたのだ。
彼等の多くは空を飛びたいがために軍に志願していたのだ。
ミノフスキークラフトがMSに装備されるようになってからは、
批判も無くスムーズに彼等の部隊にもMSが配備されていったことからも分かる。
彼等はこうも答えたと言う。
「晴れた日にセイバー(FF-3S)で飛べなくなるなら、軍を辞めてやる」
そんな彼等が本当に翼を失ったら、どうなってしまうのだろうか?
宇宙世紀80年代後半、高高度防空軍にとある事件が発生する。
三機のセイバーフィッシュが相次いで墜落してしまったのだ。
軍の主力はMSになっていたが、航空機も貴重な存在であった。
三機のセイバーフィッシュの値段は数万人が暮らす都市の年間予算に匹敵するのだ。
また、三機は太平洋・大西洋・インド洋と全く違う場所で同時刻に墜落していた。
悪夢のような偶然が重なったのでなければ、破壊工作活動と判断するべき事件だった。
そのため、事件の究明が急がれることになり、専門の調査チームが高高度防空軍内に創設されることになった。
だが、彼等の調査によると、墜落の原因は破壊工作ではなく単純に燃料切れであるとの事であった。
事故機の搭乗員は三人ともまだ若く、無理な加速や機動を行った結果、基地に帰還するための燃料を失ったのだ。
セイバーフィッシュの高性能に魅せられた者が陥りがちになる症状だった。
調査チームはこのように上層部へ報告した。
だが、単純ミスが重なった天文学的確率だったはずの事件が奇妙な方向に動き出した。
それは調査チームが墜落機の搭乗員に事情聴取を行った時のことであった。
2.ケース1「メビウスの宇宙を越えて」
地球連邦高高度防空軍戦略諜報室
普段は航空偵察や衛星写真などから地球上に存在する、
旧ジオン残党や反連邦ゲリラ勢力の動向を調査している部署である。
いつもなら数人の調査員が常駐しているが、今この部屋にいるのは二人の男女だけであった。
「で、その三人の証言は本当なのか、少尉?」
「はい、精神鑑定の結果も正常と診断されております。これが報告書です」
副官と思われる女性から、極秘と記された資料を男性が受け取る。
「どうでしょうか、中佐?」
「三人が三人とも、自分は事故の直前にある場所に行った。
そして、そこで敵と戦ったと言っているとは。三人が口裏を合わせているんじゃないのか」
「それはありえません。彼等は事故後にそれぞれ別の場所に隔離されていました」
「異常な事件だな。だから私達に仕事が回ってきたのか」
「はい、私達のような人間が事件の解明には一番適切だと思います」
「ん、少尉、これは何かね?」
極秘資料の中に補足資料として何枚かのレポート用紙が挟まれていた。
「これは彼等が行ったと証言している、戦闘のレポートですね。
あまりに非常識なので参考程度の資料としてまとめられたようです」
「まぁ、読んでみれば分かるか」
ついに反撃の時が来たのだ。
あの忌々しいコーディネーターに裁きの鉄槌を下す日が!
我々、地球連合軍は二年待ったのだ。
宇宙と青き地球を蹂躙される屈辱に耐えた。
今、私は感激に打ち震えている!
我が愛機のTS-MA2(メビウス)には反応兵器が搭載されているのだ!
我等、ピースメーカー隊はその名の如く、平和を作り出すために出撃する。
たとえ我が身が悪逆なるザフトのMSに打ち砕かれようとも、戦友は屍を乗り越えて進撃してくれるだろう。
正義は我等にあり!
全ては青き清浄なる世界のために!
「何だこれは?」
中佐は途中まで読んでいた資料を投げ捨て、少尉に話しかけた。
「地球連邦内部で流行している、地球至上主義よりもひどいですね」
「ああ、何が青き清浄なる世界だ。本当は精神に異常があるのではないか?」
「しかし、搭乗員が証言した話には矛盾はありませんでした。
彼にはその世界の政治・文化・歴史まで詳しく答えています」
「じゃあ、このコーディネーターっていうのは何か分かるのか?」
「私のように造られた人間のことです」
「…すまないことを言った」
「いえ、気にしておりません。それより、まだ調査対象は二人もいるんです。次の資料を読み進めていきましょう」
「そうだな。次はもう少しまともな証言であればいいのだが…」
一人目はアナザーより種、じゃあ二人目と三人目は……
三人目は確定だろう。二人目はどこかな。
あ、書き忘れた。
原作準拠なら三人目は「地球上の話じゃないんだ」だよね? で、生物兵器。
3.ケース2「ボルジャーノンに花束を」
「次も妙な思想を語っていたら、もう報告書は読まないぞ」
「次の調査対象は…最初の搭乗員よりも理解はしやすいですね。ただ…」
少尉はペラペラと資料をめくりながら答えた。
「ただ、何なんだ?」
「彼はソードフィッシュという機体に乗っていたそうです」
「名前は似ているじゃないか」
「名前は似ているのですが…その機体は複葉機なのです」
「複葉機? まさかプロペラがある骨董品のことか?」
「はい、そのまさかです。しかも、彼はそれでMSと戦ったと証言しています」
その言葉に中佐は興味を持ったらしく、二人目の資料に目を通し始めた。
「コンターク(点火)!」
整備兵が大声を上げて、プロペラを回しエンジンを始動させた。
滑走路上には私の機体も含めて、合計12機のソードフィッシュが離陸しようとしていた。
これらの機体は先行するスエサイド部隊の近接航空支援を任されている。
目標は宇宙人の機械人形。相手にとって不足は無い。
それにしても、部隊名が自殺とは笑えない冗談だ。
まぁ、発掘された機械人形に命を預けるのだから、自虐的になるのも無理はないか。
今日はその機械人形が実戦で使えるかを判断するための作戦だ。
私達は空の上から高みの見物といきたいものである。
「敵機械人形三機を視認!」
後部座席の偵察員が報告した。私も地平線の先に巨大な移動物体を発見する。
私は即座に手元にあった信号弾を発射し、編隊に作戦の開始を告げた。
「機械人形が噴進弾を発射しました!」
敵も私達を発見したらしく、お得意の遠距離攻撃を開始したみたいだ。
数十発の噴進弾が私達の編隊に迫ってきた。
だが、ソードフィッシュの運動性ならば、あの程度の攻撃を回避するのは容易い。
問題は敵との距離はまだ遠く、私達は敵の頭上まで行かないと攻撃できないのだ。
敵に近づくにつれて、第二波、第三波の噴進弾が襲ってきた。
ついに編隊からも撃墜される機体が出てしまう。
ようやく敵が射程距離にはいったと思った瞬間、私達に悲劇が訪れた。
その時、私は機械人形が光ったとしか認識できなかった。
「第二小隊全滅!」
偵察員の悲痛な声に後ろを振り返ると、第二小隊は空から消失していた。
熱戦兵器!
宇宙人どもの切り札だ。幾多の戦友があの悪魔の光に焼かれていった。
対処方法は射程外に逃げるだけ。
攻撃のチャンスを失った私達にできることは他に無かった。
しかし、私達の犠牲は無駄にはならなかった。
空中に気を取られた機械人形は、スエサエド部隊の攻撃に対応できなかったからだ。
先陣を切ったのは、同期のギャバン・グーニーの機体であった。
彼のボルジャーノンは他の機体と形状が異なるので判別がしやすかった。
「嘘だと言えよ、グーニー」
思わず声が出てしまう。戦闘はあっけなく終わった。
近接戦闘を強要された敵の機械人形は、スエサエド部隊に殲滅されてしまったのだ。
もはや航空機の時代ではないかもしれない。
私は帰還途中の機上で、転属願いを出すかどうかを悩み始めていた。
「こいつの空戦機動は悪くないな。私の部下に欲しいくらいだ」
中佐は資料を読み終えるとそう語った。
「そうですね。あと何年か経てば、良い搭乗員になれたと思います」
「だからこそ残念だ。莫迦正直にこんな証言をしなければ良かったものを…」
「はい、彼等は良くて地上勤務、悪ければ軍を除隊となるでしょう」
「それにしても、この異常な世界には呆れてしまうぞ。
科学技術は西暦レベルなのに、MSが運用されているとは」
「彼の証言したボルジャーノンという機体は遺跡から発掘されたようです。
また、この機体は証言された形状を考えるとMS-05Bと推察されます」
「なあ、少尉。今度の休みは基地の裏山に発掘しに行かないか?
もしかしたら、私達も遺跡からMSを発見できるかもしれないぞ」
「私としては、連邦で余り始めているジムを埋めてあげたいですね。
私達にとっては旧式機でも、何千年後の人々には重宝されるでしょう」
二人はひとしきり笑うと、三人目の資料に手をつけ始めた。
投下終了です。
皆様、新年あけましておめでとうございます。
今年の目標は執筆速度の向上を目指したいです。
今回の話には新春特別ゲストとして旧ザクさんを出演させてみました。
>>222さん
原作に完全準拠とはいきませんが、三人目はそれを予定しております。
資料探しが非常に面倒なことになっておりますがね…
229 :
222:2008/01/02(水) 22:31:39 ID:???
>228 楽しみにしてます。
というか、あすこは普通に宇宙世紀と繋がっててもおかしくないですな、設定上。
4.ケース3「ペガサスの星矢」
「三人目はまだまともだな。ペガサス級強襲揚陸艦に乗って戦ったようだ。
何というかこれは英雄願望の顕在化が原因なのかな?」
「いえ、中佐。その認識は間違いです。彼は文字通りの意味でペガサスに乗ったと証言したようです」
「文字通りって…空を飛ぶ馬のことを言っているのか…」
「そのようです。ギリシャ神話に登場する伝説の生物のことですね」
「ロートルの私には理解できないかもしれんぞ…」
「安心して下さい。彼の資料には補足が付いていました。
ありがたいことに、あれこれと用語の解説までつけてあります。
この資料をまとめたメンバーの若手にその手のマニアがいたそうです」
中佐は仕方なくであったが、三人目の資料を読むことにした。
自分が何者で、一体どこにいるのか、そのときの私には良く分かっていた。
手綱や装具、そして私自身と<彼>の差し渡し24キュビット(注1)にもなる翼が、
大気を切り裂くことで発生する風切音に全身を包まれていたからだ。
私は<ペガサス>に乗って祖国ラクロア王国(注2)を遥かに離れたムンゾ海の上空を飛行中であった。
私がこんな辺境の空を飛んでいるのには理由があった。
今年の第三月、ちょうどハヌカの時(注3)にそれは起こったのだ。
ジオン族は彼等の国に行商や国務で滞在していた我々の同胞を突然拘束。
彼等はレビル王(注4)に対し、ククルス湖周辺(注5)の王国軍の撤退とドアンの町の割譲を要求した。
我々がその要求を認めるわけにもいかず、交渉による人質の解放を図ったが、
ジオン族は交渉など問題外とし、ラクロア王国に宣戦を布告した。
彼等はここ二日、偉大なる闇の皇帝に奉ずる踊りを続けているらしい。
これは彼等の風習で三日目の夜に人質を祭壇に捧げるのだ。
もはや一刻も猶予は無い。レビル王は我等ラクロア王国騎士団に出撃を命じたのであった。
注1:長さの単位、1キュビット=約50cmであるらしい
注2:スタ・ドアカ(彼の証言した世界の名前)に存在する王国。人間とMS族が一緒に暮らしているらしい。MS族の中のジオン族とは対立している。MS族とは亜人の一種。
注3:ユダヤの祝祭日と同じ意味か? 光の祭のことらしい。
注4:ヨハン・エイブラハム・レビル氏のことであるようだ。
注5:ラクロア王国とジオン族の間で領土問題になっている。
「――さん、パパを助けて」
私が出撃しようとする直前、一人の幼い少年が現れた。
彼は隣に住んでいるジム・ヘンソン一家の長男であった。
「坊や、パパはおじさんが必ず助ける。安心して待っていなさい」
ジオン族はその首都に濃密な対空迎撃網を構築している。
人質を救出するため(注6)には、その対空迎撃網が邪魔であった。
具体的には、人質が監禁されていると思われるティターンの塔周辺に配備されている、
呪術士メッサーラ率いる対空魔導大隊(注7)、騎士バウ等の空中騎兵中隊(注8)である。
これらの部隊を撃破できない限り、人質の救出は不可能であろう。
逆に言えば、この二つの部隊を撃破してしまえばよいのだ。
我々はジオン族が儀式に没頭している間に奇襲する。
踊り狂っている彼等の頭上に流星の如き矢を降らせるのだ。
全ての準備はできている。あとは私が訓練通りの結果を出せるかどうかだ。
敵首都まではもう間もなくだ。騎士に二言は無い。
幼い少年のためにもこの作戦は成功しなければならないのだ。
注6:彼等はペガサス数匹に牽引させた気球で人質を救出する作戦であった。
注7:魔法を使用した対空迎撃部隊。
注8:ラクロア王国とは違い、ドダイ(?)に乗っているらしい。
中佐は資料を閉じて少尉に向かって話し始めた。
「かくして、彼等はこの現実に立ち戻ったというわけか」
「中佐、何とかできないものなのでしょうか?」
「無理だな。下手をすると私達の立場すら危うくなる」
中佐は冷酷な声で告げた。その時、外の滑走路から大音響が聞こえてきた。
「何の音だ?」
「あれは新型のコアブースター改造機ですね。通称ワイバーン。
ラムジェット・エンジンと核融合ロケットを追加したものです」
中佐は何か気に触ったらしく、腹を立てたように言い捨てた。
「あの三人を助けてやりたいのは私も少尉と同意権だ。
だが、私も自分が一番かわいい。こんな性格が嫌になってしまう」
「仕方ないですよ、あんな証言は誰も信用しません」
「同じ経験をしたやつなら信用するさ」
「中佐!」
少尉は声を上げた。地球至上主義が流行してからは、
どこに盗聴器が仕掛けてあるか分からない。滅多な事を言うべきではないのだ。
「少尉、私はね…」
中佐はひどく真剣な目をしながら言った。
「この一年で、ようやく私が一年戦争でザク・キラーだという現実に慣れてきたんだよ。
この世界に地球連邦とジオン公国という奇妙な国があるという現実に」
「中佐…私も同じです。軌道エレベーターは無いのにスペース・コロニーだけは沢山あり、
地球上にはユニオンもAEUも人類革新連盟すら存在しない現実に慣れてきました」
「おまけにガンダムは私達の味方という話じゃないか!」
「彼等は苦しむでしょうね…」
「ああ、彼等の世界はここじゃないだからな。彼等は…」
中佐は机の脇に放り出していた資料を手に取りながら嘆いた。
「こんな晴れた日に、もう一度空を飛べたらと思い続けるんだろうな」
投下終了です。これでこの短編は終了です。
この年になってカードダスを引っ張り出すとは思いませんでした。
今後の予定ですが。
短編の「沈黙」の続き
途中で停滞している本編第一章の続き
思いついた短編
こんな順番で書いていこうと思っております。
あと今年の目標として、リクエストされたものも書きたいと思います。
何か面白そうなネタが浮かびましたら書き込んでみて下さい。
12.沈黙(4)
木星船団で最も必要な職業は何であろうか?
それは娼婦とコックである。
前者は有史以前からある職業で、極端な男性社会の木星船団では必要不可欠な存在だ。
余談であるが、木星船団に参加した彼女等は船長の数倍を稼ぐと言われている。
後者のコックであるが、これも木星での過酷な生活環境と密接に関係している。
木星では娯楽はほとんど無いと言っていい。本を読もうにもあるのは数年前の古雑誌のみ。
ゲームといえば古典的なカードゲームや将棋など。あとはどの世界にもあるギャンブルだ。
そして、毎日の労働は厳しいものである。彼等の楽しみは必然的に食べることだけになってしまう。
こんな環境で不味い食事を出そうものなら暴動が起きてしまうだろう。そのため、腕のいいコックは必須なのだ。
アナベル・ガトーは意外にも料理が上手である。
月面潜伏時代には、人目につかぬように食事は自炊していた。
また、地上に派兵されていた時には、司令官でありながら一般兵と同じ食事を作り共に食べていた。
彼なりの人身掌握術なのだろうが、料理の腕前を上げることに一役買っていた。
このような経験があったため、彼はコックに応募したのだ。
12.沈黙(5)
面接会場であるオフィスには既に数人が順番を待っているようだった。
誰もが一癖ありそうな雰囲気であった。
ガトー自身も黒いスーツを着ているので、知らない者が見ればその筋の人物に見えるだろう。
何分かすると奥の別室から呼び出しがあった。
「――さん、面接会場にお入り下さい」
「は、はい!」
ガトーは何秒か反応が遅れてしまった。
さすがにアナベル・ガトーという名前は、良い意味でも悪い意味でも有名なので偽名を使ったのだ。
これからは偽名で過ごすのだから、慣れておくべきだなと彼は思っていた。
「失礼する!」
そこに見知った人物がいるとは知らずに、彼は勢い良く面接会場に入っていった。
「ガ、ガトーのおっさん?」
「まさか、ジュドー・アーシタか!」
二人は十数年ぶりに再会したのであった。
投下です。
木星船団がまだ発進しません。
そろそろ彼も登場させたいところです。
お、来た来た。
240 :
通常の名無しさんの3倍:2008/01/12(土) 15:35:11 ID:ISqTjxTw
ああwktkが止まらん!
「失礼する!」
ワロタ
LV0~MAXのガイドライン
LV0 旧ザク?どうせ典型的なザコMSだろ?どうでもいいよ…
LV1 一週間戦争では結構活躍してるな。てか、なんでア・バオア・クーでも使ってるの?
LV2 スナイパータイプはまあまあだな。キャルフォルニアベース戦なんかダックインしてて結構いいかも。
LV3 旧ザクって開発当時はいい性能じゃね?まさにMSの先駆って感じ…
LV4 旧ザク、小型でかわいいな。動力パイプ内蔵式もいい…
LV5 旧ザクって別に対MS用じゃないのにMS扱いされてて弱え。旧ザク死ね!
LV6 旧ザク結婚してくれ!
LV7 やべぇ旧ザク最高!旧ザクと水さえあれば生きていける!
LV8 旧ザクと結婚した!俺は旧ザクと結婚したぞ!!
LV9 やっぱ武装は105mmマシンガンだわ
MAX
,,.-‐¨ ̄ ̄`::::..、、
/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l
!:::;;.'' ¨ ̄Ж ̄ ¨'' 、:ノ
ゝL=ニニ二二ニ=」
| ,,-‐‐ ‐‐-、 .::::| 正面にガンダムだ!
| 、_(o)_,: _(o)_, :::|
| ::< .:::|
\ /( [三] )ヽ ::/
/`ー‐--‐‐―´\
皆さんは知らないかもしれませんが、このスレの初代職人さんのログをまとめてた初代スレの1です。
パソコンがぶっ壊れてデータが消え、まとめの更新に黄色信号がともりました。
これからなんとかなるか考えます。ただ現状で先代職人さん分の過去ログは契約してる限り残っているのでご安心を。
さしあたりの挨拶として今までありがとうございました。
244 :
通常の名無しさんの3倍:2008/01/16(水) 14:02:35 ID:+ViATOwf
保守上げ
乙保守
諸事情により執筆が遅れております。
週に一度は投下したいので、以前書いた没ネタを投下します。
>>263 まとめの更新、お疲れ様でした。
オデッサ戦の職人の方も復帰してくださると嬉しいですな。
没ネタ4:武装親衛隊概略
ここで記す親衛隊とはギレン・ザビが設立させた組織のことである。
親衛隊というと優秀な人材や兵器を集めたエリート部隊と考えがちであるが、
地球侵攻作戦以後は戦線の異常な拡大を受け、急増の現地師団が全親衛隊の半分以上を占めている。
書類上では師団規模の部隊とされているが、実際には大幅な水増しがされており多くても独立混成大隊規模であった。
基本的に義勇・武装が師団名に付く部隊は、地球で徴兵された者で構成されている。
これらの師団は訓練の水準も指揮も低いため戦力としてはあまり役に立っていなかった。
以下は親衛隊で編成された師団の概要である。
第1SS装甲師団 LGZ(開戦前から創設された部隊、エギーユ・デラーズが指揮)
第2SS装甲師団 ダス・フェルステントゥーム(一年戦争の主要な戦場に参加している)
第3SS装甲師団 トーテンコプフ(ブロッケンの徽章で有名)
第4SS警察装甲擲弾兵師団 ポリツァイ(本土の警察官を徴用した)
第5SS装甲師団 ヴィーキング(デンマーク出身者で構成)
第6SS山岳師団 ノルト(ノルウェー出身者で構成)
第7SS義勇山岳師団 プリンツ・オイゲン(優性人類生存説の信奉者が多い)
第8SS騎兵師団 フロリアン・ガイアー(バルカン半島出身者で構成)
第9SS装甲師団 ホーエンシュタウフェン(バイコヌール宇宙基地防衛戦で活躍)
第10SS装甲師団 フルンツベルク(MS-09が配備された数少ない部隊)
第11SS義勇装甲擲弾兵師団 ノルトラント(オデッサ防衛戦を戦い抜いた)
第12SS装甲師団 総帥青年団(ア・バオア・クーに配備されていた)
第13SS武装山岳師団 ハントシャール(一年戦争末期の地上で反乱を起こした)
第14SS武装擲弾兵師団 ウクライナ(祖国独立のために地球連邦軍と戦った)
第15SS武装擲弾兵師団 ラトビア(三流部隊のため陣地構築の任務を行った)
第16SS装甲擲弾兵師団 公国総帥(師団名称にもかかわらず、人員不足のため戦闘参加はしていない)
第17SS装甲擲弾兵師団 鉄腕ゲッツ(師団名は中世の騎士の名前である。貴族を名乗る者が多かった)
第18SS義勇装甲擲弾兵師団 サスロ・ザビ(凶弾に倒れたザビ家次男の名を付けている)
第19SS武装擲弾兵師団 レットラント(対パルチザン戦に従事していた)
第20SS武装擲弾兵師団 エストニア(エストニア出身者から構成)
第21SS武装山岳師団 スカンデルベク(最悪の親衛隊師団)
第22SS義勇騎兵師団 マリア・ピァ・アーモニア(サイド2の生存者を強制的に徴兵)
第23SS武装山岳師団 カマ(イスラム教徒による部隊、狂信的な攻勢で壊滅的な被害をこうむった)
第23SS義勇装甲擲弾兵師団 ネーダーラント(カマの全滅後に再編成された師団)
第24SS武装山岳猟兵師団 東方弾幕大隊(親衛隊本部直属の督戦部隊、巫女や魔女を自称する異端者の集団)
第25SS武装擲弾兵師団 フンヤディ(丸腰同然の装備でオデッサ戦に突入した)
第26SS武装擲弾兵師団 ハンガリア(ハンガリー出身者で構成)
第27SS義勇擲弾兵師団 ランゲマルク(一年戦争を通じて三度も全滅した部隊)
第28SS義勇擲弾兵師団 ヴァロニェン(ランゲマルク師団と共に行動、こちらは全滅を免れている幸運な部隊)
第29SS武装擲弾兵師団 RONA(反連邦感情が強いロシア地方で編成された。ワルシャワ蜂起での蛮行によって解散)
第29SS武装擲弾兵師団 ミリシャ(アメリカ人義勇兵による武装民兵組織)
第30SS武装擲弾兵師団 エル・ラン(エル・ラン将軍による亡命部隊)
第30SS武装擲弾兵師団 ベルローシ(独自の行動を行っていた。政治的背景から師団としている)
第31SS義勇擲弾兵師団 クロアチア(オデッサ敗北後に編成された)
第32SS義勇擲弾兵師団 1月30日(親衛隊最後の補充兵力であるMS教導大隊を主力とした部隊)
第33SS武装騎兵師団 シャマルーニュ(別名ヴォルケンリッター)
第33SS武装擲弾兵師団 シャルマーニュ(上記の部隊と混同しやすいが、こちらはフランス出身者で構成)
第34SS義勇擲弾兵師団 ラントシュトーム・ネーダーラント(オランダ出身者で構成)
第35SS警察擲弾兵師団 ヴィアート(ア・バオア・クー戦前に急遽編成された)
第36SS武装擲弾兵師団 ディルレヴァンガー(一般犯罪者、亡命者、政治犯などで構成されており一種の懲罰部隊であった)
第37SS義勇騎兵師団 リュツォウ(国内の市民権を持たない者から構成)
第38SS擲弾兵師団 ニーベルンゲン(所謂学徒動員部隊)
>>250 頑張り過ぎ&面白過ぎ
ガトーがコックって、ドーピングコンソメスープ作りそうだなwwww
オデッサのは面白かったなぁ・・・
グフ飛行型の話は良かった。
オリキャラの使い方は巧かったから続けて欲しかった
ただ大体未完で終わってなかったっけ?
職人カムバック!
『次のことは明言しておきたい。すなわち、危険というものは、それがいまだ芽であるうちに正確に実体を把握することは、
言うはやさしいが、行うとなると大変にむずかしいということである。 』
二コロ・マキャベリ『政略論』より
0079年9月27日 ジオン公国軍グラナダ基地
物事というのは、たわいもないことで動くこともある。
その日、戦略海洋諜報部隊(SSIC)ガルシア・ロメオ少将は定時報告のために、
グラナダの突撃機動軍(AMCOM)司令室を訪問した。
「ガルシア・ロメオ、入ります!」
「ン、どうぞ」
キシリアが応じる。
正直、キシリアはガルシアの俗物的な部分の多さが好きではない。
いわゆる、迂闊な男なのだ。
ガルシアは、軍事的能力についても疑問符がついていた。
彼は、6月の第一次ジャブロー侵攻作戦の責任者だったが、それに失敗していたからだ。
MS80機で遮二無二に陸路で密林に突っ込んだ挙句、ジャブローの入り口を発見できずに迷い込み、
対MS歩兵、トーチカ、戦車に兵力をすり減らした挙句、撤退に追い込まれたのだ。
しかし、キシリアは、ガルシアの実務的な処理能力は買っていたので、戦略海洋諜報部隊(SSIC)の第三部長に転出させたのだった。
彼がキシリアを訪問したのは、第三部長の任務であるインテリジェンスの収集の現状と改善案の報告のためであった。
「・・・という方針で、準備させたいと思います」
「そうですか。結構です。」
キシリアは、ガルシアの報告に軽く頷いた。及第点ということだった。
しかし、キシリアは不審に思った。ガルシアが退出しようとしないのだ。
「何か?」
彼女の言葉は軽い叱責を含んでいた。
「はぁ・・・あ、その・・・ですな。少将は北米での醜聞をご存知で?」
いいにくいことだが、言ってみたい誘惑にとらわれた物言いだった。
ガルシアは、幾分かにやけてもいた。
「不明瞭な物言いはやめよ。私の好みではない。重要だと思うことなら遠慮なく申せ。」
「あぁ・・・ご存じない様でしたか!それがですな・・・」
ガルシアは、キシリアの苛立ちを理解していないのか、いささか嬉しそうな説明を始めた。
曰く、地球攻撃軍(EACOM)司令のガルマ・ザビ大佐が、ニューヤーク前市長の令嬢のイセリナに懸想している。
どうも、イセリナ嬢も、ガルマ大佐を憎からず思っているようである。互いに結婚がどうの、というところまで盛り上がっているようである。
しかし、エッシェンバッハ前市長は、親連邦の立場ゆえに反対している。
それで二人は・・・
そういう説明だった。
「初耳だな・・・事実か?」
キシリアは驚いていた。その事実と、そうしたゴシップが彼女の耳に入らなかったことに。
「まぁ、無理もないでしょう。恋が始まったのは一ヶ月前ですし、まだ北米軍団の一部でしか知りません。
私も北米から本国に転任になった過去の部下から聞いた話ですし・・・勿論、裏も取っています。
何より、キャリフォルニア・ベースからニューヤークなんて小さな基地に地球攻撃軍司令部を転地したことがよい証拠です。」
ガルシアは胸を張った。張ることでもないのだが。
「宜しい。ガルシア・ロメオ少将、お疲れ様でした。」
「・・・ハッ!」
キシリアは緘口令をガルシアに指示すると下がらせた。
まだ何か話した気であったが、彼女は無視した。
そして、グラナダ基地司令ルーベンス少将とマクベ大佐を秘匿回線で呼び出した。
0079年10月01日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地
「姉上が?」
ガルマ・ザビは副官のダロタ中尉の報告に驚いた。
キシリアが地球視察のスケジュールを繰り上げた上、最初に自分のところに来るという。
「ほう、それは嬉しいな。もう半年もお会いしていないからな。」
姉の自分への評価は厳しいが、親身ゆえの厳しさも幾分かあったからガルマは素直に喜んだ。
しかし、ダロタの顔は暗い。
「・・・それがですね。理由、気になりませんか?」
「姉上のか?ドズルの兄上との初の共同作戦である、コロニアル作戦の督戦のためではないか?
いよいよ突撃機動軍と宇宙攻撃軍の統合運用に本腰ということだろう。」
「いえ、それが、どうもエッシェンバッハのお嬢様のことではないかと・・・」
ガルマは色を失った。
「まだ、姉上に説明していないのだ。どうしたものか・・・」
「結婚の申し込みをして、ジオンの頭目の息子に娘をやれるか!とまで言われてますしね」
「それを言うな」
ガルマは苦笑した。彼は度量の大きい人物だった。それが長所でもあり短所でもあった。
若さゆえに、短所が大きいように見えているだけだった。そして、彼は思った。
``しかし、これはよい機会だ。そう思おう。姉上に認めてもらえればよいのだ。
そう、木馬と白い奴を姉上の目の前で捕まえるチャンスではないか``
「ま・・・それよりも木馬のほうが問題だな。奴はどうした。」
「ハッ!D-57ポイントに移動中であります。山脈越えをして西部に向かうようです」
「させるか!グレートキャニオン周辺の地上部隊を掻き集めろ!我々も機動一個中隊で出撃する。シャアにも伝えろ!」
この日のガルマの第三次木馬攻撃は失敗に終わった。
0079年10月03日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地、滑走路
ここは、かつてジョン・F・ケネディ空港と言われた区画である。
ザンジバル級機動巡洋艦「マダガスカル」は東南の方向から、そこに滑空してきた。
出迎えるのは北米の将星達である。
言うまでもなく筆頭はガルマ・ザビ大佐。その隣には、キャリフォルニア・ベース司令ゾム少将。
北米航空集団司令、マノク中佐。そして、その後ろに控えるダロタ中尉と各軍の参謀たち。
「マダガスカル」は轟音を響かせながら、しなやかに着陸した。
着陸した「マダガスカル」のハッチからタラップが伸びるとボースンズ・コールが流れた。独特の笛が鳴り響く。
そして、先に下りた護衛官に続いてあらわれたキシリア。
「キシリア・ザビ少将閣下に敬礼!」
ガルマが叫び、一斉に武官たちは敬礼した。
答礼したキシリアは、儀礼的な挨拶を各武官とするとガルマに向き合い、話があるといった。
ニューヤーク市 「ブラウ・ホテル」
「ブラウ・ホテル」はかつての老舗ホテルをジオン軍が買い取った高級将校用ホテルの一つである。
現地の人間の反発を買いすぎず、占領軍の威厳を損なわないようにということで選ばれたホテルである。
「ブラウ・ホテル」の由来は、信号弾"青"『公国ノ興廃、コノ一戦ニアリ。諸君ノ奮闘ヲ期待スル』
が、第三次地球降下作戦の際に落下し炎上騒ぎを起こしたことによる。
その一室に、ガルマはニューヤークでの居を構えていた。
そこにガルマは、それまで彼女の『本題』も発しなかったキシリアを招き入れた。
勿論、各種の戦略調整の会話や上司としての査問や叱責はあったが。
ガルマはコーヒーを入れるとキシリアに差し出した。
「うん?甘すぎるな。」
キシリアは顔を顰めた。
257 :
◆xJ4/QROiQ2 :2008/01/25(金) 19:08:19 ID:5s5KzsAB
とりあえず、ここまで
大変ご無沙汰しております。
遅くなってしまい申し訳ありません。
個人的に忙しく、時間が取れなかったが故に遅くなりました。
にもかかわらず、待ってくださったこと、本当にありがとうございます。
現在もなお、多忙であるため亀のごとき速度で更新と話の展開を進めて参りたいと思います。
とりあえず、オデッサの冒頭で触れた「キシリアの死」を描きます。
オデッサ脱出編は、その内、一部修正して同時並行で再開したいと思います。
なにせ展開を忘れてしまったり、SS自体久しぶりなので・・・
内容や感想でアドヴァイスがあれば幸いです。
>職人さん
思いっきりファンです。
沈黙のガトーの展開が凄く楽しみです
>保管さん
お疲れ様です。
ありがとうございます!
258 :
通常の名無しさんの3倍:2008/01/25(金) 22:13:16 ID:vb9Vvnq4
今、テレビで「議連会長」って言っててビックリした
「ギレン会長」かと思った
>>243 何時も乙。
某まとめwiki……いやなんでもない。
アレがらみだから、あそことは関わらない方が良いだろう。
でも、真似する手もあると言うことで。
待ちかねてました。
佐藤御大の文体を研究し尽くした文章と展開、wktkして待ってます。
12.沈黙(6)
「ガトーって、教科書にも載っていたあのソロモンの悪夢のこと?」
ハツーネ・ミクーニンことルー・ルカがジュドーに尋ねた。
「ああ、地上で戦っていた時、基地の司令官だったアナベ」
「私はアナベル・ガトーという人物ではない!」
質問に答えていたジュドーを遮るように、ガトーは声を張り上げ宣言した。
「いやいや、どこから見てもガトーのおっさんじゃ…」
「断じて人違いである!そこの履歴書を見てみろ!」
彼が指差した履歴書を見ると、そこにはガトーではない違う名前が記載されていた。
「バトーさん?」
「そうだ。私の名はバトーである!」
面接会場でひと悶着があったが、結果から言えばガトーは即座に採用された。
ジュドー・アーシタは彼がコックとして応募してきたことに疑問を覚えたようだが、
MSを操縦できる人材は貴重だったので採用することにしていた。
明らかに偽名を使っていたが、ジュドー自身も偽名なので人のことは言えなかったのだろう。
とにかくガトーは木星行きの切符を手に入れることができたのだ。
没ネタ:5 マゼラ・カノーネ
マゼラ・アタックとはジオン公国軍の地球降下作戦に先立ち、MSの補完兵器として開発された車両である。
ジオン公国宣伝省によれば、戦闘能力は地球連邦軍の61式戦車を大きく凌ぎ、
戦術や環境によってはザクに匹敵すると発表されていた。
だが、実際の戦場では欠陥兵器であることを露呈してしまった。
砲塔部の装甲は分離・飛行を可能にするために限りなく薄くなり、
連邦軍の野砲にすら耐えられない構造であった。
また、マゼラ・アタックの全高は6.8m(61式戦車の二倍以上!)であり、
視認性の低さが要求される戦車としては全くの欠陥品であった。
そのため、一年戦争後半までには多くの車両が撃破されていた。
特にマゼラ・トップの損害が激しく、車体部のマゼラ・ベースだけの車両が多数確認されている。
この状況に対して現地部隊は、補給の悪化もありマゼラ・ベースを基幹とした再生兵器を製造することになった。
この再生兵器の中で有名なものにはザク・タンクがある。
撃破されたMSと車両を再利用したザク・タンクは工兵部隊で重宝されていた。
そして、一連の再生兵器の中で最も異色なのはマゼラ・カノーネという車両であった。
この車両は名称にカノーネとあるように、マゼラ・ベースへ鹵獲した61式戦車の150o砲を装備させたものである。
弾薬等は占領下のキャリフォルニア・ベースに多数存在したので、車両の多くは北米大陸で運用されていた。
一年戦争末期には一部の部隊が、ルナ・チタニウム合金を弾体とした装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を使用し、
RX-79(G)すら撃破するという戦功を挙げている。
一年戦争後、この車両を鹵獲した連邦地上軍では、マゼラ・カノーネの完成度の高さに驚き、
対抗兵器として試作に終わっていた74式戦車の量産を決定している。
http://hell.2ch.ru/wm/src/1198742677200.gif(マゼラ・カノーネ?)
投下終了です。
没ネタのURL先ですが、ロシアの新型戦車らしいです。
時代がマゼラ・アタックに追いついてきたよ…
>オデッサ戦の職人さん
自分がSSを投下するきっかけになったのが、前スレのSSでした。
復帰してくださって本当に嬉しいかぎりです。
これからも作品の続きを楽しみにお待ちしております。
264 :
通常の名無しさんの3倍:2008/01/26(土) 15:42:54 ID:mvgmQ5tu
神帰還
いや、自分で自分を神って呼んでageなくてもいいから
おお、戻ってたのか
乙
つまんないから、帰れ
268 :
267:2008/01/26(土) 16:23:57 ID:???
ていうか今更戻ってもねぇwww
キシリアの死いいな
これからも頑張ってくれ
>>267-268はツンデレ。
無視すればよいものを一々書くところからも寂しかったということが見て取れる。
おかえり
お二方ともがんばって
ご批判を頂戴し、内容を読み返したところ、
わかり難く、面白くもないなぁと反省したので冒頭を加筆して、修正してみました
序
「はい? 目の前はどんな感じだったって?
え〜、口で言ってもわかるかなぁ。とにかく、すごい数の砲火でした。有名な映画『ニューヤーク決戦』のセリフで 「砲弾が7分で空が3分」
なんていうセリフがありますが、そんなもんじゃなかったです。ええ、ニューヤーク上空が深夜にもかかわらず紅く染まるくらいでしたから。
いやぁ、その時の憤りといったら、なんとも。周りにいた人間全てが鼻息荒立てて、突撃開始をまだかまだかと待ってましたから。
戦闘詳報作成の為に空母の艦橋に上がってた私なんかでさえも、震えで文字が書けませんでしたからねぇ。
地上に視察に来ていたキシリア少将が戦死した直後の気分は一生忘れることはできんでしょうなぁ。
え? どこの艦の艦橋かって? あんた、人の話聞いてたんですか。<デュッセドルフ>ですよ、<デュッセドルフ>。<ガウ>級攻撃空母9番艦。
いい空母でしたよ。この作戦のあとで他の空母群といっしょにキャリフォルニアベースに帰還したんですが、そのあと損傷が酷くて廃艦になっちゃいまして。
ああ、それで旗艦<キャリフォルニア>から突撃命令が出たんです。「今コソ仇ヲ討チ、誓ッテ共ニ勝タン。全軍突撃セヨ!」ってね。
泣かしてくれますねぇ。で、待ってましたとばかりにガルマ大佐は木馬に突入していったわけです。そのあとは………」
――――ある老人の回想 0094年、アンマンにて
「次のことは明言しておきたい。すなわち、危険というものは、それがいまだ芽であるうちに正確に実体を把握することは、
言うはやさしいが、行うとなると大変にむずかしいということである。 」
――――二コロ・マキャベリ『政略論』より
0094年12月25日 アンマン宇宙港
老人は饒舌だった。
彼は、今、戦記作家のインタビューにアンマンの宇宙港ラウンジで応じていた。
そして、彼はキシリア戦死時の<デュッセドルフ>の第一艦橋にいた男である。
週刊誌記者と兼任の駆け出し作家は、ところどころとちるものの、老人は機嫌がよかった。
「ええ、そうです。地球圏から逃げ出すんです。便利なもので、グラナダから木星船団に便乗するんですよ。
ジャミトフ紛争、その後のグリプス戦役でほとほと嫌気がさしましてね。」
老人は水を飲んだ。
「デラーズ・フリートでの毒ガス作戦に参加したことで、縁者もいないのでスッキリしたものです。
え?そりゃ、反対しましたよ。でも個人の力など、組織では小さいものです。
結局はムサイの艦橋からサイドUへのG3注入を指揮していました。
今覚えば、独立戦争でキシリア大将が亡くなった時に気がついておくべきだったんですけどねぇ・・・
ああ!失礼、少将閣下が戦死することになったのは、ご存知のようにガルシア閣下の報告、
というよりも雑談のせいだったんです。あれは79年の9月の終わりのことでした・・・」
老人は話を戻すと回想を始めた。
0079年9月27日 ジオン公国軍グラナダ基地
物事というのは、たわいもないことで動くこともある。
その日、戦略海洋諜報部隊(SSIC)ガルシア・ロメオ少将は定時報告のために、
グラナダの突撃機動軍(AMCOM)司令室を訪問した。
「ガルシア・ロメオ、入ります!」
「ン、どうぞ」
キシリアが応じる。
正直、キシリアはガルシアの俗物的な部分の多さが好きではない。
いわゆる、迂闊な男なのだ。
ガルシアは、軍事的能力についても疑問符がついていた。
彼は、6月の第一次ジャブロー侵攻作戦の責任者だったが、それに失敗していたからだ。
MS80機で遮二無二に陸路で密林に突っ込んだ挙句、ジャブローの入り口を発見できずに迷い込み、
対MS歩兵、トーチカ、戦車に兵力をすり減らした挙句、撤退に追い込まれたのだ。
しかし、キシリアは、ガルシアの実務的な処理能力は買っていたので、戦略海洋諜報部隊(SSIC)の第三部長に転出させたのだった。
彼がキシリアを訪問したのは、第三部長の任務であるインテリジェンスの収集の現状と改善案の報告のためであった。
「・・・という方針で、準備させたいと思います」
「そうですか。結構です。」
キシリアは、ガルシアの報告に軽く頷いた。及第点ということだった。
しかし、キシリアは不審に思った。ガルシアが退出しようとしないのだ。
「何か?」
彼女の言葉は軽い叱責を含んでいた。
「はぁ・・・あ、その・・・ですな。少将は北米での醜聞をご存知で?」
いいにくいことだが、言ってみたい誘惑にとらわれた物言いだった。
ガルシアは、幾分かにやけてもいた。
「不明瞭な物言いはやめよ。私の好みではない。重要だと思うことなら遠慮なく申せ。」
「あぁ・・・ご存じない様でしたか!それがですな・・・」
ガルシアは、キシリアの苛立ちを理解していないのか、いささか嬉しそうな説明を始めた。
曰く、地球攻撃軍(EACOM)司令のガルマ・ザビ大佐が、ニューヤーク前市長の令嬢のイセリナに懸想している。
どうも、イセリナ嬢も、ガルマ大佐を憎からず思っているようである。互いに結婚がどうの、というところまで盛り上がっているようである。
しかし、エッシェンバッハ前市長は、親連邦の立場ゆえに反対している。
それで二人は・・・
そういう説明だった。
「初耳だな・・・事実か?」
キシリアは驚いていた。その事実と、そうしたゴシップが彼女の耳に入らなかったことに。
「まぁ、無理もないでしょう。恋が始まったのは一ヶ月前ですし、まだ北米軍団の一部でしか知りません。
私も北米から本国に転任になった過去の部下から聞いた話ですし・・・勿論、裏も取っています。
何より、キャリフォルニア・ベースからニューヤークなんて小さな基地に地球攻撃軍司令部を転地したことがよい証拠です。」
ガルシアは胸を張った。張ることでもないのだが。
「宜しい。ガルシア・ロメオ少将、お疲れ様でした。」
「・・・ハッ!」
キシリアは緘口令をガルシアに指示すると下がらせた。
まだ何か話した気であったが、彼女は無視した。
そして、グラナダ基地司令ルーゲンス少将とマクベ大佐を秘匿回線で呼び出した。
0079年10月01日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地
「姉上が?」
ガルマ・ザビは副官のダロタ中尉の報告に驚いた。
キシリアが地球視察のスケジュールを繰り上げた上、最初に自分のところに来るという。
「ほう、それは嬉しいな。もう半年もお会いしていないからな。」
姉の自分への評価は厳しいが、親身ゆえの厳しさも幾分かあったからガルマは素直に喜んだ。
しかし、ダロタの顔は暗い。
「・・・それがですね。理由、気になりませんか?」
「姉上のか?ドズルの兄上との初の共同作戦である、コロニアル作戦の督戦のためではないか?
いよいよ突撃機動軍と宇宙攻撃軍の統合運用に本腰ということだろう。」
「いえ、それが、どうもエッシェンバッハのお嬢様のことではないかと・・・」
ガルマは色を失った。
「まだ、姉上に説明していないのだ。どうしたものか・・・」
「結婚の申し込みをして、ジオンの頭目の息子に娘をやれるか!とまで言われてますしね」
「それを言うな」
ガルマは苦笑した。彼は度量の大きい人物だった。それが長所でもあり短所でもあった。
若さゆえに、短所が大きいように見えているだけだった。そして、彼は思った。
``しかし、これはよい機会だ。そう思おう。姉上に認めてもらえればよいのだ。
そう、木馬と白い奴を姉上の目の前で捕まえるチャンスではないか``
「ま・・・それよりも木馬のほうが問題だな。奴はどうした。」
「ハッ!D-57ポイントに移動中であります。山脈越えをして西部に向かうようです」
「させるか!グレートキャニオン周辺の地上部隊を掻き集めろ!我々も機動一個中隊で出撃する。シャアにも伝えろ!」
この日のガルマの第三次木馬攻撃は失敗に終わった。
0079年10月03日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地、滑走路
ここは、かつてジョン・F・ケネディ空港と言われた区画である。
ザンジバル級機動巡洋艦「マダガスカル」は東南の方向から、そこに滑空してきた。
出迎えるのは北米の将星達である。
言うまでもなく筆頭はガルマ・ザビ大佐。その隣には、キャリフォルニア・ベース司令ゾム少将。
北米航空集団司令、マノク中佐。そして、その後ろに控えるダロタ中尉と各軍の参謀たち。
「マダガスカル」は轟音を響かせながら、しなやかに着陸した。
着陸した「マダガスカル」のハッチからタラップが伸びるとボースンズ・コールが流れた。独特の笛が鳴り響く。
そして、先に下りた護衛官に続いてあらわれたキシリア。
「キシリア・ザビ少将閣下に敬礼!」
ガルマが叫び、一斉に武官たちは敬礼した。
答礼したキシリアは、儀礼的な挨拶を各武官とするとガルマに向き合い、話があるといった。
0079年10月03日 ニューヤーク市 「ブラウ・ホテル」
「ブラウ・ホテル」はかつての老舗ホテルをジオン軍が買い取った高級将校用ホテルの一つである。
現地の人間の反発を買いすぎず、占領軍の威厳を損なわないようにということで選ばれたホテルである。
「ブラウ・ホテル」の由来は、信号弾"青"『公国ノ興廃、コノ一戦ニアリ。諸君ノ奮闘ヲ期待スル』
が、第三次地球降下作戦の際に落下し炎上騒ぎを起こしたことによる。
その一室に、ガルマはニューヤークでの居を構えていた。
そこにガルマは、それまで彼女の『本題』を発しなかったキシリアを招き入れた。
勿論、各種の戦略調整の会話や上司としての査問や叱責はあったが。
ガルマはコーヒーを入れるとキシリアに差し出した。
「うん?甘すぎるな。」
キシリアは顔を顰めた。
「ここは、それが普通ですよ。砂糖と炭水化物の国とは、良く言ったものです。
その分、運動すればいいという考えなのです。」
「フン、まぁいい。それで、本気なのか?」
「はい」
ガルマは背筋を伸ばした。今更後には引けない。
「占領行政、兄上の戦略、家名、そういったことへの影響は考えたのか?」
「はい。私と公国には彼女が必要です。兄上がなんと言おうと私は貫きます。
それに、むしろ、彼女の存在は占領政策にとって有効です。
私と婚約することでジオンと北米の融和の象徴にもなるでしょう。
父親のエッシェンバッハを押さえつける材料も、まもなく手に入ります。」
ガルマは、ソファのキシリアを見据えるとはっきり述べた。
エッシェンバッハは、かつて北米州大統領選挙に何回か立候補したこともある男だった。
彼は、その時に培ったネットワークを使って連邦への情報協力、ジオンへの抵抗活動を支援・維持していた。
ガルマは、徹底的に原住民への融和政策を行うことで、ようやくその尻尾を掴みかけていた。
しかし、それも旧フォートノックス、連邦準備銀行に残された金塊を使ってのものだから必ずしも褒められたものではないかもしれないが。
「私には理解できんな・・・だが、少しは安心した。のぼせ上がっているだけだと思っていたからな。」
キシリアは首を斜めに振った。
「姉上!それでは!」
「まぁ、まて!それはエッシェンバッハの娘を見てからだ。」
喜色をあらわしたガルマに、キシリアは押さえつけた。
だが、姉が一応、認めてくれたことにガルマは喜んだ。
「それで・・・赤い彗星はどうしたのだ?まだ、ここにいるのだろう?
私が降りてきたときもいなかったが。」
キシリアは思い出したように言った。
「ああ、彼は気を使ってくれたのです。
『君も姉上への立場があるだろう。確かに、家族のいない私にはわからん話だからな。
俺のような氏素性のわからない奴が、君の晴れの舞台である歓迎式にいてはいけないだろう。
自惚れかもしれんが、記事には君だけが中心となって載るべきだ。
それに、姉上とゆっくりと楽しむがいい。』
などといっていって・・シャアめ、水臭いものです。」
ガルマは、シャアの本心を知らないままにそう言った。
そして、ああ、では三時間後に旧エッシェンバッハ別邸で晩餐会がありますので、
それまでに・・・というとキシリアを彼女の部屋に案内しようとしたが、それは無理だった。
木馬隊への惨敗を説明させられることになったからだ。
0079年10月03日17:11 ニューヤーク市郊外 ジオン軍、北米迎賓館「Deer Cries Castle」
エッシェンバッハ家の別邸はニューヤークの北部郊外にあった。
エッシェンバッハ旧市長は、ジオン進駐時に、この家を提供した。というよりさせられた。
勿論、相当の対価付ではあったが、『愛国者』の彼にしてみれば屈辱の象徴であるから溜まった物ではない。
瀟洒な雰囲気が催し物に適当だから、そしてイセリナの家の近くで彼女が来易いからという理由で、
ガルマに頻繁に使われてはなおさらである。
そして、その日もエッシェンバッハ別邸、今ではジオン公国地球攻撃軍、北米迎賓館「Deer Cries Castle」に名を変えた会場は盛況であった。
参加者は東部地区の有力者、地方議会関係者及び首長、現地の軍需産業、北米のジオン軍人、占領行政に携わる官僚、納品業者達であった。
ジオン軍は、占領に当たって旧来の連邦の統治システムを、利用せざるを得なかったのだから、こうした面子は不思議ではない。
それは清朝、イスラム諸帝国以来の大勢力の併呑に成功した侵略者の慣わしだったからだ。
エッシェンバッハ前市長は晩餐会の満座の中にあって、そうした光景を不快に思っていた。
初代市長のリチャード・ニコルズに始まって、初の黒人市長であり、連邦創設のひとつのきっかけとされる事件で活躍した
アンドリュー・ギル、地球連邦創成期の反連邦テロである9.11で活躍したルドルフ・ジュリアーニ。
そうした数々の市長とともにあったニューヤークは世界の中心都市であり、自由と夢の象徴であった。
地球連邦議会も、ダカールに移転するまでは、ここにあり事実上の世界の首都であった。
だが、現実の光景は、コロニー落としによって心まで砕け散り、世界都市の気概を失い、
占領者である宇宙人に阿るニューヤーク市民の姿であった。
彼は、そうした事態に激しい憤りを覚えていた。
しかし、本当に彼が許せなかったのは、そうした事態に直面し、何も出来なかった最後のニューヤーク市長、
エッシェンバッハ自身だった。ゆえに、彼は娘を差し出すなど慮外のことだった。
そのとき、彼は本当の敗北を喫するからだった。
歴史は彼を人生の敗北者と呼ぶだろう。
それは、北米州大統領候補にまで一時はのし上がった野心と虚栄心の塊である彼には耐えられない事実だった。
だから、彼はその報われぬ不満を解消するために、ジオンへの抵抗活動を危険を犯してまで支援しているのだった。
もっとも、彼は薄々、自分の行動が自慰に近いものであることを自覚していた。その意味ではカイラムに近いのかもしれない。
ただ、彼がとどまって占領軍に注文をつけることで救われている東部住民も数多くいたことも事実であったから、
エッシェンバッハを断罪することは必ずしも出来ないのかもしれない。
その頃、ガルマは姉と歩いて、挨拶回りを行っていた。
「・・・時に、お父上のデギン公王には地球においでになるご予定は?」
「聞いてはおりませんな」
キシリアはマゼラベースの現地改修を行っている企業の代表に冷たく答えた。
個人的好悪ではなく、余計な期待など持たせたくないからだ。
占領者には占領者の振る舞いがある。
「おいでの節は是非なにとぞよしなに。ひひひひ」
しかし、その企業の代表は怯むことなく下卑た笑いを浮かべた。
「姉上、そろそろですので・・・ああ、皆さん。私達は後ほど。」
ガルマはキシリアと引き上げるとシャアのいるカウンターに向かった。
人を掻き分けて進む二人を有力者の子女の声が包む。
「まあ、ガルマ様、いつも凛々しいお姿」
「キシリア様も凛としてすばらしいお方」
「素敵」
「…しびれちゃう」
黄色い声だった。
ガルマは、カウンターからカクテルを受け取り姉に差し出した。
「ああいう連中は虫が好かん」
キシリアは口をつけるなり、そういった。
「私もそう思います。使えることは使えますが・・・」
「調子に乗らせるなよ。一度裏切った人間は何度も裏切るからな。」
「ええ、わかります・・・さて、紹介します。彼が・・・おい、シャア!貴様、いつまで遠慮しているんだ。
姉上に紹介したいといったろ。貴様のためでもあるんだぞ?」
ガルマは笑いながらシャアに話しかけた。
「シャア・アズナブル少佐です。キシリア閣下。直接お目にかかるのははじめてかと。
ガルマには大変世話になっています。」
シャアは、そう挨拶した。
ヒストリカル・ノート
展開を忘れた、つまらないというご指摘を頂いたので最初から書き直してみました。
自作自演説が出るのは、面白くないということですし・・・
面白くなったかは自信がありませんが、少しわかりやすくなったかな?とは思います。
オデッサでは戦闘でしたが、キシリアの死では人間を中心に書きたいと思います。
勿論、後半は戦闘に移ります。
反応がよければ、この路線も行きます。悪ければオデッサ路線のみに絞ります。
注意点、よかった部分、反省点があれば幸いです
展開は同じ分量をあと5回ぐらいで終わると思います。
なお、老人の前書きの回想は内田先生の作品から借りたもので、問題があれば修正します。
コンセプトは佐藤大ちゃんの「少し遠いところ」のパロディです。
>職人さん
マゼラベースもといマゼラ・カノーネをちらっと触れてみましたが、
職人さん、もしよろしければ設定を一部お借りしても宜しいですか?
だめだったら、ザクタンクの改修ということで流しますが・・・
勇み足で触れてしまい、申し訳ありません。
もし、ここでは言いにくいようでしたらuc0080ac@やっほーに、ご連絡ください。
戦車ですが、確かにタチ中尉が砲塔だけ担いでいきそうですねw
>名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
過大なお言葉、ありがとうございます。
DSをやっていれば、もっと曹長さんの話楽しめるのにと悔しいです。
文章、内容、大変参考になっています。
>待っていてくれた方々
本当にありがとうございます
ご支援本当に感謝です!
>ご批判
ごめんなさい(´Д`;)
これで、あれだったら出直します。
いよいよシャアが出てきたか。加筆&続き乙
両職人乙
>オデッサの職人さん
加筆修正お疲れ様でした。面白い作品をありがとうございます。
マゼラ・カノーネの件ですが、気にせずに使って下さいな。
むしろ作品内で触れてくれて光栄な感じです(笑)
286 :
通常の名無しさんの3倍:2008/01/27(日) 11:31:26 ID:EcWnByQ2
職人帰還記念上げ。
職人さん、待ってたぜー!
乙保
289 :
通常の名無しさんの3倍:2008/01/28(月) 19:56:40 ID:9MPPnSIx
age
290 :
通常の名無しさんの3倍:2008/01/29(火) 01:58:49 ID:NdDlRDxn
291 :
通常の名無しさんの3倍:2008/01/31(木) 00:43:30 ID:d4fSZ54b
上げ保守
12.沈黙(7)
「同志エマ・シーン、裏切りの罪は重いぞ!」
拘束されて身動きがとれないエマ中尉の前に、時空を越えて蘇ったジャミトフ・ハイマンが現れた。
「離しなさい、この下郎!人でなし!」
「ぬはははは…同志エマ、裏切りの代償を受けよ!抵抗は無意味だ!」
ジャミトフの淫猥なる腕がエマ中尉の…
「い、いったい何を読んでいるのよ、ジュドー!」
狭い艦長室の中にルー・ルカの凛と張った怒声が響いた。
「なんだルーか、せっかく良い所だったのになー」
ジュドーが読んでいたのは、現在地球圏全体で一大ブームになっている、
ケイイチ・ミキハラの「地球至上主義者はメイドスキー」であった。
その内容はコロニー・レーザーによって死亡したかに思われた、
元ティターンズ筆頭のジャミトフ・ハイマンが時空を超越する能力を身につけ、
世界各国の女性を相手に地球至上主義思想を植え付けるというものであった。
「わ、私というものがありながら…そんなものを読むなんて…ぶつぶつ」
「何か言った?」
「うるさい!」
12.沈黙(8)
閑話休題
宇宙世紀105年3月、木星船団旗艦「ジュピトリスW」は、
月面のブラウン・クロキ宇宙港で出港に向けての最終搬入作業を行っていた。
木星への出発は一週間後に迫り、昨年から募集していた乗務員も既に配置についていた。
アナベル・ガトーもその中の一人で、厨房でニンジンと格闘を繰り広げていた。
「うーむ、中途半端な重力での調理がこんなにも難しいものとは…」
厨房は遠心重力区画にあったが、出港前は月面の重力の影響を受ける。
地上と無重力に慣れたガトーにとって、月面の低重力はむしろ害悪であった。
「さて、次はカレー粉を倉庫から持ってこなきゃならんな」
金曜日はカレー。これは長期間の艦隊勤務を行うには必須のメニューである。
地球圏から離れるにつれて、情報は少なくなり、次第に曜日の感覚すら失われてしまう。
この状態が行き着く先は、乗員の目に見える士気の低下だ。金曜日のカレーにも意味はあるのだ。
ガトーは食糧貯蔵庫に向かおうとしたが、まだ乗船してから二日ほどであったため、
案の定この広いジュピトリスW(3km近い)で迷子になってしまった。
だが、幸運なことに長年の経験と勘から倉庫と思しき区画を発見するのは早かった。
「カレー粉にしてはこの缶は大きすぎるなぁ…」
ガトーの目の前には「極秘」のラベルが貼られたドラム缶ほどのものがあった。
彼は気が付かなかったが、缶の裏側には「F.A.T.E(ドゥガチ)」と記されていた。
そして、彼がこの倉庫に入ったと同時刻にある事件が発生した。
投下終了です。
某架空戦記完結記念。メイドスキー。
次からようやく戦闘が始まるようです。
>>292さん
マゼラ・カノーネに続き、次は61式戦車(マンムート)について書いてみたくなりました。
> ジャミトフの淫猥なる腕がエマ中尉の…
わっふるわっふる
月面の宇宙港に着陸してるジュピトリス級艦ってのは・・・・
艦尾を底にして垂直に屹立している姿を想像してしまうんだが・・・
>>296 シャア専用あめぞうから2chに移転した当時「陵辱金髪プリンセス」っていう
ティターンズがセイラさん始め女キャラを犯りまくるスレがあったなぁ。
299 :
通常の名無しさんの3倍:2008/02/10(日) 09:18:20 ID:BMNL+j8t
保守
300 :
通常の名無しさんの3倍:2008/02/12(火) 14:26:33 ID:deixbnzy
このスレのまとめってないの?
保守
12.沈黙(9)
宇宙世紀100年12月31日
彼が指揮する新型AMS-129ギラ・ズール4機は、森林地帯に身を隠しながら、
目標に自らの駆動音を気取られぬ位置で作戦の決行を待っていた。
そして数十分後、実弾演習の名目で出動した彼等第800特殊教導連隊の猛者達は、
作戦「桜花」の発動を国防軍司令トワニング上級大将から直接告知された。
「目標はズム・シティ郊外のヴェヴェルスブルグ城に篭城している。
ムンゾ共和国に反旗を翻した元国防軍近衛軍団長ホルスト・ハーネス上級大将の捕縛が最優先だ。
友軍相打つ状況は避けたい。極力発砲は控えるように」
彼はミノフスキー粒子の散布を命じ、突入命令を待った。
この年のクリスマスに発生したネオ・ジオンの国家崩壊は、国内全体に混乱を起こすことになった。
グレミー・トト総帥の辞任から四日後、ついに国防軍主流派による蜂起が始まったのだ。
「フッケバイン、フッケバイン、フッケバイン」
司令部からの秘密暗号を受信した彼は部下達に命令を下した。
「作戦『桜花』開始、各機目標へ突入せよ!」
ヴェヴェルスブルグ城周辺の叛乱部隊は呆気なく降伏した。
叛乱部隊の司令部であった城内に入っても抵抗は無く、そこにあったのは自害した屍だけであった。
12.沈黙(10)
宇宙世紀104年9月
叛乱が早期に鎮圧できたのは、ホルスト・ハーネス上級大将の御陰であった。
蜂起した者に賞賛を送ることはできないが、同胞相打つ惨劇だけは避けられた。
彼が過去に思いを馳せていたのには理由がある。
それは四年前の作戦「桜花」に参加する命令を受けた時と同じ部屋に呼び出されていたからだ。
彼は後悔するようになっていた。ムンゾ共和国は未曾有の経済危機に見舞われている。
地球連邦との国力差は広がり、民衆の中ではネオ・ジオンの方がマシであったとさえ言われている。
彼の雇用主である国防軍も縮小の一途をたどっているのだ。
こんな状況になるのならば。彼の心の中では後悔の念が広がっていた。
だが、彼は生粋の武人である。心中を誰かに吐露することはなかった。
「第800特殊教導連隊連隊長、参りました」
「月に行ったことはあるかね?」
現状報告と少しの雑談の後、国防軍情報局局長が彼に突然問いかけた。
「月面には旧軍時代に武官として赴任しておりました」
「そうか。月での戦闘経験は無いようだな。今回の作戦地域は月面だ。早急に月の重力に慣れてくれ」
「作戦といいますと?」
「これだ。他言無用。複写も許されない」
彼は局長から作戦計画書を渡された。一目見ただけでこれが秘密作戦であることが理解できた。
そこには局長のサインだけではなく、ドライゼ海軍大将、国防軍作戦部長ハスラー上級大将、
そして総統兼国防軍司令であるロンメル元帥のサインが記されていたからだ。
12.沈黙(11)
作戦「明星」
1.反地球連邦組織「マフティー」と偽装した第800特殊教導連隊により「ジュピトリスW」を破壊せよ。
当該目標は作戦決行当日に月面宇宙港にて補給作業中である。
2.作戦の際は、必ず月面都市防衛軍、地球連邦駐留軍と交戦し、市街地及び市民に被害を与えること。
3.作戦目的は月面都市群と地球連邦に反地球連邦組織が画策したテロと認識させることにある。
4.この作戦が順調に推移した場合、今後は地球上での破壊工作活動に移行する。
「我々は地球連邦の注目を宇宙から逸らさねばならない。
これから我がムンゾ共和国は様々な裏工作を実行するからね。
それらの工作活動が成功すれば、半世紀後を目安にして宇宙に戦国時代が到来するだろう。
その時にこそ我がムンゾ共和国は勝利する」
局長は明星作戦の目的を説明した。彼にとってそれは想像以上の計画であった。
そして既にこの時期には、ムンゾ共和国の諜報機関によって、多くの反地球連邦組織に支援が行われていた。
後に地球圏に混乱をもたらせた勢力の多くがムンゾと蜜月関係にあったのだ。
今回の作戦に使われたマフティーもその中の一つであった。
「作戦の概要はこんなところだ。何か質問はあるかね?」
「はい、今回の作戦指揮官に私を選んだ理由は何でしょうか?」
「我々が貴官を選んだ理由は、貴官こそがサイド3で最も危険な男だと見込んだからだよ。ラカン・ダカラン大佐」
投下終了です。
戦闘が始まりませんでした。
次回こそはジュピトリスWを襲撃したいです。
>>297さん
ZZラストでジュピトリスUがフォンブラウンから発進する。
こんな描写があったので何も考えず書いてしまいました。
横倒しでも全長3kmもあると宇宙港のスペースは足りるのだろうか…
乙であります。
「目標は<大和>」思い出した
こっちのガトーは俺の書いたのと違ってカッコよさそうw
ジュピトリス級ともなれば、専用宇宙港を別に建設しててもおかしくないのでは?
12.沈黙(12)
宇宙世紀105年3月15日
地球連邦軍第82軌道降下旅団は、昨日から月面都市フォン・ブラウンで発生した騒乱への出動を待ちわびており、
宇宙世紀100年の月面臨戦協定に基づく地球連邦軍への協力要請を受けるや、戦闘行動に移り月軌道へ発進した。
昨日の午後より何度も行われた偵察の結果、
ブラウン・クロキ宇宙港に隣接したマスドライバー施設と加速準備に入っていたジュピトリスWは、
十数機のMSによって占拠されたものと判断されていた。
この正体不明の敵に対し、月面防衛軍は午前6時にフォン・ブラウンへ一個MS旅団を集結。
敵MS部隊を視認すると即座に攻撃を開始したとの報告があった。
この報告を受け、降下旅団長であるケネス・スレッグ大佐はルナリアンを見直した。
彼等にはアナハイム社のような死の商人や日和見主義としてのイメージしかなかった。
だが、この騒乱に対して月面防衛軍は迅速な行動を開始している。
ルナリアンの中にも危機意識の高い奴がいるのかと大佐は思った。
それと同時に自分達の仕事は無くなったとも思っていた。
マスドライバー施設はリニアレール敷設のため、敵軍が占拠した地域の大部分は平野が広がっている。
つまり、敵軍に逃げ道は無い。
そして、月面防衛軍が集結させたMS旅団はジェガン約50機によって構成されている。
敵が保有する十数機のMSでは勝負にならない。
この重装備は6年前に発生した環月面動乱の苦い記憶によるものだろう。
だが、ケネス大佐の予想は外れた。
午後8時の定時連絡では月面防衛軍のMS旅団は壊滅状態に陥ったとの報告があったのだ。
12.沈黙(13)
四方から敵軍を押しつぶそうとした月面防衛軍MS部隊は、形式不明の大型MAを直接視認した瞬間、
無数の思考制御型誘導兵器(ファンネル)によるオールレンジ攻撃を受け、2割以上が破壊されてしまった。
この攻撃により部隊は混乱状態となり、敵陣からの砲撃をまともに受けることになった。
メガランチャーの一斉射撃を受けたMS部隊は統制を失い壊走した。
事態を重く見た月面防衛軍司令部は虎の子の増援を差し向けた。
それは月面仕様に改装したRGZ-91リ・ガズィを装備した緊急展開中隊である。
この機体はBWSを改良して擬似的な空挺機動を可能にしたものであった。
だが、マスドライバー施設まであと50kmと迫った時、突如として編隊の一機が爆発した。
マスドライバーからの対空攻撃と知った時には、既に中隊は小隊規模まで減少していた。
BWSをパージして着陸しようとした機体もあったが、突出してきた敵軍により殲滅された。
結局、残った編隊は離脱するしかなかった。
敵の戦力を理解した月面防衛軍は戦力の再構築を理由に、
一時敵軍との戦闘を地球連邦軍に任せる判断をした。
この結果、予定通りケネス大佐の第82軌道降下旅団は戦闘に赴くことになった。
「月面防衛軍は手酷くやられたようだな。まったく、敵軍は何処から侵入したんだ」
「ケネス大佐、おそらく敵軍は宇宙港に停泊していた貨物船から発進したものと」
「ふん。テロリストは始末に終えんな」
――降下20分前、降下20分前、パイロットは搭乗急げ
「時間のようだ。奴等に連邦軍の恐ろしさを見せてやろう」
12.沈黙(14)
地球連邦軍は今回の騒乱を新兵器と戦術の実験場と位置づけていた。
そのため、テロリスト掃討とは思えないほどの苛烈な攻撃を行った。
まず、ルナツーより発進したラー・カイラム級機動戦艦を主力とした打撃艦隊による軌道砲撃が開始された。
本来ならば目標はマスドライバーであるが、月面都市の了承が得られないので敵陣への攻撃となった。
無論、砲撃だけで敵軍を殲滅できるとは考えていない。これは降下部隊の軌道降下を支援するものである。
この砲撃にはある新兵器が使用されていた。それはABM(対ビーム弾頭弾)である。
これは敵の迎撃により弾頭が蒸発すると、気化した重金属粒子が付近の大気中に充満し、
そこを透過するビームを著しく減衰させることにより無力化する。
古くはチェンバロ作戦から使用されているビーム撹乱膜だ。
この兵器の新機軸は弾頭が迎撃されなかった場合、通常の弾頭として機能することである。
この作戦は成功した。実験兵器のため砲撃密度は薄かったが、
多くの弾頭が敵に迎撃されたため戦場全体でビーム兵器が使用不可能となった。
敵軍の錬度の高さが皮肉にも仇となってしまった。
ファンネルによるオールレンジ攻撃の脅威は取り除かれたのだ。
――曳航索切断、各機は軌道降下体勢に移行せよ
クラップ級巡洋艦に曳航されていたケッサリアが、囮の役目を果たすべく先行して切り離された。
「我々も降下するぞ。全員無事落着すること。いいな!」
バリュートを搭載したMSが次々に開始していった。
ケネス大佐もそれに続き月面へと飛び出した。
落下中に眼下を見渡すと、東方の戦場は赤く燃えていた。
降下中の彼等を狙うメガランチャーの閃光も煌いたが、撹乱膜に阻まれ立ち消えした。
着地の衝撃、ケネス大佐は素早くバックパックを排除し、広大な月面の中で友軍の統制と投下物資の回収を始めた。
旅団の多くは無傷で集合できた。一部の機体が実弾兵器による損傷で月面都市へ後退しただけだ。
軌道降下で最も危険な時間を無事に過ごせたことにケネス大佐は満足感を覚えていた。
投下終了です。
筆が進みました。ビーム撹乱膜はギレンの野望だと必須ですよね。
>名無し曹長 ◆BiueBUQBNg さん
そろそろガトーさんも出演させたいところです。
「標的は<大和>」をベースに特殊部隊物を誰かに書いて欲しいなぁ。
>307さん
大神工廠のような大型艦専用ドックが併設されていると考えてみました。
いよいよガト・・いや、バトーさんの出番ですな
一つわからない描写がありますが
月面でバリュートとは?
これも特殊作戦の一環でしょうか?
313 :
通常の名無しさんの3倍:2008/02/19(火) 00:56:02 ID:5iApcBUM
月にはじつはものすげえ大気があったんだよ!
最近のNASAの調べで新事実が発覚したんだよ!
てかバリュートは月地表でボールみてえにバウンドしてショックを和らげるんだよ!
しかも新バリュートだからがんだりゅーむでできてて最強の盾になんだよ!
そんな簡単なこともわかんねえのかクズ野郎!
いちいちくだらねえツッコミすんじゃねえ!
能無しのバカどもは黙っておれの書いたものを崇め奉ってりゃいいんだよ!
>312さん
月面で大気圏突入用装備を使用するのは間違っていますね。
ご指摘ありがとうございました。
その部分は「ランディング・ディバイス」を搭載したことに。
これはゼク・アインが装備していた降下用逆噴射装置です。
保守
316 :
通常の名無しさんの3倍:2008/02/25(月) 19:27:41 ID:tjX2T+oi
上げ保守
保守
12.沈黙(15)
戦場に落着できた45機のFD-03グスタフ・カールは、投下物資による装備の補給を終えるとすぐに突撃を開始した。
彼等に残された時間は少ない。撹乱膜は重力のある月では効果時間が減少してしまうのだ。
遠距離攻撃の危険が消失している間に、敵陣を自分達の交戦距離に入れなければならなかった。
「無事に着陸させてしまったぞ。くそっ、だから強化人間なんて使うべきじゃなかったんだ」
ラカン・ダカラン大佐は焦っていた。彼等は連邦軍の軌道爆撃(敵ミサイル)に対して迎撃行動をした。
迎撃が成功し弾頭から重金属粒子が拡散した時、第800特殊教導連隊の猛者達は敵の意図を理解した。
「連邦軍はビーム兵器を封じようとしている」
だが、諜報部が無理やり部隊に組み込んだ、強化人間達が莫迦正直に命令を遂行してしまった。
彼等に中止命令を理解させた時には、既に戦場全体へ重金属粒子がばら撒かれていた。
彼に残された兵力は、ジュピトリスWとマスドライバーを制圧している歩兵を除けば、
ギラ・ズール8機(ファンネル搭載のヤクトタイプが3機と長距離砲装備のランケタイプが5機)、
そして、自らのMAN-10G3ゲー・ドライだけであった。
既に戦力の半数が一連の戦闘と軌道砲撃によって葬り去られた計算となる。
「方向1時、敵着陸地点から閃光、無誘導噴進弾と思われる。数24、回避行動を開始」
「畜生!」
ラカン大佐の搭乗するゲー・ドライは操縦士の他に二人の火器管制員が乗っている。
操縦士と火器管制員の一人は件の強化人間である。
彼女等は彼の存在を無視するように、機体と搭乗員を酷使する急激な機動を行って敵弾を回避していった。
天地が逆転する視界の中、彼はハンドランチャーを放った。
数分ほど前までは敵との中間地点までやっと届く程度であったが、
機体から放たれたビームは減衰しながら直進し、敵機に届く寸前までかき消されなかった。
彼はもう少し時間を稼げば、ビームも自由に使えるだろうと思った。
12.沈黙(16)
月面に連邦軍が着陸したのとほぼ同時刻、
占拠されたジュピトリスW艦内でも激戦が繰り広げられていた。
ジュピトリスWは一個小隊規模の勢力によって制圧されていた。
当時、ジュピトリスWの船員は半舷上陸中(規則違反の艦外行動者もいた)であったこともあり、
満足に抵抗を行えずに制圧されてしまったのだ。
さらに艦の中枢部であるCICを無傷で制圧できたことにより、
敵勢力は大多数の船員がいる重力区画の隔壁を閉鎖し、艦内部からの反抗を不可能なものとした。
重力区画外に居た船員も各個撃破されてしまい、ジュピトリスWは完全に無力化されたものと思われた。
こんな状況の中、ガトーは果敢にも反撃を開始した。
幾多の戦場を駆け抜けてきた経験と勘が、この最悪の戦場で最大限に発揮されたのだ。
最初は調理用ナイフしか武器となるようなものは無かったが、
敵兵の隙を見て装備を奪取すると敵兵にとっては悪夢のような存在になった。
そして、物資を納品する途中で事件に巻き込まれた、
旧友のケリィと合流すると彼等は獅子奮迅の活躍を始めるようになった。
外で戦闘が始まり艦内の警備が疎かになったことも幸いし、
ついに彼等は艦内を敵勢力から解放することに成功した。
「なんとたわいの無い。鎧袖一触とはこのことか」
あとは連邦軍が敵勢力を鎮圧すればこの事件は終結する。
だが、ガトーは外の戦闘を見ているだけで終わるような漢ではなかった。
「ケリィ、使えるMSはあるか!この際だ、使えるのなら連邦製でもかまわん!」
「格納庫のMSは全て破壊されていた。しかし、オレが持ってきたやつは無傷のはずだ。
5番倉庫に置いてある。外の援護に行きたいなら急げ!」
ガトーは5番倉庫でそのMSを発見した。
彼はそのMSに懐かしさと力強さを見出して一言つぶやいた。
「素晴らしい。まるでジオンの精神が形となったようだ」
だいぶ遅れましたが投下です。
昨日、沈黙の戦艦がテレビでやっていましたが、
あのような描写を書くのは難しいですね。筆力の無さを痛感しております。
>あのような描写を書くのは難しいですね。
いえいえ面白いです。
佐藤御大は鳥瞰的に描写する作家なので、あの映画のようなミクロ単位
の描写とはまた話が違うことですし。
ところでムンゾの強化人間ってもしかしてプル・シリーズですか?
俺も先日セガールみてたw
懐かしいジオンの象徴モビルスーツが気になります。
続き頑張ってください。
応援ありがとうございます。
これからも執筆速度は遅いですが頑張りたいですw
>名無し曹長 ◆BiueBUQBNg さん
ご明察です。登場した強化人間達はプル・シリーズですね。
実はギレンの野望でアクシズ(グレミー)をやっていて思いつきました。
ゲーム中でも五人のプルクローンが出てたので出してみましたw
短編を投下します。
三部構成になる予定です。
随所にネタや設定を入れていきたいと思います。
全てに気づかれる方はいるのでしょうか。
「夜桜は散った」
前編:塩の柱
容赦の無い夏の日差しが彼を照りつかせていた。
ニホン省出身のタムラは流れ出る汗と戦いながら、必死に穴を掘っていた。
彼の顔はマスクで覆われていた。マスクは何日も同じものを着用しているようで酷い悪臭を放っていた。
普段ならすぐに交換すべきであるが、この村にマスクの予備は存在しなかった。
北米大陸のかつてグレートプレーンズと呼ばれた穀倉地帯、
コロニー落着現場から離れた場所で農業を営んでいるサン・ロレンツォ村が疫病に見舞われていた。
タムラは一年戦争時に料理長として従軍した経験があった。
彼は多くの戦役に参加していたが、その地獄の中でも現在の村よりはマシであったと思った。
一週間前から疫病の兆候はあった。
収穫間近の小麦は枯れ、木々や芝生すら赤茶けた大地に無残な姿を晒していた。
その惨状が植物から人間へと移るのに時間はかからなかった。
住民は一斉に村の診療所に駆け込んだが、医師が診断中に死亡してしまうと、
そこはむしろ近寄るべきではない場所だと認識された。
現代医療に希望を失った住民達が最後に向かったのは、宇宙世紀以来寂れていた村外れの教会だった。
彼等にできることは神に祈ることだけであった。
タムラが大きな穴を掘り終えると既に夕暮れになっていた。
彼は教会の外に安置されている遺体を見た。穴を掘り始めた時よりも増えている。
数えると30以上あった。もっと掘らなければならないとタムラは思った。
何故、私がこんな目に遭わなければならないのだろうか?
タムラは一生分の不運を一年戦争で使ってやったと思っていた。
だが、神は無慈悲にも彼に人生最大の不幸を運んできたのであった。
彼にとって唯一の幸運は、一人娘のヒヨリがこの村に居ないことであった。
彼女は彼の故郷であるニホンの祭典に参加するために旅行中であったからだ。
彼はこんなことになってしまった理由を考えていた。
そもそも事態の発端は不審なMSが山奥に墜落した後からだった。
村の青年団が墜落現場に行くと、既にその周囲の木々は枯れていた。
彼等がMSを調べると不自然なことにパイロットは居なかった。
青年団が不審に思いながら帰ってきたのと同時に、村でも山と同じように植物が枯れだした。
おそらく病原菌か何かが搭載されていたのだろうとタムラは思った。
そして、その病原菌は人間達にも牙を向けたのだった。
外部からの救援も望めない。ここは宇宙世紀0083年のコロニー落下事故によって、
地球連邦政府から半ば見捨てられた土地であるからだ。
救援要請は出していたが、一週間近くたってもまだ誰もこの村へは来ていない。
タムラはもはや自分も祈ることしかできないと感じていた。
先程から妙に咳が出ている。自分も感染したのかもしれない。
彼が絶望しかけた時、聞き覚えのある音が聞こえてきた。
タムラは一年戦争時にペガサス級強襲揚陸艦に乗艦していた。
そのペガサス級が大気圏内を飛行する音が遠方から聞こえてきたのだ。
現れたのはタムラにも見覚えがある、古い地球連邦軍のペガサス級強襲揚陸艦であった。
「神よ…」
いつの間にか教会の牧師がタムラの隣に立っていた。
その揚陸艦はまるで戦闘中であるかのように盛大にフレアやミノフスキー粒子を使用していたので、
遠くから夕闇の空を見るとまるで天使が羽根を広げているように見えたのだ。
牧師がしきりに十字を切っていると、揚陸艦は高度を上げ、
ちょうどMSが墜落したあたりに何かをばら撒き始めた。
タムラは揚陸艦が何をしたのかが瞬時に理解できた。
ニューヤーク。ドーム型野球場への避退。空中空母による絨毯爆撃。
地球連邦軍は病原菌ごと私達を焼き尽くそうとしている。タムラは背筋を震わせた。
牧師も燃え盛る山を見て気づいたようで、先程とは全く逆の表情を見せていた。
「神よ…」
今度はタムラも呟いてしまった。彼も神の慈悲に縋りたい気持ちであった。
中篇:カリオテ人のシモンの子
作戦に投入されたのはペガサス級強襲揚陸艦7番艦「アルビオン」であった。
アルビオンが秘密作戦に投入されたのには理由がある。
ガンダム試作二号機の奪取、シーマ艦隊との裏取引、30バンチ事件、ティターンズ蜂起、アポロ作戦、
アルビオンはこれらの表に出すことのできない秘密作戦を担ってきたのだ。
「今回も汚れ役になっただけだ」
艦長の元ティターンズ作戦参謀バスク・オム大佐は自嘲気味に話した。
アルビオンは焼き尽くされそうになった村落に着陸した。
地球連邦軍にも一抹の理性が残っていたようで、タムラの予想ははずれ消毒剤が撒かれただけであった。
無論、村ごと焼き尽くせという意見も存在していたが。
村へ降り立った兵士達は宇宙服のような防護服を装備していた。
彼等によって簡易無菌室が設営されていった。
簡易無菌室とアルビオンは宇宙用のエアロックでつながれ、艦内から消毒剤等が運ばれていった。
「消毒剤などいらん。汚物は消毒だ」
防護服で着膨れた老人が忌々しげに呟いた。彼は名はシロウ・I・ムラサメ、軍医中将である。
話の前後で矛盾しているが、老人の言う「消毒」は我々の考える「消毒」とは意味が違うのだろう。
「閣下、充分に安全は確保されているのでしょうか?」
バスク大佐はムラサメ中将の先の言葉を無視して質問した。
「安心したまえ。住民の方は知らんが、我々は防護服を着ている限り充分に防げる」
防護服にはすぐに熱がこもり汗だくになるが、
ムラサメ中将は老人とは思えない活力で休みも取らずに現地調査を続けていた。
バスク大佐はニュータイプ研究所の所長が、何故BC兵器に興味を持つのか疑問に思った。
「検査結果はまだか!」
「はい、まもなく完了であります、閣下」
ムラサメ中将に噛み付かれたバスク大佐は宥めるような声で応じた。
「遅すぎる!実戦だったら部隊は全滅しているぞ!」
「これ以上は無理です閣下、部下達は全力を上げて取り組んでおります」
「ふん、所詮は地球連邦軍というわけか」
その数十分後、バスク大佐の疑問は解消されることになった。
地球連邦政府から新たな指令と共にムラサメ中将の略歴が送られてきたのだ。
シロウ・I・ムラサメ軍医中将はジオン公国からの亡命者であった。
彼はジオン公国地球方面軍の防疫給水部本部の部隊長であったらしい。
この部隊は地球攻撃軍が管轄する区域内の防疫・給水業務を行うことを目的にしていた。
宇宙世紀0079年12月、地球連邦軍が北米大陸に侵攻すると、
撤収作戦が実施され部隊はその施設のほとんどを破壊して徹底的な証拠隠滅を図った。
彼等の情報を欲した連邦軍は、ムラサメ中将をはじめ部隊の幹部との間で、
実験のデータを提供する代りに部隊を法廷で裁くことを免除したとされている。
取引の際に防疫研究室の実態は隠され、
施設として目立つ防疫給水本部を囮として使う事によって
防疫研の研究ネットワークの実態、そしてその成果であるNBC戦術の最重要情報
(例を挙げるならば後のG3ガスや生物兵器アスタロスなど)の秘匿が計られた。
連邦軍からの追求を十分予測していたムラサメ中将は、
予め部隊での成果の一部を引き渡す事で研究の全貌を隠匿することに成功したと言われている。
一年戦争後に地球連邦軍に亡命したムラサメ中将は、NT研究機関であるムラサメ研究所を設立した。
第二次ジオン独立戦争で実戦投入された強化人間の多くには彼の研究成果が応用されているらしい。
「生物兵器の調査と患者の移送が完了いたしました」
外から戻ってきたジャクリーヌ中尉が彼等に報告を行った。
「通常の殺菌作業ではとても追いつていない。私の予想通りだ」
ムラサメ中将は調査結果を読みながら話し出した。
「MS墜落地点の殺菌作業が捗っている事を考え見るに、焼却処分が最も有効だと判断できる。
最初に私が進言したように村ごと焼き尽くすべきであったな。
まぁ、人体への影響も観察できたから無駄ではないがな」
「つまりこの村も徹底的に焼くべきということでしょうか?」
バスク大佐は尋ねた。
「そうするべきだろう。正直なところ、私もこの細菌がどれほどしぶといのかは分からない。
研究資料は既に破棄されているし、関係者も消息不明だ。私自身も具体的なことは知らない」
「あなたがこの細菌を培養した本人であるのにですか?」
「貴様、何故知っているのだ!」
「体は醜く膨れあがり、蛆虫と体液が溢れ出た」
バスク大佐はある人物の末路を口にした。
皮肉な事にもそれは感染者の症状とほぼ同じであった。
「イスカリオテのユダか。私がジオンからの亡命者というのは機密事項なのだがな」
後編:豊穣の女神
「閣下、もう少しで作戦も終了することですし、外でお話しませんか?」
「何故だ?」
「指揮官は最後に戦場から離れるものだと教わりました。地球連邦では。
ジオン公国での将校教育はどうなのでしょうか?」
ムラサメ中将は不快感を表したが、防護服を着込みバスク大佐と共に外に出た。
「閣下、何故ジオン公国軍は生物兵器などに手を出したのでしょか。
既にコロニーレーザー開発計画も動いていたのに」
「あの当時、公国は危地に立たされていた。独立戦争勝利のため、あらゆる手段を追及する必要があった」
「だから研究を進めた。ですが、生物兵器は不経済です。明らかに」
生物兵器は製造も面倒で管理も困難、効果は不明確、運用にいたっては軍事の範疇を越えている。
一度使えば制御不能の兵器など誰も使用することはできない。
「効果は絶大なのだ。私はキシリア様にも進言したのだ。総帥の進めるシステムではなく…」
「夜桜計画、別名アスタロス。安心して下さい。私は話を伺いたいだけなのです」
バスク大佐は口を挟んだ。
「貴様、何処まで知っているんだ!」
「あなたが進言し実行した計画。地球に対する全面生物兵器の使用。
北米大陸で得た連邦軍捕虜に細菌を植え付け、連邦領土内で伝染病を蔓延させる。
閣下はそれで地球連邦の戦時体制に混乱を起こせると考えた」
「その通りだ」
「しかし、軍は閣下の計画を信頼しなかった。実証的なデータが足りなかったから。
だから閣下は地球へ降下した。捕虜を用いた人体実験で効果を確かめるために」
「キシリア様の黙認は得た。連邦軍も我が軍の捕虜に拷問を加えていた。一種の報復だったのだ!」
「そうでしょうな。私も似たような経験をしましたからね」
バスク大佐のゴーグルが怪しく光るのをムラサメ中将は見逃さなかった。
「私をどうする気だ?」
「急がないで下さい、閣下。話はまだ終わっておりせん。
そのような人体実験の成果によって地球連邦軍の反抗作戦の直前に生物兵器は完成した。
だが、その兵器は閣下にとっては失敗作でした。
完成した生物兵器は植物だけを枯らし人体には影響が無いものだったから」
「時間が無かったのだ」
「その後、捕虜になった閣下は地球連邦へ亡命します。
完璧な生物兵器の完成と更なる人体実験をするために。
連邦軍もその種の兵器を必要としていたので利害が一致したのでしょう。
地球連邦が弾圧するのは何もコロニーだけじゃないですから。
誰もが夜桜を美しいと感じたのは戦争という狂気に酔っていたからでしょう」
「貴様は何が言いたいのだ?」
「北米大陸に保管されていた生物兵器を移送する時、MSが墜落してしまったのは不幸な事故です。
これには何の裏工作もありません。本当に悲しい事件です。
事故の知らせを受けた閣下は案の定現場に行くと言ってくれました。
自分の開発した兵器の威力を確かめずにはいられなかったから。
軍の高官達は喜んでおりました。後ろめたい過去を抹消できる機会が訪れたことに」
「まさか私を…」
ムラサメ中将は恐怖に駆られて逃げ出そうとした。
だが、バスク大佐は拳銃を抜き中将の足を防護服ごと打ち抜いた。
「その防護服にもう気密性はありません。もちろん閣下はアルビオンに乗艦することはできません。
細菌に侵された汚物を艦内に持ち込むことは艦長として許可できない」
「た、助けて、助けてくれ」
「閣下、その命令には従えません」
「わ、私が死んだら。連邦軍のニュータイプ研究が頓挫するぞ!」
「ご心配には及びません。ムラサメ研究所の新所長にはローレン博士が内定しております」
「お願いだ、大佐。助けてくれ」
「さようなら、閣下。ユダはコキュートスのジュデッカがお似合いですよ」
バスク大佐は身動きのとれない中将を置いてアルビオンへと戻っていた。
「アルビオン艦長バスク・オム大佐より司令部へ。夜桜は散った。以上、交信終わり」
死にたい連邦軍将兵にお薦めの「連邦人民最大の敵(レビル曰く)」ヘルムート・ルッツ大尉
・オデッサ突入直前なら大丈夫だろうと虎の子のRGM-79(G)を出したらいつもと変わらないルッツに撃破された
・ドダイGAの機影を発見後一分でビッグトレーが火の付いた燃料を流して撃破されていた
・足元がぐにゃりとしないので沼をさらってみたら61式戦車の残骸が敷き詰められていた
・停泊中の戦艦が襲撃され、気が付いたら大破着底させられていた
・高度数百ftで爆弾を投下、というか距離100m以内で機銃をぶっ放す
・フライマンタの編隊が襲撃され、フライマンタも「護衛のTINコッドも」一部撃墜された
・トラックから塹壕までの10mの間にルッツに機銃掃射された
・MSの隊列に合流すれば安全だろうと思ったら、隊列のMS全てがルッツによって撃破済みだった
・全連邦軍将兵の3/100がルッツ被撃破経験者、
しかも急降下爆撃ならどんな兵器も破壊出来るという彼の信念から「強力で頑丈な兵器ほど危ない」
・「そんな奴いるわけがない」といって出撃して行った戦車兵が五年経っても骨の一つも戻ってこない
・「連邦軍将兵でなければ襲われるわけがない」と雪原に出て行ったキツネが穴だらけの原型を止めない状態で発見された
・最近流行っているルッツは「何が何でも出撃」総帥に止められても片足が吹っ飛んでも連邦軍狩りに出て行くから
・ベルファストオデッサ間はルッツの襲撃にあう確率が150%。一度撃破されて撤退中にまた襲撃される確率が50%の意味
・ルッツ中隊全体における連邦軍襲撃による戦車撃破数は一日平均34輌、うち約17輌がルッツ一人のスコア
投下です。
地球連邦の興亡
第四章・第二節「地衛兵と地球至上主義」
「地衛兵」とは第二次ジオン独立戦争期に創設させられた民兵組織のことである。
地衛兵に参加した者の多くは大学生や高校生などの若者達であった。彼等は政治意識の高い真面目な生徒であった。
地衛兵が最初に結成されたのは宇宙世紀0088年2月のことで、北米MS訓練学校モントレアル校(エコール)にかよう
ティターンズ高級幹部の子弟が、初めて地衛兵という言葉を用いて学生運動を始めた。
彼等は自らを「地球を防衛する兵士」と称して、全国の学生に地球至上主義の思想を広めていった。
その結果、自らの行動を絶対的正義と信じた彼等は、地球防衛の担い手という精神的高揚感と集団心理の中で、
次第に暴力行為をエスカレートさせていった。
後年になって彼等は「若さ故の過ち」と連呼し自らの行為を有耶無耶にしようとしている。
このような者達による歴史資料の抹消と第二次ジオン独立戦争の戦火によって、
宇宙世紀80年代後半を考察した歴史書は極めて少ない。唯一と言ってもよい資料は、
ヨシユキ・トミノ氏のフィクション性の高いZ三部作しかないのが現状である。
当時の史実については、いまだ完全には解明されておらず、特定の事件に対する矛盾した情報も多い。
本書では現段階で入手可能な資料を用いて、「ティターンズ蜂起」の発生原因と経過を考察していきたい。
宇宙世紀0080年1月1日、ギレン・ザビ率いるジオン公国との一年戦争で勝利を収めた地球連邦は、
一週間戦争時の未曾有の被害によって、政治力よりも軍事力を背景とした支配構造が確立しようとしていた。
一年戦争の戦火によって多くの命が失われていたが、それでも数十億人以上が地球連邦市民であった。
この超巨大国家を運営する能力はヨハン・エイブラハム・レビル大将を失った地球連邦軍に残されていなかった。
そのため、戦後三年近くが経過しても地球上の多くの地域は、一復興は行われず困窮状態に置かれていた。
当時の地球は現在(そして過去)のように全ての地域が地球連邦の支配下に置かれているわけではなかった。
一部地域にはジオン残党勢力が存在し、中華地域や北米大陸には小規模な国家群も成立していた。
こうした勢力を放置すれば、地球連邦体制の打破を目指す反地球連邦運動へと発展しかねない状況であった。
そして、その状況の中で勃発したのが前節で取り上げた「デラーズ紛争」である。
詳細は既に記したので、ここでの説明は省略させてもらう。
この紛争によって反地球連邦運動の危険性が高まったことにより、
ジャミトフ・ハイマン准将は宇宙世紀0084年に「ティターンズ」と呼ばれる
ジオン残党(反地球連邦勢力)狩りに特化した組織を成立させた。
ジャミトフ准将はティターンズ設立に対して批判を行った者達を、
全員「反地球連邦分子」のレッテルを貼り弾圧の対象とした。
ティターンズ設立と同時に、ジャミトフ准将は地球連邦の経済官僚だった経験を活用して、
当時低迷していた地球の経済状況を改善させていった。ティターンズの危険性に対しての批判は多くあったが、
多くの人々は行動しようとは思わなかった。ジャミトフが行った経済政策は成功し、
地球連邦市民の多くは景気回復を実現させた彼に好感を抱いていたからだ。
ここにティターンズ(ジャミトフ)に抗議し刑務所に入れられた人物の警告が残されている。
「ティターンズがジオニズムを弾圧した時、ジオニストでない自分は行動しなかった。
ティターンズは次にスペースノイドを弾圧した。コロニー住民でない自分は抗議しなかった。
ティターンズはルナリアンに弾圧の輪を広げ、最後に地球に住む人々を弾圧した。
地球に住む自分は立ち上がった。時すでに遅かった。抗議するのは誰のためではない、自分のためだ」
宇宙世紀0087年10月、地球圏を揺るがす大事件が発生した。
ジオン残党の中で最大勢力である「アクシズ」がアステロイド・ベルトから地球圏へと帰還した。
彼等の行動は迅速であり、地球連邦の保有する小惑星改造の宇宙要塞のうち二つが瞬く間に無力化された。
突然の侵攻に対して当時の地球連邦上層部の対応は後手に回り、
ようやく宇宙に防衛ラインが構築できた時には、アクシズはサイド3に進駐してしまっていた。
この状況の中で、地球連邦の多数派であるゴップ元帥を長とする保守派は、
サイド3をアクシズに譲渡することによって停戦しようとしていた。
これに反対したのがジャミトフ大将率いるティターンズであった。
地球至上主義者である彼等がこのような講和条件を許すわけが無かった。
彼等はゴップ元帥やワイアット大将が実験を握る現在の権力機構を打倒し、
自分達がその座に就くとする実質的なクーデター構想を描いていた。
しかし、軍事力によるクーデターは戦争状態である現状では不可能であり、
もし蜂起を図れば地球連邦はティターンズ派と保守派、反地球連邦派(エゥーゴ・カラバなど)に分裂し、
完全な内乱に陥って収拾がつかなくなる恐れがあった。
そこで、ティターンズ作戦参謀のバスク・オム大佐が軍の動向を慎重に管理して暴発を回避する一方で、
「木星圏文化芸能連合部部長」の肩書きを与えられたパプテマス・シロッコ少佐が
「腐敗の温床であるジオニズムを撲滅する」との名目で知識人を弾圧し、
それに連なる現政権の有力者を失脚させていった。
この時期の連邦政府内に限れば「ペン」は「銃」より強かった。
とりあえずここまで投下です。
バスクを書いたら、ティターンズについて書きたくなってしまいました。
今回の短編は本編の方の地球連邦(ティターンズ)の興亡です。
保守
保守
343 :
通常の名無しさんの3倍:2008/03/20(木) 04:25:56 ID:TUxHzc3s
あげほっする
宇宙世紀0088年1月14日、ジャミトフ・ハイマン大将は「地球連邦でジオン公国の復活を企む策謀があり、
連邦内のジオニズムの道を歩もうとする反連邦勢力(エゥーゴ派)を整頓しなければならない」と発言した。
彼は自らの意向に逆らう人物を「エゥーゴ派」と決め付けて断罪する下作りを行った。
それから約一ヵ月後、ホンコン・シティの新聞紙「東方日報」の読者投稿に
ホワイトベース組(旧レビル派)であったブライト・ノア中佐の息子ハサウェイ・ノアによる意見が掲載された。
ハサウェイの投稿は小学生らしい正義感に基づいたティターンズ批判であった。
だが、この新聞への投稿をジャミトフ大将は反地球連邦思想の現れであると断定した。
地球連邦全土に混乱を引き起こした「地球至上主義革命」の幕開けでる。
最初に槍玉にあげられたのは保護責任者であるブライト・ノア中佐であった。
当時、彼はアレキサンドリア級重巡洋艦「ハリオ」艦長を務めており、
政治的にはダグラス・ベーダー大将やブレックス・フォーラー少将達の旧レビル派に属していた。
(ブライト中佐本人は派閥には属していないと証言している)
彼等は所詮小学生の意見として論文に対する批判を黙殺する態度を取り続けた。
これに対してジャミトフは会議に出席したブレックス少将を「反連邦陰謀を企てた」として逮捕・投獄させた。
彼はティターンズ作戦参謀バスク大佐とコロニー戦略を巡って対立関係にあった。
さらにジャミトフとバスクは対立する者への攻撃の手を緩めなかった。
彼等はバスク大佐の影響下にあるティターンズ・連邦連合MS戦隊を南米大陸に投入、
ジャブローにある地球連邦関連施設などを次々と実質的な支配下に置いた。
これは連邦軍内部のエゥーゴ派によるクーデター予防措置であると説明された。
そして、宇宙世紀0088年3月16日、ジャミトフ大将は「地球至上主義革命」の開始を公式に宣言した。
この宣言を機にして、全面的な排除行動を開始したジャミトフ大将などに対して、
シロッコは彼等の活動から注意を逸らす目的で、連邦内の著名作家や知識人などへの人格攻撃を展開した。
「ジオンの亡霊」「エゥーゴの手先」などの汚名を着せられた彼等の多くは、名誉を挽回する機会も無いまま社会的に抹殺されていった。
また、このような文化人狩りを進める実働部隊として、主に学生から構成される「地衛兵」を大規模に動員した。
彼等はシロッコの呼びかけた「地球至上主義革命への協力活動」へ積極的に参加していった。
その結果、政治活動へ魅入られた学生達は各地で大規模な革命協力運動を開始することになる。
彼等は自らがエゥーゴ派と判断した者達を公衆の面前で糾弾していった。
地衛兵の標的になった人物は公開糾弾大会で吊るし上げにされ、
壇上で両腕を後ろに組ませ無理やり前傾姿勢をとらされた。
これはMSの発進体勢に似ているため「カタパルト式(加式)」と呼んだ。
さらに「私はジオニストです」などと記された看板を首にかけ、情け容赦なく心理的・肉体的暴力を加えていった。
そして、反連邦主義者とされる人々が見当たらなくなると、地衛兵達は些細な革命運動の路線対立を理由に内ゲバを始めた。
最終的に学生同士による粛清活動にまで発展し、連邦内部の不安定化はティターンズに利するとの判断から、
そうした内紛をさらに助長する方針をとっていった。
後に化石のようなアジテーションに扇動させられ、この運動へ参加した学生達のことを「ノジュール」と呼ぶようになった。
投下終了。
ティターンズの興亡の続きです。
>>347 ある意味、タイムリーなネタだな。
史実のティターンズもうまくやればエゥーゴをもっと叩けたかも知れんね。
紅衛兵ならぬ地衛兵か
宇宙世紀0088年4月1日、ジャミトフ大将はティターンズ司令の地位を利用して、
地球連邦中央議会第11回戦略会議をダカールで開催した。
この会議の中でジャミトフはティターンズ副司令としてシロッコを推薦している。
さらに会議中に突如としてジャミトフが「地球連邦軍を攻撃せよ」との発言を行った。
発言の内容は、一部のティターンズ指揮官が反地球連邦主義の立場から、地球至上主義革命を否定し、
旧ジオン残党勢力と協力した悪辣な陰謀を企んでいるというものであった。
誰もがこの発言をエイプリルフールの悪質なジョークと思っていた。
だが、会議の終了時の会見でジャミトフが地衛兵に対して号令を発したことによって、
彼の発言が本気であったことを確信させた。
地球連邦軍に対する包囲を悟った地球連邦軍人の行動は二通りの者達に分かれた。
一つはてティターンズを認め服従する者達、もう一つは月(エゥーゴ)への亡命を始めた者達であった。
機を見るのに敏なゴップ元帥は権力闘争への参加を諦め早々と逃亡を開始した。
保守派の長老ともいうべき人物の消息は、第二次ジオン独立戦争期を通じて一切が不明となる。
彼が復権するのは宇宙世紀0090年代に入ってからであった。
そして、宇宙世紀0088年5月に開催された第12回戦略会議で、
シロッコらが捏造した罪状により地球連邦政府首脳部が拘束されたことにより、
地球連邦の実権はティターンズに委譲された。
ここまでティターンズとしては無血で革命を推し進めていたが、最後の段階でついに流血が発生した。
ゴップがWのノベンタ(スペースノイド融和派、のちに暗殺)のようになる可能性はあるかな?
会議の結果を知った、対ネオ・ジオンβ任務部隊司令ジョン・コーウェン中将が月へと亡命を図ったのだ。
後に提督の叛乱と呼ばれる事態である。以下がコーウェン中将のエゥーゴへの賛同宣言である。
「地球連邦軍β任務部隊の全艦艇将兵諸君に告ぐ。私はジョン・コーウェンである。
これより本艦隊は連邦軍総司令部からの命令を変更し、
現在エゥーゴと称する者達と合流するため月へ進路を変更する。
今回の事件に於いて、小官は「義」はエゥーゴにありと見た。
連邦政府の主張する地球圏はあくまで地球のものであり、
地球こそがその中心という考えには疑問を抱かざるを得ない。
先の紛争の混乱に乗じて台頭してきた「ティターンズ」にそそのかされ、
「ティターンズ」のいいなりになった政権の、
いや「ティターンズ」どもの傀儡政権の下した命令に地球連邦軍は従うことはないと小官は判断する。
また「地球連邦軍人」である誇りがあるならば決して従ってはならない!
故にこれは地球連邦政府、及び地球連邦軍への抗命ではない。
地球連邦軍は連邦市民のために戦う軍隊なのである!
小官の決定に不服なものは24時間以内に艦隊より退去せよ。
真に地球連邦軍人たる誇りを持つもののみ小官とともに行動せよ。
諸君の英断を期待する!地球連邦万歳!」
この宣言から数時間後、叛乱を察知したティターンズ艦隊が亡命阻止のため艦隊の前面へ立ちふさがった。
この戦闘は未だ地球連邦軍から開示されていないの出詳細は不明である。
一説によると「デンドロビウム」「ウーンドウォート」と呼ばれる拠点防衛用MS同士による戦闘があったらしい。
また、エゥーゴ側の資料によればβ任務部隊残存勢力と思われる艦艇がフォン・ブラウンに入港している。
(改バーミンガム級戦艦「マグヌス・ルクス」「エクウス・ぺディス」「ヴェナトル」の3隻)
宇宙世紀0088年6月までに地球連邦軍の最高権力は事実上、
ジャミトフ大将と腹心のバスク大佐、シロッコ(木星グループ)に掌握されていた。
だが、地球連邦の権力奪取を目的に共同歩調をとってきたはずの彼等の関係は、
「地球至上主義革命」の成功と共に破綻しようとしていた。彼等は互いに相手を新たなる敵と見なしていた。
だが、ここでサイド3占領後半年以上沈黙を続けていたアクシズが接触を図ってきた。
アクシズは地球連邦軍が分裂状態にあるうちに有利な条件で講和しようとしていたのだ。
ジャミトフ達はアクシズと同盟を結びエゥーゴを打倒しようとしていたが、
ここで彼等の唱えていた地球至上主義が足を引っ張ってしまう。
地衛兵などの学生だけでなく、ティターンズ内部ですらアクシズ討つべしの大合唱が始まっていた。
結果的にアクシズの提案は黙殺され、逆にサイド3周辺と月面都市への討伐行動が開始された。
これにより、第二次ジオン独立戦争(地球連邦名称:長征)が勃発してしまう。
投下終了です。
元ネタを分かってくれる方が居るととても嬉しい感じです。
ちなみに今の予定ではゴップはしぶとく生き残ります。
元ネタ通りにすると連邦政府の最高権力者になっちゃいますね。
>>354 元ネタは多分簡単だと思うぞ?
しかしゴップって一年戦争時は幾つだったんだろうね?
保守
ゴップはゲームっていうかギレンの野望だと無能扱いだけどオリジンでは
MSの開発でテムさん抜擢したり開発拠点の用意や予算措置を素早くやったり
軍政家として優秀、みたいに描かれてるね。
補足するとギレンの野望独立戦争記だと外交に力を発揮し、大軍を率いることが出来て有能な部類。
シーマとの裏取引で星の屑を潰しかけたワイアット、地球のことを考えていたジャミトフと共に過小評価されているキャラだと思う。
独占に外交なんかないし
内政のことだと思うが
>>359はいちいち揚げ足とらんでも…
独戦にも外交はある
系譜とは形態が違うだけ
んでそれぞれのキャラに対内政案と対外交案の発案率が別々に定められてる
ゴップは発案タイプ穏健で対外交発案率が最高値
うん、独占でゴップはかなり優秀ですごい使えたよな。
戦闘はダメだけど30隊組める貴重な大将だからいつも重要なハッタリ防衛隊の最適任者だった。
フリーシナリオでは必ず組み入れてた。
続きまだ?
保守
保守
そろそろ職人さんカムバック!
保守してくれる方々、ありがとうございます。
現在、諸事情でネット環境につなげない状態になっております。
GW以降はおそらく投下可能になるので、今しばらくお待ち下さい。
367 :
通常の名無しさんの3倍:2008/04/14(月) 23:21:55 ID:ieCff8bO
(ノд`)
まだだ、まだ終わらんよ
保守
ゴールデンウイークキタコレあげ
宇宙世紀200年5月、アナハイム文庫ラインナップ
「鉄の夢〜鉤十字の帝王〜」
壮絶な核戦争が吹き荒れたのち、地球はミュータントや交雑種の徘徊するこの世の地獄と化していた。
かろうじて生き残った人類は、奇跡的に汚染をまぬがれた土地にヘルドン公国を樹立していたが、
この純人間の牙城にも、ミュータントの魔手が迫りつつあった。
そして今、風前の灯のヘルドンを救うべく、一人の男が歴史に登場した。
男は鉄の意志とカリスマ的指導力で、ミュータント掃討に乗りだしたが…
幻のSF作家ギレン・ザビ最後の傑作、宇宙世紀0079年ヒューゴー賞受賞作「鉤十字の帝王」を、
鬼才スピンラッドがめくるめく構成で紹介した、SF史上屈指の奇書登場!
「宇宙世紀0079年ニホン、国籍不明機撃墜事件」
宇宙世紀0079年11月、地球上のジオン軍は圧倒的物量の連邦軍の攻撃を受け瀕死の状態であった。
サイクロプス隊を率いるハーディ・シュタイナー大尉は、オデッサ戦線で連邦軍と激戦を繰り広げていたが、
突然サイド3へと召還される。彼はそこで親衛隊のエギーユ・デラーズ大佐から極秘命令を受けた。
その任務はジオン地上軍が撃墜した正体不明機(フッケバイン)の調査。
場所はニホン省の関東地区秩父山中。彼等がそこで見たものとは?
「リターン・トゥ・ヨーロッパ」
誰もそれを望んではいなかった。だが、誰も拒む術を知らなかった。世界は今、戦火に包まれる。
宇宙世紀79年11月、世界は一つの戦争を終結した。サイド3の独立を巡って激突したジオン独立戦争である。
ギレン・ザビ暗殺、オデッサにおけるレビル将軍の死、両陣営のトップが相次いで死亡するという非常事態が、
ジオン公国と地球連邦との間に限定停戦を結ばせたのだ。だが、それはあまりにも中途半端な形での終結であった。
その結果、「戦争を止める為の戦争」の準備が始まっていたのである。
時に宇宙世紀0081年、ヨーロッパ解放を目指す地球連邦軍の第一陣がアイスランドから出撃した。
生存報告のため投下です。
GW中に今までの続きを書きたいと思います。
GW終わったぞー!
職人さんカムバック!
13.(1)警告
「諸君はさらなる戦いを望むか?容赦ない総力戦を望むか?よろしい、ならば嵐だ!」
――ドイツ第三帝国宣伝相、ヨーゼフ・ゲッペルス
太陽系第4惑星「火星」
有史以来、その惑星は人類の「想像」の世界の中で重要な位置を占めていた。
宇宙世紀初期には有人火星探査が熱狂的に行われた。
だが、火星が想像上の存在から「現実」になった時、人類に芽生えた感情は失望であった。
あれほど盛んであった探査計画は白紙となり、人類の興味は急速に失われていた。
火星がこれほどまで失望されたのには理由があった。科学技術の進歩によって、
火星は人類にとって身近なものになったが、皮肉にもその科学技術の進歩が大きな理由だった。
「火星に行って何のメリットがあるの?」
「人類が火星に移住するんだ。そうすれば地球の汚染も軽減される!」
「遠くに行かなくてもスペース・コロニーが建設中だよ」
「火星には豊富な資源があるよ!」
「アステロイドベルトの資源小惑星で間に合うのですが…」
「フロンティア精神だ!開拓こそ人類の使命だ!」
「開拓するならヘリウム3もある木星にしようよ」
火星は人類から見捨てられた惑星となった。
投入されるはずであった資源は木星開発に使われ、火星には小規模な探査基地が設営されるだけであった。
だが、宇宙世紀が80年近く経った時、火星に注目する者達が現れた。
まるで戦の星に吸い寄せられるかのように。
宇宙世紀0080年1月15日、ジオン公国軍残存艦隊がカラマ・ポイントに集結したときのことであった。
13.(2)警告
「ジオンは滅びぬ。何度でも蘇るさ!」
――ジオン公国親衛隊特務情報部、ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ大佐
一年戦争末期、ジオン公国軍兵士達はア・バオア・クー基地の陥落、
ギレン・ザビ総帥及びキシリア・ザビ少将が戦死したという報がもたらされると、
戦闘宙域から離脱し、逃亡する艦艇・部隊が相次いだ。
また、敗戦の色を察知した月面のグラナダや本国においても、
連邦への降伏を良しとしない部隊が温存された戦力を伴って同様に姿を消した。
敗戦の約二週間後、彼等はサイド3と月の中間地点にある「カラマ・ポイント」に会し、
ジオン残党軍としての方針を協議した。その結果、マハラジャ・カーンに率いられアクシズを目指す者、
地球圏に残り連邦への抗戦継続を望む者、月面都市で潜伏を図る者などに別れていった。
それら残党勢力の中で最も異質な集団が火星を目指すことになった。
親衛隊第36SS武装擲弾兵師団第666重駆逐MS大隊、通称「ヴェアヴォルフ」
モンティナ・マックス親衛隊少佐に率いられたこの部隊は、
アクシズ到着までは他の部隊と同様に行動を行っていたが、突如火星に向かうと連絡を残し消息を絶った。
彼等が火星に旅立つ前、ある将校が少佐に対して、火星に行く理由を問いただした返答が残されている。
「戦争の歓喜を無限に味わうため。次の戦争のために、次の次の戦争のために」
この言葉だけで彼等を判断するならば戦争愛好家、狂気の集団と定義することができるだろう。
だが、冷静に考えてみれば、この時期(宇宙世紀0081年頃)には次の戦争の準備が整いつつあった。
それならば地球圏に残留したほうが戦争に参加できたのではないだろうか?
彼等はなぜ火星などという戦争から遠く離れた場所に向かったのだろうか?
その理由は一年戦争から約40年経った後に明かされることになる。
13.(3)警告
宇宙世紀0079年12月31日、ギレン・ザビ最後の国民向けラジオ演説
公国国民諸君、同志諸君、最後まで戦い続ける諸君に敬意を表する。
すでに戦況は……私はア・バオア・クーと運命をともに……
しかしジオンは不滅である……たとえ地球連邦がいったんは勝つように見えようとも。
そうなのだ、それは砂の上の勝利だ。彼等は世界の真の支配者ではないからだ。
彼らの背後で操る者……ニュータイプ……
世界的な月面国際資本……。地球連邦は……おそらく宇宙世紀80年代後半まで、
対立と妥協を繰り返しつつ、世界を運営しようとする。しかし所詮……
地球とサイド3、サイド6、月面都市群、木星……いずれ世界は連邦の手に負えなくなる。
そのとき彼等は自ら……に乗り出す。
あわれな月面都市群……最終戦争。地球と宇宙が激突するだろう。
ニュータイプはそれに勝って全世界を……
なぜならそれが彼等と……との約束だからだ。
黙っておけば必ずそうなる。
しかし、私がそうはさせない。
そのための手を、私は死ぬ前に打っておく。
それが最後の秘儀である。それによって人類はわれわれを受け継ぐことになる。
しかも見よ、そのあと、わがジオンの栄光、ラストバタリオン……。
それが真のジオン公国独立の日だ。
そのときラストバタリオンが現われる。ニュータイプを倒す。
世界を支配する。永遠に……そしてジオンは甦る。真のギレンの時代が来る。
必ずだ。甦ったジオンの軍団とその強力な同盟がそのとき来る。
外宇宙からの復讐のカタストロフィとともに来るぞ。
それからが真の究極だ。真の終わりで真の始まり、真の淘汰、
天国の地獄、宇宙世紀の新世紀その年に、
人類の驚くべき究極の姿……ではそれを明かそう。
諸君、それは人類……
五島勉かよwマニアックなww
久々の投下です。
「沈黙」の続きがあまりにも筆が進まないので、次の章を投下しました。
今回の話はオールズモビル戦役(火星独立ジオン軍)につながる予定です。
AR・CAプログラム、ドゥガチクローン、アマクサなどにも関係が…
ご指摘されたようにギレンの演説の元ネタは五島勉の著作からです。
MMRがマガジンに掲載されてたので昔を思い出してつい…
オカルトネタも大好きなのですよ。
いつか「凶鳥フッケバイン」をネタに一作書いてみたいです。
ま、知ってる俺も同じ穴の狢なんだけどね
シャア板で1999年以後を見ることになるとはな
保守
遥かなる星(某御大の作品をインスパイアしています)
第一部「パックス・インペリウム」
予定調和(宇宙世紀0123年4月3日)
第505回国家安全保障会議(ジャブロー、宇宙世紀0087年10月20日)
第一章 まるで玩具のような(宇宙世紀0080年〜0086年)
第二章 日常(宇宙世紀0086年3月〜11月)
第三章 発射命令(破滅の日)
第二部「この悪しき世界」
第四章 汚れた宇宙(宇宙世紀0094年6月)
第五章 光の国(宇宙世紀0096年〜0110年)
第六章 オライオン(72時間)
第三部「我等の星、彼等の宇宙」
第七章 ムーン・ポート(宇宙世紀0113年)
第八章 階段からの眺望(宇宙世紀0114年〜0115年)
第九章 テクニカリィ・スウィート(宇宙世紀0115年12月8日)
活躍しそうな登場人物
地球連邦
ゴップ(地球連邦大統領)、ジャミトフ・ハイマン(大統領補佐官)
アクシズ
ハマーン・カーン、シャア・アズナブル、エリオット・レム
サイド6等
フランクリン・ビダン、アルフレッド・イズルハ、ドロレス・ヘイズ
ローレン・ナカモト、マイッツァー・ロナ、カロッゾ・ロナ
第一部「パックス・インペリウム」
第35代地球連邦大統領、ヘルマン・ヴィルヘルム・ゴップはダカールの大統領執務室に側近達を集めた。
アクシズと呼ばれる旧ジオン公国資源基地を支配しているジオニストが、
アステロイドベルトから地球圏へと帰還し、反応弾頭を備えた軌道爆撃システムを構築したからだ。
和平か戦争か、地上と宇宙に地獄の天使が微笑んでいる…
宇宙世紀0087年10月20日午前9時、悪魔の瞬間が始まった。その頃、サイド6では…?
第二部「この悪しき世界」
機体の各所にリボーの旗をえがいた巨人達が発進した。
脚部が次々とカタパルトを離れていく。迫り来る轟音。
地球連邦軍兵器システムMRX-009、ムラサメ研究所試作超大型可変MSサイコガンダム。
誰もサイド6自衛軍の正式名称、試作サイコミュ搭載研究機・ブッホXT7とは呼ばない。
この巨人こそ、グリプス戦争の質量・反応兵器で壊滅した世界の中で、
奇跡的に被害を受けずにすんだサイド6の希望の星だった。
第三部「我等の星、彼等の宇宙」
宇宙世紀0087年10月、サイド3をめぐる地球連邦とアクシズによる反応兵器の応酬によって、
これまでの国際体制は崩壊した。サイド6政府は、
多角的な視点で新たな世界における長期的な安全保障策を研究する会合を組織し、
日常生活を維持しつつ戦後を生き延びる方策として、
最終的には汚染された地球圏を離れ外宇宙への脱出しかないとの結論を得た。
ブッホ・コンツェルンから外宇宙開発事業団へと転出したフランクリン・ビダンは、
人生最後の情熱をかけて、崩壊した月面都市に建設中の宇宙港ムーン・ポートの完成に邁進していた。
しかし、ウラでは旧地球連邦テロ集団の恐るべき策謀が渦巻いていた。
予定調和(宇宙世紀0123年4月3日)
その日、ある老人の葬儀が行われた。
その日は天候が調整されているはずのコロニーであったのにもかかわらず、
水分子が配列してできた六角柱の結合物が無数に落下してきた。
まことに類型的ではあるが、葬儀の場を訪れた人々に、
人の死に似合う情景が存在することを認識させていた。
衒学的に言えば白ポプラのが茂る場所(エーリュシオン)へ行った男の長男が葬儀場へ到着したのは、
予定よりも30分以上遅れたあたりであった。彼と父親との関係はあまり良好なものではなかったが、
残念なことに彼は父親の最後の瞬間に立ち会うことができなかった。
彼は多忙であり、旧時代的な意味でのサイド6にはおらず、
また、おそらく父親の生死以上の価値を感じている事象に関わっていた。
彼の周りの者(特に妻が)は、その事に対して多少の不満を感じていたが、
彼自身の胸中はそれほど複雑なものではなかった。
おそらく父親は、こんな場所に来るなら仕事を進めろと言うだろうと確信していた。
これは息子が親に対して永遠に抱き続ける甘えかもしれなかったが。
「よかった」
彼の背後から死者の孫が声をかけた。
死者の孫は、父親と同様に老人の死に間に合わなかった。
「リボーで連邦系過激派集団のテロがあった。無事で何よりだ」
「母さんは?」
「ああ、婆ちゃんと一緒にいるよ」
「婆ちゃんの様子は?」
「いつもと同じだよ。いつもと同じように見えるだけかもしれない」
「そうか」
あえて感情を消した顔つきでうなずいた彼は、受付で何か面倒が起きていることに気がついた。
自分と同年齢くらいの男が受付で口論をしていた。
「どうしたのだ?」
「あ、カミーユさん」
彼のことを知っているらしい受付係が安堵した表情で答えた。
「こちらの方の御名前が名簿に無いのです。不穏な事件も起こっているので」
彼は名簿に名前の無い客に振り向き尋ねた。
「大変失礼な質問と思いますが、父をご存知だったのですか?」
「は、はい。おそらくあなたの父上は私のことを覚えていないと思います。でも、私にとっては…」
「ありがとうございます。父も天上で喜んでいるでしょう。失礼ですが御名前は?」
「アルフレッド・イズルハと申します」
ガンダム世界+遥星の設定
主な歴史改変点はこんな感じです。
・ゴップが地球連邦大統領
・ジャミトフは経済官僚のまま大統領補佐官に
・きれいなフランクリン・ビダン
・バーナード星系を目指すアル
・ティターンズ・エゥーゴが成立せず
・アクシズにシャアがいる
・地球寒冷化作戦の強化。具体的にはアクシズ落としどころかソロモンやア・バオア・クーも落とす
・クロスボーン・バンガードの設立目的が違う
・第二部以降は地球と月面都市、サイド3、6以外のコロニーが壊滅
どの投下作品も中途半端になりそうですみません。
じっくりと文章を考える暇が無いもので。
今後は取り留めもなく書いて投下していくと思います。
第505回地球連邦安全保障会議(ダカール、宇宙世紀0087年10月20日)
周囲の者達に対して意表をついた行動で驚かせることをヘルマン・ヴィルヘルム・ゴップは好んでいた。
35番目の地球連邦大統領としての宣誓を終えた直後は特にその傾向が強かった。
大統領は周囲を驚かせる手段として電話を好んでおり、その電話はゴップフォンと呼ばれていた。
宇宙世紀0086年のある日、ゴップ大統領はそれを用いて、ジャブローに設けられた戦略軍指揮所へ電話をかけ、
電話当直であった軍曹の胃潰瘍を一気に悪化させたことがあった。
軍曹はその電話が鳴る時は世界の終わりの瞬間と教えられていたからだ。
この事件は軍曹が震える声で上官を呼び出したことで面倒な問題に発展した。
戦略軍指揮所の当直将校は電話が鳴った事実に基づいて、
戦略軍に定めらている防衛体制を現行のデフコン4から3へと上げた。
この命令は全世界(宇宙)の戦略軍基地へ即座に伝達された。数百機のMSに慌しく乗員が乗り組み、
あちこちの基地で休暇が取りやめになり、ICBM(コロニー間弾道弾)に推進剤が注入された。
全てが悪質な悪戯であると判明したのは、デフコン3が発令されてから5分後だった。
「うん、こちらは地球連邦大統領だが、体の調子はどうかね?」
大統領は無邪気な声で電話に出た当直将校に話しかけた。
「問題ありません」
「それは良かった」
当直将校が呆気に取られているうちに電話は切られてしまった。
彼は手元にあった暗号書をめくり、大統領の発した言葉に意味があるのかどうかを探した。
彼はその作業を司令部にいた者達にも手伝わせ、念入りに数度に渡って確認した。
そして、5分後にどうやら電話は本当に彼の体調を聞いただけと結論付けた。
彼は大統領に殺意すら覚えたが、すぐにデフコン4に戻す命令を発した。
この数分間の緊張状態は、全世界に対して非常に大きな影響を与えていた。
各サイド周辺のミノフスキー粒子の濃度が増加しており、
月軌道の量子型超々望遠衛星は数ヶ月前から移動を開始しているアクシズの異常を観測していた。
宇宙世紀0080年代に流行したSF作品映画では、ここで何らかの支障が発生し、
MSやミサイルが実際に発進・発射されてしまうのだが、現実世界の人々は多少理性的であった。
ハマーン・カーンがこの突発的な緊張状態の原因を知ったら、彼女の口癖である「俗物」の一言で片付けてしまっただろう。
だが、この事件の真相は闇に葬られ、アクシズの緊張緩和はなされることが無かった。
そのため、アクシズが地球圏に帰還した時、思いもよらぬ反応を両者に起こすことになった。
宇宙世紀0087年10月20日、ダカールの大統領執務室に側近達が集められた。
彼等はここ数日の間に高まり続けている国際的緊張について、今日中に何らかの決断を下さねばならなかった。
ゴップは執務室に置かれた椅子に座っていた。彼の表情は全くの無表情であり、
何事も楽天的に考える彼には珍しく絶望しきっていた。
ヤシマ秘書官は彼のこのような姿を8年ぶりに見たと証言している。
それはジャブローにジオン軍が上陸した時以来のことであった。
この年の秋、地球連邦上層部は徐々に増大する恐怖に意識を染め上げられつつあった。
アクシズと呼ばれる旧ジオン公国資源基地を占拠しているジオニストが、
サイド3の独立(ザビ家の再興)を掲げて地球圏に戻ってきたからだ。
アクシズはその要求が本気であることを実力で示した。
電撃的な奇襲によって地球連邦宇宙基地(コンペイトウ・ゼダンの門)は占領され、
サイド3にも部隊が展開していた。その間、地球連邦は動くことができなかった。
アクシズは南極条約の破棄と反応兵器の全面的使用を宣言していたからだ。
「我々の取るべき行動は大きく二つに分かれています」
ディーン・ラクス国務長官が口を開いた。
「和平か戦争、どちらか一方です。それ以外の方法ではジオニストの脅威を排除することはできません」
彼女はゴップ政権の中枢ポストを占めるに相応しい資質を持った女性であったが、
それ故に決定者よりも調整者としての能力に優れていた。
そのため、現状のような緊急事態ではあまり役に立たない人物であった。
以上のような事を考えたゴップは、自分の過去に所属していた軍部に意見を求めた。
「ジーン・コリニー大将、君の意見はどうなのだ?」
「自分としては開戦案の方が有効であろうと考えております」
地球連邦軍統合参謀部本部長、ジーン・コリニー宇宙軍大将が発言した。
「和平案は論外です。彼等の要求に応じたところで根本的な解決になりません。
それにここでサイド3の独立に応じてしまったら、一年戦争の英霊に申し訳がたちません!」
「英霊か」
ゴップは面白くなさそうに呟いた。一年戦争の英雄でありながら、
軍隊のある側面を嫌悪していた彼にとって、英霊という言葉は唾棄すべきものであった。
「和平と戦争、それ以外に解決策はないのか?」
「昨日も報告したとおり、他に四つの選択肢が考えられます。何らかの手段で反応兵器を中立化するか、
サイド3と極秘交渉を行うか、アクシズと直接話すか、何もしないかです」
そう応じたのは補佐官のジャミトフ・ハイマンだった。珍しいことに経済については言及していない。
「既に演習の名目で、サイド3を包囲するようにドゴス・ギア級戦艦を中心とする任務部隊が派遣されています。
彼等は大統領の行動会誌の命令を待ち続けています。ただし、開戦がどのような効果をもたらすかは判断できません」
「奴等は本当に反応兵器を使ってくると思うか?」
「おそらく最初はアクシズの戦闘艦艇やMSとの戦闘が発生するでしょう。
その後、アクシズが対応をエスカレートした場合、全面反応兵器戦へと拡大するかもしれません」
「判断できない。するかもしれない。つまり、君達はこう言いたいわけだな。
いかなる手段を用いても、それがもたらす未来を予想することはできない。そういうことだな」
「的確な要約です。付け加えるとすれば、全ての決定権はあなたにあることです」
「この問題については、本日午後に召集する地球連邦安全保障会議での議題としよう」
側近達が執務室から退出した後、ゴップは一人で椅子に腰掛けていた。
ふと机を見るとそこには大統領専用の電話が置いてあった。
彼はかつてその電話を用いて悪戯をしたことを思い出していた。
続きがかけたので投下。
あと誤字の訂正です。
行動会誌→行動開始
投下乙です。
ゴップフォンとハマーン・カーンにワロタw
このときのMS事情はどうなんだろね?
ジムUあたりかな?
ちょ、桃色の人がいるんですけどw
第一章 まるで玩具のような(宇宙世紀0080年〜0086年)
「核兵器と人間の愚かさとの曖昧な組合せは、国家を破滅に導くだろう」
――合衆国国務長官、ロバート・マクナマラ
1.夜明けの流れ星
宇宙世紀0080年7月27日、銀色の雨に町が煙る朝、アルフレッド・イズルハは人影の無い舗道を走っていた。
彼は家族の目を盗むようにして家の自転車を持ち出した。
酷く個人的な理由から、彼は自宅から20km以上はなれた場所へ午前8時までに到着しなければならなかった。
この春、小学五年生になった彼にとってその距離は遠すぎるものであったが、
絶対に行かなければならないと決意していた。
アルはペダルを踏み込みつつ、母親がこのことを知ったらどうするかなと思った。
彼の両親は昨年まで別居状態であり、母親と二人暮しをしていたため躾は非常に厳しかったのだ。
一応、居間に書置きを残しておいたから心配しすぎることはないだろうが(少なくとも父親は)、
ただ僕がこんなことをした理由を知った場合はどうだろうか。おそらく叩かれるのではないかな。
ああ、間違いなく怒られるだろうな。しばらくは外出禁止かもな。嫌だな。
でもあれは見なきゃならない。絶対に。あの人のためにも。
自転車の前輪がとがった小石に接触したのは、彼が決意を固めた数分後のことであった。
サイド6自衛軍リボー駐屯地を出発した数機のリーア35ドラケン(ミドルMS)は、
大型のエレカを護衛しながら目的地を目指していた。
目的地では彼等が到着してから一時間後に起動試験が行われることになっていた。
「考えようによっては随分物騒な演習じゃないですかね。少尉殿」
大型エレカの後を追うトラックに便乗したジャーナリスト風の男が尋ねた。
「一部じゃあ、対地球連邦用の軍備増強じゃないか、なんて話も出ていますが。
実験を扱う部門が技術研究所第8部大型汎用機械班と分かり難い名前をつけるから余計に。
結局はMSを作ろうということでしょう?」
「あくまでも、防衛技術としてだよ」
隣に座っている金髪碧眼の作業服(サイド6以外では軍服と呼ぶ)を着た男がこたえた。
「まぁ、わざわざベルファストから見学に来てくれた学生さんを粗略に扱えませんよ」
「それはありがたいことで」
「それから、少尉と呼ぶのは間違いじゃないかね?」
「分かっていますよ。ジョブ・ジョン三尉殿。しかしねぇ、いくら戦争嫌いのサイド6とはいえ、
階級名まで変えてしまうとは。名前をどう変えても軍隊は軍隊だ」
「我がサイド6は民主的な政府なのでね。それと私達は実験に向かうのです。演習ではありません」
「分かっていますよ。ただね、あんたと似た人と、
今じゃア・バオア・クーの一部になっている船で一緒に戦っていた気がしたもので」
「何たる偶然。私もそれには同意します。
あの白い戦艦にはずいぶんとひねくれた男がいたと思うんですよね。カイ・シデンさん」
「いやぁ。我々は気が合いますね。なにせ二人とも一年戦争後に連邦軍を退役したのですから」
「いやいや、あなたには敵いませんよ。僕は元来…ん、あれは?」
ジョブ・ジョンは道路脇を注視した。
自転車を押した少年が疲れた足取りで進んでいた。
「パンクでもしたかな?」
ジョブ・ジョンはア・バオア・クーからグラナダへ生還した際に贈られた、
月面都市製の腕時計を眺めた。それはレビル将軍がホワイトベースクルーに贈ろうとしたものだった。
「時間にはいささかの余裕がある。あの少年の横で停めてくれないか?」
背後からやってきた自衛軍のトラックはアルの傍らに停止した。
「そこの君、どうかしたのか? 学校に行く途中かな?」
トラックの助手席からいきなり声をかけられ、アルは混乱してしまった。
「あ、あの。実験場に。MSの試験があるって。遠くてもいいらから見学したくて」
「学校は?」
「それは…あの…」
「ああ、夏休みか」
彼のあやふやな返事を聞いて男は全てを察したようだった。
後部座席乗っていた私服の男が笑い出していた。
「トラックにはまだ余裕があるな。よし、少年。目的地まで乗せていってやる」
男は部下らしい仲間に指示を出すと、あっという間に自転車をトラックに乗せてしまった。
「演習所に着いた後で、パンクは修理してあげるよ。ところで、変わっているね。君は。
こんな朝早くから見学をしに来るなんて。MSが好きなのかい?」
この問いばかりはアルも迷いを見せず即答した。
「はい、好きです!」
男は大きな声で笑い、そうか、まぁ一般にも公開している実験だからね、
そうだ。後ろにいる大学生のお兄さんと一緒に見学するといい、と言った。
投下終了。
オープニングが終わり、少し過去に戻りました。
なるべく最初の目次に沿うように進めたいと思います。
あとMSの開発状況は史実と同じです。サイド6が独自開発するかもしれませんが。
保守
遅ればせながら投下乙です。
☆だと倉田艇長が好きなので、誰がやることになるのかワクテカしてお待ちします。
「嫌味のつもりじゃありませんが。これぞリーアの民主主義の成果といったところですか?」
演習所に到着すると、相変わらずジョンと行動を共にしているカイが話しかけた。
「さっきの少年のことかい?」
「まぁね。軍人が民間人を助けてやるとは。連邦とは大違いだ」
カイは人の悪い笑みを浮かべていた。
「そうそう、聞いていますよ。あんた、来年には宇宙軍…じゃなかった。航宙自衛軍に移るんでしょ?
昨年のクリスマスにできたリーア自衛軍は優秀な人材を求めているから。
特に元連邦・ジオンの兵士なら大歓迎でしょう」
「MSを連邦から恵んでもらった技術でようやく手に入れた宇宙軍だ。
少なくとも去年のクリスマスまでは練習機しかなかった。
まぁ、僕より実際に操縦していたあなたの方が適任でしょうが」
二人は屈託の無い笑い声を上げた。
「あの人が実験の指揮官ですか?」
カイは無秩序に観測機器が並べられた天幕の下で指示を出している若い男を指した。
「自衛軍の人間じゃないがね。彼も責任者の一人だよ」
「娑婆の人間ですか。どっかの大学の教授様ですか?」
「いや、企業の人だ。アナハイムだと思う」
「へぇ、月面都市の人間ねぇ」
「あそこは上を目指しているからね。裾野を広げようとしているんだよ」
「そうですか。おっと、そろそろ時間だ。特等席で見物させてもらいますよ」
車に乗せてくれた自衛軍の男は、実験場に到着すると、
手近にいた暇そうな隊員をつかまえ、アルの世話を頼んだ。命令を受けた隊員は、
自転車はどこだい坊や、と尋ねるとそれをトラックから降ろしパンクを修理してくれた。
彼はその後でアルをMSの見える場所まで連れて行った。
「妙なものが好きなんだな、坊や。ほら、あれだ。我が自衛軍初のMS
タンゴ・マイク・シエラ・ゼロ、TMS-0だよ。」
どうにか左右に動かせるモノアイ。おそらく専用のものではない手榴弾。
無理やり備え付けられたプロペラントタンク。
さらにあちこちが継ぎ接ぎだらけのボディは、空想上の怪物を連想させた。
アルがそれを見て涙を流してしまったのは仕方の無いことであった。
その姿は半年以上前にアルと青年が作り上げたMSにそっくりであったからだ。
「おいおい、泣くほど嬉しいのかい?」
アルは涙を拭くと、真剣な表情でMSを見つめた。
「そういえば、ジオンのザクにもあんな武器がありました」
「クラッカーねぇ」
案内してくれた隊員は呆れたように言った。
「よく知ってるなぁ。隊員でも知らん奴の方が多いのに」
「いや、雑誌で見たことがあるだけです。でも、あのMSはザクに似ているのに、
なんでマシンガンとかヒートホークは装備していないんだろう?」
「こりゃ、釈迦に何とかだったかな」
隊員は笑い出した。
「坊や、おまえさん、俺よりよほど詳しいみたいだな」
「装備したくてもできないからだ」
突然、二人の会話に男が入り込んできた。襟元の黒く汚れた白シャツ、
あちこちに泥がついたズボン、そして靴はサンダルだった。如何にも怪しい人物である。
「少年、なぜマシンガンなどを装備できないと思う?」
「…分かりません」
アルは困ったような顔をした。
「小学校の理科でも教えているはずだぞ。簡単に言えば、作用と反作用だ。
つまり反動だな。マシンガンの弾と手で投げる爆弾。どちらが反動があると思う?」
「…マシンガン?」
「そうだ。今のあいつがマシンガンなど撃ったら反動で腕が壊れてしまう。
どのパーツも寄せ集めだからな。まぁ、サイド6に大口径砲を生産する能力が無いのも理由だがな」
「へぇ」
アルは感心したように頷いた。
「少年、君はMSに興味があるのかね?」
「あります」
この質問ばかりはアルも即答することができた。
「数学や物理は好きかね?」
「それは…その」
「ふん、駄目か。ならば精一杯働いて税金を人よりも多くふんだくられる大人になれ」
「どうしてですか?」
「税金が増えれば、自衛軍の予算も増える。簡単な理屈だ。
そうすればMSも開発しやすくなる。俺が立派なMSをつくってやるよ」
「誰でも乗れるような奴を?」
「科学に夢を求めるのは好きじゃない」
その言葉とは裏腹に彼の両目は薬物中毒者のような光があった。
「しかし、作れないはずは無い。作ってやるさ。俺が君にも乗れるMSを作ってやる。
だから君も頑張ってくれ。いや妙な反対をしないだけでもいい。俺は君が度肝を抜かすような奴を作ってやる」
「本当に?」
「俺は法螺は吹くが嘘はつかん。考えても見ろ、人間は何のために生まれたんだ?
このたかだか直径数キロの鉄の棺桶の中で死ぬためだけにか? 違う。絶対に違う。
人間はこの宇宙を自由に歩くために生まれてきたんだ!」
アルはその男を呆れたように見つめた。
「いやはや」
アル達の会話を背後で聞いていたカイが溜息をもらした。
「大変な人ですな。ありゃ、夢だのイデオロギーなど超越していらっしゃる」
「フランクリン・ビダン。あれでまだ三十代だよ。
だが、さっきのアナハイムから来た人より立場はよっぽど上だ。一年戦争中は連邦軍の嘱託だった」
「地球連邦軍ですか?」
「ああ。その頃からMS一本だ。あいつの父親さんとも一緒に仕事をしていたらしい。
そして、戦後のどさくさに紛れてブッホの開発部門の責任者に居座った」
「ブッホ? まさかブッホ・コンツェルンですか?」
「分かるだろ。あそこの社長は能力主義者だ。使える奴なら連邦だろうとジオンだろうと関係ないのさ」
「オレはあの社長が追放されなかったことの方が不思議ですよ。
国際派の仮面をかぶったとんでもない貴族主義者という話ですから」
ここでジョンが話題を切り替えた。
「あなたはうちのMSそのものにはあまり興味が無いようですね?」
「仕方ないでしょ。あれを見たら。オレが乗ってた赤い奴と比べると。まるで」
「まるで?」
「まるで玩具のようだ」
「玩具ね。確かにそうとも言える。でも知っているかい?
ジオンのザクを初めて見た連邦軍もあなたと同じことを言ったことを」
彼はTMS-0を見つめた。そのMSはコンテナをまるで積み木のように積んでいた。
リーア自衛軍ではTMS-0を汎用作業用大型機械として導入しようとしていたからだ。
それはかつて世界の半分を焼き尽くしたMSとは正反対の姿であった。
やはり玩具なのかなぁ、とジョンは思った。
自分が整備していたキャタピラ付きと比べてすらそうだ。
いや、悪く考えるだけでは駄目だ。何事も順番だ。
幼児が階段をとばして二階に上がることはできない。
まずは歩き方を覚えなければ。それとも這い方からか?
「どうしたんですか?」
ジョンの沈黙が複雑なものであることに気づいたカイが尋ねた。
「大したことではないですよ。ただ、MSを研究できる我々はまだ幸せだなと。
この世界には夢を見ることすらできない人達の方が多いことを思い出したのですよ」
それから数日の間に、この実験場では合計9回の実験が行われた。
実験そのものは成功でMSの自主開発にも目処がついたが、研究は継続されなかった。
その理由は地球連邦軍から「非公式」にサイド6政府へ懸念が伝えられたからであった。
投下終了です。
これで第一章の第一節が終わりました。
次は第二節「遊星より愛を込めて」の予定です。
倉田艇長が登場するのはまだ先になりそうです。
もう配役は決めてありますので楽しみにして下さい。
そういや、キャノンも赤色だったな
保守
416 :
通常の名無しさんの3倍:2008/05/27(火) 14:39:15 ID:fjAQ7Ozz
上ゲ保守
2.遊星より愛を込めて
「それは血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ」
――ジオン公国地球方面軍司令部直轄U警備隊、M・D・シモンズ中尉
宇宙世紀0081年のある日、火星と木星との間にあるアステロイドベルトに存在する、
小惑星基地アクシズに建てられた家のドアが叩かれた。
朝食の用意を整えていたその家の母親は、
扉を叩く音を聞いて無意識のうちに背筋をふるわせた。条件反射というべきであろう。
いまだに少女に近い年齢の頃、そして夫と出会った後にもう一度、
彼女はザビ家にによる大粛清を経験していた。
ある日突然、親衛隊が家を訪れ、その家の全ての人間を連れ去ってしまう。
彼等は二度と家には戻ってこない。
隣人達は彼等が存在していたことすら忘れようとする。
そうしなければ、次に連れて行かれるのは自分だから。
もちろんそれは、いまや記憶の中にだけ残された悪夢であった。
マハラジャ・カーンが実質的な権力を握り、アクシズの支配者の座に就こうとしている現在、
よほどのことが無い限り、粛清はありえなかった。
母親は軽く胸に手を当てて考え直した。私達に後ろめたいことは何も無い。
それどころか、私の夫は祖国の奪還計画を担っている人物なのだ。
そうでなければ、未だ多くの人々が不自由な艦船暮らしをしている中で、モウサに自室を持てるはずが無い。
扉の向こうには背の高い褐色の肌をした将校が立っていた。
彼は彼女に向けて丁寧に敬礼し、同時に朗らかな笑みを浮かべていた。
彼の態度は、かつて悪夢のような存在だった親衛隊の男達を思い出させた。
どういうつもりなのかは分からないが、親衛隊の男達は態度が慇懃であった。
「おはようございます奥様。同志主任設計官は、お目覚めでしょうか?」
その将校は微笑みながら話しかけた。彼は自分が迎えにきた要人の妻が、
何故不自然な態度を取っているか理解できなかった。
もしかしたら、出迎えに不満を持っているのかもしれない。これからはもっと盛大に迎えに行かないと。
だが、妙だな。主任設計官殿はそのような特別扱いを嫌う方と聞いていたが。
「すぐに参りますぞ」
寝室の方から声が聞こえてきた。
声の調子から、彼が目覚めてからかなりの時間が経っているものと感じられた。
将校は、主任設計官殿は眠れなかったのかもしれないと思った。
無理もないことかもしれない。彼は祖国解放の一端を担っているのだから。
宇宙世紀0079年12月の終わり、ジオン公国最後の日々において、最も重要な私的決断が下された。
ジオン公国の小惑星基地ペズンに置かれていた、最も先進的なMS開発機関を実質的に支配していた、
ガルマン・I・ガミラス博士が、多数の同僚とともに、戦後地球連邦軍へ身を寄せることを決定したのであった。
彼等は戦場となったア・バオア・クー宙域を横断し、宇宙世紀0080年1月2日早朝、
グラナダ市を占領中であった地球連邦宇宙軍に保護をもとめた。
月面制圧を目的とした艦隊の司令官ダグラス・ベーダー中将は、
当初この奇妙な集団の取り扱いに迷いを見せたが、すぐに上級司令部から丁重に扱うように命じられた。
この妙に態度の大きいジオン民間人の重要性が認識されたからであった。
彼等は宇宙世紀0079年12月以降猛威を振るうようになった、MS-14の開発チームであった。
ジオン公国がゲルググと呼んだ兵器について、地球連邦軍は過大ともいえる評価を行っていた。
ゲルググの実態は高性能であるが、生産と運用に酷く手間のかかるMSにすぎなかった。
事実、一年戦争中に生産されたゲルググは700機程度でしかない。
敗色濃厚であったジオンにとっては、同時期に生産されていたリックドムへ資源と人材を投入していた方がマシであっただろう。
しかし、地球連邦軍、特に宇宙軍はこの兵器がさらに発展した場合の恐怖を思い描き、それを開発した人々を恐れていた。
(ただし、彼等の恐怖は、当時の技術では切り札であるRX系列のMSを多数配備できないという現実の影響を受けている)
その後、連邦宇宙軍と契約を結んだガミラス博士と100名を越える専門家達は、
アナハイム・エレクトロニクス社の工廠に送り込まれ、新たなるMS研究を開始した。
同時に様々な鹵獲兵器も持ち込まれ、起動実験が行われることになった。
ただし、新天地での扱いは、ガミラス博士にとって屈辱的なものであった。
当初、連邦宇宙軍は彼等を殆ど捕虜のように扱い、その信頼性に多大の疑問を示し続けた。
研究にしたところで、捕獲されたMSを連邦の技術者に説明するといったものだった。
唯一の例外はガンダム開発計画への参加だったが、その四号機もいつの間にか開発中止になってしまった。
このような待遇になった理由は幾つかある。
連邦宇宙軍が、ジオンから奪取したこの頭脳集団に何を行わせるか明確な方針を持っていなかったこと。
彼等の存在が連邦技術者達から快く思われていなかったこと。
そして、最大の理由は、ガミラス博士の研究しようとした兵器システムが異常であったからだ。
ガミラス博士はジオン公国ですら却下された計画を持ち込んできた。
その内容は非常に先進的でまさに天才的な発想であった。
コバルト爆弾の純粋な進化系である、スーパー・オキシジェン・ストラティジカルボム(超酸素戦略爆弾、通称SOS弾)。
月面からのマイクロウェーブを使用した反射衛星砲。アステロイドベルトの小惑星を改造した遊星爆弾。
だが、常識的に考えるとこれらのアイディアは狂人の誇大妄想でしかない。
このような兵器が連邦軍で採用されることはありえなかった。
結局のところ、連邦へ鞍替えした彼等は、宇宙世紀0087年までの七年間、
ほとんど飼い殺しの状態に置かれたのであった。鹵獲兵器のデータ収集も進んでいたが、
連邦宇宙軍にとってそれもあまり意味をなさなかった。
たとえ技術が優れていようとも、明確なヴィジョンが無ければ、まともな成果があがるはずも無いからだ。
とりあえず、ここまで投下です。
しばらく技術者中心で話が続きます。
乙
ちょ、ガミラス博士w
それは最低でも惑星間戦争レベルの兵器じゃないか
一方、一年戦争後に各地へ潜伏したジオン残党勢力の対応は、地球連邦とまったく対照的なものであった。
ギレン・ザビという独裁者に支配されたムンゾ人達は、
ジオンが科学技術の先進性という点で、連邦を遥かに凌いでいることを実感していた。
その技術は、敗戦によって奪われた全てを取り戻すために使われなければならなかった。
彼等は反地球連邦的信条ゆえにガルマンに従わなかった、
統合整備計画の主要技術者ガトランティス博士を中心に研究を再開させた。
ムンゾ人は、連邦宇宙軍のように完成状態のMSをほとんど入手することはできなかったが、
彼等の手元には敗戦時にジオン公国全領域からかき集められた、数百機分のMSパーツと無数の設計図があった。
当初、ガトランティスをはじめとする技術者集団の仕事は、ガラミスが連邦で行ったそれと大差なかった。
やがてアクシズでの研究体制が整ってくると同時に、地球圏から拉致同然の方法で、
各種技術者をアクシズまで強制連行させた。
その中には、後に主任設計官という名で知られるようになった、エリオット・レム中佐もいた。
宇宙世紀0030年代末、サイド3の密閉型コロニーに生まれたレムは、
物理への才能を早くから示していた。彼が宇宙、そしてMSへ傾斜したのは、
大学在学中にトレノフ・Y・ミノフスキーに出会ったことが原因だった。
ミノフスキーは、その後のMAWS(ミノフスキー理論応用兵器体系)の基礎を、
ほとんど独力で築き上げた偉大な科学者兼啓蒙家であった。
当時、ミノフスキーは異端の物理学者であったが、
レムは彼の示したアイディアに魅せられ、それを急速に吸収していった。
ジオンでも一、二を争うミノフスキー物理学(熱核反応炉開発)の専門家になっていた彼は、
その後ジオニック社にスカウトされ技術者としての道を歩みだした。
ジオンが科学技術を重視する国柄であり、国防軍がM粒子の軍事的利用を考案したことも彼に幸いした。
しかし、順風満杯に思われた彼の人生は、宇宙世紀0069年に発生した粛清によって危機を迎える。
サスロ・ザビ暗殺事件を直接のきっかけとするこの粛清は、
まずデギン・ソド・ザビ等によるジオン・ズム・ダイクン暗殺疑惑から始まった。
ダイクンの死をザビ家による陰謀と考えた一部の勢力が、
その報復としてジオン・ズム・ダイクンの葬儀の際、
テロによりザビ家次男サスロ・ザビの乗車を爆破したのだ。
この事件を絶好の機会として、ギレン・ザビと後の親衛隊保安諜報部長官ラインハルト・ハイドリヒが結託し、
ダイクン派の徹底的な排除を行うことになった。
しかしながら、彼等がダイクン派を相手に仕掛けた粛清はあまりに苛烈なものであった。
粛清は宇宙世紀0069年6月11日、ムンゾ通信がダイクン派の追放を内外へ伝えたことで表面化した。
ひとたび理由をつけてしまえば、後は簡単であった。
それから二ヶ月をかけて、ザビ家は35000人以上のダイクン派を片付けた。
これはおそらくギレンの予想を上回る数だったが、彼には殺戮を中止する意思は無かった。
一度に面倒の種が消えるならば、それはそれでよいか、と思ったからだ。
M理論応用兵器を通じて、軍部ともつながりのあったレムに災いが及んだのは、
宇宙世紀0069年の夏のことであった。その数日前、彼と親交のあった将校がダイクン派として粛清されていた。
その日、リムジンに乗った男達が彼の家を訪れ、簡単な尋問の後、彼を強制収容所へと放り込んだ。
彼はそれから3年間をそこで過ごし、宇宙世紀0072年に(おそらくミノフスキー博士の亡命事件の影響で)釈放された。
その後のレムは、自らの潔白を証明し続けるために、MS用核融合エンジン開発の道を突き進んでいった。
そして、地球連邦との戦争が始まると、彼の研究は急速に進展することになる。
敗戦後もレムの研究にはほとんど影響が無かった。地球連邦との戦争は実質的に継続していたからだ。
アクシズで研究を続けることになったレムは、ある日マハラジャ・カーンからある開発計画を依頼された。
それは超大型核パルスエンジン開発計画であった。
出迎えに来たリムジンに乗り込んだ、エリオット・レム主任設計官は、
助手席の将校にほとんど抑揚の無い声で尋ねた。
「同志大尉、何か問題はありましたかな?」
「自分の知る限り重大なものはありませんでした。同志主任設計官」
「融合用ペレット発射ノズルにいささかの劣化が発見されたようですが、
二時間ほどで不安定な部品は交換されました。あなたの部下達は、みな仕事熱心な――」
「どこにだろうか?」
将校の言葉を途中でさえぎって、レムが尋ねた。
「はい?」
「ノズルのどの部分で問題が起きたのか、ということです」
レムの声にある切迫した調子に将校は驚きをおぼえた。
「ああ、本体に影響はありません。ノズルに電力を供給するコネクターがどうとか」
「修理されたのですね?」
「はい、同志。その点は間違いありません。ああ、思い出しました。
接触が悪いので、主回路のコネクターをジオニックからアナハイムへ変えたそうです」
「そうですか」
将校には、レムの声に安堵感が満ちたのが分かった。仕方の無いことかもしれない。
主任設計官は完全に汚名を返上したわけではない。おそらく、現在推進されている計画が成功しなければ、
楽しい余生を送ることはできないだろう。まぁ、その点については私も同じであるが。
将校の想像はほぼ正解であった。しかし、レムの内心を説明しきれたわけではない。
確かにレムの内心に計画失敗に伴う失脚の恐怖もあったが、
最も恐れていたのは失敗によってエンジン・MSを永久に失うことであった。
レムのいまだに不安定な地位を狙っているものは多い。
彼の地位を奪えたならば、自分で好きなようにエンジンを開発し、それで自分の好きなMSを開発できるからだ。
いや、この点について私も人のことは言えないな。レムは内心で自嘲した。
私は自分好みのMSを作るために、偉大なトミノフ・Y・ミノフスキーから伝授された知識を使っている。
いっそ、ウォトカでも飲めたらな。レムは車窓から見える非現実的な情景を眺めていた。
整理された町並みと荒れた岩壁。人類の辺境に出現した最先端科学技術の要塞。
レムはかすかな笑い声をもらした。再びウォトカでも飲めたらなと思った。
自分を含めたこの情景こそが、我がジオン公国を象徴しているような気がしていた。
投下終了です。
今回で第二節が終わりました。
第三節はサイド6の視点から見たデラーズ紛争の予定です。
3.ザルク・アイゼン
「こいつはやりがいがありそうだぜ!」
――地球連邦軍憲兵少佐A・タカカズ
ブッホ・コンツェルン中央研究所大型汎用機械部長のフランクリン・ビダンは、社長室へ突然の呼び出しを受けた。
彼は20名ばかりの部下をおい使いつつ、一日を過ごしている研究所を出て、パルダ・ベイ近郊の本社に向かった。
「ジオン残党勢力が、地球連邦への大規模なゲリラ活動を開始した。今月のはじめの事らしい」
いたって簡素な内装の施された社長室で、オーナー社長のマイッツァー・ロナが言った。
貴族主義の主張とは裏腹に、カッターシャツの上に作業着を着ていた。
社長室の応接セットにふんぞり返り、煙草を吸っているフランクリンの方が、社長のように思えてしまう。
「デラーズですか?」
フランクリンは煙を大きく吹き上げながら尋ねた。
「おそらくは。彼等は、最近、暗礁宙域で基地を建設している」
「戦力については何か分かっていますか?」
「正確なものではないがね。グワジン級戦艦を旗艦として、一個艦隊で30隻程度。
搭載MSは一年戦争後期に生産されたものを中心としている。機体数は不明だが、
50機をくだることはまずあるまい。彼等は自らの基地に茨の園と名付けたそうだ」
「負けですね。地球連邦の」
「いったい何に負けると?」
「コロニー落としですよ。うかがった戦力が正しければ、
彼等の戦力ならコロニーを奪取して地球に落とすことが可能です。
地球連邦軍の方は、確かガンダム開発計画が御破算になったはずですから」
「ああ、あのMk-82型酸化融合弾頭を搭載するとかいうやつかな?」
「そうです。とはいっても、コーウェンがだんまりで開発しているサイサリスではなくて、
アナハイムがガーベラを改造して、名前をつけなおしたやつですが」
「茨の園について教えてくれた僕の友人によれば、現在Mk-82は倉庫にしまい込まれているらしい。
地球連邦の良心的な科学者が、南極条約に違反する弾頭をMSに搭載するのは道義的に問題があると主張したそうだ」
「はン」
それまで、彼に可能な限り礼儀正しい態度を取っていた、フランクリンが鼻をならした。
「品位より、結果ですよ。使えるものは何でも使うべきなんだ。だから育ちのよい金持ちは困る。
現実よりも理想を優先させてしまう。私は正直言ってジオンが好きじゃありませんが、
一緒に酒を飲むなら連中の方がまだマシだ。一生懸命ですよ彼等は」
「随分と偏見に満ちているね」
マイッツァーとフランクリンが出会ったのは、地球上にまだジオン公国軍が存在していたころだった。
月で行っていたかなり怪しげな商売で成功したブッホが、精密機械関連事業を始めてから13年目のことである。
ブッホは巨大軍需メーカーとのつながりを深め、それらと部品の納入契約を結ぶようになっていた。
地球全土がジオンに占領されると思われていた3月の末、マイッツァーはジャブローの技術本部へと呼び出された。
「これから話す内容は、軍機だということを心得ていただきたい」
応接室でマイッツァーを出迎えた少佐は、かたい声で言った。
そこでは少佐の他にも何人か集まっていた。民間人もまじっている。
「承知しました」
マイッツァーは如才なくうなずいた。軍機などもはや聞きなれた言葉であった。
「我々は、新たな攻撃兵器の開発に取り組んでいる。
あなたの会社に園兵器に必要とされる部品の試作をしてもらいたいのだ」
マイッツァーは間髪をいれずにうなずいた。
戦況をいくらかでもよい方向へ転換しうる兵器の開発に参加できる興奮と、
間違いなく儲け話になるという目論見が内心に浮かび上がった。
「それで、開発すべき新兵器については、その、何か…」
「ああ、そうだな」
少佐はわずかに口ごもった。
「話せることは全て話してしまいましょう」
それが、マイッツァーが初めて聞いたフランクリンの言葉であった。
視線を向けた先には、スーツを着た少し神経質そうな男の姿が遭った。
「いずれ話さなければならないことです。それならば、最初から知っていても問題はないはずです」
「そうかもしれないな」
少佐は同意した。彼はフランクリンが口をはさんでくれることを望んでいたようだ。
「我々が来月から本格的な開発を考えているのは、これまで存在したことのない新時代の攻撃兵器だ。
形態はMAになる。いや、正直に話してしまおう。宇宙用作業ポッドの戦闘型だ」
少佐はそこで息を飲み込むと、続けて一気に言った。
「我々は、その兵器に低反動砲を搭載しようと考えている。
この兵器は、今後量産される連邦製MSを補完するためのものだ。
大量生産を前提とするので、君達の働きに期待している」
マイッツァーが出るのは年代的に早すぎない?
まあ、この時代のロナ家の人の名前は知らないけど。
「まさに軍機ですな」
マイッツァーは溜息をつくように応じた。
その後は技術者ではないマイッツァーには理解しかねる話の奔流になった。
まず、第一段階では2連装180mmキャノンとワイヤーランチャーを搭載した機体を試作する。
大量生産のため、ジェネレーターは熱核反応炉を使用しない。推進動力は燃料電池とする。云々。
帰路、連邦軍から支給される化石燃料で動く車に乗ったマイッツァーは、
その年の11月に破壊される予定の対空陣地を見つめながら考えていた。
大量生産される安価な戦闘用ポッド。もし実用化されたならば、確実に問題が発生する。
例えば、その兵器に搭乗するパイロットをどうするかだ。
ただでさえパイロットの数は少ない。MSのパイロットも用意する必要もある。
彼は連邦軍がいつの間にか理性を失ってしまったことを感じ取った。ジオンのMSに対して新兵器の有効性はほとんどない。
戦果をあげるにはそれなりの対価が必要だ。おそらくこの新兵器は活躍する戦場では、夥しい血が流れることだろう。
「あの軍人ではない男、あれは誰だかな?」
マイッツァーは気を紛らわせるように、運転席の男に尋ねた。
「ああ、フランクリンさんですか」
運転席に座っていた男は笑いを含んだ声で応えた。
「戦争が始まる前に宇宙軍に雇われた人です。とにかくMSの研究一本槍です。
ひねくれた性格が災いして、こちらの計画に左遷されたとの噂ですが」
「私もそのような印象を持ったよ」
「それでも馬力はたいしたもんだと聞いています。一種の天才らしいですよ。
技術上の発想というより、研究を形にするという点で優れているらしいです」
「それで、君はまだ諦めてないわけだね?」
数年前の情景を思い出していたマイッツァーは、態度の大きい男に尋ねた。
「たとえ連邦やジオンから大きく引き離されていても、投げ出したりはしないのだね。
宇宙世紀0079年の12月末になってもなお、MSの開発を諦めなかったように」
「諦めるものですか」
マイッツァーには、この男がかろうじて怒りを抑えていることが分かった。
フランクリンは、一年戦争中にMS関連の開発に携わることができていなかった。
「手と足さえ休めなければ、いつかは追いつき、追い抜くことが可能です」
「ならばいいのだよ。デラーズがらみで、君が予測していたより早く商売になりそうなのでね」
「反動が怖いですよ。デラーズを討伐した後で、確実に予算は削減されますから」
「そこでだ。将来、我々はどういう商売を行うべきだと思う?」
マイッツァーは探るような口調で言った。
「まぁ、顧客は一つしかありませんね。サイド6、自衛軍」
「連邦はアナハイム、他のサイドは復興中、ジオン残党には売れるわけがないからね」
「ええ、考えるまでもありませんな」
「実は、地球連邦の友人から、サイド6が採用する次期防衛兵器のライセンス生産メーカーについて、
いくらか話を聞かされたものでね。君の嫌いなMAらしいが」
「喰うためならば妥協しますよ」
あっさりとフランクリンは言った。
「それよりも、社長。あなたは良い友人を持っているんですな。
デラーズの話を聞きつけたり、その他にもあれこれと」
マイッツァーはかすかな笑みを浮かべた。
彼の「友人」とは、地球連邦と納入契約を交わしていた時に知り合った経済官僚であった。
現在は、連邦政府内でかなりの地位についている。ただし、その「友人」が情報を伝えてくる理由は、
純粋な善意からではない。彼がホモセクシュアルであるという事実を、マイッツァーが知ってしまったからだ。
(ホテルでマイッツァーに迫り、はねつけられていた)
地球連邦軍憲兵隊の綱紀粛正のための男色家狩りに代表されるように、
地球連邦内部において、性的に自由な傾向を持っているという事実は破滅を意味していた。
もっとも、男色狩りを行っていた憲兵も同性愛者が多かったが。
マイッツァーは腹中に満ちている皮肉の表出を抑えつつ話しかけた。
「持つべきものは友達だよ。フランクリン君」
投下終了です。
ブッホの早すぎる成長とマイッツァーの登場には理由があります。
物語のもう少し先の方で説明することになると思います。
彼の詳細な年齢が分からなかったのですが、外見と18歳の孫がいることから判断しました。
宇宙世紀0123年で約70歳。この時点(0083年)では、30代前半の設定です。
ボールは棺桶じゃないが、MSショックを直撃した連中と民間人からみればゴミだよな
あと、設計意図通り使わない連中と使わされる連中にとってもw
ベトナム戦争当時の米軍じゃ、ヘリパイロットが不足してるが、パイロットは将校でなくちゃならんてんで、
高校卒業したての連中をOfficers Candidate School(幹部候補生学校 士官学校に非ず)で短期訓練施して准尉にしてヘリに載せたんだよな。
連邦のボールパイロットも似た様な手を使ったかも。ただ連邦は下士官パイロットおkだから伍長振り出しだろうが…
あと、ボールパイロットは宇宙作業ポッドパイロット上がり多そうだし、軍内部のスペースノイド差別も微妙に絡んだかもね。
4.いつか宇宙に届いて
「Barnard's star」
――地球から三番目に近い恒星
ドロレス・ヘイズがアルフレッド・イズルハに抱いていた印象は、
かわっている、という一語に要約することができた。
誰も彼もが勉学に励み、努力する時期が彼女の通う中学校にも到来していた。
彼女も同級生の同族達と競い合って、勉学に励んでいた。
試験の点数が優れている者ほど、人としての価値があると信じているかのようだった。
彼女もそれに疑問を持たなかった。それは大いなる夢の実現をもたらすための最短の道であるはずだったからだ。
彼女くらいの年齢の子供達は、この世の出来事全てを自らの論理に合わせて解釈してしまうのだ。
アルフレッド・イズルハは、彼女のような同級生と比べると、完全に浮き上がっている男だった。
勉強したいという意欲を持っているようには見えなかった。
かといって、何の目的も持っていない人間にも感じられなかった。
身長158センチ、その他の値は平均値、多少気の強い点を除けば美少女、
というドロシーがアルの存在をクラスメイト以上に意識したのは、
図書館で期末テストの勉強をしていた時のことであった。
周囲は真剣に勉強する人々であふれていた。
前夜、遅くまで復習をしていた後遺症で睡眠の不足していた彼女は、
欠伸を周囲から隠すため、うつむいて口を押さえた。
折り目の消えたズボンをはき、色のあせた木綿のシャツを着た細身の学生が視界に入ったのはそのときだった。
同時にそれまで存在すら気づいていなかった隣席の彼が、
自分の方へわずかに視線を走らせ、口元に笑みを一瞬だけ浮かべたのも分かった。
ある種の文化圏では、彼女の行った仕草を異性に目撃されることは、何事よりも恥ずべきことであるとされている。
いまだ少女であったドロシーは、彼の笑みに気がつくと、顔に流れる血液の量を著しく増加させた。
すぐにあさっての方向を向いた彼女であったが、しばらくすると再び少年へ視線を向けた。
そのとき、彼が彼女に視線を向けていたならば、怒りをおぼえたのかもしれない。
ドロレス・ヘイズの両親は成功している部類に属する大人であった。
彼女は何も不自由を感じずに育った。両親は、普段かまってやることのできない彼女に対して、
物質的な手段で解決を図ってきたからであった。彼女は侮蔑になれていない。
少年の視線は彼女に合わされていなかった。
ドロシーが最も衝撃を受けたのは、彼がこの勉学の場で示していた態度であった。
誰もが一生懸命勉強をする中で、彼は雑誌を読んでいた。
小学生までの彼女ならばすぐに怒り出したかもしれない。
しかし、この時の彼女は好奇心の方が勝っていた。
何を読んでいるのだろう?
彼女は彼の読んでいる雑誌を覗き見た。そして、驚くよりも呆れた。
彼は子供が読むような原色の鮮やか過ぎる雑誌を熱心に読んでいた。
誰もが必死になっているこの場で、なんてくだらないものを読んでいるのだろう。
彼女は心の中で彼を蔑んだが、再度彼の読んでいるものを覗いてしまった。
彼の読んでいる雑誌は、地球やコロニー内の風景を描いたものではなかった。そこには彼女の慣れ親しんでいない(サイド3でよく使用されている)言葉が羅列していた。ドロシーは無意識のうちに尋ねていた。
「それ、面白いの?」
「どうかなぁ。半分もわからないからなぁ」
彼は曖昧な顔つきで答えた。
「じゃあ、どうして読んでいるのそんなもの?」
(これは彼女が実際に言った言葉ではない。本当はより辛辣な言葉を使っていた)
「面白いから」
その返答が、よきことの始まりだったのだ、数年後の彼女はそう回想するようになった。
数十年後の彼女は、その返答に面白みを感じたことが過ちの始まりだったと回想している。
後年の回想はとにかく、ドロレス・ヘイズがドロレス・イズルハとなる過程の第一段階はこのようなものであった。
そして、このドロシーとの会話を契機にして、アルは今まで消極的であった勉強にも精力的に取り組むようになった。
彼はドロシーが志望校としている山の手の学校を受験しようとしていたのだ。
宇宙世紀0084年、サイド6は平和を謳歌していた。
第四節を投下しました。
デラーズ紛争を飛ばして0084年になってしまいました。
史実とは少しだけ違う流れになっているので少し解説します。
まずGP02が使用した弾頭がより強力なもの(ガミラス博士開発)になりました。
これにより連邦軍は大混乱となり、史実より簡単にコロニー落としが成功します。
まぁ、最終的には史実と同じく、連邦軍によってデラーズフリートは殲滅されますが。
これらは地球連邦軍が反応・融合兵器体系を導入するための布石になります。
アクシズ側も同じように反応兵器の導入を進めていきました。
これが物語冒頭の状況につながっていきます。
440 :
通常の名無しさんの3倍:2008/06/22(日) 12:24:09 ID:3QLJZore
待ってたぞ。
挙げ保守
441 :
通常の名無しさんの3倍:2008/06/27(金) 06:14:35 ID:k8OX1bXW
保守
5.ペルソナ
「報道は我々の主要なイデオロギー兵器である」
――ニキータ・フルシチョフ
スクリーンに映し出されている5人の男は、土壇場で脚本が手直しされたために、
主役を演じるようになった無名役者のようだった。
そして、彼等は強盗団ですらまだましかと思われるような連中に取り囲まれていた。
「感想を教えてください、モンシア大尉。
ギレン・キラーからデラーズ・キラーへ鞍替えした気分はいかがですか?」
「ウラキ中尉、エドワーズでの」
「私はナイメーヘン卒業だからトリントンですよ」
「失礼。トリントンでのテストパイロットとアルビオンのクルー、どちらがスリリングでしたか」
「ニナを口説いた時が一番だったね」
「GP01の追加装備に選択されたシールド・ブースターの開発不調が伝えられていますが」
「アナハイムは努力を重ねています。問題は必ずや解決されるでしょう」
「アデル中尉、御家族はあなたが英雄になったことについてどのように」
襲撃は延々と続けられていた。映写室でそれを見ていた三人の男は、
圧倒されるような思いでその映像を見つめていた。
画面に登場したパイロットの応対は、彼等が教えられていたそれとは似ても似つかないものであった。
三人の中で、ただ一人だけスーツを着ていた男が声を漏らした。
「これを見ていると、全ては地球至上主義者の陰謀のような気がしてきますね」
「本当かもしれませんよ。同志主任設計官」
引き締まった顔つきと体つきを持った男が、微笑を浮かべて言った。
「デマゴギーは、公国の専売特許ではないでしょうから」
「ザビ家と地球連邦大統領を比較するのはどんなもんかね」
彼の隣に座っている、色黒のがっしりとした体格の男が、太い声でまぜっかえした。
「まぁ、奴等は地球至上主義が許容する限りにおいて本気なのではないかな」
「残念ながら、おそらくそうでしょう。ラカン・ダカラン」
同志主任設計官エリオット・レムはうなずいた。
「地球連邦の国力を背景とした科学技術は恐るべきものです」
「ジオン公国の遺産とあなたの才能と技術陣を持ってしても、危機を感じるほどにですか?」
がっしりとした体格の男が真剣な表情で尋ねた。
「危機とは言いませんよ。ただ、無視すべきではありませんな」
「卓見。まさにジオニズム的解釈に基づいた科学技術の現実への応用、と評すべき意見だ」
引き締まった顔つきの男が発言した。彼の声には誰をも魅了してしまいそうな響きがあった。
「だが、あなたは連邦に先を越させるつもりはない」
「いうまでもない。これまでの二十年、私は全てをMSにそそぎ込んで生きてきました。
ミノフスキー先生の夢と理想を現実のものにするために。
たとえ、連邦が先生の直接的な後継者になったとしても、これだけは譲れない」
「ジーク・ジオン」
引き締まった顔の男が声をあげた。彼の言葉には強い皮肉がこもっていた。
「同志主任設計官、私は何度でもその言葉を唱えるでしょう。
あなたの開発するMSに乗れる喜びを表現するためならば」
「右に同じ。ジーク・ジオン!」
彼の皮肉には気がつかず、がっしりとした男が大きな声で続けた。
「ありがとう。あなた方が、そこへ行ってくれると志願したからこそ、
私は歩み続けることができるのです。共に歩み。そこにあるものを取り戻しましょう。
宇宙は、何かのためにあるのではなく。宇宙であるからこそ征しなければならないのです」
そこまで言ってから、レムは突然口ごもった。
自分が一番嫌っているザビ家長男と同じような演説口調になってしまったからだ。
「同志主任設計官」
引き締まった顔つきの男は立ち上がり宣言した。
その声量は、仮面をつけ英雄として一年戦争を戦った頃を思い起こさせるものであった。
「我が友人、ラカン・ダカラン大尉は、貴方の御期待に必ずやおこたえするでしょう」
レムは満足げにうなずき、その言葉に返答した。
「そして貴方もね。同志シャア・アズナブル大佐」
投下終了です。
史実の流れが少しずつかわってきています。
次の第六節はまたサイド6の話に戻ります。
投下乙です。
ミノフスキー先生の夢と理想を果たそうとする主任設計官に萌えました。
あと、ドイツ風に書かれる事が多いジオンが、ソ連風だとすごく新鮮に感じますね。
名誉な戦死をされた閣下に申し上げるのは恐縮なのですが・・・
おめー殺されなくても負けたんじゃねーの?ジオン?
ガトーも死んでんのかな?
当然、デラーズは引かないから残る
ソロモンで無念の撤退をしてるからガトーも引き下がらない
投降はしないよな
突然すまんが、以前ドラッツェの話はどうなったんだ?
ドラッツェ改の全容がわかるまえに終ったよな?
>>450 更新は楽しみなんだが、話が飛び過ぎて俺もそれぞれの話を把握できていない。
質問とご指摘を受けたのでお答えいたしますね。
今日は作品の投下はありませんが、土曜日には投下できるようにします。
まずは「遥かなる星」の物語内でガトーが死んでいるかどうかです。
これについては史実と同じす。
ガトーは戦死しており登場することはありません。
史実との変更点は、ソーラシステムではなく酸化融合弾に焼かれたくらいです。
次に過去に投下した作品についてお答えします。
このスレッドで私が投下した作品は以下の三つです。
(これ以外に没ネタと称した短編も投下しています)
「星途」「Lucky Star」「遥かなる星」
最初の星途ですが、ドラッツェ改が突撃しだした場面で更新停止中です。
再開の予定はまだありません。申し訳ないです。
次に外伝といいながら本編より長くなったLucky Starです。
これも五月から更新停止中になっています。
あと一章で終了予定なので、近いうちに完結させたいと思います。
最後に現在投下中の遥かなる星についてです。
この物語は群像劇であり、さらに主人公すら全然登場しておりません。
分かり難い構成になってしまい、申し訳ありません。
大体こんな感じですかね。
今後も更新速度は遅いですが、定期的に作品を投下していきたいと思います。
>最初の星途ですが、ドラッツェ改が突撃しだした場面で更新停止中です。
……三州公の悲劇がここにも……完結してるほうの題名パロなのに……。
応援してますんでがんばって完結させてください、お願いします。
455 :
通常の名無しさんの3倍:2008/07/05(土) 15:46:44 ID:39Z7TUf5
質問の返事トンクス
職人ガンガレ!
6.虚栄の掟
宇宙世紀0085年のその日、リボー基地におけるMS発進作業は中止されていた。
ジョブ・ジョン一尉は、濃いブルーの制服(ほとんど連邦軍と同一)のボタンをはずして、
椅子に座っていた。彼は自分が疲れていることを自覚していた。
もっとも、数日前にこの基地へ、TGM-79Cに便乗して訪れたときから元気であるとは言えなかった。
現在のジョンの職務は、航宙自衛軍戦略情報室の一職員であった。
とはいえ、この配置はあくまで話の良くするための方便に過ぎなかった。
ここ一週間ほど、基地の危機管理体制についての研究を行うためと称して滞在していた。
「暢気な連中は、臨時休暇ができたと喜んでいるが」
暇潰しにきていたMS部隊のベルガミノというパイロットがいった。階級はジョンと同じだった。
「新型で慣れないとはいえ、稼動率が半分を切っている。実戦を考えると頭が痛いよ」
「そうだろうね」
とりあえず、自衛軍の現実を知ってこいとジョンは技術研究所から転属させられたのだが、
いまだ組織として成熟していない自衛軍において、彼の経験は役に立っていなかった。
ありていにいって、地球連邦宇宙軍から流される情報の伝達役というところだった。
ベルガミノは窓の外に目をやり、そこから見える格納庫を注視した。
扉は開いており、内部では機体の整備が必死に行われていた。
航宙自衛軍の主力MS、RGM-79Nジムカスタムだ。
連邦軍が生み出したまぎれもない傑作機で、デラーズ紛争での活躍は記憶に新しい。
「ジムカスタムはいい機体だ。特徴がないのが特徴、なんていうやつもいるが、
とにかく動かしやすい。あれほど気持ちのよい機体はない」
「そういう話だね」
ジョンはうなずいた。しかし、ベルガミノの真意を理解しているわけではなかった。
「だがね。多少の疑問はある」
ベルガミノはその機体に視線を向けたままいった。
「連邦軍は、なぜ我々にあんな機体を渡したんだ?
少なくとも、ここ数年の間に作られた最高の機体を」
「随分と政治的な話だね」
ジョンは笑った。
「少なくとも、地球連邦政府の政策に関連していることは確かだな。
そして、デラーズ紛争の後遺症というところか。
彼等はあの紛争に合わせて山のように装備を生産した。それが今になって余りだしている。
それを我が国へ貸し出し、地球圏の平和を確たるものにする。そんな考えなのだろう」
「表面的にはその通り。何の疑問もない。何年か前にジムコマンドを気前よく振りまえたのも同じ理由だろう」
RGM-79Gのことだった。ジムを原型としながら、
新設計のバックパックなどを採用したことで、全く別の機体と呼べるMSになっている。
いかなる戦域(少し誇大表現であるが)でも作戦行動が可能な機体であった。
「たいへんな機体だそうだね、あれは」
「たいへん、たいへん。操縦以外にFCSも操作しなければならない。手が三本欲しいくらいだよ」
「君はそれが気に入らないのか?」
「まさか。ジムコマンドの良さは承知している」
ベルガミノはジョンに視線を合わせた。
「ただね、いくらハイザックの配備を急いでいるとはいえ、
いかにも気前がよすぎる。おかしな話だと思わないか?」
「我々が地球圏で最大の友好国だからかな」
ジョンは敢えて常識的な意見をいうことで、彼の真意を探ろうとした。
ベルガミノは憮然とした表情でいった。
「ジムクゥエルを我々が採用することを簡単に許したのも同じ理由か?
あれはこれまでの中古ではない。新型だ」
「アナハイム社を救うため。そのような一面があることは否定しないよ」
「それも理解はできる。だが、なぜなんだ?なぜ、連中は新型機を気前よくオレ達に渡すんだ?
そして、なぜ我々はそれを採用する事を当然だと思っている?
サイド6にもMSメーカーはある。東亜重工、北崎、月村工業、それからブッホ。
決して少ない数じゃない。これだけ関連メーカーがあるのに、
なぜ、連邦から輸入、あるいはライセンス生産せねばならない?」
そういうことか。ジョンは彼の真意を理解した。
「彼等の方が優れているからだ。我々はいまだ連邦軍におんぶにだっこだよ」
「認めたくはない事実だがな。しかし、それでもオレは妙な気がしてならない。
結局、連邦軍は新型機を我々に供給する事で」
「そうだよ」
ジョンは頷いた。
「彼等は、それによってサイド6のMS独自開発能力の向上を阻止しようとしているのだ」
「なんだ、わかっているじゃないか」
ベルガミノは呆れたようにいった。
「わかっているよ。それぐらいのことはね。
それに我が国のMS関連メーカーに自主開発能力がないことも」
「東亜は何でも作る力は持っているが、エンジンが弱い。
北崎は、エンジンは良いが機体が駄目。月村はまだまだ。ブッホは、エンジンは強いが」
「機体と関連装備にも手を出している」
「しかし、まだどうなるかは分からない。それに強いといわれているエンジンだって、
アナハイムやジオニック並みというわけじゃない。
それに連中の本音は、MSというよりは外惑星航宙機の方に進みたいんだろう?」
「確かにな。あそこは戦後の混乱に乗じて、ジオンと連邦の双方から技術者を引き抜き、
捨扶持をあてがって好きに研究させているらしい。MS、航宙機、ロケット。
東亜の連中が、あそこはどうやってMS用核融合エンジンの技術を手に入れたのかと不思議がっていた」
「なんとも頼もしい話だが、うまくいくのだろうか?」
「さてね、私には分からないな」
「我等の新型機がいつ国産になるのか、その鍵は連中が握っているというわけだ」
「そんなところだろう。ただ、アナハイムは何としてでも主力メーカーの立場を守るつもりだから、大変だな」
投下終了です。
皆様、応援ありがとうございます。
遅筆と中断はしたくないと思っていたのですがね。
御大の気持ちも多少分かってきました。
何とか続きが書けるよう努力していきますね。
投下乙です。
マターリとお持ちしますので、マターリと続けていってくだしあ
乙
早く投下して欲しいけど身体に気を付けてな。
7.蒼く輝く炎で
コロニー気候管理局の人為的ミスにより、リボー南西部を支配していた風雨はすでに去っていた。
見渡せる限りの空はまずまず快晴といってよかった。多少なりとも感傷的な視点を持つ者が見たら、
大気中からほとんど塵が洗い流された影響で、目に見えるもの全てが鮮やか過ぎると感じただろう。
ブッホ・エアロダイナミック社サイド6技術試験場。
そこに設けられた宇宙港の入口に立ったフランクリンは、周囲の光景をつまらなそうな顔で眺めていた。
「いやぁ、なんたる壮観」
宇宙港の隣に設けられている管制施設の方から歩いてきた、
ノーマルスーツの男が茶化すような口ぶりで声をかけた。
「文句なしの日和ですな、今日は」
「おはよう」
フランクリンは、孤独を邪魔されたことを気にしていないような声で応えた。
「今日は頼みます」
彼にしては珍しいほどに丁寧な口調でノーマルスーツの男に言った。
「ええ、もちろん」
ノーマルスーツの男は、操縦桿を握っている人種に特有の絶対的な自信を示した。
「先生のところの若い連中がへまをしないかぎり、完璧に成功させて見せますがね」
「それならば、安心だ」
「しかし、何ですな」
一年戦争前まで、ジオン公国軍の下士官搭乗員だったパイロットが軽く伸びをしながら尋ねた。
「いい給料をもらっている会社を疑うわけじゃないんですが、うちにはよっぽど妙なコネがあるんですかね?」
「ああ、そうだね。でも、様々な機体を操縦できていいじゃないか」
「そりゃ、まぁ。共和国軍に入った同期が羨ましがっています。
連中が動かせるのは、アナハイムのジムぐらいですからね。
今のジオンには、MA乗りを満足させる期待はまったくありゃせんのです」
「今日の機体はどうだね?」
「大したもんだと思いますよ。やっぱり、あんなものを作る国と戦争しちゃいけませんな。
クローがないのが気に入らないけれど」
彼等がさして意味のない会話をしている間に、管制塔や格納庫では、
早朝に予定されている実験の最終的な準備を始めていた。
作業服を着込んだ屈強な男達が、巨大な格納庫の扉から現れた。
宇宙港に隣接した格納庫は、そのまま外へと発進できる構造にもなっていた。
格納庫の中には巨大な機体が鎮座していた。
アナハイムRX-78GP03。MSの汎用性とMAの攻撃力を兼ね備えた機動兵器をコンセプトに、
クラブ・ワークスがほとんど意地だけで製作した試作戦略MSだ。
パイロットが尋ねた。
「あれ、いったいどうやって手に入れたんです? 何かやばい手を使ったんですか?」
「さあてね」
フランクリンは苦笑した。
「私は社長に母機用の大型MAがあればいいな、と言っただけだから」
「なるべくなら大型スラスター付きと?」
パイロットはGP03の6基の大型スラスターを指差した。
これによりGP03は小型艦艇並みの推力を発生することができた。
「いや、大型スラスターについては必須だった。ある程度高速が出せないと困る」
「それにしても」
既にこの奇妙な機体を400時間以上操縦しているパイロットが呆れたように言った。
「最初にあれを動かせ、といわれた時には参りましたよ。
いくら連邦軍がお蔵入りにしたとはいえ、立派な戦略兵器ですからね」
「武装関連は月面ではずし、経済産業省経由で国防省に流したから、
MSではない。少なくとも、公式にはそうだ」
「まぁ、運動性は戦闘機並みの機体ですから、こちらの方は文句ないですが」
「いまさら聞くのもなんだが、エンジンの方は問題なかろうね?」
ブッホはこの機体をアナハイムからサイド6へ持ち込んだ後、自社製のBA210C試作核融合エンジンに換装していた。
サイズが異なっているため、機体の方を多少いじらねば無かったが(ウェポンコンテナの一部を撤去した)、
おかげでジェネレーター出力は4万kWを越えるものとなっていた。
「もし危険を感じているのならば…」
「そんなことはありませんよ、先生。ヤシマ工業と張り合って作っているエンジンなんだから、
素質はすごくいいです。AEやZ&Zと比べると、ちょっとというところがありますがね」
「ま、あんたが困っていなけりゃいいんだ」
ブッホ・エアロダイナミック社がいとも簡単に、MS事業へと乗り出し、
数年で実用MSエンジンの開発に成功したことは、奇跡中の奇跡とよばれていた。
開発後の最大の問題は顧客だったが、ブッホはそれをかなりあくどい手法で切り抜けていた。
例えば、三年前にブッホが初めて量産したBA100Aは、これといって新鮮味のないエンジンであったが、
唯一つだけ特徴があった。それはAEのJ79とほとんど同じサイズで、出力・耐久は同等、そして小型であった。
ブッホは、このエンジンの増加試作品をJ79を使用している月面都市やコロニーなどに一基ずつ贈呈した。
J79はいまだに各地で大量に配備されていた、RGM-79GMのエンジンだった。
当初、ブッホ製ということでかなり疑われたものの、価格の低さと稼働率の良さが評価されたことと、
ブッホが一年戦争から培ってきた政界へのコネを使ったことで、大量の受注が可能となった。
BJ100Aの販売で儲けた資金を使って、ブッホは他のMS、戦闘機、駆逐艦のエンジンを開発し、それを売り続けた。
その結果、わずか数年で新型MSの試作エンジンの開発ができるようになったのだ。
一年戦争から6年、ブッホ・エアロダイナミック社は、アナハイムやジオニックには及ばないものの、
MIPやハービックとは十分に競争可能なメーカーになっていた。
「社長はどうお考えなんですかね?」
パイロットは機体を見つめつつ呟いた。
「MSの独自開発に乗り出すおつもりでしょうか?」
「あの人の腹の中は私が見透かせるほど明るくはない。
しかし、いつ乗り出してもおかしくはないね。となると、アナハイムと戦争になりかねん」
「面倒ですな」
「そうだ。君はそれを私に何時間でも教えることができる。
ソロモンやア・バオア・クーで生き残った人間にはそういう権利と義務がある。いや、名誉かもしれない」
「名誉ね。最近はとんと聞けない言葉だ」
フランクリンと付き合いの長いパイロットはそう答えた。
「少なくとも、あなたが私の名誉に配慮してくれることは確かだと思います。
実はこの塗装、結構気に入っているのですよ」
「いい趣味だろう」
機体は、黒と濃緑色に塗り分けられていた。フランクリンは子供の頃、
軍艦や戦闘機ならば(後にはMSも)、一部分を見ただけで見分けることができるほどの軍事マニアだった。
「とにかく、塗料は同じものを使わせてある。シンボルマークまで描き込むわけにはいかないがね」
「いいんですよ。これで十分です」
格納庫からカタパルトへ牽引されたGP03の機体中心部には、いくらか改造が施されていた。
そこにはかなり大型のロケットが搭載されていた。それは、かつて装備していたメガ・ビーム砲よりも大きなものであった。
「妙な話だと思いましたよ、最初は。しかし、考えてみれば道理だ」
「んふふ。そうだな、何度か実験をやればうまく行くはずだ」
フランクリンは口元を悪魔のそれに近づけて笑った。
投下終了です。
第六節で出たMSメーカーについて訂正です。
東亜重工→ヤシマ工業に変更いたします。
ちなみにヤシマ工業はミライ・ヤシマの実家ですね。
乙
いつもたのしみに読んでるよ
470 :
通常の名無しさんの3倍:2008/07/16(水) 19:31:50 ID:9N9B+OBo
乙
挙げ保守
8.イン・マイ・ドリーム
ブッホが妙な実験を行っている。地球連邦宇宙軍にそのような情報がもたらされたのは、
フランクリンとパイロットが会話をしていた朝より二週間ほど前のことだった。
彼等はその情報をまず国防省(リーア自衛軍)から探ろうとした。
しかし、国防省はブッホが何を行っているのか全く情報を持っていなかった。
隠しているのではないか、地球連邦宇宙軍の情報部門の人々はそう考えた。
実際には、ブッホとMS部品以外での関係をほとんど持たない国防省は、
本当に何も知らなかったのだが、連邦軍人にとっては常識的に考えてそう思えたのだった。
ますます疑いを強めた彼等は次の手をうった。
連邦軍情報部は、ある程度荒っぽい手段で調査しようと考えたが、
表面上は平和な現在では、さすがにそこまではできなかった。
そのため、彼等は純粋な軍事偵察手段(写真偵察や無線傍受)を用いてブッホの動向を探った。
偵察写真は傍受記録がもたらした情報は、彼等を驚かせるのに十分な内容であった。
ブッホは、かつて彼等が放り出したMSを改造し、それに大型のロケットを搭載させていた。
今のところ、発射実験は行われてはいなかった。
しかし、連邦軍情報部は、その正体を瞬時に断定した。
ブッホはMS搭載型の反応兵器を開発している。彼等はそう決め込んだ。
連邦軍情報部がそう断定したことについては、それなりの理由があった。
彼等は他の誰よりもその種の兵器に詳しかったからだ。
なるべくサイド6政府を刺激したくなかった彼等は、
ルナツーからRFF-X7-Bst電子偵察機とRGM-79EW偵察機を出撃させ、ブッホの実験を監視することにした。
機体下部に大きな流線型の物体を抱えたGP03が発進したのは、宇宙世紀0086年6月28日午前8時30分のことだった。
GP03はそれから20分ほどかけて、リーア宙域西方外縁部に設定されている、KS3民間訓練宙域へと進出した。
そこには既に先発隊が到着していた。観測装置を満載した観測船(とはいえ、古いパプア級を改造したもの)と
観測機(これも中古のジッコ突撃艇改造機)だった。観測機にはフランクリンが乗り込んでいた。
レーダーやテレメトリ・データ受信機装置で埋まっている胴体の中ほどで、
彼はレーダー・ディスプレイを操作員の肩越しに覗き込んだ。
「やっぱりこっちを覗いています」
ヘッドセットを装着した操作員が言った。
「どこの機体か分かるかね?」
「このあたりにはジオンもルナリアンも出張ってはきません」
「ましてや、自衛軍などではない」
操作員とフランクリンはあえて間接的な表現を使用していた。
「交信できるかな?」
「どんな方法でも可能でしょう。奴等、全部を傍受しているはずですから」
「コールサインは分かるか?」
「そうですね。メビウスでしょう。ルナツーにいる連邦の怪しげな部隊は大抵それです」
「分かった。交信を切り替えてくれ」
フランクリンは通信手に命じ、訓練宙域を取り巻くように巡航している機体へ呼びかけた。
「メビウス1、こちらはブッホ021、君達は我々の試験宙域に侵入している。
ことを荒立てたくないのならば、直ちに退去されたし」
返答は無かった。
「間違いありません。奴等、連邦軍の電子偵察機です。
ビームライフルでも撃たれない限り、黙って偵察を続けますよ」
「だろうね、やっぱり」
フランクリンは唇を歪め、再び偵察機に呼びかけた。
「メビウス1、君達がこれ以上我々の実験を妨害するのならば、君達の観測データを報道機関に送付し、
実験を妨害されたことに対する損害賠償を地球連邦政府に請求する。それでは、通信終わり」
フランクリンは、再びディスプレイを覗き込んだ。
試験宙域を取り巻いていた輝点は徐々に少なくなっていた。
一部の輝点は違う方向に集結しだしていた。
「P宙域に向かっています」
レーダー手が素早く言った。
「自衛軍と奴等の訓練宙域です。そこなら文句が出ないと思っているんでしょう」
「まぁ、仕方ないか」
「覗かれてもいいんですか?」
「うん、将来の顧客になるかもしれないからね。それじゃ、そろそろ実験を始めようか」
彼の言葉によって実験は開始された。ディスプレイに映し出された、
GP03を表わす輝点の移動速度が速まりだした。
少し遅れましたが、第8節の前半部分を投下しました。
今週中に残りの部分も投下できるようにしたいです。
投下乙です。後半楽しみに待たせていただきます。
また五島勉してください
パイロットはスロットルをいっぱいに開き、既に十分な運動エネルギーを持った機体をさらに加速させた。
どんどん重くなってくる操縦桿を全身の力をこめて引き寄せる。
めまぐるしく右に回転していた速度計の針が、徐々にその回転をゆっくりとしたものになっていった。
いかにブッホの試作エンジンに換装したとはいえ、胴体下に余分な物体を抱えているのでは限界があった。
このまま加速を続ければ、エンジンが暴走してしまうだろう。
パイロットは操縦桿を片手だけで支え、座席の左下に取り付けられた装置を探った。
そこには二つのスイッチが取り付けられていた。その一つをパイロットははじいた。
機体に衝撃がはしり、全身が座席に押し付けられた。
ゆっくりと回転していた速度計の針が急激に回りだした。
機体後方に取り付けられていた緊急加速用ロケットが作動したのだった。
強引な加速によって機体が振動している。しかし、危険は感じない。
さすが、宇宙世紀0080年代のアナハイムが生み出した工業製品だった。
再び座席左下へと手を伸ばしたパイロットは、もう一つのスイッチをはじいた。
機体下部から衝撃が起こった。機体の振動がさらに激しくなった。
その衝撃から一拍遅れて、機体下部から新たな衝撃が起きた。
そして、前方に向けて何かが飛び出していった。
視界をさえぎるかのような煌きを残しつつ、その物体は遥かなる星を目指して飛んでいった。
「発射しました」
レーダー手が報告した。
「発射はうまくいったようです。加速しつつ03から離れていきます」
フランクリンは、テレメトリ・データ受信機から吐き出される数値を眺めていた。
そこには発射された物体の慣性誘導装置から送られてくる、加速度・飛距離のデータが記されていた。
「ザムス・ガルよりブッホ021」
少し離れた場所にいる観測船から通信が入った。
「こちら021、開発部長だ」
フランクリンは応答した。
「XMA-01は加速しつつ飛距離を伸ばしている」
「第三宇宙速度はこえたか?」
「とうの昔に。現在、なおも加速中」
「了解」
フランクリンは、笑み崩れるという表現を現実にした表情であった。
入ってくるデータは、GP03から放たれた物体がなおも加速中であることを伝えていた。
「どこまで行けるものか、見せてくれよ」
その後、発射された物体は地球圏と呼ばれる領域を脱出した。
そのデータを見たフランクリンは、観測船へ通信を入れていた。
「021よりザムス・ガル。本社に連絡頼む。
発、開発部長。宛、社長。第一次試験成功、到達速度秒速30km、以上」
翌日、ブッホ・コンツェルン代表取締役社長マイッツァー・ロナは、
彼の部下達がMS搭載型深宇宙探査ロケットXMA-01の発射実験に成功したことを発表した。
到達速度は太陽系を脱出するのに十分な速度であった。
この数字は地球連邦や旧ジオン公国のものと比べると見劣りするものであったが、
一企業が開発した試作品としてはきわめて満足のいくものであった。
それなのにも関わらず、サイド6での反応ははかばかしくなかった。
深宇宙探査など地球連邦が無数に行っていたからだ。
いまさら私企業が何を考えて性能の低いものを発射したのか、そう質問した新聞記者すらあった。
ただし、国家予算で行われている宇宙開発の現状を知っている者と、
軍服を着ているサイド6の人々は異常なほど興味を示していた。
XMA-01は核融合ロケット・ブースターを使用していた。
そして、その費用は地球連邦の探査ロケットを大きく下回っていた。
核融合エンジンと費用、それらはいずれも、サイド6のMS開発のネックとされた技術ばかりだった。
遅れましたが、第八節の残りを投下しました。
今回でようやく第一章が終わりました。次回から第二章「日常」が始まります。
今回の話の中に第三宇宙速度やら秒速30kmやらを出してみましたが、
宇宙世紀の宇宙船の速度ってどのくらいなのですかね?
アステロイドベルトは、グワジンでア・バオア・クーから88日の距離にあるらしいです。
そこまでの距離を約3億qとすると、秒速約40kmになります。
ちょうど宇宙探査機ボイジャー1号と同じくらいの速度ですね。
この辺のことは、次章以降に重要となるので少し考えておきたいと思います。
投下乙です。
衛星じゃないだろうし、なにを積んでいるのだろうか?と思ってましたが、深宇宙探査ロケットでしたか…なるほど。
というか、最初から読んでたんだから予測できたはずな自分…ある意味失礼しました(汗
なんとか夏休みになったので、今から第二章を書き始めます。
なるべく今日中に続きを投下したいと思います。
>>482さん
ご紹介ありがとうございました。とても勉強になりました。
宇宙船の速度については再度考え直してみます。
第二章 日常(宇宙世紀0086年3月〜11月)
「本当の問題は、軍隊ではなく、軍隊を必要とするこの世界にあるのだ」
1.Better Days are Coming
元旦、年賀の挨拶をかわした後は、子供達にとって最も楽しい一日の始まりを意味していた。
たとえ一日中遊んでいても、誰に怒られることもない。
大きな炬燵の上には、常に御馳走が並んでおり、好きなものを好きなだけ食べられるのだ。
そして、宇宙世紀になっても続いている「オトシダマ」という奇妙な風習が、子供達をさらに喜ばしてくれる。
これほど楽しい要素が揃っているのでは、たとえ前日どれほど夜更かししていても、
彼等が寝ていることなどありえない。しかも、この数日は従兄弟という貴重な遊び相手がいるのだ。
ジョブ・ジョンの一人息子も、その例外ではなかった。
彼はジョンの両親宅の一室で、従兄弟達と人生を極端に簡略化したボードゲームに興じていた。
そのゲームの中では、彼も父親と同じ軍人となり、一男一女をもうけていた。
そのゲームが終わると、他の従兄弟達はかなり気温の低い屋外で、
日系コロニーに古くから伝わる遊びを始めていた。ジョンの息子だけがどこかに消えてしまった。
「わしの書斎にいる」
酒によって顔面の血管に負担をかけているジョンの父親は言った。
「爺ちゃんの絵本を見てもいいかしら、だとさ」
それだけを言って老人は楽しそうに笑った。
初孫が自分の趣味を理解してくれたことが、よほど気に入っている様子だった。
「気をつけた方がいいよ」
ジョンは父親に微笑を浮かべて言った。
「彼は貴方のそろえている特殊な作品をお土産として要求するつもりだ。
幼稚園や家でも似たような本ばかり読んでいる。いったい誰に似たのやら」
「コレクターにとって最大の幸運だな。後継者を見つけ出すこと、それが血族であること。
これに勝る喜びはない。この間、ようやく戦時中の欠番がうまったばかりだ」
「僕は警告したよ」
「お前はいまだに父親の趣味を蔑んでいるようだな」
「まさか」
ジョンは大きく首を振った。
「ただ、最近の一般的な作風が気に入らなくなっているだけだよ。
購買層拡大も結構だが、適当なところでおさえなければ。まずは純粋な喜びを伝えた後に。
そうでなければ、クラウゼヴィッツだけを読んで戦争を理解したつもりの連中と同じになってしまう」
「その点については、地上に降りるまでの私も大して変わりないが」
老人は左腕、というか、本来そう呼ばれる部分をわずかに動かした。
彼はその半分に東南アジアの密林で別れを告げていた。
「しかし、少なくともレビル派などという輩ではなかった。
MSと艦隊をそろえて喜んでいた蛮人どもの仲間でもなかった」
ジョンは父親に抑えた声で言った。彼の父親は連邦軍大学校を次席で出たほどの男でありながら、
一週間戦争後の連邦軍を支配した政治的な将校と対立し、大佐で退役したのだった。
「兄さん、そういえば昇進なさったんですってね」
台所で母親を手伝っていた妹が戻ってきていった。質問というより尋問に近い口調だった。
「ああ、責任は増えて自由が減った」
「航宙軍一尉、昔でいうと何になるの?」
「大尉だね。昔のサイド6には自衛軍などなかったが」
「大尉? とても偉くなったのね」
ジョンより二歳下の妹は困惑を含んだ賞賛を口にした。あるいは、あまりにも早くこの世に別れを告げた、
自分の恋人に与えられるべきだった未来の階級について考えているのかもしれなかった。
彼女の恋人は、ルビコン川を渡りサイド6に襲撃をかけた者と戦い、終末の日に備えてヴァルハラに運ばれていた。
ジョンは妹の表情を探るような目つきで見つめた。
「別に偉くはないさ。僕は指揮官ですらない。昔の言葉で言えば、参謀のような仕事をしているだけだよ」
「自衛軍が、戦争になった時、連邦軍の命令を受けるというのは本当なの?」
妹は兄の言葉を全く聞いていなかったようだ。
「唐突な質問だね」
「本当なの?」
「我々が資本主義体制の下で生きているという現実を無視してはいけない。しかし、だからといってそれが奴隷としての日々を送っていることを意味しているわけでもない」
「お正月だというのに。ずいぶん物騒な話をしているのね」
台所からジョンの母親が餅と何かが入った御椀を運んできた。
「兄貴に色々と教わっているだけよ」
「お前もまた手伝ってくれないかね」
妹の声に含まれている感情が尋常でないことに気づいた母親が口を挟んだ。
「義姉さんだけに手伝わせちゃ悪いでしょ」
「あら、義姉様なら大丈夫よ。何といっても、宇宙軍大尉夫人なんですもの」
「やめないか」
普段は彼女にひどく甘い父親がたしなめた。
「表現は性格にすべきだな」
精神の平衡を保つため、微笑を浮かべたままジョンは言った。
「航宙軍一尉婦人だ。それに、この種の表現はすべきではない。彼女は」
「ジョン、いいかげんにせんか!」
「それで、さっきの続きはどうしたの? お兄様は植民地兵なの?」
「確かにサイド6は地球連邦の手助けで作られた。
コロニーの語源が植民地であることは否定できない事実だ。
しかし、それは過去のことだ。今では立派な独立国家だよ」
「なぜ独立国の軍隊が、他国の命令を受けるの?」
「国民生活に過大な負担をかけずに国土を防衛するためだね」
「そのために町を焼き払う練習をしているの?」
「僕がやっているのはMSだよ」
「どこかを侵略するために」
「いや、サイド6を襲撃しにきた連中と戦うためのMSだ。
技術的なことはさして詳しいわけではないが、そういうことを扱っている」
彼は努力して刺激的な表現を避けていた。
「いつも、そう」
一瞬、言葉に詰まった妹は兄を睨みつけていた。
「答えを用意しているのね。どんなことがあってもその理由をつかんでいる。
お兄ちゃんはいつもそうだった。グラナダから帰ってきた時もそうだった。
あたしが、みんな大変だったらと言ったら、怪我しなかっただけ幸せだと思えって。
食べ物を手に入れるため、母さんがどれだけ苦労したか」
「その苦労を否定するわけではないよ。しかし、サイド7やニューヤークはもっと酷かった。
オデッサもそうだなベルファストも。苦労は食料についてだけではなかった。
東南アジアの密林で父親にいったい何が起こったのかを思ってもよい。
少なくとも、お前が暮らしてきたこのサイド6よりは大変であったはずだ」
妹は憤然とした様子で立ち上がり、台所へと歩いていった。
「いまさら性格を直せとはいえんが」
父親が諦めた口ぶりで言った。
「お前、その調子じゃ将軍にはなれんぞ」
「まったく貴方のおっしゃるとおりです。親の顔が見てみたいものですね、父さん」
「MSか」
父親は長男の顔を見つめて呟いた。
「歩兵将校がMSとはね」
「自分でも思ってもみなかった」
「いささか自責の念をおぼえるな」
父親は左腕の残された部分、その先の空間を見つめていた。
失われた左手ならば、その疑問に答えられるといわんばかりの顔つきだった。
「未来の参謀総長に、ハインラインなど読ませるべきではなかった」
「トミノやサトウよりはマシだと思う。それに、今では統合幕僚会議というんだ」
投下終了です。
この世界のジョブ・ジョンは似て非なるものです。
また、妹の兄の呼び方が毎回変わっているのは仕様です。
第二節からは少し回想が始まります。
2.Gun Tank
サイド6保安隊ジョブ・ジョン三等保安士が、地球連邦との連絡業務のために、
サイド7へと赴いたのは宇宙世紀0079年3月末のことだった。
既に北米はジオンの占領下にあり、ヨーロッパとアジアでは死闘が繰り広げられていた。
この時期、宇宙での戦闘は膠着状態にあったため、比較的安全にサイド7へと赴任することができたのだった。
「何ともいい加減な任務だな」
駐在武官事務所でジョンに与えられた任務を知った三等保安正が羨ましそうに言った。
彼はサイド7で航宙戦闘機の情報収集に当たっている男で、一応ジョンの上司となっていた。
「いや、すまない。自由裁量の度合いが広い、そう表現すべきだな」
「正直申し上げて、私にも何をすべきだか分かっておりません。よろしく御指導ください」
「まぁ、帰国命令が来るまでゆっくりしていくがいい。
当分の間はジオンがここを襲撃することはないだろうからな」
「心得ました」
机の電話が鳴った。戦時中の駐在武官事務所に事務員など人手不足で存在しない。
そのため、三等保安正が直接電話を取ることになった。
「はい、駐在武官事務所。ええ、確かに到着しましたが。はぁ、え?」
彼は不思議そうな目つきでジョンの方を見た。
「お前さん、いったい何者なんだ? 連邦宇宙軍の中将閣下からのご指名だ」
「ほう、貴公があの方の長男か」
「はい」
ジョンは控えめな表情でこたえた。
父と連邦軍大学校で同期であった上官達が示す独特な反応に、彼はもう慣れ切っていた。
「父上は御健勝か?」
「最後に会ったのは、地上軍への異動を受け、地球に降下する前のことでした」
「まぁ、こちらにいる間、大いに勉強することだ。地球連邦軍は間違いなく一流だからな」
「はい、心掛けます」
「可能な限りの便宜は講じてあげよう。それが貴公の任務であるし、父上に対する恩返しでもある」
ジョンは中将の言葉をありがたく受け取るつもりでいた。
ジョンの父親と同世代の地球連邦軍将校達の中には、
彼によって自分の経歴が救われたと信じている者が少なくないことを知っていたからだ。
そして、彼は他者からの好意を無意味な自尊心で無駄にするほど若くは無かった。
一月から始まった戦争によって、そのような感情はどこかに消えていた。
当初、一ヶ月ほどですむはずだったサイド7駐在は長引いた。
彼が滞在している間に、ジオン公国軍は二つの宇宙要塞を完成させ、
サイド6への帰還を困難なものとしてしまったからだ。
そのため、彼は一年戦争の残りの期間をサイド7で過ごすことになってしまった。
「見ろ、これがMSと呼ばれる兵器だ!」
サイド7にやってきてから二ヶ月あまりが過ぎたある夏の日のこと、
グリーン・ノア郊外の地球連邦宇宙軍兵器試験場で、ジョンの上司が言った。
彼はジョンを伴って、連邦宇宙軍が友好国武官達に公開した新型MSを見学していた。
「RX-75ガンタンク。主砲120ミリ、装甲はどうかしらんが、我々のドラケンなど比べ物にならん」
戦車に人間の上半身を乗せたような形状と、円形の断面を持つ砲塔から太く長い砲身を突き出している
連邦軍のMSを見つめている上司は、まるで女子中学生が異性関係について語っている時のそれに似た表情を浮かべていた。
ジョンがその独特のフォルムを持つMSに感銘を受けなかったと言えば嘘になる。
分厚い装甲版で形成された砲塔。いかなるジオン軍MSも遠距離で撃破可能な主砲。
重ねあわされるようにして配された転輪。腕に装備された無数の噴進弾。
全てが男性的な象徴性を有していた。
男であればそれらが発する禍々しいオーラに抗うことはできないだろう。
それは純粋な暴力だけが持つ強烈な魅力を周囲に発散していた。
「しかし、どうでしょうか?」
MSから発せられる何かに魅入られることを避けるように、彼は上司に尋ねた。
「質問は明確な言葉で行え」
あれこれと連邦軍の技術将校に質問していた上司が煩そうに言った。
「連邦軍は何のためにこのMSを作ったのだろうか、ということです」
「ジオンのMSに対抗するためだろうよ」
「はい、もちろんそうでしょう。自分がお尋ねしたいのは、
このMSが想定している戦術的な運用環境と言うべきものです」
「戦術的運用環境?」
「一見したところ、このガンタンクは機動性が高いようには感じられません。
というより、機動性以上に砲力と防御力を重視して作られたと表現すべきでしょうか」
「確かに、そうともいえるな。いや、その通りだ。お前さん、よく勉強しているな」
「であるならば、連邦軍が最初に何を考えてこのMSを開発したのであろうと」
ジョンは雄大な砲身に注目しつつ、自らの疑問に自力で回答を見つけ出した。
「運用される環境はただ一つということになります。防御戦です。
ジオンが地球で行った伝統的な電撃戦には、まったく向いていません。
あるいは、陣地突破戦闘に使用される場合もあるでしょうが、そのような機会は限られているでしょう」
「なぜだ?」
「このMSの重量はどれくらいだと思われますか?」
「まぁ、戦闘重量で80トンというところだろうな」
「それが答えです。80トンもの希少金属を必要とするMS、
つまり値段が高く生産性の低い兵器を消耗が激しい陣地突破戦闘に何回も使えるのでしょうか?
それにこのMSを宇宙で使うことはないでしょう。キャタピラを含む下半身はAMBACとしては機能せず、
単なるデッドウェイトになるでしょうから」
「お前さん、かなり物騒なことを口にしているな」
「かもしれません」
ジョンは苦笑しながらこたえた。
「地球連邦はかなり危険な状態だと考えられます。
そうでなければ、地球上での防御戦闘にしか使えないMSを開発するはずがありません」
「しかし、技術的には優れている。学ぶべきところも多い。
正直な話、我々にこれと同じMSを開発することはできんよ」
「はい。絶望的ですね、技術力の差というものは」
なんとか完成したので投下しました。
ジョブ・ジョンの経歴が何だか怪しいものになっております。
サイド6保安隊→WBクルー(半ば強制的に連邦軍に志願)
→一年戦争後連邦軍を除隊→サイド6航宙自衛軍
ガンタンクは確かに連邦の危機的状況を象徴しているなぁ
……って、開発はいつ頃からやってるんだよって話になるが。
一年戦争が一年で終わるのが悪いんだ!とキレる事にする。
ともあれ乙。
続き楽しみにしてます
乙
連邦はなんでガンタンクを作ったんだろ?
MSに有用性があると知ってMSの開発に着手したのにタンクもどき…。
足のノウハウがなかったからじゃね?
アシモが二本足で自重を支えられるようになるまでどれだけの苦労があったかを考えるとありえなくはないと思うんだが
まずは地上からジオンを追い出すのが先決だ
↓
地上ならキャタピラでもいいんじゃない?
みたいな感じじゃないの?
>>499の言うように二足だと開発に時間がかかるだろうけれど、
手はマニュピレーターではなく鉄砲&キャタピラならそれよりは短い期間で開発できるだろうしさ。
501 :
sage:2008/08/23(土) 23:21:23 ID:tPNR2wYY
3.Tem Ray
一年戦争で地球連邦軍が攻勢を決定した時、ヨハン・イブラハム・レビルはこう尋ねた。
「これが終わりの始まりだろうか?」
地球連邦軍最高司令官の答えは、長く人々の記憶に残ることになった。
その後の歴史を考えれば、始まりの終わりに過ぎなかったのだが。
宇宙世紀0079年9月、サイド7グリーン・ノア。
地球から見て月とは正反対のL3点付近にある建設が開始されたばかりであった寂れたコロニーが、
MS開発者にとってイェルサレムにも似た重みを持つ場所へ変貌したのは、宇宙世紀0079年2月のことだった。
当時の宇宙軍中将、後に地球連邦の実権を握ることになるレビル将軍に、
宇宙軍兵器局ジョン・コーウェン技術大佐が本格的なMS実験場の必要性を説いたのだった。
閣下、あのテム・レイという天才に何かをなさしめるためには、それが必要であります。
レビルはコーウェンの進言を受け入れ、実験場の建設を許可した。
寂れたコロニーを秘密実験場兼研究開発センターとするには、貴重な物資と人命が消費されていた。
一時期、上層部の無理解から開発優先順位を下げられ、計画が停滞するという時期もあった。
だが、後にガンダムとして知られるようになるRX-78の研究進展、それを知ったレビルの大演説を受け、
施設の規模、人員は拡大の一途をたどった。最盛期といってよい現在では、13ヶ所の試験場が設置され、
約二万名の人員を抱えた宇宙最大のMSセンターとなっていた。特に人員の面では、
ジオンが70年代末に、ルナリアンが80年代初頭に、サイド6が90年代にようやく達成できた数だった。
ジョンがその実験場を訪れたのはそうした時期のことだった。
「同地の見学が貴官らに許可された理由は、
レビル閣下のサイド6に対する好意と信頼ゆえであることを御了解いただきたい」
グリーン・ノアでジョンと、もう一人のリーア人(宙保側から派遣された技術将校)は、
そのような警告を受けた。秘密兵器をリーア人に見せることについて、
連邦宇宙軍兵器局が積極的でないことは、その口ぶりからも明らかだった。
それもそのはず、機密保持の下で進められてきたV作戦が彼等の視察を許した理由は、
その実権をレビルから奪おうとしている連邦地球軍が、政治的嫌がらせの一環として行ったものであった。
実験場を訪れる部外者は、ジャブローのモグラの手先も同様と受け止められていた。
「保安隊からは君一人かい?」
技術将校は尋ねた。
「はい」
「しかし、君は技術者ではないと思われるが」
「他の者は別の任務に携わっておりまして、動けるのは自分ひとりなのです」
「ふぅん」
技術将校は、組織人に特有のセクショナリズム的感情を伺わせる発音で唸った。
「いずれ、今回の視察に関する御質問が、専門の者からあると思います」
「おいおい、我々に頭を下げるつもりかね?」
「ジオンの次の標的は我々かもしれません。
仲違いしている場合ではない、そういうことです」
「分かった。こちらが纏めた後なら、いくらでも教えてやろう」
技術将校は破顔してうなずいた。
「ありがたくあります」
ジョンは内心の緊張を緩めた。自分が同行することになった男が、
保安隊のことを嫌っているだけで、根は善人らしいと分かったからだ。
グリーン・ノア市街から実験場へは、連邦軍のエレカを用いていくことになった。
運転手は地球連邦宇宙軍のリュウという名の曹長だった。
実験場までは必ずしも順調な道のりではなかった。何度も憲兵に停止させられたからだ。
「今度は何が起きたんだね、曹長?」
四度目の停車を命じられた時、耐え切れなくなった技術将校が尋ねた。
「申し訳ないです。しばらくお待ち下さい」
曹長は嫌な顔ひとつせずに、停止を命じた憲兵に理由を聞くために外に出た。
その時、1kmほど後ろの宇宙港発着口から轟音が響いてきた。
「ほぅ、なんだね、あれは?」
ジョンは前方から近づいてくるものを見つめた。MSであることは一目で分かった。
傾斜した装甲版で形成された機体の上に、砲塔をのせている。砲身は短い。240ミリだろう。
「RX-77-2ガン・キャノン」
ジョンはそのMSの名をいった。
「最新鋭のMSです。同じMSのガンタンクとは全くの別物ですね。
連邦軍はあれで撃破できないジオン軍MSはないと断言しています」
二足歩行のMSが彼等の乗るエレカの傍らを通り過ぎた。
100mほど間隔をあけて、同じ機体が近づいてくる。そのMSの目的地はジョンと同じらしかった。
「頼もしいねぇ」
技術将校は興味深げに、通り過ぎて行った三機のMSの姿を眺めていた。
「しかし、路上を自走させるのはどんなものかな?」
「よくはありませんね」
ジョンは技術将校の鋭さに、素直な感銘を受けつつ同意を示した。
「これだけ大きなMSともなると、あちこちに無理がかかっています。
まぁ、試験機でしょうから故障しても構わないのでしょうがね。
実戦であんなことをしていたら、半分も戦線に投入できないでしょう。
これは聞いた話ですが、ジオン地球攻撃軍の最大の敵は、重力と雷らしいですよ」
「うん、それに。あの砲塔、あまりよくないね」
技術将校は、砲塔を指差しながら続けた。
「見たまえ、砲塔が丸みを帯びているだろう。下方に対しても傾斜がついている。
あれでは砲塔に命中した敵弾を機体上部に誘い込むことになる」
「確かにそうです。よく気づかれましたね」
「何、たいしたことではないよ。戦艦で中世の頃から問題となっていることだ」
技術将校は相変わらず歩行していくMSを眺めていた。
第三節の前半部分を投下しました。
後半もなるべく早く投下したいと思います。
投下乙です。マターリお待ちしておりますので無理はなさらずに‥
厳しい警備が目立たぬように行われている実験場に入ったのは、その日の午後になっていた。
既にほとんどの実験は終わっており、本格的な視察を行うのは翌日になった。
案内役に付けられたモスク・ハンという名の地球連邦軍大尉は、
包囲されたバイコヌールから軍命令でこのMSセンターへ転属した男だった。
学生時代、ミノフスキー電磁気学を専攻していたことがその幸運をもたらしたのだった。
もっとも、脱出しようとする兵士で溢れ返った発射基地で、
HLVに乗り込む以前に凍傷で足の指を何本か失ってしまったが。
彼はジョンと技術将校をエレカに乗せると、試験場を南側から順に案内していった。
二時間ほどあちこちを見学した後、大尉は北に向かうよう運転手に命じた。
エレカは十分ほど北に続く道を走った後に停車した。
「さて、ようこそサイド6将校諸君!」
大尉がおどけた口振りで言った。
「右手にありますのが、当施設最大規模の第7MS実験場になります。
いわゆるV作戦の最も見栄えのする実験が実施されている場所であります」
蒼、赤、白のトリコロールに塗り分けられたそれは、
ギリシャ神話の古代神のような巨体と神々しさを兼ね備えていた。
機体の周りでは、実験の指揮と支援に当たる人々が忙しく働いていた。
「お気持ちは分かりますが」
大尉はその機体に近づこうとしたジョン達に言った。
「あまり近づかぬ方が身のためですぞ。
働いている者達は実験続きで気が立っております。
それに、あの巨体に踏み潰された者もいますからね」
「ご冗談を」
「いえ、先月実際に発生した不幸な事故であります」
彼等の会話を片側の耳だけで聞きつつ、ジョンはそれを見つめていいた。
魅入られてしまった、そういってよかった。そこに示されているものは、
単なる力の具象化ではなかった。それ以上の何かを象徴していた。
そして、もう一方の耳に、別の会話が流れ込んできた。
「残念ながら、レビル閣下はわかっておられない」
「すると、あくまでも?」
「そうです。疎開地を隠れ蓑にした秘密基地こそが安全だと考えておられる」
「それもひとつの正解だと思われます」
「確かに。ジオンがサイド7に疑いを抱かないのならば、
そして私達がこのコロニーを守りきれるのならば、ね。
だが、実際は奴等が実験施設を発見したが最後、数十機のMSを繰り出して叩き潰してしまうでしょう。
加えるに、現在の我々にはジオン軍のサイド7侵攻を阻止する戦力はない」
「それだから、あなたの主張されている」
「そうです。現在の戦況では、MS開発は地球に建設するのが一番です。
ありとあらゆる人員機材を全て地下に配置する。ジャブローならばそれが可能です」
「大佐、教授!」
モスク・ハン大尉が二人の男に呼びかけた。それに気づいた彼等が近づいてくる。
ジョンと技術将校は大佐と呼ばれた男に敬礼した。
「視察に見えたサイド6の方々です」
モスク・ハン大尉が伝えた。
「ようこそ、我等が実験場へ。ジョン・コーウェンです」
技術将校の態度が変わった。
「するとあなたが、あのV作戦を主導なされている、コーウェン大佐ですか? 光栄です!」
「何、それほど難しい仕事ではありませんよ」
コーウェンは嬉しそうに微笑んだ。
「本当に困難な仕事をしているのは彼です。
諸君、RX-78開発を主導する人物を御紹介します。テム・レイ技術大尉です」
「はじめまして」
「貴官は随分と熱心に私のMSを御覧になっておりますな」
ひとしきり儀礼的な会話が交わされた後で、テム・レイが神経質そうな表情をジョンに向けた。
「いえ、あれを見ているうちに、思い出したことがあったのです。大尉殿」
「聞かせていただけまいか?」
何か批判するつもりなのか、自分の能力に確信を抱いている者に、
特有の欠点を示す表情で、テム・レイは尋ねた。
「くだらないことです。この戦争が始まる前に読んだ小説を思い出しました。
あなたのMSをもう少し改造したならば、その小説に描写されていた情景を
現実のものにできるのではないかと。そんな空想を抱いてしまいました」
「もう少し明確に」
急に真剣な表情になったテム・レイはさらに尋ねた。
「つまり、あなたのMSは、外宇宙で人類を活動させうるものになるかと」
「ジョン君といったね。あなたは私の友人であるらしい」
三十分ほど後に行われたRX-78の起動実験は、
ジョンに決して薄れることのない衝撃と感動、そして未来と勝利への期待を抱かせた。
数時間後、名残惜しそうにジョンへ別れを告げたテム・レイに敬礼をおくり、
技術将校とジョンは実験施設を後にした。
「君は意外と空想家なのだな」
車中で技術将校は呆れたようにいった。
「外宇宙に殖民とはね。まったく、大したものだ」
「あくまでも可能性の話ですよ」
ジョンは反発を抑えた表情でこたえた。
「可能性は人類を行動へと駆り立てます。考えてみてください。
100年前にコロニーなど存在しなかったのですから。いつかは絶対に可能になるはずです」
「その前に」
地球連邦が無くならなければね、そう言いかけた技術将校は、
エレカを運転しているのが地球連邦軍人ということを思い出していた。
「まぁ、何にしても、勉強にはなったな。いい土産話にはなる」
「土産話ですか?」
「ああ、悪い。言っていなかったね。私は来週、
サイド6との連絡業務の艦艇に便乗して帰国する予定なのだよ」
「無事に帰国できることをお祈りします」
「安心したまえ。あれに関する報告書は、約束どおり保安隊の方にも渡しておくから」
「ありがとうございます」
報告書は提出されなかった。保安隊だけでなく、技術将校が所属する組織にも提出されなかった。
一週間後、彼の便乗したサラミス級巡洋艦は、サイド7の宇宙港を出発したが、
シャア・アズナブル少佐率いるファルメル戦隊に発見され、撃沈されたのだった。
前回の続きを投下しました。
これで過去の話は終わりです。
次からはまた時間軸が動き出します。
投下乙
乙ほす
4.For us to Decide
MSというものについて、ほとんど技術的素養を持たぬジョンが、
一年戦争後、MSに関わって(特にその非技術的側面での支援で)きた理由は、
宇宙世紀0079年のあの一日、そしてホワイトベースでの三ヶ月で体験した現実が直接的原因となっていた。
間接的には、年少の頃から空想的な物語を読むことを趣味としていた父親の影響があった。
テム・レイは父親がコレクションしていた、旧世紀のサイエンス・フィクションという、
特殊な文学を部分的に再現していたのだ。ジョンも父親の蔵書を読む機械が何度もあったのだ。
現実のRX-78(V作戦で開発された機体全て)を目撃したことが、
彼が無意識のうちに自分へ施していたすり込みを表面化させた。そう考えるべきであったかもしれない。
「映像の宇宙世紀か」
新聞のTV欄を見ていた父親が驚いたように呟いた。
「もうTVで再放送ですか?」
「ああ、NHKだ。第四集のギレンの野望だぞ。見なければならんな」
父親の声には、いささか緊張した場面を逃れるきっかけをつかめた安堵が含まれていた。
宇宙世紀になっても日系コロニーで受信料を集め続けている組織に、彼は初めて感謝した。
そのような様子を見て、ジョンは父親も大抵の部分では並の老人であると思った。
いつまでも東南アジアの密林で凄惨な戦闘を指揮した歩兵指揮官ではいられないのだ。
台所から、ジョンの妻と妹が冗談を言い合う声が聞こえてきた。
彼は必要以上に新聞を熱心に読んでいる父親を横目で見た。
そして、果たして何時まで両親が健在だろうかと思った。
毎年このように帰省する故郷は、あと何年存在し続けるのだろうか。
両親がいなくなれば、墓参り以外では帰ってこないだろう。
ジョンはいつか訪れる光景を思い浮かべていた。
父親がTVをつけた。NHKは律儀なことに元旦から報道番組を流していた。
「……と述べています。これに対しブッホ・コンツェルンは、
同社のMA搭載型宇宙ロケットは、第一に民需を念頭に開発されたものであり、
一部で言われている戦略反応兵器への転用を行う意図は無いと、
先日行われた取材に回答しました。同社研究所の開発部長フランクリン・ビダン氏は、
宇宙世紀0087年度中に最低8回の発射実験を行うと明言しました。
ブッホのこうした対応について、サイド6技術研究所の関係者は、
私企業による営利目的の深宇宙探査はその学術的純粋性を失わせるとの懸念を……」
「くだらないな」
ジョンは画面を見ないで言った。
「しかし、ブッホの運用方法自体は間違っていない」
「その点では、連中、地球連邦よりも現実を見ている」
画面にはロケットを抱えているGP-03が映し出されていた。
「この話はお前達の方にも関わってくるんだろう?」
「うん、順当にブッホでしょうね。ルナリアンの協力は仰げないですし。
アナハイムがハイザックの量産で手間取っている間に話を決めてしまうようです。
あ、これはいうまでもなく防衛機密ですよ」
「お前は関わらないのかね?」
「まだ、今のところは」
画面にはインタビューを受けている男の顔が映っていた。
ジョンはその顔を何年か前に見たことがあった。
「何とかして参加して欲しいものだな」
父親は息子に言った。
「たとえ超光速移動が実現できなとも、
異星人を撃滅する秘密兵器を備えていなくても、
ロボットはロボットなのだ。素晴らしい仕事だぞ」
息子は父親に微笑を浮かべた。
「その点は否定しませんよ、父さん」
久しぶりの投下です。
前節に比べて第四節は短くなりました。
次はアクシズの話になると思います。
乙。
if小説だったら、原作よりもかっこいいテム・レイ先生も見たいんだぜ。
5.Project Zeorymer
そこは戦艦の王の住処だった。
まるで公国を象徴じゃないか、グワダンを訪れるたび、エリオット・レムはそう感じた。
ザビ家の生き残りのために、贅をこらせて装飾した謁見の間は、
アクシズという辺境にあっても王侯貴族並みの贅沢を楽しむことができていた。
以前はマハラジャ・カーンに、現在はハマーン・カーンに呼び出されるたび、
レムはこの赤い戦艦を訪れた。彼の主導するアクシズの開発計画は、
地球連邦のそれに対する優位を維持し続けていた。
10月には地球圏にアクシズが帰還する予定であったから、
計画の順調な進行は上層部の安心材料となるはずだった。
摂政執務室に過剰な装飾は施されていなかった。
美貌とニュータイプの素質を有している部屋の主は、
その心根においていかにもジオン的な人物であった。
摂政ハマーン・カーンは、政治的ライヴァルを排除して権力の階段を上り詰めた後も、
その資質を失っていなかった。ある意味、ギレン・ザビ以上の指導者とも言えた。
彼女は公国が建国以来始めて手に入れることのできた、温情主義的な支配者でもあった。
程度問題であることは確かだが、命の意味について知っている女性であった。
生命をあまりにも粗末に扱いすぎたギレン時代への反動、
あるいは権力奪取の正当性の確保と言う面があることは間違いなかったけれども、
ハマーンは政敵に対して驚くほど寛容だった。旧政権を中枢から追い払った後も、
彼女は年金を与えたり、閑職につけたりするという補償を行ってやった。
何とも温情的な「粛清」と言えよう。
かつてのザビ家の長男ならば、家族ともども抹殺したに違いない。
そんな彼女のことをレムは好いていると言ってよかった。
警戒心を持たぬわけではないが、好意の方がより大きかった。
理由は述べるまでもない。彼女は、巨費を投じた計画の推進をレムに任せているからだ。
そして、彼女は重要人物をそう滅多やたらとキケロへ追い払いはしない。
「よく来てくれた、同志主任設計官」
質素な執務室に置かれた大きめの執務机の向こう側で、
とても二十歳には見えない女性が腰を上げた。
「お招きにより参上いたしました。ハマーン様」
「楽にしろ。そこの椅子をこっちに持ってきて掛けてくれ」
「はい」
「煙草を吸え、気を楽にしろ」
ハマーンは命じた。
「今日は、貴様に正直になってもらわなければならない」
「何でしょうか」
レムはわずかに背筋を振るわせた。彼は強制収容所に送られたことを思い出していた。
権力者の発言に過剰反応を起こすのは仕方がなかった。
しかも、目の前にいる人物は人の心すら読めるといわれるニュータイプなのだ。
「気を楽にしろと言ったろう」
ハマーンは笑った。レムは危うくハマーンの虜になるところだった。
この笑顔を見られるならば、命も惜しくない。
そんな連中が多数存在する理由が分かった気がした。
「君の得意分野の話だ。反応兵器をどれだけ増産できるものか、それについて意見を聞きたい」
「種類によります」
安堵を抱きつつレムはこたえた。
「例えば、Mk-82のような酸化融合弾の場合は非常に手間がかかります。
所謂通常の反応・融合弾ならば、アクシズでもある程度の量産が可能です。
何しろ、独立戦争以前からのノウハウがありますから」
レムはそこまで言って、一度言葉を切り、不思議そうに尋ねた。
「しかし、このようなことは工場の連中に尋ねれば分かることでは?」
「連中は真実を言わない」
ハマーンは吐き捨てるように言った。
「正直にこたえれば、自分への評価が下がると思っている。
いえ、ハマーン様、生産に困難はありません!
はい、ハマーン様、たとえ月産100基でも可能です!」
ハマーンは呆れるような表情で言った。
「問題は、連中が本当にそれを達成してしまうことなのだ!
とりあえず部品を揃え、とりあえず組み立て、とりあえず出荷し、とりあえず実戦部隊に配備する。
誰もそれが本当に使えるものなのかどうか調べようともしない。責任問題がどうなるか見当もつかないからな」
「軍は工場の連中が悪いと言い、工場は軍の管理が悪いと言う。
すると誰かが、元の設計に問題があると言い出す」
「まさにその通りだ。そして、設計者は自分以外の全てが悪いと言うのだろう。
そして、最も影響力の小さかった誰かが責任を取らされる。
あいかわらず、真実は闇の奥だ。闇といえば、まだ少女だった頃を思い出すよ。
私はフラナガン機関で様々な実験を受けさせられたのだ。
ノーマルスーツだけで漆黒の宇宙に放り出されるのは、何とも恐ろしい体験だった」
「昔のことです」
レムはかすかに首をふった。
「恐怖は人間に染み付き、精神を歪めるぞ。貴様も体験したのではなかったか?」
「ハマーン様、あなたは私にMSを、ロケットを与えてくれました」
「私ではない、エリオット・レム。ミネバ様だ。あの方が貴様に与えたのだ」
「はい、もちろん」
「ならば、ミネバ様の信頼にこたえてくれ」
ハマーンは笑みを浮かべたまま尋ねた。
「我々には、どの程度の反応兵器の量産が可能なのか?
地球連邦を焼き尽くせるような反応兵器をだ」
「月産数基というところでしょう」
レムはこたえた。
「多くても五基はこえません。さらに、そのうち確実に作動するのはその半分程度でしょう。
今のところ、ギガトン級の威力を持つ酸化融合弾頭は、工業製品というよりは芸術品なのです」
「どれほどあれば実用化できるのだ?」
「おそらく、最短でも十年、悪い場合はその倍は必要になるでしょう」
「そうか」
「増産はひどく難しいものになるでしょう」
「従来の反応兵器はどうだ?」
「無理をするならば、量産は可能です。
ああ、反応弾頭をMSに搭載する場合、色々と面倒になりますが」
「例えば、半年以内に実戦部隊に配備することは可能か?」
「難しいでしょうね。本国とアクシズでは生産設備が違いすぎます。
それよりも、既に生産されている反応兵器を整備するほうが、短期的な戦力拡大につながると思います」
ハマーンはしばらく考え込んでいたが、数分後、彼女には珍しく明るい顔になってレムに尋ねた。
「さて、今度は貴様の夢を聞かせてもらおうか。例の貴様が開発している冥王星ロケットの事だ。
ジオン公国は最初に独立したコロニー国家であり、最初のMSを開発した。
となれば、冥王星に人間を送り込むのも最初でなければならない」
「もちろんです」
レムは笑みを浮かべてうなずいた。
「我々はまず無人探査機による探査を行います。これにはエンドラ級用の熱核融合ロケットを用いる予定です。
冥王計画そのものには、試作スクラム・ラムジェット混合推進を用いた超大型ブースターを用いる予定です。
これは将来的に、サダラーン級機動戦艦にも使用できるでしょう。
私がゼオライマーと仮称しているこの超大型ロケット・ブースターと、
従来のロケットを併用して冥王星探査船を幾つかのパーツに分けて建造し、これを木星軌道で次元連結させ…」
長広舌を続けるレムの胸中には幾つかの疑問があった。
正直言って、ハマーン・カーンが何の用事で自分を呼びつけたのが分からなかったのだった。
果たして本当の用事はなんだったのだろうか。見当がつかなかった。
まぁ、いいさ。レムは思った。そのうち分かってくるはずだろう。
それに収容所へ放り込まれた頃よりひどい経験を味わうこともあるまい。
少なくとも、今の自分には希望があるのだ。
投下終了です。今回で第二章が終わりになりました。
次の第三章でようやく戦闘が勃発すると思います。
投下GJです!!
ってかタイトルで吹いたwwwゼオライマーはねーよwww(製作者的に)バッドエンドフラg
乙カレー
はいはい冥王計画冥王計画
そんなレムの夢は放置され、ついに戦争のお時間ですか。
地球で使う反応兵器はおっきな爆弾じゃないってのは、宇宙人にはわからんのだな
五島勉ネタはまだか?
機体age
第三章 発射命令(破滅の日)
「かくして役者は全員演壇へと登り、暁の惨劇は幕を上げる」
――ジオン公国親衛隊少佐、モンティナ・マックス
1.終わりの始まり
「連中、本気だ」
航宙幕僚監部にいたジョンもとへ航宙総隊司令部の友人から電話があったのは、
宇宙世紀0087年10月21日午後1時のことだった。
「本気は前から分かっている」
ジョンはこたえた。
「じゃあ、訂正する。やる気だ。ゴップが決断した。
世界中の基地でデフコン2が出ている。こっちも付き合わざるをえん。
地球の方でも何か始めたらしい。月面も妙だ」
「もう一方の動きはどうなのだ?」
「対応している。近くのサイドはかなり忙しい思いをしている」
「面倒な話だ」
「とにかくそういうことだ。切るぞ」
「何かあれば連絡をくれ」
「それができればな」
地球連邦体制とは、地球連邦軍によって加盟国の安全保障を行うシステムだと説明されることが多い。
しかし、その実態は(特に緊急時には)、別の姿が明らかになる。
それは、自国を地球連邦の安全保障の材料として組み込むことで、
自国の安全を確保するというシステムなのだった。
そこから生じるリスクと利益を考えた場合、非常に合理的な取引といってよかった。
加盟国は、滅多に発生しない緊急事態を除き、
地球連邦が宇宙規模で展開する戦力によって、安全を確保されるからだ。
だが、現在のような情勢の場合、あえて受け入れたリスクが様々な問題を引き起こす。
例えば、ほとんど誰も知らぬうちに、連邦軍に合わせて、自衛軍の戦闘準備態勢が整えられてしまう。
サイド6側から見れば、面白くない事態であることは確かだった。
それは、ジョンのような将校達も例外ではない。
そのためだろうか、自衛軍のあちこちには、情報を公式のルートより早く「友人」に流し、
事態の早期把握を心づけるという私的なネットワークが存在していた。
先程、ジョンに電話をかけてきた「友人」は、そのネットワークの参加者の一人であった。
彼の所属している航宙総隊司令部は、サイド6駐留の地球連邦宇宙軍第五艦隊司令部と
同じ建物に置かれているから、情報は正確であるはずだった。
こんなところだろうな。ジョンは電話を切った後に推測を始めていた。
ゴップは、サイド3に配備された反応弾頭ミサイルの排除、
艦隊決戦とコロニー上陸作戦によるサイド3侵攻を決定した。
戦力は、いうまでもなく地球連邦側が圧倒的な優位にあり、
電撃的な勝利が可能、そう考えたのに違いない。
ジョンは推測を続けた。
ゴップは、短期間のうちにサイド3を失えば、アクシズは降伏するだろうと判断した。
ゴップは、自らの判断の正しさを証明する材料を持っているのだ。
それが何なのか、自分には分からないが、よほど確実性の高い情報に違いない。
ジョンの推測は正鵠をいていた。
ゴップにサイド3侵攻と言う決断を下させたのは、ようやくのことで実用化された新型偵察機と、
連邦が持っていた貴重な「資産」、マイク・サオトメが流したアクシズの詳細な情報であった。
アイザックは、アクシズのICBMがこれまで予想してきた数よりはるかに少ないことを証明した。
サオトメのもたらした情報は、サイド3問題に対して、恫喝的な発言を繰り返すハマーン・カーンが、
実際のところ軍をまともな準備状態に置いてないことを伝えてきた。
ゴップは、他の情報をこれに加えて判断し、サイド3侵攻を決断した。
(しかし、どうだろうか?)
ジョンは疑問を抱いた。
(ゴップは正しい判断を下しているのか? どうにも怪しげなところがある)
確かに、ゴップに伝えられた情報の多くが真実であった。
と同時に、真実の一端を示しているにすぎなかった。
偵察機はアクシズが配備したICBMの全てを撮影する前に撃墜されていた。
そして、マイク・サオトメはダブルスパイであった(後に判明したことだが)。
さらには、アクシズがここ数ヶ月で量産した酸化融合弾頭がどれだけあるのかも把握できていなかった。
例えば、アクシズが奪取したア・バオア・クーに核パルスエンジンを備え付けていることを彼等は知らなかった。
ハマーン・カーンが戦略軍(反応兵器を扱う独立軍種)さえ高度な準備状態に置いておけば、
いかなる状況にも対処できると信じていたことも知らなかった。
地球圏へ偵察に来ていたシャア・アズナブルが、ゴップ政権の地球連邦政府を見て、
人類に対する失望を深めていたことも知らなかった。地球のジオン残党が、宇宙での危機、
その激化に呼応して、生き残った潜水艦隊の全力出撃を命じたこともつかんでいなかった。
どうも信用できない、とジョンは思った。
大体、地球連邦とは、競争相手のドクトリンを根本から誤解していたではないか。
これは歴史上の大国が必ず有していた中華思想に起因したものであった。
地球連邦は特にこの種の意識が強い。彼等は自らの正しさを確信している。
敵性勢力が、自分達と同じ判断基準を持っているものと信じているのだ。
彼等が打ち出す政策は、このような意識から決定されていた。
彼等は彼等なりに線密な分析を行い、方針を決定する。
自分達が相手をする者達が、自分達とは生まれも育ちも違い、
それ故に物の見方も違っているとは絶対に考えない。
例えば、宇宙世紀0079年1月3日、ジオン公国軍が奇襲攻撃をするなどという事態は、
彼等の判断基準からすればありえないことであった。勝てるはずもない戦争を行う国など存在しない。
彼等はそう信じていた。地球連邦は、独裁者に率いられ、追い詰められた集団が激発するなど考えもしなかった。
今回、ヘルマン・ヴィルヘルム・ゴップが下した決断も、過去と同じ過ちを犯している危険性が強かった。
彼のあやまった世界観に導かれた決断であるかもしれないのだ。
特にアクシズ(ジオン)の軍事ドクトリンに関する認識が怪しい。
ソロモンが落ちた時、国力のないジオンは和平交渉をすると断言したのは、彼ではなかっただろうか。
反応兵器体系が導入されて以来、地球連邦はアクシズとの争いが、
抑止力によって冷戦状態になるものと信じられていた。
抑止力、ジョンはその言葉を不思議に思っていた。
確かに、地球連邦がそう考えている、と主張するのは自由だ。
だが、相手であるアクシズが同じように行動してくれる証拠は何処にあるのだろうか。
ジョンは、士官学校にいた頃、敵性勢力とされていたムンゾ人について、あれこれと教育を受けた。
一年戦争後も、ジオン公国軍人だった者達と議論するなどして、自分の認識を深めようと努力していた。
そこから得た彼の認識によれば、ジオンの軍事ドクトリンに、抑止力と言う概念は存在していない。
あるいは、地球連邦はそれを喧伝することによって、無理矢理つき合わせるつもりなのかもしれないが、
ジオンの伝統的な発想からいってそれはありえなかった。
アクシズ・ジオンは、伝統的に攻撃力を重視している。
その行動の基本は、目標に向けて、短時間のうちに、どれだけ多量の火力を送り込めるかにある。
当然、味方の損害を抑えるためには、敵より先に攻撃してしまうことが望ましい。
彼等は、過去のあらゆる戦場で、その実現に努力してきた。
ジョンに言わせるならば、アクシズは、最も強大な破壊力を持つ兵器、
反応兵器を、最も強大な攻撃力として認識しているはずだった。
つまり、その最も効果的な用法は、先制全面攻撃ということになる。
先制と集中。アクシズは、彼等の信奉する二つの要素を、今回も実現しようと考えているはずだった。
そして、彼等は、地球連邦もまた、自分達と同じ判断を行っていると確信していた。
これは地球連邦と同じ歪んだ大国意識が影響している。
ゴップの唱える抑止力など、欺瞞に過ぎないと決め付けている。
彼等に言わせるならば、一年戦争最大の過ちは南極条約にあると断言するだろう。
ジョンは、額に浮かびはじめた脂汗をぬぐいながら、推測を続けた。
彼には、ゴップの決断に対するアクシズの反応が想像できた。
ドクトリンからいって、アクシズは、地球連邦が行動した瞬間、反応兵器全面使用に踏み切るつもりだろう。
ここまで想像できるのに、自分にできることは何もない。
ジョンは自分の立場の弱さに絶望を感じた。
あまりに巨大な軍事力の衝突、そして、回避不能の反応兵器の投げ合い。
サイド6が、自衛軍が、それをとめることなど不可能と言ってよい。
おそらく、ただ恐怖に怯え、アクシズの反応兵器が炸裂する瞬間を待つだけだろう。
自衛軍のMS程度では、アクシズの攻撃を手控えさせることなどできない。
このコロニーは、一年戦争のザーンやハッテと同じ、標的にすぎないのだ。
絶望的といえば、これほど絶望的なことは初めてだな、とジョンは思った。
一年戦争ならば、中立を宣言すれば生き残ることができた。
だが、今回は下手をすると全滅するかもしれない。アクシズが連邦と組んだリーアを見逃す道理はないからだ。
「畜生」
ジョンは我慢しきれずに呟いた。
人類はようやく、外宇宙に手が届くところまで来たというのに、これで本当に終わりなのか?
それと同時に、彼は非公式ネットワークに参加している上官に電話をかけようとしていた。
たとえ絶望的な状況でも、最後まで行動し続ける。それが、彼なりの現実逃避作であった。
投下終了です。
大変遅れましたが、なんとか第三章になりました。
これでようやく冒頭のシーンとつながりました。
この章でも機会を捉えてネタを入れていきたいと思います。
投下乙です
いよいよ始まりますか……
サイド6近海(?)で起こる事になるであろう、対潜(?)戦闘、すごく楽しみにしております。
まさかのア・バオア・クー落とし…地球オワタ。
2. 愛国者どもの宴
宇宙世紀0087年10月20日、地球連邦大統領によってサイド3侵攻が決断され、
地球連邦軍は行動を開始した。ゴップは作戦期日をグリニッジ標準時10月23日早朝と決定していた。
地球連邦軍の戦力は圧倒的であった。
ジーン・コリニー大将が宇宙世紀0084年に唱えた構想によって実現された統合戦略機動兵団、
地球連邦打撃軍(UN.STRICOM)は、ここ数ヶ月ほどの間に作戦準備を完了させていた。
グリプス2からは<ドゴス・ギア>を含む8隻の戦艦を主力とした183隻の艦隊が、
サイド3を包囲しようとしていた。そして、この艦隊は通常の編成に加え、
高高度防空軍から275機の戦術航宙機が転用され、機動兵力1000機に達する強大な戦力になっていた。
また、後詰として、地球軍から装甲擲弾兵12個連隊が輸送されていた。
さらに、この戦力を戦略軍が支援した。反応兵器の封印が解かれ、
地球圏に配備されたICBM、その要員達に警戒命令が出されていた。
宇宙世紀0087年10月21日夕刻、大統領命令に従って行動を開始した全兵力が集結を完了した。
誰もが、48時間以内にサイド3、そこに存在する反応兵器は消滅するであろうと考えていた。
一方、アクシズも連戦体制を完成していた。ハマーン・カーンの戦略に基づき、
艦隊戦力はアクシズに配備されたものだけが動員されたにすぎなかったが、
反応兵器を運用する戦略軍はその全力に動員がかけられた。
ハマーンは、彼女が有する反応兵器をサイド3問題についての最終的カードとして手元に握った。
無論、ミネバ・ザビを守るために近衛軍が動員状態に置かれたことは言うまでもない。
ただし、ハマーンにとってちょっとした面倒の種となったのは、
ICBMの配置を変更しなければならなかったことだった。
彼女は増産されたものをサイド3へ持ち込もうとしたが、それはレムによって否定された。
このため、戦略的重要度が低いと判断された正面、
サイド6を目標として配備されたICBMを転用する必要が発生した。
彼女はそれを実行した。
そのかわりに、サイド6へは、地球連邦艦隊を狙うはずだった、
反応弾頭搭載型ティべ級重巡洋艦一隻を割り振った。
艦艇から発射される弾道弾は命中精度が悪いが、それを大量の弾頭で補っている。
サイド6に関する限り、ハマーンはそれを最初から用い、
地球連邦軍の基地ともどもL4宙域を壊滅させることにした。
地球連邦がサイド3を叩くのと引き替えのつもりだった。
二大勢力は戦備を完成した。彼等は徐々に緊張感を高めつつ、そのときを待っていた。
世界に存在する他の諸国も同じだった。誰にも何を考えているか分からないエゥーゴ、
本人達も自分自身のことがよく分かっていない月面都市群を除き、
世界の大部分は連邦かアクシズいずれかの安全保障体制に組み込まれており、
事態が緊迫した場合、否応なく平時のツケを取り立てられる立場にあった。
ようやく書き込むことができました。
次からはサイド6宙域での戦闘になる予定です。
月面都市群wwww
小出しでは味が無い
ロングスパンで惹きこんでくれ>なかの人
投下乙です
エゥーゴの立ち位置はそこかwww
倉田艇長出てくるのが待ち遠しいです
期待しとるがんばれよ乙
3.策謀の宙域
サイド6航宙自衛軍ユピテル地方隊の第五戦隊に所属する<カリスト>と<エリヌス>は、
徐々に陣容を整えつつある自衛軍航宙艦艇群の中でも、特殊な位置づけをなされるべき新鋭艦だった。
基準排水量2300トン、一年戦争中の艦艇と比べると小船のような彼女達は、
兵装という面からも、これまでの駆逐艦の縮小再生産であり、新味はなかった。
単装メガ粒子砲二門、連装機銃六基、四連装ミサイル一基、機動爆雷投射軌条一基という兵装である。
彼女達において評価されるべきことは、サイドで初めて量産された戦闘艦艇ということについてだろう。
グリニッジ標準時10月22日正午、<カリスト>は、戦隊を編成している<エリヌス>とともに、
ラグランジュ4宙域を航行中だった。軸先は旧サイド2の暗礁宙域へと向けられていた。
そこで不審な熱源を探知したとの通知が、パルダ基地から発進した第二航宙群のパブリクから入ったのだ。
目まぐるしさすらおぼえる自衛軍の組織改変の影響で、変則的な二隻編成の戦隊だけでは、
確実な探知と追尾は期待できない。このため、現場ではパルダから交代で発進し、
哨戒を行っているパブリクと教導で探知・追尾を試みるはずとなっていた。
二隻の駆逐艇は、相互の距離を規定どおり開けた艦隊を組み、全速で作戦宙域へ向かった。
<カリスト>艇長のフォン・ヘルシング二佐は、ジオン公国突撃機動軍大佐として敗戦を迎えた。
彼の商売はその頃から船乗りで、敵艦だけをひたすら追いかけてきた。
一年戦争後、サイド6で新たな艦隊が編成された時、彼は迷うことなくそれに参加した。
それは彼なりの贖罪であった。彼の最後の任務は、サイド6へ反応兵器を打ち込むことだった。
無論、新たな軍への志願者には恩赦が与えられるという実利もあったのだが。
彼は、新たな軍で、公国軍が犯した過誤の埋め合わせをしたいと考えていた。
ジオン公国は、機雷と通商破壊によって崩壊した、彼はそう考えていた。
MS、反応兵器といったものは、機雷と通商破壊によって生じた破局を目に見える形で示したに過ぎない。
数年前、当時の地球連邦地球本星艦隊司令長官だったダグラス・ベーダー中将が発表した回想録の中で、
同様の見解が述べられたことが、彼の意見の正しさを証明していた。
ベーダーは、MSも反応兵器もジオンに対する勝利には必要なかった、そう主張していた。
それらは戦場を悪戯に混乱させ、何もかもを破壊するが、目に見えるほどの現実的効果があるわけではない。
ベーダーに言わせるならば、当時ジオン公国は既に断末魔に陥っており、無理に宇宙反攻を企てなくても、
半年も航路を封鎖しておけば、自然に降伏していただろう、ということだった。
「右30度に機影、近づいてくる」
前方を監視していた小会員の報告が、スピーカーから響いた。
艇長用座席に腰掛けていたヘルシングは、光学式観測機器を構えた。
観測機器に機影が飛び込み、すぐに視界からでた。
「前方の機体は友軍哨戒機」
ヘルシングが機影を再び捉える前に、哨戒員が新たな報告を行った。
「電話よこせ」
ヘルシングはわずかに緊張を浮かべて命じた。常に冷静で、どんな時にも全てを掌握している艦長は、
全ての軍人にとっての夢、伝説といってよい。下士官兵はもちろん、仕官からも自分がそのような艦長に仕える
(あるいは、自分がそのような艦長になる)ことは、軍人の理想として捉えていた。
ヘルシングもその例外ではなかった。彼は自身が伝説の艦長たる資格にかけていることについて、
時たま絶望的な思いを抱くことがあった。ヘルシングは返信した。
せめて声だけは平静に聞こえているようにと願っていた。
「パパ・ヴィクター25、こちらはウルフ01。統合ACWミッションの開始について同意せられたい」
パブリクから応答があった。
「ウルフ01、こちらはパパ・ヴィクター25。君達の到着を待っていた」
「了解、パパ・ヴィクター25、現状は?」
そう尋ねつつ、彼は航路盤に近づいた。既にそこには航海士が陣取っていた。
「不明目標は、現在、期間の前方暗礁宙域に伏在。
何度か観測ポッドを送り込んだが、はかばかしくはない。M粒子濃度には変化無し」
ヘルシングは応答した。
「了解、パパ・ヴィクター25。ウルフ01並びに02は横隊を取り、低速で前進する」
「了解、ウルフ01。これで向こうが慌ててくれたら、しめたもんだ。パパ・ヴィクター25、以上」
「ウルフ01より02」
ヘルシングは<エリヌス>に命じた。本来、戦隊旗艦である彼の<カリスト>には、
隊司令が座乗しているべきなのだが、司令はリボーへ出張中で不在だった。
このため、今は彼が先任指揮官として二隻の指揮を臨時にとっていた。
「君は本艦の右舷正横1500についてくれ。相対速度が確保され次第、行動を開始する」
「ウルフ02、了解」
とりあえず、出すべき指示を出してしまうと、一瞬の空白が生じた。
ヘルシングは、自分が現在遂行している任務の難しさについて、はっきりとした緊張と恐怖をおぼえる。
これが通常の不明目標、つまりアクシズ(ジオン残党)の艦艇を追いかける任務であれば、
どうということはない。向こうが、サイド6付近での行動を諦めるまで、
刺激しすぎない程度の距離をあけつつ、追尾を続ければよい。
しかし、今日は普段と状況が異なっている。
世界は緊張に満ち、反応兵器の応酬はいつかと固唾をのんでいる。
このような状況で発見した不明目標に、どのような対応を取ればよいものか?
ここ数日の間に、超大国の兵力展開に呼応し、自衛軍も高度な戦時体制に移行していた。
彼等は連邦軍のように素直でないからデフコンで直接的な指示を行うことはしない。
だが、実際にはいつでも戦闘を開始できるように準備していた。<カリスト>も<エリヌス>も、
弾薬庫は実弾でいっぱいだった。メガ粒子砲のECAP、ミサイルランチャー、
爆雷投射軌条のそれぞれにも実弾が装填されている。
前方を進んでいるパブリクも、Mk34対艦噴進弾を搭載しているはずだった。
このことについては、ヘルシングにさほどの不満はない。実のところ、地球連邦軍第五艦隊
(その空母機動部隊は、有事の際、L4から月をフライ・バイして、ズム・シティを叩くことになっていた)
の安全を確保するために出動させられていることも気にならなかった。
サイド3をめぐるアクシズと地球連邦の対立は、地球連邦体制があろうとなかろうと、
サイド6へ影響を与えずにはおかない。それは、戦略的要地に存在する国家の地政学的宿命だった。
彼が気に入らないのは、軍人達が反応兵器という下品なものを使用することを当然としていることだった。
どれほど気をつけたところで、その強大な破壊力は、民間人を巻き込んでしまう。
彼は、かつて自らと公国が犯した過ちを償うために自衛軍に志願した。
そうした考えを愚かなものと批判する人間がいることは知っていたが、それはそれでよかった。
かつての公国は、異論の存在を認めぬが故に、必敗の戦争に突入していったからだ。
彼が航宙軍の制服を着込んでいる理由は、かつて守りきれなかった商船とその乗員への贖罪が目的であった。
民間人を殺戮する能力を競う戦争など、軍人が関わるべきではない。
そのような「作業」は政治家に任せてしまえばいい。
彼はそう思っていた。それが現実の的確な要約ともしらずに。
哨戒員の報告が響いた。
「パパ・ヴィクター25。観測ポッド放出」
ヘルシングは顔をあげた。虚空に円筒形の物体がきらめいた。
パブリクは大型機とは思えない機動で、最初に反応があった宙域に次々に観測ポッドを放出していった。
全ては艦隊司令部の滅茶苦茶な命令変更故だ、ホルスト・ハーネス大佐は、腹の奥でそう毒づいた。
彼の指揮する重巡洋艦の発令所は、唾を飲み下すことすらはばかれるほどの静寂に支配されていた。
ホルストの指揮する弾道弾搭載巡洋艦<ペーター・シュトラッサー>は、
地球連邦軍がチベ改級重巡洋艦と呼ぶ改装巡洋艦の二番艦で、
宇宙世紀0085年、アステロイドベルトにあるセレス工廠で、新たな存在へと生まれ変わった。
そのドックで、36基の弾道弾の運用が可能な巡洋艦へと改装されたのだった。
それ以来、<ペーター・シュトラッサー>は、地球連邦を攻撃目標とした訓練に明け暮れていた。
とはいっても、あくまでも弾道弾を地球連邦の目標に打ち込むことが任務であるから、
艦隊決戦のような華々しい内容のものではない。いかに静かに、誰にも気づかれずに行動するか、だ。
地球連邦・アクシズを問わず、弾道弾を搭載した艦艇は、攻撃的な行動を許されていない。
彼女達の価値は、隠蔽された弾道弾移動発射基地である一点についてのみあるからだった。
昨年末に<ペーター・シュトラッサー>の艦長に任ぜられたホルストは、元来戦闘的な男だった。
それまでの任務は、連邦軍がムサイ最終型と呼ぶワーグナー級巡洋艦<パルジファル>の艦長職で、
まったくもって彼の性格に合致した任務だった。
その艦長職で、彼は任務を完璧にこなしていた。それ故に弾道弾搭載巡洋艦の艦長に推挙されたのだ。
アクシズでは、弾道弾搭載型艦艇の艦長職が、他のそれより一段階上の職務と見なされている。
ホルストは、将来彼を待ち受けている提督の地位に座る前に足をかけねばならない階段の最後として、
この任務を認識していた。そうでなければ、彼のような男が身を隠すだけの任務に精進するはずがない。
正直言って、ホルストは弾道弾搭載艦艇の任務を薄汚いものと思っていた。
搭載されている反応兵器は不気味な代物だったし、
それを搭載するためにミサイルなどの幾つかの装備を除いて、主要兵器が撤去されてしまっていた。
「暗礁宙域付近に不明熱源発生」
観測員が報告した。
ホルストは航路盤を覗き込んだ。
おそらく、妙な名前を自称する地球至上主義者の哨戒機に違いない。
観測ポッドを放出して、こちらの位置をつかもうとしているのだ。
「同志艦長」
顔面があおく引き攣ってしまった政治将校が尋ねた。
「どうするのだ? このままでは敵に発見されてしまうぞ!」
「声を落としたまえ、同志マシュマー」
ホルストは、低く小さく、そういった。
政治将校は、実際には艦長以上の権限を持っているため、はっきりと命令することができないのだ。
「貴官の不用意な行動が原因だ! そのために、地球至上主義者共に発見されてしまった!」
政治将校は詰め寄るようにして、ホルストを難詰した。
「いま打開策を思案している。しばらく、静かにしてくれたまえ」
彼には、政治将校の口にしている言葉が全くの言いがかりではないことが分かっていた。
<ペーター・シュトラッサー>がリーア人に発見されたのは、ホルストの命じた加速に原因があった。
だがそれも、元はと言えば無理な命令変更のおかげだと思っていた。
本来、ルナツーを攻撃する任務が与えられていた<ペーター・シュトラッサー>は、
一週間前になって急にサイド6宙域での隠密行動へ任務を変更された。
そのとき既に、<ペーター・シュトラッサー>は遷移軌道にあった。
指定された期日までに待機位置へ進出するため、ホルストはかなり無理な軌道をとらねばならなかった。
サイド6の哨戒機が監視している宙域での加速も、その無理のひとつとして、危険を承知で行ったものだった。
「このままでは、非常命令第8項を実施せざるを得なくなるぞ!」
政治将校が噛み付くように言った。
乗員達は艦長と政治将校の対立に聞き耳を立てている。
「非常命令第8項?」
ホルストは白々しい態度で尋ね返した。乗員に無用の恐怖を与えるわけにはいかない。
弾道弾搭載艦艇は、その任務の性格上、他の艦艇とは異なる行動規定が定められている。
そして、それらは全て「非常命令」と大きく書かれた命令書の形で、出撃のたびに艦長と政治将校に渡される。
その内容は、できることならば絶対に陥りたくない事態、それが発生した場合に取るべき行動規定であった。
第1項、艦長はいかなる場合においても非常命令を尊守すべし。第3項、非友好国領域内で航行不能に陥りたる場合、
当該非友好国に対する攻撃命令の有無を確認せよ。攻撃命令なき場合、艦長は政治将校と協力し、
艦に搭載された兵器を自爆装置として使用し、艦を自沈せしめること。この措置は脱出より優先するものとす。
第6項、非友好国領域内で攻撃を受けたと判断される場合、自衛戦闘を実施すべし。
そして、第8項、攻撃命令を受領したる非友好国領域内で発見・攻撃を受けた場合、
直ちに命令書に記載された攻撃目標へ最大規模の攻撃を実施すべし。
ホルストは何の解答を示してくれない航路図を睨みつけた。彼の隣では政治将校がうるさく尋ね続けている。
観測員が、ポッド放出に加えて、複数の艦艇が行動しているとの報告をよこした。
ホルストは、現状が非常命令第6項に該当するものと捉えていた。
だが、政治将校は第8項の方を相変わらず重視している。
「非常命令第8項の実行を考慮すべきだ、同志艦長」
政治将校が視野狭窄を起こしているような目つきで言った。
「いや、現状では早計だ」
ホルストは首を振った。遅すぎる、彼はそう思った。非常命令第8項には根本的な矛盾があった。
弾道弾の発射は、命令あり次第直ちに行えるものではない。
普段は危険を避けるために空にされているタンクに燃料を充填させ(化学兵器弾頭の場合はG3の注入も行う)、
はじめて発射が可能となる。アクシズでは弾道弾発射に関わるその種の作業を15分で行うように訓練を施していた。
15分、あまりに長い時間だ。ホルストはそう思っていた。敵艦に探知された後の15分。永遠に等しいではないか。
発射作業を行っている間、回避運動は行えない。危険な物質を流し込む時に、衝撃を与えるのは愚か者のすることだ。
おそらく発射作業を行っている段階で、爆沈してしまうだろう。
そういった意味で、非常命令第8項は実行不可能な命令だった。
暗礁宙域周辺で、あらたな観測ポッドの放出が確認された。ホルストの選択肢は秒単位で狭まり続けている。
投下終了です。
両艦長の人選に苦労しました。フォン・ヘルシングはともかく、
ホルスト・ハーネスが原作の何処に登場したか、すぐに分かる人はいるのでしょうか?
次からは軌道爆雷等を使用する航空宇宙軍史的な戦闘が始まります。
>ホルスト
逆シャアだっけ?
ホルスト・ハーネスを検索したら、1p目にこのスレの上級大将が出てきて藁束
マシュマーw
確かにマシュマーやキャラはある意味教条主義者とも言えるかな
4.栄光の落日
最初に放出した観測ポッドの周辺に十二機のポッドを次々に射出したパブリクは観測をそのまま継続し、
新たな物体を投射し始めた。スターシェル。古典的ではあるが、
それが発生させる閃光で敵を浮かび上がらせ、概略位置をつかもうとしている。
概略位置が確認された後は、さらにその周辺に多数のポッドが投射され、
正確な位置をつかむ作業が継続されることになる。
そして、目標が探知され許されるならば、機動爆雷あるいはメガ粒子砲による攻撃が開始される。
<カリスト>はゆっくりと前進を始めた。
どうすべきなのだ?
ヘルシングは、帰還する際の推進剤を全く考えずに、急激な機動を繰り返すパブリクを見つめながら思った。
ここまではいい。いつもの通りだ。いや、発見するまではいつもの通り、そう表現すべきか。
で、発見した後はどうする?
退去勧告を行う。それも可能だ。いや、問題はこちらの行動ではない。
不明目標――ええい、アクシズの艦艇が逃げ出さない場合、こちらは何をすべきなのだ?
例えば、爆雷で威嚇攻撃し、どこかの宙域へと追い詰め、行動の自由を奪って強制接舷して――拿捕すべきなのか?
ヘルシングは取るべき行動について地方隊総監部へと問い合わせていた。
通常ならば、怪しげな艦艇を領域外へ追い出し、その後も追尾を続けて完全に追い払ってしまえばよい。
だが、現状で――反応兵器戦が始まりかけている現状で、そこまでやってよいものか?
それは、新たな(大抵は最後とも表現される)戦争の第一弾となってしまうのではないか?
いまのところ、総監部は返信をよこしていなかった。航宙自衛軍幕僚監部へ問い合わせているのだろう。
現状は地方部隊、ましてや駆逐艇艇長の判断で行動できる状況ではなかった。
ホルストはあがき続けていた。
彼は<ペーター・シュトラッサー>を比較的大きなデブリの裏側へ潜り込ませ、
なんとかリーア人の追跡をかわそうとした。しかし、うまくゆかない。
ある程度の加速をするたびにポッドが何処からか湧いてくる。
現状は第6項に該当する。いや、それ以外に当てはまるものはない、彼はそう判断し、準備を命じた。
「砲雷戦用意、一番発射管は事前調停。二番発射管は熱源ホーミング」
「ヤー」
「攻撃をかけるのか?」
顔面をさらに引き攣らせて政治将校が尋ねた。
第8項などという最も恐るべき命令について口にしながら、
実際に戦闘の危険が近づくと怖くなってきたらしい。
「すぐに、ではない」
ホルストは脂汗の浮かんだ顔面に侮蔑の笑みを浮かべて答えた。
「非常命令の実行は、限界まで控える」
「威嚇のみ許可、だと?」
総監部から伝えられた命令を受け取ったヘルシングは、呆れたように呟いた。
誰もが困惑し、怖がっているのだ。みな、反応兵器戦争の引き金を引くことを恐れている。
不明目標は明らかにサイド6領域内に入り込んでいるから、威嚇すること、
それ事態はかまわないのだが――恐怖が――その決定すら、これほど遅延させた。
それにしても、威嚇のみ許可とは。アクシズの連中がその威嚇に従わなかった場合、どうするのだ。
パブリクが探知した敵艦の行動パターンは、明らかに通常のそれとは違っていた。
おそらくそれは弾道弾を搭載した巡洋艦であるに違いない。
そうでなければ、これほどしつこくこの宙域に固執するはずがない。
巡洋艦の持っている発射データがこの辺りのものしかないことがその理由だろう。
他の宙域では、弾道弾にどんなデータを入力してよいのか分からないのだ。
アクシズの弾道弾搭載艦艇では、その種のデータを艦長の判断で修正することは厳禁されているらしい。
もちろん、正確な軌道計算が面倒という理由もあるのだろうが。
この巡洋艦は、サイド6を狙うべく行動していたものに違いあるまい。
それも――命中精度の低い艦艇搭載型弾道弾の特性から考えて、コロニー攻撃任務だ。
許し難い。ヘルシングは決断した。彼自身の軍人に対する意識が、その決断を指示した。
だが、取り敢えずは威嚇だ。もし、敵艦がそれを無視するようであれば――。
パブリクから通信が入った。
「ウルフ01、パパ・ヴィクター25は、赤外線観測を実施、不明目標の位置を特定する」
「了解、威嚇攻撃の許可は既に発令。ウルフは位置特定後、それを実行する」
「了解、ウルフ01。幸運を祈ります。パパ・ヴィクター25、以上」
数十秒後、赤外線センサが不明目標を確認した。
「センサ探知。赤外線パターンが変化中、エンジンをふかした反応があります」
「加速でもしているのか?」
「加速には違いないですが…進路と直行方向に加速しているようです」
ヘルシングは真方位を確認した。奴はここを離れて――何てことだ。
サイド6領域へさらに入り込んでいるじゃないか。
「対艦戦闘、爆雷の威嚇だぞ」
ヘルシングは命じた。
「対艦指揮室、操艦用意」
「了解、爆雷投射準備。三発。初期加速のみの慣性飛翔に調定」
爆雷長から応答があった。艦を最適位置へ持っていくため、艦長ではなく彼が操艦を行う命令であった。
ヘルシングは、短距離通信で<エリヌス>に呼びかけた。
「ウルフ01より02。これより威嚇爆雷攻撃を実施する。貴艦は当方をバックアップせよ」
「了解、幸運を祈ります」
<カリスト>は爆雷長の指示に従い、軸先を左にふった。
観測員が叫ぶように報告した。
「赤外線反応発生。こちらに向かってくる!」
ホルストは彼の方へ冷たい視線を向けた。
「ああ、申し訳ありません、同志艦長」
ホルストは航路図を睨みつけた。決断する。第6項だな。
ミサイルの調定は既に完了しているから、いつでも攻撃できる。
「面舵一杯。二八五で定針」
「ヤー、面舵一杯」
「一番、二番発射管発射準備」
パブリクからの報告が響いた。
「巡洋艦は回頭中。本艦に反航しつつある――発射管開放確認!」
「やる気か」
ヘルシングは低く呻いた。それならそれでよい。彼の口元には奇妙な笑みが浮かんでいた。
先に発射してくれないだろうか、それならば完全に自衛戦闘の名目が立つ。
「総監部へ報告。不明目標は発射管を開放。攻撃を受けた場合、ウルフ01は自衛戦闘を実施する、以上」
「定針」
ホルストはちらりと政治将校を見つめた。彼は両眼を閉じ、何かを呟いていた。
「ハマーン様、どうかこの私をお守り下さい」
ホルストの口元に皮肉な笑みが浮かんだ。なんとまぁ、この男は自らの女神への祈りを唱えているではないか。
理想的なジオニストとはこうあるべきなのか。
ホルストは命じた。この行動がどのような事態を招くにせよ、もう、後戻りはできない。
「発射管前扉開放」
「ヤー」
射撃統制装置に張り付いていた砲雷長が応じた。
「前扉、開放しました」
「敵艦、本鑑の前方一二〇〇〇」
この報告は観測員だ。
「よし、一番発射」
「一番、発射します」
前方から圧搾空気の轟音が響いた。
パブリクが報告した。
「不明目標はミサイル発射! 左舷前方より本艦に向かう」
「取舵一杯、M粒子散布!」
爆雷長に与えた指揮権を無視してヘルシングは命じた。
<カリスト>は傾斜した。間髪を入れずにM粒子が散布される。
しかし、ミサイルの弾着前に有効濃度へ達することはないだろう。
彼は短距離通信で<エリヌス>に伝えた。
「ウルフ01は不明目標の攻撃を受けた。これより自衛戦闘を開始する。全兵装使用自由」
「了解、貴艦に続く」
「総監部にいまの状況を伝えろ!」
ヘルシングは怒鳴った。
始まっちまった。もし、しくじったら――。
敵艦は大きくコースを変えた。ホルストの予想通りの行動だった。
これで、しばらくは攻撃ができなくなるはずだ。加えて、こちらに晒している面積も増大している。
「二番発射」
ホルストは命じた。
「二番、発射します」
二番発射管から放たれたミサイルは、145Cミサイルの熱源ホーミング型だった。
ホルストが最初に無誘導でミサイルを発射した理由は、大して命中の期待できないそれによって、
敵艦に回避行動を強い、熱源探知を容易にさせるためだった。
規制か?
「巡洋艦は新たなミサイルを発射」
「畜生」
ヘルシングは短く毒づくと、瞬きする間だけ思考をめぐらせる贅沢を味わった。
慎重な手順を踏んだ攻撃などしてはいられない。
「爆雷長、これより暗礁宙域に全速で突っ込む。やれるか?」
「奴が本艦の右舷側、五〇〇〇付近にいるようにしてください」
「言ってくれるな、了解した」
ヘルシングは命じた。
「面舵一杯、真方位一七六で定針」
「面舵一杯」
操舵員の復唱があり、艦が動き出した。小さなフネだけあって、こういう場合の反応は極めて早い。
「一七六、定針しました」
「全速一杯」
ヘルシングは滅多に発せられることのない命令を発した。
機関に最大出力を短時間で発生させ、とにかく加速をえることを指示していた。
よほどの場合でない限り、発することを禁じられている。
当然、推進剤の残量など気にしていない。彼は戦闘後、サイド6からタンカーを呼ぶつもりだった。
足元から震動が伝わってきた。<カリスト>は強引に加速した。
当然、それまで得ていた敵艦のデータは無意味になっている。相対位置が急激に変化してしまったからだ。
<カリスト>だけなら、これから先は推測だけ(もしくは再探知して)で攻撃を行わなければならない。
しかし、彼等にはパブリクという味方がいた。哨戒艇は敵艦を見失っていないはずだった。
「ウルフ01よりパパ・ヴィクター25、こっちはデータが取れない。誘導頼む」
「了解、敵艦は貴艦の左舷一〇度方向、距離八〇〇〇」
「貴官の協力に感謝する。爆雷長、聞いたか?」
「了解、そのまま前進してください」
「よし、爆雷長、爆雷攻撃始め」
<カリスト>は暗礁をかきわけるようにして疾走した。爆雷長から応答があった。
「〇一五度、定針」
「敵ミサイルは本艦を追尾せず」
「〇一三度、機動爆雷投射開始」
「ウルフ02、回避運動。追尾された模様」
前甲板の投射軌条が旋回した。航宙自衛軍の制式艦攻用爆雷は、どの型式のものでも原理は同じものだった。
弾頭は爆発力で敵艦の破壊を行うのではなく、爆散して四方に撒き散らされた破片が敵艦を破壊するのだ。
適切な相対速度を与えてやれば、たった一片の破片が衝突しても壊滅的な被害をもたらす。
ただし、正確な軌道を捉えていなければ、見当違いのところで爆発の網を広げることになってしまう。
爆散円が敵艦を包み込み、その破片が敵艦を直撃する可能性は低くない。
そして、それは巡洋艦に致命的な損害を加えられるはずだ。ヘルシングは半ば確信していた。
一年戦争後半、公国の艦艇を次々と撃沈したのは、この機動爆雷だったからだ。
報告があった。
「発射時期近づく!」
「ウルフ02、なおも回避運動中、捕捉された模様!」
「準備完了、打てぇ!」
前甲板から衝撃が発生した。機動爆雷は次々に虚空へ飛び出した。
「敵艦から連続した熱源が発生!」
観測員が報告した。
「命中確認はまだか」
ホルストは尋ねた。内心に、あまりに攻撃的に行動しすぎたか、という後悔があった。
オレは、自分が弾道弾搭載艦艇を指揮していることを、しばらくの間忘れていたのかもしれない。
「追尾継続中」
仕方ない。ホルストは戦果確認を諦めた。各部署に命じる。
「推進剤直結、全速前進。総員、加速の衝撃に備えよ」
「貴様の責任だぞ!」
政治将校がわめいた。
「オレの言ったとおり、第8項に従うべきだったのだ!」
自制心を完全に失った男に冷たい視線を向けたホルストは、
右手で拳をつくると、その唾棄すべき生物を殴り倒した。
<ペーター・シュトラッサー>は、貴重な推進剤を盛大に使用し、加速を継続した。
彼女が最大速力に達するには、いくらかの時間が必要だった。
投下終了です。連続で書き込んでいたら規制をくらいました。
ホルスト・ハーネスは、以前別の投下したやつで登場させていましたね。
完全に忘れていました。今後も史実キャラを登場させる時は気をつけないとです。
最後に前回から登場している艦艇の設定について軽く説明したいと思います。
まずサイド6のカリスト級駆逐艇ですが、このイメージはザンスカールの艦艇です。
上下対称・左右対称の形状をしているやつ。たしか同名の巡洋艦があったと思います。
次に<ペーター・シュトラッサー>ですが、現実のグラーフ・ツェッペリン級空母の二番艦です。
フォン・ヘルシングとの因縁を持たせるために、こんなマイナーな名前になりました。
>>569 どうだろう、何十年も先の艦艇のイメージを使うというのは。
それが気になったぐらいなんで、次も期待する。
さがってるからあげ
572 :
通常の名無しさんの3倍:2008/11/14(金) 17:47:16 ID:gYP/ACIv
俺も挙げ
職人さん、ガンガレ!
5.虚栄の掟
「取舵一杯!」
対艦指揮室から爆雷長が指示した。
ヘルシングは機動爆雷が投射された宙域付近を見つめた。命中するかな、と彼は思った。
一年戦争中の地球連邦軍の戦果を分析した結果、機動爆雷の命中率は10%に達している。
現在は、探知手段や投射速度がさらに向上しているから、それより高い値を示してもおかしくない。
いや、これは敵艦の性能向上を考えない場合のことか。
「じかーん!」
対艦指揮室から報告があった。予定通りであれば、命中が発生する時刻だ、
そういう意味のものだ。ヘルシングは宙域を注視した。何も起こらない。
駄目か。
その数秒後、宙域にさほど大きくない閃光が発生した。
ほぼ時を同じくして、<カリスト>の後方でも閃光と衝撃波が発生する。
<カリスト>の回避した熱源誘導ミサイルを回避しきれなかった<エリヌス>が被弾したのだった。
「くそったれめ」
ヘルシングは呻いた。ここからが本当の地獄というわけだな。
<カリスト>から放たれた機動爆雷の破片のうち一発だけが<ペーター・シュトラッサー>を直撃した。
命中部分は、艦の後部――ちょうど、発令所の後ろに設けられた後部兵員区画の左舷中央部付近だった。
ホルストが新たな命令を伝達しようとしたその直後に衝撃が発生。
轟音が響き、衝撃が指揮所を揺さぶった。証明が何度か瞬き、消えた。
床に殴り倒されていた政治将校はその上を転がっていた。
ホルストは航路盤につかまって衝撃にたえた。
「被害確認! 非常灯をつけろ」
ホルストは命じた。後方から悲鳴と轟音――被弾による急激な気圧の減少が発生した。
彼は航路盤に備え付けられていた電池式の電灯をつけた。
「後部兵員室被弾!」
異常に眼球がせり出した兵曹長が報告した。彼の唇の赤いものは吐血のあとだろう。
「直ちに退避。各部隔壁閉鎖」
「ヤー」
ホルストの命令から数秒のうちに発令所にも何名かの兵員が飛び込んだ。それを確認した兵曹長が隔壁を閉じる。
機関長から報告があった。<ペーター・シュトラッサー>の融合炉から異常な値が検出されたとのことだった。
「機関微速、右舷バーニア姿勢維持」
ホルストは小さな電灯の照明だけが照らし出す世界に向けて命じた。
「ヤー」
ホルストは尋ねた。
「現状は?」
「現在、ダメージコントロール中ながらも、徐々に気圧は低下」
このままでは駄目だ。彼は艦の現状をそう判断した。
このまま頑張っていたら、ヴァルハラへ向けて突撃することになってしまう。
「暗礁宙域を離脱する」
彼は命じた。
「推進剤投入」
「ヤー」
両舷の推進剤タンクから融合炉に重水素とヘリウム3が注ぎ込まれる。
轟音が響いた。まるで、魔女の歌声のようだな、とホルストは思う。
「先任」
ホルストは、彼が政治将校と言い合っている間、賢明にも沈黙を守っていた先任仕官に尋ねた。
「暗礁宙域を離脱後、本艦はどれほど浮いていられると思う?」
「せいぜい10分、というところでしょう」
ホルストは電灯の放つ光線をほんの数秒見つめた。決断する。
暗礁宙域離脱までと合わせれば、20分はあることになる。
最初は反応弾を投棄し、艦を軽くすることも考えた。しかし、いざとなれば義務感の方が先にたった。
「非常命令第8項にしたがう。弾道弾発射準備」
「ヤー」
弾道弾発射仕官の役目も与えられている先任仕官は頷き、何名かを連れて司令塔につながるラッタルを登っていった。
弾道弾関連の設備はそこに集中しているのだった。
ようやくのことで赤色非常灯が点灯した。ホルストは赤く照らされた世界を見回した。
「こちらは艦長だ」
彼は航路盤の脇に備え付けられていたマイクをつかみ、全艦へ――少なくとも、気密が確保されている部分へ通達した。
「本艦は知ってのとおりの状況となった。諸君は士官の指示に従い、脱出準備にそなえよ。
艦長は非常命令第8項実施のため、最後まで艦にとどまる。これまでの諸君の任務精進に感謝する。以上」
マイクをフックにかけた彼は、政治将校の傍らに歩み寄り、優しいといってもよい声で話しかけた。
「さぁ、同志。我々は任務を遂行せねばならない」
政治将校は判断力を失った表情で大きく何度も頷き、ホルストに助けられて立ち上がった。
わずかな異臭がホルストの鼻孔を刺激した。失禁したらしい。
「頼むから、これ以上本艦の貴重な空気を汚染しないでくれたまえ」
ホルストは微笑みながら言った。
彼と政治将校は弾道弾用の射撃指揮装置に近づき、自分の首に細い鎖でかけられていた鍵を取り出した。
射撃式装置の上に取り付けられた二つの金庫に、それぞれ自分の鍵を差し込む。
金庫が開き、中から二つの封筒が出てきた。一方はかなり小さい。ホルストはまず小さい方の封筒を破った。
中身を確認する。そこに入っていたのは、射撃式装置用の新たな鍵であった。
艦長と政治将校は、自分に与えられた発射用の鍵を、それぞれの鍵穴へ差し込むことになっていた。
鍵穴は二メートル以上離れた場所に設けられている。一人では発射できないようにするための措置だった。
ホルストは新たな鍵の鎖を手首に巻きつけると、もうひとつの封筒を開封した。
そこにはしき装置を起動させる暗号が記されていた。
これもまた打ち込むためのキーボードが離れた場所に二つ設けられており、一人では入力できない。
入力が終われば射撃指揮装置は起動し、弾道弾へ軌道要素データを流し込む。反応兵器の信管も作動可能な状態となる。
ホルストと政治将校は暗号数字を読み合わせながら、打ち込んでいった。
指揮装置の始動には5分もかからなかった。最終ページに目標が記されてあった。
第一目標は、リボーの地球連邦宇宙軍第五艦隊司令部、そこに向けて反応(化学)兵器を放り込むことになっていた。
同じ頃、弾道弾の発射塔に入った先任仕官は、兵士達にせわしなく指示を出していた。
思ったより時間がかかるな、先任仕官は作業を見つめつつ焦った。
少なくとも反応兵器だけは発射しなければならない。それにしても、
艦が沈むまであまり時間がないというのに、なぜこの工員あがりの兵士どもは機敏に動くことができないのだ。
先任仕官は統計を見た。艦はあと数分で暗礁宙域を抜けてしまうはずだった。
「急げ」
彼は部下に気合を入れた。
「艦と一緒に、暗礁宙域の一部になりたくなければ」
兵士達の動きは慌しくなった。
図体は大きいが、知性の感じられない顔つきをした兵士がG3ガス注入用ホースに手を伸ばした。
彼は、先任仕官の急げという命令を、自分が担当している作業を全力で行えという意味に受け取っていた。
先任仕官が、その作業の異常性に気づいたのは、兵士が注入用バルブを緩め、
G3ガスを弾頭に注入を開始した後のことだった。先任仕官は唖然とした声で言った。
「貴様、何をしている?」
「急いでおります」
兵士はもっそりした声でこたえた。
「馬鹿者! 第一射は反応兵器が優先だ! 化学弾頭は後にしろ。はずせ」
「ヤー」
兵士は先任仕官の言葉に従った。彼は命令どおり、バルブを閉じるより先にホースを注入口からはずした。
G3ガスが弾庫に噴き出した。それを避けるため、先任仕官は後ろへ飛びのいた。
飛沫が彼の皮膚に付着した。青酸ガスの数百倍の致死量を誇るそれは、彼を冥界へ誘う事に成功した。
G3ガスは空調を経由し、隔壁により閉鎖された艦内へと広がっていった。
数分後、無人となった艦内に、融合炉の危険を警告するサイレンだけが不気味に鳴り響いていた。
<エリヌス>は致命的な損害を受けていた。既に艇体は原型をとどめていない。艇長は総員退艦を命じていた。
<エリヌス>の被弾によって彼の「自衛行動」は完全に正当性を確保していたが、
そのことによる安堵を感じることはできなかった。ヘルシングは<エリヌス>の救援に向かわねばならなかった。
既に地方総監部には事の次第について報告を送っていた。
彼等は今回の行動を了解し、救援用のスペース・ランチを派遣すると約束した。
先程まで行動していた宙域から閃光が発生したのは、
<エリヌス>乗員全て(行方不明者を除く)を救出した後だった。
「後方宙域に閃光! 敵艦の爆発らしい」
パブリクから報告が入った。
「パパ・ヴィクター25よりウルフ01。敵巡洋艦の撃沈を確認、
機動爆雷による破壊――というより、自爆したようだ」
「反応兵器か?」
ヘルシングはおもわず尋ね返した。
口に出した後、自分が莫迦なことを言っていることに気がつく。
「いや、そんなわけはないな。こんなものですむはずがない。
おそらく、推進機関にでもトラブルが起きたのだろう」
「そうかと思われます、ウルフ01」
パブリクが殊更落ち着いた声で応じた。
「ありがとう、パパ・ヴィクター25。君達のおかげで助かったよ。
我々は<エリヌス>の浮遊物を回収した後に帰還する。
母港に遊びにきてくれたら、いつでも歓迎するよ。ウルフ01、以上」
「ウルフ01、あなたと知り合えて光栄でした。
確認撃沈戦果、おめでとうございます。さようなら。パパ・ヴィクター25、以上」
投下終了です。
ようやく戦闘が終わりました。第一部もあと少しで終わりになります。
残りの部分は短いので、できたらこの週末に投下したいと思います。
6.黙示の宇宙
<カリスト>による<ペーター・シュトラッサー>撃沈は、リーア人達が恐れていたほどの問題とならなかった。
アクシズ艦隊は短距離専用回線で行われたリーア側の通信を傍受できなかったし、
<ペーター・シュトラッサー>は、弾道弾搭載艦艇に共通する沈黙の掟にしたがい、
自分が陥っている状況についての報告を送っていなかった。
航宙自衛軍、国防省、そして報告を受けたサイド6政府は、
恐怖とともにアクシズ側の行動を見つめたが、何の反応も示さなかった。
それに、彼等が抱いていた恐怖は、グリニッジ標準時午前7時、全く意味のないものになってしまった。
ゴップの命令に基づいて地球連邦軍が、サイド3を強襲したからだ。
それを察知したサイド3派遣アクシズ軍事顧問団は、ハマーン・カーンからの命令に従い、
既に発射準備を完了していた48基の短距離誘導弾を、地球連邦艦隊に向けて発射していた。
無論、その全てが反応弾頭をそなえており、そのうちの数基が酸化融合弾頭だった。
このうち、半数以上が地球連邦軍の迎撃と技術的不調により撃墜・爆発したが、
他の弾頭は地球連邦艦隊へ向けて飛翔を継続した。
サイド3宙域のアクシズ派遣艦隊司令部は、地球連邦軍の攻撃開始と同時にその攻撃力を喪失した。
全くもって圧倒的な戦力差がもたらした必然だった。
だが、同じ頃、彼等の領土では空襲警報が鳴り響き、全ての公共放送は緊急放送へと切り替えられていた。
また、四十万キロ彼方の母なる大地では、危険な燃料重点作業に成功した18隻の弾道弾搭載ユーコン級潜水艦が、
地球の大都市に向けて次々とSLBMを発射していた。
宇宙でも同様の状況が発生していた。コロニーに存在する全ての軍事施設に向けてICBMが発射されていた。
加えて、アクシズ艦隊の展開する宙域から、一斉にMSが発進を開始したことが探知された。
サイド6も同様の事態にみまわれていた。アクシズ艦隊が全速でサイド6へ襲撃しようとする様子を探知していた。
<ペーター・シュトラッサー>撃沈で、コロニー内の地球連邦軍を上回る臨戦態勢に入っていた自衛軍は、
政府からの命令を受ける前に、この危機に対して自動的な反応を示した。
最新鋭機RGM-79Qジム・クゥエルを装備する第二航宙団に迎撃が命じられ、
これにRGM-79Gジム・コマンドを装備した航宙団が段階的に加入していった。
本土が混乱している地球連邦軍は、事前に受けていた命令の許す限りこれに協力したが、
防衛戦を主導することはできなかった。
新たな戦争において、自衛軍は地球連邦軍の指揮を受けるものと信じられてきた。
しかし、その現実は戦前の予想と異なっているようだった。
地球連邦は事態をコントロールする能力を失った。抑止力などという概念は、何処にも存在しなかった。
リーアの防衛関係者達が不思議に思ったのは、
アクシズによるサイド6を目標とした弾道弾の発射がいつまでたっても行われないことだった。
彼等は、コロニーの中枢を破壊する予定だった敵巡洋艦を、
先制攻撃で撃沈してしまったことに、この段階では気づいていなかった。
日曜日のうちに投下することができました。
長かった第一部も次の第七節で終わりになります。
◆u2zajGCu6k氏投下お疲れさまです。
七節待ってます
7.夜中の夜明け
「旅立ち、旅立ち。地球連邦市民の皆さん、これは政府による緊急事態放送であります。
おって政府から指示があるまで、外出せず、どうかこのチャンネルに合わせたまま待機してください。
繰り返します。旅立ち、旅立ち。地球連邦市民の皆さん、これは政府による緊急放送で…」
「うるさいな、消してくれ」
誰かが叫んだ。地球連邦大統領だった。ここはダカール地下の戦略指揮センター。
ゴップとそのスタッフは、昨夜来、この地下施設にこもって状況の推移を見守っていた。
世界状況を示すリア・プロジェクション式のスクリーンと、
それを眺められるように映画館の座席のように配置されたコンソールや要人達の座席。
「オペラハウス」という通称が付けられているのも納得できる。
ただし、この劇場は、世界を滅ぼす力を握っている点が他のそれと異なっている。
「大統領閣下、五分以内に全てを決定してください」
ジーン・コリニー統合参謀本部議長がつめよった。
「そうしなければ、何もかも間に合わなくなります」
大統領は尋ねた。
「ICBM来襲には、数十分の予告時間があるのではなかったか?」
「それはあくまでもICBMの場合です」
コリニーはひきつった声で言った。
「まさかジオンがSLBMまで一斉に発射するとは思わなかった――あと四分です」
「彼等は我々との冷戦に付き合うのではなかったのかね?」
「現実は異なっています。そうです。我々が――私が間違っていたのです。南極条約が正解だった。
連中、何もかも一斉に発射したに違いない。あと3分13秒しかありません」
「アクシズと交渉はできないのか?」
「いまさら何を? たとえ無条件降伏の交渉であっても、間に合いはしません。
直ちに報復攻撃の命令を出してください。少なくとも、ICBMは全弾発射してしまうべきです」
コリニーはゴップを追い詰めるかのように長広舌をふるった。
「戦略部隊には既に自分の権限で待機命令を出しました。
しかし、それでも、生き残る戦力は10%にも満たないでしょう。報復攻撃命令を!」
「しかし、地球のどこにもまだ――」
通信機のコンソールについていた下士官が報告した。
「オークリー空軍基地からの通信が途絶しました――ああ、何てことだ」
「正確に報告しろ!」
コリニーが叫んだ。
「キャルフォルニア・ベースからの報告です。エンゼル・スタジアムの方向に閃光を確認――」
「どうした?」
「キャルフォルニアからの通信も途絶しました」
「大統領閣下!」
ゴップは大きく首を振り、手を震わせつつ、自分の机の上に置かれた受話器に手を伸ばした。
傍らに控えていた軍人が自分の腕と鎖でつながれているアタッシュケースを持って近づき、
ロックを解除した。中から何の変哲もない茶封筒を取り出し、ゴップの前に置く。
「中佐、君が開けてくれ」
受話器を握ったゴップは言った。
「いいえ、閣下が自ら開け、確認する規則になっております」
「あと58秒です」
コリニーが殺意すらこもった声で伝えた。
ゴップは震えがさらに大きくなった手で、封筒を開けた。
不必要に力のこもった動きでそれを振る。中から一枚のカードが出てきた。
「25秒! 早く!」
コリニーが殺意のこもった声で呻くように言った。
ゴップは受話器を顔にあてた。それは、かつて悪戯をこころみたことのある回線につながっていた。
彼はカードに記された内容を読み上げた。
「こちらは地球連邦大統領だ。命令を伝える。地球連邦戦略指令。
タンゴ・タンゴ・チャーリー・8−4−9−2グラーバク。以上だ」
「復唱。地球連邦戦略指令。タンゴ・タンゴ・チャーリー・8−4−9−2グラーバク。以上」
回線はかつての復讐をするかのように、冷酷な響きとともに切れた。
「これで満足か、コリニー?」
ゴップは乾いた笑みと共に尋ねた。
「いえ」
「なんだと?」
「5秒遅かった」
コリニーは、劇場でいえばスクリーンの位置に置かれた巨大なディスプレイを示した。
「ご覧なさい」
海底から発生した幾つもの矢印が、大都市へと向かいつつあった。
矢印の大半は途中で消滅していたが、少なからぬ数が地球連邦市民が生活を送る大都市へと突き進んでいた。
さらに宇宙から、新たな矢印が続々と出現した。
「大統領の指令からICBMの発射まで、少なくとも二分は必要とします。全弾発射にはさらに五分。
戦略部隊についてはもうご説明しましたな? 発射されたICBM全てが完全に機能したとしても、
我々はアクシズを完全に叩ききることはできません。まぁ、あなたの手元に残される4隻のアイリッシュ級と、
50機程度のMSで第二撃をかけることは可能ですが――それだけです。それも、我々が生き残っていれば、ですが」
コリニーの口調は投げやりだった。彼はディスプレイを見つめ、傍観者的な声で言った。
「ほぅ、ジオンは月面都市も攻撃していますな。うまい手だ。どのみち連中はルナリアンと仲違いしていた。
ならば、国の半分が吹き飛ばされる前に痛めつけておこうというのでしょう」
「どれだけ損害がでるのだ?」
ゴップはコリニーに尋ねた。
「最大で全人口の半分は死亡します。直接的な被害は20億人程度におさまるかもしれません。
ただ、一年戦争とは異なり、連邦の統治機能も崩壊するでしょうし、被害はさらに拡大するでしょう。
我々は一週間戦争後のコロニー群やオーストラリアのような状況に陥るのです」
「神よ、許したまえ」
大統領は呻いた。
「いえ、無理でしょう」
コリニーが快活さすら感じさせる声で否定した。
「地獄に落ちると言うのか?」
「いいえ」
「ならば、どうだというのだ?」
「神はあなたとハマーンに、サタンの代わりに地獄をおまかせするに違いありません。
さしずめ自分などは、ベルゼバブといった役回りでしょうか」
ジーン・コリニー大将は大声で笑い出し始めた。
まさに蠅の王にふさわしい、嘆きの川から響いてくる冷たい声だった。
投下終了です。
ようやく長かった第一部が終了しました。
反応兵器戦での連邦(アクシズ)の被害については、第二部の各所で解説します。
次の第四章では、この物語の主人公であるアルが再登場する予定です。
今後もできる限り週一ペースで投下していきたいと思います。
どうなる地球!?
次も期待
挙げ保守
待ってるぜ!
第四章 汚れた宇宙(宇宙世紀0094年6月)
1.セイバー・マリオネット
いささか気恥ずかしくなる表現をあえて用いるならば、そこはこの世界に残された数少ない夢の国だった。
かつてこの世界には、キャルフォルニアやフォン・ブラウンといった夢の国が存在していた。
だが、今ではそうした地名はごく一部の人々の脳裏に残されたあやふやな思い出にすぎなかった。
屈強な巨人達を自らの手で操ることを願う人々が集まっていたそれらの聖地の現状は、
奇妙な窪地であり、焼け焦げ倒壊した建築物の残骸であり、ガラスのようになってしまった奇怪な大地だった。
航宙自衛軍がフロンティア・サイドに有するMS基地は、その貴重な例外、
失われたはずの何かが残された小さな別世界というわけだった。
「サイ・コミュニケーター・システム」
「セット」
「Iフィールド・ジェネレーター」
「セット」
操縦室内には、二人の男女が発する乾いた声のやり取りだけが響いていた。
重たげな耐Gスーツを着込んだその姿は異星人のようだった。
「タクティカル・トランスフォーム・スイッチ」
「イルミネート」
「エンジン・インストルメント」
「チェック」
「イグニター・パージ・スイッチ」
「オフ」
彼等は果てしなく続くように思われるチェックリストを読み上げながら、
視界におさめられる全ての位置を埋め尽くしているように思われる
メーター、スイッチ、ランプのつらなりを一つ一つ確認していった。
彼等がようやくの事でエンジン始動の項目にたどりついた時には、
チェック開始から十分近くが経過していた。それほど時間を必要としたのは、
全てを規則どおりに行っていた事ばかりが理由ではなかった。
彼等が操ろうとしている期待が、実用機と呼ぶにはためらわれるものであったからだ。
「リニアシート」
「チェック?」
「チェック……バイオ・センサー」
「チェック」
「トリプル・ディスプレイ・インディケーター」
「アルティテュード、エアスピード、ミノフスキー・デンシティー……ノーマル」
「FQIS」
左胸に「実験航宙団MS試験隊カミーユ・ビダン一尉」と記された認識票をつけた青年が質問を発した。
機体におさめられている推進剤の現在量を確認しろという指示だった。
後部座席に座った女性パイロットが指示に従って燃料計を確認した。全て問題なし。彼等の操るべき機体は、
一時期の異常な価格高騰の後に地の底まで下落したヘリウムの同位体を、その体内に飲み込んでいた。
二人のパイロットは、それからさらに機体各所の安全状況を確認し、ようやく機体に生命をふきこんだ。
「ファースト・エンジン・スタート」
「ドライヴ・イグニッション」
全てを切り裂くような大推力核融合エンジンの轟音が不意をつくようにして発生した。
その巨大な音響は、高音域での力を段階的に増大させつつ、フロンティア・サイド内へと拡散させていった。
ブッホ・コンツェルンの開発したBJ217Cミノフスキー・イヨネスコ核融合炉は約4万kWの出力を発揮する
優れたものだったが、そうであるが故に、環境に対する影響はほとんど考慮されていなかった。
とりあえず、きりのよいところまで投下です。
一気に七年ほど経過してしまいましたが、
次の投下で反応兵器戦の結果を多少明らかにしたいと思います。
乙
アルフレッド・イズルハは、MS基地西側のフェンス近くに止めた車の上に登り、
双眼鏡を構え、格納庫から発進しつつある機体を見つめた。周囲には、彼と同様の目的でこの地を訪れた人々、
脚立に登り、あるいは車の上に三脚をすえて望遠レンズを装着したカメラを構えている男達がいた。
アンテナを立て、自作したものらしい受信機で、交信を傍受しているものも少なくなかった。
全面反応兵器戦争がアルフレッド・イズルハの人生に与えた影響は、
こと生活と言う面では周囲の人々となんら違いはなかった。
宇宙世紀0087年10月のあの日、いくつかの出来事が積み重なった結果として発生したグリプス大戦は、
地球連邦と呼ばれた統一政体を事実上、壊滅させた。それがもたらしたものは、言うまでもなく大混乱だった。
やはりいくつかの偶然(あるいは必然)から、サイド6は直接の被害を受けなかったが、
それまでこの世界を支配していた国家群が突如として最後進国に、
場合によっては国家としての存在をやめてしまった影響はとてつもなかった。
まず、誰もがさらなる反応兵器戦争の続行を予想、その余波はサイド6にも及ぶだろうと確信した。
様々な物資の買占めが始まり、つづいてコロニーからの脱出が始まった。
混乱の過程で、約7000名の死者(殉職・事故・自殺・犯罪等の合計)がサイド6で発生した。
これらはまごうことなき悲劇であったが、グリプス大戦でサイド6にもたらされた
直接的な損害はそれだけにとどまった。反応兵器の使用を含む世界各地での軍事行動が徐々に沈静化し、
地球連邦とアクシズがともに一方的停戦を宣言した頃には、混乱はほぼ終結していた。
アルフレッド・イズルハがグリプス大戦に対して示した反応は、
彼の知識や性癖ではなく、日常の強い影響を受けたものだった。
その当時、親元を離れ、カミイグサにある全寮制の高校に進学していた彼は、
ドロレス・ヘイズ(彼女もアルと同じ高校に進学していた)と一緒にリボーへと帰ることになった。
ドロシー(とアルの両親)がそれを強く望んだためだった。
アルは基地のあるリボーの方がかえって危ない、と諭したが効き目はなかった。
結局、彼は妥協を示し、開き直った両親によって正月を祝うような支度が整えられていた実家で、
グリプス大戦の大半を過ごすことになった。
その後、これだけ時間が経って攻撃されないならば大丈夫だよといって、一人で学校へ戻った。
驚くべきことに、バンチ間のスペース・ランチは時刻表どおりに運行されており、
彼と同じ目的の人々が宙港に長い隊列を形作っていた。
カミイグサにたどりつき、高校へ行ってみると、そこでは教員の半数近くが出勤しており、
アルも直ちに指示を受けることになった。疎開した学生(職員)を一日も早く呼び戻すべく、
出席簿に鉛筆で線を引きながら電話をかけろ、というものだった。
アルはまず両親とドロシーに無事を知らせた後(これは担任が指示した)、その指示に従った。
こんな状況を誰が予想していただろうか、と彼は思っていた。全面反応兵器が発生した場合、
社会体制は開戦と同時に崩壊するというのが常識だったと記憶していた。
たとえ、攻撃で蒸発しなくても、どうせ人類は絶滅してしまうのだから、
自暴自棄になった人々が体制を自壊させてしまうはずであった。
ところが現実はどうだ、自分はサイド中に散らばってしまった同級生に電話
(これも機能しなくなるはずだったもの)で呼び出している。
はいはい、お休みはおしまい、お勉強の時間ですよ。
室内には奇妙な活気があった。特に普段は学生に睡眠を提供するためだけに、
講義をしているアルの担任――40過ぎの教員が張りのある声で周囲の者達を叱咤していた。
彼は担任が一年戦争でオデッサにいたことを知っていた。
そういうことなのかな、彼は思った。担任のように、ジオン軍の砲弾が降り注ぐような陣地で、
煙草を吸っていた経験を持つような男であれば、閃光がはしるまではどうということもなく、
それを知覚した後は諦めるしかない反応兵器に、無意味な抵抗は示さないのかもしれない。
そして、いまのところサイド6の主権が及んでいる領域にはいかなる被害も発生していない。
この国に存在する多くの人々は、内心に不安をいだきつつ、日常を継続すべきだと選択したのだ。
その時のアルはこう思っていた。一週間戦争やルウム戦役の翌日でさえ、ランチは動き、
新聞は発行され、テレビは放送を続けていた。現実に発生していない事態だけで、
全てが崩壊することはありえない。コロニーが落ちた翌日のオーストラリアはどうだったのかな?
かなりの希望的観測が含まれているとはいえ、
アルが内心でくみあげた理屈は、ことに現象面で現実とほぼ一致していた。
結局のところ、グリプス大戦がアルフレッド・イズルハに与えた最大の影響は次のようなものだった。
グリプス大戦の数年後、彼は空前の売り手市場ということもあり、それなりの商事会社に入社した。
その会社はグリプス大戦後の復興特需を睨み、営業部門を強化していた。
考えてみれば、宇宙世紀0094年の今日、アルフレッド・イズルハが航宙自衛軍のMS基地を
――正確にいえばその基地で大推力エンジンを唸らせている巨人を眺めていられるのは、
サイド6が戦争からほとんど何の直接的被害も受けず、会社が彼を営業部に配属してくれたからだった。
何が幸いするか分からないよな、とアルは思った。サイド6が被害を受けていたならば、
ほとんど近代国家の体をなしていない地球連邦から様々な技術を(例えば不足している医療品との)
バーターで手に入れることはできなかっただろう。経営陣が営業部門の強化をしていなければ、
自分がフロンティア・サイドにある家電量販店に試供品を持ち込む仕事があること、
それが自分にとって重要に思われる出来事の日程と重なっていることを発見することもなかっただろう。
側面に社名がえがかれたエレカの上に――というか、その上に吸盤とボルトでしっかりと止められている
荷台の上に座り込んだ彼は、現在の自分にもたらされた幸福を手放しで受け入れていた。
彼のいる位置が絶好の撮影ポイントであることに気づいたMSマニアが何度か声をかけてきたが、
全て断っている。これまでの経験で、何かの趣味にはまり込んだ人種には、
いかなる意味でも社会常識に欠けている連中が大量に存在していることを彼は知り尽くしていた。
もっとも、自分が営業車でMS見物に来たことも同様だ、とはかけらも思っていなかったが。
最初にどよめきをあげたのは、無線を傍受していた連中だった。
エンジンの轟音がさらに高まった。カメラを構えていた連中が一斉にシャッターをきりはじめた。
フェンスごしにその姿を見つめている誰もが、そこにある機体が何であるかを知っていた。
もちろん、図面や研究データがサイド6へ運び込まれた後、無数の改正が加えられたことも彼等は知っていた。
しかし、それでもなおかつ、発進しようとしている機体は彼らにとっておなじみの幻想のひとつだった。
地球連邦軍、兵器システム―110A、試作超大型可変MSムラサメ研究所MRX-009サイコガンダム。
誰も航宙自衛軍の正式名称、新型融合炉特性研究機・ブッホXT7とは呼ばない。
ましてや「ブラックドール」などという愛称を口にはしない。
轟音はさらにその激しさを増した。その場にいた準備のよい何人かが慌てて耳栓をはめ込む。
アルフレッド・イズルハは、自分の方に向けて猛然と突進してくる巨人を惚けたように見つめ続けた。
彼にとって、ジオン・ブロックの全土を焼き払うために原案が考え出されたその姿は、
現実であると同時に幻想でもあり、現在であると同時に未来でもあった。
彼は知っていた。地球連邦でさえ投げ出しかけていたサイコガンダムをリーア人が完成させていた理由は、
第一にいまだ国家体制を維持しているネオ・ジオンへの脅しであることを、
そして現実には、採算面で厳しいところのある新型融合炉のデータ収集用機であることを。
轟音が過ぎ去った。これでサイコガンダムも見納めだ、近くの男が呟いていた。
そうだな、生のサイコガンダムは見納めだな。アルは内心で同意した。
全長40.0m、本体重量214.1トンの機体は、これからブッホが所有する工業コロニー、
「インダストリアル7」の試験場へと向かい、そこで様々な試験プログラムをこなすことになっている。
アルの聴覚はいまだに回復しきっていなかった。未来を望むために作られた巨人機の名残を脳へと伝えていた。
周囲の人々が退散する中で、アルはサイコガンダムの消えていった空間を最後まで見つめていた。
第一節の残りの部分を投下しました。
ネタと設定を両立させるのに時間がかかりました。
ちなみに「インダストリアル7」は、月面の本社が壊滅したアナハイムから、
ブッホが技術と共に買収したことになっております。
次の第二節はまた過去の話(一年戦争当時)になる予定です。
サイコ…なるほどww
しかし、ルナ2はどうなったんだ?ネオジオンが叩き切るには厳しいような。
(カリフォルニア扱いかな。駐留艦隊はウラジオ特攻の7th同等として)
乙
さすがにコロニーが落ちたオーストラリアは……
ちょ、サイコktkr
愛称がブラックドールとかテラ黒歴史www
あんなことになって地球にはもう力が無いんじゃないかな?
ゴップも責任取って辞めてるだろうな。
後を継いだのはコリニーかジャミトフか・・・。
投下おつ
あげときます
挙げ保守
2.スターオーシャン
昨夜この都市を焼き払った大火災はおさまったが、街区を漂う空気はいまだに焦げ臭かった。
深夜になっても人の足音や悲鳴の絶えない病院に彼の妻は入院していた。
彼女が昨夜うけた傷について、既に可能な限りの治療は行われていた。
医者は、正直なところ、これ以上は何もできない、と言った。
あとは苦しみをやわらげてあげられるだけです。ああ、モルヒネが手に入るのですか。
ならば、それを看護婦に渡しておいてください。申し訳ありません。
「わたくし、思っていましたのよ」
注射された薬品の効果で痛みのやわらいだ彼女は、安らかな表情でベッドに寝かされていた。
「いったいどんな怖いお方なのかしらって」
「私のことかね?」
夫は微笑みながらこたえた。
「ごめんなさいね」
妻は言った。
「でも、周りの方が、そのような噂ばかりしているのですもの」
「自業自得かな、悪いことばかりしていたからな」
夫は小さく笑った。燈火管制や電力不足のため、病室の照明はひどく弱々しかった。
「でも、わたくしには怖くなかった。実家で言われていたの。
我慢なさい。少なくとも、贅沢だけはできるのだから、って」
「図星じゃないか。でも、贅沢についてはまだまだだよ。これからもっとしなければ」
「外が見られないのね、こんなに大きな窓があるのに」
「また軌道爆撃があるかもしれないからな」
「今日は晴れていた?」
「ああ、月がきれいだった。綺麗だったよ」
「じゃあ、いいわ」
「どうしてだね?」
「お月様はきらい。何もかもを照らし出して、星を隠すから」
「星の方がすきなのか?」
「ええ。ずっと以前からそうでした。子供の頃に、星座の形は全部覚えていた。
お父様に連れられてムンゾに行ったとき、地球では見られない星もながめてきたの」
「戦争が終わったら」
「終わったら?」
「見に行こう。連れて行ってやる。お前が見たい星を全て見せてやろう。どんなことをしてでも」
「ほんとうに?」
「わたしは悪人だが、嘘をつくほど卑怯な人間ではないよ」
「ごめんなさい」
「何を言う。好きなだけ贅沢をさせてやる。この戦争が終わったら。
いや、わたしが終わらせてやる。ジオンなどに負けるものか。もう少しの辛抱だよ」
「はい。あなたは絶対に負けない。どんなときでも、かならず」
「そうだ。必ず勝つ。敗北などしない。絶対に認めない。
わたしが認める敗北は、自分の寿命に限りがあること、それだけだ」
「あなたはそう、それでいい」
「だから君も負けてはならない。君と娘の敗北は、わたしの敗北でもあるのだ。いいね?」
「眠くなってしまったわ」
「そうか、休みなさい。そばについていてやろう」
「いいえ。あなたにみられていたら、恥ずかしくて寝息もたてられないじゃないの」
「言ってくれるねぇ。わかったよ。おやすみ」
「ねぇ」
「なんだね」
「さっきのこと、約束よ」
「ああ、絶対に。君が望むなら、星々の全てを買い占めていやる」
「ううん、見せてくれるだけでいいの」
彼は病室を出た。彼の妻が死亡したのは翌日のことだった。
医師は彼の持ち込んだモルヒネのことについて何か言いたいことがあるようだった。
「かまわない、余った分はここで使ってください。わたしが関わったことを忘れてくれるのならば。
何も代償は求めない。昔やっていた商売の時に余ってしまったものなのだ」
夫はそういった。医師はとまどいながら感謝の言葉を言った。
「いいのだ、あれは他人が苦しむのを見ていられないたちの女だった」
戦場の荒廃にまきこまれ、完全に崩壊しつつある銃後に存在する病院の地下に立った夫は、
この情勢下で仕立てのよいスーツを着た痩身をわずかにうつむきかげんにしていった。
「それに、わたしは新しい商売を始めねばならなくなったものでね。違えるわけにはいかぬ約束なのだ、これは」
投下終了です。
今回はある人物の過去の話になりました。
この出来事が史実との大きな差を生むことになったかもしれません。
ほう、誰だろう?
誰?エッシェンバッハ?
こ、この人かw
このシーンは当然0079だから、元でこのポジの人通りなら…
(検索と計算中)
…0055…0068…なるほど。0079にこうなりゃ0087にはああなるわ。大幅どころじゃない路線変更だが。
保守っとくよ
3.ストライクウィッチーズ
宇宙世紀0094年6月23日火曜日朝、路面電車を降りたジョブ・ジョンは、
彼の職場――というか、職場への最初の関門である衛門へと歩いていた。
自衛軍幹部としての経歴がそろそろ半ばとなろうとしているにもかかわらず、
彼の階級は二佐のままだった。親父の予想はまったく的確だな、ジョンは苦笑した。
ジョブ・ジョンがいまだに二佐という階級にとどまっている理由はいくつかあった。
その最も分かりやすいひとつは、階級の上昇に比例して激化する競争の激化であった。
上昇志向の強い二佐達の中から頭を突き出し、その次の階級へと到達することはひどく難しい。
だが、たとえ現実がそうであるとしても、ジョンという人物を至極素直に、
つまり軍人や指揮官としての能力や資質だけ見る限り、現在の階級にはいささかの疑問があった。
彼が、危機的な状況においてまず間違いなく一佐という階級に相応しい人物である点については、
彼を知るほとんどの者が等しく認めるところであるからだ。
彼が昇進できない理由は、どこか他に原因があると考えるべきだった。
そう、原因だ。
衛門を抜け、その先にある建物に向かっていたジョンにはそれがよく分かっていた。
彼こそは、航宙自衛軍におけるイスカリオテのユダであった。最初からそうだったわけではない。
ことに、あちこちから請われた結果、地球連邦から転属した頃は全く異なった立場だった。
一年戦争の終戦によって、ようやくのことで独立軍を持つことのできた
サイド6の中核を担うべき人物の一人、とすら見なされていた。
航空宇宙軍という軍種には、公式にはけして認められないひとつの組織的特徴がある。
その内部において様々な任務をはたしている者達の中に、
極端な軍事思想的支配力を主張する集団がいくつか存在していることだ。
そして、その集団は、ある個人に与えられている階級によってかたちづくられはしない。
彼がどのような任務をこなしているかによって区分けが行われる。
大雑把に言えば、職能別労働組合と似たようなものだ。
それは彼が制服の右胸にある胸ポケットの上に、どんな徽章をつけているかで最初の選別が行われる。
例えば、そこに何もつけられていない場合は――残念、彼は沈黙するしかない(軍事思想的な面では)。
だが、そこにある金属片があれば、第一関門通過、彼は特殊な集団の一員だ。
いや、まだ安心はできない。第二関門はさらに厳しい。人々は尋ねる。
やあやあ、君は宇宙のどのあたりをながめているのだ?
本当の男だけが行ける場所か? それとも、火力と推力が自慢の連中がいるところか?
まさか、とりあえず翼とエンジンがついている、加速が取り柄の鳥が飛んでいる場所じゃないだろうね?
どうだい、そろそろ正直になっては、君はMS乗りなのか、MA乗りなのか、航宙機乗りなのか?
おいまさか、モビル・ポッドなんかじゃあるまいなぁ?
そんなことはありえない。そう主張する者もいるかもしれない(特に航空宇宙軍軍人の中に)。
我々は常にチームであり、全員が家族だ。そうであるからこそ、
過酷な戦場で信頼しあうことができるのだ。全くもって、これだから半可通は困るのだ。
だが、歴史は彼等の反駁を怪しげに思わせる実例に満ちている。
例えば一年戦争。地球連邦宇宙軍は、彼等にとって一機でも多くのMSが必要とされたとき、
MSパイロットと航宙機パイロットが対立し、ルナチタニウムから推進剤、機体、
パイロットにいたる戦争資源の適切な配分が行えなかった。
さらに例を挙げるならばジオン公国国防軍。彼等はまともな共同作戦を行ったことはほとんどなかった。
機体の能力は数十年後の眼からみれば大した違いはない――というか、それなりに訓練さえしておけば、
互いの任務を支援しあう程度のことは可能だった。ところが、彼等はその種の努力に熱心ではなかった。
ジオン公国という名の貧乏な独裁国家は、さらにその貧困をふかめることを望むかのように、
二つの宇宙軍(いや、親衛隊はまた別の存在だから、実際は三つの宇宙軍)をもって、
史上最大の国家との戦争に突入した。任務があまりにも異なっていたから――確かにそうかもしれない。
しかし、多少の融通がきくように配慮はしておくべきだった。
問題はそれのみにとどまらなかった。例えば、突撃機動軍のMS隊とMA隊のパイロット達は、
戦局が悪化するにつれ、内心でお互いへの反感をつのらせてゆくことになった。
例えば、MAを操っていた者にとっては、MSとはすぐ帰ってしまうわがままなプリマドンナの同義語だった。
MSを操っていた人々については――まぁ、そういうことだ。
面白いことに、この種の反感は戦後になってからさらに強まる傾向にあった。
勇気や献身についての世間からの注目が、MSパイロットだけに集中したからだった。
いや、我々は違う。例えば、航宙自衛軍はそう主張するかもしれない。
我々は一年戦争でのジオン敗北の原因を探り、勝利者たる地球連邦から優れた部分を学びとった。
うなずくべき言葉ではある。コロニーにとっての一年戦争、一週間戦争とは、
極論してしまえば防衛という軍事思想における敗北だった。
戦後のリーア自衛軍では、その名前にふさわしき組織たらんと努力を続けていた。
例えば、宇宙艦隊においては、かつてジオン公国の息の根を止めた船団攻撃と機動爆雷から
商船を守ることが最大の任務とされている。そして、MS部隊では、二度と再び、
敵機によって祖国の都市を蹂躙されぬことをその主任務としていた。
つまりそれは、かつて軽視していた軍事的要素を最重点課題へとすえた、
安易な表現でいう「歴史の教訓」を取り入れた組織なのだった。
しかし、まず防衛という要素を充足するという基本的には正しい判断も、けして満点の回答ではい。
様々な弊害があった。航宙自衛軍において、それは職能別集団の偏った勢力分布という形で現れた。
この組織は、いかなる場合でも防衛を重視する。そのほかの要素は二義的なものだった。
例えば、先輩にあたるジオン軍では一大勢力であるMAパイロット集団は、
その保有を禁止されているに等しいため、部内に存在しない。
そう、航宙自衛軍は、MSパイロット及びかつてそうであったものが、
異常なほどの勢力をほこる組織になってしまった。
ジョブ・ジョン二佐の不幸はそこにあった。彼はパイロットではなかった。
さらには、その専門は軍用ロケット(隕石ミサイル)――つまりはミサイル防空だった。
技術者ですらなく、過去の基地反対運動で示された交渉者としての能力と、
部下を目的に向かって邁進する指揮官としての資質によって地位を得ていた。
つまり、彼は対空砲火であれミサイルであれ、自らに向けられる火力を
自動的に敵だと考えるMSパイロット達に、その有効性をとかねばならぬ立場におかれてしまったのだ。
第三節の前半を投下しました。
今後も大幅な路線変更を行った史実の人物が登場する予定です。
乙
これが地球連邦であれば、反応兵器搭載ICBMという圧倒的な力を備えたミサイル・マフィアが彼をバックアップするのだが、
リーア自衛軍には無論のことにそのような装備はあたえられていない …ですな。乙。
そういや、攻撃というものを本当に一切考えてこなかった専守防衛脳のミサイル屋空幕長が、こないだ墓穴を掘ってたような。
宇宙世紀0096年6月のこの日、職場である航宙幕僚監部へと出勤した、
彼の抱えていた最も大きな仕事もそれに関わるものであった。
「隕石ミサイル(SMM)による限定的制宙権の確保、ねぇ?」
いくつかのファイルキャビネットと机が置かれているだけの部屋で、
ジョンの話を聞いていた一佐が納得しかねているような声を出した。
この部屋の主である彼は、主に戦略的な面から航宙自衛軍の装備について考慮すべき立場にあった。
もちろんMSパイロットだった。昨年までブッホXM-00デッサ支援MSをもちいたMS群の指令をつとめていた。
「たとえていえば、潜水艦や地雷のようなものですよ」
ジョンは言葉を選びながら言った。
「とにかく、敵がMSをもって制宙権を確保しようとする行為を妨害する能力を持つ、ということです。
こちらのMSは、ここ一番というところに投入しなければなりませんからね。そうじゃありませんか?」
「頭からけなそうとしているわけじゃないんだが、
それを実施した場合、随分と金がかかるんじゃないかね?」
「そこにもまとめておきましたが」
ジョンは相手のデスクの上に置かれた書類を示した。それを手渡したのは数日前だった。
「おおむね――」
彼は具体的な数字をいくつかあげた。
「つらいなぁ。まるまる一個MS隊が編成できる数字じゃないか」
「確かにそうです」
内心に絶望と似たものを抱きつつジョンはこたえた。
「しかし、それなりの効果はありますよ。
例えば、ネオ・ジオンが何かの発作にかられてサイド6を攻撃してきても、
こちらのMSとそれを操る若者達は、常に余裕を持って作戦することが可能になるでしょう」
「うーん」
一佐は渋い顔のまま唸った。地球連邦はグリプス大戦で壊滅したが、
先手を打ったネオ・ジオン(アクシズ)はいまだに超大国の地位を維持している。
地球連邦のICBM、その大半を発射前に吹き飛ばしてしまったからだ。
地球連邦軍はついに艦艇発射弾道弾によるコロニー攻撃を行わなかったのだ。
(命令機構が戦争の初期段階で崩壊したからだ)
つまるところ、自衛軍にとり、ネオ・ジオンはいまだに対抗部隊甲――仮想敵国なのだった。
その対抗部隊甲の通常振興を想定したシナリオ、緊急進行対処計画において、
艦隊戦力は早期にその機能が失われると予測されている。
ネオ・ジオン軍の猛烈な攻撃がくわえられると想定されているからだ。
現実のネオ・ジオンは、産業中枢が焼け野原になった月面と地球の一部にくわえ、
滅茶苦茶になった後もなおバスク・オムに指導されている地球連邦残党軍と
果てしのない不正規戦争を繰り広げていたから、そのシナリオが現実のものになる可能性は低い。
しかし、自衛軍が採用しているシナリオがそうであるならば、それに見合った装備を――同時に、
シナリオが突如として変更された場合、柔軟に対処できる装備が整えられねばならない。ジョンはそう判断していた。
「それに、リロケータヴルな――ファイア・ユニットごとに、
機動性と独立した攻撃能力をそなえたシステムを構築しておけば、どんな状況にも対応できます」
「うーん」
「私が口にしているSMMシステムは、我々の保有するMSの仕事を奪うものではなく、
かえってその自由度を高めるためのものだ、ということです。
それほど戦力の大きくない脅威の場合、SMMだけで対処し、MSはもっと重要な局面に投入できるようになります」
「なるほどねぇ」
一佐はうなずいた。しらじらしく腕時計をながめる。
「もう少し、考える時間をくれ。いや、悪いが今日はこれから予定があるのだ」
ジョブ・ジョンは絶望感や無力感と言いった概念の存在を認めない男だった。
より現実的に、可能性の高低におきかえて全てを解釈する習性を持っていた。
彼は感情に対する敗北をけっして自らに許さなかった。
だが、そうしたジョン独自の観点にたっても、現状がほとんど打開のしようもないことに疑問の余地はなかった。
航宙自衛軍のMSパイロット達、在りし日の地球連邦宇宙軍であればMSマフィアと呼ばれた集団に所属している男達は、
彼等の信念と能力と物量によって、完全に航宙自衛軍を支配していた。
MSのはたすべき任務をミサイルごときに代行させようなどという意見を彼等が認めるはずがなかった。
不成功に終わった説得の後は、やるべきことがあまりなかった。
ジョンは退庁時間まで雑務をこなすと、家路についた。
可能なかぎり家族と夕餉をともにすることを、グリプス大戦後になってからの彼は重視していた。
衛門で国防省の完了や制服組の重要人物が待ち伏せを受けることはけしてめずらしくはない。
といっても、彼らを待ち伏せるのは敵国のスパイやテロリストではなく、
交流をはかることでなんらかの利益を――受注を得ようとしている各種企業の営業担当達だった。
彼等は、目当ての官僚や幹部を発見すると、その人物を抱きかかえんばかりにして声をかけ、
拉致するような勢いで黒塗りの車に乗せてしまう。ジョンにそのような経験はなかった。
彼は決定を下すような立場にたたされたことはなかったからだ。
というわけで、その日の夕刻、衛門を出たジョンに一人の男が近づいてきたことは異例な事態だった。
失礼します、ジョブ・ジョン二佐ですか、と仕立てのよい背広を着込んだ男は尋ねた。
まだ若いがいかにも切れそうだという雰囲気をふんだんに持っていた。
「あなたは?」
ジョンはとがめるような表情を浮かべてから尋ねた。
「ああ、これは失礼を」
男は慌てたように内ポケットから名刺入れを取り出し、そこから一枚の紙を抜き出した。
名刺にはブッホ・コンツェルン社長室付、カロッゾ・ビゲンゾンという文字が印刷されていた。
「ははぁ、ブッホね」
ジョンは微笑んでいるような表情で言った。
「参考までに言っておくが、僕をどれほど籠絡しても、
SMMの受注には有利に働きはしないが? それどころか、かえってマイナスになるだろう」
彼はサイド6有数の、ということは世界有数の航空宇宙企業、その中枢からやってきた若者を見つめた。
若者の対応はじつに落ち着いたものだった。
「いえ、そうした直接的なことではありません。マイッツァーが(ええ、社長のマイッツァー・ロナです)、
将来の問題について、いくつかご相談したいことがある、と申しております」
「どうも、秘密めかしているね」
「申し訳ございません。私もマイッツァーからそれ以上は聞かされていないのです」
ジョンは相手が本当のことを言っていると判断した。
「僕は今日、家族と夕飯を食べることにしている」
「はい」
若者は微笑んだ。存じております、とでもいいたげだった。
「マイッツァーは、次の日曜日、私どものコロニーまでおいで願えないか、そのように申しております」
投下終了です。
623さん、補足説明ありがとうございました。まさにその通りですな。
というわけで、運命を捻じ曲げられてしまった人物の登場です。
カロッゾの推定年齢は40代後半らしいので年代的にも問題ないと思います。
この世界の彼なら、鉄仮面をかぶる必要はないでしょう。
ブッホが出ていたとはいえ、これは全くの予想外。
更新されんのう
632 :
通常の名無しさんの3倍:2008/12/31(水) 22:28:46 ID:Deims2L5
上げ保守
ocn規制にまきこまれていました。
今から第四節を投下します。
4.センチメンタルグラフティ
カイザス・M・バイヤーはサイド3がジオン共和国と名乗る以前に青年へ達していた移民者にふさわしく、
たとえジオン独立同盟内部で権力の階段をのぼりつめられなかったとしても、
それなりの生活を送ることのできる技能をいくつか身につけていた。
アキレス(ムンゾ26バンチ)というコロニーでそこの議長に就任する以前に、
工業及び冶金技師としての教育を受けていたからだった。そうした教育の影響だろうか、
半壊した世界の大半に威令をとどろかせる権力者になった後も、彼は極めて仕事熱心な男だった。
彼のことを嫌悪し、あるいは憎み、またはすきあらば政治的に抹殺しようとしている者は世界中に
(なかでもネオ・ジオン国内に)数限りなく存在したが、たとえそうした人々であっても、
怠け者と彼を批判することだけは差し控えねばならなかった。
彼は週のうち六日は、午前8時45分には職場に到着し、
ネオ・ジオン共和国連邦書記長としての職務を熱心に遂行しようとした。
一日のうち16時間をそれにあてることもしばしばだった。
さすがに、ハマーン・カーンを権力の座から追い落とした人間だけのことはあると見られていた。
(実際にはハマーン・カーンが女性としての幸せを優先した結果であったが)
彼はその職務を、ズム・シティにある閣僚会議ビル四階の執務室で執り行っていた。
「喜ばしいことに」
内密の話し合いのために執務室に招かれていた要人が報告した。
「今年の冬は、地球の親ジオン国の大都市で餓死者を発生させずにすみそうです」
「はーん、そいつはめでたいな。いったいどんな魔法を使った? 人肉の配給でもはじめたか?」
タイマーロック付きのケースから取り出した煙草を琥珀のパイプにさしたバイヤーは笑った。
彼は独特な諧謔の持ち主だった。吸い口を噛むようにしてくわえ、
宇宙世紀0050年代に入手した連邦製のライターで火をつける。
執務室に紫煙がひろがった。バイヤーは、世界の半分が吹き飛ばされた後も、
さしたる不自由を感じずにすませていられるへヴィ・スモーカーの一人だった。
「可能性としては、ありえます」
ハンサムといってよい面立ちの要人はうなずいた。
「現在、我が国がはっきりと覇権を及ぼしている地域は、宇宙ではムンゾ周辺宙域、
地上では北米大陸が限界です。例えば、フォン・ブラウンやヨーロッパは、
今年の冬も餓死者を間違いなく出すでしょう。特に月面都市はどうにもなりません。
都市中枢部に我が軍の反応兵器がほうりこまれましたからね」
「使い道も知らぬくせに、反応兵器など保有しているからだ。そう思わないか?」
バイヤーは吐き捨てた。
「確かに。彼等は常に、周りがそうしているから我々も、でした。
商売やMSに対して傾けた情熱を一割でも振り向けていたならば、現状は避けられていたでしょう」
「サイド6はどうだ?」
「あの国は、グリプス大戦からさほどの直接的被害を受けませんでした。
地球連邦艦隊と共に出撃した軍の一部が損害を受けただけです」
バイヤーは新たな煙草を取り出そうとしてケースを手に取った。
しかし、ロックがかかっているため開かない。
ハンサムな要人はポケットから封をきっていないパッケージを取り出し、書記長のデスクに置いた。
「ほぅ、ラッキーストライクなぞ、君は何処で手に入れたのだ?」
「私の部下が送ってくれました。旧北米大陸で被爆しなかった、
地球連邦軍の補給廠に山のようにためこまれていたそうです」
バイヤーはそれを受け取り、封を開けながら言った。
「私はこいつの味を独立革命中におぼえてな。レンドリース(地球連邦援助物資)だったのかどうかしらんが、
いくらでも手に入った。後でその理由を知らされたときは呆れ果てたよ。
験の悪い名前だから、彼等の兵隊はこの煙草を配られたとたんに踏み潰したというじゃないか!
まったく、地球至上主義の陰謀ここにきわまれりだ」
あらたな煙草に火をつけたバイヤーは投げ出すように言った。
「その地球至上主義者に我々は勝った! ジーク・ジオン!
その点は間違いない。地球連邦は、このズム・シティに反応弾を直撃させることはできなかった。
おそるべき艦艇も、そのほとんどは反応兵器を発射しなかった。
命令を出すべき組織がこちらの第一撃で崩壊していたからだ。月面都市は崩壊し、
やすやすと我が軍門に降った。北米や中東も似たようなものだ。それなのに、リーア人だけはどうにもならない。
ブレックスも、バスクも、サイド6も――連中、いまのところ手を組んではいないが、このさきどうなることやら」
「分かっていて何もできないのは、つらいですな。月並みですが」
「だからこそ真実に近い。我が国はグリプス大戦の勝者であり、
それ故に焼け爛れた世界を背負い込まねばならん。
リーア人が何をやろうとも、しばらくは手をこまねいてみているしかない。
せめて、バスクだけでもなんとかできたらよいのだが。
奴等とのゲリラ戦にどれほどの資源が消費されているかを考えるだけで、
胸が悪くなってくる。そして、何より気に入らないのは」
「奴等がそれを知っていること、ですか?」
「そうだ。我々の手元には戦術反応弾しか残されていないことを奴等は知っている。
そして、我々の反応兵器生産施設が地球連邦によって吹き飛ばされたことも」
バイヤーは投げやりな笑みを浮かべた。事実だった。勝ったとはいえ、
ネオ・ジオンの各所に反応兵器が発射され、大きな被害をこうむったことに違いはない。
「リーア人は、宇宙の我が軍事施設のほとんど全てが、
地球連邦機動部隊の自殺的な報復攻撃で吹き飛ばされてしまったことを知っている。
だから、あの国はこのような戦略を展開しているのだ!」
「なにか手をうちますか?」
「駄目だ。彼等の持っている技術、たとえば医薬品などは、我々にも有用なのだ。
一年戦争より数は少ないとはいえ、2000万人の人民を失った痛手はあまりにも大きい」
「であるならば?」
「しばらく遊ばせておくしかあるまいよ」
デスクに置かれた電話が呼び出し音を響かせた。バイヤーは受話器を取った。
「なんだね? おお、同志エリオット! すると、君は病から奇跡的に回復したのだな?
よし、明日にでも会おうじゃないか。どうかね? よろしい。では、午後三時に」
バイヤーは受話器をもどした。
「主任設計官が健康を取り戻したのだ」
「ロケット、ですか?」
ハンサムな要人は呆れたように言った。
「エリオット・レムが飛ばすロケットは冥王星や外宇宙へ行くようなものばかりですよ。
現状でそんなものが? 偵察衛星ならばともかく」
「私も同意見だよ、もちろん」
バイヤーは煙草を灰皿の上でもみつぶした。
「だが、リーア人がなぜかはしらぬが、宇宙計画を拡大し続けている。
せめてそれぐらいはつきあわねばらなぬだろう!」
「関連情報の蒐集強化を命じておきます」
「結構だ」
あらたなラッキーストライクをくわえたバイヤーは楽しげにうなずいた。
「それこそ、次期親衛隊隊長にふさわしい才気の表出というべきだよ、グレミー」
あけましておめでとうございます。
2009年も週一ペースで投下していくので、よろしくお願いします。
グレミー! 確かにwwwwww
グレミーかw
どんな性格になってるか楽しみだw
続きが本当に楽しみだな。
保守
5.ソウルイーター
BESPA(弾道研究・外宇宙探査本部、Ballistic Equipment & the outside Space Patrol Armory)が
紆余曲折を経て奇妙な場所に置かれることになったのは、これまたグリプス大戦の影響だった。
それは官僚的な常識からいえば呆れたことに、インダストリアル7へ置かれることになった。
官公庁や関連団体が首都に集中しすぎると、反応兵器が発射された時にどうにもならない、
というのがその理由だった。なにしろ世界の半分が吹き飛んだので、どこからも反対はなかった。
そのようのことから、ブッホ・コンツェルンでの実績という後光で照らし出されつつ、
ベスパへと移籍したフランクリン・ビダンにとって、首都から逃れられるということは、
渡りに船のようなものだった。本部が首都になければ、
よほど面倒な問題がもちあがらないかぎり、雑事に煩わされなくてもすむからだった。
この民間企業からやってきた奇妙な男の立場は、
ベスパが外宇宙開発推進委員会と呼ばれていたころから微妙な部分があった。
なにしろ彼は、リーアではじめて外宇宙探査を成し遂げてしまった男だったからだ。
それも国家の金ではなく、私企業の研究開発事業という枠内でそれに成功している。
疎かに扱うわけにはいかなかった。
このため、科学技術庁は、当初S.N.R.I(リーア宇宙航行研究所、
Space Navigational Riah Institute)の上級職員として迎え入れようとした。
フランクリンはそれを断った。
「たとえば、将来、科学庁のサナリィとベスパの関係がどうなるか、そういうことですよ」
移籍を数ヶ月後にひかえたある日、マイッツァーに呼び出された彼はそう言った。
「事業規模が拡大していった場合、両者の関係はどうなります?
たとえばそこに科学技術庁をくわえてもいい。
おそらくは親衛隊と突撃機動軍と宇宙攻撃軍、そんな関係になります。
いくらベスパが特殊法人とはいっても、一番関係しようとするのは分かっていますからね」
「サナリィは突撃機動軍というよりその下のフラナガン機関だな。宇宙攻撃軍はもちろん」
マイッツァーは人の悪い笑みを浮かべながら尋ねた。フランクリンがうなずく。
「そう、ベスパです。政府があのパイ投げの後も宇宙開発に熱意を失っていない理由は、
あれでしょう? 以前に貴方が教えてくださった」
「そう思っても間違いではないね」
「ならば私は、キシリアよりはドズルになりたいですな」
「ベスパ理事かね?」
「その資格を持った計画調整責任者、そのあたりがいいです」
「もう、自分でロケットを作らないのか?」
「作りたいですよ」
フランクリンは(この男にしては珍しく)気弱な笑みを浮かべてこたえた。
「以前にも申し上げましたが、貴方はさんざん私を甘やかしてくれました。
しかし、自分の能力について、過信するほど莫迦じゃあないつもりです。
XMシリーズだって、実際は若い連中が作っていたんですよ」
「君の希望についてはなんとでもなる。しかし、難しい立場だよ。
チェンバロ作戦のような事態にまきこまれるかもしれない」
「私だったら、ソロモンが焼かれた後でも勝ってみせます。誰かのように特攻などしません」
フランクリンはまことにこの男らしい態度で断言した。
「ならば、出撃したまえ。武運長久をいのらせてもらう」
マイッツァーは破顔した。
第五節の前半を投下しました。
やや無理がある略語は大目に見て下さい。
腹いてえwwww 乙です。
なんか将来武力抗争が起きるのが確定的な名前だなw
そして、宇宙世紀0094年の今日、フランクリンは望みどおりの立場にいた。
現在の地位は、理事各の宇宙計画調整部長だった。上下に対してひどく融通のきく立場で、
宇宙攻撃軍司令長官そのものではないが、それにかなり近い権能をふるうことができる。
必要とあらば政治的な問題にも影響力を発揮できるし、
その逆に若くて頭の切れる人物を引き上げてやることもできるのだ。
ベスパ上層部や科学技術庁は、フランクリンがブッホという巨大な後ろ盾を持っていることを承知していたし、
ベスパの若手は地球連邦が採用しなかった手法で外宇宙探査を成功させた彼をいける伝説として受け入れていた。
その外見や話し振りからは意外に感じられるほどに、組織調整能力に長けていたことも、地位の強化に役立っていた。
しかし、それは同時に不快な決定を下すことを求められる立場であることも意味している。
宇宙世紀0094年のその日、数名の若手開発職員達は、自作のパネルまで持ちこんで彼を説得しようとしていた。
彼等が唱えている内容は宇宙開発に携わるものであれば誰もが等しく抱くはずの夢だった。
少なくとも彼等はそう信じていた。フランクリンが自分達の夢に賛同してくれるものと考えていた。
彼等は、太陽系の一番遠くに存在する天体へ、人間を送り込む方法について述べ立てていた。
開発の面倒な超大型ブースターについては取り敢えず諦め、
現在設計が進行している新型螺旋配置式核融合エンジンを使用します。
ええ、フランクリン先生、そうです。基本的にはジオンの冥王計画と同じ手法を用います。
彼等のように、着陸船である「ラガン」と生活施設を組み込んだ本船の「グレン」を木星軌道で合流させます。
合流してひとつのシステムとなった船は、冥王星軌道まで航宙し、そこで乗員がラガンに乗り込んで降下、
最大三日程度の探査活動を行った後、上昇。グレンと合流して帰路につきます。先生、どうですか?
「アイディアとしてはおもしろいよ」
フランクリンは左手の中指で下唇をもてあそびながらこたえた。
「検討に値する内容でもある」
だが、と彼は首をふった。今のところ実現はできない。
ベスパは、冥王星への有人飛行計画を優先議題としてはあつかえない。
なぜですか、と若者達は質問した。
「まず、冥王星を目指すべきじゃないですか?」
「それは気分だろう。私も気分としては君達に賛成だよ。だが、現実は別だね」
彼はそこで言葉を切った。息をのみこむようにする。
「そこで尋ねたいのだが」
フランクリンは真面目な顔で尋ねた。
いったいぜんたい、どうして急いで冥王星にいかにゃならんのかね?
「誰か教えてくれんか? ジオンがやろうとしているからってのは理由にならんぞ。
別に我が国は新たな戦争を始めたいわけじゃないだ」
若者達は言葉に詰まった。脳のあちこちから拾い集めてきた言葉が、
彼等の内部で様々な文章を作り上げた。だが、それを口にすることはできなかった。
フランクリンが発した余りにも基本的な質問に比べると、どれもこれも弱々しすぎた。
当然すぎるほどの質問に対して、気恥ずかしさすらおぼえるほどの理想や夢でしか反論できなかった。
ようやくのことで、三人の若者の中で最も向こう気の強そうな顔つきの男が、
全面降伏を避けるためだけに反論した。
「ジオンが冥王星に軍事基地を建設して――」
「おいおい」
フランクリンは困ったような表情を浮かべた。
「どんな軍事基地だ? 軍隊で最も重視される概念が何かしているかね?
即応性だ。冥王星に置いた基地にどんな即応性が期待できる?
地球圏の支配権を握るために冥王星に基地をおくぐらいなら、
あの怪しげな遊星爆弾を実用化した方がまだマシだよ」
不機嫌に黙り込んでしまった若者達にフランクリンは言った。
「そうなんだ。冥王星なんてものは、そのうち必要があれば、そんなものだ。つまり、俺達が」
フランクリンは、感情が高ぶると自己を表わす代名詞を無意識のうちにかえてしまう癖があった。
「俺達が足元を固めながら歩いていけば、いつかは必ずいける資材置場、
その程度のものだ。今の俺達が目指すべきは」
フランクリンは立ち上がった。
「まず、地球圏全てを監視できる偵察衛星網の配備と、
それを効率的に維持運営するための周期軌道基地の建設。
これだ。おい、そのために必要なものはなんだ?」
「経済性が高く、大出力が発揮可能な融合炉です」
気の短い男がこたえた。
「なんだ、分かってるじゃないか」
フランクリンは微笑んだ。血圧が上がってきたのが自分でも分かっていた。
「とにかく、一秒でも早く、一グラムでも多くの物を運ぶこと。これが最も優先されるべき課題なんだ。
考えてもみろ。数万トンの貨物を数日で、まぁ、仕方ないか、と思える値段で、
一度に外惑星系へと輸送する手段が開発された世界のことを。なんでもできるじゃないか!」
フランクリンは理解と情熱の双方を浮かべた顔で続けた。
「自分の職場についている看板を思いだせ。俺達は太陽系を冒険したいわけじゃない。
この銀河を自由に使いたいのだ。選ばれた人間だけではなく、
そこらへんで女を引っ掛けて遊んでいるあんちゃんでも
それができるような準備をするのが俺達の商売だ。この薄汚れた地球圏で絶滅しないために」
要約するならば、日常の永久なる拡大、そういうことだな、
奇妙な感動をおぼえてフランクリンの執務室を退出した三人の若者はそう結論した。
悪くはない。悪くはないが、どこかつまらない。
けれども、奇妙に納得してしまった。どうしてなのだろう?
「そうか」
一人が呆れたように呻いた。彼は仲間に説明した。
考えてもみろ、あの人は何を言っていた?
俺達の日常が何処までも拡大するってことだろ。そうだよ。わからんか。
毎朝、味噌汁飲んで納豆喰っている俺達が、箸と御椀を持ったまま銀河系宇宙を支配する。
そう言っていたんだよ。ただ冥王星へ行きたい、なんてのより余程とんでもない夢だ、これは。
気の短い男が苦笑した。
なんとなく自分がギレンとの会談で奇妙な安堵感をおぼえたジオン軍の将軍のような気がしてきたよ。
おいおい、気に入らないのか? そんなことはないさ、と彼はこたえた。
「ジオン軍の将軍は、その大半が、ギレンに最後までつきあったて話だからな」
第五節の投下が終了しました。
次は第三節の続きでジョンとマイッツァーの話になります。
そういえば、この世界のカミーユ達はどうしてるんだろう?
ここにもガチホモスレがwwwwww
アナル大好きガチホモのみなさんは板違いですよ!
なにコイツw キメェw 巣に帰れよw
>>655 ここの住人の皆さんはこのキチガイを放置してやっといてつかあさい。
こいつ、旧シャアのスレ二つを自演の荒らしで落とした程度で勝利者気取って
現実では決して味わえない勝利の美酒を飲んだ気になってる、
調子乗った哀れな負け組ニートなんですわ。
皆さん、このゴミはゴミらしくゴミのような扱いでもしたって下さい。お騒がせでした〜。
658 :
にんにく:2009/01/19(月) 17:23:07 ID:???
こんなつまらないSS読んだことねえwww
糞SS晒しage!!
661 :
通常の名無しさんの3倍:2009/01/19(月) 18:13:39 ID:xaRo3Evr
死ねよ。先行し過ぎてな。
今度はこの糞スレかw
何でいちいちageるん?
こんなん地下でやれや
旧シャア住民に迷惑だと思わんの?
糞スレは今日も平常運転で稼動中。
酷い公開オナニーだなw
>>1 こういうスレは下の方でやったほうが長続きするよ
一回ageちまったものはしゃーないやんwww
w
671 :
にんにく:2009/01/19(月) 21:09:20 ID:???
正夢#TY8059と俺が同一人物という考えはこの無職には無いことが判明。
まあいいや。この脳障害者がいつまでこの自慰行為を続けれるのか見物だな。
少なくとも、こいつの生きがいはこの自慰行為だけみたいだし(笑)
とりあえず障害者のリハビリ頑張ってね。いや、それとも薬中ジャンキーかな?
覚醒剤でも使ってるのかなこいつ(笑)脳がいかれるわけだ(笑)幻覚でも見て死なないようにね(爆)
ageるとかいってる奴は5〜10前のレスもよめない真性ですか?
どっかから聞きつけた荒らしがあげてるだけじゃん。
自分のバカさを笑えよ
またスレ主の自作自演か。
この程度の完成度で恥ずかしくないのか?
もっと我々を愉しませたまえよ似非者職人君。
常に我々の反応を窺って駄文を捻出する、それの繰り返し。
それがお前の卑しい勤めだ。
精進しろ。
これって上でもでてるけどまとめサイトとかないの?
また自作自演スレ摘発ですか
自作自演wwwwww
オウムみたいなスレだなwwwwwwwwwwwwwww
とりあえずアゲてる奴が何を言おうと、それこそ自演にしか見えないから
ここの住人の皆さんはこのヤク中の自慰は無視、スルーを続けて下さい。
時々このジャンキー無職がお得意の自演で住人のふりをして
自分で荒らしの相手をする事がありますが、そんなのも無視し続けて下さい。
このスレは何も悪くないですから。ディープジャンキーの一人芝居のせいです。
このヤク中無職はSSのような、悪く言えば馴れ合いのあるスレが嫌いみたいなんです。
現実でもネット上でも友達ができない周囲から負け組と評される生物ってのは、
最後はこんな自慰でしか自分の存在価値を見いだせない無様な生物になるんですね。
わかりますよw
こんな小学生レベルの糞SSはブログでやれよ
旧シャア板のレベル下がるわ
>>680 にんにくスレ潰されてくやしいのうwくやしいのうw
なんか久しぶりにあがってたので覗いてみた。
いままでいくつか作品でてきてわかりにくくなってきてると思うから、目次みたいなの作らないか?
こんなオナニー駄文を垂れ流して恥ずかしくないの?
このスレタイって孔明しせず元ねたになってるけど仲路さとるの信長死せずのが俺としては元ネタだと思うんだが
そこら辺どうよ?異戦国志シリーズおもしろかったよね
糞SS信者が必死ですなあwwwwww
こんなスレあったんだ
とりあえず、住民にこのSSのおもしろさを解説してもらおうか?
age荒らしが白々しいですね
このギレン死すとも自由はしせず!ですよ
>>1 それじゃつまらないからいっそギレンが死んでいた、ということにするのは、どう?
斬新できっとおもしろくなること請け合いですぜダンナ?w
もっと楽しもうよ!
新しい道を開拓することに意義があると思うんだ
既存の使い古しの手法じゃあまりにも退屈だ
一緒に良いSSを創っていこう!
691 :
通常の名無しさんの3倍:2009/01/19(月) 23:37:08 ID:DDPcBirF
ジャーンジャーンジャーン
「わわわギレンだ」
「ひけっ ひけっ」
「まて あわてるな これはギレンの罠だ」
死せるギレン生けるレビルを走らす
age推奨
公開オナニースレ晒しage!w
オマンコまんこオマンコまんこ
オマンコまんこオマンコまんこ
オマンコまんこオムあんこ
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
>>690 ちょwwwwおまwwwwwwwwwwwwww
こんな駄文読んで満足できる住人のレベルってwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
あ、アムロスレで暴れてた馬鹿が今度はこっちに来たのか。
こいつは自演で暴れるから完全無視が基本。
は?ギレン死んだろうが?
だったらそれでいいじゃねえかw
下らんifはいらねえよカス共www
何寝言ホザいてやがるwwwwwww
キチガイ荒らしが住人と荒らしを使い分けて必死ですねw
そのキチガイ荒らしに構う馬鹿も荒らし。
荒らし乙
707 :
705:2009/01/20(火) 22:57:42 ID:???
ばっかwんなわけねえだろ・・・・・・うっ
べらぼっ!!!!
>>680 にんにくさん、カードビルダースレに帰って来て下さい。
光の中で揺れてる お前の微笑み
しつこいので通報しときました。
すぐに気の毒な晒し者になるでしょう。
そんなことしたら誰も来なくなるだろうが
構ってちゃんは放っとけばその内蒸発するさ
713 :
通常の名無しさんの3倍:2009/01/21(水) 09:51:59 ID:VLLi5G21
>>31 > 「オデッサゲルググ戦闘録」
これは「ラバウル烈風空戦録」かな
今からでも遅くないから
『レビル死せず』にしてくれまいか?
それだったら読むよ
今からでも遅くないから
『セイラ悶絶アナル調教』にしてくれまいか?
それだったら読むよ
今からでも遅くないから
『レビル悶絶アナル調教』にしてくれまいか?
それだったら読むよ
718 :
同志:2009/01/21(水) 18:58:57 ID:???
>>708 アケ板に次スレ建てようか?あそこ強制ID表示だから
勿論、重複にならないようなスレタイにするけどね
>>717 ほらほら、もっとガチホモらしく◆u2zajGCu6kさんに媚びないとオナニー投下はオアズケですよ!
720 :
読者:2009/01/21(水) 20:56:49 ID:???
>>718 さすがにアケ板は板違いだからそこの住民に迷惑
最も望ましい移民先はパー速かと
あそこなら受け入れ幅が広いし、
画期的な強制IDを取り入れているから荒らされる心配も無い
SS投下に最適だ
よし、実行は早い方が良い、誰かパー速に立ててきてくれないか?
スレタイは『ギレン死せず2』だ
ああ、パー速なら安心してSSを楽しむ事が出来るな。
とりあえず運営に報告が先だよね
実際のところ運営に報告してもどうにもならんだろ
やってきてみ
724 :
代行人:2009/01/21(水) 21:59:06 ID:???
パー速立てますよ
別に立てなくていいじゃないかな?
ゆっくり
>>1が投下するの待つつもりだけど
もう先に運営に報告されてるみたいだしちょっと待ってからでいいと思うよ
そもそも報告て何が荒らしなのかワカメ
報告は最終手段であって
それをやっちゃうと荒らしの定義がキツクなるから住人が減っちゃうんだよなあ
多様な意見の受け皿ってスレ運営上大事よ?
まあひとまず落ち着こうや
っ旦
報告報告言ってるヤツは馬鹿なんなんだろ
このスレの住人は例外なく全員バカだろw
ageてみる
才能がない人がSSやるとこうなるんだよねw
お前よりはましだとおもうぞ
◆u2zajGCu6k乙w
おホモ達がお前の公開オナニーをまだがまだかとオナリながら待ってから
早くやってやれよwww
糞スレはage進行だろ JK
そうだね(笑)
ん?
ageまんまん
アゲ♂アゲ♂
743 :
通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 02:32:41 ID:1tbTYb2/
何でこのスレが荒らされてるんだ?
荒らしはパー速池!
マツコ・デラックスが乗車
序章「訪れの始まり」
上空にあるのは澄みきった紺碧の色のみだった。そこに雲はなく、ただ原色のような色を広げている。
その空の下、満開の花々に彩られた桜並木がある。道の始まりにある門柱には尊秋多学院≠ニの文字が刻まれていた。
「確か、このあたりのはずだったけど……」
呟く声は変声期を終えたばかりのような、僅かな高さの残るテノール。
少年の名前を、草壁桜と言った。
●
「うわ〜、やっぱりすごいおっきいね〜」
「……ドクロちゃん、どうしてあなたはここにいるの?」
ドクロ、と呼ばれた少女は頬に手を当て、
「……こ、高校デビューを記念して公開野外プレイ?」
「どんな記念だよ! 野外ってチクチクするって雑誌に書いてたじゃないか! それにどうしてドクロちゃんがここにいるの!?」
「やだな〜桜くん、ボクも一緒に高校受験したじゃんっ」
言われて桜が思い出したのは、私立高校受験日翌日の新聞の一面だった。尊秋多学院で行われた普通科一般受験の面接教官が、ことごとく行方不明になったという内容だった。
後日、答案に名前しか書いていなかった筈のドクロが首席で合格した直後に、行方不明だった教官が山中で発見された。
……世の中って力さえあればどうにでもなるのかなぁ。
「桜くん、桜くん。あの人たちじゃないかなっ」
隣の廃テンション馬鹿天使が指差すのは、図書館の前に広がる芝生だった。中央あたりに座るのは男子の制服と女子の制服が一人ずつ。
五人の中央に展開されているのは大きめの重箱が一つ。
両サイドに白髪の特徴的な髪型をした男が重箱から角煮を摘み、口に入れる寸前で目が合った。
「……おや、もしかして草壁・桜君かね」
「は、はい」
別に脅されているわけではないが、言葉に詰まる。なんとなく、他の人にない雰囲気を持った人だ。
「私は佐山・御言。尊秋多学院の生徒会会長にして世界の中心だ。ああ、別に私が高貴だからといって卑屈になる必要はない。楽にしたま……」
「ごめんね。この人、頭がかなり変だからあんまり真面目に聞かないでね? ボクは新庄・運切、生徒会の副会長をしてます」
「ふ〜ん♪ふふふ〜ん♪」
上条当麻は機嫌が良かった。銀髪シスターに邪魔されず、ビリビリ電撃娘に喧嘩を売られることなく、超高級黒蜜堂最高級プリンを頬張っていたからだ。
「んにゃ〜こいつはうまいぜよ」
「わは〜!土御門!お前ホントいい奴だな!」
実は級友の土御門元春が奢ってくれたモノなのだが。
「んでかみやん、頼みがあるのだぜよ」
「なんだい、元春くん?喜んで承ろうじゃないか」
久々に幸せメーターの降りきった上条は、自分の不幸頻発体質を省みず言った。
「ちょいと正義の味方を」
「へ?」
と、言ったとき、窓のガラスが破れた。
「……………へ?」
昆虫みたいな、生き物。
「…………へぇ?」
ただし、めっさデカイ。
「………はぁ!?」
しかも上に人乗ってる。
「ほんじゃなーかみやんー。そいつを追って変な奴来るけど、引き渡しといてやー」
「アホー!?!出来るかー!!」
ぎろり、と虫の上の少年が上条を睨みつけた。土御門は消えている。
「アンタも……アンタも邪魔すんのかぁ!」
「わ、わ、わ!待たんかってば!」
逃げる上条。店の外へ連れだして助けを……
ズドン!!
「う、うわっ………!」
大砲の轟音。虫に穴があいたのか体液がだくだくと流れている。
「手間をかけさせるなよ、三下が」
声の元を見ると漆黒のコートを着た少年が、これまた虫がくっついたようなグロテスクな銃をぶら下げていた。
それは最強の虫憑き・かっこうと
異端の能力者・幻想殺しの線が交わる、
絶好で絶悪のハードボイルドストーリー!!
「幽霊?」
「うん、そうなんだよ佐山くん。ほら、校庭のオブジェわかる? あの卵型してるヤツ」
新庄の話に、佐山は頷きながら新庄のボディラインをチェック。
うむ、今日も新庄くんは素晴らしい。
「ああ、消滅したかと思われたご老体が憎らしいことに帰ってきたその日に校庭に設置したあの卵型だか何かわからないものだね。
生徒会にも何件かアンケートが寄せられているよ。
『ジャマだ』『消えろ』『頼むから副会長を大人しくさせてください』『XYZ──校舎の前にて待つ』
ははは、なかなかオリジナリティにあふれているね?」
「ごめん佐山くん、そのアンケートは多分関係ない」
そうかね、と答えつつ佐山はネクタイを締める。
やはり新庄の前ではいつも真面目でいなければなるまい。
「つまり──その卵型のようにうるわしい赤ちゃんが欲しいのだグァ」
「ああごめん佐山くん、ネクタイが緩んでたみたいだったから」
息苦しい視界の中で新庄の笑顔は晴れ晴れと輝いている。
「とにかくそのオブジェの前に人が現れたとか消えたとか騒ぎが起きてるんだよ。
風見さんたちにも相談したけどわからないみたいだし」
「ふむ」
新庄の絞首刑から解放されて一息。
「では飛場と美影くん、原川とヒオくんで調査をしてもらおうか」
「我々UNCLET一行は突然正体不明の敵の攻撃を受k・・・」
カメラ目線でモノローグを始めた女子中学生(のようなもの)にビキニタイプの甲冑
を纏った猫耳少女が突っ込みを入れる
「エーックス!わざとらしい説明セリフはやめろt・・・」
そこに合いの手を入れるのはライダースーツの少女と車椅子の少女
「おい、内輪もめしてる場合じゃねえぞ」
「どうやら新手が来たようです」
見上げた空から鬣と羽を生やした黄金像が降下してくる
「オシリス殿、一体何の騒ぎです?」
黄金像が話しかけたのは腰から下が球根状になった全身緑色の美女だ
「あからさまに怪しい連中が山に入ってきたので正体を確かめようとしたのだがな」
予想外に手強くて難儀していると語る植物美女の言葉に黄金像も緊張した雰囲気になる
「容易ならぬ相手のようですね・・・」
植物美女が触手を伸ばし黄金像が目から怪光線を放つ
猫耳少女が大剣を振り回し車椅子がホバリングダッシュしながらミサイル発射
爆煙と火柱が交錯する修羅場から少し離れた場所にスーツ姿の美女と学生服の少年がいた
「みんな楽しそうですねえ首領」
「あれは本気で戦ってますよ!大体ただのピクニックのはずだったのに何であんなのが
出てくるんですか!?!」
暗闇の中を駆ける佐山は、己の判断を明確にするべく、走る。
一息をつくとともに浮いた身に緊張をみなぎらせ、着地とともに飛び、また大地を蹴る。
その動きは疾走というよりもベクトルをただ進行のみに振り絞った跳躍に近い。
「先ほどから聞こえる地響き…こちらか」
この空間、先ほどからすれ違う人々は全く身動きもせず固まっている。
時の停止した世界? ならばなぜ自分は動ける?
脳裏に浮かんだ疑問は保留して、走ること数分。
暗闇の中に仄かに明るい影が二つ。
一つは、巨大な赤ん坊のごとき丸々とした物体、それはもう一つの影へと駄々をこねるようにパンチを繰り出している。
もう一つの影は、少女だった。
長身痩躯のその身は揺らめく炎のごとき灼い髪をなびかせ、そして手にはその身の丈もありそうな日本刀が握られている。
日本にこのような人物がいたとは佐山は聞いたことがない。その少女は身軽に、人間とは思えぬ跳躍を繰り返しながら『赤ん坊』の攻撃をかわしている。
だが、決定打になっていない。そしてまた少女は怪物の攻撃をかわす。
「よければその刀を貸して欲しい。」
「ダメ、これはあんたなんかに扱えるものじゃない」
「ならば、きみにトドメを頼もう」
応答の間に赤ん坊がガラガラとビルの中から這い上がってくる。
「彼は困ったことに元気満点のようだ、あと五秒で答えたまえ。あれはなんだ?5・4・3・2・1・0・1・2・3・4・5、いかん十秒数えてしまった」
己の聡明な頭を抱える佐山にあきれるように半眼になりながら、灼眼の少女は問いをつむいだ。
「…オマエ、一体なに?」
「──悪役を希望している」
―ただし吹き消すのではなく―吸い上げた。
明らかに、「喰って」いるように見えた。
「戯言、だろ」
いくらなんでもこれは―インパクトが有り過ぎだ。
痩せ細り弱っていく灯りの中に、ぼくは完全に取り残されていた。
だが人形どもはどうやら、こちらに気づいたようだった。
話の内容からすると、興味を持ったらしかった。
というか、喋っている。人形が。
キューピーの巨大な腕が、ぼくの身体を鷲掴みにする。
「いただきま―――す!!!」
ぱっくりと開いた大口を瞬きもせずただ見据えるぼくの目の前にその時、
紅蓮の火球が、墜ちて来た。
刹那、キューピーの腕ごと斬り飛ばされて地面に叩き付けられるぼく。
「ぐえ」
まだ腕に掴まれたままなので、受身どころじゃない。
ま、緩衝材の役割をしてくれたのは有難かったが。
バウンドしてそのままごろごろと転がる。
むせながら、どうにか解けた指を押しのけて起き上がる。
―と、ぼくの目に映ったのは、
火の粉を散らして燃え立つ、赫く目映い、長い髪。
次の瞬間ぼくは、他のあらゆる感覚も状況も忘れて、
黒衣を纏い佇むその圧倒的な存在に、
小柄な体躯に不釣合いな大太刀を提げたその少女に、
何よりそのあまりに神々しい灼熱の双眸に、
ただただ、魅入られて―見入って、いた。
「君は、誰」
ぼくは問う。
「私は、フレイムヘイズ」
彼女は答えて、躊躇なく容赦なく刀を振り下ろした。
勿論ぼくは、目を閉じることはなかった。
「悪役…?」
「まだあくまで悪役希望でしかないがね。」
口ぶりに不機嫌と焦燥を瞳に宿らせる少女を佐山は無視。今は彼女と見つめあうよりもすることがある。
四つんばいになった怪物がこちらを見ている。
心の中で佐山はふむと頭をひねる。この不思議空間、特に重力が変わっているわけでもない。だがこのような場所を作るということは彼らにとって有益があるに違いない。
(それはおそらく、この時間停止ということだろう……ならばなぜ自分は動ける?)
情報がないこの状態では思考は堂々巡りにならざるをえない、佐山は空間の不備は自身には及んでないとだけ結論づける。
「おまえぇぇ、なんだぁ〜?」
問いを投げかけてくる怪物に答える義理はない。一度背後の少女に眼をむければ彼女はしっかりと両手で刀を握っている。
「オマエ!燐子(ソレ)はあんたなんかが相手にできるやつじゃない! 引っ込んでて!」
「そうはいかない」
答えて、前に出る。
物質が不可解な燐光を発するこの空間、己と、少女と、怪物だけが動く。
怪物にはこちらの格闘はたいした効果を与えられず、少女はもしかしたら自分ごと怪物を叩ききるかもしれない。
難儀なことだ、実に難儀だ。だが、歩みは止めない。
「ここでならば、私は全力を出せるかもしれないのだから」
「このやろぉ、こたえろよぉ〜」
気の抜けた声とともに赤ん坊が動く。その身は声に反して、いや質量に反して軽快だ。
四つんばいだというのにまるで風のようにこちらに向かってくる。その怪物に、佐山はある動作をとった。
背を向けたのだ。
「!? オマエ! 何してるの!」
何かの手品か火を纏う少女のほうへと、佐山は手を振り、笑顔を見せる。
「なんだぁ、降参かぁ?」
「いいかね、これより彼に痛い目を見せる」
怪物が音をたてて向かってくる。
「動きを止めたら、斬りたまえ」
地響きが近づいている。風の音がする。
「つぶれちゃえ!」
佐山のその身を背後から巨大な短い腕が押しつぶした。
「つぶれた、つぶれたぁ」
ケラケラと笑う赤ん坊、その手は先ほどまで青年がいた場所を張り手で押しつぶしていた。
「…! アイツ!」
「えへへぇ、次はオマエの番だぞぉ、フレイムヘイズぅ〜」
「フン、あんたなんかにワタシがやられるものか! ……アイツもね!」
「なんだ…ぉぅ!?」
少女の声に合わせるように、大砲の音にも聞き間違えそうな蹴音が響いた。
のけぞる赤ん坊、その下には
「──斬りたまえ!」
スーツのトップスを脱ぎ捨てた黒髪に白のメッシュの青年。
「フンッ!」
面白くなさそうに少女は大太刀『贄殿遮那』を両手で構えて跳躍。
相互の距離を一瞬で無きものとした少女は、大きく空中で赤子の腕を斬断する。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!! うで、うでぇぇ〜〜」
ぼぅ、と裂け目から炎が走る。
「よくやった、素早い判断を下してくれたことに感謝する」
振り返ればそこに、拍手をこちらに捧げる青年の姿。
「だが、とどめは刺さないのかね?」
「オマエは黙ってて! こいつには聞くことがあるの!」
フムと少年は一息しながら破けた上着を拾い上げる。
彼は攻撃の刹那で上着を脱ぎ捨てながら背後に下がったのだ。そうして懐に飛び込んだ上で腹部に蹴りを放って仰け反らせた。
一つ間違えればそれこそ死に値する行為、それをやりとげた佐山もだが、その行為に気づく少女の眼力も常人の域を超えている。
「オマエ! 主人の名前はなんというの!」
堅牢な扉があった。
その前に立つのは二人の人影。
片や白のワンピースを纏う少女、片や黒で統一された服を纏う中世的な男性。
少女が男性を見ると、彼は意図を察したのか前へ一歩歩き、扉の横につけられたインターホンを鳴らす。
間を置かずして機械からは声が返り、男性は機械越しにいくつか応答をすると元の立ち位置に戻った。
一呼吸置いて、扉が音を立てて開きだす。
少女は満足そうにそれを眺め、男性は少女の様子を見て小さく嘆息する。
扉が完全に開くと少女は足を踏み出す。
それを迎えたのは眩いほどの光だった。
「なっ……なにっ!?」
真目麻耶が扉を潜り、屋内に最初の一歩を踏み入れた途端、襲い掛かってきたのは目を開けていられないほどの光。
罠だったのかと身構えるが、次に飛んできたのは銃弾でも刃物でもなく、言葉だった。
「あぁっ、しまったっ! フラッシュを炊きすぎて目を瞑られてしまったぞ! も、もう一回だけ! もう一回だけチャンスを! あの子の生写真を撮るチャンスなんて一生に一回あるかないかだからーっ」
最前列にいた者たちが哀願するように声を出すが、彼らは前に出ようとする2列目のもの達によって後ろに放り投げられて。
「うるせぇ! それは誰だって同じなんだよっ。さぁさぁ退いた退いたっ、戦場では一瞬一秒が大切なんだからな」
「まったくその通り。前も同じ状況だったというのに、君達は学習能力がなくていかんなあ。まあ一番最初の初々しさというのもいいんだが、それを撮るには高度な技量が必要故、やっぱり凡人のわしらは2枚目で勝負」
前に出てきた2列目の者達、その中央に立つ、一際目立つ白衣の老人が呟くと周りのものが同意するように頷く。みなの同意を得られたことに気を良くしたのか彼は微笑を浮かべながら対戦車砲と見まがえる巨大なレンズをつけたカメラをこちらに向ける。
ようやく麻耶は混乱から冷静を取り戻すと、自分が置かれている立場を理解する。自分は取引相手の本拠地に招かれ、そして何故か今撮影をされているということを。
「というわけで気を取り直して、2枚目に行かせてもらうでな〜」
老人の言葉と共に、前に出たものたちが姿勢を変える。自分達がもっとも得意とする撮影の姿勢に。
ファインダー越しの視線が集約してくると麻耶は息を飲み、
「ちょ、ちょっとお待ち――」
「はい・ち〜ず」
反射的に麻耶が背筋を伸ばすと同時に、先ほどよりは控えめのフラッシュ、そしてシャッター音が鳴り響いた。
巨大なカメラを持つ老人は嬉しそうに笑みを浮かべて、手に持ったカメラを下ろし、
「ははは、驚かせてすまんなあ。真目家のご令嬢、ようこそ日本UCエッ――ぐほっ」
何かを言おうとして、前に出てきた3列目の者達によって奥のほうへと追いやられていった。
「……怜、ここは確か……」
この異常な状況になれたか、麻耶は後ろに控えている自分のお目付け役に言葉を発する。
「はい……遺産に関わっていない、かつ真目家とも関わりを持っておらず、しかし協力関係を結ぶことで我々の利となる可能性のある組織ということで選出しました日本UCATです」
その言葉に嘆息すると、来る前に目を通してきた資料を彼女は思い出す。
佐山は改めて周囲を見回す。
相変わらずの暗い世界。その中でもやけに輝いているのは少女の髪だ。
(炎のように赤い髪……明らかに光を放っているのはこの不思議現象を関係があるのだろうか)
「アラストール、どう?」
「ふむ、徒ではないな。ただの燐子だ」
「なら、主の名くらいは聞かせてもらおうかしら」
赤ん坊の前で刀を突きつけながら少女が何かを話している。
その声の中には明らかに少女とは違う質のものが混じっている。
大刀を振るう少女の周囲には誰もいない。とすれば、
「いかんな、このような歳から空想と会話するなど……精神病院通いか。ふむ……
少女、白い家、サナトリウム、満天の星……」
「うるさいわよオマエ!」
空想少女の声で妄想が引き裂かれる。
少女がこちらに向けているのは大刀だ。健全な市民にまで凶器を振るうとは、よほど通院歴が長いに違いない。
見れば、既に刀を振るった後なのか、先ほどの赤ん坊はズダズダに千切れ散乱している。
だが、見かけがそれほどグロテスクでないのは、
「……骨も何もない? これはどういうことかね」
「”燐子”は存在の力を食らいて生きる常世の理ならぬもの。紅世の徒の作り出した下部だ」
目の前の少女から声がする。
よく見ればその少女の胸にぶらさがっているものがある。
宝石と二つのリングの交差で作られているそれは傍目から見ても高価なものだ。
ましてやうっすらと光を放ち、声も放つ。
「意思ある宝石…と見てよいのかね、相当の年季を感じる声だ」
「オマエ! さっきからぶつぶつとうるさい!」
いかん、さすがに無視しすぎたか。ならあ挨拶といこう。
「ごきげんよう、少女よ。私の名は佐山御言、世界の支配者である」
発言した瞬間に風が首元をなぎ払った。
その少女は突然あらわれた。
「あなたは もうすぐしんでしまう。」
雪のように真っ白な少女だった。右の肩にへんな黒猫が乗っていて、手には大きな鎌を持っていた。
「へっ?」
と僕が変な声を出すと、彼女はこう言った。
「わたしにはなにもできない。けど、」「?」
「あなたはきっと、たいせつなものをまもれるとおもう。だって、」
「ちょっと待ってよ」
さっきから、何を言っているのかわからない。僕は、彼女と鼻がくっつきそうになるぐらい近寄って、
「僕はそんな、いきなり突拍子もなく…」
とそのとき、後ろからどす黒いオーラと共に、
「さぁ〜くぅ〜らぁ〜くぅ〜ん」というこえが……
「ド、ドクロちゃんッ!?」
「何でそんなにお顔を近付けていたのっ!?だいたい、ボクずっと部室でまっていたんだよっ!
それなのに、ボクをほっといてここでなにやってるのさ!その女の子とへんなことしてたのっ!?」
「いやいやいやいやいやっ!これはちがいますっ!」
よくみると、彼女は給食着をきて木工ボンドをもっています。
「ボク、ずっとさみしかったんだから……ッ」
ドクロちゃんは給食着のそでで涙をぬぐった彼女が僕に向けたのは鋼鉄バット『エ
スカリボルグ』。刹那、僕のカラダは<ズドン>という音をたてて、グズグズの原
形をとどめない肉塊になりながら遠くまでトンでいきマッス。
少女が泣いていました。少女の肩の黒猫が目をおおっていました。「サクラくん!」 ぴぴるぴるぴるぴぴぴるぴ〜♪
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
「へ〜、モモは死神なんだ。僕は草壁サクラ。よろしくね。さっきは怖がらせて
ごめんね?ドクロちゃんってあんな人なんだ」
「そうなんだ。でも、サクラ君は強いね」「なんで?」
「だって、ドクロちゃんのような人と毎日過ごしていて精神異常をおこさないで
いられるのは、サクラ君だけだとおもう」
そう言うと、モモはとても綺麗に笑いました。その綺麗な笑顔をみながら、僕は
ふと、人を撲殺するドクロちゃんより、モモの方が天使みたいだと思いました。
そして、「ドクロちゃんの方が、死神みたい……」
そのこえをスルドク聞き付けたドクロちゃんは、
「サクラ君のバカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!!!!!」 ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪
佐山は大太刀をスウェーバックで回避すると、かすった顎を抑えながら少女に言葉をかける。
「さすがに今のは私も死を覚悟したよ…いい振り切りだった」
「かわすんじゃない!」
なかなか無茶を言う少女がさらなる斬撃を放つ前に、佐山は掌をまっすぐと突き出した。
「待ちたまえ」
声に、少女は止まらない。
だが、この場にいるのは、少女と彼だけではない。
「待て、この者の話を聞こう」
「アラストール!?」
──”アラストール”。そう呼ばれた”声”が少女の動きを制した。「この者、封絶の中でこうして動いている。
徒でもなく、フレイムヘイズでもないものがこのように何の意も介さずに正気を保っている。
興味がある、一度話を聞いてみてもよかろう」
「…アラストールが、そう言うなら」
渋々と少女はその刃を構えたまま、だが一応攻撃姿勢をといて見せた。よほどこの”声”には逆らいがたい恩義があるのだろう。あるいは、契約か。
「口添え感謝する、ご老人……で、よいのかね?」 「構わぬ。人間、佐山といったな。いい胆力を持っている」
「なに、山猿に自然の中でしごかれて何度か死にかけている。これくらいはどうということはない。
そういえばあの山猿め、人間の生活を忘れさせてやろうと、蜂蜜をまぶして熊の巣に縄でまいて落としたというのに、まだ生きているのだから困ったものだ」
「…アラストール、コイツ、やっぱり変」
そうつぶやく少女に、宝石から「同感だ」との声があがるのを佐山ははっきり耳にした。
「とりあえずこの空間はどうにかならぬのかね。暗いとも明るいとも言いがたいので新手のお化け屋敷のように思うのだが」
尋ねると、少女と宝石はなにやら言葉を交わす。
「アラストール、徒の気配は?」
「付近にはないな。だが、佐山、お主が元いた場所はどこになる?」
「この商店街を抜け出た尊秋田学園の三階だが」
!?
少女の顔に明らかな驚きが走った。
それは、封絶の不自然な大きさへの驚きでもあるが、それだけではない。
(コイツ……そんな場所からわざわざココへ来たの?)
「…お主が突然いなくなったということになるが、構わぬか?」
「私の特技に瞬間移動が増えてうれしい限りだ。構わぬよ」
「ならば、よかろう」
宝石からの声に明らかな肯きが含まれると、少女がコクリと肯いた。
やがて、ビルの瓦礫に巻き込まれたらしい母娘の姿を見つけると、何事かをつぶやいてから指先を空にかざした。
「この二人、もう助からないわ。この二人でいいわね」
──何のことだ?
佐山が疑問に思うよりも早く、先ほどの怪物がしたと同じこと。
ほのかな”火”が親子の体から抜け出て少女の指先に集まってゆく。
やがて、小さな粒子となった”火”が周囲を舐めるように燃え移ると、先ほど崩れたビルなどが元通りに修復されてゆく。
「これは……」
「修復が済み次第、封絶を解除する。
人気のない場所へ移動したほうがよかろう」
厳然としたアラストールの声に、佐山は軽く息を吐いた。
「全ての話はその後か。ならばよい場所がある、人がなぜか来ない特等席が」
「なら、そこでいいわ」
少女が移動に窮屈なためか、大太刀を外套に収めながら了承したのをみて、佐山は続けた。
「私の部屋だ」
尊秋田学園の昼休み。
生徒たちは一部を除いて学生食堂へと駆けて行く。
その廊下を往来する途中で、英語教師である女性はどうしたものかと小首をかしげていた。
今日の昼から登校するはずの転入生が来ないのだ。
確か予定では母とともにこちらへ来るとのことだったが…。「心配ですねぇ……」
「何を心配しているかね、大樹先生」
びびくっ、と背筋を震わせて教師が振り返ると、そこには端正な顔の少年の姿。
「び、びっくりしたなぁもうっ。いきなり何ですか、佐山くん」
「その前に先生、いったいいつの生まれかね。確か帰国子女ではなかったか?」「えへん、先生は勉強熱心なのです」
そうか、ご苦労なことだと佐山は応える。
「あー、そういえば佐山くん、さっき授業時間中に何したんですか? 風見さんと出雲くんが騒いでましたよ」「あの二人が騒いでいるのはいつものことなので気にしなくていいではないか」
それもそうか、と女教師はうなずく。
「それよりも何か心配事があるようだったが、自分の成績の悪さに飛び降り自殺でも考えていたのならやめておきたまえ。
教師として先生は尊敬される対象であるべきだ」
「アラストール、なんであんなヤツの言うとおりにしてるの? アイツ、なんか嫌い」
「落ち着くのだ」
ここは尊秋田学園、その学生寮の一室。佐山一人に割り当てられた二人部屋だ。
見晴らしもよく、快適そのものの部屋の一室には現在来客である少女の姿がある。
ただ、少女の髪と目は”封絶”の中と違い黒の色をたたえている。
「あの人間、佐山の胆力と身体能力は中々のものだ。それに封絶の中へと紛れ込んだ」
「”トーチ”でもないみたいだった。それにすっごく変」
「単なる人間か、それとも特殊な道具、あるいは何らかの徒と関係している可能性がある。もしかすると紅世の王に作られた特別製のトーチかもしれぬ」
「……アラストール、その場合どうなる?」
「もしそうならば彼奴の近辺に創造者がいるはずだ。それを探す為にもこの町にしばらくいたほうがよかろう」
「ああ、それで」
それで、”滑り込ませ”たんだ、と少女は納得する。
話は終わった。だから少女は黙り込む。
彼女は必要以上に話をしない、必要以上に言葉や思いを話さない。
彼女の王たる“天壌の劫火”アラストールの刃であり道具、それがフレイムヘイズ”炎髪灼眼の討ち手”のあるべき姿。
少しの静寂と休息の中で、少女は景色と一体化する。
陽の光の中で、黒髪の少女が壁に背を預けるその姿は不思議と絵になっていた。
「さて、待たせてすまなかったね」
野暮用だといって出て行った佐山が戻ってきたのはほんの五、六分ほど後だ。
ずかずかと入ってきて購入物らしき袋を置くとすかさず少女の前に座り、
「さぁ、お客人、まずは尋問といこうか」
「アラストール、コイツ切りたい」
「ははは、物騒だね、少女よ」
今にも外套の中から先ほどの大太刀を取り出しそうな少女に、佐山は大笑を返す。
その動作があまりに癪に障るので、少女は大太刀を本当に取り出してやろうかと思った。
「だが佐山よ、その前に一つ知りたい」
「ふむ、何かなご老人」
あくまで態度を崩さない佐山に対し、その何倍の生を生きるものは一つの問いかけを行う。
「お前はなぜ、われらと関わろうとする?」何故空は青いのか?こんなだれもが子供の頃戯れに、しかし真剣に考えたことがあるであろう疑問に対して、
光の粒子について語って聞かせることに、果たしてどんな意味があるだろう。
たとえどれだけ詳しく蒼天や紅夕について語ったとしても、そんなものは所謂無駄知識に過ぎないばかりか、むしろ補足トリビア程度の扱いでしかない。
なぜなら――そんなことは至極明白で、今更語るべき価値もない無駄な意見に過ぎないのだが――そんなことを知っていても、生きるうえにおいてなんの価値もないからだ。
「空が青い」なんてことは当たり前のことであって、今更取り立てて騒ぐようなことではない。
たとえ「空は青いんだ!」と街中で主張したとしても「へぇ、そうだったんだ」なんて思う人間はひとりもいるはずがなく、
十人中十人が「そんなのは当然だろう」と思うであろうことは想像に難くない。
しかし何故、空が青いことが当然なのだろうか。空は、青い。水は、流れる。氷は、冷たい。リンゴは、落ちる。生きていれば、死ぬ。
それらに因果や運命なんてものを引き合いに出すのはいささか大仰過ぎるだろう。何故? と問われたら答えは一つしかない。
そういうものだから。
そこにはどんな物理法則も介入する余地はなく、そのため人々はそれに抗うこともできない。当たり前のこととだから、そうなるのは当然だから、それはそういうものだから、どうしようもない。
そんな力のことを、なんと言うか知っているだろうか?ただ一人として抗えず、ただそういうものだからと否応無く納得させられる絶大な力。
人はそれを、概念と呼ぶ。
だからこれは、概念の物語だ。
当たり前のことを当たり前にこなすだけの、なんの味気も無い、淡白で無味乾燥な詰まらない物語だ。
誰一人の行動としてそこに意味は無く。全ての事象に複線なんてものは潜んでいない、
数多の概念がひしめき合う世界で、ただ当然のように生きる人たちの物語だ。
しかしその、『当然そうであること』が崩れ去ってしまったとき。
ぼく達はいったいどうすればいいのだろう。
当然そこにあるべき物が、当たり前のように消失してしまった時、ぼくはどうなってしまうのだろう。
そもそも、そんな問いに意味はあるのだろうか?
だって、『そこにあるはずのものがそこにない』なんて矛盾した存在が有り得るわけ、無いのだから。
そう、愚かしいことに、そのころのぼくは、そんな幻想を疑うことなく、まるで狂信者のように信じていたのだ。
この後世界が、概念の重みで転覆してしまうことも知らずに――
哀川潤。
人類最強の請負人。
しかしそれは、どの世界の人類のことなのか。
それは言うまでも無く、彼女の属する世界の人類を指すのだろうが。
ということはつまり、別の世界において、彼女は最強ではないのだろうか?
いや、そもそもその世界が人類の支配する世界ではないかもしれない。
街行く人々全てが人外。そんな世界があるかもしれない。
まぁそんな世界があったとして、この人がそう簡単に負けるわけ無いのだろうが。
そもそもこの人が負ける姿を想像できない。
「ドラゴンとかロボットにすら、素手で立ち向かいそうだからな、この人は」
「なんか言ったか?」
左隣、運転席から聞こえた赤い声に、ぼくは嘘をつく。
「いったいこの車、どこに向かっているんですか?」
現在ぼくは車上の人。哀川さん所有のコブラによって高速道路を爆走中だ。
前方を走る車をビュンビュン追い抜いていくこの車は、確実に法定速度を超過していること間違いない。
哀川さんはその顔に満面の笑みを浮かべながら言った。
「東京」
「あぁなるほど、日本の首都ですねって えぇ!?」
東京。
いわずと知れた日本一の大都市。
東京タワー、六本木ヒルズ、フジテレビ、100メーター道路。
「最後のは名古屋だ」
「アレ? そうでしたっけ。……って!勝手に人の心を読まないでください! つーかなんで東京なんですか、いきなり人を拉致しておいて!」
深い深い睡眠から目覚めたとき、すでにぼくはコブラの助手席に乗り込んでいた。理由を聞いたぼくに哀川さんは一言「拉致した」ってアレ? 前にもこんなことがあったような? 記憶がいまいち定かではない。
「正確には東京奥多摩、IAI東京総合施設」
「IAIって……あの絶対売れなさそうな新製品ばっかり開発してるのになぜか大儲けしてる大企業ですか?」
「出雲航空技研。まぁ裏があるっちゃぁ裏がある企業だな」
「裏……ですか?」
「あぁ、じきに分かるよ」
言って、哀川さんは前を向く。
って、この人今までよそ見しながらこのスピード出してたのかよ!
なんとも恐ろしいドライブだ。これならぼくが運転した方が幾分マシに思えてくる。
哀川さんはさらにスピードを上げ、頬に刻んだ笑みをさらに深くする。
なにも口にしないと言うことは、もうこれ以上話すことはないと言うことだろうが、
しかしぼくの方にはまだ話すべき事柄が山ほどある。
「依頼者は?」
「IAI」
「依頼内容は?」
「IAI内で発足した極秘プロジェクトへの協力。詳しくは同社東京総合施設内で」
「報酬は?」
「前金としてこれだけ、プロジェクト終了時にはさらにこれだけ」
言って、指を閉じたり広げたりする哀川さん。
「……そんな大金、どこが出すんですか?」
「そりゃ、IAIだろ?」
「それぜったいアブナイ仕事ですよ。哀川さ――潤さんともあろう方がどうしてそんな依頼を」
「貸しがあるのさ」
そこで哀川さんは、顔にシニカルな笑みを貼り付けたままフっと遠い目をする。
ぼくの知らない、哀川さんの過去。
少し気にならなくも、ない。
「貸し?潤さんがたかが一企業に貸しを作るとは思えませんが。逆ならともかく――」
ぼくの言葉をさえぎり、哀川さんは言う。
昔を慈しむように、彼女にはまったく似合わない、過去を夢見るような瞳で、哀川さんは、前方を睨んだ。
「ちげーよ、貸しがあるのはIAIじゃねぇ」
そこで哀川さんは、言葉を区切る。
芝居がかった口調で、愉しそうに、悦しそうに、続けた。
「悪役の姓を持つものに、さ」
何故我らと関わろうとする、か。
佐山は己の中で問いを反復する。
「確かに、正気の沙汰ではないかもしれないね。所詮私は騒ぎに巻き込まれたものであり、元々君たちと何の関わりも持たないはずだった」だが、
「既に私は関わってしまったのだよ。あの時間の停止した空間──”封絶”というのかね、あの中で私は動いていた。」
「何かの偶然かもしれぬぞ、その偶然でお主は人生を捨てるというのか」宝石からの意思の声に、佐山はかぶりをふった。
「ご老人、偶然とは仮想の定義だ。起こってしまったことはこういうのだよ、必然とね。」
加えて言う。「それに仮に偶然だとしよう。喋る宝石に、自分の背丈以上の刀を振るう少女、そして時間の止まったずれた空間に、巨大な赤ん坊……
ははは、まるで映画のような光景だね。上映会社には慰謝料を請求せねばならんね。私に対する人的被害を含めて一億四千万程だ」
「アンタ、いちいち話が長い。なぜ関わるのか、アラストールが言うのだからそれだけ答えればいいのよ」
「私は予備知識が欲しいだけだよ、少女、そしてご老人」話が長くなったのは詫びよう、と佐山は座った姿勢で頭を下げる。
「世の中困ったことに一度前例があると二度目三度目がありうる。臆病な私はそれらに備えておきたい」
「……なるほど」宝石の声には納得の頷きを含んでいた。だが、少女はじろりと佐山を睨み上げる。
「なにかね?」アラストールとと共にある少女は小さな肢体とは裏腹な威圧感をもって視線で佐山を責めた。
それは、佐山というこの男がくどくどとうるさいことからの嫌悪感もあるが、ほんの少しだけ違う意味合いが混じっていた。「アンタ、まだ一つ言ってない」
ふむ、と首を小さくかしげる青年に苛立ちをぶつけるように声を出す。「あのときの言葉、あれはどういう意味なのか」
「悪役を希望している、と言っていたことかね」少女は肯いた。
フレイムヘイズの役割とは、他でもない。己の欲望のために存在の力を食い、世界を歪ませていく紅世の徒──その存在を定義するならば悪とよべる輩を阻み、大いなる災厄が訪れぬようにすることだ。
そのフレイムヘイズたる少女の前で彼は言ったのだ。悪役を希望するものだと。人間の悪など本来些細なものだ、紅世の徒に比べれば相手にするまでもない。だが、(もしアラストールのいうとおりに、こいつが徒の作り出したやつだったら、ここで始末する。)
少女は外套の下で拳を握り締め、彼の答えを待つ。張り詰めた空気が、寮室を満たしている。緊迫した空気の中で、佐山が動く。
彼はやれやれ、と眉根を寄せると、苦笑してみせた。「なるほど、誤解を受けているようだね、私は」
そう、誤解だ。何事かわからぬが、彼女は誤解をしている。
その誤解は佐山の知ることではないところからの先入観、あるいは思惑からくるものなのだろう。ならば、彼のとるべき行動は一つ。「率直に言おう」
少女の真剣な目線をしっかりと見据え、彼は言った。
「──馬鹿め」
──バカにして!
少女は、どこかでこの男を信じていたことを心底恥じた。
外套から大太刀を取り出す選択は一瞬。
だが、その間にも言葉が続く。
「一度では足りぬなら、二度目も告げよう。馬鹿め、と」
「っ!」
二度目の言葉、だがそれは少女の誇りを傷つけるのではなく、哀れみをもった目線で差し向けられている。
いいかね、と佐山は前置きする。
「私はあくまで情報の交換を持ちかけている。先ほどまでに開示した情報で足りぬのならば、私も語りようがある。
だが、君は私が知りえぬ、あるいはわかりえぬ推測と知識を元にこちらを疑っている。
私がいかなる弁明をしようとも、最終的に君は私を殺すだろう。
そのような相手を馬鹿と呼んで何が悪いかね!」
的を射た発言だった。
それは、確かに少女の行動を的確にとらえたものであった。
佐山は続ける。
「君たちがどこの誰であるのかも明かさぬまま、一方的にこちらから情報を搾取し、最後には殺す。
そのような状況で語る言葉など、時間の無駄に過ぎない」
「アラストールを──」
「ならば名乗りたまえ!」
続くはずの文句が佐山の、ただの人間の一喝で雲散霧消する。
フレイムヘイズ、誇り持つ炎の護り手は、完全にこの場の主導権が人間に移ったことをようやく理解した。
この男の論説、これだけの弁論能力が発揮されていれば、逆にこちらだけが情報を搾取されていた可能性を、知ったのだ。
「……我らの負けだ、佐山」
胸の奥から響く声が、改めて少女に状況を認識させた。
「無礼を詫びよう、佐山御言。
誠意をもってこちらの質問に答えたお主を信じようともしなかったことを許して欲しい。この者もこういった物言いには慣れていないのだ」
屈服させられた──。
誇り高きフレイムヘイズと、王たるアラストールが、人間に詫びるなどもってのほかだ。
「お主も詫びるのだ」
……これは、王の命令だ。
そう、王に詫びるような手間をかけさせた私への詫びだ、人間への詫びではない。
そうだ、私は人間には詫びない。
「ごめんなさい…」
深深と頭を下げた。申し訳ないという思いを込めて、だがアラストールへと詫びる。すると、
「──」
何か、動く音がする。
それは、文字で現すならばカシャという音であり、加えて言えばこの音を少女は聞いたことがある。(シャッター音…?)
顔を上げると、佐山が何か満足そうに笑顔を向けていた。「うむ、寛大な私は写真一枚で許そう」──写真?
すごくいやな予感が、フレイムヘイズとしてではなく、失ったはずの人間の直感が届いた気がした。
「では仲直りの証というわけではないが、昼食はいかがかね。私も多少空腹だ」
そういうと、佐山は先ほどから横にあった袋からいくつかの食物を取り出す。
先ほど佐山が部屋からでていたのは購買へ行くためだったようだ。袋から転がり出てくるのは掌ほどの大きさのメロンパンが二つに牛乳が二つ。
「君がメロンパンを頼んだので私も、」
サッ佐山が言葉を紡いでいる間に、シャナが二つのメロンパンを手元に寄せる。
「二つとももらうわ、ありがとう」
言うが早いか、一つを懐にしまいこむともう一つの包装を破り、満面の笑みで食しはじめる。
かぷり。
「……アラストール王、これはどのような仕打ちかね」
もぐもぐ。
「佐山、このコはこの食物に本当に眼がないのだ。すまぬ」
んくんく。
「アンタが買ってきたわりには。……ん、なかなか美味しいわ、このメロンパン。あむ。」
一回に口に入れる量はそれほど多くはないのだが、次々と口にいれていく。
小さな口の中に精一杯にパンを食む姿はなんとなくリスのそれに似ている。
「……仕方が無い、私は後でまた何か食べるとしよう」
佐山がメロンパンを諦めたことを尻目に少女は次々とその丸い菓子パンを腹に収めていく。ごくり。んぐんぐ。
「まぁ、このコなりの仕返しもあるのだろう。我も先ほどの物言い、王として何も傷つかなかったわけではない。特に我がフレイムヘイズは気難しいのでな」
ぷは。もくもく。
「王ならばいつまでもそのようなもの引きずるのではなく飲み込みたまえよ。
しかしこうしてみているだけだと思春期真っ盛りの少女だね。美味そうに食べる。」
んまんま。
「メロンパンは…あむ…ん、やっぱりこのカリカリとほくほく感がいい。…あむ。」
これまでの憤りなどを忘れて少女はメロンパンを独り占めにしていた。
「畜生、今度ばかりは年貢の納め時かな?」
「ヴァラキアのイシュトヴァーンともあろう者が随分と弱気なことを言う」
「でもねえグイン、この状況は洒落にならないと思うよ」
そう、実際三人は絶対絶命だった
グインは言うに及ばずイシュトヴァーンも、そして普段はお調子者のマリウスも剣を持てばなまなかの騎士など相手にしない腕である
だが今三人を追い詰めているのは体格はグインにも匹敵し鋭い爪と牙、短い毛の生えた尻尾を持ったイシュトヴァーンが評するところの
「セムとラゴンの相の子」のような半獣人の集団だった
彼らの武器は先端に尖った石をはめ込んだ粗雑な木の棍棒だが獣人の腕力をもってすればマリウスの細剣など一撃でへし折れてしまう
じりじりと包囲を狭める獣人から距離を保つべく後退を続ける三人はとうとう壁際に追い込まれた
壁を背にしたグインの剣を構えていない方の手がせめて隙間か亀裂でもないかと壁を探る
その時不気味な唸りをあげ壁が−彼らが壁と思っていた巨大な古代機械が−作動を始めた
洞窟内に稲妻が飛び交いエーテルの嵐が吹き荒れる
ひときわ眩い閃光にその場にいた全員が目を瞑って蹲り光と音の洪水がピタリと止んだとき
(ここは何処じゃ?)
耳に心地よい、しかし偉そうな女性の声が聞こえた。というより直接頭の中に届いた
そこにいたのは全身緑色で腰から下が植物の根のように枝分かれした触手になった目の醒めるような美女だった
「ねぇ、裕一………」「ん?」「フィギュアスケートって、カッコいいね」
それはまた異なることを。里香は時々、説明もなしに妙なことを口走る。
林檎を剥くという慣れない作業をしていた手を休め里香を見ると、里香は、僕がごみ置き場から拾って修理した古めのテレビに釘付けだった。
「あぁ、そうか。もうすぐトリノオリンピックだね」「裕一」「………ん?」
これが、僕と里香の、なんでもなくない旅行の始まりだった。
それは見るからに珍妙な、あるいは悪夢的と言ってもいい一行だった。
傭兵と吟遊詩人、この組み合わせは珍しくはあるがまだ人知の及ぶものだ。
だが豹頭の巨人とくれば少なくとも見る者は我が目を疑うだろうし
緑の肌の植物美女に至っては不幸な目撃者は土下座して神に祈りを捧げ出すこと請け合いである。
「ねえグイン、彼女どこまでついてくる気なんだろうねえ?」
「さて、俺には何ともいえん。只我々の命の恩人である以上素気無く扱うわけにも行くまい。」
それに腕ずくで追い払おうとすればこちらが只では済まんしなと告げる豹頭の戦士の顔は大真面目だ。
実際オシリスと名乗った植物女−名前以外は思い出せないそうだ−の力は地下迷宮の戦いで目に焼付いている。
謎の古代機械の力で何処からともなく転送されて来た異形の姿にパニックに陥った獣人は一斉に棍棒を投げつけた。
だがしかし、オシリスの触手から瞬時にして生えた葉が盾となって棍棒を弾く。
(無礼者が!)
さらにヒドラの如く鎌首をもたげた触手の先端から紫色の光線が放たれる。
それはあまりに一方的、光線が命中すると獣人も石作りの床も等しく異臭を放ちながら溶け崩れ崩れていく。
あっという間に獣人を追い払ったオシリスはここは陰気臭くて気に入らんと言うが早いか目の前の石の壁を触手でもって
それこそバターにナイフを入れるように穿ち始めあれよあれよと言う間に地上への出口を開通させてしまったのだ。
少女が居住まいを正し、もう一度佐山と向き合う。
宝石から意思が響く。そしてその声に少女も続く。
「改めて名乗ろう。我が名はアラストール、常世(ここ)とは別の世界、紅世の王”天壌の劫火”アラストール」
「私はそのフレイムヘイズ、燐子や他のフレイムヘイズからは”炎髪灼眼の討ち手”、あるいは”『贄殿遮那』のフレイムヘイズ”と呼ばれることもある」
ふむ、と佐山はこちらも居住まいを正し、
「遠方からのお客、この世界の代表として歓迎しよう。
アラストール王と──ふむ」
<フレイムヘイズ>を呼ぼうとした佐山はやや思索する。今の言い分から察するに、少女の他にもフレイムヘイズという存在がいるようだ。
となればこの名前は呼び名にふさわしくはない。
「アラストール王、彼女には名前はないのかね?」
何か呼び名を探そうとするこちらに、少女は口を挟む。それは、高音で、しかし氷壁のように他者を寄せ付けない声で、
「フレイムヘイズに名前なんていらない。私たちはただの討滅の道具なのだから」
「そうか、道具かね?」
コクリと少女は頷く。
「……くだらない。私はただのフレイムヘイズ、それで十分。名前なんていらない」
己の存在を確かめるように、しかし他者を拒絶する。
そう、フレイムヘイズはそうしたものだ。
常世を乱し己のために動く紅世の徒を倒すために人間であることを捨て、王とともに生きる討滅のために生きる存在(モノ)。
「では、君のことはシャナと呼ぼう。贄殿遮那のフレイムヘイズなのだから、シャナと」
「! オマエ!」
「何かまずかったかね?」
冷笑が佐山の顔に張り付いている。みくびるな──。
「人の話を聞いてるの? 私は名前なんていらない!」
むかつく、コイツムカツク。
ずけずけと人の言葉を無視して、私を笑いものにして……許せないっ。
今すぐに斬ろうとしたそのときに、また、佐山の言葉は響いてくる。
「道具ならば、名を受けることもあるのだよ、シャナくん。
いいかね、道具とは人に左右されるものだ。愛でられることもあり、あるいは暴力の解消に使われることもある。
シャナくん、君の持ち主、アラストール王は前者ではないかね。
そして大切にされた道具は意思をもつ、わかるかね?
私はアラストール王が大事にされている宝物たる君が、他のものと同じものとされるのとても不便なので、愛称をつけようと申し出たのだよ。
シャナ、という愛称はいかがかね?」
まただ。
この男は口から先に生まれたのではないだろうか。
そんな疑問が浮かぶほどに、またペラペラと喋る。その理屈は論理的な屁理屈で、こちらの闘志を削っていく。
この理屈でいえば、少女に反論はできない。
彼は何も否定をしていない。
彼女を道具と肯定し、その彼女の意思はアラストールが大切にされたから持つことができたものだと続けた。そしてアラストールに敬意を込めて道具に名をつけた。
つまり、この名前は少女に送られたものだというのに──アラストールが判断するべきことなのだ。
また、この人間に、フレイムヘイズは負けるのだろうか。そう思った数瞬後。
「佐山、その言葉は詭弁だ」
アラストールの声がきっぱりと佐山の申し出をなぎ払った。