『((もう・・・遅刻だよッ!三ちゃん!))』
『((ザザザ・・・ガガガ・・・))』
『((すまねえユリっぺ・・・深夜アニメの続きが気になってつい・・・))』
『((・・・ガガガ・・・ザザザ))』
異常気象のせいで、脅威的に発達したサイクロンの爪痕が
未だに生々しく残るジャングルに、全く持って似つかわしく無い
会話?を俺は捉えた。
(奴等も芸が無い・・・)
俺は苦笑しつつ暗号表を手に取り、見比べた。
(・・・暗号パターン『釣り基地』か・・・)
幾分、汗ばんだヘッドホンを付け直して、集中する。
これは・・・何気ない会話を装って、機密情報をやりとりするという
本当に使い古された手ではあるが、未だもって有効な手段なのだ。
因みに暗号表を元に先程の会話?を翻訳し、更に和訳?すると
以下のような文になる。参考になるだろうか?
本文:『もう・・・遅刻だよッ!三ちゃん!』
和訳:『定刻どおりミッションを進める』
本文:『すまねえユリっぺ、深夜アニメの続きが気になってつい』
和訳:『了解、フライトタイプ@号機、タッチ&GOを始める。』
此処の所、奴等は・・・
このエリアのどこかの基地か、どこかの飛行場で
何かの飛行実験を繰り返しているらしい。
つい先日も、その実験に失敗したのかどうかは知らないが
ヤーナゴ山脈の向こうから黒煙が立ち昇ったのを確認した。
人の失敗を喜ぶ奴は、ろくな死に方をしないと
田舎のバアさんが説教しそうだが、戦時中に於いては
そんな甘ちょろい事など言ってられない。
奴等は俺達にとっては国力が30分の1とは言えども
圧倒的な戦力と、十年先を行く技術を誇る恐ろしい敵なのだ。
自ずとヘッドホンを握る手に力が入る
だが、これはきっと奴等の策略か陰謀なのだろう。
俺の聴覚は、張り詰めた緊張を著しく萎えさせる
会話?を捉えて続けていた。
『((ああッ!三ちゃんのH!すけべ!ヘンタイ!))』
『((ザザザ・・・ガガガ・・・))』
『((ユ、ユリっぺ・・・オ、オラ・・・もう!!))』
『((・・・ガガガ・・・ザザザ))』
『((アーーーーッ!!))』
俺は咄嗟にヘッドホンを放り投げた。
次の瞬間、センサーがヤーナゴ山脈の向こうから
黒煙が立ち昇ったのを捉えた。
危なかった・・・
後、ほんの少し行動が遅れていたら、鼓膜を破いてしまう所であった。
今回もフライトタイプとやらの飛行実験は失敗のようである。
やれやれと胸を撫で下ろし
煙草に火を付けた。
紫煙が・・・狭い車内に立ち込める。
すぐさま、体調を崩している隊長が俺を睨み付けた。
建前:『あ・・・すみません、隊長・・・ついつい』
本音:(ケッ・・・そんなの知った事か、どうせあと半日で
手前ェは本部勤めになるんだろーが!)
俺はこの配線違いの隊長が、舞戻ってこない様にと願うと同時に
新たに配属されるという噂の隊長の為に一曲、爪弾いてみたくなった。
(おわり)