『♪こ〜〜わくない〜〜でも☆こ・わ・い〜〜♪』
((・・・ガガガ・・・非戦闘域での・・・救援活動は
憲法に違反してはおりま・・・ガガガッ!))
『♪は〜〜ずかしい〜〜でも☆う・れ・し・い〜〜♪』
((国際平和の為にも貢献をする事・・・ガガガッ!!
名誉ある・・・ガガッ・・・地位を・・・ガガ・・・))
『((・・・ブチッ!!))』
今の音は俺の理性が切れた音である。
俺はこんな時でも、何一つ文句も言わず、淡々と作業をこなしている
副船長の『イリュー』に迸る感情をぶちまけた。
『だぁあああ!!もう!!やってらんねーーーっ!!』
堪え切れず、叫んだ俺の奇声にも『イリュー』は大して驚きもせず
相変わらず、作業をこなしてゆく。
『バンダナ・・・お前の方がうるさいよ・・・』
船長の『イフー』が割り込む。
『だってよぉおお・・・四六時中、あいつ・・・歌ってんだぜ?
いくら眠気覚ましだからってよおお・・・勘弁してくれ』
俺は、このくだらない作業の為に、5時間以上もつき合わされている事を
抗議した。明らかに、これは労務契約違反である。
『しょうがないじゃない。人手不足なんだから
ナベタがいない分、彼女にがんばってもらわないと』
『ナベタ!!あいつ・・・こんな糞忙しいときに
有給なんかとりやがってッ!!』
ナベタ・・・とは2年前に入社した新人((女))である。
年末年始の一番、人手の足りないときに
この俺を含め、上司や先輩をさしおいて有給休暇を取る
根性とは・・・流石はゆとり教育世代である。
『バン・・・ナベタがいない方が仕事がサクサク進んで
楽だって・・・言ってたんじゃないのか?』
それまで、淡々と作業をこなしていた『イリュー』が
会話?に参加した。
『それにナベタだと絶対、言うと思うよ?』
『そうそう』
『軍隊に給油するなんて・・・おかしいです!』
『そんな理屈、正しくないです!屁理屈です!』
『絶対、転用してますって!』
ヤニが切れかけの『船長』と、最愛の妻を事故で亡くした事を引きずって
再婚話になかなか踏み切れない『副船長』はここで見事な
モノマネ攻撃を俺に加えてきた。
『だぁあああっ!!止めてくれ!!俺が悪かった!!
判ったよ、我慢すればいいんだろ!?』
俺は潔く諦める事にした。
通信機能をこの場所で切る事は即ち、『 死 』を意味する
ここはそういう所だ。陸とは違う。
『判ればよろしい』
ヤニが切れかけていた筈の『船長』はやけに落ち着いていた。
俺達が現在、給油している船から『タバコ』をカートンごと貰ったのは
やっぱり本当だったのだ。畜生・・・後で盗んでやる。
『しかし・・・バンの言う通り、酷い電波障害だな
センサーが殆ど死んでいる・・・判っているとは思うが
警戒を宜しく頼むよ・・・ポロンさん・・・俺達の命は』
『はーい☆』
『副船長』の指令が終わる前に『ポロン』事、派遣の
『ナビゲーター兼、監視員』が『酸素』以外にも
色々と欠乏しているのが明らかな声で返事をする。
『おいおい・・・本当に判ってんのか?
ちゃんとゴミの探索をしてくれないと
俺達、この寒くて暗い場所で死んじまうんだぜ?』
俺はこの『色々、欠乏症』の派遣社員に『 命 』を預けている事が
堪らなく不安になった。って言うか最初から不安だったんだが・・・
『セイノ・バンさん・・・でしたよね?』
突然、彼女の口調が変わる。
『な・・・何だよ?』
内心、派遣だからと思って小ばかにしていたのがばれたのか?
ちょっぴり焦った。
『トリプルA級ライセンス・・・もう習得できました?』
『ポロン』の通信に混じって、『イフー船長』の忍び笑いが聞こえてくる
ああ、畜生、痛いところついてきやがる。ペーパーとは言え
派遣である彼女の方が、先輩である俺よりライセンスは上なのだ。
普通の会社ならば彼女は既に立派な『大船長様』である。
格差社会・・・貧乏人の家に生まれた子供の運命である。
個々の微々たる努力などでは、その差は既に覆りそうにもなかった。
『と、兎に角、しっかり見張ってくれよなっ!!』
『はーい☆』
再び、長すぎる勤務時間には見合わぬ、危険で、且つ単調な作業に戻る。
いくらエネルギーやエンジンが発達しても、所詮は『 船 』
『 油 』がなければ動かない。
それは、もう5時簡以上前からこの場所に漂っている
新大陸を目指し、大海原へと乗り出した『冒険者』の名を冠した
『補給艦』とて同じである。
((・・・ガガガ・・・非戦闘域での・・・救援活動は
憲法に違反してはおりま・・・ガガガッ!))
補給艦が受信しているプロパガンダがまたもや俺の鼓膜を刺激する。
全く、『ナベタ』じゃないがこんな茶番で国民を騙せるとは
彼らも本気で思ってはいないだろうが・・・
『おーい!・・・3本目のホース確認OKだな?バン?』
『嗚呼・・・問題なしだ。』
衛星軌道上の夜明けがやって来る。
後、数時間で・・・運命の一月三日が始まろうとしていた。
(時間切れ
終わり)