人間の体の部分では『 額 』が一番、丈夫と尤もらしく先輩は言った。
が、血反吐を吐いて床に這い蹲っている『 彼 』を見る限り
それは間違っているようだ。
少々、酒乱の気がある『マスター』事、元・総長は
先程までカウンターに陣取り、『坊やだからさ』などと
スカした態度を取っていた、『サングラスの男』に
俺達が止める間も無く、一発お見舞いしていた。
しかも・・・『ビール瓶』で
もともと、荒くれ者たちが集う・・・といった場末の酒場なので
こういった『かわいがり』は日常茶飯事だったが
まさか、マスター自らがこんな行動を取るとは思いもよらなかった。
(後日、ここだけの話だぜ?と先輩が僕に耳打ちした
マスターの過去を知ってからは成る程と、ガッテンしたけれど)
騒然となった店内が、静けさを取り戻した頃
マスターに見事、KOされた『サングラスの男』を
迎えに来たらしい、妙な臭いを辺りに撒き散らしている男が
よっこらしょと、『サングラスの男』を担いで店を出てゆく・・・。
少々、腑に落ちないのは、仲間?が店の
あろう事か、マスターにのされているのに
客でもある男は一言の文句も無しである。
それに、何か金のようなものをマスターに握らせていた。
(マスターの腕っ節にびびったんだろ?)
いつの間にか金属バットを手にした先輩が目配せで俺を諭す。
翌日・・・
普段、新聞を読んだり、ニュースを聞いたしない
この俺でもなんとなく最近の、『雲行きの怪しさ』を感じていた。
『学徒出陣』などというと云う、前世紀の死語が
密かに・・・だが、確実に、現実味を帯びてきているのだ。
『希望は戦争』などと粋がっていた先輩も俺も、
なんだか落ち着かず、仕事でミスを連発した。
『おい、バンビども・・・ちと、こっちゃ来いや・・・』
酒臭い息と共に先輩と俺を手招きする
マスターの目が据わっていた。
(ひいいいっ!!こっ、こえええっ!!)
以前もちょっぴり怖かったけど
マスターの過去を知った今ではもっと怖い
俺が今まで聞かされていた
単なる『 族 』の『選任総長』ではなかったのだ。
マスターの本当の過去の経歴は
軍『 属 』で『先任曹長』という肩書きだったのだ。
しかも、俗に言われている『ボンボン親衛隊』の『精鋭部隊』に
所属されていたというツワモノである。
俺はマスターが待ち構えている部屋に行く
僅かの合間に携帯を取り出し
『きっと、いい子になるから・・・帰りたい』
という内容のメールを、飛び出してきた家の家族に送信した。
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自分の体から発する妙な臭いで
目を覚ました私は、額に出来た瘤を摩りつつ
今度からは何かあった時の為に
いつでもちゃんと『ヘルメット』を
被っておこうと心に決めた。
それに、地震速報も始まった事だし。変な奴とも
思われないだろう・・・うん。
しかし、痛い・・・
これも、『若さ』か。
(消化不良のまま・・・おわり)