俺は何も出来ていない。
撒き散らされる光の矢と、吹き上がる火柱。
何もかも掻き消すような轟音の中から、それに屈する事を拒むかのように黒い弾が飛ぶ。
他人事のように繰り広げられる光景。
…俺は、何も出来ていない。
シャッコーは右腕を失っている。
サイコガンダムMK-Uの攻撃の直前に着弾したのは、間違いなくジンペイさんの戦闘機
の攻撃によるものだろう。
偶然か故意かは分からないけど、その絶妙なタイミングに俺の回避行動は一瞬遅れた。
…ニースはシャッコーの腕を落とした事で、自信をつけてしまったのだろか。
更に激しい砲撃でマラサイを、そしてニースに味方した(ように見える)戦闘機までも
攻撃している。
…俺は何も出来ていない。
…いや、何もしなかった訳じゃない。
サイコガンダムMK-Uに何度も通信を試みた。
でも返ってくるのは、沈黙という拒絶。
マラサイと戦闘機とサイコガンダムMK-Uの戦闘の中で、俺だけが取り残されている。
そして…俺は何も出来ないまま口を閉じた。
分かっている。
俺の言葉がどれだけ空虚なものなのかくらい、分かっているつもりだ。
もしもニースに声が届いたとして戦闘を止める事が出来たとしても……俺の言葉には
その先が、ない。
この場で戦闘を止めたからってどうなのか。
その先生き残るために、ニースに何かを示してやる事ができるのか。
具体的な何かをこの状態から生み出せるのか。
父さん…レイモンド=デリックと共に戦った生徒たちのように。
それを生み出せるシュウジやリナルドがいた。
それを助けられるリファニアやベルクがいた。
仲間たちと巡り会う運があり、プログラムの中でも協力を誓い合える信頼があった。
「…ニース1人の信頼も得られない俺に…何が言える…!」
コクピット内に俺の呻くような声だけが響く。
時間も場所も俺自身のスキルも、何よりも…信頼さえもない。
そんな俺が…何も出来ない俺から出る言葉なんて、空虚以外の何者でもない。
…全く…お笑い種だ。
ふと我に返った。
何秒間そうしていたのかは分からないけど、戦闘は止まる気配を見せない。
何故か攻撃はシャッコーには向けられていないみたいだ。
…今攻撃されなかったのは、一応運が良いと思うべきなんだろうか。
轟音は続く。
破壊の光は相変わらず、街を蹂躙している。
その中心にいるのは、ニース=エルネージュとサイコガンダムMK-U。
無理矢理気を取り直してモニターを見上げた時、そのサイコガンダムMK-Uの頭部
付近にメガビームとは違う光が見えた。
【行動:憂悶(0)】
【残り:4P】【位置:N-14】
【機体状況:コクピット付近の装甲に切り傷、左膝ピストン歪み(小)、右腕肘下消失】
【人物状況:胸にガラス片の傷(処置済み)】【通信状況:】
【武装:ビームサーベル×1、右肩部2連装ショルダービームガン(90%)、ビーム
ローター、ビームピストル(左40%右40%)ショットランサー】
【所持:ディパック、水2g入り3本、コッペパン1個、保存食41/3日分、お守り、
ペンライト、ポータブルプレイヤー、毛布、救急箱、コピー用紙の束、
マジック3本、UC歴史の本、MSデーターディスク】
【方針:チャンスを探る】【服装:革ジャンとジーンズ】
「ジンペイ=カザマキ中尉。
貴官を本日付でラサの士官学校の教官に任命する」
UC0090が明けて暫くした頃、俺を呼び出した司令が唐突に言った。
「…仰る意味がよく分かりませんが」
意味は百も承知だが、敢えて聞き返してみた。
「意味も何も、言った通りの事だよ
君の士官学校への異動が決まった……それだけだ」
特に表情も変えず、淡々と繰り返す司令。
「お断りします…と言ったら?」
結果は百も承知だが、敢えて言ってみた。
「君に辞令を拒否する権利はない筈だが?」
特に表情も変えず、またあっさりと言い返された。
確かに飛行隊長とはいえ、正式な辞令を拒否する権利は認められていない。
だが拒否はできなくとも、抗議くらいはできる。
「しかしいくらなんでも急すぎるのでは?」
ネオジオン抗争と呼ばれた戦いが終結して1年。
その間確かに戦闘などもなく、飛行隊も腕を撫す日々が続いてはいたが…。
だからと言って、いきなりそんな所に異動させられる筋合いはない。
「大体…」
更に言い募ろうとした言葉は、次の司令の言葉の前に沈黙を余儀なくされた。
「縮小だ」
「…!」
顔色が変わった俺に、更に投げかけられる言葉。
「君も馬鹿ではないから分かるだろう。
飛行隊の維持も馬鹿にはならんのだ。
戦闘があるわけでもないのに、これだけの数の軍用機を抱えるのは非効率なのだよ」
それは…理解できる。
飛行隊の維持の為に必要な物資、人員、金。
戦時ならばまだしも、現在の状況でそれが許されるものではなかったという事か。
俺の心に突き刺さったのは、次の言葉だった。
「確か以前は君の隊は何て言われていたかな…ええと…。
ああ、最前線はこの部隊と共にある…だったかな?」
その話は聞いた事がある。
まあいくらなんでも大袈裟な感じがするが、言われて悪い気分でもない。
アイアンシャークが一番輝いていた頃の逸話みたいなものだ。
「…で、君の隊の最前線は…今どこにあるのかな?」
今度こそ俺は言葉を失った。
我が隊が…というより、飛行機が戦闘の主役になり得たのは1年戦争までだった。
MSが生み出され様々な用途に適した機種が開発されると共に、飛行機はその活躍の
場をどんどん奪われていった。
それでもまだ飛行機乗りは誇りを持っていた。
MSは精々が跳ねるくらいで、FSSがなければ空も飛べない。
元々の在り方が違うのだ、と。
あの日が来るまでは、空は飛行機のものだと思っていた。
可変MS。
空での活動を可能にしたMSの登場に、飛行機は本来在る場所である空さえも奪われ…。
そして…アイアンシャークから、最前線は次第に遠ざかっていった。
「…要するに左遷…ですか?」
努めて平静に声を出した。
自分が、隊が、何よりも飛行機が置かれた立場が、俺から何かを崩しそうになる。
「そんな悲観するものでもあるまい」
やはり表情も変えずに続ける司令。
「聞けば、ラサに連邦本部を移動する計画もあるというぞ。
一足先に空気に慣れておくのも悪くないと思うがね」
ものは言い様だと心底思う。
本部といったら一般的には最前線とは無縁の場所だ。
どう聞こえを良くしようとも、現実は変えようがない。
「…お断りします」
少しの間を置いて、ゆっくりとした口調で言う。
司令の右の眉がピクリと動いたのが見える。
「私の体と心は常に隊と共に在ります。
そして私は現状がどうあろうと、パイロット以外の任に就く事を望みません」
これは紛れもなく本音だ。
これまで戦闘機パイロットとして生きてきて、今更士官学校で教官などできるわけもない。
「…そのような我侭は許されんが…」
少し困ったような顔で司令が頭を掻く。
怒鳴られるかと覚悟はしていたが、その反応は案外拍子抜けだった。
「何から何まで我侭を言うわけはありません。
部隊の縮小は…仕方のない事だと思います。
ただ私は少しでも…ほんの少しでも前線に近い場所にいたい。
それだけです」
後方の教官になったら、今後前線に出る機会は激減する。
今は安定していても平和になったとは言えない世界で、有事の際にここに居れば、前線に
出るチャンスはまだまだ残るのだ。
そして前線に出れさえすれば飛行機の有用性を示して、また隊の規模を元の通りに戻す事
も可能になる。
「少し待っていてくれ」
僅かな沈黙のあと司令は、そういい残して副官と隣の部屋に行った。
何かの相談だろうか。
言う事を言ってしまったから、特に何をするでもなく2人が戻るのを待つ。
2人が戻ってきたのは、それから更に数分経ってからだった。
「ジンペイ=カザマキ中尉…君に極秘の任務を与える」
開口一番司令は意外な事を口に出した。
問題は異動の事だと思っていたから、そう感じたのも無理はない。
「極秘ですか?」
聞き返すと司令は静かに頷いた。
「まだ発表されていないのだが、テキサスコロニーが反地球連邦組織の襲撃を受けた」
それは確かに初耳だ。
テキサスコロニーなんかを攻撃する意味は、イマイチ分からないが。
「君はテキサスコロニーまで行き、その鎮圧に当たってほしい。
知っての通りネオジオン抗争が終結してからまだ1年だ。
地球圏がまだ復興中だというのにこういった事態が起こっては、兵士はもとより人民も不安に突き落とす事になる。
だからこその極秘任務なのだ」
司令は一気にまくし立てた。
まさかいきなり前線とは思わなかったから、さすがに直ぐには返答ができない。
だがここで再度拒否したら、ラサ行きは完全に決定だろう。
「勿論武器は使い慣れた物で構わないし、戦果を挙げれば上に掛け合って縮小の話も何
とかしたいとは思うのだが…」
伺うような視線を向けてくる司令に…俺はこの任務の了解を伝えた。
多少の不安はある。
しかし再び前線に立てる喜びと、任務に対する高揚感。
それに部隊に対する使命感が不安を遥かに上回り、疑うという感情を封殺してしまった。
…結果的には…それが裏目に出てしまったのかもしれないが。
宇宙へと向かうシャトルの中で、俺は知らず知らずに眠らされ、このプログラムに放り
込まれる事になった。
…今となってはあの任務が本物だったのかも分からない。
ただ改めて考えると、司令は俺を隊から引き離したかったのだろう。
隊を縮小しても、それを不満に思う兵士が俺を担ぎ上げる可能性がある。
反乱はさすがにないが、基地で騒ぎになればそれだけで司令も処分の対象だ。
だから架空の任務の失敗で俺を戦死扱いにし、隊の縮小をより手早く効率的に行おう
としたのではないか。
更に俺の任務の失敗は飛行機が時代遅れである事を証明する証にもなり(まあよく考え
れば詭弁もいいところだが)縮小の手助けになる。
…結局俺は戦闘機乗りとしての生き方を奪われただけでなく、飛行機の時代の幕引きに
使われてしまったわけだ(あくまでも可能性だが)
自然と笑みが浮かんでいた。
もはや避けようのない死を目前にして、思わず口元が笑みを形作ってしまう。
恐怖でおかしくなったのではない。
戦闘機乗りとしての生き方を奪われた俺が、厄介払いで放り込まれたプログラムの中で
その生き方を全うできる事がおかしかった。
確かにこれは下策だ。
だが下策だろうが自己満足だろうが、少なくともジンペイ=カザマキはその生き方を貫き通す事ができる。
コクピットが大きく揺れた。
どうやら機体の一部を持っていかれたらしいが、もうそんな事は関係ない。
…………。
……基地のみんなどうしているだろう。
隊の奴らは元気にやっているだろうか。
縮小はされたかもしれないが、アイアンシャークが残っているのなら大丈夫だ。
飛行機の時代は過ぎたかもしれないが、存在がなくなるわけではない。
培ってきた歴史があり、積み重ねていく歴史がまだまだある。
頑張れ……みんな……
体はなくなっても…俺の心はいつも、アイアンシャークと共に在る…!
【ジンペイ=カザマキ……脱落】
保守
294 :
ファッツ=シュヴィール@代理:2007/07/12(木) 23:20:43 ID:nIOrlwE5
IDちぇ
止む事のない雨。
1粒でも当たればあの世行きの死の雨。
右を向いても左を向いても、見えるものは雨ばかり。
ファッツが未だに無事なのは、もはや奇跡以外に言いようがなかった。
メガビームの光と、それが炸裂する爆発の光がファッツの顔を照らす。
ファッツの顔に浮かぶのは笑み。
狂ったわけではなく、しかし余裕があるわけでもない。
むしろ余裕がないからこその笑みだろう。
精神が重圧に耐えれる限界。
その限界を感じたが故に、ファッツは笑った。
狂う為ではなく、精神の平衡を保つ為に。
1つはっきりした事を言えば、ファッツはある意味での天性の才能を持っている。
それは日頃発揮されるものではなく、こういったぎりぎりの場面で初めて発揮されるものだろう。
常人ならば発狂しかねないこの状況で、ファッツは自然と精神を保つ為の自分なりの方法を実行した。
それが笑み。
…笑みは武器になり得る。
向けられた人の心を和ます事もできれば、敵の心を疑心暗鬼に陥れる事もできる。
それを自分に向ければ心の余裕に繋がる。
ファッツは自分でも知らずに、それを使いこなしたのだろうか。
その天性の才能で。
「アルバート…な、にしてんだ!」
サイコガンダムMK-Uの頭部の辺りで爆発が起こり、攻撃が小止みになり。
そのおかげで僅かに周囲にも気を配れた。
見えたのは動こうとしないシャッコー。
一瞬ニースとの繋がりが脳裏をよぎったが、直ぐにそれを打ち消す。
シャッコーは右腕を失っているし、やろうと思えばマラサイを十字砲火で攻撃できた。
動かない理由は…何となく分かる。
弾の種類を確認する間もなくバズーカの弾倉を換装。
片手での換装だから、異様に焦ってしまう。
「アルバート!」
その間に通信を繋げて叫ぶ。
そこにあるのはただ1つの理念。
『敵の敵は味方』だ。
「何そんなとこで突っ立ってんだ!
そのまま死ぬつもりか!?」
反射的にマラサイを横にジャンプさせると、次の瞬間辺りにメガビームが着弾した。
この反応もまた、才能だろうか。
ともかく撃ち返しながら、更に声を張り上げる。
「死にてえなら俺は何も言わねえ!
だがそうじゃなければ、動けバカヤロウ!」
【行動 :攻撃をかわす(-1P)シャッコーに通信回線接続(-1P)換装(-1P)拡散弾を2発(-1P)残り0P】
【位置 :N-14】
【機体/状況 :マラサイ/右腕切断 右肩アーマー損傷 胸部装甲破損 右足半壊(応急修理済)】
【パイロット状況 :左手甲に切り傷 右肩に噛み痕 頬に切り傷】
【武装 :ビームサーベル ヒートホーク 頭部バルカン砲(残弾70%) ビームダガー
ハイパーバズーカ(3発)(予備弾薬/通常弾×1)】
【通信状況:】
【所持品:ディパック 水2g入りペットボトル×2 缶詰携帯食料各種2食分 缶切り
コイン トランプ 小銭 チタン合金製ワイヤー 果物ナイフ×2
女装セット(下着・服・化粧品・本、その他オンナノコに必要なもの♪)
全身タイツ 生徒レーダー 拳銃 ミヒャエルが放り出した袋】
【行動方針:楽しんで生きたいとは思う】
297 :
ニース=エルネージュ ◆LuqsQs0P4w :2007/07/16(月) 23:29:50 ID:18MuiSXZ
IDチェックだけしておきます
「何で、よけるのよお…!」
怒りを通り越したのか、泣き声にも似た声で呻くニース。
さっきまで歩く事もできなかったマラサイに、これだけ攻撃をかわされては無理もないだろう。
その元になったのはニースの修理なのだから、正直、泣くに泣けない部分はある。
しかもサイコガンダムは、片腕のないマラサイに、予想外のダメージを受けている。
まさしく弱り目に祟り目だ。
またマラサイがバズーカを撃った。
「そんな、ものぉ!」
今度こそと言わんばかりに、サイコガンダムが体をひねって避けようとする。
その瞬間、迫ってきた弾が破裂し、中から小さい玉が無数に飛んでくる。
「だから…っ!」
さらに1歩大きく下がって、大半の玉を避け、当たった残りの玉もたいしたダメージではない。
サイコガンダムの目が、ぎらりと光る。
「お前は…邪魔だって言ってる!」
ニースはその体勢を維持すると、右手のサイコミュ式ビームソードを放った。
この場面での初めて使う武器だが、そんな細かい事は考えていない。
何度も攻撃して、全て避けられている。
ニースの頭の中は、マラサイを倒す事で一杯になっていた。
【行動:攻撃をかわす(−1)マラサイに攻撃(−1)】
【残り行動値:2】【位置:N-14】
【機体状況:MS形態】【通信状況:】【人物状況:ハイ】
【損傷状況:胸部3連装拡散メガビーム砲1門破壊、メインスラスター1基破壊、Iフィールド使用不能
脱出装置使用不能】
【武装:胸部3連装拡散メガビーム砲、リフレクタービット×20、
腕部サイコミュ式 ビームソード×1、全身メガビーム砲×多数】
【所持品:ディパック 水2g2と1/4本 コッペパン1個、ドライバーとモンキー、LLのTシャツ、保存食
5と1/3日分、Tシャツとショーツ×3、Gパン、ティッシュ、消臭剤、ロングコート、医療品、
アルバートの制服とシャツ、コピー紙、マジック、レベッカのリボン】
【行動方針:マラサイを倒す】【同盟:】【ペット:ハスキー犬のハリー】
299 :
ファッツ=シュヴィール@代理:2007/07/21(土) 00:56:46 ID:B5G11ENF
IDをチェック
シャッコーでアルバートが聞いているかは分からないが、ファッツは声を張り上げる。
「お前とニースちゃんの間に何があったかは知らねえし、聞くつもりもねえ!
情が移ったから攻撃したくないってんならそれも構わねえ!」
サイコガンダムMK-Uは、マラサイの攻撃をかわしている。
さすがに何度も当てさせてくれはしない。
「…!」
瞬間、ファッツの背を寒気が走り抜ける。
咄嗟にマラサイをジャンプさせると、今までいた場所をビームサーベルが薙いでいった。
今の攻撃の正体……右腕が分離していたのを知ったのは、ジャンプしてから。
戦歴が1年戦争までのファッツの記憶に、あのような武器は存在しない。
しかしファッツはこのプログラムでは、先ずこれまでの常識と先入観を捨てなければ生き残れない
事を知ってきた。
今の対応は、ファッツの柔軟な思考あってのものだろう。
「だがよ!
このまま何もせずに死んだって、そんな自己満足を誰も褒めちゃくれねえ!」
マラサイをサイコガンダムMK-Uに接近させながら叫ぶ。
さっき撃った弾は拡散弾だった。
装甲の薄い相手だったら十分に威力も期待できるが、あの機体相手に中途半端な距離で撃っても、
それは弾の無駄使いにしかならない。
ならば虎穴に入らんずば…の例え通り、接近しての攻撃しかない。
「アルバート!
お前は何の為に殺し合いをするって紙に書いたんだ!?
ここで無為に死ぬ為か……違うだろ!?
お前の中に、まだその時の気持ちが残っているなら…!」
ターゲットサークル一杯に、サイコガンダムMK-Uの姿を捉えた。
拡散すれば豆鉄砲みたいな弾でも、まとめて叩きつければ何とかなるかもしれない。
「その為に、出来る事をやってみせろ!」
叫びと共にトリガーを引く。
拡散弾が2発、サイコガンダムMK-Uに放たれる。
【行動 :攻撃をかわす(-1P)シャッコーに通信回線接続中(0P)接近(-1P)拡散弾を2発(-1P)残り1P】
【位置 :N-14】
【機体/状況 :マラサイ/右腕切断 右肩アーマー損傷 胸部装甲破損 右足半壊(応急修理済)】
【パイロット状況 :左手甲に切り傷 右肩に噛み痕 頬に切り傷】
【武装 :ビームサーベル ヒートホーク 頭部バルカン砲(残弾70%) ビームダガー
ハイパーバズーカ(3発)(予備弾薬/通常弾×1)】
【通信状況:シャッコー】
【所持品:ディパック 水2g入りペットボトル×2 缶詰携帯食料各種2食分 缶切り
コイン トランプ 小銭 チタン合金製ワイヤー 果物ナイフ×2
女装セット(下着・服・化粧品・本、その他オンナノコに必要なもの♪)
全身タイツ 生徒レーダー 拳銃 ミヒャエルが放り出した袋】
【行動方針:楽しんで生きたいとは思う】
301 :
ニース=エルネージュ ◆LuqsQs0P4w :2007/07/24(火) 00:04:43 ID:IZwNvQ+r
IDを出しますー
ビームサーベルが当たらなかった。
ニースとしては意表を突いたつもりだったが、それもファッツには通じなかった。
「ぎ……ぃ……っ!」
唸りとも歯軋りとも取れる音が、ニースの口から漏れる。
すぐさま、サイコガンダムに近づいてくるマラサイ。
素人臭さが抜け切らないニースにも、その意図は何となく分かった。
おそらく、1発1発では効果の薄い拡散弾を、至近距離で撃とうというのだろう。
動きの鈍いサイコガンダムでは、それを避けるのは難しい。
しかも攻撃に使った右腕も、まだ戻ってきていないため、非常に不安定な姿勢になっていた。
モニターに映るマラサイが、バズーカをかまえる。
自分に向けられた砲口が、死を告げる死神の口に見える。
「ま、まだ…!」
泣きそうな顔のまま、ニースはマラサイを睨む。
以前なら、恐怖で目をそらしていたその光景にも、必死に立ち向かおうとする。
その目が、バズーカが鈍い光とともに、真っ黒な弾を撃ち出すのをとらえた。
その数2発。
「まだなのぉ!」
静かな、湖を思わせる目が、飛んでくる弾をスローに映し出す。
この土壇場で、ニースが自分の能力を発揮した瞬間。
サイコガンダムが左腕を振り、2つの弾を胴体に当てることなく防御した。
左腕で起こる、派手な爆発。
これで左腕は完全に使えなくなったが、その代わりにニースはチャンスを得ていた。
これまでは距離が離れていたため、マラサイに避けられていた。
しかし、マラサイは今、サイコガンダムに攻撃するために近づいてきている。
この距離なら、さっきよりも命中率は格段に上がるはずだし、左腕を犠牲にした意味も出てくる。
「−−−−−−−−−−−−−−−−−!」
ニースは何かを叫んでいた。
言葉にならない、声にならない叫び。
【行動:防御(−1)拡散メガビーム砲でマラサイを攻撃(−1)】
【残り行動値:2】【位置:N-14】
【機体状況:MS形態】【通信状況:】【人物状況:ハイ】
【損傷状況:胸部3連装拡散メガビーム砲1門破壊、メインスラスター1基破壊、Iフィールド使用不能
脱出装置使用不能、左腕破壊】
【武装:胸部3連装拡散メガビーム砲、リフレクタービット×20、
腕部サイコミュ式 ビームソード×1、全身メガビーム砲×多数】
【所持品:ディパック 水2g2と1/4本 コッペパン1個、ドライバーとモンキー、LLのTシャツ、保存食
5と1/3日分、Tシャツとショーツ×3、Gパン、ティッシュ、消臭剤、ロングコート、医療品、
アルバートの制服とシャツ、コピー紙、マジック、レベッカのリボン】
【行動方針:マラサイを倒す】【同盟:】【ペット:ハスキー犬のハリー】
304 :
ファッツ=シュヴィール@代理:2007/07/25(水) 00:31:14 ID:KDpLi2/h
先にID出します
「…お前は自分が何者なのか…考えた事があるか?」
森の墓の前で、父さんが語りかけてきた。
俺がもう1つの名前を聞かされて、数分経った時の事。
「え…と…ア、アルバート=パーシング…かな」
何となく違う答えだと思いながら、でもそう答えるしかない俺。
それを証明するように父さんが微かに微笑む。
「まあそれはそうなんだけどな。
俺が言うのは表面的なものじゃなくて…もっと内面的なものだ」
内面…。
分かりやすそうで分かり辛い言葉。
それが顔に出てしまったのだろうか、父さんは苦笑して話を続けた。
「分かり易く言うと…まあ………」
沈黙。
なかなか上手い言葉が見つからないみたいだ。
意味を考える俺と言葉を探す父さんの間に、無言の時間が流れる。
「例えばだ」
先に口を開いたのは父さんだった。
「出世を願って就職した者と何となく就職した者がいたと仮定してだな。
…でスピードに差はあるだろうが、両者とも係長になったとする。
前者は更に上を目指して仕事に励むだろうが、後者はそこで満足してそこで止
まってしまう」
少し極端な例だけど、それは些細な事だろう。
俺は無言で1回頷いて、父さんもそれを見て話を続ける。
「自分が何者であるか、または何者でありたいか。
それを知っている者、それを信じているものは歩みを止める事はない。
そして何よりも…強い」
そうして父さんは、懐かしそうに墓を見つめた。
「笑いは世界を救う…。
俺にそれを教えてくれた人は…そんな人だった…」
…ファッツさんの言葉に俺が思い出したのは、あの教室ではなく父さんとの会話だった。
自分が何者なのか。
何者でありたいのか。
誰もが持っていそうで、決してそうではない答え。
だけど俺はずっと昔から持っていた筈だ。
確固たる答えを。
誰にも負けない思いを。
あの教室で殺し合いの誓いを書かされた時も、実際に殺し合っている時だってそれは
必ず、俺のどこかにあった。
小さい頃父さんの自慢のコレクションだった、旧ザクのコンソールスティックを握らせ
てもらった事があった。
その俺の手を上から包むように握って、父さんはMSの動かし方を笑いながら教えてくれた。
MSパイロットとして傭兵隊長として信頼を受け、命を張って孤児院や一家を支える父さん。
それを見つめ続けてきた俺の生き方は、その時に決まっていた。
自分が何者なのか。
何者でありたいのか。
その問いの答えは、俺の人生そのものを表しているのと同じ事なんだ。
俺は父さんのようになりたい。
今は追いかけるだけでも、いつかは肩を並べるようなMSパイロットになりたい。
…俺は父さんの話の、何の志もない人間ようにここで満足するのか。
まだまだ目指している目標は先にあるのに。
「……やっぱ……まだ止まれないよな…」
【行動:回想と決意(0)】
【残り:4P】【位置:N-14】
【機体状況:コクピット付近の装甲に切り傷、左膝ピストン歪み(小)、右腕肘下消失】
【人物状況:胸にガラス片の傷(処置済み)】【通信状況:】
【武装:ビームサーベル×1、右肩部2連装ショルダービームガン(90%)、ビーム
ローター、ビームピストル(左40%右40%)ショットランサー】
【所持:ディパック、水2g入り3本、コッペパン1個、保存食41/3日分、お守り、
ペンライト、ポータブルプレイヤー、毛布、救急箱、コピー用紙の束、
マジック3本、UC歴史の本、MSデーターディスク】
【方針:生き残る】【服装:革ジャンとジーンズ】
保守
ファッツはサイコガンダムMK-Uとの戦闘に際して、2つの戦法を実行していた。
戦闘時に走ったりすると、MSの脚部の関節にかかる負担はかなりものになる。
だから通常移動時は極力脚部に負担をかけないよう、余裕がある時はトレーラーや
輸送機を使用し、そうでない時は歩行する。
そんなMSだから、修理したとはいえ右脚が傷ついたままのマラサイが戦闘をするのは
いささか無理がある。
だからファッツは右脚への負担を減らす為に、スラスターを多用して戦闘に臨んでいた。
スラスターを吹かして浮力をある程度付ければ、移動時の脚への負担を少しでも減らす
事ができる。
攻撃に関しては、出来る限り手数を増やすようにした。
ニースとの接触は少ないが、その少ない係わりの中で感じたのは、彼女が素人…若しくは
それに近い程度の経験しかないのではという事。
最初に接触した時、ニースは情報交換の話にあまりにもあっさりと応じてきた。
そしてマラサイの修理に関しても、敵になる可能性があるにもかかわらず、これもあっさりと
アルバートの言う通りに修理している。
ニースが素人ならば、戦闘において撃たれたという経験は少ない筈だ。
撃たれて当たったら死ぬかもしれない。
その恐怖は自然と操縦を鈍らせる。
例え命中しなくても、狙われているという現実が体を竦ませるのだ。
そこにも活路を見出せるかもしれないとファッツは踏んでいた。
1つ目に関してはある程度成功した。
この傷ついた脚部で、マラサイはよく戦っている。
それはファッツ自身の、操縦技術が確かなものである事も物語っていた。
半端な技術では着地の際にスラスターの加減が出来ず、転倒するか脚部が折れるかのどちらかだろう。
しかし2つ目は…完全に目論見が外れた。
ファッツは接近しての拡散弾の発射に、それなりの目算を立てていた。
命中すればメガビーム砲を破壊する事ができるし、例えかわされてもバランスを崩せると思っていた。
しかし…ファッツは知らなかった。
ニースがキリトとレベッカとの戦闘によって、心身を鍛えられた事を。
何よりもサイコガンダムMK-Uによって、闘争心が増幅していた事を。
「うそ、だろ?」
拡散弾は命中しなかった。
かと言ってサイコガンダムMK-Uがかわしたのでもない。
何とニースは、まだ使える左腕を捨てて拡散弾を2発とも払い除けたのだ。
その結果マラサイはメガビーム砲の前に、決定的な隙を晒す事になった。
ファッツが叫ぶ間もなく、天地が引っくり返ったかのようにマラサイが揺れた。
その激震はメガビームの命中によるものか、それとも地面に叩きつけられたものなのか。
ともかくファッツが気が付いた時、マラサイは動かなくなっていた。
モニターはまだ外界を映しているから、すぐに爆発する事はなさそうだ。
だが、MSを動かすべきファッツの体はピクリとも動かない。
体に痛みはないが、とても熱かった。
「…悪運…尽きたか、な…んっ…ぐっ…」
声を振り絞ると、一緒に胃の中から何かこみ上げてきたから、無理矢理それを飲み込む。
暫く咳き込んで、小さく何回か深呼吸した。
「…一足…おせえよ……ったく…」
そのファッツの目に見えたのは、巨大なMSに飛びかかっていく小さな影だった。
【行動 :回避失敗(-1P)残り3P】
【位置 :N-14】
【機体/状況 :マラサイ/右腕切断 右肩アーマー損傷 胸部装甲破損 右足半壊(応急修理済)
右胸部中破 左脚全損 左腰部装甲半壊】
【パイロット状況 :左手甲に切り傷 右肩に噛み痕 頬に切り傷 右腕上腕部切断
破片の貫通による裂傷】
【武装 :ビームサーベル ヒートホーク 頭部バルカン砲(残弾70%) ビームダガー
ハイパーバズーカ(1発)(予備弾薬/通常弾×1)】
【通信状況:シャッコー】
【所持品:ディパック 水2g入りペットボトル×2 缶詰携帯食料各種2食分 缶切り
コイン トランプ 小銭 チタン合金製ワイヤー 果物ナイフ×2
女装セット(下着・服・化粧品・本、その他オンナノコに必要なもの♪)
全身タイツ 生徒レーダー 拳銃 ミヒャエルが放り出した袋】
【行動方針:楽しんで生きたいとは思う】
310 :
アルバート=パーシング ◆n/1NtkuBMs :2007/07/31(火) 23:09:44 ID:TjT1UN2u
続けてIDもチェックします。
保守
止まれない。
止まるわけにはいかない。
どんな結果であっても生き残って、また父さんの背中を追いかけたい。
その為には、あの化け物を倒さなければならない。
夢の中の記憶と、さっきディスクで見た記憶を重ね合わせる。
攻撃力は無数のメガビーム砲と、あとビームを跳ね返すファンネルみたいなやつ。
ええと…あとは…忘れた。
防御力は元々の装甲の厚さに加えて、Iフィールドによる中長距離ビーム兵器の無効化。
一見防御力は完璧に見えるけど、実弾兵器には全く役に立たない。
更に近接戦闘でもサーベルなどの攻撃を無効化できない。
以上の点を考慮して今俺が出来る有効な攻撃手段は…。
ショットランサーとビームサーベル。
このうちショットランサーは便利だけど、片腕のシャッコーだとかわされた時に次の武器
への切り替えが行い難い。
強大な敵に挑むからには、攻撃方法と目標を限定した方がいい。
サイコガンダムMK-U相手では、戦闘が長引けば好機が減ってくるばかりだ。
わざと長引かせてニースの疲れを誘う事も1つの手段だけど、そんな不確定な要素で
の戦闘も分があるとは言えない。
俺が選ぶのは、短期決戦。
略さず言えば短期間決定的戦闘。
サイコガンダムMK-Uを一撃で戦闘不能にできる箇所を狙う。
それは…コクピット。
サイコガンダムMK-Uのコクピットは、確か頭部にあった筈。
それ以上の細かい部分は分からないが、大体の検討でやるしかない。
攻撃のチャンスは精々2、3回が限界だろう。
それ以上は流石に警戒されて、極端に狙い難くなる。
勿論コクピットを狙うという事は、ニースを攻撃する事に等しい。
ファッツさんの言葉が無かったら、そして父さんとの会話を思い出さなかったら
絶対に選択しない戦法だ。
だけどここは戦場。
恨みも後悔も悲哀も嘆きも、負の感情も正の感情も一切を極力抑える。
手元を狂わせないよう、全てを冷静に進める。
サイコガンダムMK-Uから光が迸る。
それが合図のように、俺はシャッコーを突っ込ませた。
落下するマラサイと入れ替わるように、シャッコーを跳躍させ頭部に接近する。
狙いは…取り合えず頭部の真ん中!
ビームサーベルを腰溜めに構えから、一気に突き出す。
【行動:跳躍(-1)頭部に攻撃(-1)】
【残り:2P】【位置:N-14】
【機体状況:コクピット付近の装甲に切り傷、左膝ピストン歪み(小)、右腕肘下消失】
【人物状況:胸にガラス片の傷(処置済み)】【通信状況:】
【武装:ビームサーベル×1、右肩部2連装ショルダービームガン(90%)、ビーム
ローター、ビームピストル(左40%右40%)ショットランサー】
【所持:ディパック、水2g入り3本、コッペパン1個、保存食41/3日分、お守り、
ペンライト、ポータブルプレイヤー、毛布、救急箱、コピー用紙の束、
マジック3本、UC歴史の本、MSデーターディスク】
【方針:生き残る】【服装:革ジャンとジーンズ】
314 :
ニース=エルネージュ ◆LuqsQs0P4w :2007/08/07(火) 14:25:33 ID:R95Baegt
覚悟のIDチェックです
ニースが、これまでに夢中になったものは多くない。
物心がついた頃は、人形遊びなど、女の子らしい遊びに夢中だった。
それからあとは、ずっと機械いじりに夢中になっていた。
この2つの夢中になった事柄に関して、共通するニースの行動がある。
それは、どちらも夢中になると、周囲が見えなくなるというものだった。
人形遊びはもちろん、機会いじりになると、それこそ朝から晩まで工場にこもる事がしょっちゅうだった。
それはそれでニースの1つの魅力には違いないが、時と場合という言葉もある。
サイコガンダム…サイコミュによって、ニースの意識は、これ以上ないくらいに研ぎ澄まされ集中していた。
マラサイの撃つ弾は大概は見えていたし、扱いなれていない機体も無難に動かして、戦闘力を維持させている。
だが、ここにきてその集中力が、いってはいけない方に向けられてしまっていた。
あまりにしぶといマラサイを倒そうと急くあまり、ニースは他のものが見えなくなっていた。
そう、ニースは夢中になってしまったのだ。
マラサイのみに向けられた意識は、その他の動きの探知を遅らせ、そして今、マラサイを戦闘不能に追い込んだ
事で、ニースの集中力が僅かに弛緩していた。
ニースが、シャッコーの動きを察知できなかった理由はもう1つある。
戦いが始まってから、シャッコーは殆ど動きをみせていない。
それをニースは、アルバートが自分を攻撃できないものと思ってしまった。
だから、シャッコーと戦うのはマラサイのあとでも大丈夫と、たかをくくってしまったのだ。
「はぁっ…はぁっ…」
あらん限りの声で叫んで、やっとマラサイを倒し、荒い息をするニース。
その僅かな集中力の途切れを、今度こそ戦場の神は見逃してくれなかった。
ふとシャッコーを見ようとした、ニースの視界を埋めるビームサーベルの光。
「アルバ…」
ニースの瞳が見開かれ、叫ぼうとした名前を言い終わる前に、ニースの周囲は嵐のような轟音に包まれた。
【行動:】
【残り行動値:4】【位置:N-14】
【機体状況:MS形態】【通信状況:】【人物状況:ハイ】
【損傷状況:胸部3連装拡散メガビーム砲1門破壊、メインスラスター1基破壊、Iフィールド使用不能
脱出装置使用不能、左腕破壊、コクピット大破】
【武装:胸部3連装拡散メガビーム砲、リフレクタービット×20、
腕部サイコミュ式 ビームソード×1、全身メガビーム砲×多数】
【所持品:ドライバーとモンキー、アルバートのシャツ、マジック、レベッカのリボン】
【行動方針:】【同盟:】【ペット:ハスキー犬のハリー】
保守
真っ白。
何もかもが真っ白。
モニターに映ったのは、シャッコーと、その手の辺りから光っていた何か。
その何かが、ニースの頭を真っ白にしていた。
暫く動きを止めていたサイコガンダムが、ゆっくりと、スローモーションのように横倒しになった。
その衝撃が、真っ白だったニースの意識を覚醒させる。
「…う…ぁ…」
弱々しい声と一緒に、ニースの目が僅かに開いた。
霞んだ目に映ったのは、コクピットの横に開いた、自動車が通れそうな大きな穴。
ビームサーベルによるものだが、ニースにはそんな事は分かりようもない。
自分の体が、どうなっているのかも分からない。
ただ、左半身がなくなってしまったように、何も感じなくなってしまっていた。
見えているのも、右目だけだった。
まだ動く右手をばたばたと動かして、操縦桿を必死に動かす。
しかし、サイコガンダムは、その呼びかけに応えようとはしなかった。
ニースも、そこでようやく理解した。
自分がもう戦えないという事。
「…ぅ…あ…」
操縦桿から離した右手に、何かが引っかかる。
それは、焼け残ったディパックの一部。
いくつか焼け残った所持品が、ニースの右目に見えた。
「あ…あ゛…」
もう助からないのは、ニース自身も理解している。
でもその前に、ニースは何としても話したい人がいた。
勿論、その思いは図々しいものではある。
何故なら、ニースはその人の思いも、その人の置かれた状況も考えずに、サイコガンダムと共に
攻撃をしかけたのだから。
それでも、許されるのなら最後に、あの人に何か話したかった。
「あ…る、ば…」
だが、現実はそんな甘くはない。
実際、コクピットの機能は完全に停止していたし、ニース自身もまともに話せる状態ではなかった。
無為な時間が数秒すぎて…身じろぎしたニースの右手に、何か柔らかいものが触れた。
それはコクピットでも、その外でも、ニースの心を慰めてくれた優しい毛並み。
「ハ…ハ、リ…ィ…」
それは、どのような幸運があったのだろうか?
ハリーが生きて、ニースの傷ついた手を舐めていたのだ。
ハリー自身も傷ついているが、命に別状はなさそうだった。
何かを思いついたニースが、ディパックだった物を膝元に引き寄せて、ある物を取り出した。
それは、ずっと持っていたアルバートのシャツと、アルバートからもらったマジック。
震える手で、でも残った渾身の力で、ニースはシャツに言葉を書いていく。
『ごめんなさいありがとう』
そこまで書いたところで、握力が弱まって、マジックが落ちた。
でも、ニースにはこれを書けただけで満足だった。
よく考えれば他にも言葉が浮かんだかもしれないが、ニースには、もう考える時間も殆ど残っていない。
ディパックから、さらにレベッカのリボンを出してシャツでくるんだ。
本当はずっと持っていたいが、レベッカの思いの詰まったリボンを、ここで捨てるわけにはいかなかった。
アルバートは、願いのためにまっすぐに行動できる。
例え辛い選択であっても、逃げずに立ち向かえる。
もちろん、これはニースの思い込みでしかない。
でも思い込みでも、迷惑に思われてもレベッカの思いを託せるのは、もうアルバートしかいなかった。。
「ハ、リ…」
ハリーにシャツを差し出し、必死の表情で言葉を搾り出す。
「ごれ…ア゛、ア゛ルバ…トさんに゛…。アル、バート、さんに…!」
悲しそうな瞳で、ニースを見つめていたハリーが、意を決したようにシャツをくわえ穴に向けて走る。
そして穴の縁でニースを1回振り向き、たっと外に飛び出していった。
ニースはそれを、微笑んで見送ったつもりだったが、すでにニースの表情は人形のように動かない。
表情が止まり、右手が動かなくなり、次々とニースの体の機能が停止していく。
その中で、唇が何回か、会話しているように開く。
まるで、目の前に誰かが存在しているかのように。
他の誰にも見えなくとも、ニースの右目には、会話の相手が見えているかのようだ。
それから数分後に、最後に心臓が停止するその時まで、ニースの唇はずっと動き続けていた。
【生徒番号14番 ニース=エルネージュ…死亡】
ファッツが目にしたもの。
それはこれまでの戦闘を思えば、信じがたい光景ではあった。
サイコガンダムMK-Uの頭部付近まで飛んだシャッコーが、そのままビームサーベルを構えて突っ込んでいく。
おかしいのは、何故サイコガンダムMK-U…ニースがあそこまでの接近を許したのか。
不意を突いたのならともかく、普通に対処すれば迎撃可能な筈だったが。
そんな事を思った一瞬の間に、シャッコーのサーベルは狙い過たず頭部に吸い込まれ…。
サイコガンダムMK-Uは、糸の切れた人形のように横倒しになった。
「1発かよ。
……俺の立場ねえなあ…」
その結果に苦笑を通り越して呆れてしまったファッツ。
ニースが接近を許した理由を知らないのだから、呆れてしまうのも仕方がない。
「これで…全部終わり、か」
他人事のように呟いた。
正確に言えばまだファッツのマラサイが残っている。
左脚がなくなったとは言え、まだバズーカに1発の弾を残しているから、最後の賭けに出れない事はない。
問題はファッツ自身の状況だった。
右腕を失い破片で傷つき、出血も激しい上に救急道具がないから満足に治療も出来ない。
現に既に意識も混濁しはじめている。
「…やっぱ、勝者ってのは…称えてやらなきゃな…」
シャッコーは倒れたサイコガンダムMK-Uの近くで何かしている。
その理由は何かは分からないが、それが終わるのを待つだけの時間はファッツにはない。
シャッコーに通信を送る。
その声は意識の混濁など、感じさせないくらい張りのあるものだった。
「アルバート、聞こえるか?」
…返事がない。
更に何度かアルバートを呼び出そうと通信を送った。
「ちっと急ぎの用事だ、アルバート!
すまねえが早く出てくれ!」
【行動 :アルバートに呼びかける(0P)残り4P】
【位置 :N-14】
【機体/状況 :マラサイ/右腕切断 右肩アーマー損傷 胸部装甲破損 右足半壊(応急修理済)
右胸部中破 左脚全損 左腰部装甲半壊】
【パイロット状況 :左手甲に切り傷 右肩に噛み痕 頬に切り傷 右腕上腕部切断
破片の貫通による裂傷】
【武装 :ビームサーベル ヒートホーク 頭部バルカン砲(残弾70%) ビームダガー
ハイパーバズーカ(1発)(予備弾薬/通常弾×1)】
【通信状況:シャッコー】
【所持品:ディパック 水2g入りペットボトル×2 缶詰携帯食料各種2食分 缶切り
コイン トランプ 小銭 チタン合金製ワイヤー 果物ナイフ×2
女装セット(下着・服・化粧品・本、その他オンナノコに必要なもの♪)
全身タイツ 生徒レーダー 拳銃 ミヒャエルが放り出した袋】
【行動方針:】
近づいてくるサイコガンダムMK-Uの頭部。
命中するか、かわされるのか。
一瞬に思える永遠。
永劫に感じる刹那。
その瞬間を突き破ったビームサーベルは、まるで紙でも突き刺しように目標を貫いた。
間違いなく命中したのを確認して、直ぐさまシャッコーを飛び退かせる。
サイコガンダムMK-Uが戦闘力を残していた場合、少しでも同じ場所に留まるのは危険だ。
…しかし俺の用心は意味を成さなかったみたいだ。
サイコガンダムMK-Uは動こうとしない。
俺の油断を誘おうとしているのでなければ、導き出す答えは1つだ。
そして…俺の導き出した答えを証明するかのようにゆっくりと巨体が傾き、まるで映画の
ワンシーンみたいに倒れていった。
尚も1、2分ほど警戒を続け、サイコガンダムMK-Uが完全に停止しているのを確認した。
溜めていた息が、小さく長く口から漏れていく。
戦闘の終了だった。
この手でニースを刺したのに、何の感情も沸いてこない。
コクピットのニースの姿を見る事がなかったからか。
それとも押し殺した感情が、現実を認識していないのか。
…多分どちらも正解だ。
コクピットという制限された空間にいると、そしてその中で最大限に集中すると、目に
見えているものが現実的に映らなくなってくる。
モニターの景色もまるでテレビのように思えてくる。
それは恐怖がなくなった証。
殺される恐怖も殺す恐怖も感じなくなる、ただ1個の純粋なマシーンと化す時。
その瞬間、人は何の躊躇もなく人を殺す。
それが誰であろうとも。
勿論いずれ感情の波はやってくる。
殺した殺されかけたという恐怖が、そして生き残ったという喜びが反動となって現れる。
でもそれも最初だけ。
経験を積んでいくに従い感情の波は小さくなり、最後には小波程度にも感じなくなる。
いちいち何度も感情の爆発を許してくれるほど、軍も戦場も優しくはないのだから。
でも今は…そこまで考えない。
戦闘の終結を確認したのだから、ファッツさんの様子を…。
その時サイコガンダムMK-Uの方から、何かが駆けてくるのが認識できた。
「ニースが連れていた…犬…?」
ところどころ怪我しているようだけど、あの駆けっぷりを見ると重傷ではないようだ。
それに何か…布のようなものを咥えている。
シャッコーが手を差し出すと、犬はさっと飛び乗ってきた。
名前は…確か、ハリー…だったけか。
ハッチを開けてハリーを迎え入れる。
布のように見えたのは、どこかで見たようなシャツだ。
何でこんなものを…。
ハリーが咥えていたそれを受け取り広げてみる。
間違いなく、俺がデパートで脱ぎ捨てたシャツだ。
何故ニースがこれを持っていたのか。
いやそれよりも俺の目が凝視したのは、シャツに書かれた1行の文だった。
ニースがどのような状況でこれを書いたのか、想像に難くない。
まさしく最後の力で書いたという事は、乱れた文体と筆圧の感じで分かる。
「……謝るのは…俺の方なんだよ…」
辛うじて声を振り絞った。
パイロットとしての心持が、俺に叫ぶのを何とか留まらせていた。
俺がニースから奪ったもの……それは、俺が失ったものでもある。
ニースに道を示してやれなかった。
共に歩める希望を見せてやれなかった。
その俺自身の未熟さが、この結末を呼び込んだのだ。
今更ながらに、父さんを追いかける事の厳しさを理解した。
父さんもパイロットとして戦士として、この修羅の道を進んできたに違いない。
…誰かが俺を呼んでいる。
幻聴かと勘繰ってしまったが、そうではないみたいだ。
ファッツさんの声だと気づいたのは、更に数秒してから。
そう言えば今までこっちの回線は、マラサイに繋げていなかった。
静かに深呼吸をして、マラサイに回線を繋げた。
「こちらアルバートです。
無事ですか、ファッツさん」
【行動:マラサイに通信回線を開く(-1)】
【残り:3P】【位置:N-14】
【機体状況:コクピット付近の装甲に切り傷、左膝ピストン歪み(小)、右腕肘下消失】
【人物状況:胸にガラス片の傷(処置済み)】【通信状況:】
【武装:ビームサーベル×1、右肩部2連装ショルダービームガン(90%)、ビーム
ローター、ビームピストル(左40%右40%)ショットランサー】
【所持:ディパック、水2g入り3本、コッペパン1個、保存食41/3日分、お守り、
ペンライト、ポータブルプレイヤー、毛布、救急箱、コピー用紙の束、
マジック3本、UC歴史の本、MSデーターディスク】
【方針:生き残る】【服装:革ジャンとジーンズ】
ファッツの必死の(?)呼び掛けの甲斐あって、シャッコーの通信回線が開かれた。
モニターに映ったアルバートからは、特に大袈裟な感情の起伏などは感じられない。
声の抑揚も上ずったところもないように聞こえる。
(…心中はともかく、見た目の冷静さは保ってるね)
その様子を見てファッツは、プログラムの終わりを確信した。
アルバートからの返答がなかった時、ファッツの脳裏をよぎったのは自害。
そして親しい者を手にかけた事でそうなってしまうのは、十分に考えられる可能性。
だがこうして(例え表面的であっても)冷静さを保っているアルバートを見ると、それは(現時点では)
大丈夫なようだった。
「おめでとさん、アルバート」
怪我を感じさせない張りのある声。
ファッツには最後にやるべき事があった。
さっき言ってたように勝者を称えるのは勿論だが、それ以上にアルバートを生かさなければならなかった。
アルバートは今は冷静さを保っているが、それがいつまでも続くとは限らない。
感情のたがが外れないように、外れた時でも早まった手段を取らないようにしなければならない。
アルバートは生き残った。
ファッツ自身押し付けるのは嫌だが、でも生き残った者には死んでいった者の分まで生きてほしい。
そうでなければこのプログラムは、ただ先生達組織を楽しませるだけのものだった事になる。
いい加減なところがあるファッツでも、その結末だけは御免だ。
だからこそ、アルバートには意地でも生きてもらわなければ…。
「おめでとさん」
もう一度、アルバートに聞かせるために同じ事を言った。
尤も心の中では
(…今見せてる顔が彼の本質なら、俺もこんな面倒臭い真似しなくて済むんだけど)
などと少々不謹慎な事を思ってもいたのだが。
「このプログラムの勝者は、お前だよアルバート」
【行動 :アルバートに話す(0P)残り4P】
【位置 :N-14】
【機体/状況 :マラサイ/右腕切断 右肩アーマー損傷 胸部装甲破損 右足半壊(応急修理済)
右胸部中破 左脚全損 左腰部装甲半壊】
【パイロット状況 :左手甲に切り傷 右肩に噛み痕 頬に切り傷 右腕上腕部切断
破片の貫通による裂傷】
【武装 :ビームサーベル ヒートホーク 頭部バルカン砲(残弾70%) ビームダガー
ハイパーバズーカ(1発)(予備弾薬/通常弾×1)】
【通信状況:シャッコー】
【所持品:ディパック 水2g入りペットボトル×2 缶詰携帯食料各種2食分 缶切り
コイン トランプ 小銭 チタン合金製ワイヤー 果物ナイフ×2
女装セット(下着・服・化粧品・本、その他オンナノコに必要なもの♪)
全身タイツ 生徒レーダー 拳銃 ミヒャエルが放り出した袋】
【行動方針:】
回線が開いて、マラサイの様子がモニターに映し出された。
サイコガンダムMK-Uに撃ち落とされた時に予感はしていたけど、ファッツさんの状態
はどう贔屓目に見ても命に係わる重傷だった。
切断されている右腕と出血で変色した服装を見れば、何となく手遅れではないかと思
えてしまう。
だけどモニターに映るファッツさんは、命の危機など微塵も感じさせない声をしている。
多分ただの意地なのかもしれないけど、その命を張った意地は、俺の表情を引き締め
るのに十分な効果を持っていた。
「勝者…」
ファッツさんから言われて、鸚鵡返しに言葉を返した。
…その言葉通りなんだろう。
パイロットの状態、MSの状態を考えるとそうなるのかもしれない。
でも…。
俺の心にある3つのわだかまりが、素直にそれを認めようとしない。
「俺は…たまたま運良く生き残っただけです」
自嘲気味に呟いた。
俺が今いるのは単に運の積み重ねだ。
それで勝者と言われる事に、納得のいかない部分が確かにあった。
「さっきだって、ファッツさんがサイコガンダムの気を引いてくれなければ、俺が墜とされ
ていたかもしれない」
口には出さなかったけど、それはファッツさんを囮にしたのと同じ事だ。
それが申し訳なくもあった。
それに…。
【行動:ファッツさんと会話(0)】
【残り:4P】【位置:N-14】
【機体状況:コクピット付近の装甲に切り傷、左膝ピストン歪み(小)、右腕肘下消失】
【人物状況:胸にガラス片の傷(処置済み)】【通信状況:マラサイ】
【武装:ビームサーベル×1、右肩部2連装ショルダービームガン(90%)、ビーム
ローター、ビームピストル(左40%右40%)ショットランサー】
【所持:ディパック、水2g入り3本、コッペパン1個、保存食41/3日分、お守り、
ペンライト、ポータブルプレイヤー、毛布、救急箱、コピー用紙の束、
マジック3本、UC歴史の本、MSデーターディスク】
【方針:生き残る】【服装:革ジャンとジーンズ】
保守
アルバートから語られたもの。
それはまあ、アルバートらしいと言えばらしい言葉だった。
勿論ファッツにしてみれば苦笑するしかないが。
戦場で生き残るには、運と実力はなくてはならないもの。
運だけでも実力だけでも、片方しか持っていない者は長生きは出来ない。
「なにくだらねえ事言ってんだ」
溜息混じりにアルバートに話す。
「お前もパイロットなら、運がどれだけ大事かくらい分かってんだろ?」
流石に出血が多いのか、あまり大声は出さない。
「プログラムにいた中で、お前が一番運を持ってたって事だ。
それに…まあ俺ほどじゃないが、操縦技術だってたいしたもんだ」
1回息をついてモニターの向こうの青年を見る。
ファッツの話をどう思っているのかは、ここからは窺えない。
だがファッツは、自分に許された時間を使って語りかける。
まるで己が存在した証を、ここに残そうとでもするように。
「それだけのもの貰っといて、これ以上情けねえ事言ってると…ぶん殴るぞ。
…いいか…お前は勝ったんだからもっと胸を張れ。
死んでった奴らに、お前が勝った事を納得させるくらいに胸を張れ」
少しアルバートの様子を見てから、ファッツは懐からコインを出した。
「ほらアルバート…お前の運試しだ」
言うと同時にコインを跳ね上げ、左の手のひらに包み込むように掴む。
その一連の動きは、死を目前にした者とは思えないほどに流麗だった。
そのまま左手をモニターに突き出して、にやりと笑う。
「さあ…裏か、表か…どっちだ」
【行動 :運試し(1P)残り3P】
【位置 :N-14】
【機体/状況 :マラサイ/右腕切断 右肩アーマー損傷 胸部装甲破損 右足半壊(応急修理済)
右胸部中破 左脚全損 左腰部装甲半壊】
【パイロット状況 :左手甲に切り傷 右肩に噛み痕 頬に切り傷 右腕上腕部切断
破片の貫通による裂傷】
【武装 :ビームサーベル ヒートホーク 頭部バルカン砲(残弾70%) ビームダガー
ハイパーバズーカ(1発)(予備弾薬/通常弾×1)】
【通信状況:シャッコー】
【所持品:ディパック 水2g入りペットボトル×2 缶詰携帯食料各種2食分 缶切り
コイン トランプ 小銭 チタン合金製ワイヤー 果物ナイフ×2
女装セット(下着・服・化粧品・本、その他オンナノコに必要なもの♪)
全身タイツ 生徒レーダー 拳銃 ミヒャエルが放り出した袋】
【行動方針:】
もう1つの理由。
それはあまり考えたくはない理由。
だけど絶対に避けては通れない道。
それが分かっているからこそ、あと必要なのが俺自身の心持ちという事も理解している。
ファッツさんは俺を勝者と言った。
いや…このプログラムのルールに乗っ取って言えば、俺はまだ勝者じゃない。
…何故なら…まだ生きている生徒は2人いるのだから。
そう…俺がファッツさんの言う勝者になるには、マラサイを撃墜しなければならない。
ニースを手にかけた瞬間から、俺にもその覚悟は出来てる…筈。
俺の事を勝者というからには、そしてあの傷を見る限り、ファッツさんにもある程度の
覚悟は出来ていると見て間違いない。
でもその死を覚悟した男の、堂々とした姿に気圧されている自分も俺はまた理解していた。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、ファッツさんが話を続けてくる。
その言葉に俺は若干赤面した。
ファッツさんは、俺なんかよりもずっと勝者ついて理解している。
腕だけでも運だけでも辿り着けない至高の位置。
ファッツさんはファッツさん流に、その位置に一番近い俺を評価してくれている。
口調には、一切の妬みも恨みも感じない。
俺自身が嫉妬しそうになるほど、ファッツさんは裏表を感じさせなかった。
俺が少し黙ったのを躊躇と見たのだろうか、ファッツさんがまた話してくる。
手に握られたのは、1枚のコイン。
それがあっという間に跳ね上げられて、吸い込まれるように掌に消えた。
流れるような一連の動作に、何だかファッツさんの美学みたいな物が見えた気がする。
モニターに差し出された手。
ファッツさんは運試しをするって言ってるけど、俺の答えはもう決まっている。
俺が勝者として胸を張って良いなら、それに相応しい答えがある。
「表です」
裏よりも表。
勝ち名乗りを受けるからには、そして自ら上げる為には、裏は選んじゃいけないような
気がした。
【行動:選ぶ(0)】
【残り:4P】【位置:N-14】
【機体状況:コクピット付近の装甲に切り傷、左膝ピストン歪み(小)、右腕肘下消失】
【人物状況:胸にガラス片の傷(処置済み)】【通信状況:マラサイ】
【武装:ビームサーベル×1、右肩部2連装ショルダービームガン(90%)、ビーム
ローター、ビームピストル(左40%右40%)ショットランサー】
【所持:ディパック、水2g入り3本、コッペパン1個、保存食41/3日分、お守り、
ペンライト、ポータブルプレイヤー、毛布、救急箱、コピー用紙の束、
マジック3本、UC歴史の本、MSデーターディスク】
【方針:生き残る】【服装:革ジャンとジーンズ】
ファッツの目が微かに見開かれた。
「へえ…じゃ、俺は裏だな」
驚きが混じった声も微かに漏れる。
理由は簡単で、アルバートの答えが思いのほか早かったから。
ファッツはもう少し悩むかと思っていたのだが。
ただそれは傾向としては良いものだった。
たかだか運試しだが、躊躇なく選択するさまと目の色を見ていると、それなりに吹っ切ったのではないか
と思われる部分があった。
アルバートの答えを確認して、ゆっくりと掌を開く。
「……この通り、お前の勝ちだよアルバート」
掌の表になったコインを見せながら、ファッツはまたニヤリと笑った。
「…自慢だけどよ…俺はコインで1度も負けた事がなかった。
その俺にコインで勝ったんだ。
だから俺が持っている運も、お前に全部託す。
俺に次ぐ操縦技術と、俺の運を持ってりゃ鬼に金棒だ」
流石に少し息が荒くなってきた。
しかしファッツはあと少し頑張らねばならない。
このまま意識を失うのは、ファッツ自身のプライドが許さない。
「で、だ」
声を改めるファッツ。
「お前にこんな事頼むのは気が引けるんだが……俺の介錯を頼めるか?」
これも流れとしては当然だし、アルバートも感づいているとファッツは思っている。
勝者として果たさなければならない務めだと思っている。
「…俺は死ぬ時は…まあ理想を言えば女の膝の上が良かったんだけどよ…。
でも俺としてはこのまま失血死は格好悪いし、自決なんて手段は下の下だ。
じゃあどうするかって言ったら、お前に頼むしかない」
気力を保とうと、1回大きく深呼吸する。
勿論視線はアルバートから逸らすことはない。
「…俺とお前じゃ生き方も考え方も違うから、全部が全部同意できるわけじゃないだろう。
それでも、ほんの少しでも理解できるものがあるなら…俺の生き方を全うさせてくれ」
ファッツは正直に気持ちを述べた。
アルバートのように、パイロットとして生きる者ならそう思う筈。
パイロットとして生きた事があるファッツだから、その点は分かり合えると思っていた。
「コインとは違うが…これも、勝者になる為の決断だ。
さあアルバート…俺の屍を乗り越えて、胸を張って勝者になれ…!」
そこまで言ってから、通信を切った。
ファッツの顔が映ったままだと撃ち辛いかもしれないし、もうファッツ自身に語るべき言葉も見当たらない。
アルバートの決断を待つだけだ。
【行動 :通信を切断(0P)残り4P】
【位置 :N-14】
【機体/状況 :マラサイ/右腕切断 右肩アーマー損傷 胸部装甲破損 右足半壊(応急修理済)
右胸部中破 左脚全損 左腰部装甲半壊】
【パイロット状況 :左手甲に切り傷 右肩に噛み痕 頬に切り傷 右腕上腕部切断
破片の貫通による裂傷】
【武装 :ビームサーベル ヒートホーク 頭部バルカン砲(残弾70%) ビームダガー
ハイパーバズーカ(1発)(予備弾薬/通常弾×1)】
【通信状況:】
【所持品:ディパック 水2g入りペットボトル×2 缶詰携帯食料各種2食分 缶切り
コイン トランプ 小銭 チタン合金製ワイヤー 果物ナイフ×2
女装セット(下着・服・化粧品・本、その他オンナノコに必要なもの♪)
全身タイツ 生徒レーダー 拳銃 ミヒャエルが放り出した袋】
【行動方針:】
開かれるファッツさんの掌。
何気に固唾を呑んで見守った俺の目に、表になったコインが見えた。
それを見て思わず安堵の息が漏れる。
ニヤリと笑って、ファッツさんが話を続ける。
所々でファッツさんらしい言い回しはあるけど、俺を前に進ませようという気持ちも伝
わってきた。
俺は少し笑みを浮かべながら、頭を下げる事で答える。
実力の方はともかく、運に関しては何か凄いんじゃないかと思えてもくる。
そしてその先を続けるファッツさんの言葉に、俺の表情も引き締まった。
ファッツさんの言うように、これは俺が選ばなければならない選択だ。
そして…俺はファッツさんの意を汲んであげなければならない。
同じ立場なら俺も頼むと思うし、何よりも俺を進ませようとしてくれたファッツさんの最
後の頼みを断れる道理が存在しない。
最後に言葉を残して、マラサイの通信が切られた。
屍を乗り越える。
俺が越えるべき最後の屍。
それは同時に、ファッツさんの思いを背負っていく事になる。
いや、俺はもうニースの思いも背負っている。
それを思えば……ん?
ニースの言葉が書かれたシャツに触れた時、何かが落ちるのが見えた。
「……リボン?
ハリーはこれ誰のか分かる…わけないか…」
勿論ニースの物でもないだろう。
ただしニースが最後にこれを託したという事は、このリボンも誰かの思いを背負って
いるのかもしれない。
俺にも…何となく…分かる。
ニースがずっとこだわっていた、白金の髪の少女。
彼女の思いなら、ニースが託そうとするのも不思議じゃない。
リボンを見ているうちに、ふとそういうものじゃないかと何となくまた思った。
生き残れば生き残るほどに、思いを背負っていく。
恨みでも悲しみでも、喜びでも怒りでも。
その重みに耐えられる者が生き残っていくのだと。
運と実力以外に何か要因を挙げるとしたら、それも含まれてもいいのだろう。
…ちょっと手前味噌だけど。
射撃モードを自動から手動に切り替えた。
コンピュータ射撃だと必ず狙った箇所に当たるとは限らない。
だから目視で、狙い過たずコクピットを狙う。
何の痛みも苦しみもなく、全てを終わらせる。
ビームピストルは規格が違うから、精度に不安がある。
使用するのは、照準も威力もまず問題ないショルダービームガン。
マラサイのコクピットと思われる箇所を、きっちりとサークルの中心に捉えて。
1息…2息…呼吸を整え…指に力が篭る。
「ファッツさん…さよならです」
トリガーが引かれ、閃光を残してビームが疾走していく。
【行動:介錯(-1)】
【残り:4P】【位置:N-14】
【機体状況:コクピット付近の装甲に切り傷、左膝ピストン歪み(小)、右腕肘下消失】
【人物状況:胸にガラス片の傷(処置済み)】【通信状況:マラサイ】
【武装:ビームサーベル×1、右肩部2連装ショルダービームガン(90%)、ビーム
ローター、ビームピストル(左40%右40%)ショットランサー】
【所持:ディパック、水2g入り3本、コッペパン1個、保存食41/3日分、お守り、
ペンライト、ポータブルプレイヤー、毛布、救急箱、コピー用紙の束、
マジック3本、UC歴史の本、MSデーターディスク、シャツとリボン】
【方針:生き残る】【服装:革ジャンとジーンズ】
少し緊張感が解けたせいか、ファッツの視界がだんだんぼやけてきている。
「くそっ…」
左手をコンソールスティックのサブウェポンのボタンに添える。
もしもアルバートが決断を鈍るようなら、バルカンで催促してやるつもりだった。
しかしファッツの懸念も杞憂だったようだ。
シャッコーの肩に装備されたビームガンが、こちらに向くのが見えた。
ニヤリと笑ってコンソールスティックから手を離した。
「…いい決断だ…。
そうでなきゃ…コインで勝たせてやった意味が…なくなっちまう…」
それはギャンブルにおける常套手段。
最初はある程度勝たせておいて、客を調子に乗らせた上で一気に回収する。
それをファッツはアルバート相手に行っていた。
ファッツがコインを1回負けるだけで、アルバートを先に進ませられるなら、こんな安上がりな事はない。
「…残念ながら、俺はこれ以上相手はできないけどよ…。
アルバート……この続きは…奴ら相手にやってくれ…。
そんで…できるなら、奴らを…奴らの有り金を、全部かっさらっちまえ…!」
もう声が聞こえない相手に、ファッツは凄絶な笑みでけしかけた。
アルバートが奴ら相手に勝ち続けるのは至難の業だが、これもまたファッツが託す思いであった。
例えそれが絶望的なギャンブルだとしても。
ふと気づいた。
右肩が妙に熱く火照っている。
「…こりゃ…」
それはあの時、リトラに付けられたもの。
「…色々いー女はいたけど…あいつは、色々な意味で格別だったな…」
敵として出会い、情を交わし別れ、また敵として出会った。
それはファッツのこれまでの人生にない、刺激的で官能に満ちた時間。
その短くも熱い時は、何をしても満たされる事のなかったファッツの心を、僅かな時間だが確かに埋めてくれた。
だからこそそれは、ファッツの中で消える事のない記憶となって刻まれている。
「あいつも…多分生きちゃいないんだろうな…」
それは想像ではなく、ある種の確信めいた予感。
結局ファッツは、あれ以来リトラに会う事はなかった。
だからリトラの最後はもう知る由もないのだが…。
「ま…多分、あいつとは…同じ場所で会えるよな…うん。
そしたら…今度は嫌だって言うくらい強く抱いてやろう…うん。
あん時は、俺が惚れてただけだけど……今度はあいつに…惚れたって、言わせてやるさ…うん」
『フフ……殺しあうんだな、ファッツ。私達は……殺しあうんだな……』
ファッツの耳に、いつか聞いたリトラの言葉が聞こえた。
…そのときファッツが見せたもの。
それは…故郷の草原を見つめるかのような…尊敬し愛した家族に向けるかのような優しい微笑だった。
「…違うよ…俺たちは…愛し合うんだ………ずっと…ずっとだ…」
ファッツが幻のリトラへの言葉を終えた瞬間…2条の光が全てを真っ白にしていった。
【ファッツ=シュヴィール…脱落】
シャッコーが放った光が、ほぼ狙い通りマラサイの胸部に吸い込まれた。
一際大きな破壊音が起こった以外に何もなかった。
爆発があったわけじゃない。
少し破片が舞い上がって、胸部にぽっかりと穴が開いて…それだけだった。
後に残ったのは静寂。
それはここに…このプログラムに残ったのが俺だけという証。
(…よく生きてこれた)
改めて思う。
プログラムが始まった頃は、俺は実戦経験もないひよっこだった。
それでも父さんの教えのおかげで。
共に戦った仲間のおかげで。
たくさんの偶然と経験、それと少しの希望のおかげで。
俺はこうして…また昇ってくる朝日を見る事ができる。
…希望。
常に死が隣り合わせのここで、俺は本当にずっと希望を持っていたのだろうか。
死にたくないから希望を持つ。
希望を持てないから死がやってくる。
希望も死も、決して人の目には見えないもの。
目に見えないものだから、人は希望に胸を膨らませられるし、死の足音に絶望もする。
その境にあるのは…心だろう。
死と向き合いながらも、心の中に希望を持つのか。
死の恐怖に負けて、希望を見出せないまま絶望に包まれるのか。
どんな出来事にも負けない大木のような心。
どんな絶望にも枯れない大河のような心。
過去の為に流す涙ではなく、未来を切り開く為の剣を持つ心。
誰もがそれを持つわけではない。
だからこそそれは、とても貴重な資質であり財産。
どうしても流れる涙ならば、それを振り払う強さを持とう。
心の剣が分からないのなら、それを探し掴む為に、手を伸ばす勇気を持とう。
伸ばし続ける事、あると信じる事もまた心の強さなのだから…。
『……君。
アルバート=パーシング君…聞こえているのか…』
…俺を現実に引き戻した通信が入ったのはその時だった…………………
………
「…じゃあな」
柔和な笑みで、玄関から客を送り出す男。
それはかつてレイモンド=デリックという名で、プログラムに参加した男だった。
玄関の扉を閉めてから自室に入り、ベッドに横になる。
暫く何をするでもなく天井を見つめていた男の頭に、聞き覚えのある声が響いた。
《よおレイ。久し振りだな
あとあの客も随分懐かしい顔だったな》
男は一瞬だけ顔をしかめたが、あとは特に何の動作も見せない。
(俺はフィリルだっての。あの客はまあ、手紙のやりとりはしてたんだがなかなか会えなくてな。
…それはともかく…帰ってきたのか)
どうやら昔の呼び名で呼ばれるのは好きではないらしい。
《俺様にとっちゃあ、レイってのはおめえだけなんだよ。
まあこうして無事に帰ってきたんだから、お帰りの挨拶くらいほしいとこだ》
男の表情が何かを考えているような感じになった。
(はいおかえり。
…それはともかくだ…)
声が反論してくるより先に、男は話を続ける。
(お前が面白そうだってアルバートにくっついていって、その後暫くして行方不明の知らせが来た。
…お前が戻ってこないって事は、どこかで生きてるとは目星をつけていたんだが…)
声は何も言ってこない。
先を促しているのだろうか。
(まさかとは思うが……プログラムか?)
《茶化しても意味ねえから言うが…その通りだよ》
答えは直ぐさま返ってきた。
男は納得したように頷く。
(やっぱりな……奴らのやりそうな事だ…。
……で…何て言うか……お前が帰ってきたって事は…アルバートは…)
《ふん…おめえの予想通りかどうか知らねえが…。
もうすぐ帰ってくらぁ。…悪運の強さはまさしくおめえ譲りだよ》
その答えに、男の目が驚いたように見開かれた。
無理もないが、どうやら半ば諦め半分だったらしい。
「そいつは…」
思わず声に出てしまって、慌てて黙り込んだ。
(…そいつは正直驚いた。
…まあ俺譲りも何もって…いや…これはここでする話じゃないな…。
とにかく、ここに帰ってくる事に間違いはないんだな)
今度は喜び半分と驚き半分のようだ。
《間違いねえよ。
おめえみたいに片腕にもなってねえし》
(そうか……それは何よりだ…。
……今後の事は…アルバート次第だな。
連邦に戻るのは無理だろうから、ここでのんびりするのもいい)
男も経験した事だから、アルバートのこの先についても考えていた。
でも結局はアルバートの意思1つなのだろうが。
声が核心を突いてきた。
《もしも、おめえと一緒に傭兵やりてえって言ったらどうするよ?》
男は笑みを浮かべた。
それは父親ではなく、傭兵隊長としてのものでもない、あのプログラムで浮かべていた戦士の笑み。
(アルバートがそれに相応しい覚悟を持っているのならな。…それに…)
《それに何だ》
(あの戦いを勝ち抜いてきた戦士の決断を、俺が否定できるわけないだろう)
男と声の無言の会話が続いていたその頃。
孤児院の玄関の前に、1人の青年が佇んでいた。
少しの間その玄関を懐かしそうな目で見つめ……ゆっくりとその扉を開く。
【第4回プログラム…終了】
ほしゅ?
次回大会やるの?
一応ほし
流石にもう勢いが無いよ
しばらく時間を置いて様子を見たほうが良いんじゃないかな