愛憎カップル9829;ハマーン&シャア

このエントリーをはてなブックマークに追加
42通常の名無しさんの3倍
「何をしておるのだ、ハマーン?」

 突然の問いかけに、ハマーンは目の前の男を突き飛ばした。
 ミネバ様――しまった、朝の謁見を忘れていた!

 振り向くと、半分ほど開いたドアの向こうから、ミネバがおずおずと
 こちらを窺っている。寂しさを湛えたその顔には、王女たる威厳など何処にもない。
 ハマーンは情事を目撃されたことよりも、公国の象徴にそんな顔をさせたことを思い、
 己のミスを恥じた。

「ミネバ様!これは……」

 慌ててその膝元に駆け寄るが、王女は彼女の肩越しに別の影を捉えていた。

「シャアもいるではないか。シャア?」
「これはミネバ様、どうしてこのような所に?」

 ―白々しい!

 そう思ったが、彼の口ぶりには謁見を欠かした事に対する罪悪感など、露も感じられない。
 つまりは忘れていたのだ、自分とのことに夢中になって。

 ―奴ともあろうものが、らしくない。

 その事実が、逆に少しだけ彼女を満足させた。

(続いていいですか?)
43通常の名無しさんの3倍:2006/08/26(土) 00:28:51 ID:???
二人がアクシズで…ということは…

シャア入り婿ver!?
wktkして待つです。
44通常の名無しさんの3倍:2006/08/26(土) 01:02:39 ID:???
「昼もとうに過ぎたと言うのに、どちらも顔を見せぬではないか。探したぞ」

 シャアが息を呑むのが分かる。ほら、忘れていたのだ、シャアめ……。
 頬が緩みそうになるのを控えて、彼女はその場の収拾に努めた。

「申し訳ありませぬ、ミネバ様。今、このシャアと明日の件についての打ち合わせを」
「それは口をつけてするものなのか?」

 ―見られていた、しっかりと!
 今度は自分が息を呑む番だった。ミネバの真っ直ぐな目を受け止めきれず、
 彼女は顔を背けた。ダメだ、言い逃れが出来ない。私にはこんな場を乗り切る才知は
 無い。こういう三文芝居は、シャアの領分だ。
 そんな彼女の煩悶に吸い寄せられる様に、ミネバは矛先を彼に向けた。

「シャア、本当のことを言って欲しい」

 頼む、シャア。貴様が赤い彗星なら、この無垢な王女を上手く言い包めて見せろ!
 私には思いつかないが、経験豊富なお前なら、きっと……。

「ミネバ様は好奇心が旺盛でいらっしゃる」
「シャア!」
 ハマーンは叫ぶ。
 ―馬鹿な!それでは逆効果だ!自ら白状すると言っているようなものではないか!
 激昂するハマーンを、ミネバは右手一つで御した。

「よい、ハマーン。シャア、申せ」
4542:2006/08/26(土) 01:57:39 ID:???
43続き

「では、こちらに」

 シャアは腰をかがめ、王女を室内に誘う。
 ハマーンは廊下に控える側女を見つけると「ここは良い、下がれ」と言い含め静かにドアを閉めた。

 ―何を言うつもりだ、シャア?

 既にミネバはシャアの口舌に聞き入っている。ここからでは内容は判じ得ないが、
 近づいて聞こうとするのも憚られた。

 時々耳に息がかかるのか、くすぐったそうにするミネバの仕草に、彼女の心はかき乱された。
 馬鹿な、私ともあろうものが……。相手は年端も行かぬ少女ではないか。
 彼女は心中の邪念を噛み潰しながら、事の行く末を見守った。

「お分かりになられましたか?ミネバ様」

 そう囁いて彼はハマーンを見る。何を吹き込んだのだ、下郎……。
 見るとミネバはすっかり顔を曇らせて、そして申し訳無さそうに口を開いた。

「そうであったか……私は邪魔をしたのだな」
「構いません。彼女とはいつでも出来ますから」
「……ッ!戯言もいい加減にしろ、シャア!」

 よくもまぁ抜け抜けと!いつでも出来るとは何だ、いつでもとは!
 私はそんな、軽い女では……いや、違う、そうではなくて……!

「良いのだ、ハマーン。それよりもシャア、一つ聴きたい」
「はい」
「ならば私は、誰とすれば良いのだ?」

(まだ続くかよ畜生)
4642:2006/08/26(土) 01:59:21 ID:???
↑ごめん
× 43続き
○ 44続き
47通常の名無しさんの3倍:2006/08/26(土) 02:46:04 ID:X6lzmEcL
アレ、いつの間にか文才のある神が後輪してるじゃないか
アンタのお話面白いよ!GJ
4842:2006/08/26(土) 02:56:50 ID:???
45続き

 ミネバの純粋な問いかけに、部屋の空気が凍る。

 ―この男!わざと好奇心を煽るような言い方を……。

 ハマーンの狼狽をよそに、彼は口の端を僅かに歪めてこう答えた。

「ミネバ様が、最も心を寄せている方であれば……」

 ―これだ!これがシャア・アズナブルという男だ!

 彼女は酷い頭痛を覚え、眉間を押さえた。
 どうする、どうする、考えろ、ハマーン・カーン!
 ミネバは、暫くの間シャアとハマーンを交互に見比べていたが、
 やがてハマーンの側へ歩み寄ると、そっと上着の裾を掴んだ。

「ミ、ミネバ様?」
「ハマーン、私にも……して欲しい」
「シャア!貴様という男は!」

 憤慨を抑えきれず、ハマーンは吼えた。
 こんな少女に、そして私に何をさせるつもりだ!
 大声に怯えたのか、小さな手が離れる。

「私のことは嫌いか、ハマーン?」

 少女は、まるで怒らせてしまったのは自分であるかの様に、
 懸命に詫びを込めた目でハマーンを見た。
 たちまち罪悪感がこみ上げてくる。
 
「そのようなことは……」
「頼む、ハマーン」

 ミネバは、距離を置こうとするハマーンの手を、しっかりと握り締めた。
4942:2006/08/26(土) 03:55:26 ID:???
48続き

「し、しかし……」

 そのようなこと、容易く出来るものか。これはスキャンダルではないか。
 王女と摂政の、しかも同性同士の接吻。
 断りの文句を考えあぐね、ハマーンは脂汗を流しながらシャアを見た。

 ―何とかしろ!シャア!

 その思念が伝わったのか、彼は急につまらなそうな顔をすると、やんわりとミネバに説いた。 

「ミネバ様、無理強いは良くありません」
「そう、か」

 シャアの声に、王女は俯く。
 ややあって「すまぬ、ハマーン」と渋々ながら呟いた。
 
「いえ……決してそのような、」

 冷徹一辺倒であったはずの彼女の心に、一抹の痛みが走る。
 しかしこれは仕様の無いこと。そして、悪いのはあの男だ。
 その「悪い男」に、ミネバが駆け寄っていく。
 
「ならばシャア、お前に頼む」
「はい」
「お、お待ち下さい、ミネバ様!シャア、こちらに来い!」

 ハマーンはミネバから男を引き剥がすと、鼻息荒く詰問を始めた。

「どういうつもりだ貴様!ミネバ様にふしだらな事を吹き込みおって!」
「そのふしだらを私としていたのは、誰だ?」
「この……俗物がっ!」

 髪の毛がザワリと逆立つ。私を甘く見たな!
 その報いを今……。

「二人とも、喧嘩はやめて欲しい」

 剣呑な様子を感じ取ったのか、背後からミネバが仲裁を試みる。
 ―くそ、気勢を削がれた。

(長文スマン。まだ終わんネ)
50通常の名無しさんの3倍:2006/08/26(土) 03:59:54 ID:???
>>42-49
おう、朝生見ながら待ってるぞw
5142:2006/08/26(土) 04:34:25 ID:???
49続き

「は、ご心配には及びません。これは喧嘩ではありませんので……」

 その言葉にミネバがホッと息をつくのを見て、ハマーンは再び男に向き直った。 

「貴様どうするつもりだ!これはただでは済まんぞ!」
「お前がして差し上げれば良いことではないか」
「私がか?正気か貴様?」
「でなければ、私がすることになるが」

 そう言ってニヤリと笑うシャアに、ハマーンはある噂を思い返していた。
 それはアクシズに来る以前より、ジオンの英雄について回った黒い噂。
 即ち、シャア・アズナブルは少女性愛者である、と。
 私がかつてこの男と近しい間柄であった時も、16歳という私の年齢にその噂は消えることは無かった。
 だとすればこの男、今度はミネバ様を?馬鹿な、まだ9歳だぞ?
 趣味が加速したとでもいうのか!それでは「小児」性愛者ではないか!
 若しそれが本当なら……今の私との関係は何だと言うのだ?
 ミネバ様に近づくための、隠れ蓑とでも言うのか、シャア!

 氷の摂政も、今やその心中は千々に乱されていた。

 ―しかし
 ハマーンは思った。ここで私が折れなければ、シャアは確実にミネバと、する。
 そういう男だ。そして、私はそれを、我慢出来ない……!

「くっ……!後でひどいぞ、シャア!」

 男を突き放すように振り返ると、ハマーンは二度、深呼吸をした。
 問題ない、私なら出来る。多少、唇が触れるだけだ。変に意識することはない。
 寧ろ私は選ばれたのだ。そうだ、それを幸運に思わなければいけない。
 大丈夫、出来る。

 何秒かの意識統一の後、ハマーンは王女に歩み寄った。
 部屋の真ん中に立ち尽くしたままのミネバは、その体躯の幼さから見ても、
 酷く頼りなく思える。ハマーンは精神的優位を覚えつつ、少女と目線を合わせた。

「ミネバ様、では私めが」
「良いのか?」

 ミネバの目から怯えが消え、そして薄らと喜びが灯るのをハマーンは見た。
 そうだ、私はこの光を守らねばならない。彼女は保護欲を掻き立てられた。
 最早迷いは無い。
5242:2006/08/26(土) 05:11:30 ID:???
51続き

「ミネバ様のお望みとあれば」
「そうか、ありがとうハマーン。……シャア、許せ」

 少女は一度だけ、二番目に近しいと思う男の方を見た。背後で空気が動く。
 ハマーンには見えなかったが、シャアが会釈をしたのは間違いなかった。
 抜かりの無い男だ……。
 ハマーンは少女の肩に手をかけ、そっと抱き寄せた。
 ミネバが不安と期待の中で、瞬きを繰り返す。

「どうやってするのだ?」
「では……まず目を閉じていただけますか?」

 ミネバは摂政への信頼感からか、素直に目を閉じた。
 臣下にとって、こんなに嬉しいことは無い。
 彼女はまたミネバへの忠誠心を強くしながら、更に顔を近づけた。

 ふと、背後から視線を感じる。シャアだ。興味深げに二人を見ている。

 ―見せ物ではない!

 ハマーンは無言で男を威嚇した。
 彼はやれやれと肩を竦めると、中庭に面したソファに退散した。
 男が愛用のサングラスを手にしたのを見て、王女に向き直る。

 先ほどからずっと、目を閉じてミネバは彼女を待っていた。
 それを見てハマーンは、初めてゾクリと背筋を震わせた。
 この想いは何だ?まるで性別の垣根を超越した、純粋な愛とでも言うのか。
 込み上げる情感が、ミネバの唇を侵せと叫ぶ。
 ハマーンは衝動的に行為に及ぼうとするのを理性で抑え、
 穢れの無い少女の唇に、そっと影を重ねた。
5342:2006/08/26(土) 06:03:59 ID:???
52続き

 柔らかい、第一印象はそれだ。シャアのそれとは違う、瑞々しくふくよかな花びら。

 ―私は一体、何をしているのだろう。

 禁じられた行為に、体の髄が熱を持つ。
 一番敏感な皮膚からは、少女の温もりが脈々と伝わってくる。
 ハマーンはジリジリと理性が侵略されていくのを感じていた。

「ん、ん……」

 ちょっとした戯れのはずが、取り返しのつかない領域に踏み込もうとしている。
 もう終わりだ。これ以上は……。
 その時、ミネバがすっと腕をまわし、より一層の密着を求めてきた。
 
 ―いけない!

 ハマーンはブルッと皮膚が粟立つのを感じた。吐息が篭って、湿り気を帯びる。
 いつしかそれは潤度を高めて、二人の唇を濡らし始めた。
 無意識の内にであろうか、ミネバが更に深い結合を望み、顔を傾けてきた。

 ―ダメだ、もう何も……

 それはハマーンが観念しかけた時だった。
 引き合う力が強すぎたのだろうか。
 唾液でほぐされた唇が滑り、ヌルッと顔が交差して、離れたのだ。
 
「んあっ!」

 ハマーンは思わず声を漏らした。息も荒くなっている。
 必死で呼吸を整えていると、頬に当たるミネバの髪が、汗でじっとりと湿っているのがわかった。
 
「ミ、ミネバ様」

 肩に力を入れて、少女を引き離す。
 すると、二人の間に粘度の強い唾液の線がツウと伸び、ピッとお互いの下唇に引き込まれて消えた。
 ミネバは、呆然と自分の口に手をやり、表面を濡らす液体を不思議そうに拭っていた。
5442:2006/08/26(土) 07:33:19 ID:???
53続き

「これが、キスというものか」
「その、ミネバ様……」

 ややあって後悔が襲ってくる。
 したことによる後悔ではなく、自分が不覚にも乱れてしまったことのだ。
 ミネバは、指先で唾液の残滓を弄びながら独り言ちた。

「濡れるものなのだな」
「ぬ、濡れてなど!」

 ハマーンはうろたえながら、裾を正した。
 そんなはずはない。危なかったが、濡れてはいない!
 ミネバが唇に触れながらキョトンと、彼女を見やる。

「あ、いえ……」

 ハマーンは、自分が如何に下劣な想像をしていたかを自覚し、それを誤魔化すように身なりを整えた。
 髪、襟元と手をやりながら、少しずつ自分を落ち着けていく。

 動悸が収まってくると、今度は何かしら暖かい気持ちが胸に広がるのがわかった。
 これは何に裏打ちされた想いなのか。
 ハマーンは、扱い慣れぬ感情に戸惑いながらも、今自分をしっかりと見つめるミネバの眼差しにこそ
 その答えがあると、そう感じた。
 
 フッと、シャアのことが頭によぎる。今の痴態を満遍なく見られたとすれば……。
 だが、ハマーンはその考えを振り切った。見たければ見るがいい。
 今はただ、少女との苛烈な一瞬の後に訪れた、このさざ波の様な幸福感、
 これを穏やかに楽しみたかった。
 
 『平和とは、こういう気持ちのことを……』
 
 そんな高尚な気分に浸っていたが、ミネバのあまりに朴訥とした表情が可笑しくて、
 ハマーンは小さく噴出してしまった。
 それを見て、ミネバもまたパァッと顔を綻ばせる。
 
「ハマーン、ありがとう。私は……嬉しい」
「そのようなこと……ミネバ様?」

 ミネバはやおらハマーンにもたれ掛かると、その胸に顔を埋める。
 良く手入れの行き届いた金髪が、濃い紫の布地に美しく広がった。
 そのまま何度も鼻先を擦りつけながら、ミネバはボソボソと何かを呟く。
 それはくぐもって、凡そ聴こえるはずのない声でありながら、ハマーンの耳には確かに届いていた。

「ハマーンは、母上のようだ」
5542:2006/08/26(土) 07:52:27 ID:???
54続き

「ミネバ様……」

 私が、母親?
 ハマーンの脳裏に、かつて見たゼナの顔が浮かぶ。
 美しく優しい方だったが弱々しくもあった。
 ミネバ様には悪いが、あの方は男性の影でその勢いに任せて揺れ動く、陽炎の様な方だった。私はそう思う。
 だから、違う。

 何より、幼女を公国のシンボルとして早々に表舞台に祭上げ、政争に利用するような女が
 母親足り得るものか。今更とは言え、その業の深さを思うと堪らなくなる。

 もう後戻りは出来ない。
 なのにこの腕の中の暖かさは、なんと心許ないものか。
 歪んだ成長を促した私を、母と思うなら思えばいい。
 それならば私は、この小さい命を、私の身命を賭して守ろう。
 そして終ぞ離しは致しませぬ、ミネバ様。
 
 腕の中で、少女が叫んだ。 

「どこにも行かないで欲しい。……シャアも!」

 ハマーンは胸の辺りがゆっくりと濡れるのを感じながら、
 一際強くミネバを抱きすくめた。

 「……ご安心下さい、私共皆、いつまでもミネバ様のお側に……!」

 ハマーンはそれが己の傲慢さと解しつつもも、せめてこの小さき者のために、
 シャアも同じ気持ちであって欲しいと、そう願わずにいられなかった。

 昼過ぎから予定されていた人工雨が、少し遅れて中庭にも降り注ぐ。
 暗く沈んだ空と、見るべきものも無い花壇を背景に、
 サッシには室内の全てが反射してその姿を浮かび上がらせる。
 シャアは少し傾いたサングラスに手をやりながら、音も無く抱き合う二人を見ていた。 

(了)

長文マジスマン。