敵を欺く為には味方からと云う。『閣下』は私の考えに賛同してくれた。
ふふふ・・・まだ殺すには早いかもしれないな。
殺すには早いと言えば、私と同じく名誉の勲章を身体に刻み込んだ
若者の処遇である。有能なのは間違いない。使える駒だ。
今の所、手持ちがあのパブリク乗りだった『ジャマイカン』しかない
私にとって元WBメンバーでMS乗りと来れば、むざむざ殺してしまうのは
余りにも惜しい。また同じ勲章を持つ同志として出来れば将来
私の右腕になって欲しいとも思う。多少、気性に癖がありそうだが
かえって使いやすいというものだ。私は釈放書を用意した。
これを条件にしてわが軍とそして私に忠誠を誓う事を強要しても良いが
ああいう性格の男にはかえって反発を招くだけだと云う事を
実経験が私に教えてくれた。叩かれれば叩かれるほど強くなるものだ。
ふふふ・・・今度、掛け値なしで一緒に飲み明かしたいものだ。
頼もしいぞ?カイ=シデン
数日後、私のオフィスに技術仕官から連絡が入ってきた。
思いがけない出来事を言い表すのに、『瓢箪(ひょうたん)から駒』と
云うそうだが、今回のアイデアもまさにそんな感じであろう。
軍務に仮復帰したテム=レイ博士の下絵から開発される事となった
MSについての続報だ。ジオンの技術をそのまま流用するのは
正直な所気に入らないが、今回は我慢しておこう。何しろ
閣下から今回の私の手柄に敬意を示して、MSの『命名権』を
初めて賜ったからだ。私はこの新型MSの名前を
私が密かに敬愛していた
某野球チームの亡き監督の冥福を祈りつつ、私とこれもよく似た
風貌と性格?を持つ野球選手が入団したとある地方の言葉を文字る事にした。
それは・・・
『ジオンの脅威の技術を借りて創る日』
『ジオンの技術を借りる日』
『技術を借りはる日』
『借りはる日』
『・・・・・』
『ガリバル日!?』
『ガリバルディ』
・・・・どうだろう?
なかなかのオヤジギャグだとは思わんか?うぷぷ・・・
表向きはかって、パスタの国の赤シャツが似合う男の名前と言う事にしておこう。
軍人の中には歴史が好きな奴も多いからな。
自分のオヤジギャグに笑いを噛み殺しながら
技術仕官の泣き言を聞き流す。
「人馬一体型なんて無理ですって!」
「足なんて飾りです!」
「誰ですか?頭のイカレ老人を開発チームに入れた奴は!」
・・・・と、その時『閣下』から連絡が入ってきた。
私はその驚愕の事実を聞いた時、笑顔を噛み殺したままの顔が
引きつり始めたのを感じた。
今まで、各地に潜伏しテロ活動を繰り返していた元ジオン軍の
捕虜の一人がついに口を割ったのだ。
あれから数日が過ぎた。法王がおわすこの国でもまだ混乱が続いている。
俺はちんけな詐欺師から一躍、時の人となった。後に腐った政府と
無能な軍に代わって権力を牛耳るあいつらによって公式記録から
抹消される事になる『この紛争』は俺を変えたのだった。
俺はテロ予告情報を誰よりも早く察知し、更に敵から獲得した
技術によって創り上げられたというものの、高いポテンシャルを秘めた
新型MSの開発の功績者の一人として祭り上げられた。
再び平和の到来を告げる鐘の音が響くこのバチカンで
俺は軍がお膳立てたセレモニーに参加した。
事あるごとに俺を執拗なまでに軍に引き止めようとする
『ハゲゴーグル』が
今後、一切俺に付きまとう事を止めるのを条件に
この式に出たのだ。
身から出た錆とは云え、これでセイセイする。
もっとも『嘘だったんです。テヘっ☆』とは今更言える訳がないが・・・・
俺はこの期に及んでも尚、やけに熱い視線を投げかける
厳(いか)ついHGに本当の意味で身の危険を感じながらも
聖堂を出た。
鐘が一段と大きく鳴り響く
英雄?の旅立ちを祝福するかのように。
今、俺の腰には
『護身用にどうぞ・・・』と
全ての借金を功労金で返済した際
記念に取立屋から譲り受けた
ムチがぶら下がっていた。
今ではそれは俺のラッキーアイテムになっていた。
俺は宛(さなが)らキリストをムチ打った獄卒のように
これからもちっぽけな良心と向き合って生きてゆくだろう。
今度は・・・真面目に仕事をしよう。
・・・・誰か雇ってくんねーかな?
(おわり)
姉妹スレ?
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/x3/1132059693/l50 「駄目ですね。向こうでもストライキだそうですよ?ダニンガンさん。」
ストライキか・・・ふふふ・・・売れる前、この業界に入る前の私を思い出す。
「今回の収録はもう諦めた方がいいかもしれませんね。残念です。
折角、本場の料理が楽しめると思っていたのに・・・ねえ?
あっ、でも!たまには身体を労わってあげた方が良いですよ?」
「そうだな。ありがとうジャーマネ・・・悪いけど少し眠らせてもらうよ。」
「あっ!はいはい!どうぞどうぞ!ここのところ年末特番で忙しかったから
ダニンガンさんもお疲れでしょうから。」
「ふふふ・・・じゃあおやすみ。」
「はいはい。」
目を閉じた振りをして車のミラーを盗み見する。
鏡に映し出された私のマネージャーの表情は
労わりの声とは裏腹に悪意に満ち満ちていた。
目が・・・やっぱり笑っていなかった。
私と同じだな。
私はこの業界に入る前までは、地べたを這いずり回る生活から抜け出せないでいた。
いわゆる下流社会の一員であった。
私の父も家族を泣かしてきたが、この私も実は家族を泣かしていた。
地上のデブリ屋と自分を言い聞かせてはみるものの、もっとも卑しむべき
職業のひとつに長年、数えられた仕事である。儒教思想によれば。
今日もまた明日の見えない単純肉体労働を繰り返す。
身体よりも先に私の自尊心がこのままでは持たないだろう。
仕事のストレスと、ともすれば昼夜が逆転する不規則な生活を続けていくうちに
私の体型は日に日に醜くなっていった。しかも突き出た腹のせいで
それとは対照的に随分と貧弱に見えるバナナが更に私の自信を萎縮させた。
妻は私のいない間に他の男と寝ているようだった。
だが、今の私にはそれがかえって有り難かった。
夫婦の愛などとうの昔に冷め切っている。今は妻帯者でない貧しい独身者は
この世界では、文字通りはじき出されされてしまうのだ。
移民候補として。
だが、こんな私にも転機が訪れた。
何の前触れもなく。いや・・・正確には前触れは確かにあった。
労使交渉が再び決裂したのだ。
年末の観光客で賑わう
この都市の交通網全てがストップした。
ストライキである。
私は仕方なく歩かねばならなかった。
気の遠くなるような職場まで。
何度かこのまま遠くに行こうとしたが出来なかった。
私の身体の重さがそのまま気持ちの重さになっていた。
『死のう』
そう決意した時、急に呼び止められた。
振り返ると、見るからに業界人と思しき男が
私の身体つきを眺めて満足そうに頷(うなず)いていた。
私はスカウトされた。このストライキのせいで来れなくなった
『でぶタレント』の穴を埋める代わりに。
『これウイマー!!』
今日もまた、たいして美味くない料理に大げさに反応する。
私が素人故の、ものの知らなさから発した
正確に言えば噛んでしまった言葉が
流行語大賞にノミネートされるまでになった。
気がつけば、私は今や売れっ子タレントになっていた。
流行語大賞は残念ながら逃したものの、私の発する
『ウイマー』は視聴者から受けがすこぶる良かった。
少なくとも下品な下ネタで奇声を張り上げる一発屋よりも。
世界に忘れられた国の民の中には
餓えで沢山の人が死んでいるという。
『知るか、そんなもん・・・』
お前らは運が悪かっただけだ。
諦めろ。早く死んでしまえ。
俺は贅を凝らした食べきれない程の料理を目の前にして
今、俺が与えられた仕事をこなしていた。
口の周りを残酷に解体された動物の滴る血と脂で醜く汚して
『これウイマー!!』
いつからか、何を食べても味が感じられなくなっていった。
私の聞き飽きた決め台詞を合図に、ワザとらしい笑い声を立てる
番組スタッフや出演者達の目は全く笑っていなかった。
なんだ・・・みんな同類じゃないか。
死んでしまえ。
「『ほわいとばんど』ですか?」
華やかな世界と思われていた芸能生活に辟易していた頃
私は偽善に満ち満ちたイベントについてプロデューサーから説明をうけていた。
なんでもその『ほわいとばんど』を買って身に着ければ
世界の貧困を救う事業団体に僅かばかりの寄付金が入るそうだ。
「まるで『免罪符』だな。」そう言いかけた時
プロデューサーから『ウイマー』が生まれた番組の打ち切りを宣告された。
なんてこった。
これから俺はどうやって生きてゆけばいいんだ?
『ほわいとばんど』のイベントは予想に反して大成功を収めた。
凡(およ)そ、そんな慈善事業に似つかわしくないタレントやスポーツ選手達も
動員された。私もその1人である。
(指輪と間違えてしまいそうだったが。)
2択しかない国民調査で人々を誘導し、今までの親のように
生きる事が果たして世界の為になるのだろうかという疑問を若者に
刷り込む事に一番成功したこの国では、その効果は抜群であった。
芸能界を体よく追い出され、食うに困って軍にコネで入隊した
今の私なら判る。
こうやって国はカネを創っていたのだ。
それは慈善を謳い文句にしているだけに
当たる筈のないクジを売りさばくよりも性質が悪かった。
社会情勢が不安になるにつれて軍に入隊する若者も増えてきた。
志願制とはいってはいるものの、高すぎる税金を納められずに仕方なく
ここに来るシステムは既に完成されつつあった。
ほんの短い間ではあったがタレントで成功していた私でさえも
なんだかんだでカネを毟り取られていた。
まだ夜も明けやらぬ中
サンダース軍曹の怒鳴り声が兵舎に響く。
大方の予想通り、私はやっぱり軍曹から
『微笑みデブ』
というあだ名を付けられてしまった。
しかし告白せねばなるまい
あの時、確かに私の目は笑っていた。
自分のこの有様で。
軍隊生活は
私を確かに変えた。
私の体型以上に
私は軍で自分の意外な才能を開花させた。
それは自分の目の良さだった。
笑っていなかった目はここでは重宝された。
私は軍曹の推薦もあって狙撃兵に大抜擢された。
軍曹の心使いに感謝した。
そして軍曹の息子にもいつしかこの恩をかえす日が来るかもしれない
そんな予感がなぜか沸き起こった。
まだ、戦争が始まる前の話である。
(・・・来年辺りに続きは書ければいいかなと思います。)
訂正
>>92 ×治療の際に色々と役立つかましれないと
○治療の際に色々と役立つかもしれないと
訂正
>>100 ×今まで誰にも貸した事などない彼の母のハンカチを
○ずっと今まで、誰にも貸した事などない
彼の母親の形見である『紅いスカーフ』を
訂正
>>108 ×180度回転させた後
○180度回転させ
訂正
>>110 ×生き延びていて壊れていた精神の働きさえもが
○生き延びていて、更に壊れていた精神の働きまでもが
>>111 ×〜落としによる環境異変の所為で
○〜落としによる気象異変の所為で
訂正
>>111 ×〜落としによる環境異変の所為で
○〜落としによる気象異変の所為で
>>112 ×争いの無いどこか遠くの場所に
○争いの無いどこか遠くの場所へ
訂正
>>114 ×粗食に慣れていた子供達
○粗食に慣れていた筈の子供達
訂正
>>118 ×駄目だ、マネーの虎で
○だ・・・駄目だ、マネーの虎で
訂正
>>119 ×一流企業の社長の椅子まで
○一流企業の社長の椅子にまで
訂正
>>129 ×無論、公式の会見の場でTPOもわきまず
○無論、公式の会見の場で卑しくも、一企業のTOPたる者が
TPOもわきまず
訂正
>>144 ×襲ってきたら私のガンダムも
○襲ってきたら、この私が心血を注ぎ込んで開発した
ガンダムと云えども
訂正
>>162 ×手柄に敬意を示して
○手柄に敬意を表して
訂正
>>167 ×
今度は・・・真面目に仕事をしよう。
・・・・誰か雇ってくんねーかな?
○
今度は、真面目に仕事をしよう。
『・・・・もしもし?アムロかい?いや!いいって、いいって!
オヤジさんの事はw俺も助かったんだしさ。
それよりもアムロ?お前・・・今、カノジョいるかい?
はははっ・・・照れるなよ。俺もそうだ。ここんとこ、ご無沙汰でねw
実はさぁ・・・・お前に紹介したい女の子がいるんだ。会ってみるかい?
『 ベ ル ト ー チ カ 』って名前の子なんだけどさぁ
ここのサイトに名前を登録すればとさぁ・・・・』
白い原稿が机の上に積み重ねられたままになっている。
「集中できるから。」
と言って、無理にお願いしたこのホテルでも
やっぱり筆は遅々として進まなかった。
締め切りの時間迄もう僅かしかない。点けっ放しにしていたTVからは
街のアーケード内を、またトラックが暴走したらしい。
「その手があったか!!」
などと思ってはみるものの、そんな大それた事出来る勇気?など
有る訳が無い。第一、私は免許なんて持ってないから。
そうこうする内に、ついにこの部屋の呼び鈴が鳴る。
時間が来てしまった。
扉の向こうには全身、黒尽くめの
『 偏 執 者 』
が私をしつこく呼び出していた。
「もう、勘弁してくれ!書けない物は書けないんだッ!」
窓から逃げ出そうと試みると、既に私の行動を見抜いていた
『 偏 執 者 』が先回りしていた。どうやら隣の部屋から
こちら側に来たらしい。
「フ、フェイントだったのか!?」
流石はワールドカップに出場する国の民だ。キレが違う。
などと感心する間も無く、私は腕を捕まれる。
「さぁ・・・鉄狼(てつろう)先生、私と一緒に来て頂きます。」
ささやかな抵抗も虚しく
私は全身、黒ずくめの女に拉致されてしまった。
何処からとも無く、定期便の汽笛(きてき)が聞こえてきた。
「どうせこんな事だろうと、上司が言っていました。
星野(ほしの)さん・・・私は信じていましたのに。残念です。」
「ううう・・・すまん。」
全身黒尽くめの女=編集者は私の元、教え子みたいなものであった。
以前、カラオケ屋で自棄になって歌っていたのをスカウトしたのは、実はこの私だ。
彼女の名前は『シムス=パバロフ』ロシア系である。
今ではもうすっかり忘れられてしまっているだろう
『婦等(ふら)なーが☆』
のメンバーの一人でもある。実は・・・彼女達も出場する筈だったのだ。
あの紅白歌合戦に。だが、皆もご承知の通り、馬鹿どもがやらかしはじめようとする
戦争の為にその祭典は中止の運びとなった。何せ、1月3日におっぱじめる
予定だったから、そんなお祭りなど真っ先に切られてしまったのだ。
私が彼女達に書き下ろした新曲『逃したお肉は大きいぞ☆』は
牛肉の輸入再開が決まったあの国でもヒットを飛ばしていた。
振付師の『ミス・ハモン』の振り付けも素晴らしかった。あの年の紅白は
ぶっちぎりで紅組優勝の筈だった。でも、何もかもが戦争で塗りつぶされていった。
私がスランプになったのはその所為もある。
「先生、お気持ちは良くわかりますが、なんとか仕事を
仕上げるようにお願いします。さもなくば、ハモンが浮かばれません。」
・・・・そうだった。振付師のハモンは死んでしまったのだ。
馬鹿な奴め。なぜ、あんな男と付き合ってしまったのだ?
私が涙ぐんでいると、シムスはさっきまでの氷のような冷たい表情を崩した。
彼女の方がずっと辛いのだ。私は自分を恥じた。
でも・・・恥じ入りながらも、私はまだ後悔していた。
こんな思いをするぐらいなら、依頼など引き受けねば良かった・・・・と。
>>193の前に挿入
古い定期便が目的地に着く。会社の仕事とはいえ、折角の休暇が
台無しにされた気分は上手く整理出来ないものだ。
それはこの便の席が2等席の所為もある。私は少し大きめの
トランクを抱えて、座り心地の悪い椅子から脱出する。
出口に差し掛かった時、乗務員から呼び止められた。
なんでもこの服装のままでは何かと都合が悪いそうだ。
なるほど、無用なトラブルは避けた方が良いに決まっている。
私は助言に従って、着替える事にした。
>>193の前に挿入の続き
ロッカールームでトランクから帰省中に買ったコートを羽織る。
かって、私のトレードマークになっていた眼鏡を外し
コートとお揃いの帽子を頭に載せた。これで良し☆
ちいさな鏡の前でクルリと回り、コートの裾を翻らせてみる。
(うふふ・・・私はまだまだイケてるかも?)
ポーズなんかもとってみる。大丈夫、今度こそは誰にも見られてない筈だ。
少々、得意満面になりながら再び出口へと続く人の列に並んだ。
私の見事に変身したセレブぶりに皆、驚いたようだった。気のせいか
人々の熱い視線までも感じる。
(うふふ・・・このコート結構、高かったのよね)
乗車券を乗務員に手渡す私の番が来た。
すまし顔で係員の前に立つと、その男は困惑気味だった。
そして堪り兼ねて、こう口を開いた。
>>193の前に挿入の続きの続き
『あの・・・お客様?』
「はい?何よ?
うふふ・・・電話番号なら教えないわよ☆」
『いえ・・・そうでは無くて、流石にその格好では
このサイド6では暑すぎると思いますが・・・・・・』
「!?」
そうだった!!ここは私の故郷ロシアとは違ったんだ!!
私は年甲斐も無く、思わず滑らした軽い台詞を心から恥じた。
ほかの乗客達からクスクスという忍び笑いと
小さな中傷までもが聞こえてきた。
「なに・・・あの全身黒づくめのレイヤー・・・」
「おばさんのくせに、ママドルにでもなったつもりかしら?」
「痛い!イタイよ!」
「あっなんか照れてるしwメーテレさんですか?」
耳まで真っ赤になりながら
黒尽くめの私は以前、芸能生活をしていた時から
変装とかが苦手だったのを思い出していた。
永久凍土の国、ロシアの若い女性が着る様な
コート(黒)と帽子(黒)で身を固めた編集者シムス
そして、そんな全身黒尽くめの女に拉致されてしまった
偉大な作詞、作曲家の星野鉄狼(ほしのてつろう)
彼らがここサイド6から老舗の鉄道会社が経営する定期便で
とある施設に向かおうとホテルを出た頃・・・・・
彼らの丁度、反対側の港に入港した船から慌しく飛び出してきた
2人の少年の姿があった。
「なぁジョン?この宇宙服売れば幾らになるのかな?」
「さぁ・・・でも、ご飯代ぐらいにはなると思うよ。」
「全く、船長の奴!メシ抜きなんて酷過ぎるぜ!!」
「仕方がないよ、ハヤト・・・あれだけの事しでかしたんだからさ。」
「そりゃぁ〜〜そうだけどさぁ・・・」
「でも、流石に宇宙服をかっぱらったのは良くなかったかもねw」
「あぁ、そうだw悪い奴だなジョンは!!」
2人の少年が慌しく飛び出してきた理由は
その所為であった。
「なあ?シムス君?もし自分が機械の体だったら
何かと便利だとは思わないかね?」
唐突に締め切りを守りそうもないオヤジが言う。
ここで機嫌を損ねては面倒なので適当に相槌をうっておこう。
「ええ。そうですわね。」
「だろ!?だろ!?もし、機械の体だったら
飯も、風呂も、寝ることさえもいらないんじゃないのか?」
・・・この人、大丈夫かしら?
あんまり追い込みすぎたからイッちゃってるかも??
「私が機械の体を手に入れたら仕事なんかも
バリバリこなしちゃうんだろうなぁw」
「は、はぁ・・・」
嘘だ・・・・絶対に遊びまくる筈だ。
もう少しあの時、芝居しとけば良かった。私、ドライアイだったんだ。
本当に今回のお仕事やってくれるのだろうか?
私は少しはしおらしくなったと思っていたオヤジが
やたらと明るく振舞う様に、言い知れぬ不安を覚え始めていた。
二人の少年はしょぼくれていた。
折角、苦労してかっぱらった『服』は何処の古着屋でも
引き取ってくれなかった。
彼らは忘れていたここが中立都市サイド6だと言う事を
無用なトラブルを自ら招きかねない連邦製のしかも
軍用のものなどどの業者も欲しがらなかったのだ。
中には盗品という事を見抜き、通報しようとする店員までいた。
(勿論、一目散にその場から逃げ出したけど)
ぐううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜
二人の腹の虫がシンクロしていた。
「ああ〜〜、なんか宛てがはずれちゃんたね。ハヤト?」
「・・・・・」
「どうしたの?さっきから黙りこくって?」
「・・・・さっきから、腹が減りすぎて何も考えが浮かばない。orz」
「あはは・・・」
「でも、お前良く平気だよな。ジョン?」
「何で?」
「何でって・・・お前も俺と同じでメシ抜きだったんだろ?」
「そうだけど、慣れてるからね。俺たちは。」
「・・・慣れてる??」
「パイロットさんには判らないだろうけど修理とかやってると
三日ぐらい飲まず食わずなんてざらなんだ。」
「へ、へえ・・・」
「だからあんまり壊さないでくれよ?ハヤト?」
「・・・は、はい。」
「でも、もっと凄いのは機械達だよ。ちゃんと手入れすれば
ちゃんと応えてくれる。最初のうちはハヤト達が羨ましかったけど
今ではもうそんな事どうでも良くなったよ。」
「ふうん・・・そんなもんかな?」
「そんなもんだよ。」
ぐううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜
再び2人の腹の虫がシンクロする。
残念ながら機械でも、ロボットでもない生身の人間である
彼らにとって生物学的な生理現象は生きてる限り
どうしょうも無い事であった。
兎に角、この状況を打開せねばなるまい。
機械の体なんて言って・・・・
ちょっと無理に明るく振舞いすぎたかな?
さっきから妙に表情が暗い元、教え子シムスを見て不安になってきた。
編集の仕事以外にも彼女は今、難しい仕事を抱えている。
なんでも、コロニー同士を繋ぐ有線コンセントの馬鹿でかい機械
『プラウザ=プロ』を完成させねばならないそうだ。
細かい事や技術的な事は判らないが、私が聞いている説明には
コロニーを巨大なスピーカーか何かに見立てて
私が今、悪戦苦闘している士気高揚の為のテーマソングを
全宙域に発信し、敵の戦意を挫くという誠に壮大な計画だそうだ。
(最初に『プラウザ=プロ』と聞いたとき私は良く壊れる事で
有名な家庭用ゲーム機の修整プログラムかと思った。)
歌なんかに頼る時点でもう駄目だと思うけど。
既にその計画自体もあちらこちらに破綻しているそうだが
兎に角、戦争目的の完遂の為ならどんな手段を使ってでも
頑張るつもりらしい。戦争とはそういうものなのだ。
一市民の夢や希望などという青臭いものなどかき消されてしまうのだ。
道端で項垂(うなだ)れる二人の少年の事など
誰ひとり気に止めず、人々の流れは留まる事は無かった。
お腹の虫もやっと鳴き疲れた頃、街の中心部にある公園から
子供たちの歓声が風に乗って聞こえて来た。
「何だろう?あの騒ぎ・・・」
「行って見るか!!」
「うん!」
彼らの好奇心は空腹感を暫し忘れさせた。いつの間にか彼らは
走り出していた。それはまだ彼らの歳が14、15だったから。
息を弾ませながら、公園に辿り着くと
そこには緑色の着ぐるみが2体、子供たちにとり囲まれていた。
「キモゾーとゴロッキだ!!」
身長が低いハヤトよりも幾分、精神年齢が
低いかもしれない
ジョブ=ジョンが嬉しそうに叫ぶ。
「何だよ・・・あいつ等、森に帰ったんじゃ無いのか?」
と、ハヤトは口を尖らす。
それは言ってはいけない事だ。彼もまだまだ子供である。
「あはは・・・しょうがないよ。本当はあの催しは
大赤字だったんだから。」
ジョンの指摘通り、『森の妖精』の着ぐるみ達は
遠目で見てても、あちこち汚れていて更には臭って来そうな
印象を二人の少年や子供を見守る親達に与えた。
「中の人も大変だな・・・」
「うふふふ・・・」
「・・・」
「そうだ!!!」
暫しの沈黙の後、ハヤトが叫んだ。
「何?何なの?」
ジョンは嫌な予感がするのを、やっぱり感じながらも
ハヤトの思いつきに応じる。
「あれだよ!あれ!!」
押し寄せる子供達に、もみくちゃにされる
森の要請を指差しながらハヤトは目を輝かせた。
「駄目だ!駄目だ!そんなんじゃすぐにバレちゃうぞ!?」
「じゃあ・・・こ、こうかな?ハヤト?」
「違う!違う!もっとこうギクシャクした感じでさぁ・・・」
ジョンは公園の片隅で宇宙服を着せられていた。
ハヤトの思いつきの害を早速、被(こうむ)っていたのである。
『森の妖精』の着ぐるみを見て、背の低い彼は思いついた。
宇宙服を着た人間が『ロボット』に変身するのである。
確かに、あの催しでショーに出ていた『ロボット』達は
少年達がかっぱらってきた宇宙服に外観が良く似ていた。
「あ〜〜もう!そんなんじゃ子供にもバレるよ!ジョン!」
「むう〜〜出来ないよ。ハヤト代わりにやってみろよ。」
「バカ・・・俺が着たら『ちよちゃん状態』になっちゃうだろ!」
「ぷぷぷ・・・」
「あッ!?お前、いま素で笑っただろ!?」
「わ、笑ってないよ!で、でもこんなんで本当にお医者さん達を騙せるのかなぁ・・・」
「まかしとけって!あいつらは存外に金に汚いんだ。」
「(ほ、本当かなぁ・・・嫌な予感がまたしてきた。)」
「財全(ざいぜん)先生・・・大丈夫ですか?」
先ほどからクシャミが止まらない私を見習い看護婦の
葵(あおい)がいたわった。何時もは青臭い正義感を振りかざして
私達を困らせる厄介者であるが、この時ばかりは、ちょっぴり感謝した。
・・・と言っても彼女には私の風邪ばかりか、クシャミさえも
治せないだろうが。
「私の事は私が一番良く知っている。そんな事よりも
キミはキミの仕事を・・・・クション!!!!」
不覚。鼻水がカルテに飛び散る。
マスクをしなくてはならないようだ。
「やっぱり、お休みになられては??」
見習い看護婦『空実 葵(そらみ あおい)』はこの病院で一番の名医と
称される私、『財全先生(ざいぜんせんせい)』に意見してきた。
生意気なッ・・・。
私は連行の途中、あろうことか人通りの多い街中で
腹を押さえて痛がる振りをする作詞作曲家の
オヤジ=星野鉄狼(ほしのてつろう)の駄々に付き合わされていた。
「メーテル!本当に痛いんだ!病院に連れて行ってくれッ!」
誰がメーテルだ。確かにこのコートと帽子はそんな感じだけど
断じてコスプレをしたつもりはない。
しかし・・・見えすいた芝居をする。見ているこっちが恥ずかしい。
あの・・・盲腸は逆にあるんですけど・・・
通りでわざとらしく転げまわるオヤジに人だかりが出来てきた。
『チッ!』私はロシア語で呪いの言葉を呟いた後、わざと大きな
舌打ちをした。それは、締め切りを守らない大作家先生が、笑いを
かみ殺すかのように口の端を歪ませたのを見てしまったからだ。
(ふふん・・・小娘が。この私に逆らおうなどと100万年早いわっ!)
報せを受け、急行してきた救急車に揺られながら私はヒソカにホクソエンだ。
既にこの戦の行く末が見えてきているのだ。この戦いは恐らく、彼らの負けであろう。
アジテーターが声を枯らす『 大 義 』も霞みつつある。時の移ろいは残酷だ。
ほんのずかな日時ではあったものの、中立国に居を構え冷静に物事を見つめ直し
出した答えに私は満足していた。何も無為に日々を過ごした訳ではない。
こう見えても世の中の出来事には物凄く関心があるのだ。
そして何よりも、売れる為のカネの貯めの建前ではあるが、卑しくも
『愛と平和の歌(ラブ&ぴーす☆)』を世に出してきたこの私が
最も恐れたのは、戦勝国から『戦争協力者』として吊るし上げられ
でっち上げだらけの裁判で裁かれるのはなんとしても避けたかったのだ。
過去の歴史を振り返るまでも無く、戦争協力者として戦勝国から
レッテルを貼られた音楽家や芸術家達の晩年ほどみすぼらしく、哀しいものは無い。
それに・・・私は既に歳をとり過ぎている。今の地位を手放したくないのだ。
何も失うものなど無いキミとは違うのだ。
(シムス君?キミは良い教え子だったが、キミの属する軍隊がいけないのだよ。)
我ながらの名台詞を、此処で声を大にして言えないのが残念であるが・・・
救急車は飛ぶように走る。これからは年末年始の渋滞もこの技で乗り切れるかも知れぬ。
計算し尽くした芝居をする私は、搬送される病院の指定にも抜かりがなかった。
迎えに来た救急隊員達に運ぶように指定した病院は
『 死 刑 囚 か ら 臓 器 移 植 用 の 臓 器 を 取 り 出 す 』
という噂が実(まこと)しやかに噂される病院であった。
こういう病院が世にあっても良い。こういう時は非常に助かる。
因みにこの病院は、ハンダーとかいう漫画を描いている
漫画家もよく利用しているそうだ。ふふふ・・・誠に好都合。
私は、年の功で獲得したスキルとカネを最大限、活用しようとしていた。
(来週あたりに続く・・・といいなぁ)