【良く】癌患者の小説&お話【落ちます】

このエントリーをはてなブックマークに追加
30ドングリ13
 「ガガガ……様ッ!?ガ……様ッ!!」
通信機が耳障りな雑音を撒き散らす。目的地に近づくにつれて
その雑音は更に酷くなってゆく。
侵攻作戦が始まって、不覚にもこじらせたこの風邪は、なかなか頑固なようだ。
特効薬をあれほど飲んだのにまだ治らない。今朝もまだ微熱があるかもしれない。
先ほどから少々、頭がふらつく。私は雑音も一緒に鼓膜を振動させる
この声の主に苛つきながら応答した。

「何だ?ダロタ!」

 ダロタとは私の副官である。士官学校からの付き合いだ。私の……あの真の友人は
その卓越した能力を買われ、兄に仕える事となった。少々、寂しい気もするが
その方が軍の為、国家の為になるならば致し方ない。諦めなければなるまい。
尤も、この私自身も含め彼と比較してしまう事は、ダロタも迷惑であり、可哀想であるのだが
有能な男であることには変わりがない。しかし、今日だけは正直いつも
強がっているこの私を引き止めて欲しかった。もし彼が私の副官に任命されて
いるならば、この私のやるせない気持ちを汲んでくれるに違いない。
『坊やだからさ……』と、やっぱり笑うかもしれないが。