最後まで諦めずに書き連ねてみようかな?
関連スレ
>>2-8辺り
ゴガギーン
ドッカン
m ドッカン
=====) )) ☆
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俺癌(小説?)スレが落ちた。
なんとなく面倒になって、帖スレ共々
足跡を残さずに放置していたら消滅していた。
失って初めて気付くものがあるんだなぁ……大家(ダージャ)
(あの歌手があの主題歌を歌っていたのには笑ってしまったけど。)
今度も直ぐに落ちてしまうのだろうか?
草木も眠る丑三つ時……
とある船の格納庫にて、二人の少年が何やら密談をしている。
???「本当にやるのか?ハヤト?」
ハヤトと呼ばれた少年
「ああ、このままじゃリュウさんがあまりにも
可哀想だからな。それよりジョブ=ジョン?アレは持ってきたか?」
???=ジョブ=ジョン
「うん……でも、こんなもので本当に死んだ人間が甦るのか?」
ハヤト「心配するなよジョン。この古文書の通りにやればきっと上手く行くって!」
ジョン(なんだかすごく嫌な予感がする……)
ハヤト「よーし!いくぞ!!」
暗く、かび臭い船底の一室に眩い光が迸(ほとばし)る。その光の源は
二人の少年が予(かね)てより密かに用意した、人間一人分の構成物質から発せられていた。
先程まで暗闇が支配していた部屋の床には、幾何学模様の印(しるし)が到る所に描かれている。
もし、こんな落書き?をやらかした事を、この船の長である『あの男』に知られたら
どんな目に合わされる事やら……二人の少年は身震いする思いではあったが、今は只、命の恩人に
そして何よりもこの船に於いて、精神的にも兄貴的存在であった
『リュウ=ホセイ』にもう一度会いたいという心からの願いが、少年達の
小さな背中と勇気?を後押した。
飛び散っていた光が部屋の中央に収束してゆく。二人の少年は神に挑むとも言っても良い
この試みが成功したという手ごたえを感じていた。少年達はお互い顔を見合すと
思わず微笑む――と次の瞬間、彼等の微笑が恐怖に引きつり変わる現象が起き始めていた。
収束した光の束はやがて消えて行き、用意した人間一人分の構成物質から
もうもうと煙が噴出す。辺りには焦げ臭い臭いが充満した。
ジョブ=ジョンはなんとなく嫌な予感が的中した事を心から悔やんだ。
しかし、手遅れだった。
警報が鳴る。
火災警報だけだと思ったら戦闘警報も一緒に鳴っていた。
これまで何度となく聞かされ魘(うな)されたあの耳障りな警報がけたたましく鳴っていた。
船長の怒鳴り声が聞こえてくる。
ハヤトは今度は何日、独房入りなのかを指折り数えてみた。
そして向こうに何か門のような物が見えた気がした。
車?セダンの門?
(おわり)
推奨参照スレ
癌患者のクリスマス
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/x3/1132731181/l50 この国に出稼ぎに来ていた男が捕まった。
また外国人労働者に対する風当たりが強くなるだろう。
街はクリスマスの到来を告げる陽気な音楽と
煌びやかなイルミネーションで埋め尽くされれいる。
しかし、そんな街の賑わいも今の私には苦痛でしかない。
今日この日、私は解雇された。
今、世間を騒がせているコロニー強度偽造事件で
小さな建設会社に勤めていた私はこの国で外国人の立場の
弱さというものを改めて知らされた。
半ば呆然自失となった私の身心に冷たい風が吹きつける。
いつの間にか夜の街に雨が降り出していた。
この分だと、雨は夜更け過ぎに雪に変わるかもしれない。
私は着古したコートの襟を立てると、重い足を引きずりながら
暖かく迎えてくれる家族などいないアパートへ向かう。
泣くまいと思っていたが、やはり涙が零れてきた。
>>13 訂正
×今、世間を騒がせているコロニー強度偽造事件で
○今、世間を騒がせているコロニー強度偽造事件の煽りにより
この国の国民は横並びと言う慣習?が本当に好きなようだ。
商店街から遠く離れたこの住宅地でも、ごく普通の民家に
クリスマスを祝う?ケバケバしい飾りつけが施されていた。
街の景観というものを全く気に留めない性分は
宇宙世紀の今日でも引き継がれているようだ。
(そう言えば、友達のカルロスがラブホテルと間違えて
車を家の前で止めた事があったけなぁ・・・・・・)
そんな事を思い出しながら歩いていると、冬の冷たい風に乗って何処からか
歌が聞こえてきた。嗚呼、あの歌か。よく休憩中にラジオから流れていたっけ。
こんな国でも音楽やアニメといったサブカルチャーには感心させられる事がある。
この国に出稼ぎが決まった時、あの伝説の聖地に降り立つ事が出来ると思うと
内心、小躍りしたものだ。ひょっとしたら私の特技を生かす事が出来るかもと。
しかし、その野望は脆くも崩れ去り今に至っている。
実は・・・・・こう見えても私は若い頃、画家を目指していた。
地球に、海というものに憧れていた私は、波に戯れるイルカの姿や
仲むつまじい鯨たちを極彩色で表現したものだ。
(本物はこの目で見た事など無いけれども)
昔とった杵柄を抑える事が出来ずに
身体と心をすり減らす肉体労働の合間を縫って描きあげた絵は
若い頃と変わらずに異国の地でも売れる事は無かった。
私はイルカのような声をあげながら風に乗ってきた歌を歌いだした。
〜〜の未来は世界がうらやむ♪
何度も川に身を投げかけようと思いながらも
アパートに辿り着く。
涙の跡でヒリヒリしていた頬を
私が勤めていた会社のロゴが入ったタオルで拭くと
少し落ち着く。そして、また鬱になった。
TVをつける。地上デジタル放送の影響かどうかは解らないけれども
粒子の粗い画面をザッピングさせ、日中つまらない仕事で
疲れた目を更に酷使した。
何かに八つ当たりしたい気持ちを抑えながら壁の時計を見やると
既に今日という一日は後、一時間余りを残すばかりとなっていた。
ガイアの夜明けは近い。(今日の特集は見逃してしまったけれども。)
私は最早、無用となった筈なのに経済新聞の市況欄を見ながら
WBSのナレーションを聞き流す。習慣というものは本当に恐ろしい。
ヤカンが警笛を鳴らした。
最近、何かと世間を騒がせたガスコンロにかけたお湯が沸いたようだ。
急を告げる放送に口に入れたチキンラーメンを噴出す。
普段、政治とか国家間の争いといったものに全く興味が無い私ではあったが
あの交渉が決裂したという事の重大性は理解しているつもりだ。
ついに戦争が始まるのだ。
さっき迄、紅白歌合戦に出場するアーティストを紹介していた番組は
シャアとガルマというユニットが歌う青春アミーゴという曲の途中で
ぶち切れていた。原稿を読み上げる小浜キャスターの顔が
粒子の粗いブラウン管でも引きつつていたのが読み取れた。
あれから3週間が過ぎようとしていた。
私は再びこの地に降りたった。今度は鉄の巨人に乗って。
ハイテクを満載したモニター越しには、幾重にも厳しく定められた
建築基準をクリアした筈のマンションが瓦礫の山に変わっていた。
私が以前、身体を削りながらしていた仕事はこんなもんだったのかと
改めて思い知らされる。街は紅蓮の炎に包まれようとしていた。
あの日を境に軍に復帰した私は無料で国に帰る事が出来た。
年老いた母は涙ながらに私を引き止めたが所詮、無理な相談であった。
私にも家族がいるのだ。国の年金だけで養うことが不可能な事は
彼女も判っている筈なのに・・・・・私は苛ついた。
この街に住まう人々の立てる叫び声とういうものが
遮断された操縦席で私は引き金を引き続ける。
地獄絵図の場に降り立ち、辺りを俯瞰している巨人と私の眼は
虚のままであった。
(来週あたりにつづく)
>>18 訂正と付け足し
×地獄絵図の場に降り立ち、辺りを俯瞰している巨人と私の眼は
虚のままであった。
○街を蹂躙(じゅうりん)し尽くさんと巨人は
文字通り仁王立ちになり辺りを睥睨(へいげい)する。
戦火に焼かれる人々の姿が巨人の眼を通して私の網膜をも焦がす。
人の脂で燃える黒い炎を見つめる私の眼が
次第に赤く爛(ただ)れてゆくのが判った。
雨が降ってきた。噂には聞いていたが、本当にどす黒い雨が降るなどとは
思いもよらなかった。夜が更けるにつれ、気温は更に下がるだろう。
ひょっとしたらこの黒い雨は黒い雪に変わるかもしれない。
家を失った人々を更に嘆かせる素敵?な天からの贈り物だ。
ほんの数ヶ月前迄、クリスマスに沸くこの街を照らし飾っていた光達は
今では命の灯火(ともしび)を消す地獄の炎に成り代わっていた。
街をけばけばしく飾っていたイルミネーションを見て内心、毒づいていた私であったが
今、この光景を眼にしてやるせない気持ちを抑えきれないでいた。
人の脂の副産物である黒煙が天に昇ってゆく。もし、神というものが
この世にいるならば、地球温暖化を口実に節電に励む倹約家や
ガイア再生を声高に叫ぶロハスと呼ばれる偽善者達を
きっと詰問し叱責するに違いない。
命のやり取りを数字で判断し決断する本部からの指令が
届いたようだ。私より十歳も若い小隊長が命を発する。
日頃、実戦経験が無いのを気にして何かと背伸びをして無理をする
困ったちゃんであったが、薬がよく効いている所為?なのか
スピーカーから聞こえる声はいつものチキン・リトルでは無かった。
自分を含め退役軍人だった者達は、新兵の育成をも任される羽目となった
我が身を呪ったものだが、落ち着き払った声を耳にして安堵の息を漏らす。
ここにいる同僚?達の嘆息を感じつつ、私も了解の応答をした。
(この時、私がもっと慎重であったならば軍を脱走する事態にならなかったのだが・・・・)
ゲリラ達が潜伏しているという、とある街の偵察任務に就いた我々は
少々戸惑っていた。噂には聞いていたのだが、この国が滅んだ訳が
なんとなく解かった気がした。その街は・・・・・・ビルというビルに
顔に対して眼がやたらと大きく誇張された少女達を描いた看板などで
埋め尽くされていた。若いころ画家を目指していた私にとってそれらは
所謂(いわゆる)唾棄すべき『きんもー☆ 』以外の何モノでも無かったのだが
嘆かわしいかな・・・・・回線越しに聞こえてくるチキン・リトルの息遣いが
さっきよりも激しくなっていた。幼い娘を持つ父親でもある私は
危うく隊長機に向けてトリガーを引きかけた。
(たぶんつづかないかも・・・・・・がんばろう)
ガンガレ
>>23 d
>>18 訂正
×建築基準をクリアした筈のマンションが瓦礫の山に変わっていた。
○建築基準をクリアした筈のマンションが
瓦礫の山に変貌(へんぼう)していた。
25 :
ドンクリ9:2005/12/07(水) 00:08:46 ID:???
念書にサインをする。これで私の指定した口座……金庫に
現在、価格が暴騰している地金金(じがねきん)が収められる手筈になっている。
私を含め移民者の多くはいわゆる下流階層だ。放射線障害で命を落とす者が
一向に減らない今日に於いて、今度の政府が推し進める医療費の個人負担率を
引き上げる法案は、人民の怨嗟の声などまるで嘲笑うかのように議員達の
万雷の拍手に迎えられて成立した。しかし、私はこれで妻や娘の治療費に
心を削る必要は無くなった。私がサインを書き終えたこの瞬間に
軍からこれまで働いた給料+(プラス)僅(わず)かばかりの恩給。
そして上官の罪を代わりに着る『名誉の負傷』という名目で莫大な慰謝料が
転がり込んで来るのだ。……私は司法取引に応じたのであった。
26 :
ドンクリ10:2005/12/07(水) 00:37:52 ID:???
チキン=リトルがあの日、妙に落ち着いていた時に気付けば良かったのだが
地球侵攻作戦の際、軍がインフルエンザの特効薬として大量に購入した
『フルタミ』は服用すると、ごく稀なケースではあるが、どうやら人の精神に
何らかの悪影響を及ぼすものらしい。
この事は実は製薬メーカーの間ではかなり以前から指摘されていた事であったようだ。
聞くところによると、この薬を飲んだ直後にマンションの屋上から飛び降りた
少年もいたようだ。本来ならばこの事例を根拠にしてチキン=リトルが
あの『きんもー☆』街で、派手にやらかした誤射を薬物による副作用の成せる業
つまり、心神耗弱状態であったという事で丸く収まる筈であった。
だが、この事件の落とし前は軍と我々が予想していた程、甘いものではなかった。
27 :
ドンクリ11:2005/12/07(水) 01:20:00 ID:???
チキン=リトルにとっても、その罪を代わりに受ける事になった私にとっても
不幸な事は、必死に抵抗するゲリラとの戦いで、止む無くそうなってしまったとは言え
戦闘が行われた地域が中立地帯であったという事。
実は、その取り決めはゲリラ掃討作戦が始まるほんの八時間前に急遽取り決められたものであったが
両軍の戦闘行為が禁じられた中立地帯で皮肉な事に、満足な銃火器をも持ち合わせぬ非力なゲリラに対して
圧倒的な戦闘力を誇る我が軍の『巨人たち』が、年端の行かない子供達も含む生身の人間を殲滅してゆく様を
厳重に封印された筈のプレスコードを掻い潜って報道されると
結局のところ、この国を侵略する事実には代わらない我が軍に対するイメージが更に悪化した。
そして悪い事に、わが国でも隠していた事実がマスコミに知られるや否や大々的に報道され
国民士気にも関わる問題に発展しようとしていた。そんな追い風を得て
鼻息も荒く「南極条約に対して重大な違反である!!」と、あちら側は声高に叫んだ。
28 :
ドンクリ12:2005/12/07(水) 02:03:39 ID:???
そして最も最悪な出来事は、チキン=リトルが破壊したホテルに
中立国のお偉方のお姫様がたまたま居合わせていたと言う事だ。
プリンセスと言うには正直な所、だいぶ無理があるお姫様ではあったが
それでもその国の民には慕われたようであった。(極一部ではあったが)
戦闘の爪あとが痛々しく残る街のホテルから新婚間もない姫が見るも
無残な姿で発見されたという事が知れ渡ると
世論は一気に軍に対する批判に傾いていった。その勢いはともすれば
反戦デモから反ジオン、反ザビ家独裁運動に発展するものがあった。
折りしも、開戦から数ヶ月が過ぎ、下流階層の末裔である国民達の間からも
えん戦の声が上がり始めていた。もともと国力の無い脆弱な国家である。
そして全人口の約半分が失われた現在に於いて、結果として生活レベルが相対的に低下し
開戦前よりも困窮する生活を送る羽目になった事に、多くの国民達は苛立ちを感じていた。
この戦争はわが国が勝っている筈であった。が、無理を繕い続けた影響が
次第に現れ始めていた。わが国は内側から崩壊しつつあったのだ。
まるで一連の偽造建築物のように。
我々を取り巻く環境は日に日に悪くなる一方であった。
(来週あたりにつづく)
訂正
>>25 ×現在、価格が暴騰している地金金(じがねきん)が
○戦時の今、価格が急騰している金(ゴールド)が
訂正
>>26 ×『フルタミ』は服用すると、ごく稀なケースではあるが
○『フルタミン』は服用すると、ごく稀なケースではあるが
30 :
ドングリ13:2005/12/08(木) 17:12:19 ID:???
「ガガガ……様ッ!?ガ……様ッ!!」
通信機が耳障りな雑音を撒き散らす。目的地に近づくにつれて
その雑音は更に酷くなってゆく。
侵攻作戦が始まって、不覚にもこじらせたこの風邪は、なかなか頑固なようだ。
特効薬をあれほど飲んだのにまだ治らない。今朝もまだ微熱があるかもしれない。
先ほどから少々、頭がふらつく。私は雑音も一緒に鼓膜を振動させる
この声の主に苛つきながら応答した。
「何だ?ダロタ!」
ダロタとは私の副官である。士官学校からの付き合いだ。私の……あの真の友人は
その卓越した能力を買われ、兄に仕える事となった。少々、寂しい気もするが
その方が軍の為、国家の為になるならば致し方ない。諦めなければなるまい。
尤も、この私自身も含め彼と比較してしまう事は、ダロタも迷惑であり、可哀想であるのだが
有能な男であることには変わりがない。しかし、今日だけは正直いつも
強がっているこの私を引き止めて欲しかった。もし彼が私の副官に任命されて
いるならば、この私のやるせない気持ちを汲んでくれるに違いない。
『坊やだからさ……』と、やっぱり笑うかもしれないが。
>>30 訂正
×雑音も一緒に鼓膜を振動させる
○雑音と一緒に鼓膜を振動させる
>>30 訂正
×私の……あの真の友人は
○そしてもう一人、仕官学校から私の真の友人となった彼は
33 :
ドングリ14:2005/12/08(木) 17:51:22 ID:???
「お加減がよろしくないようですが?本当に大丈夫ですか?」
!?私はこの時、心から神に感謝した。私専用にと特別に誂(あつら)えて貰った
この機体の頗(すこぶ)る快適なコクピットの中でも正直、今の私にはしんどかったのだ。
頭がガンガンする。ここは彼の助言に従い、素直に引き下がるべきだろう。
たまには彼の副官という立場を汲んでやらなければなるまい。
「うむ。誠に遺憾であるが……」と言いかけた矢先、回線に大音声で割り込む
漢(おとこ)がいた。『ガデム』だ。
実は、私はこの空気が読めない漢(おとこ)が少々苦手であった。
それは兄と似た気性の所為なのかもしれない。いや。彼の場合はもっと輪をかけて
酷い。何しろ軍隊格闘のエキスパートで、兄の実の師匠でもあるからだ。
とても敵わない。とほほ。
ガデムの野太い声は通信状態が悪いのにも関わらず、耳元で大声を出される
拷問に近いような錯覚を覚えた。
「ダロタ副官殿!ガガ……様のお志に水を差すではないッ!!ドド……様も
ガガ……様の活躍に期待しておるというのにッ!!」
私は文字通りハンマーで頭を殴られた気がした。
>>30 訂正
×侵攻作戦が始まって、不覚にもこじらせたこの風邪は
○侵攻作戦が始まってから貰ってしまったこの風邪は
35 :
ドングリ15:2005/12/08(木) 18:14:03 ID:???
私は涙目になりながらもう一人の場が読めない男に助け舟を出してもらう事を
期待した。寡黙な漢『ドアン』に
「……。」
通信機は沈黙している。って言うかこの街についた途端、何か殺気のようなものを
漲(みなぎ)らせている。寒気がするのはどうやら熱の所為ばかりではないようだ。
「……ガデム軍曹のおっしゃる通りです。」
ドアンの殺意に満ちた声が頭の中で不気味に木霊する。
やっぱりその望みは裏切られた。って言うか彼に期待すること自体が無理な話である。
聞くところによるとここ数年間の所、彼の家庭は大変なようだ。
本来ならこの場所にいる事自体が間違ってるとも聞く。
糞ッ!!この作戦が終わったら絶対に、こいつら『助さん格さん』達を人事部に手を回して
左遷するようにしてやるッ!!ガデムは補給部隊あたりが良いだろうか?距離とか間合いとか
読むのは得意なようだから安心して兵站を任せれるだろう。(空気は読めないけど)うん。
われながら良い考えだ。
36 :
ドングリ16:2005/12/08(木) 18:36:44 ID:???
朝日が昇る。この時間帯は普段なら上半身裸になった
二人のマッチョと一緒に寒稽古と称して小川に素足を浸しながら
正拳突きを1000回3セットやらされる訳だが、今日は
作戦行動の為に夜通し進軍したので、代わりに腕立て伏せ100回10セット
やらされた。とほほ。
肝心の副官ダロタは苦しむ私の姿を見てちょっとニヤついていた。
お前は消費者金融のチワワか?
これは……私があんまり我侭を言った報いなのだろうか?
いかん。寒気が止まらない。このままでは本当に死んでしまいそうだ。
プロティンたっぷりの朝食後、私は軍から支給された『フルタミン』を
一気に飲み干した。
(これで少しは持つかな?容量稼ぎの為にだいぶ横道にそれた気がするけど
再来週あたりに続くといいなぁ・・・・・)
>>28 訂正
×開戦前よりも困窮する生活を送る羽目
○開戦前よりも困窮する日々を送る羽目
>>36 訂正
×二人のマッチョと一緒に寒稽古と称して小川に素足を浸しながら
正拳突きを1000回3セットやらされる訳だが
○二人のマッチョと一緒に寒稽古と称して小川に素足を浸しながら
正拳突きを『セイ!セイ!セイ!』と言いながら
1000回3セットやらされる訳だが
>>36 訂正
×肝心の副官ダロタは苦しむ私の姿を見てちょっとニヤついていた。
お前は消費者金融のチワワか?
○苦悶する私の姿を副官ダロタは物陰から覗き見ていた。
やっぱりニヤついていた。
お前は消費者金融のチワワか!?
39 :
ドングリ17:2005/12/11(日) 03:21:17 ID:???
食事後に服用したせいかどうかは知らないが、ずいぶん具合が良くなった。
うっかりマスクを着用せずに外に出ようとしたら、ダロタに呼び止められた。
でもなぁ……そのマスクはなんだかその……怪しまれないか?この間だって
お忍びで視察した際に、髭とかつらで変装したけどお店の人にすげー訝しがれてたぞ?
仕方がない。着けるとするかな。でも姉とおそろいだなんてあいつが見たら
なんと言うだろうな。やっぱ『坊やだry』
街に入る。無論、歩いてだ。
実はゲリラなどこの街にはいない。……と思う。
って言うかこの国にはそもそも軍隊などないとも聞いている。
それ故に今日の繁栄があるとも耳にする。
だが、軍隊が無いのに他国とあんまり仲が宜しくないらしい。
こんな話を聞いたことがある。
その昔、某国の将軍の長男がお忍びでこの国のネズミ王国?という場所に
遊びに行こうとしたそうだが、ばれて送り返されたそうな。
そして親父にこっぴどく叱られ、将軍の後継者候補から除外されたという。
愚かな……確かに『うつけ』を演じ、周囲を油断させて
天下を取った者や、討ち入りを果たした者もいる。
(帝王学とはそんな故事来歴や身の処し方も身に付けねばならないらしい。めんどうだが。)
だが、私はそんな愚を犯すつもりはない。それにこの服装でも、この街では
そんなに違和感はあるまい。我ながら頭が冴えている。うん。
これで心おきなく散策も、勿論、探索&偵察も出来るというものだ。
……しかし、噂には聞いてはいたが本当に凄い街だな。
わが家もメイドは比較的多く雇っている部類に入ると思うが、流石に
この街には敵わない。さっきまで何故か尋常ならぬ殺気を噴出しながら
私の護衛をする格さん事、ドアンであったが、『ご主人様☆』などと
言い寄られると急に照れだした。なんだ……お前、そーゆーのに興味がないと
思っていたが、所詮は庶民だな。精々、王侯貴族の日常を存分に味わうが良い。
私はもう流石に辟易(へきえき)しているのだが。
40 :
ドングリ18:2005/12/11(日) 03:43:14 ID:???
辟易していると言っておきながら、こう言うのも何であるが
最近のメイドの衣装はこんなに露出度が高いのか?なんだか頭が熱くなってきた。
『お坊ちゃま』とか『ご主人様』という会話などごく当たり前になっている
私が照れている?馬鹿なッ!?私は冷静だ!……と思う。
気象コントロールなどというものが無い所為なのかもしれないのだが
流石にちょっと恥ずかしいって言うかお前ら寒くないのか?
そんな事を考えていたら、ガデムがついにキレた。
彼の……鼻の血管であるが。
無理もあるまい。ここの所、ずっーと男だらけの生活を送ってきたからな。
しかし、これは……また刺激的だな。もし彼女がこれを着たら
などと考えていたら私も血が出てきた。
41 :
ドングリ19:2005/12/11(日) 04:35:04 ID:???
マスクを赤く染めた不審者が街を徘徊していたらしい頃から
時間を遡る事、約9時間前……かの街より水平線の彼方にある国の
とある街の市庁舎では、難しい年頃は既に過ぎたというのに
まだまだ子供の理屈を並び立て、還暦を迎えようとする老父を悩ます
ひとりのブロンド娘がいた。
「なぜ、判ってくれないのです!お父様!」
「無茶を言うな!それにあんな街と
姉妹都市になっては、国中に笑われてしまうわっ!」
人一倍、周囲の批評を気にする男が娘を怒鳴りつけた。
別れた娘の母親に似て近頃は何かと口出しするようになってきた。
もともと娘を疎ましく思っていた男である。
しかも、あろうことにその口出しの理由は
敵方の将校と思しき男と恋仲になったという事をたった今、知ったばかりだ。
驚天動地の事実が、不器用な男の苛立ちを加速させた。
「兎に角、無理なものは無理だ。それにいくら市長とは言え、私の一存では……」
医者から節制するように言われているパイプを胸一杯吸い込むと
幾分、落ち着きを取り戻す。そして本当に子供に言い聞かせるように
娘を説こうとして向き直ると、ぎょっとしてパイプを取り落とす。
ブロンドのくせにいつの間に用意していたのかは解らないが、この都市に住まう
全市民分はあろうか?かの街との姉妹提携を望む旨の内容が記された
嘆願書の束が不適な笑みを浮かべる娘の合図と共に部屋に運び込まれてきた。
呆然となりながらも父親としての威厳を保つために床に落ちたパイプを拾おうと試みる。
しかし、負けを悟った男は不覚にも世間一般に言うところの
O、T、L
のポーズを取ってしまった。
42 :
ドングリ20:2005/12/11(日) 04:56:26 ID:???
恋する乙女の計らいが、結果として彼女の思い人を窮地に追いやる事と
なろうとは……可哀想なブロンド頭には理解出来る筈も無く
ただ彼女は自分が成し遂げた世界平和?の為に愛する者が戦場に
赴く事を防ぐ為に捻り出した策が完遂されゆく様を万感の思いで
見つめる。その眦(まなじり)の奥からは自己憐憫?(じこれんびん)の
結晶ともいうべき雫(しずく)まで零(こぼ)れ落ちようとしていた。
この娘もかの思い人同様に、かなりの自己陶酔型の気質を持っているようだ。
「嗚呼、これであの方も戦わなくても済みます……
神様、これからも私たちをお守りください……。」
娘は神に自分達だけの秘密の願いを叶えてくれる事を望んだ。
そう、自分達だけの。
43 :
ドンクリ21:2005/12/11(日) 05:26:24 ID:???
裁判が始まる。この国では陪審制度が上手く行っていないとは言うものの
流石に不安でたまらない。何でも弁護士資格のないものが示談交渉を
つい先日までやっていたと聞く。とても信じられない出来事だ。
「予測がつかない戦場とは違い、争う相手よりより多くの金と狡賢さとも言うべき
経験を積めばある程度の確立で勝利することが出来るゲームとですよw」
などと他人事のようにダロタは言っていたが
残念ながら自分にはどれも縁のないものばかりだ。
戦争が無ければ今頃、自分は年の瀬が迫っていると言うのに
職を失いアパートを追い出されて路頭に迷い、この寒空に震えながら故郷からの送金を
待ち続ける日々を過ごしている筋書きの筈だ。
かねてより弁護士や我々の息がかかった陪審員達と裁判官とで
打ち合わせたシナリオ通りとは言え、流石にお白州の場に引き立てられるのを
想像しただけで身の縮む思いだ。どうにも自分は悪人にはなり切れないようだ。
「静粛にッ!」
厳(おごそ)かにお決まりの台詞が木槌の音と共に
世界中の耳目が注がれる空間に放たれた。
>>43 訂正
×経験を積めばある程度の確立で勝利することが出来るゲームですよw
○経験を積めばある程度の確立で勝つことが出来るゲームですよ。
45 :
ドンクリ22:2005/12/11(日) 05:52:09 ID:???
莫大な資金を持つ製薬メーカーと結託した我々は聊(いささ)か油断していた。
シナリオ通りと鷹を括っていたこの裁判であったが、我々の予想に反して
次第に不利な状況に追い込まれつつあった。まるでこの戦争そのものように。
証拠隠滅の手段ををあれほど念入りにやってきた筈なのに
思わぬところから動かぬ証拠が出てきた。
あちら側には油断のならない、なかなか優秀な者がいるようだ。
その証拠とはこの国で開催されていた万博の跡地から移設したゴンドラで
公的機関から許可を得ずにAV撮影をしていた者どもから隠し撮られた
VTRであった。尤も妨害電波で画質そのものはかなり怪しいものではあったのだが
それまで証拠として提出された低俗なコラ作品に毛が生えたような
写真ばかりだったものに比べ圧倒的に説得力があった。金で買った筈の票が割れ始めた。
この国を影で操る連邦の圧力がそこにあった。弁護人の中には死者さえ出始めていた。
どうやらこの国もこの街も時流に乗って親連邦派が多数を占める事態になりつつあった。
それはこの国で裁かれる我々にとって致命傷であった。
>>41 訂正
×街を徘徊していたらしい頃から
○街を徘徊していたらしい時刻より
石礫(いしつぶて)がどこからともなく投げられる。
享楽的な街の有様に気を取られていたとは言え、迂闊(うかつ)であった。
いくら破壊されたインフラを整備しようとも
選挙を円滑にとり行える様に後押したりして人心を懐柔したとしても
我々は彼らにとって憎むべき敵なのだ。その事実にはなんら変わり無い。
血を拭おうとマスクをはずした所を目敏(めざと)く見つけられて
我々の正体がばれてしまった。
目の前に暴徒と化した人々がその手に個々に思いついた柄物
・・・・・・武器を取る。じりじりと剥き出しの敵意と殺意の群集が
彼らの豹変ぶりに唖然として立ち尽くす
ガル・・・様いやいや、チキン・リトルを襲う。
ワシが若い頃に砂漠の国で体験したあの惨事が再びこの地でも
起きようとしていた。身震いしつつ叫ぶ。
「何をしている!?ドアン!!はやく御守りしろッ!!」
>>42 訂正
×娘は神に自分達だけの秘密の願いを叶えてくれる事を望んだ。
そう、自分達だけの。
○娘は神に自分達だけの秘密の願いを叶えてくれる事を望んだ。
彼女はその胸の辺りで両手を組み、祈りの仕草をする。
その手首には巷で大人気のホワイト・バンドが巻かれていた。
>>47 訂正
×血を拭おうとマスクをはずした所を目敏(めざと)く見つけられて
我々の正体がばれてしまった。
○血を拭おうとマスクをはずした所を目敏(めざと)く見咎められ
我々の正体が暴かれてしまった。
×目の前に暴徒と化した人々がその手に個々に思いついた柄物
・・・・・・武器を取る。じりじりと剥き出しの敵意と殺意の群集が
彼らの豹変ぶりに唖然として立ち尽くす
ガル・・・様いやいや、チキン・リトルを襲う
○じりじりと剥き出しの敵意と殺意の渦が空気を変える。
彼らの豹変ぶりに唖然として立ち尽くす
ガル・・・様いやいや、チキン・リトルは徐々に青ざめて行った。
最早、暴徒に変貌したした人々の群れが手に手に、柄物を取った。
その姿は既に戦士であった。銃を握る手が震える。
ドアン機が戦闘不能になった。信じ難い事ではあるが、認めなければなるまい。
日頃、彼はこの機体の整備不良を訴えてはいたのだが、まさかこんな形でそのツケを
支払わされる事になろうとは、思いもよらなかった。敵には凄腕の狙撃手が
幾人もこの戦闘に参加しているようだ。対『巨人』用ライフルと思われる銃弾が
旧式の機体を貫いた。鈍い衝撃音と共に機体が震える。武者振いとは全く良く言ったものだ。
実戦から久しく離れていたとは言え、本日の失態はまるでヒヨッ子そのもので無いかッ!
ドアンはどうやら脱出に成功したようだ。胸を撫で下ろす。
再び鈍い衝撃音が走る。……どうやら他人の心配などしている場合では無い様だ。
我々は追い詰められていた。
群集心理とも言うべきか、下流階層に属する者達の日頃の閉塞感と
虐げられた怒りのエネルギーはそのまま侵略者である我々に向けられた。
通りに駐車してあった高級車にも悉(ことごと)く火が放たれ、黒煙が鼻を刺激する。
更にヒルズと呼ばれる人々が住まう高級住宅街の通りの敷石は暴徒の手によって
無残にも剥がされ、キャンプに向かって逃走する我々に目掛けて投げつけられた。
そして、我々が目指すベースキャンプでも最悪な出来事が起きていた。
>>50 訂正
×旧式の機体を貫いた
○旧式の機体を貫く
53 :
ドングリ26:2005/12/14(水) 02:01:08 ID:???
街の騒ぎに呼応するかの様に、各地で鳴りを潜め文字通り潜伏していた
武装ゲリラが我々のベースキャンプを襲撃した。キャンプの守備隊は完全に
不意をつかれ、壊滅状態に陥ってしまった。辛うじてダロタ副官と一部の人間が
手傷を負いながらも『太った伯父』で脱出に成功すると、街の暴徒から
逃げ出してきた我々と合流した。そして辺りを見回せば、我々の戦力は3機の巨人と
今にも爆発しそうな輸送機1機だけになってしまった。しかも、その虎の子である筈の
巨人の1機が戦闘が始まってからほんの数分で撃破されてしまったのだ。
信じ難い事態に陥ってしまった。状況は最悪である。
退路を武装ゲリラによって絶たれた今となっては再びあの暴徒の狂気が渦巻く
街に向かって逃げ出す他は無かった。そして我々は彼らが只、怒りに任せて
暴れるだけの人々では無いことを改めて認識する事となる。
54 :
ドングリ27:2005/12/14(水) 02:23:53 ID:???
勝ち組、負け組みと謂う様な風潮が人心を荒廃させ、物質的な豊かさと
目先の利潤、利益だけを宛(さなが)ら餓鬼の如く追い求めて快楽に耽(ふけ)る
この国の人々を我々は少々、侮っていた事を此処に告白せねばなるまい。
思い起こせば、この国はかって、圧倒的な国力と戦力の差などものともせずに
全ての都市が焼き尽くされるまで頑強に戦い、散華していったサムライ達の故郷であった。
先程まで街の至る所で屯(たむろ)していた所謂(いわゆる)今時の無気力、無関心の
若者達がなりふり構わず投石する。中には不法に改造された銃を手にしている者もいた。
その光景はこの国でも久しく忘れられていた。
彼らの魂魄(こんぱく)には国家を侵略する敵に特攻し
自爆することが最高の美徳となり、そして殉教者として祭り上げられる熱砂の民に似た
猛々しさと、純朴で危うい狂気がその内に秘めていた事を改めて思い知らされた。
55 :
ドングリ28:2005/12/14(水) 02:46:53 ID:???
この国で糊口(ここう)にかかる費用を高いエンゲル係数にも関わらず
結局、肉体労働でしか稼ぐ事しか出来なかったドアンが
頭部に羽飾りがついた隊長機に急遽、避難した。チキン・リトル用に
カスタマイズされた機体はこの旧式よりも頑丈に出来ている筈だ。
取り敢えずは安心であろうか?
隊長機に乗り込んだドアンの恐慌した声がまだスピカーから聞こえる。
無理もあるまい、この国の民達の常軌を逸した特攻精神に、かって戦った国の
兵士達は誰もが震え、伝説までになった。中には精神を病んだ者もいると聞く。
また銃弾が機体を貫く。最早、一刻の猶予も無い。チキン・リトル等を脱出させる為に
この街に不本意ではあるが、時間稼ぎの空爆の要請を本部に打電し
そしてわが身は盾となってこの不始末の責任を取ろうと決心した。
だが、再びわが目を疑う信じ難い出来事が起きていた。
56 :
ドングリ29:2005/12/14(水) 03:05:03 ID:???
つまらない日々の無聊(ぶりょう)を紛らわす為に、適応障害という名で
ひとくくりにされる感情を抑制出来ず薬物に溺れる議員や軍人達が多い事など
長く生きている者ならば最早、普通な事なのかもしれない。しかし今、目の前で
繰り広げられる酸鼻を極める光景に歴戦の勇士と自負するわが身を震わせた。
薬物の副作用の所為と言うべき事なのだろうか?それにしてはその効果が
効きすぎている。例えるならば、北欧の地で語り継がれる『狂戦士』の伝承そのものだ。
先程、聞こえてきたドアンの絶叫はひょっとすると鮮血に染まる『巨人』を操縦する
チキン・リトルの変貌(へんぼう)にあるのかもしれない。
禍々しい強大で邪悪な気配を感じる。忘れていた。チキン・リトルはあの方の
弟であった事を。……ワシはもうチキン・リトルの師である事を辞せねばならない
時が来た事を知った。
57 :
ドングリ30:2005/12/14(水) 03:20:11 ID:???
チキン・リトルの専用機は鬼神の如き強さを見せ付けた。
その事はそのまま、人だったものを街だったものを粉砕し破壊する事であった。
悲鳴がまだ聞こえる。チキン・リトルのコクピットに一緒に乗ったドアンだ。
「ガガ……様!もう十分ですッ!戦闘を止めて下さいッ!」
喉を枯らして叫ぶ。しかし、その応答は無骨で無口な者だった筈の男の泣き叫び声だけであった。
薬物のせいばかりではないのかもしれない。あの専用機の試作型には
我々が知らない何かがあるのかもしれない。身震いしながらも必死で
破壊行為を止めない巨人に機体を向かわせた。
火の七日間とはこの様な事を言うのだろうか?昔見た映画のワンシーンを
思い出していた。
58 :
ドングリ31:2005/12/14(水) 03:43:00 ID:???
暴走し、緑色の機体をこの街に住んでいた人々の血で赤茶に染めた専用機は
戦闘が始まってから7時間後にその機能を停止した。ほんの数時間前までは
この街のそこかしこに並べられた無数のヒロー&ヒロインは生きたまま焼かれる人々の
願いなど聞き入れず寧(むし)ろ、人々の命を奪い取る炎の燃料にしかならなかった。
最早、無人となり焼け野原となった街を歩く。そこかしこに散らばる白い物体は
人々の骨であろうか?小さな白い物体がかたまる場所にガラス製の古い置物があった。
多分、うさぎを象(かたど)ったものであろう。黒い水滴が空から落ちてくる。
老いた所為であろうか?涙が頬を伝い髭を濡らす。暗黒面に囚われた弟子を持った
師匠の気持ちが今、やっと理解できた。ただただ、虚しかった。
夜明けの時間がやってきたが、この街だった場所に低く垂れ込める暗雲のように
心は晴れなかった。黒い水滴が焼け焦げた大地を濡らしていった。
>>56 訂正
×歴戦の勇士と自負するわが身を震わせた
○歴戦の勇士と自負するわが身が震えた。
>>54 訂正
×
その光景はこの国でも久しく忘れられていた。
彼らの魂魄(こんぱく)には国家を侵略する敵に特攻し
自爆することが最高の美徳となり、そして殉教者として祭り上げられる熱砂の民に似た
猛々しさと、純朴で危うい狂気がその内に秘めていた事を改めて思い知らされた
○
その光景はこの国でも久しく忘れられていた事を改めて思い知らしめた。
彼らのその魂魄(こんぱく)には国家を侵略する敵に
特攻し自爆することが最高の美徳として尊(たっと)ばれ
そして殉教者として祭り上げられる熱砂の地に住まう民に似た
猛々しさと、純朴で危うい狂気がその内に秘めていた事を。
>>58 訂正
×老いた所為であろうか?涙が頬を伝い髭を濡らす。
○涙が頬を伝い髭を濡らす。この涙は決して老いた所為ばかりではあるまい。
62 :
ドンクリ32:2005/12/14(水) 04:14:14 ID:???
裁判はヤマ場を迎えた。
「愛国無罪を叫ぶ群衆に対して発砲したのですか?相手は只の市民なんですよ?」
『銃を携帯していたとは言え、こちらはたった3人でした。あくまでも自衛の為です。』
「警告はしなかったのですか?」
『そんな余裕など彼等にはありませんでした。彼等は寧ろ褒められるべきです。
あなた方は過去の教訓をご存知ないらしい。』
「ほう?その過去の教訓とは?無防備な市民に向かって銃を撃った軍が
教訓などと口にするとは……片腹痛いですな。」
『サラエボ事件然り、大津事件然り、要人の暗殺が引き金となり戦争に発展した
事例のを言っておるのですッ!!』
「それは本件とはあまり関係がないのでは?私がここではっきりさせておきたいのは
その要人とやらが実は精神薄弱者、或いは薬物中毒者なのでは?という疑惑です。」
『異議ありッ!!裁判長!!
彼にあの方を侮辱する発言を今後、一切控える事を要望しますッ!!』
>>55 訂正
×糊口(ここう)にかかる費用
○糊口(ここう)の対価を
>>56 訂正
×
つまらない日々の無聊(ぶりょう)を紛らわす為に、適応障害という名で
ひとくくりにされる感情を抑制出来ず薬物に溺れる議員や軍人達が多い事など
長く生きている者ならば最早、普通な事なのかもしれない。
○
つまらない日々の無聊(ぶりょう)を紛らわす為に
適応障害という名で ひとくくりにされる感情を抑制出来ずに
薬物に溺れる議員や軍人が多いという社会の歪みは
今日に於いて、それはもう普通なの事かもしれない。
>>58 訂正
×
この街のそこかしこに並べられた無数のヒロー&ヒロインは
○
この街の至る所に並べられ、展示販売されていた
無敵のヒローや世界を救う正義のヒロインの人形達は
65 :
33:2005/12/16(金) 01:28:00 ID:???
全く割の合わない副官という地位に甘んじている私が
最初に彼の身に起きた異変を感じ取ったのは丁度
裁判が我々が想定した以上に長引くことが避け得ない
と事実と判った頃だろうか?カネで上官の身代わりになる事を
承知したドアンは頻繁に居眠りをするようになった。
その頃は、条約で禁じられた中立地帯で戦闘をし、余りにも数多くの
無辜(むこ)の市民を死に至らしめた我々に対して内外から昼夜を問わず
批判が集中した。そんな世論に推されるかのようにマスコミの攻撃は
執拗を極め取材に際し、中には堪り兼ねて「私は寝ていないんだッ!!」などと
声を荒げ、醜態を晒す者もいた。実を言うとあの誤射、誤爆事件に関わった者全てが
眠れぬ日々を過ごしていたので、当初は誰も奇妙な事だと気がつかなかった。
もっと正確に言うならば誰も他人の事など構ってはいられなかったのである。
だが、我々の心身の治療とカウンセリングを受け持った医師達の中には
異変に気づいた者もいたようだ。だが、当然と言えば当然であるが
彼らの専らの関心はチキンリトルの容態にあった。結果として兆候は
見過ごされたのである。
救助部隊がまだ戦火の炎が燻っている現場に到着し上層部が
事件の真相を知るや否や、その対応は神速を極めた。
まず、リトルを身辺警護の名目でより設備の整った都市に移送をした。
まだ街であった頃の、この街の姉妹都市に。BSE(狂牛病)に対して
聊か、無神経な国家の施設に。
これによって極めて説得力の無い、体調の不調などの理由で
公(おおやけ)の場に見苦しい説明をしなくても済んだ。
わが国の将来を担うべき要人のイメージが尊ばれたのである。
(尤も、リトルは本当に昏睡状態が暫く続いていたのだが。)
次に些か用法を違えたとは言え、とんでもない副作用を引き起こした原因となった
製薬メーカーと密約を結んだ。買収などに掛かる資金面での援助を要請したのである。
軍上層部からのこの申し出は製薬メーカーにとっても願っても無い事であった。
服用したフルタミンの副作用により精神に異常を来たし、結果として数多くの
尊い命が犠牲となった事が公になれば企業にとって計り知れないダメージになる。
軍との密談に際して製薬メーカーの重役達は
「援助なんてとんでもない。我々が協力を申し出たいくらいですッ。」と口を揃えた。
軍にとって企業と結託するメリットは資金面以外にもあった。
当初、裁判で争うに際して、薬の副作用を理由として所謂(いわゆる)、心神耗弱の
状態であった事を主張すべきとの声もあった。しかし同時に、それは
国家の将来を担うべき身の尊き人物が、かって薬物中毒者であるかもしれぬという
汚点を残す事になる。要らぬ誤解を招く事は不適当であると軍の最上層部は判断した。
そして結果として条約違反を犯した我々が裁判を有利に進める為に
各国からインフルエンザの特効薬として大量に受注し、それに見合ったリベートを
各国の有力者、政治家に上納していた大企業を味方にする事は
各国の不適切なカネの流れなどの弱みを握ると共に
国際問題化したこの事件にとって強力なカードとなろう。
そして軍が最後の仕上げとして、誤射、誤爆に対しての説明は
暴徒と化した群集の投石を頭部に受け、気を失った要人に成り代わり
搭乗機を武装ゲリラとの戦闘で破壊され試作機に退避したドアン上等兵が
極めて激しい戦闘の最中という特殊条件も重なって、操作を誤り
自動操作システムに切り替えたという『 誤 操 作 』による
極めて不幸な事故であるとした。
尚、7時間も暴走し続けた件については戦闘による故障と思われる理由で
コンピュータシステムが取り消し信号を受け付けず、先の激しい戦闘で
負傷したドアン上等兵も失血により気を失い、ノーコントロール状態に
あったと主張した。
裁判はそれぞれの思惑が複雑に絡み、必要以上に長引いた。
各地で反抗作戦の準備を進める連邦はこの事件を大いに利用した。
また渦中の中立国であるこの国は漁夫の利を得んが為に被害者である事を
殊更、主張した。無論より多くの賠償金を得る為でもある。
そんな国家間の根深い争いの最中、取引に応じたドアンは今回もまた
開廷中に櫓を漕ぎ始めていた。流石に度重なる法治国家に対しての侮辱に
堪り兼ねて、係員は些か乱暴に彼の肩を揺った。
そして、ついに彼の身に起きた異変が尋常では無い事をこの場に居合わせた
全ての者が知る事となる。
肩を揺り動かされて目覚めた彼の異変を聞きつけて医師が駆け寄った。
医師達の呼びかけに彼はこう応えた。
「ぼくのなまえはどあんだよ?」
廷内に困惑の意思から発せられたドヨメキが鳴り響く。
それは精神が侵された男が失禁を犯した所為ばかりではなかった。
連絡を受けて本部からの救助チームが到着する。
先程まで真紅であった巨人の目が青に変わった。暴走は漸く止まったのだ。
呼びかけに応じなくなってから数時間が過ぎた専用機のハッチを焼き切る作業が始まる。
その傍らには専用機に破壊された旧型が佇んでいた。
その足元で茫然自失のガデム軍曹が涙を見せていた。
副官である私は部隊の失態を取り返す為に救助チームの作業に加わる為に
歩み寄ろうとすると、すぐさま屈強な親衛隊と思しき黒服の男達によって
行く手を阻まれた。そしてその一人が私の腕を強く掴むと、低くくぐもった声で
「収容所に来て頂きます。」と話した。
一体どういうつもりなのかと説明を求め、腕を振り払った時
私は見てしまった。
ハッチを焼き切る為にだけとは思えない程の重々しい防護服に
身を固めた男達が肉片に変わる瞬間を。
私は焼ききられたハッチの向こう側に得体の知れぬ何かの気配を
感じた。そしてそのまま気を失ってしまった。
裁判は結局、うやむやのうちに幕を閉じた。
一応、被害者にはそれなりの額の賠償金が製薬メーカーから支払われる事となった。
予想以上に長引いた戦争の最中ということもあり
我々も含めて誰もが余裕が無かった。
同情すべき被害者は不承不承ながらも積み重ねられたカネを受け取り
同意書にサインをした。
法廷内で心が壊れた事を証明してしまった男は、カネを受け取り終えた家族に捨てられた。
その事は寧ろ良かった事なのかもしれない。彼は自由を手にいれた。
判決を不服とする者、過激派達に護るべき家族達の命も狙われる事も無くなったからである。
男の治療にあたった医師らは診断書にこう記した。『 幼 児 退 行 』と。
私はすぐさま、その意味を理解した。そして良く今までもったものだと
彼の精神力に脱帽した。もし私があの時ガデム軍曹の機体に救助されずに
あの得体の知れぬ気配がした専用機に救助され半日近く狭い場所に
押し込められたとすれば多分、私は発狂していたに違いない。
そう言えばガデム軍曹は去り際にこう漏らしていた。
「やはりワシでは荷が重すぎた。あの方の母方の血は
姉君や兄君と同じもの
兄にあたるあの方の母とは血が違う。
いくら可愛い弟子からの頼みとは言え……無謀であった。」
私は歴戦の勇士が呟いた言葉の真の意味を理解した。
いつの間にか彼の診断書を持つ手が震え、止まらなかった。
補給部隊に転属したガデム大尉が戦死した。情報によると連邦との戦闘の際
無謀にも特攻したとの事だ。折角、彼の願いを聞き入れて私の師である事を辞するのを
渋々ながら認めたというのに……。残念だ。敵は必ずとってやる。
誠に私事で申し訳無いが、医師の話によると私はここ数日の間、頭部に受けた傷により
意識を失っていたそうだ。全く情けない話だ。友人が聞いたらまた笑うに違いない。
幸い、この事は医師らの取り計らいで極秘にされ兄や姉の耳には達してないと言う。
安心した。余計な心配を家族にはかけたくないからな。この事は私の心の内にしまっておこう。
そう言えば寡黙な男ドアンは南の島で絵を描いて過ごしているという。
なんでもゴッホの耳切り事件が何とかと訳の判らない理由で軍を失踪に近い形で辞したと聞く。
どうやって巨人を南の孤島に運んだかは判らないが兎に角、鬱病は厄介な病だ。
今度、見舞いがてら私の肖像画を描いて貰う事としよう。
そんな事を考えていたら副官のダロタが私の所に駆け寄って来た。
なんかお前以前より疲れた顔をしていないか?それに少し震えているぞ?
やっぱりチワワみたいだな。などと密かに思いながら書類に目を通す。
その書類はサンタが着る衣装と同じ色の男からであった。
私は嬉々としながらモニターを眺める。さあ、奴になんて声をかけようか?
(
>>76&
>>77に関しては変更する予定・・・・)
(みかん)
個人情報が流出する度に、担当者がフラッシュが瞬く場などでお詫びをするが
頭(こうべ)を垂れる彼らの表情には全く反省の色がない。何処か他人事のような
心情が見え隠れする口調で詫びの言葉を並び立てても、失った信用は決して得る事が出来ぬ。
尤も、既に人々は個人情報は漏れるものだと諦観(ていかん)している。
『 ま た か 』は度が過ぎると無関心に成り代わり、その害毒が澱(おり)の様に溜ってゆく。
それらの害毒のマグマが何時、何処で、どのようなきっかけで噴出すのかは判らない。
せめて我々に出来うるのは、多大な血が流れる事件も伴う噴火の時期を遅らせる事のみである。
自分達が生きている間は・・・・。
先の誤射&誤爆事件に引き続いて今回の失態は、個人情報の流出であった。
事件に関わった者達の情報全てが何者かの手によって盗み出されていたのだ。
あの忌まわしき事件の裁判の最中にも、死者が出た。
以前に副官とは全く割の合わない役職と小火いたが、今度の流失事件でまたもや
それが割が合わない事を宣告された。
もうとうの昔に事件はカタが付いたというのにチキンリトルは未だ
意識を取り戻さないでいた。本当だろうか?
医師達の説明に聊か疑問が感じられたが、深く関わりあうことの危うさを
あのドアンから学んだ。ここは余計な詮索をしないのが身の為である。
しかし、その考えは甘かった。元々、仕事?が出来ないリトルではあったが
お飾りという意味では彼に並び立つ者など何処にも居なかった。
丁度、あの国で放送されていた大河ドラマの主人公のように。
私も含め、断罪されるべき我々が、今更ではあるがお咎めなしに近い処分で
済んだ事が理解できた。上層部の中にも頭が切れる者がいるようだ。
リトルがいない所為で何かと運営その他の面で滞りが生じるようになった。
副官である私の仕事も当然の如く遅れがちになってゆく。やがて部隊内の規律さえも乱れ始めた。
そんな折に今回の流失事件である。流石に今度ばかりは厳罰を覚悟し
聴聞会に臨む。だが、予想に反して私の処分は何故か軽いものであった。
一体どういうことなのか全く理解できず、困惑の表情を隠せぬまま
幹部達が居並ぶ陰鬱な部屋を出た。
此処で引き金を引けば全てが終わる。
今、私は私の家族の命を奪った男の前に立っている。
男は微笑んだままだ。その瞳には敵意など微塵に感じられなかった。
情報に纏(まつ)わる噂は本当だった。我々はディープスロートと名乗る者から
あの事件に関わった者達の情報を手に入れる事が出来た。
それにより、男がこの実験施設に軟禁されいる事を知り得たのである。
私は銃を下ろし踵を返す。
私は看護婦であった頃の自分に戻っていた。
私の故郷はロシアと呼ばれていた国にあった。だが、隣国の化学工場の
爆発による環境汚染の影響で人の住めない土地になってしまった。
仕事を求め、少子高齢化が進むあの国の介護施設で働いていた。
そう、あの事件が起こるまでは。
仲間達が私の不可解な行動に対して罵声を浴びせる。
なんで殺さないのかと。
突然、銃声がした。弾丸は微笑む男の頬を掠めて飛び去って行く。
私は自分の目を疑った。アジトで子供達のお守り兼、留守番をしている筈の
オウカがその小さな手に銃を握っていたからである。
側にいた仲間も私と同じ思いを抱いたに違いない。
次の瞬間、オウカは仲間の手によって銃を取り上げられていた。
まだ幼さが残る復讐者の彼女は泣き出した。
母国の選手が彗星の如く現れた、弱冠十五歳の天才少女に敗れた。
全く若さとは素晴らしい。振り返ってみれば私にもあんな頃があった
筈なのに、何時の間にかこんなにも薄汚れてしまった。
人々の拍手喝采を浴びて、満面の笑顔の写真が大きく載った
機関紙を放り捨てて鏡の前に立つ。元より、化粧をするのは好きでは
無かった。だが、流石に三十路を超えた今となっては、何とか
取り繕わなければこの壁に掛かる罅(ひび)割れた鏡が
更に割れる事になろう。流浪生活の証である痛みきった髪を束ね
紅を引く。今ではこんな成りになってしまったが、これでも昔は
バレリーナを志した事もあったのだ。(遠い昔の話ではあるが。)
移動に便利とは云うものの、剥き出しの鉄骨が人によっては
忌まわしきシベリア抑留を思い起こさせる狭いコンテナの部屋で
ポーズを取って見た。
息を大きく吸い込み、瞳を閉じる。生活臭漂うこの空間を
闇の奥へと追いやると、私も銀盤の妖精になれた。
鼻歌を歌いながら白鳥の様に華麗に舞う……すると、突然
扉が大きく開け放たれ、ワンパク者のビフが
「でぶンガー!!ロラン姉ちゃんが病院から戻ってきたよ!?」
と喚きながら部屋に入ってきた。
私は、驚きのあまりタンスの角で足の小指をぶつけ、蹲る程の
激痛に涙しながら瀕死の白鳥の気分を嫌と言うほど味わった。
そして、鍵をかけなかった事を心から悔やみながら
現在の私の容姿を的確に現すあだ名を滑らせてしまった
ワルガキにどんな制裁を加えるべきか真剣に考えていた。
※でぶンガーこと「 オ リ ガ 」について
創作人物です。ロシア系の女性で設定年齢は20代後半から30代半ば
既婚者ですが別居中です。正確には夫はあの誤射誤爆事件で帰らぬ人となっています。
彼女の生まれ育った街は、お話の中では隣国が所有、経営していた化学工場の
爆発事故に伴う汚染で人の住めない街となっています。
尚、事故の際に流れ出た汚染物質が混入した水道水を誤って飲んだ為に
子供を授かる事の出来ない身体になってしまったという設定です。
理解ある夫と婚約するものの、その結婚生活は三ヶ月で破綻し崩壊します。
公然と浮気をするようになった夫に虐待される日々に耐えかね
シェルターに保護を求めます。離婚調停が水面下で模索される中で
誤射誤爆事件が起こり、現在に至ります。
彼女がお話の中で頻繁に家族というフレーズを使いますが、それは
行方知れずの夫の事を指すのではなく、虐待による
PTSD(心的外傷ストレス障害)から自己を防衛する為に
シェルターに保護された間に、余った布などを材料にして
女の子の人形を創ります。その人形に名前を付けて(因みに名前はアンナ)
わが子のように可愛がりますが、誤射誤爆事件の所為で
シェルターごと人形は燃えてしまいます。心の支えであった人形を亡くした事で
一時は忘れかけていた虐待の記憶がフラッシュバックし、以前よりも酷い
PTSDが彼女を襲います。
>>85 訂正
×
彼女がお話の中で頻繁に家族というフレーズを使いますが、それは
行方知れずの夫の事を指すのではなく、虐待による
PTSD(心的外傷ストレス障害)から自己を防衛する為に
シェルターに保護された間に、余った布などを材料にして
女の子の人形を創ります。その人形に名前を付けて(因みに名前はアンナ)
わが子のように可愛がります
○
彼女がお話の中で頻繁に家族というフレーズを使いますが、それは
行方知れずの夫の事を指すのではなく、虐待による
PTSD(心的外傷ストレス障害)から自己を防衛する為に
シェルターに保護された間、余った布などを材料にして
女の子の人形を創ります。実は彼女が云うところの家族とは
手作りの人形の事を指します。
家族となったその人形に彼女は名前を付けています。
(因みに名前はアンナ)
そして人形をわが子のように愛(いつく)しみます。
PTSDが彼女にもたらしたものは猛烈な食欲でした。
今では小康状態ですが、体重が以前よりも30キログラム程、増えています。
妊婦として、母とし生きる事が適わなかった彼女は喩え、容姿が衰えようとも
気にしませんでした。そんな彼女の精神力は自らの命を絶ってしまう程
繊細ではなかったようです。
現在の気になる容姿は良く言って中の下という設定仕様です。
芸能人で言えば性格は「北@ 晶」さんをイメージしています。
※子供たちについて
1stでは一応名前がある?ようです。
(未確認ですが)
お話の中では名無しでは都合が悪いので
勝手に命名しました。
カツ、レツ、キッカに倣い
ビフ、テキ、オウカにしてみました。
彼らは戦災孤児です。(一応、念のため)
>>84続き
環境難民という形で入国した我々は、戦争が始まるや否や真っ先にこの国から
見捨てられた。唯でさえ滞りがちであった救援物資は最早、新卒者の
就職内定率並に希望が見出せないものと成り果てた。冬の本格的な訪れと伴に
仮設住宅とは名ばかりの不衛生極まりない難民キャンプではインフルエンザが
猛威を奮い、寒さには慣れている筈の人々の命を次々に刈り取っていった。
飢えと貧しさに耐えかねてついには犯罪に手を染める者も出始めた。
彼らの中にはこの国の犯罪組織の手先となって市民レベルでは他国の難民よりも
割合友好的であった彼らの血まで流す事件を犯してしまう者もいた。
草の根の活動で積み上げてきた信頼は脆くも崩れ去り、仁慈の事業である筈の
医療活動でさえも罹患者がロシア系と云うだけで診療を断る病院が多くなっていた。
私(オリガ)の従姉妹であるロランが各地の病院を盥回しされた挙句に
荒くれたちが犇めくこのアジトに来る羽目となったのはそんな理由があったからである。
そして醜いまでに太っているとは云え、このアジトの中でかなり私が
優遇されているのは私がかって病院で看護婦として働いていた経歴が
モノを言っていた。本当は嘆かわしき現実であるが、これが
弱者を常に切り捨ててきたこの国の社会システムというものである。
達観したような事を言っているけれども、今では私は
ボタンがきつい白衣(ナース服)を着たまま無表情で画面に
上段蹴りを喰らわせるアーティストのPVさながらに
心は荒み切っていた。その表れが先程、私の恥ずかしい瞬間を
目撃してしまったビフに対するおしおきだ。
流石にこの国のどこぞの親みたいに殺してしまいそうな攻撃は
避けたが。
従姉妹のロランはあの男と同様に心が壊れていた。
そう、忌まわしき誤射事件の所為で。私があの時、引き金を
引くのを躊躇い、結局出来なかったのはその所為もある。男をアジトに
人質として連れて行く事を血の気の多い仲間たちは渋っていたが
ロランの治療の際に色々と役立つかましれないと説得すると
事件、事故の所為で心が壊れた家族を持つ者も多い事もあって漸く
納得してくれた。だが、その時オウカの銃を取り上げたリーダー格に
おさまっていた男の一人がこの私に品定めするかの様に私の身体を眺めた。
そして急にげんなりした顔つきであっちに行けと手を振った。
今の彼らにとってトレーラーに横たわる戦利品の巨人の方が魅力的だったようだ。
(乗り方も動かし方も判らぬくせに)
私は女としての自分のプライドが酷く傷付けられた気がした。って言うか
傷付いた。orz そして去り際に男の一人が言い放った言葉に私はキレた。
「 ツ ン で ぶ 萎 え 〜 ☆ 」
私は次の瞬間、あの男に向かって如何しても撃てなかった銃弾を
全弾撃ちつくした。そして情けない悲鳴をあげる男達に向かって
「安心しろ、急所は外してやる・・・・」
と呟いた。嗚呼、スッキリしたw。
そんな事を思い出しながらベットで眠るロランを見る。
棚には収容所から奪い取って来た薬品の数々が納まりきれずに
溢れ返っていた。これで少しはマシな治療が出来るかもしれないと
ほっとしながら、あの男に関するカルテを観た。健やかな寝息を立てる
ロランは私のアンナとは比べ物にならない程の美しい髪と透き通るような
白さの肌を保っていた。到底、私なんかはお呼びではない。orz
まだこんなに若いのにどうして?……と思いながらも心の底では
軽い優越感を覚えていた。
……嫌な女。
すぐさまその思いを打ち消しながら、そんな思いまで浮かばせる
彼女の若さと美しさに嫉妬した。
「マイアヒー♪」
外からあの男の歌声が聞こえて来た。それに続いて子供達の歌声もする。
とても楽しそうだ。今では彼は、戦災孤児達の良い遊び相手で
少しばかり頼りないお守り役になっていた。私を含め、周囲の者を驚かしたのは
親の敵である彼に向かって銃を撃ったわがままオウカまでもが
彼と一緒に謳歌している事だ。
私は医療に携わる身でありながら、心が壊れ子供のようになってしまった
あの男にも嫉妬している自分がたまらなく惨めに思えた。
そして、もう二度と銃を手にする事は止めにしようと
神に誓った。……その時
「のまのまイエイ♪」
!?
眠っていた筈のロランがはっきりと呟いたのを耳にした。
それが奇跡の始まりだった。
殺伐としたアジトに久しく見られなかった微笑ましい光景がそこにはあった。
あの時、苦し紛れに言い放った言葉がまさか本当に叶う事となろうとは。
神様もたまには味な真似をしてくれる。
男とロランは日に日に回復していった。純粋な子供達とふれあう事が
良い結果を生み出している事は誰の目から見ても明らかであった。
彼らと遊ぶ事は戦争で親を亡くした子供たちにとっても
一種の安心感を齎(もたら)した。彼らは嘘をつかない優しくて良い
大人として子供達から信頼されていた。
彼らはと子供たちは互いに補完しあっていた。
誠に皮肉なことであるが、豊かさと利便さを追求した先進国の
個々の家庭がとうの昔に失くしてしまった暖かい絆のようなものが
そこにはあった。貧しさと不便さを通り越して命の危険さえも付きまとう
難民キャンプの場所で。
そんな彼らの人としての暖かさが傍らで見守る事しか出来ない
我々の心情に訴えかけてきた。
それは争うことの虚しさを思い知らしめるのには十分すぎるものであった。
何かが此処で培われ、個々の何かが変わろうとしていた。
そう……確実に。
>>98 訂正
×そんな彼らの人としての暖かさが傍らで見守る事しか出来ない
○そんな彼らの人としての暖かさを傍らで見守る事しか出来ない
そんな空気の中で私は心を惑わせる質問を不意に投げかけられた。
今まで無口で目立たない子供であったテキの口から。
「なんでオリガはドアンと結婚しないの??」
私は一瞬、言葉に詰まった。そんな事など考えてもみなかったからだ。
そして同時にあの男が天罰ともいえる裁きを受けて、心が壊れてしまったとしても
この私を含め、ここにいる者達の家族の命を奪った事に何ら変わりが無い事を
思い起こさせた。あの男は憎むべき敵なのだ。騙されてはいけない。
眉間に皺を寄せた時、再び質問される。
「ねえ?どうして??」
大人しい無口だった子が、残酷な言葉を投げかけた。
……と風に乗って子供達と男の笑い声が聞こえていた。
オウカがあんなに楽しそうに笑っている。ついこの間までは
手に負えない子だったのに。
ビフは少し成長したのかもしれない。虫や動物を虐める事や
大人を本当に困らせる悪戯をしなくなった。
ロランの美しい歌声までも聞こえる。
そういえば私が最後に心から笑ったのは何時だっただろうか?
何故か涙が零れ落ちてきた。そんな私にテキは
今まで誰にも貸した事などない彼の母のハンカチを私に差し出してくれた。
私は、自分が本当に子供だった事を大人になった子供達から優しく諭された。
アジトに祝福の鐘が鳴り響く。私は2度目の結婚式を挙げることとなったのだ。
ウェデイングドレスを着る為につらいダイエットをしなければならなかったが
そんな辛さも今となっては良い思い出だ。あの男……新郎であるドアンは
相変わらず子供のような笑顔で仲間たちの祝いの言葉に応えていた。
ロランも夫も順調に回復している。完全に心を取り戻すのはもう時間の問題だろう。
最近ではおしゃまな口を聞くようになったオウカが口を尖らせた。
「私がドアンのお嫁さんになりたかったのにぃ!!」
流石にこれには苦笑してしまった。芸能人でもあるまいし、その歳の差は
やはり道義的にマズイでしょうwっていうかヤバイ。
アジトの口の悪い男たちにや密かに夫を狙っていた女たちは口々に
「ロランに盗られる前に盗ったな?」
などと言う始末である。うふふふ……
>>101 訂正
×アジトの口の悪い男たちにや
○アジトの口の悪い男たちや
人々の祝福を一杯に浴びながら儀式は滞りなく進んでゆく。
そしてついに誓いの言葉の後、ドアンが照れながら私に口付けしようと
身をかがめた。大丈夫、この間あんなに練習したじゃないか。
皆が固唾を呑んで待ち構える中で
もたつく新郎ドアンに少々焦らされた気分を味あわされた私は
待ちきれずに閉じていた瞳を開けた。
その時、何か空の向こうから光る物が
迫り来るのに気付いた。
『 精 密 誘 導 弾 だ !!』
愛の証である口付けをしようと私に覆いかぶさる夫を
私は思いっきり突き飛ばした。
閃光が私の身体を包み込む。白いドレスは光と一緒に溶けて行くようだ。
眩しさのあまり瞳を閉じたとき、私は見た。
私の夫、ドアンと
私には決して産む事が出来ない私たちの子供の姿を
幻なの?
夢なの??
嗚呼、このまま醒めなければいいのに……
そう思った時
私の耳に鐘の音に似た轟音が響いてきた。
鐘の音が爆音に変わった時、私は……自分は目覚めたくない夢から完全に目覚めた。
長い眠りから醒めた私が最初に見たものは
白いドレスを鮮血で染めた妻の変わり果てた姿だった。
この世で最も見たくない光景を私に贈ってくれた神を心から憎んだ。
そして、今まで私の身におこった全ての出来事を一瞬で悟る。
神に呪いの言葉を呟きながら今、自分が何をするべきなのかを
明確に理解できた。
列車事故の現場に居合わせたかのような惨状がそこにはあった。
神の御前で愛を誓う場所だったのに。たくさんの人だったモノから
血を浴びせられたロランが半狂乱になっていた。
私は彼女に駆け寄ると彼女の頬を強く張り飛ばした。
『!?』
漸く我に返ったロランにシェルターに急げ!と指示を与えた。
未だ何が起こったのかが判らない子供たちを連れてよろめきながらも
彼女は気丈に進んでいった。そんな後姿を見ながら
「大丈夫、お前は強い子だ……」
自分にも言い聞かせるように、ともすれば掠れそうな声を張り上げた。
あふれ出す涙で前が見えなくなる心を奮い立たせ私は
あの時、奪われたままの状態で放置された巨人が眠るトレーラーに向かって
走り出した。
(こいつ動くといいなぁ…)
そんな不安とともに巨人の身体を覆い包むシートを引き剥がすと
胸部のハッチが現われた。中に滑り込んで確認をする。
OK、大丈夫だ。もう怖くは無い。あの時チキンが発していた
得体の知れぬものの恐怖にも打ち勝つ事が出来た。
今の私ならば例え、エネルギーゲインが五分の一でも勇気百倍だ。
スロットルを全開にし巨人を起動させる。
眠っていた巨人の瞳が今、開かれた。
囚われのガリバーは今まさに、眠っていた男の手によって目覚めたのだ。
力強く大地を巨人が踏みしめる。
ザク、大地に立つ
アジトは炎に包まれていた。私はゲリラの手によって奪い取られた巨人を駆り
かって師であった男と対峙する。
「ほう……格闘か?面白い…落ちこぼれだった貴様にこのワシが倒せるかな?」
昔と変わらぬ大音声がスピーカーを震わす。旧式とはいえ格闘戦に於ける
その戦闘能力は私が乗る巨人を遥かに凌駕していると聞く。
しかもこの巨人は整備不良のまま長い間トレーラーに放置されていた。
嫌な汗が背を伝う。じりじりと間合いを詰める師=ガデム軍曹の旧式が
さらに大きく見えてきた。
「ふふふ……怯えているのか?ドアンよ?」
確かにそうだ。師が初めて見せるプレッシャーとも言うべき
底知れぬ力に圧倒されていた。
「そんな事ではあの子たちは守れんぞ?」
!!そうだった。私はもう逃げることが出来ない男になっていた筈だ。
師匠…いえ、ガデム軍曹…ありがとうございます。
私は大きく息を吐き出した後、巨人の右拳を突き出し、180度回転させた後
拳を広げて『 挑 発 』のポーズを示した。
「 小 癪 な ッ !!」
師は激高する。そして怒りから生じた一瞬の隙を
私は見逃さなかった。
先の作戦についての報告書を認める。この国の武装ゲリラと密接な関係にあった
外国人が多数所属する不穏分子の拠点の一つを壊滅させたのだ。
情報を意図的にリークした効果は上層部の中でも取り分け陰湿な側面を隠し持つ
一派の狙い通りの結果をもたらした。
あの事件に関わった者のうち将来、情報の漏洩を犯すリスクの高い者たちと
その家族の抹殺、そしてゲリラの掃討をも同時に兼ねていた本作戦は
一様に成功を収めた。全く姉派の考える事は恐ろしい。
正規軍人ではないテロリスト達を収容し拷問と虐待を繰り返し行っていた
明日暮伊部収容所が襲撃された時、ゲリラ達の手によって殺されたものと
思われていた囮役兼、漏洩リスクが尤も高い者の一人であるドアンが
生き延びていて壊れていた精神の働きさえもが師である私を打ち倒すまでに
回復していたのには嬉しい誤算であった。
作戦は大成功である。こちら側の損害はごくごく僅かに止まった。尤も
この報告はクソ作戦を立案した諜報部にとっては、私を含め
情報を漏らしかねない事件を知る者達が予想以上にしぶといのを知って
腹をたてているだろうが。
損害の報告欄に巨人2機大破。うち1機はゲリラ達の不意討ちによって
海中に没した為、回収不能と記入した。
トレーラーが地響きをたてながらワシの旧型を運んでゆく。
今度、この旧型が破壊されるときはきっとワシはこの世から消える事だろう。
そんな予感が頭を過ぎる。コロニー落としによる環境異変の所為で
狂いだしたツバメが季節外れの空の中を飛んでゆく。
ワシはワシに止めをささずに去っていったドアンとその子供達が
無事にこの国を脱出(エクソダス)する事を心から願った。
風が冷たい風が開け放った窓から入って来た。
ずいぶん前に書いておいた転属願いが煽られていた。
私は泣いた。子供達の前だというのに泣きじゃくった。
オリガは息を引き取る前に私に子供達を争いの無いどこか遠くの場所に
連れて行くことを頼んだ。ガデム軍曹との戦いに勝利した後で
この作戦の真の意味と、自分のかっての家族が私を捨てて程なく
全員行方不明になった事を聞かされた。
私はひとしきり泣いた後再び巨人を操り、この国から旅立つ事を決めた。
子供達と連れ立って行く私の後姿を見て師は去り際に
まるで子連れ狼のようだな…と漏らした。
そしてまるで独り言のように警備の手薄な港とタンカーの情報を与えてくれた。
私は師の計らいに心から感謝をした。
チキンリトルがついに公務に復帰した。多少記憶に混乱が見られる所もあったが
実際の所はあまり問題にならなかった。以前と全く同じであった。
何よりも重要なのは彼がお飾りの役目を果たすべく元気な姿を公の場に晒す事が
重視されていたのだ。その意味と理屈はあの国の象徴というべき者に等しい。
漸く激務で死に掛けていた副官である私も楽が出来る。
先日、ガデム軍曹が職を辞するのを見て私も潮時かと思い始めていた。
するとそれを察してかチキンは急にドアンの消息を尋ねてきた。
思わず私は厄介な事にならないように口からでまかせを喋った。
彼が昔、画家を目指していた事を交えて一応、私なりの皮肉も
込めたつもりだが。どうやら伝わってはいないようだ。
やれやれ、私はこの坊ちゃんと骨になるまで付き合わなければならないようだ。
畑のトウモロコシ、ジャガイモ、小麦・・・
全ての作物が順調であった。私はこのクリスマス諸島のはじに浮かぶ
無人島の意外な豊かさに感謝した。これで今年のクリスマスには
たいへんなご馳走が出来るだろう。今ではロランの料理の腕もめっきりと
上達し、粗食に慣れていた子供達も全部残さす食べるようになった。
(最初の頃はそりゃ酷かったもんだ、本当にオリガが迎えに来てくれたよ。)
そのロランであるが、オリガが残してくれた医学に関する本で今日も勉強している。
勉強に熱中するあまり何時の間にか彼女は朝を迎えることもしばしばだ。
私は何時か彼女を医学の大学に進ませてやりたいと思っている。
こんな島に何時までも引きこもるのは良くない事だ。
少々、危険が伴うけれどあの巨人をスクラップにして売ろうかと思っている。
南半球ではクリスマスは真夏である。
流石に無人島のここでは誰がサンタであるかバレてしまうが
優しい子供達はきっと目をつぶってくれるに違いない。
毛布をかけ直してやる。彼らの健やかな寝息が
私にとってもオリガにとっても最高のプレゼントだ。
私は降る様な星空の下で流木を手に取ると先日この目でみたばかりの
イルカをイメージしながらナイフで削った。
これは…オウカ向きのプレゼントになるかな?
案外、ビフも喜ぶかもしれないな。テキには絵を描いてやろう。
…流れ星が水平線の彼方へと落ちていった。
ドアンはまだ起きて何かをしているようだ。
プレゼントなんてみんないらないのに…そう。
あなたが此処にいるだけでいいの。
私はそう日記に書きかけて恥ずかしさのあまり思わず辺りを見回した。
するとさっきまで寝ていた筈のビフがニヤニヤしていた。
テキはオリガの本を読んでいた。嘘?もうそんな所まで理解できたの?
オウカはすんごい目つきで私を睨んでいた。
ごめんなさい。私には才能がないみたいです。
エクソダス中のお話
ジョン万次郎ならぬドンアン次郎物語はまたの機会に書こうかと思います。
ロラン
(おわり)
推奨参照スレ
私はカイになりたい
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/x3/1088860060/l50 IDにKaiと出てもセイラさんにぶたれるスレ14発目
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/x3/1128273725/l50 受話器の向こうからぼやき声が漏れ聞こえてくる。
どうやら、今回のターゲットも望みが薄そうだ。
「カイか?何の用だよ?」ハヤトのくせに生意気な口調だ。
何時の間にそんなに偉くなったんだよ。本当に……orz
今や、奴の肩書きは、東証にも上場している海運会社の社長である。
元、WBクルーの中で一番の出世頭となった奴に劣等感を覚えつつ
話を切り出す。
「新年おめでとう。元気そうじゃないか!ハヤト!」
自分でもどこか可笑しいと思いながらも挨拶をする。
「……」
そんな俺を訝(いぶか)しむかの様に受話器は沈黙する。
やり辛いなぁ…と頭を掻きながら会話を繋ぐ。
「あのな実はさ、新年早々で悪いけれど、お前に少しばかり
頼みたい事があってさ…電話したんだ。
昔の好(よしみ)でちょっと聞いてくんねーかな?」
『金なら貸さないぞ…』
「うっ…」
俺は、奴がすぐさま発した言葉に次のセリフが言葉にならなかった。
今までの経験から学習して折角、苦労して昨晩書き上げたマニュアル件
シナリオが台無しになってしまった。
ハヤトは言葉につまる俺に追い討ちをかけてきた。
「ジョブ・ジョンから聞いたよ。
カイ…お前、みんなに電話しまくっているそうだな?」
NHKの番組、『ご近所の底力』の効果かどうかは知らないが
最近はどんな職種でも、営業活動の基本中の基本『テレアポ&コール』が
芳しくない。って云うか電話やメールすら繋がらない事例が多くなっていた。
「な、なんだよ…ジョンの奴、そんなデタラメをみんなに言いふらしているのか?」
俺は、見苦しい程にキョどりながらも続ける。
「あんな奴の言う事を真に受けちゃ駄目だぜ?」
「………」
さっきよりも長い沈黙を受話器が挙動不審の俺に伝えた。
嫌な汗が背中を伝う。兎に角、上手く誤魔化そう。そう思いながら
乾いた口を開く。
「おっと!そんな事を言っているヒマじゃないんだ!あのなハヤト?
今度さ俺、会社を興したんだ。それでさぁ…新商品を企画してさぁ…」
駄目だ、マネーの虎で『ノーマネーでフィニッシュです。』と宣告された挙句
怖いおじさん達からいじめられ、人格までも否定されて怒られる奴らみたいに
早口になっている。俺は夏でもないのにびっしょりと汗をかいていた
俺は電話を切られまいと必死で話をした。こんなに頑張ったのは
多分、あのミハルが死んだ時…以来かもしれない。
某証券&先物営業マン、某広告代理店営業マンの
マシンガントークよりも遥かに上をいったと…思う。
だが、悲しいかな一度失った信用を取り戻すのはなかなか難しかった。
ましてや受話器の向こうの相手は、あの戦争を一緒に戦いぬいた
旧知の仲とは言え、今では一流企業の社長の椅子まで登りつめた男だ。
一筋縄でいく筈がない。だから、普段の仕事をほっぽり出して
入念に断りに対する模範解答マニュアルまで用意したのだ。
(結局、無駄になってしまったが。)
汗でベタつく受話器は未だ沈黙を守り続けている。
それでも、なんとか熱意だけは伝わるだろうと必死に説得した。
ニュータイプなら分かり合える筈だ。
奴の長い沈黙に耐えかねて俺はついに口を滑らせてしまった。
そう、証券&先物会社等では禁句とされるあのフレーズだ。
『 絶 対 儲 か る っ て !』
俺は低俗な雑誌等の裏表紙にある怪しげな商品広告並みの
フレーズを口にした時、たまらなく自分が惨めに思えてきた。
電話はいつの間にか切れていた。
ああ、また一人…友達を無くしてしまった。
昔、某人気タイトルの壷売りミニゲームをプレイした感覚が
甦ってきた。
うな垂れながら、受話器を置く。
乾いた音が何もない部屋に虚しく響いた。
戦いが終わり、時が過ぎていった。WBのクルー達はそれぞれの人生に向かって
歩み始めていた。ここで言っておきたい事は、俺達の目覚ましい活躍に比べ
軍や政府が俺達に与えた報酬と権利はあまりにもしょっぱかった。
だが驚いたことに、そんな恩知らずな組織であっても戦後、軍人として生きる道を選んだ者が
あれほど冷たくあしらわれていたのにも係わらず、意外と多かったと云う事だ。
(尤も、今の俺様の有様を見たら彼らはそれが正解だった、勝ち組だったと思うだろうが)
俺が今、限られた情報網で知り得たみんなの近況をちょっぴり説明すると
こんな感じである。
まずはブライト艦長
元々、エリートで軍の仕官候補生だった事もあって当然のながら
軍に残った。って云うか残らざるを得なかった。ミライさんとの
結婚を控えている為にまずは生活の安定を選択したのだ。
(まだ各地でテロ活動が治まっていないのに…である)
軍からの功労金も自分の乗る船が沈んだ癖に俺達より多かったようだ。
クソっ!もっと薄い弾幕にしとけば良かった。
…はっきりしないブライトを将来、尻にひく事が確実なミライさん
ミライさんはヤシマ家の令嬢って事もあって軍には残らなかった。
まぁ、当たり前とはいうものの実家が金持ちなのは正直、羨ましい。
聞くところによると、現在…殺伐とした戦いの日々を忘れる為の
リハビリ=花嫁修業に勤(いそ)しんでいるとか。
おっ母さん大変だなw
ハヤト
柔道をやっていた事もあって体力には一応、自信があったみたいだ。
何せマケボノ…じゃなかったリュウさんを投げ飛ばしたぐらいだからな。
戦後の混乱期であってもその体力と誠実さを買われてか、いろんな所から
スカウトされたそうだ。だが何故か奴は全てそれを蹴って…いや、投げて
引越屋さんに就職した。そして肉体労働で稼いだ金をコツコツと貯めて
独立、軍から支給された恩給と併せて小さな会社を興した。
戦後の建設ラッシュと引越ブームという潮流に乗ってあっと云う間に
大企業に育て上げた。今では居を構える土地の名士となり
建設中の戦争博物館の初代館長にならないか?という話もきているそうだ。
結婚式の結納をもう少し減らしとけば良かった。クソっ!
フラウ
戦後間もなくハヤトと婚約した。その事はみんなも知っていると思う。
だが、これは流石に知らないだろう?実はあの時、子供達を引き取るのを
みんなが面倒くさがって渋るのを、嫌な顔ひとつせずに寧ろ嬉々として
3人まとめて引き取ったのかを。それは普段、新聞ニュースを読まない奴らが多かった
WBクルーの中で唯一、暇な時間が多かった彼女は
今度の政府が打ち出した特例措置『子育て支援計画』で
子供一人当たりの支給額が実は馬鹿にならない
金額だと言う事を密かに計算していたのだ。
流石は将来の出世頭を嗅ぎ分ける嗅覚を持つ女。
地味な仕事をそつなくこなすのは伊達じゃないって事か。
俺も一匹貰えば良かった。キッカあたりを……クソっ!
オスカー、マーカー、ジョブ・ジョン
はっきり言って、こいつら3人の事など誰も気にも留めていないと思うが
一応、説明しておくと3人まとめて軍に残ったそうだ。まぁ…取り立てて
書くこともないし、興味もわかない。電話するまでどんな奴だったか
忘れかけていた頃だった。でも安定した収入があるのは正直羨ましく思う。
無論、命の保障はない組織で飼われる事には疑問符がつくのだが。
セイラさん
やっぱりジオンとの繋がりがあるようだ。それ故に
功績に対して俺達よりも少ない報奨金だったそうだ。
だが、忘れてはいけない。彼女にはトランク一杯の金の延べ棒を
(現在1gあたり2000円前後、総額は一体幾らになるのか見当がつかない。)
戦いの最中であっても贈ってよこす支援者がいるのだ。
意外と戦死者が少なくて分け前はたいした金額ではなかったのだが…
本当に正確に山分けけしたんだろうか?
今では無茶苦茶高い筈の地球永住権を獲得して高級リゾートで
ホテル暮らしをしているそうな。言わばセレブだな。
容姿端麗、頭脳明晰、生まれながらの勝ち組だ。とても敵わない。
あの時、トランクごとネコババしとけばよかったクソっ!
おまけにぶたれた頬まで疼いてきやがった……orz
アムロ
こいつは違った意味で痛すぎて話にならない。風の噂によれば
親父と一緒に入院中とも聞いている。いくら功労金を貰おうとも
肝心の心と精神が壊れていては……流石に羨ましいとは思わないな。
ハヤトとフラウの結婚式にも来なかった。って言うか呼ばれもしなかったようだ。
フラウや子供達はちょっぴり寂しそうだったが。
……とまぁ、こんな感じである。え?俺?
ぬっふふふ……平日、しかもこんな時間に
2ちゃんやっている俺なんかの事を聞いてどうするんだよ?
ああその通り。ご明察。
無職だよ。
軍なんかに残るのはまっぴら御免だし、かと言って俺はハヤトみたく
ちまちま働くなんて性に合わないからな。
なんてったって元ヤンキーだし、下流階層の出身だしな。エリート達と比べないでくれ。
これでも精一杯、生きているんだ。軍からの金?
そんなもんトウの昔にスッちまった。株でな。
戦後間もない頃、俺は軍からの功労金を元手に
その時、流行っていた新たな人種『デイトレーダー』になった。
今まで読んだ事もなかった経済新聞も隅から隅まで読むようになった。
(何せM&Aをモビルアーマーの亜種って思っていたぐらいだからな。)
俺の相場観は初心者にしてはなかなか良い所を突いていた。
何せ逆に張れば全て儲かっていたんだからな。
まずは手始めに建設関連の株を買い漁った。破壊されたインフラの復興特需が見込めたからだ。
建設関連を買った…までは良かった。
だが、問題なのは株を買ったその企業だった。
記憶に新しい事と思うが、一連の強度偽造詐欺のせいで
俺が大枚をはたいて買った株券は紙屑同然となった。
破産が宣告された企業の記者会見でなおも憮然とした表情の社長が
俺達に言い放った言葉を俺は忘れない。
『出資者は無理難題ばかりをおっしゃる。』
俺は灰皿を投げつけた。
嘘でもいいから誠意ある謝罪の言葉が欲しかった。
無論、公式の会見の場でTPOもわきまず
『社員は悪くないですからッ!』
と…泣き喚くのは論外であるのだけれども。
所詮はDQN等が集う業界だ。俺は大火傷をしながらも学習をした。
さっさと決済を済ませ、次の銘柄に狙いを絞り込んだ。
今度は、一連の戦争によって環境破壊がもたらした
気象変動で特需が見込める家電メーカーの株を買った。
この企業はエアコン及び石油ファンヒーターを数多く開発し
社会認知度も高かった。
なにせあの永遠の庶民派アニメ『サンダースさん』の提供もしているのだ。
だが、その期待はものの見事に裏切られた。
『たいせつなおしらせがあります』
件のCMが流れるや否や、株価は急落した。
またもや高値をつかまされ、大損をした俺は
巨大なマーケットに一個人で戦う事の無謀さと限界を感じ始めていた。
だが、そんな俺にもささやかなプレゼントがあった。
はずみ証券の誤発注による『クリスマスプレゼント』だ。
それは今までの損失を一気に挽回し、おつりまで来る計算であった。
まさに起死回生の一瞬であった。当然、俺は鬼のように買い漁った。
なにせ株価は1円なのだから。
「うはは!笑いがとまらねぇ!!
うんこハヤトの会社なんざぁ、この金で買ってやるッ!!」
俺はその時、天下を取った気分になっていた。
だが数日後、信じられない事が起きた。
今にも死にそうなじいさんが、震える手で原稿を持ちながら説明をする。
『システム障害によるものと思われるあの一連の異常な取引は
市場原理からあまりにもかけはなれている為、超法規的措置を
適用するものとする。』
俺はそのニュースを知るや、全身の力が抜けていく感を
味わった。そしてさらなる軍資金を得る為にチワワ金融から多額の
借金をしてしまった我が身を呪った。
今日もまたチワワ金融の取立て屋がやってきた。
彼等の取立ての酷さは想像以上だった。
『普段から鞭なんか持ち歩くのかよ!!』
俺は思わず叫んでいた。
奴等の取立ての酷さはとてもじゃないが此処に書き表せない。
激戦を生き抜いてきたと自負していた
俺のキャパを軽く超越している。
例えるならば
『IDにKaiと出てもセイラさんにぶたれるスレ14発目』
と言った所か。
鞭に打たれながら俺は
『このまま死んでしまってもいいかも……☆』
などと思いはじめてきた。orz
「……なあ?ハヤト絶対に無理だって!止めときなよ!」
またしても船の左舷で何やら少年達が騒いでいる。
今回は人体練成で失敗した経験を生かし
(生き返らせようとしたリュウはかなり太っていた為
用意した構成物質が少々足りなかった。煙がもうもうと
立ち込めたのはその所為もある。)
火災警報装置はきちんと止めたらしい。
「うるさいなぁジョン…今ならパーツが余っているからいいじゃないか!
それにアムロはガンダムMA形態で出撃中だし、こんなチャンスは滅多にない!
漸く人の形になれるんだ!……タンクが……。」
「そうだけどさぁ…絶対無理だと思う。バランス悪いよ。
それになんだか嫌な予感がするんだ。ハヤト。」
この船では目立たない存在である少年がクリスマスを目前に控え
意中の女の子のハートを射止めるべく奮起するのは無理からぬ事であった。
もう一人の彼以上に目立たぬ少年が必死に止める。抜け駆けは許さないぞと。
そんな男同士の熱い友情が
かび臭く、湿気った船底で交わされていた。
「じゃあ俺の合図で頼むよ!」
「やれやれ……どうなっても知らないよ?」
「いくぞ……せーの!!」
同年代の少年達よりも少しばかり背の低いハヤトは自分を良く知っていた。
両手を叩いて音を出し合図をする。この方が手を振って合図するよりも
遥かにわかり易い。
だが……やはり人の形成らざる物を練成合体するのは
無理がありすぎた。両肩に長い砲身を装備し、両腕にバルカン砲を仕込む
がっしりとした上半身のタンクを支えるには、タンクに比べスマートな
白タイツの足とも思えてしまうBパーツはあまりにも貧弱すぎた。
ジョンが指摘した通り、それは前のめりになって
両手を合わせるハヤトの頭の上に倒れてきた。
もし、この瞬間を横から覗いたらきっとこう見えるに違いない。
少年が礼拝堂か何かの場所で神や仏様に祈りを捧げていた時
とんでもない精度の爆撃が起きたと。
死を覚悟していたハヤトは自分の背の低さに感謝した。
そして尚も懲りずにGパーツの先っちょとBパーツの練成合体図を
思い描いていた。「なんだかイカみたいだな……」そうつぶやいて気を失った。
船底が倒れた人の形成らざるものの巻き上げる埃と地響きに震えた時
ひとり取り残されたジョンは、上から聞こえてくる船長の怒鳴り声に
なんて言い訳したら良いのか必死に考えていた。
(おわり)
>>133の続き
追い込まれた俺はなんとかして稼ぐ方法を考えていた。
そして、ついにその方法を見つけた。あの戦争の体験を本にするという事に。
あの大ヒット魔法少年映画も作者は食うのに困って書いたと聞く。
当然の如く俺は困っていた。条件は限りなく同じだ。しかも俺には強みがある。
なんてったってこの戦争の勝利の立役者とも言っても良いWBのクルーなんだから。
あんまりストレートに体験を書くのは流石にはばかれた
更に金に困っているとは言え、さほど活躍していない俺が
体験記を書くのはどうかと思った。だが、背に腹は変えられない。
俺はおこがましいとも思いつつペンを執った。
実はタイトルは既に決めてある。『ホワイトバスの冒険』だ。
内容は俺たちが経験した通りのエピソードを踏まえ、誰かに訴えられない様に
隠喩で真実をオブラートに包む様にし、虚構も少しなかり交えながら
話が進む形式だ。うん。これなら後で『何かあった時』も『何かしでかした時』も
言い訳がつく。去年、世を騒がせた毒殺日記や自殺志望者殺人小説に学んだ事だ。
そうだな……元ヤンキーの俺が、書きやすいようにこんな風にしたいと思う。
『俺達を乗せて社員旅行に出発したバスが
いろんな事件に巻き込まれながら目的地に辿り着く』
どうだろうか?子供の頃読んだ十五少年漂流記みたいだな。
そういえば『バスジャック』というタイトルの本も出ていると聞く。
勘違いして俺の本を買ってくれる奴がいたらしめたものだw
・・・ってな事を取り立てに来たチワワ金融の奴に話したら
いつもより酷くムチでぶたれてしまった。orz
そうだった。自費出版と云えども、ものすごく金が懸かるんだった。
やっぱり真面目に仕事?をしよう。
俺は再び手帳を取り出し、電話をかけ始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
無告の民が再び無辜の民を死に追いやる暴挙に出た。
彼らの怒りは至極、尤もであるがこれ以上
この地を汚す事は許されぬ。
行くぞ・・・『チョサン』
ここで我等がやらねば、誰がやる?
見よ!我が愛馬『ロシナンテ』も
武者震いが止まらぬと見える。
手綱にまでその震えが伝わって来ておるわッ!
『我が名はドン=テム・レイ!!義によって
助太刀致すッ!海賊共よ!覚悟せいッ!!』
高らかに名乗りを上げて愛馬『ロシナンテ』こと
人馬一体型MS『ギャンゲル』を駆る。
この青く煌く星の地が自ら発する力に・・・
海賊共が言うところの魂を囚われる力に
吸いよされ、落下しつつある
巨大な風車=コロニーに向かって
私は突進しようとした。
しかし、愛機が動かぬ。何故だ!?
見よ!細胞の論文をでっちあげ、廃人同様だった
チョサンの人馬一体型MA『ゲルギャン』に
遅れを取ったではないか!!
騎士であるワシをからかうのは止せ!
愛馬『ロシナンテ』を叱責する。
だが、その憤りが機嫌を損ねたのか手綱(スロットル)に伝わる
振動がさっきよりも更に酷くなった。
『ええい!臆病者めがッ!
ワシに恥をかかせるつもりか!?』
そう叫んだ時、目が覚めた。
いつの間にか眠ってしまったようだ。
私の携帯電話が手の中でまだ震えていた。
うーむ・・・なんだか良く解からんがえらく
インパクトのある夢を見てしまったようだ。
首を回しながら伸びをする。
携帯に転送された電話はいつの間にか切れていた。
これからはいくら天気がよくても戸外で昼寝をするのは
止めといたほうが良いかもしれない。
長いリハビリ生活でようやく取り戻した健康だ。
もう認知症と間違われたくはないからな。
俺はついに禁じ手を使ってしまった。
社会的弱者の老人を嵌める事に良心の呵責を人並みに感じたが
奇麗事など言ってはおれぬ。
もう鞭でぶたれるのはゴメンだぜ。ああ、悪魔になってやる。
そう覚悟を決めて俺は極秘の内に入手したアムロの親父の
電話番号をプッシュした。
勿論、最初の第一声は決めてある。大丈夫だこの
シナリオなら騙せるはずだ。
さっきの切れた電話は何だったのか少々気になった。
もしも、仕事の話なら今回はもったいぶって断ってやろう。
自分を安売りするのは良くない事だ。
だが、あの夢はなかなか面白かった。リハビリ中に呼んだ
本がこんな形で夢になろうとは。長年、なぜ公国軍の
遅れてきた傑作機の鼻の部分に2つ穴が開いているのか
気になっていたが、そうだったのか!あれは騎士を模したMSが
乗る馬にとも言うべきサポートメカだったのか!
流石は脅威のメカニズム・・・・もしもあれが束になって
襲ってきたら私のガンダムも危ういかもしれぬ。
人馬一体型MSか・・・・
ふむぅ・・・・悪くはない。
早速アイデアをまとめてみよう。まずはスケッチからだ。
えーと、ペンはどこにあったかな??
久しぶりに技術屋の血が騒ぎ出した。
ふふふ・・・・まだまだいけるな。私は。
・・・・いつまでたってもアムロの親父は電話に出てこない。
俺は肩透かしを食らった。だが、その肩透かしを心の奥底で
これで良かったと思う、悪になりきれていないもう一人の自分が
情けなかった。だからあの時、『軟弱者!』と言われたのかもしれない。
今度、政府は『投資サービス法』というのを新たに定めるそうだ。
そんな事をやっている暇があれば、今この瞬間にもグレーゾーン金利で
なけなしの金をぼったくられ、多重債務で苦しむ人々を救済してほしいと
願うのだが、当の役人達が金融業者から多大なリベートを得る
この国ではそれは叶わぬ夢物語である。
優秀な弁護士を雇えず、争う大企業の弁護士達と見比べると
はるかに格下の国選弁護人に期待をせねばならぬ過払い金返還訴訟は
裁判などというものでは無かった。勝負にすらなってはいなかった。
兎に角、落ちぶれた俺は政府がゴリ押しする金持ちの為の法律が整わないうちに
大金を金持ち達から巻き上げなければならなかった。
時間が無い。俺は再び魔物になる決心をし、電話をかけた。
むう・・・やはりマウスでは上手く描けないな。
良くコメントに『マウスだから上手く描けませんでした☆』などと
書き残す輩がいるが、はっきり言ってウザイだけだ。
・・・と思っていた時期が私にもありました。
ごめんなさい。実際やってみるとその気持ちは良く解かる。
あの時、呂律(ろれつ)が回らぬだけで、認知症と人々に勘違いされた
経験のある私にはなおの事、理解出来た。
まぁ、こんなもんだろう。なんか所謂(いわゆる)2ちゃんねるで言う所の
厨房ぽい絵と設定になってしまったが。
冷めたコーヒーを飲み干すと、急に電話が鳴った。
ふふふ・・・仕方の無い奴だな。今は割りと気分が良い。
いつもなら電話になんか出ないのだが、久々に誰かと話をしたい気分だ。
どれ・・・
「はい・・・レイですが・・・。」
すると受話器の向こうから若い男が五月蝿い雑音と共に
「もしもし?レイさんですね?
『大変な事がおきました!!』」
と、声をかけて来た。
これが未だに、世間を騒がせている
オレオレ詐欺だろうか?
「君かね?ハヤト君から聞いているぞ?なんでも在りもしない
商品を売るからと言って金をそこかしこで借りているそうだな?」
「・・・・」
「そんなわけのわからない奴に金なんか貸せるか!」
「そうですか・・・。もうテムさんの所にまで噂が来てますか。
じゃあ・・・もうそろそろ本当の事をお話しても大丈夫ですね。」
「?どういう事だ。」
「実は私が自分の信用を自ら貶(おとし)めるような行為を
今まで繰り返してきたかというと、国家公安局の目を欺く為なんです。
ずっと盗聴されまくっていましたからね。」
「・・・本当か?だが、俄かに信じがたいな。」
「ふふふ・・・そりゃそうでしょ。なんてったって念入りに準備しましたら。」
「ほう?それで?」
「実はですね・・・あまり大声ではお話できませんが・・・」
「おい!おい!周りが五月蝿すぎて良く聞こえないぞ!?」
私がその連絡を諜報部から聞いた時、耳を疑った。
まさか・・・本当に奴らそんな事を計画中なのか?
しかし、その発信源はニュータイプ部隊と喧伝された
WBの元クルーだという。
『パイレーツ・オブ・ソロモニアン』
などと自分らを呼称し、海賊行為を繰り返す
女海賊達の噂は確かに聞いたことがある。
もし、そのテロが本当に行われたとしたら・・・
私はエアコンが快適なはずのジャブローのオフィスで
全身が粟立つのを感じた。早速、ジャミトフ閣下のお耳に入れなければッ!!
私はゴーグルを嵌めなおすと早足で部屋を出た。
受話器を下ろした時、俺は始めて成功した振り込め融資のシナリオを手に
ガッツポーズをした。だが、すぐに自分がそそっかしい事である事を
思い出すと臆病者の慎重さを自らに課した。
今から思い返せば、やけに上手くゆきすぎている。
いくら以前はボケていたとは言え、技術者の功名心を擽(くすぐ)っただけで
こんなに簡単に喰らいついてくるのは変じゃないのか?
しかもコロニーが再び落ちてくるなんて・・・・
いくらジオンの残党達が束になろうともそれは無理なんじゃないだろうか?
ノストラダムスでもあるまいし。
俺は老人との電話で打ち合わせた通りに結婚詐欺用に以前用意した
『白いスーツ』に身を固めると、雑音を撒き散らしていたラジカセ以外は
何も無いオフィスから出た。
正夢とは本当にあったのか・・・実践技術第一にいままで生きてきて
家族を顧みる事なく年を重ね、家庭を崩壊させた私は
この時、自分の本当の役割をあの若者から示された気がした。
老境の身にあって神の啓示を受けたイスラムの預言者のように。
ふふふ・・・久しく眠っていた血が沸き立つようだ。
年甲斐も無く。私は全身が粟立つのを感じた。
早速、開発にとりかかねばッ!!
海賊達の目を欺く為に、ジオンの兵器を利用した
MSをこの手で創り上げるのだ!!
若者の指示通り、私の資産を預かっている民生員に連絡する。
結婚式で金が必要になったと。
154 :
通常の名無しさんの3倍:2005/12/26(月) 03:04:18 ID:kRYtJqyN
私の資産を一時的に管理し、預かっている民生委員のスミエに連絡を取る。
電話口に出たスミエは何故か落ち着かない様子であった。
何でも風邪をこじらせていてるそうだ。乾いたしわぶきをする彼女を
労わりながらも、用件を話す。そして申し訳ないが、あの若者が指定した
場所に金を届ける為に骨を折ってくれないかと某CM並みに
低姿勢で頼み込んだ。
スミエは流石に当惑しながらも引き受けてくれた。
多少・・・ムッとした感じは隠せないようだったが。
私は胸をなで下ろすと、流石は公明正大な政府が推薦する人物の
高邁(こうまい)な精神の有り様に感動を覚えていた。
そして彼女の優しさは、私を捨てた元、妻だった女(ひと)にも
何かを買ってやろうという想いをも抱かせた。
(そういえば今日は私と妻との結婚記念日であった。)
何から何まで運命付けられている。私はスミエに再び感謝の言葉を述べた後
電話を切った。電話の切際に向こうで何かを大急ぎで片付けるような音が
少しばかり、気になったのだが・・・・
今度の仕事の『打ち合わせ』に選んだこの店は、在り来たりの
表現で申し訳ないが『場末のバー』その物であった。
白いスーツとサングラスのこの俺がカウンターでロックを呷(あお)りながら
毒を吐く様も多分、絵になっている事だろう。
(ふふふ・・・坊やには出来ない真似だろう)
などと独り思いにふけりながら顧客を待ち続ける。
何杯かグラスを空けた頃、待ち合わせの時間から大幅に遅れて
今回の仕事の出資者件顧客が安っぽいバーの扉を開けた。
なんだ?大雪でも降っていたのか?待たされ続けた俺は苛つきを抑えながらも
優しく言葉をかけた。ここで警戒心を与えてしまっては台無しだからだ。
「遅かったですね。テム=レイさん・・・テムさんとお呼びしてもいいですか?」
名刺を今回は用意しなかった俺は右手を差し出す。
「す、すまない・・・」
老人はまだ肩で息をきらしていた。余程、慌てて来たらしい。
嫌な予感が頭を過ぎる。なんてったってあのアムロの実の父親だ。
以前、認知症で入院していたとは言え、勘の鋭さはその辺の老人とは
比べ物にならないだろう。慎重にいくべきだ。
「まずは何かお飲みになります?実は税金で値上りする前に
キープしといたんですよ。あはは・・・・」
などと冗談を言って探りを入れてみた。
「・・・・・」
老人は黙ったままだ。
(チッ!気づかれたか?)
「そ、それが実は・・・」
沈黙の後、老人は青ざめた顔を苦しそうに歪めながら口を開く。
なんて血の気の無い顔をしてるんだ!俺は嫌な予感が的中したのを悟った。
そして、今度は俺が青ざめる羽目になった。
『動くな』
いつの間にか殺し屋と思しき男が
俺の背中に銃を突き付けていた。
嫌な雨がまた降って来た。こんな日は奴等から受けた
『拷問』の痕(あと)が疼(うず)く。
時折、ポカをやらかす公安局が今回は軍上層部の厳命通り、2人の男の
拘束に成功した。
その内の1人はありもしない『デマ』で人心を大いに惑わした過度で
このジャブローの牢に放り込んでおいた。
もう1人の男・・・元MS開発者でもある老人は真に気の毒な事ではあるが、もう暫(しばら)く
此処にいてもらう事となる。事の真偽がはっきりするまでは。
何、大丈夫・・・私のこの手にかかれば、どんな奴だって白状するだろう。
何しろ私は拷問のスペシャリストなのだから。
ゴーグルを嵌め直すと早速、私の身体にも痕がある
ジオン仕込みの拷問を試す時間がやってきた。
嵌め直した筈のゴーグルが冷汗で落ちてきた。
「な、なんだコイツの身体は・・・・」
私は裸にひんむいたこの男・・・・
最強のニュータイプ部隊と敵からも味方からも
畏怖されたWBの元メンバーのカイ=シデンに恐怖を覚えた。
若者でありながら身体の隅々までに深く刻み付けられた
その『問いかけ』の痕を目の当たりにして
この男がもたらした『テロ予告情報』が本物であることを
確信した。なんて事だッ!!
私の懸念がこのまま外れてくれればこんな喜ばしい事はない。
だが、心の奥底で私はこう考え始めていた。彼がもたらした
この情報を逆手に取れば、協調路線などと弱腰な事を云う
政府高官達や軍内部に巣食う無能な輩共を一掃出来るかもしれない。
ふふふ・・・やっと運が巡ってきた。
今は私、独りの力ではどうにもならぬ。残念ではあるが・・・
私は『閣下』と今のところはお慕いしている男に密かに連絡を入れた。
このまま上層部には『観艦式』の準備を続けてもらおう・・・ふふふ。
敵を欺く為には味方からと云う。『閣下』は私の考えに賛同してくれた。
ふふふ・・・まだ殺すには早いかもしれないな。
殺すには早いと言えば、私と同じく名誉の勲章を身体に刻み込んだ
若者の処遇である。有能なのは間違いない。使える駒だ。
今の所、手持ちがあのパブリク乗りだった『ジャマイカン』しかない
私にとって元WBメンバーでMS乗りと来れば、むざむざ殺してしまうのは
余りにも惜しい。また同じ勲章を持つ同志として出来れば将来
私の右腕になって欲しいとも思う。多少、気性に癖がありそうだが
かえって使いやすいというものだ。私は釈放書を用意した。
これを条件にしてわが軍とそして私に忠誠を誓う事を強要しても良いが
ああいう性格の男にはかえって反発を招くだけだと云う事を
実経験が私に教えてくれた。叩かれれば叩かれるほど強くなるものだ。
ふふふ・・・今度、掛け値なしで一緒に飲み明かしたいものだ。
頼もしいぞ?カイ=シデン
数日後、私のオフィスに技術仕官から連絡が入ってきた。
思いがけない出来事を言い表すのに、『瓢箪(ひょうたん)から駒』と
云うそうだが、今回のアイデアもまさにそんな感じであろう。
軍務に仮復帰したテム=レイ博士の下絵から開発される事となった
MSについての続報だ。ジオンの技術をそのまま流用するのは
正直な所気に入らないが、今回は我慢しておこう。何しろ
閣下から今回の私の手柄に敬意を示して、MSの『命名権』を
初めて賜ったからだ。私はこの新型MSの名前を
私が密かに敬愛していた
某野球チームの亡き監督の冥福を祈りつつ、私とこれもよく似た
風貌と性格?を持つ野球選手が入団したとある地方の言葉を文字る事にした。
それは・・・
『ジオンの脅威の技術を借りて創る日』
『ジオンの技術を借りる日』
『技術を借りはる日』
『借りはる日』
『・・・・・』
『ガリバル日!?』
『ガリバルディ』
・・・・どうだろう?
なかなかのオヤジギャグだとは思わんか?うぷぷ・・・
表向きはかって、パスタの国の赤シャツが似合う男の名前と言う事にしておこう。
軍人の中には歴史が好きな奴も多いからな。
自分のオヤジギャグに笑いを噛み殺しながら
技術仕官の泣き言を聞き流す。
「人馬一体型なんて無理ですって!」
「足なんて飾りです!」
「誰ですか?頭のイカレ老人を開発チームに入れた奴は!」
・・・・と、その時『閣下』から連絡が入ってきた。
私はその驚愕の事実を聞いた時、笑顔を噛み殺したままの顔が
引きつり始めたのを感じた。
今まで、各地に潜伏しテロ活動を繰り返していた元ジオン軍の
捕虜の一人がついに口を割ったのだ。
あれから数日が過ぎた。法王がおわすこの国でもまだ混乱が続いている。
俺はちんけな詐欺師から一躍、時の人となった。後に腐った政府と
無能な軍に代わって権力を牛耳るあいつらによって公式記録から
抹消される事になる『この紛争』は俺を変えたのだった。
俺はテロ予告情報を誰よりも早く察知し、更に敵から獲得した
技術によって創り上げられたというものの、高いポテンシャルを秘めた
新型MSの開発の功績者の一人として祭り上げられた。
再び平和の到来を告げる鐘の音が響くこのバチカンで
俺は軍がお膳立てたセレモニーに参加した。
事あるごとに俺を執拗なまでに軍に引き止めようとする
『ハゲゴーグル』が
今後、一切俺に付きまとう事を止めるのを条件に
この式に出たのだ。
身から出た錆とは云え、これでセイセイする。
もっとも『嘘だったんです。テヘっ☆』とは今更言える訳がないが・・・・
俺はこの期に及んでも尚、やけに熱い視線を投げかける
厳(いか)ついHGに本当の意味で身の危険を感じながらも
聖堂を出た。
鐘が一段と大きく鳴り響く
英雄?の旅立ちを祝福するかのように。
今、俺の腰には
『護身用にどうぞ・・・』と
全ての借金を功労金で返済した際
記念に取立屋から譲り受けた
ムチがぶら下がっていた。
今ではそれは俺のラッキーアイテムになっていた。
俺は宛(さなが)らキリストをムチ打った獄卒のように
これからもちっぽけな良心と向き合って生きてゆくだろう。
今度は・・・真面目に仕事をしよう。
・・・・誰か雇ってくんねーかな?
(おわり)
姉妹スレ?
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/x3/1132059693/l50 「駄目ですね。向こうでもストライキだそうですよ?ダニンガンさん。」
ストライキか・・・ふふふ・・・売れる前、この業界に入る前の私を思い出す。
「今回の収録はもう諦めた方がいいかもしれませんね。残念です。
折角、本場の料理が楽しめると思っていたのに・・・ねえ?
あっ、でも!たまには身体を労わってあげた方が良いですよ?」
「そうだな。ありがとうジャーマネ・・・悪いけど少し眠らせてもらうよ。」
「あっ!はいはい!どうぞどうぞ!ここのところ年末特番で忙しかったから
ダニンガンさんもお疲れでしょうから。」
「ふふふ・・・じゃあおやすみ。」
「はいはい。」
目を閉じた振りをして車のミラーを盗み見する。
鏡に映し出された私のマネージャーの表情は
労わりの声とは裏腹に悪意に満ち満ちていた。
目が・・・やっぱり笑っていなかった。
私と同じだな。
私はこの業界に入る前までは、地べたを這いずり回る生活から抜け出せないでいた。
いわゆる下流社会の一員であった。
私の父も家族を泣かしてきたが、この私も実は家族を泣かしていた。
地上のデブリ屋と自分を言い聞かせてはみるものの、もっとも卑しむべき
職業のひとつに長年、数えられた仕事である。儒教思想によれば。
今日もまた明日の見えない単純肉体労働を繰り返す。
身体よりも先に私の自尊心がこのままでは持たないだろう。
仕事のストレスと、ともすれば昼夜が逆転する不規則な生活を続けていくうちに
私の体型は日に日に醜くなっていった。しかも突き出た腹のせいで
それとは対照的に随分と貧弱に見えるバナナが更に私の自信を萎縮させた。
妻は私のいない間に他の男と寝ているようだった。
だが、今の私にはそれがかえって有り難かった。
夫婦の愛などとうの昔に冷め切っている。今は妻帯者でない貧しい独身者は
この世界では、文字通りはじき出されされてしまうのだ。
移民候補として。
だが、こんな私にも転機が訪れた。
何の前触れもなく。いや・・・正確には前触れは確かにあった。
労使交渉が再び決裂したのだ。
年末の観光客で賑わう
この都市の交通網全てがストップした。
ストライキである。
私は仕方なく歩かねばならなかった。
気の遠くなるような職場まで。
何度かこのまま遠くに行こうとしたが出来なかった。
私の身体の重さがそのまま気持ちの重さになっていた。
『死のう』
そう決意した時、急に呼び止められた。
振り返ると、見るからに業界人と思しき男が
私の身体つきを眺めて満足そうに頷(うなず)いていた。
私はスカウトされた。このストライキのせいで来れなくなった
『でぶタレント』の穴を埋める代わりに。
『これウイマー!!』
今日もまた、たいして美味くない料理に大げさに反応する。
私が素人故の、ものの知らなさから発した
正確に言えば噛んでしまった言葉が
流行語大賞にノミネートされるまでになった。
気がつけば、私は今や売れっ子タレントになっていた。
流行語大賞は残念ながら逃したものの、私の発する
『ウイマー』は視聴者から受けがすこぶる良かった。
少なくとも下品な下ネタで奇声を張り上げる一発屋よりも。
世界に忘れられた国の民の中には
餓えで沢山の人が死んでいるという。
『知るか、そんなもん・・・』
お前らは運が悪かっただけだ。
諦めろ。早く死んでしまえ。
俺は贅を凝らした食べきれない程の料理を目の前にして
今、俺が与えられた仕事をこなしていた。
口の周りを残酷に解体された動物の滴る血と脂で醜く汚して
『これウイマー!!』
いつからか、何を食べても味が感じられなくなっていった。
私の聞き飽きた決め台詞を合図に、ワザとらしい笑い声を立てる
番組スタッフや出演者達の目は全く笑っていなかった。
なんだ・・・みんな同類じゃないか。
死んでしまえ。
「『ほわいとばんど』ですか?」
華やかな世界と思われていた芸能生活に辟易していた頃
私は偽善に満ち満ちたイベントについてプロデューサーから説明をうけていた。
なんでもその『ほわいとばんど』を買って身に着ければ
世界の貧困を救う事業団体に僅かばかりの寄付金が入るそうだ。
「まるで『免罪符』だな。」そう言いかけた時
プロデューサーから『ウイマー』が生まれた番組の打ち切りを宣告された。
なんてこった。
これから俺はどうやって生きてゆけばいいんだ?
『ほわいとばんど』のイベントは予想に反して大成功を収めた。
凡(およ)そ、そんな慈善事業に似つかわしくないタレントやスポーツ選手達も
動員された。私もその1人である。
(指輪と間違えてしまいそうだったが。)
2択しかない国民調査で人々を誘導し、今までの親のように
生きる事が果たして世界の為になるのだろうかという疑問を若者に
刷り込む事に一番成功したこの国では、その効果は抜群であった。
芸能界を体よく追い出され、食うに困って軍にコネで入隊した
今の私なら判る。
こうやって国はカネを創っていたのだ。
それは慈善を謳い文句にしているだけに
当たる筈のないクジを売りさばくよりも性質が悪かった。
社会情勢が不安になるにつれて軍に入隊する若者も増えてきた。
志願制とはいってはいるものの、高すぎる税金を納められずに仕方なく
ここに来るシステムは既に完成されつつあった。
ほんの短い間ではあったがタレントで成功していた私でさえも
なんだかんだでカネを毟り取られていた。
まだ夜も明けやらぬ中
サンダース軍曹の怒鳴り声が兵舎に響く。
大方の予想通り、私はやっぱり軍曹から
『微笑みデブ』
というあだ名を付けられてしまった。
しかし告白せねばなるまい
あの時、確かに私の目は笑っていた。
自分のこの有様で。
軍隊生活は
私を確かに変えた。
私の体型以上に
私は軍で自分の意外な才能を開花させた。
それは自分の目の良さだった。
笑っていなかった目はここでは重宝された。
私は軍曹の推薦もあって狙撃兵に大抜擢された。
軍曹の心使いに感謝した。
そして軍曹の息子にもいつしかこの恩をかえす日が来るかもしれない
そんな予感がなぜか沸き起こった。
まだ、戦争が始まる前の話である。
(・・・来年辺りに続きは書ければいいかなと思います。)
訂正
>>92 ×治療の際に色々と役立つかましれないと
○治療の際に色々と役立つかもしれないと
訂正
>>100 ×今まで誰にも貸した事などない彼の母のハンカチを
○ずっと今まで、誰にも貸した事などない
彼の母親の形見である『紅いスカーフ』を
訂正
>>108 ×180度回転させた後
○180度回転させ
訂正
>>110 ×生き延びていて壊れていた精神の働きさえもが
○生き延びていて、更に壊れていた精神の働きまでもが
>>111 ×〜落としによる環境異変の所為で
○〜落としによる気象異変の所為で
訂正
>>111 ×〜落としによる環境異変の所為で
○〜落としによる気象異変の所為で
>>112 ×争いの無いどこか遠くの場所に
○争いの無いどこか遠くの場所へ
訂正
>>114 ×粗食に慣れていた子供達
○粗食に慣れていた筈の子供達
訂正
>>118 ×駄目だ、マネーの虎で
○だ・・・駄目だ、マネーの虎で
訂正
>>119 ×一流企業の社長の椅子まで
○一流企業の社長の椅子にまで
訂正
>>129 ×無論、公式の会見の場でTPOもわきまず
○無論、公式の会見の場で卑しくも、一企業のTOPたる者が
TPOもわきまず
訂正
>>144 ×襲ってきたら私のガンダムも
○襲ってきたら、この私が心血を注ぎ込んで開発した
ガンダムと云えども
訂正
>>162 ×手柄に敬意を示して
○手柄に敬意を表して
訂正
>>167 ×
今度は・・・真面目に仕事をしよう。
・・・・誰か雇ってくんねーかな?
○
今度は、真面目に仕事をしよう。
『・・・・もしもし?アムロかい?いや!いいって、いいって!
オヤジさんの事はw俺も助かったんだしさ。
それよりもアムロ?お前・・・今、カノジョいるかい?
はははっ・・・照れるなよ。俺もそうだ。ここんとこ、ご無沙汰でねw
実はさぁ・・・・お前に紹介したい女の子がいるんだ。会ってみるかい?
『 ベ ル ト ー チ カ 』って名前の子なんだけどさぁ
ここのサイトに名前を登録すればとさぁ・・・・』
白い原稿が机の上に積み重ねられたままになっている。
「集中できるから。」
と言って、無理にお願いしたこのホテルでも
やっぱり筆は遅々として進まなかった。
締め切りの時間迄もう僅かしかない。点けっ放しにしていたTVからは
街のアーケード内を、またトラックが暴走したらしい。
「その手があったか!!」
などと思ってはみるものの、そんな大それた事出来る勇気?など
有る訳が無い。第一、私は免許なんて持ってないから。
そうこうする内に、ついにこの部屋の呼び鈴が鳴る。
時間が来てしまった。
扉の向こうには全身、黒尽くめの
『 偏 執 者 』
が私をしつこく呼び出していた。
「もう、勘弁してくれ!書けない物は書けないんだッ!」
窓から逃げ出そうと試みると、既に私の行動を見抜いていた
『 偏 執 者 』が先回りしていた。どうやら隣の部屋から
こちら側に来たらしい。
「フ、フェイントだったのか!?」
流石はワールドカップに出場する国の民だ。キレが違う。
などと感心する間も無く、私は腕を捕まれる。
「さぁ・・・鉄狼(てつろう)先生、私と一緒に来て頂きます。」
ささやかな抵抗も虚しく
私は全身、黒ずくめの女に拉致されてしまった。
何処からとも無く、定期便の汽笛(きてき)が聞こえてきた。
「どうせこんな事だろうと、上司が言っていました。
星野(ほしの)さん・・・私は信じていましたのに。残念です。」
「ううう・・・すまん。」
全身黒尽くめの女=編集者は私の元、教え子みたいなものであった。
以前、カラオケ屋で自棄になって歌っていたのをスカウトしたのは、実はこの私だ。
彼女の名前は『シムス=パバロフ』ロシア系である。
今ではもうすっかり忘れられてしまっているだろう
『婦等(ふら)なーが☆』
のメンバーの一人でもある。実は・・・彼女達も出場する筈だったのだ。
あの紅白歌合戦に。だが、皆もご承知の通り、馬鹿どもがやらかしはじめようとする
戦争の為にその祭典は中止の運びとなった。何せ、1月3日におっぱじめる
予定だったから、そんなお祭りなど真っ先に切られてしまったのだ。
私が彼女達に書き下ろした新曲『逃したお肉は大きいぞ☆』は
牛肉の輸入再開が決まったあの国でもヒットを飛ばしていた。
振付師の『ミス・ハモン』の振り付けも素晴らしかった。あの年の紅白は
ぶっちぎりで紅組優勝の筈だった。でも、何もかもが戦争で塗りつぶされていった。
私がスランプになったのはその所為もある。
「先生、お気持ちは良くわかりますが、なんとか仕事を
仕上げるようにお願いします。さもなくば、ハモンが浮かばれません。」
・・・・そうだった。振付師のハモンは死んでしまったのだ。
馬鹿な奴め。なぜ、あんな男と付き合ってしまったのだ?
私が涙ぐんでいると、シムスはさっきまでの氷のような冷たい表情を崩した。
彼女の方がずっと辛いのだ。私は自分を恥じた。
でも・・・恥じ入りながらも、私はまだ後悔していた。
こんな思いをするぐらいなら、依頼など引き受けねば良かった・・・・と。
>>193の前に挿入
古い定期便が目的地に着く。会社の仕事とはいえ、折角の休暇が
台無しにされた気分は上手く整理出来ないものだ。
それはこの便の席が2等席の所為もある。私は少し大きめの
トランクを抱えて、座り心地の悪い椅子から脱出する。
出口に差し掛かった時、乗務員から呼び止められた。
なんでもこの服装のままでは何かと都合が悪いそうだ。
なるほど、無用なトラブルは避けた方が良いに決まっている。
私は助言に従って、着替える事にした。
>>193の前に挿入の続き
ロッカールームでトランクから帰省中に買ったコートを羽織る。
かって、私のトレードマークになっていた眼鏡を外し
コートとお揃いの帽子を頭に載せた。これで良し☆
ちいさな鏡の前でクルリと回り、コートの裾を翻らせてみる。
(うふふ・・・私はまだまだイケてるかも?)
ポーズなんかもとってみる。大丈夫、今度こそは誰にも見られてない筈だ。
少々、得意満面になりながら再び出口へと続く人の列に並んだ。
私の見事に変身したセレブぶりに皆、驚いたようだった。気のせいか
人々の熱い視線までも感じる。
(うふふ・・・このコート結構、高かったのよね)
乗車券を乗務員に手渡す私の番が来た。
すまし顔で係員の前に立つと、その男は困惑気味だった。
そして堪り兼ねて、こう口を開いた。
>>193の前に挿入の続きの続き
『あの・・・お客様?』
「はい?何よ?
うふふ・・・電話番号なら教えないわよ☆」
『いえ・・・そうでは無くて、流石にその格好では
このサイド6では暑すぎると思いますが・・・・・・』
「!?」
そうだった!!ここは私の故郷ロシアとは違ったんだ!!
私は年甲斐も無く、思わず滑らした軽い台詞を心から恥じた。
ほかの乗客達からクスクスという忍び笑いと
小さな中傷までもが聞こえてきた。
「なに・・・あの全身黒づくめのレイヤー・・・」
「おばさんのくせに、ママドルにでもなったつもりかしら?」
「痛い!イタイよ!」
「あっなんか照れてるしwメーテレさんですか?」
耳まで真っ赤になりながら
黒尽くめの私は以前、芸能生活をしていた時から
変装とかが苦手だったのを思い出していた。
永久凍土の国、ロシアの若い女性が着る様な
コート(黒)と帽子(黒)で身を固めた編集者シムス
そして、そんな全身黒尽くめの女に拉致されてしまった
偉大な作詞、作曲家の星野鉄狼(ほしのてつろう)
彼らがここサイド6から老舗の鉄道会社が経営する定期便で
とある施設に向かおうとホテルを出た頃・・・・・
彼らの丁度、反対側の港に入港した船から慌しく飛び出してきた
2人の少年の姿があった。
「なぁジョン?この宇宙服売れば幾らになるのかな?」
「さぁ・・・でも、ご飯代ぐらいにはなると思うよ。」
「全く、船長の奴!メシ抜きなんて酷過ぎるぜ!!」
「仕方がないよ、ハヤト・・・あれだけの事しでかしたんだからさ。」
「そりゃぁ〜〜そうだけどさぁ・・・」
「でも、流石に宇宙服をかっぱらったのは良くなかったかもねw」
「あぁ、そうだw悪い奴だなジョンは!!」
2人の少年が慌しく飛び出してきた理由は
その所為であった。
「なあ?シムス君?もし自分が機械の体だったら
何かと便利だとは思わないかね?」
唐突に締め切りを守りそうもないオヤジが言う。
ここで機嫌を損ねては面倒なので適当に相槌をうっておこう。
「ええ。そうですわね。」
「だろ!?だろ!?もし、機械の体だったら
飯も、風呂も、寝ることさえもいらないんじゃないのか?」
・・・この人、大丈夫かしら?
あんまり追い込みすぎたからイッちゃってるかも??
「私が機械の体を手に入れたら仕事なんかも
バリバリこなしちゃうんだろうなぁw」
「は、はぁ・・・」
嘘だ・・・・絶対に遊びまくる筈だ。
もう少しあの時、芝居しとけば良かった。私、ドライアイだったんだ。
本当に今回のお仕事やってくれるのだろうか?
私は少しはしおらしくなったと思っていたオヤジが
やたらと明るく振舞う様に、言い知れぬ不安を覚え始めていた。
二人の少年はしょぼくれていた。
折角、苦労してかっぱらった『服』は何処の古着屋でも
引き取ってくれなかった。
彼らは忘れていたここが中立都市サイド6だと言う事を
無用なトラブルを自ら招きかねない連邦製のしかも
軍用のものなどどの業者も欲しがらなかったのだ。
中には盗品という事を見抜き、通報しようとする店員までいた。
(勿論、一目散にその場から逃げ出したけど)
ぐううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜
二人の腹の虫がシンクロしていた。
「ああ〜〜、なんか宛てがはずれちゃんたね。ハヤト?」
「・・・・・」
「どうしたの?さっきから黙りこくって?」
「・・・・さっきから、腹が減りすぎて何も考えが浮かばない。orz」
「あはは・・・」
「でも、お前良く平気だよな。ジョン?」
「何で?」
「何でって・・・お前も俺と同じでメシ抜きだったんだろ?」
「そうだけど、慣れてるからね。俺たちは。」
「・・・慣れてる??」
「パイロットさんには判らないだろうけど修理とかやってると
三日ぐらい飲まず食わずなんてざらなんだ。」
「へ、へえ・・・」
「だからあんまり壊さないでくれよ?ハヤト?」
「・・・は、はい。」
「でも、もっと凄いのは機械達だよ。ちゃんと手入れすれば
ちゃんと応えてくれる。最初のうちはハヤト達が羨ましかったけど
今ではもうそんな事どうでも良くなったよ。」
「ふうん・・・そんなもんかな?」
「そんなもんだよ。」
ぐううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜
再び2人の腹の虫がシンクロする。
残念ながら機械でも、ロボットでもない生身の人間である
彼らにとって生物学的な生理現象は生きてる限り
どうしょうも無い事であった。
兎に角、この状況を打開せねばなるまい。
機械の体なんて言って・・・・
ちょっと無理に明るく振舞いすぎたかな?
さっきから妙に表情が暗い元、教え子シムスを見て不安になってきた。
編集の仕事以外にも彼女は今、難しい仕事を抱えている。
なんでも、コロニー同士を繋ぐ有線コンセントの馬鹿でかい機械
『プラウザ=プロ』を完成させねばならないそうだ。
細かい事や技術的な事は判らないが、私が聞いている説明には
コロニーを巨大なスピーカーか何かに見立てて
私が今、悪戦苦闘している士気高揚の為のテーマソングを
全宙域に発信し、敵の戦意を挫くという誠に壮大な計画だそうだ。
(最初に『プラウザ=プロ』と聞いたとき私は良く壊れる事で
有名な家庭用ゲーム機の修整プログラムかと思った。)
歌なんかに頼る時点でもう駄目だと思うけど。
既にその計画自体もあちらこちらに破綻しているそうだが
兎に角、戦争目的の完遂の為ならどんな手段を使ってでも
頑張るつもりらしい。戦争とはそういうものなのだ。
一市民の夢や希望などという青臭いものなどかき消されてしまうのだ。
道端で項垂(うなだ)れる二人の少年の事など
誰ひとり気に止めず、人々の流れは留まる事は無かった。
お腹の虫もやっと鳴き疲れた頃、街の中心部にある公園から
子供たちの歓声が風に乗って聞こえて来た。
「何だろう?あの騒ぎ・・・」
「行って見るか!!」
「うん!」
彼らの好奇心は空腹感を暫し忘れさせた。いつの間にか彼らは
走り出していた。それはまだ彼らの歳が14、15だったから。
息を弾ませながら、公園に辿り着くと
そこには緑色の着ぐるみが2体、子供たちにとり囲まれていた。
「キモゾーとゴロッキだ!!」
身長が低いハヤトよりも幾分、精神年齢が
低いかもしれない
ジョブ=ジョンが嬉しそうに叫ぶ。
「何だよ・・・あいつ等、森に帰ったんじゃ無いのか?」
と、ハヤトは口を尖らす。
それは言ってはいけない事だ。彼もまだまだ子供である。
「あはは・・・しょうがないよ。本当はあの催しは
大赤字だったんだから。」
ジョンの指摘通り、『森の妖精』の着ぐるみ達は
遠目で見てても、あちこち汚れていて更には臭って来そうな
印象を二人の少年や子供を見守る親達に与えた。
「中の人も大変だな・・・」
「うふふふ・・・」
「・・・」
「そうだ!!!」
暫しの沈黙の後、ハヤトが叫んだ。
「何?何なの?」
ジョンは嫌な予感がするのを、やっぱり感じながらも
ハヤトの思いつきに応じる。
「あれだよ!あれ!!」
押し寄せる子供達に、もみくちゃにされる
森の要請を指差しながらハヤトは目を輝かせた。
「駄目だ!駄目だ!そんなんじゃすぐにバレちゃうぞ!?」
「じゃあ・・・こ、こうかな?ハヤト?」
「違う!違う!もっとこうギクシャクした感じでさぁ・・・」
ジョンは公園の片隅で宇宙服を着せられていた。
ハヤトの思いつきの害を早速、被(こうむ)っていたのである。
『森の妖精』の着ぐるみを見て、背の低い彼は思いついた。
宇宙服を着た人間が『ロボット』に変身するのである。
確かに、あの催しでショーに出ていた『ロボット』達は
少年達がかっぱらってきた宇宙服に外観が良く似ていた。
「あ〜〜もう!そんなんじゃ子供にもバレるよ!ジョン!」
「むう〜〜出来ないよ。ハヤト代わりにやってみろよ。」
「バカ・・・俺が着たら『ちよちゃん状態』になっちゃうだろ!」
「ぷぷぷ・・・」
「あッ!?お前、いま素で笑っただろ!?」
「わ、笑ってないよ!で、でもこんなんで本当にお医者さん達を騙せるのかなぁ・・・」
「まかしとけって!あいつらは存外に金に汚いんだ。」
「(ほ、本当かなぁ・・・嫌な予感がまたしてきた。)」
「財全(ざいぜん)先生・・・大丈夫ですか?」
先ほどからクシャミが止まらない私を見習い看護婦の
葵(あおい)がいたわった。何時もは青臭い正義感を振りかざして
私達を困らせる厄介者であるが、この時ばかりは、ちょっぴり感謝した。
・・・と言っても彼女には私の風邪ばかりか、クシャミさえも
治せないだろうが。
「私の事は私が一番良く知っている。そんな事よりも
キミはキミの仕事を・・・・クション!!!!」
不覚。鼻水がカルテに飛び散る。
マスクをしなくてはならないようだ。
「やっぱり、お休みになられては??」
見習い看護婦『空実 葵(そらみ あおい)』はこの病院で一番の名医と
称される私、『財全先生(ざいぜんせんせい)』に意見してきた。
生意気なッ・・・。
私は連行の途中、あろうことか人通りの多い街中で
腹を押さえて痛がる振りをする作詞作曲家の
オヤジ=星野鉄狼(ほしのてつろう)の駄々に付き合わされていた。
「メーテル!本当に痛いんだ!病院に連れて行ってくれッ!」
誰がメーテルだ。確かにこのコートと帽子はそんな感じだけど
断じてコスプレをしたつもりはない。
しかし・・・見えすいた芝居をする。見ているこっちが恥ずかしい。
あの・・・盲腸は逆にあるんですけど・・・
通りでわざとらしく転げまわるオヤジに人だかりが出来てきた。
『チッ!』私はロシア語で呪いの言葉を呟いた後、わざと大きな
舌打ちをした。それは、締め切りを守らない大作家先生が、笑いを
かみ殺すかのように口の端を歪ませたのを見てしまったからだ。
(ふふん・・・小娘が。この私に逆らおうなどと100万年早いわっ!)
報せを受け、急行してきた救急車に揺られながら私はヒソカにホクソエンだ。
既にこの戦の行く末が見えてきているのだ。この戦いは恐らく、彼らの負けであろう。
アジテーターが声を枯らす『 大 義 』も霞みつつある。時の移ろいは残酷だ。
ほんのずかな日時ではあったものの、中立国に居を構え冷静に物事を見つめ直し
出した答えに私は満足していた。何も無為に日々を過ごした訳ではない。
こう見えても世の中の出来事には物凄く関心があるのだ。
そして何よりも、売れる為のカネの貯めの建前ではあるが、卑しくも
『愛と平和の歌(ラブ&ぴーす☆)』を世に出してきたこの私が
最も恐れたのは、戦勝国から『戦争協力者』として吊るし上げられ
でっち上げだらけの裁判で裁かれるのはなんとしても避けたかったのだ。
過去の歴史を振り返るまでも無く、戦争協力者として戦勝国から
レッテルを貼られた音楽家や芸術家達の晩年ほどみすぼらしく、哀しいものは無い。
それに・・・私は既に歳をとり過ぎている。今の地位を手放したくないのだ。
何も失うものなど無いキミとは違うのだ。
(シムス君?キミは良い教え子だったが、キミの属する軍隊がいけないのだよ。)
我ながらの名台詞を、此処で声を大にして言えないのが残念であるが・・・
救急車は飛ぶように走る。これからは年末年始の渋滞もこの技で乗り切れるかも知れぬ。
計算し尽くした芝居をする私は、搬送される病院の指定にも抜かりがなかった。
迎えに来た救急隊員達に運ぶように指定した病院は
『 死 刑 囚 か ら 臓 器 移 植 用 の 臓 器 を 取 り 出 す 』
という噂が実(まこと)しやかに噂される病院であった。
こういう病院が世にあっても良い。こういう時は非常に助かる。
因みにこの病院は、ハンダーとかいう漫画を描いている
漫画家もよく利用しているそうだ。ふふふ・・・誠に好都合。
私は、年の功で獲得したスキルとカネを最大限、活用しようとしていた。
(来週あたりに続く・・・といいなぁ)